254 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:02:55.4410IwYkZZo (59/194)

―――
――


【ライブハウス CiRCLE前】

 放課後が解散してからしばらく。

 明日のライブ会場、CiRCLEの前には唯の姿があった。


唯「なんとなくだけど来ちゃった……明日ここで、みんなとやるんだよね……」

 ライブハウスを前に、唯は一人、その決意を固めていた。


唯「あ……まりなちゃん」

 その時、フロントにいるまりなの姿を見かける。

 まりなに声をかけようと唯がドアの前に立ったその時、明日のライブの告知看板が目に入った。

 チョークで手書きされたそれにはRoselia、Afterglow、Pastel*Palettes、ハロー、ハッピーワールド!らの名前の他、明日出演する多数のバンドの名前が綴られており……。

 その中には、Poppin'Partyの名前と共に『スペシャルゲスト緊急参戦決定!』という煽り文句もはっきりと記されていた。


唯「ふふっ……スペシャルゲスト……かぁ♪」

声「あれ……? 唯……さん??」

 微笑みながらその看板を見ていた唯に向け、背後から声が投げ掛けられる。


255 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:03:40.6410IwYkZZo (60/194)

唯「……? あ、香澄ちゃん♪」

 声に振り向くと、そこにはPoppin'Partyの全員が驚いた表情で唯の姿を見ていた。


香澄「びっくりしたぁー……唯さん、こんばんわっ♪」

有咲「どうも、唯さん、お久しぶりです」

沙綾「唯さんこんばんわ、先日はどうもありがとうございました♪」

りみ「でも、一体どうして花咲川に?」

たえ「何かお仕事の関係……ですか?」

唯「あ~いや……うん、ちょっと用事でね……それで明日、香澄ちゃん達、ここでライブやるんだなって思って、寄り道してたとこなんだー」

 出演について律に口止めされていた事を思い出し、咄嗟に話を誤魔化す唯だった。


唯「香澄ちゃん達は? もしかして……こんな遅くから練習?」

有咲「いやいや、さすがにそんな事は……、まぁ、香澄の思い付きで立ち寄っただけですよ」

香澄「明日になる前に一度……私達が歌う舞台をみんなで見ておきたいと思ったんです」

沙綾「ここに来たら、気が引き締まるって思って来たんですけど……でもまさか今日、ここで唯さんに会えるとは思いませんでしたよ」

唯「ふふっ、そうなんだ……」

唯(香澄ちゃんたちも、私と同じ事考えてたんだね……♪)

 そして、次第に談笑の雰囲気も夜風に流れたかのように静まり返った頃……。


256 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:04:23.4410IwYkZZo (61/194)

香澄(――明日……ここで、唯さんに見てもらうんだ……私達の歌を……!)

唯(―――明日……ここで、香澄ちゃん達にも見てもらうんだね……私達の歌を……)

 胸に抱いた決意を確かめるように……唯と香澄達は、ただ無言でCiRCLEの建物を眺めていた。


唯「香澄ちゃん、明日のライブ……期待してるね♪」

香澄「……っ! はい! 私達、精一杯歌いますから、唯さんも応援、よろしくおねがいしますっ!」

唯「うんっ! 有咲ちゃんも、おたえちゃんも、りみちゃんも沙綾ちゃんも、みんな、がんばってねっ!」

一同「はーいっ♪」

 唯の声に明るい返事で応える香澄達だった。


香澄「それじゃ唯さん、お先に失礼します。明日、楽しみにしてて下さいね! あー、早く明日にならないかなぁ~、ねー有咲っ♪」

有咲「分かったからいちいち抱きつくな! ったく、浮かれるとすぐコレなんだから……」

唯「ふふっ……ほんと、みんな仲良しさんだねぇ」

 香澄達は足取り軽く帰路につく。

 その姿を静かに見送る唯に向け、今度は店内からまりなが声を掛けていた。


257 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:05:16.5610IwYkZZo (62/194)

まりな「……あれ、唯ちゃん??」

唯「あ、まりなちゃん、お疲れ様~」

まりな「あれは香澄ちゃん達……そっか、そういえば唯ちゃん、香澄ちゃん達とは知り合いだったんだよね」

唯「うん、前に職場体験で私の務めてる幼稚園にあの子達、来てくれた事があって、それでね」

まりな「そうなんだ……あははは、世の中って案外狭いんだね~」

唯「そうだねー、もうびっくりしちゃってさ」

まりな「あ、よかったら入ってく? 立ち話もなんだし、良かったらお茶ぐらい飲んでってよ」

唯「ううん、私ももう帰るところだったから大丈夫だよ、ありがとね♪」

まりな「そっか……ねえ唯ちゃん、ガールズバンドパーティーに出演を決めてくれて……私達に力を貸してくれて、本当にありがとうね」

 唯に向け、まりなは深く感謝の言葉を述べていた。


唯「そんな……私の方こそお礼を言わせて! またみんなで……放課後ティータイムで演奏できるきっかけを作ってくれて、こらちこそありがとうっ!」

まりな「うん……明日……あの子達だけじゃなく、放課後ティータイムにも期待してるからね」

唯「……任せて、あの子達にも負けないぐらいの演奏をしてみせるよ」

唯「りっちゃんも、澪ちゃんも、ムギちゃんも、あずにゃんも、凄く頑張ってたんだ……だから、明日はきっと最高のライブになるよ」

まりな「うん……楽しみにしてる、頑張って……ね」

唯「……へへへっ、うんっ♪」

 笑顔で言葉を発する唯のその瞳には、確かな決意と意思があった。

 明日への期待に胸を躍らせながら、唯は足取り軽く、家路を進む。


 そして……皆が待ち望んだこの日が遂にやってくる。


 彼女達の……少女達の様々な思い、希望、期待に満ち溢れたライブ。


 放課後と五色の輝きが交差するライブ……ガールズバンドパーティーは、いよいよ開催の日を迎えるのであった――。


258 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:07:05.7910IwYkZZo (63/194)

#6.放課後と輝きの交錯

 まさか、あの時の再会がこんなにも素晴らしい事になろうだなんて、あの時は誰にも想像できなかっただろうな……もちろん、私にだって想像できなかった。

 些細な偶然が折り重なり、そしてその偶然は、やがて運命と呼べる程に膨らんでいき、私達を巻き込んでいった。


 もうすぐ、始まる。

 私達の放課後が、始まる――!


259 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:09:47.6610IwYkZZo (64/194)

【花咲川駅前】

 ガールズバンドパーティー当日の早朝、花咲川の駅前には。始発電車で移動を済ませた唯達5人の姿があった。


唯「ん~~……ねむい……」

律「おい唯、しっかりしろー」

澪「これからリハなのに、大丈夫か?」

梓「ほら、唯先輩、起きて下さい」

紬「唯ちゃん、おきて~」

唯「ん~~~…………」

 眠い目を擦りながら歩く唯を引っ張りつつ、律達は人通りの少ない道を歩き、CiRCLEへと向かう。

 彼女達が早朝から集まった理由、それは、主役の少女達が集まる前に、ライブに向けたリハーサルを行うためであった。


260 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:10:29.4010IwYkZZo (65/194)

【CiRCLE ステージ】

まりな「や、みんなおはようー♪」

律「よ、まりな、今日は宜しくな」

まりな「うんっ♪ こちらこそよろしくね」

唯「んんん…………うわぁ~、広いステージだね~」

紬「唯ちゃん、やっと目が覚めたのね」

唯「うんっ♪ えへへへ、ステージ見たら一気に目が覚めちゃった」

律「唯も起きたことだし、それじゃー早速準備に取り掛かるか」

 律の声に合わせ、各々が楽器の調整に取り掛かる。

 そして数分後、演奏の準備が完了し、ステージ上にて放課後ティータイムのリハーサルが開始された。


まりな「それじゃあみんな、早速だけどお願いね」

律「ああ……みんな行くぞ。ワン、ツー、スリー!」

 ――♪  ―――♪

 楽器の具合、音の反響や照明のチェック、各メンバーの立ち位置など、細かい点を確認するようにリハは続けられる。

 途中、梓と律の確認により、中断を挟む場面も見られたが、それでも順調にリハーサルは行われていった。


 そして1時間程の時が流れ、5人の最後の曲も問題なく終えられた頃……。


261 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:10:57.6510IwYkZZo (66/194)

 ――♪ ~~♪

唯「ふぅ……どうにか演奏できたね」

澪「ああ、でも安心するのはまだ早いぞ、本番はあと数時間後なんだから」

律「ん~……4曲目の照明、もうちょっと落としても良かったかな?」

梓「はい……でも、あまり暗すぎると手元が見えづらくなりそうですよね」

紬「私は平気だけど……澪ちゃんや唯ちゃんは大丈夫かしら?」

 入念にチェックを重ねる5人に向け、曲を聴き終えたまりなから、称賛の声が上がる。


まりな「みんなお疲れさまー。凄いね……本当にここまでやってくれるなんて」

律「ふふ……感動すんのはまだ早いぞ~、なんたって本番はこんなもんじゃないからな~」

唯「うんうん、本番はもっと凄くなるよ♪」

まりな「うんっ、楽しみにしてるね」

律「じゃあ、私はもう少し残ってまりなと話詰めとくから、みんなは先に上がっててくれ。あんまりここに長居して、あの子達と鉢合わせたらマズいだろうしさ」

澪「そうだなぁ……RoseliaやAfterglowのみんなももう来るかも知れないし、私達は先に上がってようか」

唯「うん、それじゃありっちゃん、まりなちゃん、また後でね~♪」

紬・梓「お疲れさまでしたー」

 そして律を残し、唯達4人は退出する。

 律とまりなが話を進めていたその10分後、澪の予想通り、早速一組のグループが楽器を手にスタジオの扉を開いていた。


262 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:11:23.8810IwYkZZo (67/194)

友希那「おはようございます。Roseliaです、今日は宜しくお願いします」

律「っと、もう来たか……えらく早いな……」

まりな「あ、友希那ちゃん、おはよー。今日も一番乗りだね」

友希那「別に……ライブ当日の準備に念を入れるのは演者として当然の事ですから」

まりな「うんうん、感心感心。今日はよろしくねー♪」

律(ははは……すげぇやる気……)

 まだ開場まで3時間以上も時間があるというのに、彼女達は既に準備万端と行った様子でスタジオに入っていた。

 そんな友希那達……Roseliaの意識の高さに感心しつつ、律も退席を決めようと入口に向かう。


律「それじゃあまりな、後はよろしくね」

まりな「うん、それじゃあね」

律「っと、ちょっと失礼……」

リサ「あっ、すみません……」

 友希那達の横を通り、律はスタジオを後にする。

 そんな律の姿を片目で追いつつ、友希那達は本番前の最終チェックに臨んでいた。


263 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:12:20.7310IwYkZZo (68/194)

リサ「……? あの人は……」

友希那「リサ、集中して」

リサ「あ、うん……ごめん」

律(さすがRoselia……貫禄もすげえな……)

 単に隣を通り過ぎただけでも伝わる、Roseliaの気迫……彼女達が纏うその気迫には、大人の律ですら威圧されかねない程の雰囲気が滲み出ていた。

 そんな彼女達に漂う空気に一瞬だけ身が竦むを感じつつ、律は唯達との合流のため、CiRCLEの建物を後にする。


264 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:13:00.7610IwYkZZo (69/194)

―――
――


【ファミリーレストラン】

 朝食がてらに最後の打ち合わせをしようと集まったファミレス、そこに放課後ティータイムの姿はあった。

 まだ注文は済ませていないのだろう、各々の前には、未だに開かれたままのメニューが置かれていた。


律「よ、みんなお待たせ」

唯「りっちゃん、お疲れ様ー」

律「いやー、さっきスタジオでRoseliaと擦れ違ったけど……すげー迫力だったよ……ライブ前なのにあの気迫……もうプロ顔負けって感じでさ」

梓「……そんなに凄かったんですか、友希那さん達……」

律「ああ……ありゃー相当やべえぞ……私達も気合い入れて行かなきゃな」

澪「……律が珍しくやる気になってる」

律「あたしゃいつでもやる気十分だってのっ……てゆーか、腹減ったから早く何か頼もうぜ~」

紬「あ……私達はもう注文決めたのよ、りっちゃんは何にする?」

律「ああ、あたしカツ丼にする」

 朝食メニューとは別にあるメニューを開き、律は即答していた。


澪「朝からよくそんな重いもの食べれるな……」

律「早朝から深夜まで食い続けられる胃袋がなきゃ人気アイドルのマネージャーは務まらないんだよ」

唯「芸能関係のお仕事って大変なんだねぇ……」

 そして、呼び出しボタンを推し、店員にオーダーを済ませてからしばらく。

 朝食を済ませた彼女達は、最後の打ち合わせを始めていた。


265 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:15:05.4910IwYkZZo (70/194)

唯「それにしても……本当に凄いライブだね、朝から夕方までずっと続くなんてさ」

 まりなから受け取ったライブのパンフレットを手に、唯は率直な感想を述べていた。


梓「はい……大人ならともかく、高校生が主体のライブでここまで長丁場なのも珍しいですね」

律「代表の5バンドなんかは特に凄いよな……朝の部に昼の部と出演数も多く割り振られてるし……一体1日に何曲歌うんだ?」

紬「それだけ……代表のバンド演奏には期待が持たれてるって事なのね」

律「ああ……出演するバンドの数も凄いよなー、この辺のガールズバンド、ほとんど全員集合してんじゃないかってぐらいの数だ」

澪「こ、これだけ大勢のバンドがいる中で、スペシャルゲストとして出るんだよな、私達……」

 澪の声色が僅かに震える。

 今更緊張で怖気付いたという訳ではないが、それでも……今日のライブに出演するバンドと、そのバンドを応援をするために駆けつけた人の数を想像するだけで、僅かに身が縮むような感覚がしていた。

 そんな澪の様子をよそに、他の4人はライブへの期待をより強めていた。


266 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:15:40.5810IwYkZZo (71/194)

唯「ふふっ♪」

紬「うふふふっ♪」

律「へへっ……唯もムギもやる気だなぁ」

唯「うん♪ これだけ多くの人の前で演奏できるって考えると、なんだか楽しくなっちゃってさ」

紬「私もよ……私達の演奏を、私達が一番輝いてた頃の音をみんなに聴かせてあげられるのが、凄く嬉しくって」

律「はははっ、まー、ここで怖気づいてちゃ私ららしくないしなー、この日の為に散々練習もして来たんだし、今更緊張も何もないよなぁ」

梓「はい……精一杯、やってやるですっ」

澪「私も……もう怖くないぞ……ライブ会場の全員に見せてやるんだ、私達の演奏を……!」

 拳を握り込み、澪は決意を固める。

 そんな澪の姿に感化されたのか、唯と律は再びメニューを手に叫んでいた。


律「よーし! ライブの途中でバテない為にもまだまだ食うぞ~! トンカツ定食追加だぁ!」

唯「私もっ! チョコレートパフェもういっちょ!」

梓「……あの、お二人共……気合の入れ方、何か間違ってませんか……?」

 そうして、勢いのままにオーダーを済ませ、唯と律の2人は並べられた定食とデザートを瞬く間に平らげる。

 開場まで残り3時間……刻一刻と、着実にその時は近づいて来ていた。


267 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:16:29.7510IwYkZZo (72/194)

―――
――


【CiRCLE】

 一方、所変わってCiRCLEには、既に数多くの演者達が揃い、相次いで開演前の準備とリハーサルに勤しんでいた。

 特に大きなトラブルもなく開演準備は進められ……それからしばらく、各バンド共にリハーサルも一通り済んだ頃……。


まりな「はーい! それじゃあみんな、一度フロアに集まって!」

一同「はーーい!!」

 まりなの声に、今回の主役であるバンド全員がステージのあるフロアに結集していた。


まりな「遂にこの日が来たね……みんな、本当にありがとう!」

香澄「はい!! 私達も、この日を凄く楽しみにしてました!」

こころ「私もよ♪ まりな、今日は笑顔の溢れるライブにしてみせるわ♪」

彩「香澄ちゃんやこころちゃんには負けないよーっ、私達、パスパレも頑張ります!」

蘭「うん、この日の為に練習だって欠かさず積んできたんだし……私達、Afterglowも、最高の歌を届けますよ」

友希那「ええ……Roseliaだけじゃない……ここにいる全員の力で、最高のライブにしましょう……!」

 皆が皆、ライブに向けての期待を最高潮に高めていく。

 そして――。



268 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:19:09.5010IwYkZZo (73/194)

まりな「それじゃあみんな!! 今日はよろしく! これより、ガールズバンドパーティーを開催しますっ!!!」

全員「はいっっっ!! 宜しくお願いします!!」

 まりなの声に合わせ、ガールズバンドパーティーの開催が告げられる。

 そして、各メンバーの何人かが呼び込みや誘導、受付等に移り、次第にライブハウス内にも次々に人が入り乱れ、ますます賑わいを見せていく。

 そんな中、何人かの少女達は、今日来る筈のゲストの話をしていた。


美咲「そういえば、ゲストの方々はどうしたんでしょう、少なくとも、朝の打ち合わせには来てなかったですよね?」

麻弥「そうですね……一体、どんな人達が来てくれるんでしょう?」

有咲「まりなさんも教えてくれなかったし、まぁ気になるっちゃ気になるよなぁ」

ひまり「もしかしたら朝の内に会えるかもって思ったんだけど、残念だなぁ」

まりな「まぁ、せっかくのゲストだし、みんなにもギリギリまで秘密ってことでね。大丈夫だよ、心配しなくても、みんな来るからさ♪」

リサ(今日のゲストってもしかして……今朝すれ違った人じゃ……)

 顔に疑問符を浮かべる面々に向け、優しくまりなは答えていた。


蘭「……みんな、気になるのは分かるけど、いつまでも喋ってないで早く準備しようよ」

友希那「ええ、美竹さんの言う通り、今はゲストの方達の事よりも、自分達のライブに集中しましょう」

有咲「……友希那先輩の言う通りですね、それじゃ、私達も誘導行ってきます」

 友希那の声に同調するように各々は散会し、準備を進めていくのであった。


269 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:21:00.6910IwYkZZo (74/194)

【CiRCLE カフェテリア】

 CiRCLEの外に隣接されるカフェテリアもまた、既に多くの人の姿で溢れ返っていた。


声「今日のライブ、ずっと待ってたんだ~、ポピパの演奏、楽しみだな~♪」

声「AfterglowとRoselia、またカッコよく決めてくれないかな~、前にやってた2マンライブ、超盛り上がってたしさ」

声「パスパレにハロハピも見逃せないよねー♪ あー、待ち切れないよ~!」

声「そういえば……スペシャルゲストって誰が来るんだろ? 私、そっちも気になってるんだ!」

声「私も! レベル高いバンドだといいねっ♪」

 ドリンクを手に、推しのバンドの演奏まで時間を潰す者や、ライブへも興奮を抑えきれずにいる者など、様々な人で賑わうカフェを眺めながら、放課後ティータイムの面々は静かにその時を待っていた。


唯「うわぁ……凄い数の人だねぇ」

澪「ああ……本当に始まったんだな……」

紬「ふふふっ、ええ……楽しみになってきたわね……」

梓「緊張……じゃないですけど、なんだか体が震える感覚がします……武者震いって言うんでしょうか」

唯「ん~……りっちゃん、早く来ないかなぁ?」

 唯達が用事で離れた律を待つことしばらく……ようやく律はその姿を現す。


270 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:23:58.0610IwYkZZo (75/194)

律「よ、お待たせ」

唯「あ、りっちゃ……って、なーに? その格好」

梓「律先輩……随分雰囲気変わりましたね」

律「しゃーねーだろ、パスパレのみんなには今日出張でいないことにしてるんだし、変装ぐらいしないとすぐにバレちゃうからな」

 唯の指摘に律はワックスで整えた前髪をいじりながら言う。

 前髪を下ろし、服装も化粧も普段とは違う今の律の姿は、とても普段の彼女からは想像できない雰囲気を醸し出していた。


紬「うん、落ち着いた大人の女性って感じがして、私は良いと思うわ」

澪「ほんと、こういう格好してる時は律も別人だよな…………」

律「あの子達には普段スーツ姿で髪上げた格好しか見せてないからなぁ、これでグラサンでもかけりゃー……ほれ、ぱっと見で私とは分かんないっしょ」

 言いながら持参したサングラスをかけ、律は笑みを浮かべる。


唯「お~、りっちゃんかっこいい!」

律「へへんっ、だろ?」

 まるで有名モデルを前にしたような顔で唯は驚きの声を上げていた。


唯「そうだ! やっぱりあずにゃんもこうしようよ♪」

梓「ちょっ……唯先輩っ、何するんですか、やめてください!」

 おもむろにカバンからヘアゴムを取り出し、唯は器用に梓の髪を2本に纏めはじめる。


271 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:24:50.8010IwYkZZo (76/194)

唯「ふふふっ、練習の時もずっと思ってたんだけど、やっぱりあずにゃんの髪はこうでなきゃね」

澪「はははっ、梓のその髪型も懐かしいなぁ」

紬「うんうん♪ まだまだツインテールも行けるわよ、梓ちゃん♪」

梓「まったく……皆さん、歳を考えて下さい……さすがにこの歳でツインテールなんて恥ずかしいですよー」

律「あーずさ、諦めろ、私だって恥を忍んで髪下ろしてんだからな」

梓「律先輩と違って変装するわけじゃ……ああもう、分かりました、分かりましたよ!」

 渋々ながら梓はヘアゴムで髪をきちんと2本に纏め、昔の髪型を再現していた。

 その姿を感無量といった表情で唯は見つめ、和やかな空気が5人の間に流れていくのであった。

 そして……。
 

憂「お姉ちゃん、皆さん、どうも♪」

唯「あ、憂! みんな~♪」


純「やっほー、梓、元気だったー?って……うわ~、懐かしい髪型だね」

梓「純……髪のことは放っといてよ……」


菫「お姉ちゃん、皆様、いよいよですね」

直「みなさん、頑張って下さいっ」

紬「菫ちゃん、直ちゃんも、来てくれてありがと♪」

 憂達わかばガールズの面々も揃い、唯達サイドの面子も相次いで集合してきていた。


272 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:25:27.0910IwYkZZo (77/194)

和「みんな、先日はどうも」

唯・憂「あ、和ちゃん♪」

澪「和、和も来てくれたんだ」

和「ええ、秋山澪ファンクラブの会長として応援に来たわよ」

澪「ああ……ありがとう、和も楽しんでいってくれ」

和「そうだ、澪、あとで曽我部先輩も来るって言ってたから、来たら顔、見せてあげてね」

澪「曽我部先輩、懐かしいな……うん、必ず会いに行くって伝えといて」

 和の言葉に懐かしい顔を思い浮かべつつ、笑顔で返す澪だった。


梓「そういえば……純、頼んでおいた衣装は?」

律「そだそだ、私と澪がお願いしといた物も持ってきてくれたよね?」

純「はい、律先輩、澪先輩、こちらをどうぞ……梓も大丈夫、衣装はバッチリ仕上がってるよ♪」

 手に持った袋を澪と律に手渡しながら純は指で合図を送る。

 その指の先に視線を送ると、そこには、疲労困憊の様相でこちらに歩いてくる元顧問の姿があった。


さわ子「はぁ……はぁっ……みんなお待たせ……い、衣装なら……ここにあるわよ……」

律「うわっ、さわちゃん……どうしたのそのクマ……」

唯「髪もボサボサだし……一体何があったの?」

さわ子「これよこれ……今日までに仕上げるの大変だったわよ……」

 さわ子の手には大きめの紙袋が握られており、その中にはさわ子が今日の為に徹夜で仕上げた人数分の衣装が収められていた。


273 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:26:49.8210IwYkZZo (78/194)

さわ子「せっかくの元教え子達の再結成の晴れ舞台だもの……憂ちゃんと純ちゃんにも協力してもらって、徹夜して作ったのよ……」

唯「さわちゃん、こんなになるまで頑張って作ってくれたんだね……」

律「気持ちは嬉しいけど……また、とんでもない衣装じゃないよな……」

澪「と、とりあえず開けてみよう……」

 高校の頃の記憶が全員の頭を過る。

 さわ子が作った軽音部時代のライブ衣装……それらのほとんどが人前では着られないような衣装であり、当時の唯達ですら着るのを躊躇うような代物が多かった。

 そんな心配が脳裏を過るのを自覚しつつ、澪は恐る恐る衣装を広げていた。


澪「これは……Tシャツ?」

律「な~んだ、何の変哲もない普通のTシャツじゃん、別にそこまで苦労するようなもんじゃないでしょ?」

 肩透かし感を喰らいつつ、澪と律は口々に感想を述べる。

 2人の言う通り、それは一見すると何の変哲もない、無地の白いTシャツに見えた。

 しかし……。


唯「あれ、でも裏になにかスイッチみたいなのがあるね?」

梓「これは電池……ですか? 裾の辺りに何か入ってますね」

さわ子「いいから、一回着てみてご覧なさいな」

 さわ子に誘われるがまま、唯はTシャツを着込み、裾にあるスイッチを押す。

 ……すると。


274 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:27:30.0410IwYkZZo (79/194)

律「うわっ! ひ、光った!」

唯「えー? 私からじゃうまく見れないよぉ~」

澪「凄い……一見すると無地のTシャツなのにこんなに明るくなって……これ、LEDで光るTシャツだったんですね」

紬「このデザインは……懐かしいわ……学園祭ライブのTシャツですね」

梓「わぁぁ……凄く、凄く良い衣装ですよ、これ!」

さわ子「ふふっ、みんなのその顔が見たかったわぁ……」

 さわ子が用意した衣装、それは無地の白いTシャツに紫色の星が黄色く縁取られたデザインが施され、その前面には大きく『HTT』という文字が描かれた、唯達にとって思い出のTシャツだった。

 まさしくそれは10年前、放課後ティータイムが高校最後の学園祭で演奏した際に着ていた衣装を再現したものであったが……。

 しかし、それは単なる再現ではなく、Tシャツの各所にLEDが埋め込まれ、スイッチ一つで発光するという、10年前よりも遥かに進化した衣装となっていた。


さわ子「苦労したのよー、1週間しか時間なかったんだし、今日なんてもう寝ずに仕上げてそのまま来たってわけ」

律「さわちゃん……」

澪「先生……あ、ありがとう、ございます!」

紬「ステキな衣装ですね……ありがたく着させてもらいますっ!」

さわ子「ええ、私にここまでさせたんだから頑張りなさいよー? みんなの演奏、あなた達の元顧問として……軽音部の先輩として、しっかりと観させてもらうからね」

唯「さわちゃん先生……」

さわ子「唯ちゃん、あなたの歌も、楽しみにしてるわね」

 疲労の中にも確かな期待が宿るさわ子の眼に、全員の顔が強く引き締まる。

 それと同時に、さわ子と過ごしたかつての記憶が律達の中で思い起こされていた……。


275 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:28:24.5410IwYkZZo (80/194)

律(……そういや、さわちゃんって昔っからこうだったよな……)

澪(ああ……3年間、いつも私達のことを見守ってくれていて……)

唯(ギターが下手だった私にいっぱいギターを教えてくれたり……ライブの衣装を人数分作ってくれたり、ロンドンにも応援に来てくれたよね)

紬(ええ……合宿に来てくれたり、夏フェスにも連れて行ってくれて……私の淹れるお茶をいつも美味しそうに飲んでくれてたのも、さわ子先生だったわ)

梓(どこか抜けてて、それでもかっこ良くて……先生っていうよりも、まるで歳の近い先輩みたいな感じで、気付いたらいつも私達と一緒にいてくれましたよね……)


さわ子「……? みんな、どうかしたの?」

律「ううん、いや、ちょっと昔を思い出して……」


律「……さわちゃん、ありがと……さわちゃんの想い、確かに受け取ったよ」

さわ子「……? ええ……私がいて、みんながいた頃の軽音部……桜高の軽音部魂を、会場中に集まってる若い子達に見せつけてあげなさいっ」

唯「うんっ! 私達に任せて!」

律「よーっし! みんな、準備は整ったし、行くか!」

一同「うんっ!!」

 眼前の恩師の言葉に、5人は力強く返す。

 その言葉に合わせ、憂達からもエールが送られる。


276 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:29:55.9010IwYkZZo (81/194)

憂「お姉ちゃん、私達も応援してるからねっ」

唯「うんっ! 憂、純ちゃん、和ちゃん……ありがとう!!」

紬「菫ちゃん、直ちゃん、私達の演奏、最前列で見ててねっ♪」

直「はい! お気をつけて!」

菫「うん! それじゃあお姉ちゃん、先輩方、また後で!」

一同「皆さん、頑張ってくださーい!」

唯「はーい! みんな、行ってくるねー!」

 そして、さわ子から託されたTシャツを着たその上に上着を羽織り、放課後は歩き出す。

 揚々とした素振りでライブハウスへ進む放課後に向け、あらん限りの声援が投げ掛けられる。

 1人の先輩と親友、そして4人の後輩……多くの人々の期待を背に彼女達は、その舞台へと大きく足を進ませていた――。


277 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:30:31.8110IwYkZZo (82/194)

―――
――


【CiRCLE 受付】

 CiRCLEの受付前、そこは既に多くの人で賑わっていた。

 引っ切り無しに人が往来する中、受付と誘導の手伝いに来ていたPoppin'PartyとPastel*Palettesの面々もまた、来る客の誘導と応対に追われているのが伺える。

 多くの人が入口付近で沙綾と有咲の誘導に従って列を作り、その先の受付では、彩と日菜の2人が笑顔を絶やさず接客を行っていた。


沙綾「はーい、皆さん列を乱さないようにお願いしまーす! って、あ、唯さん!」

唯「や、沙綾ちゃん、やっほー♪」

有咲「どうも唯さん、今日は遠くから来て下さってありがとうございます……そちらの方々は?」

唯「うん、私のお友達も呼んできたんだ、有咲ちゃんもお疲れ様、頑張ってるね」

 自分の後ろに並ぶ律達を軽く紹介し、誘導に従って唯も並び始める。


沙綾「皆さん、今日は早くから来ていただいてありがとうございます。唯さん、香澄ならもう下にいると思いますよ」

唯「うん、あとで顔見に行くよ、ありがとね♪」

 次第に列は進み、そして程なく、彩の前へと唯達は進んでいった。


278 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:31:16.4910IwYkZZo (83/194)

女性「彩ちゃん、今日も応援してるよ、頑張ってね!」

彩「はいっ♪ ありがとうございますっ! では、奥へどうぞ♪」

唯「…………あ、あの! 丸山彩ちゃん……ですよね?」

彩「はいっ? あ、えっと……」

唯「あ、あのその……サ、ササササインをを……」

彩「え? あっ、はい」

律「うおっほんっっ! あの、詰まってるんだけど……」

 どこに隠し持っていたのか、唯が懐から色紙を取り出し、流れで彩がペンを持とうとしたうとしたその刹那、背後から物凄い剣幕で咳をする律の声が響いていた。


唯「あっ! す、すすすすみましぇんっっ!」

彩「……え? あ、特別客の方ですね、そのまま奥へどうぞ♪」

 その威圧感に押し出されるようにして、唯は予めまりなから手渡された特別チケットを彩に手渡し、背後の律に背中を押されながら受付を済ませていた。


律「ったく……あ、どうも」

彩「……??」

日菜「………あれは…………ふふふっ♪ ……おねーさん♪」

律「ん……?」

 律の姿を見かけた日菜が含み笑いを絶やさず、優しく声をかける。


279 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:31:56.7810IwYkZZo (84/194)

日菜「ライブ、楽しんでってくださいね♪」

律「あ、ああ……ありがと……」

律(受付、日菜ちゃんもいたのか……バレてない……よな)

 努めて冷静に、クールを装いながら律は日菜に言葉を返す。

 そんな律に送られる日菜の視線を受け流しつつも、5人はライブハウスの奥へと歩を進めていった。


彩「……あの人達、なんだか不思議な人だったね」

日菜「あれ? 彩ちゃん、気付かなかったの?」

彩「えっ、な、何のこと?」

日菜「ふふふっ……♪ ライブ、頑張ろうね~♪ るんるんっ♪」

彩「…………???」


280 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:32:24.5310IwYkZZo (85/194)

【CiRCLE ラウンジ】

律「ゆーーーいーーーーーっっ」

 ――ぎゅうううう………


唯「いひゃいいひゃい……! りっひゃん……ご、ごごごごごめんなひゃいいいいぃぃぃ!!」

紬「ほらほら……りっちゃんもそのぐらいにして……」

律「ったく……後で彩ちゃんにもキツく言っとかなきゃな……あんま安売りすんなっていつも言ってんのに……」

 先程の唯の問題行動に対し、怒り心頭の様相で律は唯の頬をつね上げていたが、紬の声により、その手は開放される。

 そして当の唯は、涙目で赤くなった頬を擦っていた。


唯「あーずにゃーん、みおちゃあぁぁん……痛かったよぉぉ」

澪「まったく……さっきのは唯が悪いと思うぞ」

梓「同感です」

まりな「あ、みんなー♪ 今朝はどうもね」

唯「あ、まりなちゃん♪」

 まりなの声に涙目から一変し、唯の顔に笑顔が戻っていた。


281 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:32:57.1310IwYkZZo (86/194)

律「よ、まりな、どうかしたの?」

まりな「うん、もうすぐ最初のバンドの演奏が始まるんだけど、ポピパやパスパレの演奏まではまだ少し時間あるからさ」

まりな「今のうちにみんな、知り合いの演者の子達に挨拶とか激励とか、行ってきてあげたらどうかなって思って」

唯「え、いいの?」

まりな「うん、本当は関係者じゃなきゃダメなんだけど、放課後ティータイムのみんなは特別ってことでね」

律「そうだなぁ……って言っても私は行けないからな……あ、そうだ」

 思いついたように律は手に持った袋をまりなに手渡す。


律「まりな、これ、あの子達に差し入れ持って来たんだ、あとでパスパレのみんなに届けてくれないかな?」

まりな「うん、いいよー」

澪「私も、Afterglowのみんなに差し入れ持ってきたんだ、喜んでくれるといいけど」

紬「ハロハピの演奏までまだ時間あるし、私、こころちゃん達に挨拶してくるわね」

唯「私も、ポピパのみんなに挨拶してこよっと♪」

梓「じゃあ、私と律先輩はここで待ってますね」

唯「あれ、あずにゃんは行かないの? Roseliaのみんなと知り合いだったんでしょ?」

梓「あの人達には激励とか、そういうの不要だと思います、友希那さん達の演奏、1回目は最初の方ですし……今行ったら邪魔になると思いますので」

唯「あ、そうなんだね」

梓「はい、ですから私にお構いなく、唯先輩達は皆さんの挨拶に行ってきて下さい」

唯「うん、わかったよ、じゃあまたあとでねー!」

 そして、律と梓の2人を残し、唯、澪、紬の3人は、それぞれがそれぞれの縁ある少女達の元へと向かって行くのだった。


282 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:34:00.7510IwYkZZo (87/194)

―――
――


-ライブ開始前 Pastel*Palettes-


【控室】

 受付をCiRCLEのスタッフと代わり、彩達Pastel*Palettesの面々は控室でメイクのチェックに勤しんでいた。


まりな「みんな、いるかな?」

彩「あ、まりなさん。どうかしたんですか?」

まりな「うん、さっきそこでファンの人から差し入れ届けてもらうように頼まれたから、ここに置いとくね♪」

まりな「あ、もちろん中はちゃんとチェックしてあるから、そこは安心してもらっていいからね」

千聖「わざわざすみません、ありがとうございます」

 まりなに礼を言い、日菜と麻弥は差し入れの袋を開ける。

 袋の中には、以前日菜の話にも出た、桜が丘の喫茶店のパンが詰め込まれていた。


283 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:35:28.6610IwYkZZo (88/194)

日菜「あ~~、これ、前に律さんと食べた喫茶店のパンだ~~♪」

麻弥「へぇー、それが日菜さんが前に言ってた、桜が丘の喫茶店のパンですか」

日菜「うんうん♪ 前にお姉ちゃんもおみやげに買ってきてくれたし、本当にここのパンって、ルンっ♪って味がするんだよね~♪」

イヴ「どんな味がするのか、楽しみですっ」

千聖「そうね、あとで休憩の時にでも頂きましょうね」


日菜「ふふふっ♪ あーー、そっか……そうだったんだね♪」

彩「……日菜ちゃん、さっきからすごくご機嫌だね……ほんと、どうしたんだろ?」

日菜「ねえ、みんなー♪」

千聖「日菜ちゃん、どうしたの?」

日菜「ライブ、がんばろうねっ!」

彩「日菜ちゃん……うんっ! もちろんだよ!」

イヴ「はいっ! 緊褌一番、私も頑張ります!」

千聖「ふふっ……日菜ちゃん、なんだか今日はいつも以上に燃えてるわね」

麻弥「ハイ……何か、良いことでもあったんでしょうか?」

日菜「……♪ 今日は楽しいライブになりそうだなぁ~♪」

 日菜の眼が一段と輝く。

 普段以上にやる気に満ちた日菜のその意図は4人には読めないが、それでも日菜の言う通り、今日は楽しいライブになるだろうと彩達は予感していた。


284 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:36:12.3810IwYkZZo (89/194)

―――
――


-ライブ開始前 Afterglow-

【控室前】

澪「……差し入れ持ってきたはいいけど、ライブ前でみんな集中してるだろうし、私なんかが入ってみんなの邪魔にならないかな……」

ひまり「……あれ? み、澪さん!?」

澪「……? あ、ひまりちゃん、どうも」

 声に振り向くと、今まで髪のセットをしていたのだろう、ヘアスプレーを片手に衣装を着込んだひまりが澪の前に立っていた。


ひまり「やっぱり澪さんだ! お久しぶりです、今日は来て下さってありがとうございますっ♪」

澪「うん、久しぶり……ひまりちゃん、元気そうだね」

ひまり「はい、そりゃあもう……あ! そうだ、もし良かったら中へどうぞ、みんなもきっと喜んでくれると思います!」

澪「いいの?」

ひまり「はい、大丈夫ですよ♪」

澪「……ありがとう、それじゃ、失礼します」

ひまり「みんなー! 澪さんが応援に来てくれたよっ!」

モカ「も~、ひーちゃん騒ぎすぎー……って、お~~、澪さんだ~」

 勢いよく扉を開け、ひまりは澪を中に招く。

 既に準備は終えられたのだろう、控室には、衣装をバッチリと決めたAfterglowの姿があった。


285 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:36:54.0310IwYkZZo (90/194)

澪「みんな久しぶり、ふふっ、準備万端って感じだね」

モカ「澪さん、どうも~♪」

蘭「……こんにちわ」

巴「どうも、ご無沙汰してます、今日は来てくれてありがとうございます!」

つぐみ「澪さんお久しぶりですっ♪ 今日は楽しんでって下さいね」

澪「うん。みんな、誘ってくれて本当にありがとう……はいこれ、差し入れ持ってきたんだ、良かったらどうぞ」

 律がまりなに手渡したのと同じ袋を澪はひまりに手渡す。

 その中は言うまでもなく、以前Afterglowとの話に上がった、桜が丘の喫茶店のパンが入っていた。


ひまり「わあぁ! ありがとうございますっ! みんなー! 澪さんが差し入れ持ってきてくれたよ!」

モカ「おぉぉぉ、これは……まさしく桜が丘の喫茶店のパン……あ、ありがとうございますーー♪」

巴「これ、前にあこが買ってきてくれて、それからまた食べたいと思ってたんだ……澪さん、ありがとうございます!」

つぐみ「これがモカちゃんの言ってたパンなんだね、私も気になってたんです……澪さん、ありがとうございますっ♪」

蘭「モカ、今食べちゃダメだからね……澪さん、本当にありがとうございます」

巴「今日はみんな精一杯やりますから、ぜひ最後まで聴いてって下さい!」

澪「うん、楽しみにしてるよ。みんな、頑張ってね!」

一同「はいっ!!」

 これ以上邪魔をするのも悪いと思い、早々に澪は控室を後にする。

 その姿を見送り、5人は口々に言葉を交わしていた。


286 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:37:28.5610IwYkZZo (91/194)

ひまり「澪さん……本当に来てくれた……良かったぁ~」

つぐみ「ふふっ……ひまりちゃん、本当に嬉しそうだね」

ひまり「ぅぅ……だってぇ~」

巴「はははっ、ひまりがここまで誰かのことを気に入るなんて珍しいよな」

モカ「ねーねーひーちゃん、さっきから澪さんの事ばかり推してるけど、薫先輩はいいのー?」

ひまり「違うの! 薫先輩は薫先輩でカッコいいけど、澪さんはまた違う意味でカッコいいんだよー!」

つぐみ「うんうん、ひまりちゃんの言いたいこと、私も分かるよっ」

 そして……。


ひまり「今度はちゃんと決めるからね、みんな、いい?」

 今日に関しては拒否権は無いと、ひまりの眼がそう語っている。

 その様子に根負けし、やれやれといった様子でこれからやることを蘭達は承諾していた。


蘭「まぁ、今日ぐらいはいいか」

モカ「よかったねーひーちゃん、今日は蘭も乗ってくれるみたいだよ~」

蘭「モカもやるんだからね」

モカ「はーい♪」

巴「よっし、それじゃあやるか! ひまり、景気よく頼むぞ」

つぐみ「ふふっ、こうして揃えるのもなんだか新鮮だね」

ひまり「よーーし! みんな、行くよ! えい! えい……おーー!!」

一同「おーーっっ!!」

 ひまりの声にハモるように、活気の良い掛け声が控室に響き渡る。

 彼女達の出番は、すぐ近くまで迫っていた。


287 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:37:59.7310IwYkZZo (92/194)

―――
――


-ライブ開始前 ハロー、ハッピーワールド!-

【控室】

紬「失礼しまーす、こころちゃん達、いるかしら?」

 紬はそっと控室の扉を開ける。

 扉の前に映る彼女の姿を見て、控室の中からは歓喜の声が上がっていた。


こころ「あら、紬……? やっぱりそうよ、紬だわ♪ みんなー! 紬が来てくれたわよ♪」

紬「こころちゃん、それにみんなもお久しぶり、お元気そうね♪」

花音「わぁ……紬さん、今日は来てくれてありがとうございますっ」

はぐみ「ムギちゃん先輩! こんにちわ!」

薫「これはこれは、紬さん、どうもご無沙汰してます……ああ、今日もお美しい……」

ミッシェル「薫さん、そういうのいいから……あ、ええと……」

 紬の姿を見ては若干言葉を詰まらせるミッシェル(美咲)だった。

 一応設定上は初対面だということもあり、どう反応すればいいのか迷っていたが、咄嗟にこころが双方のことを紹介していた。


288 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:39:02.8210IwYkZZo (93/194)

こころ「そういえば、ミッシェルは初めてだったわね、紹介するわ、こちらは琴吹紬、私の小さい頃からのお友達なのよっ♪」

こころ「紬、この子はミッシェルっていうの♪ ハロー、ハッピーワールド!のメンバーなのよ、すっごく可愛いでしょ♪」

紬「ミッシェル……? あ、そういう事ね……」

 こころに紹介され、紬はまじまじとミッシェルを見る。

 そして、何かを察したのか、ミッシェルに近づき……。


紬「ええと……美咲ちゃん……よね? 今日は頑張ってね♪」

ミッシェル「あははは、紬さんには分かりますか? はい、どうもありがとうございます、紬さん」

 即座に気ぐるみの中に誰が入っているのかを当て、紬はミッシェルの中にいる美咲にそっと耳打ちしていた。


289 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:39:33.7510IwYkZZo (94/194)

こころ「紬、今日は最高のライブにするから、ぜひ楽しんでいってね♪」

紬「ええ、私も菫ちゃんと一緒に応援するから、ハロハピのみんなも頑張ってね!」

一同「はいっ!」

こころ「ふふふっ♪ 出番が待ちきれないわ~♪ 早く来ないかしら♪」

花音「ふふっ、こころちゃん、凄く楽しそうだね」

薫「私も心と身体が震えるようだよ……ああああ……儚い……こんなにも儚いだなんて……最高の気分だ……!」

はぐみ「うんっ♪ はぐみもがんばるよ! ムギちゃん先輩とスミーレ先輩に、かっこいいとこ見せてあげなきゃ♪」

ミッシェル「はははは、みんな気合十分だね……かくいう私もちょっとだけ燃えてきた……かな」

 紬の激励により、いつも以上に活気に満ち溢れる様子の5人だった。

 そして……。


こころ「みんな、行くわよ~♪ ハッピー♪」

はぐみ「ラッキー!」

薫「スマイル!」

全員「イェーイ♪」

 手を取り合い、お決まりのフレーズを口にする5人。

 その表情は、会場にいる誰よりも眩しい笑顔で埋め尽くされていた。


290 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:40:07.4810IwYkZZo (95/194)

―――
――


-ライブ開始前 Poppin'Party-

【CIRCLE ラウンジ】

 客の誘導を終え、ラウンジの一角に香澄達は集まっていた。


唯「あー、いたいた……香澄ちゃん、こんにちわ♪」

香澄「唯さん! 今日は来てくれて本当にありがとうございます!」

 唯の突然の声に笑顔で香澄達は声を返す。

 その表情には先程の誘導の疲れは微塵も感じられず、むしろ活き活きとした表情に包まれていた。


たえ「唯さん、今日は精一杯演奏するので、ぜひ最後まで聴いていって下さい」

りみ「あの、みんなこの日のために一生懸命頑張ったんです、よかったら感想とかも聞かせてくださいっ」

有咲「わ、私達も頑張ってやりますんで、その……期待してて下さい……」

紗綾「あははは、有咲ったら顔硬すぎ、もしかして緊張してる?」

有咲「う、うっせー! ここまででっかいライブって初めてだし、なんか緊張すんだよ……」

香澄「あーりさ、えいっ!」

有咲「ひゃっ!」

 緊張で硬くなっていた有咲に向かい、背後から香澄が抱きついていた。


291 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:43:09.4710IwYkZZo (96/194)

有咲「か、香澄!! 予告なく急に抱きつくな!」

香澄「そっか、じゃあ次からは予告してから抱きつくね?」

有咲「そ、そういう問題じゃねーっ!!」

紗綾「あはははは! 香澄のおかげで有咲の緊張も解けたみたいだね♪」

唯「ふふふっ……みんな楽しそう、私も前はそうだったなぁ~♪」

唯「私があずにゃんに抱き着いて、それで困った顔してて、澪ちゃんやりっちゃん、ムギちゃんがそれ見て笑ってくれてて……懐かしいなぁ」


有咲「ほら見ろ、唯さんに笑われてんじゃねーかっ」

唯「あ、ううん、違う違う……みんな凄く良い顔してるよ、うん♪」

香澄「唯さん……」

唯「私も客席でたくさん応援するから、みんな頑張ってね!」

一同「はい、ありがとうございます!」

唯「それじゃあ、またあとでねー♪」

 そう言い残し、唯はフロアへと戻っていく。

 その姿を見送った香澄達の中に、確かな熱が込み上げていた。


292 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:46:00.4610IwYkZZo (97/194)

香澄「唯さん……ありがとうございますっ!」

たえ「ふふふっ……ねえみんな、少し早いけど、久々にあれ、みんなでやらない?」

沙綾「お、いいね♪ あれ、結構気合入るよね」

りみ「うん♪ じゃあ、円陣組んでやろう♪」

有咲「別にいいけど、何もここでやらなくても……」

香澄「ううん、私も今やりたいって思ってたんだ♪ じゃあ行くよ、せーのっ」

一同「ポピパ! ピポパ! ポピパパ! ピポパ!! いぇーい!!」

 5人の声が綺麗に重なり、それぞれの笑顔が咲き乱れる。

 香澄達の想いは一つになり、ステージでは、一組のバンドの演奏が始められる。


 少女達の待ちに待った宴が、いよいよ始まった瞬間であった――。


293 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:51:40.1610IwYkZZo (98/194)

―――
――
― 


-ライブ開始前 Roselia-

【Roselia 控室】

 ステージの演奏が微かに聴こえる控室に、Roseliaの姿はあった。

 言葉を介する事もなく、静かに来るべき時を待つ彼女達の熱意と集中力は、既に極限まで研ぎ澄まされていた。


歌声「~~♪ ――――っっ♪」


紗夜「始まりましたね……皆さん、次で出番ですけど、調子はどうですか?」

燐子「はい……いつでも行けます……」

あこ「あこも準備オッケーです! こう……闇の波動があこの体中を駆け巡るっていうか、そんな感じです!」

リサ「あはははっ、あこは相変わらずだなぁ……うん、アタシもいつでも行けるよ」

友希那「私も、問題ないわ」


294 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:52:16.7210IwYkZZo (99/194)

リサ「ああ、そういえばさっき、梓さんに似た人見かけたんだ」

あこ「え? ほんとに?」

リサ「うん、前に会った時みたいにスーツ姿じゃなくて私服姿だったけど……あの人、今日来てくれたのかなって思ってさ」

燐子「梓さん……確か……ご両親とジャズバンドをやってるって言ってましたね……」

リサ「うん、もしそうだったら、今日、本当の音楽のプロの人に私達の演奏を見て貰うってことだよねぇ……いやー、なんか緊張しちゃうよね」

紗夜「今井さん、それは違うと思うわ」

友希那「ええ、紗夜の言う通りよ、たとえ今日誰が来ようが、私達は私達の最高の演奏をするだけ……そうでしょう?」

リサ「そうだね……ごめん。友希那や紗夜の言う通りだね」

 今更何を言っているのかと、自身の言葉を反省するリサだった。


友希那「みんな、お喋りはそのぐらいにしましょう……そろそろだわ」

スタッフ「お待たせしました、Roseliaの皆さん、スタンバイをお願いします!」

友希那「みんな、行くわよ…………!!」

一同「はい!!」

 友希那の声に合わせ、リサ達は相次いで立ち上がり、ステージへと移動を開始する。


 そして、彼女達のライブの幕が今、大きく開かれる――!


295 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 01:59:24.2810IwYkZZo (100/194)

#7.放課後と輝きの五重奏

 ――そこは、様々な輝きで満ち溢れていた。

 夢が、今が、笑顔が、情熱が……そして、純粋に音楽を愛する輝きがそこにあった。

 5つの輝きはやがて1つの大きな星となり……ステージを……そして、“彼女達”を照らしだす。

 “彼女達”の歌が会場中に響き、そこから生まれた新たな輝きは全てを照らし、想いが一つになる……。


 ステージの上で歌うみんなの姿に、私は何度となく感謝の声を上げる。

 みんな……本当にありがとう――!


296 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:00:48.1110IwYkZZo (101/194)

―――
――


 ライブが始まってから既に3組のバンドによる演奏が終了した。

 演奏が終わってからの僅かな時間、ステージ上にはスタッフの手により、急ピッチで次のバンドの演奏準備が進められる。

 そして数分後、本日4組目となるバンドが登場した。
 
 今日の主役の一組であり、数多の観客が注目するバンド。


 ――青き薔薇を掲げし少女達、Roseliaである。


-4組目 Roselia-

【ステージ】

声「あ……! 見て、Roseliaよ!」

声「きゃああああっっ!! 友希那ぁーーーーっっ!!」

 Roseliaの登場にフロアは一気に沸き、飛ぶような歓声が会場中から飛び交う。

 その歓声に動じる気配を微塵も見せず、スポットライトを浴びる友希那の声により、Roseliaのライブは幕を開けた。


友希那「皆さん、今日は来てくれてありがとうございます、Roseliaです」

友希那「まずは一曲目、聴いて下さい……『BLACK SHOUT』……!」




297 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:02:04.3910IwYkZZo (102/194)

 ――ワァァァァァァーーーー!!!!

 ――Roselia!! Roselia!!!


 Roseliaの演奏を皮切りにフロアは大熱狂に包まれる。

 そんな様子を後方で見ていた唯達5人もまた、会場の熱気に取り込まれていた。


梓「始まった……これが、友希那さん達の歌……!」

律「うおぉ……! 見ろよこの盛り上がり、さっきのバンドとは比べ物にならねえ熱狂……さすがRoselia、評判以上のバンドだ……!」

澪「ああ……歌だけじゃなく、演奏技術も恐ろしく高い……メンバー全員、この日の為に何度も練習を重ねてるのがよく分かるよ……!」

唯「うんっ! すごく……すごく……か、かっこいい……!!」

紬「梓ちゃん……前で食い入るように見てるわ、私達も行きましょう!」

梓(凄い……! これが本当に高校生の演奏なの……? 昔の私達とは比較にならない程のテクニックと歌唱力……これがRoselia……!! 友希那さん達の、目指す音楽……!!)

 友希那の歌だけでなく、その後ろで一心不乱に奏でられるリサ、あこ、紗夜、燐子の音は確実に会場中の心を支配していく。

 その歌の力は梓の心すらも強く揺さぶり、梓が心の奥底に抱えていた自身の音楽に対する迷いすら、容易く氷解させる程の力を秘めていた。


梓「…………!! 友希那……さん……!!」

 心臓の鼓動が抑えられない……! 鳥肌が止まらない……! 音が、声が、暴力的なまでに耳を通じ、心に入り込んでいく……!

 Roseliaの放つ強く、鋭く、眩しい輝きが、梓の音楽家としての魂を燃え上がらせて行く……!


298 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:03:40.8510IwYkZZo (103/194)

梓「ロゼリア…………私も……負けない……っっ!」

梓「唯先輩!! 私も燃えてきました!! あの人達に……ここにいる全ての人に、私達の素晴らしさを……私達の輝きを、見せつけてやりましょう!!」

 ステージ上で熱唱する少女達を見つつ、音楽家としての矜持を掲げ、梓は高らかに言い放つ。


唯「あずにゃん…………っ うん! やるよ、私も……燃えてきたっ!」

梓(早く……この胸に灯った火が冷めない内に……私も……早く……ステージに上がりたい……!)

 1曲目が終わり、続いて始められる2曲目の演奏。これもまた、フロアにいる全員のテンションを最高潮に高めていく。

 途中でメンバー紹介を挟みつつ続けられる演奏は、観客の中に更なる興奮と感動を呼び――。

 その興奮に身を委ねながら出番を待つ梓の心もまた、完全に会場と一つになっていた。

 そして……。


299 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:04:12.7510IwYkZZo (104/194)

友希那「ありがとうございました……! 引き続き、ガールズバンドパーティーをお楽しみ下さい!」

リサ・紗夜・あこ・燐子「皆さん、ありがとうございました!!」

 ――ワーワーワー!!

 ――Roseliaありがとうーーー! 昼の部も期待してるからねーーー!!!


声「いやぁ~、来て良かった! やっぱRoselia凄いわ!」

声「うんうん、確か『FUTURE WORLD FES.』にも参加決まったんでしょ、私、絶対に行く!」

声「くううぅぅぅぅっっ! 私、まだ鳥肌が止まらないよ~~!!」

澪「凄いな……お客さん、演奏が終わってからもまだあんなに興奮してる……」

律「ああ……ほんと、ここまでやるなんてすげーよ……いやマジで」

紬「私も燃えてきたわ! ねえ次は! 次は誰の演奏なの?」

唯「ちょっと待ってて……あ、次、パスパレだよ! りっちゃん! 前で見ようっ♪」

律「ああ……分かった……って唯! 引っ張るなーっ!」


300 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:04:56.6110IwYkZZo (105/194)

―――
――


-5組目 Pastel*Palettes-

彩「皆さんどうも! Pastel*Palettesでーす!」

彩「いや~、Roseliaの皆さん、凄い演奏でしたよねー。でも私達も負けないから、みんなよろしくねっ♪」

彩「じゃあ一曲目、行きますっ♪ 聴いて下さい、『しゅわりん☆どり~みん』!」




 先程とは一変し、和やかな演奏がフロアを賑わせる。

 色とりどりの照明に照らされ、楽しく歌う彩達に合わせ、会場の至る所で合いの手や掛け声が上がっていた。

 それはまさに、夢見る少女達のライブ……。

 彼女達のマネージャーである律も初めて見る、バンドとしてのパスパレが紡ぐ、大きな夢の輝きだった。


唯「彩ちゃ~ん♪ こっち向いて~!」

澪「パスパレのライブ、私も初めて見たけど、なかなかやるじゃないか」

紬「ええ……みんな、凄く楽しそう♪」

梓「演奏も凄く上手ですね、律先輩の教えが活きてるって感じがしますっ」

律「ははははっ、だろだろ~♪」

彩「ありがとうございましたー! それではここで、メンバーの紹介をさせていただきます♪」

 1曲目も終わり、彩のMCによるメンバー紹介が行われる。

 固くなく、それでいて砕けすぎでもない空気で場を和ませながら、彩はメンバー紹介を進めていった。


301 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:05:56.3010IwYkZZo (106/194)

彩「えー、それでは最後は私、まんまるお山に彩を! 丸山彩でーす♪」

声「あははっ! 彩ちゃんかわいい~♪」

唯「ん~~、彩ちゃん今日もステキ……見れて良かったぁ~♪」

澪「ふふっ……唯も凄く楽しんでるな」

律「ああ……っ……まったく、会場中がこんだけ盛り上がってるのを見ると、ほんと、マネージャー冥利に尽きるよなぁ……っ……」

 涙腺が熱を帯びる感覚を覚え、口元を優しく綻ばせながら律は目元のサングラスをかけ直す。

 2曲目、3曲目と歌は続けられ、その度に歓声が響き渡る。

 会場全体が一つになってPastel*Palettesを応援するその光景は、誰よりも彼女達を近くで見守っていた律の胸に、熱いものを込み上がらせていた。


律(みんな、頑張れ……! 頑張れ……っっ!)

 決して声には出さず、それでも律は懸命にエールを送る。

 そのエールが届いたのか、Pastel*Palettesの演奏は、大盛り上がりの内に次のバンドへと繋がれていった。

 そして朝の部は終了し、より盛大な盛り上がりを見せる昼の部へと差し掛かるのであった……。


302 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:06:52.4910IwYkZZo (107/194)

―――
――


 昼の部に入り、幾つかのバンドの演奏が終了したその時、突如として賑やかなマーチがフロア中に鳴り響く。

 その音色に合わせるようにして、彼女達はステージ上へと躍り出た。

 黄金色の照明に包まれる彼女達の笑顔に向け、会場中から黄色い声が飛び交う。


 音楽で世界を笑顔にする少女達の舞台が今、始まる――。


-10組目 ハロー、ハッピーワールド!-

こころ「みんなーーっ! 今日は楽しんでもらえてるかしら?」

声「こころちゃーん! 今日も可愛いよーっ!」

こころ「うふふっ、みんなありがとうー♪ それじゃあさっそく行くわよ♪ 『えがおのオーケストラっ!』ぜひ聴いてねっ♪」




303 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:07:39.2410IwYkZZo (108/194)

律「こりゃまた……パスパレとは違うベクトルの賑やかさだなぁ」

澪「ああ……あの子達の演奏、私は好きだな」

律「なんつーか、昔の澪の歌を思い出すな、あの子達の感じ……」

菫「あっ、お姉ちゃん、良かった、やっと見つかりました」

紬「菫ちゃん! こころちゃん達よ、行きましょっ♪ 最前列で見ましょっ♪」

菫「はいっ♪」

 菫の手を引き、紬はステージの前へと移動する。

 先週、惜しくも見られなかったこころの歌を漏らさず聴き届けるため、紬と菫の2人は一心不乱にハロハピの奏でる音と歌に酔いしれていた。

 そんな時、唯達と離れた場所でライブを見ていた憂達も合流し、律達は一箇所に固まってライブを見届けていた。


憂「お姉ちゃーん♪」

唯「あ、憂! こっちこっち!」

純「やっと合流できた……ほんと、凄い賑わいですね……」

直「ええ……最初から見てましたけど、どの演者の方々も素晴らしい演奏ですっ!」

さわ子「いいわねぇ、これこそライブのノリってやつね……♪ 私もまだまだノるわよぉ~~♪」

和「私、あまりこういうライブには来ないんだけど……でも、楽しくて良い雰囲気ね……私は結構好きよ」

澪「和もさわ子先生達もみんな、楽しんでくれてるみたいだな」

律「ああ、特にトラブルもなく進行してるみたいだし、プログラムにも問題はなさそうだな……」


304 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:08:18.7010IwYkZZo (109/194)

こころ「――つないだー手を つないでこー! 大きな輪になってー♪」

律「……はははっ、すっげー面白れぇ! 見てて飽きないなぁー、あの子達♪」

澪「ははははっ、私も……っ……まさかライブでこんなに大笑いできる日が来るなんて……お、思わなかったよ……っ」

こころ「みんな行くわよー♪ ハッピー! ラッキー! スマイル! いぇ~い♪」

 ――イェーーーイ!!!


紬「いぇ~~い♪ ふふふふっ、楽しいわぁ……こころちゃん達の歌、こんなに楽しいだなんて……♪」

菫「私、子供の頃を思い出しました……こころ様の前では、誰もが童心に戻れるんですね……本当に素晴らしい方です、こころ様……」

紬「私達の出番ももうすぐね……菫ちゃん、最後まで応援よろしくね♪」

菫「はいっ、もちろんです!」


 ――はははっ! すごーい! かわいい~♪

 ――ミッシェルも面白ーい! もっとやってーっ♪

 ――きゃあああっっ! 薫様!! ステキー!!


 ハロハピの演奏に会場中が笑顔で埋め尽くされる。

 それは、彼女達の持つ笑顔の輝きがもたらした奇跡に他ならなかった。

 まるで遊園地で繰り広げられるパレードのように煌めくステージは、フロアにいる全ての人を魅了して離さず、多くの人の心に幼い頃の気持ちを抱かせる。

 その瞬間、ハロハピのライブを見た誰しもが童心に帰り、彼女達の歌に聴き入っていた。


 そして程なく、夢の一時は終わりを告げ、次の演者へと引き継がれていくのであった。


305 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:09:09.4710IwYkZZo (110/194)

―――
――


 軽快なギターの音色と共に、突如として彼女達は姿を見せた。

 その音色を聴いた全ての人の注目がステージへと注がれ、そのタイミングに合わせ、ステージの照明が真っ赤に染め上げられる。

 夕日のように紅い照明が彼女達を照らし出し、燃えるような興奮の熱が観客の心に広がり始める。

 まさにそれは、いつの日も変わらず人々を照らし続ける太陽の輝き……。


 ――Afterglow。

 不変の黄昏を抱く少女達の絶唱が今、始まる。


-12組目 Afterglow-

蘭「みんな、今日は来てくれてありがとう……Afterglow、行くよ!」

澪「来た……Afterglowだ! 律、前で見よう!」

律「ああ! 私も気になってたんだ、最前列で見ようぜ!」

 律の手を引き、澪はステージの前へと移動する。

 ステージの上で悠然と佇む少女達を前に、澪の胸は大きく高鳴りだしていた。


蘭「みんなに見て欲しい……私達の本気を、私達の輝きを……!」

蘭「行くよ、『That Is How I Roll!』!!」




306 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:09:42.3010IwYkZZo (111/194)

 ――!!! ーーーー♪♪

 重厚なサウンドに合わせ、蘭の力強い歌声が会場中に響き渡る。

 何者にも縛られず、何時の日も変わらずにいる事を誓うように蘭は歌い続け、その歌に呼応するように、会場中からは大きな歓声が飛んでいた。


 ――すっげええええ!! Afterglow! いいぞーー!!

 ――みんなかっこいいよ!! もっと燃えさせてぇぇぇぇ!!!


澪「蘭ちゃん……凄いな、これが、Afterglow……!」

律「ははははっ! すげー! 昔を思い出すなぁ、この感じ……♪」

澪「ああ……!」

律「澪が気に入るのも分かるよ、こんなロックな歌をここまで歌えるなんて、Afterglow、確かに良いバンドだわ」

澪「うん……私も思い出したよ……律と一緒に音楽をやり始めた頃の楽しさを……」

律「へへへっ、やっぱロックはこうでなくっちゃな……! うおおおーーーー!!! Afterglow!! いいぞーーーっっ!!!」

澪「うんっっ!! Afterglow!! さいっっこうだあああああーーー!!!」

 2人はあらん限りの声を上げ、会場の熱狂に乗じていた。

 自分達の『今』を歌う少女達の演奏は確実に澪と律、双方に心を鷲掴み、その耳を虜にしていく。

 『今』を生きるその輝きこそが彼女達の全てであり、その歌は、自分達の存在を世界に突き付ける、まさに決意表明とも言える歌だった。

 そのロックに溢れる歌詞は絶えず2人の心を強く揺さぶり続け、歳を取って落ち着いた筈の熱が胸に蘇りつつあるのを、この時、2人は確かに感じていた――。


307 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:11:09.6910IwYkZZo (112/194)

梓「……凄い……! どのバンドも、昔の私達以上ですね!」

さわ子「うんうん♪ みんなも負けてられないわねー♪ 唯ちゃん、頑張りなさいよー?」

唯「うん♪ ふふふっ……私も、早くステージに上がりたいなぁ♪」

 会場中の興奮を一身に受け、Afterglowの演奏は続けられた。

 そして最後の曲も見事に演奏しきり、Afterglowのライブは盛況の内に幕を閉じたのであった。


 ――♪ ――――♪
 
蘭「みんな、今日はありがとう、ライブはまだまだ続くから、最後まで楽しんでいって!」

モカ・ひまり・つぐみ・巴「ありがとうございました!!!」

 ――ワアアアアアアアアァァーーー!!

 ――みんな良かったよー!! 次のライブも楽しみにしてるねーー!!

 ――Afterglow! Afterglow!! Afterglow!!!

 ライブが終わってからもその声援は止む事無く、ステージは次のバンドへと引き継がれていく。

 そして、主役である5組のバンド、その最後の主役である少女達の演奏が開始されるのであった……。


308 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:12:10.8910IwYkZZo (113/194)

―――
――


-13組目 Poppin'Party-

声「次は? 次はどのバンド?」

声「えっと……あ! Poppin'Partyだって!」

唯「Poppin'Party……香澄ちゃん達だ……!」

 フロアに期待の声が上がり、その声に応じるようにしてPoppin'Partyは姿を現した。

 周囲の声を聞いた唯は急いでステージのすぐ側まで向かい、香澄達の姿をその眼に焼き付けるように見つめ続けている。

 そして、会場中の注目がステージ上に集まりだし、香澄の大きく、一際元気な声がフロア全体に響き渡った。


香澄「……すうぅぅ……みんなーー!! 盛り上がってますかーー!!」

声「香澄ーー!! 待ってたよーー!!」

唯「香澄ちゃーーん!!!」


香澄「今日は来てくれてありがとう! 私達……」

香澄・有咲・りみ・たえ・沙綾「Poppin'Partyです!!」

 全員が揃った声に合わせ、会場中から再度声援が飛び交う。

 そして、香澄のMCにより、ライブは進行する。


香澄「今日は、どのバンドもすっごくかっこ良くて、楽しくって……キラキラドキドキしてて……もう、聴いてる私達もずっとノリノリでした!」

香澄「私達も負けないように歌うから、みんなも着いてきて!」

香澄「それでは早速ですが聴いて下さい、『ときめきエクスペリエンス!』!」




309 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:13:32.8210IwYkZZo (114/194)

 ~~♪ ――――♪ 

香澄「――祈る空に 弧を描く流星が ハピネスとミラクルを乗せて “はじまり”を告げている……!」


 香澄達の歌声は、瞬く間に会場中の心を取り込んでいった。

 純粋に音楽を愛する少女達のその輝きが、ときめきが聴く者全ての胸を打ち、心を解き放っていく。

 それは、最前列で歌を聴いている唯も同じであり、フロアにいる誰よりも唯は、香澄の歌声に聴き入っていた。


唯「香澄ちゃん……あんなに楽しそうに歌ってる……」

梓「あの子、唯先輩に似てますね……」

唯「あずにゃん……」

梓「ボーカルのあの子、本当に歌が大好きなんだっていうのがよく分かります……楽しそうに、迷いなく一生懸命に歌うあの姿……私が大好きな唯先輩の歌い方にそっくりです♪」

唯「ふふふっ……うんっ♪ あずにゃん、ありがとう……♪」

 時に楽しく、時に切なく、様々な感情を込め、一心に香澄達は歌い続ける。

 途中でメンバー紹介を挟み、2曲、3曲と歌が続く中、香澄達のライブは更なる盛り上がりを見せていく。


香澄「次でこの時間最後の演奏です、精一杯歌うのでぜひ聴いて下さい……『キラキラだとか夢だとか ~Sing Girls~』!!」



 会場が大いに熱を帯びる中、香澄達の歌が始まる。

 歌に乗り、コールや声援が相次ぎ、会場全体が活気づいていくのを、香澄達の歌を聴く全員が感じ取っていた。


310 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:14:19.4810IwYkZZo (115/194)

香澄「――キラキラだとか 夢だとか 希望だとかドキドキだとかで この世界は まわり続けている――!」

声「ポピパーーー!! いいよーー!! もっとやってえええええ!!!」

声「感動だよぉー、もう私……っっ涙出てきた……っ!!」


憂「すごいな……あんなに泣いてる人もいて……ステージのみんな……本当に凄い……!」

純「私達も昔はあのぐらい元気だったのになー。あーー、高校生の頃に戻りたいーー!!」

直「あはははっ、でも純先輩、さっきのバンドの時、全力で前行って叫んでましたよね?」

菫「ふふっ、ええ、最前列でノリノリだったの、私も見てましたよ」

純「もーいいじゃん! 今日ぐらいはさー! みんなも盛り上がってこーよー!」

和「ふふっ……本当にみんな、凄く楽しそう……」

さわ子「私達の頃に比べたらまだまだだけど、あははっ……今の子達もなかなかやるじゃない♪」

さわ子「……さてさて……唯ちゃん達もそろそろかしらね?」

 そんな話がされる一方、さわ子はフロアの片隅へと視線を飛ばす。

 その目線の先では、まりなと放課後ティータイムによる最後の打ち合わせが行われていた。


律「いやー、あぶねーあぶねー。唯に合わせてノってたらまりなとの打ち合わせすっかり忘れてたわ」

唯「あははは、ごめんごめん、香澄ちゃん達の演奏、本当に楽しくってさ♪」

澪「二人とも、気持ちはわかるけど、次が私達の出番なんだからしっかりやらないと……」

律「ああ、悪かった悪かった……あ、もう変装解いてもいいよな?……これでよしっと」

 言いながら律はサングラスを外し、髪を掻き上げて普段の髪型に戻す。

 それから間もなく、まりなの元で演奏前の最終確認が始められるのであった。



311 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:14:47.5610IwYkZZo (116/194)

まりな「みんな揃ったね……じゃあ、最後に確認するね」

律「ああ、頼む」

まりな「今歌ってる香澄ちゃんたちの演奏が終わって、フロアが暗転したらみんなは客席からステージに上がってくれる?」

まりな「みんなの楽器ももうセッティングしてあるから、香澄ちゃん達がステージを降りたらすぐに準備するね」

唯「うん、分かったよ」

まりな「みんなの演奏、私も楽しみにしてるから、精一杯やっちゃって♪」

律「ああ、任せとけ。よっし、じゃあライブ前に、最後にみんなで円陣でも組むか!」

紬「わぁ、いいわね! みんな、やりましょう!」

澪「ああ……あまり大きな声だと周りに気づかれるかも知れないから、こっそりとな」

梓「ええ……ほら唯先輩、行きますよ」

唯「うんっ!」

 律の言葉に5人は小さく円陣を組み、その右手を合わせ、声を上げる。


312 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:15:17.4310IwYkZZo (117/194)

律「放課後ティータイム……いくぞ!」

一同「おーっ!」


 周囲の熱狂を掻き消さない程度の声が5人の間で響くその時……Poppin'Partyの歌が終わり、遂にその時が訪れる。


香澄「――ありがとうございました!! この次もよろしくお願いします!!」

唯「みんな……いよいよだね……!」

律「ああ、ここにいる誰にも負けない、最高の演奏を見せてやるぜ!!」

澪「私達でやるんだ……私達の手で……!」

紬「私もこの時をずっと待ってたわ……みんな、楽しんで行こうね♪」

梓「はい……行きましょう!」

 唯の声に全員の声が重なり、香澄達の撤収が始まる。

 放課後の再来は、もう目前にまで迫っていた――。


313 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:16:09.7910IwYkZZo (118/194)

―――
――


 ――フッ

香澄「あれ……照明消えちゃったよ? どうしたんだろ?」

 突如会場が暗転し、微かなざわめきが観客席に広がり始める。

 その沈黙を縫うように、まりなの声がスピーカーから響き渡り……。


まりな「皆さんお待たせしました! ここで本日のスペシャルゲストの登場です!! どうぞ!!!」


 まりなの声を合図に、唯達5人は暗闇の中で上着を脱ぎ捨て、颯爽とステージ上に踊り出た。

 そして、暗転から一変。眩いばかりのライトがステージを照らし出す。

 そこには、光り輝くTシャツを身に纏い、楽器を構える唯達の姿があった。


 ――放課後が始まる。

 10年という長い月日を経て、彼女達の、一日限りの放課後が今、始まる――。


314 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:16:43.2710IwYkZZo (119/194)

―――
――


-ゲストライブ 放課後ティータイム-

HTT一同「………………」

 静かにステージ上に佇む唯達の姿に、香澄達は思わず息を呑み込んでいた。


香澄「……………えっっ?」

蘭「う、嘘……………今日のゲストって……」

彩「……律……さん………??」

友希那「…………梓……さん………」

 唯達の姿を見た香澄達の間に沈黙が走る。

 予想外の人物のいきなりの登場に頭の整理が追いつかず、香澄達の間に動揺が駆け巡り、彼女達を知る全員が言葉を失っていたのだが……。

 そんな香澄達の沈黙をよそに、こころだけはステージに向け、嬉々とした表情で声を上げていた。


こころ「…………!!! すごいわ!! つむぎーー!! 紬が演奏するのねっ!!」

こころ「がんばって!!!! つむぎーーー!! 応援してるわね~~~~っっ!!」

 あらん限りの声量でこころはステージに向かい、声援を送り続ける。

 その声に応えるように、律がスティックを掲げ、放課後の演奏が開始された――。


315 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:17:46.2210IwYkZZo (120/194)

律「ワンツスリーフォーワンツースリーフォー!」

-HTT1曲目 GO! GO! MANIAC-




 特に自己紹介もないまま、突如としてその曲は奏でられた。

 それは言葉による自己紹介ではなく、演奏による自己紹介と言っても過言ではない。

 あえて最初の挨拶はせず、一気にハイテンションの演奏を見せつける事で急激に観衆の心に飛び込んでいく。

 そんな律の目論見は見事にハマり、息もつかぬ程に奏でられる音は無条件にフロア全体の注目を浴び、放課後の存在を瞬く間に知らしめていくのだった。


声「うわ、いきなり凄い演奏……! 誰? あの人達?」

声「私達よりも年上っぽいけど、ねえ知ってる?」

声「ううん……でも、かっこいいなぁ~! リフも正確だし、あの人達、とってもライブ慣れしてるって感じがするね!」

声「ベース弾いてるあの女の人……かっこいいなぁ~」

声「でも、この人たち、どっかで見たことあるような気が……」

声「あー! 私あのギターの人知ってる! 前にジャズのライブやってた人だよ!」

声「えっ!? じゃあ、もしかしてプロの人なの?」

声「えー! 誰々?? 有名人???」

まりな(唯ちゃん達、凄いよ……初めて見る人も多いはずなのに、お客さん達みんなが放課後ティータイムに注目してる……!)


 ステージの上で奏でられる歌と音は着実に観衆の心を昂らせ、既に全身で演奏に乗る人も現れだす程だった。

 そして、放課後の演奏に聴き入る観客のその姿を見たこころ達もまた、相次いで紬達への感想を口にしていた。



316 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:18:33.1610IwYkZZo (121/194)

はぐみ「ねえねえみーくん! 凄いよ! ムギちゃん先輩が演奏してるよっ!」

美咲「お客さん達もあんなに乗ってる……まさか……今日のゲストが紬さん達だったなんて……!」

花音「うん……私もびっくりして腰抜かしちゃうところだった……」

薫「フフフ……さすが紬さんだ……! あああ、私も心の高鳴りが抑えられない……儚い……なんて儚い演奏なんだろう……!!」

こころ「すごいわぁ……さすが紬ね♪ 放課後ティータイムーーー! さいこーよーー!!」

美咲「放課後ティータイム……ああああっ、思い出した……!!」

花音「み、美咲ちゃん?」

美咲「花音さん、前にこころの家にあったCDをアレンジしてみんなで歌った事あったの覚えてます?」

花音「そういえば……あったね、覚えてるよ」

はぐみ「あー! それって、今ムギちゃん先輩が演奏してるこの歌だったよね?」

美咲「うん、そのCDにはっきりと書かれてましたよ、『放課後ティータイム』ってタイトルが……でも、まさかそれが紬さん達の歌だったなんて……いくら何でも世間狭すぎでしょ……!」

はぐみ「すごい偶然だね……でもはぐみ、とっても嬉しいよ! はぐみ達、ムギちゃん先輩達と一緒だったんだね♪」

こころ「そうね♪ 凄いわ、凄いわ♪ 私達、音楽で紬達と繋がっていたのね♪」

薫「これこそまさに運命だね……ああっ、なんて儚いんだろう……!」

美咲「運命……ね。薫さんの言ってることも、さすがに今回ばかりは的を得てるって感じがするよ」

美咲「紬さん、頑張って下さい……! 私達、最後まで聴いてますから……!」

 柄にもなく、美咲は声を上げる。

 その声に応じるように、ステージ上の演奏はより一層の熱を増していき、フロアは更に盛り上がりを見せていくのであった。


317 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:19:12.9210IwYkZZo (122/194)

憂「おねーちゃーん! かっこいいよーー!!」

純「懐かしいな……すっごく懐かしいよ、この感じ!!」

直「ええ……みんな、凄く生き生きしてる……!」

菫「お姉ちゃん! みんな! がんばれーー!!!」

和「唯……みんな、凄いじゃない……!」

さわ子「さっすがー、やるじゃないのあの子達♪ ……ほんと、よくやったわね……凄いわよ、みんな!!」


香澄「唯さんだ……唯さんが、歌ってる……!」

有咲「驚いたな……まさか、スペシャルゲストが唯さんたちだったなんて……」

香澄「有咲!! 前に行こう!! 前で、唯さん達の演奏、聴きに行こう!!」

有咲「ああ……! 香澄、行くぞ!!」

 有咲の手を引き、香澄達は強引にステージの前へと繰り出す。

 そこには既に蘭に彩、こころや友希那達の姿もあり、多くの演者が観客に混じって放課後の演奏を聴いているのが見えていた。

 そしてしばらく、絶好調で始められた放課後の1曲目の演奏が終わりを迎え、唯のMCが始まる。


唯「みなさんこんにちわ!! 私達が、放課後ティータイムでーす!!!」

 ―――ワアアアアアアアアアア!!!!

 唯の声に会場全体からは割れんばかりの喝采が巻き起こる。

 開始からハイテンポな曲を最高潮のテンションで歌いきった事もそうだが、それ以上に、唯達のその高い演奏力と歌唱力がスペシャルゲストとして観客の期待に応えていたのが何よりも大きい要因だった。

 フロア全体から期待と歓喜に溢れた称賛が唯達に送られる。それは突如姿を見せた唯達を、放課後ティータイムの存在を初見の観衆全員が受け入れた事実に他ならなかった。


318 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:19:45.5310IwYkZZo (123/194)

唯「いきなりの演奏でみんなびっくりしたと思うけど、でも、こうした方がいいと思ったので、思いっきり演奏してみました。みんな、どうだったかな?」

香澄「唯さーん!! 素晴らしい歌でしたーー!!」

声「うんうん! サイコー! もっと聴かせてー!!」

唯「あははっ、みんなありがとー♪ でもせっかくだし、ここでメンバー紹介するね♪ まずはベースの、秋山澪ちゃん!」

 ――♪ ~~~~♪ ~~♪

 唯に振られ、自己紹介とともに澪の指がクールなベース音を奏でる。


澪「皆さんどうも! ここにいるみんなに負けないよう、私達も頑張るので……よかったら是非聴いてってくださーい!」

唯「澪ちゃんは私達のお姉さん的な感じで、練習の時はしっかりみんなを纏めてくれてました♪」

澪「ボーカルがもっと真面目に練習にしてくれてたら、私ももっと楽できたんだけどなぁ~」

 ――あはははっ!


唯「えへへへ……じゃあ次は、我らがリーダー、田井中律ちゃん!」

 ――タカタンッ! タタタタッ! ドコドコドコドコ――ジャンッ!!

 次いで律が器用にドラム捌きを披露し、最大音量の声で会場に向けて叫ぶ。


律「みんなーーー!! 今日はよろしくなーーーーっっ!!」

唯「りっちゃんは私達のリーダーで、みんなが困ってる時、すぐに助けてくれたり、支えてくれたりしてました♪」

唯「すっごく頼りがいのある子なんだけど、結構女の子っぽい所もありまして、なんと……!」

律「おーい! 知り合いがいんだからそれ以上言うなっ! 次行け次ー!」


319 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:20:18.3910IwYkZZo (124/194)

唯「ふふふっ……はーい! そしてキーボード担当の、琴吹紬ちゃん!!」

 ~~~♪ ――――♪

紬「みんな~、盛り上がってるかしらー?」

唯「ムギちゃんはいつも練習の時にお茶とお菓子を持ってきてくれて、後輩の菫ちゃんも練習のお手伝いにも来てくれてました、ムギちゃん、菫ちゃん、本当にありがとうーっ!」

紬「こちらこそ、どういたしましてー♪」

菫「ふふふっ……唯先輩ったら……♪」


唯「お次は、ギターの、中野梓ちゃんです!」

 ――♪ ―――――♪

梓「皆さんはじめまして! 今日は楽しんでって下さーい!」

唯「あずにゃんは、なんとご両親と一緒にプロのジャズバンドを組んでるんです。もし良かったら、みんなも是非聴きに行ってくださーい♪」

梓「もー、ここで無理に宣伝してくれなくてもいいんですよー!」

声「梓さーん! 今度ライブ行くから、よろしくねー!」

梓「あ、ありがとうございまふっ! あっ……!」

 ――あはははっ おもしろーい!

 ――可愛いよー! 梓さーん!

 観客の声援に思わず噛んだ梓に笑い声が飛び、そして最後に、唯の自己紹介が始められる。


唯「最後に私、ギター&ボーカルの平沢唯です!」

 ――♪ ――♪ ――♪


320 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:21:29.1410IwYkZZo (125/194)

唯「私達は、高校生の頃、軽音部で『放課後ティータイム』っていうバンドを組んでました!」

唯「大学を卒業してからみんな一度は離れ離れになっちゃったんだけど、でも先週あった同窓会でみんなで再会して……それで、ガールズバンドパーティーで演奏する事をきっかけに再結成したんです!」

唯「再結成のきっかけを作ってくれたまりなちゃん! 本当にありがとうーー!!」

 突如、フロアの隅でステージを眺めるまりなに向けてスポットライトが当てられる。

 いきなりの振りに照れながらもまりなは手を降り、その声に返していた。


まりな「私の方こそありがとう!! 放課後ティータイム! 最高だよーー!!」

唯「えへへっ♪ いやーしかし、みんな若いよねぇー、なんていうか……女子高生パワー恐るべし! だよねえ~」

律「あんまそーいうこと言うな! ただでさえこっちはここにいる全員と歳の差感じてんだぞ!!」

唯「でも、10年前は私達もみんなと同じだったんだよねぇ~♪」

律「だーかーら!! 歳がバレるような事言うなーーーっっ!!」

 ――あははははっっ!


蘭「凄い……ちゃんと会場の笑いも取れて、MCもしっかりこなしてる……これが、澪さんのバンド……!」

香澄「ふふっ……唯さん達、私達の10個も上だったんだね……全然見えなかったなぁ」

彩「……律さん……みんな、かっこいい……! 私も、あんな大人になれるといいな……」

友希那「さっきの演奏……梓さん達が全身全霊を賭けて自分達の音楽に向き合っているのがよく伝わって来たわ……」

こころ「うふふっ♪ 次の曲も楽しみよっ♪ 紬達、次はどんな歌を歌ってくれるのかしら♪」

唯「じゃあ、次は澪ちゃんのボーカルで行くね! 曲名は……『Don't say "lazy"』!!」


321 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:22:30.9110IwYkZZo (126/194)

-2曲目 Don't say“lazy”-



澪「Please don't say "You are lazy" だって本当はcrazy――!」

 澪の歌声に乗せ、二度放課後の旋律が奏でられる。

 先程の唯とは対象的に鈴のように凛とした美声が会場中に響き、多くの観客の心を魅了していく――。

 そのクールな歌声はAfterglow全員の心を撃ち、初めて聴く澪の歌声に、誰もが酔いしれて行くのであった。


巴「やっば、澪さんすげえ歌上手い……!」

ひまり「うん……! 歌いながらあんなにベース弾きこなすなんて……か、かっこいい……! 凄くかっこいい……!!」

蘭「あれ、この曲って確か……」

モカ「うん、あたし達も一回演奏した事あったよねー」

つぐみ「確か、ひまりちゃんのお母さんに借りたCDに入ってたんだよね、この歌」

モカ「そうそう、ってことは、ひーちゃんのお母さん、澪さん達のこと知ってたのかな?」

蘭「それは分からないけど………そっか……あたし達、ちゃんと澪さんと通じてたんだ……」


322 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:23:45.4110IwYkZZo (127/194)

ひまり「私、もう抑えきれないよ!! 澪さあああん!! ステキーーー!!!」

巴「放課後ティータイムーー! いいぞーーーー!!!!」

蘭「ふふっ……みんな、凄く盛り上がってるね」

モカ「蘭も、ちゃんと耳に残しておこーね、あたし達の先輩……になるのかな? あの人達の歌と音を……さ」

蘭「うん、そうだね……!」

蘭(澪さん……私達も、負けませんから……!)

 微笑みながら、蘭の瞳は一心に歌い続ける澪の姿を見つめていた。

 対抗心とも、競争意識とも違う感情が蘭の胸中で渦を巻く。

 それは、音楽を奏でるバンドマンとしての尊敬とも言える感情であり……人一倍高いプライドを持つ蘭が澪に対し、憧れの念を抱いた瞬間でもあった。


澪「皆さん、ありがとうございました!!!」

 ――ワアアアァァアァァァァ!!!

 2曲目の演奏が終わったと同時、二度歓声が沸き起こる。

 その称賛の声を唯達は一身に受け、続く3曲目の演奏が始められた。


唯「次は私と澪ちゃんの2人で歌います、『ふわふわ時間』、聴いて下さい!」


323 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:26:25.6210IwYkZZo (128/194)

-3曲目 ふわふわ時間-



 続いて奏でられる3曲目の歌。

 その聴き覚えのあるイントロに誰よりも強い反応を示したのは、他ならぬPastel*Palettesの5人であった。


彩「この歌は……!」

イヴ「はい……! リツさんが私達に教えてくれた歌ですっ!」

千聖「そっか……律さん……私達の事を信じてくれて、自分達の歌を……私達に託してくれていたのね……!」

日菜「私さ、この曲を初めて聴いた時、なんとなくだけどそんな気がしてたんだ……これ、律さんが叩いてるんだって、そんな気が……ね」

麻弥「やっぱりこの曲、律さん達の曲だったんですね……ジブン……っ……ぃ、今になって感動してます……っ…ッ!」

彩「ぅぅ……私、な、泣きそう……っっ」

麻弥「彩さん…じ………ジブンもです……うぅっ……!」

日菜「ふふふふっ♪ 私、今すごい、ルルルルルン♪ってなってる! 私この曲、ふわふわ時間が大好きっ!!!」

イヴ「はい、私もですっ♪ リツさんの歌だって知って私、この歌のこと、もっと……もっと好きになりました!」


日菜「ねえ、彩ちゃん! 麻弥ちゃん! 泣いてる場合じゃないよ! 私達も歌おう! 律さん達の歌を……律さん達の輝きを!」

千聖「ええ! 日菜ちゃんの言う通りね……今は泣くのを我慢して……私達も見届けましょう!」

彩「えへへへ……っ……日菜ちゃん、千聖ちゃん……うん、そう……だね!」

麻弥「……はいっ! 律さーーん!! かっこいいです!!! ステキです!! 最高ですよぉーー!!!!」

 パスパレの5人は互いに手を取り合い、重ねるように絶賛の声を送り、その歌を口ずさむ。

 目元から溢れそうになる涙を懸命に抑えつつ……彼女達は、ステージ上でドラムを打ち鳴らす律の勇姿をその眼に焼き付けていた。


324 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:27:28.1610IwYkZZo (129/194)

律(彩ちゃん……麻弥ちゃん……みんな見ててくれ!!! これが、私達の……! 私達の輝きだ……!!)

 そんな彩達の姿が視界に入り、律のドラムは自身のテンションに合わせ、更に加速していく。

 額から滝のように流れる汗すら拭わず、眼前の2人の歌声に合わせ、一心不乱に律はドラムを叩き続けていた。


澪(ちょっと待て律、いくらなんでも走りすぎだ!)

律(悪い!! でも、このままやらせて! ……私今、すっげえ楽しいんだ!!!)

唯(私は平気だよ、りっちゃんの好きにやっちゃって!!)

梓(律先輩! とてもイイ感じです! このままお願いします!)

紬(私達も全力で付いていくわ! りっちゃん、行っちゃえ!)

律(みんな悪いな……それじゃあ、次のサビから遠慮なく行かせてもらうぜっっ!!)

 唯の合図を皮切りに、律の音は尚も加速する。

 それでも決して外すことなく正確に打たれるそのビートに観衆の注目は集まり、一層の熱を帯びていく。

 その迫力のあるパフォーマンスには、同じパートを担当するドラマー達も目を離せずにいた。


あこ「すごい……あの人のドラム、めちゃくちゃ凄いよ! お姉ちゃん!!」

巴「ああ……あんなに速くてムチャクチャに見えるのに全然音がズレてない……むしろ周りもしっかりドラムに合わせてる……! いや、なんってテクニックだ! あんなの、アタシだって見惚れちまうよ!」

沙綾「まるで、本当にプロのドラマーのみたいな打ち方だね……ははははっ! 唯さん達のリーダー、凄すぎだよ!」

花音「ふえぇぇ……わ、私には絶対にマネできないテクニック……でも、あんなに楽しそうに叩いてて……か……かっこいいです!」

麻弥「……律さああああん! いっけええええええ!!!!!」

 律の演奏はボーカル以上に注目を浴び続け、更にその勢いを増して行く。


325 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:28:16.6910IwYkZZo (130/194)

唯・澪「――ふわふわタイム(ふわふわタイム)――ふわふわタイム(ふわふわタイム)――」

 ――♪ ―――♪

 演奏の最後、最も激しく、荒々しく豪快に叩かれた律のドラムは、最早アレンジにアレンジを重ねたふわふわ時間本来の演奏とは別の物となっていた。

 だが、決して乱れることなく、正確にビートを刻み続けるその音は、既にプロのドラマーの音とも呼べる程に魅力的に見え、多くの観客を虜にして行く。

 そして3曲目の演奏が終わったその時……。

 立て続けに曲を歌いきった唯と澪にだけでなく、終始行われた律の圧巻のドラムパフォーマンスに対しても、割れんばかりの拍手が巻き起こっていた――。


律「……っ……みんな……ありがとーーーーっっ!!」

 ――パチパチパチパチパチ!!!

 ――うおおおおおおおおおおお!!!!

 ――凄いドラムパフォーマンス!! 私、思わず震えちゃったよ!!

 ――やべええええ!! 放課後ティータイム、歌だけでなく演奏も凄ぇえええ!!


律「はぁ……はぁ……! き、気持ちよかった……!!」

 息も絶え絶えになる程の疲労感が律を襲う。

 水を被ったような大汗が顔中を流れ、腕は腫れ上がった様にむくみ、脚が鉛のように重く感じる……。

 だが、それでも構わないと言わんばかりに、律のその顔は笑顔で満ち溢れていた。


唯「みんなありがとう!! りっちゃんも凄かったね~♪ でも、まだまだいっくよーーー!!! 次は『ごはんはおかず』!!」


326 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:31:34.1210IwYkZZo (131/194)

-4曲目 ごはんはおかず-



唯「――ごーはんはすーごいーよ なんでもあーうよ ホカホカ♪」

 軽快なサウンドに乗せられ、放課後の4曲目が始まる。

 それは実に放課後らしい、楽しさに溢れた一曲だった。

 唯の口から発せられる和やかな歌声は、先程の演奏で昂ぶっていた観客の激情を程よく落ち着かせ、気持ちを穏やかにしていく。

 そしてその音と歌は、梓の眼下で佇むRoseliaの少女達の心にも、確かに届いていた――。


あこ「あははははっ♪ りんりん! 梓さん達の歌……すっごく楽しいね!」

燐子「あこちゃん……ふふふっ……うん、そう……だね!」

紗夜「先程までとは違う、まるでコミックソングのような曲調なのに……何故でしょう、私も、心が跳ね上がるような感覚がしてきました……日菜達の歌を聴いてもこうはならないのに……っ」

友希那「私もよ……さっきまでの震えるような興奮は無い筈なのに……まるで別の感覚が押し寄せて来るようなこの感じは……」

友希那「一体、何なの……? さっきまでの興奮とは違う……この胸の高鳴りは……!」



327 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:32:06.9910IwYkZZo (132/194)

リサ「友希那、紗夜……きっとそれが、『楽しい』って事なんだよ」

友希那「リサ……」

紗夜「今井さん……」

リサ「アタシ、思い出したんだ……小さい頃、友希那や友希那のお父さんと一緒にベースを弾いていた頃をさ……」

リサ「あの頃は上手いとか下手とか……そんな難しいことなんか考えず、純粋に音楽を楽しんでた……きっと友希那だって覚えてるはずだよ! あの頃の音を……あの頃の楽しさを!」

あこ「うんうん! リサ姉の言ってること、あこも分かるよ!」

あこ「ほら、音楽って、『音を楽しむ』って書くでしょ、梓さん達の歌って、まさにその通りですよ!」

リサ「あはははっ! そうだね、あこ、よく言った!」

友希那「音を……楽しむ……」

紗夜「ふふふっ……宇田川さんらしい考えですね……」

 厳密に言えば、あこのその理論は、友希那と紗夜の知る音楽の本来の意味とは違う考えではあった。が……。

 それでも、あことリサの言う『楽しむ』という感覚は、2人が久しく味わっていない感情でもあった。


 『音を楽しむ』という、音楽に対するアプローチ。

 それは『Roseliaに全てを賭け、目標に向かい突き進んでいく』という、彼女達が結成当時に掲げた誓いとはかけ離れた感覚であり。数多の音楽家が胸に抱く、音楽に対する向き合い方の一つでもあった。

 情熱や信念だけではない、『楽しむ』という感情。それこそが、何よりも夢や理想に向かう為の原動力となる。

 そしてその感情は、共有する人の数に比例し、何倍にも膨らんでいく。

 物事に対し、『楽しむ』という事の素晴らしさと大切さを、今この時2人は、梓達の演奏を通して思い出していた――。


328 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:32:53.9510IwYkZZo (133/194)

紗夜「……私が音楽を始めた理由は……そもそもが妹の日菜に対する強い対抗意識からでした……だから、音楽に対する楽しさを感じたことなんて、Roseliaに加わるまではほとんどありませんでした……」

友希那「……私もよ……お父さんの夢が破れた時から、私が音楽をやる理由は、お父さんが成し遂げられなかった夢を叶えることに変わったから……それ以来、音楽を楽しんでやるなんて事、あまり考えなくなっていた……」

紗夜「思い出しました…………この胸の高鳴り……これが、『音を楽しむ』という事なのね……」

友希那「『音を楽しむ』……演者だけでなく、観客と演者が一つになる事で生まれる感情……これを私達の演奏に活かすことができれば、私達はまた一歩、前へ進めるかも知れない……」

友希那「梓さん、ありがとうございます……貴女達のおかげで……私達はまた一歩、目標へ近付く事が出来たと思います……!」


リサ「ほーら二人とも! 今は難しい事は考えずに梓さん達の音楽を楽しもうよ!! ほら、腕上げて! ねっ♪」

友希那「ふふっ……ええ……紗夜も、今はこの感覚に身を委ねてみるのも良いと思うわ」

紗夜「はい……少し照れますが……やってみますっ」

 ぎこちなく、辿々しく……2人は腕を上げ、身体を揺らし、自身の感情そのままに身を委ねていた……。

 今はまだ完全じゃない……それでも、普段はクールに徹しているあの2人が音楽に乗っている……。その姿が、リサの心を打つ。


リサ「も~、二人とも照れちゃってしょうがないなぁ……でもアタシ、嬉しいよ……。 梓さんありがとう!!! 私達、今すっごく楽しいよーーーー!!!」

あこ「いぇ~~~~い♪ 放課後ティータイム!! いっけ~~~♪」

燐子「ふふふっ……♪ 私も楽しいよ……あこちゃん……♪」


唯「――関西人ならやっぱり お好み焼き&ごはんっ♪ 私前世は 関西人っ♪」

律・澪・紬・梓「――どないやねん!」


329 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:34:22.7210IwYkZZo (134/194)

律(あー、やべ……ヘトヘトなのに……超楽しい……!)

澪(ああ………ライブって、みんなで演奏するのって……こんなに楽しいものだったんだよな……!)

紬(懐かしい……熱くて、胸がドキドキして……今にも叫びだしそう……!!)

梓(終わって欲しくない……いつまでも、いつまでも、こうしてみんなで演奏がしていたい……!)

唯(私、今すっごく楽しいよ……またこうして、みんなで演奏できて良かった……本当に良かった……!)


唯「――1・2・3・4・GO・HA・N! みんなも一緒に!!」

あこ「1・2・3・4・ご・は・ん! あははははっっ!! すっごいおもしろ~い♪」

リサ「うんうん! 1・2・3・4・ご・は・ん!! ほら、友希那と紗夜も!」

友希那「……い、1・2・3・4・ご・は……ぅ、さすがにそれはちょっと……」

紗夜「わ、私もです……っ」

燐子「うふふっ……照れてる友希那さんと氷川さん……可愛いな……♪」

 和やかな場の空気に乗るという気恥ずかしさから、二人の顔が赤く染められる。……しかし、不思議と悪い気はなしかった。

 今はまだ、完全に理解できたわけでは無かったが……それでも、絶えず脈打つ心臓の音だけはそれを理解していた。


 ――その胸を打つ鼓動は、2人が確かに、放課後の歌を心から楽しんでいるということの証でもあったのだから。


唯「いぇええええええい!! みんな、あっりがと~~~~♪」

 ――ワアアアアァァァァーーーー!!!!

 HTT! HTT! HTT!!!!!

 放課後ティータイム!! さいっこーーだぜえええ!!!


 そして、笑いに包まれた4曲目の演奏が終わり、放課後の、最後の曲が奏でられようとしていた。


330 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:34:57.5910IwYkZZo (135/194)

唯「みんなが楽しんでっ……くれて私達もすっごく嬉しいよ!! でも……んっ……ごめんね、次で最後の歌になっちゃいました!」

 ――ええええええ!!!

 ――そんな~~~~!!

 ――いやだっ! もっと聴かせてよ!! 放課後ー!


唯「ごめんっね……でも、私たちも最後まで全力で歌いきるから……げほっ、みんな゙、よろしくね゙ーーっっ!」


 ――ワアアアアァァァーーーッッッ!!!!

律(……唯も、そろそろ限界か……!)

澪(唯……!)

紬(唯ちゃん……)

梓(唯先輩……)

唯(ごめんねみんな……でも、最後までやらせて……! この歌だけは……!)

 ここまでMCを含め、長時間声を張り上げ続けて来た唯の声に微かな変化が生じていた。

 しかし、それでも声を上げることをやめることなく、唯は声を上げ、ギターを掻き鳴らす。


唯「――っそれじゃあみんな、聴いて下さい……大切なものは、いつもみんなのすぐ側に……『U&I』!!」


331 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:36:07.8510IwYkZZo (136/194)

-5曲目 U&I-



 僅かに声を枯らしながら、唯の最後の歌声が響き渡る。

 酸欠で目元がふらつき、気を抜くと倒れてしまいそうになるのを懸命に堪えつつ、唯は心のままに歌を歌い続ける。


 その姿を見る香澄達の眼には、それぞれ光るものが込み上げてきていた――。


香澄「……っっ……唯さん……っっ……ゆいさん……!!」

有咲「……っ……すげえな……唯さん……」

たえ「うん……あんなに歌って……もう疲れてヘトヘトな筈なのに……それでも、凄く楽しそうに歌ってる……」

りみ「……っ…うん……っ……みんな、すごくて……かっこよくて……うち、泣けてきちゃったよぉ……っ」

沙綾「明るくて、前向きで、暖かくて優しい歌……唯さんの想いが伝わってくる歌だね……」

香澄「…………唯さんっ…………がんばれ……がんばれ……っ…!」

 優しく紡がれる唯の歌……。

 それは、自分の大切な物全てに送られる愛の歌。

 自分の大事なもの。いつも傍にいてくれる大切な存在。……けど、それが当たり前になっていると気付かない。

 そんな大切な事に気付かせてくれる歌だった。


332 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:36:56.7010IwYkZZo (137/194)

唯「――まずはキミに つたえなくちゃ―――「ありがとう」を!」

 ――♪ ~~~♪

声「すごい……いい歌だね」

声「うん……あはははっ……なんだか私、泣けてきちゃった……!」

声「楽しくって、切なくて……ああもう、よくわかんないけどいい! この感じ、すっごくいい!!」


純「っっ……っっ……わ、私、もう涙が止まらないよぉぉ……!」

直「純先輩……」

菫「っ……っっ……ああもう、私も……泣けてきちゃいました……っ」

憂「……お姉ちゃん……っっ……うぅ………ぉ……おねえちゃぁん……っっ!……っ」

和「憂……」

憂「和ちゃん……私……今凄く嬉しい………お姉ちゃん、あんなに輝いてる……!」

憂「お姉ちゃんの歌声が、色んな人の心に届いてるのが分かる……! お姉ちゃん! ……私、あなたの妹で良かった……! ほんとうに良かった……っ!」


 唯の歌声に、会場中の思いが一つになる。

 ある者はサイリウムを、またある者は携帯の画面を付け、横に振り続けている。

 その光景は、ライブを見る何人かの人の眼に、ある情景を思い描かせていた――。


333 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:38:21.0810IwYkZZo (138/194)

香澄(……えっ?)

 ふと、香澄の視界が一瞬暗転し、別の景色が浮かび上がる。

 それは涙で目の前が滲んだせいか、唯達の演奏が魅せる幻なのか分からないが……香澄の眼は、自分が今までいたライブハウスとは違う風景を描き出していた。


香澄(ここは……?)

 そこは見知らぬ音楽室。

 目の前には、紺色のブレザーを着た、香澄と同年代ぐらいの5人の女の子達がそれぞれ楽器を手に、楽しく歌っている様子が見える。

 先頭で、学生服姿の女の子が赤いギターを弾き鳴らしつつ、陽気に歌い続けている。

 女の子の襟元で青いタイが僅かに揺れ、その女の子は香澄に微笑み、優しく手を差し伸ばしながら言う。


女の子「――私達のライブに来てくれてありがとう♪ 今日はたくさん楽しんでってね♪」

香澄「………うんっ……!」

 女の子の声に大きく頷き、涙で濡れた目元を拭う香澄。

 やがて視界が戻り、上を見ると、懸命に歌い続ける放課後の姿がしっかりと見えていた。


香澄「唯……さん……そっか…っっ……そうだったんだ……!」

香澄(さっきのはきっと、唯さん達だったんだね……私達と変わらない……音楽が、歌が大好きな……キラキラ、ドキドキしてる……唯さん達だったんだね……!)

香澄「……!! 唯さん……がんばれーーーーー!」

 会場の声援に負けじと香澄は声を張り上げる。

 その頬を伝う涙はもう止まっており、輝きに満ちた笑顔で香澄は声援を送り続ける。


334 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:40:18.9210IwYkZZo (139/194)

香澄(泣いてなんかいられない……! 今は、この人達の輝きを見ていたい……! 誰よりも、何よりも近い場所で、唯さん達の放課後を見ていたい……!)

 香澄だけでなく、多くの人が歓声を上げ、放課後の演奏に心を沸かせ続けていた。

 そして……。


唯「――思いよ―――届け――――」 

 ~~~♪ ―――♪ ―――…………♪

 最後のフレーズを歌い切り、放課後の演奏が今、終わりを告げた……。

 程なくして照明が暗転し、暗闇が会場を包み込んでいく。

 演奏の余韻が、会場から送られる歓声が全員の耳の中に響き、感傷が5人の胸中で渦を巻いていた。


律(終わっちまったな…………)

澪(ああ…………)

紬(楽しかった……でも、もうおしまい……なのね)

 終わってしまったという寂しさが胸を打ち、涙が溢れそうになる。

 ――その時だった。


335 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:40:49.5710IwYkZZo (140/194)

 ――ル! ――ール!

梓(……え?)

 ――コール!! ンコール!!


唯(まさか…………)

 ――アンコール!! ――アンコール!!


唯「みん……な……!」

 ――まだ終わらないでーーっっ! 放課後ーーー!!

 ――最後に一曲! お願いーーーっっ!!

 暗闇の中、止むことなく続くアンコール。

 その想いは声となり、意思となり、願いとなり、絶えず唯達に投げ掛けられる。

 会場中の誰もが願う『終わってほしくない』、『もっと放課後の歌を聴いていたい』という希望。

 まさにそれは、放課後の最後の復活を望む、期待の声だった――!


 ―――アンコール!! ――アンコール!!!!

唯「みんな………っ!」

律「マジかよ……はははっ! こんな事って!」

 演奏に集中していたこともあり、アンコールが振られるなんて全員が予想すらしていなかった。

 驚きとともに興奮が再度全員の胸に蘇り、身体中を締め付ける疲労を払拭していく。

 その時、大慌てでまりながステージの脇から唯達に向け、声を上げていた。


336 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:41:43.4110IwYkZZo (141/194)

まりな「はぁ……! はぁ……! お、お願い! みんな……! みんなの期待に、応えてあげて!」

唯「まりな……ちゃん」

まりな「私も見たいんだ……最後にもう一度……私達の思い出を……放課後を……! 会場中に届けてあげて!」

唯「でも、時間が……」

まりな「大丈夫! この後一度休憩を挟むから! だからお願い! みんなキツいのは分かってる……でも……お願いっ!」

 頭を下げ、まりなは懇請する。

 観客、スタッフ、演者、会場にいる全ての想いを一身に受け、まりなはひたすらに頼み込んでいた。


澪「でも……今日やる5曲で手一杯で、アンコール用の歌なんて考えてる余裕は……」

梓「唯先輩の声も限界ですし……どうすれば……!」

紬「急いで何か、別の歌を考えないと!」

律「くそ、どうする……! どうする……!」

唯「……あの、さ……みんな!!」

唯「それなんだけど、……で……みんなでやるってのは……どうかな?」

 唯は立ち上がり、皆にそっと提案を耳打ちする。

 その声を聞いた4人全員の顔に笑顔がこぼれ、皆が皆、唯の案を受け入れていた。


337 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:42:20.6610IwYkZZo (142/194)

律「はははっ……唯、それ、ナイスアイデアじゃん!」

澪「それなら唯の負担も減らせるし、会場のみんなも乗れるな!」

梓「ええ、教科書にも載るぐらい有名な曲ですから、皆さんもきっと知ってると思います!」

紬「さすがね唯ちゃん……私ももう一度、この曲を演奏したかったの……!」

唯「じゃあ、お客さんが待ってるから……最後にやろう! みんなっ!」

一同「――うんっ!!」


 唯の言葉に頷き、再度楽器を構える5人。

 割れんばかりの観客の声に応え、照明がステージを照らし出す。


 そして、正真正銘、彼女達の、最後の放課後が幕を開けた――!


唯「みんな……本当にありがとう……! アンコールまでもらえて、私達……すっごく、すっごく嬉しいです!!」

唯「……最後の歌は、きっと知ってる人も多いと思います」

唯「よかったらみなさんも一緒に歌って下さい……私達のはじまりの歌、『翼をください』!!」


338 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:43:18.6810IwYkZZo (143/194)

-アンコール 翼をください-



律「……ワンツースリーフォー!」

 ~~♪ ―――♪ ―――♪

紬「――いま 私の願い事が かなうならば――翼がほしい――」

唯「――この背中に 鳥のように 白い翼つけてくださーいー」

律「――この大空に 翼を広げ 飛んでゆきたいよ――♪」

紬「――悲しみのない 自由な空へ♪」

梓「――翼はためかせ ゆきたい――」

 唯だけに負担をかけぬよう、1フレーズ毎にパートを変え、その歌はバトンの様に5人の間を駆け巡っていく。

 ある時は観客の方へとマイクが向けられ、その歌はステージの上だけでなく、会場全てを巻き込んだ合唱となり、一層の熱を帯びていった。


339 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:44:15.9410IwYkZZo (144/194)

 ――その歌は言わば、放課後の原点とも呼べる歌だった。

 13年前、高校に入学し、律が軽音部を立ち上げ、澪と紬が入部をし、3人で奏でたこの曲を聴いたことで唯は入部を決め、そこから全てが始まった。


 春にギターを買い、夏に合宿をし、やがて顧問が来て、初めての学園祭を迎え、クリスマスを幼馴染とみんなで過ごした。

 2年の春には後輩ができ、その年の2度目の学園祭で桜高軽音部は、放課後ティータイムへと名前が変わった。

 3年になり、マスコットが増え、修学旅行に行き、結婚式にも参加した。

 夏フェス、夏期講習、マラソン大会と、色んな行事に参加した。……そして最後の文化祭、ステージで歌を歌い、夕日に照らされた部室でたくさん泣いた。

 そして受験を迎え、大学に合格し、みんなでロンドンに行った。

 卒業式、後輩にみんなで作った歌を届けた。その時に見た後輩の涙は、今まで見たどの涙より輝いていた……。


 その年の春、大学へ入学し、沢山の素晴らしい人達に出会うことが出来た。

 それと同じ頃、妹とその友達が軽音部に入部をしてくれた。それから新しく二人の後輩も入部をしてくれて、わかばガールズが結成された――。

 それは、僅か4年に満たない、人生でほんの僅かな期間だったけど、これだけの思い出が軽音部にはあった。


 その全ての思い出を歌に乗せ、放課後の少女達は声を合わせて歌い続ける。

 過去から今へ、そして未来へと羽ばたく翼のように、いつまでもいつまでも、ここにいるみんなと歩いていけるように。


 そんな誓いを立てた少女達の歌声が一斉に響き渡る。


 世代を、時を、時空すらも超え、想いが一つになり、全てが眩く輝いていく――!


340 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:44:41.6710IwYkZZo (145/194)

 ――この大空に 翼をひろげ 飛んで行きたいよ―――


 ――悲しみのない 自由な空へ 翼はためかせ―――


 ――行ーきーたーい―――――――――。


HTT一同「みんな……………あ………ありがとう…………っっ! ありがとうーーーーーー!!!」

 ――ワアァァァァアアアァァ!!!

 ――HTT! HTT! HTT!

 ――みんな最高だったよ! ありがとう!! ステキな歌をありがとうーーーー!!!!


 何度目か分からないほどの歓声と拍手が会場中にこだまする。

 喝采を浴び、少女達は笑顔を浮かべつつ、肩を支え合い、会場を後にする。


 その表情は、10年前のあの頃と同じように、大きな輝きで満ち溢れていた――。


341 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:47:50.0110IwYkZZo (146/194)

最終章.放課後と輝きの絆


 ――高校生になってから、私の毎日には音楽があった。

 それは、これから先も変わる事なく続いていく……。

 私が今、私のままでいられるのは、きっと、音楽があるからだと思うんだ。


 あの日、何かがしたいと思っていた私に応えてくれた音楽が。

 キラキラ、ドキドキしたいと思っていた私を導いてくれた音楽が。

 あの頃の私を、みんなに会わせてくれた音楽が。

 今の私を、あの人達に会わせてくれた音楽が。


 私を、みんなと繋いでくれた音楽が私は……大好き―――!!


342 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:48:19.5210IwYkZZo (147/194)

―――
――


【控室】

 静まり返った控室に、5人の姿はあった。

 疲労で全身は気だるく、腕が重い。酸欠で息は上がり、指先の皮は捲れ、僅かに血が滲んでいた。

 皆、まさに満身創痍の様相だったが……それでも、かつてのあの日の様に、並んで座り込む5人の顔は、充実感と満足感で満ち溢れていた。


唯「……やりきったね……私達」

律「……ああ……みんな、よくやったよ……澪もそう思うだろ……?」

澪「ああ…………本当に……」

紬「澪ちゃん……」

澪「うん、良かったよな……本当に……良かったよな……」

紬「うんっ……とっても良かった……」

梓「やっぱり私、皆さんと演奏できて……幸せです」

律「そのセリフ、前にも言ってたな……ははは、懐かしいや……」

唯「うん……そうだねー……」

 互いに手をつなぎ、過去の記憶が頭の中に蘇るのを自覚しつつ、唯達はしばしの安らぎに身を委ねていた。

 そしてしばらく、その静寂を破るように、控室の扉が大きく開かれる。



343 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:48:49.8910IwYkZZo (148/194)

 ――ガチャッ!

声「皆さん! お疲れさまでした!!」

律「あははは……こりゃまた元気なお客さんの登場だ」


香澄「唯さんっっ! 唯さん……! 私、すっごく感動しました……皆さんのライブ……最高でした!!」

ひまり「っっ! 澪さん……すっごくかっこ良くて!! もう私、涙が止まらなくって……! っぅうぅ!」

麻弥「もーーー!! 律さん! ジブン、こんなドッキリ聞いてませんよぉ! でも……本当に凄いライブでした! ジブン、もう感動しっぱなしでした……!!」 

美咲「あははは、みんな泣きすぎ……。……紬さん、お疲れ様です。本当に、素晴らしい演奏だったと思います」

友希那「梓さん……お疲れさまでした、私も心の底から楽しめた……素晴らしいライブでした」

 香澄達はなだれ込むように控室へ入り、相次いで放課後のライブに対する称賛と労いの言葉が紡がれる。

 皆の言葉を、満更でもないといった様子で唯達は聞き入れ、言葉を返していた。


344 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:49:30.1410IwYkZZo (149/194)


唯「香澄ちゃん……みんな……えへへへ♪」

澪「みんなの演奏も素晴らしかったよ……蘭ちゃん、ひまりちゃん……招待してくれて本当にありがとう……」

律「みんな、あたしが見てるって知らなくても、あんだけすげー演奏できてたんだもんな……もうみんな、十分立派なアイドルだよ……」

紬「こころちゃん、美咲ちゃん……私の方こそお礼を言わせて……みんなのステージ、本当に楽しかったわ」

梓「友希那さん……こちらこそありがとうございました。Roseliaの演奏のおかげで、私、迷ってた気持ちも綺麗に吹き飛びました」

 その言葉を聞く香澄達もまた笑顔で返し、和気藹々とした空気が控室に流れていく。

 そして……。


まりな「ほらみんなー、ライブはまだまだ終わってないよ! 次の演奏もあるから、ステージに行こう、ね♪」

香澄「……はい! 唯さん……私達のライブ、もっと盛り上げていきますから……最後まで、楽しんでいって下さい!」

蘭「あたし達の歌はまだまだ続きます、澪さんも、最後まで見ていて下さい……!」

彩「ふふふっ……私達も、さっき以上にステキなステージにしてみせますね♪」

友希那「ええ、皆さんのライブにも負けない……最高の演奏をお届けします」

こころ「ふふふっ♪ それじゃあみんな~、いっくわよ~♪」

 そして、観客の待つステージへと少女達は歩き出す。

 その背を追うようにして、唯達もまた、ゆっくりと足を進ませていた。


345 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:50:04.4110IwYkZZo (150/194)

―――
――


【ステージ】

彩「皆さん聴いて下さい! 夢の輝きはここに……!『もういちど、ルミナス』!」

蘭「みんな、私達の今を見て欲しい……!『ツナグ、ソラモヨウ』!」

こころ「みんなー! 笑顔で盛り上がりましょ♪『キミがいなくちゃっ!』ミュージック……スタート♪」

友希那「響け、私達の情熱よ……『Neo-Aspect』!!」

香澄「みんなの思い……純粋な気持ちを心に込めて歌います……聴いて下さい、『二重の虹(ダブル レインボウ)』!!」

 少女達のライブは続く。

 休憩で一度は途切れそうになった観客のテンションも充分な程高まり、会場の至る所で歓声や掛け声が相次ぐ。

 その声に合わせ、少女達の輝きは、絶えず紡がれていく――。


唯「みんな……がんばれーーっ!」

律「全身ヘトヘトなのに不思議と身体は動くんだよな……やっぱみんな、すげえわ……!」

澪「ふふふっ……でも、悪くないな……この感じ!」

紬「うんっ! やっぱり、ライブって……音楽って……!」

梓「最高……ですねっ!」

 その輝きはフロアにいる全ての人の心を照らし、興奮の一時はその熱を落とさぬまま続いていく……そして、少女達の宴は、遂に最終章へと向かうのであった――。


346 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:50:32.1610IwYkZZo (151/194)

―――
――


 長く続いたライブのエンディング、その最後の歌は、香澄達主役の5人によって始められようとしていた。

 香澄、蘭、彩、友希那、こころの5人はそれぞれ同じ衣装を纏い、ステージに佇み、ただその時を待つ。

 そして、最後の歌が始まる――。


まりな「それでは、本日最後の演奏になります! GBPスペシャルバンドによる演奏、どうぞ!!」

 ――ワアアアアアアアア!!!!


彩「みなさん……! 今日は私達のライブに来て頂き、本当にありがとうございます!!」

蘭「最後は、私達の歌で締めようと思います!」

こころ「どのバンドの演奏も素晴らしくって……とっても楽しい一日だったわ♪」

友希那「様々な思いや希望、感動で満ち溢れた、最高のライブでした……」

香澄「ぅん……でも、本当は私……まだ、終わりになんてしたくないです……っっ」

香澄「……今日は、本当に……キラキラやドキドキの連続でした……っ…かっこいい人達がいて……ステキな人達がいて……っ」

 声が上ずり、香澄の眼から大粒の涙が溢れだしていた。

 香澄のその姿を見て、会場からは次々とエールが送られる。


唯「香澄ちゃーーん!! がんばれーー!!」

律「しっかりやれー! 最後まで! やりきれーーー!!」

澪「みんなすごかった!! 私も感動したよ! 本当にありがとうーー!!」


347 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:51:05.1610IwYkZZo (152/194)

 ――がんばれ! 香澄ーーー!!!

 ――私達、ずっと応援してるからねーーー!!

 その歓声は応援となり、香澄だけではなく、ステージにいる全員の気持ちを一つに纏め上げていく……。


香澄「みんな………っっ」

蘭「香澄……!」

彩「香澄ちゃん……!」

こころ「香澄っ♪」

友希那「戸山さん……!」

香澄「……うん、もう……大丈夫っ!」

 込み上げる涙を拭い、香澄は声を張り上げ、最後の曲が始まった。


香澄「最後にみんなで心を込めて歌います……聴いてください!――『クインティプル☆すまいる』!!!!」




348 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:51:44.7610IwYkZZo (153/194)

 香澄達の歌は、まさに宴の最後を締め括るに相応しい歌だった。

 夢、今、笑顔、情熱、純粋……全ての輝きが一つの星となり、聴く人全ての心を照らし出す。

 その輝きは、かつて少女だった全ての人々を、一番眩しかった頃へと巻き戻す光。


 どれ程の時が流れようが決して変わることのないそれは、『絆』と言う、一つの新しい輝きだった――。


 ――♪ ――――♪ ――……♪

全員「……皆さん………ありがとうございました!!!!!」

 会場が大歓声に包まれる。

 そして、運命によって紡がれし共演の舞台は、喝采の中でその幕を降ろしたのであった。 


349 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:53:04.7110IwYkZZo (154/194)

―――
――


【CiRCLE 入口前】


憂「お姉ちゃん……本当に、本当に今日は良かったよ、ステキな一日をありがとう」

和「私も、心の底から楽しめたライブだったわ」

さわ子「みんなお疲れ様、私も軽音部のOGとして鼻が高いわよ……ほんと、ステキなライブだったわね」

純「じゃあ先輩方、梓も、また近い内に会おうね♪」

菫「私も一足先に帰ってます。お姉ちゃん、打ち上げ、楽しんできてね」

直「皆さん、お疲れさまでした!」


唯「うん! みんな、またねー♪」

澪「行っちゃったな……」

紬「ええ……でも、また近い内に会えるわよ……」

律「さってと……んじゃ、早く行こうぜー。打ち上げ打ち上げ♪ ビール♪ おーいしいビールが待ってるぞ~♪」

梓「ふふふっ、律先輩ったら……」

 最後までライブを見ていてくれた憂達を見送り、唯達は再びライブハウスへ戻っていく。

 ライブの演者全員参加の打ち上げが、まもなく始められようとしていた。


350 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:53:39.9910IwYkZZo (155/194)

―――
――


【CiRCLE 打ち上げ会場】

 ライブ会場は打ち上げ会場へと様変わりし、並べられたテーブルには様々な料理にジュース類、大人向けにアルコール類が並べられていた。

 各々がカップを手にし、大人組のカップにはアルコールが注がれ、まりなの掛け声により、音頭が始まる。


まりな「みんな、今日はお疲れ様!! 最高のライブをありがとう!!」

全員「――お疲れ様です!」

まりな「CiRCLEとしても、今日のライブはめでたく大成功を収めることが出来ました♪」

まりな「なので、ささやかですが、打ち上げとして今日の日を盛大にお祝いしたいと思います!」

まりな「じゃあ、早速ですが乾杯の音頭を……今日、スペシャルゲストとして来てくれた放課後ティータイムの代表と……そうだね、香澄ちゃんの2人で、乾杯の音頭を取ってもらおっかな♪」

香澄「はーい♪」

律「じゃー、ここは部長の私が……と思ったけど……唯、行ってきなよ」

唯「え、いいの?」

律「あの子と一番仲良いの唯だろ? ほら、待ってるぞ」

香澄「唯さん! 一緒にやりましょう♪」

唯「うんっ! じゃあ、行ってくるね♪」

 そして、唯と香澄が並び、乾杯の音頭が始められる。


351 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:54:33.7210IwYkZZo (156/194)

香澄「皆さん今日はお疲れさまでした! たくさん笑って、感動で泣いちゃったりもしたけど……でも、とっても楽しい、最高のライブでした! 皆さん本当に、ありがとうございましたっ!」

唯「私も! 今日、ここに集まった誰か一人でも欠けてたら、こんなに素敵なライブにはならなかったと思います! 招待してくれた皆さん、手伝ってくれたまりなちゃん、一緒に歌ってくれたみんな、本当にありがとうっ!」

香澄・唯「じゃあみんな、飲み物持って……せーの……かんぱ~~い♪」

全員「――カンパーーイ!!」

 各々がカップを交え、慰労会を兼ねた打ち上げが初められた。


巴「今日は目一杯ドラム叩いたからアタシ腹ペコだよー、ん~~~っ♪ このピザ、美味そうだなぁ~♪」

モカ「……このパン、おいしひ~~……ん~、すっごくおいしいよ~♪」

ひまり「きょ、今日は食べるぞーー! 私も、今日はたくさん頑張ったから! だ、だいじょーぶ! なはず……!」


友希那「今日の演奏、まだまだ改善の余地があったわね……」

紗夜「ええ、そうですね……観客と一緒に『音を楽しむ』という事を踏まえて、今一度私達も自分の音を聴き直してみるのも良いかも知れません」

リサ「も~2人とも……今日ぐらいは反省会やめて打ち上げ楽しもうよ~」


日菜「いやー、麻弥ちゃんのドラム、本当に上手になったよね~」

麻弥「はい! でも、今日の律さんのパフォーマンスに比べたらまだまだです……ジブンももっと、腕を磨かないと……!」

イヴ「ハイ♪ 切磋琢磨……ですね♪」

 空腹を満たすように料理を食べはじめる者や、早速今日の反省会を行う者、あるいは互いの演奏を称え合う者など、様々な少女達の声で打ち上げは賑わっていく。

 それは、放課後ティータイムもまた同じであった。


律「んっ……んっっ……くはぁぁぁ…………一仕事終わった後の一杯……うんめぇ~~っ!! よし、おっちゃんもう一杯!」

澪「だからここは居酒屋か……!って、前にも聞いたぞそのセリフ!」

唯「ん~~~~……ごはんが美味しい……お酒も美味しいいいいいいい」

梓「ちょっ、唯先輩、こぼしてますよ!」

紬「うふふ……♪ いいわねえ、やっぱり♪」


352 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:55:36.7210IwYkZZo (157/194)

―――
――


巴「っかし……ほんっと楽しいライブだったよな~」

モカ「うんうん、みんな盛り上がってたし、サイコーだったよね~」

巴「やっぱ、ライブって楽しいよなぁ」

あこ「うんっ♪ お姉ちゃんのドラム、今日も輝いてたよ!」

律(あれ、この声……)

 巴の声を聞いた律の頭にある事が浮かぶ。

 早速それを試してみようと、律は巴に声をかける。


律「ねえねえそこのおじょーさん、ちょっといいかしらん♪」

巴「はい? あ、アタシですか?」

澪「おーい律……あ、そんな所にいた……」

律「あー澪、ちょうどよかった。ちょっと2人とも並んで、『あめんぼ あかいな あいうえお』って言って声合わせてみてよ」

巴・澪「……?」

 律の声に顔に疑問符を浮かべながらも、巴と澪は並んでそのセリフを発する。


澪・巴「「……? 『あめんぼ あかいな あいうえお』これでいいの(ですか)?」」


律「うはっ! やっぱ似てる! お前ら2人声似すぎだろ!」

あこ「本当だ……おねーさん、お姉ちゃんに声そっくり!」

澪「え、そ、そう?」

巴「前に蘭にも言われたけど……そんなに澪さんとアタシって声似てるか?」

蘭「うん……初めて聞いた時はあたしもびっくりしたよ……」

巴「ん~、自分の聞く自分の声って分からないからなぁ」

律「それじゃあ……そうだな……」

 スラスラとメモに何かを書き、律は巴に見せながら続ける。


353 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:56:46.1210IwYkZZo (158/194)

律「あの、巴ちゃん……だっけ、何も言わずにこの紙に書いてあるセリフ、ちょーっと感情込めて読んでみてくれない?」

巴「……? はい、えっと、なになに、『萌え萌え~……キュンっ♪』…………へっ!?」

モカ「お~~、トモちんの萌え萌え声だ~、ねえねえトモちん、録音するからもう一回~♪ アンコールー♪」

あこ「わぁぁぁ! お姉ちゃん、今すっごく可愛かったよ! あこももう一回聴きたいっ♪」

澪「りーつー、お前女子高生に何言わせてるんだーっ!」

 ――ごちんっ!


律「あいてっ! いきなり殴んなよなーもー!」

澪「黙れこの酔っぱらい! ほら、いいから行くぞ!」

律「だ~~! 分かったから引っ張んなって!!」

 澪に引きずられ、あえなく退場となる律だった。


蘭「……意外、まさか澪さんにあんな一面があるなんて……」

ひまり「澪さん……や、やっぱりか……かっこいい……!」

モカ「ひーちゃんひーちゃん、ちょっと何言ってるかモカちゃんわからないよー」

つぐみ「あははは……ひまりちゃん……」

巴「あれが澪さんの幼馴染……なんか、色々と凄い人だったな……」


354 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:57:31.3710IwYkZZo (159/194)

―――
――


律「ったく……おー痛っ……澪のやつあんなに怒らなくたっていいだろ……」

彩「あ、律さん、お疲れ様ですっ!」

麻弥・千聖・イヴ・日菜「――お疲れ様です!」

 頭を擦りながら歩く律のその背に向け、パスパレのメンバーから声が投げ掛けられる。


律「ああ、みんなもお疲れ様~……ってか、今は仕事じゃないんだからそんな硬くならなくてもいいよー」

イヴ「リツさん、素晴らしいドラムでした♪ 私、本当に尊敬しますっ♪」

千聖「でもまさか、変装して会場に来ていただなんて……ステージで見た時は本当に驚きましたよ」

日菜「あれー、やっぱみんな気付いてなかったんだ?」

彩「え、日菜ちゃん気付いてたの??」

日菜「うん、受付で見た時から律さんだって気付いてたよ♪」

麻弥「あー、だから日菜さん、ライブ前からあんなにご機嫌だったんですね♪」

律「……ははは、やっぱりバレてたか……私もまだまだだな……」


355 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:58:11.3610IwYkZZo (160/194)

律「あ、っていうか、受付っていや……彩ちゃんーーーっ」

彩「ひっ! は、はいっ!」

律「今朝流れでサイン書こうとしたの見てたぞー。自分を安売りすんなっていつも言ってるだろー! だいたいそーゆー所でアイドルってのはだな~!」

麻弥「ま、まぁまぁ律さん! 今は仕事じゃないって言ってましたし、今日は堪えてくださいっ、ね!」

律「それとこれとは話が違ーう!……たく。いいか彩ちゃん、ファンサービスってのはだなー!」

千聖「律さん、後で私からも彩ちゃんには言っておきますから……!」

律「次に私が見かけたら、もっと言うからな~!」

 そして意味深な事を強調しつつ、千聖と麻弥に宥められながら、律は渋々その場を後にしていた。


唯「うぅぅ……彩ちゃん、なんかごめんね、私のせいで……」

彩「え? あ、そんな、とんでもないですっ!」

彩「あれ……律さんさっき……あぁ……そっか……」

彩「……あ……あの、もし良かったら、サインじゃなくて申し訳ないですけど……握手でしたら♪」

 律に気付かれぬよう、彩はそっと唯の手を握る。


356 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:59:03.4710IwYkZZo (161/194)

唯「え、彩ちゃん……い、いいの??」

彩「ええ……放課後ティータイムの演奏……すっごく感動しました……唯さん、いつも応援……ありがとうございます♪」

 唯の手を優しく包み込む彩の柔らかい手。

 その指の感触を忘れぬよう、唯は何度もその手を握り返していた。


唯「彩ちゃん……あ、ありがとう……! ありがとう……!!」

律「……ま、あれぐらいなら今日ぐらいは見逃してやるか」

麻弥「……? 律さん? どうかしました?」

律「……ふふふっ、いーや、なんでもないよ♪」

律(ったく……2人とも、やんならもうちょっとバレないようにやれってえの……)


357 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 02:59:54.2010IwYkZZo (162/194)

―――
――


【ステージ前】

こころ「紬達、本当に凄い演奏だったわね~♪」

紬「うふふっ、こころちゃんもステキなステージだったわよ♪」

美咲「でも、ほんと……びっくりしましたよ……」

はぐみ「うんうん、ムギちゃん先輩、すっごくかっこよかったね♪」

薫「あああ……私も、まだ心が踊っているよ……この興奮はしばらく収まりそうもないね…………そうだ、紬さん、宜しければ、今からダンスでもいかがですか……?」

紬「ええ……いいわよ♪」

花音「あははは……薫さん、相変わらずだね……」

美咲「ほんと、薫さん紬さんも相当疲れてるハズなのに、一体どこにそんな体力があるんでしょうね……」

 そして程なくしてから、ステージ上で紬と薫による社交ダンスが繰り広げられる。

 見る者全てを魅了するかのようなそのダンスは瞬く間に会場中の注目を浴び、相次いで拍手が巻き起こっていた。


紬「~~♪ まぁ……お上手なステップね♪」

薫「はははは……いや、紬さんには及びませんよ……ああ、なんて儚い……最高の一時です……」

花音「薫さん、凄く楽しそうだね」

ひまり「わぁぁ……い、いいなぁ」

 そして、ステップを踏むことに調子を良くしたのか、紬の腕が薫の脇に伸び……そして。


358 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:01:04.0810IwYkZZo (163/194)

紬「ふふふっ……そーれっっ♪」

薫「ふふふふふふふっっ……ふわっ……えっっ……!?!?!?」

はぐみ「うわぁ~♪ すごいすご~い♪」

こころ「まぁ……すごいわ♪ 薫が空を飛んでいるわ♪」

美咲「う、嘘でしょ!? 薫さんがあんなに軽々と! 紬さんって実は、かなり力持ち?」

澪「ムギ……やりすぎ……」

律「おーおー、飛んでる飛んでる……いや~、さっすがムギだなぁ」

紬「うふふふっ……もう一声~~っ♪」

薫「………………………」

梓「……あれ? あの人、白目向いてませんか?」

千聖「薫……完全に気絶してるわね」

美咲「ちょっ! 紬さんストップ! 薫さん身体だけじゃなくて意識まで飛んでますよ!」


はぐみ「ねーねームギちゃん先輩! 今度ははぐみにもやって欲しいな♪」

こころ「じゃあ、その次は私ね♪」

紬「ええ、いいわよ~♪」

律「ここは遊園地か!」

美咲「知らなかった……まさか紬さんが、こころレベルの天然キャラだったなんて……」

花音「つむぎさんがこころちゃんと仲良しな理由、なんとなく分かった気がするね……」


359 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:01:58.4310IwYkZZo (164/194)

―――
――


【ラウンジ】

 所変わって打ち上げ会場を離れたラウンジ、そこにはRoseliaの5名が集まって話をしていた。

 そこに梓も合流し、静かなラウンジ内に、少女達の笑い声が飛び交い始める。


梓「あ、Roseliaの皆さんどうも、今日はお疲れ様でした!」

友希那「梓さん……お疲れ様です」

梓「皆さん、本当に素敵な演奏でした……私もまだまだですね、もっと頑張らないと……」

あこ「そんな……放課後ティータイムの演奏も、ものすっごくかっこよかったと思いますっ!」

リサ「あはは、あこの言うとおりですよ、でも、プロの人にそこまで言われちゃうとなんだか照れちゃいますね」

紗夜「私達の方こそ、梓さん達のおかげで、大切な事を思い出せました……梓さん、ありがとうございます」

燐子「ありがとう……ございます」


360 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:02:52.8510IwYkZZo (165/194)

梓「いいえ……私の方こそ、友希那さん達の演奏を聴いてたら、悩んでいた気持ちが吹っ飛んだ感じがします」

友希那「悩み……ですか?」

梓「はい……お恥ずかしい話なんですけど……私、少し前まで自分の音楽が分からなくなっていたんです……」

友希那「梓さんにも、そんな事があったんですね……」

梓「ええ……私もまだまだです、でも、これからはもう大丈夫……今日、先輩達と演奏して……皆さんのライブを見させてもらって……とても大切なことを学びました」

梓「今日、ここでRoseliaの……皆さんの歌を聴けて、本当に良かったです」

リサ「梓……さん……」


梓「……聞きましたよ、『FUTURE WORLD FES.』に参加するってお話……凄いと思います、頑張って下さいね♪」

友希那「はい……ありがとうございます。私達も、梓さんと父のステージ、楽しみに待ってます」

梓「――はいっ♪」

 友希那の言葉に、笑顔で梓は返す。

 そして、梓と友希那達は握手を交わし、互いが互いの未来を誓い合う。

 プロとして更なる飛躍を志す梓と、自身の夢に向かい、歩き続けるRoselia。

 互いの出会いに感謝をしながら、その手はしばらくの間、固く握られ続けるのであった――。


361 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:03:32.1710IwYkZZo (166/194)

―――
――


【CiRCLE 店外】

 打ち上げの賑わいが僅かに聞こえる店外。

 上空に広がる夜空には星が煌めき、至る所で輝きを放っていた。

 夜空を照らす星々を見つめながら、香澄は静かに佇んでいた。


香澄「…………綺麗な星…………」

唯「香澄ちゃん、ここにいたんだね」

 満天の星を見上げる香澄に向け、唯が声をかけていた。


香澄「唯さん……今日は、お疲れさまでした」

唯「ううん、香澄ちゃんの方こそお疲れ様……すっごく頑張ってたね」

香澄「唯さん達もです……」

唯「ふふふっ……お星さま……綺麗だね~」

香澄「……はいっ」


 ………………。


 そうしてしばらくの間、2人は静寂に身を任せていた。

 互いの健闘を称え合うように、夜空の星は眼下の2人を優しく照らす。


 ――そして、香澄の口が静かに開かれた。


362 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:04:33.5810IwYkZZo (167/194)

香澄「……あの、唯さんは、どうして、幼稚園の先生になろうって思ったんですか?」

唯「うん……私ね……高校生の頃、すっごく好きだった先生がいたんだ……今日、お客さんで来てた人なんだけどね」

香澄「…………その人、唯さんの憧れの先生だったんですね」

唯「まぁねー……私も、その先生みたいになりたくて……それで、大学も教育学部に入ってさ」

唯「結局、色々あって高校の先生にはなれなくってさ……それでも、どうにか先生になることはできたんだ」

香澄「………………」

唯「おかげで今、すっごく楽しい毎日を送らせてもらってるよ♪」

香澄「……唯さん、お話を聞かせてくれてありがとうございます」

香澄(憧れの人……かぁ、それじゃ、私にとっての憧れは…………)

 唯の笑顔に釣られるように、香澄の顔にも笑顔がこぼれる。


 そして……。


唯「あ、そうだ、香澄ちゃんが音楽をやってる理由、私も聞いてもいいかな?」

香澄「はい……私……小さい頃……『星の鼓動』を聴いたことがあったんです」

唯「星の……鼓動……?」

香澄「はい……その時、すっごくキラキラ、ドキドキして……それで私、高校生になったら、あの時みたいにキラキラ、ドキドキしたいって思って、色んな事に挑戦してみたんです」

香澄「そうしてく内に、私はあのギターに巡り合うことが出来て……有咲やりみりん、おたえ、さーやに会うことができて、バンドを組んで……おかげで、毎日キラキラドキドキできて……! 私今、すっごく楽しいですっ!」

唯「青春……だねぇ」

 どこまでも自分の今を明るく語る香澄のその姿は、唯には一際眩しく見えていた。

 高校に入学した当時の自分とは正反対な眩しさ……その輝きは、昔の自分にはなかったものだった。

 だがあの時、迷っていたからこそ自分は大切なものに出会うことが出来た、それもまた、確かな事実である。


363 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:05:03.3010IwYkZZo (168/194)

唯「香澄ちゃんは凄いなぁ……私なんか、高校生になった時は、毎日何かしなきゃ何かしなきゃって、まるで何かに追われるように過ごしてたからさ……」

唯「香澄ちゃんみたいに、何かがしたいって前向きな気持ちで過ごしてなかったっけ……」

香澄「唯さん……」

唯「でも、そうやって過ごす内に、私も香澄ちゃんも、大切なものや仲間に巡り合うことが出来たんだよね♪」

香澄「……はいっ♪」


唯「やっぱり、バンドって……音楽って……楽しいよねっ♪」

香澄「はいっ! 私、バンドも音楽も、大好きです!」

 自分の誇れるもの、大切だと胸を張って言えるものに出会えた喜び。

 それは、世代を問わず皆が胸に抱く、掛け替えのない絆。

 出会いが紡ぐ、奇跡とも呼べるものだった。


364 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:06:10.8310IwYkZZo (169/194)

―――
――


有咲「あ、いたいた! おーい!」

沙綾「香澄ー! 唯さん! 下で記念撮影するってまりなさんが!」

りみ「もう準備できてるって! い、急いでくださーい」

たえ「みんな、待ってますよー」

 CiRCLEから香澄と唯を呼ぶ声がする。


香澄「みんな……」

唯「記念撮影だって、行こっか♪」

香澄「……はいっ♪」

 遠くから聞こえるその声に2人は立ち上がり、打ち上げ会場へと戻るのであった。


365 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:06:39.0310IwYkZZo (170/194)

【CiRCLE 打ち上げ会場】

まりな「じゃあみんなー、記念撮影、はっじめるよー」

有咲「さすがに、30人以上ともなるとちょっと狭いな……ちょっ! 誰だ今触ったの!」

たえ「あ、有咲、ごめん、私」

有咲「おたえかっ!!」


彩「記念撮影かぁ……何か、掛け声とかないかなぁ?」

まりな「ん~、そうだね、せっかくだし何か掛け声揃えたいよねー、どうしよっか?」

ひまり「あ! じゃ、じゃあ! えい!えい!おーで!」

モカ「いいけど、それ、ひーちゃんだけしかやらないと思うよー」

蘭「ふふっ……確かにそうかも」

ひまり「え~~~~、そんなぁ」


366 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:07:20.3110IwYkZZo (171/194)

こころ「うふふっ、掛け声といえばやっぱり、ハッピー! ラッキー! スマイル! イェーイ! に決まりよっ♪」

美咲「こころ、それも却下だよ、それだとハロハピだけしか乗れないでしょ」

こころ「そうなのね、残念だわぁ」

律「いきなり掛け声っつっても、急には出てこないよな……」

唯「香澄ちゃん、何か良い掛け声ってないかな?」

香澄「う~ん……そうですね…………あ、あれなんかどうかな?」

 唯に振られ、香澄はカメラに向け、あるポーズを決める。

 右手の人差し指と親指を立て、人差し指をカメラに向けたその仕草は、まるで指で作った銃を撃つ動作にも見えた。


香澄「こうして、『夢を撃ち抜け! BanG Dream!!』っての思いついたんですけど、どうですか?」

沙綾「うんうん、香澄、それすっごく良いと思うよ♪」

友希那「『夢を撃ち抜け』……前向きで、いいんじゃないかしら」

千聖「ええ、今の私達にぴったりのフレーズね、悪くないと思うわ」

まりな「じゃあ決まりだね、みんなー、行くよー!」

 まりなの掛け声に合わせ、全員が指で銃を作り、香澄の言葉を口にする。


全員「――夢を撃ち抜け!――BanG Dream!!」

 ――カシャッ! 



 ――――そして、それぞれの日々が始まった――!


367 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:07:54.9010IwYkZZo (172/194)

#9.エピローグ~放課後とそれぞれの輝き~

 夢のようなお祭りが終わってから数日、私達はそれぞれの生活に戻り、日常を過ごしていました。

 でも、なにもかも元に戻ったわけではなくて、そこには確かに、輝きがあった。

 あの時、あのライブでみんなが見た輝き。

 それはきっと、これからも続いていく――。


368 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:08:48.0310IwYkZZo (173/194)

―――
――


-エピローグ Pastel*Palettes-


【アイドル事務所】

 ライブから数日が経ったある日、久々にPastel*Palettes全員が集まったということで、その日は事務所にて律とパスパレによるミーティングが行われていた。


律「おはよー、みんな先週はお疲れ様~」

彩「律さん、お疲れ様です!」

一同「お疲れ様です!」

律「ガールズバンドパーティーも終わってようやく一息と行きたいとこだけど、まだアイドルコンサートも控えてるから、みんな、これからも気を抜かず頑張ろうなー」

一同「はいっ!」


律「それじゃー、来週からのスケジュールを確認するけど……」

麻弥「律さん、前のライブから雰囲気変わった感じがしますね」

千聖「ええ……忙しい合間を縫って私達と一緒にいて下さることも増えてきたし……本当に心強いわ」

イヴ「マネージャーさんというよりも、お姉さんって感じがします♪」

彩「お姉さん……かぁ、確かにそうかも♪」

日菜「あ、あのねっ! 律さん、私達からいっこ、律さんにルンッ♪ ってなる発表があるんだ♪」

律「発表……? 一体どんな?」

 日菜の言葉に顔に疑問符を浮かべ、律は言葉を返す。


369 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:09:35.0210IwYkZZo (174/194)

彩「はい、律さん達のライブを見て、私達、話し合って決めた事があるんです」

千聖「これからのパスパレの夢……その具体的な目標を立ててみました」

イヴ「私達の目標……目指すべきターゲットは……!」

麻弥「これですっ!」

 ばさっと、イヴと麻弥がカバンから一つの幕を取り出し、大きく広げる。

 そこには――。


一同「――武道館!!」


 とても力強い、『武道館』という一文字が書かれていた。


律「………………っっ……」

 その文字を見た律の眼が一瞬大きく見開かれ……様々な記憶と共に目頭が急速に熱を帯びて行くのを感じていた。


律「………ふっっ……ふふふっっっ………」

麻弥「……律、さん?」

律「っっっ! ……ぶ、武道館って……っっ! ……っっ!!………っっ!!」

 目元から込み上がってくる涙を誤魔化すように、律は顔を覆い、声を押し殺して笑い続ける。


370 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:10:53.0110IwYkZZo (175/194)

彩「やっぱり……今の私達には無謀だったのかな……?」

千聖「ううん……きっと、そうじゃないと思うわ……」

イヴ「はい……リツさん、すっごく嬉しそうにしてくれてます」

日菜「あれー、もしかして律さん、泣いてない?」

律「な、泣いてなんかいねーっ! ……いやいや……ちょっとびっくりしたけど……けどお前らな~、今のまんまじゃ武道館なんて夢のまた夢だってーの!」


千聖「でも、私達なら、きっとどんな夢でも叶えられると思いますよ」

麻弥「そうですね、ジブンも、この5人ならきっと何だって乗り越えられるんじゃないかって思いますっ♪」

イヴ「一心精進、精一杯がんばります♪」

日菜「武道館かぁ……ふふふっ♪ 今からルルルンッ♪ ってしてきたなぁ~♪」

彩「私ももっともっと……もーーーっっと頑張らないと!」

律「みんな…………っ……」


律(なあ、みんな……私達の夢……いいかな、この子達になら、託してもいいかな……!)

 ここにいない“4人”に向けて、律は言う。

 仮に4人がここにいたら、きっと構わず良いって言ってくれるんだろうと思いながら、律は顔を上げ、少女達を見つめていた。


律「よーっし! それじゃあ時間まで音合わせやるか! 今日はあたしもとことん付き合うよ!」

彩「はいっ♪ よろしくお願いします♪」

律「目指せ武道館……! Pastel*Palettes、いっくぞーーっ!!」

全員「おーーっっ!」

 スタジオ内に、一際賑やかな音が鳴り響く。

 それは、自らが打ち立てた夢に向かい、邁進する輝き。


 少女達は今日も夢に向かい、歩いて行く――。


371 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:11:32.7510IwYkZZo (176/194)

―――
――


-エピローグ Afterglow-


【羽丘女子学園 2-A教室】

 授業も一区切りつき、昼休みとなったある日のこと。


ひまり「う~~ん……やっぱ、私も黒髪ロングにしよっかなぁ……」

 ファッション誌を眺めながら、ひまりは一人、云々とぼやいている。

 そんなひまりの様子を見ながら、蘭達は机を並べ、各々が昼食を取っていた。


蘭「ひまり、今朝から何を唸ってるんだろ」

モカ「あ~、なんか、ひーちゃん黒髪にしようか悩んでるらしいね~」

巴「黒髪ロングって……やっぱり、澪さんに憧れて……か?」

蘭「ああ、なるほど……」

つぐみ「ふふっ、黒髪にしたひまりちゃんも、きっと可愛いんだろうね」

ひまり「やっぱりつぐもそう思う? いやー、私もそうだと思ってたんだよね♪」

モカ「でも、もしそうなったらひーちゃん、おたえちんや燐子さん、美咲ちん達と被っちゃわないかな~?」

ひまり「い、いいのっ! 私、澪さんみたいにクールでかっこいい大人になるって決めたんだもんっ!」

 勢いよく立ち上がり、ひまりは宣誓する。


372 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:12:39.2710IwYkZZo (177/194)

巴「はははっ、ひまりがクールでかっこいい大人……ねぇ」

蘭「ふふっ……それじゃあ、まずはその性格も変えなきゃね」

モカ「あのねーひーちゃん、澪さんは間違っても『えい、えい、おー』をやる人じゃないと思うよー?」

つぐみ「あはははは……」

ひまり「も~~~、みんなバカにして~~! いいもん! ぜったい、ぜーったいに澪さんみたいなステキでかっこいい女性になってやるんだから~~っ! はむっ!」

ひまり「ん~~♪ 今日のご飯もおいしいっ♪」

 二度ひまりは叫び、昼食を口に運び続けていた。

 そして……。


373 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:14:14.2710IwYkZZo (178/194)

ひまり「ごちそうさまっ♪ 今日もおいしかったな~♪」

モカ「やっぱり、ひーちゃんはいつになっても、『いつも通り』のひーちゃんだと思うよー」

ひまり「もー、モカったらまたバカにして~」

巴「ふふっ……ああ……でもさ、あの人達と知り合って、アタシ、ひとつ思ったことがあるんだ」

つぐみ「巴ちゃん?」

巴「……10年後……アタシ達は、どんな大人になってるんだろうなってさ」

モカ「10年後かぁ……あたしたちは27歳……ずいぶん先の話だね~」

蘭「……大人になったあたし達……か」

ひまり「想像もできないよね……ほんと、どんな大人になってるんだろ……」

巴「きっとその頃にはみんな、仕事したり、結婚したり、ひょっとしたら、子供が出来てたりしてるのかも知れないよな」

つぐみ「うん……そう、だね」

 そして、優しい顔で巴の言葉は続けられる。


374 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:15:04.9910IwYkZZo (179/194)

巴「時には、前みたいに擦れ違ったり、環境が変わって、離れ離れになる日だって来るかも知れない」

巴「いつかそんな来ても、アタシ達はずっと同じ、『いつも通り』のアタシ達でさ、これだけは変わらないよな」

蘭「うん、もちろん……あの日、みんなで見た夕日のように変わらない、あたし達はいつまでも『いつも通り』のあたし達だよ」

モカ「ふっふっふ~、それじゃーあたしは、もし大人になった時に離れ離れになっても、蘭が寂しくならないように、お嫁さんにもらってあげよー♪ なーんてねー」

蘭「モカったら……今は茶化す所じゃないでしょ……」

モカ「えへへ~」

つぐみ「私達もなれるかな……あの人達みたいに……いつまでも輝いていられる、そんな大人にさ」

モカ「あの人達みたいに……かぁ~」

蘭「…………」

 つぐみの言葉に蘭はしばし考え込んでいた。


375 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:15:44.4510IwYkZZo (180/194)

蘭「……違う、それじゃダメだと思う」

ひまり「そうだね、あの人達のようにじゃなくって……あの人達以上にならなくっちゃ……ね」

巴「ああ……誰にも負けない、『いつも通り』のアタシ達で……だよな」

つぐみ「うん……えへへっ、そう、だよね♪」

ひまり「ていうか……あ~、もうこんな時間! そろそろ次の授業の準備しなきゃ! 遅れちゃう!」

巴「え? あ、もう?」

つぐみ「私、次の授業の準備お願いされてるんだった、私ももう行かなくっちゃ!」

蘭「だってさ、巴、急がないと置いてくよ」

モカ「トモちん、はやく~♪」

巴「も~、待ってくれよー! みんな、アタシを置いてくな~~っ!」


 少女達の笑い声は休まず続き、教室は一層賑わっていった。

 既に幾度も立てた誓いを再度掲げ、少女達は未来へと向かい、今日という日を歩きだす。


 『今』を生きる少女達の輝き、その光はいつまでも色褪せることなく、広がっていく――。


376 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:16:55.2410IwYkZZo (181/194)

―――
――


-エピローグ ハロー、ハッピーワールド!-


【琴吹グループ 役員室】

 ガールズバンドパーティーが終わった翌週のこと、紬と菫の2人はまた以前のように、相次ぐ仕事にその身を追われていた。


菫「お嬢様、午後からまた会議がありますので、お急ぎ下さい」

紬「ええ、いつもありがとうね、菫ちゃん」

 車に乗り込むと同時に菫の足がアクセルを踏み、車は発進していく。

 その車内では、携帯電話で通話をしながら得意先へのメールを打ち続ける紬の姿があった。


紬「はい……ええ、こちらこそありがとうございます。 はい、でしたら再来週、ええ、お待ちしてますね……」

 ――ピッ


紬「ふぅ……メールも打ち込んだし……あとは、今日の会議の資料の確認ね……」

菫「はい、ダッシュボードの中にタブレット端末がございますので、そちらをご覧ください」

紬「うん……ありがとう……」

菫「すみません、私の力が至らないばかりに、お嬢様に無理を強いてしまってます……」

紬「そんな事ないわ、菫ちゃんが頑張ってくれたから、私もライブに専念できたんだもの」

紬「菫ちゃんの苦労に比べたら、これぐらいなんてことないわ♪」

菫「お嬢様……」

 苦労を微塵も感じさせないほどの明るい顔で紬は返す。

 その顔に若干の罪悪感を感じながらも、菫の足はアクセルを再度踏み込んでいた。


 そして、長時間に及ぶ会議がようやく終わり、遠くに沈む夕日を見ながら、紬達がしばしの休息を取っていた時の事。


377 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:18:22.0910IwYkZZo (182/194)

紬「んんん……なんとかまとまったわねぇ」

菫「ええ……お疲れ様です、お嬢様」

紬「でも、まだ終わりじゃないわ……帰ったら今日の会議のことで何点か確認しなきゃいけなくなっちゃったからね」

菫「はい……今日も、長くなりそうですね……」

紬「さて、そろそろ行きま…………あら?」

菫「……お嬢様、如何なさいましたか?」

 ――そろそろ移動を決めようとしたその時、ある光景が紬の視界に入り込んでいた。


紬「ねえ、菫ちゃん……もうちょっとだけ、寄り道してかない?」

菫「寄り道って言われても……あまり時間は……」

紬「いいじゃない、ちょっとだけ……ね」

 紬の指がある広場の一点を指し示し、その指の先を見た菫の顔に、優しい笑みが灯る。


菫「……ちょっとだけだよ、お姉ちゃん」

紬「うんっ♪」


 広場の方から遠く、賑やかな歌声が聴こえる。

 その歌声は、聴く者全てを子供の頃に返す、笑顔の歌……。

 音楽で世界を笑顔にする、輝きの音色だった――。


声「みんな、いくわよ~♪ ――ハッピー! ラッキー! スマイル! イェーイ♪」

 ――いぇーーーーーい♪


378 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:19:07.0810IwYkZZo (183/194)

―――
――


-エピローグ Roselia-

【某ライブハウス】

 ガールズバンドパーティーの開催から既に数ヶ月の月日が流れた頃。

 夜の帳が降りる時刻、とあるライブハウスに、友希那達Roseliaの姿があった。


リサ「いよいよ来たね♪ 梓さんとおじ様のジャズライブ♪」

あこ「うんうん♪ 凄いな……お客さん、どの人も大人って感じがして、ワクワクしてきちゃった♪」

燐子「うん……あこちゃん……楽しみ……だね♪」

紗夜「皆さん、あまり騒がないように、いつものライブとは違うんですから、こういう所では慎みを持って行動しましょう」

あこ・リサ「はーい!」

友希那「時間はそろそろね……来たわ……梓さんとお父さんよ」

 友希那の言葉通り、ギターを手に梓がステージに姿を表す。

 その様子を見守るように、梓の両親と友希那の父もまた、ステージの脇で梓の様子を見つめているのが伺えた。

 そして、梓の司会により、ジャズライブの始まりが宣言される。


梓「皆さん、今日は集まってくれてありがとうございます! 最高の一時をお届けするので、最後まで楽しんでってくださいっ」

梓「そして、今日はなんとゲストの方にも来てもらってます、そちらの演奏も楽しみにしてて下さいね!」

 ――ぱちぱちぱちぱちっ

 決して歓声は上がらず、静かな拍手だけが梓の声に答えていた。


379 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:19:40.3610IwYkZZo (184/194)

梓「それじゃあ、まずは一曲目、聴いて下さい♪」

 ――♪ ~~~♪ ―――♪

 静かに、ゆったりとしたジャズ特有のギターの旋律が紡がれる。


梓「~~♪」

リサ「凄いね、梓さん、楽しそうにギター弾いてる♪」

紗夜「ええ……ライブに来てくれた全てのお客さんに楽しんで行ってもらおうっていう気持ちが伝わってきますね」

あこ「いいなぁ……大人な感じがして、かっこいいなぁ」

友希那「梓さん……」

 軽快に奏でられる梓のギターの音は、以前のライブで聴いた音とは全く違う音色だった。

 だが、全身で楽しさを表現しようとするその音は、『音を楽しむ』という梓の気持ちが十二分に感じられる音でもあった。

 聴くだけで自然と身体が動くような感覚がし、それは、観客として聴く友希那達にもにも楽しさが伝わってくる程だった。

 そして程なく、一曲目の演奏が終わり、二度目の拍手が沸き起こっていた。


380 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:20:38.0710IwYkZZo (185/194)

梓「―――――……♪」

 ――♪  ―――♪ ――……♪

 ――ぱちぱちぱちぱちぱちっ!!


 そして、拍手が静まった頃合いを見て、梓の後ろでメンバーが楽器を構える。

 今度はドラムにサックス、友希那の父のギターも交えた演奏となり。その音は、会場中に更なる興奮と、楽しさを響かせていくのであった。


梓「~~♪」

梓(ふふふっ……楽しいな……♪ 音を奏でるのが、こんなに楽しいだなんて……っ♪)

 そして、梓達の奏でる音は、観客の耳を絶えず虜にしていくのであった。


381 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:22:50.7210IwYkZZo (186/194)

【帰り道】

リサ「いやー、ジャズもなかなか良かったね~♪」

あこ「うんっ♪ あこも今度お姉ちゃんと一緒に聴いてみよっと♪」

燐子「ですけど……やっぱり……途中で帰る事になってしまったのは……残念です……」

紗夜「仕方ないわ、未成年が入れる時間はこの時間までなんですもの」

紗夜「……でも、私も久々に、心が洗われましたね」

友希那「ええ……みんな、明日からまた猛練習よ」

 言葉を紡ぐ友希那の眼に、静かな闘志が宿る。


友希那「『FUTURE WORLD FES.』までもうすぐ……みんな、最後まで、気を抜かずに頑張りましょう」

一同「――はいっ!」

 そして友希那達は歩き出す。

 その眼が映す情熱の輝きは、その夢の舞台に立つその日まで、決して消えることはないだろう。


 Roseliaの夢への進撃は、これからも続いていく――。


382 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:23:42.0910IwYkZZo (187/194)

―――
――


-エピローグ Poppin'Party-

【市ヶ谷家 蔵】

 放課後ティータイムとの共演から数カ月後のある日、市ヶ谷有咲の蔵では、久々にPoppin'Partyによるライブが行われようとしていた。


香澄「ん~~~♪ 蔵イブ、久々だね♪」

有咲「まさか、またここでやることになるなんて思わなかったけどな」

りみ「香澄ちゃん、今日の新曲はどうしても限定ライブで聴かせたい人がいるんだって言ってたもんね」

たえ「うん、私も楽しみだったんだ♪」

沙綾「さてと、そろそろ来る頃じゃないかな?」


声「すみませ~ん」

声「お、お邪魔しまーす」

香澄「あ……来た来た……♪」

 声のする方へ目線を送る。

 そこには、唯が妹の憂を連れているのが見えていた。


383 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:24:36.7010IwYkZZo (188/194)

唯「香澄ちゃん、お久しぶりだね~」

憂「み、皆さんはじめまして、平沢唯の妹の、憂です」

香澄「唯さ~ん♪ 会いたかったです♪」

唯「あははっ、私もだよ、香澄ちゃん♪」

香澄「妹さんも来て下さってありがとうございます! 今日は、精一杯演奏するので聴いてってください♪」

憂「はい、こちらこそ、よろしくお願いします♪」


唯「いやー、しっかし、スタジオを自分で持ってるなんて、香澄ちゃん、すごいねぇ~」

有咲「まぁ、スタジオって呼べる程立派じゃないですけど、良かったらゆっくりしてって下さい」

憂「私、パウンドケーキを焼いてきたんです、良かったら皆さんでどうぞ♪」

りみ「わぁぁ、あ、ありがとうございますっ」

 唯と憂の来訪により、蔵はいつも以上の賑わいを見せていた。

 それから程なく、ライブの準備は進み、いよいよ唯と憂、2人の為の蔵イブが開かれる。


384 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:25:29.0810IwYkZZo (189/194)

香澄「お二人とも、今日は来て下さって、ありがとうございま~す♪」

唯「いぇーい♪ 香澄ちゃん、こちらこそありがとー♪」

憂「ありがと~♪」

香澄「早速ですが聴いて下さいっ♪ 『キズナミュージック♪』」

 ――♪ ~~~♪ ―――♪


香澄『――教室の窓の外 はしゃぐ声――』

 優しい旋律に乗せられ、香澄の元気な歌声が響き渡る。

 少女達の音楽を愛する純粋な気持ちは歌となり、音となり、唯と憂の心を動かしていく。

 その心のままに、唯と憂の二人は、香澄達の奏でる歌に聴き入っていた。 


 ――♪ ―――♪

香澄「ありがとうございましたっ!」

 ――パチパチパチパチっ


唯「香澄ちゃん! いいよー! 良かったよー♪」

憂「うんうん♪ 私も、すっごく楽しいです♪」

香澄「へへへっ……ありがとうございます! それでは続いて、新曲、行きたいと思います!」

唯「わぁ……新曲だって!」

憂「楽しみだね、お姉ちゃんっ♪」


385 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:27:04.3210IwYkZZo (190/194)

香澄「この歌は、私の原点……あの時のキラキラ、ドキドキした気持ちを思い出して作ってみました……それでは、聴いて下さい」


香澄「――『トゥインクル・スターダスト』!!」

 ――♪ ―――♪ ―――♪


 どこか聞き覚えのある音色とともに、その歌は始められた。

 それは、誰もがよく知る童謡『きらきら星』をベースにアレンジされた歌。


 ――唯と香澄があの日、職場体験実習で初めて共に奏でた歌だった。


唯(香澄ちゃん……)

香澄(楽しい……歌が……演奏が、こんなに楽しいだなんて……♪)

有咲(へへへっ……香澄のやつ、結構乗ってるな)

沙綾(私達も、負けてらんないね)

たえ(うんっ、そうだね♪)

りみ(みんな……♪)

 香澄達の意思は一つとなり、一心に音を紡いでいく。

 その光景は、唯と憂の心をより一層昂らせ、歌の虜にしていった。


386 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:27:40.7010IwYkZZo (191/194)

唯「いぇ~い! 香澄ちゃん! いっけ~~♪」

憂(ふふふっ……お姉ちゃんもあんなに楽しそうにしてる……)

唯(香澄ちゃんの言ってた、キラキラ、ドキドキっていう感じ、私にもなんとなく分かるよ……!)

香澄(もっと……もっともっと……キラキラドキドキしたい! この感じを唯さんにも、もっと伝わってほしい……!)


唯(香澄ちゃん、音楽って……)

香澄(唯さん、バンドって………!)


唯・香澄((――最高……だね!))


 少女達の歌声が蔵に響き、幸福に満ちた一時が訪れる。

 誰もが笑いあい、奇跡の出会いに喜び、その歌を口ずさむ。

 音楽を愛するその純粋な輝きは、いつまでも、どこまでも……紡がれていく――。


387 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:28:44.7610IwYkZZo (192/194)

―――
――


-エピローグ 放課後ティータイム-

 数多の客で賑わうとあるホールの前に、放課後の5人は集まっていた。


律「まさか、こうしてまたライブをやるだなんてな……」

澪「ああ、ほんと、人生って何があるか分からないよなぁ……」

唯「うん……まさか私達が『FUTURE WORLD FES.』のオープニングライブをやるだなんてね~」

梓「ガールズバンドパーティーで私達の演奏を見てくれた関係者の方から連絡があった時は驚きました……思わず腰抜かすかと思いましたよ……」

紬「ふふふっ……お客さんも凄い数ね……」

 開場までまだ時間があるというのにも関わらず、既に会場となるホールには多数の客で賑わっている。

 テレビの中継だろうか、辺りにはカメラを構えたクルーの姿も見え、まさに一大イベントと言った様相を呈していた。


紬「あ、ねえ……見て、ほら、ここの名前」

律「ああ……『桜が丘グレープホール』……ははは、何の因果だろうな」

梓「ふふっ……ええ、まさかの『葡萄館』……ですからね……もう、見た時は笑っちゃって……」

澪「形は違うけど、なんだかんだで私達の夢、叶ったな……」

唯「うん、確かに本当の武道館じゃないけど、でも……ここが今は私達の武道館だよ」

紬「あの時、まりなちゃんに出会えてなかったら……きっとこうはならなかったわね……」

梓「ええ……奇跡とか運命って……本当にあるんですね……」

 それからしばらく、それぞれの気持ちを胸に、5人は感傷に浸っていくのであった。


388 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:29:29.1810IwYkZZo (193/194)

律「それじゃーみんな、今日も楽しく盛り上がっていこーぜ!」

澪「ああ! そうだな!」

紬「私達の演奏を……!」

唯「私達の想いを……!」

梓「会場のみんなに、届けてやりましょう!!」


律「放課後ティータイム………行くぞ!!」

一同「――おおーーっっ!」

 ホールの前で、少女達は勢いよく叫び出す。


 何よりも眩しく、輝きに満ちたライブが再び始まる。

 それは5つの輝きを受けた少女達により紡がれる、もう一つの輝き……。


 『絆』という輝きは、今日もステージの少女達を照らし出していた――。





唯「皆さんどうもーーーー!!! 私達が…………!」


 ――放課後ティータイムです!!!



 Fin...


389 ◆64sUtuLf3A2019/10/03(木) 03:43:34.2510IwYkZZo (194/194)

あとがき

 元々「けいおん!」と「バンドリ」をクロスさせたいという願望はありました

 ゲーム内でカバーされてるけいおんの曲も3曲ありますし、これらを物語の中でカバーするに至る経緯とかが語られたら面白いなというのもありました。


 ちょうどメインのバンドも5組いますし、それぞれのバンドに対し、HTTをどうアプローチして行くかを考えた時に浮かんだのが『もし大人になった唯達と香澄達が出会ったらどうなるのか?』でした。

 あとはその妄想を繋ぎ、こねくり回して出来たのがこの長文SSです。


 拙く、長い文章だったと思いますが、もし読んでくれたのであれば幸いです。


 読んで下さり、ありがとうございました。


390以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/03(木) 03:55:14.91o5m0/24AO (1/1)




391以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/03(木) 08:40:54.095QjjktwsO (1/1)

期待


392以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/12/29(日) 02:29:17.13WasZd/s10 (1/1)

乙、これだけ書いてくれたことに敬服