1以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:23:20 BqC3+QaB0.net (1/34)

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                            配給

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2以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:24:06 BqC3+QaB0.net (2/34)

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憎しみも痛みも、一度に積み重ねては意味がない。
少しずつ積み重ね、育み、開花させるのだ。
そうして開いた花は何よりも美しいのだ。
美しい花を見たら何をすべきか、それは決まり切っている。
           /:::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ、
          .::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
         /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ハ
.           {::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::l
         .::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::}
         i:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::l!
         {::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::!
         、::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/    最も美しい内に摘み取るのだ。
          ヽ、:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/
            :::::::::::::::::::::::::::::::::::::., '
          /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::.,′
          /:::::::::::::::::::::::::::::::://
       ,x<::::::::::::::::::::::::::::::::<
-‐==::: :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\__
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::‐- 、
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ――円卓十二騎士 “花屋”

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September 10th PM06:38

“竜の口”タルキールには、短期宿泊用の施設が多くあり、その内容は非常に充実したものだった。
谷の中に作られた街である以上、景観についての優位性を捨て、過ごしやすさの部分に重きを置いている。
例えば寝具やアメニティの質。
そして何よりも、多様な需要に応えることのできる柔軟性が売りの一つだった。

デレシア一行が選んだ宿はモーテルの一種だったが、宿泊部屋にシャッター付きのガレージがある珍しいものだった。
大型のトラックなどは停められないが、一般的な大きさの車輌であれば車上荒らしにあう心配も防ぐことのできる宿だ。
食事のサービスを省くことで費用を減らし、その減らした費用を宿泊料に還元させるのである。
街から街へと移動する人間の多くは、食事を宿泊先で済ませようとは考えていない。

トラック運転手たちでさえ、宿泊地となる街で飲食費を削るということは滅多にしない。
長距離を長時間移動する彼らにとって、食事とは数少ない娯楽の一つだ。
仕事とはいえ、世界にある街に移動できる彼らの仕事は間違いなくメリットでありデメリットでもある。
仕事の中に楽しみを、という考えがなければ長距離の運転などとてもではないが身が持たない。

街で最も美味い食事をするのであれば、地元の人間が選ぶ店に行くのが最も理にかなっている。
もしくは、手近な店で買ったものを宿泊先でくつろぎながら食べるのが基本だ。
特にトラック運転手は輸送中の荷物から離れることを嫌うため、ガレージのないモーテルに泊まる時にはデリバリーの食事を選びがちになる。
輸送業者を相手にする飲食店が多いため、ほとんどの店がデリバリーに対応しているのもタルキールの特徴である。


3以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:24:23 W7t8T7Zy0.net (1/1)

ひさしぶり


4以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:25:03 BqC3+QaB0.net (3/34)

そのため、必然、デリバリーを生業とする人間と業界が根付くことになる。
街の中を縦横無尽に駆け抜け、料理を届けることを小遣い稼ぎにする子供は多く、多くの宿泊施設前には料理を入れた巨大なリュックを背負う子供がたむろしている光景が見られる。
だが、たむろしているのは何も健全な子供たちばかりではない。
長い道のりの途中で人肌恋しくなった人間に対しての供給もあり、露出の多い服を着た少女や妙齢の女性が品定めをするように男性たちに視線を送る。

宿泊施設の近くで客引きをする娼婦たちには縄張りがあり、決まった場所以外には決して移動しない。
その縄張りを破った者は街の治安維持を担当しているジュスティア警察の人間が逮捕し、海沿いに作られた風通しのいい留置所に収監することになっている。
高級な宿泊施設の前にはイルトリアに本社を持つ警備会社の人間がライフルを構えているため、娼婦は勿論、仕事途中でたむろしようとする子供もいない。
ガレージ付きのモーテルは建物が独立した形のものであるため、集客が見込めないためか、そういった類の人間は周囲に一人もいなかった。

警察官と街の治安維持軍が道路を挟んで逆方向に歩きながらも、双方が無言で会釈をして挨拶をする姿はなかなか新鮮なものだった。
夕焼け空が頭上に広がる中、街はすでに夜の世界に切り替わっていた。
ガレージ付きモーテルにバイクで訪れた三人の旅人は、自分たちが風呂に入るよりも先にバイクの洗車と整備を行うことを決めた。
防犯の面だけでなく、天候に関係なく作業のできるガレージだからこそ、旅人たちは気兼ねなく作業が行える。

泥や土埃に汚れた車体を丁寧に洗い、磨き、注油が必要な個所には古い油を落として新しい油を差し、フィルター類の清掃も行われた。
バイクに搭載されている電子制御システムは車輛全体の状況を細かく管理しており、洗車とメンテナンスを終えた状態で自己診断をし、全て良好であることを確認した。

ζ(゚ー゚*ζ「どう、ディ?」

グリスを差したばかりのクラッチレバーとブレーキレバーを動かしながら、現オーナーのデレシアがディに尋ねる。

(#゚;;-゚)「はい、大変良好です。
    丁寧な整備、ありがとうございます」

生物のように滑らかな動きで可変式の部位を動作させ、動きに問題がないことを確認する。
最後にスクリーンやカウルが動き、隙間に入り込んでいた水滴が落ちていく。

(∪´ω`)「きれいになったお!」

(#゚;;-゚)「ブーン、ありがとうございます。
    おかげでサッパリとしました」

ノパー゚)「やっぱ、泥で汚れてると気持ちが悪いんだな」

(#゚;;-゚)「はい、放熱や吸気にも支障が出るので、気持ちのいい状態ではないんです」

鮮やかな光沢を取り戻したバイクに給電ケーブルを繋ぎ、三人は部屋に戻った。
宿の道中に聞こえた話によれば、三人は夕食の材料をモーテルに持ち込み、それを調理して食べる予定なのだそうだ。
風呂に入る準備をしながら聞こえてくる会話は、夕飯についてのものだった。
彼らの会話を聞きながら、ディは彼らが料理をする姿を予測する。

購入してきた食材と調理方法さえ分かれば、最後に仕上がる料理を推測することは可能だ。

(#゚;;-゚)

待機状態の間、ディは連日の状況を振り返り、学習していた。
これまで常識として設定されていた項目が幾つも消去され、別の概念が追加され、項目によっては上書きされた。
アイディールはネットワークから情報を入手し、自分自身をアップデートする機能が備わっている。
しかし、今の時代にデータ通信を行うネットワークの存在はおろか概念すらなく、電話とラジオが使用する電波だけが、今の時代には残されていた。


5以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:25:34 PNggmHrQ0.net (1/2)

ブーン系VIPで見るとか久々だわ


6以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:26:32 BqC3+QaB0.net (4/34)

残されていたのか、それとも、復元したのかはディのあずかり知らぬところだ。
内蔵時計が狂うほどの長い時間を経て、今こうして新たな運転手と共に大地を駆け抜けることが出来るのは非常に嬉しいが、実のところまだ情報の整理が追い付いていなかった。
ディ自身も復元された存在であるため、過去と現在をつなぐ何かしらの情報を手に入れることは未だにできておらず、それを入力してくれる存在はデレシアが初めてだった。
人工知能であるディは、常時知識に飢えている。

知識を得ることで学習することがディの強みであり、根幹にある行動理念でもあった。
移動用の道具であるディにとっては、その欲求などを口にすることは決してなく、これまでに本当の意味で意思疎通を行った乗り手は一人としていなかった。
だが、乗り手たちは彼女を理解し、多くの景色を見せてくれた。
一人として乱雑に扱う人間はおらず、誰もが大切に扱ってくれた。

しかし今、ディは言葉を得た。
言葉を発する機能を手に入れたディは、聞き、学び、そして成長を始めた。
ネットワークに頼らずとも、人間のもたらす知識でも十分に学習は可能だった。
世界がどのように終わりを迎え、どのように再生をしたのか、それは彼女の求める情報にはなかった。

デレシアの持つ情報量は、ディの想像をはるかに超えており、一つの質問に対して完ぺきな答えを与えてくれた。
ヒート・オロラ・レッドウィングは砕けた言葉遣いや接し方を教えてくれた。
そして、ブーン。
彼は、ディにとってデレシア以上に興味深い対象になっていた。

人種の一つとして保存されている“耳付き”の少年は、ディに再学習を促すとともに、これまでに学んできたことをアウトプットする対象だけではない。
日々見せる身体能力と知識の成長速度は目を見張るものがあり、情報にある通り、その潜在能力は普通の人間以上だった。
彼の体重が増えるたび、彼の語彙力が増えるたび、ディは彼の成長に驚いた。
デレシアとヒートが言う通り、彼には可能性がある。

ディは彼の行く末に興味があった。
今の世界を作ることになった終わりと始まり以上に、彼が見せる未来が楽しみに思えるのだ。
予測が出来ず、数多の可能性が考えつく彼の未来。
その一端を担っているという感覚と経験は、ディにとっては初めてのことだった。

その感覚の名前が誇らしい、というものであることが自己診断で理解できた。
誰かの成長の糧になるという経験。
それはきっと、ディ自身にとっても糧になることだろう。
スリープモードに移行する中でもう一つ、ディが気になっていることがあった。

(#´;;-`)

この旅人たちの行く末と世界の変化が、どう結びつくのか。
どれだけ多くの情報が手に入ったとしても、それは見届けるほか知る術はないだろう。
未知こそが、ディにとっては何よりも興味のあるもの。
この旅はディにとって、間違いなく大きな何かをもたらすものだと断言できる。

――例えその先に待つものが、どれだけ過酷なものだったとしても。


7以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:27:41.054BqC3+QaB0.net (5/34)

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              || ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄||┌‐┐
              || ,~⌒ ~、_  _,,||.ノ l lゝ  | Ammo→Re!!のようです
             /'" ~    "''⌒ヾ_.|__  .! Ammo for Remnant!!編
            /''"´    ~    / ┻/| .|
          /'" `  ´   ~ ~`''|  ̄ ̄|  ! . |
         .,''""  '' ´  "   "' ')rl    | .|  !
        ''""~ ''     ,,     .. ,ヽ|___|/ ..|
第三章【Remnants of secret-秘密の残滓-】
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夕食を終え、三人は寝間着に着替えた後に寝室にあるベッドの上に腰かけ、今後の旅の話を確認していた。
彼女たちの旅に最終的な目的地や目的はない。
気の向くまま、状況に応じて次に向かうべき街に向かうだけなのだが今はそうするには問題があった。
デレシアにとっては大きな問題ではないが、その他の人間にとっては大きな問題になるだろう。

無論、ヒートやブーンにとっても、それは大きな問題になるに違いない。
個人的な理由もあり、その問題を放置することはできなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「とりあえず、こんな感じのルートでイルトリアを目指すことは問題ないかしら?」

地図をサイドテーブルの上に広げ、現在地を指で示し、通る予定の道をなぞってイルトリアを示す。
基本的には海岸線を沿うようにして走るが、場合によっては内陸の道を選ぶことにもなる。
海の景色ばかりでは飽きるので、たまにはヨルロッパ地方の内陸にある街を見るのもいい経験になる。

ノパ⊿゚)「あぁ、問題ないよ。
    何かに急ぐ旅でもないしな」

(∪´ω`)「おっ」

ζ(゚、゚*ζ「本当はホワナイトにも行きたかったんだけど、ちょっと状況が面倒でね」

世界の最北端。
夜のない、白銀の世界。
北極に存在する最北の街であるホワナイトの景色を二人に見せたい気持ちがあったが、彼女たちを巻き込もうとしている問題が懸念材料だった。

ノパ⊿゚)「ティンバーランドだろ、分かってるさ」

世界統一国家という夢を遥か昔から抱き、世界が一度終わった今でもその夢を叶えようと躍起になる集団だ。
これまでに何度かデレシアが潰してきたが、それでもまだなお健在な理由が、どうしても気になっていた。
人の思想が周回するのは分かるが、組織名は勿論だが、デレシアを敵視しているという点において、これまでに相手をしてきたティンバーランドの残党と考えても不思議ではない。
全ての機会において、デレシアはその時代の最高指導者と幹部たちを殺している。

それでもまだ細胞が世界のどこかに生き延びていたと考えると、質の悪い疫病のようなものにしか思えない。
ホワナイトの様な過酷な場所で襲われれば、連れ合いの二人が無事で済まないかもしれない。

(∪´ω`)「ホワナイトはどんな街なんですか?」

地図の最北部に広がる白い大地を指さし、デレシアは笑顔で答える。


8以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:28:37.468gKdvJMH10.net (1/1)

age


9以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:28:45.550BqC3+QaB0.net (6/34)

ζ(゚ー゚*ζ「夜の来ない、白夜の街ね。
      ただ、猛烈に寒いから装備をしっかりしていかないと凍って死んじゃうの。
      いつか皆で行ってみましょう」

今着ている服ではとてもではないが対応できない。
化学繊維と毛皮を使った服を用いなければ、服そのものが凍り付いて破損してしまう。

(∪*´ω`)「はいですお!
       ……白夜って何ですかお?」

ノパ⊿゚)「白い夜、って言葉の通りさ。
     夜は黒いものだろ? だけど、白夜は白いんだ」

(∪´ω`)「お? 何で夜が白いんですか?」

ブーンの感覚、あるいは普通の人間の感覚として夜は暗いものだ。
昔に比べれば今の時代の夜は相当に明るい。
月明かりがない夜でさえ、星の光が頭上に輝いて夜道を照らしてくれる。
それでも、白と呼ぶには流石に無理がある。

ノパ⊿゚)「その場所は太陽が沈まないんだ。
    でも確か、本当に稀に夜になるんだっけか?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、一年に数日だけ黒い夜が来るときもあるの。
      でも基本的にはずっと白いわね」

時の流れが変えるのは地球の気候や人間の生活だけではない。
大きな月もその変化の一つであり、宝石箱の様な星空もその一つだ。

(∪´ω`)「どうして太陽が沈まないんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「いい質問ね。
      でもそれを理解するには、宇宙のことについて知らないと難しいわね」

ノハ;゚⊿゚)「実はあたしも理屈は分からねぇんだ。
     ただ、そういうもんだって聞いたぐらいでさ」

第三次世界大戦によって失われたのは文明だけでなく、人類がそれまでの間に手に入れてきた知識や知恵も同様だった。
限られた人間はダットと呼ばれる道具を使い、過去の知識などを閲覧することが出来るが、学校の授業で教えられる知識にはあまり反映されていない。
天体についての研究は今もされているが、宇宙研究については超大型天体望遠鏡を用いた観察しか行えていない。
白夜などの現象についてはその名称と内容だけが伝えられ、それ以上については研究者になるしか知る術はない。

ζ(゚ー゚*ζ「すっごい簡単に言うと、自然の生み出した偶然の結果ね」

ノパ⊿゚)「なるほどね、そりゃ分かりやすい」

(∪´ω`)「自然ってすごいんですおね」

ブーンはその純粋な考え方で、デレシアの言葉を受け入れた。
これがもう少し歳を重ねると、疑問に疑問を重ねて受け入れるのが困難になる。
だがいつか、ブーンにはデレシアの知る限りの知識を伝えたいと思っていた。

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、本当に凄いわよ、自然は」

結局、人間も自然の一部である以上、その自然を越えることは出来ない。
自然の持つ力を利用しなければ、人間は不自由から遠ざかった生活をすることは無理なのだ。
自然の恩恵によって今の時代は成り立っており、仮に何らかの理由で電力を入手できなければ、数世紀も昔の生活に逆行することになる。
それだけでなく、街同士の力関係も崩れ、間違いなく長期にわたる混沌の時代が訪れることだろう。

(∪´ω`)「次はどんな街に行くんですかお?」


10以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:29:47.858bwLHjzmw0.net (1/1)

ブーン系とかまだやってる人居るんだ
頑張れ支援


11以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:30:31.932BqC3+QaB0.net (7/34)

ζ(゚ー゚*ζ「大きな目的地はヴィンスね。
      水の都って呼ばれている街で、景色が奇麗な場所よ。
      街中に水路が流れていて、お魚が美味しい街ね」

白と青に彩られた街並みは非常に美しく、道路よりも水路の方が街の人間にとっては一般的な移動経路になっている。
海と共に生きる街であり、水面下で複数のマフィアが縄張りを争っている街でもある。

ノパ⊿゚)「それならさ、今日の晩飯で食ったあれだ……えーっと……何て名前だったっけ?」

(∪´ω`)「あじのひらき、ですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「そう、アジの開きね。
      ヴィンスにはオイル漬けの物ならあると思うけど、干物はあんまりないと思うわ」

干物は魚を内地へと確実に流通させる為に発展した技術であると同時に、旨味を引き出す技術だった。
この街を通過する輸送業者の多くが干物を取り扱っており、別の漁村から仕入れられた干物がここで卸されることが多い。
特に、干物を特産品にしている街の作る干物は他の街とは驚くほど味が違い、ヒートはまさにその干物が気に入っていたのだ。
アジの開き、と呼ばれる干物は旨味が通常のそれよりもはるかに凝縮されており、噛み締めるたびに生まれる旨味は筆舌に尽くしがたい。

ヴィンスは鮮魚が容易に手に入るため、あえて干物にする必要がないのだ。
ただ、ヴィンスは鮮魚を外に輸出する際は缶詰にして加工する。
どちらかと言えば、ヴィンスは缶詰の種類と味が豊富なことで知られている。
漁に出られない程の時化や災害時には、その缶詰が大いに役立つのだ。

彼らの場合、街全体が海水と強風に襲われるため、家から外に出ることが出来なくなる。
そのため、家の中にこもって数日、あるいは数週間耐えなければならないことになる。
必然的に家屋は増水した水路に対応できるよう、一定の水量を越えた段階で水に浮くように作られている。
街全体が海に沈むことを回避するための工夫であり、これまでに多くの災害を乗り越えてきた知恵だった。

しかし、道だけはどうしようもない。
水路が溢れ返れば道路も水没するため、街の人間達は移動に対して大幅な制限を受けることになる。
一時的ならばまだしも、一か月以上にわたって街が水没することもある。
そうなった場合に缶詰は極めて重要な食料となるため、どの家庭にも必ず缶詰の保存食が備蓄されているのだ。

ノパ⊿゚)「そっか……
     アジの開きが結構気に入ってさ、また食べられたらいいなって思ってよ」

ヒートが料理の好みを言うのは珍しい事だった。
美味しいということはあったが、もう一度食べたいというのはこれが初めてだ。
オセアン出身ではあるが、あの街にはこうした料理の伝統はあまりない。
魚を食べる機会は多くあっただろうが、加工された魚は珍しいのだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「保存がきくから、後で私が買ってくるわね。
      丁度買い足さないといけないのもあるの」

デレシアは調理と言うほどの事をしていない。
ただアジの開きを購入して、グリルで焼いただけだ。
それでも時間が生み出した旨味はヒートを魅了するには十分だった。

(∪*´ω`)「ぼく、また豚汁食べたいですお」

ブーンはデレシアが作った豚汁をいたく気に入ってくれていた。
簡単な材料で作ることが出来る上に、体を温める豚汁をブーンは一人でヒートの二倍も食べていた。

ζ(゚ー゚*ζ「なら、お味噌も買ってこないとね」

味噌はこの街で買い足さなければ他の街で手に入る保証がない。
イルトリアに着けば買えるが、それ以外の街では大豆を育てている場所が少なく、尚且つ味噌を作っている街は内地がほとんどだ。
使用する食材は基本的にどこでも買えるような物ばかりだ。
豚汁自体も調理後に魔法瓶に入れて運搬すれば、移動途中でも食べることも出来る。


12以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:30:57.833BqC3+QaB0.net (8/34)

ノパ⊿゚)「なんだかわりぃな、注文ばっかりして」

ヒートは己の傷が癒えるまでの残り僅かな期間の重要性を理解していた。
デレシアと変わって自分が買いに行くと言うことも出来たが、彼女は完治するまでは無暗に争うリスクを背負うことはしないのだ。
ケガ人は大人しくしているのが最も好ましい姿勢なのである。

ζ(゚ー゚*ζ「いいのよ、他にも野暮用があったの。
      先に二人で寝ててもらってもいいかしら?」

(∪´ω`)「はいですお」

ノパー゚)「よっしゃ、あたしが何か話を聞かせてやるよ」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、ブーンちゃん羨ましいわね。
      後で私にも教えてもらえるかしら?」

ブーンを抱きしめ、頬ずりをする。
ブーンもそれに応え、頬ずりをした。

(∪*´ω`)「おっ!」

三人はそれから歯を磨き、ヒートとブーンが寝室に向かった。
着替えを済ませたデレシアはブーンの額に口付け、ヒートと拳を軽く合わせた。
モーテルを出ると、そこは夜の世界だった。
目に付く明かりの多くがネオンの光を放ち、出歩く人間の様相は皆堅気の人間ではない。

切り取られた夜空を見上げ、そこに広がる星の明かりを眺めた。
星空の美しさは昔と比べて格段に向上していた。
特に都会から離れたこの地域の夜空は際立って美しい。
街灯と星の明かりが街を幻想的な姿に照らし出し、日中では決して見ることのできないタルキールを見せてくれる。

カーキ色のローブを纏い、デレシアは街の最深部である市長の邸宅方面に向かっていた。
一見すれば道中の駅の様な存在のタルキールでも、イルトリアとジュスティアの人間を雇うだけあり、自治をする存在がいるのだ。
その中核にいるのがタルキールを代々統べるヴォル家だ。
デレシアはひとまずヴォル家の近くにあるバーに入り、カウンター席に着くと同時に注文した。

客はデレシア以外に三人だけだった。
店内にはフリージャズが控えめに流れており、静かな店だった。

(<::ー゚::::>三)「アードベッグをストレートで。
         後はチョコレート」

その格好にバーテンダーは一瞬たじろいだ様子だったが、短く頷いてすぐに注文の品を用意し始めた。
深緑色のボトルからショットグラスに適量が注がれ、水と共に目の前に置かれる。
オレンジピールにチョコレートを纏わせたものが小皿に盛られ、小さなフォークが添えられる。
フードを外し、デレシアは礼を言った。

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう」

女性の腰を思わせる湾曲したグラスを傾け、琥珀色の液体を光に当てる。
ほんの少しだけ口に含み、ゆっくりと味わい、飲み下す。
圧倒的なまでの比類のない香りが鼻孔を突き抜け、デレシアは思わず微笑んだ。
チョコレートをフォークで突き刺し、食べる。

苦みの強いチョコレートの下に隠れている砂糖漬けのオレンジピールが、アードベッグに負けない程の力強い香りを放つ。
ヴォル家の近くに店を構えるだけあって、どこかの街の特産品を仕入れているのだろう。
酒とつまみの美味い店は信頼に値する。
高い確信をもってこの店を選んだが、その選択は正解だった。


13以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:31:48.956BqC3+QaB0.net (9/34)

デレシアは何も喋らず、バーテンダーも喋ることは無かった。
他にいる三人の客達も静かにそれぞれの時間を過ごし、夜が更けていく。
そして、店の扉が開かれたのはデレシアが来店してから一時間が経ってからのことだった。

(●ム●)

夜だというのに、黒いサングラスをかけた男だった。
その男が普通の男ではないのは、後ろに従えた二人の屈強な男たちが物語っている。
スーツを着た彼らの左胸は膨らんでおり、そこに潜んでいるのが拳銃であるのは疑いようがない。

(●ム●)「あ……」

グラスをカウンターに置き、デレシアは銃を向けるように、静かに声をかけた。

ζ(゚ー゚*ζ「どれだけぶりかしらね、ルルコ・ヴォル」

若干の間があった。
それは目の前にいるデレシアの姿とかけられた声を頭の中で処理し、現実のものであると受け入れるための準備時間にも思えた。

(●ム●)「う、嘘だ……嘘だろ、おい……!!」

ζ(゚ー゚*ζ「一度外に出ましょうか」

「おい、お前何なんだ」

後ろに控えていた男が一歩前に出て、デレシアを威圧するようにして見下ろす。
デレシアはそれを一瞥し、それからすぐに視線をルルコに向けた。

ζ(゚ー゚*ζ「ここで話をするような内容じゃないんだけど」

「何シカトしてん――」

(●ム●)「おい、止め――」

双方の意思疎通は僅かにずれていた。
まず、ルルコの警告はあまりにも遅く、男の耳はあまりにも鈍かった。
そして、デレシアの反応はあまりにも早かった。
デレシアは立ち上がりざまに男の顎に拳を掠めさせ、脳震盪によって男の意識を彼方へと飛ばした。

倒れかけた男を片手で受け止め、デレシアは改めてルルコに目を向けた。

ζ(゚ー゚*ζ「せっかくの静かなお店なのだから、それを乱す必要があるかしら?」

(●ム●)「……分かった」

その返事に満足したデレシアは微笑を浮かべ、受け止めていた男をもう一人の男に投げ渡した。
カウンターに多めの硬貨を置き、店を出る。
店の外に停められていた黒塗りのセダンの扉が開かれ、そこに招かれる。

(●ム●)「俺のオフィスで話そう」

ζ(゚ー゚*ζ「それがいいわね」

車での移動時間は極めて短かったが、その間に向けられた敵意と畏怖の数は極めて濃厚だった。
だがそれらはデレシアの気に掛けるほどのものではなかった。
バーで倒した男も、車中でデレシアに殺意を向ける男も、明らかにイルトリア出身の人間が放つそれだった。
イルトリア出身の人間はジュスティア出身の人間とは相反する特性を持っている。


14以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:33:04.083BqC3+QaB0.net (10/34)

ジュスティア出身の人間が集団の強さを持つのに対し、イルトリア出身者は個の強さが際立つ。
それに伴い、彼らの行動傾向も必然的に似通ってくるのだ。
軍隊に長い間所属していれば、嫌でも上官の指示に従うことが身に染みてくる。
しかし、従軍経験が浅く、己の力に過信する人間ほど個人の判断を好む傾向にあるのだ。

もしもバーでデレシアに敵対した男に十分な従軍経験があれば、少なくともデレシアに掴みかかろうとすることは無かったはずだ。
警備関係の会社にいる人間の多くは、イルトリア軍に所属しない道を選んだ人間であり、その練度は確かなものだがある一定の基準を越えはしない。
実戦によって身に着く保身のための感覚は戦場以外ではそう簡単に学べるものではない。
その点で言えば、周囲にいる男たちには緊張感の度合いが不足しており、デレシアとの力量の差を明確に理解していないきらいがあった。

だが己が挑もうとする相手との力量の差を把握するだけの本能は残されているらしく、ヴォル邸に到着してからもデレシアに危害を加えようとする人間はいなかった。
ヴォル亭は他の民家と同様、聳え立つ岩肌を利用した建物だった。
二階建ての質素な外見とは裏腹に広々とした内装をしており、調度品などは高級品と思わしきものがふんだんに使われている。
岩肌を器用に削り、見た目の二倍近くの広さを確保しているのだろう。

身辺警護を担当している人間が通路で目を光らせ、常に互いの姿が視界に入るように配備されている。
流石にこの街を統べるだけあり、身の回りは手堅い警備態勢を敷いている。
執務室に案内され、デレシアが入ると同時に警護係が扉を閉めた。
ルルコは皮張りの椅子に腰かけ、執務机に肘を乗せた。

(●ム●)「俺の記憶が正しければ、あんたはデレシアだろ?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、そうよ。
      よく覚えていたわね」

(●ム●)「じいさんの車を爆破した女を忘れるわけないだろ。
      今での我が家のブラックリストのトップだよ」

数十年前のことなのに覚えているとは驚きだった。
当時、彼の祖父が路地裏で市民相手に小遣い稼ぎをしているところに出くわしたデレシアと揉めた結果、彼の車は爆発することになった。
どちらかと言えばデレシアが巻き込まれた一件だったが、それがきっかけで市長の世代が交代したのである。
警戒に値する人間を代々引き継いでいく姿勢は好感が持てた。

ζ(゚ー゚*ζ「爆破なんてしていないわよ。
      勝手に爆発しただけよ。
      なら、ここに私を通した理由は何かしら?」

(●ム●)「あんたに謝罪の機会を設けたとでも思うか?
     冗談じゃない。
     俺は自殺志願者じゃないんだ、そんな機会は作るわけがないだろ。
     むしろ、俺があんたに訊きたい。

     何をしにこの街に来たんだ?」

イルトリアとジュスティアの勢力圏がぶつかる中間点を統べるためには、柔軟な思考が必要になる。
どちらの勢力も雇い入れるためには、柔軟性に加えてプライドの放棄が必要不可欠だ。
この男は火薬庫の様な街を法治する男であり、その辺りは十分に心得ているようだった。
何よりもそれを物語っていたのが、デレシアに対して彼は最初から攻撃的な意思を示していない点だった。

大抵の統治者は己の力を過信し、デレシアに危害を加えようとする。
それをしなかっただけ、流石ヨルロッパ地方の入り口にある街を統率する人間だと言える。

ζ(゚ー゚*ζ「道の途中だったから寄っただけよ」

(●ム●)「そうか……
     なら、もう一つ質問だ。
     あの店にいたのは、俺を待っていたからか?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、あなたに訊きたいことがあるの」


15以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:34:13.398BqC3+QaB0.net (11/34)

(●ム●)「何だ」

ζ(゚ー゚*ζ「最近、何か変わった動きはないかしら?」

ジュスティア方面ですでにティンバーランドの動きが観測できたということは、ヨルロッパ地方でもその動きがある可能性が高い。
旅を続けるためには彼らの思惑とその布陣を把握し、潰すための情報を入手することが最も賢いと言える。
言うなれば、歩く道に落ちている石を知覚するようなものだ。
相反する二つの勢力圏がぶつかるこの土地ならば、何かしらの情報が得られると見込んでの質問だった。

(●ム●)「さぁな、俺がそんなの知るわけないだろ。
     知ってたとして、どうしてあんたに教えてやる必要があるんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね…… 教えてもらう義理は無いわね。
      義理がないなら、力づくで訊くだけよ」

「生意気言ってんじゃねぇぞ、女」

我慢の限界とばかりに、扉の前に無言で陣取っていた男が一歩前に出る。
佇まい、放つ雰囲気、そして自信に満ちた語気。
紛うことなきイルトリア人だ。

ζ(゚ー゚*ζ「部屋から出て行ってもらえるかしら?」

「ホプキンスをやったみたいだが、俺は女だろうが容赦しねぇぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「私も容赦する予定がないの。
      二度は言わないわよ」

(●ム●)「ダニエル、悪いことは言わない。
      部屋を出て行ってくれ」

このままではどうなるのか、ルルコは一度デレシアの実力を見ただけで理解していた。
それが彼らの違いだった。

「女になめられるのが俺は嫌いなんです、市長。
特に、こういう勘違いした女―――がっ?!」

ルルコとの会話中も、男はデレシアを睨み続けていた。
それは彼が油断をしていなかった証だが、デレシアの後ろ蹴りを止めるだけの反応速度を持ち合わせていなかったのが男の不運だった。
デレシアよりも一回り程大きな体が冗談のように宙を舞い、凄まじい勢いで本棚に叩きつけられる。
衝撃で本棚から本が飛び出し、次いで、本棚が男の上に倒れた。

ζ(゚ー゚*ζ「殺してはいないわよ」

運が悪ければ骨が何本か折れているかもしれないが、とは言わなかった。

(●ム●)「くそっ!! 穏便に済ませようとは思わないのか!!」

先ほどまでの余裕が一瞬で失われ、ルルコは狼狽した様子を見せた。
恐らく、デレシアがこの場で暴れだすのでは、と危惧しているのだろう。
それは相手の出方次第だが、デレシアは事を荒立てる為にここに来たわけではない。

ζ(゚ー゚*ζ「思っているわよ、そっちが穏便にしていればね。
      そして、正直に話をするのなら、私は誰も殺さずにここを出て行くわ。
      それと、机の下のショットガンから手を離したら?
      脳幹を吹き飛ばされたいのなら、止めはしないけど」


16以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:34:55.847BqC3+QaB0.net (12/34)

ルルコはあきらめたように両手を机の上に出し、降伏の意思を示した。
不審者を行動不能にするためのショットガンであれば、装填されているのは広範囲に攻撃が可能な散弾だ。
そして、デレシアの纏っているローブは仮に撃たれたとしても、散弾程度では貫通することはできない。
それが本心かどうかの判断はさておき、無駄弾を使わないで済むのであればそれが一番だ。

(●ム●)「あんたには関係のないことぐらいしかない」

ルルコは震える声でそう答えた。
権力者、あるいは支配者の仮面は剥がれ落ちていた。

ζ(゚ー゚*ζ「それは私が判断するわ。
      変わったこと、あるんでしょう?」

(●ム●)「トラッカーの取引が増えてるぐらいで、詳細は俺も知らん。
      知ってるだろ、この街は別にそれを咎めることはしないんだよ」

ζ(゚ー゚*ζ「トラック運転手の取引、っていうところまで掴んでいるのにどうして詳細を知らないの?」

街の法律で取り締まっていないならば足を踏み込む必要はない、という言葉は確かにその通りだ。
だがそれは不自然な言葉でもあった。

(●ム●)「そりゃ、物を確認してないからだよ。
      危険物を取引しようが何だろうが、俺の街の不利益にならなきゃいい」

ζ(゚ー゚*ζ「貴方は知らない、ってだけのことなのね。
      知っているとしたら警察かしら?」

(●ム●)「分かってるんなら最初からそっちを訪ねてくれ。
      だけどな、頼むから揉め事は勘弁してくれよ。
      ジュスティアともイルトリアとも、今後ともいい関係でいたいんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「嫌なら、貴方が警察に連絡を入れて確認して。
      今すぐに」

最後の言葉を強めに言うと、ルルコは観念した風に深い溜息を吐いた。

(●ム●)「……嫌だって言ったら、きっと酷いことになるんだろ」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、よく分かっているわね。
      久しぶりに会ったとは思えないぐらいの聡明さだわ」

(●ム●)「目の前でイルトリア人を蹴り倒す奴を見れば、馬鹿でも分かる。
      少し待ってろ」

机の上にあった電話機を使い、連絡を入れる。
それからいくつかの問答を行い、数分でルルコの電話は終わった。
ジュスティア警察は些細なことでも記録に残し、本部の捜査にも利用するため、その街の契約で合法と判断されていることでも資料が残されていることがある。
折り返しの電話が来たのはそれから十分ほど経過してからで、その報告受けるに際し、デレシアはハンズフリーモードに切り替えるよう目線で伝えた。

『トラッカーの間で行われている取引への介入権がないので、詳細はお伝え出来ません。
ですが、植物関係の物資のやり取りが頻繁に行われているとの報告があります。
植物の種類については不明です、何せ、検査対象ではないので』

(●ム●)「ご苦労、何か分かったら教えてくれ」

電話を切り、ルルコは電話機を指さした。

(●ム●)「言っただろ、詳細は知らないって」

ζ(゚ー゚*ζ「植物の取引、ねぇ」


17以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:39:01 BqC3+QaB0.net (13/34)

(●ム●)「もう十分だろ? 頼むから、大事にならない内にこの街から出て行ってくれ」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、そうするわ」

入ってきた扉を開き、デレシアは堂々と正面玄関から建物を後にした。
後ろから誰かが来る様子はなかったが、万が一を考え、モーテルへの帰り道はわざと遠回りをすることにした。
このままモーテルに戻ってもいいが、どうにもデレシアには気がかりなことがあった。
タルキールの地下に設けられた駐車場の規模は、どう考えても理屈に合わない。

以前にこの街を訪れた時、地下駐車場は今よりもはるかに小規模だった。
駐車場を作るためには地下を掘り、加工する必要がある。
屋外に駐車場を設ければ費用を抑えられるにも関わらず、それだけの工事を行うだけのメリットがどうしても見いだせない。
つまり、地下駐車場は別の作業の副産物である可能性が高い。

また、この街が非正規の品を取引する拠点となっているのなら、この街自体が輸出する品があっても不思議ではない。
トラッカーの取引が増えていることを把握しているということは、その取引現場に居合わせることが多いということ。
少なくとも、先ほどの電話の内容を聞く限りでは、市長と警察はその取引に関してあまり情報のやり取りをしている感じではなかった。
ならば何故、市長はトラッカーの取引が増えていることを把握していたのだろうか。

街の治安維持に必要な情報の一環として報告させていたにしては、その情報に対して大した興味を持っている風ではなかった。
直接的な、あるいは間接的な関与をしているからこそその情報を知っていたのではないだろうかと、デレシアは推測した。
この街が輸出する品は、大抵どこの土地でも手に入るような物ばかりで物珍しさはない。
普通の輸出品であれば、だが。

ここはタルキール。
かつては様々な軍事的廃棄物を保管するための施設が存在していたことが原因で、地下には現代化学では作り得ない物質が眠っている。
それを輸出品として密かにトラッカーに運ばせているのだとしたら、地下駐車場の巨大さも市長が情報を把握していることにも合点がいく。
幸いにしてトラックは地下駐車場に集まるため、地下で採掘した様々な物は警察に目撃されないように取引することが出来る。

ζ(゚ー゚*ζ「……」

少しの時間、デレシアは思案した。
地下で手に入る化学物質は使い方によっては人の生活を便利にするが、基本的な用途は兵器への転用しかない。
仮にルルコが知らずにティンバーランドの片棒を担いでいたとしたら、この街から輸出されていく化学兵器は世界中の街に運び込まれる。
部品を分けて輸出すれば無害なガラクタとして多くの街を素通りし、一か所に集めて組み上げることが可能になる。

汚い爆弾を作る為に必要な物質は、この近辺の土地では多く採掘される。
タルキールではそれが特殊な容器に収まった状態で発見されやすいため、厳重なチェックを敷いていない街に運び込むのはあまりにも簡単だ。
そして、その汚い爆弾はティンバーランドの目標達成には極めて優位に働くのだ。
仲の悪い街同士が和解するよりも、片方を滅ぼした方が彼らの目的は達成しやすくなる。

何より、彼らの理想に異を唱える街に壊滅的な打撃を与えるには化学兵器が最も容易な手段だ。
潰しておいても損のない芽ではある。
仮にタルキールがティンバーランドに加担していないとしても、結果的にここから外部に輸出された物がそれを手助けすることになる。
全てはデレシアの推論でしかないため、この考えが間違っている可能性は大いにあり得る。

フードを目深にかぶり直し、デレシアは最寄りの地下駐車場への入り口に足を向けた。
夜も深まっていることもあってか、すれ違う人間はいなかったが、地下からは絶えず熱気が伝わってきている。
運輸業が眠ることは無い。
血液のように物資と金を行き来させる、現代社会に欠かせない存在だ。

駐車場は車の往来があり、換気扇の稼働音に交じって聞こえるタイヤが地面を踏みしめる音やエンジンの音が停まることは無い
大型コンテナを牽引するトラックの間では運転手同士の交流が見られるが、中には明らかに何かを積み替えている人間もいた。
デレシアの跫音は周囲の騒音にかき消され、その姿はトラックの影に隠れて誰にも見咎められることは無かった。
整備用昇降機に乗り込み、更に地下へと降りる。


18以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:39:59 BqC3+QaB0.net (14/34)

最下層に到着し、そこに広がる光景を見て、デレシアは自分の予感が正しかったことを認識した。
確かにその空間も駐車場になっていたが、大型の重機が並び、岩盤を掘削する機械とは明らかに異なる物が幾つもあった。
そして、その駐車場の先には下に向かって螺旋状に掘り進めている光景が広がっている。
それは間違いなく、採掘現場で見られる露天掘りと呼ばれる採掘方法独自の光景だった。

予想が当たっていたことに対し、デレシアは特に何か感情を揺さぶられたわけではなかったが、多少のリスク管理をするべきだと考えた。
駐車場に置かれているベルトコンベアと空調機の操作パネルを正確な手順で操作し、昇降機に乗ってその場を後にした。
通常の駐車場に戻り、今度は整備用昇降機のボタンを操作した。
これでしばらくの間、彼らの作業が滞ることは間違いない。

誰にも見られることもなく、デレシアは駐車場を出て行った。
そして時間をかけて買い物を済ませ、モーテルへと戻る。
モーテルの扉を静かに閉めた時、日付が変わるまであと一時間を切っていた。
跫音を立てないよう明かりの消えた部屋へと戻り、二人が眠るベッドの端にゆっくりと横たわった。

カーテンから差し込む夜空の光は柔らかく、淡い。
モノクロームの世界の中でブーンはヒートの腕に包まれるようにして眠り、ヒートはブーンをそっと抱きしめている。
微笑ましい二人の姿を慈母の目で見守りながら、デレシアも眠りに着くことにした。

――その夜、タルキールの地下採掘場は阿鼻叫喚の渦と化した。

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September 11th AM04:00
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19以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:42:30 BqC3+QaB0.net (15/34)

(´<_`;)「な、な……ん……」

朝日に照らされた畑の予定地を見て、オットー・スコッチグレインは絶句していた。
耕し、整えた地面は無残にも掘り返され、柵も倒されている。
それだけならまだしも、獣の糞尿の悪臭が漂い、目も当てられないような状況と化していた。
一晩の内に何かしらの獣に荒らされたのは間違いないが、何故荒らされたのかが見当もつかなかった。

まだ何も植えていない畑を荒らされる理由が思い浮かばない。
餌になるような物がないのに獣が畑を荒らす道理がない。
何より、荒らすべき畑は他にもあるのに、何故実りのない畑が荒らされたのか、オットーは混乱していた。
とにかく、彼は悪臭を放つ糞尿を破棄し、荒れた土地を慣らし始めた。

発想を変えれば、実際に畑として機能を果たす前で済んだだけ奇貨と言うべきだろう。
気を取り直して畑を整え始めた時、小さなカプセルが掘り返された土の中に埋まっていることに気づいた。
拾い上げてみると、それは金属の表面に複数の穴が開いていた。
古いものではない。

むしろ、まだ真新しいものだった。

(´<_` )「何だ、これ……」

上着の胸ポケットにしまい、一度家に戻る。
まだアニーとイモジャは眠っているため、静かに自室に戻り、拾ったものを机に乗せる。
今更ながら手袋をし、拡大鏡を使ってそれを調べる。
まるで見たことのない物だが、間違いなく金属製の物だ。

細かなひっかき傷が表面にあり、複数の穴の奥には土が入り込んでいる。
白紙の上にそれを乗せ、ピンセットを使って穴の中身を全て出していく。
だが出てきたのは土だけで、他には何も出てこなかった。

(´<_` )「ふーむ……」

何故このようなものが畑に見つかったのかは分からない。
そしてこれが畑を荒らした獣と結びつくのかも分からない。
獣害に会うことは珍しくはないが、それは農作物が実った畑に限る話だ。
畑で発見した物が何なのか、オットーは更に細かく調べることにした。

そのためには道具が必要になるため、部屋にある電話機を使ってフィンガーファイブ社に連絡を入れることにした。
しかし、電話は繋がらなかった。
内部用の回線につなげば二十四時間応答があるはずだが、それすらない。
本体に電話線はつながっており、外れている風でもない。

リビングに降り、受話器を持ち上げる。
それもやはり不通になっていた。
流石に不審に思い、オットーは天井裏から屋根に上がって電話線を確認することにした。
しかし、家に引かれている電話線には異常は見られなかった。

――日常が、少しずつ壊れていく。


20以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:45:04 BqC3+QaB0.net (16/34)

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         ,  ̄ ̄ニ‐- _                 ,l__!、
          i  |  l.二二二二二二l 、____---l ----.l---____,. !二二二二二二
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____        rニ=‐      ̄ ̄   -=  /     '.,   _        =ニニ
二ニ-‐'"     -=                       /         '., `―`__
 ̄                            /         ,―― =‐
                            /             , -------------------
                           /  
                          /    September 11th AM10:02
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ジュスティアに入るためには、スリーピースと呼ばれる三重の壁を通過する過程で、厳重な検問を越える必要があるのは有名な話だ。
壁の外で列を成す難民であっても、条件さえ満たせばジュスティアに入ることは許可される。
無論、世界の範を自称するジュスティア内での違法行為は全て処罰の対象となる。
観光目的の人間は最大で一か月ほどの滞在を許可されるが、難民は三日を上限としてこの街を通過しなければならない。

その滞在期間の数字は当然、スリーピースの審査時に伝えられ、厳守することを誓約しなければならない。
この日、人生で始めてジュスティアを訪れた男は、無事に一か月の滞在許可が下りたことに安堵し、深い溜息を吐いた。
長く伸びた黒髪が太陽の光を吸収し、早速頭が熱くなる。
碧眼が見上げる空は、壁の外も内側も変わりがなかったが、表現しがたい解放感を味わうことが出来た。

(;'A`)「ひゅう……」

ドクオ・バンズは自他ともに認める、度量の小さい男だった。
だが何よりも他者を想う心に溢れ、必要とあらばその命を投げ出す覚悟があると自負している。
初めて見上げるジュスティアの街並みは、ドクオにとって新鮮味に溢れていた。
夏の空の下、正義の都を自称する街の姿は白く輝いて見える。


21以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:49:09 BqC3+QaB0.net (17/34)

道端にはゴミ一つ見つからず、すれ違う人々も心なしか、真面目そうな顔つきをしている。
それはジュスティアだから、という先入観で世界を見ているからなのか、まだ興奮が冷めていないドクオにはまだ分からないことだった。
首から提げた手のひら大の許可証を手に取って眺める。
観光目的として申請し、渡された許可証には彼の写真が貼り付けられ、水などで破損しないように加工されていた。

常に携帯・装着することが義務付けられているのは、街中での利便性を考えてのことだそうだ。
観光客限定の割引を受けることもそうだが、街の人間がそれを持つ人物を特に注意して見守ることが出来る。
こうした小さなもの一つをとっても、ドクオがこれまでに訪れた街とは違い、細かな部分への配慮が見られる。
同時に、この許可証は常に携帯することでドクオの身分を保障するものであり、これを失えば彼は犯罪者とほとんど変わりのない扱いを受けることになるだろう。

間違っても紛失しないよう、ドクオはその許可証を肌着の下に隠した。
街の中には絶えず涼風が吹き、夏の強い日差しによる熱を多少は和らげてくれていた。
壁に囲まれた街にどのようにして風が吹き込んでくるのか、ドクオには皆目見当もつかなかった。

(;'A`)「さて、何をしようか」

街で行うべき彼の任務の詳細はまだ伝えられておらず、ただ、オアシズで受けた傷が癒えた後にジュスティアを訪れるよう指示があっただけだった。
彼はティンバーランドの中でも新参の男であり、戦闘力を買われて受け入れられたわけではなかった。
ビロード・コンバースがそうであるように、彼には戦闘以外の役割があるのだ。
観光用の地図を広げながら目抜き通りを進み、ジュスティアを象徴する建物、ピースメーカーを正面から見上げた。

多くの重鎮たちがその巨大な建物内で会議を行うだけでなく、その主な存在の目的は街の管理だ。
公共事業の運営は勿論、街に出入りする人間の管理も行っているという。
スリーピースを通過する人間の情報は逐一保存され、警察の捜査にも利用される。
顔写真とその他の情報は電子情報管理機器に蓄積され、半永久的に残されると聞いたことがある。

滞在許可の期限を破った人間は警察の捜査対象となり、すぐに見つけられ、二度とジュスティアに入ることを許されなくなる。
難民の受け入れは一切行っていないにも関わらず、充実した社会福祉制度を受けたいがために、多大なリスクを冒して街に入り込む難民は後を絶たない。
無論、難民に対しては一切の社会福祉制度は提供されておらず、偽造の許可証を用いて保証を受けてこの街に住み着くのだそうだ。
せっかくなのでピースメーカーをもっと近くで見ようと、ドクオはそのまま歩き続けた。

通りを歩きながら、ドクオは周囲に視線を巡らせる。
露店や出店の類は勿論だが、物乞いも見当たらない。
大きな街になると目立つそういった負の部分も、ジュスティアの大通りでは見られない。
優れた治安維持の賜物なのか、それとも、負の部分は別の場所にあるのか。

いずれにしても、それが大通りに出てこないのは間違いなく街の統治が成功している証だ。
日陰に生きる者が日向に出てくることになれば、それは街の境界線を曖昧にし、治安の悪化に影響を及ぼす。
治安維持を完全に放棄した街になると、例えそれが目抜き通りであろうとも、物乞いと娼婦に溢れ返っている。
視線を前に戻すと、ドクオは妙な空気が漂っていることに気が付いた。

('A`)「ん……?」

一見すれば、平和な街そのものだが、争いの前のピリピリとした空気が漂っている。
その判断基準となったのが、不自然に立ち止まる人間が心なしか同じ場所に集まっていることと、彼らの足元に共通して大きなカバンが置かれていること。
そして、互いに何か目配せをしながら、腕時計に目を向けていることから、答えは自ずと導き出される。
時間か、あるいは誰かの号令を待つ人間の動きだ。

ピースメーカーの正面には武装した警官が十人ほど並び、不正侵入防止用の背の高い柵に囲まれて守られている。
柵の前にはAクラスの棺桶を背負った重武装の警官が五人立っており、襲撃者が現れても即応できるようになっていた。
それを知っていながら何かを起こそうとするのであれば、暴力的なことではない事になる。
数秒後、ドクオの予想は現実の物となって彼の考えが正しかったことを証明した。


22以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:50:44 BqC3+QaB0.net (18/34)

(-゚ぺ-)つ中「我々は、ジュスティア政府の行いを断じて許さない!!
        政府は正義の名のもとに、難民に対しての保障を拒絶し、人権を無視している!!」

拡声器と共にプラカードを取り出した男が、大声で叫んだのをきっかけに、その周囲にプラカードを掲げる集団が姿を現す。

(-゚ぺ-)つ中「難民の無期限の受け入れを!!
        速やかに手厚い保障を!!
        生きる権利を保障しろ!!」

ΩΩΩ<難民の人権を守れ!! 正義を守れ!!

集団は同じ主張を繰り返しながら、車道に広がって行進を始める。
広い道路とはいえ、突如現れた集団にいら立った車がクラクションを鳴らして威嚇をする。
しかし集団はその音が聞こえていないかのように、牛歩の速度でピースメーカーを目指して行進を続ける。
その光景を見ながらも、ピースメーカーの前に立つ警官たちは、微動だにしなかった。

すれ違う人々は迷惑そうに集団を一瞥し、距離を取った。
ドクオと同じように足を止め、その集団を見つめている人間はほとんどいなかった。
そのため、カメラのシャッターを切る唯一の男に気づくのに、時間は全く必要なかった。

(-@∀@)「うはぁ、ジュスティアでデモですか」

分厚い眼鏡をかけた浅黒い肌の男はそう言いながら、シャッターを切り続けていた。
アングルに納得がいかないのか、その場から駆け出し、集団の間を縫うように進み始めた。
何故かその男のことが気になったドクオは、男の後を追うようにして駆け出した。
集団を抜けると、その先で男はカメラを構えて撮影をしていた。

(;'A`)「おいあんた、危ないぞ!」

ドクオはカメラ男に声をかけた。

(-@∀@)「へ?」

聞こえていないのか、男は一瞬だけ動きを止め、撮影を再開した。
多少の苛立ちを覚えながら、ドクオは男の傍に駆け寄り、集団を指さして言った。

(;'A`)「こういう輩には関わらない方がいいって」

(-@∀@)「あっ、ご心配ありがとうございます。
      でも警察がすぐそばにいるし、大丈夫ですよ」

男は後ろ向きに歩きつつ、集団を横から撮影する位置に着いた。
その動きはドクオが思っていたよりも俊敏で、安定感があった。
ついに集団はピースメーカー前に到着し、プラカードと大声で主張を続けた。
気が付けばドクオもカメラ男も、警察とデモ隊の間に挟まれる形になってしまっており、抜け出すのも難しくなっていた。

(;'A`)「うあちゃぁ……」

(-@∀@)「あはは!! やった、撮り放題!!」

確かにこの場は最前線であり、その目に映る全てが狂気的なまでの熱気に包まれた映像。
写真家冥利に尽きる展開に、男は嬉々としてシャッターを切り続ける。


23以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:52:16 PNggmHrQ0.net (2/2)

いまは規制避けに支援する必要ないとはいえある程度支援あったほうがなんかいいよね
しえん


24以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:52:28 BqC3+QaB0.net (19/34)

(;'A`)「なぁ、流石にこのままだとマズいだろって……」

(-@∀@)「火傷するぐらいじゃないといい写真は撮れないんですよねぇ!!」

その目は爛々としており、明らかにこの状況を楽しんでいた。
シャッター音とデモ隊の怒号は花火のように交差し、それを受ける警察官の表情は僅かな顰め面を浮かべているだけだった。
片や熱狂的、肩や冷静沈着。
双方の感情の差異は、あまりにも乖離しすぎており、不気味ささえ感じられる。

(;'A`)「なぁって、もうここから引き上げよう、流石に巻き込まれたらマズいって」

(-@∀@)「いやいや、それこそ絶好のチャンスなんですって」

男はまるで危機感を覚えていないようで、逆に笑顔でそんな言葉を口にした。

(;'A`)「チャンス?」

(-@∀@)「ワンショット・ワンチャンス、ってね。
      今も十分魅力的な写真なんですけど、一線を越えた時の興奮が足りないんですよね」

(;'A`)「……あんた、頭おかしいだろ」

(-@∀@)「そうかもしれませんね。
      でもね、写真一枚が世界を変えることだってあるんですよ」

その言葉は、男にとっては何気ない一言だったのかもしれない。
しかし、ドクオにとって見ればこの上なく納得のいく言葉だった。
誰かが絞り出した勇気が、思いやりが、あるいは行動が世界を変える。
男の場合はその信念を写真に宿し、ドクオは行動に伴わせるだけの違いだ。

男は命がけで写真を撮影し、その写真が何かを変えると信じているのだ。
呆れるほどの強い信念を前に、ドクオは先ほどまで抱いていた呆れの感情から転じて、男に尊敬の念を抱いた。

(-@∀@)「あー、むしろお兄さんこそちょっと危ないですよ」

('A`)「え?」

(-@∀@)「そろそろ一線超えそうな匂いがしますよ」

その言葉を証明するように、確かに、周囲の空気が先ほどまでよりも張り詰めた物になっていた。
何かが変わった、と確認するよりも先に、男のカメラはその変化の根源に向けられている。
追うようにしてカメラの先を見ると、デモ隊の中でもひときわ声の大きい男女が一歩踏み出し、警官たちの正面で怒鳴り始めていた。
歳は四十代後半だろうか、若さと老いを感じさせる険しい顔つきをしており、手に持ったプラカードには権利と自由を、と書かれている。

(-゚ぺ-)「あんたら正義を名乗ってるのに、こんな差別を許すのか!!
     難民には生きる権利があるんだ、今すぐこんな横暴を止めろ!!」

(-@∀@)「やった! キタキタキタ―――!!」


25以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:53:50.908BqC3+QaB0.net (20/34)

ノ゚レ_゚*州「そうよ!! こんな最低な行為、誰が考えても異常よ!!」

(■ム■)「……」

極めて近い距離で怒鳴る男女だったが、警官は迷惑そうに一瞥するだけで、何も言おうとしない。
それが男の怒りに触れたのか、警官を小突いた。
刹那、空気が一変した。
男のカメラは相変わらずシャッターを切り続け、その瞬間を切り取って保存する。

(-@∀@)「いいねぇ!! いいねぇ!!」

警官の肩に触れた手が掴まれ、ひねり上げられ、そして男は一瞬の内に組み伏せられた。
そして何かを叫ぶよりも先に警官は警棒を男の背中に当て、何かのスイッチを入れた。
すると男は呻き声とともに沈黙し、何の抵抗もなく手錠を後ろ手でかけられた。
それを防ごうと女が悲鳴を上げて警官を引き剥がそうとしたが、もう一人の警官は冷静にテーザー銃を撃って女の動きを奪った。

(,,゚,_ア゚)『始点にして最良、最良にして究極。我らが護るは至高の存在』

周囲が非難の声を上げる中、一人の警官が棺桶の起動コードを静かに入力し、背負っていたコンテナが花弁のように開き、顔を除いた四肢を包み込んだ。
蛇腹状の白い装甲に赤い差し色。
目立った武器を持たないが、それゆえに明確な設計理念。
コンテナを持たず、それ自体が装甲の役割を持つ強化外骨格。

('A`)「……“ユスティーツ”か」

起動コードと棺桶の外見は覚えておくだけでも役に立つ。
ドクオは最低でもジュスティアとイルトリアで広く採用されている棺桶については予習をしており、その成果が思わぬ形で現れた。
Aクラスの量産機でありながら、顔以外の全身を包むことで高い戦闘力を引き出すことのできる棺桶だ。
特徴とされるのが発電装置を内蔵した装甲であり、気温差や太陽光を利用して稼働する点だ。

条件さえ整えばバッテリーが切れる心配がない。
重量が軽い点も相まって、狭い屋内での警備や過酷な地域での活動に使われることが多い。
際立った膂力を得られない代わりに、防弾着よりも優れた防御力と機動力を得られるのが特徴である。

(,,゚,_ア゚)「暴力の伴うデモ行為は重罪であり、参加者は全員同罪となる。
     今すぐ解散し、即刻この街から退去しろ。
     そして二度とこの街に近づくな」

ΩΩΩ<お、横暴だ!! 恥を知れ!!

(,,゚,_ア゚)「反抗意思を確認。
     指示に従わないのであれば、強制退去をしてもらう」


26以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:54:19.773BqC3+QaB0.net (21/34)

まるでこの時を待っていたかのように、警察車両がデモ隊の背後から現れ、次々と武装した警官隊が車から降り立つ。
透明の盾を警棒で叩きながら威嚇し、羊をまとめ上げる牧羊犬のようにしてデモ隊を囲い込み、追い込んでいく。
先ほどまであったピースメーカーに攻め入らんばかりの勢いは一瞬で失われ、プラカードが次々と地面に投げ捨てられる。
それでも警官隊は威嚇を続け、一番近い人間に電気警棒の先端を押し当て、その場に倒していった。

まるで草刈りをするようにしてデモ隊が一人残らずその場に倒され、結束バンドで両腕を拘束される。
一人として取り逃しのないように徹底した逮捕劇を目の当たりにして、ドクオは言葉を失っていた。
統率された動きもさることながら、彼らはデモ隊の挑発的な言葉に対して一切耳を貸さず、冷静に徹していた。
その結果として、デモ隊は一網打尽にされ、これからジュスティアを追い出されることになる。

これによって難民問題が解決するとは思えないが、有無を言わせぬ実行力は流石と言わざるを得ない。
デモとは無関係のドクオたちには目もくれず、デモ隊が続々と護送車に詰め込まれていく。
無駄のない手際で次々と運び出され、十分後にはデモの痕跡は全て消え去っていた。

(,,゚,_ア゚)「お怪我はありませんでしたか?」

(-@∀@)「お陰様で助かりましたよ」

('A`)「俺も問題ありませんでした」

(,,゚,_ア゚)ゞ「では、よい一日を」

ユスティーツに身を包んだ警官は背筋を伸ばした状態で奇麗な敬礼を二人に向けて送り、二人は会釈を持って応じた。
その場から離れながら、カメラ男が独り言ちた。

(-@∀@)「ははぁん、なーるほど」

('A`)「どうしたんだ?」

(-@∀@)「多分、警察はあのデモがあることを知っていたんだろうなぁ、と思いましてね。
      あえて泳がせておいて、一気に掃除をしたかったんでしょうね」

確かに、警察の応援が到着した時間はあまりにも早かった。
通報があったからにしては装備が充実していたし、車輛の数も十分だった。
デモの情報を事前に把握していれば、その対策を用意して待ち構えるだけで労せず捕らえられる。

('A`)「へぇ……あんた、新聞記者なのか?」

(-@∀@)「まぁ、ジャーナリストってところですね」

('A`)「俺は観光客のドクオ・バンズ、ドクオでいい。
   こうして会ったのも何かの縁だ、よろしく」

右手を差し出すと、カメラ男はそれに応じる。
力強い悪手と共に、男は笑顔で名乗った。

(-@∀@)「アサピー・ポストマンです、よろしく。
      アサピーでかまいません。
      どうです、ビールでも一杯飲みませんか?
      この近くに良い店がありましてね」


27以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 19:57:07 JkIqI2Ma0.net (1/2)

ヘルスケアです!

そうだヘルスケア!!

ヘルスケアなんだな

ヘルスケアだし

ヘルスケアだよな

ヘルスケアか

ヘルスケアだべ

ヘルスケアだー!


28以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 20:00:54 BqC3+QaB0.net (22/34)

('A`)「そいつはいい、この街の店を全然知らないから助かる」

そしてアサピーに連れられ、ドクオは数ブロック先にあるパブに案内された。
木製の扉には年季が感じられ、中から聞こえる賑わいの声は決して下品なそれではない。

(-@∀@)「ちょっと賑やかですが、大丈夫ですか?」

('A`)「あぁ、風俗みたいなノリは嫌いだが、この賑やかさは気持ちがいいぐらいさ」

(-@∀@)「それは良かった」

扉を押し開き、二人が店に入る。
店内にはラジオが流れ、スポーツの実況に客たちが一喜一憂している。
最初に二人はビールと揚げ物の軽食を頼み、空いていたテーブル席にそれらを運んだ。
大ジョッキに並々と注がれた黄金色のビールは、この時期にはそれだけで大変なご馳走だ。

(-@∀@)「じゃあ、とりあえずお疲れさまでした、ってことで」

('A`)「あぁ、本当にお疲れ様だったな」

ジョッキをぶつけ、二人は一気にジョッキの半分を喉の奥に通す。
炭酸が喉を刺激する感覚は、もはや快楽的な爽快感だ。
程よい苦みと共に、アルコールが全身に駆け巡る感覚。
汗をかいてストレス下にあった甲斐があったと思える美味さだった。

('∀`)「美味いっ!!」

(-@∀@)「くはぁー!!」

二人そろって声と溜息を同時に吐き出し、互いに見合って笑う。
どうやら遠慮のいらない相手の様だと、ドクオは判断した。
頼んだ唐揚げにフォークを伸ばし、それを一口で頬張る。
染み出る油の甘味、塩味、そして熱。

柔らかな鶏肉の旨味がまるで弾けるようにして口の中に広がり、衣の中に潜んだ生姜の辛みと濃厚な下味が追いかけるようにして現れる。
火傷しそうなほどの熱ささえも旨味の一部と化し、ビールと合わせて一気に飲み下す。

('A`)「この唐揚げも美味いっ」

初対面の人間の前でここまで食べ物に感動したのは、初めてのことだった。
ティンバーランドの一員として役割を得たからこの街にいるのに、それを一瞬忘れさせるほどに感動的な体験だった。

(-@∀@)「でしょう? ここのはモモ肉を一度蒸してから使っているから柔らかくて美味しいんですよ」

('A`)「じゃあ、このポテトもひょっとして……」

厚切りの揚げポテトは皮つきの状態だが、その見た目が物語るのは素材を余すことなく使った自信の裏打ち。
ドクオが独り言ちた言葉を聞き、アサピーは不敵な笑みを浮かべて肯定した。

(-@∀@)「ふふん、勿論美味いですよ」

まずはそのままの状態で食べる。
歯応えのある表面とほくほくとした内側。
塩胡椒だけのシンプルな味付けだが、イモ自体の持つ甘味が奥深さを演出している。


29以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 20:01:27 BqC3+QaB0.net (23/34)

('∀`)「これも美味いっ!」

(-@∀@)「いやー、気に入ってもらえたようでよかったです」

('A`)「この店はどうしてこんなに美味いんだ?
   ジュスティアの店は皆こんな風なのか?」

(-@∀@)「この店は特に美味いですが、ジュスティアの街に出回ってる物の質がいいのは関係しているかもですね。
      ほら、いい加減なものを売ると警察沙汰になりますから」

('A`)「なるほど……」

取り扱う商品の質だけでも警察が介入する程の徹底的な管理体制。
警察の本拠地であり、正義を名乗るだけあってその厳しさは相当なものがあるのだろう。
ドクオが見てきたのはあくまでも一部であり、知らない部分がまだありそうだった。

(-@∀@)「大きな声じゃ言えませんが、法律が厳しい部分の恩恵の一つですね」

('A`)「輸入品も結構厳しく審査してるのか」

(-@∀@)「ですね、質の悪い野菜とかを意図的に流通させられるのを防ぐのもそうですが、野菜に毒が混ざっていたら大変ですからね」

(;'A`)「そこまで検査するのか」

(-@∀@)「ほら、ここの街に恨みのある人は多いですからね。
      例えばキノコの中に毒のある種類を混ぜて、なんてことをされたら街中がパニックになりますし」

(;'A`)「随分考えられてんだな、この街は」

(-@∀@)「警察のお膝元ですからねー」

なるほど、と頷いてドクオは唐揚げを頬張り、ビールをぐいと飲む。
熱い内に食べなければこの唐揚げの美味さは半減してしまうだろう。
そして、ジュスティア内に入ることが出来た自分の運の良さに驚いた。
問題はこの街の中で果たして、ドクオの様な素人に何が出来るのか、ということだった。

捕らわれた同志の救出を任されるのか、それとも別の任務が与えられるのか。
その時期がいつになるのかも、今は分からない。
滞在可能期間が限られている彼に出来ることはこの街の事情や癖を把握することであり、そのためには一日も無駄には出来ない。
しかし、アサピーと言う男はジャーナリストをしているだけあり、この街の事情に詳しそうだった。

この男を利用すれば、労せずに街の情報を入手することが出来るだろう。

(-@∀@)「何か?」

顔を見すぎていたのか、アサピーが尋ねてくる。

('A`)「いや、何でもない」

人柄のいい彼を利用するのは少し心苦しいが、大義の前には仕方がない。
例え人を利用し、自己嫌悪する程の行為に手を染めたとしても、最後に世界があるべき姿に変わるのであれば安いものだ。
数人の心を傷つけるだけで済むのなら、そうするべきなのだ。
例え。

――例え、他者の好意を利用し、悪行に手を染めたとしても。


30以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 20:01:57 gVUItxUGd.net (1/1)

ヤーコン玉


31以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 20:02:35 BqC3+QaB0.net (24/34)

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海沿いの荒涼とした、あるいは、自然が生み出した無駄のない景色の中をデレシア一行はゆるやかな速度で進んでいた。
一部で混乱が起きているタルキールを十分ほど前に出たばかりだが、すでにタルキールの姿はバックミラーの点と化している。
海風の中、三人は次に向かう街についての相談をしていた。

ζ(゚ー゚*ζ「道なりに行くと二日ぐらいでシルバークリークに着くわね」

ノパ?゚)「でもホールバイトも同じくらいなんだよな」


32以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 20:03:57.069BqC3+QaB0.net (25/34)

ひとまずの目的地はヴィンスだが、急ぐ必要はない。
予定の道であればシルバークリークに行くことになるが、内陸にあるホールバイトに行くことも出来る。
彼女たちは今、次の目的地を決める分かれ道に向かって走っているところだった。

(∪´ω`)「どんなところなんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「シルバークリークは海沿いの街ね。
      正直、何か大きな特徴があるわけではないわね」

ノパ⊿゚)「で、ホールバイトは食い倒れの街だ。
    料理がとにかく何でも美味いことで有名なんだが、肥満率が高い事でも有名だな」

ホールバイトからヴィンスに向かうと、予定よりも二日ほど遅れての到着となる。
地域と時期を考えても、ホールバイトに向かったところで問題はない。
シルバークリークは観光地とは程遠い漁業の盛んな街であり、道中に見てきた港町と比べて特筆すべきものはない。
しかし、ホールバイトには食事という楽しみがある。

旅の楽しみの一つは、間違いなく美味い食事である。
世界中を旅してきたデレシアも、ホールバイトで提供される食事は極めて高い水準にあると認めており、ぜひとも二人に経験してもらいたいと思っていた。

(∪´ω`)「食い倒れ?」

ノパ⊿゚)「あぁ、食い倒れだ。
    ……何て意味なんだ、そういえば?」

ζ(゚ー゚*ζ「食べすぎて財産がなくなる、っていう意味ね。
      でもホールバイトの場合、二つの意味があるわ。
      一つは観光客が食い倒れる、って意味。
      もう一つは街の人間が食べ物にお金を使いすぎているから食い倒れる、って意味ね。

      何を食べても美味しい街は、多分ここが一番だと思うわよ」

一食に費やす食費の金額もさることながら、味を追い求める姿勢は他の追随を許さない。
世界中の街で腕を振るう人気店のシェフは、何かしらの形で必ずホールバイトに関わる――俗にいう“ホールバイト指数”――ことになる。

(∪*´ω`)「ぼく、ホールバイトに行ってみたいですお」

ノパー゚)「あたしも、ホールバイトで飯を食ってみたいな。
    美味いってのは聞いてるんだが、やっぱり実食しないとさ」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、じゃあホールバイトに行きましょう」

デレシアは車体を左に傾け、分かれ道を左へと進んだ。
ここから先はヨルロッパ地方の内側に入る道のりとなる。
幸いなことに路面は十字教の聖地“セントラス”があるため、かなり奇麗に舗装・整備がされている。
道中に小さな町が点在しているだろうが、キャンプに必要な食材などはタルキールで補給が済んでいるため、立ち寄らなくてもいいだろう。

簡易浴場もこの地域には多く点在しているため、衛生面も問題はない。
街と町の感覚が拾いこの土地では、モーテルも儲かるが、それよりも維持費の安い簡易浴場が好んで建てられているのだ。
その整備を専門にしている業者もあるため、長距離移動をする人間達に重宝されている。

(#゚;;-゚)「ホールバイトの情報がありました。
    かなり昔ですが」


33以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 20:05:06.774BqC3+QaB0.net (26/34)

路面と吹き付ける風に合わせ、ディの車高とカウルが自動で適切な形に変形する。
風が当たる面積が小さくなり、多少は寒さが和らいだ。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、それはペニーのかしら?
      それとも?」

(#゚;;-゚)「コメット氏のものです」

ζ(゚ー゚*ζ「なるほどね。
      じゃあ今回はそのデータを更新できるといいわね」

(#゚;;-゚)「はい」

――デレシア達がホールバイトに向けて進路を変更したのと同時刻、ラヴニカから出発した十台のトラックが列を成してタルキールに到着した。

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   o
    ゝ;:ヽ-‐―r;;,               。
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"`ヽ;:;:;;;:::;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:从    (;:;:;:;:ヾ-r
   〈;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:) 0  ソ;:;:;:;:;:;:;:}
  ,,__);:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:ノ     ゞイ"ヾ,:;:,ソ
  (;:;:ノr-´^~;;r-ー⌒`    ,.、
  "  ,,,,      _;:;:⌒ゝソ;:/
    (;:;:丿    (;:;:;:;:;:;:;:;:;:)
            ヾ;;;;;;;;;;;;/; \
            ´  /;:ノ 。  。
                ()
同日 某時刻
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仰向けに縛り付けられた状態で自由の次に奪われたのは、歯だった。
一本ずつペンチで乱暴に引き抜かれ、口中が血にまみれ、痛みと共に溢れた。
全ての行程は無理矢理に開かされた目で見届けることになり、激痛と恐怖が全身に染み渡った。
開かれたままの口から血があふれ出し、むせ込み、床を赤く染める。

(・(エ)・)「喉が渇いただろう」

そう言って、熊の面をつけた人間――体格的に明らかに男――は炭酸飲料を無理矢理口に含ませ、むき出しの神経を刺激した。
悲鳴を上げたが、器具で固定された口から出てくるのは声帯が震える獣の様な呻き声だった。
一方的な暴力を一身に受け、カラマロス・ロングディスタンスは涙と鼻水、そして血で汚れた顔で熊男を睨んだ。
精いっぱいの強がりだった。


34以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 20:05:18.511JkIqI2Ma0.net (2/2)

メティンゴ


35以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 20:07:59.633BqC3+QaB0.net (27/34)

ジュスティア軍人たるもの、拷問を受けても情報を吐き出さないようにする訓練は受けている。
ましてや狙撃手という最も恨みを買いやすい役割であるため、拷問に対する訓練は念入りに受けた。
しかし実際に拷問を受けた経験があるわけではなく、あったのは覚悟だけだった。
現実を前に、カラマロスは気持ちを落ち着かせることに専念した。

情報を引き出す目的で拷問をする人間との駆け引きは何よりも重要だ。
口の中の液体を吐き出し、カラマロスは呼吸を整える。

(・(エ)・)「おいおい、せっかくの飲み物を無駄にするなよ。
    よし、お代わりだ」

男はそう言って、ダクトテープを取り出した。
カラマロスの口を固定していた器具を外し、それを地面に落とす。

(; ・ω・)「あ、あにあ……」

(・(エ)・)「あぁ、そんな状態でしゃべるな。
    苦しいだろ? すぐに飲ませてやるから」

縛り付けられていた台座が動き、カラマロスの頭が地面に向けられる。
こちらが何かを話す前に、口に水筒が突っ込まれた。
そして容赦なく炭酸飲料が流し込まれ、ダクトテープで口を塞がれた。
再び炭酸が彼の神経を容赦なく刺激し、気を失わんばかりの激痛が口中に広がる。

咄嗟の反応で思わずいくらか飲み込むことが出来たが、後はもう飲み込むことが出来なかった。
鼻から血の混じった炭酸が溢れ、カラマロスは痛みのあまりに失禁してしまう。
痛みに耐える訓練は、結局のところ、耐える訓練でしかない。
耐えきることが出来るかは自分の精神次第だ。

そして、訓練では耳にタコが出来るほど言われてきた言葉がある。

(・(エ)・)「心が肉体を上回ることは無いと、よく分かるだろ」

(; ・ω・)「もがっ?!」

狙撃手は人一倍心を鍛える必要がある。
心に迷いがなく、容赦のない狙撃は戦果に繋がる。
逆に、慈悲深い狙撃手は戦果を挙げることが出来ない。
毒虫を体中に乗せられても冷静でいられる訓練や、肉食獣が闊歩する森にナイフ一本で放り込まれる訓練を経たという自信。

訓練で勝ち得たそれらの自信が、一つずつ潰され始めていた。

(・(エ)・)「お話をする準備は出来たかな」

ダクトテープが乱暴にはがされ、口の中にあった血と炭酸の混じった液体を吐き出す。
咳込むたびに口の中の激痛が蘇ってくる。
顔中にナイフを差し込まれたような絶望的な感覚に支配されながらも、カラマロスは辛うじて意識を保っていた。
台座が元の位置に戻され、仰向けとなった。


36以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 20:08:42.464BqC3+QaB0.net (28/34)

(; ・ω・)「らにも、ひゃべるこほはらい……!!」

(・(エ)・)「今そういうのを訊いているんじゃないんだよ。
     まぁ爪でも切りながら話そうか」

男は血の付いた錆びだらけのペンチを取り出し、カラマロスの右手親指に添えた。

(・(エ)・)「いつから裏切っていた?」

(; ・ω・)「う、うらひってらんか」

(・(エ)・)「だから、そういうのはいらないんだよ」

爪がゆっくりと剥がされていく。
ペンチの表面が爪の下にある柔らかな肉に擦り付けられ、表面のサビがまるでやすりのように痛覚を刺激した。

(; ・ω・)「うああああっ!!」

(・(エ)・)「お前が裏切り者だっていうのは写真と証言で分かってる。
    素直に質問に答えた方が賢いぞ」

途中まで剥がされた爪に、液体がゆっくりとかけられた。
肉と爪の間で炭酸が爆ぜ、再びの激痛。

(; ・ω・)「ががああああああああああああ!!」

(・(エ)・)「もう一度だ。
    お前は、いつから裏切っていた?
    ビロードと同じ時期からか?」

(; ・ω・)「ら、らに?!」

(・(エ)・)「あいつが一番口が軽かったぞ。
    流石に連日の暴力には耐えられなかったみたいだな」

確かに、ベルベット――ビロード・コンバース――は後方支援を得意とする人間で、暴力などには耐性がない人間だった。
だがその志は確かなもので、そう簡単に拷問に屈するとは思えない。
しかし、捕らえられてからだいぶ時間が経過して本日初めて拷問を受けたカラマロスと違い、彼は連日責められたのだろう。
むしろよく持った方だと言ってもいいかもしれない。

そして彼の名前をこの男が知っているということは、誰かが口を割ったということ。
彼が口を割ったということは、こちらがいくら我慢をしてもそれは苦痛を長引かせるだけということになる。
何のために今苦痛を受け入れ続けているのか、カラマロスは大いに動揺した。

(・(エ)・)「お前がいくら我慢しようとも、あいつはいくらでも喋る。
    こちらがしたいのは答え合わせだ」

心が揺らいだ。
その揺らぎが驚くほど増幅され、カラマロスの精神にひびが入った。
揺さぶりなのか、それとも本当なのか。
それを判断するだけの余裕は既に奪われ、痛みと混乱が心を支配する。

――非常に強力な自白剤を飲まされていたなど、考える余地はなかった。


37以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 20:11:43.638BqC3+QaB0.net (29/34)

三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二 ニ - ‐ ‐
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三三三二 ニ - ‐ ‐
二 ニ - ‐ ‐
‐ ‐

ジョルジュ・マグナーニは自分が幽閉された場所について、よく理解していた。
この場所を取り仕切る人間も、この場所が何を目的に作られたのかも、そして、どこにあるのかも。
ジュスティア警察がそれを知らないはずもなく、であるがゆえに、ジョルジュに対しての拷問が後回しにされているのだと考えていた。
多くの汚れ仕事をしてきた彼にとって、ジュスティアの暗部ともいえるこの場所は近寄りたくない場所だった。

生きてここに入り、生きてここを出ることが出来るのは担当者だけだ。
情報を絞り出された人間は秘密を口外できないよう、速やかに処分される。
死体も残らない方法で処分される行程さえも知っているジョルジュにできるのは、考え続けることだけだった。
思考を止めない事だけが、この空間で自我を保ち続ける唯一の手段なのだ。

苦痛は心を蝕み、いつかは屈服させてしまう。
長生きするためには苦痛を受け入れ続けるしかない。
同時に捕らえられた人間の中で、ジョルジュが知る限り口が堅いのはシナー・クラークスぐらいだろう。
それ以外の三人は正直期待が出来ない。

特に、最年少のビロード・コンバースと素人のシュール・ディンケラッカーは拷問への耐性がないだろうから、自白するのは時間の問題だ。
ここに連れてこられてからの時間を考えると、どちらかが口を割ったと考えてもなんら不思議ではない。
その日、尋問とは名ばかりの拷問を受けるための部屋に連れ出された時、ジョルジュはまだ正気を保っていた。
  _
( ゚∀゚)「……」

(・(エ)・)「……」

熊の面をつけた人間が目の前に立っている。
無言のままにらみ合い、最初に口を開いたのは男だった。

(・(エ)・)「何故だ」
  _
( ゚∀゚)「どの件だ」

ジョルジュは男の正体を知っている。
警察内でも何度か話したこともあるし、仕事で関わったこともある。
知己の間柄ではあるが、“彼”は仮面を外そうとはしなかった。
ボイスチェンジャーも変わらず使用しているため、本当に目の前の人物がジョルジュの知る彼かどうかは、断言はできない。

(・(エ)・)「最初からだ」
  _
( ゚∀゚)「話す気はない」

(・(エ)・)「……意地っ張りなのは昔から変わらないな」


38以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 20:14:42 BqC3+QaB0.net (30/34)

  _
( ゚∀゚)「お前もな。 久しぶりに昔話でもするか?」

何か突破口になり得る情報を得ようと、ジョルジュは軽い口調でそう言った。
だが、当然、答えは決まっていた。

(・(エ)・)「いや、必要ない」
  _
( ゚∀゚)「なら、俺をどうする?
    ドリルで膝に穴でも空けて、そこに酸でも注ぐか?」

(・(エ)・)「ある程度の情報は得た。
    後は、核心が欲しいだけだ」
  _
( ゚∀゚)「他の連中に聞くんだな」

それが事実か、あるいは揺さぶりなのかはこの状況では判断できない。
尋問、あるいは拷問の上手い人間は嘘と真実を巧みに使い分けてくる。
警官として多くの現場を経験したジョルジュでさえ、この男の吐く言葉の中にある嘘を見つけ出すのは困難を極める。
それ故に、これから拷問を受けたとしても、ジョルジュは何も情報を提供することはしない。

それだけがこの苦痛に満ちた時間における、最善の答えなのである。

(・(エ)・)「お前が話せば予定よりも早く楽にしてやれるんだがな」
  _
( ゚∀゚)「猶更俺は話せねぇな」

(・(エ)・)「意地がどこまで続くか試すのは、初めてだな」
  _
( ゚∀゚)「あぁ、確かにな。
    俺も知りたかったんだ」




――そして、円卓十二騎士“花屋”による拷問が始まった。




三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二 ニ - ‐ ‐
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39以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 20:16:28 BqC3+QaB0.net (31/34)

ジュスティア市長、フォックス・ジャラン・スリウァヤは束になった報告書を読み終え、それを提出した尋問担当者に目を向けた。
執務室にはフォクスと担当者の二人だけがおり、執務机を挟んで対面している。

爪'ー`)「ご苦労様。
    しかし、よくここまで聞きだせたね」

「きっかけさえあれば簡単なものです」

担当者は素気のない返答をしたが、フォックスはここに至るまでの努力を全て聞いていた。
昨日行われた尋問で、最も痛みに免疫がないのはベルベットだというのはすぐに分かった。
痛みへの耐性がないということは、戦闘経験が浅いということを如実に物語る。
しかし、想像以上に口が堅かったため、担当者は別の方法を使うことにした。

そのため担当者は、他の人間を揺さぶるための生贄として、ベルベットの名前を使うことが決められたのである。
昨日、貴重な情報を口に出したのはシュール・ディンケラッカーだった。
彼女自身はその情報を口にしたことに気づいていないだろう。
それは、担当者が苦痛のナシに焼石を入れようとしながら質問した際に引き出すことが出来た。

『いつから警察の報道担当官と仕事をしていた?
どうやって知り合った?』

『し、知らない゛っ!! ビロードどば話じだごどもないっ!!』

ビロードという名は、彼女が全く意図せず口に出した名前だった。
恐らくは組織内で使われている名前だけが記憶に残されており、衰弱した意識の中でもう一つの名前を口にするだけの思考力はなかったのだろう。
本人は何も話していないと思っているはずだ。
思わぬ収穫だったが、その収穫はかなり大きな成果を導き出すことに貢献した。

爪'ー`)「後は、どこまで情報が得られるか、だね」

「まだ始めたばかりですので、情報が手に入る可能性はあります。
ただ、恐らくこの街に連中の仲間が入り込んでいると思われます。
セカンドロックの時のように、奪還される危険性があるので長期間の拘束は推奨しません」

爪'ー`)「だろうね。それは私もそう思う」

トラギコ・マウンテンライトの情報を加味して、その可能性は考えていた。
むしろフォックスはそれが起こることを計算に入れて行動していた。
セカンドロックを突破するだけの準備がある組織が絡んでいるのならば、恐らく、防ぐのは難しいだろう。
この街に殺人鬼が平然の紛れ込んでいた、という報告からも分かる通り、スリーピースを突破する手段を相手は持っているのだ。

ヘリコプターを用意されでもすれば、上空からの侵入を許してしまうことになる。

「その可能性がある人間を現在マークしています」

爪'ー`)「へぇ、よく見つけられたね」

「見つけたのは私ではありませんが、可能性は高いかと。
現在、オアシズに監視カメラに映っていた犯人一味の写真を依頼しています。
それと照合すれば答えが出ますが、資料の到着まで少し時間がかかるとのことです」


40以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 20:19:12 BqC3+QaB0.net (32/34)

輸送方法は陸路か海路に絞られる。
安全かつ確実に資料を手に入れるためには、その情報が他所に漏れないように気を配り、秘密裏に手に入れなければならない。

爪'ー`)「写真が手に入り次第、他の支部にも共有できるように用意をしておかないとね。
     街に入り込んだ虫は……そうだね、余計なところを荒らされては叶わないから、別の場所に移動させよう。
     一人だけ餌として用意できるかな?」

「であれば、シュールが適任です。
恐らくあの女の尋問が最初に済むかと思われます」

散々傷めつけはしたが、命を奪うまではしていない。
捕らえた人間達の中で最初に口を割るとしたら、あの女だ。
組織に参加した経歴の浅さは組織への帰属意識の低さに直結する。
ならば痛みでそこを狙うのが一番だ。

爪'ー`)「そうしよう。 移送先については、ふむ……」

「また罠を仕掛けますか?」

ティンカーベルからの移送に際し、フォックスは罠を仕掛けることにした。
それは警察の沽券にかかわる罠だったが、ツー・カレンスキーは了承した。
本気の警備体制、本気の護送。
それに関する情報を細分化し、担当者たちに分割して伝えた。

幾つもの可能性を考慮して練られた作戦の真なる目的は、内部に潜む裏切り者を見つけ出すことだった。
護送対象を乗せた車輌の鍵を開けるための方法が関係者に伝えられたが、そのいずれもが不完全な情報だった。
開放することのできた護送対象によって誰が情報を流したのかが分かるという仕組みを用意し、それによって対処が変わるよう、綿密に練り上げられた作戦。
最低でも一人は脱走してしまうという計画は、警察が確実に恥をかく作戦でもあった。

何度もしてやられた警察が威信をかけて脱走劇を用意するなど、少なくとも、警察長官には苦痛極まりない選択だっただろう。
だが作戦は無事に成功し、ショボン・パドローネが脱走したことによって情報を流したのがベルベットであることが判明したのである。
別の場所から情報が流れないよう、担当者への情報伝達はツーが直々に行った。
斯くして作戦は最小限の被害で成功を収め、円卓十二騎士の活躍によって襲撃者を捕らえることも出来た。

爪'ー`)「同じ手は何度も使いたくない。
    まぁ、そこについては別の考えがある。
    引き続き尋問と街の方を頼むよ」

「かしこまりました」


41以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 20:24:16 BqC3+QaB0.net (33/34)

フォックスは座り直し、机上で手を組んだ。

爪'ー`)「それで、街の方はどうかな?
    薬をばらまいている連中に目星はついたかな」

街で少しずつ流通が確認されている違法な薬物。
トラッカーたちがそれを運び入れていることは分かっているが、手段などがまだ分かっていない。
どのようにしてスリーピースを突破し得たのか、まだ不明なのである。

「そちらについても引き続き調査を続けています。
彼がいい仕事をしてくれていますよ、仕事の相棒として頼もしい。
何より、根性が座っている」

爪'ー`)「ははっ、流石あの“虎”が連れてきただけあるね。
    少し忙しいだろうけど、彼の警護とフォローも頼むよ」











<ヽ`∀´>「えぇ、勿論」











円卓十二騎士“花屋”のニダー・スベヌは微笑を浮かべ、肯定したのであった。

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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Remnant!!編
                i  ./ /,/!l  i   i!i! ', ',
                 l / / { うl i l  /lメ} l ',', ,}
            __  ノ∥/〃l,- l l l /ー、l ll l l ,'
         / `〈////' li .!!!!从'  `从lノ/
        !¨`、  ヾ、 i .ハ   ヽ、   l
   _, <.    ト、  ヾ、l  ::::::..   ヽ=-¨`
_,. <        i ',.  ', i! :::::::::へ.  ,'´
     ,.,      ! l.  l::i! .:: ' ´   ` '
-一=ニ三ニ',     l.  l:::i!〈iト、
第三章【Remnants of secret-秘密の残滓-】 了
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42以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 20:24:52 BqC3+QaB0.net (34/34)

支援ありがとうございました

これにて本日の投下は終了です

質問、指摘、感想などあれば幸いです


43以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします2020/08/23(日) 20:25:59 U+sioSBT0.net (1/1)

なんだここ15年前の2ちゃんねるかと思った