351 ◆B54oURI0sg2019/04/25(木) 05:50:07.95ewPdNPWDO (9/12)

 
 
『大丈夫?朝ちゃん』


「ええ、私もまだまだですね…すぐに揺らぎそうになってしまう…」


何とかは死んでもと言うけれど、少なくとも悔やむのは止めたつもりでいた筈なのに


「もう後悔しても仕方が無いですからね…。当事者である内には間違いにも気付けない。ようやく解るのは全てが終わった後」


だからこそ後悔しないように生きなければならない、なんて言うのは簡単だけれど


部屋を出た日進さんが漣さんの姿の重巡棲姫さんと話している


「漣さんと直接は話させてあげられないんですかね…」


『向こうからしたら何処に居るかなんて知りようが無いしねぇ…。また降ろすのに挑戦でもしたなら手を加えてみたりは出来なくも無いけど』


Y子さんが言うには口寄せというのはあくまで彼岸の向こうに念を飛ばし、該当の人物が近くに居て尚且つそれに応じればやっと話せるくらいのものらしい


『その念のポインタをここに引っ張って来て繋げる事は可能ではあるけどね。何処から繋いでるかはあっちからは確かめようが無いし』


どちらにせよ術者の負担は大きい。ちょっと話したいなどと乱用すればあっという間に力尽きてしまうのだと言う




352 ◆B54oURI0sg2019/04/25(木) 05:51:52.97ewPdNPWDO (10/12)

 
 
日進さんのアドバイスを受け重巡棲姫さんは富士さんを通して伝言を伝えるらしい


『また見てみる?』


「いえ…ただでさえこんな覗き見をしているのにしかも精神世界までというのはちょっと…」


『今更だと思うけど?まあどんな内容かはお姉ちゃんに聞けばわかるか』


「ほどほどにしましょうよ…」


精神世界に潜っている重巡棲姫さんは傍目からは今どんな状態なのかは判らない。だけど…


「泣いていますね…」


『前向きなように見えてもやっぱり苦しいものは苦しいんだろうね』


どんな会話が為されているのかまるでうなされているような、そんな顔をしていた


それからしばらくして富士さんがやってくると


【漣の様子はどう?】


と聞いてきた


『今は眠ってるよ。正直まだ起きるには早かったんじゃないかなと思ってる』


【そう…丁度良いわ、直接伝えてくる、その情景も含めあの子の心に】


そう言って富士さんは漣さんが眠る部屋へと入って行った


私は二人の邪魔をしないよう静かにして考える


漣さんには帰りを待つ人が居る。そして彼女を何より大切に思っている。おそらく想いの強さはあの小さな深海棲艦にも負けてはいないように思える




353 ◆B54oURI0sg2019/04/25(木) 05:54:01.67ewPdNPWDO (11/12)

 
 
あまりにも近すぎて、それこそ同じ身体を共有しているくらいに近すぎて、その想いはこれまで上手く伝わってはいなかったのかもしれない


いつか重巡棲姫さんの想いが正しく伝わった時、彼女は…漣さんはどうするのだろうか


あくまで拒絶するなら最悪の結果になるだろうか


もしも…それすら乗り越えられたならきっと彼女は私には想像も付かない本当の強さというものを得られるのかもしれない


どれだけ傷付こうと、何を失おうとも、前に進む事を止めない、本当の強さを


それはきっとあの鎮守府にとって大きな力となるだろう。失い尽した存在がそれでも進もうと言うのならきっともう誰も崩れたりはしないのだと


354 ◆B54oURI0sg2019/04/25(木) 05:56:23.66ewPdNPWDO (12/12)

ここまで
こじつけ


355以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/25(木) 12:08:59.542VTBjWEjo (1/1)

乙乙
開幕朝潮霊挨拶は卑怯、笑うわ
けどストレイボウ朝潮はNG


356以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/25(木) 12:30:21.56snM0wZHTO (1/1)

ぽいぬの能力は早霜の前からあったと思う。元ネタ通りだと一回目食らったのは内臓系にダメージ入る技だし
覚醒すると生命力激増して死亡率低減、吸血とか捕食で回復がセットのビーストモードだと思われる


357 ◆B54oURI0sg2019/04/30(火) 06:17:05.04X5txiLSDO (1/9)

>>353から
 
 
「姉妹っていいですよねー」


『あーうん、そーだねー』


伊19さんや伊26さんのやり取りを見ながらY子さんにそう振ってみた


彼女はお姉さんの事をどう思っているのだろうか。姉である富士さんはY子さんにおっかなびっくり接している印象を受けた


それでも心配してか富士さんは時々顔を出してはY子さんに冷たくあしらわれて寂しそうに帰って行く


反抗期というやつだろうか


『今反抗期とか思ったでしょ』


「思っていませんよ」


やばい、読まれている


『別にいいけどさー。言っとくけど嫌いとかじゃないから、下手に甘やかすと調子に乗っちゃうからお姉ちゃんは』


「はあ」


何だか愚痴り始めたY子さん。やれ考え無しだの、余裕綽々な割に予想外の事態になると真っ白になるとか、結構流されやすいとか、いつか騙されて酷い目に遭いそうだとかだんだんその内容がどれだけ心配かにシフトしていく


『あと口下手で言い負かされやすい。朝霜なんかに好き放題言われて何も言い返せないとか不甲斐ない姉だよまったく…』


「好きなんですね、富士さんの事」


『…嫌いじゃない』


私が端的に感想を言うと何だか素直じゃない返答が帰って来た


私から見たら二人は結構似ている。顔立ちだけでは無く性格も。立ち居振舞いは逆だけれど





358 ◆B54oURI0sg2019/04/30(火) 06:18:39.53X5txiLSDO (2/9)

 
 
『…お姉ちゃんもあの伊19みたいに心配性な部分あるから。むしろ心配なのはこっちだっての』


「うふふ」


『なにさー。朝ちゃん、最近ちょっと生意気!』


「ちょっと羨ましいなって思っただけです。艦種的には私にも妹は沢山居ますが…それを実感する暇はありませんでしたから」


これでも私も朝潮型の長女だ。だけど妹達に出会う前にああなった。感覚的には一人っ子みたいなものだ


『…ずるいなあ、もう。そんな風に言われたら怒れないじゃん』


「ごめんなさい、でも正直な気持ちです」


Y子さんは拗ねたようにそっぽを向いて呟く


『…ほんとは、理想郷なんて…』


その先の言葉は私の耳には届かない。だけど何を言おうとしたのか何となく解ってしまう


本当は理想郷なんてどうでもいいから富士さんには一緒に居てほしい


そんな風に言いたかったのかもしれない


私がここに来るまで彼女はここでずっと一人で、富士さんは艦娘を救おうと世界中を駆け回っていて、彼女はそんなお姉さんをどんな気持ちで見ていたのだろう


もちろん富士さんが救おうとしている中に妹である彼女が一番に含まれているのは確実なのだろうが…


救うとは何なのだろう。その為に今寂しい思いをさせている。気付いた時には距離が開いてしまっていて昔のように話せない。想いは届かない


私に出来る事は何か無いだろうか…ここに来てまた新たな悩みが生まれてしまったようだった




359 ◆B54oURI0sg2019/04/30(火) 06:20:07.22X5txiLSDO (3/9)

 
 
村雨さんが朝霜さんと朧さんに責められていた


私だってエリートを鼻にかけたようなのは好きではないし皮肉のひとつも出るかもしれない。けれど少なくとも歩み寄ろうとしている人間にあの言い方は無いと思う


『あの鎮守府に居るための資格とか必要なのは初めて知ったけどねー』


「目に入らなかった。そういう意識を持っていないのが問題なんじゃないですかね。一般人の意識というか」


例えば介護経験がある人と、それまでそういう経験の無い人とはまったく視点が違うのだ


だけどそれは別に悪い事では無い。ただ村雨さんにはまだその視点が無いだけなのだ


「普通の鎮守府ならそれでもよかったんでしょうけど。敢えてそこに居たいというのなら今までのやり方では駄目なんです」


実際村雨さんは悪い人では無いと思う。春雨さんを押し付けようとしたのも悩んだ末の苦渋の選択なのだろう


そうで無かったらさっさと出て行ってあとは知らんぷりでも不思議では無い


『それと朝霜は何でか上から目線でお前要らないとか言ってるのかな』


「逆なんじゃないですかね…牙を剥いて威嚇して、それでも怖れずに手を差し伸べられる人間か測っている…そんな感じに見えます」

司令官や龍驤さんはどちらかと言えば来るもの拒まずだ。だけどそうやって誰彼構わず受け入れて、その相手に何か裏があったら…


ましてや鎮守府の誰かを傷付ける事態になるかもしれないと考えているのだろうか




360 ◆B54oURI0sg2019/04/30(火) 06:21:27.93X5txiLSDO (4/9)

 
 
『気持ちは解らないでも無いけどねぇ…。あれはあれで敵を作る結果になりかねないような』


「そうですね…あそこでもし村雨さんの怒りを買って権限でどうとかという話になったら…」


『村雨を殺す?』


「それは危険過ぎますね。白露型全員の怒りを買ってそれこそ鎮守府が血の海になります」


守るというのなら時には頭を下げる事も覚えるべきだとは私も思う。牙を剥いてばかりではいずれ危険と判断され駆除対象になってしまうかもしれない


朝霜さんがプライドを捨て頭を下げる姿は私には想像が出来なかったけれど


それから村雨さんは鎮守府を出て行くと言い出し白露さんに止められていた。何でも知らせてくれたのはあの朝霜さんらしい


『フォローを入れるくらいならあんな言い方しなければいいのに』

「不器用なんですよきっと」


不器用なりに鎮守府を守ろうと自ら嫌われ役を演じているのだろうか。素の部分もありそうではあるが


気配りを諭しておきながら自分はそれが出来ないなどという事は無かったのだ。私も彼女の事を少し誤解していたのかもしれない




361 ◆B54oURI0sg2019/04/30(火) 06:23:12.48X5txiLSDO (5/9)

 
 
「命の価値とは何なんでしょうね…」


飛鷹さんはかつて大切な友達を亡くしている。そして最近それは他者の、手術を受け持った病院に責任があるらしい


当時手術を受けていたのは二人、飛鷹さんの友人ともう一人、その際深海棲艦の攻撃により電力がストップ、非常電源で手術を続けられるのは一人だけだったらしい


病院側はそれを隠していた。それは何故か


「大物の政治家が娘を助ける為にお金を積んで優先させた…」


『口止め料も入ってるんだろうねぇ』


他人の命をお金で左右させたなどと知られたらとんでもないスキャンダルだ。そしてそれを承諾した病院側にとっても明るみには出せない


飛鷹さんと清霜さんがその友人の家を訪ねるとその政治家がご両親に土下座して謝罪していた。それを聞いて激昂する飛鷹さんを必死に押し止める清霜さん


「この場合誰が悪いんでしょうね…。誰だって赤の他人より身近な誰かを優先するのは当たり前です…けど…」


『まあ病院側だろうね、悪いのは。お金に目が眩んだのか知らないけど。比較的持ちそうな方を後回しにするくらいがまあ正しい判断だったんじゃないかな』


「後回しにされた方が間に合わなかったら…?」


『その時はそれまでだね。結果助からなかった方の親がどちらにせよ助かった方を恨んでいたよ』


そうなるのだろう。今回はお金で傾いたに過ぎず、他の要因なら許せていたという話でも無いのかもしれない




362 ◆B54oURI0sg2019/04/30(火) 06:24:50.14X5txiLSDO (6/9)

 
 
政治家さんはその一連を公表し改めて謝罪すると約束して帰って行った


飛鷹さんは一時危うい状態になっていたがさすが清霜さんというか見事に引き戻して見せていた


それから少ししてその事がニュースになりあの人は約束を守っていたと解る


「結局はあの政治家の娘さんも亡くなってしまって誰も救われなかった…。どちらかが生きていればその子の分までなんて言えていたんでしょうけど…」


『そんなものだよ…悲劇の後にまた悲劇なんてよくある話だよ』


「やりきれないですね…」


もしも飛鷹さんの友人の両親が更にお金を積んでいたら、相手が政治家ではなかったら、そんな無意味なもしもは単に立場が逆になるだけ


何故自分の子供が。何故そっちだけが助かったのだと、何故。と




363 ◆B54oURI0sg2019/04/30(火) 06:26:30.24X5txiLSDO (7/9)

 
 
「それにしても…」


私はモニターを見る。鎮守府の食堂でご飯を食べている龍驤さんの姿があった。しかし手足がしっかりと生えていた


「また食べに来ていたんですね。しかもタッパーまで持参して」


リュウジョウさん。例の謎の集団、アケボノさん達の仲間


私は詳しい事はほとんど知らない。だけど味方ではあるようで司令官も信頼していた


龍驤さんとリュウジョウさん。こうして見ると手足以外にも雰囲気や表情、微妙な話し方、何もかも別人だというのが私でも判る


何だか自爆して口を滑らせているのもまた龍驤さんではあり得ない事だ


彼女達は何やら不思議な能力を備えていてリュウジョウさんは変身能力があるらしい。なんと那智さんに変身して愛宕さんと会話をしていた


愛宕さんは若干の違和感を感じてはいたようだが偽物だとはさすがに思わなかったようで、そこは演技力もあるのだろう。相手が同じ龍驤さんでなければその違いは判らない


そして今度は龍驤さんに変身してなんと司令官を相手に試そうとしていた。しかも手足までそっくりになっている


『元々ある部分まで消して変われるんだねー。普通なら気付かないよこれは』


「ですね…私も多分判らないかも」


しかし司令官は一目で見抜いてしまう。さすがは司令官。誰よりも身近な相手を間違える筈は無かったのだ。匂いとまで言ったのはちょっと変態っぽいけれど


誰かの恋人とか家族とか身近過ぎる相手では騙し通すのはやはり難しいらしい




364 ◆B54oURI0sg2019/04/30(火) 06:28:32.95X5txiLSDO (8/9)

 
 
「そういえばリュウジョウさん、組織に潜入する為に変身して練習してたと言っていましたね」


そのリュウジョウさんは間宮さんのお弁当を沢山持ってホクホク顔で帰って行った。あれはきっと必ずまた来るだろう


『あんなでは多分すぐバレそうだけどね』


「変装して何処かに潜入するスパイにしてもバレた時の為の保険は用意するものですから大丈夫なのでは」


『だといいけどねー』


大本営にしろ組織にしろスパイやら諜報員やらを沢山使っているのだろう。私達艦娘が深海棲艦と戦っている間に人間も決して表には出ない戦いをしているのだと思う


そして同時に艦娘が深海棲艦だけでは無く人間同士の争いにまで駆り出されるようになって久しい


「ただ平和な海を守りたい、そんなシンプルな時期は本当に僅かでしたね」


力のある者は放っては置かれない。深海棲艦との戦争が終わっても艦娘の戦いは終わらないのだろう


これからも海の上ではなく陸上で死んでいく艦娘は増える一方なのかもしれない


365 ◆B54oURI0sg2019/04/30(火) 06:29:30.07X5txiLSDO (9/9)

ここまで
会話が少ない


366以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/30(火) 12:03:38.61r3jloD6Mo (1/1)

まいどおつおつ
朝霜に関しては早霜の出自やかけられまくってるらしい暗示と見えてる地雷が怖いんだ…
八島さんの名表示本編登場が成ったがこちらでどう言うのか楽しみです


367 ◆B54oURI0sg2019/05/04(土) 06:20:56.97TcHKAzrDO (1/11)

>>364から
 
 
「今のところ変わり無し…か」


私は朝潮。うん、いいわ。特に問題は無いみたい


眠り続ける漣さんのお世話を…と言っても今は魂だけの状態なので例えば身体を拭いたり排泄物の処理などの必要は無いので手間という手間はまったく無い


この間富士さんが重巡棲姫さんの伝言を伝えに来てから少しだけ表情が楽になったように見える


今度目覚めた時には以前より良くなっていればいいのだけど


彼女の布団を軽く掛け直し部屋から戻る


『様子はどう?』


「変わりありませんね…もう少し何かしら良い刺激があれば…」


『難しいねぇ…何が良く働いて何が地雷になるのか』


「そうですね…下手をしたらずっとこのままという可能性も…」


また司令官達から何かしらの訴えかけがあればとは思うけど窓口になる富士さんの気分次第でもある


まあなんだかんだ優しい富士さんなので受けてくれる気はするが




368 ◆B54oURI0sg2019/05/04(土) 06:22:36.04TcHKAzrDO (2/11)

 
 
「大本営の新兵器ですか…」


いつになく司令官と幹部さんが真剣な顔で話している。深海提督に対して核エネルギーを動力とした新しい兵器を使うらしい。しかもゆくゆくはその射程は地球全てをカバーするのだと


私も大本営が何か兵器を作っているという話は聞いた事はあるけど正直あまり信じてはいなかった。今の人類にそこまでのものは作れやしないと思っていた


しかし実際にそれは完成していて、いよいよ使われる時が来ていたらしい


「弾頭に使われないだけまだマシと考えるしか無いでしょうか…」


また核かと私は思う。被曝してあれだけの犠牲者が出たにも関わらずまだその力を使おうとしている。一度持ってしまった力は手放せないのが人間なのだろうか


「いつか司令官も言っていましたね、その力がこちらに向く可能性があるかもしれないと。味方なのに…」


『和平派の鎮守府を邪魔者として粛清するくらいの事はしそうだけどね』


「そんな事をしたら世界中から避難を…まさか…」


『恐怖による支配』


世界中の何処にでも攻撃出来るとなれば下手に刺激して自分達の国が撃たれたら…とY子さんは言う。そしてその力で持って軍事クーデター、そんな最悪な歴史のifが現実のものになってしまうかもしれない


「でも国内の世論はそんなの認めませんよね」


『まあ…下手をしたら自国内にその兵器を、しかも一般市民に向けて…なんて可能性もゼロでは無いのかもね』


「まさか…」


信じられない…とは言い切れない。例え味方だろうと不都合なら消してきた大本営なら或いは…と考えてしまう




369 ◆B54oURI0sg2019/05/04(土) 06:24:15.80TcHKAzrDO (3/11)

 
 
「どんな兵器か気になりますね…」


『じゃあちょっと見てみようか』


モニターの映像を鎮守府から切り替える。普段私はあの鎮守府の様子しか見ないし他は興味もあまり無い。だけど事が事だけに司令官達も無関係ではいられない


という訳で大本営の件の兵器がある施設を…


「…え?」


血の海だった


施設の廊下だろうか、床も壁も一面真っ赤に染まっている。その血溜まりには人間の身体の一部らしきものが沈んでいる


鋭利な刃物で切られたかのような綺麗な断面が見えた


「あれは…人間…?」


『艦娘もいるね…皆殺しかな…』


何者かの襲撃があったのは一目瞭然だ。そして廊下の奥には一人の女性が佇んでいた


「あれは…大和…ですね」


大和。艦娘の中でも最強の一角でありこの国にとって最も信頼されている存在の一人


その大和が一振りの刀を持ち血の海に立っている。考えるまでも無くこの惨状をもたらした張本人だ


「裏切り…?乱心して暴走した?」


『そういう訳では無いみたいだね。ほらあれ』


Y子さんが指し示した方から複数の人影が現れ、それに大和が指示を出している。あれは…確か


「…傀儡」




370 ◆B54oURI0sg2019/05/04(土) 06:26:32.04TcHKAzrDO (4/11)

 
 
傀儡…例の組織が擁する兵隊とも言うべき人形。人形と言ってもその戦闘能力は私などでは手も足も出ないくらいに強い。聞いた話ではあの朝霜さんですら相討ちに近いくらいの結果になった事もあるという


以前龍驤さん達が遭遇した頃はそこまでの強さではなかったらしいが、今ではもう出会ったら逃げる事を考えなければならない程に改良されているらしい


しかもそれが何体も、大和の指示に大人しく従っている。つまりあの大和は組織の…


その傀儡達が何やら見慣れない巨大な艤装を抱えて持ってきた。話の内容からあれが例の新兵器らしい


『なるほどね、組織は大本営の新兵器を奪いに来たか、もしくは使用不能にするのが目的みたいだね』


「組織も同じ情報を掴みいち早く動いた訳ですか…にしてもここまでするなんて…」


そして大和が何処かに通信をしていると突然窓ガラスが割れ、人影が凄まじい速さで飛び込んできた


窓ガラスと言っても軍施設のもの、間違いなく強化ガラスのはず。それをいとも簡単に砕いたのだ


そして飛び込んできた人影は一瞬で傀儡達を倒してしまう。しかも武器らしきものは持っていない、素手であの傀儡を…尋常では無い


駆け付けた大和と人影は対峙する。動きを止めた事でようやくはっきりとその姿を見る事が出来た


「見た事の無い艦娘ですね…確か大本営が新型艦娘を作ったとか何とか話は聞いた事があるような…」


いつだったか大演習の際にお披露目されたらしい新型艦娘、信濃、話に聞いた特徴と一致している


あの頃私は精神状態が最悪で暴走しかけて気絶させられていたので直接は見ていなかった




371 ◆B54oURI0sg2019/05/04(土) 06:29:07.37TcHKAzrDO (5/11)

 
 
その信濃と大和が睨み合っている。私でも解る…二人は強い。いや、強いなんてものじゃない、次元が違う


信濃が徐に手を翳すと何処からともなく一本の槍?が飛んできてその手に収まった。変わった刃の付いた槍だ。しかも飛ぶとはどういう原理なんだろう


『大和の持つ刀も、あの槍もただの武器じゃないよ。使い手を自ら選ぶ伝説級の武器』


「そんなのがあるんですね…もしかして他にも色々あったりして」


『どうだろうねぇ、巡り合わせ次第では選ばれる誰かがまた現れるかもね』


そうこう言っている間に信濃と大和が構えを取り―――


その姿が掻き消えたと思った瞬間、凄まじい轟音と共に映像が乱れる


「わっ!?わわっ!何ですかあれ!?」


『ひゅー、なかなかやるねぇ二人共』


その場に居ないはずの私にもその衝撃が伝わる。二人の姿は速すぎて私には捉えられない。おそらくはもう既に何十合も切り結んでいる


その度に映像は乱れ、はっきりとは見えないが周囲の施設がどんどん崩壊していくのが判った


「何なんですかあれ…何処の死神ですか…」


仮に私があの場に居たら最初の激突で吹き飛ばされて壁にでも赤い華を咲かせていただろう。もはや艦娘の範疇を遥かに超えている。艤装だとか砲だとか彼女達には必要無いのではないだろうか


二人はほぼ互角のように思える。これはいつまでも決着が付かないのではと考え始めたところで横槍が入る、あれは…




372 ◆B54oURI0sg2019/05/04(土) 06:31:49.27TcHKAzrDO (6/11)

 
 
「早霜…?あの大和を援護した?つまり…」


『組織の仲間だったか、最近仲間になったか…だねぇ』


新兵器の艤装を回収したと伝え、大和と共に姿を消す早霜


「瞬間移動?…あの早霜も大概化け物ですね…」


『強さ的には大した事無いんだけどねぇ、能力とか糸とか文字通り搦め手でいくタイプみたいだよねぇ』


残された信濃と共に施設が崩壊していく。逃げられたと悟ったのか僅かに顔を歪め、そして遺体に手を合わせていた


やがて彼女は脱出し、施設は完全に瓦礫の山となってしまった


「組織はまんまと大本営の新兵器を強奪。…これで破滅は回避されたという事ですかね」


『…』


「?どうかしましたか?」


『大本営が次の一手を打たなければ確かにこれで安心とも言えるけどね…』


「まさか…あれ以上の兵器をまだ隠し持っていると?」


『…』


何だかY子さんの様子がちょっとおかしい。こんな時富士さんが居てくれたら…


373 ◆B54oURI0sg2019/05/04(土) 06:33:36.25TcHKAzrDO (7/11)

 
 
それから少ししてY子さんの言葉は現実のものとなった


大本営は用意していたのだ、次の一手を


Y子さんがいつもとは違う様子で語り出す


『あははっ!組織はやっちゃったねぇ!あの信濃の艤装を強奪したせいであたしにお鉢が回ってきちゃったんだ!』


『とうとう起動してしまった!世界を終わらせる最悪の兵器が!』


映像に映るのは今まで見た事も無いような異様な兵器の姿。その砲口は組織の本拠地があるであろう地域へと向けられているという


そしてあれは言わば生まれたばかりの自分なのだと彼女は言う


「…つまり今ここに居るY子さんは未来から来た?」


『正しくは違う世界の未来から、いや、過去かもしれない。扉が開かれる前の、変わってしまう前の世界の未来から。ねぇ朝ちゃん、ターミネーターって知ってる?』


「ええと…確か暴走したAIが人類を滅ぼす為に過去にロボットを送り込んで人類の希望となる子供を生まれる前に殺そうとする…でしたっけ」


『まあそんな感じだね。人間が自分達の為に創り出した存在に滅ぼされかけている。そんな部分は似ているかな』


彼女はその未来で殺戮兵器として破壊の限りを尽くしたのだという。まさにあの映画のように人類は滅びかけ、艦娘達も敵味方の区別も曖昧に殺し合い、混沌とした世界になってしまっているのだと


『そんな未来を変えようとお姉ちゃんは過去に戻り理想郷の扉を開いた。結果未来は変わったかのように見えた。だけどあたしが生まれお姉ちゃんの妹になっていた。この世界にもあたしが存在する可能性が出来てしまっていた』




374 ◆B54oURI0sg2019/05/04(土) 06:35:26.88TcHKAzrDO (8/11)

 
 
このまま行けばかつての世界の未来のようになってしまうだろうと彼女は言う


『今まであたしの名前を呼ばせなかったのはこの世界であたしの存在を確定させたくなかったから…だけど結局は無駄だったね』


よく解らない事を言う。頭を捻る私にY子さんは


『つまり名も無き兵器ならあたしの因果は影響せず、破壊も容易だった。だけどよりにもよってあたしの名前を付けた事で存在はより強固なものとなってしまった』


数百万の命を奪った存在の因果があの兵器へと集まり始めているのだと


『だけどもう遅い。名前は呼ばれてしまった。存在は確定され、これからもその砲口は何処に向くか解らない』


「そんな…」


『まあそういう訳だから朝ちゃんももうあたしの事を仮名で呼ばなくてもいいよ。せっかくだから呼んでみたら?バリバリはしないから』


「はあ…」


いきなり普段の様子に戻った彼女がそんな事を言ってきた。名前…


「…」


『…』


「…」


『ん…?』


「わ…」


『はいダウト!どういう事!?あたしの名前知らなかったの!?』



375 ◆B54oURI0sg2019/05/04(土) 06:38:30.23TcHKAzrDO (9/11)

 
 
「だって最初に呼ぶなって言われてからずっとY子さんでしたし…そのうち忘れちゃいました」


『…』


怒ったのか、彼女は黙り込んでしまう。名前を忘れたなんて言ったのはまずかっただろうか。バリバリが来るかと身構える私


『…ぷっ、あはっ…あははははっ!』


「あ…あのう?Y子さん?」


珍しく爆笑する彼女に私は戸惑うばかりだった


『そっかー、あはは…。朝ちゃんの中ではあたしの名前はあれじゃないんだね』


「あの…差し支え無ければ、改めて教えてくれたらそう呼びますけど…」


『ううん、いい。ここではあたしはY子さんでいい。…ここだけでもあたしはあれじゃない』


嬉しそうに、悲しそうに彼女はそう言って笑う


『今の世界にはまだ希望がある。もしかしたらあれを破壊出来る誰かが居るかもしれない』


そうしたらあたしは…


そこまで言ったY子さんの顔を見た私は凍り付く。見覚えのある表情だったからだ


私が生前鏡で見ていた自分の表情と同じ


自殺志願者のような顔をしていた


376 ◆B54oURI0sg2019/05/04(土) 06:39:56.73TcHKAzrDO (10/11)

ここまで
解釈が合っているのか解りません


377以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/04(土) 14:56:43.81lqh+3YXXo (1/1)


人格も無いただの殺戮兵器八島とおちゃめバリバリ世話焼きY子さんは別人


378以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/04(土) 16:46:52.63ZTasXaCJO (1/1)

おつおつ
富士が過去に戻ったっていうのはどういうことだろ


379 ◆B54oURI0sg2019/05/04(土) 17:01:12.94TcHKAzrDO (11/11)

>富士が過去に戻った

以前そういう描写があったような気がしましたが如月と混同していたかもしれません
元々富士は八島を知らなかったとするならここはやらかしですね


380 ◆B54oURI0sg2019/05/09(木) 05:46:20.61P2dcfLCDO (1/8)

>>375から
 
 
はい朝潮です。Y子さんのカミングアウトから少し経ったけれど隕石が落ちたというニュース以外は特に変わり無く日々は進んでいる


彼女の物言いだとあの兵器が起動したら即世紀末みたいな想像をしていた私は少し肩透かしを食らった気分だ


『そりゃそうだよ、言ったじゃん、生まれたてだって』


「じゃあそこまで世界の危機という訳ではないんですかね」


『今は、ね。いつか誰かが言った、あれは兵器としては完璧過ぎるって』


今のあの兵器は単に核を撃ち出すだけのものに過ぎないらしい。だけど改良されてどんどん進化していくという


『今は人間の手で目標の座標を打ち込んで着弾までの演算をAIが担うだけの形だけどね』


「AIって…そんなの付いてるんですか?」


『当たり前じゃん。遠く離れた場所に核を撃ち込むなんてのを手動でやってるとでも思った?』


「それはそうですけど…それってY子さん?」


『ああ、違うよ。このあたしじゃなくてあくまであの兵器に搭載された人工知能。感情なんて存在しない、ただどれだけ効率的に敵を殺せるか考えるだけの』


「え…」


『いずれそのAIは改良され、敵を設定するだけで自動的に滅ぼしてくれるようになる』


今は発射コードのみで制御されてはいるがそれを知れば誰でも撃てるというのは完璧な兵器には程遠い、後々には兵器自らが考えその資格がある人間を判別するようになるという




381 ◆B54oURI0sg2019/05/09(木) 05:47:51.46P2dcfLCDO (2/8)

 
 
『仮にその人間が殺されたりした場合も自らの判断で報復攻撃が出来る。そして破壊されないよう防衛機能も追加されて手が付けられなくなっていくんだ』


何とかするなら本当に今のうちしか無いんだよと彼女は言う


まるで他人事のように言っているがそれはつまり自分を…


私がそう考えていると点けっぱなしにしたモニターから慌ただしい声が流れた


それは突然行方不明になっていた、そして突然帰って来た呂500さんの話


「無事だったんですね…良かった」


数日前突然姿が見えなくなり必死に捜索していた司令官達。その安否が絶望視され始めた頃呂500さんは前触れ無く鎮守府に帰って来た


しかし自分が行方不明だったという自覚は無く、その間の記憶も無いらしい


念の為検査をしたところ…彼女は


「殺されていた…?そんな…今そうして生きているじゃないですか…」


『あの時雨と同じなんだね、生存の定義を何処に置くかは人それぞれだけど。少なくとも呂500は一度は死んだという事かな』


私とY子さんでは感情移入度が違うとはいえドライな事を言う彼女にちょっとムッとしてしまう


「…ああして生きているんです。だったら死んでいないんです」


我ながら子供っぽい理屈だとは思いつつそう言ってY子さんを睨む私に彼女は


『あー、ごめんね…別にそんなつもりじゃ無いから。帰って来た事は良かったとは思うよ』




382 ◆B54oURI0sg2019/05/09(木) 05:49:10.38P2dcfLCDO (3/8)

 
 
「私こそごめんなさい…別に責めたい訳じゃなくて…その…」


お互いにバツの悪い空気になってしまう。すぐ感情的になってしまうのはまだまだ修行が足りないなと反省する


傀儡となってしまったという呂500さんに組み込まれている情報漏洩の装置。下手に除去する事も出来ず、結局はゴーヤさんに押し付けるような形で鎮守府から遠ざけるしか無いようだった


そもそもこの鎮守府で除去は可能なのかも判らない、下手をしたら今度こそ死んでしまうかもしれない


危ない橋を渡るよりは、問題の先伸ばしだとしても有効な手段が無い現状では無難な選択なのだろう


『遠ざけるにしても解体するにしても露骨過ぎると結局勘づかれるとは思うけどねぇ』


「じゃあ詰んでるという事じゃないですか…」


『ダミーの情報を送るとか器用な事が出来たらいいんだけどねぇ』


「その装置を除去したのがバレたらどうなるんでしょうか」


『さあ…それでいきなり攻めてくるっていうのも考えにくいけど…変わりの傀儡にまた誰かが差し替えられたりするんじゃないかな』


あの組織の事だ、また誰かを拐って傀儡にして送り込む。それを繰り返し気付いたら艦娘は誰も居なくなっていて完全に掌握されてしまう、他の鎮守府ではもしかしたら既にそういう所もあるのかもしれない


かつて漣さんが身を寄せていた鎮守府が正にそうだったらしいが、それがひとつとは限らないのだ




383 ◆B54oURI0sg2019/05/09(木) 05:51:19.32P2dcfLCDO (4/8)

 
 
「ところでその整備士さんってどんな人なんでしょうね」


『おやぁ?珍しいねぇ、朝ちゃんがあの鎮守府以外に興味を持つなんて』


「別に興味なんて…ただちょっと気になっただけです」


とんでもない技術をただ人を救う為だけに使っているらしい。司令官以外にそんな人間が存在するとは正直信じられなかった。何度か助けてもらったというのも何か下心があっての事だと思っていた


『まあたまには別の所を見るのもいいんじゃないかな。ポチっとな』


Y子さんが映像を切り替えるとそこは深海棲艦の基地跡のようだった。所々修理の跡が見えるが深海棲艦の姿は見当たらない


その基地の手前に見覚えのある人影があった


「あれは早霜?どうしてこんな所に…」


『当然だけど帰って来たという訳じゃ無さそうだね。潜入かな』


「たった一人で…とは言っても彼女は不死身に近い身体でしたね…」


周囲を警戒しながら進む早霜、しかしその背後に音も無く現れたのは深海海月姫だった


「あいつが居るという事はここは深海提督の…?」


そして深海海月姫は早霜を羽交い締めにして動きを封じた。それからどうするのかと思っていると一瞬何かが光ったように見えた


「スタンガン?早霜は…気絶していますね」


『あの深海棲艦が何か使ったか、周囲に罠を仕掛けていたってとこだろうね』


そして深海海月姫は昏倒した早霜を抱えて基地の中へと入っていく


384 ◆B54oURI0sg2019/05/09(木) 05:53:08.66P2dcfLCDO (5/8)

 
 
それから早霜は処置室のような部屋へと運ばれていく。そこにはまるで特徴の無い一人の男性…これが噂の整備士さんなのだろう…と別の深海棲艦と艦娘がスタンバイしていた


「この設備の揃い様は…もしかしてここは深海提督のアジトではなくあの整備士さんの隠れ家だったみたいですね」


整備士さんの側に控える深海棲艦の風貌は駆逐艦吹雪に似ている。整備士さんを司令官と呼ぶ彼女はおそらく秘書艦なのだろう


整備士さんは用途の解らない機械を幾つか用意してこれから早霜に何かをするらしい


そこからは私には何が行われていたのかまったく理解は出来なかった。何かの機械を使い検査をし、その後は…思い出したくない


「あ…頭をひら…うっぷ」


『大丈夫朝ちゃん?はいビニール袋』


あれだけ身体を弄くり回しておいて、今カプセルに入れられている早霜の身体には傷ひとつ残ってはいなかった。技術とかそういうレベルではない、まるで魔法だ


ようやく目覚めた早霜は自らの能力を全て消された事実を告げられショックを隠せないようだった


そしてこれまでのふてぶてしさがまったく消えてしまった早霜は朝霜に会いたいと懇願している


「艦娘の持つ特殊能力を消すとかとんでもないですね…。というかもう別人ですねあれ…」


『能力を手に入れた事で歪んでいたのか、歪んでいたからあんな能力を持てたのか…少なくとも今の早霜が素なんだろうねぇ』


必死に頼むその姿にほだされたのか早霜をカプセルから解放する整備士さん。全裸なのにはまるで無反応。まあさっきまで身体の内部まで見ていたのだから今更なのかも


そして整備士さんの側に控えていたもう一人の艦娘が更に誰かを呼びつけて―――




385 ◆B54oURI0sg2019/05/09(木) 05:55:07.02P2dcfLCDO (6/8)

 
 
ブツン


「はぁっ…はぁ…」


私は後ろを振り向いた。僅かに開いた襖の向こうは暗い部屋。たぶん…おそらく…変わりは無いように思える


いや…そもそも彼女は眠っているのだ、見られたはずは無い、聞かれたはずは無い。呼ばれた声に返事をする慌てた声、その顔は…


「あいつは死んだはずじゃ…いやそもそも別人だったのかも…」


『別人ではないみたいだよ』


モニターは今さっき私が慌てて消したが、Y子さんは目を細めて何か別のものを視ているようだった


『あたし自身はそのテレビが無くても色々視られるからね。まあ疲れるから普段あんまりしないけど』


「なんであいつが整備士さんと一緒に居るんですか…」


間違ってもその名前はここでは出せない。話自体も出来たら避けたいくらいだ。…だけど知っておくべきは多分私だ。だって仲間なのだから


『出来損ないとして処分されたものをあの整備士が拾ってそこに復活したらしいよ。どうやら早霜みたいに色々弄られているようだね。ずいぶんまあ…これまた別人だねぇ…』


Y子さんの話ではあいつはもうほとんど無力化されて性格も善良なものになっているらしい。今までした事を後悔している旨の発言までしていたのだという


「…は、ははっ…」


渇いた笑いが出た。ついつい生前の事を思い出してしまう


後悔している?それで?あいつが私にした仕打ちで私の人生はめちゃくちゃになった。反省している?だから?それで私に何を返してくれる?


何も出来ないくせに




386 ◆B54oURI0sg2019/05/09(木) 05:59:11.72P2dcfLCDO (7/8)

 
 
『――朝潮――』


ハッとして我に返る。しまった…まさかまたぶり返しそうになるなんて自分でも思ってもみなかった…


「ごめんなさい…たぶん私は今、自分に重ねてしまっていました…」


自分と彼女、どちらがより不幸かなどとむなしい比較なんてする気は無いけれど。取り返しが付かないという意味では共通しているのかもしれない


「奪われた側がここに居て、奪った側が生きている、なんなんでしょうねこれは…」


『…珍しい話じゃないよそんなのは』


「ええ解っています。この世は理不尽に溢れている事くらい身を持って知ってますしね…」


いつかの2000人の犠牲者もそうだ。彼等彼女等は何もしていない、それでも死ぬ羽目になった。それをした者達もまた生きている


それぞれにそうするに足る理由はあったのだろう。だけどそれに見合う結果を残せているとはとても思えない、つまりは無駄死にだ


「命までも代償にしておいて後悔してますは都合が良すぎますが…かといって死んで償えるものでもない」


『背負い続けるしか無い、いつか天から罰が下るまで、自ら終わらせる事は償いにはならない』


ああ…そうだ、彼女もそうだった。彼女も償い方を探しているんだ


この世界には加害者と、被害者と、傍観者しか居ないのかもしれない。それを変えようとする人間すらもそこに巻き込まれて苦しむ


この世は苦しみに満ちている。司令官…誰か…


私には何も出来ない、何処へも行けない。だったらせめて祈ろう、何の意味も無いのだとしても。私の大好きだった人に、大切な仲間に、お世話になった人達に、そして…私の事で罪に苦しむ人達にも


救いがありますようにと


387 ◆B54oURI0sg2019/05/09(木) 06:01:32.03P2dcfLCDO (8/8)

ここまで
苦しくなってきました
自分で書いて解りましたがやはり本編作者はとんでもないですね…


388以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/09(木) 12:21:23.83+qFeWh7Go (1/1)

おつでした
タシュケントの一時退場も伏線だったと考えると恐ろしい


389 ◆B54oURI0sg2019/05/18(土) 05:56:48.10ksNFMuDDO (1/14)

>>386から
 
 
「オッスオラ朝潮!…ちょっとY子さん!こういうの私のキャラじゃないんですけど!」


『いいじゃんいいじゃん、たまにははっちゃけてみなよー』


という訳で朝潮です。何だかY子さんがたまには変わった挨拶をしてみたらどうかと私にモノマネをさせてきた。…挨拶って言ったってここには私達しか居ないのに意味はあるのか


漣「もうだめだぁ…おしまいだぁ…」


私の隣では漣さんがハイライトの消えた目で最初のセリフのライバルキャラのモノマネをさせられていた。迫真というか何というか…それ演技ですよね?そうですよね?


あの後少ししてからまた目覚めた漣さんだったが以前よりは落ち着いている。どんな事にしろ時間というものはそれをある程度癒してくれるのだろう


あれから鎮守府では暴走した陽炎さんが霞のママ力に陥落したりその霞の負担を減らす為に雲龍さんが新しいママ役になったりしていた


「不思議ですねぇ…母親なんて居ない艦娘があんなにものめり込むなんて」


『逆に居ないからこその未知の体験だったからかもねぇ』


「みんなしっかりしなきゃといつも神経を張っているからああいう癒しは必要なのかもしれませんね」




390 ◆B54oURI0sg2019/05/18(土) 05:58:05.05ksNFMuDDO (2/14)

 
 
「球磨さん…まだやってたんですね…」


大井さんと球磨さんと北上さんが何やら話していた。その話の流れで球磨さんがいまだに下着泥棒をしているらしい


「さすがに食べるのは無理でも匂いとかぬくもりを…ひえぇ…」


わからない…文化が違う。というか怖い。いつだったか私の下着を食べていた球磨さんを見た時のトラウマが蘇りそうだ


「は…そうだ…そういえばあの鎮守府では私の部屋はそのままでしたね…ま、まさか…」


漣「…漣の部屋も…まぁ別にもうどうでもいいか…」


漣さんは何だかキャラが変わっている。まるで某中二キャラのようになげやりになっている。そのうち「そう、関係ないね」とか言いそうだ


北上さんは球磨さんに自分の下着を盗まれていたと知っても気にしていないようだった。それどころか自分達の情事を見られる事にすら無頓着なようで


「いやいやいや…いくら自分の失態を晒していてもそれとこれとは話が別ですよ…」


漣「…同意する」


どうやら北上さんは露出調教されていてそういう感覚を忘れつつあるようだ。憲兵さん…貴方はいったい何をしているのだ…




391 ◆B54oURI0sg2019/05/18(土) 05:59:26.54ksNFMuDDO (3/14)

 
 
その後一人になった球磨さんはまたも脱衣場で下着漁りを始めている。さすがに主不在とはいえ他人の部屋に侵入したりはしないようだ。そうだと思いたい


「まあそもそも洗濯済みならターゲットにはなりませんよね…」


漣「…あの球磨さんなら一度でも使用した物なら例え洗っていても匂いを嗅ぎ分けますよ…どうでもいいけど…」


漣さんが不吉な事を言う。司令官…ちゃんと鍵をかけてくれているだろうか。本当にお願い


そして雲龍さんと千歳さんの下着を脱衣かごから拝借した球磨さんはご満悦な顔で戻って行った


その後お風呂から上がった二人はちょっと困った顔をして仕方なく下着無しのままで部屋へと替わりを取りに行った。あの落ち着き様は初めてではないのだろう


「個人の趣味は自由ですけど…人に迷惑をかけるようなのはちょっとどうなんですかね…」


漣「…あの鎮守府は…そういう部分も許容する場所なんです。本当なら軍規に反します。他なら厳罰か、最悪解体されます…どうでもいいけど…」


「ああ…そうでしたね…。他では受け入れられない趣味や、せ…性癖の為に追いやられて来た艦娘も居ましたね」


自分の場合はそんな段階ではなかったから失念していた


「と言ってもやっぱり黙って持って行くのは良くないと思います。…聞かれても困りますが」


貴女の下着を堪能したいので貸してください、洗って返しますから。そう言われて貸す女が居るかどうか


食べられて消滅するよりはマシと考えるべきだろうか…わからない…




392 ◆B54oURI0sg2019/05/18(土) 06:00:55.44ksNFMuDDO (4/14)

 
 
漣「…前にも思ったけど、ずいぶん気楽にしているようですね…朝潮…」


暗い目で私を見詰めてくる漣さん。もう売り言葉に買い言葉にならないよう気を付けないと…


「前にも言いましたが…私はもう関わりたくても関われないんです。だからといって幽霊らしく暗くしていても仕方がないので…気に障ったなら謝ります」


漣「別に…怒ってる訳じゃ…。私の知ってるイメージとちょっと違うから…」


『まあこれが本来の朝ちゃんなんだよきっと。色々なしがらみから解き放たれた』


漣「しがらみ…」


今や私よりもむしろ幽霊らしい雰囲気で漣さんは何かを考え込んでいる。今の彼女が考える事はろくな事じゃない気がする


「何度でも言いますが…死んで楽になる事なんてありませんよ。一時の苦しみから逃れた先に待っているのは永遠の苦しみと後悔です」


『その苦しみからも逃れたいならもう成仏して生まれ変わるしかない。けどね、未練や執着、恨みがある魂はそう簡単には成仏すら出来ないよ』


漣「生きてても苦しい…死んでも苦しい…。じゃあこの世界って何なんですか…」


すがるような目を向け私達に問いかける。彼女は答えを求めている、進むか止まるか判断しかねている


『あたしにもそれはわからない。存在してしまった以上腹を括るしかない。だって最後の最後には自分を救えるのは自分しか居ないんだ。どれだけ手を引いてもらっても歩き出すのは自分なんだから』


漣「…」


漣さんはそれを聞いてまた何かを考え込んでいる。私達の言葉はどこまで届いているのだろうか…




393 ◆B54oURI0sg2019/05/18(土) 06:03:10.29ksNFMuDDO (5/14)

 
 
ある日の鎮守府に突然早霜が現れた。朝霜に掛けた暗示を解きたいのだと必死に訴えかけている


「早霜って確か…どうしてここに…」


『ふむ、どうやら早霜が頼み込んで送ってもらったみたいだよ』


内容をぼやかして話す私とY子さん。もう既に知っているのか、まだなのか、どちらにせよなるべく避けようというのが私達の結論だ


Y子さんが私に教えてくれた話では整備士さんは呂500さんが傀儡化された事に勘づいたらしくこの鎮守府を警戒し始めたらしい


下手をすればもう協力を仰ぐ事は出来なくなるのかもしれない。それどころか敵視までされたらどうなるのだろう


鎮守府の皆やアケボノさん達に囲まれたまま朝霜を説得する早霜


しかしやはりこれまでの行いが悪すぎたのだ。受け入られる事はなかった。そしてアケボノさん達は早霜を捕まえ姿を消した


『…早霜はアケボノ達の仲間まで手にかけてる…あれはもう殺されるね』


「…えっ」


私は龍驤さんに抱き締められ泣きじゃくる朝霜さんの姿を見ながらその映像を切り替えた


そこが何処かはわからない。早霜はあの女幹部――菊月やアケボノさんリュウジョウさん、その他見た事が無い艦娘達に囲まれ、詰問されていた


彼女達が聞くのは自分達の司令官である深海提督の安否と居場所


しかし




394 ◆B54oURI0sg2019/05/18(土) 06:04:58.78ksNFMuDDO (6/14)

 
 
整備士さんが自分達の安全の為に居場所に関する記憶を消していて…今同じ場所に居るらしい深海提督の居場所も当然記憶が無かった


それでも朝霜さんに会わせてほしいと懇願する早霜に菊月さんは手を触れ、そして――


菊月さんから錆びのようなものが早霜の身体に移り凄まじい速さで侵食していく


「あれが彼女の能力…?」


瞬く間に全身が錆びに覆われ顔半分まで錆びが登っていく。早霜は涙を一筋流し朝霜さんの名前を呼びながら、そして――


「っ!」


『朝ちゃん!?ちょっと待って!漣!朝ちゃん止めて!』


漣「え…え?」


私は部屋を飛び出し三途の川へと向かう。特に何か考えがあった訳でもなかったがとにかく我慢が出来なかった


私は別に早霜と知り合いでもなんでもないし思い入れなんて無い。司令官達にとって敵なら私にとっても敵だ


だけど


朝霜姉さん――


あの最期の姿を見て私はいても立っても居られなくなっていた


川沿いに辿り着いた私は辺りを見回す。相変わらず死者の魂は途切れる事が無い。そうしているうちに漣さんが私に追い付いてきた




395 ◆B54oURI0sg2019/05/18(土) 06:07:29.50ksNFMuDDO (7/14)

 
 
漣「…いきなり飛び出してどうしたんですか?まさかあの早霜まで連れてくるつもりですか?そんな事が出来るくらいなら…」


そこで言葉を切る漣さん。言いたい事は判る。あの小さな深海棲艦の魂の事だろう


実際あれからちょくちょく見に行ったりもしているが彼女の魂は見付かる事はなかった。そもそも来ているかもわからないのだ


もし見付かれば彼女にとってこれ以上無い救いとなるだろうが…


その場合、現世に帰ろうとする意志すら完全に捨て去りここで永遠に過ごすと言い出す可能性は高いように思う


そうしていると突然辺りの空気が変わった


川を渡る死者の群が怯え始める。空から何かが聞こえる。何かが落ちてくる


ああああああああああああああああああああああああああああああ朝霜姉さあああああん嫌あああああああああああああああ!!!


無数の死者にまとわり憑かれた早霜が川へと落下していく


あああああゴボッあああああ嫌ごめんなさい朝霜姉さんごめんなさいあああああ嫌あああああゴボッ助け――


落下した水面からも更に死者の腕が伸び、早霜はあっという間に水底へと引きずり込まれてしまった


連れて来るとか、話すとか、そんな暇すらありはしなかった




396 ◆B54oURI0sg2019/05/18(土) 06:11:10.76ksNFMuDDO (8/14)

 
 
『まったく…いきなり何をしようとするの…朝ちゃんは』


ゴンッ!!!


ようやく追い付いてきたY子さんが私にゲンコツを…お…


「お…おおおおお…!」


漣「うわ…下手したら死にますよあれ…」


「も…もう死んでますけどね…おおおおおお…」


うずくまりながらも突っ込んでしまうのは私の性格がそうさせるのだろうか


『早霜自身が言ってたでしょ、殺し過ぎたって。そんな魂に下手に近付いたら一緒に引きずり込まれるよ、助けようにも重くなり過ぎて引っ張り上げるのだって難しいのに』


「でも私は…ごめんなさい!」


再び拳を振り上げて見せたY子さんに反射的に謝る私


『やれやれ…あれは正しく自業自得だから同情の余地は無いのにさ…殺したのも自身の快楽の為だし』


「それはそうですけど…」


漣「生まれつきそうなら…それは誰の責任なんでしょうね…」


『それは…まあ、ね…』


彼女を、早霜をそういう風に生み出した世界が悪いのだろうか、止められなかった人間が悪いのだろうか


『そういうのもやっぱり自分を救う自分なんだよ。あんな事してろくな死に方しないと土壇場まで気付けなかった…。それに気付かせてあげられる人間が居なかったのが早霜の不幸かな…』


397 ◆B54oURI0sg2019/05/18(土) 06:12:41.74ksNFMuDDO (9/14)

 
 
早霜の一件から朝霜さんはやっと安心して過ごせるようになったのかみるみる元気を取り戻していった


結局早霜が固執していた暗示とは何だったのか謎は残った


朝霜さんを助ける為に暗示を解く、では解かなければどうなるのか…何にせよ早霜はもう居ない。それを聞く事はもう出来ない


そしてつかの間の平穏が戻った鎮守府にアケボノさんが現れ整備士さんの居場所を聞いてきた


「ずいぶん急いでいる様子ですね、何か緊急事態でしょうか」


『あの子達の緊急といえばあの子達の提督の話しか無いよね』


司令官達は整備士さんの居場所を知らないと答えるとさっさと姿を消してしまう


「ちょっと気になりますが…整備士さんかあ…」


漣「…?」


下手に整備士さんの所を見て漣さんがあれを見たらどうなるか、それが解らない程私は鈍くはないつもりだ


『…大丈夫、今は居ないみたいだよ。というかアケボノ達は辿り着けそうにないみたいだね』


「そうなんですか…?」


映像を切り替えてみると、アケボノさん達は整備士さんの秘書艦である吹雪さんに追い払われようとしていた


「嘘…たった一人であの人数を完全に圧倒していますね…。アケボノさん達は決して弱くはないのに…」


むしろ私よりもよほど強い。チームワークでなら朝霜さんにも負けないと豪語していたらしい


それを一人で圧倒出来るあの吹雪さんはつまり朝霜さんよりも強いという事になるのだろうか




398 ◆B54oURI0sg2019/05/18(土) 06:14:43.38ksNFMuDDO (10/14)

 
 
アケボノさん達は何でか早霜の名前を連呼していた。まさかあれで警戒心を解こうとしているのか


「えぇ…もうちょっと他に何かあるでしょうに…」


『予想外にあの吹雪が強くて完全に浮き足立っちゃってるねあれは』


結局更に警戒を強めた吹雪さんに押される形でアケボノさん達は退散せざるを得なかったようだ


その後整備士さんの潜伏場所らしき地点は爆破され完全に見失ってしまい消沈するアケボノさん達


『ふむ…どうやらあの鎮守府込みで警戒されちゃったみたいだよ。呂500の傀儡化の件のせいだね』


漣「そんな…あれだけ協力的だったのに今更…?傀儡なら潮だって居たじゃないですか」


『潮の場合はこちらから保護した形だけど呂500は送り込まれてきた、しかもそれを把握していてなおかつ処分もしない…。理由はどうあれ外から見たら疑われても仕方ないよこれは』


「これからは何かあっても彼等の協力は仰げませんね…下手をすれば敵対してしまう可能性も…」


問題はその事を司令官達はまだ把握していないという事だ。自分達の知らない間に敵視され、無警戒に接近し、味方だと思っている相手に問答無用で攻撃を受ける


あの吹雪さんの攻撃力をまともに食らったら無事では済まないだろう




399 ◆B54oURI0sg2019/05/18(土) 06:16:02.73ksNFMuDDO (11/14)

 
 
そうしている間にY子さんが何かに反応した


『使ったか…来るよ』


「え…?」


私が聞き返そうとするとモニターから轟音が響く。爆破されいまだ燃えている基地施設に突然光が降り注いだのだ


「うっ…!」


漣「く…!」


遥か彼方から巨大な光の帯が基地のあった島に突き刺さり飲み込んでいく。その眩しさから目を閉じる私達


少しして再び映像を見ると基地のあった場所には何も残ってはいなかった。それどころか島の形も少し変わってしまっているように思える


「これは…いったい…」


何処からかの砲撃があったのは確実だろう。そしてこの威力…思い当たるものはひとつしか無かった


『そう、あれが使われた。アケボノ達が焦る訳だね、でも結果的には脱出させられたから結果オーライなのかな』


「アケボノさん達は…」


『察知していち早く帰っていったよ』


「そうですか…よかった…。それにしても結構頻繁に使いますね…」


『今の大本営の最大の武器はあれだけだからね。使うしかないといったところかな』


あんなのをポンポン使って大丈夫なのだろうか。一発撃つだけでも鎮守府なら資源が吹き飛びそうだ



400 ◆B54oURI0sg2019/05/18(土) 06:20:28.31ksNFMuDDO (12/14)

 
 
所変わって映像は大本営の茶室。菊月さんがあれの情報を集める為に大本営に戻ったところ信濃さんと出会い


そしてどういう訳か組織の大和がそこに現れた


「菊月さんと信濃さんは解りますがこうまで堂々と大本営に現れるなんてどういう神経をしてるんでしょう…」


『例え見咎められても自分なら問題無いと思ってるんじゃないかな』


実際あの大和を止められる戦力は大本営にも多くはないのだろう。仮に戦闘になったらどれだけの犠牲が出るのか想像もつかない


その大和は今回は話し合いに来たと言ってお茶なんて立てているが信濃さんは警戒して手を付けようとはしなかった


「戦争を続けて均衡を保ち、武器を売りそれが平和と…。確かに戦争が終われば私達艦娘は必要無くなって数は減らされるでしょうが…」


『どうかな…深海棲艦との争いの次はまた別の争いに移行するだけだと思うよ。その際貴重な戦力である艦娘は今以上に必要とされる』


「そうなったら艦娘の敵は人間と、そして同じ艦娘になりますね…」


『大本営にはあれがあるけどそれだけじゃやっぱり足りない。どうしたって兵隊は必要になるからね』


そうして武器を売って国が潤ってもその武器が向けられるのが誰になるのか、また沢山の人や艦娘が死んでいくのだ。平和などとはお世辞にも呼べない


話を聞いた信濃さんが激昂して大和に斬りかかる


「艦娘になったからなのか元々なのか…血の気が多いですね」




401 ◆B54oURI0sg2019/05/18(土) 06:23:54.55ksNFMuDDO (13/14)

 
 
しかし前回とは違い大和はあっさりと信濃さんの槍を弾き飛ばしてしまう


『冷静さを欠いて勝てる相手じゃないよねぇ…』


信濃さんの肩を突き刺した大和がその目を覗き込んだ次の瞬間、信濃さんから大和への敵意が消えていく。目が虚ろだ


漣「これは…暗示…?」


「洗脳する能力ですかね…そこまで強いものではないようだけどあれだけの達人が使うとなると厄介ですね…」


傀儡を食べて能力を得たと話す大和、つまりそれは傀儡への能力付与が成功したという事なのか


「大量に居て、しかも一体一体がめちゃくちゃ強くてその上特殊能力持ちに…?」


『一発の破壊力の大本営か数で押す組織か…どちらが不利かな』


しかも信濃さんを洗脳し仲間に加えてしまった以上大本営はもう…?


抑止力というやつで大本営と組織がお互いに睨み合うだけになれば確かに均衡するのかもしれないが…


そして大和は信濃さんを連れて行ってしまう。菊月さんはさすがに手を出せず見送るしかないようだった


弾き飛ばされ落ちていたはずの槍は何故か何処にも見当たらなかった


402 ◆B54oURI0sg2019/05/18(土) 06:26:56.07ksNFMuDDO (14/14)

ここまで
次以降はまだ未確定の部分もあって難しい
後追いみたいな形を取ったのは…


403以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/18(土) 14:21:53.23A+Lp12ql0 (1/1)


未来が難しいなら過去の話をしてもいいのよ?


404 ◆Ym1fb/Qckk2019/05/20(月) 08:36:48.78fAZCVd2CO (1/40)




他の人と違っていいんだ。自分を信じ続けるといい。世の中いろいろあるけれど、俺だって何とかなった。

_元スウェーデン代表 ズラタン・イブラヒモヴィッチ





405 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 08:37:45.16fAZCVd2CO (2/40)




「…………この辺でええやろ」

「あぁ、ここなら誰も気づかない」

「じゃ、棄てるわよ」


ポイッ

ザプン


ゴポポポポポポ……………









早霜「……………………ん……?」





406 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 08:39:42.15fAZCVd2CO (3/40)


ピーッ!!


実況「さぁ試合開始です!今回はなんと艦娘がピッチに立ちます!」

解説「ものすごい経歴を持つ選手ですね。殺した人数がプロフィールの枠を超えてますよ。しかも趣味はなるべく苦しませて殺すこと……うーん、カンダタも真っ青な殺人快楽者ですねぇ」

実況「救われるはずのない魂に垂らされた蜘蛛の糸、彼女は登りきることができるのでしょうか!?活躍に注目したいところです!」


〔11:06〕


実況「ロスタイムは……結構長いですね。ほぼ半日です」

解説「分単位に直すと666分……うーん、彼女の素性を表すかのように不吉な数字だ」





407 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 08:41:01.67fAZCVd2CO (4/40)



早霜「あれ……私、確か菊月に…………」


実況「早霜選手、やはり理解ができていないようです」

解説「死んだはずなのになんで?という顔をしてますね…………おや?何かおかしいですよ?」

実況「そうですか?いくらか身体に錆が目立つようですが、それ以外辺りには……んん!?いつもの審判がどこにもいません!!いったいどこに……?」


_海上

審判団「……………………」


実況「いました!早霜選手から遥か真上の海上です!なんと潜ることができない!!」

解説「泳げないのにどうしてこの試合を請けたのでしょうか。これは派遣した教会にも責任が及びそうですね」

実況「このままでは選手が動けず意図せぬ形でロスタイム放棄もありえます!いったいどうなってしまうのか……!?」







408 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 08:42:11.15fAZCVd2CO (5/40)





ブクブクブクブク……


ザパァンッ


早霜「ぷはぁっ…………」


実況「おっと!早霜選手、自ら海上に出てきました!」

解説「状況と位置の把握のために出てきたようです。頭の回る選手で良かったですね」



早霜「……!敵……!!」ゴッ

主審「!」ピピピピピッ!!


実況「あぁーっと!審判を敵と認識してしまいました!誤解を解こうとしています!」

解説「副審がフラッグで守りの構えをしていますね。あんな棒切れでどうするというのでしょうか」


主審「……!」カード

早霜「……注意?みたいなものかしら?殺してはいけない……そんなところかしら」


実況「当然カードが提示されますが……ルールがいまいち伝わっていないようです」

解説「審判団への暴行が反則対象ですが、どうやら早霜選手、殺害そのものの禁止と解釈したようです」





409 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 08:43:40.89fAZCVd2CO (6/40)



早霜「…………数字?」

主審「…………」コクッ

早霜「何かしら、これ…………私、たしかに死んだはず……」

主審「…………」トントン

早霜「時計?」

主審「……」シタユビサシ テアワセ

早霜「下に、両手……?」



解説「うーむ、どうやら時間が来たら地獄に落ちると伝えたいようですが……」

実況「いまいち意図が伝わっていないようです。ここでの時間は後々に響きそうです」



早霜「……そうだ、そんなことをしてる場合じゃない」

早霜「まだ終わってないなら、早く……早く姉さんの暗示を…………」

早霜「でも……ここはどこかしら…………」



実況「おっと、意図は伝わっていませんがどうやら動き始めるようです」

解説「どうやら彼女、生前に姉に仕掛けた暗示を解きたいようですね。まずはそこにたどり着けるでしょうか?」




410 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 08:44:58.22fAZCVd2CO (7/40)



〔10:03〕


早霜「………………」スイーッ

審判団「…………」


実況「動き出してから1時間が経過しましたが、依然海の上を彷徨っています」

解説「自分がどこにいるのかさえ分かってないですからねぇ。しかも夜間で視界も悪い状況。せめて陸地にたどり着ければ良いのですが……」


早霜「…………」チラッ

審判団「…………?」

早霜「時間が減ってる……制限時間みたいなもの、なのよね?」

主審「…………」コクコク

早霜「ねぇ……私、確かに死んだのよね?」

主審「………………」コクッ

早霜「…………そう、やっぱりね」


実況「早霜選手、ここで死んだことを確認したようです」

解説「ほとんど動揺は見られませんね……いえ、ちょっと待ってください、早霜選手の手……?」


早霜「どこまでいっても先が見えないわね……」スイーッ


手「…………」ワキワキ……

ゴキッ、ボキッ…………


実況「これは……獲物を探すかのように、恐ろしい動き方をしている……!?」

解説「本人は無意識のようですが、本能が殺しを求めている……といったところでしょうか。手を出せば退場もありえる状況、かなり難しいゲームになりそうですね……」


早霜「でも、このままだとラチが明かないわ……探照灯でもあれば、周りだけでも見えるのだけど……どうすれば……」





「おい!おまえ!!」




411 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 08:46:38.26fAZCVd2CO (8/40)



早霜「!!その声……!」

伊400「やっぱり逃げやがったんだなこの野郎!」


実況「おっと!これは潜水艦の伊400さんでしょうか!?ようやく審判団以外の人間に出会うことができました!」

解説「どうやら知り合いのようです。いやぁ、ここまで長かったですね」


伊400「だからお前は信用ならないと思ってたんだ!ボスのところには行かせねぇ!!」

早霜「ち、違うの……!私、さっきしん」


主審「!!」ピピーッ!!

早霜「!?」

主審「……!…………!!」


実況「あぁーっ!ここでついにやってしまいました!死んでいることを伝えてはいけません!」

解説「ようやく人に会うことができて安心してしまったのでしょうか。多くの選手が起こすミスですが、この気の抜けたところが危ないですねぇ」





412 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 08:49:57.72fAZCVd2CO (9/40)




早霜「あっ…………言ってはいけないのね?」

伊400「あぁ?しん?」

早霜「し……し、信用されないのはよく分かってるわ…………」

伊400「はんっ、分かってるならいいんだ」

主審「………………」


実況「おや?カードを出しませんでした。これは辛うじてニュアンスは伝わっていない、ということでしょうか?」

解説「そのようですね。まぁ今回はジャッジに助けられたということで、焦らずに…………ちょっと待ってください?早霜選手の右手……」

実況「右手ですか?どうし……!?」


ナイフ「」キラッ……


実況「隠しナイフですか!?いつの間に……!?」

解説「伊400さんもまったく気づいていません……本人の意思さえあれば、ですね……」



413 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 08:50:59.11fAZCVd2CO (10/40)



早霜「その、お願いがあるの!もう一度…………もう一度だけでいいから、あの鎮守府に連れていって!」

伊400「鎮守府ゥ?お前今日の昼に暗示解くからって連れていったじゃねぇか!」

早霜「そうなんだけど……その、暗示を解ききる前に追い出されてしまったの……!」

伊400「そんな馬鹿なことあるかよ!!さしずめ今度は朝霜を殺すかもう一度暗示かけるかのどっちかだろうな!」



実況「なかなか交渉がうまくいっていないようです」

解説「よっぽど生前の行いが悪かったようですね。そろそろ2時間に差し掛かるところですよ」

実況「どうやら鎮守府はかなり遠くにあるようですから、戻る時間を考えるとかなり厳しい展開を強いられています!」





414 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:00:58.32fAZCVd2CO (11/40)



早霜「だから……!!」


ピピピピピッ!!


早霜「!?」

伊400「……!?てめぇ……やっぱり殺す気かよ……!」

早霜「殺す……?」

伊400「とぼけんじゃねぇ!そのナイフはなんだよ!!」

早霜「……!?」


実況「あぁっと!ここでついに手を出してしまいました!」

解説「主審の笛で辛うじてナイフが止まりましたね。しかし首寸前、身動きがとれません……!」


主審「………………」


実況「主審はすでにカードを出す準備をしています!」

解説「まだ手を出してないので反則は確定していませんが、さぁ早霜選手、抑えることができるでしょうか……?」





415 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:05:34.76fAZCVd2CO (12/40)




早霜「………………………」

伊400「…………やれよ……やれるもんならな……!」



早霜(あぁ…………とうとう、出しちゃった)

早霜(これ以上殺す意味なんてないのに……早く、姉さんの暗示を解かないといけないのに…………)

早霜(もうだいぶ時間も経っている……早く説得しないと…………いや?)


早霜(ここでこれ以上足止めされるなら、いっそ…………)

早霜(でも……ここで殺したら鎮守府の位置が…………)

早霜(待って……?いっそ、この潜水艦だけじゃない)



早霜(さっきはやりそこねたけど、あのよく分からない奴らも………………)



実況「早霜選手、かなり葛藤しています!」

解説「ついに手が出てしまうのでしょうか……待ってください、これ審判団も狙ってませんか!?」

実況「審判団もですか!?そんなことしたら早霜選手どころかロスタイムまで消滅してしまいますよ!?」


早霜(殺す…………血の匂いを……あの叫び声を…………最後にもう一度だけ……!)

早霜(……違う!そんなことより、姉さんの暗示を…………でも……ふふ、うふふ…………!)


早霜「………………っ!」ギリギリ

伊400「………早霜ぉ…………!!」




416 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:06:52.17fAZCVd2CO (13/40)



…………ポチャン


早霜「……………………お願いします」


バッ


伊400「!?」



実況「おっと!?ナイフを投げ捨て、土下座に出ました!!」

解説「止まった!……完全に殺す動きからのこれですからね、これには伊400さんも驚いています」



早霜「分かっているわ……私は数えきれない罪を犯してきた。信用しろなんて、できるわけないわね」

早霜「でも……私の最初の過ちを…………姉さんの暗示を解かないと……」

伊400「お前そればっかじゃねぇか!そんなことして許されるなんて思ってんじゃねぇだろうな!?」

早霜「赦しなんていらない!2度と姉さんに会えなくていい!すべて終わった後なら、どうなっても構わない!」

早霜「でも…………あの暗示を解かないと………………」





早霜「死んでも…………死にきれないのよぉ……!!」ポロポロ





417 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:09:18.74fAZCVd2CO (14/40)




副審1「!!」カードダロ

副審2「……!!」チガウチガウ

第4審「…………」ハラハラ


実況「これはかなり際どい発言です!」

解説「死ぬことを示唆する発言ですからねぇ。審判団もかなり揉めているようです。さて、主審の判断は…………」


主審「………………」


実況「カードは……出ない!ここはカードは出ませんでした!」

解説「あくまでも表現のひとつとして解釈したのでしょうか。ここは主審に助けられましたね」


早霜「お願い……します…………ほんとうに、おねがい……!!」ポロポロ

伊400「な、なんだよコイツ………………」






418 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:10:07.25fAZCVd2CO (15/40)



伊400「…………あぁもう!わかったよ!!今度こそ最後だからな!」

早霜「本当!?」ガバッ

伊400「ほんっとうに最後だからな!とりあえず身につけてる武器全部捨てろよ!!」

早霜「ありがとう……!本当にありがとう…………!!」ポロポロ

ポチャン

ポチャン

ポチャン

バラバラバラバラ!!

伊400「そ、そんなにかよ……気持ちわりぃな…………」


実況「やりました!必死の願いが通じたようです!」

解説「とんでもない数の武器を捨てた気がしますが……彼女の執念は本物ですね。この粘り強さを最後まで持続できるでしょうか?」




419 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:11:08.38fAZCVd2CO (16/40)




_足りないもの鎮守府


〔6:16〕


伊400「ほらよっ!着いたぞ」

早霜「本当に、ありがとう……!」

伊400「てめぇに感謝される筋合いなんかねぇよっ!2度とその顔見せんじゃねぇぞ!!」


ポチャン


実況「説得から3時間近くかかってしまいましたが、ようやく目的地に到着しました」

解説「ここまではあくまでも準備に過ぎませんからね。早霜選手、ここからが本番ですよ」


早霜「…………さて」


スタスタ


実況「おぉっと!?なんと正面から入ろうというのでしょうか!?」

解説「すでに日付を跨いでいるとはいえ、警備をしている憲兵もいるはずです。何か策があるのでしょうか?」






420 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:12:03.14fAZCVd2CO (17/40)




憲兵「…………………」


ヒュッ


憲兵「……ん?」


シーン


憲兵「………………気のせいか」






早霜「……………………」スタスタ……






421 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:13:33.25fAZCVd2CO (18/40)




由良「……………………」ミマワリチュウ


コトン


由良「!!」バッ


シーン


由良「…………………」




由良「……………………」スタスタ……




早霜「…………」スッ



実況「これは驚きました…………ここまで誰にも気づかれずに目的地に向かっています」

解説「彼女、先日失った能力を無しにしても、非常に高い身体能力を備えていたようですね。素晴らしいスニーキングスキルですよ」

実況「しかし、毎回すんでのところまで手が出かかっているのは大丈夫なのでしょうか?」

解説「うーん、いちおう殺傷行為については明確なダメージを与えない限りは反則でない、という解釈もできますが……先ほどのジャッジといい、今日はかなり甘めの判定が目立つ気がしますねぇ」



審判団「………………」スタスタ


由良「……………!」


ヒュッ


ブスッ!


審判団「!?」

由良「何者」

審判団「」マッサオ



実況「し、審判団の気配を感じ取ったぁ!?」

解説「これプロフィールですか?…………ほほう、忍者の末裔の元で鍛えられたらしいですよ……え?これ本当に彼女なんですか?容姿がまったく違うようですが……」




422 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:15:01.85fAZCVd2CO (19/40)




実況「いったん早霜選手に戻りましょう……朝霜が眠る寝室に到着したようですが…………?」


ガチャリ


実況「やはり鍵がかかっているようですね」

解説「当然警戒しているようですね。しかも今日は朝霜以外に2人もいるようですよ。何かの拍子に起きてしまう可能性はとても高いですね」


早霜「……………………」スッ


カチャカチャ…………


実況「おっとかなりアナログだー!ハリガネで鍵をこじ開けようとしています!」

解説「意外と手つきは悪くないですよ。しかし開けるまではいかないみたいですね…………ん?」


ガチャッ


早霜「!!!!」





423 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:15:57.09fAZCVd2CO (20/40)



ギィィィィ……


ズリ…………ズリ…………


龍驤「うぅん……トイレトイレ……」



実況「彼女は……軽空母の龍驤さんですね。片腕、片脚がない艦娘です。普段は義肢を付けているはずですが……」

解説「どうやら寝ぼけてそのままお手洗いに行ってしまったようですね…………早霜選手はどうでしょう?」



早霜「…………」ペター



実況「なんと天井に貼り付いています!これはファインプレイ!」

解説「いやぁ、彼女の能力には驚かされるばかりですね。これで部屋にも入れそうです」



424 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:19:01.72fAZCVd2CO (21/40)



_寝室


提督「zzz…………」

朝霜「すぅ…………すぅ……」


早霜「……………………」


実況「ついに……ついに早霜選手、朝霜さんのもとにたどり着きました……!」

解説「龍驤さんが戻ってくるまであまり時間がありません。戻る時間もありますし、早めに暗示を解きたいですね」


早霜「………………姉さん……そのまま聴いてね……何も考えなくていいのよ……そのまま、力を抜いたままで……」ブツブツ

朝霜「すぅ……すぅ……」

早霜「~~~~~~」ブツブツ


実況「暗示の解除が始まったようです」

解説「いい感じに集中できてますね……そのままゴールまで行けるでしょうか」



早霜「……いまから数を数えるわね……0になると姉さんは催眠状態になるわ…………大丈夫、とっても気持ちいいわよ…………10…………9…………ほら、だんだん身体が重くなる……」ブツブツ


実況「これは……暗示をかけている?」

解説「解除するためにいったん催眠状態に持ち込むようですね。本人の意思を操作しやすい状態のほうが逆に暗示を解きやすいようです」




425 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:21:57.55fAZCVd2CO (22/40)




……ズリ…………ズリ……


実況「おおっと!?ここで龍驤さんが戻ってきてしまったぁ!!」

解説「早霜選手、気づいた上で催眠を続行していますね!集中していますが、焦りが見えているところが気になります……!」

実況「さぁ早霜選手、催眠は間に合うのか……?」


早霜「~~6~~~~5~~………4…!」イライラ


解説「目に見えて焦ってきてますね。このままでは……!」


朝霜「…………うぅん……なんだ」ムニャムニャ




朝霜「よ……………………」パチクリ

早霜「……2…………1………………!」







朝霜「…………………ひ、ひ」

早霜「…………ゼロっ!」パチン




426 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:23:18.01fAZCVd2CO (23/40)




ギィィィィ……



龍驤「はひぃ……久しぶりやなぁ、寝ぼけて義肢無しでトイレすましたんは……」

龍驤「ごめんなぁ、朝霜……寝とるか?」サスサス

朝霜「………………」トローン

龍驤「……ゆっくり寝れとるみたいやね……ほな、おやすみ……」zzz



早霜「…………………」ホッ



実況「早霜選手、ドアの裏に隠れて上手くやり過ごしました!」

解説「しかも朝霜さんへの催眠もしっかりかけています。あの状況でしっかり結果を出せるのは素晴らしいですね」




427 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:24:15.44fAZCVd2CO (24/40)




実況「ところで、審判団の姿が見えませんが、どこにいるのでしょうか?」

解説「先ほど由良さんに見つかり退避したところまでは確認したのですが……」



_鎮守府外



主審「……………………」

副審1「………………」イカナイノ?

副審2「……………………」コロサレタクナイ

第4審「…………」オロオロ



実況「あぁーっと!審判団、仕事を放棄しています!」

解説「由良さんというリスクを懸念した判断かとは思いますが……副審たちはむしろこの状況に困惑していますね」

実況「主審はおそらく早霜選手がいるあたりを見つめていますが……これは仕事していると言えるのでしょうか……?」





428 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:26:03.66fAZCVd2CO (25/40)




〔5:32〕



早霜「さぁ、最後よ…………姉さんはここで起きたことは、朝になると何も覚えていない…………」ブツブツ


実況「早霜選手、順調に暗示を解いています」

解説「これなら時間内に元の場所にも戻れそうですね。危ないところもありましたが、ここまで素晴らしいプレーを見せています」


早霜「……ほら、身体がすぅっと、浮かんでくる……」

早霜「すべてを忘れて……ここは、いつもの布団の中…………」






早霜「…………さよなら、姉さん」


パチンッ




429 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:28:06.98fAZCVd2CO (26/40)



実況「早霜選手、見事やり遂げました……!」

解説「えぇ、ここまで荒いプレーも目立ちましたが、いままでの選手の中でも最高のパフォーマンスを魅せてくれたと思いますよ。彼女はとても強い心を…………」




早霜「…………………………」




解説「……ちょっと待ってください?早霜選手、何やら様子がおかしいですよ?」

解説「おっと?……審判団も心配そうに彼女を見ていますね……」


早霜「…………分かってるのよ」



430 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:29:17.64fAZCVd2CO (27/40)


早霜「こんなことしても、許されるわけじゃない。褒められるわけじゃない。救われるわけじゃない……それでも、やらなくちゃ、いけないこと、くらい」




早霜「でも…………でもぉ………………!!」




早霜「もっと姉さんと話したかった!姉さんに、いろんな人に、許してほしかった!」



早霜「この力だって、もっといろんなことに活かしたかった!この心だって、もっと良い方向に治せるって信じたかった!」



早霜「姉さんに覚えていてほしかった!いろんなことをやり直したかった!」






431 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:30:09.88fAZCVd2CO (28/40)



早霜「許されたい……!」



早霜「やり直したい……!」



早霜「忘れられたく、ない……!!」







早霜「死にたくない…………死にたくないよぉ…………!!」ポロポロ








実況「……まったく予想外の展開になってしまいました。早霜選手、ここに来て泣き崩れてしまうとは……」

解説「多くの選手がそうであったように、こうなる気はしていましたけどね……あの早霜選手さえも、死ぬことへの恐怖からは逃れられなかったということですね」




432 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:32:57.97fAZCVd2CO (29/40)




〔2:27〕



_海岸



ザザーン……ザザーン……



早霜「……………………」



実況「どうにか海岸まで出てきましたが……早霜選手、まったく動きません」



副審1「…………!!」レッドレッド

副審2「……!…………!!」マダワカラナイ

第4審「………………」ソワソワ


主審「……………………」




解説「副審たちはまたヒートアップしていますが……主審が怖いくらいに沈黙を守っています」



433 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:34:21.26fAZCVd2CO (30/40)



早霜「…………ねぇ」

主審「…………」

早霜「さっきのカード、出さないの?」

主審「……………………」

早霜「分かってるでしょ?私……」





早霜「もう、元の場所に戻るつもりはないのよ?」





実況「!?なんと早霜選手、みずからロスタイムを放棄するということでしょうか!?」

解説「ここでカードが出ると輪廻から外れてしまうのですが……いや、まさか……それが狙いだというのでしょうか!?」



早霜「それが何なのかはよく分からないけど……さしずめ、地獄に落ちるとか、生まれ変われないとか、そんな感じのものなのでしょう?」

主審「………………」

早霜「それ、あいにくとっても好都合なのよ」

早霜「私みたいなキチガイは、もうここに戻ってこない方がいいの……だから、早く終わらせてちょうだい……」



主審「……………………」スッ





実況「主審がカードに手をかけました……!早霜選手、とうとう望み通りの退場処分となってしまうのか……!?」





434 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:35:45.68fAZCVd2CO (31/40)






ベキッ!


早霜「……………はぁ!?」

主審「……………………」



実況「なんと!?主審自らカードをへし折ってしまいました!!」

解説「本来ならカードを出すべき……いやそれ以前に、こんな暴挙に出た審判は初めてですよ……!」



早霜「どうして……!?私のこと、分かってるでしょ!?私は……生き物をなぶり殺して快感を得る狂人なのよ!」

早霜「こんな奴を生まれ変わらせたって、また誰かを苦しめるだけなのよ!?」

主審「………………………」フリフリ

早霜「違う……何が違うの?私が殺人者であることは変わらない!私の本性なんだから私が一番よく分かってるの!」

早霜「やり直しの機会なんて…………やり直しなんて………」





早霜「あなた…………私に、またやり直せばいいって言うの?」



主審「……………………」ピッ!





435 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:37:30.11fAZCVd2CO (32/40)



ピュッ

ポンッ

ブロロロロロ…………


早霜「零式艦戦……これで戻れ、ということ?」

主審「………………」



早霜「それは、仕事だから?あるいは、情けかしら?それとも…………」

主審「……………………」



早霜「…………あなた、どこかで会ったこと、あったかしら?」

主審「……………………」

早霜「…………ふふっ、本当に喋らないのね」

主審「……!」ピッ!

早霜「急いで?はいはい、分かったわよ……」



チャポン

スイーッ……




実況「早霜選手、主審の案内に従い、キックオフ地点へ戻ります……!」

解説「今日のジャッジ、不思議なところがありますね。早霜選手が殺しに手を出すかどうか、それだけを注視していたかのような…………」






解説「…………そういえば、女性の主審なんて、協会にいたかな……?」





436 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:38:48.36fAZCVd2CO (33/40)



〔0:02〕


_どこかの海上 キックオフ地点



早霜「はぁ……はぁ…………間に合っ、た……?」

主審「…………」フゥフゥ

早霜「そう……なんとか戻れたのね」



実況「早霜選手、時間内にキックオフ地点に戻りました!残り時間、2分です!」

解説「驚くべき航行速度ですね……いえ、早霜選手と審判団の意地なのでしょうか?」



早霜「…………本当にいいの?」

主審「………………」

早霜「まぁ、すぐに生まれ変わるとかは無いでしょうけど……この性癖、とんでもなく強いから、分からないわよ?」

主審「……………………」

早霜「……………………」




437 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:39:54.17fAZCVd2CO (34/40)




早霜「まったく、貴女も意固地ね…………」

主審「………………」



早霜「……………………ありがとう」




実況「早霜選手、海上に横になりました……まもなく、試合が終了します」

解説「……おそらく、彼女はこれから気の遠くなるほど長い間、罪を償うことになるでしょうね」

解説「しかし、いつか…………ずっと先のいつか、贖罪が終わったとき……彼女は再び、この世界に生を受けることになるでしょう」

解説「その時、彼女がどのような人生を送るのか……いやぁ、我々も頑張らないといけないなぁ」ハハ





ビキッ!



438 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:41:11.32fAZCVd2CO (35/40)



早霜(…………きた)




ビキビキビキッ!!



ゴポポポポポポ…………




早霜(身体が、沈む…………冷たい、海の底、に……………)




早霜(さよなら……姉、さん………………)







439 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:42:10.82fAZCVd2CO (36/40)




………………へん、ね…………


あんなにつめたかった、うみなのに…………


いまは……とても、あたたかくかんじる…………




…………………………ひか、り…………?





あぁ………………



しらなかった……………………







おひさまって、こんなにもあたたかいもの、だったのね……………………








ゴポポポポポポ…………



440 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:42:52.20fAZCVd2CO (37/40)





〔0:00〕


ピーッ

ピーッ

ビーーーーーーッ…………






441 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:43:44.81fAZCVd2CO (38/40)





司令~~!構ってくれよ!



……随分と元気そうだな



あったり前だろ!もうあたいはアイツの事を考えなくても良いんだ!



これ以上の幸せがあるかよ!






442 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:44:28.85fAZCVd2CO (39/40)




早霜「ロス:タイム:ライフ」





443 ◆lxd9gSfG6A2019/05/20(月) 09:46:03.07fAZCVd2CO (40/40)

以上パラレルワールドでした
喋り方とか設定にガバがあったら脳内補完でお願いします


444以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/20(月) 11:16:38.36ca1XPkVyO (1/1)

こういうのもありだね


445以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/20(月) 11:18:30.71O9toT2UBo (1/1)

乙!
や り や が っ た な
懐かしいなロス・タイム・ライフ
解釈を此方に委ねるの元ネタの雰囲気が再現されてて好きだ

ところで頭髪の薄い中年男はどこで登場していましたか…?


446以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/20(月) 15:15:29.27sPsnr1N4O (1/1)

面白かった乙

ロスタイムが朝潮にあったら何をしてただろ?


447以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/02(日) 00:13:46.26+VdBHynDO (1/9)

>>401から
 
 
「初期艦持ちの提督の会合ですか…」


私は朝潮、今日も今日とて鎮守府の様子を覗き見る毎日


始めの頃こそ罪悪感もあったが今となっては当たり前に見るようになってしまった、何せ他に見るものと言えば窓から見える三途の川と死者の群くらいなのだ


漣「あー…ついに行く事になったかあ…」


「漣さんは知ってたんですか?」


漣「まあ…たまに届いてたんですが、ご主人様は行く必要は無いと私がシャットアウトしてたんだけど…誰にも言ってなかったから仕方無いか…」


何だか歯切れが悪い、大事な会合なら行った方がいいのではないだろうか


漣「見てたら解りますよ…」


相も変わらず暗い雰囲気を背負ったままの漣さんだったが一応話には付き合ってくれるのはありがたい


そうして見た目深海棲艦な漣さんの姿で中身は重巡棲姫さんというややこしい状態の彼女を連れて司令官は会合に向かう


訓練生時代の同期という艦娘達に囲まれて狼狽する重巡さん、色々と根掘り葉掘り聞かれている


漣「…ああいう事もあるから行きたくなかったのもありますね…。おい…何セフレって…もう少し上手い誤魔化し方があるでしょうが」


だいたい合っているのではないだろうかと思ったが口には出さない私。いつもいつも失言するとは限らないのだ、成長したのだ




448 ◆B54oURI0sg2019/06/02(日) 00:15:36.61+VdBHynDO (2/9)

 
 
「ぷ…」


漣「…素直に笑ったらいいんじゃないですか」


会合が始まり真面目な話の後はどういう訳かお料理会が始まった。それぞれの初期艦が腕を振るう中、料理など出来ない重巡さんに代わり司令官が手作りのお菓子を振る舞っている


そういえば司令官の作ったお菓子は美味しかったなあ…もう食べられないのは今更に惜しい気持ちになってしまう


それはともかく私達の鎮守府の司令官は顔が怖い、その為誤解されやすく、常に風評被害が付いて回っている


そんな司令官が手作りのお菓子をどんな用途に使っているかここでまた新しい風評被害が生まれてしまったようだった


「絶倫誘拐犯…くっ…ふ」


漣「…どこまでこの二つ名が伸びていくのか見ものではありますね」


落ち込む司令官が哀愁を誘っているがまたそれが何だか…ごめんなさい司令官、朝潮は悪い子です


ぷるぷるしながら笑いを堪える私なのだった


そしてその後、どうして漣さんがこの会合の事を司令官に伝えてこなかったのか私は知った。結局はこれも権力者の道楽のようなものなのだと




449 ◆B54oURI0sg2019/06/02(日) 00:16:51.24+VdBHynDO (3/9)

 
 
「すわっ…ぴんぐ?」


聞き慣れない単語が出てきた。どうやらクジを引いて何かゲームでもするのだろうか


漣「…大本営に居た頃、そういう集まりがあるらしいと聞いてから警戒はしてた…」


「はあ…」


漣「私があの鎮守府に帰ってしばらくは招待なんて来なかった…。だけどご主人様がそれなりに実績を積んでいくといつの間にか来るようになった」


「…すわっぴんぐって何ですか?」


漣「…簡単に言えば自分の彼女を誰かの彼女と入れ替えてエッチする事です」


「え…ええええええ!?」


漣「噂で知っていた私にはすぐ判った。だからこれまでとある主催者の名前が入った招待状はいの一番にすぐ処分してきたんだけど…」


「…勝手に処分して大丈夫だったんですか?」


漣「非参加なら通知は必要無い形でしたから」


その主催者は司令官に敢えて何も言ってはいなかったがそういえば少し驚いたような顔をしていたような気がする




450 ◆B54oURI0sg2019/06/02(日) 00:18:17.92+VdBHynDO (4/9)

 
 
「どうするんですかね…」


漣「…知らなかったと説明するか、腹を括るか」


「司令官が今更他の艦娘とそういう事をするとは思えませんが…」


漣「参加した以上強制という線もありますが…やっぱり知らなかったと説明して帰してもらうしか無いですかね」


しかしそう訴える暇も無く司令官がクジを引く番になってしまう


漣「駄目だあれ…ご主人様完全にテンパってる…早く説明すればいいのに。あ、引いた…」


不測の事態に司令官は弱い、そして周りに流されるままクジを引いてしまった


しかしここで奇跡が起こったのか、その番号は司令官の初期艦のものだった


「こういう事もあるんですね」


漣「…これで安心ですかね…。次はちゃんと非参加を貫くでしょうし」


そして司令官達はすぐに帰るのも怪しまれるとかで隣の部屋からの営みの声に挟まれたまま時間を潰している


そんな時、天井から会合の始めに会った艦娘の一人、吹雪が現れた。どうやらあのクジを操作して二人になるように仕向けたらしい、それはそうか、こんな偶然そうそう起きたりはしない


そして話は予想外の方向へ行く事になる




451 ◆B54oURI0sg2019/06/02(日) 00:19:50.77+VdBHynDO (5/9)

 
 
「漣さんって組織の一員だったんですか…!?」


忍者の格好をした吹雪、忍者吹雪さんが言うには漣さんはかつて老幹部の下に居た、そしてその老幹部は例の組織の首魁…何か繋がりがあるのだと思っていたらしい


漣「…私自身その辺の記憶は無いんですが…記憶を消される前に送った書類にそういうような事が書いてあったようです」


「しかも暗殺依頼の対象にまでなってるなんて…何をしたんですか…」


漣「…あの頃の記憶は穴だらけで正直私にもよく解らない事が多いです…でも…」


「でも…?」


それ以上は漣さんは何も言わなかった。まるで心当たりがあるかのような…


そして鎮守府へと帰還した司令官達は話し合いを始める


そもそも暗殺依頼なんて普通の人は出来ない。権力者か裏の人間か…それに通じる何かを知っている事が必要になる


結局その相手も普通の一般人ではないという結論しか出なかった


手詰まりになった重巡棲姫さん達は漣さんの部屋で手紙や書類を調べ始める


そうして手紙を調べる由良さんが何かに気付いた




452 ◆B54oURI0sg2019/06/02(日) 00:21:35.16+VdBHynDO (6/9)

 
 
手紙には暗号で漣さんへの依頼?指令で組織の技術を奪えと書いてあったらしい


「漣さん…貴女いったい何者なんですか…」


漣「そう言われても…」


そして更に別の手紙には今度は漣さん本人の字でなんと暗殺依頼が書かれていたのだという


そこからの話し合いは聞くに耐えないものだった


「…何ですかこれ、まだ疑惑の段階でよくもまあこれだけ好き勝手言えますね…」


かつて漣さんは司令官を取られた腹いせに鎮守府を組織に狙わせ、なおかつ龍驤さんの浮気相手までも暗殺依頼の標的にしていた…ちょっと飛躍しすぎではないだろうか


漣「…」


「漣さん…なんで否定しないんですか…?あの話は本当に…?」


漣「…解りません、今の私にはその記憶が無いみたいです。だけど…ふふっ…」


俯き加減の彼女が笑う


漣「あの頃の私ならもしかしたらそんな考えを持っていたとしてもおかしくないかもしれませんね…いえ、おかしくなっていたと言った方が正しいかな…?」


失念していた、愚かな事に


状況から考えれば今の彼女の精神状態はその頃より尚酷い状態になっているのだ。一連のやり取りを見せたのは失敗だったと激しく後悔した




453 ◆B54oURI0sg2019/06/02(日) 00:23:30.97+VdBHynDO (7/9)

 
 
とはいえ漣さんは特に暴れだすという事も無く表面上は冷静なように見える


むしろそんな状態の方が遥かに恐ろしいのだが…


そして一人部屋に帰った重巡さんが漣さんを呼んでいる、直接話を聞こうというのだろう


「もう観るのは止めましょうか…」


漣「構いませんよ、まあ重巡に何を聞かれても答えられる事などありませんが…」


漣さんは映像を切り替える。正直人の精神世界の映像まで映し出せるこのテレビがいまだに理解出来ない


漣さんの精神世界には誰も居なかった。まあ当然だ、本人はここに居るのだから。漣さんも会うつもりは無いようだ


そうしていると富士さんが代わりに応対しているのが見えた。そして漣さんを必死に庇っている


その反応はつまりは…あの話が事実だと裏付けている事になるのか…


漣「…富士は…どうして」


「え?」


富士さんが必死に擁護するその姿を漣さんはじっと見つめている


漣「一度は私を見逃して…二度目は私の自殺を止めてこんな所に連れてきた…そして私なんかをあんなに必死になって庇ってる…意味が解らない」




454 ◆B54oURI0sg2019/06/02(日) 00:25:41.12+VdBHynDO (8/9)

 
 
ああ…漣さんはまだ富士さんを誤解しているんだ。始まりの艦娘は歪んだ魂を集めている。その結果艦娘は死に至る。その部分だけを聞けば悪人のような印象を抱いてしまうだろう


「富士さんは…すごく優しい人なんです」


漣「え…?」


私はここに来てからの富士さんとのこれまでを話して聞かせる。私が自らの命を断ったのを自分のせいだと謝ったり、頭を撫でてくれたり、膝枕してくれたり、他にも色々


それに漣さんが眠っている間にもちょくちょく様子を見に来てずっと側に付いていたりもしたと話す


「富士さんはとにかく艦娘を救いたいと思っているだけなんです。それはもうがむしゃらに…考え無しに」


そのせいか計画はあまり進んでいないようで、Y子さんにも呆れられたりもしていた


富士さんがもっと非情で冷酷なら魂集めももっと早く終わっただろう。しかしそもそもそんなに冷たかったなら全ての艦娘を救おうなどとは考えずに自分の為だけに扉を開こうとするだろう


「救いたいからこそ切り捨てる事も出来ずに今も苦しんでいるんです。…ねぇ、誰かに似ている気がしません?」


漣「それは…」


漣さんも思い至ったようでいつの間にか一人になっていた富士さんを見つめる


その視線に気付いた富士さんはまたあの申し訳無さそうな目をこちらに向けた後姿を消してしまった


「いつも富士さんの言葉は誰にも届かず否定されてばかり…あんなにも頑張っているのに…」


漣「…」


漣さんは富士さんの居た場所をしばらく何も言わずにただ見つめ続けていた


455 ◆B54oURI0sg2019/06/02(日) 00:28:32.81+VdBHynDO (9/9)

短いですがひとまずここまで
間を空けすぎるとかえってどんどん書けなくなりますね…何処まで追いかけ続けられるか…


456以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/02(日) 01:19:50.67vldveJuqo (1/1)

おつでした
朝潮ちゃんそういう知識はないよね…
まず書けるのがすごいのだ
これからもこっちも楽しみにしてます


457以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/06(木) 18:39:27.06uq4PX6yDO (1/10)

>>454から
 
 
はいどうも朝潮です、現在鎮守府にはママ旋風が吹き荒れています


雲龍さんが本格的にママ活を始めて癒しを提供、何故か母乳まで出るようになって更に何故かキラ付け効果まで発揮されています。訳が解りません


そんな中霞ママにとうとう司令官が陥落しました


「…正直…こんな司令官は見たくなかったかも」


漣「すっかり骨抜きになっていますな…見てくださいあの表情」


割と厳つい顔の司令官の表情は今や弛みきっていて完全に無防備な子供のようになっていた


「大の男がこんな事になるなんて…」


漣「かなり溜め込んでいましたからね、ご主人様は…。でも聞いた話では珍しい事ではないようですよ。何でしたっけ…バブみでオギャるとか何とか」


公にはなっていないが他鎮守府や大本営でも似たような事はあるらしい、ストレス社会の歪みなのだろうか


「まあ…いつ沈むか解らない生活ですし…癒しは必要ですよね…」


ガチャ


そうしていると扉の開く音と共に富士さんがやって来た、このところ割と頻繁に来ているがもう目的というのは諦めたのだろうか




458 ◆B54oURI0sg2019/06/06(木) 18:41:02.68uq4PX6yDO (2/10)

 
 
【…あら?あの子は居ないのね】


「Y子さんなら何だか野暮用があるとかで出てますよ」


【…珍しい事もあるものね、面倒臭がりのあの子が】


Y子さんはしばらく前に何やら荷物を持って出掛けて行った、その直後川の方でものすごい轟音が聞こえたが見に行った時には何も無かった


【またいつものように見ているのね…これは…】


霞に甘えている成人男性の姿を見て富士さんはちょっと引き気味なようだ



「…富士さん」


【なに?】


ちょっと考えて私は富士さんに向かって近付き


「ママー」


と言って飛び付いた



【うっえぇ!?】


富士さんは普段は絶対出さないすっとんきょうな声を上げて狼狽えている、ちょっと面白い


漣「ママー」


そんな私を見て漣さんまで同じように富士さんに飛び付く、病み気味とはいえそういうノリの良さは変わらないようだ


【あの?え?…貴女達?】


狼狽えつつも私達の頭を撫でてくれているのは無意識なのだろうか、若干顔が赤くなっている




459 ◆B54oURI0sg2019/06/06(木) 18:42:36.55uq4PX6yDO (3/10)

 
 
「…」


漣「…なんだか」


「ええ…そうですね」


【?】


漣「富士さんのはママみとは違いますね」


「どちらかと言えばお母様、母上、そんな感じですかね」


【どう違うのよそれは…】


呆れた様子で富士さん。上手く説明は出来ないが霞とかとはまた違うように思う


漣「おっぱいを吸ったり母乳を飲ませてもらったり、赤ちゃんになった気分で甘えるのがママみです」


【説明しなくていいわよ…】


「富士さんの場合はそういう原始的なものよりは何というか…精神面の包容力というか」


【訳が解らないわよ…】


富士さんは疲れたように弱々しく突っ込みを入れてくれる、割と律儀だ。しかしその間も私達の頭を撫で続けてくれている


私としては霞や雲龍さんにああやって甘えるよりこちらの方が好きだ。気持ちが安らいで思わず成仏してしまいそう




460 ◆B54oURI0sg2019/06/06(木) 18:44:32.37uq4PX6yDO (4/10)

 
 
そんな霞と司令官を見た榛名さんが余計な気を回したのか鎮守府から出て行ったりしたが霞の執念が勝ったのか割と早くに見付けられ連れ戻されたりしていた


「何だか独り言で怖い事言っていましたが…もし榛名さんが見付からなかったら危なかった…?」


漣「霞ならやりかねないというね…鎮守府の平和は榛名さんに掛かっているのかもしれません」


「また榛名さんが何かやらかしてもしも霞自身が病んだりしたら…」


話に聞く鎮守府の悲劇の数段恐ろしい事態が訪れ全滅…そんな情景が浮かびそうになり慌てて振り払う私





それから司令官と霞がお風呂で話している。龍驤さんや榛名さんは湯船でダウンしている


「司令官と龍驤さんと朝霜さんでずいぶん激しくしていたようですね…親子という認識がありながら」


漣「まあ本当に血が繋がっていたとしたらさすがにそこまではしないと思いますが…たぶん」


自信無さげに漣さんが言う。実際その辺りの倫理観からは少しばかりずれている鎮守府なので仕方無いのか


そうして話していると霞の口から私の名前が出てドキリとした。肉体なんてもう無いのでこれは心の心臓だ


≪朝潮の事も吹っ切れて良かったわね≫


そうか…


「ようやく…司令官は…やっと…」


漣「朝潮…」


泣きはしない、むしろ嬉しく思う。ほんのちょっとだけ…僅かな寂しさも感じるけれど


もう司令官が私の使っていた部屋で独り、泣きながら私に謝る事は無くなるのだ


【…故人の事を話す時は哀しみだけでは駄目なのよ、むしろ思い出と共に笑って話せるようになって始めて前に進める】


「そう…ですね、私もそっちの方が嬉しいです」


漣「…」


漣さんが黙ってまた何かを考えている。彼女にとってはまだ笑って話せるような段階ではないのだろう…漣さんの時間はあの時点からまだ止まったままなのだ




461 ◆B54oURI0sg2019/06/06(木) 18:47:14.14uq4PX6yDO (5/10)

 
 
ふと、外から何かが聞こえてきた、だんだん近付いて来ている


―ピッピッピッ

ピッピッピッ

ピッピッピッピッピッピッピッ―


漣「笛の音?…何で三三七拍子…」


ピリリリリ~


ガチャ


『たっだいま~。皆お揃いだねぇ~』


Y子さんがホイッスルをくわえたまま妙にご機嫌で帰って来た


「おかえりなさい、ずいぶん遅かったですね」


【…何をしてたのかしらこの子は】


『んー?まあボランティア?』


【嘘でしょ…あんなに無関係を貫いていたくせに】


『お姉ちゃんはあたしを何だと思っているのかなぁ~』


【ひぃっ…!】


Y子さんが手をデコピンの形にして富士さんに向けるとトラウマを刺激されたのか怯え出す。Y子さんのデコピンは痛いなんてものじゃないのだ。その手の形を見た私までちょっと震えてしまう


『まあ…たまにはね~。気まぐれだよ気まぐれ。疲れたからちょっと寝るね~』


ピッピッピー


Y子さんは笛を吹きながら部屋へと引っ込んでしまった。その彼女が立っていた場所に何かが落ちている


「何でしょうこれ…二つに割れたカード?」


【相変わらずあの子は解らないわね…】


困惑する私達。しかしY子さんの様子はまるで一仕事終えたかのような達成感に溢れていたように私には思えたのだった




462 ◆B54oURI0sg2019/06/06(木) 18:50:02.34uq4PX6yDO (6/10)


 
 
とある日、鎮守府にお客が訪ねて来ていた


「あれ、誰でしたっけ?駆逐艦綾波というと特務艦の?でもあの槍は…」


漣「そっちの綾波は再起不能で解体されたらしいですが…あいつはまた別の綾波ですな…そして」


くっくっく…と不気味な笑い声を上げる漣さん


漣「あいつのおかげで私にはアレが生えたんですよ…そのせいでどれだけ酷い目に遭ったか…」


「ああ…」


そういえばそれを見付かり深海棲艦に弄ばれたり白露型痴女集団に弄ばれたり、とにかく弄ばれたりしていたんだった


漣「まあ…それがあったからあの子に出会えたのは感謝しますが…他はだいたい恨みですねぇ…」


そしてまた不気味に笑う、今あの場に漣さん居なくて良かったですね綾波さん


「それにしてもあの槍は確か信濃さんの…何処かで拾ったんでしょうか」


そうしている間に応対していた由良さんが槍を奪おうとすると槍が勝手に動き由良さんを撃退してしまった


「あの由良さんが一撃で…やっぱりあの槍はただの槍じゃないんですね…」


漣「いきなり奪おうとする由良さんもどうかと思いますけどね」


駆け付けてきた黒潮さんに由良さんを押し付けて綾波は鎮守府から逃げ出して行った。あれ、絶対誤解されたと思う


その後レ級さんに捕捉された綾波さんは重力砲で脅されあっさり気絶、槍はまるで何かを見付けたかのように何処かへ飛んで行ってしまった


「飛べるなら最初から綾波さんに持たれる必要は無かったのでは…」


漣「意志がある武器らしいですから何かしら考えがあったんじゃないですか?」




463 ◆B54oURI0sg2019/06/06(木) 18:52:50.84uq4PX6yDO (7/10)

 
 
その後レ級さんは気絶した綾波さんを放置して大本営に潜入していた


「…ああして見るとまんま雷さんですね」


レ級さんは今は駆逐艦の制服を着ている。おそらく雷さんから借りたものだろう。肌の色も白くないし尻尾も無いので誰も深海棲艦だとは思わないだろう


そこに現れたのは大和に洗脳され、連れ去られたはずの信濃さんだった。手にはあの槍が収まっている


「そうか、主を迎えに行っていたんですね」


漣「ちょっと待ってください、あれ…」


忽然とその洗脳を施した大和本人までが現れる。そこからは怒涛の展開だった


大和にあっさり変装を見破られたレ級さんは早々に退散し、再び信濃さんを洗脳しようと隙を見せた大和は目を貫かれる


「信濃さんの髪が…あれがあの槍の真の力…」


漣「ずっこい伸びてますね…あれだと目を合わせるのも大変そう」


傷を付けられた大和は逆上し、その様子が変わっていく。あの姿はもう艦娘どころか深海棲艦ですらない…まるで悪魔の姿だ


「あの刀の力に呑まれてしまった?」


あの大和が持つ刀もただの刀ではないらしい。いわゆる魔剣とか妖刀とかそういう類の物のようだ


騒ぎを聞き付けた大本営特務艦達を巻き込まない為に信濃さんは大和ごと外へ飛び出して行く


そこからはまさに人外の戦いだった



464 ◆B54oURI0sg2019/06/06(木) 19:07:19.16uq4PX6yDO (8/10)

 
 
大和の頭を鷲掴みにし、外まで一気に跳躍、そのまま地面に投げ捨てる


獣のように四つん這いになり着地する大和にはもはや理性は無いように見える


持っていた刀は半ば腕と融合してしまっていた


魔と化した大和が咆哮を上げ信濃さんに襲い掛かる、その速さはいつか見た時とは比べ物にならない、私ではもう目で追う事すら不可能だ


しかし信濃さんはそれに反応し大和の攻撃を避けている、ように見えた。あんなに伸びた髪は邪魔にならないのだろうか


「もう何をやってるのかさえ判りませんね…」


漣「何とか茶視点というやつですな」


【信濃は最小の動きで攻撃を流しているわね、反撃はしていない。おそらく一撃で決めるつもりね】


それまで黙って映像を見ていた富士さんが口を開いた。今日もまた部屋でくつろいでいる。目的はどうしたのかと聞いてみると他の私が居るからいいのよとの事


「見えてるんですか…?あれが…?」


【まあ一応ね…見えはしても今の私では反応出来るかはまた別だけれど】


そういえばY子さんが前に言っていた、富士さんは決して弱くはないと、誰からも何だかぞんざいに扱われているが本気で怒らせたいとは思わないのだと


富士さんは傀儡以外の全ての艦娘の中に眠っている。つまりその数だけ自分を分割しているのだという


もし全ての自分をひとつに統合すれば富士さんは自分にも劣らない程の力を取り戻すのだとY子さんは言っていた


しかし同時に艦娘を見守り、救う事を目的としている富士さんはそれをしないだろうとも


465 ◆B54oURI0sg2019/06/06(木) 19:08:50.62uq4PX6yDO (9/10)

 
 
大和の攻撃で巨大なクレーターがいくつも出来る中、信濃さんは下ろしていた槍をついに構える


【どうやら大和の動きを見切ったようね、次で決まるわ】


理性の無い怪物となった大和がこれまでとは比較にならない力を溜めている。こちらも決めるつもりなのだろう


そして――


二人の姿が画面から消えた…と思った次の瞬間


ヒュ――ズドン!!!


「う…わっ…」


凄まじい衝撃で映像が乱れる、爆発のような余波が周囲を完膚無きまでに破壊していく


それが収まった後、二人は抱き合うかのように静止していた


大和の刀は信濃さんの顔を掠めるように突き出されていてその頬からは血が流れている


そして信濃さんの槍は大和の胸を貫き背中側に突き出ていた


漣「決着…ですかね」


「あの大和をかすり傷ひとつで倒すなんて…とんでもない強さですね…」


【いいえ、実際はかなりの紙一重だったわ。あの大和が冷静なままだったら立場は逆だったでしょう】


その槍の力なのか魔となった大和の身体が塵となって土に溶けていくのを信濃さんはじっと見続けている


後に残されたのは主を失い哀しげにも見える一振りの刀だけだった


466 ◆B54oURI0sg2019/06/06(木) 19:13:29.00uq4PX6yDO (10/10)

ここまで
何となく拾ってしまいましたが作者さんの想定しているものと違っていたら申し訳ありません

富士さんはきっと常時影分身状態


467以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/06(木) 19:40:34.902YRjuMYYo (1/1)

ママー
ゴホン、乙です
富士さんの出自も本編で言及あるかな、ふと気になった


468 ◆B54oURI0sg2019/06/22(土) 17:01:33.56rEPY++zDO (1/9)

>>465から
 
 
「島風が…死んだ…」


大和を欠き、建て直しを図る組織が時間稼ぎの為に複数の鎮守府を傀儡に襲わせて数日、司令官の鎮守府も襲撃され、激戦が繰り広げられた


由良さんを始め、高翌練度艦の必死の防衛戦の最中、整備士さんの吹雪が救援に駆け付け奇跡的に死者はゼロ、胸を撫で下ろしていた私は大きな衝撃を受けた


周辺を哨戒していた皐月や吹雪さんが見付けた時、島風は既に息絶えていたらしい、さみだれを庇って背中から攻撃を受けたのか、腹部には大きな穴が空いていた


致命傷を受けて尚、島風はさみだれを洞窟に隠し、そこで力尽きたらしい、さみだれは必死に傷口…冷たくなった島風の身体に空いた穴を押さえて助けを求めていた


「島風…っ!」


私は何とも言えない強い憤りを抑える事で精一杯だった、島風がどれだけ純粋で思いやりが深いかこれまで見てきて知っている


好きな人を取られても、恋敵の子供だとしても守ろうと、自分を犠牲にした


私があんな目にあったそもそもの元凶である島風…だけど…


「島風はいい子だった…いい子すぎて憎みたくても憎めなかった…島風は…」


【朝潮…】


富士さんが私を気遣うような視線を向けてくる


「島風が居なくなってしまったら…私や、私達は、何だったんでしょうか…何の為に…」


結局、その答えが返ってくる事は無かった




469 ◆B54oURI0sg2019/06/22(土) 17:03:37.58rEPY++zDO (2/9)

 
 
それから一時的にさみだれを鎮守府で預かる事になり弥生ささんや叢雲さんが遊んであげている


島風は疲れて眠っているのだと思っているらしい、やはり死というものはよく解ってはいないようだ


「…島風の遺体はあの吹雪さんが運んでいきましたね、となると希望があるかも」


整備士さんというのは人を救う事を目的としているらしい、それこそ善人悪人関係無く、救える状態なら快楽殺人者だろうが殺し屋だろうが助けてきた


しかしそこに何らかの手を加えている事は確実で、端から見れば自分達の都合が良いように作り替えているとも取れる


ともかく、一度は救った島風をこのまま見捨てるとは考え難い


「そういえば五月雨達は無事でしょうか…」


そうだ…複数の鎮守府が傀儡の襲撃を受けた。島風鎮守府もその中に入っていて、おそらくその際に島風にさみだれを託して脱出させたのだろう


【散り散りにはなったようだけどどうやら全員無事なようよ】


中にはかなりの被害が出てしまった鎮守府もあるけれど…と富士さんは憂鬱そうに付け加えた


富士さんが言うには島風鎮守府の面々は全員整備士さんに保護されているのだという


【怪我人は居るけれど全員命に別状は無いわ】


「良かった…」


生前はあんなだったけど今となっては知った人間が死ぬなんていう報せは出来れば聞きたくない、後は島風が生き返れば…


最後の部分は口に出てしまっていたのか、それを聞いた富士さんが複雑な表情を浮かべていたのに私は気付かなかった




470 ◆B54oURI0sg2019/06/22(土) 17:06:36.42rEPY++zDO (3/9)

 
 
それから少しして吹雪さんから連絡が入り、さみだれを送り届ける事になった


海を行くのに艦娘では戦闘の可能性があるという事で深海棲艦組で守りながら行くらしい


メンバーはレ級さん、見た目は駆逐水鬼の時雨さん、そして深海化している中身が重巡棲姫さんの漣さん


「…大丈夫でしょうか」


【そうね…】


言葉少なくやり取りをする私達。こちらの漣さんは今は奥の部屋に引っ込んで眠っている。ここに来てから漣さんは割と寝ている事が多い


今心配なのは重巡棲姫さんの方だった


何せ彼女達の関係を崩壊させた元凶が今向かっている先に居るのだ。何が起きても不思議ではない


しかし私は重巡棲姫さんをよく知らない。どんな性格でどんな思いを抱いているのか。だけど少なくとも彼女が漣さんを大切に思っている事だけは確かなのだろうと思う


そうして一行が整備士さんの隠れ家に辿り着き、親子の再会が果たされた


「何だか…ネチネチと責めてますねまた」


レ級さんや時雨さんが五月雨を責めている光景に私は思わずムッとする


「こういう悪い一体感みたいなの私、嫌いです。そもそも悪口言う権利があるのは当事者の私や他の被害者だけだと思います」


【まあ…貴女を失わせたという意味では被害者なのでしょうね…】


むう…そう言われては怒るに怒れない。私を想うが故にああして根に持っているのか…正直複雑だ




471 ◆B54oURI0sg2019/06/22(土) 17:08:41.14rEPY++zDO (4/9)

 
 
そして――


「ああ…早速対面してしまいましたね…」


重巡棲姫さんがあのタシュケントと鉢合わせしていた


いきなり襲いかかるか…罵倒するか…私はハラハラしながら見守っていると


「まさかの気付かない…」


【あの子達が知るタシュケントとはまるで違っているものね…無理も無いと言えばそうね】


確かに以前見たタシュケントからは殺気を纏ったオーラみたいなものが感じられた


しかし今のタシュケントは…そう、言ってみれば小動物のようで、別人だと言われれば信じてしまいそうになる


「このまま気付かなければ何事も無く済みそうですね…」


と、胸を撫で下ろしかけた私の耳にその言葉が届いた


――この時を、待ってた――






472 ◆B54oURI0sg2019/06/22(土) 17:10:36.38rEPY++zDO (5/9)

 
 
「――っ!?」


慌てて振り向くと奥の襖が開いていた。開いた音も聞こえなかった。そしてそこに漣さんが立っていた


「漣さん…!待ってたって、まさか…」


ゆらり、と漣さんが部屋へ入ってくる


漣「気付いてましたよ、あいつが生きている事には。以前見ていましたよね、その場面を」


見られていた…?あの一瞬を!?


漣「ほんの僅かな時間であろうと憎い仇の姿や声を逃したりはしませんよ」


「知っていて今まで黙っていたんですか…?」


漣「そうですね。チャンスを伺っていました。すぐにでもあいつを殺しに行きたかった。だけどいきなり戻った所で整備士さんの居場所を知らないし、聞いた所で簡単には教えてくれません」


だから待つ事にしたんですと、漣さんは無表情のまま言う


漣「重巡は私が戻る事を望んでいた。その方法を探していずれは整備士さんに接触する可能性は高いと思いました、だから精神世界に来た時もあえて無視をした」


「…」


漣「あの場に私が戻ればあいつを探す手間も省ける…ようやく…ようやく…!」


それまで無表情だった漣さんの顔が狂喜に歪んでいく、そこに――


【漣…】


ギクリと、はっきり判るくらいに漣さんの肩が揺れた。そして苦し気にその声の主、富士さんの方を見る




473 ◆B54oURI0sg2019/06/22(土) 17:12:37.52rEPY++zDO (6/9)

 
 
【行ってしまうの…?私は…私達は貴女の役には立てなかったの…?】


漣「富士…さん…」


富士さんはまるで捨てられる子供のように…いや、我が子に置いていかれる母親のように漣さんに語りかける


ぎり…と漣さんの口から歯を食い縛る音が聞こえた。そして申し訳なさそうに


漣「ごめんなさい…私は…これからどうなるにしても、どうするにしても、あの子の仇を討てなければ前に一歩も進めない…!」


「漣さん…」


漣「朝潮にも感謝してる…私達を許してくれてありがとう…助けてあげられなくてごめんなさい…」


「そんなの…そんなの私は気にしてません!」


漣さんは苦しそうな笑顔を浮かべ、再び富士さんに向き直り


漣「ありがとう…富士さん…不孝な娘でごめんなさい…私は行きます」


【漣っ!】


思わず手を伸ばした富士さんの目の前で漣さんの姿は消えた


そして程なく、映像の中の漣さんがタシュケントに襲い掛かっていた。戻ったのだ、とうとう。憎しみを癒す事は出来ないままで


「…行ってしまいましたね…結局…私にはやっぱり何も出来ない…」

【私もよ…私も大概…何が始まりの艦娘なのかしらね…】


映像の中、漣さんが取り押さえられ絶叫するのを私達はへたり込みながら、ただ見ている事しか出来なかった




474 ◆B54oURI0sg2019/06/22(土) 17:15:03.45rEPY++zDO (7/9)

 
 
戻るまでの計画を立てていた割にはあっさりと復讐を阻止されてしまった漣さんはただ絶叫する事しか出来ない


【…それは仕方ないのかもね…身体はあちらにあり、何かを用意する事は不可能…出来るのは可能な限り接近したタイミングで戻る事くらい…】


「もう…見てられません…整備士さんはどうして…タシュケントを助けたりなんて…」


【他意は無いのでしょう。ただ救う為に救う。多少の損得勘定はあるにしても。それがよりにもよって殺し屋だったのは彼等自身も予想外だったとは思うけれど】


タシュケントが死んだままなら、時間はかかるが漣さんが別の道を見出だすまで私達で支えていければと思っていた


しかし仇は生きていた、それを知ってしまった。もはや彼女の心はそれ一色に染まり、新しい何かなど入る余地は無くなってしまっていた


あの時、あの場面さえ見ていなければ…おそらくはそれは無意味だろう。いずれは知ってしまう事は避けられなかったように思う


そんな時、映像の中で整備士さんが驚くべき事を話し出した


生前の潜水新棲姫が自らの記憶をデータ化しておくように整備士さんに頼んでいたらしい。その上で死地へと向かい、そして殺された


「こうなる事は折り込み済みという事ですか…ほんとに頭良かったんですね潜水新棲姫は…」


しかし潜水新棲姫は自らを再現するに当たって条件を出していたらしい。それまでの自分とは無関係として扱うようにと


「どういう事なんでしょうか…」



475 ◆B54oURI0sg2019/06/22(土) 17:18:24.18rEPY++zDO (8/9)

 
 
話を聞く限り、かつて彼女が犯した罪により、その為の罰だという


何にせよ潜水新棲姫が復活するなら漣さんにはそれを断る理由は無いようで――


数日後、潜水新棲姫は新たな身体を得て甦った


漣さんは約束を守りあくまで初対面として振る舞っている、潜水新棲姫も同様だ


しかし二人共に傍目から見ても苦しそうなのは一目瞭然だった


そんな時、私はまた飛び上がる程に驚く事になる


「ようやく戻ったか…やれやれ」


「え…?え…!?」


背後から聞こえた声に私が振り向くとそこに先程復活したはずの潜水新棲姫その人が居た、窓の外からこちらを見ている


【そう…やっぱりそうなのね…】


それを見た富士さんは特に驚く事も無く何やら納得したような雰囲気だった


「え…?だって貴女は…?え?」


潜水新棲姫「まあ落ち着け、簡単な話だ、つまり…」


そうして話を聞いた私は言い様の無い不安を感じずにはいられなくなるのだった


476 ◆B54oURI0sg2019/06/22(土) 17:22:48.46rEPY++zDO (9/9)

ひとまず
また短くてすみません
キャラ紹介…


477以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/22(土) 17:45:58.13Lbch4/6Wo (1/1)

おつ
魂は別の解釈か


478以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/04(木) 13:55:22.65jvxuqKino (1/1)

魂っていうのは肉体と精神の両方が揃っている「状態」を言うのではと考えてみる


479以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/04(木) 18:33:33.76YTsWt7UeO (1/1)

肉体と魂を結びつけるのが精神だとどこかで聞いた気がする


480 ◆6yAIjHWMyQ2019/07/07(日) 03:35:25.26ByD7gWb6O (1/4)

>>193より


481 ◆6yAIjHWMyQ2019/07/07(日) 03:41:07.20ByD7gWb6O (2/4)


 墨に浸かったかのような黑紫色を呈することで、己を実存よりも矮小に演じている木材は、闇に沈む継ぎ目の空間と曖昧な明るさを見せる白太を淡く包み込んで、不規則かつ複雑な模様を描いている。

 その模様に足先から沈み溶け込んでしまいそうになる幻想を、スリッパ越しに足裏へ伝わるフローリングの硬い感触がかき消す。

 この波状に起こる感覚の変化は、毎日の生活に刺激を与えることになって、居住者を飽きさせないのでしょうね。

 私の感覚と知識から判断すると、使われているのはその色味の美しさと耐衝撃性の大きさから料亭や旅館の床板、高級家具材にも用いられるウォルナットかしら。それともウッドデッキに採用される耐水性が大きいウリン?

 窓に面していないために微かな反射陽光しか取り込まれず、初春の午前十時にしては暗い。そんな幽々たる廊下を縦一列で歩く私と二人の提督。
 
 廊下の端へ等間隔に設置され消火器と文字の入った方錐形の行燈によって、歩行には支障のない程度の光量は確保されているけれど、夜になれば黒暗に迷うことになりそ、あっ、シーリングライト。心配して損しちゃったじゃない。

 でも、そうだったわ。私が心配する事なんて、大抵すでにあなたが手を回していたものね。

 第一艦隊の旗艦を任命された作戦の時にも感じ、秘書艦業務の時にはより肌身に感じたあなたの才幹。

 蝶を箸でつかむほど正確な立案及び判断の速度、そして交渉術。特に兵站維持を目的とした交渉の場では、相手やそれを取り巻く環境を考慮する多面的視点を駆使していたように思う。

 もし私があなたと同等のそれらを備えていたら、いらないと言わずに、艤装の不調の原因が分かるまでは秘書艦としてずっとおいてくれたのかしら。

 ふぅっ、と思わずため息をついてしまう。駄目ね、私。捨てられたこと、いまだに引きずっているみたい。

 かつて臍部に刻まれ、彫り師さんに消してもらった番号と記号のタトゥーが死腔になって壊疽が始まり、子宮を圧迫されるような生理痛とは違う鈍痛を生みだしている気さえする。

 生理痛といえば、理想郷への扉を開けに向かった時に念のためにと多く持っていった1相性のLEP(低用量エストロゲン―プロゲスチン)製剤が少なくなってきているから、後で処方してもらわないといけないわね。私の場合、連続服用が上手くいけば月経が3~4ヶ月に1回になるもの。

 戦場では油断、慢心が己の命を喰らう。最前線なら尚更。体調不良を理由に出撃を代わってもらうことはできるが、緊要な作戦時にはそうはいかないこともある。

 敵はこちらの事情を汲んで攻撃の手を緩めてはくれない。むしろ好機だと狙い、襲ってくる。だからこういう自己管理は大切なことよ。

 ……持ってきたLEP製剤、ある意味密輸品よね。

 そうだ、受診を兼ねて先生の様子も見にいこうかしら。

 この世界だと初診になって既往歴が分からないからスクリーニングが必要になり、半年に1回は凝固検査を受けなければいけないから、その時に先生と偶々会っても仕方ないこと。

 なんて。牽強附会よね。あまりに脆く酷い理屈は笑えもせず、ただ己の知識の未熟さを表すだけだわ。


「ため息なんて、どうかしたの荒潮さん。何か悩み事でもあるのかい?」


 そんなことを考えていると、右足を軸に反時計回りで鋭く振り返りながら、彼女は烏山提督越しに尋ねてきた。

 左腕を伸ばした回転で袖が舞い、赤褐色の枯蔓模様が黑の中で揺らめく。そのまま烏山提督に当たると思ったが、しかしその反転を分かっていたかのように、彼はすでに歩みを止めていた。


「雲林院、危ない。前みたいに足を滑らすぞ。」


「そうしたらまた抱きとめてくれるでしょ。これは信頼しているってことだから喜ぶべきだよ、烏山。それで?」


 半ば諦め、半ば心配といった感じの小言を、女は揺らめいた枯蔓みたいに適当に流しつつ、黒曜石の瞳を私に向けてくる。次いで烏山提督が反転する。ため息が聞かれちゃってたみたいね。




482 ◆6yAIjHWMyQ2019/07/07(日) 03:43:49.47ByD7gWb6O (3/4)


 さて、一体どのようにかわそうかしら。

 実は、私は前の世界であなたに捨てられた艦娘で、この世界であなたにまた出会ってしまったせいで当時のことを思い出して気が滅入っちゃったから無意識にため息が出ちゃったのよ~、なんておめでたい事は言えないものねぇ。

 体から寒さが消えていったのは、屋内に入って冷たい風に肌を触れられなくなったが故に。

 けれどこれだけでは暑熱の気に当てられたかのように段々と体が熱くなっていく理由として弱いわ。

 知恵を絞るために脳血流量を増やそうとして脳循環が加速しているからかしら。

 それとも彼女の何かを期待しているような、黒い太陽めいた眼差しが、私を焼き焦がそうとしているから……。

 訳もはっきりせず、耐えきれなくて逃げるように視線を下方へ逸らす。蜘蛛の巣柄の帯が目に入った。

 如月なら黒体輻射のせいよねと冗談を言うだろうか。

 そうしたらきっと私は、彼女の眼球が私の体を温かくする程の熱を獲得するまでに熱変性を起こして機能を失うわねぇと答えるだろう。

 そして如月は分子シャペロンを投入すれば良いんじゃないかしらと応じて、私は分子シャペロンの話から派生して蛋白質という日本語はオランダ語のeiwitから訳されて誕生したという説もあるのよねぇと返しながら、今日は何か卵料理を作ろうかしら~と鼻歌交じりにステップを踏んで、この場を去れるのに。

 思考を幾分か横道に逸らしたおかげで、リストが作曲した内の一つ、『孤独の中の神の祝福』――私が精神の調整に使う一曲――を聴いているときのように、心が落ち着いてきた。

 すると熱気を感じることはなくなっていた。錯覚って厄介ね。

 視線を上げ、私を見込む瞳と対峙する。

 右。左。右。三歩前進しつつ、下から腕を組む姿勢を一瞬だけ取る。

 その勢いで右腕だけ肘から先を回して、手首を内側に曲げたまま肩の高さまでもってくる。人差し指をピンッと立て一拍置く。

 指先に二人の視線が集まったのを確認してから、一指を顎の横に添える。


「そんなに大層な事じゃないわぁ。ただすこ~し気になることがあるのよねぇ。こ・れ。消火器なの?」


 視線の集う指を闇照らす行燈に向ける。彼女は行燈へ近づき持ち上げる。すると中には消火器があった。


「これはね、格納箱だよ。消防法で設置義務はどこの鎮守府や警備府等にもあるんだけれど、消火器のあの鮮烈な赤色を剥き出しにされるのは、この鎮守府には似つかわしくないからさ。苦心したよ。」


「そんな風になっているのねぇ。行燈にしか見えなかったから消火器って文字に疑問が出ちゃって。答えが浮かばなかったわぁ。」


 満足そうな笑みを浮かべながら女はうんうんと頷く。


「そっかそっか。うん。今日の会合は半プライベートなものだからね。気になることは臆することなくボクらに問いたまえ。ね、烏山。」


「では小生から一つ。今回の話し合いの場に曙君を引っ張ってくるのに何を使った?」


 烏山提督は鳶色の瞳を彼女に向けた。あなたが質問するの?


「図書券を使ったよ。烏山との会合で護衛をしてくれたら図書券とお食事券のどちらか好きな方をあげるって。そしたら即座に図書券欲しいって乗ってきた。何か欲しい本でもあったのかな?」


 ねぇ、もうひとつ聞いてもいいかしらと私は言う。女はひとつと言わずいくつでもと答えた。


「烏山提督から二人とも上層部の人間と聞いたのだけれど、具体的にはどこの地位にいるの?」


 女はゆっくりと首を傾げた。1秒経過。ふっと息を吹いたかと思うと袖で鼻から下を隠し、体を小刻みに震わせた。

 笑っているような泣いているような声が漏れて聞こえる。おかしい質問だったかと自分の言動を振り返るが、何も思い当たらない。


「はぁあっ、ははっ。いや、ごめんごめん。ちょっと面白くて。さて、希望通りに答えようか。烏山は人事のトップだよ。要望を取り入れながらこの人間はここ、この艦娘はここという感じに配置の計画を立てたり、提督採用試験の面接とかが仕事だね。」


 女神のような微笑が彼女の口角に浮かんだ。




「そしてボクはね。大本営のトップ、いわゆる元帥だよ。」






483 ◆6yAIjHWMyQ2019/07/07(日) 03:49:18.54ByD7gWb6O (4/4)

一旦ここまで
間ではなくIF ずっと仕事が立て込んでて中々書けない


484以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/07(日) 15:23:52.49RXOibRwDO (1/2)

おつです
元帥というと本編の元帥と同一人物なんだろか
あっちは普通に老人のイメージで読んでたけど


485 ◆6yAIjHWMyQ2019/07/07(日) 16:15:03.975gdd/6kiO (1/1)

>>484
本編の元帥は幹部さんから「彼」と呼ばれていますから、同一人物ではないですね
また、これはIF物語なので設定は本編の最初の方を準拠しています(個人的な好みの問題ですので悪く捉えないでください)
例えば退役はなく、解体は瑞鶴の最初の話通りに艦娘が人間になることのみを指します


486以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/07(日) 16:49:36.26RXOibRwDO (2/2)

>>485
なるほど…
ありがとうございます
設定を自分の中で固定して書くというのもアリだったかあ…


487 ◆B54oURI0sg2019/07/08(月) 01:28:29.73qkqheJjDO (1/20)

>>475から
 
 
「つまり貴女が最初に亡くなったあの…」


潜水新棲姫「そうだ。だからと言って、あのワタシが偽物という訳ではないがな」


「そうなんですか?」


潜水新棲姫「記憶を保存した以降の事以外は同じだ。出来る限りその差異を小さくする為にギリギリまで粘ったが」


「粘った?」


潜水新棲姫「ああ、ワタシが整備士の元に向かったのは殺される一週間程前か。往復する体力を残しておかなければ意味が無いからな」


淡々と話す小さな深海棲艦に私は更に疑問をぶつける


「…いったいいつから見ていたんですか」


潜水新棲姫「ん?結構前からだな。最初は色々見て回っていた。まさか死後の世界が実在しているとは驚きだ」


持ち前の好奇心で辺りを散策していた彼女がこの場所を見付けるまで時間はそれほどかからなかったようだ


「だったら入ってくればよかったのに…」


潜水新棲姫「…漣が居たからな」

私がそう言うと潜水新棲姫は落ち込んだ様子でボソリと呟いた




488 ◆B54oURI0sg2019/07/08(月) 01:30:14.22qkqheJjDO (2/20)

 
 
潜水新棲姫「ワタシの最大の誤算だったよ、まさか漣までこちらに…あんなにも早く来ていたなんて…」


「…予想出来なかったんですか?」


潜水新棲姫「…ショックを受けて落ち込みはするだろうがテイトクや仲間が支えてくれるだろうと思っていた」


「実際は支える暇もありませんでしたが…」


漣さんは良くも悪くも思い立ったら即行動の傾向がある。これまで見ていて誰かが気付いても既に結果が出た後な場面はいくつもあった。それよりも…


「貴女は自分自身と漣さんの想いを過小評価していた。自分が居なくなっても大丈夫だろうと」


潜水新棲姫「…そうだな」


見るからにしょんぼりしてしまう潜水新棲姫。むう…これでは私がいじめているみたいだ


「と、とにかく漣さんを見て貴女は隠れていたという事なんですね」


潜水新棲姫「…ああ、ここでワタシに会ってしまえばあいつは帰る意志を完全に捨て去るだろう。あくまで漣には生きて幸せになってほしいんだ」


そして漣を幸せにする役目はあのワタシに譲る。今ここに居るワタシが罪を担うと曇りの無い目をして言う


深海棲艦とは何なのだろう。これほどまでに純粋で強い。どうして彼女達と戦争なんてする羽目になったのだろう




489 ◆B54oURI0sg2019/07/08(月) 01:31:36.23qkqheJjDO (3/20)

 
 
「あちらの貴女も貴女なのは解りましたが…もし誰かがオリジナルがここに居るのに気付いたら…」

潜水新棲姫「あのワタシだって自分を偽物などとは思っていない…はずだ。どちらにせよ確かめようは無い」


可能性があるとしたらあの日進さんが教えるくらいだが、彼女がそんな事をするとは思えない


潜水新棲姫「何か不都合が起きでもしない限りはな…」


「どういう事ですか?」


潜水新棲姫「他に頼れる相手が居なかったから仕方無いが、ワタシは根本的にはあの整備士という男を信用してはいない」


「何度も助けてもらっているんですよ?悪い人には思えませんが…」


潜水新棲姫「ああ、善人なのは間違いないだろう、善人すぎて疑う余地は無い」


「だったら…」


潜水新棲姫「あの男に会った時、何とも言えない気持ち悪さを感じた、上手く言えないが…周りに居る艦娘達からも妙な雰囲気を感じたんだ」


これまで見てきて…という程には整備士さんの事には大して興味も無かったが、そんな変な感じはしなかったように思う




490 ◆B54oURI0sg2019/07/08(月) 01:33:18.49qkqheJjDO (4/20)

 
 
潜水新棲姫「はっきり何処がとは言えないが直感的にあまり関わりたくないと思っただけだ。その勘が外れていれば問題は無いが…もしも自分達に都合の良いように何かを仕込まれている可能性もゼロではない」


「それは…」


整備士さんは正常に戻したとは言っていたがタシュケントの人格を弄り、早霜を無力化した。それも結局は人手が欲しいという理由で


それが全てではないだろうが彼らは自分達が正しいと信じて他者の人格すら変えているのだ。それは今回が初めてとは限らないのかもしれない


【こほん】


と、それまで無言で私達のやり取りを見ていた富士さんが咳払いで自らの存在をアピールしている。別に忘れてはいませんよ、ちょっとくらいしか


潜水新棲姫「富士か…オマエにも言いたい事があったんだった」


【なにかしら】


潜水新棲姫「漣を救ってくれてありがとう。一度ならず二度までも」


そう言ってぺこり、と頭を下げる潜水新棲姫に富士さんは驚いた顔をする。何だか居心地が悪そうに


【…一度目は救ったというより単に見逃しただけよ。二度目はせっかく見逃したのに死なれたら寝覚めが悪いと思っただけ。深海棲艦にお礼を言われる筋合いは無いわ】




491 ◆B54oURI0sg2019/07/08(月) 01:35:02.30qkqheJjDO (5/20)

 
 
潜水新棲姫「それでもだ。大切な人がああして生きているのを見られたのは富士のおかげなんだ、ありがとう」


【…そう】


富士さんそう言ってそっぽを向く。ああ、耳が赤い…やっぱり慣れてないんだこういうの


「それはそうと…」


私は再び映像に目を移す。漣さんと甦ったもう一人の潜水新棲姫の姿。しかし二人はあくまで他人行儀なやり取りを繰り返している


「別人として扱えとか割りと無理がある条件ですね」


潜水新棲姫「ワタシは人を殺している。幸せになる資格は無い」


「だけどあの貴女とこちらの貴女は違う」


潜水新棲姫「そうだな…もしかしたらという期待も少しはあったが…」


「それはどういう…」


潜水新棲姫「記憶のインストールは死者蘇生などではないという事だ。言ってみればクローン、コピー体、そんなようなものなのだろう」


「そんな…じゃあ一度死んだら…」


潜水新棲姫「当たり前といえば当たり前だな。死んだものは甦らない。甦ったように見えてもそれは…」


別人だ。とはさすがに口に出しては言えなかったようだ。それを認めてしまったらつまり自分のやった事は無意味という事になる


潜水新棲姫「…さっきも言ったがだからといって偽物ではない、それは確かだ。同じ記憶、同じ人格、限りなく近い魂…ならばもうそれは本物だろう」




492 ◆B54oURI0sg2019/07/08(月) 01:37:15.20qkqheJjDO (6/20)

 
 
「貴女は…」


それでいいんですか?と問いかけようとした言葉を飲み込む。…いい訳がないのだ。それでも彼女はそれを選んだ


潜水新棲姫「とにかくだ、今となってはこちらから出来る事はもう何も無い。あとはあちらのワタシに任せるしかない」


「でもあんな状態では…」


潜水新棲姫「そうだな…正直失敗だった気もする。あれでは復活させた意味が無い」


大切な人と触れ合えない寂しさは二人にかなりの負担になっていた。泣きながら独り眠る。そんな日々が数日続いた


周囲からの説得にも聞く耳を持たないあちらの潜水新棲姫。あくまで自分は別人として振る舞っている


潜水新棲姫「まったく…頑固な奴だな」


「自分の事じゃないですか…」


潜水新棲姫「まあそうなんだが…こう客観的に見せられると良くない部分も見えてくるものだな」


「…後悔していますか?」


潜水新棲姫「ワタシの償いの犠牲にするつもりなどはもちろん無かったが…結果的にそうなってしまったな…」


そんな時見かねた重巡棲姫さんが説得に乗り出した。漣さんも同じ罪を犯していたのだと、そしてその後既に報いを受けたと


そして一度は殺された潜水新棲姫も同様に罪の清算は済んでいるのだと




493 ◆B54oURI0sg2019/07/08(月) 01:40:03.07qkqheJjDO (7/20)

 
 
潜水新棲姫「やはりそうなのか…漣も人を死に追いやった事が…」


「今の彼女にはその記憶は無いみたいですけどね」


潜水新棲姫「その後薬漬けにされ手足を継ぎ接ぎされ…そしてワタシのせいで一度は死んだ…」


「命の重さなんて私には語れませんが…おつりが来てもいいくらい酷い目にあっていると私には思えます。そして貴女ももうこれ以上償う必要は無い」


潜水新棲姫「そうなのか…そうか…そう…」


そもそも私達は戦う者。奪った命は少なくない。敵対する艦娘や深海棲艦は殺しても罪ではないなんて都合が良すぎる


それのひとつひとつに償いにと死んでいたら命が幾つあっても足りない


だけどそれを今更彼女に言っても意味は無い。むしろ更なる苦悩を与えてしまうだろう


潜水新棲姫「これでようやく…終わったんだよな…?」


「ええ、あとは幸せになるだけです」


潜水新棲姫「そうか…そうか…」

「!…身体が…」


潜水新棲姫の身体が僅かながら薄れている。これはつまり…


【成仏する手前ね】


それまで黙って見ていた富士さんが口を開いた




494 ◆B54oURI0sg2019/07/08(月) 01:43:29.91qkqheJjDO (8/20)

 
 
【そのまま受け入れれば貴女は輪廻の輪に入れるわ】


潜水新棲姫「ワタシは生まれ変われるのか…?しかしワタシは人を…」


【殺したから地獄行き、そんな単純なものじゃないのよ。少なくとも貴女の心根は純粋で充分にその資格がある。…それにやっぱり直接手にかけたかそうでないかは大きいのよ】


潜水新棲姫「そうなのか…だがワタシはまだ成仏するつもりは…」


そう言って彼女は映像を見る。そこには漣さんがあちらの潜水新棲姫に指輪を渡している姿


その漣さんのとても嬉しそうな顔を見て


潜水新棲姫「よかったな…漣…遠回りをさせてしまってすまなかった…」


そうして涙を流す。嬉しさなのか寂しさなのか、その涙の意味は私には判らなかった




495 ◆B54oURI0sg2019/07/08(月) 01:46:55.51qkqheJjDO (9/20)

 
 
潜水新棲姫「おい、読み終わったぞ。続きはどこだ?」


「…どうぞ」


潜水新棲姫「しかしここには漫画ばかりだな、まあ嫌いではないが、専門書なんかも用意してほしいな」


【…今度持ってくるわ】


潜水新棲姫「ああ、そのついでに甘味も頼みたい、死んでも食べられるのかは知らんが。テイトクの作ってくれたすいーつがもう食べられないのは残念だな」


「あの…」


潜水新棲姫「ん?どうした二人共、そんな微妙な顔をして」


「流れ的になんかもう成仏する感じになってませんでした?」


潜水新棲姫「流れ?よくわからんがワタシはまだ成仏するつもりは無いと言わなかったか?」


「言いましたけど」


潜水新棲姫「漣と鎮守府の事はあのワタシに任せたし、罪の清算も済んだ。ならあとはワタシのやりたいようにする。まだまだこの世界も隅々まで回ってはいないしな」


「はあ」


【この切り替えの早さも深海棲艦特有なのかしらね…】


色々と吹っ切れた様子で再び漫画を読み始める潜水新棲姫。薄れていた身体もいつの間にか元に戻っていた


私だってある程度吹っ切るまで結構時間が掛かったというのに…




496 ◆B54oURI0sg2019/07/08(月) 01:50:30.46qkqheJjDO (10/20)

 
 
ようやく立ち直った漣さんが次にした事は確認だった


それは自分が殺したかもしれないかつての龍驤さんの浮気相手が今どうなっているのか。しかし龍驤さんも分からないという


忍への暗殺依頼という事から専門家である由良さんに協力を頼むとあれよあれよと事実が明らかになっていく。さすがは本職だ


潜水新棲姫「その野良の忍という奴は勝手に龍驤に手を出したからか何かをやらかして消されたという事なのか?」


「漣さんの依頼が無くとも殺されていた可能性は高いみたいですね…」


潜水新棲姫「となるとだ…漣が殺したというには少し微妙にならないか?」


「う~ん…利用されたというか…たまたまそこに居た人に擦り付けたとも見えなくもないですが」


この場合、漣さん次第なのかもしれない。依頼にかこつけて利用されただけ、いやむしろきっかけにはなったのだからやはり殺したのは自分…記憶の無い彼女がどう思うのか私には判らないが


潜水新棲姫「やはり成仏しないでいて正解だな。まだまだ危なっかしくて安心してられない」


「そうですね…私も気がかりが多すぎて目が離せません」


例え見守るしか出来なくとも、それでもあとは知らないなどと放っておいて成仏なんて出来やしないのだ


497 ◆B54oURI0sg2019/07/08(月) 01:52:05.72qkqheJjDO (11/20)

 
 
『おー?新しいお客様だねー』


「あ、おはようございますY子さん」


寝ていたY子さんがようやく起きてきたようだ。前に出掛けて帰ってきてから妙に疲れていたようでそれはもう爆睡だった


潜水新棲姫「…」


「あれ?新棲姫さん?」


何故か潜水新棲姫…いい加減長いので新棲姫さんと呼ぼう。彼女は私の後ろに隠れている


潜水新棲姫「見ていたから知ってる、あいつのデコピンはものすごく痛い」


『あっはっは。別に何もしないよ~こっちおいで~』


そう言いつつ手の形をデコピンにしているY子さん。まったく…彼女はこういう悪ノリが大好きなのだ


「Y子さん…子供に対してあんまり怯えさせるのは…」


潜水新棲姫「ワタシは子供じゃない。それを言うなら朝潮だってあんまり変わらないじゃないか」


『あたしからすればどっちも変わらないけどね~』


まあY子さんや富士さんは私より遥かに年上なんだろう。つまりおば


ビシィ!


「あああああああああ」


潜水新棲姫「ひっ」


額を押さえて悶絶する私。口には出してないのに…




498 ◆B54oURI0sg2019/07/08(月) 01:53:35.49qkqheJjDO (12/20)

 
 
『なーんか失礼な事考えてる気がしたんだよね~』


【まったく…そんな事してるとますます怯えさせるわよ…】


呆れたように溜め息を吐く富士さんが私のおでこを擦ってくれるとみるみる痛みが引いていく


『まあ変な事しなければ別にあたしは何もしないからそんな怯えなくていいよ実際』


潜水新棲姫「あ…ああ、解った」


まだおっかなびっくりの様子でY子さんの前に出ていく新棲姫さん


バッ


潜水新棲姫「ひっ」


サッ


潜水新棲姫「はぅっ」


「…何やってるんですか」


手を振り上げたりして反応を見て遊んでいるY子さん。やってる事は子供だと彼女から距離を取って思う私


しまいに新棲姫さんは再び私の後ろに隠れてしまう


潜水新棲姫「こいつきらいだ…」


【ほら…言わない事じゃないわね…】


『あっはっは。ごめんごめん、悪気はちょっとしか無いからさ~』


何だか起きてから絶好調なY子さんだった




499 ◆B54oURI0sg2019/07/08(月) 01:55:01.71qkqheJjDO (13/20)

 
 
【さて…私はそろそろ戻るわ。長居しすぎたわ】


「戻るというと漣さんの中に?」


【ええ、本人がもう戻ったのに私がいつまでもここに居ても仕方無いしね】


『ふふふ…休憩だとか色々理由を付けてたけどここに留まってたのは漣の様子を見る為だもんね~?』


「ああ…やっぱり」


【やっぱりって何よ!別に私はそんなつもりは無いわ!休みすぎたと思っただけよ!じゃあね!】


そう捨て台詞を残し姿を消す富士さん。ばっちり見た、顔が赤かった


『ツンデレだねぇ』


潜水新棲姫「ほう、あれが本に書いてあったやつか、初めて見たぞ」


相変わらず私の後ろに隠れたままの新棲姫さんが感心したように言う


Y子さんに対して何やら苦手意識があるようだけど、まあいずれ慣れるだろう


そんな時、点けっぱなしにしていたモニターから哄笑が響き渡った



500 ◆B54oURI0sg2019/07/08(月) 01:56:43.11qkqheJjDO (14/20)

 
 
「あれは…朝霜さん…?どうして刃物なんか…」


刃物を片手に笑う朝霜さん。その正面には腹部を押さえて苦し気に後ずさる霞


潜水新棲姫「刺した…のか?朝霜が霞を?いったい何故だ…」


喧嘩というにはあまりにも異質な雰囲気だ。というか朝霜さんなら喧嘩になった時に刃物なんて使わないはず


『中身が違うねぇ、あの朝霜乗っ取られてるよ』


それはいったい…と聞くまでも無く朝霜さんが普段とは違う口調で喋り出した。この話し方は…


「早霜…?でもどうして…死んだはずなのに…まさか怨霊?」


『そういうのではないみたいだねぇ』


追い詰められた霞が艤装を展開、砲を向ける。痛みのせいか狙いが定まっていない。あれでは避けられる可能性が高いが…そもそも正面から撃ったところで大人しく食らってくれる相手でもない


『二分の一かぁ、ギャンブルだねぇ』


「え?」


『いつだったか相手を完全無力化する弾頭を明石に作ってもらってたんだけど二発ある内の一発は不発弾なんだよねぇ…』


「ええええ!?」


なんでそんな…と聞く暇も無く霞が砲を発射、それをいとも簡単に弾く早霜、しかしその瞬間弾頭から霧のようなものが噴出してそれを吸い込んだ早霜が倒れ込む




501 ◆B54oURI0sg2019/07/08(月) 01:58:57.31qkqheJjDO (15/20)

 
 
『どうやら当たりを引いたね。運が良いみたいで良かったねぇ』


「早霜は動けなくなったようですね…外れがあるなんて霞は…」


『知らないだろうねぇ。知ってたらこんな土壇場で使わないんじゃないかな』


霞は気合いと根性で自らの止血と応急処置を終らせそして動けなくなった早霜までも自分で縛り上げた


「割と重傷のように見えますけど凄まじい執念ですね…」


『霞は自分が居なくなったら鎮守府がどうなるか誰よりも理解してる、何があっても死ぬ訳にはいかない立場だって』


「霞レベルの薬剤師でしかも理解がある艦娘なんて他に居るとは思えませんしね…」


早霜もそれが解っていて真っ先に霞を狙ったのだろう。つまり今回は本気だった、撃退出来たのは本当に運が良かったのだ


そうして早霜は磔にされた状態で司令官達と対面する。しかし朝霜さんを人質に取られているも同然のこの状況では迂闊に手出しは出来なかった


そこで漣さんとレ級さんが直接朝霜さんの精神世界に乗り込み早霜を消そうとしたがそれも失敗に終わった


「身体だけでなく朝霜さんの精神まで人質に取られている…これではどうしようも…」


潜水新棲姫「そもそも早霜は何故今更出てきたんだ、死んでから大分立っているというのに」


『自分の死後一定期間後に朝霜の中で目覚めるよう仕込んでいたんだよ、自分の脳の一部を食べさせる事で強力な…呪いのようなものをね』




502 ◆B54oURI0sg2019/07/08(月) 02:01:06.30qkqheJjDO (16/20)

 
 
「のっ…!?」


潜水新棲姫「自分の頭を開いてか、よく生きていたな」


『何かそういう特殊な技術でも使ったんじゃない?あたしは見てないけど』


「なんでそんな話題で普通に進めているんですかね…」


そうして攻めあぐねている最中に漣さんが整備士さんに相談の電話をしていた。何やら要領を得ないようで漣さんがぶちギレて電話を切ってしまっていたけど


早霜は朝霜さんを道連れに自殺を仄めかしていたからあまり猶予は無い


そんな中、整備士さんの指示で深海吹雪さんがひとつの注射器を携えてやって来た。そこには改心した早霜の人格がデータとして入っているらしい


「それを注入してあの早霜にぶつける…それって上手く行くんでしょうか…」


『能力的には互角、精神世界でならより意志の強い方が勝つ。改心したっていう想いの強さが本物かどうか』


朝霜さんの精神世界で対峙する二人の早霜、姿形は同じ、しかしその表情はまったく違っていた


片や狂気と殺意に溢れた以前の早霜、片や何かを決意したような、快楽の為に殺人を繰り返していたとは思えない雰囲気の早霜


その勝負はあまりにもあっさりとしたものだった




503 ◆B54oURI0sg2019/07/08(月) 02:03:45.45qkqheJjDO (17/20)

 
 
『あの早霜は本当にずいぶん前に仕込まれたものだったようだね、だから今の早霜の技も知らないで簡単に決まった。始めから勝負は見えてた』


梟挫…初めて見たのは川内さんが由良さん相手に使った時だったか、相手の攻撃をそっくりそのまま返すカウンター技らしい。それを早霜も使えたのか…


始めから殺すつもりだった以前の早霜はそれをまともに返され一撃で倒された。そして――


「二人が同化した…?いったい何を…」


『昔の自分もろとも死ぬつもりだね。漣がやったような精神の自殺からの無理心中』


そうか…あの決意した表情はつまりそういう事だった。生前も一貫して自らのけじめを付けようとしていた。再び意識を持てたとしても生きるつもりなど無かったのだ


「最初から死ぬ為に…」


『…早霜は自分の性質に悩んでいた、だけどどうにもならないといつしか諦めて考える事を止めてしまっていた。整備士に捕まってもう一度省みるきっかけを得てようやく本来の早霜を取り戻した』


「出会い方がもし違っていたらあの早霜も仲間になっていたんでしょうかね…」


『そういう世界もあったかもしれないね…』


そうして―――


早霜という存在はこの世界から完全に消えた




504 ◆B54oURI0sg2019/07/08(月) 02:06:35.99qkqheJjDO (18/20)

 
 
自らの中で早霜が消えた事を悟った朝霜さんが涙を流しているのを司令官達は慰めている


『まああの早霜が自殺を図らなくとも自然に消えていたんだけどね…』


「え…」


潜水新棲姫「それはあるな。あの男の事だ。上手く行ったとしても朝霜の中に早霜が残り続けるようにはしないだろう」


「…あくまで使い捨てだと?」


潜水新棲姫「元々インストール用に作った訳でもない身体に他者の精神がいつまでも残留する、しかも朝霜にとってはトラウマを植え付けた張本人だ」


『まあねぇ…いくら味方になってるとは言え悪影響を考えれば当然かもねぇ』


「でもあの朝霜さんは早霜が消えた事を哀しんでいます…」


潜水新棲姫「酷い目に遭わせた相手でも憎み切れなかった…そういう事か…人の心は複雑だな…」


新棲姫さんはまだ自分には解らない事だらけだと腕を組んで考え込む


『ところで話は変わるけどさー、あたしの部屋にあった漫画がいくつか無いんだけどー?』


潜水新棲姫「む?それならワタシが借りている」


『お?新ちゃんは漫画好き?』


潜水新棲姫「新ちゃん…」


『朝ちゃんは鎮守府の事ばっかりであんまり漫画読まないからさぁー、話が通じないんだよー』


「はい、朝ちゃんです」




505 ◆B54oURI0sg2019/07/08(月) 02:09:12.05qkqheJjDO (19/20)

 
 
潜水新棲姫「まあ気持ちは解らないでもない。ワタシも読んだ本の話が出来るのはガンビアベイくらいしか居なかったからな。漣も漫画オンリーだった」


『じゃあちょっと読みながらお話しよー』


潜水新棲姫「まあ構わないぞ」


最初あれだけ怯えていたのにもう普通に対応している…あの順応性の高さはさすがだと思う


漣さんが帰ってしまって少し寂しくなるかと思っていたけどまだしばらくはそうはならないのだろう


「朝ちゃんでした」


潜水新棲姫「なんだ急に」


506 ◆B54oURI0sg2019/07/08(月) 02:11:40.00qkqheJjDO (20/20)

ここまで
終盤の盛り上がりに出来たら追い付きたい


507以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/08(月) 09:10:58.828RHBQaq4o (1/1)

おつです!
こっちも本当に楽しみになってる
これからの展開富士さんやY子さんがつらいかもしれないがそんな時は朝潮が支えてあげるなんて事もあるのかな


508 ◆B54oURI0sg2019/07/18(木) 05:00:42.27bgBXNCBDO (1/13)

>>505から
 
 
「お酒ですか」


『へー新しいお酒かあ…でもあたしはワイン派なんだよねぇ』


潜水新棲姫「露の雫か、まあ悪くないセンスだな」


ある日の事、ガングートさんの旦那さんである孫さんが新作の日本酒の名付け親になってほしいと司令官に頼んでいた


お酒に弱い人でも美味しく飲めるものを目指して作られたらしい。どんな味なんだろう、私はお酒は飲んだ事は無いがちょっと気になる


孫さんの作るお酒は鎮守府周辺の街では割と有名で雑誌の取材にも何度か取り上げられていた


「しかも美人のロシア人艦娘の奥さんまでいますから。凄く写真映えしていましたね」


夫婦揃って取材を受けていたガングートさんはガチガチに緊張していて端から見たら怒っているようにも見える


だけどそれが逆にクールな印象を与えて雑誌を見た女性読者がファンになってお店に集まったりした事もあったようだ


「接客モードのガングートさんはなかなか面白…素敵でしたね」


潜水新棲姫「もうすっかりあの街の顔のようになっているな。所属している鎮守府の風評被害もあの街の住人はデマ…でもない部分もあるが…」


「ええ、ガングートさんが結構訂正したりしてくれていたようで、理解してくれていますよね」


ガングートさんはあの鎮守府の言ってみれば公報担当みたいな役割をいつの間にか担っていた


そのおかげで周辺住人との関係は結構良好なようだった。普通の一般人は軍施設を嫌う傾向が強い、他の鎮守府でもそれはもう頭を悩ませているらしい




509 ◆B54oURI0sg2019/07/18(木) 05:02:13.06bgBXNCBDO (2/13)

 
 
そして孫さん渾身の新作の日本酒の発売日。お店の前には長蛇の列、ざっと百人以上は居るだろうか


「すごい列ですね、中には艦娘も居ますね、あれは村雨さんかな?」


『あ、お姉ちゃん』


「…は?」


潜水新棲姫「何処だ?見当たらないが…」


富士さんは黒髪に黒着物とある意味とても目立つ。というか実体は無いはずでは…


『あそこ、あの黒髪の艦娘、確か三日月だったかな?』


「ああ、よく見たら表情とか富士さんですね。そういえば富士さんってお酒飲むんですか?」


『飲むよー。あれでお姉ちゃんお酒大好きだからね』


「今までそんな素振りは見た事ありませんでしたから知りませんでしたが」


『以前はよく飲んでたかな、丁度あの鎮守府と関わり始めるまでだったかなぁ』


「どうしてでしょう…」


『さぁねぇ…さしずめお酒で酔っ払う姿を見せたくないとかじゃないかな。本格的に我慢するようになったのは朝ちゃんがここに来てからだし』




510 ◆B54oURI0sg2019/07/18(木) 05:03:55.80bgBXNCBDO (3/13)

 
 
『でもよっぽど我慢出来なかったんだろうねぇ。お姉ちゃんあそこのお酒の大ファンだから。新作と聞いて居ても立ってもいられなくなったと見た』


「それであの艦娘の身体を借りてまで列に並んだと…」


『この世界で唯一お姉ちゃんが割と自由に身体を借りられる相手だからね、あの三日月は。かと言ってあくまで利害の一致で協力してるらしいけど』


「唯一なんですか…?」


『…これだけ時間があって協力者はたったの一人、お姉ちゃんのコミュ障っぷりと言ったら…。今はまあ二人くらいにはなってるのかな』


富士さんとの出会いはまず誤解される所から始まる。そして割と高圧的にものを言うのでそれはまあ反発を受ける。そして交渉は決裂


どうして上手くいかないのかしら…と頭を捻る姿を前に見た記憶がある


そんな話をしていると並んでいる列が解散していくのが見えた。どうやら完売したらしい


その人の中で壁に手を付いて項垂れている艦娘、三日月の姿。今の中身は富士さんなのだろう…何だかものすごく落ち込んでいるようだ


『買えなかったんだね…』


流れてもいない涙を拭う仕草をするY子さんだった




511 ◆B54oURI0sg2019/07/18(木) 05:05:54.67bgBXNCBDO (4/13)

 
 
お酒の話からかの国が動き出した。まあそれは単なるきっかけだったのだろうが


「未だにガングートさん達を諦めていなかったんですね…しかも人質まで取って」


大きい方のヴェールヌイさんの大切な人やその家族を人質に取り、使者として利用していたらしい


司令官達が説得するも失敗、自殺を図ろうとしている所を白露さん達に止められていた


そこに夕立さんも現れ、最悪の結果を迎えていた事をヴェールヌイさんに語る


「…彼女の旦那さんは既に殺されていた…それが人間のやる事なの…」


潜水新棲姫「仮に任務に成功してもその後利用価値が無くなったアイツは報復を防ぐ為に結局処分される。端からそういうシナリオだったのだろう」


「そんなの…おかしいです…」


潜水新棲姫「そうだな…ワタシもそう思うよ…。国という単位においては個人の情など入る余地は無いのだろうな、やり方は甚だ前時代的だが」


「そういえばこの国でも似たようなものでしたね…」


人質を取って弱味を握り、好き勝手に利用して最後には…大本営や組織の得意技だ


そしてその後夕立さんが動いてそんな命令をしたかの国の人間達も粛清されたらしい。これが正しく因果応報というやつだろう


だけど人質として殺されてしまった人は帰ってこない。唯一の救いはその人の家族は無事だったという事だろうか


ヴェールヌイさんの旦那さんはそれは勇敢な人だったのだろう。自らを犠牲に家族を救ったのだ




512 ◆B54oURI0sg2019/07/18(木) 05:08:50.39bgBXNCBDO (5/13)

 
 
「…ところであの人は一体何者なんでしょうかね…あの国の上の方と知り合いなんて」


潜水新棲姫「夕立の事か?特務艦だからな。色々あったんじゃないか?」


「今まで見てきた限りでは外国にまで影響力がある特務艦は夕立さんくらいですけどね」


特務艦以前に夕立さん個人のパイプという可能性もあるが、そうだとしたらますます彼女の謎は深まるばかりだ


という訳なのでロシアに渡る夕立さんを追い掛けてみようという話になった


ヴェールヌイさんの手紙を無事だった旦那さんの家族に届けるという。彼女は響さん達に元気付けられ少しだけ立ち直っているようだった


「彼女の場合後を追う心配はそれほど無いみたいですね…」


潜水新棲姫「考えてみればアイツと響は近い人格なのだろう。響が自殺しない選択をしたようにアイツもそれを選んだ」


あの鎮守府に居る限り、例え魔が差すような事があってもそう簡単には自殺なんて出来はしないだろうとも思う


そして夕立さんはその手紙を携えて海を渡った




513 ◆B54oURI0sg2019/07/18(木) 05:11:51.24bgBXNCBDO (6/13)

 
 
「すみませんロシア語はさっぱりなんです…」


夕立さんは顔見知りらしいロシア人の軍人さんと何やら話をしている。しかも流暢なロシア語で…会話の内容は解らないけれど何だか妙に…距離感が近いようにも見えなくもない


『んじゃ字幕でも出してみようか、ポチっと』


Y子さんがリモコンを操作するとテレビ画面に字幕が現れる


「わああ…何だか完全に映画のワンシーンになりましたね…。夕立さんも金髪で日本人離れした顔立ちですし」


長身の軍人さんと夕立さんの二人は凄まじく絵になっている


しかし会話の内容は特に浮わついたものでもなく単なる情報交換のようなもので少しだけがっかりした


「ヴェールヌイさんの家族の人達に手紙を渡してからわざわざ会いに行くくらいですから夕立さんの恋人かとも思ったんですが…」


潜水新棲姫「ふむ…だが夕立は妙に楽しそうだな」


「そういえば…あんなに和やかに話す彼女は珍しいかもしれません。これはもしや…ですね」


そしてどういう訳か夕立さんはなんとドレスを着て何やら物凄いパーティーに出席していた


政界、財界の大物が集まる中でこれまた夕立さんは目立っている




514 ◆B54oURI0sg2019/07/18(木) 05:13:48.23bgBXNCBDO (7/13)

 
 
「なんですかこのせかいは」


潜水新棲姫「しっかりしろ朝潮」


国防長官だという人と話している夕立さん。それからもいかにもという貫禄を持った人達が夕立さんに挨拶している


「かのじょはいったいなにものなんでしょう」


潜水新棲姫「帰ってこい朝潮」


「はっ…!?…初めて見る世界にちょっと放心してました…」


パーティーには政治家だけでなく何だかテレビで見た事があるような俳優女優も居たような気がする。あれがせれぶというやつだろうか


そして夕立さんもまたそんな中でまったく見劣りしていない。仮にあそこに居たのが私だったらあんなに堂々としていられる自信は無い、というか逃げ出す


何人かの男性、そして女性にまで誘いを受けている夕立さんだったが終始不機嫌そうにそれを袖にしていた




515 ◆B54oURI0sg2019/07/18(木) 05:17:42.86bgBXNCBDO (8/13)

 
 
そしてヴェールヌイさんの家族から返信の手紙と思い出の品だという指輪を預かった夕立さんは早々に帰国の途に就こうとしていた


「何だか落ち込んでいますね彼女」


潜水新棲姫「手紙は口実であの軍人とやらを連れて帰るのが目的だったようだな」


パーティーの席でそれとなく話を振られた軍人さんは自らの職務と使命を理由にそれを断っていた


「そこからですね夕立さんがずっと不機嫌なのは」


潜水新棲姫「珍しいものを見れたものだ。他人など必要無いとばかりに突き放していたアイツと同一人物とは思えないくらいだった」


「あ…あの人」


帰ろうとしている夕立さんを呼び止める人物が居た、あの軍人さんだ。かなり走って来たのか汗だくで息を切らしている


その彼は夕立さんに向かって何かを投げ渡した。どうやらそれはロケットペンダントのようだった。それを受け取った夕立さんの表情は今まで見た事が無い程に輝いていた


「素敵な笑顔ですね…本当に映画を観ているようです…」


夕日に照らされた海で彼女はそれを首に掛けて日本に向けて水面を疾走する


その時の夕立さんは特務艦でも、復讐に縛られた艦娘でもなくただの恋する女の子にしか見えなかった


516 ◆B54oURI0sg2019/07/18(木) 05:20:07.81bgBXNCBDO (9/13)

 
 
とある朝、霞と明石さんが鬼ごっこをしていた。鬼は霞、顔も鬼


『あちゃーとうとうバレちゃったかぁ』


早霜に乗っ取られた朝霜さんを撃退する際に使った艦娘無力化ガス弾頭。二発の内一発は不発弾というギャンブル


「まあ当然怒りますよそれは、自分の知らない所で生か死かなんて仕込まれていたら」


『よかれと思って』


「なんですかその顔怖い」


その後明石さんは若干目が危ない榛名さんに捕まって逆に霞がそれをフォローするという事態になっていた


「霞の事となると榛名さんも突っ走りますよね…あのまま放っておいたら殺さないにしても…」


潜水新棲姫「まあ半殺しにはなるかもな」


「無理も無いとは思いますがさすがにそれはやり過ぎですね…」


そして今回、危ないのは当の明石さんも同様だった


明石さんは改めて浜波さんに謝罪したいと、そして自分の作った義足を受け取ってほしいと手紙を送った


それを受けてわざわざ鎮守府を訪ねて来る浜波さんは多分とてもいい人なのだろう。関わりたくないと思うなら無視すればいいし、既にもう謝罪は貰っているはずなのに律儀な人だと思う


そこからがまた大変だった




517 ◆B54oURI0sg2019/07/18(木) 05:23:32.78bgBXNCBDO (10/13)

 
 
あまりにしつこく義足を受け取ってほしいと懇願する明石さん。浜波さんはそれに辟易しつつも口を滑らせてしまう


貴女も脚を切れと言ったら…どうするのかと。それは普通なら本気で言っているとは誰も思わない口振りだった


しかし明石さんはそれを真に受けてしまった


「何なんですかねこれは…謝罪病とでも言うんでしょうか…」


潜水新棲姫「責任感が並外れて強い者が過ちを犯してしまったらどうなるかと言った感じだな」


明石さんが走り去って行った後の浜波さんの狼狽え様は気の毒になるくらいだった


あくまで冷静に龍驤さんは浜波さんを連れてその後を追う


工厰に着くと北上さん夕張さん秋津洲さんに羽交い締めにされた明石さんが居た


「まあそうなりますよね、目の前で脚を切り落とそうなんてされたら」


本気ではないと止める浜波さんにじゃあ義足を受け取ってくれと頼む明石さん。それを断るとまた脚を切ろうとする。それをまた止める工厰組の三人


「これはもう脅迫ですね」


潜水新棲姫「許されたい、ただそれしか頭に無いのだろうな。相手の都合など考えられない状態だ」


そんな明石さんに浜波さんはどうして自分だけにそんなに構うのかと当然の疑問をぶつける


そこでようやく私は明石さんが浜波さんに拘る理由が解った気がした




518 ◆B54oURI0sg2019/07/18(木) 05:25:15.52bgBXNCBDO (11/13)

 
 
「昔の明石さんの実験で浜波さん以外は皆死んでしまっていた…」


潜水新棲姫「つまり今の明石にとってあの浜波はすがる藁、地獄の蜘蛛の糸と言った所か」


「じゃあもし仮に浜波さんが死んでしまったら…」


潜水新棲姫「明石は償う相手を求めてあの世まで…この場合この世か?…まあいいか、追いかけていたかもな」


「確かに…それはありそうな話ですね…というかまず間違い無くそうなる気がします」


そうして自らの過去に苦しむ明石さんに浜波さんは改めて、たどたどしくもはっきりと自分はこのままでいいのだと目を見て訴えた


許すにしても義足はあった方が何かと助かるのではないかとも思ったがその理由は龍驤さんが既に見抜いていたようだった


「なるほど…脚を失った事で彼女の司令官と急接近するきっかけになったと…」


潜水新棲姫「大人しそうな顔をしてなかなかやり手のようだな」


「意識して利用したのかは判りませんが…」


潜水新棲姫「あの口振りは自らのハンデを利用してアイツの提督を手に入れたように聞こえるがな」


争奪戦に勝った、彼女はそう言った。おそらくは新棲姫さんの言う通りなのだろう


「なんだか…あちらの鎮守府も結構大変そうですね…色々と」


男性が絡むと女は変わる。良くも悪くも。浜波さんが刺されたりしなければいいけどと私は思った




519 ◆B54oURI0sg2019/07/18(木) 05:27:10.65bgBXNCBDO (12/13)

 
 
それを聞いた明石さんが口を滑らせてしまったのに浜波さんが食い付いて恋バナに雪崩れ込んでいく


判らないが、もしかするとそれも浜波さんは空気を変えようとしてそうしたのかもしれない


「なかなかの…ですね。勘違いでなければ」


しどろもどろになりながら明石さんは自分の恋愛事情を話していく。浜波さんがお願いした事を明石さんは断れないようだった


「惚れたではなくこれは切った弱みというやつですかね」


潜水新棲姫「なんとも物騒な関係だな」


「足で…そういうのもあるんですね」


潜水新棲姫「朝潮はした事無いのか?」


「どうでしたっけ…手とか口とかばかりだった気がします」


足でなんていうのは多分信頼関係が無いと無理なのではないだろうか。私の場合は搾取される側で、足なんて使ったら殴られていたと思う


「それはともかく…Y子さんは…寝てますね…」


『いずれわかるさ。いずれな』


「わかりませんよ…何ですかその寝言は」


暇そうにしていたY子さんはこたつ(!?)に突っ伏していつの間にか居眠りをしていた


顔はそのままだった


520 ◆B54oURI0sg2019/07/18(木) 05:28:56.31bgBXNCBDO (13/13)

ここまで
結局ペースを上げられず申し訳ありません


521以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/18(木) 13:03:59.34yupo3afNO (1/1)

おつ
書けるだけ凄いと思うから頑張って欲しい


522以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/18(木) 20:21:38.55ogBB2rHmO (1/1)

質問です。

ここに足りないものSSの支援絵を貼っても良いでしょうか。

もし問題があるようでしたら、別の方法で発表したいと思いますので、ご意見を何卒よろしくお願いいたします。

(いつもはROM専で、書き込むのが始めてで勝手がわからず、申し訳ありません。)


523以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/18(木) 20:22:44.92ujYhQgnGO (1/1)

いいんじゃないかな?


524以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/21(日) 09:02:05.52DBn79+KFO (1/1)

ありがとうございます。
描けたら書き込みさせて頂きます。

龍驤の支援絵を描いた時、みなさま沢山のご感想をありがとうございました。お礼が遅くなって申し訳ありません。


525以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/22(月) 02:57:17.82tGkzPo/BO (1/1)

作者さんが更新できない今こそ外伝で繋ぐべきなんだけど自分ではなにもできない

字や絵が書ける人を尊敬します、頑張って下さい


526以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/18(日) 23:46:02.19FZimaR7A0 (1/3)

ふと思い付いたので少し


漣「さてこれをどうしますかね~」


漣達の前にはショートケーキが一つ。提督への客人が手土産としてケーキをを持ってきたので、それを秘書艦や偶然近くに居た艦娘で分け合った。その結果ケーキが一つだけ余ってしまったのだ


響「司令官にとっておくのはどうなんだい?」


龍驤「あの人やったら食べたかったら自分で作るって言うで」


そうですよねえと漣は頷く。提督の分を残さないでいいのならやはり最後の一つは誰かのものになるのだ


潜水新棲姫「この人数なら分け合っても一人分は少ない」


龍驤「ショートケーキを四等分しても美味しくないわなあ」


ここは公平にじゃんけんで決めましょうと漣が提案するが響がそれに待ったをかける


527以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/18(日) 23:48:18.82FZimaR7A0 (2/3)

響「どうせなら勝負で決めないかい?」


潜水新棲姫「こんなことで演習をするつもりか」


そうじゃないよと響は否定する。じゃあどうやって、と漣が質問するとルールは後で説明するからまずは順番を決めようと言う


漣「じゃあこれは順番決めのじゃんけんです。最初はグー」


じゃんけんの結果一番は響で二番は漣となった。龍驤と潜水新棲姫の三番手決めをしている所に提督が執務室に帰ってくる


提督「何をしていたんだ?」


響「ちょうどいい所に帰ってきてくれたね。それじゃあ私からいくよ」


どういうことです?という漣の質問に答える前に響は行動に移す



528以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/18(日) 23:49:23.96FZimaR7A0 (3/3)

響「にゃあん」


どこからか取り出した猫耳を装着し猫ポーズをとる響。それを見た提督は前屈みになりながら部屋の隅に移動する


響「司令官を勃◯させたら勝ちゲームは私の勝利だね」


そう言いながら響は残った一つのケーキにフォークを刺し口に運ぶ

龍驤は呆れた様子で提督を眺め、潜水新棲姫はやはり猫耳かと呟く


漣「じゃんけんで勝った人が勝つ糞ゲーじゃないですか!」


漣の叫びは虚しく執務室に響いた




また何か思い付いたら書きます


529以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/19(月) 00:49:06.21jHiuQrV6o (1/1)

おつです
響くん響くん、君じゃんけんで負けたら別ゲーにするつもりだったでしょ正直に言いなさい


530 ◆B54oURI0sg2019/09/12(木) 08:48:44.87Gn1vPz2DO (1/9)

多少涼しくなってきたのでリハビリ
>>519から
 
 
「あの…Y子さん?」


『なぁにー?』


「こたつ…いつになったら片付けるんですか?もう夏も終わりますよ…」


『終わるならこのままでいいじゃーん。次は秋ですぐ冬だよーこたつの季節だよー』


「はあぁ…」


深く溜め息を吐く私


結局は片付ける事は出来ないのか…いくらここが暑さも寒さも無い世界とはいえ季節感完全無視の彼女はどうにかならないものか


こんなやり取りは何度目か判らないがこたつ信者のY子さんはあれこれと理由を付けて片付けを阻止してくる


結局最後は私が折れる結果になるのだ


『みかんもそろそろ準備しないとねぇー』


「はああぁぁ…」


更に深く溜め息を吐く私なのだった



531 ◆B54oURI0sg2019/09/12(木) 08:50:37.99Gn1vPz2DO (2/9)

 
 
『ところで今日の迷える子羊は誰かなー』


「あぁ…山雲ですね。何だか危ない感じです」


もはやライフワーク…ノーライフワーク?どちらでもいいか


いつものように鎮守府の様子を見ている私達。新棲姫さんはY子さんの反対側でこたつに入って寝ている。ずいぶん馴染んだものだと思う


「彼女は朝雲を人質に取られ命令されてやむ無く艦娘を実験台にして死なせてしまった過去があります」


『今はその罪に押し潰されかけていると…』


「そんな自分が幸せになるのは許されない、自分も死ぬべきだと…そんな感じでしょうか」


新棲姫さんもそうだったが…私からすれば彼女達は善良に過ぎると思える


「元々私達は戦う為に生まれた存在です。敵であろうと味方であろうと誰かが死ぬ事は当たり前の事です」


その点では司令官ですら割り切っている部分はあるのだ


「山雲は死なせた相手にも仲間や大切な人が居てその人達の事を考えているようですが…ならこれまで沈めてきた深海棲艦なんかはどうなるんでしょうね…」


敵だから、だけど例えばレ級さんやクキさんのような関係性を持つ相手が居たら?


「彼女の感覚はむしろ一般人に近いものなのかもしれません…」


山雲や朝雲は確か薬剤師として働いていたらしいから戦いから離れて久しいのかもしれない。そんな中で普通の感覚を取り戻していったのだろう




532 ◆B54oURI0sg2019/09/12(木) 08:52:01.14Gn1vPz2DO (3/9)

 
 
あちらの新棲姫さんや霞、そして朝雲の説得もあり山雲は思い直したようだった


しかしようやくひとつの問題が収まるとまた次の問題が表れる


霞が倒れたのだ


「とうとう…という感じですね…いつかはこうなると思っていました」


『まぁねぇ…』


「これまで見てきて霞が休息を取っている姿をあまり見た記憶がありません」


霞がまともに眠る時は大抵榛名さんと…その…なにやらして疲れて眠る時と僅かな仮眠


それ以外は出撃や薬草畑のお世話、そして夜遅くまで自室での調合、そのまま朝になり結局眠らずというのもザラだった


そしてそんな疲労を自ら作った栄養剤などで誤魔化す日々


普段化粧などしない霞が目の下の隈を隠す為だけにメイクをしているのを見た事があった


「だけどそんな無理がいつまでも持つ訳はありませんよね…」


『そしてとうとう表面化してしまった訳だねぇ』


当然ながら霞にはしばらく絶対安静の命令が下ったがいかにも不服そうだった


「この鎮守府は基本的にはホワイトですが霞にとってはブラックですね…」


『一人が居ないと回らないどころか崩壊する会社とかやばいね』


「それが解っているから霞は無理してきた…でもこのままでは…」


霞は早くに死んでしまうのではと心配になる。戦いではなく過労かそれ以外の病気か…




533 ◆B54oURI0sg2019/09/12(木) 08:53:44.13Gn1vPz2DO (4/9)

 
 
新棲姫「ふぁぁ…」


こたつで寝ていた新棲姫さんが目を醒ましたようだ。猫のように伸びをしている姿はとても可愛らしい


「こたつで寝ると風邪…引くんですかね」


『おばけは風邪を引かないんだよー』


そう言いながらゴロゴロしているY子さん。会ったばかりの何処か怖い雰囲気は見る影も無かった


「おばけって…まあ確かにその通りですが」


ふとモニターを見ると真夜中の鎮守府の庭で北上さんが全裸首輪で憲兵さんにリードを引かれながら四つん這いで散歩をしていた


「あの人は何をやっているんでしょうかね…」


新棲姫「ふぁ…。回を追う毎にレベルアップしているな。正直何が楽しいのか理解不能だが」


新棲姫さんが欠伸をしながら答える


以前ならせいぜい一日下着無しで過ごすとかだったがどんどんエスカレートしている気がする


それも全て北上さんから言い出して憲兵さんは断り切れずに受け入れているようだった


「それだけストレスが溜まっているという事なんですかね。このところのトラブル続きで」


いつか鎮守府の外に出るのではないかという想像をしてしまうが、まあそれは憲兵さんも首を縦には振らないだろう。さすがに趣味では済まない事態になりかねない




534 ◆B54oURI0sg2019/09/12(木) 08:55:27.62Gn1vPz2DO (5/9)

 
 
ある日の事、鎮守府にあのまるゆ警部さんが深刻な顔をして訪ねてきた


過去に夕張さんが関わっていたらしい艦娘の事故死。それに動きがあったのだと


「カメラの映像に夕張さんが映っていたからその場に居て見殺しにした…むしろ殺したみたいにしたいんですかね向こうは」


新棲姫「正直少々強引だな。事故の原因もよく判ってはいないようだがどうもキナ臭い」


『名探偵新ちゃんはこの事件は事故ではないと?』


新棲姫「…なんだそれは」


『これは事故ではない、他殺の可能性がある。そうして洗濯紐に…』


新棲姫「やめろ」


『ばっちゃんの名はいつもひとつ!』


新棲姫「当たり前だ!」


Y子さんが新棲姫さんをからかっている。…しかし私もやはり何か裏があるような気がしてならない


「そもそも訓練を受けた艦娘が階段から落ちて受け身も取れずに死んでしまうというのもちょっと疑問ではありますね」


『酔ってたとか訓練サボってたとかまあ色々あるかもだけど確かにねぇ』


新棲姫「…コンビニの防犯カメラらしいが鎮守府内の映像が無いのも怪しいな」


「そもそも事故に鉢合わせして助けられなかったからといって普通なら責められる謂われはありませんよね…」




535 ◆B54oURI0sg2019/09/12(木) 08:57:15.45Gn1vPz2DO (6/9)

 
 
新棲姫「おそらくは艦娘だからなのだろうな…」


一般人なら事故で済まされるだろう事でも艦娘は常に衆目を気にしなければならない、汚点は一切無く完璧でなければならない


もしかすると本来は鎮守府内で内々に処理する予定だったのかもしれない


「だけど何か不都合があって表沙汰になって事故の原因を究明しなければならなくなった…」


そこにたまたま居合わせてしまった夕張さんはそれに巻き込まれ…一見無理矢理にも思える汚名を着せられ目眩ましに使われた…


「なんていうのは…」


新棲姫「まあそういう可能性はあるかもしれないな…だがもう」


「ええ…」


夕張さんは事故の記憶を消されていた。それをアケボノさんに相談したらよりにもよって向こうの関係者の夕張さんが関わる記憶を消してしまったらしいのだ


新棲姫「裏があったとしてもその記憶が穴だらけになってしまっては真相は判らないままだろう」


本当に単なる事故なのか、そもそも何故件の同僚は階段から落ちたのか


それから少しして警察の事情聴取で夕張さんの潔白は証明された


その代わりに彼女は記憶を取り戻し


そして壊れてしまった




536 ◆B54oURI0sg2019/09/12(木) 08:59:27.97Gn1vPz2DO (7/9)

 
 
彼女はその鎮守府でいじめに遭っていた


その相手が目の前で落ちていく姿に喜びを感じた


そんな自分に彼女は絶望してしまった


「夕張さんも山雲とかと同じく善良だったんでしょうね…少なくとも自分はそうだと信じていた」


私はどうだったか、憎い相手を事故ではなく自ら手にかけた当時はざまあみろと笑っていたような気がする


そうだとしてあまりダメージを感じない私は夕張さんから見たら輪をかけてクズだろうか


全ては今となってはと達観しているだけかもしれない


そうして自らに絶望して夕張さんは当ても無くさ迷い廃屋に隠れていた


そこに見慣れない艦娘が居た


「見たところ駆逐艦ですね…脱走というやつでしょうか」


『どうやら違うみたいだねぇ』


新棲姫「聞いてもいないのに勝手に喋っているな。どうやらスパイ活動の最中らしい」


夕張さんに銃を突き付けるが夕張さんの様子がおかしいのを見て取るとそれを下ろした


「どうやらそこまで悪い艦娘ではないようですね…危なかった…」


新棲姫「…頭を撃ち抜かれて死ぬのはあまりオススメしないな」


「それはそうですよ…」


頭を撃ち抜いた私が言える事ではないが。そもそも死に方に推奨されるものなど無いだろうけれど




537 ◆B54oURI0sg2019/09/12(木) 09:01:35.44Gn1vPz2DO (8/9)

 
 
そんな話をしていると謎の駆逐艦のすぐ側にアケボノさんや菊月さんが突然現れた


驚き威嚇しようとする駆逐艦に菊月さんが腕を振り―――


ゴンッ!


ものすごい音がした


『うわぁ…痛そう』


「あの武器は確か…早霜が使っていた錘ですかね」


錘を後頭部に受けた艦娘は気絶。探しに来た司令官達に夕張さんは怪我も無く保護された


再び記憶を消そうかと言うアケボノさんの申し出を断り司令官が夕張さんを連れ帰る


謎の駆逐艦は菊月さんが何処かに連れて行ってしまった。果たして無事に済むのだろうか、拷問でも平気でしそうなイメージが彼女にはあるが…


そして鎮守府に帰って来た夕張さんはそれからも壊れたまま、真夜中に悲鳴を上げ泣き叫んだりしている


「記憶…消した方が良かったんじゃないでしょうか…」


新棲姫「再び思い出した時のリスクもある。この場合どちらが正しいとは一概に言えないだろうが」

『自ら乗り越えさせる…か…なかなか厳しい選択だね』


それからもしばらく夕張さんの悲鳴が鎮守府に響き渡る日が続く事になる


果たして彼女の足りない、欠けた部分を司令官達は補えるのだろうか…


538 ◆B54oURI0sg2019/09/12(木) 09:04:24.68Gn1vPz2DO (9/9)

ここまで
亀なりのペースでどうにか
一番悩むのは書き出し部分


539以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/12(木) 12:29:57.80+WMj6k1Zo (1/1)

おつです
貴方もおかえりなさいです
オールシーズン営業可こたつとかいうレギュレーション違反の兵器



540 ◆B54oURI0sg2019/09/15(日) 04:03:50.32cTfw2jzDO (1/10)

>>537から
 
 
ずずー

静かな部屋にお茶を啜る音


「んー」


ぽりぽり


これはお菓子を食べる音


ずずー


そしてまたお茶を啜る音


「なんだか…」


新棲姫「どうした?」


【暇そうね】


「最近ずいぶんのんびりしてますね富士さん」


【実際あんまりやる事が無いのだもの】


「魂集めは止めたんですか?」


【まあ…そんなに頻繁に条件を満たした魂なんて現れないもの】


新棲姫「あの夕張なんてどうだ?」


【仮にも仲間でしょう…薦めてどうするのよ…それに…】


「それに?」


【可哀想じゃない…】


新棲姫「これだものな」


【うるさいわね…現状でもギリギリ条件は満たしているから無理に集める必要が無いだけよ】


「じゃあもう扉を開くんですか?」




541 ◆B54oURI0sg2019/09/15(日) 04:06:04.89cTfw2jzDO (2/10)

 
 
【それは…】


富士さんは何かを迷っているように言葉を濁す


艦娘達を理想郷に連れていく、その為に富士さんは魂を集めていた


だけど最近の富士さんはその気があまり無いように思える


いつか朝霜さんに言われた事を考えているのだろうか


【…艦娘達を不幸にせずに…その意志を尊重した上で救う…】


「そんな方法があるんでしょうか」


【解らないわ…今の私には…ずっと考えているのだけれど】


新棲姫「難しいな、単純に戦いを無くせば済むという話ではないしな」


戦いの無い世界で私達艦娘はどうやって生きていくのか


訓練所ではそんな事は教えてはくれなかった。教わったのは武器の扱いと深海棲艦の殺し方や戦いの技術、そして大本営への忠誠だった


【ここに居る中で唯一現世に関わる者として私はもう間違える訳にはいかない…】


「富士さん…」


そう言った富士さんは決意というよりは間違える事を恐れて萎縮しているように見えた


そんな時―――


ドオオオォォォン!!!


突然部屋に爆発音が響き渡った




542 ◆B54oURI0sg2019/09/15(日) 04:07:41.04cTfw2jzDO (3/10)

 
 
「なっなんですか!敵襲ですか!」


新棲姫「落ち着け朝潮ここに敵は来ない」


慌てて臨戦体制を取り何故か座布団を頭に被る私に新棲姫さんが指を指す先には点けっぱなしにしていたテレビ


くう…もう戦いから離れてずいぶん経つとはいえ無様な姿を晒してしまった


【あの鎮守府で爆発があったようね…これは…】


富士さんが遠くを視るような目をする


Y子さんもそうだが二人には私達には無い視点があるようだった。このテレビはあくまで私の為に用意した物だとそういえば言っていた


【駆逐艦…雪風…力を使ったのね…】


富士さんの顔色が少し悪い。どうしたのだろう


【…順を追って説明するわ】


そうして富士さんがあの爆発について説明する


それを聞くにつれて私達の顔色も同じようになっていくのを感じた



543 ◆B54oURI0sg2019/09/15(日) 04:11:44.54cTfw2jzDO (4/10)

 
 
「組織の雪風が漣さんを狙って…」


新棲姫「運を味方にしているとはとんだチートだな」


【そうね…不幸中の幸いと言えるのか本人も含めてその力を使いこなせてはいないけれど】


「それはいったい…」


【運を操り自らの都合の良い事象を呼び寄せる…それは全体の一部に過ぎないわ】


新棲姫「なんだと?」


【彼女自身も気付いてはいないけれど…あれは…運命を操る力】


運命を…操る…それはまるで…


【…運が良いとか悪いとか、突き詰めればそれは運命そのもの】


【どうしてあの雪風がそんな力を持っているのか私にも解らない…だけどそんな力に頼り続ければどうなるか…】


きっと最後には破滅してしまう…そう富士さんは言った。そして呟く


【これも…もしかしたら私が扉を開いたせい…そうだとしたらあの扉は…】


その先の台詞は続かなかったが私にはなんとなく解った


願いをなんでも叶える都合のいい扉なんて無いのだと


扉とはいったい何なのか…誰が作ったものなのか…これはむしろ破壊するべきものなのかもしれない


544 ◆B54oURI0sg2019/09/15(日) 04:13:29.64cTfw2jzDO (5/10)

 
 
爆発があった鎮守府は厳戒体制になっていた


雪風と最初に接触したという憲兵さんが怪我を負い、北上さんが付きっきりで看病している。少し不安定になっているのか片時も離れようとはしない


たまたま表に出ていた重巡棲姫さんのおかげで漣さんは認識されずに無事だった


「これは運を味方にしているにしては…」


【使いこなせていないという事。本来ならおそらくその場に行く必要すら無いはずよ】


新棲姫「それは恐ろしいな…」


爆発により保管してあった艦載機がかなりの数失われてしまった。あの鎮守府にとって航空戦力は生命線だ。司令官達も頭を悩ませているようだった


支援もすぐには期待出来ない、悩みぬいた司令官はせめて周辺の深海棲艦と停戦出来ないかとレ級さん達に相談していた


しかしレ級さんが言うには交渉するべき姫や鬼は周辺の海域には既に居ないという


「レ級さんが暁さんの為に追い払ったんですね。つまりしばらくは艦載機が無くとも凌げそう」


新棲姫「…半端な事をしたものだな」


「え?」


モニターの中のレ級さんが司令官に懺悔する


それはつまり追い払った姫や鬼が何処に行ったか、それにより周辺の鎮守府に被害が出てしまっていたらしい



545 ◆B54oURI0sg2019/09/15(日) 04:15:17.76cTfw2jzDO (6/10)

 
 
新棲姫「暁の為に周辺の深海棲艦を排除したい。そこまではいい、だがやはり同胞だからと殺せなかった。結果被害は拡がった」


「それは…」


新棲姫「…自分達の益の為に同胞を手にかける、ワタシだってそんな真似は…だがもし漣の為になるなら…」


【…やめておきなさい、それ以上は袋小路に入ってしまうわ】


そう言って富士さんが新棲姫さんの頭に手を置いた。ぐわんぐわんと若干乱暴に撫でる


新棲姫「む…オマエに気遣われるとはな」


【深海棲艦に気遣いなどしないわ。ただここで発狂でもされたら鬱陶しいだけよ】


ぐわんぐわん


新棲姫「あう」


「うふふ…」


笑う私に富士さんが無言で視線を送る。解ってるから余計な事は言うな、そう言っているようだった


そしてあちらの新棲姫さんが司令官に問いかけをしている。それは司令官にとっては厳しい問いだった



546 ◆B54oURI0sg2019/09/15(日) 04:18:05.60cTfw2jzDO (7/10)

 
 
つまりは自分の大切なものの為なら他者を傷付けてもいいのかと


それに答える司令官はそれはもう辛そうで


「…どうしてあんな質問をしたんですか?」


若干責めるような口調になってしまう。だが新棲姫さんは大して気にした風も無く


新棲姫「そうだな…あのワタシが今考えてる事は解らないが…提督のスタンスをはっきり知りたかった…という所だろう」


「スタンス…」


新棲姫「提督は誰にも言われているように甘い、いざという時にその甘さから一番大切なものを取りこぼしてしまう恐れがある」


だから自分の口からはっきりと言わせて確認したかったのではないかと、それが解れば自分達も行動の指針を立てやすい…そう考えたのだろうという


新棲姫「まあ自分があの島風提督と同じだというのはさすがにどうかと思うがな」


「私は司令官はあんな事はしないと思います」


新棲姫「それはワタシも同感だ。例え同じ状況になったとして一線を越えはしないだろう。それが二人の違いだ」


間違いだと解っていても行動を起こした者、踏み止まれる者、どちらも大切な人の為に


私はその被害者の一人だけど…その気持ちだけは理解出来る


あの人は今も私の怨念を幻視して魘されているのだろうか


私本人はまあ許した…と言っても差し支え無い程度には向き合えるようになっているけれど



547 ◆B54oURI0sg2019/09/15(日) 04:20:26.36cTfw2jzDO (8/10)

 
 
『あー…』


私達が話しているとY子さんが自室からのそりと出て来た。顔色があまり良くない


「あの…大丈夫ですか?調子が悪そうですが…」


『…大丈夫だよーちょっと寝不足なだけだからー』


【…】


今まで部屋に居て寝不足…?なら彼女はいったい何をしていたのか


新棲姫「朝潮…あまり聞いてやるな、プライベートな事だ」


「プライベート…?」


新棲姫「一人で部屋に居て寝不足…つまり自分で寂しい身体をなぐさめ…」


『ちがう!!!』


ビシィッ!


強烈なデコピンが新棲姫さんの額にヒットした。とても良い音が部屋に響いた


新棲姫「おおお…!」


【今のは貴女が悪いわね】


若干頬を赤らめて富士さんが言う。どうも富士さんはそういう話には耐性があまり無いらしい。そしてY子さんも顔が赤い。むしろこの姉妹二人共だろうか


『はー…朝ちゃん…お茶頂戴』


そう言ってこたつに座りテーブルに突っ伏す。顔色は先程よりは良くなっているようだがやはり怠そうだ


「はい、少し待ってくださいね」


548 ◆B54oURI0sg2019/09/15(日) 04:23:32.37cTfw2jzDO (9/10)

 
 
そう言って台所でお茶の用意をしながら私は考える


…最近Y子さんは部屋に閉じ籠る機会が多い。そして妙に疲れた顔をしている


初めて会った頃からは考えられない程に衰えているように感じる。それでも私なんかよりは余程強いけれど


新棲姫さんの話は冗談として、ならいったい何をしているのか


【今は…】


気付けば富士さんが背後に立っていた。静かな、それでいて悲しそうな目をして私に言う


【今はまだ聞かないであげて…あの子も頑張っているから…】


「頑張ってる…?」


【ええ…自分という呪いから逃れる為に】


「呪い…?」


【あの子がそう決心したのも朝潮…貴女のおかげなのよ。貴女がヒントを示したから】


「よく…解りません…」


【今はまだ…あの子が自分で話すまで待ってあげて…】


そう言って富士さんは私を優しく抱き締めてくれる


だけど…安心するどころか不安が大きくなっていく


全てが終わった後、私達は…いったいどうなっているのだろう


549 ◆B54oURI0sg2019/09/15(日) 04:26:22.42cTfw2jzDO (10/10)

ここまで
自己解釈マシマシ


550以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/15(日) 13:08:21.21h3Cxf1u0o (1/1)

おつおつです
こっちもこの辺り辛いわね
Y子さんも富士さんもソロプレイは声大きそう…大きそうじゃnビシィッ!



551以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/15(日) 14:46:04.93WoajHPQcO (1/1)

乙です、いつもありがとうございます

富士は恐る恐るから始まってドロドロになるまで続くんだと思います。ネタは無限に手に入りますからね

や…の方はそもそも一人でするか微妙です。いつだったか姉との百合希望の話もありましたから、そういう気分になったら都合の良い富士を作り出して[ピーーー]まで犯しまくるでしょう

Y子さんはどうでしょう……?色々考えられますけど、うっすらでも生えてたら最高ですね。ちなみに姉は生えてません


552 ◆B54oURI0sg2019/09/19(木) 06:03:05.01EK3j1AADO (1/11)

>>548から
 
 
あれから鎮守府にストーカーが侵入したり那智さんと司令官が揉めたりと一悶着あったもののどうにか無事に支援艦隊を迎える事が出来ていたようだった


「何もかも司令官があの鎮守府を作ったせいだなんて飛躍しすぎです」


新棲姫「しかしあの鎮守府には様々な因果が集まっているのは確かだ」


「また因果ですか…いい加減その単語が嫌いになりそうです」


やった事は必ず返ってくる。しかし司令官は何も悪い事をしていた訳じゃない


それで責められたり苦しんだりしているのは何故だろう


【…必ずしも報われる訳じゃない…そして必ずしも報いを受けるとも限らない、世界はこんなにも不平等…】


そう富士さんがぽつりと呟いた


新棲姫「因果応報はあくまで結果論だと?」


【でなければこんな世界にはなっていないわ】


それには新棲姫さんも返す言葉も無いようだった


『因果はあるよ』


テーブルに突っ伏したままのY子さんがそう言った。その言葉に富士さんがハッとした顔をする


【そう…ね、そうだったわね】


『だけど正しく巡ってはいないのは確かかな…気まぐれで悪趣味な誰かがその鎖を握ってる』



553 ◆B54oURI0sg2019/09/19(木) 06:04:54.50EK3j1AADO (2/11)

 
 
「それは誰なんですか?」


『さぁね…神様気取りの勘違いした誰かさんなんじゃない?』


…Y子さんは、いや、富士さんもそれが誰なのかはっきりと認識している…そんな気がした


二人は何かを隠している


それは前々から解ってはいた事だったが私はそれを追求しようとは思っていなかった


だけどその秘密が向こうから近付いている。そんな予感が何処かにあった


多分、私にとってそれは知りたくない何か


それを知ってしまったら何かが終わる。そんな予感が


554 ◆B54oURI0sg2019/09/19(木) 06:06:03.60EK3j1AADO (3/11)

 
 
支援艦隊が鎮守府に日替わりで来るようになって数日


司令官は艦娘達の好奇の目に晒されていた


「以前の会合でまたもや風評被害が拡大しましたからね…」


新棲姫「絶倫誘拐犯」


「ぶふっ」


語呂が良いのかつい笑ってしまう。ごめんなさい司令官…ふふ


【わからない…】


『うん…』


富士さんとY子さんにはあまりピンと来ていないようだった


艦隊運営に若干余裕が出てきたのか司令官達は先日の爆発について会議を開いていた


監視カメラや憲兵さんの証言でそれが組織による襲撃であったのだとすぐに判明した


しかしその対策についての話し合いは一向に進まないようだった


「運を武器にしている相手なんて対策のしようがありませんものね…」


その襲撃犯、雪風が近くの海域で目撃されたと支援艦隊からの情報が入り一同に緊張が走った


結局話し合いは雪風と遭遇した場合何とか戦闘を回避するという消極的な結論しか出なかった


「戦いになったらまず勝てないとなれば無理もありませんが…」



555 ◆B54oURI0sg2019/09/19(木) 06:07:39.01EK3j1AADO (4/11)

 
 
『話し合いに持ち込むのも難しいかもしれないよ』


「何故ですか?そんなにその雪風は組織に忠誠を?」


【違うわ…あの雪風はもう…】


富士さんが悲しげに首を振って続ける


【壊れてしまっている…冷静な判断力も、誰かの話をまともに聞く余裕ももう…】


富士さんのその言葉の意味はすぐに解った。その雪風は事もあろう街中で暴れているとニュースになっていたからだ


映像を切り替えるとそこは阿鼻叫喚だった


警察の銃撃など無いかのように悠々と歩きながら狙いも付けずに砲撃、その度に悲鳴と爆発


【こんな命令を組織が出すはずはない…そしてこれが雪風本人の意志ならそれは…】


まともではあり得ない。そんな事をしても何のメリットも無い。私の知る限り快楽殺人者だった早霜ですら無差別に暴れるなんてしていなかった


確か何処かのお店で暴れたという話を聞いた事はあるがそれはおそらく明確な目的があっての事


【だけどあの雪風は違う。暴れる事、殺す事そのものを目的としている…そうしなければあの子は苦しみから逃れられない…そう信じている】


「それはどういう…」


事ですかと聞こうとした言葉を飲み込む。モニター向こうの状況に変化があったからだ


556 ◆B54oURI0sg2019/09/19(木) 06:09:28.35EK3j1AADO (5/11)

 
 
「あれは…前に菊月さんが連れて行った艦娘ですね。どうしてここに…」


『駆逐艦、若葉だね。中身は違うけど』


中身が違う…菊月さん達…つまりあれは…


しかしその変身は雪風にあっさり見破られていた


そして変身を解いた彼女…リュウジョウさんはそこから更に説得を続ける


「戦って倒すのが難しいならこの世界で最も危険な場所に誘導すれば…誘導される方もされる方ですが」


変身を見破ったのは偶然なのだろうか…よく解らない


リュウジョウさんの話術で鉄の海域に行く事を決めた雪風だったが…そのままリュウジョウさんを見逃す程甘くはなかった


雪風が取り出したビー玉を投げ付ける。大して力も入れていないはずのそれは突然凄まじい速さでリュウジョウさんの顔に命中した


「う…ビー玉が顔面にめり込んで…」


新棲姫「どんな幸運が働けばビー玉であんな威力が出せるというのだろうな」


雪風が去った後、倒れたリュウジョウさんの身体が跡形も無く突然消えた。おそらく仲間が能力で回収したのだろう


新棲姫「最悪こうなるのは織り込み済みだったか、対応が早い」


おそらくはこれまでもこんなやり方を繰り返して来たのだろう


「もし間に合わなかったり、失敗したら…綱渡りすぎますね…」



557 ◆B54oURI0sg2019/09/19(木) 06:11:51.02EK3j1AADO (6/11)

 
 
そして雪風は鉄の海域を目指して海を渡っている。正確な位置も知らないはずなのに迷い無く一直線に向かっている


そんな時突然閃光が雪風目掛け飛来した


「命中はしませんでしだが…これはまさか…」


新棲姫「荷電粒子砲だな。だがこれは小規模、おそらく信濃だ」


確か信濃さんは菊月さんと協力していた。つまり…


「最初から誘き出して遠距離から狙撃するつもりだった…」


新棲姫「ただ鉄の海域に誘導しただけでは生き残る可能性もあるからな。いや、むしろあの幸運を考えれば間違い無くか」


しかし何度も荷電粒子砲の砲撃が飛んでくるが一向に当たる様子は無い


「荷電粒子砲ってここまで連射して大丈夫なんでしょうか」


新棲姫「解らないが…おそらくかなり出力を絞っているのだろう。駆逐艦一隻を沈めるのにそこまでの威力は必要無いからな」


そうしている間に変化があった。荷電粒子砲の閃光が雪風を掠め始めたのだ


「当たる?でも雪風には攻撃は…」


【…雪風の幸運にはインターバルが必要なのよ】


それまで黙ってモニターを見ていた富士さんが口を開いた


【今まであの子をここまで追い詰める存在は無かった…だから本人すら気付いていない弱点】



558 ◆B54oURI0sg2019/09/19(木) 06:14:22.70EK3j1AADO (7/11)

 
 
それはほんの数秒、しかも目で確認など出来はしない。実際にはもっと短く感じるだろうと


「菊月さんはどうしてそれを…」


【同じ能力持ちだからこそそれに気付いたのでしょうね】


モニターから悲鳴が響き渡る。ついに荷電粒子砲が雪風の左腕に命中したのだ


【…っ】


富士さんは唇を噛み締めそれでもモニターから目を離そうとはしない


「富士さん…無理に見なくても…」


【いいえ、私は見届けなければならない】


決然とそう言ってモニターに向かう富士さん。だがその時雪風が祈るような手の形を取った


しかしその目は神に救いを求めるものではなく、悪魔に魂を売り渡すような憎しみに濁った目で


【うっ…】


『これは予想以上に…』


私にも判る。雪風が何かをしたのだ


そして狂ったように笑う雪風に再び荷電粒子砲の光が降り注ぎ―――


雪風はこの世から消滅した



559 ◆B54oURI0sg2019/09/19(木) 06:17:24.63EK3j1AADO (8/11)

 
 
「今のは…」


『…死んだ…あの組織の老幹部が…』


「それって…」


Y子さんですら驚きを隠せないようだった


新棲姫「雪風の幸運というのは遠く離れた人間を死に至らしめる程だったのか…」


『ううん、さすがにそこまでの事は出来なかったはずだよ。…これまでは』


「つまり…死を前にして力が強くなった…?」


『あの一瞬膨れ上がった力は強くなったどころじゃなかった…もしもあの場面で外してたら菊月も信濃も死んでた』


【…雪風は組織の老幹部を憎んでいた、最期の瞬間に道連れにしようと考えた、でももし少しでも遅かったり外したりしていたら…】


新棲姫「その矛先は自分を殺そうとしている者に向かう…か」


『それだけじゃないよ、最後の雪風の力は離れた人間すら殺せる程に強かった。そして雪風は殺す事を求めてた』


新棲姫「自分の力に気付いた雪風が次に何をするか…考えるまでも無いな…」


「倒せて良かったですね…」


私はそうホッと胸を撫で下ろす。そんな私の耳に富士さんの呟きが辛うじて届いた


―――ごめんなさい、と



560 ◆B54oURI0sg2019/09/19(木) 06:20:59.15EK3j1AADO (9/11)

 
 
鎮守府では雪風が暴れた街の復興作業の手伝いに大忙しだった


怪我人多数だがどうにか死者は出ていないのは不幸中の幸いか


その怪我人の中に子供を助けて巻き込まれた孫さんも居たらしいがそれも命には別状は無いようだった


「ガングードさんの狼狽えようは気の毒になりますね…」


新棲姫「早くも未亡人なんて鎮守府で出したくはないだろうしな」

ズ…ズン…


新棲姫「地震か?」


「最近たまにあるんですよね」


新棲姫「この世界にもあるんだなそういうのが」


『あ…あたし、ちょっと部屋に戻るね』


Y子さんが急に立ち上がり歩き出そうとしてふらついている。それを素早く富士さんが支える


『…ありがとお姉ちゃん』


【ええ…】


そうしてY子さんを部屋に連れていく富士さんを見送りながら考える


始めの頃は富士さんもY子さんに怯えていたような気がする。それが無くなったのはいつからだったか…


鎮守府では司令官が皆を集めて慣れない演説をしていた


私には解らない事でも司令官達なら解るだろうか…だけど相談しようにもそれは不可能だ



561 ◆B54oURI0sg2019/09/19(木) 06:23:43.26EK3j1AADO (10/11)

 
 
新棲姫「心配事か朝潮」


「…二人は私達に何かを隠しています」


新棲姫「私達、ではないな」


「え?」


新棲姫「朝潮、気付いているだろう?時折あの二人がオマエに向ける目に」


「そうです…ね」


罪悪感のこもった眼差し、実際に何度も謝られたりもした。私を救えなかった事について


だけど私はそれを責めるつもりは無いし、始めから恨んでなんかいなかった


もしかして他に何かあるのだろうか…私には想像出来ない何かが


新棲姫「覚悟だけはしておけよ」


「不安を煽るような事言うのは止めてもらえますかね…」


ズズ…ン


部屋に伝わる僅かな振動さえも不吉な兆しに思えてしまうのだった


562 ◆B54oURI0sg2019/09/19(木) 06:27:16.52EK3j1AADO (11/11)

ここまで
あくまで朝潮視点なのでエピソードは多少飛んだりします


563以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/19(木) 12:21:23.20UrGqg+1go (1/1)

乙です
朝潮ちゃんやっぱり菊月達は苦手そう
こちらでの扉開けがどう書かれるか楽しみです


564以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/24(火) 16:43:14.78140OFOwDO (1/12)

>>561から
 
 
雲龍さん、加賀さん、翔鶴さん、そして秋津洲さんの三人が焼け落ちた鎮守府の前に居た


そこはかつて秋津洲さんが所属していた鎮守府


それはもうブラックで、少しでも役に立たないのなら殴る蹴るは日常で


それでも自分が元居た鎮守府であるという事で様子を見に来ていた


そしてそこは私もかつて所属していた島風鎮守府


組織の襲撃によって無人となっていたそこは完全に焼失していた



565 ◆B54oURI0sg2019/09/24(火) 16:44:37.43140OFOwDO (2/12)

 
 
「傀儡の襲撃で多少は損壊していましたが全焼する程の火災は無かったはずです」


新棲姫「なら後から放火でもされたか、艦娘を嫌っている人間なんて何処に居るか判らないからな」


「そうかもしれませんね…」


周辺住民に聞き込みをする加賀さん達だったが厄介事には関わりたくないのか有益な情報は得られなかったようだ


そして当の秋津洲さんは焼け跡に立ち尽くしたまま何かを呟いていた


「目が少し危ないですね…思い出してしまったんでしょうか…」


新棲姫「…思い出す?あいつは記憶喪失なのか?そんな話は初めて聞いたぞ」


「私も詳しくは判りませんが、おそらくは…」


そして私は当時の記憶を思い返しながら話し出す



566 ◆B54oURI0sg2019/09/24(火) 16:47:04.23140OFOwDO (3/12)

 
 
「過去に私は彼女と会っています。当然ですよね、同じ鎮守府の同僚なんですから。よく島風提督に殴られた痣を泣きながら冷やしていました」


「手当てを受けさせる為に医務室に連れて行ったり、食事を分けたりもしましたね」


「そのうち私は売られ、彼女がどうなったのかは判らないままでしたが、司令官の鎮守府で見かけた時には少し驚きました」


「秋津洲さんも司令官に救われたのだと思い声をかけてみたんですが…彼女は言ったんです」


「はじめまして…と」


「それで何となく察しました、秋津洲さんは記憶を封印か、もしくは改竄しているのだと」


「それから私はあまり刺激しないように彼女とは極力接触しないようにしていました」


「島風鎮守府の出身とはっきり認識されている私が側に居ては些細なきっかけで思い出してしまうかもしれない」


「彼女にとってかつて居た、酷い目にあった鎮守府は何処か遠くで、殴った提督は別の誰かで」


「それで楽になるならそれでいいと思っていたのですが…」


司令官の鎮守府で過ごす内に秋津洲さんはそうとは忘れ自ら禁断の箱を開けに行ってしまったのだろうか



567 ◆B54oURI0sg2019/09/24(火) 16:49:09.43140OFOwDO (4/12)

 
 
新棲姫「辛い記憶を封じ込め自らを守る、あり得ない話ではないな」


話を聞いた新棲姫さんはそう言って納得した様子だった


「あの頃の島風提督は今とはだいぶ違います。いつもイライラしていて、感情の起伏が激しかった」


新棲姫「他にも殴られたりしていたやつは居たのか?」


「居ましたね。私も含め反抗的な態度を取っていた艦娘は大抵一度は」


それでもさすがに出撃に差し支える程の暴行は無かった


しかし秋津洲さんはほとんど出撃はさせてもらえていなかった


「出撃もしない艦娘をストレスの捌け口にしていた部分はあったと思います」


新棲姫「聞けば聞く程最低なやつだな、確かに今とはほとんど別人だ」


「それだけ島風の事が重くのし掛かっていたのでしょうね…」


同情は出来ないがそれでも今なら多少は理解出来る。大切な人の為に他の全て、自らの良心さえ切り捨てた、その想いの強さだけは


その時に少しでも彼を導く何かがあったなら踏み外す事は無かったのにと思う



568 ◆B54oURI0sg2019/09/24(火) 16:50:44.15140OFOwDO (5/12)

 
 
秋津洲さんの記憶の扉が開きかけているのか少し様子がおかしくなっている


そんな中、島風鎮守府放火の犯人探しが始まっていた


カメラの映像から小柄な人物と判るが不鮮明で誰かまでは判別出来ないようだった


そこで雲龍さん達はまず疑わしい人物への聞き込みをするという話になった


「実際あの鎮守府に恨みを持っている艦娘となるとほぼ全員になりますが…」


新棲姫「その中でも筆頭は朝潮、浜風、文月か」


「私にはアリバイがあります!だって既に死んでいるんですから!」


新棲姫「それがトリックだとしたら?」


「な…ならそのトリックを証明してみてください!」


新棲姫「…」


「…」


新棲姫「…こう、糸を」


「糸を?」


新棲姫「…」


「…」


新棲姫「…ワタシの負けだ」ガクリ


項垂れる新棲姫さんに私は小さくガッツポーズ



569 ◆B54oURI0sg2019/09/24(火) 16:52:17.92140OFOwDO (6/12)

 
 
【何をアホな事をしているのよ…】


呆れた様子の富士さんが側に立っていた


「あ、富士さん。Y子さんの様子はどうですか?」


【今は眠っているわ】


富士さんは落ち着いている、とりあえず今は心配は要らないようだと思っておく事にする


富士さんにお茶を淹れている間に放火の犯人はあっさり見付かっていたようだった


「犯人は文月でしたね」


新棲姫「ワタシの推理通りだな」


【何だか糸がどうとか言っていなかったかしら?】


新棲姫「トリックと言えば糸だ。この前読んだ小説に書いてあったぞ」


「放火に糸をどうやって使うのかは解りませんが…どちらにせよ犯人は自供しているので無意味ですね」


阿武隈さんが移籍した例の幼女塾にて文月はあっさり自分が島風鎮守府に放火したと認めた


しかしその言い分には私も眉を潜める



570 ◆B54oURI0sg2019/09/24(火) 16:55:20.71140OFOwDO (7/12)

 
 
「弔いの炎って…文月はあんまり変わってませんね」


新棲姫「そうなのか」


「良くも悪くも子供なんですよ、影響を受けやすいんです」


一般的な文月は天使と言われるくらいに純粋らしいがもちろんこの文月もそうだった、しかしあの鎮守府に所属してしまった事で変わっていったのだ


「文月だけじゃない、私も島風提督自身も、あの鎮守府に居た者は皆どこか壊れてしまっていました…まともなのは当事者でありながら何も知らされていなかった島風くらいです」


五月雨なんてそれはもう酷い変わり様だった、今ではあれが自然だと思われているがそれがどれだけ異常な事か。普通の五月雨を知っていれば解るだろう


「文月の場合は子供らしい強かさで可愛く振る舞えばメリットがあると学んでしまった。さすがに島風提督もそれを殴ったりは出来なかったようでしたし」


代わりにそのしわ寄せが秋津洲さんなどの立場の弱い艦娘に行ってしまっていたのだ


「まあ私の為にというのも方便でしょうね、例え本気だったとしても嬉しくありませんが」


そんな文月は悪びれる風も無く話を切り上げようとしていたがそこに浜風が現れ私と同じく看破していた


そこからは浜風の説得により文月はこれまたあっさり改心した。やけに聞き分けが良すぎるのが少し気にはなるが


「確かあの鎮守府に居た頃は一番浜風が文月の面倒を見ていましたっけ」



571 ◆B54oURI0sg2019/09/24(火) 16:57:08.00140OFOwDO (8/12)

 
 
一番先に売られた私にはその後の事は話でしか知らないが浜風も自分を取り戻せているようでホッとした


その後、阿武隈さん達は文月を罪には問わず庇う事になったようだった


文月はせめて島風提督には謝罪すると言い現在の滞在場所に向かうようだ


島風提督もその謝罪を断る事は無いだろう。そもそもの原因は自分なのだから


新棲姫「公にはせず手打ちにさせるという事か」


「不満ですか?」


新棲姫「以前のワタシなら罪は罪だ、罰を受けるべきだなどと言ったかもな」


「今は?」


新棲姫「確かに放火は重罪だ、だがまあ、犠牲者もゼロ…燃え尽きた財産などは…あの島風提督だからな。これも因果というやつだ」

「そう…ですか」


また因果か…だが今回は確かに巡り巡って返ってきた正しい形なのだろう


そうして今回の事件はひとまず終わり、残ったのは


記憶の扉が開きかけた事で不安定な状態になった秋津洲さんだった



572 ◆B54oURI0sg2019/09/24(火) 16:59:20.61140OFOwDO (9/12)

 
 
秋津洲さんの症状は重いようで入院する事になった。医師の診断によると秋津洲さんの精神は分裂しているのだという。しかも…


「心臓が一度止まって…」


新棲姫「朝潮は知らなかったのか」


「ええ、多分私が売られた後の話でしょうね…」


これは明らかに殺人未遂になるのではないだろうか


暴力の恐怖に縛られた人間は普通の人なら考えつく、周囲に助けを求めるという事は出来ない。報復を恐れ萎縮するのだ。ましてや相手は鎮守府の最高責任者の提督だ


どちらかといえば気の弱い秋津洲さんにはそれは出来なかっただろう


「そして二重人格…忘れていたのではなく押し込めていた…?」


新棲姫「辛い目に遭っている人間は時にその記憶を肩代わりする人格を作る事があるという」


【だけれど最近、島風鎮守府に関わるようになりそれも無理が出てきていた】


新棲姫さんの言葉を継ぐように富士さんが語り出した


【今の鎮守府に来てからも、色々と暴力的な出来事が起こる度にあの子の記憶は刺激され負荷を受けていたわ】


そして今回、島風鎮守府からさみだれという最も島風提督に近い関係者が来たり、そして焼失した様子を見に行ったりした事でついに破綻したのだという


【もはや忘れているふりすら出来ないのなら向き合うしか無いわ…だけど…】



573 ◆B54oURI0sg2019/09/24(火) 17:02:31.07140OFOwDO (10/12)

 
 
「今の秋津洲さんにはそれだけの精神力は…」


【そうね…】


私は忘れるより憎む事で自分を保っていた、それが出来ない性格の人間ならどうするだろう。その答えが秋津洲さんのあの状態なのだ


入院した秋津洲さんに付きっきりで励ます明石さんの姿


そこにどういう訳が菊月さんが訪ねて来た。そしてその要件は…


「へ…?被害届けの取り下げ?というか逮捕されてた?」


寝耳に水というやつだ。私は普段島風提督の様子なんてあまり見ない。ごくたまに理由があれば、というくらいだ


【…当時の秋津洲が暴行されていた映像があったらしいわ、文月がそれを警察に渡したようね】


「反省してるのかと思ったら…」


新棲姫「それはそれ、これはこれというやつだろうな」


放火した事は謝罪してもやっぱり許す気は無いという事か


明石さんは当然菊月さんに文句を言うが、当の秋津洲さんはあっさりと取り下げにサインをして拇印まで押した


「…やっぱり秋津洲さんにとっては復讐だとか報いだとかは興味は無いんですね」


新棲姫「むしろ取り下げなければ逆恨みの報復という線もあるな」


「いくら何でもさすがにそれは…」


…無いとも言い切れない。今の島風鎮守府の面々…特に五月雨にはその恐れがあるとも思える



574 ◆B54oURI0sg2019/09/24(火) 17:05:02.84140OFOwDO (11/12)

 
 
それから病室では明石さんの必死の説得により秋津洲さんには過去と向き合う意志が芽生えたようだった


新棲姫「どうやら記憶も戻っているようだ。オマエの事も思い出しているかもしれないな、朝潮」


「それは別にどちらでもいいですよ。今の彼女には何より大切にするべき親友が居るんですから」


私が生きていた頃、あの鎮守府に居た頃、そんなのは結局出来なかった


司令官に拾われてからも駄々を捏ねて、聞く耳持たずで迷惑ばかりかけて、最後には…


「あーあ、もし昔の自分に会えたらなぁ…殴ってお説教したい気分です」


新棲姫「その気持ちは解らないでもないな…」


【私にも解るわ…それ】


「富士さんも?」


【まぁ…ね】


富士さんにもやっぱり後悔している事があるのだろうか


【昔の私はそれはもう…ええ、正直殴りたいわね】


新棲姫「ワタシ達と一緒だな」


「そうですね」


どんなに凄い人でもやっぱり後悔している事がある。間違えない人など居ない


私は取り返しのつかない間違いを犯してしまったけれど、まだ生きているならきっと…そう思うのだ


575 ◆B54oURI0sg2019/09/24(火) 17:11:13.41140OFOwDO (12/12)

ここまで


576以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/24(火) 18:27:50.75+Aq2MbpNo (1/1)

おつおつ
死後強まる念っていうのがあってぇ、あいつは糸みたいに使うから……つまり新棲姫ちゃんが読んだのはあれじゃな?

朝潮ちゃんも貴方が書いてくれるから未来ができたんです、ありがとうございます


577以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/24(火) 19:11:58.20XYrTREybO (1/1)

本編では二回も死んだ朝潮
せめてこちらでは幸せになって欲しい


578 ◆B54oURI0sg2019/09/29(日) 19:54:00.37Mc8iyXTDO (1/10)

>>574から
 
 
「そういえばちょっと気になってたんですけど」


【何かしら】


「漣さんって私達の事何も話しませんよね」


【ああ…その事…。夢だと思っているのよ】


「夢ですか…」


【言ってみればあれはあの子にとっては臨死体験、夢とも現実とも付かない情景としておぼろげには覚えているでしょう】


戻ってすぐの頃ならはっきりと覚えていただろうが、あの時点では漣さんはそれどころではない状態だった


夢というのはしっかり反芻するか何かに残さなければ記憶は薄れていってしまう


復讐や再び新棲姫さんと再会してそちらで頭が一杯になっている漣さんにそんな余裕は無かっただろう


その当の漣さんだが…とモニターを見ると彼女は鎮守府中を走り回っていた



579 ◆B54oURI0sg2019/09/29(日) 19:56:58.06Mc8iyXTDO (2/10)

 
 
「どうやらあちらの新棲姫さんが居なくったららしいですが…」


新棲姫「何をやっているんだあちらのワタシは…」


少しご立腹の新棲姫さん。それもそのはず、探し回る漣さんの姿はあの日を彷彿とさせる程に必死なものだった


それを知ってか知らずか何事も無かったように帰ってくるあちらの新棲姫さん。しかも何故か艦娘を連れて


無事な姿に号泣している漣さんを宥めつつ事情を説明する彼女にこちらの新棲姫さんも何故か納得したようで


新棲姫「一度拡散してしまえば根絶するのは困難だが…それが漣のものであればワタシも同じ事をしただろうな」


「だからって何も言わずにというのは…」


新棲姫「ああ、あれはあのワタシの落ち度だな」


以前に漣さん自ら編集して売り捌いていたDVD


その動画はネット中に広がり完全な根絶は不可能だという


漣さんだけではない。それが良い値段で売れるとなればそれを利用する人間は、艦娘自身も含め幾らでも居る


新棲姫「艦娘に人権が認められ始めているとはいえその辺りを規制したり保護する法律はまだまだ発展途上だ。無法地帯なのも無理は無い」


今回新棲姫さんが偶然助けた艦娘、ウォースパイトさんもその被害者だった。自らの動画を拡散すると脅されて金銭を要求されているらしい



580 ◆B54oURI0sg2019/09/29(日) 19:59:07.09Mc8iyXTDO (3/10)

 
 
それを聞いて犯人を捕まえようと行動を起こすあちらの新棲姫さん。


犯人を誘き出し、その顔を確認するまでは良かったが揉み合いになる内に頭を打って意識を失ってしまう


「幸い大した傷ではなかったようですが…護衛も付けずに自ら犯人とやり合うなんて…」


新棲姫「ああ…犯人がただの人間だったからまだ対抗出来ていたが、もし銃を持っていたら?正体が艦娘だったら?…武装も無いワタシではどうにもならなかっただろう」


う…新棲姫さんはかなり怒っているようだ。やけに饒舌になるのもそのせいか


その夜、あの日の悪夢を視て魘される漣さんを見て反省はしていたようだがまた誰かが困っていたら助けるとも明言していた


新棲姫「その考えには同意だが…あのワタシとは一度話さなければならないようだな…どうにかして…」


「どうにかと言っても…」


新棲姫「ああ…こちらから能動的に出来る事は無い、チャンスを伺うしか無いな…」


その後、被害者であったウォースパイトさんが鎮守府にレンタル移籍する事になり、結果的に得るものはあったようだった


「航空戦力がほぼ使えない現状で戦艦の方が来てくれるのは助かりますね」


新棲姫「これが情けは人の為ならずというやつか」


こうして誰かを助ける事が今のあの鎮守府を作り上げる事に繋がっている。トラブルに首を突っ込むのだからそれに見合った危険もあるが



581 ◆B54oURI0sg2019/09/29(日) 20:00:42.91Mc8iyXTDO (4/10)

 
 
【良くないわ…これは良くない…】


それまで黙って私達のやり取りを見ていた富士さんが口を開いた


【ずっと思っていたけれど…倫理観とか何か色々おかしいわ…!】

「ああ…まあ、そうですね…」


【お金の為に…自分を売るなんて…】


新棲姫「人間だってやっている事だ。珍しい話ではないがな」


「少なくともしっかり給料貰ってたらそんな考えは浮かばないでしょうが…」


思えば私がかつて居た島風鎮守府では給料なんて無かった


大本営から支給される運営費も島風の治療費に注ぎ込んでいたのだろう。そこには艦娘の給料も含まれている


新棲姫「今の法律はあくまで人間の為のものだ。変わってきてはいるが細かい部分はまだまだだな」


【法律…】


新棲姫「普通なら給料未払いなど許されない。ましてや横領だ。だが鎮守府では割と横行していると聞いた」


「艦娘は兵器で道具だから給料なんて必要無い。そんな風に言っている人も一定数居るらしいですね」


【と…扉を開けてもさすがに法律の事はよく解らないわね…】


そう言って項垂れる富士さん


扉の前で何条の何項目をああしてこうして、更に矛盾が無いように他の項目もどうしてそうして…とても無理だ。アバウトに艦娘の為の法を作れと願って結果どうなるかは想像がつかないが



582 ◆B54oURI0sg2019/09/29(日) 20:02:09.90Mc8iyXTDO (5/10)

 
 
とうとう大本営が本格的に動き始めた


手始めに自分達に従わない鎮守府への支援が断たれた


もちろん司令官の鎮守府もそこに含まれている


「そうしてジリ貧になって動くに動けない鎮守府に…」


新棲姫「アレをズドン…か。全て深海棲艦の仕業で片付けるつもりか」


しかし司令官達も黙ってそれを待つつもりはもちろん無い。しかし下手に動けばどうなるか


【菊月…あの子達が動いているわ…】


新棲姫「それしか無いだろうな。鎮守府を拠点に持つ提督達では動いた途端に撃たれかねない」


「鎮守府そのものが人質みたいなものですね…」


【だけど…あの子達の存在も大本営に察知され始めている…能力の詳細はともかく妙な連中が居るとは知られている。警戒は厳重よ】

例の兵器のおおよその位置を掴んだ菊月さんはリュウジョウさんを潜入させる


そこには護衛任務中の信濃さんが居た。まだ大本営には彼女が裏切り者だとはバレてはいないようだった


一般人に変身したリュウジョウさんが揺さぶりをかけ、兵器の権限を持つ人間をあぶり出すのが今回の目的らしい



583 ◆B54oURI0sg2019/09/29(日) 20:03:57.63Mc8iyXTDO (6/10)

 
 
実際それは上手くいき、信濃さんもその人物をマーク出来たようだった


しかし突然の傀儡の襲撃でその人物には逃げられ、うやむやになってしまう


新棲姫「傀儡の襲撃は自演か…あの場を誤魔化し後日目撃者は事故に遭う、そんな所か」


「やってる事が完全に悪の組織みたいですね…」


新棲姫「だがやつらはきっと自分達こそが正義だと思っているのだろうな」


正義の為なら必要な犠牲だと、むしろそうさせた相手が悪いのだと自分達を省みる事すらしない。してしまえば気付いてしまうから


それが正義とは程遠い、蛮行に過ぎないと


【だから人間は嫌いよ…だけど…】


「私達もあんまり変わりませんよね…」


新棲姫「そうかもな…」


原因はやはり人間にあるとはいえ、自分は悪くない、相手が悪いと復讐の事ばかり考えていた以前の私も


全ての艦娘の為には犠牲は仕方無いと切り捨てようとしていた富士さんも


これが正しい事だと突き進み、結果殺されてしまった新棲姫さんも


立ち止まり、少しだけでも省みていれば結果は違っていただろうか


584 ◆B54oURI0sg2019/09/29(日) 20:05:53.93Mc8iyXTDO (7/10)

 
 
龍驤さんの様子がまたおかしくなっていた


落ち込むような事があり、司令官にフォローされる。ここまではまあよくある光景だ


だけど龍驤さんは司令官のフォローを拒絶した


そして


「まさか…龍驤さんが家出をするなんて…」


新棲姫「普段ならあり得ないな、あれだけ提督に依存していながらそれを自ら遠ざけるとは」


龍驤さんが居なくなったと聞いた司令官の狼狽え様は新棲姫さんが居なくなったと知った漣さんにも劣らない程だった


あともう少し連絡が遅かったら自ら探しに飛び出して行っていたかもしれない


その龍驤さんは今、同様に姿を消したはずの鳳翔さんと共に居るらしい。どうも何処かの孤児院で働いているのだという


「どういう事かはよく解りませんが…事故とか事件に巻き込まれてはいないようで良かったですね…」


【龍驤…あの子も変わろうとしているのね…】


「え?」


【自らを省みて…反省して…許してもらって…今まではそこで止まっていた】


そこから更に前に進むには反省するだけでは足りない、そう簡単には人は変わらないのだと



585 ◆B54oURI0sg2019/09/29(日) 20:08:12.60Mc8iyXTDO (8/10)

 
 
それは鎮守府の皆も解っていたようだった。だが敢えて何も言わずに龍驤さんが自分で気付くまで待っていたのだろう


新棲姫「変わらず共依存の関係ではいずれは破綻する。ようやく自立しようと考えたという事か」


「うーん…まあ確かに司令官は龍驤さんには甘いですよね…でもそれが普通なのかと思っていました」


【龍驤が五体満足ならそれでも良かったんでしょうけれど…】


龍驤さんはたまに自分の身体の事で卑屈になる時があった


もちろん司令官はそれを慰める。そうすると解っている


【そうして龍驤は安心を得ていた。自分は愛されている、このままでもまだ大丈夫だと】


自分の手足を治さないのはアイデンティティだと。それは確かに本心ではあるのだろう


しかし同時に自分が捨てられない為の保険でもあるのだと


新棲姫「治してしまえば普通の、何処にでも居る龍驤と同じになる…そうしたら提督は自分から離れてしまう…か」


「…そうなんですかね」


ここに来てから知った龍驤さんの本当の姿…驚いたし、腹立たしくも感じた


だけどなんとなく…その気持ちも解る気がする。同情だろうと依存だろうと放したくない、離れたくない、捨てられたくない


そういえば似たような事を私も司令官に仕掛けた事があったから…


586 ◆B54oURI0sg2019/09/29(日) 20:10:56.04Mc8iyXTDO (9/10)

 
 
龍驤さんが変わろうと頑張っている一方、煮え切らない司令官についに漣さんがブチ切れた


「いつものご主人様呼びが消える辺り相当溜まってたようですね…」


新棲姫「無理も無いな。ワタシも漣の意見に同意だ」


しかし漣さん自身は司令官に言い過ぎたと落ち込んでいるようで先程富士さんが慰めに行った


「気のせいか漣さんに甘いですよね富士さん」


新棲姫「むしろ艦娘全てに甘いのだろうな」


「ああ…そうかも」


司令官は司令官で漣さんに言われた事を重く受け止め、幹部さんと再び深海棲艦との和平に臨む決心をしたようだった


新棲姫「提督として龍驤にかまけてばかりでは失格だからな」


「和平…上手くいくでしょうか…」


新棲姫「もう深海提督のように和平に横槍を入れる輩は居ないと思いたいが…」


現在深海棲艦のリーダー的な存在は居るのだろうか。居ないとしたら深海棲艦それぞれに和平交渉をしなければならない


だからといってそれをやらなければ和平には至らないだろう


幹部さんが言うには大本営はあの兵器を今は使えない状態なのだという。動くなら今しかないと


状況は刻一刻と進んでいる。もはや後戻りは出来ない。…元より戻れる道などありはしないのかもしれないが


587 ◆B54oURI0sg2019/09/29(日) 20:14:03.98Mc8iyXTDO (10/10)

ここまで
基本見てるだけのこちら側なのでなかなか悩みます


588以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/29(日) 20:25:46.63/WBLVpfSo (1/1)

乙です
この後富士さん達お仕事あるから…
龍驤の家出と漣の喝シーン心情を書き起こしてもらってより分かりやすくなったわ


589以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/29(日) 23:16:48.65Vfmx5ZCA0 (1/6)

少しだけですが書き込みます



あらすじ
突如キャンプがしたいと言い出した漣。潜水新棲姫と龍驤を誘い、ついでに近くに居た響と4人でキャンプに向かった


漣「いやあなんとかテントも張れましたしお楽しみの夕食タイムですな!」


潜水新棲姫「カレーを作るんだよな」


龍驤「各自材料を持ち寄ってカレーを作るんやったでな」

普通に作ってもつまらないということで漣が企画したこの材料持ち寄りカレー。普段は入れないものを入れたり自分の食べたいものを持ってくるというキャンプならではのものだ

響「まずは言い出しっぺの漣からだよ」


漣「漣が持ってきたのはこれです!」

テントの中にビン状のものと緑色で様々な種類の葉っぱが広げられた

潜水新棲姫「この草はハーブか」


漣「そしてこのビンはガラムマサラです!」

こういうのに興味あったんですよ、と漣は更に数種類のハーブを取り出す

潜水新棲姫「漣らしからぬ食材で驚いたが次はワタシだ」

潜水新棲姫が取り出したのはから揚げとチキンカツに竜田揚げだった

響「鶏肉ばっかりだね」


潜水新棲姫「チキンカレーにしたかったんだ」


漣「それは分かりますけど全部調理済みじゃないですか」


590以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/29(日) 23:21:26.96Vfmx5ZCA0 (2/6)

龍驤「潜水新棲姫らしいわな。ほな次はウチがいくで」


龍驤はスーパーで売っているパックされた牛肉を取り出した


漣「至って普通ですね」


潜水新棲姫「これだけか?」


龍驤「だって何個持ってこいとか聞いてなかったしどうせ漣が何個も持ってきとるんやろ?」


わかってますねえと漣は次々にハーブを取り出す。その数は数十種類を越えていた


潜水新棲姫「これを全部入れても大丈夫なのか?」


漣「心配しなくても大丈夫ですぞ!」


バッグからレシピを取り出し準備万端ですと宣言する漣。用意周到やなと龍驤と潜水新棲姫も期待の眼差しを向ける


響「食材は揃ってきたけどカレーのルーが無いね」


和やかな雰囲気が響の一言で変わる。そんなはずは無いと龍驤と潜水新棲姫が漣の方を向くと既に大量の汗をかいていた。これは暑さからでは無い、追い詰められた時に出る緊張からの汗だ


591以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/29(日) 23:25:54.60Vfmx5ZCA0 (3/6)

龍驤「お前アホか?!言い出しっぺがルー持ってけぇへんとか終わっとるで!」


漣「漣はてっきり龍驤さんが持ってくるとばっかり!」


潜水新棲姫「普通は言い出した奴が持ってくるべきだ。材料によってはカレーにならない可能性もあるからその準備もしておかないといけない」


漣「今更言われても遅いんですよーー!」


漣は絶叫するが事態は変わらない。龍驤は晩飯抜きを覚悟しこれ以上カロリーを使わないようにその場に寝転ぶ。飲み物は各自持ってきてあるので死ぬような事態にはならないだろう。苦労してキャンプ場まで来てメインの食事が無いのは痛いがそれもまた一興。
そうまとめられたらよかったのだが、漣と潜水新棲姫と漣の言い合いは口喧嘩に発展しようとしていた


潜水新棲姫「そもそも漣はいつも言葉が足りないんだ。それに緊急時の事を考えてない」


漣「止めろって言ってるのに危険なことばっかりしてるのはどこのクソガキなんでしょうね!」


潜水新棲姫「なんだと?」


響「落ち着くんだ二人とも、まだ私の食材を見てないじゃないか」


二人を仲裁するように響が割って入る。確かに響はカレールーが無いことを指摘しただけで食材はまだ見せていないのだ


592以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/29(日) 23:33:19.91Vfmx5ZCA0 (4/6)

漣「じゃあ響さんは何を持ってきたんですかね!」


半切れになりながら響に持ってきた材料を出すように急かす。響はこれが私の好きなものだよと言いながら食材を取り出した


響「まずは野菜だね。誰も持ってこないとは思わなかったから少し足りないけど、無いよりはマシだよね」 


人参やジャガイモといった野菜がテントに広げられる。その量は四人分にしては少ないが有るのと無いのでは大違いだ。


潜水新棲姫「これでなんとかカレーっぽくはなるな」


漣「まだです、響がアレを持ってきてないと終わりなんですよ!」


そう、この場には食材はあるがアレが無い。食材を持ち寄ってカレーを作るというのにルーが無いのだ


龍驤「ウチらが言えたことやないけど頼む!」


潜水新棲姫「このままだと野菜と肉の水煮を食べることになるのか」


響「もちろん買ってきてるさ」


漣「救世主現れる‥?」


響は袋の中から四角い箱を取り出す。そのシルエットを確認した漣は両手を挙げて喜び、龍驤はほっとした様子で起き上がる。潜水新棲姫もやれやれとため息をついていた時、響は三人の前に箱を置いた


響「はい、シチューのルーだよ」


漣「…」
龍驤「…」
潜水新棲姫「…」


響「もちろん牛乳も持ってきてるよ。さあ美味しいシチューを作ろうか」


593以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/29(日) 23:40:01.53Vfmx5ZCA0 (5/6)

挿入歌
Whereabouts of curry

今日はカレーを 作ると決めた 材料はもう買ってあるの?
ルーは中辛 ちょっと辛いよ エプロン着けて 準備開始よ

今ならわかる ムスカの気持ち 玉ねぎが 目に沁みてくるよ?
一口サイズ ちょっと大き目 でもこのくらいのが好きだから

下ごしらえは終わり 鍋に火をかけ炒めにかかるから みじん切りした たまねぎ 黄金色になって良い匂いよ

じゃがいも入れて バジルも少しすごく良い感じね ?お肉は鶏よ アッサリしててお値段もお手ごろ ?
材料全部入れ終わって ここからが本番 ぐつぐつ煮える 表面を見て 気がついた?

もしかして

シチューのルーを 入れて見ようか 牛乳もある これはいける?
私の中で 茶色と白の 天使と悪魔が宇宙戦争

だってシチューも美味い いっそ両方使ってみようかな ダブルで投下前に 煮える鍋みて やっと気がついた 

今日はカレーを作ると決めた 決めたはずなんだ 世の中曲げちゃいけない事が 沢山あるはずよ?
ぐつぐつ煮える 鍋の火を止め いよいよルーを投下 振りかえらずに 前を見るから 奇跡は起こるはず

今始まる食材の 運命的出会いを見て 空腹も既に限界?

堪えて 堪えて?
堪えて 堪えて?
堪えて 堪えて

完成よ 美味しいシチュー 



響「やっぱりシチューは最高だよね」


龍驤「そうやね、うん…美味しいなあ」


潜水新棲姫「シチューライスにしてもうまいぞ」


漣「あんたらとは二度とキャンプしねえ」


594以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/29(日) 23:41:51.75Vfmx5ZCA0 (6/6)

動画の貼りつけができなかったので歌詞を掲載しました。
タイトルでググれば出てくるので聞いてみて下さい


595以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/30(月) 00:00:45.53l30IFbeao (1/1)

乙おつ
キャンプ補正で細けぇことはいいんだよ!……といいたいがカレーの気分でシチューはちゃうねん、ちゃうねん
曲は無駄にカッコいいメロディーと間奏すき


596以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/08(火) 06:55:22.66qahpjF480 (1/1)

522です。
凄く遅くなりましたが、支援絵を描かせていただきました。完結おめでとうございます。

よろしくお願いいたします。

ひらめが開けなかったので、pixivのURLを貼っておきます。
https://www.pixiv.net/artworks/77174649


597以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/08(火) 11:58:42.99PRqDiAhio (1/1)

絵乙!


598 ◆B54oURI0sg2019/10/12(土) 01:24:52.19Oe8uISGDO (1/11)

>>586から
 
 
大本営が鎮守府の選別に入ってしばらくして更に変化があった


何処からか情報が漏れたようで、ついにあの兵器の存在が明るみに出たらしい


新棲姫「世論では兵器そのものよりも核が使われているという事が一番騒がれているようだな」


「最も否定する立場の国が実は…ですからね…日本の信用が失墜してこれからどうなるか…」


【こうなっては大本営は動くに動けない、少なくとも今は】


新棲姫「独立しようなどと考えている連中だ、世論など力で捩じ伏せようと自棄を起こす可能性もあるな」


協力関係にあったかの国は関与を否定、あちらも下手に動けない状態だ


「今がチャンスという事ですね」


司令官達もそう考えて他の提督達と積極的に接触している。その中で司令官の古い友人である女提督さんは何故か非協力的だった


「悪い人ではなかったと思いますが…大本営派だったんでしょうか…」


新棲姫「それは考え難いだろう。これまでの言動から予測するならおそらくは…」


そこで司令官と女提督さんの会話が耳に入って…



599 ◆B54oURI0sg2019/10/12(土) 01:26:39.58Oe8uISGDO (2/11)

 
 
<貴方の子を身篭った時はどんな思いだったか。結局貴方は認知はしてくれないと言ったわね


「………………は?」


<あの子を堕ろすという選択肢は無かった。その結果がこれよ


「………………は?」


新棲姫「しっかりしろ朝潮、有り金溶かしたみたいな顔になってるぞ」


【冷静に考えてあり得ないわね。あの提督の趣味は確か…】


「で、ですよね…司令官は貧乳好きのロリロリコン…あんな化け乳と何かある訳は…」


新棲姫「酷い言われようだな」


しかしその女提督さんはあろう事か司令官を誘惑し始めた


「なんなんですか!?なんなんですか!?あの化け乳!司令官もなんで拒否しないんですか!はっ…!実は巨乳もいける口だった…!?」


そういえば司令官、雲にゅ…雲龍さんに甘えた時があったはず…まさかそれで目覚めた?いやそれでは時系列が…


新棲姫「落ち着け朝潮、会話の内容の割には随分と真剣な顔をしている…誰かにわざと聞かせているかのようだぞ」


「聞かせて…?」


その理由はすぐに判明した。部屋から出た二人の前に艦娘が立ち塞がり司令官に食って掛かっている


600 ◆B54oURI0sg2019/10/12(土) 01:28:02.08Oe8uISGDO (3/11)

 
 
先程の会話を何処かで聞いていなければ解らないはずの事を自ら暴露している辺り、相当頭に血が登っているようだった


その艦娘、鬼怒さんは部屋に盗聴機を仕掛けていたらしい。女提督さんが問い詰めると意外にもあっさり白状する。この鬼怒さんはどうやら傀儡艦娘なのだという。そして―――


私はその話を聞いて久しぶりにキレそうになる


「……爆弾ですか。…大本営は随分外道な手段を取りますね」


新棲姫「本人だけでなく鎮守府も、人質に取れそうなものは全て利用する…か」


【これだから人間はっ…!】


傀儡とはいえ艦娘には変わりない。富士さんにとっては救いたい内に含まれているのだろう


これ以上接触していてはいつ爆発させられるかも判らない。司令官は女提督さんの力を借りる事は諦めてまずは情報の共有を最優先にしたようだった


当然ながら…同じ傀儡艦娘である陽炎さんや不知火さんにも爆弾はあった。しかしその対策の手段は見付からないようだった


新棲姫「脊髄に仕掛けられているのなら摘出は難しい。そもそも下手に取り出せばその瞬間爆発する可能性もある」


「そんな…」


司令官達も話し合いを続けてはいるがどうにかして爆弾を無効化しない事には動くに動けないだろう


そんな折、その司令官が突然誘拐されたと鎮守府では大騒ぎになっていた



601 ◆B54oURI0sg2019/10/12(土) 01:29:39.95Oe8uISGDO (4/11)

 
 
それを知った漣さんは意外にも冷静に状況を整理、拐ったのは整備士さんの所の伊400さんだろうと話す


「漣さんの事だから飛び出して行くかと思いましたが…思ったより落ち着いていますね」


新棲姫「いや…あれはかなり怒っているな…」


よく見ると目が笑っていない漣さん。あともう少しでキレそう


その後深海吹雪が現れ、今回の司令官の誘拐はその伊400さんの独断だったと説明していた


しかしその後の深海吹雪の話で一気に雲行きが怪しくなる


傀儡艦娘の爆弾の除去の為に陽炎さんと不知火さんを解剖して解析したいというのだ


新棲姫「ああ…やはりそういう事か」


「え?」


新棲姫「ワタシがあいつらに感じていた違和感、命に対する認識がワタシ達とは違うんだ」


【どうせ傀儡として復活させられるから、何をしても問題は無い…殺した事にはならない、そう考えているのね】


怒りをはらんだ口調で富士さんがそう言う


新棲姫「記憶と魂はイコールではなかった、だからワタシはここに居る。生きている者にはそれを確かめる術は無いがな」


だけどそれを知らなくとも整備士さんの要求は到底飲めるものではなかった



602 ◆B54oURI0sg2019/10/12(土) 01:32:37.73Oe8uISGDO (5/11)

 
 
協力を得られないと知った深海吹雪は実力行使に出ようとするも重巡棲姫さんとレ級さんに取り押さえられる


以前見た時にはあり得ないくらい強かったが陸での戦いには慣れていないようだった


捕らえられた深海吹雪は協力を呼び掛けるがもちろん首を縦に振る者など居ない


陽炎さんを除いて


「陽炎さんには窃盗癖がある…自分でもどうにもならない程に重症の…だからといってそれは…」


新棲姫「考えてみれば少しおかしいな…大本営は自由に傀儡艦娘を造る事が出来る。しかも色々と手を加えてもいる」


【窃盗癖などという欠陥をそのままにしておくのは不自然…そういう事?】


新棲姫「ワタシが思うに故意にそういう要素を植え付けたのではないかと思う。何らかの実験の為かは知らないが」


「だとしたら酷いですね…陽炎さんは苦しんで、自らを差し出すくらいに思い詰めているというのに…」


そうして深海吹雪を助けようとする陽炎さんを駆け付けた不知火さんが殴り飛ばした。側にはリュウジョウさんも居る


「手加減無しですね」


表情は変わらないが相当怒っているようだ。そして不知火さんは陽炎さんを叱責する


欠陥無く完璧になって生まれ変わったとしてもそれはもう違う陽炎さんなのだと


一度死ねば、今の陽炎さんは二度戻りはしないのだと



603 ◆B54oURI0sg2019/10/12(土) 01:34:31.54Oe8uISGDO (6/11)

 
 
新棲姫「…確かめる術は無くとも…そうか、理解しているのだな…」


「新棲姫さん…」


その後、リュウジョウさんの助け船により解剖しなくてもデータは取る事が出来るという


どうやらアケボノさんに透視能力まで備わっていたらしい。つくづく彼女達は規格外だ


そうして解析した結果判ったのは


傀儡艦娘に仕掛けられた爆弾だけを除去するのは不可能という結論だった


ちなみにその間、伊400さんはずっと正座させられていた


そして司令官はアケボノさん達の姿を見て安心したのか泣いてしまった


「なんだか憔悴していますね…よほど怖い目にでもあったのでしょうか…怪我は無いみたいですが」


新棲姫「ワタシでも用が済めばすぐに帰りたい気分だったからな…。強制的に滞在させられた提督の気持ちも解らないでもない」


その後、明確な対策は無いままその場は解散となった。最後まで深海吹雪は睨み付けていたが。なにやら禍根が残ってしまったようだった



604 ◆B54oURI0sg2019/10/12(土) 01:36:58.91Oe8uISGDO (7/11)

 
 
そして鎮守府


漣さんがとうとうはっきりと認識してしまった


今の新棲姫さんと元の新棲姫さんは別なのだと


考えなかった訳ではないようだったが今回の事でこれ以上目を背ける訳にはいかなくなったのだろう


新棲姫「いつかは…こうなるとは思っていた…」


「また精神世界に閉じ籠っているようですが…」


【錯乱している訳ではないわ。一人で考え混んでいる。どう受け止めるべきか迷っている…】


悩み続ける漣さんに重巡棲姫さんがアドバイスをしている


それは日進さんにこちらの新棲姫さんを降ろしてもらい直接話せばいいという内容だった


しかしそれは…


「それをするという事は今あちらに居る新棲姫さんを蔑ろにするという事…本物として認めないと言っているのと同じ…」


それは漣さんも解っているのかすぐに首を縦に振る事はしなかった


新棲姫「なあ富士…」


【なにかしら】


新棲姫「ワタシをどうにかしてあちらに送れないか?あちらのワタシと話したい」



605 ◆B54oURI0sg2019/10/12(土) 01:39:23.14Oe8uISGDO (8/11)

 
 
【…私は深海棲艦に直接干渉は出来ない、諦めて頂戴…と言いたい所だけれど…今ならひとつ方法があるわね】


新棲姫「ああ、ワタシもそれを期待していた」


【ふふ…さすがと誉めてあげるわ】


「あの…どういう事か説明してくれませんかね…置いてきぼりです私」


【もしかして…重巡棲姫が彼女を呼ぶよう奨めたのもこれを考えての事かしら?】


新棲姫「さあな…今のワタシには判らない」


「…いいですよ別に。解らない私がお馬鹿なんです」


【はいはい…膨れないの。今説明してあげるから】


話に着いていけずに膨れっ面の私の頭を撫でる富士さん


【私は直接新棲姫の魂をどうこうは出来ない、だけど今あの鎮守府にはそれが出来る存在が居る。彼女の力を借りましょう】


富士さんが言うには日進さんを介して新棲姫さんを一時的にあの場に投影するという


【魂を降ろす負担は私が肩代わりするから彼女には危険は無いわ。気付かない間に終わっているでしょう】


新棲姫「すまない…頼む」


【まあ…貴女ともそれなりに長く過ごしているのだからこれくらいは…ね】



606 ◆B54oURI0sg2019/10/12(土) 01:41:51.14Oe8uISGDO (9/11)

 
 
そうして富士さんは新棲姫さんの頭に軽く手を添えて目を閉じる


富士さんの周囲に不思議な力が満ちるのを感じる。一瞬だけ富士さんの背後に巨大な何かのシルエットが見えたような気がした


新棲姫さんの身体が淡い光を帯び、それと同時にモニター向こうの新棲姫さんの前に同じ姿が現れる


最初は驚いていたあちらの新棲姫さんだったがさすがは限りなく近い魂、すぐにそれが自分だと察したようだった


新棲姫「今からこれまであった齟齬を全て埋める。今のワタシの全てを伝える。別人などと欠片も思えないように」


そして新棲姫さんは話し出す。それはもう本当に全てだった。秘密にしたいだろうと思える内容すら全て


最後には新棲姫さんは泣きながら、それでも必死に、漣さんの為に、限られた時間の中で自分の全てを伝えきった


【そろそろ…】


新棲姫「ああ…なあワタシ…漣の事…頼んだ」


もう一人のとは言わなかった


あちらの新棲姫さんが頷く前で投影された新棲姫さんの姿が消えていく。その顔には決意のようなものがあった


新棲姫「…ぅ、ぐ…」


【お疲れ様…頑張ったわね…】


まだ泣いている新棲姫さんを抱き締めて背中を擦る富士さん


これで彼女が抱えていた重荷は今やっと消えたのだろうと思う



607 ◆B54oURI0sg2019/10/12(土) 01:45:53.55Oe8uISGDO (10/11)

 
 
その後、あちらの新棲姫さんは漣さんにそれを話していた


秘密にとは言ったが話しても構わない、それを決めるのもまたワタシだと新棲姫さんは言っていた


新棲姫「これから先、環境と経験でまた違いは生まれるだろう、だがそれはもう齟齬ではない。あれが漣の潜水新棲姫その人だ」


モニター向こうで泣きながら懺悔する新棲姫さんを抱き締めている漣さんにもこれまでのような迷いは無かった。ようやく吹っ切れたのだろう


新棲姫「ありがとう漣…幸せに…さようなら」


最後に一筋涙を流して、新棲姫さんは笑顔を浮かべた


ズズン…


その時


ガチャ!


それまで部屋で休んでいたはずのY子さんが青ざめた顔で飛び出して来て


『お姉ちゃん…どうしよう…失敗した…来ちゃう!』


ズズン…ドドン!ドドドドドド!


揺れがどんどん近付いてくる。そして


ドオオオオオオン!!!


轟音と共に部屋の天井が跡形も無く吹き飛んだ。その先に居たのは…


今しがた部屋から飛び出して来た彼女と同じ姿、顔をした、しかし知らない…表情を浮かべた―――


608 ◆B54oURI0sg2019/10/12(土) 01:48:41.22Oe8uISGDO (11/11)

ここまで
なかなか書く時間が取れず…
遅くなり申し訳ありません


609以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/12(土) 01:52:45.29qTwnhDcCo (1/1)

おつ


610以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/12(土) 03:53:03.70f0QNaFzdo (1/1)

乙です
この辺り頭の回転が速い娘・人達にとかく救われた

ここから、此方ラインは白紙に近く、それでいて収束点は決まっているので難しくなろうかと思います
ご自分のペースで無理無くお続けください


611以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/27(日) 21:43:42.56FiP9+fVYo (1/1)

信濃はどうなったんだろう
たしか扉を開いてから一度も出てこなかった気がするけど


612以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/10(日) 21:57:56.80uNxJvj2DO (1/22)

>>607から
 
 
誰かが言った


この世に偶然は無く全ては必然


なら私がここに居るのはどんな必然だったのか
 
 



613 ◆B54oURI0sg2019/11/10(日) 21:59:14.38uNxJvj2DO (2/22)

 
 
跡形も無くなった天井から赤い空が見える。現世ではあり得ない赤い空


その天井の穴から降り立つ人物はこれまで一緒に過ごした彼女、それはY子さんと同じ姿をしていた


しかしその表情は私のよく知る彼女とは違い、蔑むような、怒っているような、少なくとも友好的とは言い難い雰囲気だった


『…ぅ…あ…』


それを見て明らかに青ざめ、怯えた様子のY子さん、これも今まで見た事の無い彼女の顔


半壊した部屋に立ち、その人物はY子さんを睨み付け口を開いた


?『ようやく会えたねぇ…随分手こずらせてくれたもんだ…この引きこもりが…』


『…う』


?『あたしを追い出して力を奪ってここに籠って…それでやり過ごせるとでも思った?』


力を…奪って…?


私が頭に疑問符を浮かべていると二人の間に富士さんが割って入る。立ち位置は…明らかにY子さんを守ろうとしている。つまり後から来たこの人は…


【残念だけれど…貴女にそれを返す訳にはいかないの】


?『ならどうするの?多少弱体化してるとはいえ力の差は解るよねぇ?』


新棲姫「何だかまずい流れだな…」


こそりと新棲姫さんが私に耳打ちしてくる




614 ◆B54oURI0sg2019/11/10(日) 22:00:59.42uNxJvj2DO (3/22)

 
 
新棲姫「朝潮…いつでも動けるように準備しておけ。下手をすればまた死ぬ羽目になるかもしれない」


不吉な事を言わないでほしい。…また死ぬ…この状態で死んだらどうなるのか…あまり良い結果にはならないのは何となく解るが


【朝潮…その子をお願い】


富士さんがY子さんを目で示し、身構える


?『…本気なんだね。まあたまには戦闘らしい事も悪くないか』


『お…姉ちゃん…』


二人が睨み合う中で私達はY子さんの手を引いて部屋を出てその場から離れようとする。色々聞きたい事はあるがそんな場合ではなさそうだ


次の瞬間私達の居た部屋が爆散した


振り返ると富士さんが艤装を背負っている後ろ姿。見た事もない巨大な艤装には20はあるだろうか、砲塔がそびえている


対してもう一人は特に何も装備してはいない。今の爆発は富士さんの砲撃だったのだろう。しかし全くの無傷のようだった


?『やっぱり今のお姉ちゃんではその程度か』


と、彼女は腕を振るうと不可視の衝撃が富士さんを弾き飛ばした


【…くっ!】


離れた私達の方へと富士さんが飛んでくる。どうにか受け身を取って着地する富士さん


「富士さん!」




615 ◆B54oURI0sg2019/11/10(日) 22:02:38.31uNxJvj2DO (4/22)

 
 
?『言っとくけど逃がさないよ。また探すの面倒だしねぇ』


その人物は悠々とした足取りで歩いてくる


「貴女は一体何なんですか!どうしてこんな事を…」


?『ふん…やっぱり何にも知らないか』


「知らないって何を…」


?『全部。あたしが何なのか、アンタがどうしてここに居るのか、あたしがどうしてこんな事をするのか』


私…?


?『まず最初の質問、あたしは何なのか。まあそれはもう判明してるよね』



新棲姫「八島…か」


八島『そういう事』


「え?だってそれは…」


私は後ろに居るY子さんを見る。彼女は顔を伏せていて目を合わせようとはしない


八島『だってソイツは名前を捨てたんでしょ?自分の宿命ってヤツから逃げた負け犬』


逃げた…?


【逃げた訳じゃないわ、必要な事だったのよ】


八島『どっちでもいいよそんなの。ソイツを消して力を取り戻して全部元通り。それでおしまい、お姉ちゃんもおしまい』


【そうはさせない】




616 ◆B54oURI0sg2019/11/10(日) 22:04:41.68uNxJvj2DO (5/22)

 
 
『あたしは…』


そこでそれまで黙っていたY子さんが口を開いた。それを見て八島は動きを止める


『…あたしは自分の名前が嫌いだった』


そうしてY子さん…かつて「八島」という名を与えられた兵器の苦しみを私は垣間見た


『かつての世界、その先の未来において無数の命を奪った兵器に付けられた名前…』


八島『改良に改良を重ね、破壊に特化したその兵器で人類は深海棲艦との戦いに勝利した』


呼応するように同じ姿をした彼女も話し出す


『だけど用が済んだからと一度手にした強大な力を人間が手放せる筈は無かった』


八島『そうして新たに始まるのは人間同士のそれまでよりも醜い争い』


『仮にも人類の敵と戦うと手を取り合っていた時がどれだけマシだったかと思える程に』


八島『そこに艦娘という人よりも遥かに強い人間に似た精神構造を持った存在が更に拍車を掛けた』


『量産型まで開発され、それを使って戦う艦娘に対して、その相手もまた艦娘』


八島『強力な兵器を持って艦娘は敵味方に別れて戦い続ける』


『そうしていつしか艦娘達は戦う為に戦う存在に成り果てていった』


八島『それを止めようとした人間や、そして艦娘にも兵器「八島」は幾度となく使われ、犠牲者の数は敵も味方も無く膨れ上がり続けた』




617 ◆B54oURI0sg2019/11/10(日) 22:06:52.69uNxJvj2DO (6/22)

 
 
『最終的にあの世界がどうなったのか…あたしも知らない…けど多分…もう誰も居ないのかもしれない』


八島『そして世界が変わっても同じ名前を持った兵器はまた作られた』


『その名前は世界を滅ぼす兵器の名として世界そのものに刻まれている』


八島『名前というのはその存在を表すもの。名前の無いものに力を与え、そして縛る』


『人間がそう望み名付けた「八島」はそういう意味を持った名前になってしまった』


八島『だからあたしは世界がそう望むならその通りにする事にした』


『だからあたしはその名前を捨てる事にした』





――――――。


言葉が出なかった


いつか富士さんが言っていた自分という呪いとはこういう事だったのか


例えば私、朝潮


自分で言うのも変な話だが真面目で忠誠心が高く、多少融通が効かない所もあるが基本的に良い子だというのが一般的な朝潮という名のイメージだろう


そこからかけ離れた言動を取ればそんなのは朝潮じゃないと否定されてしまうだろう


…人を殺して自殺までした私はまだ朝潮なのだろうか?



618 ◆B54oURI0sg2019/11/10(日) 22:09:26.33uNxJvj2DO (7/22)

 
 
そして彼女、「八島」の名前の意味は私の比ではない。言ってみれば世界を牛耳りたい、全てを思い通りにしたいという人間の欲望を一身に受けて生み出された兵器に付けられた名前


私だったらそんな自分は耐えられない。そして彼女も―――


八島『ソイツはあたしから別れて力を奪い、あたしを現世に追い出した』


『…そうしてここに閉じ籠り壁を作ってこっちに来られないようにした』


八島『何度も障壁を破ろうとしたけど狭間の世界に留まりながら壊す作業はなかなか骨だったよ。言ってみれば断崖絶壁に掴まりながらその壁に穴を掘るみたいな』


忌々しげにそう話す彼女に私は問いかける


「…そうして力を取り戻してどうする気なんですか」


八島『あ?』


「そんな自分が嫌いなら何もその通りにしなくてもいいじゃないですか」


八島『はっ…勘違いしないでよ。嫌ってるのはソイツであたしは気に入ってるんだ。何でも思い通りにしたいという欲が形になったこの力を』


【だけど今の貴女は不完全】


八島『…そうだね。ソイツのせいで三割程度弱体化させられて文字通り何でもとはいかない状態になってる。力が完全なら毎回99だって出せるのに』


99…?よく解らない


「貴女は一体何が目的なんですか」



619 ◆B54oURI0sg2019/11/10(日) 22:11:35.23uNxJvj2DO (8/22)

 
 
八島『ふん…まずはそこの負け犬を消したら次はお姉ちゃんを消す』


「な…」


八島『そしたら後は面白可笑しくこの世界を弄くり回してやる。つまらない退屈な日常なんて観客が集まらないからね』


【そんな事はさせない…】


八島『あたしを生み出した元凶がよく言うよ。話は止め、そろそろ消えてもらえるかな』


ゆらりと八島は歩みを進める。まだ正直話を飲み込めないがこれを放置する訳にはいかない。二人が消される?…そんなのは嫌だ


私は艤装を展開して構える。富士さんは先程まで出していた艤装を消して何かをするつもりのようだった


八島『雑魚が二人でどうする気かなぁ?』


「…っ」


こうして相対しているだけでも解る。私の太刀打ち出来る相手じゃない。だけど引く訳にはいかない


――――と


ぉぉぉ――――っ


何かが聞こえる、背後から


振り返ろうとした私の横を凄まじい勢いで何かが


?「っそおぉぉぉいぃぃッ!!!」


ゴシャア



620 ◆B54oURI0sg2019/11/10(日) 22:14:37.09uNxJvj2DO (9/22)

 
 
飛んできた何者かの蹴りが完全に油断していた八島の顔面にクリーンヒット、吹き飛んでいく


そして宙返りして着地し、蹴りを放ったその人物は――――え?


「島風…?」


島風「朝潮!やっぱり朝潮だ!」


と、私に抱き付いて来た


「どうしてここに…」


島風「何だか気付いたらここに居てしばらく歩き回ってたんだけど、すごい爆発が見えたから来てみたら朝潮がいかにも危なそうだったから…あれって敵…だよね?」


「…確認もしないで飛び蹴りはさすがにどうかと思います」


やはり彼女もここに来ていた


島風「私だけじゃないよ、途中で知ってる人に会えたのは運が良かったみたい」


振り返ると遠くから誰かが走ってくる。あれは…


新棲姫「呂500か…」


呂500「ま、待って~島風ちゃん…いきなり走り出してどうし…え?」


私達の姿を見て彼女は固まる。状況が飲み込めずフリーズしているようだ


島風「実はもう一人居るんだけど…あれ?あの子は?」


呂500「え?あれ?そういえば居ないですって…」



621 ◆B54oURI0sg2019/11/10(日) 22:17:39.69uNxJvj2DO (10/22)

 
 
【朝潮…今のうちにこれを】


どう説明したものかと悩む私に富士さんが何かを手渡してくる。これは…


【今の私達にあの子は倒せない…貴女に頼むわね】


そうだ…今は戦闘の最中だ、悠長に説明してる場合じゃない。しかもあんな…


「皆!気を付けて!今は戦闘中だから!」


ドドドドドドドドド!


八島『やってくれるねぇ…駆逐艦ごときが』


例によって全くの無傷ではあるが顔面を蹴られるというのは当然ながら屈辱には変わりないようだった


呂500「ひっ…!あの人は…?」


島風「だいぶ勢い付けたのに効いてないんだ…」


「新棲姫さん!呂500さんを!島風は…」


島風「解ってる。やっぱりあいつは敵だね。よくない感じがビンビンするよ」


【…少し、下がっていてもらえるかしら…】


と、富士さんが前に出る。これまで感じた事が無い力の高まりがオーラとなって現れている


島風「この人は味方?…それにそっちに居る…でも雰囲気が全然違うね」


「ええ…私達は彼女を守らないとならないんです、説明は後でするから力を貸して」



622 ◆B54oURI0sg2019/11/10(日) 22:20:36.32uNxJvj2DO (11/22)

 
 
島風「朝潮の頼みなら…私も言いたい事が一杯あるし」


「謝罪ならお腹一杯なんですけどね…でもちゃんと聞きましょう。ここを切り抜けられたら」


八島『雑魚が何人増えた所で…』


【それはどうかしら?】


富士さんの背後、何かが…現れる。さっきの巨大な艤装…?


違う…これは…


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


…そこに現れたのはもはや艤装とは呼べない、それは要塞、無数の大砲やミサイルポッド、よく解らない兵器が満載された移動要塞


それはまさに山のようなという形容がぴったりだった


多数の火砲やミサイルランチャー、機関砲、飛行甲板まである。そして一際巨大な主砲らしきものが幾つか


それらを搭載した移動要塞を従えた富士さんはしかしそれでも硬い表情のままだった


八島『へぇ…いつの間にかそこまで力を取り戻してたんだ』


そしてそんな圧倒的な要塞を前にしても余裕の表情を崩さない八島も同様に


【この世界は魂の世界。艦種も、ましてや種族すら関係が無い、意志の力が全てを決める】


八島『残念ながら今の現世の技術力ではそれを作れる人間は居ないしねぇ』


623 ◆B54oURI0sg2019/11/10(日) 22:22:40.77uNxJvj2DO (12/22)

 
 
【だけどここでなら】


八島『そう…こんな風に』


と、八島が軽く腕を振ると彼女の背後の空に何かが―――


新棲姫「なんだ…あれは…」


空に…変わった形状の、あり得ない程に巨大なそれは浮かんでいた

富士さんの移動要塞に勝るとも劣らない程に巨大な空中要塞


至る所に無数の砲やミサイルポッド、そして形状の異なる幾つもの砲身。あれは…


「荷電粒子砲…ひとつやふたつじゃない…そんな…」


八島『時代遅れの実弾オンリーのお姉ちゃんに勝てるかなあ?』


【…やってみなければ解らないわ】


そうして富士さんは腕を差し伸ばし


【―――――――てっ!】


移動要塞に搭載されたあらゆる火砲が火を吹いた


呂500「きゃあああ!」


島風「ちょ…」


新棲姫「…衝撃も音も無いな」


よく見ると私達の回りに防壁のように薄い膜がかかっていた。巻き込まれて被害を受けないようにとの富士さんの配慮だろうか


その富士さんは腕を伸ばした姿勢のまま微動だにしない。普通ならあの攻撃を受けて無事で済むどころか跡形も無いだろう



624 ◆B54oURI0sg2019/11/10(日) 22:24:45.68uNxJvj2DO (13/22)

 
 
そう、普通の相手なら


八島『次は私の番だねぇ』


【…!皆私の後ろに!早く!】


爆煙の中から聞こえてきた声に富士さんが素早く反応、移動要塞の至る所に楯のようなものが展開される


【防御形態…どこまで耐えられるか…いいえ、耐えて見せる…!】


そして煙の向こうから飛来する数えられない程のミサイルや、あれはレーザー?


ドドドドドドドドド!!!


雨あられと降り注いだそれらは富士さんの要塞に着弾、激しい爆発を引き起こす


【ぐぅッ…!】


「富士さん!」


【まだよ…!】


膝を突きかけた富士さんが踏み止まりまた腕を振るった、それに呼応して要塞の火器が次々と火を吹いた


ドォン!ドンドンドン!


八島『あっははは!無駄だよ!』


八島の空中要塞から光が発せられる、まるでバリアのように富士さんの攻撃を掻き消してしまう


「最初の攻撃もあれで…あれじゃあ勝てない…」


【…てっ!】


それには構わず富士さんはひたすらに攻撃を続ける、しかし全てバリアに防がれている



625 ◆B54oURI0sg2019/11/10(日) 22:26:40.17uNxJvj2DO (14/22)

 
 
八島『…無駄だって言ってるのが解んないかなぁ!』


苛ついた様子で空中要塞から更なる攻撃が加えられる、しかし富士さんは一歩も引かない。これはもう殴り合いだ


しかし…明らかに二人の火力には差がある、このまま続けていては先に倒れるのは富士さんだ


しかも私達を守りながら戦う富士さんの負担はどれ程なのか想像もつかない


八島『しぶといな、だったら…』


痺れを切らしたように八島が言う。そして空中要塞にある荷電粒子砲の砲身が一斉にこちらを向く


新棲姫「まずいぞ…!あんな数を食らったら…!」


「跡形どころかこの辺り一帯消えて無くなりますね…」


島風「だったら私が…!」


呂500「ひえぇ…!」


荷電粒子砲が充填を始める、すぐには撃てないようだ。しかしこちらの攻撃が効かないのではそれを止める事すら出来ない


八島『1分…ってところかな。1分後にはあんた等はこの世界から消えて無くなる。念仏でも唱えたら?成仏なんて出来ないけどねぇ!』


勝ち誇ったように笑う八島に富士さんは


【1分もあれば充分ね】


八島『は?』


富士さんが手を掲げ、それに呼応して要塞の一部が展開する。そこに変わった形の砲がひとつ。それを見た八島の顔色が変わった



626 ◆B54oURI0sg2019/11/10(日) 22:29:49.65uNxJvj2DO (15/22)

 
 
八島『それは…まさか…』


【こちらは既に装填は済んでいるわ】


八島『霊砲…だと!?』


およそ砲弾を撃ち出すような形状ではないそれには魔方陣のような紋様が縦横無尽に走っている。そしてその紋様が光を湛え脈動していた


【現世でなら貴女の荷電粒子砲に勝てはしないでしょうが…だけどここでは違う。むしろ霊砲は実体の無い者にこそ最大級の威力が出せる】


八島『燃料なんてここには無いはずだ!撃てやしない!』


【あら?ここにあるわよ?】


と、富士さんは自分自身を指し示した


「え…?」


【特殊な艦娘を燃料とする霊砲…それはつまりその魂を削ってエネルギーとする兵器…それなら】


その霊砲の中心に光が収束していく


【私自身の魂をその燃料にする事も出来る】


―――――。


「駄目ッ!!!」


私は考える間も無く富士さんに飛び付いた


【ちょ…朝潮!やめなさい!】


「駄目です!そんなの駄目!」



627 ◆B54oURI0sg2019/11/10(日) 22:31:54.38uNxJvj2DO (16/22)

 
 
【別に消えたりしないわ!というかまだ私にはやる事があるんだからそこまでの無茶はしないわ!】


「だからって魂を削るなんて駄目です!」


私は必死に富士さんを押さえる


「富士さんがあれを撃つならさっきのあれを私は捨てます!」


【朝潮…】


困り果てる富士さん。そうこうしている間に状況は悪い方向へ転んでしまう


八島『あはは…ははは!もう1分経ったねぇ!』


【…!しまった!】


充填が完了した荷電粒子砲が私達に向けられる


八島『食らえ』


【くっ…霊砲…!】


「駄目!」


新棲姫「終わったな…すまない漣…」


島風「ろーちゃん!」


呂500「島風ちゃん!?」


島風が呂500さんを庇うように抱き着き。新棲姫さんは諦めたように目を閉じる


私…は…間違った…?でも…だからって…だけどじゃあどうしたらよかったの…?



628 ◆B54oURI0sg2019/11/10(日) 22:34:37.71uNxJvj2DO (17/22)

 
 
――――え?


その時、勝ち誇る八島の背後にいつの間にか人影が立っていた。八島は全く気付いていない


?「―――――鷹捲」


ズン


その影が八島に何かを仕掛けた


八島『な…!?がはっ!』


完全に不意を討たれまともに食らった八島は血を吐いて倒れる。そこに立っていたのは―――


早霜「勝ちを確信した時こそ一番の隙が出来る…何処かで聞いた通りね」


「早霜…?」


早霜「話は後にして。この程度で倒せる相手じゃないわよ」


八島『がああっ!』


早霜「ぐっ!」


空中要塞が一斉に早霜向かって攻撃を加える。充填が完了した荷電粒子砲の数基が早霜に照準を合わせた


八島『消えろぉッ!』


「逃げてぇ!」


【くっ…】


しかし早霜は逃げるどころかその場に留まり構えを取る


早霜「ずっと…見ていた…ここは魂の世界。なら!私は!」


荷電粒子砲の束が早霜に向かって放たれる。それに対し早霜は真っ向から迎え撃つ



629 ◆B54oURI0sg2019/11/10(日) 22:37:22.19uNxJvj2DO (18/22)

 
 
【何を…!?】


早霜「梟挫ぁ!!!」


早霜が光に呑まれ、その姿が見えなくなる


八島『雑魚が…あたしに手を出したらどうなるか思いし…!?』


その光が渦を巻くように変形していく。そしてその光の渦は湾曲して八島へとその標的を変えた


八島『なっ!?』


カッ!!!


八島と空中要塞へと跳ね返された荷電粒子砲が着弾。凄まじい爆発が起こった


早霜「あ…あは…。やって…やったわ…ぐっ…」


早霜は無事…ではなかった。両腕が…二の腕辺りから…無くなっていた


早霜「本来は…接近戦の技…だけど…実弾でなければ…応用も…出来るのね…ぅ…」


「早霜!なんて無茶を…!」


倒れ込む早霜に駆け寄り抱き起こす。まずい…身体が消えかけている。このままじゃ…


【本当…無茶をしたものね…即消滅してもおかしくなかったのに―――霊砲】


と、富士さんが手を早霜に向けて軽く振ると充填された光の一部が早霜へと撃ち出された


「何を!?」


撃ち出された光は早霜に着弾し、その光は早霜と同化していく。すると消えかけていた早霜の身体が存在を取り戻し、その腕も再生していく



630 ◆B54oURI0sg2019/11/10(日) 22:40:44.42uNxJvj2DO (19/22)

 
 
【霊なるものへと分け与える事も出来るのよ。そう私が仕様を変えた。もう破壊するだけの兵器ではないの】


八島『よくも…よくもやってくれたなぁ…!』


今度はさすがに無傷とはいかなかったようだ。エネルギーを荷電粒子砲に回していたせいであのバリアも張れなかったのだろうか。そもそも完全に油断していて防御する暇も無かったのか


そして発射直前の臨界状態の所にまともに食らってしまえばどうなるか


空中要塞は健在ではあったがかなりの損害を受けていた。見た所大破寄りの中破といった感じだ


今なら…!


私は富士さんに渡されていたある物を自分の砲へと装填する。それは一発の砲弾。もちろん只の砲弾ではない


密かに富士さんは私にこう言っていた。隙を見極めこの砲弾を八島へと撃ち込めと、その隙は私が作ると


それがあの霊砲というものなのだろう。しかし早霜の捨て身のおかげでその魂を削る兵器を使わずに済んだようだった


早霜に分け与えた分というのはあるが全力砲撃に比べたら微々たるものだろう


「これで…!」


八島『クソがあああ!』


ドドドドドドドドド!


荷電粒子砲は諦めたのかまだ無事なその他の兵器を乱射し始める。普通なら苦し紛れの無意味な攻撃だがその規模が違いすぎる。それだけで私達を消し炭にするには充分過ぎる破壊力だ



631 ◆B54oURI0sg2019/11/10(日) 22:43:38.32uNxJvj2DO (20/22)

 
 
【下がって!】


富士さんが私達の前に移動要塞を立ち塞がらせる。八島の二の舞を避ける為に霊砲は収納され再び防御形態を取る


ガガガァァァン!ドドドドドド!

【ぐぅ…!がは…!これは…ちょっとまずいわね…】


やけくそのような八島の攻撃は止まる気配が無く延々と続いていく。私達を守る為に防御を選んだのは失策だった


相討ちでも同時に攻撃を仕掛けていれば今度はダメージの大きい八島が先にダウンしていたはずだった


島風「なら私達でやろうよ!」


新棲姫「ワタシ達の力では例え満身創痍の八島でもダメージは入らないだろうな。そもそもワタシに武装は無い。そして呂500は潜水艦…地上では無力だ」


おそらく私達の中で一番強い早霜は身体こそ再生したが意識を失っていた。仮に起きても先程のような奇襲は通用しないだろう。そもそももう接近出来る状況じゃない


八島の激しい攻撃は止む気配が無い。必死に耐える富士さんの要塞はその大半の武装を破壊されていた。もはや反撃が出来る状態ではなかった。そして残る武装は…


【ぐっ…万事休すというやつなのかしらね…こうなったら…】


「富士さん!そんな…駄目ぇ!」


この攻撃の最中に霊砲を展開させようとしているようだった。こんな状況で展開させてもそこに攻撃を受けたら…富士さんもやぶれかぶれの様子だった



632 ◆B54oURI0sg2019/11/10(日) 22:46:15.66uNxJvj2DO (21/22)

 
 
私が渡された砲弾も今撃っても撃ち落とされてしまうだろう。とにかくどうにかしてあの攻撃を止ませないと…でもどうしたら…


――――と


そんな絶望的な状況の中でおかしなものが見えた


呂500「あれ?何だろ…」


新棲姫「八島の向こうに…なんだあれは…」


他の人達にも見えているようだ。私の幻覚ではなさそうで少し安心した


地平線一杯に―――それは私達にとっては背景のようになってしまっていた普段の光景の―――


しかしこれまでではあり得ない程の死者の群


それが津波のように押し寄せて来ている光景だった


633 ◆B54oURI0sg2019/11/10(日) 22:50:32.02uNxJvj2DO (22/22)

ひとまず
色々こねくり回していたらこんな事になりました
イメージはアームズフォート
スピリットオブマザーウィル対アンサラー
巨大兵器はロマン


634以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/10(日) 22:51:40.51XlNztUvvO (1/1)

おつ


635以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/10(日) 22:56:24.88Dm4gOlrbo (1/1)

おつおつでした
熱いの上手いなー
やの字、そこで「99」って言っちゃう所が慢心/敗因だったな


636以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/16(土) 20:37:49.42doTrlaF/0 (1/10)

少し、書き込みます


ーーbar海底


「すいませんやってますか?」

  
伊58「…どうぞでち」


呂500「お酒飲みますかって!」


「じゃあ何か…アルコールの強いものをお願いします」


伊58「歩いて帰るならそこまで強いのは出せないでち」


「お願いします、酔いたい気分なんです」


伊58「…わかったでち」


呂500「お客さん!これお通しですって!」スッ


「バーなのにお通し…?」


伊58「ここは昼間はランチをやってるでち。それで余った食材で作ったやつでち」


呂500「サービスですから気にしないで下さいって!」


「…ありがとうございます、それでは遠慮なく頂きます」


637以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/16(土) 20:40:29.29doTrlaF/0 (2/10)

「……」グイッ


伊58「……」


呂500「そんなに急に飲んだら気分が悪くなりますって」


「すいません…」


伊58「……」カチャカチャ


呂500「何か忘れたいことでもあるんですか?」


「忘れたい……そうですね、それに近いことはあります」


呂500「よかったらお話し聞きます!ねぇでっち!」


伊58「…話すの邪魔しないでちよ」


「なら…少し話させてもらいます」


638以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/16(土) 20:42:36.25doTrlaF/0 (3/10)

「私は趣味で物語を書いているんです」


呂500「まさか小説家さんですか!?」


「そんな良いものじゃありません。書いているのはただの時間潰しなようなものですから」


伊58「……」カチャカチャ


「そうです…最初は時間潰しのつもりだったんです。ですが続けていく内に止められなくなったんです」


「そして最近になって続けて書いていたものが終わったんです。達成感のような…不思議な気持ちが湧きました」


呂500「ふんふん」


「…問題はその後です。そこからおかしな事が起こり始めたんです」


639以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/16(土) 20:44:18.61doTrlaF/0 (4/10)

「最初は小さな違和感でした。視線を感じるとか、一人で住んでいたらよくあることです」


伊58「……」


「でもその違和感が段々大きくなっていったんです。そして今では誰かに後をつけられているような…そんな感覚がするんです」


呂500「ストーカーですか?」


「むしろそっちの方が嬉しいですね…」


伊58「…ストーカーじゃない心当たりがあるんでちか」


「はい……」


呂500「どういうことですか?」


640以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/16(土) 20:46:47.46doTrlaF/0 (5/10)

「自分が趣味で書いていたその物語にはあるキャラクターが登場します。そのキャラはラスボスというか…とにかくそんな感じの存在なんです」


「紆余曲折あってそのキャラクターは倒されるんですが…」


呂500「何か問題があるんですかって」


「そのキャラの種類はメタキャラといって、作られた物語の中で現実世界の事に触れたりするんです」


呂500「…?」


伊58「ろーの読んでる漫画にも出てくるでち。メタっていうのは漫画の中のキャラがあと何ページしか無いから急ぐぞ、とか言うやつでちよ」


呂500「あぁ!それなら見たことありますって!」


「それだけで済むような可愛いものなら良かったんですが…そのキャラクターはそれ以上の事をしてしまったんです」


641以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/16(土) 20:48:40.20doTrlaF/0 (6/10)

「現実世界…こちら側を認識して干渉しようとした。事実あと一歩でそうなる所だったんです」


呂500「んん?あなたが物語を書いてますよね?」


「そうなんです!でも…あいつは……自分の意思で………!」


伊58「ならその物語を削除すれば良いんでち」


「それができるならそうしてます!ですが自分の意思じゃ無理なんです…!」


呂500「でっち、この人疲れてますかって」ヒソヒソ


伊58「多分そうでち。仮想と現実の区別が付かなくなってるんでち」ヒソヒソ


呂500「そうですか…」


伊58「こういうタイプは好きなだけ語らせてやれば満足するやるでちね」


呂500「ならゆーちゃんが話を聞いてあげますって!」


642以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/16(土) 20:50:41.16doTrlaF/0 (7/10)

呂500「…あなたもお仕事大変なんですって」


「それどころじゃないんです!今にも復讐されるかもしれないんです!」


呂500「うんうん、とっても怖いですって」


伊58「……」カチャカチャ


「殺してしまったから…あいつは自分を恨んでいる……自分さえ居なければあいつは自由になれる…」


伊58「…できたでち」スッ


呂500「アルコールが強いカクテルだからゆっくり飲んで下さいって」


「……」グイィ


呂500「あぁ…一気に飲んじゃったですって…」


伊58「……」


643以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/16(土) 20:55:38.63doTrlaF/0 (8/10)

「来る……あいつが自分の所に…」


呂500「お客さんべろべろですって」


伊58「これじゃ歩いて帰れそうに無いでち。タクシー呼んであげるでち」


呂500「分かりました!いつもの所に電話しますって!」



「来る……来てしまう………」


伊58「…お客さんもう閉店でち。お代を払ってくだち」


「…………はい…」ゴソゴソ


伊58「ちょうど頂いたでち」


「……」


伊58「お客さんは思い込みが激しいんでち。凹んだ時はこうやってお酒に頼るのも悪くないでちよ」


「……」


伊58「冷静に考えれば分かるでち、創作したキャラクターが現実に出てくるなんてあり得ないでち」


「そう…ですよね……」


伊58「ゴーヤ達でよければいつでも話を聞いてやるでち、また来るといいでちよ」


「ありがとうございます…」


伊58「…そういえばアイツとしか言ってなかったでちがそのキャラに名前ってあるでちか?」


「はい…」


伊58「ちょっと気になったから教えてくだち、なんていう名前でち?」


「やし…






きひ


644以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/16(土) 21:00:37.45doTrlaF/0 (9/10)



伊58「……ぅ…」


呂500「ん……んん……」


伊58「あれ…何が起こった……でち…」


呂500「でっち……?」


伊58「お客さんは……帰った…でち……?」


呂500「タクシー…まだ来てないです……」


伊58「まさか…薬とか飲まされて…ゴーヤ達が何かされた……?」


呂500「でも服は…乱れてません…って……」


伊58「……お金!飲み逃げでち!」


呂500「うぅん…ちゃんとレジにお金あります…」ガチャガチャ


伊58「……」


呂500「でっち…どうしますか……?」


伊58「…考えても無駄でち。気にするのは止めるでち」


呂500「分かりましたって…」


伊58(一瞬気を失う前に見たあの光景はなんだったんでち。お客さんが何かの名前を口にした瞬間……全てを包む闇のような…)


伊58(……)ブルッ


伊58(あれは触れてはいけないものでち。あの名前を口にすればゴーヤ達も……)


呂500「でっち…閉店準備しましょうって…」


伊58「…わかったでち」




きひ、きひひひ……


645以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/16(土) 21:02:12.09doTrlaF/0 (10/10)

Yに殺される夢を見たのを元に書きました。転んでもただでは起きないということで


それでは失礼します


646以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/16(土) 21:11:08.43N1O9MwsDO (1/1)

おつです
ホラーテイストの展開好き


647以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/16(土) 21:22:22.02YTlxfBPko (1/1)

乙おつ
Y子さんもそういう所あったし最大限好意的に捉えるとコイツもネタを提供しに来てくれた……?
ご自愛下さい


648以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/16(土) 21:32:15.64U1uB5/hpo (1/1)

Y will return.


649 ◆I4lwDj9Dk4S22019/12/24(火) 23:44:51.595HseLczs0 (1/3)

清しもの夜

ーー某所


清霜(今日のデート凄く楽しかったなぁ。何処に行ってどんなことをするのか、入念に下調べしてくれたんだね)


飛鷹「ふー…ふー…」


清霜(レストランは1ヶ月前から予約してたらしいし、プレゼントは3ヶ月前から用意してたって…気合い入れ過ぎだよ飛鷹さん)


飛鷹「ふー…んふー…!」


清霜(でも…それだけ大切に思ってくれてるってことだよね。そういう意味じゃ嬉しいな)


飛鷹「き……清…霜……あのね…」


清霜(龍驤さん達が悪いとは言わないけど、どこでもエッチしたりとかそういうのは私は嫌だなぁ)


飛鷹「こ、こここの後…行きたい所が…」


清霜(清く正しい付き合い。それが飛鷹さんと付き合う時に決めたこと。約束を破ったら知らないからねって飛鷹さんと約束したんだよね)


飛鷹「ふー…ふー……!」


清霜(はぁ……これが無かったら大人のお姉さんって感じで素敵なのに)


飛鷹「ほほ、ほ、ホテル……!」


清霜(本当にもう……仕方ないなぁ)


650 ◆I4lwDj9Dk4S22019/12/24(火) 23:50:56.885HseLczs0 (2/3)

清霜「…いいよ、飛鷹さん」


飛鷹「へ?」


清霜「ホテル行こうよ」


飛鷹「ふぁっ!?」 


清霜「…なに?飛鷹さんから言い出したんでしょ?」


飛鷹「ほ、本当に?本当にいいの!?」


清霜「今日の為にお店も予約してくれて、プレゼントまで用意してくれたよね」


飛鷹「清霜の為なら当然よ!」


清霜「清霜ね…お返しのプレゼント買って無いんだ」 


飛鷹「お返しが欲しかったからじゃないの、清霜に喜んで欲しかったから用意したのよ!」


清霜「でもこのままじゃ嫌なの。だから……お返しに…」スッ


飛鷹「!?」


清霜「清霜のこと…好きにしていいよ」ボソボソ


飛鷹「オ"ッ…!!」ガクン


清霜「もう…ホテルに着く前にそんなので大丈夫?」


飛鷹「だ…だいひょうぶ……!」ボタボタ


清霜「興奮して鼻血出しちゃってるし…もう、しっかりしてよ?」


飛鷹「うぅん……!」


清霜(完璧な飛鷹さんより私はこっちの方が好きなんだろうな。あ、でも…できればエッチなのは控えて欲しいかな)


ーー


651以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/12/24(火) 23:51:50.475HseLczs0 (3/3)

短いですがここまで

メリークリスマス


652以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/12/24(火) 23:53:52.02jPUc153Ao (1/1)

メリクリ~
こういう日常もっと見たい見たい


653以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/12/25(水) 00:10:53.56wFoKPxy2o (1/1)

プレゼントありがとうございます!
ちょっと清霜小悪魔……?
やっぱり夕雲型なんですね~


654 ◆B54oURI0sg2019/12/31(火) 08:30:36.14fQH11UZDO (1/11)

>>632から
 
 
バンバンバン!


狭い通路に銃声が鳴り響く


通路の奥にひしめく亡者の群の幾つかが銃弾を受けて倒れ、その後ろから更に別の亡者が押し寄せて来ていた


【こっちよ】


先導する富士さんを先頭にY子さん、新棲姫さん、呂500さん、島風、私こと朝潮、最後尾に早霜と隊列を組んでいた


艦娘の砲撃はこんな時には威力が高過ぎて使いづらいと富士さんが銃火器を用意してくれていた


私が撃ち漏らした亡者を早霜が叩き伏せる


【あの先に隔壁を閉じるポイントがあるわ。走って】


そう言って富士さんが立ち止まり入れ替わりに私達は駆け抜ける。その富士さんに亡者の群が掴みかかろうとする


【ふっ!】


富士さんが手刀を振り抜くと亡者達は弾き飛ばされ大きく後退させられる。その間に富士さんは私達追い付き隔壁を閉じた


新棲姫「はぁ…はぁ…」


「大丈夫ですか?」


新棲姫「何とかな…こんなに走ったのは久しぶりだ…」


早霜「とりあえずは一息吐けそうね…」


私達は今富士さんの移動要塞の内部に居る



655 ◆B54oURI0sg2019/12/31(火) 08:32:18.60fQH11UZDO (2/11)

 
 
突然押し寄せた死者の群に私達は逃げるしかなかった


要塞内に入る直前に私達が見たのは亡者が連なり八島の空中要塞に群がる光景だった


しばらくはそれを蹴散らす爆音が聞こえていたが今はその音も聞こえない


いったい何が起きているのか外がどうなっているのか、解らない事だらけだ


ひとまず休憩を取る私はまず早霜に声をかけた


「そういえば早霜は…ええと…味方、でいいんですよね?」


あそこまで体を張った姿を見ておいて何だが確認はしておかなければ


早霜「…そうね…貴女達がそう思ってくれるのなら」


「でも私は前に…」


そうだ。私は早霜が奈落へと墜ちていく姿をはっきりと見ている。戻って来れるとは到底思えない


『あたし達は…早霜を複数見ているよね』


相変わらず元気の無いY子さんだったが疑問には答えてくれるようだった


『朝ちゃんが前に見た早霜は一番最初に死んだ早霜…あの人間に捕まった時の』


「あ…」


そうか…。整備士さんは早霜を捕らえて解剖していた。その時に既に…


『今ここに居るのは2回目の…菊月に仇討ちされて強い未練のままに死んだ早霜』



656 ◆B54oURI0sg2019/12/31(火) 08:35:21.72fQH11UZDO (3/11)

 
 
早霜「…ええ、姉さんの暗示…そして私の仕掛けを解きたかったと…ずっとそれだけを考えていたわ…」


早霜はそう言って項垂れてしまった。髪の長さや雰囲気が幽霊のようだと思ったがまさに幽霊そのものな私達だったと思い直す


早霜「あれから…どうなったのかしら…時間の感覚も曖昧で、あの仕掛けは発動してしまったのかしら…ああ…朝霜姉さん…」


「大丈夫ですよ!」


早霜「…え?」


「貴女が決着を着けたんです、今の朝霜さんはすっかり元気ですよ」


そうして私はこれまであった朝霜さんに纏わる事を説明した


呪縛は完全に解けたと聞いた早霜は脱力したように呆けた後、静かに涙を流した


早霜「良かった…これでもう…未練は無いわ」


そして朝霜さんが司令官と龍驤さんの娘のような位置に収まっているという話になり


早霜「やっぱり…彼に任せて正解だった…」


と、安心したように微笑んだ


「早霜…いえ、早霜さん。未練は無いと言っても今は私達に力を貸してはくれませんか?」


早霜「…そうね、あんな存在が居たなんてまるで知らなかった、放っておいたらきっと姉さん達も危険…」


新棲姫「で、だ。そろそろ説明してくれるんだろうな。あの亡者達は何なんだ。前触れも無く現れた。…あんな大群が接近していたのに全く気付かなかった」


呂500「…突然現れたんですって」



657 ◆B54oURI0sg2019/12/31(火) 08:38:34.58fQH11UZDO (4/11)

 
 
『…あたしが話すよ』


Y子さんが一歩前に出て私達に向き直る


『あれは今まで見てきた普通の死者の魂とは違うもの。あれも兵器「八島」の一部』


「それって…」


『「八島」という名前は何も強い力だけをもたらす訳じゃない。あの兵器が大勢殺したという事実も必ず付いて回る…それが形になったのがあの死者達。現象にまでなってしまった怨念』


新棲姫「八島はそれを解っていてあれを出したのか?」


『どうかな…多分大丈夫と高を括ってたんだと思う。亡者なんてどれだけ現れようが関係無いって』


しかし実際は倒しても倒しても湧いてくる亡者の群。どれだけ単体として強かったとしてもあの数はどうしようもないと思えてしまう


島風「これからどうするの?」


【そうね…朝潮、あの弾はまだ持っているわね】


「ええ」


『撃ち込もうにも射程内に近付けないよね…』


【まずは移動しましょうか、艦橋へ行くわ】


私達は通路を進み階段を上る。所々先の八島との戦闘で破壊され通れない道もありその都度迂回せざるを得なかった


658 ◆B54oURI0sg2019/12/31(火) 08:40:14.09fQH11UZDO (5/11)

 
 
島風「そぉぉぉい!」


早霜「…鷹捲」


「伏せてください!」


ドゴォ!ズン!バンバンバン!


破壊された壁の隙間から亡者達が体を捩じ込んで侵入している区画があった


【引き返すしかないわね…ここの隔壁も閉じるわ】


群がる亡者をどうにか押し返し隔壁を閉じる富士さんだったが突然膝を着いてしまう


「富士さん!?」


【大丈夫…よ。今私が倒れる訳にはいかない…要塞が消えてしまう…】


そう言った富士さんの言葉に合わせて要塞内部が一瞬薄れかけて見えた


先の戦いのダメージはまだ癒えていないようだった。もし富士さんが倒れ要塞が消えれば私達は亡者の真っ只中に放り出されてしまう。その後にどうなるか…想像したくもない


私達は別の道から階段を上り要塞上部を目指す。途中にも亡者が侵入している区画がありその度に回り道を余儀無くされる


時に戦い、時に逃げ回り、ようやく艦橋に辿り着いた頃には全員疲労困憊だった


島風「ぜぇ…ぜぇ…みんな大丈夫?」


呂500「もう…歩けません…です…って」


新棲姫「ここが…ゴール…なのか?」



659 ◆B54oURI0sg2019/12/31(火) 08:42:47.47fQH11UZDO (6/11)

 
 
【ひとまずは…戦えない子はここに居て頂戴。あとは無事な砲台まで行かないと…】


「砲台までって…つまり外へ出ないと駄目なんじゃ…」


早霜「今外に出たらあいつらに呑み込まれてしまうわよ…」


【…要塞に群がっている死者達を薙ぎ払うわ】


『そのダメージがトドメにならないといいんだけどね…』


【こ…根性で何とか】


『解ってるでしょ?お姉ちゃんはこれ以上のダメージには耐えられないって。立ってるのも辛い癖に…』


【じゃあどうしろっていうのよ…】


『あたしが引き付ける』


【な…何を言い出すのよ!】


『死者達は「八島」の力に引き寄せられてる…そしてあたしも同じ力を持ってる、あっちに比べては弱いけどね』


Y子さんが外への扉に手を掛ける


『死者達が離れたらあとは任せるからねー』


【呑み込まれたら貴女も取り込まれてしまうわ!】


『だからあたしが捕まる前によろしくー』


ガチャン


軽く手を振りながらそう言い残してY子さんは外に出て行ってしまった



660 ◆B54oURI0sg2019/12/31(火) 08:44:38.81fQH11UZDO (7/11)

 
 
【あのお馬鹿!】


富士さんが珍しく罵倒の言葉を発する。後を追おうとするもふらついて壁に手を付いてしまう


「富士さん!そんな状態じゃ無理です!」


【せっかく…生まれたあの子が…こんな事は二度とあり得ないのに…】


オオオ…オオオオオオ!


死者達の声が聞こえ、そしてその群が移動を始める。Y子さんが自らを囮としてここから引き剥がしている。しかし…


早霜「まだ一部残っているわね…」


新棲姫「八島に近い位置に居るのはさすがに剥がせないか…より強い磁石のように」


「だけど行くしかありませんね」


【朝潮…?】


「もう一刻を争います。Y子さんが捕まる前に決着をつけないと」


島風「私も行くよ」


早霜「露払いは任せて頂戴」


「富士さんは二人をお願いします」


【え…?】


Y子さんの言った通り富士さんはもう限界だ。これまでずっと富士さんに守られていた私達はほぼ無傷、一時は消滅しかけた早霜さんも富士さんに力を分け与えられ調子が戻っている



661 ◆B54oURI0sg2019/12/31(火) 08:47:02.16fQH11UZDO (8/11)

 
 
新棲姫「妥当な判断だな。足手まといのワタシが言うのも何だが」


呂500「ごめんなさいです…って」


【…私は、貴女達を守らなければならないのに…】


「たまには…私達が守ってもいいじゃないですか。ね?お母さん?」


【あ…】


島風「へ?この人朝潮のお母さんなの!?」


早霜「朝潮の、というよりは艦娘全ての…ね。でも私は違うのかしら…」


ボソリと早霜さんが呟く。傀儡から作られた艦娘やドロップ艦娘にはが無い。だとしても富士さんはそんな区別はしないように思う


「さあ!駆逐艦、朝潮、出撃します!」


【解ったわ…でも出来るだけサポートはする。これを】


そう言って富士さんは小型通信機を渡してくれる。そして島風、早霜さん、私の三人は移動要塞の外部へと出た


あれだけ群がっていた死者は今はまばらで要塞の後方、だいぶ遠くに大群を見付ける


島風「もうあんな遠くに…速いね」


Y子さんの姿は見えないがあの群の只中に居るのだろう。早くしなければ…


「そういえば八島は…う…」



662 ◆B54oURI0sg2019/12/31(火) 08:50:22.76fQH11UZDO (9/11)

 
 
視線を巡らせるとそこにあったのは八島の空中要塞らしき何か


完全に死者の群に包まれて巨大な球体のようになっていた


早霜「…鉄の海域にあるアレを数倍醜悪にしたようなものね…まるで」


島風「あいつもあの中に居るのかな」


「いますね…何となく判ります」


そうして私達は目的の砲台へと急ぐ。途中死者に襲われるも数はまばらであっさり早霜さんと島風が蹴散らしてしまう


砲台に辿り着いた私達に富士さんから通信が入る


≪朝潮?聞こえる?≫


「はい、砲台に着きました。これからどうしたら…」


≪砲台側面のスロットにその砲弾を装填して頂戴≫


「ええと…これですね。………」


≪どうしたの?早く≫


ガシャ、ガキン


「…装填完了しました」


早霜「あの死者の壁はどうするのかしら…」


≪問題無いわ、それはこちらで排除するから≫


「富士さんまた何か無理を…」


≪無理はしないわ。…無茶はするけれど。それより早く射手席に≫



663 ◆B54oURI0sg2019/12/31(火) 08:53:51.37fQH11UZDO (10/11)

 
 
「まったくもう…」


実際言い合いをしている時間は無い。私は渋々射手席に着いて照準を覗く。死者の壁がアップになって思わず吐き気を催すがそれを無視。吐こうがどうしようが目を離す訳にはいかない


≪…撃つわ≫


ガコン…ドォォォン!ドゴォン!


半壊した別の砲台が無理矢理砲撃を敢行、直後に爆発し完全に吹き飛んでしまう


それを富士さんは次々と行い、死者の壁を削っていく


≪ぐっ!…まだよ…≫


「富士さん…」


照準を覗き、トリガーに指を掛けひたすらに待つ。徐々に死者の壁が剥がれて内部に居た八島の姿が見え始める。どうやら防壁を張って死者に呑まれるのを防いでいたようだ


「防壁が…あれじゃあ…」


≪大丈夫よ。防がれても当たりさえすればいい≫


照準越しに八島の姿が露出していく。そしてその顔が見える程になってきた時―――


目が、合った


664以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/12/31(火) 08:59:12.72fQH11UZDO (11/11)

ここまで
気付けば一ヶ月以上も開いてしまい申し訳ありません


665以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/12/31(火) 14:08:02.85r/vHarnZo (1/1)

おつです
いよいよ正念場
本年度中は大変お世話になりました
良いお年を


666以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/03(金) 23:26:27.71RUmfBvhW0 (1/5)

ーー

漣「ご主人、初詣でも一緒にどうですか?」


提督「いや遠慮しておこう」


漣「あら?そんなに仕事溜まってましたっけ?」


提督「人が多い時期は避けた方が良いかと思ってな」


漣「あ…龍驤さんが…」


提督「俺が背負って移動するにしても人混みは良くない。行くにしても人が少ない時を選ぶな」


漣「あーすいません…ほんと漣ってアレですよね…」


提督「もう慣れたさ、気にしていない」


漣「ほぉ…ご主人様も言うようになりましたな」


提督「漣のせいで危険な目に遭ったり、事態がややこしくなったりしたことは一度や二度じゃないからな」


漣「いやぁほんと、普通なら追い出されて終わりですよ。それがこうやってご主人様の隣に普通に居れるのがおかしいんですって」


提督「俺が誰かを追い出したりすると思っているのか?」


漣「思いません、ご主人様は甘ちゃんの塊ですもん。龍驤さんを殺そうとまでしたこの漣を許すんですよ?」


提督「……ふっ」


漣「ふふふ。こんなご主人様だから皆ついて来てくれるんですよね」


667以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/03(金) 23:29:15.81RUmfBvhW0 (2/5)

提督「俺は正しく無いし平気で間違える。それを正してくれる仲間がここには居るんだ」


漣「…素敵ですご主人様。やっぱり大好きです」


潜水新棲姫「漣ぃ~~~新年早々浮気なのかぁ~~…」キィィ


漣「ぬぁーに言ってんすかぁ、お前が一番に決まってんでしょうが」ダキッ


潜水新棲姫「んふ…っ」


提督「俺達のことは気にしなくていい。二人で遊んで来ればいい」


漣「ではお言葉に甘えてそうしてきます!おらおら!お前には着物きせて可愛いくしてやりますからね!」


潜水新棲姫「富士がやってくれると聞いてる」


漣「勿論漣も着付けしてもらいますよ!ご主人様、後で漣と嫁の写真送っときます!」


提督「あぁ」


漣「それじゃあ行きますよぉー!」


潜水新棲姫「おー」ガチャ


提督「…漣も色々と乗り越えてくれたようだな。最近まで俺が許したと言っても自分では納得している様子が無かった」


提督「漣の嫁…潜水新棲姫がうまくやってくれたのか。それに関しても色々あったようだが最終的にはなんとかなったのか」


提督「龍驤と出会わなければ俺は漣と…いや、もしもの話はするべきでは無い」


提督「漣も俺も幸せだ。それだけで十分じゃないか、これ以上なにもない」