1以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/07(日) 21:28:53.04V+T4nCQT0 (1/11)

「何でですか!」

 机を叩き、問いただす彼に、編集長は硬い表情で言った。

「本社からの命令だ。…本当は、僕だって君の記事を載せたかったさ」

「本社って…クソっ、風都新聞の! 自分たちの街を悪く書かれたら、すぐにこうだ!」

「…」

 大判の封筒を彼に突き返すと、編集長はため息をつく。

「…だが、彼らに食わせてもらってるのも事実だよ。僕らも、路頭に迷いたくは無いからね。また今度、良いのを頼むよ」

 そう言うと編集長は、帰れと言わんばかりに手を振った。彼はもう一度机を掌で叩くと、足音も荒く部屋を後にした。



 ぎらついた盤面に虚しく吸い込まれていく銀の玉を眺めながら、彼は茹だった頭で考えていた。
 最近、この街で多発する怪奇現象。ビルが融け、鉄の塊が振り、地面に穴が開き、そして人が死ぬ。これらは、隣町の風都で数年前まで頻繁に起こっていた現象だった。そして、怪奇現象と前後してこの街に突如として広まった『母神教』なる新興宗教。
 彼は、一連の出来事を風都に端を発する事件と考え、取材し、記事に纏めた。そして、馴染みの雑誌社に持ち込んだのであった。
 編集長は、途中までは乗り気であった。だが、急に記事を却下した。それが、先程の出来事である。
 彼は、これが編集長にとっても不本意な決断であったと確信している。何故なら編集長もまた、この街を愛していると知っているからだ。

 『北風町』。風都に隣接する、人口3万人弱の町。風都が風力発電を軸とするエコの街として知られる一方で、この街の存在を知るものは少ない。表向きには、多くの産業を抱える風都のベッドタウンとして機能しているのだが、実際はそれだけでなく、街のイメージダウンに繋がるとして風都に切り捨てられたもの…例えば、産業廃棄物やゴミ処理場、更にはドヤ街や風俗店まで押し付けられているのが、この北風町であった。
 それでも、彼はこの街を愛している。生まれ育った街。華やかな都会の汚点を押し付けられた、この哀れな街に、これ以上、風都の暗部を持ち込まれるのが、我慢ならなかった。



2以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/07(日) 21:30:01.70V+T4nCQT0 (2/11)

 ぼうっとしていたせいで、気が付いたらハンドルを回しても何も出なくなっていた。下の玉受けは当然空。彼は舌打ちをすると、椅子から立ち上がった。

 パチンコ屋を出ると、外はもう夜だった。とぼとぼ歩く彼の背中が、人気の無い通りに差し掛かった所で、不意に後ろから声がした。

「ねえねえ、お兄さん」

「あ…?」

 振り返ると、如何にもヤンクめいた服装の若い男と女。男の方が、ニヤニヤしながら話しかけてくる。

「お兄さん、世の中が気に食わないって顔してるね」

「ンだと…?」

「ね、良いものあげる」

 女の方が、ポケットの中から何やら四角い小箱のようなものを取り出し、彼に握らせた。

「これは…USBメモリ…?」

 掌の上の、記憶媒体めいた箱には、甲殻類めいた意匠でアルファベットの『A』が書かれている。ボタンを押すと、唸るような声で『アノマロカリス』と音がした。

「これを使えば、君は人間を超えた存在になれる。それこそ…」



3以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/07(日) 21:30:50.22V+T4nCQT0 (3/11)




「…お前らか」



 彼は、ぽつりと呟いた。

「え?」

「お前らが、この街をめちゃくちゃにした犯人か!!」

 彼は叫ぶと、メモリを地面に叩きつけた。そして、男の胸ぐらを掴んだ。

「お前らが! この街を!」

「や、やべっ、こいつイかれてる」

「イかれてるだと? それはこっちの…」

「…仕方ない」

 突然、男がニヤリと嗤った。上着の内ポケットに手を入れると、また別のメモリを取り出し、彼の目の前に掲げた。
 触覚と顎を広げた、獰猛な雀蜂の頭部を象った『H』の文字。

『ホーネット』

「仕方ないから、正当防衛させてもらうね」

 そう言うと男は、左手首にメモリを突き刺した。女も同じメモリを取り出し、手首に刺す。
 メモリは体に吸い込まれ、二人の体は見る見る内に、蜂と人間を混ぜたような姿へと変貌していった。

「うわ、わっ…」

 逃げ出す彼を、二体の蜂人間は飛んで追いかける。そう、文字通り『飛んで』だ。
 忽ち彼は、路地の行き止まりに追い詰められた。

「じゃあ、死んでもらおう…」

「嫌だ、やめろ…やめろぉーっ!」


4以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/07(日) 21:31:19.72V+T4nCQT0 (4/11)




 ___これが彼の、ビギンズナイト。






5以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/07(日) 21:31:48.21V+T4nCQT0 (5/11)

↓1 主人公の名前


6以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/07(日) 21:36:57.18QO9M6ln+O (1/1)

力野 徹(ちからの とおる)


7以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/07(日) 21:39:34.73V+T4nCQT0 (6/11)

「…?」

 恐る恐る目を開けると、そこには徹に背を向けた、白いスーツ姿の人間が立っていた。その足元には、蜂人間たちがどちらも倒れている。

「あ、あんたは…」

「まだメモリブレイクに至っていません」

 徹に背を向けたまま告げる、白スーツの人物。それはくるりと彼の方を向くと、何か二つの物体を投げて寄越した。
 月明かりに照らされた顔は、意外にも若い女のそれだった。

「これは…」

「変身してください」

「はぁっ!? へ、変身って」

「ドライバーを腰に当てて」

「えっ? えっと…ドライバー…って、これか…?」

 渡された片方の物体。赤と銀の機械を腰に当てると、黒いベルトが伸びて巻き付いた。

「ガイアメモリをドライバーに装填して」

「!」

 渡されたもう一つの物体。今しがた見たものに比べると随分スマートな見た目をしているが、確かにそれは目の前で人間を怪物たらしめた、恐るべきメモリであった。
 しかし、今は命の危機である。彼はメモリを掲げると、ボタンを押した。



↓1〜3でコンマ最大 徹が変身するメモリの名前


8以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/07(日) 21:45:24.740ghhCWXXO (1/1)

マリン


9以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/07(日) 21:55:43.93zn4rlL60O (1/1)

ファンタジー


10以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/07(日) 21:56:57.458/rTja3t0 (1/1)

ウォーク


11以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/07(日) 22:04:04.55V+T4nCQT0 (7/11)




『ファンタジー』



「ファンタジー…って、えっ?」

「急いだ方がよろしいかと」

 女に急かされて、徹は慌ててドライバーにメモリを差し込んだ。見ると、地面に伸びていた蜂人間たちがもぞもぞと動き出している。

「メモリを右に傾けて」

 言われるがまま、メモリを挿入したソケットを右に傾けた。

『ファンタジー!』

 メモリの声。ドライバーの前に、万年筆と罫線を合わせたような『F』の文字が浮かび上がり…

『…うわっ、何だこれ!』

 彼の姿は、お伽噺に出てくるような騎士の姿に変わっていたのであった。


12以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/07(日) 22:13:57.37V+T4nCQT0 (8/11)

「…テメェ…まさか、『仮面ライダー』だったなんて」

『仮面ライダー?』

 立ち上がって毒づく蜂人間に、徹は思わず聞き返した。
 仮面ライダーの噂は、彼も耳にしている。風都の危機に颯爽と現れ、人々を救うヒーロー。だが、所詮は風都限定の存在だと、全くアテにしていなかった。それが、まさか自分が…

「どうでもいい、死ねよぉ!」

『! おりゃあ!』

 片方の攻撃を躱し、お返しに蹴りを叩き込む。怯んだ相手に代わって、もう片方の蜂人間が襲ってきた。

「でもあんた、成り立てじゃん。あたしたちとは年季が違うわよ!」

『ふっ、やっ…わっ!?』

 棘の生えた腕が顔を掠める。

『そっ、そう言えばそうだよ! 俺、格闘技の心得とか何にもねえんだけど!?』

 いつの間にか後ろに下がり、傍観を決め込んでいる白スーツの女に、徹は叫んだ。

「心配いりません」

 女が、一歩前に踏み出す。



↓1

①貴方には素質があります(高適合度確定)

②こちらも用意しました(武器供与)

③僭越ながら、私も手伝います(メモリポチー)


13以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/07(日) 22:17:01.23ioeI2rkp0 (1/1)

1


14以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/07(日) 22:28:59.42V+T4nCQT0 (9/11)

「貴方には素質があります」

『素質って…っ!?』

 彼女の言葉に触発されるように、徹の体が突如、光に包まれた。
 光が収まった時、彼の体は、騎士の甲冑の上から更に、純白のマントを纏っていた。それだけでなく

『力が、みなぎる…それに、戦い方が分かってきた気がする…!』

「はっ、ほざくんじゃないよ!」

 殴りかかる蜂人間。が

「なっ!?」

 その拳を軽く受け止めると、徹は右手を差し上げ、人差し指を突き出した。その手をくるくると動かし、空中に何かを描いていく。

「何を…」

『生憎、こちとら書くのが仕事なんでね!』

 宙に描かれたのは、一本の長剣。完成した瞬間、何とそれは実体化し、徹の手に収まった。
 更に彼はドライバーからメモリを抜き、腰のスロットに差し込んだ。

『ファンタジー! マキシマムドライブ』

『ファンタジー・イマジナリソード!!』

「っ…ぐあああっ!!?」

 白い光を纏った剣に、蜂人間が斬り倒された。

「ひっ、た、助けて…うわああああっ!!」

『逃がすか!』

 更に、飛んで逃げようとする片割れも斬り捨てる。
 二体の蜂人間は地面に転がると、元の人間の姿に戻った。その体から、先程刺したガイアメモリが抜け落ち…砕け散った。


15以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/07(日) 22:30:40.38V+T4nCQT0 (10/11)

今日はここまで

最後に、このスレの注意事項をば
・安価は控えめ

・戦闘は自動

・エログロあり

・オリキャスは基本出てこない

・エターナる可能性


16 ◆iOyZuzKYAc2019/07/07(日) 22:42:46.77V+T4nCQT0 (11/11)

『仮面ライダーファンタジー』

 『空想』の記憶を内包するガイアメモリで、フリーライターの力野徹が変身した姿。基本形態は西洋の騎士のような姿をしているが、変身者のイメージ次第で魔術師や、はたまた魔物のような姿にもなれる。
 想像し描いたものを実体化するという、極めて汎用性の高い能力を持っているが、その出力は変身者の想像力に直結しているため、想像力豊かな人間でないとメモリの力を十分に引き出せない。



『仮面ライダーファンタジー アイデアル』

 ファンタジーメモリとの適合率が一定の水準を超えた時になれる姿。外見上は西洋甲冑の上から白いマントを纏った姿となる。
 『空想』を超越し『理想』を実現する力を持っており、変身者の想像力と表現力の許す限りの理想を具現化できる。早い話がチート。
 ただし理想とは言ってもあくまで自分で使う力のことであり、具現化したものを自分で振るわなければ意味がない。例えば、『当たると死ぬ剣』を具現化することはできるが、それを当てるのは変身者の腕前次第。また、幹部ドーパントやCJXなどのような単純に格上の相手には効果も限定的。


17以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/07(日) 22:54:46.68+fMZeTreo (1/1)

わくわく


18 ◆iOyZuzKYAc2019/07/08(月) 17:27:29.15n5WyQcGO0 (1/15)

「力野徹。28歳。職業はフリーター」

「フリーライターだっ!」

 徹の住むぼろアパートの一室にて。ちゃぶ台の前に正座して、女はつらつらと言った。

「貴方の記事は、実際よく書けていました」

 そう言うと女は、大判の封筒をちゃぶ台の上に置いた。ついさっき、編集長から突き返された、徹の書いた原稿である。

「最近、北風町で連続している怪奇現象を、風都で以前頻発していた事件と関連付け、同一のテロ集団によるものとした。そして、疑わしい組織として最近興った『母神教』を挙げた」

「…間違ってるかよ」

「大筋は間違いありません。ですが、結論が違う。背後に組織はあるかもしれませんが、これは単独犯による行為であり、使用されたのも爆弾や化学兵器などではなく」

「ガイアメモリ、か」

 徹は、先程手渡された『ファンタジー』のメモリを手に取った。
 女が頷く。

「貴方も目にしたでしょう。このメモリを使用した人間は、怪物へと変化する。これを『ドーパント』と呼びます」

「ドーパント…じゃあ、さっき俺がなったのも」

「本質的には同じです。ですが、ドライバーを介して使用しているため、メモリの副作用は限りなくゼロに近くなっています。実際、有害事象や凶暴性の発露も見られていない」

「副作用もあるのか…」

「ガイアメモリは、かつてとある組織が製造し、麻薬や覚醒剤のように秘密裏に売買していました。その組織は何年も前に壊滅し、残党も粗方殲滅されましたが、一部がこの町に流れ着いたと思われます」

「じゃあ、そいつらがメモリをばらまいて」

「そうなります」



19 ◆iOyZuzKYAc2019/07/08(月) 17:28:06.57n5WyQcGO0 (2/15)

「大変だ!」

 徹は勢い込むと、愛用のノートパソコンを立ち上げた。

「今すぐ記事にしないと…町の人達に、本当のことを知らせないと」

「それは認めません」

 女が、パソコンを無理やり閉じた。

「ガイアメモリの存在は、一般人には秘匿されています。…そもそも、貴方の書いた記事を却下するよう、圧力を掛けたのは私達です」

「何だと!?」

 徹は立ち上がり、女の纏う白スーツの胸ぐらを掴んだ。

「何でそんなことを…」

「だから、ガイアメモリの存在は秘密事項だからです。何より」

 女は、感情の籠もらない目で、じっと徹を見た。目だけではない。声も、口調も、あらゆる行いにおいて、女からは感情らしきものが感じられなかった。

「知らせてどうなりますか。無力な一般人に知らせた所で、いたずらに混乱を招くだけです」

「それでも、人には真実を知る権利が」



20 ◆iOyZuzKYAc2019/07/08(月) 17:28:34.31n5WyQcGO0 (3/15)




「___戯言を」






21 ◆iOyZuzKYAc2019/07/08(月) 17:29:14.62n5WyQcGO0 (4/15)

「!?」

 突然、女がぞっとするほど冷たい声で言った。竦み上がる徹。しかし、次に口を開くときには、もう元の平坦な口調に戻っていた。

「貴方の書いた記事は、筋は良いですがあくまで結果論です。根本にあるのは、風都への怨恨、嫉妬、被害者意識に他ならない。現にこの街はガイアメモリに汚染されています。それは、ガイアメモリの誘惑に負けた人間が数多くいるということ。貴方の憎む風都と、何ら変わりは無い」

「…」

「貴方に限った話ではありませんが…人は見たいものだけを信じ、見たくないものに目を瞑る。自分にとって都合のいいことだけを真実と嘯き、人々に流布して省みない。ジャーナリストを名乗る人種は、すべからくそういうものと認識しています」

「ふ、ふざけやがって…」

「現に」

 女は徹の手を軽く払いのけると、ちゃぶ台の上のメモリを取り上げた。



『ファンタジー』



「このメモリと貴方との適合率は、低く見積もって91%前後。真実真実と五月蝿い貴方を選んだのは『空想』『妄想』のメモリです」

「…っ」

 思わず、徹は拳を振り上げた。…が、歯ぎしりしながらそれを下ろした。代わりに、唸るように問うた。

「…お前は…お前は、何者なんだよ…さっきから、何でもかんでも知ってる風に…」



↓1〜3でコンマ最大 女の名前と外見的特徴


22以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/08(月) 17:39:53.84z2jKqOP90 (1/2)

イズミ

黒髪ロングに喪服のようなドレスといった黒ずくめ
巨乳


23以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/08(月) 17:42:30.19NXtS882CO (1/2)

一ノ瀬 神楽(いちのせ かぐら)
黒髪ロングポニテ 黄金眼 メガネ
ボンキュッボン 黒ワイシャツに白衣


24 ◆iOyZuzKYAc2019/07/08(月) 17:45:35.84n5WyQcGO0 (5/15)

(白スーツは固定です)

安価下


25以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/08(月) 17:58:18.37NXtS882CO (2/2)

くそぉ!安価下


26以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/08(月) 18:10:29.15z2jKqOP90 (2/2)

>>22再投稿

イズミ
黒髪ロングで切れ長の美人系の顔立ち
スーツの上からでもわかる巨乳
革手袋を着用している。


27 ◆iOyZuzKYAc2019/07/08(月) 18:12:35.57n5WyQcGO0 (6/15)

(あと一つ待ちます)

(私服あたりに採用するかもしれない)


28以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/08(月) 18:31:11.69UkGkekGkO (1/1)

リンカ
白スーツに金のネクタイ
スレンダーな体型
パッと見は男性にも見える中性的な麗人


29 ◆iOyZuzKYAc2019/07/08(月) 18:36:44.25n5WyQcGO0 (7/15)

「私? …ああ」

 女は、今更思い出したように頷いた。その場で立ち上がり、恭しく頭を下げる。
 タイトな白スーツに金色のネクタイを締め、黒い髪を撫で付けたその姿は、整った顔をしているものの、ぱっと見ただけでは男か女か分からない中性的なものであった。辛うじて、声で女と分かる。
 頭を上げると、彼女は自己紹介した。



「申し遅れました。私、財団Xから参りました。リンカと申します」




30 ◆iOyZuzKYAc2019/07/08(月) 18:37:36.61n5WyQcGO0 (8/15)

ひとまずここまで


31 ◆iOyZuzKYAc2019/07/08(月) 22:37:55.10n5WyQcGO0 (9/15)

「…」

 朝起きてからというもの、アルバイトの間も食事の時も、ずっとリンカの言葉を頭の中で繰り返していた。
 曰く、財団Xなる組織はガイアメモリの開発に関わったらしい。しかし、今の事態は彼らにとって不本意なもので、どうにかして解決したい。ところが、彼らがガイアメモリと関わっていると知られてはならない。そこで、代理人として徹に白羽の矢が立った。この北風町を愛し、街の平和を乱す輩に誰よりも怒りを燃やす者として。

「ンなこと言われてもなぁ…」

 ぼやきながら過ごしていると、もう日が暮れてしまった。大役を任された所で、腹は減るし光熱費はかさむ。昨日のゴタゴタで、冷蔵庫の中身を補充するのを忘れてしまった。今夜は外食しよう…

 『ばそ風北』と書かれた暖簾をくぐると、湯気の向こうから馴染みの店主が挨拶してきた。

「やあ、徹ちゃん。久し振りだね」

「ああ。…いつもの」

「あいよ」

 席に座って、カウンター越しに厨房を伺うと、店主が蕎麦を茹でるのが見える。風都は大きななるとの載ったラーメンが有名だが、北風町は蕎麦が有名だ。細く漉いた白ネギと、おろし生姜が決まりのトッピングで、ピリッとした刺激に根強いファンが多い。徹の大好物でもある。
 出来上がるのを待っていると、隣に一人の男が座ってきた。

「…蕎麦大盛り、全部載せ」

「あいよ」

 随分な大盤振る舞いだ。横目でちらりと覗くと、汚れた作業着を着た、建設現場の作業員風の男であった。
 力仕事だから、腹も減るのだろう。そう思って自分の分を待っていると、何やらカタカタと音が聞こえてきた。カウンターが小さく揺れているのが、徹にも伝わってくる。
 見ると、例の作業員が、指先でコツコツとカウンターを叩いていた。

「…兄さん、嫌なことでもあったかい」

「…」

 男は応えない。代わりに、カウンターを叩くのが指から拳に変わった。他の客や店主までもが、何事かと心配そうに視線を向ける。
 やがて、男が立ち上がった。

「…遅えんだよ!」

「悪いねあんちゃん、もう少し待ってて」



32 ◆iOyZuzKYAc2019/07/08(月) 22:38:50.31n5WyQcGO0 (10/15)

「俺はァ…」

 店主の言葉を遮り、男は唸ると

「…腹がァ! 減ってんだァ!!」

 作業着のポケットから、悪魔の小匣を取り出した。



『アペタイト』



「!?」

 驚いたのは徹である。昨日の今日で、いきなりガイアメモリに遭遇するとは。見慣れぬ機械にきょとんとする他の者たちを差し置いて、彼は立ち上がり、男の腕を掴んだ。

「やめろ、そいつを捨てろ!」

「食わせろォォォ…!!」

 男は徹の腕を振り払うと、大きく口を開け、メモリの端子を舌に刺した。

「ウオォォぉぉ……」

 忽ち男は、巨大な口に手足の生えたような怪物へと変化した。

「きゃああっ!!?」

「ば、化物だあっ!」

 客たちは一斉に店の外へと飛び出し、店主もカウンターの裏側に引っ込んだ。

「と、徹ちゃん!」

 カウンターから少しだけ顔を出して、店主が呼びかける。

「あんたも逃げないと」

「うがっ、はぐっ、んぐっ」

 怪物は、客が逃げた後の席を回っては、放置された食べ残しを貪っている。
 徹は、店主に言った。

「おっちゃん、そこに隠れてな」

「な、何を…」

 徹は、鞄からドライバーとメモリを取り出した。



33 ◆iOyZuzKYAc2019/07/08(月) 22:39:34.47n5WyQcGO0 (11/15)

「…おい、化物!」

「…?」

 振り返る、アペタイトのドーパント。どこにあるのか分からない目で徹の姿を認めると、吠えた。

「おまァえェ! お前から喰ってやるゥ!」

「やれるもんなら…」

 ドライバーを装着する。

「…やってみな!」

『ファンタジー』

「変身!」



『ファンタジー!』

「!? お前ェ…仮面ライダー…!」

『呼びたいように呼べよ。俺は…』

 宙に長剣を描き、掴む。

『お前を、倒すだけだ! たあっ!』

「ぐっ…」

 唇を斬りつけられて、アペタイトドーパントは店の外へと飛び出した。

「邪ァ魔ァ! あぁぁっ!」

『何っ!?』

 猛スピードで伸びてきた舌に、剣を絡め取られた。ドーパントは剣を引き寄せると、そのまま飲み込んでしまった。

『意地汚えな、おい!』

 今度は槍を描き、構える。しかし、突き出した瞬間にこれも食べられてしまった。

「全部、全部喰っちまうぞォ!」

『キリが無い…だったら』

 マントを翻すと、彼の姿は西洋の騎士から、フード付きのローブに身を包んだ、魔術師めいた姿へと変化した。

「姿を変えた所で、何もかも喰っちまえば良いんだよォ!」

『へえ…じゃあ、こいつも喰ってみるか?』

 そう言うとファンタジーは、右手を頭上に掲げた。その手の先に、火が灯った。火は見る見る内に大きくなり、バスケットボール程の大きさになった。

『喰らえ、ファイアーボールだ!』

「喰うぞ、喰う…うぐぅゥっ!?」

 火の玉を呑み込んだドーパントは、口を押さえて苦しげに呻き出した。その体が、じわじわと炎に包まれていく。

『おかわり自由! どんどん喰え!』

 更に、次々と火の玉を投げ込むファンタジー。ドーパントの体は、燃え盛る炎に包まれた。
 ファンタジーは、メモリをスロットに差し込んだ。

『ファンタジー! マキシマムドライブ』

『ファンタジー・ミスティークエンド!!』

 ドーパントの周りを、4つの魔法陣が囲む。次の瞬間、それぞれの魔法陣から、炎、氷塊、雷、そして岩石が飛び出して、ドーパントを襲った。

「ぐわあぁぁっ!!?」

 四大元素による一斉攻撃に、遂にドーパントが倒れた。その姿が元の人間に戻り…口から吐き出したメモリが、ばらばらに砕けた。



34 ◆iOyZuzKYAc2019/07/08(月) 22:41:19.88n5WyQcGO0 (12/15)

『これでよし…と?』

 変身を解除しようとして、気付く。

「そ、そこを動くな!」

 いつの間にか、彼の周りは数台のパトカーと警官たちによって包囲されていた。

「北風署・超常犯罪捜査課、臨時課長の植木だ! おとなしく投降しなさい、さもなくば…」

『…』

 ファンタジーは何も言わず、両手を上に挙げた。そして

「そ、そうだ! そのままじっと」

 つま先で、地面に円を描いた。
 次の瞬間、彼の体は地面に吸い込まれるように消えていった。


35 ◆iOyZuzKYAc2019/07/08(月) 22:55:23.21n5WyQcGO0 (13/15)



「はぁ…」

 溜め息を吐きながら、家のドアを開ける。
 結局あの騒ぎで、晩飯を食べ損ねた。おまけにドーパントとの戦いで余計に体力を消耗してしまった。このままでは、腹が減って死にそうだ…

「ただいま…」

 玄関を開けると、芳しい匂いが漂ってくる。ああ、空腹のあまり食べ物の幻覚まで出てきた。匂いだけでなく、ちゃぶ台の上にはご飯や味噌汁、更には唐揚げや海老フライの幻覚まで見える。ついでにエプロンを着た女の幻覚も…

「おかえりなさい」

「…っっっ!!??」

 いや、幻覚じゃない。ちゃぶ台の上には確かに料理が並んでいるし、匂いも本物だ。そして、向こう側に座っているのは

「リンカ!? 昨日、帰ったんじゃ」

「荷物を取りに帰っていました。具体的には、ここで生活するための物資を」

 白スーツの上からエプロンを着て、きちんと正座するリンカ。

「ここでって…う、嘘だろ? 何でお前がここに住む必要があるんだよ!?」

「貴方を全面的に支援すると申し上げた通りです。貴方の場合、金銭の供与だと、賭博や無駄な外食に消費されることは調査の結果分かっています。従って、現物給付の形で支援することにいたしました」

「げ、現物給付って、でも」

「ご心配なく」

 相変わらず感情の無い声で、リンカは言った。

「貴方の生活の邪魔はいたしません。その上で貴方がドーパントとの戦いに専念できるよう、最大限のサポートをさせていただきます。…早速、夕食にしたいのですが、よろしいでしょうか」

「…」

 反論しようとした瞬間、徹の腹が派手に鳴った。彼は黙って、ちゃぶ台の前に腰を下ろし、両掌を合わせた。

「…いただきます」

「はい、召し上がれ」

 抑揚のない返事を聞き流すと、彼は熱々のご飯を口に入れたのであった。


36 ◆iOyZuzKYAc2019/07/08(月) 22:59:16.90n5WyQcGO0 (14/15)

『Kの覚醒/遅れてきたヒーロー』完

今夜はここまで


37以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/08(月) 23:02:41.52Fv+C7yta0 (1/1)




38 ◆iOyZuzKYAc2019/07/08(月) 23:06:50.93n5WyQcGO0 (15/15)

『アペタイトドーパント』

 『食欲』の記憶を内包するメモリで変身するドーパント。巨大な口に直接手足が生えているという、何とも頭の悪い外見をしている。巨大な口からは長い舌を伸ばし、何でも絡め取って食べてしまう。無機物でもお構いなしだが、炎や電気などは流石にダメージを受ける。
 このメモリは一度使用すると、適合率や変身時いかんに関わらず、常に強い食欲に襲われるようになるという、たちの悪い代物。メモリの色は赤。大きく開けた唇と垂れた涎で『A』と書かれている。


39 ◆iOyZuzKYAc2019/07/09(火) 08:23:09.39jIWaQAeR0 (1/10)

 薄暗い聖堂に、黄色いスーツを着た女が跪いている。彼女が向いている聖堂の上の方には、分厚い虹色のヴェールがかかっていて、その向こう側は窺い知れない。

「申し上げます。わたくしたちの育てたドーパントが、何者かに倒されました」

 淡々と、女は続ける。

「その前にも、わたくしの配下の売人が2人、倒されています。街では、『仮面ライダー』が現れたとの噂も流れています」



”仮面ライダー…”



 ヴェールの向こうから、エコーのかかったような女の声が聞こえてきた。

「はい。最近ようやく結成された、北風署の超常犯罪捜査課も、その存在の確保に乗り出しているようです」

”…”

 ヴェールごしに聞こえてくる溜め息に、女は深々と頭を下げた。

「申し訳ありません、『お母様』」

”…気に病むことはありません”

「お母様…」

”あなたの子は母の子。子を守るのは、母の使命です。母が不甲斐ないばかりに、不要な心配をかけましたね”

「そんなこと」

”ですが、もう心配はいりませんよ。___ミヅキ”



「はぁ〜い」



 気の抜けた返事と共に、ヴェールの向こうから一人の少女が姿を現した。白いロリータめいた服を着て、脱色したぼさぼさの髪をザンバラに伸ばしている。スーツの女が、密かに眉をひそめた。

”お話は先程の通りです。母の子たちを害するものを見つけ出し、懲らしめておしまいなさい”

「殺すの?」

”なりませんよ。仮面ライダーとて、母の子の一人…”

「お母様! なりません!」

”落ち着きなさい、愛しい娘。…捕らえて、母の前にお連れしなさい。母の愛を以て、生まれ変わらせて差し上げましょう”


40 ◆iOyZuzKYAc2019/07/09(火) 12:51:20.29jIWaQAeR0 (2/10)



「…うぅん」

 カーテンの隙間から差し込む光に目を覚ますと、徹はベッドの上で伸びをした。

「…っ、あぁ…」

「おはようございます」

「うわぁっ!?」

 ベッドの脇で直立不動のリンカが、徹に挨拶をした。
 寝床は気にしなくて良いと言われたので、昨夜は彼女より先に寝た。起きたときにはこの有様なので、彼女がどこで寝ていたのか、徹には知りようがない。

「朝食の準備ができています」

「あ、ああ、どうも…」

 目を擦りながら、徹はベッドから降りた。



「起きたは良いけど、今日はバイトも無いしな…」

「知っています」

 コーヒーを啜りながらぼやく徹に、リンカはすげなく言う。

「ですから、調査には良い機会かと」

「だよなぁ…」

 そもそも、週に3日はフリーにしてあるのは、本業の取材のためだ。今後はこの取材が、ガイアメモリ犯罪の調査に置き換わるということになるのだろう。

「そうは言っても、何から調べるかなぁ」



↓1 どうする?
①没にされた記事を読み返してみよう

②母神教について調べてみよう

③超常犯罪捜査課って何だ?


41以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/09(火) 12:58:08.22poRP5fveO (1/1)

3で


42以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/09(火) 12:58:39.590zA+yrgF0 (1/1)

2


43 ◆iOyZuzKYAc2019/07/09(火) 13:27:27.32jIWaQAeR0 (3/10)

 考えて、ふと昨日の警察官の言葉を思い出した。

「そう言えば昨日、警察が『超常犯罪捜査課』って言ってたな…あれは、何だったんだろう?」

「文字通り、超常現象を用いた犯罪に対処する部門、まあ、実質ガイアメモリ犯罪に対処するための警察の組織です」

「はあ? ガイアメモリの存在は秘密じゃないのかよ」

「一般人には、です。警察組織の一部にはガイアメモリの存在も認識されています」

「何じゃそりゃ…あ、でも、知ってるからって対処できるのかよ?」

 この間の蜂人間や、大口の怪物を思い出す。あの腰の引けた警官に、あいつらと戦う力があるとは思えない。

「捜査の助けにはなるでしょう。ただ、最盛期と比べてガイアメモリ犯罪は大幅に減っていますので、その規模もかなり縮小されました。風都に設置されていた捜査本部も規模を縮小し、課長は現在育休中とのことです」

「いくきゅう…」

「以前は、その課長が仮面ライダーに変身し、ドーパントと戦っていました。ただし、その事実は他の警官には知らされていなかったようです」

「…」

 徹は考えた。恐らく、超常犯罪捜査課なる組織は、戦力にはならないだろう。だが、調査力に関してはアテにしても良いかも知れない。この間の蜂人間がメモリをばら撒いているとしたら、その手の密売人が他にもいてもおかしくない。そいつらが徒党を組んでいるとしたら、徹一人(とリンカ)だけでは手が足りない。
 徹は立ち上がった。

「取り敢えず…警察、行ってみるか」



44 ◆iOyZuzKYAc2019/07/09(火) 14:13:27.30jIWaQAeR0 (4/10)

 応接間に入ってくるなり、その警察官は露骨に嫌そうな顔をした。

「あんた、どこの記者よ」

「フリーの記者をしています」

「はっ、フリーねえ…」

 どかっとソファに腰を下ろすと、彼は投げつけるように名刺を渡した。名刺には、『北風署 超常犯罪捜査課 警部 植木忍助』と書かれている。徹も名刺を渡したが、ちらりと一瞥しただけでポケットに突っ込まれてしまった。

「で、あんたは?」

 当然のように徹の隣に座るリンカに、植木は怪訝な目を向けた。

「フリーの記者Bです。お気になさらず」

「はぁ……で? 何が聞きたいの」

「ここ最近、北風町で連続している怪奇現象について、こちらで対応しているとお聞きしまして」

「対応なんて、そんな立派なもんじゃないよ」

 植木は溜め息を吐いた。

「今抱えてるビル崩壊事件だって、手がかりの一つも掴めやしない。目撃者は『怪物がいた』って言うけど…」

「ほう、怪物が」

「…いや、おれも信じてなかったけどね。もう噂にもなっちゃってるし、この際だから言っちゃうけど…見たんだよ」

「見た?」

「怪物だよ。でっかい口のお化けが、通りで暴れてたんだ。おまけに、別の化物がやって来て、そいつをやっつけちまった」

「…」

 徹は口を閉じた。後から来た方とは、もちろん徹の変身した仮面ライダーのことである。

「後から来た方には逃げられちまったが、口の方は捕まえた。だが、気を失ったきり全然目を覚まさない。証言も得られそうにない」

「ビル崩壊事件については、何か分かったことは?」

「あんたねえ、話聞いてた? 無いんだよ何も!」

 植木はいらいらと机を叩いた。

「現場には化物がいました、だから何だよ! どっから来て、何がしたいのか、どうやってやっつけるのか…全然分からない! 署長からは、何遊んでんだって睨まれる始末だ」

「ですが、同様の事件は風都でも起きていたのでしょう? 風都署ではどうしていたんです?」

「風都とウチじゃ、上からの扱いが違うんだよ…」

 悲しげに、彼は首を振った。

「知ってるか? 向こうの課長は、サッチョウから来たエリートだぜ? そのくらい上の気合入ってんだよ。それが、現場がお隣に来た途端だんまりだ。人は寄越さねえ、予算は渋る…」

「…」

 嘆く植木に、徹は同情的な気持ちになった。何とか力になれないかと思った。
 故に、彼は口を開いた。

「…私に、協力させてもらえませんか」

「はあ? フリーの記者に、何ができるってんだよ」

「私は…」



↓1
①超常現象についての情報を持っています

②仮面ライダーの知り合いです

③仮面ライダーです


45以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/09(火) 14:38:33.75Fr1qh+xGO (1/1)

2


46 ◆iOyZuzKYAc2019/07/09(火) 14:59:05.14jIWaQAeR0 (5/10)

「私は…」

 仮面ライダーだ、そう言おうとして、思いとどまる。まだだ。そこまで打ち明けるのは早すぎる。

「…昨日、警部が遭遇した怪人の片方…平たく言えば、仮面ライダーの知り合いです」

「はあぁ!?」

 いよいよ植木の目つきが怪しくなった。徹は会話を打ち切られないよう、続けて言った。

「彼は用心深い性格で、私にも多くを語りませんが…それでも、この街を愛する存在であることに変わりありません。何より、昨日警部を驚かせてしまったことを、ひどく気にしていました」

「ちょっ、ちょっと待てよ!」

 植木が止めに入る。

「そんな、あの、魔術師ヤロウと知り合いだなんて、そんな話信じられるわけないだろ!」

「そう思われるのも無理はありません。ですので、彼から伝え聞いた情報を…」

 彼は慎重に、言葉を選びながら言った。

「吹流2丁目の路地で、二人の怪人と戦ったそうです。そこで怪人…ホーネットドーパントを倒し、メモリを破壊したと」

「!!」

 植木の顔色が変わった。彼は数分の間、黙って徹を見ていたが、やがて震える声で言った。

「……ご、極秘情報だ。そいつらは」

「メモリの密売人、でしょう?」

「なんてこった…!」

 植木は頭を抱え、天を仰いだ。

「ガイアメモリ、ドーパント…それだけじゃない、密売人の存在まで…もう、あんたに隠してもしょうがない」

 彼は、視線を徹に戻した。その顔が、興奮気味に紅潮していた。

「…そうだ。二人はまだ警察病院に入院しているが、奴らから数本のメモリを回収した。だが、その扱い方が分からないんだ。解析しようにも、我々の知る科学からは外れているし、分解の仕方も分からない…」

「協力しましょう」

 徹は、力強く言った。

「仮面ライダーは、強いですが孤独です。何より、ガイアメモリを街にばら撒く黒幕の存在がまだ見えていない。あなた方は、まだドーパントへの対処法を持っていませんが、優秀な刑事さんによる綿密な捜査が可能です。双方が協力し合えば、もう怖いものはない」

「し、しかし」

「私は、この街を愛しています。…警部もでしょう? ガイアメモリ犯罪の捜査が遅々として進まないことに、誰より不安と苛立ちを感じておられる」

「!」

「風都の陰で忘れられた、この北風町を愛する者同士…手を取り合う時です」

 徹は、笑顔で頷いた。


47 ◆iOyZuzKYAc2019/07/09(火) 17:25:22.00jIWaQAeR0 (6/10)

「流石、ファンタジーメモリに選ばれただけのことはあります」

 無感情でも分かるくらいに嫌味っぽく、リンカが言った。

「うるせえ。だが、得られたものはあっただろ」

「そうですね。ドーパントとの戦闘を引き受け、メモリブレイク後の犯罪者を引き渡すことを条件に、捜査情報の提供、資料の貸出を受けられるようになりました。何より」

「ああ」

 テーブルの上に並べられた、3本のガイアメモリ。警察が密売人から押収した、売り物のメモリである。
 ここは、北風署に近い喫茶店。寂れた店の、更に人気の少ない隅の席に、二人は陣取っていた。

「『アノマロカリス』『コックローチ』…これらは、需要が高かったためどの工場でも製造されていました。が」

 3本目の、焦茶色のメモリ。跳躍するネコ科の肉食獣の姿は、アルファベットの『S』に見えなくもない。

「『サーバルキャット』のメモリは、そう出回っていないはずです。製造した工場も、限られているでしょう」

「製造元を叩けるわけだな」

 徹は、メモリを封筒に入れて鞄に仕舞った。

「よし、このメモリはさっさと警察に返そう。こっちの手にある時に盗まれでもしたら、折角繋いだコネが台無しだ」



 北風町の、とあるオフィスの男子トイレにて。小便器で用を足していたある会社員の男は、突然首筋に何か冷たいものが触れるのを感じた。

「だっ、誰だっ」

「おじさ〜ん…」

 振り返って、ぎょっとする。
 そこには、白いロリータドレスに身を包んだ、一人の少女が立っていた。

「…どこから入ってきた」

 慌てて一物を仕舞い、チャックを締めながら男は問うた。少女は答えずに、聞き返した。

「もう、使わないの?」

「何を…っ!」

 目元に隈の浮いた陰気な顔で、ニヤニヤと嗤う少女。男は、彼女の言葉の意味を察し、思わず叫んだ。

「も…もうたくさんだ! 私は、あの会社に復讐できれば良かったのに…それが、あんな取り返しのつかないことに…」

「え〜、勿体無い」

 少女はずいと身を寄せると、慣れた手付きで彼のスーツの胸元をはだけた。
 露わになった左の胸板には、四角い電子回路めいた文様が、くっきりと刻まれていた。

「ほら…コネクターも泣いてるよ。メモリが欲しい、欲しいよ〜って」

「ふざけるな!」

 男は、少女を突き飛ばした。___突き飛ばそうとした。

「あははっ!」

 少女はその場で跳躍すると、宙返りしてトイレの天井を蹴り、男に肩車するように着地した。そのまま両脚で彼の首を締め上げると、ドレスの胸元から一本のメモリを取り出した。

「これ…返すね。二度と、ゴミ箱に捨てたりしちゃダメだよ〜」



『アースクエイク』



「や、やめろ、怪物なんて、いやだ! …やめろぉぉぉっっ!!」


48 ◆iOyZuzKYAc2019/07/09(火) 19:32:57.09jIWaQAeR0 (7/10)

 家に帰ろうとした時、徹の携帯が鳴った。

「もしもし?」

”力野さん、大変だ!”

「植木警部? どうかしましたか」

”北風駅前の、ビルが…”

「!!」

 最後まで聞く前に、2人は見た。遥か向こうで、一棟のビルが、煙を上げて崩れ落ちていくのを。

「すぐ行き…行くよう、仮面ライダーに伝えます!」

”ああ。我々は町民の避難を指揮する”

 電話を切ると、徹はドライバーとメモリを取り出した。

「しかし、遠いぞ…」

「問題ありません。貴方が想像すれば、移動手段も思いのままです」

「あ、そう言えばそうか。___変身!」ファンタジー!

『よし、だったら…』

 ファンタジーは、路上に放置されていた自転車に跨ると、人差し指でハンドルをなぞった。
 自転車が光に包まれ……やがて、白と銀の大型バイクへと変貌した。

『仮面ライダーなら、やっぱりバイクが無いとな! リンカ、先に家に帰っててくれ』

「はい」

『行ってくる!』

 ファンタジーはアクセルを吹かし、バイクを走らせた。


49 ◆iOyZuzKYAc2019/07/09(火) 22:07:16.46jIWaQAeR0 (8/10)




「きゃあぁぁっ!」

「た、助けてくれえっ!」



「はい車は入って来ないで! 皆さん、こちらに避難してください!」

 数台のパトカーが道路を封鎖し、ビルから避難してきた人々の逃げ道を確保している。パトカーの窓から身を乗り出し、崩れ行くビルを睨んでいた植木の前を、銀色の影が駆け抜けた。

「! 来たか、仮面ライダー…!」

 影は猛スピードで道路を走り、逃げる人とは反対に、ビルの中へと突っ込んでいく。

「誰か入って行くぞ!」

「止めないと」

「待て!」

 車を降りようとする他の警官を制し、植木は言った。

「心配ない。彼は、味方だ」



50 ◆iOyZuzKYAc2019/07/09(火) 22:07:44.71jIWaQAeR0 (9/10)




「あああっ! ああああっ!!」

 瓦礫を蹴散らしビルの中を進むと、目当てのドーパントの姿が見えた。灰色の岩石のような姿をしたそのドーパントは、何やら喚きながら壁を殴り、破壊している。

「いやだあああっ! うわあああっっ!!」

『おい、ドーパント!』

 ファンタジーの声に、ドーパントの動きがぴたりと止まった。虚ろな目が、乱入者の姿を捉える。

「か、仮面ライダー…」

『ビル崩壊事件の犯人は、お前か』

「お、おお……」

 何かを堪えるように、身を捩りながら、ドーパントは唸った。

「おれはぁ…妹を、過労死させた…あの会社が、憎くて……」

『…そうか。もう良いぞ』

 宙に鉄のハンマーを描き、両手で掴む。

『今、楽にしてやる。はあっ!』

「おおああああっっっ!!!」

 突然、ドーパントが足元を強く蹴った。次の瞬間、ビルの床が大きく揺れ始めた。しかも、ただ揺れるだけでなく、足元がどろどろに融け出したのだ。

『なっ、何だこれ…』

「ああっ! 体があああっ!!」

『!』

 咄嗟に倒れた棚の上に飛び乗った。そのままハンマーを振り上げ、ドーパントに飛びかかった。

『たあっ!』

「ぐうっ…」

 硬いハンマーが頭を直撃し、ドーパントはその場にうずくまった。ファンタジーはすかさずメモリをスロットに差し込むと、ハンマーを振り上げた。

『ファンタジー! マキシマムドライブ』



51 ◆iOyZuzKYAc2019/07/09(火) 22:10:57.55jIWaQAeR0 (10/10)

『ファンタジー・ブレーンクラッ…』

 言いかけた彼の頭を、何かが横から打ち据えた。

『ぐわあっ!?』

 ぬかるんだ足元に沈みかけて、ファンタジーは慌てて机の上に飛び乗った。
 視線を移すと、ドーパントの肩の上に、何かが乗っている。

「…あははっ」

『お前は…』

 それは、ウサギと人間を混ぜたような姿をした怪物、ドーパントであった。

「見つけたよ、仮面ライダー」

『お前、こいつの仲間か』

 ところが、乗られているドーパントの方は、寧ろ拒むように肩を揺すっていた。

「いやだ、いやだ、いやだああっ!」

「お母様には、捕まえて連れてこいって言われたけど〜…」

 ウサギのドーパントは、値踏みするようにファンタジーを見た。

「もうちょっと遊びたいって言うか〜? ここで終わらせちゃ、勿体無いっていうか〜」

『ふざけるのもいい加減に…』

 ハンマーを振り上げるファンタジー。ところが、ウサギのドーパントは軽く跳躍すると、ハンマーを蹴り飛ばしてしまった。

「…ね? もうちょっと強くなって、出直しておいでよ」

 相方の肩に戻ると、ウサギは嗤った。それから融けつつある地面に着地すると、大きな相方の体を軽々と担ぎ上げてしまった。

「じゃ、よろしく。バイバイ、仮面ライダーさん」

 次の瞬間、ウサギは跳躍し、窓を突き破って外へと逃げてしまった。
 後に残されたファンタジーは、追いかけようとして、奥から聞こえてくる悲鳴に気付いた。

 結局、事件の犯人は逃してしまった。不幸中の幸いは、彼の尽力で犠牲者を増やさずに済んだこと、その御蔭で、ドーパントは逃したものの植木警部はじめ、超常犯罪捜査課のスタッフの信頼を、ある程度は得ることができたことだった。



『Eの後悔/二輪車と口車』完

今夜はここまで


52 ◆iOyZuzKYAc2019/07/10(水) 10:22:38.23Tpb2dLyl0 (1/10)

「井野定、33歳。北風建設の事務員。10歳年下の妹、遊香は2年前にノース・テクニクスに就職したが、過重労働に耐えかね半年前に自殺した」

「ああ、ニュースで見たことあります。結局、会社が裁判で負けたんでしたっけ」

 徹は写真を見ながら、以前取材した時のことを思い出していた。あの頃は、彼に限らず多くの記者が、問題となったノース・テクニクスや、その他の関連企業を取材していた。

「彼は多額の賠償金を得たはずだが、その金の行方は分かっていない。もしかしたら、ガイアメモリの購入資金に充てたのかも知れないな」

「妹を死に追いやった、ノース・テクニクスに復讐するために…」

 植木は溜め息を吐いた。

「こいつが犯人なら、復讐はとうに済んだはずだ。ノース・テクニクスは、オフィスビルごと崩壊したし、社長はおろか平社員に至るまで、一人残らず死んだ。それなのにどうして、今更…」

 徹は黙って考え込んだ。あのドーパントは、暴れながら嫌だ、嫌だと喚いていた。力を使うのは、不本意な様子であった。何より、ビル崩壊事件から同様の出来事は、今に至るまで起こっていなかった。復讐を終わらせた井野が、元の生活に戻ったのだと考えれば、まあ納得はできる。

「重要参考人であることには違いない。その、仮面ライダーから聞いた話によれば、な。今、部下を動かして確保に…」

 その時、タイミング良く植木の携帯が鳴った。

「私だ。…なに、井野がいない?」

 植木の顔が険しくなった。

「仕事にも来ていないのか。アパートには…」

 ここで一旦耳を離し、徹に言う。

「悪い、今日のところはここまでにしてくれないか。また今度、連絡するから」

 徹は頷くと、北風署を後にした。



53 ◆iOyZuzKYAc2019/07/10(水) 10:23:38.37Tpb2dLyl0 (2/10)




 聖堂には、獣のような喘ぎ声が木霊していた。

「はあっ、あぁっ、あんっ」

「いやだ、いやだ、ああっ!」

 長椅子に仰向け転がされた男に、その上に跨って腰を振る少女。少し離れてその様子を眺めながら、黄色いスーツの女は顔をしかめた。

「どうしてその男を連れてきたの、ミヅキ」

「だって〜」

 腰を振りながら、ミヅキと呼ばれた少女は答える。

「こいつ、メモリ耐性なさ過ぎなんだもん。お母様に会わせないと、ちょっと面倒くさいかな〜って」

「…それは同意するわ。でも、貴女のその行いは何?」

 少女が、ニヤリと嗤う。

「久し振りの男だもん。愉しまないと。…誰かさんのおかげで、フラストレーションも溜まってることだし〜?」

「貴様…」

 女は唸ると、スーツの内ポケットから黄色と黒のメモリを取り出した。

「あはっ、やる気? 良いよ〜」

 少女も、ピンク色のメモリを手に取る。



”お止めなさい!”



「!」

 ヴェールの向こうから響いた声に、2人は慌ててメモリを仕舞った。女はその場に跪き、少女も男の上から降りた。

”母の子がいがみ合うことは許しませんよ”

「申し訳ありません」

 真っ先に謝罪する、黄色スーツの女。ヴェールの向こうで、薄い人影が小さく動いた。

”…その子は、ミヅキが?”

「そうそう。メモリを刺した瞬間に暴走しちゃうから、ほっとけないかな〜って」

”そのようですね。母の子の危機を、よくぞ救ってくれました”

「あはっ」

「か、帰してくれ…もう、嫌だ…」

 呻く男の首を掴むと、少女は長椅子に座らせた。ヴェールの向こうで、人影が言う。

”愛しい子。もう、心配はありません。子の苦しみは母の苦しみ。今、楽にしてあげましょう…”

 するすると、ヴェールが開く。スーツの女は目を閉じ深々と頭を下げ、少女はにかっと口角を吊り上げた。
 男は、目を見開いた。

「あ、ああ…ああああっっ…!」



54 ◆iOyZuzKYAc2019/07/10(水) 10:24:17.76Tpb2dLyl0 (3/10)




「『アースクエイク』のメモリで間違いないでしょう」

 お茶を一口飲むと、リンカはそう断じた。

「『地震』か…だが、地面がどろどろに融けたのは? それも地震のせいか?」

「応用すれば、場所によっては可能です。特に現場付近は、地下水が流れていると聞きます」

「! 液状化現象か」

 少し前に取材したことを思い出す。風都から出たゴミが、北風町付近の豊かな地下水を汚染しているという内容で記事を書いたことがある。結局これも、没にされてしまったが。

「だが…またあのウサギのドーパントが来たら、どうしよう」

 どこか女性的なシルエットの、ウサギ人間。見た目に反して大柄なドーパントを軽々持ち上げる怪力で、その上高い跳躍力に強烈な蹴りを見舞ってきた。

「聞く限り、組織の幹部クラスのようですね。それはおいおい考えましょう。いざとなったら、私も足止めくらいはできます」

「大丈夫なのか…?」

「いずれにせよ」

 空になった夕食の皿を重ねながら、リンカは言う。

「勝てる方から倒していくべきでしょう。特にアースクエイクドーパントは、何らかの組織と接触した可能性が高い以上、確保すれば今後の調査に役立ちます」

「そうだな」

 徹は立ち上がった。今から出陣…というわけではなく、単に風呂を洗いに行くのだ。
 リンカが風呂やトイレをどうしているのか、徹は全く把握していないが、取り敢えず手の届くところは綺麗にしておこうと、彼なりに気を遣っているのであった。


55 ◆iOyZuzKYAc2019/07/10(水) 15:18:57.39Tpb2dLyl0 (4/10)




 朝。誰もいない墓地に、一人の会社員が座り込んでいた。

「遊香…待ってろよ」

 呟くと、彼はやおら墓石の下の戸を開け、中から白い骨壷を取り上げた。それを抱え、いそいそと立ち去ろうとする背中に、後ろから声がした。

「遺骨を持って、どこへ行く気ですか」

「! 誰だ」

 振り返ると、そこには白いスーツに金色のネクタイをした、痩せた女が立っていた。先に声を聞いたから女と分かっていたのであって、黒い髪を撫で付けた整った顔立ちは、男にも女にも見えた。

「名もなきフリー記者Bです。…単刀直入に言います。井野定、メモリを捨てなさい」

「お前…」

 男…井野は、骨壷を強く抱き女を睨んだ。

「おれが…おれが戦えば…遊香が、帰ってくる…」

「帰ってくる? 貴方が何をしようと、死んだ者は帰ってきません」

「帰ってくるんだ! 『お母様』の力で…」

 井野は骨壷をそっと足元に置くと、スーツのポケットから灰色のガイアメモリを取り出した。中央には、3本の地震計めいた波形が並んで『E』の文字を描いていた。

「お願いだ…もう、帰ってくれ。おれに、この力を使わせないでくれ…!」

「お断りします」

 女は、何処からともなく黒の大型拳銃を抜き、銃口を向けた。

「! このぉ…!!」



56 ◆iOyZuzKYAc2019/07/10(水) 15:19:39.01Tpb2dLyl0 (5/10)




『アースクエイク』



「うおおおおっ!!!!」

 足を上げ、地面を踏みならそうとする灰色のドーパント。そこへ、女が引き金を引いた。

「!?」

 銃弾の代わりに太いワイヤーが発射され、ドーパントの体に刺さった。女が腕を振り上げると、その体が宙へと投げ出された。

「っ、このっ…」

 引きちぎろうとワイヤーを掴む。
 そこへ、銀色の影が飛来し、激しく衝突した。

「うぐあぁっ!?」

 墓地の隣の空き地に落下したドーパント。少し遅れて、白と銀のバイクに跨った仮面ライダーが着地した。

『復讐は果たした。職場も失った。そんなお前が来るところは限られてる。…やっぱり、妹か』

「邪魔をっ! するなぁっ!」

 地面を踏みつけようとするドーパント。ファンタジーは素早く宙に鞭を描くと、その足を絡め取った。

『地震は起こさせないぞ!』

 そのまま空中へ跳ね上げると、ファンタジーは両腕を広げた。すると背中のマントが二つに分かれ、白い翼となった。

『空なら、地震は起こせないだろう。観念しろ!』

 下から蹴りを連発し、地面に落とさないように攻撃を加える。

「ぐっ、うぐっ、がっ」

『このままメモリブレイクだ…』

 ドライバーに手をやった次の瞬間

『…うわあっ!?』

 その背中を、強烈な蹴りが直撃した。
 地面に墜落するファンタジー。その胸の上に、新たな襲撃者が着地した。

『お前、あの時の』

「あははっ、来るに決まってんじゃ〜ん」

 ウサギ人間はけらけら嗤うと、ぐいと相手の胸を踏みつけた。

『ぐっ…』

 そこへ、アースクエイクドーパントも降りてきた。ウサギは彼を手招きすると、弾む声で言った。

「君の力で踏んづけたら、どうなっちゃうかな〜?」

「そ、そんなことをしたら死んでしまう」

「だ〜い丈夫。どうせお母様が、また産み直してくれるから…」

 会話する2体のドーパント。ファンタジーはウサギの足を掴むが、びくともしない。

「ほら、やってみなって…ゔぇっ」

 そこへ、小型のミサイルが飛来して、頭を直撃した。

「無駄話も大概に」

 ミサイルの飛んできた方向には、銃を構えたリンカが立っていた。引き金を引くと、次々にミサイルが飛んでくる。



57 ◆iOyZuzKYAc2019/07/10(水) 15:36:12.43Tpb2dLyl0 (6/10)

「…ふんっ、可愛いオモチャ!」

 ウサギはジャンプすると、ミサイルを片っ端から蹴り落としていく。
 何も言わず、引き金を引き続けるリンカ。その額に、薄っすらと汗が浮かんだのをファンタジーは見た。

『…! 今なら』

 上から敵がいなくなったファンタジーは、立ち上がると、再び鞭を手にした。

「! させん!」

 地面を蹴る、アースクエイク。ファンタジーは飛び上がって振動を回避すると、鞭を振るった。

「うわっ…」

 鞭が腕に絡みつくと、ファンタジーは振り上げ、そして振り下ろした。

「わあーっ!?」

「? …ひゃっ」

 巨体がぶつかりそうになって、ウサギは慌ててその体を蹴り返した。ファンタジーは構わず、ハンマー投げのように、ドーパントのくっついた鞭を振り回す。

『うおりゃっ、当たれっ! たああっ!』

「…ば〜か」

『!?』

 ウサギは両手を前に突き出すと…何と、飛んできたドーパントの体をピタリと掴み取ってしまった。
 そのまま、ぐいと引っ張る。

『うわっ!?』

 今度はファンタジーの体が引っ張られ、宙に舞った。そこへウサギがジャンプし、強烈な飛び蹴りを見舞った。

『ぐわぁぁぁっ!!』

「ああっ!」

 珍しくリンカが叫んだ。ウサギ人間はつかつかと歩み寄ると、更に飛び蹴りを浴びせんと膝を曲げた。

「これで……っ!?」

 ところが、その動きは途中で止まった。と思うや、突然、胸を押さえて苦しみだした。

「ぐっ…な、にを…」

 くるりと後ろを振り返る。その背中には、鋭く巨大な棘が、深々と突き刺さっていた。
 ウサギの顔が、怒りに歪む。

「あんの、ウジ虫ババア……!」

 痛みに耐えながら地面を蹴ると、ウサギ人間はどこかへと飛び去ってしまった。


58 ◆iOyZuzKYAc2019/07/10(水) 15:55:43.56Tpb2dLyl0 (7/10)

『…はっ、今のうちに』

 ファンタジーは鞭を手放すと、メモリをスロットに挿した。

『ファンタジー! マキシマムドライブ』

 マントが翼となり、ファンタジーの体が宙へと舞い上がる。

『ファンタジー・エクスプロージョン!!』

 そのまま空中で一回転し…地面に倒れているアースクエイクドーパントめがけて、ミサイルキックを放った。

「ぐわあぁぁぁっっ!!」 

 爆炎。ドーパントの体が崩れて、元の人間の姿に戻り、その左胸からメモリが吐き出され、そして砕けた。



「…」

 骨壷を墓に戻すと、徹は黙って立ち上がった。後ろに控えていた植木が、静かに言う。

「井野の意識はまだ戻っていない。何故、今更妹の遺骨を持ち出そうとしたのか…そして今まで、どこに姿を隠していたのか…できるだけ早く、聞き出したいと思う」

「お願いします」

 徹は頭を下げた。その耳元で、リンカは囁いた。

「あのドーパント…前に戦った時と、様子が違いました」

「ああ。前より、かなり落ち着いてる様子だった。それに、『お母様』って…」

「まあ、後のことは我々に任せてくれ。またよろしくと、仮面ライダーに伝えといてくれ」



59 ◆iOyZuzKYAc2019/07/10(水) 15:56:10.82Tpb2dLyl0 (8/10)

「はい。では」

 パトカーに乗り込み、去っていく植木。リンカは、ぽつりと呟いた。

「ガイアメモリには、多かれ少なかれ毒性があります。耐性が低かったり、長く使い続けていると、いずれ体調や人格に変容を来します」

「らしいな」

「…ですので、ドーパントが徒党を組むことは、実は難しいことなのです。実現しようとするなら、少なくとも統率する者は、ドライバーなどで毒性を弱める必要があります」

「じゃあ、今の組織にも、そのドライバーとやらがあるんだろ」

「…」

 リンカは黙ったまま、じっと空を見つめている。その口が、小さく動いた。

「何だって?」

「…予測できない。敵の目的が、見えない。いえ、定まった目的など、最初から無いのかも」

「だったら?」

 彼女の目が、徹を真っ直ぐに捉えた。

「無軌道な力は…いずれ自壊します。しかし規模が大きすぎれば、周りへの影響も大きくなる。私達としても、できるだけ早く解決したい」

「…ああ、そうだな」

 徹は、ふっと笑った。

「ま、何だ。あんたに言っても説得力無いかもだけどよ」

 ぽんと、リンカの肩を叩く。

「…俺に、任せろ」

「…ええ。そうですね」

 リンカが、頷いた。その、石膏像のような口元に、微かに笑みが浮かんだように、徹は錯覚した。


60 ◆iOyZuzKYAc2019/07/10(水) 15:58:39.83Tpb2dLyl0 (9/10)

『Eの後悔/墓場の凪』完

本編はここまで。次の進行について、一つだけ安価を

↓1〜3でコンマ最大 何から始める?
①『母神教』について調べる

②密売人狩り

③その他、要記述


61以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/10(水) 16:26:43.24HHduF0mx0 (1/1)

1


62以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/10(水) 16:44:28.09CGxyrem6O (1/1)

1


63以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/10(水) 17:02:31.34zLgj6MhzO (1/1)

おつおつ
この中だととりあえず1かな


64 ◆iOyZuzKYAc2019/07/10(水) 17:37:02.56Tpb2dLyl0 (10/10)

次回、なぞのそしきに切り込む

『アースクエイクドーパント』

 『地震』の記憶を内包するメモリで、会社員の井野定が変身したドーパント。ひび割れた岩石めいた灰色の巨体で、足で地面を踏みつけることで強い振動を起こす。井野はほとんど使いこなせず、偶然液状化現象を引き起こした程度であったが、応用すれば地震だけでなく、振動を纏った強力な打撃攻撃も可能。また、空中に飛ばせば触れるものが無くなるため大方完封できるが、水中に投げ込むと津波を起こすため最悪手。
 メモリは灰色。地震計の波形が3つ並んで、『E』の横棒を形成している。



『Xマグナム(仮称)』

 財団Xのエージェント、リンカが所持する黒い射撃武器。財団B的にはトリガーマグナムのコンパチ品。
 単体でもドーパントに対抗できる強力な弾を発射できるが、リンカは一緒に所持している『ワイヤー』『ミサイル』『フラッシュ』のギジメモリを駆使してドーパントを撹乱する。


65 ◆iOyZuzKYAc2019/07/11(木) 10:52:13.966Z4mhvzg0 (1/8)

「私ども母神教は、母なる神の愛によって、この世に平和をもたらすことを目標に活動しております」

 黒スーツに赤いネクタイを締めた壮年の男は、にこやかに説明した。
 ここは、母神教の北風町本部。この日、徹とリンカは、入信を検討していると言ってこの場所に来たのであった。ちなみに、リンカはいつもの白スーツではなく、黒いタイトスカートにブラウスを身につけている。それでも、金のネクタイは健在であった。

「ここでは、兄弟たちが日々の行いを互いに称え合っています」

 通された広間では、10人ほどの男女が円形に並んだ椅子に座って、話し合いの最中であった。

「私は今日、捨てられた犬を保護しました」

「ぼ、ぼくは倒れた自転車を立て直しました!」

「あたしは…」

 目を細める徹に、相変わらず無表情のリンカ。男は誇らしげに頷いた。

「母の子として、素晴らしい行いです」

「! 長兄様、おはようございます!」

 男女が一斉に立ち上がり、男に挨拶した。

「今日は、新しく母の愛に触れんとする兄弟が、こうして来てくれました」

「ようこそ、母神教へ!」

「あ、ああ、どうも…」

 曖昧に会釈しながら、徹は男の方を見た。

「…えっと。静かな所で、詳しいお話を聞かせていただけないかな、と思いまして」

「ええ、もちろんです。こちらへどうぞ」

 男は、笑顔で2人を先導した。



 小さな応接室にて、向かい合って椅子に座ると、徹は早速質問した。

「純粋に気になっていたのですが…あなた方の信仰する『お母様』とは、一体どのような存在なのですか?」

 徹はわざと、今まで男の出さなかった『お母様』という単語を用いた。
 井野定やウサギ人間の言っていた存在。字面からして、この母神教と何らかの関わりはありそうだ。だが、まだそうと決まったわけではない。この組織には当然、超常犯罪捜査課の手も入っているが、今に至るまではっきりした証拠を挙げられていないのだ。

「母とは、神です」

 男は一切突っ込むこと無く、当然のように答えた。

「母は全てを知り、全てを愛し、全てを護ってくださいます。世界が母の愛に包まれれば、この世から争いは消え、全てが等しく母の子として、互いに尊重しあい、愛し合う、そんな素晴らしい世界になるのです」

「はあ…」

 男の勢いに圧倒されて、徹は引き気味に相槌を打った。一方のリンカは、いつもの無表情で男の顔をじっと見つめている。しかし、両手は机の下で、何やらもぞもぞと動かしていた。

「…そうだ。その、母とは…聖母マリア? それとも、摩耶夫人?」

「いいえ。母は、ただ万物の母として、この世に君臨しておられます。…お会いになりますか?」

「!? 会えるのですか」

「もちろん」

「それなら…」

 会ってみたい。そう言おうとした徹の腕を、不意にリンカが掴んだ。

「いえ、結構です」

 そのまま立ち上がると、足早に部屋の出口へ向かった。

「ちょっ、リンカ…」

「有意義な時間でした。ですがこれ以上は結構」

「そうですか」

 男は、存外にあっさりと引き下がった。

「いつでも、またいらしてくださいね。私どもは」



66 ◆iOyZuzKYAc2019/07/11(木) 10:52:47.196Z4mhvzg0 (2/8)

「…」

 ところが、リンカは部屋から出ず、代わりに内側から扉の鍵を閉めた。そして、言った。

「財団のリストと照合しました。…元ミュージアム密売人、九頭英生。ここでガイアメモリの密売に関わっていましたか」

「!?」

 ぎょっとする徹。しかし、驚いたのは男も同じであった。

「なっ…何者ですか、あなたは!?」

「名もなきフリー記者Bです。そして母神教は殲滅します」

 何処からともなく拳銃を抜き、男に突きつける。

「きさまぁ…そうはさせません!」

 男は、黒いガイアメモリを取り出した。そう、ガイアメモリである。

『マスカレイド』

 メモリを首筋に刺すと、男の顔が黒と銀の仮面に覆われた。

「! 危ないっ!」

 殴りかかってきた男に体当りすると、徹はドライバーを腰に装着した。

「こいつもドーパントだったか…変身!」ファンタジー!

『取り敢えず、倒す!』

「仮面ライダー…お前が…!」

 ファンタジーは剣を構えると、マスカレイドドーパントとの戦闘を開始した。



「くはっ…」

『このままメモリブレイクだ…』

「待ってください」

 力尽きたマスカレイドドーパントに必殺技を放とうとしたファンタジーを、リンカが止めた。

『何だ?』

「マスカレイドメモリには自爆装置が付いています。メモリブレイクすれば、変身者まで死亡します」

『何だって!? じゃあ』

「このまま捕らえましょう」

 リンカは銀色のギジメモリを取り出すと、銃に装填した。

『ワイヤー』

 引き金を引くと、銃口から太いワイヤーが飛び出し、ドーパントの体をぐるぐる巻きにした。

『よし、捕まえて警察に』

「…ふっ。この私が、死を恐れるとも?」

『何っ』

「!」

『フラッシュ』

 リンカが、クリアカラーのメモリを銃に装填する前に、マスカレイドドーパントの体が爆ぜた。



67 ◆iOyZuzKYAc2019/07/11(木) 10:55:49.936Z4mhvzg0 (3/8)




 聖堂の床に、2人の女が倒れている。黄色スーツの女は全身痣だらけで、片腕が妙な方向に折れ曲がっている。白いロリータ衣装の少女は、背中に鋭い棘が突き刺さり、体のあちこちに刻まれた噛み跡から血が滲んでいた。

”…母は悲しいです”

「っ…申し、訳」

”もう良いです。あなたたちは、一度折檻しなければなりません”

「! …」

「許して、お母様…だって、こいつが」

”お黙りなさい!”

 ヴェールが開き、人影が姿を現す。人影が手を上げると、2人の頭上にも巨大な手が出現した。

「…」

「嫌、許して、許して…」

 諦めたように目を閉じる女。泣きながら懇願する少女。
 人影が、手を振り下ろした。すると巨大な手が2人の上に落ち…

「ぐっ」

「いぎゃあぁああっぁぁぁっ!!!!」

 2人の体を、ぐしゃぐしゃに押し潰した。



「母神教の本部に、ドーパントがいた?」

 北風署にて。徹の言葉に、植木が身を乗り出した。

「はい。仮面ライダーが来てくれなければ、危ないところでした」

 尤もらしく言う徹。リンカが引き継いで説明した。

「幹部がドーパントに変身しました。追い詰めましたが、自害されました」

「だが、母神教は前も捜査して、何も見つからなかったからな…」

「深入りする必要は無いと思います。ドーパントが他にもいるなら、警察の皆さんにも危険が及びますから」

「まぁ…できるだけ頑張ってみるよ。で? 君たちはこれから、どうするの」

「私たちは…」



↓1〜3でコンマ最大 これからどうする
①密売人について調べる

②ウサギのドーパントについて調べる

③ガイアメモリ製造工場について調べる

④その他、要記述


68以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/11(木) 11:28:46.77o+IO6VPEO (1/1)

2


69以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/11(木) 13:12:20.99aFyal1jBO (1/1)

2


70 ◆iOyZuzKYAc2019/07/11(木) 15:35:06.506Z4mhvzg0 (4/8)

 その日の夕方。2人は『ばそ風北』で蕎麦を啜っていた。

「しかし、いきなりウサギの方ですか。立ち向かう算段はおありで?」

「あんまり。だが、今の所残ってるドーパントって言ったら、あいつしかいないだろ。…」

 徹は、かけ蕎麦を啜るリンカの横顔をちらりと見た。

「…何か」

「いや…あんたも、普通に飯食うんだなって」

「私”は”人間ですから」

 涼しい顔で、汁を一口。
 そこへ、カウンターの向こうから店主が口を挟んできた。

「にしても徹ちゃん、無事で良かったよ」

「?」

「ほら、こないだの怪物…あんた、いつの間にかいなくなっちゃうからさ」

「! あ、ああ。俺も隠れてたんだけど…ほら、おっちゃんも見てただろ。仮面ライダー」

「そうそう! いや〜危ないところだった。彼が来てくれなきゃ、もっと酷いことになってた」

 会話しながら、徹はほっと胸を撫で下ろした。あの時は気にしていなかったが、今のところ自分が仮面ライダーであることは隠すことにしている。店主に知られたら、そこからまた多くの人々へ広がることは、想像に難くない。

「…で、ウサギのドーパントだけど」

 レンゲでネギの切れ端を掬いながら、徹は話を元に戻した。

「母神教の一員であることは間違いないだろう。『お母様』とか言ってたし。それから、中身は女」

「本当に? メモリの力で、声や外見を女性的に見せているだけでは?」

「うっ…それを考えだしたら、もうきりがないだろ」

「そうですね、私もそう思います」

 平然と言い、お茶を一口。徹は、ぽかんと彼女を見た。

「…あんた、冗談も言うんだな」

「時々は。…で、どうやって探しますか。母神教の線なら、警察も調べていると思われますが」

「そうだな。俺たちは、別の線から探すとしよう」

 徹はそう言うと、ふっと遠くを見る目になった。


71 ◆iOyZuzKYAc2019/07/11(木) 20:33:42.266Z4mhvzg0 (5/8)




「変な奴かい? …そう言えば」

「心当たりが?」

 北風駅前の公園にて。徹とリンカは、一人のホームレスから話を聞いていた。

「誰も信じちゃくれないんだけどね。その、ビルが崩れた日。例のビルの壁を、誰か白い服の娘が駆け上ってくのを見たんだよ」

「!」

 2人は顔を見合わせた。
 駅前にはまだ立入禁止のテープが張られ、パトカーや工事車両が出入りしている。そんな中で、2人は改めて聞き込みに来た。井野定が再びドーパントとして暴れだしたのは、他でもない自身の務める会社のあるビルであった。つまり、仕事中の井野に接触して、メモリを使わせた者がいた筈なのだ。そしてそれは、あの時現場に現れた、ウサギのドーパントである可能性が高いと、2人は見ていた。

「それは、具体的にはどんな人でした」

「そうだなあ…遠かったし、速くてよく見えなかったけど…」

 ホームレスの男は、髭の生えた顎を撫でながら言った。

「…でも、フリフリの派手な服だったよね。だから女の子って判ったわけだし。それに、若い娘だったかな。そんな感じ」

「なるほど…ありがとうございました」

 男に一万円札を握らせると、2人は公園を立ち去った。



 墓地の付近でも、似たような目撃証言を得られた。興味深いのは、以前からその女の存在は噂になっていたことで、しかもその内容というのが『白いゴスロリ衣装の少女が、夜な夜な公園の身障者用トイレで売春を行っている』というものであった。

「…」

「人がいる場所なら、この手の噂は、多かれ少なかれ存在するものです」

 黙り込む徹に、リンカが急にそんなことを言うので、彼は驚いたように顔を上げた。

「…何だよ、慰めてるつもりか」

「揺らぐな、と言いたいのです」

 リンカは、いつも通りの無表情で言う。

「貴方はこの街を愛している。街のために戦っている。…それで良いのです」

「…」

 徹は、溜め息を吐いた。

「…ああ、そうだな。悪かった」



72 ◆iOyZuzKYAc2019/07/11(木) 20:34:12.676Z4mhvzg0 (6/8)




「ふうぅ…っ、あぁっ…」

 ヴェールの向こうで、一つの人影が横たわっている。その腹は大きく膨れ上がって、胸の辺りには別の人影が2つ、かじりついてもぞもぞと蠢いていた。

「あ、あっ…あああっっ!!」

 悲鳴に近い叫び声と共に、人影の腰が大きく浮き上がった。それから少し遅れて、その脚の間から、更にもう一つの人影が、ずるりと転がり出てきた。
 人影は床に落ちると、よろよろと立ち上がった。

「お、おお…『お母様』…」

「はぁっ…英生…」

 『お母様』は、胸にくっついた人影を払いのけると、両腕を差し伸べた。

「よくぞまた、生まれてきてくれましたね…」

「貴女様が、再び産んでくださればこそ…私は、何度でも命を捧げます…」

「さあ、おいでなさい…お乳を飲みなさい…」

 人影は『お母様』に縋り付くと、その胸に顔を埋め、貪るように乳を吸い始めた。

「お母様、あたしも…」

「お母様、お母様…」

 除けられた2人がねだる。その声は、黄色スーツの女と、白いゴスロリの少女のそれであった。


73 ◆iOyZuzKYAc2019/07/11(木) 20:36:13.516Z4mhvzg0 (7/8)

『怪しいR/母とは神なり』完

今日はここまで


74 ◆iOyZuzKYAc2019/07/11(木) 20:36:52.036Z4mhvzg0 (8/8)

こんなドーパントとかガイアメモリどうでしょうとか、書いてくれたら採用するかもしれない


75以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/11(木) 22:16:01.73i+ki0BDH0 (1/1)

こんな感じ?

リインカーネーション(転生)ドーパント
人間一人に印をつける。ドーパント体が倒された時に印をつけた人間にメモリとメモリ使用者の意識が移動して乗っ取る


76以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/12(金) 07:47:13.48spmGpoev0 (1/1)

ガイアメモリ案 ファイナルメモリ
単独では使えないメモリで他のガイアメモリと合わせて使うことで性能を限界以上に引き出す力がある
限界以上の性能を引き出しているので並のガイアメモリや人間だと耐えきれずに肉体が崩壊する可能性が高い



77 ◆iOyZuzKYAc2019/07/12(金) 09:37:26.07ll1rXKFu0 (1/15)

 ある日の夜。北風町運動公園の身障者用トイレと前に、徹はじっと立っていた。彼の他にも、3人の男がいて、そわそわと周囲を見回している。
 そこへ、弾むような足音が聞こえてきた。

「!」

 徹は足音の方へ顔を向けた。他の男たちも、期待に満ちた目を向ける。

「…あははっ」

 電灯に照らされて姿を表したのは、白いロリータ服の少女。彼女はその場に集った4人の男たちをくるりと見回すと、明るい声で言った。

「じゃあ、誰から?」

「…」

 顔を見合わせる男たち。徹は、一歩後ろへ下がった。
 やがて、一人が手を挙げる。

「お、俺が」

「はぁ〜い」

 少女はその手を取ると、スキップしながら身障者用トイレへと入っていった。数分後、シャッターの中から嬌声が漏れてきた。それを、徹は歯噛みしながら聞いていた。

 夜が更けてきた頃、3人目の男がトイレから出てきた。後から出てきた少女は、徹の前に来て言った。

「お待たせ。始めよっか」

 ところが、徹は動かず、少女に質問した。

「君…いつも、こんなことしてるの」

「う〜ん?」

 少女が首を傾げる。徹は名刺を差し出すと、自己紹介した。

「俺、フリーライターをしてるんだ。未成年の夜遊びについて取材しててね。君、いくつ?」

「…」

 少女は名刺をひったくると、見もせず放り捨てた。それから、ニヤニヤと徹を見た。

「さあね? 誕生日、忘れちゃった。早くエッチしよ」

「どうしてこんなことを。親は何してる? 学校は行かなくていいのかい?」

「うるさいな〜…」

 相変わらずニヤニヤ笑いを浮かべながら、少女は徹の手を掴んで引っ張った。

「おじさんみたいな良い人気取り、もう飽きたんだよね〜。どうせ、あたしのこと助けたいとか言うんでしょ? だったら黙ってチンコ出してよ。それが一番の助けになるからさ」

「…」

 徹は、遂に身障者用トイレに向かって、足を進めた。



78 ◆iOyZuzKYAc2019/07/12(金) 09:37:55.30ll1rXKFu0 (2/15)




 蓋を閉じた便器に徹を座らせると、少女は彼のズボンと下着を下ろし、一物を掴んだ。

「…君、名前は?」

「ミヅキ」

 短く答えてから、彼女は思い出したように言った。

「そうだ。お金は要らないから安心してね」

 それから、徹のモノを口に咥えた。

「それじゃ、意味無くないかい?」

「んっ…お金には困ってないんだよね〜。ただエッチしたいだけ」

「どうして」

「ん、むっ…ねえ、フェラ中だからあんまり質問しないでくれない?」

「ごめん」

 少し長い愛撫で、ようやく徹の準備が整った。少女は口を離すと、スカートに手を入れてピンク色のショーツを下ろした。そのショーツと言い、着ているゴスロリ衣装と言い、綺羅びやかではあるものの清潔感がない。フリルはところどころ脱落しているし、ボタンもいくつか欠けている。
 そのまま膝の上に跨がろうとしてきたので、徹は慌てて制止した。財布からコンドームを取り出し、一物に被せる。

「付けなくていいのに」

「まあまあ」

 少女は可笑しそうに喉を鳴らすと、徹の膝の上に乗った。スカートを大きくたくし上げると、上を向いた徹のモノに、自身の入り口を添わせた。

「じゃあ…挿れるね。んっ…」

 腰を下ろす。小柄な体格に合わず、彼女の穴は徹をいとも容易く呑み込んだ。
 彼の上で、少女ミヅキは腰を振り始めた。

「んっ、あっ、あぁっ…」

「…エッチ、好きなんだ」

「そう…っ、あたしね…異常性欲って言ってね」

 激しく腰を上下させながら、ミヅキが言う。

「こうやってエッチするかオナニーしてないと、頭がおかしくなっちゃうの…あんっ…」

「それで、公園で」

「彼氏作っても、すぐ逃げられちゃうし…んっ、ここで男釣った方が、楽だし…」

「家族は何て言ってるの?」

「家族? そんなのいないよ。だいぶ前に捨てられた」

「『お母様』は?」

「お母様は、お母様だし…」

 そこまで言って、突然少女の動きが止まった。ふわふわと浮いていた視線が、すっと彼の方へと向く。

「…あんた、誰」

 徹は答えず、剥き出しの少女の太腿に手を置いた。そこには、黒い生体コネクターが刻まれていた。

「お洒落な刺青だね。誰に入れてもらったのかな。…九頭か」

「誰だっ!」

 ミヅキは徹の上から飛び降りると、威嚇するように言った。
 徹は衣服を直しながら立ち上がった。

「警察に自首しろ。今ならまだ、間に合う」

「うるさい!」



79 ◆iOyZuzKYAc2019/07/12(金) 09:38:23.93ll1rXKFu0 (3/15)

 少女は喚きながら、トイレを飛び出した。次の瞬間



『フラッシュ』



「ぎゃあぁぁっ!!?」

 凄まじい閃光が、公園を押し潰した。
 トイレの出口には、片腕で目を覆い、もう片方の手で銃を構えたリンカが立っていた。

「こちらが外れだったので、加勢に来ました。…どうやら、当たりのようですね」

「あ゛ああっ! 目が、痛いっ…目がぁっ!」

 のたうち回りながらもポケットから出したピンク色のガイアメモリを、すかさず徹がひったくった。
 メモリには、2本の耳をぴんと立てたウサギの頭部が逆さまに描かれていた。

「『R』…『ラビット』のメモリですね」

 ワイヤーのギジメモリを装填すると、リンカは銃口を向けた。ところが

「いや、だああっっ!!」

 少女はその場で跳び上がると、リンカの銃に飛び蹴りを浴びせ、弾き飛ばしてしまった。

「ああっ!」

 更に、宙に舞った銃をキャッチすると、目を閉じたまま滅茶苦茶に乱射しだした。

「危ない!」

 四方八方へ飛ぶワイヤー。徹は駆け寄ると、リンカを押し倒した。そのすぐ上を、銀色のワイヤーが掠めた。

「ミヅキ…お遊びはここまでだ…!」ファンタジー!

 徹は、仮面ライダーに変身した。ただし、いつもの騎士ではなく、今回は魔術師の姿だ。

「その声…まさかあんたが、仮面ライダー!?」

『黙ってて悪かったな。大人しく捕まってくれ!』

 ファンタジーは宙に魔法陣を描いた。すると陣から数条の鎖が伸び、少女を襲った。

「嫌だっ!」

 少女は、目を閉じているにも関わらず、正確に鎖を躱していく。

「ラビットメモリの影響で、聴覚が強化されている…」

『だったら、そんなの関係なくするだけだ!』

 夥しい数の魔法陣が、少女を取り囲む。そこから一斉に、無数の鎖が飛び出した。

「あっ、あああっ…」

 隙間なく飛んでくる鎖に、とうとう少女は拘束された。頭だけ残して簀巻きにされた少女に、仮面ライダーは歩み寄った。

『悪いが、警察に行ってもらうぞ…』



80 ◆iOyZuzKYAc2019/07/12(金) 09:38:53.03ll1rXKFu0 (4/15)

「…! 危ない!」

『!?』

 咄嗟に飛び下がった、その足元に、数本の鋭い棘が突き刺さった。

『誰だっ!?』



「…全く、情けない」



 ゆっくりと歩いてくる、新たな襲撃者。黄色と黒の縞模様を基調とする、どこか女性的なボディに、紫色の複眼。背中には虹色の翅をマントめいてなびかせ、細い腕は無数の鋭い棘に覆われている。

『ホーネット…いや、お前は…?』

「これでも、同じお母様の子ですから」

 鎖巻きの少女を抱き上げると、翅を広げる。

「いなくなれば、お母様が悲しみます。では」

 軽く会釈した次の瞬間、腕の棘が飛び出し、一斉に2人を襲った。

『!!』

 瞬時に防壁を展開し、リンカを庇うファンタジー。その隙に、蜂女は空へ舞い上がり、明け方前の闇に姿を消してしまった。

「…クソっ、逃げられた」

 変身を解除し、悪態をつく徹。リンカは起き上がると、言った。

「いえ、進捗は寧ろプラスです。新たな幹部の存在を知ることができましたし…」

 ピンク色のメモリを掲げる。

『ラビット』

「…何より、ウサギ…ラビットドーパントを、無力化できました」


81 ◆iOyZuzKYAc2019/07/12(金) 09:42:14.42ll1rXKFu0 (5/15)

『怪しいR/寂しい兎』完

気が向いたらまだ続くかも知れない


82 ◆iOyZuzKYAc2019/07/12(金) 09:50:25.61ll1rXKFu0 (6/15)

『ラビットドーパント』

 『兎』の記憶を内包するメモリで、少女ミヅキが変身したドーパント。白っぽい薄ピンクの体毛に覆われた体は、女性的なシルエットをしており、特に腰から脚にかけて肉付きが良い。その脚で高い跳躍から強力な蹴りを浴びせてくる他、長い耳は目が潰れていても周囲を正確に把握する程の聴力を持っている。ハイドープになるまで使い込んだミヅキは生身でも高い聴力や跳躍力を持ち、変身後はメモリの性能以上の筋力を発揮する。一方で、副作用として異常性欲になっている。そのため、夜の公園で男を誘っては、身障者用トイレで性行為に及んでいる。



 『戦車』のメモリと二本挿ししても、別にベストマッチにはならない。……『龍』のメモリでも一緒だからな?


83 ◆iOyZuzKYAc2019/07/12(金) 16:24:56.38ll1rXKFu0 (7/15)

「はっ、はっ、はっ…」

 夜の路地を、一人の男が走る。その後ろを、3人の若い男女が追いかけている。

「もう諦めろよ!」

「いい加減、楽になりましょ?」

「ふざけるなっ…はあっ…」

 必死の逃走も虚しく、男はすぐに人気のない空き地に追いつめられた。
 追手の一人が問いただす。

「てめえ、ブツを何処に隠した」

「さあね。それが分かるのは、僕だけだ」

「オレら舐めんのもいい加減にしろよ…?」ホーネット

 残りの2人も、黄色いガイアメモリを取り出す。

「…」

 固唾を呑む男の目の前で、3人は蜂人間へと姿を変える。

「こ、殺すなら殺せ! 僕は、死んでも言わないぞ!」

「じゃあ死ね!」

 蜂人間たちが一斉に襲いかかる。彼らは棘だらけの腕で男を捕まえると、鋭い顎で肩や喉に噛み付いた。

「ぐっ、ぎっ…ぎゃああっっ!!」

 空き地に、断末魔が木霊する。しかし、絶叫しながらも男は、後ろ手に何かを起動させた。



『リインカーネーション』



 そして、それを密かに背中に刺し…そして、息絶えた。



84 ◆iOyZuzKYAc2019/07/12(金) 16:25:22.37ll1rXKFu0 (8/15)

「…おっ、今日は一人かい」

 『ばそ風北』に入るなり、店主に声をかけられた。

「そうだけど…?」

「この前の彼女は一緒じゃないのかい? あの、宝塚みたいな」

「ん゛っ!?」

 思いがけない発言に、徹は絶句した。店主はにやにやしながら言う。

「いや〜、ああいうクール系が好みだったなんてね。意外だけど、中々オツなもんじゃないか」

「いや…別に、彼女じゃないし」

 カウンターの前に腰掛けながら、徹は首を振った。

「仕事仲間だよ」

「へぇ〜?」

 にやにや顔のまま、徹に顔を近づける店主。徹はしっしっと手を振りながら、いつもの北風蕎麦を注文した。
 蕎麦を湯がきながら、店主は思い出したように言った。

「そう言えば昨日、熊ちゃんが来たよ」

「熊ちゃんって…熊笹か? 久し振りにその名前を聞いたな」

 熊笹修一郎。徹と同じフリーの記者をしていて、比較的危険な案件にも積極的に首を突っ込む、熱心な男であった。徹とは以前、同じ事件を取材したことから知り合いとなり、時々互いの仕事を手伝ったりしていた。
 しかし、ここ数ヶ月はずっと音沙汰が無く、こうして蕎麦屋の店主に言われるまで、徹もその存在を忘れかけていた。

「あいつ、元気にしてたか?」

「元気は元気そうだったけど…」

 葱を刻みながら、言葉を濁す。

「何かあったのか?」

「ちょっと、思い詰めてる風だったかな…徹ちゃんにも会いたがってたけど、今日は来てないって言ったら、じゃあ構わないって。かけ蕎麦だけ食べて、帰っちゃった」

「ふぅん…」

 相槌を打ちながら徹は、後で電話してみようと思った。



 一方その頃、リンカは風都にいた。と言うのも、財団Xの支部で調べ物をする必要があったからだ。携帯端末からアクセスできる情報には、限りがある。
 調査内容は、ガイアメモリの製造ロット。ガイアメモリには多くの種類があり、それらを製造する工場も風都と中心に各地に散在している。製造数の少ないメモリは、一つの工場でしか造られていないことがあるため、回収したメモリから現在稼働している工場を割り出すことができるかも知れなかった。

「ホーネット…サーバルキャット…そして、ラビット…」

 ミュージアムに投資していた財団Xは、当然全てのメモリの種類を把握している。それがどこで製造されているのかも。
 絞り込みをかけて、最後に3つまで工場を絞れた。内、2つが風都。そして残りの1つが、北風町にある工場であった。

「…いや、3つとも稼働しているのかも」

 リストを自分の端末にダウンロードすると、リンカは席を立った。別の席では、同じような白スーツの男が、電話で誰かと会話しているところであった。時計がどうとか言っている。それを無視すると、リンカは支社を後にした。



85 ◆iOyZuzKYAc2019/07/12(金) 16:41:29.95ll1rXKFu0 (9/15)




”おかけになった電話は、現在電源が入っていません。___”

「…」

 徹は通話を切ると、溜め息を吐いた。夜のアルバイトの前後に何度も掛けてみたが、ずっとこの調子であった。思えば、彼もまた北風町で相次ぐ怪奇現象について調べたいと言っていた。何か、重大な事件に巻き込まれてなければいいが…
 考えながら家路を歩いていると、突然、彼の後頭部に何かがぶつかった。

「痛っ…」

 振り返ったが、誰もいない。石でも投げられたのかと目を凝らすが、通りに他に人はいないし、人の気配も無い。
 気のせいだろうか。そう思い、再び歩き出した彼の肩を、何かが叩いた。

「っ、何なんだよ、もう!」

 乱暴に肩を払う。と、手に何か硬いものが当たった。

「? …!」

 目を凝らして、気付く。それは、緑色のガイアメモリであった。

「うわっ、ガイアメモリ!?」

 反射的に弾き飛ばしてしまった。ところが、そのメモリは独りでに宙に浮かび上がると、何と一直線に、徹目掛けて飛んできた。

「うわあっ!?」

 徹は、逃げるように走り出した。
 メモリは、空を滑るように彼を追いかける。

「く、来るなっ、来るな…」

 走りながら、周囲に人がいないことを確認すると、鞄からドライバーを取り出した。しかし変身しようとした時、向こう側から誰かが歩いてくるのに気付いた。

「! やべっ…」

 咄嗟にドライバーを隠そうとする徹。しかし、相手が誰か気付いた瞬間、彼は叫んだ。

「り…リンカ!」

「おや、貴方でしたか。夕方のランニングですか」

「ちがっ、違うんだ。メモリが…」

「メモリが…!」

 聞き返そうとして、リンカも徹の言わんとすることを察した。彼を道の端に押し退けると…その場で、大きくジャンプした。
 着地した時、彼女の手には例の緑色のガイアメモリが握られていた。

「あ…ありがとう」

「これは…」

 メモリには項垂れる人間の肩から上と、その後ろに取り憑く一つ目の幽霊が描かれている。ボタンを押すと『リインカーネーション』と声がした。

「『リインカーネーション』…!」

 リンカの顔色が変わった。彼女はスーツの上着を脱ぐと、メモリを何重にも巻いて脇に抱えた。

「このメモリは既に起動しています。いいですか、絶対に端子に触れないでください」

「ふ、触れるとどうなるんだ」

「前の持ち主に、意識を乗っ取られます」

「何だって!?」

 リンカは、珍しく焦ったような口調で言う。

「とにかく、家に戻りましょう。このメモリが、貴方のもとへ飛んできた理由も気になります」



 薄暗い小部屋の床に、鎖で簀巻きにされた少女が転がされている。

「ね〜え〜、これ解いてよ〜」

 少女の頼みを、黄色スーツの女は却下した。

「みすみすメモリを奪われるような出来損ないの生徒に、かける情けは無いわ」



86 ◆iOyZuzKYAc2019/07/12(金) 16:42:33.67ll1rXKFu0 (10/15)

「放せってんだよ!!」

 少女が怒鳴った。

「助けに来たんじゃねえのかよ! メモリ取り返しに行くから、これを解けってんだよ!!」

「はっ、男と性交するか、自慰行為しか能のない癖に」

「だから何だよ。あたしはなあ、仮面ライダーとセックスしたんだぞ!?」

「だから、その仮面ライダーが誰なのかを教えなさいと言ってるの!」

 女が、少女の頭を蹴った。

「知るかよ! 名乗りもしねえし、名刺も捨てたし」

「…」

 女は舌打ちした。少女に背を向けると、さっさと部屋を出ていってしまった。

「おい…どこ行くんだよ…放せよ…」

 ジャリジャリと鎖を鳴らしながら、少女は身悶えする。

「せめて手だけでも…メモリのせいで、マンコ弄ってないとダメなんだって、知ってんだろ! おい!」

 のたうつ音が、部屋に虚しく響く。

「じゃあ、トイレ…トイレくらい良いだろ? 夕べから行ってないんだよ…お願い、行かせてよ! 漏れそうなんだよ! オシッコ! オシッコがもう、我慢できないんだって…おい! …ひっ、もう出る、あっ、トイレっ、オシッコっ、おしっ……あ、あっ…あぁぁ…」


87 ◆iOyZuzKYAc2019/07/12(金) 19:15:57.01ll1rXKFu0 (11/15)




「花のメモリが、どうしてそんなに危険なんだ?」

「花?」

 ネクタイを緩めながら、リンカは首をひねった。

「だって、『リイン・カーネーション』だろ?」

「…ああ。いえ、カーネーションではなく『リ・インカーネーション』。『転生』です」

「転生…?」

「このメモリは」

 丸めたスーツを慎重に広げると、中のメモリを両手で掴み、電灯の下に掲げた。

「戦闘能力を持ちません。代わりに、持ち主の記憶や意識を、メモリ内にバックアップします」

「そんなことができるのか」

 目を丸くする徹。リンカは頷いた。

「このメモリは、持ち主が死亡するか、不可逆的に死に近い状態になった時に初めて起動します。持ち主の遺志に呼応して自律行動し、次の持ち主を探します」

「見つけたら、どうなる?」

「強制的に体内に挿入されると、前の持ち主の意識・記憶で次の持ち主…いえ、宿主と言ったほうが良いでしょう。宿主の脳内を上書きします」

「な、何て迷惑なメモリだ…」

 リンカの手の中で、ビクビクと動くメモリ。その端子は、真っ直ぐに徹の方を向いている。

「ええ。貴方からしたら迷惑でしょうが…このメモリは、どうやら貴方が目当てのようです」

「!? そんなことされる覚えは無いぞ?」

「どうでしょうか。それを知るには、貴方が宿主になるしかないでしょう」

「じょっ、冗談じゃない!」

 飛び上がる徹。すかさずリンカが、無表情に言う。

「冗談です」

「な、何だよ…」



88 ◆iOyZuzKYAc2019/07/12(金) 19:17:07.35ll1rXKFu0 (12/15)

「代わりに、こうしましょう」

 リンカは徹のノートパソコンを立ち上げると、側面に指を沿わせた。そして、目当てのソケットを見つけると、リインカーネーションメモリをそこへ挿し込んだ。

「えっ、それで行けるのか?」

「ロイミュード…機械に近い存在が、ガイアメモリを使用した事象があります。折角USBメモリに準じた造形をしているのですから、活用してみるのも手でしょう」

 言いながら、キーボードを何やら操作する。
 と、画面に一つのウィンドウが現れた。それから遅れて、一人の人間の顔が映し出された。その顔に、徹が思わず声を上げた。

「く…熊笹!?」

”その声は…力野か!”

 画面の中の男は、安堵したように口元を緩ませた。

”そうか、見つけてくれたか…”

「待て、熊笹。このメモリにお前がいるってことは、お前は…」

 画面の中で、熊笹が頷いた。

”ああ。ここで僕と君が話してるということは、僕はもう死んだんだろう。一か八かでメモリを使ってみたが…”

「どうして! 何をやらかしたんだよ!」

 画面に詰め寄る徹。リンカは何も言わず、静かに部屋の隅に引っ込んだ。

”順を追って話そう。僕は、この街で相次いでいる怪奇現象について調べていた___”

 彼は、ドーパントなる怪人の存在、ガイアメモリと呼ばれる記憶媒体、それを扱う密売人について知り、遂にはガイアメモリを造る工場の位置を突き止めた。工場に忍び込み、証拠のメモリも入手した。しかし、それを密売人たちに見つかってしまい、追われる身となった。彼は逃亡を続けながら、メモリをケースに詰め、工場の位置を記した紙と一緒にある場所に隠した。その後、追いつめられた彼は、一緒に持ち出したリインカーネーションのメモリを使用し、直後に彼らに殺害された___

「熊笹、あんた…」

”今はまだ知られていないが、いずれ僕が、ガイアメモリとしてまだ生きていることがバレるかも知れない。そうなったら、メモリを持っている君に危害が及ぶだろう。…このメモリは、すぐに破壊してくれ”

「だが、そんなことをしたら」

”良いんだ”

 熊笹は、微笑んだ。

”どうせ僕は、あの夜死んだんだ。これは僕からの、最期のメッセージだ”

 それから彼は、盗んだメモリの隠し場所を口頭で説明した。それを徹が紙に記録したのを確かめると、言った。

”さあ、メモリを破壊してくれ。手遅れになる前に。そして…どうか、奴らを追い詰めてくれ。君まで危険に晒すのは忍びないが…”

「…安心してくれ、熊笹」

 徹は立ち上がると、ドライバーとメモリを掲げた。

”! それは…”

「お前の遺志は、俺が継ぐ。俺が戦って、お前を手にかけた奴らを徹底的にぶっ潰してやる! だって…」ファンタジー!

『…俺は、仮面ライダーだ』

”! そうか…君が、仮面ライダー…”

『ああ。だから、安心して任せてくれ』ファンタジー! マキシマムドライブ

『…ファンタジー・イマジナリソード』

 白い光を放つ剣が、パソコンごとメモリを両断する。画面の中で、熊笹は目を閉じ…消えた。
 変身を解除すると、徹は切り裂かれたメモリの前にしゃがみ込んだ。

「熊笹…」

 祈るように閉じた目の端を、涙が伝った。リンカはじっと黙ったまま、その隣に膝を突いた。


89 ◆iOyZuzKYAc2019/07/12(金) 19:19:56.77ll1rXKFu0 (13/15)

『Fを探せ/画面越しの朋友』完

今日はここまで


90 ◆iOyZuzKYAc2019/07/12(金) 19:36:49.76ll1rXKFu0 (14/15)

『リインカーネーションドーパント』

 『転生』の記憶を内包するメモリを使用した、フリーライターの熊笹修一郎その人。ドーパントに分類してはいるものの、ドーパント体は存在せず、戦闘能力も皆無。
 このガイアメモリは一度コネクターに挿入すると、使用者が死亡するか、それに近い状態になるまで排出されない。死亡するまでの使用者の記憶や意識をメモリ内に複製し、死後体内から排出されると、次の使用者を探して自分で飛び回る。次の使用者は、前の使用者がそうと決めておくか、漠然と『会いたい』と思った相手が選ばれる。次の使用者の体内に強制的に挿入されると、相手の脳内を前の使用者の情報で上書きし、文字通り『転生』させる。一連の工程は不可逆で、一度上書きされた相手の人格は消滅し、以後は前の使用者として生きていくことになる。また、転生先が死亡するとまたメモリが排出され、次の転生先を探して飛び回る。メモリブレイクされるまでは、理論上は永遠にこの工程が繰り返されることになる。
 熊笹は密売人から逃げる途中、盗んだ中にあったこのメモリの字面だけを見て、自分の死後も役立つと信じて使用した。
 メモリの色は緑。項垂れる人間の肩から上と、その肩をあすなろ抱きするように両腕を回す、一つ目の幽霊が描かれている。人間の頭部と肩の線、或いは幽霊の頭部と両腕が『R』の字になっている。


91 ◆iOyZuzKYAc2019/07/12(金) 19:39:43.25ll1rXKFu0 (15/15)

>>75をアレンジして採用させていただきました。ありがとうございました。



それから>>82に補足

 メモリの色はピンク。両耳をぴんと立てた兎の頭部が逆さまに描かれている。言うまでもなく、耳と頭部で『R』の字を形成している。また、ミヅキはメモリにラメやスパンコールを大量にくっつけてデコレーションしている。


92以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/12(金) 20:27:07.13KKCeNzA00 (1/1)

おつー

ガイアメモリ:ワイルド
「野生」「自然」の記憶を内包するメモリ
しかし、このメモリには隠された力がある
すなわち「ワイルドカード」に由来する「切り札」である


93以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/12(金) 20:44:39.94zrjvJvAlO (1/1)

おつおつ なんか案だしたいけどカッコいいのが思いつかないの悔しい


94以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/12(金) 21:33:00.055tO5a7P40 (1/1)

アイドルメモリ

スポットライトを浴びる横置きされたマイクで描かれた宝石で出来ているかのようなメモリ。
人間を虜にする能力を持ったドーパントにする。副作用で美形になるが、承認欲求に歯止めが利かなくなる。


95以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/12(金) 23:53:19.59349qYt5W0 (1/1)

セイバーメモリ
『剣』の記憶のメモリで、細長い曲刀(シャムシール的な)がSの字を描いている。次世代型メモリ
古今東西、実在するものも、架空の(例えばアーサー王のエクスカリバーや、ジェダイのライトセーバーなど)ものの記憶も有する

単独でドライバーを介して用いれば、剣の力を備えた仮面ライダーになるかもしれないが、
その記憶はファンタジーにとって剣のイメージを補強し、具体化や発展にも繋がるだろう。
メタくいうと、基本のファンタジー騎士形態を強化する中間フォーム用。ウィザードフレイムドラゴンあたりの枠


96以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/13(土) 00:00:21.21+X/7FrBao (1/1)

ガイアメモリ一覧見たら結構あって面白い


97以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/13(土) 00:43:46.49fvnBbpSg0 (1/1)

シネマメモリ

『映画』の記憶を内包したメモリ。
映画のフィルムが『C』を描いたような印が描かれている。
自身の定めた空間を『スタジオ』と定義し、自身の思うがままに操ることができるメモリ。このメモリの影響下においては物理法則すら無視する。
しかし、適合率が高い人物や『スタジオ』の外に出てしまった物には干渉できない。


98 ◆iOyZuzKYAc2019/07/13(土) 09:44:15.59RHhQBJf20 (1/18)

 周囲に人がいないことを確認すると、徹はそっと自販機の取り出し口に手を差し入れた。

「!」

 内側に、何かがテープで貼り付けられている。剥がして手に取ると、それは小さな鍵であった。
 熊笹からガイアメモリ製造工場について聞いた翌日、2人は彼の遺した言葉に従って、証拠品のメモリを回収に向かっていた。メモリの入ったケースと鍵は別々に隠されていて、たった今鍵を回収したところであった。

「北風町公民館裏の自販機…2台ある内、風都くんが描かれている方。これで鍵は手に入れた」

「ケースの方は…」

「産業廃棄物処理施設、そこに放置された、廃トラック…!」

 鍵を上着の内ポケットに入れると、徹は早足に歩き出した。



 風都との境界線とは逆方向に進んだ、山の中腹。そこには広い産業廃棄物の廃棄場があり、風都のみならず他の工業地域から大量のゴミが持ち込まれていた。『産廃反対』の看板が立ち並ぶ中、錆びついて打ち捨てられた軽トラックを発見した。鍵もかかっていないドアを開け、シートを引き剥がすと、空になったエンジンルームに、銀色のアタッシュケースがあるのを見つけた。

「これか…!」

 取り上げ、車の外へ出す。B5サイズほどの小さなケースで、持ち上げると手にずっしりと来た。

「ここで開けましょう」

「ああ」

 鍵を挿し込み、蓋を開ける。
 中には、5本のガイアメモリと、1枚の紙切れが入っていた。徹は紙切れを、リンカはメモリを、それぞれ調べる。

「博物交易、第九貨物集積場の四番倉庫…の、地下…?」

「『サーバルキャット』『トライセラトップス』『オパビニア』『スリープ』…これは?」

 リンカが取り上げたのは、メモリというよりは回路に端子が直接くっついた、部品のようなものであった。

「何だそりゃ?」

「メモリのプロトタイプのようです。ですが、何の…?」

 回路上のスペースには、無数の節に分かれ、短い脚が何本も生えた節足動物のようなものが描かれている。どうやら、アルファベットの『I』と読ませるようだ。ボタンを押すと、従来のメモリ同様に声がした。



『アイソポッド』



「…『アイソポッド』?」

 どんな意味なのか分からず、きょとんとリンカの方を見た。そして、ぎょっとした。

「馬鹿な…そんなことは、あり得ない…」

 リンカは虚ろな顔で、早口に「嘘だ」「まさか」などと呟いていた。

「…り、リンカ?」

「まさか…リストに無い…このメモリは、完全に…」

 それから、はっと徹の方を見る。

「…行きましょう」

「行くって、どこに」

「紙に書かれていた場所、ガイアメモリ製造工場。急ぎましょう、今すぐに!」

「ま、待てよ! 流石に体勢を整えてからでも」

「事情が変わりました。事態は、一刻の猶予も無い…!」

 見たことのない彼女の剣幕に、徹は思わず頷いた。

「わ…分かった」



99 ◆iOyZuzKYAc2019/07/13(土) 09:44:58.71RHhQBJf20 (2/18)




 徹が門の前にバイクを停めると、リンカはタンデムシートから飛び降りた。ヘルメットを外しながら、警備員の元へ駆け寄る。

「おい、待て!」

 徹の制止を聞かず、リンカは警備員に詰め寄った。

「財団Xです。ここを通しなさい」

「財団…何だって? 許可証かアポはあるの?」

「ここがミュージアム傘下の施設であったことは分かっています。責任者を呼びなさい!」

「ちょっ、ちょっと待ってくれよ…」

 警備員は困惑しながらも守衛所に引っ込むと、どこかへ電話を掛けた。
 数分後、門が静かに開いた。

「あ、開いた…」

「行きましょう」

 広い敷地を走りながら、徹は質問した。

「さっきの会話…『ミュージアム』って、何だよ?」

「数年前まで風都でガイアメモリを開発・製造していた組織です。今は壊滅し、幹部は全員死亡しています」

「それが、何でここで」

「それが知りたいのです」

 足を止めず、リンカは言う。

「既に消滅したはずの組織に設備が、何故未だに稼働しているのか…生き残った下部構成員が、個人的な資金稼ぎに細々と動かしているだけかと思っていましたが…」

 目の前に、『4』と書かれた建物が現れた。

「第四倉庫…!」

 2人は、開け放たれた倉庫の中へ飛び込んだ。



 広い倉庫の割に、置かれている荷物は少ない。地下へ向かう階段が無いか探していると、不意に後ろから声がした。

「やあ、お探しものかね」

「!」

 振り返ると、作業着姿の男が一人、立っていた。

「この集積場の責任者の、真堂だ。君たちが慌ててこの倉庫に走って行ったと聞いたものだから、追いかけてきたよ」

「工場の作業員風情が、随分と出世したものですね」

 リンカが、冷たい声で言い放った。それは、出会って間もない頃に、徹が一度だけ耳にした声色であった。
 真堂は、平然と頷いた。

「ああ。こう見えても、一生懸命働いてきたものでね。上司がいなくなって、一時期は路頭に迷いかけていたが、今では新しい上司のもと、充実した日々を送っているよ」

「上司…母神教、『お母様』ですか」

「ほう、財団はそこまで把握しているか」

「真堂!」

 徹が声を張り上げた。

「熊笹を殺したのは、お前だな!?」

「熊笹? ……ああ!」

 真堂は突然、声を上げて笑いだした。

「ああ、なるほど! あの小魚に、仲間がいたか。…君、悪いことは言わないから、その女から離れたまえよ。雑魚記者の分際で財団Xに関わるんじゃない」

「貴様…」

 ドライバーを手に取ろうとした徹を、リンカが止めた。


100 ◆iOyZuzKYAc2019/07/13(土) 09:45:56.50RHhQBJf20 (3/18)

「少し待ってください」

「でも」

「どのみち、すぐに使うことになります。…真堂。熊笹修一郎の遺したメモリを拝見しました。その上で、お訊きします。どうやって、造った? ……『新種の』メモリを!」

 すると、真堂の顔が、待ってましたと言わんばかりに明るくなった。胸を叩き、誇らしげに言う。

「やはり、そこにあったか! …如何にも。ある時期から長い間凍結されてきた、新種メモリの開発を、我々は成し遂げた! 君たちが見たのはプロトタイプだが…」

 作業着のポケットから、赤茶色のガイアメモリを取り出し、掲げる。

「!!」



『アイソポッド』



「…今では、こうして完成にこぎつけた。折角だから、ここでお披露目といこうか。もっとも、それは目撃者潰しでもあるがね!!」

 メモリを後頚部に刺すと、彼の体は硬い殻に覆われた、ダンゴムシめいた姿へと変貌した。

「もう、使うからな! …変身!」ファンタジー!

 徹はドライバーを装着し、仮面ライダーに変身した。

「おっと、雑魚記者の正体は、仮面ライダーだったか。折角だ、一石二鳥といこうじゃないか」

 ドーパントが細く節くれだった手を叩くと、何処からともなく大勢の若者や男たちが現れた。

「さあ、『お母様』の愛を、彼らに知らしめてあげなさい」

「はい!」ホーネット

ホーネット マスカレイド マスカレイド ホーネット マスカレイド マスカレイド ホーネット…

 たちまち倉庫の中は、大量のドーパントに埋め尽くされた。

「人命は考慮しなくても構いません」ミサイル

 黒い銃を抜き、オリーブドラブのギジメモリを装填する。

「…殲滅します」


101 ◆iOyZuzKYAc2019/07/13(土) 10:08:35.64RHhQBJf20 (4/18)




『ファンタジー…ミスティークエンド!!』

「ぐわあぁぁっ!!」

 魔法陣から放たれた炎や氷が、ドーパントの群れを襲うと、マスカレイドドーパントは爆散し、ホーネットドーパントは人間に戻った。

『これで…手下は片付けたぞ…!』

 息も絶え絶えに、ファンタジーがアイソポッドドーパントに詰め寄る。ドーパントは牙の生えた円形の口を蠢かせながら、キシキシと嗤った。

「だが君、満身創痍じゃないか」

『っ…』

 魔術師の姿をとったファンタジーだが、その衣服はあちこち破れて、下の装甲まで傷が入っていた。そしてその足元には、銃を握ったままのリンカが倒れていた。忍び寄ったマスカレイドドーパントに、後ろから殴られたのだ。
 ファンタジーは騎士の姿に戻ると、剣を握った。

『だが…あと一人だ!』

 斬りかかるファンタジー。ところが

『なっ…!?』

 ドーパントの硬い外殻に、剣が弾かれてしまった。防御が薄そうな部分を狙って突きを繰り出すと、何と剣が折れてしまった。

「はっはっはっは…効かん!」

『ぐあっ!?』

 細く硬い腕が、彼を殴り飛ばした。壁に打ち付けられながら、彼は宙にハンマーを描いた。

『これなら、どうだっ!』

 マントを広げ、滑空しながらハンマーを振り下ろす。しかし、これも通じない。

「言っておくがね」

 再度、振り下ろそうとしたハンマーを片手で止めると、アイソポッドドーパントは言った。

「私はまだ、実力の半分も出していないよ!」

『あ゛っ、がっ…』

 ファンタジーの腹部に、拳が突き刺さる。彼はその場に崩れ落ちると…変身が解け、徹の姿に戻った。

「では、さらばだ。あの世で小魚同士、仲良く恨み給え。我々、捕食者を…!」


102 ◆iOyZuzKYAc2019/07/13(土) 10:12:51.12RHhQBJf20 (5/18)

 鋭い棘の生えた脚を上げ、徹を踏み殺さんとした、その時

「!?」

 彼を、銃弾が襲った。硬い殻に弾かれてもなお、銃撃は止まらない。

「…真堂」

「往生際が悪いね」

 ドーパントの目の前には、よろよろと立ち上がり、震える両手で銃を構えるリンカがいた。

「心配するな。君もすぐに、同じところへ送ってやろう。…それとも、あの世で彼を迎える、天使にでもなりたいのかね?」

「…」

 リンカは、黙って銃を下ろした。

「そうだ。人生、諦めが肝心だ…」

 ところが…リンカは、今度は片手を目の前に掲げた。
 その手には……

「何っ!?」

「ミュージアムの残党如きに、財団が敗れるのは道理に合いません。私たちも把握していない力を使われることも。何より」

 倒れ伏して動かない、徹に目を遣る。

「……今、ここで仮面ライダー…いえ、力野徹を失うのは…『私が』嫌だ…!!」

 リンカの剣幕に、たじろぐドーパント。
 いつの間にか彼女の腰には、無骨な金属のベルトが巻かれていた。そしてその手に握られていたのは、彼女のトレードマークであるネクタイと同じ、黄金色のガイアメモリであった。



↓1〜3でコンマ最大 リンカの所持するガイアメモリ(今までに出た案でも可)


103以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/13(土) 10:14:08.94xGSx3T2cO (1/1)

トゥルーメモリ
『真実』の記憶を内包したメモリ


104以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/13(土) 10:26:40.01IVl6b8kAO (1/1)

チャンピオン
「王者」の記憶を持つメモリ


105以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/13(土) 10:45:20.71Bm94fgVA0 (1/1)

ヴァンパイアメモリ
『吸血鬼』の記憶を内蔵したメモリ


106 ◆iOyZuzKYAc2019/07/13(土) 11:10:24.17RHhQBJf20 (6/18)




『トゥルース』



「なっ、何故君がゴールドメモリを」

「スポンサー特権…と、言いたいところですが。これはただの拾い物です。まあ、それも運命」

「リンカ…?」

 徹が、彼女を見上げて呟く。リンカはドーパントを睨んだまま、応える。

「黙っていて申し訳ありませんでした。ですが、もう隠しません。……これが、私の『真実』」

 黄金に輝く筐体に、天秤を象った『T』の文字。リンカがそっと手を離すと、『真実』のメモリは吸い込まれるように、彼女の腰のベルトに嵌った。

『トゥルース』

 メモリがベルトの中へと吸い込まれ、彼女の体は金と宝石に彩られた、エジプト女神めいた姿へと変化した。金の冠には白い羽が差し込まれ、背中には七色の翼が生えている。エジプト十字を象った杖を振り上げると、彼女は言った。

「私は、裁きません。ただ真実を見定め、偽りを暴くのみ」

 杖を敵に向け、宣告する。

「…そして、殲滅する。偽りの力を。…それに縋った、悪しき者を!」


107 ◆iOyZuzKYAc2019/07/13(土) 11:23:48.29RHhQBJf20 (7/18)

「世迷い言を…っ!?」

 襲いかかろうとしたアイソポッドドーパントの体が、突然固まった。

「ガイアメモリ…地球の記憶…それ自体は真実です。しかし、人間のものではない。それは偽り」

「ぐっ…うぐぅっ…」

 もがき苦しむドーパント。リンカ…トゥルースドーパントは、杖を振りかざした。その先端に、無数の金色の光弾が顕現する。

「終わりです」

 光弾が、一斉にドーパントを襲った。

「あ゛あああっっ!!!?」

 目も眩む爆炎の中で、アイソポッドドーパントがもがく。もがきながら、叫んだ。

「お、おのれ…おのれ、おのれ、おのれぇぇぇえぇぇええっっ!!」

 突然、その体がどくんと脈打った。硬質な殻が何倍にも膨れ上がり、遂には人間離れした巨大なダンゴムシめいた怪物へと成り果てた。

「…」

 トゥルースドーパントは、更に光弾を撃ち込もうとした。しかし、そこで足元に横たわる徹に気付いた。

「っ…リンカ…」

 彼は、震える手でドライバーを握り締め、必死に起き上がろうとしていた。

「…」

 彼女は、杖を下ろした。そうして、代わりに徹の体を抱き上げると、七色の翼を広げた。
 輝く体が、宙へと舞い上がる。そのまま彼女は、倉庫の屋根を突き破り、怪物のもとから飛び去ってしまった。


108 ◆iOyZuzKYAc2019/07/13(土) 11:26:26.35RHhQBJf20 (8/18)

『Fを探せ/捕食者の牙』完

多分今日はここまで


109 ◆iOyZuzKYAc2019/07/13(土) 11:39:10.57RHhQBJf20 (9/18)

『アイソポッドドーパント』

 『ダイオウグソクムシ』の記憶を内包するメモリで、ガイアメモリ工場長の真堂が変身したドーパント。全身が硬い殻に覆われ、殆どの物理攻撃が通用しない。防御面だけでなく、棘の生えた四肢による攻撃も強力。また、メモリの力を最大限解放することで、巨大な怪物態『ジャイアント・アイソポッド』へと変化する。モデルとなったダイオウグソクムシ同様、エネルギー効率が異常に高く、ドーパント態でいる間は年単位で食事を摂らなくても生きていける。過剰適合者なら、生身でも飲まず食わずで生きていけるかもしれない。
 ミュージアム壊滅後に新造された、完全に新種のガイアメモリ。戦闘能力以上にこのメモリは、製造した組織が地球の記憶、すなわち『地球の本棚』へアクセスする権限を持っていることを示す、極めて重大な証拠となっている。
 メモリの色は赤茶。いくつもの節に脚と触覚が生えた、等脚類(ワラジムシの仲間)めいた意匠で『I』と書かれている。


110以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/13(土) 12:12:20.619m7XiEz/0 (1/1)

おつ
>>109は面白い設定のガイアメモリだ


111以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/13(土) 17:07:26.182Inh9IzU0 (1/1)

『クエスト』

「探索」の記憶を持つガイアメモリ
相手の弱点の追及のほか、幻惑攻撃などを無効化する

主人公がファンタジーならクエストも必要かなーって


112もうちょっとだけ続くんじゃ  ◆iOyZuzKYAc2019/07/13(土) 18:10:57.55RHhQBJf20 (10/18)

「…うっ、うぅ…」

 痛みに目を覚ますと、真っ白な天井が目に入った。その視界に、すぐにリンカの顔が割り込んできた。

「気が付きましたか」

「リンカ…?」

 どうにか体を起こすと、そこは病院の個室であった。ベッドの横には、リンカだけでなく植木警部の姿もあった。

「ここは…」

「警察病院だ」

 植木は、硬い顔で答えた。それから、徹が何か言う前に、彼に詰め寄った。

「何故隠していた。本当は…君が、仮面ライダーだったということを」

「えっ」

 徹は思わず、リンカの方を見た。彼女は、気まずそうに言った。

「…貴方ほど、上手に偽れませんでした」

「…」

 徹は溜め息を吐いた。思えば、あの時彼女が使ったのは『真実』のメモリだ。元々嘘を吐けない性質なのかも知れない。

「…怒らないでくださいね。あの時はまだ、あなた方を信用しきれていませんでした」

「警察をか」

「はい。…と言うより、警察が仮面ライダーをどう見ているのかが分からなかった。警部も、初めて仮面ライダーを見た時は、ドーパントに準じた対応をなさったでしょう?」

「それは…」

「敵か味方か分からない。その上で人間離れした力を持つ存在が、身近にうろうろしていては、お互いに落ち着かない。そう考えて、仮面ライダーという存在に対する信用が得られるまでは、正体を伏せさせていただこうと考えました」

「…そうか」

 植木は疲れたように首を振った。

「言いたいことは大体分かったよ。どっちにしても、もう過ぎた話だ。君を…仮面ライダーを疑うことはしない。ここだけの話、課ではガイアメモリだけじゃなく、仮面ライダーの動向も探ってたんだ。何処の誰なのか、目的は何なのか…」

「やっぱり」

「だが…何度も言うが、もう過ぎた話だ。これからは、純粋な味方として頼りにさせてもらうよ」

 植木は笑顔で徹の肩を叩いた。それから立ち上がった。

「じゃあ、今日は戻るとしよう。大まかな話はこの人から聞いた。…ゆっくり休んでくれ」

「ありがとうございます」



113 ◆iOyZuzKYAc2019/07/13(土) 18:11:31.26RHhQBJf20 (11/18)

 立ち去ろうとして、思い出したように鞄の中から、一枚の封筒を出した。

「そうだ、頼りっぱなしじゃ何だ。前に君から聞いていた人物について、調べておいたから目を通してくれ。じゃあ」

 病室を出る植木に、徹は黙って頭を下げた。



「兎ノ原美月…風都出身で、生きていれば現在17歳。5歳の頃に両親が離婚し、母子家庭に育つが、7歳の頃に母親の恋人と同居するようになって以後、2人から虐待を受けるようになった。特に母親の恋人からは性的な虐待を受けていたらしい。児童相談所と警察の働きによって保護され、孤児院で暮らすようになるが、14歳の頃に孤児院から失踪。現在は行方不明」

 調査書には、孤児院時代の彼女の写真が同封されていた。ぼろぼろの人形を握りしめてぎこちない笑みを浮かべる、隈の浮いたその顔は、確かに公園で彼を誘った少女のそれであった。

「親に愛されなかった少女にとって、母神教、『お母様』は、文字通り母親みたいな存在なんだろうか…」

「…」

 ぼやく徹を、リンカはじっと見つめている。その口が、小さく動いた。

「…だとしても母神教は、野放しにできません」

「そう、そうだよ。さっきから気になってたんだ」

 徹は身を乗り出した。

「あのダンゴムシ怪人が、何でそんなに重要なんだ? 新種のメモリがあると、何が大変なんだ」

「それを説明するには、ガイアメモリの仕組みについて話す必要があります」

「どうせ入院してて退屈なんだ。じっくり聞かせてくれよ」

「分かりました」

 リンカは頷いた。

「…まず、ガイアメモリの仕組みについて。ガイアメモリはその名の通り、ガイア…すなわち地球の保持する情報を記録したメモリスティックです」

「うん」

「記録するからには、基になる情報が必要になります。この地球に存在する、あらゆる事象…生物や物体、果ては概念に至るまで、全ての知識を収めた空間が存在します。これを、『地球の本棚』と呼びます。地球の本棚で採取した情報を記憶媒体に書き込むことで、ガイアメモリが造られるのです」

「うん…うん?」

「ミュージアムがガイアメモリの製造を始めたのは、この地球の本棚にアクセスする権限を得たからです。正確には、ミュージアムを運営する家族の一人が、ある事件をきっかけにこの本棚に入り、地球の持つ記憶を本として閲覧する能力を得た」

「うん…?」

 話があちこちへ飛び始めて、徹はだんだん訳が分からなくなってきた。

「しかし、この人物…少年Rとしましょう。少年Rは、ある私立探偵によって拉致、と言うより保護されました。以降、彼はその私立探偵と共にミュージアムと敵対。ミュージアムは、ガイアメモリ開発の手段を失うことになりました」

「えっと…それで、新種メモリが造れなくなった、と?」

「はい。結局、少年Rは自身の手でミュージアムを壊滅させました。正確には、私立探偵と共に、ですが…まあ、それは良いでしょう。ミュージアムも、一時期は新たに地球の本棚にアクセスできる人間を創り出したようですが、それもすぐに死亡しました。つまり、現在に至るまで、地球の本棚にアクセスし、新しいガイアメモリを開発しようとする人間は存在しないのです」

「いや…その少年Rとやらが、また戻ってきたんじゃないか」



114 ◆iOyZuzKYAc2019/07/13(土) 18:11:58.99RHhQBJf20 (12/18)

「あり得ません」

 リンカは、きっぱりと否定した。

「どうして」

「少年R…彼は他でもない。風都の仮面ライダー、その人ですから」



 その頃、別の病室で同じく目を覚ました者がいた。

「くっ…うっ」

 苦しげに呻きながら起き上がった、一人の少女。やつれた顔で周囲を見回すと、いらいらと首を振った。

「チクショウ…あの、仮面ライダー…!」

 悪態をつきながらベッドを降りようとして、床に崩れ落ちた。どうにか立ち上がろうと差し上げた手を、別の手が掴んだ。

「先生…!」

「ようやく目が覚めたのね、エミ」

 柔らかな声で言う人物。それは、黄色いスーツを着て眼鏡を掛けた、中年の女であった。
 少女の顔が、歓喜と怯えの混じった、複雑な表情に染まる。女は穏やかな笑みを浮かべたまま、少女を助け起こした。

「ずっと待ってたわ。あなたや、カケルが起きるのを」

「先生…ごめんなさい」

「良いの。人生には、失敗も必要よ。…何故なら」

 女は、スーツの懐から、一本のガイアメモリを取り出した。

「!」

「失敗を乗り越えて、人は成長するものだから」

 少女の手に、毒々しいオレンジ色のメモリを握らせる。メモリには、攻撃的な形状をした蟻が、細長い脚と触覚を伸ばして『F』の字を形作っていた。

「さあ…成長してみせて。期待しているわ」

「はい…先生」

 少女はゆっくりと頷くと…手首のコネクターに、メモリを突き立てた。



『ファイアーアント』






115 ◆iOyZuzKYAc2019/07/13(土) 20:00:57.74RHhQBJf20 (13/18)

”火事です 火事です 病棟2階、特別処置室で火事です”

「!?」

 突然鳴り響いた非常ベルに、徹は思わずベッドから飛び降りた。そして、腹を押さえた。

「ぐぅっ…」

「じっとしてて。今、確認してきます」

 リンカは、病室の外へ飛び出した。
 数分後、戻ってきた彼女は、徹の肩を抱いて立たせながら、言った。

「ドーパントの襲撃のようです。逃げましょう」

「何だと…」

 彼は、懐からドライバーを出そうとして…今着ている病衣に、それが無いことに気付いた。

「ドライバーはここです」

「サンキュ…っとぉ!?」

 取り出してみせたドライバーを、リンカは素気なく引っ込めた。

「今の貴方は万全ではない。まずは自身の安全が第一です」

「だが、俺が戦わないと…!」

 その時、廊下で爆音が響いた。



「仮面ライダーはどこだぁーっ!!」



「!」

 徹はリンカを振り払うと、声のする方へ走り出した。
 そこでは、毒々しい橙色をした、蟻のような怪人が、逃げ惑う病棟のスタッフに火の玉を吐きかけているところであった。

「動くな!」

 駆けつけた警官隊が、陣形を組んで銃を構える。

「邪魔だあっ!」

「わあっ!?」

 しかし、燃え盛る火の玉に、警官たちは呆気なく引き下がった。
 代わりに、徹が前に進み出た。

「おい、ドーパント!」

「! お前は…」

 蟻人間が、徹の存在に気付いた。その反応に、彼は首を傾げた。

「ん? お前、どこかで会ったか?」

「とぼけるな…」

 ドーパントの体が解けていく。中から現れたのは、あの日路地で彼にメモリを売りつけようとした、二人組の密売人の、女の方であった。彼女も徹と同じ警察病院の病衣を来て、手にはオレンジ色のメモリを握っている。

「お前、まだ懲りてなかったのか」

「うるさい! 先生に、任されたの…だから、やり遂げないと!」

『ファイアーアント』

「まずは…仮面ライダー、お前を殺す!」

「徹!」

 そこへ、リンカが走ってきた。彼女は、頼りなく立ち尽くす徹と、蟻のドーパントを順に見て、諦めたように言った。

「…仕方ありません。この程度の敵なら、今の貴方でも倒せるでしょう」

「ああ、任せとけ。それと…」

 投げ渡されたドライバーとメモリを受け取ると、徹は照れくさそうに言った。

「…初めて、俺のこと名前で呼んだな。リンカ」


116 ◆iOyZuzKYAc2019/07/13(土) 20:01:42.55RHhQBJf20 (14/18)

「!」

 彼女の頬が、微かに朱く染まるのを、彼は見ないフリをした。

「…変身」ファンタジー!

「仮面…ライダぁーっ!!」

 飛んでくる火の玉を躱すと、ファンタジーは手に剣を出現させた。攻撃の隙間を縫って接近し、斬りつける。

『せいっ!』

「ふんっ!」

 剣と腕がぶつかり合う。数合打ち合うと、遂にファンタジーの斬撃が敵の肩を直撃した。

「くぅっ…!」

 痛みに苦しみながらも、両腕で剣を捕らえると、至近距離で火の玉を吐き出した。

『おっと!』

 咄嗟に剣を手放し、跳び下がる。

「炎? 『アント』のメモリに、そのような能力は」

『さっきファイアーアントって言ってたぞ?』

 ファンタジーの言葉に、リンカが目を見開く。

「『ファイアーアント』…ヒアリ!? これも新種のメモリですか」

『関係ないさ。炎には…』

 マントを翻し、魔術師の姿に変化する。

『…水だ! 喰らえ!』

 両手を突き出すと、魔法陣から激しい水流が噴き出し、ドーパントを襲った。

「ぎゃあぁぁぁっ!」

 煙を上げ、のたうち回るドーパント。



117 ◆iOyZuzKYAc2019/07/13(土) 20:03:23.22RHhQBJf20 (15/18)

『トドメだ……うぐっ!?』

 ドライバーからメモリを抜こうとして、突然ファンタジーが腹を押さえて呻き出した。前の戦闘の傷が、また痛みだしたのだ。

「やはりまだ早かったですか…!」ミサイル

 リンカは銃を抜くと、ミサイルのギジメモリを装填し引き金を引いた。
 何発ものミサイルが直撃し、体勢を立て直そうとしたドーパントが再び倒れる。
 リンカはギジメモリを抜くと、ファンタジーに向かって銃を投げ渡した。

「これを使って!」

『おっと…分かった!』

 黒い銃のスロットに、ファンタジーメモリを装填し、銃身を変形させる。

『ファンタジー! マキシマムドライブ』

『ファンタジー・ウィザードバレット!!』

 引き金を引くと、銃口の先に巨大な水の球体が現れた。球体は見る見る内に膨れ上がり…爆ぜて、無数の水の弾丸となってドーパントを襲った。

「あっ、あ゛あっ、い゛やああっっ!!!」

 水に包まれたドーパントの体が、ぼろぼろと崩れ落ち、中から少女の体が出てくる。床に倒れ伏した彼女の手首から、オレンジのガイアメモリが抜け落ち、そして砕け散るのを見届けると…ファンタジーは、その場に崩れ落ちた。
 駆け寄ってくるリンカ。更にその向こうから、数人のスタッフが話しているのが聞こえる。

「大変です、患者の数が合いません」

「特室の火川くんは?」

「それが、避難させようとした時にはもう…」

 それを聞きながら、ファンタジー…徹は意識を失った。


118 ◆iOyZuzKYAc2019/07/13(土) 20:05:51.73RHhQBJf20 (16/18)

『Tにご用心/失敗は成功のもと』完

今度こそ今日はここまで


119以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/13(土) 20:12:45.45NGyvMBgdo (1/2)

おっつおっつ
そういえば息抜き・ギャグ回は予定あるんだろうか
あるならそんな感じの(親子丼ドーパント的なの)も投げるんだけど


120 ◆iOyZuzKYAc2019/07/13(土) 20:15:00.28RHhQBJf20 (17/18)

『ファイアーアントドーパント』

 『ヒアリ』の記憶を内包するガイアメモリで、元密売人のエミが変身したドーパント。オレンジと黒の、禍々しい蟻のような姿を持つ。背中には大きな棘が生え、鋭い顎からは火を吐くことができる。また、相手に噛みついて、生身の人間なら即死するほどの強力な麻痺毒を流し込むこともできる。
 メモリの色は毒々しいオレンジで、長い触覚と脚を伸ばした攻撃的な外見の蟻が『F』の字を形作っている。アイソポッドメモリと同様、ミュージアム壊滅後に造られた新種のメモリ。


121 ◆iOyZuzKYAc2019/07/13(土) 20:18:57.17RHhQBJf20 (18/18)

(寿司食いながら、そう言えばギャグ回挟まないとなって考えてました)

(寿司食いながら、もうドーパントまで考えちゃいました)







(相手の視覚と嗅覚と、そして味覚を完膚なきまでに潰す、恐るべきドーパントを考えちゃいました)


122以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/13(土) 20:22:34.29NGyvMBgdo (2/2)

ツーンとなりそうなドーパントだ


123以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りしま2019/07/13(土) 23:54:47.2121Vs0zar0 (1/1)

プレシオサウルスドーパント

プレシオサウルスのメモリで変身する怪人
怪人だが変身した際は巨大な首長竜になる、陸上でも戦闘が出来るが、真価を発揮するのは海中である
Wだからやっぱり恐竜系のメモリを出してみた


124以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/14(日) 00:11:43.65UDt2qwsb0 (1/1)

アーチャーメモリ
『射手』の記憶を内包したメモリ。
弦を引きしぼる弓矢がAを象っている。
アーチャードーパントは左手が弓のように変形し、右手で弦を引きしぼる事でエネルギーを収束・発射する事が可能。
連射力・威力共に申し分ないが、命中率は本人の実力に依存する為、使い手が問われるメモリである。


125以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/14(日) 02:29:15.43w6ArOq5X0 (1/1)

コントラクトメモリ


 『契約』の記憶を内包したメモリ。鎖と左中央の南京錠がCを象っている。最初にボタンを押して契約内容を読み取らせて設定し、対象に手渡すだけで対象が契約者となる。自分自身に契約を課すことも可。
コネクタに接続せずとも契約を守り通すことで所持者に加護が付与され、肉体的にも精神的にも契約遂行を手伝う。

 コントラクトドーパントは契約を守り続けた通常態と、契約違反して強制変身した暴走態がある。共通して鎖を全身に纏っており、違いは胸部中央部の大きな南京錠が閉じているのが通常態、開いているのが暴走態である。
当然暴走態の方がメモリからの毒素が濃く、鎖を身体から引き抜いて鞭にする等、手段を選ばす契約遂行しようとする。

 契約達成するとメモリ排出と同時に、報酬として対象から毒素を取り除いて肉体強化を授ける珍しく親切なメモリ。
ただし改造されたコントラクトメモリは対象者から毒素と同時に記憶と意識も奪う。奪われた記憶と意識と無防備な肉体はどこへ回収されるかは・・・


 従順なしもべを無差別に即座に用意できる点から、量産化に成功すればマスカレイドよりも便利かもしれない。
弱点は契約内容を遂行しようとして肉体が保つかどうか。或いはメモリの位置である南京錠を攻撃すれば簡単にメモリブレイクできる。ただし南京錠は堅く、威力が不十分であれば開いて暴走態になってしまう。

ついでに南京錠や契約や鎖故に、
『キーメモリやタブーメモリ(で強制通常化・暴走化)』
『ヒートメモリ(で鎖溶けて契約遂行阻害)』
等にも影響されやすい


126 ◆iOyZuzKYAc2019/07/14(日) 15:01:36.74ZPJfsSAI0 (1/10)

「…」

 ベッドに仰向けになったまま、徹はじっと天井を見つめていた。横では、リンカがペティナイフでりんごの皮を剥いている。

「…なあ、リンカ」

「じっとしていてください」

 起き上がろうとする彼の鼻先に、ペティナイフを突きつける。徹は慌てて、ベッドに背中を押し付けた。

「心配なのは分かるけど…俺、もう大丈夫だから」

「前もそう言っていたような気がします」

 素気なく言うと、彼女はりんごを一切れ、ナイフに刺して彼の口元に差し出した。

「う…」

 徹は黙って、突き出されたりんごを齧った。咀嚼しながら、ずっと気になっていたことを口に出した。

「…あんた、ドーパントだったんだな」

「…」

 リンカは、ナイフを引っ込めて彼を見た。そして、頷いた。

「…ええ」

「『拾い物』って言ってたな。それは…この街で拾ったのか? それとも風都で?」

「ミュージアムが壊滅した直後…」

 彼女は、齧りかけのりんごを口に入れた。数度咀嚼し、ごくりと飲み込む。

「…事後処理のために、私は風都を訪れました。前任者が独断で余計なことをした、その尻拭いも兼ねて。その際に、旧園咲邸…ミュージアム幹部の自宅で、数本のガイアメモリを回収しました。これは、その内の一本です」

 彼女の手に握られた、金色のガイアメモリ。天秤を象った『T』の文字からは、今まで見てきたメモリとは比べ物にならないほどの、強い力を感じる。

「どうやら、このメモリは私によく適合しているようでした。そこで、一緒に回収したドライバーと共に譲っていただきました。…まあ、実際に使うのは初めてでしたが。せいぜいお守り程度の認識でしたので」

「そうだったのか。……済まなかった」

「何が」

「俺が弱かったせいで、あんたまで戦わせてしまった。ドーパントになってまで…」

「今更です。これまでも私は、Xマグナムで戦闘に参加していました」

「だが、それとは訳が違う。だって」

「ガイアメモリの副作用を気にしているのなら、それは不要です。旧式のガイアドライバーとは言え、きちんと機能しているので、メモリの毒性はほぼ完全に除去されています」

 そこまで言って、彼女はりんごをもう一切れ、切り取って徹に突き出した。

「…済まないと思うのなら、きちんと体を回復させることです。次、貴方があのような危機に陥れば、私は一切の躊躇なくメモリを使用します」


127 ◆iOyZuzKYAc2019/07/14(日) 15:02:19.73ZPJfsSAI0 (2/10)




 聖堂に設けられたベッドの上で、火川カケルは目を覚ました。

「っ…こ、ここは…」

「おはよう、カケル」

「! 先生っ!」

 黄色スーツの女に声をかけられて、彼は慌てて起き上がった。聖堂を見回して、尋ねる。

「先生、ここは…?」

「ここは、母神教の本部。『お母様』のお膝元よ」

「お母様の…」

 きょとんとするカケル。確かに、先生の言葉に『お母様』という単語は幾度となく聞いた。しかし、彼にとって尊敬すべき相手は目の前の女であって、それより上の存在をはっきりと意識したことは無かった。
 そんな彼に、ヴェールの向こうの存在が口を開いた。

”火川カケル。…愛しい、母の子”

「!」

 女が、その場に跪く。カケルは戸惑いながらもベッドを降りると、女に倣った。

”よくぞ、ここまで帰ってきてくれましたね。母は、嬉しいです”

「ど、どうも…」

”…あなたは、仮面ライダーとの戦いを生き延び、再び目を覚ましました”

「! …はい」

 少年は頷く。同時に、このヴェールの向こうの存在が言わんとすることを察した。

「ぼくは、メモリを渡そうとした相手が変身するところを見ました」

「それは、どんな人だった?」

 すかさず、女が質問する。少年は「名前までは分かりませんが」と断った上で、目の前で仮面ライダーとなった男の特徴を、できる限り詳しく説明した。また、彼に変身用のドライバーとメモリを与えた女についても話した。
 一通り聞き終えると、『お母様』は満足げに言った。

”ええ。英生の言葉とも一致します。どうやら、間違いないようですね”

「よくやったわ、カケル」

 女は誇らしげに、彼の肩を叩いた。

「あなたは、私の自慢の生徒よ」

「あ…ありがとうございます!」

「あなたになら…」

 女は、懐からオレンジ色のガイアメモリを抜き出した。

「!」

「…私の、手伝いを任せられるわ」


128 ◆iOyZuzKYAc2019/07/14(日) 15:02:45.51ZPJfsSAI0 (3/10)

「…は、はい」

 カケルは、震える手でメモリを受け取った。



 夜の通りを、病院から出たリンカは一人で歩いていた。ファイアーアントドーパントの襲撃で一部損害を受けたものの、病院機能にはさほど影響が無かったとのことで、徹は引き続き警察病院に入院している。しかし、懸念事項は残っていた。メモリブレイク後、昏睡状態だった元密売人が、いかにして新たなガイアメモリを手にしたのか。加えて、ファイアーアントメモリもまた、リンカの持つ財団Xのリストに無い、新種のガイアメモリであった。
 リンカは既に、財団に追加支援を要請している。敵がガイアメモリを開発する手段を持っていること、仮面ライダーにさらなる力が必要であることを、強く伝えてある。

「今は、待つのみ…」

 呟きながら…リンカは、おもむろに鞄に手を入れ、Xマグナムを名付けた銃を抜いた。そしてそれを頭上に向けると、躊躇なく引き金を引いた。

「!」

 銃声。それからやや遅れて、彼女の目の前に、一体の怪人が降りてきた。
 それは、ミヅキを追い詰めた時に現れた、蜂女であった。

「よく、私の尾行が分かったわね」

「いやしくも蜂に扮するのなら、羽音の周波数くらい勉強してください」

「この私に『勉強しろ』と? なかなか面白いことを言う」

 リンカは何も言わず、銃を向けた。

「目的は何ですか。私達が奪取したラビットメモリですか」

「ラビットメモリ? …ああ、そう言えばそんなのもあったわね。今の今まで、すっかり忘れていたわ」

「どういうことですか。貴女は、兎ノ原美月の仲間ではないのですか」

「知らないわよ、あんな出来の悪い生徒」

 蜂女は、吐き捨てるように言った。

「とっくにその辺に捨てたわ。必要な情報も手に入れたもの。…そう」

 鋭い顎を、カチリと鳴らす。

「私の、優秀な生徒のおかげでね」

「生徒…『先生』…!!」

 何かを察し、走り出そうとしたリンカの前に、蜂女は立ち塞がった。

「もう気付いたの。あなたが、私の生徒だったら良かったのに」

「そこを通しなさい。さもなくば」

「真堂から、仮面ライダーよりあなたの方が危険であることは聞いてるわ。せいぜい、私の足止めに付き合って頂戴」

「お断りします」フラッシュ

「っ!?」

 リンカの銃から、凄まじい閃光が迸った。複眼に強い光を食らった蜂女は、思わず仰け反った。

「お、おのれっ」

 首を振り、どうにか視力を取り戻す頃には、既にリンカの姿は無かった。


129 ◆iOyZuzKYAc2019/07/14(日) 15:03:32.75ZPJfsSAI0 (4/10)




「はあっ…くそっ」

 病棟の廊下を進みながら、徹は悪態をついた。
 リンカが帰った直後、またしてもドーパントが病院を襲撃した。今度は検査室を占拠し、仮面ライダーを連れてこいと宣っているのだという。
 この連日の襲撃は何だ。遂に、敵が超常犯罪捜査課を潰しに来たのか。それとも、仮面ライダーたる徹がこの病院に入院していることが、敵にバレたのか…?

「はぁっ…変身」ファンタジー!

 傷ついた体をおして、仮面ライダーに変身する。ドライバーを没収されなくて良かった。

『っ…ドーパントっ!』

 検査室に踏み込んで、あまりの熱に彼は思わず引き下がりかけた。

『な、何だこりゃ…』

「やっと来たね、仮面ライダー!」

 陽炎の向こうに、一人の少年が立っている。

『今度は、お前か』

「そう。あの時は遅れを取ったが、今度はそうは行かないよ」ファイアーアント

 オレンジ色のメモリを手首に刺すと、少年はヒアリのドーパントに変身した。

『お前もヒアリか…だったら!』

 ファンタジーは魔術師の姿になると、両手を掲げた。

『弱点は分かってる。喰らえ!』

 魔法陣から、水流が迸ってドーパントを襲った。ところが

「…ああ。ぼくにも分かってる。だから」

 彼は、身をかがめて水流を躱した。躱された水は、熱せられた壁にぶつかると、たちまち白い蒸気となった。

『! しまった』

 大量の煙が部屋を埋め尽くす。視界が白に染まり、ファンタジーは身構えた。

『どこに隠れた…!!』

 物音に、咄嗟に突き出した両手が、ファイアーアントの両顎を捕らえた。

「ふんっ!」

『くうぅっ…』

 力任せに押してくるドーパント。いつものファンタジーなら力負けすることは無いだろうが、今の彼は万全ではなかった。

『く、あ、あっ』

 仰向けに押し倒されるファンタジー。その背中を、熱せられた床が苛む。

「どうだ、仮面ライダー…!」

『くっ、ぐうっ、う…』

 じりじりと、尖った顎が彼の喉元に迫る。その距離が、見る見る内に狭まり、そして…



「徹!」

 部屋に飛び込んだ瞬間、絶叫が木霊した。

『ぐわああぁあぁぁっ!!』

「徹……っ!!?」

 晴れていく霧の中に、彼女は見た。オレンジと黒の怪人に組み倒され、肩口に鋭い牙を突きつけられた仮面ライダー…戦友の姿を。


130 ◆iOyZuzKYAc2019/07/14(日) 15:03:59.99ZPJfsSAI0 (5/10)




『トゥルース』





131 ◆iOyZuzKYAc2019/07/14(日) 15:05:07.85ZPJfsSAI0 (6/10)

「っ、はあっ…やった…先生、やりました!」

 動かなくなった仮面ライダーから牙を抜き、彼は歓喜に叫んだ。強力な毒を流し込んだ。仮面ライダーとは言え、当面は起き上がれないだろう。これで、お母様の…そして、先生の期待に応えることができた。

「ぼくが、ぼくが一番優しゅ」

 言いかけたその口が、途中で止まった。
 胸の辺りに違和感を感じ、視線を下に向ける。

「…え?」

 そこには、白い羽が深々と突き刺さっていた。
 彼が状況を把握するより先に、彼の体を金色の光弾が襲った。

「ぎゃああっ!?」

 壁まで跳ね飛ばされるドーパント。どうにか起き上がった彼は、ようやく理解した。
 仮面ライダーを庇うように立つ、エジプト女神めいた黄金の怪人を。……その、怒りに燃える瞳を。

「…た、たすけ」

 ぽつりと呟く彼の目の前で、女神は七色の翼を広げた。そこから、無数の羽が矢となって飛来し、彼を次々に刺し貫いた。

「あっ、ぎゃあっ、あがっ…ぐぁ…っ」

 腕がちぎれ、胸が砕け、頭が潰れても、攻撃が止むことは無かった。



 ___数分後。そこには、仰向けに倒れて動かない仮面ライダーと、それに物言わず縋り付く白スーツの女と、そして砕けたガイアメモリにぐちゃぐちゃの肉塊だけが残されていた。


132 ◆iOyZuzKYAc2019/07/14(日) 15:05:39.50ZPJfsSAI0 (7/10)

『Tにご用心/怒れる女神』完

今日はここまで


133 ◆iOyZuzKYAc2019/07/14(日) 15:46:14.76ZPJfsSAI0 (8/10)

『一角獣型ガイアメモリ メモコーン』

 自律稼働するユニコーン型ガイアメモリ。『セイバー』と『クエスト』2本のガイアメモリを内蔵しており、両脚を畳み、角を後ろに倒すことでセイバーメモリが、後ろ脚を回転させることでクエストメモリが出てきて、ロストドライバーに装填・展開することができる。展開した時、メモリ本体がセイバー側だとユニコーン、クエスト側だとグリフォンの頭部に変形する(ダブルドライバーに装填したファングメモリが恐竜の頭になるみたいな)。
 後述するクエストメモリの能力に加えて、メモコーン自体に解毒機能が備わっており、使用者に付いた毒を無効化することができる。



『セイバーメモリ』

 『剣』の記憶を内包する、次世代型ガイアメモリ。古今東西、あらゆる刀剣に加え、架空の刀剣をも再現することができる。また、エクスカリバーや草薙剣といった剣にまつわる伝説から、このメモリは『英雄の力』としての側面を持っているため、単なる切れ味以上に『悪』に対して強い力を発揮する。
 ファンタジーが騎士の姿で使用することで、鎧に青い装甲が追加され、専用剣『ジャスティセイバー』が出現する。
 メモリの色は青。シャムシールめいて『S』の字に弧を描く剣が描かれている。



『クエストメモリ』

 『探求』の記憶を内包する、次世代型ガイアメモリ。いかなる困難な課題に対しても、必ず解決するための道筋を示す力を持つ。これを応用することで、敵の弱点を看破したり、幻覚などの弱体化を解除することができる。また探求だけでなく、それを成し遂げる力・意志を概念として含んでいるため、使用すると防御や耐久も強化される。
 ファンタジーが魔術師の姿で使用することで、ローブに赤い装飾が追加され、専用杖『クエストワンド』が出現する。
 メモリの色は赤。虫眼鏡を象った『Q』の字が描かれている。


134 ◆iOyZuzKYAc2019/07/14(日) 15:51:14.45ZPJfsSAI0 (9/10)

(本編前に玩具のCMでネタバレされることってあるよね)

(関係ないけどファングメモリは平成ライダーの中間強化ガジェットとして最高傑作だと思うの 設定はもちろんだけど、ギミックも格好良くておまけに一切無駄がない)


135以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/14(日) 20:03:51.48adx0k0Ev0 (1/1)

このあと最強武器が出ますっていう中間フォームの特性上、最終フォーム後は要らない子になりがちな中間フォームだけど
FJはフィリップがメインで使うっていう最大の特徴で、要らなくなりようがないのすごいよね
中間と思ったが実質最終だったタジャドルさんと並んで確固たる中間フォームだと思う


136 ◆iOyZuzKYAc2019/07/14(日) 21:07:17.76ZPJfsSAI0 (10/10)

(ファングメモリの何が凄いって、ドライバーに装填した後も格好良いのが凄い)

(恐竜の胴体なんて邪魔くさい付属品になりそうなのに、バッチリ恐竜の頭部に変形して、おまけに開いた顎の間に『F』が来るとか天才か)



(ちなみに次点でNSマグフォンが好き。ガラケー状態だとマグネットスイッチ自体が邪魔くさいのが玉に瑕だけど)


137以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/15(月) 02:14:12.628Pan0DGo0 (1/1)

次の中間フォームがラビラビタンタンに近い各形態の強化フォームだから、最終フォームは両特性をフルパワーで扱えるのが望ましいねぇ
メモリはどうなるんだろ、『ブレイバーメモリ(勇者の記憶)』とかそんなんかしら?RPGで剣も魔法も扱えるのは勇者と相場が決まってるし

あれ、これタドルレガs


138 ◆iOyZuzKYAc2019/07/15(月) 14:04:21.05l6qhdZk40 (1/8)

 警察病院、集中治療室。超常犯罪捜査課の警官たちによって、厳重に警備されたこの部屋のベッドには、仮面ライダーが横たわっていた。そう、仮面ライダーが、である。

「このまま治療するのは無理ですよ!」

 途方に暮れた医師が言った。

「手術も注射もできない…脈すら取れないのに!」

「今、変身を解除するのは不可能です」

 リンカはきっぱりと言った。

「現在、彼の体内ではガイアメモリの力と、ドーパントの毒素が拮抗している状態です。このまま変身を解除すれば、彼の身を守るものが無くなり、即座に死亡します」

「そう言われても…」

 ベッドに横たわり、苦しげに呻く仮面ライダーに目を遣る。

「えっと…力野さん、なんですね?」

『う…そ、そうです』

 小さい声で、彼は答える。

「今、ご気分はどうですか。どのくらい苦しいですか」

『何とか、先生とお話しできるくらい…っ、ごほっ』

「徹、無理をしないで」

 リンカが彼の肩に手を置く。
 今、仮面ライダーが重体だと知れたら、敵からチャンスとばかりに刺客が送り込まれるだろう。そうなれば、今度こそ彼の命は無い。リンカにとって、彼を守るため、己が怪物となることに抵抗は無かった。しかし、またあのような惨劇を繰り返しては、他ならぬ彼自信が悲しむに違いなかった。それが、彼女は嫌だった。

「…必ず、手はあるはず」

「とにかく、ヒアリの毒について調べないと…」

 その時、どこからか微かにメロディが聞こえてきた。

「誰だ、ICUに携帯持ち込んだのは…」

「! これは」

 音の発信源は、病室から持ってきた徹の鞄、その中にある彼のスマートフォンであった。

『誰からか、書いてあるか…?』

「『藤沢』と」

『! 出て、俺の耳に当ててくれ』



139 ◆iOyZuzKYAc2019/07/15(月) 14:05:01.30l6qhdZk40 (2/8)

 言う通りにすると、彼は電話の向こうの人物と会話を始めた。それは、彼が馴染みにしている、雑誌の編集長であった。



”力野くん、今大丈夫?”

『は、はい』

”? 今、具合悪いの? また今度にしようか?”

『いえ、大丈夫…ご用件は?』

”大丈夫なら良いけど…ちょっと、仕事をお願いできないかなって”

『! どんな仕事ですか』

”インタビューを頼まれたくてね。今、ちょっとした話題になってる教育評論家なんだけど…”



 こんな状態で仕事を受けるなんて、正気の沙汰では無かった。しかし、内容を聞く内、彼の中にある考えが浮かんだ。
 故に、彼は言った。

『分かりました…お任せください』

「徹!? 正気ですか」

『ただ…その日、私どうしても外せない用事がありまして…信頼できる同業者がいるので、その人にお願いしようと思います。…ええ、報酬もそっちに振り込んでいただく形で…』

 通話を終えると、彼はリンカの方を見た。

「まさか…」

 彼は、頷いた。

『ああ。…どうしても引っ掛かったんだ。俺の代わりに、受けてくれるか?』



140 ◆iOyZuzKYAc2019/07/15(月) 14:05:44.16l6qhdZk40 (3/8)

『蜜屋 志羽子 講演会 〜令和に愛を取り戻そう』

「…」

 白い立て看板を、リンカは黙って見つめていた。
 教育評論家・蜜屋志羽子。東都大学教育学部卒。北欧で先進的な教育システムを学び、帰国後は日本の教育制度改革を目指すが、その中で子供に対する大人の根本的な意識の違いに気付く。それを問題視し、改めるべく教育評論家として活動を開始。テレビや各種メディアに出演・出稿している他、私塾『愛巣会』を開設し、素行に問題のある児童の更生にも力を入れている。

「…確かに、引っ掛かる」

 リンカは看板から目を外すと、会場へと足を踏み入れた。
 蜜屋なる女は、聞く限りでは志の高い人物に思える。だがその一方で、と言うよりも、それ故に、彼女の思想は母神教と非常に相性が良いように思えた。恐らく、徹もそれが『引っ掛かった』のだろう。



「近年、児童虐待の件数は加速度的に増加しております。これは、市民の皆さまが虐待を見逃さず、通報するシステムが整ったこともあるでしょうが、虐待そのものが増えていることも紛れもない事実であります」

 壇上でスライドを示しながら、淀み無く話す中年の女。黒い髪を後ろで結い、明るい灰色のスーツを着たこの女が、蜜屋であった。

「物理的、心理的、或いは性的虐待といった、直接的に危害を加える行為は言語道断です。しかし、そうでなくとも、現代の子供たちは人生のあらゆる場面において、行き場を失くしています」

 会場の後ろの方で講演を聴きながら、リンカは漠然と、蜜屋に対して既視感を覚えていた。徹の家のテレビに映っているのは何度か見かけたことがある。だがそれ以上に、つい最近、彼女と直接相対したような、そんな気がしたのだ。

「外で遊べば『うるさい』と怒鳴られ、家に帰れば親は仕事でいない。保育園はパンクし、学校では過酷ないじめに曝されます。何より、子供たちに関わる大人たち自身が、既に疲弊し限界を迎えています。これは、いかに国や行政が、子供を軽視し、子供に関わる重要な役割を蔑ろにしてきたかを如実に示しています」

 スライドに、一枚の姿見が映し出される。鏡の下には一人の幼子が座っていて、鏡面にはやつれて傷ついた一人の女が映っている。

「子供は大人の鏡、社会を映し出す鏡です。大人たちは、口を開けば『最近の若者は』と言いますが、その若者を作ったのは他でもない、あなた方であることを自覚していただきたい」

 それから社会の現状、対策について述べ、表題にある『愛を取り戻す』ことについて話した後、彼女は自身の取り組みについて説明を始めた。

「『愛巣会』では、児童相談所だけでなく、お子様の成長に悩む親御さんからのご依頼にもお応えして、健やかな成長をサポートさせていただいております。勉強だけでなく、レクリエーションや地域への奉仕活動を通じて、互いを尊重する心、自分で考える強い意志を育むことを目標に…」

「嘘よ!!」

 突然、会場から怒声が飛んだ。

「…日々、活動を続けています」

「あんたのせいで、うちのユウダイは…」

 構わず講演を続ける蜜屋に、聴衆の一人が立ち上がった。それは、地味な服を着た40から50歳くらいの女であった。
 警備員が駆けつけて、喚く女を外へと引きずっていく。隣を通り過ぎた女を横目に見ながら、リンカは密かに、その顔を記憶に留めた。



141 ◆iOyZuzKYAc2019/07/15(月) 14:06:12.13l6qhdZk40 (4/8)




 控室のドアをノックすると、中から「どうぞ」と声がした。

「失礼します」

 控室に入ってきたリンカの顔を見て、蜜屋は一瞬、顔を強張らせた。が、すぐに元の柔和な表情に戻ると、予め用意してあったと思しき椅子に、彼女を座らせた。

「北風新報から来ました。円城寺リンカと申します」

「教育評論家と、愛巣会の塾長をさせていただいております、蜜屋です」

 急拵えの名刺を、蜜屋は丁寧に名刺入れに仕舞った。

「よろしくお願いします。では、早速ですが…」



 インタビューはつつがなく進んだ。蜜屋も、脇で見ていたマネジャーと思しき男も、リンカの仕事ぶりに対して、一切違和感を感じることは無かった。
 最後に、リンカは尋ねた。

「失礼ですが…先程の講演の最中、先生に対して抗議なさった方がいらっしゃいました」

「そうですね」

 蜜屋は、悲しげに首を振った。

「私の考え、行動については、必ずしも賛同を得られるとは思っておりません。あの方は、始めは私を信じて、大切な我が子を愛巣会に預けてくださいました。しかし、そこでお子様が得たもの、学んだことが、ご自身の期待したものと違っていたのでしょう」

「子供に求めるものに、食い違いがあったと?」

「ええ。私は、自分で考える力を重視し、あくまで言葉による指導を…」

 その時、廊下の方で誰かが騒ぐ声がした。

「…行っております。しかし、生まれ育った環境によっては…」

 彼女の言葉を遮るように、控室のドアが勢いよく開いた。

「蜜屋、志羽子…!!」

「君、止めなさい!」

「落ち着いて…」

 2人の警備員を押し退けて、一人の女が足音荒く部屋に入ってくる。それは、先程蜜屋に罵声を浴びせた女であった。

「…朝塚さん。お話は後で伺いますから」

「ユウダイを、返して…!」



142 ◆iOyZuzKYAc2019/07/15(月) 14:06:46.75l6qhdZk40 (5/8)

 女は、目に涙を浮かべながら言うと……



『アコナイト』



「!?」

 紫色のガイアメモリを、喉に突き立てた。

「う、あああああっっっ!!」

 女の体が、紫の花びらに包まれる。その隙間から、灰色の根が伸び、蜜屋を襲った。

「…」

 リンカは何も言わず立ち上がると、蜜屋の体を突き飛ばした。倒れた彼女のすぐ上を、鋭く尖った根が通り過ぎる。

「大丈夫ですか」

「…」

 一瞬、蜜屋と目が合った。彼女の顔に浮かんでいたのは、恐怖や困惑ではなく、苛立ちであった。
 しかし、彼女はすぐに、その表情を消した。

「あ、ありがとうございます。…」

 立ち上がると、紫の花の怪人…アコナイトドーパントに向けて、叫ぶ。

「…何をするのですか! このような、恐ろしいこと…」

「お前が、お前があああっ!!」

 根が、再び蜜屋に向かって飛んでくる。

「危ないっ…あ゛ああっ!?」

 庇おうと飛び出した警備員に、根が掠った。たちまち彼は胸を押さえて苦しむと、その場に倒れて動かなくなった。

「『アコナイト』…トリカブトですか。蜜屋さん、窓から逃げてください」

「で、ですがあなたは」



143 ◆iOyZuzKYAc2019/07/15(月) 14:07:15.99l6qhdZk40 (6/8)

「問題ありません」

 リンカは、鞄からXマグナムを抜いた。蜜屋は頷くと、窓を開けて逃げ出した。

「他の方も逃げて!」ミサイル

 言いながらミサイルメモリを装填すると、ドーパント目掛けて撃ち込んだ。

「どけ、どけっ! 邪魔するなっ!」

 根を振り回し、抵抗するドーパント。あくまで、狙いは蜜屋一人らしい。リンカは、ワイヤーメモリに差し替えた。

「お断りします」

 銀色のワイヤーが、ドーパントの体を拘束する。

「くうぅっ…離せぇっ…」

 もがくドーパント。しかし、元々膂力は強くないのか、巻き付くワイヤーをちぎることができない。
 やがて、彼女は諦めたようにその場に座り込んだ。その体から花びらが抜け落ち、ガイアメモリが排出されて床に転がった。
 リンカは、女の前に跪くと、言った。

「…お話を、聞かせていただけませんか」



 一方その頃、警察病院では、植木警部を中心に、隊列を組んだ警官たちが拳銃を構えていた。

「それ以上近寄るな! 撃つぞ!」

「撃ってみれば良いじゃん?」

 病院の廊下を堂々と闊歩する、4人の蜂人間。

「どうせ居るんだろ? 仮面ライダーが!」

「カケルはホント良いやつだったよ。一番面倒い仕事をこなしてさ」

「しかも、手柄はオレたちに譲ってくれるときた!」

「う、撃てぇーっ!」

 植木の号令に、警官たちが一斉に引き金を引く。
 しかし、蜂人間たちはびくともしない。

「ひ、怯むな、撃てーっ!」

「うっとおしいなあ! 全員死ね…」

 蜂人間の一人が、腕を振り上げたその時

 ___甲高い、歌声のような嘶きが、廊下に響き渡った。

「…何? いだっ!?」

 蜂人間の腕に、何かが激突した。

「何だ?」

「仮面ライダー? まさか、もう復活して」

「あ゛ああっ!?」

 困惑する蜂人間の胸に、何かがぶつかった。黄色い蜂の外骨格に、抉られたような大きな傷が付いている。

「だ、誰だ…?」

「クソっ、どいつもこいつも…」

 警官隊とドーパントたち、双方が混乱する中、両者の間に降り立った者がいた。

「これは…」

 それは、小さな一角獣を象った、一機のロボットであった。流れるような銀色のボディに、青いたてがみを生やし、赤い尾をなびかせている。
 彼は歌うような声で嘶くと、金色の鋭い角を、ドーパントに向けた。

「な、何だこいつ…」

「仮面ライダーの、味方…?」

「はっ、こんなチビが、オレたちの邪魔なんて…」

 嘲る声など耳に入らぬ。細い脚で床を蹴ると、小さな一角獣は、目にも留まらぬ速さで怪人どもに襲いかかった!


144 ◆iOyZuzKYAc2019/07/15(月) 14:09:43.53l6qhdZk40 (7/8)

『Qを掴み取れ/親と教師』


145 ◆iOyZuzKYAc2019/07/15(月) 14:10:49.59l6qhdZk40 (8/8)

誤爆
『Qを掴み取れ/親と教師』完

今日はここまで



(ギャグ回にしようかと思ったけど、強化フォームお披露目がギャグ回は流石に無いなと思った)


146以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/15(月) 15:22:44.82Wnc2IhCCO (1/1)




147以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/16(火) 20:19:15.98QEVssDs90 (1/9)

「わたしの息子…ユウダイは、中学校の頃からよく分からない人たちと付き合うようになって…帰りが夜遅かったり、時々怖い人から電話がかかってきて、あの子を呼ぶんです。どうにか真面目なあの子に戻って欲しいと、愛巣会に入塾させました。ですが…」

 北風署の取調室にて、朝塚は言った。

「最初は良かったんですが、だんだんあの子の口数が少なくなっていって。たまに言葉を話しても、『先生が』とか『成績が』とか、そんなことばっかり言うようになったんです」

 彼女は俯くと、震える声で続けた。

「心配になって調べてみたら…愛だなんて、嘘ばかり。あの中で行われてるのは、教育なんかじゃない。洗脳です」

「洗脳?」

 リンカが、オウム返しに問うた。その隣で、若い刑事がメモを取っている。

「蜜屋が、自分を頂点とした社会を作っているんです! 子供たちを、自分への忠誠心でランク付けして…挙げ句の果てに、あんなものまで持たせて!」

「あんなもの…ガイアメモリですか」

 朝塚は頷いた。

「これを誰かに売りつけないと、自分は命が無いと、あの子が言ったんです! あの子が苦しむくらいならと、わたしが…」

「…」

 リンカと刑事は顔を見合わせた。

「…分かりました。我々も適切に対処させていただきますので、一度留置所に戻っていただけますか」

 刑事は立ち上がると、朝塚の腕を取って取調室を出ていった。



148以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/16(火) 20:43:26.45QEVssDs90 (2/9)




『はぁっ…くぅっ…』

 ベッドの上で、仮面ライダーは苦痛に耐えていた。
 ファイアーアントドーパントの流し込んだ毒が、命を奪うすぐ手前まで来ているのを感じる。
 お見舞いに来ていた植木は、ついさっき慌てて病室を飛び出して行った。その原因が、病院に襲撃してきたドーパントだと知った瞬間、仮面ライダーは無理やりベッドから起き上がろうとして、床に転げ落ちた。医者や看護師に助け起こされながら彼は、せめてこの中に、自分の代わりに変身して戦える者がいないか、必死に目を凝らした。
 リンカの言う通り、彼はファンタジーメモリの力で辛うじて毒に対抗している。ドライバーごと他人に譲渡すれば、自分は死ぬ。しかし、このまま倒れていては、いずれはこの場にいる全員の命が危ない…

「…誰だっ!?」

 突然、医師が叫んだ。彼の視線の先では、硬く閉ざされた病室のドアが、外から激しく叩かれていた。
 強烈な攻撃に、遂にドアにヒビが入った。

『誰、か…』

 とうとう、仮面ライダーが口を開いた。

『ドライバーを、外して…』

「駄目だ、そんなことをしたら死んでしまうんでしょう!?」

『それでも良い…っ! 誰か、代わりに、仮面ライダーに』

「だが…そうしたら、彼女は…」

 医師の言葉に、彼は仮面の中で唇を噛み締めた。
 ドアに入ったヒビが広がり…遂に、大きな穴が空いた。

『逃げて…逃、げ…』

「…こ、これは…?」

 病室に飛び込んできたのは、銀色の小さな一角獣であった。

「えっ…ロボット…?」

『? …!』

 どうにか顔を上げた仮面ライダーと、一角獣の銀の瞳がぶつかった。一角獣はその場で膝を曲げると、大きく飛び上がった。

「うわっ!?」

『…』

 その脚が折り畳まれ、背中から赤いガイアメモリが姿を現す。そこには、虫眼鏡めいた意匠で『Q』の文字が記されていた。
 仮面ライダーはそれをキャッチすると、ドライバーに挿し込んだ。


149以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/16(火) 20:44:18.65QEVssDs90 (3/9)




『クエスト』





150以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/16(火) 20:45:10.20QEVssDs90 (4/9)

 留置所で、朝塚は座り込んでじっと黙っていた。
 逮捕はされたが、警察は蜜屋のことも調べると言ってくれた。今は、待つしか無い…

「…」

「…朝塚ユウダイは、とんだ落ちこぼれだったわ」

「!?」

 後ろから聞こえてきた声に、彼女ははっと振り返った。
 そこには、件の蜜屋志羽子が、邪悪な笑みを浮かべて立っていた。

「蜜屋っ…ど、どうしてここに」

 ここは、北風署の留置所である。鍵も見張りもある部屋に、どうやって入ってきたのだろう。
 見ると、見張りの警官は、格子の前で倒れている。

「優秀な運び屋がいるのよ。…それにしてもユウダイ。おつかいもこなせないだけでなく、預けたガイアメモリを、よりによって母親に売りつけるなんて」

「お前が…お前のせいで…!」

 掴みかかった朝塚を、蜜屋は軽く一蹴した。

「ああっ!?」

「子が子なら、親も親。後先考えず、目の前の課題しか考えられないのは一緒ね。…折角だから」

 蜜屋は、スーツのポケットから黄色と黒の縞模様のガイアメモリを取り出した。そこには、蜂の巣めいて並んだ六角形に、一匹の女王蜂が描かれていた。

「母親失格のあなたに、最期の授業をしてあげましょう。科目は、ガイアメモリの使い方」



『クイーンビー』



 結った髪を解き、後頭部にメモリを挿入する。たちまち蜜屋の姿は、女性的な体型をした蜂の怪人へと変貌した。その体には、蜂の巣めいた六角形の装甲や、琥珀色の装飾、更には虹色の翅と、随所に高貴な意匠が施されていた。

「ひっ…」

 後ずさる朝塚に、歩み寄る女王蜂。彼女は何処からともなく、紫色のメモリを取り出した。

「アコナイトメモリは、有効活用すれば町一つ簡単に滅ぼせる。今回は、あなたのような落ちこぼれにも、それが可能になるものを用意したわ」

 そう言うと、更にもう一本、メモリを掲げる。しかしそれはまだプロトタイプらしく、外装も何もない、基盤と端子だけの代物であった。

「嫌…来ないで…」

「さあ…せいぜい、試作品の力を見せて頂戴」

 朝塚を壁に追い詰めると、クイーンビードーパントはその顎を掴んで上を向かせた。そして、露わになった生体コネクターに、2本のガイアメモリを無理やりねじ込んだ。


151以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/16(火) 21:59:36.99QEVssDs90 (5/9)




「いやああっっ!! …あああぁぁあぁああぁぁっ!!」



「!?」

 警察署から病院に戻ろうとして、リンカは立ち止まった。背後で轟く、女の絶叫を耳にしたからだ。
 すぐに引き返した彼女が目にしたのは、警察署の奥から凄まじい勢いで伸びてくる、灰色の根と紫の花びらであった。

「な、何が…ああっ!?」

 猛毒の根がすぐ横を掠め、リンカはバランスを崩した。見ると、建物にいた人々が一斉に外へと逃げ出している。逃げ遅れた人は、追い詰められるか、根に刺されて倒れている。

「このままでは…」

 Xマグナムを抜き、ミサイルメモリを装填する。そのまま何度も引き金を引くが、爆破された側から根が伸びて、壁や床を埋め尽くそうとしていた。
 そして遂に、リンカは受付カウンターの前に追い詰められた。

「…」

 銃を構え、蠢く植物を睨む。彼女の頭の中では、この場を切り抜ける方法を探しながら、一方で半ば諦めに近い感情を覚えていた。走馬灯のように浮かぶのは、俺に任せろと言ってのけた力野徹の、精一杯強がった笑顔であった。

「…?」

 おかしい。根が、動かなくなった。不審に思い、周囲を再度確認するリンカ。そして、警察署の入り口に、彼女は見た。



「…まだ、間に合うか?」






152以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/16(火) 22:00:04.75QEVssDs90 (6/9)

 汗みずくの病衣の上から、ライダースジャケットを羽織り、ゆっくりと署内に踏み入ってくる、一人の男。
 そしてその横を歩く、小さな一角獣。

「!」

「! リンカ、ここにいたのか!」

 彼が、徹が駆け寄ってくる。不思議なことに、彼と一角獣の歩く道からは、毒の根は恐れをなすように離れていく。

「徹…っ!」

 ほとんど無意識に、彼女は彼の胸に飛び込んだ。徹は驚いたように彼女を受け止めると、ぎこちない手で彼女の背中を叩いた。

「…悪い、待たせた」

 リンカの体を離し、後ろを振り向く。
 彼の目線の先では、根や花びらが一ところに集まり、人の形を形成していた。

「あ…あ、あああっ…ああああっ…!」

 唸りながら、それはどんどん膨れ上がっていく。

「こいつは…」

「『アコナイト』…トリカブトのドーパントです。根は猛毒です。気をつけて」

「毒、か。…丁度良い!」ファンタジー!

 徹は変身すると、魔術師の姿をとった。

「ああああっ! ああああああっっ!!!」

 アコナイトドーパントが、巨大な腕を振り回した。それを空中に出現させた防壁で受け止めると、ファンタジーは片手を差し上げた。



153以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/16(火) 22:01:05.81QEVssDs90 (7/9)

『来い、『メモコーン』!』

 すると、彼の足元に控えていた一角獣が、彼の掌の上に飛び上がってきた。
 彼は小さな獣の背中を上から押し、細い脚を折り畳むと、後ろの脚をくるりと回転させた。すると、ジャックナイフめいて背中から赤いガイアメモリが飛び出してきた。

「あのメモリは…」

 ファンタジーメモリを抜くと、代わりに赤いメモリを装填し、展開した。一角獣の体は、銀と赤のグリフォンの頭部に変形し、ドライバーと一体化した。

『クエスト』

 ファンタジーの体を、赤い閃光が包み込む。光は肩や腕、そして頭部に収束し、深紅の装飾となった。

『俺は、仮面ライダーファンタジー…ファンタジー・クエストだ!』

 右手を掲げると、赤と銀の杖が出現した。それを振るうと、ドーパントの動きが止まった。

『トリカブトの毒に、治療法は無い…だが、熱と圧力をかければ毒は弱くなる!』

 杖から炎が迸り、もがくドーパントを包み込んだ。その球が、見る見る内に小さく縮まっていく。
 やがて炎が消えた頃、ドーパント本体を包んでいた根や花びらは、焼け焦げて炭と灰になっていた。

『トドメはこっちだ…』

 メモリを抜くと、クエストメモリを引っ込め、今度は一角獣の角を回転させた。すると、今度は首から青いメモリが現れた。こちらにはシャムシールめいて『S』の字に湾曲した、、一振りの剣が描かれていた。
 青いメモリを装填し、展開する。今度はユニコーンの頭部となってドライバーと合体した。

『セイバー』

 ファンタジー姿が騎士に変わる。その鎧には、青い綺羅びやかな装甲が追加されていた。
 杖が変形し、銀と蒼の長剣に変わる。

『仮面ライダーファンタジー・セイバー…!』

 長剣の鍔を、ドライバーの前にかざす。

『セイバー! マキシマムドライブ』

『セイバー・ジャスティスラッシュ!!』

 青い剣閃が、ドーパントを一刀のもとに切り裂いた。

「あ、ぁ…」

 灰の中で、一人の母親が倒れた。その喉から、紫色のメモリと、壊れた基盤が吐き出された。

「あれは…?」

 リンカが手を伸ばすより先に、それは紫のメモリと共に、粉々に砕け散った。


154以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/16(火) 22:02:21.09QEVssDs90 (8/9)

『Qを掴み取れ/小さな英雄』完

今夜はここまで
あと、これから更新頻度が落ちます


155 ◆iOyZuzKYAc2019/07/16(火) 22:10:59.35QEVssDs90 (9/9)

『アコナイトドーパント』

 『トリカブト』の記憶を内包するガイアメモリで、主婦の朝塚が変身したドーパント。紫色の花びらと、灰色の根に覆われているが、本体は緑の細い茎のような形をしている。実際のトリカブト同様、全身が猛毒であるが、特に根に強力な毒を持っており、これで刺されたり、掠っただけでも生身の人間なら即死する。また、花びらを空中に散布して不特定多数の人間を毒殺することも可能。ただし、蜜屋への復讐だけが目的の朝塚はこの力は用いなかった。
 蜜屋以外の人間をできるだけ害したくなかった朝塚であったが、他ならぬ蜜屋の手によって、このメモリと一緒に試作品のX_t___メモリをねじ込まれ、無差別に人を毒殺する凶悪な怪物へと成り果ててしまった。
 メモリの色は紫。正面から見たトリカブトの花がアルファベットの『A』に見える。


156以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/17(水) 02:02:37.44CaX8HfSx0 (1/1)

ガーディアンメモリ
守護者の記憶が内包されたメモリ
その最大の特徴は使用者のなにかを護りたいという気持ちが強ければ強いほど力を発揮する
また護りたい対象が具体的であれば更に力を増し、対象は人物だけでなく物や場所にも及ぶ



157 ◆iOyZuzKYAc2019/07/20(土) 13:19:29.74aiqpPaVc0 (1/8)

「乾杯」

 そう言って徹とリンカは、缶ビールを打ち合わせた。
 ちゃぶ台の上には、漆塗りの豪勢な寿司桶が鎮座している。リンカが、徹の快気祝いにと出前を取ってくれたのだ。本当は、植木が彼らにご馳走すると言っていたのだが、アコナイトの件で北風署が大きな被害を受けてしまい、それどころでは無くなってしまった。

「何か、悪いな。こんな高そうな飯用意してもらって」

「植木警部から、資金は頂いてます。差額は財団の経費で落ちますので、ご心配なく」

「そ、そうか…」

 平然というリンカに、少し恐縮しながらも、彼は玉子を取って醤油につけた。
 彼らの足元には、銀色の小さな一角獣が座っていて、静かに眠り込んでいる。

「こいつも、何か食わないのかな」

 それを眺めて、ぽつりと零す徹。
 彼の名はメモコーン。リンカが財団Xに要請した、追加支援の内容がこれであった。今はペット型ロボットのように自律して動いているが、その体には2本のガイアメモリが内蔵されており、徹の変身する仮面ライダーに新たな力を授けるのだ。

「メモコーンに食事の必要はありません」

「そうは言ってもなぁ…」

 玉子の端をちぎって、メモコーンの鼻先に差し出してみる。

「ほれ、食うか」

 ところが、メモコーンは少し頭を上げると、ぷいと顔を逸らしてしまった。彼はそのまま立ち上がると、リンカの足元へ移動し、そこでまた眠りに戻った。

「な、なんかコイツ、リンカの方に懐いてないか…?」

「恐らく、『ユニコーン』のガイアメモリが部品に使われているのでしょう。一角獣は、処女を好むと聞きます」

「なるほど……ん?」

「私には性交渉の経験が無いので、メモコーンが」

「わ、分かった! もう良い、分かったから」

 慌てて止めると、彼は寿司桶を彼女の方へ押しやった。

「ほら、あんたも食べてくれよ」

「そうですか」

 リンカは頷くと、鉄火巻きを箸でつまんだ。徹もマグロを口に入れながら、漠然と何か足りないような感覚を覚えた。とは言え、それが何か大変なことになるという気はしない。彼は無視して、目の前のご馳走を堪能することにした。


158 ◆iOyZuzKYAc2019/07/20(土) 14:03:13.68aiqpPaVc0 (2/8)




 一方その頃。徹の住むアパートに寿司を配達した若い板前が、空き地にミニバイクを停めて黄昏れていた。

「はぁ…来る日も来る日も、配達ばかり…」

 寿司屋に弟子入りして、もう4年になるというのに、一度も包丁を握らせてもらえないのを彼は嘆いていた。大将は何を考えているのだろう。自分には、素質が無いのだろうか。そんなことを考えながら、バイクのシートでぼんやりと夜空を眺めていた。

「…」

「お〜に〜い〜さんっ」

「っ!?」

 耳元で囁く声に、彼は飛び上がった。振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。何やら生臭い匂いのするジャケットを羽織った少女は、彼に悪戯っぽい笑みを向けた。

「元気無いね、どうしたの〜?」

「…どうだって良いだろ」

「当てよっか。…折角、修行して立派なお寿司屋さんになりたいのに、いつまで経っても雑用ばっかり。自分、向いてないのかなぁ〜? なんて」

「っ、お前に何がっ…!」

「コツコツ努力なんて、向いてない向いてない。君に必要なのは…」

 言いながら彼女は、何処からともなく黄緑色の小さな機械を取り出し、彼に握らせた。

「…こっち。使ってごらん、君が、本当に必要なものが分かるかも」

 それだけ言うと、少女はさっさとその場を立ち去ってしまった。
 取り残された板前は、恐る恐るその機械を、電灯の下にかざした。そして、表面に付いたボタンを押した。



『ワサビ』





159 ◆iOyZuzKYAc2019/07/20(土) 14:11:28.84aiqpPaVc0 (3/8)

そうです。ギャグ回です。


160以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/20(土) 19:06:46.014gkbdv+q0 (1/1)

親子丼は強かったし食べ物系は強いかも?


161以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/20(土) 19:07:10.88v/C1Q2Na0 (1/1)

ソイソースメモリ持ってこないと


162以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/20(土) 20:39:29.03aiqpPaVc0 (4/8)

 携帯の着信音で、徹は目を覚ました。はっと外を見ると、まだ暗い。時計は午前4時を指していた。

「な、何だこんな時間に…」

「植木警部からのようです」

 枕元には、既に外出の準備を整えたリンカが立っていた。彼女が差し出したスマートフォンを受け取ると、彼は耳に当てた。

「何ですか? ドーパントですか?」

”そうだ”

「!」

 冗談半分に訊いたのに、間髪入れずに肯定されて、徹は一気に頭が醒めた。

「ど、どこに」

”吹流4丁目の空き地だ。周囲に、毒ガスを撒き散らしているらしい”

「4丁目!?」

 吹流4丁目と言えば、このアパートのある一帯だ。徹は通話を続けながら、カーテンから外を窺った。

「と、とにかく向かいます。警察の皆さんは、住民の避難を」

”既に向かっている。君も、気を付けて向かってくれ”



 徹はアパートを出ると、ドライバーを装着してバイクに跨った。タンデムシートにリンカが座ると、メモコーンも後からついてきた。

「やっぱりこいつ、リンカがお気に入りじゃねえか…変身」ファンタジー!

『…ま、良いか。しっかり付いてこいよ!』

 ファンタジーはアクセルを吹かした。鋼鉄の白馬が、明け方の住宅街に鋭く嘶いた。

 走り始めると、すぐに彼は違和感に気付いた。

『何か…空気がおかしいぞ』

「…」

 後ろのリンカは、黙ったまま彼の腰にしがみついている。その様子にも何か違和感を感じて、ファンタジーは心の中で首をひねった。
 空き地の数十メートル手前で、警察がバリケードを張っていた。

「…あっ、お疲れ様です!」

 警備に当たっていた警官が仮面ライダーに気付き、敬礼した。

『どうも…これは、一体?』

 バイクを降りながら尋ねる。植木が毒ガスと言っていたように、彼もマスクを数枚重ねて着用していた。

「向こうでドーパントが暴れて、と言うか、何かを撒き散らしているようで…ジョギングしていた男性が、それを浴びてしまい」

 警官の指す方を見ると、ブルーシートの上で高齢の男性が目と鼻を押さえてのたうち回っていた。むせながら、「は、鼻が…」とうめいている。

『毒か…リンカ、どう思』

 振り返って、ぎょっとした。
 リンカは、真っ赤に腫れた目で、助けを求めるように彼を見つめていた。しかも、大粒の涙をぽろぽろと零している。

『ど、どうしたんだ!?』

「…駄目です」

『何が』

「私は、これが非常に苦手です」



163以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/20(土) 20:39:54.90aiqpPaVc0 (5/8)

『苦手…? とにかく、そこにいてくれ』

 ファンタジーはそう言付けると、バリケードを越えて空き地に入った。

『ドーパント、観念しろ!』

「…! 仮面ライダー…」

 空き地の真ん中で、両腕を広げて天を仰いでいたドーパントは、ファンタジーの存在に気付くと顔をそちらに向けた。
 黃緑色の、ごつごつした体をしており、頭に当たる部分からは濃い緑色の茎と葉が伸びている。モチーフは植物のようだ。モアイ像めいて横に開いた口と思しき穴からは、呼吸に合わせて白い煙が細々と立ち上っていた。
 ファンタジーは剣を出現させると、両手に握ってドーパントに向けた。

『メモリを捨てて、自主しろ』

「い、嫌だ…」

 ドーパントは後ずさると…いきなり、白い煙をファンタジー目掛けて噴射した。

「喰らえーっ!!」

『うわっ、何だこれ!?』

 煙を顔に浴びてしまい、ファンタジーは怯んだ。更に次の瞬間

『……あ゛っ!? こ、これは…ごほっ』

 突き刺すような冷たい刺激が、彼の鼻と喉を襲った。仮面の奥で涙が溢れ、視界が歪む。と同時に、彼は今まで感じてきた違和感、それも、昨夕寿司を食べていた時のものに至るまで、全ての正体を理解した。

『これっ…ワサビかっ!!?』

「寿司なんて…寿司なんてーっ!」

 叫びながら、ワサビドーパントが突進してきた。彼は、ワサビの根のような指を突き出すと、ファンタジーの顔に擦りつけた。
 騎士の兜に指先がすりおろされ、ファンタジーの目や鼻を襲う。

『あ゛あっ! やっ、やめろっ…お゛えっ、ごほっ』

 凄まじい刺激に、ファンタジーは腕を振り回して抵抗する。ワサビドーパントとはふざけた敵だが、この刺激は純粋に恐ろしい。何しろ、目と鼻が潰される上、呼吸もままならなくなるのだ。
 とうとう、ファンタジーは地面にうずくまった。

『うっ…げほっ、ごほっ…』

「や、やった…仮面ライダーを倒したぞ…」

 頭上で、ワサビドーパントの声がする。

「この力があれば…おれだって…うわあっ!?」

 ところが、その言葉は途中で遮られた。向こうの方から、リンカの叫ぶ声がする。

「メモコーン! 彼を助けて!!」

 うずくまるファンタジーの肩を、一角獣の角が手荒く突いた。

『っ、分かってる!』

 ファンタジーはそれを受け取ると、変形させ、赤いメモリをドライバーに装填した。

『クエスト』

 ファンタジーが、白い法衣に赤い装飾を纏った魔術師の姿となる。彼の視界が、一気に開けた。

『はあっ…ワサビの辛さは、揮発性だ…熱すれば、飛んでいく…!』

 よろよろと立ち上がると、おののくドーパントを真っ直ぐに睨んだ。

『お前が何を恨んでるのか知らないが…こんな力で人を害するのを、見逃す訳にはいかない!』

 赤と銀の杖を振りかざす。

『大人しく、メモリを』

「嫌だっっ!!」


164 ◆iOyZuzKYAc2019/07/20(土) 21:07:09.51aiqpPaVc0 (6/8)

 ドーパントが叫んだ、次の瞬間

『あああっ!?』

 その体中から、濃い白色の煙が噴き出した。今なら分かる。それは、細かくすりおろされた、ワサビの粒子であった。

『あっこらっ! 逃げ、げえっ、え゛ほっ…』

 熱で刺激を無効化しようとする間に、ドーパントの姿は白い煙の中に消えてしまった。



 もう、夜も明けてきていたその頃。ワサビ怪人に苦戦する仮面ライダーの姿を、物陰で見ている者がいた。そう、あの若い板前にワサビのガイアメモリを渡した、例の少女である。彼女は目と鼻を分厚いタオルで覆っていたが、周囲の様子を正確に把握しているようであった。

「へぇ〜、小バエから奪ったメモリにしては中々やるじゃ〜ん」

 少女…ミヅキの服は、血で汚れている。今まで着ていた白のロリータ衣装とは違うこの服は、メモリの密売人から奪ったものであった。
 仮面ライダーに雁字搦めにされたところを、女王蜂のドーパントに救われた。しかし女王蜂は、彼女を『お母様』の下へは返さず、鎖さえ解かずに自分のところに監禁していた。そうしてミヅキの接触した仮面ライダーの変身者について聞き出そうとした。しかし、彼女は何も覚えておらず、呆れた女にそのまま放置されていた。つい先日、他から情報を手に入れた女に、思い出したように解放されたが、それまで彼女は、一度もトイレに行くことができなかった。
 彼女は汚れた服を捨てると、裸で街を徘徊した。そうしてメモリの密売人を発見すると、襲撃し、服と売り物のメモリを強奪した。そうして、自身のガイアメモリを取り返すべく、行動を開始したのであった。

「…それに、あたしのメモリを奪ったやつも見つけた。もうちょ〜っと、良いところに行ってくれないかな〜…?」

 呟きながら彼女は、目が塞がった状態のまま、正確にワサビドーパントを追いかけ始めた。
 密売人を襲ったとき、当然彼らはホーネットメモリで応戦した。しかし、極限以上にメモリを使い込み、生身でも超人的な力を発揮するようになっているミヅキには、練度の低い雑魚ドーパントなど敵ではなかった。


165 ◆iOyZuzKYAc2019/07/20(土) 21:08:20.51aiqpPaVc0 (7/8)

『Wのから騒ぎ/意外な弱点』完

今日はここまで


166以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/20(土) 21:16:42.64/XmhJ92A0 (1/1)




167 ◆iOyZuzKYAc2019/07/20(土) 23:25:16.85aiqpPaVc0 (8/8)

『北風町』

 風都に隣接する、人口3万人弱の町。企業のオフィスを多く有する風都のベッドタウンとして機能している一方で、街のイメージダウンに繋がるとして、風都が条例で禁じたもの、例えば産業廃棄物の処理施設や、風俗店などが押し付けられる形でこの町に集中している。そのため、この町で生まれた人間は風都に対して良い感情を持っていないことが多い。
 内陸に位置しており、海は無いものの、町の北側を占める山からは川が流れており、地下水も豊富。住宅街の建設で以前より大幅に減少したものの、今でもこの地下水を利用した、野菜や特産品の蕎麦栽培が盛ん。名物はかけ蕎麦に白髪ネギをどっさり盛って、おろし生姜を添えた北風蕎麦。住宅街の片隅にぽつりと建つ蕎麦屋『ばそ風北』は、根強いファンの多い隠れた名店。

 ミュージアムは、この北風町にもガイアメモリ製造工場を建設した。ミュージアム壊滅後も工場は稼働しており、風都近辺にいた密売人の残党がこの町に集まってきている。また、何処からともなく現れた新興宗教『母神教』と結びついて、この町にガイアメモリ汚染を広げている。



 ___この街には、いつも冷たい風が吹く。


168 ◆iOyZuzKYAc2019/07/21(日) 19:36:50.23iu6E2u8G0 (1/10)

「…あんた、ワサビ駄目だったんだな」

「…はい」

 今まで見たことのない暗い顔で、リンカは頷いた。
 北風署の応接室。現場から二人を案内した坂間という刑事は、容疑者の情報を入手しにどこかへ行ってしまった。
 昨日、寿司を食べながら徹が感じた違和感。それは、全ての寿司にワサビが入っていないことであった。

「私は基本的に食に関して、知識はありますが特に関心があるわけではありません。これと言って嫌悪する食材もありません。が…」

「ワサビは食えない、と」

「…はい」

 俯いたまま涙ぐむリンカを、徹は慌てて慰めた。

「いや、そんな気にするなって…誰だって、好き嫌いの一つや二つあるだろ。それに、最近はワサビ嫌いな大人も多いって聞くし…」

「…徹は?」

「…俺はイケるけど」

「…」

 この世の終わりのような顔で、ローテーブルの上を凝視するリンカ。徹はおろおろしながらそれを見ていた。
 そこへ、坂間が戻ってきた。

「現場に残された宅配用バイクの持ち主が割れた……ん? どうしたんだ、二人共?」

「あっ、いや、気にしないで」

「そう…?」

 彼は2人の向かいに腰を下ろすと、数枚の書類と写真をテーブルに広げた。

「バイクは北風町にある、『潮風寿司』という寿司屋のものだった。大将の話では、昨日の夕方に寿司の出前に行った若い板前が、まだ戻ってきてないらしい」

「…えっ?」

「その板前、どこに寿司を運んでたと思う?」

 大真面目な顔で問うてくる坂間に、徹は唾を呑んだ。

「…ウチ、です」



169 ◆iOyZuzKYAc2019/07/21(日) 19:37:17.74iu6E2u8G0 (2/10)

「そう、メゾン・ド吹流202号室。つまり力野徹宅、あんたの家だ。…」

 彼は、顔写真の添えられた1枚の紙を取り上げた。

「生島彰二、22歳。18歳の頃に潮風寿司の店主に弟子入りし、修行してきた。だが、4年経った今でも寿司の皿洗いと配達しか任されなかったらしい。あんた、顔見たんだろ?」

「見はしましたけど…」

 顔写真と、昨夜の記憶を比較し、彼は首を横に振った。

「玄関先で、一瞬だけだったので…」

「その時はガイアメモリによる中毒症状らしきものはありませんでした。恐らく、帰宅途中に密売人と接触し、メモリを入手したものと思われます」

「どうだか…」

 疑わしげにリンカを見る坂間。どうにもこの刑事、彼ら2人のフリー記者には良い感情を持っていないようだ。

「ま、大将への恨みが原因なら、近い内に寿司屋に現れるだろう。もう警備は送ってあるから、何かあったら連絡する」

 そこまで言うと、彼はもう帰れと言わんばかりに部屋の出口を視線で指した。
 2人は、軽く会釈して立ち上がり、警察署を後にした。リンカはもちろん、力野も気にする様子はない。得体の知れないフリー記者を好む人種なんて、地球上にいるはずがない。この程度の扱いは、彼にとって日常茶飯事であった。



「そんな、とんでもねえ」

 リンカの差し出した封筒を、潮風寿司の大将は固辞した。
 ワサビドーパント…恐らく生島が、ご丁寧に受け取った代金を持って逃げていたため、店に寿司代が支払われていなかったのだ。
 潮風寿司。北風町にある老舗の寿司屋で、店内での食事はもちろん、出前も受け付けている。老舗ながら新しいものも積極的に取り入れるスタイルで、趣向を凝らした寿司は若者にも人気があった。

「ウチのもんが迷惑かけたってのに、金なんて貰うわけにはいかねえよ」

「いえ、そう言わず」

「災難はお互い様ですから」

 二人がかりでどうにか封筒を握らせると、徹は警備に当たる警官をちらりと窺い、それから大将に尋ねた。

「あれから、店に何か連絡は」

「何もねえ」

 大将は、溜め息を吐いた。

「…あンの馬鹿野郎。ここんとこ仕事に身が入ってねえと思ってたら、こんな悪いことしやがるなんて…」

「生島さんは、ここに就職して4年だそうですね」

「ああ。ショージの奴…魚触れねえからって焦ってやがったが…」

「失礼ですが、雑用ばかりだったと」

「雑にやるから雑用なんだ。掃除、皿洗い、配達…やりようで、そこから学ぶことがたーくさんあるってのに、それが奴には分かってなかった」

「なるほど…」

 職人の世界には疎い徹であったが、生島の勤務態度には大将も思うところがあったようだ。

「何より…サビ抜きで握る俺を見て、鼻で笑いやがった。送り出す前に、そいつを説教したんだ。そしたら、こんなことになっちまって」



170 ◆iOyZuzKYAc2019/07/21(日) 19:37:47.58iu6E2u8G0 (3/10)

「…」

 気まずそうに視線を逸らすリンカ。大将は、悲しげに顔を覆った。

「…何がいけなかったんだろうな」

「とにかく今は、彼が現れるのを待ちましょう」

 徹は、励ますように言った。



 数時間後、警官のトランシーバーから声がした。

「はい、こちら現場前…えっ、北風署に!?」

「何があったんですか」

 徹が尋ねると、彼はパトカーに向かいながら答えた。

「例のドーパントが、北風署に現れたと」

「えっ、そっちに!?」

「とにかく、向かいましょう。力野さんも」

「はい。…」

 パトカーに乗り込もうとした徹の後ろから、突然、大将が叫んだ。

「…おい、俺も行くぞ!」

「すみません、危険なので…」

「だが、奴は俺のとこのもんだ。俺が行かなくてどうする!」

「…行きましょう、大将」

 徹は後部座席に座って、手招きした。そうして、リンカに向かって言った。

「リンカ、ここに残ってくれるか」

「…はい」

 小さく頷くリンカ。2人の警官と、徹、そして潮風寿司の大将を乗せ、パトカーはサイレンを鳴らしながら走り出した。



 徹たちが到着した頃、北風所では既に多くの職員や警官が逃げ出しているところであった。
 パトカーを降りた瞬間、あのツーンと来る匂いが彼らの鼻を突き刺した。

「くっ…早速やってるな」ファンタジー!



171 ◆iOyZuzKYAc2019/07/21(日) 19:38:38.82iu6E2u8G0 (4/10)

『今度はヘマはしないぞ』クエスト!

 変身し、署内に踏み入ると、白い煙の中にワサビの怪人が立ち尽くしていた。

『おい! もう逃さないぞ!』

 赤と銀の杖、クエストワンドを振りかざすと、周囲の煙が一気に晴れた。
 襲撃者の存在に気付き、ワサビドーパントがこちらを向いた。

「やっぱり来たか、仮面ライダー…っ!?」

「俺もいるぞ」

 仮面ライダーの後ろから、ゆっくりと進み出た大将に、ドーパントが明らかに狼狽の色を見せた。しかし、すぐに持ち直すと、強がるように言った。

「はっ、わざわざ縁を切りに来たのかよ。丁度良い…」

「こンの、大馬鹿野郎が!!」

 突然、大将がドーパントを一喝した。

「こんな、訳の分からねえ姿になって、人様に迷惑かけやがって……何より山葵を、人を傷つける道具にしやがった!!」

「だから何だ、あんたに言われたくはない!」

 ドーパントも、負けじと声を張り上げる。

「大体何だよ、サビ抜きなんてお子様舌に媚びやがって! 他にも、訳分かんないネタなんて握ってんじゃねえか! 何がアボカドだよ、何が…」

「だからてめえは、いつまでも雑用なんだよ!!」

『ちょっ、大将』

 止めようとするファンタジーを振り切って、彼はドーパントに掴みかかった。

「昔ながらの型に嵌まるだけが寿司じゃねえ! お客の好み、時代の流れは変わっていくんだ。それに応えてこそ、食べる人を喜ばせることができるんだろうが!」

 細い首を掴み、激しく揺する。

「てめえはよぉ! 配達に行く時に、寿司を受け取るお客の顔を、よく見たことがあるかよ! 寿司桶の中身を覗くお客の表情に、注意を凝らしたことが、一度でもあるのかよ!? 今運んでる寿司をどんな人が食べるのか、何が好みか、山葵は大丈夫か…4年の間、てめえは一度でもそれを考えたことはあるのかよ!!」

「…っ」

「寿司が寿司屋を創るんじゃねえ、俺たち寿司屋が、寿司を握るんだ。…それを食べる人の、”美味い”って幸せを創るんだよ!!」

「…う」

 大将の言葉に、ドーパントは震える声で何か呟いた。

「…どうした、何か言ってみろ」

「…うあああああっっ!!!」

 突然、ドーパントが絶叫した。叫びながら、ワサビの煙を体中から噴き出した。

『大将、危ない!!』

 咄嗟に防壁を展開するファンタジー。ところが、大将は動じず、唸るように言った。

「効かねえ…使い方を弁えねえ山葵なんて、これっぽっちも効くかよ…!」

『大将、もう逃げるんだ!』

 ファンタジーは彼の体を掴むと、警察署の外に向けて放り投げた。杖を振ると、大量の白と赤の羽毛が噴き出して、大将の体を受け止めた。

『…もう、諦めろ』

 彼は、クエストワンドをドライバーの前にかざした。

『クエスト! マキシマムドライブ』

 白いマントが翻り、彼の体を包み込む。次の瞬間、ファンタジーは白と赤のグリフォンの姿となり、空中へ舞い上がった。

『クエスト・ラストアンサー!!』

 白と赤の流星が、ワサビドーパントを貫く。

「ぐ、ああああっっ!!」

 ワサビドーパントの体が爆ぜた。
 爆炎が収まったとき、そこには一人の青年が立っていた。彼は、再び駆け寄ってくる大将を見ると、涙を流した。

「大将…おれ…」



172 ◆iOyZuzKYAc2019/07/21(日) 19:39:10.82iu6E2u8G0 (5/10)

「…もう、懲りただろ」

 倒れ込む青年の体を、彼は抱きとめた。左の掌から黄緑色のガイアメモリが抜け、床に落ちて砕けた。

「罪を償って、帰ってきたら…寿司を握って、食わせてやるよ。お前に必要なものが、少しでも分かるように…」

『ひとまずこれで、一件落着…』

 そこへ、一人の警官が駆け込んできた。

「大変です! 寿司屋の方で、リンカさんが…」



 寿司屋のカウンターに座って、リンカは考え込んでいた。

「ワサビ…それに、先日のアコナイト」

 これらのメモリは、財団のリストにもある、ミュージアムが作ったガイアメモリだ。思えば、新造メモリを使っていたのは、工場の長に、今まで意識不明だった筈の密売人と、状況が特殊な人物たちだ。まだ売買の対象にはなっていないのかも知れない。それに何より、アコナイトと一緒に挿入された謎のプロトタイプ…

「! もし、あのワサビドーパントにも同様のメモリが使われていたら」

 徹が危ない。そう思い、立ち上がったその時

「はい、プレゼント〜」

「なっ……ん゛っ!?」

 彼女の視界が、緑に染まった。と思う間もなく、彼女の嫌うあの感覚が、鼻を突き抜けた。

「う゛っ…あ゛っ、え゛ほっ…」

「特製のワサビパイ、良いでしょ〜」

「その声っ…うぐっ」

 彼女の顔に張り付いているのは、夥しい量の練りワサビであった。どうにか拭い取ろうとする彼女の腹に、膝蹴りがめり込んだ。

「がはっ…」

 倒れ込むリンカ。声の主は、彼女を一度無視して、彼女の所持する鞄を漁り始めた。

「ちょ〜っとエッチしてあげたら、馬鹿みたいに言う事聞いたね、あのワサビくん。ま、警察にあたしのメモリがあるなんて思ってないけど…」

 目当てのものを見つけたらしく、笑い声が聞こえた。

「あはっ、あった!」

 それから彼女はリンカの体を掴んで引き起こすと

「…ついでだし、君にはも〜っと苦しんでもらおうかな〜」

 更に山盛りの練りワサビの盛られた皿を、顔に叩きつけた。

「あ゛っ、あ、がっ…」

 皿を外すと、リンカの目や鼻に、執拗にワサビを塗り込む。

「あはははっ! いつも澄ました顔してるくせに、ワサビ一つでこ〜んなに可愛くなっちゃう!」

 突き刺すような刺激に呼吸もできなくなり、とうとうリンカは床に崩れ落ちた。

「あはははっ、ははっ…はははははっ…」

 ひとしきり笑い転げた後、ふっと彼女は笑みを消し、そして言った。

「…じゃあ、死ね」

 ズボンを下ろし、取り返したメモリを太腿のコネクターに挿そうと振りかざす。と

『そこまでだ!!』

「…チッ」

 そこへ飛び込んできたのは、仮面ライダー。しかも、見たことのない姿をしている。彼女は舌打ちすると、近くにあった窓を飛び蹴りでぶち破り、そのまま外へと逃げ出した。

『ああクソッ…リンカ、大丈夫か』

 仮面ライダーが、倒れるリンカを抱き起こす。彼女は目を真っ赤に泣き腫らしながら、口角を吊り上げた。
 そして、掠れた声で言った。

「ええ…心配、いりません」



173 ◆iOyZuzKYAc2019/07/21(日) 19:40:06.99iu6E2u8G0 (6/10)




 公園の身障者用トイレに入ると、ミヅキは歓喜の声を上げた。

「やった〜、やっと取り返した…」

 その手に握られているのは、ピンク色のガイアメモリ。ラメやスパンコールでデコレーションされたそれには、両耳をぴんと立てた兎の頭部が描かれている。

「これで、お母様のもとへ帰れる…」

 言いながら、メモリのスイッチを押す。

『false』

「…ん?」

 不審に思い、もう一度スイッチを押す。

『false』

「あ、あれ? これ、あたしのメモリだよね…?」

『false』

 何度も押していると、突然、メモリから耳をつんざくモスキート音が流れ出した。

「あ゛あっ、ああああっ!?」

 メモリの影響で強化された聴覚に、不快な音声が大音響で突き刺さる。耳を塞いでのたうち回るミヅキの鼻先で、落としたメモリがパンと音を立てて弾けた。中に入っていたのは、『false:偽』と書かれた紙切れ。

「う…ああああああっ!! クソクソクソクソクソぉぉっ!!」

 ミヅキは叫びながら、偽メモリの残骸を両足で何度も踏みつけた。それから、やおらトイレの手すりを蹴り折ると、ズボンと下着を脱ぎ捨てて自らの股間に無理やりねじ込んだ。

「ああああっ! クソッ! あっ! ああああっ!」

 女性器から血が出るのも構わず、彼女は怒りに任せて、乱暴な自慰行為を続けたのであった。


174 ◆iOyZuzKYAc2019/07/21(日) 19:41:28.44iu6E2u8G0 (7/10)

『Wのから騒ぎ/幸せを握る人』完

今日はここまで

ギャグ回って言った割にギャグが面白くないという


175以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/21(日) 19:49:44.88XoK2IsJhO (1/1)

ジオウの映画はよ見たい
オーマフォーム見たいよおおおお


176 ◆iOyZuzKYAc2019/07/21(日) 19:49:48.89iu6E2u8G0 (8/10)

『ワサビドーパント』

 『山葵』の記憶を内包するガイアメモリで、寿司職人見習いの生島彰二が変身したドーパント。緑のごつごつした体に、頭からは濃緑色の茎と葉が生えている。自身の体を微粒子化して煙のように飛ばしたり、手を相手の顔に擦り付けることでワサビ独特の『ツーン』とくる刺激を与えるという、恐ろしいドーパント。あくまでワサビの刺激に過ぎないので、まともに喰らっても毒性は無いが、気道への刺激で呼吸ができなくなり、窒息死する危険性は否定できない。
 生島は比較的内気な青年であったが、内心ではワサビを食べられない客を見下したり、積極的に新しいネタを取り入れる大将に疑問を抱いていた。また、加えて大将に認めてもらえない劣等感がメモリの毒性によって増幅され、極めて攻撃的なドーパントとなってしまった。
 メモリの色は黄緑。山葵の地下茎と、それをすりおろした軌跡で『W』の字が描かれている。


177以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/21(日) 19:50:08.35pMAvYjIR0 (1/1)

NOTメモリさえあれば……


178 ◆iOyZuzKYAc2019/07/21(日) 20:23:37.09iu6E2u8G0 (9/10)

方向性決めとかないとダレそうだな

↓1〜3で多い方 どっちから進める?

①ミヅキルート

②蜜屋・真堂ルート


179以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/21(日) 20:36:41.192/Pp3ZkQ0 (1/1)

1


180以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/21(日) 20:50:05.32XZQ1eKADO (1/2)

不遇なミヅキちゃん用に新ガイアメモリ案

ラストメモリ
7つの大罪の一つ「色欲」の力を宿す女性専用の強力なメモリ
芳香により周囲の人間に対して劣情を抱かせて支配する能力を持つ
(男性なら使用者を抱くためなら何でもする肉人形に、女性ならお姉様と呼んで盲目的に従う妹になる)
強力なメモリではあるが毒性も強く、使用者の精神を侵食しハーレムを作る事が目的とさせてしまう

ラビットからの派生でここまで考えてたけどラビットはRでラストはLだったわ・・・


181以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/21(日) 20:50:38.81XZQ1eKADO (2/2)

あ、1でお願いします


182 ◆iOyZuzKYAc2019/07/21(日) 21:04:09.73iu6E2u8G0 (10/10)

(心配しなくてもミヅキちゃんの強化メモリはもう考えてある)

というわけでミヅキルートですね


183 ◆iOyZuzKYAc2019/07/22(月) 21:24:21.78N8D22hV60 (1/3)

「マリマリ☆ちゃんねる〜!」

 斜め上に持ち上げたハンディカムに向かって、ピンクのゴスロリ服を着た少女は笑顔で手を振った。

「…えー、今日は、自販機のルーレットで当たりが出るまでまし、回したいと、思いまーす」

 ちらちらと辺りを窺いながら、一台の自販機のもとへ歩いて行く。

「えっと…ここなら、迷惑にならないかな…お小遣い、全部小銭に変えてきたからね。今日は絶対当てるよ…」

 たどたどしい口上を取り繕うように、カメラに向かって笑顔。と、こちらに向けた小さな画面に、誰か別の人間が映り込んでいるのに気付いた。
 慌てて口を閉ざす。ここは編集だ。面倒臭いけど、また撮り直さないと…
 ところが、映り込んだ人物…自分とそう変わりない年頃の少女は、画面内から去ろうとしない。それどころか、衣麻理に向かってすたすたと歩いてくるではないか。

「…っ、な、何ですか」

 振り返った衣麻理。彼女が抗議しようとした瞬間、そのこめかみに飛び回し蹴りが突き刺さった。

「いだいっ!?」

 コンクリートの上にひっくり返る衣麻理。少女はその頭に足を乗せると、ぐりぐりと踏みつけた。

「やだっ…やめてっ…」



184 ◆iOyZuzKYAc2019/07/22(月) 21:26:46.91N8D22hV60 (2/3)

「服、脱いで。あたしに頂戴」

「え…?」

 呆然と聞き返す彼女の顔を、少女は爪先で蹴り上げた。

「痛いっ! わかった、分かったから許してっ!」

 衣麻理は起き上がると、ゴスロリ服のボタンに指をかけた。誰か通りかからないかと期待して、辺りを見回すが、人気はない。彼女自身が、そういう場所を選んだのだから。

「ブラとパンツも頂戴」

「嘘でしょ…」

 ファスナーを下ろす手が止まった瞬間、向う脛を思い切り蹴られた。

「いやあっ! 許して、ごめんなさいっ…」

 華やかなワンピースドレスを脱いだ彼女は、震える指で地味なブラのホックを外した。

「っ…ひぐっ…」

 泣きながらショーツを下ろす。それを確認すると、何と少女まで、自分が着ているストリートめいた服を、全て脱ぎ始めた。

「ひっ…えぐっ…」

 両手で胸と股間を庇う衣麻理の前で同じく裸になると、少女は恥じらう様子もなく、自分が着ていた服を蹴って渡した。

「もういらないから、あげる」

「ぐすっ…あ、ありがとう、ございます…」

 地面に屈み込み、拾おうとする彼女の背中に足を載せると、少女は言った。

「ついでに、これもあげる」

 何処からともなく取り出した拳銃めいた機械に、綺羅びやかなガイアメモリをセットし、丸出しの尻に押し付けた。

「あ痛゛っ!」

 右の尻たぶに、黒いコネクターが刻まれる。その横にメモリを放り捨てると、少女は強奪した服を拾い、素っ裸のままでその場を去っていった。


185 ◆iOyZuzKYAc2019/07/22(月) 21:27:20.16N8D22hV60 (3/3)

短いけどひとまずここまで

出てくるメモリのアルファベット被りすぎ問題


186 ◆iOyZuzKYAc2019/07/25(木) 20:03:10.18WrIFYxb+0 (1/8)




 『ばそ風北』の暖簾をくぐった徹は、あまりの人の多さに仰天した。

「うわっ、今日は大盛況だな…」

 確かにここの蕎麦は美味いし、密かなファンの多い店ではあるのだが、あくまで隠れた名店といった立ち位置で、ここまで人が詰めかけることは今まで無かった。
 よく見ると、カウンターの周りに人混みができている。皆、蕎麦と言うよりはカウンターに腰掛けて蕎麦を食する人物が目当てのようだ。
 カウンターの手前で右往左往していると、奥にいる店主と目が合った。手招きされて台所の入り口に来ると、彼は開口一番「今日は、彼女と一緒じゃないのかい?」などと訊いてきた。

「別の仕事が入ってるんだ。…って言うか、彼女じゃないって」

 彼女と言うのはもちろんリンカのことである。実際、彼女は今、自分がかつて関わった教育評論家の蜜屋志羽子について、独自に調べているところであった。

「そうかぁ、残念だ。折角、あの『マリマリ』ちゃんが来てるのに…」

 店主は分かってるよと言わんばかりに頷くと、ふとカウンターの方に視線を向けた。
 人混みの隙間から、この店に不釣り合いな青いフリフリのドレスがちらりと見えた。

「…何、タレントか何か?」

「えっ、知らないの!?」

 店主が急に、素っ頓狂な声を上げるので、徹は慌てて辺りを見回した。

「今流行りの、大人気『フーチューバー』のマリマリちゃんだよ? 物書きやってるのに、徹ちゃん知らないの?」

「はあ…?」

 徹は首をひねった。
 フーチューバーの存在自体は知っている。某大企業が運営する動画投稿サイト『WhoTube』に動画を投稿し、広告収入を得ている人々のことだ。中には年収が数億円に上る者もいて、流石にその名前くらいは知っているが、マリマリなるフーチューバーの存在は初耳であった。

「まあ後で調べてみてよ。とにかく、そのマリマリちゃんが、今ウチに来て蕎麦の食レポをしてるんだ! これがフーチューブに投稿されたら、忙しくなるぞ…」

「おっちゃん…意外とミーハーだったんだな」



187 ◆iOyZuzKYAc2019/07/25(木) 20:03:36.11WrIFYxb+0 (2/8)

「別にそういうわけじゃないけどさ。マリマリちゃんは別格だよ。…そう、アイドルだよ!」

 齢60近い筈の店主は、少年のように瞳を輝かせて言ったのであった。



「…? 何を見ているのですか」

「ああ、これ」

 その日の夜。真新しいノートパソコンに向かって、じっと動画を観ている徹に、帰ってきたばかりのリンカが声をかけた。

「蕎麦屋のおっちゃんが観とけって言うもんだから」

 指差す先に映っているのは、例のマリマリなる少女。

「チャンネル登録者数140万人、最新の動画の再生数は300万回超えだってさ。大したもんだ」

「…」

 リンカは眉をひそめて、画面の向こうでコンビニ弁当を食べる少女を見た。やや大げさな仕草で牛丼弁当を絶賛しているのだが、彼女が着ているのはフリルたっぷりのメイド服だ。

「兎ノ原美月のような服装ですね」

「ははっ、言われてみれば。…」

 ブラウザバックし、動画一覧を開く。やたら数の多いそれをスクロールしながら、彼はぽつりと言った。

「…今度、この娘に取材することになった」

「貴方が?」

「ああ。と言うのも…」



 諦めて帰ろうとする徹を、店主は引き止めた。

「ちょっと待って。徹ちゃん、一度、マリマリちゃんとお話ししてくれないかな?」

「俺が? いや、俺、そのマリマリちゃんのこと、よく知らないし…」

「そう言わずに、ね。ここで会ったのも何かの縁だしさ。…実はあの娘、メディアとのコネを欲しがってるんだ。フーチューブだけだと、どうしても一部の層にしか見てもらえないからって」

「はあ…」

 店主の勢いに押された徹は、店の奥でまかない蕎麦を食べながら、彼女の撮影が終わるまで待った。そうして、自分が社会的地位の低いフリーライターであることを断った上で、彼女と会話した。
 マリマリこと太田衣麻理は、予想以上に彼に食いついた。

「フリーライター…って、雑誌の記事とか書いたりしてるんですか?!」

「えっと、まあ何本か」

「凄い! マリ、ネットでは最近売れてきたけど、本や雑誌にはまだ載ったことがないんです」

「そ、そうなんですか。じゃあ、これから」

 載ると良いですね。そう言おうとした彼を、彼女は遮った。

「取材してくださるんですか!? 是非お願いします!」

「えっ!? えっと、それは」

 身を乗り出し、両手を握ってくる衣麻理。近寄ってきたその顔が存外に美しくて、徹はどぎまぎした。

「…か、書いて、持ち込んで…載せてもらえるかは分からないですけど…」

「ありがとうございますっ! じゃあ、日程なんですけど…」



「…で、貴方は勢いに押された、と」


188 ◆iOyZuzKYAc2019/07/25(木) 20:05:12.39WrIFYxb+0 (3/8)

「…はい」

 無表情に徹を見つめるリンカ。無表情だが、近頃ようやく彼女の考えていることが、何となく分かるようになってきた。

「…ごめんなさい」

「何故謝るのですか」

 リンカは無感情に言いながら、彼の手からマウスを奪った。それから動画一覧を、一番下まで一気にスクロールした。

「…このマリマリなる人物、最初期の再生回数はせいぜい10数回です」

「フーチューバーって意外とシビアなんだぞ。最初は皆、そんなもんだ」

「これが一気に伸び始めたのは…」

 スクロールホイールをくるくると回し、画面を上へと送っていく。どう頑張っても3桁まで届かない再生数が一気に増えたのは、驚くことにほんの先週のことであった。

「この手のショービズ、それも個人が注目を浴びるためには、既に影響力のある人物の力が必要です。しかし、彼女はそれを利用したわけではなさそうです。加えて、一度付いた視聴者は過去の動画も観ることが多いですが、注目を浴びる以前の動画の再生回数は、相変わらず二桁台」

「た、確かに。…て言うかあんた、意外と詳しいんだな」

「何より」

 リンカはもう一つウィンドウを開くと、再生数の伸び始めた動画と、その一つ前の動画を再生し、横に並べた。

「…何だこりゃ、まるで別人じゃないか」

「化粧を変えたにしても、印象があまりにも違う。整形手術か、映像加工か」

「いや、CGは無いだろ。俺はこの顔、直接見たし…って」

 いつの間にか動画が終わり、新しい動画へ切り替わる。そこに映っている顔は、更に印象が変わっていた。と言うより、垢抜けて、美しく見えた。何より、先ほど徹が見た顔に、より近くなっていた。



189 ◆iOyZuzKYAc2019/07/25(木) 20:06:03.63WrIFYxb+0 (4/8)




 撮影を終え、店を出た衣麻理は、数人の男たちに囲まれた。興奮気味に寄ってくる彼らに笑顔で応えながら、衣麻理は通りを歩く。静かな住宅街において、彼女の格好は極めて目立つ。増えたり減ったりする野次馬を、彼女は寧ろ愉しむように歩いていた。
 とは言え、時間が遅いこともあって人の群れは徐々に散っていく。それでも熱心に追ってくるのは、4人の男であった。互いに牽制し合うように、衣麻理をストーキングする男たちを、彼女はちらりと覗き見た。そして

「…んふっ」

 いつの間にか彼女は、人気の無い公園の一角に来ていた。彼女はそこで立ち止まると、おもむろにフリルのたっぷり付いたスカートの中に手を入れた。その手が下へと下りると、彼女の太腿の間を薄いショーツがするすると滑っていった。
 困惑少々、期待大半にそれを見つめる男たちに背を向けたまま、彼女はくるりと首だけを回して彼らを見た。

「…みんな、マリのこと、好き?」

「好きだ!」

 一人が叫んだ。残りの3人も、口々に自分の思いの丈をアピールする。
 それを満足気に聞くと、衣麻理は言った。

「ありがとう。…これからも、ずっとマリのこと応援してね」

 ゆっくりと、片手でスカートの後ろを持ち上げる。鼻息荒くそれを見守る彼らの目に飛び込んできたのは、白い尻に刻まれた、黒い機械的な文様であった。
 もう片方の手に、ダイヤモンドめいて輝く小匣を掲げる。



『アイドル』



「永遠に、死ぬまで…マリのこと、推し続けてね…!」

 彼女が去った後、そこにはぼんやりと座り込んだまま動かない、屍めいた4人の男たちだけが残された。


190 ◆iOyZuzKYAc2019/07/25(木) 22:55:05.43WrIFYxb+0 (5/8)




「へえ、じゃあ最近は、風都で一人暮らしを」

「はい。ようやく売れ始めて、収入を入ってきたので、どうにか親を説得できました」

 メモを取りながら、彼はノート越しにちらりと彼女の顔を覗き見た。そして、密かに胸を高鳴らせた。
 先日『ばそ風北』で会ったときよりも、太田衣麻理は、明らかに綺麗になっていた。



 北風新報の藤沢編集長に、彼女を取材するので記事を載せられないか尋ねたとき、彼は徹の思っていた数十倍は食いついてきた。

”マジで!? マジでフーチューバーのマリマリちゃんの独占インタビューを取り付けたの!?”

「え、ええ。成り行きでと言うか」

”それ、絶対逃さないでよ。それから、絶対に他のとこには内緒だからね。その代わり、原稿料はうんと弾むから”

 受話器の向こうで、藤沢が大声で呼びかけている。

”社内の会議場押さえて! カメラマンも呼ぼう。付けれたらスナップショット集も付けたいな。それからインタビューには適当な女の子も同席させて。対面が男ばっかだと、過激なファンが凸ってくる…”

 電話越しの喧騒を、徹は呆然と聞いていた。



 そんな訳で、北風新報の社内にある会議室で、徹は衣麻理と向き合っていた。時折フラッシュが焚かれて、彼女の横顔や話している様子が写真に撮られる。派手な衣装は撮影の時だけのようで、今はデニムのショートパンツにカットソーと、ラフな格好をしている。

「親御さんの反応はどうでしたか。初めての一人暮らしだと、やっぱり心配されたのでは」

「そうですけど、二人共マリのこと応援してくれてますから」

「そうなんですね」

 徹の相槌に、衣麻理は意味深に微笑んだ。それがまたミステリアスで美しい。

「…これからやってみたいこと、展望がありましたら、教えていただけますか」

「やってみたいことはたくさんありますけど、やっぱり…歌ってみたいかな。歌が好きなんです」

「良いですね、そうなったら本物のアイドルみたいですね」

「応援してくれる人たちのおかげで、マリはどんどん有名になって、いつかは本当のアイドルになりたいなって、そう思ってます!」



191 ◆iOyZuzKYAc2019/07/25(木) 22:55:51.17WrIFYxb+0 (6/8)




 インタビューを終え、レコーダーとメモを鞄に収めると、徹は会社を出た。衣麻理の方は会社の人間が送り迎えまでしてくれるらしい。もう少し彼女と話していたかったが、後であらぬ疑いを掛けられても面倒だ。大人しく帰ることにした。
 帰り道、彼は『ばそ風北』に寄った。腹が減っていたのもあるが、何より店主が彼女へのインタビューのことを知りたがっていたからだ。

「…?」

 住宅街を突っ切った分かりにくいところに『ばそ風北』はある。普段は近所の住民や、常連くらいしか見かけないのだが、衣麻理が動画にしたこともあってか今日は人が多い。
 ところが、店の前でたむろしている人々は、誰一人として店に入っていかない。

「あの…何かあったんですか」

 少し離れてそわそわしながら突っ立っている男に、尋ねてみた。彼は苛立たしげに店を見て、言った。

「マリマリちゃんの動画見て、聖地巡礼に来たのに、この有様だよ」

「この有様って…」

 店に近寄って、気付く。

「…あれ、閉まってる」

 定休日は日曜日だが、今日は木曜日だ。定休日以外で店主が急に店を閉めたことは、徹の記憶では一度もなかった。

「朝からずっとこんな感じなんだよ」

「それはおかしいな…」

 徹は裏に回ると、勝手口を叩いた。

「おーい、おっちゃん、いるのかー?」

 呼びかけるが、反応がない。

「おーい、返事してくれないかー? おーい…」



 そのすぐ向こうには、店主が座っていた。しかし彼は一切動かない。その虚ろな目は、真新しいパソコンの画面を見つめている。
 そこには、華やかな衣装を着て駄菓子を食べる、太田衣麻理の映像が流れていた。


192 ◆iOyZuzKYAc2019/07/25(木) 22:56:57.70WrIFYxb+0 (7/8)

『永遠のI/インターネットのお姫様』完

今夜はここまで


193 ◆iOyZuzKYAc2019/07/25(木) 23:07:28.77WrIFYxb+0 (8/8)

>>188の後が抜けてた



 リンカは、徹の顔を真っ直ぐに見た。

「この女には、何かある。そう考えるべきでしょう。私はその日、行動を共にはできませんが…くれぐれも、気を付けてください」



194 ◆iOyZuzKYAc2019/07/27(土) 13:03:42.08g1DpNED/0 (1/11)

 風都にて。とあるインターネットカフェでのイベントを終えた衣麻理は、ほくほく顔で繁華街へ出てきた。出待ちの群衆を家来のように連れて、通りを歩く。
 企業とタイアップしての仕事は、これが初めてだ。イベントを訪れた誰もが、彼女の美しさに夢中だ。
 ___彼女の去った後のイベント会場には、スクリーンにループ再生される彼女の動画を、虚ろな目で見つめる観客やスタッフたちが残されたが、そんなことはどうでも良かった。

「…!」

 衣麻理の足が、ぴたりと止まった。野次馬を押し退けて、彼女の目の前に、一人の少女が現れたのに気付いたからだ。
 つい最近まで衣麻理が着ていた、ピンクのゴスロリ衣装を纏う少女を見た瞬間、衣麻理の顔から余裕と愉悦が消えた。
 少女は、獣めいた笑みを浮かべながら、言った。

「…ちょ〜っと、お話ししたいな。二人っきりで」

 衣麻理は、がたがたと震えながら、ゆっくりと頷いた。



「…」

 徹は、じっとパソコンの画面を見ていた。映し出されているのは、もちろん太田衣麻理の動画である。何でも、ネットカフェでイベントをやることになったらしい。告知によると、今日がその日だったらしいから、今頃は全部終わって家に帰っていることだろう。
 アルバイトが入っていなければ、自分も行きたかった…。そう考えて、彼は想像以上に彼女に入れ込んでいる自分に驚いた。

「徹」

「…」

「…徹。…」

「…うわっ!?」

 背中に温かいものが触れて、彼は驚いて振り返った。いつの間にかリンカがいて、彼の首に両腕を回して抱きついていた。

「ど、どうした?」

 痛いほどに打つ心臓を抑えながら尋ねると、彼女は無表情に、しかし明らかに沈んだ声で言った。

「不安になります」

「不安に…? あんたが?」

「貴方は、言葉が上手い。それだけでなく、言ったことを現実にする力がある」

「…」

「貴方が道を違えた時が、最も危険であると考えます」

「…気を付けるよ」

 徹が言った瞬間、彼の背中からリンカの姿が消え、真実を司る金色の女神がそこに現れた。

「っ!?」

 しかし、それはほんの一瞬で、またリンカの姿に戻った。

「…真実を見てください。どうか」

「…分かった」

 徹は頷いた。画面に目を戻すと、今まで夢中になって観ていた動画が、急に退屈なものに思えて、彼はノートパソコンを閉じた。


195 ◆iOyZuzKYAc2019/07/27(土) 15:48:14.55g1DpNED/0 (2/11)

「気付いたらもうこんな時間か。そろそろ寝ようかな…」

 立ち上がろうとしたその時、彼の携帯電話が鳴った。

「おっと。…もしもし?」

”もしもし…力野さんですか?”

「!? 太田さん…」

 徹はリンカの方をちらりと窺うと、通話をスピーカーモードにした。

「イベントは終わったんですか?」

”はい。それで、突然で申し訳ないんですけど…今から会うことって、できませんか?”

「会うって、俺とですか?」

”はい。駄目ですか?”

「ファンが黙ってないでしょう。危ないですよ」

”大丈夫です、変装して行くので…”

 変装とは、まるで芸能人のようだ。考えあぐねてリンカの方を見ると、彼女は小声で言った。

「乗ってみるべきです。彼女の秘密について、知ることができるかも」

「…わ、分かりました。じゃあ場所ですけど…」



 タクシーの後部座席で待っていると、太田衣麻理は早足にやって来た。いつもの派手な服装ではなく、黒のシャツにハーフパンツで、帽子を目深に被っている。
 彼女は俯いたまま徹の隣に乗り込むと、低い声で「風車町の、適当なホテル」と運転手に伝えた。
 驚いたのは徹である。風車町は風都に近い地区で、水商売や風俗の店が多く立ち並ぶ区域であった。当然、そこにあるホテルと言ったら、ラブホテルのことである。

「…マジで?」

 彼は思わず呟いたが、衣麻理は何も言わなかった。



 ホテルに着いた。部屋に入り、初めて帽子を脱いだ彼女を見て、徹は困惑した。
 確かに、今まで見た通り美しい。更に磨きがかかったような気がする。しかし、それと重なるように、極めて平凡な、目を引く所のない女の顔が見えた。それでいてどちらの顔も、間違いなく太田衣麻理であると断言することができた。
 衣麻理が、口を開いた。

「急に、こんな夜にお呼びしてごめんなさい。実は、お願いがあって」

「お願い?」

 少し警戒しながら、問う。

「マリの、お友達がいるんです。その娘、大事なものを取られちゃったんだって。あなたに」

「俺に…?」

「さっき、その娘に会って。あなたがそれを持ってるから、返すように説得してほしい、せめてどこに隠したか聞いてほしいって頼まれたんです」

「いや、俺は何も盗んで…」

 そこまで言って、彼ははっとなった。

「まさか…」



196 ◆iOyZuzKYAc2019/07/27(土) 15:48:47.55g1DpNED/0 (3/11)

「お願いします。返してくれたら…」

 言いながら衣麻理は、いきなり彼の胸にぴったりと身を寄せた。

「…何でもします」

「っ!!?」

 平凡な少女の顔がかき消え、美しい女の姿だけが映る。

「な、何でも、って」

「…」

 彼女は彼の体を、ベッドの上に押し倒した。倒れた彼の上に馬乗りになると、彼女は有無を言わさずシャツを脱ぎ捨てた。

「皆から『推し』てもらう度に、マリ、どんどん綺麗になっていくの…」

「す、ストップ! 俺、その大事なものが何なのか知らないし、何処にあるかも…」

 ところが、衣麻理の耳には、もはや彼の言葉など入っていなかった。とうとう派手なブラジャーを外すと、美しく膨らんだ乳房を彼の目の前に突き出した。

「見て、もっと見て! 綺麗なマリを、もっと…」

 うわ言のように呟きながら、彼の体をまさぐる。その指が上着の内ポケットに触れた瞬間、彼女の動きが止まった。

「! あった…」

 呆然とする徹のポケットから、探り当てたそれを抜き出す。

「見つけた…ガイアメモリ…!」

「っ!」

 ここに来て、徹は正気に戻った。すぐにメモリを奪い返すと、ベッドから飛び降りて彼女から距離を取った。

「やめろ、こいつはお前が触れていい代物じゃない…」

「返してよ…あの人に返さないと、マリが大変なことになるの…!」

「悪いが、これは多分、お前が探してるやつとは違うメモリだ」

「だったら…」

 衣麻理は、おもむろに下の衣服まで脱ぎ始めた。露わになった下半身には、無駄な毛や肉が一切なく、美しい上半身と合わせて完璧な裸体を形作っていた。

「ああ…見てる…マリのカラダ、見られてる…『気持ちいい』…!」

 言いながら、ゆっくりと後ろを向く。徹の目に、丸い尻に刻まれた、黒いコネクターが飛び込んできた。

「…力野さんも、マリを推してくれるよね…?」

 その手に、宝石めいて輝くガイアメモリ。



197 ◆iOyZuzKYAc2019/07/27(土) 15:50:46.44g1DpNED/0 (4/11)

『アイドル』



”真実を見てください。どうか”



「…これが、真実…か」

『ファンタジー』

 再び徹の方を向いた衣麻理の体は、赤や青の綺羅びやかな衣装に包まれていた。しかしその頭に顔は無く、ブラックホールめいた灰色の渦が描かれているのみであった。

「! 仮面ライダーだったの。……嬉しい! 仮面ライダーが、マリを推してくれるなんて!」

 太田衣麻理…アイドルドーパントが叫んだ瞬間、その顔の渦が回転し始めた。何かが吸い込まれる感触がして、ファンタジーは咄嗟に躱した。そのすぐ横の空間が、ぐにゃりと歪むのを、彼は知覚した。
 ファンタジーは剣を握ると、ドーパントに斬りかかった。

『せやっ!』

「やめて…マリを、傷つけないで!」

 その手にマイクスタンドめいた錫杖を出現させると、アイドルドーパントは斬撃を受け止めた。

「見て、マリを見て、綺麗なマリを…」

 打ち合いながら、ドーパントはぶつぶつと呟いている。ファンタジーは、流石に気味が悪くなってきた。

『ガイアメモリに頼っても…本当に、綺麗には、なれないぞ!』

 突き出す剣を、杖で弾く。

「そんなことない! こっちが…本当の、マリなの!」

 杖を大きく振りかぶった隙に、腹部に拳を叩き込む。

「ぐぅっ…」

『大人しく、メモリブレイクさせろっ!』ファンタジー! マキシマムドライブ

『ファンタジー・イマジナリソード…』

 輝く剣が、ドーパントに迫る。致命の一撃を前に、アイドルドーパントは…
 ___変身を、解除した。

『うわあっ!?』

 目の前の怪人が、突然裸の美女に戻り、ファンタジーは慌てて剣を止めた。尻から吐き出されたメモリを握りしめると、衣麻理は窓を破ってホテルから逃げ出した。


198 ◆iOyZuzKYAc2019/07/27(土) 21:42:07.27g1DpNED/0 (5/11)




 ホテルの入口には、バイクに跨ったリンカが待っていた。

「逃げられた。…太田衣麻理は、ドーパントだった」

 変身を解除した徹に、リンカは頷いた。

「そうだろうと思っていました。使用メモリは『アイドル』と予想しますが」

「ああ、合ってる」

 リンカがタンデムシートに移動すると、代わりに徹が運転席に跨った。

「どこに逃げたと思う?」

「この時間帯に、できるだけ人が集まる場所でしょう」

 バイクが走り出すと、リンカはアイドルメモリについて説明した。

「アイドルドーパントには、人間の興味や関心、或いは意欲に至るまでを全て自分に向けさせ、エネルギーとして吸収する能力があります。吸収すればするほどドーパントは力を増し、また変身前の外見的魅力も強くなります。ある意味、人間態もドーパント態の延長と言えるでしょう」

「その、興味とかを吸収された人間は…」

「変身者以外へのあらゆる興味、関心、意欲を失い、廃人のようになります」

「! まさか、蕎麦屋のおっちゃんも」

「落ち着いて。メモリブレイクすれば興味の対象が消失し、被害者は元の状態に戻ります」

「そ、そうか。だったら、早く見つけて倒さないとな!」

「ええ。…このメモリには、使用する度に自己顕示欲や承認欲求が肥大するという副作用があります。人の多い場所を目指していると予想したのは、そのためです」

「そうか…」

 自分を見て、と繰り返していたドーパント。メモリの力で手に入れた美しさを、誰かに見せびらかさずにはいられない。そして、より多くの人に見られるには、もっと美しくならねばならない…。酷い悪循環だ。早く断ち切らないと。



 北風駅前。遅い会社帰りのサラリーマンや、何かの待ち合わせに集まる若者たち、ウォーキング中の老夫婦など、多くの人が行き交っている。その人混みの真中に、太田衣麻理はいた。どこかで手に入れたコートを着込み、落ち着かない様子で周囲を窺っている。

「…あれ、マリマリちゃんじゃね?」

 ふと、居酒屋の前で誰かを待っていた、若者の一人が気付いた。衣麻理は待ってましたとばかりに口元を歪めると、その声の主に向かってつかつかと近寄っていった。

「お兄さん、一等賞!」

「うわっ、マジだった!」

「えっ、マリマリちゃん?」

「うそ、どこどこ?」

 続々と寄ってくる野次馬たち。衣麻理は若者にスマートフォンを握らせると、言った。

「カメラマン、よろしくね」

「あ…はいっ!」

 フーチューブの配信をオンにして、カメラが自分を映したことを確認すると、衣麻理は大声で宣言した。

「今日は! この北風駅前で、もっとマリのことを、皆に見て…知ってもらおうと、思いまーす!!」



199 ◆iOyZuzKYAc2019/07/27(土) 21:55:46.20g1DpNED/0 (6/11)

 言い終わるや否や、彼女はコートを脱ぎ捨てた。コートの下は、全裸であった。
 たちまち、歓声が上がった。

「ははははははっ…見て、マリを見て、もっと!」

 青年に撮影させながら、彼女は群衆の中に突っ込んだ。
 駅前はパニックになった。その場にいた者たちはもちろんのこと、その中の誰かがSNSに裸の衣麻理の写真を投稿し、それを見た人々までもが駅前に殺到したのだ。
 道路はストップし、店からは客が消えた。店員も消えた。夥しい人の海に揉みくちゃにされながら、衣麻理は気持ちよさそうに歩いた。

「ああ、見てる、見て、触って…皆、マリを推して…!」

 彼女が叫ぶと、近いところにいた人々が、次々にその場に崩れ落ちた。地面に倒れ、周りの人に踏みつけられても、虚ろな目は絶えず衣麻理を追っている。



 そこへ、徹とリンカが到着した。彼らは駅前を埋め尽くす人混みに足を止められ、止む無くバイクを降りた。

「…そうだ、言い忘れてた」

「何でしょう」

「あいつ、友達の大事なものを俺が持ってるから返せとか言ってきたんだ。もしかしたら」

「ラビットメモリ…兎ノ原美月が、近くにいるかも、と」

「ああ。気を付けてくれ。…変身!」ファンタジー!

 騎士の姿となったファンタジーは、白いマントの翼を広げ、空へ飛び上がった。

『…そこまでだ、衣麻理!』

 上空から衣麻理の姿を見つけると、人を掻き分けて彼女の目の前に着地した。

「あっ、仮面ライダー! やっと来たね」アイドル

 衣麻理の体が、美しい衣装と、不気味な仮面に包まれる。錫杖を振り上げると、周囲にいた人間が次々と倒れていった。

「ね、凄いでしょ。ここにいる皆が、マリのこと推してくれてるんだよ!」

『それは推してるとは言わない! お前が、ただの養分にしているだけだ!』

「えー? 推すって、そういうことでしょ?」

 言いながら、杖で殴りかかってきた。ファンタジーは剣で応戦する。

『っ、力が増してる…!』

「皆に推されるほど、マリは強く、綺麗になるの!」

 剣を叩き落とし、胸の辺りを強く突く。

『ぐはっ…』

 一歩、引き下がるファンタジー。こうしている間にも、集まった人々は倒れ、ドーパントの養分となっていく。立っている人々はそれに違和感すら感じないようで、口々に「何やってんだ!」「マリマリちゃんに何てことを!」などと仮面ライダーにブーイングを飛ばしている。

『ああもうっ…メモコーン!』

 ファンタジーは、自律稼働するガイアメモリの名を叫んだ。
 ところが、今日に限ってあの小さな一角獣が、姿を見せない。



200 ◆iOyZuzKYAc2019/07/27(土) 21:56:14.61g1DpNED/0 (7/11)

『…自分でどうにかしろってことかよ! こういう時は…』

 周囲を窺い、状況を判断する。どうやら、この野次馬は全員アイドルドーパントの影響下にあるらしい。つまり、興味関心を、このドーパントに吸われているということだ。これを断ち切るには…
 ファンタジーは、魔術師の姿になると、両手を掲げた。すると、頭上に眩い光の玉が現れた。

「スポットライト! 仮面ライダーも、マリを推してくれるんだね」

『それはどうかな』

 光球の数がどんどん増えていく。ファンタジーが手を振ると、光の玉がぐるりとアイドルドーパントを囲い込んだ。
 光が等間隔に、円形に並んだ瞬間、光の中に、彼女の姿がふっと消えた。

「…あれ?」

「おれ、何をして」

「うわ、まっぶし…」

『色んな角度から強い光を当てると、外から姿が見えなくなるんだ。運転するようになったら気を付けるんだな! そして、姿が見えなくなれば、ある程度は力を削れるみたいだ』

「くっ、こんな所…っ」

 光の下から抜け出そうとするドーパント。しかし、ファンタジーが掌を突き出すと、魔法陣から鎖が伸び、彼女を拘束した。

『おっと、ステージから逃げるなよ』ファンタジー! マキシマムドライブ

 ファンタジーが騎士の姿に戻り、白いマントをはためかせて空へ昇る。

『ファンタジー・エクスプロージョン!!』

「いや、嫌、いやああああっっ!!!」

 光を裂いてミサイルキックが直撃し、アイドルドーパントは爆散した。

「嫌…折角、せっかく、きれいに…マリ…」

 倒れ伏す衣麻理。その体からガイアメモリが排出され、クリスタルのように儚く砕け散った。



 リンカの見守る向こうで、明るい光が爆ぜた。無事、ドーパントを倒したようだ。リンカの周りでも、倒れていた人々が、またゆっくりと起き上がってきていた。

「これでひとまず解決」

 誰にともなく呟きながら、彼女はおもむろにXマグナムを抜いた。その足元には、ずっとメモコーンが控えていて、威嚇するように低い声を上げていた。

「…バレてた?」

「もちろん」

 いつの間にか彼女の目の前には、ピンクのゴスロリ姿の少女、ミヅキが立っていた。

「あのドーパントも、私や仮面ライダーをおびき寄せるための餌ですか」

「ううん。服を貰ったお礼に、メモリをあげただけ。利用できたら良かったけど、役に立たなかったみたい」

 そこまで言うと、突然、少女はその場に両手を突いて頭を下げた。

「…お願いします。あたしのメモリを返してください」

「お断りします」

 すげなく言うリンカ。ミヅキは一層頭を下げると、コンクリートに額を擦り付けるようにして言った。

「あれがないと、お母様に合わせる顔が無いの…蜂女も、ダンゴムシおやじも、みんなあたしのこと仲間外れにするし」

「それは丁度良い。私たちのところへ来て、母神教について知っていることを教えていただければ、身の安全とガイアメモリ中毒の治療、並びに社会的な更生をお約束します」

「それじゃあ駄目なんだよ!!」

 ミヅキはその場で跳び上がると、そのままリンカに回し蹴りを放った。それを軽く躱すと、リンカは銃口を向けた。

「ラビットメモリの副作用は知っています。限界以上に使い込んだ貴女が、どのような状態に陥っているかも予測できます。その上で、明言しましょう。メモリは現在、『貴女の手の届かない場所』にある」



201 ◆iOyZuzKYAc2019/07/27(土) 22:01:31.43g1DpNED/0 (8/11)

「こ、の…っ!」

 ミヅキは憎々しげに歯ぎしりしていたが、ふっとリンカに背を向けた。

「…良いも〜ん。自分で何とかするから」

「頑張ってくださいね」

 白々しく言うリンカに唾を吐くと、ミヅキは地面を蹴って近くの信号機の上に跳び上がった。そうして屋根や電柱を伝って、夜の闇へと消えていった。

「おーい、勝ったぞー!」

 そこへ、徹が駆け寄ってきた。

「お疲れさまでした。…おや、上着は?」

「ああ。衣麻理を裸のまま転がしとくのは可哀想だったから、気休めに掛けてきたんだ。ま、そんなに高いものでもないし、無くなってもそこまで惜しくないから…」

「そうでしたか」

 リンカは、ミクロン単位で薄く微笑んだ。そうして、彼が今来た方をちらりと見た瞬間に、額を伝う脂汗を、密かに手の甲で拭った。



「…おっ、いらっしゃい徹ちゃん!」

「よっ、また来たよ」

「私も同伴です」

 暖簾をくぐってきた2人の姿を認めると、『ばそ風北』の店主は嬉しそうに手を振った。
 カウンターに並んで座ると、2人で北風蕎麦を注文した。

「何だか、夢を見てたような気がするよ」

 ふと、店主がこぼした。店の中は、以前のように静かで、衣麻理が来た時のような活気は無い。

「マリマリちゃんも、チャンネルがBANされてからはすっかり動かなくなっちゃったし」

「ああ…まあ、あんなことやっちゃ、ねぇ」

 全裸で駅前を歩き回る配信は、当然開始から数分で強制的にストップされた。従って、ドーパントと化した衣麻理や、それと戦う仮面ライダーの姿は映像には残っていない。既に投稿された彼女の動画は今でも見られるのだが、それも全く視聴数が増えない。あんなに注目を集めたはずのネットアイドルは、改めて見ると何処にでもいる、極めて平凡な少女であった。SNS上でも動きがないのは、彼女がメモリの離脱症状から抜けきれず、今でも入院しているからである。

「それにね、改めて見たら、そんなに美人でもなかったかなって。…リンカちゃんの方がよっぽど美人だよ。徹ちゃんにはもったいないよ、このこのっ!」

「だぁかぁらぁ! リンカは彼女じゃないっての!」

「えっ?」

「えっ」

「えっ、じゃねえよ! 何でリンカまで乗ってくるんだよ!?」

「…冗談はさておいて。彼と私は単なる仕事仲間です。訳あって協力関係にありますが、それも一時的なものです」

「えー、そうだったのか…」

 きっぱりと言うリンカに、店主だけでなく、徹までどういうわけか落胆してしまった。少し沈んだ気持ちで彼女の顔をちらりと見て、気付く。

「…」

「…?」

 横目に見たリンカの顔に、何故だか、後悔や罪悪感めいた色が浮かんでいるように思えた。
 困惑する徹の目の前に、出来たての蕎麦が置かれた。湯気が視界を横切ると、彼女の顔はまた、いつもの無表情に戻っていたのであった。


202 ◆iOyZuzKYAc2019/07/27(土) 22:02:48.93g1DpNED/0 (9/11)

『永遠のI/推しがわたしのエネルギー』完

今夜はここまで


203 ◆iOyZuzKYAc2019/07/27(土) 22:25:06.05g1DpNED/0 (10/11)

『アイドルドーパント』

 『偶像』の記憶を内包するガイアメモリで、無職の太田衣麻理が変身するドーパント。赤や青の華やかな衣装を纏い、顔の代わりに黒い渦の描かれた、スタイルの良い女の姿をしている。エネルギーが高まると、マイクスタンドめいた形の錫杖を出現させることもできる。顔の渦巻きから人間の興味や関心、意欲といった前向きな感情を吸い上げ、自身のエネルギーとすることができる。吸われた人間は一切のやる気を失い、廃人のようになってしまうが、感情の方向を自分に向けさせた上で吸い上げるという工程を踏むため、感情の対象、すなわちアイドルドーパントが倒されれば元通りに戻る。また、エネルギーを集めるほどに変身前の状態でも外見的な魅力が増していくという、特徴的な能力も持つ。それと比例して、自己顕示欲や承認欲求も肥大化していくという副作用がある。
 売れない配信者であった太田衣麻理は、半ば事故のようにこのメモリを入手すると、まず反対する両親からエネルギーを吸い上げた。それからは、主に近付いてくるファンからエネルギーを奪って自身の糧としていた。人の多い場所を目立つ格好で歩くのは、糧にする標的を探しながら自身の自己顕示欲を満たすためであった。しかし、徹を誘惑するために裸体を見せたことで承認欲求の箍が完全に外れ、暴走。人の多い夜の駅前を、全裸で闊歩するという暴挙に至った。
 メモリはダイヤモンドめいて輝くクリアカラーで、スポットライトを浴びるマイクの意匠で『I』と書かれている。クリアカラーに銀端子と、流通メモリの中では何気に高級品。ミヅキが密売人から強奪していなければ、到底衣麻理の手に届く代物ではなかっただろう。



>>94をアレンジして採用させていただきました。ありがとうございます!


204 ◆iOyZuzKYAc2019/07/27(土) 22:56:04.16g1DpNED/0 (11/11)

あ、ドーパント案は随時募集中です。ライダーの強化は大体もう決めてあるけど…

ちなみに、読みにくい名前が多いけど、今まで出てきた人物は
力野 徹(ちからの とおる)
植木 忍助(うえき にんすけ)
井野 定(いの じょう)
井野 遊香(いの ゆうか)
九頭 英生(くず えいしょう)
熊笹 修一郎(くまざさ しゅういちろう)
真堂 甲太(しんどう こうた)
火川 カケル(ひかわ かける)
朝塚 芳花(あさつか よしか)
蜜屋 志羽子(みつや しわこ)
兎ノ原 美月(とのはら みづき)
生島 彰二(いくしま しょうじ)
太田 衣麻理(おおた いまり)
という名前です


205以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/28(日) 11:01:40.85BPTkaxiP0 (1/1)

『スマイルドーパント』

「笑顔」の記憶を内包するメモリを使用。ドーパント体は全身が黄色くて細身で顔は貼り付けた様な歪な笑顔になっている。また、背中には触手がマント状に広がっている。この触手に突き刺されたものは何事にも常に笑顔を浮かべながら幸福感を感じるようになり、優しい人物になる。しかし、その優しさや笑顔は歪であり、早い話がディケイドのディエンド編で洗脳された人々を更に歪めたようになってしまう。
メモリに惹かれる人物は「無垢であり、人に笑顔になって欲しいと思う人」であり、(無垢という条件から)精々が高校生ぐらいまでの人物
使用の副作用は、人を笑顔にして挙げているということから全能感が強くなってしまい、自分が世界を救うという風に思ってしまう。

できれば女子高生がなってくれると嬉しいです


206以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/28(日) 12:47:45.0268tFiGy9O (1/1)

ティーチャー・ドーパント
「教師」の記憶を内包するメモリを使用。
ドーパント体は胸から上で、時計台のついた凸の字型の校舎を模した姿になる。
胸部の昇降口に小規模な教室様の異空間を作り出し、そこへ犠牲者を吸い込み、『生徒』にしてしまう。
そのなかでは教師に扮した変身者が『教育』を行う空間であり、生徒に教えたいことを教え込む(実質、洗脳する)ことができる。
また、空間内では犠牲者は『校則』に縛られる。
ただし変身者も学校の規範に従わなければならず、例えば生徒への暴力や淫行などの問題行為を行うと『学級崩壊』を起こし、異空間を保てなくなる。
なお、宇宙との関係性はない。


207以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/28(日) 16:40:58.256TTeuXTWO (1/1)

ニンジャメモリ(ニンジャドーパント)

その名のとおり「忍者」の記憶を有したメモリ 割りに合わない値段
割りに合わない理由はユーザーによってドーパントの強さが極端に変わるから(まともに使える人がいなかった)
下忍・中忍・上忍と別れており、一般人が使うとほぼ下忍(マスカレイドと同じ強さ)にしかならない。アスリートの様に鍛えた人でも現状中忍までしか確認できていない。
男女と強さでドーパントの姿が変わり、男性は黒装束に、女性はぴっちりとしたスーツを着た様な姿を基本としてそこから中忍・上忍にランクが上がることによって更に装備が増えていく
メモリのNの形は手裏剣がNの字を作っている



208以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/29(月) 07:55:41.5201b06Flp0 (1/1)

バンド・ドーパント

「楽団」の記憶を内包するメモリで変身する
ZOOメモリと同じ様に一本のメモリで複数の能力を持っている
主に使用される能力は「ボーカル」「ギター」「ドラム」「キーボード」「ベース」これらに加えて使用者によっては「サックス」や「パーカッション」も加わる
ドーパント体は顔は五線譜を模したものであり、肩からはギターのネックが突き出た感じになっている
一本で複数の能力を使える強力なメモリであるが複数の能力の行使の条件として他の人間を取り込む必要がある。取り込む人間によってドーパントは強化され、「その楽器を演奏している変身者のバンド仲間」が一番強化の度合いが強い
バンド・ドーパントの奏でる音楽には様々な効果があり癒やしの能力から破壊まで様々な能力が使えるが、演奏中は移動ができないという欠点を持つ


209 ◆iOyZuzKYAc2019/07/29(月) 16:51:10.2209sdmqmX0 (1/1)

(クインビードーパントって小説版に既出だったのか…)

(まぁ使役してるのはビーじゃなくてホーネットだから自爆しないし、蜜屋先生の方が適合率高いから見た目がリッチってことで、なんとか)


210 ◆iOyZuzKYAc2019/07/31(水) 21:54:45.80lGIpjtHk0 (1/3)

「まず、今まで通り適当なドーパントで、仮面ライダーとあの女をおびき寄せて…」

 公園の身障者用トイレにて。タイルの上に転がした男に跨って、激しく腰を振りながら、ミヅキはぶつぶつと呟いた。

「…あの女を人質にして、それから…」

 組み敷かれて喘ぐだけの男の胸に、指で『作戦』を書き記す。

「…ああもうっ、駄目、ダメダメダメっ! 全っ然良い案が浮かばない!」

 ミヅキは考えるのを止めると、目の前の男との性交に専念し始めた。



 最後の男を見送ると、ミヅキは再びトイレの個室に向かった。今度は、単純に寝るためだ。
 その背中に、誰かが声をかけた。

「おい」

「…は~い?」

 一人追加。そう思い、振り返った彼女の顔が、引きつった。
 そこにいたのは、薄汚い格好をして、意地の悪い笑みを浮かべた、ガタイの良い一人の男であった。

「よう、美月。こんなところにいやがったのかよ」

 ミヅキは青ざめた顔で、小さく呟いた。

「…ぱ、パパ」

 その肩を乱暴に掴むと、男は汚い歯を剥き出して、言った。

「ほら、帰るぞ。俺『たち』の家になぁ!」



211 ◆iOyZuzKYAc2019/07/31(水) 21:57:20.11lGIpjtHk0 (2/3)




 その日、リンカは体調を崩していた。

「だ、大丈夫か…?」

 そもそも、彼女にも体調という概念があることを失念していた徹は、紅い顔でいつもの金ネクタイを締める彼女に、おろおろと尋ねた。

「軽微なものです。支障ありません」

「だけど、風邪はひき始めが肝心って言うし…」

「風邪ではありません。加えて症状の経過が、行動によって左右されることはありませんので、ご心配なく」

「いや、余計に心配なんだが」

 食い下がる徹をあしらうと、彼女はさっさと出かけてしまった。何でも、蜜屋志羽子について重要な手がかりを掴める寸前なのだそうだ。



 バイト先から帰る途中、人気の少ない道を歩いていた徹は、何かを聴きつけて立ち止まった。

「悲鳴…?」

 女の悲鳴のようなものが、彼の耳に届いた気がした。周りを見回すと、他に2人の通行人がいるが、どちらも何事もないように歩き続けている。
 気のせいだろうか。早く帰ろう、リンカも心配だし…。そう思い、再び歩き出そうとしたその時



「嫌っ、助けて…っ!」



「!!」

 はっと、振り返る。その瞬間、後方の曲がり角に消えていくピンク色のスカートの裾が目に入った。
 徹は、迷わず駆け出した。



212 ◆iOyZuzKYAc2019/07/31(水) 21:59:53.49lGIpjtHk0 (3/3)

 果たして、角を曲がった先は薄暗いビルの隙間で、更に入り込んだところには、一人の若い女と、それを壁に押さえつける一人の男がいた。

「おい、何をしてる!」

 徹は駆け寄ると、男の肩を掴んで引き剥がした。

「早く、今のうちに逃げろ!」

「っ…」

 女は何か言いかけたが、すぐに路地の出口へと逃げ出した。
 男は、徹の腕を掴むと、舌打ちした。

「テメエ、何しやがんだよ」

「それはこっちの台詞だ。…警察を呼ぶ」

「はっ、やれるもんならやってみやがれ!」

 そう言うと男は、徹を突き飛ばした。そして、汚れたジャケットのポケットに手を突っ込むと、酷薄な笑みを浮かべながらガイアメモリを取り出した。黒い筐体には、ヘドロめいた筆跡で『G』と書かれている。



『ガーベ「ゴーッド!」



 メモリの声を掻き消すように、男は叫んだ。

「ゴッド! 神! 俺は神だ!」

 そう言うと彼はよれたTシャツの襟を引っ張り、露わになった左胸のコネクターに、自称神のメモリを突き立てた。

「ガイアメモリ…!」

 男の体が、黒いヘドロと、しわくちゃのビニールめいた膜に覆われていく。その姿は、どれだけ好意的に見ても、神のそれではなかった。

「俺様の邪魔をしたらどうなるか、教えてやるよォ!」

「やれるものなら、な! 変身!」ファンタジー!

 徹は変身すると、長剣を構えた。自称神のドーパントが、驚いたように一歩退く。

「なっ…仮面ライダーだと…風都にしかいねえと思ってたのに」

『この町にだって、仮面ライダーはいるんだぞ。そして…』

 切っ先を、ドーパントに向ける。

『お前みたいに町の平和を乱すやつは、俺が倒す!』


213以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/07/31(水) 22:19:27.26MBW8vuEi0 (1/1)

この男ブゥン!しそう


214 ◆iOyZuzKYAc2019/08/01(木) 21:08:49.628sIrjYta0 (1/6)

『はあぁっ!』

 振り下ろした刃が、怪人の粘つく体を切り裂く。ビニールの被膜が破れ、中から汚い汁が滲み出てきた。

「ぐっ、うぅっ」

 先ほどからドーパントは防戦一方だ。狭い路地でファンタジーは、長剣を突き出すように振るい、敵に傷を付けていく。

『命は取らない。だが、メモリはブレイクさせてもらうぞ!』ファンタジー! マキシマムドライブ

『ファンタジー・イマジナリソー…』

 その時、彼の背後から悲鳴が聞こえてきた。

『!?』

 はっと振り返ると、そこには先ほど逃げた筈の女と、それを捕まえる一人の少女が立っていた。

『ミヅキ…!?』

「変身を解除して。でないと、この女を殺す」

『何でこんなこと…こいつもお前の仲間か』

「早く!」

「放して! 放してっ…」

『…』

 ファンタジーは仮面の下で歯噛みすると、ドライバーからメモリを抜いた。装甲が解けていくのを見届けると、ミヅキはヘドロのドーパントに向かって言った。

「パパも、仮面ライダーにはもう手出ししないで」

「お前、俺に口出しすんのかよ」

「パパ、だと…?」

 困惑する徹。ミヅキは意外にも、あっさり女を放した。逃げていく女を見てドーパントが唸った。

「クソがっ、どいつもこいつも…!」

 言いながら、いきなり徹に殴りかかってきた。

「パパっ!!」

「っ…」

 身構える徹。その時、塀の上から銀色の影が飛来した。

「ぐわあぁっ!?」

 それはドーパントの体に激突すると、徹の前に着地し、敵に向かって威嚇するように嘶いた。

「おお、助かったぜメモコーン…!」

 再びドライバーを手に取る徹。彼と、その足元に控える小さな一角獣を交互に見ると、ドーパントは舌打ちした。

「…ケッ、もううんざりだ。美月、帰ったら覚悟しとけよ」

 そう言った瞬間、彼の体が黒いタールめいた液体に覆われた。液体の中でドーパントの体はどろどろに溶け、アスファルトのひび割れに吸い込まれるように消えてしまった。



215 ◆iOyZuzKYAc2019/08/01(木) 21:09:20.628sIrjYta0 (2/6)

 残された徹は、ミヅキの方を見た。

「…ミヅキ、あれがお前の父親なのか」

「…」

 ミヅキは何も言わず、徹を睨む。その顔は、最後に見た時よりやつれているようであった。何より、頬や額に大きな痣ができている。

「あんな奴の言いなりになるような人間じゃないだろ、お前は。一体何があった?」

「…余計なお世話」

 ぽつりと言うと、彼女は地面を蹴って彼の背後まで跳んだ。そのまま、何処かへと走って行ってしまった。



「本当なら、ウチの課で扱う事件じゃなかったんだがな」

 溜め息を吐くと、植木は徹に調査書を差し出した。

「佐倉強也、39歳。元はホストだったとも、風俗の受付だったとも言われていてはっきりしない。分かっているのは、この男が夫と別れた直後の兎ノ原皐月と交際し、2年後にはその連れ子と共に風とで同棲していたということ。皐月と、当時7歳だった連れ子の美月に、身体的、性的な暴行を加えていたことだ」

「…」

 目の細い、酷薄な顔を思い出す。路地裏で女に乱暴しようとするどころか、血縁でないとは言えそれを自分の娘に手伝わせていた。汚らしいドーパント態に相応しい、腐りきった男だと、徹は思った。

「美月が保護されると同時に、虐待に加担した皐月もろとも逮捕されたが、翌月には執行猶予付きで釈放された。以後、立件されていないだけで数件の強姦に関わったと言われている。つい最近北風町に引っ越してきたらしいが…そうか…こいつもガイアメモリを」

「こいつは、俺が絶対に倒します。そしてミヅキも、捕まえて連れて来ます」

「我々も厳戒態勢を敷こう。…ところで」

 植木は徹の隣を見ると、不思議そうに尋ねた。

「あの、いつものフリー記者Bは?」

「リンカは…」

 徹は言葉を濁した。
 体調を崩したあの日から、明らかに彼女の病態は悪化していた。それでも外に出ようとする彼女を無理やりベッドに寝かしつけると、彼はアパートの鍵をかけてここまで来たのであった。



216 ◆iOyZuzKYAc2019/08/01(木) 21:09:47.138sIrjYta0 (3/6)




「はあっ、このっ、クソガキがっ…」

 散らかり切ったアパートの一室にて。汚れた床にうつ伏せにミヅキを押さえつけると、佐倉は乱暴に腰を振っていた。

「テメエよぉ、あの男…お前の、知り合いかよっ…」

 剥き出しの尻を叩く。打たれた痕や爪痕で、彼女の尻は血塗れだ。

「ただの知り合いっ…彼氏でもないからっ…」

「ヤッたのかよ、ええ?」

「…一回だけ」

「ゴミカスがよぉ!!」

 腰を引くと、彼は娘の腹を力任せに蹴り飛ばした。うめき声を上げて転がる彼女を尻目に立ち上がると、彼は吐き捨てた。

「お前のガバマンじゃ、ヤッた気になんねえんだよ。出てくるぞ」

 足音荒く部屋を後にする佐倉。

「待って、パパ、ごめんなさい、待ってっ…」

 追いすがるミヅキを蹴ると、彼はアパートを出てどこかへ行ってしまった。


217 ◆iOyZuzKYAc2019/08/01(木) 21:10:46.678sIrjYta0 (4/6)

『招かれざるR/神のメモリ』完

今夜はここまで


218 ◆iOyZuzKYAc2019/08/01(木) 21:11:26.458sIrjYta0 (5/6)

間違えた

『招かれざるG/神のメモリ』

でした


219以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/08/01(木) 21:23:15.66SsnkdDR6O (1/1)

エンペラーペンギン・ドーパント

『皇帝ペンギン』の記憶を宿したメモリで変身するドーパント。メモリは皇帝の名前通り、やけに高級品
ずんぐりむっくりとした巨大なペンギンの姿で頭に王冠。背中にマントを羽織った偉そうな雰囲気が特徴
見た目からは想像がつかないが、『世界一過酷な子育てをする鳥』の異名があるドーパントなので非常にタフ
また、皇帝の名前に引っ張られたのか大規模なカリスマ性。配下のちびペンギンの召喚、使役。羽を剣に見立てた剣戟等、容姿で舐めてかかると痛い目に会うだろう
メモリの形はペンギンが横にヒレを伸ばし、嘴、羽、足でEの字を形作っている


220 ◆iOyZuzKYAc2019/08/01(木) 21:45:51.348sIrjYta0 (6/6)

(朝塚のメモリは最初クローバーにしようとして、どうしてもシロツメクサで攻撃する方法が浮かばなくて途中でアコナイトに変えたんですけど、アペタイトでA使っちゃってたからクローバーの方が良かったなって今更思う)



『ホーネットドーパント』

 『スズメバチ』の記憶を内包するガイアメモリで、北風町に跋扈するメモリ密売人が変身するドーパント。強力な顎、鋭い棘の生えた腕による攻撃だけでなく、臀部から生えた30cmほどの巨大な棘から毒を流し込むこともできる。ただし、毒が使えるのは一度の変身につき一度までで、使用した後は最低3日は変身できなくなる。この毒は一度目で死ぬことはないが、二度受けると生身の人間なら確実に死に至るという特徴がある。また、短距離ではあるが飛行能力もある。
 量産型ながら戦闘力の高いドーパントで、彼らの首魁であるクイーンビードーパントはこのメモリへの適合率から優れた戦闘員を見出し、より高位の昆虫系メモリを与える指標にしている。マスカレイドやビーと違い、自爆機能は付いていない。
 メモリの色は黄色。顎と触覚を広げたスズメバチの頭部を正面から見た画が『H』の字になっている。


221 ◆iOyZuzKYAc2019/08/02(金) 22:29:33.59XAbD419/0 (1/2)

「リンカ、おじや作ったけど食うか?」

 ベッドに横たわるリンカに、徹は片手鍋とお椀を持って近寄った。

「…いただきます」

 リンカはおじやをよそったお椀とスプーンを受け取ると、ちびちびと食べ始めた。

「具合はどうだ? 寝たら少しはマシになったか?」

「特に変わりありません。休んで改善するものではないので」

「おいおい…病院には行ったのかよ?」

「医療で改善するものでもありません」

「何だよ…」

 だんだんと、徹は苛立ってきた。

「その言い方だと、原因が分かってるみたいだな。分かってて、何で放ったらかしてんだよ?」

「そうせざるを得ないからです。特に」

 彼女は、彼の目をじっと見て、言った。

「現在、兎ノ原美月と接触している限りは」

「ミヅキが? どうして」

 言いかけたその時、彼の携帯が鳴った。画面には『坂間刑事』の文字。

「…もしもし?」

”風車7丁目のドヤ街で、女の遺体が見つかった。暴行された痕があったそうだぞ”

「! 佐倉が」

”ホシのアパートを張ってはいたが、部屋を出たと思ったらいつの間にか消えてたんだと。そいつもドーパントとやらの能力なのか?”

「そうだと思います」

 体をタール状に解かし、吸い込まれるように消えていったドーパント。そのまま、どこにでも現れることができるのか。それとも、何か条件があるのか…?
 考え込む徹。その足元に小さな一角獣が歩み寄り、せっつくようにその角で、彼の足を突いた。



222 ◆iOyZuzKYAc2019/08/02(金) 22:30:46.21XAbD419/0 (2/2)




 北風町、とある薄暗い路地にて。投げ捨てられたゴミや動物の糞に塗れたアスファルトの、錆びたマンホールがカタリと音を立てた。次の瞬間、蓋の隙間から黒いどろどろした液体が湧き出し、歪な人の形に固まった。

「ふぃ〜っ…」

 出来たての首をこきりと鳴らすと、自称神のドーパントは、満足げに息を吐いた。久々に処女とヤれた。やはり犯すなら若い処女が良い。泣き叫ぶ顔も、穴の締まりも最高だ。この力があれば、何でも自分の思うがまま……

「…っ!?」

 突然、彼の足元から炎が噴き上げた。慌てて躱し、周囲を見回す。



『…見つけたぞ、ヘドロ野郎』



「! その声は」

 彼の目の前に、白と赤の魔術師が降り立った。装いは違うものの、フードの下の複眼は、先日戦った騎士の、バイザーの向こうに見えたそれと同じであった。

「どうやってここに来た…」

『お前は、体を液体に変えて移動する。だったら流れる場所を通る必要がある。加えて、その体…上水道や地下水よりは、下水道の方がお似合いだと思ったまでだ』

「ンなもん、いくらでもあるだろうがよぉ! 何でここが分かったんだ!?」

『現場と、お前の家の間。その中でも、人気の少ない場所のマンホールに絞った。足りない人手は…』

 仮面ライダーは、どこからともなく竹とんぼを取り出すと、慣れた手付きで回した。冷たい風に攫われ、ふわりと宙へ舞い上がると、それは一機のドローンに変化した。

『…俺の力は、空想を現実にする。どこに現れようが、俺は必ず見つけ出す…!』

「上等だぁ!」

 ドーパントは怒鳴ると、仮面ライダーに殴りかかった。

「テメエはここで、ぶっ殺す」

『それはこっちの台詞だ…!』

 怒りに燃えた声で言い返すと、彼は襲いかかる敵をカウンターで殴り倒した。そして、ドライバーに装填された赤いガイアメモリを抜くと、変形させて今度は青いメモリを装填した。

『セイバー』

 仮面ライダーの姿が騎士に変わる。銀の鎧の上には、蒼の勇壮な装甲が加わっており、その手には青と銀の長剣を握っていた。


223 ◆iOyZuzKYAc2019/08/03(土) 08:32:58.89161JS0Va0 (1/14)

 銀の刃が、ヘドロの体を深々と切り裂いた。

「ぎゃあぁぁっ!!?」

 それだけでなく、傷口からは灼けるように煙が立ち上る。
 剣は、古来から英雄の武器として様々な伝説に登場している。その記憶を有するガイアメモリによって形作られたこの剣は、特に悪しき存在に対して強力な効果を発揮した。

「ぐっ、うぅっ…」

『やぁっ!』

 切っ先が、ドーパントの体を貫いた。彼は憎々しげに唸った。

「うぅ…俺は…お、俺は、神だ…」

『女をレイプして、子供を虐げる、そんな汚い姿の神がいるものか!』

 剣を引き抜き、ドライバーの前にかざす。

『トドメだ…』

「俺はぁ! 神だあぁぁぁっっ!!!」

 突然、ヘドロに覆われたドーパントの体が、音を立てて沸き上がった。煮え立つタールが飛び散り、騎士の鎧に付くと、鎧が煙を上げて融け出した。

『!!』

 咄嗟にマントを広げると、体を防御した。その間にメモリを入れ替え、魔術師の姿に戻る。

『いい加減に…』

 防壁を展開し、更に掌を突き出す。次の瞬間、ドーパントの足元から巨大な炎の柱が噴き上がった。

「ぎゃあぁぁぁぁっっ!!」

 炎に包まれ、絶叫するヘドロのドーパント。燃え盛る体が次第に蒸発していき…やがて炎が収まった頃、そこにはボロボロになった一人の男が座り込んでいた。

「くそ…おれは…おれ、は…」

『…』

 無言で歩み寄る仮面ライダー。彼は、男の目の前に立つと、赤と銀の杖を振り上げた。

「俺はあぁっ! 俺はっ…」



『ガー「ゴッド! ゴッドゴッド! 神、だ…」



 喚きながら、黒いメモリを掲げる。
 仮面ライダーは、冷たい声で言った。

『ただの、クズ野郎だ』

 そして、手にした杖を、生身の男に向かって……


224 ◆iOyZuzKYAc2019/08/03(土) 14:42:59.92161JS0Va0 (2/14)




「もう止めて!!」





225 ◆iOyZuzKYAc2019/08/03(土) 14:43:27.04161JS0Va0 (3/14)

『…』

 仮面ライダーの手が止まる。
 彼の目の前に、汚れたピンクのロリータ服を着た、やつれた少女が立ちはだかった。

『…何でだ。そいつは、お前のことも傷付けたのに』

「これ以上…あたしの居場所を取らないで…」

 涙を浮かべながら少女が訴える。仮面ライダーは杖を下ろすと、言った。

『居場所だと? そんな所にいるんじゃない。…こっちに来るんだ』

「嫌! こんなパパだけど、お母様の邪魔をするあんたたちに比べたら、マシ」

 それから彼女は、地面に座り込んでぶつぶつ呟く男を抱えると、仮面ライダーに背を向けた。

「俺は、おれは…俺は、かみ、俺は…」

「帰ろう、パパ」

 汚れたアスファルトを蹴ると、塀を飛び越えて去って行った。



「…ただいま」

 家に帰った徹は、室内がやけに静かなのに気付いた。

「…リンカ?」

 嫌な胸騒ぎを感じ、寝室に向かう。
 そこには、ベッドに横たわって動かないリンカの姿があった。

「リンカ!?」

 駆け寄って抱き起こすと、彼女は苦しげなうめき声を上げた。

「おい…おい、しっかりしろ! リンカ、どうしたんだ…」

「…っ、はぁっ」

 歯を食いしばり、彼の腕を振り払うリンカ。こんな状態だというのに、いつもの白スーツの、上着のボタンすら外さない。捲れたジャケットの裾から、金属のベルトが見えた。

「…えっ?」

 金属ベルトだと? そんなもの、普段付けていたか?
 彼女の体を無理やり仰向けにすると、彼は上着のボタンを外して前を開けた。

「!!」

 露わになった彼女の腰には、彼女の所持しているガイアドライバーが巻かれていた。しかし今、そこに装填されているのは、金色のトゥルースメモリではない。

「これは…」

 半挿しになったメモリを掴み、抵抗する彼女を抑えて引き抜く。
 彼の手に収まったのは、ピンク色のガイアメモリ。耳をぴんと立てた、ウサギの頭部が描かれている。

「ずっと、ここに隠していたのか」



226 ◆iOyZuzKYAc2019/08/03(土) 14:44:36.93161JS0Va0 (4/14)

「…」

 何も言わず、彼女は小さく頷いた。メモリを外しただけで、彼女の顔から苦痛の色が引いていくのが分かった。

「何だってそんな、無茶なことを」

「警察病院に刺客が来た時…貴方の身の安全と同時に、このメモリを奪取しに来る可能性について考慮しました。その上で、常に私の目が届き、かつ他者には物理的に取り出せない場所…すなわち、私の体内という結論に達しました」

「だが、そのせいでこんな」

「…このメモリは、兎ノ原美月に適合しすぎました。臓器と接触しないよう、ぎりぎりガイアドライバー内に留めていましたが…凄まじい拒絶反応と副作用で、やや人格に変調を来しかけました」

 そう言えば最近、彼女から徹に触れたり、抱きついたりすることが多かったように思える。ラビットメモリを近くに置いていたために、彼女の性格に影響が出たのかも知れない。

「…とにかく、このメモリは俺が持っておくぞ」

「お断りします。これは、私が管理します」

「駄目だ! もうこれ以上、あんたが苦しい目に合うのは御免だ」

「ですが、貴方はこれを兎ノ原美月に返却する気でしょう?」

「…」

 徹は、言葉に詰まった。リンカがすかさず続ける。

「佐倉強也の虐待によって、兎ノ原美月は現在のような人格になった、そういう意味では彼女も被害者でしょう。しかし、それでも敵であることには変わりありません。彼女が再びメモリを手にすれば、我々、そしてこの町にとって大きな障害となることは明らかです。極端な話をするなら」

「…分かった。もういい分かった!」

「このまま、彼女を放置すべきでしょう」

「黙れ! それ以上言うな!!」

「佐倉のもとで、衰弱死でもしてくれた方が、我々にとってはプラスです」

「…あんた…っ!」

 徹は歯ぎしりしながらリンカを睨んだ。彼はリンカに背を向けると、足音荒く部屋を出て行った。


227以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/08/03(土) 17:44:18.13eHbDHCJk0 (1/1)

ホラーメモリ

頭を抱えのたうち回る人の姿を上から見た様子で描かれたメモリ。
相手が元々怖いと思っているものとなり、暗闇や背後にワープして襲い、その恐怖をエネルギーにする。

副作用で使用者は残忍で猟奇的になる(ホラー映画のキャラみたいになる)



228 ◆iOyZuzKYAc2019/08/03(土) 22:30:21.79161JS0Va0 (5/14)




 夜の公園。ベンチに座り込んで、徹は溜め息を吐いた。電灯の下に、ピンク色のガイアメモリをかざす。

『ラビット』

「…どうして」

「!」

 顔を上げると、彼の目の前にミヅキがいた。

「どうして、あたしはここに」

「このメモリに引き寄せられたんだろう」

 ほとんど無意識に、メモリに手を伸ばすミヅキ。徹は、それをさっと引っ込めた。

「…返して」

「駄目だ」

「じゃあ、何のためにここに来たの。何であたしのメモリを持ってるの!」

「話すことなんてない! 返して!」

 飛び蹴りを浴びせようと、膝を曲げるミヅキ。徹は椅子から立ち上がると

「…っ!?」

 彼女の体を、きつく抱き締めた。

「放してっ…放してっ!」

「ガイアメモリは、あんたを幸せにはしてくれない! あの男もだ!」

「余計なお世話だって! あんたに何が分かるの!?」

「母神教も、あんたの居場所にはならない! お母様とやらだって、あんたを操って、戦わせるじゃないか」

「お母様は!」

 彼の脇腹に膝を打ち付けながら、ミヅキが叫ぶ。

「あたしを、愛してくれる…パパだって」

「違う! そんなのは嘘だ!」



229 ◆iOyZuzKYAc2019/08/03(土) 22:30:49.00161JS0Va0 (6/14)

 彼女を抱く腕に、力を込める。

「あんたは…生まれた時から、ずっと傷付いてきたんだ。勝手な大人たちに振り回されて、辛い思いをし過ぎたんだ。…もう、止めよう。まだ間に合う。やり直すんだ!」

「うるさい! うるさいうるさい、うるさいっ!!」



「…見つけたぞ、クソガキ」



 突然、背後から怒声が飛んだ。

「…佐倉、強也」

 徹はミヅキの体を離すと、佐倉とは逆の方へ、そっと押し出した。そうして、自分はその男と正面から向き合った。

「よぉ、ヒトの娘と、何盛ってやがんだよぉ!」

「一つだけ、訊きたい」

「…あん?」

 徹は一瞬、ミヅキの方を見て、それから問うた。

「ミヅキの母親…兎ノ原皐月は、今どうしてる?」

「ああ? …ああ、あいつか」

 彼はつまらなさそうに鼻を鳴らすと、言った。

「ムショ出てから、景気づけにヤッたら、何か死んじまった。…ひひっ、隠しといたのをメモリの力で、ドロドロに溶かして捨てたから、バレずに済んだけどな」

「! そんな」

「…そうか」

 徹は、ドライバーとメモリを掲げた。その足元に、小さな一角獣が寄り添う。

「もう、何も言わなくていいぞ。…ここが、お前の終わりだ」ファンタジー!

『…ミヅキ。向こう向いて、耳を塞いでろ。何かしようなんて考えるな。こいつは…あんたの人生には、初めからいなかったんだ』セイバー!

 銀と蒼の騎士は、剣を構えた。

「よく言うぜ! …娘は返してもらうぞ」



『ガ「ゴッド! ゴーッド!」



「俺は、神だからなぁ!!」



230 ◆iOyZuzKYAc2019/08/03(土) 22:31:14.84161JS0Va0 (7/14)

 ヘドロの弾幕が、ファンタジーを襲った。それを剣で叩き落としながら、彼は敵に肉薄していく。

『やあっ!』

「ぐふっ…」

 斬撃を受け止めると、ドーパントは足元にヘドロを広げた。

『!』

 飛び下がるファンタジー。すかさず黒いタールの鞭が、彼を襲う。それを切り払うと、彼はマントを広げて夜空に舞い上がった。

『たあぁっ!!』

「ぐはっ…!」

 重力の乗った一撃が、ドーパントの肩を切り裂いた。

「こ、の…」

 傷口が融け、また塞がっていく。彼は辺りを見回すと、突然、腕を長く伸ばした。
 手繰り寄せたのは、公園のゴミ箱。空き缶や、弁当の箱が捨ててある。彼はそれを持ち上げると、口を開けて中身を呑み込んだ。

「んっ、ぐっ、ぐっ…」

 やがて空になったゴミ箱を投げ捨てたドーパントの体は、先程よりも少しだけ大きくなっていた。

「ひひひっ…こいつでどうだっ!」

『くっ』

 重いパンチを、剣で受け止める。どうにか受け流すと、ファンタジーは剣を突き出した。切っ先が、黒い腹部を刺し貫く。だが、傷口がすぐに塞がってしまう。

『だったら…』

 ファンタジーが剣を掲げる。と、その刀身が激しく燃え上がった。

『ジャスティセイバー・レーヴァテイン! はあぁっ!!』

「ぐあぁぁっ!?」

 炎の剣が、ドロの体を切り裂き、更に蒸発させていく。ドーパントは更に体を強化すべく、周囲のゴミを探す。だが、見当たらない。

「…っ、そうだ」

 彼は何かを思いついたように呟くと、やおら体を黒い液状に変化させた。そのまま地面を這い進むと、ファンタジーの後ろにいたミヅキの方へと近寄っていった。

「最初から、テメエを喰っちまえば良かったんだよぉ!!」

「! パパ…」

『この野郎…っ!!』

 ファンタジーは猛然と駆け寄ると、人型に戻りつつあるその背中に、燃える剣を突き立てた。

「ぐうぅぅっ…ひっ…ひひっ…はははははっ…」

「…」

 ドーパントの体から、タールが黒い触手めいて伸び、ミヅキの体を捕らえた。ミヅキはその場から動こうとせず、じっと自分の義理の父親を見つめていた。

『ミヅキ! ミヅキ、逃げろ! クソっ…』

 体を燃やされながらも、娘を捕食しようと腕を伸ばすドーパント。ミヅキの体が、黒い液体に覆われていく…

『ミヅキ! ……手を、出せ』

「…!」

 ピンクのスカートが溶け、細い腿が露わになる。……そこに刻まれた、生体コネクターが。


231 ◆iOyZuzKYAc2019/08/03(土) 22:31:41.94161JS0Va0 (8/14)




『ラビット』





232 ◆iOyZuzKYAc2019/08/03(土) 23:11:00.74161JS0Va0 (9/14)

 次の瞬間、そこには、何事もなかったかのように立つミヅキと、その前で崩れ落ちる、ヘドロのドーパントがいた。

「美月…テメエ…」

『…これで、終わりだ』セイバー! マキシマムドライブ

『セイバー…ジャスティスラッシュ!!』

 蒼い閃光が、ドーパントの体を両断した。

「ぎゃあぁぁぁっ…」

 弱々しい断末魔。光が収まった時、そこにいたのは倒れ伏す薄汚い男と、砕け散った黒いガイアメモリ。散り際、持ち主の虚偽に抗議するように、メモリは自らの名を告げた。

『ガーベッジ』

「…ミヅキ」

 変身を解除して、徹は呼びかけた。
 ミヅキは動かず、倒れ伏す義理の父親を見つめていた。

「…ぐっ」

 佐倉は呻き声を上げると、どうにか上半身を起こした。

「み、美月…た、たす、け」

「…」

 ミヅキは黙って、彼の言葉を聞くと…
 彼の胸を、蹴り上げた。

「がっ…!?」

「やめろ!!」

 徹が身を乗り出すが、もう遅い。彼女の爪先は、佐倉の胸を、文字通り貫通していた。
 上げた脚から、スカートの裾が滑る。露わになったコネクターに、ピンク色のメモリを突き立てた。

『ラビット』

「み、づ、き…」

「やめろ! やめろおぉぉぉっっ!!」



233 ◆iOyZuzKYAc2019/08/03(土) 23:11:35.26161JS0Va0 (10/14)




「…バイバイ、パパ」





234 ◆iOyZuzKYAc2019/08/03(土) 23:12:22.61161JS0Va0 (11/14)

 兎の回し蹴りが、佐倉の頭を粉々に砕いた。飛び散る脳漿の中に立ち尽くすと、ラビットドーパント…ミヅキは、変身を解除した。

「あ…ああ…」

「…仮面ライダーさん」

 彼女は呟くと…突然その場で跳躍し、徹の胸に飛び込んだ。そうして、彼の唇に、自分のそれをそっと重ねた。

「ありがと。でも、兎は寂しいと死んじゃうの。…あたしには、お母様がいないと」

「どうして…俺のところじゃ、駄目だったのか…?」

 ほとんど無意識に問うた徹に、ミヅキは首を振った。

「あなたには、あの金ピカネクタイ女がいるから。…あなたのことは、好き。今まで数え切れない男とエッチしてきたけど、キスしたのはあなたが初めて」

 ゆっくりと、後ずさる。その背中から、眩い白の光が溢れ出した。

「…ああ。迎えに来てくれたの、『お母様』」



”おかえりなさい、愛しい子”



「!!」

 徹は目を見張った。白い光の中に、何かがいる。逆光に塗り潰された、一つの人影が。

”あなたが、再び母を求めるのを、ずっと待っていました”

「ごめんなさい、遅くなって」

”良いのですよ。…ときに”

「!」

 響く声が、徹の方を指した。

”貴方が、仮面ライダーですね。…母の娘が、お世話になりました”

「お前が…お前が、ミヅキを」

”貴方も、愛しい母の子。母の愛を求めるなら…或いは”

「…あたしに逢いたくなったら、いつでも来てね」

 照れくさそうに言うミヅキ。その体が、白い光に包まれ……そして、消えた。


235 ◆iOyZuzKYAc2019/08/03(土) 23:15:00.27161JS0Va0 (12/14)

『招かれざるG/バイバイ、パパ』完

今夜はここまで
そしてミヅキ編も一旦ここまで


236 ◆iOyZuzKYAc2019/08/03(土) 23:33:09.49161JS0Va0 (13/14)

『ガーベッジドーパント』

 『廃棄物』の記憶を内包するガイアメモリで、強姦魔の佐倉強也が変身するドーパント。ヘドロめいた黒の体に、ビニールめいた被膜が所々を覆っている。よく見ると、ヘドロの中からは空き缶やペットボトルといったゴミが浮いたり沈んだりしている。体を構成するヘドロを飛ばしたり、伸ばしたりできる他、体を液状に変化させることも可能。ヘドロの中では異常な早さで腐敗が進むため、人体などを溶かすこともできる。ゴミや死骸を吸収することで、傷を治したりパワーアップすることも可能。こう書くと使い勝手は良さそうだが、そもそもの戦闘力がそれほど高くない上、炎には極端に弱いため、仮面ライダーやドーパント同士の戦闘には不向き。
 警察から釈放された後、どこかのタイミングでこのメモリを手に入れた佐倉は、強姦の末殺害した内縁の妻である兎ノ原皐月の遺体を吸収し、証拠隠滅を図った。それ以降は、襲う女に近付いたり、犯した女の体を溶かしたりするのに能力を使っていた。また、彼はこれを神の力と信じ、ガイアウィスパーに被せるようにゴッドと叫んでいた。当然、ゴッドメモリなるものは存在しないし、したとしても幹部級のメモリになっていたであろう。
 メモリの色は黒。ヘドロの飛沫めいた筆跡で『G』と書かれている。


237以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/08/03(土) 23:46:49.223JrB34HiO (1/1)

乙、ミヅキちゃんまた出てくる?


238 ◆iOyZuzKYAc2019/08/03(土) 23:50:29.68161JS0Va0 (14/14)

もうちょっとしたらまた出てくる


239以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/08/04(日) 01:05:09.16pOIcKN1Qo (1/1)

クソガキから一転、どうなるかハラハラの面白いことになったなー、ミヅキちゃん


240 ◆iOyZuzKYAc2019/08/04(日) 21:25:09.38nzo4YOI90 (1/5)

「…」

「…」

 朝。部屋は、重苦しい空気に包まれていた。

「…やはり、メモリを返却しましたか」

「あの場は、ああするしかなかった」

「ガーベッジドーパントの戦闘力は、それほど高くありません。人一人吸収したところで、ファンタジー・セイバーの敵ではなかったでしょう」

「じゃあミヅキが死ぬのを見殺しにしろってのか!?」

 リンカは、そっと目を伏せた。

「…敵であれ、命の損失を抑えたいと願う貴方の姿勢は、個人的には好ましく思います」

 ぽつりと、言う。

「ですが…手段を選んでいられる状況でないことも事実です。ラビットメモリを返却して、我々が得たものは、あまりにも少ない」

「お母様とやらの声を聞いたぞ。いつでも会いに来いとも言われた」

「ラビットドーパントはともかく、首魁の戦闘力は未知数です。今飛び込むのは、あまりに危険と考えます」

「じゃあどうしろって…」

 張り詰めた空気を破るように、徹の携帯電話が鳴った。画面には『植木警部』の文字。

「…もしもし、おはようございます」

”力野さん、先程警察病院から連絡があったんだが…朝塚芳花が、死亡した”

「朝塚って…アコナイトメモリを使った…!」

”集中治療室で昏睡状態だったが、とうとう回復することは無かった…。今日、改めて朝塚ユウダイを呼んで取り調べたいと思う。力野さん、リンカさんも、一緒に来てくれないか”



 母親が死んだというのに、息子はぼんやりした顔で、坂間の質問に要領を得ない答えを投げ返した。

「ガイアメモリは、どこで手に入れたの」

「…塾の帰りに、拾いました」

「蜜屋の塾で、何を教わってるの」

「勉強と、奉仕の心です」

「ユウダイ君…っ!」

 坂間は語気を荒げた。

「君のお母さんが、亡くなったんだぞ!? 君が持ってきた、ガイアメモリを使って…」

「母は、使い方を間違えたんだと思います。先生は、何も関係ありません」

 机を叩き、いらいらと首を振る坂間。それを見ながら、徹とリンカは、静かに取調室を出た。



241 ◆iOyZuzKYAc2019/08/04(日) 21:25:50.81nzo4YOI90 (2/5)

「…そう言えば、蜜屋について調べてたんだろ。何か分かったのか?」

 廊下の自販機で缶コーヒーを買いながら、徹は尋ねた。

「そうですね。あれだけ具体的な証言が出ているにも関わらず、決定的な証拠を掴ませない、巧妙さは思い知りました」

 微糖コーヒーを受け取りながら、リンカが答える。

「その、愛巣会とやらにも行ったのか」

「はい。中では、授業とレクリエーション、それから野外での奉仕活動が行われているだけでした」

「洗脳だ何だの証拠は掴めてない、か」

 無糖コーヒーを啜ると、徹は溜め息を吐いた。

「何だよ、そっちも進捗ナシじゃねえか」

「進捗ならあります。…塾の敷地内で、九頭英生を見かけました」

「九頭だと!?」

 徹は素っ頓狂な声を上げた。

「あいつは自爆して死んだはずだ。何かの見間違いだろ」

「側頸部の生体コネクターを確認しました。何より、教員の一人が九頭の名を呼びました」

「だが…」

「井野定を覚えていますか」

「えっ?」

 急に彼女が別の男の名前を出したので、徹は虚を衝かれたようにぽかんと口を開けた。

「彼は、墓から妹の遺骨を取り出す時、『お母様の力があれば妹が帰ってくる』と言いました。死亡したはずの九頭が、まだ生きているとすれば…案外、無理な話でもないのかも知れません」

「…」

 徹は黙って考え込んだ。

「…俺も、行ってみるか」

「そうしましょう。特に、九頭は貴方が仮面ライダーであることを知っています。反応を確かめるだけでも収穫はあるでしょう」



242 ◆iOyZuzKYAc2019/08/04(日) 21:26:24.89nzo4YOI90 (3/5)




 川沿いにある細長いビルが、丸ごと愛巣会の建物であった。玄関をくぐったリンカを、蜜屋志羽子はにこやかに出迎えた。

「いつもお世話になってます、リンカさん。…」

 挨拶してから、その後ろにくっついて来た、見慣れない男に一瞬、眉をひそめる。

「こちらの方は…?」

「力野と申します」

 徹は名刺を差し出した。

「実を言うと、円城寺に先生の取材を委託したのが私でして。本日は、一緒にお邪魔させていただきます」

「まあ、そういうことだったんですね」

 蜜屋は納得したように頷くと、名刺を丁寧に仕舞った。そうして、奥を指した。

「では、参りましょうか。力野さんがご一緒ですので、また最初からのご案内になりますが、よろしいでしょうか? リンカさん」

「もちろんです」

 リンカは頷いた。蜜屋の先導で、2人はビルの奥へと進んだ。



 2階から、教室が始まっていた。1フロアにつき2部屋の教室があり、それぞれの部屋には大きな机と椅子が、緩やかな円形に並んでいた。椅子には10人弱の生徒が座って、黙々と勉強をしている。

「今日…と言うより、近世より日本人が固執する教育方式は、先進国では絶えて久しいものです。生徒全員が一方向を向いて座り、教師から一方的な教えを投げつけられるだけ」

「確かに、机はアメリカの学校など見る配置ですね。…クラス分けに、何か基準は?」

「まずは、目的です。学業の成績向上と、生活の改善とでは、行うべきことが違います。この階は、純粋に勉強をする生徒のためのものです」

 片方の部屋に入ると、生徒たちが顔を上げて一斉に挨拶した。その中の一人を呼び寄せると、蜜屋は紹介した。

「室長の小崎君です。…こちらのお二方は、勉強するあなた方を取材しに来てくださいました」

「小崎と申します。よろしくお願いします」

 中学生くらいに見えるその少年は、恭しく頭を下げた。態度だけでなく、話す内容も気味が悪いほどに模範的で、徹たちの付け入る隙を与えない。疑いの目で見れば、確かに洗脳されているのかもと思えるくらいであった。



243 ◆iOyZuzKYAc2019/08/04(日) 21:26:58.79nzo4YOI90 (4/5)

 2つ階層を上ってもそれは同じであった。様子が変わってきたのは、4階に辿り着いてからだ。

「この階からは、非行の更生のためのクラスになります」

 確かに、先程までとは空気が違う。教室にいる生徒たちも、席に座らずに歩き回ったり、談笑したりしている。

「良いんですか? 勉強に励んでいるようには見えませんが」

「こうして仲間と触れ合い、絆を育むことが、彼らにとっての勉学なのですよ」

 笑顔で言うと、彼女は教室に入った。

「あっ、先生! おはようございます!」

 蜜屋に気付くと、生徒たちが挨拶した。

「ええ、おはよう」

 挨拶を返しながら教室の奥へ進むと、片隅で座って読書する少女に声をかけた。

「速水さん、何を読んでいるの?」

「…朔田友子の、新作」

 ぼそりと答えると、彼女は文庫本のブックカバーを外してみせた。

「前におすすめした作品ね。彼女の生き方には、学ぶことがたくさんあるわ。…」

 教室を出ると、蜜屋は言った。

「あの娘は、少し前までパソコンばかりをして、家に引き籠もっていました。うちに入塾してからは、少しずつ段階を踏んで、今では本に興味を持ってくれるようになりました。もうすぐで、外の世界に出ていけるはずです」


244 ◆iOyZuzKYAc2019/08/04(日) 21:27:27.54nzo4YOI90 (5/5)

今夜はここまで


245以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/08/04(日) 22:18:46.64pOIcKN1Q0 (1/1)

全く関係ないところでゴス子とメテオがゴールインしてる……


246以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/08/05(月) 12:45:00.60W3SwJkMkO (1/1)

速水ってギャレンの人やんけ!


247 ◆iOyZuzKYAc2019/08/08(木) 20:19:08.16JTTnaW1h0 (1/5)




 6階に着いた時、片方の教室から一人の女が飛び出してきた。

「あっ、蜜屋先生!」

「友長先生? どうしました」

 ブラウスの上からきっちりと長白衣を着込んだその女は、焦燥した顔で言った。

「園田君と渡部君が…」

「行ってみましょう」

 教室に入ると、2人の少年が殴り合いの喧嘩の最中であった。周りでは、他の生徒たちが囃し立てたり、迷惑そうに眺めたりしていた。

「止めなさい、2人とも!」

 蜜屋は2人の間に割って入ると、声を張り上げた。

「…喧嘩の理由は、後で聞きます。友長先生、2人を医務室にお願いできますか」

「分かりました」

 2人が教室を出ていくと、蜜屋は低い声で言った。

「…このように、子供が暴力に訴えるのは、それしか対話の方法を知らないからです。彼らは、生まれた時から言語によるコミュニケーションを疎かにされ、暴力に頼った教育を受けてきた、被害者なのです」

「では、あの2人は」

「ええ。虐待を受け、児童相談所に保護された子たちです。ここにいるのは、ほとんどがそのような経歴の持ち主たちです」

「この後、どのような指導を?」

「まずは、じっくり待つことですね。お互い怒ったまま話を聞いても、前には進みませんから。…あら、もうこんな時間」

 蜜屋は腕時計を見ると、申し訳無さそうに言った。

「階段を上ってばかりで、お疲れでしょう。少し休憩にいたしましょうか」



「そつが無さ過ぎる」

 応接室にて。蜜屋がいなくなったことを確認すると、徹はずばり言った。



248 ◆iOyZuzKYAc2019/08/08(木) 20:19:37.60JTTnaW1h0 (2/5)

「同感です。まるで私たちの求めるものを知っていて、先回りして隠しているかのようです」

「生徒の手首にコネクターは無かったが…」

 そこへ、一人の職員がお茶と菓子を持って入ってきた。

「どうぞ、粗茶ですが」

「あ、どうも……っっ!!?」

 受け取っておいて、徹は絶句した。盆を運んできた職員。それは、目の前で自爆したはずのマスカレイドドーパント、九頭英生その人であった。
 九頭はまるで初対面ですと言わんばかりに、2人に向かって丁寧に頭を下げた。しかしその首には、明らかにガイアメモリのコネクターが刻まれていた。
 彼が去った後で、徹とリンカは顔を見合わせた。

「…何だか、馬鹿にされてる気がするな」

「同感です」

「だが…ここで打って出るのは、明らかに向こうの思う壺だろうな」

「ええ。付け入る隙があるとすれば…」

 リンカは、九頭が出ていった扉を睨みながら、言った。

「朝塚芳花が、この塾の正体について知ったきっかけ…誰が彼女に、ここで行われていることを教えたのか」



「…知りたいですか?」



「!?」



249 ◆iOyZuzKYAc2019/08/08(木) 20:21:48.46JTTnaW1h0 (3/5)

 振り返ると、そこには先程出てきた、友長と呼ばれた白衣の女が立っていた。

「あなたは…」

「塾の専属医…まあ、学校医の、友長真澄といいます」

 不思議な女だった。美人であることに変わりはないが、視界に入る度に少女のようにも、老婆のようにも映る。白衣の上からでも分かる、大きな胸が目立った。

「…わたしは、蜜屋先生のやり方に疑問を抱いています」

「この塾に勤めておられる、あなたが?」

「ええ。…見ていただいた方が早いでしょう」

 そう言うと彼女は、2人を先導してエレベーターに乗り込んだ。そこで何やら、階層のボタンを数度押すと、エレベーターが音もなく下へ向かって進み始めた。

「地下…?」

「隠された部屋です。あの2人は、医務室へ連れて行くと言われましたが、実際に向かったのはこの先です」

 エレベーターのドアが開く。目の前に現れたのは、冷たい金属の扉。
 友長はそっとノブに手をかけると、静かに回し、細く扉を開けた。

「どうぞ、ご覧ください」

 徹は、隙間からそっと中を覗いた。
 そこにいたのは、先程喧嘩していた2人の少年と、一人の男。

「あれは…」

「…蜜屋の秘書、と思われます。以前にもお会いしたことがあります」

 リンカが覗いて言った。それから何か言おうとして、はっと息を呑んだ。

「あれは…ガイアメモリ!?」

「何だと?」

 身を寄せ合って、2人で隙間に目を近づける。
 男は、黙って突っ立っている2人の前で、紺色のガイアメモリを掲げた。目を凝らすと、そこには鉛筆や鞭を組み合わせた意匠で『T』と書かれていた。
 男が、威圧的な口調で何か言う。そして、メモリが自らの名を告げた。



250 ◆iOyZuzKYAc2019/08/08(木) 20:22:17.94JTTnaW1h0 (4/5)




『ティーチャー』





251 ◆iOyZuzKYAc2019/08/08(木) 20:23:18.60JTTnaW1h0 (5/5)

『Sの秘密/愛を育む巣』完

今夜はここまで

しばらくは更に更新頻度が落ちそう


252以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/08/08(木) 20:38:44.74VYAvH3Vt0 (1/1)

おつ


253 ◆iOyZuzKYAc2019/08/10(土) 08:45:29.57kUSbn9bv0 (1/3)

 男が腹にメモリを刺すと、その体を灰色のコンクリートめいた液体が覆った。それは見る見る内に四角い構造を成し、やがて一棟の小さな校舎を形作った。時計から、不気味な鐘の音が響き……2人の少年が、消えた。

「!? おい、何をした!?」

 思わず、徹はドアを開け、部屋の中に飛び込んだ。

「徹! 危ない…」

「なっ、これは…うわあぁぁっ!?」

 校舎の下部、玄関と思しき扉が開き、徹の体がその中へと吸い込まれていく。リンカは咄嗟に後を追い、彼の手を掴もうとした。ところが

「…ああ、見つけてしまったのね」

「!」

 振り返ると、そこいたのは蜜屋志羽子。冷たい目でリンカを睨んでいる。
 校舎の中へ消えていく徹を尻目に、蜜屋は言った。

「あなたがこの塾を嗅ぎ回っていることは、最初から分かっていたわ。決定的な証拠を掴まない間は好きにさせてあげようと思ってたけど、見つけてしまったなら仕方ない」

「…」

 入ってきた扉の向こうに注意を向ける。いつの間にか、友長の姿が消えている。

「偽りです。貴女は最初から私たちをここにおびき寄せた上で、秘密裏に始末するつもりだった」

「いいえ? ここが見つかるのは、本当に想定外よ。…全く。あなたが私の生徒なら、どれほど優秀な働き蜂になれたでしょうね」

「お断りします」

 鞄からXマグナムを抜き、構える。が

「ふんっ」

 蜜屋が、何かをリンカに向かって投げた。それは凄まじい速度で銃身を直撃し、彼女の手からはたき落としてしまった。
 ブーメランめいて戻ってきた物体を掴むと、蜜屋は目の前に掲げた。



『クイーンビー』






254 ◆iOyZuzKYAc2019/08/10(土) 08:46:23.17kUSbn9bv0 (2/3)




『トゥルース』



 リンカは黄金のメモリを取り出すと…手裏剣のように、蜜屋に向かって投げつけた。

「!」

 蜜屋も、メモリを投げる。空中でぶつかり合った2本の小匣は、それぞれの持ち主の元へ戻ると、方やガイアドライバー、方や後頭部のコネクターに、吸い込まれるように収まった。
 爆風が部屋を薙いだ。次の瞬間、そこには殺人蜂の女王と、真実の女神が、陽炎を纏って向かい合っていた。

「やはり、蜂の首魁は貴女でしたか」

「ええ。…この姿は、2度めね」

 言いながら女王蜂は、虹色の翅を震わせた。すると壁に六角形の穴がいくつも開き、中からヤンクめいた服装の若者たちが一斉に飛び出してきた。

「さあ、私の優秀な生徒たち。…この邪魔者を、喰い殺しておしまい」

「はい、先生!!」ホーネット!



ホーネット



 ホーネット ホーネット 


ホーネットホーネットホーネット    ホーネット
     ホーネット          ホーネットホーネット   ホーネット ホーネット ホーネット
                    ホーネット ホーネットホーネットホーネット  ホーネットホーネット ホーネット    ホーネット      ホーネットホーネット        ホーネット
ホーネットホーネット  ホーネット ホーネット
ホーネットホーネットホーネット ホーネットホーネット   ホーネットホーネットホーネットホーネットホーネット



 スズメバチの大群が、部屋を埋め尽くす。彼らは牙や爪、巨大な棘を剥き出し…一斉に、リンカに襲いかかった。


255 ◆iOyZuzKYAc2019/08/10(土) 16:07:39.24kUSbn9bv0 (3/3)




「ここは…?」

 気が付くと、徹は学校の教室に立っていた。広い部屋に、2つだけぽつんと置かれた机と椅子には、先程の2人の少年が座って教壇を見つめている。教壇に立っているのは、ティーチャードーパントに変身したはずの、蜜屋の秘書だった。

「授業を始めます」

 男が言うと、黒板にずらずらとチョークで書かれたような白い文字が流れ始めた。

「あなた方は蜜屋先生の生徒です。生徒としての役割を果たしなさい。互いに争うことは許しません」

「な、何だこれは…?」

 ロボットのように抑揚のない声で、ひたすら喋り続ける男。それを黙って聞く少年たち。黒板には、文字に混じって蜜屋の顔写真やホーネットメモリの画像が流れ始めた。

「人は一人では生きていけない存在です。蜜屋先生を信じなさい。蜜屋先生に従いなさい。それが全ての始まりです」

「おい…何を言ってるんだ!」

 徹は声を上げた。しかし、誰一人として反応しない。

「より多く、ガイアメモリを広げなさい。…より多く、『お母様』の賛同者を増やしなさい」

「!!」

 徹は、ドライバーとメモリを取り出した。

「ここで、子供たちを洗脳しているってわけか…変身!」ファンタジー!

 その時、男が初めて徹の方を見た。

「そこのあなた! 校則違反です! この神聖な教室では、何人も生徒や教師を傷付けることは許しません!」

「校則違反」「校則違反です」ホーネット

 2人の少年が椅子から立ち上がり、振り返った。虚ろな目で徹を見ると、各々黄色いガイアメモリを抜き、手首に刺した。

『上等だ。こんな歪んだ教室……』

 ファンタジーは剣を構えた。

『…俺が、ぶっ壊してやる!』


256 ◆iOyZuzKYAc2019/08/11(日) 16:51:45.67dBkOTmV10 (1/11)




 トゥルースドーパントが、エジプト十字の杖を振りかざすと、スズメバチたちの動きが止まった。

「なにっ…」「ぐっ」「うあぁっ…!?」

「人の身で虫などに身をやつし。ただ一人の人間に盲目的に従い。組めぬ徒党を組んで、歪みを広げる。貴方たちの在り方は……偽りです」

 杖を振るうと、ドーパントたちがその場に膝を突き、崩れ落ちていく。しかしよく見ると、その程度には差があった。変身が解除される者もいれば、歩みが遅くなった程度の者もいる。
 そしてその中に、明らかに影響を受けていない、2匹の蜂がいた。

「小崎君、速水さん」

「はい」「はい。先生」

 女王蜂の号令で、2人は前に進むと……変身を解除し、それぞれ、別のガイアメモリを掲げた。



『バンブルビー』『ロングホーン』



 小崎が左肩に、速水が右脇腹に、新たなメモリを打ち込むと、彼らの姿はそれぞれ熊蜂と、カミキリムシの怪人へと変化した。

「真実。偽り。それを決めるのは、何? ……所詮は、メモリとの適合率の問題。簡単なことだわ」

 熊蜂が、太い腕で殴りかかってきた。それを杖で受け止めると、女神は片方の翼を広げ、鋭い羽をカミキリムシに向けて放った。

「っ、くっ、うっ」

 外骨格で羽を弾きながら、カミキリムシも女神に肉薄し、そして鋭い牙を剥き出した。大きく開かれた顎に向けて、女神が金の光弾を放つ。

「ああっ!?」

「ぐはっ…」

 突き出した杖が、熊蜂の腹を抉る。
 崩れ落ちた2体を蹴り飛ばすと、女神は女王蜂を睨んだ。

「人は。……蜂でも、甲虫でもない。彼らのこの姿は、どうしようもなく偽りです」

「こ、の…っ!」

 怒りに唸りながら、遂に女王蜂が翅を広げ、襲いかかってきた。


257 ◆iOyZuzKYAc2019/08/11(日) 17:31:23.89dBkOTmV10 (2/11)




「せぇいっ!」

「ふんっ!」

 剣と爪がぶつかり合う。机を切り裂き、椅子を蹴散らしながら、ファンタジーは2匹のスズメバチと戦いを繰り広げていた。その後ろでは、相変わらず蜜屋の秘書が、黒板の前で絶えず洗脳の言葉を紡いでいる。

「蜜屋先生は絶対です。蜜屋先生を信じなさい。皆さんは優秀な生徒です。必ず、先生のご期待に応えなさい。…」

「こ、の…!」

 ファンタジーは手元に短剣を出現させると、男に向かって投げつけた。無論、直接刺さらないようにだ。
 鋭い刃が、すぐ耳元を掠めたと言うのに、男は一切怯まない。

「蜜屋先生の教えを広めるのです! ガイアメモリと、皆さんの努力で…」

「クソっ!」

 剣を片方のドーパントに突き立て、もう片方を拳で殴り倒した。

「ぐわっ!」

「倒しても倒しても…」

「くっ、そっ!」

 男の声が響く教室で、2人の生徒は何度倒されても、諦めずに立ち上がってくる。その動きに、疲労が見えない。

「キリがない…」

 剣を収めると、魔術師の姿になった。かざした手から炎が噴き出し、ドーパントを襲う。

「うわあぁっ!」

「お前もだっ!」

 殺しは論外だが、黙らせなければ。魔法陣から緑色の霧が噴き出して、男の顔を覆った。

「蜜屋先生は…っ! げほっ、がっ…!?」

「お前たちの教えは、確かに活かされてるぞ。…この、ワサビ攻撃にな!!」


258 ◆iOyZuzKYAc2019/08/11(日) 22:13:52.36dBkOTmV10 (3/11)

 蜂たちの動きが鈍る。その隙に、メモリをスロットルに挿し込んだ。

『これで…』ファンタジー! マキシマムドライブ

『…終わりだ! ファンタジー・イマジナリソード!』

「ああああっっ!!」「ぐわああぁぁっ!」

 白い閃光が、2体のドーパントを切り裂く。スズメバチのメモリが破壊され、人間に戻った生徒たちは、ふっと教室から消え去った。

『よし、後はこの教師をどうにかすれば…』

 ところが、次の瞬間



「…仮面ライダー!」「見つけたぞ!」「わ、私が倒す…」「いや、俺だ!」



『何っ!?』

 教室に、新たにホーネットドーパントが、大量に出現したのだ。特に、ファンタジーの近くに出現したドーパントは、翅を広げてその場に浮かび上がると、尻から突き出した巨大な針を、ファンタジーに向けた。

「この教室が、あなたの墓場です! さあ、生徒たち!」

「はい!」

 男の号令で、スズメバチたちが一斉に襲いかかってきた。



 鋭い棘と、七色の翅が空中でぶつかり合う。時折介入してくる、バンブルビーとロングホーンをいなしながら、トゥルースドーパントはクイーンビーと射撃戦を繰り広げる。
 腕から棘を飛ばしながら、クイーンビーが叫んだ。

「あなたたち! ここで寝ているくらいなら、教室に加勢なさい!」

「! は、い…」

 トゥルースドーパントによって力を抑えられていたホーネットたちが、ゆっくりと起き上がる。

「仮面ライダーを倒しなさい。…活躍した生徒には、褒美を与えるわ」

「!!」

 女王蜂の言葉に、弱っていたはずの蜂たちが我先にと、ミニチュアの校舎に飛び込んでいく。

「! メモコーン、早く来て…」



259 ◆iOyZuzKYAc2019/08/11(日) 22:17:17.10dBkOTmV10 (4/11)

「あなたの相手は、この私よ」

 手首から、巨大な針を伸ばして殴りかかる。間一髪で躱すと、杖で殴り返した。打撃を肩の装甲で受けると、そこに蜂の巣めいて六角形の穴が空いた。

「…!」

 咄嗟に翼を広げ、体を庇う。そこへ、白い弾丸が直撃した。

「っ、流石に手強い…」

「思ったほどでは無いのね。…さあ」

「はい」

 バンブルビーとロングホーンが、背中から彼女に致命傷を与えんと、腕を振り上げた。次の瞬間

「…っ!?」「痛っ!」

 歌うようないななき。銀の一角獣が何処からともなく飛び出し、2体のドーパントに体当たりを見舞った。

「! メモコーン、徹を助けて…」

 ところがメモコーンは校舎に目もくれず、今度は女王蜂に突撃した。

「メモコーン! 私のことは良いから…」

「っ、うっとおしい…!」

 跳び回る一角獣を捕らえると、クイーンビーは床に叩きつけて踏みつけた。そのまま、トゥルースドーパントを複眼で睨んだ。

「…キリが無いわね。どう、リンカさん? この際、あの頼りない仮面ライダーなんて捨てて、私たちの所に来ない?」

「…」

「あなたが単純な正義のために動いているわけじゃないことは、何となく察してるわ。どうせ、あの男とは一時的な協力関係…或いは、あなたが一方的に利用しているのでなくて?」

 手首の針を、鼻先に向ける。

「…場合によっては、私たちの方があなたの助けになるかも」

「…魅力的な申し出ですが」

 女神は、言った。

「ええ。物分りが良いのはとても」

「今は、ご自身の背後を気にするべきかと」

「!?」

 咄嗟に振り返る女王蜂。



260 ◆iOyZuzKYAc2019/08/11(日) 22:53:11.55dBkOTmV10 (5/11)

 そこには、一人の少年がいた。

「お、お前が…お前が」

「…朝塚君。今更、何の用」

「お前が、母さんを!!!」

 少年…朝塚ユウダイは、泣きながら一本のガイアメモリを、両手で捧げ持った。
 奇妙なメモリであった。プロトタイプらしく剥き出しの基盤に端子しか付いていないのだが、基盤には白いテープが乱雑に巻かれていて、油性マジックらしき線で『X』と書かれていた。

「! どうしてそれを」

「ああああああああっっっ!!!!!」

 絶叫しながら彼は、そのメモリを喉に突き立てた。そのまま、クイーンビー…蜜屋志羽子に向かって、突進した。

「落ちこぼれが…ッッッ!?」

 棘を剥き出し、迎え撃とうとしたその体が、壁まで弾き飛ばされた。
 ユウダイは止まらず、ティーチャードーパントの所まで走り、そのまま小さな校舎に吸い込まれていった。


261 ◆iOyZuzKYAc2019/08/11(日) 22:53:53.82dBkOTmV10 (6/11)




『ぐっ…く、うぅっ…』

 震える手で剣を握り、肩で息をするファンタジー。片手で覆った脇腹には、巨大な棘が深々と突き刺さっている。

「あと一回だ! 誰か!」

 彼に棘を見舞った少年が、仲間たちに叫んだ。彼自身は針を刺した瞬間、人間に戻ってしまった。一度使うと、ドーパント態を保てなくなるのかもしれない。
 スズメバチの針なのだから、効果も察するというものだ。先程からファンタジーは、全身に強い痺れを感じていた。しかし、こんなものは序の口だ。真に恐ろしいのは、2発目…一度毒を受けた体が、二度目に同じ毒を受けた時…その時は、間違いなく命は無いだろう。

「俺だ!」「私よ!」「どけっ、ここは…」

 せめてもの救いは、手柄を焦るあまりホーネットたちが押し合いへし合いして、中々ファンタジーに辿り着けずにいることだ。

『はあっ…はあっ…やあっ!』

 すり抜けてきた1人を切り伏せる。しかし、次は無さそうだ。彼の手から、剣が落ちた。
 メモコーン…クエストのメモリがあれば、毒を解除できるかも知れない。だが…

『…ったく、肝心の時に役に立たねえ!!』

 更にすり抜けてきた1人が突き出した、尻の棘を、ぎりぎりのところで掴んで止めた。そのまま床に投げつけると、とうとう彼は床に膝を突いた。せめて盾をと念じるが、具現化する力も残っていない。

『はぁっ…ここまで…なのか…っ!?』

 死を覚悟した、その時



「うあああああああっっ!!!」



『!?』

 突然、教室に誰かの叫び声が響き渡った。と思うや、部屋の中心に1人の少年が現れた。

『また加勢か…』

 ところがその少年は、ファンタジーではなく、教壇に立つ男に向かって一直線に突っ込んでいった。

「よくも! よくも母さんを! 母さんを、返せえええぇぇぇx!!!!」

「! ガキが…!」

 苛立った顔で、少年をあしらおうとする男。ところが、存外に少年の力が強い。
 ここに至って、ファンタジーは少年が何者なのか気付いた。

『ユウダイ君!? どうしてここに…』

「母さんを! 良くも!」

 男のスーツを掴み、殴りつけるユウダイ。

「劣等生め、ここで死ね!」

「ぐあぁっ…!」

 男が手をかざすと、コンクリートめいた液体が湧き出し、ユウダイの顔を覆った。気道を塞がれてもなお彼はもがいた。だが、それも長くは続かず、ユウダイは男の足元に崩れ落ちた。



262 ◆iOyZuzKYAc2019/08/11(日) 23:06:23.48dBkOTmV10 (7/11)

「ふん、クズめ……っ!?」

 そこまで言って、突然彼の顔に狼狽が浮かんだ。

「しまっ…」

 次の瞬間、教室の空気が歪んだ。

『なっ、何が』

 床が揺れ、壁がひび割れ、机や椅子が溶けて無くなっていく。
 やがて…満身創痍のファンタジーは、元いた地下室に、大勢のホーネットドーパント、そして動かなくなった朝塚ユウダイと共に戻ってきた。

『はあっ…も、戻ってきた…?』

「徹!」

『!』

 呼びかける声に、はっと顔を上げる。そこにいたのは、女王蜂のドーパントと対峙する、黄金の女神。
 彼のもとに、小さな一角獣が駆け寄ってきた。

『遅いんだよ、お前はよ…!』クエスト!

 赤いメモリを装填すると、ファンタジーの姿は白いローブに赤い装飾を纏った魔術師に変わった。同時に、体を蝕む毒も消え、彼はすっくと立ち上がった。

『もう許さねえ! 母親だけじゃなく、息子まで…』クエスト! マキシマムドライブ

 ファンタジーの体を、白いマントが包み込んでいく。

「…チッ」

 女王蜂は舌打ちすると、翅を震わせて部屋から逃げ出した。後を追って、生徒たちも部屋を出ていく。
 それらを追うことはせず、巨大なグリフォンと化した仮面ライダーは、天井を突き破って宙へ舞い上がった。

『クエスト…ラストアンサー!!』

 急転直下、銀の矢が、ミニチュアの校舎を打ち砕く。

「ぐ、うっ」

 ぼろぼろに崩れ落ちた校舎の中で、男が倒れる。その体から紺色のメモリが吐き出され、そして砕け散った。



263 ◆iOyZuzKYAc2019/08/11(日) 23:06:50.35dBkOTmV10 (8/11)

「…ユウダイ君!!」

 変身を解除すると、徹はユウダイの体を抱き起こした。

「…ユウダイ君…おい、しっかりしろ!」

 しかし、彼は動かない。息をしていない。……心臓が、動いていない。

「そんな…」

「警察を呼びましょう」

 同じく変身を解除したリンカが、冷静に言った。

「この塾はクロだと証明できました。ティーチャードーパントの変身者が逃げない内に」

「…ああ」



 植木警部に連絡し、超常犯罪捜査課が到着し、捜査が始まり……その、どこかのタイミングで。
 朝塚ユウダイの遺体は、まるで蜃気楼か何かのように、忽然と姿を消したのであった。


264 ◆iOyZuzKYAc2019/08/11(日) 23:22:00.66dBkOTmV10 (9/11)




 大聖堂。白いヴェールの向こうには、2つの人影が蠢いていた。

「あぁ…母さん…母さん…」

”可哀想なユウダイ…愛しい子”

 祭壇に仰向けに横たわる、白い女。その上に、裸の少年が寝そべって、泣きながらその胸にしがみついている。

”もう、心配いりません。あなたは一度死んで、母の胎から生まれました。これで、身も心も、母の子…”

「母さん……『お母様』…」

”ふふふ…そうですよ、ユウダイ…さあ、生まれたてのあなたには、母のお乳が必要です…たんと召し上がれ…”

「お母、様…」

 うわ言のように言いながら、彼は顔を上げ、女の胸に吸い付いた。

”んっ…ぁ…”



「…」

 ヴェールの外から、それを不機嫌そうにミヅキは見つめていた。



「んっ、んっ、んくっ…お母様、もっと…」

”ええ。もっと、好きなだけ…”



「…」

 悩ましげな声に浮かされるように、無意識にスカートの中に手を伸ばす。

「…っ」

 苛立ち。焦燥。そして、嫉妬。凡そ不愉快極まりない感情を快感で塗り潰すように、彼女は自らの秘部を乱暴に弄ったのであった。


265 ◆iOyZuzKYAc2019/08/11(日) 23:22:49.40dBkOTmV10 (10/11)

『Sの秘密/働き蜂の先生』完

今夜はここまで


266 ◆iOyZuzKYAc2019/08/11(日) 23:35:43.23dBkOTmV10 (11/11)

『ティーチャードーパント』

 『教師』の記憶を内包するガイアメモリで、朝塚志羽子の秘書が変身するドーパント。変身すると全身がコンクリートめいた物体に覆われ、全高2m弱の小さな校舎のような姿となる。その玄関に当たる穴から範囲内の人間を吸い込み、内部に創られた『教室』に閉じ込めることができる。そこでは変身者を『教師』、吸い込まれた人間を『生徒』として、『授業』という名の洗脳が行われる。また、教室内では変身者が予め定めておいた『校則』に縛られ、それに違反するとそこにいる全ての人間が違反者を排除しにかかる。ただし変身者も校則に縛られ、万が一変身者が違反した場合は教室が崩壊し、中にいる人間は全員元の場所に強制的に戻される。なお、上記は全てドーパント内部のことであり、ドーパント自身の肉体は文字通り校舎となるため一切の身動きがとれない。そのためティーチャードーパントが十全の力を発揮するには、外で体を護衛する者が必要。
 蜜屋は自身の生徒の中から見込みのある者をこのドーパントに洗脳させ、自身の手下としていた。仲間割れを起こした手下の再洗脳を命じられた秘書であったが、生徒と一緒に力野徹まで吸収してしまう。洗脳を止めさせようと変身する彼を、校則違反として排除しようとしたのはよかったものの、途中で同じ生徒である朝塚ユウダイの妨害に遭う。彼は怒りに任せてユウダイを殺害するが、そのせいで『何人も教師と生徒を傷付けてはならない』という校則に自ら違反することとなってしまい、教室は崩壊した。
 メモリの色は紺。鞭(ウィップではなくケインの方)と鉛筆を組み合わせた意匠で『T』と書かれている。



>>206をアレンジして採用させていただきました。ありがとうございました!


267 ◆iOyZuzKYAc2019/08/12(月) 00:05:46.41pLVSCbM/0 (1/11)

『バンブルビードーパント』

 『熊蜂』の記憶を内包するガイアメモリで、愛巣会の生徒小崎善貴が変身するドーパント。ホーネットに比べてマッシブな体つきで、パワフルな肉弾戦が得意。その反面、飛行能力はほぼ無く、動きもやや鈍重。
 メモリの色は焦茶。蜂の片羽を象った『B』の字が書かれている。



『ロングホーンドーパント』

 『カミキリムシ』の記憶を内包するガイアメモリで、愛巣会の生徒速水かなえが変身するドーパント。硬い外殻に鋭い牙を持ち、長い触覚で相手の気配を察知することにも長けている。ミュージアム崩壊後に造られた、新造のガイアメモリ。
 メモリの色は赤。長い触覚を直角に広げた、カミキリムシの頭部が『L』に見える。ちなみに、カミキリムシの中でもこのドーパントはクビアカツヤカミキリに似ている。


268 ◆iOyZuzKYAc2019/08/12(月) 00:19:52.36pLVSCbM/0 (2/11)

『クイーンビードーパント』

 『女王蜂』の記憶を内包するガイアメモリで、教育評論家の蜜屋志羽子が変身するドーパント。女性的な蜂の体を素体に、虹色の翅、巨大な複眼、琥珀めいた装飾、蜂の巣を象った六角形の装甲と、随所に高貴な意匠が施されている。ホーネットドーパントと違い飛行時間に制限が無いだけでなく、一度使用すると変身を解除される毒針も、腕から無限に撃つことができる。また、肩の装甲からロケットランチャーめいて白い弾丸を放つことも可能。しかしこのメモリの真価は『虫たちの女王』であることで、このメモリ自体がビーやホーネット、バンブルビーといった蜂系のドーパントを操る能力を持っている。加えて適合率の高い蜜屋は、蜂だけでなく昆虫全般のドーパントをも操ることができる。
 シルバーメモリとゴールドメモリの中間に位置する、幹部級を除けば最高級のメモリで、ミュージアム下で2本しか製造されなかった特注品。1本を禅空寺朝美が、そしてもう1本を蜜屋志羽子が所持していた。つまり、ミュージアム崩壊前から彼女はガイアメモリの使用者であった。その上で彼女は、自身の生徒に量産型のホーネットメモリを持たせることで、操作、洗脳の足がかりとしていたのだ。
 メモリの色は黄色と黒の縞模様。円形のハニカムの縁に、一匹の蜂が佇む画を『Q』と読ませる。


269 ◆iOyZuzKYAc2019/08/12(月) 00:36:47.16pLVSCbM/0 (3/11)

『トゥルースドーパント』

 『真実』の記憶を内包するガイアメモリで、財団Xのエージェント、円城寺リンカが変身するドーパント。白地に藍色の隈取の施された仮面に、白い羽の刺さった黄金の冠を被り、金糸で刺繍された白の長衣の上から、黄金と宝石の装飾をいくつも纏っている。その手にはエジプト十字、すなわち生命を意味するアンクを象った杖を持ち、背中からは七色の羽の生えた翼が伸びている。モチーフは、その羽が罪の重さを量る分銅となる、エジプト神話における真実の女神マァト。金色の光弾や、鋭い羽を飛ばす攻撃は、並のドーパントなら瞬殺できるほど強力。しかしこのメモリの本質はそこではなく、『真実を量る』こと。特にドーパントに対しては、適合率が低かったり、元の姿や性質からかけ離れているほどにメモリの力が強く作用し、程度によってはそれだけでメモリブレイクできることもある。
 元はミュージアムにて製造されたゴールドメモリ、すなわち園咲家の人間やその関係者にのみ使用を許された、極めて強力なメモリ。ミュージアム崩壊後、旧園咲邸を家宅捜索した際にリンカが発見し、そのままガイアドライバーごと所有することになった。しかし、もしミュージアムが崩壊していなければ、このメモリを使用する人間が、いずれ園咲家に誕生する予定だったのかもしれない。
 メモリの色は当然金。天秤を象った『T』の字が書かれている。







 ……余談だが、白の長衣はほとんどシースルーで、宝石の襟や細い前垂れ付きベルトで局部をかろうじて隠しているため、肌の露出が少ないくせにタブードーパントよりもエロいと一部ではもっぱらの評判である


270以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/08/12(月) 07:39:55.38bBuA2EZs0 (1/1)

ジオウを見たら思いついたので投稿

パラレルワールドメモリ
『平行世界』の記憶を有したガイアメモリ
ガイアメモリが地球の記憶を力としている特性上、『平行世界』の記憶であるこのメモリは殆ど力を持っておらず(マスカレイド以下)、そのくせ無駄にメモリのランクは高い(幹部級)という散々なものだった。そのため鑑賞用のメモリと揶揄されていた。
しかし、どこぞの『通りすがり』が『ガイアメモリを持つもの』及び『地球の本棚にアクセスできるもの』に接触したことにより、地球が『平行世界』の記憶を獲得してしまい、爆発的に力が増加してしまった。
使用したものがいない(使用したものがいない)ためその力は未知数だが、下手をしたら世界の創造ができるかも…?


271以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/08/12(月) 10:31:31.74ZP9VzrMTO (1/1)

カートゥーン・ドーパント

「2次元」の記憶を内包するメモリを使用し変身したドーパント
変身した者にマンガやアニメ表現の様な能力を与え、異様な程に誇張化した仮面ライダーの様な姿へと変える
具体的には身体を粘土の様に曲げて攻撃を避けたり、明らかに死ぬダメージを受けても即時復活する。所謂トゥーンだから無敵デース理論
また、他者を2次元に拐う能力を持ち、拐えば拐うほど自己の世界観はより強固なものとなり、能力も強化される
当然と言えば当然だが、使用し続けると現実と2次元の境が曖昧になり意識が2次元に取り残されたままとなってしまう
「真実」のメモリとは真実を上書きしてしまうランクをも越えた抜群の相性だが
世界観の衝突が起こりうる「空想」のメモリとの相性は、天敵中の天敵。最悪と言っても過言ではない

相性の下りは追い詰められたリンカを徹が助けるシチュが見たいなと思っていれただけなので、もし不要なら削除しておいてください


272 ◆iOyZuzKYAc2019/08/12(月) 12:05:09.28pLVSCbM/0 (4/11)

「徹」

「どうした?」

 北風署から帰る道すがら、おもむろにリンカが口を開いた。
 蜜屋の秘書は逮捕され、愛巣会には捜査の手が入った。地下室からは大量のガイアメモリが押収され、塾がこの町でのガイアメモリ犯罪の中心にあったことは確実になった。しかし、蜜屋と彼女の生徒の一部は、その場から失踪し、その行方は分かっていない。残った生徒は皆、ガイアメモリについては何も知らされていなかった。

「今までの…そして今回の事象から、今後のために一つの提案があります」

「おう、何だ?」

「徹。…私と、性交渉をしてください」

「…」

 徹は、ぴたりと立ち止まって彼女を見た。彼女は、あくまで無表情に彼を見返した。

「…悪い、よく聞こえなかった」

「私と性交渉、セックスをしてください」

「まっ…」

 さっと周囲を見回す。幸い、2人の会話を聞く者は、その場には見当たらない。
 彼はリンカの手を掴むと、偶然その場にあった喫茶店に引っ張り込んだ。

「…あの、このような公共の場では、流石に」

「ここでする無いだろ!」

 用意するのに時間がかかりそうなドリップコーヒーを注文し、一番奥の席に向かい合って座ると、徹は声を潜めて問うた。

「…その。一つ聞かせてくれ。それは…何でだ?」

「メモコーンの挙動が原因です」

「メモコーンの? …あ」



273 ◆iOyZuzKYAc2019/08/12(月) 12:05:40.82pLVSCbM/0 (5/11)

 徹は、すぐに思い至った。リンカが説明する。

「本来、セイバーメモリにもクエストメモリにも、自律行動するライブモードの想定はされていません。2つのメモリと、前に財団が入手したユニコーンメモリを部品に作られたのが、メモコーンです」

「ふむ」

「ライブモードの有用性は、風都の仮面ライダーで実証済みです。実際、メモコーンも有事の際には戦力としても役立ちました。が…」

「ユニコーン特有の、アレだな?」

「ええ。神話において一角獣は、高い戦闘力を持ち、また毒を浄化する力もあります。ですが、それと同時に、処女に懐くという性質もあります。彼は作られた目的の通り、窮地において私たちをサポートしてくれますが……これまでの挙動を見るに、明らかに優先順位があります」

「確かに…」

 アイドルドーパントと対峙した時。ティーチャードーパントに吸収された時。ピンチにも関わらずメモコーンが助けに来なかった。そんな時は、決まってリンカもピンチに陥っているときだった。

「メモコーンは、当然ガイアメモリとしてドライバーに装填されなければ、本領を発揮しません。私を優先したがために共倒れになるのは、避けなければならない。ならば、私を優先しないようにするしかありません。ですので、私の処女を、貴方に」

「わ、分かった分かった!」

 徹は慌てて彼女の言葉を止めた。店員が、コーヒーを持って近付いていたからだ。
 カップを置いて店員が去っていくのを確認すると、徹は長い息を吐いた。

「…言いたいことは分かった。だが…考えさせてくれ」

「なるべく短めにお願いします」

「あんた…」

 徹は、苦々しく彼女を見た。

「嫌じゃないのかよ、初めての相手が俺とか……それに、そんな格好してるんだから、てっきりそういうのが嫌いなのかと思ってた」

 リンカは美人だが、女性的とはとても言い難い。細身の白いパンツスーツスタイルで、黒い髪を後ろに撫で付けた姿は、寧ろ男装の麗人と言った風貌だ。

「生まれ持った肉体の形状から、女性的な部分を強調するより、男性的に振る舞ったほうが任務に有用だと判断しただけです。ですが、相手については…」

 彼女はふと口を閉じると、黙って天井を向き、机を見つめ、それから指先を見て…やがて、ぽつりと言った。

「…いえ。何度思考し直しても、貴方以外に相手が浮かびませんでした」

「…そ、そうか」

 そう言われると、急にドキドキしてきた。今までの人生に色恋沙汰が無かったわけでは無いのだが、このように今まで共闘してきた相手との関係性が、劇的に変わるかもしれないと言うのは、中々にスリリングな、心躍るような気分であった。改めて見ると、無表情で無愛想な彼女の顔が、急に輝いて見えた。

「もしかして、誰か操を立てる相手が?」

「えっ? いや、そんなのは」

「…兎ノ原美月、ですか」

「!? いやいやいや、そんなわけ…」

 慌てて否定しようとした、その時、通りから悲鳴が聞こえてきた。

「! 落ち着いて考える暇も無いってか。要は、あんたがピンチにならなきゃ良いんだろ? 取り敢えず、そこに隠れてろ!」

 ドライバーとメモリを取り出すと、徹は喫茶店を飛び出した。