384 ◆86inwKqtElvs2020/10/03(土) 16:01:26.65DfToxJPx0 (8/14)

あ、決まりましたね!
書いていきたいと思います。


385 ◆86inwKqtElvs2020/10/03(土) 16:16:36.05DfToxJPx0 (9/14)


「このハイヒールのチョコが、見た目も綺麗でかわいいなって思います」

 悩んでもどうにもならないので、素直に直感で答える。――誰だ、これは?

「私よ」

「え、華城、先輩……」

 それじゃ、この、シフォンケーキが……

「……あたしだぜ……」

 おおい!?

「昨日は忙しくて作る時間がありませんでしたの」

 いやアンナ先輩なら規制品でももっといいやつ買うんじゃないの? どういうこと!?

「お二人、奥間君のことが本当に好きみたいですから、チャンスをあげようと思いまして」

 え? え?

「ほら、綾女さん」

「う、うー、ち、ちんぽ! ま○こ!」

「もう、脇をくすぐりますわよ。えい、えい」

「きゃ、だからそこは第五の性感帯だって!! わ、わかったわよ、言うわよ」




「すすすす、す、好きよ。言わされてるとかじゃなくて、本当に……好きで……」




「でも」、と悲しそうに。

「アンナに勝てるわけ、ないもの」

 それが本心かはわからなかった。

 ただ、僕は。僕は、いったい、何を、どうすれば、

「…………華城先輩、僕は……ゆとりも、ありがとう。だけど……」




「アンナ先輩を変えたのは僕だから。だからアンナ先輩からじゃない限り、僕からは離れないつもりで……いる……」




 勝手に言葉を紡いでいた。

 いたたまれなくなってきた。二人とも、本当に泣きそうだったから。

 それをアンナ先輩が、嫉妬でも殺意でもなく、真剣に見ていたから。

「奥間君は、……まあいいですわ」

 何かを言いたそうにしているアンナ先輩は、別のことを話し始めた。





386 ◆86inwKqtElvs2020/10/03(土) 16:17:09.05DfToxJPx0 (10/14)



「綾女さんは『恋愛は自由』と言いますが、さすがにこの状態はわたくしの心が持たないので」

 くるんくるん、とケーキを切り分けるナイフを回す。あわわわわわわ、嫉妬心が持たなかったか。二人もぞーっとした顔をしている。

「わたくしが無理矢理この場を作りましたの。もしわたくしが振られていたら……どうしていたでしょうね」

 確実に監禁からの拷問コースですね、わかります。

「でも、奥間君は……わたくしのことを……」

 少しだけ、アンナ先輩は寂しそうだった。

 理由がわからず、「アンナ先輩……?」思わず呼びかけると、

「お二人とも、納得を今すぐしろというのは難しいでしょうが、今はこれでよろしいでしょうか?」

「アンナにしては強引ね」

 常に強引だった記憶しかないけど、華城先輩は変わる前のアンナ先輩を一番よく知っているから、きっとそうなのだろう。

「実はわたくし、4月を以って転校するかもしれませんの」

「え?」

「なんだよそれ?」

「首都に戻って来いと、両親がうるさくて」

 面倒そうだった。今のアンナ先輩にとって僕だけでいい世界ならば、両親の心配も偽善も保身もすべてが煩わしいものでしかないんだろう。

「それで、昨日奥間君のお義母様には了承を得たのですけど」

 やっと、アンナ先輩を視線が合った。ある種の決意めいたものがある、そんな感じの。

「来月、私とお義母様と一緒に、首都に行ってくれません? 両親も交えて、5人で話したいんですの」




「――――」




「狸吉!? 狸吉、しっかりしなさい!!」

「これは、その、きついぜ……?」

「結婚には反対していますが、必ずしも両親の許可は必要ないんですのよ?」

「大変! 狸吉が泡を吹き始めているわ!!」

「ちょ、アンナは黙ってろ、それ世間一般ではきついから、めっちゃきついから!!」

 ――三月まであと半月。

 しっちゃかめっちゃかな三月になりそうだった。





387 ◆86inwKqtElvs2020/10/03(土) 16:36:27.70DfToxJPx0 (11/14)



  3/14



 僕は三人に平等にお返しすると(アンナ先輩は余裕の表情だったのでいいのだろう、多分)二人とも一応は感謝してくれた。よかった。

 今日は卒業式。アンナ先輩が送辞を述べる。

 生徒会は今まで大忙しだった。轟力先輩の代わりの人材となると、あの人ああ見えて頭よく事務能力が高いので、代わりの人材となると全く持って困る。

 轟力先輩は号泣しながらアンナ先輩から花束を受け取ると、その日は旧三年生は解散となった。午後からは新しい三年生であるアンナ先輩と華城先輩が引き続き役職を担当する――と思いきや。

「わたしに生徒会長のオファーが来るとは、世も末ですね」

「ごめん、不破さんぐらいしかいないんだ」

「メリットがありません、お断りします」

 アンナ先輩みたいにずば抜けた能力を持った人なら、一年からでも生徒会長というのは務められるのだけど、基本は二年生から選ぶものであって、今年もそれに倣った形だ。

 本来ならアンナ先輩は推薦で一番いい大学を受けるため、受験には余裕があるはずなのだが、

「わたくし、首都に戻って転校するかもしれませんの」

 アンナ先輩が僕の言葉を引き継いだ。

「実務能力と生徒の人気、両方を持っているのは不破さんぐらいとみています」

「それはどうも」

「はあ。アンナ、やっぱり言っちゃう? ってかアンナは言ってるんだっけ?」

「ええ、わたくしが《SOX》の一員であることは話しましたわ」

「生徒会長を引き受ければ《SOX》に入れてもらえるとでも?」

 アンナ先輩と、そして華城先輩がにっこり笑った。

「その通りよ《蟲毒試験管》(ちゅうかんのおんな)!」

 《雪原の青》モードの華城先輩に、僕もパンツを被る。アンナ先輩も僕のトランクスを被り、華城先輩も三つ編みをほどきパンツを被った。

「……やっと話してくれましたか」

 まあ気付いているだろうな。陰毛一本からでも不破さんなら気付きそうだ。

「それで、その名前は何ですか?」

「え? 虫大好きっ娘でしょ? いい名前だと思うんだけど」

「サンプルに虫しか取れなかっただけで、別にハエちゃんたちが特別好きというわけでは」

「ちゃんを付けている時点で語るに落ちてるよ、不破さん」

「まあいいでしょう。そういうことならば引き受けます。ところで気になっているのですが、アンナ会長が転校、ですか?」

「まだ決まっていませんけども。明日、奥間君と奥間君のお義母様と一緒に、首都にあるわたくしの実家に話し合いに行く予定ですわ」

「…………」

 胃の痛い問題を思い出してしまった。でも避けては通れないことなのだ。排泄孔が裂けてはいけないけどね!

「その結果次第では、わたくしは首都に戻らなければなりませんの」





388 ◆86inwKqtElvs2020/10/03(土) 16:36:59.11DfToxJPx0 (12/14)



「ずいぶん急ですね。というよりは、アンナ会長がごねてると言った方が早いのでしょうか?」

「当たり前ですわ。……奥間君と引き離そうなんて、絶対に許されませんの」

 目には両親への殺意があった。この人、両親でも殺す気でいるよう。

「僕の母さんは、まあ仲介役というか。僕がまだ未成年だしね」

 ソフィアもアンナ先輩並みに体力お化けらしいし、母娘が喧嘩(物理)を始めたら止められるのが母さんしかいない。

「…………大変ですね」

 それしか言えないよねー。

「ところで不破さんはサイバー端末に詳しいですの?」

 唐突な切り替えに、「まあ普通の人よりは」と言葉を濁した。



「この機会に、父と母のサイバー端末から情報を盗もうと思っていますの」



「……なるほど、それは……」

 アンナ先輩の考えは華城先輩にも知らされてなかったらしく、深く頷いていた。

 今は家にあるのは昔のPCと違ったサイバー端末が主流となっている。企業だとそうでもないのが日本らしい。

「パスワードはわからないのですね?」

 アンナ先輩は頷いた。

「確かサイバー端末に詳しい友人が、ハッキング用のメモリ端末を開発していたように思います。出発はいつですか?」

「ぎりぎりまで延ばして、14時ごろでしょうか」

「今、連絡を取りました。今日の深夜、何時になっても構いませんか?」

「ええ、大丈夫ですわ」

「わかりました。できる限り急ぎますが、都市が遠いので時間がかかる可能性が高いです。設定も必要なはずですし、あとを残さないようにするプログラムも書いてもらわないと……」

「これはあくまでお願いですが、この機を逃したらわたくしも第一精麗都市と首都の行き来ができなくなるかもしれないので」

「善処します。連絡は取りましたので、今からその人物のところに行ってきます。《SOX》の件についても理解ある人ですから、ご心配なく」

「私も行くわ。場合によっては《SOX》の依頼という名目が必要になるかもしれないから」

「……わかりました。早速大忙しですね」

「じゃあ今日はこれで私と《蟲毒試験管》とは早退するわ。アンナと狸吉、お願いね」

 ……この書類の量、全部やるのか……。

 華城先輩とアンナ先輩、僕はパンツを脱ぐと、急いでそれぞれの仕事にとりかかった。




389 ◆86inwKqtElvs2020/10/03(土) 16:38:42.79DfToxJPx0 (13/14)


こ、これで国会図書館とかセクシャリティー・ノーとかに触れられる! ようになりました!

《蟲毒試験管》の二つ名、自分は一発で思いついたのですが、つまり私は好きです。


390以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/03(土) 16:51:03.048ArxqhumO (2/2)

不和さんってそんなに生徒に人気あるの?なんで?

顔が良いから?


391 ◆86inwKqtElvs2020/10/03(土) 16:58:11.44DfToxJPx0 (14/14)

9巻の初めに「不破さん自身、支持率が高い」と公式に設定されているのです。なので私の設定ではないのですが、デモとかいろいろ指揮していたのでカリスマ性はあると思います。


392以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/03(土) 17:05:30.70w334XzvG0 (1/1)

たぬきちは意地でも『愛してる』と言わんな

奴ヶ森の指揮もしてたし、アンナ先輩とは違うカリスマ性はあるんじゃないか?


393以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/04(日) 01:49:47.102iC/ctDH0 (1/1)

アンナ先輩のラスボス感がすごいのは自分だけか…?


394 ◆86inwKqtElvs2020/10/04(日) 14:12:57.83E76adJb10 (1/9)

ところで皆さん、狸吉の態度についてはどう思います?
アンナ先輩にかまけて華城先輩たちを無視しているように見えるか、それとも別の見方をしているのか、よければ教えてください


395 ◆86inwKqtElvs2020/10/04(日) 14:55:43.93E76adJb10 (2/9)



「間に合いますかね」

「何を気にしている、狸吉」

「いや、友達がさ、見送りに来てくれるってさ」

 今13:32。チケットは14:01。

 首都に入ると前歴(未成年者の前科のようなもの。不破さんには条例違反がある)を調べられることもあるため、首都に直接送ってもらうのは微妙だ。

 今ここで受け取れるのがベストなんだけど。男と女がイくのが同時であるのがベストであるように。

「あ、来ましたわ」

 不破さんが珍しく(なんとなく運動しているイメージがない)走ってくる。

「説明書というほどではありませんが、使い方はこの中に」

 紙袋を渡すと、さっさと帰って行った。

「……淡白だな」

「まあ不破さんはそういう人だよ」

 行動自体はアクティブな人なんだけどな。隈がいつもより3割増しだったし、徹夜したに違いない。感謝しないと。

「まあいい。用事が済んだならホームへ行くぞ」

 そして新幹線を待つ。

 僕にとっては久しぶりの首都だった。




396 ◆86inwKqtElvs2020/10/04(日) 14:56:21.06E76adJb10 (3/9)



 奥間善十郎、僕の父はテロリストとしての悪名が名高いが、その前は何と国会議員をやっていたのである。今でも信じられない。

 まあそうじゃなきゃテロリストとなってからじゃ善導課主任の母さんと結婚するには遅いわな。

 そんなわけで首都に生まれてから10年ほど、滞在していたことがある。母さんが首都浄化作戦に参加したり、僕とアンナ先輩が出会ったのもその時だ。

 まあ、そっからは風紀優良校最底辺の地域に、母さんいわく『左遷』させられたんだけどね。

 母さんだけ通路を挟んだ離れた席に座っている。アンナ先輩は窓側だ。

 母さんは眠っている。夜のことを考えると、今は休ませておこう。

「それで、なんて書いてありましたの?」

 不破さんの袋が気になるらしい。僕も気になるので開けてみてみる。

 見ると、メモリ式カードが二枚、入っていた。

『これをサイバー端末に刺せば、あとは自動で全てやってくれます』

 ひどくお手軽だな、おい。追伸、なんだ?

『メモリ式カード×サイバー端末で早乙女先輩がBLを考えてくれるそうです』

「…………」

「……わたくし、この概念がよくわからないんですの」

「アンナ先輩が腐ったらこの世の終わりです……!」

 僕の排泄孔が犯されるのはアンナ先輩の指だけでいいんです。よくはないけどそういうことにしておかないと仕方ないことって結構ある。

「奥間君にとって、首都はどんなイメージですの?」

「んー、あんまり覚えてないというか。父さんと一緒に卑猥なことしかやってなかった記憶しかないですね」

「好きだったんですね、お義父様のこと」

「そうですね。ヒーローでした。逮捕された時は荒れた、ってこの話前もしましたよね」

 横目で眠っている母さんを見る。

「母さんも、今は厳しいイメージしかないですけど。中学に上がってアンナ先輩みたいになりたいって言いだすまでは、もう少し優しかったですよ」

 そのあと軍隊並に厳しくなったんだけどね。

「……わたくしは……悪人の素性を、考えたことがありませんでしたわ。悪は悪、正義は正義だと、社会の規範に則った形での基準でしか考えられない人間でしたの」

 奥間君も知っての通り、とどこか自嘲的に話す。

「でもきっと、わたくしが捕まえてきた“悪”には、いろんなものが詰め込まれていたのでしょうね」

 奥間君、ともう一度、囁くように。

「“悪いこと”は“楽しいこと”でもありますわ。卑猥は、楽しいし、気持ちいいこと……。だからこそ守らなければならない女性や子供などの弱者もいるでしょう。でも」

 全てを切り離す《育成法》は、間違っていますの。

「奥間君は、《育成法》の撤廃を、手伝ってくれますか?」

「……はい」

 自信を持って言える。きっと華城先輩も頷くはずだ。

 アンナ先輩が《SOX》にやっと入ったような、気がした。





397 ◆86inwKqtElvs2020/10/04(日) 14:59:31.09E76adJb10 (4/9)

今日はここまでー
アンナ先輩が逆レに成功していたらのIFから始まった物語なので、ある意味アンナ先輩はラスボスですね。
アンナ先輩がどういう変遷を遂げるかという感じ。まあ趣味がかなり入ってるんで、何故か狸吉とはSMの関係になってる感がありますけど、そこはほら、二次創作なので気にしすぎないでください。


398以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/04(日) 15:42:44.87Aag/64K/0 (1/1)

たぬきちはアンナ先輩の二面性に気づいているのだろうか
そこらへん、僕のせいって考えてるっぽいけど、ゆとりやこすりは元から持ってたって思ってるし
華城先輩は描写少ないからわからんが、たぬきちよりかな
個人的には優しさを犠牲に羽化してしまってると思うな、つまり手遅れ


399 ◆86inwKqtElvs2020/10/04(日) 17:55:43.36E76adJb10 (5/9)



 アンナ先輩の実家はタワマンの一層を買い切ったものだった。すげえ。

 ソフィアは最後に会った時とは比べ物にならないほど憔悴していた。

「どうも、お邪魔します……」

「入ってください。何もないところですが」

 もちろん謙遜で、シンプルながら調度品は品よく並んでいた。アンナ先輩のマンションと、このあたり似ているなと思う。

「貴様の夫はまだなのか?」

「まーくんは少し遅れるそうです」

 本当に祠影をまーくん呼びしてるよソフィア!!

「お茶を飲みますか?」

「いただこう」

「わたくしも」

「……僕も」

 ソフィアが憔悴ぶりとは裏腹に手際よく紅茶を淹れていく。

(アンナ先輩は手伝わないんですか?)

(今回はお客とホストの関係ですから)

(?)

(招いた者が、お客をもてなすのは当然ですわ)

 金持ちの感覚ってなんか違うなって思った。

「どうぞ」

 音もなくソーサーに置いたカップを三人の前に置いていく。このあたり、アンナ先輩に受け継がれた躾が垣間見えた。

 アンナ先輩が……お誕生日席とでもいうのか、2:2:1の1のところに座っている。話の主役だから自然とそうなったのだろうか。

 僕と母さんが隣同士で、ソフィアが隣に一人分空けている。祠影の席なんだろう。

 本当は一列に四人ぐらい座れそうなソファなんだけど、自然とそういう並びになってしまった。

 かちゃ、という扉の開く音がした。

「すまない、遅れて」

「まーくん、遅いですよ」

「こちらは構わない。まずはお招きいただき、礼を言わせていただこう」

 母さんに合わせて頭を下げる。アンナ先輩は緊張はしていないが、どことなくつまらなさそうだった。

「アンナに秘密で手切れ金を用意したのは悪かった。だが被害者側から言わないとお前は別れないだろう?」

 うお、いきなり核心を付いてくるな。祠影は冷静に見えるが、逆に言えば僕に対する感情はわからない。

「わたくしと奥間君は愛し合っていますわ」

 にこりと笑う。牽制の笑みだった。

「愛は最も尊いもの。そう教えたのはお父様とお母様じゃありませんの」

「アンナ、これは愛じゃないんです。一方的な、ただの感情です」

 ソフィアが電話で何度も話したのだろう、言葉は選んでいるが余裕はなかった。

「狸吉はどう思う」

「ぼ、僕?」

 母さんにいきなり振られて、焦る。だけど言うべきことは言わないといけない。





400 ◆86inwKqtElvs2020/10/04(日) 17:56:48.40E76adJb10 (6/9)



「愛や恋は、正直僕には違いは分かりません」

 アンナ先輩がこちらを見る。情欲の獣の目。

「ですが、誰かが誰かの感情を一方的に否定することは、誰にもできないと思います。親子であってもです」

「君には被害者意識はないのか?」

 …………、

「正直、ショックでした」

 ああ、くそ、語彙力のなさが情けない。

「ただ早く知識を教えておけば、あんなことを先輩はしなかったと思っています」

「お父様とお母様は」

 アンナ先輩が、お茶を一口、音もなく啜った。

「正しいことだけを教えたら、間違いのない子供ができると、本気で思っていたんですの?」

「…………」

「間違いを起こしたわたくしを、許せませんか?」

「……それは、」

「奥間君は受け止めてくださいましたわ」

 優しい、愛おしい。そんな言葉がぴったりの視線を、僕に注ぐ。

「ですからわたくしは奥間君を信じますわ。お父様よりも、お母様よりも」

 アンナ先輩は微笑み、

「奥間君の間違いは、わたくしの間違いですわ。ただ、それだけですの」

「……アンナ先輩が間違えたのは、僕の責任でもあります。もっと早く知識を教えておけば……」

 言葉に詰まる。

「僕のとれる形で、責任は取りたいと思います。でも、あのリーダーにしたこととかは、また別の罪です。ただ傷つけたいがために傷つけた」

 アンナ先輩が、僕から視線を逸らす。

「自己保身のために更生する機会を、奪わないでください。お願いします」

「自己保身?」

 ソフィアが初めて、感情らしき感情をあらわにした。

「誰だって、身を穢されそうになったら、女性ならば怯えるか激昂するでしょう!! そんなことを指示したあの女を、許せません、親として許せません!!」

「ソフィア、落ち着け。話がずれている」

 母さんが訂正するが、

「なぜみんな、私がアンナの、子供のためにやっていることがわからないのですか!!? デモまで起こして、……」

「その件だが」

 祠影が口を挟んだ。正直もうお腹いっぱいなんだけど、多分ここからが正念場だ。

「私とソフィアは別居しようと思う。見解の不一致でね」

「私は許してません!!」

 祠影はソフィアを無視した。すげえ。

「離婚だと、今からだとアンナの進路に関わるからね。別居という形を取ろうと思っている。幸いというべきか、第一精麗都市にもマンションを借りているし、ソフィアとアンナが二人暮らしするには問題ないだろう」

「その話は聞いてませんわ、お父様」

 アンナ先輩が初めて困惑した。両親の離婚はアンナ先輩にとってあくまでどうでもいい事象だったのだろう。





401 ◆86inwKqtElvs2020/10/04(日) 17:57:52.80E76adJb10 (7/9)



「アンナには保護者が必要だ。それは奥間狸吉君には無理なんだ。わかるね?」

 言い聞かせるような言葉に若干の苛立たしさを覚えたけど、

「……はい……」

「保護者が必要だという意見には同意する。アンナはまだ未成年、子供だ」

 母さんが口を挟んだ。

「祠影さん、で大丈夫ですか?」

「好きに呼んでくれて構わないよ」

 意外にフレンドリーな人なのか、冷静さと爽やかさを両立させた笑顔だった。

「祠影さん、今のソフィアさんとアンナ先輩だと、衝突しか見えないのですけど……」

「僕はどうしても首都を離れられないんだよ。かといって、アンナは首都に戻りたくないだろう? 奥間狸吉君と離れたくはないからね」

「もちろんですわ、お父様」

「だから精いっぱいの譲歩なんだよ。アンナには保護者が“必ず”必要で、僕は“絶対”に首都を離れられなくて、アンナは転校は“あり得ない”。その三つを成立させるには、ソフィアを第一精麗都市のマンションに引っ越しさせるしかない。部屋数は足りているし、爛子さんというご友人もいる。それほど悪くはない環境だと僕は思う」

「…………」

「アンナ、どうだ?」

 母さんが聞く。一見、すべてが成立しているように思えるけど……、

「お母様と住むのは反対です」

「……何故?」

「奥間君と愛し合うことを、お母様は許してくださらないでしょう?」

 うわあ止めてくれ、そんな直球投げたら僕が死ぬ!

「あ、あ、当たり前です! そんな、卑猥な!」

「何故? 愛し合うこと、子供を作る行為は崇高な行為だと思いますわ。家の中ですし、卑猥でも何でもないと思うのですが」

 ふう、とアンナ先輩が溜息をつく。

「どうしてもここで、見解の相違が出るんですわ」

 ソフィアの第一精麗都市への引っ越し以外は大体話し合ってたわけか。





402 ◆86inwKqtElvs2020/10/04(日) 17:58:20.67E76adJb10 (8/9)



「わたくしは今、奥間君と同居していますわ」

「…っ! ……!」

 ジェスチャーで何とか方向性を変えられないかやってみたけど無理だった。

「奥間君とつながっているときのあの幸福感……!」

 欲情の目で、淫獣の目でこちらを見てくる。発情ギリギリ、この状況で発情できるってアンナ先輩すごいです。

「それが奪われるのは、愛し合っていることの証明をできないのは、嫌ですわ」

「いい加減にしなさい!!」

 バン、と机をたたき割った。……たたき割ったんだよ。

「あな、あなたは、自分の立場が分かってない! そんなわがままを言える立場にないのですよ!?」

「わがまま?」

 暴雪のダイヤモンドダストが見えた気がした。暴雪の、無理矢理に隷属させる女王の纏うオーラ。以前はなかった気配の変化に、僕以外全員驚く。

「わたくしは愛を貫き通したい、ただそれだけですわ。……それを邪魔するのなら、お母様も誰も彼も、要らないのですわ」

「あなたは、アンナは」

 ソフィアは泣きそうだった。

「何故そんなふうに変わってしまったのですか? そんな道理のわからない子じゃなかったはずです……」

「道理はわかっていますわ、お母様。ええ、そう。“悪いことは楽しい”という道理を」

 暴雪の気配のまま、アンナ先輩は微笑みを深くする。

「“卑猥は楽しい”ですわね、お母様」

「っく、この!」

 ソフィアがとうとう我慢ならずに実力行使に出た。だけど今のアンナ先輩も、両親を殺すつもりで反撃に出る。

 止めるのは母さんしかいなかった。



「止めろ貴様ら!!」



 よく通る声に、しかし場の混乱は収まらない。祠影と一緒に物陰に隠れる。

「アンナもソフィアに似てしまったな」

 祠影の疲れたような言葉だけが耳に残って、その場は解散となった。






403 ◆86inwKqtElvs2020/10/04(日) 17:59:20.03E76adJb10 (9/9)

>>398
華城先輩の描写が少ないのは、華城先輩の下ネタ思考がトレースできないからです、すみません


404以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/04(日) 20:30:24.16R5F+yXsF0 (1/1)

ソフィアがアンナ先輩のとこに来ればいいのか、確かに

アンナ先輩は、いいラストが見えないなぁ、このSSでは
絶対別れる未来しか見えない

というか、アンナ先輩がたぬきちに求めているのって本来はソフィアがやるべきことだよね。なんでも受け入れてくれる母性ってやつ。たぬきちには無理だよ


405以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/06(火) 02:42:50.07igkmu0ajO (1/1)

奥間くんはわたくしの母親になってくれるかもしれなかった男性ですわ!

うん、絶対に破綻する(断言)

あと狸吉の態度についてだけど、華城先輩達を無視しているなんて事は無いと思うよ
狸吉は狸吉のできる範囲でやれる事はやってるし、むしろこんな化け物と一緒にいてよく壊れないなと称賛されるレベル
もちろん、狸吉が華城先輩達と男女の契りや結婚の約束をしていてコレなら話は別よ?
だけど、違うじゃん


406 ◆86inwKqtElvs2020/10/09(金) 13:33:27.42OB+0Ky3Z0 (1/11)



「うーん」

 ふかふかした布団はアンナ先輩のマンションと同じなんだけど、枕が慣れてないのかどうも寝付けない。

 母さんと僕、一部屋ずつ客間を貸し与えられていた。ベッドがないけど、僕としてはそちらの方が何となく落ち着く。鎖で繋がれる心配がないからかな。

「ソフィアも殴り掛からなくてもいいのに」

 ただソフィアの対応も問題だったけど、アンナ先輩の挑発するような言動も大いに問題があると思う。

「今のソフィアとアンナ先輩が同居して大丈夫かな」

 祠影の言葉は正しいのだけれど、正しいだけのような気もする。なんというか、気持ちを考えていないというか、そんな感じ。

「奥間君」

「はいぃ!?」

 なんで、え、いつの間に!? 気配がなかった。

 薄いワンピース姿で、上気した頬。荒い呼吸。湿った水音がにちゃ、にちゃと聞こえてくる。

 結論:完全に発情しています。

「褒めてほしいんですの。わたくし、お父様とお母様のサイバー端末のデータを入手しましたわ」

「え、本当ですか!?」

「そう、それに……、その、お母様のこともあって、その、」

 ストレス発散したいんですね、わかります。

「でも、ここじゃちょっと……母さん達もいますし……」

「……そのスリルがいいんじゃありませんの? 不健全雑誌にはスリルも大事だと」

「あ、あれは誇張もあるので」

「……キス、したいですわ」

 したら完全に最後までイきますね、わかります。

 ぐるる、とお腹が鳴った。子宮の方の内臓の音。アンナ先輩の子宮は完全に僕を求めていた。

「……薬、ちゃんと飲んでますよね?」

「ええ、そういうのはわたくし、嘘を吐かないって知っているでしょう?」

 いやアンナ先輩だったらどんな嘘でも付きそうだからさ、僕と子作りするためだったら。

 仕方ない、とアンナ先輩の背中に手を回す。アンナ先輩は上にのしかかってきた。いつも思うけど全然重くなかったり逆に一点だけ異様に重くなったり、どういう重心移動してるんだろう。今は重さを全く感じなかった。



 ん、ちゅぱ、は、じゅる、ぴちゃ、あ、ん


 尖った胸の先端を摘まむ。「ん~~~~~~~~!!!」ビクンビクン!と腰のあたりが揺れた。

「あは、やっぱり環境が変わると、敏感になりますわね……!」





407 ◆86inwKqtElvs2020/10/09(金) 13:33:57.35OB+0Ky3Z0 (2/11)


 薄いワンピースを脱ぎ、夜用の下着を全部脱ぐと、相変わらず完璧なプロポーションを発揮なされる。僕の愚息も完全に勃ち上がっていた。

 アンナ先輩は身体を起こすと、騎乗位の体勢で僕の愚息の上から一気に



 ズン! 「~~~~~~~~!!!!」



「ぐっ!!」

 グネグネと締め付けが凄まじい。もう発射してしまった。

「あはあ、もう愛の蜜を……!」

 アンナ先輩いわく、膣トレ以降感じやすくもなったそうで、前はもっと時間がかかったのに僕に与える快感も強くなって、挿入れただけでも射精するようになっていた。決して僕が早漏ってわけじゃないよ、アンナ先輩の膣内が凄まじすぎるんだよ!!

 アンナ先輩はピストン運動を行う。僕はされるがままだ。

「ああ、愛の蜜が混ざったら、先端で引っかかるのに滑りはよくなって、より一体感が増して気持ちいいですわ……!! ほら、奥間君も動かしてくださいまし!!」

 ズンズンズン、とペースが上がる。僕はそのペースに合わせて、アンナ先輩を突く。僕の息子全部が入り切り、さらにタマタマまで挿入りそうな予感。アンナ先輩の子宮口も開いている気がする。クリトリスを触ると、

「ひっ!?」

 ぷっしゃあああああ、と潮を吹いた。

「あ、あ、あ、あ、あ!!」

 潮を吹きながらも腰を動かすのを止めない。止まることなく、ピストンではなく前後のグラインドに移行する。

 アンナ先輩の背中がのけぞる。その繋がっている部分も、お腹も、胸も、反り返った喉も、全部が見える。何度見ても、いい光景だった。

「い、きます!!」

 僕が発射したと同時、がくがくがく!!と強烈な痙攣をおこして、アンナ先輩はぎりぎりのところで前の方に倒れる。イきながらキスをする。耳に舌を入れ、喉元を軽く噛む。

「……今日はここまでにしておきましょう。明日が、ありますから……」

 色々残しておかないと、僕の方がヤバい。

「……物足りませんが、わかりましたわ……体力は残しておかないと……、ん、でも、まだ硬いのに……」

 名残惜しそうに抜くけど、これ以上やって中折れしたらなんかまたヤバいことになる気がしてならない。ってか経験上、なる。

「……奥間君が、メモリー端末、預かってくれません? わたくしだと、まだ首都に残される可能性もあるので。不破さんにお渡しくださいまし」

「わかりました」

「……ねえ、奥間君。キスを、接吻を、わたくしに」

 唇を重ね合わせる。唾液が糸を引いた後に残ったのは、聖女の微笑。

「何かが進展するといいですわね」

「そうですね」

 まだ、アンナ先輩が何を考えているのか、わからない時も多い。

 だけどこの言葉だけは真実に思えて、僕は眠りについた。




408 ◆86inwKqtElvs2020/10/09(金) 13:34:32.97OB+0Ky3Z0 (3/11)



「ねえ、あそびませんの?」

 ああ、この特徴ある銀髪はすぐに分かった。

 アンナ先輩と僕が出会ったころの、子供時代のときだ。

 まだ何も知らず、無垢だった時の。

「あそびたいんですの。おくまくんと」

 僕も知らなかったし、両親ですら気付かなかったのだから、何もどうすることもできなかったんだと思う。

 この無垢な子供の中に、獣がいるなんてこと。

「おくまくん」

 笑う。無垢な微笑のままで。



「おくまくんをたべさせてくださいまし」



 そして開かれる、小さな口。

 そこには、喉元を引きちぎるには十分な力が込められていて――




「うわあ!?」

 ……寝汗が凄い。隣にアンナ先輩もいない。珍しい日だった。ここ数か月はセックスをしなくても、大抵は一緒に寝ているから。

 何か夢を見た気がするけど、思い出せない。

「あ」

 そうだ、メモリー端末。

「あった、よかった」

 コンコン、とノックの音。

「奥間殿、祠影様たちが朝食を一緒に、と」

 一緒に連れてこられた月見草の声が、扉越しに低く響く。

 忘れないうちにメモリー端末をカバンに入れて、気の重い朝食を食べに行く。




409 ◆86inwKqtElvs2020/10/09(金) 13:35:36.63OB+0Ky3Z0 (4/11)


 アンナ先輩が時々僕と母さんに話を振るだけの、沈黙の多い朝食が終わると、「ジムに行きません?」とアンナ先輩が母さんを誘っていた。

「あ、僕も」

「貴様はここに残っていろ」

 にべもなかった。え、祠影とソフィアの二大ボスを目の前にして一人で残されるの?

「…………」

「狸吉君」

「は、はい!」

「アンナの前では言えませんでしたが」

 ソフィアが祠影の言葉を引き継ぐ。

「別れてくれませんか」

「……言葉でなんとかなるアンナ先輩じゃないのは、そちらのほうが知っていると思っていました」

 思わず厭味ったらしい方になってしまう。

「僕も、考えます。僕と一緒になることは、アンナ先輩のためにならないんじゃないかって」

 できるだけ、正直になることにした。

「それでもアンナ先輩が選んだことです。アンナ先輩が、自分自身で負うべきことだと思います。もちろん、それは、僕自身も、そう思っています」

「今のアンナに、現実が見えているとは思えないんだよ。それは僕たちの責任だ、申し訳ないと思っている」

「…………」

「《こうのとりインフルエンザ》を知っているかい?」

「あなた、まだそんな世迷言を!」

「これについてはいろいろ意見があるが、大事なのはこれから生まれてくる子供は、《こうのとりインフルエンザ》による差別を受けるということだ」

「《こうのとりインフルエンザ》を発症した人から生まれた子供は、《こうのとりインフルエンザ》を潜在的に持っている、でしたか?」

 知識がある僕からすれば、くだらないとしか言いようがない。ソフィアもアンナ先輩も同様だろう。

「君は《ラブホスピタル》に反対のようだね。まあ今は政治的主張は止めておこう。世論として、そういう流れが起きるのが、今大事なんだ」

 祠影は苦笑する。

「《ラブホスピタル》以外での妊娠した子は、差別を受けるというのが重要なんだ」

「何が言いたいんでしょうか?」

 回りくどい言い方にイライラしているのは、自分だけじゃないようだった。

「これから先は、結婚も差別される世の中になるだろう。しばらくの間だが、そのしばらくの間の世代にアンナたちはいる」

「アンナ先輩を、僕達の世代を犠牲にして、祠影さんは何をしたいんですか?」

「この国のためだよ」

 ……わけがわからない。このわけのわからなさは、アンナ先輩の何を考えているかわからない時と似ている。

 どうしようもなく深く、冷酷に、自分の子供までも切り捨てる親と、

 どうしようもなく狭く、残酷に、自分の両親までも切り捨てる子供。

「アンナ先輩がどうなるにしろ、その責任はアンナ先輩にあります。でも、忘れないでください。

 『アンナ先輩を化け物にしたのは、あなた達だ』」

「……ソフィア、ジムにまで案内して差し上げなさい」

「いえ、月見草に案内してもらいますので。ソフィアさんは休んでいてください、失礼します」

 早口に、リビングを出た。

「月見草、ジムまで案内してくれ」

 なんかもう、ドッと、疲れた。




410 ◆86inwKqtElvs2020/10/09(金) 13:37:41.30OB+0Ky3Z0 (5/11)


……祠影の性格というか口調がわからない!

悪巧みしている時のアンナ先輩の不可解さは、祠影から受け継いでいると勝手に想像しています。


411 ◆86inwKqtElvs2020/10/09(金) 14:34:01.77OB+0Ky3Z0 (6/11)



 シュシュシュ、バババ!

「相変わらずアンナ先輩と母さんは異次元だなあ」

 母さんは真剣な表情で、アンナ先輩は心なしか笑いながら実戦形式の訓練を行っていた。

「小休止しよう」

 母さんの言葉でアンナ先輩の動きが止まる。

「物足りなさそうだな、狸吉を好きに使っていいぞ」

 母さんの苦笑交じりの言葉に、え、僕玩具にされること決定したの? 秘技・乳吸いで勝つわけにはいかないしな。

「いえ、もう少し自主トレを致しますわ。すみませんが、スポーツドリンクを三杯持ってきてくださいまし」

 月見草に頼むと、「かしこまりました」と一礼し、ジムを去って行く。

「すごいですね、家の中にこんなスポーツジム」

「母の趣味でもありますから」

「あいつは昔から体力バカだった」

 母さんが言えることかよ。

 アンナ先輩は年季の入ったサンドバッグに蹴りや拳を入れる。バン、バン!と素人の僕でも鋭いとわかる音がする。

「母さんは、」

「お前が決めろ、狸吉」

 月見草が持ってきたスポーツドリンクを一口飲むと、

「決めたことが間違ってなければ、最後まで付き合ってやる。間違ってたら殴る、それだけだ」

「シンプルだね、母さんは」

 バン、バン!と鋭い音がジムに木霊する。

「正直、アンナ先輩のことを思うと、別れた方がいいんじゃないかとか、思う時もあるけど」

「…………」

「それは逃げなんじゃないかって、思うから、だから」

「まだ考える時間はある。焦るな」

「……うん」

 なぜか、寂しそうな、でも嬉しそうな、朱門温泉での混浴風呂で見たあの華城先輩の顔が思い浮かんで。

 ――アンナ先輩も人間なんだよって、言ってくれる人はいるのかな。

 きっと、誰もいないんじゃないか。

 一人でサンドバッグを殴り続けるアンナ先輩を見て、ふと、そう思った。




412 ◆86inwKqtElvs2020/10/09(金) 14:45:22.76OB+0Ky3Z0 (7/11)



 新幹線のホームで僕らはしばしの別れを惜しんでいた。

「忘れ物はございませんか?」

 アンナ先輩は一週間先に休学を申し込んでいたらしく、春休みいっぱいまで首都にいるらしい。約三週間のお別れになる。

 ……その間、僕は射精管理のために《鋼鉄の童貞》を嵌めさせられた。やっぱり昨日抜いてもらっとけばよかった。

 カバンの中身をチェックして、メモリ端末があるかをちゃんと確認する。あとはこれを不破さんに渡せれば、ミッションコンプリートだ。

「大丈夫です。アンナ先輩、それじゃ、また」

 アンナ先輩が僕の袖口を掴んで、もじもじする。くっ、か、可愛いな。

「……う、浮気しちゃ、ダメですのよ?」

「はっはっは、できるわけないじゃないですか」

 言ってることは全然かわいくなかったけど。《鋼鉄の童貞》嵌めてる状態でどう浮気しろと、ってアンナ先輩の浮気認定はちょっとおかしいんだった。ゆとりなんか下の名前読んだだけで浮気相手認定されたもんなあ。

「じゃあ、また」

「ええ、また。毎日通話するんですのよ?」

「勿論」

 しないと周囲の女性陣がヤバいことになるからね。

「行くぞ、貴様ら」

「じゃあアンナ先輩、気を付けて」

 こうして、約三週間(射精管理されたままで)アンナ先輩とはしばらく遠距離恋愛となった。




413 ◆86inwKqtElvs2020/10/09(金) 14:47:36.68OB+0Ky3Z0 (8/11)

アンナ先輩にもね、優しさというか純粋というか、うーん。

純粋無垢という化け物なのかもしれないけどさあ。
アンナ先輩は優しさも残ってるんだけどさあ。やったことがやったことだから仕方ないね。インパクトってそういうモノさ。


414 ◆86inwKqtElvs2020/10/09(金) 18:29:28.12OB+0Ky3Z0 (9/11)



「それでは、綾女さん。奥間君を、くれぐれもよろしくお願いいたしますわ……」

(どうしてるでしょうか、奥間君は)

 離れて一日目でもう不安と昂揚で仕方がない。射精管理しているとはいえ、浮気ができないわけではないのだから。

 その時は、オシオキが待っているだけだけど。

「アンナ、今誰と、」 

「綾女さんと、少し。お母様、ちゃんと約束は守りますわ」

 『節度のある交際』

 《ラブホスピタル》で見たような、児戯に等しい愛の真似事のことだろう。

 愛はそんな、幼稚園児がするようなものではない。誰にでも説明できるものではないのは、他ならぬ自分たちがよく知っているくせに。

 それよりも、母をどうするか、少し悩んでいた。“母を壊すことは決定している”が、“どうやって壊すか”。このままだと勝手に自壊しそうだ。

 それだと面白くない。そう。“面白くない”。

 あの夜、《雪原の青》に抱いた憎悪のような、あるいは《更生プログラム》を思いついたような、アイデアが湯水のようにあふれ、力が湧いてくるような、“あの感覚”が足りない。

 今ならわかる。理解できる。

 あれは、破壊の衝動が飽和した時特有の、万能感なのだと。

 性の衝動とはまた違う、シナプスが弾けるような万能感。

「アンナ……?」

 今の、自分の子供を持て余している母親を見ても、疼きはする。しかし、足りない。

 何か、もう一歩が、それさえあれば、自分はあの感覚を存分に味わい、アイデアも浮かび、たっぷりと時間をかけて壊すことができるのに。

「お母様は、離婚の意思はないのですか?」

「あるわけありません! 私は、間違ったことはしていません!!」

「…………」

 疼きが大きくなった。ふ、と浮かんだ。

 ああ、簡単な話だ。

 わたくしがもっと悪い子だと知ったら、母はどうなるだろう?

 ――今は正当防衛だの理不尽に穢された怒りだの、無理矢理に理由を付けて納得している。だけど、手塩にかけて育てた我が子が、言い訳すらも許されないほどの『悪』だった場合は?

 ぞくぞくぞく!とあの叫び出したい感覚が走る。シナプスが弾け、電流が脳内にめぐり、アイデアと力が湯水のように湧く。 





415 ◆86inwKqtElvs2020/10/09(金) 18:29:58.73OB+0Ky3Z0 (10/11)



(もっともっと依存させて、突き放したらどうなるだろう?)

(もっともっといい子のふりをして、実は『悪』だったと知ったなら)

(その時に、もう自分一人しか、頼れるもの、支えるものがいなかったら――?)

 カチカチカチ、と歯が鳴った。

「アンナ……?」

「いえ、何も」

 平然を装った。それでも笑い出したくて止まらなくて、歯をカチカチと抑えるのに精いっぱいで、なのに異変に気付かない母は、なんて滑稽で、なんて――

(壊し甲斐があるんでしょう)

「お母様」

 だからアンナは、平然と嘘を吐く。

 父母を壊すという目的と、快楽を得るためだけの、『悪』い嘘を。

「わたくし、わからなくて、怖かったんですの。何も、知らないんですの。……だから、教えてくださいまし。どうか、わたくしに、『正しいこと』を」

「アンナ……、ええ、ええ、わかっていますとも。私だけは味方でいますから」

 その実は逆で、そのうちソフィアにはアンナしか味方がいなくなる。

 その時、自分の正体を教えよう。

 そして囁くのだ。


 
 ――《育成法》を壊したときに、耳元で、誰も味方のいない状態で、孤独に突き落として差し上げましょうね、お母様。



 もしこの時に、腰のあたりから出る湿った水音にソフィアが気付いていれば、歯のカチカチした音に気付いていれば、

 最悪は防げたはずだった。






416 ◆86inwKqtElvs2020/10/09(金) 18:33:39.44OB+0Ky3Z0 (11/11)

今更私個人の考えですが、

衝動って絡まっていて、多分壊したときにアンナ先輩は性的な快感も得ているはずです。っていうかそもそもが快感って性的なものですよね、うん


417以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/09(金) 18:54:31.08FOERipDV0 (1/1)

アンナ先輩は目的の為に手段を選ばないのか、手段の為に目的設定してるのか、どうなんだろうな


418以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/10(土) 12:03:22.99gzDRdjqvO (1/1)

快感は性的なものって……

それは人にもよるのでは?

プチプチシートで楽しくなることはあれど、別にエロい気分になったりしないし

美味いラーメン食っても同じ。そういう気分になれない
ソーマの世界観ならエロい気分になるかもしれないけど、ここは現実だし……


419 ◆86inwKqtElvs2020/10/10(土) 15:01:08.39Gkb2hePb0 (1/4)

あー、そういえばそうですよね。
アンナ先輩の場合は、性衝動より破壊衝動の方が厄介になってきました。性衝動は、狸吉がガス抜きする羽目になったんで。


420 ◆86inwKqtElvs2020/10/10(土) 20:14:02.12Gkb2hePb0 (2/4)



「たっだいまー」

「おかえりちんこ! まあ座って」

 幼稚園児レベルの下ネタに反応する元気もなく、僕はいつもの喫茶店に戻った。

 一週間ぐらいはアンナ先輩に襲われる恐怖に怯えなくて済むけど、それぐらいからアンナ先輩がいない恐怖が始まるんだよなあ。

「なになに? 射精管理の話?」

「しゃ……管理、ですか?」

 無表情に興味を示したのが不破さんだった。不破さん以外は《鋼鉄の童貞》を全員知ってるからね。

 不破さんの痴的好奇心は置いといて、アンナ先輩の家で起こった話をする。おおむね想定通りではあったけど、ソフィアがアンナ先輩と同居するかもという話にはみんな驚いていた。

「厄介だぜ……母娘そろってまあ」

「父親の方も侮れなさそうっスけどね。クソ親父と手を組むぐらいの奴っスからね」

「そうだ、これ、メモリー端末渡しとくよ。解析ってどれくらいかかるの?」

 持ち歩き用のサイバー端末にメモリーを差し込む。不破さんの顔が曇った。

「他にもパスワードとかあると思われるので、アンナ会長……元会長が戻ってくるまでには」

「そんなにかかるんかの?」

「情報量が多すぎるのと、専門外というのがあるので。あと他にやることも多いので」

 早乙女先輩の疑問に、不破さんが端的に答える。

「誰か手伝えそうな人っていないよね」

「こういう情報処理ができるのは《蟲毒試験管》ぐらいしかいないわね。あとはまあ、アンナぐらいだけど」

「なあ、あの化け物女、何ができないんだぜ?」

「鼓修理は割と得意そうだけど、こういうの」

「サイバー端末は苦手っスね」

 うーん、向き不向きがあるか。同じ情報でも処理の仕方が違うんじゃ仕方ない。

「どちらの情報を優先しますか?」

「祠影でお願い。ソフィアは味方でもないけど今は敵でもなく、行動原理がわかりやすいけど、祠影は完全に敵だもの」

 ふむ。と無表情に理解を示すと、今度は不破さんは僕の方に顔を向けて、

「それではわたしの頭脳を刺激するために、是非管理の話についてお願いします」

 あー、言わないとだめか、やっぱり。

「うーん、えっとね、男の愛の蜜って貯めれば貯めるほど濃くなるんだよ。で、はち切れそうになるんだけど、アンナ先輩はそれ以上に我慢して美味しくしろって言ってんの、わかる?」

「貞操帯ってのがあってね」

 貞操帯についてはPM無効化をして華城先輩が補足する。

「きっついんだよ、ほんっとにこれが、きついんだよ……」

「これは是非サンプルを採取したいですね」

「アンナ先輩に頼んでみたら? まず許可下りないだろうけど」

「ではこのメモリー端末は私のサイバー端末にも移しましたので」

 アンナ先輩の話になるとみんな揃って話をそらしやがる。






421 ◆86inwKqtElvs2020/10/10(土) 20:14:35.85Gkb2hePb0 (3/4)



「あ、アンナ先輩に電話しないと」


 ピピピピピピピピ


『奥間君? わたくしですわ』

 バン、バン!と聞いたことのある音が聞こえてくる。

「アンナ先輩、今何を」

『ジムでストレス発散を。はあ、奥間君と一日でも会えないと思うと、自分を律しようとしても難しく……これから自分を慰めようかと』

 いいですねオナニーができて!!

「アンナの下ネタは生々しいのよね」

 親友の華城先輩が頭を抱えていた。ネタじゃなく真実を言ってるだけだと思うけど、そこには突っ込まないでおいた。

『父が明日、お見合いをすると言っていて、ちょっと揉めてますの。安心してくださいまし、わたくしは奥間君一筋ですので』

「……え……大丈夫ですか?」

『大丈夫ですわよ? ちょっと会食して、気が合わないでお断りするだけですから』

「よくある話っスよ。化け、お義姉ちゃんなら大丈夫っス。何度もお見合いはしたことあるんスよね?」

 鼓修理は上流階級の娘だから経験はあるのか、気楽そうだった。

『ええ、まあ。すべて母が断っていたのですが、今回は母の立場が弱く、わたくしがかなり強く出ないといけないみたいですけども。なんとかなりますわ』

「ちなみに、名前は?」

『……奥間君は覚えてます? あの、パーティーの中にいた方ですわ』

「え゛」

 あのSMパーティーにいたやつかよ。まあ趣味や性的志向で人柄を判断するべきじゃないんだろうけど、あそこに入れるという時点でろくでもない気がしてならない。

『まあそれはわたくしたちもですが』

 そりゃそうか。

『それじゃあ奥間君、お気をつけて』

「アンナ先輩も。おやすみなさい」

 通話が切れる。相手の素性を大体説明する。

「クソ親父の関係者っスか……、一応調べておくっスよ」

「ありがとう鼓修理。今のアンナに不確定要素が入るのは避けたいもの」

「それは……、お見合い相手が慶介の刺客だと?」

「そこまでは言わないけど、考えすぎるに越したことはないわ。オナニーと射精管理はしすぎると大変だけど」

「ああもうぶり返すな!!」 

 アンナ先輩、大丈夫かな……。データも気になるし、まだいろいろひと悶着ありそうだ。




422 ◆86inwKqtElvs2020/10/10(土) 20:22:15.39Gkb2hePb0 (4/4)

狸吉→華城先輩に思いが無意識にあるが、アンナ先輩の責任を取らないといけないと思い込んでいる

綾女→狸吉とアンナ先輩がくっつくことで、自分は親友の隣にいたい、嫌われるよりかと考えている

ゆとり→狸吉とアンナの関係を恋愛だと認めていないが奪う勇気もないヘタレである

鼓修理→なんだかんだで今は綾女の補佐をしているのは鼓修理。一番ラッキーかもしれない。

不破さん→苦労人。好奇心は猫を殺すのだ。

早乙女先輩→割と原作のまんま

アンナ先輩→性衝動と破壊衝動の解放で狸吉以外との世界を望んでいない状態。
      他人を痛めつけることに快楽を得始めている。以前持っていた優しさはもうないのか……?


現状の説明みたいな感じです。心理状態はこんな感じ。
何かご不明な点はありますか? あれば答えられるなら答えたいと思います。



423以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/11(日) 11:50:08.25jVu/fsmnO (1/1)

じゃあ、質問。


月見草の他にアンナ先輩の監視役がいないのは何故ですか?

アンナ先輩の暴走は、月見草自身の判断能力が著しく欠如しているから判明が遅れたわけで。

(別に月見草を責めるつもりはないです。月見草に判断能力が欠如しているのは本人の責任じゃないし)

だったら、殺処分まではいかないにしろ、別の人間(大人のボディーガードとか)にもアンナ先輩の監視役を任せるのでは。


それと、アンナ先輩やソフィアが使っているジム用具は何製なんですか?

あの二人の実用に耐えるなんて、どっかの宇宙から持ってきた特殊鉱石か何かでしょうか。


424以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/18(日) 01:48:46.860L1ziWGsO (1/1)

またエタった?


425 ◆86inwKqtElvs2020/10/18(日) 15:57:14.99CFAhMFVI0 (1/1)

すまない、いるよ
ちょっと仕事が忙しかったのと、次どうしようかアイデアまとめてた。
質問に答えてないのは更新と一緒にまとめてしようと思ってた。
どこをゴールにするか迷ってる感じかな、すみません。