904 ◆tdNJrUZxQg2022/12/12(月) 14:14:48.07ropYqdR40 (15/21)


ドロンチとイーブイの姿をすぐに見つけることが出来た。


侑「いた……!」


ドロンチはイーブイを頭の上に乗せたままで──尻尾で器用に“きのみ”を持ち上げながら、それを自分の頭の上に置く。

目の前に現れた“きのみ”を見たイーブイは、


 「ブ、ブィィ…」


警戒しているのか、食べたりはせず、ふるふると首を振っている。


侑「あれ……何してるんだろう……?」

リナ『たぶん……イーブイのお世話をしてるんだと思う……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……なるほど」


さすが、“せわやくポケモン”というだけはある……。

ただ、部屋の中に落ちている“きのみ”は、“ナナシのみ”や“パイルのみ”と言った、すっぱい“きのみ”ばっかりだ。

それはイーブイの好きな味じゃない。

私はイーブイのお世話をしている、ドロンチの前に出る。


侑「……ドロンチ」

 「ロン?」

侑「イーブイを返してくれないかな。その子は私の相棒なんだ」

 「ロン」


でも、ドロンチは首を横に振る。

まあ、奪っていくようなポケモンに説得しようとしてもダメかな……。


侑「……イーブイ、戻っておいで」

 「イブィ…!!」


私が呼び掛けると、イーブイはドロンチの頭の上から、私の方に向かって飛び跳ねる。

だけど──


 「ローンチ」

 「ブイ!?」


ドロンチは尻尾を伸ばして、イーブイを捕まえ──再び自分の頭の上に乗せてしまう。


リナ『返す気はないみたい……』 || ╹ _ ╹ ||

侑「みたいだね……」


出来れば、話し合いで解決したかったけど……。


侑「ワシボン、出てきて!」
 「──ワッシャァ!!!」

 「ローンチ…」

侑「言うこと聞いてくれないなら、力ずくで返してもらうよ! ワシボン、“ダブルウイング”!!」
 「ワッシャァ!!!」


ワシボンが飛び出し、ドロンチに向かって、両翼を叩きつける。



905 ◆tdNJrUZxQg2022/12/12(月) 14:15:23.11ropYqdR40 (16/21)


 「ロン…!!!」


攻撃を受けて一瞬怯むが、すぐに顔を上げ──


 「ローンッ!!!!」


口から“りゅうのはどう”を、至近距離にいるワシボンに向かって発射する。


 「ワッシャァッ!!?」


“りゅうのはどう”に吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられたワシボンに向かって、


 「ローンッ!!!!」


追撃するように飛び掛かってくる。


リナ『侑さん!! “ドラゴンダイブ”だよ!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「なら……!! ワシボン! 壁に向かって、“ブレイククロー”!!」
 「ワッシャァッ!!!!」


ワシボンは、猛禽の爪で壁を蹴り砕き、即座に離脱──それによって壁が崩れて、岩壁が崩れ落ちてくる。


侑「“がんせきふうじ”!!」

 「ローンッ!!!?」


勢いよく崩れてくる岩石に巻き込まれ、ドロンチが体勢を崩す。

その拍子に──


 「ブ、ブィィ!!!?」


ドロンチの頭の上にいたイーブイが放り出される。


侑「イーブイ!!」


私は、地面を蹴って走り出し──滑り込むようにして、イーブイを受け止めた。


 「ブィィ…」
侑「おかえり、イーブイ」


私がイーブイを抱きしめると、イーブイも私の胸にすりすりと身を寄せてくる。

一方でドロンチは、


 「ローンチ…!!!!」


イーブイを取り返されたのが気に食わないようで、不機嫌そうに鳴いたあと──ユラリと姿が掻き消える。


侑「……! “ゴーストダイブ”……!」


恐らく、イーブイを奪った私──私のイーブイなんだけど──を直接狙うつもりだろう。


リナ『侑さん、きっと狙われてる!? 逃げて!?』 || ? ᆷ ! ||


リナちゃんもそれに気付いたのか、逃げるように促してくるけど……恐らく、ドロンチのスピードからは逃げきれない。

追い付かれたら、また力ずくでイーブイを奪われる。そうなるくらいなら……!



906 ◆tdNJrUZxQg2022/12/12(月) 14:16:42.71ropYqdR40 (17/21)


侑「私はここだよ!! ドロンチ!!」

リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||


私は挑発するように、声を張り上げる。それと同時に腰のボールに手を掛けながら、前に飛び出す態勢を取る。

直後──


 「──ローンチ」


背後から、ドロンチの鳴き声と共に──私は背後から大きな尻尾を叩きつけられ、吹き飛ばされた。


侑「ぐっ……」


強い衝撃に、思わず声が漏れる。でも、私は手に掛けたボールを放って手持ちを出す。


侑「ニャスパーっ! “テレキネシス”!!」
 「──ニャー!」


ニャスパーはボールから飛び出すと同時に、私の身体を浮き上がらせ、それによって落下の衝撃をゼロにする。


侑「いっつつ……」

リナ『侑さん、大丈夫!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「う、うん……後ろから攻撃してくることはわかってたから、どうにか……」


“ゴーストダイブ”は相手の背後を取って死角から攻撃することが多い技だ。

背後から来るとわかっていれば、前に向かって飛びながら当たって、“テレキネシス”で床や地面に叩きつけられないようにすれば、大方の衝撃を殺せる。

……と、言ってもさすがポケモンのパワーなだけあって、結構痛い。

どうにか、起き上がって振り返ると──


 「ローンッ…!!!」


相変わらず、ドロンチが不機嫌そうに鳴いている。


侑「でも……これだけやった甲斐はあったよ。ね、イーブイ!」
 「ブイ!!」

 「ロン…?」


吹き飛ばれたのに、何故か得意げな私たちを見て、ドロンチが首を傾げた──直後、ドロンチの足元から、太い樹が地面から飛び出し、


 「ロンッ!!!?」


それはドロンチを巻き込みながら成長し、洞窟内の天井に叩きつけた。

ドロンチを天井に押し付けながらも、樹はどんどん成長し、蔦と枝に絡め取っていく。


 「ロ、ローン…」

侑「そうなったら、もう身動き取れないよね!」
 「イブィ♪」「ワッシャ♪」「ニャー」

 「ローン…」

リナ『この樹……もしかして、“すくすくボンバー”!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「うん。ドロンチが“ゴーストダイブ”で消えた瞬間、足元に仕込んでおいたんだ」
 「イブィ♪」



907 ◆tdNJrUZxQg2022/12/12(月) 14:17:16.49ropYqdR40 (18/21)


相手は見るからに、ドラゴンタイプとゴーストタイプのポケモン。

そうなると、イーブイの相棒技──“めらめらバーン”、“びりびりエレキ”、“いきいきバブル”、“すくすくボンバー”はどれも相性が悪い。

唯一使えるとしたら、この狭い空間での制圧力の高さを活かして、“すくすくボンバー”なんだけど……“すくすくボンバー”は技を出してから、決まるまでに時間が掛かるのが難点だった。

……なら、ドロンチが“ゴーストダイブ”で私を狙ってくるってわかっているわけだし、あらかじめ私の足元に“すくすくボンバー”を仕込んでおけばいいだけだ。

そうすれば、ドロンチが私を攻撃して吹っ飛ばしたあと、時間差で足元から生えてくる樹に巻き込まれて、動けなくなるという寸法だ。


リナ『侑さん、意外と無茶する……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「逃げるだけじゃ、勝てないと思ったからね……いてて……」
 「ブイ…」


イーブイが心配そうに、私の胸の中で鳴く。


侑「あはは、大丈夫だよ。ニャスパーのお陰で壁にぶつかったりはしなかったから」
 「ブイ…」


もしかしたら、尻尾がぶつかったところは軽い打ち身くらいにはなってるかもしれないけど……。


 「ローン…」

リナ『ドロンチ、どうする……?』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「うーん……」


“すくすくボンバー”はしばらくしたら枯れちゃうから、放っておけば自由になれるだろうけど……。


侑「放っておいたら、また別のポケモンを頭に乗せようと彷徨い始めるのかな……」

リナ『たぶん……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


それはそれで、次にここに訪れた人が危ないような気もする……。


侑「そもそも、なんでこのドロンチは、ドラメシヤを頭に乗せないんだろう……?」


ドラメシヤなんて、洞窟内にあんなにたくさんいるのに……。


リナ『たぶん、ここのドラメシヤが特殊なんだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「特殊?」

リナ『そもそもクリスタルレイクとクリスタルケイヴって、環境がすごく特殊だから、ここにしかいない変わった生態のポケモンが多いんだ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「そうなの?」

リナ『外敵が少ないからか、ケイコウオは滅多にネオラントに進化しないし、イワークもここの土中に含まれる水晶をよく食べるからか、水を泳げる個体が目撃されたこともあるみたいだよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「い、イワークが泳ぐの……?」


ちょっと想像出来ない……。


リナ『たぶん、ドラメシヤたちも外敵が少ないから、普通と違って強くなる必要があんまりなくて、お世話係を必要としてないんじゃないかな。実際、群れの中に絶対数匹はいるはずのドロンチは滅多に目撃されないらしいし……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「なるほどね……」


だから、何かの拍子でドラメシヤが進化してしまうと、逆にお世話する相手がいなくて落ち着かなくなっちゃうってことか……。

それはそれで、なんだか気の毒な気もしてくる。


 「ローンチ…」

侑「うーん……」



908 ◆tdNJrUZxQg2022/12/12(月) 14:17:51.22ropYqdR40 (19/21)


どうにかしてあげたいけど……イーブイを取り上げられるのはさすがに困る……。

そのとき、ふと、


侑「ん?」


腰のボールが僅かに揺れた。揺れたボールをベルトから外してみる。


侑「このボールって……タマゴの入ってるボールだ」

リナ『少し揺れた?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん」


長らく全然変化のない、このタマゴだけど……。

少しは孵化の時が近付いてきているのかもしれない。


侑「あ……そうだ!」

リナ『?』 || ? ᇫ ? ||


私は良いことを思いつく。


侑「ねぇ、ドロンチ!」

 「ローン…?」

侑「一つ提案があるんだけど……聞いてくれないかな?」

 「ロン…?」


私はドロンチにその考えを話し始めた──





    🎹    🎹    🎹





──さて、あの後、私たちが水晶の水槽の部屋に戻る最中、


歩夢「あ……侑ちゃん! やっと見つけた……!」


図鑑を片手に、向こう側から歩いてくる歩夢と鉢合わせになる。


歩夢「もう……水晶の水槽の部屋で待ってるって、メッセージくれたのに……」

侑「ごめんね、ちょっとトラブルがあって……」
 「ローン」

歩夢「あれ? そのポケモンは……」

侑「私の新しい仲間のドロンチだよ!」
 「ローン♪」


私の紹介を受けて、ドロンチがご機嫌に鳴く。

そして、彼の頭の上には──


歩夢「タマゴを乗せてるけど……? 侑ちゃんの持ってたタマゴ?」

侑「うん、そうだよ」


私は思いついたこと、それは──私のタマゴのお世話をしてもらうということだった。



909 ◆tdNJrUZxQg2022/12/12(月) 14:18:32.30ropYqdR40 (20/21)


リナ『侑さんはドロンチにタマゴを守ってもらえて安心だし、ドロンチはタマゴをお世話出来て安心するし、Win-Winだね!』 ||,,> ◡ <,,||

歩夢「なんだかよくわからないけど……。私、歩夢。よろしくね、ドロンチさん」

 「ローン♪」


挨拶もそこそこに、


歩夢「それより侑ちゃん、来て♪」


歩夢に手を引かれる。

手を引かれ、通路から大広間に出ると──


侑「わぁ……!!」
 「イブィ~!!」


水晶の大水槽の中から、ケイコウオたちの光が乱反射して、洞窟内を虹色に照らしていた。


侑「すっごい……!!! こんなの見たら── 」

歩夢「ときめいちゃうよね♪」

侑「もう、歩夢! それ私の台詞!」

歩夢「ふふっ、ごめんね♪」


歩夢がいたずらっぽく笑う。


侑「……それにしても……本当に綺麗だね……」
 「ブィ…♪」

歩夢「……うん、そうだね」


厚い水晶の壁の向こうから、揺蕩う虹色の光たち。

それに照らされる洞窟の中にいると、まるでオーロラの中にでもいるような気がしてくる。

まさに夜の虹の名に相応しい、幻想的な光景だった。


侑「こんなの見たら、落ちたのも悪くなかったなって思っちゃうよ……」

歩夢「もう……私、すっごい心配したんだよ……?」

侑「あはは、ごめんね……。でも、見たとおり元気だから!」

歩夢「もう、侑ちゃんったら……」

侑「この調子で湖面の夜空も見ちゃう?」
 「イブィ♪」

リナ『ケイコウオたちは、日が昇るまで光り続けるから、いいと思う』 ||,,> ◡ <,,||

歩夢「ふふっ♪ 私たち、すっごく夜更かしすることになりそうだね♪」

侑「たまにはいいじゃん、そういうのも♪」


どうやら今日は楽しい夜になりそうだ。

私たちは、幻想的な虹の光に包まれながら、わくわくした気持ちで、クリスタルケイヴでの夜を過ごすのでした。






910 ◆tdNJrUZxQg2022/12/12(月) 14:19:04.74ropYqdR40 (21/21)


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【クリスタルケイヴ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ●        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.52 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.52 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.49 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.43 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドロンチ♂ Lv.50 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:179匹 捕まえた数:6匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.45 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.44 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.40 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドグラー♀ Lv.36 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラエッテ♀ Lv.33 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:182匹 捕まえた数:17匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.






911 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 03:23:27.64r2gRr5pF0 (1/25)


 ■Intermission🎙



──ウテナシティ、ポケモンリーグ。


せつ菜「チャンピオンは不在ですか……」

ダイヤ「はい……申し訳ありません。四天王戦は通常通り出来ますが、勝ち抜いてもチャンピオン戦は……」

せつ菜「いつ戻られるかはわかりますか……?」

ダイヤ「すみません……最近、千歌さんは捕まらないことが多くて……。こちらから連絡は入れておきますが……」

せつ菜「……わかりました。ありがとうございます」


私はダイヤさんに頭を下げ、踵を返して、ポケモンリーグを後にする。

チャンピオンの不在を聞いて、私は早速出鼻を挫かれてしまった。

ただ不在なだけならまだしも……ダイヤさんのあの口振りだと、チャンピオン戦をするためにリーグに戻ってきてもらえるかも怪しい。

そうなると──


せつ菜「やはり、地方のどこかにいる千歌さんをどうにか見つけて、バトルしてもらうしかない……」


もちろん野良試合で勝っても、すぐさまチャンピオンになることは出来ないだろう。

だけど、私は千歌さんとは何度もバトルしているからわかる。彼女は野良バトルだから負けてもよかった、なんて思えるタイプじゃない。

きっと私が善戦したら、決着をつけなくては気が済まなくなるはず。

だからこそ、今はとにかく千歌さんを見つけてバトルを申し込む。

それが、私が最速でチャンピオンになる方法なのには、間違いがない。


せつ菜「問題は千歌さんがどこにいるか……」


せつ菜として地方を回っている間は、頻繁に千歌さんを探していたつもりではあったけど……最近はウラノホシのご実家にも帰られていなかったようだし……。


せつ菜「最後に会ったのは、確か10番道路ですね……」


なら、もう一度10番道路に向かって、会えることに賭けるべきか……?

いや、あそこで何をしていたかは定かではないけど、用もなく道路のど真ん中にいるとは到底思えない。


せつ菜「せめて、何か手掛かりがあれば……」


私は必死に頭を動かして考える。

一刻も早く千歌さんを見つけなくては。

お父さんの手前であんな啖呵を切ってしまった以上、1秒でも早く結果を出さなくてはいけない。

チャンピオンになると宣言したからと言って、いつまでも黙って待っていてくれる人じゃないことなんて、もうわかっていることだ。


せつ菜「会えれば……千歌さんとバトルさえ出来ればいいんです……!」


今まで、勝ったことはないけど──あと、ちょっとのところまで来ている。そういう手応えは確かにあるんだ。

私のチャンピオンへの道は──もう、すぐそこに見えているんだ。

だからこそ、探さなくちゃ……!


せつ菜「千歌さんの居場所を知っている人がいれば……」


そう独り言ちた、そのときだった。



912 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 03:24:06.96r2gRr5pF0 (2/25)


 「──千歌ちゃんの居場所なら、知っているけど?」

せつ菜「え?」


背後から聞き覚えのある声がして、振り返ると──


果林「こんにちは。……いえ、初めましての方がいいのかしら?」

せつ菜「……果林さん……?」


私は一瞬ポカンとしてしまった。何故、ここに果林さんが……?

……いや、それよりも、果林さんは今、なんて言った……?


果林「チャンピオン……探してるんでしょ?」

せつ菜「……! 千歌さんの居場所をご存じなんですか!?」

果林「ええ」

せつ菜「お、教えてください……!! 私、今すぐにでも千歌さんに会わないといけないんです……!!」


思わず果林さんに詰め寄ってしまう。


果林「落ち着いて。私は千歌ちゃんの今現在の居場所を知っているわけじゃないの」

せつ菜「え、で、でも、さっき知ってるって……」

果林「今いる場所は知らない……でも、近いうちに現れる場所は知ってる」

せつ菜「え……と……」


どういうことだろう。



913 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 03:24:50.10r2gRr5pF0 (3/25)


果林「でも、もう日も沈んじゃったし、今その場所に行っても、千歌ちゃんには会えない。でも、これから千歌ちゃんが行く場所は知ってる」

せつ菜「…………」


この人は何を知っているんだろうか。何故そんなことがわかるんだろうか。

正直、怪しいと思ったけど──それ以上に、今の私は藁にもすがりたい気持ちだった。


果林「明日、ここに行ってみるといいわ」


そう言って、果林さんは私に一枚のメモ紙を手渡してくる。


果林「それじゃ、頑張ってね♪ 未来のチャンピオン──ユウキ・せつ菜さん♪」


最後にそう言い残してから、果林さんはボールから出したファイアローの脚に掴まって、飛び去ってしまった。


せつ菜「……」


果林さんから貰ったメモ紙を開いてみると──時刻と地名が書かれていた。

明日、この時間、この場所に、千歌さんが……?

わからないことだらけだけど……。


せつ菜「行ってみるしかない……!」


せっかく手掛かりを得たのだから。


せつ菜「……あれ? ……そういえば……果林さん、どうして私の名前、知っていたのでしょうか……?」


菜々のときにしか面識はなかったような……?


………………
…………
……
🎙




914 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:08:26.63r2gRr5pF0 (4/25)


■Chapter046 『森とキノコと魔法使い』 【SIDE Kasumi】





──ローズシティを出て数時間。かすみんたちは11番道路を進んでいる真っ最中です。


かすみ「るんる~ん♪」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「かすみさん、ご機嫌だね」

かすみ「そりゃそうだよ~! だって、かすみんの集めたお宝、返ってきたんだもん♪」
 「ガゥ♪」


そう言いながら、かすみんは物がたくさん詰まってパンパンになったバッグをしず子に見せつける。

返ってきたお宝とは何か──話はローズシティを出る前に遡ります……。



────
──



かすみ「さて……侑先輩たちも行っちゃいましたし、かすみんたちも行こっか!」

しずく「うん、そうだね」


ローズシティのポケモンセンターで侑先輩たちと別れて、かすみんたちも11番道路に向かおうとした矢先──prrrrrr!!! とポケギアが鳴りだしました。


かすみ「あれあれ~? かすみんのファンの人からのラブコールかなぁ~……?」

しずく「……馬鹿なこと言ってないで、早く出なさい」

かすみ「もー……しず子ったら、ノリ悪~い……」


失礼なことを言うしず子を後目に、ポケギアの通話に応じると──


エマ『もしもし、かすみちゃん? エマだよ~♪』

かすみ「エマ先輩?」


お相手はエマ先輩でした。


エマ『今、大丈夫かな?』

かすみ「はい、大丈夫ですよ~。どうかしたんですか?」

エマ『うん♪ 前、言ってたものが見つかったから、かすみちゃんのパソコンに送っておいたよ♪』

かすみ「前言ってたもの……?」


何かエマ先輩に頼んでいたものとかありましたっけ……?


エマ『ゆっくりお話ししたいんだけど……私はまだ、お仕事の途中だから。確認してみてね!』

かすみ「は、はい。ありがとうございます……?」

エマ『それじゃ、またね~♪』


それだけ言うと、エマ先輩からの通話は切れてしまいました。

本当に用件を伝えるための連絡だったみたいです。



915 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:09:22.31r2gRr5pF0 (5/25)


しずく「エマさんから?」

かすみ「うん」

しずく「なんだって?」

かすみ「前、言ってたものが見つかったから、かすみんのパソコンに送っておいたって……何かあったっけ?」


かすみん、さっぱり思い出せないんですけど……。……でも、しず子はしっかり覚えていたようで、


しずく「……あ、もしかして……あれじゃないかな?」

かすみ「……あれ?」

しずく「とにかく、パソコンを確認してみたら?」

かすみ「ま、それもそっか」


かすみんはエマ先輩からの贈り物を確認するために、ポケモンセンターへとトンボ返りするのでした。



──
────



そして、そんなかすみんのパソコンに入っていたものは──


かすみ「まさか、ドッグランでジグザグマたちに盗られた“げんきのかけら”が戻ってくるなんて~♪」


そう、エマ先輩から送られてきたのは、ドッグランでジグザグマたちの群れに強奪された、大量の“げんきのかけら”だったんです!

ドッグランで数を減らしちゃったあとも、コツコツ集めていたけど──もう戻ってこないと思っていた分が戻ってきたお陰で、かすみんのバッグはもはや宝の山状態になったというわけです!


しずく「はぁ……せっかく減ったのに……。そんなに持ち歩いてたら重くて疲れちゃうよ……?」

かすみ「いーの! 『備えあれば嬉しいな』って言うでしょ!」

しずく「『備えあれば憂いなし』ね……」


しず子は呆れ気味だけど……これはジグザグマがかすみんのために、頑張って集めてくれた宝物だもん。一つも無駄になんて出来ません!


しずく「でも、本当にその大荷物で大丈夫……? 11番道路は結構長い道のりになるよ?」

かすみ「へーきへーき! これはかすみんの宝物だから、荷物のうちに入らないも~ん♪」

しずく「……後で文句言わないでよ?」

かすみ「言わない言わな~い♪ それじゃ、レッツゴー!」
 「ガゥガゥ♪」






916 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:09:51.67r2gRr5pF0 (6/25)


    👑    👑    👑





かすみ「──しず、子……もぅ……無理……き、休憩……しよ……」
 「ガゥ?」

しずく「はぁ……だから、言ったのに……。……わかった、ここでちょっと休憩にしようか」

かすみ「しず子~! やっぱ、話がわかる~!」

しずく「全く、調子いいんだから……」


11番道路を歩くこと数時間。

かすみんはすっかりバテバテモードになっていました。

しず子に注いでもらったお茶を飲みながら、


かすみ「……11番道路がこんなに歩きづらい道だと思わなかった……」


そうぼやく。

今かすみんたちのいる、この11番道路は本当に荒れ地って感じで、ゴツゴツした岩があちこちに飛び出している。

さっきから道も登ったり下ったり……しかも地面も硬いし、歩きづらいのなんの……。


しずく「11番道路はローズシティから、ヒナギクシティを繋ぐために強引に作った道だからね。これでも十分人の手が加えられてるんだよ」

かすみ「これでぇ……?」

しずく「ヒナギクシティはもともと四方を山に囲まれた町だったんだよ。しかも南北はカーテンクリフとグレイブマウンテン……。比較的低い山だった東側を切り開いて、ローズからの道を繋いだみたい」

かすみ「へー……。ヒナギクシティの人たちはそれまでどうやって暮らしてたんですかね……? あそこって雪とか降るくらい寒いんでしょ?」


四方が山って、満足に生活出来てたのかな?


しずく「そうだね……ローズとの道が開通するまでは相当厳しい環境だったみたいだよ。外から物資が入ってくることも、ほとんどなかっただろうし……」

かすみ「食べるものとかあったのかな……」


かすみん、おいしいご飯が食べられない場所で暮らすなんて、考えただけでゾッとしちゃいます……。


しずく「一応ヒナギクの東側には小さな森があるから、そこで調達してたみたいだね」

かすみ「森があるの? オトノキ地方の森って、コメコの森だけだと思ってた」

しずく「森って言っても、コメコの森と比べると、かなり小さいからね。知らない人も多いと思うよ」

かすみ「ふーん……じゃあ、その森で採れる“きのみ”とかを食べて暮らしてたんだ」

しずく「うん。あとはキノコかな」

かすみ「キノコ? ……キノコって、あのにょきにょき生えてるキノコ?」

しずく「そう、そのキノコ。ヒナギクの東の森には、すごく生命力の強いキノコが群生していて、森全域にたくさんキノコが生えてるらしいよ。だから、ヒナギクの東の森は通称マッシュルームフォレストなんて言われることもあるみたい」

かすみ「へー! 名前になっちゃうくらいたくさんキノコが採れるんだ! ちょっと、かすみんも食べてみたいかも!」

しずく「うーん……。やめておいた方がいいと思うよ。毒キノコらしいし……」

かすみ「……え? 毒キノコなのに、食べてたの……?」

しずく「それくらい食べるものがなかったんだよ。あの辺りに生息してるジオヅムってポケモンの“しおづけ”で何ヶ月も掛けて水分を飛ばして、毒素を薄めて……それでやっと食べられる状態にしてたみたい。それでも、毒を完全に抜ききることは出来なくて、食中毒で亡くなる人も多かったって聞いたかな……」

かすみ「ひ、ひぇぇ……過酷すぎる……」


かすみん、今の時代にセキレイシティで生まれてよかったです……。



917 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:10:31.78r2gRr5pF0 (7/25)


しずく「まあ、それも昔の話で……今は観光地としてそれなりに賑わってるみたいだから、ヒナギクに着けばおいしいご飯も食べられると思うよ。ポケモンジムがあるくらいだしね」

かすみ「本当に今の時代に生まれてよかった……」

しずく「さて……そろそろ行けそう?」

かすみ「あ、うん! かすみん休憩して元気回復したから!」
 「ガゥ♪」


かすみんが元気よく立ち上がると、ゾロアもご主人様の復活が嬉しいのか、ご機嫌な鳴き声をあげる。


かすみ「この調子でさっさとヒナギクまで行っちゃいましょー!」

しずく「ふふ、そうだね」





    👑    👑    👑





──あれから歩くこと、さらに数時間。


かすみ「……なにこれ」


かすみんはあるものを見上げて、唖然としていました。

そのあるものとは──


かすみ「これ……キノコ……?」

しずく「……だね」


めちゃくちゃでかいキノコでした。

どれくらいでかいかと言うと……軽く3mは超えていると思います。


しずく「この巨大キノコが森の入り口の目印だね」

かすみ「さすがマッシュルームフォレスト……」


コメコの森よりは小さいと聞いていたものの……とんでもないサイズのキノコの圧迫感と、森の樹々はなんというか、鬱蒼としていて……おだやかな森だったコメコの森に比べると、大分ホラーな感じがします……。

たぶん、その怖い感じに拍車を掛けているのは……いつの間にか出始めてきた霧も関係しているのかも……。


しずく「とりあえず……もう日も暮れ始めちゃってるし、霧も濃くなってきたから、森には入らずに、ここで野宿にしようか……」

かすみ「えー!! また野宿……2日連続じゃん……。ローズで泊まればよかった……」

しずく「言ってても仕方ないよ。早くテント張っちゃおう」

かすみ「うん……そうだね……」


かすみんがテンション低めに、テントの設営をお手伝いしようとしたそのとき──森の奥の方で、何かがチカチカと光るのが見えた。


かすみ「あれ……? 今なんか光った……?」


……気になる。

かすみんは、目を凝らして森の奥に目を向ける。すると──また、チカチカと何かが光る。


かすみ「やっぱ、なんかある……!」


霧のせいで、ぼやーっとした光が点滅しているのがわかる程度ですけど……確実に何かが光っている。



918 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:11:08.27r2gRr5pF0 (8/25)


しずく「かすみさん? どうかしたの?」

かすみ「あそこでなんか光ってる……ちょっと確認してくる」

しずく「……もう暗いし、森に入らない方がいいと思うけど……」

かすみ「すぐそこだし、ちょっと確認したらすぐ戻ってくるから!」

しずく「まあ、それくらいなら……。……絶対に奥まで入っちゃダメだよ?」

かすみ「わかってるって~♪ ゾロア、行くよ!」
 「ガゥ」


ゾロアと一緒に光に向かって駆け出す。

巨大なキノコの脇をすり抜けて、入った森の中──光っていた目的物は本当にすぐ近くにあった。

チカチカと光っていたのは──


かすみ「……キノコ?」


またしてもキノコだった。

大きな傘をした──って言っても入り口のキノコよりは全然小さい30㎝くらいの──真っ白なキノコ。


かすみ「なーんだ……見に来て損した……」
 「ガゥ…」


なんかお宝的なものを期待してたのに……。まあ、光るキノコは珍しいけどさ……。

かすみんは振り返って、


かすみ「しず子ー!! 光ってるの、ただの光るキノコだったー!」


しず子に向かって、報告するために声をあげる。

そして、しず子の反応を待つこと、数秒……数十秒……。


かすみ「あ、あれ……?」


しず子からの反応が返ってこない……。

森から少ししか入っていないのに、すでに入り口は霧に覆われていて、ほぼ見えないし……。

かすみんは駆け足で、先ほどまでしず子が居た場所に戻ると──そこには、設営途中のテントを残して……しず子の姿はどこにもなかった。


かすみ「しず子……? どこ行ったのー? おーい!」
 「ガゥガゥーー!!」


ゾロアと一緒に呼んでみるけど、しず子からの反応は一向に返ってこない。

もしかしたら緊急事態か何かで席を外してるのかな……? お花摘みとか……。

そう思って、かすみんは少しの間、その場で待つことにした。






919 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:11:46.27r2gRr5pF0 (9/25)


    👑    👑    👑





かすみ「……おかしい」


どれだけ待てども、しず子は一向に戻ってこなかった。

テントの設営もすっかり終わっちゃったし……。


かすみ「しず子が何も言わずに、こんなに戻ってこないなんて考えられない……やっぱ何かあったとしか……」


でも音もなく消えちゃうなんてことあるのかな……。

あまりに霧が濃すぎて、帰り道を見失っちゃったとか……?

しっかりもののしず子に限って、そんなことあるかな……。


かすみ「とにかく、探さなきゃ……!」


ここで考えていても仕方ありません。

しず子に何かあったなら、かすみんが見つけないといけないし、道に迷ってるんだとしても、探さなくちゃ!


かすみ「……そうだ、図鑑!」


図鑑のサーチ機能を思い出して、図鑑を取り出し、ぽちぽちと操作する。


かすみ「えーっと……確か、こうしてこうして……あ、出た!」


しず子の図鑑の位置を検索すると──それはすぐ傍に表示された。


かすみ「……? なんだ、思ったより近くにいるじゃん……」


表示された場所は本当にすぐ傍だった。たぶん2mも離れていない。

テントの場所から、少し森の方へ歩いた方向……。

深い霧の中、しず子の図鑑が表示されている位置に一歩ずつ歩を進めていく。


かすみ「……ここだ」


図鑑の表示の真上に立つ。……だけど、しず子の姿はどこにもなかった。


かすみ「しず子ー! どこー?」
 「ガゥガゥー!!」


その場でキョロキョロと辺りを見回しながら探していると──足に何かが当たった。


かすみ「ん……?」


屈んでそれを確認してみると──


かすみ「……!? これ、しず子のバッグ……!?」
 「ガゥガゥ!!」


それはしず子が使っていた、バッグだった。

そして、そのバッグから少しだけ離れたところに──赤い布切れが見えた。

近寄って確認してみると──



920 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:13:19.06r2gRr5pF0 (10/25)


かすみ「しず子の……リボン……!?」


しず子のトレードマークとも言える、大きな赤いリボンだった。

バッグなら落とす可能性はある。だけど、身に着けているリボンを落とすなんて、普通ありえない。


かすみ「しず子に何かあったんだ……!!」


──なんでもっと早く気付かなかったんだ。

かすみんに何も言わずに、しず子が急にいなくなった時点でおかしいって思うべきだった。

その時点ですぐに探しに行くべきだった。


かすみ「いや、反省は後です……!! 探しに行くよ、ゾロア!!」
 「ガゥ!!!」


かすみんはしず子のバッグとリボンを拾い──マッシュルームフォレストの中へと駆け出した。





    👑    👑    👑





かすみ「しず子ー!! しず子ーー!!」
 「ガゥガゥッ!!!!!」


しず子の名前を呼びながら、森の中を駆け回る。

だけど、鬱蒼とした森な上に、深い霧が立ち込めているせいで、とにかく視界が悪い。

同じような樹々と同じようなキノコがたくさんあるだけ──キノコの中には、たまに光るやつもいるけど、本当にそれくらいだ。

あまりにも手掛かりがなさすぎる……。というか……。


かすみ「はぁ……はぁ……バッグ……重……」


自分のバッグが重いというのもあるけど……今はしず子のバッグも一緒に持っている。

さすがにこの状態で走り回ると息が上がってしまう。

一旦荷物の一部をテントに置いてきた方がいいかもしれない……そう思い、踵を返そうとして──


かすみ「あ、あれ……? かすみん……どっちから来たんだっけ……?」
 「ガゥ…?」

かすみ「ゾロアは……どっちから来たか覚えてる……よね?」
 「ガゥゥゥ…」

かすみ「……」
 「ガゥ……」

かすみ「もしかして、かすみんたち……迷子……?」
 「ガゥ…」

かすみ「あー、うー……どうしよう……しず子は見つからないし、かすみんたちは迷子だしぃ……」


思わずちょっぴり涙目になって、蹲る。

蹲っていると──バッグを後ろから何かに引っ張られるような感覚がして、


かすみ「わぁっ!?」


そのまま、仰向けにひっくり返る。



921 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:14:11.12r2gRr5pF0 (11/25)


かすみ「い、いたた……な、なに……?」

 「ベロバーーーー!!!!!!!」

かすみ「ぎゃーーーーーっ!!?」


仰向けになったかすみんの目の前に──ピンク色の何かが急に現れた。


 「ガゥガゥッ!!!!」


ご主人様の叫び声を聞いて、ゾロアがそいつに向かって飛び掛かる。


 「ベロバッ!!?」
 「ガゥガゥゥゥッ!!!!」


その隙に、かすみんは起き上がって距離を取る。


かすみ「はぁ……はぁ……あれ、ポケモン……!?」


ゾロアと取っ組み合いをしている相手は、ピンクの体色に紫の模様と紫のベロという、とにかく毒々しい色をしたポケモンだった。


 「ベロバッ!!!!!」
 「ガゥッ…!!」


そいつは取っ組み合いしながら、ゾロアに“かみつく”で攻撃してくる。


かすみ「“ナイトバースト”!!」
 「ガーーゥゥゥッ!!!!!」

 「ベロバー!!!?」


それを内から溢れる黒いオーラで吹っ飛ばす。

吹っ飛ばされこそしたものの、ピンクのポケモンはすぐに起き上がって、


 「ベロベー、ベロベロバー」


“ちょうはつ”するように踊りだす。


かすみ「もう、なんなんですか、こいつ……!」


その仕草に苛立ちながらも、バッグを持って立ち上がろうとして──さっきまであれだけ重かったバッグが妙に軽いことに気付く。


かすみ「……!? バッグの中身がまた減ってる!?」


さっきすっころんだときにぶちまけたのかと思って周囲を伺うと、


 「ベロバー」「ベロベロバー」「ベロ」

かすみ「……!?」


かすみんの周囲には、さっきゾロアと取っ組み合いをしていたピンクのと同じ種類のポケモンが大量にいた。

しかも──“げんきのかけら”を持っている。


かすみ「ち、ちょっとぉ!? それ、せっかく戻ってきたかすみんのお宝!?」

 「ベロ」「ベロバーー♪」「ベロベロバー」


そして、そのまま散り散りに持ち逃げしていく。



922 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:14:59.85r2gRr5pF0 (12/25)


かすみ「ま、また盗まれた……」
 「ガ、ガゥ…」


そして、気付けば、さっきゾロアと戦っていた個体もいなくなっている。


かすみ「あーーーもーーー……!! なんなのこの森ーーーー!!!」


かすみんの叫びは虚しくも霧の森に呑み込まれていく……。





    👑    👑    👑





かすみ「もうやだ……早くこの森から出たい……」
 「ガゥゥ…」


しず子もいなくなっちゃったし……またかすみんのお宝も奪われて……。

そういえば、さっきのポケモン……図鑑で調べてみたら、どうやらベロバーというポケモンらしい。

 『ベロバー いじわるポケモン 高さ:0.4m 重さ:5.5kg
  常に 舌を 出している。 民家に 忍びこみ 盗みを
  働き さらに 悔しがる 人や ポケモンの 発する
  マイナスエネルギーを 鼻から 吸い込み 元気になる。』


かすみ「つまり、かすみんを悔しがらせて食事をしてた……ってことだよね」


まんまとしてやられたのが悔しくてたまらないけど、ここで悔しがると、それを餌にされるらしい。

それは癪だ……。


かすみ「早くしず子を見つけて、この森……脱出しなきゃ……」
 「ガゥゥ…」


ゾロアと一緒に霧の森の中を彷徨っていると──急に霧が薄くなってきた。


かすみ「こ、今度はなにぃ……?」


もうこの得体のしれない森にうんざりしてきた。

今度は何かと身構えながら、周囲を伺う。


かすみ「……? ここだけ、霧が晴れてる……?」


どうしてかはわからないけど、かすみんはちょうど球状に霧が晴れている空間に入り込んでいたようだった。

まるでバリアで霧の侵入を阻んでいるような……そんな不思議な空間。

ただ、その空間内にあるのは、相も変わらずここまで見てきたのと同じような樹と……中心に光る大きなキノコがあるだけ。


かすみ「……? なんで、ここだけ……?」


首を捻りながら、中心にある光るキノコへと歩を進めると──キノコの下から、小さな何かが飛び出してきて、


 「ミ、ミブーー!!!!」「ミブリーーー!!!!」

かすみ「わ……!?」


鳴き声をあげながら、逃げていく。



923 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:23:33.63r2gRr5pF0 (13/25)


かすみ「えっと……今のもポケモンだよね……?」


かすみん何もしてないんだけど……。

図鑑を開く。

 『ミブリム おだやかポケモン 高さ:0.4m 重さ:3.4kg
  人気の ない 場所が 好き。 頭の 突起で 生物の
  気持ちを 感じとる。 穏やかな ものにしか 心を 開かず
  強い 感情を 感じとると 一目散に 逃げ出してしまう。』


かすみ「ミブリムって言うんだ……」


かすみん、どうやらミブリムたちの巣にお邪魔しちゃったみたいですね……。


かすみ「ミブリムたちには悪いですけど……ちょっとここで休憩させてもらいましょう……」
 「ガゥ」


視界の開けた場所で、今後どうするかを少し考えたい。

そう思って、大きな光るキノコに背を預けようとしたら──キノコの影から、


 「テブリ…」


また新しいポケモンが現れた。

帽子のような髪の毛を被った、先ほどのミブリムを少し大きくしたようなポケモン。


かすみ「わ……! 可愛い……?」


その姿は愛らしく、子供の頃テレビアニメで見た魔女っ娘を小さくしたような見た目で、可愛いポイントがものすごく高いポケモンです。


かすみ「ミブリムと雰囲気が似てるし……もしかして、ミブリムが進化した姿なのかな?」

 「テブ…」

かすみ「怖くないですよ~。かすみん、敵じゃありません♪」


その愛らしさに思わず手を伸ばして、撫でようとした──そのときだった。


かすみ「んがっ!!?」


急に顎下から強烈な衝撃と共に、目の前に星が舞った。

次、気付いた時には、かすみんはまたしても仰向けにひっくり返っていた。


かすみ「…………はっ!?」


今、ものすごい衝撃に吹っ飛ばされて、一瞬意識が飛んだ。

顎がすごい痛い……。起き上がろうとすると、頭がふらふらする。


かすみ「え、な、なに……?」

 「テブリィ…」


どうにか身を起こすと、先ほどの魔女っ娘ポケモンがゆっくりとこちらに迫ってきていた。


かすみ「え、えっとぉ……あ、あのぉ……も、もしかして怒ってます……?」

 「テブリィ…」

かすみ「ま、待ってください……!! かすみん、本当に敵とかじゃなくて、可愛いからちょっと仲良くしたいなって思っただけで……!」



924 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:24:05.25r2gRr5pF0 (14/25)


かすみんの必死の説得も虚しく、


 「テブッ!!!!」

かすみ「んがぁっ!?」


かすみんは魔女っ娘ポケモンの頭の房に、鼻っ柱を殴り飛ばされていました。

強烈なパンチで殴り飛ばされて、またしても地面を転がる。


かすみ「いったぁぁぁぁぁ!! もう、なんなんですか!? 魔女っ娘ポケモンに見せかけて、とんだ脳筋ポケモンじゃないですかぁ!?」

 「テブリィ…?」

かすみ「あ、いえ、なんでもないです。ごめんなさい」


睨みつけられて、即ごめんなさいする。

この子、見た目に反して、めちゃくちゃおっかなくないですか!?

図鑑を開いて確認してみる。

 『テブリム せいしゅくポケモン 高さ:0.6m 重さ:4.8kg
  強い 感情を もつ ものは それが 誰であれ 黙らせる。
  その手段は じつに 乱暴で プロボクサーさえ 一発
  KOの 破壊力が ある 頭の房で 相手を 殴り飛ばす。』

すごい見た目詐欺ポケモンです……。


 「ガゥ…」
かすみ「大丈夫だよ、ゾロア……。そもそも、テブリムたちの巣にお邪魔してるのはかすみんたちですから……」


心配して身を摺り寄せてくるゾロアを撫でる。

元はと言えば、勝手に巣にお邪魔している方が悪いわけですから……。


かすみ「ただ、あのぉ……本当にこれ以上近付かないので、ここで休憩だけさせてください……」

 「テブリ…」


不機嫌そうなテブリムだけど……結局のところ、それは許可してくれたのか、わざわざ近付いて暴力を振るってくることはなかった。

とりあえず、一安心……ここで、作戦を考えないと……。

しず子をどうにか見つけなくちゃいけないけど……。

恐らくしず子も、この不思議な森の不思議な何かのせいで、出られなくなってる……もしくは元の場所に戻れなくなってるって考えればいいのかな……。

その何かがなんなのかわからなくて困ってるんだけど……。


かすみ「うーん……どうしたものか……」
 「ガゥ…」


腕組みをしながら悩んでいると──


 「ミブーーー!!!」


巣の中の、かすみんたちがいるのとは反対側の方から、ミブリムが鳴き声をあげながら逃げ込んできた。

そして、その後ろからは──


 「ベロバーー!!!」「ベロベロバーー!!!!」「ベローーー!!!!」

かすみ「ベロバー……!!」



925 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:24:40.72r2gRr5pF0 (15/25)


ベロバーたちがミブリムを追いかけて巣に侵入してくる。

あいつら、ミブリムたちにもいじわるしてるんですね……!!

ベロバーたちを追い払おうとボールに手を掛けた瞬間、


 「テブリッ!!!!」

 「ベロバッ!!!?」


テブリムがベロバーを殴り飛ばして、巣の中から追い出し始める。


かすみ「テブリム、めちゃつよじゃないですか……」


次々とベロバーを拳で追っ払うテブリム。……これは手伝う必要はなさそうですね。

そう思った矢先──樹の上から影が飛び降りてきた。


かすみ「!?」

 「テブッ!!?」


ちょうどテブリムの背後に着地した影は──


 「ギモッ!!!!」


テブリムの顔の目の前で、両掌を合わせて叩き、大きな音を立てる──“ねこだまし”だ。


 「テブッ!!!?」


頭上からの奇襲攻撃に反応できなかったテブリムが怯む。


 「ギモッ!!!!」


そして、相手のポケモンがその勢いのまま、追撃を仕掛けようとした瞬間、かすみんはボールを投げ放っていた。


かすみ「ジュカインッ!! “でんこうせっか”!!」
 「──カインッ!!!!」

 「ギモォッ!!!?」


ボールから出ると同時に、高速の一撃で肉薄しながら、敵を斬り裂いた。


かすみ「テブリム、大丈夫ですか!?」

 「テブ…」


かすみんはテブリムに駆け寄る。


かすみ「全く、“ふいうち”なんて卑怯なやつですね……!」

 「ギ、ギモ…」

かすみ「お前、ベロバーたちの親玉ですね! もう許しませんよ……!!」

 「ギ、ギモー!!!」


かすみんに恐れ慄いたのか、急にそいつは膝をついて土下座をし始める。


かすみ「全く……情けないですねぇ。勝てないと思ったら、土下座なんて」
 「カイン」



926 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:25:15.07r2gRr5pF0 (16/25)


でも、そんなことされても、許してなんてやりませんもんね。

ジュカインはのっしのっしと近付いていく。

あんなやつ巣からつまみ出してやります。

その間に、あいつの名前を調べるために図鑑を開く。

 『ギモー しょうわるポケモン 高さ:0.8m 重さ:12.5kg
  悪知恵を 使って 夜の 森に 誘い込もうとする。
  土下座して 謝る 振りをして 槍のように 尖った
  後ろ髪で 突き刺してくる 戦法を 使ってくる。』


かすみ「!? 土下座は罠!?」

 「ギモッ…!!!」


十分に近づいたと判断した瞬間、ギモーは髪の毛を尖らせてジュカインに突き刺してくる。


 「カインッ…!!」

 「ギモ、ギモモモ!!!!」


引っ掛かったと言わんばかりに下卑た笑い声をあげるギモー。

……が、


 「…カイン」


ジュカインは突き刺さった髪の毛を──手で掴む。


 「ギ、ギモ…!?」

かすみ「かすみんのエースは、その程度じゃ怯みもしませんよ!」
 「ジュ、カインッ!!!」


髪の毛を直接握って捕まえたギモーに向かって、


かすみ「“りゅうのいぶき”!!」
 「ジュ、カイーーンッ!!!!」


至近距離から“りゅうのいぶき”を噴き付けた。


 「ギ、ギモォォォッ!!!!?」


ドラゴンエネルギーの炎に焼かれ、地面を転がりながら、


 「ギ、ギモ、ギモモモ!!!!」


ギモーは一目散に逃げ出していく。


かすみ「ふん! おととい来やがれです!」
 「カインッ」


かすみんが鼻を鳴らして勝ち誇ると、


 「ミブ♪」「ミブリー♪」「ミブミブー♪」


ミブリムたちがかすみんとジュカインの足元に掛けよってきた。


かすみ「わわ……!? え、えっと……認めてもらえた感じ、ですかね……?」


恐る恐る、テブリムの顔色を伺うと、



927 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:25:47.14r2gRr5pF0 (17/25)


 「…テブ」


先ほどまで睨むような目つきだったテブリムも気持ち穏やかな表情になっている気がした。


かすみ「ほ……」


これなら、もうさっきみたいにぶん殴られる心配もなさそうです。


かすみ「これでゆっくり考えられます……」


かすみんが、ミブリムたちの中央に腰を下ろすと、


 「ミブ…?」


1匹のミブリムが、かすみんのバッグに結んでいた──しず子のリボンに反応を示した。


かすみ「……? ミブリム、もしかしてこのリボン、見覚えあるの?」

 「…ミブ」


ミブリムはかすみんの言葉に首──というか体を左右に振りながら否定する。

でも……その代わりとでも言いたげに、さっきテブリムにぶん殴られて伸びているベロバーを指差す。


かすみ「ベロバーがどうかし……ん……?」


そういえば、さっき図鑑で……ミブリムは生物の気持ちを感じとるって……。


かすみ「……」


さらにギモーは悪知恵で夜の森に誘い込む……ベロバーはギモーの手下で……。

しず子の持ち物を見て、気持ちを感じ取れる力を持つミブリムがベロバーを指差した……。

だんだん、話が見えてきました……。

ミブリムはきっとこう言いたいんだと思う。そのリボンの持ち主は、ベロバーたちのところにいる……って。つまり──


かすみ「しず子は……ギモーたちに連れ去られたんだ……!!」


かすみんは立ち上がる。

そうとわかれば、今すぐにでもギモーたちの巣を見つけて、しず子を助けないと……!


かすみ「行くよ、ゾロア!! ジュカイン!!」
 「ガゥッ!!!」「カインッ!!!」


かすみんが駆け出そうとした、そのとき、


 「テブッ!!!」


テブリムが自分の頭の房を使って、器用にジャンプし、かすみんの頭の上に飛び乗ってくる。


かすみ「わとと……!? ……もしかして、一緒に来てくれるの?」
 「テブリ」


テブリムは頷くと、伸びてるベロバーを指差し、頭の房で殴るようなジェスチャーをする。

……どう見てもベロバーやギモーたちとは仲悪そうでしたし、自分も乗り込んでボコボコにしてやろうってことなのかも……。



928 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:26:20.62r2gRr5pF0 (18/25)


かすみ「まあ、構いませんよ! かすみんも好き放題やられて頭に来てるのは同じですからね!」
 「テブリッ!!」

かすみ「テブリム! 一緒にギモーたちをぼっこぼこのけちょんけちょんにしてやりましょう!!」
 「テブリッ!!!!」


テブリムが進むべき方向を指差して教えてくれる。


かすみ「こっちにいるんですね! 行きますよ!」
 「テブッ!!!」


さぁ、好き放題やってくれたギモーたちに反撃開始ですよ……!!





    💧    💧    💧





しずく「……むー……!! むー……!!」


激しく抗議の意思を表してみる、

だけど、


 「…ロン」


私を拘束しているこの黒い髪は全く力を緩めようとしない。

私を捕えているのは──ベロバー、ギモーの最終進化系である、オーロンゲだ。

森の光るキノコに誘われて、かすみさんが私の近くを離れた直後だった。

森の奥から伸びてきた髪の毛に、手足を絡め取られ、


しずく『な、なに……!? かすみさ──むぐっ……!』


声をあげる前に、口も髪で塞がれて──


しずく『むー……! むー……!!』


森の奥に引き摺りこまれた。


しずく「……」


ベロバーとその進化系たちは、人のマイナスエネルギーを餌とするポケモンだ。

恐らくこうして近くを通った人間やポケモンを捕まえて恐怖を与えることで、自分たちの糧としているのだろう。

たぶん、かすみさんを光るキノコで引き付けて、私と引き離したのも、ギモーの悪知恵だと思う。

そうすれば、恐怖に怯える私と、私がいなくなったことで焦ったり不安になるかすみさんからもマイナスエネルギーを奪えて一石二鳥というわけだ。

ただ、誤算があるとしたら──


 「ロンゲ…」


私を至近距離で睨みつけてくるオーロンゲ。

それもそうだろう。私が全然怯えないからだ。


しずく「……むー……」



929 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:27:22.49r2gRr5pF0 (19/25)


そんな風に睨みつけても無駄ですよ。

私は貴方なんか怖くもなんともありません。

──絶対かすみさんが助けに来てくれますから。


 「…ロンゲ」


オーロンゲは機嫌悪そうに鳴く。

私が希望を失っていないから。

そして、私に希望を与えてくれるあの人は──


 「──しず子ー!! どこー!!」


やっぱり、来てくれた。





    👑    👑    👑





かすみ「ジュカイン! “マジカルリーフ”!! ゾロア! “スピードスター”!!」
 「カインッ!!!」「ガゥガゥッ!!!!」

 「ベロ!!?」「ベベロバッ!!!?」「ベロベー!!!?」


そこらへんにいるベロバーたちを必中の遠距離技で片っ端から倒しながら突き進む。

そして、


 「ベローー!!!」「ギモーーッ!!!!」「ギモォ!!!!」


飛び掛かってくるベロバーやギモーは、


かすみ「テブリム!! “ぶんまわす”!!」
 「テブリーーー!!!!!」

 「ベベローー!!?」「ギモッ!!!?」「ギモォッーーー!!!!」


かすみんの頭の上で拳を振り回すテブリムが全部ぶっ飛ばします。


かすみ「しず子ーーー!! 迎えに来たよーー!! どこーー!?」


もう完全にベロバーやギモーたちの縄張りに入っている。

いるとしたら、ここしかありえない。


かすみ「テブリム! しず子のもっと詳しい居場所、わかる!?」
 「テブ」


テブリムが自らの額を、しず子のリボンに近付ける。

恐らく、またしず子の思念みたいなものを読み取っているんだろう。


 「テブ!!」
かすみ「あっちだね! 了解!!」


テブリムが指差す方向へと走る。

ベロバーやギモーたちをぶっ飛ばしながら、走っていくと──大きな樹が見えてきた。



930 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:28:06.82r2gRr5pF0 (20/25)


 「テブ!!」
かすみ「あの樹!? よっし……じゃあ、行きますよ!!」


大きな樹にダッシュで駆け寄り──


かすみ「テブリム!! お願いします!!」
 「テーーブッ!!!!」


テブリムが樹木に向かって拳を叩きつけると──樹木の表面がバラバラと崩れ、大きな洞が現れる。

そして、


しずく「──むー……!!」

かすみ「しず子!!」


そこには、黒いひも状のもので縛られたしず子が居た。


 「ロンゲ…」

 「テブッ!!!」
かすみ「お前がしず子を攫ったやつですね……!!」


ギモーたちよりもずっと大きな背丈の──恐らく群れのボスらしきポケモンに向かって、テブリムが飛び出していく。

体を捻りながら、テブリムが渾身のパンチを繰り出すと──


 「ロンゲッ!!!!」


相手も、身を捻りながら、拳を突き出し、2匹の拳が真っ向からぶつかり合うが──


かすみ「ご、互角……!?」
 「テブッ…!!」

 「ロンゲッ」


2匹のパワーは互角で、お互い相殺し合っている。

テブリムのパンチ力は身をもって体験している。それなのに、それと互角に撃ち合ってくるなんて……!!


しずく「──かすみさんっ!! 攻撃を緩めないで!!」

かすみ「!?」


気付けば先ほどまで、口を塞がれていたしず子が、私に向かってそう伝えてくる。


しずく「オーロンゲは全身の髪の毛で、自分の筋力を増強するの!! だから、攻撃に使っていたら、私を拘束できなく──むぐっ……!!」

かすみ「なるほど! そういうことなら……!! テブリム!!」
 「テーブッ!!!!」


テブリムは、オーロンゲと呼ばれたポケモンの前に立って、連続で拳を繰り出す。


 「ロンゲ…!!!」


もちろん、そうなればオーロンゲも応戦するしかなくなり、


しずく「……ぷはっ!」


しず子の拘束が緩んだ隙に、


かすみ「ジュカイン!!」
 「カインッ!!!!」



931 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:29:35.36r2gRr5pF0 (21/25)


ジュカインが自慢の身のこなしで洞内の壁を蹴りながら、しず子を救出して、すぐに離脱する。


かすみ「ナイス! ジュカイン!」
 「カインッ!!!」


すぐに、ジュカインがしず子を抱きかかえたまま、私のもとに戻ってくる。


しずく「かすみさん……!」

かすみ「しず子! よかった、無事で……!」

しずく「うん……! 絶対助けに来てくれるって信じてたよ!」

かすみ「当たり前じゃん!」


再会を喜び合うのも束の間、


 「テ、テブーー!!!」


テブリムがこちらに吹っ飛ばされてくる。


かすみ「テブリム!? 大丈夫!?」
 「テ、テブ!!」

しずく「オーロンゲも私の拘束に使っていた分を、全部攻撃に回してきたみたいだね……」

 「ロンゲ…」


忌々しそうにこちらを睨みつけてくるオーロンゲ。

そして、背後からは、


 「ギモーーー!!!!!」「ギモモ!!!!」「ギーーモッ!!!!」


この洞に向かって、ギモーたちが殺到してきている。


しずく「後ろは任せて」

かすみ「! そういうことなら……!! オーロンゲ、倒しますよ!!」
 「テブッ!!!!」

しずく「出てきて、ジメレオン!!」
 「ジメ…」


ジメレオンはボールから出ると同時に、手に大量の水の球を作り出し、


 「ジメッ!!!」


それを連続で投擲──投げられた水の球は、森の樹々を反射しながら、


 「ギモッ!!!?」「ギモッ!!!!」「ギィ!!!?」


予測不可能な軌道で、ギモーたちを次々と撃ち落としていく。


しずく「1匹たりとも、ここは通しません!!」
 「ジメ…!!」


しず子とジメレオンがギモーたちを抑えてくれている間に、


かすみ「テブリム……!! “ぶんまわす”!!」
 「テーーブッ!!!!」


テブリムが頭の房を振り回しながら、オーロンゲに飛び掛かる。



932 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:30:06.51r2gRr5pF0 (22/25)


 「ロンゲ!!!!」

 「テブッ…!!!」


が、やはりフルパワーのオーロンゲ相手だと、力負けしてテブリムが吹っ飛ばされる。


かすみ「なら……!! “マジカルシャイン”!!」
 「テーーブッ!!!!」


テブリムは吹っ飛ばされながらも、激しく閃光を放って反撃。


 「ロン…!!?」


暗い洞の中で急に激しい閃光が放たれたことによって、オーロンゲが一瞬怯む。


かすみ「そこです!! テブリム!!」
 「テーーーブッ!!!!」


怯んだところに──テブリムが走り込み、オーロンゲの顎に向かってアッパーカットを叩きこんだ。


 「ロンゲッ!!!?」


オーロンゲは体が宙を浮くほどの強烈な一撃を食らい、洞の中で倒れこむ。


 「ロンゲ…!!」


まだ倒しきれていないのか、オーロンゲはすぐに起き上がるけど……確実に大きなダメージを与えたはず……!!


かすみ「この調子でもう一発……!」


さらなる追撃を加えようとした瞬間、


 「ロンゲッ!!!」


オーロンゲは、髪の毛で強化した腕を──洞内の壁に思いっきり叩きつけた。


かすみ「壁に向かって“アームハンマー”……!?」


それと同時に──洞の壁が吹き飛び、それによって耐えきれなくなった樹木が倒壊を始める。


かすみ「や、やば……!?」
 「カインッ!!!」


かすみんが指示するよりも早く、ジュカインが私としず子を抱きかかえ、脱出を試みる。

テブリムやゾロア、ジメレオンもジュカインの大きな尻尾にしがみついているし──お陰でどうにか、全員倒壊に巻き込まれることなく脱出が出来た。


かすみ「あ、ありがとう……ジュカイン」
 「カインッ」

かすみ「そうだ、オーロンゲは……!!」


気付けば、オーロンゲの姿は見えなくなっていた。


かすみ「に、逃げられた……!」


周囲にいたギモーやベロバーたちも、樹々の影に隠れて逃げ始めている。



933 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:30:41.39r2gRr5pF0 (23/25)


しずく「恐らく逃げて態勢を立て直すつもりだろうね……。森の中は彼らのテリトリーだから、一旦引いて態勢を立て直せば、いくらでも策はあるだろうし……」

かすみ「冷静に分析してる場合じゃないって~!?」

しずく「大丈夫だよ、かすみさん」

かすみ「え?」

しずく「今回は──私もかなり怒ってるから」


静かに怒りを顕わにするしず子の声に同調するように──


 「ジメ──」


ジメレオンが光り出した。


かすみ「これって、まさか……!?」

しずく「かすみさんのキモリはジュカインに、歩夢さんのヒバニーもエースバーンになって……私のメッソンも、最終進化の時が近いってわかってたから」
 「──インテ」

しずく「行くよ、インテレオン」
 「インテ」


進化し、新しい姿を得たジメレオン……改めインテレオンは、指を銃口のようにかざし、


しずく「この森では貴方たちは隠れ放題、逃げ放題って思ってるかもしれないけど……私の“スナイパー”は、絶対に外さない──“ねらいうち”」
 「インテ──」


指先から──超速度の水の弾丸を撃ち出した。

ヒュン、と風を切る音と共に、水の弾丸は樹々の間をすり抜けて──


 「ロンゲェッ!!!!!!」


オーロンゲの悲鳴に変えて、直撃を私たちに報せてくれた。


 「…インテ」
しずく「これに懲りたら、今後は無暗矢鱈に人を襲わないことだね。……もう、聞こえてないだろうけど」

かすみ「か、かっこよ……」


インテレオンの必殺の一撃によって──マッシュルームフォレストで起こった、一連の騒動は終息するのでした。





    👑    👑    👑





かすみ「テブリム。協力してくれてありがとね」
 「テブ」


あの後かすみんたちは、テブリムの巣に戻ってきました。

──あ、ちなみに盗まれた“げんきのかけら”は、崩れた樹の近くにまとめて置いてありました。もちろん全部取り戻してめでたしめでたしです。


かすみ「それじゃ……これからもミブリムたちを守ってあげてね」
 「テブ」

かすみ「よし……! それじゃ、しず子! さっさと森、抜けちゃおっか! 朝になっちゃう!」


かすみんはテブリムへの挨拶を終えて、しず子に振り返る。



934 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:31:29.60r2gRr5pF0 (24/25)


しずく「かすみさん、いいの……? テブリム、捕まえなくても……?」

かすみ「いいのいいの! あの子は群れのリーダーなんだから、いなくなったらみんな困っちゃうもん」


せっかく一緒に戦った仲だし、ちょっと寂しくはありますけど……。


しずく「そっか……。……でも、テブリムはそう思ってないみたいだよ?」

かすみ「え?」


そう言われてテブリムの方へ振り返ると──


 「テブ」


テブリムは私の足元に居た。


かすみ「テブリム……もしかして、一緒に来てくれるの?」
 「テブ」

かすみ「でもミブリムたちは……」

 「ミブー!!」「ミブ、ミブーーー!!!」「ミブリーー!!!!」

しずく「ふふ、旅に出る仲間を応援してくれてるね♪」

かすみ「……野生のポケモンってたくましいですね……」


嬉しそうに飛び跳ねるミブリムたちを見ていると、まるで「私たちは私たちでどうにかやっていくから、心おきなく旅に行っておいで」と群れのリーダーの門出を祝っているようだった。


 「テブリ」


テブリムはまた器用に頭の房を使ってジャンプすると、


かすみ「わっとと……」


かすみんの頭に飛び乗ってくる。


 「テブ」

しずく「かすみさんの頭の上で腕組んでるね」

かすみ「……なーんか、ちょっと偉そうですね、このテブリム……」

しずく「群れのみんなも大切だけど……頼りない子分が心配だから、付いて行ってやろうって感じなのかな……?」

 「テブ」

かすみ「えぇ!? なにそれ!? 頼りない子分ってかすみんのこと!?」
 「テブテブ」

かすみ「むー……ま、いいけどさー……。……これからよろしくね、テブリム」
 「テブ!!」


霧に包まれ、キノコが群生する、この不思議な森で……新たな仲間を加えて、かすみんたちは再び、ヒナギクシティを目指して出発するのでした。

──ちなみに、森を出る頃には完全に朝になっていました……。うぅ……徹夜は美容の敵なのに……。






935 ◆tdNJrUZxQg2022/12/13(火) 12:32:19.20r2gRr5pF0 (25/25)


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【11番道路】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回_●__  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.48 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.45 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.42 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.39 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.41 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      テブリム♀ Lv.40 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:179匹 捕まえた数:9匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.37 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリヤード♂ Lv.32 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.36 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.36 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.36 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:187匹 捕まえた数:12匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.






936 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:12:54.47A5BOh9Vw0 (1/29)


 ■Intermission🎙



せつ菜「……ここ、ですね……。エアームド、下に降りてください」
 「ムドー」


夜が明けて──私たちがやってきたのは、クロユリシティのちょうど北西部に存在する大きなカルデラ湖。その中心に鎮座している火山島だ。

未だに活発な活火山で、名前は──天睛山(てんせいざん)、とりわけその火山洞は天睛の火道(てんせいのかどう)と呼ばれています。

活火山なだけあって、危険を伴う場所で、人があまり近寄らず、街から繋がる道もない。大きなカルデラ湖から中央の火山島へ渡る船などもないため、ポケモンの力を借りずに来る方法はほぼないと言っていい。

──果林さんから貰ったメモには、『オトノキ北の火山洞奥。20~』とだけ書かれていた。

オトノキ北の火山と言われたらここしかないし、20~というのは20時以降を示しているものだろう。

ただ……。


せつ菜「本当にこんな場所に千歌さんが来るのでしょうか……」


流れ出す溶岩を横目に見ながら、私は溶岩洞に足を踏み入れる。

溶岩洞窟内は大きさこそあるものの、入り組んだ道ではなかった。

溶岩洞の入り口から真っすぐ進んでいくと、大きな広間のような空間に出る。


せつ菜「入り口は一つしかありませんでしたし……もし来るんだとしたら、ここに居れば必ず鉢合わせるはず……」


だだっ広い空間ではあるが、赤熱した溶岩のお陰で洞窟内は意外と明るかった。

その光景自体は自然の力強さを感じる幻想的な風景ではあるのだが──


せつ菜「さすがに……暑いですね……」


ドロドロとした溶岩がそこかしこに見られるだけあって、非常に暑い。

私は暑さにはかなり耐性がある方だけど……それでも、ずっと居たくはないと思うくらいには暑かった。


せつ菜「本当に、ここに千歌さんが来るの……?」


何度目かわからない自問。

千歌さんがここに来ることが想像できない。出来ない、のだが……。


せつ菜「当てもなく探し回るよりは、いい……はず」


何せ、彼女がどこにいるかは本当に見当が付いていないのだ。

もし来ないのであれば、それはそのとき考えればいい。

今は、もし彼女がここに訪れたらどうするかを考える方が建設的だ。

──これから彼女とするであろう、戦いのシミュレーションを。

一匹一匹手持ちのボールに触れながら、戦い方を頭の中で思い浮かべる。

千歌さんの手持ちとどう渡り合うかを一つ一つ考えて。


せつ菜「……」


正直、不安はあった。

今の私で勝てるのか。

今の力で通用するのか。

でも、



937 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:15:06.65A5BOh9Vw0 (2/29)


せつ菜「……大丈夫」


私が信じて進んできた道に、間違いはない。

あと、少しで手が届くという手応えだって、ずっと感じていた。

だから、今日、ここで、超える。

弱気になんてなっちゃダメだ。


せつ菜「私は……チャンピオンになるんだ」


私は自分に言い聞かせるように、そう言葉にした──





    🎙    🎙    🎙





──時刻は20時半を回ろうとしていた。


せつ菜「…………」


溶岩洞の内部は、今も灼熱の溶岩が流れ続けるだけ。

20~と書かれていたが、千歌さんは未だ姿を現していなかった。


せつ菜「…………また、からかわれてしまったみたいですね……」


菜々のときだけではなく、せつ菜であってもからかわれてしまったようだ。

さて、これからどうしたものだろうか……。

次の策を思案し始めた、そのときだった。


 「──こっちであってるよね!?」


入り口からこの広間へ向かう通路の方から、声が聞こえてきた。


せつ菜「……え?」


その声は、あまりに聞き覚えのある声で──程なくして、


千歌「はぁ……はぁ……! どこ……!?」


千歌さんが、この火山洞の中に、姿を現した。


せつ菜「本当に……来た……」


私は唖然としてしまった。

まさか本当に来るなんて。

キョロキョロと何かを探していた千歌さんは、


千歌「……え?」


私を視界に入れた瞬間、目を丸くする。


千歌「せつ菜ちゃん……?」



938 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:15:48.34A5BOh9Vw0 (3/29)


千歌さんもポカンとしていた。

まさか、私がこんな場所にいるなんて思っていなかったとでも言わんばかりに。

呆然としながら、見つめ合う私たち。そして、その背後から、


彼方「千歌ちゃーん……待って~……」


息を切らせながら、広間に入ってくる女性の姿。

確か……彼方さんと呼ばれていた気がします。

そしてその後ろから、ツインテールの少女と、さらにサイドテールの女性が姿を現す。

遥さんと……穂乃果さんと呼ばれていたと思います。

最近、千歌さんと会うときに大体一緒に行動している方たちです。


千歌「あ、えっと……彼方さん……」

彼方「はぁ……はぁ……あ、あのねー……大変なのー……。……ここに入ったら、急に反応が、消えちゃって……」

千歌「え? そうなの……?」

彼方「うん……」

遥「勝手に戻っていったということでしょうか……」

穂乃果「今までそんなことあったっけ……?」


何やら話をしていますが……こうして千歌さんと出会えたのなら、


せつ菜「……あの!!」


私は私の目的を果たさねばならない。


せつ菜「千歌さん!! 私とバトルしてください!!」

千歌「あ、えっと……」


千歌さんは少し動揺した様子だった。


彼方「あれ……? なんで、せつ菜ちゃんがいるの~……?」

遥「まさか、またせつ菜さんが……?」

千歌「えーっと……」


千歌さんは背後の穂乃果さんを伺うように、チラりと視線を送る。


穂乃果「……とりあえず、反応が消えちゃったなら、私たちには何も出来ないし……大丈夫だと思う」

千歌「……まあ、それもそっか」


どうやら、向こうも話が付いたらしく。


千歌「どうしてここにせつ菜ちゃんがいるのかはわからないけど……トレーナー同士、目が合ったら戦うのが礼儀だもんね!」

せつ菜「……! はい!!」


──やった……! バトルまで、漕ぎつけた。

後は──戦って勝つ……!! 勝って、実力を示して、チャンピオン戦をしてもらう!!

私はボールから手持ちを繰り出す。



939 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:16:30.06A5BOh9Vw0 (4/29)


せつ菜「行きますよ、ゲンガー!!」
 「ゲンガッ!!!」

千歌「出てきて、バクフーン!」
 「──バクフーン!!!!」


お互いの手持ちが相対して、今まさにバトルが始まろうとした──その瞬間だった。

──ビーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!

けたたましいブザー音のようなものが洞窟内に響き渡った。


千歌「……!?」

せつ菜「な、なに……!?」


千歌さん共々、ブザー音の発信源に目を向けると──それは彼方さんの持っている端末から鳴っている音だった。


彼方「……うそ」

穂乃果「彼方さん、場所は……!?」

彼方「叡智のゴミ捨て場付近と……フソウ島」

遥「二ヶ所同時……!?」

穂乃果「しかも、ここと真逆……!?」

彼方「それに、どっちも市街地が近い場所だよ~……!」

穂乃果「……っ……私はフソウに飛ぶ!! 千歌ちゃんは、ダリアの方に行って!!」


そう言って、穂乃果さんは踵を返して駆け出して行く。


千歌「は、はい……!」


千歌さんも動揺しながらも、踵を返して出て行こうとする。


せつ菜「ま、待って……!?」

千歌「ごめん、せつ菜ちゃん……!! バトルはまた今度……!!」


そう言って、千歌さんが洞窟内から駆け出して行く。

どうしよう。戦わなくちゃいけないのに。私は、すぐにでも千歌さんと戦って示さなくちゃいけないのに。

私の頭の中は、それでいっぱいだった。

だから、私は、


千歌「んぎっ!?」

彼方「千歌ちゃん!?」

遥「どうしたんですか……!?」

千歌「身体が……う、動かない……!!」

せつ菜「……トレーナーとの戦いが始まったのに、背を向けるんですか……」


“メガバングル”を輝かせながら、言う。



940 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:21:21.68A5BOh9Vw0 (5/29)


 「ゲンガァー…!!!!!」

千歌「め、メガゲンガー……! “かげふみ”……!」

彼方「ち、千歌ちゃん……!」

千歌「二人は穂乃果さんと、先に行って……!」

遥「わ、わかりました……!」

彼方「ご、ごめんよ~……!」


彼方さんと遥さんが千歌さんを置いて駆け出して行く。


せつ菜「……バトルの最中に……相手に背を向けるんですか……チャンピオンが……」

千歌「……っ……せつ菜ちゃん、今は緊急事態で……バトルなら、今度会ったときに改めてやろう! ね!?」

せつ菜「今度って……いつですか……次会うのはいつですか……!!」

千歌「え、いや、それは……わ、わかんないけど!!」

せつ菜「──それじゃ、ダメなんですっ!!」

千歌「……っ!?」


自分でも驚くくらい、大きな声が火山洞内で反響する。

次会えるのなんて、いつになるかわからない。

今ここでこの機会を逃したら──全てを失ってしまう気がした。


せつ菜「今……!! 今、バトルしてください……!!」

千歌「だ、だから……!! 緊急事態なんだって!! 今行かないと大変なことに……」

せつ菜「私だって、今バトル出来ないと困るんですっ!!!」

千歌「……っ」


私の無茶な要求に千歌さんも困っていたし、苛立ちがあったのかもしれない。

だから、彼女は私に向かって──言ってしまった。


千歌「──ポケモントレーナーだったら、バトルなんていつだって出来るじゃんっ!!!!」

せつ菜「────」


その言葉を聞いて、私の中で──何かが切れてしまった。


せつ菜「いつだって……出来る……?」

千歌「そうだよ、いつだって出来る、だから……!」

せつ菜「……ゲンガー!! “シャドーボール”!!」
 「ゲンガーーッ!!!!」

千歌「!? “かえんほうしゃ”!!」
 「バクフーンッ!!!!!」


ゲンガーの放った“シャドーボール”が“かえんほうしゃ”で相殺されて、爆発する。

爆発の衝撃で、朦々と立ち込める煙の向こうに立つ千歌さんを、見据える。


せつ菜「……そうですよね、貴方はいつだって、どこでだって、好きなときに、好きなだけ、戦える。トレーナーでいられる。何不自由なく、縛られることなく、誰に言われることもなく」

千歌「せつ菜ちゃん、やめてって!! 今は戦えないって言ってるじゃん!!」

せつ菜「戦う気がないなら……戦う気にさせてあげますよ……!!」


私は──ボールを4つ放った。



941 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:22:18.17A5BOh9Vw0 (6/29)


 「ムドー!!!」「フゥ!!!」「ドサイッ!!!」「ワァォン!!!!」

せつ菜「エアームド、“ステルスロック”! スターミー、“ハイドロポンプ”! ドサイドン、“ロックブラスト”! ウインディ、“かえんほうしゃ”!」
 「ムドーーー!!!!」「フゥッ!!!!」「ド、サイッ!!!!」「ワァーーーオーーーンッ!!!!!」

千歌「……っ!」
 「バクフッ!!!」


私の手持ちたちの総攻撃に、千歌さんはバクフーンに掴まり、駆け出して回避する。


千歌「せつ菜ちゃんっ!! いい加減にしてよっ!!」

せつ菜「私は本気です!! 本気で貴方と戦う意志を持って今ここにいるんですっ!! だから、千歌さんも私と本気で戦ってくださいっ!!」


彼女なら、意志を見せれば、向き合ってくれると思った。

だけど──そうじゃなかった。


千歌「あーーーーもーーーーっ!!! 今は無理って言ってるでしょーーーー!!!!」


千歌さんが叫ぶのと同時に──彼女の腕に付けたリングが、強烈な閃光を放ち始めた。


せつ菜「……!?」


千歌さんとは何度も戦ってきたけど、これは、こんな光景は、一度も見たことがなかった。

彼女の腕の光は、千歌さんの腕から──バクフーンへと流れ込み、


 「バクフーーー!!!!!!!」


離れていても、ビリビリとほのおのエネルギーを感じるほどに、すさまじい熱気を放ち、


千歌「──“ダイナミックフルフレイム”!!」
 「バーーーーク、フーーーーーーンッ!!!!!!!!!!!!!!」

せつ菜「う……そ……」


見たこともないような、巨大な火球が──


 「ゲンガッ!!!?」「フゥ…!!!」「ドサイ…!!!」「ムドーッ!!!?」「ワォンッ!!!?」


私たちの手持ち5匹全てを呑み込み──直後、膨れ上がったほのおエネルギーが大爆発を起こした。


せつ菜「うぁっ……!!」


強烈な爆音と爆風が衝撃波となって、私に襲い掛かってくる。

立っていることもままならず、吹き飛ばされて地面を転がる。


せつ菜「……っ……」


轟音が洞窟内で何度も反響し、火山全体を大きく揺さぶる。

目の前で大噴火が起こったのかと錯覚するような、とてつもない熱量。

──やっと、余波が収まった頃に顔を上げて、どうにか身を起こす……。


せつ菜「…………」

千歌「はぁ……! はぁ……!」

せつ菜「………………」

千歌「ごめん、せつ菜ちゃん……!! 私、行くから……!!」



942 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:23:08.31A5BOh9Vw0 (7/29)


千歌さんは今度こそ踵を返して、洞窟から駆け出して行く。

彼女が去ったあとの洞窟内をぼんやりと見回すと、


 「ゲ、ン…」


ゲンガーが倒れていた。


 「ムドー…」


エアームドも力なく地に伏せ、


 「フ、ゥ…」


ほのおタイプが得意なはずのスターミーもコアを点滅させ、


 「ド、サイ…」


溶岩さえ耐える、硬い岩の皮膚を持つドサイドンも丸焦げにされ、


 「ワ、ォン…」


同じほのおタイプのはずのウインディも、力尽きて倒れていた。


せつ菜「……なに……いま、の……」


私は──思い上がっていた。

もう少しで手が届くと思っていたのは、ただの勘違いだった。

私のポケモンたちは──たった一撃で全滅してしまった。

千歌さんは、あんな技を隠していた、あんな特別な、技を……。


せつ菜「あ、……あはは、あははははははっ……」


笑いが込み上げてきた。

笑いと一緒に──涙も。


せつ菜「あはは、あははははははっ……千歌さんは、本気じゃなかったんだ……ずっと私なんか相手に、本気なんて出してなかったんだ……」


本当はいつでも一撃で終わらせられる技を持ってたんだ。そんな──『特別』を持っていたんだ。

私にはまだ──チャンピオンなんて遠かったんだ。

ただ、負けただけなら……いつもだったら、どうすれば勝てるかを考えていた。

だけど……今回は、そう思えなかった。そんな風に、考えられなかった。


せつ菜「なんで……っ……。なんで……その技なんですか……っ……。なんで……バクフーンなんですか……っ……」


ずっと、言わないようにしていた言葉が……勝手に溢れ出してきた。


せつ菜「なんで……選ばれた貴方が……選ばれた技で……選ばれたポケモンで……──選ばれなかった私から、全てを奪うんですか……っ!!」


もう言葉が止まらなかった。


せつ菜「私だって、選ばれたかった……っ!!! 博士からポケモン図鑑を貰って、最初のパートナーを貰って、旅に出たかった……!! 私だって、そうしたかった……そうありたかった……」


──結局。



943 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:23:58.79A5BOh9Vw0 (8/29)


せつ菜「結局……貴方は選ばれたから、なんですか……? 私は選ばれなかったから……勝てないんですか……? そんなの……そんなのって……っ……」


力無く項垂れる私の背後から──


 「──……そうよね、酷いわよね」


女性の声がした。

聞き覚えのある、声だった。


せつ菜「果林……さん……?」

果林「酷い……酷すぎるわ……」


そう言いながら、彼女は私のことを後ろから抱きすくめる。


果林「選ばれた人間が……選ばれなかった人間をめちゃくちゃにする。……どんなに頑張っても、結局選ばれた人たちだけが、笑って、貴方たちの努力あざ笑う」

せつ菜「…………」

果林「可哀想なせつ菜……。でも、大丈夫よ、せつ菜……」


果林さんは私の頭を優しく撫でながら、私の耳元で、


果林「──私が、選んであげるから」


そう、言葉にした。


せつ菜「え……?」

果林「貴方に……『特別』な力をあげる」


『特別』──その言葉は……今の私には、あまりにも甘美な響きだった。


果林「私と一緒に、来なさい……せつ菜。私が貴方を──『特別』にしてあげる」

せつ菜「…………はい」


今の私は、その甘い毒に、抗う術を持っていなかった──


………………
…………
……
🎙




944 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:37:02.97A5BOh9Vw0 (9/29)


■Chapter047 『激闘! ヒナギクジム!』 【SIDE Kasumi】





かすみ「さて、今日はついにヒナギクジムに挑戦の日です!」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「ふふ、そうだね」

かすみ「昨日は1日お休みした分、かすみん元気全開! 気合い入りまくってるんだから!」
 「ガゥ♪」

しずく「うんうん、頑張ろうね♪」


昨日の朝方、ヒナギクに到着したかすみんたちは、もちろん宿に直行しました。

あまりに疲れていたのもあって、起きたら夕方……そこからジム戦に行くのもタイミングが悪いということで、結局その日は休息日ということにしたわけです。

お陰でたくさん寝られましたし、お肌もつるつる、髪もつやつや、乙女の尊厳も守りながら、元気全開、パワー全開でジムに挑むことが出来ますよ!

さあ、早速ジムにレッツゴーです!





    👑    👑    👑





かすみ「…………」


──『現在ジムリーダーは留守です』

お決まりの留守札がかかっている、ジムのドアを見て、かすみん思わずしかめっ面になります。


しずく「あはは……なんか、なんとなくこうなるかなーって気はしてたんだけど……」

かすみ「はぁ……かすみん呪われてるんですかねぇ……」
 「ガゥ?」

しずく「い、いっそ、このまま全ジム制覇出来ちゃうかもしれないよ……?」

かすみ「そんなジム制覇したくないよぉ~……」


全部のジムで出鼻を挫かれるなんて嫌すぎます……。って言っても、結局後回しになっちゃったローズジムを含めたら、これで7個目ですからね……。

制覇も近い……。

ジムの前で項垂れるかすみんなんですが……そんなかすみんに向かって、


女の子1「あら……お前たち、ジム挑戦者かしら?」

女の子2「この時間……ジムリーダーは基本的にジムにいない……」


たまたま通りかかったっぽい、女の子たちが声を掛けてくる。

黒いゴスロリ服に身を包んだアッシュグレーの髪の女の子と、それとは対照的に白いゴスロリ服に長い黒髪を携えた女の子の二人組。

……この、いかにもな服装……オカルトマニアかな……?



945 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:37:55.36A5BOh9Vw0 (10/29)


かすみ「ジムリーダーはこの時間はいつも留守なんですか?」

女の子2「うん……この時間は基本留守」

しずく「どこかに出かけているんですか?」

女の子1「ええ……この時間はいつもグレイブガーデンにいるみたいよ」

かすみ「グレイブガーデン……?」

しずく「グレイブガーデンって……ヒナギクの北にある、墓地ですよね……?」

かすみ「え、墓地? お墓参りってこと……?」

女の子1「みたいね……毎日朝夕に欠かさず行っているみたいよ」

しずく「毎日……ですか」

かすみ「この町のジムリーダーは、随分マメな人なんですね……」

女の子2「ただ、誰のお墓参りなのかは誰も知らない。聞いても答えてくれないから」

女の子1「噂では、ここのジムリーダーは過去に“機関”に属していて、そのときに犠牲にしてしまった命への弔いだなんて言われているわ……」

しずく「き、“機関”……!? こ、ここのジムリーダーはまさか壮絶な過去を……」

かすみ「しず子~……こういうの本気で相手しない方がいいよ~……?」


オカルトマニアが言うことなんて大体適当なんだし……。


女の子1「まあ、信じる信じないはお前たちの勝手だけどね……行くわよ、咲良」

女の子2「うん……姉さん」


そう言い残して、二人は去って行ってしまった。


しずく「今の二人、姉妹だったんだね」

かすみ「この町……癖強い人が多いよねぇ……」


軽く周囲を見渡してみても、さっきの姉妹のようなゴスロリっぽい衣装の人や、魔女みたいな服装の人とか……今日は仮装パーティの日なのかと疑いたくなるような人たちがたくさんいる。


しずく「あはは……この町は南北を霊峰に挟まれてるからね……そっち系の人は多いらしいよ。……それで、どうする? ここでジムリーダーが帰ってくるの待つ?」

かすみ「うーん……」


かすみん少し悩みましたが、


かすみ「グレイブガーデンにいるって言うなら、行ってみよう。もしかしたら、また急用でジム戦出来ない~とか言われたら嫌だから、直接捕まえるべきです!」

しずく「捕まえるって……ポケモンじゃないんだから……」

かすみ「とにかく! グレイブガーデンへレッツゴー!」
 「ガゥガゥ♪」


かすみんたちは、町の北にあるグレイブガーデンを目指します。






946 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:38:58.98A5BOh9Vw0 (11/29)


    👑    👑    👑





──グレイブガーデンはジムからそこまで遠くなくて、すぐにたどり着きました。


かすみ「うわ……一面お墓だらけ……」
 「ガゥ」

しずく「墓地だからね。……あんまり変なことすると呪われちゃうかもよ~……?」

かすみ「ひぅっ!?」

しずく「ふふ、なーんて。冗談だよ。でも、お墓だから、いつもみたいにはしゃぎすぎないようにね?」

かすみ「お、脅かさないでよ! ま、まあ、別にかすみんそれくらいじゃ全く怖くないですけど~? ゾロアもいるし……」
 「ガゥ?」

しずく「もう……じゃあ、なんで私の後ろに隠れるの?」

かすみ「ほ、ほら……しず子の背中になんか憑かないようにと思って……!」

しずく「ふふ、そっか、ありがとね」

かすみ「ほら、前に進まないと!」
 「ガゥ」

しずく「はいはい、わかりました」


しず子を盾──じゃなかった……しず子の背中を守りながら、グレイブガーデンを進んでいきます。


かすみ「それにしても……ホントにすごい数だね……」

しずく「厳しい環境の町だからね……開拓前は多くの人が亡くなったって言うし……」

かすみ「そうなんだ……」

しずく「人だけじゃなくて、ポケモンもね……。あと、この共同墓地はヒナギクの人やポケモンだけじゃなくて、地方のいろんな町から、お墓を建てに来る人がいるみたいだよ」

かすみ「確かに、セキレイではお墓ってあんまりないよね……」

しずく「特にポケモンのお墓はね。オトノキ地方以外でも、カントーのポケモンタワー、ホウエンの送り火山、シンオウのロストタワー、イッシュのタワーオブヘブン、アローラのハウオリ霊園とか……ポケモンを弔う場所は共同墓地として置かれてることが多いかな……」


しず子の説明を聞きながら、グレイブガーデンを進んでいくと、


しずく「あ……」

かすみ「むぎゅっ!」


しず子が急に足を止めた。そのせいで、しず子の背中に顔を押し当ててしまう。


かすみ「き、急に止まらないでよ……」

しずく「かすみさん、あの人じゃないかな」

かすみ「え?」


言われて、しず子の影から覗いてみると──確かに、お墓の前で手を合わせている女の子がいた。

赤紫の髪をツインテールに結っている女の子だ。


しずく「ちょうどお墓参りしてるところみたいだね」

かすみ「さすがに終わるまで待った方がいいよね?」

しずく「そうだね」


さすがにお墓参り中に話しかけるなんて、非常識な真似はしません。

少し離れた位置で見守ることにする。



947 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:39:51.00A5BOh9Vw0 (12/29)


女の子「…………」

かすみ「……真剣に手を合わせてますね」

しずく「よほど大切な人なのかもね……」


だとしても、これを毎日しているというのは、大変な気がする。

すごく優しくて、真面目な人なのかもしれない。

しばらく待っていると、女の子は目を開けて、立ち上がる。


女の子「──ごめんなさい、待たせたみたいね」

かすみ「はぇ……?」

しずく「もしかして、私たちに気付かれてました……?」

女の子「なんとなく気配でわかった」

かすみ「そ、そうですか……」


こうして目の前に立つ女の子は、背こそ低いものの、眼光は鋭く、立ち居振る舞いって言うんでしょうか……なんだか毅然としていて……簡単に言うと、なんか強そうな感じがします。


女の子「こうしてここまで私に会いに来たってことは……ジム戦に来たのよね」

かすみ「は、はい……!」

理亞「私は理亞。ヒナギクジムのジムリーダーよ」

かすみ「よ、よろしくお願いします! わ、私はかすみって言います!」

しずく「私はしずくです」

理亞「よろしく。あと貴方も」


そう言いながら、理亞先輩はゾロアの頭を撫でる。


 「ガゥ♪」

理亞「わざわざ迎えに来てくれてありがとう。すぐにジム戦の準備するから、ジムに行きましょう」

かすみ「は、はい!」


理亞先輩を先頭に、来た道を戻っていく。


しずく「そういえば、かすみさん……珍しくまともに自己紹介してたね」

かすみ「な、なんというか……ふざけちゃいけない空気を感じたというか……いや別に、かすみんがかすみんなのは、ふざけてるわけじゃないけどね?」
 「ガゥ?」

しずく「普段も挨拶のときくらいは、それくらい空気を読めればいいのに……」

かすみ「む……まるで普段が空気読めてないみたいじゃん」


全く、失礼なしず子ですね……!

かすみんがぷんぷんしていると、


理亞「それにしても、良いタイミングだった」


理亞先輩が話しかけてくる。



948 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:40:35.56A5BOh9Vw0 (13/29)


かすみ「良いタイミング……ですか?」

理亞「実は明日からローズに行くためにジムを空けようと思ってたから」

しずく「ローズにですか?」

かすみ「今、ローズはバタバタしてますよ?」

理亞「知ってる。中央区でテロがあったって。……ただ、姉がローズの病院に入院してるから、様子を見に行こうかと思って」

しずく「そういうことでしたか……」

理亞「もちろん病院の方は問題ないってことは聞いてるけど……一度見に行った方がいいと思ったから」


ってことは、かすみん珍しく、間がよかったみたいですね……!

最初留守札を見たときはまたかって思っちゃいましたけど……やっぱり、こういうときに日頃の行いが出るんですよね~。


理亞「だから、もし挑戦に失敗しても、再戦は出来ないから」

かすみ「む……もちろん、かすみん1回で勝つつもりで来てますよ」

理亞「そ。でも、手加減するつもりとかないから」


なかなか自信家さんみたいですねぇ……でも、かすみんだって負けるつもりなんてありませんから!


かすみ「……そういえば、しず子」

しずく「ん、なに?」


かすみんは、理亞先輩に聞こえないように、こっそりしず子に耳打ちをします。


かすみ「理亞先輩って何タイプ使うの……?」

しずく「そこは私頼りなんだね……。えっと……理亞さんはこおりタイプのエキスパートだよ」

かすみ「こおりタイプ……」


ジュカインが苦手なタイプですね……。これはちょっと考えないといけないかも……。

作戦を練りながら、かすみんたちはヒナギクジムへ向かいます。





    👑    👑    👑





──ヒナギクジムに到着すると、理亞先輩は早速バトルスペースに赴きます。


かすみ「よろしくお願いします!」

理亞「ん、よろしく。使用ポケモンは4体。全員戦闘不能になったらその時点で決着だから」


めんどくさいやり取りは抜きで、お互いボールを構える。


理亞「これ……一応、戦う前に言うやつらしいから。ヒナギクジム・ジムリーダー『無垢なる氷結晶』 理亞。負けて、泣かないようにね」


両者のボールがフィールドに放たれて──バトル、開始です!!






949 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:41:21.25A5BOh9Vw0 (14/29)


    👑    👑    👑





理亞「行くよ、マニューラ」
 「マニュッ!!!」


理亞先輩の1匹目はマニューラ。対するかすみんは、


かすみ「さぁ、行きますよ! ジュカイン!」
 「カインッ!!!」

しずく「い、いきなりジュカイン!?」


驚きの声をあげるしず子。こおりタイプはジュカインにとっては苦手な相手です。

最後の1匹に残して、相性不利のまま戦うくらいなら、最初に全力で戦ってもらって、数を削る方が得策と考えました。


理亞「へぇ……こおりタイプのジムでくさタイプ先発……いい度胸してる」

かすみ「相性が悪くても、当たらなければ問題ありません! かすみんのジュカインは速いですよ!」
 「カインッ!!」

理亞「そ。でも──もう、当たりそうだけど」

かすみ「え……!?」


気付いたときには、フィールド上からマニューラの姿が掻き消えていた。

フィールド全体を見渡しても、マニューラの姿はどこにも見えない。

そんな中──突然かすみんの頭上に影が差した。


かすみ「!? 上!?」

理亞「“つららおとし”!!」

 「マニュッ!!!!」


ジュカインの真上に跳躍したマニューラは冷気を放ち、それを塊にして降らせてくる。


かすみ「“リーフブレード”!!」
 「カインッ!!!!」


でも、動き出しで負けても、ジュカインがスピード自慢なのには変わりありません!

落ちてくるつららを1本ずつ正確に切り落としていく。


かすみ「これなら、捌ききれ──」

理亞「──ると思う?」


大量のつららに紛れて──


 「マニュッ!!!!」

かすみ「!?」


マニューラが爪を構えながら、降ってくる。


理亞「“きりさく”!!」

 「マニュッ!!!!」

 「カインッ…!!!」



950 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:42:06.37A5BOh9Vw0 (15/29)


マニューラは鋭い爪で、ジュカインの胸部を切り裂きながら、床に着地する。


かすみ「着地隙逃がしちゃだめ!! “アイアンテール”!!」
 「カァ、インッ!!!!」


ジュカインは床を踏みしめながら、体を捻って前方に着地したマニューラに向かって大きな尻尾を振るう。

でも、


理亞「遅すぎ」

 「マニュッ!!!」


マニューラはすぐにジャンプをして、尻尾を回避し、さらに、


理亞「“トリプルアクセル”!!」

 「マニュ、マニュ、マニュッ!!!!!」


跳ねながら回転し、3連続キックを繰り出してくる。


 「カインッ!!!?」


身を捻って向けた背に、氷の蹴撃を食らって、ジュカインがうつ伏せに倒れる。


かすみ「ジュカイン!?」

理亞「トドメ……! “れいとうパンチ”!!」

 「マニュッ!!!!」


倒れたジュカインの背に向かって、“れいとうパンチ”が迫る。


かすみ「わ、“ワイドブレイカー”!!」
 「…!!! カインッ!!!!」

 「マニュッ!!!?」


咄嗟に尻尾を大きく振るって、マニューラを迎撃する。


理亞「ちっ……仕留めそこなった」

 「マニュッ…!!!」


“ワイドブレイカー”が当たりこそしたものの、こちらも体勢が悪い状態での攻撃だったため、大きなダメージにはなっていない。

マニューラは軽い身のこなしでフィールドに着地しながら、


理亞「“つるぎのまい”」
 「マニュッマニュッ!!!!」


“ワイドブレイカー”で下げられた攻撃を元に戻している。

ジュカインもすぐさま、全身のバネを使って起き上がり、迎撃態勢を取るけど──完全に劣勢だ。


かすみ「せめて、一瞬でも隙が作れれば……」


かすみんはチラりとジムの天窓を見る。

寒い寒いヒナギクシティだけど、日中になればちゃんと日が照ってくれる。

“ソーラーブレード”さえ叩き込めれば勝機はあるんだけど……。


かすみ「……あ」



951 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:43:38.75A5BOh9Vw0 (16/29)


……かすみん、良いこと考えついちゃいました。

ソーラーの使い道は“ソーラーブレード”だけじゃありません……!


理亞「マニューラ、“こうそくいどう”」
 「マニュッ!!!」


またマニューラの姿が掻き消える。

確かにめちゃくちゃ速いです。全然目で追えない。

……でも、


かすみ「目で追えなくても、目で追われてればいいんです!」

理亞「……は?」


理亞先輩がかすみんの言葉に怪訝な顔をした瞬間、


 「マニュッ!!!!」


マニューラがジュカインの頭上後方から飛び掛かってくる。

完全な死角からの高速奇襲。絶対回避不可能な位置関係だけど──


かすみ「“フラッシュ”!!」
 「カインッ!!!!」


ジュカインは自身に溜まっている太陽のエネルギーを光にして、一気に放出する。


 「マ、マニュッ!!!?」

理亞「な……!?」


至近距離での強烈な閃光を受け、驚いたマニューラはそのまま、地面に落っこちる。

ジュカインは、目を潰されて隙だらけになったマニューラの頭上に尻尾を振り上げる。


かすみ「“アイアンテール”!!」
 「カインッ!!!!」

 「マニュッ!!!!?」


今度こそ、“アイアンテール”を頭上から直撃させた。


 「マ、マニュ…」


鋼鉄の尻尾を叩きつけられたマニューラはあえなく戦闘不能。


理亞「……戻れ、マニューラ」

かすみ「よし!! まず一勝です!!」

理亞「マニューラは素早い代わりに、防御が弱い……やられた」

かすみ「さぁ、この調子で行きますよ! 早く次のポケモンを出してください!」

理亞「それはそっちもね」

かすみ「……え?」


直後──


 「カインッ…」



952 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:44:20.26A5BOh9Vw0 (17/29)


ジュカインが崩れ落ちた。


かすみ「え、ええ!? ジュカイン!? どうしちゃったの!?」

理亞「熱くなりすぎて、気温の変化に気付いてないんじゃない?」

かすみ「へ……?」


言われてみれば……。


かすみ「な、なんか……さ、寒い……?」

しずく「……! まさか、“こごえるかぜ”……?」

かすみ「え?」

理亞「マニューラは場に出たときから、ずっと“こごえるかぜ”で少しずつフィールドの気温を下げながら戦ってた。ジュカインは寒さに弱いから、それでじわじわ体力が削られてたことに気付いてなかったみたいね」

かすみ「う、うそぉ……」


せっかく、大逆転したと思ったのに……。


理亞「さ……仕切り直し」

かすみ「くぅ……戻って、ジュカイン」


ジュカインをボールに戻す。

さすがに6人目のジムリーダーともなると、一筋縄ではいかなさそうです……!


かすみ「行くよ、ヤブクロン!」
 「──ヤブゥッ!!!」

理亞「バイバニラ、よろしく」
 「──バニーラ♪」「──バニーラ♪」


理亞先輩の2匹目のポケモンが現れると同時に──ジム内に“ゆき”が舞い始める。


かすみ「わ!? なんか、“ゆき”が降ってきた!?」

しずく「かすみさん! 特性“ゆきふらし”だよ!」

かすみ「ゆ、“ゆきふらし”……」


かすみん、確認のために図鑑を開きます。

 『バイバニラ ブリザードポケモン 高さ:1.3m 重さ:57.5kg
  体温は マイナス6度 前後。 水を 大量に 飲み込んで
  体内で 雪雲を 作る。 2つの頭 それぞれに 脳があり
  両者の 意見が 一致すると 猛吹雪を 吐いて 敵を 襲う。』


かすみ「めっちゃ冷たいポケモンだってことはわかりました……。もたもたしてると氷漬けですね……! なら、さっさと倒しちゃいましょう! “ヘドロばくだん”!!」
 「ヤーーーーブッ!!!!!」


ヤブクロンがヘドロの塊を球状にして発射する。

相手のバイバニラはさっきのマニューラとは打って変わって、動きが速い感じはしない。

避ける素振りも見せず、攻撃が直撃するかと思った瞬間──パキンと音を立てて、“ヘドロばくだん”が凍り付いた。


かすみ「んなっ!?」

理亞「“フリーズドライ”で凍らせた」


“ヘドロばくだん”は炸裂することなく、空中で急激に冷やされたあと、バキリと真っ二つに割れ、バイバニラに当たることなく落ちてしまった。



953 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:48:29.72A5BOh9Vw0 (18/29)


理亞「“ふぶき”!」
 「バーニラ♪」「バニーラ♪」

かすみ「んぎゃーー!! さ、寒いぃぃぃ!!」
 「ヤ、ヤブゥゥ…!!!」

かすみ「ヤブクロン、“ドわすれ”……!」
 「ヤブゥ……」


寒さを忘れて凌ぎ切ります。

さ、先にかすみんがダメになりそうですけど……が、頑張る!


理亞「ボーっとしてていいの? “れいとうビーム”」
 「バニーラ♪」「バニーラ♪」


それぞれの頭から“れいとうビーム”が発射され──ボーっとしているヤブクロンに直撃する。


 「ヤブ──」


直撃したビームは一瞬でヤブクロンを氷漬けにしてしまう。


理亞「寒さを忘れて防ぐことが出来るんだとしても……凍らせれば関係ない」

かすみ「ぐぬぬ……」


確かにそのとおりです。あれはあくまで寒さを忘れるだけで、物理的に凍らされることを防ぐことは出来ません。

ただ、凍った状態を脱する方法も考えています……!

──ジュゥ……。


理亞「……? なんの音……?」


──ジュー……ジュゥゥゥゥ……。

何かが焼けるような音が響く。


理亞「……ヤブクロンの方……? まさか……」

かすみ「ふふん、凍らされても溶かせばいいんです! “アシッドボム”!」
 「──ヤブクゥ…」


寒さは“ドわすれ”で防いで、凍らされても落ち着いて“アシッドボム”で溶かす!

完璧です!

あとはゆっくり“どくガス”なりなんなり、体力を削る手段で──


理亞「“ぜったいれいど”」
 「バニーラ♪」「バニーラ♪」


──パキリ……と音を立てながら、ヤブクロンが氷漬けになった。


かすみ「んなぁ!?」

理亞「“ぜったいれいど”は命中率が低い技だけど、動かない相手にはさすがに当たる」

かすみ「やややや、ヤブクロン!! “アシッドボム”で溶かしてぇ!?」

理亞「無理。“ぜったいれいど”は一撃必殺。“アシッドボム”すら使えないくらいに、完全に氷漬けになって気絶してるから」

かすみ「ぅ、ぅぅぅぅぅぅ!! 戻って、ヤブクロン!!」


かすみん、ヤブクロンをボールに戻します。

あっけなく2匹目が戦闘不能に……。



954 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:49:02.61A5BOh9Vw0 (19/29)


かすみ「サニーゴ!! 行きますよ!!」
 「……サ」

かすみ「“パワージェム”!!」
 「…………ニ」


輝くいわタイプのエネルギーが発射される。


理亞「“ラスターカノン”!!」
 「バニーラ♪」「バニーラ♪」


対するバイバニラは、“ラスターカノン”で“パワージェム”を迎撃してくる。

ただ、バイバニラはさっきから避けようとしない。

マニューラと違って、スピードにはそんなに自信がないことがわかる。


かすみ「なら、これならどうですか!! “ナイトヘッド”!!」
 「……ゴ」


サニーゴの目が怪しく光ると──


 「バ、バニーラ…」


バイバニラの片側が苦しみ始める。

“ナイトヘッド”は直接攻撃を飛ばしたりする技と違って、相手に恐ろしい幻を見せて攻撃する技。

これなら相殺は出来ませんし、さらに──


 「バ、バニーラ…」「バ、バニバニ」


バイバニラは図鑑の説明通りなら、お互いの意見が一致しないと技がうまく出せなくなるはずです……!


かすみ「最初からこうすればよかったですね……バイバニラ攻略です!」


と、思った瞬間、


理亞「“ボディパージ”!!」
 「バ、ニーーーラッ!!!!!」


バイバニラは──“ナイトヘッド”受けている片側の頭を、サニーゴに向かって発射してきた。


かすみ「うそぉ!?」


飛んできたバイバニラの頭は──ボスッ! と音を立てながらサニーゴに直撃し、サニーゴの体がバイバニラの頭に埋まってしまう。


かすみ「ちょ、何やってるんですか!?」

理亞「バイバニラの脳は完全に独立してる。片方が溶けても、問題なく生きられるし、溶けてもそのうち戻る」

かすみ「それ逆にどうなってんですか!?」

理亞「ついでに“ボディパージ”をしたら、速くなるから」
 「バニーーーラ!!!!」


素早い動きで、飛んできたバイバニラは──さっき飛ばしたもう半分の頭に合体し、元の形になる。

即ち──サニーゴを完全に体内に取り込んだ形になる。



955 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:49:34.82A5BOh9Vw0 (20/29)


かすみ「ちょっとぉ!?」

理亞「バイバニラの体温はマイナス6度……あとは氷漬けになって、戦闘不能になるのを待つだけ」

かすみ「そ、そんなぁ……」

理亞「これで3体目……もうサニーゴにこの状態を脱する手段がない。今のうちに、4匹目の準備をしておいたら?」

かすみ「…………」


こおりタイプによる場の支配力が強すぎます……。……強すぎますけど……。


 「──バ…!!?」「──ニーラ…!!!?」


急にバイバニラが奇声をあげた。


理亞「な……!? なに……!?」

かすみ「確かに、氷漬け……怖いですけど……──“こおり”を溶かす技もあるんですよ!!」

理亞「……!?」


むしろ、動きがノロノロなサニーゴでどうやって、接近するかを考えていた。

相手から、自分の体内に取り込んでくれるなら、むしろ好都合です!!


かすみ「“ねっとう”!!」
 「ニー……ーゴ」

 「バ、バニィィィィ…」「ィィィィィラ…」


内側から高温のお湯で溶かされたバイバニラは、ドロドロに溶けて、その場にべしゃりと音を立てて、落っこちた。これはさすがに戦闘不能でしょう。


かすみ「ふふん♪ 3匹目の準備をしてください?」

理亞「……戻れ、バイバニラ」


理亞先輩が戦闘不能になったバイバニラをボールに戻す。


理亞「モスノウ、出てきて」
 「──スノォ…」


次に出てきたポケモンは、モスノウ。


しずく「かすみさん! モスノウはユキハミの進化系だよ!」

かすみ「ユキハミ……ヨハネ博士の研究所に居たやつだよね……」


 『モスノウ こおりがポケモン 高さ:1.3m 重さ:42.0kg
  はねの 温度は マイナス180度。 冷気を 込めた りんぷんを
  雪の ように ふりまき 野山を 飛ぶ。 野山を 荒らすものには
  容赦せず 冷たいはねで 飛びまわり 吹雪を 起こし 懲らしめる。』


かすみ「マイナス180度!?」

理亞「“ふぶき”!」
 「スノォ…」


モスノウが“こおりのりんぷん”をまき散らしながら、“ふぶき”を発生させる。


かすみ「さ、さっむ……!!」
 「サ……」


冷たいのはあくまで翅の温度で、“ふぶき”自体がマイナス180度あるわけじゃないだろうけど──それでもあの冷たい翅から繰り出される“ふぶき”は猛烈に寒い。

しかも、バイバニラが降らせた“ゆき”もフィールド全体を覆いつくすのに一役買っている。



956 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:50:08.49A5BOh9Vw0 (21/29)


かすみ「こ、このままじゃ、サニーゴが凍っちゃう……! “ねっとう”!」
 「ニ、ゴー……」


口から“ねっとう”を吐き出し、自分の身体が氷漬けになるのだけは防いでいるけど──“ねっとう”はサニーゴから少し離れたら、すぐに凍って落ちてしまって全然前に飛んでいかない。


理亞「それじゃ攻撃、届かないけど?」

かすみ「ぐぬぬ……で、でもでも、防御は出来てますもんね!!」


あの冷たい翅で直接触られない限り、いくら“ふぶき”をされても“ねっとう”で氷を溶かし続ければ、簡単にはやられません!

今のうちにどうにか、反撃の一手を──


理亞「なら……“まとわりつく”」
 「スノォ…」


モスノウがゆったりとした動きで、こちらに羽ばたいてくる。


かすみ「ぎゃー!? こっち来ないでくださいー!? “パワージェム”!!」
 「サ……」


またしても、いわエネルギーの光を集束させて発射する。


理亞「……! “オーロラビーム”!」
 「モスノォー」

かすみ「おろ……?」


サニーゴが“パワージェム”を発射すると、モスノウは近付くのを中断して、“オーロラビーム”で迎撃を始めた。


かすみ「もしかして……“パワージェム”には当たりたくない感じですか?」

しずく「──かすみさん! モスノウはこおり・むしタイプだから、いわタイプにはかなり弱いはずだよ!」

かすみ「なるほど……! そういうことなら、連打連打です! “パワージェム”!!」
 「サ、コ……」


──サニーゴから発せられた輝きが、モスノウに襲い掛かります。


理亞「“オーロラベール”」
 「スノォ」


が、モスノウに当たった輝きはオーロラの輝きにかき消されて霧散してしまった。


かすみ「わ、わあぁぁぁぁ!? かき消すなんてずるいですぅ~!!」
 「サ、コ……」

理亞「ずるくない」

かすみ「こ、こっちこないでー!? “パワージェム”!! “パワージェム”!!」


どうにか追っ払おうと、“パワージェム”を連打するけど──全部“オーロラベール”にかき消されてしまう。

ゆったりサニーゴの眼前に迫ったモスノウは、


理亞「“まとわりつく”」

 「スノォ……」


今度こそ、マイナス180度の翅で、サニーゴを包み込む。


かすみ「さ、サニーゴ!!」
 「サ……」



957 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:50:41.44A5BOh9Vw0 (22/29)


翅で触れられると、サニーゴの体がみるみるうちに凍り始める。


かすみ「ね、“ねっとう”!!」
 「サ……」


咄嗟に、モスノウに向かって“ねっとう”を噴射する。

ただ、モスノウの翅の冷たさは常軌を逸していて、“ねっとう”すらも一瞬で凍りつかせていく。


かすみ「が、頑張って、サニーゴ!!」
 「サ、コー……」


かすみんが声を掛けると──サニーゴの噴射の勢いが少しだけ強まり、凍った“ねっとう”がどうにかモスノウを押し返す。


かすみ「よ、よし! 今のうちに逃げ──」

理亞「られるわけないでしょ」

 「スノォ……」


でも、当然と言わんばかりにまたモスノウが“まとわりつく”。


かすみ「うぅ、“ねっとう”!!」
 「サ……」


噴き出す“ねっとう”──もとい氷の塊で押し返しては、またまとわりつかれて、凍りそうになり、それをまた“ねっとう”で溶かして押し返し……だ、ダメです……! このままじゃ、ジリ貧です……!


かすみ「ど、どうにか……どうにかしないと……」


でも、“ねっとう”すら一瞬で凍り付かせる冷気に対抗する術が……。


かすみ「……! そうだ、氷だ!!」


かすみん、やっと反撃の一手をひらめきました……!


かすみ「サニーゴ、“あまごい”!!」
 「サ……」

理亞「“あまごい”……?」


理亞先輩が怪訝な顔をする。

“ゆき”を降らせていた雪雲が── 一気に雨雲にとってかわり、大粒の雨を降らせ始める。

大粒の雨が降ったところで、モスノウの冷気が全てを凍らせてしまうけど──それでいい……!!


理亞「悪あがき……モスノウ、トドメを」


理亞先輩が、サニーゴにトドメを刺そうとした、そのとき──


 「ス、スノゥ…!?」


モスノウが突然、地面に叩き落とされた。


理亞「な……!?」

かすみ「ふっふっふ……この“あまごい”は──攻撃技です!!」


そう、これは攻撃です……!!


理亞「!? まさか……!? 凍った雨粒が、翅に刺さってる……!?」



958 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:51:28.05A5BOh9Vw0 (23/29)


そのとおりです! 大粒の雨は降ったそばから、凍り付いて──大粒の雹に変わるんです!!

翅や体の軟らかいモスノウは、上空から叩きつけてくる大量の雹に耐えられず、落っこちる!

そして、


 「サ……コ」


硬い体のサニーゴなら、問題なく耐えられる……!!


理亞「天候を“ゆき”に戻して……!」

 「ス、スノォ……」


理亞先輩はすぐさま、“あまごい”を再び“ゆきげしき”で上書きして、態勢を立て直そうとするけど──もう遅いです!


かすみ「サニーゴ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「サ、コー……」


サニーゴの口から、強烈な水流が発射され、それは冷気によって一瞬で凍り付き──


 「スノォ……」


急激に成長する氷の柱が、真正面から、モスノウをぶっ飛ばしました。


理亞「モスノウ……!」
 「ス、スノォ……」


大きな氷の塊を叩きつけられたモスノウは、吹っ飛ばされた先で転がって、ついに戦闘不能になったのでした。


かすみ「さぁ、これで形成逆転ですよ!!」


かすみんの残りは2匹、理亞先輩は残り1匹です!

この勝負、貰いましたよ……!!

と、思った瞬間──ゴトっと何か重いものが落ちるような音がする。


かすみ「へ?」


何かと思って、音のした方に目を向けると──


 「サ……」


サニーゴが──でかい氷柱を口元にくっつけたまま、地面に落下していた。


かすみ「ってぇ!? サニーゴと氷がくっついてる!?」

理亞「この氷点下で“ハイドロポンプ”を使ったら、普通そうなるでしょ。オニゴーリ」
 「──ゴォーーリ!!!!」


理亞先輩が、最後のポケモン──オニゴーリを繰り出す。


かすみ「わーーー!! ちょっとタンマ!! タンマです!!」

理亞「待たない。“フリーズドライ”」
 「ゴォーーリ!!!!」


氷柱の重さで動けないサニーゴは、波状に飛んでくる冷気の直撃を受け。


 「────」



959 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:52:10.71A5BOh9Vw0 (24/29)


完全に氷漬けになって、戦闘不能になってしまった。


かすみ「あぁーー!? サニーゴーー!?」

理亞「意表を突くのもいいけど……その後まで考えてやった方がいいんじゃない?」

かすみ「ぐ、ぐぬぬ……返す言葉がない……」


サニーゴをボールに戻しながら、相手を確認する。

 『オニゴーリ がんめんポケモン 高さ:1.5m 重さ:256.5kg
  氷を 自在に 扱う 力を 持ち 岩の 体を 氷の よろいで
  かためている。 空気中の 水分を 一瞬で 凍らせる 力で
  獲物を 冷凍し 動けなくなったところを バリバリと 頂くのだ。』


かすみ「またおっかないポケモンですね……」


そんなオニゴーリに対抗する最後のポケモンは──


かすみ「行くよ! テブリム!」
 「──テブリッ!!!」


手に入れたばっかの新顔、テブリムです!


理亞「まさか、ここまで追い詰められると思ってなかった……。オニゴーリ、メガシンカ!」


そう言いながら、理亞先輩の腕にあるブレスレットが眩く光り──


 「ゴォォォォーーーーリ!!!!!!!!!」


雄叫びと共に、メガオニゴーリへと姿を変える。

大きく開いた口から、冷気が溢れ出し、周囲を凍結させる。

距離は十分にあるはずなのに、刺さるような冷気が伝わってくる。


理亞「オニゴーリ、“ふぶき”!」
 「ゴォォォォーーーーリッ!!!!!!!!」


大きく開いた口から、強烈な冷気が“ふぶき”となって襲い掛かってくる。

フィールド全体を巻き込むような、強烈な寒波。だけど、


かすみ「“サイコキネシス”!!」
 「テブッ!!!」


テブリムは自分の周囲に球状のサイコパワーを展開し、メガオニゴーリの“ふぶき”から逃れる。

この子は巣でもこうやって、霧を払っていたんです!

それが霧から冷気に変わっただけ!


理亞「へぇ……これ、防げるんだ」

かすみ「当然です! さらに、こんなことも出来ちゃいますよ!」
 「テブ!!」


テブリムが前方に手をかざすと──紫色の炎がぽぽぽぽっと発生する。


かすみ「“マジカルフレイム”!!」
 「テーブゥッ!!!!」


その炎を一気に発射する。



960 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:52:51.62A5BOh9Vw0 (25/29)


理亞「“こごえるかぜ”!!」
 「ゴォォーーーリッ!!!!」

かすみ「か、かき消された!? 炎なのに!?」

理亞「炎だから、温度が低すぎれば消える」

かすみ「なら、“サイコショック”!」
 「テブッ!!!」


今度はオニゴーリの周囲に、サイコパワーで生成したキューブが現れ──それが一気にオニゴーリに襲い掛かる。


 「ゴォォーーリ…!!!!」

かすみ「そのでかい図体じゃ避けられませんよね!」


今度は問題なく技が直撃する。相手の氷の鎧が硬いのか、致命傷にこそなっていませんが、


かすみ「このまま、攻め攻めで行きますよ!」
 「テブッ!!!」


テブリムのサイコパワーなら攻防同時に展開できる!

これなら一方的に、有利が取れると思った矢先、


理亞「遠距離からちまちまやられるのは面倒……! オニゴーリ、“ころがる”!!」
 「ゴォーーーリッ!!!」


メガオニゴーリはゴロゴロと転がりながら、こっちに迫ってくるじゃないですか……!


かすみ「ちょ、動けるの!?」

理亞「動けないなんて言ってない」

かすみ「テブリム!」
 「テブッ!!!」


テブリムは髪の毛の房を使って──跳ねる。


かすみ「かすみんのテブリムはジャンプも得意なんですよ!! 転がってたら、空中には手を出せませんよね!!」
 「テブッ!!」


さぁ、上から攻撃して、今度こそ──テブリムが攻撃を構えた、そのときだった。

突如前方に、大きな柱のようなものが現れ──それがテブリムに向かって勢いよく振り下ろされた。


 「テブッ!!!?」
かすみ「テブリム!? な、なに!?」


テブリムはそれに押しつぶされるような形でフィールドに叩きつけられる。

その柱の根本を辿ると──


 「ゴォォォーーーリ…」


それは、メガオニゴーリの体から伸びているものだった。


理亞「オニゴーリは空間内の水分を自在に凍らせられる。相手がどこにいようが、関係ない」

 「ゴォォォーーリ!!!!」


そして、テブリムを押しつぶした氷の柱を一旦持ち上げてから──



961 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:53:31.06A5BOh9Vw0 (26/29)


 「ゴォォォーーーリッ!!!!」

理亞「これで終わり……!」


再度、テブリムに向かって、勢いよく振り下ろしてきた。

──ガシャァンッ!! とド派手な音がジム内に響き渡り、衝撃で雪や氷の欠片が舞い上がって、フィールド内を真っ白な煙が包み込む。


かすみ「…………」

理亞「……これで──」

かすみ「……終わりじゃありません!」

理亞「……!?」


煙の中で──


 「テブッ!!!」


テブリムは立っていた。


理亞「な……!?」


目を見開く理亞先輩。そりゃ、無理もありません。

だって──先ほどテブリムに向かって振り下ろされた氷柱は、中央辺りでボッキリ折れていたんですから!


理亞「ど、どうやって!?」

かすみ「殴って折りました!!」
 「テブッ!!!」

理亞「はぁ!?」


テブリムのサイコパワーは確かに強力ですけど──やっぱり、一番の自慢はあのパンチ力です!!

テブリムは腕を組み、頭の房でのっしのっしと歩を進めながら──


 「テブッ!!!!」


メガオニゴーリから伸びている、砕けた氷柱を、真正面から殴りつける。

──ゴッ!! と鈍い音と共に、氷柱がバキバキと音を立てながらひび割れ、その衝撃は氷柱の根本にいたメガオニゴーリ本体まで吹っ飛ばす。


 「ゴ、ゴォォォーーリ…!!!!」

理亞「お、オニゴーリ!?」


さらに追撃と言わんばかりに、


 「テブッ!!!!!」


折れて転がっていた、氷柱の片割れをメガオニゴーリに向かって、殴り飛ばす。


理亞「う、受け止めろ!!」
 「ゴォォーーリッ!!!」


メガオニゴーリは咄嗟に氷の盾を作り出して、キャッチしますが、


 「テーーーブッ!!!!!」



962 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:54:18.12A5BOh9Vw0 (27/29)


テブリムはその氷の盾に向かって、間髪入れずに飛び掛かり──拳を叩きつける。

──ビキッ!! 1撃目で強烈な拳でヒビが入る。

──バキッ!! 2撃目でさらにヒビが広がり、

──バギンッ!! 3撃目で氷の盾を粉々に粉砕した。


理亞「嘘……!?」

 「テブッ!!!」

かすみ「テブリム!!! いっけーー!!!」


砕け散る氷が舞う中、メガオニゴーリの脳天目掛けて──テブリムが両拳を合わせて、叩きつけた。


 「ゴォォォーーーリ…!!!!」


至近距離から、脳天に向かって振り下ろされた拳は、メガオニゴーリの全身の氷の鎧にヒビを入れるほどの威力で、


 「ゴ、ォォォ…リ…」


その破壊力に耐えられず、メガオニゴーリは目を回して、戦闘不能になったのでした。


 「テブッ!!!!」

かすみ「やったー!! テブリムー!!」


かすみん、思わずテブリムに駆け寄っちゃいます。

そして、ハグ──しようと思ったら。


 「テブッ!!!」


テブリムはぴょんと跳ねて、かすみんの頭に飛び乗ってきました。


かすみ「わっとと……!!」
 「テブッ!!!」


そして、いつものように腕を組んで鼻を鳴らす。


かすみ「あ、相変わらずかすみんは子分扱いなんだね……」
 「テブッ」


まあ、いいんだけど……ちょっと複雑です。

そんな私たちのもとへ、


理亞「まさか……最後にパワー負けすると思わなかった」


理亞先輩が近づいてくる。


かすみ「ふふんっ! かすみん自慢のテブリムですからね!」
 「テブテブッ!!!」

理亞「負けたのは悔しいけど、貴方の強さは認めざるを得ない。これ……“スノウバッジ”」


そう言って、理亞先輩は雪の結晶を模したジムバッジを手渡してくる。


かすみ「はい! ありがとうございます! やったね、テブリム!」
 「テブテブッ!!」



963 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:55:27.53A5BOh9Vw0 (28/29)


こうして、かすみんたちは、理亞先輩との激戦を制し──無事に6個目のジムバッジを手に入れたのでした!

にしし……これは侑先輩たちより早くジム攻略しちゃったかもしれませんね~? これは、ローズでの結果報告が楽しみですね~♪





    👑    👑    👑





理亞「それじゃ、私はグレイブガーデンに行くから」

かすみ「はい! ジム戦ありがとうございました!」


ペコっと頭を下げると、理亞先輩はひらひらと手を振りながら、グレイブガーデンの方へと消えていった。


かすみ「ホントに朝夕欠かさず、お墓参りしてるんですね……」

しずく「みたいだね」


というわけで、気付けば夕方です。


かすみ「そういえば……しず子、グレイブマウンテンに行きたいって言ってたよね? クマシュンだっけ? そのポケモンに会いたいって」

しずく「あ、うん。……でも、今から山に入るのはちょっと難しいだろうから……グレイブマウンテンは明日かな。それよりも、ちょっと町を観光しない?」

かすみ「言われてみれば、あんまり観光出来てなかったね……。よーし! じゃあ今日は夜までヒナギクシティを巡ろ~!」

しずく「うん♪」


夕日に照らされるヒナギクの町で、かすみんたちはのんびり一息つくことにしました♪

明日はしず子のために山登りですから! 今のうちに英気を養いますよ~♪

おいしいモノとかあればいいな~♪

るんるん気分で、町へと繰り出す、かすみんなのでした!






964 ◆tdNJrUZxQg2022/12/14(水) 12:56:28.02A5BOh9Vw0 (29/29)


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ヒナギクシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  ●____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.51 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.47 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.44 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.45 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.44 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      テブリム♀ Lv.44 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:183匹 捕まえた数:9匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.38 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリヤード♂ Lv.35 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.38 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.38 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.38 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:191匹 捕まえた数:12匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.






965 ◆tdNJrUZxQg2022/12/15(木) 02:49:24.30J+r4F7N00 (1/2)


 ■Intermission🍊





──結局、天睛の火道から飛び出して、叡智のゴミ捨て場にたどり着いた時には、すでにウルトラビーストの反応は消えていた。

穂乃果さんも同様だったらしく、フソウに到着すると同時にパタリと反応が消えてしまったそうだ。

そして、私は……あの後すぐに、天睛の火道に戻ってきたんだけど……。

そこに、せつ菜ちゃんの姿はもうなかった。


千歌「せつ菜ちゃん……様子がおかしかったよね……」


それはわかっていたんだけど……私もウルトラビーストのもとへ急行しなくちゃいけなかったし、完全にテンパってしまっていた。

意識して、使わないようにしていたZ技まで使っちゃったし……。


千歌「せつ菜ちゃんに悪いことしちゃったな……」


結果として、私がダリアの方に行く意味はなかったわけだし……。

まあ、どちらにしろ放っておくわけにはいかなかったけど……。


千歌「今度会ったら、ちゃんと謝らなくちゃ……! そんでもって、せつ菜ちゃんが満足出来るまで、バトルに付き合ってあげよう!」


私はそう心に決めて──天睛の火道を後にし、もう一つの目的地に飛ぶことにした。





    🍊    🍊    🍊





──ローズシティ、ローズジム。


真姫「はい、ルガルガン」

千歌「ありがとうございます、真姫さん」


私はローズシティの真姫さんのもとへ訪れていた。

理由はもちろん、ルガルガンを手持ちに戻すためだ。


真姫「ルガルガン、どこも異常なく健康だったわ」

千歌「はい、ありがとうございます!」


心身共に問題もないそうで、これで抜けたルカリオの穴も埋まったし、一安心。


真姫「そうだ、千歌……」

千歌「なんですか?」

真姫「最近、せつ菜に会ったりした……?」

千歌「え!?」


ちょっとタイムリーな名前が出てきて、思わず驚きの声をあげてしまう。



966 ◆tdNJrUZxQg2022/12/15(木) 02:49:57.43J+r4F7N00 (2/2)


真姫「……会ったの?」

千歌「え、えっと……まあ……その……バトルを申し込まれたんですけど……急用で中断することになっちゃって……」

真姫「……そう」

千歌「でもでも、今度会ったらせつ菜ちゃんの気が済むまでバトルするつもりなんで!」

真姫「そう……。……そうしてあげてくれると嬉しいわ」

千歌「はい! ……っと、もうこんな時間……早く帰らないと……」


彼方さんが今日は何かと振り回されて、疲れただろうからって、ご馳走を振舞ってくれると言っていたし、みんな待っているはずだ。


千歌「それじゃ、真姫さん! ありがとうございました!」

真姫「ええ。気を付けて帰りなさいね」

千歌「はーい!」


私は元気よく返事して──ムクホークに乗り、コメコの森を目指すのでした。


………………
…………
……
🍊




967 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 01:27:23.32eLOLjL7n0 (1/34)


■Chapter048 『決戦! クロユリジム!』 【SIDE Yu】





侑「歩夢! リナちゃん! 見えてきたよ!」
 「イブィ♪」

歩夢「うん!」

リナ『やっと到着だね!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「うん! クロユリシティ!」
 「ブイブイ♪」

歩夢「結局ローズから、ここまで来るのに2日も掛かっちゃったね……」

侑「ちょっとクリスタルレイクでのんびりしすぎたからね……あはは」


──クリスタルケイヴで夜の虹を見たあと、私たちは洞窟で話していたとおり、再びクリスタルレイクまで登り、湖面の夜空を鑑賞。

ついでに朝日に照らされて輝くクリスタルレイクの時間まで起きて、クリスタルレイク三景をしっかり見た。

……そんな夜更かしをした結果、その日私たちが起き出したのは、昼下がり頃……。

もともと、クリスタルレイクからクロユリシティに行くのにも、16番道路と18番道路の2つの道路を経由しなくちゃいけないこともあって、どうやってもその日のうちにクロユリに到着するのは無理だった。

そんなこんなで、私たちはローズを発ってから、次の町にたどり着くまで2日間掛かってしまったというわけだ。


歩夢「でも、クリスタルレイク……すっごくキレイだったから、見られてよかったかな……えへへ」

侑「ふふ、そうだね♪ 夜の虹も、湖面の夜空も、朝日の湖も、最高だったよ!」
 「イブィ♪」

歩夢「うん♪」

リナ『思い出に残る経験が出来たみたいで、私も嬉しい! リナちゃんボード「ハッピー」』 ||,,> ◡ <,,||


クリスタルレイクでは本当に良い経験が出来た。

そして、そんな経験を経て、たどり着いたここクロユリシティでの目的はもちろん──


侑「さぁ……! 今からジム戦だ!」

歩夢「頑張ってね、侑ちゃん! イーブイも♪」

侑「任せて!」
 「イブィ♪」

リナ『侑さん! 頑張ろうね! 私も全力でサポートする! リナちゃんボード「ファイト、おー!」』 ||,,> 𝅎 <,,||

侑「うん! よろしくね、リナちゃん!」


いざ、クロユリジムへ!






968 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 01:36:07.96eLOLjL7n0 (2/34)


    🎹    🎹    🎹





クロユリは非常に自然豊かな町で──雰囲気としては、林の中に点々と民家が建っている、そんな印象を受ける町だ。


侑「なんだか、今まで来た町とは全然印象が違うね……」

リナ『クロユリは、自然を大切にする町だからね。むしろ、自然の中に住まわせてもらってるって考え方みたい』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「人口も少ないんだよね。……確か、オトノキ地方の町の中だと……今はヒナギクよりも少ないんだっけ……?」

リナ『うん。地方の中では、住んでる人が一番少ない町のはずだよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「でも、この町は強いトレーナーが多いんだよね! 住んでる人ほとんどがトレーナーらしいよ!」

歩夢「そうなの?」

リナ『これだけ自然に囲まれてると、町中でも野生のポケモンが出るからね。そういう環境で暮らしてると自然とポケモントレーナーとして戦えるようになってるみたい』 || ╹ ◡ ╹ ||


そして、そんな町で生まれ育った強者……それが、オトノキ地方最強のジムリーダー・英玲奈さんだ。


侑「英玲奈さんと戦えるなんて……想像しただけでときめいちゃうよ……!」

リナ『ときめくのはいいけど、油断しないでね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「大丈夫大丈夫! バトルは全力でやるから!」


みんなで話しながら、林の間を抜けていくと──間もなくクロユリジムが見えてきた。


侑「よし……たのもー!!」


ジムの扉を押し開けて入る。

すると、ジムの中央で、目を瞑って待っている人が一人。

もちろん──


侑「ほ、本物の英玲奈さんだ……!」

英玲奈「……挑戦者か」

侑「は、はい! 侑って言います!」

英玲奈「私はクロユリジムのジムリーダー・英玲奈だ。ジムバッジはいくつだい?」

侑「5つです!」

英玲奈「わかった。難しい言葉は必要ないな。自らを語るよりも、お互いポケモン勝負をした方が早いだろう。バトルスペースにつくといい」

侑「は、はい!」


噂通りのストイックな感じ……! なんかドキドキしてきちゃった……!


英玲奈「使用ポケモンは4体。全て戦闘不能になった時点で決着だ。構わないね?」

侑「はい! よろしくお願いします!」


私はボールを構える。


英玲奈「クロユリジム・ジムリーダー『壮烈たるキラーホーネット』 英玲奈。さぁ、存分に戦おう」


私と英玲奈さん、両者が同時にボールを放って──バトル、開始です!!






969 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 01:38:24.87eLOLjL7n0 (3/34)


    🎹    🎹    🎹





英玲奈「行け! ヘラクロス!」
 「──ヘラクロッ!!!」


英玲奈さんの1番手はヘラクロス。

私の1番手は、


侑「ドロンチ! 初陣だよ!」
 「ローンチ」


ドロンチだ。


英玲奈「……頭に乗せたタマゴは降ろした方がいいんじゃないか?」

侑「え? あ、そうだった……! ドロンチ、タマゴこっちに頂戴!」
 「ローンチ…」

侑「そんな不機嫌そうな顔しないで! バトル中だけだから! ね?」
 「ローンチ…」


渋々渡してくれたタマゴを受け取る。


侑「歩夢! バトル中、預かってて!」

歩夢「あ、うん」


セコンドスペースにいる歩夢にタマゴを預けて、大急ぎでバトルスペースに戻る。


侑「し、失礼しました!」

英玲奈「いや、構わない。それでは、始めようか」
 「ヘラクロ!!!」

リナ『ヘラクロス 1ぽんヅノポケモン 高さ:1.5m 重さ:54.0kg
   一直線に 敵の 懐に 潜り込み たくましい ツノで すくい上げ
   投げ飛ばす。 ものすごい 怪力の 持ち主で 自分の 体重の
   100倍の 重さでも 楽に ぶん投げる。 甘いミツが 大好き。』


リナちゃんの解説を聞きながら考える。

このマッチアップは悪くない。肉弾戦主体のヘラクロスだけど、ゴーストタイプのドロンチなら多くの攻撃を透かせる。


英玲奈「ヘラクロス!! “メガホーン”!!」
 「ヘラクロッ!!!」

侑「ドロンチ! まずは飛ぶよ!」
 「ローンチ!!」


ツノを下げて、前傾姿勢で突っ込んでくるヘラクロスに対して、ドロンチはフワリと浮き上がる。


侑「とにかく、空中戦で行こう!」
 「ローンチ!!」

英玲奈「なるほど、悪くない作戦だ。だが、ヘラクロスにも翅はあるぞ!」
 「ヘラクロッ!!!」


ヘラクロスが翅を広げて、飛び立ち──ツノをドロンチに向けたまま、突っ込んでくる。


侑「“かえんほうしゃ”!!」
 「ローンチッ!!!!!」



970 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 01:39:18.63eLOLjL7n0 (4/34)


真正面から突っ込んでくるドロンチに向かって、火炎で迎撃する。

当たり前だけど、むしタイプのヘラクロスはほのおタイプに弱い。

翅があるから、空中まで追ってくることは出来るけど、地上と違って踏ん張りが効かない分、パワーも落ちる。

遠距離から弱点の技を選んで立ち回れば、ヘラクロスは攻略出来るはずだ……!!

だけど、


英玲奈「ヘラクロス!! 突っ込め!!」

侑「え!?」


英玲奈さんは怯むことなく、ヘラクロスを突っ込ませてくる。

“かえんほうしゃ”の中を真正面から突っ切り──


 「ヘラクロッ!!!!」

 「ロンチッ!!!?」


ドロンチの首元辺りにツノを突き立てる。


侑「ドロンチ!?」

英玲奈「畳みかけろ!!」

 「ヘラクロッ!!!!」


ヘラクロスは、怯んだドロンチの上に回り込み──


英玲奈「“10まんばりき”!!」

 「ヘラクロッ!!!!!」


真上から、思いっきりツノを振り下ろして、


 「ロンチッ!!!?」


ドロンチを地面に向かって叩き落とす。


 「ロン、チッ…!!!」


ドロンチは下方に吹っ飛ばされながらも、地面スレスレで体勢を立て直して、どうにか再び飛行に移行する。


侑「とにかく、距離を取らなきゃ……!」


地面スレスレを飛びながら逃げるドロンチに向かって、再びヘラクロスが、ドロンチの真上に並ぶようにして、追いかけてくる。


侑「く……追いかけてくる……! なら、“りゅうのはどう”!!」

 「ロンッ!!!」


飛行しながら、体を捻って真上を向き、口から“りゅうのはどう”を発射した──直後、ヘラクロスの姿が急に掻き消えた。


侑「え、消え……!?」

 「ロンッ!!?」


ヘラクロスを見失って、動揺する私とドロンチ。

その直後、



971 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 01:40:47.08eLOLjL7n0 (5/34)


英玲奈「“つばめがえし”!!」

 「ヘラクロッ!!!!」

 「ロン、チッ!!!?」


いつの間にか、真横に回り込んでいたヘラクロスがツノを叩きつけて、ドロンチを吹っ飛ばした。

消えたんじゃない……! “つばめがえし”で急に軌道を変えられたから、一瞬見失ったんだ……!


 「ロ、ロンッ…!!!」

侑「ドロンチ……!!」


さすがに飛行を維持出来ず、地面に墜落するドロンチ。

器用に尻尾を振るいながらバランスを取って、すぐに体勢を復帰させるけど、


 「ヘラクロッ!!!!」


ヘラクロスはもうすでにドロンチの眼前に迫っていた。


英玲奈「“じごくづき”!!」
 「ヘラクロッ!!!」

 「ロンッッ!!!!!!!」


ヘラクロスのツノが、ドロンチの胸部に突き立てられ、その勢いでドロンチはジムの壁まで吹っ飛ばされた。

──ドンッと大きな音を立てて、壁に叩きつけられるドロンチ。


侑「ドロンチ……!!」

 「ロ、ロン…」

侑「……ありがとうドロンチ、戻って」


ドロンチ戦闘不能……。私はドロンチをボールに戻す。

──全く手も足も出なかった……。

パワーもスピードもテクニックも、どれも一級品だ。

これが、最強のジムリーダー……英玲奈さん……。


英玲奈「……確かに、ヘラクロス相手に近接戦を挑まないようにする立ち回りは悪くない。定石と言ってもいいだろう」

侑「……」

英玲奈「が、この私に対して、そんな消極的な戦い方で勝てると思っているなら、随分と舐められたものだな」

侑「……!」


そうだ……私はチャレンジャーなんだ……。安全安心な勝ち方なんて、最初から考えちゃいけない。

ジム戦用に使用ポケモンのレベルを合わせてくれているとはいえ、相手は百戦錬磨の最強のジムリーダー。

定石での戦いを仕掛けてくる相手への対策だって、知り尽くしているだろうし、私が見聞きした程度で知っている作戦なんかじゃ通用しなくて当然だ。

私が今やるべきことは、教科書通りの試合運びなんかじゃない……!


侑「……英玲奈さんの想像を超えた戦いをしなくちゃ……!」

英玲奈「……ふ。……さぁ、次のポケモンを出したまえ」

侑「はい! 行くよ、ライボルト!!」
 「──ライボッ!!!!」


ボールから飛び出すと同時に、ライボルトが走り出す。



972 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 01:42:29.93eLOLjL7n0 (6/34)


侑「“ニトロチャージ”!!」
 「ライボッ!!!!」


ライボルトは加速しながら赤熱し、ヘラクロスの周囲をイカズチのように走り回る。

そして、周囲を走り回りながら、


侑「“ほうでん”!!」
 「ライボッ!!!!!」


全方位から、電撃を浴びせる。


 「ヘラクロッ…!!!」

英玲奈「ヘラクロス、怯むな!! “じならし”!!」
 「ヘラッ!!!!」


ヘラクロスが勢いよく四股を踏むと──グラグラと地面が揺れ、


 「ラ、ライボッ!!?」


ライボルトが揺れでバランスを崩し、足をもつれさせる。


英玲奈「そこだ!! “メガホーン”!!」
 「ヘラクロッ!!!!」

侑「……っ!! “でんじふゆう”!!」
 「ライボッ!!!」


ライボルトは咄嗟に浮遊し、ヘラクロスの突撃を間一髪で躱す。


英玲奈「なるほど、それなら足をもつれさせても関係ないな! だが、無防備に浮いたら隙だらけだぞ!!」
 「ヘラクロッ!!!」


ヘラクロスが再び翅を開いて、ライボルトに飛び掛かってくる。


英玲奈「“インファイト”!!」
 「ヘラクロッ!!!」

侑「組みつかせちゃダメだ!! “オーバーヒート”!!」
 「ライボォッ!!!!」

 「ヘラクロッ…!!!」


近距離で決しようとしてきた、ヘラクロスを全方位に発される熱波で押し返す。

だけど、隙だらけなのはそのとおりだ。


侑「“でんじふゆう”解除!!」
 「ライボッ!!!」


自分に纏わせていた電磁力を解除して、地に戻る。


英玲奈「“10まんばりき”!!」
 「ヘラクロッ!!!!」


またしても突っ込んでくるヘラクロス。

“ほうでん”程度じゃ怯まない気迫で突っ込んでくる。

なら……!!



973 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 01:46:33.99eLOLjL7n0 (7/34)


侑「“ライジングボルト”!!」
 「ライボッ!!!!!」

 「ヘ、ヘラクロッ!!!!?」


ヘラクロスの足元から──電撃が立ち上って、ヘラクロスを感電させる。

強烈な電撃がヘラクロスの足を完全に止める。


英玲奈「!? 威力が大きすぎる!? ……! まさか、さっきの“ほうでん”は攻撃のためだけじゃない……!!」


そのとおり……! フィールド全体に“ほうでん”しまくっていたのは、攻撃のためだけじゃない!

バトルフィールド内を“エレキフィールド”状態にするためだ……!


リナ『“ライジングボルト”は“エレキフィールド”下だと、威力が倍以上になるよ!』 || > ◡ < ||


感電し、完全に足が止まったヘラクロスに向かって──


侑「“かえんほうしゃ”!!」
 「ライボォーーー!!!!!」


火炎を噴き付けた。


 「ヘ、ヘラクロォ…!!!!」


足が止まったヘラクロスには、さっきのように炎を突っ切る突進力もない!!

これで、決着かと思った、そのとき、


英玲奈「ヘラクロス!! “こんじょう”を見せろ!!」
 「──ヘラクロォッ!!!!!」

侑「!?」
 「ライボッ!!!?」


ヘラクロスが雄叫びをあげながら──ライボルトに突っ込んできた。

ヘラクロスは前傾姿勢になり、ライボルトの腹下に大きなツノを滑り込ませる。


侑「しまっ!?」

英玲奈「“メガホーン”!!」
 「ヘラクロッ!!!!」


──ブンと風を切る音と共に、


 「ライボッ!!!!?」


ライボルトは勢いよく、打ち上げられた。


侑「ライボルト……!!」

英玲奈「少々肝を冷やしたが……“かえんほうしゃ”は悪手だったな。“やけど”したお陰で“こんじょう”が発動出来たよ」

侑「…………」


“こんじょう”は状態異常になると、攻撃力が爆発的に上昇する特性だ。


英玲奈「さぁ、ヘラクロス。落ちてきたところを狙い撃ち、に……?」



974 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 01:47:24.41eLOLjL7n0 (8/34)


英玲奈さんは上を見上げて、目を見開いた。

何故なら──上空に大きな雷雲が出来ていたからだ。

ライボルトは、空気中の電気をたてがみに集めて、雷雲を作り出すポケモンだ。


英玲奈「しまった!? ヘラクロス、防御を──」

侑「もう遅いです!! “かみなり”ッ!!」

 「ライボォォォッ!!!!!!!!」


天空からの“かみなり”はヘラクロスの1本ヅノ目掛けて、轟音を立てながら、迸る。

空気の爆縮で、ジム内を雷轟が響き渡り──

それが晴れた頃には、


 「ヘ、ラク、ロ…」


“かみなり”に撃たれて丸焦げになったヘラクロスが、地に伏せっていた。


 「ライボッ!!!」


そして、再び“でんじふゆう”で着地の衝撃を緩和しながら、ライボルトが地面に降り立った。


侑「やったー!! ナイスだよ、ライボルト!!」
 「ライボッ!!!」

英玲奈「……やられたな……さっきの“かえんほうしゃ”はわざと“こんじょう”を発動させるためのものだったか」

侑「えへへ……はい!」


ヘラクロスの特性は“こんじょう”、“むしのしらせ”、“じしんかじょう”の3種類。

その中でも、“むしのしらせ”は少なくて、“こんじょう”か“じしんかじょう”が圧倒的に多い。

ただ、相手を倒したときに自分のパワーを上げる特性の“じしんかじょう”なら、ドロンチを倒した時点でパワーアップしていないとおかしい。

となると、十中八九“こんじょう”だと当たりを付けていた。


英玲奈「“こんじょう”を発動させたのは……“メガホーン”で少しでも、高く打ち上げて欲しかったからか」

侑「はい! 天井に近ければ、一気に電荷を放出して、バレずに雷雲を即座に作り出せますから!」

英玲奈「土壇場で技の選択を間違えたようだな……。私もまだまだだ」


英玲奈さんはそう言いながら、ヘラクロスをボールに戻す。

確かに、“メガホーン”以外の技で来られていたら、この作戦は成功していなかったけど……“メガホーン”はヘラクロスの代名詞とも言える技。

ヘラクロスというポケモンが咄嗟に使うとしたら、きっと“メガホーン”だって自信があった。


英玲奈「なら、こいつはどうだ……! 行け、アイアント!!」
 「──アントーーー!!!!」


英玲奈さんが2匹目のポケモン──アイアントを繰り出す。

アイアントは飛び出すと同時に、ものすごいスピードで、ライボルトへと迫ってくる。


侑「は、速い……!? “10まんボルト”!!」
 「ライボッ!!!!」


高速で迫ってくるアイアントに向かって──バチバチと音を立てながら、電撃が迸る。


侑「よし……! 当たった……!!」



975 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 01:50:43.32eLOLjL7n0 (9/34)


相手が速かったから少し焦ったけど、いくら速いといっても電撃以上のスピードではない。

でも……電撃が直撃したはずの場所に──アイアントの姿はなかった。


侑「!?」


消えた──わけない……!!


侑「ライボルト!! “でんじふゆう”!!」
 「ライボッ!!!!」

英玲奈「よく気付いた!! でも、遅い!!」


英玲奈さんの言葉と同時に──


 「アーーーントッ!!!!!」


ライボルトの足元の地面から、アイアントが勢いよく飛び出してきて、空中に逃れようとしていたライボルトの前脚に噛みついた。


侑「ぐ……! ライボルト! “ほうで──」

英玲奈「“シザークロス”!!」
 「アントッ!!!!」

 「ライボォッ…!!!!」


こちらが攻撃で引きはがす前に、アイアントが鋭い顎で、ライボルトを切り裂いた。


 「ラ、ライ…」
侑「戻って、ライボルト……!」


ライボルト、戦闘不能だ……。


英玲奈「“あなをほる”にすぐに気付いたのには驚いたよ。普通は焦ってしまって、なかなか判断出来ないんだがな」


……それでも、回避するんだったら、私はもっと早く判断しなくちゃいけなかった。

いや……反省は後だ……! 切り替えなくちゃ……!


侑「イーブイ! 出番だよ!」
 「イブィ!!!」


私の傍らで待っていたイーブイが、フィールドに足を踏み入れる。


英玲奈「さぁ、もう一度だ、アイアント!!」
 「アントーーー!!!!!」


アイアントが今度はイーブイ目掛けて、猛スピードで飛び出してくる。

でもスピードには、スピードで張り合っちゃダメだ……!


侑「イーブイ、“いきいきバブル”!」
 「イブィ!!!」


イーブイの全身からぷくぷくと泡が立ち、それがフィールド上に漂い始める。


英玲奈「……! アイアント、止まれ!」
 「アントーー!!!!」


英玲奈さんは、漂う泡を見て、アイアントを停止させた。



976 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 01:52:29.59eLOLjL7n0 (10/34)


英玲奈「見慣れない技だな……だが、当たっていいものではなさそうだ。とはいえ、そんな動きの遅い泡では攻撃技とは言い難いな。狙いが他にあるな?」

侑「…………」


まずい、一瞬で看破された……。

もしイーブイの技でアイアントを倒すとしたら、“めらめらバーン”を直撃させるしかない。

でも、“めらめらバーン”は直接攻撃だし、素早いアイアントに狙って当てるのは至難の業だ。

そのため、“いきいきバブル”の泡を設置して、うまく誘導しようと思ったけど……さすがにこっちの思惑通りには動いてくれなさそうだ。


英玲奈「……ふむ、来ないか。なら、“あなをほる”だ。アイアント」
 「アントーーー!!!!」


アイアントが地面に潜っていく。


英玲奈「これなら、地上にいくら技が設置されていても、足元から攻撃出来るから問題ないな」

侑「…………」


ど、どうにかしなくちゃ……!

努めて平静を装ってはいるものの、こっちは作戦らしい作戦を思いついていない。

何か策を──いや、とりあえず……!


侑「“みきり”!!」
 「ブイ!!!!」

 「──アントーーー!!!!」


足元から飛び出すアイアントの攻撃を見切って躱す。

攻撃を躱されると、アイアントはまたすぐに地面に潜ってしまう。


英玲奈「なるほど。それなら、そちらも攻撃は食らわないと言うことだな。だが、ジリ貧じゃないか? “みきり”は何度も使える技じゃないぞ」


そう、そのとおりだ。

連続で使えば成功率も下がるし……何より、この技はPPも多くない。

あくまで一時凌ぎにしかならない。


侑「“みきり”!」
 「イブィッ!!!!」

 「──アントッ!!!!」

侑「み、“みきり”!!」
 「イ、イブィッ!!!!!」

 「──アントーーーッ!!!!!」

英玲奈「さぁ、そろそろ苦しいんじゃないか?」


本当に策を考えないと、もう数回ほどで避け切れずに攻撃が直撃する……どうしよう……!

フィールド内は気付けば穴ぼこだらけだし……。


侑「ん……?」


……この穴、使えないかな……?


侑「イーブイ! “すくすくボンバー”!」
 「! イブィ!!!」


イーブイがブンと尻尾を振るうと、樹がニョキニョキと生えてくる。



977 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 01:55:02.64eLOLjL7n0 (11/34)


侑「樹の上に避難!!」
 「イブィッ!!!」

 「アントーーーッ!!!!」


地面から飛び出してくるアイアントをギリギリで回避して、樹上に逃げる。


英玲奈「む……また、面妖な技を……」

侑「イーブイ! 穴を狙うよ!」
 「イブィッ!!!!」


そして、樹から大きなタネを──アイアントが掘った穴目掛けて落とす……!

“すくすくボンバー”のタネが次々と、“あなをほる”の入り口を塞ぐように落下する。


英玲奈「……なるほど、自分たちは樹上に退避し、さらにアイアントの動きを制限するために穴の口を塞ぐというわけか」

侑「…………」


もちろん、それだけじゃない。この技は“やどりぎのタネ”だ。

そんなの初見でわかる人なんて……。


英玲奈「ただ、私にはこの面妖な技が、それだけの技のようには思えない」

侑「……!?」

英玲奈「“タネばくだん”のようなものか……いや、それならとっくに爆発させているだろう。……なら、“やどりぎのタネ”のようなものか……?」


う、嘘でしょ……!? どんだけ、勘がいいの!?


英玲奈「……どうやら“やどりぎのタネ”だと言うのは、図星のようだな」

侑「!?」

英玲奈「さっきから、ポーカーフェイスをしているつもりかもしれないが……君は考えていることが顔に出るタイプのようだね」

侑「ぅ……」

リナ『確かに侑さんは表情豊か』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「──侑ちゃんのそういうところ、私は大好きだから、大丈夫だよー!!」

侑「そう言ってくれるのは嬉しいけど、この場合フォローになってないってー!!」


歩夢もリナちゃんも、たぶん本気で言ってくれているんだろうけどさ……!


英玲奈「凡そ、穴の中で“やどりぎのタネ”のツタを伸ばして、捕まえようという魂胆だろう」


私は目を逸らす。


英玲奈「だが、無駄だよ。アイアントは岩石をも噛み砕く顎で、複雑に入り組んだトンネルを作ると言われている。いくら掘った穴にツタを張り巡らされても──常に新しい穴を掘り続けていれば問題ない」

侑「…………」

英玲奈「それに……君たちは、どうして樹上なら安全だと思い込んでいるんだ?」

侑「え?」
 「ブイ?」


次の瞬間──急に樹がグラリと傾き始めた。


侑「な……!?」


ハッとして、樹の根本を見ると──アイアントが樹の根本を齧って伐採している真っ最中だった。



978 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 01:55:52.48eLOLjL7n0 (12/34)


 「イ、イブィィィ!!!!」


傾く樹からイーブイが振り落とされ、

──ズシンッと、音を立てながら樹が横倒しになる。


侑「っ……! イーブイ、平気!?」


朦々と土埃の立つフィールドに向かって声を掛けると、


 「イ、イブィ~」


鳴き声が返ってくる。どうやら、無事なようだ。


英玲奈「さぁ、今度こそ逃げ場はないぞ」

侑「……それはお互い様です」

英玲奈「……何?」

侑「確かに、“すくすくボンバー”のタネは“やどりぎのタネ”です。でも──私たちは“やどりぎのタネ”で捕まえようとしてたんじゃない」


──土煙の晴れた先で、イーブイが“すくすくボンバー”のタネの前に立ち、


侑「“めらめらバーン”!!」
 「ブイッ!!!」


そのタネに──自らの炎を着火した。


英玲奈「な……!」

侑「確かにツタの成長速度じゃ、地中のアイアントには追い付けません……でも、そのツタに引火した炎と熱から、逃げられますか!」


ツタに引火した炎は一気に穴の中で燃え広がり、仮にツタの長さが足りず炎が届かなかったとしても──穴が繋がっていれば、その熱は穴全体を蒸し焼きにする……!


 「アーーーントーーーー!!!!?」


急な熱波に驚いて、穴から飛び出してきたアイアントに、


侑「そこだ……!! “めらめらバーン”!!」
 「ブーーーイッ!!!!!」

 「イアーーーントッ!!!!?」


今度は“めらめらバーン”を直接炸裂させた。

全身を炎に包まれながら吹っ飛んだアイアントは、


 「ア、アイアン……」


大の苦手なほのおタイプの技によって、戦闘不能になったのだった。


英玲奈「く……戻れ、アイアント」


英玲奈さんがアイアントをボールに戻す。


英玲奈「……まさか、ほのおタイプの技まで持っているなんて予想外だ」


確かに、“相棒わざ”は初見だと対応が難しい。それは百戦錬磨の英玲奈さんでも例外ではなかったようだ。

……改めて、イーブイが“相棒わざ”を使えてよかった……。



979 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 01:57:10.66eLOLjL7n0 (13/34)


英玲奈「だが、ネタが割れれば、どうにでもなる……! 行け、メガヤンマ!」
 「ヤーーンマッ」


英玲奈さんの3匹目はメガヤンマだ。


リナ『メガヤンマ オニトンボポケモン 高さ:1.9m 重さ:51.5kg
   加速すると 衝撃波が 出るほどの 力強い はねを持っている。
   アゴの 力は けたはずれ 高速で 飛んで すれ違いざまに
   相手を かみちぎるのが 得意。 尻尾の はねで バランスを とる。』


相手はむし・ひこうタイプのメガヤンマ。それなら……!


侑「“びりびりエレキ”!!」
 「ブーーイッ!!!」


イーブイが電撃で攻撃する。相性良好、効果抜群の技だ……!

が、


 「ヤンマ──」


メガヤンマは一瞬で掻き消える。


侑「よ、避けられた!?」

英玲奈「“みきり”だ。やはり、まだ隠していたようだね」


しまった……読まれた……!?


英玲奈「さっきも言ったが、ネタが割れてしまえば、なんてことはない」


メガヤンマは──ブーン、ブーンと音を立てながら、どんどん“かそく”していく。


侑「まずい……!! これ以上“かそく”されたら、手が付けられなくなっちゃう……!? イーブイ、“いきいきバブル”!!」
 「ブーイッ!!!!」


空中に向かって、ぷくぷくと泡を散布する。

さっきみたいにこれで、動きを制限出来れば……!!

が、


英玲奈「“ソニックブーム”!!」


英玲奈さんの指示と共に、音速の衝撃波がフィールド上に浮いた泡を片っ端から割っていく。


英玲奈「タネが割れればなんてことはないと言っただろう!」

侑「び、“びりびりエレキ”!!」
 「イッブィッ!!!!!」

英玲奈「もう、メガヤンマは“かそく”しきった……! 当たらんよ!」

侑「ど、どうしよう……!? もう、速すぎて姿が見えない……!?」

英玲奈「さぁ、さっきの仕返しだ!! “きりさく”!!」


──超加速したメガヤンマがイーブイを切り付ける。


 「イッブィッ…!!!!」


イーブイを吹っ飛ばす。



980 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 01:59:32.84eLOLjL7n0 (14/34)


侑「イーブイ!!?」

 「イ、ィブ…!!!」


イーブイはフィールドを転がりながらも、どうにか立ち上がるけど……あのスピードから繰り出される攻撃だ。ダメージが尋常じゃない……!

もう何発も耐えられない……!

とにかく、あのスピードをどうにかしなきゃ……!!

メガヤンマ、メガヤンマの弱点、何か、何か……!!

でも、“かそく”しきったメガヤンマを止める方法なんて……!


侑「……そういえば……前、かすみちゃんが……」


もしかしたら、あれなら……? で、でも、メガヤンマ相手でも出来るの……!?


侑「いや……もう、やるしかない……!!」


──ヒュンヒュンと風を切る、メガヤンマ。


英玲奈「“むしくい”!!」


大顎を開けて突っ込んでくるメガヤンマに向かって──


侑「イーブイ!!! “しっぽをふる”!!! くるくる回してっ!!」
 「イ、イブイ!!!!」


イーブイが背を向け、宙に向かって円を描くように、尻尾をくるくると回し始めた。

風を切る、メガヤンマは──


 「──ヤン」


イーブイに噛みつく直前で、ビタッと空中で静止した。


英玲奈「なんだと!?」

侑「ホントに止まった!?」

リナ『なんで侑さんが驚いてるの!?』 || ? ᆷ ! ||

英玲奈「メガヤンマ!! 惑わされるな!!」
 「ヤンマッ」

侑「今だ、イーブイ!! 飛び乗って!!」
 「イッブィッ!!!」


イーブイは、一瞬動きを止めたメガヤンマの背中に、飛び乗ってしがみつく。

──直後、メガヤンマは再び“かそく”を開始し、飛行を再開する。

イーブイを乗せたまま、超スピードで風を切り始める。


英玲奈「く……! 振り落とせ!!」

侑「イーブイ!! 放しちゃダメだよ!! そのまま、“めらめらバーン”!!」

 「ブーーーーイーーーッ!!!!!!」


イーブイの雄叫びと共に、空中に猛スピードで飛ぶ炎の塊が現れる。


 「ヤーーーンマーーー!!!!!!」


背中の上から直接炎で焼かれたメガヤンマは火だるまになり、



981 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 02:00:20.71eLOLjL7n0 (15/34)


 「ヤンマァァァァァァ……!!!!!!」

 「ブィィィィィ!!!!?」


イーブイを背中に乗せたまま、フィールドに墜落した。


 「ヤ、ヤン…マ…」


メガヤンマはもちろん戦闘不能。

イーブイは……。


 「ブ、ブィ…」


よろよろと立ち上がるものの……もう、戦う力が残っているとは言い難かった。


侑「もう、大丈夫だよ、イーブイ……!」


私はイーブイに駆け寄って、抱き上げる。


侑「英玲奈さん、イーブイ……戦闘不能です」

英玲奈「……ああ、メガヤンマもだ。お互い戦闘不能。仕切りなおそうか」

侑「はい。ありがとう、お疲れ様、イーブイ」
 「ブィ…」


今回イーブイはアイアントとメガヤンマを倒して、大活躍だった。試合が終わったらたくさん労ってあげないとね……。

私はイーブイを抱きかかえて、セコンドスペースへ走る。


侑「歩夢、イーブイのことお願い」

歩夢「うん、わかった」


歩夢にイーブイを預けて、バトルスペースに戻る。


侑「お待たせしました」


ボールを構えようとして、


英玲奈「ちょっと待ってくれ」


英玲奈さんからストップが入る。


侑「え? な、なんですか……?」

英玲奈「さっきメガヤンマを止めたのは……一体なんなんだ。あんな戦術見たことも聞いたこともないぞ……」


英玲奈さんはかなり困惑していた。確かにあんなこと試合中にする人、私も見たことない……。


侑「えっと……スクールにいたころ、かすみちゃ──……イタズラ好きな友達が、よくヤンヤンマの目を回す遊びをしてて……」

英玲奈「……確かにヤンヤンマのような“ふくがん”を持ったポケモンは、目の前で指を回されると、それが何かを認識するために本能的に動きを止める習性があるが……実戦で使うのは初めて見たぞ……」


そういう理由だったんだ……。さすがむしポケモンのエキスパートの英玲奈さんだ。

まあ、本音を言うなら、半ばヤケクソ気味だったけど……。メガヤンマでやったことなんかなかったし……。



982 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 02:01:02.98eLOLjL7n0 (16/34)


英玲奈「……ふむ。メガヤンマの視界について、もう少し研究をした方がよさそうだな……こんな弱点があるとは思わなかった」

侑「わ、私も驚いてます……」

英玲奈「とりあえず、メガヤンマのことはわかった。中断してしまって済まない。試合の続きに戻ろうか」

侑「あ、はい!」


気を取り直して、お互い最後のポケモンのボールを構える。

泣いても笑ってもこれが最後だ──両者のボールがフィールドに放たれた。





    🎹    🎹    🎹





侑「行くよ! ワシボン!」
 「ワッシャァ!!!」

英玲奈「行くぞ、スピアー!」
 「ブーーーンッ!!!!」


英玲奈さんの最後のポケモンはスピアーだ。

対して私は、ここまで温存していたひこうタイプのワシボン。

相性的にはこっちが有利だけど──


英玲奈「スピアー、メガシンカだ!」
 「ブーーーンッ!!!!」


英玲奈さんの“メガブレスレット”が光り輝き、


 「ブゥーーーーンッ!!!!!!!」


スピアーのフォルムがより鋭角に、足も毒針に変わり、より攻撃的な姿へと変貌する。


リナ『メガスピアー どくばちポケモン 高さ:1.4m 重さ:40.5kg
   両足も 毒バリに 変化。 足の 毒バリが 分泌する
   毒は 即効性で 敵の 動きを 止めるために 使い
   より強力に なった 尻の 毒バリで 止めを 刺す。』

英玲奈「スピアー!!」
 「ブンッ!!!!」


英玲奈さんの声と共に──スピアーが目にも止まらぬスピードで突っ込んでくる。

そのスピードを乗せたまま、


 「ブーンッ!!!!」


腕の針を突き出してくる。


侑「“ブレイククロー”!!」
 「ワシャッ!!!!」


その針を上から押さえつけるようにして、爪を振るって、攻撃を逸らす。


英玲奈「ほう、防ぐか……!」


だけど、間髪入れず、



983 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 02:03:46.48eLOLjL7n0 (17/34)


英玲奈「“ダブルニードル”!!」
 「ブーンッ!!!!」


両足の針が襲い掛かってくる。


侑「ワシボン!! 離脱!!」
 「ワッシャァッ!!!!」


ワシボンは、押さえつけた針を踏み台の要領で反動にし、上昇──両足の針を間一髪で、回避する。


英玲奈「ふむ……メガスピアーの針の恐ろしさはわかっているようだな」


いくらこっちがタイプ相性で優っていても、相手はメガシンカしたポケモン。

パワーも毒の強さも普通のポケモンの比じゃないし、掠っただけで致命傷になりかねない。

だけど、もちろん逃げ回っているだけじゃ勝てるものも勝てない。

攻撃を捌きながら、確実に反撃をしないと……!


侑「急降下して、“ダブルウイング”!!」
 「ワシャァァァァ!!!!」


空に離脱したワシボンはすぐに切り返すようにして、両翼を構えながら、スピアーに向かって急降下する。

が、


 「ブーーーンッ」


スピアーは素早い軌道で、急降下してくるワシボンを回避する。


英玲奈「“はりきり”すぎだな! 軌道がわかりやすすぎて、当たらんぞ!」

侑「く……」


メガスピアーはパワーこそあれ、防御は薄いポケモンだから、当たりさえすれば勝機はあるのに……!


英玲奈「“ミサイルばり”!!」
 「ブーーーーンッ!!!!!」


下方に飛んで行ったワシボンに向かって、撃ち下ろすように、スピアーの持つそれぞれの針から“ミサイルばり”が発射される。


侑「“エアスラッシュ”で迎撃!!」
 「ワッシャァ!!!!」


ワシボンは身を捻り、上を向いて、空気の刃を“ミサイルばり”に向かって撃ち放つ。

が、“エアスラッシュ”が当たっても、“ミサイルばり”は軽く揺れる程度だ。

──相手の攻撃の威力がありすぎる……!!


侑「……! ワシボン、“ブレイククロー”!!」
 「ワッシャァッ!!!!」


遠距離攻撃での相殺は無理だと踏んで、直接攻撃で受け流す作戦に切り替える。


 「ワッシャァァッ!!!!」


1発目を爪でホールドするように受け止め──掴んだ“ミサイルばり”の反動を利用しながら、弧を描くようにして投げ返し、“ミサイルばり”同士を相殺させる。


英玲奈「いい対応力だ!! だが、全然手数が足りていないぞ!!」



984 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 02:08:57.76eLOLjL7n0 (18/34)


英玲奈さんの言うとおり、私たちが捌ききれたのは最初の2発だけで、


 「ワシャッ!!!?」


3発目がワシボンの翼を掠り、それだけでワシボンはバランスを崩して、吹っ飛ばされる。


侑「ワシボン!?」


回転しながら、地面に落下したワシボンだが、


 「ワシャァ…ッ」


咄嗟に爪で踏ん張りながら、羽ばたくことで、落下の衝撃をギリギリまで殺す。

だけど、相手の攻撃はそれでもまだ続いている。さらに追撃を掛けるように迫る、残り2発の“ミサイルばり”。


侑「“がんせきふうじ”っ!!」
 「ワシャァッ!!!」


思いっきり爪を突き立て、フィールドを砕き割り、それを飛んでくる針に向かってぶん投げる。

が──針は岩石をいとも簡単に穿ち、


 「ワッシャァッ…!!!!!」


そのままワシボンに直撃した。その衝撃で、ワシボンがフィールドを転がる。


侑「ワシボンッ!!」
 「ワ、ワシャァ…ッ…!!!」


ワシボンは気合いですぐさま立ち上がるけど──もう満身創痍なのは、見るからに明らかだった。

そこに向かって──


 「ブーーンッ!!!!」


メガスピアーがお尻の針を突き立てながら、猛スピードで突っ込んでくる。


侑「!? ワシボン!! 避けて!?」


私の叫びも虚しく──避ける間もなく、隕石のように落下してきた、メガスピアーは一直線にワシボンを串刺しにした。


侑「そ、そんな……」


圧倒的だった。圧倒的なメガシンカの前に、手も足も出なかった……。

──私が諦めかけたそのとき、


 「ワッシャァァァ…!!!」


ワシボンの雄叫びが響く。


侑「!」


私はワシボンの声にハッとなって顔をあげると──


英玲奈「ほう……なかなかのガッツだな」



985 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 02:12:50.44eLOLjL7n0 (19/34)


ワシボンは、体をひっくり返し、両足の爪を使って、どうにかメガスピアーの突撃を受け止めていた。

それも間一髪。ワシボンの目と鼻の先には針の切っ先がある。


英玲奈「だが、これで終わりだ!! “ダブルニードル”!!」
 「ブーーーンッ!!!!」


メガスピアーが両腕の針をワシボンに向かって、突き立て──た、瞬間。


 「ワシャァッ!!!」


ワシボンは“ダブルニードル”を足蹴にして、離脱する。


侑「ワシボン……!」

英玲奈「まだ、そんな力が残っていたか……! “みだれづき”!!」


至近で繰り出される連続攻撃だけど、


 「ワシャッ!!!! ワシャァァッ!!!!」


ワシボンは爪を、翼を、嘴を振るって、針を弾く。

もちろん、そんな超近距離で猛スピードの連打を完全に捌ききることなんて不可能だ。

逸らしきれなかった針が、翼を掠めて羽根が散り、力負けした爪がひび割れ、掠った頭に傷が付く。

でも、それでも、何度も、何度も、何度も何度も何度も、どれだけ針が襲い掛かってきてもワシボンは諦めない。

ずたずたに引き裂かれても、ワシボンは戦うのをやめない。


 「ワッシャァァァァァ!!!!!」


もう策なんて何一つ残ってない。もはや、ただ我武者羅に抵抗しているだけだ。


英玲奈「その気合い、嫌いじゃない──だが、戦う意思を見せるなら、こちらも攻撃を止めることは出来ないぞ!!」
 「ブーンブーーーンッ!!!!!!」

 「ワッシャァァァァァァァ!!!!!!!」


──見ていられなかった。私はあまりに圧倒的な力で傷つけられていくワシボンを見ていられず、


侑「もういいっ!! ワシボンっ!! これ以上、戦わなくていい!!」


そう叫んだ。


侑「英玲奈さん!! もうやめてください!! 私、降参し──」

 「ワッシャァァァァァァァアァァァァァァ!!!!!!!!!!!」

侑「!?」


私の言葉を遮るように、ワシボンがジム内に劈くような、大きな声で鳴いた。

もう、ボロボロでそんな大きな声が出せるはずないのに。

なんで、そこまでするの……?

どうして、そこまでボロボロになってまで、戦ってくれるの……?

考えたけど……そんなの、簡単な話だった。

──ワシボンだって……負けたくないからに決まってんじゃん……!


 「ワッシャァァァァァァ!!!!!!!!!!!」



986 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 02:13:35.81eLOLjL7n0 (20/34)


スピアーの攻撃を捌きながら、ワシボンはもう一度大声をあげた。

今度は、私にぶつけるように。気持ちを示すように。

──指示を寄越せ!! まだ戦える!!

ワシボンはそう言っていた。

言葉は通じないはずなのに──確かにそう言っていた。


英玲奈「いい加減、倒れた方が身のためだぞ──」

侑「“はがねのつばさ”!!!」
 「ワッシャァァァァァァ!!!!!!」


ワシボンは針の間を掻い潜り──メガスピアーの針に、鋼鉄の翼を叩きつけて対抗する。


英玲奈「……!」

侑「ワシボンッ!! 最後まで戦い切るよ!!」
 「ワッシャァァァァ!!!!!!!!」

侑「“インファイト”!!!!」
 「ワシャワシャワシャワシャァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」


防御を完全に捨て、全身を使って、メガスピアーの連撃に対抗するように、全力攻撃を叩きこむ。


英玲奈「その根性、大したものだな!!  なら、これはどうだ!! スピアー!!」
 「ブーーンッ!!!!」


メガスピアーは一瞬距離を取り、


英玲奈「“いとをはく”!!」
 「ブーンッ!!!!!!」

 「ワシャッ!!!!?」


口から、ワシボンを絡め取るように糸を発射する。


英玲奈「スピードが下がってなお、受け切れるものならやってみろ……!!」
 「ブーーーンッ!!!!!!」


“いとをはく”で糸が絡みつき、体がうまく動かせないワシボンに向かって──今度こそ、トドメと言わんばかりに突っ込んでくるメガスピアー。


 「ワッシャァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」


──うん。わかってるよ。

どうなっても、諦めない。

だって──


侑「負けたくないのは──私も同じだからっ!!!」
 「ワッシャァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」


私とワシボンの“まけんき”が同調した、その瞬間──

ワシボンの体が、眩い光に包まれた。


 「ブーーーーンッ!!!!!!!」


突っ込んでくるメガスピアーに向かって──大きな爪を振り下ろし、


 「──ウォォォォォーーーーーー!!!!!!!!!!!」



987 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 02:14:12.87eLOLjL7n0 (21/34)


雄叫びをあげながら──ウォーグルが、メガスピアーの頭を猛禽の爪で地面に押さえ付ける。


 「ブ、ブーーーーンッ!!!!」
英玲奈「なっ!? この土壇場で進化だと……!?」

侑「行け、ウォーグル!!」
 「ウォォォォーーーーーー!!!!!!!!!」


ウォーグルは大声をあげながら、メガスピアーの頭をがっちり掴んで──飛翔する。


英玲奈「く……!? まだ飛行する体力が残っているのか!? “どくづき”!!」
 「ブ、ブーーーーンッ!!!!!!」


スピアーは捕まったまま、針を伸ばして、突き刺してくる──が、


 「ウォォォォォォォーーーーー!!!!!!!!!」


ウォーグルは怯まない。

ジムの天井付近まで上昇し……そこから、一気に──地面に向かって切り返す。


侑「いっけぇぇぇぇ!!! “ブレイブバード”!!!!」
 「ウォォォォォォォ!!!!!!!!!!!」


メガスピアーを掴んだまま、猛スピードで急降下し──地表スレスレで低空飛行に移行、


 「ブ、ブブ、ブブブブブブ!!!!?」


メガスピアーを地面に擦り付けながら、飛行し──


 「ウォォォ!!!!」


そのまま、メガスピアーもろとも壁に突っ込んだ。

2匹の衝突で、大きな音と共に、ジムが揺れる。


英玲奈「……!! スピアー!!」


立ち込める土煙と共に──フィールドが静寂に包まれた。

静寂の中、ゆっくり、ゆっくりと煙が晴れると──


 「ウォォォォォ!!!!!」

 「…ブ…ブーン……」


メガスピアーは、ウォーグルに頭を掴まれ踏まれたまま、戦闘不能になっていた。


英玲奈「…………よもやよもやだ……」

侑「……か、勝った……?」

英玲奈「……スピアー戦闘不能。私たちの負けだ」


そう言いながら、英玲奈さんはメガスピアーをボールに戻す。

私は、一瞬信じられなくて固まってしまったけど──すぐに実感が湧いてきて、


侑「やった、やったぁぁぁ!! ウォーグル!!」


フィールドのウォーグルに向かって駆け出す。

と、同時に──



988 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 02:15:26.83eLOLjL7n0 (22/34)


 「ウォー……」


ウォーグルの身がゆらりと揺れ──崩れ落ちた。


侑「ウォーグル……!?」


ウォーグルは──完全に気絶していた。


英玲奈「恐らく、気力だけで、立っていたのだろうな……」

侑「ウォーグル……ありがとう……お疲れ様」


私は、気を失ったウォーグルを優しく抱きしめる。


リナ『何度も致命傷を受けてた……なんで、こんなに戦えたのか……私も見ていてよくわからなかった……』 || 𝅝• _ • ||

英玲奈「稀に……ギリギリの戦いの中で、強い意志を持ったポケモンが、常識では考えられないような力を発揮することがある……」

侑「……それを、ウォーグルが……」

英玲奈「そして、それを引き出すのは……トレーナーとの強い絆だと言われている。……負けてしまったが、すがすがしい気分だ。良いモノを見せてもらったよ」


そう言って、英玲奈さんは懐から──ソレを取り出した。


英玲奈「その強さ、認めざるを得ないだろう。“スティングバッジ”だ。受け取ってくれ」

侑「……はい!!」


私は死闘の末──6つ目のバッジ、“スティングバッジ”を手に入れたのでした。





    🎹    🎹    🎹





──さて、ジム戦のあと、さすがにくたくただったし、ウォーグルたちをしっかり休ませてあげるために、宿で一晩過ごした私たちは、


侑「よし! みんなも回復してもらったし、ローズに戻ろっか!」
 「イブィ♪」

歩夢「うん♪」


クロユリシティを発って、ローズシティに向かおうとしていた。


リナ『ちゃんとストレート突破だったし、ジム攻略競争は私たちの勝ちかもね!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「あはは、だといいなぁ」


かすみちゃんの方もうまく行っているといいけど……。

そんなことを考えていると──prrrrrrとポケギアが鳴る。


歩夢「誰から?」

侑「えっと……あ、かすみちゃんからだ」


噂をすればなんとやらってやつかもしれない。

向こうもジムが終わって、報告のために連絡をしてきたのかもしれない。



989 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 02:19:57.11eLOLjL7n0 (23/34)


侑「もしもし? かすみちゃん?」

かすみ『侑先輩っ!!』

侑「わぁ!?」


ギアからかすみちゃんの大声が聞こえてきてびっくりする。


侑「ど、どうかしたの……?」

かすみ『侑先輩、た、助けてください!! しず子が、しず子が……!!』

侑「え……? な、なにかあったの!?」

かすみ『おっきな音がして、しず子がクマシュンを助けるために飛び出しちゃって……!! でもかすみん、飛べるポケモンがいなくて……!!』

侑「かすみちゃん、一旦落ち着いて!」

かすみ『で、でもでも、すぐに助けないとしず子が……!』


……ダメだ、完全にパニックを起こしてる。


侑「場所はどこ!?」

かすみ『ぐ、グレイブマウンテンですぅ……っ!』

侑「わかった……! 歩夢! 電話代わって!」

歩夢「え!? う、うん、いいけど」


歩夢にポケギアを投げ渡し、


侑「ウォーグル!」
 「ウォーーー!!!!」


ウォーグルをボールから出す。


侑「歩夢!! ウォーグルの背中に乗って!」

歩夢「う、うん! わかった! ──かすみちゃん、とりあえず一旦深呼吸しよっか!」


歩夢もすぐに、かすみちゃんがパニックを起こしていることに気付いたのか、電話口でかすみちゃんを落ち着かせるように言葉を選びながら、ウォーグルの背に乗る。


侑「リナちゃん、バッグに入って!」

リナ『わかった!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「ウォーグル、飛ぶよ!!」
 「ウォーーーーッ!!!!!」


飛び立つウォーグルの脚を掴んで、そのまま飛翔する。


侑「歩夢!! 振り落とされないようにね!!」

歩夢「う、うん!」

侑「リナちゃん、グレイブマウンテンまでガイドして!!」

リナ『了解!』

侑「行こう!」
 「イブィ!!!」


何があったのかわからないけど……しずくちゃんのピンチなのは間違いない……!

待ってて、すぐに駆け付けるから……!!






990 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 02:21:42.41eLOLjL7n0 (24/34)


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【クロユリシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    ●     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.55 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.56 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.52 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.44 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドロンチ♂ Lv.51 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      タマゴ  ときどき うごいている みたい。 うまれるまで もう ちょっとかな?
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:190匹 捕まえた数:7匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.47 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.46 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.41 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドグラー♀ Lv.38 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラエッテ♀ Lv.36 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:192匹 捕まえた数:17匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.






991 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 02:23:26.89eLOLjL7n0 (25/34)


 ■Intermission⛄



──ローズシティ・ニシキノ総合病院。


真姫「──いらっしゃい、理亞」

理亞「真姫さん……。ねえさまの顔を見るだけだから、面会に付き合ってくれなくても大丈夫なのに……。今忙しいって聞いたし」

真姫「まあね。事後処理でバタバタよ。……でも、今聖良は私がいないと面会出来ないの」

理亞「……え、どういうこと」


そんな話は聞いていない。


理亞「まさか、ねえさまの容態が悪化して……!?」

真姫「悪化は……してないわ」

理亞「なら、どうして……」

真姫「たぶん、見てもらった方が早い」

理亞「……?」

真姫「……いい加減、黙っているのも限界が近いしね」

理亞「……わかった」


何かがあったことは理解出来た。私は黙って、真姫さんの後を付いていくことにした。





    ⛄    ⛄    ⛄





──ねえさまの病室。


聖良「………………」

理亞「これ、どういうこと……」

真姫「……見たとおりよ」

理亞「見たとおりって……」


ねえさまは……目を開けたまま、ベッドに横たわっていた。

目は開いているのに……微動だにしない。


真姫「今の聖良は……心がないの」

理亞「心が……ない……?」

真姫「目も見えてる、耳も聞こえる、触れられたらそれに気付く。……でも、意思がない。心がないから、それ以上の反応は示さない。情感を持った行動もしないし、喋ることもない……」

理亞「……そっか」

真姫「……思ったより、落ち着いているみたいね」

理亞「……なんとなく、こういうことが起こってもおかしくないんじゃないかって……ずっと思ってたから」

真姫「……そう」


ねえさまは……神様を怒らせたのだから。

悪しき心で……ディアンシーに触れたから……。



992 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 02:24:12.75eLOLjL7n0 (26/34)


理亞「神様の中には……罰を与えるときに人から心を奪う神様もいるって……希さんが前に言ってた」

真姫「……」


そう言いながら私は、病室の棚に置かれている──ピンクダイヤモンドの欠片に目を向ける。


真姫「……ねぇ、理亞」

理亞「なに?」

真姫「もし、ディアンシーが聖良の心を奪ってしまったんだとしたら……どうするの?」

理亞「……わからない」


私は静かに首を振った。


理亞「ねえさまには帰ってきて欲しい……。……だけど、ねえさまがしたことは許されないことだったのは、わかってるつもり。その上で、ねえさまの心を返してなんて……ディアンシーに向かって言っていいのか、わからない……」

真姫「理亞……」

理亞「まぁ……どちらにしろ、今はディアンシーに会う方法がないし……」


ルビィも、ディアンシーに会ったのは、3年前のあのときが最後だって言っていた……。

クロサワの祠の“やぶれた世界”へのゲートも気付いたら消滅してしまっていたと聞く。

そうなると、ディアンシーとコンタクトを取るのはほぼ不可能と言っても過言ではない。


理亞「……真姫さん」

真姫「なにかしら」

理亞「しばらく……ねえさまと二人にしてもらっていい? おかしなことしないって約束するから」

真姫「そんな約束しなくていいわ。好きなだけ一緒にいて大丈夫だから」

理亞「……ありがと」


真姫さんは私の肩を優しく叩くと、そのまま病室を後にした。


理亞「ねえさま……」

聖良「………………」

理亞「ねえさま……っ……」


病室の中では、無機質なバイタルサインの音と──私がねえさまを呼ぶ声だけが、静かに響いていた。


………………
…………
……





993 ◆tdNJrUZxQg2022/12/16(金) 02:32:17.08eLOLjL7n0 (27/34)

次スレ

侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1671125346/



994以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/12/16(金) 14:12:20.45eLOLjL7n0 (28/34)

埋め


995以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/12/16(金) 14:12:58.59eLOLjL7n0 (29/34)

埋め


996以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/12/16(金) 14:13:33.54eLOLjL7n0 (30/34)

埋め


997以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/12/16(金) 14:14:07.86eLOLjL7n0 (31/34)

埋め


998以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/12/16(金) 14:14:45.81eLOLjL7n0 (32/34)

埋め


999以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/12/16(金) 14:15:30.62eLOLjL7n0 (33/34)

埋め


1000以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/12/16(金) 14:16:01.44eLOLjL7n0 (34/34)

1000