1ヤクナカ ◆zrdihTOThA2020/02/09(日) 18:41:21GzNZUmXs (1/1)

これは架空のプロ野球チームのとあるスター選手の物語。なお似たような名前や成績の選手やチームが出てきますが、現存する選手やチームは関係ありません。この物語はフィクションです。


2ヤクナカ ◆zrdihTOThA2020/02/09(日) 18:48:24LlFFnbzA (1/16)

『スズメーズ』というチームにおいて小さな大投手といえば彼しかいない。後にそう言われた選手がいた。彼の名は石海。

大卒で『スズメーズ』に入団。大学では活躍したもののあまり期待はされていなかった。しかし新人ながら12勝、新人王のタイトルを奪取。以降勝ちを積み重ね200勝まであと29勝、現役では最多の勝ち星を誇る『スズメーズ』の大投手だ。

これは彼の物語である。


3ヤクナカ ◆zrdihTOThA2020/02/09(日) 18:53:07LlFFnbzA (2/16)

プロ野球人生、ここに至るまで多くの困難があった。ここ数年はなかなか10勝を超えることはない。年齢も40を越える。そんな彼の200勝到達は到底無理だと思われていた。

しかしさらに2年をかけあと6勝というところまではこれた。年齢も43。今年がラストチャンス。皆がそう思った。そう、彼自信も…


4ヤクナカ ◆zrdihTOThA2020/02/09(日) 18:57:56LlFFnbzA (3/16)

本来ならとっくに200勝に到達していたかもしれない。彼には勝ち運がなかった。

しかしそんな中でもあと6勝まで漕ぎ着けた。『まさお』というニックネームがついた。昔は嫌だったが今は気に入っている。その内『まさおカーブ』と変化球にまでニックネームがつけられてしまった。さすがに苦笑いした。


5ヤクナカ ◆zrdihTOThA2020/02/09(日) 19:04:36LlFFnbzA (4/16)

お笑いコンビ『アリサンとキリギリスさん』の小さいほうに似ているとよく弄られる。そう彼はプロ野球選手にしては小柄な167センチ。そんな体なのでストレートもよくて140キロ序盤のスピードなのだ。

しかしながら多彩な変化球と投球で自分より大きな大打者を抑えてきた。特に調子を落とした翌年から投げ始めた、左打者に対する内角をえぐる変化球は圧巻だった。ジイヤンズの大笠原をこれで抑えていた。


6ヤクナカ ◆zrdihTOThA2020/02/09(日) 19:08:54LlFFnbzA (5/16)

そんな長い歴史、プロ野球選手として人生の半分を生きてきた。そして遂にその時は来ようとしていた。

石海「あと1勝…」

シーズンも終盤、石海もあと1勝で200勝。しかし試合数からしてあと1回しか先発できない。日程も彼自信の肉体も精神も…


7ヤクナカ ◆zrdihTOThA2020/02/09(日) 19:13:56LlFFnbzA (6/16)

できることなら昨シーズンで達成したかった200勝。体を無理矢理動かしここまでやって来た。しかしその代償はでかかった。

石海「あと1試合、本当に投げられるのか…」

全てをかけるつもりでいる。全てを出しきるつもりでいる。しかし不安ばかりがよぎってしまう。
低津監督「石海、最後いけるか?」

監督の問いに彼は頷いた。不安を残したまま。


8ヤクナカ ◆zrdihTOThA2020/02/09(日) 19:20:33LlFFnbzA (7/16)

不安を抑えきれず、彼はホームの人宮球場を歩き回っていた。そこで意外な人物に出会った。

野の村「おう、石海か?」

石海「野の村監督、何故ここに?」

野の村「ああ、明明後日に解説を頼まれてな。全く、年寄りをこきつかってくれるよ。」

それは石海最後の登板予定日。


石海「お体は大丈夫何ですか?」

野の村「ふん、お前さんに人の心配する余裕はあるとはな。ずいぶん気楽じゃないか。」

石海「それは…」


9ヤクナカ ◆zrdihTOThA2020/02/09(日) 19:24:48LlFFnbzA (8/16)

野の村「引退するということはボロボロなんだろ?それに200勝のプレッシャー、お前さんも大変だな。」

石海「確かにそうかもしれません。ストレートはすでに140キロを越えることはありません。」

野の村「ふん、130もありゃ十分だ。お前さんはそういうタイプだろ?俺の知ってるやつで最後に投げたストレートが110キロいかないやつがいたぐらいだからな。」


10ヤクナカ ◆zrdihTOThA2020/02/09(日) 19:29:43LlFFnbzA (9/16)

それはかつて野の村監督が『スズメーズ』時代に頼りにしていた投手、加藤のことだった。新人ながらよく曲がるスライダーを武器に新人王を獲得した。しかし怪我で戦線を離脱。復活はしたもののプロ野球人生は長くはなく、最後に投じたストレートは110キロにも届かなかった。

野の村「あいつに比べたらお前さんは大したもんだよ。あと1試合ぐらいどうってことないだろ。」
石海「はい。ありがとうございます。」


11ヤクナカ ◆zrdihTOThA2020/02/09(日) 19:32:05LlFFnbzA (10/16)

野の村「ふん、これでいいのか?」

低津監督「ありがとうございます。」

野の村「お前さんが監督とはな。」

低津監督「ははっ…」

野の村「やつに言っておけ。これ以上は待てないとな…」


12ヤクナカ ◆zrdihTOThA2020/02/09(日) 19:38:30LlFFnbzA (11/16)

試合当日、石海最後の試合とあって満員の人宮球場。開始前からまさおコールは響き渡っていた。
予想に反し、試合は投手戦となった。『スズメーズ』の野手陣もヒットは打つもののあと1本が出なかった。そして8回裏、2アウト打者として打席に立った石海は自らツーベースを放ちチャンスを作った。本来ならすでに変えられている。まさに気迫の一撃だった。


13ヤクナカ ◆zrdihTOThA2020/02/09(日) 19:41:25LlFFnbzA (12/16)

そして打席には『スズメーズ』のミスタートリプルスリー、森田が立った。そして森田もツーベースヒット。石海は全力で走りついに念願の1点をもぎ取った。

石海「最後もいかせて下さい!」

石海自らの志願で最終回の表も登板。


14ヤクナカ ◆zrdihTOThA2020/02/09(日) 19:49:27LlFFnbzA (13/16)

石海は何とか投げきり2アウトまで漕ぎ着けた。しかしもはや殆んど力が残っていなかった。フルベースのフルカウント、チームは石海と運命を共にする覚悟だ。

長い9回表、しかし2ストライクになるたびに鳴り響くあと1球コール。誰もが石海を信じた。低津監督はかつての自分を思い出していた。

石海「これが最後だ!」

投じた気迫のストレート、140キロにも満たない球だったが石海の気迫によりセンターフライに抑えた。守備堅めの下田がつかんでゲームセット。念願の200勝到達。彼はチームメイトから胴上げされた。


15ヤクナカ ◆zrdihTOThA2020/02/09(日) 19:52:46LlFFnbzA (14/16)

そこにはかつての盟友、館林などが駆けつけていた。そして共に偉業達成を喜んだ。

野の村「おい、最後どうなったんだ?メガネが曇ってよく見えん。」

実況「は?はい、最後はセンターフライでした。石海投手は見事に200勝に到達しました。」

野の村「ふん、待たせ過ぎなんだよ…」


16ヤクナカ ◆zrdihTOThA2020/02/09(日) 19:53:58LlFFnbzA (15/16)

『スズメーズ』の小さな大投手、そういわれたら誰もがこう答えるだろう。石海と!


17ヤクナカ ◆zrdihTOThA2020/02/09(日) 19:54:36LlFFnbzA (16/16)

終わりです。もちろんフィクションです。