1 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/02(金) 23:39:36.93442T1LL5o (1/1)

このスレは安価で

乃木若葉の章
鷲尾須美の章
結城友奈の章
  楠芽吹の章
―勇者の章―

を遊ぶゲーム形式なスレです

目標

生き抜くこと。


安価

・コンマと選択肢を組み合わせた選択肢制
・選択肢に関しては、単発・連取(選択肢安価を2連続)は禁止
・投下開始から30分ほどは単発云々は気にせず進行
・判定に関しては、常に単発云々は気にしない
・イベント判定の場合は、当たったキャラからの交流
・交流キャラを選択した場合は、自分からの交流となります

日数
一ヶ月=2週間で進めていきます
【平日5日、休日2日の週7日】×2
期間は【2018/07/30~2019/08/14】※増減有

戦闘の計算
格闘ダメージ:格闘技量+技威力+コンマ-相手の防御力
射撃ダメージ:射撃技量+技威力+コンマ-相手の防御力
回避率:自分の回避-相手の命中。相手の命中率を回避が超えていれば回避率75%
命中率:自分の命中-相手の回避。相手の回避率を命中が超えていれば命中率100%
※ストーリーによってはHP0で死にます

wiki→【http://www46.atwiki.jp/anka_yuyuyu/】  不定期更新 ※前周はこちらに


2以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/02(金) 23:43:17.54ApSu2/+I0 (1/1)

立て乙


3 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 00:27:25.23QbAWLxztO (1/4)


√2015年07月30日 夜 学校


とても大きな地震が各地を揺るがした。

それはまるで今までの日常と交代したかのように、断続的に続く。

友人の一人は「揺れて怖かったね~」と、にこやかに言う。

知人の一人は「世界の終わりかもね」と、冗談めかして言う。

日本にとって、地震はある意味では死よりも近しい存在であると誰かが言っていた。

だからというわけではないけれど【どうせ大丈夫だろう】という考えが、

子供達にはあったのかもしれない

けれど、陽乃はどうしても不安だった。

確かに、まだ小学生の私でさえ数回経験するほどに日本には地震が多い

でも、いつものように治まってくれる。とてもそうは思えなかった

陽乃「……星が、見える」

「陽乃ちゃん?」

陽乃「見えない? 沢山の星が、少しずつ少しずつ」

「え~?」

避難所になっている学校の校庭、

暇を持て余している子供たちがまばらにいる中で、隣にいたクラスメイトの子が首をかしげる


4 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 00:54:47.81QbAWLxztO (2/4)


「星なんて、全然見えないよ?」

陽乃「そう?」

「気のせいじゃないの?」

陽乃「そう……なのかな」

陽乃はそれを完全に否定せずに、目を細める

見えないというのだから見えていないのだろう

少しずつ大きくなっているようにも見える、無数の星が。

久遠家は、古くからの巫女の家系であり、

とりわけ、陽乃には幼少期からみんなには感じ取ることのできない何かを感じ取れる力があった。

幽霊が見えるとか超能力が使えるなんていうものではなく、

ある種の直感めいたものだ

その予感は、よくよく当たる

良いことも悪いことも当たってしまうので、

今はそれを口にするべきではないのではないかと、陽乃は眉を顰めた


5 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 01:15:27.56QbAWLxztO (3/4)


陽乃「……」

何かが来る。

それは、ただの予感だ。

空に見える星々が、少しずつ近づいてきているように見えるのも、錯覚なはずだ

そうでなければいけない

そうでなければ――と、陽乃が考えを改めようとしたときだった。

陽乃「っ…・…」

「陽乃ちゃん?」

陽乃「……大丈夫」

陽乃……と、どこからともなく呼ばれた気がして辺りを見渡す。

母親の声ではなかったけれど、

不確かではあるけれど

聞き覚えがあるようにも思える――声。

「……あっ、流れ星」

陽乃「え?」

陽乃には相も変わらず見えている星が輝く空を指さして、校庭に出ていた子供たちが騒がしくなる。

星のなかった空に、現れた星

だからこそ流れ星だと評したのだろう。

嫌な予感が強くなる。


1、校舎の中に戻るように呼び掛ける
2、クラスメイトにみんなを屋内に避難させるよう言って、声のする方に向かう
3、大人を探して、校舎に戻るようお願いする
4、声のする方に向かう


↓2


6以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/03(土) 01:21:29.323bPvRyQPO (1/1)

この時間は下1で良いのでは?
ksk


7以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/03(土) 01:40:28.74ELf5e12nO (1/4)

2


8 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 01:48:02.95QbAWLxztO (4/4)


では本日はここまでとさせていただきます
明日はできれば早い時間から


9以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/03(土) 01:54:03.94ELf5e12nO (2/4)


なんかわすゆ時代の二次創作って見たことないからドキドキしてきた
どうしてもバッドエンドに寄りがちだよね


10以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/03(土) 06:20:38.36tAU9iYopO (1/1)


ついに始まった謎の多い陽乃さん編
世界は救えなくともせめて全員生存は目指したいところだな

あと上でも言われてたけど時間帯によっては下1~2を変えた方がいいかも


11 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 17:25:40.98GYQ2bJfeo (1/18)


では少しずつ


12以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/03(土) 17:33:48.10oB/qENMbO (1/4)

やったぜ


13 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 17:51:02.44GYQ2bJfeo (2/18)


陽乃「お願い……今外に出ている人みんなを校舎に戻して」

「陽乃ちゃん?」

陽乃「お願い……嫌な予感がする」

「嫌な予感って」

クラスメイトは半信半疑な様子で陽乃を見る。

小学生である陽乃の級友の男子生徒にも、時々意味深なことを言う子がいる

それはアニメか漫画かそれ以外の何かに影響されていて

その言葉通りに何かが起こるわけでもない。

陽乃「私はいかないといけないところがあるから、代わりにお願い」

「そう言われても……」

流れ星の賑わいは広がっていっていて

陽乃のお願いに反して、

校舎の中に戻るどころか校舎から出てくる人がだんだんと増えていく


14 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 18:07:21.27GYQ2bJfeo (3/18)


陽乃「お願いみんなを校舎に避難させてっ」

隣にいる少女だけでなく、

周りにいるクラスメイト達に聞こえるように声を上げる

陽乃一人で奔走しても、きっと間に合わない

急がないといけないといけないのに、嫌な予感がする

ただそれだけしか言えないのが辛い

陽乃は歯を食いしばって、激しく高鳴る胸に手をあてがう

みんな流れ星に夢中で、

陽乃が不安を感じているのを覆い隠してしまうかのように、

笑い声まで聞こえてくる

「陽乃ちゃん、大丈夫?」

陽乃「危ないの……本当に危ないんだよ……」


15 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 18:14:47.22GYQ2bJfeo (4/18)


↓1コンマ判定 一桁

0 00 失敗
1~5 成功
6~9 ぞろ目 大成功


16以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/03(土) 18:17:10.60oB/qENMbO (2/4)




17 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 18:46:59.59GYQ2bJfeo (5/18)


「大丈夫だよ~陽乃ちゃん。すぐに地震も治まるって」

陽乃「そういうわけじゃ――」

否定しようとした瞬間――大きく地面が揺れた。

校舎に出ていた子供たちの悲鳴が上がる。

「きゃぁっ」

立っていられないほどの揺れは、今までで一番大きかったかもしれない。

陽乃はその場に膝をついていつでも走り出せるようにと身構える

陽乃「だめ……」

十数秒も続いた揺れが収まるのと同時に、

陽乃は空を見上げると、強く歯噛みする

――間に合わなかった。

信じて貰えるほどの説得力を持たせられなかったのがいけない。

クラスメイトではなく、大人に言えば変わっただろうか

初めから自分で走り回れば変わっただろうか

陽乃「逃げてーっ!」

陽乃は次第に近づきつつある星々から周りへと目を向けて、叫ぶ


18 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 19:08:06.18GYQ2bJfeo (6/18)


「は、陽乃ちゃん……っ」

陽乃「早く立ってっ!」

隣で尻もちをついてしまっていたクラスメイトに手を差し出して、引っ張り立たせる

地震が起きたばかりで、狼狽えてしまっているみんなは、

陽乃の懸命な叫びにはっとして周りを見たが、そうではない

もう遅い、もう間に合わない

何かが来る

陽乃「校舎の中に走って……絶対に振り返らずに」

「でも、陽乃ちゃん……っ」

陽乃「良いから、早く!」

地震で倒れこんでしまった人たちの瞳には、きっとそれが見えたのだ

そして、気付いたのだ

空に見えていた流れ星が、決して星などではなかったことに

願えば叶えてくれるかもしれないなんてロマンチックなものではないことに

「ごめんなさいっ」

陽乃「急いでッ!」

――やがて、それらは降る


19 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 19:24:05.70GYQ2bJfeo (7/18)


星のように輝いて見えた体は人など押しつぶせてしまうほどに巨大で、

不気味なほどに白々としている

やや球体めいた体つきにはクラゲの足のようなものが垂れ下がっていて、

白さを際立たせる悍ましい口のような器官が、真っ逆さまに落ちてくる

陽乃「止まっていたらやられるっ!」

その場から急いで駆け出すのとほぼ同時に

真上からではなく横からその【何か】が突撃していく

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」

陽乃「だめっ」

あれだけ、にぎやかだった夜のグラウンドを突き抜ける悲鳴

爆発したかのような轟音を立てて、校舎から煙と破片が飛び散る

陽乃「お姉さんも早――」

「たすけ――ぇ゛」

降り注ぐ【何か】に腰を抜かしてしまっていた女性の体の上半分が、かすめた何かに持っていかれる


20 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 19:36:44.81GYQ2bJfeo (8/18)


下半分は、映画で鮫に喰われたそれのように血を噴き出すなんてことはなかった

ただただ、そこにはもう動かすべき存在がいないことを表すように力なく崩れて

次第に、血が広がっていく

陽乃「なん、で……」

そして、まるで公園に投げられたパン屑に集まる鳩のように

そこには【何か】が集まって……食い散らかす

陽乃「っ……やめて、やめてよ……なんで……っ」

『くふふっ』

陽乃「っ」

笑い声が聞こえる

どこかから、この状況を楽しむかのような声が

『宴じゃ宴、余興の始まりじゃぞ、主様や』

陽乃「誰……誰なの……」

『足を止めたら――喰われるぞ?』

陽乃「!」

慌てて横に飛ぶと【何か】がその場所に突っ込み、

その爆風にも似た突風に陽乃の体が少しだけ飛ばされる


21 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 19:53:25.46GYQ2bJfeo (9/18)


陽乃「はっ……はぁっ……はっ」

響いていた悲鳴はいつの間にか止み、

広い校庭に生きている人間は陽乃だけになっていた

少なくとも一クラス分の子供達がいたはずなのに――もういない。

逃げ切れた人はいただろうか

どこかの建物に逃げ込んで、助かった人はいただろうか。

陽乃「みんな……っ」

陽乃の隣にいた子は、きっと体育館に逃げ込んだだろう

間に合っていれば、きっと

その体育館には大量の【何か】が群がり、

押しつぶせるはずの脆い建物の周りを漂って、

時折体をぶつけて揺らし、中から聞こえる悲鳴を楽しむようにゆらゆらと蠢く

『救いたいかや?』

陽乃「……出来るの?」

『妾ならば。妾を主様が扱えるのならば』


1、助けて貰う
2、断る

↓2


22以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/03(土) 20:01:03.61ELf5e12nO (3/4)

1


23以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/03(土) 20:05:36.90E1v/HvWn0 (1/2)

1


24 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 20:38:50.34GYQ2bJfeo (10/18)


その声の主が誰なのか陽乃は分からない。

もしかしたら悪魔囁きかもしれない。

この事態がそもそもその声の主によって引き起こされた可能性だってないわけではない

そう疑ってしまうほどに、怪しくて

けれど

今、この状況を打開できるのなら――と陽乃は思った。

鬼が出るか蛇が出るか。だとしても

陽乃「お願い……力を貸して」

『よいのかや? その判断で良いのかや?』

怪しく、惑わすようにそれは声を聞かせてくる

頭の中を震わせるような、少し気味悪くさえ感じるような声色

なにより――愉しんでいる声を。

陽乃「助けられるのなら、助けたいから」

『くふふっ、せからしい小娘じゃ。良いのう、良いのう……どれ、死ぬ出ないぞ』


25 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 20:46:23.05GYQ2bJfeo (11/18)


その女性らしき声が唐突に掻き消えて、

陽乃は空気が変わったのを感じ取って、体を強張らせた。

蠢いていた【何か】もそれに気付いたのか動きを止めて陽乃へと向く

陽乃「っ……」

ぞわぞわと総毛立つような不快感

良くないものを口にしてしまった時のように

内側から遡ってくる嘔吐感に似た気持ちの悪さ

『主様の願いを、叶えてやろう』

陽乃「ぇ……」

その声の主は、大きな狐の姿をしていた。

半透明に透けてはいるが、黄金職の毛並みがきらきらとしていて、

逆立つ尾は、九つ

ゆえに与えられた名は――九尾。

『呆けていては、喰い殺されるぞ?』

陽乃「っ!」


26 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 21:01:19.02GYQ2bJfeo (12/18)


動きを止めていた【何か】は陽乃を危険と判断したのか

複数の【何か】は一か所に集まりだして、その形をより大きく変えていく

それは変異ではなく進化

人よりもはるかに秀でた体躯をもつ【何か】が

人間である陽乃を自分以上の化け物だとでも感じたかのような急成長

陽乃「あれは……」

『主様や、人を救いたくば――受けるしかないぞ?』

集合した【何か】は体表面を刺々しく変質させていて

丸々としていた部分はどこにもなく、弓のように形を変えている

九尾はそれが何をしてくるのかを察しているようにほくそ笑む

陽乃「……後ろは」

学校の周辺には、住宅地

陽乃が躱せば、その後ろが吹き飛ぶのだろう

陽乃「本当に、貴女の力を使えば守れるんだよね?」

『主様が扱えるのならば』


27 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 21:11:34.69GYQ2bJfeo (13/18)


襲来した【何か】が進化していったのとは逆に、

一見、陽乃の身体には何の変りもない

小学校に通うのにも良く使う、動きやすい普段着

けれど九尾が出現する直前に感じた不快感は体に纏わりつくようにして今も残っている

九尾の力はきっとそれだろうと陽乃は判断する

人を惑わし、壊し殺すことを愉しむ妖狐

その力は幻惑か

あるいは――

陽乃「!」

考えもまとまらないうちに【何か】は光を放つ

矢とも形容されるそれは陽乃めがけてまっすぐ突っ込む

ただ人ならば、触れることもままならない

掠めるだけでも肉が飛ぶ

そんな人智を超えた【何か】の力を、陽乃は左手の甲ではじく

弾かれた矢はグラウンドの中央にまで逸れて突き刺さり、爆発する


28 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 21:32:40.43GYQ2bJfeo (14/18)


陽乃「えっ」

『呆けておる余裕があるのかや?』

陽乃「っ!」

矢のような形状をしている【何か】は次の矢を打ち出すべく動き出している

自分の不可解な力に驚く余裕も、喜ぶような余裕もない

陽乃は意を決して駆け出す。

陽乃の手には投げるような武器はなく、体一つ

倒すためには肉薄しなければならない

じりじりと動く弓のような形をした【何か】は矢を備えて――射出する

近づいた分、斜めに打ち出された矢を真っ直ぐ駆け抜けて過ごし、

背中にぶつかる暴風を追い風として

目の前にまで迫ったところで左半身を前に、体にブレーキをかける

グラウンドの細かい砂利に滑る足をつま先で何とか保ち――

陽乃「ふっ」

急制動の勢いを乗せた蹴りで【何か】を撃ち抜く


29 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 21:42:37.54GYQ2bJfeo (15/18)


あまりの勢いに一回転しかけた陽乃は、

下部の消し飛んだ【何か】がそのまま崩壊していくのを見送る

陽乃「ふぅ」

急な体の動きにも、息が上がっていない。

ただ身体が強化されただけではないだろう

陽乃「ねぇ――」

九尾の狐がいたところには、もう何もない

あちこちには、喰い殺された人がいた証が散らばっていて

住宅街の至る所から、火の手が上がっているのが見える

陽乃「もう……いない?」

学校とその付近に降り注いだ【何か】は

陽乃をただ殺すだけに集合してくれたのが幸いし、掃討することが出来た

その後も陽乃は、体育館からは絶対に出ないようにと言い残して

自分ならば戦うことが出来るからと、街へと駆けだした。


30 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 22:22:05.45GYQ2bJfeo (16/18)


県内に降り注いだ【何か】はもうおらず、

空に見えていた星も今はその景色が嘘であったかのように真っ黒になるころ、

陽乃は人のいない公園のベンチで休んでいた。

陽乃「帰らないと……」

陽乃が住んでいるのは、

島国である日本の中のさらに島国ともいる四国

その北西に位置している愛媛県

代々受け継がれてきた久遠家の神社は、瀬戸内海に面している伊予市にある

陽乃の体が強化されていると言っても、走り回れば流石に疲弊する

陽乃「……」

学校で姿を見せて以降、九尾の狐は声すら聞かせてはくれない

力を与えている間は姿を見せられないのかと陽乃は思ったが、

一番最初の時点でそんなことはなかったので、そんなはずはない

ただ、姿を見せる必要がないだけだろう

『主様』

陽乃「へぇっ!? な、なに?」

『このまま、学校とやらに戻るのかや?』


31 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 22:31:53.16GYQ2bJfeo (17/18)


学校には、かなりの被害が出ている

人命的な意味でも、建物の意味でも

今頃、周囲のより多くの人たちが避難所として利用するために集まってきていることだろう

降り注いできた【何か】は今はいないので、一先ずそれで問題ないだろうし、

陽乃が今すぐ戻らなければならないということもない。

陽乃「私のお母さんが、巫女をしているの」

『ほう?』

陽乃「お母さんはね、巫女だからって神社に残っていて……」

『主様が行くか迷い、被害がないとみて避けた道の先にある所かや?』

陽乃「見てたの?」

『うむ……少し違いはあるがのう』

九尾の狐は姿を見せず、声だけを聞かせる

他の人に声が聞こえていなければ、

独り言を言っているように見えるのかと、陽乃は少し、困った顔を浮かべて

『主様、神社に行くのかや?』


1、学校に行く
2、神社に行く
3、もうしばらくここにいる

↓2


32以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/03(土) 22:33:47.80E1v/HvWn0 (2/2)

ksk


33以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/03(土) 22:35:10.45oB/qENMbO (3/4)

2


34以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/03(土) 22:37:34.32ELf5e12nO (4/4)

1


35 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/03(土) 22:47:19.82GYQ2bJfeo (18/18)


ではここまでとさせていただきます
明日もできればお昼ごろから

もう少しだけ7/30


36以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/03(土) 23:04:25.75oB/qENMbO (4/4)


ついこの間まで優しい世界の話がずっと続いてたせいか久しぶりに緊張感溢れる展開のギャップが凄いなぁ
そして尖ってたころの九尾も初期の不気味さが懐かしく感じたわ


37以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/04(日) 00:31:55.11KA4Lnrg3O (1/1)


ここから天乃の記録に残ってたみたいにダウナーになってくのかそれとも別の時間軸になるのか


38 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 13:21:10.076v3Hokh5o (1/34)


では少しずつ


39 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 13:28:39.346v3Hokh5o (2/34)


陽乃「神社に行く」

『良いのかや?』

陽乃「もう、あの怪物はいないし……学校は大丈夫だよね?」

『一先ず治まったと考えても良かろうな。無論、絶対にとは言えぬがのう』

陽乃「……」

くつくつと喉を震わせるような笑い声を九尾の狐は漏らす。

沢山の人が亡くなった。

少なくとも学校の校庭に出ていた人の大半が喰い殺されてしまったことだろう

悲劇ではなく、惨劇

悲しいという言葉ですら侮辱にも取られてしまう現実味のないあまりにも乖離した光景が

頭の中にこびりついて離れない。

けれどそれがかえって、陽乃を冷静にさせている。

戦うことのできる自分が伏しては被害が広がる恐れもあったからかもしれないけれど

悲しみに暮れるようなことはなかったのは、

突如現れ、暴虐の限りを尽くさんとした【何か】に対しての怒りと焦りが湧いていたからだ。

戦いがひと段落ついた今でも、

喪われてしまった――と、空虚な感覚が残るばかりで、悲しさは薄い。

とはいえ、おかしく笑われるのは気持ちの良いことではない


40以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/04(日) 13:32:16.16Qz5gU/88O (1/3)

久々に昼きたー


41 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 13:45:40.446v3Hokh5o (3/34)


陽乃はどこにいるのかも分からない九尾に向けて、眉を顰める。

陽乃「あまり笑わないで」

『人ならざるものである妾に、有象無象の死を憂えることを望むのは聊か過ぎたことであろう』

聞く耳を持たない訳じゃない。

だが、あまりにも理念も思想も感性も違えている。

人が路上に転がる虫の死を悲しむことがないように、

九尾の狐は、どれだけの人が死のうと関係はないのだろう。

それに異を唱えるのは傲慢と言われるかもしれない。

陽乃「ごめんなさい」

『くふふふふっ、よいよい。今日の妾は気分が良いからのう。気にはせぬ』

鈴のように響く声で笑う九尾の狐

彼女は伝承上の妖狐であり、現実には存在していないはずの生き物だ。

それが、ほんの少しだけとはいえ姿を見せ、

今もなお声を聞かせている

夢だと思いたいけれど、まぎれもなく現実

陽乃は【何か】もその類の存在なのではないかと、考えてベンチから離れる


42 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 13:58:00.416v3Hokh5o (4/34)


陽乃「ねぇ、貴女はずっと私と一緒に居たの?」

『妾は久遠の巫女に憑きしもののひと柱よ。主様のみならず、常に妾は共におるぞ』

陽乃「九尾……さん。で良いんだよね?」

『妾が九尾の狐であるのかどうかという問いならば、然り。呼び名ならば好きにするがよい』

不敬でなければ気にはせぬ。と。

九尾の狐は笑いながらに付け加える

人とは違う感性を持っている九尾の不敬に当たる境界線はどこにあるのか

それを見つけられそうになかった陽乃は、九尾を呼ぶのを諦める

陽乃「貴女は神様の遣い? それとも、悪い妖怪?」

『妾が悪しきものならば、善きものであると嘯くやもしれぬ』

そう言った九尾はくつくつと笑って、

『妾が善きものならば、善きものであると主様を安心させようとするであろう』

九尾の狐は、日本においては玉藻の前としても伝わっていたりする他に

悪しきものとされていることもあれば、神獣として崇められていることもあり、

本当の九尾の狐というものが曖昧になって伝わってきてしまっている。

悪しきものであれば、陽乃は悪魔との契約をしたことになるし

もしも神獣であるならば、陽乃は神々と契りを結んだことになる。

陽乃「分かった。なら、善い人だって信じてる」

『良いのかや?』

陽乃「良くても悪くても、貴女は死ぬしかなかった私達を助ける力を貸してくれたから」

たとえ腹の底で悪意を煮詰めているのだとしても

陽乃には、それを探り当てるほどの疑り深さが欠けていた。


43 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 14:26:09.316v3Hokh5o (5/34)


陽乃「あれ……?」

公園から歩いて十数分

神社へと続く路地には何台もの車が停まっていた。

車一台分の道。

大型車なら通れないような細い道すらも埋めてしまうような乱暴な車の停め方

電柱などにぶつかった事故らしいダメージも見当たらないので、

意図的にそうされていると考えるべきだろう。

参拝するにしては――乱暴だった。

陽乃「あんなことがあった後だから、急いでいたのかな?」

『ふむ……』

人々にとってはあまりにも理不尽に多くの命が奪われた

老若男女、善悪問わずそれが取るに足らない一単位として奪われた。

そんなことがあったのだ、

近くの神社に駆け込み神々に何故と問うことも決して錯乱とは言い難い。


44 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 14:45:37.416v3Hokh5o (6/34)


凄惨な災害の後だから、仕方がないと陽乃も思う。

今陽乃が冷静でいられるのだって、

自分に戦う力があるからであり、

それゆえに、決して心折れるわけにはいかないと思っているからだ。

そうでなければ自分が死ぬ。

それはまだいい。

自分の無力さで奪われるのだから、抗い敵わなかった結果だ。

だが、自分が奮い立てば守れたはずの命を奪われるのだけは認められなかった。

信憑性のない言葉で促すのではなく、

自ら動いていれば救えたかもしれない多くの命が目の前で奪われた。

断末魔の叫びが今も耳に残っている。

救いを求め、伸ばされた手がボトリ……と、落ちるのを見た。

死んだばかりの――生々しい血肉のにおいが、まだ鼻をつく。

そんなのは嫌だ。それはもう嫌だ。

だから、陽乃は今もまだ立っている。

陽乃「こんな停め方されちゃうと、通れないのに……」


45 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 14:57:37.086v3Hokh5o (7/34)


道を遮断するかのように止められている車の周りを軽く歩いて、

坂道になっている側にあるガードレールを軽く触る

足を踏み外せば下水に真っ逆さまだが、何とかなる……と陽乃は思って

その反対側、塀になっている部分をよじ登る

『何をしておる』

陽乃「向こう側に行きたいの」

『そんなもの、その邪魔なものを壊せばよかろう。主様に与えた力を使えば優に破壊できよう』

陽乃「嫌だよそんなの。この力は守るためのものだよ。傷つけるためになんて」

『それは人間ではあるまい』

陽乃「壊された人が、傷つくの」

『そういうものかのう』

理解出来ないといった様子の九尾の狐の吐息に、

陽乃は小さく笑って、車を越えた先の道に飛び降りる


46 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 15:04:15.616v3Hokh5o (8/34)


↓1コンマ判定 一桁

奇数 選択なし
偶数 選択あり


47以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/04(日) 15:17:58.13Qz5gU/88O (2/3)




48 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 15:44:32.316v3Hokh5o (9/34)


『……なれば、学ぶがよい』

陽乃「え?」

九尾は含みのある言葉を言い残して何も話さなくなった。

元々姿を見せてはくれないので、

そこにいるのかいないのかもわからなかったが、

声が聞こえなくなると本当に消えてしまったかのように思えるが

九尾から力を借りて以降、

色濃く感じる淀んだ雰囲気は陽乃の傍に漂っている

陽乃「学ぶって、なにを?」

しかし聞いても九尾は何も言わない。

陽乃は不思議に思いつつ、

ただ意味深に言ってみただけなのかもしれないと、考えて。

歩きなれた神社までの道を進んでいく

そして――

陽乃「あの、みなさんどうし――」

陽乃が壊さなかった車の持ち主によって、捕まった


49 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 16:07:58.356v3Hokh5o (10/34)


「……戻って、来てしまったのね」

陽乃「お母さん、なに? なんなの? 私達、どこに……」

逃げられないようにだろう

両手足を拘束された陽乃は、車の荷台へと押し込まれた。

そこには陽乃の両親もいて、

ほかの車には久遠家の親族が乗せられているらしく、

久遠家に関与しているみんながどこかへ連行されているのだという。

愁いを帯びた表情を見せる母親は、

巫女の装束に身を包んでいて

「貴女には、学校にいて欲しかった」

陽乃「何か知ってるの?」

「何が起きたのかは知らない。けれど、なにが起きるのかは、知っているの」

母親は揺れる車の荷台でなんとか体を起こして、

陽乃の方に目を向ける

「陽乃ちゃんが昔に読んじゃった本を覚えてる?」

陽乃「おばあさまが凄く怒っていた本?」


50 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 16:34:14.956v3Hokh5o (11/34)


母親は軽く頷くと、車が停まる

「怒ったのは、貴女が【人身御供】という言葉に興味を持ってしまったから」

陽乃「ひとみ、ごくう?」

「久遠家の先祖は神降ろしにおける、依り代の役割を担っていたの。その話に、触れそうだったのよ」

母親はむしろ止めずに聞かせてしまうべきだったかもしれない

そう、後悔したように首を横に振る

知らせていれば、母親がなぜこんな時に神社に残る必要があったのか

その話もできただろうし、陽乃に戻ることを躊躇わせることだってできたかもしれないからだ。

「依り代は、言い換えれば生贄のようなもので、私達は……捧げられる」

陽乃「さ、捧げられるって……」

「あと少し……あとほんの少しだけ貴女が寄り道をしていてくれたら」

母親は今さら言っても仕方がないことを呟き、

そうして、諦めたように目を閉じる

陽乃「お母さん、私……私ね。戦えるんだよ……降って来た化け物と。だからっ」

「陽乃ちゃん……それは、本当なの?」

陽乃「本当っ、本当だよっ、だからお話してやめて貰おうよっ、お願いっ」


51 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 16:40:38.196v3Hokh5o (12/34)


「ううん、それは駄目なの。どう話しても無駄よ」

陽乃「そんなことっ」

「根強い信仰心は、こうした時に牙を剥く。それこそが救いであると、疑いの欠片もない」

母親は囁くように零して、

しかし、陽乃のことを見て申し訳なさそうに笑みを浮かべた

「でも、貴女が神様に見初められたのなら……失うわけにはいかない」

陽乃「お母さん……」

「何とかするから、大丈夫」

心配しないでね。と、母は笑う。

陽乃が転んで怪我をしたときに「痛くない、痛くない」と

頭を撫でてくれていた時のように。

気持ちを和らげようとしてくれているその優しさに、

陽乃はどうしようもなく心がざわつくのを感じた

「お母さんに、任せて」

陽乃「っ……」

力を入れても、手を縛る紐はまるで緩む様子がない

九尾の力も使えないただ人では、大人のきつい拘束はどうにもできなかった


52 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 17:02:52.216v3Hokh5o (13/34)


陽乃達を乗せた車は、

法定速度も守らず、人がいなければ信号で止まることさえもせずにひたすらに突っ走った。

そうして久遠家の神社から約2時間ほどかけて辿り着いたのは、

愛媛県にやや隣接している香川県から

さらに、瀬戸大橋と呼ばれる大きな橋を越えた先にある岡山県

放り投げられるようにして降ろされた陽乃達の目に映ったのは、

酷く崩壊している街並み

人がいるような気配は殆どなく、

あちこちで火災も起きているというのに――消防のサイレンも聞こえないような状態だった。

そして、そんなゴーストタウンと化した街には【何か】が代わりに漂っている。

陽乃達を放り出すや否や、

お役目なのだと告げた人たちは拘束も解くことなく大橋の方へとまた逃げ帰っていく

泣き叫ぶ陽乃と同年代の子供達

せめて、子供だけは助けようと必死にもがく大人たち

叫び声に気付いたのかにおいに気付いたのか

漂う【何か】が次から次へと向かってくるのが見えて、絶叫がより大きくなっていった


53 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 17:31:46.576v3Hokh5o (14/34)


陽乃「お願い……力を、力を貸して……」

「ごめんね、貴女に辛い思いをさせてしまう」

陽乃「お母さんっ」

母親は陽乃の後ろに這って回ると、

陽乃の手首を結ぶ紐に噛みついて湿らせ

首だけで左右に引っ張って解こうとする

陽乃「お願い、お願いだから……っ」

九尾からの返答はない

傍に居るはずなのに、

まるで自分には関係ないことであるかのように、沈黙している

「手を、動かして」

陽乃「っ……」

言われるままに、手を動かして少しだけ緩んだのを感じて強引に動かす

ぬるりとした感覚に手首が滑って、ささくれ立っていた紐を無理矢理にすり抜ける

指の関節から嫌な音がしたが、関係なかった

陽乃「九尾ーっ!」

そして――叫ぶ。


54 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 17:38:33.776v3Hokh5o (15/34)


纏わりつくような不気味な感覚がまたふつふつと沸き立っていくそぶりを見せたが、

しかし、それはまたなりを潜めて

『よいのかや?』

陽乃「何がっ」

『妾の力はきゃつらの好物。ゆえに、使えば――狙われるぞ?』

ようやく反応を返した九尾は、

相変わらず状況を愉しんでいるような声色で問う

陽乃はだから無反応だったのか。と、はっとした。

陽乃が力を使えば走行中の車からだって脱出はできただろう

しかし学校でそうだったように

化け物たちは白い球体上の体を寄せ集めて進化し、

より凶悪な化け物となって姿を見せることだろう。

陽乃ならそれもなんとかできるかもしれないが、みんなを護れるという保証はない


1、力を使って戦う
2、力を使わずに、拘束を解いて逃げる


↓2


55以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/04(日) 17:41:59.39Qz5gU/88O (3/3)

1


56以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/04(日) 17:45:57.58BmGFQASo0 (1/5)

1


57 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 18:13:28.096v3Hokh5o (16/34)


陽乃「それでも私は戦うっ!」

『ほう』

陽乃「戦っても戦わなくても奪われるなら――戦わない理由なんてないっ」

化け物がまとまって強大になってくれるなら、

戦う相手が一つになって寧ろいい。

もしかしたら守れないかもしれないが、

ここで戦わない選択をしたら、結果は変わらない。

だったら、少しでも救えるように戦うべきだと陽乃は思って

陽乃「お願い九尾、私に力を貸して」

『……良かろう。主様の望むままに』

体中に満ちていく不快感

今にも突撃しようとしていた化け物たちが動きを止める

足を拘束していた紐を片手で引きちぎって、立ち上がる

「陽乃ちゃん……」

陽乃「大丈夫だよ。お母さん。私、戦えるから。頑張れるから」


58 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 18:28:45.206v3Hokh5o (17/34)


不安がないと言えば嘘になる

怖くないと言えば嘘になる

けれど、今ここで膝を折ったら奪われたくない大切なものを奪われてしまう

だから、抗う

陽乃「おか――っ!」

突撃してきた化け物を反射的に殴り飛ばして、破壊する

陽乃以外のみんなはまだ拘束された状態で、とても逃げられるような状態ではない

拘束を解こうにも、

化け物が突撃してくるため一人を解放するのにも時間がかかる

その間にもほかの人が襲われることになるだろう

陽乃「お母さん……」

今傍に居るのは母親一人、父親は少し離れた場所だ

『呆けておる場合かや?』

陽乃「っ!」


59 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 18:54:18.636v3Hokh5o (18/34)


九尾の声にはっとして、慌てて突撃を回避する

蠢いている化け物は、今のところ7匹ほどだ

時間をかければかけるほど集まってくることだろう

陽乃「はっ……はぁ……」

どきどきと、異常なほどに心臓が脈打つ

まだ動き出してもいないのに、もう持久走を二周分行ったかのような疲労感がのしかかる

陽乃「大丈夫、私は……戦えるん、だからっ」

拳を握る

抗えるは己の身一つ

陽乃「はぁーっ」

深く息を吐いて、身構える

周りを漂う化け物一匹一匹に気を張り巡らせて、警戒する

ゾクゾクと体の内側で沸騰しようとしている不快感を、飲み込む

陽乃「まだ、戦える」


参考MAP:
https://i.imgur.com/OxMHybw.png


60 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 19:03:03.346v3Hokh5o (19/34)


↓1コンマ判定 一桁

0 00 失敗
1~5 通常ダメージ
6~9 成功
ぞろ目 大成功

※敵→陽乃


61以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/04(日) 19:04:19.68BmGFQASo0 (2/5)




62 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 19:07:07.186v3Hokh5o (20/34)


↓1コンマ判定 一桁

0 00 失敗
1~5 通常ダメージ
6~9 回避
ぞろ目 大成功

※陽乃→敵


63以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/04(日) 19:09:33.29BmGFQASo0 (3/5)




64 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 19:41:03.596v3Hokh5o (21/34)


化け物の攻撃は、とても単調なものだった。

方向だけは当然ながら上も左右も自由自在だが、

集合体にさえならなければ――行ってくるのは突撃ただ一つ

陽乃「!」

周囲に気を配り、動きを見せた化け物へとすぐに向き直って、

人がいない方向を背にして、横っ飛びに回避する

陽乃「っはっ」

化け物攻撃は早いだけのタックルだ。

当たれば即死しかねない――アクセル全開の車のような危険度だが、

陽乃とて、常人ではない。

当たっても耐えられることは耐えられるし、その速さには対応できる

しかし問題は攻撃する場合だ

陽乃は武術を多少嗜んでいるが、本腰を入れているわけではない

ただ、好きだからと触れた程度の力

それでは――弾丸には届かない


65 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 20:17:10.296v3Hokh5o (22/34)


振りぬいた拳は空を切る

恐れてはいない

食い千切られる覚悟で握った拳だ

けれど、それでは届かなかった

愛媛に現れていた個体よりも、

少しばかリ知恵のついている個体なのか、

陽乃の拳を避けて背後に突っ込んでいったのだ

陽乃「避けられたっ!」

振り返ろうとした陽乃めがけて、また別の個体が突撃する

それを回避した先で、また別の個体が突撃してくる

次から次へと、

突撃してくる化け物を避けている間に、

別の市街を襲っていた個体が陽乃のもとへと集まっていく

『主様』

陽乃「分かってるよっ!」


66 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 20:23:36.896v3Hokh5o (23/34)


力が足りない

手が足りない

みんなを護りたいという傲慢さを叶えるには――陽乃は弱すぎる

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ」

陽乃「っ!」

「こっちに来ないでーっ!」

陽乃「やめっ……」

一人、また一人

陽乃の相手をしない個体が、陽乃の見知った人々の命を奪い去っていく

押しつぶされ、砕けていく骨の音

食い千切られ、崩れ落ちる肉の音

その家族の絶叫があたりに響き渡って――また、消えて

陽乃「なんでっ、なんでなんでなんでッ!」

『主様』

陽乃「私はここにいるのにっ! 貴方達の好物はここにあるのにっ! 殺すなら私を殺してよッ!」


67 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 20:36:26.776v3Hokh5o (24/34)


『騒々しいぞ小娘』

陽乃「っ」

急激に全身に絡みついてきた不快感と

腹の底から湧き上がってきた形容しがたいそれに、

陽乃は叫ぶことすらできなくなって崩れ落ちる

陽乃「あ……あ゛……」

ポタポタと、赤色の液体が口元から滴り落ちて

鉄臭さが鼻をつき、味覚を汚染していく

身体が砕けてしまうのではないかと思うほどの疲労感

陽乃「な……ぇ……?」

『代償もなしに、妾の力が扱えると思うておったのかや?』

陽乃「っ……」

『全てを救おうなど、出来ぬと知れ』

陽乃「それ……でもっ!」

立とうとした膝が震えて崩れる。

どれだけ強い意思があろうと、成し遂げられないことがあるのだと言うかのように、動きが鈍い


68 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 20:38:11.586v3Hokh5o (25/34)


↓1コンマ判定 一桁

0 00 最悪
1~4 悪い
5~9 普通
ぞろ目 最良


69以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/04(日) 20:40:13.29BMtjKoJTO (1/1)

たのむ


70 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 20:52:11.216v3Hokh5o (26/34)


「陽乃ちゃん……駄目よ」

陽乃「駄目じゃ、無いもんっ」

「お願い、貴女だけでも……」

陽乃の傍にいた母親は、まだ無事だった。

その分、

陽乃から離れていた親戚が次から次へと標的となって、

陽乃と同年代だった男の子も女の子も

その兄姉弟妹も喰われてしまっている

陽乃「嫌だ……絶対に嫌だっ!」

けれど、まだ生きている人はいる

みんなを救うためには、陽乃が戦って敵をすべて倒すしかない

しかしすでに戦い続けてきたその体

疲労はピークに達していて、九尾の力を身に纏う影響もで始めている

ふらつく体では、もはや母を抱えては逃げ切ることさえままならないだろう。


71 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 21:10:07.966v3Hokh5o (27/34)


『初めてにしては、主様はようやっておる』

陽乃「まだ終わってないっ!」

『まだなじみの薄いその体で無理をすれば、主様が滅びるぞ』

陽乃「それでも私は……っ」

戦えるのは陽乃一人なのだ

我が身可愛さにここで逃げたら、諦めたら――

陽乃「後悔なんてしたくないっ!」

『明日死するものが今死するだけのこと。それを守り己が死ぬ意味などあるのかや?』

陽乃「いつ死ぬか分からないなら、守る意味はあるよ」

崩れそうになりながら、立ち上がる

震える体を、歯を食いしばって耐え抜いて

吐きかけた血反吐を、まだ体を動かせと飲み下して

「無理をしてはだめっ貴女は……貴女達は人類の希望なのよ。こんな場所で失われては」

陽乃「私をぉぉぉぉぉぉぉ――見ろぉぉぉぉぉッ!」


72 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 21:11:35.016v3Hokh5o (28/34)

↓1コンマ判定 一桁

 0 00 失敗
 1~4 回避
 5~9 成功
ぞろ目 大成功

※陽乃→敵


73以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/04(日) 21:14:55.33TEvGSoc5O (1/1)

はい


74以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/04(日) 21:15:20.94F6SU3HuEO (1/2)

頼む!


75以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/04(日) 21:19:16.33k9rvx/EEO (1/1)

ここでまさかのゾロ目


76 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 21:25:49.596v3Hokh5o (29/34)


今の自分に出来るのは殴ることと蹴ることのみ

ただ全力で、全開で

で、あるのならば。

アスファルトを打ち砕くほどに力強く――踏み抜く

陽乃「退いて死ぬくらいなら」

人智を超えた化け物の身体

体躯に見合わぬ非常識な速度

普通では届かない

頑張っただけでは届かない

だから。

陽乃「死ぬ気でぇぇぇぇぇ――」

踏み抜いた地面を抉るように蹴飛ばして、地を駆ける

滑空しているような浮遊感

瞬く間に近づく化け物の身体

自分の体が砕けてしまうかのような勢いをそのままに

陽乃「届かせてみせるッ!」

漂う化け物の体を、撃ち貫いた


77 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 21:38:54.466v3Hokh5o (30/34)


勢いは化け物を貫いても止まることなく、

陽乃の体は周りを吹き飛ばす突風を巻き起こしながらコンビニに突っ込む

ガラスの破片が体を切り裂く

衝突した棚の硬さにぶつかった場所が鈍い痛みを持ち始める

陽乃「はっ……ぁ……」

血が絶え間なく流れ続ける

身体の中から上り詰めてきた吐き気に、吐血する

頭が重く、体がふらついて眩暈がする

陽乃「げほっ……はっ……」

『お主』

陽乃「なせばなるんだよ……全部が全部は無理でも。大抵、何とかなるんだよ」

崩れ落ちるようにコンビニから這い出てきた陽乃は、

それでも、まだ化け物はいるのだろうと立ち上がる

陽乃「守るんだ……私が、私が……戦える、私が……っ」

体中に痛々しい傷跡を残し、

失血死していてもおかしくないほどに真っ赤に染まった少女の姿を、

化け物から逃げ伸びた人々の多くが、目にしたという。

親戚のほとんどを失い、父親を失い、生き残った子供たちはPTSDを発症してしまうなど

決して被害は少なくはなかったが、それでも――陽乃は母親を救うことが出来た


78 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 22:11:26.866v3Hokh5o (31/34)


2015年07月30日

その日、世界は化け物たちに蹂躙され奪われてしまった。

多くの命と居場所を失い、

ごく限られた場所に、人々は逃げ伸びた。

陽乃達のいる四国を除けば、

長野などのごく一部の地域のみだという

陽乃の母親曰く、八百万の神々が力を貸し与え、

人々を護る聖域を作り、見初められた者を守護者として守っているらしい。

目に見えていない場所の真偽は不明だが、

少なくとも、四国には陽乃以外にも何人かの神々に見初められた少女がおり、

それらを、政府の任命によって表に出てきた【大社】と呼ばれる組織は、勇者と呼んだ。

陽乃の母親は、勇者と呼ぶことには不服だったそうだが、

しかし、プロパガンダ的な意味合いを除いたとしても、勇者と呼ぶべきであるとされたようだった。


79 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 22:26:28.426v3Hokh5o (32/34)


その大社によって、

勇者とされる子供達には招集がかけられることとなった。

香川県にある丸亀城を本陣として、

そこを改築して居を構え、勇者の鍛錬を含めた育成施設にする算段だという話だ。

陽乃の母親は

傍に置いておいた方が子供としては精神面に優しいのではと訴えたが

やはり、それも却下された。

組織の統治下にない強力な力があるのは危険だからだろう。と、

九尾はつまらなそうに鼻を鳴らしていた。

陽乃は多くを失う結果にはなったが、

それでも、本当に守りたかったものは守ることが出来た。

しかし、悔いはある

まだまだ弱くて役に立たないと苛立ちがある。

陽乃「私、もっと頑張るから。もっともっと、頑張って……今度は誰も死なないように、頑張るよ」

だから、陽乃は立ち止まろうとは思えなかった。

たとえ、化け物と戦い血に塗れボロボロになって――それでも立ち上がる姿が【バケモノ】と言われていようと。


80 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 22:27:38.736v3Hokh5o (33/34)

分岐点。

1、四国に残留
2、長野に向かう

↓2


81以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/04(日) 22:32:06.07W1/ckQ9YO (1/1)

1


82以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/04(日) 22:33:02.36BmGFQASo0 (4/5)

1


83 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/04(日) 22:36:09.056v3Hokh5o (34/34)

では本日はここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


84以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/04(日) 22:42:53.60BmGFQASo0 (5/5)


陽乃さんのお母さん救えるとは思わなかったから驚いた…
それに陽乃さんも今までの心を病んでるイメージが覆りそうで予測がつかないな


85以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/04(日) 22:50:03.22F6SU3HuEO (2/2)


陽乃ちゃん(小6?)が初っぱな命削っててヤバい…これは天乃の御先祖様ですわ
長野行かないってことは歌野は…


86 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/05(月) 19:29:54.58iWUi+OC9o (1/9)


では、少しだけ


87 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/05(月) 19:59:57.04iWUi+OC9o (2/9)


√2018/07/30 丸亀城


陽乃「……」

陽乃は丸亀城の天守屋根上に登って、街を見下ろす。

事件から3年経った今も四国内部に留まる陽乃は、

長野にも四国と同様の状態にある場所があると聞いたときに、

今ならまだ大社の指揮下に入ることなく

混乱に乗じて長野の方に逃げ出せるのではないかという話もあったが、

それを却下して、四国残留を選んだ

その一番の理由は、やはり母がまだ生きているからだろう。

陽乃「長野に行くべきだったと思う?」

『バーテックスとやらと戦うのならば、行くべきであったろうな』

陽乃「でも私がいないと、お母さんが……」

『そうじゃのぅ。主様が勇者などという低俗なものを享受し、大社なぞに与しているからこそ無事と言えよう』

陽乃の母親は巫女としての素質を認められており、

大社預かりのみとなっている

それは、陽乃が大社に訴え出たからこそのものであり

そうしなければ、母親はあの人々に恨まれ――殺されていたかもしれない。


88以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/05(月) 20:13:30.63vX5B1NeJ0 (1/4)

来てたか


89 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/05(月) 20:20:47.12iWUi+OC9o (3/9)


久遠家は、人身御供――人柱として捧げられなければならなかった。

そういった話がこの四国には蔓延しており、

あの神社の巫女が生き延びたせいで、

事態は一向に収拾が付かないとさえ言われ始めている。

陽乃やその母親が人身御供として捧げられたとしても

バーテックスが退いてくれる保証なんて微塵もないのにだ。

インターネットでは、燃えていく家を【お焚き上げ】とさえ言われる始末

もちろん、みんながみんなそう言った人々ではないのだけれど、

そんなことを真に受け、陽乃の実家を放火するくらいには余裕がない。

陽乃「私はここから――」

「わーかーばー、ちゃん」

陽乃のシリアスな思考を強制的に断ち切る声が陽乃のずっと下、

石垣のところにいる乃木若葉へと声をかける上里ひなたの姿があった。

乃木若葉は陽乃と同じ勇者で、上里ひなたは若葉の一番の親友でありその巫女だ


90 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/05(月) 20:39:22.06iWUi+OC9o (4/9)


陽乃「あの二人、仲が良いわよね」

『羨望かや?』

陽乃「ん~……少しだけ。でも、ああいうのがすぐそばにあると、頑張ろうって気になれる」

『いざとなれば切り捨てるべき有象無象のひと欠片でしかなかろう』

陽乃「ううん違う。大切なのよ。あれは。あれは、私達が決して失ってはいけない温もりなんだ」

人と人とが繋がる温もり。

仮初とはいえ、平穏であるからこそ、まだ見ることのできるその光景は、

かつて奪われてしまった世界に溢れていたものだ。

だからこそ、その姿をまだ見ることが出来ることを陽乃は良いことだと思っているし、

それらを守らなければならないと、より強く思う。

『妾は、郡千景とやらに賛同させて貰おう』

陽乃「郡さんも間違ってはない。こんな非常時に悠長だって意見も分かる」

陽乃だって、今こうしている瞬間にも長野ではたった一人の勇者がみんなを護っているのだから。と、

焦りと不安は胸にある。

陽乃「でも、刀だって鞘がなければ脆い鉄でしかないもの。乃木さんには上里さんとの時間が必要だわ」


91 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/05(月) 20:59:07.67iWUi+OC9o (5/9)


『それのみで脆いのならば、折ってしまえと言っておる』

陽乃「貴女って人は……」

『神樹とやらの贄にでもしてやった方が、人類のためであろう』

陽乃「神樹様だけ残っても意味がないわ。それを護る人がいないと」

流石に虫けらなんて言わないものの、

3年経った今も、九尾は相も変わらず人を人として見ていない。

若葉達勇者や巫女も平等に考えているので寧ろ清々しささえあった。

とはいえ、九尾が害をなすようなことは今のところないので

今言って聞かなくても、いつか聞いてくれたらいいと陽乃は思っている。

『慣れ合うなど馬鹿馬鹿しい。かつてのように裏切られるとは思わぬのかや?』

陽乃……やめて」

『封をしたところで過去も人も変わらぬ。認めよ主様、人とは救い難い愚物であると』


1、やめてッ!
2、そんなことない……人は、ちゃんと分り合えるはずよ
3、認めてどうしろって言うのよっ
4、無視して降りる


↓2


92以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/05(月) 21:01:25.42vX5B1NeJ0 (2/4)

2


93以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/05(月) 21:03:06.308TP+1cSXO (1/1)

1


94 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/05(月) 21:41:01.68iWUi+OC9o (6/9)


陽乃「やめてッ!」

『相も変わらず好まぬか』

陽乃「みんなを一緒にしないで……あんな人たちと、一緒にしないでっ」

『ふむ……それほど病むのなら、一思いに処分でもしてしまえばよいものを』

九尾はそれだけを言い残すと

空気に交じる不快感を薄れさせて、陽乃の中に潜っていってしまう。

3年前のあの日、陽乃達を贄と差し出した人々は今もこの神樹様に守られた世界のどこかで生きている。

そして、そんな人々から久遠家の情報は伝わって家が無くなるまでに至った。

九尾から見れば、その人たちも若葉達も変わらない人間という一つの種族でしかないのだろうが

陽乃は一緒くたに考えるつもりはないし

守る価値の有無など、考えたくなかった

考えてしまったら拳を握れなくなる気がして――

ひなた「誰かそこにいるのですか?」

陽乃「っ」

若葉「さっきの声は……久遠。久遠だろう?」


95 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/05(月) 22:17:59.49iWUi+OC9o (7/9)


九尾へと怒鳴ったのが災いして、

下にいたひなたと若葉の声が陽乃のもとへと飛んでくる。

声を聞かせてしまった以上、居留守をする意味がないので顔を覗かせると

手を振るひなたと、

少し心配そうに眉を顰める若葉が見えた

若葉「そんなところにいないで、降りてきたらどうで……どうだ?」

陽乃「畏まらないでって言ってるのに」

若葉は陽乃の一つ下のため、

敬おうという気持ちも理解できるのだが、

久遠先輩というのを止めさせた結果、久遠さんになり、

3年間かけてようやく【久遠】になった。

出来れば下の名前で呼んで貰いたいと陽乃は思っているのだが、

それにはまだまだ程遠いようだ

若葉「やっぱり、学校も統一されて正式に先輩なはずなのに、先輩もさんもダメとは無理があります」

陽乃「私なんかに畏まってはいけないって言ってるの。貴女だって知らないわけではないでしょう?」

若葉「知っては、いますが」

陽乃「私と貴女達は対等でなければいけないの。私が上に立つわけにはいかないの。理解して」


96 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/05(月) 22:47:05.66iWUi+OC9o (8/9)


若葉「では、久遠……さんも私を下の名前で呼んでいただきたい」

ひなた「久遠さんが下の名前で呼んでしまったら、一方的になっちゃいますよ」

若葉「それは……」

陽乃は先輩のため、若葉を下の名前で呼んでも普通だと言える

だが、その陽乃が若葉達に敬意を表して乃木さん、上里さんと呼ぶことで

若葉達なら抑え込めるという安堵が生まれ

久遠陽乃という【異物】の虞を中和させている

ひなた「残念ながら、久遠さんの力は大社ではまるで解析できていません」

そう言ったひなたは眉を顰めると、目線をかすかに下げて

ひなた「久遠さんに協力しているという九尾様がお答えして下されば変わるのですが」

陽乃「絶対に嫌らしいから、ごめんなさい」

ひなた「仕方がありませんね。やっぱり、ここは若葉ちゃんが頑張るしかありませんよ」

若葉「そう言われてもなぁ……」



1、ねぇ上里さん。長野の方に応援を出したりはしないの?
2、今そんなでは、後々大変だわ
3、乃木さん、少し手合せお願いできる?
4、乃木さんのこと頼むわね。上里さん


↓2


97以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/05(月) 22:49:30.82AyZeDbwaO (1/1)

1


98以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/05(月) 22:54:12.09vX5B1NeJ0 (3/4)

1


99 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/05(月) 23:01:28.41iWUi+OC9o (9/9)


では本日はここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


100以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/05(月) 23:18:51.84vX5B1NeJ0 (4/4)


今作の陽乃さんは早速闇こそ抱えているものの人格破綻まではしていないのが救いだな
ところで今回の九尾はほとんどテレパシーで会話してるけどあまり実体化したりしないのだろうか



101以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/06(火) 05:47:32.25hPwIvlMsO (1/1)


九尾の声は幻聴説…いやアカンな闇深過ぎる


102 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/06(火) 19:50:54.46nUMAqqqRo (1/11)


では少しだけ


103 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/06(火) 20:00:41.06nUMAqqqRo (2/11)


陽乃「ねぇ上里さん。長野の方に応援を出したりはしないの?」

ひなた「そうですねぇ……今のところそういった話は出ていません」

若葉「現状は問題ないと定時連絡でも言われていますが、やはり……不安ですか?」

陽乃「片や一人、片や五人。不安がなくても最善を尽くすのなら――」

ひなた「いけません!」

ひなたは陽乃の言葉を先読みして、声を上げる。

ひなた「お気持ちは分かりますが、あまりそのようなことを言われては」

陽乃「上里さんが耳を塞いでくれていてもダメ?」

ひなた「駄目です」

申し訳ありませんがと付け加えたひなたは、若葉を一瞥すると息を吐く。

若葉が刀を抜くことが出来るとはもちろん思っていないのだが

四国における暫定的なリーダーを委ねられている若葉は、陽乃を律する義務がある。

それゆえに、陽乃がもし神樹様や大社を批判するようなことがあれば罰しなければならない。


104 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/06(火) 20:17:57.40nUMAqqqRo (3/11)


勇者とは八百万の神々――今は、土地神と統一されている神々から力を授かり、

バーテックスに対抗し得る者達のことであり、

巫女とは、その土地神の声を聞く者のことである。

声と言っても九尾の狐のようにはっきりとした声ではなく、

何らかの象徴や暗示と言った抽象的な形――母親曰く神託を受けるのだという。

それに対して、

陽乃は土地神から力を借り受けているというわけではない上に

その協力神―とされている九尾―が大社に非協力的なため警戒されており

一時は陽乃を勇者とするのは問題があるとされたが

なまじ力の存在だけは証明できてしまったため、勇者として管理されることになった結果

陽乃の言動はやや制限されているような状態になってしまっている

陽乃「私が諏訪に行くって言ったら……」

ひなた「大騒ぎになりますね……こっそり抜け出したりなんてしたらパニック間違いなしです」

若葉「それは、もしかしなくても私の責任か?」

ひなた「ん~……十中八九咎められるのは若葉ちゃんですね」


105以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/06(火) 20:33:08.80I90o20iKO (1/1)

陽乃さん中々ややこしい立場なんだな…


106 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/06(火) 20:40:32.36nUMAqqqRo (4/11)


若葉「私に久遠さんを止めろだなんて元々無謀だろう」

陽乃「乃木さんの居合を見切れるほどの実力はないのだけど」

若葉「何を言いますか。来ると分かっていればいともたやすく躱せるでしょう」

陽乃「対応出来ないわけじゃないのに、謙遜してくれちゃうんだから」

陽乃はいやいやと否定する若葉に苦笑する。

実際の話、陽乃は若葉よりも背が低く

居合を極めんとしている若葉の瞬発力には劣っている

しかし近距離戦闘が主体の陽乃は必然的に

確実に間合いを詰め、一撃を入れるための反応速度を備えていて、

若葉も十分に体つきはいいが、近接を主体として鍛えている陽乃には残念ながら劣るところもある。

そんな互いに拮抗していると言ってもいい状態だからこそ、若葉を暫定リーダーとして

陽乃を抑え込む役割が与えられているわけだが。

若葉「間違っても、こっそり抜け出すなんてやめてくださいよ」

陽乃「前向きに考えておくわね」

陽乃がそう言って笑うと、

若葉はあまり信じていないといった様子で、笑った


107 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/06(火) 20:58:07.72nUMAqqqRo (5/11)


ひなた「神樹様からのお声もありませんから、まだまだ大丈夫ですよ」

若葉「久遠さんは片や一人と言われましたが、白鳥は私達六人に引けを取らないと思っています」

若葉は陽乃の五人を覆すかのように六人を強調して

若葉「色々と柵はありますが、久遠さんも私達と同じ学校の先輩で仲間ですよ」

陽乃「それこそ問題発言になっちゃうわよ。私と仲良くし過ぎたら罰則を受けちゃうんだから」

ひなた「親交を深める分には問題ありませんよ」

陽乃の困った表情にひなたはそう答える。

陽乃が他の勇者たちと仲良くなること自体、大社は問題ないと思っている。

むしろ、それを好ましく思っている節さえあるのだ。

そんなことは関係なしに、仲良くなって貰いたいとひなたは思う。

ひなた「久遠さん、もしよろしければお昼をご一緒しませんか?」

若葉「ひなた」

ひなた「久遠さんの一人でいるべきという主張も一理ありますが、やはり……」


108 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/06(火) 21:24:15.45nUMAqqqRo (6/11)


陽乃は悪しき存在であるという情報をみんながみんな鵜呑みにしているわけではないけれど

とりわけ、郡千景は陽乃を良く思っていない。

巫女であるひなたを含めた七人の中でも、最もインターネットに通じているのが千景だ

出会った当初は陽乃がそうだと知らなくても、

少し時間があれば目にしてしまうその情報を知ってしまった千景が、

貴女が死ねば助かるんじゃないの? と言ってしまったことがある。

その時に陽乃は「冗談でも言われたくない」とやや空気をひりつかせたのだ。

陽乃「私がいると、高嶋さんまで気を使っちゃうでしょう?」

若葉「それは……気にしないように私が」

陽乃「………」

その日以降、二人の関係は芳しくない

千景と一番親しいように感じられる高嶋友奈が取り持とうと努力しているが――無駄に終わっていて

そこにいることを問題とはしていないけれど

陽乃がいるとどうしても空気が悪くなりがちだ

もっとも、いてもいなくても変わらないのかもしれないが。


1、悪いけれど、遠慮しておくわ
2、ありがとう、その気持ちだけ戴くわ
3、私よりも正式な勇者を優先すべきだわ
4、分かったわ。同席させて

↓2


109以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/06(火) 21:28:36.67bySs8KbPO (1/1)

4


110以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/06(火) 21:33:10.52qhyd5XNi0 (1/2)

3


111 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/06(火) 21:49:58.12nUMAqqqRo (7/11)


陽乃「ううん、やっぱり良くない」

若葉「久遠さんっ」

陽乃「私よりも正式な勇者を優先すべきだわ」

若葉「貴女も正式な勇者であるはずだ!」

陽乃「ありがとう」

若葉「くっ……」

陽乃の笑みに、しかし若葉は歯を食いしばる

ありがとうと言われても何かが成せているわけではない。

三年前、最初の襲撃を受けた島根から四国への帰路

聖域の門番であるかの如く瀬戸大橋の入り口に立っていたのが他でもなく陽乃だった。

酷く傷つき、今にも崩れ落ちてバラバラになってしまうのではないかと思うほどに覚束ない様子で

それでも、バーテックスを穿つ姿は見る人が見れば化け物だったかもしれない。

だがそれでも、若葉には勇者に思えた。

若葉「誰が何と言おうと、貴女は勇者だ久遠さん」

ひなた「若葉ちゃん……」

若葉「行こう。ひなた」

申し訳なさそうに一礼をして去っていく二人に、陽乃は笑顔で手を振って見送る


112 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/06(火) 22:17:39.43nUMAqqqRo (8/11)


陽乃「ままならないものね」

『煩わしいと思うのならば排除すればよい』

陽乃「駄目よ。貴女、そう言って前に郡さんを殺そうとしたでしょう」

『主様の目的に小娘は不要であろう。なれば生かす意味も無し』

陽乃「郡さんがいたほうが私の負担が軽くなる。より多くの目標を達成できるわ」

九尾は不要と思えば処分してしまえが前提で

陽乃が止めなければ、今話していた若葉とひなただって殺してしまいかねない。

特に、陽乃を阻む役目を担っている若葉のことは寝首を掻くこともあり得る。

そしてそのためならば、無害と言えるひなたでさえも手にかけることを厭わない。

陽乃「とにかく、乃木さん達に手を出さないで頂戴。私がやったことにされるんだから」

『その程度の謀、主様が問われぬようになど容易く――』

陽乃「駄目って言ったら駄目なの。私は誰も死なせたくない」

『障害なぞ、排除してしまえばよいものを。難儀なものよ』

陽乃「一番簡単な手段ばかり講じていたら、通じなくなった時に積んでしまうでしょう?」

『ふむ……納得しておこう』


113 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/06(火) 22:25:42.63nUMAqqqRo (9/11)


九尾の狐が表に干渉している不快感が薄れて陽乃は深々と息を吐く

陽乃は九尾の力を借りているが、

それに完全な適応をしているわけではない。

戦っていない時はただの不快感といった程度で済むが、

その力を全身へと巡らせ、行使するとなると多大な負荷がかかる

時間をかけ過ぎれば反動で陽乃の体が傷ついてしまう

陽乃「ほんと……ままならないものね」

大社からは危険物扱い

勇者の仲間内では腫れもの扱い

護るべき人々からは化け物扱い

それらのために頑張れば頑張るほど、体が蝕まれていく。

長野の勇者である白鳥歌野が孤軍奮闘するのではなく、

自分こそが孤独な勇者であるべきだったのだと、陽乃は思った。


114 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/06(火) 22:29:06.07nUMAqqqRo (10/11)


√ 2018/07/30 昼 (丸亀城)

01~10 杏
31~40 若葉
51~60 球子
81~90 友奈


↓1のコンマ

※それ以外は通常


115以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/06(火) 22:31:55.34qhyd5XNi0 (2/2)




116 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/06(火) 22:38:29.10nUMAqqqRo (11/11)


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


117以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/06(火) 22:50:56.08MzthJUzdO (1/1)


様々なところから邪魔者扱いな上に迂闊に動くと九尾が勝手なことしかねないから身動きも取りづらい…中々辛い状況だなぁ

あとのわゆ編に入ってから投稿量が増えてきて嬉しい


118以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/06(火) 22:56:38.32zXSBQRaSO (1/1)


多いし早いな前は今頃開始だったはず…
この千景に前の周の千景を見せた反応をみたい


119以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/07(水) 01:48:01.07gpejg5A6O (1/1)


境遇がハードモードで時代もハードモードだな


120 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/07(水) 19:58:52.09zUEGVc1vo (1/12)


では少しだけ


121以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/07(水) 19:59:46.050U59RMbCO (1/1)

かもーん


122 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/07(水) 20:01:26.87zUEGVc1vo (2/12)

√ 2018/07/30 昼 (丸亀城)


陽乃はみんなが集まっている食堂には向かわなかった。

若葉達と話したその足のまま日陰になっている石垣を探して腰かけると

朝のうちに用意しておいたおにぎりを鞄から取り出して、一口かじる

世界が奪われてしまう以前の陽乃には、到底考えられない食事だった。

以前の陽乃には、必ず傍に人がいた。

慕ってくれる人、ただ仲良くなった人

陽乃はすべての人に愛されていたとは思っていないし

嫌っている人もいるだろうことは自覚していたが、それでも愛してくれた人がいたと思っている。

それが今は、欠片もない。

殆どの人が奪われた。

あの日、陽乃の願いは聞き届けられることなく即座に避難させられなかった結果だ

護れた子もいる

けれど、ほとんどすべてを失って――

陽乃「……あっ」

無意識に力が入って、握りつぶしたおにぎりが崩れて地面に落ちる

どれだけ時間が経とうと、あの日の後悔は消えてはくれない


123 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/07(水) 20:14:09.89zUEGVc1vo (3/12)


後悔を思い起こしてしまったからか、嫌悪感がふつふつと湧いて来る

やり場のない怒りを受けてしまったおにぎりのせめてもの抵抗力が

手のひらにベタベタと張り付いているのがまた不快感を生む。

とはいえ、それで発狂するほど子供でもなくなった陽乃は、

過去よりも今、落としたご飯のことを考える。

食べ物を粗末にすることは以前はもちろん今も許されたことではないと眉を顰めつつ

しかし拾って食べるわけにもいかず、溜息を零して気分を仕切りなおして――

若葉「こんなところにいたんですね」

声をかけられて顔を上げると、食堂で使われているトレイを持っている若葉が立っていた。

陽乃もさすがに困惑して呆然としてしまう。

若葉「なにか?」

陽乃「食堂から持ち出したらいけないんじゃなかったの?」

若葉「特別にお願いしました」

苦笑いして答えた若葉は、そのまま陽乃のそばに来ると、

隣に失礼します。と、一応は一声かけてから石垣に座る。


124 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/07(水) 20:27:04.31zUEGVc1vo (4/12)


陽乃「何を考えているの? 正式な勇者を優先してって言ったでしょう?」

若葉「ええ、正式な勇者を優先しているつもりです」

陽乃「貴女の個人的な判断ではなく大社が定めた勇者を優先するべきだって言ったのよ」

陽乃も勇者として定められているが、

それは特例であって正式とは言い難いものになっている。

ゆえに、正式な勇者とは乃木若葉、高嶋友奈、伊予島杏、土居球子、郡千景の5名となる

しかし若葉は自分がそう思うからと陽乃を含めて、あろうことか抜け出してきたらしい。

陽乃は内側に感じる嫌悪感をどうにか飲み込む

陽乃「リーダー失格だと言われたらどうするの?」

若葉「久遠さんと郡さんを仲違いさせたまま、何も成せていない以上失格というのは妥当ですよ」

若葉は小さく笑って、膝上に置いたトレイを持ち上げる

二枚重ねだったのか、膝上には別のトレイが残った

若葉「久遠さん、こっちをどうぞ」

陽乃「え……」

若葉「久遠さんの分も、持ってきたんです」


125 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/07(水) 20:41:07.73zUEGVc1vo (5/12)


若葉は自分の膝上のトレイが落ちないように気を付けながら、

陽乃の膝に持ち上げた方のトレイを乗せる。

トレイの上にはうどんの入っている小鉢が二杯あって、お箸も二膳用意されていて

一人分を手に取った若葉は自分の膝上のトレイに乗せる

若葉「余計でしたか?」

陽乃「余計では、ないのだけど……私が用意しているとは思わなかったの?」

若葉「その時は、自分で食べようかと」

陽乃「そう」

若葉は愛想笑いに似た笑みをずっと浮かべている

余計なことをしてしまったと思っているのなら、

初めから言ったとおりにみんなの方に行けばよかったのにと、陽乃は顔を顰める

若葉「久遠さんうどんはお嫌いでしたか?」

陽乃「ごめんなさい、有難いのだけど……やっぱり気になっちゃって」

若葉「向こうなら大丈夫ですよ。郡さんには少し異を唱えられるかもしれませんが、これも長の務めです」


126 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/07(水) 20:52:11.90zUEGVc1vo (6/12)


若葉「私は、久遠さんの味方になりたいと思っています」

陽乃「味方……?」

若葉「長野への応援を切り出したのは、ここに居辛いからではないですか?」

陽乃「どうしてそう思うのかしら」

若葉「客観性を捨てたとしても大社や勇者、人々からの扱いを見聞きしていればそう感じますよ」

陽乃は非常に肩身の狭い思いをしている

それがたとえ理由あってのことだとしても

息苦しさを覚えるには十分で、

解放されたいと思うには事足りていて

どちらにせよ辛いのならば、他者を救済できる方に進みたいと思うものだろう。

若葉「人手不足な長野への応援、手持ち無沙汰な私達にとっては確かに合理的な提案だと私も思います」

陽乃「貴女そんなこと言ったら」

若葉「仲間の助言を聞かずして何が長か。たとえ私に上の組織があろうと貴女の長は私に他ならないでしょう」

だからこそ発言を阻ませたりはしないし絶ったりはしないと若葉は明言する


1、どうしたの? 急にリーダーらしいこと言っちゃって
2、上里さんに怒られちゃうからそういうのは駄目よ
3、それで? 貴女の推察が正しいとしてどう味方してくれるのかしら
4、そうね。正直、私はここに残るべきじゃなかったって思ってる


↓2


127以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/07(水) 20:54:19.86kVHnIm2t0 (1/2)

2


128以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/07(水) 20:57:14.16qXi2iyx6O (1/2)

2


129 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/07(水) 21:29:10.73zUEGVc1vo (7/12)


陽乃「上里さんに怒られちゃうからそういうのは駄目よ」

若葉「ひなたなら私の判断を後押ししてくれると思います」

陽乃「貴女は私の抑止力なのよ? それが、自ら私に肩入れするだなんて大社が黙っていないわ」

若葉「だとしても、貴女を独りにして良い理由にはならない」

陽乃「……」

若葉はひなたの名前を出してなお、陽乃のことを諦めようとしない。

暫定とはいえ、

リーダーという役目を与えられた責任を感じているのだとしたら立派だと、陽乃は思う。

けれど、本当にそれだけなのか。

これだけの決意があるのなら

ひなたが自分の後押ししてくれると信じているのなら

ひなたがお昼を一緒にどうかと誘った少し前の時間

今と同じくらいに踏み込もうとしても良かったのではないかと、陽乃は目を細めて

陽乃「私が何か企んでるかもしれないって、探りを入れてるんじゃないの?」

若葉「そんなつもりなんて毛頭ありませんよ」


130 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/07(水) 21:49:09.10zUEGVc1vo (8/12)


若葉「助けに行きたくても白鳥を助けにはいけない。だから、せめてこの手の届く貴女だけは取りこぼしたくないんだ」

陽乃「なに、それ……」

若葉「私を拒まないで欲しい。独りにならないで欲しい」

若葉は希うように陽乃を見る。

食事よりも、陽乃のことを優先しようとしてくれているのを表すかのように

持ってきたうどんには一度も手を付けていない

陽乃は別に拒んではいない。

ただ、自分よりも優先すべき人達を優先して欲しいと思っているだけで

陽乃「貴女自分が何を言っているか本当に分かってるの?」

若葉「分かっている!」

陽乃「っ」

若葉「貴女が望むなら、私は貴女がここを出ていく協力をしたっていい」

若葉は膝上のトレイを落としかねない勢いで声を上げて

若葉「郡さんには友奈がいる。だから貴女には私……それでは駄目か?」

陽乃へと、手を差し出した


131 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/07(水) 21:57:37.32zUEGVc1vo (9/12)


↓1コンマ判定 一桁

奇数 成功
偶数 失敗
ぞろ目 成功


132以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/07(水) 21:58:10.00qXi2iyx6O (2/2)




133 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/07(水) 22:15:18.21zUEGVc1vo (10/12)


陽乃「その申し出はありがたいのだけど……」

若葉「私では不服なのか?」

陽乃「問題はあるけれど乃木さんに不服はないわ」

そう答えた陽乃は自分の胸元を撫で下ろす。

ほんの少しだけ、嫌悪感が薄れたような気がした。

確証はないが、違和感がある。

もしもこれで違うのなら赤っ恥だが……それだけで済む。

陽乃「貴女、乃木さんじゃないでしょう?」

若葉「何をっ」

陽乃「乃木さんは真面目な人よ。私がお願いしたことを受けてなお、舞い戻るなんて出来ない」

若葉「どうしても――」

陽乃「それに……さっきからずっと貴女の力を使っているときと同じ感覚があるのよ。九尾」

若葉「………」

若葉は陽乃をじっと見つめて、そしておもむろにふっと笑うと

ずっと触らなかった端を手に取って、小鉢の中へと先を突っ込む

若葉「乱れのある今なら御しやすいと思ったが、なかなかどうして……難しいものだな」


134 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/07(水) 22:53:01.82zUEGVc1vo (11/12)


陽乃「本物の乃木さんは?」

若葉「無論、上里ひなたと共に食堂にいる。これは妾の力によるまやかしだ」

陽乃「危害は加えていないのね?」

若葉「そういう契りがある」

うどんを箸で持ち上げた若葉はそれをまじまじと見つめて、ぽちゃんっと小鉢の中に落とす。

跳ねた汁がトレイに飛び散って僅かに若葉の服を汚すが、

そんなことはまるで気にせずに、苦笑する。

若葉の姿をしてはいるが、まるで若葉ではない

陽乃「どうしてこんなこと」

若葉「主様は妾にも真に心を開かぬ。であるならば、聞く者を用意せねばなるまいよ」

陽乃「だからって乃木さんの姿を借りるなんて――」

若葉「元より気など許せぬ者共の真偽不明瞭に今更思うことなどあるまい」

陽乃「………」

若葉「しかし案ずるな。妾は可能な限りに小娘を模倣したゆえ言葉の全てが偽りにはならぬ」

若葉に扮したままの九尾は、喉を鳴らす笑いを零す

それはもう、若葉の声ではなく九尾の声だった。

若葉「小娘の口から聞いてはおらぬだけのこと、心を覗き見たとでも笑えばよい」


1、二度とこんなことしないで
2、どうしてこんな嫌がらせするのよ
3、貴女、もしかしていつもこんなことしてるの?
4、だったら乃木さんである貴女が答えて。私がここにいて良いと思ってる?

↓2


135以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/07(水) 22:56:35.13jFWiay41O (1/2)

4


136以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/07(水) 23:00:56.70kVHnIm2t0 (2/2)

4


137以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/07(水) 23:01:34.512+kHYT0cO (1/2)

4


138 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/07(水) 23:02:08.73zUEGVc1vo (12/12)


ではここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


139以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/07(水) 23:12:33.92jFWiay41O (2/2)


コンマは九尾を見破れるか否かの判定だったのか…
でも確かに若葉が妙にイケメンだと思ったらよくよく見たらバレる前から違和感があったな


140以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/07(水) 23:19:40.942+kHYT0cO (2/2)


後期の若葉はともかく前期の若葉にこの対応は無理でしょ


141以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/08(木) 02:26:23.65yW+rMRKkO (1/1)


やだ陽乃さん鋭い


142 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/08(木) 21:32:04.60OWfdUIpSo (1/7)


では少しだけ


143以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/08(木) 21:33:05.65UEQErAyxO (1/1)

やったぜ


144 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/08(木) 22:04:46.69OWfdUIpSo (2/7)


本当に若葉の見た目だけでなく思考も可能な限りに模倣しているのだろうかと、

陽乃は若葉に扮したままの九尾を見つめる

九尾の狐は、控えめに言っても性格が悪い。

今の陽乃が思い描く人間というものと比較してもだ。

だから陽乃をからかっている可能性も捨てきれない。

しかし――

陽乃「だったら乃木さんである貴女が答えて。私がここにいて良いと思ってる?」

若葉「無論ですよ久遠さん。私にとって貴女は勇者だ。蔑まれてなお護ることを放棄しない清さは私の中に羨望の念を絶やさない」

若葉――九尾は自分の胸元に手をあてがう。

そこに宿る想いに触れているかのように愁いを帯びた笑みを浮かべる九尾の瞳は陽乃を見てはいなかった。

九尾は陽乃の内心の葛藤を知っている。

だが、若葉はそれを知る由もない。

その情報の差を維持したままの九尾は陽乃へと目を向けて

若葉「みなの前を歩めるであろう勇者然としたその強かさを持つ貴女こそ、リーダーになって欲しいと思っているくらいだ」

陽乃「私が強かだなんて、馬鹿にしてるの?」

若葉「私は心折れていると思います。ひなたが支えてくれることで立ち直れるかもしれませんが、もしも孤独なら耐えられないと思いますよ」


145 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/08(木) 22:25:38.22OWfdUIpSo (3/7)


若葉「私は久遠さんの心を知らない」

もしかしたら陰で悲しんでいるのかもしれないと若葉は首を振ると

それでも。と、上乗せして

若葉「こんな人々なんて守る価値などないと口にしないのは立派だと思います」

陽乃「……だから、私はここにいたほうが良いと?」

若葉「私はここにいて欲しいと思っていますが、それと同時にここから解放されて欲しいとも思っている。というのが正直な答えです」

若葉はそういうと、ようやく陽乃へと目を向けた。

その瞳には罪悪感と心苦しさが滲んでいて

陽乃と目が合えば、申し訳ないと言うかのように逸らしてしまう

若葉「人々が抱く過った敵愾心に、これ以上傷ついて欲しくない」

陽乃「……」

若葉「大社から貴女の素行に問題ないかという窺いが来るたび、街の人からあの娘は。という不安が聞こえるたび強く思う」

陽乃「貴女、どこまで――」

若葉「リーダーですから」

若葉は自嘲気味に鼻で笑って

若葉「だから、可能なら貴女に協力したいと思う。私だけでも貴女の味方でありたいと……思う」


146 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/08(木) 23:00:39.33OWfdUIpSo (4/7)


若葉「郡さん達を説得できたとしても大社は貴女のその力に畏怖の念を抱き続ける」

陽乃「でしょうね……」

若葉「だから、ここにいて欲しいがいて欲しくない……答えに、なっていませんね」

若葉はそう、困ったように笑う。

若葉と言ってもこれまでの語りはすべて九尾によるもので、本当の乃木若葉の言葉ではない。

しかしながら、そのすべてではないにせよ若葉が心のうちに抱いている言葉も少なからずあることだろう

若葉は陽乃を勇者と言った。

陽乃が孤立していることを望ましく思っていないのも事実

人々や大社からの陽乃に対する不信感をリーダーとして強く感じているであろう若葉が、

陽乃をどうにかして救いたいと思ってくれている可能性も0ではない。

若葉「主様の親類縁者が贄とされたこと、それをした人間が世界に蔓延した憎悪の念の元凶であることも小娘は知らぬ」

陽乃「それを知ったら幻滅するかしら?」

若葉「知ればなおのこと憐れむであろうな。もちろん、だとしても害することを良しとはせぬであろうが」

陽乃「解放されて欲しい?」

若葉「命を賭けて守っても報われないだなんて、あんまりだろう?」


147 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/08(木) 23:42:48.79OWfdUIpSo (5/7)


陽乃「乃木さんなのか貴女なのかどちらかにして貰えないかしら」

若葉「くふふっ……たとえ戦いの果てに尽きたとしても残る者共が価値無き命であれば徒死に同じよ」

若葉の顔で、若葉が浮かべないような笑みを浮かべる

命を賭けても報われないなんてあんまりだろう。とは、若葉の言葉だと陽乃は苦笑する。

九尾はそんなこと言わない。

陽乃「貴女にとっては、この世界に生きている人なんて護る価値無いんでしょうね」

若葉「いかにも。妾にとっては有象無象よ。護るのは主様であって妾ではない」

くつくつと笑う若葉は、

すっかり伸びたうどんの入った小鉢をトレイごと脇に避ける

若葉「手は貸す。しかし、妾は主様の望み以上に価値無き者共を救うことなどあり得ぬとゆめゆめ忘れぬでないぞ」

陽乃「あら……そういう助言をしてくれる優しさはあるのね」

若葉「難癖をつけられても困るからのう」

若葉はそういうと、体をだんだんと透過させて

若葉「主様がここを離れることも留まることも止めはせぬよ」

そう言い残して九尾が消え、残された二人分の伸び切ったうどん

陽乃はどうしたものかと、ため息をついた


148 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/08(木) 23:46:29.31OWfdUIpSo (6/7)

√ 2018/07/30 夕 (丸亀城)

01~10 ひなた
21~30 友奈
61~70 若葉
81~90 球子


↓1のコンマ

※それ以外は通常


149以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/08(木) 23:48:52.18Utlp9ylmO (1/1)




150 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/08(木) 23:54:52.11OWfdUIpSo (7/7)


では本日はここまでとさせていただきます
明日は恐らくお休みをいただくかと思います

再開は明後日、可能であればお昼ごろから


151以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/09(金) 00:08:16.70VRxJWttUO (1/1)


早くみんなと仲良くなって陽乃に癒しを与えないとだな
あと時代が違うのもあるけど九尾の雰囲気今までとだいぶ変わってるなぁ



152以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/09(金) 00:16:14.02/v/7XwtcO (1/1)


九尾にこんな特技があったなんて……


153以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/09(金) 00:21:17.258NiIWDybO (1/1)


若葉は蔑まれていようと勇者である陽乃を羨望しつつ心配にも思ってるのか…もどかしいだろうなぁ


154以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/09(金) 12:30:04.69NxkMEdvSO (1/1)

ここまで見る限り陽乃さんの性格って後の子孫と瓜二つな感じだな
もっと癖の強いイメージがあったから意外


155以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/09(金) 19:44:29.66zyCZVcGoO (1/1)

今までの陽乃さんは最初は優しかったのが一族郎党皆殺しからの裏切りにあってるからね
母親が生きてる(ゾロ目のおかげ?)のがでかいよ


156 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 14:28:46.16C/X/kuhto (1/23)

では少しずつ


157 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 14:31:31.30C/X/kuhto (2/23)

√ 2018/07/30 夕 (丸亀城)


陽乃「ふっっ……はっ……たぁっ!」

夏ということもあって日が高い夕刻の頃、

まだまだ数を増やしつつあるセミの声がより活性化していく中に、陽乃の声が割り込む。

勇者たちはみんな夏休みの期間であろうと関係なく特訓を行う日々が続いている。

そこには陽乃も余ることなく組み込まれているわけだが、

しかしながら、陽乃は若葉達と違って独りでの特訓となっている。

というのも若葉の扱う刀や球子が扱う楯など

大社が科学や呪術的な研究方法によって少しでも解析することのできた勇者の力と違い、

陽乃の力は未知数なままだ。

大社の中には【バーテックスの力】ではないかという憶測も含まれており、

勇者達を再起不能にしてしまう恐れもあるとして、若葉達と組んでの特訓は許可されていないからだ。

陽乃「はっ……はふ……」

だから陽乃は丸亀城の天守裏でいつも一人で特訓を行っている。

道具の貸し出しは行われているのだが、陽乃の場合壊しかねないので基本的に借りることはなく

武術における踏み込みや姿勢、一つ一つの技の切り返しなどをより正確かつ素早く行う基礎練習に留めるしかない。


158 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 14:41:07.53C/X/kuhto (3/23)


陽乃「……私、ここにいる意味あるの?」

学校の授業においては同室となっているものの

特訓は別、お昼も別

寮になっているところに関しては部屋が隣り合っているものの、

互いに行き来したりするような仲でもなく。

正直に言えば、陽乃は存在している意味がない。

陽乃「はぁ」

石垣に座り込んで汗を拭う

若葉に扮した九尾は「いて欲しいが解放されて欲しい」と語っていた。

あれが九尾による唆し程度のものである可能性もやはり捨てられない。

けれど、もしも若葉の本心に通ずる思いであるならば――と

考えてしまうと無碍にできるものではない。

陽乃「私の力は解析不能……ね」


159以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/10(土) 14:50:05.980yph4CVzO (1/3)

きてたー


160 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 14:58:11.41C/X/kuhto (4/23)


扱う陽乃自身もすべてを理解出来てはいない。

九尾曰く本領は幻を見せたりする幻惑系であると言っているが、

陽乃の攻撃の一つ一つには毒素が含まれている。

神を殺せるかはともかく、進化種でも屠れる程度の対神特効のそれは、

九尾は素知らぬ顔をしているが、

伝承の一つにある死後にばら撒かれた【殺生石】の逸話だろうと陽乃は考えている。

近づく者を害してしまう、猛毒の石。

それが能力として備わっていることで、

最も近くにいる陽乃にも不快感や嘔吐感と言った症状で現れ、

戦いが長引けば余計に苦しむことになってしまっているのではと推測する。

もちろん、これは大社にも勇者達にも話せることではない。

自分さえも害するほどの有毒な力を持っていると知られれば、陽乃の立場は悪くなる。という程度におさまらないからだ。

話していない現時点で扱いが悪いので、

九尾の狐という名前からそれを推測し、勇者を再起不能にする可能性を抱かれているのかもしれないが。


161 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 15:19:15.50C/X/kuhto (5/23)


九尾はお昼に若葉を模倣していたが

あれもまた、人に化けるとされた九尾の力

性格や言動に関しては、日々若葉達を影の中から監視し取り込んだのだろう。

陽乃「ほんと……考えれば考えるほど……」

九尾の力は、どちらかと言えば対人特化である。

確かに有毒な能力もあるけれど、どちらかと言えば人を殺す毒素だ。

幻惑に関しても化かすのに関しても

目があるのか定かではないあの化け物たちというよりは、

人間に対して作用させる目的があると考えられる。

そう考えると、

九尾は復讐するのにはうってつけのことごとく危険な存在に思える。

幻などで偽る力を使えば、誰も陽乃が手を下したなんて思わない

そして、持ち主である陽乃でさえじわじわと苦しむ毒で、死を望むほどの苦痛を与えられるかもしれない

陽乃「――っ」

首を振って、考えを振り払う

それはいけない。

それをやってしまったら――母に合わせる顔がない。



1、しばらく外にいる
2、寄宿舎に戻る
3、九尾に声をかける
4、もう少しだけ特訓を続ける

↓2


162以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/10(土) 15:21:09.410yph4CVzO (2/3)

1


163以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/10(土) 15:25:19.300JPTOIXc0 (1/4)

2


164 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 15:59:26.24C/X/kuhto (6/23)


01~10 ひなた
11~20 杏
21~30 友奈
31~40 千景
41~50 若葉
51~60 球子

81~90 大社

↓1のコンマ

※ぞろ目なら任意


165以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/10(土) 16:00:34.390yph4CVzO (3/3)




166以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/10(土) 17:07:23.19x+F9MNmdO (1/2)

いきなりモメそうな……


167 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 17:25:40.40C/X/kuhto (7/23)


まだ日はそれなりに高いがそろそろもどっても良い頃だろうと寄宿舎へと向かうと、

その道の途中で、出会ってしまった。

勇者の中でもっとも険悪な相手と。

千景「……」

陽乃「……」

あの日以降、千景は陽乃に積極的に声をかけるような間柄ではなくなった。

けれど、陽乃を見えないもののように扱ってくれたりはせず

陽乃が居ればその目は僅かでもその姿を認めて、嫌悪感を宿したような視線を送ってくる。

千景がそれを意識して行っているのかどうかは分からないが、

少なくとも、陽乃にとっては居心地の良いものではない。

陽乃「郡さん、お疲れ様」

千景「……貴女も」

極力、明るく話しかけてみてみるものの

千景は表情を変えず、一瞥のみに留めて歩いていく

陽乃とは話す気がないというのが、強く感じられた


168 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 17:37:10.47C/X/kuhto (8/23)


陽乃「高嶋さんは?」

千景「……いない、けど……?」

陽乃「それはそうだけど……」

どうして一緒に居ないのかを聞きたかったのだが、

友奈とて、一日中付き添っているわけではない。

鍛錬のあとでもあるし、まだ鍛錬中の友奈を置いてきたか、

もう少し続けるから先に帰っていいと言われたかのどちらかだろうか。

陽乃「………」

もしかしたら、昼間のように九尾が扮している可能性もある。

今は不快感を感じていないので

九尾の力が行使されていないとみて良いのだけれど――

陽乃「まだ、鍛錬中?」

千景「……用事があるって」

陽乃「そうなのね」

千景「……なに? 信じられないなら……確かめに行けばいいでしょう?」


169 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 18:00:01.60C/X/kuhto (9/23)


陽乃「待って私は別に……」

千景「否定しないで……分かるの。貴女が私をどういう目で見ているかってことくらい」

千景は陽乃へと振り返り、その顔をあげて陽乃を見る

眉はつり上がっていて、怒りを感じる瞳は鋭くなっている。

陽乃「それは――」

千景「………」

陽乃「ちょ、ちょっと!」

千景は鍛錬で使っているであろう自分の武器を模した大鎌の先端を陽乃へと向ける

距離があるため、振りぬいても陽乃に当たることはないが、

戦う意思を示すそれには、陽乃も慌てて後に下がってしまう。

千景「これなら貴女を殺す心配はないわ」

陽乃「そんなこと言われたって……」

陽乃が勝とうが負けようが、

陽乃に力を貸している九尾がきっと黙っていてくれないだろう。

千景が殺す心配がなくなっても、千景を【殺してしまう】心配はなくならない。


1、確かに訝しんだけど、違うのよ……似た人がいたからつい
2、いい加減にして!
3、私は素手でだって貴女を殺せるのよ? 死にたいの?
4、良いわ。相手してあげる……その方が気も晴れるでしょ?



↓2


170以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/10(土) 18:01:55.280JPTOIXc0 (2/4)

ksk


171以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/10(土) 18:04:42.53zPgdnr/hO (1/1)

4


172 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 18:53:57.23C/X/kuhto (10/23)


陽乃「……はぁ」

ここで勇者である千景を傷つけるのは、得策とは言えない

千景から言い出したことであるとしても、

千景がどれだけのダメージを負うか次第で、陽乃の立場は非常に悪くなることだろう

けれど、今以上に悪い扱いなどあるのだろうか。

なにより、

ここで千景に自分との力量差―あるのかは知らない―を示しておいた方が良い。

陽乃が上なら、千景もあまり威嚇するようなことはしてこなくなるだろうし

千景が上なら、陽乃は別に警戒する必要のない相手として扱って貰えると思う。

後者はとても情けなく思うが、

千景に警戒させないための手段としては、ありではある。

陽乃「良いわ。相手してあげる……その方が気も晴れるでしょ?」

千景「……余裕……なのね」

陽乃「余裕なんてないけれど、でも、そう思わない?」


173 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 19:22:35.55C/X/kuhto (11/23)


陽乃は何度か握り拳を作っては開いて、手の感覚に問題が無いことを確認する

千景は木製の大鎌

普通の大鎌の重さを知らないが、

場合によっては木製の方が重いはずだけれど、問題はなさそうに見える

陽乃「郡さんは勇者の力を使っているの?」

千景「使っているわけ……ないでしょう?」

陽乃「普段から使えないの?」

千景「寧ろ……貴女は使っているの?」

陽乃「使おうと思えばいつだって使えるものじゃない?」

千景「そう……」

陽乃の場合、使いたくなくても使われているのが真実。

だが、自分の意思で使おうと思った時にすぐ使うことが出来るのも本当のことだ

特に、身体強化に関しては常時行われていると言ってもいい

しかし、千景が使っていないというのが事実なら

千景には勇者としての身体強化が行われていないということで

つまり、今の陽乃が本気の拳一発でも当ててしまったら――

陽乃「あー……」

勇者が一人死ぬことになる。


174 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 19:35:26.38C/X/kuhto (12/23)


陽乃「郡さん、勇者の力を使って貰ってもいい?」

千景「素の状態じゃ勝てる自信がないの……?」

陽乃「そういうわけじゃないけど、殺したくないから」

千景「そういうために使う力ではないと思うのだけど」

陽乃は、九尾からの力の供給を断絶できない

力の制御はもちろんできているが、

それはある意味では、制御させて貰っている。というのが正しい。

九尾は陽乃の意思に関係なく力を使い、反映させられる。

陽乃が身体強化をしなくていいと言っても

千景に攻撃が当たる瞬間に作用させられたら千景の体が飛ぶことになる。

『くふふっ』

陽乃「邪魔しないで」

千景「……なに?」

陽乃「ううん、なんでも……勇者としての力、どうしても使えない?」

千景「今は……無理ね」



1、なら明日の朝、使える準備をして戦いましょう
2、じゃぁいいわ。素の状態で相手をしましょうか
3、すぐに使えない状態なんて……貴女、3年前のこと忘れたの?
4、勇者としての力がない人なんて相手をする意味がないわ


↓2


175以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/10(土) 19:38:56.57wes7eb1OO (1/3)

1


176以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/10(土) 19:39:05.65x+F9MNmdO (2/2)

1


177 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 20:12:54.43C/X/kuhto (13/23)


陽乃「なら明日の朝、使える準備をして戦いましょう」

千景「明日……?」

陽乃「私は郡さんと違っていつでも力を使えるのよ。今だって、本気で殴ったら殺せるくらいに」

陽乃はそう言って一気に踏み込む

地面の砂利がこすれ合う感触が靴裏から伝わって――

陽乃「ふっ!」

地面を蹴り飛ばす。

ほんの一瞬で距離を詰めた陽乃は、固く握った左手の拳を千景の顔の前で止める

跳ね上げられた砂粒が近くの木に衝突して音を立て

巻き起こった風が千景の長い髪を舞い上げていく

千景「……っ」

普段は隠れがちな千景の左目には、拳が大きく映り……また髪に隠れる

元々そこまでの距離はなかった

けれど、一瞬で詰められるほどの距離ではなかったはずなのに

躱す余裕もないほどに早く拳をつき向けられてしまったことに、千景は息を飲む


178 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 20:22:51.52C/X/kuhto (14/23)


陽乃「……ね?」

千景「分かったわ……明日の朝……」

千景は少し後ろに下がって大鎌を肩に担ぐと

やや不機嫌そうにそう言って、陽乃へと背中を向ける

千景の目に、陽乃の姿は捉えられていなかった。

千景が勇者としての力で身体能力を補ったとして、

陽乃の速さに対抗できるのかと言えば、微妙なところである。

若葉は、その素早い動きに合わせて瞬間的に刀を抜いて切り捨てる早業を持っているが、

千景にはそれがない。

陽乃「……やらかしたわね」

『くふふっ、良いではないか。ただ人を屠ったところで意味もなかろう』

陽乃「勇者を殺しても悪い意味しかないわよ」

『そのつもりであろう?』

陽乃「そんなわけ、ないじゃない……郡さんはあの人たちとは違うんだから」


179 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 20:44:24.68C/X/kuhto (15/23)


千景も陽乃が死ねば助かるのではないかと言ったが、

それは彼らの流布した情報を知ってしまったからだ。

実際に陽乃に手を下そうとしたことはないし

陽乃やその母親を生贄に差し出したなんてことももちろんない。

だから、陽乃には千景を傷つける理由もなかった

陽乃「郡さんはあくまで、今の関係を何とかするためでしかないわ」

『ふむ……四肢の骨を砕くかや?』

陽乃「止めてよ怖い」

『……妾としては、害する人間共にでさえ手を下さず笑みを見せている主様の方が恐ろしく思うがのう』

陽乃「………」

『よもや、人間に全幅の信頼を置いている。などとは言うまい?』

陽乃「ええ、言わないわ」

千景の姿が見えなくなるころに、

陽乃は千景と同じ寄宿舎の方に向かう

人を信じるのは難しい

けれど、仲間でさえ信じないのはいかがなものかと、陽乃は少し思っていた。


180 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 20:46:12.91C/X/kuhto (16/23)

√ 2018/07/30 夜 (丸亀城)

21~30 友奈
51~60 若葉
91~00 ひなた


↓1のコンマ

※それ以外は通常


181以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/10(土) 20:49:50.130JPTOIXc0 (3/4)




182 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 20:51:05.74C/X/kuhto (17/23)


では少し中断します。
再開は21時半ごろからを予定しています。


183以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/10(土) 20:55:27.54wes7eb1OO (2/3)

一旦乙


184 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 21:35:02.55C/X/kuhto (18/23)


ではもう少しだけ


185 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 21:58:21.88C/X/kuhto (19/23)


√ 2018/07/30 夜 (寄宿舎)


夜、陽乃は自分の部屋のベッドで横になっていた。

朝や昼なら街に下りないという条件は付いているものの、

外で過ごしていることも出来るが、

夜ともなると流石に外出しないようにと厳命を下されている

煩くなかろうと隣の部屋の音が聞こえてくるなんて壁の薄さはないが、

玄関としているドアを開けたりしたら流石に聞こえてしまう

陽乃「土居さんと伊予島さんは相変わらずね」

窓を開けてみると、

恐らくは杏の部屋から二人の声が聞こえてくる

大騒ぎというわけではないが、窓を開けているのかもしれない。

陽乃「……明日、郡さんと戦うってみんな知っているのかしら」


186 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 23:08:59.67C/X/kuhto (20/23)


陽乃はまだ話していないし、

恐らくきっと千景はそういうことを話すような人ではない

そうなると、完全に黙っての模擬戦になってしまうわけだが

それはさすがに許されないので、明日の朝か後で連絡を入れておくべきだろうか。

窓を開けておけば若葉の悲鳴が聞けるかもしれない。

陽乃「それにしても……早まったかな……」

はっきりさせるには良いとは思うけれど

第三者―九尾以外―を挟まないあのやり取りは聊か早計だったかもしれないと

陽乃は今更思ってしまう。

千景のことを気に喰わなかったなどではないし、

先に武器を向けてきたのは千景の方だ

だとしても――

陽乃「頭に血が上っちゃったかな……」

少し、嫌な感じがしてしまう。



1、九尾を呼ぶ
2、若葉に模擬戦の連絡
3、エゴサーチ
4、少しだけ九尾の力を使ってみる


↓2


187以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/10(土) 23:13:10.210JPTOIXc0 (4/4)

2


188以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/10(土) 23:15:03.35wes7eb1OO (3/3)

2


189 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 23:39:35.93C/X/kuhto (21/23)


陽乃「乃木さんに連絡しておこうかしら」

今更模擬戦を取りやめることも出来ないわけではないが、

それはそれでまた千景との関係に問題が生じるだろう。

だから後戻りもできないと考えた陽乃は、

支給されているスマホを手に取って、連絡用のツールを選択する。

支給されたスマホにはいくつかのアプリがアンインストール不可で追加されているが、

その一つに、連絡ツールがある。

そこには陽乃を含めた勇者全員と、

巫女の代表的な立場として近くにいるひなたが登録されている

もちろん、その関係者も削除できないようにもされている。

陽乃「乃木さん……あぁ」

以前千景と険悪になった後にフォローのために会いに来てくれたのだが、

若葉と陽乃のやり取りはその時の連絡が最後になっていた。

陽乃「結局、仲違いしたままなのよね」

それどころか、明日の朝に模擬戦を行うことになった。

乃木さんに少し申し訳ないなと、陽乃は苦笑する


190 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 23:56:04.33C/X/kuhto (22/23)


一応、「申し訳ないのだけど……」という一文を入れてから、

千景と模擬戦を行うことを付け加えて若葉へと連絡を行う。

陽乃「さて……」

スマホを布団の上に投げて、目を閉じる。

耳を澄ませてみると、

夏のほんのり青っぽい匂いをより強く感じる

夜も元気な虫たちの鳴き声、

姿さえ見えなければ風情を感じる穏やかな時間の流れ

そして――

「なにぃぃぃぃッ!!!?」

聞き覚えのある悲鳴

窓を開ける音

「なんだなんだぁっ!?」

「今の声若葉ちゃん?」

「若葉ちゃん? 若葉ちゃん!」

球子の声と、友奈の声

そしてきっと駆け付けたであろうひなたの声。

陽乃は思わず苦笑して、

ベッドの上で震えるスマホを手に取る

表示はもちろん、乃木若葉だった。


191 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/10(土) 23:57:24.68C/X/kuhto (23/23)


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日も可能であればお昼ごろから


192以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/11(日) 00:09:35.94h5sj2XAKO (1/1)


この殴りあいでなんとか関係改善のきっかけになるといいけど…
あと今回の若葉は色々と気苦労が絶えなさそう


193以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/11(日) 00:53:13.44x6Z/gHkpO (1/1)


まあ久遠さんも夏凜とどつきあってたしな


194 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 13:25:27.02lSpetpW+o (1/24)

では少しずつ


195 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 13:30:00.94lSpetpW+o (2/24)


若葉『な、なにが起きてそうなったんですか!?』

陽乃「顔合わせて喧嘩を売られて買った……かな?」

若葉『なん゛……っ』

若葉の女の子らしからぬ濁った声が途切れて

電話の奥で、若葉の声ではなくひなたの宥めるような声が聞こえる

目を離している間に、

要注意人物二人が出会って模擬戦を行う話になっているのだから

リーダーである若葉の頭は相当痛いのだろうと、

陽乃はごめんなさいと手を合わせることだけしておく。

陽乃「白黒つけた方が良いかなと思ったの」

若葉『なにもいきなり模擬戦なんて……しかも勇者の力を使って』

陽乃「勇者としての実力を示しあうものだから、そこは譲れないの」

若葉『むぅ……』

本当は殺しかねないからなのだが

流石に言うわけにはいかないので、誤魔化す


196以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/11(日) 13:33:24.15icgh0BMzO (1/2)

きてたか


197 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 13:47:11.88lSpetpW+o (3/24)


若葉『正直なところ、勇者の力を使っての私闘は避けて頂きたいと思っています』

陽乃「問題しか起こらないものね」

若葉『特に、郡さんから切り出したのだとしても原因は久遠さんにあるとされてしまう』

陽乃「事実だし」

若葉『それはそうですが……』

聞こえないように配慮したのかもしれないが、

離れた若葉の口から零れたため息が聞こえてしまう。

九尾の力を借りて以降、

そういった部分も鋭くなったような気がするのは気のせいなのかなと、陽乃は小さく笑みを浮かべる

陽乃「大社としては、やめて欲しいのかしら。それとも、叩きのめして欲しいのかしら」

ひなた『大社にはまだ伝わっていないと思いますので、分かりかねます』

陽乃「そっか」

ひなた『ただ、久遠さんの力が未知数なので怖いですね』

若葉『ひなた……』

ひなた『千景さんのこと、本当に害せずに済みますか?』

陽乃「勇者の力を使っていれば大丈夫だと思うわ」

ひなた『それが絶対かどうかが問題なんです』


198 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 14:30:21.17lSpetpW+o (4/24)


ひなた『現状、久遠さんのお力は勇者にも効果的である。という可能性も考えられています』

陽乃「だからこそ、乃木さんに連絡をしたのよ」

若葉『場合によっては介入しろということですか?』

陽乃「危ないと思ったら止めて欲しいの」

若葉『それは……』

陽乃「郡さんだってただの人の力ではないから、手加減して叩けるほど弱い人だとは思えない」

ひなた『本気を出すから、自分では止められないというのはあまりにも危険では?』

陽乃「ぐうの音も出ないわね」

本気を出そうが出すまいが

九尾が裏切った瞬間に手を離れるので、それ以上に質が悪い

別の神様に切り替えられるなら切り替えたいくらいには、理不尽である。

もっとも、神々とはそういうものなのだろうけれど。

若葉『もしあれなら、私が郡さんと話して模擬戦の約束をなかったことにすることも出来ますが』

ひなた『それは難しいと思いますよ若葉ちゃん』

陽乃「確実に郡さんからあなたへの評価が悪くなるわ」

若葉『ぐ……』


199 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 14:53:30.06lSpetpW+o (5/24)


若葉『しかし、模擬戦をやらせるなんてあまりにも危険だ』

ひなた『そうですねぇ……』

陽乃「でも蟠りをどうにかするためにも、ここで一発殴り合っておきたいじゃない?」

若葉『久遠さんっ』

陽乃「冗談よ。ごめんなさい」

模擬戦が言われている通り危険だと陽乃も分かっている。

しかし千景もやる気になっているし、

今の陽乃と千景の関係性を考えればはっきりするための方法としては必要な事でもある。

それは、若葉とひなたも分かっている。

だとしても――と、言うほどに陽乃の力が未知数なのだ

ひなた『若葉ちゃんがちゃんと見張って、絶対に止められるのなら私は仕方がないと思いますよ』

若葉『結局私の裁量なのか……?』



1、嫌なら高嶋さんに頼むけど……
2、もしあれなら、乃木さんが代行して模擬戦する?
3、必要なのよ。乃木さん
4、仲間内でまでごたごたしてるの、面倒くさいのよ


↓2


200以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/11(日) 14:57:53.16nf8XUZ0M0 (1/3)

3


201以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/11(日) 15:00:23.82icgh0BMzO (2/2)

4


202 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 15:30:23.85lSpetpW+o (6/24)


陽乃「仲間内でまでごたごたしてるの、面倒くさいのよ」

ひなた『え?』

陽乃「あっ、えぇと……仲間同士でいつまでもいがみ合ってるのも。ね?」

ひなた『そう……ですね』

言葉が途切れて、少しだけ鎮まる。

外から聞こえてきていた虫の声も幻聴だったかのように無音で

さっきまで入り込んできていた夏の空気感さえも薄い

陽乃はスマホを耳から離して、胸を押さえる

どきどきとしているのが、伝わってくる

さっきのは間違いなく自分の言葉だった

自分で――

若葉『その考えには、私も同意です』

陽乃「っ……」

若葉『今は襲撃がないだけでいつ来るか分からない。なによりも長野で頑張っている白鳥に失礼だと思う』

若葉はそういうと、少し間をおいて

若葉『彼女が護ってくれている今、その大切な時間を仲間で睨み合って潰すなんて最低だろう……』


203 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 15:41:48.06lSpetpW+o (7/24)


若葉『だから、私はその戦いを見届けようと思います』

場合によっては介入を辞さない。と、

若葉はしっかりと付け加えて、宣言する

若葉『勇者のリーダーとして、承認します』

陽乃「……迷惑をかけるわね」

若葉『いえ、自分が不甲斐ないせいでそうせざるを得なくなっただけです。悪いのは私も同じでしょう』

本当に、リーダーには不向きだな。

そんな呟きが聞こえて、ひなたの切なげな声が聞こえた。

若葉『私に出来るのはせいぜいが責任を取ることのみ……久遠さんが真に勇者と認められてさえいれば』

陽乃「でも認められていない」

若葉『そうですが――』

陽乃「ですがも何も、そうなのよ」

若葉の顔が見えなくても

昼間のように口惜しんでいるというのが、何となく想像できる陽乃は

ベッドの上で膝を抱えて、目を瞑る

それは正しい。

自分の中には人々への憎悪が渦巻いている

そしてそれは時折顔を覗かせていて、虎視眈々と機会を窺っているようにも思える。

そんな人が真に勇者であるはずがなく

そんな人がリーダーとして先頭に立つべきではないと、陽乃は思う。


204 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 15:56:58.97lSpetpW+o (8/24)


陽乃「私は、大社も郡さん達も街の人達も認めがたい存在なの」

若葉『力が未知数というだけで――』

陽乃「それ以上の理由があるのを、見て見ぬふりは駄目」

言いがかり……だとしても、それは広がりきった毒である。

火のないところに煙は立たず、久遠家が人柱の家系であることは母も語る真実。

若葉がそうではないと思っていても

無視して良い問題ではないのだ。

ひなた『久遠さん、いつかきっと分かり合える日が来ますよ』

陽乃「……本当に?」

本当にそんな日が来る?

来るとは思えない

ひなたは陽乃達が生贄として放り出されていたことを知らない。

そのせいで、大勢の親族の命が失われたことを知らない。

その怒りと憎しみがあることを――


205 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 16:00:53.46lSpetpW+o (9/24)

↓1コンマ判定 一桁

0147 分岐

※それ以外は通常


206以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/11(日) 16:03:06.73nf8XUZ0M0 (2/3)




207 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 16:28:02.34lSpetpW+o (10/24)


陽乃は首を振って、考えを払う。

ひなたに怒鳴ったって何かが変わるわけではない

ただの八つ当たりにしかならないだろう。

陽乃「そうだと、良いけど」

ひなた『……本当、久遠さんのことを分かって貰えたらいいのですが』

若葉『そうだな……久遠さん。明日の模擬戦は了承しました。ただ、応援は出来ません』

陽乃「肩入れしちゃだめだものね」

陽乃は笑い交じりにそう言って、スマホを手放す。

スピーカーにしているので、若葉の声は聞こえる

若葉『どうか、深刻な怪我だけはしないようにお願いします』

陽乃「駄目でしょう? 怪我をさせないでください。じゃないと」

ひなた『このくらいはオッケーです。千景さんにも明日、改めて同じように言いますから』

陽乃「そう……じゃぁ、申し訳ないけれど宜しくね」

若葉『はい。おやすみなさい。久遠さん』

陽乃「ええ、乃木さんと上里さんもおやすみなさい。仲良くね」

ひなた『ふふふっ、お任せくださいっ』

ちょっとだけ弾んだひなたの声に、陽乃は微笑んで電話を切る。


208 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 17:03:16.55lSpetpW+o (11/24)


陽乃「はぁ……」

スマホを充電器に挿して、脇に置く

人々と分かり合えるとは思えない。

向こうが手のひらを返してきたとして、受け入れられる気がしない。

きっと、悍ましい何かに見えることだろうと、陽乃は顔を顰めた。

勝手に人柱にされ

命懸けで救える人を救い、助かって戻ってきたら恨まれて、悪意を向けられて

仲間であるはずの勇者に睨まれ

大社という組織に敵視される立場になってしまって

陽乃「駄目……だって、分かってるけど」

九尾の言葉が分かってしまう。

救う価値などあるのかと

命を賭ける意味があるのかと

陽乃「もう、寝た方が良さそうね」

これ以上は悪いことを考えてしまいそうで

陽乃は電気を消して、眠ることにした


209 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 17:26:57.12lSpetpW+o (12/24)


1日のまとめ


・ 乃木若葉 .: 交流有(長野、勇者優先、模擬戦)
・上里ひなた : 交流有(長野、勇者優先、苛立ち)
・ 高嶋友奈 .: 交流無()
・ 土居球子 .: 交流無()
・ 伊予島杏 .: 交流無()
・   郡千景 .: 交流有(模擬戦)
・    九尾 .: 交流有(処分拒絶、看破、存在の必要性)


√ 2018/07/30 まとめ


 乃木若葉との.絆 55→57(普通)
上里ひなたとの絆 55→56(普通)
 高嶋友奈との.絆 50→50(普通)
 土居球子との.絆 40→40(普通)
 伊予島杏との.絆 45→45(普通)
   郡千景との.絆 25→24(悪い)
    九尾との.絆 60→60(普通)


210以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/11(日) 17:33:48.56DpiNDEY4O (1/2)

千景だけ絆の初期値が半分か…厳しいな


211 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 17:47:15.33lSpetpW+o (13/24)


√ 2018/07/31 朝 ()

01~10 九尾
21~30 友奈
31~40 千景
41~50 若葉 ひなた
81~90 球子

↓1のコンマ


212以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/11(日) 17:48:40.68DpiNDEY4O (2/2)




213 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 18:05:51.97lSpetpW+o (14/24)


√ 2018/07/31 朝 (寄宿舎)


いよいよ、千景との決戦の日がやって来た

やってきたと言っても昨日の今日なので緊張していたわけでもない。

普通に起きて、軽く体を伸ばして

自分の身体が身長くらいしか伸びしろがないことにちょっぴり苦笑いをしながら準備をする。

いつもと違うと言えば、朝から動きやすい恰好をしている点と

バンテージを手に巻いていることくらいだ

陽乃「問題は、なさそうね」

何度か握ってみても痛みなどはなく状態良好

二度ほど素振りをしてみても、伸びる痛みなどは感じないし、体の重さもない。

軽く足を踏み込ませてみても

ひきつったり、痛みが走ったりもしない。

仲間内の戦いだというのに、これでもかというほどに万全だった


214 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 18:20:12.75lSpetpW+o (15/24)


陽乃「手加減、出来るかしら」

ひなたにはああ言ったものの、

陽乃は手加減できるのならしたほうが良いと考えていた。

九尾の力が暴発する可能性があることも考えると、

思い切り振りぬくような本気ではなく、寸止めするような感覚でやっていけば

万が一何かがあっても抑えられると思っているからだ。

陽乃「……」

九尾の力がもし仮に……本当に勇者の力さえも討ち果たしてしまうものであるならば、

この戦い、陽乃は勝つべきではない。

勝てば陽乃の危険性は証明され、大社からの扱いはより厳しいものになる。

勇者達も、陽乃を邪険にすることはないと思うが

畏れを抱かせることになる。

ごたごたした蟠りが畏れ一本道になるので、楽ではあるが。


1、九尾に余計なことしないようにとくぎを刺す
2、勝つべきか負けるべきか問う
3、自分は大丈夫かと問う
4、模擬戦の場所に向かう

↓2


215以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/11(日) 18:26:23.83GZr7EZ1eO (1/2)

千景下がってるじゃん…安価なら上か下


216以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/11(日) 18:31:11.19nf8XUZ0M0 (3/3)

1


217 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 19:00:44.30lSpetpW+o (16/24)


陽乃「九尾、どうせ聞いているんでしょう?」

声をかけると九尾の力が微かに揺らぐ

傍に居るはずだが返事はなく、しかし聞いてはいるということだろう。

陽乃「お願いだから余計なことはしないで頂戴」

幻惑の力や、力を使っていなくても強制的に力を使わせたりと

陽乃の手を離れた行使をしないようにと、釘をさす

陽乃「真剣なやり取りだから、邪魔をされたくないし……何より郡さんを殺したくない」

『くっくっくっ、処分するのじゃろう?』

陽乃「違うって言ってるでしょう?」

『じゃが煩わしいと……主様はそう思うておるのじゃろう?』

九尾の声が頭に響く

甲高く感じる九尾の声は心までも震わせるようなもので

しかし、それは喜ばしいものではない。

陽乃「私はっ」

『自分に手を出せばこうなると、敵意を抱いた末路を見せてやればよい』

陽乃「っ……」

『命を奪わずとも、しばし動けぬようにしてやればよかろう』


218 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 19:16:45.12lSpetpW+o (17/24)


陽乃「入院させるなんてそんなの……駄目よ」

『小娘一人欠けようが主様ならば容易に補えるであろう?』

陽乃「そんなことわからないじゃない」

『主様が真に力を使えば容易な事よ。無論、相応の代価を要するじゃろうが問題はあるまい』

陽乃「代価……?」

真に力を使うとはどういうことなのか

それに支払わなければならない代価とは何なのか

謎が深まるばかりの九尾は、喉を鳴らす

『四肢を砕いて傀儡のように捨ててしまえ。主様を悪とする有象無象に己の威を示せ』

陽乃「それこそ私が悪者になっちゃうじゃない」

『人間自らが浅はかであることを知らしめるには許容できよう』

出来るわけがない。

そう返す前に九尾は続けて

『憎み疎み害あるものとしていた主様がただ人であり、自らが狐の尾を踏んだことを生涯悔やませてやれば良い』

陽乃「そのために、郡さんを傷つけろって言うの?」

『人間が勇者とやらに求める尊き犠牲を出すだけのこと。バーテックスが行うか主様が行うかの違いでしかなかろう?』


219 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 19:37:12.02lSpetpW+o (18/24)


陽乃「ふざけないで!」

『ふむ……』

陽乃「尊い犠牲? それだけの違い? そんなわけないじゃない……」

九尾はからかっているわけではない。

本気でそう考えて言葉にしている。

九尾にとっては勇者である千景も人間の一人……有象無象の中の一つにすぎず

陽乃の障害を排除するための道具の一つにしか考えていないのだ。

勇者が一人欠けてしまう

そんなことは陽乃が生きていくうえでどうにでもなる些細な事象であると切り捨ててさえいる。

昨日、千景が生きていたほうが良いと言ってもなお……だ。

陽乃「私は一応、勇者とされているのよ……? ただでさえ悪者扱いされているのよ?」

『うむ。ゆえに、それが誤りであったことを示すのじゃろう?』

陽乃「貴女が言っていることをしてしまったら、私は乃木さん達にまで化け物扱いされるのよっ」

『手に余る存在を高位とし崇め、敬うこと。あるいは人智を超えたものとして忌避することは人間の生存本能であろう?』

陽乃「貴女……っ」

『問題があるかや? 軽んじられている立場を明確にした結果抱かれる畏れは正しかろう』

九尾は心から困惑しているかのように、息を吐く

『それが小娘共が乖離する要因となったところで害はあるまいよ。大社なぞ、小娘共が黙ればどうにもできまい』

それの何が問題なのか

それの何がいけないのか

九尾はまるで理解が出来ないと問うかのように、零した。


1、私は仲良くしたいの
2、駄目ね……貴女と通じ合える気がしない
3、それで得られる自由に意味はないわ
4、もういい……邪魔だけはしないで
5、そんなことをしたらお母さんが護って貰えなくなる。それだけは駄目


↓2


220以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/11(日) 19:39:14.277vehyMzLO (1/1)

1


221以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/11(日) 19:43:06.60JcxFzp+vO (1/2)

3


222 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 19:45:05.04lSpetpW+o (19/24)


では少し中断いたします。
再開は21時頃を予定しています


223以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/11(日) 19:46:33.77JcxFzp+vO (2/2)

一旦乙
西暦時代の九尾は尖りに尖っていらっしゃる…


224 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 21:05:02.69lSpetpW+o (20/24)


ではもう少しだけ


225 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 21:16:54.29lSpetpW+o (21/24)


陽乃「それで得られる得られる自由に意味はないわ」

『ほう?』

陽乃「ただ恐れが畏れとなって、バーテックスと同じような扱いになるだけでしょう?」

勇者でも屠ることの出来てしまう危険な力

それを持つ陽乃の気を悪くしてはいけないと、よそよそしくなって

自由にされるというよりは、放置されてしまうというのが正しいだろう

与えられるのは孤独感

陽乃が日々、独りでいようとしている今を突き詰めるのと同じ結果に至る

戦いが始まれば、陽乃の力は嫌でも知られていくのだから。

それでは何も変わらない。意味がない。

陽乃「そんな自由なら、郡さんを傷つけなくたって手に入る」

『それが人間にも向けられるということを示さねば、主様に首輪をつけることを謀るやもしれぬ』

陽乃「首輪って、私は――」

『化け物。と、人間は考えるのであろう?』

陽乃「ええ、そう。そんな化け物を手懐けようだなんて考えると思う?」

『そのための手段があるならば人間は手を出す。愚かよのう? 己らに勝機があるなどと夢幻に手を伸ばす』

九尾は笑う

深く……深く、心の底から嘲り笑う


226 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 21:32:19.18lSpetpW+o (22/24)


『主様は命を賭しても救う決意を抱かせる母上がおるのであろう? 人の手に落ちれば命を落とす儚きものを、守らせておるのだろう?』

陽乃「お母さんを……人質にするって。そんな、流石にそんなこと……」

『人間を、主様は信じるに値すると本気で考えられるような甘露に溺れているのかや?』

くつくつと、九尾は喉を鳴らして

『人間は主様らの命を持って救われると信ずるほどには、愚者であろう?』

陽乃「だと、しても……私が、郡さんを傷つけたところで得られる自由なんて」

『己らを害すると知り得た以上、主様を不快にさせる行いは出来ぬであろう』

仲間である勇者ですら、

暫く入院が必要なほどに打ちのめすこと

勇者ですら対抗しきれないほどに凶悪な力を持っていること

それを知ってしまったら、

人質が手元にあるという条件はむしろ悪手でしかないと悟るはずだろうと九尾は言う。

『至る先が同一であると言うならば、より利のある結果を得られるよう行動すべきではないのかや?』

陽乃「……ダメよ。意味がない。私が望んでる将来が遠くなってしまうだけだわ」

『煩わしいと、思うておっても?』

陽乃「私はそんなこと思ってないっ」

『ふむ……主様がそう言うのであればそうなのであろうな』

言葉ではそう言いつつ、

まったくそう思っていないといった声で九尾は吐き捨てる

呆れてしまったようにも感じられるその声は、陽乃の中に燻っている感情に触れた


227 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 22:12:17.24lSpetpW+o (23/24)


陽乃「知ったようなこと……言ってくれちゃって」

九尾は陽乃の心にまで入り込んでいないものの、常に傍に居る。

陽乃が言葉にしたことはもちろん、

全てを察していないと陽乃は信じたいが、口にしていないことも。

陽乃「郡さんを傷つけるなんて……」

九尾の言っている通りにしたら、言っている通りになるだろうか?

なる可能性は非常に高い

陽乃の力が勇者でも討てるのであれば、それは神樹様でさえも討てる可能性まで出てくる

陽乃を刺激することで神樹様を討たれる可能性を考えれば

母親の身を護り、絶対に害さない方が得策であると大社は考えてくれることだろう

けれどそれを実行してしまったら、終わりだ

陽乃は本当に化け物になってしまう

陽乃「……駄目よ。それだけは」

何度か握り拳を作って、大きく息を吐く

どきどきとする胸を押さえて、首を振る

これから千景との模擬戦を行わなければならない

なのに、千景を傷つけるか否かを考えてしまう

それは戦うには相応しくなくて、けれど今更取りやめることも出来なくて

陽乃は模擬戦を行うべく、千景たちがいるであろう場所に向かうことにした


228 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/11(日) 22:16:44.19lSpetpW+o (24/24)


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

千景との模擬戦、勝敗分岐


229以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/11(日) 22:29:17.29k+Er9kFZO (1/1)


信じてやりたいけど九尾が本当に手を出さないでくれるだろうか…
陽乃さんにもメンタルケアしてくれそうな相方が欲しいなぁ


230以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/11(日) 22:37:12.36GZr7EZ1eO (2/2)


九尾がやベーやつ過ぎて辛い神世紀の300年間は重要だったんだな…こんなの病むわ


231以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/12(月) 00:15:19.77AoYL2BnxO (1/2)


はるのんがどんどん闇堕ちしてしまう……


232 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/12(月) 19:49:11.48eA8Rhf28o (1/16)


では少しだけ


233以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/12(月) 19:51:31.37yq0NHy66O (1/5)

かもーん


234 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/12(月) 19:53:46.66eA8Rhf28o (2/16)


元々用意された鍛練場を今回は模擬戦の場として使用することになっている。

朝からということもあり球子や友奈たちの姿はなく

見届けと状況によっては介入を行う若葉とひなたのほかには、千景と陽乃しかいなかった。

千景「……来たのね」

陽乃「逃げるわけにもいかないじゃない?」

自分から今日の朝に仕切りなおしを要求した以上、

やっぱり今日もやめましょう

そもそも、模擬戦なんてやめましょう

そんなことを言えるわけがない。

陽乃「郡さんは大丈夫? 早起きさせちゃわなかった?」

千景「心配無用よ」

陽乃「そう……」

千景は昨日と変わらない様子で答える。

持っていた木製の大鎌は畳むことも出来る大鎌へと変わっていて、

着ているのは陽乃にも支給されているジャージだ。

千景「貴女……その格好は正気?」

陽乃「甲冑着るわけにもいかないじゃない?」

若葉「それはそうですが、郡さんの大鎌に対してその恰好は少々……」

陽乃「バーテックスとの戦いでそんなことを気にする必要があるとでも思ってるの?」


235 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/12(月) 20:02:12.59eA8Rhf28o (3/16)


若葉の心配してくれる気持ちも悪いわけではない。

しかし三年前、生身で戦い満身創痍へとなり果てた経験のある陽乃にとってはどうでもいいことだった。

若いのだから、女の子なのだから

無理や無茶から遠ざけられる日々から一転して、死地へと投げ出された。

陽乃「この体が切り刻まれたって関係ない。死ななければ問題はないもの」

生き残るためなら体がどれだけ傷つこうとも関係はないし、

腕の一本足の一本失おうと生きてさえいればそれでいい。

千景の大鎌は確かに対人において非常に危険な代物ではあるが、

切り刻まれようと切り落とされなければ許容範囲である。

陽乃「私だって鍛えているし勇者としての力も含めれば内臓の一つや二つは殴り潰せると思うわ」

若葉「久遠さん……」

陽乃「ぁっ……あぁ、ふふっ、例えの話ね。例えの」

若葉の焦りを感じて、陽乃は慌てて笑みを浮かべる。

過去のことを思い返したせいか

それとも先ほどまでの九尾との話があってか

陽乃は【それをするつもりであるかのように】語ってしまった。

陽乃「とにかく私は切り落とされなければセーフ、郡さんは殴られたら内側に障害が残るかもしれないって思っておいて」


236 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/12(月) 20:15:30.22eA8Rhf28o (4/16)


ひなた「セーフ? え?」

若葉「ひなた……」

特に、顔を殴り飛ばしてしまうと大変な事になる可能性が高い。

勇者としての加護によって身体強化のみならず保護機能があるならどうにかなるかもしれないが、

無ければ一撃で意識を持っていかれる

それはもちろん、陽乃であっても首を落とされたら流石に死ぬ。

それは分かっているようで

若葉「両者ともに可能な限り喉や頭部、心臓などの致命的な攻撃は避けてくれ」

千景「胸でも刺さなければいいのね?」

若葉「あぁ、それは……」

陽乃「構わないわ」

若葉「勝敗は、相手への攻撃のヒットを得点として3点先取とする」

例外として気絶させた場合も勝利とし

危険と判断した場合には審判の介入及び制止によって、中断とする

中断の際の勝敗は、中断時点での得点によって定める

これによって、引き分けもある

ひなた「久遠さん、武器の有無は大きいハンデです。本当に良いのですか?」

陽乃「武器なしに郡さんが勇者の力を使えるとしても、近接戦では私が有利だもの。ちょうどいいわ」

ひなた「……分かりました。了承はしたくありませんが、若葉ちゃん。本当に、本当に宜しくお願いしますね。千景さん、久遠さんもです」

ひなたの悲痛さの感じられる願いが鍛練場に響く


237 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/12(月) 20:34:44.21eA8Rhf28o (5/16)


1、先攻を譲る
2、先手を打つ

↓2

※同時判定
0 00 最悪
1、7、4 防ぐ
3、8、6 回避
5、9、2 命中


238以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/12(月) 20:35:20.33yq0NHy66O (2/5)

1


239以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/12(月) 20:40:13.17RHB8nQXa0 (1/2)

1


240 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/12(月) 21:15:48.01eA8Rhf28o (6/16)


陽乃「ふぅ……」

息を吐いて、心を落ち着かせる

ゆっくりと右手を前に出し、右側面を千景へと向けていく

そうして態勢を整えた陽乃は千景へと笑みを浮かべる

陽乃「……どうぞ。郡さん」

千景「馬鹿に、してるの……?」

陽乃「ううん、貴女の実力が見てみたいだけ……私の拳は、たった一度でも貴女の実力を奪ってしまうもの」

千景「っ」

千景のように鋭利な武器ではないが、陽乃の拳の一撃は重い

それは千景の内臓を破壊しない程度の物であっても

鈍い痛みを千景に産み落として、動きを鈍らせる

そうなったら、もう千景は本当の実力は出せなくなってしまう

千景「許さない……!」

陽乃「うん?」

昨日のことだってそうだ。

自分の方が上手だからと、わざわざ不利な条件での戦いを求めた。

ひなたや若葉が気にかけても、自分よりも千景が心配だと余裕を見せた。

見下されているとしか思えない。

取るに足らない程度のものでしかないと――

千景「馬鹿に――してッ!」

千景は陽乃に向かって勢いよく踏みこむ


241 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/12(月) 21:24:10.82eA8Rhf28o (7/16)


勢いよく踏み込んで突っ込んできた千景は、勇者の力も合わさって非常に速く

手にしている大きな鎌が一閃の煌めきを描きながら陽乃へと迫っていく

飛び込むのではなく、駆け出してくる

陽乃の耳に、千景の足音は明瞭に聞こえてきていて

それがあとどれくらいで近づいてくるのかも……何となくわかる。

毛先がぴりつくような感覚は、九尾由縁の感覚だろうか

陽乃「ふっ――」

拳を固く握りしめる

右手前の姿勢をそのままに、ひと呼吸

そして――

陽乃「ったぁッ!」

ほぼ肉薄に近い距離にまで来た瞬間、

左足で踏み込むのと同時に、左手で大鎌を打ち上げる

千景「!」

若葉「なっ……」

踏み込んだ地鳴りが鍛練場に轟き、

武器を弾き飛ばされた千景の体が後ろへと仰け反る


242 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/12(月) 21:25:25.84eA8Rhf28o (8/16)


↓1コンマ判定 一桁

0 00 最悪
1、7、4 防ぐ
3、6 回避
5、9、2、8 命中

※防ぐによる回避ー1


243以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/12(月) 21:25:53.56xFPSNZbV0 (1/1)

ほい


244 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/12(月) 21:37:11.41eA8Rhf28o (9/16)


陽乃「っはぁっ!」

陽乃はその勢いのまま右手拳を振り抜く

態勢が崩れ、鎌は弾かれ防御には回せない

確実に決まるであろうその一撃は――しかし、空を切った。

陽乃「あら……」

直撃の刹那に大鎌での防御を捨てた千景は、

大鎌の柄を鍛練場の床に突き立ててより酷くバランスを崩して陽乃の拳を寸前で躱し、

そのまま転がって距離を取ったのだ

千景「っは……はぁ……」

陽乃「驚いた……良い判断力だと思うわ。郡さん」

千景「……ばけ……もの……」

陽乃「ええ、そう思って向かってきてもらって結構よ」

千景の大鎌を拳で撃ち抜いての迎撃

そこから間髪入れずのストレート

二度の踏み込みの轟音は言葉の裏でゆっくりと静まっていく

当たれば致命傷

その言葉に嘘偽りはないのだと、千景は自分の額を拭った。


245 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/12(月) 21:43:44.45eA8Rhf28o (10/16)


その一方で、

陽乃は本当に千景の実力を見誤っていたと……笑みを浮かべる。

大鎌を打った拳に痛みは感じられない

空ぶった拳にも感触は残っていない。

思いのほか勢いのあった一撃は、千景の隙を突いていたはずだった。

本当なら一撃入れての戦意喪失か、

戦意喪失に至らずとも鈍らせることくらいは出来ていたのに、

千景はそれを見事に回避して見せた。

決して弱くはない。

ゆえに――手加減は不可能だ。

陽乃「はぁ……ふぅ」

何度か拳を作って開いて、息を吐く。

千景が少しふらつきがちに立ち上がったのを見てから、もう一呼吸

陽乃「化け物は、待っていてはくれないのよ。郡さん」

千景「!」

一声かけて――陽乃は一気に距離を詰めた


246 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/12(月) 21:44:24.32eA8Rhf28o (11/16)

↓1コンマ判定 一桁

0 00 最悪
1、7、4 防ぐ
3、6、2 回避
5、9、8 命中


247以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/12(月) 21:45:33.27yq0NHy66O (3/5)




248 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/12(月) 21:47:20.43eA8Rhf28o (12/16)


↓1コンマ判定 一桁

0 00 最悪
1、4 防ぐ
3、6、2 回避
5、9、8、7 命中

※防いだ分、防ぐ-1


249以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/12(月) 21:49:12.381bQps36OO (1/2)

千景強いな


250以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/12(月) 21:49:13.05RHB8nQXa0 (2/2)

はい


251 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/12(月) 22:05:24.26eA8Rhf28o (13/16)


陽乃の千景と違い、飛ぶように距離を詰めていく

床を一気に蹴り、最小限の減速で加速させていくその詰め方は、

千景にとってはほぼ一瞬の肉薄だった

千景「っ!」

陽乃「ってぇぁッ!」

目の前にまで迫った陽乃の、左拳

千景はそれを、大鎌の柄で受け止める

陽乃「!」

千景「っぁ……」

弾き飛ばされて、千景の体が仰け反って

けれど――二度目はないと千景は踏みとどまる

彼女は侮っている

見下している

それを無いものとして目を閉じ耳を塞いで閉じこもっても――勇者になる前と何も変わらないではないか

無かったことになどなるものか

痛みを覚え、言葉に俯き、悪意に震える

そのはずなのに。

それらを今でこそ受けているはずの人は――

千景「貴女は――ッ!」

千景は歯を食いしばって、叫ぶように大鎌を振るった


252 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/12(月) 22:16:31.56eA8Rhf28o (14/16)


その一閃は陽乃の予測を大幅に超えて素早く、肌を切りつける

勇者の力があろうと生身に変わらない陽乃の左腕からは鮮血が迸って

ゆっくりと血が溢れて流れ出していく。

大怪我というには浅く、すぐに血が止まる程度の傷

けれど、確かな一撃だった。

千景「はっ……はぁ……」

陽乃「ん……」

左の腕の部分。

千景につけられた傷を陽乃はぺろりと舐める

流れる血は、三年前に嫌というほど味わった頃と変わらない。

逆流していく胃液の不快感がない分、美味しいとさえ感じられるようで

陽乃「ははっ……あはははははっ」

千景「!」

若葉「久遠さん?」

陽乃は思わず笑ってしまう。

とても高く、響くように

体が熱い……傷なんて気にならないほどに昂っている


253 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/12(月) 22:17:35.55eA8Rhf28o (15/16)


↓1コンマ判定 一桁

0 00 最悪
1~3 悪い
4~9 回避
ぞろ目 回避


254以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/12(月) 22:20:08.61yq0NHy66O (4/5)




255以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/12(月) 22:23:15.35AoYL2BnxO (2/2)




256 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/12(月) 22:23:56.91eA8Rhf28o (16/16)


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


※戦闘継続
※陽乃:千景=0:1


257以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/12(月) 22:26:56.181bQps36OO (2/2)


これは絶対にアカン


258以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/12(月) 23:20:08.56yq0NHy66O (5/5)


このシリーズのコンマバトルは一方的な戦いになることって少ないよね
でも早くも陽乃さんが暴走しそうで心配だなぁ…


259以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/13(火) 00:15:38.241EMEJy1/O (1/1)


激しい戦いになってまいりました


260 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/13(火) 20:47:31.65K1T9F41ko (1/11)


では少しだけ


261 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/13(火) 20:48:52.79K1T9F41ko (2/11)


陽乃「ぜんっぜん……駄目ね」

三年前、バーテックスと戦った陽乃は満身創痍になり果てていた。

体中を傷だらけにしながら失血死するほどの血を流し、吐いて

それでもなお立ちふさがって向かい来る人智を超えた化け物を殴り、蹴り討ち果たし続けた。

それに比べれば、たった数センチの裂け目など気にもならない。

ましてや流れ続ける様子もなく、手当もなしに血が止まってしまうほどのもの。

これでは軽傷とさえ言いたくない。

陽乃「……ねぇ、それで私を殺せるの?」

千景「なにを……」

陽乃「貴女にとって私はバーテックスと同類なのでしょう? なのに、この程度、たったこれだけ? それで本当に討てると思っているの?」

千景「っ……」

陽乃「貴女――戦ったこと、無いでしょう」

陽乃は自分の体の傷を舐めて、舐めて

そうして……千景につけられた傷はまるでなかったかのように綺麗さっぱり消えていく。

それは人間というよりも、獣めいた傷の手当だった。

若葉「久遠さん……なのか?」

陽乃「ほかの誰かに見えるの? 大丈夫、私は私よ」


262以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/13(火) 20:52:13.02KXO/Djh8O (1/4)

陽乃さんコワイ…


263 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/13(火) 21:01:25.06K1T9F41ko (3/11)


若葉「だが……」

若葉は自分の腰元の刀の柄を握りしめながら、陽乃を見据えて身構えていた。

見た目は陽乃に相違ない

しかしながら空気がまるで違うように感じていた。

それはかつての異形でさえ劣るほどの畏れを抱かせるような何かで、

本能が居合の構えを取らせながら、体を震わせている。

ひなた「……若葉、ちゃん」

若葉「分かっている……分かっているが」

ひなたの手が、若葉の裾を掴んで離さない。

それは、あれを止めなければならないという責任感と、

行けば殺されてしまうのではないかという恐怖とが入り混じっていて

ひなた「おそらく……ですが、あれは九尾様の御力です」

若葉「九尾様……あれが、か?」

ひなた「久遠さんが傷ついたことで千景さんを敵としたのか、あの傷が久遠さんの悪い面を呼び覚ましてしまったのか分かりませんが……」

ひなたは陽乃から目を離せなかった。

神様とは違う、悍ましい恐ろしさに立っていることさえできそうになくなりそうなほどで。

大社は陽乃を化け物と言うことはあったが、これでは本当に化け物と呼ばれてもしかたがない。


264 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/13(火) 21:15:12.52K1T9F41ko (4/11)


陽乃「もっと深く……殺しに来てくれないと駄目だわ」

若葉「殺しに行くのは駄目です!」

陽乃「……そうしないとバーテックスは倒せないわ」

若葉「久遠さんはバーテックスではない!」

ひなた「そうですよ……久遠さんは久遠さんです」

陽乃「ふふふっ」

確かに陽乃はバーテックスとは違う

しかし、バーテックスが化け物であるならば

同じく化け物と呼ばれている陽乃もまた、バーテックスと言えてしまう。

この戦いは単なる模擬戦ではない。

勇者の力を使い、己の力を示す戦いなのだ

勇者が討つべき相手がバーテックスであるのなら、

それに通ずる陽乃は殺すつもりで挑んでいかなければならない。

陽乃「ただの模擬戦だから。だなんて思っているの? ねぇ、忘れちゃった? あの日――私達は戦いから最も遠かったのよ?」

千景「っ……忘れてなんて――」

陽乃「ううん。だとしたら殺意が足りない。憎く疎ましく苛立たしいこの私に対して……手心を加えすぎている」


1、もしかして――私が殺すつもりでいくべきなのかしら?
2、あの日……貴女は命の重さを感じられなかったのね
3、やる気がない勇者なんて、要らない。わよね?
4、少しだけ、化け物を感じさせてあげるわ


↓2


265以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/13(火) 21:16:59.71Vg0Rpyu90 (1/2)

1


266以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/13(火) 21:20:07.89KXO/Djh8O (2/4)

2


267 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/13(火) 21:47:41.51K1T9F41ko (5/11)


陽乃「あの日……貴女は命の重さを感じられなかったのね」

千景「私は……」

陽乃「目の前にあった命、守れるはずだった命……それが、瞬きする間にも奪われていくのを。貴女は知らないのね」

陽乃は笑みを浮かべず、悲し気に零す。

陽乃は多くの命を取りこぼした

守れるだけの力がありながら、守り切ることは出来なかった。

それを知らないのは幸福だ

しかし、それを知ることが出来なかったのは不幸だろう。

陽乃「貴女は勇者なのだから。それを知らなければいけないわ」

千景「貴女は……何者なの……」

陽乃「ふふふっ、貴女達にとっては化け物ね」

陽乃はにっこりと満面の笑みを浮かべて答える

大社からも、勇者からも、人々からも

どうしようもなく疎まれている一人の【化け物】だ。

陽乃「さ――ほら、武器を取って構えて?」

千景「っ」

陽乃「でないと私……貴女を殺してしまうから」


268 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/13(火) 21:51:19.26K1T9F41ko (6/11)

↓1コンマ判定 一桁

0 00 最悪
1、4 防ぐ
3  回避
2、7 若葉
5、9、8、6 命中
ぞろ目 若葉


269以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/13(火) 21:52:40.68KXO/Djh8O (3/4)




270 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/13(火) 22:06:57.58K1T9F41ko (7/11)


陽乃「ふふふっ」

陽乃は笑みを浮かべ――踏み込む

摺り足程度の浮遊感

しかし踏み込む力は限りなく強く

軸足とした右足が浮ききる前に、差し出した左足のつま先で勢いを押し上げていく

そして――右拳で千景を撃ち抜く

陽乃「ふ――っ」

千景「ぁ゛っ」

構えてくれないと殺してしまう

それは、構えようが構えまいが攻撃するという宣言に他ならない。

千景もそれはすぐに分かった

陽乃が本気で殺しに来るのかどうかはともかくとして、

攻めに転じてくるのだと

けれど――足が動かなかった。

動くべきだと頭では分かっていたのに、体はどうにもならなかったのだ。

千景「あっぅっ」

踏み込んだ床鳴りさえも遠く感じるほどに、痛みに体が持っていかれる感覚

呼吸が止まって、意識が消えかけた瞬間

腹部にめり込んでいた拳が、まだ終わっていないと言わんばかりに振り抜かれる


271 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/13(火) 22:16:15.34K1T9F41ko (8/11)


千景「ぅ゛あっ」

殴り飛ばされた千景は受け身を撮れずに床へと衝突した勢いのままに転がって

握っていられなくなった大鎌が千景の手を離れて乾いた音と共に滑っていく

床へと倒れこんだ千景はうめき声を漏らしているので、死んではいない。

それを確認した陽乃は殴った右こぶしを軽く振り、何度か握って軽く頷いた

陽乃「郡さんって柔らかいのね」

若葉「郡さん! 郡さん平気か!?」

千景「ぁ……っ……かはっ……はっ……は……ぅ゛」

殴り飛ばされ転がったままの千景に若葉が駆け寄ると、

押しつぶされた内臓の鈍痛と圧迫感に苦しそうな声を漏らしつつ、差し出された手を払う

長い髪が床へと垂れ、千景の顔は見えなくなってしまっていたが

それでも陽乃は視線を感じた。

若葉「もうここで――」

千景「ふざけ……ないで……」

若葉「郡さん!」

千景「邪魔しないで……!」

若葉「だが……」

千景「まだ、やれるわ……あんな人に……負け……られないっ」


272 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/13(火) 22:35:51.92K1T9F41ko (9/11)


飲み込めない唾液を口元から滴らせ、

何度も崩れながら、震える足で立ち上がっていく千景は

ふらつく足取りで大鎌を拾うと

それを支えにして……陽乃へと向かって立って見せる

千景「はっ……はぁ……はっ、っ」

息を飲み、口元を袖で拭う

まだ整わない呼吸を無理矢理に抑え込んで顔を上げると

心配そうに立っている若葉を一瞥する

千景「平気……」

若葉「本当に平気なのか?」

千景「問題ないって言っているでしょう……っ!」

怒鳴って、腹部を押さえて崩れてしまう

それでも若葉が駆け寄ろうとすれば大鎌を振るい、

立ち上がって――

千景「負け……ない……!」

千景は痛みを堪えながら、全力で踏み込んでいく

鈍ってしまっていても、それは勇者の歩みだった


273 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/13(火) 22:41:57.06K1T9F41ko (10/11)


↓1コンマ判定 一桁

0 00 最悪
1、7、4 命中
3、6、2 回避
5、9、8 反撃

ぞろ目奇数 九尾


274以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/13(火) 22:44:20.83Vg0Rpyu90 (2/2)




275 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/13(火) 22:49:43.28K1T9F41ko (11/11)


では本日はここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から

※戦闘継続 (判定次第で中断)
※陽乃:千景=1:1


276以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/13(火) 22:57:23.03KXO/Djh8O (4/4)


今の陽乃さんは九尾に乗っ取られてるのか自分の意思なのか…
いずれにしても早めに終わらせないと千景が危ないな


277以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/14(水) 01:49:44.55bQ7NvF6MO (1/1)


もはや勝敗関係なくドン引きさせてるんだが大丈夫かはるのん?


278 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/14(水) 19:23:36.50sjJFEquno (1/12)


では少しだけ


279以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/14(水) 19:27:21.44GovKvKupO (1/1)

おk


280 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/14(水) 19:27:29.54sjJFEquno (2/12)


陽乃「……それじゃ、駄目じゃない」

駆け込んでくる千景を見定め……そして、陽乃は何事もないかのように回避する。

千景「っ」

振り切られた大鎌は陽乃に掠りさえせず、

その勢いを戻しきるほどの余力がなかったのか

大鎌の先端はそのまま床に突き刺さって、千景を躓かせてしまう

勇者とはいえ、同じく勇者に匹敵する力を持った陽乃の一撃が相当に重かったのか

あるいは、陽乃の使う九尾の毒素によるものか。

千景は被弾前の実力を出し切れていない。

陽乃「本当に勇者なの? もしかして、勇者を騙るただ人なの?」

千景「違う……!」

陽乃「だとしたら、どうして……倒れてしまうのかしら?」

苦しそうに呻きながら、

大鎌を支えに立ち上がろうとしている千景を、陽乃は見下すように見つめる

その瞳は赤々としていて、感情を感じさせない


281 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/14(水) 19:42:27.16sjJFEquno (3/12)


陽乃「痛いから? 苦しいから? たったそれだけの感覚に落ちてしまうほど、貴女は弱いのかしら?」

若葉「久遠さん言いすぎです!」

陽乃「過ぎている……? 事実を口にするだけで過ぎてしまうのなら、それはその人の線引きが甘いのよ」

若葉「人には得手不得手がある。なにより、貴女が言うように初めてなら痛みに強くなくとも仕方がない!」

陽乃「そうなの? 貴女もそうだったの? あの星降りの夜、貴女は受けた痛みに折れてしまったの?」

笑みを浮かべているのに、全く油断が出来ない

人ならざる者であるかのような威圧感

陽乃は決して大声ではないが、そのやや高まっている声色は鍛練場に強く響いて

若葉とひなたは思わず足を下げてしまう

若葉「私だって、バーテックスによる攻撃から立ち上がる余力なんてなかった……」

陽乃「勇者の力があっても?」

若葉「それは……」

若葉はバーテックスの一撃を受けて立ち上がれないほどの痛みに敗北しかけたが、

ひなたの導きによって触れた刀……生大刀と神の助力によって

若葉はもう一度立ち上がり、守れるだけの命を死ぬ気で守り抜いた。

若葉は折れかけたが、折れることはなかったのだ。

陽乃「そう。勇者の力があればこの程度では折れない。折れてはいけない。これで折れる程度なら……不要だわ」


282 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/14(水) 20:14:21.33sjJFEquno (4/12)


ひなた「勇者であっても身も心も人なんですよ!」

陽乃「だから?」

ひなた「え……?」

陽乃「ねぇ乃木さん。貴女の刀がたった一度の鍔迫り合いで折れてしまう程度の贋作でも使おうと思える?」

若葉「郡さんは道具じゃない」

陽乃「大社にとっては戦争の道具であり、人間にとっては守ってくれる兵器でしょう?」

陽乃はまるで子供のように「ん~?」と、不思議そうに声を漏らす。

悩ましそうなそぶりを見せてはいるが、分かっていないわけではない

若葉とひなた……そして千景を煽ろうとしているだけだ。

陽乃「その勇者がこれではね。乃木さんのような人の足を引っ張る枷でしかないのなら……邪魔だと思わない?」

陽乃はそう言いながら、何度か握り拳を作っては開いて微笑んで見せる

しかしやはり、その笑みは恐ろしく安心を生まない

千景に対して、陽乃は殆ど感情を抱いていないように見える

危険なことを言っているのに、殺意も敵意もない

ただただ、その先に行くのに邪魔な障害物としか思っていない

千景「貴女は……私を、役に立たないって……」

陽乃「ふふふっ、順番通りなら次は私が攻める番よね?」

若葉「待ってくれ……今の貴女は正気に見えない。ここで終わりだ」


1、過保護は良くないわ
2、別に二人相手でもいいのよ?
3、止めたければ……分かるでしょう?
4、正気に見えない? だったら何に見えているのかしら?
5、別に良いけれど、この子が私に噛みつかないように躾けるって約束できる?

↓2


283以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/14(水) 20:17:06.19qySLPHFeO (1/5)

3


284以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/14(水) 20:20:17.77IJsz4iHP0 (1/1)

4


285 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/14(水) 20:48:35.08sjJFEquno (5/12)


陽乃「別に良いけれど、この子が私に噛みつかないように躾けるって約束できる?」

千景「っ!」

若葉「躾……だと?」

陽乃「曲がりなりにも貴女がリーダーであるというのなら、この子を躾けるべきだと思うのだけど違う?」

若葉「貴女は……貴女は郡さんをなんだと――」

陽乃「弁えずに噛みついてくる子供。別に犬や猫のようにペットとして躾けろだなんて私は言ってないわ」

若葉は親ではないが、

千景が所属しているメンバーのリーダーであるならば、

長として部下の教育……躾は必要だろうと陽乃は言う。

確かにリーダーとしてある程度律することは必要だと若葉も考えている

しかしながら、それを躾というのは逃せない

若葉「リーダーとして、郡さん達を律することが出来ていないのは事実だ。しかし、いくら何でも躾というのは言いすぎではないか?」

陽乃「だったら別に教育でも指導でも何でもいいけれど、してくれるの? してくれないの?」

ひなた「久遠さん……本当に大丈夫ですか?」

陽乃「怪我ならもう治っているわ。大丈夫」


286 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/14(水) 20:49:27.96sjJFEquno (6/12)

>>285
見間違えたので、無しでお願いします。


287以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/14(水) 20:54:32.57qySLPHFeO (2/5)

了解
5番はドS過ぎる…


288 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/14(水) 20:59:53.55sjJFEquno (7/12)


陽乃「正気に見えない? だったら何に見えているのかしら?」

若葉「それは……」

正気に見えないに対し姿かたちではなく、

ただ異常であるという単純な返答を陽乃は認めるだろうか

陽乃は、見た目だけで言えば陽乃と変わりがない

しかしながら身に纏っている空気は普段の陽乃とはまるで違っていて

ひなたはそれを【九尾の御力】と言った。

ひなたがそういうのならそうなのだろう。若葉はそう考えて、息を飲む。

化け物と言ったところで、陽乃は笑うだろう

何より、さっきから自称しているのだから

では久遠さんだと答えたら? 笑われるだろうか

陽乃はにこにこと笑っている

それは愛らしく見えるが……恐ろしい

その裏で何を考えているのかがまるで読めないからだ

若葉「普段の久遠さんに比べて常軌を逸している」

陽乃「言葉を選ぶわね……狂ったように思えるってことね」

若葉「……端的に言ってしまえば、そうだ。普段の貴女なら郡さんを貶めたりなんてしないはずだ」


289 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/14(水) 21:11:31.21sjJFEquno (8/12)


陽乃「普段の私なら……ね。ふふふっ」

若葉「何がおかしい!」

陽乃「あはははははっ」

おかしいと怒鳴られても、陽乃は笑う。

すぐそば出倒れていた千景がビクッと体を震わせて……引き下がったことに気付いていながら

それを無視して、笑って笑って、そうして――ふっと電源が切れたかのように笑い声が止む。

若葉「っ!」

陽乃「貴女、普段の私の心の内まで理解しているの?」

若葉「そ、こまで……理解しているとは――」

陽乃「だったら! だったらどうして私がそんなことがないと言えるのかしら?」

陽乃は一歩踏み込んで、若葉との距離を詰める

陽乃「私の噂は聞いているでしょう? 私の評価を知っているでしょう? 私の扱いを聞いているでしょう?」

迫力と、声の冷たさ

瞬きをしてくれない真っ赤な瞳が恐ろしくて、

動けずにいた若葉との距離はもう……目の前にまで来ていて。

陽乃「そんな私が……私に死ねばよかったと言ったこの子にでさえ慈愛の心を抱けるだなんて思っているの?」

若葉「く……っ」

陽乃「ねぇ上里さん。勇者が身も心も人であるならば、ただ生きているというだけで責められ続けている私は正常でいられると思う?」


290 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/14(水) 21:25:19.92sjJFEquno (9/12)


ひなた「……難しいと、思います」

陽乃「それでも私は私なりに頑張って……気を遣わせないようにって気遣って、独りでいることを選んでいたの」

陽乃は薄く笑みを浮かべて、すっかり離れてしまった千景を一瞥すると

また、若葉へと目を向ける

若葉よりもわずかに背の低い陽乃は見上げるような形になるが、

その視線はまるで可愛らしさが感じられない。

陽乃「なのにすれ違う程度で嫌悪して、殺す心配はないって武器を向けられて……私にだって我慢できないことだってあるのよ」

千景「それは、貴女が……」

陽乃「疑っていた? そうね。でも、私は違うと言ったのに聞く耳さえ持たなかったじゃない」

千景「貴女が疑っていたのは事実でしょう……?」

陽乃「信じろと? 死ねと言ってきた貴女を? 面白い冗談ね」

陽乃は若葉から千景へと振り返って、苦笑する

笑っているが、目は笑っていない。

怒りの代わりとでも言うかのように、殺意が感じられた

陽乃「我慢するのにも限界があるの……だから、ね? 私は私なりに改善しようと思って――」

若葉「待ってくれっ!」

千景へと近づこうとした陽乃の体は、

若葉が腕を掴んだことで、中途半端に止まった


291 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/14(水) 22:04:29.77sjJFEquno (10/12)


若葉「久遠さんが辛かったのは分かった。いや、分かっていた……なのに貴女に甘んじていたんだ」

陽乃「だから何? 貴女も邪魔をするなら排除させて貰うけど」

若葉「久遠さん、昨日の話を前向きに考えては貰えないだろうか」

ひなた「若葉ちゃん駄目です!」

若葉「ひなた……郡さんをどうにかできても、大社と民衆はどうにもならない」

世界は陽乃に対して優しい世界になることは非常に難しい

けれど、より厳しくなることはとても簡単なのだ

勇者が戦いで敗北したり、戦いに勝利したとしても何らかの被害が出れば陽乃が責められる。

あの子が人柱になりさえすれば解決するのにと、抗議が行われる可能性だって少なくない。

若葉「ここで足を止めてくれるなら、外に出られるように私が全力で手助けする」

陽乃「別に、ここで邪魔な人さえ消してしまえれば解決する話でしょ?」

若葉「貴女だって心の全てで望んでいるわけじゃないはずだ! 人を助けたいと……その一心であの場に立っていたはずだ!」

陽乃「私が人を助けたいからと言って、邪魔者の命まで助けると思っているなら大間違い」

陽乃は苦笑して、若葉の手を振り払う

陽乃「恩は仇で返されると、今この国が私に教えてくれている。価値がないと思ったなら――捨ててしまうべきだと教えてくれたの」

それは本当に心から浮かべているのではと錯覚するほど、整った笑顔だった。

嬉しそうで、悲しそうに……

若葉が目を見開いてしまうほどに、戸惑わせるような。

陽乃「郡さんは、要らない」


292 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/14(水) 22:05:29.74sjJFEquno (11/12)


↓1コンマ判定 一桁

0 00 最悪
1~3 悪い
4~5 普通
6~9 良い
ぞろ目 最良


293以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/14(水) 22:07:23.51qySLPHFeO (3/5)

たのむ


294 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/14(水) 22:18:34.32sjJFEquno (12/12)


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


295以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/14(水) 22:23:07.42qySLPHFeO (4/5)


これはダメだったのか…?
陽乃さんがあまりにも病み過ぎてて何らかの九尾の仕業でもないと救いようがない…


296以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/14(水) 22:28:25.12+PDqHWQOO (1/1)


瞳が赤いってことは九尾じゃないの?陽乃ちゃんは天乃と同じなら橙色のはず


297以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/14(水) 22:38:40.48qySLPHFeO (5/5)

言われてみれば…まだなんとかなるか?


298以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/15(木) 04:46:38.788DHrEPvuO (1/2)


えらいことになってきたな


299 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/15(木) 20:04:58.16VYB2ECRno (1/13)


では少しだけ


300 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/15(木) 20:06:05.30VYB2ECRno (2/13)


若葉「ま、待てッ!」

若葉が動けなかった数秒間

たったそれだけで、陽乃はもうすでに動き出していた。

力強く蹴り上げられた鍛練場の床が軋む

窓を閉め切っているはずの場内に風が吹き込んだかのような突風が巻き起こる

数秒……1秒か2秒か

刹那ともとれるその瞬間に、若葉の目の前にいた陽乃は千景のもとにたどり着く

陽乃「 さ よ な ら 」

千景「っ!」

にっこりと、満面の笑みで拳を構えながら肉薄した陽乃は、

その勢いを丸々拳にため込んで撃ち抜く

駆け抜けた推進力、固く握りしめた拳

反り上がる弓よりも強く引き絞った腕から放たれた一撃は、容赦なく――

千景「っあ゛っ!?」

悲鳴にさえならないうめき声を漏らして千景の体が鍛練場の壁へと激突する

握られていた大鎌が手から零れ落ちて乾いた音を立てるのと同時に、

千景はその場に崩れ落ちて動かなくなってしまった

砕け散って穴が開いてしまった鍛練場の床

ジャージにはね跳んだ埃でも払うように、陽乃は裾を手で払う。

仲間の一人を殺す勢いで殴り飛ばしておきながら、

陽乃はまるで心を痛めている様子がなかった。


301以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/15(木) 20:08:25.49nsYZvDUcO (1/3)

千景が…


302 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/15(木) 20:21:55.47VYB2ECRno (3/13)


ひなた「千景さ――」

若葉「待てひなた! 私が行く!」

一心不乱に駆け寄ろうとしたひなたを制し、若葉が陽乃の横を抜けて千景へと駆け寄る

若葉「……郡さん!」

横切る際に一瞥した陽乃の表情は笑顔ですらなく、

そこに感情どころか魂があるのかさえ不確かで不気味に思えて……目を背けてしまう

駆け寄った若葉は千景の体に優しく触れる。

体を打ち付けた壁には何かが立てかけられていたこともなく突起もないので二次的な損傷は見られない。

しかし、顔は苦悶に歪んでいて口からは血が流れている

幸い……と、言うことは出来ないが微かに呼吸があって死んではいなかった。

若葉「ひなた! 急いで医療班を!」

ひなた「っ……分かりました!」

若葉「郡さん……頼む。死なないでくれ」

生きているのではない。

まだ、死んでいないだけだ。

千景の呼吸は非常に浅く、空気と共に少しずつ血が漏れ出してきている。

耳をすませば、喉の奥でごぽっ……と、濁った音さえ聞こえるように感じる。

頭部にダメージはなかったように見えたが、

腹部とその内側には尋常じゃない損傷を受けている可能性が非常に高いため、下手に体を動かすことも出来ない。

万が一内臓が破裂していたり、肋骨の一部が折れていたりなどしたら

そこからさらに容態を悪化させる危険があるからだ

ひなた「若葉ちゃん……扉が開きませんっ!」

若葉「なんだと……!?」


303 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/15(木) 20:32:04.17VYB2ECRno (4/13)


ひなたの悲鳴のような呼び声に目を向ければ、必死にガタガタと扉を揺らす姿が見えた。

入って来た時に鍵はかけていない。

いつものように自由に出入りできる状態だったはずだ。

鍵は管理している場所から持ち出しているし、

持ち出し記録にも名前が記載されているはずなので、誰かが誤って施錠したはずがない。

はっとした若葉は顔を上げ、陽乃を睨む

若葉「貴女の仕業か!」

陽乃「助けるつもりなら、私にとっての障害だもの。それを阻むのは道理にかなっていると思わない?」

若葉「郡さんは確かに酷いことを言った。だが、それでここまでする必要があるのか!?」

陽乃「避けても避けても、立ち塞がってくる障害なら排除するべきだもの」

陽乃の声には感情による振れ幅がなく、一定の音調で

それはどこか機械めいたもののように感じてしまう。

今の陽乃にとって本当に、その程度なのだ

陽乃「だから、もし……それを救うというのなら貴女達も私の障害になり得ると思うの」

若葉「……どうしても、郡さんを殺したいのか」

陽乃「私はそれが誰であろうと関係ない。障害を排除したくて、それが郡千景という人間だっただけのこと」


304 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/15(木) 20:42:52.41VYB2ECRno (5/13)


若葉「そうか、それが貴女の考えなんだな」

陽乃「言っておくけれど……貴女が刀を取るのなら。私は貴女も上里さんも殺すから」

若葉「っ」

陽乃「貴女の責任で上里さんの命を賭ける覚悟があるのならどうぞ」

笑うでもなく、しかし感情を流入させたかのように声を震わせた陽乃はひなたを一瞥する。

その赤い瞳だけが、笑った。

陽乃「ただし貴女が倒れたら私は上里さんを狙う。生きていようと死んでいようと貴女の目の前で彼女の首を折る」

若葉「……貴女は久遠さんではないな。そうであるはずがない」

若葉は歯を食いしばって、それでも隠し切れない怒りを滲ませながら首を振る。

陽乃の言葉が覚悟を試そうとしているだけならまだ救いはあるかもしれない。

しかし、そうではないのだろう。

今まさに死に瀕している千景を救わせまいと阻んでいるのだから。

たとえ覚悟を持って挑んでも、合格だと言って道を開け千景を救ってくれるとは思えない。

陽乃「郡さんを諦めるのなら二人は助かる。郡さんを助けるのなら三人死ぬ。どうする?」

若葉「私が貴女に勝つという選択肢はないんだな」

陽乃「それは貴女が出来るかどうかだから」

出来るならどうぞとでも言うかのような陽乃の笑みに、若葉は千景を見てひなたを見る


305 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/15(木) 20:55:35.99VYB2ECRno (6/13)


ひなたは若葉や千景と違って戦闘要員ではない。

陽乃に追いかけられれば逃げ切れるわけがなく、捕まれば抵抗など出来るわけがない。

鍛練などで鍛えていて痛みに強いというわけでもないのだから、

軽く殴られるだけでも、ひなたは失神したり、体の一部を壊してしまうかもしれない。

その可能性を踏まえ、そのあまりにも弱弱しい命の責任を取って戦えるのか。

いや、戦っていいのかと……若葉は

ひなた「若葉ちゃん!」

若葉「!」

ひなた「初めに言ったはずです……宜しくお願いします。と」

若葉「ひなた……」

ひなた「お願いです若葉ちゃん。【みなさん】を救ってください」

ひなたはそう言って、笑みを浮かべる。

怖くないはずがない

なにせ、陽乃の力は圧倒的なのだから。

まるで容赦のない、化け物らしい威圧感があるのだから。

それでも上里ひなたは乃木若葉を信じている。

自分の命を賭けても良いと、乃木若葉の強さに委ねている。

乃木若葉ならば、郡千景も上里ひなたも……そして、久遠陽乃も救えるのだと。


306 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/15(木) 21:03:44.74VYB2ECRno (7/13)


若葉「……そうだな。そうだ」

若葉は千景の口元を拭うと、

ゆっくりと立ち上がって、自分の腰元にある刀の頭を撫でる

何事にも報いを……報復を誓った力であるのと同時に、

これは守るための力でもある。

若葉「私とひなたの二人だけのために納めてはここにある意味がないんだ」

陽乃「大切な人が殺される覚悟が、出来たのね」

若葉「逃げたって、私は結局大切な人を殺されてしまう」

立ち上がった若葉の見開かれている瞳には迷いがない。

ひなたと千景と自分

その命が懸けられている重責に竦んでいる揺らぎがまるで見えない。

若葉「言っただろう久遠さん。私にとって貴女は勇者だと。そんな貴女もまた、私にとっては大切な人なんだ」

だからこそ。

若葉はそれを言葉にして、千景から離れるようにと距離を取って深く息を吐く

重心を下げ、体を傾け柄を握る

若葉「これは貴女を救うための挑戦だ!」


307 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/15(木) 21:07:20.78VYB2ECRno (8/13)


↓1コンマ判定 一桁

0    特殊
1、7、4 若葉
3、6、2 互角
5、9、8 陽乃

ぞろ目 00 最悪
ぞろ目 他 最良


308以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/15(木) 21:08:29.50nsYZvDUcO (2/3)

頼む!


309 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/15(木) 21:34:59.49VYB2ECRno (9/13)


陽乃「へぇ……言ってくれるのね」

陽乃は若葉の宣言を耳にして、笑う。

それを無理だと見下しているかのようで――

陽乃「ふっ――」

若葉「っ!」

けれど、容赦はない

ほんのわずかな瞬きの間に陽乃は若葉へと近づく

それはまるで陽乃が若葉の目の前にいたかのように、一瞬だった

陽乃「はぁッ!」

若葉「っぁあぁぁぁぁッ!」

振り下ろされる拳に向けて、若葉は鞘から刀を引き抜く

全力で振り抜き切り裂くための一刀

当たればただでは済まない

だが、それでも若葉は躊躇しなかった

陽乃を救うためならばと――しかし

「勇者ぁぁぁぁぁぁぁぁパァァァァァァァンチィッ!」

外部からの干渉がそれを阻む

高らかな雄たけびと共に、鍛練場の一部が爆発を起こして崩れ落ちた


310 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/15(木) 21:50:07.16VYB2ECRno (10/13)


友奈「はっ……はぁ……やっと抜けた」

爆発した粉塵に隠れてしまっていた闖入者、高嶋友奈は、

肩で息をしながら、焦りに満ちた表情で顔を上げた。

友奈「みんな! 無事!?」

爆発に驚いて尻もちをついているひなた、

刀を振り抜いている若葉と、それから遠く離れている陽乃

そして――倒れている千景

鍛練場をこじ開けられた安堵をするまもなく、友奈は目を見開く

友奈「ぐんちゃん!? ぐんちゃん!?」

若葉「干渉するな友奈!」

友奈「で、でも!」

若葉「ひなた! 医療班の手配を頼む」

ひなた「はい!」

友奈の制止、ひなたへの指示

それを若葉は陽乃から目を離すことなく叫ぶ

若葉「……目の前に、いたはずだが」

刀を抜き放った時、若葉の目には陽乃が目の前にいるように見えた

それから友奈の乱入まで目を離していないはずなのに、

気付けば、陽乃は遠く離れ居合の斬撃など届かない場所にいた


311 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/15(木) 22:44:59.30VYB2ECRno (11/13)


友奈「若葉ちゃん、どうなってるの!?」

若葉「久遠さんが悪い力に取りつかれている……と、私は見ている」

友奈「悪い、力?」

若葉「九尾の力だとひなたは言っていたが確証がない」

若葉は刀をゆっくりと鞘に納めると、

いつでも抜き放てるようにと構えたまま友奈へと声をかける

千景に駆け寄ろうとしていた友奈だが、

千景の状態が触れるべきではないと判断したからか、若葉の隣に並ぶ

友奈「久遠さん、危ないの?」

若葉「郡さんをやったのも……友奈がここに入れなかった原因も彼女だ」

友奈「え……」

友奈の戸惑った声が零れる

友奈にとって、陽乃は関わることが難しい人ではあるが、

決して害のある人ではないと見ていたからだ。

もちろん、ピリピリしたものも感じてはいたが。

友奈「若葉ちゃんは久遠さんと戦っていたの?」

若葉「いや……今も戦っているんだ」


312 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/15(木) 22:47:19.30VYB2ECRno (12/13)


↓1コンマ判定 一桁

0 00 最悪
1、7、4 悪い
3、6、2 普通
5、9、8 良い

ぞろ目 最良


313以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/15(木) 22:50:37.349jq2VWaW0 (1/1)




314 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/15(木) 22:56:16.37VYB2ECRno (13/13)


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


悪判定から抜けないので、友奈とも戦闘出来ます


315以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/15(木) 22:59:34.248DHrEPvuO (2/2)


もう一回戦えるドン!(白目)


316以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/15(木) 23:02:21.79nsYZvDUcO (3/3)


コンマの引きの悪さが痛いなぁ
陽乃さんも本当に九尾に乗っ取られてるっぽいし若葉たちを信じるしかないか…


317 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/16(金) 21:50:31.74zO6rqFgDo (1/7)


では少しだけ


318 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/16(金) 21:51:49.48zO6rqFgDo (2/7)


陽乃「無茶をするわね、高嶋さん」

友奈「嫌な予感がしたんだ。だから、無茶でも押し通って来た!」

陽乃「そう……貴女は勇者ね。勇者と呼んでもいい勇者ね」

陽乃は悲しそうに零すと、

それが前準備であるかのように拳を何度かつくっては開いて、ため息をつく

ゆっくりと……ゆらりと。

影の揺らめきに似た動きで友奈達へと体を向けた陽乃は、

もう一度、構える姿勢を見せた

陽乃「見物に努めるのなら手は出さない。どうする?」

友奈「ただの模擬戦なら見物もいいかな……」

そう言って、笑うかと思われた友奈だったが、

少し離れたところにいる千景を一瞥して、首を振る

友奈「でもそうじゃなさそうだから、戦うよ!」

陽乃「残念……貴女を殺す理由はきっと、私にはなかったはずなのに」

友奈「え……」

若葉「友奈!」

友奈「っ!」

若葉の怒号にはっとする

そこにいたと思っていた

会話をしていたと思っていた陽乃の姿は、もう目の前にあって――

陽乃「気を抜いちゃダメじゃない」

陽乃の引き絞られた左拳が見えて、慌てて肘を下げる

その上から陽乃の左拳がめり込んで、友奈の体は軽々と吹っ飛んで壁に衝突した


319以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/16(金) 21:53:45.06yvb2ovsdO (1/3)

高嶋さんまでもが…


320 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/16(金) 22:24:31.18zO6rqFgDo (3/7)


友奈「ぁ゛……」

陽乃の拳が衝突した瞬間に体の内側から響いてきた危うげな音

だんだんと痛みを増していく右腕

痺れているかのように右腕は動かせず、ただ痛みだけが大きくなって

友奈「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

友奈は自分の右腕がへし折れてしまっているのを目にして、たまらず叫ぶ

流石に千切れてしまうほどではないが、使い物になりそうもない

それでも意識を保っていられるのは、不幸にも――勇者だからだろう。

若葉「くっ……」

陽乃「手は抜かないわ」

友奈「ぁ……ぅ……」

しかしながら、勇者とは言っても友奈もまた人間の女の子で

腕を折られた痛みにどうしようもなく戦意が失せていく

まるでそれが零れ落ちていくかのように友奈の瞳からは涙が零れていた

若葉はそれに気を向けてしまいそうになるのを請らて陽乃を睨む。

陽乃の移動速度ははっきり言って異常だ

離れた場所にいるのかと思えば肉薄していたり

手の届く距離にいたかと思えば、まるで届かない場所にいる

それはきっと、見ているからと安心できない異質な力によるものだろう


321 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/16(金) 22:37:45.71zO6rqFgDo (4/7)


若葉「友奈、無理はするな」

友奈「うっ……うぅ……」

若葉も勇者としてある程度の痛みに耐える覚悟をしている

しかし、千景や友奈のような一撃を受けてなお正気でいられる自信はなかった。

若葉は3年前にもバーテックスの攻撃を受けているが、

生身でも死ぬことがなかった程度……と言える。

だが、陽乃は違う

陽乃の一撃は【勇者でも死ぬ】攻撃だ。

それは陽乃も勇者だからなのか

もっと別の何かだからなのか分からないが、殺されかねないということだけは断言できる

若葉「……久遠さん、まだ続けるか?」

陽乃「だって、まだみんな生きているじゃない。生きていると私の邪魔になる。だから――最後までやり遂げなきゃ」

若葉「そうか……」

千景は相変わらず沈黙しており、友奈は戦意喪失

今この場で戦えるのは若葉ただ一人だ

それはまだいい……と、若葉は切り替える

問題は、球子と杏のどちらか

あるいはその両方がここにきてしまうことだ


322 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/16(金) 22:56:28.32zO6rqFgDo (5/7)


球子には楯があるため、

もしかしたら陽乃の攻撃を防いでくれるかもしれない。

しかし、楯は陽乃の攻撃が予見できなければ無意味だ

その隙を容易に打ってくるだろう

それでは友奈のように殴り飛ばされてしまうだけだ

杏は言わずもがなで

他よりも身体的に劣っているあの体で陽乃に攻撃されたら一撃で死んでもおかしくない

だから、これは若葉の役目だ

ひなたも信じてくれた、乃木若葉のなすべきこと

しかし――届く気がしなかった

援軍として現れた友奈ですら一撃で飛ばしてしまう、悪魔的な力に

陽乃「……乃木さん、邪魔が入っちゃったわね」

陽乃は友奈を殴り飛ばした左手を軽く振って見せると、

無駄なことをしたと言うかのようにため息をつく

陽乃「まったく……これ以上手間が増えるのは面倒ね」



1、友奈を狙う
2、若葉を狙う
3、ひなたを追いかける


↓2


323以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/16(金) 22:56:56.12vgnUr0W6O (1/2)

1


324以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/16(金) 22:59:37.28yvb2ovsdO (2/3)

2


325 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/16(金) 23:01:45.10zO6rqFgDo (6/7)


↓1コンマ判定 一桁

0 00 最悪
1、7、4、2 命中
    3 回避
6、5、9、8 反撃

ぞろ目 特殊


326以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/16(金) 23:02:23.58vgnUr0W6O (2/2)

そい


327 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/16(金) 23:16:53.23zO6rqFgDo (7/7)


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日は可能であれば早い時間から


一刀両断


328以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/16(金) 23:27:40.81yvb2ovsdO (3/3)


ここで若葉の反撃翌来るとはさすが頼れるリーダー
だけどあの高嶋さんの腕と心をへし折る九尾の力って相当ヤバいな…


329以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/17(土) 00:17:40.83hlptbP0bO (1/1)


若葉頼りになるなあ


330 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/17(土) 20:55:06.62bFmEeZKno (1/7)

では少しだけ


331 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/17(土) 20:55:54.59bFmEeZKno (2/7)


若葉「ふぅ……」

若葉は深く息を吐いて、指の一つ一つに全神経を集中させながら、

腰に納めた刀の柄を握りしめる

抜刀状態での戦闘ももちろん可能だが、

陽乃の速さに確実に対応できるのは、幼いころから納めてきた居合の斬撃だけだ

若葉「私は貴女を諦めない……必ず、取り戻す」

陽乃「私は私なのだけど。そう、貴女はそう考えているのね」

陽乃は驚くほどに無表情で声にでさえ感情が感じられなかった。

どこからが九尾、どこまで九尾なのか。

一刀に切り伏せたとき、陽乃の体は無事でいられるのか。

不安ばかりの中で、若葉はその考えを頭から排除する

するべきことは一つ、救うこと

出来ることはただ一つ、全身全霊の一刀にて彼女から斬り祓うこと

若葉「来るなら来い。次は、切り伏せる」

そう宣言した若葉はもう一度深呼吸をして、目を閉じる

陽乃はそこにいるのにいないような霞のような存在と言える

であれば、視覚は不要だ

口を閉じ、呼吸を止めて周囲の空気の流れを感じ取る

ほんのわずかな乱れでも感じ取れなければ一瞬の差で敗北する

ゆえに、生命維持など不要だ


332以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/17(土) 20:59:19.49r3Gg8DeK0 (1/1)

あいよー


333 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/17(土) 21:19:37.69bFmEeZKno (3/7)


生大刀とされたこの刀

国と子の守護の為に、大敵に立ち向かうことができたかの王の神器であるならば――

守らせてくれと。

若葉は己の全てをただ一刀に込めていく

陽乃「……まったく」

陽乃は雰囲気の変わった若葉を見つめると、目を細める

正直に言ってしまえば、待ちに徹している若葉を狙う必要は陽乃にはなかった。

まだ無事なのは若葉のみだが、友奈だってまだ生きている

身構えている若葉の隣で友奈をより痛めつけても良かったのだ

しかし、しかし――だ。

ここで標的を変えるのは、陽乃自身が許せない。

あの娘は確実に勝利できると自負している

それはあまりにも傲慢だろう。

陽乃「殺してあげる」

若葉「……来るなら来いと、言ったはずだが?」

陽乃「はぁ……」

陽乃のため息が少し離れた場所で聞こえる

ミシリと、床が軋む。

そして――

陽乃「ふっ!」

次の瞬間には、耳元にも感じる距離で陽乃の声が聞こえた


334 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/17(土) 21:45:07.83bFmEeZKno (4/7)


若葉「っ!」

陽乃が近づいてきたような空気の流れは感じなかった

ミシリと軋んだあの音だけが、陽乃の動きを感じられるただ一つの情報だった。

では今、耳元で聞こえた声は何なのか。

本当に陽乃の物なのか。

若葉は引き抜いてしまいそうな手を抑え込む

いや、違う。

まだだ

まだ、そこに陽乃はいない

そして空気が揺れた瞬間――

若葉「っぇあッ!」

少女らしさの欠片もない闘気に満ちた声を上げて、

己の全てを込めたただ一刀を抜き放つ

生大刀とされたこの刀

国と子の守護の為に、大敵に立ち向かうことのできたかの王の神器であるならば

守らせたまえ――そう、祈り、願い

刀には確かな感触が伝わって来た

陽乃「ぐ――」

若葉「うぉぉぉぉっ!」

強い抵抗力を受けて、なお……若葉は全力で斬り払う。

手を抜けば自分が殺される

友奈も、千景も、そしてきっとひなたたちも

なにより――陽乃を救うために躊躇はなかった。


335 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/17(土) 22:09:11.15bFmEeZKno (5/7)


完全に斬り払った腕から重さが消えて、若葉は目を開く

すぐ目の前にいた陽乃は、

腹部を押さえ、よろめきながら後ろに下がっていく

そうして、不意に膝をついて――

陽乃「ふっ……く……ふふふっ、あははははははははっ」

若葉「っ!」

陽乃「……これは……あはははっ」

高笑いする陽乃の腹部はだんだんと赤く染まる

どこまで深く裂かれたのか、

ジャージの裾を染めていった血は下までも侵食し、やがて鍛練場の床にまで広がっていく

ぐぷ……と、不快な音が聞こえた

陽乃「はははっ……なるほど、そう。やってくれるじゃない……」

若葉「なん……」

陽乃はそれでも、ゆらりと立ち上がる

まるで操られている人形のように、

血を滴らせながら立ち上がった陽乃は抑えていた腹部から手を離す。

圧迫されていた分の血の流れが戻ったせいか――流れ出る血の量が多くなって

僅かに臓器が顔を覗かせた

それでも立っている、笑っている

血塗れの少女は――あの日見た勇者ではなく

まさしく、化け物そのものだった


336 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/17(土) 22:12:08.92bFmEeZKno (6/7)


↓1コンマ判定 一桁

0 00 最悪
1~2 悪い
3~6 普通
7~9 良い 
ぞろ目 最良


337以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/17(土) 22:13:48.93HKlmEEw8O (1/1)




338 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/17(土) 22:53:11.31bFmEeZKno (7/7)


陽乃「はぁ……ふふっ、残念」

陽乃はそう言って笑みを零すと、ふっと糸が切れたかのように崩れ落ちていく

若葉「久遠さん!」

慌てて駆け寄って、倒れる前に抱きとめる

陽乃は気を失ってはいるものの、息はある

だが――

若葉「なっ……」

若葉が斬り開いてしまったはずの腹部の傷は一切なく、

流れていたはずの血の跡もない

ただ、ジャージが引き裂かれたようにお腹の辺りが見えてしまっているだけだ

若葉「あの一瞬で怪我を治したのか……?」

友奈「若葉……ちゃん」

若葉「友奈?」

腕を庇いながら近づいてきた友奈は、

陽乃が気を失っているのを見ると、辛そうに首を振る

友奈「腕、動かないけど……大丈夫みたい」

若葉「どういう……」

友奈「多分、そこまでが久遠さんの力なんだと思う」


339 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 00:04:30.19Z9qlIiLCo (1/23)


へし折れて二度と使い物にならなくなったかのように見えた友奈の右腕

暫くは痺れて動かせそうにないのは変わらないが、

二度と動かせないほどに酷い状態ではなかった

友奈「なんか、それを見ちゃったら凄くずんっと気分が重くなっちゃって……」

若葉「……そうか。郡さんは?」

友奈「ぐんちゃんも、多分大丈夫……気を失ってはいるけど」

若葉「血は?」

友奈「血?」

友奈は不思議そうに言うと、少し考えるように眉を顰める

若葉が干渉するなと叫んだので、触ったりはしなかったのだろうけれど

若葉が見たとき、千景は非常に危うい状態で血も吐いていた

そんな状況を見たなら「血は?」と言われればすぐに気が付くはず。

そうではないということは、その吐血でさえ偽りだったということだろう。

若葉「いや、大丈夫ならいいんだ……大丈夫なら」

ほっとようやく安どのため息が零れたところで、

外から数人の足音が聞こえてきた。

球子「うぉわっ!? なんだこれ!?」

杏「一人で先に……あっ」

若葉「間に合わなくてよかったよ……こっちは片が付いた。みんな無事だ」


340 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 00:15:12.29Z9qlIiLCo (2/23)


球子たちが合流してからすぐに、ひなたと共に医療班の人たちが大勢駆けつけてきた。

千景は気を失っているもの、若葉が疑った臓器の破裂といった最悪の事態もなく、

多少の打撲痕が腹部に見られる程度だった。

友奈に関しても、強烈な打撃によって一時的に麻痺しているだけだったようで、

すぐに動かせるようになっていき、大きな問題はないとのことだった。

陽乃に関しても、やはり体には傷一つ存在していなかったらしい

しかし、暴走のようなことも起こったからか

別所で一時的に入院させる必要がある――言ってしまえば隔離されることとなった。

ひなた「若葉ちゃんっ」

若葉「ああ、すまないひなた」

ひなた「いえ、いえ……無事だったなら。それで……」

念のためにと検査した若葉も、問題はなく

検査室から出た途端に、ひなたに抱きしめられてしまう。

球子と杏の二人がいないことを確認してから、若葉はひなたの体を優しく抱きしめる

若葉「彼女の殺意は間違いなく本物だった。だが、本当に殺す気はなかったのかもしれないな」

ひなた「それは、どういう……」

若葉「少なくとも久遠さんは私達を殺したくなかったのだろう。そのお陰で、彼女のために動く九尾も私達を殺せなかったんだ」


341 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 00:47:45.84Z9qlIiLCo (3/23)


若葉はそういうと、しかし……と表情を暗くする。

彼女が叫んでいた言葉が全て偽りだったとは思えない。

久遠陽乃という少女を、大社は敵視している

この国に生きる人々の一部は彼女の家系が人柱になるべきであるという噂を信じ、

そして、彼女たちが生きていることを憎んでいる

それゆえに勇者ともそりを合わせることが出来ず、孤独になるほかなかった。

若葉「私は、彼女を勇者だと思っている」

ひなた「知っています」

しかし、大社も民衆も彼女を認めない。

彼女を化け物と、悪と、バーテックスと。

それらと同類であるかのような扱いをしている。

陽乃はそれをぐっと堪えているけれど

陽乃を苦しめている存在を、陽乃が望まないからと九尾がいつまでも許してくれるとは限らない。

若葉「このままでは、久遠さんはともかく九尾が人を殺める可能性がある」

ひなた「その可能性は……きっと、今回の件で大社も抱いたと思いますし、手は打ってくると思います」

若葉「嫌な予感しかしないな」

ひなた「そうですね……裏目に出ないと良いですが」

困ったように言うひなたの耳元に、若葉は口を近づける

若葉「……なんとか、手を回せないだろうか?」

ひなた「簡単にはいきませんよ。久遠さんはもう、ただの要注意人物ではなくなってしまいましたから」


342 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 00:48:31.64Z9qlIiLCo (4/23)


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから。


343以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/18(日) 01:57:55.79MO0baI5NO (1/2)


千景ともさらに拗れちゃったなあ


344以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/18(日) 07:06:06.96RmVBl/bZO (1/1)


なんとかこれで陽乃さんの闇墜ちモードは解除か
理解者の若葉の存在が生命線だな


345 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 15:06:39.63Z9qlIiLCo (5/23)


では少しずつ


346以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/18(日) 15:10:15.90IuS33zNFO (1/1)

よっしゃ


347 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 15:17:41.13Z9qlIiLCo (6/23)

↓1コンマ判定 一桁

0 00 2日経過
1~2 夜 
5~7 8/1 朝
8~9 8/1 昼


348以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/18(日) 15:30:09.22q5Zb3Yo/O (1/1)




349 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 16:03:07.75Z9qlIiLCo (7/23)

√2018/07/31 夜 (某所)


地の底にいるかのような、

全身が窮屈に締め付けられる中で必死に藻掻く感覚

もう体が動かないと思うほどに酷使したあの日にも感じたのと似ている

けれど――違う。

陽乃「ぅ……」

目を開くと、天井とカーテンレールが見えて

自分が病室にいるのだとおぼろげな頭で察する

外側から内側へと

何か細く

しかし、鋭利ではないものを差し込まれようとしている痛みを覚えて顔を顰める

陽乃「……なに、これ」

合間合間を縫うかのように体に纏わりつく拘束感

陽乃の身体は病院のベッドに縛り付けられており、

腕を上げることすらできそうになかった。

「あぁ、お目覚めになられましたか。久遠陽乃様」

陽乃「だ、れ……?」

長く眠っていたわけではないはずなのに、声が酷く掠れてしまう

陽乃の傍に用意した椅子に座っていた看護師の女性は、

心配そうに顔を顰めて、自分の唇に人差し指を当てた。


350 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 16:56:37.10Z9qlIiLCo (8/23)


「本日早朝、久遠様は乃木若葉様立ち合いのもと、郡千景様と模擬戦闘を行ったと伺っております」

陽乃「え、ええ……」

「その最中、久遠様が郡千景様を意識不明とし、高嶋友奈様を一時戦闘不能に追い込み、
乃木若葉様が久遠様を止められた……というのが、略式ですが経緯となります」

看護師はやや機械的な口調で陽乃が運び込まれた理由を説明すると

陽乃の体の拘束具に軽く触れる。

よくある革製のベルトのほかに、ご丁寧に金属製のものも使われているようで、

ジャラジャラとした音が聞こえた

「ほかの勇者様を害したことで、申し訳ありませんが一時的に拘束させて頂いております」

陽乃「一時的……って」

「安全が確認されるまでですね」

陽乃「……そう」

何が起こったのか、陽乃は覚えがない。

千景と模擬戦を行っている最中に、何か嫌なものを感じて

全身が熱くなって、そのまま意識が燃え尽きてしまったような感覚に溺れて

気が付いたら病院のベッドの上だった。

意識がないはずの自分が戦闘を継続していたということは……九尾だろう。と、

陽乃はだんだんと戻りつつある頭の回転を緩やかにしていく


351 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 17:29:33.26Z9qlIiLCo (9/23)


陽乃「三人は?」

「……ご無事、ですよ」

看護師は何を思ったのかやや顔を顰めたが

すぐに改めて無表情になっていく

千景はまだ目を覚ましていないが、腹部に痣が残っている程度で

それもしばらくしたら消えるだろうとのことで、

友奈に至っては数日無理は控えるべきだと言われているものの、

麻痺してしまった右腕は動かせるようになったそうだ。

若葉に関しては、傷を負っていないというのだから……陽乃は思わず安堵のため息をついた

陽乃「乃木さんには感謝してもしきれないわ」

「そうですね、乃木若葉様が居られなかったら、今頃勇者様二名がお亡くなりになられていたかもしれません」

陽乃「………」

そうだ。

若葉が阻んでくれたとは言っても

陽乃が覚えていないと言っても

人々にとっては、陽乃こそが勇者を殺害しようとした最悪の存在なのだ。

看護師の感情を削いだような表情の中、瞳にだけは怒りが感じられる

憎悪が感じられる。

なぜおまえなんかを……という、嫌悪感を感じる


1、ごめんなさい、私が悪かったわ
2、そんな感情を向けると、殺されてしまうわ
3、本当にね、どうして私が勇者なのか不思議よね
4、ずっとこのままにするくらいなら、いっそ追放してしまえば良いんじゃない?


↓2


352以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/18(日) 17:31:08.31duK7FkfzO (1/4)

Ksk
安価なら上か下


353以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/18(日) 17:31:12.266dJbaFKA0 (1/3)

3


354以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/18(日) 17:32:14.33DV/IygrKO (1/2)

1


355 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 17:49:13.09Z9qlIiLCo (10/23)


陽乃「本当にね、どうして私が勇者なのか不思議よね」

「……久遠様は勇者とされているだけです」

陽乃「知ってる」

「ご自身の御力が危険だと、理解されているのですか?」

陽乃「十分、理解しているつもりよ」

とは言うが、陽乃も九尾の力の全てを理解しているわけではない。

あくまで、その力が危険であることは間違いないと確信しているだけだ。

陽乃「でも郡さん達が死ななかったって言うことは、勇者を殺す力はないのかも……」

「そうとは限りません」

看護師は陽乃の言葉を瞬時に否定した。

さっきまで無機質にも感じられた声には怒りが滲んでいる

陽乃以外の勇者たちはみんな、世界の期待を一身に背負っている。

希望を託されている

そんな少女たち、たった5人の内2人を殺害しようとしたのだから仕方がない。

陽乃はそう考えて、諦念を持って言葉を飲み込む

陽乃「ごめんなさい。そうであって欲しいってだけだったの……軽はずみに祈るべきじゃなかった」


356 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 18:19:17.68Z9qlIiLCo (11/23)


陽乃は別に看護師をこれ以上憤らせたいわけではない。

可能な限り言葉を選ぼうとも思っている。

しかしながら、陽乃の言葉というもの自体が気に入らないように感じた。

それは気のせいではないだろう。

陽乃に付き添って説明しているということは、

彼女も大社の息がかかった人員とみて間違いなく、

謝罪を口にしたところで、彼女は受け入れてはくれない。

陽乃「私だって、ただの女の子でいられるのなら居たかったわ」

本当ならそうあれるはずだったのに。

3年前のあの星が落ちてきた日、それは儚い夢と散っていった。

生き残るためには力が必要だった。

友人を護るためには縋りつくしかなかった。

浅はかだと言われても仕方がない

けれど、それ以外に選択肢はなかったのだから、仕方がない

陽乃「……貴女達にとっては悪魔の力でも、私にとってはこれだけが救いだった」


357 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 18:44:59.41Z9qlIiLCo (12/23)


友人となれたであろう勇者達を傷つける力だろうと、

民衆に忌み嫌われる力であろうと、

こうして、拘束される結果に至る要因であったとしても

陽乃にとっては、守るための力

陽乃「……理不尽だわ」

力の脅威度ゆえ、

周囲から蔑視されることを仕方がないと言っても、

それはバーテックスのように理不尽な話だ

不満が募る

怒りがふつふつと湧いて来る

ガシャンッ! と、拘束する鎖が勢いよく跳ね上がって、

驚いた看護師が椅子から転げ落ちて悲鳴を上げる

陽乃「あ……ごめんなさい」

「や、やはり……貴女は……危険です……っ!」

陽乃「つい体を動かしちゃったのよ」


358 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 19:07:18.36Z9qlIiLCo (13/23)


久遠様とさえ言わず、

貴女と言った看護師は立ち上がることも出来ずにずりずりと距離を取っていく

そこまで怯えなくてもとは思うのだが

拘束具を引きちぎるような勢いで体を動かそうとしては

普通の人なら怖いのだろう。

特に、陽乃のような人が相手なら……

陽乃「大丈夫よ、流石に引きちぎれたりはしないから」

身体的な拘束衣に加えて、金属製の鎖

どう考えても、過剰と言える

若葉達には見せられないだろう

陽乃「……そんなに怯えるなら、傍に居なければよかったのに」

「わ、私だって……貴女なんて……ッ」

陽乃「………」

頭を上げられないせいで看護師の顔は見えないが、

嫌っていることだけは、言葉でも声色でもはっきりとわかった


1、目を覚ましたのだから報告にいけばいいじゃない
2、脅されたって逃げて良いのよ
3、ごめんなさい
4、私だって、貴女達のような人を守りたくない
5、言葉には気を付けて。私は良くても許さない人がいるから


↓2


359以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/18(日) 19:10:09.036dJbaFKA0 (2/3)

ksk


360以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/18(日) 19:12:04.32DV/IygrKO (2/2)

3


361 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 19:48:00.34Z9qlIiLCo (14/23)


陽乃「……ごめんなさい」

陽乃は彼女に危害を加えていない。

しかし、陽乃は謝罪を口にした。

そうしたほうが穏便に済むと思って

自分が我慢したらいいだけだと思って。

それは、陽乃が独りぼっちだからではなく

大社によって母が守られているからだ

陽乃「私が悪かったわ」

「………」

看護師は陽乃に対して何も言わず、

暫く沈黙が続いた後、おもむろに立ち上がる。

見えた表情は暗く、何かを言いたげに口元が固く結ばれていた。

陽乃「見ての通り、私はこんな状態だから。何かしようと思えばあなたでも出来る」

「……したら、殺すのでしょう?」

陽乃「貴女のしたことによると思うわ。私はね」


362 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 20:06:25.88Z9qlIiLCo (15/23)


陽乃は何かされたって殺すとまでは考えたくないと思っている。

母に手を出されるのならともかく、

自分に関しては仕方がないと割り切って、耐えれば良いと陽乃は考えていた。

それで、少しでも誤解を解いてもらえるのなら

母が危険な目に遭う可能性が低くなるのなら……と

生き残るために、我慢をするつもりだった。

「……ひっ」

けれど――彼女は、そうではない。

看護師の悲鳴が上がって、目を向ければその姿は真っ黒に染まっていた。

「ぁ……あっ……」

目を見開いて、

口元を押さえて……やがて、膝から崩れ落ちていく

それでも真っ黒な何かは消えなかった

『他愛もないのう?』

陽乃「出てくると思ったわ」

世界を闇に染め上げている九尾は、

影だからなのか、九つの尾を持つ妖狐の姿をしている。

一般人である看護師には、刺激が強かったに違いない


363 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 20:34:00.21Z9qlIiLCo (16/23)


陽乃「貴女のせいで散々だわ」

『主様が甘んじておるからよ。あまりにも……不甲斐なかろう』

陽乃「だからって……」

『あんな小娘共処分してよかろうに』

九尾は口惜しそうに言う。

陽乃が千景たちを必要としていなければ、

九尾は容赦なく、殺していたことだろう。

九尾の尾が動くたびに、ばさりばさりと床を叩く音が聞こえて、

陽乃を囲うカーテンが揺らめく

『何故、主様が耐えねばならぬ……害をなすならば、阻むならば消せばよい』

陽乃「やめて!」

『……この人間でさえ、主様は生かそうというのかや?』

九尾の尻尾の一つの影が倒れ伏している看護師へと伸びると

そこには何もないはずなのに、看護師の体が浮き上がる

四肢をだらりと下げて、気を失っている

影は看護師の身体ではなく、首に上っていくと――ぎゅっと、絞めた

「――ぁ゛っ」

気を失っていた看護師は無理矢理に意識を絞り出され、

息苦しさにじたばたと暴れだす。

「あ゛っ、がっ……ぉ゛っ、あ゛ぁ゛っぁっ!?」

陽乃「やめて……やめてやめて、やめてっ!」


364 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 20:47:54.68Z9qlIiLCo (17/23)


絞め殺される寸前のような、醜い声が看護師の声から洩れていく

もはや意図せず、無造作に振り回される足、

首を絞める何かを掴もうとして

けれど、虚しく空を切るだけの両手

「ぉ゛あ゛……ぅ゛ぶっ……!」

びくんっと、ひと際大きく跳ねた看護師の体は、

不意に、鈍い音を立てて床へと落ちる

「ぁ゛っぇ゛っ……げほっ、げほっ……」

陽乃「大丈夫……?」

「……の……」

陽乃「あの――」

「化け物ッ!」

叫んだ看護師は、逃げ出そうとして勢いよく立ち上がるそぶりを見せたが、

何かに足を取られ、陽乃の視界から消えた途端にゴツンッと音が聞こえた

額を打ったのか、看護師はうめき声を最後に沈黙した

『この娘は主様が眠る間、このまま死ねばよいと願っておった。殺してしまおうかと考えていた』

陽乃「っ……」

『それでも主様は生かすべきと、そう……考えておるのかや?』


1、生かすべき
2、死んでもいい
3、………


↓2


365以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/18(日) 20:53:27.456dJbaFKA0 (3/3)

1


366以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/18(日) 20:54:32.83FtSdJdKgO (1/1)

1


367 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 21:12:08.95Z9qlIiLCo (18/23)


陽乃「生かすべき……と、思うわ」

『主様が死することを願う非道な生物じゃぞ』

陽乃「貴女が言ってることが事実とは限らないわ」

『……ほう』

陽乃「何より、私は人を助けたくて貴女の力を借りたの。殺したいわけじゃない」

狐の形をした影が、陽乃をじっと見つめるように頭を動かす

九つの尾が立って広がる

その大きさはカーテンからはみ出していくほどだ

『甘いのう』

陽乃「……分かってる」

『主様の親類縁者を贄と捧げた存在も、それらに謀られる愚かな人間共も。主様は生かすと?』

陽乃「今の私は、そう思ってる」

九尾のため息がカーテンを浮き上がらせて、

そこに映っていた大きな影はそれに吹き飛ばされたかのように消える。

陽乃「そう、今の私は……思ってる」


368 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 21:24:30.49Z9qlIiLCo (19/23)


心の中にある憎しみ

それが少しずつ大きくなっているのを陽乃は感じている

けれど、まだ大丈夫だ

きっとこれからも大丈夫だ

どれだけ憎まれようと

どれだけ恨まれようと

どれだけ蔑まれようと

いつか、すべてが終わったとき

母親の前で誇れる自分でありたいと、思っていたからだ

陽乃「……大丈夫、まだ、頑張れる」

目を閉じる

熱くなっていく目頭を陽乃はどうにもできなくて、

誰も拭ってはくれない涙が伝い落ちる

辛い、苦しい、悲しい

けれど、それでも。

陽乃「っ……」

陽乃は唇を噛みしめて

固く、固く……目を閉じた


369 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 21:30:49.58Z9qlIiLCo (20/23)


↓1コンマ判定 一桁

0 00 

※それ以外は問題なし


370以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/18(日) 21:31:08.19Gc44ZxuWO (1/4)




371以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/18(日) 21:34:19.86duK7FkfzO (2/4)

あっぶな


372 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 21:40:56.86Z9qlIiLCo (21/23)


1日のまとめ

・ 乃木若葉 : 交流有(模擬戦、暴走、とても悪い)
・上里ひなた : 交流有(模擬戦、暴走、とても悪い)
・ 高嶋友奈 : 交流有(とても悪い)
・ 土居球子 : 交流有(とても悪い)
・ 伊予島杏 : 交流有(とても悪い)
・  郡千景 : 交流有(模擬戦、暴走、とても悪い)
・   九尾 : 交流有(生かしたい)


√ 2018/07/31 まとめ


 乃木若葉との絆 57→56(普通)
上里ひなたとの絆 56→55(普通)
 高嶋友奈との絆 50→49(普通)
 土居球子との絆 40→38(悪い)
 伊予島杏との絆 45→43(普通)
  郡千景との絆 24→21(険悪)
   九尾との絆 60→59(普通)


373以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/18(日) 21:54:08.76Gc44ZxuWO (2/4)

千景たちは仕方ないけど九尾も下がるのか…


374 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 21:56:39.42Z9qlIiLCo (22/23)


√ 2018 8月 1日目 朝 (某所)

01~10 九尾
31~40 若葉 ひなた
81~90 若葉

↓1のコンマ

※それ以外、無し


375以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/18(日) 21:57:56.02Gc44ZxuWO (3/4)




376 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/18(日) 22:07:16.13Z9qlIiLCo (23/23)


では少し早いですが、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


8月交流―拘留―期間、選択により短縮


377以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/18(日) 22:20:22.50Gc44ZxuWO (4/4)


今作は期間が長め(?)な関係で日数消費はあまり気にならないけど看護師すらキツく当たるとは序盤から過酷だなぁ
と言うかほとんど九尾がトラブルを引き起こしてる気がするんだがなんとかならないのだろうか…



378以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/18(日) 22:20:28.20duK7FkfzO (3/4)


九尾はなんだ?陽乃が思い通りにいかないからか?


379以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/18(日) 22:22:56.28duK7FkfzO (4/4)

>>377
現状は選択肢というより判定だからなぁ…運が悪すぎる
積極的に交流して説得するしかなさそう


380以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/18(日) 22:53:36.33MO0baI5NO (2/2)


九尾は守護霊みたいなもんだから今の状況に思うところあるのはわかるわ


381 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/19(月) 20:54:10.88T40QFiLqo (1/7)


では少しだけ


382以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/19(月) 20:55:47.27aAnHD/E1O (1/3)

いえす


383 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/19(月) 20:57:02.83T40QFiLqo (2/7)


√ 2018年 8月1日目 朝:某所


陽乃が拘束されてから、月が替わった八月

一週間ほど経過してもなお、陽乃は病院に拘束されていた。

朝、目を覚ますと天井が見える

閉め切ったカーテンの外側から人工的な光が入ってくるのを感じるだけ。

陽乃の力を危険視している大社による指示で行われている拘束衣は一切緩ませることを許されていない。

腕はお腹の辺りで重ねるように止められていて、足は閉じたままだ

そんな自由のない陽乃には娯楽でさえも与えられていなかった。

病室への来客は、日に数回

世話の為に数人の看護師が恐る恐るといった様子で訪れる程度

大社から派遣されてくるお目付け役のような人も来ることはなかった。

それはおそらく、九尾が看護師を脅したからだ。

居たら居たで、嫌悪感を帯びた視線を常に向けられることになるので

ただでさえ心を病みかねない今の状態の陽乃には、それは逆にありがたささえあった。

陽乃「………」

起きてから、眠るまでの時間は陽乃にとっての空白だ

看護師が来ても、口をきいてもらえない。

そもそも声をかけると、怯えてしまう。

起きてしまうとしばらくは眠れる気もしないので、退屈で仕方がない

もしかしたら発狂しても許されるのでは? と、陽乃は考えてしまう。


384 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/19(月) 21:11:02.21T40QFiLqo (3/7)


『主様が望んだことであろう?』

陽乃「……こんなこと、望んだ覚えはないけれど」

『人間の一人でも絞め殺し、不敬を働くならば同様に処すとでも言えば改善もされるであろうに』

陽乃「こんな状況に追い込まれた原因の9割は貴女でしょう?」

『くふふふっ、妾の尾は九つじゃからのう』

陽乃「笑い事ではないのだけど」

九尾のからかう声に、陽乃は目を閉じる。

九尾の力がなければ陽乃も母親も、バーテックスの餌になるだけだった

九尾には、命の恩人として感謝をしなければならない

それを考えれば、陽乃は自分の意思がどうであれ九尾の命令を聞く義務があるとも言える。

気に喰わないという人々を殺すことを制止せず、

邪魔する勇者達を殺害し、大社の人たちを処分し、自由になっていくことを目指すべきかもしれない。

陽乃「私のこと、怒ってる?」

『不甲斐ない主であると思うておるぞ』

陽乃「貴女にとって、私って甘すぎる人間だものね」

『恨み憎まれ蔑まれ殺意を向けられ、己の親類縁者を殺められてなお、裁かぬ愚か者よ。甘いという言葉など、とうに過ぎたものであろう』

九尾の声は単調ではあるが、陽乃のことを不満に思っていることだけは分かる

九尾の思想と陽乃の思想は真逆と言っても良い

ただ、陽乃はそっち側に堕ちることはいつでもできる

陽乃は母がいるからこそ道を踏み外すことを拒んでおり、

それさえ割り切ってしまえば、陽乃はどこまでも染まっていくことが出来てしまう

いや、染まっていってしまうだろう


385 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/19(月) 21:26:50.79T40QFiLqo (4/7)


陽乃「貴女って、私がここにいても自由に出入りできる……のよね?」

『うむ』

陽乃「だったら、みんなの状況も知ってる?」

『興味はない』

九尾はそう吐き捨てたものの、情報はしっかりと持っている。

隠す必要はないらしく、若葉達の状況について話してくれた。

若葉、球子、杏は怪我がなかったので普段通りだが、

友奈は元々検査入院だったこともあり早々に退院

陽乃によってダメージを追った右腕も問題なく動かせているそうだ。

千景に関しても友奈から数日遅れて退院し、今はもう問題はないらしい。

一時的に残っていた腹部の殴打痕もすっかりなくなったという話である

陽乃「つまり、貴女の力に勇者を殺すだけの力はないのね?」

『殺めるだけなら力はあるがのう……確実に命を奪うというのであれば妾では不足であろうな』

陽乃「でも殺すことは出来ちゃうのね」

『無論であろう』

九尾の力の効力だけで勇者は殺すことは出来ないことに陽乃はひとまず安堵するが

それは効力で殺せないだけのこと。

看護師に行ったように、抵抗できない力で絞め殺すことは可能だ。


386 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/19(月) 21:38:19.41T40QFiLqo (5/7)


『小娘共は自由になっておるが主様はそうせぬ……』

陽乃「仕方がないでしょう……危険なんだもの」

陽乃自身も、九尾の力は危険だと思っている。

そしてそれ以上に大社が危険視しているためこんなことになった。

その大部分は陽乃が言ったように九尾の力のせいなのだが、

九尾は人間の弱さゆえの隔離だと考えているらしい

陽乃の待遇には不満なようで

陽乃が嫌がる人でなければ、どれだけの人が犠牲になっていただろうか。

『主様が望むならば、ここから出してやることも可能じゃぞ?』

陽乃「出すって……どうせ無許可でしょう?」

『いかにも。しかし、ここで無為に過ごすほど、人間に猶予はなかろう』

いつ来るか分からないバーテックス

長野の勇者が頑張ってくれているから問題ないという話ではあるが、

それだっていつまで持つか分からない

なにより、それなのにこんな状態に甘んじているのは良くないと……陽乃だって思う。

思うが……


1、いいわ。出して
2、駄目よやっぱり。余計に怖がらせたくないわ
3、人を傷つけない方法で出してくれるなら

↓2


387以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/19(月) 21:40:08.04aAnHD/E1O (2/3)

3


388以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/19(月) 21:44:20.19TcszZ4ZP0 (1/1)

3


389 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/19(月) 22:33:14.89T40QFiLqo (6/7)


陽乃「……人を傷つけない方法で出してくれるなら」

『くふふふ……妾を何と心得る』

陽乃「少なくとも、人の命を考えてくれる人だとは思ってない」

陽乃ははっきりと言い切る

九尾はカーテンに影を映して見せると

大きな口元に前足を宛がって、響く声で笑う

響くと言っても聞こえるのは陽乃だけで、外に聞こえる心配はない

『然り。妾が下賤な者共の命など思惟する理由などなかろう』

九尾はそう言うと、

口先を陽乃の身体に伸ばす仕草を見せる

たったそれだけで――鎖が砕けた

『しかし主様はそれを望まず、されど自由を欲するのであろう?』

九尾のくつくつとした笑い声が聞こえる

それはこれからを思い、愉しんでいるようにも感じた。

『……よかろう』

陽乃「誰も殺さずに出してくれるの?」

『妾ならば容易。されど、主様には苦難の道となろうぞ』

なにせ、陽乃はここから脱走することになるのだ。

出さねば殺すと脅せば状況も変わるが、ただの脱走ならば大社は躍起になって対処してくるかもしれない。

『くふふっ、成し遂げてみせよ。愚鈍なる我が主様よ』


390 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/19(月) 22:35:34.48T40QFiLqo (7/7)

では途中ですがここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


391以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/19(月) 23:01:58.99aAnHD/E1O (3/3)


脱走と聞くと一作目でよくやってたのを思い出すな
最もこちらは命懸けになりそうだけども…


392以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/20(火) 08:06:07.26wZXoeQ4aO (1/1)


脱走するからか九尾少し機嫌良くなってる?


393 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/20(火) 22:06:46.62uCLADGd9o (1/3)


遅くなりましたが、少しだけ


394以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/20(火) 22:07:13.30VL8E1XYgO (1/1)

あいよー


395 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/20(火) 22:39:27.04uCLADGd9o (2/3)


『動くでないぞ主様』

そう言った九尾の影が陽乃の体を覆う。

陽乃の体を覆っていた拘束衣が一瞬にして消え去って、

肌着一枚になった陽乃はむしろ、拘束感が無いことに違和感を覚えながら体を起こす

陽乃「なんだか、変な感覚」

『人間にしては長き時を囚われておったからのう』

喉を鳴らす九尾は、影のままカーテンを払い除ける

部屋には普通の病室などにあるような棚などはなく、

監視するためと思われる機械が、天井に取り付けられているのが見えた

カーテンが締まっていても、横になっている陽乃の顔が見えるような位置だ。

陽乃「あのカメラ、大丈夫なの?」

『あれがいかなるものであろうと人間の目に映るものなれば、妾の術中には変わらぬ』

陽乃「……そう」

『問題があるかや?』

陽乃「幻術? 幻惑? の力はいいのだけど、私……この格好ででなくちゃいけないの?」


396 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/20(火) 23:22:25.21uCLADGd9o (3/3)


陽乃の私物ではない、病院側が用意したであろう質素な肌着

陽乃が身に纏っているのはそれだけでジャージも靴も靴下もない。

九尾の幻を見せる力がどこまで効力を発揮するのか分からないが、

たとえそれが万物におけるすべての自称を騙せるのだとしても、

殆ど裸に近い姿で外に出ていく勇気は、陽乃にはない。

もちろん、状況が状況なだけに

我儘を言ってられないとは思うのだけれど。

『問題なかろう?』

陽乃「人は色々あるのよ……」

『人間とて獣……動物であろう。羞恥心などと不必要なもの捨ててしまえばよかろう』

九尾が呆れたように溜息をつくと、カーテンが靡いた。

すると、陽乃の体は白い着物に包まれて

心なしか、ちゃんとした温もりを感じる

『これでよかろう』

陽乃「……ちゃんと服着ているのよね? 私も幻を見せられているわけじゃないのよね?」

『くふふふ、気にしなければよい』


397 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/21(水) 00:14:46.97nkYjHLfFo (1/9)


愉快そうに笑った九尾だが、ただの冗談だったらしい。

九尾の前足が陽乃の頭を抑え込むと

九尾の力が外側から陽乃の体を包み込んで、

陽乃がいつも見ていた、看護師の恰好へと変わった

『力を衣服と変えた。案ずるな、妾の皮を被っていると言えば分かるであろう? 裸体ではない』

陽乃「……なるほど」

先ほどの着物よりもしっかりとした衣服の温もり

九尾の皮ということは、狐の毛皮のようなもののはずだが、

触れてみても、看護師の服装以上の感覚は感じられない。

とはいえ、力は力だ

陽乃「結局、力で誤魔化すしかないのね」

『仕方があるまい。ほかになかろう』

カーテンを引きちぎって代用するのもあれなので、

そこはもう、九尾の毛皮という力に満ちていそうなもので我慢するべきだ

『それはここを出るのに適した服装じゃ。耐えよ』

陽乃「……そう。なら仕方がないかしら」

ネックストラップと、その先についている社員証というべきか

写真つきのネームプレートまでもがしっかりと触れられ、感じられるのに顔を顰めながら頷く

陽乃「人を傷つけないって貴女の言葉を信じて、従っておくわ」


398 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/21(水) 00:18:25.65nkYjHLfFo (2/9)


↓1コンマ判定 一桁


奇数 接触

※そのほか、なし


399以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/21(水) 00:33:06.06kmtuEEhhO (1/2)

ふんぬっ


400 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/21(水) 00:44:55.93nkYjHLfFo (3/9)


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


401以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/21(水) 01:34:33.96kmtuEEhhO (2/2)


流石に終わってたか九尾の毛皮の衣服…戦衣の基礎かな?


402以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/21(水) 05:35:20.91A+V+oM4EO (1/1)


接触しなかったのは良かったのか悪かったのか


403以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/21(水) 08:04:29.898mV2FyURO (1/1)


後はどこまで誤魔化しが効くかだな
看護師服は病院までかもだが


404 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/21(水) 20:28:56.19nkYjHLfFo (4/9)


では少しだけ


405以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/21(水) 20:37:40.45yESLdBI9O (1/3)

よしきた


406 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/21(水) 20:55:15.44nkYjHLfFo (5/9)


陽乃「……凄い」

病室から、病院の外に出るまで

陽乃は何度か声をかけられることがあったものの

誰も、拘束されているはずの久遠陽乃だとは思わなかった。

むしろ、

同僚の一人として気さくに声をかけられるくらいだった。

『くふふっ、無論じゃ』

心なしか弾んだように感じる九尾の声

自分の力が認められるということは嬉しいのだろうか

陽乃「私、この格好のままで良いの?」

『ふむ……』

院内やその付近であれば看護師の衣装でも問題はないけれど、

ある程度離れてしまったら違和感が出てきてしまう。

それを心配する陽乃に、九尾は絡みつくように影を伸ばす。

一瞬、視界が真っ暗になったかと思えば、陽乃が普段着ていた私服に切り替わっていた。

陽乃「何でもありなのね」

『妾が知るものにしか変化はさせられぬ。万能ではない』

陽乃「貴女が知るものだけでも十分何でもありだわ」

実際にはどんな格好なのか……というのは抜きにしてしまえば、

本当に万能な力だと陽乃は思った


407 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/21(水) 21:31:48.40nkYjHLfFo (6/9)


陽乃が隔離されていた施設は、町はずれの病院だった。

三年前の惨劇によって人口が大幅に減少することになったが、病院に余裕はない。

というのも、多くの人々が発症した【天空恐怖症候群】があるからだ。

天空恐怖症候群は精神的な病である。

症状としては、

一つ、外出を嫌うようになる

一つ、襲来時のフラッシュバックなどによる精神汚染と日常生活への影響が出る

一つ、幻覚などの症状が頻発に見られるようになり、薬を手放せなくなる

一つ、自我が崩壊し、発狂にまで至る

といったものがあり症状別4段階に定められていて、

陽乃の病室から離れるにつれて軽い症状の人が入院していたようで

ベッドに空きがあるようには感じられなかった。

そんな精神病院と呼ばれてしまうような病院の周囲の住宅には、人の気配がほとんど感じられない。

庭先の雑草が伸び切っていたり、崩れてしまった建物もある。

人の出入りがあると感じられるのは見る限りで数軒

陽乃「……この辺りも、だいぶ」

『人間の気配がまばらじゃな』


408 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/21(水) 21:51:08.81nkYjHLfFo (7/9)


全員が死んでしまったとは考えたくない。

しかしながら大半が亡くなってしまっただろうし、

それと同じくらいの人々が心に傷を負ってしまったのだ

かつても、歩いていれば多くの人とすれ違うなんて言う人口密度は感じられなかったが、

それでも、人の気配があった。

時折聞こえる犬の声、車の音、子供たちの元気な声

確かな日常がそこにあったのだ

陽乃「………」

『主様の責ではあるまい』

陽乃「でも、私が守らなければならないことだわ。これ以上酷くならないように、これ以上戻れなくなってしまわないように」

『主様を悪としている人間じゃぞ』

陽乃「それでもよ……私は助けたいと思ったから力を借りたんだもの。たとえ、それが悪魔の力であっても……」

助けた人々から迫害されるのだとしても、

自ら選んで掴んだのだから、自分は自分の目的を見失わずにいられればいいのだ

その果てが理不尽な結末だろうと。

――本当に?

陽乃「っ」

『主様、寄宿舎に戻るつもりかや?』


409 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/21(水) 22:11:37.26nkYjHLfFo (8/9)


総毛立つような悪寒を感じたのと同時に九尾の声が聞こえる

聞こえるのは陽乃にのみなのではたから見れば独りぼっちだが、

陽乃の身体から延びる影は体以上に大きく広がり、

近くの木陰に重なっている部分からは、狐のような顔が陽乃を覗いている

そう言った感覚に鋭敏な人がいたら、悲鳴を上げて逃げ出すことだろう。

『主様は正式な退院ではなかろう? 少々厄介なことになると思うがのう』

陽乃「そう……よね」

何も考えていなかったとはいえず、頷く。

足を止めた陽乃は近くの車止め用のポールに腰かけた。

陽乃の生活に必要な数々の私物はすべて寄宿舎の自室である

端末は取り上げられているので、無し。

当然所持金もない。

陽乃「私一文無しなのよね」

『そこらの人間に取り入ってしまえばよい。妾ならば容易じゃぞ』

陽乃「でしょうね……」

九尾の力はついさっきから十分に分からされている

そのうえで、九尾の狐の伝承を考えれば、言葉に偽りがないのは明白だった



1、友達の家に行くわ
2、それが出来るなら、寄宿舎に行くくらいは余裕でしょう?
3、このまま、四国から出たいって言ったら、どうする?
4、取り入るってどうするつもり?

↓2


410以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/21(水) 22:13:43.08yESLdBI9O (2/3)

1


411以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/21(水) 22:14:08.37r8gL4IbP0 (1/1)

4


412 ◆QhFDI08WfRWv2020/10/21(水) 22:27:46.61nkYjHLfFo (9/9)


では少し早いですがここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


413以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/21(水) 22:39:06.07yESLdBI9O (3/3)


九尾も物騒なことさえしなければ世話焼きな良い奴なんだけどなぁ
あと友達ってもしやさおりんのご先祖…?


414以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/10/22(木) 07:59:57.36U/j/ghEAO (1/1)


何気に九尾は陽乃さんとしか会話できないのか