231以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/03(月) 04:24:29.64NvaB0sZQo (13/18)


みこと「……」

さくら「あら、みことちゃん……顔色が少し悪いわねぇ」

マリ「え……!?」

日向「無理させてしまったか……!?」

みこと「あ、ううん、大丈夫」

さくら「夏バテかしら? 栄養はちゃんと摂らなきゃ美貌は保てないのよ」

結月「疲れがたまってたみたいで……」

さくら「あら大変。それじゃ今日は早く寝ることね」

みこと「……うん」

さくら「私も、早く寝なくちゃ。この歳になるとお肌にすぐ表れちゃうからぁ」

一輝「違いがよく分からないけどな……」

さくら「あら、私のこと口説いてるのね。おませさん」

一輝「ッ!?」

さくら「でも私、若い子に興味は無いの。ごめんね……」

一輝「」

栞奈「桜が散り、春が終わった男が一人。
    その気持ちを詩に込めて、今日も男は謡います」

日向「演歌みたいだな」

栞奈「さぁ、唄っていただきましょう……大村一輝、『失恋櫻』」

一輝「」

報瀬「おばあちゃんがよく見てた、そのテレビ番組」

さくら「うーん? でも、気配は感じるのよね……」

マリ「気配……?」


「……」


さくら「気のせいね。それじゃ、みんなおやすみ♪」

スタスタスタ...

みこと「おやすみなさい」

結月「おやすみなさい……」

マリ「気配って……?」

結月「さくらさん、前は格闘やってたらしいんです。その名残かもしれません」

栞奈「通りでごついわけだ」

みこと「闘うスタイリストさん、って呼ばれてるって」

一輝「通り名もごついな……」


秋槻「……ふぅ」


マリ「どうしたの、お兄さん」

秋槻「いや、なんでもない」



232以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/03(月) 04:27:07.88NvaB0sZQo (14/18)


みこと「顔色が悪いよ」

秋槻「ちょっと疲れちゃったかな……はは」

日向「今日はもう、みんな寝ようか」

栞奈「宴会は?」

報瀬「無し」

栞奈「これから毎日やるって言ってたのに……」

結月「誰も言ってません」


……



―― デネブ


車掌「お帰りなさいませ」

秋槻「ただいま戻りました」

車掌「お疲れのようですね」

秋槻「久しぶりの運転で緊張してしまって……」

車掌「あらあら」


みこと「……」

結月「……」

日向「ふぁぁ……私先に戻ってるな……。おやすみぃ~」

報瀬「私も、もう寝る……また明日……」

栞奈「それじゃーねー」

一輝「お前元気だな……。それじゃ、俺も」

マリ「私は売店行ってくるね」

結月「は、はい……」


秋槻「雨が降ったおかげで、空気が澄んでて、夜景が綺麗でした」

車掌「晴れて良かったですね」


みこと「……」ジー

結月「みことって、秋槻さんのこと……」

みこと「?」



233以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/03(月) 04:28:28.12NvaB0sZQo (15/18)


結月「あ、えっと……秋槻さんの印象どうなのかなって」

みこと「お父さんみたい?」

結月「そう……なんだ」

みこと「……うん」

結月「うーん……?」


秋槻「スタンプラリーの参加者はどのくらいいますか?」

車掌「まだ景品をもって訪れた方はいませんので、何とも言えません」


みこと「……なんだろう、ざわざわする」

結月「どういうこと?」

みこと「よく分からない」

結月「……それって」


さくら「結月ちゃん、ちょっといいかしら」


結月「え、あれ?」

さくら「ごめんなさいね、用件をすっかり忘れちゃって……。これなんだけど」

結月「……明日の段取りですね」

さくら「そうなの。ディレクターさんに渡すよう言われてたのに、ごめんね」

結月「はい、分かりました。謝ることないですよ」

さくら「でも、私ったら、ついはしゃいじゃって……」ションボリ

結月「あ、ちょっと待ってくださいね」

さくら「?」

みこと「……」ジー


秋槻「明日の夕方出発ですから、昼頃から食堂車は混むかもしれないってわけですか」

車掌「乗車されているお客様は、発車してからご利用いただければ良いかと」

秋槻「あぁ、そうですね。それなら景品を有効活用できる」


結月「みこと、耳貸して」

みこと「?」

結月「ひそひそ」

みこと「……?」

結月「その、ざわざわの正体、わかるかも」

みこと「……」



234以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/03(月) 04:29:41.00NvaB0sZQo (16/18)


さくら「うーん、また気配を感じちゃうわぁ……。はぁ、逢えないと辛い……」

みこと「あっちに居るよ」

さくら「え?」

みこと「ほら、車掌さんと話して――」


シュンッ


みこと「――いるでしょ? ……あれ?」

結月「消えた……!」


車掌「あら?」

秋槻「どうかしま――っ!?」ゾクッ

さくら「捕まえた」

秋槻「――あ――ぅ」

さくら「やっと、捕まえた……私の王子様☆」

車掌「王子……?」

秋槻「な、なんでもありませんよ。……っと、時間だ。私はこれで」

さくら「あなたと私、二人の時間がこれから――」

秋槻「これから仕事がありますので……! 失礼します!!」

スタコラサッサ

さくら「あぁん、……逃げられちゃった」

車掌「あの……?」

さくら「逃げられると、追いかけたくなっちゃうのよね」ゴゴゴゴ

車掌「は、はぁ……?」

さくら「あら、ごめんなさい、車掌さん」

車掌「いえ……」


結月「どう?」

みこと「ざわざわしたの、なくなった……?」

結月「……やっぱり」

みこと「?」

結月「とりあえず、今日はもう寝ようよ」

みこと「……うん。……明日はどうするの?」

結月「明日の朝は、散歩するだけみたいだから」

みこと「うん、分かった」


……





235以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/03(月) 04:31:33.07NvaB0sZQo (17/18)


―― マリの個室


マリ「私たちは私たちの旅を……かぁ……」


マリ「うーん……」


マリ「どういう意味だろ……?」


コンコン

「キマリさん、勉強してるとこ悪いんですけど、少しいいですか?」


マリ「……」

ガチャ

結月「すいません、勉強の邪魔をしてしまって」

マリ「してなかったから平気だよ……。どうぞ入って入って」

結月「そうですか。あのですね、話というのは……」

マリ「『やっぱりな』って空気を感じる……!」

結月「明日の観光のことなんですけど、金閣寺とか名所を回るんですよね」

マリ「うん、そうだけど?」

結月「私の撮影が清水寺であるんですよ」

マリ「そうなんだ?」

結月「さっきの雨の影響で、予定が変更になりまして」

マリ「じゃあ、一緒に行くよ。ちょうど良かった」

結月「あ、いえ……。えっと……行きたいところ行って欲しいんです」

マリ「行きたかったところだよ?」

結月「そ、それだと計画が……」

マリ「?」

結月「みなさん、一緒ってことですよね。みことも……」

マリ「……」

結月「……キマリさん?」

マリ「結月ちゃん、私たちには私たちの旅があるんだよね」

結月「どういう意味です?」

マリ「みこっちゃんのお母さんに言われたんだけど、よく分からなくて……」

結月「話の流れからすると……みことはみことの旅があるってことですよね?」

マリ「……うん」

結月「それなら、明日別行動してみませんか?」

マリ「それぞれ違う観光地に行くってことだよね」

結月「はい、そうです。それで、キマリさんが分からないところも見えてくるのではないかと」

マリ「……」

結月「無理して別行動する必要はありませんけどね」



236以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/03(月) 04:32:18.49NvaB0sZQo (18/18)


マリ「ちょっと心配だけど、そうしてみようかな……?」

結月「みこともただの子供ではありませんから問題はないはずです。やってみましょう」

マリ「うん、明日の朝、話してみよう。それで、結月ちゃんの話って?」

結月「いえ、私の計画とも合っていますからそれはいいです」

マリ「計画って?」

結月「いえいえ、なんでも……。そ、それじゃ遅いですから失礼しますね」

マリ「計画ってなに?」

結月「なんでもないって言ってるじゃないですか……。
   私は寝ますから、勉強頑張ってください」

マリ「鬼だ……!」

結月「リンに頑張ってたって伝えておきますね。……それでは」

ガチャ

 バタン

マリ「鬼だ……」シクシク


……





237以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/01(木) 12:00:36.03redis/s9o (1/17)



―― 8月6日


綾乃「いらっしゃいませ」


マリ「おはよう、綾ちゃん」

日向「おはよー」

綾乃「おはよう。みんな早くに出て行ったけど、どこ行ったの?」

結月「どうして知っているんですか?」

報瀬「まだ太陽昇ってなかったのに」

綾乃「見たから。朝早いからね、うちの食堂」

マリ「少し周りを歩いてたんだよ。お寺行って、公園でラジオ体操して」

綾乃「ずいぶんと健康的だね。お喋りはこれくらいにして、それではご注文を承ります」

結月「みなさん、和でいいんですよね」

マリ「うん」

日向「もち」

報瀬「今日は私、洋で」

結月「和三つに洋を二つお願いします」

綾乃「二つ?」

結月「すぐにみことも来ますので」

綾乃「はい、かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

スタスタスタ...

日向「確かに健康的だな。早寝早起き、散歩してラジオ体操」

報瀬「長生きできるね」

マリ「あの席に座ろう」

日向「はぁ、腹減った~」ストッ

結月「あ、待ってください。5人じゃ座れませんから、分かれましょう」

日向「そうだな。じゃ、報瀬あっちで、あとはこっち~」

報瀬「そういうの良くないと思う」

結月「私があっちに座りますね」

マリ「じゃ、私も~」

報瀬「……私も」


日向「私一人かよ。こういうの、良くないと思うんだ」



238以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/01(木) 12:02:25.14redis/s9o (2/17)


マリ「洋にしとけばよかったかな」

結月「明日食べればいいじゃないですか」

マリ「気分によって変わるから、明日は明日の風が吹くってね」

報瀬「それ、使い方間違ってるから」

マリ「そうなの?」


日向「……」


みこと「……?」


日向「おー、みことー、こっちこっち」

みこと「どうして、日向さん一人なの?」

日向「分からないんだよ。私が何をしたんだかな……。まぁ、座りなさい」

みこと「……うん」


報瀬「因果応報でしょ」

マリ「日向ちゃん、何をしたの?」

報瀬「私を除け者にしようとした」

結月「今日の夕方でしたよね、出発」

報瀬「そうだよ、忘れないで、キマリ」

結月「夕方ですよ、ゆ う が た。分かりましたか、キマリさん」

マリ「……」


日向「30分前には乗車しとけよ~」

みこと「……」


マリ「なぜか私だけがいつも乗車ギリギリみたいな言い方されるけど、いいです。
   今日でその汚名を返上させていただきます」

報瀬「嫌に自信あり気ね」

結月「なにか策でもあるんですか?」


みこと「今日はもう観光行かない?」

日向「なるほど、それなら乗り遅れないな」


マリ「行きます。観光には絶対に行きます」

報瀬「じゃあ、どうするの?」

マリ「大したことじゃないけど……。
   まぁ、日向ちゃんが言ったように30分前には乗っていますから、
   なんならみんなにおかえりって言うくらいの余裕がありますね」

結月「この自信……」


日向「なんで不安になるんだろう……」

みこと「……」



239以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/01(木) 12:04:11.54redis/s9o (3/17)


マリ「今日の出発を楽しみにしていてください」フフン

報瀬結月「「 これは…… 」」


日向「駄目かもな……」

みこと「……」


マリ「なんで!?」


一輝「朝から元気だな……本当に」

栞奈「おいっすー。ここ座っていい?」

日向「どうぞー」

みこと「……」

綾乃「先にご注文を伺います」

栞奈「私は洋食で、一輝は中華でお願いします」

綾乃「申し訳ありません、モーニングは洋食か和食のみになります」

栞奈「だってさ」

一輝「俺がいつ、それを頼もうとした? 望んですらいねえよ」

栞奈「和食だそうです」

綾乃「かしこま――」

一輝「洋食でお願いします。お前、他人に迷惑かけるな」

栞奈「はーい」

綾乃「洋食二つですね、かしこまりました~」

スタスタスタ...

みこと「綾乃さん、笑ってた」

日向「笑ってたな」

栞奈「笑わせるなんて、やるじゃん」

一輝「お前だろ? それに、笑われてたんだからな間違えるなよ」


報瀬「朝から漫才やってる」

結月「あの、いいですか、話」

報瀬「え、うん」

マリ「話?」

結月「えっと、駅の看板にもありますけど、スタンプラリー知っていますよね」

マリ「うん」

報瀬「それがどうかしたの?」

結月「その景品なんですけど、知っていますか?」

マリ「京都の高級料理店とか、お土産とかだったよね」

結月「他には?」

マリ「他? あったっけ?」

報瀬「興味無かったから……知らない」

結月「ですよね」



240以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/01(木) 12:06:03.77redis/s9o (4/17)



栞奈「スタンプラリー、参加するの?」


結月「はい、その提案をしようとしています」

マリ「分からないけど、他になにが景品なの?」

結月「デネブでのお食事券です」


栞奈「汚職事件……! ボス、私と一輝で捜査行ってきます」ガタッ

みこと「うん」

日向「いや、うんじゃないだろ」ビシッ

一輝「刑事ごっこはいいから、大人しくしてろ」


報瀬「食事券?」

結月「そうです、二名様ご招待とありました」

マリ「参加したら誰でも招待されるの?」

結月「いえ、ネットで抽選ですけどね。あとは参加賞の記念ボールペン」


栞奈「あ、もしかして昨日のお礼に私をご招待してくれるの? やったね、嬉しー!」


結月「いえ、違います」


栞奈「……」

日向「げ、元気出せ」

みこと「はい、水」

栞奈「……うん」

一輝「ぬか喜びか……残念なヤツ」


報瀬「結月……」

マリ「結月ちゃん……」

結月「あ、いえ……! あとでお土産を買ってきますから……!」


栞奈「ううん、いいんだよ……そんな気を遣わなくても」

日向「珍しくテンション低いな……」

みこと「このお冷、京都の名水だって言ってたよ」

一輝「それは励ましになるのか?」


報瀬「結月……!」

マリ「結月ちゃん……!」

結月「え、えぇ……!? えっと……こ、高級なお土産ですよ!」


栞奈「地元の人たちに愛されて150年……
   変わらぬ味を守ってきた誇りと歴史を持つ老舗和菓子屋の……?」


結月「妙に具体的ですね……」

報瀬「商品指定されてそう」



241以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/01(木) 12:07:55.96redis/s9o (5/17)


マリ「あ……、おはようお兄さん」


秋槻「うん、おはよう」


みこと「……おはよう」

日向「あー、座るならそっちだな」


秋槻「交代してくれない?」


日向「私はさ、ハブられてるから……」

栞奈「沖縄だけに……」

一輝「調子取り戻したからお土産とか気にしなくていいよ」


結月「……分かりました」


栞奈「くぉら!」ドスッ

一輝「痛ってッ! 殴るな!」

栞奈「余計なこと言うからでしょ」

一輝「何が沖縄だけにだよ、宮城のセリフだろ」

綾乃「いやー、それは言わないよ。座らないんですか? 他は空いてませんけど」


秋槻「悪いけどいいかな? コーヒーだけ」

マリ「いいですけど、食べないんですか?」

秋槻「すぐ出ようと思ってたから。コーヒーを」

綾乃「かしこまりました~」

秋槻「あ、ちょっと待って」

綾乃「?」

秋槻「料理長、昨日出掛けてたでしょ?」

綾乃「はい……そうですけど?」

秋槻「どこへ行ったのか聞いてる?」

綾乃「確か、京都鉄道博物館……って言ってたような?」

秋槻「そっか、うん、ありがとう」

綾乃「いえいえ」

スタスタスタ...

マリ「鉄道?」

秋槻「車掌さんと出掛けたらしくて、どこか分からなくて」

結月「なんで行先を知りたがるんですか……」

報瀬「……」ジー

秋槻「鉄道と言ったらアレかな、二人が共通してるモノ」アセアセ

結月「どうして焦っているんですか……」

秋槻「またあらぬ疑いをかけられるかと思って」

マリ「二人が共通?」

秋槻「そう……ヴェガのこと。二人とも乗ってたらしい」



242以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/01(木) 12:11:54.24redis/s9o (6/17)


マリ「あの料理長さんが……」

報瀬「車掌さんも乗ってたって……、車掌さん、若いよね」

結月「はい、いくらなんでも当時も車掌をやってたとは思えませんけど」

マリ「じゃあ、乗客だった……ってことだよね?」


日向「あ、それを聞きたかったんだよ、車掌さんに」

栞奈「どうして?」

日向「含蓄のある言葉を聞いててさ……それに私は色々と感銘を受けたからな」ウンウン

栞奈「なるほど、含蓄のある言葉を聞いて、日向は色々と感銘を受けたわけだ?」

一輝「お前はなんで繰り返し言うんだよ」

栞奈「オウムだからだよ」

一輝「そうか……意外だわ」

みこと「……」


結月「話が外れましたけど、いいですか、スタンプラリー」

報瀬「観光地を周るだけでしょ?」

結月「そうです」

マリ「うん、それならついでに押せばいいよね」

秋槻「えっと、周る場所は……金閣寺と清水寺、映画村に新京極だったね」

結月「そうです。あと、比叡山もですけど、昨日貰ってますから行く必要はありません」

報瀬「いつの間に……」

マリ「スマホでコードを読み取るだけでいいんだよね」

秋槻「みたいだね。共有は出来るけど、
   不正出来ないシステムみたいだから、ズルはできないよ」

報瀬「共有はできる……?」

結月「スタンプとして使用できるのは一回ってことです」

マリ「じゃあ、誰かのスマホにスタンプを集めよう」

報瀬「よく分からないけど、それでいいと思う」

結月「夕方まで時間はありませんから手分けしません?」

マリ「どうするの?」

結月「そうですね……。私が清水寺――」



243以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/01(木) 12:12:47.23redis/s9o (7/17)



日向「あはは、全然そうは思えないけどー?」

一輝「心配するくらい大人しいからな……」

栞奈「なによ、人を二重人格者みたいに」

日向「いや、今までの栞奈とイメージと違うから」

栞奈「私、一輝の前では自分を出せなくて……」モジモジ

一輝「ハハッ」

栞奈「凄い乾いた笑い方したね」

みこと「……聞いてるから、大丈夫」


結月「……うん。後で伝えておいてね」

報瀬「私たちはどうする?」

マリ「うーん、そうだなぁ」

秋槻「夕方までに4箇所周って4つだね」


綾乃「お待たせしました、モーニングセットです~」


……





244以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/01(木) 12:14:33.94redis/s9o (8/17)


―― 京都駅


日向「なーんで私が清水寺なんだよー!」

報瀬「さっき、『それでいい?』って聞いたら頷いたでしょ?」

日向「そうだけど……ちゃんと聞いてるか確認しないとダメなんじゃないのか!」

報瀬「とにかく、そう決まったから結月と行ってきて」

日向「イヤだイヤだ! 納得できないー!」

報瀬「はぁ……分かったから」

日向「よし、駄々っ子成功!」

報瀬「ほら、飴玉あげる」

日向「……」


マリ「えっ!? 博物館にヴェガがあるの!?」

結月「みたいですよ。キマリさん、話聞いてなかったんですか?」

マリ「だって……! プリンアラモードに夢中だったから……!」

結月「見に行くって秋槻さん、行きましたけどね」

みこと「……」


報瀬「それじゃ、私も行ってくるから」

日向「私も金閣寺銀閣寺ルートがいい!」

報瀬「私 一人 行く。日向 結月 一緒 行く」

日向「なんだその片言! バカにしてんのかー!?」

結月「日向さん、清水寺行ったらスタンプ押して移動すればいいじゃないですか」

日向「嫌だよそんな……木を見て森を見ないなんて」

マリ「……うーん、どうしよ」

みこと「ヴェガを見たいの?」

マリ「うん!」

みこと「私一人で映画村行ってくるから、いいよ」

マリ「でも……」

みこと「大丈夫だから。いつもキマリさんに付いて行ってただけだから……」

マリ「……」

みこと「今日は一人で行ってみる」

日向「……」

結月「……」



245以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/01(木) 12:15:23.58redis/s9o (9/17)


マリ「うん、分かった。じゃ、これ」スッ

みこと「え? 私が持ってていいの?」

マリ「というか、スマホでデータ取らないといけないんだよ?」

みこと「あ……うん。借りるね」

結月「触ったことある?」

みこと「……うん、ちょっとだけ」

結月「それなら教えてあげる」

日向「考えてみたら、みことと別行動って初めてだな……大丈夫か?」

マリ「うん……。そうだよ、みこっちゃんにはみこっちゃんの旅があるんだから」

日向「……ふぅむ」

マリ「じゃあ、栞奈ちゃん達も行ったみたいだし、私たちも行動開始!」

日向「そうだな。……報瀬はいつの間にかいないし!」


……





246以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/01(木) 12:17:15.81redis/s9o (10/17)


―― 京都鉄道博物館


マリ「朝に続いてまたここに来ることになろうとは……」ゴクリ


マリ「えっと……ヴェガ……ヴェガ……」


マリ「プロムナードってところにあるんだよね……」


マリ「……よし」


……




「これがヴェガ……」

「か、かっこいい……!」フンスッ

「良さが私には分かりませんけど……」

「よし、手形つけよう」

「うふふ、私も~」


マリ「……これが?」

秋槻「みたいだね」

マリ「おぉわっ!?」

秋槻「驚かせてごめん。見慣れた人が居たからつい」

マリ「いえいえ……あー、びっくりした」

秋槻「これが20年前に日本を縦断してたんだよねぇ……」



「ば、バカ! 本当に手形つける奴があるか!」

「そうだよ、私にも声かけてくれないと」

「なんでですか……。というか、いつまで居るんですかここ……」

「中に入ろうぜ~!」

「入れるの……?」


マリ「なんか、自由な5人組だなぁ……」

秋槻「あはは、君たちみたいだね」

マリ「お兄さんと同じくらいかな……?」

秋槻「どうかな? 成人だろうけど」


……





247以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/01(木) 12:19:31.44redis/s9o (11/17)


―― 公園


ジリジリ

 ジリジリ


マリ「そうだ……電話しないと」

秋槻「今日も暑いなぁ……」

マリ「みこっちゃんに渡したんだった」ウッカリ

秋槻「電話渡したの?」

マリ「そうなんです……。ってことは……誰にも連絡取れない……!」

秋槻「とりあえず、デネブに戻ってみたら――」


pipipi


秋槻「おっと……ちょっとごめん」

マリ「いえいえ」


プツッ

秋槻「はい、秋槻です……」


マリ「うーん、どうしよー。電話を携帯出来ないことがこんなに困るとは……」


「やっぱり外は暑いな……」

「ね、みんなで演奏しようよ、久しぶりに集まったんだから」

「いいですね、是非やりましょう!」

「えー、私、最近叩いてないんだよなー」

「私もたまーに弾いてたくらいなの」


マリ「演奏……? バンドやってるのかな?」


秋槻「え……!? 私が……ですか?」


マリ「……」


秋槻「はい……はい。……分かりました」


マリ「考えていてもしょうがないから、とりあえず集合場所に行ってみよう……かな?」


秋槻「……」

プツッ



248以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/01(木) 12:21:20.92redis/s9o (12/17)



マリ「お兄さん、私、新京極に行ってきます」

秋槻「あ、うん……そっか」

マリ「あれ、元気ない?」

秋槻「いや……驚いてて……」

マリ「なにかあったんですか?」

秋槻「大きな仕事を……任されて……」

マリ「おぉ、凄い!」

秋槻「……いや、任されてくれそう……って所で」

マリ「それって、チャンス?」

秋槻「そうだね。俺にとってこれ以上ないチャンスだ……」

マリ「……」

秋槻「これから準備するとなると……工程を……」

マリ「お兄さん、なわとび大会、一緒に出ましょう!」

秋槻「急いで縄跳びを用意していけば……え、なわとび?」

マリ「うん、金沢の!」

秋槻「……悪いけど、他を探してくれる? 新しい乗客が乗って来るかも――」

マリ「お兄さんがいいです。他の誰でもない、始発から一緒に旅してきたお兄さんが!」

秋槻「――……」

マリ「8人で、跳びたいです!」


……





249以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/01(木) 12:24:31.91redis/s9o (13/17)


―― 清水寺


日向「こんな高いところ、大丈夫かゆづ……」


ピロロロン

日向「ん? ……おぉ、みことからだ」



≪ キマリ ― こんにちは ≫



日向「ふふ、なんで挨拶」

ポチポチ



≪ 日向 ―― 調子はどう? ≫



日向「……」


日向「返事遅いな……。慣れてないからか……?」


日向「ふぅ……日陰とはいえ、盆地は暑いなぁ……」


「今は京都の清水寺に来ています! たくさんの観光客で賑わっていますよ!」


日向「……頑張るな、ゆづ」


日向「やけにテンション高いし……東京まで大丈夫かぁ……?」


ピロロロン


日向「……」


≪ キマリ ―― 道に迷った。困ってる。でも大丈夫。 ≫


日向「うーん、不安だ……。今からでも追いかけようかな……」


ピロロロン


≪ 報瀬 ―― 迷ってるって、大丈夫なの? ≫


日向「……」ポチポチ


≪ 日向 ―― 今どこにいるんだ? ≫


日向「そういえば……キマリが言ってたな……」


『みこっちゃんにはみこっちゃんの旅があるんだから』


日向「……うぅむ」



250以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/01(木) 12:26:05.43redis/s9o (14/17)


さくら「あら、こんなとこにいたのね」

日向「あ、さくらちゃん」

さくら「飲む? 水だけど」

日向「いただきます!」

さくら「はい、どうぞ」

日向「ちょうど喉乾いたって思ってて~。ラッキー」

さくら「撮影は、このまま順調に進めば10分くらいで終われるわね」

日向「ごくごく……くぅー、ちょうどいいくらいに冷えててうまーい……!」

さくら「あまり冷たすぎるのも体に良くないからね」

日向「水がこんなに美味しいとは……。夏になると毎年実感する……!」

さくら「んふふ」

日向「ありがとうございます」ペコリ

さくら「いいのよ、これくらい」

日向「喉も潤ったし……さーてと、どうしようかな……」

さくら「急いでるの?」

日向「あ、いや……。ゆづを待つかどうか迷ってるわけじゃなくて……」

さくら「?」

日向「みことを追いかけようかどうかで迷っています。今一人で行動してるので」

さくら「それは心配ねぇ」

日向「うん……返事も全然返さないし……」

さくら「あの子、しっかりしてるから大丈夫よぉ」

日向「そうですけど……、しっかりしてそうに見えて実はぼんやりしてるところがあるから、それが心配で」

さくら「行きたいけど行けない……のは、結月ちゃんを置いていけないってことね」

日向「ゆづは、そんなの気にしないでしょうから……。みこと自身のことで迷うんですよねぇ」

さくら「ふぅん……」

ピロロロン



251以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/01(木) 12:26:55.91redis/s9o (15/17)



≪ キマリ ―― 着いたよ。写真も撮った。衣装着た人いっぱいいる。江戸時代みたいで面白いよ ≫


日向「あぁー、行けばよかった! というか、行ってきます!」

さくら「乗り遅れないように気を付けてね~」


タッタッタ...

「はーい。待ってろみことー!」


さくら「ジッとしてられないタイプね」

結月「ふぅ……お疲れ様です」

さくら「あら、お疲れ様。日向ちゃんは映画村に行くって走って行ったわ」

結月「そうですか。まぁ、ジッとしていないだろうとは思いましたけど」

さくら「結月ちゃんも後を追う?」

結月「いえ、私は集合場所に行きます」

さくら「あら、そう」

結月「ということで、キマリさんに連絡して……って……!」ハッ

さくら「どうしたの?」

結月「キマリさんに連絡が取れません……!」


……





252以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/01(木) 12:28:59.34redis/s9o (16/17)


―― 新京極


マリ「暑い……暑いよぉ……。そして誰もいないよぉ……」

ジワジワ

マリ「うー……。どこかで涼んで来よう……。あ、そうだ……!」



……




―― お昼過ぎ:新京極


結月「居ませんねぇ……」

報瀬「……うん。連絡が取れないことがこんなに不便なんて……」

結月「昔の人たちの待ち合わせってどうしてたんでしょうね」

報瀬「それは……場所を指定して待ってたんでしょ」

結月「私たちも場所を指定してるじゃないですか?」

報瀬「それはそうなんだけど……」

結月「もっと細かく――……あ、日向さんですよ」

報瀬「……うん」


日向「おいーす」

みこと「……」

報瀬「あれ、その帽子……また借りたんだ?」

みこと「……うん。使わないからって貸してくれた」

日向「みこと、映画村でジロジロ見られてたよ」

報瀬「どうして?」

みこと「分からない」

結月「浮いてますよね。いい意味で」

日向「芸能人だと思われたってことか? やるな、みこと!」

みこと「キマリさんは?」

報瀬「まだ見つからない。来てるのかどうかも分からなくて困ってるところ」

結月「ナチュラルに話を逸らしましたね」

日向「まぁいいや。暑いからどこか入ろう~」

みこと「あのお店から見ていれば、ここ通ったとき気付くよ」

報瀬「うん、そうしよう。私もお腹空いた」

結月「そうですね」


……






253以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/01(木) 12:31:13.74redis/s9o (17/17)


―― 喫茶店


報瀬「スィーツじゃなくて、ご飯……」

みこと「パンがあるよ」

日向「オサレなサンドウィッチがあるぞ」

報瀬「最近米を食べてないから、ご飯がいい」

結月「我が儘ですね……朝、洋食にするからじゃないですか」

報瀬「お昼に和食を食べようと思ってたから」

結月「それなら……えっと、おにぎりとかありますかね……」

報瀬「じゃあ、それでいいよ」

結月「待ってください、いまメニュー見てますから……」ペラペラ

日向「はい、残念ながらありませんでしたー。
   コンビニでおにぎりでも買ってくださーい」

報瀬「コンビニ……」

みこと「お粥があるよ。極上粥って……たくあんも付いてる」

報瀬「うーん……お粥……」

結月「渋ってますね……」

日向「もう好きにしなさい。私たちは私たちで食べてるから」

報瀬「お米……」ペラペラ

みこと「あ……」

日向「ん? キマリ居たか?」

みこと「ううん、料理長……かな?」

結月「本当だ……。料理長ですね……あのくらいの身長の高い女性は中々いませんから」

日向「というか、隣の女性……誰だ?」

みこと「分からない……」

結月「友人なんじゃないですか?」

日向「そっか、そうかもな……乗客にいないもんな」

みこと「上品な雰囲気……」

報瀬「みこと、隠しメニューがないか聞いてみて?」

みこと「え、うん……」

日向「自分で聞けよ!」

結月「あ……」

日向「キマリ居たか?」

みこと「あれは……栞奈さん……?」

結月「……大村さんも一緒ですね」

日向「二人で観光か……」

結月「というか、料理長の後を尾けてません?」

みこと「うん……そうみたい」

日向「暇なのかあの二人……?」

報瀬「……お粥食べるくらいならパンでいいかな」


……






254以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/30(月) 14:45:51.43lslAk4Kwo (1/13)


―― デネブ


報瀬「居た?」

みこと「ううん、個室には居なかったよ」

報瀬「やっぱり、まだ戻ってないんだ……キマリ」

みこと「……日向さんが車掌さんに聞いてくるって」

報瀬「まだ出発まで30分はあるけど……」

みこと「日向さん戻ってきたよ……結月さんも」


日向「車掌さんもまだ見てないって」

結月「車内には居ませんでした」


報瀬「そう……」

みこと「駅前に出てみない?」

日向「そうだな。駅の土産屋も回ってみるか……」


pipipi

みこと「……?」

日向「? キマリの?」

みこと「うん……電話が鳴ってる」

結月「ううん、違う。これは……アラームが設定されてたみたい」

報瀬「ひょっとして……朝のキマリの自信って、これ?」

日向「アラームをセットしただけで、あんな勝ち誇った顔してたのか……?」

結月「多分、そうですね……」

報瀬「……嫌な予感」

日向「私も」

結月「私もです……」

みこと「……」


……





255以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/30(月) 14:47:26.93lslAk4Kwo (2/13)


―― 京都駅周辺


日向「土産屋には居なかったけど……そっちは?」

報瀬「こっちも居なかった……」

みこと「うん……」

日向「やっぱり、まだ戻ってきてないのか、ゆづ?」

結月「はい、まだです」

報瀬「セットしたアラームに全てを委ねてるはずだよね」

日向「多分な……」

みこと「委ねてるの?」

結月「設定したから大丈夫って、心底安心しきってるはず」

報瀬「気付いて、こっちに向かってるとは思うけど」

日向「間に合う距離なのかどうか……」

みこと「……」


栞奈「やぁやぁ、どうしたの難しい顔して」

一輝「……」


日向「あのさ、キマリ……見た?」

栞奈「見てないよ。観光地でも会わなかったなぁ」

一輝「まさか……また?」

みこと「……」コクリ

結月「もう20分もないですよっ!」

報瀬「本格的に焦ってきた……!」

栞奈「みんなが此処に居るってことは、車内にも、駅内にも居ないってことね」

日向「そ、そうなんだよ」

栞奈「一度戻ってみたら? 他の改札から入ったかもしれないし」

みこと「うん、そうかも」

日向「じゃあ、ゆづは戻って確認してくれ。居たら連絡よろしくな」

結月「はい、分かりました」

テッテッテ

報瀬「私たちはどうする?」

日向「探し回っても意味ない気がするな……」

一輝「動かない方が良いってことか」

日向「うん」

みこと「時計は持ってないの?」

報瀬「持ってない」

みこと「そうなんだ……」



256以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/30(月) 14:48:42.63lslAk4Kwo (3/13)


栞奈「とりあえず、固まってないで動いたら? こうしてる間にも時間は過ぎてくよ」

一輝「どっちだ、探し回るのか? 動かず待つのか?」

日向「いや、栞奈の言うとおりだ。
   キマリが既に乗ってたなら私たちもデネブに向かえばいいだけだし」

栞奈「じゃ、すぐ行動! 散ッ!」

一輝「サンッ! じゃねえよ、忍者じゃないんだからな」

みこと「映画村行ったの?」

栞奈「うん、なんで分かったの?」

日向「私たちも行ったからな。報瀬、みこと、通話状態にしといて」

みこと「どうやるの?」

報瀬「貸して」

ピッピッ

栞奈「ここ、中央口だからね」

一輝「時間決めてここに集合か?」

栞奈「集合はデネブでいいよね。のりばはみんな把握してるよね」

みこと「うん、11番」

日向「もちろんだ。報瀬、弁当屋寄ってる暇ないからな!」

報瀬「あ、当たり前でしょ!」

栞奈「じゃ、もう一回! 散ッ!」

テッテッテ

一輝「あ、あいつ……やみくもに走って行ったぞ……」

日向「協力してくれてるのかよく分からんな……。
   まぁいいや、みことは京都タワー方面に行ってくれ」

みこと「うんっ」

テッテッテ

日向「私は地下の方に行ってくる」

テッテッテ

報瀬「私は……上から見てくる」

テッテッテ

一輝「……俺は適当に歩いてるか」

スタスタスタ...


……





257以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/30(月) 14:50:11.46lslAk4Kwo (4/13)


―― デネブ


結月「こちら、デネブの結月です。キマリさんの姿はありません」


『こっちも上から構内を見てるけど、キマリの姿は無し』

『地下にもいないな~』

『これ、複数の人と同時に会話できるの?』

『出来るよ』

『すごい……!』

『凄いだろ~! 文明は日々進歩しているのである!』


結月「まるで自分が開発したかのような声ですね」


『あ、みことの姿が見える』

『え?』

『ふふ、キョロキョロしてる』


結月「遊んでいる場合じゃないですよ」


『みこと、私の言うとおりに動いて』

『う、うん』

『なんだ、見つけたのか?』

『そこ、右へ行って』

『うん……』

『もう少し右へ方向転換……そうそう、そのまま真っすぐ階段上って歩いて』

『あれ……弁当屋があるけど……キマリさん、中に入って行ったの?』

『多分』

『おいこらー! 誘導して弁当買わそうとするなー!』


結月「遊んでいる場合じゃないですってば!」


『貸して、日向』

『え、うん……栞奈に代わるぞ』


結月「嫌な予感しかしませんね」


『ボス、ホシはまだ姿を現しません』

『返せ!!』


結月「もう駄目かもしれませんね……キマリさん……」


『ちょっ……姉ちゃん……待って……』

『なんだ、今の?』

『変な声聞こえた』


結月「?」



258以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/30(月) 14:51:53.83lslAk4Kwo (5/13)



『なんか後ろの人がぶつぶつ言ってて怖い。デネブに戻るね』

『報瀬に声かけてるんじゃないのか……?』

『なんで私に?』

『いや、ナンパだろ……?』

『観光客かもしれないよ?』

『ひゅー、やるじゃん、報瀬~! ひゅーひゅー』

『いやっ、困る! あっち行って!』

『んだよっ……冷てえな……っ……ちょ……』

『まだ変な声聞こえる』

『大丈夫か、報瀬ー?』

『うん、もう撒いたから』

『早いな!』

『隅に置けないね、このこのっ』

『おまえさっきからノリが一昔前なんだよ! 頼むから今は喋らないでくれー!』

『昭和なんだ?』

『誰がよ、日向!』

『栞奈だよ! 報瀬に言ってないからな! あーもう、面倒だなこれ……!』


結月「キマリさん……っ」


『……――いかな、連れが――……』

『……え?』

『どうするの? もう時間無いよ、本当に』

『おまえがかき回してるんだからさ、無駄に焦らさないでくれ』

『私はもう改札通ったよ』


結月「……?」


『いま――……務室に……』

『キマリさんが?』

『……そうそう……キマ――が――』


結月「この会話は誰と……?」


『駅内アナウンスしてもらうとか、どうよ?』

『いや、駅内にいるならもうデネブに向かってるだろ……多分』

『私はそろそろ通話切るから』


結月「ま、待ってください」


『どした、ゆづ?』

『どうしたの?』


結月「みこと、誰と話をしてるんですか……!?」



259以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/30(月) 14:53:28.40lslAk4Kwo (6/13)



『え?』

『誰って?』

『静かに』


『ほら――……こっち……から』

『ちょっと待って、みんなに連絡する』

『……通話中……と……』

『キマリさん、医務室に居るって――』


プツッ


『は?』

『医務室?』

『……』


結月「誰なんですか、今の男の人の声……!」




―― 日向


『誰なんですか、今の男の人の声……!』


日向「誰だよ……?」

栞奈「一輝じゃないし、秋槻さんでもない……」

日向「医務室ってなに……?」

栞奈「みことちゃん、返事して……!」


『みこと……?』

『ダメです、切れてますよ……!』


日向「なに、なにが起こってるんだ?」

栞奈「私たちの知らない誰かが……キマリを餌にみことを釣ろうとしてる」

日向「は……!?」


『え!?』

『だ、誰かみことを捕まえてください……!』


日向「報瀬! さっきの弁当屋どこだ!」


『階段を上がった先だけど、みことは1階に居たから! 私もそこに行く!』


栞奈「1階か……行こう、日向」

日向「うん……!」

タッタッタ



260以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/30(月) 14:54:56.79lslAk4Kwo (7/13)


―― 報瀬


報瀬「ダメ、居ない……」


『報瀬、今どこ?』


報瀬「2階の弁当屋前……。こっちから日向と栞奈が見える」


『え……? あぁ、そこか。……そこから見える?』


報瀬「待って……。……ダメ、人がいっぱいで見えない」


『そうか……』

『どうしてキマリさんのことを……?』

『それは後で考えよう、結月ちゃん』

『そ、そうですね』


報瀬「結月、デネブには来てないよね」


『はい……。いま、デネブの外に居ますけど、見当たりません』


報瀬「……」


『外に出てたらもう間に合わないぞ……』


報瀬「……うん」


―― 京都駅・外


みこと「医務室って外にあるの?」

男「うん、そうなんだよね。まぁ、付いてこれば分かるよ」

みこと「……」

男「キマリちゃんが倒れちゃってさ、君を呼んでくれって言われて~」


「はい……はい、車内で書き上げますので……」ペコペコ


みこと「あ……」

男「ん、どうしたの?」


秋槻「ん……? んん??」


みこと「秋槻さん……私、名古屋まで追いかけるから」


秋槻「…………」


男「なんすか?」

秋槻「君も、デネブの乗客?」

男「……そうですけど」

秋槻「……」

みこと「時間無いから、私はキマリさんと一緒に行くね」

秋槻「……うん、わかった。……あ、はい、すいません、話の途中で……」



261以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/30(月) 18:58:00.82lslAk4Kwo (8/13)


男「さ、行こう。電話で忙しいみたいだから」

みこと「……うん。キマリさんの様子は?」

男「それがちょっと辛そうでさ……。でも君の顔を見たら元気出ると思うよ」

みこと「うん……」

男「ほら、あの建物の中に――」

チョンチョン

みこと「……?」

秋槻「走るよ」

ギュッ

みこと「え、でも――」

秋槻「いいから」

グイッ

みこと「わ――!」


タッタッタ

 タッタッタ


男「でも、君みたいな純朴そうな子は騙されないか心配だなぁ……俺みたいなさ……って、あれ?」





―― 京都駅構内


栞奈「どうするの!? もう5分切ったけど!!」

日向「分かってるよ!」


報瀬「日向! 日向ー!」


日向「ど、どうしたー!」


報瀬「いた、居たーー!!!」


日向「マジか!!」

栞奈「どこー!?」



報瀬「いま構内に入ってきたー!!」



一輝「というかお前ら、騒ぎすぎ……」


ざわざわ

 ざわざわ


「なに、あの子たち……」

「どうかしたのか?」



262以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/30(月) 19:00:10.92lslAk4Kwo (9/13)



秋槻「彼女なら、もう乗車してるから……!」

みこと「え……っ?」

ダダダダッ


日向「あぁ! 居たー!!」

栞奈「おー、速い速い」

一輝「俺たちも走るぞ!」


男「ちょ、待てよー!」


秋槻「追ってきた……!?」

みこと「はぁっ……はぁっ」


男「俺の妹に手を出すんじゃねええええ!!」


秋槻「え!?」

みこと「な、なに……?」


ざわざわ

 ざわざわ

「なにあの人……」

「歳の離れた子を連れまわしてるの~?」

「最低だな……」


秋槻「ぐっ……!」


日向「秋槻さんそのまま走れー!!」


秋槻「よ、よし……!」

グイッ

みこと「……っ」


男「その手を離せぇぇええ!!」


秋槻「念のため聞くけど、あの人知り合いじゃないよね!?」

みこと「うんっ、知らないっ」

秋槻「じゃあっ……そのままデネブまで全力で……!」

みこと「うん!」

ダダダダッ



263以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/30(月) 19:01:28.38lslAk4Kwo (10/13)


秋槻「――ッ!」

みこと「~~ッ!」

ダダダダッ

ポロッ


みこと「……?」


コロンコロン


みこと「なにかっ……落ちっ」

秋槻「あ、あぁっ、しまった……!」


報瀬「いいからそのまま走って!」


秋槻「いやっ、それは出来ないッ!」


報瀬「私に――、日向に任せて!」


秋槻「――分かった! いくよ!」

みこと「う、うん!」


報瀬「日向!!」


みこと「……っ?」チラッ


日向「――!?」


報瀬「……ッ」クルッ

ダダダダッ


みこと「えっ!?」

秋槻「?」


報瀬「いいから前見て走って!」


みこと「それだけ……っ!?」

秋槻「どうしたの……!?」


報瀬「大丈夫だから! 私と日向を信じて!」


秋槻「あ…あぁ……ッ!」

グイッ

みこと「ッ!」

ダダダダッ



264以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/30(月) 19:02:17.29lslAk4Kwo (11/13)


駅員「なんだ? ……え、ちょっと……!」


...タッタッタ


秋槻「デネブの乗客ですっ!」

みこと「乗車証ですっ!」


駅員「は、はい……」


タッタッタ...


駅員「……???」


...タッタッタ


報瀬「乗車証です!」


駅員「は、はい」


タッタッタ...


駅員「乗り遅れそうだから急いでいるのか……?」


...タッタッタ


駅員「また来た……」


日向「乗車証!」

栞奈「同じく!」

一輝「後ろのヤツ、不審人物なので注意してください!」


タッタッタ...


駅員「……不審……?」


男「くそッ……はぁっ、はぁ……こんなことになるなんてッ……!」


駅員「君、ちょっといいかな」


……





265以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/30(月) 19:04:01.20lslAk4Kwo (12/13)


―― デネブ


結月「あ、あぁ……みこと……!」


秋槻「はぁっ……はぁ…っ」

みこと「はぁッ……ハァッ……ッッ」


結月「良かった……」ホッ


報瀬「ふぅ……ふぅ……」

みこと「報瀬っ……さんっ……電話……ッ」

報瀬「大丈夫、日向は気付くから」

秋槻「ほ、本当に……? ふぅ……はぁ……」

報瀬「多分」

秋槻「いやいや、多分じゃ困るんだってっ! 拾えてなかったら……!」

みこと「はぁ……ふぅ……ふぅ」

秋槻「いや……落とした俺が悪いんだけどさ……」

結月「どうしたんですか?」

みこと「秋……つ…き……さんが……携帯を……っ」

報瀬「みことは呼吸整えてて」

秋槻「俺が走ってる途中で携帯を落としてしまって……」


...タッタッタ


栞奈「よっしゃ、いちばーん!!」

一輝「……ふぅ、なんとか間に合ったな」

日向「ふぅ~……で、この携帯」

秋槻「あ……!」

日向「……はい、どうぞ」

秋槻「ありが……ん?」

結月「……ヒビが入ってますね」

日向「踏んだとか蹴ったとかじゃないですよ?」

秋槻「これくらいなら大丈夫。通話できればいいから……はぁ、助かった……ありがとね」

日向「いえいえ~」

栞奈「いきなり報瀬が叫んだときはびっくりしたね」

一輝「……あぁ」

日向「なにかあるなって思っててさ、そこに携帯が落ちてたわけだ。
   どこかで見たことあるな、と思ってピンと来たわけよ、拾うべきだとね」

みこと「……すごい」



266以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/30(月) 19:05:06.99lslAk4Kwo (13/13)


prrrrrr


報瀬「あ……! キマリ……!!」

結月「あー……どうしましょう?」

栞奈「もう出発だけど……」

日向「しょがない、私が残って――」


「みんなおかえり~……ふぁぁ」


結月「え」

日向「え?」

報瀬「えぇ?!」


マリ「乗らないの?」


栞奈「乗ってたの?」

一輝「……あの騒ぎはなんだったんだ」


秋槻「あれ……? あれ……!?」

みこと「どうしたの?」

秋槻「こっ、壊れてるっ!」


マリ「ほら、早く乗ってよ。出発できないよ~」


日向「……」

報瀬「……」

結月「……」

スタスタスタ...


マリ「なんで無言乗車してるの?」


みこと「出発だよ?」グイッ

秋槻「嘘だろ……!?」

スタスタスタ...

一輝「ふぅ……こういうオチか」

栞奈「あははっ」


プシュー


……






267以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:12:31.62dVGs9va+o (1/28)


―― 展望車


マリ「電話を鳴らせばよかったんじゃないの?」

結月「……」

報瀬「……」

日向「それで、どうなったスタンプラリー」

結月「はい、スタンプを回収したので、後は抽選ボタンを押すだけです」

報瀬「誰が押す? 運がいい人がいいよね」

マリ「ねぇ、電話を鳴らせばみこっちゃんに連絡取れたんじゃないの?」

日向「この中で運を持ってる人って誰だ?」

結月「私たちは運を持ってるとは言えないのでは……?」

報瀬「……どちらかというと、キマリかな」

マリ「ねぇねぇ、電話を――」

日向「うるさい」ムニー

マリ「でんふぁふぉなふぁふぇはほはっへ」


栞奈「おー、伸びる伸びる」


結月「あ、栞奈さん」

栞奈「ん?」

結月「秋槻さん知りませんか?」

栞奈「さぁ……分からないね」

結月「……そうですか」

報瀬「何か用事?」

結月「まぁ、今までのお礼みたいなものです。当選すればですけど」

日向「景品をあげるってことか」

結月「そうです」

マリ「……あ」

栞奈「どうかした?」

マリ「栞奈ちゃんに昨日のお礼を買うのすっかり忘れてた」アハハ

栞奈「……いいっていいって、お礼をもらうためにしたわけじゃないからさ」フッ

日向「そっか……じゃあ、どうしようか」

結月「そうですね……せっかくですから、みんなでいただきましょうか」

報瀬「うん」

マリ「用意したの?」

日向「新京極でな」

栞奈「え、なに?」

結月「有名な老舗土産屋で買ったんですけど」

栞奈「いやぁ、なんか悪いねぇ、催促したみたいで」スッ

報瀬「その手は?」

栞奈「頂戴いたします」

結月「はい、どうぞ。昨日はありがとうございました」

栞奈「こっちこそありがと~!」



268以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:14:07.60dVGs9va+o (2/28)


マリ「生八つ橋だね」

日向「本当、裏表無いよな栞奈って」

結月「そうですよね……自分に正直って言うか」

報瀬「学校の人気者って感じ」

栞奈「そうでもないけどね~。そうだ、これ、みんなで食べようよ」

日向「もう開けるのか? 栞奈のだから別にいいんだけど」

結月「家族の方にお土産として持って帰ってはどうですか?」

栞奈「……やっぱりみんなで食べようよ。うん、それがいい」

バリバリバリ

マリ「濃いお茶があるといいよね」

日向「じゃーんけーん!!」

報瀬「え!?」

日向「ポォン!!」パー

マリ「ポン!」チョキ

結月「いきなりですかっ!」チョキ

報瀬「っっ!」グー

日向「……ふむ」


一輝「またここで集まってるのか……撮影中じゃないよな」


栞奈「一輝~、グーとチョキとパー、どっち?」

一輝「……なにが?」

栞奈「いいから~」

一輝「チョキ……?」

栞奈「いまね、お茶を誰が用意するかのじゃんけんをしてたんだよね」

一輝「……それで?」

栞奈「残念だけど……一輝の負けとなりました」

一輝「……マジかよ」

スタスタスタ...


結月「騙されて行ってしまいましたけど……」

マリ「いいの?」

栞奈「一緒に食べれば大丈夫だから、問題なし」

日向「報瀬、遅れて出したのになんで引き分けになるんだ?」

報瀬「今日も一日が終わろうとしている……夕陽が寂しく感じる」

日向「遠い目するな。反射神経は悪くないはずなのにな」

結月「話を戻しますけど、抽選ボタン誰が押します?」

マリ「結月ちゃん押していいよ」

結月「……いえ、私が押したら外れそうです」

マリ「いいよ、そんなの気にしないで」

結月「…………」



269以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:15:38.57dVGs9va+o (3/28)


報瀬「どうしても当てたいの?」

結月「お礼というのもありますけど、応援したいんですよね」

日向「応援?」

マリ「大きい仕事をもらえそうって言ってたね。そのこと?」

結月「それは知りませんけど……そうなんですか?」

マリ「うん。だから、これから缶詰になるって」

報瀬「なにそれ?」

栞奈「個室に籠って集中して書くってことでしょ……もぐもぐ」

日向「……帰らないのかな?」

結月「そうですよね、仕事ですから……」

マリ「私が金沢でなわとび大会に出たいって言ったから」

結月「……」

日向「それって結構無茶だよな……」

報瀬「……うん」

栞奈「私が押していい?」

結月「運は強い方なんですか?」

栞奈「まぁね~。母さんも強運だったらしいけど、私が産まれて普通になったって言ってた。
   だから、母譲りの運の持ち主なのだよ」

マリ「なぜか説得力がある……!」

結月「では、どうぞ」

栞奈「そいやっ」ポチッ

日向「ためらいもなく……」

結月「あ……」

報瀬「どうだった?」

結月「当たりました」

日向「なんだ、期待させといてこれかよ~」

栞奈「あはは、ごめんごめん」

マリ「そうそううまくいかないよね」

報瀬「結果とリアクションが違う気がする。結月、もう一回教えて?」

結月「はい、当たりました」

日向「え?」

マリ「なんだって?」

結月「ですから、当たったんです」

日向「これは私のだ!」

マリ「私のだよ!」

栞奈「押したの私だからね!」

結月「なんて醜い争い……」

報瀬「キマリと栞奈、スタンプラリーに参加してないよね」

マリ栞奈「「 冗談だよ、冗談~ 」」

日向「それ、二名様だろ? 秋槻さんと誰がご招待されるんだ?」

結月「この中の誰が行っても後々揉めそうなので、みことでいいのではないでしょうか」」

報瀬「確かに、揉めそう……」



270以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:17:02.49dVGs9va+o (4/28)



一輝「ほら、持ってきたぞ……って、もう食べてるのかよ」


栞奈「ありがと~。ほら、一緒に食べよ」

一輝「いいのか?」

栞奈「いいでしょ?」

結月「栞奈さんに渡したものですから」

報瀬「うん、栞奈が決めること」

栞奈「ってことで、いいよ」

一輝「じゃあ、いただきます……」

マリ「もぐもぐ……ずずーっ……おいしいね~」

日向「みことはまだ戻ってこないか……聞きたいことあるんだけど」

栞奈「どこ行ってるの?」モグモグ

日向「日記書くって個室に行ったまま」

栞奈「へぇ、日記書いてるんだ~。私なんて一回書いたらそれっきりだけどなぁ」

一輝「せめて三日は書けよ」

マリ「聞きたいことって? もぐもぐ」

結月「……キマリさん、遠慮なしに食べてませんか?」

マリ「お腹空いちゃって」

日向「キマリさ、ずっと部屋に居たんだろ?」

マリ「うん、居たよ」モグモグ

報瀬「みことが確認しに行ったはずなんだけど……?」

マリ「寝てたからかな。本読んでたら眠くなっちゃって……朝早かったし」

日向「あぁ、なるほど、そういうことか……謎が解けたな」

一輝「呼びかければ起きるんじゃないのか? ……どういうこと?」

結月「それは――」

報瀬「寝ることに関して、キマリは人智を超えているから」

マリ「ひ、ひどい! ……よね? ひどいこと言われたよね?」

日向「多分ひどくない」

マリ「そっか」

一輝「納得するのか……」

栞奈「そう簡単に起きないってこと?」

日向報瀬「「 うん 」」

結月「ですね」

マリ「そんなことないよ」

結月「寝相悪いし寝言は言うし寝起き悪いし」

日向「歯ぎしりするしイビキ掻くし」

マリ「ウソッ!?」

日向「うっそだよん♪」

マリ「もぉー!!」

日向「あはは」



271以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:18:22.22dVGs9va+o (5/28)


報瀬「待ち合わせには来なかったの?」

マリ「ううん、行ったよ。だけど、暑かったから本屋さんで立ち読みしてたんだ~」

一輝「それでその本を買った、と」

マリ「おぉ、よく分かったね?」

結月「本を読んでたって言ったじゃないですか」

日向「何の本を買ったんだ?」

マリ「みこっちゃんのお母さんが書いた本! 探偵のヤツ!」

栞奈「教師が犯人のやつかぁ」

マリ「え……」

ポトッ

報瀬「生八つ橋が落ちたでしょ!」

マリ「い、いいもん! 私、ネタバレされても楽しめるからね!」

結月「そんな人出てきませんから安心してください」

マリ「ちょっ、もぉー!! なんで嘘吐くの!?」

栞奈「からかいたくなっちゃってね、えへへ」

一輝「えへへじゃないだろ、ショック受けてたぞ」

日向「ネタバレされても楽しめる人っているよな」

結月「答え合わせ感覚らしいですよ。そういう楽しみ方なんでしょうね」

栞奈「はい、キマリが落とした罪」

一輝「なんで俺が罰を受けるわけ?」

結月「って、また話が逸れてます!」

マリ「なんだっけ?」

報瀬「ご招待される二人は、秋槻さんとみことでいいよねって話」

日向「いいよ、それで」

マリ「うん……」

結月「反対ですか?」

マリ「……そういえば、なんで手をつないでたの?」

日向「変な男に絡まれてたんだよ」

結月「助けてくれたみたいです。本当に良かったですよ」

報瀬「乗り遅れてたら、どうなっていたことか」

栞奈「手を引かれて走って行くみことちゃんは、
   まるで教会から連れ去られる花嫁みたいだった……」

一輝「なんだよそれ」モグモグ

栞奈「あれ、知らない? そんな映画があるんだけど」

一輝「知らん」

栞奈「え、みんなは?」

マリ「私も知らない」

日向「……知らないな」

結月「聞いたことはあります」

報瀬「……」

栞奈「君たち、もっといい映画を観たまえ。映画はロマンだよ」

一輝「おいしいなこれ」



272以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:19:18.95dVGs9va+o (6/28)


結月「では、秋槻さんとみことにこの事伝えに行ってきますね」

日向「うん、じゃあ後でなー」

結月「はい、また後で」

スタスタスタ...

報瀬「結局、キマリは観光出来なかったの?」

マリ「うん……公園に行って、本屋に寄っただけだから、そういうことになるね」

一輝「家の近所の行動範囲とあまり変わらない気がするな」

日向「非日常の中にも日常はあるのだ。人はそれを無意識に行い安心を求めるのである」

栞奈「誰の言葉?」

日向「ナタケ・ヒヤミ」

マリ「南国に住んでる人っぽい名前だね」

栞奈「意外と身近にいそうな名前だと思うけどね」

マリ「うん?」

一輝「……」

報瀬「……あぁ、アナグラム」

日向「すぐ解っちゃったか~」

マリ「?」


……






273以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:20:25.17dVGs9va+o (7/28)


―― 秋槻の個室


コンコン

結月「……」


ガチャ

秋槻「はい……って、どうしたの?」

結月「忙しいところすいません、少しよろしいでしょうか」

秋槻「うん、なにかな」

結月「用件を手短に伝えます。スタンプラリーでの景品なんですけど」

秋槻「あぁ、あれね。どうだった?」

結月「運良く当選しました」

秋槻「おぉ、凄い」

結月「それで、今までのお礼として秋槻さんに受け取って欲しいんです」

秋槻「……いいよ、そこまで気を遣わなくて。
   それに、これから用事があって時間があまりなくてね」

結月「一時間程度でも、空けられませんか?」

秋槻「一時間か……」

結月「いままでお世話になってますから、これくらいさせて欲しいんです」

秋槻「……」

結月「私たちの感謝の気持ちです」

秋槻「…………分かった。それじゃ、お言葉に甘えようかな」

結月「あ…ありがとうございます。それでは、えっと……正装でお願いしますね」

秋槻「?」

結月「スーツ、持ってきていませんか?」

秋槻「一応、仕事まわりがあったから、用意はしてあるけど」

結月「じゃあそれでお願いします。それでは、また後で時間は伝えますから」

秋槻「うん……じゃあ」

バタン

結月「……よし、それじゃ、あとは……」


……





274以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:21:24.31dVGs9va+o (8/28)


―― みことの個室


コンコン

結月「……」


ガチャ

みこと「はい……結月さん?」

結月「用事はもう済んだ?」

みこと「……うん」

結月「じゃあ、ちょっと時間いい?」

みこと「うん」

結月「日の入りするくらいの時間に食堂車に行って欲しいんだけど」

みこと「……?」

結月「ほら、スタンプラリーの景品」

みこと「私が?」

結月「うん、遠慮しなくてもいいよ。みんなの了解を得てるから」

みこと「どうして?」

結月「それは……」

みこと「?」

結月「ケンカになるから。というか、なったから」

みこと「そうなんだ……」

結月「いい?」

みこと「うん……ありがとう」

結月「お礼はキマ…リさんはなにもしてないから、日向さんたちに」

みこと「……もう一人は?」

結月「私も行くから安心して」

みこと「……うん」

結月「じゃあ、準備しようか」

みこと「準備?」

結月「せっかくの豪華料理なんだから、おめかししないとね」


……





275以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:23:05.77dVGs9va+o (9/28)


―― 食堂車・厨房


料理長「なんだって?」

マリ「バイトをさせてください!」

料理長「……どうして」

マリ「そのぅ……持ち合わせが厳しくなってきましてぇ」

料理長「ふぅ……。あのね、君たちを特別扱いは出来ないんだよ?」

マリ「うぅ……」

綾乃「いいじゃないですか、少しくらい手伝ってもらえば」

料理長「その少しが特別扱いだって言ってるんだよ。やるなら最後までやらないと」

マリ「最後……終点までですか?」

料理長「その通り」

マリ「そ、それは……」

綾乃「これからコースメニューを作るわけですから、人手はあった方が困りませんよ」

料理長「まったく……。接客の経験は?」

マリ「コンビニ店員をしていました!」

料理長「料理は?」

マリ「家事手伝いを毎日!」

料理長「ふぅん……」

綾乃「すごーい」

マリ「炊事、洗濯、掃除、買い物、映画鑑賞、町内会の清掃、やってます!」

料理長「映画鑑賞は趣味だな……。一つ聞いていいか?」

マリ「はい……?」

料理長「どうしてそこまで頑張るんだ?」

マリ「目指している場所があるからです。
   今度は大人の力を借りず、自分たちの力でその場所へ行けるようになるため、です!」



276以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:23:59.53dVGs9va+o (10/28)


綾乃「もしかして、あの場所?」

マリ「そう、あの場所!」

料理長「知ってるのか?」

綾乃「はい……。そんなにいいところだとは思えないけど……」

マリ「私たちにとっては最高の場所」

綾乃「――……」

料理長「……分かった。それじゃ手伝ってもらおう」

マリ「やった! ありがとうございます! 頑張ります!」

料理長「ただし」

マリ「?」

料理長「給料は出せないからな」

マリ「え?」

綾乃「じゃあ、報酬は?」

料理長「これから朝食は無料にする。それでどうだ?」

マリ「――! ありがとうございます!」

料理長「それじゃさっそくだが、野菜を切ってくれ、明菜に聞けば教えてくれる」

マリ「アキナ?」

綾乃「もう一人の店員だよ。今接客してるから、代わって来る」

マリ「う、うん……。あのお姉さんかぁ……」

料理長「ほら、ディナーを楽しみにしてるお客さんが来るよ、しっかりしな」

マリ「はい!」


……





277以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:24:51.69dVGs9va+o (11/28)


―― 2号車


日向「なんだって?」

報瀬「だから、食堂車でバイトしてるって」

日向「……どうして」

報瀬「暇なんじゃないの?」

日向「ふぅん……よくやるなぁ」

報瀬「……」

日向「まぁ、暇って言えば暇だな」

報瀬「うん」

日向「……」

報瀬「……」


ガタンゴトン

 ガタンゴトン


日向「ゆづは?」

報瀬「さくらさんと一緒にみことの準備してる」

日向「大村と栞奈は?」

報瀬「1号車で漫才やってる」

日向「秋槻さんは缶詰か……」

報瀬「……うん」

日向「暇だな」

報瀬「うん」


……





278以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:25:36.68dVGs9va+o (12/28)


―― 売店車


店員「いらっしゃいませ」

報瀬「何買うの?」

日向「キマリに観光ガイド買っとけって言われてたからさ。
   ということで、くださいな~」

店員「はい、どうぞ」

日向「ありがとうございまーす」

報瀬「次は名古屋ね」

日向「そだな~。そして、その次は金沢――」

報瀬「あっという間に」

日向「あ~~!!」

店員「!?」ビクッ

報瀬「なに、どうしたの!?」

日向「れ、練習してない!」

報瀬「なにが!?」

日向「なわとびの練習!」

報瀬「あ、そう……」

日向「もう登録は済ませちゃってるから……ん?」

報瀬「……」ジー

店員「……」ジー

日向「急に大声出してすいませんでした」ペコリ


……






279以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:27:03.52dVGs9va+o (13/28)


―― 寝台車


報瀬「登録したって、10人を?」

日向「うん、したよ。当日受付でも良かったみたいだけどな」

報瀬「あと一人って誰?」

日向「さぁ? 食堂車でウェイトレスしてる人かな?」

報瀬「綾乃ちゃんともう一人の方?」

日向「うん」

報瀬「歳、同じくらいかな」

日向「多分、二つくらい上だと思う。ここだっけ、みことの個室?」

報瀬「うん」

日向「おーい」

コンコン

「はーい」

報瀬「……」

ガチャ

結月「どうしたんですか?」

日向「暇だから様子を見に来たのだよ」

結月「そうですか。もうすぐ終わりますよ」

日向「どれどれ~?」

報瀬「ちょっと、親しき中にも礼儀ありよ?」

結月「はい、そういうことなので下がってください」

日向「なんだ、その素っ気ない態度は、何を隠しているんだ!? 話してみなさい!」

結月「お父さんには関係ないでしょ、放っておいてよ!」

バタンッ

日向「……」

報瀬「……」

日向「悪いことしたな」

報瀬「うん」

ガチャッ

結月「なんで引くんですか……ノッたのに……!」

日向「いや、まさかの展開に戸惑っちゃって……」

報瀬「ごめん……」

結月「もういいです。それでは、また後で」

バタン

日向「ごめんな、今度はうまくやるから」

報瀬「もう次は無いと思うけどね」

日向「うん、私もそう思う……」


……





280以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:28:25.80dVGs9va+o (14/28)


―― 食堂車


日向「なんか、最近のゆづ……らしくないよな?」

報瀬「……そうね、確かに」


綾乃「いらっしゃいませ」


日向「あれ、キマリは?」

綾乃「中に居ますよ」

報瀬「様子はどう?」

綾乃「料理長の扱きに頑張って付いて行ってますよ」

日向「あはは、そうなんだ」

綾乃「お食事ですか?」

報瀬「うん」

綾乃「では、こちらへどうぞ」

報瀬「コンビニでのキマリはどうなの?」

日向「まぁ、うまくやってるよ。先輩の教えがいいからなぁ~、えっへん」

報瀬「はいはい」

綾乃「ご注文はお決まりですか?」

日向「どうしよっかな~」

報瀬「あ、今日はイタリアンなんだ?」

綾乃「そうです、今日のおススメです。
   料理長なんでも作れちゃうから私も驚いてますね」

報瀬「どんな人?」

綾乃「厳しいですよ。厨房に居る時は時間を無駄にするなーって言って、目が怖い」

日向「よし、決めた」

報瀬「大丈夫かな、キマリ……」

綾乃「大丈夫ですよ。厳しいのは料理を本当に大切に想ってるからで……」

報瀬「あぁ、そういうの、なんとなく分かる」

日向「ラザニアお願いしまっす」

綾乃「はい、ラザニアですね」

日向「報瀬は?」

報瀬「え? えっと……」

綾乃「こちら、おススメですよ」

報瀬「じゃあ、それで」

綾乃「カルボナーラですね、かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

スタスタ......

日向「いいのか?」

報瀬「なにが?」

日向「いや、別に」

報瀬「?」



281以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:30:23.51dVGs9va+o (15/28)


日向「もう旅も終盤だな~」

報瀬「デネブはまだまだ中盤でしょ」

日向「それはそうだけどさ。なんていうの、終わりが見えてくると感じるこの寂しさ」

報瀬「まぁ、それは分かるけど」

日向「キマリはどうするって?」

報瀬「さぁ、分からない。最後まで行くかもしれないし、行かないかもしれないし」

日向「なんだよ、それ」フフッ

報瀬「ふふ、さぁ?」


……




報瀬「夕陽が綺麗……」

日向「ん~……、流れていく景色の中、その夕陽を見ながらディナーを楽しめるなんて」

報瀬「もう経験できないかもね」

日向「そうだなぁ~。やろうと思わない限りはできないな」

ガタンゴトン

 ガタンゴトン

報瀬「この経験をまた味わいたいって思える日が来ると思う?」

日向「分からないけど……多分、思うだろうな~」

報瀬「……」

日向「……ところでさ、報瀬」

報瀬「うん?」

日向「駅の売店で弁当買おうとしたのは、ご飯が食べたかったからだろ? お米的なご飯を」

報瀬「そうだけど?」


綾乃「お待たせしました、ラザニアとカルボナーラになります」


報瀬「あ゛ッ!?」


綾乃「え!?」


日向「変な声出してすいません~。この人、たまーに声芸してしまうんですぅ~」

綾乃「そ、そうですか……びっくりした。……声芸って……なんだろ?」

報瀬「なんで止めなかったの日向!」

日向「いや、聞いただろ? いいのかって」

報瀬「ちゃんと教えてくれないと気付かないでしょ!」

綾乃「どうしました?」

日向「ライスを食べたかったらしいです」

綾乃「……」



282以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:32:08.65dVGs9va+o (16/28)


報瀬「どうして私はカルボナーラ?」

日向「そんなこと私に聞かれてもな……。
   というか、そういうタイトルの曲ありそう」

綾乃「あぁ、分かる分かる。えっと、それでしたら、少々お待ちください」

日向「あ、いいですよ、それで。な、報瀬?」

報瀬「う、うんうん。カルボナーラの気分だったから」

綾乃「そうですか? それでは、どうぞごゆっくり」

日向「さすがに作り直しさせる程じゃないよな」

報瀬「うん……。でも、食べられないと思うと余計に食べたくなる」

日向「耐えた後の幸福はそれ以上の幸福である」

報瀬「どういう意味?」

日向「え? ……例えば……喉が渇いているときに水を飲むととってもうまいってなる」

報瀬「……」

日向「でも、二口目は一口目よりの満足感は無い。と、そういうことだな」ウンウン

報瀬「ふぅん……。自分で言って理解してるでしょ」


綾乃「失礼します。こちらをどうぞ」


報瀬「え?」

日向「ん?」

綾乃「あちらの方からサービスです」



マリ「ふふふ」グッ



報瀬「あぁ、うん……ありがとう」


綾乃「それではごゆっくりどうぞ」

スタスタスタ...


日向「キマリのサービスか」

報瀬「カルボナーラに白ご飯……」

日向「交換する? ラザニアの方が合いそうだけど」

報瀬「……ありがと。でも、せっかくだから、これで」

日向「そうか……」


……





283以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:33:53.90dVGs9va+o (17/28)


日向「ごちそうさま~。ふぅ~、おいしかった」

報瀬「もぐもぐ……」

日向「ご飯残ってるぞ」

報瀬「うん……もぐもぐ」

日向「ふりかけでもあればもらうか?」

報瀬「うん……もぐもぐ」

日向「すいませーん……って、いないな」

報瀬「……なんだか、お客さんが少ない気がする」

日向「確かに……。もう時間過ぎたかな」


綾乃「すいません、呼びましたか?」


日向「あぁ、うんうん、呼んだの私。悪いんだけど、ご飯に合うモノってなにかないかなって」


綾乃「……カルボナーラとは合いませんでしたね。少々お待ちください」


日向「ごめんね~?」


「いえいえ~」


報瀬「ありがと、代わりに言ってくれて」

日向「別にいいけどさ。見てても喉通らなさそうで大変みたいだから……ん?」

報瀬「どうしたの?」

日向「キマリが来た」


マリ「どうでしたか、今日の料理は」


報瀬「まるで自分が作ったみたいに……」

日向「大変美味しくいただけました。シェフはどちらで料理の勉強を?」

マリ「フランスやイタリーア、トルコにて修行を積んできました」

報瀬「そのエプロンで言っても説得力無いよ?」

マリ「本当です。本人に聞きましたので」フフン

日向「料理長の実力は本物ってことか。キマリがしたり顔なのがよく分からな……ん?」

マリ「なにか?」

日向「向こうで綾乃ちゃんが慌ててるみたいだけど、なにかあったのかな?」

マリ「え?」

報瀬「キマリが遊んでいるからでしょ」

日向「というか、なんでキマリが来た?」

マリ「私の提供した料理に不満があるのではと、責任の重さを感じましたので」

報瀬「気持ちは嬉しいんだけどね……」

日向「提供した料理って……ご飯よそっただけだろ?」

マリ「その通りでございます」

報瀬「本当に遊んでるよね、キマリ」

日向「あ……」

マリ「どうかしましたか?」



284以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:35:41.35dVGs9va+o (18/28)


「……」


報瀬「……後ろ」


マリ「?」


「玉木さん、ここで何をしているんですか?」ニコニコ


マリ「う……! 明菜さん……!」

明菜「どうして持ち場を離れているんですか? 
   どうしてその格好でお客様の前に立っているんですか?」ニコニコ

マリ「こ、これは……そのぉ」

明菜「チーフは許可したんですか?」ニコニコ

マリ「い、いいえ……」

明菜「それでは戻りましょう。仕事の途中ですから」ニコニコ

マリ「はい」

明菜「失礼をしてしまいました。申し訳ございません」ペコリ


日向報瀬「「 いえ、とんでもない 」」


マリ「……」

スタスタスタ...


報瀬「……」

日向「いい先輩じゃないか……」


結月「肩を落として歩いてましたけど、どうしたんですか、キマリさん」


報瀬「バイト中に遊んでいたから怒られてたところ」

結月「どうしてバイトを?」

日向「暇なんだろ。そんなことより、みことは――」

結月「はい、ここにいます」


みこと「……っ」


日向「おぉ……」

報瀬「綺麗……。ん……? 綺麗? 可愛い……?」

結月「みこと、見た目は大人びていますからね」

みこと「客車歩くとき、恥ずかしかった……」

日向「ドレスアップした娘が歩いてるから注目されるだろうな」

結月「それじゃ、私も着替えてくるから」

みこと「うん……」

結月「それでは」

スタスタスタ...

報瀬「着替える……?」

日向「仕事じゃないか? まだ撮影があるんだろ」

みこと「……?」



285以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:37:03.08dVGs9va+o (19/28)


報瀬「それより、みこと、似合って――」

日向「おっと、報瀬……それを言うのは私たちじゃないよね」

報瀬「え? ……あ、あぁそうね」

みこと「???」

日向「レリィを待たせるなんて――って、言ってるそばから来た」

報瀬「あっちも正装なんだ……」

みこと「え――……え?」


秋槻「お待たせ……? したのかな、詳しく話は聞いてないんだけど」


みこと「どうして……秋槻さん……?」


日向「ゆづから話は?」

秋槻みこと「「 ううん、聞いてない 」」

報瀬「……要は、二人にディナーを楽しんでもらおうという話」

日向「そういうことなので、じゃあな~」ガタ

報瀬「じゃあね」

スタスタスタ...


みこと「えっ……! ま、まって……!」

秋槻「あぁそっか。二名様招待って書かれてたからそうだよな」

みこと「……っっ」

秋槻「あー……せっかくだから、一緒に食事を楽しめたら助かるな」

みこと「…………」

秋槻「嫌じゃなければ」

みこと「……嫌じゃ、ないよ」

秋槻「良かった。……それじゃ」

スタスタ...

みこと「?」

秋槻「どうぞ」スッ

みこと「……うん、ありがとう」ストッ

秋槻「レディーファーストの基本だからね。って、言うことじゃないんだけど」

みこと「……」

秋槻「さて……何も聞いていないんだけど……どうなるんだろう、これは」

みこと「……分からない」


綾乃「いらっしゃいませ」


秋槻「説明を聞いてもいいかな」

綾乃「今日はフランス料理のフルコースとなっております」

秋槻「……そうなんだ」

綾乃「?」

秋槻「いや、なんでもない」



286以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:38:24.10dVGs9va+o (20/28)


綾乃「食前酒はどうされますか?」

秋槻「オレンジジュースでお願いします。それでいい?」

みこと「う、うん」

綾乃「かしこまりました」

スタスタスタ...


秋槻「特にこれといった説明は無かったから、純粋に料理を楽しもうか」

みこと「……うん」



―― 厨房


料理長「どうだった?」

綾乃「女の子、琴ちゃんが緊張してました」

料理長「そうか……。出番だ、玉木」

マリ「はい……?」

明菜「いいんですか?」

料理長「ここは格式高い三ツ星レストランじゃないからな。教えてやってくれ」

明菜「分かりました。玉木さん、これがテーブルセッティングの内容で――」

マリ「はい……?」


……




マリ「失礼します」

みこと「キマリさん、その服……」

マリ「貸してくれた。ちょっと待って、話しかけないで……忘れちゃうっ」

みこと「う、うん……」

秋槻「……」

マリ「えっと……フォークが左で……スプーンが……」

秋槻「……ナイフの次…」

マリ「あ、あぁそうだったっ」アセアセ

みこと「……」

マリ「……あれ、余っちゃったけど……これなんだっけ」

秋槻「デザート用だから、上の方に」

マリ「そうだったそうだった。こっちに置くんだよね」

秋槻「そうそう……」

みこと「詳しいの?」

秋槻「一通り勉強したよ。恥かかないようにね。……活かされたことは無いけど」

みこと「……」



287以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:39:27.46dVGs9va+o (21/28)


マリ「これでいいのかな?」

秋槻「うん、オッケーだね」

マリ「それでは料理をお楽しみください~」

スタスタスタ...

みこと「……キマリさん、楽しそうだった」

秋槻「……そうだね。……どんな料理が出るか説明なかったけど……まぁ、それも楽しみにしていようか」

みこと「うん」


―― 厨房


明菜「ちゃんとできた?」

マリ「完璧です」

綾乃「……」

明菜「それじゃ、料理が出来上がるからチーフから受け取って配膳してね」

マリ「はい!」

明菜「……チーフの考えは正しかったみたいね」ニコニコ

綾乃「ですね……」


マリ「料理長、受取に来ました!」

料理長「もうちょっとまってて、すぐ仕上げるから」

マリ「はい、待ってます!」


明菜「玉木さん、本当に完璧だった?」

綾乃「えー……と、……はい」

明菜「それは良かった。私たちもチーフのフォローに入りましょう」ニコニコ

綾乃「はい。……キマリさんなりに完璧だったということにしよう」ウンウン

料理長「これでよし、と。はい、持って行って」

マリ「料理長、このソースはオリジナルですか?」

料理長「そうだよ」

マリ「行ってきまーす!」

テッテッテ

綾乃「走らなくていいから!」



288以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:40:32.08dVGs9va+o (22/28)


―― テーブル


マリ「こちら、京野菜をふんだんに使った夏野菜サラダにございます」

みこと「ナス?」

マリ「そうです。からしのピリッとした食感をお楽しみください」

秋槻「おぉ……これは嬉しい。京都ではあまり観光出来なかったから」

マリ「ソースは料理長のオリジナルになります。絶対美味しいです」

みこと「食べたの?」

マリ「うん、途中だったけど、試食させてくれたよ」

みこと「そうなんだ」

秋槻「期待してしまうな」

マリ「それでは料理をお楽しみくださ……って、さっき言ったっけ?」

みこと「うん」

マリ「そういうことで、それでは失礼します」ペコリ

スタスタスタ...

みこと「……」

秋槻「それじゃ……いただこうか……」

みこと「……うん」

秋槻「……あれ」

みこと「……この感覚…」


みこと秋槻「「 デジャヴ? 」」


みこと「え?」

秋槻「え? なに?」

みこと「なんだか、経験したことあるような気がして……」

秋槻「あぁ、そうなんだ。実は俺も……」

みこと「……」

秋槻「せっかくの料理の前だ、変な顔してないでいただくとしようか」

みこと「うん」


……





289以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:42:08.56dVGs9va+o (23/28)


マリ「こちらオードブルになります」

秋槻「魚?」

マリ「そうです。……ハモだそうです」

みこと「これも美味しい?」

マリ「こっちは試食させてくれなかったよぉ。でも、絶対美味しいね間違いなく」

秋槻「……」

マリ「お兄さん……? どうしました?」

秋槻「うん、美味しいだろうなって思ってた」

マリ「えへへ、それはもう絶品ですからね。それでは料理をお楽しみください~」

スタスタスタ...

みこと「……キマリさん、何回言うんだろう…」

秋槻「それにしても、君も慣れてる感じがするね」

みこと「そうかな?」

秋槻「雰囲気に馴染んでるというか、落ち着いてるというか」

みこと「うん……お母さんたちと一緒に行ったことあるから」

秋槻「……ふぅん、そうなんだ」

みこと「……もぐもぐ」

秋槻「ふむ……おぉ、やっぱり美味しい」


……




マリ「洋梨のベルエレーヌになります」

秋槻「ありがとう」

マリ「どうぞ」

みこと「……ありがとう」

マリ「料理は以上になります。それでは心行くまでお楽しみください」スッ

スタスタスタ...


みこと「最後まで言った……」

秋槻「楽しんで欲しいんだろうね。でも、そのおかげで楽しめたよ」

みこと「うん」

秋槻「そういえば、京都の観光はどうだった?」

みこと「楽しかった。映画村に一人で行ったよ」

秋槻「あぁ、聞いてるよ。スタンプラリーの為に別行動したって」

みこと「後で日向さんが来てくれて、ホッとした」

秋槻「見知らぬ場所で知ってる人がいると安心するよね」

みこと「うんうん。不安でドキドキしてたけど、それも新鮮で良かったと思う」

秋槻「……へぇ…」

みこと「いつも誰かと一緒だったから、それが当たり前で……」

秋槻「――……」



290以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:43:34.72dVGs9va+o (24/28)


みこと「秋槻さん……?」

秋槻「え?」

みこと「どうかしたの?」

秋槻「あ、いや……急に懐かしいこと思い出してね……」

みこと「……なにかあったの?」

秋槻「別に、大したことじゃないんだけど」

みこと「……聞きたい」

秋槻「う、うん……。母親から聞いたことで、俺自身はあまり覚えてないんだけどさ」

みこと「うん」

秋槻「小さい頃、近所で迷子になって……。発見されたの隣町だったんだよ」

みこと「……」

秋槻「見つけた時の俺、平然としてたって」

みこと「……?」

秋槻「『お母さんから離れるとすぐ泣くくせに、心細くて泣いているだろうって、必死に探したのに、
   お前はなんにもなかった、むしろいいことがあったみたいにニコニコしてた』って言われてね」

みこと「どうして?」

秋槻「さっき、君が言ったように……小さい俺も、不安や怖さより好奇心の方が強かったのかもね」

みこと「……」

秋槻「親の気持ちも知らずに、見知らぬ場所でドキドキして楽しんでたのかな」

みこと「きっと、旅に出たかったんだよ」

秋槻「物心つかない子供が?」

みこと「うん」

秋槻「ははっ、それだと結構な大物だったよね、小さい頃の俺って」

みこと「うん……!」

秋槻「……やけに自信あり気に言うね」

みこと「私がそうだったから」

秋槻「……」

みこと「ずっと……してみたかったから。
    本の世界と同じように、現実の世界でも知らないことを知りたかった」

秋槻「そっか……なるほど」

みこと「うん……もぐもぐ。……おいしい」

秋槻「やっぱり正解だったかもな……」

みこと「……?」モグモグ

秋槻「なんでもない」


……





291以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:44:33.18dVGs9va+o (25/28)


―― 物陰


「どう?」

「割といい雰囲気……」


マリ「なにしてるの?」



「「 うわぁ! 」」


マリ「?」


日向「べ、別に二人が気になったわけじゃないんだよ。な、なぁ、報瀬?」

報瀬「そ、そうそう。別にね、二人がどういう空気になってるのかなとか、ね」


結月「気持ちはわかりますけど、見つかったらあの二人がギクシャクしてしまいますから、
   注意してくださいね」

マリ「結月ちゃん……その格好ってことはお仕事?」

結月「そうです。これから食堂車をレポートしようと思って」


さくら「あら、あの二人……」


日向「あ、さくらちゃんも居たんだ……」

報瀬「しゅっ、修羅場……!?」ゴクリ

マリ「なんで修羅場?」


さくら「ふふっ、やっぱりいいライバルになれそうね……」キラン


結月「キマリさん、ウェイトレスの格好、似合ってますね」

マリ「そう!? ありがとう! 誰も何も言ってくれないからショックだったんだよ!」


ディレクター「それじゃ、白石さん始めましょう」

結月「はいっ!」




292以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:46:15.68dVGs9va+o (26/28)


―― テーブル席


みこと「……なにしてるのかな?」

秋槻「なんだか賑やかだね……って、カメラが来たけど」

みこと「結月さんの……レポート……?」


カメラ「……」ジー

結月「それでは、今回は食堂車を紹介したいと思います!」


日向「ゆづ……あの二人をネタにしようと……?」

報瀬「そこまで計算していたなんて……」

マリ「なるほど、そういう意図が……!」


結月「ありません」


ディレクター「……」


結月「あ……すいません。もう一度お願いします」


ディレクター「どう思います、家石さん」

さくら「そうですねぇ……そのまま続けてもいいかと☆」

ディレクター「……ですね。そのまま続けて」


結月「えっ、あ、はい!」


日向「私ら、邪魔になってるな」

報瀬「うん……。展望車にでも行こう」

マリ「そうだね」

日向「おまえは、あっちだろ」


明菜「玉木さ~ん、食材たちを放置するんですか~?」ニコニコ


マリ「よぉーし、頑張るぞぉー! 頑張りまーす! 頑張らせてくださーい!」

明菜「お静かに」ニコニコ

マリ「はい」

スタスタスタ...


綾乃「クスクス」


日向「うーん……ちょっと楽しそう……?」

報瀬「……かもね」

スタスタ...


さくら「あ、ちょっと待って二人とも」


日向報瀬「「 ? 」」


さくら「邪魔にはなっていないから、そこで観ていてくれない?」


日向「え……」

報瀬「あ……はい」



293以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:48:18.26dVGs9va+o (27/28)


結月「お客さんがいますね、それではインタビューしてみましょう!」


秋槻「う……やっぱり来た……」

みこと「……」

結月「こんにちは。お二人はディナーの後のようですが、いかがでしたか、食堂車の料理は?」

秋槻「とても満足出来ました。三ツ星以上の評価ですね」

結月「高評価ですね。私もここで食事をしていますが、とても美味しくてその評価も納得できます」

みこと「……」

結月「それでは、二人はどういう関係ですか?」

みこと「え……!?」


日向「お、ズバッと聞いたぞ」

報瀬「どういうって……どう答えるんだろう?」

日向「楽しみだな」ワクワク


秋槻「旅仲間ですよ。始発から一緒に旅をしてきました」

みこと「……」コクリ

結月「お二人は元々知り合いだったのですか?」

秋槻「いえいえ、お互い知らない者同士で」

みこと「……」コクリ

結月「列車の旅を通して、二人でディナーを楽しむ仲にまで進展したんですね!」

秋槻「いや……それはどうだろう……ね?」

みこと「……」

結月「次は名古屋、この旅の中間地点ですが、
   お二人は通ってきた都市で印象に残った場所はありますか?」

秋槻「うーん……そうですね……」

みこと「広島……」

結月「なにか思い出があるのですか?」

みこと「駅について……コンビニで……カップラーメンを食べて……」


日向「あー、それを言うのか」

報瀬「え、なんで? なんでコンビニでカップ麺?」

日向「いや……美味しいかなと思って。……他にあるだろ、みことっ」


ディレクター「うーん、男の人はともかく、女の子がちょっと萎縮しちゃってるなー」

さくら「それはそれで味があっていいのでは?」

ディレクター「せっかくだから編集無しで使いたいんですよね」


日向「お蔵入りさせるのはもったいないな……よし、報瀬」

報瀬「嫌だ絶対に無理。なにがなんでもやらない。あり得ない」

日向「まだなにも言ってないのにそこまで拒絶するなよ!」

報瀬「じゃあなに?」



294以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/22(金) 17:52:00.91dVGs9va+o (28/28)


日向「……緊張が解れるようなことをアドバイスするか……報瀬が代わりに――」

報瀬「こういうときのキマリじゃない?」

日向「……だな。後者は聞くまでもなく拒否されたか」


結月「えっと……他には思い出に残った場所はありますか?」

みこと「……っ」

結月「それでは、これから停車する都市で行きたい場所は……?」

みこと「それは……金沢……の」

秋槻「君のお母さんの作品に――」

みこと結月「「 ? 」」

秋槻「旅先で出会ったばかりの人たちが食事を通して打ち解ける場面があったよね」

みこと「うん」

結月「……?」

秋槻「俺はあの場面が気に入ってて。実体験したらもっと気に入ってしまったよ」

結月「実体験ですか?」

秋槻「俺が印象に残った場所は福岡の中州で、この列車の旅仲間と共にその体験をしました。
   もちろん、彼女もその中の一人です」

みこと「――……」

結月「そうだったんですか。それでは、あなたも広島でそんな体験をしたんですね」

みこと「そう……です。とても不思議な……本の中に居るような体験」

結月「本の中……?」

みこと「きっと、この列車に乗らなかったら……私は一生、経験できなかったと思います」

秋槻「……!」

結月「……!」


さくら「あら……」

ディレクター「急に雰囲気が変わったね……」


みこと「思い返してみたら、広島だけじゃなくて……ここまでの全ての時間がそうです」

秋槻「……」

みこと「結月さんにインタビューされている今も、後で思い返すと不思議な――本の中にいるような、
    そんな不思議で素敵なかけがえのない時間になっていると思います」

結月「みこと……」


マリ「ちゃんと答えられてるよ?」

報瀬「う、うん……」

日向「だな」

マリ「じゃ、仕事に戻るね。あぁ、忙しい忙しい」

スタスタ

報瀬「インタビューに慣れたってこと?」

日向「いや、知らないけど……そうなんじゃないか?」


さくら「そういうのとは、ちょっと違うわねぇ」


……





295以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 15:44:53.67KOzKQsUKo (1/25)


―― 草津


プシュー


日向「うわ……蒸し蒸ししてるな……」

報瀬「本当だ……暑い……」

日向「車内と外の温度差で体調が崩れそうだな……」

報瀬「気を付けないとね……。ほんと、暑い……」

日向「次で名古屋だから……。その次は金沢で……、高崎……」

報瀬「そこで降りるから……明々後日には地元に着く……」

日向「……ふむ」

報瀬「まだまだ先だと思ってたのに……」

日向「あっという間だったなぁ……」


栞奈「うわ、暑……!」

一輝「こんなに気温上がってたのか」


日向「私たちくらいだな、降りてくるの……」

報瀬「特に意味もなく降りたの私たちだけ……」

栞奈「他にやることないからねー」

一輝「暇人だな……。人のこと言えんけど」

報瀬「展望車にでも行ってくる」

日向「私もそうするかな」

栞奈「あ、じゃあ私も~。一輝は外で一人、耐久試合してるんでしょ? 頑張ってね」

一輝「誰がするか。……そろそろ時間だから俺も行く」

栞奈「何の時間よ?」

一輝「テレビ見たいんだよ」


……





296以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 15:47:14.94KOzKQsUKo (2/25)


―― 展望車


栞奈「え、食堂車でキマリが働いてて……」

一輝「あの二人がディナーねぇ……」

日向「うむ。美味しそうだったぞ」

栞奈「なんで、そんな面白いこと呼んでくれなかったのー!?」

日向「茶々入れるからだよ」

報瀬「おかげでいいシーンが撮れたってディレクターさんが言ってた」

栞奈「『おかげで』って酷い言い方するじゃないか」

一輝「それで、その二人は?」

日向「秋槻さんは仕事に戻って、みことは着替えに」

一輝「……そうか」

栞奈「あー? ひょっとしてみことちゃんのおめかし姿見たかったんじゃないのー?」

一輝「別に」

栞奈「まーた、クールぶっちゃって~」

一輝「うるさいな、お前は」

日向「なー、報瀬」

報瀬「なに?」

日向「そろそろ、やっとくか?」

報瀬「……なにを?」

日向「勉強会」

報瀬「あー……、うん。やるなら、明日の朝、ここで、かな?」

日向「そだな」

栞奈「え、勉強するの? 旅の途中で?」

日向「そりゃ……私ら受験生だし」

報瀬「私は、どうするか分からないけど……一応」

一輝「進学しないってことですか?」

報瀬「他にやりたいことがあって……。でも、おばあちゃんは大学行けって」

栞奈「そんなの止めてさ、どうせするなら次の観光地の勉強しましょうぜ」

日向「変な誘惑するな。キマリの為でもあるんだからな」

栞奈「ほら~、名古屋城にひつまぶし、シャチホコの遊覧船が私たちを待ってるんだよ~」

日向「しゃ、シャチホコの遊覧船……!?」

報瀬「日向、喰いつかないで」

一輝「進学……か」

栞奈「ちょっと、なに真面目ムード出してるの! 楽しい旅の途中でさ!」

日向「そういうお前も真面目に勉強するべきじゃないのか!」

栞奈「私はいいの、やるべきことやってるから」

日向「…………」

栞奈「あ、疑ってるね」



297以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 15:50:07.69KOzKQsUKo (3/25)


報瀬「栞奈は進路どうするの?」

栞奈「だーからー! 現実なんてどうでもいいじゃないのー!
   もっとこう、ワクワクするような話しようじゃないか、諸君!」

一輝「それでいいのか?」

栞奈「いいよ、それで」

一輝「……栞奈がそれでいいなら、いいけどさ」

栞奈「いいって、言ってるでしょ」


一輝「……」

栞奈「……」


日向「……ん? なんだこの空気?」

報瀬「……さぁ?」

一輝「テレビ点けるけど、うるさかったら言ってくれ」

ピッ

日向「何を見るんだ?」

一輝「甲子園」

日向「ふーん……。野球ね……」

報瀬「好きなの?」

一輝「一応、野球部員なんです」

日向報瀬「「 えっ!? 」」

栞奈「私と同じリアクションだ」

一輝「ほとんど部に出てないから、補欠にもなれないんですけど」


『今年も夏がやってきた。世界で一番あつい夏が――。』


日向「それでも、わざわざこうやって見るくらいには好きなんだな」

一輝「まぁ、うん……」

報瀬「意外……」

栞奈「妹の面倒を見なきゃいけないから、早く帰らなきゃいけないんだよね」

日向「へぇ……」

報瀬「妹想いなんだ……」

一輝「チッ……いちいち言うなよ」

栞奈「舌打ちすることないでしょ。一輝の好感度を上げようとしただけなんだから」

一輝「余計なお世話だっての」


『この場所で、一度きりの夏を――。』


報瀬「そういえば、いつも思ってたんだけど」

一輝「?」



298以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 15:51:39.03KOzKQsUKo (4/25)


報瀬「女子って甲子園に出られないの?」

栞奈「だって……それは、ねぇ?」

日向「……なぁ?」

一輝「フフッ」

日向「あ、鼻で笑った」

報瀬「……」

一輝「あ、いや……ちがうんです……! 
   先輩と同じこと言ったからつい……!」

栞奈「なに怯えてるの?」

一輝「べ、別に……怯えてはいない……だろ」

日向「気になってたんだけどさ、どうして報瀬には丁寧語なんだよ?」

一輝「ぅ……」

栞奈「さ、白状したまえ」

一輝「部に……小淵沢さんと……似た人が居て……」

報瀬「私と?」

日向「女っぽい男?」

一輝「なんでだよ。マネージャーだ。厳しくて、口うるさくて、……怖いんだよ」

栞奈「ほぉ、一輝が恐れるほどに……」

一輝「というか、部員全員にな。先生とかもあまり強く言えないみたいでさ」

報瀬「……それで?」

一輝「いや……それで、と言われても。だから、です……としか」

日向「トラウマが蘇るんだって」

報瀬「ふぅん……」

一輝「……」

栞奈「ほら、圧力かけない」

報瀬「かけてない」

日向「報瀬の前では借りてきた猫みたいだにゃ~」

栞奈「だにゃ~」

一輝「……調子に乗りやがって」チッ


……





299以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 15:55:56.90KOzKQsUKo (5/25)



『明日から熱戦が始まります』


『球児たちの様々なドラマが生まれるでしょう』


一輝「……」

栞奈「ドラマ……ねぇ」

一輝「ん? あれ? あの二人は?」

栞奈「日向はキマリのとこ。報瀬は親に連絡するって、個室に戻ったよ」

一輝「そうか」

栞奈「今、美人アナウンサーが言ってたドラマってさ、なんだろうね」

一輝「……マウンドに立つ選手たちが、抱えてるのも……じゃないか。悩みとか壁とか」

栞奈「それを乗り越えて優勝したら栄光を浴びる。そういうのがドラマ?」

一輝「なにが言いたい?」

栞奈「その栄光を赤の他人が見て、感動できるの?」

一輝「よくやったな、おめでとう。とは思うだろ」

栞奈「それは努力が実った瞬間に立ち会って、賞賛してるんだよね」

一輝「……」

栞奈「創作物のドラマと違ってさ、
   実在する私の知らない人がどんな感動的な行動をしても、私の心が動くことはないんだよね」

一輝「……」

栞奈「私はその人の生い立ちを知らないから」

一輝「……穿った見方してるな」

栞奈「そうかな……。……やっぱり、変?」

一輝「いや、それは分かるよ。俺たちにもそういう人がいるから」

栞奈「ほう……聞かせてくれたまえ」

一輝「なんで偉そうなんだよ……。知識とか情熱……とか、誰よりも持ってるのに、
   体格が恵まれなくて万年補欠の先輩がいてさ」

栞奈「ふむふむ」

一輝「それでも、好きな野球からは離れなくて……。そんな人が最後の試合に出場したんだよ」

栞奈「へぇ……」

一輝「監督も他の選手もその人の努力を知ってたから、記念に……ってな」

栞奈「……」

一輝「正直、俺はイラついた。だけど、俺には何も言う資格はないから黙ってるしかなかった」

栞奈「どこにイラついたの?」

一輝「だって、記念だぜ? 勝負の世界に、記念に参加するってなんだよってさ」

栞奈「あぁ……うん、なるほど」

一輝「マネージャーも不満顔だったから、何か言うんだと思ってたけど、黙ってた」

栞奈「……どうして」

一輝「理由が気に入らないだけで、その人が居れば勝てる、と思ったんだろう」

栞奈「結果は?」

一輝「負けた」

栞奈「……」



300以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 16:00:09.36KOzKQsUKo (6/25)


一輝「でも、俺が見てきた野球の中で一番熱い試合だったよ」

栞奈「……!」

一輝「球場の誰もが試合の結末を知ってたんだ。二人を除いてさ」

栞奈「その人と……誰?」

一輝「……俺。……って言いたいけど、違う。マネージャーだった」

栞奈「一輝も負けるって思ってた?」

一輝「相手は甲子園に何度も出場してて、去年全国準優勝して、
   その時のメンバーほとんど残ってるからさ……」

栞奈「少年漫画にありがちな展開……!」

一輝「本当だよ。試合の中盤まで7点差で負けて、あとは淡々と時間が流れるのを待つだけ」

栞奈「それで……そのあとは?」

一輝「相手のピッチャーが交代して、流れが変わった」

栞奈「ふむ」

一輝「その時、その人が呟いたそうなんだ。『チャンスだ』って」

栞奈「一輝はどこに居たの?」

一輝「応援席だよ。ベンチに居なかったから、後で聞いた」

栞奈「そう呟いたってことは諦めてなかったんだね……!」

一輝「マネージャーもな。そこから相手を崩して九回まで5点も取った。
   守備も固めて1点も取らせなかった」

栞奈「それで、最後は?」

一輝「ツーアウト満塁、打席にはキャプテンが立つ」

栞奈「打った?」

一輝「……ショートゴロ。勢いが嘘だったみたいにあっけなく終わったよ」

栞奈「……」

一輝「片づけを手伝ったけど、誰も喋らなかった。黙々と作業してて……」

栞奈「……」

一輝「球場から出て、
   バスに乗り込む前にキャプテンがみんなの前で『ごめん』って笑いながら言った」

栞奈「……」

一輝「それを聞いたみんなは、茶化すようにしてたんだけど……マネージャーが泣いたんだよな」

栞奈「……」

一輝「『なんでお前が先に泣くんだよ』ってツッコミが入ったんだけど……
    『もっと何かできたはずなのに』って」

栞奈「……」

一輝「みんな我慢してた。だけど、
    万年補欠の先輩がグローブ見つめながら『ありがとう、楽しかった』って言ったら……」

栞奈「……」

一輝「それを聞いたら、みんな堪えきれず泣いた」

栞奈「一輝も?」

一輝「……泣きそうになった。その人は家業継ぐから、もう野球は出来ないらしくて」

栞奈「……」



301以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 16:02:35.25KOzKQsUKo (7/25)


一輝「仲間だけじゃなく、野球そのものにも礼を言ったんだ」

栞奈「部員はみんな知ってたんだ……?」

一輝「うん。だからこそ、諦めることを止めた。なんとしてでも勝ちたかった……勝って欲しかった」

栞奈「……」

一輝「その感動は、赤の他人には共有できないだろうな」

栞奈「そういう話だったね。……私思うんだけど」

一輝「なに?」

栞奈「その人と、マネージャーって、相思相愛?」

一輝「かもな。二人目指すところが同じだったから」

栞奈「……なんだっけ、他に言い方があった気がするんだけど」


みこと「比翼連理?」


栞奈「そうそう、それそれ」


結月「……」


一輝「……どこから聞いてた?」


結月「創作ドラマがどうとか……」


一輝「ほぼ最初じゃねえか……」

みこと「何の話?」

栞奈「一輝がキャプテンの意思を受け継いだ話」

一輝「おまえ話聞いてなかったのかよ!」

栞奈「あはは!」

一輝「あははじゃねえよ……。他人が現実に起こった物語に感動できるかって話」

結月「そうですね……、ドラマは所詮フィクションですから」

みこと「……」

栞奈「結月ちゃんはそのドラマのプロだから、意見を聞きたいな」

一輝「こいつが不思議に思ってたことだからさ」

結月「実話を基にしたドラマもありますけど……結局はそれも人の手で作られていますからね」

栞奈「結構ストイックな考えみたいだね」

結月「私はドラマで感動するのではなく、感動させる側ですので」

栞奈「おぉっ、プロだ!」

みこと「不可能じゃないと思うけど」

一輝「可能か不可能かじゃなくて、こいつが感情移入できるかどうかだな」

栞奈「まぁ、そーなんだよね。
   結局、私個人が物語に沿って登場人物たちと気持ちを同じにできるかどうかだよね」

結月「……言い方悪いですけど、栞奈さんってどこか冷めてますよね」

一輝「いつも飄々としてるくせにな」

栞奈「うーん、そうなのかな?」

みこと「……」



302以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 16:03:51.75KOzKQsUKo (8/25)


結月「人それぞれなんじゃないですか?」

一輝「そうだな。別にそれが悪いってわけでもないし」

栞奈「そうだね。うん、まぁいいや」

みこと「……」

結月「そうだ、みことに教えて欲しいことがあって」

みこと「?」

結月「さっき食堂車で言ってた本って――」

栞奈「……」

一輝「もう日が暮れたな……。時間の流れが早くてビックリだ」

栞奈「ね、一輝」

一輝「ん?」

栞奈「二人っていい子だよね」

一輝「なんだよ、いきなり?」


結月「そうなんだ、その本はまだ読んでなかったから……」メモメモ

みこと「その本の続きが、ネットで公開されてるよ」

結月「続き……? 別の本じゃなくて?」

みこと「うん。それぞれ進んだ道の続きになってる。
    お母さんが匿名で公開してるけど、誰も気づいていないみたい」


栞奈「いつも真剣に話を聞いてくれて、考えてくれるでしょ」

一輝「真剣だったかどうかは疑問だけどな……」



303以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 16:04:40.01KOzKQsUKo (9/25)


栞奈「ね、ね。どっちが好み?」

一輝「……は?」

栞奈「同い年で美人。未来の大女優、白石結月ちゃん」

一輝「……」

栞奈「妹属性で放っておけないタイプ、みことちゃん」

一輝「……ハァ」

栞奈「ね、どっち?」

一輝「別に……」

栞奈「もぉ、こんな時にまでクールぶるのやめたらいいのに」

一輝「うるさいな……」

栞奈「私が応援しちゃうよ。さ、さ言っちゃいなよ、もうそんなに時間も無いんだし」

一輝「…………」

栞奈「ほら、チャンスを棒に振るのかい?」

一輝「うるせえッ!!」


結月「っ!?」ビクッ

みこと「ッ!?」ビクッ


栞奈「な、なによ……そんな大声出さなくてもいいでしょ」

一輝「……チッ」

スタスタスタ

 プシュー


栞奈「なによ、アイツ……」

結月「何かあったんですか?」

みこと「なにがあったの?」

栞奈「さぁ、知らない。いきなり怒ったんだもん」


……





304以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 16:06:17.33KOzKQsUKo (10/25)


―― 3号車


日向「うーん……明日からでも練習始めないとな~。でもな~」

「あら、こんばんは」

日向「あ、おばあちゃん。こんばんは~」

「今は一人なの?」

日向「各自自由時間! なので!」

「まぁ、そうなの」

報瀬「ねぇ、日向」

日向「おぅ、報瀬~。おばあちゃんに連絡は済んだのか~?」

報瀬「うん。あ、こんばんはおばあちゃん」

「はい、こんばんは」

日向「なにか言いかけてた、報瀬?」

報瀬「別に用は無いんだけど、誰と話してるのかなって」

「座ってるから気付かなかったのね」

日向「おじいちゃんは一緒じゃないの?」

「個室で片づけをしているわ。私たち次で降りるから」

報瀬「あ……そうだ。もう、名古屋……」

「今は流れる風景をぼんやりと見ていたの」

日向「なにか見える?」

報瀬「もう見えないんじゃない……?」

「まだ残照で見えるのよ。ほら、向こうにお山が」

日向「あー……うん」

報瀬「……」

「名も知らない山が通り過ぎていく……それがちょっと寂しくてね」

日向「……」

報瀬「……」


一輝「通してくれ」


日向「え、あぁうん……」スッ


一輝「……」

スタスタ

 
報瀬「……?」

日向「様子が変だな……なにかあったのか……?」



305以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 16:07:08.61KOzKQsUKo (11/25)



「この道を選んでよかった」


報瀬「え?」

日向「道……?」


「道の途中で見た、小さな風景が浮かんで来てね」


報瀬「……選んだってことは…」

日向「他にも道があったってこと……?」


「うふふ、そういうこと。ごめんなさいね、突然こんなこと言って」


報瀬「……」

日向「よかったら、聞きたいな」


「こんな年寄りの話なんてつまらないと思うけど……?」


報瀬「私も、聞きたい」


「それじゃ、付き合ってもらおうかしら。旅の終わりの、残り少ない時間に」


日向「それなら、飲み物買ってくる。おばあちゃんはお茶でいい?」


「あら、若い人に買ってこさせるのも気が引けるわ。私が行くから座ってて」


日向「いいからいいから~」


「それなら、一緒に行きましょう」


日向「うん! 報瀬、席取っといて~」

報瀬「うん、分かった」


ガタンゴトン

 ガタンゴトン


……





306以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 16:09:35.07KOzKQsUKo (12/25)


―― 名古屋駅


プシュー


マリ「よっ」ピョン


シュタッ


マリ「名古屋、とうちゃーく!」


日向「キマリ~、食堂車の仕事は終わったのか~?」


マリ「まだ!」ドン


報瀬「胸を張って言うことじゃないでしょ」

マリ「見送りに行きたいって言ったら、行っていいって~」

日向「いい職場だなー」

報瀬「あ、結月とみことが……娯楽車の扉から出てきた」

マリ「栞奈ちゃんも一緒だね……。ん?」

日向「栞奈の様子が変じゃないか?」

報瀬「そう?」

マリ「うん、思った」


結月「キマリさん達、これからどこか行く予定ですか?」

マリ「私は食堂車の仕事があるから行けないんだよ」

みこと「まだ仕事があるの?」

マリ「今日は最後までやろうと思ってて」

栞奈「私も手伝ってあげようかな~? 給料は時期によって価格が変わるけど~」

日向「寿司屋か!」

報瀬「いつもと同じに見えるけど」

マリ「う~ん?」

栞奈「なんでもできる栞奈ちゃんにお任せ。
    掃除、洗濯、お昼寝なんでもやるよ。料理はちょっとダメだけど」

日向「肝心なとこがダメならいらないだろー」

マリ「ボケにキレがないね。日向ちゃんのツッコミにもノリが足りてないし」

報瀬「そういうものなの?」

みこと「うん」

結月「みこと、分からないけど、一応頷いておこうっていうのはよくないから……」


「よいしょ……っ。ほら、手」

「はい……ありがとう、あなた」


日向「あ、降りてきた」


「うん? なんだ、こんなところで集まってからに……」

「?」



307以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 16:12:07.57KOzKQsUKo (13/25)


報瀬「お二人がここで降りるということで、お見送りに」


「……」

「まぁ、ありがとう」


マリ「駅の外まで行くのなら荷物持ちます!」


「ふん、余計なお世話だ」

「もう、あなたったら……親切で言ってくれてるのに」


マリ「あはは……」


「まったく、おまえさんときたら……。なんで最後、乗っておったのか……」


マリ「?」


「この人ったら、マリちゃんが発車ギリギリで乗れるかどうかの賭けをしてたのよ」


マリ「え?」

報瀬「ということは、負け?」


「発車ギリギリというのが勝負所なんだから、乗っていたのなら勝負にならんだろ」


マリ「ええぇぇぇ……」

日向「賭けの対象にされてたか……ま、気にするな」ポンポン


「父さん、母さん」


みこと「?」

結月「家族の方……?」

栞奈「……みたいだね」


「……来ていたか」

「わざわざ迎えに来てくれたのね」

「長旅だったから疲れただろうと思ってさ……けど、元気そうで良かったよ」


報瀬「……」


「この子たちは?」

「列車で出会ったのよ。とてもよくしてくれたいい子たちなの」

「そうか……。両親の相手をしてくれてありがとう」


報瀬「い、いえいえ……そんな、礼を言われることじゃ……」

日向「こっちも話を聞かせてくれたりと、とても楽しかったので」


「うふふ、ありがとう」

「ほれ、さっさと帰るぞ」

「……はいはい。それじゃ、俺たちはこれで」



308以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 16:13:14.28KOzKQsUKo (14/25)


マリ「あ、はい。それでは~」

報瀬「お元気で」

日向「さようなら~」

結月「……」ペコリ

みこと「……」

栞奈「……」


「老い先短い私たちの相手をしてくれて、本当にありがとう」


報瀬「……まだまだ、ですよ」


「そうだよ、そんな老け込むようなこと言わないでよ。そのために列車に乗せたのに……
 孫の結婚式まで元気でいてもらわないと」

「そうだったわね。……列車の中で色々と考えてしまって」


報瀬「また、――どこかで会いましょう」


「……えぇ。その時を楽しみにしているわ」

「あまり、危ないことはするなよ。焦って怪我をしたら元も子もないんだからな」


マリ「え、私? は、はい!」

日向「おじいちゃんはどっちに賭けてたの? 乗れる方? 乗れない方?」


「乗れない方だ。危うく大損するところだったけどな。あっはっは!」

スタスタスタスタ...


マリ「ええぇぇぇ……」

結月「……ぷふっ」


「お母さんをお大事にね」


報瀬「――――はい」


「それじゃ、またどこかで――」


……





309以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 16:15:45.43KOzKQsUKo (15/25)


―― 食堂車


報瀬「いい親子だったね」

日向「うん……」


結月「二人ともどうしたんですか? なんだか様子が変ですけど」

報瀬「いろいろと話を聞いてたから……」

日向「人生とは、複雑で、繊細で、逞しいものだと感じたんだ」フッ

みこと「……」

結月「……そうですか」


綾乃「おまたせしました、親子丼でございます」


結月「いただきます。……なんだか、すいません、私だけ食べてしまって」

報瀬「……気にしないで。私たち先に食べ終わってるし……
   なにか食べる気にもならないから」

みこと「うん」

日向「お母さんのこと、言ってなかったのか……?」

報瀬「うん。……大事に想ってることには変わりないから」

日向「そうか」

みこと「……?」

結月「ほふっ……あ、熱い」ホフホフ

日向「時に、栞奈よ」


栞奈「……うん?」


日向「どうして一人離れてポツンと座っているのかね」


栞奈「んー……、ちょっと考え事をね……」


報瀬「様子、変じゃない?」

日向「うん、変だよな」

みこと「……」

結月「もぐもぐ」ホフホフ

日向「なにかあったのかー?」


栞奈「ううん……うん、別にー?」


報瀬「どっちなの……?」

日向「そういえば、大村も変だったよな……」

みこと「喧嘩……したみたい」


栞奈「ちょっと……みことちゃん……!」




310以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 16:23:29.61KOzKQsUKo (16/25)


日向「大村とケンカしたのか……。時間が経てば解決するんじゃ……ないか?」

報瀬「どういう状況だったの?」

みこと「突然大声出したから……分からない」


栞奈「……私だって分からないんだから」


結月「お節介かもしれないですけど、良かったら聞かせてくれませんか?」


栞奈「ごめん……先に寝るね」スッ

スタスタスタ...


結月「余計なこと……言ってしまいましたよね……私」

報瀬「言ってないと思う。ただ、今はそっとしておいたほうがいい……と思う」

日向「そうだな……。本人たちの問題かもしれないし」

みこと「本人たちの?」

日向「ケンカってそういうもんだ。周りがどうにかしようとしても、上手くいかないだろ。
    それに、表面上解決しても意味が無いからな」

みこと「……」

報瀬「それはそうと、食べないと冷めるよ?」

結月「は、はい……もぐもぐ」

日向「なにか軽く食べようかな……?」

みこと「……キマリさんが来たよ」


マリ「いかがでしたか、今日の料理は」


報瀬「また言ってる」

日向「シェフはなんでも作れると聞きましたが、本当ですか?」

マリ「もちろんです」

結月「もぐもぐ」

日向「では……、トロピカルレインボーミックスジュースをお願いします」

マリ「……」

みこと「?」

日向「やっぱりメニューに無いものは作れな――」

マリ「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

スタスタ...

結月「ごくん。……あんな無茶ぶりして大丈夫なんですか?」

日向「知らん。その無茶ぶりを料理長に投げるのはキマリだからな」

報瀬「なにか考えがあるのかもね」

みこと「……考えが…?」


「料理長! トロピカルレインボースペシャルミックスジュース入ります!」


「なんだそれは!?」


……





311以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 16:25:49.78KOzKQsUKo (17/25)


―― 深夜:食堂車


車掌「こっちの点検は終わりました」

料理長「あぁ、こっちも終わったよ」

車掌「施錠チェック完了です」

料理長「本日もお仕事ご苦労様」

車掌「はい、お疲れさまでした」

料理長「……ん?」

車掌「どうしました?」

料理長「外に誰かいる」

車掌「え?」


秋槻「こんばんは」


車掌「あら? どうかされましたか?」

秋槻「用事ってほどじゃないんですけど、外から明かりが点いてたのを見たもので……」

料理長「こんな時間にウロウロされては困りますよ」

秋槻「仕事の途中だったので、気分転換にホームに降りてみたんです。
   そしたら、異世界に居るみたいでワクワクしてしまって」

車掌「ふふ、そうでしたか」

料理長「常に誰かがいる空間だからそう思わせるのかもしれませんね」

秋槻「こんな空気、滅多に味わえませんから……。っと、仕事の邪魔をしてすいません」

車掌「今日はもう終わりです。あとは、寝るだけですね」

料理長「水でも飲みますか?」

秋槻「助かります。喉潤したいと思ってたので」

車掌「では、私もお願いします」

料理長「はいよー。まぁ、そこに人を酔わせる成分が入っていてもしょうがないしょうがない」

車掌「私は無理ですからね」

料理長「ふふ、分かってるよ」

スタスタスタ...

秋槻「付き合いは長いんですか?」

車掌「料理長とですか?」

秋槻「はい……なんだか気心知れた仲に見えて」

車掌「付き合いは、この列車が発車すると決まった頃からになります」

秋槻「ということは……?」

車掌「そんなに深い付き合い、というわけでもないんですよ」

秋槻「そうなんですか……。けど、そうは見えないですね」

車掌「確かに、それ以上の縁がありますから」

秋槻「ヴェガですか?」

車掌「よくご存じですね。そうです、私と料理長……菜々子さんはヴェガに乗車していましたから」


「その話、詳しく聞きたい!」


車掌秋槻「「 っ!? 」」ビクッ



312以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 16:28:22.84KOzKQsUKo (18/25)


マリ「聞かせてください! 20年前に走った列車に乗車してたって話!」

みこと「……私も」


秋槻「ど、どうしたの二人とも……」


マリ「なんだか寝付けなくて、外の空気を吸いに出ました」

みこと「私も同じ……」


車掌「そうでしたか……」


料理長「なんだか賑やかだと思ったら、二人も来たんだね」

マリ「あれ、料理長……なんだか雰囲気が違う?」

料理長「別に、私は普通だけど?」

マリ「うーん?」

秋槻「なんとなくですけど、俺もそれ感じました。女性の柔らかさというか優しさというか」

マリ「そう、それ!」

料理長「そうかな? だとしたら――」

車掌「ヴェガの料理長をイメージしているとか?」

料理長「……かもね」

みこと「イメージ?」

車掌「当時の私たち、お客にも厳しいこと言ってたんですよ。
    でも、料理を美味しそうに食べていたら心から嬉しそうにしてて」

料理長「懐かしいね……。無意識だったけど、そうなのかもしれないな……」

マリ「……」

料理長「冷蔵庫にさっきのジュースがまだ入ってるよ、持ってきな」

マリ「え、いいんですか!? って、でもそれ料理長の分では……」

料理長「いいよ、一人分だから足りなかったら別の出してもいい。私の奢りだ」

マリ「やった♪ みこっちゃん、半分こしようね」

テッテッテ

みこと「……さっきのジュース?」

料理長「そう、3人で作ってたジュース」

秋槻「作ってた……とは?」

料理長「メニューに無いジュースを注文されて、それを受け入れてさ、呆れてたんだけど……、
     じゃあ作ってみようって話になって」

車掌「まぁ……」クスクス

みこと「ウェイトレスの3人?」

料理長「そうだよ。それを余ったフルーツでね。
     味見してないから私はどんな味かは知らないけど……」

みこと「日向さんが変な顔してたよ」

料理長「あはは、そうか」

車掌「菜々子さん、まさか……」

料理長「そんなものにお代は貰えないって」

車掌「それならいいんですけど」

秋槻「……」


マリ「持ってきたよ~。はい、みこっちゃん」



313以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 16:28:41.34ypkHwsN70 (1/1)

はい


314以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 16:30:13.47KOzKQsUKo (19/25)


車掌「それでは、ささやかながら乾杯しましょうか」

マリ「あ、ちょっとまってくださいっ」

料理長「慌てると零すから、気を付けて」

マリ「は、はい……よし」

みこと「少しでいいよ?」

マリ「まぁまぁ。はい、それでは……この旅の終わりがいいものでありますように、乾杯!」

料理長「い、いきなりだなっ」

車掌「乾杯♪」

秋槻「乾杯」

みこと「……乾杯」

チン

マリ「ごくごく……」

みこと「ごく……ごく……」

秋槻「ふぅ……日本酒ですね」

料理長「京都でいいもの貰ってね。どうせなら今飲んでしまおうと」

車掌「……」フゥ

マリ「うーん……うんん?」

みこと「甘い……酸っぱい?」

マリ「苦みもあるような……?」

みこと「……変な味?」

マリ「そだね、これ、変な味……おいしくないね」

料理長「あるもの全部使うからだよ。組み合わせを考えないと」

マリ「だって……使わないともったいないって思ったから……」

料理長「別に捨てるわけじゃないんだから、残してもよかったんだよ」

マリ「でも、あるものは使わないとって思って」

料理長「それがこの結果だ。あるものだけで美味しくするには知識と腕が必要、分かった?」

マリ「はい、すいません」

秋槻「一体どんな味なんだろうか……」

みこと「飲んでみる?」

秋槻「うん、ありがとう」

みこと「全部飲んでもいいよ」

秋槻「ごくごく……」

みこと「どう?」

秋槻「……変な味だね」

みこと「使ってるの果物だけだから、体にはいいって」

秋槻「そうだね……。風邪ひいた時とか栄養が欲しい時に飲むと良さそうだ」

マリ「誉められてないような気が……」ゴクゴク


車掌「……」

料理長「……」



315以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 16:33:17.35KOzKQsUKo (20/25)


みこと「あの……秋槻さん……今日もお願いが」

秋槻「あぁ、はい、どうぞ」

みこと「あ…ありがとう」

マリ「ん?」

料理長「電話……?」

秋槻「見たい動画があるそうです」

みこと「キマリさん達の……南極の話」

マリ「あ、まだ見ててくれてるんだ?」

みこと「うん。まだ全部見てないから」

車掌「会社のスマホは壊れてしまったと聞きましたが……?」

秋槻「まぁ、夜だからプライベートの方にはかかってこないでしょう。
   でも、もしかかってきたら持ってきてね」

みこと「うん」

マリ「今どこまで見終わったの?」

みこと「船の中。もうそろそろ南極に着くって」

マリ「そっかぁ……1年も経ってないのに、随分前に感じるなぁ。変な感じ」

秋槻「……去年の今頃ってどうしてたの?」

マリ「えっと、準備してたから……バイトして、合宿して、またバイトしてました」

料理長「さっき言ってた……目指している場所って、そこ?」

マリ「そうです。もう一度、みんなで」

秋槻「――……」

みこと「キマリさん、報瀬さんのことで聞きたいことが……」

マリ「うん?」

みこと「報瀬さん、どうして髪を切ったの?」

秋槻「…………」

マリ「それは……。うーん……うーーん……」

みこと「聞いてはいけないことだった?」

マリ「そうじゃないけど……。うん、本人に直接聞こう」

みこと「聞いてもいいこと?」

マリ「きっと答えてくれるよ。だけど、私が言っていいことじゃない……と思うから」

秋槻「……」

料理長「……」

車掌「飲んでしまったら、今日はもう寝ましょう」

マリ「え、でもまだヴェガの話が……」

車掌「夜更かしはいけません。
   早寝早起きして、観光を楽しんだ方がいいと思いますよ」

マリ「でもでも……。あ、そうだ……。明日は朝から練習があるんだった」

料理長「なんの練習?」

マリ「なわとび大会の練習です。乗客のみんなで出ます」

秋槻「……やっぱり、変な味」

みこと「……」



316以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 16:35:45.78KOzKQsUKo (21/25)


車掌「玉木マリさんは、どちらまで行かれるか決まりましたか?」

マリ「……それが、悩んでて」

車掌「最終日の前夜、その時にでもヴェガのお話ししましょう」

マリ「本当ですか?」

車掌「はい。ただの昔話ですが」

マリ「分かりました、今日はもう寝ます!」ムンッ

料理長「気合が入って余計眠れなさそうだけど、大丈夫か……?」

マリ「みこっちゃん、どうする?」

みこと「うん、私も……眠たいから」

マリ「後片付けするからもうちょっと待ってて」

料理長「いいよいいよ、私がやるから」

マリ「あ、ありがとうございます。それじゃ、お言葉に甘えて……。行こ、みこっちゃん」

みこと「うん」

車掌「車両からは戻れませんので、一度外へ出てから寝台車へお戻りください」

マリ「はーい。おやすみなさい~」

みこと「おやすみなさい」ペコリ

料理長「お休み」

秋槻「また明日ね」

車掌「おやすみなさい」

スタスタ...

「明日も頑張ろう。その為にも頑張って寝よう、みこっちゃん!」

「うん」


料理長「……若いな」

車掌「若いですね……」

秋槻「あはは……」

料理長「でも、よく電話を貸したよね。信用してるのは分かるけど、理由が知りたいね」

車掌「そうですね。プライベートに触れる可能性が高いのに」

秋槻「憧れですかね」

料理長「……憧れ?」

秋槻「俺があの子たちと同じくらいの時、同じことを思っても実行できませんでしたから」

車掌「……」

秋槻「南極ですよ、南極……。世界が違う。違いすぎる……。
   海の向こうの他所の国ではない、世界の果ての場所」

料理長「ゴク……、ふぅぅ……いい酒だな、これ」

秋槻「俺があの子たちに憧れるように、あの子もまた、あの子たちに憧れているんです」

車掌「……そうですね。身近にそんな人が居たら追いかけたくなりますね」

秋槻「だから、少しでも応援したいって思うんです。俺が出来なかったことを、あの子にも」

料理長「憧れ、ね」



317以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 16:38:37.16KOzKQsUKo (22/25)


秋槻「多分、あの子は今、沢山のことを吸収してるんだと思います。
   それはきっと、次に繋がること。自分が成りたい自分になるために」

車掌「優しいんですね」

秋槻「そんなこと……。俺は、後悔してばっかりだから……
    何もしなかったことの後悔が多かったから……」

料理長「ゴク……ゴク」

車掌「飲みすぎじゃないですか?」

料理長「これで終わりだよ。もう飲まないって」

秋槻「いい酒ですよね。買っていこうかな……。上司へのお詫びにでも」

車掌「お詫び?」

秋槻「仕事があるのに、俺はこの列車に乗り続けているので……あはは」

料理長「ふぅん……。どうして乗り続けたんですか?」

秋槻「……それは」

車掌「……」

秋槻「先が見えたんですよ」

料理長「先? なんです、それは」

秋槻「自分の未来……ですかね。
   このまま降りて、帰っても……何も変わらない先が、未来が見えたんです」

車掌「……」

秋槻「だけど、『一緒に跳びたい』って言ってくれて、
    降りずに乗り続けたらどうなるんだろうって」

料理長「ふふ、どうなるんでしょうね。仕事を放って旅を続けて」

車掌「菜々子さん、酔ってますよ」

料理長「これくらいの酒で酔わないよ」

秋槻「そうですね、どうなるかさっぱり……。でも、先が見えないからこそ、
   面白いって思えて……不思議と楽しみだったりします」

車掌「是非、楽しんでいってください、この旅を」

秋槻「はい、もちろんです」

車掌「そういえば、京都駅の駅長から連絡がありまして。例の男性のことですが」

秋槻「あの軟派の男ですか」

車掌「なんとしても恥を掻かせたかったと供述しているそうです」

秋槻「はた迷惑な……」

料理長「何の話?」

車掌「鶴見さんに悪い虫が付こうとしたのを秋槻さんが助けてくれた話です」

料理長「ふぅん……なるほどね」

秋槻「思い返すと恥ずかしいですね……ははは」

車掌「夕方のローカル番組で取り上げられたそうですよ」

秋槻「え……!?」

車掌「京都駅で逃避行が? なんて伝えられていたそうです。
    ですが、お二人の名前は出ていないようなので、ご安心を」

秋槻「はぁ……ビックリした」

料理長「一つ、言っておきたいんだけど」

秋槻「はい?」

料理長「あの子の憧れがもう一人居ること、忘れないように」

秋槻「……」



318以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 16:40:07.04KOzKQsUKo (23/25)


車掌「そうですね。歳も離れているから……、なにかと障害が多いと思いますが」

秋槻「いやぁ、それは……あの子たち――南極への憧れとは異なりますよ。
   たまたま歳の離れた異性に出逢って、興味をひかれているだけ」

車掌「恋に恋をしている……と?」

秋槻「そうです。だから、時間が経てば忘れるでしょう。『そういうこともあった』って」

料理長「誤魔化さずにちゃんと向き合ってください」

秋槻「…………」

料理長「一人の人間として」

秋槻「……はい」

料理長「それじゃ、私も片付けして、寝るわ~」

スタスタ...

車掌「おやすみなさい、菜々子さん」


「おやすみ~」


秋槻「……」

車掌「さて、私たちも個室に戻りましょうか」

秋槻「あまり、距離を近づき過ぎないほうがいいでしょうか?」

車掌「それは、秋槻さんが逃げているだけではないでしょうか」

秋槻「逃げ……?」

車掌「応援したいという気持ちを捨てることは、あの子の為にならないと思います」

秋槻「……」

車掌「菜々子さんにああいわれた手前、大人の対応を求められるのが難しいと思いますが、
   応援したいという、その気持ちは持って、あの子たちに接してあげてください」

秋槻「……――はい」


……





319以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 16:41:46.66KOzKQsUKo (24/25)


―― みことの個室


『見てください! あれが南極です!』

『ししし白いですね! まま真っ白ですね!』

『はい、報瀬さんの言う通り、白い世界が私たちを待っています!』

『しし白です! まま真っ白です!』

『何回言うんだよ!』

『日向ちゃんっ、声が入ってるっ』


みこと「……」

prrrr


みこと「?」


【 ありさ 】


みこと「あっ、電話っ」


prrrr

みこと「えっと……秋槻さんの所に……」

プツッ

みこと「急がないと……」

ガチャ

『もしもし、悟くん?』

みこと「あれ……?」

『もしもーし』

みこと「あ、あの……すいません、ちょっと待ってください」

『え? 誰?』

みこと「わ、私は……秋槻さんの……」

『え、え? 若い声だけど……あなた、悟くんとどういう関係?』

みこと「関係……? 関係は……」

『悟くんに代わってくれる?』

みこと「今……近くにいなくて……」

『……』

みこと「一緒に旅をしている仲間です……」

『一緒に旅をする仲……!?』

みこと「はい……」

『ふぅぅん……!』

みこと「……もうちょっと待ってください」

『何考えてるのよ、悟くん……!』



320以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/17(金) 16:43:07.41KOzKQsUKo (25/25)


みこと「えっと……ここ……」

コンコン

「……はい」

みこと「わ、私です……みこと」

ガチャ

秋槻「どうしたの?」

みこと「電話……」

秋槻「あぁ、ありがとう。もしもし?」

『さ と る く ん。あなた、何を考えているの?』

秋槻「? ……ありさ、だな。どうしたの?」

『どうしたのじゃないでしょ! 若い子に手を出してあなた何を――』

秋槻「は? 手を……って!」

みこと「?」

秋槻「えっと……ごめん、また明日でいいかな」

みこと「……うん」

秋槻「ごめんね。それじゃ」

『信じられない! 警察に行く前にちゃんと説明しておいて!』

秋槻「はぁ……なんでそうなるんだよ……」

バタン


みこと「…………」


……








―― マリの個室



マリ「むにゃむにゃ……」


マリ「魔女の匂いがする。目つぶしの呪文を覚えてるみたい」


マリ「すー……くかー……」


……





321以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 04:28:28.14oFn1AU3Bo (1/26)


―― 8月7日


駅員「見回り行ってきます」

「はーい」


 チュンチュン

チュンチュン


駅員「……」

スタスタ...


駅員「今日も一日が始まる……」

スタスタ...


駅員「この静けさ……。
   数分後には大勢の人が行き交う場所……ターニングポイントに変わるんだ」


駅員「いい……」


駅員「この時間がたまらなくいい……」


駅員「俺はこの時間の為に毎日頑張れる――」


シュタタタタッ


駅員「……ん?」


シュタタタタッ


駅員「何の音だ……?」


「おー、速い速い! 報瀬ちゃんの独走!」


駅員「……」


「次、日向ちゃんと結月ちゃん!」

「おっしゃ!」

「なんの勝負ですか、これ……」


駅員「……?」


「じゃ、行くぞ、ゆづ」

「は、はい。まずはゆっくりでお願いします」


駅員「ここ……俺が愛して止まない……駅のホームで間違いないよな」


「せーっの!」

「ゆっくりですからね!?」


駅員「……なわとびしてる……だと?」



322以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 04:30:16.52oFn1AU3Bo (2/26)


「おりゃー!」

パシッ

「あいたっ!」


駅員「なわとびしてるだと!?」


……




車掌「……」


マリ報瀬「「 すいませんでした 」」

日向結月みこと「「「 すいませんでした 」」」


車掌「どうして、ホームでなわとびをしていたのですか?」


マリ「え、えっとぉ……そのぉ」

報瀬「キマリがここでやろうって……」

マリ「えっ!? 私!?」

報瀬「言ったでしょ」

マリ「で、でもそれは……日向ちゃんが駅の外は人がいっぱいいるからって」

日向「言ったけど、ここでやろうとは言ってない」

マリ「そんな!?」

結月「だから言ったのに……」

マリ「私一人が悪いみたいになってるっ!?」

みこと「……」

車掌「他に言うことは?」

マリ「なわとび買ってきたの日向ちゃんです」

日向「おぉい!! どんな責任転嫁だよ!」


車掌「5人で遊んでいたのなら、みんなに責任があります」


マリ報瀬日向結月みこと「「「「「  すいません 」」」」」


……





323以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 04:32:13.87oFn1AU3Bo (3/26)


―― 展望車


マリ「うぅ……私たちは何回、車掌さんに怒られたのか……」

日向「由々しき問題だな」

報瀬「喋ってないで手を動かして」

みこと「それが高校生の宿題?」

結月「うん…」カリカリ

みこと「難しい?」

結月「私も学校に行けてないから苦労するんだよね……」

みこと「……」

マリ「分かるよ」

日向「……」

報瀬「……」

マリ「二人とも、ツッコミをくれないと!」

日向「いや、報瀬がすると思って」

報瀬「日向が……」


ウィーン


栞奈「おはよ~。って、うわ~、本当に勉強やってるぅ……」


マリ「まぁ、私は毎日学校に行ってますけどね!」

みこと「うん」

栞奈「なに当たり前のこと言ってるの?」

日向「セルフツッコミだから気にしないでくれ」

栞奈「ふぅん……」

報瀬「……?」

栞奈「ん? どうしたの?」

報瀬「ううん……。いつもならこの流れに乗るから……」

栞奈「そうかな?」

報瀬「そう思っただけだから気にしないで」

栞奈「……うん」

マリ「あれ、ここ習ったかな」

結月「えっと……、ダメだ思い出せない」

みこと「公式?」

結月「うん……。数学は公式を覚えないと……うーん」

日向「栞奈、暇ならゆづの勉強見てあげてくれない?」

栞奈「……しょうがないな、結月ちゃんの好感度アップのために頑張りましょう」

マリ「私にも私にも教えて!」

日向「キマリはまず自分で解くことからだ!」

マリ「えー、なんでー!?」

報瀬「すぐ近道しようとするでしょ」

マリ「うぐ……」



324以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 04:34:24.98oFn1AU3Bo (4/26)


みこと「うん、千里の道も一歩から」

マリ「……そだね」

結月「とりあえず、私も自分でやってみます」

栞奈「そう? 分からないことがあったら聞いてね」

結月「はい……」カリカリ

栞奈「じー」

結月「あ、今のところ間違ってますか?」

栞奈「ううん、可愛いな~と思って……ふへへ」

結月「あの、邪魔しないでもらえますか?」

栞奈「……はい、すいません」

報瀬「いつも通りじゃない?」

日向「……だな」

マリ「みこっちゃん、現代文とか強そうだよね。文系って感じ」

みこと「うん、体育が苦手……マラソン大会とか嫌い」

マリ「あぁ、分かる分かる。そんな感じだよね~、でも私たちのジョギングは付いてきてたよね」

日向「集中せんか」

マリ「はい」

結月「これで……よし。次は……」

栞奈「ちょい待ち。ここの数値が違うんだな」

結月「え? ……えっと」

栞奈「これとこれ、二つ入れ替わっちゃってるでしょ?」

結月「…………あ、そうですね」

栞奈「見直しで気付くレベルだから、大丈夫大丈夫」

日向「……」

みこと「外、ホームに人が……」

報瀬「もう出勤時間だから」

マリ「今日の出発って夜だよね?」

報瀬「うん」

マリ「朝ごはんはさっき食べたでしょ、昼と夜、どうする~?」

報瀬「せっかくだから名古屋の名物食べたい。みそかつ、手羽先、天むす、ひまつぶし」

日向「……!」ピクッ

結月「……!」

マリ「いいね! でも、うなぎのひまつぶしって高くない?」

報瀬「うん、高い」

みこと「あの……」

栞奈「みことちゃん、勉強分からないとこある~?」

みこと「う、うん」



325以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 04:36:37.64oFn1AU3Bo (5/26)


マリ「台湾ラーメンも食べたいな」

結月「またラーメンですか?」

マリ「名古屋で台湾だよ?」

結月「……そうですね。日本の中心で外国の味が食べられるのは面白いですよね」カリカリ

マリ「そうだよね!」

日向「適当にあしらわれてるぞキマリ。きしめんもあるな。うどんみたいなヤツ」

マリ「それはいいかな。どうせならラーメンがいい」

報瀬「なにそのこだわり」

栞奈「みことちゃんは多項式やってるのね」

みこと「うん……。苦手だから」

栞奈「復習ってことかぁ……。うんうん、数学は基礎が大事だからね」

みこと「お母さんがそう言ってるから」

栞奈「応用もこなしてこそ基礎が活きるんだよ」

みこと「……?」

栞奈「発想の転換で、問題が新たな展開を見せ解決につながると、偉い人は言ってるよ」

日向「つまり?」

栞奈「教科書通りにやって解くより、自分で解いた方が楽しいってことさ」

報瀬「自分で解く為には知識――基礎が必要でしょ?」

栞奈「まぁそうだけど、みことちゃんはその基礎から進んでもいいのではないか、ってことだよ」

みこと「……」

栞奈「ほれほれ、この問題やってみよう。一緒に解くから気楽にね」

みこと「……うん」

日向「……栞奈さぁ」

栞奈「ん?」

日向「進路どうするんだ?」

栞奈「……」

マリ「ね、結月ちゃん、さっき栞奈ちゃんが言ってたことって推理小説の話?」

結月「違います」カリカリ

マリ「発想の転換で事件解決って言ってたよね?」

結月「言ってません」カリカリ

報瀬「集中力が凄い……」

栞奈「進学するよ」

日向「どこの大学?」

栞奈「……まぁ、そこそこ」

日向「決まってないってことか?」

栞奈「いいでしょ、そんなこと~。それより、みことちゃんどうよ?」

みこと「……うん。出来た」

栞奈「お、いいじゃん。……うんうん、正解~。応用問題繰り返して行こう」

日向「……」



326以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 04:37:52.34oFn1AU3Bo (6/26)


マリ「うーん、うーーん」

報瀬「どうしたの?」

マリ「全然頭に入ってこない……。どえりゃ~、えびふりゃ~ってさっき聞いて頭から離れなくて」

報瀬「日向、キマリの集中力が続かないみたい」

日向「駄目だなこれは……。駅のホーム内で勉強って言うのが無理があったか」

マリ「ごめんね……私の為に開いてくれた勉強会なのに」

報瀬「別にキマリのためだけじゃないけど」

日向「しょうがない。早めに観光行って気分転換しようか」

マリ「賛成!」

結月「……」カリカリ

みこと「……」カリカリ

栞奈「この二人は集中出来ているようですが」

日向「邪魔しちゃ悪いしそのままにしておこう」

結月「なんでですか!?」

みこと「え……!」

日向「いや、冗談だよ……? そんなに驚かれると逆に驚いてしまったよ」


……




327以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 04:39:39.46oFn1AU3Bo (7/26)


―― 名古屋港



日向「お、おぉぉ……! これが……!」

マリ「初代しらせ……!」

報瀬「違う。南極観測船ふじ、だから」

結月「これも……砕氷船なんですよね……」

みこと「さいひょ……?」

結月「砕氷船。南極の氷を砕いて進む船」

日向「あの振動は最初座礁したのかと思ったよなー」

報瀬「思わないから……。早く中に入りましょ」

マリ「うん! 楽しみ~……って、栞奈ちゃんはどこ?」

日向「あり? さっきまで一緒だったよな? 水族館の方に行ったか?」

報瀬「あり得る……。ここは他にも観光するところあるから」

みこと「探してくる」

日向「待った待った。私とキマリで行ってくるから、三人で待ってなさい」

結月「お願いします」

マリ「しょうがないなぁ」


……




―― 名古屋港水族館



栞奈「…………」


「あ、居た!!」


栞奈「!」


「栞奈~! おーい!」


栞奈「キマリ~! 日向~!!」


マリ「ごめんね~、私たち向こうの方に行ってて~」

日向「ここに居て良かったよ」

栞奈「振り返ったら誰もいなかった恐怖、キミ達にはお分かりか!?」

マリ「ごめんごめん~」

日向「というか、電車の中であれだけ観測船見に行くって言ったのに聞いてなかったんだな」

栞奈「うん、聞いてなかった」


……





328以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 04:41:03.25oFn1AU3Bo (8/26)


―― 名古屋港


栞奈「まさか船に興味があるなんて思わなくてさ~」

日向「私らが生まれる前に引退した船なんだよ。
    東京にも博物館があるけど、こっちも見ておきたくてな」

栞奈「へぇ~」

マリ「あれ、結月ちゃんが握手求められてるね」

栞奈「有名人だからね~」

日向「……待て、報瀬も握手求められてないか?」

マリ「本当だ……。なぜ……?」

栞奈「あの見た目だから、芸能人と間違えられたかな」

日向「そんなわけないだろ。報瀬は残念美人ではあるけど、芸があるわけないからな!」


「あ、あの二人は……!」


栞奈「こっち見てない……?」

日向「そうだな。なんだろ?」

マリ「スタッフさんが走って来るよ……?」


スタッフ「あ、あの……! 玉木マリさんと三宅日向さんですね……!?」


マリ日向「「 は、はい。そうです…… 」」

スタッフ「ぼ、ボク……あなた達のファンでして……!!」


マリ日向「「 えっ!? 」」


……





329以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 04:43:59.81oFn1AU3Bo (9/26)


―― 船内


日向「おぉっ、見ろみこと! あれが雪上車だ!」

みこと「雪の上を走る……車?」

日向「そうだ。名前のまま機能を現している!」

報瀬「日向、うるさい」

マリ「ファンがいてくれて嬉しいんだよ」

結月「私たちのあの動画を見てくれてる人がいるとは思いませんでしたね」

栞奈「この界隈では有名人なんだね……君たち」

マリ「実感はないんだけど……。サインの練習した方がいいかな」

結月「いいと思いますよ。人形がリアルで面白いですね」

報瀬「娯楽を楽しんでる姿もあっていいね」

マリ「あれ、さらっと流された……?」

栞奈「本当によかった? あの人形が不気味に感じて結構怖かったんだけど……?」

結月「……」

報瀬「……」

栞奈「ノーコメントなのね、分かった」

みこと「中は寒くないの?」

日向「私らが使ったのは暖房があったけど……。まぁ、無いと生きていけないからな」

報瀬「車内が暖められる工夫は絶対にある。当時と現代が同じなのかは分からないけど」

マリ「でも、あの形でよく観測できたよね」

日向「そうだな。研究が進んでより効率的になってるんだろう。これからも進化していくんじゃないかな」

栞奈「…………」

みこと「……どれくらいの時間、中に居るの?」

報瀬「目的地に着くまで。そして、基地に帰るまで」

日向「楽しかったなぁ……」

マリ「うん!」

栞奈「……」

結月「5日間身動きできなかった時はどうなることかと思いましたね」

日向「立ち往生してなぁ……」シミジミ

みこと「5日間も? どうして?」

マリ「ブリザードでね、先が全く見えないんだよ。白い暗闇だね」

報瀬「ホワイトアウトね。なにその、青いレッドカードみたいな」

日向「お前たち例え下手か!」

栞奈「あ……」

結月「どうしました?」

栞奈「楽しそうに話すなって…………。……一輝みたいに」



330以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 04:46:38.96oFn1AU3Bo (10/26)


みこと「身動き出来なかったってこと? 5日間も?」

マリ「そうだよ」

みこと「日向さんも?」

日向「そうだぞ。なにを不思議がっているのか?」

栞奈「雨の中1時間もジッとしていられない日向が?」

報瀬「そう、その日向が」

日向「私を何だと思っているのか!」

マリ「5日間も身動きが出来ない状況なんて、
   普通の高校生だと経験できないことだよね」


……



―― 名古屋港水族館


報瀬「海の虎……」

日向「水族館って気分じゃないんだ、報瀬」

報瀬「海の王様……」

マリ「私も……」

報瀬「海のギャング……」

結月「それを聞くと見たくなくなります」

みこと「冥界からの魔物」

報瀬「なにそれ?」

栞奈「キマリの影響で変なこと言いだしたよ」

マリ「なんで!?」

みこと「シャチの学名の意味」

報瀬「そうなんだ……。じゃあ、みことは行くってことでいいよね」

みこと「え……」

日向「じゃあってなんだ、絶句してるだろ」

報瀬「誰も入らないの?」

結月「私はこの後、さくらさんと約束がありますから」

栞奈「私もパス」

マリ「あの観覧車が気になって……行ってみようかなと」

日向「どうせならもっと大きな……ん?」

みこと「どうしたの?」

日向「待てよ……。確か、遊園地があったよな……?」

栞奈「あぁ、あるね。ナガシマスパーランド」

マリ「ジェットコースター好きだよ、私」

日向「今乗りたいかって話だ」

マリ「乗りたい!」



331以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 04:47:39.08oFn1AU3Bo (11/26)


日向「だよな、行くか!」

マリ「うん! 行こう!」

報瀬「水族館は!?」

日向「悪いが報瀬、私たちは遊園地に行くことになった。
   時間も限られてるから即行動だ」

マリ「みこっちゃんはどうする!? 行こう!」

みこと「え、えっと」

結月「この勢いだと絶叫マシンに乗るから、苦手だったら遠慮した方がいいよ?」

みこと「うん……。結月さんと一緒に居るから」

マリ「分かった。栞奈ちゃんは?」

栞奈「私も、のんびりしてるよ」

マリ「じゃあ、ここで別行動だね」

日向「行くぞ、キマリ!」

マリ「よっしゃ!」

タッタッタ


「また後で~!」


報瀬「水族館は……?」


……





332以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 04:49:04.79oFn1AU3Bo (12/26)


―― 名古屋市市内


結月「あれ、また栞奈さんが居ない……?」

みこと「少し後ろ歩いてたけど……」

結月「一人で戻ったのかも」

みこと「うん」


「あ……! 結月ちゃん……!」


結月「え?」

「あ、あの、僕……キミのファンなんだ!」

結月「ありがとうございます。応援してくれて」

ファン「あの……! 握手してください……!」

結月「は、はい」

ギュッ

ファン「ふぁぁ、嬉しい……!」フルフル

みこと「……」

結月「これからも応援よろしくお願いし――」

男1「ちょっとちょっと、君さぁ」

ファン「え?」

男2「結月ちゃん困ってるっしょー?」

結月「……?」

ファン「あ、ご、ごめんなさい……つい嬉しくて」

結月「いえ、そんな……」

男1「はいはい、オタク君は帰った帰った」

男2「ファンなら節度持った行動でよろしくなー?」

ファン「は、はい……すいません。……そ、それじゃ」

男1「ほら、シッシッ」

結月「……」

ファン「応援してます、頑張ってくだ――」

男2「さっさと行けや!」

ファン「うぅっ」

テッテッテ

結月「……」

みこと「……」

男1「まったく、困るよね~。デリカシーのない男ってさ」

男2「結月ちゃんと一緒に居るってことは、君も芸能人? 可愛いね~」

結月「すいません、私たち、用があるので失礼します」

男1「ちょ、待ってよ。俺らもファンだよ? さっきのヤツみたいに優しくしてよ」

男2「そうそう。そんな冷たい態度だと傷ついちゃうな~」

結月「……」

みこと「……」



333以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 04:50:48.41oFn1AU3Bo (13/26)


男1「ちょうど人数的に合ってるからさ、これから一緒にどこか行かない?」

結月「用事がありますので、失礼します」

みこと「……っ」

男2「男慣れしてない感じが可愛いね~。君のファンになっちゃうよ、俺」

結月「あの! この子には触らないで……!」

男1「じゃあさ、連絡先教えてくれない? 俺ら観光に来てて、地元は東京だからさそこで会おうよ」

男2「ねえねえ、教えてよ~」グイッ

みこと「……っ」ビクッ

結月「ちょっと手を離して――」

「なにやってんだよ、お前ら」

男1「ん?」

結月「あ――」

一輝「困ってんだろ、止めとけ」

男2「なんだお前、カッコつけたいなら他を当たれよ」

一輝「あぁ?」

男1「こいつ、君らの知り合い?」

みこと「ううん、知らない」

結月「ぇ!?」

男1「だってよ。白馬の王子様モドキは消えろ!」

ドンッ

一輝「……ッ」

ドサッ

男2「ははっ、こんな所でしりもち付いてやんの。ダッセ」

結月「あ、一輝さ――」

みこと「行こ」グイッ

結月「あ、ちょっと待って!」

一輝「……ハァ、自分が嫌になる…」スクッ

男1「おっと、逃げないでよ~」グイッ

みこと「――!」

結月「ちょっと!」

一輝「その手、離せよ」

男2「あ? なんだてめえ」

男1「関係ない奴は黙ってろ。邪魔だオマエ」

一輝「関係なくはないだろ。人を突き飛ばしたんだからよ」

男1「……」

男2「……」

一輝「ケンカ売るってことだろ?」

男1「コイツ……」

一輝「ちょうど良かったよ。イライラしてたんだ、相手してくれ」

男2「潰すか」



334以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 04:52:04.30oFn1AU3Bo (14/26)


一輝「ほら、来いよ――」


「バカーーッ!!」

ドンッ


一輝「ぐはっ」

ズサーッ


一輝「なにすんだ、てめ……!?」

栞奈「なにすんだじゃないでしょ! バカズキ!!」

一輝「栞奈……!」

栞奈「なんで簡単に人を傷つけようとするのよ! なんで怪我をしようとするのよ!!
   人を治すことがどれだけ難しいのがなんで分からないの!!!」

一輝「…………」

男1「なんだこれ」

男2「おい、ふざけんなお前ら!!」


「うふん」

サワサワ


男1「――!?」

男2「――!?」

さくら「あら、柔らかいお尻……。ちゃんと鍛えなくちゃダメじゃない♪」

男1「」

男2「」

さくら「私が鍛えてあげましょうか? 色んな意味で♪」

男1「うわー!」

男2「わあー!」

ダダダダダッ

さくら「あら、残念」


栞奈「バカ!!」

バシィィン


一輝「……ッ」

栞奈「……っ」

タッタッタ


さくら「あら、行っちゃった……」

一輝「……なんでビンタされなきゃいけないんだよ……」

さくら「心当たり無いの?」

一輝「ないことは……ないですけど」

さくら「ふぅん……まぁ、詳しくは聞かないでおいてあげるわ。
    それより、結月ちゃん知らない? ここで待ち合わせしてたんだけど」

一輝「……さっきの奴らに絡まれてて……どこか行ったようです」

さくら「なるほど、ありがとねん……まだ近くに居るはずよね」ポチポチ

一輝「……」



335以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 04:54:50.12oFn1AU3Bo (15/26)


ピコン


さくら「名古屋駅ね。了解っと。……それじゃね、坊や」

一輝「……はい」

さくら「あ、それと」

一輝「……?」

さくら「力は振るう為にあるんじゃないの、守るためにあるのよ?」

一輝「……っ」

さくら「結構堪えてるみたいね、よく分からないけど。それじゃね~♪」


……




―― 名古屋駅・イベントスペース


Wonderland Girl~♪

不思議 素敵~♪

 Wonderland Girl~♪

 キミと私~♪


結月「ライブ、今日だったんだ……」

みこと「あの人……アイドルだったの……?」

結月「最近バンドを始めたみたい」

みこと「……」

結月「というか、なんでこんなところで……逢ってしまうの……」

みこと「知り合い?」

結月「小さい頃からの腐れ縁というか、なんというか……」


ファン「うぉぉぉおおお!!!」

ファン2「うぉぉおおおおお!!!」


結月「あれ、あの人……?」


……




スタッフ「それでは、10分後に握手会を始めまーす! 整理券を持って列にお並びくださーい」


みこと「さくらさんとの待ち合わせは?」

結月「ちょっと待ってて、さっきの人に謝らないと……」


ファン「ど、どっちに並ぼう……! ででも、5人と握手したいんだ……!」フンッ


結月「あ、あの」


ファン「ふぁい?」



336以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 04:56:31.39oFn1AU3Bo (16/26)


結月「さっきの方……ですよね?」

ファン「ふぇ!?」

結月「先ほどはご迷惑をおかけして、すいませんでした」ペコリ

ファン「いいいいえいえいえいえいえ! 悪いのはあいつらですし……!」

結月「気を悪くしていたら申し訳ないと思って……」

ファン「ととととんでもない! ゆゆゆ結月ちゃんにしし心配されるなんて至極恐悦の極みで……!」

結月「そういっていただけると……。それでは、これで」


「ふふ、まさか本当に逢えるなんて思わなかったわ」


結月「う……!」ギクッ


アイドル「私の――いえ、私たちのファンになにか御用かしら、白石結月さん?」

結月「……ッ」


ファン「あばばばば! どひゅーん!」バタッ


スタッフ「ファンが倒れたぞー! 担架ーー!!」


結月「いえ、特には……。ただ、謝りたかっただけですから……。それでは」スッ

アイドル「少し話をしませんか? せっかく久しぶりに逢えたんですから」ウフフ

結月「すいません、待たせている人がいますので……」

アイドル「まぁ、連れないのね」


みこと「報瀬さん、こっち」

報瀬「どうして私を置いて行くの?」

みこと「報瀬さん、いつも一人でどこかいくからって、日向さんが言ってたよ」

報瀬「いつもじゃないから」


ざわざわ

 ざわざわ

「あ、白石結月ちゃんだ……」

「あの二人、子役時代に共演してたよね」

「周りにいる二人も可愛いな……芸能関係者かな……?」


結月「……」

アイドル「注目されてしまったみたいね」

結月「誰のせいですか……」

アイドル「ここじゃなんだから、控室に行きましょう」


……





337以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 04:58:40.39oFn1AU3Bo (17/26)


―― 控室


アイドル2「まん丸お山に彩を! で、お馴染みの丸山彩です!」キュピンッ

報瀬「っ!?」

アイドル「アヤちゃん、まずは握手会で噛まないようにちゃんと練習しておいてね」

アイドル2「うっ……はい、分かりました……」

アイドル「お馴染みと言えるほど浸透していないのだけれど……」

結月「……」
     
アイドル「白石さんと、前に会ったのは何時になるのかしら?」

結月「覚えていません。結構前だったと思います」

アイドル「ふふ、2年前のオーディション以来になるわね」

結月「……」


報瀬「あの人って……」

みこと「役者さんだけど、今はアイドルでバンドもやってるって」

報瀬「ふぅん……。なんだか、結月……苦手みたい?」

みこと「……そうなのかな」


アイドル2「えっと、今日は来てくだしゃってありがとうございます……うぅん緊張……ッ」

アイドル3「ねーねー、アヤちゃん、あの人たちって誰?」

アイドル2「なんか、チサトちゃんのお友達みたいだよ」

アイドル4「仕事前に他の人を招きいえるなんて珍しいですね」


アイドル「一日車掌をやってるって聞いて、
     タイミングが合えばここで逢えるんじゃないかと思っていたのだけれど、本当に逢えるなんてね」

結月「……そうですか」

アイドル「それにしても、さくらさんを独占するなんてずるいわ。私の現場にはいつもいないんですから」

結月「たまたまです。さくらさんもデネブに乗る理由があったみたいで」

アイドル「そう……。なんだか、『持ってる』わね、白石さん」

結月「……え?」

アイドル「実力だけでは生きていけない世界なのは、あなたも知っているでしょ?」

結月「それなら、チサトさんは持っているってことですか」

アイドル「えぇ、おかげさまで。努力が大前提だけれど、
     それも仲間がいるからより励むことが出来ているの」

結月「……」


報瀬「あの、サインください!」

アイドル「え、えぇ……。かまいませんよ」ニコッ

報瀬「善い人……。あ、報瀬さんへってお願いします。強調するように」

アイドル「変な注文しますね……」サラサラ

結月「報瀬さん……?」



338以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 05:00:36.86oFn1AU3Bo (18/26)


アイドル「はい、どうぞ。これでいいでしょうか?」

報瀬「はい、希望通りで嬉しいです。ありがとうございます」

結月「どうしたんですか、いきなり?」

報瀬「キマリと日向に自慢できる」

結月「それだけの理由ですか!」

アイドル「……!」


さくら「ごめんなさいね二人とも、待たせちゃって」

みこと「ううん、待ってないよ」

さくら「あらぁ、本当にいい子ねぇ」

アイドル5「さくらさん! 来ていたんですね!」

さくら「イヴちゃん……仕事中にごめんね、お邪魔しちゃって」

アイドル5「いいえ構いません! 今度、またお稽古をお願いします!」

さくら「私でよければいつでも」

アイドル5「かたじけないです! 嬉しいです!」


アイドル2「チサトちゃん、そろそろ時間だって」

アイドル「分かったわ。それじゃ、私たちはこれで」

結月「はい、お仕事頑張ってください」

アイドル「ふふ、なんだか目の敵にされてるみたいだけど。
     私はまたあなたと共演出来たらって思っているのよ」

結月「そうですか。私もです」

アイドル「本心でそう思ってくれてるのなら、近いうちに実現できそうね」

結月「……」

アイドル「それでは、失礼するわね」

スタスタ...


みこと「あの人、やっぱり……」

さくら「知ってるの?」

みこと「お母さんの――」


アイドル「そういえば」クルッ

結月「?」

アイドル「あなた、お名前は?」

みこと「……?」

報瀬「みことのこと?」

アイドル「みこと……?」

結月「彼女の名前は鶴見 琴です」

みこと「……」コクリ

アイドル「鶴見……。ひょっとして……間違っていたら申し訳ないのだけれど……」

さくら「チサトちゃんが子役時代に出演した作品の、原作者の娘さんよ」

アイドル「え……!」



339以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 05:03:23.75oFn1AU3Bo (19/26)


みこと「やっぱり……みたことあると思って……」

アイドル「世間は広いようで狭いのね……面影があるから気になっていたの。
     それで、聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら」

みこと「……?」

アイドル「お母様はいくつか作品を執筆されているけれど、
     ドラマ化されたのは私が出演させていただいた一作品だけ」

みこと「うん」

アイドル「その理由を聞かせてくれる?」

みこと「……」

結月「そういうことって、家族の人には話さないんじゃないですか?」

アイドル「そうかもしれないけど、知っているかもしれないと思って。
     私が言うのもなんだけど、あのドラマは好評だったから、他の作品もドラマ化が期待されているのよ」

さくら「そうねぇ、その話なら私も聞いたことあるわ」

みこと「理由は分からないけど……」

アイドル「けど?」

みこと「出演した人と、小説の人物とはかけ離れていたから」

アイドル「――!」

結月「それって、お母さんからそう聞いたんじゃなくて――」

報瀬「みことがそう思ったってこと?」

みこと「……うん」

さくら「……」

アイドル「……そう。……それじゃ、また」

スタスタ...

アイドル3「何の話してたの?」

アイドル「いえ、なんでも」

アイドル4「うぅ、自分なんかが握手会なんて恐縮すぎます……」

アイドル5「マヤさん、私たちの心意気を見せましょう!」

アイドル2「チサトちゃん、顔色悪くない? 大丈夫?」

アイドル「大丈夫よ。……それじゃ、行きましょう」

さくら「チサトちゃん」

アイドル「?」

さくら「あの子ね、ひょっとしたら化けるわよ」

アイドル「え?」

さくら「母親の世界に誰よりも理解して共感して納得してるの」

アイドル「……」

さくら「結月ちゃんもそれに気づいてるわ」

アイドル「ふふ」

さくら「……まぁ、本人にその気持ちは無いでしょうけど」

アイドル「どれだけ才能があったとしても努力が出来なければそこまでです」

さくら「そうね」



340以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 05:06:57.96oFn1AU3Bo (20/26)


アイドル「それと、あの人は?」


報瀬「あの4人のサインも欲しいかも」

結月「虚栄心の為にサイン貰うの止めてもらえますか」


さくら「親友だそうよ」

アイドル「そうですか。私と話すときはどこか冷めているのに」

さくら「私が見た限りではかなり深い部分の繋がりがあるわね~」

アイドル「結月ちゃんの意外な一面が見られて驚きました」

さくら「それはあなたと同じよ、チサトちゃん♪」

アイドル「やっぱり『持ってる』わね、結月さん」フフフ

アイドル2「なんだか知らないけど、もう大丈夫みたいだね?」

アイドル「えぇ、ごめんなさい、少しショックを受けてしまったみたいで……」

アイドル2「ショック……?」

アイドル「でも、もう大丈夫。行きましょう、みんな」


……




―― 名古屋駅


結月「子役時代からライバルライバルって囃し立てられてて」イライラ

報瀬「苦労してたみたいで……」

さくら「あ、見てあのお店、よさそう♪」

みこと「……そうなの?」

さくら「えぇ。さ、行きましょ、行きましょ」

結月「報瀬さん、今日は冒険して可愛い服着てみましょう」

報瀬「え?」

さくら「うーん、腕が鳴るわぁぁ!!」

みこと「うん、良さそう」

報瀬「え゛!?」


……





341以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 05:09:21.35oFn1AU3Bo (21/26)


―― ナガシマスパーランド


マリ「うーん、白鯨は……ちょっと」

日向「スリル満点だぞ! ここまで来てなにしり込みしてるんだよキマリ!!」

マリ「嫌な記憶が……あるようなないような」

日向「何言ってるんだ、いいから行くぞ!」

pipipi

マリ「ん? ちょっと待って日向ちゃん」

日向「どうした?」

マリ「メッセージが……。結月ちゃんから……ブフッ!」

日向「どうした!?」

マリ「見てこれッ! 報瀬ちゃんが! ブフフッ」

日向「報瀬がどうし――ブフッ!」


マリ日向「「 あはははは!! 」」


……




―― 夕方:レストラン


日向「トテモ カワイイト オモイマシタ」

マリ「ワタシモ ソウ オモイマシタ」

報瀬「嘘吐かないで! 顔に感情がないから!」

日向「フリフリのワンピ……プフッ」

マリ「向日葵模様のワンピ……ププッ」

報瀬「……」

日向「トテモ カワイイト オモイマシタ」

マリ「ワタシモ ソウ オモイマシタ」

報瀬「嘘吐かないで! 顔に感情がないから!」

みこと「同じこと繰り返してる……」

結月「はやく注文しないと、出発まで1時間とちょっとしかないですよ」

マリ「私はもう決まってるよ」

報瀬「……私も」

日向「じゃあ……私は味噌カツで。それで名古屋は〆だ」

結月「みことは?」

みこと「きしめん」

結月「それじゃ、決まったので呼びますね」

ピンポーン

報瀬「なんでもあるね、ここ」

日向「観光客向けのレストランなんだろうな」

マリ「駅内のレストランだから、よほどのことが無い限り乗り遅れることは無いよね」

結月「そうですね。余ほどのことがなければ」

みこと「余ほどのこと……」



342以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 05:12:45.07oFn1AU3Bo (22/26)


店員「ご注文承ります~」

結月「えっと、天むすと、きしめんと味噌カツ……あと、報瀬さんとキマリさんです」

マリ「ひまつぶしお願いします」

報瀬「私も、ひまつぶしで」

店員「……」

キマリ報瀬「「 ? 」」

店員「はい、ご注文の確認をさせていただきます。
   天むす一つ、きしめん一つ、味噌カツ一つ、ひつまぶし二つですね」

日向「そうです。間違いありません」

店員「かしこまりました、少々お待ちくださいませ~」

スタスタ...

マリ「今の店員さん間違ってなかった?」

結月「間違ってないですよ」

みこと「……ひつ……? ひま……?」ペラペラ

日向「そうだな、みこと。メニューをちゃんと見てみようじゃないか」

報瀬「ひまつぶ……。……ん!?」

みこと「キマリさん、これ……」

マリ「ウナギのひまつぶし……」

日向「ちゃんと読め」

報瀬「ひつまぶし……!」

結月「そうです。ひまつぶしではなく、ひつまぶしです」

報瀬「ぁ……」

マリ「そんな!?」

みこと「文字を流し読みして、思い込んでしまったんだよ」

マリ「しゃ、しゃじぇんぇん!?」

日向「そっちかよ。……というか、高いなぁ」

結月「ウナギですからね」

報瀬「……ま、いいか」

マリ「たっか! プリンシェイクいくつ買えると思ってるのみこっちゃん!」

みこと「え……? えっと、30本」

日向「意味もなく当たるんじゃない、そして律儀に答えなくていい」

報瀬「あ、そうだ」ガサゴソ

結月「どうしたんですか、報瀬さん?」

みこと「変更する?」

マリ「うーん……。ううん、やっぱりひまつぶしがいい」

みこと「いいの?」

マリ「食べたかったからね、ひまつぶし。食堂車でバイトしててよかったぁ」

結月「キマリさん、このメニューに書かれてる文字をちゃんと読んでください」

マリ「ウナギのひまつぶし」

日向「どうあっても、ひまつぶしで押し通す気だな……」



343以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 05:14:20.17oFn1AU3Bo (23/26)


報瀬「日向、キマリ。これ、見て」

マリ「ひまつぶし」

報瀬「それはもういいから」

日向「なに、それ? サイン色紙?」

報瀬「ふふん」ニヤニヤ

みこと「駅のイベントスペースで、ミニライブやってたよ」

マリ「うーん? 誰のサイン?」

報瀬「え、知らないの? 私もよく知らないけど……」

日向「知らんのかい! っていうか、貸して」

報瀬「うん……」

結月「よく知らないのに貰ったんですか……自慢するだけの為に……」

日向「ゆづ、サインペン持ってる?」

結月「なんでですか? 持ってないですけど」

日向「日向さんへ、って書き直そうかと思って」

報瀬「汚さないで!!」バッ

日向「冗談だよ、ジョーダン」

みこと「日向さん、知ってるの?」

日向「子役時代から知ってる。ゆづのライバルとか言われてるよね」

マリ「あー、うん知ってる知ってる」

結月「むぅ……」

報瀬「あ……。この話はこれでお終い」

日向「共演したことあったっけ?」

結月「一度だけですけど」ムー

報瀬「はやく料理こないカナー」

マリ「バンドの曲も聞いたことあるよ。ちゃんと自分たちで演奏してるんだって」

結月「むぅぅ……」

報瀬「楽しみダナー、まだカナー、お腹すいたナー」アセアセ

みこと「……」

日向「今度さ、私らの分も貰って来て――」

結月「むぅぅぅ……!!」

マリ「あれ? どうしたの、結月ちゃん?」

結月「どうせ……どうせ……! 私なんてライバルにもならないんです!」

日向マリ「「 !? 」」

みこと「怒っちゃった……報瀬さん」

報瀬「二人がしつこいから」

日向「責任転嫁された気がするけど、何の話?」

マリ「ど、どうしたの結月ちゃん?」

結月「大抵のオーディションにはあの人が居たんですよ!
   歳も背格好もだいたい同じ、なら演技力で評価されますよね!?」

マリ「そ、そうなのかな? 難しいことは分かんない……」



344以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 05:16:14.65oFn1AU3Bo (24/26)


結月「あの人と競い合った役で勝ち取れたことなんてないんです!
   役になりきる努力もしてるし、台本の理解力もあるし、場の流れを読む判断力も長けてる!」

日向「へ、へぇ……それは凄いですネ」

結月「敗け続けているのに、それなのに、ライバルライバルって言われ続けて……むぅぅ!」

報瀬「でも、結月のほうがいい演技するよ」

みこと「……」

結月「私の演技、見たことあるんですか?」

報瀬「……どうなの、キマリ?」

マリ「え!? えっと……あ、あるよー? ……そう! 南極居る時に決まったって話!」

結月「それ、私と出会った後の話ですよね」ズイッ

マリ「そ、そうだけど……チカイヨ、ユヅキチャン」

日向「おっと、お冷がなくなっちゃった……店員さん呼ぼうかな」

みこと「ピッチャーならそこにあるよ」

日向「あ、うん」

結月「報瀬さんのお家のお邪魔した時、3人とも私のこと知らなかったみたいでしたけど」

報瀬「……」ギクッ

日向「そ、そんなことないさ! 知ってたさ!」

マリ「うんうん」

結月「本当ですか?」

報瀬「私はバイトばっかりだったから、テレビ見る時間無くて~」

マリ「あ、なんかズルい報瀬ちゃん!」

日向「おまえがサインなんか貰ってくるからこうなってるんだぞ、逃げるな!」

報瀬「逃げるなって何!? そのサインに顔色変えたの誰!?」

日向「私ですけどー!?」

マリ「私はサイン欲しいなんて思ってないよ、結月ちゃん!」

結月「来週、オーディションがあるんですけど、その時逢うかもしれません。もらえたらどうします?」

マリ「……」

報瀬「迷ってるから! 欲しいけどどうしようって、キマリ迷ってるから!!」

日向「子役時代の話だろ!? 今はもうゆづの方が上だって!」

マリ「そうだよ! きっと!」

ギャー

 ギャー


店員「こちらで最後になります」

みこと「はい。すいません、席を二つ取ってしまって」

店員「次のお客さんが来る前に移動してください」

みこと「はい。ありがとうございます」


結月「あの人、仲間が出来て順風満帆って感じだったんですよね、今日」

報瀬「確かに……自信に満ち溢れてた」

結月「次、勝ち得ることが出来るんですかね」

報瀬「難しいかも?」

日向「おい! 敵なのか味方なのかどっちだ報瀬!?」



345以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 05:17:20.53oFn1AU3Bo (25/26)


マリ「結月ちゃんも『持ってる』よ」

結月「え?」

マリ「仲間が。……えへへ」

日向「自分で言って照れるなよ」

報瀬「……」コクリ

結月「ですね。私も、次は勝ち取ろうと思ってますから」

みこと「さくらさんも、結月さんはちゃんと持ってるって言ってた」

結月「……うん」

みこと「あっちに料理並べてあるから移動しよう?」

日向「いつの間に!?」

報瀬「私たち、騒いでたから違う席に持って行ってたんだ……?」

みこと「うん。店員さんが『白石結月さん』のファンだって」

結月「……」

日向「キマリのうなぎのひまつぶし、半分食べていいからさ」

マリ「え!?」

結月「ふふ、そうですか。それなら頑張れますね、私」

報瀬「うんうん」

マリ「報瀬ちゃん……、もう半分別けてくれない?」

報瀬「やだ」

マリ「そんなぁ」シクシク

結月「冗談ですよ。半分は」

マリ「……半分の半分だから、4分の1?」

日向「おぉ~。味噌カツ美味しそう~♪」

報瀬「はぁ……久しぶりのご飯が食べられる」

結月「それでは、いただきましょうか」

マリ日向「「 いただきま~す 」」

報瀬「いただきます」


みこと「……」


……





346以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/31(金) 05:19:03.30oFn1AU3Bo (26/26)


―― 出発1分前:デネブ


ダダダダダッ

「だから! だから!! なんでお土産屋で悩むんだよー!!?」

「レジが混んでたんだからしょうがないんだよ~~!!」

「~~っ!」



結月「急いでください! 1分切りましたよ!!」

みこと「早く……!」


日向「くぅぅ~~~~!!」

マリ「ひぃっぃぃお腹が揺れるぅぅ」

報瀬「うぅっ、気分悪くなってきたかも……!」

ダダダダダッ


栞奈「車内に居ないと思ったらまーた駆け込み乗車なのかぁ」

結月「先に乗っててよかった」

みこと「……」


日向「よし! セーフセーフ!!」

マリ「ふぅっ、はぁっ、ふぅぅぅ」

報瀬「うぅっ……ぅぅぅ」

結月「報瀬さん? 顔色が悪いですよ?」

みこと「とりあえず、乗ろう?」

栞奈「名古屋しゅっぱーつ!」

prrrrrrrr


……





347以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/14(金) 15:39:58.78l1m2r1O+o (1/19)


―― 1号車

ガタン

 ゴトン

日向「次はいよいよ金沢なわけだがー」

報瀬「うぅ、気分悪い……ちょっと横になって来る」

栞奈「部屋に戻るの? 送ってくよ~」

報瀬「うん、ありがと……うぅぅ」

スタスタ...

マリ「お大事にー」

みこと「大丈夫かな……」

マリ「後で様子見に行こう」

みこと「どうして具合が悪くなったの?」

マリ「多分、天むすも追加注文してたから食べすぎたんだよ」

日向「その後に全力疾走だからな……。それほどまでに米が食べたかったんだよ」

マリ「楽しかったねー、名古屋」

日向「いろいろ回ったからな~。名古屋城に行けなかったのは残念だけど」

みこと「報瀬さんと行ってきたよ」

マリ「そうなの? じゃあ後で写真見せてもらおう~、ばり楽しみやけん」

日向「それ名古屋弁じゃないだろ。それより、残り二つの駅になったんだよ」

マリ「なにが?」

日向「停車駅が。金沢と、松本」

みこと「……」

マリ「あっという間だったね。ということは、あと3日で東京なんだね」

日向「そんな先の話より明日だ明日!」

マリ「?」

みこと「なわとび大会?」

日向「そう、それ! どうするんだよ、
   一回も全員で練習してない上に大村と栞奈があんな状態だろ?」

マリ「二人がどうしたの?」

日向「なんか、雰囲気がおかしいんだよなー。まだケンカしてるっぽい」

マリ「そっかぁ、うーん……。どうしよ?」

日向「原因も分からないからな……。みこと、なんか聞いてる?」

みこと「ううん、知らない」

マリ「そっかぁ……。大会の時間って何時だっけ?」

日向「夕方までやってるみたいだけど、13時には会場に居たい」

マリ「でも私ね、兼六園に行きたいんだよ」

日向「午前中に行って来い」

みこと「能登半島は?」

マリ「あ、いいね!」

日向「あのな、昼には片町に居なきゃいけないんだぞ?」

マリ「無理かな?」

日向「詳しく調べてないから分からないけど、多分無理」



348以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/14(金) 15:41:23.63l1m2r1O+o (2/19)


マリ「じゃあ、大会終わってから?」

日向「デネブは丸一日金沢に停まってるから、不可能じゃないけど……けどさ」

みこと「けど?」

日向「大村、降りるだろ?」

マリ「うん……そうだね」

日向「最後にさ、どこかで打ち上げしたいなって」

マリ「うん! いいね!」

みこと「……最後…」

日向「場所とか全然考えてないけどな!」

マリ「それなら能登半島でバーべキィューは!?」

日向「いいなそれ! 夏と言ったらバーベキューだもんな! ってか、キィューってなんだよ!」

みこと「できるの?」

日向「現実的には無理。時間と金銭的問題が大きいしな。
   私ももう持ち合わせが苦しくなってる」

マリ「うぅ、現実って辛いことばっかりだよね……。楽しいこともあるけど」

日向「そうだな……いつだって非情で無常だけど愛情で感情が最上でもある」

マリ「……どういう意味?」

日向「聞くな」

マリ「でも、楽しみだね。最後の夜だから思いっきり楽しみたい!」

日向「旅も大詰めだ、全力で楽しむぞー!」

マリ日向「「 おぉーー!! 」」

みこと「そのためにも、あの二人が仲直りしないといけない?」

マリ日向「「 そうだった…… 」」

みこと「……」

日向「キマリさん、なにか案はありませんか?」

マリ「ありません」

日向「お手上げですな」

みこと「……相談してくる」スッ

マリ「ん?」

日向「相談?」


スタスタ...


マリ「誰に?」

日向「車掌さんかな?」


……





349以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/14(金) 15:42:37.81l1m2r1O+o (3/19)


―― 秋槻の個室


コンコン


みこと「……」


ガチャ

秋槻「おはよう」

みこと「え? 夜だよ?」

秋槻「あぁ、ごめん。時間間隔が狂い始めてて……。どうしたの?」

みこと「相談に乗って欲しいことがあって……」

秋槻「うん、分かった。空いてる席で待ってて。顔洗って行くから」

みこと「……うん」


……




―― 車掌室


車掌「どうかなさいましたか?」

みこと「大村一輝という人を探していて……」

車掌「大村さんでしたら――」


……




―― 娯楽車


バババーン

 チュドドドドーン

バコーン

一輝「ハァ……すぐ落とされるな……」

みこと「あ、居た」

一輝「?」

みこと「ちょっと来て」

一輝「あ?」


……





350以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/14(金) 15:45:02.29l1m2r1O+o (4/19)


―― 1号車


マリ「見て、これに乗ったんだよ」

結月「ジェットコースターですか」

日向「でら世界最高峰だった。あれはでらよかった」

結月「無理やり名古屋弁使ってますね」


秋槻「ふぁぁ……」


マリ「あ、お兄さん」

日向「なんか久しぶりに見た気がする」


秋槻「一日中籠ってたからね……。ここじゃないのか」


日向「髭……」

マリ「身だしなみチェック」


秋槻「あ、しまった……つい……」


結月「誰か探してるんですか?」


秋槻「うん、ちょっとね……。それじゃ」

スタスタ...


結月「どうしたんですかね?」

マリ「みこっちゃんかな?」

日向「かもな」


……




―― 4号車


一輝「なんだよ、こんなところで」

みこと「……」

一輝「無視かよ……」


秋槻「ここにいたんだ」


一輝「?」

みこと「座ってください」

秋槻「うん、失礼するよ」ストッ

一輝「???」

みこと「私じゃなくてこの人から」

秋槻「うん……?」

一輝「なんだよこれ?」

みこと「栞奈さんとケンカしてるから、仲直りしてほしいって」

秋槻「え、そうなの?」

一輝「おまっ……!」



351以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/14(金) 15:46:17.85l1m2r1O+o (5/19)


みこと「キマリさん達が明日、なわとび大会に出て、その後打ち上げしたいって」

一輝「だからなんだよ……」

みこと「最後だから」

一輝「……!」

秋槻「…………」


みこと「……」


一輝「……っ」


秋槻「話しにくいみたいだから、俺の話からしよう」

みこと「?」

一輝「……?」

秋槻「学生の頃、君たちと同じくらい歳の頃の話なんだけどさ」

みこと「……」

秋槻「一人の女子と仲良くなってね。席が俺の前で、なにかと接点が多くなったのが理由でね。
   日直とか掃除とか、いろいろ行動を共にすることが多くて」

一輝「……」

秋槻「そんな俺たちをみたクラスメイトが、ある日、俺に聞いたんだよ。
   『お前たち付き合ってるの』って」

みこと「……」

秋槻「俺は照れくさくて、声を大きめに『付き合ってねーよ』って言ってさぁ」

一輝「……」

秋槻「それをその女子に聞かれて……。それから気まずくて、今まで通りに過ごせなくて。
   会話も当たり障りのないことばっかりで、何か失った気持ちになったな」

みこと「……」

秋槻「あの時、なにか行動を起こせていたらって思うよ。そしたら、今ここにいないかもだけどね」

一輝「後悔してますか?」

秋槻「うん、してる」

一輝「…………」

秋槻「その子のこと好きだったんだなって、後になって気付いたから」

みこと「……」

秋槻「俺の話は終わり。ごめんね、割とどうでもよかったかな。あはは」

みこと「…………」

秋槻「それじゃ、話を聞かせて?」

一輝「正直、よく分からなくて」

秋槻「分からない?」

一輝「なんであんなに嫌な気持ちになったのか――」


……





352以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/14(金) 15:47:59.63l1m2r1O+o (6/19)


―― 報瀬の個室


報瀬「ふぅ……落ち着いた……」

栞奈「もう大丈夫みたいだね」

報瀬「やっぱり食べすぎだったみたい。薬、ありがとう」

栞奈「いいよ、これくらい。たまたま持ってただけだし」


ガタン

 ゴトン


報瀬「……」

栞奈「一人でゆっくりしたいよね、それじゃ私はこれで――」


報瀬「栞奈、無理してない?」

栞奈「え、え……? 無理?」


報瀬「うーん……水、もうちょっと……ちょうだい」

栞奈「あと……これくらいしかないけど……どうぞ?」

報瀬「うん、ありがとう……」

栞奈「……」

報瀬「ごく……ごく……」

栞奈「……」

報瀬「……ふぅ。……それで、無理してない?」

栞奈「どうして……いきなり?」

報瀬「誰かに似てるなって思ったら、日向だった」

栞奈「?」

報瀬「なにかあるのになんでもないって顔して、
   無理して誤魔化して何も無かったってことにしようとしてた」

栞奈「……」

報瀬「私が向き合おうとしたのに、ね」

栞奈「私と日向は違うよ」

報瀬「うん」

栞奈「無理か……、してるのかな」

報瀬「分からないの?」

栞奈「まぁね。……私さ、人に深入りしたことも、されたこともないんだよね」

報瀬「……」

栞奈「この列車に乗ってさ……あぁ、私ってこんなヤツだったのかぁって思ったりして」

報瀬「……」

栞奈「いつもと違う自分だってのは分かってはいるんだけど……無理してるのかは分からない」

報瀬「いつもの栞奈ってどんな風なの」

栞奈「どんなだと思う?」

報瀬「今の栞奈しか見てないから分からない」

栞奈「教室の隅でさ、カリカリと勉強ばっかしてる。がり勉タイプってヤツ?」

報瀬「……」



353以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/14(金) 15:50:18.20l1m2r1O+o (7/19)


栞奈「父さん見てるから、体力もつけなきゃって思って……スポーツも程々に出来ると思う」

報瀬「うん、細くはない」

栞奈「勉強もスポーツも出来る。優等生タイプ……だけど、致命的な欠点が一つあってさ」

報瀬「……」

栞奈「つまらない奴なんだ私って」

報瀬「どうして?」

栞奈「いや、分かるでしょ。今までの言動見てたら」

報瀬「ううん、さっぱり」

栞奈「……はは。……まぁ、そう、周りに思われててさ。
   居場所ないんだよね。学校ででもどこでも、家以外には」

報瀬「そう聞いたの? つまらないって」

栞奈「うん、言われた。飽きられた感じで」

報瀬「……」

栞奈「そういわれるの嫌だから、もっと面白いことをしようと思って……そしたらもうピエロさ」


報瀬「周りがつまらない人だらけなんじゃないの?」

栞奈「……っ」


報瀬「栞奈はつまらない人じゃない――」

栞奈「やめて……ッ」


報瀬「え……?」

栞奈「アイツと同じこと……言わないでよぉっ」


……




―― 4号車


一輝「アイツ、目標持って頑張ってるんです。つまらない人間なわけがない」

秋槻「……」

みこと「………」

一輝「俺は、アイツ……栞奈のこと人として尊敬してる部分もあって……。
   勉強できるけど、バカなところも面白いな思ったりして」

秋槻「……」

一輝「だから、俺自身が認めてる人に……おちょくられて……? コケにされるのが嫌で」

みこと「?」

一輝「その……白石結月のこと……ごにょごにょ……でしょ……とか言われて」

みこと「聞こえないよ、結月さんが何?」

一輝「くっ……」

秋槻「なるほど……」

みこと「どうして結月さんが出てきたの?」

一輝「だから……! さっき……冷やかされて? 嫌な気分になって……」

みこと「結月さんが冷やかされて……?」



354以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/14(金) 15:51:55.81l1m2r1O+o (8/19)


一輝「だから……俺が……あっちのことを……なんじゃないかって」

みこと「あ……え?」

一輝「……なんだよ」

みこと「それって……栞奈さんのこと――」


秋槻「あー! そうだッ!!」


一輝みこと「「 ! 」」ビクッ


秋槻「あ、急に大声出してごめん。今、いい構成が浮かんでね」

みこと「……うん」

一輝「そうですか……」

秋槻「悪いけど、仕事に戻るね」スッ

みこと「……」

一輝「……はい」

秋槻「一つ、アドバイス」

一輝「?」

秋槻「どうして嫌になったのか、考えてみて。一人で、答えを見つけるんだ」

一輝「……」

みこと「……」

秋槻「それじゃ」

スタスタ...


「あ、お兄さん」

「無精髭が通りますよ~」

「え!?」

「あはは」


みこと「……なんか、変」

一輝「だな……」


マリ「お兄さんどうしたの?」

みこと「徹夜したんだと思う」

マリ「ずっと起きてるんだ……道理でテンション高いわけだ」

みこと「キマリさん、どこに行くの?」

マリ「食堂車行って、料理長に相談をするんだよ」

みこと「相談?」

マリ「そうそう。明日の送別か――はうぁ!?」

一輝「……は?」

マリ「えっと、明日の株価はどうなってるかな」

スタスタ...

みこと「……変」

一輝「いつもだろ」

みこと「キマリさんは変じゃない。それじゃ、一人で考えて」スッ

一輝「なんかお前、俺には冷たいな」



355以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/14(金) 15:53:05.21l1m2r1O+o (9/19)


みこと「好きじゃないから」

一輝「ふっ、そうかよ」

みこと「……」

スタスタ...

一輝「……」


一輝「……ハァ」


一輝「降りる準備するか……」


……




―― 報瀬の個室


栞奈「アイツと同じこと言わないで……っ」グスッ

報瀬「……」

栞奈「うぅ~っ……。泣きそうっ……」

報瀬「泣いてるじゃない」

栞奈「泣いてないことにして」グスッ

報瀬「……」

栞奈「でも、なんかスッキリした」

報瀬「そう……」

栞奈「ありがと、報瀬」

報瀬「なにもしてないけど」

栞奈「さっきの話なんだけど」

報瀬「?」

栞奈「日向と向き合ったって話。どうやって向き合ったのかなって」

報瀬「私は向き合おうとした。
   ちゃんと自分のこと話して、その上で日向と正面から話をしようとした」

栞奈「うんうん」

報瀬「だけど、日向はそれをしようとしなかった。だから腹が立った」

栞奈「……」

報瀬「腹が立ったから、意地を貫き通した」

栞奈「意地……」

報瀬「お互い、変な意地を張ってたと思う。
   だけど……だからこそ、今の私たちがあるんだと思う」

栞奈「――……」


コンコン


報瀬「は、はい」


「報瀬さん、私だけど……」


報瀬「みこと……?」


ガチャ



356以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/14(金) 15:54:37.97l1m2r1O+o (10/19)


みこと「休んでるところごめんなさい。これ、キマリさんが持って行ってって」

報瀬「いいけど……。キマリが?」

みこと「スタミナドリンクって」

報瀬「何してるの、キマリは?」

みこと「食堂車で手伝いしてる。日向さんも車掌さんとお話ししてて……」

報瀬「結月は?」

みこと「撮影してるから……」

栞奈「暇なんだね、みことちゃん」

みこと「あ、栞奈さん」

報瀬「くんくん……うっ、変なにおい……っ」

栞奈「まだ体調が戻ったわけじゃないから、大人しくしてなよ」

報瀬「……うん」

みこと「お話ししてたの?」

栞奈「うん。報瀬たちの話を聞いてた」

みこと「……」

報瀬「どうしたの?」

みこと「私も聞きたい」

報瀬「……じゃあ、入る?」

みこと「……うん」

栞奈「意地を張りあった結果が今に至るってとこまで話したけどさ」

報瀬「匂い嗅いだせいでまた気分が悪くなってきた……。……けど?」

栞奈「報瀬と日向の意地の張り合いで……報瀬が意地を貫き通したと」

報瀬「うん」

みこと「……」

栞奈「報瀬が正しかったってことだよね……?」

報瀬「どうだろ。結果は結果だから、そこは問題じゃないと思う」

栞奈「過程が大事?」

報瀬「結果とか過程じゃなくて……向き合うことじゃないかな」

みこと「……」

報瀬「自分と向き合って、相手と向き合って、どうしたいか」

栞奈「…………」

報瀬「どうなりたいか、なんて……あの時は考えてなかったし」

みこと「……」

報瀬「考えられるほど、私たちは長く生きてないから」

栞奈「……そっか」

みこと「生きてない……?」

栞奈「経験、だよね」

報瀬「うん。経験があるから過程を考えて理想の結果に近づける……」

みこと「……」



357以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/14(金) 15:57:40.44l1m2r1O+o (11/19)


報瀬「それに私たち、人との付き合いの中で打算とか駆け引きとか出来るほど器用じゃない」

みこと「生き方が下手……」

報瀬「……うん」

栞奈「言うねぇ」

みこと「あ、そうじゃなくて……! お母さんの小説にそういう一節があって……!」

報瀬「ふふ、いいよ、気にしてない。その言葉、合ってるから」

栞奈「器用に生きられた方が楽だよね」

報瀬「楽だと思う。けど、そんな生き方してたら私が今持ってるものより、何かが足りていないと思う」

栞奈「面倒くさい自分を受け入れるか、切り捨てるか……?」

報瀬「どちらかを選択なんて、できないんじゃない?」

栞奈「どういうこと?」

報瀬「思い立ってできることなのかな、自分を捨てるとか受け入れるとか」

栞奈「できるよ……。諦めればいいだけだから。少しずつ、周りの色に染まるみたいに合わせて行けば」

報瀬「そうかも……ね。……やっぱり二人は似てる」

みこと「?」

栞奈「私と日向?」

報瀬「うん。頭の回転が速いからいろいろ考えることが出来るでしょ。
   自分のこと相手のこと、周りのこと」

栞奈「そうかな……?」

みこと「うん、私もそう思う。日向さんと栞奈さん、似てる」

栞奈「……そっか」

報瀬「それで、考えすぎて、先の先まで考えてしまう。
   そして、余計なことまで考えて動けなくなってしまうところとか」

栞奈「……」

報瀬「話を戻すと……私みたいな人は、面倒くさい側の人間。
   人は誰でも楽をしたいはずだから、それが普通だから……それが悪いことだとも思ってない」

栞奈「……」

みこと「あ、あの……報瀬さん!」

報瀬「な、なに?」

みこと「聞きたいことが……あって」

報瀬「?」

みこと「髪を切ったのは……どうして……ですか……!?」

栞奈「……」

報瀬「これは……」

みこと「……っ」

報瀬「お母さんと……じゃないか。……私自身と決別したから、かな」

みこと「決別……?」

報瀬「私のお母さん、南極で行方不明になって、帰らぬ人になって……」

みこと「え――」

栞奈「……」

報瀬「栞奈は知ってたんだ?」

栞奈「うん、まぁ……。報瀬たちに関連した記事を読んでたんだけど。
   その中に古い記事をたまたま見て……もしかして……とは思ってた」

みこと「――」



358以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/14(金) 15:59:04.04l1m2r1O+o (12/19)


報瀬「その時からずっと、帰ってくるのを待ってるだけの自分が居たから――……って、みこと!?」


みこと「……え?」ポロポロ


報瀬「な、なんで泣いて――」


みこと「あ――……」ポロポロ


栞奈「みことちゃん……」


みこと「ぅ……うぅぅっ」ボロボロ


報瀬「……」


みこと「~~~っ」ボロボロ


報瀬「お母さんが行方不明になったって報告を受けても……私、泣けなかった」


栞奈「……」


報瀬「あの時の私の代わりに泣いてくれて、ありがとう、みこと」


ぎゅううう


みこと「ち……ちがっ……わたしっ……わたしのおかあさんがっておもって……っ」


報瀬「うん……自分のお母さんがそうなったらって思ったんだよね」


みこと「かなしいって……つらいって……いたいって……っ」


報瀬「うん……」


みこと「なんで……っ……なくの……とまらない……っっ」ボロボロ


報瀬「うん……ありがとね」


ぎゅうう


みこと「ぅぅ~~~ッ」ボロボロ



……





359以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/14(金) 16:00:16.40l1m2r1O+o (13/19)


―― 寝台車


バタン


栞奈「……ッ」グスッ


日向「お、栞奈~……報瀬の様子は……」


栞奈「あ、日向じゃん。夜更かしはお肌の大敵だぞ~」


日向「泣いてたのか……?」


栞奈「あー……うん。ちょっとね、もらい泣きを……。あはは」


日向「……」


栞奈「報瀬、キマリ、結月ちゃん、日向……4人はいいね、
   なんか本気でぶつかってるって感じで」

日向「――……」

栞奈「……?」

日向「う、うん。そうか……はは」

栞奈「どうしたの? なに、今の間は?」

日向「まさか自分がそう言われるとは思わなかったから……」

栞奈「?」

日向「いや、こっちの話」


……




―― 秋槻の個室


秋槻「……」

カタカタカタ

秋槻「……ふむ」

ガタン

 ゴトン

秋槻「夜行列車か……乗ってみたかったなぁ……」


秋槻「海外行けば乗れるけど……ん……ん~~」ノビノビ


秋槻「そうだな……。売店閉まる前に何か買っておくか……」


秋槻「ふぅ~……」


秋槻「……」


秋槻「メモ用紙が散らばってるな……戻ってから片付けよう……」


……





360以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/14(金) 16:01:32.38l1m2r1O+o (14/19)


―― 食堂車


報瀬「キマリ、これ」

マリ「味はどうだった?」

報瀬「飲んでないから分からない」

マリ「でも空っぽだよ?」

報瀬「私は飲まずに捨てるつもりだったんだけど、
   みことが明日の為にって飲み干しちゃったから」

マリ「ひどい!? 報瀬ちゃんの為に作ったのに!」

報瀬「……」カァァ

マリ「顔赤いよ? 体の調子悪い?」

報瀬「ううん。だた……なんであんなことしたかなって……思って」

マリ「あんなこと?」

報瀬「みこと、ね……私のお母さんの話聞いて……泣いちゃって」

マリ「……」

報瀬「気が付いたら抱きしめてた……」

マリ「みこっちゃん、純粋だから全部を受け入れてしまうんだよね」

報瀬「みたいね……」

マリ「そのみこっちゃんは?」

報瀬「あのスタミナドリンク飲んで、体調悪くしてみたいだから個室に戻したよ」

マリ「……え」

報瀬「ちゃんと後で様子見に行ってよね」

マリ「大丈夫かな……?」

報瀬「大丈夫でしょ。変なの入れたわけじゃないよね?」

マリ「もちろん」

報瀬「ところで、どうして手伝いしてるの?」

マリ「明日、綾乃ちゃん大会に参加できるか確認しに来て……なんとなく手伝おうと思って~」

報瀬「そう……。それじゃ」

マリ「もう寝ちゃう?」

報瀬「到着するの深夜だし、何もすることないから」

マリ「そっか、それじゃおやすみ~」

報瀬「おやすみ」


……





361以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/14(金) 16:02:55.79l1m2r1O+o (15/19)


―― 岐阜駅


プシュー


日向「ふぃ~……」


日向「やっぱりこの時間だとホームには誰も居ないな~」


日向「朝は清々しいのに、夜は不安になる感じ……」

テクテク


日向「ふんふんふ~ん♪ それがいい~♪」

テクテク


日向「あ、キマリだ。おーいキマリ~」フリフリ


日向「というか、なんでウェイトレスの服着てるんだ?」


...テッテッテ

マリ「どうしたの、日向ちゃん?」

日向「外から見えたから、手を振っただけ~」

マリ「そうなんだ。あぁ、岐阜に着いたんだね」

日向「そうそう。だ~れも降りてこないからちょっと寂しい日向ちゃんでした」

マリ「私は仕事に戻るけど、乗り遅れないでよ?」

日向「お前が言うか。それよりなんで仕事してるんだ?」

マリ「一日の終わりで忙しそうだったから。お客さん少ないけどやること多いんだって」

日向「ふ~ん」

マリ「それじゃ、また後で」

日向「他のみんなは?」

マリ「知らないけど……、報瀬ちゃんとみこっちゃんはもう寝ちゃうみたい」

日向「私もそうするかなぁ、今日も歩きっぱなしだったし。
   ゆづのとこ行ってから個室に戻ることにするよ」

マリ「そっか。それじゃ、また明日ね~」

テッテッテ

日向「お~」


日向「動力車まで歩いてみるか」

テクテク


日向「こうやってデネブに沿って歩くの初めてだな」

テクテク


日向「お、ゆづ発見。今は客車で撮影してるのか~」

テクテク


日向「売店のお姉さんだ。やっほー」フリフリ

テクテク



362以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/14(金) 16:04:26.79l1m2r1O+o (16/19)


―― 報瀬の個室


報瀬「すぅ……すぅ……ん……」


報瀬「ん? ……あれ……?」


報瀬「いつの間にか……停まってる……?」


報瀬「到着…したんだ……」


報瀬「……」


報瀬「……すぅ……すぅ」



―― 岐阜駅・ホーム



日向「ふぁぁっ……眠……」

テクテク


日向「外から見るのも中々楽しいもんだ」

テクテク


「……」スッ


日向「おわっっ」

「ひゃあっ!?」

日向「って、栞奈かよ、びっくりした」

栞奈「日向……?」

日向「急に降りてきたから、驚いたんだよ」

栞奈「そうなんだ……ごめんごめん」

日向「謝ることじゃないけどさ……こんなとこ歩いてる私も悪いし」

栞奈「なにしてんの、暇なの?」

日向「暇と言ったら暇なんだけど……何かしたい! って気分でもないよ」

栞奈「それもそっか、こんな時間だもんね」

日向「で、どうなんだよ」

栞奈「なにが?」

日向「話するってさっき言ってただろ~?」

栞奈「言ったけど……心の準備がまだ……」

日向「……」

栞奈「分かってるって……! 時間が無いってことくらい……でも……!」

日向「私は何も言ってないだろ?」

栞奈「目が言ってる、目が! はやくなんとかせんかいワレーって」

日向「もどかしいなとは思うけど、急かすようなことは思ってないって!」



363以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/14(金) 16:06:14.79l1m2r1O+o (17/19)


栞奈「ぅぅ……どうしよ、焦れば焦るほど焦ってしまう」

日向「本当に焦ってるんだな……。大村の姿は見たの?」

栞奈「ううん。……多分、個室で降りる準備してるんだと思う」

日向「私が思うにだ、栞奈」

栞奈「う、うん」

日向「あれだけお互いに言い合ってた二人なんだから、
   話をして悪い方には行かないと思う」

栞奈「……うん」

日向「私だけじゃなくて、みんな思ってることだよ。
   大村を信じて、私らも信じろって」

栞奈「…………うん」

日向「このままお別れするのは嫌だろ?」

栞奈「うん」

日向「その気持ちがあれば前に進めるよ、きっと」

栞奈「…………でもね……日向」

日向「うん?」

栞奈「私は……私自身が信じられないんだよ……」

日向「……」

栞奈「これだけ……日向が言ってくれてるのに……信じて前に進む勇気がないんだよ……」

日向「……」

栞奈「今まで楽しかった旅が……嫌な思い出で終わるのが怖い――」

日向「栞奈……それは」


「日向さん?」


日向「……!」ビクッ

結月「なにしてるんですか、こんなところで……栞奈さんも一緒だったんですね」

日向「び、びっくりした……ゆづか」

栞奈「……」

結月「日向さん、さっき外歩いてました? さくらさんが『ナニカ居る』って怯えてたんですけど」

日向「うん、たぶん私だな……」

栞奈「あはは、さくらさんが怯えるなんてね~。お化けとか苦手なのかな?」

結月「みたいですね。腕力ではどうにもならないから嫌だって言ってます」

栞奈「物理ダメージが通る相手なら怖くないんだ! やっぱり強いな、さくらさん!」

結月「……」

栞奈「でも、その『ナニカ』を確認しに来た結月ちゃんも強いね~憧れちゃうね!
   そんな結月ちゃんと一緒に月でも見に行きたいな~」

結月「栞奈さん……何かありました?」

栞奈「ないよ、なにも。それより、月と星を観に行こうじゃない。
   素敵な時間を共有しようよ、お姫様」

結月「……」

日向「栞奈」

栞奈「もちろん姫の騎士である日向も――」

日向「私さ、学校行ってないんだ」

栞奈「一緒…に…………」



364以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/14(金) 16:07:55.04l1m2r1O+o (18/19)


日向「人間関係で嫌なことがあってさ、無理だと思って行くの止めたんだよね」

栞奈「……」

日向「止めたって言ったら、自分の意志で決めたみたいに聞こえるけど……。
   まぁ、逃げたんだな。私は、そういう煩わしいことから」

栞奈「……」

日向「だけど、逃げた先にキマリと報瀬が居てさ。
   二人が目的を持ってたからそれに乗っかった形になるんだけど……」

栞奈「…………」

日向「キマリと報瀬だって、その煩わしいモノを持ってるんだと思う。
   それって、誰かと生きていく以上避けられないことだと思うんだよ」

結月「……」

日向「だけど、嫌じゃなかった」

栞奈「……嫌じゃ……ない?」

日向「うん。嫌じゃない。たまに腹が立つし、呆れるし、不快に感じることもある。
   けど、嫌じゃないんだ。きっと、私自身が報瀬とキマリ、ゆづにもそう感じさせてるからだと思う」

栞奈「……」

日向「えっと、何が言いたいかって言うとだ。
   私から見たら、栞奈と大村はそんな風に見えたってこと」

結月「そうですね、私もそう思います」

栞奈「……っ」

日向「だから、どうなりたいかなんて先のことを考えるより、
   栞奈がどうしたいか考えた方がいいと思うよ?」

栞奈「……報瀬と……同じこと言うんだ」

日向「報瀬……?」

栞奈「なんでもない」

結月「日向さん、逃げたって言いますけど……私はそう思わないんです」

日向「?」

結月「だって、逃げてる人が勉強できるわけないです。
   同じ年頃の人たちが出入りする場所で、コンビニでバイトなんて出来るわけないです」

日向「ゆづ~」ダキッ

結月「きゃぁ!?」

日向「そんなこと思ってくれてたのかぁ~」スリスリ

結月「ひ、日向さん……!?」


「結月ちゃん!?」ババッ


栞奈「あ……」


さくら「大丈夫!? 結月ちゃ……ん?」


日向「なるほど~」スリスリ

結月「……なにがですか」

日向「キマリが言う通り、柔らかくて温かくていい匂いだなって」

結月「セクハラは同性でも適用されるんですよ」

日向「あはは、悪い悪い」

結月「……もぅ」



365以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/14(金) 16:08:43.75l1m2r1O+o (19/19)


さくら「今の悲鳴は? 日向ちゃんが原因なの?」

日向「そうです。つい抱きしめてしまって」

さくら「あら、そう」

栞奈「いくら払えば私もそれが許されるんですか?」

日向「これくらいだ」バッ

栞奈「ぐぬぬ……いやしかし、この機を逃せば結月ちゃんを抱きしめることなんてもう叶わない。
   これから先の生活を切り詰めればなんとか」

結月「最低ですね」

日向栞奈「「 冗談だよ冗談~ 」」

prrrrrrrr

日向「あ、もう出発か」

栞奈「……」

さくら「結月ちゃん、もう少しで今日の仕事は終わりだから頑張りましょ」

結月「はい!」

さくら「あら、元気充分ね♪」」

日向「しかし、本当に最低だぞ今の」

栞奈「いやいや、金額を提示したのは日向でしょ」

結月「二人ともです!」



……





366以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/29(土) 11:51:57.05VPz5jp53o (1/7)


―― 食堂車


ガタン

 ゴトン


日向「……」ウトウト

栞奈「……すぅ……ふぅ」


マリ「日向ちゃん、寝ちゃった?」


日向「ん、起きてるよ?」

マリ「……寝たいなら個室に戻ったらいいのに」

日向「大丈夫だよ、眠くないって」

マリ「さっき眠いって言ってたよ」

日向「ん~……」

栞奈「私に付き合ってくれてるから……」

マリ「……?」

栞奈「日向、私は大丈夫だから個室戻って」

日向「ん~……?」

栞奈「ほら、立って~、行くよ~?」

日向「大丈夫、だいじょーぶ。一人で行けるから」

栞奈「本当に?」

日向「うん。ということで、私は寝る!」フラフラ

テクテク

マリ「おやすみ~」


「やすみ~」


栞奈「本当に大丈夫かね?」

マリ「あんなに眠そうなのは初めて見たけど、大丈夫だよ」

栞奈「ならいいけど」

マリ「それより、なにか注文する?」

栞奈「あ、ごめんね、何も頼まなくて……。特に注文は無いんだよね……」

マリ「そうなの?」

栞奈「うん……。今、車内に誰も居なくてさ……みんな寝る準備してるんだと思うけど……」

マリ「そうだね……金沢到着が深夜だから、明日の準備くらいしかすることないよね」

栞奈「そういうことだから、一人でいるより、キマリがいるからここにいるってだけなのだよ」

マリ「わかった。水でも持ってくる?」

栞奈「本当に気を遣わなくていいから。ただでさえ邪魔してるみたいで申し訳なくて……。
    私のことは地縛霊か何かだと思って無視して?」

マリ「畏まりました~」

スタスタ...

栞奈「ふぅ……。あぁ、もう……決意が固まらない……っ」



367以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/29(土) 11:53:21.32VPz5jp53o (2/7)


マリ「料理長~、地縛霊入りました」

料理長「はぁっ!?」

明菜「きゃああ!?」


栞奈「……混乱を招いてしまったようだ」


結月「なんだか騒がしいですね」

栞奈「うーん、私のせいかな……」

結月「また、何したんですか?」

栞奈「何もしてないよ~。やったのはキマリだから」

結月「そうですか。一緒してもいいですか?」

栞奈「いいよ~。って、何か食べるの?」

結月「ちょっと小腹が空きまして。夕ご飯は軽めに食べたものですから」

栞奈「何食べたの?」

結月「天むすを……。キマリさーん」


「はーい。ただいま~」


栞奈「そういえば、私は名物食べてないな……」

結月「注文します?」

栞奈「……食欲無いんだよね」

結月「そうですか……」


マリ「はい、ご注文をお伺いします」


結月「フルーツセットお願いします」


マリ「畏まりました~」

スタスタ...


結月「キマリさんがウェイトレスしているの違和感あったんですけど、
   なんか慣れてしまいましたね」

栞奈「……そうだね」


マリ「フルーツセット入りました~」

明菜「鳥羽さんと白石さん……?」

綾乃「地縛霊なんていないね」

料理長「今日も余った食材で作ってみる?」

マリ「え!? いいんですか!?」キラキラ


結月「お金払いますからちゃんとしたものをお願いします!!!」


マリ「え~……?」



368以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/29(土) 11:55:36.20VPz5jp53o (3/7)


栞奈「どういうこと?」

結月「みことに聞いたんですけど、とんでもないものを作ったとか……」

栞奈「……なるほど」

結月「その、みことの姿が見えませんね……?」

栞奈「もう寝ちゃったんだって。キマリの特製スタミナドリンクを飲んだせいで」

結月「うわ……」


マリ「結月ちゃーん、すっぽんのエキスがまだ残ってて――」


結月「フルーツセットを! ちゃんとしたもので!! アレンジ無しでお願いします!!!」


……




マリ「おまたせしました……フルーツセットです……」

結月「なんで不満そうに持ってくるんですか」

マリ「だって、結月ちゃんの疲れを癒してもらおうと思ったのにぃ」

結月「料理長が手を加えるならいいんですけど」

マリ「……」

結月「なんで黙るんですか?」

マリ「みんなひどい……」シクシク

スタスタ...


栞奈「……」ジー

結月「栞奈さんも良かったら食べます……?」

栞奈「……」ジー

結月「なんですか?」

栞奈「結月ちゃん、あの3人と話してるとき、ややツンツンしてるよね」

結月「ややツンツンとは?」

栞奈「私にはちょいツンツンしてる感じ」

結月「すいません、意味が分かりません。よかったらどうぞ」

栞奈「ありがと……」

結月「料理長のスウィーツも食べたかったんですけど、この時間ですからね」

栞奈「さすがだね、体系管理も気を遣ってるわけだ」

結月「それくらいはしますよ。年頃の女子は特に」

栞奈「まぁ、そうね」


マリ「結月ちゃん、フルーツソースをどうぞ」


結月「あの、カロリーを気にしてフルーツセットだけにしているんですけど……」

マリ「大丈夫だよ、手作りだから」

結月「いえ、あの……お気持ちだけで充分です」

マリ「美味しいと思うんだけどな……」



369以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/29(土) 11:58:17.81VPz5jp53o (4/7)


結月「キマリさんが作ったんですか?」

マリ「ううん、料理長が作ったんだよ。カロリー気にするだろうからって、低カロリーらしいけど……
   気にしてるんならしょうがないよね」

結月「ありがとうございます、それではいただきますね」

マリ「あれ? あれれ?」

栞奈「女の子はね、美味しいものに弱いんだよ」

結月「はむっ……うぅ~ん、甘さ控えめだけど、香りがふんわりとしてますぅ~」

マリ「実は私が作ったんだよね」

結月「嘘ですね。はぁ~、苺の酸味が柔らかくなって、でも甘さはそのままで美味しいです~♪」ウットリ

栞奈「疲れ癒せてるみたいよ。やったね、キマリ」

マリ「もっと……もっとだよ」

栞奈「なにが?」

マリ「もっと私が癒して見せる……!」

テッテッテ


明菜「玉木さん、走ってはいけませんよ」ニコニコ

マリ「ご、ごめんなさい……。料理長! ムースありましたよね!?」

料理長「あるけど?」

マリ「使って良いムース全部私にください!」

料理長「駄目に決まってるだろ!」


結月「何かするつもりですよね……」

栞奈「そうだね……」

結月「もし何か持ってきたら栞奈さん、対応をお願いしますね」

栞奈「結月ちゃんのために持ってきても?」

結月「カロリーの条件を忘れてるみたいですから。一口くらいはいただきますけど」

栞奈「ふぅん……そう……」ニヤニヤ

結月「なんですか?」

栞奈「ツンツンしてるけど、嬉しそうだな~って」

結月「このソースが美味しいですからね……。うーん、りんごも美味しいです♪」

栞奈「からかい甲斐の無いこと……。幸せそうな結月ちゃんみて私も幸せだけど」

結月「栞奈さん、大村さんと話したんですか?」

栞奈「へっ……!?」

結月「まだなんですね」

栞奈「そ、そうね……まだ……」

結月「夜の車内って静かですよね……」

栞奈「……うん」

結月「食べないんですか?」

栞奈「胃が痛くて食欲がなくなったよ……」

結月「……」



370以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/29(土) 12:01:15.10VPz5jp53o (5/7)


マリ「煎茶でございます」


結月「ありがとうございます。これはキマリさんが?」

マリ「……明菜さんが淹れました」

結月「渋めのものが欲しかったので嬉しいですと、お伝えください」

マリ「次は私が淹れますから、乞うご期待」

結月「……期待しています」

マリ「期待してないね。いいもんいいもん」

スタスタ...

結月「いい人たちですよね、ウェイトレスの二人も料理長も」

栞奈「この列車に乗ってる人はみんな、ね」

結月「そうですね」

栞奈「……ふぅ」

結月「もぐもぐ……んんっ、酸っぱいです」

栞奈「パインアップル?」

結月「そうですっ……んん~っ」

栞奈「ふぇ~、酸っぱさに我慢してるところかわいい~」

結月「それで、間もなく到着ですけど、どうするんですか?」

栞奈「うぅっっ……それは……」


マリ「お茶のお代わりはいかがですか?」


結月「まだ入っているんですけど……ちょっと待ってください」

栞奈「くぅぅっ」

マリ「栞奈ちゃん、どうしたの?」

栞奈「結月ちゃんの不意打ちボディブローが効いてて……」

マリ「?」

結月「お願いします」

マリ「はい、どうぞ~」

ジョボジョボ

結月「これは、キマリさんが?」

マリ「ううん、明菜さんが」ニコニコ

結月「……そうですか。……ずずっ」

マリ「どう? どう!?」

結月「さっきより薄い……」

マリ「……」



371以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/29(土) 12:02:09.23VPz5jp53o (6/7)


結月「美味しいです」

マリ「よかった。ちょっとコツを掴んだから~」

結月「明菜さんが淹れてくれたんですよね?」

マリ「……ウン」

結月「それなら美味しいですね」

マリ「ウン……ソウダネ」

スタスタ...

結月「あ、キマリさん、美味しかったですよ……!」


マリ「うん!」


栞奈「……」

結月「栞奈さん、私、これ食べ終わったら個室に戻ろうかと思うんですけど……」

栞奈「うん……」

結月「……もぐもぐ」

栞奈「最初のお茶と今のお茶、どっちが美味しいの?」

結月「どっちも美味しいですよ?」

栞奈「そう……そうだよね」

結月「?」

ガタン

 ゴトン



―― 報瀬の個室


ガタン

 ゴトン


報瀬「……ん?」


報瀬「あれ……走ってる……?」


報瀬「? ……???」


報瀬「まぁ……いいか」


報瀬「……」


報瀬「すぅ……すぅ……」



372以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/02/29(土) 12:20:53.81VPz5jp53o (7/7)


―― 食堂車


結月「キマリさん、ご馳走様でした」


マリ「はーい」


綾乃「今日はもうお休みですか?」

結月「はい、明日の準備……というか、台本を読み直して寝るだけです」

綾乃「そうですか、おやすみなさい」

結月「おやすみなさい」

マリ「今日はもう寝るんだよね、おやすみ。また明日ね」

結月「はい……また、明日」

スタスタ...


マリ「あとは栞奈ちゃんだけだね」

綾乃「なにか難しい顔してる……」

明菜「いまはそっとしておきましょう」

綾乃「……はい」

明菜「玉木さんのおかげで今日は早めに片付けられそうだから、
    到着次第閉めて、明日に備えましょう、とチーフが仰っていました」

マリ「はい!」

綾乃「それじゃ、食器をしまってきます」

マリ「私は……テーブルと椅子を整理整頓して、掃除してきます」

明菜「はい、お願いします」ニコニコ



……




―― 日向の個室


ゴソゴソ


日向「明日は……何時起きだっけ……?」

ピッ

日向「五時……早いか。六時……くらいかな」

ピッ


日向「よし……!」


ゴソゴソ


日向「…………」


日向「……」


日向「すやすや」


……





373以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 01:47:08.98GYsMFmGgo (1/140)


―― みことの個室


みこと「すぅ……すぅ……」


ガタン

 ゴトン



……




―― 食堂車


明菜「チーフ、今日の作業一通り終えました。他にやることありますか?」

料理長「もう終わってしまったのか……。そうだなぁ……明日の準備もやったし……」

綾乃「キマリさんが手伝ってくれたから早く終わってしまいましたね」

マリ「栞奈ちゃん……」


栞奈「……すぅ……はぁ」


綾乃「あ、外がだんだん街並みの景色になってきた」

明菜「到着までもう少しね」

料理長「綾乃は明日の昼から夕方まで休みだったよな」

綾乃「はい、お願いします」

明菜「観光に行くの?」

綾乃「キマリさん達となわとび大会に出るんです」

料理長「ふぅん……」

明菜「応援に行けないけど、頑張ってね」ニコニコ

マリ「はい!」

綾乃「頑張るものなのかな……?」

料理長「それじゃ閉めるよ」

綾乃明菜「「 はい 」」

マリ「料理長!」

料理長「うん?」

マリ「さっき作ったプリン、食べてもいいですか!」

料理長「明日にしなさい」

マリ「待ちきれないです!」

綾乃「プリンおばけ……」

明菜「クスクス」

料理長「それじゃ、7日目、お疲れさま」

綾乃「お疲れさまでした」

明菜「お疲れさまでした」

マリ「お疲れさまでした!」


ガタン

 ゴトン



374以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 01:48:39.20GYsMFmGgo (2/140)


マリ「あれ、プリンのこと流された……?」

料理長「あとは最後のチェックするだけだから、個室に戻っていいよ」

綾乃明菜「「 はーい 」」

マリ「やっぱり流されてる!」ガーン

明菜「それじゃ、また明日ね」ニコニコ

綾乃「はい、また明日」

マリ「また明日~」


栞奈「……」


マリ「栞奈ちゃん、もうそろそろ到着するよ」

栞奈「あ、うん……」


ガタン

 ゴトン


マリ「減速したね」

栞奈「……うん」

マリ「……ね、栞奈ちゃん」

栞奈「うん?」

マリ「明日、楽しもうね」

栞奈「……」

マリ「みんなで世界記録とか目指して、いっぱい跳んで、最後まで」

栞奈「……」

マリ「絶対楽しいよ」

栞奈「うん、それは間違いなく楽しいね」

マリ「だよね!」

栞奈「……よし……!」ガタッ

マリ「おぉっ!」

栞奈「……」ストッ

マリ「なんで座りなおしたの!?」

栞奈「あはは、一応やっておこうかと」

マリ「もう~、ちょっとカッコいいって思ったのに~」

栞奈「ごめんごめん。それじゃ、行こうか」

マリ「うん」


……





375以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 01:51:43.44GYsMFmGgo (3/140)


―― 2号車


マリ「本当に誰も居ないね……」

栞奈「キマリ、ありがとね」

マリ「え……?」

栞奈「報瀬と日向に話聞いてもらって、結月ちゃんにも気にしてもらって、
    キマリに甘えて、ようやく決心がついた」

マリ「……」

栞奈「私もちゃんと相手と、自分にも向き合おうって。だって、後悔したくないから」

マリ「うん……!」

栞奈「器用に生きてきたはずなのに、なんにも手に入らなくてさ。
   不器用なのに、大切な物を持ってるキマリたち見てたら、
   もっと自然に、気楽にしてた方が楽しいんじゃないかって気が付いた」

マリ「そっか……うんうん」

栞奈「もうちょっと肩の力抜いて、……そう、今のような気持ちで」

マリ「……」

栞奈「これからもこんな気持ちでやっていけたらいいなぁ」

マリ「できるよ、栞奈ちゃんなら」

栞奈「うん、ありがと。やっぱり、あれだね。
    見聞を広げないと自分の居た場所がどういうものなのか分からないものだね」

マリ「……ウン、ソウダネ」

栞奈「うーん、生返事だ。……とにかく、一輝とちゃんと話してみる」

マリ「うん」

栞奈「正直、どうして怒らせちゃったのか分からないんだけど……」

マリ「思い当たる節は?」

栞奈「あるにはあるんだよ。やっぱり冷やかしすぎたかなぁ……?」


ガタン


 ゴトン


マリ「あ、到着した」

栞奈「ついに来たか、金沢」

マリ「そうだ、私も確認しておかないと」


……





376以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 01:53:40.52GYsMFmGgo (4/140)


―― 寝台車


マリ「……よし、と」ポチポチ

栞奈「誰に連絡してるの?」

マリ「明日になったら分かるよ」

栞奈「ふぅん……って、寝台車に来ちゃったか」

マリ「それじゃ、また明日~」

スタスタ...

栞奈「うん、明日~……って、キマリ、個室戻らないの?」


「車掌さんとこ行ってくる~」


栞奈「どうしたんだろ? まぁいっか。私は、自分のこと考えなきゃ」


栞奈「えっと……一輝の個室は……」


栞奈「……」ゴクリ


栞奈「……」


コンコン


栞奈「一輝……話があるんだけど――」


……





377以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 01:55:33.42GYsMFmGgo (5/140)


―― 動力車


コンコン


マリ「……」


ガチャ

車掌「あら? どうかなさいましたか?」

マリ「忙しいところすいません……。あの、乗車証のことで聞きたいことがあって……」

車掌「はい、なんでしょうか?」

マリ「乗車証の有効期限って、東京までですよね?」

車掌「はい、玉木さんの有効期限はそうなります」

マリ「延長……というのは出来るのでしょうか?」

車掌「はい、可能ですよ。東京以降となりますと、仙台、青森、札幌……終点の稚内までになりますね」

マリ「……そうですね」

車掌「お悩みですか?」

マリ「そうなんです。どうしようかと――」


ドタドタドタ


「車掌さん!!」


車掌「あら……?」

マリ「栞奈ちゃん……?」


栞奈「車掌さん……ッ!」


車掌「鳥羽さん、夜はお静かに」

栞奈「はいっ……すいませんッ! 一輝は……!!」

マリ「?」

栞奈「一輝は……!?」

車掌「――……」

マリ「大村君がどうしたの?」

栞奈「個室に居なくて……! ドア開いてたから……中見たら空っぽで……!!」

マリ「え……?」

車掌「大村一輝さんは、降りられましたよ」

栞奈「え――?」

マリ「降りた……!?」

車掌「はい、着いてすぐに」

栞奈「う…そ……」

車掌「乗車証を返されまして、そのまま降りられました」

マリ「……栞奈ちゃん……」


栞奈「嘘……謝らせてもくれないの……?」


マリ「栞奈ちゃん、着いてすぐ降りたなら追いかければ間に合うよ!」


栞奈「…………」



378以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 01:57:01.17GYsMFmGgo (6/140)


―― 金沢駅・前


ブオォォォオオ


...タッタッタ


マリ「ハァッ……ハァ……ッ」

栞奈「ッッ!」


マリ「ハァ……はぁ…………はぁ……」

栞奈「い……ッ……居ない……か……」


マリ「……栞奈ちゃん…」

栞奈「みんなにさ……ッ……支えてもらって……ッ」


マリ「……」

栞奈「背中押してもらって! やっと……決心がついたと思ったらこれだ!」


マリ「栞奈ちゃん……」

栞奈「なんで私いつもこうなんだろ……! あぁもう自分が嫌になる!!」


マリ「栞奈ちゃん……!」

栞奈「こんなことになるならデネブになんか乗らなければ――!!」


マリ「栞奈ちゃん!!」

栞奈「ッ!」ビクッ


マリ「まだ、終わってない」

栞奈「……」

マリ「この旅はまだ終わってない」

栞奈「……」

マリ「終わってないよ」

栞奈「……」


マリ「今日はもう寝よう。そして、明日だよ」

栞奈「なんで終わってないって言えるの? もう私の旅は終わったようなものじゃない?」

マリ「どうして終わったって言えるの?」

栞奈「結局何も変わらなかったからだよ。
   楽しい思い出を守るために行動したのに……しようとしたのに、意味が無かった」

マリ「意味が無いことなんてないよ」

栞奈「……」

マリ「車掌さん、何も聞いてないって言ってた」

栞奈「……乗車証返されたって言ってたじゃん」

マリ「それだけだよ」

栞奈「……?」



379以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 01:58:09.40GYsMFmGgo (7/140)


マリ「乗車証返されただけ。それから慌てて降りて行ったってだけ」

栞奈「何が言いたいのかよく分からない」

マリ「お礼を言われたって、車掌さん言ってない」

栞奈「だから、何が言いたいのか――」

マリ「大村君の旅もまだ終わってないんだよ」

栞奈「――……」

マリ「栞奈ちゃん、大村君は挨拶も無しに、お礼も言わずにお別れする人?」


栞奈「……」


マリ「……」


栞奈「ううん」


マリ「……」


栞奈「ぶっきらぼうで、常にイライラしてるような態度してて、口も悪いけど……」


栞奈「礼儀はちゃんとしてるから」


栞奈「この旅は悪くないって言ってたから」


栞奈「こんな終わり方はしない……と、思う」


マリ「うん」


栞奈「……」


マリ「今日はもう寝よう」


栞奈「……うん」



……





380以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 01:59:33.63GYsMFmGgo (8/140)


―― マリの個室


マリ「すぅ……すぅ……」


pipipipi


マリ「う……ん……」


マリ「すぅ……」


マリ「この秘密、暴いて見せようか」


マリ「すぅ……すぅ……すぃ……」


≪   ―― 昼には着くと思う。 ≫


マリ「しぃ……すぃ……すぅ……」


……





381以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 02:02:11.74GYsMFmGgo (9/140)


8月8日



―― 金沢駅



マリ「アレは、鳥居?」

報瀬「違うでしょ」

日向「あれはな、鼓門と言うんだよ。世界で最も美しい駅に選ばれたんだってさ」

マリ「最も美しいの!?」

報瀬「へぇ……」

日向「あ、いや……14つくらいに入るよ~ってことで……」

マリ「報瀬ちゃん写真撮って!」

報瀬「はいはい……。それじゃいくよー」

マリ「この距離だと門が入らないよ?」

報瀬「……はいはい。ちょっと待ってて」

スタスタ...

日向「歩かせるのかよ」

マリ「あ、ごめんね、報瀬ちゃーん」


「いいから、ほら、撮るよー」


マリ「日向ちゃんも一緒に! はい~、チーズ!」

日向「お前が言うのか! チーズ!」

パシャ


日向「それはそうと、ゆづ達おっそいな~」

マリ「そろそろ来るよ。ありがと~、報瀬ちゃん」

報瀬「どういたしまして。それで、どうするの?」

マリ「私は兼六園に行きたいんだ~」

日向「報瀬は?」

報瀬「私は武家屋敷かな」

日向「渋いな。私は先に片町へ行ってみようかな?」

マリ「何かあるの?」

日向「漆塗りとか焼き物とかあるってさ」

報瀬「漆器と陶器ね……。どっちが渋いんだか」

マリ「器とか興味あったんだ?」

日向「まぁ、なくはないってところだ。時間はたっぷりあるし、後でどっか行くかもな」

報瀬「今はまだ7時……。時間はたっぷりある……けど」

マリ「私も兼六園行った後に輪島に行ってこようかな」

報瀬「兼六園の隣に金沢城があるから。キマリはそこで満足して、ね?」

日向「な?」

マリ「……なんか、この旅で私が時間にルーズというレッテルが貼られた気がする」



382以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 02:03:17.26GYsMFmGgo (10/140)



結月「どこへ行くかって話してたんですか?」


結月「おぉ、ゆづ。そうだよ、午前中はどこ行くかって話」

マリ「おはよう~」

報瀬「おはよう、3人とも」


みこと「おはよう……」

栞奈「……」


日向「うわ、栞奈の顔ひっどいな」

報瀬「本当だ……太陽の光が恨めしいって顔してる」

栞奈「…………うん」

みこと「眠れなかったみたい」

マリ「みこっちゃん、持ってるそれはなに?」

結月「アイマスクです。栞奈さんに、移動中寝てもらうとかなんとか」

日向「……話は聞いてるけど、かなり堪えてるみたいだな」

報瀬「うん……」

栞奈「……」

マリ「お兄さんは?」

みこと「さっき声かけてきたよ。現地集合するって」

マリ「そっか……。じゃあ、午後まで各自自由だね」

日向「そうだな! 午後は片町の会場に集合ってことでいいな、みんな!」

マリ「おー!」

報瀬「うん、分かった」

結月「はい、分かりました」

みこと「……」コクリ

栞奈「……」


……





383以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 02:06:27.50GYsMFmGgo (11/140)


―― 昼前:金沢城・公園


ミーンミンミン

 ジーワジーワ


「……暑い」

「はい……暑いですね……」

「会場、ここで合ってる?」

「……はい。片町の公園が会場ですから……」

「まぁ、スタッフや他の参加者もいるし……なにより弾幕もあるからな」

「ですよね……」

「肝心のキマリたちの姿が無いんだが……」

「ですよねぇ……」


秋槻「あれ……居ない……何で居ないんだ……?」キョロキョロ


「向こうの屋台に居るかもしれないから、見てみよう」

「そうですね。……お金持ってるのかな、お姉ちゃん…」

スタスタ...


秋槻「うーん……。高いところから見てみるか……」

スタスタ...


……





384以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 02:12:27.45GYsMFmGgo (12/140)


―― 夕方:金沢城・公園



...ダダダダッ


マリ「ひいっ、ひぃッ!」

結月「つ、着きました……!」

日向「受付ッ、受付はどこだッ!」

報瀬「結構開けた所なんだ……。あ、あっちじゃない!?」

みこと「くっ……ふっ……!」

栞奈「み、みことちゃん、呼吸整えて……」

みこと「ふぅ……ふぅぅ……はぁ」

マリ「えっと、どうしよう! 人足りてないよ!」

日向「とりあえず、順番聞いておけばいいから! 人数は後だ!」

マリ「わ、分かった」

タッタッタ

報瀬「はぁ……はぁ……もう!」

結月「だから言ったのに!」

日向「そうだぞ、栞奈!」

栞奈「違うでしょ! 日向も試食してたでしょ!?」

みこと「ぐっ……ごほっ」

「ほらよ、水。……口付けてないから」

みこと「う、うん……ゴクゴク」

「相変わらず騒がしいな、お前ら……」

報瀬「おかげで武家屋敷行けなかったじゃない!」

結月「……」

日向「私は漆塗り見れたからいいんですけどね!」

栞奈「なに満足してるの!? 私も食べ歩きしたかったのに!」

みこと「栞奈さん、煎餅と輪島サイダー飲んでた」

栞奈「美味しかったけど! 日向たちが海鮮ものを試食してたのズルい!」

結月「あの、栞奈さん」

報瀬「マグロ、解体、見た、凄い、私、感動」

栞奈「原始人みたいなしゃべり方するほど!? 見たかったなー!」

日向「いや、だから……カニとか買って料理長に渡したじゃんか」

栞奈「え、……ということは、私も食べられるの?」

日向「具材さえ買ったら料理するって言ってくれただろ」

栞奈「あれ、そういうことだったの?」

みこと「うん、料理長も一緒に居たよ」

栞奈「なんだ、そういうことは早く言ってよ」

報瀬「武家屋敷……」

「……」



385以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 02:15:18.62GYsMFmGgo (13/140)


結月「あの、栞奈さん……」

栞奈「うん? どうしたの、結月ちゃん」

結月「後ろ……」

栞奈「?」クルッ

「どこ行ってたんだよ?」

栞奈「え――……、一輝……?」

一輝「なんだよ?」

栞奈「…………」

結月「輪島の朝市に行っていたんです」

一輝「輪島? 結構遠いんじゃないのか」

日向「いやぁ、朝に行動開始したんだけど……会場と目的地が一緒だからさ」

報瀬「他に行きたいところ先に行こうってなって。キマリの案に乗ったら……このありさま」

みこと「現地に居たの、30分も無かった」

一輝「それはご苦労なことだ……。あれ、どこ行った?」キョロキョロ

日向「というか、いきなり降りるなよな~」

一輝「なにが?」

日向「誰にも言わずに降りただろ、びっくりしたんだからな」

一輝「秋槻さんにメモ渡したんだけど。急いでるから降りるって。明日の大会には行くからって」

日向「聞いてないけど?」

一輝「あ、なんであんなに離れてんだよアイツ」

報瀬「?」

一輝「おい、こっちこいって」


「……」


結月「誰ですか、あの男の子」

日向「お、可愛いな~。女の子みたい」

みこと「うん」

栞奈「ひょっとして、妹?」

一輝「うん、俺の妹」

妹「……」

日向報瀬「「 えッ!? 」」

結月「だって、男の子の服着てますよ?」

一輝「可愛い服とか嫌がるんだよ」

妹「兄ちゃん……この人たちが旅仲間なの?」

一輝「バッ……ち、違……!」

栞奈「へぇ……」ニヤニヤ

日向「ふぅん……そう言ってたのか」ニヤニヤ

一輝「チッ……」

妹「……」



386以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 02:17:47.93GYsMFmGgo (14/140)


みこと「あ……」


秋槻「あぁ、やっと来た……。来ないからどうしようかと思ったよ」

綾乃「本当に……」


結月「秋槻さんと綾乃さん、もう来ていたんですね……」

日向「二人とも待たせてごめんな~」

秋槻「どこ行ってたの? もう大会も終わるよ?」

みこと「終わり?」

綾乃「今の人たちが最後ってさ」

日向「えーーッ!?」

報瀬「はぁ……なにそれ」


「きゅうじゅうきゅー!」

「ひゃーっく!!」


「やったー!!」

「よっしゃー!」


ワァァアアア!!!


司会「おめでとうございます! 100回達成しました!」


結月「盛り上がっていますね」

一輝「100回達成したの今のチームだけだからな」

妹「兄ちゃん、お腹空いたぁ」

一輝「お前、さっき何もいらないって言ってただろ」

妹「そうだけどぉ」

一輝「しょうがねぇな……」

報瀬「妹には優しいんだ」

一輝「別に……優しいとかじゃないですけど……」

日向「キマリは何してるんだ?」

みこと「まだ戻ってきてない」

秋槻「あっちの店のケバブが美味しかったよ」

妹「食べたい!」

一輝「分かったから。じゃ、ちょっと俺たち行って――」


マリ「みんな、みんなー!」

「……」

「……」




387以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 02:20:29.66GYsMFmGgo (15/140)


結月「戻ってきましたね」

報瀬「慌てて、どうしたんだろう?」

日向「……あれ、後ろに居るのって」

結月「リンと……?」

報瀬「――……」

みこと「……?」

栞奈「誰かな?」


マリ「良かった! 大村君とお兄さんもちゃんといる!!」


一輝「……」

秋槻「せっかく集まったけど、もう時間が無いんじゃないかな」

綾乃「うん、一人足りないし」

マリ「大丈夫! すぐに向こうに行って跳ぶよ!」


一同「「「 えっ!? 」」」


マリ「みんな、移動移動~! 急いで~!!」


……




司会「さぁ、大遅刻の『チーム・デネブ』のみなさん、準備はよろしいでしょうか」


マリ「はい、バッチリです」

日向「待て待て待て待て! ちょっと待てキマリ!」

マリ「?」

結月「すいません、あと少しだけ待っていただけますか?


司会「はい、分かりました」



マリ「どうしたの?」

日向「どうしたの、じゃない。
    いきなり集めて、さぁ跳ぶよじゃ上手くいくものも上手くいかないだろ」

報瀬「……」

みこと「キマリさん、紹介して……?」

「……」


マリ「あぁ、そうだね。えっと、向こうに居るのが、私の妹のリンだよ。
   それで、こっちが私の幼馴染で『親友』の――」

「高橋めぐみ、です」ペコリ

マリ「めぐっちゃん!」


報瀬「…………」


栞奈「……あの、さ」

一輝「なんだよ?」



388以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 02:21:54.51GYsMFmGgo (16/140)


栞奈「報瀬、変じゃない?」

一輝「変……?」

栞奈「なんかね、表情が険しいって言うかね」

みこと「……うん」

栞奈「みことちゃんもそう思う?」

みこと「なんだか、怖い」

一輝「……確かに」


報瀬「…………」


マリ「で、めぐっちゃん。旅の途中で出会った、秋槻さんに、大村君、栞奈ちゃん、みこっちゃん!」

めぐみ「どうも。キマリがお世話になっています」ペコリ

秋槻「いえいえ」ペコリ

一輝「……ども」

栞奈「本当に、お世話しています」ペコリ

みこと「……」ペコリ

マリ「食堂車でバイトしている、綾乃ちゃん」

綾乃「よろしくお願いします」ペコリ

めぐみ「うん、よろしく」


マリ「よし、それじゃ――」

日向「次は作戦だ。私が順番を決めるぞ」

マリ「順番?」

日向「並びだな。適当に配置してもよくないだろ」

結月「意味あるんですかね」

日向「もちろんある。先頭は――キマリ!」

マリ「うん!」

日向「次は――ゆづ!」

結月「はい」

日向「その次が私で――順に、

   綾乃、

   栞奈、

   大村、

   秋槻さん、

   みこと、

   めぐみちゃん

   報瀬、で行くぞ!」   

マリ「オッケー! じゃ並んで並んで」

栞奈「一輝、変なとこ触らないでよ」

一輝「うるせえ」



389以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 02:23:36.13GYsMFmGgo (17/140)


秋槻「……マズい」

みこと「どうしたの?」

秋槻「いや、なんでもない」

みこと「……?」

めぐみ「……」

報瀬「……」


マリ「そういう作戦なんだ……。ありがとう日向ちゃん」

結月「報瀬さんを最後尾にしたのには、なにか意味があるんですか?」

日向「私もあの二人の話は聞いてるから」

結月「あの二人になにかあったんですね……」

マリ「まぁ、うん。めぐっちゃん、謝ったんだけどね……」

日向「そこは二人の問題だな。よし、それじゃ報瀬!」


報瀬「……?」


日向「始まる前に、一言頼んだ!」


報瀬「えっ!? 私が!?」


綾乃「?」

栞奈「なぜ?」

一輝「……?」

秋槻「……目が……乾いてきた」

みこと「報瀬さん……?」

めぐみ「……」


報瀬「わ、私たち出会って一週間しか経ってないけど!
   過ごしてきた時間はそれ以上だから! それ以上ないほど跳べる!!」


綾乃「どういう意味~?」

栞奈「クックック、良いこと言うじゃん報瀬~」

一輝「マジか……」

栞奈「足引っ張らないでよ、一輝」

一輝「お前もな」

秋槻「……ふぅ」

みこと「……っ」

秋槻「大丈夫、楽しめばいいんだよ」

みこと「う、うん」

秋槻「回数指定してないし――」


マリ「めぐっちゃん、目標は!?」


めぐみ「――に、にひゃく!!」


綾乃「……!?」



390以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 02:25:26.41GYsMFmGgo (18/140)


栞奈「プッ、アハハハ! さすが幼馴染!」

一輝「マジか!」


日向「よく言った、めぐみちゃん!」


秋槻「……やってやろうじゃないか」

みこと「……ふふ」

秋槻「?」

みこと「――楽しい」


司会「準備はよろしいでしょうか!」


マリ「はい!」


司会「今話題の超特急列車に乗車している、チーム・デネブのみなさんです!」


結月「なんだかドキドキしますね」

マリ「うん! みんなとどこまで行けるんだろうってワクワクする!」

結月「ですね!」


日向「みんなー! 行くぞーー!!」


マリ結月「「 おぉーー!! 」」

綾乃栞奈「「 オー―!! 」」

一輝「よし、来い……!」

秋槻「……ふぅぅ」

みこと「オー……!」


めぐみ「……私は乗客じゃないんだけど」

報瀬「200回越えたら、許す」

めぐみ「分かった」

報瀬「……」フンス!


司会「最後なので制限は付けません、存分に跳んでください!!」


「がんばれー!!」

「目指せ新記録!」


結月「応援してくれてますね」

マリ「ニヒヒ」


司会「それでは回してください!!」


係員「行きます!」


マリ結月日向「「「 せーーっっの!! 」」



391以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 02:27:18.82GYsMFmGgo (19/140)


綾乃栞奈一輝「「「 せーーっっの!! 」」

秋槻「……!」フラッ

みことめぐみ報瀬「「「 せーーっっの!! 」」」


ぶんっ


マリ結月日向「「「 イーーチ!! 」」


パシッ


秋槻「――!?」

みこと「いーち……?」


綾乃栞奈一輝「「「 にーぃ……? 」」」

めぐみ「……ん?」

報瀬「え……」


司会「おや? 止まってしまいました……」


マリ「え?」

結月「?」

日向「ストーップ!! みんな動くなよー!!」


綾乃「えっと……?」

栞奈「どうしたの?」

一輝「……誰だ、跳べなかったのは?」

秋槻「……」サッ

みこと「――!」

めぐみ「……」


日向「縄を越えていないのは誰だー!?」


報瀬「違う!!」


日向「報瀬!! おまえかー!!」


報瀬「違うってば!!」


マリ「えぇ……」

結月「報瀬さんが……?」

綾乃「ウソぉ……」

栞奈「あれだけ士気を上げてたのに……」

一輝「マジか……」



392以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 02:29:27.91GYsMFmGgo (20/140)


秋槻「…………」

みこと「……」クイッ

秋槻「……はい」

みこと「……」


日向「お前だけ縄越えてないじゃないか!」

報瀬「だ、だからそれは! ジャンプした後に戻ってきて!」

日向「そんな都合よく行くか~?」

報瀬「本当なんだって!」


秋槻「はい……」スッ


マリ「ん?」

結月「日向さん!」


日向「信頼に傷をつけるようなこと――……どした、ゆづ?」

報瀬「私じゃない!」


結月「秋槻さんが手を挙げてます」


日向「?」


秋槻「はい……跳べなかったのは私です」


日向「はい?」


一輝「でも、縄を越えてますけど……?」


秋槻「移動して縄を越えたように見せました。つまり、隠蔽しました」


日向「マジか、みこと」


みこと「うん……っ」

めぐみ「縄が戻ってきたのは本当」


報瀬「……」


日向「あ、秋槻悟さん~~!! あなたって人は~~!」アセアセ


報瀬「日向……」ゴゴゴ


日向「すいませんでしたー!」ペコリ


報瀬「信頼がどうとか言ってたよね」ゴゴゴ

日向「いや、あはは~、誰だって間違えることってあるよな~」アハハ

報瀬「それで言い逃れできると思ってるの?」ゴゴゴ

日向「ハイ、ゴメンナサイ」



393以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 02:31:37.76GYsMFmGgo (21/140)


秋槻「はは……面目ない……」


みこと「ぷふっ……」


結月「みこと……?」


みこと「ふふふっ、大人ってズルい」


秋槻「つい、罪から逃れようとしてしまいました……」


みこと「ふふっ、ふふふ」


めぐみ「キマリ、1回も跳べなかったという結果なんだが」

マリ「そう……だね」

結月「フフッ、私たち、1回も跳べませんでしたね」

綾乃「ね~。10回は跳べると思ってたのに」

栞奈「アハハハ、私たち1回も跳べてないよ一輝!」

バシバシ

一輝「痛いから叩くな! でも、笑うしかないなこれ」


報瀬「私は跳んだけどね」フフン

日向「ソウデスネ」


秋槻「……ハハ」

みこと「ふふ、あはは」

めぐみ「ふふ、群馬から来て結果がこれなんて」

マリ「私も予想外だったよ、あははは」


「ワハハハ!」

 「ハハハハ!」



男「……」

パシャ



司会「もう一度挑戦できますよ?」


マリ「いえ、私たちの結果は0回で!」


……




秋槻「……」フラフラ

みこと「あっちにベンチがあるよ」

秋槻「うん……」フラフラ

みこと「……」



394以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 02:33:58.84GYsMFmGgo (22/140)



秋槻「ふぅ~……」ストッ

みこと「眠たいの?」

秋槻「んー……さすがに二徹はね……」

みこと「……徹夜二回?」

秋槻「……仮眠……くらい……ね」

みこと「……」ストッ

秋槻「……すぅ」

みこと「……?」

秋槻「すぅ……すぅ……くぅ……」

みこと「……寝ちゃった」


男「こんなとこに居たのか……」


みこと「?」


男「あーぁ、だらしない顔しちゃって……」スッ


みこと「あなたは?」


男「そこでアホ面で寝てる男の友人」


秋槻「すぅ……す…ぅ」

みこと「……」


男「君は写らないようにするから安心して」


みこと「……」

秋槻「くぅ……かぁ……」


男「……当の本人が安心しきってるのがなんともまぁ…」


日向「なんだなんだ?」

マリ「写真かな?」

報瀬「記念撮影?」

結月「寝てる人をですか?」


男「あぁ、君たちは同じ列車に乗ってるんだったね」


栞奈「そーなんですよ」

一輝「あなたは誰なんです?」


男「悟の友人」


綾乃「悟?」

めぐみ「?」

リン「誰、お姉ちゃん?」

マリ「秋槻さんのことだよ、リン」



395以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 02:36:45.47GYsMFmGgo (23/140)


リン「だから、誰なの?」

めぐみ「名前を言われても分からないな?」

妹「?」

報瀬「そこで寝てる人」


秋槻「すぅ……くぅ……」

みこと「……」


日向「よし、みんな入れ入れ」

結月「邪魔じゃないですか?」


男「クカカ、いいよ、入って入って」


報瀬「変な笑い方してるけど大丈夫なのこの人?」ヒソヒソ

栞奈「大丈夫じゃない? みことちゃんも警戒してないし」

一輝「どんな基準だよ」

妹「……」

マリ「めぐっちゃんもリンも入って入って~」

めぐみ「いいのか?」

リン「私たち乗客じゃないよ?」

マリ「いいって、ほら早く~。みこっちゃん、隣座るね~」

みこと「うん」

秋槻「すぅぁ……んん……」

日向「みんな、ベンチを囲め囲め」

報瀬「はいはい」

結月「いいんですかね、一人だけ爆睡してるのに」


男「じゃ、撮るよ。ハイ――」


マリ「金沢城!」


パシャ


男「写真は後でソイツに渡しておくから。それじゃ」

スタスタ...


みこと「……」

秋槻「くぅ……すぅ……」

マリ「行ってしまったね」

報瀬「それで、これからどうするの?」

日向「閉園まで出店やってるみたいだから見てみよう」

栞奈「賛成~、私お腹すいちゃって」

一輝「輪島で食べなかったのか?」

栞奈「まぁ、うん」



396以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 02:38:24.61GYsMFmGgo (24/140)


妹「兄ちゃん~」

一輝「分かってるよ、ケバブだろ?」

妹「うん!」

栞奈「一輝、食べたことあるの?」

一輝「いや、無いけど……」

栞奈「フッ、時代に取り残されてるね、あんた」

一輝「ファーストフード食べたことなかったお前に言われたくないけどな!」

妹「……」

栞奈「あります~、ハンバーガーくらいあります~」

一輝「おとといの話だろうが」

スタスタ...


「おいしかったね、京都のハンバーガー」

「観光地で全国チェーンの店入るとか信じられねーよ」


妹「……兄ちゃん!」

日向「あー、妹ちゃん、私たちと行こう」

妹「……」

マリ「綿あめ買ってあげるよ! たこ焼きもあるよ! 焼きそばも可!」

リン「お姉ちゃん……渡したお小遣い全部使っちゃいそう……」

めぐみ「ありえるな……」

結月「あれ、報瀬さんは?」

綾乃「武家屋敷行くってさ。私もデネブに戻るから、また後でね」

結月「また単独行動ですか……。はい、また後で」


みこと「……」

秋槻「くぅ……くぅ……すぅ」


マリ「みこっちゃん、どうする?」


みこと「此処に居る」


マリ「うん、分かった。お兄さんが起きたらおいでね~」

妹「もう、兄ちゃんってば……!」

日向「まぁまぁ、あの二人は大事な話があるから、二人だけにしておこう」

スタスタ...


みこと「……」

秋槻「すぅ……ん…ん……――りさ―」

みこと「……?」

秋槻「……ん……ん?」

みこと「起きた?」

秋槻「あ……うん、……寝てたのか、俺……」

みこと「10分くらい……?」

秋槻「そっか……、ふぁぁ……!」ノビノビ



397以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 02:40:26.07GYsMFmGgo (25/140)


みこと「どんな夢を見てたの?」

秋槻「ん……懐かしい……夢……だったな……?」

みこと「ありさ、さん?」

秋槻「……どうしてその名前を……って、電話に出たんだっけ……?」

みこと「うん……。それに、寝言……言ってた」

秋槻「……マジか。……懐かしい夢見てたせいだな……格好悪い……ふぁぁああ」

みこと「……高校の時の人?」

秋槻「ん……まぁ……」

みこと「好きだった人って……」

秋槻「まぁね。それより、みんなどこ行ったの?」

みこと「屋台見て回るって……」

秋槻「それじゃ、俺たちも行こうか」スッ

みこと「……今でも……その人のこと……好きなの?」

秋槻「いや、そんなことないよ。なんであんな夢を見たのか分からないけど」

みこと「……」

秋槻「それに彼女――……ありさは結婚するから」

みこと「え――」

秋槻「先日の連絡はその報告だったんだよ。披露宴に出席するのかって」

みこと「……」

秋槻「ほら、行こう。お腹減ってしまったよ」

みこと「……うん」


……





398以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 02:57:58.13GYsMFmGgo (26/140)


―― 夜・デネブ・展望車


日向「えー、乾杯の前に、みんな、スポンサーにお礼を言うようにー」


一同「「「 ありがとうございました! 」」」


秋槻「はは……いいよ、これくらいでお詫びが出来るなら安いもんだから」

結月「食べ物や飲み物以外にも……料理代金まで払ってもらって……申し訳ないです」

秋槻「いや……本当にね、気にしないで欲しいんだ。
    俺のせいで遠路はるばる来てもらったのに」

めぐみ「というより、私たちも此処に居ていいのか……?」

リン「うん……いいの? おねえちゃん……?」

マリ「大丈夫。車掌さんに話したら『今回だけですよ、ウィンク』ってオッケーもらったから」

報瀬「ウィンクを口にしたらダメでしょ」

栞奈「屋台で食べきらないで良かった……! 良かったよぉ!」

みこと「……」

一輝「俺たちも後でお礼言わないとな」

妹「うん……」

日向「どこかお店を借りてって案もあったんだけど、
    せっかく料理長が調理してくれたんだからさ、ここで食べたいだろ?」

マリ「うん!」

秋槻「本当に、これくらいなら安いもんだから」

結月「……ですね」


日向「それでーはー、改めまして。なわとび大会は惜しくも入賞には至りませんでしたが、
   私たちらしい、いい結果になったと思います」


一輝「本当にそう思ってるのか」

栞奈「艱難辛苦を乗り越え辿り着いた奇跡としか言えない数字、それはゼロ。
    無限を現す数字、それはゼロ。故に、満願成就に至る訳よ」

一輝「適当言うな」


日向「大村もここまで栞奈役お疲れ~」


一輝「お、おう……」

妹「カンナ役?」

報瀬「あのお姉ちゃんの相手してくれたんだよ」

妹「兄ちゃんが? どうして?」

報瀬「ウマが合うってこと」


日向「この旅も終わりが近づいているので、今日は存分に楽しもう! 
    ってことで、カンパーイ!」


「「「 カンパーイ! 」」」



399以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 02:59:52.01GYsMFmGgo (27/140)


みこと「……」

マリ「カンパ……! あれ、みこっちゃんどうしたの?」

みこと「え? あ……!」

結月「乗り遅れてしまいましたね。日向さん」


日向「はいよ。じゃ、もう一回、カンパーイ!」


「「「 カンパーイ!! 」」」

みこと「か、乾杯……!」

マリ「イェーイ!」

栞奈「一輝は始発から乗ってたんだっけ?」

一輝「いや、福岡から。ほら、美味しいから食べてみろって」

妹「貝……嫌い……」

一輝「じゃあ俺が食べるな。もぐもぐ……うん、美味しい」

妹「……」

マリ「調理した人が一流だからね!」エッヘン

リン「お姉ちゃん……」

めぐみ「なんでキマリがしたり顔なんだ?」

日向「良く知る人だからな。金沢までなんの用だったんだ?」

一輝「まぁ、ただの旅行だ。特に理由は無かったんだよな」

秋槻「もぐもぐ……。当てのない旅ね」

みこと「……」

一輝「旅って言えるほどじゃないですけどね。ほら、もう無くなっちゃうぞ」

妹「……食べる」

栞奈「うへへ、お嬢ちゃんカワイイね、歳いくつ?」

一輝「危ない人に見えるから止めろ!」

妹「10歳……」モグモグ

栞奈「そっかぁ、4年生かぁ……うちの弟と同じくらいだねぇ。これも美味しいからお食べ~」

一輝「弟、中学生って言ってなかったか?」

栞奈「同じくらい、って言ったでしょ」

一輝「くらいの範囲が広すぎるんだよ」

栞奈「この魚ね、出世したら鰤になるんだよ」

妹「もぐもぐ……」ジー

一輝「? なんだよ?」

妹「別に……」

日向報瀬「「 兄妹だ! 間違いなく兄妹だ! 」」

一輝「そんなハモらなくても……」


結月「なんだか柔らかくなりましたね、大村さん。妹さんが居るからでしょうか」

マリ「旅の終わりだからじゃないかな?」

結月「あぁ、そうかもしれませんね。なんとなく分かります」

みこと「……」



400以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 03:00:58.35GYsMFmGgo (28/140)


マリ「みこっちゃん、さっきから元気ないね? 美味しいからちゃんと食べないと」

みこと「うん……」

報瀬「どうしたの?」

みこと「……ううん、なんでもない」

結月「ほら、言って?」

みこと「…………」

結月「思ってること、言ってみる。それが、色んな事に繋がるから」

みこと「――……」

秋槻「……」モグモグ


みこと「結月さん、東京まで……?」


結月「うん、撮影もそこで終わりだから。次の仕事もあるし」


みこと「報瀬さん、日向さんは……明後日……?」


日向「そうだな……。高崎で終わり」

報瀬「松本の次になる」


みこと「キマリさんは?」


マリ「私は――……ちょっと悩み中……あはは」


一輝「お前どうすんだよ」

栞奈「私も……最後まで行こうかなって」

一輝「……」


みこと「ずっと……続けばいいのにって……思って」


結月「……」

報瀬「……」

日向「……」


マリ「すごいよね、旅って」


みこと「え?」


マリ「めぐっちゃん、リンも……二人が此処に居ることがすごい」


めぐみ「……?」

リン「どういうこと?」


マリ「だって、数日前……、ううん、数時間前までは、ここで、こんな人たちが居るって知らなかったでしょ?」


めぐみ「まぁ、うん」

リン「……」コクリ



401以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 03:03:12.72GYsMFmGgo (29/140)


マリ「私も、デネブちゃんに乗る前は知らなかった。
   みこっちゃんが居ること、秋槻さんが居ること、大村君が居ること、栞奈ちゃんが居ること」


みこと「……」

秋槻「……」

一輝「……」

栞奈「もぐもぐ」


マリ「たった数日だけど、友達が出来た」


みこと「友達?」


マリ「ひぐっ」グスッ


日向「だから、泣くな」


みこと「旅仲間……じゃないの?」


報瀬「たった数日でも、友達になれる」

結月「同じものを見て、同じものを食べて、同じ時間を過ごして、同じ気持ちになれば」


マリ「きっと、良いところを見せる必要ないから。
   ありのままの自分を見せても、問題ないから」


栞奈「……」


マリ「そんな人たちと出会えるから。旅って――……すごいんだ……!」


みこと「……うん!」


一輝「始まりがあれば終わりはある。出会えば必ず、別れは来る」

妹「お母さん言ってたよね」

一輝「……うん」


みこと「……」


一輝「忘れなきゃいいんだよ。こんな濃い毎日なんてそうそうないからな」

妹「兄ちゃん、忘れない?」

一輝「忘れたくても忘れられないだろ。こんな連中のこと」

栞奈「かぁー、素直じゃないねぇ」

一輝「誰だよお前は」


マリ「だから、怖くない。むしろ、嬉しいことだよ」

みこと「うん……!」

秋槻「人は生まれながらにして旅人」

報瀬「え?」

秋槻「あ、いや……昔の曲で、そういうフレーズがあってね」



402以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 03:05:49.82GYsMFmGgo (30/140)


日向「人は生まれながらにして旅人である! ――三宅日向!!」


結月「自分が言ったことにするんですか!」

日向「あはは、ダメですかね?」

秋槻「オッケーだよ」

日向「よっしゃ!」

報瀬「著作権に触れてない?」

日向「真面目か!」

みこと「ふふっ、ふふふ」

日向「あははっ」

一輝「ふっ、ははっ」

栞奈「くっくっく、あははっ」

報瀬「フフッ、あはは」

結月「ふふふっ、バカなやりとりなのに、笑ってしまいますねっ」

めぐみ「これは、一体……?」

リン「みなさんにしか分からない雰囲気ですね」


マリ「思ったんだけど、またキャンプしたいよね!?」

結月「あ、いいですね! キマリさんだけ別のテントであれば!」

日向「いいな! 焚火囲んでマシュマロ! キマリは別テントで!」

報瀬「いいかも。キマリは別で」

マリ「 ひどい!! 」

みこと「? どうしてキマリさんだけ?」

めぐみ「寝相悪いからな……」

リン「うん……部屋、別になったのそれが理由だから」

マリ「え!? そうだったの!? 意外な真実!?」

一輝「意外か?」

マリ「意外だよ! 知らなかったよ!!」

栞奈「妹ちゃんはお兄ちゃんと一緒の部屋?」

妹「うん」

栞奈「マジ?」

報瀬「兄妹仲良くてイイネ」

一輝「そのリアクションで決めました。帰ったら別な」

妹「えー!? なんで兄ちゃん~!!」

一輝「前々から考えてたことだ、諦めろ」

妹「嫌だ」

一輝「分かったよ、テレビとかはやるから。好きなもん持ってけばいい」

妹「んー……!」

マリ「このやり取り、なにかことわざであったよね」

めぐみ「獅子は我が子を千尋の谷に落とす」

マリ「それそれ」



403以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 03:07:30.86GYsMFmGgo (31/140)


結月「なんだかあっさり決めましたね」

報瀬「なんで急に?」

一輝「きっかけが欲しかったんですよ。
   うちの両親が忙しくて面倒見切れるのが俺しかいなかったから」

報瀬「ふぅん……。そういえば、みことにも世話焼いてるというか、
   気にしてた感じだったから、放っておけないってことだったんだね」

一輝「……まぁ……そう……なんですかね」

マリ「そういえば、なんで報瀬ちゃんだけ敬語?」

結月「敬語というか、怯えてる風ですけど」

妹「じー……」

報瀬「……?」

妹「この人、マネさんに似てる」

一輝「バッ、指さすな!」

日向「ビビりすぎだろ~」

マリ結月「「 似てるだけで? 」」

栞奈「ねぇ、妹ちゃん、この美人なお姉ちゃんとマネージャーさん、どう似てるの?」

妹「目と髪の毛」

報瀬「……」

一輝「……」

栞奈「それだけ?」

妹「うん」

秋槻「その共通点だけで思い出してしまうなんて、相当厳しいんだろうね……。
   というか、何部なの?」

一輝「野球部です」

秋槻「おぉ、野球かぁ」

栞奈「一輝、レギュラーじゃないのに厳しくされてるの?」

一輝「そうだよ、レギュラーじゃないのに厳しいんだよ。
   だから、レギュラーはもっと厳しいんだ」

マリ「どういう人なんだろ? 会ってみたいね」

日向「確かに。報瀬に似てるおっかない人か……」

報瀬「……」

秋槻「女子野球で話題になった高校があったよね」

一輝「あ、知ってるんですか? 部を作って1年で春大会優勝したっていう」

秋槻「そう、そこ。選手もレベルが高いって話で」

一輝「マネージャーがその学校行きたかったって毎日ボヤいてるんですよね。
   ショートとサードが滅茶苦茶上手いらしくて」


日向「野球談議始まっちゃったな」

みこと「男の人って好きだよね……」

結月「なんか、みことが大人な感じが……!」

みこと「お父さんがテレビで観てて」

結月「そうよね……」

みこと「?」

結月「なんでもない」



404以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 03:09:17.46GYsMFmGgo (32/140)



さくら「その高校にね、子役時代に会ったことある子がいるのよ~」

秋槻「子役時代……? といったら……5、6年くらいですかね」

さくら「そのくらいになるわね~。おでこなんて出しちゃって可愛くなってたわ~」

一輝「なんか目立ちたがり屋がいるって聞いたことあります。
   口だけじゃなくて打率も凄いって言ってて……」

さくら「あら、あんな細腕で凄いじゃない~♪」

栞奈「……」


日向「いつの間にかさくらちゃんも交じってるな」

マリ「それより、そろそろ来るんじゃない? カニ!」

めぐみ「カニなんてあるのか?」

マリ「うん、輪島で買ってきた食材を~、料理長にお願いしたんだよ~」

リン「他に何買ったの?」

マリ「日向ちゃんが魚買ってたよね」

日向「アジだよ、鯵」

マリ「アジ? ……えっと、アジのアジってどんなアジだっけ」

報瀬「アジはアジでしょ」

マリ「サンマ系?」

報瀬「だから、アジ」

マリ「それが分かんないんだよ!」

結月「何の話してるんですか?」

日向「さぁな。お、来たみたいだ」


綾乃「お待たせしました~」


マリ「来た! カニ!!」


妹「……?」

一輝「カニだってさ。気になるなら行ってこい」

妹「いい」

一輝「いいなら、別にいいけど」

妹「……」

栞奈「まったく、優しくないね~。ほら、行こうか、妹ちゃん」

妹「……うん」


日向「で、どうやって食べるんだこれ」

報瀬「知らない」

めぐみ「中身を取り出す……のでは?」

マリ「茹でガニはあまり縁が無いから食べ方分からないね。料理長に聞いてこようか」

栞奈「まったく、しょうがないな~。私が御指南して差し上げましょう」

結月「分かるんですか?」

栞奈「モチのツモよ」

妹「つも……?」



405以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 03:11:04.60GYsMFmGgo (33/140)


報瀬「自力で上がること」

みこと「あがる……?」

報瀬「モチのロンを捩ったんだけど、ロンっていうのが、他家の牌で上がることで」

妹みこと「「 ??? 」」

栞奈「説明されると恥ずかしいわけですけど」

マリ「カニの食べ方なんてわかるの?」

栞奈「身の取り出し方なんて簡単簡単~。まずは脚からね~、ここを折って~」

日向「手慣れてるな。どこで覚えたんだ?」

栞奈「小さい頃から食べてるからね。カニのカンナと呼ばれてるくらいだよ」

マリ「カニ缶だね」

リン「ぷふっ」

みこと「……ふふ」

栞奈「フッフッフ」

結月「してやったりって 顔ですね」

栞奈「はい、出来た。どうぞ」

妹「いいの?」

マリ「どうぞどうぞ」

妹「ぱくっ」

日向「お、出来た。テレビで見るような形になったぞ、栞奈!」

栞奈「やるじゃん、日向」

妹「もぐもぐ……?」

めぐみ「あまり味が分からないみたいだな……」

マリ「うっま! うまいよこれ! カニだよ!!」

報瀬「見ればわかるから」

みこと「子供のころから食べてたの?」

栞奈「うん。地元が稚内だからカニは意外と身近にあるんだよね~」

日向マリ報瀬「「「 えっ! そうなの!? 」」」

結月「北海道生まれだったんですか!?」

栞奈「そうだよん」

リン「どうしてそんなに驚いてるの?」

マリ「だって! だって……! あれ、なんで?」

日向「広島から乗ってきて、松本で降りるって言うからさ……」

マリ「そうそう。意外過ぎてびっくりだよ」

栞奈「カニ鍋もサイコーなんだけどなぁ。みんなで食べたいね。炬燵で囲んでさぁ」

結月「あ、いいですね♪」

報瀬「疑問なんだけど、広島から乗って松本で降りる理由って?」

日向「そうだよ、最終駅の……稚内まで行けばいいだろ? お金もその方が安上がりだし」

栞奈「その通りなんだよ。うん、やっぱり最後まで行っちゃおうかな~」



406以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 03:13:01.21GYsMFmGgo (34/140)



一輝「……」

秋槻「本当だ、美味しいですねこのカニ……。部活は何されてたんですか?」

さくら「小中は空手部なの~。高校入ってレスリング部に入って……というか、入らされて」

秋槻「随分と険しい道を歩いてきてるんですね」

さくら「でも、この道の中であなたという運命に出会えたのよね」ポッ

pipipipi

秋槻「あ、電話……ちょっと席を外します」スッ

さくら「はいは~い」

一輝「……さくらさんはどこまで乗車するんですか?」

さくら「私? 私は結月ちゃんと一緒に降りるわよ。東京までね」

一輝「…………そうですか。仕事だから当然と言えば当然ですよね」

さくら「なによ~、もの言いたげね~」

一輝「将来と今って、どっちが大切ですか?」

さくら「ふぅむ……難しい質問ね」

一輝「将来の為に努力してた人が、この旅の中でターニングポイントになって……
   将来がぼやけてしまいそうになってる」

さくら「誰の話?」

一輝「……アイツです。他人の為にカニをむいてるけど、自分は食べてないヤツのことです」

さくら「栞奈ちゃんが悩んでるのね」

一輝「悩みというか……どうするんだろって思って」

さくら「さっきの質問の返しは、両方よね」

一輝「……」

さくら「今、努力していない人が将来を語ってもしょうがないし」

一輝「……ですね」

さくら「でも、努力するのは将来のためだし。ということで両方ね」

一輝「……」

さくら「でもね、私は思うんだけど、結局人それぞれなのよね」

一輝「どういうことですか……?」

さくら「私は小さい頃から親父……パパに言われて空手をやらされてたんだけど」

一輝「……」

さくら「そうやって精神や体を鍛えていても、私はこうやって芸能関係で働いてる訳でしょ?」

一輝「えっと……失礼な言い方ですけど……無駄だったってことですか?」

さくら「ううん、そうじゃないわ。
    例え、私がピアノを習ってたとしても、結局はこの仕事をやってるんだと思うのよ」

一輝「……」

さくら「私がやりたかったことは決まってたからね」

一輝「――……」


みこと「あれ?」

マリ「どうしたの?」

みこと「秋槻さんが居ない」

マリ「あ、本当だ」

結月「さっき外へ出て行きましたよ。電話じゃないですかね」



407以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 03:14:19.42GYsMFmGgo (35/140)


報瀬「あれ?」

日向「どした?」

報瀬「カニが居ない」

栞奈「さっきみんなの口へ吸い込まれていったよ。完食ですね~」

報瀬「は?」

妹「……っ!」ビクッ

報瀬「まだ食べてないんだけど!? 日向!」

日向「ん! んんん!!」パクッ

報瀬「それ2本目でしょ!?」

日向「ん、んーん」フルフル

報瀬「嘘つかないで!」

日向「もぐもぐ……ごくん。……3本目だ!」

報瀬「く……!」

日向「はぁ~、美味しかった~」

報瀬「し、信じられない……」ワナワナ

妹「ど、どうぞ」

栞奈「食べかけじゃないの。そこまで気を遣わなくてもいいよ~?」

妹「で、でも……」

栞奈「大丈夫大丈夫。あのお姉ちゃんは我慢できる人だから」

報瀬「フー」

結月「狩る者の目ですね……。報瀬さん、私のどうぞ」

報瀬「いいの?」

結月「私もカニは身近にある方なので」

報瀬「ありがとう! ありがとう!!」

結月「いえいえ」

マリ「マヨネーズつけると美味しいらしいよ」

報瀬「外道ね」

マリ「ひぃぃっ!」

報瀬「あ、そうじゃなくて。高級食材を無駄にする食べ方が良くないって意味で、
   そんな食べ方をする人が信じられないってことだから」

マリ「ごめんなさいぃぃぃ」シクシク

日向「そうなんじゃないか」

栞奈「あはは」

みこと「……戻ってきた」

結月「?」


秋槻「なんか空気がギスギスしてるような?」

みこと「どこ行ってたの……?」

秋槻「友達に呼び出されてね。これなんだけど」

ペラッ

日向「んー? あ、これ!」



408以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 03:17:05.59GYsMFmGgo (36/140)


秋槻「いつ撮ったの?」

みこと「秋槻さんが寝てる間に……」

秋槻「うん、まぁそうだよね……」

マリ「あはは、お兄さん変な顔~」

結月「プリントまでしてくれたんですね」

栞奈「おぉー、集合写真だ! いいねいいね」

みこと「撮った人、秋槻さんの友達?」

秋槻「うん、わざわざ東京から出てきて、こんな写真撮ってるんだよ」


報瀬「もぐもぐ、もぐもぐ」

日向「おい、食い意地張ってないで輪に入れよ~」


めぐみ「……ふぅ」

リン「なんだか、空気に入れませんね」

めぐみ「そうだな……」

リン「お姉ちゃんたち、楽しそう」

めぐみ「……うん」


さくら「お二人さん、こっちへいらっしゃい~♪」


めぐみ「え?」


さくら「おいでおいで~♪」


リン「……」


さくら「私は結月ちゃんがこの列車に乗車した企画のスタイリストを任されてるの」

めぐみ「……そうですか」

リン「初めまして……」

一輝「……」


秋槻「それから、これ」

日向「なに?」

マリ「こ、この形の箱……もしかして!」

秋槻「ケーキだって。友達から差し入れ」

妹「ケーキ? それも?」

秋槻「うん、人数が分からないから二つ用意したって」

マリ「開け……! 開けてもよろしいですか!?」

秋槻「どうぞ。みんなで食べて」

報瀬「私、苺が乗ってるやつで」

日向「まだ開けてないだろ! どこまで食い意地張ってるんだよ!」

マリ「ジャーン! おぉー! イチゴショートケーキ、定番であり王道!!」

結月「ホールケーキ……。高そうですね」



409以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 03:18:41.77GYsMFmGgo (37/140)


マリ「こっちは!? おぉー!」

日向「リアクションが同じになるくらいの感動だな!」

妹「チョコだ……」

栞奈「妹ちゃん、チョコが好きなんだ?」

妹「う、うん」

日向「あ……」ピコーン

報瀬「どうしたの?」

日向「いいこと思いついた。キマリ、食堂車行って切ってこよう」

マリ「うん! ケーキだ!」

日向「落ち着け! 落とすなよ!?」

結月「私も行きますよ」

日向「いいからいいから、私たちに任せとけって~」

結月「? お願いしますね」

マリ「あれ、何人分切ればいいの?」

日向「人数は私に任せろ。キマリは安全に運ぶことだけ考えるんだ」

マリ「なんかひどい!?」

スタスタ...

結月「日向さん、なにか企んでません?」

報瀬「……そうかも。でも、大したことじゃないでしょ」

結月「ですね。日向さんですから」

栞奈「……なにする気なの」ヒソヒソ

報瀬「分からないけど、多分、結月に関すること」ヒソヒソ

栞奈「ふぅん……それは楽しみだ」


みこと「どうしてケーキを?」

秋槻「俺が列車の旅行してるの知って、様子を見に来たらしい」

みこと「……?」

秋槻「まぁ、理解できないよね。前に電話に出たでしょ?」

みこと「えっと……ありさ、さん?」

秋槻「そうそう」

さくら「女の影……!?」

一輝「写真撮ったの男の人ですよね? どういう繋がりなんですか?」

秋槻「二人が今度結婚するんだよ。古い付き合いだからね」

一輝「へぇ……」

さくら「あらぁ、めでたいじゃない~♪」

めぐみ「テンションが上がった……?」

みこと「……」

秋槻「君が電話に出たから、不審に思われてさ……はは」

リン「……」



410以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 03:21:17.87GYsMFmGgo (38/140)


秋槻「はは……本当に、何もないんだけどね……はは……」

リン「……」

結月「リン、大丈夫だから……秋槻さんは大丈夫だから」

報瀬「警戒しなくてもいいから、ね」

リン「……はい」

栞奈「ぷっ……くくっ」

秋槻「……は……はは」


みこと「秋槻さん、平気?」


秋槻「……うん」


結月「?」

報瀬「?」

栞奈「なに、が……?」

みこと「……」

秋槻「あぁもう……恥の上塗りになるけども……旅の恥はかき捨てだから言うよ」


めぐみ「?」

リン「?」

さくら「一世一代の告白みたい……!」


秋槻「その、ありさって人は……高校時代に、好きになった人なんだ」


一輝「!」

栞奈「おぉ、それはそれは」

結月「複雑な感じですね……。だからみことが聞いたわけですか」

報瀬「……」


秋槻「前にも言ったけど、もうそんな気持ちは無いから、平気だよ」

みこと「……うん」


めぐみ「様子を見に来るくらいに、深い付き合い……ということですね」

秋槻「どうかな……? 疎遠になりがちだったけど……
    結婚の話で連絡が来るようになっただけだから」

一輝「…………後悔してるって」

秋槻「行動を起こせなかったことに、ね。彼女と今も一緒に居たいっていう後悔じゃないよ」

一輝「……」

栞奈「甘酸っぱいですねぇ。ケーキに乗った苺のように」

報瀬「……?」

結月「……」

みこと「……」

めぐみ「……」

リン「……」

栞奈「あれ、君たちリアクションが薄いね」

さくら「あら? みんな、もしかして、恋はまだ……?」



411以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 03:22:48.27GYsMFmGgo (39/140)


パチッ


結月「あ、あれ? 明かりが消えましたけど……」

秋槻「停電……じゃないね。なんだろ?」

リン「向こうが明るいですよ」

報瀬「あ……それがやりたかったのね、日向」

栞奈「ワクワク」

一輝「なんだ、居ないと思ったら一緒に行ってたのか」


ウィーン


マリ「ハッピバースデートゥーユー」

日向「ハッピバースデェトゥーュゥ」


めぐみ「蝋燭まで点けてる……」

結月「誰の誕生日なんですかね?」

みこと「だれ?」

秋槻「さぁ?」

リン「……?」


マリ日向「「 ハッピィバァスデェディァ 」」


マリ「結月ちゃん~♪」

日向「ゆ~づ~♪」


結月「はい?」


一輝「ふぅん、そうなんだ?」

栞奈「ううん、結月ちゃんの誕生日は12月10日生まれの射手座。
   身長152cm。血液型はA型。好きなものはケーキと暖かい場所だから……違う」

一輝「なんか怖いわお前」


マリ「はい、火を吹き消して!」

日向「しかもふたぁつ!!」


結月「なんですかこれ?」


マリ「日向ちゃんがバースデーケーキにしようっていうもんだから」

日向「サプライズなのだよ」

結月「誕生日近いの日向さんですよね?」

日向「私はさ……もう……過ぎ去った日々のことは忘れたいんだよ」

結月「そんな重い話してないと思うんですけど!
   それだったら、私より早い報瀬さんじゃないんですか?」

報瀬「私は……まだ……この歳で……居たいから……あと少しだけでも」

結月「変にドラマ仕立てにしないでくれませんか!」


妹「ロウソク買ってきたの私なんだよ?」

一輝「そうか、偉いな」ナデナデ

妹「えへへー」



412以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 03:29:09.46GYsMFmGgo (40/140)



結月「って、なんでカメラ回してるんですか!」

日向「えーい、ごちゃごちゃとウルサイ!
   早く食べたいんだからさっさと消せー!」

結月「……分かりましたよ」

マリ「えっへへー」

結月「なんですか?」

マリ「結月ちゃん凄いね。去年は南極で……今年はデネブちゃんで誕生日!」

報瀬「確かに……。滅多に出来ない経験ね」

栞奈「はい、じゃあみなさん、もう一度!」


「「「 ハッピバースデートゥーユー♪ 」」」

「「「 ハッピバースデートゥーユ~~♪ 」」」


「「「「 ハッピバースデーディア 」」」


「結月ちゃん~」

「ゆづ~」

「結月~」

「白石結月~」

「結月お姉ちゃん~」

「鳥羽結月~」


結月「名字を変えないでください栞奈さん」


栞奈「おぉ、聖徳太子」


「「「 ハッピバースデ~~トゥ~~~ユ~~♪ 」」」


結月「ふ、ふぅ~~」


マリ「わー!」パチパチ


パチパチ
 パチパチ


結月「あ、えっと……みなさん、ありがとうございます……?」

日向「なんで疑問形?」

結月「誕生日じゃないからです。誕生月ですらないですから!」

報瀬「まぁそうなるよね」

マリ「よーし、食べよう食べよう~」

栞奈「まだ切られてないけど、包丁持ってきたの?」

マリ「ううん、もう一度食堂車もっていかないといけないの」

栞奈「あ、そうだね……包丁持って歩けないからね」

日向「二度手間だけどしょうがないな。それじゃ、切ってくるよ」

さくら「あ、ちょっと待って」

マリ日向「「 ? 」」



413以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 03:31:02.81GYsMFmGgo (41/140)


さくら「結月ちゃん、写真撮りましょう」

結月「え、でも……」

さくら「仕事じゃなくて、プライベートの写真よ」

結月「は、はい……みなさん、いいですか?」

栞奈「もっちろぉん!!」

一輝「うわ、キモイ声……」

栞奈「結月ちゃんが可愛すぎてテンション上がりすぎた結果なんだよ」

一輝「そうか、ごめんなキモイとか言って……そのままでいいと思うぞ」

栞奈「こっちこそごめん……。自分を抑えることにするよ……」

妹「……」


さくら「それじゃ撮るわよ~、ハイ!」


マリ「チーズケーキ!」

報瀬「ショートケーキでしょ?」

妹「チョコケーキだよ」

日向「真面目かお前らー! チーズケーキ!!」


パシャッ


さくら「はい、オッケー♪」


マリ「じゃ、切って来るね~」

スタスタ...


結月「……」

報瀬「嬉しい企みだったね」

結月「……ですね」

栞奈「また火を点けて入ってきたら面白いよね」

結月報瀬「「 ………… 」」

一輝「おまえ、つまらないこと言って余韻を壊すなよ、こっち来い」

栞奈「えー、でも本当に面白くない?」

一輝「早くケーキ食べさせろって空気が出るから、紙一重で面白くない」

栞奈「フッ、時代が栞奈ちゃんのセンスについてこれないんだね」

一輝「お前は常に先にいるからな」

栞奈「お、分かってるじゃん!」

一輝「その先端から落ちてる」

栞奈「なんだとこの!」ドスッ

一輝「殴るなって」

妹「……」


……





414以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 03:37:20.87GYsMFmGgo (42/140)


リン「さっきも言ったけど、明日の朝に帰るよ」

マリ「ふーん、そうなんだぁ。どこに泊まるの?」

リン「めぐみさんと、近くのビジネスホテルに。二人の方が安いからって」

マリ「同じ方向に向かうのに別々で移動するって変な感じだね」

リン「しょうがないよ。私はもっと早い時間に出発するんだけど」

マリ「そっかぁ……」

めぐみ「北か南か……どっちにしよう……?」

妹「ふぁぁ……」

日向「もういい時間だな。そろそろお開きにしますかね」

報瀬「そうね。片付け始めましょ」

結月「日向さん、締めをお願いします」

日向「はーい、みなさーん、よろしいですかー?」


秋槻「書いてるのは宇宙が舞台なんだよ」

みこと「言っていいの?」

秋槻「これくらいなら平気。それに、まだ商品にもならないレベルだから」

栞奈「宇宙と言ったら冒険と旅がメインになりますね?」

秋槻「そうそう。そんな感じのものを書いてるよ」

あくら「あら、素敵☆」

一輝「宇宙人とか出てくるんですか?」

秋槻「いや、出てこないよ。ヒューマンドラマにするから」

栞奈「最近見た映画で最高傑作を観たんですよ」

秋槻「へぇ、どんな?」

栞奈「衰退する地球から離れて、別の惑星へ移住しなきゃいけないんだけど、
   人類に適した惑星を発見しても、技術が足りなくて移住できないって話」

秋槻「子どもの好奇心と大人の知識でメッセージを解いて物語が始まるんだよね」

栞奈「あ、やっぱり知ってました!?」


日向「盛り上がってるところ悪いんだけどぉ、いいかな?」


栞奈「え、あぁ、ごめんごめん」

一輝「知ってるか?」

みこと「ううん、知らない」

さくら「どうしたの、日向ちゃん?」


日向「お開きにしたいと思いまして。片付いたら残るのも自由ってことで」


……





415以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 03:41:11.30GYsMFmGgo (43/140)


―― 金沢駅・ホーム


妹「んん……」ウトウト

栞奈「ほら、お兄ちゃんにしっかり掴まって」

妹「うん~……」ウトウト

一輝「悪いな、後片付け手伝わなくて」

マリ「いいよいいよ、みんなでやればあっという間だよ」

一輝「ありがと」

マリ「うん、みんなに伝えておくよ」

一輝「明日、見送りに行くからさ」

栞奈「一旦帰るの?」

一輝「いや、近くにあるホテルで。親が用意してくれてさ」

マリ「優しいご両親だね~」

一輝「……まぁ、そんなとこ」

妹「すぅ……」

一輝「おい、立ったまま寝るな。……それじゃ」

栞奈「またね~」

マリ「ばいばーい」


「もうちょっとだけ頑張って起きるんだ」

「うん~……ん~……」

スタスタ...


マリ「それじゃ、ちゃっちゃと片付けちゃおうか」

栞奈「……」

マリ「どしたの?」

栞奈「ずっとああやって妹ちゃんの面倒を見てたんだろうね」

マリ「……うん」

栞奈「両親が忙しいって言ってたから、家で独りにさせたくないんだと思う」

マリ「……」

栞奈「私のとこも似たようなもんだから分かるんだよね……」

マリ「そっか……だからあんなに懐いてたんだね」

栞奈「うん」


「おーい、キマリ~!」


マリ「あ、日向ちゃんが呼んでる」

栞奈「そうだ、二人に言っておきたいことがあった」

マリ「ん?」


「なにやってるんだよー? 栞奈も片付け手伝え~!」


栞奈「日向、ちょっと来てー!」



416以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 03:42:56.93GYsMFmGgo (44/140)


...タッタッタ


日向「どうした? なにかあったの?」


栞奈「話したよ、一輝と」


マリ「……」

日向「……」


栞奈「ごめん、って謝ったらさ。『こっちこそ、怒鳴って悪かった。ごめん。ふふん』って」

日向「それ、大村のマネか?」

マリ「あはは」

栞奈「ちゃんと仲直り出来た。あんな気持ちで旅が終わらなくて本当に良かった」

日向「そっか……良かったな」

マリ「よかったね」

栞奈「いろいろと行き違いはあったけど、解消できてよかった。二人のおかげ、ありがとう」

日向「なにもしてないけどな」

マリ「そうそう、なにもしてない」

栞奈「それでも、助かったし……救われた。みんなに背中押してもらわなかったら、
   きっと、私から謝ることなんて出来なかったから」

日向「……」

マリ「……」

栞奈「以上です。さ、片付け片付け」

日向「……え?」

マリ「もうちょっとみんなで話してたいよね~」

栞奈「したいよね~、ってか、しよう!」

日向「ちょっと待って、終わり?」

マリ「?」

栞奈「終わり……って?」

日向「いや、二人が仲直り出来た。それはよかった……で、次は?」

マリ「次?」

栞奈「???」

日向「あれ、……いや……もっとこう……なにかあると思ったんだけど」

マリ「なにが?}

栞奈「何言ってるの?」

日向「いや……うん、ごめん。なんでもない」

マリ「なにか心残りでもある?」

栞奈「お土産買い忘れたとか?」

マリ「明日の朝にでも買いに行こうよ」

日向「それはダメだ! 絶対にデネブから離れるなよキマリ!!」

栞奈「うむ、そうだぞ!」

マリ「えぇ~……」


……





417以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 03:44:54.11GYsMFmGgo (45/140)


―― デネブ・展望車


マリ「食器の片づけ終わったよ~」

日向「こっちはどうだ~?」


報瀬「こっちももう終わり」

結月「秋槻さんがゴミを捨てに行ってくれてます」

みこと「キマリさん、それは?」

マリ「トロピカルレインボースペシャルミックススーパーデラックスドリンク
   みんなの分あるよ!」

報瀬結月「「 え 」」

日向「安心しろ、私が監修した」

報瀬結月「「 ホッ 」」

マリ「なんで!?」

リン「どうして安心してるのかな?」

めぐみ「キマリが独特な味を創ったんだろう……」

リン「あ……」

マリ「あって、なに!?」

めぐみ「それじゃ、私たちは行くな、キマリ」

マリ「行くって?」

めぐみ「ホテルに戻るんだよ」

リン「お姉ちゃん、朝ごはんはこっちでいいの? ホテルで朝食抜きにしたんだけど」

マリ「うん、食堂車で一緒に食べよ。美味しいから」

めぐみ「分かった。出発前だな」

マリ「うん!」

リン「それではみなさん、おやすみなさい」ペコリ

めぐみ「それじゃ」

日向「お~、それじゃ~な~」フリフリ

結月「はい、それでは」

報瀬「……おやすみ」

マリ「また、明日ね~……って!
   トロピカルレインボースペシャルミックススーパーデラックスベントウ無視!?」

日向「弁当って言っちゃったよ」

みこと「……」

マリ「なんか、変な気持ち」

報瀬「変って?」

マリ「いままでずっと一緒にいためぐっちゃんとリンと、
   見知らぬ土地でまた明日ってお別れしてることが」

みこと「ずっと?」

マリ「めぐっちゃんは小さい頃から一緒。リンは家でも一緒だから余計に変な感じ」

みこと「……」

報瀬「あれ、栞奈は?」

日向「車掌さんと話してるよ」




418以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 17:16:19.74GYsMFmGgo (46/140)


秋槻「もう片付いたんだ。お疲れ様」


マリ「いえいえ、ってソレは!?」

秋槻「さっき自販機で見つけてね……つい」

マリ「おぉ~、お兄さんはもうプリンシェイクの虜……!」

秋槻「飲んだことないんだけどね」

マリ「え? 前に渡したのは?」

秋槻「あー……えっと……車掌さんに飲んでもらって」

マリ「……そうなんだ」

結月「わざわざプリンを飲み物にしなくてもいいのに、って思いますけどね」

マリ「プリンは飲み物だよ?」

日向「そう思ってるのはお前とプリン好きな人たちだけだ。
   少なくとも此処に居る連中はそう思ってない」

マリ「またまた~そんなこといって~」

日向「照れ隠しで言ったわけじゃないからな!」


報瀬「日向、そっちの飲み物取って」

日向「いいけど……って、みことが寝てるのか?」

みこと「……すぅ……すぅ」

報瀬「うん、起きそうにないから動けなくて」

結月「こっちでいいですか?」

報瀬「うん」

マリ「作ってきたドリンクは? なんで飲んでくれないの?」

日向「前科があるからだよ」

秋槻「思ったより薄いねこれ……もっと甘いものかと思ってたんだけど」

マリ「振りすぎたからだよ、お兄さん。普通は2回シェイクだからね」

秋槻「5回振るって書いてあるから振ったけど……それでも飲みにくかったよ?」

マリ「それがいいんだよ~」

日向「特製スペシャルドリンク、意外と美味しいからみんな飲んでみろって~」

結月「では……試しに」

みこと「……すぅ」

報瀬「朝、早かったからね……」

秋槻「それじゃ、俺も個室に戻るよ」

結月「人工的な味がしないのがいいですね……。お仕事が残っているんですか?」

秋槻「いや、ひと段落ついたから、今日はもう寝るよ。あとは明日からだね」

マリ「はい、どうぞスペシャルナントカドリンクです」

秋槻「ありがと。コップは食堂車に返せばいいのかな?」

マリ「ういうい」

秋槻「それじゃ、また明日」

スタスタ...

日向「それじゃ私らはどうする?」

結月「特にすることもないですよね」

報瀬「うん……」



419以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 17:21:42.83GYsMFmGgo (47/140)


マリ「でも、なんか……まだ終わって欲しくないね」

みこと「……すぅ……すぅ」

日向「だな。今日がまだ終わって欲しくないな」

報瀬「まぁね」

結月「ですね」


栞奈「おい~っす~。おや、人が減っちゃったね~」


マリ「もう少しだけ話してようか」

日向「そうするかぁ」

報瀬「うん」

結月「そうですね。まだ日付が変わるまで時間ありますから」

栞奈「あれ、ケーキ片付けちゃったかい?」

マリ「余ったのは綾乃ちゃんたちに食べてもらったよ」

日向「喜んでたな」

報瀬「まだ食べたかったの?」

栞奈「まだっていうか、私はひとっつも食べてないですけどね!」

結月「あ、そうだったんですか……」

栞奈「いいけどね~。代わりといてはなんだけど、南極の話を聞かせてくれないかい?」

日向「なにが聞きたいんだ?」

栞奈「なんでもいいよ」

報瀬「じゃあ、ペンギンの話でも」

栞奈「ペンギンなんて水族館にいるからなぁ……できればシャチの話でもしてくれない?」

結月「それも水族館にいるじゃないですか」

栞奈「ペンギンなんてよちよち歩いてるだけじゃん」

マリ「あんなこと言ってますぜ、親びん」

報瀬「はぁ……本物のペンギンを見たことないなんて……可哀想」

日向「まったくだ、好奇心旺盛なあの生き物を知らないってことか」

栞奈「好奇心は子猫をも……って言うじゃない? 天敵が多いらしいじゃないか?」

報瀬「残酷な話やめて」

みこと「……ッ!?」ビクッ

結月「ど、どうしたの、みこと……?」



420以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 17:28:35.53GYsMFmGgo (48/140)


みこと「あ……あれ……?」

日向「怖い夢でもみたか~?」

みこと「うん……」ブルブル

マリ「もう大丈夫だよ~。怖くない、怖くない~」

スリスリ

 ナデナデ

みこと「……ふ…ぁ…」

栞奈「どんな夢みたの? 話したら意外と大したことなくて恐怖が消えていくかもよ~」

みこと「……うん。ペンギンが……シャチに食べられて――」

報瀬「わー! わー!! わぁー!! 聞こえない聞こえない!!」

日向「本格的に怖い話だったな」

結月「あんな話するからですよ」

栞奈「くくっ、あはははっ」


……





―― 深夜:マリの個室


マリ「すぅ……すぃ……すぴぃ」


pipipipi


『南に行ってみる』


マリ「涙の数だけ雨が降るんだよ」


マリ「くぅ……すふぅ……」




421以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 17:30:39.45GYsMFmGgo (49/140)



―― 8月9日



女の子「れっしゃ、れっしゃだ~♪」

テッテッテ


ドテッ

女の子「ふぎゅっ」


報瀬「あっ!」

みこと「どうしたの?」

報瀬「女の子が転んだ……!」

テッテッテ


女の子「ふぇ……っ」


報瀬「大丈夫? 大丈夫!?」


女の子「ふぇぇっ」


報瀬「痛くない? 痛くない!?」


女の子「ふぇぇぇ!!」


報瀬「あぁぁっ、大丈夫だから!」

日向「あやし方下手だな報瀬……」


栞奈「ちょっとごめんね、おじょうちゃん~」


女の子「びぇぇえええ!!」


栞奈「……うん、怪我はないね。びっくりしたよね」


女の子「うええぇぇえん!! おがぁぁさぁああん」


栞奈「よーし、お姉ちゃんが魔法をかけてあげよう~」


女の子「ひぐっ……まほう……?」


栞奈「そう。痛みが無くなる魔法。いくよ~?」


女の子「ぐすっ……うぅぅ」


栞奈「痛いの痛いの~~、あのお兄ちゃんに飛んでいけ~~!!」


一輝「えっ!?」


女の子「グスッ……?」


一輝「くっ……ぐぁぁあっ……痛いッ」



422以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 17:32:15.53GYsMFmGgo (50/140)


女の子「……ぐすっ……お兄ちゃん……だいじょうぶ?」


一輝「あ、あぁ、大丈夫……優しい子だな、君は」


母「ユミ? どうしたの?」

女の子「お母さん!!」


栞奈「この子、転んじゃって。
   怪我はないみたいですけど、一応気にかけてあげてください」

母「あらら……。迷惑をかけてしまったみたいで、すいません」

栞奈「いえいえ、特に何もしてませんから~。ね、一輝」

一輝「……まぁ、はい」

女の子「……」

母「ほら、ちゃんとお礼言って」

女の子「ありが……とう。お姉ちゃん、お兄ちゃん」

栞奈「こんなとこ走ったら危ないから、気を付けるんだよ~?」

一輝「気をつけてな」

女の子「うん……」

母「電車来ちゃったから行きましょ。それでは」ペコリ

栞奈「バイバーイ」フリフリ

一輝「……」


「ばいば~い」


栞奈「かわいいね~。って、妹ちゃんは?」

一輝「あっちで親に電話してる」

栞奈「離れちゃ危ないでしょ。近くに居なきゃ」

一輝「おまえが無茶ぶりしたせいだろ。ってか、やらせんなよ」

栞奈「まぁまぁ。あの子も泣き止んで良かったじゃん?」

一輝「まぁ、いいけど」


日向「くっ……ぐぁぁあっ……痛いッ」

結月「……」

報瀬「ふふっ」


一輝「やっぱり良くないわ」

栞奈「あははは! お腹痛い! 傑作だったよあの演技! あっはっは!!」


マリ「えぇぇぇえええ!?」


一輝「なんだ、どうしたんだ?」

栞奈「くふっ……さぁ?」


マリ「いつも逆の方向に行くんだからー! もぉー!」

栞奈「どうしたの?」

日向「幼馴染が『富士山見てくる』って伝言残して出発したんだってさ」

栞奈「ふぅん……」



423以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 17:34:07.78GYsMFmGgo (51/140)


リン「お姉ちゃんにメッセージ送ったって言ってたよ?」

マリ「気付いてたけど、南に行ってくるって意味が分からなかったんだよ……。
   それを聞こうと思ってたのに……」

リン「あ、私もう時間だから行くね」

マリ「見送るよ」

リン「いいよ、ここで。それでは、みなさん。とても短い間でしたが楽しかったです」

報瀬「こちらこそ。気を付けて帰ってね」

結月「また連絡するからね」

リン「はい。いつもありがとうございます。姉をよろしくお願いします」ペコリ

日向「おー、またね~」

栞奈「まーたね~」

マリ「見送って来るね」

リン「だから、いいって言ってるのに。どうせ明日の夜にはお家で会うんだから」

マリ「いいからいいから」

リン「地元に帰るだけなのに……」

スタスタ...

みこと「……」

結月「私も見送ってきますね」

日向「寄り道しないでまっすぐデネブに戻ってくるようにな」

結月「大丈夫ですよ、時間もありますから」

日向「よく思い出せ、ゆづ。そう言って結局走ることになった今までを……」

結月「……ですね。分かりました」

テッテッテ...

報瀬「明日か……」


妹「じー……」


報瀬「……?」


妹「似てる……やっぱりマネさんに似てる」


報瀬「……」


一輝「だから、失礼なことするなってっ」

報瀬「されてないけど?」

一輝「……はい」


栞奈「ぷっ、くふふっ」

日向「どんな人なんだろうな……」


秋槻「おはよう」


一輝「おはようございます」


秋槻「長いとまでは言えないけど、短くもない時間だったね」

一輝「そうですね、福岡からだから……まぁ、それくらいには」



424以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 17:35:58.66GYsMFmGgo (52/140)


秋槻「楽しかったよ、ありがとう」

一輝「俺も、楽しかったです。秋槻さんが居なかったらどうなってたか」

秋槻「それは俺も同じかなぁ。同性として助かった部分はたくさんあったよ」

一輝「仕事、応援してますから」

秋槻「うん、ありがとう。どこかで名前を見られるように頑張るよ」

一輝「なんなら自慢できるくらいには」

秋槻「あはは、そうだね。知り合いなんだって言われるくらいになりたいね」

一輝「お元気で」

秋槻「うん、君も、元気でね」

一輝「はい」


日向「……終わりかっ!」


秋槻「男同士はこんなものだよ」

一輝「うん」

秋槻「ちょっとコンビニ行ってくるよ」

みこと「遅れないで……?」

秋槻「分かってる。すぐ戻るよ」

スタスタ...


報瀬「元気でね」

一輝「はい」


報瀬「……」

一輝「……」


日向「男同士より短いな!?」


栞奈「うぅ、ぐすっ……一輝ぃ、寂しいよぉ~」シクシク

一輝「ウソ泣き止めろ」

栞奈「ちょっと、感動の別れを壊さないでよ!」

一輝「壊してるのお前だろ! 過剰演出してないで普通にしてくれ」

栞奈「じゃあ思い出話でも……。一輝が女装して駅前で踊ったのは笑ったな~」

一輝「そっちは明日降りるんだっけ? 群馬だったか」

日向「そうだけどさ……」

妹「兄ちゃん……」

一輝「距離で考えたら結構あるんだけど、時間で考えたらあっという間なんだよな」

日向「妹にはリアクションしてやれっての……。時間と距離か……そんなものなのか?」

一輝「まぁ、移動中に色んな事あったから、短く感じただけなのかもな」

みこと「相対性理論?」

一輝「難しいことは知らんけど」

日向「大村はなんか変わったな。最初は仏頂面してたのに」

一輝「コンビニで3人でカップ麺食べてるの見て、変な奴らって思ったからな」

日向「あはは、あったな~」



425以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 17:38:18.75GYsMFmGgo (53/140)


栞奈「料理長とリンゴの皮むき勝負は意外な結末だったよ~」

一輝「まぁ、元気で。楽しかったよ」

日向「お、おう。大村がそんなこというなんて、驚いた」

一輝「最後だからな」

妹「どうなったの、兄ちゃん?」

一輝「そんな勝負は無かったんだよ。この人間が言うことは6割がた嘘だからな?」

栞奈「私の打率はそんなものだからね」

一輝「化け物かお前は」

栞奈「それじゃあさ、一輝」

一輝「?」

栞奈「野球、始めなよ」

一輝「――!」

栞奈「いつもイライラして、仏頂面してるのは我慢してるからじゃない?」

一輝「……」

栞奈「我慢を止めて、走り出したらどうなるか私は知りたい」

一輝「……」

栞奈「一輝が球場で活躍してたら、私は間違いなく感動するよ」

一輝「……ハァ、お前は赤の他人じゃないだろうが」

栞奈「あー……それもそうだね」


報瀬「?」

日向「何の話だ?」

みこと「赤の他人が実際にあった話に感動できるのかどうかって話……」

報瀬「当事者以外は感動できないってこと?」

みこと「うん……栞奈さんが言ってた」


一輝「ふぅぅ……はぁ……そうだな」

妹「……兄ちゃん?」

一輝「あのな、藍……俺……部活で遅くなると思うんだけど、いいか?」

妹「……」

一輝「これから本気で始めるから、毎日だな」

妹「……」

一輝「今までの時間を取り戻すにはそうでもしないと絶対に足りないから――」

妹「うん」

一輝「……いいのか?」

妹「うん、いいよ」

一輝「一人でいる時間が多くなるし――……いや、うん、ありがとう、藍」

妹「毎日応援しに行くから寂しくないよ!」

一輝「家から高校までそんなに近くないだろ……。でも、ありがとな」ワシワシ

妹「えへへー」



426以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 17:39:28.62GYsMFmGgo (54/140)



栞奈「ぐすっ……甲子園優勝するなんて……すごい約束しちゃったね……」

一輝「してない」

栞奈「してないね」

一輝「……けど、それくらいの気持ちでやらないとな」

栞奈「あ……うん」

一輝「ありがと、栞奈」

栞奈「う、うん……」

一輝「……なんだよ、どうした?」

栞奈「な、なんか……照れちゃって……いきなり礼なんて言わないでよね、バカ」

一輝「……なんなんだよ、お前は…」


日向「にひ……」ニヤニヤ

報瀬「どうしたの、日向? 気持ち悪い笑い方して?」

日向「気持ち悪い言うな!」

みこと「……」


マリ「ただいま~……あれ?」

結月「どうしたんですか、二人とも?」


一輝栞奈「「 別に…… 」」


一輝「真似すんなよ」

栞奈「あははっ、言うと思ったんだよね!」


妹「じー……」


秋槻「よかった、まだ間に合った」

みこと「?」

秋槻「これを、渡したかったんだ」


一輝「俺に……?」

栞奈「なんですか?」


秋槻「ネットの記事。昨日のなわとび大会のことが書かれてるよ。君たちのことがね」


日向「え、どれどれ!?」

報瀬「見せて!」

一輝「ち、近いですから!」

栞奈「ちょっと、動かさないで一輝!」

秋槻「はい、もう一つ」

マリ「ふむふむ、コラム?」



427以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 17:44:07.61GYsMFmGgo (55/140)


結月「なんて書かれているんですか?」

みこと「『満足の0回』」

マリ「『夏の夕暮れ。少しずつ寂しさを感じさせる焼けた空に笑い声が響いて行く――』」

『 先日、金沢城公園にてなわとび大会が開催された。
  数年前に旅行者が子供たちと仲良くなわとびをしていたことからこの大会が開催されるようになった。
  今年も近所の児童会を中心とした大会の参加者達が思い思いに縄を飛び越えて行った 』

『 今年の最後の挑戦者チームは、玉木マリさん率いる超特急デネブの乗客たち10名。 』 


日向報瀬結月「「「 ん? 」」」

栞奈「引っかかるのは分かるけど、先を読もうよ?」


『 ギネス記録を目指すと全員が気合を入れて、掛け声とともに縄が回り始める。
  しかし、次に縄が回ることは無かった。
  脚に引っかかり失敗してしまったのだ。記録は0。
  司会者がもう一度挑戦することを促す。会場に居た誰もがそうすると思っただろう。
  玉木マリさんは言う。 』

マリ「『きっと、世界記録を出しても、誰か偉い人に賞状を渡されても、
    こんな気持ちにはなれないんです。
    だからこれでいいんです。みんなで一つになった今のままでいいんです。
    私たちの記録は0回です!』」

『 と、笑顔を残したまま会場を後にした。
  夕暮れに秋の気配を感じたが、今年の夏はまだまだ終わらなさそうだ。 』
    

栞奈「ほぉ……」

一輝「こんなこと言ったのか……」


マリ「……?」


日向「『言ったっけ?』って顔してるけど、どうなんだ?」


マリ「言った……ね、うん。言ったよね……?」

報瀬「いや、私はそのとき近くに居なかったから」

結月「あ、でも……誰かと話をしてたのは覚えてます」

マリ「じゃあ言ったんだよ」

日向「じゃあってなんだよ。自信無いんか」

みこと「……みんな、笑ってる」

妹「兄ちゃんも笑ってるね」

一輝「うん……」

秋槻「俺は苦笑いだけどね……。それだけじゃないよ、後ろにいる人たちも笑ってるでしょ」

結月「あ、本当ですね」

日向「応援してくれた人たちも」

報瀬「みんな笑顔……」

みこと「キマリさんの言葉、この写真を見たら納得できるよ」

マリ「……うん!」




428以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 17:46:08.84GYsMFmGgo (56/140)


一輝「……そろそろ、時間だな」

妹「……」


報瀬「……」

結月「……」

日向「じゃあ乗るか」

栞奈「じゃあね、一輝。走って追いかけたりしないでよ、危ないから」


一輝「誰がするか」


報瀬「元気で。楽しかった」


一輝「……はい。それでは」


みこと「楽しかった……です。ありがとう……ございました」ペコリ


一輝「これから先、気をつけてな」


マリ「それじゃ、元気でね。また、どこかで逢えたらいいね」


一輝「……うん。……みんなのおかげで楽しかった。元気でいてくれ」


日向「じゃ、な」スッ


一輝「……」スッ


ギュッ


日向「おぉ、意外と大きい手だな」


一輝「一応、野球やってるから」


日向「ははっ、そうだったな。じゃあな~♪」


一輝「じゃあ、な」


結月「えっと、色々とありがとうございました」


一輝「なにもしてないけど。……――あのさ」


結月「……はい?」



日向「ひぃ、痛たた……アイツ、ちょっと力込めやがって~」

マリ「男の子だからね」

報瀬「キマリがちゃんと乗り込んでると感動するかも」

みこと「うん」

マリ「うんって、みこっちゃん!」

栞奈「……ん?」

日向「どうした?」

栞奈「なにか、渡してる?」

みこと「結月さんに……?」



429以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 17:47:41.09GYsMFmGgo (57/140)



結月「……ふぅ」

マリ「結月ちゃん、顔真っ赤だけど、どうしたの?」

結月「え、いえ……なんでも?」

栞奈「……」

報瀬「なにか渡されたの?」

結月「い、いえ……なんでもないですって」

日向「ふぅん……?」

栞奈「…………」



秋槻「――……それは賭け?」

一輝「賭けというか、そうなるだろうなっていう、確信みたいなものですね」

秋槻「今渡さないのはどうして?」

一輝「アイツの足を引っ張りたくないので……」

秋槻「そっか、そっかぁ。
    うん、見届けられないのは残念だけど、二人の未来を俺も信じるよ」

一輝「そ、そんなじゃないですけど」

妹「兄ちゃん、顔真っ赤~」

一輝「うるさい。それじゃ、秋槻さん、さっきも言いましたけど、お元気で」スッ

秋槻「うん、お互いこれからも頑張ろう」スッ


ギュッ

一輝「さようなら、ですね」

秋槻「うん、さようなら」


prrrrrrrrrr



妹「またね、じゃないの?」

一輝「秋槻さんとは、もう逢えない気がする」

妹「なんで?」

一輝「大人だから、かな。進む方向が別々だから、な」

妹「みんなは?」

一輝「逢えそうな気がする」

妹「なんで? 子どもだから?」

一輝「分からん。どこかで逢えるといいなって思ってるからかな」



プシュー


ガタン

 ゴトン



430以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 17:50:44.05GYsMFmGgo (58/140)


―― デネブ


ガタン

 ゴトン


秋槻「どうしてかな……さようならって言葉がしっくりきたんだよ」

みこと「どうして?」

秋槻「もう逢えないって、思ったのかも……」

みこと「……」

秋槻「お互い、そう感じたのかもね」

マリ「何があるか分からないから人生。だから面白い」

日向「だそうですよ」

秋槻「あはは、そうだね。さて、俺も準備するかな。じゃあね」

スタスタ...

報瀬「……最後、か」

結月「――……」

栞奈「……」

日向「さぁって、私らはどうする?」

マリ「次、どこだっけ? 松本だ!!」

日向「疑問から回答まで一瞬だったな! そうだ松本だ!」

報瀬「……松本城」

日向「なんで城がまっさきに来るんだよ!」

マリ「城マニアだったんだ」

みこと「今まで一番だった城は?」

報瀬「首里城?」

マリ「沖縄行ったことあるの?」

日向「え、いつだよ? 飛行機乗ったのアレが初めてだったんだろ?」

報瀬「テレビで……観たけど?」

日向「直で見たかのように言うから……」

報瀬「首里城? って疑問形で言ったでしょ」

日向「そういえばそうだったな。……なぁ、このやり取り意味あるのか?」

みこと「無いと思う」

マリ「私もテレビで観たけど、首里城って城って感じじゃないよね」

日向「もう城の話はいいから行くぞ~」



431以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 17:53:12.14GYsMFmGgo (59/140)



栞奈「……」


みこと「あの、栞奈さん……」

報瀬「行こう、みこと」

みこと「う、うん……」

日向「相棒が降りたんだ、色々と思うところもあるだろう」


結月「…………」


マリ「そうだね。……結月ちゃんも行くよ~?」

結月「は、はい」



……




―― 展望車


マリ「あ、そろそろ富山駅だよ」

報瀬「なにかあるの?」

マリ「リンが乗った列車を追い越すんだよね。見つけられるかな?」

日向「無理だな」

結月「次、糸魚川でしたっけ?」

報瀬「うん。30分停止」

みこと「松本は、キマリさん達の地元?」

報瀬日向「「 違う 」」

みこと「?」

マリ「みこっちゃん、大きく括ったでしょ?」

みこと「うん……? 群馬がどこにあるのかも分からない?」

報瀬「待って、実際に地図見た方が早い」ポチポチ

マリ「松本は長野だから」

報瀬「ここ、ここが群馬だから」

みこと「……うん」

日向「ちゃんと覚えるように。テストに出るからな」

結月「なにをそこまで熱くさせるんでしょうか」

マリ「北海道はいいよね、絶対に間違えられることないもんね」

結月「なんか……すいません……」

日向「謝ることじゃない。別に怒ってる訳じゃないからな。
    ただ、影が薄いからと覚えてもらえないのは憤りを覚えますな」

報瀬「それはあるかも」

マリ「うむうむ、覚えますね」

結月「怒ってるじゃないですか」