1以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/25(金) 01:47:30HfzvEcmQ (1/7)

………………星見の街 食堂

ミノ 「アルク、あーん、ってしてほしい」

シウエ&シルティー&フィリア 「「「!?」」」

アルク 「はいはい。仕方ないなぁ。はい、あーん」

シウエ&シルティー&フィリア 「「「!?!?」」」

ミノ 「あーん……はむっ」

ミノ 「おいしい……」 トローン

シウエ 「……あ、アルク~?」

アルク 「ん? どうかした? 味付けおかしかった?」

シウエ 「い、いえ~。いつもどおり、とっても美味しいご飯ですよ~」

シウエ 「ご飯は美味しいのですが、あの~……」

アルク 「?」

シルティー 「あ、アルク兄さま! どういうことですか!?」


2以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/25(金) 01:48:20HfzvEcmQ (2/7)

アルク 「シルティー? どうかした?」

シルティー 「は、破廉恥です! 公衆の面前で、そんな……///」

アルク 「?」

フィリア 「……あの、アルクさん」

アルク 「フィリア? どうしたの?」

フィリア 「たぶん、シウエさんもシルティーさんも、今の……」

フィリア 「………………」

フィリア 「……あ、“あーん” のことを、聞きたいのだと、思います……///」

アルク 「“あーん” ……?」

アルク 「……ああ、ミノに食べさせてあげたやつ?」

ミノ 「アルク、もう一回!」

アルク 「あー、はいはい。ちょっと待っててね、ミノ」


3以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/25(金) 01:50:02HfzvEcmQ (3/7)

アルク 「……はい、あーん」

ミノ 「あーん……はむっ。……えへへ、とっても美味しい。アルク、ありがとう!」

アルク 「やぁ、そう言ってくれると嬉しいな」

フィリア 「それです、それ!!」

アルク 「へ? ああ。いや、それって言われても……」

アルク 「“あーん” してあげてるだけとしか……」

フィリア 「し、してあげてるだけ……」

フィリア 「………………」

フィリア 「……して、あげてる、だけ」

アルク 「……フィリア?」

フィリア (……と、いうことは)

フィリア 「えっ、えっと……」

フィリア 「……あ、アルクさん。私も……」

フィリア 「あーん、して、ほしいです……///」

シウエ&シルティー 「「!?」」


4以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/25(金) 01:50:55HfzvEcmQ (4/7)

アルク 「ああ、なんだ、フィリアもしてほしかったんだね」

アルク 「いいよ。はい、あーん」

シウエ&シルティー 「「!?!?」」

フィリア 「あ……あーん……///」

フィリア 「………………」

フィリア 「……とっ、とっても,美味しいです……///」

シウエ 「……アルク、わ、私も~、あーん、してほしいです~、なんて……」

シルティー 「!?!?」

アルク 「シウエも? いいよ」

シルティー 「!?!?」

アルク 「はい、あーん」


5以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/25(金) 01:51:45HfzvEcmQ (5/7)

シウエ 「あ、あーん……///」

ハムッ

シウエ 「……ああ、私のムクト、とっても美味しいですよ」

シウエ 「……そういえば、里以外ではこう言うのでしたね」

シウエ 「とっても美味しいです、あなた♪」

シルティー 「………………」

シルティー 「あ、アルク兄さま!! 私も……」

アルク 「? シルティーも?」

シルティー 「っ……」


6以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/25(金) 01:52:33HfzvEcmQ (6/7)

シルティー (め、目を覚ましなさい、シルティー・サーディア!!)

シルティー (あなたはドラゴンからエンリルを取り戻した、まぎれもないサーディアの騎士!)

シルティー (誉れ高い最強の剣士! サーディアの剣鬼と呼ばれ恐れられる存在でしょう!?)

シルティー (そんなあなたが……年上の男性にあーんとごはんを食べさせてもらうことなど……――)

ミノ 「アルクー、もう一回ー!」

フィリア 「あ、あの、アルクさん。私も、もう一回……///」

シウエ 「ムクト、私も、もう一回お願いします~」

シルティー 「――……シルティーもお願いします!!! アルク兄さま!!!」

おわり


7以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/25(金) 01:56:28HfzvEcmQ (7/7)

>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。
キャラクターの解釈不一致等で不快な気持ちにさせてしまっていたら申し訳ないです。
ミノと風三人娘が大好きなので書きました。
そもそもこんなマイナーなゲームのSSに需要があるのか、とか色々思うところはありますが、
スレ節約のためにこのスレに今後もいくつかSSを投下したいと思います。
また読んでくれたら嬉しいです。


8以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/25(金) 17:47:41OjqnaNmc (1/1)

ワーフリSSとは珍しい、応援してるで乙乙


9以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 00:35:21XQ87ARss (1/1)

面白かった乙やで


10以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 18:41:27dTAGq6fs (1/58)

>>1です。
投下します。

プリカ 「ねぇ、私ってばデートをしてみたいわ!」


11以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 18:48:47dTAGq6fs (2/58)

………………星見の街 食堂

アルク 「は? デート?」

プリカ 「そう! デートよ、デート!」

ステラ 「デート。男女が一緒にお出かけをすること……でしょうか」

ライト 「また妙なことに興味を持ったものだな……」

プリカ 「妙って何よ! ステラから借りた本で読んだのよ!」

プリカ 「私ってばお姫様じゃない? お姫様と言えば、お忍びで男の子と逢瀬を重ねるものなのだわ!」

シロ 「どっから突っ込んだらいいのか分かんねぇな……」

ステラ 「つまり、プリカさんは誰か男性とお出かけをしたいということですか?」

プリカ 「その通り! だから、誰か一緒に出かけましょう?」

シロ 「………………」

アルク 「………………」

ライト 「………………」


12以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 18:49:23dTAGq6fs (3/58)

シロ 「……また面倒なことになりそうだから、俺は失礼するぜ」

ガシッ

アルク 「いいじゃない。シロ、プリカとデートしてあげなよ」

シロ 「ああ!? やめろ! 腕をつかむな! 俺を巻き込むな!」

アルク 「え? だってほら、シロの女の子のタイプって……――」

シロ 「――だああ!! 何を言うつもりだやめろバカ!」

シロ 「っていうかアルクてめぇ! お前がめんどくさいだけじゃねぇか!!」

アルク 「やぁ。そんなことはないんだけどねぇ……」

シロ 「なら俺の目見ろやコラァ!」

ワーワーギャーギャー


13以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 18:49:53dTAGq6fs (4/58)

ライト 「まったく。当人を置いて騒いで。失礼なことだ。こんな二人にプリカ嬢は任せられんな」

キリッ

ライト 「仕方ない。僭越ながら私が相手役を務めよう」

プリカ 「えぇ~? ライトぉ~?」

ライト 「なっ……!」 ガガーン

ライト 「なんだその不服そうな顔はー!」

プリカ 「だって、ライトってちっこい毛玉だし、なんかおじさんくさいし……」

ライト 「毛玉……!? お、おじっ……!?」

プリカ 「あと、なんかあんまりそういう経験なさそうだし!」

ライト 「………………」 ガガガーーーーン

アルク 「ライトが固まった……」

シロ 「ありゃしばらくは立ち直れねぇな……」


14以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 18:50:39dTAGq6fs (5/58)

ズゴゴゴゴ……!!

シロ 「あん? なんだこの揺れ……?」

アルク 「……? この感じは……まさか!」

バーーーン!!!

ベルセティア 「アルクちゃーん!! じゃあお姉さんとデートしましょう!!」

アルク 「ベルセティアさん!? えっ、ちょっ、まっ……! 掴まないで……わっ……」

アルク 「見てないで助けてよシロ!!」

シロ 「……うん」 ニコッ 「いってこい、アルク」

アルク 「シロ!?」

ベルセティア 「ふふふ♪ 口うるさい勇者が無力化された今がチャンスなの。行きましょ、アルクちゃん♪」

ズズズズズズ……

シロ 「……消えた。相変わらず忙しねえおば――お姉さんだな」


15以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 18:51:26dTAGq6fs (6/58)

プリカ 「アルク、デートに行ったのね!? 今のお姉様は、アルクの恋人さん!?」

シロ 「ああ、もうめんどくせぇしそれでいいんじゃねぇかな」

プリカ 「じゃあ、仕方ないわね。シロ、この際大きな毛玉なのは大目に見てあげるから、私とデートしなさい!」

シロ 「なんでそっちが不服そうなんだよ! 俺はデートなんかごめんだからな!!」

プリカ 「何よぉ! 私はお姫様よ!? 王子様でもないのにデートができるのを光栄に思いなさい!」

シロ 「だぁああ! この街には面倒くせぇ女しかいねぇのかちくしょう!」

ガチャッ……

ラーゼルト 「……ん? このオレが久々に戻ってきてやったというのに、なんだこの騒ぎは」

シロ 「ん?」

ステラ 「あ、王子様です」

プリカ 「王子……」

ラーゼルト 「な、なんだ? 人の顔をジロジロと……。オレの高貴な相貌に見とれたか?」


16以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 18:52:22dTAGq6fs (7/58)

シロ 「適任じゃねぇか。あいつならお前も文句ねぇだろ?」

ステラ 「本物の王子様ですからね」

プリカ 「まぁ、そうね。ライトよりは経験豊富そうね!」

ライト 「ぐふっ……」

シロ 「オーバーキルだなもう……」

ラーゼルト 「ええい! さっきから人の顔を見てゴチャゴチャと! 悩み事か!? なら早く申せ!」

ラーゼルト 「相談くらいになら乗ってやる! その上でオレにできることがあれば協力してやるに吝かでもないぞ!」

シロ 「ほんと、偉そうに良い奴だよな、お前。まぁ、だからこういうことになるんだけどな」

ラーゼルト 「む? それは一体どういう意味だ……――」

――――ガシッ

ラーゼルト 「!? な、なんだ、プリカ。急に人の手を取って……」

プリカ 「ねぇ、ラーゼルト!」

ラーゼルト 「……? なんだ?」

プリカ 「私とデートしましょう!!」


17以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 18:54:33dTAGq6fs (8/58)

………………パルペブラ

プリカ 「さ、ということで、デートよ、ラーゼルト!」

ラーゼルト 「う、うむ……」

ラーゼルト (ぐぬぬ、シロの奴め。オレに面倒事を押しつけおったな。覚えておれよ……!)

ラーゼルト (……とは思いはするものの)

プリカ 「ふふふ、私ってば、とってもわくわくしているわ!」

ラーゼルト (特殊な出自とはいえ、姫は姫! ファーランドの王子として、その願いを無下にすることなどあってはならない!)

ラーゼルト 「ハーッハッハッハ!! いいだろう! このラーゼルトが、お前をロイヤルにエスコートしてやろう!!」

ラーゼルト 「大船に乗ったつもりで……いや、サーフィンくらいに乗ったつもりでいるがよいぞ!!」

ラーゼルト (……とは、言ったものの、デートとは一体どこへ行けばよいのだ?)

ラーゼルト 「……あー、プリカ。どこか行きたいところはあるか?」

プリカ 「もちろん! ステラの本でデートしていた場所、全部よ!」

ラーゼルト 「ぜ、全部、だと……!」

ラーゼルト 「……ええい! それくらいこのファーランドの王子かかれば大したことではない! まずはどこへ行きたいのだ!」

プリカ 「うん! 最初はね……」


18以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 18:55:09dTAGq6fs (9/58)

………………物陰

シロ 「……おー、なんというか、早速不安だな」

ステラ 「でも、プリカさんは楽しそうです」

ステラ 「? というか、このままあとをつけるのですか?」

シロ 「仕方ねぇだろ。さすがにあのまま放り出しちまったらあの王子サマにわりぃしな」

ステラ 「……ふふ」

シロ 「ん?」

ステラ 「シロさんは優しいです。プリカさんとラーゼルトさんのことが心配なんですね」

シロ 「……けっ、そんなんじゃねぇよ」

シロ 「おっ、どっかに行くみたいだな。追いかけるぞ、ステラ」

ステラ 「はい。行きましょう」


19以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 18:55:53dTAGq6fs (10/58)

………………カフェ?

プリカ 「………………」

ラーゼルト 「……なんだ、その顔は」

プリカ 「ねぇ、ラーゼルト。私、まずはカフェに行きたい、って言ったわよね?」

ラーゼルト 「ああ。言ったな」

プリカ 「……じゃあなんで」

プリカ 「……なんで酒場に連れてくるのよー!!」

ラーゼルト 「し、仕方なかろう! このオレにエスコートをさせているのだぞ!?」

ラーゼルト 「行きつけの酒場でもなければ道に迷うに決まっておろうが!」

プリカ 「情けないことを大いばりで言わないでくれる!?」

ワーワーギャーギャー


20以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 18:56:30dTAGq6fs (11/58)

………………別の席

シロ 「……おいおい」

ステラ 「………………」

シロ 「やっぱりあの王子サマに押しつけたのは失敗だったか。今からでも俺が代わった方がいいか。いや、でもな……」

ステラ 「……大丈夫ですよ、シロさん」

シロ 「あん? 大丈夫?」

ステラ 「ほら、見てください」


21以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 18:57:01dTAGq6fs (12/58)

………………

プリカ 「まったくもう! あんた本当に王子なんでしょうね?」

ラーゼルト 「不敬がすぎるぞ、小娘! オレはかの大国ファーランドの王子、ラーゼルトだぞ!?」

プリカ 「ふんだ。女の子ひとり満足にエスコートできなくて王子様ね……」

スッ……

プリカ 「……!? あら、このお茶、美味しいわ!」

ラーゼルト 「ふん。当然であろう。このオレの行きつけだぞ! 酒からジュースまで何でも美味いに決まっておろう!」

ラーゼルト 「ついでに安くてツケもきく!」

プリカ 「……ふーん」

プリカ 「……へぇ」

ラーゼルト 「な、なんだ、その微妙な反応は。褒めるのが無理ならせめて突っ込むかバカにするかくらいはせんか!」

プリカ 「バカね。感心してたの。最後のがなければもっと感心してたけどね」

ラーゼルト 「む……?」


22以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 18:57:44dTAGq6fs (13/58)

………………

ステラ 「……ちゃんと楽しそうです」

シロ 「ん、ああ、まぁ楽しそうではあるけどな……」

シロ 「……あれでいいのか?」

………………

ラーゼルト 「それで、次はなんだ?」

プリカ 「次……そうね! 私ってば、お芝居が観てみたいわ!」


23以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 18:58:21dTAGq6fs (14/58)

………………お芝居小屋???

プリカ 「………………」

アナウンス 『幸運なる紳士淑女の皆様! いよいよ真打登場のお時間です!』

アナウンス 『煌めきのエクリール、登場です!!』

ラーゼルト 「……おっ、見ろ、プリカ。出てきたぞ。あれがこの劇場の花形役者だ!」

ワーワー キャーキャー エクリールサマー!!!

プリカ 「……ねぇ、ラーゼルト」

ラーゼルト 「ん、なんだ?」

プリカ 「私、お芝居が観たいって言ったわよね?」

ラーゼルト 「ああ、言ったな」

プリカ 「なら、どうして……」

プリカ 「……どうして闘技場なんかに来てるのよー!!」

エクリール 『やぁ、みんな! 今日も私の剣技、思う存分堪能していってほしい!』

ワーーーーーー!!!!


24以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 18:59:31dTAGq6fs (15/58)

ラーゼルト 「仕方なかろう。オレはこの街で芝居を観たことはないから間違いなく迷う!」

ラーゼルト 「そして、剣闘も広義の意味では芝居だろう!」

ラーゼルト 「よって問題なし!!!」

プリカ 「問題しかないわよこのバカ王子ーーーー!!!」

ラーゼルト 「なっ!? バカ王子だと!? 貴様、さすがに不敬がすぎるぞ!?」

オオオオオオーーーーーー!!!!!

ラーゼルト 「……などと言っている間に魔物を倒してしまいおったな。剣闘士め。さすがの腕だな……」

プリカ 「秒殺だったわね。それにしてもあの剣、綺麗ね。もっと長く見られたらいいのに」

ラーゼルト 「む? 剣闘に興味が出てきたか? それはちょうどよいな」

スッ……


25以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 19:00:16dTAGq6fs (16/58)

プリカ 「へ? ラーゼルト? まだ終わりじゃないでしょ? 何で立つの?」

ラーゼルト 「ちょっとここで待っていろ。すぐ戻る」

ラーゼルト 「……数分は耐えてやる。せいぜいあの剣闘士の剣技を堪能するといい」

プリカ 「? 行っちゃったわ……」

プリカ 「……ラーゼルトったら、レディのこと放り出して、どういうつもりかしら!」

プリカ (……? それにしても “数分は耐えてやる” って、どういうことかしら?)

アナウンス 『続きまして、本日のメインイベント、対ドラゴン……の前座!! 謎の覆面騎士、タテ・オジの登場です!!』

プリカ 「あら……?」


26以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 19:00:51dTAGq6fs (17/58)

………………別の席

シロ 「はァ……?」

ステラ 「まぁ」

シロ 「なにやってんだよあいつ……」

アナウンス 『なんと、タテ・オジ氏は本日飛び入りで闘技場への参加を申し出た素人さんです!』

アナウンス 『出場理由は “単純にお金がない!” だそうです!』

ドッ!!!

シロ 「……本当になにをやってるんだよあいつは」

シロ (そういやあいつ王子のくせに金がないんだったな。ワリィことしちまったな……)


27以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 19:01:45dTAGq6fs (18/58)

………………

エクリール 「……じゃあ、ちょっと本気で行くけど、大丈夫? ラーゼ……じゃなくて、タテ・オジさん?」

?? 「あ、ああ、大丈夫だ。貴様の剣技のすさまじさは知っているが、王殻は龍の全力すら凌ぎきる。問題ないはずだ」

?? 「……これはそのレプリカだが」

エクリール 「ふふ。そうか。そうだったね。そんな逸品のレプリカとあらば、“ちょっと” というのは失礼だったかな」

ザッ……!!!!

エクリール 「全力で本気で行こう!!」

?? 「なぜそうなる!?」

エクリール 「煌めけ! イーリス・ブレード!!」

?? 「……ええい!! 人の話を聞かん奴だな! シェル・エンブリオ、起動せよ!!!」


28以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 19:02:49dTAGq6fs (19/58)

………………

ワーワーキャーキャー!!!!!

プリカ 「は~~~……」

プリカ 「すごいわね。あの速くて綺麗な剣を、全部防いでる……?」

プリカ 「………………」

グッ

プリカ 「が、がんばれーー!! タテ・オジー!!!」


29以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 19:05:43dTAGq6fs (20/58)

………………

ステラ 「素晴らしい闘いでした」

シロ 「ん、ああ。なかなかだったな」

ヤキモキヤキモキ

シロ (最後、ヤロウが盾ごと吹っ飛ばされてたのは、演技か……? いや……)

シロ (……あんま考えねえでおこう)

ステラ 「それにしても……」

ムムムムムム……

シロ 「あん? どうした? 真面目な顔して唸っちまって……」

ステラ 「あのタテ・オジさんという方の正体、気になります……」

ステラ 「一体どこのどなたなのでしょうか」

シロ 「あー……」

シロ 「……どこの誰だろうな。ほんと」


30以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 19:07:51dTAGq6fs (21/58)

………………楽屋裏

ラーゼルト 「ひ、酷い目にあった……」

エクリール 「いや、すまないね。君の盾があまりにも固いものだから、ついムキになってしまった」

エクリール 「途中から本気だったよ。素人相手に悪いことをしてしまったね」

ラーゼルト 「王殻ごとオレを吹き飛ばしおって……。貴様本当に人間か」

エクリール 「そう言ってくれるなよ。私程度の者なら、あの街にはザラにいるだろう?」

ラーゼルト 「……それはそうだがな――」

「――……あっ! いたー! ラーゼルト!!」

ラーゼルト 「む……? プリカか」

プリカ 「プリカか、じゃないわよ!! どこ行ってたのよもーっ!! ……って、あんたボロボロじゃない! 一体どうしたのよ!?」

ラーゼルト 「いや、まぁ、うむ……ちょっとすっころんでな……。問題ない。気にするな」

プリカ 「……? そう? まぁ大丈夫そうならいいわ!」


31以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 19:08:36dTAGq6fs (22/58)

プリカ 「あのね、すごかったのよ!! メインイベントの対ドラゴンもすごかったけど、前座のタテ・オジがね!!」

プリカ 「エクリール様の攻撃を何度も何度も何度も……――」

プリカ 「――ってエクリール様!?」

ラーゼルト 「やかましい奴だな。オレの耳元でキンキン叫ぶんじゃない!!」

エクリール 「や、こんにちは、お嬢さん。こちらが君のお連れさんかい? ラーゼルト」

ラーゼルト 「ああ。お前はめったに街に来ないからまだ会っていなかったな。先日仲間になったプリカだ」

ラーゼルト 「……というかプリカ! 貴様、王子であるオレのことはラーゼルトなどと気軽に呼び捨てにしておいて、剣闘士には様付けだと!?」

プリカ 「何よ! だってエクリール様、あんたと違ってカッコいいじゃない!」

ラーゼルト 「うぐっ……な、なんと不遜な……!」

エクリール 「へぇ。この子が、君の、連れ……ねぇ?」 

エクリール (低い上背、幼い顔立ち、それに反するようにふくよかで女性らしいグラマラスな体……)

エクリール 「……こういう子がタイプなのかい? ちょっと犯罪臭いよ、ラーゼルト」

ラーゼルト 「貴様は貴様でなにをくだらぬ邪推をしておるのだエクリール!!」


32以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 19:09:26dTAGq6fs (23/58)

プリカ 「エクリール様! 私ったら、今日初めてエクリール様の闘いを観て、ファンになっちゃいました!」

エクリール 「へぇ、それは嬉しいね。興業に興味を持ってくれたなら、今後も観に来てくれると嬉しいな」

プリカ 「はい、ぜひ!!」

プリカ 「あ、あと……」

エクリール 「? なにかな?」

プリカ 「さっきの、タテ・オジさんはどこ? あの人にも会ってみたいわ」

エクリール 「……ふぅん」 チラッ

ラーゼルト 「………………」 プイッ


33以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 19:10:22dTAGq6fs (24/58)

エクリール 「……ふふ。あいにく、彼はシャイでね。人前にはマスクなしでは出られないんだよ」

エクリール 「感想があれば伝えておこうか?」

プリカ 「は、はい! あの……最後は吹っ飛ばされちゃったけど、すごくカッコ良かったって……伝えてくれると嬉しいです」

エクリール 「へぇ……」 チラッ

ラーゼルト 「………………」 プイッ

エクリール 「うん。間違いなく伝えておくよ。今後も彼はきっと、飛び入り参加してくれるだろうしね?」

ラーゼルト 「ええい! いちいちオレの方を向くな!」

ラーゼルト 「……まぁ、たぶん、おそらく……また、出てくれるのではないか? オレの知るところではないがな!」

エクリール 「そうか。それは楽しみだ。私も、ますますもって刃を研いでおかねばね」

ラーゼルト 「……ほ、ほどほどに頼むぞ」


34以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 19:10:53dTAGq6fs (25/58)

………………

プリカ 「ねぇラーゼルト、私ってば、ゲームがやりたいわ!」

プリカ 「ステラの本で、ゲームがたくさん並んでる “ゲームセンター” っていう場所を見たの!」

ラーゼルト 「ゲーム……? がたくさん並んでいる……?」

ラーゼルト 「ああ、なるほど。そういうことか。あいわかった」


………………ゲームセンター?

プリカ 「……って、ここ、カジノじゃないのよー!」

ラーゼルト 「む? ゲームがやりたいといえば、賭場だろう? 違うのか……?」


35以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 19:11:37dTAGq6fs (26/58)

………………

プリカ 「今度は何か乗り物に乗りたいわ! 馬車とか、ふたりで乗れるやつよ!」

ラーゼルト 「乗り物……馬車は金がかかるな。あとは……」


………………馬車?

プリカ 「……ねぇ、ラーゼルト、これ、乗り物なの?」

キノ 「ヌォプ、ヌォプ……」

ラーゼルト 「キノたちが快く傘に乗せてくれているのだ。文句を言うものではない」

ラーゼルト 「乗り心地は悪くないだろう? 極上のソファに乗りながら移動しているような……」

ブフォッ!!!!

ラーゼルト 「ごふっ……と、時折出てくる胞子を我慢すれば、だが……」

プリカ 「あー、もうっ!」


36以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 19:12:35dTAGq6fs (27/58)

………………夕刻 星見の街

パァアアアアアア……!!!

ラーゼルト 「ハーッハッハッハ! どうだ、プリカ。このオレの完璧なエスコートは!」

ラーゼルト 「ロイヤルに最高だっただろう!? そうだろう!」

プリカ 「……オシャレなカフェでお茶の予定が、酒場」

ラーゼルト 「む……」

プリカ 「お芝居を観る予定が、闘技場で剣闘」

ラーゼルト 「むぅ……」

プリカ 「ゲームの予定が賭場」

プリカ 「馬車に乗る予定が、キノ……」

ラーゼルト 「………………」

プリカ 「……色々と変だったし、最高でもなかったわ」

ラーゼルト 「ぐっ……」


37以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 19:13:14dTAGq6fs (28/58)

プリカ 「………………」

クスッ

プリカ 「……でも、私ってば、とっても楽しかったんだわ!」

プリカ 「だから、ありがとう、ラーゼルト! あなたとデートができてよかったわ!」

ラーゼルト 「む……そ、そうか」

ラーゼルト 「……まぁ、王族としては姫の願いは無下にはできんからな」

プリカ 「ふふ。でも、次はもっと素敵なエスコートをしてくれたら、もっともっと嬉しいかしら」

ラーゼルト 「つ、次!? 次があるのか……!?」

プリカ 「当然でしょ! ……って、あら?」

パァアアアアアア……!!!

シロ 「んあ? お前ら、もう帰ってたのか」

ステラ 「お帰りなさい、プリカさん。ラーゼルトさん」

ラーゼルト 「ああ、戻ったぞ。とはいえ、お前たちも出かけていたのか」

シロ 「ん? ああ。晩飯の買い出しだよ」

シロ (……お前らの後をつけてたけど途中で見失って買い物してた、なんて言えねぇよな)


38以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 19:14:33dTAGq6fs (29/58)

プリカ 「ふふ。じゃあ、ふたりもデートをしていたのね。シロ、ステラ」

シロ 「はァ?」

ステラ 「デート……?」

ステラ 「そうですね。私とシロさんも、デートをしていたことになりますね」

シロ 「おいおい。お前まで何変なことを……」

ステラ 「楽しかったですね、シロさん」

シロ 「ん……」

シロ 「……ああ、まぁ、楽しかったんじゃねぇかな」

プリカ 「あら、私たちも楽しかったわよね、ラーゼルト?」

ラーゼルト 「む。ああ。まぁ、楽しかった……のだろうな」

シロ (なんだかんだ、プリカも満足したみたいだし、一件落着か)

シロ (……? なんか忘れてる気もするが、まぁいいか)


39以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 19:15:14dTAGq6fs (30/58)

………………???

ベルセティア 「ふふ、アルクちゃん。ここはね、私のヒミツのスポットよ」

ベルセティア 「貴重なオクスリの元になる、魔物の巣なの」

ウゴウゴウゴウゴ……

ベルセティア 「収穫、手伝ってくれるわよね?」

ベルセティア 「ふふ。アルクちゃんとのデートなんて、お姉さん緊張しちゃうわぁ!」

アルク 「むーーーーっ! むーーーーーーーっ!!!」 (手伝うから! 手伝いますから!!! 離して~~!!)

アルク 「むごーーーーっ!!!」 (胸で窒息するからーーーーー!!!!)

おわり


40以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 19:16:48dTAGq6fs (31/58)

>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。

ラーゼルトくんとプリカが好きなので書きました。
また投下します。


41以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:26:40dTAGq6fs (32/58)

>>1でうs。
書き上がってしまったので投下します。

シウエ 「アルク、何かしてほしいことはありますか~?」


42以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:34:45dTAGq6fs (33/58)

アルク 「へ? いきなりどうしたの?」

シウエ 「いえ~、特段どうしたということはありませんが~」

シウエ 「アルクがしてほしいことを、してあげたいと思いまして~」

シウエ 「アルクが望むこと、何でもして差し上げますよ~?」

アルク 「へぇ……? 何でも……?」

シウエ 「………………」 ニコニコニコ

シウエ (……まぁ、もちろん特段どうしたということはない、わけはありませんけれども~)

シウエ (アルクは、精霊よりも優先すべきことがあると言いました~……)

シウエ (なら……)

シウエ (ふふふ~、アルクに私を好きになってもらえば、アルクは何を差し置いてでも私を優先するようになるはずです~)

シウエ (そして、ステラさんの蔵書で学びましたよ~)

シウエ (殿方は、女性に “何でも” と言われることに弱い、と)

シウエ (さあ、覚悟してくださいね、アルク)

シウエ (私の魅力で、あなたをトリコにして見せますから~)


43以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:35:24dTAGq6fs (34/58)

アルク 「何でも……何でも、かぁ……」

ニヤァ

アルク 「うん! じゃあ、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだ。こっちに来てよ」

シウエ 「!?」

シウエ (さ、早速部屋の奥に……!?)

ドキドキドキドキ

シウエ (さすがは私のムクトです~、大胆なところ、キライではないですよ~?)

……ドサッ

シウエ 「……へ?」

アルク 「洗濯物、溜まってたんだ。ちょっと手伝ってくれると助かるな」

シウエ 「洗濯……? あ……」

シウエ 「……わ、わかりました。お手伝いさせていただきます~」

アルク 「? なんか顔が赤いよ、シウエ。大丈夫?」

シウエ 「!? あ、赤くなってなんかいません!」

アルク 「?」


44以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:36:00dTAGq6fs (35/58)

………………

ソヨソヨソヨソヨ……

アルク 「やぁ、洗濯を手伝ってもらって、その上そよ風まで吹かせてくれるなんて」

アルク 「助かるよ、シウエ! 本当にありがとう!」

シウエ 「いえ~、このくらい、お安いご用です~」

シウエ (……普通にお洗濯をお手伝いしてしまいました)

シウエ (ま、まぁ、これはこれで、きっとアルクの私に対する好感度も上がったことでしょうし、よしとしましょう)

シウエ (精霊も、はためく洗濯物を美しいと喜んでいるようですし……)

フィリア 「あ、アルクさん。シウエさん。こんにちは。お洗濯物ですか?」

アルク 「うん。溜めちゃってたんだけど、シウエのおかげでいつもより早く終わったんだ」

シウエ 「ふふふ~」

フィリア 「……へー。なるほど。なるほど」

フィリア 「アルクさんのお役に……シウエさんが……なるほどなるほど……」

ニコッ

フィリア 「シウエさん、お疲れでしょうから、風の係、代わりますよ」


45以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:36:46dTAGq6fs (36/58)

シウエ 「へ? あ、いえ、これは私の仕事で……――」

フィリア 「――お疲れでしょう? 風の係、代わりますよ?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

アルク 「よかったじゃん、シウエ。フィリアに代わってもらいなよ」

シウエ 「あ~……」

シウエ 「わ、わかりました。では、あとはよろしくお願いします~」

フィリア 「はいっ」

ソヨソヨソヨソヨ

シウエ 「……つ、次です!」

アルク 「へ?」

シウエ 「次は何をしたらいいですか? アルク」

アルク 「やぁ。なんか今日はやる気満々だね、シウエ」

アルク 「じゃあ次は……」


46以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:37:36dTAGq6fs (37/58)

………………パルペブラ

アルク 「いや、本当に助かるよ、シウエ」

アルク 「今日はシロもステラも忙しくて、買い出しひとりだと大変だろうなって思ってたから」

アルク 「ライトもベルセティアさんと追いかけっこしてるし……まぁ元々ライトは重い物持てないけど」

シウエ 「いえいえ~。アルクのお役に立てたのなら嬉しいです」

シウエ (一歩引いて、殿方を立てる。これが基本、でしたね~)

シウエ (ふふふ~、アルクも少しずつ、私の魅力に気づき始めているはず……――)

アルク 「――あっ、シウエ!」

シウエ 「へぇ……?」

グイッ……ギュッ!!!

シウエ 「……へ、へぇえ!?」

シウエ (あ、アルクに、急に、だっ、抱き……!?)

シウエ 「あ、アルク~? あの……――」

 『――暴走馬車だー!!』 『危ねーぞ! 道開けろー!!』

ドドドドドドドド……!!!!!


47以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:38:14dTAGq6fs (38/58)

シウエ 「ひゃっ……!!」

アルク 「ふぅ。危なかったね、シウエ。パルペブラはこういうことがあるから気が抜けないね」

シウエ 「あっ……///」 カァァァアアアア…… 「そ、そうですね。ありがとう、ございます、アルク……」

シウエ 「それで、あの……そろそろ、離してもらえると~……」

アルク 「……あっ、ご、ごめん!」

バッ……!!!

アルク 「シウエが危なかったから、つい! ごめん!」


48以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:39:02dTAGq6fs (39/58)

シウエ 「いえ~、謝る必要はないですよ~……」

ドキドキドキドキ

シウエ (……アルクの力、予想以上に強かったですね)

シウエ (抱き寄せられたときも、意外と筋肉質で……)

シウエ 「っ……///」

シウエ (って、私は何を考えているのですか~!)

アルク 「さ、また馬車にひかれそうになる前に、星見の街に戻ろうか」

シウエ 「は、はい~」

シウエ 「………………」

シウエ (なぜ)

ドキドキドキドキ

シウエ (なぜ、私がドキドキしているのですか~! も~!)


49以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:39:39dTAGq6fs (40/58)

………………星見の街 食堂

アルク 「やぁ、まだお手伝いをしてくれるんだね」

シウエ 「はい~。次はお夕飯作りですね~?」

アルク 「うん。今日も晩ご飯食べる人、結構多そうだから大変なんだよね」

アルク 「手伝ってくれて本当に助かるよ、シウエ」

ニコッ

シウエ 「っ……」

ドキドキドキドキ……

シウエ (うぅ~。先ほどから、アルクの顔を見ていると、動悸が……)

シウエ (なんなんですか、もう~!)

アルク 「? シウエ、大丈夫?」 ズイッ

シウエ 「ひゃっ……!?」 (あ、アルクの顔が、間近に……)

シウエ 「だっ、大丈夫です~! お料理、とりかかりましょう!」

アルク 「? ならいいけど。じゃあ、やっていこうか」


50以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:40:43dTAGq6fs (41/58)

………………

アルク 「………………」

トントントントントン……

シウエ 「はぁ~……」

シウエ (さすがの手際です~。アルクは本当にお料理が得意なのですね~)

アルク 「シウエ、はい。このお野菜もお鍋の中に入れてもらっていい?」

シウエ 「わかりました~」

シウエ (それにしても……)

アルク 「はい、シウエ。次はこの調味料を計ってもらってもいいかな。この小さいスプーン3杯分でよろしく」

シウエ 「は、はい~」

シウエ (どうにも、先ほどから簡単なことしか手伝わせてくれませんね……)

シウエ 「……あの~、アルク。私、族長の娘ではありますが、母のお手伝いなどもしておりましたので……」

シウエ 「お料理は、それなりにできるんですよ~?」

アルク 「へ……?」


51以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:41:40dTAGq6fs (42/58)

アルク 「……! ご、ごめん! つい、ステラやユーウェルでもできるようなことばっかりやらせてたよ!」

アルク 「料理の手伝いをしてくれる人ってなかなかいないから……」

アルク 「じゃあ、このお野菜切ってもらってもいいかな?」

シウエ 「はい~、喜んで」

アルク 「……ってことは、野菜はもう切らなくていいから、肉が切れる……!?」

アルク 「か、感動だ……! こんなに効率的なことがあっていいのか……!?」

シウエ (アルクはお料理が絡むと時々人が変わりますね~……)


52以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:42:25dTAGq6fs (43/58)

………………

アルク 「………………」

サクッ……サクッ……

シウエ 「………………」

トントントントントン……

シウエ (しかし、こうして肩を並べてお料理をしていると……)

シウエ 「……ふふ」

アルク 「? シウエ?」

シウエ 「ああ、すみません,アルク。昔のことを思い出してしまって」

アルク 「昔……っていうと、里でのこと?」

シウエ 「はい。母とお料理をしていたときのことを」

シウエ 「母は、アルクと同じくらいお料理が得意な人でしたから」

アルク 「そっか……」


53以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:43:02dTAGq6fs (44/58)

シウエ 「里にはミシンゲもおりましたから、あまりお料理をする必要はなかったのですけどね~」

シウエ 「母の作るサグウィは、それはそれは美味しかったんですよ~」

アルク 「………………」

アルク 「……里、恋しい?」

シウエ 「へ……?」

シウエ 「ん……そうですねぇ~」

シウエ 「恋しくない、といったら嘘になりますが~」

シウエ 「……ふふふ~、誰かさんをムクトとして連れて帰らないことには、里に帰れませんからね~」

アルク 「うっ……そ、それを言われると、どうにも……」

シウエ 「すみません。冗談です~」

シウエ (……そう。そうです)

シウエ (里に戻るためにも、一刻も早く……)

シウエ (アルクに、私に首ったけになってもらわなければ~!)

アルク 「………………」


54以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:43:41dTAGq6fs (45/58)

………………星見の街

シウエ 「はぁ~……」

シウエ (あれから、お掃除のお手伝いもして……)

シウエ (お洗濯をたたむのもお手伝いして……)

シウエ (お皿洗いもゴミの処理も他諸々も……)

シウエ (……疲れました~)

シウエ (アルクはいつもあんなにたくさんの家事をこなしているんですね~)

シウエ (里ではいつもミシンゲたちがやってくれていましたし……)

シウエ (……アルクはすごいです)

シウエ (あんなに色々なことができるアルクが、私のことを好きになってなど、くれるのでしょうか……)

シウエ (それに……)

ドキドキドキドキ

シウエ (……私の方が、ずっとドキドキさせられっぱなしです~)

シウエ 「はぁ……」

ズーーーーーーン


55以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:44:20dTAGq6fs (46/58)

………………物陰

シロ 「おいおい、なんであんなに落ち込んでるんだ。大丈夫か、シウエの奴」 コソッ

ステラ 「あんなに沈んだ様子のシウエさんは見たことがありません。心配です」 コソッ

ライト 「うむ。彼女は時折突拍子もない行動に出るからな。思い詰めて妙なことをしないか心配だな……」 コソッ

シロ 「……で、どうせお前のせいだろ、色男?」

アルク 「へぇ!? 僕!?」

アルク 「たしかに今日は一日シウエと一緒だったけど……」

アルク 「色々お手伝いしてくれてすごく助かったんだけどな……」

アルク 「なんか嫌なことでもあったのかな……」

シロ (なんであいつが手伝いを申し出たのかを考えないあたり、アルクだよなぁ……)

アルク 「うーん、できれば元気づけてあげたいな……」

アルク 「………………」

アルク 「……そうだ!」

ライト 「? 何かシウエの悩みの心当たりがあったのか?」


56以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:44:58dTAGq6fs (47/58)

アルク 「ううん。シウエが何に悩んでるのかは分からないけど、」

アルク 「元気づけてあげられる心当たりならあったな、って」

ライト 「ほぅ?」

アルク 「……ってことで、ちょっと出かけるね?」

ライト 「!? 出かける? もう夜だぞ?」

アルク 「うん。そうなんだけど、できるだけ早く出発したいんだ」

シロ 「おうおう、随分とあの女にご執心だな、アルク」

シロ 「とうとうあいつのムクトになる決心がついたのか?」

アルク 「そんなんじゃないよ、シロ」

アルク 「シウエは仲間だからね。できることはしてあげたい。それだけだよ」

シロ 「あー……おう」 (そういうとこなんだよなぁ……)

アルク 「ライト、たぶん、一週間くらいで帰ってこられると思うから、その間、よろしくね」

ライト 「一週間!? そんなにこの街を空けるのか!?」


57以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:45:50dTAGq6fs (48/58)

ステラ 「大問題です。ご飯をどうしましょう……」

ステラ 「……私が、キッチンに立つしか……」

シロ&ライト 「「それはやめろ!!」」

アルク 「大丈夫。僕が留守の間はパルフェにみんなのご飯の用意、お願いしておくからさ」

ライト 「パルフェに!? それはそれで大問題だな!?」

アルク 「最近試してみたい料理がたくさんあるって言ってたから大丈夫!」

ライト 「それは絶対大丈夫じゃないやつだな!?」

アルク 「じゃあちょっと行ってくるよ!」

ライト 「あ、おい! アルク! ……行ってしまったな」

ステラ 「一体どこへ行ったのでしょう……?」

シロ 「いや、それよりも……明日から一週間……」

ライト 「魔物料理か……」

ステラ 「パルフェさんの新作魔物料理、楽しみですね」


58以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:46:37dTAGq6fs (49/58)

………………一週間後

シウエ 「………………」

ズーーーン……

シウエ (あの日から、アルクは星見の街から姿を消してしまいました……)

シウエ (ライトさんたち曰く、一週間ほどで戻るとのことでしたが……)

シウエ 「はぁ……」

シウエ 「………………」

シウエ (……私は、なぜこんなに落ち込んでいるのでしょう)

シウエ (アルクにしばらく会えていないから……?)

シウエ (なぜ、アルクにしばらく会えていないからといって、落ち込むのでしょう……)

パァアアアアアア……!!!

シウエ 「……!?」 (ワールドフリッパーが、光って……――)

タッ……

アルク 「……はぁ。疲れた。やっと戻ってこれた……」


59以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:52:15dTAGq6fs (50/58)

シウエ 「あっ……アルク!」 パァアアアアアア……!!!

シロ 「……!? も、戻ってきやがったなアルクてめぇ!!」

アルク 「わっ……! 急に何するの、シロ!」

シロ 「うるせぇ! てめぇがいなかったせいで、俺たちは毎日三食魔物料理だぞ!?」

パルフェ 「えー? でも美味しかったでしょ?」

シロ 「うまかったけどなぁ!」

ステラ 「でも、アルクの料理が恋しかったです」

アルク 「そんな、一週間街を空けただけで責められても……」

ライト 「………………」 ブツブツブツ……

アルク 「……で、ライトはどうしたの?」

シロ 「ああ、魔物料理を食べるか食べまいか悩みに悩み抜いた末……」

シロ 「……ストレスでハゲだして、壊れた」

アルク 「……悲惨だ」


60以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:52:46dTAGq6fs (51/58)

シウエ 「………………」

ワイワイワイワイ……!!!!

シウエ (……アルク、色んな方に囲まれていますね)

シウエ (アルクは人気者ですね……)

ズキッ……

シウエ (……きっと、私があの囲みのなかに入っていっても、迷惑なだけ……)

ズキズキッ……


61以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:53:32dTAGq6fs (52/58)

シウエ (そもそも、あんなに人気者のアルクが……)

シウエ (私なんか、好きになってくれるはずが……――)

アルク 「――……ん? あっ、いた! シウエ!」

シウエ 「へ……?」

タタタタタ!!!

シウエ 「……!?」 (アルクが、私のほうに……?)

アルク 「街にいてくれてよかった! ねぇ、シウエ!」

シウエ 「は、はい……」

アルク 「ちょっと付き合ってよ!!」

シウエ 「へ……?」

シウエ 「へぇええ……!?///」


62以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:54:28dTAGq6fs (53/58)

………………食堂

シウエ (わ、私は、なんという恥ずかしい勘違いを……)

シウエ (街とステラさんの蔵書の影響を受けすぎですね……)

シウエ (“付き合って” という言葉を勘違いしてしまうなんて……)

シウエ (それにしても……)

シウエ 「あ、あの~、アルク? 一体何なのですか……?」

アルク 「ヒミツだって。もうすぐ終わるから、ちょっと待っててよ」

シウエ 「はぁ……?」

シウエ (アルクは街に戻ってきてすぐ、私を連れて食堂へ……)

シウエ (そのまま、ちょっと待ってて! とだけ言って、台所に引っ込んでしまいました)


―――― アルク 『絶対に覗いちゃダメだからね!!』


シウエ (そんな風に言われてしまえば、待っているしかないではありませんか……)

シウエ 「……ん~?」 スンスン

シウエ 「……?」 (なんでしょう。この香り、なつかしいような……)


63以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:55:07dTAGq6fs (54/58)

シウエ 「……!?」 ハッ 「この香りは、まさか……」

アルク 「やぁ、やっぱり匂いでバレちゃったか」

シウエ 「アルク……?」

アルク 「でも、もう完成したから構わないかな」

コトッ

アルク 「はい、どうぞ。できるだけ教えてもらった通りに作ったけど、お口に合ったら嬉しいな」

シウエ 「これは、サグウィではないですか~!」

シウエ 「でも、これは、里以外で見たことなんて……」

アルク 「うん。パルペブラでも分からなそうだったから……」

シウエ 「……?」

アルク 「里にお邪魔してきちゃいました」

シウエ 「へぇ……!?」

アルク 「お話したら、シウエのお母さん直々に作り方を教えてくれました」

シウエ 「へぇえええ!?」


64以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:56:23dTAGq6fs (55/58)

シウエ 「な、なんで、そんな……っていうか母に会ったのですか!?」

アルク 「うん。ついでに族長さんにも会ったよ?」

シウエ 「父にまで!?」

シウエ 「はぁ~……」

シウエ (混乱しすぎて目が回ってきました……)

シウエ 「……あ、あの、どうしてそんなことを~?」

アルク 「やぁ、シウエの元気がなかったからさ、」

シウエ 「へ……?」

アルク 「お母さんの味、食べたら元気になるかなー、って思ったんだけど」

アルク 「とりあえず、食べてみてよ」

シウエ 「は、はい……」

スッ……パクッ

シウエ 「……!?」


65以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:57:34dTAGq6fs (56/58)

アルク 「………………」

ドキドキドキドキ……

アルク 「ど、どうかな……」

シウエ 「………………」

パクッ……パクッ……ムシャムシャ……

アルク 「……だ、ダメかな? できるだけ教えてもらったとおりに作ったんだけど……」

アルク 「なんか里でしか取れない香辛料まで頂いて使っているんだけど……」

シウエ 「………………」

シウエ 「……すごいです」

アルク 「へ……?」

シウエ 「……母の、味です」

シウエ 「とても、美味しいです……」

アルク 「! よ、よかったぁ……」

アルク 「これでダメだったら、一週間の苦労が水の泡になるところだったよ……」


66以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:58:11dTAGq6fs (57/58)

アルク 「でも、シウエの里、すごいね!」

アルク 「独自の文化はもちろんだけど……一番はやっぱり食文化かな!」

アルク 「僕も色々食べさせてもらったんだけど、どれも美味しいものばっかりでさ」

アルク 「シウエは、“味を愉しむための手間は不要に思われる事が多い” って言ってたけどさ」

アルク 「裏を返せば、素材の味をうまく活かしているってことなんだよね!」

アルク 「いやぁ、感心しちゃってさぁ……。料理の知見が深まったよ……」

アルク 「香辛料、結構たくさん頂いて来たから、別の料理にも使ってみようと思うんだ」

アルク 「シウエが里や精霊のことが好きな気持ち、少し分かった気がするよ」

シウエ 「………………」

シウエ (……ああ、もう)

シウエ (アルクは、本当に、卑怯者です……)

シウエ (アルクに私を好きになってもらって、里に連れて帰らなければならないはずなのに……)

ドキドキドキドキ……

シウエ (……いつの間にか、その逆になってしまっているのですから)

アルク 「それからね……って、シウエ、どうかした?」


67以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/26(土) 23:59:24dTAGq6fs (58/58)

シウエ 「……いえ~」

シウエ (精霊の託宣は、一番大事なこと。アルクを連れて帰ることができれば、里は発展できる)

シウエ (けれど……)


―――― 『パルペブラの人々は愉しむことばかり考えていますね~』

―――― 『……実は最近、それも少し分かる気がしてきましたけれども~』


シウエ (……ええ、そうです)

シウエ (精霊の託宣に則り、里のさらなる発展のため……)

シウエ (そして、私の大好きな人を手に入れるため……)

シウエ (……きっとそれで、いい。精霊の選んだ人を、好きになってしまっただけのこと)

シウエ (だから……)

シウエ 「ふふ……」

アルク 「シウエ?」

シウエ 「……だから、覚悟しておいてくださいねっ、アルク♪」

おわり


68以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/27(日) 00:00:23giyBbK/M (1/1)

>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。

シウエが好きなので書きました。
また投下します。


69以下、名無しが深夜にお送りします2020/09/28(月) 12:37:56N2kFgP86 (1/1)

ワーフリSSの第一人者がいると聞いて

応援してる


70以下、名無しが深夜にお送りします2020/10/01(木) 10:01:504aScFL4A (1/1)

乙乙乙

更新レス数が中々の量で内容の方はどんなもんかと思ったけど大満足でござった


71以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/13(土) 23:05:03otU81kQk (1/21)

>>1です。投下します。

一人称、二人称、三人称。調べられる範囲で調べましたが
それでも間違っていたらごめんなさい。申し訳ないことです。


【ワーフリ】 フィリア 「ハッピー・ヴァレント! です!」


72以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/13(土) 23:06:30otU81kQk (2/21)

………………星見の街

フィリア 「セシリアさんとアーリィさんにチョコをあげたいんです!!」 バーーーン!!!

アルム 「です!」 バババーーーン!!!!

アルク 「あ……そ、そうなの?」

フィリア 「はい!」

アルク 「う、うん。わかった。わかったから……えっと……」

アルク 「ちょっと、近すぎるから、離れてもらえると……///」

フィリア 「あっ……/// す、すみません……!」

スススッ……

フィリア 「ちょっと、興奮してしまって、つい……ごめんなさい……」

アルク 「いや、謝らなくてもいいけど……あと、アルムも、ごめん。重いから下りて」

アルム 「はーい!」 オリオリ

アルク 「それで、セシリアとアーリィにチョコをあげたい……だっけ?」

アルク 「それってひょっとしてヴァレント・フェスの?」


73以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/13(土) 23:07:10otU81kQk (3/21)

フィリア 「はい、そうなんです。今日、アルムちゃんとパルペブラを歩いていたら、偶然耳にしてしまって……」

フィリア 「義理チョコ、って言うんでしたっけ?」

フィリア 「日頃お世話になっている方にチョコを渡して、感謝を伝えるイベントだと聞いて……」

フィリア 「あ、あの、私できれば……」

フィリア 「……手作りをして、おふたりにチョコを渡したいな、って」

フィリア 「あの、それで、アルクさんにお手伝いいただけたら、と……」

フィリア 「……す、すみません! アルクさん、急がしいですよね! 忘れてください!」

アルク 「いやいやいや! 一方的にまくし立てて一方的に結論を出すのはやめようか!」

アルク 「セシリアとアーリィに手作りチョコで感謝を伝えたいんでしょ?」

アルク 「そんなの、手伝わない理由がないよ! 一緒に作ろう、フィリア!」

アルク 「せめてふたりが食べて卒倒しない程度には食べられるものを……!!!」

フィリア 「アルクさん……」 パァアアアアアア……!!!

アルム 「えー! フィリアちゃん、アルムにはー!?」

フィリア 「もちろん、アルムちゃんにもチョコをあげたいです!」

アルム 「わーい! やったー!!」


74以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/13(土) 23:08:13otU81kQk (4/21)

………………星見の街 食堂前

アルム 「………………」 ヌーーーーーン

チャリオット 「………………」 ヌォーーーーーン

アーリィ 「――じゃあ、あのジェラールって奴は、あなたの知ってるジェラールとは別人なのね」

セシリア 「ええ。ジェラール卿はあんな愉快な方ではありませんでしたから。ん……?」

セシリア 「おや、アルムさん。そんなところでどうしたのですか?」

アーリィ 「? あんた、なんで食堂の前で立ちんぼしてんのよ。チャリオットまで出して……」

アーリィ 「また何かのイタズラ? あんまり人に迷惑かけるんじゃ――」

アルム 「イタズラじゃないもん。今はね、極秘任務を実行中なの」

アーリィ 「は? 極秘任務」

セシリア 「ごっこ遊びでしょう。可愛いじゃないですか、アーリィ」 クスクス

セシリア 「食堂の中の誰かを守っている、というところでしょうか?」

アルム 「!? す、すごい! さすがはセシリアお姉ちゃん……!」

アルム 「ポンコツなお姉ちゃんと違って、鋭い!」

アーリィ 「誰がポンコツよ誰が!!」


75以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/13(土) 23:14:46otU81kQk (5/21)

セシリア 「ふふふ。それで、一体中に誰がいるのでしょう?」

アルム 「な、内緒だもん。フィリアお姉ちゃんと約束したんだから……」

セシリア 「フィリア様? 中にフィリア様がいらっしゃるのですか?」

アルム 「ぎくっ!? せ、セシリアお姉ちゃん、ひょっとして名探偵……!?」

アーリィ 「自分で言ってたじゃないのよ……」

アーリィ 「何? フィリアが中で何かやってるの?」

アルム 「……言わないもん。ポンコツのお姉ちゃんには、特に」

アーリィ 「またポンコツって言ったわねあんた!!」

セシリア 「ま、まぁまぁ、落ち着いて、アーリィ」

セシリア 「……というか、アルムさん。我々は敵ではありませんから、中に入れてもらえませんか?」

アルム 「だめ! フィリアお姉ちゃんからお願いされてるんだから!」


76以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/13(土) 23:15:43otU81kQk (6/21)

アルム 「フィリアちゃんに……」


―――― フィリア 『セシリアさんとアーリィさんに、驚いてもらいたいんです』

―――― フィリア 『なので、アルムちゃん。ふたりが中に入ってこないように止めてもらってもいいですか?』


アルム 「……セシリアお姉ちゃんとお姉ちゃんを絶対中に入れるなって言われてるんだから!!!!」

セシリア&アーリィ 「「!?」」 ガガガーーーン!!!!

セシリア 「そ、そそそ、それは、どういう……?」 ヨロ……

アーリィ 「えっ? わ、私、何かしちゃったかしら。嫌われるようなこと、何か……」 フラッ……

セシリア 「は、反抗期でしょうか? 反抗期ですかね、アーリィ!?」

アーリィ 「あの子ちょっとズレてるから、ひょっとしてこのまま、グレて……!?」

アーリィ 「アルム!! ちょっとそこどきなさい!! フィリアと話をさせてちょうだい!」

セシリア 「アルムさん! お願いします! フィリア様と話を……!」

アルム 「あー、もう! だめだったら!!」

アルム 「チャリオット!! ふたりを向こうへやっちゃって!!」


77以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/13(土) 23:17:26otU81kQk (7/21)

………………食堂 キッチン

ドタンバタンドタン……

フィリア 「!? なんか外が騒がしいですね?」

アルク 「まぁ、いつものことだよ。この街は賑やかな人ばかりだからね」

フィリア 「ふふ。そうですね」

アルク 「じゃあ、次はチョコを刻んでいこうか」

フィリア 「チョコを刻む……よーし」

スッ……

フィリア 「シルフィリア・チョコレート・カッ――」

アルク 「――ちょっ、まっ、ストップ!!!」

フィリア 「? 刻むんですよね? お野菜と同じようにすればいいのでは……?」

アルク 「いやいやいや、野菜と違うから! チョコレートだから!」

アルク 「溶けたりして飛び散って悲惨なことになる未来が見えたよ!!」

フィリア 「な、なるほど……」


78以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/13(土) 23:18:02otU81kQk (8/21)

………………食堂 外

アーリィ 「まったく、アルムったら、手加減を知らないんだから……」

セシリア 「食堂には正面からはまったく近づけなくなってしまいました。ですが……」

アーリィ 「ええ。あの子単純だから、裏の窓は警戒してないわ」

アーリィ 「せめて、裏からフィリアの様子を見てあげないと……」

セシリア 「うう。こんなこそこそと、何か悪いことをしているような気分ですね……」

アーリィ 「仕方ないでしょ! あなたもフィリアが心配なんでしょ!?」

セシリア 「それはそうですが、こんな覗きのようなまねは……」

アーリィ 「今さら言ったってしょうがないでしょ。ほら、ここからなら中が見えそうよ」

セシリア 「ええ……」

スッ……ヒョコッ

フィリア 「……」

アルク 「……」

アーリィ 「? 何か、キッチンで作ってるみたいね」


79以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/13(土) 23:21:42otU81kQk (9/21)

セシリア 「ええ。なんでしょう、あれは……ん……?」 クンクン

セシリア 「甘い香りがしてきましたね」

アーリィ 「これ……チョコレートっぽいかしら?」

アーリィ 「チョコケーキでも焼いてるのかしらね」

ハァ

アーリィ 「なーんだ。アルクに手伝ってもらって、チョコを作っているだけだったのね」

アーリィ 「心配して損したわ。アルム、ただごっこ遊びをしたかっただけだったのかしら」

セシリア 「………………」

アーリィ 「……? セシリア? ちょっと、どうしたの? そんな青ざめた顔しちゃって」

アーリィ 「確かにあの子は料理下手だけど、アルクがつきっきりで、しかもお菓子でしょ?」

アーリィ 「そんなひどい劇物はできないでしょ?」

セシリア 「……そんな、まさか……」

ガクッ

アーリィ 「……!? セシリア!? ど、どうしたのよ!?」


80以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/13(土) 23:22:42otU81kQk (10/21)

セシリア 「……アーリィは、知らないのですか?」

アーリィ 「は? 何の話?」

セシリア 「今の時期、チョコレートが何を意味しているか……」

アーリィ 「はぁ? えっと……」

アーリィ 「ヴァレント・フェスだっけ? パルペブラでお祭りをやることくらいは知ってるけど……」

セシリア 「今年は、それにあわせてあるブームが起こっているんです……」

セシリア 「曰く “意中の相手にチョコレートをあげて、告白しよう” とか……」

アーリィ 「は……?」

ハッ

アーリィ 「えっ!? う、うそ!? ってことは、フィリアがお菓子を作ってるのは……!」

セシリア 「意中の殿方に、プレゼントして、告白を……」 ゴフッ

アーリィ 「ちょっと、大丈夫!? あなた死にそうな顔してるわよ!?」

セシリア 「おのれ……! フィリア様をたぶらかすのは、どこの馬の骨……!!」

アーリィ 「なるほど。好きな男にチョコをプレゼントするのが恥ずかしくて、」

アーリィ 「私たちに知られないために、アルムを食堂の入り口に置いたのね……」


81以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/13(土) 23:23:16otU81kQk (11/21)

セシリア 「ど、どうしましょう!? どうしたらいいですか、アーリィ!!」

アーリィ 「はぁ!? どうしたらって、そんなの、どうしようもないでしょ!!」

セシリア 「や、やはり、どこの馬の骨か知りませんが、フィリア様に手を出す男を……」 チャキッ

セシリア 「斬るしか……!!」

アーリィ 「ちょっと!! 物騒すぎるでしょ! 柄から手を離しなさい!!」

ワーギャーワーギャー

ハナビ 「………………」

ハナビ 「……あー、なんか騒がしいなーと思って来てみれば」 ハァ 「おふたりさん、なにやってんの?」

セシリア 「! ハナビさん!」

アーリィ 「あっ、ハナビ! ちょうどよかったわ! こいつ止めるの手伝いなさい!!」

ハナビ 「ええー……」

セシリア 「そういえば、ハナビさんは、凄腕の諜報員でしたよね!!」

セシリア 「フィリア様に近づく悪漢を調べて、爆破していただけませんか!?」

セシリア 「悪・即・爆です!!」

ハナビ 「えええー……」


82以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/13(土) 23:24:09otU81kQk (12/21)

………………

セシリア 「……お、お恥ずかしいところを。少々取り乱しました」

アーリィ 「あれで少々って言うのかしら……」

ハナビ 「まー、なんていうかさー」

ハナビ 「おねーさんたちふたりとも、結構ポンコツぽんのポンだよね」

セシリア 「……!? ぽ、ポンコツ……!? わ、私が……」

セシリア 「アーリィと、同じレベルの、ポンコツ……。ショックです……」

アーリィ 「ちょっとそれどういう意味よ!?」

ハナビ 「ちびっこがドアの前で張り切ってるし、おねーさんたちは騒がしいし……」

ハナビ 「何事かと思ったけど、なるほどねぇー」

ニヤリ

ハナビ 「風のおねーさんが、チョコを、ねぇ」

アーリィ 「!? そ、そうなのよ! フィリアがお菓子を作ってるの!」

セシリア 「私たち、どうすれば……」

ハナビ 「いや、なんでそんな深刻そうな話になるの……」


83以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/13(土) 23:24:58otU81kQk (13/21)

ハナビ 「いーじゃん、べつに。あのおねーさん、美人さんだから問題ないでしょ」

セシリア 「も、問題ない、とは……?」

ハナビ 「へぇ? いや、だから、もし告白でもするなら、成功するでしょ、って」

セシリア 「うぐっ……」 グサッ

アーリィ 「セシリア!? ちょっとハナビ!! 少しは手心を加えなさいよ!!」

ハナビ 「あー、もう、めんどくさい……。事情はわかったし、わたしは失礼するね」

ガシッ

ハナビ 「……あー、物理的に引き留めてくるかー」

セシリア 「ちょっと待ってください! もう少し相談に乗ってくれてもいいじゃないですか!」

アーリィ 「そうよ! こういうことに関しては確かに私たちとんでもなくポンコツよ!? 見捨てるつもり!?」

ハナビ 「あー……めんどうなことに首突っ込んじゃったなぁ……」

ハナビ 「……っていうか、魔族のおねーさんは、そんなにショック受ける必要なくない?」

アーリィ 「えっ? ……まぁ、私はセシリアほどショックは受けないけど、」

アーリィ 「友達が恋人を作るって想像すると、ちょっと複雑ね……」


84以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/13(土) 23:30:37otU81kQk (14/21)

ハナビ 「? そういうもん? わたしにはちょっとわかんないけど」

アーリィ 「本当に? 例えば、あの剣鬼の子に恋人ができたらどう思うのよ?」

ハナビ 「はぁ? おシルさんに?」

ムムムム……

ハナビ 「……いや、ちょっとおシルさんに恋人ができる未来が見えない」

アーリィ&セシリア 「「確かに」」


………………パルペブラ

シルティー 「……くしゅん!!」

ステラ 「? シルティーさん、大丈夫ですか? 風邪ですか?」

シルティー 「いえ、違うと思いますが……? なんか、悪い噂をされているような気がします……」

ステラ 「?」

シルティー 「ま、気にしてはいけませんね! ささ、ステラ姉さま! 素敵なチョコをたくさん買いましょう!」

ステラ 「……はい!」


85以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/13(土) 23:31:26otU81kQk (15/21)

………………

アーリィ 「じ、じゃあ、ステラはどうなのよ! ステラに恋人ができたら!」

ハナビ 「ステラに……?」

ハナビ 「………………」

ハナビ 「………………」

フラッ……

セシリア 「!? は、ハナビさん!?」

ハナビ 「……たしかに、ちょっと、嫌な気分かも」

アーリィ 「ちょっとってレベルじゃないわよ、あんた。私より顔真っ青じゃない……」

ハナビ 「いや、ごめん……ちょっと、行くね……」

フラフラ……

アーリィ 「ええ……?」

アーリィ 「ちょっと悪いことしちゃったかしら……」

セシリア 「そうですね。私たちの問題にハナビさんを巻き込んでしまいました」


86以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/13(土) 23:32:14otU81kQk (16/21)

アーリィ 「……! それはそれとして、フィリアよ……!」

ヒョコッ……

セシリア 「!? き、キッチンからいなくなっています!!」

アーリィ 「ええっ!? じゃあ、フィリアはもうチョコを持って男のところに!?」

セシリア 「そ、そんな……――」


  「――――えっと、あの……」


セシリア 「!?」 ビクッ

アーリィ 「ひゃあ!? ……って、フィリア? アルクも……」

フィリア 「は、はい。あの、こんなところで何を……?」

アーリィ 「へぇ!? べ、べつに!? ちょっとセシリアと遊んでただけよ!」

アルク 「こんな食堂の裏で……?」

クスッ

アルク 「まぁ、気になるよねぇ」


87以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/13(土) 23:32:56otU81kQk (17/21)

アーリィ 「う、うるさいわね……!」 カァアアアア……

フィリア 「?」

セシリア 「フィリア様……――」

フィリア 「――あ、あの、セシリアさん、アーリィさん!」

セシリア 「は、はい! なんでしょうか、フィリア様!」

フィリア 「よかったら、これ、受け取ってください!!!」

アーリィ 「へ……? リボン……? なに、これ……?」

アルク 「やぁ、とりあえず開けてみなよ。ふたりとも」

セシリア 「え、ええ……」

ハラハラ……パカッ……

セシリア 「……!? こ、これは……」

アーリィ 「チョコケーキ……?」

フィリア 「はい。あの……」 ペコッ 「いつも、お世話になってます! お礼の気持ちです!!」

フィリア 「えっと……」 ニコッ 「ハッピー・ヴァレント! です」


88以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/13(土) 23:38:29otU81kQk (18/21)

セシリア 「あっ……」

アーリィ 「じゃあ、フィリアがチョコを作ってたのは……」

アルク 「ふたりにプレゼントするため、だよ」

セシリア 「……そう、だったのですね」

アーリィ 「はぁ……」

フィリア 「? あの、セシリアさん、アーリィさん……?」

セシリア&アーリィ 「「よかったぁ……」」

フィリア 「へぇ!? よ、よかったって、何が……?」

アーリィ 「……なんでもないわ。ごめんなさいね、フィリア。それと、ありがとう」

セシリア 「ええ、なんでもありません。ありがとうございます。……申し訳ありませんでした」

フィリア 「な、なんでふたりとも謝るんですか~~~~???」

アルク 「ま、いいじゃない。ほら、みんなで食堂で食べようよ」

アルク 「僕、お茶入れるね。アルムもみんなで一緒に食べるって、食堂で待ってるよ」


89以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/13(土) 23:39:12otU81kQk (19/21)

アーリィ 「はぁ。どっと疲れたわ……」

セシリア 「すみません、アーリィ。私が惑わしてしまったようで……」

アーリィ 「謝ることじゃないわよ。私も同罪だし」

フィリア 「? あの、おふたりとも疲れていそうですが、大丈夫ですか……?」

アーリィ 「大丈夫よ」

クスッ

アーリィ 「……ねえ、フィリア。私たち、ずっと友達よ?」

フィリア 「へぇ!? は、はい……///」

セシリア 「もちろん、私もです。フィリア様。アーリィも」

アーリィ 「ええ。だから、もし好きな男でもできたら、真っ先に教えなさいよ?」

フィリア 「へぇえ……? す、好きな男って……///」

セシリア 「そうですね。真っ先に教えてくださいね」 チャキッ

アーリィ 「あー……」 コソッ 「あいつは危険だから教えない方がいいわよ」

セシリア 「ちょっと、アーリィ!! 聞こえていますよ!!!」

ワイワイワイ……


90以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/13(土) 23:40:14otU81kQk (20/21)

………………パルペブラ

ステラ 「むむむむ……」

シルティー 「どれも美味しそうで、迷ってしまいますね、ステラ姉さま」

ステラ 「はい。種類が多くて、どれもきれいで、素敵で、全部ほしくなります」

シルティー 「それは、また家計が火を噴いてアルク兄さまが大変になるので、難しそうですね」

シルティー 「……と、それはいいとして、あの、ハナビさん?」

ハナビ 「………………」 ギューーーーッ

シルティー 「今日はパス、と言っていたのに、急にやって来て……いえ、それはいいのですけど」

シルティー 「なぜそんなにステラ姉さまにくっついているのですか……」

ハナビ 「………………」

ハナビ 「……べつに」

おわり


91以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/13(土) 23:41:37otU81kQk (21/21)

>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。
アニバキャラもりもりで書くことができて楽しかったです。
勢いで書いたので誤字脱字が怖いですが。

また投下します。


92以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 09:58:366pHruymQ (1/1)

乙です。続きますか?


93以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:19:28d.CSb/0k (1/29)

>>1です。
またヴァレント・フェスネタですが、投下します。

【ワーフリ】 メイミー 「ハッピー・ヴァレント!」 イナホ 「なのじゃ!!」


94以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:20:28d.CSb/0k (2/29)

………………パルペブラ

メイミー 「はぁ~……」

住人女 「あの、これ……」

住人男 「えっ、俺に……!?」

住人女 「もしよかったら、私と……///」

住人男 「あっ……よ、喜んで……///」

ピッポ 「へぇ~、話には聞いてたけど、なんかすごいことになってるね」

メイミー 「はぁ~……///」

ピッポ 「メイミー……? ってのぼせてる!? 顔真っ赤だよ!?」

メイミー 「だ、大丈夫だよ、ピッポ。なんか照れてきちゃって……」

ピッポ 「……まぁ、メイミーも一応女の子だもんね。そういうの、気になるよね」

メイミー 「むー? ちょっと、ピッポ。“一応” ってどういう意味?」

ピッポ 「そのままの意味だよ。ほら、それより、早く買い物を済ませようよ」

メイミー 「………………」

ピッポ 「……? メイミー?」


95以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:21:18d.CSb/0k (3/29)

メイミー 「……あたしも、チョコ、あげたいな」 ボソッ

ピッポ 「……!?」

ピッポ 「め、メイミー……?」

メイミー 「アルクくんと、ステラさんに」

ピッポ 「へ……? あ、ああ……」 ホッ 「なんだ、好きな男の子でもできたのかと思ったよ……」

ピッポ 「“義理チョコ” だっけ? そっちの方の話ね」

ピッポ 「いいじゃない。ふたりにはすごくお世話になってるしね。ついでに買って帰ろうよ」

メイミー 「……んー」

ピッポ 「? メイミー?」

メイミー 「できれば、手作りしたいな」

ピッポ 「……て、手作り!?」

ピッポ 「それは、やめておいた方が……」

メイミー 「むー! あたしだってできるもん!」


96以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:22:05d.CSb/0k (4/29)

ピッポ 「わ、わかったよ。でも、お菓子作りなんて初めてでしょ?」

アセアセ

ピッポ 「それなら、経験者に教えてもらいながら作った方がいいんじゃない?」

メイミー 「うーん。たしかに、それもそうかも……」

メイミー 「でも、アルクくんに教えてもらうのは、なんかなぁ」

ピッポ 「たしかに。プレゼントする相手に教わるのは、ちょっとね……」


………………星見の街

アルム 「……くちゅん!!」

アーリィ 「っ……!? ち、ちょっとアルム!! 人の顔にくしゃみしないでよ!!」


………………

ピッポ 「じゃあ、他の人かぁ。パルフェとか?」

メイミー 「魔物チョコは、ちょっと……」

ピッポ 「あー……そうだね。うーん、それなら、あと頼れそうなのは……」


97以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:23:22d.CSb/0k (5/29)

………………星見の街 キッチン

シラノ 「……なるほど。それで私に白羽の矢が立った、ということですか」

ピッポ 「はい。もしシラノさんがよろしければ、ですが……」

メイミー 「どうかお願いします!!」

シラノ 「……はぁ」

シラノ (まったく。お守りをする相手がどんどん増えますね)

クスッ

シラノ 「いいですよ。私でよければ引き受けましょう」

シラノ 「……とはいえ、ワの国には “猪口齢糖” なる甘味はありません。私もどこまで教えられるやら」

メイミー 「一応、あたしのお母さんのチョコケーキのレシピなら、ここにあります!」

シラノ 「ほう。ちょっと拝見させていただきますね」

シラノ 「……ふむふむ。なるほど。ふむ……」

メイミー&ピッポ 「「………………」」 ドキドキドキドキ……


98以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:24:20d.CSb/0k (6/29)

シラノ 「……ふむ。よくわかりました」

ニコッ

シラノ 「丁寧に書かれた素晴らしい教本です」

シラノ 「あなたのお母さまは、本当にあなたのことを愛していらっしゃるのですね」

メイミー 「へぇ……!? あ……」 カァアアアア……

メイミー 「そ、そうですかね。えへへ。嬉しいです……」

シラノ 「これなら、私でも教えられそうです。では、張り切って作りましょうか」

メイミー 「はい! よろしくお願いします!!」

ピッポ 「お願いします!!」

シラノ 「……と、その前に、と」 スッ 「そろそろ来る頃合いでしょうか」

メイミー 「???」 (食堂の入り口に網なんか張って、どうするんだろ……?)

ドドドドド……!!!! バーーーーン!!!!

イナホ 「シラノー!! “ちょこれいと” を作るというのは誠か!? わしも食べたぎゃわっ!?!?」 バサッ!!!

シラノ 「……見本のような罠へのかかり方。さすがは姫様です」 クスクスクス

イナホ 「な、なんじゃこれはー!? 網!? わし、網にかかっとるのか!?」


99以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:25:23d.CSb/0k (7/29)

メイミー 「………………」 ポカーーーン

ピッポ 「……えっと、あの、シラノさん?」

シラノ 「ああ、騒がしくしてすみませんね」

シラノ 「さ、姫様。猪口齢糖を食べたいのでしょう? でしたら、一緒に作りましょう」

シラノ 「姫様もそろそろ、炊事場に立つ経験くらい積んでおくべきですので」

イナホ 「わし!? なぜわしが作るのじゃ! わしは食べる係がいいのじゃ!!」

シラノ 「そうですか。でしたら、ずっと網の中でもがいてらしてください」

イナホ 「ひどっ!? シラノ、お主一応わしに仕えておるのじゃろ!?」

シラノ 「私が仕えているのは母君様です」

イナホ 「ぬーーーー!! わ、わかったのじゃ!! わしも作る! 作るから下ろしてほしいのじゃーー!!」

シラノ 「ふふふ♪」 クスッ 「……と、いうわけで、せっかくですので、姫様の花嫁修行も兼ねても、よろしいですね?」

メイミー 「は、はい……」

ピッポ 「も、もちろん……」

ピッポ (……怖ぁ。絶対怒らせないようにしよう……)


100以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:26:21d.CSb/0k (8/29)

………………チョコケーキ作り

シラノ 「ええ。いいですよ、メイミーさん。チョコは少しずつ小さくなるように、刻んでください」

メイミー 「は、はい……!!」

ザク……ザク……

シラノ 「ふふ。その調子です」

シラノ (包丁の持ち方に危なっかしいところはない。少々あわてんぼうではありますけれど……)

シラノ (メイミーさん。この娘はきっと将来、いいお嫁になるでしょうね)

シラノ (……それに引き換え)

イナホ 「……ええい!! まだ溶けるでない!! ベタつくじゃろうが!」

シラノ (うちの姫様は……まったく……)

シラノ 「何をやっているのですか、姫様」

イナホ 「シラノ! このチョコが言うことを聞かんのじゃ!!」

イナホ 「せっかくわしが懇切丁寧に刻んでやろうとしているのに、どんどん溶けていくのじゃ!」

イナホ 「うー! イライラするのじゃーーー!!」

シラノ 「……はぁ」


101以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:27:04d.CSb/0k (9/29)

シラノ 「姫様は怒ると体温が上がりますからね。それでどんどん溶けるのですよ」

シラノ 「落ち着いて切ってくださいな」

イナホ 「これが落ち着いていられるかーーーー!!!」

イナホ 「こうなれば、稲妻で、ドロドロに溶かしてくれるわーーーー!!!」

ピッポ 「!?」

ササササッ

ピッポ 「い、イナホ!! 僕がチョコをおさえるよ! 僕の手なら溶けないから!!」

イナホ 「ぬ……?」

ピッポ 「イナホは、包丁だけ持って、チョコを刻めばいいでしょ? ね?」

イナホ 「むぅ……」

ザク……ザク……

イナホ 「……うむ! これなら難なく刻めるぞ! ないすあしすとじゃ、ピッポ!」

ピッポ 「あ、あはは……。どういたしまして……」

ピッポ (こんなところで稲妻なんて呼ばれたらたまったもんじゃないよ~~~!!)


102以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:28:09d.CSb/0k (10/29)

シラノ 「あらあら。すみませんね、ピッポさん」

ピッポ 「いえ……」

シラノ 「……姫様? 誤ってピッポさんの手を切ったりしないでくださいね?」

イナホ 「わかっておるわ!! ……まったく。いつまでも子ども扱いして、口うるさい……」

シラノ 「聞こえていますよ」

イナホ 「……それに比べて、メイミーはよいのう。お主のような従者がおって」

ピッポ 「へ? いや、僕はべつにメイミーに仕えてるわけじゃ……」

ピッポ 「それに……」

イナホ 「うん?」

ピッポ 「よくわからないけどさ、シラノさん、イナホのことが心配なんだよ」

イナホ 「……心配? なぜじゃ?」

ピッポ 「えっ? いや、うん……まぁ、僕もメイミー相手だとついつい口うるさくなっちゃうし」

イナホ 「そういうものかの。わしには分からん……」

ピッポ 「……うん。だろうね」


103以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:28:55d.CSb/0k (11/29)

………………

シラノ 「次は、湯煎したチョコに生クリームを混ぜていきますよ」

シラノ 「ガシャガシャとやたらめったらにかき混ぜないようにしてくださいね」

シラノ 「ゆっくりと、切るように混ぜるのがコツです」

メイミー 「ゆっくり、切るように……」 スッ……スッ……

イナホ 「ゆっくり? こんなもの、がしゃがしゃーっとかき混ぜてしまえばよかろうに」

ピッポ 「そうすると口当たりが悪くなっちゃうんだよ」

ピッポ 「美味しいケーキを作るには大事なこと……みたいだよ」

イナホ 「ふむ……美味しいけえきを作るためであれば致し方ないのじゃ……」

メイミー 「………………」

スッ……スッ……

イナホ 「……ふむ。メイミーはまじめじゃの」

メイミー 「へ? まじめ?」

イナホ 「わし、もう飽きてきてしまったのじゃ」


104以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:29:43d.CSb/0k (12/29)

メイミー 「あはは。イナホさんは食べる方が得意そうだもんね」

イナホ 「そうなのじゃ。わし、食べるのは大得意じゃ!」

シラノ 「恥ずかしいことを大声で宣わないでくださいな。まったく……」

メイミー 「でも、作るのも楽しいよ? 作ったものをあげたら、どんな顔をするかな、とか……」

メイミー 「喜んでくれるかな。美味しいって言ってくれるかな……とか、そういうことを想像すると」

メイミー 「……ねえ、イナホさんも、楽しくなってこない?」

イナホ 「あげる……? 喜んでくれる……? へ……?」

ハッ

イナホ 「これ、自分で食べるためのお菓子ではないのか!?」

ピッポ 「……あー、うん。そうだよね。そうなるよね」

メイミー 「あ、あたしはみんなに配ろうかなって思ってるけど、イナホさんは自分で食べてもいいんじゃないかな……?」

イナホ 「むぅ……」

イナホ 「………………」


105以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:30:32d.CSb/0k (13/29)

イナホ 「作ったものをあげたら、喜んでくれるか。美味しいって言ってくれるか……」

イナホ 「………………」

メイミー 「イナホさん?」

イナホ 「……いや、なんでもないのじゃ。シラノ、混ぜ終わったぞ。次はなんじゃ?」

シラノ 「……?」 (姫様から次の工程の催促とは……一体どんな風の吹き回しでしょうか)

シラノ 「はいはい。では、次にいきましょうかね」

シラノ (ふふふ。ですが、これは……)

メイミー 「ねぇ、ピッポ。まだら模様がなくならないよ。どうしたらいいかな」

ピッポ 「ゆっくりやり過ぎなんだよ。切るようにってことは、混ぜる瞬間だけ丁寧に早くするんだよ」

メイミー 「ええー!? 難しいよ……」

シラノ (……あのおふたりのおかげ、でしょうか)

シラノ (感謝しなければなりませんね。ふふふ♪)


106以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:31:12d.CSb/0k (14/29)

………………焼き上がり

ババババーーーーーン!!!!

メイミー 「おおおおおーーーーー!!!」

ババババーーーーーン!!!!

イナホ 「おおおおおおおおーーーーーーーーーー!!!!!!」

イナホ 「すごいのじゃ!! ちょこけえきがたくさんなのじゃ!!」

ピッポ 「美味しそうな匂いだねぇ。これは味も期待できそうだ」

シラノ 「当然です。なにせ、この私がご指南差し上げたのですからね」

メイミー 「うん!! 本当にシラノさんのおかげだよ!! ありがとう!!」

シラノ 「いえいえ。これくらいお安いご用ですよ……っと、姫様」

イナホ 「ぎくっ。な、なんじゃ、シラノ?」

シラノ 「なんじゃ、じゃありませんよ。どさくさにまぎれてつまみ食いしようとしないでくださいな」

イナホ 「つまみ食いなどせぬわ! ちょっと……味見をだな……」

シラノ 「はぁ……まったく、はしたない……」


107以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:31:59d.CSb/0k (15/29)

シラノ 「まぁ、できたてを食べるというのも大切な経験ですね」

シラノ 「皆さんに差し上げるものは冷蔵庫に入れて冷やすとして、」

シラノ 「味見も兼ねて、少しずついただくとしましょうか」

イナホ 「そうじゃの! それがいいとわしも思うぞ!」

メイミー 「やった! 焼きたてのケーキだよ、ピッポ! 絶対美味しいね!」

ピッポ 「そうだね。その一番大きいのにするのかい?」

メイミー 「え……?」

アセアセアセ

メイミー 「え、えっと、これは……その……」

メイミー 「えへへ。人にあげるつもりだから、冷やしておこうかな!」

ピッポ 「……?」

ハッ

ピッポ (ひ、ひょっとして、あの大きいチョコケーキは……)

ピッポ (本命用……!?)


108以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:32:40d.CSb/0k (16/29)

………………味見後

イナホ 「ぷはーっ! めちゃくちゃ美味しかったの、メイミー! ピッポ!」

メイミー 「うん! 焼きたてだと生地がやわらかくて、ふわっふわだったね!」

ピッポ 「またポトフみたいなことにならないか心配だったけど、うまくできてよかったよ」

ピッポ 「本当に助かりました。ありがとうございます、シラノさん」

シラノ 「いえいえ。こちらこそ、飽き性の姫様に最後までお付き合いいただきありがとうございました」

シラノ 「……では、ケーキが冷えるのを待つ間に、化粧箱でも用意しましょうかね」

シラノ 「ええと、らっぴんぐ、というのでしたか」

メイミー 「ラッピングだねっ! 任せて!」

ドサッ

メイミー 「色紙とか、リボンとか、たくさん用意してあるから! 箱、きれいに飾り付けよ!」

シラノ 「ふふ、実に女の子らしくてよろしいですね。では、やりますか」

イナホ 「………………」

シラノ 「……? 姫様?」


109以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:33:22d.CSb/0k (17/29)

シラノ 「……姫様、まさか、残りのケーキ、全部ご自分で食べるおつもいではないでしょうね?」

イナホ 「そ、そんなわけあるかーっ! ただ、ちょっと……」

シラノ 「……?」

イナホ 「な、なぁ、シラノ、ちょっと、頼みがあるんじゃが……」

シラノ 「はぁ……? 頼み、ですか?」

イナホ 「うむ……」

メイミー 「ふんふんふーん♪ アルクくんのは、こんな感じの包装で~♪」

メイミー 「ステラさんはこんな感じかな~~♪」

メイミー 「で……あれは、っと……」

ピッポ (あっ、大きい箱。あれ、アルクとステラにあげるやつとは別なのか……)

ピッポ (や、やっぱりあれは本命用……!)

ピッポ (うーん……メイミーももうそんな年頃かぁ……)

ピッポ (嬉しいような、寂しいような……なんというか……)

メイミー 「~~♪」


110以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:35:37d.CSb/0k (18/29)

………………翌日

アルク 「えっ、これを僕に?」

メイミー 「うん! で、こっちはステラさんのだよ!」

ステラ 「まぁ。とても可愛らしい箱です」

アルク 「で、中身は……うわぁ、チョコケーキだね。見た目もきれいだし、いい匂いだ!」

ステラ 「すごいです。炭化したにおいがこれっぽっちもしません」

ピッポ 「味見もしっかりしたから安心してね。結構美味しいから」

アルク 「やぁ、嬉しいなぁ。ありがとね、メイミー、ピッポ!」

ステラ 「ありがとうございます」

メイミー 「ううん。こちらこそ、いつもお世話になってるから」

メイミー 「ハッピー・ヴァレント! アルクくん、ステラさん!」

アルク 「じゃあ、さっそくいただこうか、ステラ。お茶でもいれてくるよ」

ステラ 「はいっ」

ピッポ 「………………」 (うーん……まだ、あの大きなケーキの入った箱、あるんだよなぁ)

ピッポ (あれはいつ、誰にあげるんだろう……?)


111以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:36:33d.CSb/0k (19/29)

メイミー 「あ、そうそう……」

ヒョイッ

ピッポ 「ん……? あっ、それ……」

メイミー 「うん。一番大きくて、きれいにできたケーキ」

ニコッ

メイミー 「はいっ、ピッポ。いつもありがとうっ」

メイミー 「ハッピー・ヴァレント!」

ピッポ 「へっ……?」

ピッポ 「……こ、これ、僕に!?」

メイミー 「うんっ! 星見の街のみんなもそうだけど、あたしが一番お世話になってるのは……」

メイミー 「やっぱり、ピッポだから!」

ピッポ 「あっ……」 クスッ 「……なんだ、そっかぁ」

メイミー 「……? ピッポ? どうしたの?」

ピッポ 「ううん。なんでもないよ。僕の早とちりだったみたいだ」

メイミー 「……?」


112以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:37:08d.CSb/0k (20/29)

ピッポ 「ありがとう、メイミー。こちらこそ、いつもありがとう」

メイミー 「えへへ。なんか、改まってこういうことすると、照れるね」

ピッポ 「昨日の味見、ちょっとだけだったでしょ?」

ピッポ 「これ、一緒に食べよう。僕には少し大きすぎるからさ」

メイミー 「うんっ! そう思って、ちょっと大きめに作ったんだっ!」

ピッポ 「まったく。ちゃっかりしてるんだから……」

メイミー 「えへへ~。しっかりしてるって言ってほしいな」

ピッポ 「はいはい……」

ニコッ

ピッポ 「ねぇ、メイミー」

メイミー 「うん、ピッポ!」

メイミー&ピッポ 「「これからもよろしくねっ!!」」


113以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:38:27d.CSb/0k (21/29)

………………ワの国

スイゼン 「……いきなり陰陽連に押しかけてきて、何事かと思えば」

スイゼン 「有無を言わせず連れ出すとは、まったく……何を考えているのですか、あなたは」

スイゼン 「時世が時世なら戦争が起きているところですよ……」

イナホ 「ふふん♪ 周到に根回しをしておいた甲斐があるというものじゃな」

スイゼン 「そうですね。まさかミズチやクグイまでこのじゃじゃ馬姫の味方をするとは思いませんでしたよ」

ミズチ 「あ、あはは……。すみません、スイゼン様。ですが……」

クグイ 「スイゼン様は、ここのところ働き過ぎです。たまの休暇くらい、いいでしょう?」

スイゼン 「……まぁ、そうですね。せっかく気を回していただいたというのに、それを無下にする気はありませんよ」

スイゼン 「それで、どこに向かっているのです?」

イナホ 「もう着くのじゃ。ぬふふ、向こうも準備できておるようじゃの」

スイゼン 「……?」

アワ 「あっ、ひめさま~!」

ソウシロウ 「おや、うまくスイゼン殿も連れ出せたようですね。さすがはイナホさんです」

スイゼン 「……なるほど。向かう先はソウシロウ殿の長屋でしたか」


114以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:40:06d.CSb/0k (22/29)

スイゼン 「まったく。あなたも懲りませんね、狐娘? 恋心は消えませんか?」

イナホ 「たわけ抜かせ小童! そんなんじゃないわっ!」 フシャーーーッ!!!

リョウキ 「クグイちゃーん! お母さん来てくれたんだねー!」

スイゼン 「……お母さん?」

クグイ 「あっ、ちょっと、リョウキ! それは言っちゃダメだって……!」 アセアセ

ミズチ 「そ、そうですよ、リョウキさん。それは、ちょっと……」 アセアセ

リョウキ 「あっ、そっか」 テヘッ


リョウキ 「クグイちゃんとミズチさんがスイゼンさんのこと “お母さんみたい” って言ってるのは内緒だったっけ!」


ミズチ&クグイ 「「!?!?」」

スイゼン 「……ほぅ」

スイゼン 「なるほど? お母さんみたい、ですか……」

リョウキ 「あっ……あはは~……。わたし、やっちゃったかも……?」

クグイ 「リョウキ~~~……」  ミズチ 「リョウキさん~~~……」


115以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:41:07d.CSb/0k (23/29)

ソウシロウ 「ははは、それだけあなたのことを信頼しているということでしょう、スイゼン殿?」

スイゼン 「……まぁ、そういうことにしておきますか」

ミズチ&クグイ 「「……!!」」 ホッ

スイゼン 「それで、一体これはなんの集まりです? 何やら甘い香りがしますが……」

イナホ 「ふっふっふ~~~。よくぞ聞いてくれたのじゃ、陰陽師!!」

イナホ 「刮目するがよいぞ! 今日は、わしからけえきのプレゼントがあるのじゃ!!」

スイゼン 「はぁ。ケーキ、ですか? 星見の街で見た事がありますが……」

スイゼン 「いやしかし、なぜ急に……?」

イナホ 「なんせ、う゛ぁれんと・ふぇすの真っ最中じゃからな!」

イナホ 「……まぁ、迷宮天蓋都市での話じゃが」

スイゼン 「ははぁ。なるほど。パルペブラでの催しを輸入したということですか」

ハァ

スイゼン 「わかりました。せっかくのご厚意ですし、ありがたくご相伴に与ります」

リョウキ 「イナホちゃんに影響されて、わたしたちもおはぎをたくさんこしらえたので、そちらもどうぞ!」

リョウキ 「クグイちゃんもミズチさんもがんばったんですよ!」


116以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:42:11d.CSb/0k (24/29)

ミズチ 「は、はいっ! あの、お口に合うかはわかりませんが、ぜひ……」

クグイ 「精いっぱい頑張って作りました!」

クグイ 「……シラノさんに手伝ってもらって、ですが」

スイゼン 「なるほど。まぁ、あの水狐の乳母が監修したのなら間違いないでしょう」

イナホ 「ぬっふっふ。わしのけえきもシラノに見てもらったからの!」

イナホ 「大変美味に仕上がってるのじゃ! 刮目して食すがよいぞ!」

イナホ 「……と、いうわけで……」

イナホ 「はっぴー・う゛ぁれんと! なのじゃ、皆の者!!」

スイゼン 「………………」

クスッ

スイゼン (まぁ、悪くはない、でしょうか。こういう未来があったのであれば、あるいは……)

スイゼン (いえ、考えても詮無い事。それより……)

スイゼン (件の水弧はどこに……?)


117以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:43:29d.CSb/0k (25/29)

………………ワの国 ???

シラノ 「………………」

スタスタスタ……

シラノ 「……?」

シラノ 「おや、母君様。珍しいですね。すでに顕現していらっしゃるとは思いませんでした」

クズノハ 「……大したことではない。遅咲きの梅でも見ようかと思っただけだ」

クズノハ 「それで、何用だ? わざわざ私のところに出向くようなことが起こったのか?」

シラノ 「いえ、特には。相変わらず姫様は自由ですし、あの街は退屈しません」

クズノハ 「そうか。では、何だ?」

シラノ 「ええ。これを。姫様から渡すようにとお願いされまして」

クズノハ 「……なんだ、これは? 菓子折か?」

シラノ 「そんなところでございます。姫様の手作りですよ?」

クズノハ 「あやつの手作り? 大丈夫なのだろうな?」

シラノ 「はい! 私もお手伝いしましたから。味も保証致しますよ?」


118以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:44:16d.CSb/0k (26/29)

クズノハ 「ふん……」

クズノハ 「顔も見せずに菓子折だけ寄越すとは、相変わらず礼儀はわきまえておらぬようだな」

シラノ 「はい。誰かさんのお若い頃にそっくりにございますね」

クズノハ 「……お前の口が減らぬのも相変わらずのようだな。安心したよ」

シラノ 「それから、姫様から言づても預かっております」

シラノ 「“今はまだ戻れない。じゃが、いつか戻って、きちんと話をするから――」

クズノハ 「………………」

シラノ 「――じゃから、首を洗って待っておれ、母上様!!” ……だそうです」

クズノハ 「……言づてというよりは果たし状だな。まったく」

クズノハ 「菓子折も言づても確かに与った。お前は早く戻って、あのバカ娘の手綱を握っておけ」

シラノ 「……クズノハ様。何か姫様に伝えることはございますか?」

クズノハ 「ない。どうせ、私のことなど忘れて遊びほうけておるのだろう。あやつは」

シラノ 「あらあら。拗ねちゃって……」

クズノハ 「拗ねてなどおらぬわ。たわけめ」


119以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:44:47d.CSb/0k (27/29)

シラノ 「……分かりました。では、私は戻ります」

クズノハ 「うむ」

シラノ 「………………」

シラノ 「……これを言うと姫様に怒られそうなので、あくまで独り言ですが」

クズノハ 「……?」


―――― 『作ったものをあげたら、喜んでくれるか。美味しいって言ってくれるか……』


シラノ 「姫様はそう言ったときに、母君様のことを想ったようですよ?」

クズノハ 「………………」

クズノハ 「……ふん」

シラノ 「姫様はいつか戻ると言ってはおりますが……」

シラノ 「……ひょっとしたら、母君様の方から出向いた方が、早いやもしれませんね?」

シラノ 「おっと、口が過ぎましたね。それでは、また。クズノハ様」


120以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:45:23d.CSb/0k (28/29)

クズノハ 「………………」

クズノハ 「……ふん。本当に、相変わらずだな。シラノめ」

シュルシュルシュル……パカッ……

クズノハ 「……ふむ」

スッ……モグモグモグ……

クズノハ 「………………」

モグモグモグ……パクッ……モグモグモグ……

クズノハ 「……ふん」

クスッ

クズノハ 「……甘過ぎだ。バカ娘め」

おわり


121以下、名無しが深夜にお送りします2021/02/14(日) 21:48:27d.CSb/0k (29/29)

>>1です。読んでくださった方ありがとうございました。

メイミーとピッポをメインで書いていたつもりがシラノさんを出すにあたりすべてイナホに持って行かれた気がします。かわいい。

あといくつか、VDの後になってしまうかと思いますが、ヴァレント・フェスネタを投下したいです。書ければ、ですが。

また投下します。