1 ◆YySYGxxFkU2019/06/30(日) 23:47:41.31TTVCF0vB0 (1/14)


この話はクラスメイト丸ごと異世界召喚された主人公の高校生『男』が元の世界に戻るために奮闘する冒険ファンタジー時々ラブコメな話です。



以下、物語序盤の簡単な流れ。

クラスメイト全員と異世界に召喚された男

召喚された際に全員不思議な力を授かっていて、男はその中でも特異な魅了スキルを授かっていた

そのスキルを誤って発動させるとクラスメイトの『女』とその親友『女友』が虜になる

しかし男は恋愛がトラウマになるような過去を持っており、二人に迫られるその状況から逃げ出してしまう

逃げ出した先に現れたのはクラスメイトの『イケメン』。イケメンは魅了スキルを持った男を、女性を支配出来る道具として見ており、力でもって男を屈服させようとする

抵抗も出来ず男が諦めかけたそのとき女が助けに入る。その身に授かった力でイケメンを退ける。

男は助けてもらった恩として、女の求めに応じパーティーを組むことを了承。女友も加えて三人で元の世界に戻るため異世界での冒険が始まった。



と、大体こんな感じです。
気になった方は下の1スレ目から読んでください。このスレは3スレ目です。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1541083316/


この作品は『小説家になろう』でも投稿しています。なろう版はこちらです。
http://ncode.syosetu.com/n3495fc/



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1561906061



2 ◆YySYGxxFkU2019/06/30(日) 23:50:07.44TTVCF0vB0 (2/14)


ここからは既に読んでいる方向けの振り返り用の人物・キーワード紹介です。
紹介文は全て現時点、五章途中時点での内容です。


帰還派……元の世界に戻るため宝玉を集めるクラスメイトたち。古参商会がバックアップしている。


この作品の主人公。どんな異性も虜にして命令に従わせる魅了スキルを持つ(条件あり)恋愛アンチだが、徐々に改善されている様子も見られている。


この作品のヒロイン兼第二主人公。その身に授かった竜闘士の力は、比類する者がほとんどいない強さである。
男のことが異世界に来る前から好きなため、魅了スキルの条件により虜にならなかったが、それを明かすと好きであることがバレるため、虜になっているフリをしているというややこしい状況である。

女友
女の親友でパーティーの一員。魔導士であり、様々な魔法を使える。
女の事情を全て分かっておりからかったりアシストしたりする役得かと思えば、放っておくとすぐに悩みを抱える二人のサポートに忙しく実は苦労人である。

気弱
4章武闘大会で出会ったクラスメイトの少年。騎士の職を持つ。
気が弱いがやるときはやる。姉御に想いを伝えて現在ではカップルに。志を新たにして元の世界に戻るために奮闘している。

姉御
4章武闘大会で出会ったクラスメイトの少女。職は癒し手。
姉御肌の豪快な少女とみせかけて、乙女な一面も持つ。気弱と付き合ってからはその面が顕著に表れるようになった。




3 ◆YySYGxxFkU2019/06/30(日) 23:51:03.96TTVCF0vB0 (3/14)


駐留派……授かった力でもって異世界で好き勝手して生きていこうというクラスメイトたち。男の魅了スキルを狙う者たちとイケメンに協力するよう囁かれた者たちがいる。
異世界での地盤を確保するため『組織』という犯罪結社の一員になっている。



イケメン
駐留派の中核。男の魅了スキルを手に入れて、女を支配することを狙っている。
職は影使いで普通のクラスメイトとは一線を画する力を持つ。しかし女の竜闘士はその更に上を行くため、対抗するために宝玉を集めて悪魔を呼び出そうとしている。

チャラ男
4章武闘大会で登場、イケメンとは親友。職は盗賊。
面倒なことは御免がモットー。恋愛観も同様のため、付き合ったり別れたりを繰り返している。そこが一人の女に執着するイケメンとは決定的に違う点。

ギャル
イケメンの彼女で心底から惚れているが、当のイケメンは見てくれだけはいいからキープしているという扱い。
『組織』の仕事として以下の三人と共に独裁都市に出張っている。

デブ
クラスメイトの一人。魅了スキルのおこぼれに預かるためイケメンに協力中。

メガネ
クラスメイトの一人。イケメンに騙され協力中。

レズ
クラスメイトの一人。女でありながら女が好きなため、魅了スキルのおこぼれに預かるためイケメンに協力中。




4 ◆YySYGxxFkU2019/06/30(日) 23:52:38.15TTVCF0vB0 (4/14)


復活派……宝玉を使って現在虚無の世界に封印された魔神を蘇らせようとしている。



魔族
太古の昔、魔神と共にこの異世界を滅ぼしかけた一人。魔神が封印された後、元いた世界に戻った他の魔族とは違ってこの世界に一人残った。
種族として固有スキルという他とは一線を画す力をそれぞれ持つ。この魔族が持つのは『変身』で看破することが不可能な隠蔽スキル。
濃い褐色肌で頭には二本の角が付いている女性。



傭兵
先の大戦で英雄的な活躍をしたが、その後行方不明となっていた。武闘大会にてその姿が久しぶりに確認される。
職は竜闘士で、同じ力を持つ女と力は同等。
最終的に世界を滅ぼすつもりの魔族に協力している。
歳30は過ぎたおっさん。

滅んだ故郷、王国との関わり、魔族とどう出会ったのか、などは今後語っていく予定。




5 ◆YySYGxxFkU2019/06/30(日) 23:53:44.59TTVCF0vB0 (5/14)


キーワード



女神
太古の昔、仲間と協力して魔神を封印した一人の女性。魅了スキルの持ち主だった。
その功績から女神教という彼女を称える宗教が存在する。
男たちクラスメイトをこの世界に召喚したその人。



魔神
太古の昔、この世界を滅亡寸前まで追い込んだ存在。そのときの出来事は『災い』と呼ばれている。
現在魔族が復活させようとしている。



世界
男たちが元いた世界、召喚された異世界、その他にも世界とは数多に存在する。



宝玉
世界を渡る力を持つ物質。数を集めることで力が増すという性質から、一カ所にまとめて保管しては危険と、各地の教会の女神像につけられて分散管理されていた。

二つからゲートを開くことが出来るが、繋がる先の世界を指定することが出来ない。
四つで繋がる先の世界にどれだけの力があるのか、繁栄しているのか指定できる。
六つで完全にどの世界に繋がるか指定できる。しかし不安定のためわたれる人間は一人か二人が限度。
八つでゲートが安定して多数の人間でも通れる。
十個で高位存在を呼び出せる。
十二で神も呼び出すことが出来る。



強さ
異世界での強さは職に依存し、大まかな階層がある。

伝説級……女や傭兵の竜闘士が該当。
最強級……女友の魔導士やイケメンの影使いが該当。
達人級……その他クラスメイトが該当。
一般級……異世界の一般人の強さ。

男は戦う力を持っていないためさらにその下となる。




6 ◆YySYGxxFkU2019/06/30(日) 23:54:24.99TTVCF0vB0 (6/14)


というわけで振り返りはここまでです。

ここからは本編、5章独裁都市編の二スレ目からの続きになります。



それではどうぞ。




7 ◆YySYGxxFkU2019/06/30(日) 23:55:03.09TTVCF0vB0 (7/14)


男(現れた事態の元凶とクラスメイト二人)

男(近衛兵長は俺に問いかける)



近衛兵長「竜闘士……手紙によってこの都市を出て行った姿は部下に確認させていた」

近衛兵長「なのにどうしてこの場にいる? 貴様が何かしたのか?」



男「俺がしたことはちょっとした仕掛けだけ。後は全部女の功績だ」



男(手紙に関係なさそうな命令を追加することで、自分の陥った現状を知らせ助けに来れる状況を作ったが)

男(女の助けたいという気持ちが無ければ全部水泡に帰していた)



女「も、もう……そんな照れるよ~」

男(らしくない俺の褒め言葉にこそばゆそうにしている女に)



メガネ「女……あなた本当に変わったわね」

男(メガネは苦々しい面持ちだ)




8 ◆YySYGxxFkU2019/06/30(日) 23:55:44.60TTVCF0vB0 (8/14)


女「変わったってどういうこと?」



メガネ「それも分からないようじゃ重症よ!」

メガネ「どうしてそんな冴えない男に惚れている現状がおかしいと思わないのよ!」



女「……」



メガネ「魅了スキルが全部あなたを狂わせたんだわ!」

メガネ「私が駐留派に入ったのは一番にイケメン様のため、そして二番目はあなたを解放するというその意志に賛同したからよ!」



男(おそらく異世界に来る以前の女と交流があったのだろう)

男(メガネの叫びに、俺は心の中で「さもありなん」と同意する)



男(俺が冴えない男だというディスリは俺自身が認めるし)

男(そんなやつに惚れさせられてる状況を見れば助けようという気持ちは分かるところだ)



男(俺だって魅了スキルが解除出来るなら今すぐにでも解除を………………うん、まあ)




9 ◆YySYGxxFkU2019/06/30(日) 23:56:19.49TTVCF0vB0 (9/14)




女「そうね、私が魅了スキルにかかっているってことを考えればメガネの気持ちも納得出来る」



男(心の中で言い淀んでいると、女は正面からメガネを見据えていた)



女「でもね。それを差し引いて考えても……他人の想いを否定する権利なんて誰にもあるわけが無いのよ!」

メガネ「だからそう思っていること事態が魅了スキルの影響だわ!!」



男(女の主張は納得できる)

男(しかし、俺の魅了スキルはその想いすら変えてしまうため、メガネの主張も否定できない)





女「……ごめんね、メガネ。私が悪いのに心配させて」

女「本当は事情を明かすべきなんだろうけど、今のあなたとは対峙する立場だから……」



男(女が何かぼそっと呟くが聞き取れない。苦渋の表情を見るに自嘲の言葉だろうか)




10 ◆YySYGxxFkU2019/06/30(日) 23:57:18.01TTVCF0vB0 (10/14)




デブ「そんなことより近衛兵長さん! 司祭はどこに行ったか聞いていないか!」

デブ「あの人が警備の誘導をしてわざと穴を作る予定だったはずだ!」

デブ「なのにその仕事を放棄したせいで、部下が想定以上に損耗している!」



男(太った少年が近衛兵長に食ってかかる)



男(その言葉に俺も結婚式始まってからずっと司祭の姿を見ていないことに気付く)

男(同じ陣営なのにこのタイミングで聞く少年からして、俺たちの前には三人一緒に現れたがちょうど合流直後で話す時間が無かったというところだろうか)



男(少年の激しい剣幕も何のその、近衛兵長は涼しい顔して衝撃の言葉を吐いた)




11 ◆YySYGxxFkU2019/06/30(日) 23:57:48.52TTVCF0vB0 (11/14)




近衛兵長「司祭か……やつは死んだぞ」

デブ「……なっ!?」



近衛兵長「正確には私が殺した、だがな」

デブ「ど、どうして……」

近衛兵長「さあな。事情を教えることは契約に含まれていないはずだ」





男「……」

男(独裁都市と『組織』が一枚岩ではないとは思っていた)

男(しかし、近衛兵長が司祭を殺したとなると独裁都市内も一枚岩では無かったようだ)



男(近衛兵長はこれまでに何人も殺しを行ってきた。それが今さら一人増えたところで驚くことはない)

男(だが、どうして司祭を殺したんだ? 付き従っていたのはフリなのか? 裏切るにしてもどうしてこのタイミングで……?)



男(考えても分からないことばかり。そして近衛兵長も説明するつもりは無さそうだ)




12 ◆YySYGxxFkU2019/06/30(日) 23:58:25.05TTVCF0vB0 (12/14)




近衛兵長「竜闘士の乱入は予想外だったが、やるべきことは変わりない」

近衛兵長「姫様、あなたの命を貰い受けます」



姫「ひっ……」

男(近衛兵長の殺気に姫は短く悲鳴をあげて、俺の後ろに隠れる)



男「いや、俺を盾にされても庇いきれないんだが……」

男(おそらく俺ごと貫かれるのがオチだろう)



姫「そ、そう言われましても……!」

男(震える姫が後ろから抱きついてくる。それだけ恐怖を覚えたのだろうが、動きにくい上に……)



女「ねえ男君、よく分からないけど敵の狙いって姫様なんでしょ。今からでも差し出して逃げようよ」



男(女がじとーっ、とした目で見てきて何とも罪悪感を刺激される)

男(その言葉は冗談のはずだ…………本気じゃないよな?)



男(戦場でいちゃついてるとも取れる行動に怒っているのが半分、もう半分はヤキモチだろう)




13 ◆YySYGxxFkU2019/06/30(日) 23:59:11.95TTVCF0vB0 (13/14)




近衛兵長「何を言っている。私の狙いはそちらの少年もだ」

近衛兵長「魅了スキル、その規格外の力に我が主の覇道が邪魔される可能性を摘んでおくためにもな」



男(近衛兵長が俺にも殺意を向ける)

男(監禁していた間は構うのも面倒だから殺すという感じだったはずだが、今は明確に俺相手に殺意を向けている)



男(我が主……殺された司祭ではないはず。一体誰なのか?)

男(近衛兵長に何らかの背景があることは間違いない。色々と聞き出してみたいが……)





デブ「どういうことですか、男を殺すって!?」

男(その発言に敵対する陣営であるはずの太った少年の方が動揺していた)



メガネ「何言ってるの、デブ。どうせあいつは魅了スキルの力で女に命令していかがわしい行為をしたに違いないわ」

メガネ「汚らわしい……そんなハレンチなやつ、死刑よ、死刑」



男(メガネをくいっと上げ、俺を見下すメガネ)

男(全くの濡れ衣なのだが、思春期の少年が異性を好き勝手出来るとあって何もしていないと主張しても信じられないだろうことは理解している)




14 ◆YySYGxxFkU2019/06/30(日) 23:59:44.70TTVCF0vB0 (14/14)


男(しかしあのデブが動揺している理由は……そうか、やつはおそらくイケメンと同じ目論見なのだろう)

男(俺の魅了スキルを手に入れて女性を好き勝手支配したいと)

男(だから近衛兵長に俺を殺されては困ると)



近衛兵長「……いいだろう。可能ならばあの少年は生け捕りにする」

近衛兵長「『組織』に借りを作っておけば今後も便利だろうしな。交渉は後ほどだ」



男(近衛兵長はそれを汲み取ったのかは分からないが、方針を変更した)





女「さっきから勝手なことを」

女「男君を殺すだったり、生け捕りにするだったり……そんなことさせるわけないでしょ!」



男(女が激高する。俺を守るように前に立って絶対に退かない覚悟のようだ)



近衛兵長「二人とも下がれ。少女の方は結界の維持に努めろ。やつらに逃げられたくない。少年はその護衛だ」



男(近衛兵長もデブとメガネの前に立つ)

男(どうやら一騎打ちの様相のようだ)




15 ◆YySYGxxFkU2019/07/01(月) 00:00:30.07p3RZb0+r0 (1/3)




男(女が拳を構える。近衛兵長が剣を構える)

男(緊張感が高まる中、女が口を開いた)



女「構えを見ただけで分かります。厳しい鍛錬を積んできたことと相当な強さを」

近衛兵長「竜闘士に言われると皮肉だとしか思えないな」

女「あなたの力は正道の物です。なのにどうしてこんなに人を殺して……邪道なことをしているんですか!?」

近衛兵長「知りたければ勝ってこの身を拷問にでもかけろ。吐くつもりは無いがな」



男(近衛兵長が冷たく言い放つ。会話はここまでのようだ)




16 ◆YySYGxxFkU2019/07/01(月) 00:01:00.68p3RZb0+r0 (2/3)






女「分かりました。その行動には納得行きませんが、力に敬意を表して名乗りを。竜闘士の女、参ります!!」



近衛兵長「……いいだろう。聖騎士の近衛兵長、参る!!」





男(こうして竜闘士と聖騎士。この独裁都市の運命を賭けた一戦が始まった)






17 ◆YySYGxxFkU2019/07/01(月) 00:01:50.36p3RZb0+r0 (3/3)

続く。

投下遅くなり申し訳ありません。
次は水曜日に投下します。


18以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/01(月) 01:44:52.72CYC62Hoa0 (1/1)

乙!


19以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/01(月) 02:00:55.21zuyPA6ZIO (1/1)

乙ー


20 ◆YySYGxxFkU2019/07/03(水) 23:27:46.20sx+cbxUe0 (1/13)

乙、ありがとうございます。

投下します。


21 ◆YySYGxxFkU2019/07/03(水) 23:28:21.57sx+cbxUe0 (2/13)


男(竜闘士対聖騎士)

男(初動は竜闘士からだった)



女「『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』!!」

男(女は指向性の衝撃波を近衛兵長に向けて放つ)



近衛兵長「っ……!」

男(近衛兵長は左手に装備した盾で防御をする。少し押されて後退したがダメージは無さそうだ)



男(勝負前に言っていた近衛兵長の聖騎士という職)

男(名前からして騎士の上位職だとすると、防御は得意なのだろう)

男(武闘大会で竜闘士傭兵の猛攻を粘り強く耐えた気弱のことを思い出す)




22 ◆YySYGxxFkU2019/07/03(水) 23:29:06.22sx+cbxUe0 (3/13)




女「防御は固そうね……でも、一気に勝負を決めさせてもらうよ!」

女「『竜の息吹(ドラゴンブレス)』!!」



男(追尾するエネルギーの球体をばらまいて、自身は特攻する女)



近衛兵長「くっ……」

男(近衛兵長はその一つ一つの対処に追われて女の接近を止めることが出来ない)





男「明確な力量差があるな……」

男(俺の見立てではあるが近衛兵長はかなり強い。魔導士の女友や影使いのイケメン同様に最強級の力はあるだろう)

男(しかし、女はそのさらに上を行く伝説級の力の持ち主だ)



男(武闘大会では同格の傭兵さんに敗北こそしたものの、その敗戦によるショックは些かも感じられない)

男(俺を守るという意志の元、気力も十分のようだ)

男(いわば完全体である女が近衛兵長に遅れを取るとは思えない。赤子の手を捻るように勝ちを拾うだろう……なのに)




23 ◆YySYGxxFkU2019/07/03(水) 23:29:37.83sx+cbxUe0 (4/13)




男「どうして近衛兵長はこの勝負を受けたんだ……?」



男(力量差は本人こそが一番に自覚しているはずだ)

男(連携を取るような性格ではないだろうが、それでも複数人ではなく一人で挑むのは無謀としか言いようがない)

男(ならばこの状況を覆す手が何かあるというのか……?)



男(疑問に思う間も戦況は推移する)

男(近衛兵長がブレスを裁ききったそのとき、女は大分接近していた)

男(女は拳をめいいっぱい引いて『竜の拳(ドラゴンナックル)』を放つ構えだ)



男(その拳が飛んでくるまでに近衛兵長には一手ほど打つ時間はあるが、何をしようにも叩き伏せて女は拳を届かせるだろう)

男(それでも何もしないわけにもいかなく、近衛兵長が起こした行動は)



近衛兵長「『聖なる一振り(ホーリーワン)』!!」



男(スキルの使用と同時に剣を振ることだった)



男(まだ女が接近していないタイミングのため空振りするが、それでいいようだ)

男(剣の軌跡をなぞるように半円状の光が形成されて飛ぶ。いわゆるソニックブームというものだろう)



男(遠距離攻撃で女の接近を阻止する狙い……だと最初は思ったが、それにしては狙いがおかしい)

男(女の脇を通るような軌道で光は飛んでいるため、当然女は無視して接近して――)




24 ◆YySYGxxFkU2019/07/03(水) 23:30:12.29sx+cbxUe0 (5/13)




男「危ないっ……!」

姫「きゃっ!」



男(咄嗟に俺は姫を抱えて横っ飛びに体を投げ出した)

男(そうだ、デタラメな方向に放たれたと思われた近衛兵長の攻撃)

男(それが実は女ではなく、俺たちに狙いをつけた攻撃だったのだ)



男(俺たちが先ほどまでいた空間を光は通り過ぎる)



女「なっ……!」

近衛兵長「ちっ、外したか」



男(女もその状況に気付いたようだ。驚いて振り向く女と舌打ちする近衛兵長)




25 ◆YySYGxxFkU2019/07/03(水) 23:30:46.95sx+cbxUe0 (6/13)


女「まさかあなたの狙いは……!」

近衛兵長「私の狙いは最初から姫様の命だ」

近衛兵長「少年の方も……別に可能ならば生け捕りするくらいにしか考えていない」



女「ひ、卑怯ですよ!」

近衛兵長「弱者が強者に勝つためには弱点を突くしかない。『聖なる一振り(ホーリーワン)』!!」



男(近衛兵長は目の前にいる隙だらけの女ではなく、またも俺たち目掛けて光を放つ)

男(そちらの方がさらに有利になると判断してだろうか)



女「っ……『竜の翼(ドラゴンウィング)』!!」



男(剣を振り終えて無防備な近衛兵長だが、女は攻撃せずに翼を生やしてトップスピードで後退する)

男(そして今まさに俺たちに襲いかかろうとしていた光の前に身を投げ出して庇う)




26 ◆YySYGxxFkU2019/07/03(水) 23:31:23.16sx+cbxUe0 (7/13)




女「いたっ……!」

男「女っ!!」

女「大丈夫……だから!」



男(衝撃に顔がゆがむ女に俺が反射的に声をかけると、心配をかけさせまいとニッと口の片端をあげた)



近衛兵長「まだまだ行くぞ」

近衛兵長「『聖なる一振り(ホーリーワン)』! 『聖なる一振り(ホーリーワン)』!! 『聖なる一振り(ホーリーワン)』!!!」



男(剣を振り光を連射する近衛兵長。その狙いは全て俺と姫に向けてのものだ)



女「『竜の鱗(ドラゴンスケイル)』!!」



男(俺たちを守るため回避を封じられた女は防御スキルを発動する)

男(しかし、このスキルは使用した後少し動けないため、反撃の行動に繋げられない。このままではジリ貧だ)




27 ◆YySYGxxFkU2019/07/03(水) 23:32:05.18sx+cbxUe0 (8/13)




男「くそっ……近衛兵長のやつ、最初からこれが狙いだったのか!」



男(格上である女が抱えた一つの弱点が俺たちを守らないといけないということである)

男(そこを存分に突いてきている。最初女の接近を許させたのも、俺たちから離すためだったのだろう)



男(聖騎士という職。そして使用するスキルの『聖なる一振り(ホーリーワン)』)

男(近衛兵長の力は聖に属するもののようだ)

男(なのに戦い方は弱者を狙い続けるという外道もいいところ)



男(だが、その手段が効果的であることは否定できない。このままでは女はこの場を離れられないからだ)

男(遠距離攻撃で応戦するのは、最初の攻撃を防がれたことからして互角だろう)



男(ならば俺たちがここから離れて安全な場所に向かうべきかというと、それも不可能だ)

男(結界のせいで広場からは出れないし、広場内には安全地帯が未だ存在しない)

男(そこかしこで近衛兵と『組織』の構成員が戦っている最中だからだ)

男(戦う力を持たない俺と姫が巻き込まれては危ないことに変わりない)




28 ◆YySYGxxFkU2019/07/03(水) 23:32:33.90sx+cbxUe0 (9/13)


男(こうして女に守られているこの場所が一番安全だと……分かっているからこそ歯痒い)

男(俺の想定が甘かったせいでパレードのときに近衛兵に捕らわれた)

男(そのため女はわざわざ俺を助けに来ないといけなくなった)

男(こうして助けに来てもらったその場でもまた女の枷になってしまっている)



男「俺は……どれだけ女に負担をかけさせてるんだよ……!」

男(悔しくて、情けなくて、泣きたくなってくる)



女「そんなことないよ」



男(女が防御を続けながらも背中越しに俺を慰める言葉を告げた)



女「私は男君のことを負担になんて思ったことはないから」

男「でも、こうしてわざわざ助けに来させてしまって……大変だったんじゃないのか!?」



女「全然。それどころか少し嬉しかったくらいだったよ」

男「……え?」




29 ◆YySYGxxFkU2019/07/03(水) 23:33:07.60sx+cbxUe0 (10/13)




女「だってあの手紙のSOSって私が魅了スキルの外で助けに来ることを想定して……私のことを信じての行動でしょ」

女「やっと私のことを頼ってくれたって、嬉しかったんだよ」



男(言葉の間も近衛兵長の攻撃が連射されている。守られている俺は女の表情を見ることは出来ない)

男(それでも声音から……女が本当に喜んでいることは分かった)



男(分からない。どうしてそんなことで嬉しいのか)

男(手紙だって駄目で元々の精神で出したものだ。女を信じるなんて気持ちは………………)



男(いや、逆なのか?)

男(女を信じる気持ちが僅かにも無ければ、手紙を出そうという手段を思いつきもしなかったはずだ)



男(女が俺を助ける行動に何の得も、理も、意味も無かった)

男(それでも助けてくれるかもしれないと思って行動に移した)

男(これが……信じるということなのだろうか)




30 ◆YySYGxxFkU2019/07/03(水) 23:34:02.00sx+cbxUe0 (11/13)




女「それで一つ提案があるんだけど」

男「……何だ?」



男(渦巻く感情の中、女の真面目な声に俺は思考を切り替える)



女「男君が私を信じてくれるなら、あの近衛兵長さんを倒す方法があるの」

男「……どういうことだ? 俺が応援してくれるならって精神的な意味か?」



女「ううん、違うって。助けに入る直前のことは見ていたよ」

女「男君あの人相手に魅了スキルをかけようとしていたでしょ。避けられてたけど」

男「ああ、そうだが……って、まさか」



男(言わんとすることを察知して、女もまさにその通りのことを言う)




31 ◆YySYGxxFkU2019/07/03(水) 23:34:29.67sx+cbxUe0 (12/13)






女「私が魅了スキルをかける隙を作る。そして虜にしてしまえば、その時点でこっちの勝ちでしょ?」








32 ◆YySYGxxFkU2019/07/03(水) 23:34:59.04sx+cbxUe0 (13/13)

続く。

次回決着。


33以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/04(木) 00:25:11.37KLGGXsonO (1/1)

乙!


34以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/04(木) 10:18:17.16swL5s/o3O (1/1)

乙ー


35 ◆YySYGxxFkU2019/07/05(金) 22:02:56.93urXCLDkn0 (1/11)

乙、ありがとうございます。

投下します。


36 ◆YySYGxxFkU2019/07/05(金) 22:03:30.57urXCLDkn0 (2/11)


男(竜闘士対聖騎士の現状は女が決め手を欠いている)

男(近衛兵長が俺と姫を狙って攻撃するという邪道な策を使っているからだ)

男(そのせいで防御に回らないといけない女は接近出来ず、遠距離攻撃の撃ち合いはやつの防御能力の高さからどうしてもジリ貧になってしまう)

男(竜闘士は近距離攻撃の方が火力が高いのだ)



男(その足りない火力を補うために女が提案したのが、魅了スキルをかける隙を作るというもの)



男「本気か?」

女「うん。私的には一対一のつもりだったけど、先に男君を巻き込んだのはあっちの方だから」

女「といっても男君が反対するなら他の方法を考えるけど」

男「……ちょっと考えさせてくれ」



男(成功して近衛兵長を虜にすれば、武装解除、降伏を命令してたちまち勝利が確定するだろう)

男(しかもそれだけでなく、勝負前に言っていた気になる情報についても「嘘を吐かず俺の質問に答えろ」と命令して聞き出すことが出来る)

男(一石二鳥の策)




37 ◆YySYGxxFkU2019/07/05(金) 22:04:12.03urXCLDkn0 (3/11)


男(ただしそれが成功するかどうかと言われると微妙だ)



男(魅了スキルの条件、効果対象である『魅力的な異性』に近衛兵長が当てはまるかというとギリギリだが大丈夫なはずだ)

男(やつが俺たちを脅かしていた敵だとか、何人も殺してきた大罪人だということからは必死に認識の外に追いやろうと先ほどから努めている)



男(問題なのはやつが魅了スキルを詳細まで知っているため警戒していること)

男(先ほど女が助けに来る直前に発動したときは、光を見てから効果外に出るという身体能力の高さも見せられた)



男(女が隙を作ったとしても、そんな相手に魅了スキルを当てられるだろうか?)



男(それだったら他の策……例えばこっちもやつの弱点、結界を張っているメガネのクラスメイトを攻撃するとかはどうだろうか)

男(結界を解除させれば女が俺と姫を抱えて飛んで逃げればいい)

男(そもそもこちらに積極的に戦わないといけない事情はないのだから)



男(だが……近衛兵長は気にせず俺たちに攻撃を仕掛けてきそうでもある)

男(俺と姫と違って、あちらのデブとメガネのクラスメイトは戦闘能力があるという点も違うしな)

男(女の攻撃くらいなら耐えられるだろうと考えるとますますその可能性は高くなる)

男(そしたら攻撃の隙を突かれてさらに女が不利になるだろう。却下だな)




38 ◆YySYGxxFkU2019/07/05(金) 22:04:38.21urXCLDkn0 (4/11)


男「……」

男(他にも色々考えてみるがいい方法が思いつかない)



男(これまで宝玉を手に入れる方法などの行動方針は基本的に俺が決めてきた)

男(だが女は竜闘士の力と同時に戦闘センスなども授かっている。そうでなければ普通の女子高生がここまで戦えるわけない)

男(だとしたら戦場において従うべきは俺の方で、女の提案に乗るべきなのだろう)



男(別にそのことに異論は無い。気になっているのは……)



女『男君が私を信じてくれるなら……あの近衛兵長さんを倒す方法があるの』



男(俺が女を信じられるなら……信じることが出来るのだろうか?)



男(自分のことなのにまるで他人事であるかのように想像が全く付かない)




39 ◆YySYGxxFkU2019/07/05(金) 22:05:14.70urXCLDkn0 (5/11)


男(だが、近衛兵長の攻撃は激しさを増す一方でおちおちと考えている余裕は無さそうだ)

男(対案も出せないのに否定するのは良くない)



男「分かった、女。とりあえずその提案の中身を聞かせてくれ……」

女「うん、えっと……」



男(そのためまずは話だけでも聞こうとしたところで)



近衛兵長「のんきにおしゃべりとは……その余裕無くしてやろう」



男(近衛兵長は剣を腰に構えて体を大きく捻った。大技を放つつもりであることが俺でも分かる)



女「あれは…………でもチャンスかも! 男君、よろしくね!」

男「よろしくって……いや、まだ俺了承してないし、何をするかも聞いてないんだが!?」

女「大丈夫、大丈夫! 男君なら察せるって信じてるから!」



男(そんな無責任なことを言うと女は正面の近衛兵長を見据えて相手の動きを窺っている)

男(その集中を崩すわけにもいかず、どうやら抗議の機会は失われたようだ)




40 ◆YySYGxxFkU2019/07/05(金) 22:05:54.82urXCLDkn0 (6/11)


男「ったくマジかよ……俺が合わせられなかったらどうするんだよ。何考えてるんだ?」

姫「何も考えてないんだと思いますよ」



男(俺と同じく女に守られている姫が口を開く)

男(女と姫は犬猿の仲だ。そのため悪態を吐いたのかと思いきや、姫の顔は真剣だった)



男「姫……どういうことだ?」

姫「分かるんです。女さんは男さんが合わせられなかったときのことを考えていません」

姫「何故なら男さんなら絶対に合わせられると信じているから」

男「本当に無責任なんだな……」



姫「ですが信じるということはそういう面も含みます」

姫「誰も信じず一人ですることは良く言えば全ての責任を自分で負うということでもあります」

姫「信じて誰かに託すということは悪く言えば誰かに押しつけるということでもありますから」



男「……そうだな」

男(姫の言葉がストンと俺の胸の内に入ってくる)



41 ◆YySYGxxFkU2019/07/05(金) 22:06:45.31urXCLDkn0 (7/11)




男(自己責任。思えばその言葉が俺は好きなのだろう)

男(俺のトラウマ。からかわれて本気になって告白して玉砕して、心を守るために自己否定から恋愛アンチとなった)





男(別の選択肢もあったはずだ)

男(あの子のことを心の中で悪者に仕立て上げて『あいつが思わせぶりだったのが悪い、結局悪意を持って騙してたんじゃないか、くそっ死ね』と悪態を吐くことで心の均衡を保つことだって出来たはずだ)





男(なのにそうしなかったのは……もうそういう気質なのだろう。他人ではなく自分にばかり重荷を背負わせると)





男「俺は誰も信じない。そうやって今までも……そしてこれからも生きていくんだ」

男「だってその方が誰にも迷惑をかけないだろ」



姫「……そうですね。誰にも迷惑はかけないかもしれません。でも何かを成せるとも思えませんね」

男「え?」




42 ◆YySYGxxFkU2019/07/05(金) 22:07:24.82urXCLDkn0 (8/11)




姫「私の母は立派な執政者でした」

姫「この都市を常に良くするように考えていて……しかし何もかもを自分でしようとはしていませんでした」

姫「今思うと自分一人で出来ることなんて、たかがしれていると分かっていたからでしょう」

姫「だから人を信頼して色々と託す。そうやって大きなこと、この独裁都市の運営をやっていたんだと思います」



男「そ、そうかもしれないが……別に俺は偉くなるつもりなんてないし……」

姫「男さんの意志がそうでも、現実は向こうから困難がやってくることもある場所です」

姫「今だって女さんが一人で近衛兵長に勝つことが出来るんだったら、男さんを頼りにしたりはしなかったでしょう」



男「で、でも……俺が女の期待に応えられるか分からないんだよ! そしたら迷惑がかかるだろ!」

姫「いいじゃないですか、迷惑かけたって」

男「は?」



姫「そもそも女さんに信じられて勝手に頼りにされて、男さんは既に迷惑がかかっているじゃないですか」

姫「だったら男さんだって女さんに迷惑かければいいでしょう」



男「そんなことしたら……」




43 ◆YySYGxxFkU2019/07/05(金) 22:07:55.27urXCLDkn0 (9/11)




姫「二人はそれくらいで壊れる関係だって言うんですか?」

姫「迷惑をかける女さんのこと男さんは嫌じゃないんですか?」

姫「女さんが迷惑をかけられたくらいで男さんのことを嫌いになると思うんですか?」





姫「男さんは……本当に一人で生きていくつもりなんですか?」

姫「少なくとも私は本当の自分を誰にも明かせず、ワガママな姫様としてひとりぼっちで生きてきたこの二年間はとても寂しくて辛かったですよ」





男「……」

男(姫の言葉に俺は惑い)




44 ◆YySYGxxFkU2019/07/05(金) 22:08:37.42urXCLDkn0 (10/11)




近衛兵長「食らえ!! 『聖なる全振り(ホーリーオール)』!!」



男(そのとき近衛兵長は限界まで体をひねり蓄えた体のバネを一気に解放)




男(剣がこちらまで聞こえるほどの風切り音を発しながら振られ、その軌跡に形成された先ほどまでとは比べものにならないほどの大きさの光が俺たちを押し潰さんと迫った)






45 ◆YySYGxxFkU2019/07/05(金) 22:10:20.22urXCLDkn0 (11/11)

続く。

想定より長くなり決着ならず……次こそは。


46以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/05(金) 23:31:09.345JqJ+vdPO (1/1)

乙!


47以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/05(金) 23:51:55.04yERhdR/j0 (1/1)

毎回こんな引きで区切りだと無駄に引っ張ってCM挟んで引き伸ばすTV番組みたいで萎える


48以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/06(土) 05:36:00.15HjBY9cQVO (1/1)

乙ー


49 ◆YySYGxxFkU2019/07/07(日) 23:11:37.33T7fsHoB20 (1/11)

乙、ありがとうございます。

>>47 執筆にいっぱいいっぱいで区切りについてまでは意識が行ってませんでした。今後は精進します。

投下します。


50 ◆YySYGxxFkU2019/07/07(日) 23:12:06.21T7fsHoB20 (2/11)


男(迫る巨大な光にこれまで待ちの姿勢だった女は一転)



女「『竜の拳(ドラゴンナックル)』!!」



男(竜の力を宿した拳を突きだしながら臆することなく光に飛び込む)

男(力では竜闘士の方が上。とはいえ相手の大技に対して、こちらのスキルの出力は普通でちょうど拮抗する)



女「くっ……!」



男(女は痛みに耐えている。スキルで相殺しているとはいえ、相手の攻撃に腕を突っ込んでいるのだ。何もダメージが無いということは無いだろう)



女「だ……らぁぁぁっ!!!」



男(それでも女は気迫を絞り、拳を振り切って光を両断。割れた光が俺と姫の左右の地面を削り轟音を発する)




51 ◆YySYGxxFkU2019/07/07(日) 23:12:34.64T7fsHoB20 (3/11)




近衛兵長「っ……破られたか!」

女「今だっ!!」



男(近衛兵長が驚いている間に、女は全速力で接近する)

男(大技を打った直後で隙が出来ている様子の近衛兵長は、俺たちを攻撃することで女の接近を封じることが出来ない)



男(大チャンスと見えたが、しかし女も拮抗した際にスピードが落ちたのが痛く、距離を詰め切ることが出来ない)

男(これだと女が拳を届かせる前に近衛兵長が体勢を整えて俺たちを攻撃するだろう)

男(そうなると防御に戻らないといけなく振り出しだ)



近衛兵長「甘かったな」



男(俺と同じ想定に至ったのだろう。近衛兵長がフッと小馬鹿にするように笑って)




52 ◆YySYGxxFkU2019/07/07(日) 23:13:14.57T7fsHoB20 (4/11)




女「ううん、ここまで接近すれば十分!! 『竜の尾(ドラゴンテール)』!!」



男(女は不敵に笑うと、まだ近衛兵長との距離があるのに右手を振りかぶった)

男(俺が初めて見るそのスキルはどうやらエネルギー状の鞭を発生させるようで、半円軌道を描いた鞭の先端が近衛兵長にグルグルと巻き付く)



近衛兵長「何を……」

女「いっけえぇぇぇぇっ!!」



男(そのまま女は鞭を後方に向かって振り上げると、その動きに従い竜闘士の膂力によって近衛兵長が空中高くに放り出された)




53 ◆YySYGxxFkU2019/07/07(日) 23:13:40.27T7fsHoB20 (5/11)


男(遠距離でも近距離でも駄目なら中距離)

男(女の接近の狙いは鞭の届く範囲に近衛兵長を捉えることだったようだ)



男(宙にいる近衛兵長はなすがままなあたり、聖騎士はどうやら空を飛ぶようなスキルは持っていないようだ)

男(ならば絶好の的である……かというと、そうではないようだ)



近衛兵長「考えたな……だが、みすみすやられたりはしない」



男(近衛兵長は鍛えられた体幹によって空中で姿勢を立て直す)

男(投げられた勢いで飛んでいるのは変わらないものの、あの状態なら攻撃も防御も十分に行えそうだ)



男(となると女が『竜の潜行(ドラゴンダイブ)』を当てに行こうとしても、近衛兵長は俺と姫を攻撃して防御を強制することが出来る)



男(この問題を解決しない限り俺たちの勝利はない)




54 ◆YySYGxxFkU2019/07/07(日) 23:14:06.97T7fsHoB20 (6/11)




男(だからこそ女は俺に提案をして、近衛兵長を後方に放り投げたのだ)



男「なるほどな」

男(女の意図が読めた)



男(近衛兵長が飛ぶ方向の先にいる俺)

男(魅了スキルは効果範囲こそ周囲5mだが、光の柱と表現出来るように上空にはかなり長い射程がある)

男(そして近衛兵長は空中のため満足に動くことが出来ない)



男(つまり)



男「今の近衛兵長は魅了スキルを避けることが出来ない……!!」



男(女は提案通り見事魅了スキルをかける隙を作って見せたのだ)




55 ◆YySYGxxFkU2019/07/07(日) 23:14:40.81T7fsHoB20 (7/11)


男(当たれば一撃必殺の魅了スキルが百発百中で絶体絶命の近衛兵長)

男(飛んでる勢いからしてあと少しで俺の上空を通過する)

男(俺はそのタイミングで魅了スキルを発動するだけでいい)



男(だが、一つだけ心配事があるのも確かだ)



近衛兵長「『聖なる一振り(ホーリーワン)』!!」



男(近衛兵長が空中で剣を振るいソニックブームを俺目掛けて放つ。不安定な空中なのに見事な照準だ)



男(女が後方に放り投げたため、位置関係として俺たちと女の間に近衛兵長がいることになる)

男(しかも魅了スキルの範囲に入りそうなほど俺に近くから攻撃出来るというわけだ)

男(近衛兵長は当然絶好の攻撃機会を逃さなかった)



男(近衛兵長の攻撃が迫る。回避行動を取るべき……だが、そんなことをしていたら魅了スキルを発動する余裕も無くなる)

男(だったらどうすればいいのか)




56 ◆YySYGxxFkU2019/07/07(日) 23:15:07.54T7fsHoB20 (8/11)




男「簡単だ。女を信じればいい」



男(あれだけ忌み嫌っていたその言葉なのに不思議とすっと出て来る)



男(女の俺なら察せるという無茶振りに応えてやったんだ)

男(だったら今度は女が応える番だ)



男「…………」

男(決めたからには俺はもう動じない)

男(光からは目を切って、近衛兵長が上空を通るタイミングを計ることだけに集中する)




57 ◆YySYGxxFkU2019/07/07(日) 23:15:44.78T7fsHoB20 (9/11)




姫「男さん……」



 集中する男は隣で姫が名前を呼んでいることも気付いていない。

 近衛兵長の攻撃が迫る中、危険なのは姫も一緒だ。

 魅了スキルに関与しない姫はこの場から逃げ出してもいい。

 だがそうやって逃げ出すのは負けを認めるようで……意地だけでその場に留まる。



 そして無防備に立つ二人に光が届こうとする――その直前。



女「『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』!!」



 女の発した衝撃波がピンポイントで近衛兵長の攻撃を打ち落とした。




58 ◆YySYGxxFkU2019/07/07(日) 23:16:12.75T7fsHoB20 (10/11)




近衛兵長「くっ……ここまでか」



 近衛兵長は次の攻撃体勢に入りながらも、既に負けを自覚しており。

 そのとき男から5mの範囲に到達した。



男「魅了スキル、発動!」



 男はスキルの発動を宣言。



 ピンク色の光の柱が宙の近衛兵長を捉え――その瞬間勝敗は決した。






59 ◆YySYGxxFkU2019/07/07(日) 23:16:39.50T7fsHoB20 (11/11)

続く。


60以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/08(月) 00:49:07.20xvPbhTPYO (1/1)

乙ー


61以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/08(月) 01:36:04.68faG71my90 (1/1)

乙!


62以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/08(月) 22:48:30.80fShfEtVC0 (1/1)




63 ◆YySYGxxFkU2019/07/10(水) 00:59:11.853dlmMjRD0 (1/18)

乙、ありがとうございます。

投下します。


64 ◆YySYGxxFkU2019/07/10(水) 00:59:56.473dlmMjRD0 (2/18)


女友「結界が晴れましたか」



女友(先ほどから神殿前広場を囲っていた結界が消失したことを確認します)

女友(私は何ら関与していないので、中の女がどうにかしたのでしょう)



女友「無事だとは思いますが早速安否を確認しないとですね」

女友(急いで私はそちらに向かおうとして)



ギャル「待……て……」



女友(後方で弱々しい声と共に立ち上がる者がいました)



女友「……まだやるんですか、ギャルさん」



女友(本気で戦うことの練習台)

女友(そういって始まった戦いは言葉通りのものに、私一人でも十分に戦えると自信を持てるようになりました)

女友(その結果倒れ伏して気絶しているレズさんと満身創痍のギャルさんが生まれたのですが……立ち上がれるとは正直驚きでした)




65 ◆YySYGxxFkU2019/07/10(水) 01:02:26.443dlmMjRD0 (3/18)




ギャル「言ったでしょ……アタシは――」

女友「イケメンさんのために、とでも言うんですか? だとしたら滑稽ですね」



ギャル「……何が言いたいのよ」

女友「だってそうでしょう? 命令する者と従う者の関係が愛であるならば、王と奴隷は恋人だってことになるじゃないですか」



女友(イケメンさんが彼女であるギャルはキープで、本当は女に執着しているという話は男さんから聞いています)

女友(だとしたら彼氏だからと盲目的に従うギャルは体よく操られているだけです)

女友(男さんが魅了スキルを使ってしていることを、スキル無しでやってのけているのは才能なのでしょう)

女友(ちっとも羨ましくはありませんが)



女友(さて、ギャルさんは立ち上がりこそしたものの追ってこれるほどの体力はないでしょう)

女友(自分たちの関係を馬鹿にされて激昂される前にその場を去ろうとして)




66 ◆YySYGxxFkU2019/07/10(水) 01:03:02.623dlmMjRD0 (4/18)


ギャル「分かって……るわよ」

女友「……?」





ギャル「馬鹿にすんな!! アタシだって分かってるわよ!!」

ギャル「イケメンが本当は……私のことを愛していないってことくらい!!」

ギャル「それでも……仕方ないのよ!! こうでもしないとイケメンは……私のことを見てくれないんだから……!!」





女友(私は足を止めて振り返ります)

女友(ギャルさんの表情は苦渋に満ちたものでした)

女友(私はそれを意外に思いながらも、ここで待ってやる理由にはならないと判断して)



女友「だったらなおさら自分のことを大事にしてください。あなた自身のために」



女友(敵としてかけられる最大限の慰めの言葉をかけて私は広場に向かうのでした)




67 ◆YySYGxxFkU2019/07/10(水) 01:04:10.043dlmMjRD0 (5/18)


女友(広場に入ると戦いは終結しているようでした)

女友(そこかしこで『組織』の構成員たちが近衛兵によって拘束されています)

女友(私は人の集まっている広場の中央を目指して歩いていると)



近衛兵1「止まれ!!」

近衛兵2「何者だ、貴様は!!」



女友(近衛兵に制止の声を掛けられました)

女友(私のことを不審者だと思われているようで、どう釈明すればいいものか迷っていると)



姫「おぬしら、待つんじゃ」

近衛兵「姫様、不用意に出てこられては……」

姫「いいから黙っておれ! そこの少女、もしかして名を女友と申すのではないか」



女友(近衛兵に引き止められながらも、パレードでもその姿を見た独裁都市の姫が私の名前を口にします)



女友「そうです、私の名前は女友ですが……」

姫「ならば余の客人じゃ。無礼を働くでない」



女友(戸惑いながらも頷くと、何故か私は姫様に招待されるのでした)




68 ◆YySYGxxFkU2019/07/10(水) 01:05:02.683dlmMjRD0 (6/18)




女友(近衛兵たちが事態の収拾にあくせくと動く中、私は姫様の隣でこれまでのことを話してもらいました)



女友「そうですか……パレードの後、男さんと姫様はそんなことに」

姫「はい。女友さんのことは男さんから聞いていたので。姿を見たときに、もしやと思いまして……」





女友(どうやら私たちと別れた後、男さんは想像以上に大変な目に遭っていたようです) 

女友(先に行かせた女は間一髪のところで男さんたちを救い、結界のせいで逃げられなくなり)

女友(首謀者である近衛兵長近衛兵長なる人物との勝負を避けられず、しかしそれも魅了スキルで虜にしたことで決着したと)





女友(その後は男さんが虜にした近衛兵長に命令をして、それに女も協力して残っていた『組織』の構成員を一掃、ほとんどを拘束したようです)

女友(その中には見覚えのある顔もいます。私は姫様に少し見てくる旨を伝えてからそちらに向かいました)




69 ◆YySYGxxFkU2019/07/10(水) 01:05:33.173dlmMjRD0 (7/18)




女友「デブさんですか、久しぶりですね。駐留派、『組織』の一員になっているとは聞いていましたが」

デブ「女友さん……」



女友「結婚式襲撃部隊の方にいて捕まったということですか。逃げなかったんですね」

デブ「……ああ。竜闘士と聖騎士、バケモン二人から逃げられるわけないだろ」

女友「それもそうですね」



デブ「それに部隊には俺を慕っている部下がたくさんいるんだ」

デブ「やつらを置いて俺だけが逃げ出すわけには行かねえ」

デブ「殺されたやつがいることも考えると生きているだけで丸儲けだ」



女友(構成員が捕らわれている方を見るデブさん)

女友(元の世界、教室にいた頃には何も努力せず自分だけが不幸だと思いこみ世界を恨んで呪詛をかけるような、そういう陰湿な人間だったと記憶していますが……どうやら環境によって変わったようです)






70 ◆YySYGxxFkU2019/07/10(水) 01:06:19.563dlmMjRD0 (8/18)




女友「クラスメイトのよしみとして、罰が軽くなるようにかけあっておきますよ」

デブ「助かる。それと図々しい頼みだが、そっちもどうにかしてやってくれないか?」



女友(デブさんの指した方にいるのはもう一人のクラスメイト、メガネです)

女友(女と交流があることから、私も良く知る人物ですが……)



メガネ「私を捕まえたからっていい気にならないことね!」

メガネ「絶対にイケメン様が助けに来るんだから!」

メガネ「そうよ、私はイケメン様に大事と言われた女なんだから……!」



女友(メガネはちょうど通りかかった近衛兵に文句を吐いているところでした)

女友(聞くとどうやら先ほどから誰彼構わず言っているようです)



女友(その内容については考えるまでもなく実現しないだろうと判断しました)

女友(イケメンさんがわざわざ危険な橋を渡って、駒の一つを回収しに来るとは思えません)





女友「駐留派はあなたのように魅了スキルを狙っている者とイケメンさんに騙されている者によって構成されていると考えていいですか?」



デブ「……知っていたのか。そういうことだ」



女友「なら理解している通りですよ。イケメンさんがメガネを助けに来ることはなく、ずっと叫び続けることになるでしょう」

女友「私にはどうにも出来ません」



女友(私は一つ頭を下げるとその場を離れて姫様のところに戻りました)




71 ◆YySYGxxFkU2019/07/10(水) 01:06:58.183dlmMjRD0 (9/18)


姫「知り合い……共に異世界召喚された者との語らいは終わりましたか?」

女友(姫様は女神教の関係者、いや一番事情を知るものであり私たちが異世界から来たということも知っているようです)



女友「はい。それで姫様にお願いがあるのですが……」

姫「分かっています。あの者たちの処遇については一考します」

姫「彼らもまたいきなり呼び出された被害者であるとは理解していますので」



女友(姫様は聡明な方で、すぐに私の意図を察しました)



女友「ありがとうございます」

姫「それに……これからの独裁都市はそんな些事に構っている暇が無いくらい、忙しくなるでしょうから……」



女友(憂いの表情で呟いたことが気になりましたが、聞き出す前に)



姫「そんなことより女友さんに聞きたいことがあるんです」



女友(と話題を転換されました)




72 ◆YySYGxxFkU2019/07/10(水) 01:07:37.113dlmMjRD0 (10/18)






女友「何でしょうか?」

姫「女さんのことです。彼女、本当は男さんの魅了スキルにかかっていないんでしょう?」



女友「……まさかそんなことないですよ。私と一緒でしっかり男さんの虜です」



女友(いきなり出された話題に内心ビックリしながらも、私の口はすらすらと嘘を述べていました)

女友(親友の秘密を私が暴露するわけには行きません)



姫「そうですか? 男さんからここまで異世界でどういうことがあったのかは聞きました」

姫「あのときは特に疑問に思いませんでしたが……本人に出会って分かったんです」

姫「女さんは虜になっていないと。そうすれば数々の疑問にも説明が付くと」



女友「違いますね。全部魅了スキルが中途半端にかかっているせいです」



姫「それも疑問に思っていました。魅了スキルについては女神教の大巫女である私が一番知っています」

姫「しかし、伝承の中には中途半端にかかった事例など一つもありませんでした」

姫「ならば嘘だと判断するのが合理的でしょう」



女友(姫様は詰め将棋のようにどんどんと寄せてきます。私は徐々に逃げ場が無くなっていくのを感じ)




73 ◆YySYGxxFkU2019/07/10(水) 01:08:45.303dlmMjRD0 (11/18)




姫「どうしても認めないなら、この話を男さんにします」

女友「っ!? それは……」



姫「魅了スキルの使い手で当事者である男さんに意見を仰いだらきっとすごい参考になると思うんです」

姫「私としても男さんに手間をかけさせて心苦しいですが」



女友(こちらの事情を見透かし、完璧な王手を決められます)



女友(詰みだと判断した私は……ええ、こんな初対面の姫様に見抜かれる女が悪いんです、と心の中で言い訳してから、被害を減らすための最善手を)



女友「分かりました、認めます。女には魅了スキルがかかっていません」

姫「やはりそうですか。詳しく聞かせてもらえますか?」

女友「……はい」



女友(親友の秘密について洗いざらいぶちまけることにしました)




74 ◆YySYGxxFkU2019/07/10(水) 01:09:26.113dlmMjRD0 (12/18)




姫「召喚される前から好きで、しかし行動には移せず、そんな折りに魅了スキルの効果範囲にいてしまって、誤魔化すために嘘を吐いたと……」

女友「そういうことです」

姫「その後は虜であるという偽りで男さんにアタックを仕掛けて……卑しい、卑しいです」

女友「否定は出来ませんね」



姫「………………」



女友(話を聞いた姫様は女のことを非難していましたが、ふと考え込み始めました)

女友(そして決心したように顔を上げます)



姫「女友さん、親友の秘密を勝手に暴くような真似申し訳ありませんでした」

女友「いえ、全部女の落ち度です。私は悪くありません」

姫「その開き直りはまた清々しいですね……えっと、それなのに図々しいですが私の話も聞いてもらえないですか?」



女友「……ええ、いいですよ」



女友(その表情には心当たりがある。悩みを抱えている顔だ)

女友(この異世界に来てから男さんと女相手に何度もやってきたお悩み相談。何の因果か今回は姫様が相手のようだ)




75 ◆YySYGxxFkU2019/07/10(水) 01:10:09.553dlmMjRD0 (13/18)




姫「私は男さんのことが好きなんです」

女友「『まあ魅了スキルがかかっているからな』……と、男さんが聞いていたら言うでしょうね」



姫「私と男さんは魅了スキルによって引き合わせられましたから、理解はしています」

姫「それでも私は魅了スキルなんて関係なく好きだと信じていて……今日女さんと出会いました」



女友「……」



姫「最初の印象はいけ好かない人でした。まあ同じ殿方を取り合う以上、好意的には見られません」

姫「ですがその後、男さんと女さんのやりとりを聞いている内にビビッと来たんです」

姫「この人には魅了スキルがかかっていないと」



女友「女の直感……ですかね」



姫「たぶんそうです。それだけではなく女さんの想いの深さも実感して……」

姫「魅了スキルがかかっていなかったら、私も本当に同じように想えただろうかと疑問が浮かびました」



女友「……」




76 ◆YySYGxxFkU2019/07/10(水) 01:12:14.003dlmMjRD0 (14/18)




姫「男さんの方もです。あれだけ偉そうに私の想いはストックホルム症候群だと指摘した癖に……」

姫「実際は男さんの方こそ私に対して、同じく軟禁された立場としての連帯感や好意を抱いたに決まっています」



姫「だってその証拠に……女さんといるときはあんなに自然に振る舞っているじゃないですか」



女友(姫様の視線を追うと、そういえば未だ姿を見ていなかった二人を見つけます)

女友(女と男さんは広場中央の鐘のところにいて――)





女「男君、ねえこの鐘って」

男「女神教の伝統なのか、結婚式のときに二人の関係が永く続くようにって鳴らすやつだ」

男「俺も姫と一緒に鳴らしたが……その直後に襲撃されたんだったか」



女「……ねえ、私も一緒に鳴らしてみたい」

男「いやそれよりまず被害の復旧が先だろ」

女「もうこんなに頑張ってるんだから、ちょっとくらいサボったっていいでしょ! ほら、行こっ!」

男「ああもう、引っ張るな……ったく」



女友(女が男さんの手を引いて鐘まで導きます。悪態を吐きながらも男さんの表情も満更では無さそうです)




77 ◆YySYGxxFkU2019/07/10(水) 01:12:46.263dlmMjRD0 (15/18)




女友(久しぶりに見た男さんの元気な姿にホッとし、そして女とよろしくやっていることを嬉しく思いながらも、隣の姫様の相談中であるということは忘れていません)



女友「二人はここまで様々な苦難を乗り越えることで今の関係となりました」

女友「見守ってきた者として贔屓の感情が含まれていますが、男さんには姫様より女の方がお似合いだと信じています」

女友「申し訳ありませんが」



姫「……いえ。素直なところを言っていただきありがとうございます」

姫「私も……心の奥底ではそう思ってしまっているのでしょう」

姫「だからさっきもあんな後押しするような言葉を……」



女友「…………」





姫「女友さんに相談できて決心が付きました。私はこの気持ちを諦めます」

姫「ええ、そうですよ。ただでさえこれから独裁都市の再建のため私は頑張らないといけません」

姫「司祭と近衛兵長の二人がいなくなった今、私は自由に羽ばたけます」

姫「やりたいこと、やらないといけないことは山積みです」

姫「トップに立つ者として恋愛にうつつを抜かしている暇はないんです」



姫「私は母が愛したこの都市が、民が好きなのですから」



姫「だから……」




78 ◆YySYGxxFkU2019/07/10(水) 01:13:19.893dlmMjRD0 (16/18)






女友「別にそれが恋を諦める理由になるとは思えませんね」

姫「え……?」





女友「親友の恋路のことを思うなら、恋敵が身を引く姿を素直に見送るべきだと……分かってはいるんです」

女友「しかしそんな苦しい顔をしているのを見過ごせるわけないじゃないですか」



姫「苦しい顔って……違います! 私は独裁都市のためにむしろ誇らしくこの想いを捨てて…………ひぐっ、ぐすっ……」



女友「ああもう、ほらついには泣き出したじゃないですか。意地を張らないでください」



女友(私は姫様の頭を抱えて、赤子をあやすように背中をポンポンと叩きます)






79 ◆YySYGxxFkU2019/07/10(水) 01:13:58.243dlmMjRD0 (17/18)




姫「初めての恋だったんです! 初めて好きになったんです、男さんのことを!」

姫「でも……私が好きになったのは女さんによって変わった男さんなんです!」



姫「私の居場所が無いことは分かっています!」

姫「それでも……好きになってしまったんです! 仕方ないでしょう!」



女友「ええ、そうですね」



姫「女さんがいなければ良かったのに……女さんの代わりに私が男さんと出会っていたら……」

姫「そんな意味のない仮定が沸き上がっては心を乱して!」

姫「こんなに苦しいなら誰かを好きになりたくなかった!」



女友「でも好きになったからこそ幸せも感じたんですよね」



姫「男さんと結婚式をしたときは……それが敵の策略だと分かっていても、私は嬉しくて!」

姫「この幸せがずっと続けばいいのにって……でも……」



女友「分かります、分かりますから……全部吐き出してください」



女友(相手は一つの都市の長である姫様です)

女友(その立場だけでなく、今まで軟禁されていたこともあって、誰かに弱みを見せることなんて今まで出来なかったのでしょう)



女友(それでも潰れなかった精神的な強さは、トップに求められる資質です)

女友(だからといって何も溜め込まないわけがないのです)



女友(私は一人の少女がその思いの丈をぶちまける姿を、隣で優しく寄り添いながらしばらく聞くのでした)




80 ◆YySYGxxFkU2019/07/10(水) 01:14:48.583dlmMjRD0 (18/18)

続く。


81以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/10(水) 04:36:38.37wi4FIK1fO (1/1)

乙!


82以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/10(水) 05:28:47.98y6xENFIJO (1/1)

乙ー


83以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/10(水) 18:06:29.02O/VcyM7JO (1/1)




84以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/11(木) 12:47:49.46oKa9Cpu5O (1/1)




85 ◆YySYGxxFkU2019/07/11(木) 22:13:40.30rxpms8Gr0 (1/10)

乙、ありがとうございます。

投下します。


86 ◆YySYGxxFkU2019/07/11(木) 22:14:24.54rxpms8Gr0 (2/10)


男(波乱と策謀の結婚式から一夜が明けた)



男(独裁都市の宝玉を手に入れたので次の町に向かうべきでもあるのだが)

男(都市の内情に関わりすぎたのと新たに判明した事実を整理するため俺たちはまだ留まっていた)

男(神殿の最上階、昨日まで軟禁されていた部屋には俺と女と女友、姫に近衛兵長の五人がいる)



男(新たな収穫というと一番は近衛兵長から聞き出した話だろう)

男(やつは俺の魅了スキルによって虜となっている)

男(嘘を吐かず全てを話せ、という命令で今回の事態の裏側に潜むもの、近衛兵長が王国の工作員であったことも含めて全てが明らかとなった)

男(今回逐一話を聞くため手を出せないように命令して同席させている)



姫「王国……ですか!?」

男「姫、何か知っているのか?」



姫「先の大戦の覇者で、ここらでは一番の領土と軍事力を持つ大国です」

姫「最近また領土拡大のため怪しい動きをしているとは聞いていましたが……」




87 ◆YySYGxxFkU2019/07/11(木) 22:15:00.01rxpms8Gr0 (3/10)




近衛兵長「我が主、王の目的は全てを支配することだ」

近衛兵長「私はそのためにこの独裁都市の弱体化を狙って潜入した」

近衛兵長「結果は上手く行き過ぎたと言っていいだろう。これもあの愚かにも自身が王となろうとした司祭のおかげだ!」



男(先に話は聞いていた。司祭が自分が王になるため、姫を執政者失格の烙印を押させるためにしたことの数々を)

男(その過程で独裁都市の力が弱まったのだ)



男(近衛兵長の言葉に同意できるところがあるのも確かだった)



男「ああ、そうだな。女の子一人犠牲にしておいて何が王だ」

男(司祭が姫にやっていたことは許せるわけがない)



姫「男さん……」

女「むっ……そんなことより、このままじゃ独裁都市が危ないのよね?」



男(姫が頬を赤く染め、女は少々苛立ちと共に話題を変える)




88 ◆YySYGxxFkU2019/07/11(木) 22:15:37.27rxpms8Gr0 (4/10)




女友「神殿の黄金化計画のために集めていたお金は、実のところ司祭さんが王になった後に軍事拡大をするために残していたと」

女友「しかし、その隠し場所を近衛兵長にも明かしてしまったため用済みとなり殺されたんでしたね」



近衛兵長「金は既に他に潜入していた部下の手によって運び出されている」

近衛兵長「私に命令しようとも取り返せないだろう。ありがたいことにな」



男(女友の確認に近衛兵長は腹正しいことを言ってくる)

男(虜になり俺への好意こそあるのだろうが、女友のようにコントロール出来ることは証明されているし)

男(命令に従うと言っても心までは変えられないので王国を崇拝する気持ちは健在だ)





姫「司祭と近衛兵長がいなくなった以上、これまでの愚策を撤回、新たに改革していくことで独裁都市の再建を果たすつもりではありますが……先立つものがないのは不安ですね」



女友「それでしたら当てが無いわけではありません」

姫「……?」




89 ◆YySYGxxFkU2019/07/11(木) 22:16:08.09rxpms8Gr0 (5/10)




女友「今回の事態を昨夜の内に早速古参商会に相談したところ、商会が独裁都市に融資をしてもいいという解答をもらえました」

姫「本当ですか!?」



女友「ええ。元々独裁都市の人口は多く、大きな市場となっています」

女友「高すぎる税により一度は支部を引き上げましたが、それも後ろ髪引かれる思いだったそうです」

女友「都市運営が健全化するならば、新たに支部を再開してもいいですし、そのための融資も惜しまないだそうです。ただ……」



姫「この苦難のときに助かります! ええ、交換条件は分かっています」

姫「官が発注するものは優先的に古参商会に回すようにします」



女友「分かりました。では返事を古参商会にしておきます」



男(女友はいつだって何もかも見透かしたように動いているがここまで用意周到だとは。久しぶりに会う俺も驚きだ)



姫「ありがとうございます、女友!」

女友「いえいえ、姫のためならばこれくらい」



男(礼を言い合う二人だが、どちらも名前が呼び捨てだ)

男(信頼感のようなものも見えるが、二人ともいつの間に仲良くなったのだろうか?)




90 ◆YySYGxxFkU2019/07/11(木) 22:16:42.36rxpms8Gr0 (6/10)




男「次は王国についても話しておきたいんだが」

女「そうね。この世界の統一……そのために各地で動いていて……」

女友「他にどのような動きがあるか知らないんですか?」



男(女友が近衛兵長に問う。近衛兵長には俺以外の質問にも嘘偽り無く答えるように命令してある)



近衛兵長「知らないな。私は一工作員でしかない。情報漏洩を避けるため、他の者の動きを教えられているわけないだろう」

女友「……なんでこの人こんなに偉そうなんですか?」

男「まあまあ、抑えろ。とりあえず分かることが一つ。こいつら、王国は宝玉に関心は無いということだ」



男(軟禁していたこの部屋に隣接する祈祷室の女神像に付けられていた宝玉)

男(もし近衛兵長が求めているならば、いくらでも取る機会はあったはずだ)



女友「宝玉の奪い合いこそ無いですが、各地に手の者を向かわせているとなると、今回みたいにまた対峙することがあるでしょうね」

男「帰還派、駐留派、復活派に続くとすると……支配派でいいか。第四の勢力だな」



男(前者三つはクラスメイトだけでなく魔族も含めて実のところこの世界の外から来た者たちである)

男(対して支配派はこの世界に元からいた者で、宝玉も求めていないと対照的だ)




91 ◆YySYGxxFkU2019/07/11(木) 22:17:20.13rxpms8Gr0 (7/10)




女「近衛兵長さん。王国が傭兵さんに昔やった表舞台から消し去ったって話が気になるんですが、詳しくは知らないんですか?」

近衛兵長「断片的な情報しか聞いていない。司祭ならもしかして詳細を知っていたかもしれないが闇の中だ」



男(女の質問に対する近衛兵長の答え)

男(同じ竜闘士として戦ったことのある身だ、気になったのだろう。俺も別れ際の言葉は印象に残っている)





傭兵『それに……個人的にこんな世界など滅ぶべきだと考えている』





男(あの言葉は、その出来事が原因なのだろうか?)




92 ◆YySYGxxFkU2019/07/11(木) 22:18:01.39rxpms8Gr0 (8/10)




女友「ところで話を聞く限りこの人の罪はかなり重いと思うんですが、罰の方はどうするんですか?」

姫「それについてはまだ考慮中ですが……」



男(女友が近衛兵長について姫に聞く。被害を受けた独裁都市の法に則って罰されるべきなのだろうが……)



男「なあ姫、こいつの処遇について俺に任せてもらうってことは可能か?」



姫「……近衛兵長がしてきたことはまだ表に出していません」

姫「全部包み隠さず明かせば、王国はそんなやつ知らない、言い掛かりだと因縁を付けてきて争いになるでしょうから、どうにも慎重に協議しないといけないので」



姫「正直未来について考えたいことが多すぎるので、過去を引きずっている場合じゃないと頭を悩ませています」

姫「そういうところもあって今なら私の一存で動けますし、男さんが対応してくれるならありがたいですが……一体どうするつもりなんですか?」



男「ちょっと考えがあってな」



姫「まあ男さんなら悪いようにはしないとは思いますが……」

姫「あ、そうです。では交換条件を呑んでくれたらってことでいいですか?」



男「俺に出来ることならいいぞ」

姫「大丈夫です。男さんは了承するだけですから」



男(交換条件、了承するだけ。姫が俺に求めることは何だろうかと……まあ姫のことだから悪いようにはしないだろうと――)




93 ◆YySYGxxFkU2019/07/11(木) 22:18:27.48rxpms8Gr0 (9/10)








姫「えっと男さんには死んでもらおうと思ってるんですけど、いいですか?」



男「……は?」










94 ◆YySYGxxFkU2019/07/11(木) 22:20:04.86rxpms8Gr0 (10/10)

主人公死亡からの打ち切り完結エンドォォォォ!!



……嘘です、普通に続きます。
あと二話くらいで五章が終わる予定です。


95以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/12(金) 02:21:43.99G8hgyWsoo (1/1)

乙ー


96以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/12(金) 04:15:35.93obhLEDLeO (1/1)

乙!


97 ◆YySYGxxFkU2019/07/13(土) 21:57:34.36iXuWKk1I0 (1/13)

乙、ありがとうございます。

投下します。


98 ◆YySYGxxFkU2019/07/13(土) 21:59:10.05iXuWKk1I0 (2/13)




女「ううっ……男君……」

女友「女……悲しまないでください」



女「女友……でも無理だよ。私には受け止めきれない」

女友「そんなの私も一緒です。しかしそれで天国の男さんが喜ぶんですか?」



女「それは……」

女友「私たちは犠牲になった男さんの分まで前に進まないといけないんです」



女「うん、そうだね! 私、頑張るから! 男君どうか見守っていてね……」



女は天を仰ぐ。想いよ届けと願いながら。






99 ◆YySYGxxFkU2019/07/13(土) 21:59:44.70iXuWKk1I0 (3/13)




男「……俺はここにいるぞ」



男(茶番に耐えきれなくなった俺は女の隣から声をかけた)



女「待って、男君の声が聞こえる……!」

女友「本当ですか!」

女「うん。えっと……『すまんな、女。でも俺は一生おまえのことを愛してるから』だって!」

女友「もう……死んでからやっと素直になったんですか。本当あまのじゃくですね」



男(二人は幽霊になった俺から声が聞こえた、と茶番を続行する)

男(どうでもいいが死んだのに一生っておかしくないか?)




100 ◆YySYGxxFkU2019/07/13(土) 22:00:24.16iXuWKk1I0 (4/13)


男「はぁ……」

男(二人が何故このような茶番をしているかというと、俺が独裁都市内では死んだことになったのを茶化してだろう)



男(昨日の話し合いの最後に出された姫の『えっと男さんには死んでもらおうと思ってるんですけど、いいですか?』という提案)

男(あれは本当に殺すというわけではなく、死んだ扱いにさせて欲しいという提案だったようだ。それを了承したためこうなっている)



男(現在俺たちがいるのは結婚式の会場ともなった神殿前広場だ)

男(あのときは満員だったが、今日は人がまばらにしかいない)

男(とはいえ死んだことになっている俺の顔を見られてはマズいのでローブに付いたフードを深く被り、女、女友と合わせて三人で聴衆としてこの場にいる)





男(さて何故姫が俺を死んだ扱いにしたかったのかというと、ちょうど壇上で話をしているところだった)




101 ◆YySYGxxFkU2019/07/13(土) 22:00:56.47iXuWKk1I0 (5/13)




姫「一昨日の結婚式。余の伴侶となるはずだった男は襲撃者の手に掛かって……死んでしまった」



男(姫が壇上でワガママな姫様モードながら悲壮感たっぷりに話す)

男(俺が姫と結婚したことは独裁都市中の住民が知っていることだ)

男(実態は司祭と近衛兵長によって強制された結婚なのだが、民はそのことを知らないし姫は今後も明かすつもりもないようだ)



男(俺は宝玉を集めるために今日の午後にもこの都市を出て行くつもりである)

男(となると姫が、あれ旦那さんはどこ行ったの? と疑問に思われるのは当然だ)



男(そのため面倒が無いように俺は死んだということにするらしい)

男(幸いにも結婚式に来ていた観客は襲撃が起きた時点で逃げ出したので俺が最後どうなったかは知らない)

男(近衛兵には姫が直々に事情を説明したようだ)



男(というわけで無事死んだことになった俺だが、これには一石二鳥の効果もあって)




102 ◆YySYGxxFkU2019/07/13(土) 22:01:24.26iXuWKk1I0 (6/13)




姫「余のことを良く思わない輩の犯行に最初は激怒した。それならばさらに民から搾り取ってやるかと」

姫「じゃが、余の腕の中で息も絶え絶えとなった男が言ったんじゃ。『彼らを恨むな。悪いのは姫おまえだ』と」

姫「自分の命が危ないというときに生意気にも余に説教をして」



姫「……じゃが、そうじゃ。男の言ったことは間違っていない。全部悪いのは余じゃと」

姫「すまぬ……今さら謝っても遅いかもしれない。じゃがこれから余は民のための政治を行う」

姫「死んだ男も愛していた、この独裁都市を守っていくために」





男(姫が感情を込めて語るデタラメな話)

男(中々に演技が上手いと思ったが、そもそもワガママな姫自体が演技であることを考えると納得だ)



男(『組織』のやつらは『姫の政治に不満を持って襲撃』と装っていた)

男(それに乗っかり死んだことになった俺との約束で改心したということにする)

男(それで今後は独裁都市のための政治をしていくつもりのようだ)

男(女が助けにくる前に俺が提案した死からの蘇生で改心したことにする策の改良版ということだ)




103 ◆YySYGxxFkU2019/07/13(土) 22:02:11.14iXuWKk1I0 (7/13)


女「でも本当のこと言っちゃ駄目だったの?」

女「今までの行動は司祭さんと近衛兵長さんに強制されていたんです、私は悪くないんです、って」

女「近衛兵長さんが王国の工作員だったって明かすと面倒だからそこだけは伏せておくとして」



男(茶番に飽きたのか普通に話しかけてくる女)



男「独裁都市の民は高い税金や連発された愚策のせいで姫に恨みを持っている」

男「私は悪くなかったんですと言われて納得するやつも中にはいるかもしれないが、『知るかボケ』ってキレる方が多いだろ」



男「それにそもそも釈明して何の得になる。姫が精神的安寧を手に入れるだけでしかないだろ」

男「民には一銭の得にもならない、過ぎた二年間は戻らないんだよ」



女「それはそうかもしれないけど……でも姫さんが悪い印象のままなのはかわいそうだよ」

男「だとしてもあいつはそれを背負っていくって決めたんだ。外野がとやかく言う必要はねえ」



男(結婚式前夜、魅了スキルで聞き出した姫の覚悟は固かった。茨の道だとしても姫ならやれると信じている)




104 ◆YySYGxxFkU2019/07/13(土) 22:02:41.91iXuWKk1I0 (8/13)


女友「まあでもここまで敵意剥き出しだと辛いですね」

男(女友が聴衆を見渡してつぶやく)



男(今まで姫が演説するときはこの広場に詰めきれないほどの人が集まったらしい)

男(というのも集まらなければ処刑だと担当者を脅して必死に集めさせていたからだ)



男(今の姫は当然そんなことはしない。そのため聴衆はまばらだ)

男(集まったのも自主的に演説を聞きに来ようと思った人か、いざ心変わりしたといっても本当は変わっていなくて、行かなければ悪いことが起きるんじゃないかという猜疑心の強いものなどである)



男(そんな中改心したという姫に聴衆から罵声が飛ぶ)



市民1「独裁都市を良くしたいっていうなら、まずおまえが辞めろ!!」

市民2「おまえのせいで何人が死んだっていうんだ!!」

市民3「今までの責任を取れ!!」



男(一人が堰を切ってしまえば後に続くのはすぐだった。壇上の姫に向かって誹謗中傷が雨あられと降り注ぐ)




105 ◆YySYGxxFkU2019/07/13(土) 22:03:10.09iXuWKk1I0 (9/13)


女「酷い……みんなで寄ってたかって……」

男「そう思えるのは俺たちが裏側を知っているからだ」

男「俺たちだってパレードの前、何も知らないときは姫様を悪者扱いしていただろ」



女「それは……」

男「ここまで虐げられてきたんだ。正当な権利だとは言わないが、罵声の一つや二つを投げてしまうのは正直仕方ねえだろ」



男(女を諭しながら、俺は姫の反応をうかがっていた)

男(どんなに辛くても諦めないとは言った。だが、それが現実目の前に起きても貫けるか)





男(見守る中、姫が壇から横に出る)

男(それは聴衆に見えるようにするためだったのだろう――自分が土下座する姿を)



男(流石に土下座しているところに罵声を浴びせるほどの畜生はいなかったようだ)

男(静かになったところで、姫はそのまま口を開く)




106 ◆YySYGxxFkU2019/07/13(土) 22:03:40.13iXuWKk1I0 (10/13)




姫「本当に、本当に申し訳なかった」

姫「どれだけ言葉を尽くしても許せないじゃろう」

姫「責任を取って辞めろという声も当然分かる――」



男(と、そこで姫が身体を起こす)



姫「じゃが辞めるつもりはない。責任を取るつもりが無いわけではなく、逆にここで辞めては無責任だからじゃ」

姫「余のせいで傾いた独裁都市を、余の手で立て直してこそ責任を取ったと言えるじゃろう」



姫「もちろんそれを気にくわなく思う者もおるじゃろう。じゃから余がこの独裁都市のトップとしてふさわしいかは民に直接問う」

姫「定期的に投票を行い、民の半数が余のことをふさわしくないと出た時点で即刻余はこの座から降りる」

姫「余は気づいたんじゃ。この独裁都市を愛していることを。先代、余の母のように独裁都市を今度こそ導いてみせる」



姫「余がワガママ姫と呼ばれているのは知っておる」

姫「そしてこれが余の生涯最後のワガママじゃ、どうか聞き入れてもらえるとありがたい」



男(姫は正面を力強いまなざしで見ながらそこまで言い切ると再び頭を地面に付けた)




107 ◆YySYGxxFkU2019/07/13(土) 22:04:09.93iXuWKk1I0 (11/13)


男(姫の迫力に押されたのかしばらく聴衆は無言だった)

男(しかし時が経つに連れて、発言の意図を理解していくにつれ声が溢れ出す)



市民1「結局権力に縋り付きたいだけじゃねえのか?!」

市民2「投票はいい、だがその結果をどこまで信じられる! どうせ票の不正を行うんだろ!」

市民3「おまえに取れる責任はすぐに辞めることだけだ!!」



男(反発の声は少なくない。どれだけ言葉を飾っても執政者を続けようとするのは、姫の表したとおりワガママだ。許せない者がいて当然)

男(しかし)



市民A「そこまで言うなら……ねえ」

市民B「今の感じからして上っ面だけの言葉だとは思えないし……」

市民C「ちょっとは信じてもいいかも……ちょっとだけど」



男(姫を擁護する声もちらほらだがあるようだ)




108 ◆YySYGxxFkU2019/07/13(土) 22:04:39.93iXuWKk1I0 (12/13)


男「まあこれなら大丈夫だろ」

男(少しだとしても味方がいるなら十分だ)



男(実際姫には王としての資質がある)

男(時間が経つに連れ姫が本当に独裁都市のことを思っていることは民に伝わっていくだろう)



男「これで独裁都市の住民も困らなくなる。女も心配じゃなくなるよな?」

女「あ……男君覚えてたんだ。うん、本当に良かったよ」





男(正常に回り始めた独裁都市)

男(これなら後顧の憂い無く旅立つことが………………いや、一つだけ)





男「そうなるとここでお別れってことだよな」





男(俺の視線の先には聴衆の言葉に真摯に答える姫の姿があった)



109 ◆YySYGxxFkU2019/07/13(土) 22:05:12.77iXuWKk1I0 (13/13)

続く。

次が五章最終話です。


110以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/14(日) 04:01:14.20GrD9YtmMo (1/1)

乙ー


111以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/14(日) 09:55:34.43QTrO+HQw0 (1/1)

乙!


112 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:02:58.45FO9SZp+C0 (1/25)

乙、ありがとうございます。

5章最終話投下します。


113 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:04:26.32FO9SZp+C0 (2/25)


女(姫様の演説の後、時間を置いてから私たちは神殿最上階の執務室に向かっていた)

女(これから私たちはまた次の目的地に向かう)

女(その前に姫様がお礼とお別れの言葉を述べたいということで招かれていたのだ)

女(ただ)



女「そんなの無視して出発すればいいのに……」

男「何言ってんだよ、女。世話になったのに何も言わずに去るのは礼儀知らずだろ」



女(男君が至極真っ当なことを言う)

女(私だってそんなことは分かっている。男君が生き残ることが出来たのも、姫様と二人で協力したおかげだ)

女(そのことについては感謝している)



女(しかし、姫様は男君のことが好きだ。魅了スキルのせいだとしても、私のライバルであることには変わりない)

女(お別れの際に何かするのではないかと私は戦々恐々していた)



女友「はぁ……女も大人げないですね」

女「ど、どういう意味よ!?」

女友「そのままですよ。あまりおどおどせず、どっしりと構えてください」

女「……?」



女(馬鹿にされたと思ってつい声を荒げたけど、女友はどちらかというと呆れているようで首をひねる)

女(しばらくして執務室にたどり着き中に入った)




114 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:04:59.43FO9SZp+C0 (3/25)


男「よっ、姫邪魔するぞ」

姫「男さん!」

男「演説聞いたぞ」

姫「私も壇上から男さんの姿は見えていました!」



男「そうか。内容も中々良かったんじゃないか。もちろんこれからが大事だとは思うが」

姫「分かっています。この後も早速関係各所との話し合いがあって……」

姫「これでお別れなのにあまり時間が取れないのが残念です。もっとたくさんお話したいのに」



女(来客を感知した姫様がそそくさと立ち上がり男君の元に向かう)

女(んー、何か二人のムードが……)



男「二人で軟禁された一週間で十分満足するくらい話したと思うが。あのときは本当一日中暇を持て余していたし」

姫「それでもまだ足りないんです! ……ねえ、男さん。やっぱり考え直しませんか?」

男「その話こそ何回もしたじゃねえか」

姫「だとしても諦めきれないんです。男さん、これからも独裁都市に住んで、私と一緒に――」




115 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:07:20.91FO9SZp+C0 (4/25)




女「駄目ぇぇぇぇっ!!」

女(今にも抱きつこうとしていた姫様と男君の間に私は割って入った)



女「そんなの絶対駄目だから! 男君はこれからも私と一緒に旅をするの!」

姫「それを決めるのは男さんでしょう。何の権限があって男さんの行動を強制するんですか?」



女(良いところに邪魔が入った姫様はムッとした表情でこっちを見てくる)



男「コラコラ、二人とも争うなって」

男「すまんが姫、何度言われても俺の答えは変わらない」

男「俺は女たちと共に宝玉を集めるためこの都市を出て行く」



女「男君……!」

姫「っ……そうですか」



女(歓喜に染まる私と落胆する姫様)




116 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:09:00.28FO9SZp+C0 (5/25)


男「元の世界に戻るためだ、分かってくれ姫」

姫「……そんなの分かっています。でも、だとしたらこれが今生の別れということに……」



男「え、何言ってるんだ?」

姫「え?」



男「元の世界に戻る前にまた会いに来るに決まってるだろ。独裁都市がどうなるかも気になるしな」



姫「本当ですか!?」

女「ちょ、ちょっと男君!? 何言ってるの!?」



女(歓喜に染まる姫様と焦燥する私)



男「いや、宝玉を集めるのは駐留派と復活派がいることから急務だろ」

男「でもだからって集めた後に戻ることまで急がないといけないわけではない」

男「今まで回ってきた町を再訪するくらいのことはしたいって最初から思ってたし」



女友「そうですね。独裁都市だけでなく、最初の村や商業都市あたりもでしょうか」

女友「私たちを支援してくれた村長さんや古参商会長にもお礼を言いたいですし」

男「おお、そうだな。女友の言うとおりだ」



女「女友っ!?」

女(親友に背後から撃たれた格好だ)




117 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:09:53.93FO9SZp+C0 (6/25)




姫「分かりました! ではまた男さんが会いに来る日をお待ちしています!」

姫「もちろんそのときになって独裁都市に住みたい、私と一緒になりたいと心が変わったとしても、私は全然オーケーですからね!」



女「またそんなことを言って……うふふっ、知ってる? しつこい女は嫌われるのよ?」

姫「知ってますよぉ、嫉妬深い女が嫌われるってことくらい」



女(ぶちっ、と頭の中で何かがちぎれ飛ぶ音を幻聴した)



女「……ねえ、男君。ちょっとの間席を外していてくれない?」

姫「奇遇ですね、私も頼もうと思っていました」



女(醜い言い争いになることを予想した私は、それを見られないように男君に提案する。姫様も同じようだ)



男「お、おう……それくらいいいけど。あまり熱くなるなよ。女友はもしものときのブレーキ役頼む」

女友「頼まれました。その間男さんはどちらに?」

男「ちょうどいいから独房区画に行ってくる。出発前には戻ってくるつもりだから」

女友「なるほど、分かりました」



女(男君が執務室を出て行く)

女(バタン、とその扉の閉まる音が開戦のゴングだ)




118 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:11:05.93FO9SZp+C0 (7/25)




女「じゃあ言わせてもらうけど――」

姫「何でしょうか、本当は魅了スキルにかかっていない女さん」

女「な、何を言って……!?」



女(先制のジャブを放とうとした私は、カウンターのストレートにいきなり被弾した)



姫「あれ、違いましたか? てっきりその話をするために男さんを追い出したのかと思いましたが」

女「そんなわけないでしょ! だ、大体何を勘違いしているのか知らないけど、私は『状態異常耐性』スキルのおかげで魅了スキルが中途半端にかかっているだけで」



姫「それが嘘だとは女友の口から聞いてますよ」

女「ちょっと、女友!?」

女友「私は悪くありません。姫に悟られる女が悪いんです」



女(くわっと目を見開いて親友を睨むと、口笛を吹きながらそっぽを向いているところだった)

女(そういえば昨日から二人が名前で呼び合っていて気になったけど、二人が何らかの理由で親しくなっていてそのときに私の秘密の話をしたのかもしれない)




119 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:12:32.51FO9SZp+C0 (8/25)


女友「姫も女をあまりいじめないであげてください。その役目は私のものです」

女「あんたのものでも無いわよ!!」

姫「了解です。しかしここまで反応が面白いといじめたくなる気持ちも分かりますね」

女「分かるな!!」



女(私の頭上ごしに広げられる勝手な会話)

女(気づけば先ほどまでの緊迫ムードが霧散している)



女「で、でもどうして私が魅了スキルがかかってないって分かって……」

姫「見れば分かります。だって二人ともお似合いなんですもの」

女「お似合いって……」

姫「なのに私がちょっかいかけたくらいで取り乱して……本当大人げないです」



女(呆れたように首を振る姫様。展開に付いていけずポカンとなる私)




120 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:13:57.66FO9SZp+C0 (9/25)


女「どういうこと、女友?」

女友「女だって気づいているんでしょう。結婚式で助けて以来、男さんといい感じなことを」

女「それは……」



女(女友に言われるまでもなくだった)

女(男君との距離が近くなった感じはしていた)

女(ただ本当にそうなのか、私の自意識過剰かもしれないと表には出していなかったけど……)



姫「一緒に軟禁されている間も、男さんは女さんが助けに来るかずっと気にしている様子でした」

姫「それが本当に助けに来たものだから心を開いたというところでしょう」



女「……もう男君ったら」



女(この期に及んで男君は私に裏切られるかもしれないと不安に思っていたようだ。そんなことあるはずないのに)




121 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:14:52.64FO9SZp+C0 (10/25)






姫「お似合いの二人の強固な関係に、私は自ら身を引くことにしたんです」

姫「だからというわけではないですが、ちょっとくらいイジワルしてしまったのも流してください」





女(姫様が頭を下げる。そういうことなら私も正妻の余裕として流してやっても――)





女友「あれ? でもこの前姫も諦めないという話をしたばかりですよね?」

女「どういうこと?」





姫「――てへっ、バレましたか」

女(顔を上げた姫様は舌を出している)




122 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:16:04.49FO9SZp+C0 (11/25)




姫「男さんがまた会いに来るって話ですし、女さんを油断させておいてそのときに奪おうと思ったんですが……」

女「ふふっ、再訪するときには私と男君はラブラブな恋人になってるでしょうから」

女「姫様……いや姫さんの割り込む隙はありませんよ」



女(こんな人を食ったような少女に様をつけるのもバカバカしくなりさん付けで呼ぶ)



姫「それはどうでしょうか。未だに魅了スキルにかかっていると男さんに嘘を付いているような女さんに成し遂げられるとは思いませんね」

女「ぐっ……それは……」



姫「武士の情けで男さんには告げ口しないであげますが、また会うときに男さんがフリーなら本気で落としにかかりますからね」

女「……分かったわ」



女(姫さんの言葉は本気なのか、中々一歩踏み出せない私への発破なのか……判断は付かないけど、私の心に火が付いたのは確かだ)




123 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:16:36.62FO9SZp+C0 (12/25)




女友「さて。それはそれとして、戻ってくるまで男さんの話でもしませんか」

女友「軟禁中男さんがどんな様子だったか気になりますし、姫も男さんの話が聞きたいでしょう?」



女(女友が柏手を打ってから提案する)



女「それは気になるけど……」

姫「私もですね。一通りは本人から聞いたんですけど、自分の恥ずかしいところは絶妙に隠している様子でしたし」

女友「話が付きましたね。ちょっとミニキッチン借ります、お茶を入れたいので」



女(それからは女友の入れてくれたお茶を片手に、同じ人を好きになった者同士話が弾み)

女(先ほどまで言い争っていたとは思えないほどに穏やかな時間が過ぎていった)






124 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:18:32.72FO9SZp+C0 (13/25)




近衛兵「はっ、男殿。何か御用でしょうか!」

男「そんな敬礼までしなくても。この先の独房に用があるんですが」

近衛兵「承知しました。鍵を開けます!」



男(敬礼する近衛兵に若干引きながら俺は用件を伝える)

男(市民には死んだと伝えられたが、近衛兵は俺が生きていることを知っている)

男(姫がどのように伝えたのかは分からないが、俺の扱いは独裁都市トップの姫同様なほどであった)

男(ここに来るまでにあった近衛兵にも敬礼されたし)



近衛兵「全員房の中にいるので危険はないと思いますが近づきすぎないようにしてください!」

男「分かっています。それと近衛兵長については……」

近衛兵「兵長もまた男殿と同様に死んだ扱いになっているため、夜になって人目が少なくなってから動くつもりですが」

男「それなら大丈夫です。俺たちはこの後出発するつもりなので全ておまかせします」

近衛兵「はっ、承知しました!!」



男(一々リアクションの大きい近衛兵を置いて俺は独房が並ぶ通路を歩く)




125 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:19:14.25FO9SZp+C0 (14/25)


男(神殿内にあるこの独房は政治的に明るみに出せない者など特別な者を収容するために市民にも極秘に存在するそうだ)

男(結婚式のときに捕まえた『組織』の一般構成員は都市内にある普通の刑務所に入れられているが)

男(団結されないように離す意味でまとめ役であったクラスメイトたちや近衛兵長はこの独房に入れられているという。



男「つっても捕まったクラスメイトは二人だけだったんだよな……」



男(俺たちに対峙した太ったクラスメイトとめがねをかけたクラスメイトだけで)

男(女友が対峙したらしいギャルともう一人には逃げられたそうだ)



男(ということは宝玉を奪い争う相手である以上、また会う可能性はあるだろうが……)



男「そういえばギャルについては、女友が気になることを言っていたな……」



男(イケメンに騙されて利用されているだけかと思いきや、そのことを分かっている様子だったと)

男(そうでもしないとイケメンに見てもらえないからと言ったそうだが)



男「だとしたら…………まあ、今は関係ないか」




126 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:19:54.01FO9SZp+C0 (15/25)


男(近衛兵長は独房の最奥に収容されているようだ。かなり歩かされる)

男(一人で話す相手もいないためつれづれと思考が流れる)



男(そういえば次の目的地に行くとは言ったが、まだどこに行くかは聞いていないな。後で女友に聞いておかないと)

男(まあどんな場所だろうと大丈夫だ)

男(竜闘士の女と魅了スキルを持つ俺、幅広くサポート出来る女友の三人が入ればそう簡単に遅れを取るとは思えない)



男「………………」



男(女……女には今回の出来事を経て俺の中で大きく心象が変化したことを自覚している)

男(これまでだって信用はしていた。だが今は信頼できている。女にだったらためらわずに背中を預けられる)



男(そうだ、今回はわざわざ俺のために助けに来るなんてこともしたのだ)

男(しかも魅了スキルの命令をものともとしなかったことから、女自身が助けに来ようと思ったというわけだ)

男(そんな相手に騙されるなんて想像する方が馬鹿げている)



男(ただ一つ残念だとしたらその好意が魅了スキルによるものだということだ)

男(もし本当に女に好かれていたとしたら…………俺は……)




127 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:21:57.62FO9SZp+C0 (16/25)




近衛兵長「ニヤニヤしながら歩いてどうした?」

男「っ……!」



男(冷やかすような声をかけられる)

男(いつの間にか目的地に着いていたようだ)



男「おまえには関係ないだろ、近衛兵長」

近衛兵長「察するに恋愛ごとではないのか? だとしたら関係あるだろう。私はおまえの虜なのだからな」

男「……命令だ、これ以上下らないことを話すな」

近衛兵長「やれやれすぐ命令か。まあいい、ならば本題に入ってもらおうか」



男(近衛兵長は房の中から俺を揶揄するように笑っていた)




128 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:22:25.48FO9SZp+C0 (17/25)




男「ここに来たのは最終確認だ。これからおまえにしてもらうことのな」

男(近衛兵長に急かされるまでもなく、こいつと無駄話をするつもりはない。俺は早速本題に入る)



男(こいつを使って何をするつもりなのか、それには一つ警戒しているものが元になっている)

男(今回争うことになった王国。この世界の支配をもたらす彼の国とは、今後も関わることがあるかもしれない)

男(なのに無警戒でいるわけにはいかない。やれることはやっておく)

男(どのように動いているのか、その手の内を探るために――)





男「近衛兵長、おまえを逆スパイとして王国に潜入させる。王国の黒い部分には詳しいだろうしな」

近衛兵長「最初はこのまま処刑されるかと思っていたが……本当こうなるとはな」





男(俺は近衛兵長を見下ろす)




129 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:24:44.09FO9SZp+C0 (18/25)




男「もちろん拒否権は無い。おまえには徹底的に王国を裏切ってもらう」

男「そのためにありとあらゆる命令を既に施してある」



男(工作員としておそらく敵に囚われた場合の想定はあるのだろう)

男(何らかの符丁で自分の状況を知らせたり、助けを呼んだりなど)

男(その全てを魅了スキルの命令で封じる。姫から近衛兵長の扱いを預かって以来、時間を見ては命令をしておいてある)



近衛兵長「やれやれ手厳しい。王国に忠誠を誓った私が裏切り者になるとは」

近衛兵長「だが王国の方は裏切り者を始末することを躊躇しないぞ、私が魅了スキルで操られていることなどお構いなしだろう」



男「だろうな、だからおまえには最大限努力して王国を探るように命令する」

男「手を抜いてわざと捕まり王国のために命を殉じることも許させない」



男「それでも相手の方が上手で捕まってしまった場合は――そのまま死ね」




男(こいつは独裁都市を混乱させただけでなく、何人も殺した極悪人だ。その命令をすることに躊躇いは一切無い)




130 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:25:16.49FO9SZp+C0 (19/25)




近衛兵長「承知した、新しき主よ」



男(殊勝に従っているように見えて、こいつの心は未だに王国を崇拝しているだろう)

男(命令は解釈の余地が無いくらいに雁字搦めにしておかないと寝首をかかれるかもしれない)

男(その確認にやってきたのだ)



男(これまでにかけておいた命令を近衛兵長の口から復唱させる)

男(基本的には王国のことを調べさせて、俺たちに定期的に連絡するようにという命令だ)

男(だがあらゆる状況に対応できるように命令は多岐に渡っている)

男(考え得る限り大丈夫だと判断した俺は確認を終了した)



男「じゃあ今日の夜から行動開始だ。近衛兵の手引きに従って王国を目指せ」

男「有用な情報を少しでも掴めるようせいぜい頑張るんだな」



近衛兵長「人使いが荒いな。これなら前の職場の方がホワイトなくらいだ」

男「恨むなら魅了スキルにかかった自分を恨め」




131 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:26:33.32FO9SZp+C0 (20/25)




近衛兵長「……本当にそうだな。実際食らっても私が虜になるとは思っていなかった」

近衛兵長「もう少し本気で対策しておくべきだったか」



男「……?」



男(食らっても虜になるとは思わなかった……とはどういうことだろうか?)

男(いや、そういえば俺と姫が軟禁されているときに、やつはやけに強気にかからないと言っていた)



近衛兵長『それに……どうせまともに食らっても、私が貴様の虜になるとは思えん』



男(やつには何らかの虜にならないと思う理由があったとしたら……)



男「それはどういう意味だ? 魅了スキルの効果対象のことか?」

男「自分が『魅力的な異性』に当てはまらないと思っていたとか」



近衛兵長「何を言う。私ほど魅力的な女はいないだろう。柄ではないがハニートラップをこなしたこともあるぞ」

男「そんなこと知らねえよ。だったらどうして虜にならないと思ったんだ?」



男(近衛兵長の自信の源が気になり聞き出そうとして――)




132 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:27:15.05FO9SZp+C0 (21/25)






近衛兵長「『状態異常耐性』スキルだ」

近衛兵長「聖騎士に備わっているスキルで……そういえば貴様の仲間の竜闘士も持っていたんだったか」



近衛兵長「このスキルのおかげで私は並大抵の状態異常にはかからない」



近衛兵長「だから虜状態にもならないと思っていたが……」

近衛兵長「いや、そもそも固有スキル相手に普通のスキルで敵うと思ったのが間違いだったか」





男「………………は?」

男(俺の思考は完全に停止した)








133 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:28:22.88FO9SZp+C0 (22/25)




男「………………」



男(『状態異常耐性』スキル)

男(そのスキルは竜闘士の女に俺の魅了スキルが中途半端にかかっている理由のはずだ)

男(それなのに同じスキルを持っている近衛兵長には完全に魅了スキルがかかっている)



男「おまえっ!! それは本当なのか!?」

近衛兵長「……? 本当だが……何故動揺している?」



男(激しく狼狽えている俺に、近衛兵長の方が困惑しているようだ)




134 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:29:27.19FO9SZp+C0 (23/25)




男「………………」

男(落ち着いて考えろ)



男(女と俺の事情を知った近衛兵長が騙している……この可能性はない)

男(近衛兵長が俺たちの事情を知っているなら手紙のからくりに気付いただろうし)

男(女や女友が近衛兵長にわざわざその話をするとも思えない)



男(そもそも魅了スキルがかかっている近衛兵長が俺に逆らうことが出来ない)

男(近衛兵長自身も特に意図することがあってスキルのことを話したのではないようだ)





男(だとしたら――信じたくない、考えたくもない)

男(だが残された可能性は……)




135 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:30:22.46FO9SZp+C0 (24/25)









男「女が俺に嘘を吐いている……のか?」







男(女なら信じられると……共に進んでいくその先には輝かしいイメージがあったのに)

男(今や暗雲がかかっていた)




136 ◆YySYGxxFkU2019/07/15(月) 13:31:29.66FO9SZp+C0 (25/25)


5章『独裁都市・少女姫』完結です。
開始からちょうど三か月かかって、約17万文字とこれまで以上に長い話となりました。

今回の話は『まさかヤンデレなのか!?』と『結婚式に乱入する主人公(ヒロイン)』をやりたくて構成しました。
姫様とはここで一旦お別れですが、その内また出番がある予定です。



6章は3歩進んだのに4歩戻りそうな男と女の関係にクローズアップして描く予定です。
8月を目標に戻ってくるつもりです。



乙や感想などもらえると作者がむせび泣いて喜ぶのでどうかよろしくお願いします。


137以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/15(月) 17:55:16.87Ju8Z49gj0 (1/1)

乙!
この章も楽しませてもらいました!
次の章も楽しみに待ってます!!


138以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/15(月) 18:38:28.62QwdUaM9PO (1/1)

乙ー


139以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/15(月) 19:29:27.03lWQS7Jq00 (1/1)

乙ー
ネガティブな男さんが帰ってきたな!
次の章に期待


140以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/22(月) 20:37:19.63haO8NIQz0 (1/1)


ついに、魅了スキルにかかっていないことがバレてしまうのか!


141 ◆YySYGxxFkU2019/08/01(木) 19:53:40.00hzAdYJe00 (1/12)

乙、ありがとうございます。
8月になったので6章開始します。

>>137 期待に応えられるよう頑張ります。

>>139 ここ最近ポジティブでしたからね。

>>140 どうなるか!

章の開始でしばらくはスローペースで進むことを先に謝っておきます。
というわけで投下します。


142 ◆YySYGxxFkU2019/08/01(木) 19:54:40.17hzAdYJe00 (2/12)




 犯罪結社『組織』本部、幹部に与えられた一室にその二人はいた。

 魅了スキルを追い求めるイケメンとその彼女であるギャルだ。

 この異世界に留まり好き勝手する事を目的とする駐留派の中核メンバーである。



ギャル「この前の任務どうだったの、イケメン」

イケメン「……ああ、散々だったよ」



 ギャルが恭しく聞くと、イケメンはソファに寝転がったまま「はぁ」と溜め息を吐いた。



ギャル「苦労したってのは聞いてるけど」

イケメン「僕たちは今、魅了スキルによって掌握した仲間を持つ男たち帰還派と宝玉を奪い合っているというのは知っているだろう?」

ギャル「うん、それくらいは」

イケメン「ただ敵はそれだけじゃない。魔神復活のために動く魔族と伝説の傭兵のコンビ、復活派。彼らとかちあったのさ」

ギャル「っ……!」




143 ◆YySYGxxFkU2019/08/01(木) 19:55:23.39hzAdYJe00 (3/12)




イケメン「全く、竜闘士を圧倒するために悪魔を呼び出そうと宝玉を集めているのに」

イケメン「その過程で竜闘士と争っていたんじゃ意味が分からないね」



ギャル「そ、それでどうなったの!?」

イケメン「もちろん敵うわけないだろう。目的としていた宝玉は復活派に奪われた。骨折り損のくたびれ儲けさ」



ギャル「復活派は……報告によると今まで宝玉を二つ集めていた。ってことはこれで三つ目よね」

イケメン「ああ、対して駐留派は僕もギャルも奪取に失敗したけど、もう一つ別働隊が手に入れたおかげで、どうにか四つ目だ」

ギャル「そして帰還派が持っている宝玉は五個……必要量が一番少ないのもあってこのままだとマズいよね」




144 ◆YySYGxxFkU2019/08/01(木) 19:55:57.36hzAdYJe00 (4/12)


 二人が話している通り、現在それぞれの勢力が持つ宝玉の数は、帰還派が五個、駐留派が四個、復活派が三個だ。



 そして宝玉は数が集まるほどにその力を増す。



 二つならランダムな世界に通じるゲートが、

 四つである程度指定してゲートを、

 六つで完全に指定できるが強度の低いゲートが開けて、

 八つでその強度が上がり、

 十で高位存在も召喚することが出来て、

 十二で神さえも呼ぶことが出来る。






145 ◆YySYGxxFkU2019/08/01(木) 19:56:47.16hzAdYJe00 (5/12)




イケメン「帰還派の必要数は僕らクラスメイトを全員帰還させることだから8個」

イケメン「対して悪魔を呼び出したい僕たちが10」

イケメン「魔神を呼び出したい復活派は12のはず」



ギャル「そうなるとそれぞれ集めないといけない残りは3個、6個、9個……」

ギャル「復活派が一番遠いけど、だからってギャルたちが近いわけでも無いか」

イケメン「『組織』の力も借りて各地でどうにか集めているけど……目標達成は遠そうだな」



 イケメンは思考する。

 このまま順当に行けば、帰還派が一番最初に宝玉を必要数まで集めて、元の世界に戻る準備を整えるだろう。

 そうなれば魅了スキルによって、自身がこれまであった女の中で一番だと確信する女を支配する機会は永遠に失われる。

 だったらどうすればいいか。

 逆転するための一手は――。




146 ◆YySYGxxFkU2019/08/01(木) 19:57:19.48hzAdYJe00 (6/12)




イケメン「これしかないか」

ギャル「イケメン……?」



イケメン「そうと決まれば行動だな。ギャル、僕は行くよ」

ギャル「行くって……ど、どこになの!?」



イケメン「偵察隊によると、どうやら今度はやつらがかち合うようだからね。ちょっとそこに行ってくるよ」



イケメン「そう――――」






147 ◆YySYGxxFkU2019/08/01(木) 19:57:50.11hzAdYJe00 (7/12)




魔族「――以上が今回の段取りだ」

傭兵「承知した」



 某所にて。

 魔族の語った今回の計画について、伝説の傭兵は頷く。



魔族「変更があればその都度連絡する。何も無い間は自分の判断で動け」

傭兵「分かっている……ただ今回は予測不可能なところが多そうだな」

魔族「ああ……やつらも来るんだったな」



 魔族が思い浮かべるのは、あの忌々しい女神の力、魅了スキルを引き継いだガキの顔。

 女神教の力も削ぎ、ようやく魔神様復活のために動き出した自分たちを妨害する女神の悪足掻き。

 だが宝玉の多くをやつら召喚者に抑えられている現状を考えるとその策は成功している。






148 ◆YySYGxxFkU2019/08/01(木) 19:58:19.84hzAdYJe00 (8/12)




傭兵「この前はあの少年少女とは袂を分かったらしい『影使い』の少年と争ったが……」

傭兵「彼は見事に力に溺れていたな。昔を思い出した」



魔族「昔というと……私と出会う前のことか」

傭兵「ああ。力さえあればどうにでもなると、何をしてもいいと……腹正しい」

魔族「私としてはそちらの方が御しやすいがな」



傭兵「……まあいい。私情を挟むつもりはない。好きに命令しろ」

魔族「それはありがたい」






149 ◆YySYGxxFkU2019/08/01(木) 19:58:54.02hzAdYJe00 (9/12)




 魔族には余裕があった。

 固有スキル『変身』、絶対にバレない隠蔽スキルを使って各所に潜入できる彼女は様々な情報を持っており、当然それぞれの勢力が持つ宝玉の数も把握していた。



 復活派と呼ばれる自分たちが集めた宝玉の数で出遅れていることは分かっている。

 それでも他の二勢力が誤解していることから、最後に勝つのは自分たちだと信じていた。



傭兵「さて、ここからは別行動だな。武運を祈るぞ」

魔族「ああ、任せろ」



 そして二人が進む、その地は――。






150 ◆YySYGxxFkU2019/08/01(木) 19:59:31.85hzAdYJe00 (10/12)






女「いやー、長旅だったね!」

女友「ほら、男さん、着きましたよ」

男「……そうか」





 女と女友の後を付いてくように男も馬車を降りる。

 三人が次に求める宝玉があるその地にたどり着いたのだ。






151 ◆YySYGxxFkU2019/08/01(木) 19:59:58.50hzAdYJe00 (11/12)






女友「学術都市……ここに次の宝玉があるんですね」








152 ◆YySYGxxFkU2019/08/01(木) 20:00:52.44hzAdYJe00 (12/12)

続く。

6章『学術都市』編もよろしくお願いします。




153以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/01(木) 23:46:59.46dLAEpBxvo (1/1)

乙ー


154以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/02(金) 00:32:37.46E2LtBDlCO (1/1)

乙!
新章待ってました!!


155以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/03(土) 00:32:32.98Az/0t9/p0 (1/1)

乙一


156 ◆YySYGxxFkU2019/08/03(土) 22:40:33.44PrwhD2pU0 (1/9)

乙、ありがとうございます。

投下します。


157 ◆YySYGxxFkU2019/08/03(土) 22:41:12.89PrwhD2pU0 (2/9)


女友(私たちが今回訪れたのは学術都市なる場所です)



女友(この世界における魔法学の権威とも言える大学がここには存在します)

女友(附属として初等部から、中等部、高等部もこの都市にあり、一貫した教育がそのレベルの高さを生むようです)

女友(町造りも学園を中心として成り立っています)



女友(私たちは古参商会の紹介で、その内の一つの研究室を訪れていました)



室長「これがこの町にあった宝玉だ」

室長「女神教の教会を取り壊す際に、作業員が回収したものがこの研究室にまで回ってきたもので」

女友「拝見します」



女友(室長が差し出した青い宝石を私は手に取って見つめます)

女友(中に魔法陣が刻まれた、私たちにとって馴染みが深い宝玉そのものです)




158 ◆YySYGxxFkU2019/08/03(土) 22:41:41.73PrwhD2pU0 (3/9)




室長「それで君たちも宝玉を持っているって話を聞いたんだけど……」

女友「はい、女出してもらえますか?」

女「あ、うん。ちょっと待ってね」



女友(代表して管理している女がこれまでに手に入れた宝玉五個を取り出して室長に渡します)



室長「おおっ、宝玉が五個も!? 最初は三個だと話は窺っていたのですが……」

女友「それから新たに二つ手に入れた分ですね」

室長「なるほど、そういうことですか」



女友(古参商会は随分前からアポを取っていたようで、私たちが独裁都市で手に入れた分と仲間のパーティーが手に入れた分の二つは勘定に入ってなかったようです)

女友(仲間が手に入れた分はここにたどり着く前に、古参商会を伝って私たちに届けられたため、帰還派がこれまでに手に入れた宝玉は全てがここにあります)




159 ◆YySYGxxFkU2019/08/03(土) 22:42:15.77PrwhD2pU0 (4/9)




室長「宝玉を一箇所に集めると…………やっぱり!! 中の魔法陣の輝きが増して……!」

室長「この仕組みを解明すれば新たな魔法理論の構築も可能に…………」

室長「うおおおっ! テンション上がって来たぁぁぁっ!!」



女友(室長が吠えるように叫びます)



女友「申し訳ありません、話をしてもいいですか?」

女友(このままでは進まないので私は水を差します)



室長「……あ、すいません。研究者として未知を既知に出来る機会につい……」

女友「お気になさらず」



女友「では確認です。私たちの持つ宝玉五つを研究のため貸し出します」

女友「そして研究が終われば、元からあなたたちが持っていた一つも含めて六つを返してもらうと……」

女友「この条件で構わないでしょうか?」



室長「ああ、もちろんさ!」



女友(室長が勢いよく頷いて、これでこの町の宝玉を手に入れる算段が付きました)

女友(宝玉を貸し出して待つだけ。これまで苦労してきたことを考えると何とも簡単なものです)




160 ◆YySYGxxFkU2019/08/03(土) 22:42:55.78PrwhD2pU0 (5/9)


室長「ただ、ちょっと研究に時間がかかりそうだけど……」

女友「どれくらいでしょうか?」

室長「そうだねえ…………かっ飛ばして不眠不休で研究して…………二週間くらいは見積もってもらえると」



女友「分かりました。では一ヶ月待ちます」

室長「え……? いいのかい?」



女友「大丈夫です」

室長「……恩に着るよ!! おおっ、君は女神だ!!」



女友(室長に過剰に感謝されます)



女友(もちろん本音としては急かしたいところです)

女友(誰かが奪いに来る可能性を警戒するために、私たちは宝玉を預けている間もこの地に留まる予定です)

女友(その間に駐留派と復活派が各地で宝玉集めを進めていくでしょう)

女友(それを考えると足踏みしている余裕はありません)



女友(しかし、急いては事を仕損じるです)

女友(ここまでハイペースで宝玉を集めてきた私たちには、一旦休憩が必要だと独自に判断しました)

女友(というのも)




161 ◆YySYGxxFkU2019/08/03(土) 22:43:28.99PrwhD2pU0 (6/9)




女友「二人もそれでいいですね?」



女友(同行者の二人、女と男さんに確認を取ると)



女「私は構わないよ。ね、男君」

男「…………」



女「男君、聞いてる?」

男「え、あ、すまん……何の話だ?」



女「だから宝玉の研究に一ヶ月かかるって話。その間私たちもこの地を離れられないけどいいかな、って女友が」

男「…………うん、まあいいんじゃないか」

女「そう……」



男「…………」

女「…………」






162 ◆YySYGxxFkU2019/08/03(土) 22:44:00.73PrwhD2pU0 (7/9)




女友(ぎくしゃくしたやり取りをする二人)



女友(少し前……正確には独裁都市を出発した日、それも私と女と姫姫が談笑しているところに独房から帰ってきたときから、男さんの様子がおかしくなっていました)



女友(軟禁状態のピンチから女が救ったことで、二人の仲も急接近したと傍目には見えていたのですが……一体何があったのか)



女友(親友、女は既に問いつめて特に何もしていないと言質は取ったので、問題はおそらく男さんにあると踏んではいますが……)



女友(ちょうどいいのでこの一ヶ月の間にどうにか解決したいところです)






163 ◆YySYGxxFkU2019/08/03(土) 22:44:28.77PrwhD2pU0 (8/9)




室長「しかし一ヶ月の間ただ待たせるのも悪いよな……あ、そうだ!」



女友(そのとき室長が何か思いついたようにポンと手を打ちます)



女友「どうしましたか?」



室長「君たち、魔法額に興味は無いかい!?」

室長「もし良ければだけど、学園に一ヶ月の間体験入学出来るように取り計らってみるよ!!」






164 ◆YySYGxxFkU2019/08/03(土) 22:45:43.02PrwhD2pU0 (9/9)

×魔法額 → 〇魔法学
ミス申し訳ありませぬ。

続きます。


165以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/03(土) 23:47:49.12aEURjwQZ0 (1/1)

乙!


166以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/03(土) 23:53:34.30I8Gh1H480 (1/1)

乙ー
敵にさらわれて救出されたと思ったら新事実発覚で拗らせてたものぶり返しちゃうとは
ホント男さんのヒロインっぷりは半端ねーぜ


167以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/04(日) 11:34:56.38SuK1KcE8o (1/1)

乙ー


168 ◆YySYGxxFkU2019/08/06(火) 01:05:44.22jCtuVPPF0 (1/10)

乙、ありがとうございます。

>>166 ヒロイン力限界突破!!

投下します。


169 ◆YySYGxxFkU2019/08/06(火) 01:06:11.00jCtuVPPF0 (2/10)


先生「昨日は魔法の基本を学びましたね。覚えているかなー?」

生徒「はーい、先生! 空気中の魔素を取り入れて自分の身体の内で魔力に変換することです!」

先生「そう、その通りよ! じゃあ今日はその先をやっていきましょうね!」

生徒「はーい!」



男(学術都市、初等部の教室。)

男(先生の呼びかけに応える元気な子供という光景は世界が変わっても存在するのかと)



男「…………」

男(同じく初等部の生徒として体験入学した俺は現実逃避するように考えていた)



男(周りに5、6歳の子供しかいない中に混じるのはやっぱりキツいとはいえ)

男(魅了スキルしか持たない俺が魔法の教育を受けるとなると、レベルとしては初等部と一緒になるので仕方ないことであった)




170 ◆YySYGxxFkU2019/08/06(火) 01:06:45.09jCtuVPPF0 (3/10)


男(俺たちが学術都市にたどり着いたのは先日のこと)

男(俺たちが持つ宝玉を貸し出す代わりに、持っていた宝玉を譲ってもらう)

男(交渉が成立した後、研究室長の体験入学をしないかという提案に俺たちはせっかくだしということで乗ることにした)



男(この学園には初等部から大学まである)

男(体験入学するにしてもどこに入った方がいいのかを計るために、俺たちは事務局でステータスを開示した)



事務員「魔導士ですか! これは……凄まじいですね!」

女友「ありがとうございます」



男(事務員は女友のステータスを見て興奮していた)

男(どうやら女友ほどの魔法の使い手はこの学術都市にもいないらしい)

男(女友は大学で専門的な教育を一通り受けた後、宝玉の研究について手伝うことに決まった)

男(『これで一ヶ月より早く研究が終わるかもしれないですね』と女友が言っていた)




171 ◆YySYGxxFkU2019/08/06(火) 01:07:16.28jCtuVPPF0 (4/10)


事務員「そちらの少女は竜闘士ですか……自前のスキルもあるでしょうし、魔法が使えても仕方ないとは思いますけど……」

女「そうですね……あ、でも敵が使ってくる魔法の種類とかよく分かってないし、そういうのを学べたらいいんですか」

事務員「となると実戦魔法コースですね」



男(女もとんとん拍子に決まって)



事務員「そちらの少年は魔法に関して…………えっと初等部で基本から教わるというのがオススメになってしまいますが……」

男「可能ならばそれでお願いします」



男(随分と言葉を選んだ事務員に、俺は一も二もなく頭を下げた)

男(元の世界では高校生だった俺が小学生扱いされてるわけだが、実際魔法についてはずぶの素人だ。当然の扱いだろう)



女友「初等部とは……大丈夫ですか、男さん? 周りが小学生くらいの子供ばかりってことなんですよ?」

男「逆に初等部に俺なんかを混ぜてもらえる方がありがたいことだ」



男(と、心配する女友に対して強がって見せたことを早くも後悔することになるとは思ってもいなかった)




172 ◆YySYGxxFkU2019/08/06(火) 01:07:46.17jCtuVPPF0 (5/10)


男(先生による魔力から魔法に変換する説明も終わり実践練習の時間となった)

男(異世界人である俺でもちゃんと練習すれば魔法が使えるようになるらしい)

男(その言葉に心躍っていた俺だが……実際には魔法発動の第一プロセス、空気中の魔素を取り入れるというところから俺は躓いていた)

男(だいたい魔素って何だよ、本当にそんなもの存在するのか?)



生徒「出来た!」

先生「あら、すごいわねー!」



男(しかし子供たちの中から成功させる者が出てきて、俺の言い訳もつぶされた)

男(大人しく試行を繰り返す)



男「…………」

男(正直に言って、俺が魔法を使えるようになったところで何かが変わるとも思っていない)

男(今練習している初級魔法『火球』はその名前の通り小さな火の玉を一つ飛ばして相手にぶつける魔法だ)

男(しかし衝撃波を飛ばしたり氷塊の雨を降らせる仲間たちがいるのにそんなことが出来て何になるというのか)



男(分かっているのに俺がこんなところにいる理由……それは悩み事から気を紛らわせるためという側面が大きいだろう)




173 ◆YySYGxxFkU2019/08/06(火) 01:08:25.76jCtuVPPF0 (6/10)


男(独裁都市での一連の出来事により、女への心証が変わってきた矢先の出来事)

男(王国のスパイ、聖騎士の近衛兵長が、状態異常耐性スキルを持っていると明かしたのだ)

男(それによって虜状態になることを防げると思っていたが、実際には魅了スキルの支配下において王国に対して逆スパイとして潜入させている)



男(そうなると同じく状態異常耐性スキルのおかげで魅了スキルが中途半端にかかっているという女の発言がおかしくなる)



男(……おそらく女が嘘を吐いて、俺を騙しているに違いない)

男(その発想に至った瞬間、俺の精神がズンと沈むのを感じられた)

男(思っていた以上にダメージは大きかった)



男(すぐにでも女を問い詰めようと思ったが、すんでのところで思い留まる)

男(というのも気付いたからだ。どう考えても辻褄が合わないことに)




174 ◆YySYGxxFkU2019/08/06(火) 01:08:51.91jCtuVPPF0 (7/10)


男(状況を整理しよう)

男(まず近衛兵長の発言により、女に中途半端に魅了スキルがかかっていることが否定される)



男(となると女の本当の状態として考えられる可能性は二つ)

男(魅了スキルが完璧にかかっているか、完璧にかかっていないかだ)



男(どちらであるかを考えて、俺はすぐに後者だと判断した)

男(これまでに何度も女は命令を無視した実績があるからだ)

男(魅了スキルにかかっていてはそんなこと出来るはずがない)



男(ここまでは理詰めで考えられる。だがここからが分からない)

男(というのも女は現状、俺の魅了スキルにかかっていると言っているからだ)




175 ◆YySYGxxFkU2019/08/06(火) 01:09:18.39jCtuVPPF0 (8/10)


男(その嘘を吐く意味が理解出来ない)

男(魅了スキルにかかっているフリをしても、俺に好意を持っているように見せたり俺の命令に無駄に従ったりしないといけないだけだ。何ら得がない)



男(逆だったら分かる。本当は魅了スキルにかかっているのに、俺に命令されたくないためにかかっていないと嘘を吐くのなら)



男(そんな非合理的な嘘を吐いたのには……何らかの事情があるのだと)

男(決して俺を悪意で持って騙そうとしているのではないのだと……そう思ったから、未だに行動を共にしている)



男(相手が女でなければ嘘を吐かれたということだけで失望し、後先考えずに縁を切って独りになっていたかもしれない)




176 ◆YySYGxxFkU2019/08/06(火) 01:09:44.39jCtuVPPF0 (9/10)




男「…………」



男(とはいえすぐに今まで通り接することは難しい)

男(昨日も女とのやり取りがぎくしゃくしたことは自覚している)



男(幸いにも学術都市にいる間はこれまでよりも女とは顔を合わせずに済む)

男(日中は違うコースだし、夜も今までは節約のため同じ宿の部屋に泊まることが多かったが、今回は先方の厚意で女子寮の一室と男子寮の一室が割り当てられたため違う部屋に寝泊まりしているからだ)



男(女が抱える事情とは何なのか、今後どうするべきか、俺はどうしたいのか?)



男(一人でゆっくり考える時間が持てるのはありがたかった)




177 ◆YySYGxxFkU2019/08/06(火) 01:10:12.13jCtuVPPF0 (10/10)

続く。


178以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/06(火) 04:17:27.90LIjnSeyMO (1/1)

乙!


179以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/06(火) 08:21:51.44e/MMIP23O (1/1)

乙ー


180以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/06(火) 19:32:48.46O4SzFtPm0 (1/1)




181 ◆YySYGxxFkU2019/08/08(木) 00:35:58.78x/JedQkZ0 (1/11)

乙、ありがとうございます。

投下します。


182 ◆YySYGxxFkU2019/08/08(木) 00:36:50.54x/JedQkZ0 (2/11)


女友「本当の、本当に心当たりはないんですね?」

女「もう、だから何回も言ってるでしょ。私だって訳が分からないのに」



女(学術都市女子寮の二人用の部屋にて)

女(私は、ここ数日何度も同じ質問をする女友に辟易していた)



女友「男さんも地雷が多いですから知らずに踏んでしまったとか」

女「……それも無いと思う。女友の方こそ、男君に何かしたとか無いよね?」

女友「私も心当たりありませんよ」



女(女友は力なく首を振る)

女(話題はここ最近の男君の様子についてだ)

女(私と接する際に明らかにぎくしゃくしている状況。女友とはそんな様子は見られないのに)



女(独裁都市で男君を助けて以来いいムードだったというのに、急転直下の展開に私は失望よりも困惑の方が大きかった)

女(男君の変調の理由が全く検討付かなかったからだ)



女(女友とは普通に会話出来ているのに、私とだけはぎくしゃくしてしまう理由)




183 ◆YySYGxxFkU2019/08/08(木) 00:37:25.18x/JedQkZ0 (3/11)


女「もしかして……」

女友「やっぱり何かミスしてたんですか?」

女(口を開いた瞬間失礼なことを言い放つ女友)



女「どうして女友は私が失敗した前提で話すの?」

女友「今までの経験からです」

女「……とにかく、私分かったの! 男君がおかしくなっている理由!」



女(もうこれしかないというほどドンピシャの理由に思い当たった私は興奮しながら女友に話すが)



女友「……何の手がかりも無い状況ですからね。女の戯れ言に付き合ってもいいでしょう」

女(女友は塩対応だ)

女(まあでもこの名探偵女の見事な推理を聞けば『素敵!』と態度を翻すだろう)



女友「それで女の考える理由とは何ですか?」



女(先を促す言葉に私は自信満々に答えた)




184 ◆YySYGxxFkU2019/08/08(木) 00:37:58.17x/JedQkZ0 (4/11)






女「独裁都市の時に颯爽と助けに来た私を見て、男君は私のことが大・大・大好きになっちゃったんだよ!」

女「だから私と話すときも意識しちゃってるんだって!!」





女友「…………」

女(女友は無言で頭を抱えている)

女(きっと私の考えの素晴らしさに感銘を受けたのだろう)



女「好きな人の前で緊張するなんて、男君もお茶目なところがあるよね!」

女友「……どちらかというと男さんの様子は照れているというよりは、陰がある感じでしたが」

女「それはあれだよ! 『陰のある男はカッコいい』ってことで私の気を引こうとしてるんだよ!」

女「はあ……ひとまず謝ってください。男さんはあなたほど単純な人じゃないです」



女(女友は何だか不服そうだ)

女(……あ、そうか。私と男君がいい感じになると、三人で旅している以上女友が仲間外れみたいになってしまう)

女(独りぼっちになるのが嫌なのだろう)




185 ◆YySYGxxFkU2019/08/08(木) 00:38:46.94x/JedQkZ0 (5/11)


女「大丈夫だよ、女友。もし男君と付き合うことになっても、親友であることには変わりないから!」

女友「……一応ありがとうと言いましょうか。そしてよく分かりました」



女「でしょ? 男君の変調の理由は……」

女友「そうではなくて、女。あなたがすごい浮かれていることに」



女(女友がビシッと私を指さす)



女「浮かれるってこんな感じ? 『竜の翼(ドラゴンウィング)』」

女友「狭い部屋なのに翼を出さないでください! ああもう、そうやってノリが軽いのが浮かれている証拠ですよ!!」

女「はーい」



女(女友に怒られて、私は翼を引っ込める)




186 ◆YySYGxxFkU2019/08/08(木) 00:39:17.66x/JedQkZ0 (6/11)


女友「女が浮かれるのも分かります。ようやく男さんと上手く行きそうだったんですから」

女友「今まで応援してきた私も本当なら手放しで賞賛したいところです」

女「でしょ!」



女友「ですが。だからこそ一転して今の状況に陥ってしまったことに危機感を覚えているんです」

女友「よっぽどの理由があるはずですから、対処を誤れば男さんとの関係はご破算ですよ」



女「だからその理由は男君が私のことを好きになったからじゃないの?」

女(私の再三の言葉に女友は考え込む)



女友「正直急な変調という点だけを見ると、状況からして女の考えも有力なのが悩ましいところなんですよね……」

女「ほら!」

女友「いえ、惑わされないでください、私。この単純野郎に引っ張られています。男さんの今の状況を見るに違うのは明らかです」



女(女友が自分の頭を握りこぶしで叩いて正気に戻るように努めている)

女(私が人を堕落させる何かのように扱われていて酷い話だ)




187 ◆YySYGxxFkU2019/08/08(木) 00:39:49.72x/JedQkZ0 (7/11)


女「そんなに私の意見を否定するなら、女友の方こそ何か意見を言ってみせてよ」

女友「そうですね……女の嘘が男さんにバレたとしたら今の状況も分かるんですが」

女「嘘……っていうと、私が魅了スキルにかかっているという嘘?」



女友「はい。過去のトラウマから人に裏切られることを極端に恐れている男さんですから、女が信頼できる人物だと思った矢先に騙されていることに気付いたらショックを受けるでしょう」



女「それは……いつか打ち明けないといけないと思っているけど……」

女友「ええ分かっています。ですが女も不自然な点ばかり晒していますから」

女友「前回も魅了スキルの命令を無視して助けに行きましたし。男さんが自力で気付くのはあり得る可能性です」



女「そうは言うけど、今まで何だかんだバレなかったのに、そんな急に露呈するかな?」

女友「……やっぱり延々と考えても埒が明きませんね」

女友「よし、分かりました。私が直接男さんに話をします」



女(決心したように女友が立ち上がる)




188 ◆YySYGxxFkU2019/08/08(木) 00:40:31.91x/JedQkZ0 (8/11)




女「……でも、大丈夫かな。男君、私が昼ご飯一緒に食べようって誘っても、まだ学校に慣れなくてなって断るし」

女「放課後一緒に遊ぼうとしてもちょっと復習したいって……明らかに避けられてるし」



女友「大丈夫なはずです。女と違って私とは普通に話せていましたし」



女「おおっ! じゃあ、任せるからね!」

女「もし男君が私のこと大好きで止まらないって言ってたらこっそりと教えてね」



女友「こっそりと教えるだけでいいんですか?」

女「というと……?」



女友「私なら男さんから女に告白するように仕向けることも可能です」

女「……女友様っ!!!!」



女(私は現人神の顕現に拝み倒す)




189 ◆YySYGxxFkU2019/08/08(木) 00:41:01.30x/JedQkZ0 (9/11)




女友「苦しゅうない、苦しゅうない」

女友「やっぱり女も女の子ですからね。告白は男の子からされたいでしょう」



女「はい、その通りです!」



女友「何か女と話していると本当に男さんが女のことを好きで避けているのだと思い始めてきました」

女友「となればサクッと付き合わせて祝福することにしましょう!」






190 ◆YySYGxxFkU2019/08/08(木) 00:41:33.38x/JedQkZ0 (10/11)






 翌日。昼のこと。





男「ちょうど良かった。俺も女友と話をしたいと思っていたんだ」

女友「話とは……?」



 学園の食堂にて、待ち合わせをした男と女友。



男「女は本当のところ魅了スキルにかかってないんじゃないか?」

女友「…………」



 現実はそう甘くないのだった。




191 ◆YySYGxxFkU2019/08/08(木) 00:42:01.79x/JedQkZ0 (11/11)

続く。


192以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/08(木) 01:08:51.64s0cPDc10o (1/1)

乙ー


193以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/08(木) 06:06:34.094GEw7O+PO (1/1)

乙!


194 ◆YySYGxxFkU2019/08/10(土) 01:04:10.67Vlt9CL5c0 (1/13)

乙、ありがとうございます。

投下します。


195 ◆YySYGxxFkU2019/08/10(土) 01:04:53.12Vlt9CL5c0 (2/13)




男「女は本当のところ魅了スキルにかかってないんじゃないか?」

女友「…………」



女友(険しい表情で口を開いた男さんに、私はさてどうしましょうか、と半ば思考放棄していました)



女友(現在私たちは学園の食堂にいます。初等部から大学まで、大勢の生徒が利用する食堂です)

女友(私は朝の内に男さんとここで会う約束を取り付けていました)

女友(女友一人だけならいい、と暗に女の同席を避ける発言をされたのは想定内です)



女友(そして午前の講義を終えて昼になり食堂に向かい、料理を持って二人座れるところを探し、落ち着いたところで先の発言をされたという流れです)




196 ◆YySYGxxFkU2019/08/10(土) 01:05:47.43Vlt9CL5c0 (3/13)




男「――というわけで女に魅了スキルがかかっていないと思ったわけだ」



女友(さて、今までの流れを思い返す現実逃避を終えたところで、男さんの説明もちょうど終わりました)

女友(どうやら近衛兵長が『状態異常耐性』のスキルを持っているのに魅了スキルにかかったことから、私の吐いた嘘が見破られたことが原因だったようです)



女友(近衛兵長と私が直接対峙していれば、そのときに相手がどのようなスキルを持っているか看破して、この事態を避けることも出来たでしょうが……そんなこといっても詮無きことですね)





男「率直に聞く。女友、おまえは女の事情を知っているんじゃないか?」



女友「……そんな、私も知らなかったんですよ! まさか女が魅了スキルにかかっていないなんて! 状態異常耐性スキルのせいでないとしたら一体何が理由で――」








197 ◆YySYGxxFkU2019/08/10(土) 01:06:15.65Vlt9CL5c0 (4/13)




男「………………」

女友「――と言っても信じてもらえなさそうですね」



男「ああ。今思い返してみると、状態異常耐性スキルのことを言い出したのは女友だろ」

男「おまえは女に魅了スキルがかかっていることにしようと奮闘していた」

男「つまり、そのときから女の事情について知っていたんだろ」



女友「実際にはあのときは疑い程度でしたが……ええ、今の私は女の事情について知っていますよ」



女友(誤魔化せる雰囲気ではなく、私は真実を打ち明けます)




198 ◆YySYGxxFkU2019/08/10(土) 01:06:43.63Vlt9CL5c0 (5/13)


男「…………」

女友「軽蔑しないんですか? ずっと男さんのことを騙していたのに」



男「そう、だな。……女友が嘘を吐いたのは女の事情を汲んでのことなんだろ」

女友「まあそうですね」



男「だったら女が嘘を吐かせていたようなものだし……」

男「それにその状況を女友が良しとしていたのは、女のためでもあるんだろうが、俺のためでもあるんだろ?」

男「それくらいにはおまえの人となりも分かっているつもりだ」



女友「……はい」



女友(男さんの言う通りです)

女友女が男さんのことを好きであることを私が言えなかったのは、もちろん女の意向もありますが、男さんが好意をトラウマに思っていることも考慮してのことです)



女友(といっても言い訳にしかならないと、罰を受けるつもりだったのですが……男さんは私のことを許しているようです)




199 ◆YySYGxxFkU2019/08/10(土) 01:07:25.51Vlt9CL5c0 (6/13)




女友「でしたら女は?」

男「女は駄目だ。あれだけ人のことを信じろって言いながら、騙していたとか無しだろ」



女友「まあ、そうですね」

男「大体女はだな――」



女友(そこから男さんが女に対する愚痴をつらつらと述べるのを、ほぼ全面的に同意しながら私は考えます)



女友(男さんは新たな街にたどり着く度に宝玉を手に入れるまでの道のりを私たちに指示して来たことから分かるように、状況把握の能力が高いです)



女友(今回も女に疑いを向けるや否や、魅了スキルにかかっていないとまで推理したのは流石です)



女友(だからこそ男さんがその先に気付いていないことは少々不可解でした)






200 ◆YySYGxxFkU2019/08/10(土) 01:08:01.01Vlt9CL5c0 (7/13)




女友(女は一番最初に召喚された直後に魅了スキルを暴発させた際、しっかりと効果範囲にいました)

女友(男さんも女のことを魅力的に思っていたはずです)

女友(それなのに失敗したとなれば……その理由は対象が特別な好意を抱いている場合くらいしかないと分かりそうなものなのに)




女友(ですが男さんはその可能性を思い浮かべることすらしていなさそうです)



女友(その理由は…………ああ、そうですか)



女友(男さんは魅了スキル抜きに自分が好意を向けられることは無いと……呪縛に囚われている)



女友(トラウマから心の傷を癒すのに使った自己否定が、男さんの自己評価の低さを生み出し)

女友(そのせいで『自分が好かれる事なんて無い』と思いこませている)






201 ◆YySYGxxFkU2019/08/10(土) 01:08:28.49Vlt9CL5c0 (8/13)


女友(その一方で)



男「大体女はいつも自分勝手で……聞いてるか、女友?」

女友「ええ、聞いてますよ。本当苦労しています」

男「だろ」



女友「それでこちらから質問なんですが、男さんは今後どうしたいんですか?」

男「今後……?」



女友「はい。女は男さんを長い間騙していました。ごめん一つで済む問題ではないでしょう」

男「ああ、その通りだ」



女友(頷く男さんに私は吹っかける)




202 ◆YySYGxxFkU2019/08/10(土) 01:09:07.25Vlt9CL5c0 (9/13)




女友「ですから……そうですね、罰として女は死刑とか」

男「死刑!? いや、重すぎだろ!? おまえ女は親友じゃないのか!?」



女友「親友だからこそ厳しく当たるんです。これまで男さんを騙していた罪……万死に値します……!!」

男「それだと女友にも当てはまるような…………じゃなくて!! とにかく死ぬとかは無しだろ!」



女友「じゃあそうですね、騙していたのにのうのうとこれからも一緒に旅とかあり得ませんし、このパーティーから追放しましょう、追放」

男「……いや、それも無いだろ」



女友「もうだったらどうすればいいんですか? 男さんの問題なんですよ」

女友「ほら、私が手伝いますから、女をどうするべきか考えてください」






203 ◆YySYGxxFkU2019/08/10(土) 01:09:41.37Vlt9CL5c0 (10/13)




男「女を…………俺は、どうしたいんだろうな……」



女友(考え込む男さん)

女友(トラウマから来る拒絶反応が出ていたとしたら、そうやって悩むことすら無かったでしょう)



女友(最初、魅了スキルにかかっていないことに気付かれたときは正直終わったと覚悟していましたが、どうやら状況は思っていたより悪くないようです)



女友(それどころか女と男さんの間に立ちはだかる問題を解決するいい機会ですらあります)



女友(学術都市にいる間は宝玉を手に入れることも考えずに済みますし、時間が十分にあることも追い風で、この機会に二人の関係を急接近させようと――――)






204 ◆YySYGxxFkU2019/08/10(土) 01:10:16.48Vlt9CL5c0 (11/13)




男「ん、何だか騒がしいな」

女友「え…………あ、確かにそうですね」



女友(男さんの呟きに思考を中断すると、食堂が不自然に賑わっていることに気付きました)

女友(昼食時間に入ったばかりならばお腹の減った学生の歓声という可能性も考えられますが、もう十分に時間が経っています)





女友「え……?」

女友(だとしたら一体何が……と、騒ぎの中心にいる人物を見て私は気が遠くなりました)





生徒1「わあ、本物だ!!」

生徒2「講演に来てくれるのは聞いてたけど……」

生徒3「近代史に残る偉人、先の大戦を終結に導いた立役者――」





女友(生徒に囲まれるその人物は)




205 ◆YySYGxxFkU2019/08/10(土) 01:10:45.93Vlt9CL5c0 (12/13)






生徒「伝説の傭兵さんですよね!!」



傭兵「その通りだが…………この時間に来たのはマズかったか」





女友(魔神復活派コンビの片割れ、伝説の傭兵その人でした)




206 ◆YySYGxxFkU2019/08/10(土) 01:11:14.93Vlt9CL5c0 (13/13)

続く。

ぼちぼち縦軸も動かしていきます。


207以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/10(土) 04:44:59.17rEzNRpITO (1/1)

乙!


208以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/10(土) 05:40:47.47tt6Pa5JvO (1/1)

乙ー


209以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/13(火) 04:49:49.24Fx0uBfhA0 (1/1)

乙!


210 ◆YySYGxxFkU2019/08/14(水) 09:27:13.85k7ul/X3r0 (1/11)

乙、ありがとうございます。

投下します。


211 ◆YySYGxxFkU2019/08/14(水) 09:27:59.75k7ul/X3r0 (2/11)


男(放課後)



女「どうしてあなたがここにいるんですか!? 説明してください!!」



男(俺と女友は食堂で伝説の傭兵を見つけたことを昼休みの内に女に伝えた)

男(放課後になってから三人で傭兵の姿を探し、そしてこの職員室で見つけるや否や女が突っかけた次第である)





男(俺の気持ちが定まっていない中、女と一緒に行動をするのは避けたいところだったのだが)

男(復活派の出現は宝玉の、俺たちの使命の問題だ)

男(駄々をこねている場合ではないくらいの分別は付いている)




212 ◆YySYGxxFkU2019/08/14(水) 09:28:34.47k7ul/X3r0 (3/11)




傭兵「君の名前は……確か女君だったか。職員室では静かにと習わなかったか?」



男(女の剣幕も何のその、傭兵はたしなめてみせる)



女「そんな教師みたいなこと言わないでください!」

傭兵「いや、今の私はこの学園の講師だ。臨時ではあるがな」



男(胸元に付いているプレートを見せると……確かに臨時講師と書かれてある)



女「どういうつもりですか……まさかこの学園に何かするつもりで……!」

傭兵「そう激昂するな。この事態は私が意図したところではない。逆に学園の方から申し出た話だ」

女「ふん、どうだか。本当は――!!」



男(女はさらに声を張り上げようとするが)




213 ◆YySYGxxFkU2019/08/14(水) 09:29:23.92k7ul/X3r0 (4/11)




男「女、ちょっと落ち着け」

女友「そうです、声を抑えてください」



男(俺と女友がそれを止めにかかる)



女「どうしてなの! だってこの人は……」

男「いや、気持ちは分かるが……ここは職員室だぞ」

女友「さっきから周囲の視線が集まって……居心地が悪いです」



男(女に周囲を見るように促す)

男(実際教師たちもちょうど訪れていた生徒たちも『何かあったのか』と興味の視線をこちらに向けている)





女「あはは、すいません。何でもないんです、つい声を荒げてごめんなさい」

男(状況に気付いた女は両手を左右にあわあわと振りながらその場で頭を何回も下げる)

男(一旦は視線の集中も落ち着くが、それでも周囲の人たちはこちらの様子を窺っている雰囲気が感じ取れた)





傭兵「……仕方ない。付いてこい、おまえたち」



男(助け船を出したのは、敵であるはずの傭兵であった)




214 ◆YySYGxxFkU2019/08/14(水) 09:30:06.70k7ul/X3r0 (5/11)


男(誘導されるままに俺たちは場所を職員室から生徒指導室に移す)

男(ここなら他の教師や生徒もいないので注目されることも無さそうだ)



傭兵「気になることは聞くがいい。答えられることなら答えよう。予定があるからそれまでの間に限るが」

女「じゃあ、どうしてここにあなたがいるんですか!! 経緯を説明してください!!」



男(傭兵の寛大な態度に、あれだけ恥ずかしい目にあったのに女は先ほどまでの剣幕を維持したまま同じ事を問いかける。精神が強い)



傭兵「別段に語ることはない。旅を続けていれば先立つものは必要だ」

傭兵「この学術都市に入る際何か仕事は無いか聞いたところ、この学園で臨時講師として講演などして欲しいという要請に従っただけだ」



男(伝説の傭兵の勇名はこの世界の人々のほとんどが知っているほどだ)

男(そんな人の話を教育者として生徒たちに聞かせたいと思ったのだろう)

男(学園の意図は分かるところだ)



男(問題は――)




215 ◆YySYGxxFkU2019/08/14(水) 09:30:51.20k7ul/X3r0 (6/11)




女「何か裏の意図があるんじゃないですか?」



男(女が聞いたとおり、傭兵自身の思惑だ)



傭兵「この都市に宝玉があることは当然把握している。私が宝玉を奪いに来たと……そう言いたいのだろう」

女「その通りです」



傭兵「ならばこの際言っておこう。今回、私が直接宝玉を奪うことはないと」

女「そんな言葉信じられません」



傭兵「考えれば分かることだ。私は伝説の傭兵として数多くの民に顔を知られている」

傭兵「そのようなものがコソコソと動ける訳がないし、もし宝玉を盗むというような悪行が直接露呈すれば瞬時に知れ渡り私は往来を歩くことが出来なくなるだろう」

傭兵「そのようなリスクを背負ってまですることではない」

傭兵「武闘大会のような私が私であるままに宝玉を手に入れることが出来たのは例外中の例外だ」



男(傭兵の言葉には一理あると思った)

男(伝説の傭兵の名は伊達ではない。実際食堂に顔を出しただけであれだけ騒がれたではないか)

男(つまり目の前にいる男、傭兵は宝玉を奪いに来たわけではなく――)




216 ◆YySYGxxFkU2019/08/14(水) 09:31:40.57k7ul/X3r0 (7/11)




男「復活派のもう一人、魔族が宝玉を奪うつもりだと……そう言いたいんだな」



傭兵「……ああ、その通りだ。既に魔族はその姿を変えて、この学術都市に潜入している」



男(俺の問いかけに傭兵はあっさりと白状した)



男「魔族の姿のままなら角も生えてるし目立つだろうが、やつの固有スキルは『変身』……潜入するにはピッタリの能力か」



傭兵「私も誰に化けたのかは聞いていないから教えられない。もっとも知っていたとしても答えないだろうが」



男(『魔導士』の女友ですら見抜くことが出来ない『変身』スキル)

男(そんな厄介なやつが宝玉を狙っているなら警戒しないといけないが……)




217 ◆YySYGxxFkU2019/08/14(水) 09:32:26.08k7ul/X3r0 (8/11)


女「だったら研究室に言って警備の人を増やしてもらわないと!」

女「あそこには学術都市の宝玉だけじゃなくて、私たちが今までに集めた宝玉もあるし!」



男「待て、女。それは逆効果だ」

女「逆効果……?」

男「ああ。魔族は誰にだって化けられる。宝玉の周囲に人を増やすことは、つまり化けられるターゲットを増やすのと同義だ」



男(だからこそ傭兵も魔族が潜入していることを普通に明かしたのだろう)

男(警戒するのも難儀な『変身』スキル)

男(きっと俺の『魅了』スキルより宝玉を手に入れるのによっぽど役に立っているだろう)



女「男君……」

男「だが対策しないといけないのも確かでどうするか……って、どうした女?」

女「え、あ、いや、今は関係ないことで」

男「何だ女らしくないな。気になることがあるなら言っていいぞ」





女「でも絶対関係ないことだよ。……だって久しぶりに男君と普通に会話出来ているなあ、って思っただけだし……」

男「そ、それは……ああもう、今は真面目な話をだな……」

女「だ、だから関係ないって言ったじゃん!」



男(女が顔を真っ赤にしている。場違いなことを考えていた自覚はあるのだろう)




218 ◆YySYGxxFkU2019/08/14(水) 09:33:10.08k7ul/X3r0 (9/11)


傭兵「どうした少年、彼女と喧嘩中か?」

男「……つかぬことを聞きますが、その『彼女』とは三人称代名詞のことですよね?」



傭兵「いや、恋人である女性のことだ。魅了スキルの少年と竜闘士の少女、二人は付き合っているのだろう?」

男「付き合っていません!!」

傭兵「む、そうか。これは失礼な邪推をした」



男(俺は声を張り上げて否定する)



傭兵「……しかしそれほど想い合っているのに付き合っていないとは……最近の若者はよく分からん…………」

女「た、確かにそうだけど……ムキになって否定しなくてもいいじゃん……」



男(傭兵と女、竜闘士二人がぶつぶつ何か言っているが俺の耳にまで届かない)




219 ◆YySYGxxFkU2019/08/14(水) 09:33:53.16k7ul/X3r0 (10/11)


男(傭兵まで変なことを言い出して、完全に場の雰囲気が緩くなってきた)

男(宝玉を奪うつもりが無いとはいえ敵同士だ)

男(馴れ合う必要もないと、そろそろその場を去ろうとして)



女友「一つ質問をいいですか?」

傭兵「……どうした、魔導士の少女よ」



男(女友が真剣な声で傭兵に問いかける)



女友「あなたの過去についてです。先の大戦が終わった後、王国はあなたに何をしたんですか?」

傭兵「知ったのか……王国の名が出てくるとはな」



女友「王国は不明な点が多い勢力です。教えてもらえるならありがたいのですが」

傭兵「我が主に不利益が被る話ではない。特に隠すことも無いが……残念ながら時間だ」



男(時計を見て傭兵がタイムアップを告げる。そういえばこの後予定があると言っていたか)



傭兵「言ったように私はしばらく臨時講師としてこの学園に勤めている。時間のあるときにまた訪ねるといい」



男(傭兵はそのように言うと生徒指導室を去るのだった)




220 ◆YySYGxxFkU2019/08/14(水) 09:34:40.57k7ul/X3r0 (11/11)

続く。

投下遅くなり申し訳ありません。
また書き溜め尽きたので、今後の更新も不定期になります。
ご了承ください。


221以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/14(水) 11:44:37.01AMxY291B0 (1/1)

乙!
待ってるぜ!


222以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/14(水) 17:23:56.93J1P1zVKCO (1/1)

乙ー


223以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/16(金) 14:26:18.57rEDkmhiy0 (1/1)

乙!


224 ◆YySYGxxFkU2019/09/01(日) 22:48:14.88Gk83vwYH0 (1/15)

乙、ありがとうございます。
大変遅くなって申し訳ありません。

投下します。


225 ◆YySYGxxFkU2019/09/01(日) 22:48:51.43Gk83vwYH0 (2/15)


男(生徒指導室を後にした俺たちはその足で宝玉を貸し出している研究室に向かう)

男(その道中で俺は謝った)



男「いや、その……すまんな、女友」

女友「いきなりどうしたんですか?」



男「さっきの傭兵との会話だ。やつの過去、王国の所行について聞き出すのは必要なことだったのに、俺はすっかり忘れていたから」

女友「ああ、そのことですか。別に気にしていませんよ。男さんも魔族のことについて聞き出してくれましたし」



男「いや、それでも俺が気付くべき事だったんだ……」

男「戦闘で役に立たない俺はせめてこういうところだけでも頑張らないといけないのに……そうだ、関係ない事なんて考えている余裕は……」



男(女に関する問題と宝玉に関わる問題は別物だ。切り替えて対処しないと)



女「男君……」

女友「はぁ……分かりました」



男(心配げな女の声が聞こえたかと思うと、先導していた女友がその場で立ち止まる)




226 ◆YySYGxxFkU2019/09/01(日) 22:49:20.28Gk83vwYH0 (3/15)




女友「研究室には私一人で行きます。二人は付いてこなくていいです」



男(そして冷たい声で宣告した)



男「一人でって……でも、宝玉に関わる問題だぞ!」

女「そうだよ、どうして!」

男(俺と女は異を唱えるが女友は動じることなく続ける)



女友「私一人で十分だからです。魔族によって宝玉を奪うことを防ぐ対策、人を増やしたからって上手く行くような話でもないでしょう。それにあまり多くで押し掛けても迷惑でしょうし」



男「そうかもしれないけど……だったら俺が!」

女友「以前、研究室に訪れた際に魔法式トラップが仕掛けられていることを確認しています」

女友「そういう専門的なことも話すだろう事を考えると、代表して『魔導士』の私が出向くのが一番です」

男「それは……」


男(授業を受けているのに、未だに魔法の一つも使えない俺にその言葉は重くのしかかる)




227 ◆YySYGxxFkU2019/09/01(日) 22:49:52.77Gk83vwYH0 (4/15)




女「だったら私は……!? もし魔族が力押しで来た場合、竜闘士の私がいた方がいいでしょ! その確認のためにも私は行った方が……」



女友「いえ、竜闘士の傭兵さんが加わるならまだしも、魔族一人相手取るなら私だけで事足ります」

女友「もし傭兵さんが嘘を吐いていて奇襲したとしても、この学園には警備員もしっかりいますし、実戦魔法教育を受けた生徒もいていざというときの戦力はかなり高いですし、女が遅れてでも駆けつけるなら十分に対処できます」



女「だとしても……何もしないでいるのは……」





女友「――というのは全部建前です」





男「な……?」

女「え?」



男(一気に前言を翻した女友に俺と女は付いていけない)




228 ◆YySYGxxFkU2019/09/01(日) 22:50:19.52Gk83vwYH0 (5/15)




女友「何もしないで? 今、そう言いましたね。そんな遊ばせるわけ無いでしょう」

女友「当然女にしてもらわないといけない大事なことがあります、宝玉に関する問題以上に大事なことが」



女「それって……」



女友「決まっているでしょう。男さんとの関係修復です」

女友「どうやら男さんは女に魅了スキルがかかっていないことに気付いたみたいですよ」



女「……っ!?」



男(昼間に相談したことを、女友はあっさりと女にバラす)




229 ◆YySYGxxFkU2019/09/01(日) 22:50:48.53Gk83vwYH0 (6/15)


男「女友、おまえ……」

女友「ごめんなさいね、男さん。でも特に口止めもされていませんでしたし、それにこちらの方が話は早いでしょう?」

男「……だとしても、これは俺の個人的な問題だ。俺たちの使命に関わる宝玉問題より優先されるとは――」

女友「いえ、優先すべき問題です。パーティー内に不和があって大きな事をなせるでしょうか? そんなはずないと私は考えます」



男「……」

男(確かに今の俺は女との問題のせいで気もそぞろになっている)



女「男君にバレて……」

女友「ええ、詳しくは省きますが魅了スキルにかかっていないということだけに気付いて、女の事情は分かっていないようです」

女「……」

女友「事情を明かすかはあなたの判断に任せます」



男(女の事情……俺が皆目検討付かないそれについて目の前でやり取りが行われる)



女友「さて、二人とも状況を理解したようですね。私は研究室に向かいますから後はお願いします。それでは」



男(俺たちが反対しないことを確認して、女友は研究室に向かって歩き出した)




230 ◆YySYGxxFkU2019/09/01(日) 22:51:15.63Gk83vwYH0 (7/15)




男「………………」

女「………………」



男(残された俺と女の間を沈黙が支配する)

男(俺は何を話していいのか分からなかったし、女は騙していたことがバレて気まずいようだ)



男(正直に言うとこのまま対話を放棄して寮の自室に逃げ出したかった)

男(ただそれではあまりに女友に不誠実過ぎる)

男(今まで俺たちの意図を汲んで何度も助けてくれた女友がここまで強引に事を運んだのは、その荒療治が必要だと判断したからだろう)



男(だが、未だに考えがまとまっていないのに女と何を話せばいいのか)

男(……いや、逆なのか? これまでずっと一人で考えて結論が出ないんだ)

男(ならばこれ以上考えても堂々巡りになるだろう。だったら元凶の女に当たるのが正解なのかもしれない)

男(……どちらが砕けるのかは想像も付かないけど)





男(と、冷静に思考できたのはそこまでだった)




231 ◆YySYGxxFkU2019/09/01(日) 22:51:46.00Gk83vwYH0 (8/15)




女「ごめんなさい」



男(先に口を開いた女)

男(いつになくしおらしい態度を目にして、俺は自然と口が動いていた)



男「どうして謝るんだ?」

女「私が男君のことを騙していたからです」

男「ああ、そうだな。まさか人を信じるようにあれだけ言ってた女が俺のことを騙しているとは思ってもいなかった」

女「……本当にごめん」



男(女が一層に萎縮する)

男(……違う、俺はこんなこと言いたいんじゃなくて……)



男「それでどうだったんだ? まんまと騙されている俺を見るのはさぞかし楽しかったんじゃねえか?」

女「そ、そんなことないよ!」

男「本当か? なら罪悪感の一つでもあったっていうのか?」

女「罪悪感はもちろんあったけど……最近は……」

男「忘れてたっていうのか、なるほどな」

女「……ごめん」



男(言葉が、感情が収まらない)




232 ◆YySYGxxFkU2019/09/01(日) 22:52:22.35Gk83vwYH0 (9/15)


男「さっきからごめん、ごめんって、それしか言葉を知らねえのかよ」

女「……」

男「ごめんって言うにしても普通はさ、こういう事情があったんです、ごめんなさいだろ。なあ、どんな事情があったのか言えないのかよ」

女「……ズルいことは分かってる。でも、まだ言えないの……ごめん」



男「そうか……そんなに俺のことが信頼できないのか」

女「ち、違うって! それは私の勇気が無いからで…………」



男「意味分からねえよ!! 結局俺のこと信頼してないから秘密にするんだろ!!」

女「それは……」

男「俺は……やっと女のこと信じられそうだと……そう思ってたのに……」



男(自覚できるほど頭に血が上っているのに、涙で視界が霞む)

男(怒りと悲しみ、相反する感情が俺の心を散り散りに裂いていく)



男「っ……!」



男(これ以上この場にいられないと俺はこの場を離れようとして……何でもない段差に躓いて派手に転んだ)




233 ◆YySYGxxFkU2019/09/01(日) 22:52:59.20Gk83vwYH0 (10/15)




女「男君!」

男「来るなっ!」



男(心配そうに駆け寄ってきた女を俺は拒む)



女「で、でもすりむいて血が出ているし……早く保健室に行かないと……」

男「……だからもう騙されていることには気付いているって言っただろ」

女「え……?」



男「もういいんだよ。魅了スキルにかかっているフリは、俺に好意を持っているフリをするのは」

女「フリって……そんなんじゃ……」

男「そうやってまた騙す気か? 懲りないんだな」



男(俺はよろよろと一人で立ち上がる)



男「女友に言われたこともあるしな。宝玉に関することには協力する。でもそれ以外のときは話しかけるな」



男(吐き捨てるように言って俺は意地を張るように女に一瞥もくれないまま去る)

男(それなのに女が今どんな表情をしているのか気になってしょうがなかった)




234 ◆YySYGxxFkU2019/09/01(日) 22:53:33.37Gk83vwYH0 (11/15)




男(夜)

男(保健室で怪我の手当を受けた後、俺はそのまま寮の自室のベッドに体を投げた)

男(夕食を取っておらず腹の虫の主張がすごい。なのに全く食欲が沸かなかった)



男「………………」



男(しばらくぼーっとしていた)

男(ただ呼吸するだけの物体となって、何時間経っただろうか)

男(ふと思考が浮かび上がる)







男「これで女にも嫌われただろうな……」



男(女にも非があったとはいえ、さっきの俺の発言は酷いものだった)

男(言い返せないところに付け込んで、ネチネチと嫌味を言って……)



男(あんなこと言うつもりじゃなかった………………じゃあ、どんなことを言うつもりだったんだ)

男(自分の中に存在しない言葉を口に出すことは不可能だ。つまりあれは俺の中にあった言葉)

男(感情のままに振る舞って、子供のように喚いて……俺は……)




235 ◆YySYGxxFkU2019/09/01(日) 22:54:12.63Gk83vwYH0 (12/15)




男「……全部もう過ぎたことだ」



男(終わったことを悩んだってしょうがない)

男(あれだけ拒絶したんだ。女が今後俺に関わることはないだろう)



男(そもそも魅了スキルがかかっていないってバレたんだ。好意を持ったフリをするために俺に絡む必要も無い)

男(ていうか、さっきのもおかしいか)

男(嫌われたって……何好かれている前提で話しているんだ)

男(今までのことは全部幻、夢が覚めたんだ)



男(だとしても別にそう悲観することでは無い)

男(戻っただけだ。異世界に来る前、ずっと独りで生きていた頃に)



男(ただそれだけ)






236 ◆YySYGxxFkU2019/09/01(日) 22:54:59.96Gk83vwYH0 (13/15)






幼女『お兄さんも一人なの?』





男(声が聞こえた。幼い女の子の声だ)

男(いつの間にか眠ってしまっていたのだろうか。妙に思考の制御が出来ず思ったままの言葉を返す)





男「ああ、俺は独りだよ」

幼女『……変なの。お兄さんの近くにはいっぱい人がいるよ?』



男「学生寮だから周囲の部屋に人がいるだろうな。でも俺の心の中には誰もいない……いなくなった」

幼女『よく分かんない。心って何なの?』



男「難しい問いだな。俺にも分からねえ。こんなものがあるせいで怒ったり悲しんだりしないといけないんだから面倒だよな」

幼女『そっか、大変だね』



男「大変だよ。あんたはそういう経験無いのか?」

幼女『……覚えてない。昔あったかもしれない。でも今この世界にいるのは……一人だから』






237 ◆YySYGxxFkU2019/09/01(日) 22:55:51.24Gk83vwYH0 (14/15)




男「世界に一人か、それは大変だな。でも俺もそんな世界に行ってみてえな」

幼女『ほんと?』



男「ほんとだ、ほんと。誰もいなければ……最初から独りならこんなに悩まなくても、傷つかなくても済んだのにな」

幼女『……だったら一人になればいいんじゃないの?』



男「なれたらどんなに楽か。俺は一人で生きていけないことを知っているからな。独りになったって言いながら、怪我の治療も自分で出来ないから保健室の先生を頼った。この異世界でだって独りじゃ身を守ることも出来ないから……あいつたちと……」

幼女『……?』



男「……まあおまえも大きくなれば分かるさ」

幼女『お兄さん面白いね』

男「そんな面白いことを言ったつもりはないんだが」

幼女『うーん、っと。久しぶりにいっぱい話したら疲れちゃった。お兄さんとリンク出来たのは………………のときの………………が…………また………………話…………』





男(意識が途切れ途切れになる、うとうとなってきた)

男(あれだけのことがあっても人は変わらず眠くなる)

男(俺は意識を手放そうとして……)



男「夢の中でまた眠るってのも……おかしな話だ…………」



男(生じた違和感は微睡みの中に霧散した)




238 ◆YySYGxxFkU2019/09/01(日) 22:56:39.82Gk83vwYH0 (15/15)

続く。

次は早めに届けたいです。


239以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/01(日) 23:45:37.99C5quRSR4o (1/1)

乙ー
待ってた。


240以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/02(月) 08:14:39.80o51/ZerE0 (1/1)

乙!


241 ◆YySYGxxFkU2019/09/08(日) 23:35:06.06HaY5L1dh0 (1/11)

乙、ありがとうございます。

投下します。


242 ◆YySYGxxFkU2019/09/08(日) 23:35:35.57HaY5L1dh0 (2/11)




男(それから数日経った)



男「………………」



男(授業を終えて放課後、俺は学園の図書室にいた)

男(学園の規模同様に図書室も広く、それでいて雰囲気が生み出す静けさが気に入っているスポットだ)

男(本の虫である俺は圧倒的な蔵書数に目を輝かせていただろう)

男(いつもならば)



男「はぁ……」

男(机に置いた本はさっきからページがめくられていない)

男(頬杖付く俺の視線の先は窓の外、中庭で修練している実戦科コースの生徒たちに向けられていた)

男(二チームに分かれて模擬戦をしているようだ。女子の姿しか見当たらないので、男子はどこかで別のカリキュラムを行っているのだろう)




243 ◆YySYGxxFkU2019/09/08(日) 23:36:06.11HaY5L1dh0 (3/11)


男(と、そんなどうでもいいことを考えていた)



男(ここ数日、俺の生活は全く変わり映えの無いものだった)

男(日中は初等部に交わり魔法習得の授業)

男(無心に頑張った結果、俺も魔素を取り込み魔法を発動させる事に成功していた)

男(一度コツをつかめば後は早いもので、火球(ファイアーボール)だけでなく初級レベルの魔法は大体使えるようになっていた)



男(そして放課後は授業で躓いたところがあれば図書室で復習を、そうでなくとも図書室に来てぼーっとしていた)

男(夜になれば寮の自室に戻り何もすること無くただ眠る)



男(繰り返しの日々は時間の進みを早く感じさせてくれた)

男(時間とは万能薬だ。どれだけ傷ついたとしても癒してくれる)

男(あれだけ重かった俺の心も今ではすっかり元に戻った)




244 ◆YySYGxxFkU2019/09/08(日) 23:36:50.31HaY5L1dh0 (4/11)




幼女『本当に?』



男(すっかり聞き慣れた幼女の声が俺の核心を突く)



男「……ははっ、そんなはず無いだろ」

男(俺は疑問に思うことなくそれに答えて)





??「ここにいたのか」

男(そのとき現実に声がかかった)





男「っ!?」

男(あわてて振り向くとそこにいたのは)




傭兵「探したぞ少年。それにしても妙な気配を感じるが……」



男(伝説の傭兵であった)




245 ◆YySYGxxFkU2019/09/08(日) 23:37:24.50HaY5L1dh0 (5/11)


男「くっ……!」

傭兵「そう身構えるな、少年。この場で争うつもりはない。図書館ではお静かに、だ」



男(イスを倒れそうな勢いで引き飛ばしながら立ち上がった俺に対して、傭兵は両手を広げて戦う意志が無いジェスチャーを取る)

男(……まあそうだな。もしやつが俺をどうにかするつもりなら声なんてかけないし、そもそも竜闘士相手に俺ごときが抵抗して何になる)



男「だったらどういうつもりだ?」

男(俺はイスに座り直して聞いた)



傭兵「様子を見に来ただけだ」

男「偵察か」

傭兵「そうとも言う。しかしこの気配は……」



男(思案顔になった傭兵はいぶかしげな視線を最初俺に向けて、次に俺の後方の何もない空間に向ける)




246 ◆YySYGxxFkU2019/09/08(日) 23:38:26.74HaY5L1dh0 (6/11)


男「そういやさっき妙な気配とか言ってたな。言っとくけど俺は何もしてないぞ」



男(両手をホールドアップしてこちらも戦う意志が無いことを示す)

男(何か反攻の意志ありと見なされて竜闘士の逆鱗に触れたら一巻の終わりだ)



傭兵「それくらいは分かっている。私が気になるのは………………ふむ、消えたか? しかし……」



男(傭兵は首を捻っている)

男(その雰囲気からして俺自身ではない何かが気になっているようだが……)

男(あいにくまるで心当たりが無い)





傭兵「まあいい。ところで少年、こんなところで燻ってていいのか?」

男「何の話だ?」

傭兵「……何だ、知らないのか。今や学園中の話題となっているぞ、ある研究室から研究物資と研究員一人が忽然と消えたと」

男「それは……」



男(抽象的に話しているが……やつの口から出てきたという事はつまりそういうことだろう)

男(魔族が化けた研究員によって宝玉が盗まれたと)




247 ◆YySYGxxFkU2019/09/08(日) 23:39:19.36HaY5L1dh0 (7/11)


傭兵「魔導士の少女の提言により厳重に警戒していた中での犯行だ」

傭兵「犯人は物理的にも魔法的にも痕跡を残していない」

傭兵「躍起となって消えた犯人を追っているそうだが、果たして見つかるかどうか」



男「他人事のように言うが、あんたはその裏側を知っているんじゃないのか?」

傭兵「いや。今回私たちはそれぞれ独立して動いている。魔族の思惑は知るところではない」

男「……まあ知っていたとしてもそういうだろうし、意味無い問いだったな」

傭兵「そうだな」



男(傭兵が返答して……しばらく無言の空間が続く。再び口を開いたのは傭兵の方だった)



傭兵「行かないのか?」

男「どこに」

傭兵「研究室に。少年たちが所持する宝玉が奪われた事態、一大事だと思うが」

男「あー……そうだな。行くべきなんだろうが……」

傭兵「……」



男「まあ、女友ならすぐ気付いて取り返すだろ。消えた人間が一人じゃなくて、二人であることくらい」



男(話を聞いただけで俺が解ける問題に、女友が気付けないとは思わない)




248 ◆YySYGxxFkU2019/09/08(日) 23:40:03.69HaY5L1dh0 (8/11)


傭兵「信頼……もあるのだろうが、ただの投げやりにも見える」



男「そうだな……正直言うと今は宝玉のことすらどうでもいいと思ってしまってる」

男「というか逆に質問だ。どうしてそう俺のことを気にする?」



傭兵「理解できない挙動をする敵に気を付けるのは当然だろう」

傭兵「腑抜けた様子に見せて裏では、と警戒したがどうやらそうでもないようだな」



男「ああ、演技でもなく今の俺は腑抜けてるだろうよ」



傭兵「ここ数日竜闘士の少女、魔導士の少女どちらとも話していないのは、何らかの策や別行動でもなくただの仲違いであると」



男「……あんた意外と目敏いんだな。もっと豪快な性格だと思っていたよ」



傭兵「状況を掴めない者は戦場で生き残れない。当然のことだ」



男(傭兵に言われたとおり、あの日拒絶してから俺は女、女友どちらとも一度も話していない)

男(今さらどのような口を聞けばいいというのか)

男(その点では敵でありどう思われてもいい傭兵の方が話しやすいくらいだ)




249 ◆YySYGxxFkU2019/09/08(日) 23:41:27.23HaY5L1dh0 (9/11)




傭兵「なるほど、理性的な言動をするから忘れていたが少年は15、6くらいの歳だったな。青春真っ盛りだ」



男「知ったような口聞くんだな」



傭兵「何、十分に知っている。理屈的でない行動をしてしまう。それが若者の特権であり、青春だ。輝かしいばかりだ」



男「大人は大変なんだな」



傭兵「少年も大きくなれば分かる」



男「そうなんだろうが…………俺が知りたいのは未来じゃなくて、今だ」

男「俺はどう行動するのが正解だったんだ? 正解なんだ?」



傭兵「考えの出発段階から間違っているな。この世に正解なんてものは存在しない」

傭兵「とはいえそのような問答をしたいのではないのだろう」



男「……ああ、その通りだよ」



男(やけに真摯に答えてくれる傭兵に、つい俺は心からの訴えをしてしまう)

男(そして)




250 ◆YySYGxxFkU2019/09/08(日) 23:41:53.08HaY5L1dh0 (10/11)




傭兵「そうだな……ちょうど約束していたしいいだろう」

男「何の話だ?」



傭兵「私が経験してきたことを話そう。少年たちの現状の参考になるかは分からないがな」



男「本当に関係なさそうだが」

傭兵「まあ聞いておけ、年寄りの昔話を聞くスキルは社会に出てからも役に立つぞ」



男(長話をするつもりなのか傭兵は近くの机のイスを二つ引いてその内の一つに座る)



男(そうして唐突に紐解かれるのだった)

男(伝説の傭兵と呼ばれる男の、過去が)




251 ◆YySYGxxFkU2019/09/08(日) 23:42:25.97HaY5L1dh0 (11/11)

続く。

過去編はそんな長くならない予定です。


252以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/09(月) 02:33:41.26VO8DktvL0 (1/1)

乙!


253以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/09(月) 20:38:08.11I7LdHY4Bo (1/1)

乙ー


254 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 02:50:05.68oA3RdXrf0 (1/25)

乙、ありがとうございます。

投下します。


255 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 02:50:39.85oA3RdXrf0 (2/25)


 さてまずは私の生まれから話そうか。

 聞いたこともあるかもしれないが、私は貧しくも平凡な村の平凡な家庭に生まれた子供だった。

 唯一の例外と言えば、竜闘士の力を持っていたことだろう。



 ……何、竜闘士の力って持って生まれたものなのかと?

 その通りだ、聞いたこと無かったのか?

 そもそも竜闘士の力が量産できるようなものであれば、各国は競って増やしただろう、どんな手でも使って。

 少年の魅了スキルが属する固有スキル同様に、竜闘士もまた突然変異的に生まれるものだ。



 私は今思うとやんちゃなガキだった。馬鹿なことをする度に両親に叱られたものだ。

 そのときには既に竜闘士の力を十分に使いこなせたから、やろうと思えば普通の力しか持たない両親を上回ることが出来ただろう。

 しかし、両親はそんなこと気にせず叱った。竜闘士である前に親と子であったということだ。

 そんなこともあり私は力に溺れることもなく成長していった。




256 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 02:51:07.96oA3RdXrf0 (3/25)




妹『ねえ、お兄ちゃん! また空中散歩したい!! 背中に乗せて飛んでよ!』

傭兵『もうしょうがないなあ』



 特筆するとすれば、私には妹がいた。

 妹もまた両親同様に私が竜闘士であることを気にせずに、いやそれも含めて慕ってくれたものだ。



 そうして私が少年になったころに先の大戦が起きた。



 幸いにも私の住む村は戦火から遠いところにあり、直接巻き込まれることはなかった。

 しかし戦費としての特別税により村は一層貧しくなった。



 このままではこの村は立ち行かなくなる。

 何もない村、だが私には立派な故郷だ。



 だから。




257 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 02:51:38.57oA3RdXrf0 (4/25)




傭兵『僕が……戦場に行くよ』



 元々村の中でまことしめやかに話されていたことだった。

 竜闘士の私が戦場に出向けばいいと。竜闘士なら十分に活躍できるだろうと。

 ただ少年でしかない歳である私を戦場に送るなんて馬鹿なこと出来るかと否定されてきた。



 そんな優しい村民が私は好きだった。

 みんなのためならば、私は戦場に立つ決意が付いた。



 戦場はこの世の地獄だった。

 尊ばれるべき命が軽々と散る。

 少年だった私の精神は未熟だった。震える私とは裏腹に力だけは成熟していた。

 初陣は今思うと酷い有様だった。泥臭い特攻でどうにか勝利を勝ち取った。




258 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 02:52:12.56oA3RdXrf0 (5/25)


 それからも地獄で過ごす日々だった。

 竜闘士の力は各地に伝わった。こぞって私を雇おうという話に、私はただ提示された金額の多寡だけで判断した。



 少しでも多くの金を故郷に。

 私が私であるように繋ぎ止めていたものは、その意志だけであった。



 がむしゃらに戦い、戦い……ひたすらに戦い続けて。

 永遠に続くかと思われた大戦にも終わりが告げられた。王国の元で力を振るった私のおかげで。




259 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 02:52:46.36oA3RdXrf0 (6/25)


 大戦が終わってもしばらくは忙しかった。

 王国によって私は英雄として祭り上げられたからだ。

 祝賀会、戦勝パレード、あらゆる催しに呼ばれる日々は、ある意味戦場にいたころよりも疲れた。



 私は英雄なんて柄じゃない。

 大切ものを守るために戦っただけだ。

 それも一段落したころ、久々に故郷の村に帰った。

 村のみんなは私を暖かく迎えてくれた。



 しかし、両親だけは私の頭にゲンコツを落とした。



父『ったく、おまえは危ない橋ばかり渡りよって!』

母『ちゃんと連絡は寄越しなさいって言ったでしょうが!』



 私に対して怒る両親。

 ああ、この人たちの前では私は英雄でもなく、伝説の傭兵でもなく、ただの息子でいられる。



妹『もう、本当に心配したんだからね!』



 私に抱きついて泣きじゃくる妹。

 ただの兄となった私は久しぶりにその言葉をつぶやいた。



傭兵『ごめん。それとただいま』






260 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 02:53:18.04oA3RdXrf0 (7/25)


 こうしてただの人となった私だが、世間からの評価は変わらない。

 あるとき私は伝説の傭兵として、王国から話があると呼ばれていた。

 そのため村を発つ前日。



傭兵『おまえももうそろそろ年頃だろ? いつまでもお兄ちゃん、お兄ちゃん言っていないで、結婚したらどうだ?』

妹『もう、お兄ちゃんまでその話? いい人が見つからないんだからしょうがないじゃん』

傭兵『いや、おまえが選ぶ立場なのか? おまえみたいなおてんばは選んでもらう立場だろ』

妹『はぁ? 何言ってんの? 私だって結構モテるんだよ』

傭兵『ははっ、それはどうだか』

妹『……ふんっ、もうお兄ちゃんなんて嫌い!』



 よくある兄妹喧嘩だった。

 しかし、へそを曲げたのか妹は翌日の見送りの際も一言も口を聞いてくれなかった。

 帰ったら謝らないとなあ、まあおみやげに王国名物でも持って帰れば許してくれるだろう。



 そう思いながら私は王国の地を踏み、そして連れられた王宮でとんでもない提案を受けた。






261 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 02:53:44.41oA3RdXrf0 (8/25)




傭兵『王国による……大陸全土の支配……その片棒を私に担げと?』



 その場に集まった王国の重鎮、そして王はそのような絵空事を本気で実現させるつもりだったようだ。

 伝説の傭兵である私が協力すればその実現も早くなる、その暁には莫大な富や権力も約束しようと。

 私の答えは一つだった。



傭兵『そのようなこと私には出来ません』



 過ぎた富も権力も私には必要なかった。

 故郷のあの村さえあればそれでいい。




262 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 02:54:12.45oA3RdXrf0 (9/25)




王『そうか……残念だ』



 王は嘆くように言った。



王『まあいい、もとよりそなたに首輪を付けられるとは思っていない。ゆえにそなたは今このときより……王国の敵だ』

傭兵『敵……ならば排除するとでも? 無理だ、それが出来ないからこそ私は伝説の傭兵と呼ばれている』



王『何も……直接戦うだけが戦争ではない』

傭兵『……?』

王『相手を戦意を挫くことも……また戦争だ』

傭兵『なっ……!?』



 私は衛兵が取り囲もうとする中、急ぎその場を脱出し故郷へ帰ろうとした。

 嫌な予感しかなかった。

 そしてたどり着いた故郷の地は――。



 炎に包まれていた。






263 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 02:54:41.06oA3RdXrf0 (10/25)


 世間には不幸な山火事が起きたと発表されたようだ。

 村一つの壊滅。

 しかし、不自然なほどにその続報は無かった。



 その日以来、私は表舞台から姿を消し、細々と生きることにした。

 王国に見つかるわけには行かなかったから。



 竜闘士としての力を使って王国に復讐することはもちろん考えた。

 しかし、大国相手にはいくら強大とはいえ私一人では分が悪い。



 いや、そもそも幼い頃の教えが私に復讐という手段を奪っていた。




264 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 02:55:11.14oA3RdXrf0 (11/25)


傭兵『どうして、お父さん!! あいつは妹を泣かしたんだ! だったらあいつも同じ目に遭うべきだろ!』

父『そうやって復讐してどうなる? おまえはスカッとするだろう。だがそれだけ、空しいだけだ』

傭兵『でも……っ!』

父『大丈夫、話し合うんだ。同じ人間……分かりあえ無いことなんて滅多にない』



 両親は幼い私に復讐の空しさを教えてくれた。

 だが……どうしようもないほどの悪意、それとの対峙方法は教えられていなかった。



傭兵『…………』



 腑抜けたように姿を隠し生活する私。

 こんなことになるなら、王国の話を受けるべきだったか。

 ……いや、たとえ何回繰り返したとしても私は断っただろう。

 だから、後悔することがあるとしたら。



傭兵『あいつに……謝っとくんだったな』



 胸の内に秘めた気持ちを伝える機会は永遠に失われたままだ。




265 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 02:55:39.76oA3RdXrf0 (12/25)


男(伝説の傭兵の昔語りはそこまでのようだ)



男「その後はどうしたんだ? 今の話だと魔族は一切出てこないじゃないか」

傭兵「魔族とはつい最近、一年ほど前に出会ったばかりだ。その話については……本人もいないところでするわけにもいかないだろう」

男「ふーん……まあいいけど」



男(気になるか気にならないかで言うと前者だが、わざわざ詮索までするほどではない)



男「随分と壮絶な人生だったんだな」

男(話を聞いての感想を端的に述べる)



傭兵「竜闘士、強大すぎる力を持って生まれた時点で、私の人生が平穏無事に終わる可能性はほとんど無かっただろう」

傭兵「私はあの村、故郷で家族とともに慎ましく暮らせれば…………いや、傭兵として戦に関わってきた者としてそんなこと望む資格もない。忘れてくれ」



男(昔のことを思い返して口が緩くなったのか自身の言葉を撤回する)




266 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 02:56:06.78oA3RdXrf0 (13/25)


男「…………」



男(平穏に暮らしたいというその思いには共感しかない)

男(俺だって元の世界で誰とも関わらずずっと過ごしたかった)



男(だが異世界召喚に巻き込まれ、魅了スキルを授かって、その力に課せられた使命を果たすしかなかった)

男(そして激動の旅の果てに、一度は誰かを信じられるようになったのに…………俺はまた独りになった)



男(俺はどうするべきだったのか、どうしたいのか……正解の行動は……)






267 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 02:56:34.02oA3RdXrf0 (14/25)




傭兵「さて、話を聞いてくれたお礼だ。悩む少年に正解を教えてやろう」

男「え……?」



傭兵「正解とはすなわち多くの人が支持するものであろう」

傭兵「誰にも何も望まれない人ならばともかく、少年は幸いにも宝玉を集めることを望まれている」

傭兵「ならば少年が取るべき行動はそれを達成することだ」



男「……」



傭兵「そう考えると宝玉を集めようと競う敵がいる以上、強い味方がいる方がいい」

傭兵「つまり少年は竜闘士の少女と仲直りしてまた味方に戻ってきてもらう……それが正解だ」



男「……」



傭兵「少年がずっと望んでいた正解だ。さっさと実行すればいい」



男「……」



男(傭兵の言ったことはぐうの音が出ないほどの正論だった)

男(ガキのように駄々をこねている場合ではない)

男(その通りに行動するべきで…………でも)




268 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 02:57:01.86oA3RdXrf0 (15/25)




傭兵「でも……そうしたくない何らかの理由があるのだろう?」

男「え……?」



傭兵「今のは外から見た他人である私が出した正解だ」

傭兵「ただ理屈的にどう行動するべきかという話」

傭兵「大事なのは少年がどうしたいのか、だろう」



男「……言いたいことは分かる」

男「だけど俺は、俺自身がどうしたいのかも……分からないんだ」






269 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 02:57:28.61oA3RdXrf0 (16/25)




傭兵「そうか。ならば――――死ね」

男「は……?」



男(傭兵は立ち上がると俺の正面に立ち)



傭兵「『竜の拳(ドラゴンナックル)』」



男(気迫を放ちながら、竜の力をまとう拳を正面から振るった)

男(当たれば一瞬で俺の頭がザクロのように赤い中身をぶちまけるだろうその一撃)



男「っ……!」

男(すっかり油断していた)

男(そうだ親身に話を聞いてくれたがそもそもやつとは敵同士)

男(厄介な魅了スキルを持つ俺を始末しようとしないはずがない)



男(今から避けることは不可能)

男(死が迫る刹那の時間に脳裏によぎったのは後悔……こんなことになるなら俺は――――)




270 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 02:57:59.03oA3RdXrf0 (17/25)




傭兵「……と、まあこれは冗談だ」



男(傭兵は気を霧散させて、俺の眼前で寸止めした拳を元に戻す)



男「わ……笑えない冗談だな」

傭兵「ああ、冗談は得意でなくてな。それで……少年は今、何を後悔した?」

男「それは……」



傭兵「後悔したことが少年のするべき事だ」



男「…………」



男(どうやら傭兵がしたかったことは殺すフリをして、俺の心の奥底に潜む物を暴くことのようだった)

男(何ともシンプルな手段だが……そのおかげで自覚する物があった)




271 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 02:58:26.27oA3RdXrf0 (18/25)




傭兵「若い内は時間は無限にあると勘違いするものだ」

傭兵「意地を張って、結論を先延ばしにする……」

傭兵「それは明日も変わらぬ今日が来るという甘えからの行動だろう」



傭兵「だが少年も少女もその立場は不安定だ」

傭兵「魅了スキルと竜闘士の力、宝玉を集める使命、一寸先も分からない状況」

傭兵「だからこそ少年は後悔の無いようにな」



男(後悔を引きずり生きている先達の忠告はずっしりと重い)






272 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 02:58:58.13oA3RdXrf0 (19/25)


男「ありがとうございます」

男(俺は深く頭を下げた)



傭兵「礼はいい」

男「いえ、させてください。本当は敵であるはずの俺にここまでしてくれて……」



傭兵「あまり絆されるな。今はこうしているが、魔族の意向があれば私は少年に手をかけることも躊躇わない」

傭兵「昨日の味方が今日の敵になることもあるのが傭兵だからな」



男「それをわざわざ忠告することがあなたの優しさですよ」

傭兵「……やりにくいな」



男(傭兵は困ったような顔をしている)



男「それじゃ俺は俺のするべきことをしてきます」

傭兵「……行ってこい」



男(俺は立ち上がると図書室を出て、女がいるはずの女子寮に向けて駆け出すのだった)






273 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 02:59:31.51oA3RdXrf0 (20/25)




 …………。

 …………。

 …………。





 一人図書室に残された傭兵。

 男が出て行って姿が見えなくなったことを確認すると、立ったままその口を開く。





傭兵「さて、そろそろ出てこないか――竜闘士の少女よ」



 先ほど過去話を始める前に二つ引いたイス。

 その内、自分が座らなかった方のイスの方を向いて声をかける。



女「……やっぱり気付いていたんですね」

女「最初からですか? 妙な気配がするって言ってましたし」



 すると今まで何もなかったように見えていた空間に、突如女の姿が現れた。






274 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 03:00:01.50oA3RdXrf0 (21/25)




傭兵「当然だ。だが妙な気配は少女ではない何か別の…………」

女「……?」



傭兵「……いや、まあいい。ところでその力は竜闘士の物ではないな。魔導士の少女にあらかじめかけてもらったものか?」

女「はい、魔法『不可視(インビジブル)』だそうです」



傭兵「そうか。わざわざそんなことをしたのは少年の様子が気になって…………いや、少年の警護のためか?」

女「一応どっちもです。8:2くらいですけど」

傭兵「正直に言われると取り繕った意味がないな……警護にしては私が少年に寸止めしたときも動かなかったようだが」




275 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 03:00:32.66oA3RdXrf0 (22/25)




女「あなたは気迫こそ放っていましたが、そこに殺気がないことは分かってましたから」

傭兵「……」



女「男君も言ってましたが、あなたは優しい人です」

女「だからこそ……どうして魔族に手を貸して世界の滅亡を望んでいるのか理解できません」

女「魔族に手を貸せば世界を、王国を滅ぼすことが出来るから……とも考えましたが、さっきの様子からすると別に復讐は望んでないようですし」



傭兵「……ああ、そうだ。私の使命は世界を滅亡させること――ではない」

傭兵「それはついでだ」



女「そうですか。だとしたらあなたの目的は……」






276 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 03:01:15.38oA3RdXrf0 (23/25)


傭兵「私のことはどうでもいいだろう。少女も話は聞いていたな?」

女「……はい」



傭兵「だったら少女も後悔しないように。お節介かもしれないが」

女「いえ、そんなことありません! ありがとうございました!」



 女は頭を下げると男が行った後を追う。





「…………」

 傭兵は二人が去った方角を見る。





司書「あの、傭兵さん……ですよね。何か本でも探しているんですか?」

 その背中から司書が声をかけた。

 立ち尽くしていることから何か困ったことが無いかと思ったのか。



 ――否。




277 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 03:02:06.15oA3RdXrf0 (24/25)




傭兵「魔族。戻ったのか」

魔族「……よく気付いたな」

傭兵「当たり前だ。音もなく忍び寄る司書がいるものか」



 傭兵が振り返ると司書は全身から光を発した後、金髪褐色角付きの姿に戻る。



魔族「最初からおまえを欺けるとは思っていない」

傭兵「そこはかとなく不機嫌なところを見ると、どうやら作戦は失敗したようだな」

魔族「……ああ。あの魔導士の少女に今回は『変身』を見破られてな。あと一歩で宝玉を盗めたんだが」



傭兵「そうか。では次はどうする? この地で粘るか、それとも別の場所に向かうか」

魔族「ああ、それに関しては……とある連中から提案があってな」



傭兵「提案?」

魔族「触りだけ聞いたが悪くない話のようだ。これから交渉に向かう。付いてこい」

傭兵「了解した」



 そして伝説の傭兵と魔族も図書室から去るのだった。




278 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 03:02:34.07oA3RdXrf0 (25/25)

続く。


279以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/23(月) 03:42:31.79PVKPo4ex0 (1/1)

触りの使い方が誤用なのか意図してなのか判断に困る


280 ◆YySYGxxFkU2019/09/23(月) 04:41:44.52oA3RdXrfo (1/1)

>>279
「話の最初部分」のつもりで書いてたんですが調べたら誤用なんですね
本来は「話の要点」でほぼ真逆の意味ですか……勉強不足でした

参考
http://www.bunka.go.jp/pr/publish/bunkachou_geppou/2011_07/series_08/series_08.html


281以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/23(月) 07:01:26.3022oGcbTj0 (1/1)




282以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/23(月) 08:16:30.91zSDW4dIgo (1/1)

乙ー


283 ◆YySYGxxFkU2019/09/25(水) 00:22:23.25grGVkp1N0 (1/11)

乙、ありがとうございます。

投下します。


284 ◆YySYGxxFkU2019/09/25(水) 00:22:51.45grGVkp1N0 (2/11)




女友(どうもみなさんこんにちは。名探偵の女友です)



女友「……なーんて、女を馬鹿に出来ない思考してますね」

女友(女子寮のベッドに大の字であおむけに寝転がりながら、私は随分と失礼な言葉を吐きます)



女友(とはいえ私の功績を思えば名探偵と呼ばれてもおかしくないはずです)

女友(数日前、魔族が宝玉を狙っているという事を知った私は、研究室長にセキュリティの強化を進言しました)



女友(その結果、研究室は物理的な出入りを禁止して、中で研究員は泊まり込みで作業をすることになりました)

女友(元々宝玉の反応を一日中見るために研究員は二交代制で働いていたため、そこまで反対は多くありませんでした)



女友(そして内部での魔法発動の痕跡を記録する装置をセットして、仮に誰かが魔法を使って盗んだとしてもすぐにバレるようにして)

女友(完璧な密室が出来上がりました)



女友(一抹の不安があるとしたら固有スキルの発動は判別出来ないことくらいでしょうか)

女友(魔族が変身で既に研究員として潜り込まれていても見抜くことは出来ません)



女友(それでもこの警備の中盗むことは不可能だと……私は確信していて)




285 ◆YySYGxxFkU2019/09/25(水) 00:23:26.25grGVkp1N0 (3/11)






女友(今朝、宝玉がすべて盗まれていることに気付きました)





女友(すぐに研究員を全員集めた結果、一人の研究員の姿が見当たりませんでした)

女友(しかし研究室の物理的閉鎖は解けておらず、魔法使用の記録も確認しましたが怪しい点は何も見つかりません)



女友(つまり人一人と宝玉が忽然と密室から姿を消したのです)

女友(騒然となる現場。それは私も例外ではありませんでした)



女友(一体、何が起きているのか。どうやって姿を消したのか、変身を使ってもこんな芸当は出来ないはず)



女友(考える私に対して、室長はそのいなくなった一人がどうにかして宝玉を持ちだし逃げたのだと判断してその人の行方を追います)

女友(私もその捜査に加わるべきと思いながらも……何か引っかかるところがあって……そして推理が繋がりました)




286 ◆YySYGxxFkU2019/09/25(水) 00:23:58.73grGVkp1N0 (4/11)






女友(結論から言うと宝玉は研究室から持ち出されていなかったのです)

女友(魔族は宝玉を研究室の中の見つからない場所に隠し、研究員一人の姿を消させてそいつが持って逃げたのだと外に注意を向けさせて、ほとぼりが冷めた頃に宝玉を持って逃げるつもりでした)





女友(さて、一人姿を消させるといっても密室からどうやって姿を消したのかという話です)

女友(簡単なことでした……魔族は最初から一人二役を演じていたのです)



女友(二交代制の表の時間で働く研究員Aと裏の時間で働く研究員B)

女友(どちらも魔族が変身した者でした)



女友(そうです、消えた人間は一人ではなく二人だったのです)

女友(危うくAという最初から存在しない幻像を追い続けて騙されるところでした)



女友(私がそれに気づけたのも思えばAとBが一度も同じ場所に姿を現して無いことに気付いたからです。見事な探偵っぷりでしょう)



女友(そして魔族を追いつめて、宝玉をどこに隠したか吐き出させて……事件の解決です)

女友(武闘大会の時は『変身』スキルに煮え湯を飲まされましたが、今回はしっかり見抜くことが出来ました)



女友(残念ながら最後は逃げられて身柄の確保は出来ませんでしたが、魔族の悔しげな顔は、思い浮かべるだけでご飯三杯いけそうです)

女友(女が帰ってきたら武勇伝として今日の顛末を聞かせることにしましょう)




287 ◆YySYGxxFkU2019/09/25(水) 00:24:31.13grGVkp1N0 (5/11)


女友「さて……」



女友(研究もちょうど終わったようで、元から研究室が持っていたのも合わせて宝玉六つが私たちの手に戻りました)

女友(これで元の世界に戻るまであと二つです)

女友(明日にでも次の目的地に向かうとして……しかし、まだ問題があるとすれば……)





男「失礼する!!」

女友「わっ! 男さん!? ちょっとノックくらいしてくださいよ!」





女友(そのとき突如として部屋の扉が開いて男さんが入ってきました)

女友(私はあわてて起き上がります)



男「あ、すまん……ちょっといてもたってもいられなくて……」

女友「全く私が着替えでもしていたらどうするんですか」

男「ごめんなさい……」

女友「それで何か用ですか、男さん……あ、そういえば宝玉についてですが、ちょっと騒動があってその話も……」



女友(自分の活躍を誰かに自慢したかった私は話を切り出そうとして)




288 ◆YySYGxxFkU2019/09/25(水) 00:24:58.02grGVkp1N0 (6/11)




男「すまん、話は後で聞く! それより女はいないのか!」

女友「女ですか? ええと……分かりませんね」



女友(男さんの質問に私は周囲の気配を探ります)

女友(事件に立ち向かう私のところを訪れた女は、自分に『不可視(インビジブル)』の魔法をかけてほしいということで、合間の時間で対応しました)

女友(そのため男さんの近くに姿を消しているのだろうと思ったのですが……見当たりませんね)



男「そうか、じゃあどこに行ったのか心当たりはないか?」

女友「すいませんちょっと分からないですけど……しかし、いきなりどうしたんですか?」

女友「そんなに女のことを気にして。あ、もしかして何かヤバいことが起きたとかですか?」

男「いや、個人的な用事なんだが……そうか、いないならいいんだ。他を探してみる」



女友(男さんはぽりぽりと頭をかくと踵を返そうとします)




289 ◆YySYGxxFkU2019/09/25(水) 00:25:25.75grGVkp1N0 (7/11)




女友「――!」



女友(私のセンサーにビビッと来るものがありました)

女友(女と男さんは魅了スキルにまつわる嘘で対立していたはずです)

女友(それなのに男さんから女のことを探して……いてもたってもいられない様子……個人的な用事……これはもしかして……もしかすると……!)





女友「女はたぶんそろそろここに戻ってくると思います」

男「そうか。なら待っていた方が」

女友「いえ、男さん。察するに女と大事な話をするつもりではありませんか」

男「……本当鋭いな、女友は」



女友(図星だったのか苦笑する男さん)



女友「だったらこの場所はマズいでしょう。女子寮の部屋はあまり防音も良くないですし、話を他の人に聞かれるかも知れません」

男「いや、でもそんな聞き耳立てるような人いるわけ」



女友「ですから人が来ない場所に……そうです、校舎の屋上に場所を移しましょう! ええ、そちらの方がムードがあります!」

男「あー確かに人は来なさそうだが……ムード?」



女友「とにかく男さんは先に行ってください! 女が帰ってきたらそちらに向かうように伝えておきますから!!」

男「え、あ、いや……まあ、はい。じゃあ頼んだ」



女友(男さんは釈然としないながらも私に伝言を託して部屋を去ります)




290 ◆YySYGxxFkU2019/09/25(水) 00:26:05.37grGVkp1N0 (8/11)




女友「まさかいつの間に……何がきっかけで……しかしチャンスであることには……」



女友(私が事件に挑んでいる間に何かあったのでしょう、見逃したのは残念ですが……)

女友(いえいえ、メインイベントはここからのはずです)





女「ねえ、男君ここに来なかった!?」

女友(しばらくして、女が扉を開けて部屋に戻ってきました)





女友「ええ、来ましたよ」

女「やっぱり! ……あれ、でもいないけど」



女友「ちょうど入れ違いになったみたいですね。男さんも女を探していたようで……」

女友「ですから校舎の屋上で待っておくように言っておきましたよ」



女「屋上ね! 分かった!」

女友(女は事情を尋ねることなく、居場所を聞くとすぐに再び出て行きました)




291 ◆YySYGxxFkU2019/09/25(水) 00:26:37.75grGVkp1N0 (9/11)




女友「ずいぶんと急いでいましたが……どうやら女にも何か心境の変化があったみたいですね」

女友「となれば、何か起こるのは確定でしょう」



女友(だとしたら私がするべき事は何か)

女友(大事な話をするとしたらそれを覗くのは無粋な行為です)

女友(それくらい私だって分かっています)

女友(事の顛末は終わってから二人に聞くべきです)





女友(だから私はこの部屋で大人しくして………………)




292 ◆YySYGxxFkU2019/09/25(水) 00:27:05.38grGVkp1N0 (10/11)




女友「……。……。……」

女友「そういえばちょっと散歩したい気分ですねー……」

女友「何か誰にも見られたくない気分ですし、姿を消していきましょうかー……」



女友「『不可視(インビジブル)』!!」

女友(魔法を発動して姿を消します)



女友(散歩の目的地は当然、校舎の屋上です)





女友(……いえ、別に他意はないんですよ。今の時間夕日が沈むところが見られる絶景スポットですし、散歩コースに最適です)

女友(……そこに誰かがいたとしても私には関係ないですしね、はい)




293 ◆YySYGxxFkU2019/09/25(水) 00:28:52.73grGVkp1N0 (11/11)

続く。

6章、一気に大詰めへと向かっております。


294以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/25(水) 01:17:42.10NXwAD2hqO (1/1)

乙です


295以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/25(水) 02:16:42.85bX80Il5Mo (1/1)

乙ー


296以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/25(水) 18:13:40.17uuN1zobMO (1/1)

乙!


297 ◆YySYGxxFkU2019/09/26(木) 23:47:24.82bd6hQY7n0 (1/11)

乙、ありがとうございます。

投下します。


298 ◆YySYGxxFkU2019/09/26(木) 23:48:30.32bd6hQY7n0 (2/11)


男「はぁ……はぁ……ここか」

男(校舎の階段を駆け上がって、女友に提案された屋上に俺はやってきていた)

男(いつも開放されているこの場所は昼休みに外でご飯を食べる生徒に人気のスポットだとは聞いたことがある)

男(だが放課後を迎えた今はちょうど誰もいないようだった)

男(設えられたベンチに座り女を待つ)



男「…………」

男(俺はずっと女に騙されたことに傷付いていた)

男(嘘を吐いていたこと、それ自体は絶対的に女が悪いと思う)



男(だが、どうして女が嘘を吐いたのか……女が抱える事情について俺は本気で考えてこなかった)



男(あれだけ人を信じることの素晴らしさを説いてきた女が嘘を吐かないといけなかった事情だ)

男(よっぽどのことに違いない)

男(それでいてどうやらその事情のせいで魅了スキルがかからなかったわけだ)



男(そんな特殊な事情にあてはまるものは何かと考えて……思い当たる物があった)



男(女はもしかして本当は…………だとしたら女友の役割も…………そうだ、そうだとしか考えられない)

男(だとしたら俺が取るべき行動は……)




299 ◆YySYGxxFkU2019/09/26(木) 23:49:21.92bd6hQY7n0 (3/11)




女「男君!」



男(そのとき上から声がかかった)



男「女か……」

男(見上げるとそこには竜の翼を生やした女がいた)

男(どうやら階段を駆け上がるのではなく、飛んでこの屋上までやってきたらしい)



男(女は次第に降下して俺の目の前に立つ)

男(俺もベンチから立ち上がった)



男(そして)





男「すまなかった!」

女「ごめんなさい!」





男(俺と女は同じタイミングでお互いに謝った)




300 ◆YySYGxxFkU2019/09/26(木) 23:49:58.12bd6hQY7n0 (4/11)


男「……どうして女が謝るんだ? 悪いことをしたのは俺なのに」

女「男君こそ……悪いのは私なのに」



男「俺は……正直今でも女が嘘を吐いたことは悪いと思っている」

男「でも女は謝ったのに、俺はネチネチと嫌味を言っただろ」



女「私も男君の言葉はグサグサ刺さって辛かったけど……」

女「でも事情も言わずにちゃんと謝ったわけじゃないんだから、それは嫌味も言われて当然だし」





男「……」

女「……」





男「ははっ……何してんだろうな」

女「ふふっ……ほんと、おかしいね」



男(俺たちはどちらからでもなく笑い合っていた。同じようなことを考えていたからだろうか)




301 ◆YySYGxxFkU2019/09/26(木) 23:50:33.40bd6hQY7n0 (5/11)


男「こんなささいなことなのにいがみ合って……馬鹿だな、俺たち」

女「男君は悪くないよ、悪いのは私だけだって」



男「……だろうな、嘘を吐かれたのは正直マジかって思った」

女「いや、まあそうだけど……え、そこは俺も悪いじゃないの?」

男「ははっ、まあその後の対応は俺が悪かったとも言えるけど…………あ、そうか」



男(梯子を外されて頬を膨らます女の表情を見て、ふいに自分の気持ちをしっかりと自覚した)





男「俺は女にだけは嘘を吐かれたくなかったんだ」

女「……え?」





男(突然の言葉に女はきょとんとした表情になっている)




302 ◆YySYGxxFkU2019/09/26(木) 23:51:08.57bd6hQY7n0 (6/11)




男「いや、この言い方だと女友に悪いか?」

男「……でも女友のやつを信じてないってわけじゃないんだが、飄々とした言動で掴めないところがあるし……」



女「今は女友のことなんてどうでもいいから!」

男「それは酷くないか?」

女「ど、どうして……私にだけは嘘を吐かれたくないって思ったの?」



男(顔を真っ赤にして問いただす女)



男「それは……こう今まで一緒に旅して来たことを通じて……女のことなら信じられると思って……」

女「うん、それで?」



男(言いながら『あれ、これめっちゃ小っ恥ずかしいこと言ってね?』となりどもる俺だが、女は先を促す)

男(仕方ないのでそっぽを向きながら続ける)






303 ◆YySYGxxFkU2019/09/26(木) 23:51:35.54bd6hQY7n0 (7/11)




男「だから嘘を吐かれたときに余計に傷ついたというか……」

男「いや、まあ今まで散々『俺は誰も信じない』とか言ってた癖に、都合が良いなってのは分かってんだよ」

男「でも……それが俺の本心で……」



女「私は嬉しいよ」



男(両手に暖かいものが触れる)

男(視線を正面に戻すと、女が俺の両手を握っていた)






304 ◆YySYGxxFkU2019/09/26(木) 23:52:08.01bd6hQY7n0 (8/11)




男「女……」

女「ねえ、男君。私が抱えている事情ってやつ……教えようか?」



男「……いきなりどうした? それは隠しておきたかったことじゃないのか?」



女「そうだったけど……いや違うか。私はその事情を話したい」

女「信じてくれた男君に応えるためにも、嘘偽り無く私を明かすのが当然で……いや、それも違くて」



男「……」





女「私はもう我慢出来ないの。この気持ちを伝えたい……!」





男(女の訴えに俺は)




305 ◆YySYGxxFkU2019/09/26(木) 23:53:03.77bd6hQY7n0 (9/11)






男「いや、正直なところ女の事情には当たりがついているんだ」

女「え……?」





男(女が来るまでに考えた通り、俺は気づいている)



男「人に言うことが出来なくて、俺の魅了スキルもかからなかったなんて事情……」

男「考えてみれば一つくらいしかないもんな」



女「そ、それって……い、いつから気づいて……!」



男「気づいたのは正直さっきのことなんだ」

男「……いや、そのすまんな。こんなに長く一緒にいたのに今まで気づいてやることが出来なくて」



女「いや、その……え、じゃあ私の気持ちがバレて……!?」



男「? 気持ち、ってのは分からないけど……まあ言い出しにくいことだよな」

男「でも俺も分かったから……これからは偽らなくてもいいから」



女「男君……」



男(顔を真っ赤にする女に俺は…………女が言い出せなくて、魅了スキルにかからなかったその事情を指摘する)






306 ◆YySYGxxFkU2019/09/26(木) 23:53:36.45bd6hQY7n0 (10/11)












男「女……おまえ本当は男性なんだろ?」



女「………………………………………………は?」






307 ◆YySYGxxFkU2019/09/26(木) 23:55:01.63bd6hQY7n0 (11/11)

続く。


308以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/27(金) 00:38:53.01X4DIyQa9O (1/1)

乙!
此は酷いww


309以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/27(金) 00:42:07.37lxurISeyO (1/1)

うんうん………うん?


310以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/27(金) 01:17:21.11C8Zv3ti90 (1/1)

乙ー
女さんこれは切れていいwwww


311以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/27(金) 05:54:07.76VR+zk/9T0 (1/1)


これは死んだな…


312以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/28(土) 07:46:17.46cm4qxG5PO (1/1)

乙ー


313 ◆YySYGxxFkU2019/09/29(日) 01:19:18.04WeyWxSMP0 (1/14)

乙、ありがとうございます。

狙ったところで狙った反響が来てとても嬉しいです。
創作モチベが上がりました。

投下していきます。


314 ◆YySYGxxFkU2019/09/29(日) 01:20:10.85WeyWxSMP0 (2/14)




男『女……おまえ本当は男性なんだろ?』



女(男君のその言葉を、私の脳は完全に理解を拒んでいた)

女(オマエホントウハダンセイナンダロ……って、どういう意味だっけ?)



男「大丈夫、大丈夫。全部分かってるから」

女(思考停止した私に対して、男君は理解者面をしている)



男「魅了スキルの効果対象は『魅力的な異性』だ」

男「俺が魅力的だと思う人でも同姓ならかからないのは、観光の町のバーテンダーで明らかになったことだ」



女(バーテンダー……? あー、そういえばあの女装していた……)






315 ◆YySYGxxFkU2019/09/29(日) 01:20:41.93WeyWxSMP0 (3/14)




女「えっと、つまり私も女装している男性だと思われているわけ?」

男「その通りなんだろ?」



女(したり顔の男君)

女(いや私は正真正銘、本物の女性なんだけど……)



女「これが男性の顔に見えるの?」

女(自分の顔を指さしながら聞く)



男「ああ、中性的な美少年なんだろ?」

女(好きな人から容姿を褒められているのにちっとも嬉しくない)






316 ◆YySYGxxFkU2019/09/29(日) 01:21:35.99WeyWxSMP0 (4/14)


女(どうすればいいのか全く思いつかないでいると、男君は解説を始めた)



男「本当のところ女は大富豪の生まれなんだろ?」

男「それで家の古めかしいしきたりのせいで男性なのに女性のフリして生活しないといけなかった」

男「そういう設定の物語は何作品も読んだことがある」



女(普通の家の生まれなんですが)

女(というか私詳しくないんだけど、そんな特殊な設定の物語が何作品もあるものなの?)



男「とはいえ、男性が女性のフリをしたところでそんなに上手く行くのかという疑問が浮かぶだろう」

男「トイレだったり、体育の着替えの時間だったりで普通ならすぐに状況は破綻するはず」



男「だが協力者がいればその可能性は減らせる」

男「そう、女友だけは女が男性だってことを知っていたんだ」

男「女友のやつ女の事情を元から知っているって言ってたしな、うんうん」



女(勝手に協力者にされ話に巻き込まれる女友)




317 ◆YySYGxxFkU2019/09/29(日) 01:22:17.75WeyWxSMP0 (5/14)


男「女友の家系は代々女の家系に仕えているんだろ?」

男「女と女友、お嬢様と近侍の関係でありながら、妹と姉のような関係で育ってきた二人」

男「女友は女の学校生活をサポートするために同じ学校に入学したんだ」



女(女友が姉なんだ……まあ私が姉って柄じゃないけど)



男「ん? そういえば女友の家は大富豪だって聞いたことあるな」

男「……そうか、誘拐対策に対外的には女友と女の立場を入れ替えているのか」

男「なるほど計算されている」



女(男君の計算が怖い)



男「しかし、そんな折りに俺たちは異世界へと召喚されて俺が魅了スキルを暴発させてしまった」

男「男性である女には魅了スキルがかからなかったが、そのことを明かしてしまうと今まで男性として生活してきたことがクラスメイトにバレて大問題になってしまう」



女(いや、みんなは普通に私が男君に好意を持っているんだ、って考えると思うけど)



男「だから女は男性であることを隠すため、魅了スキルにかかったフリをするしかなかったってことだ」



女(ドヤ顔で解説を締めくくる男君)

女(全く間違っているのに妙に筋が通っていて自信満々に言い切られると信じてしまいそうになる)




318 ◆YySYGxxFkU2019/09/29(日) 01:22:49.75WeyWxSMP0 (6/14)




男「だからこれからは男同士……ははっ、改めて口にすると恥ずかしいけど、親友としてよろしく頼むな」



女(男君は右手を私に差し出す)





女「………………」

女(男君の誤解は私にとって都合の良いことなんだと思う)



女(これに乗っかれば今までのような生活を続けることが出来る)

女(魅了スキルにかかっているせいだからとしていたところを、私は男性だからと置き換えればいい)

女(男性だから仲良くしようよだとか、男性だからこれくらいのスキンシップ普通でしょだとか)



女(もちろん男君には嘘を吐いてしまっているけど、それにまた気づかれるまでは同じように過ごすことが出来る)




319 ◆YySYGxxFkU2019/09/29(日) 01:23:36.66WeyWxSMP0 (7/14)


女(対して否定したらどうなるか)

女(当然のことながらどうして魅了スキルがかからなかったのかという疑問が再燃するだろう)

女(そうしたら男君も私が元から好きだったのだと気づくはず。……流石に、うん、きっと)



女(つまり告白したも同然で……今までの関係では絶対にいられない)



女(もしOKされれば晴れて恋人同士だ。今までよりも深い関係を男君と築けるようになる)



女(男君とは異世界に召喚された当初よりは心が通じ合っていると思う)

女(そう考えるとOKされる可能性は高いと考えたいが……しかしそれが恋愛的なものなのかと聞かれるとよく分からない)

女(男君が持っている感情が親愛だったり、冒険の相棒的なものでしかなかったとしたら致命的だ)

女(告白が断られる上に、男君は恋愛にトラウマを患っている)

女(好意を持つ私が得体の知れない何かのように見えてきて距離を取って接するようになるだろう)



女(そんな賭けに出るくらいなら……ここは安全に……)




320 ◆YySYGxxFkU2019/09/29(日) 01:24:05.13WeyWxSMP0 (8/14)




傭兵『だったら少女も後悔しないように』



女「………………」

女(伝説の傭兵のアドバイスが思い起こされる)



女(後悔ならこの数日間の内に数え切れないほどしてきた)

女(どこかで男君に本当のことを打ち明けられなかったのか、このまま仲違いしたまま終わるなんて嫌だ、と)

女(男君の手を握れば、いつかまた同じ後悔をすることになるだろう)



女(いや、それだけじゃない)

女(男性として親友として一緒にいるなら、男君が誰かと恋人になったとしても私は文句を言うことも出来ない)

女(独裁都市の姫様は未遂だったけど、今後もそんなことが起きないとは限らないのだ)



女(だからといって動けば絶対に後悔しないとも限らない)

女(告白を断られて気まずくなって……決断した私に後悔するかもしれない)



女(それでも……同じ後悔はしないで済む)






321 ◆YySYGxxFkU2019/09/29(日) 01:24:41.11WeyWxSMP0 (9/14)




女(どっちにしろ後悔するかもしれないなら……より積極的な方に、前向きな方に)

女(それが私の考え方だ)

女(だから……私は今の感情に素直になって)





女「ねえ、男君」

男「おう、女」








322 ◆YySYGxxFkU2019/09/29(日) 01:25:12.51WeyWxSMP0 (10/14)




女「歯を食いしばってくれない?」

男「………………え?」



女「ふんっ!!」

男「痛っ!!?」



女(男君の頭にゲンコツを落とした)

女(竜闘士の全力で殴ったらヤバいのでかなり手加減して、それでも痛みを感じるくらいには力を入れて)



女「ふぅ……スッキリした」

男「いきなり何するんだよ、女!?」



女(男君が頭を押さえながらこっちを睨む)

女(目尻にすこし涙が浮かんでいるところを見ると、よっぽど痛かったようだ)






323 ◆YySYGxxFkU2019/09/29(日) 01:26:30.51WeyWxSMP0 (11/14)


女「何したのかって……分からないの?」

男「分かんねーよ!? どうして差し出した手の返しにゲンコツを落とされるんだよ!?」



女「私、怒ってるんだよ」

男「怒るって…………俺に?」



女(男君は自分を指さす)



女「当然! だってこんな美少女に対して『本当は男性なんだろ』なんて侮辱言われたんだよ!?」

女「酷いと思わない!? 私はどこからどう見ても女性に決まっているじゃない!」

女「どうして男性だって思うのよ! 何が悪いの……胸なの、胸なの!?」

女「男性にも間違えられるくらいの胸の大きさだって言いたいの!?」



女(溜まった鬱憤が爆発して噴き出す)




324 ◆YySYGxxFkU2019/09/29(日) 01:27:08.73WeyWxSMP0 (12/14)




男「え、えっと……でも、だったらどうして魅了スキルは……」



女(男君はすっかり私に怯えながらも気になることを聞いてくる)



女(ずっと前から夢描いていたものとは全く違った)

女(一方がキレていて、片方が怯えていて)

女(女性に言わせるのもマイナス)

女(勢いで口走ったような感じになるだろうこともマイナスだ)

女(女友が誘導してくれたこの場所、沈みゆく夕日の背景が本当最低限のムードを保ってくれているくらいだ)





女(それでも臆病者の私がこの機会を失ったら永遠に口に出来ないだろうことは想像が付いたから)



女(だから私はその想いを伝える)






325 ◆YySYGxxFkU2019/09/29(日) 01:27:37.73WeyWxSMP0 (13/14)






女「ずっと……ずっと前から男君のことが好きだったの!!」








326 ◆YySYGxxFkU2019/09/29(日) 01:28:09.00WeyWxSMP0 (14/14)

続く。


327以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/29(日) 09:46:01.453j1/TdNxo (1/1)

乙ー


328以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/29(日) 09:58:31.40dfGenh7q0 (1/1)

乙!此も酷いwwww


329以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/29(日) 12:17:45.60bKwtcmXq0 (1/1)

乙ー
男はもちろんだが、男性説受け入れることもちょっと検討しちゃう女さんもなかなか酷いwwww


330 ◆YySYGxxFkU2019/10/02(水) 23:56:10.99Epl7oFYc0 (1/7)

乙、ありがとうございます。

>>329 か、考えるだけならタダですし……

投下します。


331 ◆YySYGxxFkU2019/10/02(水) 23:56:50.26Epl7oFYc0 (2/7)




女『ずっと……ずっと昔から男君のことが好きだったの!!』



男(好き)

男(好意を伝えるその言葉はこの異世界に来てから魅了スキルにかかっている女の口から何度も聞いたことがあった)



男(今やその嘘は暴かれたというのに……また聞くことになるとは)

男(正直に言って、一番最初に浮かんだ感情は困惑だった)

男(だから)



男「すまん、女。俺ちょっと状況が分かっていなくて……整理させてくれないか」

女「うん、いいよ。何だかんだ唐突だったことは自覚しているし」



男(女は微笑を浮かべながら頷く。先ほどまでの怒気は霧散しているようだ)




332 ◆YySYGxxFkU2019/10/02(水) 23:57:19.68Epl7oFYc0 (3/7)


男「まず……俺のことを好きって、魅了スキルにかかったフリを続けようとしている……わけではないんだよな?」

女「もちろん。これはスキルに操られていない私の純粋な気持ち」



男「ずっと昔、異世界に来る前から俺のことを好きだったから……」

男「だから魅了スキルの『元々対象が術者に特別な好意を持っている場合、このスキルは効力を発揮しない』に触れてかからなかった……ってことだよな?」

女「そういうこと」



男(女は優しく肯定する)

男(気持ちを打ち明けられて、俺もそこまではすぐに察することは出来た)



男(ここまではほとんど確認作業で……しかし、その先が本当に分からない)




333 ◆YySYGxxFkU2019/10/02(水) 23:57:52.73Epl7oFYc0 (4/7)




男「でも……俺は女と異世界に来てからしか関わってこなかったはずだ」

男「学校にいる間はそれこそ一言もしゃべらなかったはず」

男「それなのに俺を好きだなんて……おかしいだろ?」



女「違うよ」

男「え?」



女「私と男君は一度だけ話したことがあるんだよ」

男「……本当か?」



男(記憶を遡ってみてもまるで覚えがない)




334 ◆YySYGxxFkU2019/10/02(水) 23:58:28.45Epl7oFYc0 (5/7)




女「あれは一年くらい前のことだったかな」

女「あのころの私は誰からも好かれようと必死だった」

女「……いや、誰かから嫌われることに怯えていたんだと思う」



男(嫌われることに怯える……人間関係を気にしなかった俺とは真逆で、普通にありふれた思い)



女「とにかく八方美人で会う人に合わせて仮面を付け替えて……ついさっきと全く反対の考えを言っていることもよくあることだった」

女「でも当然のことだけど、そんな一貫性の無い人は嫌われやすくて……私何しているんだろうな、って悩んでばかりだった」



男(今でこそ学級委員長を務めて教室の人気者の女だが、昔はそうではなかったらしい)



女「そんなときのこと、私はしょぼくれながら教室を歩いていて、ちょうど男君の席の前を通りかかった」

女「男君は本を読んでいて全くこっちに注意を払っていない様子だった」

女「私もそのころは……失礼かもしれないけど男君のことは全然眼中になかった」

女「……いや、ちょっと違うかな。いつも独りでいる男君の姿にこうはなりたくないって思っていた」



男(女は申し訳なさそうに言うが、別に普通の感情だと思う)

男(孤独が一般的に避けたいことなのは俺にだって分かっている)




335 ◆YySYGxxFkU2019/10/02(水) 23:59:12.96Epl7oFYc0 (6/7)




女「だから特に気にも留めることなく通り過ぎて……後ろからボソッと『そんなに人間関係に苦労して馬鹿みたいだな』って聞こえて」

女「慌てて振り向くと男君はちょうど本に目を落とすところで……直前まで私のことを見ていたことから幻聴じゃないことは分かった」



男(女が状況を具体的に教えてくれるが……それでも俺には覚えがなかった)

男(いや、ありすぎたと言うべきだろう)

男(嫌味や皮肉を本人に聞かれないようにつぶやく……周囲の人間を馬鹿ばかりだと思いこんでた俺はそんな馬鹿なことをよくやっていた)

男(その内の一つ、女に対してのものが聞こえてしまっていたのだろう)




336 ◆YySYGxxFkU2019/10/02(水) 23:59:41.98Epl7oFYc0 (7/7)


女「最初はそんなこと言われてイラッとした。私の努力も知らない癖に何言ってるんだって」

女「……でもその一方で私の心の中にストンと落ちるものもあって」



女「そんな言葉を言ったのがどんな人なのか知りたくなって、それからしばらく男君のことを目で追っていた」

女「見ている内に男君は独りぼっちかもしれないけど、どんなときも自分を貫いて生きていることに気づいた」



女「どんなに周囲に人がいても、自分の定義が迷子になっている私とは反対で……私もそんな風になれたらいいなって思うようになった」

女「そうして自分を貫くように生活するようになって……もちろんケンカする事になった人もいた。離れていく人もいたけど、それ以上に私の周囲に人は増えた」



男(これまでの旅を通じて、俺は女によって自分を変えられた)

男(だが、それよりも前に女は俺によって変わっていたようだ)




337 ◆YySYGxxFkU2019/10/03(木) 00:00:18.64nvoI9WT40 (1/13)






女「今の私があるのは……全部、全部男君のおかげ」

女「私に大事なことを教えてくれた……そんな男君のことが好きなの」





男(女の告白が終わる)





男「すまん、それだけ聞いてもそのときのことしっかり思い出せねえ」

女「いいよ。別にそれはただのきっかけでしかないし」

女「今の私はそれ以外にもたくさん男君の好きなところを持っているから」

男「…………」




338 ◆YySYGxxFkU2019/10/03(木) 00:00:49.74nvoI9WT40 (2/13)




女「それより……その、返事は? 私、男君に告白したんだけど」

男「……ああ、そうだな」



男(好きだと告白されて返事をする)

男(迷うべきはYESかNOであるべきだ)



男(なのに俺は……この期に及んで、女の言葉が本当なのか嘘なのか悩んでしまっている)

男(人を信じられるようになって俺の中から無くなったのだと思っていたが……告白されて、人の好意を意識したことで再び鎌首をもたげたのは、今や呪縛となった恋愛アンチだ)



男(女の話が全部もっともらしい作り話で、返事をした瞬間に嘘でしたーって言われて、俺なんかが好かれる訳なくて…………)




339 ◆YySYGxxFkU2019/10/03(木) 00:01:57.13nvoI9WT40 (3/13)


男「………………」

男(顔を上げていられない)

男(だんだんと俯いてしまう)

男(今度こそ傷を負わないように)

男(心の自己防衛が女の告白を否定していく)



男(別に女のことが嫌いなわけじゃないんだ)

男(想いを打ち明けられた今も、信頼できる人物だという評価に変わりはない)



男(……このまま聞こえなかったことに出来ないだろうか?)

男(たぶん女のことだから、俺が無かったことにしたら合わせてくれると思う)



男(そうだ、どうして告白に答えてシロクロはっきりさせないといけないんだ)

男(いいじゃねえか、今まで通り同じ目的を共にする仲間ってことで)

男(現状を維持すれば誰も傷つかないで済む)




340 ◆YySYGxxFkU2019/10/03(木) 00:02:28.82nvoI9WT40 (4/13)






男「そんなの嫌だ」





男(それが自分の口から漏れ出た言葉だと気づくのに時間がかかった)



男(……そうだ、トラウマに飲み込まれていてすっかり忘れていた)

男(伝説の傭兵によって引き出された俺の後悔、反転して願望)



男(それは――お互いが心の底から愛し合う関係を作ること)



男(女となら俺の理想の関係を作れるはず)

男(いや、女と作りたい)

男(だったら傷つくことを恐れて現状維持していちゃ駄目なんだ)



男(女の気持ちに応えないと)

男(俺の気持ちを示さないと)



男(覚悟を決めて俺は顔を上げたところで――)






341 ◆YySYGxxFkU2019/10/03(木) 00:02:58.98nvoI9WT40 (5/13)




女「男君……!!」



男(突然、女が抱きついてきた)



男「何を……!?」

女「『竜の翼(ドラゴンウィング)』!!」



男(驚く俺に対して、女は竜の翼を生やして俺を抱えたまま飛び上がる)

男(返事を待つことに我慢できなくなった女が行動に移したのかと、一体何をするつもりなのかと)



男(そんな思考は――)




342 ◆YySYGxxFkU2019/10/03(木) 00:03:31.93nvoI9WT40 (6/13)








男(先ほどまで俺たちの立っていた位置に着弾する衝撃波と地面から突き出した黒い槍を見て真っ白になった)










343 ◆YySYGxxFkU2019/10/03(木) 00:04:05.69nvoI9WT40 (7/13)




男「………………え?」



男(あれは……おそらく俺たちを狙った攻撃だろう)

男(女は間一髪で気づいて俺を抱え回避したのだ)

男(でも、一体誰が……)





女「どういうつもりですか?」





男(少し離れた場所に着地した女は臨戦モードに入りながら威嚇する)

男(その視線の先にいる襲撃者は)




344 ◆YySYGxxFkU2019/10/03(木) 00:05:02.48nvoI9WT40 (8/13)




男「伝説の傭兵……?」



男(ほんの数時間前に俺の悩みを打ち明けて、真摯に相談に乗ってくれたその人)

男(……そうだ、さっきの衝撃波は竜闘士のスキルによるものだ)

男(女以外の竜闘士となるとこの人しかいない)



男(でも何で俺たちに攻撃を…………いや)



傭兵「流石に戸惑っているか」

傭兵「まあ戦場でも同じ日の内に敵対するのは珍しいことだ、恥じることではない」



男(傭兵はあくまで仕方ないというニュアンスではあるが、依然として臨戦態勢を解く気配はない)

男(その様子を見て本当に敵に回ったのだと、俺は理解した)




345 ◆YySYGxxFkU2019/10/03(木) 00:05:31.58nvoI9WT40 (9/13)


男「………………」

男(元々帰還派と復活派で敵対する関係だ、いつかこうなることは分かっていた……)

男(でも、ここまで早いとは)



男(状況が動いたということだとしたら一体…………ヒントがあるとしたら…………先ほどの攻撃、衝撃波と同時にもう一つの攻撃が…………黒い槍、あれは、あの材質は、見覚えがある)





男(影で造られた槍だ)






346 ◆YySYGxxFkU2019/10/03(木) 00:06:02.96nvoI9WT40 (10/13)




イケメン「どうやら気づいたようだね」



男(傭兵の影から人が浮かび上がった。その姿は俺にとって因縁深い相手)





男「イケメン……っ!!」

イケメン「やあやあ、久しぶりだね。武闘大会以来か」





男(俺たちと袂を分かったクラスメイト、異世界で授かった力で好き勝手することを選んだ駐留派のリーダー、影使いのイケメン)




347 ◆YySYGxxFkU2019/10/03(木) 00:06:35.39nvoI9WT40 (11/13)


男「どうしておまえがここに……!?」



イケメン「おいおい、今さらそんな疑問がいるのか?」

イケメン「当然、君の魅了スキルを奪いに来たに決まっているだろう?」



男「ちっ……懲りないやつめ」

イケメン「それよりもっと気にすることがあると思うけど」



男(一々気に障る言動のイケメンだが……確かにそれ以上に気にしないといけないことがあった)

男(最初の攻撃、影に潜んでいたこと、そして今も隣に立っていること)



男(どうしてイケメンと傭兵が行動を共にしているのか)



男(駐留派と復活派はどちらも俺たちの敵だが、しかしその両者だって宝玉を奪い集める目的上、敵対関係にあるはずだ)



男(なのにこの事態は……)






348 ◆YySYGxxFkU2019/10/03(木) 00:07:04.73nvoI9WT40 (12/13)






男「まさか……おまえ、復活派と手を組んだのか!?」

イケメン「ああ、そうさ。全ては目的を達成するためにね」








349 ◆YySYGxxFkU2019/10/03(木) 00:07:34.94nvoI9WT40 (13/13)

続く。


350以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/03(木) 00:29:45.22WvZ3lHQc0 (1/1)


やはり邪魔が入るのね
頑張れ女


351以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/03(木) 16:04:30.02Tx33ldUs0 (1/1)

乙!


352以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/03(木) 17:41:00.31XqxtbhoAO (1/1)

乙ー


353 ◆YySYGxxFkU2019/10/06(日) 00:47:31.50pMzHR+FP0 (1/10)

乙、ありがとうございます。

>>350 このタイミングでくっつかれても困るので邪魔してもらいました。

投下します。


354 ◆YySYGxxFkU2019/10/06(日) 00:49:26.06pMzHR+FP0 (2/10)


男(イケメンら召喚者を中心に犯罪結社『組織』のバックアップを受ける異世界駐留派)

男(伝説の傭兵と魔族からなる魔神復活派)

男(両者が手を組んだという事実は――)



女友「考え得る限り最悪の事態ですね」



男(いつの間にか俺たちの隣に姿を現した女友の言う通りだ)

男(……って、あれ? 本当いつの間に?)



女「女友……やっぱり覗いてたんだ」

女友「すみません、叱責は後からいくらでも聞きますから」

女「……まあ、探しに行く手間が省けたと見るべきかな」



男(女と女友のやりとりから、女友は女の告白をどこかに隠れて覗いていたということのようだが、そのことに構っている余裕も無い状況だ)




355 ◆YySYGxxFkU2019/10/06(日) 00:50:05.13pMzHR+FP0 (3/10)


男「復活派と手を組んだことは分かった」

男「だけどどうしてどちらも宝玉を求めているはずのおまえたちが組めたんだ?」



イケメン「君の言うとおり、僕らも彼らも宝玉を求めている」

イケメン「君たち帰還派と違って必要な宝玉の数が多いことから、獲得した宝玉を分配する条件にしたとしても折り合いが付かないだろう」

イケメン「だが、僕はふと思い直したんだ。僕たちはそもそも何のために宝玉を求めているのか、とね」



男(イケメンはジェスチャーを交えながら話している。かなりの上機嫌のようだ)



イケメン「僕の目的は君を道具として魅了スキルを自由に使えるようにすることだ」

イケメン「そのために君の側を離れない邪魔な竜闘士、女を一時的にでも排除するために宝玉で悪魔を呼びだそうとしていた」



イケメン「つまり宝玉の収集はただの手段でしかないんだよ」

イケメン「別に竜闘士をどうにか出来るなら、悪魔を呼び出す必要も宝玉を集める必要も無い」

イケメン「そう考えると……おあつらえむきに女を圧倒した存在がいることに気づいたんだ」



男「まさか……!」




356 ◆YySYGxxFkU2019/10/06(日) 00:50:44.32pMzHR+FP0 (4/10)


イケメン「それが伝説の傭兵と呼ばれる彼さ」

イケメン「試合形式とはいえ武闘大会では女に勝ったことから実力は十分」

イケメン「彼に協力してもらえるなら、僕らはもう宝玉も必要ない」



イケメン「だから僕らが現在持っていた宝玉四つ全てを差し出すという条件で、この場でだけ手を組んだというわけさ」



男(説明されてみると何とも簡単な発想の逆転だ)

男(一つ問題点があるとしたら)



男「復活派が宝玉を集めきり魔神が呼び出されこの世界を滅ぼされるのはおまえたちだって避けたいことのはずだろ」

男「なのにその復活派はおまえたちが宝玉を譲ったせいで今や7個所持している」

男「俺たちが持つ6個も奪われたら12個のラインを超えて魔神が復活するぞ」



イケメン「ああ、そうだけど……まあそのときはどうとでもするさ」

傭兵「…………」



男(一瞬イケメンと傭兵の間の空気がピリッとする)

男(完全な一枚岩では無さそうだが、突き崩すほどの隙では無さそうだ)




357 ◆YySYGxxFkU2019/10/06(日) 00:51:11.55pMzHR+FP0 (5/10)


イケメン「そもそもその問題は君たちが宝玉を奪われた場合の話」

イケメン「僕のとりあえずこの場での目的は魅了スキルのみだ」



イケメン「どうだい女と女友。男一人置いていけばそれ以上は追わないと約束するよ」

イケメン「宝玉を持って逃げてもらえると面倒が無いんだけどさ」



女「そういえば私が男君を見捨てるとでも?」

女友「舐められたものですね」



男(イケメンの提案に女も女友も乗るつもりは毛頭も無さそうだ。何とも頼もしい)




358 ◆YySYGxxFkU2019/10/06(日) 00:51:51.19pMzHR+FP0 (6/10)


イケメン「はぁ……これだから虜になった人たちは厄介だ」

傭兵「影使いの少年よ、ここは想定通り正面突破しかないだろう」

イケメン「そうだね、ちょうど二人の準備も終わったようだし」



男(イケメンと傭兵が視線を向けた先)

男(ダッ、ダッ、と何か打ち付けるような音……壁を走って登りこの屋上にやってきた二人が現れる)



ギャル「警備室の攪乱は終わったよ、イケメン」

魔族「これでしばらくは介入できないだろう」



男(ギャルと魔族)

男(それぞれイケメンと傭兵のパートナーとも言える二人が加わり、敵の人数が四人となった)




359 ◆YySYGxxFkU2019/10/06(日) 00:52:19.69pMzHR+FP0 (7/10)


イケメン「ご苦労様、ギャル」

傭兵「全員揃ったか」



男(復活派は魔族と傭兵の二人のみだが、駐留派には他にも多くのクラスメイトと『組織』の構成員がいるはず)

男(しかし、この地に赴いているのはイケメンとギャルの二人のみのようだ)

男(それは助かる一方で、やつらの言葉が正しいとすれば、魔法学の権威であるこの学園に常駐する腕利きの警備員の助けも望めないようである)



女「戦力として私と傭兵さんが互角で、女友が魔族さんと互角……」

女友「そこにイケメンさんとギャルの二人も加わるわけですから……かなりきついですね」

女「戦いに付き合う必要もないし逃げの一択だけど……」

女友「それすらも許してもらえないでしょうね」



男(女と女友の戦力算用。聞けば聞くほどに絶望的だ)

男(さらに気を使っているのか、二人は俺の存在に触れないでいる)

男(戦闘中お荷物でしかない俺を庇いながらという条件も加わると…………これは、もう)




360 ◆YySYGxxFkU2019/10/06(日) 00:53:00.54pMzHR+FP0 (8/10)




男「なあ二人とも……ここは俺が……」

女「駄目だよ、男君。自分を犠牲にするのは」



男(俺の提案は最後まで言う前に女が遮る)



女友「そうですよ、男さんを引き渡せばそれ以上は追わないと言いましたが所詮口約束です」

女友「守るとも思えません」

女「男君を危険な目に遭わせる訳にも行かないからね」



男「でも……」

男(それでも申し訳なさが振り切っている俺に)



女「大丈夫、私が男君のことを絶対に守るから」



男(女は宥めるように言って)




361 ◆YySYGxxFkU2019/10/06(日) 00:53:40.84pMzHR+FP0 (9/10)




男(そして機は熟したようだ)



イケメン「さあ、やろうか」

ギャル「了解っと」

傭兵「少々心が痛むが……これも使命のために」

魔族「ちょうどいい、先ほどの借りも返させてもらおうか」



男(駐留派、復活派混成チームと)



女「男君しっかり掴まっていて!!」

男「あ、ああ!」

女友「サポート出来るときはしますが宛てにはしないでください!」

女友「私も自分のことでいっぱいいっぱいになるでしょうから!」



男(俺たち帰還派三人)



男(各勢力の中枢メンバーによる決戦……絶望の戦いが始まった)




362 ◆YySYGxxFkU2019/10/06(日) 00:54:38.16pMzHR+FP0 (10/10)

続く。
短めですが、明日も投下するということで勘弁を。


363以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/06(日) 01:21:34.16WarFBzuQO (1/1)

乙ー


364以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/06(日) 07:01:37.42yZMZjL6b0 (1/1)

毎度毎度話の展開がご都合主義出来レース感が拭えんな


365以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/06(日) 11:59:39.42rMWaMln90 (1/1)

乙!
王道モノにご都合主義なんて今更だわ
其を含めて面白く魅せるのが作者の腕の見せ所。
毎回、続き楽しみにしています。


366 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:29:50.11h+ooci3F0 (1/23)

乙、ありがとうございます。

>>364 はい。

>>365 ありがとうございます。期待に応えられるように頑張ります。

投下します。


367 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:30:36.72h+ooci3F0 (2/23)




傭兵「『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』」

女「くっ……!」



男(傭兵が発した衝撃波を空中にて紙一重で避ける女)

男(その背中にしがみつく俺もすぐ近くを通るゴウッ! という音にヒヤヒヤする)



女「こっちもお返しよ……!! 『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』!!」



男(女が衝撃波を放つが、既に距離を十分に取られていて攻撃が迫る前に余裕を持って避けられる)




368 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:31:08.14h+ooci3F0 (3/23)


女「っ……でも、この隙に……」



男(竜の翼で飛び続けるのもどうやら体力がいるらしい)

男(一旦、学園の建物の屋上に着地して少しでも女は休めようとして……)

男(床と近づくにつれ大きくなる自分の影が不自然に蠢いた)



男「女……! こっちに来ている!」

女「分かってる!」



イケメン「『影の束縛(シャドウバインド)』!!」



男(女は着地せずに急上昇。こちらの身体を絡め取ろうとする影からどうにか逃げる)



イケメン「ちっ……逃したか」

男(術者、影使いのイケメンは舌打ちすると、また影に潜んだ)




369 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:31:38.99h+ooci3F0 (4/23)


男(戦いが始まってすでに十数分)

男(先ほどから同じような応酬の繰り返しだった)



男(やつら駐留派、復活派混成チーム四人の役割は明確だった)

男(まず俺を抱える竜闘士の女には同じく竜闘士の傭兵をメインに当ててきている)

男(女友はどうやらギャルに追い回されているようだ)

男(魔族魔族は魔法を使ってその両者のサポートをして)

男(影使いのイケメンは影に潜みチャンスを伺いながら、遊撃や奇襲で女と女友どちらとの戦いにも絡んでくる)



男(立ち回り方はとても慎重で、まず第一に俺たちの逃走経路を封じ、協力されないように女と女友を分断してきて、絶対に深追いをしてこない)

男(遠巻きに削り続ければいずれは勝てるという算段だろう)



男(俺たちは学園の上空を広く使いながら、どうにか逃げられないかと試すが上手く行かないところだ)

男(離されているため女友が現状どうなっているかも分からないがあちらも手こずっているだろう)



男(当然地上の学園は騒ぎとなっていて、戦っている俺たちを何事かと見上げている生徒たちの姿が散見できる)

男(不用意に介入する者も巻き込まれた者もおらず、直接的な被害は出ていないようではあるが)




370 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:32:50.90h+ooci3F0 (5/23)


傭兵「『竜の震脚(ドラゴンスタンプ)』」

女「なっ!? ……ぐっ!」



男(飛行経路を読まれ上昇するタイミングで上から衝撃波が降ってくる)

男(回避が間に合わず女に攻撃がかする)



男「女!!」

女「大丈夫……だから!」



男(傭兵は攻撃の手を緩めない。続く追尾エネルギー弾を女はどうにか縦横無尽に飛行して回避する。俺はしがみつくだけで精一杯だ)




371 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:33:19.87h+ooci3F0 (6/23)


男「………………」



男(武闘大会での女と傭兵の力はほとんど同じだった)

男(なのに今回こうも攻防に差が出るのは、女が俺を背中に乗せているからだ)

男(丸々人一人分の重りを付けているのも同じで、そんなデバフを受ければ差が出て当然)

男(しかし、敵の目的が俺である以上安全地帯はどこにもなく、こうして女は俺を守りながら戦わないといけない)



女「男君が気にする必要は無いんだからね」



男(俺が自己嫌悪するのを感じ取ったのか、女は戦いの手を止めないまま言う)



女「大丈夫、私は男君から告白の返事を聞くまで絶対に倒れないから」



男(告白……あんなにドキドキした出来事も今はすごい昔のことのように感じられる)



女「それで……もしよければ、私の理想……お互いがお互いを思い合う関係を男君と築きたいんだ」



男(戦場に似合わない願望の吐露に……)




372 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:33:47.77h+ooci3F0 (7/23)




男「っ……」

男(俺は動揺していた)



男(その理想が俺と完全に一致していたからだ)

男(こんな偶然あるだろうか?)

男(いや、あるはずがない)



男(だとしたら……これは運命だ)



男(果て無き未来を同じ思いを持った二人で歩む……そんな姿を幻視する)

男(そのためにもこんなところで躓くわけには行かない)




373 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:34:15.63h+ooci3F0 (8/23)




男「俺だってこの学園で遊んでたんじゃねえぞ」



男(そうだ、授業で教わり放課後何度も練習したプロセス)

男(大気中の魔素を集めて、魔力に変換し、魔法として放つ――)



男「『火球(ファイアーボール)』」



男(成功した)

男(火の玉一つが傭兵に向けて飛んでいく)

男(衝撃波や多量のエネルギー弾が飛び交う戦場で何とも貧弱な攻撃だが、これで倒せるなんて当然思ってもいない)

男(だが防御なり回避なりして少しでも隙が出来れば――)




374 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:34:42.72h+ooci3F0 (9/23)




傭兵「『竜の息吹(ドラゴンブレス)』」



男(俺の思いも儚く)

男(傭兵は迫る火球を特に気にも止めずエネルギー弾を放った)

男(そのため直撃した火球は……特に影響は無さそうだ。竜闘士の魔法耐性が完全に打ち消したのだろう)



女「男君、しっかり掴まっていて!」



男(魔法を放つため片手を離していた俺に女が忠告する)

男(俺はその言葉に従い掴まったところで、女がエネルギー弾を避けるために飛び回って)



女「痛っ!」

男(今度は一発当たってしまった)

男(しかし女は避けきれないと悟った瞬間に背中ではなく正面から当たるように調整したようで俺は無傷だ)




375 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:35:25.67h+ooci3F0 (10/23)


男「………………」

男(俺はどうしようも無いほどに無力だった)

男(少しでも戦う力があれば女の負担を減らせるのに)

男(現実には全くの役に立たなくて……そんな俺を庇うせいで女が傷付いていく)



男(お互いがお互いを想い合う……愛さえあれば何とでもなると、そんな言葉がまやかしであることは今日日、子供でも知っていることだ)



男(俺の自惚れでなければ女は俺のことを思ってくれている)

男(俺だって女のことを思っている)



男(だがそれだけではどうにもならない現実が目の前に存在している)



男(……俺に女の隣にいる資格はあるのだろうか?)

男(俺に力さえあればこんなことにならなかったのに)



男(大それたことは望まない)

男(俺の手の届く範囲だけでいい)



男(女を守るための力が欲しい)






376 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:35:54.08h+ooci3F0 (11/23)








幼女『どうしたの、お兄さん?』







男(どこからか声が聞こえた)

男(幼女の、すっかり聞き慣れた声)




377 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:36:36.84h+ooci3F0 (12/23)




男「すまん、今忙しいんだ」



男(この幼女とはこの数日間幾度と無く話してきた)

男(話すことで俺の気が楽になることもあった)

男(だが、今がそんな場合でないことくらいは分かっている)



幼女『ええー、せっかく繋がったからお兄さんといっぱい話したいのに』

男「だからすまんって、また後でいっぱい話してやるから」

幼女『もう、今話したいのに』



男(声しか聞こえないが、幼女がぶうたれる姿が想像付いた)




378 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:37:15.08h+ooci3F0 (13/23)




男(そんなことより現状をどう打破するかだ)

男(俺の魔法が全く効かずに絶望仕掛けたが、女が頑張っているのに俺だけ諦めるわけには行かない)

男(俺に力があれば楽だったが、無いものねだりをしてもしょうがない)

男(どうにか糸口のようなものでもないか思考して――――)



幼女『ねえねえ、お兄さん』

男「ああもう、だから何だ!」



幼女『聞き間違いかと思ったけど……お兄さんちょっとおかしなこと言ったよね?』

男「…………」



男(話すことを止めない幼女に俺は無視をしようとして)




379 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:38:18.61h+ooci3F0 (14/23)






幼女『力が無いって言うけど…………お兄さんの中には、私を封印したあのお姉さんの力があるよね?』





男「……え?」

男(到底無視できない言葉が飛び込んできた)



幼女『だってそれを起点にリンク出来たはずだし』



男(俺の中の力……魅了スキル……女神と一緒の力…………女神が封印したのは………………だとしたら、この声の主は……)



男「おまえまさか……っ!」

幼女『私のことはいいから! お兄さん立て込んでるんでしょう?』



男(幼女の声が聞こえた瞬間、俺の心の中に不思議な感覚が起きて――――)




380 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:38:55.61h+ooci3F0 (15/23)




男(……アア、ソウダ)

男(コノコエノショウタイナンテドウデモイイ)



幼女『お兄さんには力がある。なのにどうして使わないの?』



男(俺の力は人を狂わせるから)



幼女『だから遠慮するの? 他にも同じような懐かしい力を感じるけど……みんな全然遠慮してないよ』



男(同じ力……そうだ。イケメンやギャルはもちろん、女と女友だって異世界に来て授かった力を存分に使っている)

男(なのにどうして俺だけ、魅了スキルだけは遠慮しないといけないのか)



男(……いや、違う。魅了スキルが本領を発揮すれば他とは桁外れの力で――)




381 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:39:26.75h+ooci3F0 (16/23)






幼女『お兄さんの大事な人を守るんでしょ! なら迷っている暇は無いって!』





男(………………)

男(………………)

男(………………)






382 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:39:56.45h+ooci3F0 (17/23)






男「アア、ソウダナ」





男(俺のやるべきことが明確になっていく)

男(迷うことはない)



男(女を守る)

男(これ以上傷つかせない)



男(そのためならば――――)






383 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:40:23.08h+ooci3F0 (18/23)








 ガチャリ、と。

 そのとき男の心のリミッターは外れた。

 否、外された。










384 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:40:54.00h+ooci3F0 (19/23)




女「男君! さっきからどうしたの!!」



 女は戦闘しながら、男に対して呼びかける。

 先ほどから独り言が止まらない男に対して、流石に無視できなくなったのだ。



男「女。今から指定するポイントに向かってくれ」



 しかし、男はその心配に応えず、女に指示する。



女「っ……」

 その声を聞いて女に悪寒が走った。

 いつもなら男の声を聞くと安心するはずなのに……どこか違うように感じられたからだ。




385 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:41:51.07h+ooci3F0 (20/23)




女「……分かったっ!」



 その違和感が気になりながらも、女は男の指示に従う。

 意図は全く掴めない。それでも男の指示を信じる。それが女という少女だ。





 そうしてやってきたのは図書室から望める中庭の上空だった。





実戦科生徒A「あの人たち……」

実戦科生徒B「竜闘士……?」

実戦科生徒C「もう一方は……」



 眼下にこちらを見上げる女子生徒たちの姿が女の目に入った。



女(この時間だと……確か実戦科コースの人たちが模擬戦をしているんだっけ)

女(私たちの戦いに気が付いて手を止めているみたいだけど)



女(実戦科というだけあって、生徒たちの実力はそれなりにあるはずだ)

女(この数の生徒たちが味方してくれたらこの戦いも五分かそれ以上に戻せるだろうけど……)

女(全く関係ない人たちを巻き込むわけにも行かない。あまり近づかないようにしないと)




386 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:42:18.69h+ooci3F0 (21/23)




男「ここだ」



女(背中の男君の呟きが耳に入った)

女(ここって……ちょうど女子生徒たちが真下に入ったけど……それが何の……)



女「まさか……ねえ、男君! 止め――」






387 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:42:55.95h+ooci3F0 (22/23)




 その瞬間、男の意図を察して制止の声をかけることが出来たのは世界中を探し回っても女だけだっただろう。

 急いでその場を離れようとしたが――もう遅かった。



 魅了スキルの効果範囲は周囲五メートルしかない。

 しかし、光の柱として現れる効果は上空にも……下空にも伸びる。

 つまり眼下の女子生徒たちも圏内で。





男「魅了スキル、発動」





 瞬間、ピンク色の光が戦いと無関係の少女たちを染め上げた。




388 ◆YySYGxxFkU2019/10/07(月) 00:43:26.03h+ooci3F0 (23/23)

続く。

次が6章最終話となる予定です。


389以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/07(月) 02:59:14.33VKdew0sU0 (1/1)


どうしても展開が読める時はあるだろうけどそれ含めても面白いからずっと読んでる


390以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/07(月) 09:54:14.05OQSOh6A+0 (1/1)

乙!



391以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/07(月) 13:14:33.470rtjXMZKo (1/1)

乙ー


392以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/08(火) 01:17:44.402D9pl/2y0 (1/1)

乙!


393 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:24:44.46dtaQhtJG0 (1/23)

乙、ありがとうございます。

>>389 ありがとうございます。

6章最終話投下していきます。



394 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:25:17.57dtaQhtJG0 (2/23)




女「男君……どういうつもりなの?」



女(私には男君の真意が掴めなかった)



女(男君は今まで魅了スキルを使うことに消極的だった)

女(そのためかこれまでの長い旅路に反して、虜になっているのは女友、古参商会の秘書さん、独裁都市の姫、王国のスパイで近衛兵長の四人だけしかいない)

女(それも私たちの使命である宝玉を手に入れるために止むを得ずということがほとんどだし、その場合でもなるべく多くの人にかけないようにした結果が4人という少なさなのである)



女(なのに今の魅了スキルによって地上の戦術科の女子生徒数十人が一度に虜となった)

女(今までの男君とは全く違う行動)




395 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:26:25.97dtaQhtJG0 (3/23)




傭兵「これは……」

女(敵対する伝説の傭兵も驚きの表情だ)



女(意図を問われた男君はというと)



男「女、傭兵の相手を頼めるか? 俺は下のやつらを使って女友の状況を確かめてくる」

男「何人か支援に残すつもりだからイケメンの横槍も含めて対処してくれ」



女(そんな戦闘指示を飛ばしてきた)



女「今はそんな――っ」



女(反射的に怒鳴り返そうとして私は押し留めた)

女(先ほどまで驚いた様子だった傭兵さんが攻撃態勢に入っている)

女(今は戦闘中だ、下らない話よりも目先の脅威に対処しないといけない)




396 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:27:10.42dtaQhtJG0 (4/23)


女(……と、頭では分かっているのに)



女「どうして魅了スキルを発動したの!? どうしてあんなにたくさん虜にして巻き込んだの!?」



女(気づけば私は男君に対して叫んでいた)

女(その質問自体の答えは分かっている)

女(虜にした生徒たちの力を使って戦況を一転させるためだと)

女(あのままでは私たちは負けていただろうから)



女(私が本当に聞きたいことは男君の変化の理由だった)

女(先ほどまでと一変した男君の様子に私はとても距離を感じていた)

女(それだけではなく、このままでは男君がどこか遠くに行ってしまうような予感さえも)



女(しかし、そんな心配も今の男君には届かないようだった)




397 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:27:55.04dtaQhtJG0 (5/23)




男「女……戦えないのか?」

女「……え?」



男「なら仕方ない……下の生徒たち全員を傭兵に当てて時間稼ぎしている間に、新たに虜に出来るやつを探して戦力を補充する」

男「女はどこか狙われないように身を隠して――」



女「……大丈夫。戦えるから」



女(さらに他人を巻き込もうとする男君に私はそう言うしかなかった)

女(どういう訳かは分からないけど、今の男君にはこの窮地を乗り切ることしか頭にない)

女(それ以外は全てノイズでしかない、ゴチャゴチャ言い出した私を戦えない状態だと判断するくらいには)




398 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:28:24.81dtaQhtJG0 (6/23)




男「そうか。なら頼んだ」



女(男君は言って、私の背中から飛び降りた)

女(未だ竜の翼によって空中にいるのにそれは自殺行為だ)

女(いつもなら慌てる私なのに……なんかもう全てが麻痺していた)

女(飛び降りた男君はというと、下の生徒に命令して風の魔法を使わせ、難なく着地し無事なようだ)



女「………………」

女(風魔法による着地の補助……どうして生徒の中にそんなことを出来る人がいると男君は知っていたのか?)

女(不可視(インビジブル)で男君の行動を追っていた私には、放課後になって男君が図書室でぼーっと戦術科の生徒たちの模擬戦を見ていたことを知っている)



女(そのときのことを覚えていたのか……だとしても手際が良すぎる)

女(もしかしたら最初からこういう事態になった場合を想定していたのだろうか?)

女(こうして魅了スキルによって他人を巻き込む選択肢も常に考えていたのだろうか?)




399 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:28:51.80dtaQhtJG0 (7/23)


女「…………」

女(分からない)

女(でも、私がやるべきことは分かっている)



傭兵「『竜の息吹(ドラゴンブレス)』」



女(傭兵がエネルギー弾を放つ)

女(その標的には地上の男君や命令されて敵意を向ける生徒たちも含まれている)

女(操られているからといって容赦するつもりは無いようだ)



女(私が任された役割は彼を抑え込むこと。それを遂行しないと)

女(男君は窮地をどうにかしようとすることに囚われている)

女(逆に言えばこの状況を脱しさえすれば、話を聞いてくれるはずだから)




400 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:29:23.93dtaQhtJG0 (8/23)




女「『竜のはためき(ドラゴンウェーブ)』!!」



女(エネルギー波を放ち攻撃を相殺する)



女「うらぁぁぁぁっ!」



女(男君が降りて心とは裏腹に身体だけは軽くなった)

女(さっきまでと段違いの速度で私は特攻する)






401 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:30:04.96dtaQhtJG0 (9/23)






女(それから30分ほど経った)





女(エネルギー弾に衝撃波、ピンクの光や氷柱の雨が飛び交う)

女(そんな熾烈を極めた戦いにも終止符が付いた)



女(男君が虜とした生徒たちは、練度こそ劣るものの数十人という数は圧倒的で、おかげで余裕の出来た女友が私と合流。魔導士のバフを受けた竜闘士が戦場を蹂躙した)

女(追い詰められた駐留派・復活派チームは)



魔族「義理は果たした。頃合いだろう。失敗した場合の取り決めは無かったな、宝玉はそのままもらっていく」

傭兵「……そういうことだ。続けたいならそちらだけでやってくれ」



女(復活派の二人、魔族魔族と傭兵が先に離脱を宣言)

女(二人はそもそも協力しているだけで、私たちと積極的に戦う理由がない)



イケメン「こんなはずでは……っ!」

ギャル「イケメン、逃げようって! 流石にヤバいよ」

イケメン「ちっ……覚えていろよ」



女(駐留派の二人。悔しげなイケメン君にギャルが必死に逃げるように提案)

女(その後影に溶け込むように消えていった)



女(こうして私たちに訪れた危機は何とか回避することに成功した)




402 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:30:32.05dtaQhtJG0 (10/23)


女友「何とか無事にやり過ごせましたが……これは……」

女「…………」

女(ホッと一息を吐いたものの、女友も私も安堵まではしていない)



男「戦闘終了。傷ついた人員に回復魔法をかけてくれ」



女(回復魔法使いに指示する男君)

女(戦術科といっても未だ修学中の身。無理矢理高いレベルの戦場に連れ出され戦わされた生徒たちの消耗は大きかった)

女(幸いと言うべきか命を落とした者はいないみだいだけど)



女友「私と離れて戦っている間で男さんに何があったんですか、女?」

女「分かんない。突然独り言を言い始めたかと思ったら、あの生徒たちのところに向かうように指示して、そこで魅了スキルを使って……」



女友「……ふむ。ちょっと見てみましょう。『真実の眼(トゥルーアイ)』」

女(女友が看破の魔法を発動する)




403 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:31:34.94dtaQhtJG0 (11/23)


女「あ、そっか」

女(男君の様子が急におかしくなったのは何か内的要因があったのかとばかり考えていたけど、この異世界では外的要因もあり得る)

女(いつどこでかという疑問は残るけど、もし様子をおかしくするようなスキルを食らっていたとしたら、この事態も理解できるわけで――――)





女友「やっぱり……男さんには今スキルがかかっていて…………」

女友「『囁き』? この固有スキルは……まさか……!?」





女(どうやら女友の予想通りだったみたいだけど……何を驚いているんだろう?)




404 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:32:05.66dtaQhtJG0 (12/23)


女「ねえ、女友。『囁き』って何?」

女友「それは――」



男「手が足りんな。女友、命令だ。こっちに来てこいつらの回復を手伝え」



女友「っ……分かりました」



女(普段の様子のせいで忘れそうになるが、女友は男君の虜となっている)

女(魅了スキルの効果によりその命令は絶対だ)

女(私の側から離れ、負傷者のところに向かっていく)



女「………………」

女(今だって命令しなくても、言ってくれれば女友も手伝っただろう)

女(感じが悪い)

女(でもどうやらそれは『囁き』ってスキルのせいでおかしくなっているだけ)

女(だったらどうにかして呼び戻して……)




405 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:32:37.31dtaQhtJG0 (13/23)




女「ねえ、男君」

男「……何だ、女」



女「えっと……ほら、何か今の自分に違和感とか覚えない?」

男「…………」



女「女友が言うには『囁き』ってスキルが男君にかかっているみたいなの。そのせいでいつもの自分と違うって思うでしょ?」

男「別に」



女「……認識まで改竄するスキルなのかな? とにかくどうにか解除してみせるから」

男「その必要はない」






406 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:33:11.67dtaQhtJG0 (14/23)




女「男君……自分が言っていることちゃんと認識出来ている?」



男「ああ。『囁き』ってスキルは初耳だが……そうかあいつのものか」

男「そのおかげで頭がスッキリして……やるべきことが明確になった」



男「今の俺はいつも以上に俺だ」

男「まあ、女が戸惑うことも想像が付くけどな」





女(自嘲気味に呟く男君にこれは本心なのだと直感で理解した)

女(理由はない……いや、いらない。好きな人のことが分からないはずがない)



女(スキルによって操られているわけではない……あくまでスキルはきっかけで、これが本来の男君なんだ)

女(こんなときでなければ、好きな人の新たな一面を知って嬉しく思えたんだけど)




407 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:33:58.28dtaQhtJG0 (15/23)




女「うん、分かったよ。今の男君が男君だって。でもだったらどうして無関係な人たちをこんなに巻き込んだの?」

男「巻き込んだらいけないのか?」



女「少なくとも私が知る男君はそんなことをしない」

男「じゃあ、知らなかっただけだな」



女「勉強不足だったね、ごめん」

男「俺は他人なんてどうでもいいんだ。ああ、そうでもなければボッチなんて出来るはずがない。俺は俺さえ良ければいい――」



女「……」

男「そのはずだったのに……女。俺はおまえが傷つくことに耐えられない。もう見たくないんだ。女が危険な目に会う姿を」






408 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:34:33.54dtaQhtJG0 (16/23)




女「でも宝玉を集める以上それは仕方ないことでしょ?」



男「これまではそうだった。ここからは違う」

男「俺が宝玉を集めるから。全て集めてみせるから」

男「だから女……おまえはもう全部終わるまでどこか安全な場所でゆっくりしていてくれないか?」



女「私の代わりに男君が危険な目に遭うってこと? その言葉に私が頷くと思う?」

男「思わない。だからこうする」



女(男君の言葉と同時に、背後から何か掴みかかる感触があった)

女(見ると女子生徒たちが私の行動を封じるように両手両足にしがみついている)




409 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:35:01.65dtaQhtJG0 (17/23)




女「いつの間に……っ!?」



男「戦いの最中にだ。新たに魅了スキルで虜にした普通の生徒たち。そいつらには死んでも女を離すなと既に命令してある」

男「竜闘士の力を使えば振りほどくのは簡単だろうが……そんな剛力使えば生徒たちも無事ではないだろう。女はそんな酷いことをしないって俺は信じている」



女「くっ……」



女(男君の言うとおりだ。私を拘束する戦術科ですらない生徒たち)

女(吹けば飛ぶような力しかない者たちが、必死に私の行動を制限しようとしている)

女(無理矢理に引き剥がせば傷ついてしまうだろう)

女(一人一人時間をかければどうにかなるかもしれないけど…………男君はその間に――)




410 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:35:55.64dtaQhtJG0 (18/23)




男「回復は終わったようだな」

女(男君は私に背を向けて、虜とした者たちの様子を確認する)



女友「男さん!! 一体どういうつもりですかっ!!」



男「話を聞いていなかったのか、女友?」

男「全ての宝玉を集める」

男「おまえは……そうだな、その力は役に立つ。俺に付いてこい」



女友「『森の鳥(フォレストケー)』――」

女(女友の判断は迅速だった。反射的に魔法を使って、男君を拘束しようとするが)



男「俺に反抗的な行動を禁じる、命令だ」

女友「……っ!?」



女(男君は女友の自由を無慈悲に奪う)

女(相手が熟練の魔導士だろうと関係ない。これが本来の魅了スキルの力)



男「命令だ、行くぞ」



女(男君は戦術科の生徒たち、そして親友の女友を連れて去ろうとする)

女(私は未だに力なき者にしがみつかれて追うことが出来ない)

女(声を上げることしかできない)




411 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:36:47.81dtaQhtJG0 (19/23)




女「ねえ、男君。私……こんなの嫌だよ。ずっと、ずっと隣にいたかったのに……どうして?」



男「今までの俺にも、今からの俺にも……俺にはおまえの隣にいる資格がないんだ」



女「資格って……」



男「だから……すまんな。気持ちは嬉しいけど、さっきの告白は無かったことにしてくれ。俺なんかが答える立場にあるはずが無い」



女「……」





男「女、おまえの気持ちは……俺以外のもっと大事だと思える人のためにとっておけ。……大丈夫、女ならきっとすぐにそんな人に出会えるだろうから」








412 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:37:23.62dtaQhtJG0 (20/23)







女(別れを切り出した男君の姿は遠く、私の声はもう届かない)

女(しばらくして私は自由を取り戻したが、そのときには学園の職員たちに取り囲まれていた)

女(事情を知らない者に善悪が分かるはずがない)

女(イケメン君たちから仕掛けてきた戦いだが、第三者から見れば私だって学園に騒動を巻き起こしたものだ)

女(事情の説明、潔白の証明には時間がかかった)

女(それから空を飛び周辺を探したが、男君たちの姿を見つけることは叶わなかった)



女(途方に暮れた私は帰還派のみんなに事情を知らせる手紙を送った)

女(男君だけではない。私の隣には女友もいなかった)

女(いつもなら女友がこなす連絡も私がやらねばならず、かなり手間取ったことでいつも助けられていたことに今さら気づいた)



女(そうして空虚さを覚えながらも、徐々に状況が落ち着いてきたのは騒動から一週間後のこと)






413 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:38:07.00dtaQhtJG0 (21/23)






女(ちょうどその日、大陸全土を震撼させるニュースが触れ回った)





女(先の大戦の覇者)

女(王国)

女(大陸一の武力を持ち、この大陸の盟主ともいえる)





女(その王国が陥落した)








414 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:38:41.87dtaQhtJG0 (22/23)






女(この革命の首謀者――男君は体制の崩れた王国を乗っ取り、新たに自身が王になると宣言した)





女(王国を陥落させた新たな王)

女(男君は強大な王国を崩壊させた畏怖の念により、いつしか民からこう呼ばれるようになる)





女(魔王と)








415 ◆YySYGxxFkU2019/10/13(日) 22:41:40.35dtaQhtJG0 (23/23)




 6章学術都市編完結です。



 6章は当初の予定では魔族が変身で忍び込んだ中、誰が宝玉を盗んだのかというミステリー的な展開にする予定だったのですが、思ったより男と女の関係の亀裂が深かったのとミステリー展開がいくら練っても面白くならなさそうだったことから急遽変更してバッサリカット。女友にダイジェストで語らせました。
 どうにか二人の関係が復活して告白した矢先に、やつらが急襲してきて……急転直下な展開になりましたね。



 さて、物語の続きは最終章・王国編へと移っていきます。最終章です。
 風呂敷を畳みつつ、魔王となった男と一人になった女の行く末を描いていくつもりなのでよければ見てやってください。
 最終章ですがたぶん今までより長くなるのでまだすぐには終わりません。



 最終章の構想も既に出来ているので、そんなに間を開けずに投下できるよ思います。



 乙や感想などもらえると作者のモチベアップするので、どうか協力してもらえると助かります。






416以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/13(日) 23:37:32.76wBaJI5Sm0 (1/1)


女神の祝福受けた魔王…


417以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/13(日) 23:52:25.18nzsrLU1DO (1/1)

乙です


418以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/14(月) 05:24:18.94e4TbdvEn0 (1/1)

乙!
とうとう、最終章か……最終章も楽しみにしている!!


419以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/14(月) 10:36:27.14J/9nWpS9o (1/1)

乙ー


420以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/14(月) 13:48:28.771LYXY2AI0 (1/1)

乙ー
魔王でもありヒロインでもある男さんマジぱねえっす


421以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/15(火) 23:55:06.33uKWzyW9R0 (1/1)

乙です。
6章の最後で怒涛の展開ですね!
魅了スキルが効かないのは女しかいないように思えるけど、
男性陣との共闘もありえるのかな?
ワクワクしながら待ってます。


422 ◆YySYGxxFkU2019/11/02(土) 01:50:03.584SYDSyxP0 (1/12)

祝連載開始一周年&最終章開始!!

応援レスの数々ありがとうございます。
皆さんのおかげでここまで走ることができました。
このまま最後まで向かっていこうと思います。


というわけで『終章 王国』編を開始です。


423 ◆YySYGxxFkU2019/11/02(土) 01:51:33.624SYDSyxP0 (2/12)






女(独裁都市)

女(支配から開放された姫姫により復興が急ピッチで進むこの都市の中心、神殿最上階の執務室に)

女(私はいた)





女「ありがとう、姫さん。こんな場を用意してもらって」

姫「いえ、こちらも詳しい状況を窺っておきたかったですから。対岸の火事でもありませんし」

女(この場の主催者、姫さんに礼を言うとお気になさらずと返される)



女「秘書さんも参加ありがとうございます」

秘書「会長からは古参商会の持つ全ての情報の提供、ならびに必要ならば物資の準備もするように言われています。遠慮なさらずに」

女(私たち帰還派をバックアップしてきた古参商会からは会長秘書の秘書さんが参加している)

女(元はスパイであったが男君の魅了スキルにより暴かれた結果今は改心している)



女「他のメンバーが集まるまでは時間がかかりそうだけど……近くに気弱君と姉御だけでもいて助かったよ」

気弱「え、えっと……期待に応えられるように頑張ります!」

姉御「正直アタイはまだ状況も掴めて無くてねえ……まあ足を引っ張らないよう頑張るよ」



女(気弱君と姉御……武闘大会で共に戦い、その途中でカップルとなった二人がこの独裁都市の近くにいるということで集まってもらった)

女(他の帰還派メンバーが集まるまで待ちたかったが、その時間ももったいない事態だ)



女(私、姫さん、秘書さん、姉御、気弱君で五人)

女(それぞれが帰還派、独裁都市、古参商会の代表者で、今の私に集めることが出来る最大の勢力)

女(これでどうにかして男君を止める方法を考えないと)




424 ◆YySYGxxFkU2019/11/02(土) 01:52:39.014SYDSyxP0 (3/12)




姫「それではこれから現在大陸中を騒がせている世紀の事件、俗に魔王君臨と呼ばれる事件への対策会議を始めます」



女(司会進行は主催者ということもあり姫さんが取るようだ)



姫「まず時系列から確認しましょうか」

姫「この事件の首謀者……男さんが学術都市にて敵対する駐留派、復活派に襲われたのが八日前でしたよね?」



女「うん」



姫「その後女さんを置いて行方をくらまし、次に表舞台に現れたのが一週間後の昨日」

姫「王国を乗っ取り、自身が王になると大陸全土に対して宣言しました」



女(未曾有の宣言からは一日開けているが、それでも騒動による混乱は収まっていない)



姫「宣言と同時に女神教の教会があった場所に対して宝玉を引き渡すように要求がありました」

姫「要求に応じない場合いかなる手段を取ることも辞さないとも同時に記されています」



女(姫さんから大筋の説明が終わる)




425 ◆YySYGxxFkU2019/11/02(土) 01:53:14.944SYDSyxP0 (4/12)


姉御「順を追って確認したいねえ」

姉御「まず学術都市での襲撃ってやつだけど……駐留派の目的、魅了スキルを手に入れたいってのは分かっている」

姉御「襲撃をどうにか凌いで、なのにどうして女が置いてかれたのかい?」



女「男君自身の発言が根拠だから確証は無いけど、自分自身に素直になるスキルってのをかけられたみたいで」

女「宝玉を集めようとすることで傷つく私が見ていられなくて、自分一人で宝玉を集めるから私は追いていくって」



姉御「……はぁ? 意味分かんないねえ。そんなに大事なら隣で守ってやればいいじゃないかい」

気弱「まあまあ抑えてください」




426 ◆YySYGxxFkU2019/11/02(土) 01:54:14.994SYDSyxP0 (5/12)


姉御「で、それから一週間後の昨日に王国の乗っ取りを宣言したと」

姉御「でもそんなこと有り得るかい?」



姉御「王国の強大さは異世界の情勢に疎いアタイでさえ知っていることだ」

姉御「女友とその戦術科の生徒たちってのを連れて行ったとはいえ、一週間で攻略できるはずないだろ」

姉御「何かの間違いじゃないかい?」



女「そうかな? 私は男君なら可能だと思うよ」

女「さっき言ったスキルの影響のせいで、今の男君は魅了スキルを使うことに躊躇しないから」

女「全ての女性、世界の半分を支配できる上に、男君の指揮があれば簡単なことだよ」



女(今まで宝玉を手に入れるため率先と私たちを導いてきた男君の力について今さら疑うところはない)



姫「加えて近衛兵長……元この独裁都市の近衛兵長にして王国のスパイに、魅了スキルを使って逆スパイをさせて王国の情報を探らせていました」

姫「女さんと別れた後コンタクトを取り、その情報も使って攻略したのでしょう」

女(姫さんが補足する)



姉御「……二人とも男への評価が高いんだな。まあやるときはやるやつだったか」

女(姉御も納得したようだ)




427 ◆YySYGxxFkU2019/11/02(土) 01:55:14.624SYDSyxP0 (6/12)


姉御「で、男は王国を支配した……けど、なんでそんなことをしたんだい?」

姉御「王様になりたいなんて願望を持つやつじゃなかったと記憶しているけど」



女「男君の目的は簡単だよ。宝玉を集めること」

女「でもこれまで通りわざわざ教会の跡地を訪れて探すなんて面倒だと思った」

女「だから王国を乗っ取り強大な武力を嵩にして各地に宝玉を差し出すように言った」



姉御「ああ、そうかい。それが宣言と一緒に為された要求ってやつか」

姉御「…………ってことはなんだい? 宝玉を集めるためにわざわざ王国を支配したと」

姉御「何か目的と手段の大きさの違いがえらく歪だねえ」



女(言われてみればそうだけど……そんな手段もやすやす取れるくらい今の男君には力がある)

女(王国を、支配派を乗っ取った男君は今や帰還派、駐留派、復活派に一人で肩を並べる存在になったのだから)




428 ◆YySYGxxFkU2019/11/02(土) 01:55:43.464SYDSyxP0 (7/12)


姉御「まあ概要は分かったよ。アタイからの質問は以上だ」

姫「では、次は私から」



女(納得した様子の姉御に代わって、今度は姫さんが手を挙げる)



姫「先ほど女さんは男さんに何らかのスキルがかかっていたと話しましたが、実際いつどこで誰にどんなスキルをかけられたんですか?」



女「えっと……言われてみると私も疑問ばかりで。いつなのかって言うと駐留派と復活派との戦闘中だと思う」

女「でも男君を守るために背負いながら空中で戦っていたから、簡単にかけることは出来ないはずなのに……いつの間にかって感じで」



姫「戦闘中で警戒度MAXの竜闘士にも気付かれずですか。俄には考えにくい事態ですね」

女「その直前に男君は独り言を呟いていたんだけど、何か関係あるのかな?」

姫「独り言ですか。分かりませんが…………あ、ちなみにそのスキルの名前は何ですか?」



女「言ってなかったね。『囁き』ってスキルなんだけど――」




429 ◆YySYGxxFkU2019/11/02(土) 01:56:09.534SYDSyxP0 (8/12)




姫「『囁き』ですか……!?」



女(ガタン!! と、姫さんはイスを弾き飛ばしながら立ち上がった)



女(スキルの名前を聞いただけでこの反応。どうやら何か知っているみたいだけど…………でもそんなに驚くほどのことなのか?)



女「知っているの、姫さん?」

姫「当然です! だってそれは――魔神が持っている固有スキルなんですよ!?」



四人「「「「っ…………!?」」」」

女(姫さん以外の四人が息を呑む)




430 ◆YySYGxxFkU2019/11/02(土) 01:56:44.184SYDSyxP0 (9/12)


女(魔神)

女(太古の昔にこの異世界を滅ぼしかけた存在)

女(女神様によって別の世界に飛ばされ封印されたはずの存在が……どうして男君にスキルを……?)



女(同時に姫さんが知っていた理由も納得する)

女(彼女は女神教の大巫女。女神様にまつわる情報についてはこの世界で一番知る存在だ)





姫「私も自由を取り戻してようやく訪れることが出来た神殿の地下に秘蔵されていた書物から得た知識なんです」

姫「だから男さんにも話していなくて……」

女「今後のためにも魔神について知っていることを教えて欲しいんだけど」

姫「いいですよ。しかしちょっと待ってくださいね、私も整理してから話さないといけませんから」



女(姫さんは言うと思案顔になって、少し経って口を開く)




431 ◆YySYGxxFkU2019/11/02(土) 01:57:26.014SYDSyxP0 (10/12)




姫「魔神と呼ばれる存在。その始まりはこの大陸の小さな農村の平凡な夫婦、その間に生まれた一人の女の子だったそうです」



女(語り出したその内容は、最初から私の前提を破壊した)



女「女の子……え、でも? 魔神って……あれ、もしかして……」



女(この世界には魔獣と呼ばれる存在がいる。知性を持たない獣で、度々人間に被害を及ぼす存在だ)

女(商業都市近郊で戦ったドラゴンもその一種と言える)



女(だから魔神とはその親玉、得体が知れず破壊を振りまくモンスターだと思っていた)

女(復活派が世界を滅亡させると言っていたこともそのイメージを補強した)



女(しかし……考えてみればそうだ。神と呼ばれる存在……女神様だって元は人間)

女(だったら魔神も――)