1以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 18:33:00.708UR9Y7SMD0.net (1/32)

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2以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 18:33:53.179UR9Y7SMD0.net (2/32)

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“人を呪わば穴二つ”

意:最も恐ろしいのは、憎しみの矛先が自分以外に向けられたときであることから。
  それを庇おうとすれが、たちまち二人とも殺されることになるという教訓。

類1:“イルトリアの報復”
類2:“ジュスティアで悪を庇う”
類3:“セントラスで十字架を踏む”


                    ――著:ディクト・ニクト『世界ことわざ辞典 第12版』より

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September 12th AM07:11

カントリーデンバーに越してきたスコッチグレイン兄弟にとって、人生で最悪の日が始まったのは、間違いなく九月十二日のことだった。
オットー・スコッチグレインは遭難しかかっていた山から生還し、シャワーと食事を済ませてから、自室で頭を抱えていた。
昨晩の出来事を思い出すが、自分が何か重大な問題を起こしたという記憶はない。
彼を襲った巨大な熊は彼の手ではなく、別の何かの要因が働いて命を奪われたのは間違いない。

しかし状況証拠だけを考慮すれば、間違いなくオットーが熊を殺した人間であると物語っている。
彼を襲い、そして命を落とした巨大な熊は山神として崇められる“チセレラ”と呼ばれる存在だったことは、後から知った。
その存在に関する知識は当然のことながら彼にはなく、この町で信じられている迷信や伝承の類であることは間違いなかった。
だからこそ、オットーは頭を抱えていた。

閉塞的な場所では、例え他所では一笑に付すようなことでさえも、他者を排除するには十分な理由になり得るのだ。
今回、不運にもオットーはその理由になり得る物を殺めたことになってしまっている。
身内――特に妹――にはこのことを知られず、尚且つ影響を受けないことを願うばかりだが、彼の淡い希望は家の前にある畑が砕いた。
電気柵の主電源に通じる線を切られたことは、間違いなく悪意が影響している。

その悪意がオットーにだけ向けられているのならばよかったのだが、家の前にある物にまで手を出された以上、彼の願いは叶わないだろう。
悪意は激化し、人の想像を越えた結末を導き出す。
そのことは、彼なりに分かっているつもりだった。
しかし、受け入れがたい事実だ。

部屋の扉がノックされ、扉が開かれてようやくオットーは思考の渦から抜け出すことが出来た。

( ´_ゝ`)「……何があった?」

部屋の扉をノックせず、アニー・スコッチグレインが確信した口調でオットーに言葉をかけた。
オットーはこれ以上隠し立てすることは無理だと判断し、溜息と共に兄の名前を口にする。

(´<_` )「アニー……」

( ´_ゝ`)「トラブルだな」

それは確信めいた言葉だった。
双子故に通じるものがあり、双子故に信じられるものがある。
オットーは溜息を吐き、重い口を開いた。

(´<_` )「あぁ、でかいトラブルだ……」


3以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 18:34:57.693UR9Y7SMD0.net (3/32)

それからオットーは、自分の身に起きたことを話した。
狩りに失敗し、遭難したこと。
そしてそこで現れた熊の存在と、その正体。
ことの顛末を聞き終えたアニーは溜息を吐き、それから言った。

( ´_ゝ`)「確かにでかいトラブルだな。
     庭の電気柵がやられたってのは、確かに今日なのか?」

(´<_` )「あぁ、間違いない。
     昨日設置したばかりで、あの断面は自然に切れた感じじゃなかった」

( ´_ゝ`)「なるほどな。 俺の知る限りじゃ、家の前を通った人間は何人もいただろうな。
     犯人特定には繋げられないな」

(´<_` )「町の誰が、っていうのを考え出したらきりがない。
     これ以上何かが起きないようにするのが精いっぱいだと思うんだ」

話し合いなどで解決が難しい場合は、ほとぼりが冷めるのを待つしかない。
しかし、必ずしもほとぼりが冷めることばかりではない。
特に、禁忌に触れるような事の場合は根深く、そして根強く残ることがほとんどだ。
今回のように山神と恐れられている存在を殺したことにされたのであれば、オットーの行為が風化することは望めない。

帳消しになるかのような何かをしない限り、それは罪として残り続けるだろう。

( ´_ゝ`)「被害を最小限に食い止めるのが賢いな。
     イモジャに何もないといいんだが、この町の人間の良心次第だな……」

問題になるのは、やはりそこなのだ。
彼ら兄弟は社会人としての経験があるため多少の偏見や攻撃には耐性があるが、妹はまだほんの子供なのである。
子供が受ける精神的な攻撃は、想像以上の傷になってしまう。
子供の頃に受けた傷は、大人になっても癒えないことが多い。

傷になる前にこの町を出ることが賢い場合もある。

(´<_` )「場合によっては引っ越すしかないと俺は思っている」

( ´_ゝ`)「あぁ、俺もそれには賛成だ。
     イモジャに何かがあるようなら、すぐにでも引っ越そう」

(´<_` )「そう言ってもらえて助かる。
     本当は何もないのがいいんだがな……」

攻撃の対象はせめて大人に絞られれば心配事は減るが、子供に向けられる悪意や敵意は許容しがたい物がある。
ささやかな願い。
ささやかな望み。
簡単に手に入りそうな、彼らの夢。

――この地に抱いた淡い夢は、それから数時間後に打ち砕かれることになった。


4以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 18:36:07.848UR9Y7SMD0.net (4/32)

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巛巛巛巛巛彡彡ハ:.:.:.:.:.:.(. . . : . :::::.:.:.:..:::: .:::::....ヾ:.::::.::..:.:.:.:::::::::::::::::: Ammo for Remnant!!編
巛巛巛巛巛巛巛ミ、:.:.:.:.:.:.:.:.:.......::::::::::::::.:.:.:.:.:.:.:.:第六章【Remnants of hate -憎しみの断片-】
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同日 午後

学校からイモジャが無事に帰ってきたことを、兄弟二人は内心で安堵した。
学校という空間では噂一つで攻撃の対象になってしまう。
真偽など関係なく、尾ひれが付いた言葉が伝播し、大した意味などない大義名分を得た子供は無垢なまま攻撃をする。
その攻撃には容赦はなく、まるでハリケーンのように荒らしまわった挙句、無責任なままどこかへと消えるのだ。

l从・∀・ノ!リ人「自転車の練習をしたいのじゃ!」


5以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 18:37:24.298UR9Y7SMD0.net (5/32)

突拍子もない言葉だったが、詳しく聞けば、クラスで自転車に乗って遠出をするのが流行っているとのことだった。
越してきてからは必要な物を揃えてはいたが、自転車の様な道具は購入していなかった。
町での暮らしに馴染もうとするあまり、心の余裕を持つことを忘れていたのだ。

(´<_` )「せっかくだし、自転車を買おう。
     いいだろ? アニー?」

( ´_ゝ`)「あぁ、勿論だ。
     一番いい自転車を買ってもらえよ」

l从・∀・ノ!リ人「やったのじゃ!!」

それから妹を連れ、オットーは自転車を売っている唯一の店に向かった。
店に向かう途中、オットーは何度も自分は山に戻るべきだと考えた。
一応、彼は家に帰ってから再び山に戻ったが、状況は変わっておらず、相手の対応も同様だった。
そして、オットーがその場にいることを快く思っていないこともまた、変わっていないことだった。

彼と同じタイミングで山に入った人間は見つかっていないままだが、オットーの介入は快く思わないのだろう。
家で粛々と時間を過ごすのも一つの選択肢だが、妹に何か影響が出る前に街で買い物を済ませておくのは決して愚かな選択ではない。
町全体が彼ら一家を敵視するようになれば、買い物すらままならなくなる。
噂が広まって行動範囲が狭まる前に、オットーは妹の願いを叶えたいと考えたのである。

だが彼の切実な願いをあざ笑うように、噂は既に町中に広まっているようで、すれ違う人間からは労いとも非難とも取れる言葉がかけられた。

「あら、スコッチグレインさん。
無事でよかったわ。
後の二人が見つかるといいわね」

オットーはそれらの言葉を適切に対処する術を知らなかったため、半ば無理矢理にいなし、目的地へと急いだ。
町で唯一の自転車販売店を訪れ、妹が気に入った一台を購入した。
選ぶのには一時間ほどかかったが、整備を済ませて乗ることのできる状態の自転車が渡されるのは数分で済んだ。
店主はオットーの状況を知ってかしらずか、一瞥しただけで何も言わなかった。

帰り道。
自転車に跨り、両足で地面を蹴りながらイモジャがオットーの隣を進む。
転倒しないよう、オットーは右手を前かごに添えた。
それからすぐにでも家に戻りたかったが、妹は帰り道にある靴屋に並んだピンク色のスニーカーに興味を示した。

l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者、あの靴可愛いのじゃ!」

(´<_` )「……靴ならまだあるだろ?」

l从・∀・ノ!リ人「あの色のは持ってないのじゃ!」

オットーは少し考え、値札を見た。
決して高い金額ではないが、自転車を買ったことと合わせて考えると、不自然な出費に思われないかが心配だった。
ここで彼が靴の購入を快諾すると、妹が何かを察して不安になる可能性もある。
そこでオットーは妹の話を素直に受け入れず、多少の提案をして誤魔化すことを選択した。

(´<_` )「あぁ、買ってやろう。
     だけど、あの靴を履くのは補助輪なしで自転車に乗れるようになったらだ」

イモジャはまだ補助輪を使ってしか自転車に乗れないため、この条件は極めて妥当なものに思えた。
年齢的にはもう乗れていてもおかしくないが、これまで生活していた場所では自転車に乗る機会はほとんどなかった。
むしろ、乗る必要性がなかったと言ってもいい。
そのため、同級生の中でもイモジャの運動能力は低い水準にあった。

自転車に乗るのを機に運動に興味を持つようになれば、多少は運動能力が上がるかもしれない。
この世界では体力がない人間は、体力のある人間の言いなりになることがほとんどなのだ。


6以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 18:38:41.635UR9Y7SMD0.net (6/32)

l从・∀・ノ!リ人「ほんとに?!」

(´<_` )「あぁ、だけどアニーには内緒だぞ」

こうして、オットーはスニーカーを買い、家路を急いだ。
家の前に着くと、イモジャが目を輝かせながら言った。

l从・∀・ノ!リ人「練習してるのじゃ!!」

(´<_` )「あぁ、頑張れよ」

オットーはイモジャにそう言ってすぐに家に入り、自室でトレーニングをしていたアニーを訪ねた。

(´<_` )「俺は山に戻る。
     アニー、イモジャが今外で自転車の練習をしているから何かあったら頼む」

( ´_ゝ`)「あぁ、分かった。
     で、その靴はどうしたんだ?
     自転車のおまけか?」

(´<_` )「いや、イモジャが欲しがってな。
     自転車に補助輪なしで乗れるようになったら上げる約束をしたんだ。
     もしアニーが見てる前で乗れたら、これを渡してやってくれ」

靴を受け取ったアニーは呆れたように笑った。

( ´_ゝ`)「ははっ、分かった。
     とりあえず、お前は色々と気をつけろよ」

(´<_` )「あぁ、気をつけるよ。
     多分だけど、これは結構長引きそうだ」

そしてオットーは二人を家に残し、借りていた車を使って再び山へと向かった。
役立たずであると言われたとしても、何もしないよりかは行動をしていた方が遥かに心象はいい。
山道を走り、川沿いに作られた捜索隊の本部の前に車を停めた。

(´<_` )「ここで何か手伝えることをしに来ました」

「あんたなぁ……」

三度目の対応をすることになった男は溜息を吐いたが、その目には敵意の色はなかった。
呆れた表情を浮かべながらも、今度はオットーを帰そうとはしなかった。

「余計なことをしないで、ここで待ってろ」

(´<_` )「はい、分かりました。
     ただ、家から役立ちそうなものを持ってきたので使いたいんです」

「あ? なんだ?」

(´<_` )「この場所を知らせるための明かりです。
     小さな気球にライトをつけて空に浮かべて、遠くからでもこの場所が分かるようにしたいんです」

「気球ったって、そんなもんあるのか?」

(´<_` )「はい、あります。
     電気で飛ぶように設計してあるので、万が一にも火災になる心配はありません」

「まぁ、邪魔にならないんなら好きにしな」


7以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 18:40:56.447UR9Y7SMD0.net (7/32)

(´<_` )「ありがとうございます」

車に乗せていたコンテナを降ろし、そこから小型の気球を取り出す。
本来の使用目的は野営地での明かりの確保、もしくは照明弾の代わりとして戦場に投入される予定の試作品だ。
内藤財団とフィンガーファイブ社の協力によって作られた物だった。
照明弾と異なって使用時間をこちらで好きに操作できる有線式の気球で、その用途は多岐にわたる。

気球の白布を一度広げ、地面にゆっくりと横たえる。
黒いコードを束ねているリールを地面に置き、気球のスイッチを入れた。
僅かな機械音の後、白布が膨れ、その下に繋がる小箱もろとも浮上する。
高性能小型バッテリーが内蔵されており、六時間は飛び続けることが出来る設計だ。

無論、下部の小箱に装着された強力な発光装置を使用すれば十分と持たない。
だが従来の照明弾に比べて飛躍的に長時間の使用が可能になっている。
バッテリーを交換すればすぐに再使用が可能であり、設定を変えれば放つ光の色を変えることも可能だった。

「どこで手に入れたんだ、そんなもん」

(´<_` )「今の職場で作られた試作品なんです。
     いつか役に立つと思って家に置いておいたんですが、今使うべきだと思って」

陽の高い内であれば太陽光を利用して常に飛び続けることが出来る。
光を反射しやすい素材で作られた気球部は、それだけでも十分な目印となる。

「はぁん、便利なもんだ」

(´<_` )「明滅させれば一時間は持ちます。
     夜になったら照明弾のように使えるので、邪魔にはならないはずです」

「なるほどな。
とりあえず、余計なことはしないようにな」

(´<_` )「はい、分かっています」

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仆、:.:..:.|.:;;ii|            /;;/   f;;ii}   |;ii!  /;iiムヘ.
癶f乂: |.:;;ii|           {;{   j:;ii|   j;;i|  {;ii{ ヾ;ヽ
メ圦Kj:.|.:;;ii|            };;}_   |:;ii!   /;;,ハ.  |;ii|  };ii}
彡癶k=|.:;;ii|‐-  ... _      廴.:;ヽ };;i} r爻彡个x.|;ii|  |;ii|
K彡ヘY:|.:;;ii|:.:.:.:.:.:.:.:.._ ..≧x≠=─‐ヘ::;;V;;i,'x仏イf|..._|;ii|゚|;ii|  |;ii| xイ
洲爻ミj::|.:;;ii|斗七爪fiiiiijx:.::.:.:.:.:.:.:.:.:ハ;;iiV〃;ii/;ii|;;: |;ii|j|;ii|不]|;ii|く爪i|
州州ハfi|.:;;ii|川iiiiiiiiii川iiii小i^ii^i;.;.;.;.;{;;ii{:./;ii/|;;ii|fメ|;ii|f|;ii|く引;ii|父川
爻川i爻|.:;;ii|ii川iiiiii川iiiiiiiiiii川川iiii川|;;ii|;;ii/メ|;;ii|川;ii|;:|;ii|ヒ刈;ii|_,r爻
川川川j|.:;;ii|厶仏イ=、_j」L(__jムヘ_厶くl;;iil爻,イ|;;ii|^r|;ii|r|;ii|k]r'|;ii|:f7ア
WWVミv|.:;;ii|.:. .::.: :.:... .: ::.:. .:: .:.. :.: i..::i-=≠气iiii|;ii|ii|;ii|iii洲州川ノ
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川川爻爻r;ii|川爻爻:.: . ..: ..:. ..:.:: ::..: ..: ::.:.: ::.:  :.:.:...:: ..: :: .::. . :.:
州州州トミ.:;;ii|:. ..:.: :. :.. ::. ..:::::.: :.: .... .:.:... . :.:.   .:.: ::.:. .. ..:. ..: :
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8以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 18:42:47.264UR9Y7SMD0.net (8/32)

アニー・スコッチグレインは妹が庭先で自転車に四苦八苦している様子を見ながら、これからの身の振り方について考えていた。
町の中で孤立するような兆しがあれば、すぐにでも対応しなければならない。
村八分になるような事があれば、悪化する前に動かなければ心に大きな傷を負うことになる。
オットーの設置した電気柵に起きたことが嫌がらせなのか、それとも単なる事故なのかは今の段階では分からない。

しかし、もし前者だとしたら行動はエスカレートすることになるだろう。
一度加速した悪意は止まることを知らない。
アニーは一日中家にいるが、家主がいる状態での嫌がらせならば、すでに彼らの悪意は加速している状態にあるはずだ。
家の外で嫌がらせが起きないことを祈ることが、今のアニーにできる唯一のことなのかもしれない。

l从・∀・ノ!リ人「ぬぬー!!」

二輪でのバランス感覚がまだ掴めていないが、イモジャの順応性は極めて高かった。
ふらつきながらも数秒間は転ばずに運転し、ペダルをこぎさえすれば走り出せる状態にあった。
後は一歩を踏み出す勇気があれば、自転車は前に進む。
前に進めばバランスを取ることが出来る。

最もバランスが不安定になるのは、速度が落ちた時なのだ。
速度さえ出れば、何事も上手くいく。

l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者、ちゃんと見ているのじゃ!!」

( ´_ゝ`)「あぁ、ちゃんと見てるぞ」

何度も転びながらも、イモジャは涙ではなく笑顔で練習を続けている。
甘いと思ったが、思いのほかオットーの用意したご褒美の効果が大きいようだ。
ふと、家の裏手側から何か音が聞こえたような気がして、そちらに目を向けた。
その一瞬――

l从・∀・ノ!リ人「の、乗れたのじゃ!!」

――イモジャの歓声が、アニーの耳に届いた。
見れば、イモジャはバランスを取りながら、自転車を数メートル進めることに成功していた。

l从・∀・ノ!リ人「やったのじゃ!!」

( ´_ゝ`)「やるじゃないか!!
     流石だな!!」

l从・∀・ノ!リ人「もう一回やるのじゃ!!」

イモジャがペダルに力を込め、再び走り出そうとする。
そして、再び裏手側で音が聞こえた。
あまりにも不自然に音が連続したため、アニーは音の方向に目を向けて凝視する。

l从・∀・ノ!リ人「のわっ?!」

奇妙な声とともに、イモジャが転倒する。

( ´_ゝ`)「あら、残念だったな」

l从・∀・ノ!リ人「違うのじゃ!! なんか、ぐらってしたのじゃ!!」

( ´_ゝ`)「ぐらってして転ぶものだからな」

しかし、よくよく見れば前輪のタイヤが力なく萎んでいる。

( ´_ゝ`)「パンクしたのか」


9以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 18:44:50.338UR9Y7SMD0.net (9/32)

買って一日と経っていないにも関わらずパンクしたということは、タイヤが劣化していたのか、それとも別の要因があったのか。
庭に鋭利な石や金属、ガラス片は転がっていないため、外的な要因でパンクしたとは考えにくい。

( ´_ゝ`)「直せるか見るから、こっちに持ってきてくれ」

l从・∀・ノ!リ人「むー」

買ったばかりの自転車についた無数の傷は、全てイモジャが転倒した際につけたものだ。
タイヤを観察してみるが、特に劣化している風ではない。
前輪を回すと、タイヤが切れていた。
大きな切り傷ではないが、何かが刺さっている様子もない。

人為的に傷をつけなければ、こうはならない。

(;´_ゝ`)「……」

l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者、直るのか?」

( ´_ゝ`)「あぁ、直るさ。
     ちょっと自転車屋さんに行ってくるから、留守番しててくれ」

l从・∀・ノ!リ人「分かったのじゃ!!」

アニーは車いすに乗ったまま、町唯一の自転車販売店に向かうことにした。
舗装された道ではないため難儀したが、彼の車いすのタイヤはオフロードでも適応できるものだったため、通常のタイヤよりかは遥かに楽だった。
徒歩の二倍近くの時間をかけ、アニーは目的の店に到着した。

「らっしゃい」

( ´_ゝ`)「さっき弟がここで自転車を買ったんだが」

「あぁ、覚えてるよ。
どうだい、乗り心地は良さそうだろ?」

( ´_ゝ`)「タイヤが切れてパンクしたんだ」

「えぇ? あれは新品の自転車だよ」

( ´_ゝ`)「だろうね。 フレームもチェーンも、タイヤの劣化具合も問題なかった。
     我が家の庭先には俺の問題もあって、鋭利な物は落ちてないんだ。
     つまり、タイヤが切れる要因がなかったんだ」

激昂したい気持ちを落ち着け、アニーは言葉を慎重に選んだ。
タイヤに手を加えられるとしたら、この店で買った段階でしかない。
だが店主は目を丸くして、口早に答えた。

「おいおいおい、俺が細工したとでも言うのかよ」

( ´_ゝ`)「いや、別にそうは言っていない。
     ただ、気になってね。
     どうやったら買ったばかりの自転車のタイヤが切れるのか、って。
     それで妹が転んで怪我したんだ」

「誰かにいたずらされたか、ここから帰る途中で何か踏みつけたんだろうな」

( ´_ゝ`)「なるほどね。 よく分かった。
     とりあえず、タイヤの交換部品を買いに来たんだ。
     中のチューブと外身、それぞれ2つだ」

「あ、あぁ……」


10以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 18:46:40.771UR9Y7SMD0.net (10/32)

ここで声を荒げたとしても、何一つとして解決にはつながらない。
むしろいらずらに町の人間との関係を悪化させるだけだ。
店主が店の奥に行く。

( ´_ゝ`)「さて、どうしたものか」

そう嘯いたアニーは、果たして店主が白か黒かについて考えを巡らせていた。
店主が自転車を調節して渡す際、意図的に傷をつけておいた可能性は無ではない。
そのため、あらゆる可能性の一つとして認識しなければならないが、その証拠がない以上は追求することも出来ない。
証拠さえあれば、すぐにでも復讐に手を染めることはできるが、それを出来ないもどかしさがあった。

しばらくして、店主が渋い顔で戻ってきた。

「すまん、在庫がないんだ。
フートデンバーの自転車屋にならきっと在庫があるんだが」

( ´_ゝ`)「何でないんだ?
     ここは自転車屋だろ?」

「それがな、在庫が全部ネズミか何かに食われて駄目になってたんだ」

申し訳なさそうに言った店主に対し、アニーは感情の一切を廃した声で応える。

( ´_ゝ`)「俺は今あまり冗談を聞いている余裕がないんだが」

「いやいや、冗談じゃないって。
何なら見てみるか?
全部小さく避けていて、使い物にならないんだ」

( ´_ゝ`)「そこまでするのか、あんたたちは」

「……何の話だ?」

店主はアニーの言葉に、怪訝そうな顔をした。
演技なのか、それとも素の反応なのかは分からない。

( ´_ゝ`)「いや、もういい。
     その穴の開いた奴でいい、それを売ってくれ。
     こっちで修理して使う」

「いや、もう使えないもんだから売り物にはならねぇよ」

( ´_ゝ`)「それでいいからくれと言っているんだ」

穴の件が嘘なのであれば頑なに売らないだろうし、仮に売るとなってもその際に穴を開けるかもしれない。
疑心暗鬼の中、アニーは相手を試すように言葉を選んだ。
店主は溜息を吐き、言った。

「分かったよ、じゃあ金はいらねぇ。
こっちの不手際で妹さんには悪いことをしたな」

( ´_ゝ`)「どうも」

再び店の奥に戻り、少ししてタイヤとチューブを手に帰ってきた。

「ほら、これだ。
修理用の道具は持ってるのか?」

( ´_ゝ`)「あぁ、持ってる」


11以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 18:48:34.556UR9Y7SMD0.net (11/32)

タイヤとチューブを見ると、確かに、小さな切れ目が入っていた。
小動物にかじられたと言われれば、そう見えなくもない。
ナイフで切りつけた物であったとしても、この状況から判断することは不可能だ。

「タイヤの方はできるだけすぐに新品に変えた方がいい。
こっちで発注をしておくから、届いたらあんたの家に持っていくよ。
勿論、タダでな」

( ´_ゝ`)「助かる。
     それじゃあ、また」

可能な限り会話を短くし、凝り得上のコミュニケーションを取らない道を選んだのは、彼の忍耐が限界に近づいていたからだ。
熊を一匹殺したところで、町にとって何かしらの損失になるわけではない。
昔からの慣習、言い伝えの類であり、それを信じているだけに過ぎない。
科学的な根拠のない話を信じるのは人の自由だが、それが人を傷つける理由に使われていいはずがない。

家にある銃を使って、この茶番に関わる人間と話し合いができればと思うが、怒りに任せて行動しては獣と同じだ。
彼らが属する組織は力が全てを変える時代に終止符を打ち、新たな時代を導くという理念がある。
暴力ではなく、人間らしい対話をしていくことが大切なのだ。
自制の為に一歩引くことを選んだアニーは、そのまま家路を急いだ。

庭ではイモジャが自転車の前で屈んでいた。
買ったばかりの自転車が使えなくなったことのショックなのか、それとも自転車に上手く乗れなかったことへの自責なのかは分からない。
しかし、彼の姿を見るや否や、満面の笑みを浮かべた。

l从・∀・ノ!リ人「お帰りなさいなのじゃ!!」

( ´_ゝ`)「ただいま。 これから直すから、部屋でいい子にしてな」

l从・∀・ノ!リ人「ううん、ここで見てるのじゃ!!」

( ´_ゝ`)「まぁ好きにすると良いさ」

家から工具を持ち出し、前輪を外す。
前輪からタイヤとチューブを取り外すには力が必要だったため、文字通りイモジャの手を借りての作業になった。
次に、チューブにパンク修理用のパッチを当て、裂け目を塞いでいく。
タイヤには接着剤を流し込み、傷を塞ぐ。

速乾性の接着剤がゴムの間に入り込み、柔軟性を保ちつつ、強固に接着した。
チューブから他の空気の漏れがないことを確かめてからホイールにはめ、最後にタイヤを入れ込む。
一時間ほどの作業を終え、タイヤの具合を確かめた。

( ´_ゝ`)「よしっ、いい感じに直ったぞ」

l从・∀・ノ!リ人「ありがとうなのじゃ!!」

( ´_ゝ`)「接着剤が渇くまでは練習は駄目だぞ」

今まさに自転車に跨ろうとしていた妹にそう告げると、彼女は不服そうに頬を膨らませて言った。

l从・∀・ノ!リ人「むー、いつぐらいに乾くのじゃ?」

( ´_ゝ`)「そうだな、今日の夕方ぐらいかな。
     それまでは勉強の時間にするぞ」

l从・∀・ノ!リ人「ちぇっ、分かったのじゃ」


12以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 18:50:06.429UR9Y7SMD0.net (12/32)

アニーは念のため、自転車を家の中に引き込んだ。
再びこの自転車に細工をされれば、今度こそアニーはこの町の人間を敵視するしかなくなる。
平穏な生活のためにも、彼はできる限りの隙を潰すことにした。
だが。

二人が家の中に入ったのを監視していた人間の存在とこれから先に待ち受けている結末は、流石に気が付くことが出来なかった。

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同日 PM 05:44

異変は、その日の夜に起こった。
事の発端は、山中で行方が分からなくなっていた町民の捜索に当たっていたオットーが帰宅し、口にした一言だった。

(´<_` )「ただいまー。
     あれ、イモジャは?」

( ´_ゝ`)「表で自転車の練習してなかったか?」

(´<_` )「いや、自転車は置いてあったぞ」

アニーの背筋に冷たいものが走った。
夕食後、妹はすぐに自転車の練習をすると言って庭に出たはずだった。
彼はその間、自室で日課のトレーニングを行っており、今の今までイモジャの姿を確認していなかったのである。
状況を理解したオットーが、すぐに家の外に飛び出す。

しかし、彼の目に映るほの暗い夕闇の中に妹の姿を見出すことはできない。

(´<_` )「おーい、イモジャー!!」

返事はなく、彼の声だけが空しく木霊する。
黄昏時。
黒から紫、紫からオレンジへとつながるグラデーションの空はその明度を落としていく。
空を舞うカラスの鳴き声、山々から響く虫の声。

双子はたちまち焦燥にかられ、冷静さを失いかける。
しかし、彼らは寸前のところで正気を保つことに成功した。

( ´_ゝ`)「落ち着け、オットー」

(´<_`;)「あ、あぁ」

( ´_ゝ`)「お前が山に行っている時、何かあったか?」

(´<_`;)「いや、俺はずっと手伝いをしていた。
     件の二人は見つけられたし、俺は何も失態をしてないはずだ」


13以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 18:52:09.082UR9Y7SMD0.net (13/32)

( ´_ゝ`)「……それが分かったのは何分前だ?」

(´<_`;)「俺がここに到着する10分前ぐらいだ」

( ´_ゝ`)「ちっ、分かった。
     やることを整理する。
     イモジャを探すが、その間に町の人間に目撃情報を聞きだせ。
     間違っても連中がやったとは断定した物言いをするなよ。

     奴らがさらったのなら、それが無意味だってことが伝わるはずだ。
     そうすれば無傷で帰ってくるだろう」

(´<_`;)「何でだ? もしあいつらが――」

言いかけたオットーの言葉を、アニーが遮る。

( ´_ゝ`)「――今はいいかもしれないが、それが引き金になって加速するかもしれない。
     仮にあいつらが関わっていたとしても、俺たちはあいつらの思惑通り慌てふためいてやればいい。
     それであいつらが満足してイモジャが帰って来るなら安いもんだ」

(´<_` )「あぁ、分かった」

そして、彼らは動き出した。
兄は車椅子を懸命に押しながら。
弟は息を切らして走りながら。
周囲をくまなく探し、妹の名を叫び続けた。

だがそれに応える者はいなかった。
無常に響く虫と獣の声だけが、彼らをあざ笑うようにして夜になった空に響き渡る。
夕日は消え、月光が世界の主な光となっても、彼らは走り続けた。
例え道化と化したとしても、妹が無事であればそれで万事ことは無し。

己の命以上に大切だと思える存在のためであれば、彼らは喜んで無知蒙昧な人間の用意した舞台で踊り続ける覚悟があった。
だが時間が過ぎ、町中の人間がライトをもって周囲を探しても、一向に妹の姿は見つけられなかった。
無線機による連絡が飛び交い、イモジャの名を叫ぶ声が町中に響き渡る。
町で一番の狩人が山の入り口で小さな靴を見つけた時、兄弟の見ている世界が絶望の色に染まった。

「なぁ、この靴に見覚えがあるか?」

汗だくになったオットーは、差し出されたその靴に見覚えがあった。
真新しいピンク色のスニーカー。
それは紛れもなく、オットーがイモジャに買い与えたばかりの靴だった。

(´<_`;)「あ、あ」

喉から力が失われ、声がまともに発せられない。
事態は最悪の方向に向かいつつあった。
熊が死んでから、彼を取り巻く環境が、刻一刻と悪化していく。
一過性の物であることを願うことも、今の彼にはその余裕がない。

「山神様だ……山神様がお呼びになったんだ……」

ひそひそと、町の人間達がささやく声が聞こえる。
だがその言葉よりもオットーを動揺させたのが、イモジャが間違いなく誰かに連れ去られたという事実だった。
家の前から自転車を置いていなくなることもそうだが、靴を片方落として山の中に入っていくことはあり得ない。
姿の見えない悪意が、彼の家族に向けられたのだ。

こうして捜索を手伝っている人間の中には、それを手助けした者、あるいは実行した者がいる。

(´<_`;)「誰だ、誰がこんなことしたんだ!!」


14以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 18:53:39.474UR9Y7SMD0.net (14/32)

「オットーさん、落ち着きなって」

(´<_`;)「これが落ち着いていられるか!!
     誰がイモジャを連れて行ったんだ!!
     今すぐ出てこい!!」

だが、彼の慟哭に答える者はいない。
相手は熟知しているのだ。
姿の見えないものこそが、最も恐ろしいのだと。

( ´_ゝ`)「オットー、お前が慌てたところで状況は変わらないぞ」

車椅子姿のアニーが姿を現し、抑揚のない声でそう言った。

(´<_`;)「だけどアニー、このままじゃ」

( ´_ゝ`)「分かってる。 だからこそ、今は探そう。
     ケリをつけるのはその後だ。
     関わった奴には相応の報いを受けてもらう」

その声は静かだったが、周囲にいる人間全員の耳に届くほどはっきりと紡がれた物だった。
それは彼らが決して泣き寝入りをしないという覚悟の表れであり、この件に関わる人間に対しての宣戦布告でもあった。
それから間もなく、山狩りが始められることとなった。
無線機と照明、笛を持った人間達が五人一組で山に分け入り、イモジャの捜索を行う。

真意が分からないまま、町にいる大勢の人間がその捜索に協力をした。
兄弟はその協力を素直に受諾し、山に入った。
オットーが用意した照明用の気球が次々と夜空に浮かび、まばゆい光を放つ様はまるで戦争における夜戦のようだった。
笛の音と名を呼ぶ声が山中に響く。

――しかし、イモジャの姿も痕跡も見つからないまま、通り雨が降り始めた夜の十一時で捜索は一旦打ち切られた。


15以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 18:57:19.841UR9Y7SMD0.net (15/32)

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'"                ..   .. . ...    :.  .:.:.:
...'''"'''''''''''''''':;:;:'''""''''"":;:;''"'';:;,.,.,    "":::::::::九月十三日
          ,.,;:;:;:;:;'''"..,.;:.,..,;:;:;:,.,._, ...,,,...,,,,,,  悪意は、濃霧に紛れて忍び寄る
       .,;:,.'""   .,,_,,,...;:;::''""''''"                          .,,,,__...,,;:;'''""''''
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16以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 18:58:58.706UR9Y7SMD0.net (16/32)

September 13th AM04:03

その日は朝から濃霧だった。
町全体を霧が包み込み、町中を白い光で包み込んだ。
スコッチグレイン兄弟は一睡もできないまま、家の中で霧が晴れるのを待っていた。
濃霧の中で山を歩き回れば、迷う人間の数が増えるだけだ。

しかし彼らは、無駄に時間を過ごしていたわけではなかった。
もしも妹が山の中で助けを待っているのだとしたら、その体温を見つけ出した方が遥かに効率がいい。
そこでオットーは、棺桶の力を使うことにした。
滑空飛行が可能であり、ジェットパックによって十分間だけではあるが上空から多くを見通すことのできる“ラスト・エアベンダー”だ。

熱源感知の機能を使い、山を上空から見れば妹を見つけ出す確率が向上する。
そのための整備を行い、備えた。
悪夢のような夜が明けるのを待ったが、霧が明ける気配は感じ取れなかった。

( ´_ゝ`)「……」

(´<_` )「……」

イモジャを見つけた後で彼らが行うことは決まっていた。
家族に手を出した以上、ただで済ませることは無い。
憎しみと憤りの混然となった感情をいかに爆発させるか、それがある意味で二人の正気を保たせていた。
時計の長針が二周する頃には、町を覆う霧が薄れ始めていた。

いつまでも待つことが出来ないと業を煮やした二人は荷物を持ち、家の外に出る。
すると、濃霧の中からぞろぞろと町の人間達が姿を現した。

「そろそろ行こうか
って、なんだ? それは……」

オットーが背負う棺桶を指さし、男が言う。

(´<_` )「空から探します。
     必要があれば、熊でも何でも撃ち殺します」

それは彼なりの皮肉と再びの宣戦布告だった。
山神と崇められていたのはただの巨大な熊でしかない。
熊でも何でも、撃てば死ぬ。
不死の存在であれば恐れる必要があるが、所詮は畜生の類だと町の人間に知らしめる意図があった。

「た、大変だ!!」

その時、一人の男が駆け寄ってきた。
それは昨日、オットーと共に山にいた男だった。

「で、電波塔にっ……!!」

逼迫した声と表情。
それは、オットーが熊を殺したという話を聞いた時よりも青ざめて見えた。
何かが起きてしまった。
何か、取り返しのつかないことが。

薄れた霧の中、オットーは話を聞かずに走り出した。
内藤財団の援助で作られた電波塔の姿が見えてくると、オットーの全身から血の気が引いた。
感情の何もかもが消え、思考が停止した。
立ち止まり、見上げ、そして彼の全てが状況の否定を行う。

(゚<_゚;)「あ、あ、ああっ……!!」


17以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 19:02:00.883UR9Y7SMD0.net (17/32)

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                 |:|
                 |:|
                 |:|        ゆらゆらと揺れるものが見えた。
          __    |:|
        >''":::::::::"''<|:|
.      /::/:::::::::::::::::::: fミ}^ 霧の中、灰色の影となって見えるそれは人の形をしている。
    ;′′:::::::::}::i::::: {ミ}
     |:::|::|:|::r-.、!::}::: /ミ}
      ////////y::,.斗‐ヘ:|  麻布か何かで全身が包まれ、吊り下げられた人の形。
     //////::/:;:;:y;:;:;:∨
       ./::::::〈;:;:;:;:};:;:;:;: ',
      /::::::::::;;;;;;;;「;:;:;:;:;:;:i  風に揺れるたび、鉄骨に結びついたロープが軋む。
      }:/}/^i:;;;;;;;;!:;:;:;:;:;:;:|
       / |:;;;;;;;;;:;:;:;:;:;:;:;|
         /:;;;;;;;;;;;;:;:;:;:;:;:;|  ロープは、ちょうど人の首の位置に巻き付けられていた。
        (:;;;;;;;;;;;;:;:;:;:;:;:; |
         ;:;;;;;;;;;;;;:;:;:;:;:;:; |
         〈;:|;;;;;;;:::::;:;:;:;:;: !  人の形をしたそれの裾から、ピンク色のスニーカーが見えた。
             |  「、イ
            ゝ ''"
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18以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 19:07:25.825UR9Y7SMD0.net (18/32)

顔や服装はまるで見えないが、霧の中でもはっきりと見て取れるそのスニーカー。
袋に収まりきらなかったのか、片足のつま先だけが僅かに見えている。

(゚<_゚;)「イモジャ!!」

背負っていた棺桶を投げ捨て、オットーは走り出した。
その木の実のようなシルエットを目指して、悲鳴のように妹の名前を口にしながら。

(´<_`;)「ああっ、イモジャ、イモジャ!!
     どうして!!」

電波塔の最も高い所にぶら下げられた妹を助けようと、彼は半狂乱になっていた。

(;´_ゝ`)「ああっ、くそっ!!」

最悪の予想を超えた展開において、冷静な判断を下せるだけの胆力は二人にはなかった。
町の人間達も二人の後に続き、電波塔に向かう。
そしてそれを見て、皆が声を失った。
オットーは鉄塔を登ろうとするが、あるはずのメンテナンス用梯子が外されている。

(´<_`;)「どこの糞野郎だ!!
     こんな、こんなことを!!」

(;´_ゝ`)「オットー!!
     棺桶を使え!! こいつなら飛んで降ろせる!!」

弟に追いついたアニーは、車椅子の後ろに括り付けていたコンテナを叩いて言った。

(´<_`;)「あ、あぁ!!」

声が震え、指が震える。
コンテナを背負い、オットーは起動コードを口にしようとした。
だが、コードを思い出すまでに一分の時間を要した。

(´<_`;)『こ、心、こそが……全ての戦いに勝つ――』

――頭上から、何かがしたたり落ち、彼の頬を濡らした。
思わず手で触れてみると、それは鮮血だった。
見上げると、袋がもがき苦しむ様にして動き、その反動で血が落ちてきたのだ。

(;´_ゝ`)「生きてるぞ!! オットー、急げ!!」

(´<_`;)「分かってる!!」

希望が芽生え、オットーの体に熱が戻る。

(´<_`;)『心こそが全ての戦いに勝つ鍵だ!!』

そしてついに、彼は起動コードを完全に口にすることに成功した。
コンテナ内に取り込まれ、外骨格が装着されていく。
僅かな時間だが、それがもどかしく感じてしまう。

<0[(:::)|(:::)]>『イモジャ!! 今行くぞ!!』

コンテナから飛び出すと同時に、オットーはジェットパックを使って一気に浮上した。
だが、不浄と同時に背中に大きな衝撃を感じたと思った次の瞬間、彼の体は胸から鉄骨部に叩きつけられていた。
突風ではありえない勢いだった。
もしも装甲がなければ、彼の胸骨は間違いなく折れていたことだろう。

<0[(:::)|(:::)]>『な、なにが……!?』


19以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 19:07:45.568Y8CrEDmP0.net (1/2)




20以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 19:08:48.419UR9Y7SMD0.net (19/32)

機械仕掛けの目が、衝撃が来たであろう方向に向けられる。
そして、視線の先にある山の中で何かが光った。
数秒あって、頭上の妹が激しく揺れる。

<0[(:::)|(:::)]>『う、撃ってるのか?!』

先ほどまではなかった血の滲みが布に浮かび上がる。
熱源感知のカメラに切り替え、妹を見上げる。
冷えてはいるが、確かに、人の形に熱源が見えた。

<0[(:::)|(:::)]>『やめろおぉぉぉ!!』

それをあざ笑うようにして、森の中で再びの発光。
布袋が爆ぜ、血が飛び出し、銃声が聞こえた。
光と音がずれていることから、遠距離からの銃撃に違いなかった。
妹を吊るし、銃撃の的にしているのだ。

<0[(:::)|(:::)]>『ああああああああああああ!!』

オットーは襲撃者への報復よりも、妹の救出を選んだ。
その場から飛び降り、ジェットパックを最大出力で使用する。
一瞬の浮遊感の後、急速な上昇によって全身に重力がのしかかる。

<0[(:::)|(:::)]>『イモジャ!! 今助けるぞ!!』

目の前に麻袋が見えた刹那、再びの衝撃が背中を襲った。
ジェットパックが完全に停止したことによって、手が届く前に彼の体は数メートル落下した。
咄嗟に伸ばした手が鉄塔を掴み、それ以上の落下を食い止める。
頭上で揺れる妹の入った袋からは赤黒い血が流れ続け、彼の棺桶にしたたり落ちる。

初弾では大口径のライフルによる銃撃だと思っていたが、棺桶の装甲を貫くには足りない。
しかし、同じ大口径でも貫通力を向上させた特殊な弾であれば話が違う。

<0[(:::)|(:::)]>『ま、まさか……!
       対強化外骨格用弾だと?!』

猟師が所持しているような種類の弾ではない。
獣を撃てば粉々になるような弾だ。
専用のバレルに交換し、発砲に耐え得る改造を施された銃でなければ使用出来ない代物である。
相手はこちらの手の内を予測していたとしか思えなかった。

だが何よりも、彼の頭の中に浮かぶのは、果たして誰がここまで周到に準備をして襲ってきたのかという純粋な疑問だった。
その疑問を打ち消すように、森の中からの発光。
距離は優に一キロは離れた場所だった。
そしてその銃弾は妹の胴体の辺りに着弾した。

<0[(:::)|(:::)]>『アニー!! 援護を!!
       何でもいいから!!』

先ほどまで暴れていた袋は力なく揺れ、スニーカーを伝って鮮血が落下していく。
命が急速に失われていく光景を前に、オットーは叫び、助けを求める。
鉄塔を登り、妹へと近づいていく。
狙撃手はオットーとイモジャに使う銃を切り替えているのは明らかだった。

隙を窺うとしたら、オットーが撃たれる瞬間だ。
銃を持ち替え、狙いを定めるまでに数秒の時間を要する。
その瞬間を狙い、妹を抱えて鉄塔から飛び降り、自分が下敷きとなれば助けられる可能性が高くなる。

<0[(:::)|(:::)]>『この糞がぁぁぁ!!』


21以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 19:11:18.313UR9Y7SMD0.net (20/32)

叫び、相手を挑発する。
憎しみの対象はオットーのはずだ。
町の人間が雇い入れた殺し屋だとしたら、こうして威勢良くしているオットーを狙うだろう。

(;´_ゝ`)「糞ッ、オットー!!
     持ちこたえてろ!!」

その声だけで、オットーはアニーがこれからすることを理解した。
彼は一度家に戻り、援護用の棺桶を持ち出すつもりなのだ。
組織からもらい受けた名持ちの棺桶。
高速飛行が可能なコンセプト・シリーズの棺桶、“トップガン”を。

オットーは少しでも時間を稼ぐために、わざと鉄塔を登る時間を遅くすることにした。
どれだけの時間がかかるか分からないが、アニーが棺桶を持ち出せば、相手のいる場所まで数秒とかからずに飛んでいくことが出来る。
イモジャを救うためには、どちらかが犠牲になる必要がある。
ここで撃たれるべきは自分自身なのだとオットーは理解し、覚悟を決めた。

狙撃をする人間が望む通りに立ち回れば、イモジャが助かる可能性は高くなる。
なればこそ、今の彼にできるのは相手の望み通りに踊ることだった。
相手の照準を狂わせるようにして鉄塔を動き回り、撃たせる。
数秒が数時間にも感じる緊張感の中、オットーは特徴的なエンジン音を家の方向から聞き取った。

薄れゆく霧の中、ジェットパックの光が浮かび上がる。
これで相手の注意が逸れたと確信したオットーは、一気に動いた。
先ほどまでとは明らかに異なる速さで鉄塔を登り、妹の入った麻袋を胸に抱きとめる。
縄を切り、そのまま地面に向かって落ちていく。

<0[(:::)|(:::)]>『よしっ!!』

全てが完了するのに、二秒とかからなかった。

<0[(:::)|(:::)]>『イモジャ、もう大丈―――!!』

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22以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 19:14:00.268UR9Y7SMD0.net (21/32)

――目の前で、妹の頭が爆ぜた。
思考が白に染まり、呆然とした状態のまま、オットーは地面に激突した。
腕の中の妹は動く気配がなかった。

<0[(:::)|(:::)]>『そ……そんな……!!
       あぁー! ああああああああああああ!!』

様子を見ていた町の人間達が駆け寄る。
今はただ、憎しみと虚無がオットーの全てを支配していた。

「お、おい、こりゃ……!!」

周囲の様子がおかしい事にも、オットーの意識は向けられることは無かった。
妹を助けようとして、結果として失ってしまった。
いたぶるようにして殺された妹の死体を、ただ、眺めることしかなかった。

「こりゃ、イノシシだぞ!!」

<0[(:::)|(:::)]>『…………え』

「ほんとだ、こりゃあ、イノシシの足だ」

その言葉が示す通り、麻袋の裾から覗き見えるのは、どう見ても獣の足だった。
獣の足に、ピンク色のスニーカーが括りつけられている。
しかし、棺桶の熱源感知装置が映す麻袋の中身は人の形をしていた。
町の人間が袋を開き、中からイノシシの死体を取り出した。

その時でさえ、袋には人の形が残されている。

<0[(:::)|(:::)]>『アニー!! これは――』

――空からアニーの使用する棺桶が落下してきたのは、オットーの叫びと同時だった。
背中から落ちたアニーの棺桶はその衝撃でヘルメットが吹き飛び、特徴的だった二枚の可変式主翼は無残に折れた。
衝撃だけで折れるはずがない事を知るオットーは、アニーの羽が撃ち抜かれたのだと理解した。

(;´_ゝ`)「く……くそっ……!!」

「に、逃げろおおお!!」

集まっていた人間達は流石に命の危険を感じたのか、蜘蛛の子を散らしたように逃げ出す。

<0[(:::)|(:::)]>『これは罠だ……!!
       誰かが俺たちを』

(;´_ゝ`)「分かってる、分かってるさオットー。
     相手は間違いなく、俺たちを殺そうとしてる。
     しかも、嬲り殺すつもりだ」

<0[(:::)|(:::)]>『俺が見た限りだと、相手は一キロ以上は離れていた。
        逃げよう、アニー!!』

(;´_ゝ`)「一キロ離れた位置から当てられる狙撃手だぞ、逃げられるとは思えない。
      くそっ、糞っ!! 全部この時のためか……!!」

恐らく、彼らに起きた不可解な出来事の正体は全てこの狙撃手が原因だ。
家の周囲で起きた出来事。
オットーの手伝い先で起きたこと。
熊を撃ち殺したのも、イモジャの自転車の一件も、何もかもが狙撃の一言で片づけられる。

彼らの頭の中に浮かぶ疑問は、その相手だった。


23以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 19:16:47.367UR9Y7SMD0.net (22/32)

<0[(:::)|(:::)]>『ペニサス・ノースフェイスは殺したのに、一体誰だ!!』

(;´_ゝ`)「知らん!! あの魔女以外にこの距離で当てられるなんて、カラマロスだけだ!!」

アニーの叫び声の直後、オットーの腹部を強烈な衝撃が襲った。
装甲が砕け散り、腹部が露呈する。

<0[(:::)|(:::)]>『や、やばっ……!!』

体をひねって腹部を守ろうとするが、すでに遅かった。
空気を切り裂く飛来物が、彼のわき腹から侵入し、肉食獣が食いちぎるようにして、臓物を地面に吐き出させたのである。

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   `           i";;;,/ /      /;;;;;;;;;;;;/    激痛が
           l /  ."、    / ;;;;;;;;;;/        灼熱の激痛が
          /./    l「    .../ ;;;;;;;;; /         オットーの思考を赤に染め上げた。
     .,i''l   .,〃    .〃 /  ./ ;;;;;;;;;./    .,.     _ /″
    ,lゾ  .〃   .,〃 ./  ,i";;;;;;;;./     ./     ,r'./
   .〃   ./l   、〃 ,ir / ;;;;;;; /    .,〃    .,ノン′  .,,ir'"  _/丶;;;;;;,ン'″
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24以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 19:18:20.093UR9Y7SMD0.net (23/32)

同日 同時刻

――狙撃手は棹桿操作を行い、素早く次弾を装填した。

狙撃手に向いている人間には共通点がある。
一つは集中力。
一つは忍耐力。
そして、何よりも重要なのが心を殺す力だ。

ある意味で狙撃手とは、誰よりも優しい人間なのだと言われる。
その所以は、彼ら狙撃手は基本的に相手の嫌うことを率先して行い、より多くの存在を相手に与えることを旨としているからだ。
一撃必殺は当然として、求められるのは一撃でどれだけの人間を殺せるのか、ということだ。
一発目で一人を程よく傷つけ、それを餌により多くの人間の心を殺しつつ、被害を増やす。

そのためには相手の気持ちになって考え、相手が嫌うことをすることが重要になる。
生粋のサディストよりも、マゾヒストの一面を持つ人間の方が人間の痛みを知っている。
その知識を生かすために己の心を殺し、相手の心を殺すのである。
近代、名手とされる狙撃手は二人いた。

一人はジュスティア軍の秀才、カラマロス・ロングディスタンス。
弾道計算能力もさることながら、その集中力と任務を遂行するために手段を選ばない姿勢はジュスティアで最高と評されている。
そしてもう一人は、イルトリア軍の“魔女”ペニサス・ノースフェイス。
無慈悲さと優しさを併せ持ち、天性の狙撃の才能を生かして生存不可能とされてきた作戦を潜り抜けてきた猛者。

二人の共通点は、本人たちの意向とは違い、歴史の表舞台に名が出たことだった。
彼らが優秀なのは事実ではあったため、他の狙撃手たちはその陰に隠れることになった。
だが。
歴史に名を残さず、人々の記憶の中にさえ残らない狙撃手がいた。

彼は自分自身でさえ己の才能に気づいていなかったが、その才能を見出した人間がいた。
しかし本人は自分の意向に従い、狙撃手の道から外れ、別の道を選んだ。
彼は、あまりにも優しすぎたのである。
故に狙撃手としては不適格であり、歴史に名を残すことは無かった。

彼は、“魔女”が見出した唯一の後継者であり、狙撃の技術を引き継いだ弟子だった。
魔女の弟子は無表情のまま、手にしたチェイタックM200の銃爪を引いた。

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  ゙ヽ'゙   :.:.:∨:::::j_∨__ト===(_)/_ /─ノ─厶-、\!=|三三三|l 「`!三
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'/べ   ヾ≧;「 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\::::!::::{::::.イ:::::::i/         __/ /__
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25以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 19:20:41.054UR9Y7SMD0.net (24/32)

臓物の次に飛んだのは、オットーの被っていたヘルメットだった。
安全装置が働いたおかげで彼の首は折れずに済んだが、素顔が露わになる。

(´<_`;)「ぐあっ……」

口から血が溢れ、顔面は蒼白になっている。

(;´_ゝ`)「オットー!! 今助ける!!」

ジェットパックを破壊されたアニーのトップガンでは、まともな援護は出来ない。
しかし、膝立ちになって弟を庇うべく動き出す。
失われた手足の部分を動かすことは出来なかったが、一度の動きで跳ねるようにして移動ができた。
オットーの上に覆い被さり、彼の身を守る。

(;´_ゝ`)「今助けてやる!!」

(´<_`;)「ご……ぼ……」

瀕死のオットーが懸命に何かを口にするが、アニーの耳には届かない。
このままオットーをどこか安全な場所まで運び、治療をしなければ彼はもうじき絶命する。
アニーは周囲の状況を確認し、身を隠せる場所を探した。
電波塔の周囲には建物がないことが前提で建てられているため、彼の努力は半ば無意味な行動であることは本人が一番理解していた。

(;´_ゝ`)「くそっ……!! どうしてあの位置から当てられるんだっ……!!」

電波塔などの高所に対して山中からの狙撃を成功させられるのは理解できるが、眼下のこの場所を狙い打てることがアニーには不思議で仕方がなかった。
森の中から撃っているのであれば樹木が邪魔になるだけでなく、家屋もその射角に入るはずだ。
倒れた状態のオットーを撃つには、あまりにもその角度が不自然だった。
アニーの疑問をあざ笑うように、新たな弾が彼の棺桶の関節を撃ち抜く。

銃声と着弾までの間にほとんど時間差がなかったことに気づき、彼は己の迂闊さを呪った。
彼が狙撃手の位置を把握したのは、その姿を視認したからではなく、発砲炎を確認したからだ。
果たしてそれが本物の発砲炎かどうかまでは見ていないし、見るだけの余裕はなかった。
あくまでも光を見てからの着弾と発砲音の確認でしかない。

狙撃手が光の場所にいなくても、発光と発砲のタイミングをずらすだけで簡単に位置を偽装できる。
つまり、狙撃手は既に――

(;´_ゝ`)「うっ……!!」

――背後から、跫音が聞こえた。
思わず振り返り、そこに、男の姿をした恐怖を見た。
ギリースーツで身を包み、顔には黒と緑のペイントが施されている。
巨大な対物ライフルを構え、スカイブルーの鋭い眼光が兄弟を射抜くように向けられていた。
ボルトアクション式の対物ライフルにドラムマガジンを付けるという改造は、これまでに見たことがない。

弾倉交換の時間を惜しみ、尚且つ、大量に狙撃をするという意向が形となったものだ。
常識のある狙撃手ならば、まず選ばない改造だった。
そのライフルが普通の対物ライフルではなく、強化外骨格が使用する前提で改造された物だとは、流石の彼もこの一瞬の間に気づくことはできなかった。
しかし、ライフルの詳細は知らなくても、アニーはその男を知っていた。

(,,゚Д゚)「……」

(;´_ゝ`)「ギコ……!!」

彼ら兄弟が殺した狙撃手、ペニサス・ノースフェイスと同じ場所にいた退役イルトリア軍人だ。
この男の詳細については訊いていなかったが、その名前については、クックル・タンカーブーツから聞いていた。
こうなると分かっていれば、その性質や素性について聞いておくべきだったと後悔した。
そうすれば警戒も、対策も出来たはずだ。


26以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 19:21:16.4969hY5s7eB0.net (1/1)

支援!!


27以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 19:23:22.379UR9Y7SMD0.net (25/32)

(,,゚Д゚)「弟が大変そうだな、アニー・スコッチグレイン」

(;´_ゝ`)「全部、お前の差し金か……!!
      妹をどこにやった!!」

どのようにしてこちらの名を知ったのか、それを問うことは彼の頭には浮かばない。
アニーはただ、妹の安否を知りたかった。
だがギコは一睨し、言った。

(,,゚Д゚)「ここよりもいい場所だ。
    よぅ、オットー・スコッチグレイン。
    必死に助けようとしたイノシシが死んで残念だったな。
    お前は妹と同じ絶望の中で死ね」

そして、背中から何かを取り出し、オットーの腸の上に放った。
それは、イモジャのスニーカーだった。
スニーカーには乾いた血が付いていた。

(;´_ゝ`)「貴様ああああ!!」

ギコのライフルが火を噴き、アニーの体がオットーの上から吹き飛ばされた。
背中に内蔵されていたバッテリーが撃ち抜かれ、棺桶が拘束具と化す。
顔から地面に落ち、土が目と口に入る。
悔しさと怒りで涙が流れ、顔が土で汚れる。

目の前でオットーの目から光が消えていく。
アニーは必死に無事な左手を伸ばし、オットーの手を握ろうとする。
伸ばした手を、ギコが踏みつけた。

(,,゚Д゚)「俺は、お前たちの何もかもを奪い取る。
    死ぬ時にはその手に何も掴めないと思え」

(;´_ゝ`)「足を……どかせっ!!」

(,,゚Д゚)「……話を聞かない男だな」

ギコのライフルがオットーの手首に向けられ、至近距離で発砲された。
装甲ごとオットーの手首が吹き飛び、地面に巨大なクレーターが生まれた。
果たしてオットーが悲鳴を上げたのか、銃声で聴覚がマヒしたアニーには分からない。
すでに虫の息となっている弟に、それだけの力が残されているとは考えられなかった。

弟の生死さえ、耳鳴りがする状態では分からない。

(,,゚Д゚)「……」

何事かを口にし、ギコは棹桿操作を行い、巨大な薬莢を地面に落とした。
銃口がアニーの顔に向けられ、そして、銃爪が引かれた。
銃声と共に、アニーの意識は黒に染まった。


28以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 19:25:00.072UR9Y7SMD0.net (26/32)

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:; :; :; :; :; :; :; :; :; :; :; :; :; ┌┐:; :; :; :; ノ「\:; :; 「「7/i込 :; :; :; :; :; :; 
:, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :ЛTi :, :, :, 川|:::::「TT「|^リi:i:ililム :, :, :, :, :, :,
.: .: .: .: .: .: .: .: .: .: .: .: .: 」」n辺_    |∩しj^|ノ|n7゙:::i:i:i:ililム  .: .: .: .: .
: : : : : : : : : : : : : : : 日Ц|Ч|^|^|''TTTn─=¬冖冖~ミi:iム⌒ヽ : : : : :
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 . . . . . . . . . . . . _| | 〕-」\|_|_|_n ̄| |_|_」⊥⊥,、-'⌒X⌒.:.:}: :ノ⌒ヽ γ´: :
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  (   . : (        |_ -f比笙゙|⌒||⌒| |   :| |n :|nn||∩乂;:;:;:;:;:;j:::::::::;:;γ´ . . : : ::::::シ
   `'; . : :ノ⌒)    /: :.:.:||_||n| |  ||  | |^||^|_| 」⊥-ー┯¬冖~乂::::::ノ: : : : : : ;:;:;:;:ノ
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、、: : : .:.:.:;:;:;:;:;:;:;:;:.::.::.::.: /''"|| ̄ |: | |     | |   :| l_ ,、 :|nn| |∩∩ |^|i:i:ilililil{
 `` ' ' ''' ⌒ ~~ーー〈::: : ::|l,、n :|n| |∩∩ | |^||^| | || | ||::|::| |_」L⊥-=¬冖弋  
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=_=_=_=_=_=_=_=_ i ̄|””|¨¨ 丁¨゙丁~” ̄ :||     ||    :||   :|_,、i|nn|∩i^|i:i:iliシノ
川-_-_-      __j∩|rnlnn,、|:. :||,、,、 :n:n|| ∩∩||∩∩:|||^|^| :| | || | ||」斗七だilil{、
洲‐_      圦`ゝ、、_| || | |^|^|| || | |::||::|| ||::||::||||::|_|_|」L⊥-┴=ニ≠冖「i:i:i:i|ilililシ :)
洲州‐_     」::::|「⌒^^=- ̄_ ̄ ̄ ̄ ̄_二二ニニ=‐┬¬冖丁: : :.:.:,、:|n∩レ'゚ xi(}.:.:.:.:.:.:
‐_‐_=_=_=_=_ ノ 丶、i^∩nn| | ̄ ̄~i|゙ ̄  |   | l :||   | |,、 ,、| |n∩|^|_」=‐'"ィi〔ilililil)X: : : :
‐_‐_‐_=_=_=_「i|トミ、`` i |::|::| |^||^ll^|| ∩∩ |∩ | |^||^||^| | | :||_」⊥- ¨_,.。sョiI〔i:i:i:ilililililシ ノ}: : :/
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vvvvvv、、、  └Л∩| ni| ̄丁¨¨了“““¨丁””゙ ̄|| ̄ ..:.:|||: : ||へ||i^||^||_」シ ´_ - ¨_- /ニ=-
灘灘眦眦此比‐_ ` | | ||^|∩n:n: rュ r:ュ || ,.、 n :|l ∩∩|||⌒||  ||i: |レ'"_ -∩_ - ¨ /
欟欟軈軈灘眦此比  ̄ └ || || | |: | | :| || | | | | ||_|⊥ ┴''| ̄ ̄ ̄丁n∩-二_-=彡
‐_‐_   ‐_比此此此比-_-_-_-_   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ‐_‐_‐_ └─   ̄      ヘ
灘眦此此眦眦灘欟欟灘眦此此比-_-_-_-_   :;.:,:;.:,  :;.:,:;.:,: : : : : :        \
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同日 PM06:11

世界最大の宗教、十字教。
その聖地とされるセントラスの大聖堂は大司教を始めとする多くの聖職者が日々集う場所だけでなく、街と十字教の最高権力者である教皇の執務室の役割を担っている。
大聖堂“ノーザンライツ”の執務室で教皇、クライスト・シードは深い溜息を吐いた。
首から下がった銀色の十字架が、彼の溜息で白く曇る。


29以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 19:26:28.344UR9Y7SMD0.net (27/32)

( ゚ν゚)「ふぅ……」

目の前には一枚の書類と、二人の訪問者がいた。
その二人は聖職者でもなければ、十字教の信徒でもなかった。
しかし、スーツを着たその佇まいは熟練の神父と修道女のように落ち着き払ったものだった。

( ゚ν゚)「どうして、ここまでの好条件を出すんだ?」

「我々にとって、この街は非常に重要な意味があるからですよ、教皇様」

黒のスーツを着た男が満面の笑みで答える。
その笑みは友好的なものに見えるが、多くの人間を見てきたクライストには、その笑顔の下に別の真意があることが分かった。

( ゚ν゚)「なるほど……
    ところで、私は君と会ったことがあるような気がするんだが、いつだったかな?」

( ・∀・)「ははっ、きっとどこかの街ですれ違ったかもしれませんね」

( ゚ν゚)「そうか……」

( *´艸`)「私はどうですか、教皇様?」

( ゚ν゚)「君は……すまない、特に記憶にないな……」

( *´艸`)「ひっどーい!」

( ・∀・)「モーガン、少し静かにしていてくれ」

( *´艸`)「あっ、ごめんなさい、つい興奮しちゃって!」

( ゚ν゚)「ははっ、気にしないでいい」

( ・∀・)「お恥ずかしい限りです……」

苦笑する男の表情は、演技ではなく本心からのものだった。
この二人が共に行動することに、まだ慣れていないのだろうか。

( ゚ν゚)「せっかくだから、この話についてもう少し考えさせてくれないかな?」

( ・∀・)「えぇ、勿論です。
     できれば、一か月以内にお返事をもらえれば助かります」

( ゚ν゚)「分かった、善処するよ」


30以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 19:28:46.877UR9Y7SMD0.net (28/32)

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同日 PM07:37

その日の夜は、いつもと変わらず、潮騒の聞こえる静かな夜だった。
街からは静かな音楽が流れ、人々が酒と魚料理、そして踊りを楽しんでいる。
ヨルロッパ地方の北に位置する“水の都”ヴィンスの夜が二つの顔を持っていることは、例え観光ガイドブックに載っていなくても、その土地を訪れる人間にとっては有名な話だ。
街の体を成しているこのヴィンスという街は、その実、複数のマフィアの縄張りが結びついて成り立っている土地であり、暴力はどこにでも潜んでいるのだ。


31以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 19:30:15.744UR9Y7SMD0.net (29/32)

ヴィンスが観光地として成り立っているのは、マフィア間の小競り合いが殺し合いではなく話し合いで解決することを重要視しているからだった。
そこに至るまでには多くの争いがあり、決して楽な道のりではなかったことは街に長く住んでいる人間にはよく分かっている。
特に今の形態に落ち着くに至った大きな事件について、知らない住民はヴィンスにはいない。
それと同様に、殺し屋“レオン”の名を知らない人間は一人としていない。

夥しい血と硝煙、銃弾、殺戮の果てに今の形に落ち着いたのは、ある意味でその殺し屋のおかげだと言ってもいい。
街を束ねる市長、シチリアン・“アンラキッキー”・ルチアーノはその殺し屋が一人で起こした事件の渦中において唯一の生き残りだった。
生き残らされた、という事実を知るのは彼だけだった。
その夜、ヴィンスにいるマフィアの定例会議ではいつものようにそれぞれが抱える不満と誤解を口にし、問題の解決を図っていた。

マフィアの首領たちが卓を囲んで話し合うのを、ルチアーノはクルミを二つ握りしめながら、静かに聞いていた。
会合の場所は決まって同じ海辺のレストランを貸し切って行われ、誰も武器を携帯しない決まりで行われていた。
出店の位置、客寄せの方法など、小さな話から構成員間での揉め事まで報告と話し合いが続き、ルチアーノはそれらが落ち着き次第、本題を話さなければならなかった。
一通りの話が終わり、皆の視線が自分に向けられたのをきっかけに、ルチアーノは深い溜息を吐いた。

歴代の市長からすれば、彼はまだ若い部類に入る。
市長は代々マフィアを束ねるだけの力を持つことが必要条件とされており、同時に、彼らからの敬意も重要な要素だった。

L」゚ー゚)「話し合いは終わったみたいだな。
      では、前から話に上がっていた内藤財団との契約についてだ」

街が潤うために大きく貢献しているのが観光業、次いで漁業だ。
マフィアは観光業に付きまとう治安維持の面で手を貸したり、ルールを守らない人間に対しての抑止力としての役割を果たしている。
無論、女衒の手配やあっせんもその生業の一つだ。
しかしながら、観光業でマフィアの末端まで潤うにはまだヴィンスには売りとなる物が少ない。

伸び悩んでいる収益に救いの手を差し伸ばそうと申し出たのは、世界最大の企業、内藤財団だった。
要となるのは、エライジャクレイグの経営する鉄道会社を招き入れるための線路増設だ。
新規で線路を作るには莫大な金が必要になる。
その費用と交渉の一切を内藤財団が負担するだけでなく、商業施設の誘致なども彼らが手を貸すという。

その見返りとして、内藤財団の関連企業が観光業に参入することを認めるという話だった。

「提示された金額と条件は悪くない。
後は、地元の声次第だ」

街で商売をする人間達の声というのは、決して無視することは出来ない。
大企業が介入することで地元の商売下降気味になってしまっては、元も子もない。
街の収益が上がったとしても、街に暮らす人間の暮らしが楽になるとは限らない。
一度介入を許してしまえば、追い出すのは容易ではないのだ。

「商店街組合は反対の声が大きいですが、宿泊業は半々ってところです」

「全体的に街は歓迎をしていません。
ラジオについては感謝をしていますが」

「やはり、地元の店の客が取られるのが手痛い。
噂じゃ、あいつらは独自の輸入路を持っているからますます地元の人間が干上がっちまう。
俺のファミリーじゃ、契約は蹴った方がいいって話しか聞きませんね」

税金で街が潤ったところで、大部分の収益を得るのが内藤財団なのであれば意味がない。
ヴィンスという街を転覆させ得る話だけに、これについては慎重に意見を吸い上げなければならなかった。

L」゚ー゚)「なるほど、では――」

(:::::::::::)「ちょっと、いいかな?」


32以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 19:30:42.473UR9Y7SMD0.net (30/32)

貸し切りとなっているレストランに、彼ら以外の人間は入れないようになっている。
聞こえてきたのはハスキーな女の声だった。
ルチアーノが振り返ると、そこには白いロングコートを着た若い女がいた。

L」゚ー゚)「誰だ、あんた。
     見張りの奴らがいただろ、ここは貸し切りだ」

女の姿は奇妙だった。
銀色の髪で隠された左目には眼帯がつけられ、残された右目は真紅の色をした切れ長の目。
左手の薬指がなく、彼の見間違いでなければ右耳もない。
事故で失ったとは思えない欠損の仕方だった。

(:::::::::::)「それを知った上での訪問さ。
     内藤財団との交渉への返事、そう焦らなくてもいいんじゃないかい?」

L」゚ー゚)「いきなり出てきて何かと思えば、内藤財団の使者か。
     見ての通り今は会合中だ。
     返事はノーだと、あんたから伝えるか?」

(:::::::::::)「悪くない話さ。
     あたしは小さな町の出身でね、大企業に食い物にされる怖さは知ってるつもりさ。
     だから上司に話をして、この街が望む契約形態で構わないって念書を届けに来たんだ」

女は懐から封筒を取り出し、それを掲げて見せた。

(:::::::::::)「こいつがあれば、あんたたちにとって悪い条件は一つも生まれない。
     街にある商店街や小売業、ホテルが望む形態を集約してからでも遅くはないだろう?」

その念書の内容を見ていない以上、軽率に首を縦には振ることは出来ない。
何よりも彼が警戒心を抱き続けるのには、理由が二つあった。
一つ目は、言わずもがな、このタイミングであまりにも都合の良すぎる話が舞い込んできたこと。

L」゚ー゚)「なるほど、それを届けに来ただけなのか?」

(:::::::::::)「いや、後は観光さ。
     あたしはヴィンスに一度来てみたくてね、お勧めの店なんかを訊こうとも思ってる」

そしてもう一つは――

L」゚ー゚)「へぇ、それで、あんたの名前は?」



从 ゚∀从「ハインリッヒだ、ハインリッヒ・ヒムラー・トリッペン。
      以後、お見知りおきを」



――真紅の瞳の奥に、形容しがたい不気味さを感じたからだった。


33以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 19:32:09.627UR9Y7SMD0.net (31/32)

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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Remnant!!編
第六章【Remnants of hate -憎しみの断片-】 了
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34以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 19:33:04.569UR9Y7SMD0.net (32/32)

支援ありがとうございました
本日の投下はこれで終わりです

質問、指摘、感想など有れば幸いです


35以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 19:47:40.341Y8CrEDmP0.net (2/2)




36以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 19:52:35.392UcPnggT2a.net (1/1)

乙乙乙


37以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2021/01/31(日) 19:53:00.915E9uAVZoQ0.net (1/1)

まってたよ!