599 ◆tdNJrUZxQg2022/11/28(月) 12:14:53.319EuEq8f90 (3/19)


侑「……こ」

歩夢「……こ?」

侑「……ここが……チャンピオンの生まれ育った町なんだぁ……!」


侑ちゃんはぱぁーっと目を輝かせて、周囲をキョロキョロし始める。


歩夢「侑ちゃん……。千歌さんのこともいいけど、少しは町の雰囲気を楽しもうよー……」

リナ『侑さんはいつもどおりだね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「いや、楽しんでるよ! この自然溢れる町で、千歌さんは日々鍛錬に励んでたんだって思うだけで、あちこちが輝いて見えるよ……! この海で遠泳とか砂浜ダッシュとかしてたのかな……!」

歩夢「いや……鍛錬は旅しながらしてたんじゃ……」

リナ『侑さん、楽しそう』 || ╹ ◡ ╹ ||


侑ちゃんったら相変わらず、好きなもののことになると、周りが見えなくなる子なんだから……。

少し呆れ気味に──でも、そんなところも可愛いなと思いながら、侑ちゃんのことを眺めていた、そのとき、


 「──……侑さ~ん! ……歩夢さ~ん! ……リナさ~ん!」


近くの砂浜の方から、私たちを呼ぶ声が聞こえてきた。


リナ『呼ばれてる?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「あれ、この声……」

侑「もしかして……!」
 「ブイ」


声のする方に目を向けると──黒髪のストレートロングを右側で一房括った髪型の少女が、ウインディと並走しながら、こちらに向かってくる。

あの子は……。


侑「せつ菜ちゃん!?」

せつ菜「……はい! こんなところでお会い出来るなんて……!」

歩夢「カーテンクリフ以来だね……! せつ菜ちゃん!」

せつ菜「そうですね! 砂浜ダッシュをしていたら、遠くに侑さんたちが見えて……! またお会いできて嬉しいです!」

リナ『せつ菜さんはなんで、ここで砂浜ダッシュしてたの?』 || ╹ᇫ╹ ||

せつ菜「それはもちろん、ここはチャンピオンである千歌さんの出生の地……! きっと、彼女もこの大自然の中で、日々鍛錬を積んでいたに違いありませんから! 私もそれに倣って、ポケモンたちと鍛錬をしているところだったんです!」

侑「……! せつ菜ちゃんもそう思う!? やっぱり、そうだよね!」

せつ菜「はい……!! こうして、ここで修行すれば、千歌さんの強さの秘訣がわかるかもしれませんし!」

侑「うんうん!」

歩夢「いや、だから……それはたぶん、旅の道中で……」

リナ『歩夢さん、ファイト』 || ╹ ◡ ╹ ||


侑ちゃんと同じようなことを考えている人がまた一人……あれ、私がおかしいのかな……?


せつ菜「それはそうと、侑さん、歩夢さん、旅の方は順調ですか?」

侑「あ、うん! せつ菜ちゃんと別れた後いろいろあったけど……」

歩夢「ダリア、コメコ、ホシゾラ、ウチウラと進んできて、さっきアワシマから船でここに到着したところなんだよ」

せつ菜「そうだったんですね!」

侑「ジムバッジもほら……!」



600 ◆tdNJrUZxQg2022/11/28(月) 12:15:35.789EuEq8f90 (4/19)


侑ちゃんがせつ菜ちゃんにバッジケースを開いて見せる。


せつ菜「おぉ! もうバッジが3つも……! つい数日前に旅に出たばかりだというのに……これは、私たちもウカウカしていられませんね!」
 「ワォン」

せつ菜「侑さんが頑張っているのを聞いたら、なんだか燃えてきました……! ウインディ! もう一本、砂浜ダッシュ行きますよ!」
 「ワォン!!」

侑「あ、なら私も一緒にやってもいい!?」

せつ菜「是非是非!! 侑さんもポケモンたちと一緒に汗を流しましょう!」

歩夢「ストップ! ストーーップ!!」


今にも走り出そうとする侑ちゃんたちを制止する。


歩夢「さ、先に今日泊まる場所見つけよ? ね?」

リナ『確かに宿を確保してからの方がいいと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……それはそうかも」


どうにか納得してもらえてホッとする。

今のこの二人の熱量だと、それこそウラノホシで過ごす時間のほとんどがトレーニングになっちゃいそうだし……。


せつ菜「確かに……まだ宿をお決めになっていないなら、そっちを優先した方がいいですね……」

侑「あ……! せっかく宿を探すなら、せつ菜ちゃんも一緒に泊まらない!? いいよね、歩夢?」

歩夢「うん、私は構わないけど」

せつ菜「ホントですか!? 是非……! ……と、言いたいところなんですが……実は明日の朝までには、一度ローズの方に帰らなくてはいけなくて……」

リナ『そうなの?』 || ╹ᇫ╹ ||

せつ菜「はい……皆さんとご一緒したいのはやまやまなんですが……外せない用事があるので」

侑「そうなんだ……残念……」

せつ菜「ただ、夜までは滞在しているつもりなので……! それまで、ご一緒させてもらってもいいでしょうか?」

侑「それはもちろん! ね、歩夢?」

歩夢「うん♪」


それには異論はないかな。私もせっかく会えたんだから、せつ菜ちゃんとお話ししたい気持ちもあるし。


せつ菜「それでは、まずは侑さんたちの宿を見つけるところからですね……! あ、そうだ!」


せつ菜ちゃんが何かを思いついたかのように、ポンと両手を叩く。


せつ菜「もしよかったら、千歌さんのご実家の旅館にご案内しますよ!」

侑「え!? 千歌さんの実家……!?」

せつ菜「はい! 千歌さんのお家は温泉旅館を営んでいるんですよ!」

侑「そうなの……!?」

せつ菜「ただ、素敵な旅館はたくさんあるので、それ以外の場所を探すのもありだと思いますが──」

侑「うぅん! そこ! 絶対そこに泊まりたい! いいよね、歩夢!?」

歩夢「ふふ、いいよ♪ じゃあ、せつ菜ちゃん、そこに案内してもらってもいい?」

せつ菜「はい、お任せください! こちらです!」


私たちは、せつ菜ちゃんに案内される形で、千歌さんのご実家の旅館目指して歩き始めた。






601 ◆tdNJrUZxQg2022/11/28(月) 12:16:22.819EuEq8f90 (5/19)


    🎹    🎹    🎹





侑「──ここが千歌さんの育った家なんだぁ……」
 「ブイ」


訪れた旅館は、木造の大きな旅館だった。


せつ菜「チャンピオンのご実家というだけあって、ウラノホシの旅館の中でも人気なんですよ」

リナ『なら、なくなる前に部屋を確保しないとだね』 || ╹ ◡ ╹ ||

せつ菜「ですね。侑さん、歩夢さん、中に入りましょう」

歩夢「はーい」

侑「う、うん」


ちょっと緊張する。


引き戸を開けて、中に入ると──外観からも見てわかるとおり、和風の造りになっている館内。そして、そんな館内の受付に立っている妙齢の女性が一人。


女性「あら……? せつ菜ちゃん! いらっしゃい♪」

せつ菜「こんにちは、志満さん!」


どうやら、この人は志満さんというらしい。


志満「また泊まりに来てくれたの?」

せつ菜「いえ……私は日帰りなので……。ただ、友達が是非ここに泊まりたいとのことなので、案内していたんです」

志満「あら、そうだったのね。ありがとう、せつ菜ちゃん」


志満さんはせつ菜ちゃんにふわりと笑いかけたあと、


志満「ようこそ、お越しくださいました。旅館トチマンへようこそ」


綺麗なお辞儀と共に私たちを迎えてくれる。


志満「一部屋でよろしいですか?」

侑「は、はい! よろしくお願いします!」

歩夢「お世話になります」

志満「かしこまりました、少々お待ちくださいね」


志満さんは、そう言うと手続きを始める。よかった……部屋、まだ残っていたみたいだ。

そんな中、せつ菜ちゃんが、


せつ菜「こちらの志満さん、千歌さんのお姉さんなんですよ」


と、耳打ちしてくる。


侑「ええっ!? ち、千歌さんの……!?」

志満「あら……? もしかして、千歌ちゃんのファンの子かしら?」

侑「は、ははは、はい!!」

志満「妹のこと、応援してくれて嬉しいわ♪ 千歌ちゃんがいたら、お部屋への案内とかを任せたんだけど……最近、あんまり帰ってこなくて……ごめんなさいね」

侑「い、いえっ!? お構いなくっ!?」



602 ◆tdNJrUZxQg2022/11/28(月) 12:17:19.809EuEq8f90 (6/19)


千歌さんに、案内なんてしてもらったら、申し訳なくて逆にいたたまれなくなっちゃうよ……!?


志満「それでは、こちらに宿泊者のお名前と連絡先をいただけますか?」

侑「は、はーい」


渡された用紙に、必要事項を書いて渡す。


志満「タカサキ・侑ちゃんとウエハラ・歩夢ちゃんね。一緒に泊まるポケモンは4匹ずつの計8匹で大丈夫?」

侑「は、はい!」

志満「かしこまりました。それではお部屋にご案内しますね」

歩夢「はい、お願いします」

侑「よ、よろしくお願いします!」

志満「ふふ、侑ちゃん。あんまり緊張しなくていいのよ。千歌ちゃんはチャンピオンだけど、ここは普通の旅館だから」


私があまりに緊張しているように見えたのか、志満さんがクスリと笑う。


侑「は、はい……」

歩夢「ふふっ♪」


ついでに歩夢にも笑われてしまった。……だってあの千歌さんのお家なんだし……緊張くらいするよ……。


せつ菜「それでは、私は待合ロビーで待っていますので」

侑「あ、うん! 荷物置いたらすぐ戻ってくるね!」

歩夢「ちょっと待っててね、せつ菜ちゃん」


私たちは、志満さんに部屋まで案内してもらう。

その際、


歩夢「侑ちゃん、そういえばさ……」


歩夢が耳打ちをしてくる。


侑「も、もう緊張してないけど……?」

歩夢「えっと……そうじゃなくてね。千歌さんのこと」

侑「千歌さんのこと?」

歩夢「うん。せつ菜ちゃん、千歌さんのこと探してるみたいだけど……千歌さんのいる場所ってコメコの森だよね?」

侑「ああ……」


確かに、しばらくあそこに滞在しているみたいだし、コメコの森のロッジに行けば会える可能性はかなり高い。けど……。


侑「千歌さん、かなり忙しそうだったし……なんか、あんまり大っぴらにあそこにいるよって言わない方がいい感じだったよね……」


詳細はわからないけど……なんか、言えないことが多い仕事をしているっぽかったし……。


歩夢「……だよね。侑ちゃんならそう言うと思った。じゃあ、せつ菜ちゃんに悪いけど……千歌さんのことは内緒にしようね。リナちゃんも」

リナ『了解』 || ╹ ◡ ╹ ||



603 ◆tdNJrUZxQg2022/11/28(月) 12:18:10.829EuEq8f90 (7/19)


なるほど、これの確認がしておきたかったってことね。

まあ、確かにある程度示し合わせておかないと、誰かがぽろっと言っちゃうかもしれないしね。

内緒話をしていると、志満さんがとある部屋の前で足を止める。

どうやら、話している間に部屋に着いたようだった。


志満「こちらがお二人のお部屋です。ごゆっくりお過ごしください」

侑「はい、ありがとうございます」

歩夢「お世話になります」


案内してくれた志満さんにお礼を言うと、志満さんは柔らかく笑ってから、「くつろいでいってね」と言葉を残して、フロントの方へと戻っていった。


侑「それじゃ、私たちも早く荷物置いて、戻ろっか」

歩夢「うん、そうだね」


せつ菜ちゃんをいつまでも待たせちゃいけないからね!





    🎹    🎹    🎹





侑「──じゃあ、せつ菜ちゃんはよくこの町に来るんだ」

せつ菜「はい! 今回でもう何度目かわからないくらいですね!」


せつ菜ちゃん曰く、この町には頻繁に足を運んでいるようだった。

そんな私たちの会話が聞こえたのか、受付カウンターにいる志満さんから「いつもご贔屓にしてくれてありがとうね♪」との声が。

志満さんが千歌さんのお姉さんだと言うのはさっき聞かされたことだけど、千歌さんにはもう一人お姉さんがいるらしく、名前は美渡さん。

千歌さんは三姉妹の末っ子らしく、次女が美渡さんで、長女が志満さんだそうだ。


侑「それにしても……千歌さんにお姉さんが二人もいたなんて……」

歩夢「ふふ♪ 侑ちゃんはトレーナーとしての部分以外には、なかなか興味が向かないところがあるからね」

侑「わ、笑うことないじゃん……」


確かに歩夢が言うとおり、千歌さんのバトルの腕にばかり目が行っていて、家族についてなんて全然考えたことなかったけど……。


せつ菜「確かにポケモントレーナーとしてだと、千歌さんは突出していますよね。ですが、志満さんもコーディネーターとしては有名な方らしいですよ!」

歩夢「コーディネーターって、ポケモンコンテストの?」

せつ菜「はい! なんでも、現コンテストクイーンのことりさんとはライバル関係だったとか」

侑「ことりさんと……!」


私たちにとって馴染み深い名前が出てきて反応してしまう。まさか、千歌さんのお姉さんがことりさんとライバルだったなんて……世間って思ったより狭いんだなぁ……。


侑「そういえば……せつ菜ちゃんがこの町によく来るのって……」

せつ菜「もちろん、千歌さんにお手合わせをお願いするためです! って、言っても……空振りになっちゃうことも多いんですけどね、あはは」

志満「──千歌ちゃん、本当にたまにしか帰ってこないんだもの……」


私たちが会話をしていると、いつの間にか志満さんがお茶を載せたお盆をこちらに運んで来てくれていた。



604 ◆tdNJrUZxQg2022/11/28(月) 12:19:05.589EuEq8f90 (8/19)


志満「よかったら、お茶菓子もどうぞ。ポケモンちゃんたちにも♪」

 「ブイブイ♪」「シャーボ」

歩夢「あ、ありがとうございます」

侑「お、お気遣いなく~……!」

志満「ふふ、お客様なんだから気遣いますよ」


……確かに。


せつ菜「私までいただいてしまっていいんですか……?」

志満「もちろん♪ お得意様ですから♪」

せつ菜「ありがとうございます。お言葉に甘えていただきますね」

志満「ええ。それじゃ、ごゆっくり」


志満さんはまた柔和な笑みを浮かべてから、パタパタと奥の方へと消えていく。


リナ『せつ菜さん、志満さんからすごく気に入られてるんだね!』 || > ◡ < ||

せつ菜「本当に何度も千歌さんを訪ねて来ていますからね。……本人に会えたのは数回ですが……」

リナ『千歌さんに会ってどうするの?』 || ╹ᇫ╹ ||

せつ菜「それはもちろん、バトルです! 千歌さんはお優しい方なので、チャンピオンでありながら、野良試合をほとんど断らないことでも有名なんですよ」

侑「そうなんだ……!」


じゃあ、私も千歌さんが帰ってくるのを待っていたら、バトルしてもらえたのかな? ……って、言っても今の私じゃ、全然歯が立たないだろうけど。


せつ菜「もちろん、公式戦ではないので、それで千歌さんに勝ってもチャンピオンの称号などは貰えませんが……。……と言っても、勝てたことはないんですけどね」


せつ菜ちゃんは自嘲気味に言う。


侑「で、でも……! せつ菜ちゃんは千歌さんに負けないくらい強いトレーナーだと私は思ってるよ……!」

せつ菜「ありがとうございます、侑さん。……ですが、千歌さんと実際に戦ってみるとわかるんです。私はまだまだだなと……。……もちろん、いつかは超えたいと思っていますが……!」

リナ『どうして、そこまで千歌さんに拘るの?』 || ╹ᇫ╹ ||

せつ菜「それはもちろん──チャンピオンを目指しているからです!」


リナちゃんの言葉に迷いなく答えるせつ菜ちゃん。


侑「かっこいい……!」


堂々と言い切るせつ菜ちゃんに思わずときめいてしまう。

うん、そうなんだよ……! 実力ももちろんだけど、この堂々とした言動、立ち振る舞いがせつ菜ちゃんの魅力なんだ……!


歩夢「それじゃ、こうして千歌さんを何度も訪ねてるのは……」


歩夢が、サスケとイーブイに貰ったお菓子を食べさせてあげながら、せつ菜ちゃんに訊ねると、


せつ菜「はい。少しでも……彼女の強さに迫るためです」


せつ菜ちゃんは力強く頷きながら、そう答える。


せつ菜「私は……強くならなきゃいけないんです。強くなって、証明したい」

侑「証明……?」



605 ◆tdNJrUZxQg2022/11/28(月) 12:19:56.619EuEq8f90 (9/19)


──証明。その言葉に首を傾げる。どういう意味だろうか。


せつ菜「あ、すみません。これだけ言われても、何を証明したいのか、よくわからないですよね。えっとですね……」


せつ菜ちゃんはそう言いながら、何故か浮遊するリナちゃんに視線を向ける。


リナ『?』 || ╹ _ ╹ ||

せつ菜「……歴代のチャンピオンと言われる人には共通点があるんです」

歩夢「共通点?」

せつ菜「はい。このオトノキ地方の歴代チャンピオンは──全員がポケモン図鑑の所有者なんです」


それは初耳だ。


侑「そうなの……?」


思わず、私もリナちゃんの方を見て確認してしまう。

すると、


リナ『確かに歴史上、この地方のチャンピオンは最初のパートナーポケモンとポケモン図鑑を貰って旅に出た人しかいないみたいだね』 || ╹ᇫ╹ ||


との回答が返ってくる。せつ菜ちゃんの言う共通点というのは、事実らしい。


せつ菜「もちろん、それをずるいとは思いませんし、ポケモン図鑑やパートナーポケモンの有無が、トレーナーの強さに直結するとも思いません。実際に図鑑とパートナーを貰って旅に出るトレーナーはそれ相応の才能を認められて選ばれるものですから」

リナ『図鑑を貰う人はそもそも強くなる素質を認められて選ばれることも少なくないからね。図鑑所有者がチャンピオンになるのは、ある意味道理なのかも』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

せつ菜「そうですね。……ですが、この地方にはたくさんのトレーナーがいます。その誰も彼もがポケモン図鑑と最初のパートナーを手にするチャンスがあるわけではありません」


せつ菜ちゃんは、一息吸ってから、


せつ菜「だから私は……そんなポケモン図鑑や最初のパートナーを持つ資格を得られなかった人間でも、最強の称号を手に入れられるんだと……証明したい」


そう言葉にする。はっきりと。

……ただ、その余韻のように、


せつ菜「──……そうじゃないと……私は……存在出来ないから……」


消え入るような声で、せつ菜ちゃんはそう漏らした。


侑「……え?」

せつ菜「……あ、す、すみません! 最後のは無しで……!」

侑「えっと……」


少し動揺してしまう。存在出来ないって……。


せつ菜「それくらい、私にとって強くなることは、重要だということですよ!」

リナ『それがせつ菜さんの、レゾンデートルなんだね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「レゾン……?」

歩夢「存在理由って意味だよ、侑ちゃん」

侑「なるほど」



606 ◆tdNJrUZxQg2022/11/28(月) 12:20:29.989EuEq8f90 (10/19)


それくらい、せつ菜ちゃんは強くなることにひたむきなんだ……。

そのひたむきさに胸を打たれたからか、


侑「きっと……なれるよ、チャンピオン……!」


私は自然とそう口にしていた。


せつ菜「侑さん……」

侑「わ、私が言っても……生意気に聞こえるかもしれないけど……」

せつ菜「いえ……嬉しいです! 応援してくれる侑さんのためにも、何が何でもチャンピオンにならなくてはなりませんね!」


せつ菜ちゃんはそう言いながら立ち上がって、


せつ菜「そうとなったら、もっと鍛えなくてはいけませんね……!! なんだか、やる気が湧いてきました……!!」


嬉しそうに笑う。

よかった。少しでもせつ菜ちゃんの背中を押せたんだったら、嬉しいな。


せつ菜「この気持ちがあるうちにもうひとっ走り……! と、行きたいところですが……」


せつ菜ちゃんが壁掛け時計の方に目を向ける。釣られて私も時間を確認すると──もう夕方と言っても差し支えない時刻になっていた。


せつ菜「名残惜しいですが……私はそろそろ、帰らないといけませんね……」

侑「もう、こんな時間……」

歩夢「ふふ、侑ちゃん、夢中でお話ししてたもんね」

せつ菜「あ……す、すみません、バトルのお話しばかりで……歩夢さん、退屈ではありませんでしたか?」

歩夢「うぅん! 全然退屈なんかじゃなかったよ! 私もせつ菜ちゃんのバトルのお話、聞いてみたかったから」

侑「歩夢も、あれからバトルをするようになったし、強くなったんだよ! ね?」

歩夢「そ、そんなに言うほどじゃないけど……うん、今はバトルの魅力もわかってきたと思う」

せつ菜「そうですか……! それはいいことですね! ……では、いつか歩夢さんとも、バトル出来る日が来るということですね!」

歩夢「え、えぇ……!? せ、せつ菜ちゃんとバトル出来るくらいになるまでだと……すっごい時間掛かっちゃうかも……」

せつ菜「大丈夫です! 歩夢さんが強くなるまで、チャンピオンとして待っていますから! もちろん、侑さんのこともですよ!」

リナ『まだチャンピオンになってないのに気が早い』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

せつ菜「ふふ♪ そうですね♪」

侑「あはは♪」

歩夢「ふふ♪」


思わず3人で顔を見合わせて笑ってしまう。


せつ菜「いつか──最高の舞台でお会いしましょう!」


せつ菜ちゃんはそう言って、最高の笑顔を見せてくれるのだった。






607 ◆tdNJrUZxQg2022/11/28(月) 12:21:07.069EuEq8f90 (11/19)


    🎹    🎹    🎹





せつ菜「──お見送り、ありがとうございます」

侑「もっと話したかったなぁ……」
 「ブイ」

せつ菜「ふふ、きっとまたどこかで会えますよ」

侑「……うん。そうだね!」


こうしてウラノホシタウンで会えたんだから、またどこかで偶然会うこともあるよね!


歩夢「もう日も落ちちゃったね……暗いから気を付けて帰ってね」

せつ菜「お気遣いありがとうございます。ですが、帰りは“そらをとぶ”でひとっとびなので、ご安心を!」


せつ菜ちゃんはそう言いながら、ボールからポケモンを外に出す。


 「ムドー!!」

侑「わぁ! せつ菜ちゃんのエアームド!」

せつ菜「さすが侑さん、ご存じでしたか」

侑「うん! 攻守隙の無いせつ菜ちゃんのエアームド……大好きなんだ……!」

せつ菜「ふふ、ありがとうございます。エアームド、褒められていますよ」
 「ムド」


せつ菜ちゃんの言葉を聞いて、エアームドはペコリとお辞儀をする。


侑「礼儀正しい……!」

せつ菜「ふふ、頭のいい子なので」

歩夢「……あ、そうだ!」

せつ菜「?」


歩夢は何かを思い出したらしく、バッグの中から、紙と袋を取り出す。


歩夢「これ、せつ菜ちゃんに」

せつ菜「これは……?」


せつ菜ちゃんが紙を開く。



608 ◆tdNJrUZxQg2022/11/28(月) 12:21:53.679EuEq8f90 (12/19)


せつ菜「『ウインディ:からいポフィン(赤)』『スターミー:あまいポフィン(桃)』……これは……メモ、ですか?」

歩夢「うん♪ 私が作ったポケモンのお菓子だよ! せつ菜ちゃんのポケモンの好みに合わせて作ってあるから!」

せつ菜「え? 私の手持ちの好みにですか……?」

歩夢「うん! 前にせつ菜ちゃんが試合で出してた5匹しかわからなかったけど……」

せつ菜「バトルを見ただけで私の手持ちの好みがわかったんですか……?」

歩夢「? うん。好きな色の“ポフィン”がメモに書いてあるから、そのとおりに食べさせてあげてね!」

せつ菜「わかりました! ありがとうございます!」

歩夢「絶対メモのとおりにあげてね」

せつ菜「? はい!」

歩夢「人が作ったものを勝手にアレンジとかしちゃだめだよ? 絶対に、書かれたとおりに、食べさせてあげてね」

せつ菜「は、はい……な、なんだか、ちょっと圧が強いですけど……承知しました!」

歩夢「うん」

リナ『歩夢さん。きっと、ウインディたちも泣いて喜ぶ』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ;||

侑「?」


いつになく歩夢がぐいぐい行ってるけど……そんなに会心の出来だったのかな?

まあ、せっかく作ったのなら、好きな味のものを食べて欲しいもんね。


せつ菜「さて……」


せつ菜ちゃんがエアームドの背に飛び乗る。


せつ菜「またどこかでお会いしましょう!」

侑「うん! またね! せつ菜ちゃん!」
 「ブイブイ!!」

歩夢「案内してくれてありがとう!」

リナ『次会えるとき、楽しみにしてる』 || ╹ ◡ ╹ ||

せつ菜「はい! それでは──エアームド、行きますよ!」
 「ムドーー!!!」


エアームドが鋼鉄の翼を羽ばたかせ、一気に飛翔する。


侑「ばいばーい!」

歩夢「またねー!」


手を振って見送る中、暗闇を切り裂く鋼の翼は、ぐんぐんと遠ざかり──すぐに見えなくなった。


侑「やっぱせつ菜ちゃんのエアームド、速いなぁ……」

リナ『すごくよく育てられてる証拠』 || ╹ ◡ ╹ ||


やっぱり、せつ菜ちゃんとそのポケモンたちはすごいんだって、感じちゃうなぁ。

そんなせつ菜ちゃんに追い付けるように。


侑「よし、私も頑張るぞ……!」


一人気合いを入れる。


歩夢「ふふ♪」



609 ◆tdNJrUZxQg2022/11/28(月) 12:22:36.529EuEq8f90 (13/19)


そんな私を見て、歩夢が微笑ましそうに笑う。

ふいに──潮の香りを孕んだ、夜風が吹き抜ける。


歩夢「……風、気持ちいいね」

侑「うん、そうだね」


これだけ自然豊かだからだろうか。空気がおいしくて、こうした何気ない風も、心地がいい。

旅館に戻る前に、もう少し外の空気を感じていたいなと思った。

どうやら、歩夢も同じことを考えていたらしく、


歩夢「侑ちゃん、少し……歩かない?」

侑「うん、そうだね」


私たちは少しだけ、夜道を散歩をすることにした。





    🎹    🎹    🎹





 「──ブイ、ブイ」

侑「イーブイー! あんま遠く行っちゃダメだよー!」


夜の砂浜を無邪気に駆け出すイーブイに声を掛けながら、私は歩夢とのんびり砂を踏みしめる。


歩夢「夜の海って……綺麗だね」

侑「そうだね……」


夜の水面は、昼のような澄んだ青さこそないものの──真っ暗な境界面に星や月の光を反射して、まるでもう一つ夜空がそこにあるかのような、幻想的な風景を作り出している。

きっと、こんな景色も……旅に出なかったら、見ることはなかったんだ。


侑「歩夢」

歩夢「なぁに?」

侑「私と旅に出てくれて、ありがとう」

歩夢「ふふ。どうしたの、急に?」

侑「歩夢が居てくれたから、私はこうして旅が出来てるんだって思ったら……お礼言いたくなっちゃった」

歩夢「もう……お礼を言いたいのはそれこそ私の方だよ。一緒に旅してくれてありがとう、侑ちゃん」

侑「……あはは♪」

歩夢「うふふ♪」


お互いお礼を言い合っているのがなんだか可笑しくって、今度は二人で顔を見合わせて笑ってしまう。


リナ『二人だけ、ずるい』 ||,,╹ᨓ╹,,||

侑「もちろん、リナちゃんも! いつもありがとう!」

歩夢「リナちゃんがいっぱいサポートしてくれるから、楽しい冒険が出来てるよ♪」

リナ『うん!』 ||,,> ◡ <,,||


セキレイから始まって、ダリア、コメコ、ホシゾラ、ウチウラ……そしてウラノホシと進んできた。



610 ◆tdNJrUZxQg2022/11/28(月) 12:23:21.079EuEq8f90 (14/19)


侑「ここまで……いろんなものを見てきたね」

歩夢「うん。短い間にいろいろあったね」

侑「力を合わせて進んだり……」

歩夢「ケンカもしちゃったね」

侑「そうだね……」

歩夢「でも……今になってみたら、ああやってケンカして、思ってることを言い合えたから、もっと侑ちゃんのこと、理解出来た気がする」


そう言いながら、歩夢は私の手を握ってくる。

だから、私も歩夢の手を握り返す。


歩夢「侑ちゃんと一緒に旅に出られて……よかった」

侑「歩夢……」


なんだか、胸があたたかかった。

空は暗闇の中に浮かぶ星と月だけで、お日様はとっくに沈んでしまっているのに、歩夢の言葉を聞いていると、ぽかぽかとお日様に照らされているような、あたたかさを感じる。


侑「……歩夢はお日様みたいだね」

歩夢「え?」

侑「いつも私の心を、あったかい太陽みたいに照らしてくれる」

歩夢「ええ……? それなら、太陽は侑ちゃんの方だよ! 侑ちゃんの隣にいると、すっごくあったかいもん……侑ちゃんの手も……」

侑「歩夢の手の方があったかいよ。だから、やっぱり太陽は歩夢の方だよ」

歩夢「えー? 侑ちゃんの方があったかいよ」

侑「歩夢の方があったかい」

歩夢「侑ちゃんの方が……」

侑「……っぷ」

歩夢「……ふふ♪」


言い合っているのが可笑しくて、また二人で笑ってしまう。


侑「じゃあ、二人とも、お互いがお互いの太陽ってことで!」

歩夢「ふふ、そうだね♪」


ああ、なんか……いいな、こういう時間。


侑「私……この旅、ずっと続けてたいな」

歩夢「ふふ、そうだね」

リナ『まだまだ、この地方は行ってない場所の方が多い。まだまだ、旅は終わらないよ』 ||,,> ◡ <,,||

侑「……旅を名残惜しむにはまだ早いか」


バッジもまだ半分も集まってないしね。旅はこれからだ……!

漣の音を聴きながら、胸中で決意をしていると、ふと──


侑「……? 何……?」

歩夢「侑ちゃん?」

侑「……何か……聞こえる……?」



611 ◆tdNJrUZxQg2022/11/28(月) 12:24:06.589EuEq8f90 (15/19)


──海の方から、何かが呼んでいる気がした。

その声に引き寄せられるように、波打ち際に視線を向けると──


侑「え……?」


それは、落ちていた。

波打ち際に、ぽつんと。

角の取れた、丸石のような、でも、それは石じゃなくて──


歩夢「侑ちゃん、これって……」

侑「──ポケモンの……タマゴだ……」


そこにあったのは──ポケモンのタマゴだった。





    🎹    🎹    🎹





あの後、旅館に戻って、志満さんにタマゴの落とし物があったこと、探している人がいないかを訊ねたけど、


志満「──……少なくとも、この旅館には心当たりのいる人はいなかったわ……」


宿泊客に確認を取ってくれた志満さんからは、そんな回答が返ってきた。

この旅館の前の浜辺で拾ったから、誰か知っている人がいないかなと思ったんだけど……。


美渡「志満姉~、役場にも確認してみたけど、タマゴの落とし物探してるみたいな届け出はなかったよ~」


そんな風に志満さんに報告をしているのは、先ほど話に聞いた、千歌さんのもう一人のお姉さんの美渡さんだ。


志満「ありがとう美渡。……っていうことで、私たちにはそのタマゴのことはちょっとわからないわね……」

侑「そうですか……ありがとうございます」

歩夢「どうしようか、そのタマゴ……」

侑「う~ん……」


誰か落とした人がいるならその人に返したいけど……。


美渡「誰も持ち主が居ないなら、貰っちゃってもいいんじゃないかな?」

侑「え、でも……」

美渡「もしかしたら、誰かの捨てたタマゴとかなのかもしれないし……」

志満「こら、美渡! 滅多なこと言わないの!」

リナ『……でも確かに、その可能性はある。強いポケモンを厳選する人の中には余らせたタマゴを捨てちゃう人もいないわけじゃない』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「タマゴって……ポケモンみたいに“おや”はわからないの?」

リナ『タマゴは生まれたときに、一番近くにいた人が“おや”になる。だから、まだ“おや”と呼ばれる人間は決まってない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

美渡「それに、タマゴは元気なトレーナーと一緒にいないと、孵化しないって言うしさ……警察とかに届けて持ち主が現れるのを待つのもありだけど……その間ずーっとタマゴのまま待ち続けるのも、気の毒だなって思うし」

志満「それはまあ……そうねぇ……」

侑「うーん……」



612 ◆tdNJrUZxQg2022/11/28(月) 12:24:43.309EuEq8f90 (16/19)


……普通に考えたら、もともとタマゴを持っていた人が居て、なんらかの理由で落としちゃったとかな気がするけど、


侑「…………」


私は何故か……理由はうまく説明できないけど、このタマゴはそういうものではない気がした。

このタマゴは──私を呼んでいた気がする。

少し考えたけど、


侑「……わかりました。私、このタマゴ、育ててみます」


……私はこのタマゴを、受け取ることにした。


歩夢「侑ちゃん、いいの……?」

侑「うん。もし、持ち主を探すにしても……タマゴのままじゃ、他のタマゴと見分けも付かないし……生まれてきたポケモンを見てから探した方がいいだろうしさ」


仮に落とし主がいるんだとしても、生まれてきたポケモンの種類を見れば、タマゴのままの状態よりは探す手がかりも見つけやすいだろうしね……。


美渡「うん、そうしな。一応、タマゴを探してるみたいな人が居たら、連絡はしてあげるからさ」

侑「はい、ありがとうございます」

志満「侑ちゃんたちがそれでいいなら、私はいいんだけど……」


こうして私たちは、ウラノホシの町でせつ菜ちゃんと出会い、そして……ふしぎなタマゴを拾うことになった。

……一体、このタマゴ……どんなポケモンが生まれてくるんだろう……?






613 ◆tdNJrUZxQg2022/11/28(月) 12:25:17.679EuEq8f90 (17/19)


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウラノホシタウン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o●/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.36 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.32 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.31 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.25 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:105匹 捕まえた数:4匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.33 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.27 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.27 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.22 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:132匹 捕まえた数:14匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.






614 ◆tdNJrUZxQg2022/11/28(月) 23:37:08.989EuEq8f90 (18/19)


 ■Intermission🎹



──暗い部屋にいた。


 「んー? 今日の──は甘えん坊だなぁ~」

 「…………」

 「じゃあ、──が寝るまで、ぎゅーってしててあげるね」

 「うん……」


なんだか……幸せな光景を見ている気がした。

私も嬉しかった。


 「……私は──突き止めなくちゃいけない……。お父さんとお母さんの理論を、研究を、完成させないといけない……」


そうじゃないと──お父さんとお母さんが……報われないから……。

そんな声が……頭の中でぼんやりと木霊していた……。



 「ニャァ…」



──
────
──────



615 ◆tdNJrUZxQg2022/11/28(月) 23:37:48.729EuEq8f90 (19/19)


侑「……んぅ…………」


ぼんやりと目を開ける。


侑「…………」


また、変な夢を見た……なんなんだろ……。

……まあ、夢に意味を求めてもしょうがないんだけどさ。

頭を掻きながら、枕元を見ると、


 「ニャァ……zzz」


ニャスパーが眠っていた。


リナ『侑さん、おはよう』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「おはよう……リナちゃん」

リナ『今日は朝一でメールが届いてたよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「メール?」

リナ『凛さんから』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「! 凛さんからってことは……!」

リナ『うん! ジム戦の日取りが決まったみたい! 明日ホシゾラジムで待ってるって!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「明日……!」


ついに、再戦の時が来たということだ。

ホシゾラまでは1日もあれば十分戻れるから、今日は移動になるだろう。


歩夢「……んぅ……侑ちゃん……?」


リナちゃんと話していると、隣の布団で寝ていた歩夢も、目を覚ましたようだ。


侑「あ、おはよ、歩夢。ジムの再戦の日取り、決まったよ!」

歩夢「え、本当に!?」

侑「うん! 明日、ホシゾラジムで待ってるって! 急いで戻らないとだね」

歩夢「うん!」


変な夢のこともすっかり忘れて、私は朝から、ジムへの闘志で心を燃やすのだった。


………………
…………
……
🎹




616 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 13:03:18.53ULDkry570 (1/23)


■Chapter032 『ジグザグジグザグドッグラン?』 【SIDE Kasumi】





──朝。コメコの森のロッジ。


しずく「それでは、行ってまいります」

かすみ「お世話になりました! 彼方先輩! ご飯すっごくおいしかったです!」


私はしず子と一緒に、お世話になった彼方先輩たちへお礼交じりに挨拶をする。


彼方「ふふ、またいつでもおいで~。次も腕によりをかけてご飯作ってあげるから~」

遥「お身体にお気をつけて……」

穂乃果「二人とも、無茶しちゃダメだよ~?」

千歌「何かあったら、いつでも連絡してね!」

しずく「はい、ありがとうございます」


ロッジの皆さんの送り出しの言葉にしず子が深々と頭を下げる。

この短い数日の間に、いろいろあったもんね。

かすみんもそれに倣って、ぺこっとお辞儀します。


かすみ「……さて、それじゃいこっか!」

しずく「うん!」


さぁ、冒険の旅の再開です!





    👑    👑    👑





さて、ロッジを颯爽と旅立った、かすみんたちが次に向かう先は──


かすみ「……わぁ~!! 広~い!」


眼前に広がる、広大な草原。

いわゆる都会で育ってきた、かすみんたちからしてみると、こんなに広い草原はほとんど見たことがない。

そんなここは──コメコシティとダリアシティを繋ぐ4番道路。通称『ドッグラン』です!

これだけ広々としていると、かすみんも開放的な気持ちになっちゃいますね!

ただ、そんなかすみんよりも、


しずく「──見て見てかすみさん!! ヨーテリーとハーデリアの群れだよ! あ! あっちにはガーディ!」


しず子は、さらにテンションが高かった。目をキラキラさせながら、かすみんの腕をぐいぐい引っ張ってくる。


かすみ「し、しず子~そんなに引っ張らないでよ~」

しずく「あそこでボールを追いかけてるのは、ワンパチだよ! ワンパチはね、“たまひろい”って特性で、ボールで遊ぶのが大好きなんだよ! ……私もボールを投げたら、取ってきてくれるかな」


聞いてないし……。言うまでもなく、普段しず子のテンションがここまで高くなることはそんなにない。

ただ、理由ははっきりしています。



617 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 13:04:12.50ULDkry570 (2/23)


かすみ「しず子ってホントに犬ポケモン好きだよね」

しずく「うん! だって、あんなに可愛いんだよ!? 誰だって大好きだよ!」


しず子は筋金入りの犬ポケモン大好きっ子なんです。


 「イヌヌワンッ!!」
しずく「見て見てかすみさん! ワンパチがボール拾ってきてくれたよ!」

かすみ「うんうん、よかったね、しず子」


何はともあれ、しず子が楽しそうで何よりです。

大丈夫だとは言われているけど、しず子は病み上がり。

かすみん、これでも結構気を付けて見ていたんですけど……これだけ元気なら本当に大丈夫そうですね。


しずく「ほーら、とっておいでー♪」
 「イヌヌワンッ!!」


しず子が再びボールを放り投げると、ワンパチがそれに向かって駆け出す。

……野生ポケモンなのに、ここまで野生を忘れていると、ちょっと心配になりますね。

ボールを追いかけるワンパチを目で追いかけていると──そのワンパチの目指す場所に人影があることに気付く。


かすみ「あれ? あの人って……」


その人影には見覚えがあった。

青みがかった黒髪をウルフカットにしている、女性の後ろ姿──


しずく「!? も、もしかして──果林さんじゃないですか!?」

果林「?」


しず子の声に気付いて、果林先輩が振り返る。


果林「あら、貴方たちは……」


かすみんたちの姿を認め、こちらに近付いてくる。


果林「一週間振りくらいかしら? 確か……しずくちゃん、だったわよね?」

しずく「はい! 名前、覚えていてくださったんですね! でも、どうして果林さんがここに……お仕事ですか?」

果林「今日はオフよ」

かすみ「じゃあ、なんでこんなところに……?」

果林「こんなところなんて言ったら、コメコの人に怒られるわよ。えっと……貴方は……」

かすみ「かすみんは、かすみんです!」

果林「かすみんちゃん……? 変わった名前ね……?」

かすみ「かすみんちゃんじゃなくて、かすみんはかすみん──」

しずく「えっと、ごめんなさい! この子はかすみさんって言うんです!」

果林「ああ、なるほど……そういうことね」


果林先輩は納得したように、片手を顎に当てて、小さく頷いて見せた。


かすみ「それで、どうして果林先輩はドッグランにいるんですか?」

果林「ああ、えっとね……ちょっと友達と待ち合わせしてるところで……」



618 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 13:04:46.27ULDkry570 (3/23)


果林先輩が言いかけた矢先、


 「──果林ちゃ~ん!」


彼女の名前を呼びながら、コメコ方面から駆け寄ってくる女の人の姿。


果林「ああ、言ってる傍から来たみたい」

エマ「──おはよう、果林ちゃん!」

果林「おはようエマ」

エマ「ごめんね、待たせちゃったみたいで……」

果林「大丈夫よ、私もさっき着いたところだから」


赤毛を三つ編みおさげにしている青い目の女の人──果林先輩が待っていたこの人は、エマ先輩というらしい。


エマ「えっとあなたたちは……果林ちゃんのお友達?」

果林「前、コンテスト会場で見に来てくれた子たちよ」

エマ「あ、もしかして果林ちゃんのファンの子ってことかな?」

しずく「は、はい!」

かすみ「まあ、かすみんはそいうわけじゃ……」

しずく「か、かすみさん……! 本人の前でそんなこと……!」

果林「別にいいわよ。そんな気を遣わなくても」


慌てるしず子とは裏腹に、当人は涼しい顔をしている。なんか随分サバサバしてる人ですねぇ……。


エマ「コンテストってことは、フソウからここまで……? でも、この辺りでは見たことないし……もしかして旅人さん?」

しずく「あ、はい」

かすみ「何を隠そうかすみんたちは──ポケモン図鑑と最初のポケモンを貰って旅に出た、選ばれしトレーナーなんですよ~」


かすみんは胸を張って自慢します。ポケモン図鑑の所有者に選ばれたトレーナーなんて、どこにでもいるわけじゃないですからね!

さぞ珍しがって、敬って貰えるかと思ったんですが、


エマ「あ! もしかして、歩夢ちゃんと侑ちゃんのお友達なのかな!?」


全然珍しがって貰えていませんでした。


しずく「侑先輩たちをご存じなんですか!?」

エマ「うん! 二人もちょっと前にコメコに来たんだよ!」


……考えてみれば、侑先輩たちはかすみんたちと逆回りでホシゾラシティまで辿り着いていたわけですから、コメコに知り合いが居てもおかしくないですね……。


エマ「わたしはエマ、よろしくね♪」

かすみ「あ、えっとかすみんは──」

しずく「こちらはかすみさんです。私はしずくと言います」

かすみ「ちょっとぉ!! 人の自己紹介、邪魔しないでよぉ!!」

しずく「だって、どうせ私が訂正する羽目になるし……」

かすみ「むー……」

エマ「かすみちゃんとしずくちゃんだね♪」



619 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 13:05:33.63ULDkry570 (4/23)


嬉しそうに笑いながら握手を求めてくるエマ先輩。

果林先輩とは真逆で、フレンドリーな人ですね~。

一方で、件の果林先輩は、


果林「……へー……貴方たちが、図鑑所有者……」


かすみんたちのことをジロジロと観察していた。


かすみ「ちょ……な、なんですか……」

果林「あら、ごめんなさい……図鑑所有者と聞いて、少し興味が湧いちゃって」

かすみ「……へー、果林先輩もそういうの気になるんですね。いいですよいいですよ! 好きなだけかすみんを見てください!」


注目されているって言うなら満更でもない。かすみんは思わず得意になって、胸を張ってしまいます。


果林「しずくちゃん、貴方、図鑑所有者だったのね……」

しずく「え、あ、は、はい……///」

かすみ「もう、こっち見てない!?」


なんなんですか、期待させておいて……! ぐぬぬ……!

このかすみんを適当にスルーした癖に、果林先輩は、


果林「……」

しずく「あ、あの……果林さん……ち、近くないですか……?///」


しず子の顔を覗き込むようにして、じっくりと観察している。


果林「……ふふ、そう」

しずく「か、果林さん……?///」


果林先輩は一人で勝手に納得したように笑う。


果林「良い目になったわね、しずくちゃん」

しずく「そ、そうですか……?」

果林「ええ。……真の美を理解したような目になったわ」

しずく「し、真の美……ですか……?」


果林先輩の言葉にきょとんとするしず子。

……ってか、


かすみ「ホントに近いですよ!! 近すぎます!! 離れて離れて!!」


なんかちゃっかり、しず子の顎に手を添えて、顔を覗き込んでるし!

二人の間に割って入るようにして、引きはがす。


果林「あら、ごめんなさい」

しずく「……///」

かすみ「しず子も何、満更でもなさそうな顔してんの!」

しずく「だ、だって……///」


しず子にとっては憧れの人みたいだし……わからなくはないけどさぁ。



620 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 13:06:24.15ULDkry570 (5/23)


エマ「ところで、二人はこれからドッグランを抜けてダリアに行こうとしてるのかな?」

しずく「あ、はい。そのつもりです」

エマ「だったら、ちょっと気を付けた方がいいかも……」

かすみ「気を付ける? 何をですか?」

果林「今ドッグランは、野生ポケモンの縄張りがちょっと不安定らしいわよ」

かすみ「縄張りが不安定……?」

エマ「もともと犬ポケモンって、それぞれしっかりとした縄張りを持ってて、お互いがそれに干渉しないようにしてることが多いんだけど……最近ラクライの群れの縄張りが不安定みたいで……」

果林「それで、一旦それを落ち着かせるために、エマが駆り出されたってわけ。私はその手伝い」


果林先輩はそう言いながら、腕を組んで肩を竦める。

まさにそのとき、遠方の雲がピカっと光る。


かすみ「あれ、雷ですか……?」


かすみんがそう訊ねる頃に──ゴロゴロと音が聞こえてくる。


しずく「……2~3kmくらい先ですね」

エマ「うん。今はあの辺りにいるみたいだね」


しず子の言葉にエマ先輩が頷いた。


かすみ「なんで、わかるの……?」

しずく「光は音より速いから、秒数を数えればなんとなくの距離がわかるんだよ」

かすみ「……ふーん……?」


なんかよくわからないけど、そうらしい。


果林「場所がわかったのはいいけど……こんなこと、わざわざエマがどうにかするようなことなのかしら……?」

エマ「あのね、ドッグランはコメコの人が昔から管理してきた場所なんだよ。だから、コメコの一員として、ドッグランの平和を守るのも私の仕事だよ!」

果林「そう……まあ、エマがそれでいいならいいけど」

エマ「それにラクライ以外にも、変な子が紛れちゃってるらしいし……そっちの対策もしないと……」

かすみ「変な子?」

エマ「えっとね……最近ドッグランにもともといなかったポケモンを間違って逃がしちゃった人がいるらしくって……」

しずく「確かドッグランは保護区域だから……特定の種類のポケモン以外は逃がしちゃいけなかったはずですよね」

かすみ「ええ? じゃあ、犬ポケモンたちの中に猫ポケモンが紛れちゃってるみたいな……?」

エマ「確認されてる子は一応犬ポケモンなんだけど……もともとここにはいない犬ポケモンだったの。だから、間違えちゃっただけだと思うんだけど……」

果林「だから、そういう本来いない種類の子たちを捕まえるのも、コメコの人たちの仕事の一つらしいわ」

かすみ「へー……そうなんですね」

エマ「そういうことだから、二人とも、ここを抜けるなら気を付けてね」

しずく「はい、ありがとうございます」


この場所を維持するのも大変なんですねぇ……。


果林「それじゃ、早く終わらせちゃいたいし、私たちも行きましょ、エマ」

エマ「うん、そうだね! それじゃあね、二人とも」



621 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 13:07:00.57ULDkry570 (6/23)


エマ先輩が手をふりふりしながら、ドッグランを奥の方へと歩き出す。

そして、その後に付いていくように果林先輩も、歩き出しながら──振り返る。


果林「……それじゃあ、またどこかで会いましょう」


果林先輩は最後にそう残してから、エマ先輩と行ってしまった。


しずく「また、どこかで……えへへ……」

かすみ「ちょっとしず子、何ニヤニヤしてんの」

しずく「べ、別にニヤニヤなんかしてないもん……」


しず子がぷくっと頬を膨らませる。

全く、こんなに可愛いかすみんが傍にいるのに、ちょ~っと果林先輩がリップサービスしただけで、チョロチョロなんですから……。





    👑    👑    👑





果林先輩たちと別れたあと、かすみんたちはのんびりとドッグランを進んでいるところです。


 「──クマァ♪」
かすみ「わぁ♪ ジグザグマ、また拾ってきたんですね、偉いですよ~♪」

しずく「今日はたくさん拾ってきてるね?」

かすみ「平原が広がってるから、見つけやすいのかな?」


この穏やかでだだっ広い場所だからか、今日はジグザグマの“ものひろい”が絶好調です。


かすみ「この調子でたくさん集めようね~♪」
 「クマァ♪」


ジグザグマから受け取った“げんきのかけら”をバッグに押し込む。


しずく「まだ集めるの……? もうかすみさんのバッグ、パンパンだけど……」

かすみ「手に入れられるものは手に入れておいて損はないの!」

しずく「でも、そこまでパンパンだと逆に物が取り出しづらくない? 少し間引いた方が……」

かすみ「ダメ! せっかく、ジグザグマがかすみんのために拾ってきてくれたものなんだから、全部かすみんが使うの! それに『備えあれば嬉しいな』って言うでしょ!」

しずく「それを言うなら『備えあれば憂いなし』ね……。あと『過ぎたるは及ばざるが如し』って言葉もあるんだけど……」

かすみ「ふーんだ、そんなこと言うしず子には、後で必要になっても分けてあげないんだから」


口うるさいしず子に言い返しながら、バッグを背負おうとした、その時──かすみんの足元を、猛スピードで何かが通り過ぎた。


かすみ「わっ!?」


急なことに驚いて、足がもつれる。そしてその拍子に、重いバッグが重力に引っ張られて、かすみんは後ろ向きにひっくり返る。


しずく「か、かすみさん!? もう、言わんこっちゃない……!」

かすみ「いたた……今何かが足元を……」


頭を上げて、何かが通り過ぎて行った方向に目を向けると──白と黒の縞模様をした細長いポケモンが、長い舌を見せながらこっちを見つめていた。



622 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 13:08:39.57ULDkry570 (7/23)


かすみ「……何あいつ……?」

しずく「……もしかして、ガラルマッスグマ?」

かすみ「マッスグマって……ジグザグマの進化系だっけ」

しずく「うん、そうなんだけど……あれはガラルの姿で、本来ドッグランには普通の姿のマッスグマしかいなかったはず……」

かすみ「じゃあもしかして、エマ先輩が言ってた変な子って……」

しずく「たぶん、ガラルの姿のマッスグマを逃がしちゃった人がいたってことじゃないかな……」


そんな話をしている間に、マッスグマはかすみんたちに背を向けて、猛スピードで走り去っていく。


かすみ「なんか、ガラルのマッスグマはずいぶんと凶悪な顔をしてるんだね……」

しずく「あくタイプが加わってて、こっちのジグザグマやマッスグマと比べると凶暴だって言うからね……」

かすみ「ふーん……」


それにしても、なんで急にかすみんのこと転ばせてきたんだろう。

それ以上、何か攻撃してくるでもなく、そのまま走って行っちゃったし……。

……まあ、いいや。

かすみんは起き上がって、周囲を伺います。

すると、転んだ拍子にバッグから散らばってしまった、アイテムの数々。


かすみ「……盛大に散らばっちゃった……」


落ちたアイテムを拾おうとした、瞬間──手を伸ばしたアイテムが目の前から掻き消えた。


かすみ「……へ?」


びっくりして顔を上げると──ジグザグマが居た。

でも、かすみんのジグザグマじゃない。

白と黒の──さっきのマッスグマと同じような色をしたジグザグマ。

それも1匹じゃない。2匹、3匹、4匹──いや、10匹はいる。

しかも……全員、今しがたかすみんが落としたアイテムを咥えている。


かすみ「ち、ちょっと! それかすみんのですよ!」

 「グマグマ」「ググマー」「グママ」


かすみんが声をあげると、ジグザグマたちは散り散りになりながら、アイテムを持ち逃げしていく。


かすみ「こ、こらー!? 泥棒ー!?」

しずく「あれ全部ガラルジグザグマ……!? もしかして、さっきのマッスグマの子分……!?」

かすみ「んな……じゃあ、もしかしてかすみんを転ばしたのって……」

しずく「た、たぶん、最初から転んで散らばった“どうぐ”を奪うため……」

かすみ「むっかー……!! 寄ってたかって人の物を奪うなんて、許せません……!!」
 「クマァ」

かすみ「行くよ、ジグザグマ! 絶対取り返してやるんだから!!」
 「クマァ!!」


かすみんは怒り心頭、白黒のジグザグマたちを追いかけて、駆け出します。


しずく「あ、ちょっとかすみさん! 待ってってばー!?」





623 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 13:09:31.83ULDkry570 (8/23)


    👑    👑    👑





かすみ「むむむ……どこに行きやがりましたか~……」

しずく「行きやがったって……まだそんなにたくさんあるんだから、ちょっとくらい良いんじゃない……?」


しず子はかすみんのバッグを見て、そんなことを言う。


かすみ「ダメ! これは、せっかくジグザグマが頑張って拾ってきてくれたものなんだから! それに……」

しずく「それに?」

かすみ「まんまと奪われたままなんて、悔しいじゃん!」

しずく「……はぁ……。わかった……私も取り戻すの手伝うよ」

かすみ「ホントに!? やっぱ、しず子わかってる~!」

しずく「わかってるというか、諦めてるだけだけど……。でも、どうやって探すの? 見失っちゃったけど」

かすみ「それを今考え中なの!」


最初は足跡を追えばいいかなと思っていたんだけど……ジグザグマたちは逃げている間も好き勝手ジグザグに走るせいか、逆に居場所を特定しづらい。


しずく「ジグザグマたち、結構逃げなれてる感じがするね……足跡を大量に作ってるのも、わざと攪乱するためなのかも」

かすみ「姑息な奴らですねぇ……!」


こうなったら、足跡を虱潰しに追うしかない……?

頭を抱えていると、


 「クマ」


かすみんのジグザグマが足跡をくんくんと嗅いだあと、


 「クマ」


とてとてと先に向かって歩き始める。


かすみ「もしかして、においで追える?」
 「クマァ」

かすみ「さすが、かすみんのジグザグマです! あのガラルのジグザグマたち、すぐに追いついてやりますからね!」
 「クマ」


ジグザグに歩きながら、においを追って進むジグザグマを追いかける。

気付けば、徐々に草原エリアから外れて、ちょっとした林のようなエリアに入ろうとしていた。


しずく「……ジグザグに進むからか、進みが遅いね……」

かすみ「ま、まあ……ジグザグマだし……。マッスグマよりも可愛げあっていいじゃん!」

しずく「別に悪いとは言ってないけど……」


確かに探し物をしているときは真っすぐ目的に向かって進んでくれたら嬉しいけど……これが、ジグザグマの可愛いところでもあるわけだし。


しずく「……そういえばさ」

かすみ「なに?」

しずく「かすみさん、ジグザグマの進化、キャンセルしてるよね?」



624 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 13:10:31.64ULDkry570 (9/23)


──進化のキャンセルとは、書いて字のとおり、進化をさせずそのままの姿にしているということです。

自分のポケモンの進化タイミングでポケモン図鑑にあるボタンをぽちっと押すと、進化させない電波が出るらしく、それで進化前の姿を維持できるんです。


しずく「進化させないの?」

かすみ「んー……進化させちゃうと可愛くなくなっちゃうし……」

しずく「そうかな? 私はマッスグマも愛嬌ある顔してると思うけど」

かすみ「うーん……」


マッスグマは見たことあるけど……かすみん的には少しシャープすぎるなぁって思うんですよね。

ただ──なんとなく、しず子の顔を見る。


しずく「……? どうかした?」

かすみ「……なんでもない」


穂乃果先輩に言われたように、かすみんたちはウルトラビーストに襲われる可能性がある。

なら、少しでも進化した方が強くなれるのかな……なんて思うけど……。


かすみ「……やっぱ、今はジグザグマのままでいい」

しずく「そう?」


かすみんはやっぱり可愛いポケモンたちに囲まれていたいんです──まあ、もうすでになんかそれっぽくない手持ちもいる気はしますが……。

もちろん、どうしても進化の必要性を感じたら、進化させることもあるかもしれないけど……それは今じゃない気がする。


しずく「まあ、進化させない方が育ちも速くなるし、かすみさんがそうしたいなら、それでいいと思うよ」

かすみ「うん」


林の中を、結構奥の方へと進んできたと思う。

そんな中、においを嗅いでいるジグザグマの動きに変化があった。


 「クマ…」

しずく「ジグザグマ、さっきから行ったり来たりしてるね……?」

かすみ「ジグザグマ、どうかしたの?」

 「クマ」


ジグザグマは困ったように周囲をキョロキョロとしている。


しずく「においがここで途切れちゃってるのかな……?」

かすみ「えーでも、なんもないし……」


さっきまで順調だったのに、急ににおいが途切れるものなんだろうか。

すると、ジグザグマは、


 「クマ」


地面に鼻をこすりつけながら、そこを掘り返し始める。

すると──黄色いキラキラとした欠片のようなものが顔を出す。



625 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 13:11:18.79ULDkry570 (10/23)


しずく「! “げんきのかけら”……!」

かすみ「もしかしてこれ、かすみんたちの!? やりました! 取り返してやりましたよ!」

しずく「いや待って……なんでこんな場所に埋まってるの」

かすみ「へ?」


考えてみれば……なんでせっかく盗ってきた物を埋めちゃうんでしょうか。

しかも、集めて埋めてるわけでもなくて、これ1個だけ……。


かすみ「まるで見つけてくださいとでも言ってるような……」

しずく「……たぶん、そういうことだよ、かすみさん」


そう言いながら、しず子がかすみんの背中に、自分の背中を合わせてくる。


かすみ「え、なになに? どういうこと?」

しずく「周り……見て」

かすみ「え?」


しず子に言われて気付く。周囲の木々の影に──


 「グマ」「グマァァ…」「ジグザ…」


白黒のジグザグマの姿が見切れていた。

その数、5匹……10匹……いや、


かすみ「な、なんかものすごい数いない……?」


さっきかすみんの道具を持ち逃げしていった子たちの倍以上……20匹以上はいる気がする。


かすみ「か、完全に囲まれてる……もしかして……」

しずく「……私たち……まんまと誘い込まれたみたい」

かすみ「え、ヤバイじゃんそれ!?」


かすみんが声をあげた瞬間、


 「グマッ」「グマァッ!!!!」「グママ!!!」


ジグザグマたちが四方八方から一気に飛び掛かってきた。


かすみ「わぁ!? こっち来た!?」

しずく「く……! 出てきて、キルリア!! マネネ!!」
 「──キル!!」「──マネネッ!!」

しずく「キルリア! “チャームボイス”!!」
 「キル~~♪」

 「グマッ!!?」「グザグザッ!!」「ザグマァッッ!!!」


しず子のキルリアが音波攻撃で飛び掛かってくるジグザグマたちを吹っ飛ばす。


かすみ「し、しず子、どうしよう!?」

しずく「とにかく逃げるしかないよ!! かすみさんもポケモン出して!!」

かすみ「えぇ、盗られたかすみんの“どうぐ”は!?」

しずく「言ってる場合!?」



626 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 13:12:29.50ULDkry570 (11/23)


ちょっと口論している間にも、次のジグザグマたちが飛び掛かってくる。


かすみ「ジ、ジュプトル! “シザークロス”!!」
 「──ジュプトッ!!!」

 「グマッ…!!!?」「グマァッ!?」


ジュプトルを出して、飛び掛かってくるジグザグマを撃ち落とすけど──数が多い。

倒しても倒してもどんどん次が襲い掛かってくる。


かすみ「ぐぬぬ……わかったよ、もう!! 逃げればいいんでしょ!!」

しずく「来た道を戻ろう!! 後ろは任せて! マネネ、“リフレクター”!!」
 「マネッ!!!」


マネネが背後に物理攻撃を防ぐ壁を発生させると、そこにジグザグマたちが衝突して、地面に落ちる。

その隙にかすみんは今来た道を塞ぐように群がっているジグザグマたちに向かって、


かすみ「ジュプトル!! “りゅうのいぶき”!!」
 「ジュプトォォォォ!!!!!」

 「グマ!!?」「ジグザググ!!!!」


攻撃を放って、道を開く。


かすみ「しず子!! 走るよ!!」

しずく「うん!」


しず子の手を取って、かすみんは走り出します。

その間にも四方八方からジグザグマたちが飛び掛かってきますが、


かすみ「“タネマシンガン”!!」
 「プトルルルルル!!!!!」

しずく「“マジカルシャイン”!!」
 「キルゥッ!!!!」


どうにか、迎撃しながら突き進む。


しずく「マネネ! 振り落とされないようにね!」
 「マネッ」


全力で包囲網を突破すると──先ほどまで引っ切り無しに飛び掛かってきていたジグザグマたちの姿が見えなくなる。


かすみ「やった、群れを抜けた……!!」


が、安心するのも束の間、林の中を並走するようにして猛追してくる白黒の影、


 「マッスグ!!!!」「グマグマッ!!!」

しずく「今度はマッスグマ……!」

かすみ「もう勘弁してくださいよぉ!!」


両サイドから追ってくる2匹のマッスグマ。

樹々を縫うように、直角カーブを繰り返しながら、少しずつかすみんたちの方に幅寄せするように迫ってくる。


かすみ「は、挟まれる~……!! “エナジーボール”!!」
 「ジュプトッ!!!」



627 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 13:13:14.34ULDkry570 (12/23)


追い返すために、エネルギー弾を放ちますが、


 「グマグマグマッ」


相手が速すぎる上に、攻撃が樹に阻まれて、うまく撃退出来ない。


かすみ「そ、そうだ、しず子!! エスパータイプの技でどうにかしてよ!!」

しずく「ガラルマッスグマはあくタイプだから、エスパータイプは効果ないんだよ!!」

かすみ「そ、そんな~!!」


もう、とにかく走るしかない。必死に足を動かしていると──林の樹々の隙間から光が見えてくる。


かすみ「!! 出口……!!」


林から出てしまえば、その先は広い草原だ。

この視界の悪い林に比べたら、絶対に戦局も有利になるはず……!

かすみん、最後の力を振り絞って、全力でダッシュします。


しずく「かすみさん!! 前、なんかいる!!」

かすみ「へっ!?」


しず子に言われて視線を前に向けると──確かに、何かが立ち塞がっていた。

でも、咄嗟のことで反応しきれず、


かすみ「ぎゃんっ!?」

しずく「きゃぁっ!」


正面からソレに衝突して、かすみんはしず子ともども、すっ転んで尻餅をつく。


かすみ「いたた……」

しずく「かすみさん、大丈夫……?」

かすみ「しず子こそ、平気……?」

しずく「う、うん、でも……」


尻餅をついて蹲るかすみんたちの左右には、


 「グマグマグマッ」「マッスグゥッ」


ガラ悪く舌をベロりと出したマッスグマたち、


 「グマグマ」「ググマァッ」「ジグザグ」


そして、背後から追いかけてくるジグザグマたちの鳴き声。

さらに、かすみんたちがぶつかった前方の主は──


 「……グマァッ」


大きな体躯で立ち塞がり、見下ろしていた。

ガラルのマッスグマをさらに一回り大きくして、ゴツくしたようなポケモン……。



628 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 13:13:50.26ULDkry570 (13/23)


かすみ「な、なんですか……こいつ……」

しずく「た、タチフサグマ……」

かすみ「タチフサグマ……?」

しずく「ガラルマッスグマの進化系だよ……」

かすみ「し、進化系!? マッスグマってさらに進化するの!?」

 「──グマァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!」


タチフサグマはかすみんたちに向かって声を轟かせながら、威嚇してくる。


かすみ「う、うるさい……」

しずく「た、タチフサグマは大きな声で相手を威嚇するの……」


至近距離で叫ばれたせいか、頭がガンガンする。

でも、とにかく目の前のこいつをぶっ飛ばさないと、それこそ袋叩きにされる。


かすみ「ジュプトル……!! “リーフブレード”!!」
 「ジュプトォッ!!!!」


自慢の草の刃で切り抜けようと、縦薙ぎに振り下ろされた、“リーフブレード”は、


 「グマァッ!!!!」

 「プトルッ!!!!?」


タチフサグマが前方でクロスしている腕に防がれて、弾かれてしまった。


かすみ「んなぁ!?」

しずく「あれは“ブロッキング”……!」


タチフサグマは、弾き飛ばしてよろけたジュプトルに肉薄し、クロスした腕を開くようにして、“クロスチョップ”をジュプトルに炸裂させた。


 「ジュプトォッ…!!!」

かすみ「ジュプトル!?」


吹っ飛ばされるジュプトルをすかさずボールに戻す。


かすみ「あいつ強い……」

しずく「ごめん、かすみさん……」

かすみ「なんで急に謝るの……?」

しずく「まんまとタチフサグマのいる方に誘導されてた……私のせいだ……」

かすみ「しず子のせいじゃないって!!」

しずく「で、でも、このままじゃ……」

かすみ「だから、今考えてるの……!!」



629 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 13:14:47.77ULDkry570 (14/23)


背後からはすでにジグザグマたちが飛び掛かってきていて、マネネの張ってくれた“リフレクター”も限界までは時間の問題。

どうする? 後方のジグザグマたちをどうにか倒して逃げる? ……いや、また林の中に戻っちゃったら、マッスグマから逃げられない。

左右のマッスグマを振り切るのも、かなり難しそうだし……じゃあ、目の前のタチフサグマを倒す……?

かすみんの手持ちのエース、ジュプトルでも歯が立たなかった。

ゾロアでどうにか策を考える……? サニーゴで最悪相打ちを取るとか……いやでも、そもそも相性で負けてるし……。

必死で考えるけど、この場を切り抜けるビジョンがどうにも浮かんでこない。

そんな中でも、


 「グマァッ」


タチフサグマがこちらに向かって歩を進めてくる。

絶体絶命。

もう、どうしようもない……。


かすみ「しず子……」

しずく「な、なに……?」

かすみ「かすみんがあいつに突っ込むから、その間に脇を通り抜けて林を出て」

しずく「!? だ、ダメだよ!! そんなことしたらかすみさんが……!」

かすみ「もうこれしかないの!!」

しずく「嫌!! せっかく一緒にまた旅に出られたのに、かすみさんだけおいてなんかいけない!!」

かすみ「しず子、お願いだから……!!」

しずく「嫌!! 絶対に嫌……」


しず子がぎゅっとかすみんの袖を握ってくる。

眼前にはタチフサグマが迫る。

タチフサグマが大きく息を吸ったのが見えた。

かすみんはもうダメだって思っちゃって……目を瞑った。……そのときだった、


 「グマ──」
 「──クマァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!!!」


タチフサグマの雄叫びをかき消すように──大きな鳴き声が響き渡った。

この声は、ずっとかすみんの聞いてきた鳴き声。


かすみ「ジグザグマ……?」
 「クマァッ!!!!」


ジグザグマはかすみんの前に立って、自分の何倍もあるタチフサグマの前で、全身の毛を逆立てながら、威嚇していた。


かすみ「何やってるんだ……私……」


何勝手に諦めてるんだ……まだ、自分のポケモンは戦う意思を失ってないのに……。


かすみ「ジグザグマ……!! やるよ!!」
 「クマァッ!!!」

しずく「かすみさん!? 無茶だよ!?」

かすみ「無茶でも、ジグザグマがやる気なんです!! “ミサイルばり”!!」
 「クママママッ!!!!!」


逆立った体毛を飛ばして、タチフサグマを攻撃する。



630 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 13:15:35.78ULDkry570 (15/23)


 「グマ…」


タチフサグマは両腕を上げて防御。ダメージはあんまりなさそうだけど……。足は止まった。


かすみ「しず子!! ジグザグマとマッスグマ任せるから、とにかく時間を稼いで!!」

しずく「……! わ、わかった! やってみる……!」
 「キルッ」「マネネッ!!!」


周りの手下たちはしず子にどうにかしてもらう。

かすみんはとにかく、こいつを倒す……!

さっきから見ていると、タチフサグマはカウンター的な攻撃が得意らしい。

つまり、自分から積極的に攻撃してくるタイプではなさそうだ。


かすみ「なら、“はらだいこ”!」
 「クマ、クマ~」


ジグザグマは座るような体勢になって、ぽんぽことお腹を叩き始める。

自分を鼓舞して、攻撃力をフルパワーにする技です。

そっちから来る気がないなら、今のうちに準備を整えるまで、


 「グマ…!!」


ですが、相手も戦い慣れしているのか、すぐにこっちの思惑に気付いて、走り出す。

地面にいる小さなジグザグマを、両手でガッと抑えつけると──そのまま、自分もろとも後ろに転がり始める。


しずく「か、かすみさん!! “じごくぐるま”だよ!!」

かすみ「わかってる!! しず子は雑魚散らしに集中してて!!」


相手は見た目通り、近距離技主体のポケモン。

何かしら肉弾戦を仕掛けてくるのはわかっていたから、ここまでは想像の範疇。

あとは──タイミングを間違えるな。


 「ク、クマァァ」
 「グマァッ!!!!」


“じごくぐるま”は相手もろとも転がったのち、回転の勢いを使って相手を投げ飛ばし、地面に叩きつける技。

叩きつけられるその一瞬、


かすみ「今です!! “こらえる”!!」
 「クマァッ!!!!」


ゴッ!! と鈍い音を立てながら、地面に叩きつけられるジグザグマ。

ですが、どうにか攻撃を堪えて耐えきります。


 「グマァッ!!!」


もちろん、すぐに追撃しようと、タチフサグマは起き上がって、ジグザグマに向かって走り出しますが、


 「グ、マァッ!!?」


急にタチフサグマが痛そうな声を上げて怯んだ。



631 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 13:16:28.76ULDkry570 (16/23)


しずく「え!?」

かすみ「……痛いですよねぇ!! 足に鋭い欠片がぶっ刺さったら!!」

しずく「欠片……!? って、まさか……!?」


タチフサグマが痛そうに持ち上げた足の下には──黄色の輝く欠片が一つ。


しずく「“げんきのかけら”!?」


そう……! “じごくぐるま”を受けてる最中に、さっき拾った“げんきのかけら”を地面に突き立てて、即席の“まきびし”代わりにしたわけです!!

一発怯ませれば十分……!!


 「クマァッ!!!!」


今度は逆にタチフサグマの懐に飛び込んでやります。


 「グマッ!!?」

かすみ「かすみんたちのフルパワー!! 食らいやがれです!! “じたばた”!!!!」
 「クマクマクマァァァァァ!!!!!!」


ジグザグマはタチフサグマの懐に潜り込みながら、全身の硬い毛を擦り付けるようにして、激しく攻撃する。


かすみ「“こらえる”で体力もギリギリ!! しかも、“はらだいこ”でフルパワーになった最大威力の“じたばた”です!!」
 「クマァッ!!!」

 「グマァァッ!!!!」


全身をくねらせながら、硬い毛と爪と牙で無茶苦茶に攻撃しまくって、タチフサグマをぶっ飛ばす。


 「グマァッ…!!!」


見た目からは想像も出来ないようなパワーで吹っ飛ばされたタチフサグマは、樹に背中を打ち付けられて、ガクりと首を垂れたのでした。


かすみ「よっしゃぁ!! やってやりました!!」
 「クマァッ…」


が、喜びも束の間で、


 「マ、マネネェッ!!」
しずく「きゃぁっ!!?」


──パリンという何かが砕ける音と共にしず子の悲鳴。

“リフレクター”が破られた。


かすみ「……っ!?」


せっかく、タチフサグマを倒したのに、このままじゃ逃げ切れない。


かすみ「しず子……!!」


しず子に向かって飛び掛かるジグザグマたちがスローモーションに見えた。

視界の端では、マッスグマたちが“リフレクター”が壊れたことを認識して、飛び出そうと構えているのもわかった。

ダメだ。間に合わない。


かすみ「しず子ぉぉぉぉ!!!! 逃げてええええぇぇぇ!!!!」



632 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 13:18:13.06ULDkry570 (17/23)


叫ぶかすみん。だけど、しず子たちはもう逃げる余裕なんてなくて──白黒の毛むくじゃらがしず子たちに爪を立てようとした、瞬間、


 「──キュウコン! “ひのこ”!!」
  「コーーンッ!!!!!」


9つの火の玉が──飛び掛かってくるジグザグマたちをピンポイントで撃ち抜いた。


しずく「え……?」

かすみ「へ……」


突然の攻撃に驚いたのか、


 「グマッ!!?」「グママ、グマグマッ」「グマ、ググマッ!!!」


ジグザグマたちは一目散に逃げ出し始める。


かすみ「あ、そ、そうだ……! マッスグマは……!」

 「そっちも、大丈夫だよ」


優しい声と共に、


 「ワンワンッグルルルルッ!!!!!」


激しいうなり声をあげる、黄色と黒の犬ポケモン──パルスワンが視界に入る。その傍らにはすでに1匹仕留めたのか、マッスグマが伸びていた。

バチバチと牙の周りに稲妻を迸らせて、もう1匹のマッスグマを威嚇している。


 「グ、グマ…」


形勢が悪くなったと思ったマッスグマが逃げ出すと、


 「ワンッ!!!!!」


パルスワンは駆け出し、追いかけていく。

気付けば……あれだけいたジグザグマやマッスグマの群れは、1匹残らずいなくなっていたのでした。


かすみ「た、助かった……?」

 「大丈夫? 二人とも?」

 「このタチフサグマ、かすみちゃんがやったの? すごいわね、お姉さん、ちょっとかすみちゃんのこと見直しちゃったわ」


声の主の方へ振り返ると──先ほどのお姉さんたちの姿。


しずく「果林さん!!」

かすみ「エマ先輩ぃぃぃ!!」

エマ「二人とも、怪我してない?」

果林「怪我の手当てもいいけど……一旦、林から出ましょうか。ここだと見晴らしが悪いわ」


エマ先輩と果林先輩の助太刀によって、どうにか窮地を脱したのでした。






633 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 13:19:27.73ULDkry570 (18/23)


    👑    👑    👑





かすみ「パルスワン……戻ってきませんけど……」

エマ「パルスワンは三日三晩走っても大丈夫だから、疲れて動けなくなったマッスグマをちゃんと捕まえて戻ってきてくれるはずだよ」

果林「スピードでもマッスグマに負けてないしね」


エマ先輩の言葉に、果林先輩がそう補足する。


果林「それにしても、タチフサグマの雄叫びが聞こえて向かってきたら……貴方たちが戦っているんだもの。驚いたわ」

しずく「危ないところを助けていただいて……ありがとうございました……」

エマ「こっちこそごめんね……こんな場所に縄張りを作ってたなんて知らなかったから……」

しずく「あのガラルジグザグマたちが、本来ここにいないポケモン……ということですよね」

エマ「うん! だから、全部捕まえちゃうつもり!」

果林「って言っても、ボスはかすみちゃんが倒してくれたから、まとまりのなくなったジグザグマたちを捕まえるくらいならわけないと思うわ」


そう言いながら、果林先輩は今しがた捕獲した、タチフサグマの入ったボールをエマ先輩に手渡しながら言う。


エマ「ちょこちょこ草原エリアで目撃情報はあったんだけど……巣や縄張りがわからなくて捜索にずっとてこずってたんだ……。でも、二人のお陰で、どうにか全部捕まえられそうだよ~。ありがとう」

かすみ「とりあえず……もう当分あんなのとは戦いたくないです……」

果林「ふふ、ジャイアントキリングだったものね」


そう言いながら、果林先輩がかすみんのジグザグマに視線を落とす。


果林「早速、その経験が反映されそうだけど?」

かすみ「え?」


言われてジグザグマを見ると、ジグザグマがぶるぶると震えていた。

進化の兆候だ。


かすみ「いけないいけない……!」


かすみんは図鑑を取り出して、キャンセルボタンを押す。


果林「あら……進化キャンセルしちゃうの?」

かすみ「はい! かすみんたち……まだしばらくはこのままでいいかなって」
 「クマ」

かすみ「この姿でも工夫次第で戦えること、わかっちゃいましたから!」
 「クマァ♪」


だから、進化はもうちょっと先でいいかな? いつか、本当に力が必要になったときまで、進化はお預けです!


エマ「二人はこのまま、ダリアに行くんだよね?」

しずく「はい、そのつもりです」

エマ「それじゃ、ドッグランを抜けるまで付き合うね! って言っても……他にはそんなに好戦的なポケモンはいないと思うけど……」

かすみ「助かりますぅ……かすみんもう結構くたくたなんで」


万が一にも、もうバトルはしたくない。

何かあったらエマ先輩たちに戦ってもらいましょう……。



634 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 13:20:32.53ULDkry570 (19/23)


果林「それじゃ、早く行きましょう。日が暮れちゃう前にエマを家まで送りたいし」

エマ「果林ちゃーん! そっちは、コメコ方面だよー!!」

果林「……わ、わかってるわよ……/// まだジグザグマが残ってないか確認しようとしただけ……///」

かすみ「……バトルもコンテストも強くて、スーパーモデルなのに……方向音痴……」

果林「……あら、何か言ったかしら~?」

かすみ「ぴぇ! な、なんでもないですぅ~! 早く行きましょう~!」

果林「全く……」


ぞろぞろとダリア方面へと歩き出す。


かすみ「……あれ?」

しずく「どうしたの? かすみさん?」

かすみ「何か忘れてるような……」


そもそも、何か目的があって、ジグザグマたちを追いかけてたんじゃないっけ……。


かすみ「あっ!! 盗られた“どうぐ”!!」

しずく「もう、諦めよう。本当に日が暮れちゃうよ」

かすみ「そ、そんなぁ~……かすみんたち頑張ったのにぃ……」

エマ「ジグザグマたちを捕獲するときに見つけたら、かすみちゃん宛てにポケモンセンターに届けておくよ」

かすみ「うぅ……そうしてくれると助かりますぅ……。ジグザグマ、また頑張って集めようね……」
 「クマァ♪」


傾き始めた日が照らす中、落ち込むかすみんとは対照的に、ジグザグマは尻尾をぶんぶん振りながら、楽しそうに鳴き声をあげるのでした。






635 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 13:21:12.70ULDkry570 (20/23)


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【4番道路】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  ●|          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.31 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.25 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.30 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.23 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:130匹 捕まえた数:6匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.21 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.20 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.20 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.20 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.22 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:139匹 捕まえた数:9匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.






636 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 20:27:50.75ULDkry570 (21/23)


 ■Intermission👏



──コメコシティ・DiverDiva拠点。


姫乃「──姫乃、戻りました」

愛「あれ? 姫乃っちじゃん」


声に振り向いてみると、姫乃っちの姿があった。

この子は大抵カリンの企み事に付き合って、地方中を行ったり来たりしているから、こうして拠点で会うのは珍しい。


姫乃「はい、今は果林さんから特に指示もないので……一度拠点に顔を出そうかと思って……」


そう言いながらしきりにキョロキョロとしている姫乃っち。


愛「カリンならいないよー」

姫乃「そうなのですか……?」


露骨に残念そうな顔をする。


姫乃「して……果林さんはどちらへ?」

愛「カリンなら、今エマっちとドッグランにいるよ」

姫乃「は?」

愛「なんでも、ラクライの縄張りを元の場所まで引っ張るのをお願いされたんだとさー。自分で牧場側に呼び出す作戦立てておいて、よくやるよねー」

姫乃「ありがとうございます、愛さん。それでは行ってまいります」

愛「待った待った。どこ行くつもりよ」

姫乃「もちろんドッグランへ……」

愛「ダメに決まってるでしょ。ってか、カリンに怒られるよ」


姫乃っちはカリンが自由に動くために、外での接触タイミングはかなり限られている。

ましてや、エマっちとカリンが一緒にいるタイミングで出て行くなんて言語道断だ。


姫乃「……」

愛「愛さんに向かって、そんな不機嫌そうな顔されても困るんだけど」

姫乃「果林さんは、あの現地人と距離が近すぎます……」

愛「それは前にも聞いたし、カリンにも伝えたよ。でもまあ、しょうがないじゃん?」

姫乃「愛さんはいいんですか」

愛「何が?」

姫乃「果林さんがあの現地人にうつつを抜かしていても何も思うことがないと」

愛「やることやってくれてれば私はどっちでもいいんだよねー。それに──私はカリンに逆らえないし」


そうおどけながら、首輪をつまんで見せる。



637 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 20:28:45.08ULDkry570 (22/23)


姫乃「そうですか……まあ、貴方には期待していません」

愛「酷いこと言うねぇ、姫乃っち」

姫乃「そうですか? ご自分にどうして、そんな首輪が着いているかを考えればわかることでは?」

愛「……」

姫乃「……失礼。言いすぎました」

愛「ま、いいよ、別に」


まあ、姫乃っちからしたら、アタシは目の上のたんこぶみたいなもんだからね。

別にいちいち怒るようなことでもない。


姫乃「お詫びと言ってはなんですが……面白い情報を手に入れてきましたよ」

愛「面白い情報?」


姫乃っちが私にデータの入ったUSBを手渡してくる。

早速データを読み込むと──人物資料が入っていた。


愛「ナカガワ・菜々……? ……ローズのジムリーダーの秘書……?」


情報に適当に目を通していく。ローズのジムリーダーと言えばマッキーだけど……。


愛「……って、ずいぶん若いね」


16歳で、ジムリーダーの秘書……? トレーナーとしてはそれくらいで大成してる人はいくらでもいるけど……トレーナーとしての経歴もないし……。


姫乃「はい、私もそう思いまして。合間に調べていたんですが……面白い人物と結びつきまして」

愛「面白い人物……?」


画面を下にスクロールしていくと──その人物の情報があった。


愛「……マジで?」

姫乃「十中八九、間違いないかと」

愛「……なるほどね」


なるほどどうして……これは叩けば埃が出そうな話だ。


愛「いいね……カリン、こういうの好きだと思うよ」

姫乃「ありがとうございます。果林さんに伝えておいてください」


そう言うと、姫乃っちは背を向けて、拠点から出ていこうとする。


愛「カリンに会ってかないの?」

姫乃「私の役目は果林さんの役に立つことですから。また、何か情報を探してきます」


そう残して、姫乃っちは拠点から出て行ってしまった。


愛「真面目だねぇ」


思わず肩を竦める。

それにしても──


愛「これは……面白いことになるかもね」



638 ◆tdNJrUZxQg2022/11/29(火) 20:29:22.97ULDkry570 (23/23)


私はモニターに映る人物の資料を見ながら、一人呟くのだった。



 「ベベノー」


………………
…………
……
👏




639 ◆tdNJrUZxQg2022/11/30(水) 12:35:44.014td2vpP20 (1/16)


■Chapter033 『叡智の行き先?』 【SIDE Kasumi】





──ドッグランを抜けて、ダリアシティに着いた頃にはすっかり日も落ちていて……。

エマ先輩たちと別れた後はすぐに宿を探して、部屋に入った後は特に何をするでもなく寝てしまった。

……疲れていましたからね。

と、言うわけで、


かすみ「改めて……ダリアシティ、到着しましたよー!」


ホテルを出ると、すでに白衣を纏った人たちがちらほらと歩いているのが見える。


かすみ「博士がたくさんいるんですかね、この街は……」

しずく「当たらずとも遠からずかな。ここは学園都市だからね。きっと、あの人たちは研究者の人たちだよ」

かすみ「へー……」


かすみんからしてみると、好き好んで勉強をしているなんて、物好きな人たちって思っちゃいますけど……。


しずく「ところで、これからどうするの? やっぱりジム?」

かすみ「もちろん! ……と、言いたいところなんだけど」

しずく「……? かすみさんがジムに直行しないなんて珍しい……どこか行きたいところでもあるの?」

かすみ「行きたいところというか……新しい手持ちが欲しいんだよね」

しずく「新しい手持ち……? ジム戦に備えてってこと?」

かすみ「そゆこと!」

しずく「え……? 本当にそういうことなの?」

かすみ「何、その反応」

しずく「……もしかして、熱ある?」

かすみ「何!? その反応!?」

しずく「だって……行き当たりばったりなかすみさんが、ジム戦のために準備だなんて……」


なんて失礼なしず子なんでしょうかね。



640 ◆tdNJrUZxQg2022/11/30(水) 12:37:04.954td2vpP20 (2/16)


かすみ「かすみんだって、準備くらいするもん! ……それに、ここのジムリーダーには絶対負けられないんですよ……」

しずく「ダリアのジムリーダーって言うと……にこさんだっけ」

かすみ「そう!! ヤザワ・にこです!!」

しずく「なんでフルネーム……」

かすみ「ヤザワ・にこと言えば、アイドルポケモントレーナーなんですよ!!」

しずく「ああ、うん。そうだね。テレビとかでも見ることあるよね」

かすみ「許せません!!」

しずく「……だから、何が?」

かすみ「かすみんとキャラが被ってるじゃん!!」

しずく「被って……るかな……?」

かすみ「だから、かすみん、ここのジムリーダーにだけはぜーったい負けたくないんですよ!!」

しずく「はー……だから、対策用のポケモンが欲しいのね」

かすみ「そういうこと! んで、しず子!」

しずく「今度は何?」

かすみ「ジムリーダーのタイプと相性の良いタイプ教えて!」

しずく「あ、そこは知らないんだ……」


しず子は呆れたように、肩を竦める。


しずく「えっと……にこさんのエキスパートタイプはフェアリーだね。となると……相性が良いのは、はがねタイプかな……」

かすみ「はがねタイプぅ~……? はがねタイプって、どこにいるんだろう……」

しずく「うーん……山岳地帯に多いイメージだけど……」

かすみ「えー山ぁ~? なんかもっと楽そうな場所にいないの?」

しずく「楽そうな場所って言われても……。……あ、そうだ」


しず子は何かを思いついたようで、ポンと手を叩く。


かすみ「なになに? 良い場所思い浮かんだ?」

しずく「うん! 良い場所思い浮かんだよ!」





    👑    👑    👑





──と、言うわけでやってきたのは……。


かすみ「野生ポケモン捕獲研究室……?」

しずく「ダリアにはたくさんの研究室があってね。野生のポケモンと捕獲についての研究室があったことを思い出したの」

かすみ「……で、ここがどうしたの?」

しずく「なんとね、ここの中では野生ポケモンが生息する環境が再現されていて、しかも、ここにいるポケモンを野生ポケモンと同様に捕獲していいことになってるんだよ!」

かすみ「え、ホントに?」

しずく「その代わり捕獲のときに使った技やボールとかは記録されるけどね。ここなら、はがねタイプも探しやすいかもよ」

かすみ「なるほど! しず子、冴えてる!」


かすみん、早速研究室にお邪魔します。



641 ◆tdNJrUZxQg2022/11/30(水) 12:38:02.534td2vpP20 (3/16)


かすみ「失礼しま~す!」

室員「おおっ? 見ない顔だけど、見学者かな?」


入ると、いかにもな白衣を着て、眼鏡を掛けた人に出迎えられる。

──いかにもって言う割に、他の部分は赤髪を両サイドで縛っている、背の低い人で……ビジュアル的には本当にこの人研究者さんなのかなと思ったけど。


かすみ「はい! ここでポケモンを捕まえられるって聞いて!」

室員「カッカッカッ! 吾輩たちの研究室も随分有名になったものだな! ああ、確かにここでは自由に捕獲が出来るぞ」


……なんか、随分キャラが濃い人が出てきましたね。口調にやや面食らっていると、


しずく「はい。私たち、はがねタイプのポケモンを探してまして……」


しず子が事情の説明を始める。


室員「はがねタイプか……わかった、案内しよう」

しずく「はい、お願いします。かすみさん、行こう」

かすみ「あ、うん」


しず子は気にならないのかな……って思ったけど……まあ、研究者さんって変わり者が多そうだし、そういうものなのかも。

適当に自分を納得させつつ、案内された奥の部屋へと到着する。


室員「ここが、はがねタイプのポケモンがいるエリアだ。あとは自由に捕獲してくれたまえ」


そう言って、研究員の人は出ていこうとする。


かすみ「あれ? 記録する人とかいないんですか? 使った技とかボールとか記録するって聞きましたけど……」

室員「ああ、その辺は全てロボットが使用技やボールを判別するから、誰かが見て確認することはないんだ。吾輩たちも何かと忙しいからね。ただのデータ収集なら機械化してしまうに越したことはないしな」

かすみ「へ、へー……そうなんですね」


随分とハイテクですね……。確かに言われてみれば、そこらへんに観測機っぽいものがたくさんある。

なるほど、あれで技とかは判別するってことですね……。


室員「それに、自然環境では観測者は普通いないからね。少しでも野生捕獲を再現するためには必要なことなのだよ」

かすみ「な、なるほどー」

室員「それじゃ、後は好きに捕獲してくれたまえ」


そう残して、研究室の人は部屋を出て行ってしまった。


かすみ「……なんか、変わった人だった」

しずく「確かに独特の雰囲気ではあったね……」

かすみ「まあ、いいや……今は捕獲!」


新戦力拡充のためにも、案内された室内を見回す。

はがねタイプのために部屋の中を見回すと──どう見ても人工の研究室といった感じの室内だった。


かすみ「……? これのどこが自然再現なの……?」

しずく「あ、かすみさん、ここにこの部屋の解説掲示があるよ」


しず子に言われて、入り口のすぐ傍にある説明書きを見てみると、



642 ◆tdNJrUZxQg2022/11/30(水) 12:38:34.774td2vpP20 (4/16)


かすみ「『無人発電所の環境再現』……?」


と書いてあった。


しずく「なるほど……。確かに無人の発電所とかには野生ポケモンが棲み付くって聞いたことあるかも」

かすみ「へー……はがねタイプってそういうところにいるもんなの?」

しずく「確かに人工物に棲み付くポケモンには、はがねタイプのポケモンもいたと思う」

かすみ「例えば?」

しずく「えーっと……コイルとか」

かすみ「コイルって……あの丸っこいやつだっけ」


かすみんは頭にコイルを思い浮かべる。

丸いボディに磁石をくっつけたような見た目のあのポケモン。

かすみんがぼんやりコイルを頭に思い浮かべている矢先、


しずく「あ……! 早速いたよ! コイル!」


早速コイルが機材の物陰から、浮遊して出てきた。

確かにかすみんの記憶通りのコイルです。

 『コイル じしゃくポケモン 高さ:0.3m 重さ:6.0kg
  生まれつき 重力を さえぎる 能力を もち 電磁波を
  出しながら 空中を 移動する。 電線に くっついて
  電気を 食べ 停電の 原因に なることがある。』


しずく「どうかな、コイル。はがねタイプだし、結構可愛いと思うんだけど」

かすみ「う、うーん……確かに、可愛いと言えば可愛いけど……」

 「ビ、ビビ?」


コイルと目が合う。一つ目でジロジロとかすみんを観察していますが……。


かすみ「なんか……こういう可愛いじゃないというか……」

しずく「ええ……わがままだなぁ……」

かすみ「他! 他にいないかな!」


かすみん、とりあえずコイルは保留です。

まだ1匹目だし、せっかく捕まえるなら吟味したいもん!


しずく「あとは……あ、見て! ギアルがいるよ!」

かすみ「ギアル?」


しず子が指差す方に目をやると──歯車が2つ合わせたようなポケモンがいた。


かすみ「あれがギアル……」


 『ギアル はぐるまポケモン 高さ:0.3m 重さ:21.0kg
  2つの 体は 組み合わせが 決まっている。 別の 体とは
  噛み合わずに 離れてしまう。 大昔に ギアルを 見た
  人間が 歯車の 構造を 思いついたと 言われている』



643 ◆tdNJrUZxQg2022/11/30(水) 12:47:33.874td2vpP20 (5/16)


しずく「あのポケモンもはがねタイプだよ。どう?」

かすみ「……」

しずく「あの表情とか可愛くない?」

かすみ「なんか、無機質な感じがする……」

しずく「……もう! かすみさん、文句ばっかり!」

かすみ「だって、かすみんの可愛いのイメージと違うんだもん! しょうがないじゃん!」

しずく「……はぁ。……じゃあ、どういう子がかすみんさんの可愛いのイメージなの……?」

かすみ「えぇ~? それは、ピカチュウとかピッピみたいな、いかにも妖精みたいな感じの子かなぁ~?」

しずく「はがねタイプでそんなポケモンいたかな……」


しず子はうーんと頭を悩ませ始める。


かすみ「しず子、頑張って思い出して! かすみんの新しい手持ちが懸かってるんだから!」

しずく「かすみさんも考えてよ……」

かすみ「だって、かすみん、しず子ほどポケモンの種類、わかんないし……」

しずく「頼ってくれるのは嬉しいけど……あんまり、人任せにしてると罰が当たるよ?」

かすみ「罰当たりでも地獄に落ちても、可愛いは最重要の正義なの!」

しずく「ええー……まあ、いいけど……そうだなぁ……」


しず子が考えてくれている間、辺りを見回すけど──コイルやギアルばっかり。

なんだか、ここには目ぼしいポケモンは居ないのかも……。

ジム戦用の新しいポケモン、どうしようかな……。そう思いながら、偶然壁際にあった、腰掛が目に入る。

待ってる間疲れちゃうし座ってよっかな。

かすみんが腰掛に座った瞬間──ガクンと身体が後ろに傾いた。


かすみ「え!?」


そのまま、かすみんの視界はぐるっと回転し──天井が見えたかと思ったら、すぐに暗闇に包まれる。

しかも、謎のスピード感と浮遊感──もしかして、かすみん……落ちてる!?


かすみ「きゃぁぁぁぁぁ!!?」


気付いたときには、かすみんは何やら狭い管のようなものの中を頭から滑り落ちていた。


かすみ「なになになになに、なんなのぉぉぉぉ!!?」


絶叫するかすみん。

が、すぐに管は終わり──開けた場所に放り出される。

……もちろん、そんな管から飛び出した場所は地面なんかではなくて、


かすみ「ぎゃぁぁぁぁぁ!! 落ちるぅぅぅぅぅ!!!」


かすみんは開けた空間の中を真っ逆さまに落ちていく。

時間として数秒もしないうちに──ぼふっと音を立てて、何かの上に落着した。


かすみ「……はぁ、はぁ……い、生きてる……?」



644 ◆tdNJrUZxQg2022/11/30(水) 12:48:09.294td2vpP20 (6/16)


心臓がバクバクと爆音を上げているが、どうやら何か柔らかいものの上に落ちたらしい。

お陰でどうにか助かったらしい。……でも、


かすみ「く、臭い……」


強烈な悪臭が立ち込めている場所だった。鼻が曲がりそうになって、思わずハンカチを取り出して鼻と口を覆う。


かすみ「ここ、どこ……」


周囲を見渡してみるも、真っ暗で全然わからない。


かすみ「そうだ……出てきてジュプトル」
 「──ジュプト」

かすみ「“フラッシュ”」
 「プト」


ジュプトルが腕の葉っぱの先を光らせ、周囲を明るく照らす。

“フラッシュ”によって照らされたここは……大きなビニール袋があちこちに積まれている場所だった。

かく言うかすみんが落ちた柔らかいものの上というのも、ビニール袋の上……。


かすみ「……ここ、どこ……?」


眉を顰める。めっちゃ暗くて、割と広くて、かなり臭い場所……。

さっきまで研究室にいたはずなのに……。


 「──……ゴミの保管所だよ」


かすみんの疑問に答えたのは上から降ってきた声。

声のする方に視線を向けると、


かすみ「あ、しず子!」


しず子がアオガラスに掴まって、ゆっくり下りてきているところだった。


しずく「もう……突然消えたかと思ったら、悲鳴が聞こえてきて、何かと思ったよ……。……それにしても、すごい臭い……」


しず子もかすみんと同じようにハンカチで鼻と口を覆いながら、そんなことを言う。


かすみ「……ってか、今ゴミの保管所って言った? かすみん、なんでそんな場所にいるの? かすみん、腰掛に座ろうとしただけなんだけど……」

しずく「はぁ……かすみさん、口の空いてるダスト・シュートに腰掛けたでしょ……」

かすみ「“ダストシュート”……? なにそれ……? ポケモンの技……?」

しずく「そっちじゃない。簡単に言うと、建物に付けられたゴミ捨て場への直通の管みたいなものかな……」

かすみ「え……じゃあ、かすみんもしかしてゴミ捨て場に落ちちゃったってこと!?」

しずく「さっきからそう言ってるでしょ」


しず子が呆れた顔で肩を竦める。



645 ◆tdNJrUZxQg2022/11/30(水) 12:48:49.434td2vpP20 (7/16)


かすみ「なんでそんな危ないものの口、開けっ放しにしておくの!?」

しずく「鉄製だったから、コイルたちがいたずらで開けちゃったのかもしれないね……危ないことには代わりないけど。でも、元はといえばロクに確認もせず腰掛けたかすみさんが悪い」

かすみ「う……」

しずく「早速罰、当たったね」

かすみ「……」

しずく「……あ、どっちかいうと地獄に落ちたの方がそれっぽいか……。ゴミ捨て場なんて、ある種の地獄みたいなものだし……」

かすみ「半端にうまいこと言わないでよ……」


思わず項垂れてしまう。

可愛いポケモンを探しに来たはずなのに、よりにも寄ってゴミ捨て場に落ちてきちゃうなんて……。


かすみ「とにかく早く上に戻ろう……」

しずく「そうしたいのは山々なんだけど……」

かすみ「?」

しずく「あそこまで飛ぶのはちょっと難しいかも……」


そう言いながらしず子が見上げる先を目で追うと──結構高い場所に穴が見えた。

どうやら、あそこから落ちてきたらしい。


かすみ「え、じゃあどうするの?」

しずく「ここ自体がゴミ処理場なわけじゃないから……ゴミを運搬するための出入り口がどこかにあるはずだよ。そこを探そう」


そう言いながら、しず子はかすみんの手を取って、ゴミ袋の山を一歩ずつ下り始める。


しずく「足元……不安定だから、また転がり落ちないようにね」

かすみ「……ねぇ、しず子」

しずく「何?」

かすみ「もしかして……こんな場所だってわかってて、助けに来てくれたの……?」

しずく「そりゃそうでしょ……目の前で落っこちたら、助けに行かないわけにいかないし……」

かすみ「ふ、ふーん……そうなんだ……」

しずく「なんで嬉しそうなの」

かすみ「いやその……しず子だったら、呆れて自分でどうにかしなさいとか言うのかなって思ったから……」

しずく「呆れてはいるけど……言わないよ。私だって……何度もかすみさんに助けられてるんだから。お互い様」

かすみ「しず子……」

しずく「とにかく、早く外に出ちゃおう。腐敗したガスとかが充満してるだろうし……長くいると身体に悪いと思うから」

かすみ「う、うん! そうだね!」


かすみんたちは少しでも早く脱出するために、転ばない程度に早足でゴミ袋の山を駆け下ります。






646 ◆tdNJrUZxQg2022/11/30(水) 12:49:32.014td2vpP20 (8/16)


    👑    👑    👑





かすみ「思った以上に広いね……ここ……」

しずく「街全体のゴミを全部ここに集めてるらしいからね……ダリアの地下ほぼ全域に広がってるって聞いたことがあるかも……」


結構歩いたつもりですが、景色はゴミ山が続いている。

見通しが悪く、足場も悪いためか思った以上に前に進めてないというのはあるだろうけど……それでも、かなり広い空間であることには違いない。

気付けば、ジュプトルの“フラッシュ”だけでは心もとなかったのか、しず子もキルリアとマネネを出して“フラッシュ”をしているお陰で、暗闇で困るということはなくなった。

かすみんの手持ちはほとんど灯りになる技が使えないから助かりますね……。


かすみ「それにしても……なんでこんな大きなゴミ捨て場を使ってるんだろう……? セキレイではダスト・シュートなんてなかったよね?」

しずく「もともとダリアって街の東側が切り立った崖になってて……街中でゴミを運び出すよりも、一旦街の地下に落として、崖下の6番道路から運び出すのが効率がいいからって聞いたことがあるかな。通称『叡智のゴミ捨て場』なんて言われることもあるみたい」

かすみ「へー……じゃあ、ゴミ捨て場のためだけに、わざわざ地下を掘ったってこと?」

しずく「うぅん、ここは元からあった空間みたい」

かすみ「元から? どゆこと?」

しずく「もともとは、大昔ダリアに住んでいた貴族が有事の際に逃げ込むための地下壕として掘られたとか」

かすみ「え、ここってお姫様とかが住んでたの?」

しずく「お姫様かはわからないけど……貴族制度があった時代では、ここが首都的な扱いだったらしいね。今でこそ、貴族なんて階級もなくなって、残された街は学園都市になったけど……ダリア図書館の時計塔なんかはその当時から残ってる建造物の1つらしいよ」

かすみ「へー、しず子めっちゃ詳しいじゃん」

しずく「歴史の授業で習ったと思うんだけど……」

かすみ「歴史の授業なんて、起きてたことない……」

しずく「はぁ……全く……。……上層に街を発展させる中で、下層を有効活用するために、ここが大規模なゴミの保管施設がなったみたいだね。……まさか、こんなに大きいとは私も思ってなかったけど」

かすみ「なんかそれっぽく言ってるけど、ゴミを毎日出すのがめんどくさくなっただけだったりして……」

しずく「あはは……あながち間違いでもないかもね……研究者たちが1分1秒でも多く時間を使うために、ゴミをまとめてここに捨ててただけって言う説もあるからね……」


しず子からダリアの歴史について聞きながら、歩を進めていく。


しずく「……ふぅ」

かすみ「しず子、疲れた?」

しずく「ちょっと……」


この足場の悪い場所でずっと歩き続けているんだから無理もない。


かすみ「少し休憩しよっか」

しずく「いや……大丈夫だよ」

かすみ「いいから」


しず子にはあまり無理をさせたくない。空気が悪いから、あまり留まらない方がいいというのは確かだけど……。

少しでもゴミの少なそうな場所を探して、周囲をキョロキョロと見回していると──ガサガサッと、音を立てながら……ゴミ袋が動いていた。


かすみ「!? ……ゴミ袋が動いた!?」

 「ヤブ…」


かすみんが声をあげると、それに反応して、ゴミ袋が──睨んできた。そして、その直後、



647 ◆tdNJrUZxQg2022/11/30(水) 12:50:55.194td2vpP20 (9/16)


 「ヤブーー!!!!」


鳴き声をあげながら、こっちに向かって飛び掛かってきた。


かすみ「な、なんかこっちきたぁ!? じ、ジュプトル、“エナジーボール”!!」
 「プトォル!!!」

 「ヤブゥッ!!?」


咄嗟に“エナジーボール”で迎撃すると、そいつは吹っ飛びながら、ゴミ袋の上を転がっていく。


しずく「かすみさん! あれ、ポケモンだよ!」

かすみ「ポケモン!?」


かすみんはすぐさま図鑑を開きます。

 『ヤブクロン ゴミぶくろポケモン 高さ:0.6m 重さ:31.0kg
  不衛生な 場所を 好む。 満腹まで ゴミを 喰らうと
  口から 毒ガスを 吐き出す。 うっかり かぐと 即 入院
  ゴミで 汚したまま 放っておくと 部屋にも 現れて 棲みつく。』


かすみん「ホントだ……! ヤブクロン……!」


これだけゴミがたくさんある場所だ。ゴミが好きなポケモンたちからしてみれば楽園……いてもおかしくはない。


 「ヤブクゥ…」


吹っ飛ばされたヤブクロンはすぐに身を起こして、再びこっちを睨みつけてくる。


 「ヤブクゥーー!!!」


突然叫んだかと思ったら──周囲のゴミ袋の中から、


 「ヤブ」「ブクロン」「ヤーブク」


ヤブクロンたちが飛び出してきた。


かすみ「こ、これって、もしかしてヤバイ……?」

しずく「た、たぶん、縄張りを荒らされたと思って……怒ってるんじゃないかな」

かすみ「だ、だよねー」

 「ヤブクゥッ!!!!」


最初の1匹の合図と同時に、一気にヤブクロンたちが飛び掛かってきた。


かすみ「やば……!! 逃げるよ、しず子!!」


しず子の手を取って、走り出す。


しずく「かすみさん!? 下!?」

かすみ「へっ!?」


しず子の声で、真下に顔を向けると──


 「ヤブク…!!!!」


足元から飛び出してきたヤブクロンがかすみんの顔に張り付いてきた。



648 ◆tdNJrUZxQg2022/11/30(水) 12:51:37.454td2vpP20 (10/16)


かすみ「!!?!!? ──む、むぐー!!!」

しずく「キルリア!! “ねんりき”!!」
 「キルゥッ!!!」

 「ヤブッ!!?」


すぐさま、しず子のキルリアがサイコパワーで引きはがしてくれる。


かすみ「うっ、げほっげほっ……!! くっさ……!!」

しずく「かすみさん、大丈夫!?」

かすみ「う、うん……ガス吸ったわけじゃないから……っ……でも、鼻曲がりそう……っ……」


再びハンカチを口元に当てて走り出すけど、あまりの激臭に泣きそう……。

その間もヤブクロンたちはひっきりなしに飛び掛かってくる。


しずく「マネネ! “サイケこうせん”!! アオガラス! “みだれづき”!!」
 「マネッ!!!」「カカカカカァッ!!!!!」

かすみ「ジュプトル! “りゅうのいぶき”!!」
 「プトルッ!!!!」


飛び掛かってくるのを迎撃しますが、不安定な足場のせいで思うように前に進めない。

このままじゃ物量で潰される……!!


かすみ「そ、総力戦です!! ゾロア、ジグザグマ、サニーゴ!! 出て来て!」
 「──ガゥッ!!!」「──クマァッ」「──……」

しずく「私も……! ジメレオン、ロゼリア!」
 「──ジメ…」「──ロゼッ!!!」


それぞれ手持ちを全部出して、飛び掛かってくる大量のヤブクロンたちを撃退する。


かすみ「“あくのはどう”!! “ずつき”!! “ナイトヘッド”!!」
 「ガーゥゥッ!!!!」「ク、マァッ!!!」「……ニ」

しずく「“みずのはどう”!! “マジカルリーフ”!!」
 「ジメェ…!!」「ロッゼッ!!!!」

 「ヤブッ!!!?」「ブクローンッ!!!?」「クロンッ!!!?」

かすみ「よっし……! どうにか捌き切れてる……! サニーゴ行くよ!!」
 「……サ……」


どうにか追っ払いながら、しず子の手を取り、動きが鈍いサニーゴを小脇に抱えて、ゴミ捨て場の中を駆け回る。

その際、


しずく「かすみさん!! あれ、なんか変じゃない!?」


しず子がそう言いながら、かすみんの手を引っ張る。


かすみ「へっ!?」


言われて、見てみると──


 「ヤブッ」「ブクロンッ」「ヤブゥッ」


大量のヤブクロンが何かに群がっている。

最初は餌があそこにあるのかなと思ったけど……雰囲気的に何かに怒っているような感じだった。



649 ◆tdNJrUZxQg2022/11/30(水) 12:52:11.674td2vpP20 (11/16)


かすみ「なんかを攻撃してる……!?」

しずく「まさか、私たちみたいに落ちてきた人なんじゃ……!」

かすみ「……!?」


さすがにそれは放っておくわけにはいかない。


かすみ「しず子!! サポートして!!」

しずく「う、うん!」


かすみんは一人でヤブクロンたちが群がってる場所に駆け寄りながら、抱えたサニーゴを前方にかざす。


かすみ「“パワージェム”!!」
 「……ニゴ……」


──ヒュンヒュンと輝くエネルギー弾が飛び出し、


 「ヤブ…!!?」「クロンッ…!!!」


数匹を弾き飛ばす。


 「ブクロン…」「クロンッ」


それと同時に、かすみんたちの攻撃に気付いたヤブクロンたちが、一斉にこっちに振り返り──飛び掛かってきた。


しずく「キルリア!! マネネ!! “サイコキネシス”!!」
 「キルッ!!!」「マネネッ!!!」


が、ヤブクロンたちはしず子たちの攻撃で、空中で動きを止める。


かすみ「ナイスしず子!! ジュプトル!! “きりさく”!!」
 「プトルッ!!!」


踏み切って高く跳んだジュプトルが、空中で釘付けにされていたヤブクロンたちを、1匹ずつ斬り裂いていく。

その隙にかすみんは、ヤブクロンたちに襲われていた人のもとへ滑り込む。


かすみ「だいじょう……ぶ!?」


かすみんが突っ込んだ先にいたのは──


 「…ヤブ」


またしても、ヤブクロンだった。


かすみ「へ!? ヤブクロンがヤブクロンを襲ってたの!? どゆこと!?」

しずく「かすみさん! そこにいた人は無事!?」

かすみ「それが……」


駆け寄ってくるしず子に、身を退けて、ヤブクロンの姿を見せると、


しずく「え、ヤブクロン……!?」


しず子も困惑したような顔になる。

が、考える間もなく、



650 ◆tdNJrUZxQg2022/11/30(水) 12:54:24.454td2vpP20 (12/16)


 「ヤブゥッ!!!」「ヤブクゥッ!!!!」


ヤブクロンたちがまた背後から追い付いてきた。

そして、それに反応するように、


 「ヤブゥ……」


目の前のヤブクロンは怯え始める。


かすみ「なんかわかんないけど、この子いじめられてるみたい……」


なんだか、放っておけずに立ち止まってしまう。


しずく「かすみさん!! 来てるよ!!」


でも、ここで立ち止まっているわけにはいかない、でも置いてくわけには……。


かすみ「……そうだ、ヤブクロンたち……このゴミの臭いが好きなんだよね。しず子!! 逆にめっちゃ良い匂いにしたら、ヤブクロンたち嫌がるんじゃない!?」

しずく「……! なるほど! やってみる!! ロゼリア!!」
 「ロゼッ!!!」

しずく「“アロマセラピー”!!」
 「ロゼェーー!!!!!」


しず子の指示と共にロゼリアを中心に、お花の良い香りが一気に周囲を包み込む。


 「ヤ、ヤブ…」「ブクロンッ…」「ヤブゥ…!!!!」


すると、ヤブクロンたちはその匂いから逃げるように、一目散に撤退を始めたのだった。


しずく「……せ、成功した……」

かすみ「……はぁ……最初からこうすればよかったね……」


二人でその場にへたり込む。ただ、すぐにまだ目の前に自分が助けたヤブクロンがいたことを思い出す。


かすみ「あわわ、そうだった、ヤブクロンには苦しいよね……!?」


慌てて、目の前のヤブクロンに目を向けると、


 「ヤブクゥ♪」


ヤブクロンはご機嫌な鳴き声をあげていた。


かすみ「あ、あれ……? 平気なの……?」
 「ヤブゥ♪」


ヤブクロンはむしろ元気になっているような……。

ついでに言うなら……さっきまで襲い掛かってきていた灰色のヤブクロンたちと違って、紺色をしていた。

そんなヤブクロンは急に、


 「ヤブゥ♪」


かすみんの顔に飛びついてきた。



651 ◆tdNJrUZxQg2022/11/30(水) 12:55:03.784td2vpP20 (13/16)


かすみ「むがっ!?」

しずく「かすみさん!? ヤブクロン! 助けてもらって嬉しいのはわかるけど、飛びつかないでください!?」

 「ヤブク…?」


しず子が焦って、引きはがす。


しずく「大丈夫、かすみさん!?」

かすみ「…………」

しずく「……かすみさん?」

かすみ「しず子……このヤブクロン……」

しずく「?」

かすみ「めっちゃ良い匂いする……」

しずく「……え?」





    👑    👑    👑





かすみ「くんくん……やっぱり、すごく良い匂いするよ、この子」
 「ブクロン♪」

しずく「……うん、確かに。普通のヤブクロンと色も違うし……特殊個体なのかな」

かすみ「特殊個体? そんなのいるの?」

しずく「ヤブクロンって普段からゴミを食べてるから、あの臭いと強い毒性を持つポケモンなんだけど……個体によって、好きなゴミが違うらしいの」

かすみ「ゴミが違う……?」

しずく「廃液が好きだったり、生ごみが好きだったり、ボロボロになったおもちゃとかが好きってこともあるんじゃないっけ……」

かすみ「人で言う、好きな食べ物の好み的な……?」

しずく「そういうことだと思う……。それでこの子は……」


 「ヤブクゥ♪」
 「ロゼ」


ロゼリアが腕にある花から花弁を1枚、ヤブクロンの前に落とすと──ヤブクロンはそれをむしゃむしゃと食べ始めた。


 「ヤブ♪」

かすみ「お花が好きってこと……?」

しずく「まあ、確かに……散って落ちた花弁も広義の意味ではゴミかもしれないね……」

かすみ「良い匂いのお花が好きだから、このヤブクロンも良い匂いがするんだ……。ってか、ロゼリアは花食べられてもいいの?」

 「ロゼ」
しずく「もともとリーダー気質の子だから……子分に餌を分けてあげてる気分なのかも」

かすみ「ふーん……そういうものなんだ……」


まあ、別にロゼリアが嫌がってないならいいんだけど……。



652 ◆tdNJrUZxQg2022/11/30(水) 12:56:13.164td2vpP20 (14/16)


かすみ「もしかして、このヤブクロンがいじめられてたのって……」

しずく「たぶん、この匂いのせいだろうね……。私たちにとっては良い匂いだけど、ヤブクロンからしたら“あくしゅう”ってことだろうし……」

かすみ「それだと……この子、またいじめられちゃうんじゃ……」
 「ブクロン?」

しずく「だろうね……」

かすみ「そんなの……可哀想……ヤブクロンは自分の好きなものを食べてるだけなのに……」

しずく「かすみさん……」

かすみ「どうにか……してあげられないかな……」

しずく「難しいかもしれないね……野生ポケモンたちは自分たちと違うことをしてる個体を追い出して、群れを守ろうとする習性があるから……」
 「ロゼ…」


そういえば、しず子のロゼリアも似たような感じなんだっけ……。

そうなると、この子はこれからもいじめられるし、いつかはここを追い出されるってこと……。

……それなら、いっそ──


かすみ「……い、いや……それは…………でも……」

しずく「…………」

 「ブクロン?」
かすみ「……そ、そんな顔してもダメです……か、かすみんは可愛いポケモンでチームを作るって決めてて……」

しずく「かすみさん」

かすみ「……」

しずく「心配なら、連れて行ってあげれば? それにどくタイプなら、フェアリータイプにも有利だし、探していた条件にも合ってるよ?」

かすみ「ぅぅ……でもぉ……」


かすみんはピカチュウとかピッピみたいな、いかにもな可愛いポケモンが……。


 「ヤブクゥ…」

しずく「ほら、見ようによってはヤブクロンも愛嬌があって可愛いよ? この子は他のヤブクロンと違って臭くもないし」

かすみ「……あぁもう!! わかったわかりました!! 連れて行きます!! 一緒に行こう、ヤブクロン!!」
 「ヤブク…♪」

しずく「ふふっ♪ 新しい仲間が増えてよかったね、かすみさん♪」

かすみ「うん……そうだね……。なんでだろ……かすみんの当初想像してた6匹からどんどん離れて行ってる気がする……」


ただまあ……。


 「ヤブク♪」


嬉しそうなヤブクロンを見ていたら、悪くはないのかな、なんて思ったり思わなかったりするのでした。






653 ◆tdNJrUZxQg2022/11/30(水) 12:56:52.804td2vpP20 (15/16)


    👑    👑    👑





その後、かすみんたちは叡智のゴミ捨て場の中を彷徨い──


かすみ「やっと出れた……光ですぅ……外の光ぃ……」
 「ブクロン♪」

しずく「外への道をヤブクロンが知ってて助かったね」

かすみ「それはホントに……」


ヤブクロンがいなかったら、未だに中を彷徨っていたかもしれないと思うと、少しゾっとする……。

そして、外に出た頃にはもうすっかり太陽は傾き始め、空が茜色に染まっていました。


しずく「もう夜になっちゃいそうだね……」

かすみ「ジム戦は明日にしよう……」


とにかく今はお風呂に入りたい……。

ずっとゴミ捨て場に居たせいで……たぶん、臭う……。

かすみんはくたくたな体にムチ打ちながら、乙女の尊厳を守るために、ホテル目指して、ダリアシティに戻っていくのでした。






654 ◆tdNJrUZxQg2022/11/30(水) 12:57:53.984td2vpP20 (16/16)


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【叡智のゴミ捨て場】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回●    . |_回o |     |       :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.32 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.28 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.32 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.27 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.24 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:134匹 捕まえた数:7匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.25 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.21 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.25 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.25 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.26 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:143匹 捕まえた数:9匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.






655 ◆tdNJrUZxQg2022/12/01(木) 11:01:30.00RGwRBCJA0 (1/18)


■Chapter034 『激闘! ダリアジム!』 【SIDE Kasumi】





──翌日。


かすみ「ふっふっふっ。雲一つない快晴……絶好のジム戦日和ですねぇ……!」


ホテルを出ると、空には青空が広がっていた。

まさに今日という日が、かすみんを祝福してくれているようです。


かすみ「対ヤザワ・にこ決戦兵器を手に入れたかすみんに敗北の文字はありません! もう戦う前から勝ったも同然ですね!!」

しずく「あはは……。それにしてもヤブクロン、ちゃんとどく技を使えてよかったね」

かすみ「それはホントに……」


こうして今日のために捕獲したヤブクロンですが……1つ懸念がありました。それはヤブクロンがまともにどくタイプの技を扱えるのかということです。

ご存じのとおり、かすみんのヤブクロンは普通のヤブクロンと違って、良い匂いがします。

それは、本来のヤブクロンたちとは毒性が違うということを意味していて……もしかしたら、どくタイプの技が使えない説がありました。

ただ、それはしず子と二人でいろいろ試した結果──


しずく「草花にも有毒種はあるもんね。それこそ、ロゼリアにもどくタイプはあるし……」

かすみ「そこからちゃんと毒を作り出してるみたいだね」


くさタイプのポケモンが使う毒に似たような成分のどく技が使えることがわかりました。

これで、どくタイプの技が全く使えないなんて言われたら、ジム戦対策で捕まえた意味がなくなっちゃいますからね……。

ただ、本来どくタイプのポケモンが使うような、いかにもやばそうな毒ではなさそうですが……むしろ、クリーンなイメージのかすみんにはぴったりですね!

──というわけで、準備は万端です!

しず子と話しているうちに、あっという間にジムへとたどり着いてしまいました。


かすみ「さぁ、勝負ですよ、ヤザワ・にこ……! たのもーー!!」


かすみんは気合い十分に、ジムへと入っていきます。

ジムに入ると、目的の人物はチャレンジャーを待っているところでした。


にこ「チャレンジャーね? いらっしゃい」

かすみ「はい! セキレイシティからきた、かすみんって言います!! どっちが本物のアイドルトレーナーに相応しいか、勝負ですよ!! ヤザワ・にこ!!」

にこ「……なんか、随分威勢の良い子が来たわね」

しずく「す、すみません……! かすみさん、ダメでしょ! 初対面の人にそんな失礼な態度取ったら……!」

かすみ「これから戦うんだもん! 勢いで負けちゃダメなんだもん!」


勝負は試合が始まる前から始まっているんです……!



656 ◆tdNJrUZxQg2022/12/01(木) 11:03:23.14RGwRBCJA0 (2/18)


にこ「あーえっと……気合いたっぷりなところ、悪いんだけど……実はにこはバトルは出来ないのよね」

かすみ「はぇ……?」

しずく「どういうことですか?」

にこ「実はにこ、今はここのジムリーダーじゃないのよ」

かすみ「はぁ? 何言ってるんですか?」

しずく「こら、かすみさん! ……ですが、ダリアのジムリーダーは、にこさんで間違いないはず……ポケモンリーグ公式の情報でもそうなってたはずですよね?」

にこ「実はね……それ、フェイクなのよ。このジムでは、バトルの実力だけではなくて、それ以外の知恵を試すための──」

かすみ「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


かすみんは思わず、人生最大級の溜め息が漏れてしまいます。


にこ「……今説明してるところなんだけど」

かすみ「……またこれです……なんなんですか……かすみんがジムに挑もうとすると、だいたいこれじゃないですか……セキレイでも、ホシゾラでも、ウチウラでも、コメコでも……かすみんはまず出鼻をくじかれてばっかです……」

にこ「えっと……急にどうしたの……この子……?」

しずく「……すみません。こちらのかすみさん、ジム戦がスムーズに出来た試しがなくて……」

かすみ「それでダリアでもですか……あーやだやだ……ポケモンジムっていつでもトレーナーたちの挑戦を待ってるなんて言っておきながら、いっつもこんなんばっかり……」

しずく「か、かすみさん、ジムリーダーの人たちにも事情があるからさ……」

かすみ「わかってるよ? 今までがたまたまタイミングが悪かっただけだってことくらい。でも、なんですか。こっちはちゃんと案内見て、この人と戦うんだって、いろんなこと考えてやっとの思いでジムにたどり着くんですよ? なのに、目の前にジムリーダーはいるのに、自分は本当はジムリーダーじゃないとか、酷くないですか?」

にこ「ぐ……。痛いところを……」

しずく「そんないじけなくても……」

かすみ「いじけてないもん……」

にこ「……なんか、悪かったわね。……でも、このジムはそういうルールなのよ……」

かすみ「……いいですよ。じゃあ、早くそのルールとやら、説明してくださいよ。別にいいですよ、にこ先輩となんて戦わなくたって、かすみんの方が可愛いアイドルトレーナーに向いてることなんて、最初からわかってたんですから」


別にかすみんとしては、白黒付けてやろうとしていただけで、勝つことなんて最初から決まっていましたし、別にいいんです。

ただ、当のにこ先輩は、


にこ「……なんですって?」


かすみんの言葉を聞いて、キッと睨みつけてくる。


かすみ「えーだって、アイドルトレーナーって言う肩書の割に、やってることはただの受付さんじゃないですか~。どっちかというと、裏方的な? そんな人、アイドル性でも、ポケモンバトルでもかすみん負ける気しないですし……というか、もう興味なくなっちゃいました」

にこ「……言ってくれんじゃない……こちとら、元四天王よ? アイドルとしてもバトルでも、そんじょそこらの新米トレーナー如きに、後れを取るとでも?」

かすみ「なんで新人トレーナーだって決めつけるんですか!?」

にこ「じゃあ、トレーナー歴何年よ? ジムバッジはいくつ持ってるの? こちとら歴戦のアイドルトレーナーで通ってんのよ、立ち振る舞い見れば、新米かどうかなんて一目瞭然じゃない。よくそんなんで、負ける気しないなんて大口叩けたもんね。無知って怖いわねぇ~」

かすみ「はぁ~~~~!? 先にバトルから逃げたのはそっちじゃないですかぁ!? 何逆ギレしてるんですか!?」

にこ「逃げてないわよ!? ルールがそうだって言ってんでしょ!? あんた話聞いてたの!?」

かすみ「聞いてましたぁ~! 要約したら、かすみんに恐れ慄いて、逃げ出したって内容だったってだけですぅ~!」

にこ「ぬぅわんですってぇ!? ああもう、あったま来た……!! バトルスペースに出なさい! そこまで言うなら相手してやるわよ!!」

かすみ「いや、いいですよ~? 今更無理しないで、本当のジムリーダーさんと戦うんで~? かすみんに恐れ慄いた逃げ出したジムリーダーさん」

にこ「むっかぁーーー!! さすがのにこも、ここまでコケにされて黙ってられないわよ!! いいわ!! 私がジム戦してやろうじゃない!!」

かすみ「いいんですか~? 負けて、泣いちゃっても知りませんよ~?」

にこ「はっ! それはこっちの台詞よ!! ボコボコにしてやるわよ!!」



657 ◆tdNJrUZxQg2022/12/01(木) 11:04:06.71RGwRBCJA0 (3/18)


にこ先輩は肩を怒らせながら、奥へと歩いていく。


にこ「ちょっと今、一本連絡入れてくるから、そこで待ってなさい!! 逃げるんじゃないわよ!!」

かすみ「にこ先輩こそ、逃げないでくださいね~」

にこ「~~~っ!!! 絶対ぎったんぎったんにしてやる……!!」


そう言いながら、にこ先輩はジムの奥にある部屋に消えていきました。

なんか知らないですけど、バトル出来るらしいです。

ま、別にかすみんはジムリーダーが誰でもいいんですけどね? どうせ勝つのはかすみんですし。

そんな中で、私たちのやり取りを見ていたしず子が一言ボソッと呟いた。


しずく「……確かにこれはキャラ被ってるかも」

かすみ「……でしょ! でも、これで白黒つけてやるから! 真のアイドルトレーナーはかすみんです!」

しずく「……そういうことじゃないんだけどなぁ……」

かすみ「え?」

しずく「うん、まあ、気にしないで。ジム戦、頑張ってね」

かすみ「任せて!」


かすみんの実力見せつけてやりますよ……!!





    💮    💮    💮





花丸「今日も平和ずらぁ……」


天窓から入ってくる太陽の光を浴びながら、今日も読書。

今日は挑戦者来るかなぁ……。

お茶を啜りながら、ぼんやり過ごしていると──prrrrと備え付けの電話が鳴る。


花丸「もしもし?」

にこ『花丸、ちょっといい?』

花丸「にこさん。何かあったずら?」

にこ『今、ジムに挑戦者が来たんだけど』

花丸「あ、はーい。いつ来てもいいように、準備を──」

にこ『私が相手することになったから』

花丸「ずら?」

にこ『それだけ、じゃあね──』

花丸「あ、ちょっと、にこさ……切れちゃった……」


なんか、事情が全くわからなかったんだけど……。


花丸「まあ……それならそれでいっか……」


マルは再びお茶を一口。


花丸「今日も平和ずらぁ……」



658 ◆tdNJrUZxQg2022/12/01(木) 11:04:52.21RGwRBCJA0 (4/18)


再び読書に没頭するために、本を手に取るのだった。





    👑    👑    👑





にこ「待たせたわね……」

かすみ「お構いなく~。かすみんはどっかのジムリーダーと違って、いつでもどこでも準備万端ですので~」

にこ「いちいち、むかつく言い方するわね……まあ、いいわ。バトルが始まったらそんな余裕かましてる場合じゃないだろうから。所持バッジの数はいくつ?」

かすみ「3つです」

にこ「わかった。使用ポケモンは3体。全て戦闘不能になった時点で決着よ」

かすみ「にしし……今回しっかり対策もしてきましたから、かすみん圧勝しちゃいますよ~」

にこ「せいぜい今のうちに粋がっておくといいわ!」


両者、ボールを構える。


にこ「ダリアジム・ジムリーダー『大銀河宇宙No.1! フェアリーアイドル』 にこ! こてんぱんにしてやるからかかってきなさい!!」


チャレンジャー、ジムリーダー、両者の手からボールが放たれて──バトル開始です!





    👑    👑    👑





かすみ「いくよ! ヤブクロン!」
 「ブクロン!!」

にこ「トゲチック! 目に物見せてやりなさい!」
 「トゲチックッ!!!」


にこ先輩の1番手はトゲチック。

 『トゲチック しあわせポケモン 高さ:0.6m 重さ:3.2kg
  優しい人の そばに いないと 元気が でなくなってしまう。
  羽を動かさずに 空に浮かべる。 純粋な 心の 持ち主を
  みつけると 姿を 現し 幸せを 分け与えると 言われる。』

そして、かすみんの1番手はもちろん、昨日捕まえたばっかりのヤブクロンです!


にこ「はぁ……」


が、にこ先輩、かすみんのヤブクロンを見るや否や溜め息を吐きました。


かすみ「なんですか……」

にこ「フェアリーのジムだからって、はがねタイプとかどくタイプを用意してくる。芸がないわね……」

かすみ「む……かすみんのヤブクロンは普通のヤブクロンと違います!」
 「ブクロン!!」

にこ「確かに色違いだけど……」

かすみ「舐めてかかってると痛い目見ますよ! “ヘドロばくだん”!!」
 「ブクローンッ!!!」


ヤブクロンの口から毒の塊が飛び出す。



659 ◆tdNJrUZxQg2022/12/01(木) 11:06:46.62RGwRBCJA0 (5/18)


にこ「それが芸がないって言ってんのよ。“サイコキネシス”!」
 「チックッ!!!」


が、“ヘドロばくだん”はトゲチックに届くことなく、空中で静止する。


かすみ「んな!?」

にこ「こちとら、弱点タイプへの対策なんて出来てるに決まってるでしょ。トゲチック、それは捨てちゃいなさい」
 「チック!!」


トゲチックは空中で止めた、“ヘドロばくだん”を脇に放り投げる。

べしゃっと音を立てて、何もない場所に散る“ヘドロばくだん”。


かすみ「ぐぬぬ……! “どくどく”!!」
 「ブクロッ!!!」


今度は鋭く毒液を飛ばす。


にこ「無駄よ! “しんぴのまもり”!」
 「チックッ!!!」


今度は現れたしんぴのベールが“どくどく”を阻む。


かすみ「こ、攻撃が通らない……!」

にこ「もちろん、対策は防御だけじゃないわよ!! “サイコショック”!!」
 「チックッ!!!」


にこ先輩の指示と同時にヤブクロンの周囲にブロックのようなものが現れて、


 「ヤブクロッ!!!?」


ヤブクロンに向かって突撃してきた。


かすみ「わ、わー!! ヤブクロン!?」

にこ「どくタイプのヤブクロンには、効果抜群ね」

かすみ「フェアリータイプの癖に、エスパータイプの技使うなんてずるいですよ!!」

にこ「ずるくないわよ。これは対策。あんたがこのジムに挑戦する前にしてたことと同じよ」

かすみ「ぐ、ぐぬぬ……言い返せない……」

にこ「さらに畳みかけるわよ!! “じんつうりき”!!」
 「チックッ!!!」

 「ブクロッ!!!?」


さらに追撃で、念動力による衝撃がヤブクロンを吹っ飛ばす。


かすみ「は、反撃しなきゃ……! “ヘドロばくだん”!!」
 「ヤ、ヤブクーーーッ!!!!」


再び、ヘドロの塊を発射する。


にこ「だから、効かないって言ってるでしょ!!」
 「トゲチックッ!!!」


でも、やっぱりこっちの攻撃は“サイコキネシス”で逸らされてしまう。



660 ◆tdNJrUZxQg2022/12/01(木) 11:08:54.39RGwRBCJA0 (6/18)


かすみ「ぐ、ぐぬぬ……!! 一旦逃げる!! ヤブクロン! 走り回って!」
 「ブクロン!!」

にこ「あら、もう逃げの一手?」

かすみ「うるさいですねぇ! 今、次の作戦を考えてるんですよ!!」


とにかく狙いの的にされないように……。


にこ「なら、“みらいよち”よ!」
 「トゲチックッ!!!」

かすみ「!?」


トゲチックの周囲に何かエネルギーの塊のようなものが現れたと思ったら、それはすぐに掻き消える。


かすみ「な、なんですか今の……」

にこ「“みらいよち”は未来に向かって予め攻撃をしておく技よ。逃げ回るのは結構だけど、もうあんたたちが逃げ回る先に、攻撃は置いてきた」

かすみ「う、うぇぇ!? そんなのズルじゃないですかぁ!?」

にこ「さぁ、いくらでも逃げ回ればいいわ!! “みらいよち”の攻撃が来る前に対策を思いつかないと、あんたの負けだけどね!」

かすみ「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ……!! 徹底して、エスパー技ばっかり……!!」

にこ「対策の対策なんて簡単なのよ。相手がしてくることがわかりやすくて、逆に大助かりだわ。あんた単純そうだし」

かすみ「う、うるさいですっ! こうなったら、肉弾戦ですぅ!!」
 「ブクロンッ!!」


走り回っていた、ヤブクロンは、トゲチックの方に方向転換する。


にこ「相手するわけないでしょ! “サイコキネシス”!!」
 「チックッ!!!!」


トゲチックがこっちに向かって手をかざすと──


 「ブ、ブクロ!!!?」


ヤブクロンは天井に向かって、吹っ飛んでいく。


かすみ「わー!!!? ヤブクロン!! 着地!! 天井に着地!!」
 「ブクロンッ!!!!」


ヤブクロンは身を捻って、どうにか天井に両足で着地、そのまま天井を蹴って、飛び出す。


にこ「へー! やるじゃない! でも、空中じゃ技が避けられないわね!! “サイコショック”!!」
 「チックッ!!!」


空中から一直線にトゲチックに向かっていく、ヤブクロンの進行方向に、大量の念力で出来たブロックが出現する。

そこに突っ込むようにして、飛び込んでいくヤブクロン。


 「ブ、ブクロンッ…!!!」

かすみ「頑張ってヤブクロン……!!」


そのまま、エスパーエネルギーの障害物を突っ切って、


かすみ「抜けた……!! お返ししますよ!! “しっぺがえし”!!」

 「ヤーーブクロンッ!!!!」


全身を使って、トゲチックに反撃を試みる。



661 ◆tdNJrUZxQg2022/12/01(木) 11:09:48.08RGwRBCJA0 (7/18)


 「チチック…!!!」
にこ「よく耐えたって言ってあげたいけどね、エスパー技は遠距離だけじゃないのよ!!」

かすみ「!?」

にこ「“しねんのずつき”!!」
 「チックッ!!!!」


至近距離にいるヤブクロンに返しの“しねんのずつき”が炸裂する。


 「ブ、ブクロンッ!!!?」


ずつかれたヤブクロンは、一瞬怯んでたたらを踏む。


にこ「“じんつう──」

かすみ「怯まないで!! “ひっかく”!!」
 「ブクロンッ!!!!」


すかさず追撃してくるにこ先輩。でも距離を取らせたら、またやり直しだ……!

ヤブクロンは足を踏ん張って、そのまま短い手を振りかぶって、トゲチックに喰らいつく。


にこ「苦し紛れね!! そんなのほとんど効かないわよ!! “しねんのずつき”!!」

かすみ「受け止めて!!」
 「ブクロンッ!!!!」


再び、頭から突っ込んでくる、トゲチックを──真正面から受け止める。


にこ「んな!?」

かすみ「ヤブクロン!! 放しちゃダメだよ!!」
 「ブクロンッ!!!」

にこ「結構攻撃してるはずなのに……どんだけタフなのよ……!!」

かすみ「だから、言ったじゃないですか!! かすみんのヤブクロンは普通のヤブクロンと違うんです!!」

にこ「……まあ、それは認めてあげるわ。でも、あんた何か忘れてるんじゃないの?」

かすみ「え?」

にこ「……あんたたちは過去から攻撃されることが決まってるって言ったわよね!」

かすみ「!? あ、やばっ!?」


直後、ヤブクロンの周囲の空間がぐにゃりと歪む。

“みらいよち”による強大な念動力の力がヤブクロンに向かって、襲い掛かって来る。


かすみ「ヤブクロン、逃げ……!?」


かすみん、咄嗟に指示を出しますが、組み合った状態のヤブクロンは逃げる暇もなく。


 「ブ、ブクローーンッ!!!!?」


なすすべもなく、“みらいよち”の攻撃がヤブクロンを直撃した。


かすみ「……あ」

にこ「……“しねんのずつき”を受け止められたときは正直ビビったけど……。さすがにこれは耐えきれないでしょ。エスパータイプの中でも最強クラスの威力の技なんだから」


にこ先輩は得意げに言う。

……が、



662 ◆tdNJrUZxQg2022/12/01(木) 11:10:40.89RGwRBCJA0 (8/18)


 「ト、トゲチッ!!!?」
にこ「え……?」


トゲチックの焦るような鳴き声に、にこ先輩が視線を向けると、


 「ブクロン…!!!!」


ヤブクロンはまだその場に立って、トゲチックの頭を抑えつけたままだった。


にこ「……はぁ!? どうなってんのよ!? “みらいよち”が当たったのよ!?」
 「ト、トゲッ!!!」


焦るにこ先輩とトゲチック。ヤブクロンに捕まったまま、自由の効かないトゲチックに向かって、


かすみ「“ヘドロばくだん”!!」
 「ヤーーーブクッ!!!!!」


至近距離から“ヘドロばくだん”をお見舞いする。


 「ト、トゲチッ…!!?」


ヘドロが派手に炸裂して、後方に吹っ飛ばされるトゲチック。


にこ「い、一旦撤退……!!」

かすみ「逃がしません!! “こうそくいどう”!!」
 「ブクロンッ!!!!」


逃げようとするトゲチックに、“こうそくいどう”で肉薄する。


 「チ、チックッ!!?」
にこ「はぁ!? “こうそくいどう”!? そんな技覚えないでしょ!?」

かすみ「そもそもヤブクロンは、“ひっかく”を覚えませんよ!」

にこ「!?」

かすみ「トドメです!! “ヘドロばくだん”!!」
 「ヤーブクゥッ!!!!!」


至近距離から二度目の“ヘドロばくだん”を炸裂させ、


 「ト、トゲチィィィ…」


ヘドロまみれになった、トゲチックは耐えきれず、その場に倒れこんだのだった。


にこ「う、うそ……」

かすみ「……あっれぇ~? 対策の対策は完璧なんじゃないんですかぁ~?」

にこ「ぐ、ぐぬぬ……こ、こんなの初見でわかる訳ないじゃない!!」


激昂するにこ先輩の前で、ヤブクロンの姿が靄のようにブレる。

そして、その姿はどんどん小さくて黒い狐のような、シルエットに変わっていく。そう、この子はヤブクロンじゃない、


かすみ「にっしっし……ナイスだよ、ゾロア!!」
 「──ガゥッ!!!」


“イリュージョン”で化けたゾロアだったんです。



663 ◆tdNJrUZxQg2022/12/01(木) 11:11:58.30RGwRBCJA0 (9/18)


にこ「ず、ずるなのはどっちよ!!」

かすみ「ずる? これは対策って言うんですよ~。いや~こっちもにこ先輩が対策の対策をしてくるだろうなんて、わかりきってたんで、対策の対策の対策を仕込んできたんですよね~」


まあ、ホントのことを言うと、エスパータイプで対策を打ってくると予想したのはしず子なんだけど……。

あくタイプのゾロアにとって、エスパータイプの攻撃は効果がありません。

だから、最初から食らっている振りをして、チャンスを伺っていたというわけです。


かすみ「あれ、なんでしたっけ? 芸がないとか、わかりやすくて助かるとか、誰かが言ってたような気がするんですけど~」

にこ「ぐぬぬぬぬぬぬ……。……って、ちょっと待ちなさいよ! “サイコキネシス”で吹っ飛ばされてたじゃない!!」

かすみ「ああ、あれは“とびはねる”ですよ。派手に吹っ飛ばされた演技をしてました」

にこ「な、なんて姑息な……」

かすみ「姑息? これはかすみんとゾロアの作戦勝ちですよ。それに、にこ先輩がヤブクロンは“ひっかく”を覚えないって知ってれば、見破ることも出来たはずですよ~?」

にこ「……ぐぬぬ……確かにそれを言われると、こっちの知識不足だったと言わざるを得ない……」


にこ先輩はそう言って、項垂れる。


にこ「……まあ、いいわ。ネタがわかっちゃえば、相性有利なゾロアなんて、数の内に入らないわ」

かすみ「……」


にこ先輩は負け惜しみのようなことを言うけど……あながちただの負け惜しみとも言い切れない。

ゾロアで出来るのは、それこそ不意を打っての一発勝負だけで、真っ向から戦って勝つのは少し厳しい。


かすみ「ゾロア、お疲れ様、戻って」
 「ガゥッ──」


だからかすみんは、ゾロアをボールに戻す。


にこ「賢明ね」


こうすれば次にゾロアを出したときに、また“イリュージョン”で姿を変えて場に出せるけど……。

たぶん、次は真っ先に“イリュージョン”を破るのを優先してくるはずだから、実質ゾロアが出来ることはここまで。


かすみ「さぁ、今度こそ出番ですよ、ヤブクロン!」
 「──ブクロン!!!」

にこ「今度こそ出てきたわね……。さぁ行くわよ、ペロリーム」
 「──ペロリ~」


にこ先輩の2番手はペロリーム。

 『ペロリーム ホイップポケモン 高さ:0.8m 重さ:5.0kg
  嗅覚は 人の 1億倍以上。 空気中に 漂う わずかな においでも
  まわりの 様子が すべて わかる。 体毛に たくさん 空気を
  含んでいるので 触り心地は 柔らかく 見た目より 軽い。』


にこ「今度こそ、“サイコキネシス”!!」
 「ペロリ~」


早速のエスパー攻撃。

今度は本当のヤブクロンなので、無効には出来ませんが──


 「…ヤブゥ」


ヤブクロンはちょっと浮いただけで、すぐにポトっと地面に落ちる。



664 ◆tdNJrUZxQg2022/12/01(木) 11:12:54.67RGwRBCJA0 (10/18)


にこ「なんかしょぼいことになってる……!?」

かすみ「“ドわすれ”をしたから、エスパー技もそんなに痛くないですよ!!」


“ドわすれ”は痛みすらも忘れて、相手の特殊攻撃の威力を大幅に抑える技。

お陰でタイプ相性の悪いヤブクロンでも十分対策しきれます!


にこ「さすがにあそこまでやってくるのに、対策してないわけないか……! ただ、ヤブクロンに関しては、ダリアの人間は詳しいのよ! ペロリーム、“アロマセラピー”!!」
 「ペロリ~~」


ジム内に良い匂いが充満する。


にこ「“あくしゅう”が大好きなヤブクロンからしてみたら、この芳香は激臭のはずよ! 苦しみなさい!」

 「ヤブク~♪」

にこ「……って、なんか嬉しそうなんだけど!?」

かすみ「だから、かすみんのヤブクロンは特別だって言ったじゃないですか! 良い匂いは大好きですよ! “ヘドロばくだん”!!」
 「ヤブックッ!!!!」


今度こそ、本物のヤブクロンから放たれる“ヘドロばくだん”ですよ!


にこ「やば……! “かえんほうしゃ”!!」
 「ペロリ~~~!!!!」


ペロリームから、放たれる“かえんほうしゃ”が“ヘドロばくだん”を相殺する。


にこ「“10まんボルト”!!」
 「ペロ~~~!!!!」


畳みかけるように飛んでくる電撃が、ヤブクロンに直撃する。


かすみ「わわっ!? 大丈夫!? ヤブクロン!?」
 「ヤブク~…」

かすみ「“ドわすれ”が活きてる……!」

にこ「く……厄介ね……!」


そこまでダメージの通りはよくない。とはいえ、さっきから多彩な技ですね……!

何か仕掛けられる前に、動くべきですね……!


かすみ「ヤブクロン、動くよ!!」
 「ブク…ロロロロ」

にこ「うわぁ!? なんか、吐き出した!? ……って、花!?」


かすみんの合図と共に、ヤブクロンが体内のゴミを吐き出し始める。

まあ、お花なんですけど……。


かすみ「軽くなったね! 行けー! ヤブクロン!」
 「ヤブクーー」


ヤブクロンがペロリームに向かって走り出す。


にこ「って、速っ……!?」


にこ先輩も驚くほどの猛スピードで走り出したヤブクロン。

今さっきやったのは、“ボディパージ”。自分の体を構成するゴミを外にパージして、軽くなるのと同時に、速くなる技です!!



665 ◆tdNJrUZxQg2022/12/01(木) 11:13:42.57RGwRBCJA0 (11/18)


かすみ「“とっしん”!!」
 「ヤブクーーー」


近接戦に持ち込み、ペロリームに真正面から突撃する、が、


にこ「“コットンガード”!」
 「ペロッ」


もこもこになった体毛にボフっと音を立ててぶつかり、勢いが殺される。


かすみ「防御された……! でも、速さで攪乱すればチャンスはいくらでもありますよ!」

にこ「動き回られると厄介ね……! でも、素早さ操作はこっちも得意なのよ……!」


高速で離脱しようとした矢先、


 「ヤ、ヤブ…」


ヤブクロンは今しがた突っ込んだ体毛から抜け出したと思ったら、急に動きが鈍くなる。


かすみ「!? 何かされた!?」


動きづらそうにするヤブクロンの体のあちこちに、綿がまとわりついている。


かすみ「まさか、“わたほうし”……!?」

にこ「正解よ! さらに、その綿はよく燃えるわよ! “かえんほうしゃ”!!」
 「ペロリーーーー!!!!」

 「ヤ、ヤブクーーーー!!!?」


ペロリームの噴き出した火炎が、ヤブクロンに纏わりついていた綿に引火し、ヤブクロンを一気に燃やしていく。


かすみ「やばっ!? “ころがる”で消火して!!」
 「ヤ、ヤブクーー!!!!」


ヤブクロンは体を転がして、フィールドに押し付けながら消火を図る。

ただ、“わたほうし”は本当によく燃えるらしく、なかなか火の勢いが収まらない。


かすみ「こーなったら、そのまま突っ込んじゃえ!!」
 「ヤブクーーー」

 「ペ、ペロリーー!!?」
にこ「のわーー!? こっち来るんじゃないわよ!!」


そのまま、ペロリームに突撃すると──ペロリームの体毛に引火して、2匹は一気に炎に包まれる。


 「ペ、ペロォォォ!!!!」
 「ブ、ブクロンーー!!!!」

にこ「ちょっとぉ!! 何してくれてんのよ!?」

かすみ「先に火つけてきたのはそっちじゃないですかぁ!?」


でももはや、こうなったら後は根比べ……!


かすみ「“ドわすれ”してるから、こっちに分がある……と思う!! ヤブクロン苦しいかもしれないけど、頑張って!!」
 「ブ、ブクローーーン!!!!!」

 「ペ、ペロリィィィィ!!!!!」
にこ「く、ヤバイ……! これじゃ、ペロリームの方が先に……!」


あくまでくっつけられた綿毛が燃えているだけのヤブクロンと、自身の体毛が燃えているペロリームでは炎によるダメージにも差が出てくる。



666 ◆tdNJrUZxQg2022/12/01(木) 11:14:59.67RGwRBCJA0 (12/18)


かすみ「この勝負、もらいましたよ!!」

にこ「ぐ……!! こうなったら、止むを得ない……! 最後の手段よ、ペロリーム!!」

かすみ「え!?」

にこ「“ミストバースト”!!」
 「ペロ、リィィィィィィィィ!!!!!!!!」

 「ブクロォォォォ!!!!?」


にこ先輩の合図と共に、ペロリームがピンク色の光と共に──大爆発した。


かすみ「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!? 何してくれてるんですかぁ!!!?」

にこ「ああなったらもう、死なばもろともよ……!!」


ピンクの爆炎が晴れると──


 「ブ、ブクロン……」

 「リィ~~~ム……」


ヤブクロンとペロリームが2匹とも、戦闘不能になっていた。


かすみ「ぐぬぬ……あのままなら、勝ってたのはこっちだったのに……」

にこ「勝てないと踏んだら、相討ちを取りに行くのも立派な戦略よ」

かすみ「この卑怯者!! 恥ずかしくないんですか!?」

にこ「先に相討ち覚悟で突っ込んできたのはそっちでしょ!?」

かすみ「ぐぬぬ……」

にこ「さぁ、早く次のポケモン、出しなさいよ」

かすみ「そ、そっちこそ……!」


二人で次のポケモンを選択する。

ゾロアを出す……? いや、“イリュージョン”がバレている状態で、フェアリータイプのエキスパートと戦うのは、かなり苦しい……。

実質、最後の手持ちがやられたら負けと言っても過言ではない。

なら……ここでやりきるしかない。


かすみ「頼みますよ……! かすみんのエース!」
 「──ジュプト!!!」

にこ「ジュプトルね。こっちはこの子よ!」
 「──フィァ」

かすみ「ニンフィア……!」

にこ「へー、よく知ってるじゃない」


そりゃ知ってますよ……ヤザワ・にこのエースと言えばニンフィアなんですから……。

もちろん、今回のはジム戦用の個体でしょうけど……。

 『ニンフィア むすびつきポケモン 高さ:1.0m 重さ:23.5kg
  リボンのような 触角から 敵意を 消す 波動を 発して 争いを
  やめさせる。 ひとたび 戦いとなれば 自分の 何倍もある
  ドラゴンポケモンにも いっさい怯まず 飛びかかっていく。』


にこ「さぁ行くわよ、ニンフィア!! “ハイパーボイス”!!」
 「フィアアアアアァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」

 「ジュプトォ…ッ!!!!!!!」



667 ◆tdNJrUZxQg2022/12/01(木) 11:15:32.39RGwRBCJA0 (13/18)


出会い頭から、大音量の音波攻撃でジュプトルを吹っ飛ばされる。

──吹っ飛ばされながらも、ジュプトルは受け身を取って立ち上がり、フィールド内を走り始める。


かすみ「とにかく、あの音攻撃……! 食らわないようにしないと……!」


単純だけど、爆音による攻撃は強いと言わざるを得ない。

威力もだけど、何より範囲が広すぎる。

避けるとなると、距離を取って、少しでもダメージを抑えるか、あとは音が発せられるニンフィアの前方から逃げるかだ。

かすみんの選択は後者! ジュプトルの身のこなしを活かして、とにかく回り込んで避ける!

相手の横や背後を取れば、攻撃のチャンスも訪れるはずです……!


にこ「最後は逃げ回るのね! “ハイパーボイス”!!」
 「フィアァァァァァァァ!!!!!!!!!!」

かすみ「ジュプトル!! とにかく、ニンフィアの前に行かないように!!」
 「ジュプトォ!!!!!」

にこ「ちょこまかと……!! “ハイパーボイス”!!」
 「フィィィィァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」


床を蹴り、壁を蹴り、身のこなしを生かして、どうにか攻撃を回避しながら、フィールド内を駆け回る。

この制圧力は本当に厄介だし、それこそゾロアじゃ対抗できない……!

ジュプトルでどうにか決め切らないと……!!


にこ「逃げてばっかりじゃ、勝てないわよ!!」


にこ先輩がなんか吠えてますけど、こればっかりは避けないわけにはいかない。


にこ「あくまで逃げるってことね……なら、これならどう! “スピードスター”!!」
 「フィァーー!!!!」


ニンフィアから、ピンク色をした星型弾が飛び出して、ジュプトルを追尾し始める。


かすみ「なんか追ってきてるし……!!」

にこ「“スピードスター”はホーミングよ!! 逃がさないわ!!」

かすみ「ぐぅ……! とにかく、足を止めちゃだめだよ、ジュプトル!!」
 「プトルッ!!!」

にこ「足ならこっちから、止めてあげるわ!!」


にこ先輩がそう言うと、ニンフィアがジュプトルの進行方向に、顔を向ける。

そりゃ、“スピードスター”からの逃げ先に撃ってきますよねぇ……!?


にこ「“ハイパーボイス”!!」
 「フィィィアァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!」

かすみ「やばっ! ジュプトル!! 180度切り替えし!!」
 「プトルッ!!!」


音波の射程から逃れるために、今追ってきている“スピードスター”の方にあえて突っ込ませる。

突っ込みながらも、“スピードスター”の弾と弾の合間を掻い潜るように、身を捩らせながらの回避。


かすみ「せ、セーフ……」

にこ「へー! やるじゃない! でも、まだ“スピードスター”は追ってくるわよ!」


にこ先輩の言うとおり、“スピードスター”も折り返して、再びジュプトルを追いかけまわす。



668 ◆tdNJrUZxQg2022/12/01(木) 11:16:11.53RGwRBCJA0 (14/18)


にこ「今の回避はなかなかだけど、そう何度も避け続けられるかしらね!」

かすみ「ぐぅ……!」


確かにこのままじゃジリ貧だ。

どこかで攻撃に転ずるしかない。


かすみ「ジュプトル! “スピードスター”に向かって、“タネマシンガン”!!」
 「プトルルルルル゚!!!!!!」


逃げ回りながらも、“スピードスター”を迎撃して、少しでも余裕を作ろうとする。

が、


にこ「なら追加の“スピードスター”よ!」
 「フィァーー!!!!!」

かすみ「ぎゃーー!? 増えたーー!?」


撃ち落としたところで、また新しい“スピードスター”が飛んでくるだけ。

このままじゃキリがない……!


にこ「どんだけ頑張って逃げても無駄よ無駄。音よりも速く動けない以上、逃げ切ることなんて不可能だわ」

かすみ「ぐぬぬ……」


悔しいけど、こればっかりはにこ先輩の言うとおりかもしれない。

確か、前にしず子が言っていた気がする……音ってめっちゃ速いんだよね。

ジュプトルがいかに素早いとは言え、音の速さより速く動くことは難しい。


かすみ「どうする……どうする……」


頭を回転させながら、どうにか打開策を考えるけど……逃げるのが精いっぱいで、なかなかいい案が浮かばない。


かすみ「やっぱり音より速く攻撃するしか……」


でも、そんな方法……。


かすみ「……あ、あれ?」


記憶の中で、何かが引っ掛かった。

音がすごく速いって、確かにしず子から聞いたけど……音が一番速いって話じゃなかった気がする。

なんだっけ、何か……音よりも速いものがあるって……。


かすみ「そうだ……ジュプトル!!」
 「プトル!!」

かすみ「音を、速さで、ぶち抜くよ!!」
 「プトルッ!!!!」


かすみんが天を指さしながら言うと、ジュプトルは壁を蹴りながら、ジムの上の方へと駆けあがっていく。


にこ「何するつもりか知らないけど、そんな方向に行ったら完全に的よ!!」
 「フィア!!!!」



669 ◆tdNJrUZxQg2022/12/01(木) 11:16:47.33RGwRBCJA0 (15/18)


ニンフィアが空中のジュプトルに向かって、口を開く。

“ハイパーボイス”が来る……!!

チャンスは一度……!

天窓から差し込んだ光を背に受けながら、ジュプトルは──腕の刃を前に構えた。


にこ「“ハイパーボイス”!!」
 「フィィィィィアァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!」


……あとで教えてもらったことだけど、この距離だとニンフィアの音波が届くまでの時間は1秒にも満たないらしいです。そんな時間の中──


にこ「な……!」


それよりも速く、天窓から集めた一筋の光が、一直線にニンフィアを貫いていた。


かすみ「──“ソーラーブレード”……!!」


直後、爆音の直撃を受けて、ジュプトルが天窓に叩きつけられ、さらに追い打ちをかけるように、“スピードスター”がジュプトルを襲って、エネルギーが爆ぜる。


 「ジ、プトォ……」


無防備な空中でありったけの攻撃を受けたジュプトルは、戦闘不能になって落下してきますが、


かすみ「……はぁ……はぁ……! かすみんたちの、勝ちです!!」

 「フィ、ァ……」


光速の剣で撃ち抜かれたニンフィアも、攻撃に耐えきれずに、地に伏せったのでした。

ワンテンポ遅れて、ドサっと地面に落ちたジュプトルは、


 「プトォ…ル」


最後の力を振り絞って、かすみんに向かって親指を立ててきた。

最後の力を振り絞ってやることがサムズアップだなんて、なんて粋なんでしょうね、この子は……!

まさにかすみんのエースに相応しいです!

思わず、かすみんも親指を立てて返しちゃいます。


かすみ「ナイスファイトだよ! ジュプトル!」
 「プトォル…!!!」

にこ「……う、うそでしょ……?」

かすみ「さぁ、にこ先輩。言うことがあるんじゃないですか? まだ、かすみんの手持ちにはゾロアが残ってますよ!」

にこ「ぐ……。……3匹全て戦闘不能。よってこの勝負、チャレンジャーかすみの勝利よ……」

かすみ「ふっふっふっ……どんなもんですか!!」

にこ「…………」

かすみ「やっぱ、かすみんに敗北の二文字はなかったってことですねぇ~」

にこ「…………ニンフィア、ありがとう。ゆっくり休んで」


にこ先輩はニンフィアをボールに戻しながら、ゆっくりとこっちに歩いてくる。


かすみ「ほらほら、どうですか、かすみんの実力は? 褒めてくれていいんですよ? 崇めてくれていいんですよ?」

にこ「…………」


にこ先輩が無言で近寄ってくる。



670 ◆tdNJrUZxQg2022/12/01(木) 11:17:28.39RGwRBCJA0 (16/18)


かすみ「……あ、あの……もしかして、めっちゃ怒ってます……?」

にこ「…………」

かすみ「あ、あのあのあの……こ、これも勝負なので……お、怒んないでくださいよ……!」

にこ「かすみ」

かすみ「ぴゃ、ぴゃぃ!?」

にこ「……にこの負けよ」

かすみ「……へ?」


かすみん、間抜けな声を出してしまいました。


にこ「……見くびってたわ。正直、生意気な態度について言いたいことはいくらでもあるけど……勝負で負けたことについては、認めざるを得ないわ。あんたの勝ちよ」


そう言いながら、にこ先輩はかすみんの手に何かを握らせる。


かすみ「あ……これ……」

にこ「ダリアジムを突破した証──“スマイルバッジ”よ。持って行きなさい」

かすみ「にこ先輩……」

にこ「何よ?」

かすみ「もしかして……にこ先輩、結構良い人ですか?」

にこ「……あんた最後まで失礼な奴ね……」


にこ先輩はそう言って溜め息を吐く。


しずく「──す、すみません、にこさん……! かすみさん、そういう態度取っちゃ、めっ! だよ!」

かすみ「だ、だって……」

しずく「正々堂々バトルした相手には、最後に言うことがあるでしょ」

かすみ「ぅ……。……にこ先輩、ジム戦ありがとうございました……」

にこ「……ふふ。どういたしまして」


にこ先輩は苦笑いしながら、肩を竦めた。



671 ◆tdNJrUZxQg2022/12/01(木) 11:18:32.59RGwRBCJA0 (17/18)


にこ「それにしても……よく“ハイパーボイス”の中心を“ソーラーブレード”で撃ち抜こうなんて思ったわね」

かすみ「え、えっと……光の方が音より速いって……前にしず子が言ってたから……」

にこ「なるほどね……。でも、それを実行する胆力は大したものよ」

かすみ「えへへ……そ、それほどでも……」

にこ「にこの次にすごいと認めてやってもいいわ」

かすみ「……はぁ~~~?」

にこ「最近の新米トレーナーも捨てたもんじゃないわね」

かすみ「勝ったのはかすみんなんですけど~? この期に及んで、まだ自分の方がかすみんより上だと思ってるんですか~?」

にこ「はぁ……ジムリーダーにはね、本気の手持ちってのがあるのよ。ジム戦突破の実力はもちろん認めてあげるけど、本気のにこに勝とうなんて、100年早いわ」

かすみ「な、な、な……!! なんですか、その態度!! じゃあ、本気の手持ち出してくださいよ!! かすみんがボコボコにしてやりますよ!!」

にこ「やめときなさい。泣いて帰る羽目になるわよ」

かすみ「それはこっちの台詞ですよ!! ぼっこぼこにしてやりますから、フィールドについてください!! しず子!! 手持ち回復して!! かすみんのバッグの道具使っていいから!!」

しずく「え、いやー……本当にやめておいた方が……」

かすみ「いいから!! 早く、今すぐ!!」

にこ「本当にいいのね? 本気の手持ちを使っても」

かすみ「当たり前です!! これで手加減なんかしたら、かすみん許しませんからね!!」





    👑    👑    👑





にこ先輩の本気の手持ちとやらとの戦いは……かすみんの手持ちの数に合わせて5匹対5匹で行われました。

結果は──


かすみ「──……ぅ……ぇぐ……しず子ぉ……っ……」

しずく「よしよし。頑張った頑張った」

かすみ「……がずみん……でもあじもでながっだよぉ……っ……」

しずく「仕方ないよ、相手は本当に歴戦のトレーナーなんだから。いつか強くなって、見返せるように頑張ろう! ね?」

かすみ「ぅ……ひぐ……っ……うん……っ……」


にこ先輩の1匹目のポケモンに5匹全員為すすべもなくやられるという惨敗に終わりました。


かすみ「……いつか……かすみんが勝つもん……」

しずく「うん、その意気だよ、かすみさん!」


いつか、誰にも負けないポケモントレーナーになってやります……。

もちろんアイドルトレーナーとしても一番になれるように、かすみん、これからも強くなるんですから……!

一番星が輝くダリアの星空の下、涙をぐしぐしと拭いながら、次へ進むために、歩いて行きますよ……かすみんは……!






672 ◆tdNJrUZxQg2022/12/01(木) 11:19:11.28RGwRBCJA0 (18/18)


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ダリアシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  ●     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.34 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.32 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.32 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.27 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.27 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 4個 図鑑 見つけた数:136匹 捕まえた数:7匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.25 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.21 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.25 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.25 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.26 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:145匹 捕まえた数:9匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.






673 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 03:10:02.94s0SNcJvm0 (1/33)


 ■Intermission🎙



──ローズシティ。ローズジム。


菜々「真姫さん、こちらが今週の予定です」

真姫「ありがとう、菜々」


組んだスケジュールが入力された端末を手渡すと、真姫さんはそれに目を通し始める。

ジムリーダーを務める傍ら、医者としての研究、さらにこの街の多くの企業に影響を持っているニシキノ家のご令嬢である真姫さんは、常に多忙だ。

こうして、秘書をやらせてもらうようになり、実際に彼女のスケジュールを管理していると、それがよくわかる。

管理と言っても……私がやっているのは、彼女に来るアポイントメントを整理している程度だけど……。


真姫「うん。これで問題ないわ」

菜々「ありがとうございます」

真姫「それじゃ、今回の仕事はこれで終わりよ。また何日かしたら顔を出してくれればいいから」

菜々「え!?」

真姫「どうかしたの?」

菜々「いや……私、つい先ほど戻ってきたばかりですよ?」

真姫「そうね」

菜々「そうねって……」


せっかく仕事をしに、ローズまで戻ってきたのに……。


真姫「でも、このスケジュール完璧よ? 菜々にお願いしているのは、基本的にアポの管理業務なわけだし、貴方の仕事はここまででいいのよ」

菜々「で、ですが……! さすがにこれだけでは……申し訳ないと言いますか……」

真姫「菜々ったら、相変わらず真面目ね」

菜々「ま、真面目とかそういう話ではなく……!」

真姫「菜々は優秀な秘書になりたいの? 違うでしょ?」

菜々「……そ、それは……」


確かにそれは違うけど……。


真姫「貴方がなりたいモノは何?」

菜々「……チャンピオンです」

真姫「なら、それに向かって努力をすればいい」

菜々「どうしてそこまでしてくれるんですか……」

真姫「ひたむきに頑張る人の夢を応援するのに、理由が必要かしら?」

菜々「真姫さん……」

真姫「わかったら、早く行きなさい。貴方には最強を目指せるだけの資質があるんだから」

菜々「……ありがとうございます!」



674 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 03:10:38.53s0SNcJvm0 (2/33)


──真姫さんにはずっとお世話になってばかりだ。

こうして、私が私らしく、私の好きなことをしていられるのも……全部、真姫さんのお陰。

もし、そんな彼女に報いることが出来るとしたら──1秒でも早く、この地方のチャンピオンになることなんだろう。


菜々「……」


眼鏡を外し、三つ編みを解く。これが、私が……菜々が──せつ菜に変わる、スイッチ。


せつ菜「──ユウキ・せつ菜……! 行って参ります!」


──せつ菜として、最強を目指すために、私はまた修行の旅に出る。


………………
…………
……
🎙




675 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:19:23.83s0SNcJvm0 (3/33)


■Chapter035 『再戦! ホシゾラ・コメコジム!』 【SIDE Ayumu】





──朝、ホシゾラシティの旅館から出る。


侑「見て、歩夢……良い天気だ」
 「イブイ!!」

歩夢「うん」


雲一つない、青い空。


リナ『快晴! ジム戦日和!』 ||,,> ◡ <,,||

歩夢「ふふっ、そうだね♪ 侑ちゃん」

侑「なに?」

歩夢「ジム戦、頑張ろうね!」

侑「うん! もちろん!」


一日掛けて、ウラノホシタウンからホシゾラシティまで戻ってきて──ついに迎えた再戦当日。

私の心には、以前コメコジムに挑戦したときのような迷いはなく……晴れ渡っていた。今日のこの青空のように。

なんの迷いもなく、真っすぐ、正々堂々、戦える気がした。


歩夢「みんなも……よろしくね」


手持ちの入ったボールに話しかけると──みんな元気いっぱいにボールを震わせながら応えてくれる。


 「シャーボ」
歩夢「うん! もちろん、サスケもよろしくね!」

侑「それじゃ、行こう! 歩夢!」
 「ブイ!!!」

歩夢「うん!」


私たちはホシゾラジムへ向かいます。





    🎀    🎀    🎀





──ホシゾラジムへ向かうと、ジムの前に人影が二つ。


凛「あ! 侑ちゃ~ん、歩夢ちゃ~ん!」


私たちの姿に気付いた凛さんが、ぶんぶんと手を振ってくる。


侑「凛さん、花陽さん!」

花陽「こんにちは♪ 二人とも元気だった?」

歩夢「はい! あの……今日は再戦を受けてくださって、ありがとうございます」

花陽「うぅん、こちらこそ、再戦を申し込んでくれてありがとう♪ 凛ちゃんと一緒に、全力でお相手するね♪」

侑「よろしくお願いします!」

凛「それじゃ、いこっか!」



676 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:22:07.76s0SNcJvm0 (4/33)


そう言って凛さんが歩き出して、ジムから離れていく。


侑「あ、あれ……?」

歩夢「あの……ジム戦は……?」

花陽「あれ? もしかして、凛ちゃんから聞いてないの?」

侑・歩夢「「え?」」


二人で同時に首を傾げる。

聞いてないとは……?


凛「……あ! 言うの忘れてた!」

花陽「凛ちゃん……もう……。……あのね、今回のバトルは屋外でやろうと思って……」

歩夢「外でですか……?」

凛「理由は……まあ、移動しながら話そっ! こっちこっち!」

侑「は、はい、わかりました」


凛さん先導のもと、私たちは移動を開始します。





    🎀    🎀    🎀





侑「わー! 高いよ! イーブイ!」
 「ブイブイ!!」

凛「でしょでしょ! 流星山ロープウェイからの景色は絶景なんだよ! ホシゾラの自慢の一つだにゃ!」


──凛さんの案内で連れてこられたのは、ロープウェイだった。現在4人でロープウェイを使って、流星山を登山中。


歩夢「あの……もしかして、バトルするのって……」

花陽「うん。流星山の頂上だよ」

侑「流星山の頂上で!?」

凛「ホシゾラジムみたいな床張りの場所だと、ディグダみたいなポケモンは使いづらいからね」

侑「あぁ、なるほど」


確かにディグダみたいな体が地面に埋まっているポケモンは、床張りのジムだと動きが制限されちゃいがちかも……。


花陽「私はそれでも大丈夫って言ったんだけど……」

侑「いえ! やるなら、お互いが全力で戦える場所でバトルしたいです! ね、歩夢!」

歩夢「ふふっ、そうだね♪」

凛「二人なら、そう言ってくれると思ったにゃ♪」

花陽「ありがとう、侑ちゃん、歩夢ちゃん。正々堂々戦おうね♪」

侑・歩夢「「はい!」」


話していると、ロープウェイは間もなく頂上へと到着します──






677 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:22:44.46s0SNcJvm0 (5/33)


    🎀    🎀    🎀





流星山の頂上は思った以上に広々とした場所だった。


侑「うわぁ~、頂上って思ったより広いんですね! 普通にバトルフィールドくらいの広さは余裕でありそう……」

リナ『この辺りは天体観測用の機材を置いたりすることも多いから、整備されてるんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「言われてみれば……流星山って天体観測で有名だったね」

凛「そうそう! ちょっと行けば、凛が所長をやってるホシゾラ天文所もあるから、遊びに来て欲しいにゃ! ……っと、それはさておき」


凛さんが花陽さんと一緒に奥の方へと歩いていき──こちらを振り返る。


凛「それじゃ、時間も勿体ないし、はじめよっか!」

花陽「二人とも、準備はいい?」


凛さん、花陽さんがボールを構える。


侑「はい! 歩夢、行ける?」

歩夢「もちろん!」

リナ『二人ともファイト~』 || > ◡ < ||


私たちもそれぞれボールを構える。


凛「使用ポケモンはそれぞれ3匹ずつの計6匹対6匹だよ!」

花陽「全てのポケモンが戦闘不能になった時点で決着です!」

侑・歩夢「「はい!」」


侑ちゃんと二人で頷く。


凛「ホシゾラジム・ジムリーダー『勇気凛々トリックスター』 凛!」

花陽「コメコジム・ジムリーダー『陽光のたがやしガール』 花陽!」

凛「さぁ、楽しいバトルにしようね!」
花陽「二人の全力……! 私たちに見せて!」


4人が同時にボールをフィールドに放った──バトル、開始です……!!





    🎀    🎀    🎀





歩夢「お願い、サスケ!」
 「シャーーーボッ!!!!」

侑「ワシボン! 行くよ!」
 「ワッシャァ!!!!」


私たちの最初のポケモンは、前回と同じサスケとワシボン。

一方、凛さん花陽さんは、



678 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:23:42.20s0SNcJvm0 (6/33)


凛「行くよ、サワムラー!」
 「シャェェイ!!!!」

花陽「ダグトリオ、お願いね!」
 「ダグダグダグ」


サワムラーとダグトリオ。

ダグトリオは前回戦ったディグダの進化系だ。


リナ『サワムラー キックポケモン 高さ:1.5m 重さ:49.8kg
   脚が 自由に 伸び縮みして 遠く 離れている 場合でも
   相手を 蹴り上げることが できる。 はじめて 戦う 相手は
   その 間合いの 広さに 驚く。 別名 キックの鬼。』

リナ『ダグトリオ もぐらポケモン 高さ:0.7m 重さ:33.3kg
   チームワークに すぐれた 三つ子の ディグダ。 3つの
   頭が 互い違いに 動いて どんなに 硬い 地面でも 地下
   100キロまで 掘り進む。 地面の下は だれも 知らない。』


──開幕早々、サワムラーの手が伸びてくる。


凛「“ねこだまし”!」
 「シェイッ!!!!」

侑「“まもる”!」
 「ワシャッ!!!」


その手を、翼を目の前でクロスするようにしながら、ワシボンがガードする。


凛「!? 防がれた!?」

侑「サワムラーの初手“ねこだまし”は定石! わかってれば、防げる!」


サワムラーは伸びる手足でリーチに優れているポケモン。それを生かした先制攻撃だったけど、侑ちゃんはそれを読んで防御をしていた。


侑「しかも、失敗すれば、腕を引き戻す間リスクになる……!」

 「シ、シェイ」

侑「いけ!!」
 「ワシャッ!!!」


侑ちゃんの指示で、翼を広げ、ワシボンが飛び出した。

戻っていくサワムラーの腕を追いかけながら、翼を構える。


花陽「“がんせきふうじ”!!」
 「ダグダグ!!!!」


ただ、これはマルチバトル。横から、花陽さんのフォローの迎撃が飛んでくる、けど、


歩夢「“アシッドボム”!!」
 「シャーーーボッ!!!!!」


フォロー出来るのは、こっちも同じ……!

サスケの“アシッドボム”が、“がんせきふうじ”で飛んできた岩に直撃し、煙を出しながら、溶かしてしまう。


花陽「ええ!? 飛んできた岩を撃ち落とした!?」

歩夢「いいよ! サスケ!」
 「シャーボッ」


特訓の成果が出てる……!

技の命中率を上げる訓練をしていたのが功をなした。



679 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:24:41.18s0SNcJvm0 (7/33)


侑「ありがとう、歩夢!」


もう邪魔するものはないとでも言わんばかりに、構えた翼がサワムラーを捉える。


侑「“つばさでうつ”!!」
 「ワシャァッ!!!!」

 「シェェェイッ!!!!?」


攻撃が直撃し、吹き飛ぶサワムラー。


凛「サワムラー!」
 「シェイッ!!!!」


でも、凛さんもただやられるばかりじゃない。

吹き飛びながらも、地面に手を伸ばし、それを軸にしながらカポエイラのように身を捻る。

すると、2本の脚がうねるように伸びながら、ワシボンに襲い掛かってくる。


凛「どんな体勢からでも攻撃出来るのが、サワムラーの強みだよ! “まわしげり”!!」

侑「ワシボン! 怯まず突っ込め!!」
 「ワシャァッ!!!」

凛「え、突っ込んでくるの……!? どうにか、追っ払うよ! サワムラー!」
 「シェェェイ!!!!」


うねる脚を掻い潜りながら、ワシボンとサワムラーの攻防が始まる中、


歩夢「サスケ! “たくわえる”!」
 「シャーーーボッ」


サスケは自分の態勢を整える。

サスケの要は防御と遠距離からのサポート……!


歩夢「ダグトリオに向かって、“どろばくだん”!!」
 「シャーー、ボッ!!!!!」

花陽「! こっちも“どろばくだん”!」
 「ダグッ!!!」


サスケとダグトリオの“どろばくだん”が、ぶつかりあって相殺する。

私の役目は、花陽さんの注意を引くこと……!

サスケとダグトリオが攻撃を撃ち合っている間に、


 「ワッシャァッ!!!!」
 「シェェェイッ!!!!」


ワシボンはさらに距離を詰めて、サワムラーに大きな爪で襲いかかっている真っ最中だった。


侑「ワシボン!! そのまま、地面に押さえつけて!」
 「ワシャァァァッ!!!」


サワムラーは、体を上から押さえつけられながらも、


凛「離れるにゃぁー!! “ブレイズキック”!!」
 「シェェェェェイ!!!!!」


自分に覆いかぶさるワシボンに向かって、脚を伸ばしながら燃える蹴撃を放つ、


 「ワッシャッ!!!」



680 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:25:45.62s0SNcJvm0 (8/33)


攻撃を察知して、飛び立つワシボン。

そして、攻撃を避けたら、


 「ワシャァ!!!!」


再び、爪で襲いかかる。


凛「こ、これじゃ動けない……!」

侑「自由にはさせません!!」


凛さんの苦戦が見て取れたのか、


花陽「ダグトリオ! サワムラーを助けるよ!」
 「ダグダグ!!!」


ダグトリオが、組み合うサワムラーとワシボンの方に顔を向けた──瞬間、


 「シャーーーボッ!!!!!」


ダグトリオの進行方向の地面から、サスケが飛び出す。


花陽「“あなをほる”!? いつの間に!?」


さっき相殺して飛び散った泥を目くらましにしながら、潜らせて接近させていたんだ。

飛び出したサスケとダグトリオの視線が交差する。


歩夢「“へびにらみ”!!」
 「シャーーーーー、ボッ!!!!!」

 「ダ、ダグッ!!!?」


ヘビに睨まれて、“まひ”したように身を竦めて動けなくなるダグトリオ。


歩夢「いいよサスケ! 畳みかけて!」
 「シャーーボッ!!!」


サスケが大口を開けながら、ダグトリオに向かって飛び出す。


歩夢「“かみつく”!!」

花陽「あ、“あなをほる”!!」
 「ダ、ダグッ」


あともう少しのところで、ダグトリオが地面に頭を引っ込めて、サスケの攻撃が空振りする。


花陽「……ま、まずいよぉ」


花陽さんは焦り気味にチラチラとサワムラーを気にしている。

それもそのはず、


 「ワシャッ!!!」
 「シェェイッ!!!」



681 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:27:00.96s0SNcJvm0 (9/33)


取っ組み合いを続けるサワムラーは── 一瞬足りとも地面から飛び上がることが出来ない状態になっている。

ダグトリオは地面に潜って、“じしん”や“じならし”で全体を攻撃したいだろうけど、サワムラーを巻き込みそうで、攻撃が出来ずにいる。

いや──侑ちゃんが、サワムラーを地面から逃がさないようにしているんだ。

ダグトリオは潜って逃げたとはいえ、“まひ”して自由が効きにくい、なら……!


歩夢「攻めるなら今……! サスケ、“まきつく”!!」
 「シャーーボッ!!!」


サスケが尻尾を伸ばす──


 「シェェィッ!!!?」


──サワムラーの脚の根本に。


凛「にゃ!?」

歩夢「そのまま、“まとわりつく”!!」
 「シャボッ!!!」


そのまま“まとわりつく”に派生して、身をくねらせながら、サワムラーの両足、両手の根本に絡みついていく。

四肢を完全に縛られたサワムラーは身動きが取れず、


侑「ナイス、歩夢! ワシボン、決めるよ!!」
 「ワシャァッ!!!!」


その隙にワシボンが垂直に飛び上がり──空中で身を翻して、重力で加速しながら、一直線に突撃する……!


侑「“ブレイブバード”!!」
 「ワッシャァァァァ!!!!!!!」

 「シェェェェイ!!!!?」


サスケにホールドされて、逃げることもままならないまま、大技が直撃したサワムラーは、


 「シェ、シェィィ…」


そのまま、目を回して戦闘不能になった。


歩夢「侑ちゃん!」

侑「うん! ワシボン!」
 「ワシャッ!!!」


攻撃を決めた直後、ワシボンは、サスケの体を爪で掴んで、


侑「“そらをとぶ”!!」
 「ワシャッ!!!」


サスケごと、一気に飛翔する。

直後──グラグラと地面が大きく揺れる。

この揺れは──さっき地面に潜った、ダグトリオの“じしん”だ。


侑「味方が倒れた瞬間だったら、巻き込むことを心配しないで、範囲攻撃が出せるもんね」

歩夢「ありがとう、侑ちゃん」


だから、サスケはワシボンに掴んでもらって、空に逃げたということだ。



682 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:28:02.75s0SNcJvm0 (10/33)


リナ『二人ともすごい! ここまで完璧!』 ||,,> ◡ <,,||

花陽「り、凛ちゃん……これも読まれちゃってる……どうしよう……」

凛「……二人とも、前とはまるで別人だにゃ……」


凛さんはサワムラーをボールに戻しながら言う。


花陽「うん……チームワークが全然違う」

凛「しっかり、成長してきたってことだね……! 燃えてきたにゃ!」


凛さんが、次のボールをフィールドに放る。


凛「次はサワムラーのようにはいかないよ。行くよ、ズルズキン!」
 「──ズキン!!」

侑「今度はズルッグの進化系……!」

リナ『ズルズキン あくとうポケモン 高さ:1.1m 重さ:30.0kg
   縄張りに 入ってきた 相手を 集団で たたきのめす。 口から
   酸性の 体液を 飛ばす。 粗暴だが 自分の 家族や 群れの
   仲間や 縄張りを とっても 大切にしている ポケモンなのだ。』

凛「ズルズキン! “ちょうはつ”!!」
 「ッペ」


ズルズキンが地面に唾を吐いて“ちょうはつ”してくる。


 「ワシャ…ッ?」


ワシボンは明らかに不快そうな顔をして、ズルズキンの方に急降下を始める。


リナ『“ちょうはつ”に乗せられてる……』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「ワシボン、結構短気なところあるからね……」

歩夢「地上に引き摺り落として、ダグトリオで一掃するつもりかな……」

侑「たぶんね……」


となると、ダグトリオを止める役割が必要だ。


歩夢「侑ちゃん、ダグトリオは私たちに任せて」

侑「OK! 任せるよ! ワシボン! サスケを放して、“ダブルウイング”!」
 「ワッシャァーー!!!!」


ワシボンはサスケをパッと放しながら、急降下の勢いを乗せて、両翼を振りかぶる。


凛「“てっぺき”!」
 「ズキンッ!!!!」


ズルズキンは自身の皮を被って、防御に徹する。

攻撃が直撃して──ガス、ガス、と鈍い音が鳴るけど、


 「ズキン」


防御をしていただけあって、ダメージはあまり通っていないのがわかる。

一方、地面に降り立ったサスケは、


 「シャボ」



683 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:28:43.09s0SNcJvm0 (11/33)


地面を凝視していた。

チロチロと舌を出しながら、じーっと地面を観察したあと、


歩夢「“あなをほる”!」
 「シャボッ」


勢いよく頭から地面を掘って潜り始める。

──アーボには、敵を探すための能力が生まれつきいくつか備わっている。

舌先は非常に敏感に匂いを感じ取り、さらに──熱を感知して相手を探す能力がある。

今こうして地面に潜ったのは……地中のダグトリオを追跡するため……!


花陽「! ダグトリオ! 地面の外に顔を出して!」


花陽さんもこちらの思惑に気付いたのか、ダグトリオに外に出てくるように指示を出す。

だけど、ダグトリオは“へびにらみ”で“まひ”している状態。

相手の位置を正確に探れるサスケなら──狙った獲物は逃がさない!!


 「ダ、ダグゥ!!!!」
 「シャーーーボッ!!!!」


地面から飛び出してきたダグトリオの頭には、すでにサスケが噛み付いている状態だった。


花陽「だ、ダグトリオ!! “さわぐ”!!」
 「ダーーーダグダグダグダグ!!!!!!!!!!!」


3匹のダグトリオが大騒ぎし始める。

激しい騒音でサスケを振り払うつもりだ。

でも、


歩夢「させない……! “とぐろをまく”!」
 「シャボ」


サスケは騒ぎまくるダグトリオの頭に噛みついたまま、その身をぐるぐるとダグトリオに巻き付けていく。


歩夢「絶対に放さない……! ダグトリオは私が任されたから!」
 「シャーーボッ!!!」


もちろんこの状況、サスケはただ噛み付いて耐えているだけじゃない。


歩夢「“ギガドレイン!”」
 「シャーボッ!!!」


噛み付いた部分から、“ギガドレイン”で相手の体力を吸い取る。


 「ダ、ダグ、ダグググ…」


騒ぎ続けるダグトリオも、体力を直接吸収され、次第に元気がなくなっていき、


 「ダ、ダグ…」


最終的には力尽きておとなしくなった。


花陽「も、戻って、ダグトリオ……!」

歩夢「やったね、サスケ!」
 「シャーボッ」



684 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:29:40.72s0SNcJvm0 (12/33)


ダグトリオ撃破……!

それで侑ちゃんたちは……!?


凛「“かわらわり”!!」
 「ズルッ!!!」

侑「“ブレイククロー”!!」
 「ワシャッ!!!」


2匹の攻撃が相殺しあう。


侑「“つばさでうつ”!!」
 「ワシャッ!!!」

 「ズルズ…!!」


凛「“しっぺがえし”!!」
 「ズルゥッ!!!」

 「ワシャァッ!!?」


一進一退の肉弾戦。


歩夢「侑ちゃん、今加勢に……!」


サスケを向かわせようとした、瞬間──ボムッと音がして、


 「…ブルルル」


大きな馬ポケモンがサスケの行く手を阻む。


花陽「通しません……!」

リナ『あのポケモンは、バンバドロ……! ドロバンコの進化系だよ!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


花陽さんの2番手だ。


リナ『バンバドロ ばんばポケモン 高さ:2.5m 重さ:920.0kg
   10トン ある 荷物を 引きながら 三日三晩 休まずに
   山道を 歩き続けることが 出来る。 泥で 固めた 脚は
   岩より 硬くなり 一撃で トラックを 破壊する 威力。』


花陽「“ふみつけ”!!」
 「ブルルル!!!」

歩夢「さ、サスケ! 逃げよう!」
 「シャ、シャボッ」


あんな大きな足で踏みつけられた、一溜りもない。

サスケはバンバドロの足元を縫うようにして、すり抜けていく。


花陽「逃がさない……! “すなじごく”!!」
 「ブルルルル!!!!!!」


バンバドロが乱暴に足を踏み鳴らすと──足場の岩が砕かれて細かくなっていく。


 「シ、シャボォ…!!!」


砕かれた岩は砂利になり砂になり──そして、バンバドロを中心に流砂へと成長していく。


侑「サスケ……! 早く、ズルズキンをどうにかしなきゃ……!」



685 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:31:02.94s0SNcJvm0 (13/33)


侑ちゃんが、サスケのピンチに気付き、助けようとするけど、


 「ワッシャァッ!!!」

 「ズキンッ!!!」


ワシボンとズルズキンは今も攻撃の応酬をしている。

サスケのサポートに入るのは難しい状況……。

なら、私たちに出来ることは──


花陽「バンバドロ! “10まんばりき”!!」
 「ブルルルルルッ!!!!!!」


バンバドロが全身全霊の力を込めて、サスケを踏みつける。


 「シャ、シャーーーボォッ……!!!!」


サスケは踏みつけられて、じたばたともがくけど、相手が重すぎて、逃げることなんて到底できそうになかった。


 「シャ、シャボォ……」


結局、途中で力尽きて戦闘不能に。

私はサスケをボールに戻す。


歩夢「ありがとう、お疲れ様、サスケ……」


サスケは十分仕事をしてくれた。

サスケの頑張りは、次のポケモンが引き継げばいい。


歩夢「いくよ、マホイップ!」
 「──マホ~」


私はマホイップをバンバドロの前に繰り出す。

小さい小さいマホイップは、バンバドロを見上げる形になる。


花陽「“ふみつけ”!!」
 「ブルルル!!!!」


バンバドロの足一本よりも小さいマホイップは、ぐしゃっと踏みつぶされてしまう。


 「ブルル…?」
花陽「……手応えがなさすぎる……」


バンバドロが足を持ち上げると──


 「マホ~♪」


ぺちゃんこ──というか、ドロドロになった、マホイップが楽しそうに鳴き声を上げた。


花陽「……“とける”……!?」

歩夢「いくら踏みつぶされても、マホイップにはダメージになりません!」
 「マホ~♪」


ここからは持久戦です……!






686 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:32:03.90s0SNcJvm0 (14/33)


    🎹    🎹    🎹





歩夢のマホイップがバンバドロを受けながら、時間を稼ぎ始める。

なら、ズルズキンは私たちでどうにかしないと……!


 「ワッシャァ!!!」

 「ズキンッ!!!!」


2匹は未だに、肉弾戦の応酬を続けている。

ただ、いい加減“ちょうはつ”の効果も切れているはず。

なら、正直に付き合い続ける必要もない!


侑「ワシボン! “そらをとぶ”!」
 「ワシャァッ!!!」


ガッと爪で攻撃する反動を利用して、ワシボンは一気に空へと離脱する。

これで、距離を取って、一旦態勢を立て直す……!

……が、凛さんの対応は早かった。


凛「逃がさないよ!! “うちおとす”!!」
 「ズルッ!!!」


ズルズキンは足元の小石を拾って──それをワシボンに投げつけてきた。


 「ワシャッ!!?」
侑「やばっ!?」


──石が頭に直撃して、今空に飛び立ったばかりのワシボンは、真っ逆さまに落ちてくる。

無防備に落ちてくる相手を、見逃してくれるわけもなく、


凛「“アイアンヘッド”!!」
 「ズ、キンッ!!!!!」


硬質化した頭でもって、地面に叩きつけられる。

逃げを打った結果、大きな隙を晒す羽目になったしまった。

……だけど、


侑「ワシボン……! まだ、終わりじゃないよね!」
 「ワシャァ…!!!!」


押しつぶしてくるズルズキンの頭の下で──ワシボンが“ばかぢから”で踏ん張っていた。


凛「嘘!? まだ耐えるの……!?」


ワシボンの闘志はまだ潰えていない……!!

自分を押しつぶしてくるズルズキンの頭を“ばかぢから”で少しずつ押し返していく。

迫り勝てる……!! そう思った瞬間だった、

──足元を大きな揺れが襲った。


侑「わぁ!!?」

歩夢「きゃぁ!!?」



687 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:32:59.37s0SNcJvm0 (15/33)


隣にいる歩夢ともども、大きな揺れに驚きの声をあげる。

それと同時に、踏ん張っていたワシボンも大きな揺れの影響を受け、


 「ワ、ワシャァァァ…!!!」


せっかく、押し返せそうだったのに、ズルズキンの頭に押し返されていた。

そして、トドメと言わんばかりに、


 「ズキン!!!!」


もう一度振りかぶって、振り下ろされた“ずつき”を脳天に食らって、


 「ワ、ワシャァ……」


ついに、気絶してしまった。


侑「く……戻って、ワシボン」


勝てると思ったのに……。

それにしても今の揺れ……。


侑「バンバドロの“じしん”……だよね」

花陽「ごめんね、凛ちゃん……出来れば、ズルズキンは巻き込みたくなかったんだけど……」

凛「うぅん、助かったよ……ありがと、かよちん」


凛さんのピンチに花陽さんが機転を利かせたということらしい。


歩夢「ご、ごめん侑ちゃん……止められなかった」


どうやら、歩夢との持久戦の中で、無理やり全員を巻き込んで攻撃してきたらしい。

歩夢は防御に徹して時間を稼いでいたし、やむを得ない。


侑「うぅん、大丈夫!」


それより次だ。まだ私の手持ちは2匹残ってる。

ただ、問題は……イーブイとライボルト、どっちを先に出すかだ。

ライボルトは花陽さんのじめんタイプと相性が悪いし、イーブイは凛さんのかくとうタイプと相性が悪い。

どっちを先に出しても、どうにか相性を覆す必要がある。

ボールに手を掛けながら、次のポケモンを迷っていると──腰につけたままのボールの一つから、ボムッと音がした、


侑「へ……!?」


びっくりして、振り返ると、


 「…ニャァ」


ニャスパーが出て来ていた。



688 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:33:37.10s0SNcJvm0 (16/33)


侑「に、ニャスパー! 今、バトル中で……」
 「ニャァ?」

凛「にゃ? どうかしたの?」

侑「あ、えっと、ごめんなさい! この子勝手に出てきちゃったみたいで……!」

凛「そういうことなら、戻しても大丈夫だよ」

侑「す、すみません! ニャスパー、ボールに戻って!」
 「ニャァ」


すぐさまボールに戻そうとするけど、ニャスパーは知らんぷりして、とてとてとフィールドへと歩いていく。


侑「ニャスパー……?」

リナ『もしかしたら……侑さんたちが戦ってるところを間近で見て、闘争本能が刺激されたのかも』 || ╹ᇫ╹ ||

 「ニャァ~」
侑「……一緒に、戦ってくれるの?」

 「ニャァ」
侑「……」


相変わらず何考えてるかわからないけど……。少なくとも、明らかに戦っている中で、自分から前に出たということは、乗り気……と捉えてもいいのかもしれない。


侑「……わかった。すみません! やっぱり2匹目はこの子で戦います!」

歩夢「ええ!? ゆ、侑ちゃん!? 大丈夫なの!?」


まだ、この子のことはよくわからないことばっかりだけど、


 「ニャァ~」


私たちのバトルを見て、自分も戦いたいと思ってくれたってことは……私たちの戦いを見て、少しでも熱くなってくれたということ。


侑「せっかくやる気を出して、自分から出て来てくれたんだから。その気持ちに応えてあげたいんだ!」

歩夢「侑ちゃん……。……わかった!」

凛「じゃあ、その子が侑ちゃんの2匹目でいいんだね?」

侑「はい! それじゃ行くよ、ニャスパー! 初陣だ!」
 「ニャ~~~」





    🎹    🎹    🎹





リナ『侑さん、ニャスパーがなんの技を使えるかはわかる?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「大丈夫! 予習済みだから!」


ニャスパーが仲間になった後から、ニャスパーの覚える技は調べていた。

いつか、一緒に戦うこともあるかもって思ってたしね!

──まさか、それがジム戦の真っ最中になるとは思ってなかったけど。


侑「ニャスパー! ズルズキンに向かって、“シグナルビーム”!」
 「ニャァ~~」


ニャスパーから、点滅する光線が発射される。


 「ズルズッキンッ…!!!!」



689 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:34:50.61s0SNcJvm0 (17/33)


ズルズキンに攻撃が直撃する。技自体はすごく威力が高いわけじゃないから、倒しきるのは難しいけど……。

ズルズキンは遠距離技に乏しいし、特殊技に対する防御手段も少ない。

となると、


凛「ズルズキン! “とびひざげり”!」
 「ズキンッ!!!」

侑「接近してくるよね!」


ズルズキンは助走を付けて、ニャスパーに向かって飛び掛かってくる。

なら……!


侑「ニャスパー! “じゅうりょく”!」
 「ニャ~」

 「ズキンッ!!!?」


空中に浮いていたズルズキンは無理やり、地面に叩き落される。

“じゅうりょく”が発動すると、周囲のポケモンは空を飛べなくなるし、“とびげり”や“とびひざげり”を使うことが出来なくなる。

全員が飛べなくなるということは、裏を返せば、すべてのポケモンが“じしん”や“じならし”を回避できなくなるということでもある。

これで、花陽さんは凛さんのポケモンを巻き添えにしないで、“じしん”を撃つことは出来なくなったわけだ。


リナ『侑さん、すごい! 初めてなのに、ニャスパーの技を使いこなしてる!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「えへへ、実は結構イメトレしてたんだよね!」


ニャスパーが覚える技を眺めているとき、面白い技がたくさんあるとは思っていたんだ。

エスパータイプは思った以上にいろんなことが出来て、面白い戦いが出来そうだなって……!


凛「無理にジャンプしなくても、出来る技なんてたくさんあるよ!! “じごくづき”!!」
 「ズキンッ!!!!」


ダッシュで突っ込んできた、ズルズキンが“じごくづき”をしようと、迫ってくる。

ニャスパーにとっては弱点タイプのこの技だけど──狙い通りだ!

次の瞬間、ズルズキンの“じごくづき”は──ベシャという音を立てた。


凛「にゃ!?」
 「ズキンッ!!?」

花陽「え!?」
 「ブルル…!!?」


驚きの声をあげる凛さんと花陽さん。そして、それぞれの手持ちのポケモンたち。

それもそのはず──ズルズキンの攻撃した場所には、


 「マホ~♪」


“とける”で物理攻撃に強い耐性を持ったマホイップの姿。

そして、先ほどから地面を踏み鳴らしまくっていたバンバドロは、


 「バ、バンバ…!!!!」


脚を上げたまま、静止していた。

しかもその足元には──


 「ニャァ~~~」



690 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:35:58.99s0SNcJvm0 (18/33)


ニャスパーの姿。


侑「成功! “サイドチェンジ”!」


ダイヤさん、ルビィさんとの戦いで使われた技だ。

使いどころを選べば、奇襲を掛けながら、有利なマッチアップを作り出せるテクニカルな技。


凛「ま、マホイップはまずいにゃ……!!」

歩夢「マホイップ! “マジカルシャイン”!」
 「ホイップ~~♪」

 「ズルゥーーッ!!!?」


輝く閃光がズルズキンを圧倒する。


リナ『あく・かくとうタイプのズルズキンには、フェアリータイプはこうかばつぐん!』 ||,,> ◡ <,,||


先ほどから、効果があまりないとわかっていても、バンバドロが攻撃によってマホイップを足止めし続けていたのは、ズルズキンと戦わせないためだということには気付いていた。

だからこそ、足止めしていたはずのマホイップが目の前に現れたのには面食らったことだろう。

加えて──


 「ニャァ~~~」

 「ブ、ブルルル…」
花陽「バンバドロがパワーで押し負けてる……!?」


耳をわずかに開いたニャスパーが、バンバドロの足を少しずつ押し上げる。


侑「やっぱり、ニャスパーのサイコパワーは強力だって、図鑑に書いてあったとおりだ……!」


繊細なコントロールこそ苦手なものの、純粋に重いものを持ち上げたり吹っ飛ばしたりする、力任せな使い方なら、バンバドロのパワーにも負けてない……!


 「ニャァ~~~」

 「ブルルッ!!!?」


ニャスパーはそのまま、バンバドロをひっくり返してしまう。


侑「すごいよ! ニャスパー!」
 「ニャァ~」

侑「畳みかけるよ!!  “サイコショック”!!」
 「ニャァ~~」


実体化したサイコパワーが、バンバドロを集中砲火する。


 「ブ、ブルルル…!!!!」
花陽「く……強力な攻撃だけど……バンバドロの特性は“じきゅうりょく”です! 攻撃を受ければ受けるほど、防御力が増して……」

 「ブ、ブルル……」
花陽「え……!? ぜ、全然受けきれてない……!?」


転んで動けなくなった状態で、“サイコショック”の集中砲火を受けたバンバドロは、


 「ブ、ブルルゥ…………」


ダメージに耐えきれず気絶してしまった。


花陽「え、え……どういうこと……?」



691 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:36:35.82s0SNcJvm0 (19/33)


動揺する花陽さん。

それに答えたのは、


歩夢「……サスケが最後にした技、何かわかりますか」


歩夢だった。


歩夢「バンバドロが“10まんばりき”で踏みつける瞬間……サスケは技を使ってたんです」

花陽「え……?」

歩夢「“いえき”を」

花陽「……! だから、“じきゅうりょく”が……!」


“いえき”は相手の特性を消してしまう技だ。

それによって、バンバドロは“じきゅうりょく”を失っていたため、ニャスパーの攻撃に耐えることが出来なかったというわけだ。


花陽「完全にやられちゃったね……」

凛「侑ちゃんも、歩夢ちゃんも、すごいね……! すっごく強くなった!」

花陽「うん! そうだね。びっくりするくらい強くなってる!」

凛「でも、まだ凛もかよちんも、とっておきの子が残ってるからね! 最後まで勝負はわからないよ!」


凛さんと花陽さんは、それぞれズルズキンとバンバドロをボールに戻しながら言う。

二人の最後のポケモンは──


凛「行くよ、オコリザル!!」
 「ムキィィィィ!!!!!」

花陽「ドリュウズ! お願い!」
 「ドリュ!!!!」


オコリザルとドリュウズ。

特にオコリザルは、私たちにとっては因縁の相手だ。


歩夢「……オコリザル」

侑「歩夢」


緊張気味に相手の名前を呟く歩夢の肩をぽんと叩く。


侑「もうあのときみたいに、知らないままじゃないから。大丈夫」

歩夢「……うん、そうだね!」

侑「このまま、行くよ!」

歩夢「うん!」


さぁ、ジム戦も最終局面だ……!






692 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:37:39.07s0SNcJvm0 (20/33)


    🎹    🎹    🎹





花陽「ドリュウズ! “あなをほる”!」
 「ドリュ!!!」


最初に動き出したのは花陽さんのドリュウズ。

頭と爪のドリルを使って、地面に潜っていく。

狙いは恐らく──


侑「歩夢! 来るよ!」

歩夢「うん!」


マホイップだ。

相手は恐らく、数を削りたいだろう。

そうなると、マホイップと相性の良いドリュウズをぶつけてくるはずだ。


歩夢「マホイップ! “とける”!」
 「マホ~~」


ならばと、歩夢はさらに物理攻撃への耐性を上昇させる。

無敵ではないにせよ、これでタイプで不利なドリュウズ相手でも十分時間を稼げるはずだ。

そして、その間に、


 「ニャ~~」


ニャスパーでオコリザルを倒す……!


凛「オコリザル! 行くにゃ!」
 「ムキィーーーー!!!!」

侑「行くよ、ニャスパー!」
 「ニャ~」


飛び出してくるオコリザルを迎え撃とうと、ニャスパーが前に走り出した瞬間──

ニャスパーの足元から、


 「ドリュッ!!!!!!」

 「ニャァッ!!!?」


ドリュウズが飛び出してきた。


侑「なっ!?」


──読みが外れた!?


花陽「“ドリルライナー”!!」
 「ドリュゥ!!!!!」

侑「さ、“サイコキネシス”!!」
 「ニ、ニャァ~~~~」


下から突き上げるように、ドリュウズが体を回転させながら迫る。

それをサイコパワーでどうにか押し返しながら耐えるニャスパー。



693 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:38:40.49s0SNcJvm0 (21/33)


侑「……そうだ、オコリザルは!?」


オコリザルはどうにか拮抗しているニャスパーとドリュウズ目掛けて走りこんできている真っ最中。

そこでやっと、相手はマホイップではなく、ニャスパーへ集中攻撃を選んだんだと気付いて、ハッとする。

今必死にドリュウズを抑えているニャスパーへ攻撃をされたらまずい……!


歩夢「マホイップ!」
 「マホ~~~」


歩夢もそれに気付いて、マホイップを前線に送り出す。

──ただ、これが相手の狙いだった。

なんと、オコリザルは──ニャスパーとドリュウズの横を素通りした。


侑「え!?」


オコリザルの狙いは──マホイップ!?


凛「行けっ!! オコリザル!!」
 「ムキィィィィ!!!!」

歩夢「! マホイップ!」
 「マホ~~」


ドロドロの状態のマホイップに向かって、オコリザルが拳を突き刺した。

──ドチャッという粘性の高い液体の音が鳴る。

その音がオコリザルの物理攻撃は効果が薄いと物語っているはずなのに、


 「マ、マホ…マホイ…ッ!!!?」
歩夢「え!?」


急にマホイップが苦しみだした。


凛「もう一発!!」
 「ム、キィィィ!!!!!」

 「マ、マホ~~~~!!!?」


マホイップが悲鳴をあげながら、オコリザルと距離を取ろうとする。

確実にダメージが入っているということ。

何……!? 何をされてるの……!?

必死で頭を回転させる。

フェアリータイプのマホイップには、かくとうタイプは効果が薄いはずだ。

となると、あれはかくとうタイプの技じゃないのは間違いない。

フェアリータイプへの有効打となると、ドリュウズのようなはがねタイプや──


侑「……どく、タイプ……?」


そこでやっと気付く。


侑「歩夢!! “どくづき”だ!!」

歩夢「“どくづき”……!?」


“どくづき”は毒タイプの物理技。確か、オコリザルも覚えることが出来たはずだ、



694 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:39:28.21s0SNcJvm0 (22/33)


侑「ただの物理攻撃に見せかけて、拳から毒を注入してるんだ!」

歩夢「!?」

凛「バレちゃったね! でも、もう遅いよ!!」
 「ムキィィィ!!!!!」


3発目の拳が、マホイップに突き刺さる。


 「マ、マホィィィ…!!!」


苦しむマホイップ。


侑「歩夢、早く対策を……!」

花陽「歩夢ちゃんのポケモンを気にしていて大丈夫ですか?」

侑「!?」


花陽さんの声にハッとして、ニャスパーの方を見ると、


 「ニ、ニャァァァァ…!!!!!」

 「ドリュゥゥゥゥ!!!!!」


ドリュウズのドリルに今にも押し負けそうになっているところだった。

完全に注意がマホイップに向いていて、指示がおろそかになっていた。

花陽さんは、その隙を逃してはくれなかった。


花陽「“つのドリル”!!」
 「ドリュゥゥゥ!!!!!!」

 「ゥニャァァァァ!!!!?」


一撃必殺……!

“つのドリル”が直撃して、ニャスパーは回転しながら、吹き飛ばされた。


侑「ニ、ニャスパー!!」


吹っ飛ばされたニャスパーは、


 「フ、フニャァァァ…」


地面に落っこちて、戦闘不能になってしまった。

そして、それと同時に──


 「マ、マホ…」
歩夢「マホイップ……! ……ありがとう、戻って」


マホイップも“どく”に耐えきれずに戦闘不能になったところだった。


侑「……ニャスパーもありがとう。戻れ」


私もニャスパーをボールに戻す。

やってしまった。


侑「……っ」



695 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:40:05.90s0SNcJvm0 (23/33)


一気に流れが変わったのを感じる。

その原因を作ったのは……恐らく私だ。

完全に向こうの作戦を読み違えた。

百歩譲ってそこは仕方ないとしても……読み違えたことに動揺して、完全にその後の指示を間違えた。

嫌な汗が出てくる。この展開はよくない。これは逆転を許す流れだ。

どうにか、どうにかこの悪い流れを切らないと──

そんな焦る私を引き戻したのは──


歩夢「侑ちゃん、落ち着いて」

侑「え……?」


歩夢の言葉だった。


歩夢「大丈夫だよ」

侑「歩夢……」

歩夢「大丈夫」

侑「……」


ああ……私、何一人で焦ってるんだ。


侑「……すぅー……はぁー……」


深呼吸をする。


歩夢「落ち着いた?」

侑「うん……ありがとう、歩夢」


焦ることなんてない。

私には──こんなに頼もしいパートナーがいるんだから。


歩夢「侑ちゃん」

侑「ん」

歩夢「勝とう!」

侑「……!」


いつかのバトルで私が歩夢に言った言葉だ。


侑「……うん! 勝とう! 二人で!」

歩夢「うん!」


私たちは最後のポケモンを繰り出す。


侑「行くよ! イーブイ!!」
 「イブイッ!!!」

歩夢「ラビフット! お願い!」
 「ラビフッ!!!!」


イーブイとラビフット。奇しくも前回、敗北したときと同じ組み合わせ。

だけど──負けるつもりなんてさらさらない。



696 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:40:54.83s0SNcJvm0 (24/33)


侑「歩夢! 行くよ!」

歩夢「うん!」

侑「イーブイ! オコリザルに“すくすくボンバー”!!」
 「ブイッ!!!」


イーブイが尻尾を振ると、目の前に樹が生えてくる。

そして、その樹からオコリザル目掛けてタネを落としまくる。


凛「もう、それは前に食らったもんね! オコリザル、相手しちゃダメだよ!」
 「ムキィィ!!!」


凛さんは冷静に距離を取らせる。

この技はビジュアル的なインパクトこそすごいものの、技が敵に届くまで少々時間が掛かるという難点がある。

とはいえ、後ろに下げさせただけでも十分だ。

その隙に、


歩夢「ラビフット! ドリュウズに“かえんほうしゃ”!」
 「ラーーービィィィィ!!!!!!!!!」


ラビフットがドリュウズに向かって、炎を噴き出す。


花陽「“あなをほる”!」
 「ドリュ!!!!」


それを回避するように、またしてもドリュウズは穴に潜っていく。

さぁ、今度はどっちに来る……!


歩夢「侑ちゃん」

侑「歩夢?」

歩夢「任せて」

侑「! オッケー任せるよ! イーブイ!」
 「ブイッ」


イーブイは、自分で生やした“すくすくボンバー”の樹をぴょんぴょんと跳ねながら登っていく。

地中を突き進むドリュウズの射程外に行くために。


凛「にゃ!? 何かする気だね! オコリザル!」
 「ムキィィィ!!!!!」


凛さんの指示で、オコリザルが再びこっちに走ってくるが、


侑「“びりびりエレキ”!!」
 「ブーーーイッ!!!!!」

凛「わわっ!?」
 「ムキィッ!!?」


オコリザルの目の前に電撃を落として威嚇する。

歩夢の邪魔はさせない……!






697 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:41:41.66s0SNcJvm0 (25/33)


    🎀    🎀    🎀





侑ちゃんが、私を信じて、私が戦うステージを作ってくれている。


歩夢「行くよ、ラビフット」
 「ラビ!!!」


地中から迫るドリュウズ。

地面のどこから飛び出すか、出てくるまで目に見えない攻撃。

だけど、大丈夫。

──ヒバニーの頃から、この子の大きな耳は、いろんな音を聴き分ける。


歩夢「──よく聴いて」
 「ラビ」


集中すれば、


 「──ドリュ!!!!」


どこから、飛び出してくるかも、きっとわかる……!!

──ドリュウズが飛び出した瞬間、掠るようにギリギリで攻撃を躱しながら、


歩夢「そこっ!! “ブレイズキック”!!」
 「ラビッフッ!!!!!」


ドリュウズのボディに、横から炎の蹴撃を炸裂させた。


 「ド、ドリュゥ!!!!?」


完全に攻撃を直撃させるルートに入ったと思い込んでいたドリュウズは、攻撃に対応できずに、吹っ飛ばされる。

そこに畳みかける。


 「ラビビビビビビ!!!!!!!」


“ニトロチャージ”で加速しながら、全身を炎を纏ったラビフットが飛び込んでいった。


歩夢「“フレアドライブ”!!」
 「ラーービフゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!」

 「ドリュゥッ!!!?」


燃え盛る炎の一撃を、ドリュウズに炸裂させた。


花陽「ドリュウズ……!」
 「ド、ドリュゥ…」


リナ『ドリュウズ、戦闘不能……!』 || > ◡ < ||

侑「やった!」


そして、ドリュウズを倒すと同時に──


 「ラビ…!!!!──」


ラビフットの体が光に包まれる。



698 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:42:22.37s0SNcJvm0 (26/33)


侑「こ、これって……もしかして……!?」

歩夢「進化の……光……」


ラビフットが、最後の姿へと、その身を変える。


 「──バーーーース!!!!!」

侑「歩夢……! ラビフットが、進化したよ!!」

リナ『最後の姿……エースバーンだよ!!』 ||,,> 𝅎 <,,||

リナ『エースバーン ストライカーポケモン 高さ:1.4m 重さ:33.0kg
   小石を リフティングして 炎の サッカーボールを つくる。 するどい
   シュートで 相手を 燃やす。 攻守に 優れ 応援されると さらに
   燃えるが スタンドプレイに 走り ピンチを 招くこともある。』

歩夢「エースバーン……!」


残るポケモンは、


花陽「ごめん凛ちゃん……また、先にやられちゃった……」

凛「大丈夫! 凛がどうにかするから!」
 「ムキィィィィ!!!!!」


凛さんのオコリザルと、侑ちゃんのイーブイ。

そして、新しい姿を得た、私のエースバーン。

前回とほとんど同じシチュエーション。


侑「歩夢、大丈夫?」

歩夢「え?」

侑「前のときと……ほとんど同じだから」

歩夢「……」


確かに、ちょっとドキドキしていた。

また、同じ失敗をするかもって、そんな気にもなるけど。


歩夢「うぅん、平気。前の私だったら、プレッシャーを感じてたかもしれないけど……」


今は、大丈夫。

むしろ、今は、


歩夢「あのときの失敗を、乗り越えるチャンスなんだって、思えるんだ」

侑「歩夢……」


あの大失敗から、ずっと私の心につっかえていたものを、前に進むことを遮っていた壁を──全部、全部、壊して、前に進めるんだって。


侑「……うん! 進もう! 前に!」

歩夢「うん! 行こう! 前に!」






699 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:44:32.73s0SNcJvm0 (27/33)


    🎀    🎀    🎀





歩夢「エースバーン! 行くよ!」
 「バーーーースッ!!!!」

侑「イーブイ! GO!」
 「ブイッ!!!!!」


エースバーンとイーブイが一緒に走り出す。


凛「オコリザル!! “クロスチョップ”!!」
 「ムキィィィィィ!!!!!」


オコリザルが、イーブイに向かって飛び掛かってくる。

それを横から、


歩夢「“ブレイズキック”!!」
 「バースバーー!!!!」

 「ムキィィィ!!!!!」


蹴り飛ばす。吹っ飛ばされ、転がりながらも、オコリザルは受け身を取って立ち上がる。


凛「地面に向かって、“メガトンパンチ”!!」
 「ムキィィィッ!!!!!」


今度は、地面に拳を叩きつけ──


凛「“かいりき”!」
 「ムッキィィィィィ!!!!!」


パンチで砕いた大岩を持ち上げる。


侑「歩夢! 来るよ!」

歩夢「うん!」

 「ムッキィィィィィ!!!!!!!」


そして、大岩をこっちに向かって放り投げてくる。

それと同時に、


 「ムキィィィィ!!!!!!」


オコリザルが走り出す。


侑「オコリザルは私たちが止める!! 歩夢は岩を!! イーブイ! “めらめらバーン”!!」
 「ブイ!!!!」

歩夢「うん! エースバーン!」
 「バース!!!!」


エースバーンは足元にある小石を、足で器用にリフティングし始める。

そこに自身の炎を宿らせながら、火球を作り出す。

──ポーンと一際高く蹴り上げた燃えるボールを、


歩夢「“かえんボール”!!」
 「バーースバーーーッ!!!!!!」



700 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:45:26.87s0SNcJvm0 (28/33)


大岩に向かって、蹴り飛ばす!

猛スピードで蹴り出された炎のボールは──大岩にぶつかると同時に、炎のエネルギーを散らしながら炸裂した。

大岩は轟音を立てながら、バラバラと砕け散る。

そして、その下ではイーブイが、


 「ブイイイイイ!!!!!!!」

 「ム、ムキィィィィィ!!!!!!」


オコリザルの“クロスチョップ”に対して、全身に炎を纏いながら、迫り合っているところだった。


侑「イーブイ!! いっけぇぇぇ!!」
 「ブィィィィィ!!!!!!!!!」

凛「かくとうタイプの意地、見せるにゃぁぁぁぁ!!」
 「ムッキィィィィィィ!!!!!!!!!!」


最後の迫り合い。


歩夢「加勢に行って、エースバーン!!」
 「バースバーーーッ!!!!!!」


駆け出すエースバーン。

──恐らく、普通だったら、ここで決着だったんだと思う。

だけど、最後の最後で──神様がいたずらをした。

エースバーンが砕いた岩が、バラバラに砕け散って大量の礫が降っている。

その礫の一つが──偶然、


 「ブヒッ!!!!!!」


オコリザルの鼻っ柱──オコリザルの急所にぶつかった。


侑「なっ!?」

歩夢「えっ!?」

リナ『嘘っ!?』 || ? ᆷ ! ||

凛「にゃっ!?」

花陽「えぇ!?」


誰も予想をしていなかった展開に、この場にいる全員が驚きの声をあげた。


 「ムッキィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


──“いかりのつぼ”が発動した。


 「ブイッ!!!?」
 「バースッ!!!?」


オコリザルはイーブイの“めらめらバーン”で体が燃やされているのもお構いなしに、腕を引く。


凛「……“ばくれつパンチ”ィ!!!!」
 「ムッキィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!」


オコリザルのフルパワーの拳が──爆発した。

そう……爆発と言って差し支えなかった。



701 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:46:02.36s0SNcJvm0 (29/33)


 「ブ、ブィィィィィィィ!!!!?」
 「バァァァァス!!!!!!」


至近距離にいたイーブイはもちろん、援護をしようと駆け寄っている真っ最中だったエースバーンもろとも吹き飛ばす、爆発に匹敵する超威力の拳。

──また、負けるの?

吹き飛ぶエースバーンとイーブイを見て、そう思った。

……やだ。

やだ。


歩夢「……やだっ!! 負けたくないっ!!」

侑「歩夢っ!!!!」

歩夢「!?」

侑「まだだっ!!!!」


宙を舞う、エースバーンと、イーブイは、


 「バース、バァァァァ!!!!!!」
 「ブイィィィィィッ!!!!!!」


まだ闘志の炎を失っていない。


侑「イーブイッ!! “めらめらバーン”ッ!!!」
 「ブゥゥゥゥイィィィィィィ!!!!!!!!」


──ゴォっと音を立てながら、イーブイが燃え上がる。

そのとき、侑ちゃんとイーブイのやろうとしていることが、自然とわかった。


侑「歩夢ーーーーっ!!! いけーーーーっ!!!」

歩夢「エースバーンッ!!!! イーブイに向かって、“ブレイズキック”ッ!!!」


エースバーンは身を捻りながら──


 「バァァァァァァーーースッ!!!!!!!!!!!!!!」


空中のイーブイを、蹴り飛ばした。


 「ブゥゥゥゥイィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!」


燃える火球となったイーブイが猛スピードで、


 「ム、キィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!」


怒り狂うオコリザルの──急所を捉えた。

炸裂と共に、2匹分のほのおのエネルギーが一気に膨張し──爆裂した。


歩夢「きゃぁっ!!?」

侑「くっ……!!」


激しい爆風に思わず尻餅をつく。

そんな爆風が収まり──炎が晴れた先では、


 「ム、キィィィィ……」



702 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:47:36.73s0SNcJvm0 (30/33)


丸焦げになったオコリザルが、白目を向いて、ひっくり返っていた。


 「ブ、ブイ…ブィィ…」


そして、オコリザルの傍らには、ふらふらになりながら立っているイーブイ。

少し離れたところで、


 「バ、バァス…」


こちらも満身創痍ながら、どうにか立っているエースバーンの姿があった。


歩夢「え、っと……」


なんだか、ポカンとしてしまった。


侑「歩夢」

歩夢「侑ちゃん……?」

侑「私たちの──勝ちだよ」

歩夢「……ぁ」


オコリザル、戦闘不能。よって、この勝負は──


歩夢「私たち……勝ったんだ……っ……」


自然と涙が溢れてきた。


歩夢「勝ったんだ……っ……」

侑「うん……! 勝ったよ! 二人で!」

歩夢「……勝った……勝てたよぉ……っ……侑ちゃんと、二人で……っ……ひっく……っ……」

侑「うんっ! 歩夢が居たから、勝てたよ!」

歩夢「侑、ちゃん……っ……、ゆう……ちゃん……っ……!」


私は嬉しくて嬉しくて、涙が止まらなくて。

何度も何度も侑ちゃんの名前を呼びながら、しゃくりをあげて泣きじゃくる。


侑「歩夢……ありがとう……」

歩夢「……ぅぇ……っ……ひっく……っ……わ、わた、しも……あり、がとう……ゆう、ちゃ……っ……」

侑「うん……」


ぎゅっと抱きしめてくれる侑ちゃんの胸の中で、しばらくの間、泣き続けていました。






703 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:48:29.70s0SNcJvm0 (31/33)


    🎀    🎀    🎀





侑「落ち着いた?」

歩夢「……うん///」


なんだか、ものすごく泣いてしまった。

ちょっと恥ずかしい……。


侑「ふふ、ならよかった」


侑ちゃんがクスリと笑う。


歩夢「むー……笑わないでよ……///」

侑「ふふ、ごめんごめん」


また笑うし……。

そんな私たちのもとに、


凛「逆転勝ちだと思ったのににゃー……」

花陽「ふふ、そうだね」


凛さんと花陽さんが歩いてくる。


凛「でも、すっごい楽しいバトルだった!」

花陽「うん!」

凛「侑ちゃん、歩夢ちゃん。こっちにおいで」

侑「はい! ……歩夢」


侑ちゃんが私の手を引いて、立ち上がらせてくれる。


歩夢「……ありがとう、侑ちゃん」

侑「どういたしまして♪」


二人で、並んで凛さんと花陽さんの前に立つ。


凛「二人の果てしない信頼、強さ、勇気を認めて──この“コメットバッジ”と」

花陽「“ファームバッジ”を進呈します♪」

侑・歩夢「「……はい!!」」



704 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:49:03.27s0SNcJvm0 (32/33)


バッジを受け取り、私は思わず天を仰いだ。

すると、来るときは透き通るように青かった空は──綺麗な茜色に染まっていた。

きっと明日も晴れ渡っているんだろうな──今の私の心のように。


歩夢「侑ちゃん」

侑「ん?」

歩夢「これまで、ありがとう……!」

侑「ふふっ、こちらこそ」


私はやっとこれで一区切り出来た気持ちだった。

だから、これまでのお礼と、


歩夢「これからも、よろしくね!」

侑「うん!」


これからの気持ちを全部込めて、侑ちゃんに伝えるのでした。






705 ◆tdNJrUZxQg2022/12/02(金) 11:49:43.29s0SNcJvm0 (33/33)


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【流星山】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂●|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.39 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.36 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.31 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.28 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:111匹 捕まえた数:4匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.37 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.33 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.32 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.26 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:138匹 捕まえた数:15匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.






706以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/12/02(金) 22:51:07.51QMN4W/Ljo (1/1)

『SVレート初戦』
(21:37~)

https://www.twitch.tv/kato_junichi0817


707 ◆tdNJrUZxQg2022/12/03(土) 12:00:09.91ogLreJcM0 (1/17)


■Chapter036 『朧月の夢の中で』 【SIDE Ayumu】





流星山で激闘の末、凛さん、花陽さんとの戦いに勝利した私たち。

気付けば、すっかり日も落ちて、夜の時間が訪れようとしていた。


侑「歩夢……空、すごいね」
 「ブィ~!!」

歩夢「……うん」


ふと空を見上げると、まだ日が落ちて間もないのに、空にはたくさんの星が瞬き始めていた。


リナ『流星山は天体観測の名所だからね。空気が澄んでて星がよく見える』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんの言うとおり、話には聞いていたけど……実際に見ていると、満天の星たちが今にも落ちてくるんじゃないかという錯覚に陥る。


 「…シャボ」


バトルの後、回復してあげて、すっかり元気になったサスケも、私に釣られて空を見上げる。


侑「サスケが、ご飯以外に興味を示すなんて珍しい……」

歩夢「ふふ、そうかも♪」
 「シャボ」


だって、本当にすごい星空なんだもん。普段ご飯にしか興味のないサスケだって、気になっちゃうよね。

──さて、ジム戦を終えたのに、どうしてまだ私たちがこの流星山に残っているのか、その理由は……。


侑「っと……あんまりのんびりして、凛さんたちを待たせてちゃいけないね」

歩夢「うん、そうだね」


凛さんの提案で今日はホシゾラ天文所に泊めてもらえることになったからだ。

凛さんと花陽さんは、一足先に天文所に行って宿泊手続きをしてくれている。

なので、私は侑ちゃんと一緒にのんびり夜空を見上げながら、天文所に向かっているところというわけだ。

とはいえ、この星空を堪能していたら、本当に一晩中、空を見上げたまま、ここに根っこが生えてしまいそう。

だから、一旦夜空の鑑賞はここまでにして、天文所へ向かうことにする。


侑「花陽さんが、コメコで採れた食材でご飯を作ってくれるらしいし!」

 「シャボッ!!!!」


ご飯と聞いて、サスケが私の肩から降りて、天文所に猛スピードで向かっていく。


歩夢「もう、サスケったら……」

侑「あはは♪ ジム戦頑張ったし、きっとお腹空いてるんだよ。私もお腹ペコペコだし……」
 「ブイ」


イーブイも侑ちゃんに同調するように、鳴く。

確かに、あんな激戦の後だから、私もお腹空いたかも……。


リナ『それじゃ、早く天文所に行こう♪』 || > ◡ < ||

侑「だね! 歩夢、行こう!」



708 ◆tdNJrUZxQg2022/12/03(土) 12:02:29.09ogLreJcM0 (2/17)


そう言って、侑ちゃんが駆け出す。


歩夢「あ、侑ちゃん! 暗いから、走ったら危ないよ!」

侑「平気平気!」

歩夢「もう……!」


慌てて侑ちゃんの後を追いかけようとした、そのときだった。

少し離れたところに、星空を見上げる小さなポケモンが居た。


 「…ピィ」


小さな小さな星型のシルエット。

あれって……。


歩夢「……ピィ?」


ほしがたポケモンのピィ。

可愛らしくて、小さい頃から好きなポケモンなんだけど……すごく珍しいポケモンだから、野生の姿を見るのは初めてだった。

もっと近くで見てみたくて、ピィに近寄ろうとしたら、


 「ピ?」


ピィは私に気付いたようで。


 「ピィ~」


ぴょんぴょん跳ねながら、どこかに逃げて行ってしまった。


歩夢「あ……行っちゃった……」


仲良くなりたかったんだけどな……。

ちょっぴり残念に思っていると、


侑「──歩夢~? 何してるの~? 早く行こうよ~?」


侑ちゃんが呼び掛けてくる。


歩夢「あ、うん! 今行く!」


逃げられちゃったのは残念だけど……この山に生息しているなら、また会えるかな?

天文所に着いたら、凛さんに聞いてみようかな。

私は胸の内でそう決めて、侑ちゃんの後を追いかけるのだった。






709 ◆tdNJrUZxQg2022/12/03(土) 12:03:05.56ogLreJcM0 (3/17)


    🎀    🎀    🎀





凛「──にゃ? ピィ?」


天文所の食堂で、花陽さんの作ってくれたご飯を食べながら、私はピィのことを凛さんに訊ねていた。


歩夢「はい、さっき見かけたんです」

侑「えー! 私もピィ見たかったなぁ……言ってくれればよかったのに……」

歩夢「だって、侑ちゃんどんどん先に行っちゃうんだもん……」


尤も、いの一番に飛び出して行っちゃったのはサスケなんだけど……。

羨ましがる侑ちゃんに対して、


凛「うーん……」


凛さんは腕を組んで唸っていた。


花陽「凛ちゃん、どうしたの?」

凛「うーんと……ピィかぁ……」

歩夢「……?」


凛さんの不思議な反応に首を傾げていると、リナちゃんがふわふわと近付いてきて、


リナ『流星山にはピィは生息してないはずだよ』 || ╹ᇫ╹ ||


そんなことを言う。


歩夢「え?」

侑「そうなの?」

リナ『うん。流星山にピィはいない。少なくとも図鑑の分布データでは生息してないってことになってる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「えぇ……?」

侑「もしかして、他のポケモンと見間違えた?」

歩夢「そんなはずないと思うんだけど……」


あの独特な星型のシルエット……見間違えるかな……?


凛「確かに……流星山にはピィは生息してないよ」

侑「やっぱり、見間違えたんじゃない?」

歩夢「えぇ……? あれはピィだったと思うんだけど……」


絶対にピィだったと思うんだけど……なんだか、みんなに言われると、自信がなくなってくる。


凛「ここ自体が研究施設だから、周辺のポケモン分布とかはしっかり調査されていて、ピィはいないってことになってるんだけど……」

歩夢「……そうなんですか」


思わずしょんぼりしてしまう。しょんぼりしてから、


歩夢「……いないってことになってる?」



710 ◆tdNJrUZxQg2022/12/03(土) 12:04:02.40ogLreJcM0 (4/17)


不思議な言い回しだったことに気付く。


凛「実はね、天文所が出来るよりずーーーっと前。凛が生まれるよりもずっとずっと昔から、流星山にはちょっとした伝説が残ってるんだ」

歩夢「伝説……ですか?」

凛「流れ星の夜になると、月の世界からピィが流れ星に乗って遊びに来るっていう伝説。実際、流星山の周辺でたびたびピィを見たって情報があってね……」

歩夢「じゃあ、やっぱりあれは……!」

凛「……ただね。何度調査しても、ピィは発見されてないんだ。だから、ここの所長として言うなら、ピィは生息してない……って答えになっちゃうかも」

歩夢「そんなぁ……」

凛「ただ、夢のあるお話だから、凛もいるって信じたいんだけどね」


凛さんは苦笑いする。


侑「その伝説ってピィが遊びに来るってだけのお話なんですか? それだけだと伝説って言うよりはただの噂っぽい気が……」

凛「あはは、確かにそれだけだと噂だよね。なんでも、ピィは龍神様の遣いなんだって」

侑「龍神様……?」


侑ちゃんが首を傾げる。


歩夢「龍神様ってもしかして……龍の止まり樹の龍神様ですか?」

凛「歩夢ちゃん、よく知ってるね! その龍神様だよ」

侑「え、なにそれ?」

歩夢「ほら、セキレイの南におっきな樹があるでしょ?」

侑「ああうん、大樹・音ノ木だよね。この地方のシンボル」

歩夢「そこの頂上でお休みする龍のお話、聞いたことない?」

侑「……ああ、そういえば絵本で読んだことあるかも」


私が説明すると、侑ちゃんはなんとなく思い出したようだ。


侑「龍の咆哮だよね。毎年季節になると、大樹から龍の鳴き声がするってやつ。ちょうど今くらいが季節なんじゃないっけ?」

花陽「でも、あれはメテノが衝突する音なんだよね?」


確かに私もそう教わった。昔の人はそれが龍神様の咆哮だと思い込んでいただけだったって……。


凛「うん。今ではそう言われてるね。ただ、それは別の現象なだけで、本当は実際に龍神様がいるって考えもあるんだよ」

歩夢「そうなんですか?」

凛「普段は人目に付かないところでひっそり暮らしてるんじゃないかって。……そして、そんな龍神様のもとに導いてくれるのが、ピィだって言われてるんだよ」

歩夢「じゃあ、あれは……」

凛「もしかしたら、龍神様が近くに来てて、その遣いのピィも流星山に遊びに来てるのかもしれないにゃ」

侑「ホントなら、龍神様、会ってみたいなぁ……!」

凛「でも龍神様は、怒ると怖いらしいよ~? 怒らせると、町一つくらいだったら簡単に消し飛ばしちゃうんだって!」

リナ『随分おっかないね、龍神様……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

凛「まあ、お伽噺の一つだからね。ちょっと大袈裟に表現してるんだと思う。ホシゾラの町では、親が子供に『言うこと聞かないと龍神様が怒って出て来るぞ!』なんて言って脅かすんだよ。凛も小さい頃お母さんから、よく言われたにゃ……」

花陽「ふふっ、凛ちゃんちっちゃい頃はよくいたずらして怒られてたもんね♪」

リナ『お伽噺はあんまり私のデータにないから興味深い』 || ╹ ◡ ╹ ||



711 ◆tdNJrUZxQg2022/12/03(土) 12:04:42.22ogLreJcM0 (5/17)


話はすっかり、龍神様の話題になってしまったけど、


歩夢「やっぱり、あれは……ピィだったのかな……」


私は龍神様の遣いのピィのことがすごく気になっていた。





    🎀    🎀    🎀





──夜も更けてきた頃合い。

私たちは、用意してもらった宿泊部屋で過ごしていた。

もういい時間なので、隣では侑ちゃんがイーブイの毛繕いをしながら、船をこぎ始めている。

そんな中、


歩夢「……よし」


私は上着を羽織って、外に出る準備をする。


侑「んぁ……? 歩夢、外行くの……?」

歩夢「うん。ちょっと星が見たくて……」

侑「……私も……行く……」

歩夢「もう眠そうだし、無理しないで? 私もちょっと見たら、戻ってくるから」

侑「んー……そういうことなら……」


もともと一人で行くつもりだったし、完全にうとうとしている侑ちゃんを連れて行くほどではない。

ちょっと確認がしたいだけ。

さっきピィがいた場所を確認して、ピィがいなかったらすぐに戻るつもりだ。


歩夢「それじゃ、ちょっと行ってくるね」

侑「んー……いってらっしゃーい……」


ふにゃふにゃと手を振る侑ちゃんに見送られて、私はさっきの場所に一人で赴く。





    🎀    🎀    🎀





真っ暗な夜道を、足元に気を付けながら歩いていく。


歩夢「確か……この辺りだよね……」
 「シャボ」


さっきピィを見かけた場所は、天文所からそう離れた場所じゃなかったから、すぐにたどり着いた。

ただ、


歩夢「ピィ……いないね」
 「シャボ」



712 ◆tdNJrUZxQg2022/12/03(土) 12:05:27.71ogLreJcM0 (6/17)


ピィの姿はないし、鳴き声のようなものも聞こえない。聞こえるのは、私の言葉に相槌を打ってくれるサスケの鳴き声くらい。


歩夢「やっぱり……見間違いだったのかな」


結構自信あったんだけどな……。

ちょっとしょぼんとしてしまう。

でも、見間違いだってことがわかっただけでも、すっきりしたかな。


歩夢「早く戻ろっか」
 「シャボ」


私が来た道を戻ろうとした、そのときだった。


 「──ピィ」


背後から、鳴き声がした。


歩夢「え?」


声がする方に振り返ると、


 「…ピィ」


いつの間にか、星型のシルエット──ピィが少し離れた場所にいた。


歩夢「……いた」

 「ピィ」


本当にいた……。

ピィは少し離れた場所で、ぴょこぴょこ飛び跳ねながら、踊っている。

何をしているんだろう。

今度こそ、間近で見たくて、私がピィの方へ歩を進めると、


 「ピッ!?」


私の足音に気付いたのか、ビクッとして、


 「ピピィッ!!!」


逃げ出してしまう。


歩夢「あ、待って……!」


慌てて追いかける。


 「ピ、ピィ!!!」


ピィはぴょこぴょこ跳ねながら、岩山を奥へ奥へと逃げていく。


歩夢「待って! ちょっとお話ししたいだけなの……!」

 「ピ…?」


私の言葉を理解したのかしていないのか、ピィが足を止める。



713 ◆tdNJrUZxQg2022/12/03(土) 12:06:20.28ogLreJcM0 (7/17)


歩夢「ごめんね、びっくりさせちゃったみたいで……」

 「ピィ」


ゆっくり近付くと、ピィはおとなしく私を待ってくれている。

出来るだけ大きな音を立てないようにして近付き……ピィの目の前にしゃがみこんで、声を掛けてみる。


歩夢「こんばんは。私、歩夢」
 「ピィ」

歩夢「あなたは……龍神様の遣いさんなの?」
 「ピィ?」


ピィは私の言葉に小首を傾げる。


歩夢「って言ってもわかんないか……」


人間の作ったお伽噺でそう言われているだけだもんね。


歩夢「あなたはここに住んでるの?」
 「ピィ?」

歩夢「それともここじゃないどこかから来たの?」
 「ピィ」

歩夢「あはは、よくわからないや……」
 「ピィ」


手を伸ばして、優しく撫でてみる。


歩夢「よしよし♪」
 「ピィ♪」


ご機嫌に鳴くピィ。

触れるし……本当に目の前にいるのは確かだ。

でもデータ上、ピィがここには生息していないというのも恐らく事実なんだと思う。

嘘を言う理由がないし……。

そうなると、普段ピィは人目に付かない場所にいるってことになるけど……。


歩夢「あなたは普段どこにいるの?」
 「ピィ?」


そう訊ねると、ピィは、


 「ピィ…」


月を見上げる。


歩夢「お月様から来たの……?」
 「ピィ」

歩夢「……やっぱり、この子……龍神様の……?」


確証はないけど……やっぱり、なんだか不思議な感じがする。

ただ、しばらく撫でていたら、飽きてしまったのか。


 「ピィ」



714 ◆tdNJrUZxQg2022/12/03(土) 12:07:08.41ogLreJcM0 (8/17)


私の手から離れて、またぴょこぴょこと岩山を奥へと跳ねていく。

少し名残惜しかったけど……なんだか、捕まえるという感じではないし、そっとしておいた方がいい気がした。

実際に、ピィがいることが確認出来てすっきりもしたし。

今度こそ、戻ろうかなと思った瞬間──遠くで大きな音がした。


歩夢「龍の咆哮……?」


さっき侑ちゃんが言っていたとおり、今はちょうど龍の咆哮の季節だ。

北側を見ると、音ノ木に向かって虹色の流星の筋が見えた。

色とりどりのメテノたちの姿だ。


 「シャボ」
歩夢「ああ、うん。戻るんだったね」


改めて戻ろうとした、そのとき、


 「ピィーーー!!!?」
歩夢「!?」


ピィの鳴き声が響く。

声がする方に、バッと振り返ると──


 「ピ、ピィィ!!!?」


ピィが岩の突き出た崖から落ちそうになっていた。短い手で必死に崖を掴んでいる。

まさか、龍の咆哮に驚いて、バランスを崩した……!?


歩夢「あ、危ない……!?」


私は咄嗟に、ピィのもとへと駆け出して、


歩夢「ピィ……! 今助けるからね!」
 「ピ、ピィィ…」


突き出した岩の上で腹ばいになって、ピィに手を伸ばす。


歩夢「おとなしくしててね……!!」
 「ピィィィ…」


ピィの小さな手を掴んで、手繰り寄せる。


 「ピィ…」
歩夢「もう、大丈夫だよ……」


しっかりと胸に抱き寄せる。

これで安心だ。

そう思った、瞬間──ガクンと視界が揺れた。


歩夢「っ!?」


急な浮遊感に、頭が真っ白になる。

突き出た岩が私の体重を支え切れずに──崩れた。


 「シャーーボッ!!!!!」



715 ◆tdNJrUZxQg2022/12/03(土) 12:07:48.09ogLreJcM0 (9/17)


サスケが咄嗟に、私の腕に尻尾を巻き付けて、


 「シャボッ!!!!!」


崖に牙を突き立てて、噛み付く。

それによって、宙ぶらりん状態になるが、


 「シャ、シャボォォォォ…!!!」


サスケの小さな体で、私の体重を支えるのは無理だ……!


歩夢「サスケっ!? ダメ!! サスケじゃ支えきれないよ!?」
 「シャボォォォォ…!!!!」

歩夢「サスケだけでも、上にあがって!! 私のことはいいから!!」
 「シャァァボォォォォォ…!!!!」


このままじゃサスケの体がちぎれちゃう……!!


歩夢「サスケ、私を放して!!」
 「シャァァァァボォォォォォォ……」

歩夢「お願い!! 言うこと聞いて!!」
 「シャァァァァボ……」


だけど、一向にサスケは私を放そうとしない。

腕に食い込むくらいの力で尻尾を巻き付けてくる。

──ビシ。

頭上でさらに嫌な音がした。

直後──再び、全身が浮遊感に包まれる。

サスケが噛み付いていた崖ごと──崩れた。

でも、落ちながら──サスケがちぎれちゃうより、マシだなんて思ってしまった。


歩夢「サスケ……! ピィ……!」


落ちながら2匹のポケモンをぎゅっと抱き寄せる。

神様、お願い……! この子たちだけでも、助けて……!!


歩夢「お願い……!! 龍神様──」





    🎀    🎀    🎀





 「──シャボ」


──声が……聞こえる……。


 「──ピピィ…?」「シャボ」


──サスケと……ピィの……声……?


歩夢「……ん……ぅ……」



716 ◆tdNJrUZxQg2022/12/03(土) 12:08:31.76ogLreJcM0 (10/17)


ぼんやりと目を覚ますと──


 「シャボッ!!!」「ピピィ!!」


サスケとピィが私の顔を覗き込んでいた。


歩夢「……サスケ……ピィ……」
 「シャーボッ」「ピィ」

歩夢「……私……生きてる……?」


ゆっくりと身を起こす。

まだ、ぼんやりしている頭のまま、周囲を見回すと──洞窟の中のような場所にいた。

でも、ただの洞窟というわけではなく……灯りがある。

壁に火の灯った松明が掛けられていて、お陰で視界が確保されていた。

それに、私が寝ていた場所も……平たい岩の上に藁が敷き詰められていて……寝床のような状態になっていた。


歩夢「ここ……どこ……?」


私……崖から落ちたんだよね……?

キョロキョロと周囲を見回していると──


 「──……目を覚まされたんですね」


背後から声を掛けられて、振り返る。

そこには、見たことのないデザインの和装──民族衣装かな──を身に纏い、やや緑掛かった黒髪をボブカットにし、左側を髪飾りで留めている女の子の姿があった。


歩夢「あなたが、助けてくれたの……?」

女の子「いえ、助けたのは、そこのピィですよ」

歩夢「え……?」

女の子「その子が、貴方をここに連れて来たんです」

歩夢「どういうこと……?」


まさか、ピィが私を持ち上げてここまで運んできた……とか……?

疑問が顔に出ていたのか、女の子は、


女の子「ピィが持ち上げて運んできたわけではありませんよ」


私の心の中の疑問を正確に復唱しながら否定する。


女の子「ピィが貴方をここに導いたんです」

歩夢「導いた……? えっと、ここはどこなの……?」

女の子「ここは……そうですね。どこでもない場所です」

歩夢「……?」


いまいち話が要領を得ない気がするんだけど……。

またしても、疑問が顔に出ていたんだろう。


女の子「そうですね……強いて言うなら、“朧月の洞(おぼろづきのうろ)”と呼ばれることがあります」


女の子はそう教えてくれる。



717 ◆tdNJrUZxQg2022/12/03(土) 12:09:08.41ogLreJcM0 (11/17)


歩夢「朧月の……洞……?」

女の子「ええ。それと、ピィを助けてくださったようで、ありがとうございます」

歩夢「えっと……」


助けたのか、助けられたのか……ここはどこで、目の前の子は誰なんだろう……?

疑問だらけで、頭の中がこんがらがりそうになる。


女の子「順を追って説明をしましょう。……とりあえず、場所を移したいのですが……立てますか?」

歩夢「あ……うん……」


ゆっくりと立ち上がってみせると、目の前の女の子は一度小さく頷いてから、


栞子「私は栞子と言います。こちらへどうぞ」


そう名乗ってから、奥へと歩いていく。

私はその後ろを付いていく形で歩を進める。


 「シャボ」「ピィ」


サスケとピィも私に付いてくる。

私が眠っていた部屋からちょっと歩くと、開けた部屋に出た。

そこには──


 「ピッピ」「ピピッピ?」「ピッピプ~」

歩夢「ピッピ……?」


たくさんのピッピがいた。

ピッピたちの群れを見た瞬間、


 「ピィ」


ピィがピッピたちの群れに向かって、とことこと駆け出していく。


 「ピピッピ?」「ピピピ」
 「ピィ」
 「ピピップ」「ピッピ」


何やら話をしながら、ぴょこぴょこと飛び跳ねている。


栞子「あのピィは群れで一番幼い子でして、時折勝手に外に遊びに出かけてしまうんです」

歩夢「は、はぁ……」

栞子「外は、身を守る手段の乏しいピィには危険な場所なので、行かないように言っているのですが……やんちゃで言うことを聞かないことが度々あって……」

歩夢「あの……外、って言うのは……」


さっきも言っていた、外とか、どこでもない場所、とか……。


栞子「そうですね……ここは、特別な結界の中にある場所……と言えば、少しはわかりやすいでしょうか」

歩夢「結界……?」

栞子「そう、結界……。外の世界とは隔絶された、特別な空間」

歩夢「……」



718 ◆tdNJrUZxQg2022/12/03(土) 12:09:47.21ogLreJcM0 (12/17)


要領を得ないことには変わりないけど……私の頭の中で一つ、結びついたことがあった。


歩夢「龍神様の……遣い……」

栞子「そうですね、外でピィがそのように呼ばれることがあるのは把握しています」


私の言葉に、栞子ちゃんは首を縦に振る。

つまり、ここは……。


歩夢「龍神様のいるところ……ってこと……?」

栞子「はい、そうですね」

歩夢「あの話……本当、だったんだ……」


まさか、ピィが本当に龍神様の遣いだったなんて……。


栞子「ですが、本来は外の人間がここに来ることはありません」

歩夢「え? じゃあ、どうして私は……」

栞子「貴方が、落ちそうになったピィを、身を挺して助けてくれたからです」

歩夢「身を挺してって……あのときはただ夢中だっただけで……」

栞子「その姿勢が、龍神様のお気に召したのでしょう。仮に遣いの案内があっても、心の穢れた人間は入ることすら出来ない場所ですから」

歩夢「…………」


恐らく、龍神様の聖域……みたいな場所なんだと理解する。

落ちそうなピィを助けた結果、私も一緒に落ちちゃったけど……落ちている最中に、ピィがこの空間に私を飛ばして、助けてくれたということらしかった。

それはわかった……けど、


歩夢「あの……」

栞子「なんでしょうか?」

歩夢「あなた……栞子ちゃんは、どうしてここにいるの?」


この子がここにいる理由がよくわからなかった。そもそもこの子は誰なんだろう……?


栞子「いきなりちゃん付けですか……」

歩夢「あ、ご、ごめんなさい……! 馴れ馴れしかったかな……?」

栞子「いえ……あまり、そのように呼ばれたことがなかったので驚いただけです。呼び方は貴方のご自由に」

歩夢「あ……私は歩夢って言います!」


そういえば、まだ名乗っていなかった。



719 ◆tdNJrUZxQg2022/12/03(土) 12:10:33.89ogLreJcM0 (13/17)


栞子「歩夢さんですね。覚えておきます。……それで、どうしてここにいるか、ですが……」

歩夢「うん」

栞子「私は……巫女なんです」

歩夢「……巫女……? えっと、龍神様の……ってこと?」

栞子「はい。私たちの一族は代々、龍神様の巫女として仕えてきました。その中でも当代の巫女は“翡翠の巫女”と呼ばれています」

歩夢「それじゃあ……栞子ちゃんがその翡翠の巫女なの?」

栞子「そうなります」

歩夢「ここには他の人はいないの?」

栞子「はい。私の一族は基本的には隠れ里に住んでいて、翡翠の巫女だけが、龍神様の傍にお仕えする決まりになっているんです。龍神様はあまり人間がお好きではなく……最低限の人間しか傍に置きたがらないので」

歩夢「そうなんだ……。じゃあ、栞子ちゃんはずっと一人で……」

栞子「一人ではありませんよ。ポケモンたちがいますから」

歩夢「ポケモンたちって……ピッピたち?」

栞子「ピッピたちもそうですが……。見た方がわかりやすいと思います。こちらへどうぞ」


栞子ちゃんはそう言って、さらに奥の部屋へと私を案内する。


栞子「このピッピたちの部屋は、月と星を通じて、ここと外界を繋ぐ部屋……つまるところ、この結解の玄関のような場所なんです」


栞子ちゃんの案内で、ピッピたちのいた部屋の隣の部屋へ入る。

そこは先ほどよりは小ぢんまりとしていて──部屋の中には、お布団や畳んだ衣服が置かれていた。


歩夢「もしかして、栞子ちゃんの部屋……?」

栞子「はい」


通された彼女の部屋の中から、生き物の気配がする。


栞子「みんな、出て来てください」


栞子ちゃんが声を掛けると、


 「キュゥ…」「ワン」「ビリリリ」「ウォー」


ポケモンたちが顔を出す。


栞子「こちら歩夢さんです。ピィを助けてくれたんですよ」
 「キュウ…」「ワンワン」「ビリリ」「ウォー」


出て来たポケモンは4匹。でも、どれも見たことのないポケモンばかり。


栞子「歩夢さん、こちら一緒に住んでいるポケモンたちです。ゾロア、ガーディ、ビリリダマ、ウォーグルです」

歩夢「え?」


ただ、栞子ちゃんの紹介する名前はどれも知っているポケモンの名前ばかりだった。

特にゾロアなんかは、かすみちゃんのゾロアを何度も見てきたから、馴染み深い。

でも、目の前にいるゾロアは、かすみちゃんのゾロアのような黒い毛ではなく……真っ白な毛並みをしていた。

ゾロア以外も、ガーディは白いもこもこで目が覆われているし、ビリリダマは……なんだか質感が木のようだ。

私が知っているガーディやビリリダマとは違う姿をしている。

ウォーグルは……実物を見たことがないから、あまりわからないけど……少なくとも、テレビで見たことがある姿とは何か違う気がする。



720 ◆tdNJrUZxQg2022/12/03(土) 12:11:17.29ogLreJcM0 (14/17)


栞子「この姿、あまり馴染みがないかもしれませんね」

歩夢「う、うん……」

栞子「この子たちは今はもうない、ヒスイ……という地に生息していたポケモンなんです」

歩夢「ヒスイ……」

栞子「翡翠の巫女は、龍神様にお仕えすることの他に、このヒスイの地に生まれたポケモンたちを人知れず守るのも使命の一つとして代々受け継いできたんです」

歩夢「そうなんだ……。じゃあ、この子たちは栞子ちゃんの家族なんだね?」

栞子「家族……そうですね。私の家族です」

歩夢「そっか……じゃあ、私とおんなじだ」

栞子「?」

歩夢「私もお家にたくさんポケモンがいてね、小さい頃から家族同然に過ごしてきたんだ」

栞子「……だからですね」

歩夢「え?」

栞子「歩夢さんからは、少し不思議な雰囲気を感じていました」

歩夢「不思議な雰囲気……?」

栞子「はい。本来ここに住んでいるピィは警戒心が強くて、滅多に人間には近寄らないのですが……歩夢さんにはポケモンの警戒心を解く、不思議な雰囲気があるようです。それは恐らく、幼い頃から、ポケモンと家族同然に育ってきたからこそ、身に付いたものなのでしょう」

歩夢「そう……なのかな?」

栞子「ええ。だからこそ、ピィも心を許してくれたんだと思いますよ」


自覚はないけど……そうらしい。


栞子「他の部屋にも、別のヒスイのポケモンたちがいますが……特に仲の良い子はこの子たちなんです。あ、もちろん、ピィやピッピとも仲良しですよ」

歩夢「大切な子たちなんだね」

栞子「はい。この子たちがいるから、私は寂しくないんです。……寂しくありません」


そういう栞子ちゃんの声は……なんだか、強がっているような気がした。

歳は私と同じか……少し下くらいかな……。

そんな女の子がこんな薄暗い洞窟の中で、ずっと一人で過ごしていて、寂しさを感じないわけなんてない。

だから私は、


歩夢「……ねぇ、栞子ちゃん」

栞子「なんですか?」

歩夢「私と……お友達になってくれないかな?」


自然とそう提案していた。


栞子「お友達……ですか……?」

歩夢「うん。ダメかな……?」

栞子「ダメ……ではないです。そう言ってくださって嬉しいです。ですが……もう会うこともないでしょうから」

歩夢「え……」

栞子「本来、ここに外の人間が入ることも、存在を知らせることも、許されていないんです。今回はあくまで特例ですから」

歩夢「そっか……」

栞子「ですから……今日ここで見たことは、歩夢さんの心の中だけにしまっておいてください」

歩夢「……うん、わかった」

栞子「それでは……帰りの道をご案内します」



721 ◆tdNJrUZxQg2022/12/03(土) 12:12:30.52ogLreJcM0 (15/17)


栞子ちゃんと一緒にさっきのピッピたちの部屋へと戻る。


栞子「そこの中央の丸い岩の上に」

歩夢「うん」


ピッピたちが踊る部屋の真ん中にある──大きな真ん丸のテーブルのような岩の上に立つ。

すると、不思議なことに、洞窟の中なのに、頭上に空が見えて、月の光が降り注いでくる。


栞子「そこを通れば、外の世界に戻れますよ」

歩夢「ありがとう、栞子ちゃん」

栞子「いえ……こちらこそ、ピィを──家族を、助けていただいて、感謝しています」


栞子ちゃんは丁寧に腰を折ってお辞儀をする。


歩夢「もう、会えないんだよね……?」

栞子「はい。不思議な夢を見たと、そう思ってください」

歩夢「……せっかくお友達になれたのに……ちょっと、寂しいな」

栞子「寂しくありませんよ。きっと外で、歩夢さんの大切な人たちが待っていますから」

歩夢「……うん……ばいばい、栞子ちゃん」

栞子「はい。お元気で」


私は──ゆっくりと、空にある朧月へと、吸い込まれていき……不思議な浮遊感に包まれながら、元の世界へと帰っていく──







722 ◆tdNJrUZxQg2022/12/03(土) 12:13:16.50ogLreJcM0 (16/17)


    🎀    🎀    🎀





気が付いたときには、


侑「…………すぅ……すぅ……zzz」
 「ブイ…zzz」


ホシゾラ天文所の宿泊部屋にいた。

ベッドの上で侑ちゃんが眠っているから間違いないだろう。


歩夢「戻ってきた……」
 「シャボ」


なんだか、随分と不思議な体験をしてしまった気がする。

あまりに不思議すぎて……。


歩夢「……夢、だったのかな」


寝ぼけていただけなのかと、一瞬思ったけど……。

ピィも、ピッピも、ヒスイのポケモンたちも。

──栞子ちゃんも。

全部全部、鮮明に覚えている。

──『不思議な夢を見たと、そう思ってください』

栞子ちゃんには、そう言われたけど。


歩夢「……」


どうして栞子ちゃんが、ヒスイの家族たちを紹介してくれたのか。

ただ送り返すだけでもよかったはずなのに。

それは、もしかして……。


歩夢「……自分を、知って欲しかったから……じゃないかな」


たった一人で、龍神様に仕える中で、偶然現れた私に、自分という存在を伝えたかったんじゃないかな。

ここにいるよ。ここで使命を全うしているよ。ここで家族と暮らしているよ。

そんなことを、知って欲しかったんじゃないかなって。

わかんないけど……私の想像でしかないけど。

もう会うことはないって言われたけど……でも、


歩夢「忘れないでいれば……いつか、どこかで会うかもしれないから」


──たった、一時だけど、朧月の夢の中で出会った不思議な女の子……栞子ちゃんのことを。今日あった不思議な出来事を、忘れないように胸にしっかり刻んで、しまうことにした。

また、いつか……あの朧月の夢の中で出会える日を、願って……。






723 ◆tdNJrUZxQg2022/12/03(土) 12:13:52.86ogLreJcM0 (17/17)


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【流星山】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂●|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.37 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.34 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.32 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.26 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:143匹 捕まえた数:15匹

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.39 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.36 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.31 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.28 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:111匹 捕まえた数:4匹


 歩夢と 侑は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.






724 ◆tdNJrUZxQg2022/12/04(日) 01:55:00.14iC9FggQ30 (1/17)


 ■Intermission🎹



──そこは温かい丘だった。


 「ベベノ~♪」

 「ベノ~」「ベノム~」「ベベベノ~」


その温かい丘で、小さなポケモンがたくさん楽しそうに飛んでいる。

みんな同じポケモンで紫色のポケモンだけど……そのうちの1匹だけは目を引くような白と黄色の白光色をしていた。


  「ベノ~♪」
 「アタシたちに楽しいこと、報告してくれてるのかもね♪」

 「うん。きっとそう」


──女の子二人がそんな会話をしていた。


そのうちの一人に──


 「ベベノ?」


さっきの小さなポケモンが1匹近づいてくる。

この子はたくさんいる紫色の子のうちの1匹だ。

その子は白光色の子と一緒に踊り始める。


  「ベベノ~♪」「ベベノ~♪」

 「この子なら、仲良くなれそう」

 「そうだね。ねぇ、ベベノム、よかったらアタシたちのベベノムと友達になってよ」
  「ベベノ~♪」

 「よかったね、ベベノム♪ 友達出来たよ♪」
  「ベベノ~♪」「ベベノ~♪」

 「また、賑やかになるね」

 「だね~♪」


なんだか楽しくて、嬉しくて、温かな光景だった……。



 「ニャァ…」



──
────
──────


侑「……んぅ……」


目が覚める。


侑「…………まただ」


また、この夢……。

最近、よく見る……。


侑「なんなんだろ……?」



725 ◆tdNJrUZxQg2022/12/04(日) 01:55:44.87iC9FggQ30 (2/17)


最初は何も気にしていなかったけど……さすがに短い間に何度も見ると、何か意味があるのかと考えてしまう。

そういえば、夢の中に出てきた女の子……。どこかで見たような……?


侑「…………夢の記憶が曖昧で…………思い出せない……」


さすが夢とでも言うべきだろうか……。なんとなくの印象はあったけど……容姿を鮮明に覚えていないというか……。


歩夢「……ん……ぅ…………ゆうちゃん……?」

侑「あ、ごめん……起こしちゃった?」

歩夢「んーん……大丈夫……」


歩夢は眠そうに目を擦りながら身を起こす。


リナ『おはよう。侑さん、歩夢さん』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「おはよう、リナちゃん」

歩夢「……おはよう…………ふぁ……」

リナ『歩夢さん、まだ眠そう』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「ん……ちょっと……」

侑「まだ寝てていいよ。ごめんね、起こしちゃって」

歩夢「……じゃあ……もう少しだけ……」


そう言うと、歩夢はぽてっと横になると……すぐに、すぅすぅと寝息を立て始めた。


リナ『歩夢さんの寝起きが悪いなんて、珍しいね』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「確かにそうだね」


リナちゃんと二人ひそひそ声で話す。

歩夢は朝に強い方だから、私も珍しいもの見ちゃったかも。


侑「昨日、寝るの遅かったのかな? リナちゃん、知ってる?」

リナ『うぅん。スリープモードにしてたから……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「そっか。まぁ……昨日はジム戦もあったし、もう少しゆっくり休ませてあげよう」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「…………すぅ……すぅ……」


さて……歩夢が起きるまで、どうしようかな……。

あまり音を立てないように、ベッドの上で身体を伸ばしていると、


リナ『そういえば、侑さん。今日はどうする予定?』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんがそう訊ねてくる。


侑「うーんと……せっかく流星山の頂上まで来たし、北に向かって、アキハラタウンを目指す感じになるかな?」

リナ『となると、流星山の北側を下山するんだね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん。アキハラタウンでは特にやることもないから……そのまま、セキレイを目指すことになると思う」



726 ◆tdNJrUZxQg2022/12/04(日) 01:56:20.96iC9FggQ30 (3/17)


アキハラタウンはセキレイシティの南に位置する小さな田舎町。

二つの町を繋ぐ8番道路ものどかで、野生のポケモンも大人しいことから、ポケモンを持つ前にも、歩夢とお散歩で何度か行ったことがある場所でもある。

大樹・音ノ木があるから、観光地としては有名だけど、私たちセキレイ住民にとっては地元の範疇。

ジムもないし……この旅では素通りするだけになりそうだ。


侑「流星山の下山って厳しかったりする?」

リナ『登りよりは大変かもしれないけど、最近北側にも、山道が出来たから、大丈夫だと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「そっか、よかった。それじゃ、歩夢が起きたら、出発しよっか」

リナ『うん』 || > ◡ < ||

歩夢「…………すぅ……すぅ……」


………………
…………
……
🎹




727以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします2022/12/04(日) 02:52:21.88mgqN8qMa0 (1/1)

VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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728 ◆tdNJrUZxQg2022/12/04(日) 12:13:45.75iC9FggQ30 (4/17)


■Chapter037 『カーテンの裾にて』 【SIDE Shizuku】





かすみ「さぁ~次の目的地に向かって、旅立つよ~!」
 「ガゥガゥ♪」


──かすみさんのジムチャレンジが終わった翌日。

ダリアシティから、次の目的地を目指して出発する。


かすみ「ところで、次ってどこに行くの?」

しずく「えーと……ダリアからだと、北のヒナギクか、東に行ってセキレイに戻る感じになるかな……ただ、ヒナギクに行くためにはカーテンクリフを越えないといけないから、私たちには難しいかも……」

かすみ「カーテンクリフって……あれだよね?」


かすみさんが街の北側に目を向けると──大きな岩の壁が見える。

カーテンクリフとはオトノキ地方の西側にある大きな山脈のことだ。

ダリアシティとヒナギクシティの間を割るように東西に伸びている断崖絶壁で、山というより、もはや大きな岩盤を縦向きにしたかのような急傾斜をしている。

それがまるでカーテンを引いたかのような様から、カーテンクリフの名が付けられたと言われている。


かすみ「それにしても、ダリアから見ると、ホントに壁みたいだね……」


大きな山脈なので、セキレイからも見ることは出来るが、位置関係的に、カーテンを斜めから見るような形になる。

そして、ダリアから見ると真正面に横切っている形になるため、より『壁』という印象が強くなる。


かすみ「ヒナギクに行けないのはわかったけど……セキレイに戻る前に、一度近くで見てみない?」

しずく「そうだね。せっかく、こうして近くに来てるんだし、行ってみよっか」


今まで見てるだけだった場所に、実際に訪れてみるのも旅の醍醐味だろう。

私はかすみさんの意見に賛成する。


かすみ「それじゃ、カーテンクリフへレッツゴー♪」
 「ガゥガゥ♪」


私たちはカーテンクリフ目指して、ダリアシティを発つ──





    💧    💧    💧





ダリアの北の道路──5番道路を歩く。


かすみ「……もう結構歩いたよね?」

しずく「そうだね」

かすみ「なんか……思ったより、遠いね……」

しずく「カーテンクリフはとにかく大きいからね……」


あまりに大きい岩の壁を目の前に望みながら歩いていると、だんだん遠近感がおかしくなってくる。

とりあえず、目の前にずっと背の高い断崖絶壁があることがわかるという感じで、なかなか近付いている実感が湧かないのも無理はない。



729 ◆tdNJrUZxQg2022/12/04(日) 12:15:08.86iC9FggQ30 (5/17)


しずく「カーテンクリフは5番道路と7番道路を続けて進んでいかないといけないからね」

かすみ「2つ分道路があるんだ……」

しずく「うん。ほぼ直線で繋がってるから、違う道路って印象は薄いけど……ダリアからカーテンクリフへの道のりは、この地方の中でもローズの北にある11番道路の次に長い道になってるんだよ」

かすみ「へー……さすが、しず子。物知り。とりあえず、すごい長い道なんだね」

しずく「あはは……まあ、大雑把に言うと、そんな感じかな」

かすみ「それにしても……ほんっとにでっかい山だねぇ……見上げてると、首が痛くなっちゃいそう」
 「ガゥゥ…」


かすみさんが、肩に乗っているゾロアと一緒にカーテンクリフを見上げる。


かすみ「どうすればこんな高い山になるんだろう……」

しずく「いろいろ説があるけど……ヒナギク周辺の山脈はほとんどが、陸がぶつかって隆起して出来たらしいよ。だから、グレイブマウンテンやカーテンクリフでは、かなり高い場所なのに、太古の海にいたポケモンの化石が見つかることがあるんだって」

かすみ「陸が……ぶつかって……? りゅーき……?」

しずく「ああ、えっと……無理やり押されて、高くなったって感じかな……」

かすみ「ふーん……?」


たぶん、わかってなさそう……。

まあ……これもあくまで学説の一つでしかなく、それこそ『こんなものが自然に出来るわけがない!』、『神が創った!』、なんて言う人たちも少なくない。

実際、カーテンクリフの西端の頂上には遺跡があるらしく、遥か昔から信仰があったと言われている。高い場所に位置し、天に近い遺跡故に太陽信仰や月信仰があったのではないかと考えられているらしい。

専ら、今は信仰というよりは、オカルト好きな人たちによって、神が創ったと主張されていることの方が多いらしいけど……。

わかっているのかは怪しいけど、かすみさんの何気ない疑問に答えながら進んでいると、


かすみ「……あ! しず子、あそこがカーテンの一番下の部分じゃない!?」


やっと、クリフの麓が見えてくる。……いや、麓というには、かなり切り立った岩肌になっているけど。


しずく「麓まで、こんなに明確に壁のようになっているなんて……さすが、カーテンというだけはあります……」


上から下まで……特に、ダリア側からは超が付くほどの急勾配だとは聞いていたけど、実際に目の当たりにすると、本当に聞いていた通りで、感動すら覚える。

やはり、実際に見に来てみるものだ。


かすみ「こうして根本が見えたら、もうあと少し! 行くよ、ゾロア!」
 「ガゥ!!」


かすみさんの合図で、ゾロアが肩から飛び降りて、一緒に走り出す。


かすみ「しず子~♪ どっちが先に着くか競争だよ~! 負けた方は、あとでジュース奢りね~♪」
 「ガゥ♪」

しずく「あ、ずるい!?」

かすみ「さぁ、しず子は、かすみんに追い付けるかな~?」

しずく「ま、負けないんだから……!」






730 ◆tdNJrUZxQg2022/12/04(日) 12:15:47.61iC9FggQ30 (6/17)


    💧    💧    💧





かすみ「……ぜぇ……はぁ……はぁ……。……ま、まだ思ったより……距離が……あった……」
 「ガゥ?」


クリフの麓に到着する頃には、かすみさんは息絶え絶え、満身創痍な状態だった。


しずく「かすみさん、大丈夫?」

かすみ「……しず子……足速くない……? かすみん普通に追い越されたんだけど……」

しずく「ポケモン演劇部で走り込みとかしてたからね。演劇は体力必要だから」


文化部だから、体力がないように思われがちですが、実は運動神経は良い方なんです。

球技は……苦手なんですけど……。


かすみ「そんなのずるい~……」

しずく「ずるくありません。それじゃ、あとでジュース奢ってね?」

かすみ「ちぇ、わかったよー……セキレイ戻ったらね」

しずく「よろしい」


何のジュースを奢ってもらおうかなと考えながら──すぐ傍に聳えるカーテンクリフに目をやる。


かすみ「……本当に壁って感じだね」

しずく「うん……」


これが自然に出来た物だとは、にわかに信じがたい。

神様を信じているわけじゃないけど……神が創ったなんて言う人が出てくるのも頷ける。

垂直に近い形で天に向かって伸びている岩のカーテンは、並大抵の鳥ポケモンでも飛んで越えることが出来ないと言われている。


しずく「……。……出てきて、アオガラス」
 「──カァーー!!!」

しずく「上まで、飛べる?」
 「カァー」


訊ねると、アオガラスは翼を羽ばたかせながら、垂直に飛翔していく。


かすみ「なになに? どうしたの?」
 「ガゥ?」

しずく「今の私たちで、どこまで行けるのか、試してみたくって……」


きっと、アオガラスのままでは難しい。

案の定、下で見ていると、岩の壁の中腹辺りで、アオガラスがバテ始めているのが見て取れた。


しずく「アオガラスー! 無理はしなくていいからねー!」

 「カ、カァーー…!!!」


そろそろ限界のようだったけど……アオガラスはバタバタと翼を羽ばたかせて、少しでも高く飛ぼうとする。


しずく「無理しなくていいって言ってるのに……」

かすみ「アオガラス、見栄っ張りですねぇ」

しずく「かすみさんには言われたくないと思うけど……」



731 ◆tdNJrUZxQg2022/12/04(日) 12:17:40.07iC9FggQ30 (7/17)


かなり我武者羅に羽根をバタつかせながら、頑張っていたけど……。


 「カ、カァ……」


最終的には無理だと悟ったのか、ゆっくりと下に降りてくる。


かすみ「半分いけたくらい?」

しずく「そうだね……」


ここが今の私の手持ちの限界ということだろう。

もちろん、垂直の壁を登ったらそれで終わりというわけではなく、そこから山脈が始まるから、今の実力ではどう頑張ってもクリフを超えるのは無理ということだ。


 「カァ…」

しずく「ごめんね、無茶振りしちゃって。でも、ナイスファイトだったよ、アオガラス」
 「カァ~……」

かすみ「鳥ポケモンでこんなんなのに、越えられる人なんているのかな……?」

しずく「きっと、進化してアーマーガアになれば、越えられると思う」

かすみ「そうなの?」

しずく「うん。アーマーガアに進化すると、飛翔高度も距離も、飛び続けられる時間も桁違いになるから」


実際ガラルでは、アーマーガアが地方全体の移動の要になっているくらいで、その飛行能力は折り紙付きだ。


しずく「アオガラスも、いつか進化したら、ここを越えられるようになるはずだから……! 頑張ろうね!」
 「カァ~~~!!!」

かすみ「えーかすみんも空の旅したい~!」

しずく「ふふ♪ いつかオトノキ地方中の空を、一緒に巡ろっか♪」
 「カァ~♪」

かすみ「やった~! 約束だからね! しず子! アオガラス!」

しずく「うん♪」
 「カァカァ♪」


そのためにも、私もアオガラスをアーマーガアに進化させられるくらい強くならなきゃ。

かすみさんに負けていられないな。


かすみ「さて、それじゃ……実際に見て、越えられないこともわかったし、セキレイシティに向かおっか~」
 「ガゥ♪」

しずく「そうだね。風斬りの道を越えていくなら、自転車が必要だから……一旦、ダリアに戻って、レンタルサイクルかな……」
 「カァ~」

かすみ「……あっ!?」

しずく「ど、どうしたの? 急に大きな声出して……?」

かすみ「最終的にセキレイシティに行くってわかってたんだから……最初から、ダリアで自転車を借りればよかったんじゃ……」

しずく「……あ」


確かに、言われてみればそうだ……。


かすみ「ち、ちょっとぉ~……かすみん、走り損じゃないですかぁ~……しかも、これからまた長い道を戻るの~……?」

しずく「走ったのはかすみさんが勝手にやったことだと思うんだけど……」

かすみ「もうやだ~……かすみん、歩けない~……」
 「ガゥゥ…」


かすみさんはその場にへたり込む。



732 ◆tdNJrUZxQg2022/12/04(日) 12:18:30.28iC9FggQ30 (8/17)


しずく「今向かおうって言ったばっかでしょ……」

かすみ「だって、ホントだったら、今頃自転車でスイスイだったんだよ!? そう考えたら、足が重く……もう一歩も動けない~……」

しずく「はぁ……もう、そんなことばっかり言ってると、置いてくよ?」
 「カァカァ」


溜め息交じりに、振り返って歩き出そうとしたとき、


 「──ガドーン」

しずく「……!?」


そいつは気付けば、目の前に、居た。

パステルカラーで彩られた細長い体躯に真ん丸の頭の異形。

突然のことに身体が固まる。


かすみ「しず子っ!! こっちっ!!」


だが、かすみさんの反応は早かった。

呆気に取られて動けなくなってしまった私の手を、強引に引いて走り出す。


しずく「きゃっ……!?」

かすみ「足ぃ!! 動かしてぇ!! とにかく走ってぇ!!」
 「ガゥガゥ!!!!」


足がもつれて転びそうになるけど、どうにか踏ん張って走り出す。

全速力で走りながら、やっと少しずつ頭が回り出す。

あれは──あの異様な雰囲気のポケモンは……!


しずく「ウルトラビースト……っ……! 確か、名前はズガドーン……!!」

かすみ「なんで名前知ってんの!?」

しずく「遥さんに、ウルトラビーストのデータをいくつか見せてもらったんだよ! その中にいたウルトラビースト!」


ズガドーンは、その場から動こうとしないが──その周囲に紫の炎がポポポッと出現する。


 「ガドーン」

かすみ「なんかしてくる!? しず子伏せてっ!!」
 「ガゥッ!!!」

しずく「きゃっ!?」


かすみさんが覆いかぶさるようにして、私を地面に押し倒す。

その上を、紫の色の炎──“マジカルフレイム”が素通りする。


かすみ「あ、あちちっ!?」

しずく「かすみさん!?」

かすみ「だ、大丈夫……! ちょっと熱かっただけ……!」


掠ってすらいないはずなのに、とてつもない熱気を感じる。

それが相手の攻撃の威力を物語っていた。

──絶対に勝てない。とにかく、逃げなきゃ……!



733 ◆tdNJrUZxQg2022/12/04(日) 12:19:26.05iC9FggQ30 (9/17)


かすみ「しず子、立って!」

しずく「……うん……!」


二人で立ち上がって再び距離を取るために走り出す。

幸いとでも言うべきか、今のところズガドーンはあまり熱心にこちらを追いかけてくる素振りはない。

それが逆に不気味でもあるが……。


しずく「……そうだ! 千歌さんたちに連絡を……!」


私は大急ぎでポケギアを取り出し、千歌さんに通話を飛ばすと──


千歌『──しずくちゃん!!』


千歌さんが秒で通話に出る。


しずく「ち、千歌さん、今……!!」

千歌『もう向かってる!! 7番道路だよね!? ウルトラビーストの種類は!?』

しずく「ず、ズガドーンです!」

千歌『わかった!! 15分……うぅん、10分で着くから、とにかく逃げて!』

しずく「は、はい!!」


通話を切って、


しずく「かすみさん、千歌さんがすぐに来てくれるから──」

かすみ「な、なんかあいつ、様子がおかしくない!?」

しずく「えっ!?」


言われて、ズガドーンを振り返ると、


 「ガドーーン」


ズガドーンが──自分の頭が取り外して、手に持っていた。


かすみ「あの頭取れんの!?」


確か、遥さんに見せてもらったデータでは──


しずく「に、逃げなきゃ……!!」

かすみ「わわっ!?」


あの珍妙な行動に、リアクションを取っている場合じゃない……!

今度は私がかすみさんの手を強引に引っ張って走り出す。


かすみ「ちょ、しず子!?」

しずく「とにかく……! とにかく、距離を……!!」


少しでも距離を離そうと全力疾走する。

……が、ズガドーンは逃げる私たちに向かって──自分の頭を放り投げてきた。



734 ◆tdNJrUZxQg2022/12/04(日) 12:20:15.45iC9FggQ30 (10/17)


かすみ「な、投げてきたー!?」
 「ガゥワゥッ!!!?」

しずく「っ……!」


私は咄嗟に、手持ち全員をボールから出す。


 「ジメ…」「ロゼ!!!」「キル」「マネネッ」

しずく「“みずびたし”っ! “わたほうし”っ! “サイコキネシス”っ! “ひかりのかべ”っ! “きりばらい”っ!」


先に出ていたアオガラス含め、手持ち全員に叫ぶように指示を出す。

直後──目の前に鮮やかな色の花火が散った。

それと同時に全身が浮遊感に包まれ──吹っ飛ばされた。

あの頭が、目の前で大爆発したのだ。


しずく「ぐ……ぅぅぅ……っ……!!」


爆風を受けて、地面を転がる。


かすみ「……し、死ぬかと思ったぁ……!」
 「ガ、ガゥゥ…」

しずく「ど、どうにか、間に合った……」
 「ジ、ジメ…」「ロゼ…」「キルゥ…」「マ、マネェ…」「カァ…」


私たちは手持ちもろとも吹っ飛ばされたが、敷き詰められた“わたほうし”の上を転がることで、なんとか怪我せずに済んだ。


しずく「か……かすみさん……無事……?」

かすみ「な、なんとか……い、今の何……?」

しずく「“ビックリヘッド”……頭を大爆発させて攻撃する技みたい」

かすみ「なにそれこわっ!」

しずく「あんまり怖がらない方がいいと思う……」

かすみ「え?」

しずく「ズガドーンはそれで、驚かせた相手から生気を奪い取るらしいから……」

かすみ「ま、全く、それでかすみんを驚かせたつもりですかぁー!?」


取って付けたような強がりが出来ている時点で、かすみさんも無事なのは間違いないだろう。

それにしても、“ビックリヘッド”がどういう技があらかじめわかっていなかったら、本当に無事じゃ済まなかった。

ほのおタイプの爆発技。

“みずびたし”で爆弾自体を湿らせ、少しでも爆発と爆風の威力を殺すための“ひかりのかべ”と“きりばらい”。

身体を地面に叩きつけられないように、“サイコキネシス”で僅かに浮かせて、“わたほうし”を敷き詰めた地面に軟着陸。

手持ち全員が力を合わせてどうにか、耐えきった。

でも、まだ戦闘は終わっていない。

とにかく、千歌さんたちが来るまで逃げ続けないと……!

再びかすみさんの手を取って、逃げ出そうと、顔を上げると──


 「ガドーン」


ズガドーンが眼前に迫っていた。



735 ◆tdNJrUZxQg2022/12/04(日) 12:20:54.55iC9FggQ30 (11/17)


しずく「……っ……!」

かすみ「わ、わぁぁぁぁ!!?」


ズガドーンの手に炎が灯る。

攻撃の予兆。

ダメだ、避けられない。


かすみ「しず子っ!!」


かすみさんが庇うように、ズガドーンに背を向ける形で、私を抱きしめる。

ズガドーンの手がこちらを向く。

炎が噴き出す。

もうダメだ。

そう思った瞬間、


 「──“ハイドロポンプ”!!」
  「フゥッ!!!!!!」

 「ガドーーンッ!!!!?」


声と共に、真上から激しい水流の筋飛んできて、ズガドーンを吹っ飛ばした。


かすみ「へ……な、なに……?」

しずく「い、今のは……?」


事態が呑み込めず、二人で唖然とする。

そんな私たちの頭上から──フワリと降りてくる影。

大きな星型のポケモン──スターミーに乗って、突然目の前に現れた一人の女の子。


女の子「大丈夫ですか!?」

かすみ「え……」

しずく「嘘……」


彼女の姿は、何度も見たことがあった。

ただ、会ったことがあるわけではない。

テレビの中で、だ。


かすみ「……せ……せ……!?」

せつ菜「何やらお困りのようですね! 僭越ながら、助太刀させていただきます!!」


前回ポケモンリーグの準優勝者──せつ菜さん、その人だった。






736 ◆tdNJrUZxQg2022/12/04(日) 12:22:05.34iC9FggQ30 (12/17)


    💧    💧    💧





 「ガドォーン…」

せつ菜「見たことがないポケモンですね……。この地方はあちこち見て回ってきたつもりですが、まだ新しいポケモンに出会うことがあるなんて……やはり、世界は広いですね!」


スターミーの上に乗ったまま、ズガドーンと相対するせつ菜さん。

あまりに予想外の展開が続くせいで、また呆気にとられそうになったが……。

この人をウルトラビーストと戦わせちゃダメだ……!


しずく「せ、せつ菜さん! 戦わずに逃げてください!」

かすみ「そいつ、めっちゃくちゃ強いんですっ!」

せつ菜「逃げる? 強いというなら、ますます背中を見せるわけにはいきません!」

 「ズガ──」

せつ菜「“パワージェム”!!」
 「フゥッ!!!」


ズガドーンが動き出そうとしたときには既に、輝く閃光がズガドーンを貫いていた。


かすみ「は、はや……!?」


攻撃が直撃し、地面を転がるズガドーン。


 「ガ、ガドーン」

せつ菜「“10まんボルト”!」
 「フゥッ!!!」

 「ガドドドドッ!!!!?」


畳みかけるように、電撃による追撃。

が、ズガドーンもただでやられてはいない。


 「…ガ、ドォーンッ!!!!」

せつ菜「耐えますか……!」

 「ドォーーンッ!!!!!」


そして、黒い球体を猛スピードで、スターミーに向かって放ってきた。


 「フゥッ!!!?」
せつ菜「うわぁっ!!?」


ズガドーンの攻撃がスターミーに直撃し、その衝撃で上に乗っていたせつ菜さんが飛ばされる。

が、せつ菜さんは軽やかな身のこなしで、身体を捻りながら、地面に着地する。


 「フ、フゥ…」
せつ菜「やりますね……! “シャドーボール”ですか……! まさか、私のスターミーが一発でやられるなんて……!」


せつ菜さんはスターミーをボールに戻しながら、ズガドーンの強さに感心したように言う。


せつ菜「なら、この子はどうですか!」


だが、怯むどころか、間髪入れずに次のポケモンを繰り出す。



737 ◆tdNJrUZxQg2022/12/04(日) 12:22:59.77iC9FggQ30 (13/17)


 「ゲンガッ!!!」
せつ菜「ゲンガー! 暴れますよ!」

 「ゲンガッ!!!!」

 「ガドォーーンッ」


再び、ズガドーンが黒い球体──“シャドーボール”を作り出し、撃ち放つ。


せつ菜「こちらも“シャドーボール”です!」
 「ゲンガッ!!!!」


一方せつ菜さんも対抗するように、“シャドーボール”を撃ち出し──双方のシャドーボールが衝突する。

両者の攻撃はぶつかると、その場で相殺し合い、黒い影を周囲に散らす。


しずく「ご、互角……」

せつ菜「私のゲンガーの“シャドーボール”……威力には自信があったんですが……!」


自分の予想を裏切るほどの相手の強さに感心するものの、せつ菜さんはやはり臆さない。


せつ菜「その強さに……敬意を示します! 私の全力、受け止めてみなさい!!」


そう言いながら、せつ菜さんの手首に嵌めていた腕輪が輝きを放ち始めた。


かすみ「あ、あれって……!?」

しずく「“キーストーン”……!?」


せつ菜「さぁ、行きますよゲンガー!! メガシンカです!!」
 「ゲンガァーー!!!!」


せつ菜さんが叫ぶと、ゲンガーも眩い光に包まれ──ゲンガーの体にある棘、腕、そして尻尾がより鋭角的に、さらに自身の体は足元の影と一体化し、


 「ゲンガァァァ!!!!!!」


赤紫色の怪しい光を放つ──メガゲンガーへと姿を変えた。

メガゲンガーの持つ妖気……とでも言えばいいんだろうか。

姿を変えた瞬間、肌がびりびりとするのを感じた。それくらい、すさまじいパワーを身に秘めているのが、素人目でも理解できる。


 「ズ、ガドォォォォーーー!!!!!!」


が、ズガドーンも全く臆することなく、再び“シャドーボール”を放ってくる。


せつ菜「今度は先ほどのようには行きませんよ!! “シャドーボール”!!」
 「ゲンガァァーーッ!!!!!」


二度目となる同じ技の撃ち合い。

だけど、今回は──


かすみ「……で、でかっ!?」


メガゲンガーの放った“シャドーボール”は先ほどより一回りも二回りも大きいもので、


 「ガドッ!!!?」


ズガドーンの放った“シャドーボール”をいとも簡単に呑み込んで──



738 ◆tdNJrUZxQg2022/12/04(日) 12:26:03.08iC9FggQ30 (14/17)


 「ガ、ガドォォォォンッ!!!!!!!」


ズガドーンに衝突すると同時に、影のエネルギーが収縮し、ズガドーンを押しつぶしたあと──黒い影を散らしながら、爆散した。


 「ガ、ガドォォォォン……」


影が晴れると、ふらふらになったズガドーンの姿、


 「ガ、ガドォォォン……!!」


勝てないと悟ったのか、ズガドーンはスゥーっと地面に潜るようにして、消えてしまった。


せつ菜「あ……逃げられました。……メガゲンガーの“かげふみ”から逃げられるということは、やはりゴーストタイプだったようですね……」
 「ゲンガ──」


せつ菜さんは肩を竦めながら、メガゲンガーをボールに戻す。


しずく「う、嘘……」

かすみ「やっつけちゃった……」


またしても二人して呆けていると、


せつ菜「お二人とも、お怪我はありませんか?」


せつ菜さんは私たちのもとに駆け寄ってきて、そう訊ねてくる。


しずく「は、はい……」

かすみ「とりあえず、大丈夫です……」

せつ菜「それは何よりですね。真下で大きな爆発音が聞こえたので、何かと思いましたが……野生のポケモンに襲われるとは災難でしたね」

しずく「い、いえ……お陰で助かりました……」

せつ菜「……あ、自己紹介がまだでしたね! 私はせつ菜って言います! よくここにポケモン修行をしに来ているんです!」


存じております……。ここで修行をしているのは、知らなかったけど。


しずく「私は、しずくです……。こちらはかすみさん」

かすみ「あ、えっと……よろしくお願いします……」


あまりの展開に未だ頭が付いていっていないのか、かすみさんも自己紹介でのかすみん問答を忘れているほどだ。


せつ菜「お怪我はされていないようですが……心配なので、近くの街までお送りしますね! えっと、近くだとダリアかヒナギク……ん?」


そのとき、せつ菜さんは自分の腰のボールが震えていることに気付いて、その子を外に出す。


 「ワォンッ」
せつ菜「ウインディ? どうかしたんですか?」

 「ワォン」


せつ菜さんが訊ねると、ウインディは鳴きながら、クリフの上の方を見上げる。


せつ菜「ん……?」


せつ菜さんは少し考えたあと、


せつ菜「……あ、そうでした……! さっきまで、ご飯を作っている真っ最中でした……上に全部置いてきちゃいましたね。貰った“ポフィン”も……」



739 ◆tdNJrUZxQg2022/12/04(日) 12:26:59.68iC9FggQ30 (15/17)


どうやら調理中に飛び出してきたということを思い出したらしい。


 「ワォンッ!!!」
せつ菜「ち、ちょっとウインディ!? 引っ張らないでください……! もう! 歩夢さんから“ポフィン”を貰って以来、随分食いしん坊になりましたね……?」

 「ワォンッ!!!」

しずく「あ、あの……私たち、街には戻れると思うので……」

せつ菜「……すみません、いつもはこんなに食に貪欲じゃないはずなんですが……」
 「ワォンッ!!!」

せつ菜「わ、わかったから……! 引っ張らないで……!」


せつ菜さんは少し焦りながらも、ウインディの背にまたがる。


せつ菜「それでは、すみませんが失礼します!」
 「ワォンッ」


せつ菜さんが背にまたがると、ウインディは跳ねるようにして、カーテンクリフを登って行ってしまった。


かすみ「……なんで、この壁、登れるの……?」

しずく「…………」


レベルが違うとは、こういうことを言うのかもしれない……。


かすみ「なんか……すごかったね……」

しずく「う、うん……」


ウルトラビーストとの遭遇もだが……それ以上に颯爽と現れ、風のように去っていったせつ菜さんのインパクトがあまりにすごすぎて、私たちはしばらくの間、その場で動けずに呆けてしまっているのだった。





    💧    💧    💧





──その後、間もなくして千歌さんたちが到着した。


彼方「──……ってことは、せつ菜ちゃんがやってきて、ズガドーンを倒しちゃったんだ……」

しずく「はい……」

かすみ「圧倒してました……」

千歌「さすが、せつ菜ちゃん……」

遥「でも、どうしましょう……一般人のウルトラビーストとの接触案件ですけど……」

しずく「まだ、クリフの上にいるとは思いますが……」

千歌「んー……会って説明した方がいいのかなぁ……?」

穂乃果「うーん……」


穂乃果さんは少し悩む素振りを見せる。


穂乃果「しずくちゃん、かすみちゃん。せつ菜ちゃん、ウルトラビーストを見て、どんな反応してたか覚えてる?」

かすみ「えっと……強い相手なら逃げるわけにいかない……って。全然怖がってませんでした」

しずく「そうですね……強い野生ポケモンの一種と認識していた気がします」


その強さに感じるものはあったのかもしれないけど……少なくとも外世界から来た異質なポケモンだと認識していたとは考えにくかった。



740 ◆tdNJrUZxQg2022/12/04(日) 12:28:54.86iC9FggQ30 (16/17)


穂乃果「……となると、無理に説明したりしないで、そういうものだと思い込んでもらったままの方がいいかもしれないね。もちろん、本部へは一応報告するけど」

彼方「そうだね~……特異な存在だって知っちゃうと、逆に関わりを持っちゃうから……」

千歌「まあ……せつ菜ちゃんなら、仮にまた遭遇しても同じように対処しちゃいそうだしね……あはは」


千歌さんは過去に覇を競い合った相手なだけあって、せつ菜さんの強さをよく理解しているようだった。

彼女たちがそう判断したのなら、私たちからこれ以上言うことは特にない。


千歌「それじゃ、近くの街まで送ってくよ。ダリアでいい?」

かすみ「はい……今日中にセキレイに行くつもりでしたけど、もうくたくたなので、ダリアで休みたいです……」

彼方「それじゃ~そんなかすみちゃんに彼方ちゃんが元気が出るご飯を作ってあげよう~」

かすみ「え、ホントですか!? キッチン付きのホテル探さなきゃですね……!」


現金なモノで、彼方さんがご飯を作ってくれると聞くと、かすみさんは意気揚々と歩き出す。

まだ元気、結構余っている気がするんだけど……。

そんな中、遥さんが、


遥「あの、しずくさん」

しずく「? なんでしょうか……?」

遥「再び襲われた今でも……旅を続けたいと思いますか」


真剣な目で、そう訊ねてきた。


しずく「……はい」

遥「……わかりました」


それだけ言うと、遥さんも彼方さんたちを追って先に行ってしまった。


しずく「……」

穂乃果「遥ちゃん、ずっと心配してたからね」

しずく「はい……」


遥さんに診てもらい助けてもらった手前、罪悪感はある。

そんな私の胸中を察したのか、


穂乃果「旅を続けるって決めたなら、しずくちゃんはそれを頑張ればいいんだよ」


穂乃果さんは優しい声でそんな風に言う。


しずく「はい……ありがとうございます」

穂乃果「それじゃ、行こう。ダリアへの道は長いから、急がないと日が暮れちゃう」

しずく「そうですね……」


私は穂乃果さんの言葉に頷いて──再び道を歩き始めるのでした。






741 ◆tdNJrUZxQg2022/12/04(日) 12:29:49.80iC9FggQ30 (17/17)


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【7番道路】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||  |●|.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.27 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.22 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.27 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.27 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.27 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:149匹 捕まえた数:9匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.34 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.34 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.33 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.27 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.27 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 4個 図鑑 見つけた数:140匹 捕まえた数:7匹


 しずくと かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.






742以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/12/04(日) 16:37:49.084TqIcDHeO (1/1)

『ポケモンSVさらに精度を上げていく』
レート戦/戦力集め・その3 (14:21~開始)

https://www.twitch.tv/kato_junichi0817


743 ◆tdNJrUZxQg2022/12/05(月) 14:30:00.876bHKz0F20 (1/20)


■Chapter038 『凱旋セキレイシティ』 【SIDE Shizuku】





かすみ「──さぁ! セキレイシティに向かって、出発するよ~!」
 「ガゥ!!」


かすみさんが自転車にまたがりながら、元気よく拳を突き上げる。


かすみ「さぁさ! 早く行かないと、日が暮れちゃうから!」

しずく「どこかの誰かさんが、チェックアウトギリギリまで起きなかったからね……」

かすみ「ぅ……! だ、だって、疲れてたんだもん……! しず子だって、いつもよりは起きるの遅かったって言ってたじゃん!」


まあ、確かに……昨日は全く想定外のウルトラビーストとの戦闘があったため、疲れていたというのはある。……精神的にも、肉体的にも。

ただ、私が起きるのが遅かったというのは、普段6時に目を覚ますのが6時半になった程度のものだ。

一方かすみさんは、起こそうとしても全く起きる気配がなく、本当にホテルのチェックアウトギリギリに焦って起こしたくらいだし……。

かすみさんより遥か前に起きた穂乃果さんや千歌さんたちは、「また何かあったら連絡してね」と残し去って行った。

彼方さんは「まさか彼方ちゃんよりお寝坊さんな子がいるとはね~」なんて笑っていたし……。

まあ、かすみさんに寝坊癖があるのは、今に始まったことじゃないけど……。


かすみ「と、とにかく……! セキレイシティに行くの!」

しずく「はいはい、わかりました」

かすみ「出発進行~!」
 「ガゥ♪」





    💧    💧    💧





かすみ「風が気持ちいい~♪」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「ふふ、そうだね」


かすみさんの寝坊に苦言を呈しはしたけど、ダリア~セキレイ間は、風斬りの道を自転車で駆け抜けるだけだ。

途中に草むらがあるわけでもなく、隅から隅まで人の手が入った橋を越えていくだけ。

時折、周囲を飛んでいる鳥ポケモンが下りてくることがあるらしいけど……基本的には風を斬りながら走るサイクリングを楽しむ道だ。

その証拠に橋の上では私たち以外にも、サイクリングを楽しんでいる人がちらほら見える。

……まさか、ここでもウルトラビーストに襲われるなんてことはないと信じたい。


かすみ「このペースなら、すぐ着いちゃうね~♪」

しずく「うん。お昼過ぎくらいにはセキレイに着けそうかな?」

かすみ「なら、時間に余裕もあるね!」

しずく「かすみさん、セキレイに到着したらどうするつもりなの? 一旦、家に帰る?」

かすみ「もちろん、一度お家には帰るつもりだけど……それよりも、大事なところがあるじゃん!」

しずく「大事なところ……? あ、ポケモンスクールへの挨拶?」

かすみ「……もう! ポケモンジムに決まってんじゃん!!」


言われて思い出す。



744 ◆tdNJrUZxQg2022/12/05(月) 14:33:03.516bHKz0F20 (2/20)


しずく「そういえば、かすみさん、まだセキレイジムに挑戦出来てなかったね……」

かすみ「忘れないでよ!!」


セキレイシティのジムは、ポケモンスクールにも近いし……あまりに地元感が強くて、すっかり忘れていた。


かすみ「今日という今日こそは、セキレイジムで曜先輩とバトルしてもらうんだもん! かすみん、5個目のバッジも絶対ゲットしちゃうんだから!」
 「ガゥ!!」

かすみ「なんかそう考えたら、いち早く到着して挑戦したくなってきちゃった……! 全速力です!!」
 「ガゥガゥ♪」


かすみさんが、急にペダルを全速力でこぎ始める。


しずく「あ、ち、ちょっと!? そんなに飛ばしたら危ないって!?」

かすみ「今かすみん燃えてるの! しず子も早く来ないと置いてっちゃうよ!」


そう言いながら、かすみさんはどんどん突っ走っていく。


しずく「ああもう……」


やれやれと思いながら、私も立ち漕ぎになりペースを上げて、かすみさんを追いかける。

このやる気が空回りしないといいけど……。





    💧    💧    💧





──セキレイシティ。セキレイジム前。


かすみ「……何故」


ジムの前にはこんな張り紙──『現在ジムリーダー不在のため、ジムをお休みしています』。

前回来たときと同じ状態だった。


かすみ「もう~!! なんで、曜先輩はいつもいないんですかぁ~!!」
 「ガゥゥ…」

しずく「あはは……セキレイジムって何かとジムリーダー不在なこと多いよね……」


前任のことりさんもだが、セキレイジムのジムリーダーはバトルだけでなくコンテストにも携わっているからか、不在なことが多い。

それでも、ジムリーダーとして籍を置いているのは、街の人からの支持が高いことが理由らしい。

確かに、ことりさんも曜さんも、街の人から慕われているのが一目でわかる人気者だ。



745 ◆tdNJrUZxQg2022/12/05(月) 14:33:39.836bHKz0F20 (3/20)


かすみ「はぁ……さすがにこれは待つしかないよね……」

しずく「そうだね……」

かすみ「でも、待ってる間何してよう……。家に帰ろうかな……」

しずく「あ、待って! 帰る前に行かなくちゃいけないところがあるよ!」

かすみ「行かなくちゃいけないところ……? えーでも……ポケモンスクールは正直」

しずく「いや、スクールじゃなくて……」

かすみ「? じゃあ、どこ……?」

しずく「どこって……決まってるでしょ!」

かすみ「えっと……?」


どうやら、本当に見当が付いていないらしい。思わず、溜め息が漏れそうになる。


しずく「ツシマ研究所! 博士に旅の報告しないと!」

かすみ「……あ、あー!!」

しずく「もう……なんで忘れるのよ……」


私たちを旅に送り出してくれた張本人なのに……。


かすみ「い、いや、もちろん覚えてたよ? 今から、行こうと思ってたもん! ね、ゾロア!」
 「ガゥ?」

しずく「……」


思わず、かすみさんにジト目を向けてしまう。


かすみ「さぁ、行くよしず子! ツシマ研究所目指してレッツゴー!」
 「ガゥ」


かすみさんが、調子よさげに研究所に向かって走り出す。


しずく「はぁ……」


私は思わず額に手を当てながら、かすみさんの後を追うのだった。





    🎹    🎹    🎹





──流星山を北側から下山し、アキハラタウンを抜け、その先の8番道路を歩くこと数十分。


侑「帰ってきたね……!」
 「イブイ」

歩夢「うん!」
 「シャボ」


私たちはセキレイシティに戻ってきていた。

旅に出て大体2週間くらいだろうか。

すごく長い時間離れていたわけではないけど、今まで2週間も故郷から離れていたことなんてなかったし、こうして地方の南半分くらいを自分たちの足で歩いてきたと考えると、なんだか感慨深い。

それだけで見慣れた故郷の景色のはずなのに、一周回って新鮮に見えてくる。



746 ◆tdNJrUZxQg2022/12/05(月) 14:34:31.706bHKz0F20 (4/20)


リナ『とりあえず、どうするつもり?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「えっと……せっかく、セキレイまで戻ってきたから、一度家には寄ろうかなって思うけど……」

侑「まずは……あそこだよね」


私と歩夢の視線は──ここからすでに見えているツシマ研究所に向けられる。

ツシマ研究所は街の南側に位置しているから、8番道路からだと、すぐなのだ。


侑「ヨハネ博士への旅の報告!」
 「ブィ~♪」

歩夢「だね♪」

リナ『なるほど』 || > ◡ < ||


早速ツシマ研究所へと近付いていくと、

──pipipipipipi!!! と、以前どこかで聞いた音が歩夢の方から鳴りだす。


歩夢「これ、図鑑の共鳴音……?」──pipipipipipi!!!
 「シャボ…?」

侑「ってことは……!?」


私がキョロキョロと辺りを見回すと──


 「侑せんぱーい! 歩夢せんぱーい!」──pipipipipipi!!!


共鳴音と一緒に元気いっぱいに駆け寄ってくる姿を見つける。


侑・歩夢「「かすみちゃん!」」

かすみ「はぁ……はぁ……! なんでなんで!? すごい偶然ですぅ~!」

リナ『共鳴音が鳴ってるってことは、しずくちゃんもいるってことだよね?』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「あ、うん! そろそろ来ると思うけど……」


かすみちゃんが来た方向に目を向けると、一足遅れてしずくちゃんがこちらに小走りで駆けてくる姿が目に入る。


しずく「侑先輩! 歩夢さん! お二人もセキレイに戻ってきていたんですね……! 突然、図鑑が鳴りだしたから、驚きました……!」

歩夢「うん! 今から博士のところに、報告に行こうと思ってたところで……」

かすみ「先輩たちもですか!? ほんとすっごい偶然です~! かすみんたちも今博士への報告に行こうと思ってたところなんですよ!」

しずく「……かすみさんはさっきまで忘れてたけどね」

かすみ「ちょっとしず子! 余計なこと言わないでよ!」

侑「あはは……」


二人ともいつもどおりで安心する。


歩夢「それじゃ、みんな揃って、博士に報告だね♪」

しずく「はい、そうですね」

侑「じゃ、行こうか!」


──4人揃って、研究所のドアを押し開け、中に入る。


侑「失礼しまーす!」



747 ◆tdNJrUZxQg2022/12/05(月) 14:35:45.376bHKz0F20 (5/20)


研究所の中に入ると、ヨハネ博士は奥の方で、ポケモンの世話をしている真っ最中だった。

博士が私たちの声に気付いて、こちらに顔を向けると、


善子「──あら、貴方たち……セキレイに戻ってきてたのね。ちょっと待ってて、今餌やり済ませちゃうから」
 「ハミィ?」


ヨハネ博士は手早くユキハミの飼育部屋の中に、新しい雪を補充したあと、私たちのもとへとやってくる。


善子「おかえりなさい、リトルデーモンたち。4人揃って戻ってくるとは、相変わらず仲良しみたいでなによりだわ」

侑「4人揃ったのはたまたまなんですけどね……」

しずく「今さっき、研究所の前で会ったところなんです」

善子「それだけ気が合うってことじゃないかしら。そういう偶然、運命に導かれている感じがして、私は好きよ」


ヨハネ博士はうんうんと頷きながら言う。


善子「それに、みんな顔つきが変わったわね。頼もしくなった」

かすみ「そうでしょうそうでしょう! かすみんめっちゃ強くなっちゃったんですから!」
 「ガゥガゥ♪」


胸を張る、かすみちゃん。


歩夢「えっと……そうなら、嬉しいです……えへへ」


控えめにはにかむ歩夢。


しずく「自分ではあまり自覚はありませんが……確かにいろいろなことを経験した分、成長出来たんじゃないかと思います!」


冷静に分析するしずくちゃん。


侑「みんなバラバラだね……あはは」

善子「気が合うんだか、合わないんだか……。侑は、どうかしら?」

侑「私は……いろんな場所を巡っている間に、たくさん仲間が増えました!」
 「ブイ♪」

善子「ふふ、それは何よりね」


ヨハネ博士は優しく笑ってから、一人一人の顔を順に見回す。


善子「……かすみ……しずく……歩夢……そして、侑──……ん?」


そして、私の隣で目を留める。


リナ『初めまして、ヨハネ博士! 私リナって言います!』 ||,,> ◡ <,,||

善子「!? え、これ侑に渡した図鑑よね!? なんで、喋ってんの!? ってか、浮いてるじゃない!?」

侑「えっと……?」


そういえば、鞠莉博士もなんか変な反応してたっけ……。


リナ『そのことについて、鞠莉博士から言伝を預かってる』 || ╹ ◡ ╹ ||

善子「こ、言伝……?」

リナ『「人から渡されたモノを、断りもなく勝手に他の人に預けるんじゃありまセーン! そのことについて話があるから、後で、直接連絡を寄越すように!」』 || ˋ ᇫ ˊ ||

善子「!?」

侑「えーっと……?」



748 ◆tdNJrUZxQg2022/12/05(月) 14:36:31.646bHKz0F20 (6/20)


何やら事態がよく呑み込めないんだけど……。


善子「……そーゆーことか……」


ヨハネ博士は、気まずそうに頭を掻きながらも、どうやら何かを察したようだった。


リナ『とりあえず、鞠莉博士からはそれだけ! 私のことについては鞠莉博士から聞いてね!』 || > ◡ < ||

善子「わかったわ……」

侑「えっと、私はどうすれば……?」


私の知らないところで、何かが起こっているっぽいんだけど……。


リナ『うぅん、鞠莉博士とヨハネ博士の話だから、侑さんは気にしないで』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「そう……?」


まあ、リナちゃんが気にしないでと言うなら……。


善子「コホン……。気を取り直して……旅の調子はどうかしら?」

侑「あ……! そうそう、旅でたくさん集めたんです……!」

かすみ「あ、旅で集めたって言ったら……もしかして……!」

侑「いろんなトレーナーから貰ったサイン!!」

かすみ「いや、サインの話ですかっ!?」

侑「はい! ダリアのにこさん、コメコの花陽さん、ホシゾラの凛さん、ウチウラではルビィさんとダイヤさんのサイン……! それに鞠莉博士からも貰っちゃいました!」

歩夢「侑ちゃん、いつの間に……」

しずく「なんというか……さすが侑先輩……」


実は花丸さんにも書いてもらったんだけど、これは言っちゃいけないから、黙っておく。


かすみ「もう、侑先輩! これはただの観光の旅じゃないんですよ!?」

善子「あのね、侑……」

かすみ「ほら! ヨハ子博士も言ってやってください!」

善子「私、サイン書いてないんだけど」

かすみ「そっち!?」

侑「っは……言われてみれば、バタバタしてたから貰い忘れてた……! ヨハネ博士、サインください!」

善子「くっくっくっ……苦しゅうない……」


ヨハネ博士は私から色紙を受け取ると、サラサラとサインを書いていく。


侑「わーい! ありがとうございます!!」

善子「大切にするのよ?」

侑「はい!」


新しいコレクションが増えて、思わずホクホクしてしまう。



749 ◆tdNJrUZxQg2022/12/05(月) 14:37:28.286bHKz0F20 (7/20)


かすみ「一体なんの報告ですかぁ……」

歩夢「あはは……」

かすみ「はぁ……ま、かすみん、サインは集めてませんけど、ジムバッジは4つも集まったんですよ!」

侑「あ、私もジムバッジは5つ集めたよ!」

かすみ「かすみんこの流れでバッジの数も負けてるんですか!?」

しずく「かすみさん……ドンマイ」


かすみちゃんが悔しそうに項垂れる。


善子「さっきのサインラインナップからしても、地方の南を回ってきたのかしら? となると、セキレイ、ダリア、コメコ、ホシゾラ、ウチウラのジムよね」

侑「はい!」

善子「となるとかすみは、どんなルートだったの……? ジム4つを巡るルートって結構限られると思うけど……」

しずく「あ、えっと、私たちはサニーからフソウに渡って、ウチウラ、ホシゾラ、コメコ、ダリアと進んで、セキレイに戻ってきました」

かすみ「セキレイジムがまだなんですぅ~……曜先輩が全然捕まらなくてぇ……」

善子「あぁ、なるほどね。曜だったら、たぶんサニーにいると思うわ」

しずく「前と同じように、まだサニーでお仕事をされているんですね」

善子「ええ。当分はあっちにいるって言ってたから……ジム戦をしたいなら、サニーに行った方が早いかもしれないわね」

かすみ「じゃあ、次の目的地はサニーかなぁ……」

しずく「あ、それじゃあ、今日は私、サニーに帰ってもいいかな? 皆さん、今日はさすがにご自分のお家に帰られるでしょうし……かすみさんも家に帰るって言ってたよね?」

かすみ「うん。さすがにセキレイに戻ってきたわけだし……」

しずく「それなら、私も今日くらいは家に帰りたいかな。ついでに、サニーで曜さんに会ったら、明日にでもジム戦をしてもらえるように、お願いしておくよ」

善子「確かにそれが確実かもね。曜って落ち着きがないから、ちゃんと予定押さえておかないと、なかなか捕まらないし」

かすみ「じゃあ、しず子、曜先輩に会ったらお願いね!」

しずく「うん、わかった」


というわけで、かすみちゃんはジム戦のために東に向かうみたいだ。


歩夢「私たちはどうする……?」

侑「うーん……今日はさすがに家に帰るけど……」

リナ『ジム巡りを続けるなら、次に目指すのは北のローズシティだと思うよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「だよね。なら、次はローズを目指そっか」


次は順当に、まだ行っていない北に進むことになりそうだ。


善子「あ、ちょっと待って。ローズに行くなら、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど……」

侑「お願い、ですか……?」


なんだろう……?


善子「ローズシティにいる真姫に渡して欲しいポケモンがいるの」

しずく「真姫さんって言うと……ローズジムのジムリーダーですよね?」

侑「渡して欲しいポケモンって言うのは……?」

善子「えっと、ちょっと待っててね」



750 ◆tdNJrUZxQg2022/12/05(月) 14:38:29.036bHKz0F20 (8/20)


そう言うと、ヨハネ博士は一旦奥の部屋へと下がっていく。

恐らく件のポケモンを探しに行ったのだろう。

すぐに目的のポケモンを見つけて戻ってきた博士は、


善子「この子よ」


そう言いながら、一個のボールからポケモンを出す。

ボールから出て来たのは、


 「──ワォン」


黄昏色の毛色をした、オオカミようなポケモン。


侑「え……!?」


でも、私はこのポケモンにすごく見覚えがあった。


侑「こ、このポケモンってもしかして……!! 千歌さんのルガルガンじゃないですか!?」

歩夢「そうなの?」

侑「うん! この黄昏色の体毛……間違いないよ!」


この“たそがれのすがた”のルガルガンはオトノキ地方では、今のところ千歌さんしか持っていないと聞いたことがある。


侑「数が少ないから、研究のために千歌さんの手を離れてることがあるって噂には聞いてたけど……まさか、ツシマ研究所にいたなんて……!」

善子「あら……よく知ってるわね。ただ、つい最近千歌から手持ちに戻したいって言われてね」
 「ワォン」

しずく「千歌さんの……ポケモン……ですか……」

歩夢「しずくちゃん? どうかしたの?」

しずく「あ、いえ、なんでもありません。……えっと、それでどうしてそのルガルガンをローズシティの真姫さんに?」

善子「健康診断のために、千歌の手持ちに返す前に、一度ローズで診てもらうのよ。あそこは医療設備も整ってるからね」

かすみ「えー……でも、それくらいならパソコンで転送しちゃえばいいじゃないですかぁ~……?」

善子「そうしたいのは山々なんだけどね……チャンピオンのポケモンってなると、欲しがる人なんて、ごまんといるから、転送でやり取りするのは不安があるのよ」

リナ『確かに、万が一でも、クラッキングで気付かない間に、転送先を変えられてたりしたら、大事だね』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「そういうこと。だから、出来るだけ人から人で受け渡しする方が確実なのよ。ただ、私もちょっと手が離せない研究があって、ここを離れる時間を作るのが難しくって……」

侑「なるほど! そういうことなら、私が真姫さんに届けます!」

善子「そうしてくれると助かるわ」

侑「はい! ……それに、あの千歌さんのポケモンと一瞬でも一緒に過ごせるなんて、貴重だよ……貴重すぎるよ……! 絶対に私がやりたい……!」
 「ブイ…」

リナ『侑さん、心の声が漏れだしてる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「あはは……」


歩夢とリナちゃんが苦笑してる──ついでにイーブイも呆れてる──けど……これは絶対私がやりたいんだもん! 仕方ないじゃん。



751 ◆tdNJrUZxQg2022/12/05(月) 14:39:10.516bHKz0F20 (9/20)


善子「あー……ただ……。お願いしておいて悪いんだけど……すぐにってわけにはいかないのよね……」

侑「? どういうことですか?」

善子「ホント唐突に言われたもんだから、こっちもルガルガンの必要な観察データがまだ取り切れてないのよ……。今大急ぎで進めてるから、明後日には送り出せると思うんだけど……」

リナ『そうなると……すぐには、ローズに行けないね』 || ╹ᇫ╹ ||

しずく「そういうことでしたら……私たちが、ローズまでお届けしましょうか? サニーで曜さんとジム戦を終えたら、私たちもローズに向かうと思いますし……」

侑「いや! 絶対、私がやりたい!」

歩夢「あはは……侑ちゃんなら、そう言うよね」


千歌さんの手持ちと過ごせるチャンス……! これだけは絶対に譲れない……!


歩夢「それなら……私たちも、かすみちゃんと一緒にサニータウン方面に行ってもいいかな?」

かすみ「え? かすみんは別に構いませんけど……」

歩夢「私たち、今回の旅でサニーにはまだ行ってないし……太陽の花畑を、ポケモンたちに見せてあげたいの」


太陽の花畑といえば、一年中四季折々の花が咲き誇る、オトノキ地方でも有数の大きな花畑だ。

かなり穏やかな場所で、野生のポケモンが大人しく、ポケモントレーナーでなくても安全に訪れることが出来る。

特に歩夢は、あそこがすごくお気に入りで、この季節になると毎年一緒にピクニックに出かけていたっけ。


歩夢「私の大好きな景色……旅で出会ったみんなにも見て欲しくって……」

侑「そういうことなら!」

歩夢「えへへ、じゃあ決まりだね♪」


歩夢は嬉しそうに言う。


善子「それじゃ、悪いけど……明後日にまた、研究所までルガルガンを引き取りに来てもらえる?」

侑「はい! わかりました!」

かすみ「となると、しばらくは侑先輩と歩夢先輩も一緒ってことですね!」

歩夢「うん、よろしくね♪」

リナ『旅路が賑やかになるね。リナちゃんボード「ハッピー♪」』 ||,,> ◡ <,,||


というわけで、私たちはしばらくかすみちゃんたちと行動を共にすることになりました。

明日は太陽の花畑を抜けて、いざサニータウンへ……!





    🎹    🎹    🎹





しずく「──それでは皆さん、また明日」

侑「うん! またね、しずくちゃん!」

歩夢「気を付けて帰ってね」

しずく「はい、ありがとうございます」

かすみ「しず子~、曜先輩のことお願いね~!」

しずく「うん、任せて!」


しずくちゃんは手を振って、サニータウンへと帰っていった。



752 ◆tdNJrUZxQg2022/12/05(月) 14:39:48.916bHKz0F20 (10/20)


侑「それじゃ、私たちも帰ろっか」
 「ブブイ」

歩夢「うん」

かすみ「はーい!」


3人で帰り道を歩き出す。


歩夢「なんだか、こうして3人で歩いてると、スクールに居た頃みたいだね」

侑「あはは、確かにそうかも♪」

かすみ「でもでも、今はあのときとはもう違いますから!」
 「ガゥ♪」


かすみちゃんが元気に言うと、ゾロアが同調するように鳴く。


かすみ「今はかすみんたち、ポケモントレーナーなんですから!」

歩夢「ふふっ、そうだね♪」


歩夢がくすくすと笑う。

なんだか、いつものセキレイシティの景色の中で、ポケモントレーナーになった歩夢やかすみちゃんと歩くのは不思議な感覚だった。

旅に出る前には考えられないくらい、いろんな人やポケモンと出会って、これまでにいろんなことがあった。

そして、何より──


 「ブイ?」


私には新しい仲間がいる。

歩夢にも、かすみちゃんにも、しずくちゃんにも。


リナ『侑さん、なんか嬉しそう』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん! 私たち、前に進んでるんだなって思って、なんか嬉しいなって」

リナ『そっか。侑さんが嬉しそうにしてると私も嬉しい』 || > ◡ < ||

侑「ふふ、ありがとうリナちゃん」


そして、リナちゃんもこの旅で出会った大切な仲間だ。

このオトノキ地方での旅は、こうしてセキレイシティに戻ってきたことによって、地方全体の凡そ半分くらいを旅してきたことになると思う。


侑「この先には……何があるのかな……!」


私は旅の続きが楽しみで楽しみで堪らない。

大きな期待を胸に、未来に希望を抱きながら、私は無限に広がっている空を仰いで、この先に続いているまだ見ぬ地を思い描きながら、帰路に就くのだった。





    🎹    🎹    🎹





……さて。

久しぶりに我が家へ帰宅した私だったんだけど……。


侑「まさか帰宅早々、夕飯の買い出しをやらされるとは……」
 「ブイ?」



753 ◆tdNJrUZxQg2022/12/05(月) 14:40:56.196bHKz0F20 (11/20)


セキレイデパートの中をげんなりした顔で歩いていた。


侑「まあ、突然帰ってきたから、食材が足りなかったってのは、わかるけどさ……」

リナ『侑さん侑さん! 今日の“パイルのみ”普段の価格よりも22%もお得だよ』 || > 𝅎 < ||

侑「リナちゃんが毎日買い物についてきてくれたら、お母さん喜びそうだね……」


帰るや否や、買い物袋とお金を渡されて、自宅をUターンしてしまったため、まだロクに旅の仲間も紹介出来てないし……。

帰ったら、リナちゃんや新しく捕まえたポケモンたちも紹介しないとね。


侑「ま……余ったお金で好きなモノ買っていいって言ってたし、いっか……」

リナ『侑さんのお母さん、太っ腹だね』 || > ◡ < ||


太っ腹って言うなら、むしろ久しぶりに帰ってきた娘を労って欲しいものなんだけど……。


リナ『ところで、何か欲しいものとかあるの?』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「うん。まあ、なんとなくは」


デパートの中をうろうろしながら、私はお花のコーナーに足を向ける。


リナ『お花買うの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん。ちょっとね」


私は並べられた色とりどりの花を眺めながら考える。


侑「どれがいいかな……」

リナ『……あ、もしかして……贈り物?』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「……ま、まあ……そんなところかな、あはは」


リナちゃん、意外と鋭いんだよなぁ……。ちょっと恥ずかしい。

並べられた花は、一輪の物から、ブーケになっているもの、ドライフラワーや、アクセサリーに加工してあるものもある。

そんな中、


侑「あ……これ……」


小さな、花飾りが私の目に留まった。

横にある小さなポップに、この花飾りに使っているお花の花言葉が書いてあって──


侑「……これにしよう」


私はこれしかないと思い、それを手に取って、レジに向かうのだった。