1以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 20:31:18.47GD1Tr+3e0 (1/22)

令嬢「おはよう」

執事「おはようございます、お嬢様」

令嬢「今何時かしら?」

執事「夜の9時でございます」

令嬢「9時! ニュースを見なくっちゃ!」


令嬢はニュース番組が大好きなのである。

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2以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 20:33:01.90GD1Tr+3e0 (2/22)

番組では“路上飲み”についての報道がなされていた。
赤ら顔で酒を飲む若者が映し出されている。


令嬢「これは?」

執事「“路上飲み”ですね」

令嬢「路上飲み? 説明してちょうだい」

執事「道端でお酒を飲む行為のことです。ちょっとした社会問題になっていますね」

令嬢「はしたない事をする人間がいるものね」

執事「現在の社会状況がそうさせている面もあるとはいえ、あまり品のいい行為とはいえませんね」


3以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 20:33:41.97GD1Tr+3e0 (3/22)

ニュース番組が終わる。


令嬢「あー、面白かった」

執事「なによりです」

令嬢「さて執事、私は夜のお散歩に出かけてくるわ」

執事「行ってらっしゃいませ」


かろやかな足取りで外に出かける令嬢。鼻歌まで交えて。


4以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 20:35:18.77GD1Tr+3e0 (4/22)

令嬢(夜の街を出歩くのは楽しいわ)

令嬢「あら?」


ウェーイ… ギャハハハ… イッキイッキ!

公園を通りがかると、若者たちが酒盛りをしていた。
遊具に陣取り、周囲には空き缶やおつまみの容器が散らばっている。


令嬢「まぁ、あれが路上飲みというやつね。こうして生で見るとなんて下品なのかしら」

令嬢「注意してあげないと!」


5以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 20:36:03.75GD1Tr+3e0 (5/22)

若者「ウェ~イ!」

令嬢「ちょっと、あなたたち」

若者「ん?」

仲間A「なんだなんだ?」

仲間B「あ?」


いかにも真面目の三文字とは無縁なグループ。だが、令嬢は恐れもしない。


令嬢「路上飲みはやめなさい」

若者「なんだとォ?」


6以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 20:37:56.12GD1Tr+3e0 (6/22)

若者「なんでやめなきゃいけねえんだよ?」

令嬢「公園はお酒を飲むための場所ではないわ」

令嬢「それにあなた方の大声は近所迷惑、ゴミだって片付けられていない」

令嬢「やめるべき理由がこんなにも揃っていますわ。今すぐやめるべきよ」

若者「うっせえわ!!!」

令嬢「!」

仲間A「なぁに説教たれてんだ、このガキィ」

仲間B「泣かしちまうぞ、ああ?」

令嬢「……」


7以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 20:40:16.61GD1Tr+3e0 (7/22)

トドメとばかりに、顔面にビールを浴びせられる。

バシャッ!

令嬢「うぐっ!」

若者「とっとと帰んな、お嬢ちゃん」

仲間A「俺らが寛大でいるうちによ」

仲間B「そうだそうだ! 目障りなんだよ!」

令嬢「むうう……」


怒りと悔しさを抑え、令嬢は公園を後にした。
背後からは酒盛りを再開した彼らの声が突き刺さってきた。


8以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 20:41:32.63GD1Tr+3e0 (8/22)

トドメとばかりに、顔面にビールを浴びせられる。

バシャッ!

令嬢「うぐっ!」

若者「とっとと帰んな、お嬢ちゃん」

仲間A「俺らが寛大でいるうちによ」

仲間B「そうだそうだ! 目障りなんだよ!」

令嬢「むうう……」


怒りと悔しさを抑え、令嬢は公園を後にした。
背後からは酒盛りを再開した彼らの声が突き刺さってきた。


9以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 20:42:52.48GD1Tr+3e0 (9/22)

令嬢「ただいま!」

執事「お帰りなさいませ。おや、お濡れになられて。どうなさいました?」

令嬢「ビールをご馳走になったのよ」


令嬢は一部始終を話した。


執事「そうでしたか。よく我慢なされました。お嬢様の心の広さに私、感動を覚えております」

令嬢「そんな言葉じゃ私の気は収まらないわ!」

執事「まもなく通販番組が始まりますよ」

令嬢「通販!? 絶対見なきゃ!」


一瞬にして機嫌が直る。
令嬢は深夜の通販番組も大好きなのである。

あくまで見るだけなのだが、紹介される数々の便利アイテムや、
あのそこはかとなく漂う胡散臭さがクセになってしまったようだ。


10以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 20:43:41.36GD1Tr+3e0 (10/22)

翌日、令嬢は昨夜と同じように起床した。


令嬢「おはよう」

執事「おはようございます、お嬢様」

令嬢「今何時かしら?」

執事「夜の9時でございます」

令嬢「ニュースを見なくっちゃ!」


ニュースを一通り楽しんだ後、令嬢は夜の散歩に出かける。


11以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 20:44:36.36GD1Tr+3e0 (11/22)

同じコースを散歩していると、またも昨夜のグループを見かける。


令嬢「あ……」

令嬢(ふん、無視無視。あんな連中に関わっては不愉快になるだけだわ)


しかし、昨夜とは少し様子が違っていた。


若者「ちょっと付き合えよォ!」

OL「離して下さい!」

仲間A「缶ビール一杯ぐらいいいじゃねえか!」


会社帰りのOLを捕まえて、酔った勢いに任せタチの悪い絡み方をしている。


令嬢(これは……放っておけないわね!)


お嬢様の好奇心――おっと、正義感に火がついた。


12以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 20:45:51.83GD1Tr+3e0 (12/22)

令嬢「ちょっとあなたたち」

若者「あぁん? お前は昨日の……」

令嬢「その女性を今すぐ離しなさい。嫌がってるじゃないの」

若者「この子は俺らと飲みたがってんだよ!」

仲間A「とっとと帰れ! 青臭いクソガキ!」

仲間B「なんなら……」


金属バットを令嬢に突きつける。どう考えても本来の用途で持ち歩いてるわけではなさそうだ。


仲間B「こいつでお尻ペンペンしちまうぞォ~?」

令嬢「……」

アハハハハ… ヒャハハハハ…


13以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 20:46:38.52GD1Tr+3e0 (13/22)

令嬢「ちょうどよかった」

仲間B「へ?」

令嬢「私の力を見せてあげる」


令嬢は金属バットを奪うと、両腕でそれをヘシ曲げてみせた。


若者「え!?」

仲間A「は!?」

仲間B「い!?」

OL「……!」


14以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 20:48:23.94GD1Tr+3e0 (14/22)

令嬢「こんなこともできますわよ」


まるで粘土でもこねるように、金属バットを折り曲げ、丸め、結び、たちまち現代アートさながらの形状にしてしまった。
絶句する四人。


令嬢「あなた。見とれてないですぐお逃げなさい」

OL「は……はい!」


OLが逃げ去ったのを確認すると、令嬢は三人に向き直る。


若者「なんだよ……なんなんだよ、お前!?」

令嬢「私? 名刺はないから口で説明してあげる」


令嬢は大きく口を開けた。すると犬歯の部分に明らかに人間離れした牙が……。

悲鳴が上がる。


15以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 20:49:56.95GD1Tr+3e0 (15/22)

令嬢は腕を伸ばし、若者を捕える。一掴みで「絶対逃げられない」と悟らせる怪力。
残り二人は逃げてしまった。


若者「あっ……ああっ、あっ!」

令嬢「ここで飲んでもいいんだけど……路上飲みを注意した私が路上飲みをしてはいけないわね」

令嬢「屋敷に招待してあげる」

若者「た、助けっ……!」

令嬢「大人しくしなさい。はしたないわよ」


自分より大きく、体重60~70kgはあるであろう若者を、軽々と無造作に引きずっていく。


16以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 20:52:09.99GD1Tr+3e0 (16/22)

執事「お帰りなさいませ、お嬢様。おや、そちらの御仁は?」

令嬢「路上飲みをやっていた若者よ。連れてきちゃった」

令嬢「ここでなら遠慮なく飲むことができるわね」

若者「た、助け……命だけは……」

令嬢「往生際が悪いわよ」

執事「お嬢様に飲んで頂くなど光栄なことですよ」

令嬢「いただきます」

若者「うわああああああああっ……!」


令嬢は若者の首筋に噛みつき、血を飲み始めた。喉がごきゅごきゅと音を立てる。

みるみるうちに、若者の体は干からび――


17以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 20:54:07.70GD1Tr+3e0 (17/22)

――なかった。

令嬢「ふぅ」

若者「……え。あれ……俺、生きてる……?」

令嬢「大げさに叫んじゃって。せいぜい400ml飲んだだけよ」

執事「一般的な献血と同じぐらいですね」

令嬢「それどころか、悪い血を抜いてあげたぐらいよ。これで少しはマシな人間になるでしょ。感謝なさい」

若者「……へ」

令嬢「別に命を奪う趣味はないし。帰っていいわよ」

若者「は、はい……」


18以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 20:55:56.98GD1Tr+3e0 (18/22)

執事「あ、少々お待ちを」

若者「!」ビクッ

執事「昨夜、お嬢様にビールをかけたのはあなた方だと聞いてます」

執事「お嬢様はお優しいので許すそうですが、私にはどうしても許せません」

若者「ひっ……!」


執事の声には明らかに殺気がこもっている。


19以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 20:57:16.98GD1Tr+3e0 (19/22)

執事「本来なら私がここで全ての血を飲んでしまってもいいのですが、それはやめておきましょう」

執事「お嬢様が見逃した相手を私が始末してしまっては、従者失格ですからね」

執事「ただしもし……今後また路上飲みをしたり、今日起きたことを口外したら――」

執事「あなたの身に“あなたが想像する通りの事態”が起こると予告しておきましょう」

若者「そうぞう……」

執事「この予告を叶える力、まさかお疑いになることはありませんね?」

若者「は、はいぃっ!」

執事「ご友人にもきちんとお伝え下さい」

若者「か、かか……必ず伝えますぅ!」


20以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 20:59:14.45GD1Tr+3e0 (20/22)

騒動から少し経ち、令嬢と執事は夜の散歩をしていた。


執事「あれから彼らはどうですか?」

令嬢「少なくとも、あの公園では見かけなくなったわね」

執事「ということは、ちゃんと約束を守っているということですかね」

令嬢「そうだといいんだけどね」

令嬢「だけど……」


21以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 21:01:11.58GD1Tr+3e0 (21/22)

例の公園から騒がしい声が聞こえる。

「飲もうぜー!」

「ちょっと前まで悪そうな連中がいて、ここで飲めなかったからな!」

「カンパーイッ!」



執事「どうやらまた別のグループが路上飲みをしているようですね」

令嬢「やれやれ、私たち吸血鬼の方が人間よりよっぽどマナーができてるわね」







END


22以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 21:02:02.07GD1Tr+3e0 (22/22)

以上で終わりです
>>8が二重投下になってしまいました
失礼いたしました


23以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 21:29:16.40iu/h3isjo (1/1)

おつおつ


24以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 22:02:05.955MXvO9NRO (1/1)

吸血鬼って普通獲物に家に招かせて飲むもんな
めっちゃマナー良いわ



25以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/29(木) 23:03:47.15iD3mq9vwo (1/1)

乙乙
お嬢様かっこいい


26以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2021/04/30(金) 15:40:12.990oJomEnWo (1/1)

>>10
どんだけ寝てんねんwと思ったら伏線だった