1以下、名無しが深夜にお送りします2020/02/15(土) 00:05:34VN/sxhO6 (1/17)

プロローグ




3年5組女子7番、根元陽菜は眼下に転がるものを見下ろし途方に暮れていた。鮮血滴る得物を震える両手で強く握りしめながら。
滝のように噴き出る汗とは裏腹に、鉄のように鈍い寒気が骨の髄まで染み渡る。
陽菜の足元に横たわっていたのは他でもない、彼女のクラスの男子生徒、柿沼であった。
ゲーム開始以来現実感がなくどこか夢見心地であった気分は薄れ、すると同時にあらゆる五感が徐々に徐々に鮮明に、より鋭敏になった。しかし一旦竦んだ体はすぐには言うことを聞かず、否応無しに眼前の屍をまじまじと見てしまう。

柿沼。瘦せぎすで背の高い、気の小さそうな男だった。その180に届こうかという細長い肢体が、今は山の湿った斜面に仰向けに倒れ込み微動だにすることはない。布を纏い毛の生えたただの冷たい肉塊である。
思考の舵を失ったその瞳孔はあてもなく出鱈目に眼鏡越しの月明かりを反射し、阿呆のようにあんぐりと開かれた口には既に温かさを失いつつある血をなみなみとたたえていた。


2以下、名無しが深夜にお送りします2020/02/15(土) 00:08:10VN/sxhO6 (2/17)

6月の上旬に差し掛かる頃、原幕秀英高等学校3年の生徒らに一通の手紙が配布された。

-今年度大学、専門学校入試合同説明会のお知らせ-

字面こそ「らしい」が、詳細を聞けば聞くほどよく分からない代物だった。なんでも本来ベ◯ッセだか◯会だかの講師を学校に招く予定だったが、先方の都合とやらで急遽本社のホールまで学校側が赴くことになったらしい。
全く、つい先月遠足があったばかりだというのにせわしない。そう誰もが少なからず考えたが、聞けばこの日の欠席は通常授業五日分の欠席として扱われるという。
それではなおのこと受験生として反故に出来る筈もなく、どのクラスも概ね全員が出席した。

最初こそみな乗り気ではなかったものの、そこはどんな場所だろうと仲間と集まるだけでなにかと楽しい年頃。
送迎のバス内では学校を発ってまもなく気だるげな空気は霧消し、シャッター音や菓子の袋をがさごそとまさぐる音、がやがやと談笑する声で満たされた。


3以下、名無しが深夜にお送りします2020/02/15(土) 00:11:45VN/sxhO6 (3/17)

なんだこれ改行したのに反映されてない


4以下、名無しが深夜にお送りします2020/02/15(土) 00:14:07VN/sxhO6 (4/17)


「うっちー!?」


5組の生徒が乗り込む5号車。
田中真子が窓側に座る友人との会話にひと段落つき、ふと周りの席を見渡すなり声を上げた。彼女の視線の先で補助席に座っていたのは、本来3年4組であるはずの内笑美莉であったからだ。

真子の声につられた生徒たちもなんだなんだと声の元を追い、笑美莉を見とめては驚愕の声を上げ始める。



「乗り間違えたの。次のサービスエリアで降りるから」



笑美莉は好奇の目に萎縮することもなくテキストを読み上げるように淡々と答えた。



「ちょっと内!何やってんの!4号車の運転手さんにも迷惑かかるのよ?」



「出発した後すぐ気づいて4組の友達にラインしたんで!大丈夫です!」



最前列に座る担任、荻野に対してほんの少し煩わしげに声を荒げる。彼女の顔立ちはあまりにも簡潔すぎて表情の機微がほとんど読みとれない。



乗り間違えたなど嘘だということはその場の人間全員がなんとなく理解できていたが、本当の理由にたどり着く者は誰一人としていなかった。

その答えは笑美莉の補助席の右隣に座る女子生徒、黒木智子に他ならない。


5以下、名無しが深夜にお送りします2020/02/15(土) 00:18:01VN/sxhO6 (5/17)

(この絵文字気づいたらいっつも隣にいるがどういうつもりなんだ.....)



智子は墨を塗ったように黒く長く、重々しい前髪から見え隠れする大きな瞳で、怪訝そうに笑美莉の顔を覗き込む。
窓側の席でイヤホンをつけうつらうつらとしていた田村ゆりも鬱陶しげにイヤホンを外し、笑美莉の横顔を凝視し始めた。



「乗り間違えってありえないでしょー、うっちー何考えてんのもー」



智子の1つ後ろの座席から身を乗り出しきゃははと笑うのは、女子6番の根元陽菜だった。彼女の言葉をきっかけにバス内の空気は笑美莉をも談笑の輪に取り込む形に変わり始める。



ややお調子者だが思慮深く人懐こい清田良典に、派手な見た目に相反して母性的とも言える程分け隔てなく優しい性格の加藤明日香。
そんな彼らの仲間に笑美莉が引き込まれる様子を見とめると、陽菜は座席の上に乗り出したまま智子を見下ろした。


6以下、名無しが深夜にお送りします2020/02/15(土) 00:46:08VN/sxhO6 (6/17)

「専門志望とかは入試何週間前みたいな子も多いけどさー、そういえばクロって結局大学どこいくつもりなの?」



「GW中行った三校のどっかかなー....AO入試は簡単そうだけど面接なんて何喋ったらいいかよく分から.......し....」




「...クロ?」


突然魂が抜けたようにこうべを垂れた智子を見て、陽菜は違和感を覚えた。



「........ん.......ごめん........なんかきゅ.....に.......」



明らかに意識が朦朧としている。違和感の正体は智子の様子ばかりでない。気がつけばあたりの喧騒は完全に消え失せ、バスの走行音と正体不明のガス漏れのような音だけが不気味に響いていた。

バスの長旅の疲れからくるものにしては同時多発的すぎるし、出発から20分と経っていないのにこの有様というのはどう考えても不自然だ。



突如鎌首をもたげた得体の知れない不安感に背筋が凍る思いで頭をフル回転させていると、フリーズでもしたかのように陽菜の思考は次第に不明瞭になり、



いとも容易く、深い、深い、夢すら見ることの出来ない闇の中に誘われていった。


7以下、名無しが深夜にお送りします2020/02/15(土) 00:53:57VN/sxhO6 (7/17)

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3年5組女子4番、黒木智子が目を覚まし最初に見たものは、ごく見慣れたものだった。



木目。

目と鼻の先にある机の木目である。2年の終わり頃から休み時間を机に突っ伏して過ごすことなどほとんどなくなっていたが、ともあれよく見慣れた木目。
そして何よりあばらに机のへりが食い込み、枕にしていた腕の筋を頭部がいたずらに引っ張った後に残るこの痛み。
疑いようもなく自分の席で寝てしまっていたらしい。

今は何限目だろうか。まだモヤが晴れきっていない頭を上げると、



そこは教室。

智子がいたのは確かに教室である。しかし明らかに原幕の、3年5組のそれではない。


教室を照らす古びた蛍光灯はじじじと音を立て、大小の羽虫をその青白い光へと誘い込む。

大振りの蛾がちらほらと外側に張り付く安上がりなガラス窓は、生温かいそよ風にすらがたがたと音を立て今にも外れそうだった。



周りにはクラスメイトが皆して先ほどまでの智子と同じ姿勢で寝ているが、彼らもまた奇妙だった。それはクラスメイト一人一人の首に光る鉄の首輪。

ただならぬ状況にゴクリと唾を飲み込むと智子は喉元にしこりのような、強い圧迫感を感じる。思わず自らの首筋を撫でると、ひんやりとした金属の感覚が指のはらを走り抜けた。

「うっ...!」

自分にもやはりその首輪が取り付けられていると、その時初めて気がついた。


8以下、名無しが深夜にお送りします2020/02/15(土) 01:00:26VN/sxhO6 (8/17)

特に不気味なのは、窓の外から見える景色だった。



夜。

真っ暗である。窓のすぐ向こうには鬱蒼と樹々が並び、地面は柔らかそうな湿った土で覆い尽くされ。


その紺と深緑と焦げ茶のコントラストは、到底都会の学校の教室の外から拝めるものではなかった。



「なん.......」



「チッ!」



なんだここ、と小さく声が漏らす前に、教室の奥で響いた舌打ちに智子は振り返った。

声の主だろうか、悪態を付き物々しげな顔つきで黒板側の教壇を睨みつける女子生徒が目に留まる。
プリン頭に胸元の開いたカッターシャツ、凛としつつも鋭い目つきのいかにもヤンキー然とした女子生徒、吉田茉咲だった。


茉咲とは対照的に見るからにナードな雰囲気の智子は意外にも彼女との交流がなにかと多く、茉咲の様々な一面を見ていた。


喧嘩っ早いがその分仲直りも早く、単純でお人好し。性的なことにはその見た目と不釣り合いな程疎く、キ●ィちゃんのパンツを履いていてファンシーなキャラクターが大好き。


そんな彼女を挑発し怒らせることも多かった智子だからこそなんとなく分かったことがある。



今の舌打ちは、「違う」。普段智子が彼女をからかった時に見せるそれではなく、もっと反吐が出るような邪悪に相対した時にするような________。


9以下、名無しが深夜にお送りします2020/02/15(土) 01:07:30VN/sxhO6 (9/17)

「..............,..」

今も鬼の形相といった面持ちで組んでいる茉咲の凄みに釘付けになっている間に、他の生徒も徐々に目を覚まし始めていた。

まだ寝ぼけた風にあたりを見渡し首を傾げる者、半狂乱になり隣近所の級友に説明を求める者、智子と同じようにその場の雰囲気に気圧され絶句する者。


その場の面々が思い思いに不穏な空気を察知するその様子は、さながら最後の晩餐を想起させる。

智子の右隣では友人の田村ゆりが前の席の真子に何かをひそひそと耳打ちし、ゆりのさらに右隣では南小陽が不平不満を甲高い声でわめき散らしていた。


智子のすぐ前に座る加藤明日香の後ろ姿はいつものようにリラックスしたものだったが、その表情まではうかがい知れなかった。


そんな中、

ぎし、ぎし、と。一人分の足音。それに続いて床が軋む間も与えないようなぞろぞろと大勢の足音が。教室の外の暗い廊下から近いてきていた。


10以下、名無しが深夜にお送りします2020/02/15(土) 01:09:58VN/sxhO6 (10/17)

足音が突然教室の前で止まるやいなや半開きであった引き戸が突如がら、と開ききり、生徒全員の視線が一斉に引き戸へと注がれる。

「はいはいはぁーいっ!!!みんな起きてるかー!?よし!起きてるなー!」

どかどかと大股に足音を立て教室に入ってきたのは、背広姿の見慣れない中年の小男とそれに続く十数名の武装した屈強な軍服の男たち。

いや、よく見たら男の方は見覚えがあった、そうだ、何十年も前に始まりもう十年近く前に終わった青春学園ドラマ、その主人公の教師の_______。

「えーーはい!!!原幕3年5組の皆さん!はじめまして!!!えーわたしの名前は・・・!」
智子が既視感の答えに行き着く前に男が黒板へでかでかと名前を書き綴り始めた。

-坂・持・金・発-

「『サカモチキンパツ』といいます!今日からおれが担任だぞー!!みんなよろしくな!!!」


11以下、名無しが深夜にお送りします2020/02/15(土) 01:21:18VN/sxhO6 (11/17)

男の言動、やたらと快活な態度、引き連れられてきた軍人、この異様なロケーション。生徒全員が疑問符をいくつも頭上に浮かべ、

「あのー!ここどこですかー!?」

「説明会って結局なんなんだよ!!」

「この首輪なーに!?」

「帰りたいんだけど!!てかなんで夜な訳!?」

口々に、思い思いにそれらの疑問を男へ投げつけ始めた。
すると、
「私語を慎めーッ!!」

ダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!!!!!

黒板の壁沿いに横隊で並び待機していた兵士の一人が、恫喝と共にアサルトライフルを天井に向け撃ち鳴らした。

「・・・・・!」

一瞬にして空気がきんと凍る。ある者たちは静まり返り、ある者たちは泣き出し。

「・・・えーはい。そうだな。みんな気になるよなぁー、じゃあなんで今日みんなにここへ集まってもらったか説明しよう!!
言うまでもなくナントカ説明会をするためじゃありませーん!!みなさんは国のエライ人達が作ったある極秘のゲームの参加者に選ばれました!ヤッタネ!
世間一般では半ば都市伝説みたいな扱いだが、実際に行われるものなんだなーこれが!!!!薄々感づいてる人もいるんじゃないか!?」

男が教壇から降りよく通る声で口上を述べ続けながら教室を歩き回る。

「えーざっくばらんにゲームの内容を説明すると!このクラスの中でたった一人の優勝者が決まるまで!!
みなさんに!!!」


12以下、名無しが深夜にお送りします2020/02/15(土) 01:22:51VN/sxhO6 (12/17)

教壇に戻り教卓にばんと両手をつくと、坂持と名乗る男は突然に落ち着いた口調になり、ゆっくりとこう言った。


「殺し合いを、して..........、もらいまぁーす。」




......声をあげるものなど、もう誰もいなかった。


13以下、名無しが深夜にお送りします2020/02/15(土) 01:31:09VN/sxhO6 (13/17)

「ばっ_________あんまり馬鹿言ってんなよ、おい、オッサン!」

がたりと席を立ち長い沈黙を破ったのは女子3番、岡田茜だった。坂持がしけた面で彼女を見やる。

「あれって確か...映画とか小説の話だし中学生が対象だろ!?それにしたってふざけてるけど............それに私たちの担任は荻野だ!お前なんか知らない!」

人一倍正義感が強く、豪胆で男勝りな彼女らしい反応だった。坂持はそれを受けて一瞬きょとんとした表情をとると、ニィッと笑みを浮かべた。

「あぁーー荻野先生なぁー!いやあ~~~おまえらいい担任持ったよ。ウン!あ、一人担任じゃないのも混じってるのか。いやご愁傷様だ。な、内」

ご機嫌な口調で語る中突如名前を呼ばれ、茉咲の後ろへ取ってつけたように置かれた席に座っていた笑美莉はギクリとした。

「ホントおまえら幸せモンだよ。長年この仕事やってきたけどあそこまで生徒のこと思ってるセンセーいなかったぞ~!!まだ若いし女の人なのに立派だよ、ウン!おい!!!お前ら持ってこい!!」

『持って』こい。その一言を聞き茜の、智子の、皆の全身を悪寒が走った。
すかさず急患を乗せるようなワゴンが教室に運び込まれる。そのワゴンの上にはブルーシートがかけられた人間大の膨らみ。
見たくない。考えたくない。もうやめろ。全員がそう考えていただろう。既にえずき、目を覆い、短く悲鳴を漏らす者もいた。だが智子は、ゆっくりとめくられていくブルーシートから目が離せなかった。


「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!」」」

ブルーシートから顔を覗かせた赤黒い肉塊は、5組の担任、荻野『であった』ものだった。
血みどろの顔に頼りなく乗っかるボーイッシュなベリーショートの髪は3分の1程が頭蓋ごと抉り取られ、べったりとした赤茶色の空洞の中には灰色がかったピンクの脳漿が見え隠れしている。コメディ漫画のキャラクターのデフォルメされた表情のごとく左の眼球は大きく飛び出し、ぬらぬらとした光沢をたたえた眼球の表面には今もなお生理食塩水の残滓が球体をなぞり伝い落ちていた。

「やべえって!逃げろ逃げろ!!!」
「荻野先生っ!荻野せんせえ!」
「やだあぁぁぁぁ!!もう帰してよぉ!」

最前列の女子生徒らの悲鳴に続き、様子を覗き見た後ろの席の生徒たちも続いて連鎖的にパニックの渦へと巻き込まれる。
恐怖に堪えかねて出入り口へと走り出す生徒もいたが、すぐに威嚇射撃やライフルのストックによる殴打であまりにも手際良く鎮静化させられた。


14以下、名無しが深夜にお送りします2020/02/15(土) 01:41:50VN/sxhO6 (14/17)

しばらくして狼狽と狂乱の空気がいささか鎮められこそすれまだ悲鳴のやまぬ最中、坂持はうんんっと大きく咳払いをし語り始める。

「えぇーっとなんだ。うん、荻野先生はなぁー、みんなのクラスがゲームの対象に選ばれたことを伝えるとほら、えらく反発したんだ!ま、突然のことだったしーこっちも悪かったと思うんだけどなぁ~」

「........クッソジジイィィィィ!!!」

ガタン!

「!」

騒がしい教室に一際大きな怒号が響く。机を蹴り飛ばした音らしい。智子が音の先を見やると、ツーブロックのこめかみには青筋を浮かべ真っ赤な顔で坂持を睨みつける男子生徒、清田良典がいた。明朗な普段の彼からは想像も出来ないような顔であった。

「フーッ!フーッ!」

肩で息をしながら坂持に詰め寄る。
坂持は彼をふふんとせせら笑うと、右手を上げ背後の兵士に何かのハンドシグナルを見せた。

「ぶっ殺.......あがっ!!」

清田の左手が坂持の襟首三寸先まで伸びたところで、坂持の両脇から兵士2名が割って入った。
1人が清田の右頬を重く殴打し、もう1人が倒れ伏した清田を素早く取り押さえる。


15以下、名無しが深夜にお送りします2020/02/15(土) 01:59:46VN/sxhO6 (15/17)

「おーなんだよ、清田。荻野センセ殺されて悔しいか?でもなぁ、暴力はダメだぞぉ?
あんまり反抗的だと先生達も黙っちゃいられないしなぁ、最悪先生が偉いさんに怒られるんだ....ゲーム開始前から生徒の人数を減らしちまうと、さ!」

ガスッ!!
坂持が今もなお彼を睨み上げる清田の側頭部を踏みつける。その衝撃で、清田のマウントをとっていた兵士の拘束が一瞬緩んだ。

「うおおおお!!」

その隙を逃さず、清田はすかさず兵士の下から脱出し再度坂持に掴みかかる。
が、
「やめて!!」
「落ち着けってよし!」
「殺されちまうぞ!!」

清田と特に仲のいい友人達、即ち和田、茜、鈴木が駆け寄り彼を羽交い締めにした。

「ッ!.......フーッ!よくもオギーを...殺す....!ぶっ殺してやる...!」

血走った眼で此方を凝視する彼を、坂持はやはり鼻で笑う。
「ふん。おう!期待してるぞー清田!ま、少なくともお前の周りのその3人も殺して生き残ってから言うんだな!」


16以下、名無しが深夜にお送りします2020/02/15(土) 02:24:45VN/sxhO6 (16/17)

和田、茜、鈴木が未だ興奮状態の清田をなだめ、いつでも制止できるよう周りを3人で固めながら元の席に座らせる。
その様子を見てうん、と頷くと、坂持はまたつかつかと教壇に戻った。

「はい!清田くんが大人しくなった所で、これからゲーム説明のビデオを見てもらいまーす!時間も押してるんで、ね。」

坂持が教室の角の古い型のTVにリモコンを向けると、生徒達の視線が一斉にスクリーンへ集中する。


『はぁーい!原宿教育学園幕張秀英高等学校、3年5組の皆さん、こんにちはー!』

「はいこんにちはー!」

画面には緑のベレー帽に「BATTLE ROYAL」ロゴのTシャツ、ミリタリー調のホットパンツを身につけた活発な印象の女性が映った。
坂持は景気づけとばかりに画面越しの挨拶を女性に返すが、当然彼に同調する生徒など1人としていない。

ビデオは続く。

『皆さんは今年度の「バトルロワイアル・プログラム」の対象クラスに選ばれました!おめでとうございます!』
「ありがとうございまぁーす!」

坂持の不愉快な合いの手を煩わしく思いつつも、智子は自身の生存のヒントを掴むべく、視覚と聴覚を全集中させていた。


17以下、名無しが深夜にお送りします2020/02/15(土) 03:06:03VN/sxhO6 (17/17)

『これからお姉さんがプログラムのルールを説明するのでよく聞いて、正しく元気に戦ってくださいね!今皆さんがいるのは、こぉーんな形をした無人島でーす!』

女性が画面右端にワイプされ、画面全体には孤島の3Dモデルと大雑把なマップが映し出された。

『周囲は10kmぐらいで、普段は人が住んでて生活してるんですけれど、今は一時的に退去してもらっているのでだぁーれもいませーん!島は縦横1km×10個の正方形のエリアでA-1からJ-10ブロックに区切られてて、先生がゲーム中、毎日午前と午後の0時と6時に、放送を流します!
放送の中では、どのエリアが何時から入ってはいけない「禁止エリア」になるかを教えてくれます!放送を聞いたら忘れないように地図にメモをして、もしエリア内に滞在してる人がいたらすぐ外に避難してください!なんで危ないかというとぉー...』

「ね、まこっち....外出たらケーサツ呼ぼ...?そしたらこんな奴ら
「南ぃ!!!」

「「!」」
真子にひそひそと話しかけていた南へ坂持は怒鳴りつける。ビデオの音声を遮って飛ばされた恫喝に2人はびくりと跳ね上がった。

「私語してんじゃねぇ!!!」

怒声とともに坂持は極めて無駄がなく、洗練された動きで小陽の大きな額目掛けて懐から取り出した「何か」を投げつけた!
授業態度の悪い生徒に教師が投げつけるもの。古典的な学園漫画やなんかを参考に考えるなら、そんなものは一つしかないだろう。小陽目掛けて迫りくるその動体を目で追っていた生徒達の誰もが、最も至近距離で見ていた真子ですらその物体を「チョーク」だと思い込んだ。

ドスッ!

細長い棒状のそれは小陽の額に見事命中し、小陽は大きく体を逸らしてのけぞる。

「み、南、さん...?......ひっ!」

上体を反り返らせた姿勢から微動だにしない小陽。地面に転がり落ちることなく小陽の額の上で静止する「何か」。その「何か」は、チョークの原材料である石灰岩が持つものとしては有り得ないギラギラとした鋭い光沢を放つ。小陽の頭部の輪郭をなぞり、重力に従ってぽたぽたと滴り落ち床を叩くは真っ赤な血の雫。

「「「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」
坂持が投擲したナイフは、小陽の額に突き刺さり一撃で絶命させていた。

南小陽.......死亡 残り33名