586以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/20(土) 01:44:35.70WzuKBuWT0 (2/8)



       クラーケン「ギュブブブ!ブゲゲェ!」


 何とも形容しがたい奇怪な声を上げた化け物に突如として沼の水が集まりだす
風呂桶の底についてる栓を抜いて、そこから水が流れ出す時を想像して欲しい…ある一点に向かい
そこにある液体が集結するように流れ出すイメージを…っ!




     [クラーケン] を ちゅうしん に みず が あつまりだした !






                      ――――【メイルシュトローム】ッッッッ!!





 ズボォォォ"ォォ""ォ"ォ""" ォ""――― ザッバァァァァァァァァン!!





 彼奴に吸い寄せられた水は巨大軟体動物の身体に這い上がる様にくっつき、やがては埋め尽くす
道端に落ちた苺味のキャンディーに蟻が押し寄せあっという間に全体を赤から黒一色に染め上げる
ソレに似ていて水は[クラーケン]の身を覆い隠す程の壁になった

 巨大な円柱状の水柱、天辺からは振り上げたままの触手が10本そのまま露わになっていて
傍から見れば水色の胴体と吸盤付きの触手が生えた磯巾着と見間違うことだろう


 白薔薇の何かに掴まり身を守れ!という咄嗟の警告も虚しく、磯巾着、否、巨大烏賊は
うねうねとした触手を10本同時に振り下ろした



 彼奴の胴体を中心に傘の受骨と同じで中心から廻りまでぐるりと四方八方に均等な位置にあった
触手が鞭打った音を叩きだしながら水面を叩き付ける、するとそれを合図に身にまとった
沼水が一斉に流れ出した


 付近の丸太や、水底に沈んだ大岩、色んなモノを抱き込んで暴力的な水流が全域を襲う



―――当然、4人と1機にも


 ドゴォ!バキャッ!メシャシャァァァ―――!!




 そのまま水圧を直に受けて身体が悲鳴を上げる、流されて大層樹齢のありそうな寿樹に
身体を叩き付けられてそのまま水流に押しつぶされそうになる痛みと飛んでくる流木や土砂が
容赦なく生身を痛めつけて来る





…やがて、水が引いたかと思う頃には





 レッド「ぐ、は……はぁはぁ、クソ、いきなりピンチかよ……!」




アセルス「」(戦闘不能)

白薔薇「」(戦闘不能)




587以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/20(土) 01:45:14.53WzuKBuWT0 (3/8)



 額から血をどくどくと流しているアセルスお嬢――おそらく流れて来た偽礫岩に当たり
少し離れた先に白薔薇姫が見え、膨らみのある胸に尖った枝が深々と刺さり血を流していた



…この時だけ彼女等が、人間<ヒューマン>でなくて良かったと思える





胸部――心臓を深々と棘枝で串刺し、それと頭部を勢いのついた岩による強打


普通に考えてこんなモン並みの人間なら間違いなく即死レベルである




 レッド(ぐっ、身体は…まだ動かせる…ルージュは…BJ&K…!)チラッ



 へし折れた雑木林の樹々、澄んだ水に土砂が混じり濁り切った沼、倒れた太い丸太の裏に黒煙
耳を傾ければ機械の電気系統がショートしたような音が聞こえて来る
 おそらくBJ&Kはあそこにいるのだろう…この惑星に来る前に装備させた防具で耐久は増してる
煙こそ上がっているがまだ動ける筈だ


問題はルージュだ、目をきょろきょろ動かして見える範囲に彼の姿が無い


まさか流されたのか、それとも…



 レッド(いや、アイツに限ってそんなことあるもんか!それよりコイツをどうにかしねぇと)


嫌な想像が頭を過ったがそれを打ち消す、大技【メイルシュトローム】の反動で烏賊も隙ができた
 考えろ、ここで優先すべきは何だ…!


ここで判断を誤れば全員の死に直結しかねない


攻めるべきか、それともありったけの回復薬をつぎ込んで態勢を立て直すか…!



  レッド「迷って、る時間は…ゴホッ、ねぇ…っ!―――スゥゥゥ [克己]!!」シュィィン!



眼を瞑り、心を落ち着かせる

 息を整え自分の体内にある"気"の流れを掴み、生命力を巡らせる…!
あの日、友人達と共に観光がてらで取った[心術]の資質も無駄ではなかった
 内臓から皮膚の表面まで、内から外、漲る生命力が彼を瀕死の状態から万全まで戻す




  BJ&K「ピピッ!状況判断完了…、みなさんは最悪意識さえ取り戻せば[克己]で回復可能」

  BJ&K「私は私のボディーを治します…!」スッ


 [インスタントキット]を取り出し、器用に自己修復を行うメカ…いくら数の上で有利とはいえ
そんなアドバンテージ軽く吹っ飛ぶ力量差というモノがある



 深手を負ったままの自分が考え無しで無謀にも突っ込んで返り討ちでは笑い話にもならない
攻勢に打って出るよりも守りに徹した



  クラーケン「グゲゲ!ケェー―-ッ!」ジャッバァ!!


沼地の怪物は水上を滑る様に動き襲い掛かる…っ!



588以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/20(土) 01:45:44.60WzuKBuWT0 (4/8)


 10本の触手を伸ばし、それを鞭として扱う、厄介な事に得物は本物とは違い生物の体の一部
叩き付けるべく振り下ろせば上下に動き、薙げば慣性に従い弧を描く動きをしてくれる訳ではない
それこそ変幻自在に動かせるから対処に困るのだ



 クラーケン「ギュベゲッ!」ヒュッ!


 触手『』ブンッ!

 触手『』シュルッ!バッ!



  ―――ドッバァァァン!!



 何もいない、水面目掛けて触手を振り下ろした、その動作に完治した彼等は疑問を抱いたが
直ぐに分かった―――ルージュだ、水中に彼が居て彼奴は何らかの理由で浮かんでこない彼に
更なる追い打ちを仕掛けたのだと


 答え合わせだと言わんばかりに、ほどなくしてルージュの姿が目についた

 水面に浮かんだ彼が来ていた紅い魔術師の法衣の裾が少し破けていて
更に彼の丁度真横に浮かび上がった"根っこ"だ

 マングローブの根っこに似た沼地に自生し、水底に根を這わせる植物の根に
見覚えのある布がついていた…彼がさっきから浮かんでこなかった理由が漸く分かった
 ふらりと落ちた彼は【睡眠】状態になった上に服の裾が木の根に刺さったんだか
引っ掛かったのか不運の重なり合いで動きを取られ眠ったまま水面に浮かぶことすらできずにいた

 そこへ【メイルシュトローム】が来て、水中の紅き術士を容赦なく襲い
現在進行形で今も触手に嬲られているということだ



 クラーケン「ギュィギュィィィ!!」ブンッ
  触手『』ブンッ!ゴスッ!

 ゴシャァ!


ルージュ(戦闘不能)「 」LP-1


 クラーケン「ギュバァァァ――ァァァッ!!」ズババッ!


 触手『 』グルッ

 ギチギチ…!ミリミリ!


アセルス「ぅ、…」LP-1



 レッド「っ、クソイカ野郎!!BJ&Kはルージュを頼む!俺は――白薔薇さんを救う!」


 視界に入れるだけで苛立ちを覚える顔を蹴りつけてそのまま脳天に剣をぶっ刺してやりたい
餓鬼の頃さんざん世話してもらった恩人の少女を苦しめる敵に怒りを抱かない筈がない

 激昂した、こいつは俺がぶちのめしてやりたい、とそして同時に彼の理性が何を優先すべきかを
煩いくらいに自身の心に訴えかけるのだ


 アルカイザーになりたての頃のレッド少年なら、有無を言わずにアセルスを救うべく突撃した


 今は経験を積み、感情だけで動けばそれが時に周囲を危険に晒す事を彼は学び成長していった




この闘いは判断を誤れば、全滅する…!自分含めて味方が倒れればそれこそアセルスを救えない!

 歯痒い、力を持っていながら彼女を救えない現状に耐えろというのだ…レッド少年にとって
これほどまでに辛酸を舐めさせられる思いがあるだろうか




589以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/20(土) 01:46:15.24WzuKBuWT0 (5/8)


 触手『』ギリギリ…!


 アセルス「――、や ぁ ぁ、 ぁぁ っ」ギリギリ



  クラーケン「キィィー!ギュゲッ!ギュゲッ!」



 強く身体を締め上げられ、唇から苦悶の声が漏れる、思わず止めそうになる脚に喝を入れる
烏賊は少女の身体を10本の部位で締め上げて嬲る事に夢中でレッドとBJ&Kの姿が
眼には入っていなかった、無邪気な赤子が買ってもらったばかりの女の子のお人形さんで遊ぶ様に
彼女を締め上げながら持ち上げる

 赤ん坊を抱っこして『たかいたかーい』とあやしてるそれに見えなくもない

 尤も、この巨大烏賊のやってることはそんな優しい内容ではなく17歳の女の子を雁字搦めにして
握力を少しずつ加え、腸<はらわた>が飛び出すまで苦痛に満ちた表情を眺めながら
時間をかけて遊ぼうという悪趣味極まりない、吐き気を催す邪悪そのものなのだが…









  レッド「…」ゴゴゴゴゴゴ…




 おもちゃに夢中の[クラーケン]は背後をゆっくりと通過した少年と
同時にルージュに辿り着いた医療メカの存在に気が付かずにいた…


 何を優先すべきか、レッドは仲間を復帰させることを一番と考えた、そして中でも優先順序を
感情を押し殺して『ルージュ』『白薔薇』に絞った…
 力量差があまりにもあり過ぎる…だからこそルージュの爆裂魔法[インプロージョン]に
[妖魔の剣]の扱いはアセルスよりも長けている白薔薇姫に託すしかなかったのだ



 レッド少年はモンスターの知識に明るくはない、だからこれは全くの偶然だが
(後に教養がある白薔薇姫から知らされる)[クラーケン]という奴は即死耐性が無い
…結果論だが、アセルスお嬢を後回しにしたのは最適解であった



 水辺に現れては【メイルシュトローム】で津波を起こし船を沈没させる自然災害を齎す為に
【危険度ランク9】認定されているがそういう意味では比較的に倒しやすい方だ
 ルージュが術を使うか、確率は低いが白薔薇姫が剣を振るいさえすれば
一発で命を刈り取ることが十分可能であると





 ザブ…!ザブ…!



 アセルス「ぁ、ぁぁ… ぁ」LP-1



 レッド(…くそっ、後少しで白薔薇さんに手が届くってのに)フラッ



視界が霞む、吐き気がする…![克己]には状態異常を消し去る効果がある為、酔いの所為でなった
【毒】は完全に身体から消えた筈だった…


 【毒】が消せるからといって体内のアルコールを消せるわけではない


再び、このタイミングで彼等を酔いが襲い始めた―――!!




590以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/20(土) 01:46:54.10WzuKBuWT0 (6/8)








     BJ&K「完治完了!ルージュさんが意識を取り戻したました!!」






 クラーケン「グモッ!?」バッ

 触手『』パッ



 アセルス「うっ」バシャッ



 BJ&Kの音声に巨大烏賊は思わず振り向き、そして遊んでたお人形を水面に取りこぼしてしまう



 レッド「あんにゃろう…声出さねぇでいればそっから回復したルージュの術で不意つけただろ」

 レッド「…へっ!けどよくやったぜ!!!今のでアセルス姉ちゃんも解放されたんだ!」

 レッド「俺ももう白薔薇さんに手が届く、ルージュ聞こえてんなら!やっちまええぇぇ!!」



 [傷薬]を取り出したレッドが血を流し意識を失っている白薔薇の手を掴んだ!
込み上げる酔いの吐き気を押し込めてレッドが叫ぶ、アセルス姉ちゃんがやられた分やってくれと




―――ゆらり、紅き術士は立ち上がった


 流れる銀髪からは雫が滴り、その眼は目の前の敵を見据えた、大切な仲間、友を苦しめた…っ!
憎むべき巨大烏賊の姿を…!そしてルージュはゆっくりと口を開き声を発したのだ!




           ルージュ「………。」スゥ…













      ルージュ「い、イカちゃん可愛いいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!」




  レッド「へ?」
  クラーケン「ファッ」



     ルージュ「その気持ち悪いお目目がキモ可愛くて、うねうねの触手も愛らしい///」

     ルージュ「あぁ…この気持ち、間違いない、この気持ち愛だぁぁぁぁぁ!」



 レッド「」
 クラーケン「」




591以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/20(土) 01:47:24.58WzuKBuWT0 (7/8)








     レッド「お、お前…こんな時に何をふざけた―――…」






ゾワッ







―――刹那、レッドの警鐘が再び鳴った



 思えばもっと早くに気が付けた、[克己]は状態異常も回復できる
彼に掛かった【毒】という異常は解除された筈だ…



ではなぜ、また吐き気が込み上げてくるのか…苦しいと感じるのか







      ルージュ「あぁぁ…抱きしめてキスしたいくらいだよぉ///」





 頬を染め、蕩けた顔をする…顔立ちが女性の様に美しいからいっそタチが悪い…あぁ本当に


今のルージュは恋する女性の顔そのものであった、この仲間が死にかけの非常事態に
こんな…こんな、"異常" としか言い様の無い発言…





      レッド「…ま、まさか…」




[杯のカード]の試練、それは酔った状態で祠まで辿り着くことこそが試練である
 その試練における最大の障害物は道中で襲ってくるモンスターか?

答えはNOだ


この試練最大の障害物は…【危険度ランク9】のモンスターでも何でもなく




             【 酔いが回る…! 】



BJ&K「…pipi 状態異常を検出 【毒】と【魅了】です」


ルージュ(魅了)「あっはっは!よぉーし!一番強い術をつかっちゃうぞー☆」



最大の障害物は酔いそのものであり、酔ったパーティーメンバーなのであった




592以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/20(土) 02:09:21.06WzuKBuWT0 (8/8)

********************************************


                今回は此処まで!

             【解説 ヨークランドの試練】


 杯のカードを入手する為の試練として[ヨークランド]では酒を飲んだ状態で沼地の祠を目指す

 多くのサガフロプレイヤーにとって印象に残るイベントがあります



 まず、主人公操作ですが、何も押してないのに勝手にランダムで移動する仕様になっていて
 それが原因で敵シンボルにあたり戦闘に移ることがあります

 沼地の敵は通常の敵の2ランク上が必ず出るため、少なからず苦戦は強いられます…

 いえ、此処に至っては何処よりも一番苦戦確定です



 まず戦闘に入ると【酔いが回る】というメッセージが出て

 【暗闇】【毒】【睡眠】【麻痺】【混乱】【魅了】【バーサーカー】何れかの状態異常になる

 特に厄介なのは敵に有利な行動を取ろうとする魅了です
 ルージュが魅了状態で味方に[ヴァーミリオンサンズ]を撃ったり、ゲンさんが[二刀烈風剣]を
 撃って味方全体が4桁ダメージで全滅という光景は恐らく多くの人が経験したことでしょう


 サガフロのプレイヤー側はHP上限が999でカンストになる為
 4桁ダメージはどうあがいても即死です、全体攻撃で4桁余裕の魔術や剣術を放たれたら終了です


 対策としてですが、パーティーを酔わないメカで統一するか妖魔系を入れておくこと
 (ただしアセルスは妖魔化しないと状態異常耐性が人間<ヒューマン>と同じ扱いらしいので注意)


********************************************


593以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/22(月) 11:52:57.41Bk9XWMxBO (1/1)

乙乙


594以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/23(火) 12:51:02.70i3cZ02nSO (1/1)


烈風剣がこれほど怖かったことはない


595少し書き溜め投下2019/04/24(水) 23:42:26.58IyNB7RIv0 (1/6)


 あからさまに正気では無かった、魔法大国出身の術士という奴は総じて酒に強いと評される
それもその筈だ、彼等の最大の武器にして十八番<オハコ>である魔術は当たり前だが術力を使う

 消耗した力を回復させるには特殊な製法で酒造された[術酒]や霊薬としても名高い[神酒]を
飲み干す事で失った術力を取り戻すことができる




 子供の頃から勤勉な学士は術の鍛錬に励み、必然的に霊力を秘めた酒をそれこそ日常的に飲む



 だから、村で酒蔵を巡りながら聞き込み調査をしていた時も並みの人間にしては
アセルスお嬢達妖魔組に負けず劣らずの酒豪ではあった…




普通の酒ならそうそう自分を見失う程に溺酔いはしなかっただろう、が…

"試練を受けに来た者専用"に調整された酒は話が別だ




 [ヨークランド]の住民は代々、酒造に関しては古い歴史と伝統
職人としては神業に到達している技巧を皆が持つ



 妖魔だろうと酒慣れしてる魔術師だろうと関係なく【状態異常】を引き起こす禁断の美酒を
軽々と作り出せるのだ、それこそ東洋の伝記に登場する八つ首竜の八岐大蛇<ヤマタノオロチ>とやらを
酔わせてトドメを刺すという神話に綴られた化け物退治の酒だって造れる程の技術力がある





   ルージュ「ふ、へへぇ~// いっくぞぉ~☆」





へらへらとした笑い顔、名前通り赤らめた顔、くるっと踊りながら全身に術力を滾らせ


ゴゴゴゴゴゴ…! ビシャビシャ


 紅き魔術師を中心に沼地の水面が波打つ、大地が揺れる…っ!

陽気で無邪気な子供染みた言動とはミスマッチした凶悪極まりないエネルギーの収束ッッッ!!



      レッド「ば、馬鹿!や、やめろォ!!」



ルージュ「いっけぇ!」クルリンッ☆

ルージュ「ヴァ」クルッ、ピョーン☆

ルージュ「-」クルクルリン

ルージュ「ミ」シュピッ☆

ルージュ「リオ~ン…サーン」クルッ、クルッ



レッド「うわああああああああああああぁぁぁぁぁっっ!?!?変身アルカイザーッッ!」ペカーッ





ルージュ「ズ!」キラッ☆


 紅き魔術師は最大級の破壊と殺傷を生み出す宝玉の嵐を呼び出した



596以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/24(水) 23:42:57.18IyNB7RIv0 (2/6)



―――――――――[ヴァーミリオンサンズ]!






                                         /:l\
                                        /|/ソ´::\
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597以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/24(水) 23:43:26.22IyNB7RIv0 (3/6)

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                     ///::::::|:/::::.ヽ、;ノ:::::/::::::/\                 *
               *    .// ヽ、;ノ::::::::://ヽ::::::|:::::/ \\        *
                     //    .ヽ::::::|:://:/ ヽ:::::ソ   \ \
                / /       ヽ::://::ノ  .ヽ/     \ \
  +              / /         / //             \  \       +
        *    /  /          / /             \  \
          /  /          /  /




 キィィン!キラキラ…ゴッッッ!



598以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/24(水) 23:43:53.15IyNB7RIv0 (4/6)

..___, .、 `''ー ,,,, ゝ  l    `''-..、  `'-、     人 \ l .'、.!     | |./   .〃 .rシ 〃  .,ノ./
     .|     `   .| `''ー ..,、  ゙゙'-、、  `'-、 `Y´  \゙''-./     .l |:  /l゙.〃 .〃  ,r゙/
.`'''ー- ..,,,,゙.... xi;;imニ"''^゙゙´     `'''ー.  ."    `'-、    ヽ.      .!./  .;".|゙/ ./  / .'   /
_、     *  `゙''''´゙''ii,,;;.,,,、  __j!__  : !ヽ、 .`'=i、   .\     .!∵ .".. ./   "   /
`゙''“'┴- ..,,,,,_               ̄|! ̄      `''′ .゙ヘ   `'.    -  :   .゛   ._,,..ィニ.  _...
,,,,___     . ゙゙゙̄''''''―- ....,,,_、                       _.      丶     . / ...-.,i彡‐″.,.
'''¬ー`-`-ニニニ';;';;ー-.- 、...,,., ,.,,......二ニ==;;- ....,,_       +   `'ミ>、        ./ ,..‐'彡'´    ''"゙
   _j|_      ´`.""'   ゙''ー ..,,,'''ー..゙_;;, .  ̄''''―-....,,.、     `゛        ゙‐''"゛
    ̄|! ̄               `゙゙゙´                     i
_,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,、_,,..、、   ._                      _,,,,_.        __人__     *   、     .....、
--ー‐ー人 ‐''''"''''''''“ "'"  `     ...        ,,, -''゙´ッ--_./      `Y´        -亠
     `Y´       __,,.... .;;;;,,ッ-一゛''+ _j|_ `'''''''''''''"゙´ ,..-"   _,,   !                .
   . _,,,,.. -;;ニニ`-ー'''"゙´          ̄|! ̄      _..-'"    ./ /      人
二`-‐'''"゙´             _,,,.. -''ツ       . _..-'"      ./ /      `Y´         +  ゙.'.‐
       . _.....-,―''''''"゙゙゙゙゙´    /      ,..-'" ,r'"フ      ″              ‐    . , _,
 _._..ぃー''"´._/゛ .. -'''゙"  /   ./    ,..-'" _.. l彡./          : ., へ、       .l   │  ̄´`'
゙~    .r'"          ゛,/  ._..-'"  . /                 ,/ ゝ│       ...l   |,
    ./  .".'''''    ._,, -'″.,..-'"  . /                '  ./   i'  .!  十     ヽ  .ヽ '、,.゛
  ./      " _..-'"゛ ._..-'"   ,/゛           ,丶  , /   / 1 /  │           ヽ  .\ ヽ
  _二''''''''''''''''''''″ ,..-'"    ,, ‐゛             /   ,/、゛   ! /  !  .!          ヽ  .、ヽ
‐'″   i    . _..-'"    .,/゛   _j|_   ,i彡.、 / ゛    l "  ,,. l     .    ヽ  '、゙'‐
    __人__..-'"     .,..‐"        ̄|! ̄ .-'"゛  .!/‐     l '‐ ゛ ,i'}      /  .,,,、  .ヽ  ヽ
   ,..`Y´,,,,.... --┐"           / .、    .l        l  / l      .l  .|゛ `''-、ヽ
...-彡'''゙/!       .!             /  ./    │        .`゙″  .,!       | .l  .ヽ ..l l
'"  .,;;,゙...   /   .,!   +    /   ./   .,.. /                !       | .l   !  .lヽ
-''゙´    /   .l       /   /  .'i  ″ /              !      : : | .l  ! '、 ! ゝ


――――
―――
――



599以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/24(水) 23:44:36.81IyNB7RIv0 (5/6)




ルージュ(戦闘不能)「」チーン

アセルス(戦闘不能)「」チーン

白薔薇(戦闘不能)「」チーン

BJ&K(戦闘不能)「」プシュー…






アルカイザー(瀕死)「ぐ、ほ"がぁ!?―――ぜぇぜぇ、ゲホッ、はぁはぁ……」


アルカイザー(瀕死)「し、死ぬかと思ったぁぁぁ――っ!」ウォォォ!!




 正体がバレたらヒーロー教会に抹消されてしまう、があの場で[変身]しなければどの道
レッド少年は此処で仲間と仲良く沼地の藻屑となって消えるところであった


アルカイザーでなければ即死だった…危ない危ない


 酔った仲間が放った大技[ヴァーミリオンサンズ]は、彼の双子の片割れである蒼き術士ブルーが
初日で"保護のルーン"を探しに来た時に蟲の群れに撃ち込んだり、巨大生物[タンザー]の体内で
放った最大級の火力を持つ術である


 無から生じた規格外のデカさの紅玉が2つ現れ、ぶつかり合い…砕け散った破片が熱を持つ棘
いや、棘というよりも槍というべきだろう
 無数の槍と化した宝玉の破片が荒れ狂う嵐の中を乱れ飛び、敵は熱と槍が乱反射する暴風圏の
真っ只中で串刺し刑に処されるという恐ろしい術なのだ


 仲間は唱えた筈のルージュ含めて、BJ&Kも倒れた…朱色の太陽が大暴れする爆心地に居たのだ
術者の紅き魔術師にも直撃する位置だったのだから彼を介抱した医療ロボも当然範囲内である



 1つだけ、幸運があるとすれば、[ヴァーミリオンサンズ]は先の説明通りの大火力であり
同時に"派手な見た目"の魔術だ、宝石の破片が大量に飛び交うからこそ視界を遮られる…つまり



 アルカイザー「…紅玉の破片はもうすぐ消える、これを背にしてどうにか目を誤魔化したが」


 アルカイザー「い"っ…」ズキッ

 アルカイザー「…と、とにかく、今は[克己]で完全回復しねぇと…」



ヒーローに変身した少年は、間もなく消える紅玉の破片と激戦で暴力的に伐採された雑木林の樹々
濁った水面への潜伏、未だ健在な[クラーケン]から身を隠して生き延びる術は幾つもあった
 巨大烏賊の眼を欺き傷を癒したら今度こそ仲間を復帰させて烏賊を倒す
人間一人身を隠すには丁度いい丸太の裏に泳ぎついたレッドはそう考えて
静かに2度目の[克己]を唱え始めた



 レッドは冷汗が止まらなかった


 今しがた人生に幕を下ろすか否かの瀬戸際だったのもあるが、今も心臓が2倍速で動いてる

 "自分の正体がルージュ達にバレたのではないか?"…そう思うとこの戦闘を終えた後自分は
正義のヒーローの掟を破ったとして協会から抹消されてしまうのではと思わずに居られない


…女性二人は気絶してたから恐らく大丈夫だろうが
 願わくば、酔ってたルージュが何も覚えていないことを祈ろう


―――
――



600今回此処まで2019/04/24(水) 23:45:33.45IyNB7RIv0 (6/6)




      ルージュ「ほんっっと!すいませんでしたぁぁ」(土下座)


 レッド「気にすんなって…全員無事だったから」ヨロッ

 アセルス「そ、そうだよ…白薔薇も強くなれたことだし結果オーライってね」ボロッ



 結論から言おう、あの後[クラーケン]との死闘は辛勝を収めたと

パーティーメンバーの中で最後に気絶から復帰したルージュは事の顛末を聞かされた
 瀕死状態だがどうにか意識を保っていたレッドは物陰に隠れ本日[克己]で回復しようとした
するとなんという僥倖…っ!通りすがりのアルカイザーが偶然にもとある事件の調査で
偶々この惑星<リージョン>に来ていたのだという!!


 その事件というのが何かは極秘任務の為、詳細は教えてくれなかったが、沼地の雑木林から
樹々がなぎ倒される音や[ヴァーミリオンサンズ]の紅玉が暴れまくった音を聞きつけ
全身鎧のヒーローが駆けつけ、窮地に居たレッド達を救ったとのことだ


レッドに此処で休んでいてくれと言い残し、アルカイザーが交代するように途中参戦…ッ!
(……という設定でレッドは話した)


だから、レッドの姿は無かったが代わりにアルカイザーが居て助けてくれたのだと

 全員が烏賊に触手で叩かれる最中、アルカイザーがBJ&Kを修理し、その後、身を挺して
[クラーケン]の連続攻撃から仲間達を守りながらアセルスを、その隙に医療メカが白薔薇姫を
癒して、最終的に白薔薇姫が[妖魔の剣]で烏賊を吸収して事を終えた…!


 何か、酔っぱらったか様に妙に足取りの悪いアルカイザーが「私は任務があるのでこれで」と
言い残して、飛び去り…彼が去った後、ふらふらと千鳥足のレッドが帰って来た、とのことだ




 白薔薇「私も[タイガーランページ]を修得できましたから、気にしてはいませんよ」ニッコリ




女神様がおられる…っ!

 気絶中も何度も触手やら津波やらでLPが削られたというのに、その分得られるモノがあったから
良いではありませんか、と微笑んでくれる


別の意味で、目の前の貴婦人には頭が上がらない…頭を下げた魔術師は思った




 レッド「ほら、こういってるしよ、早い所行こうぜ…うおぇっ」ヨロッ


 少年は少し急かす様に促した、いつまでもメソメソしたところで過去はどうにもならない
というのもあるのだが…何より、この場所に留まり続けるのが好ましくない



まだ、全員…アルコールが抜けきっていないのだ


 強敵にこれ以上襲われては堪ったものではない
また【状態異常】に陥りそうな気がしてならないのも事実だ

 こうして、既にボロボロになりつつある一行は、最善の注意を払いつつも
やっぱりふらついてモンスターの縄張りに片足突っ込んだりと
苦しい旅路で沼地の祠へ脚を運んでいくのであった…


 白薔薇「どうにか、着きましたね…うぅ…」ヨロッ

 アセルス「ここは、敵が寄ってこないみたいだし…酔いが抜けきるまで帰るのは止めよう」フラッ

―――
――




601以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/27(土) 00:40:05.04YWmICnE60 (1/1)

おつ


602少しだけ書き溜め投下2019/04/28(日) 22:54:49.28bfKadMiI0 (1/5)


【双子が旅立って 7日目 午後14時時47分 [ヨークランド]沼地の祠】


 ルージュ等が退職したレッド等と合流してから湿地帯へと片脚を踏み入ったのは丁度正午だった
気が付けば、冒険者用に調整された防水完備の最新機種携帯電話はあれから3時間近く経過したと
疲弊しきった少年少女等に気が付かせた…



 レッド「結構、キツイもんだな…カードを揃える修行ってのもよ」ハァ

 アセルス「なんなら[ワカツ]より苦戦したかもしれない、人里から離れた距離じゃないのに」



 最初の試練は心の迷いがあったからこそ取得までに時間が掛かったのもある上
無人の惑星<リージョン>と化した亡者の巣窟まで銀河の海を越えて辿り着くまで片道だけで相当だ

 …本来であれば廃城に潜む、怨嗟の念に襲われ進むこと自体苦労しただろうが、ゲンという
心強い護衛兼案内人が居た事が幸いした



 一方、今回の試練は目的地こそ、人里から歩いて10分も掛からない雑木林を抜けた先の沼地
湿地帯の中心にある天然の洞穴に築かれた小さな祠に辿り着くという文面だけなら
子供でも出来そうな内容だ、到達するまでの過程に問題が大アリであることを除けば




巨大烏賊に嬲り殺しにされかけるわ、デカい蛙に踏みつぶされるわ、蛇に石化されそうになるわ



 思い返せば酔いで吐きそうになった嘔吐感共々に、嫌な思い出が込み上げてくる




 グッタリと、倒れ込む少年とその横で尻餅をついて眩暈と悪戦苦闘する少女
そんな子供達を見守る妖魔の貴婦人と医療メカも流石に今回ばかりは参ってしまったか
身動きをせずその場で身体を休めていた…


 あれだけ気絶中に触手で骨が軋む程に締め上げら、叩かれ濁流で呑まれもしたのだから
全員そうなるのも無理の無い話だ



 蝋燭立てが4本、その奥に神社の鳥居とはまた違った二柱が立っていてその合間に
ルージュは仰向けで倒れていた


 ついさっきも祠にあと一歩という所で敵対生物と接触し酔いの影響で不調に陥った隙を突かれ
手痛い一撃を貰ったばかりで、最終的にパーティーの中で一番ダメージを受けた身だ


 もしも命を数値か何かで表せと言われるなら彼の命をコップに入った水としてだ

6/7くらいの比率で削られたのではなかろうか、あと一発くらい気絶中に殴られてたら間違いなく
生死の境を彷徨っていた所だ




     ルージュ「あぁぁぁぁぁぁ…」



 口から魂が抜け出そうな、まるで生気の無い声を出しながら紅き魔術師はそれを見た



         杯のカード『 』クルクル…


          ルージュ「…。」ジーッ



   ルージュ「あぁぁ、駄目だ飲み過ぎだ…幻が見える…」バタッ





603以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/28(日) 22:56:13.97bfKadMiI0 (2/5)

********************************************
―――
――




 ルージュ一行が秘術の資質を得るべく2つ目の試練をどうにかクリアした一方、双子の片割れは







 ブルー「…」


 「あら♪お兄さん綺麗な顔立ちね!…ねぇ~アタシこのカジノのホテルで泊まってるの♪」

 「アタシとイ・イ・コ・ト…しない?」ウフフッ


 ブルー「申し訳ありませんが、僕はこれから連れの女性と行くところがありまして…」ニコッ


 一見すれば女性と見紛う程に整った美しい顔立ちの、…しかし男性物のタキシードを
着用していることから辛うじて、男であることが分かる蒼き魔術師は困った様な顔でやんわりと
微笑み、声を掛けて来た赤いドレスのレディからの誘いを断った

ここだけ見れば、人柄の良い好青年である



 「あら、カノジョ持ちなのね…ざーんねん!」スッ、テクテク



 ブルー「…。」








 ブルー(チィッ!!ケバい厚化粧と鼻が曲がりそうな香水のコンボで来るなッ!)イライラ





…人間は、他人の心の声を盗み聞くことはできない

人柄の良い好青年―――のフリをした冷たい魔術師は笑顔で見送った女性に壮大に舌を打った
 厚化粧も嫌いだし、キツイ香料の匂いにも反吐が出そうで、トドメの一撃に大っ嫌いな赤色の服
何から何までブルーに取って気に喰わない要素てんこ盛りであったそうな…




    「はぁ~い、ブルー!おまたせぇ!――ってどうしたのよ、めっちゃ機嫌悪い?」トテトテ

 ブルー「…やっとか、エミリア…」イライラ



 目が笑ってない、腕を組んだまま半笑いで連れのエミリアを睨みつけ、彼は願った
「ああ、さっさとこの場から失せたい」と…


 人々の欲望と希望が集う場所…超大型賭場の惑星<リージョン>…[バカラ]のBARフロアで願った


ゴクゴク!…カラン!


  スライム「(・ω・)/ ぶくぶくー」ゴクゴク、プハーッ

  リュート「よっ!エミリアぁ!バニーガール衣装に合ってるよ!」パチパチ


  エミリア(マジカルバニー仕様)「えっ//そ、そうかしら~?うっふーん…なんちゃって!」



604以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/28(日) 22:56:39.96bfKadMiI0 (3/5)


【双子が旅立って 7日目 午後17時48時分 [バカラ]】


 この日も術士はお金に煩い金髪少女に稽古をつけて貰っていた
ある程度の基礎となる動きは頭に叩き込み、今日こそは師匠を打ち負かしてやろうくらいに思った
 ところが、彼女は昼過ぎから飲食店の方とは別件で外せない用事ができてしまったらしい
聞けばそれはアニーが副業としてやっている案内係の仕事に関してで急遽、ブルー以外にも
[ディスペア]に居る囚人に用があって潜入したいと申し出た一団が現れたとの事


 "刑期100万年の男"、と呼ばれる人物からある物を貰う為にアニーの協力が居る。


その一団は気前よく金を払い、急ぎで彼女に準備をするように依頼した
以上が彼女の外れない用事の要点である、ブルー1人を忍び込ませるだけならワケないが
集団で刑務所に潜入となれば、少しばかり彼女も気合を入れて準備する必要性がある


 門下生のブルーとしても自分の資質集めに関わることであるが故に駄々っ子の様に稽古を優先し
最終的に彼自身が目的地へ踏み入れる機会を先延ばしにしてしまうというのは望まない結果だ
 ましてや、あの逆位置のルーン文字という運勢の標もある
今は急がず休めるなら休むくらいで丁度良いのだ




  リュート「いやぁ~、ブルーが今日の予定オフになったから遊び行こ~ぜ!って」

  リュート「まさかお前が誘いに来るなんて思わなかったさ」


 ブルー「俺は暇を潰せる場所に心当たりは無いかと、尋ねに来ただけだがな誘った覚えはない」



  リュート「俺に聞いちゃうなんて、やっぱ俺を頼りにしてくれるってことだろぉ?」

  リュート「照れるぜ!相棒!」アッハッハ!


 ブルー「毎日毎日、碌に働きもせずブラブラしてるプー太郎だからな、詳しいだろうと思った」




 訊いたらお前がスライムとエミリアを連れて勝手に着いてきた、相談したことを後悔してる、と
蒼き魔術師はゲンナリとした顔で頭痛を覚えだした額に手を当てた


  ブルー「貴様に関してはもういい、そこでジュース飲んでるゲル状生物も置いておくとして」

  ブルー「エミリア、お前はなんでここにきたんだ」


 BAR自慢のトロピカル・ドリンクをイッキ飲みするスライムには目もくれず
何故かバニーガール衣装の見返り美人に理由を問いただした


 エミリア「私は、ジョーカーとの最終決戦前にできる準備が少ないのよ」

 エミリア「基本的に自分達のチーム専用の武具を街で購入はするけど
             …でもグラディウス全体で使う大規模作戦用の準備とかは専門外よ」


 元々は一般人で、違法組織とは縁の無い表舞台の住人だ
今でこそ拳銃握って戦場を走る女だが、裏社会の取引には積極的に関わった経験が他の面子と比べ
全くと言って良い程に無いのだ




早い話、エミリアは現状でやれる役割が無いから決戦に備えて英気を養えと言われているのだ




 暇を持て余していた彼女が自室でとうの昔に終わらせた愛銃の整備をしていたらニートの友人が
偶にはカジノでパーッと遊ばないか?と誘いに来たから二つ返事OKした


 遊ぶにしろ、何時ぞやのカジノ潜入作戦で利用した日雇いバイトをするなり暇さえ潰せれば
それで良しという発想に至ったのであった




605以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/28(日) 22:57:06.43bfKadMiI0 (4/5)


 とりあえず彼女が一緒に来た理由は分かった、ただなんでバニーガール衣装なのかは解らない
遊ぶつもりなのか日雇いバイトでその恰好なのか…


 エミリア「なんだかんだでこういう仕事も面白そうかなーって思うのよね」


 エミリア「元気のないお客さんに『幸運を差し上げますわ!』」(投げキッス)

 エミリア「励ましたり勇気づけたり、他にも稀にやってくる"カード"を求めて
              やって来る人へのさり気ないヒント配りなんかがバイトの内容よ」



 ブルー「"カード"、だと?」ピクッ



 散財して懐がさみしくなった客への気休め程度の言葉と投げキッスを贈るだけという
職務内容は心底どうでも良かったが、"カード"という気になる単語に彼は耳を傾けた



 エミリア「そ!…このカジノの地下には大空洞があってね、そこに土の精霊ノームが住んでる」

 エミリア「光物を集めるのが趣味の成金精霊よ、……ただオツムの方が弱いみたいで」

 エミリア「3より大きい数字が数えられないのよね…」ハァ


 ブルー「? まるで実際に見て来たような言い方だな」


 エミリア「…まぁ、ね」



 婚約者の仇である仮面の男が少量の金品とカジノの売上金である
莫大な紙幣をトレードするというガッカリ現場を目撃したのは真新しい記憶だ、おかげ様で
見事にジョーカーは釣銭が来る裏金を持って政府の上層部とコネを持ったという頭の痛い話


 ブルー「それよりも、さり気ないヒントとやらは何だ?」


 エミリア「ああ、それなら…コホン!『お客様、ノームという精霊をご存じですか?』」

 エミリア「『金を集めるのが大好きだって言います、でも本当にいるのかしら…』」


 ブロンド髪のセクシーな従業員がにこやかな笑顔でお客様に語り掛け
最後は本当に居るのかしら?と笑顔から何かを怪しむような顔をする…という演技の流れまでが
彼女のバイト内容らしい…


  エミリア「と、まぁ…今のがマニュアルよ」


  ブルー「…。」

  ブルー(…なんだその頭の悪い仕事内容は)



 エミリア「な、なによ!仕方ないじゃない!本当にこんな内容でって言われてるんだから!」




ヒョコッ、ヒョコッ…


 スライム「(。´・ω・)? ぶく?」チラッ




 髭の生えた小人「…」ヒョコッ、ヒョコッ




 スライム「(; ・`д・´) !?」ギョッ



606以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/28(日) 22:58:07.23bfKadMiI0 (5/5)



 スライム「(;´・ω・) ぶ、ぶく!ぶく!」ピョンピョン!


  ブルー「なんだ!さっきから煩い…ぞ…?」




 髭の生えた小人「…。」テクテク




  ブルー「 」アゼン

 エミリア「こうしてマニュアル通りメッセージを従業員が言えばノームが来るようになるのよ」


 曰く、こうすることで[金のカード]を求めて来た修行者が金品を運んでくれるから
ノーム達としても人前に姿を現す事、また自分達の巣穴からここまで足労することを厭わない、と


  ブルー(それでいいのか…土の精霊よ)




 ノーム「…。」トテトテ

<チューチュー!


 ノーム「どわっ!?なんだ鼠か…危うく踏んじまうとこじゃった」フゥ、ヤレヤレ…



 土の精霊は、ぶかぶかのデカい靴で踏みつぶしそうになった小さな生命に悪態を吐きながら
ホームへ戻るべく階段を下りて行った…そのままエレベーターに乗るつもりなのだろう



  「チュー!チュー!」タッタッタ…!


 「わーん!どうしようメイレン!見失っちゃったよぉ~!」
 「諦めないの!!草の根…いえ!スロットマシンを全部退かしてでも探すのよ!」

 「し、しかし…もう休まずに丸一日探してるのだぞ…我々もヌサカーン先生たちの所で…」

 「泣き言はナシ!!良いからつべこべ言わずに探しなさーい!!!」




 リュート「んあ?どっかで聞いたような声がするな…酒の飲み過ぎかな…」グビッ

 スライム「(´・ω・`)ぶー…」ゴクゴク


タッタッタ…!ピョンッ





 ブルー「ふん、まぁいい…俺はこの下のフロアで時間を潰しに――――ぐぉ!?」ぺちっ!


       頭に[指輪]を乗っけた鼠「チ"ュィィ―!」



 エミリア「きゃっ!?ね、鼠!?」ビクッ

 リュート「おぉ…あのネズ公すげぇジャンプ力だなーっ!」

 リュート「床を蹴ってブルーの顔面を踏み台にしたぞ」アッハッハ!



         クーン「うわぁぁん!待ってよぉ~」タッタッタ…!




607以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/30(火) 05:16:21.20z1Du3p7Vo (1/1)


そういえばルージュ側のメンバーでレッドは剣のカードもらってないからこいつだけは秘術の資質もらえないことが確定してるのか


608以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/30(火) 11:30:52.31WQkDls/oO (1/1)

乙乙


609書き溜め少しだけ投下2019/05/10(金) 22:53:32.20xaSEfY3C0 (1/6)




           頭に[指輪]を乗っけた鼠「チュゥ」ピョイーン!


 わなわな、と震える魔術師の顔に足跡をくっきりとつけて泥だらけの四つ足は飛翔する
蚯蚓<ミミズ>を彷彿させる薄いピンク色の細長い尻尾が飛び上がった際に足蹴にした彼の鼻先を
ぺちんと叩きながら指輪を王冠代わりに乗せた小さな小動物は追跡者から逃れるために
ジグザグと走り去った



  クーン「あぁ…また逃げられちゃったよぉ…」

 リュート「どっかで聞いた声だと思ったら、やっぱりクーンじゃねぇか何してんだ?」


  クーン「あー、リュートだ~!最近よく合うね!」



  メイレン「クーン!"指輪"は――ってリュートじゃないの!…アンタ仕事も就かずに遊んで」


 息を切らせながら走って来たチャイナドレスの女性が残念な者を見るような目でリュートを
見つめ、見られた者は「明日から本気出すんだよ、そうかてぇ事言うなって」とへらへら笑う







       ブルー「ええいっ!!一体なんなんだ貴様らはァ!!!」




―――
――




 ブルー「…つまり、話をまとめるとそこの[ラモックス]、クーンと言ったな」

 ブルー「お前の故郷が今、滅亡の危機に瀕しているからその窮地を救えるかもしれない代物を」



 クーン「そうだよぉ!ボクの住んでた[マーグメル]が寿命でなくなっちゃうんだ」

 クーン「だから魔法の指輪を集めて故郷を助けてってお願いするの!」



 エミリア「生まれ故郷の惑星<リージョン>が寿命で死んじゃうなんて…可哀想な話ね」



 あの後、汚い脚で王冠乗っけた鼠に足蹴にされ、"お冠になった"魔術師がカミナリを落とした
ご立腹のブルーが顔の広い無職のちゃらんぽらん男と緑の小動物モンスター…[ラモックス]種が
知り合いであるという事、また旅の目的である[指輪]を追っていて
偶々此処で手に入る筈だった[指輪]をさっきの鼠が持ち去り、かれこれ丸一日はカジノ内を延々と
探し回っていたという話を耳にした



 フェイオン「賭場で全財産を失い、あわばホテルフロアで自殺寸前だった男性を救ったのだが」

 メイレン「ええ、私達に売ってもらう予定の指輪がまさか野鼠の頭部に引っ掛かるなんてね」


 メイレン「一日中[バカラ]を探し回ってるんだけどあの鼠すばしっこいのよ…」


  クーン「先生は途中で体調不良になったメサルティムの看病してるしボク達だけだと」




 ブルー「…なんでも願いの叶う魔法の指輪、か」ボソ




610以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/05/10(金) 22:53:59.63xaSEfY3C0 (2/6)



術士は考える、彼等の探し求める[指輪]という存在に対して…


 奇妙な偶然もあったものだ、まるで我が祖国[マジックキングダム]の伝承に語られる
"天国"神話の指輪と同じではないか、と



 ブルー「…。」

 ブルー「…いや、まさかそんな馬鹿な」




 リュート「あぁ、通りで…あの色っぽい人魚ちゃんがいねぇと思ったら」

 メイレン「繊細な子なのよ、"人間<ヒューマン>"の匂いや街の排ガスが強すぎて駄目だって
        今回は止むを得ず、先生にメサルティムを任せて[オウミ]に戻ってもらったわ」

 メイレン「指輪を手にしたら合流予定のレストランに行くつもりだったけど私達が遅れそうね」



 溜息を吐き「これじゃあ一体いつになったら指輪を手に出来るのか」と鬱蒼とした彼女に
歩み彼は唇を開いた





        ブルー「あの鼠を捕まえればいいんだな?」



  メイレン「え、えぇ…そうだけど」


  ブルー「元々此処へは暇つぶしに来た、これも何かの縁だろう手伝ってやる」




 "建前"はそうだが、本音は違う

 集めれば願いが叶う[指輪]とやらに興味が沸いた、別に指輪の力でルージュを殺すワケではない
最強の術士なる為には自分自身を鍛え上げねばならない、不正をしたい訳でもない

ただ、祖国の伝記に登場する魔法具に共通する点が見受けられる―――だから気になった



  クーン「本当!!わーい!やったぁ、仲間が増えた~」ピョンピョン♪

 フェイオン「おお!かたじけない…このお礼は必ず…?
         はて、そういえばキミは何処かで会わなかったか?」



  ブルー「気のせいだろう」



 [タンザー]で宇宙海賊ノーマッドの部下と悶着を起こしていた弁髪を遠巻きに見ていたブルーは
しっかりと覚えていた、向こうは言葉を交わしたことさえないから記憶に残っていないだろうが


  メイレン「…」ジトーッ

  メイレン「ごめんなさいね失礼を承知で聞くわ…あなた指輪を横取りして願いを叶えるとか」

  メイレン「そういう気は無いわよねぇ?」


  ブルー「断じてない」


 仮にあった所で、「はい、ありま~す!」と馬鹿正直に答える奴はいない


  メイレン「…ふぅん、まぁいいわ、えっとブルーさん?よろしくね」




611以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/05/10(金) 22:54:28.08xaSEfY3C0 (3/6)


 昔々、古人は言った"旅は道連れ、世は情け"一緒に居た上京中の無職と
ちょっとした御縁がある緑の獣っ子の壮大な宝探しの旅路に一時だけ手を貸してやろうと術士は
申し出て、芋づる式にスライムが果汁を空にしたグラスと代金を置いてブルーに付き添い

 面白そうだし俺も行くぜ!と弦楽器を背負って席を立ったリュートも
「ちょっとぉ!私一人だけ置いてけぼりとか寂しいじゃない!連れてきなさいよ!」と
意味不明な理由でブロンド髪のバニーガールも同行した



 王冠を被った鼠を最後に目撃したという人物の証言を頼りに欲望が渦巻く施設を何巡も
彷徨い歩く、バカラルーレットを転がり続ける球にでもなった気分だった


螺旋階段、エレベーター、上の階、下の階


行って戻って、進んで来たり、如何せん人間と小動物では鬼ごっこ1つするにも条件が違い過ぎる
体格差ゆえの歩行速度、置かれている機材の隙間を通り抜けて走れるか否か

 ものの見事に翻弄され続ける一行は流石に息を切らし始めていた…



  ブルー「…~~っ!ええいっ!こうなれば[ヴァーミリ――「わぁぁぁ!やめろって馬鹿!」ガシッ


 苛立ちを隠しきれないブルーが邪魔な通行人諸共鼠を最大火力の魔術で排除しようかと仕掛けて
慌ててリュートが羽交い絞めにして阻止した


 クーン「すばしっこいよねぇ、ボク達も2手に分かれて挟み撃ちにしようとしたんだけど」

 ブルー「…あぁ、忌々しいことだ、7人居るのだからとそれ以上に分担して四方から攻めている」

 ブルー「だというのに…くっ」



 苦虫を噛み潰したような顔で彼は整った顔立ちを歪めた、鼠一匹にこうも翻弄されては
いい気分がしないのも当然だ、彼の見立てでは大分惜しい所までは追い詰められているのだが…


 ブルー「人海戦術を敷いても足の隙間から逃げてくアイツを捕まえるには…」ぐぬぬ…



 ブルー「…お前の仲間に妖魔が居るとは話半分に聴こえたが今この場に居ないのか?」


 クーン「ほえ?先生とメサルティム?
      うん、此処には居ないよメサルティムの為に一旦彼女の故郷へって行っちゃった」



 ブルー「…チッ、その先生とか言う奴とメサルティムには期待できないか」



 『先生』と『メサルティム』という妖魔二人がどんな人物か(前者は既に会っているのだが)
知らないが、今は猫の手どころか妖魔の手だって借りたいくらいの気持ちだった

 増援は期待できそうにない今、一体どうすれば…




   ブルー「……」




   ブルー「待てよ?―――そうか、"あの手"があったぞ!!」





 彼は一瞬、考え込み何かを閃いた、丁度向こう側から待ち伏せは失敗したと報告に来た
リュート・エミリアチーム、スライムとフェイオン…メイレンがやって来たのも好都合

魔術師は帰って来た面子の中から彼女―――エミリアに近づき、耳打ちをする




612以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/05/10(金) 22:55:33.62xaSEfY3C0 (4/6)


―――
――


【双子が旅立って 7日目 午後20時18分 [バカラ]のBARフロア】





           頭に[指輪]を乗っけた鼠「チュイッ!」タッタッタ――――!



ザッ!



 スライム「(・ω・)=(・ω・)シュババッ! ぶくぶくぶーーーーー!」ディフェーンス!

 リュート「此処で会ったが百年目だぜ!覚悟しろよぉネズ公」



 機敏な動きを見せる小さな逃亡者の前に立ちふさがる超スピード反復横跳びのスライムとニート
前方向は逃路として適してない、そのまま進路を180度曲げて右手の方角に逃れようとした

無論、これまでのパターンからして想定済みである



 クーン「キミ!わるいけどここは通せんぼだよ!」

 フェイオン「観念してもらおうか」



 当然の如く待ち構えていた奇抜な髪型の男性と、背の低い少年の姿を見るや否や
夜のハイウェイをUターンする手練れの運転手じみた動きで反対側へと向かう

言うまでも無く、此処にも配備はしている



 メイレン「さぁさぁイイ子だから指輪を頂戴な…チーズもあげるから」バッ

 エミリア「わーお!お客様こちら通行止めでございまーす♪なんてねっ」



 ヌッと柱の間からブロンド髪のバニーガールとチャイナドレスの美女二人がご登場だ
これが人間の男なら何もしなくても突っ込むかもしれないが相手は生憎と美女の胸に飛び込むより
我が身の安全を第一に考えて逃げの一手を選択する



 指輪を被った鼠色の大怪盗は本日何度目になるか分からない包囲網を敷かれた

たった一人、魔術師が前に立ちはだかる、右手に自分の荷物を持って




だが、鼠は止まらない。


 捕獲を試みる彼等の中に生物学者は居ない、だが総じて鼠という奴は賢い生物であり
モルモットと呼ばれ脳の解明から薬の実験まで、古きに渡って技術の躍進に貢献してきた
生命体であることに変わりはない

 今、指輪泥棒の脳にどんな逃走経路が描かれているのか知りようは無いが、単純に四方を塞がれ
いずれにせよ逃げ切るならば、どれか一方向を突破しなければならないとするならば…


 何処を狙うと考えるだろうか?

 それが野生動物としての本能によるものか少しでも逃走成功率の高い人数の少ない場を狙おうと
脳の知性的な面が働きかけているのかは知る術は無い



重要なのは唯一つ、鼠は真っすぐブルー目掛けて疾走したということだ




613以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/05/10(金) 22:56:53.90xaSEfY3C0 (5/6)



      ブルー(このタイミングだッ!この瞬間を待ちわびたぞ…ッ!)


      ブルー「 エ ミ リ ア ぁ! や れ ぇ ーーーーーっ!」



 術士は叫んだ。





 それを合図にブロンド髪のバニーガールは一呼吸置いて言葉を紡いだ















     エミリア「『お客様、ノームという精霊をご存じですか』」

 エミリア「『金を集めるのが大好きだって言います、でも本当にいるのかしら…』」










ヒョコッ!


           頭に[指輪]を乗っけた鼠「―――!?チュィ"っ!?」



   ノーム「…んー?なぁんだぁ?
         従業員が『合図した』から呼ばれたと思ったら…?鼠じゃないか」テクテク






  ブルー「聞けッ!!そこの土の精霊よ…貴様にこの『金』をくれてやる!」

  ブルー「コイツが欲しければ貴様の目の前にいる鼠を捕まえろ、これは『取引』だッッ!」




 術士は右手に持っていた自分の荷物を―――何かあった時の為に取っておいた金塊を掲げて
がめつい土の精霊にこれ見よがしに見せつけてやった

 [タンザー]に飲まれることになったあの日の産物がこんな形でまた役にたつとは…っ!



 ノーム「んおほぉぉ"ぉぉ""ぉ"ぉぉ♥!!金じゃ!金じゃ!おーい!みんなあつまれー!」


 ノーム2「なんじゃ!?」ピョイーン
 ノーム3「金だって!?」ピョイーン
 ノーム4「そこの鼠をたくさんのワシたちで捕まえるんじゃ!」ピョイーン



          頭に[指輪]を乗っけた鼠「ヂュ、ヂュイイイィィ!?」




614今回此処まで2019/05/10(金) 22:57:35.23xaSEfY3C0 (6/6)



 昔々、古人は言った"地獄の沙汰も金次第"だと正しくその通りである、地獄の亡者ならぬ欲望に
憑かれた金の亡者が背丈の小さな大泥棒に迫っていた
 哺乳類と霊長類の彼等の大きな違いは当然体格差で足元を縦横無尽に動き回っては
両脚の隙間からまんまと逃げ遂せる事が多いのだ

そういう意味ではスライムや小柄なクーンはこの面子の中で最も厄介な追跡者だったことだろう


 目の前に突如として現出した小柄の髭付き共も厄介な追跡者に部類される事だろう

 人手が足りないなら現地で雇えば良いじゃないか、妖魔二人の増援を期待できそうにないと
判断したブルーがあの時閃いたのは、呼べば何時どのタイミングでも突然現れるノームの利用だ



 ノーム「ワシじゃ!最初に呼ばれたのはワシなんじゃ!捕まえて金を貰うんじゃーーー」

 ノーム3「なんだとぉ!たくさん長生きしてるワシに譲らんかい!」

 ノーム2「えーい!ワシの方がたくさん生きとるわい!だから鼠を捕まえる権利はワシにある」


 ノーム4「お前達はそこで喧嘩でもしてろ、今じゃ!とぉッ!」シュバッ!



 "3よりデカい数字が数えられない"小柄な髭の精霊が骨肉の醜い争いを繰り広げながらも
鼠を追い回す、前も後ろも左右にもクーン達が待ち構え、そして一番守りが手薄だと思われた
ブルーの眼と鼻の先くらいの位置から音も無く幽霊の様にノームが出てきて、更に他の三方向にも
業突く張り共が出てきたもんだから流石にどうしようもこうしようも無くなってしまった


 ―――このままでは捕まるのも時間の問題か!?


 怪盗は肌で感じ取り起死回生の一手は無いのかと鼠色の脳細胞を知恵熱でショート寸前まで回す
そして彼は、ある者に目をつけたァ!


 頭の指輪を光らせながら鼠は腹を括って、大ジャンプ!その先は…!



 ブルー「なっ!?バカな―――」

 クーン「あ、危ないぃぃぃ」
 リュート「マジかよ、あいつクレイジーだぜ」
 エミリア「しゃ、シャンデリアに飛び乗ったですってぇ!?」


 宙ぶらりんのシャンデリアにしがみ付き、彼は逃げ遂せた……怪盗は宙に浮いた小島へと跳んだ


  ノーム2「逃がさーん!ワシの金―――っ!」
  ノーム4「コラー、抜け駆けはズルいぞ」
  ノーム「お前達!これはワシの手柄なんじゃぞ」
  ノーム3「何を言うかワシじゃ」


 欲に目が眩んだ精霊は皆仲良く、目が眩むくらいに目映い照明に向かって飛び乗り
シャンデリアを大きく揺れ動かした…リュートはその様を見て故郷で母親が子供の頃に
枕元で話してくれた『蜘蛛の糸』という童話を思い出した
 規定外の重りが追加された事でその重量に耐え切れず、カジノの雰囲気に合った派手な照明は
読み聞かせの物語通り、奈落の底へと真っ逆さま…派手な音を立てて粉々になった



 ブルー「…この真下は位置的に丁度、駐車場だな…エレベーターで行くか」

 エミリア「えっ、いやいや…もっと他に言う事あるんじゃ」

 ブルー「俺ではなく欲に目が眩んだ連中が悪い、以上だ」スタスタ

 エミリア「えぇー…」



 メイレン「と、とにかく私達も向かいましょう!さっきのはノーム達が起した事故よ」

 メイレン「私達がシャンデリアを壊したワケじゃないし弁償とかも無し、OK?」

 フェイオン「う、うむ!そうだな…ははは」



615以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/05/11(土) 10:05:39.72a+CcF01QO (1/1)

まあこのホテルもノームの物だろうし問題はないだろう……きっと


616少しだけ投下2019/05/17(金) 22:51:41.45dul1cWFZ0 (1/5)


―――
――



 「お、お客様、どちらまで行かれますか?」


 エレベーターガールのバニーガール、彼女は若干顔を引き攣らせながらも
冷静に職務を全うしようとしているのかもしれない


 先のシャンデリア落下騒動は耳の早い従業員には直ぐに伝達されたのだろう
賭場を仕切る精霊達が突然の愚行に走り店に大損害を出したこと、後々その対応に追われること
 頭の痛くなる話であるが我関せずと言わんばかりの顔で『駐車場までだ』とブルーは言い放つ



 鉄の箱に大の大人が数人、子供とゲル状生物を添えて鉄箱はゆっくりと下へ動き出す
エレベーターが下降する特有の無重力感に身を委ね、静かに眼を瞑る…


 数秒後、身体に重さが帰って来る感触を感じて瞼を開けると同時に鉄扉も開いて駐車場の景色が
視界には広がる―――…粉々のシャンデリアと憐れな誰かさんの乗用車、気絶してるノームも…



 シャンデリア『 』粉々

 客の自家用車『 』粉々



  ノーム1~4「「「「 」」」」チーン






 メイレン「ゆ、指輪は!?まさかシャンデリアと一緒に砕け散ったんじゃないでしょうね!?」


 惨状を目の当たりにして彼女は両手で口元を覆った、これまでの旅の目的である指輪が
これで粉微塵になっちゃいました、では笑えない
 今にも口から泡を吹いて倒れかねない紫髪の彼女を宥めながら彼女の恋人が次の事柄を指摘した


 フェイオン「落ち着いてくれメイレン、恐らくだがそれは無い…見てくれ鼠が居ない」

 リュート「あ、言われて見りゃそうだな、指輪泥棒のネズ公がいねぇや」


  クーン「本当だね、でも何処に行ったんだろう」キョロキョロ






 エミリア「多分、あそこじゃないかしら?」スッ




 ブロンド髪は"以前にも仲間と降りた"その穴を指し示した、婚約者の仇ジョーカーを追って
[バカラ]の地下空洞には降り立ったことをがある、そもそも経営者のノームは土の精霊で
地面の下を好む習性だ、マンホールの蓋を開ければ[クーロン]の自然洞窟に勝らずとも劣らない
地下迷宮が広がっている事を知る者は少ない


 照明落下の衝撃で蓋が外れたのだろう、モンスターの巣窟になっている地下迷宮の大口は
この事故で再び開かれていた


 ブルー「決まりだな、行くとしよう」スタスタ

 クーン「うんっ!」


―――
――




617以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/05/17(金) 22:52:07.67dul1cWFZ0 (2/5)



 じめり、湿り気を帯びた空洞は独特の土の香りがしていて、どうにも好ましくなかった
湿気を帯びた空気とは裏腹に靴底がキスをする岩床はゴツゴツとしていて、天然石の壁も
泥のように柔らかくも無い、天井を見上げれば鍾乳洞にありがちな氷柱石が伸びていて
 垂れ下がる様に伸びていた鍾乳石には紐が括りつけられていた、時代を感じさせる一昔前の
鉱山夫が使うランプがぶら下がっていてそれがノームの物だと分かった



 リュート「うっわ、暗いな此処…あんなちっぽけな光源でノームはよく見えるな…」



 エミリア「はい、これ」つ【懐中電灯】



 リュート「おっ、サンキュ……なんでこんなモン持ってんだよ」

 エミリア「"お仕事柄"って奴よ」


 裏稼業の彼女は同年代の先輩と年上の先輩、そしてサングラスの上司に常に持ち歩けと
小型のライトを持つ習慣をつけることに努めた…結果的に役に立ったのだから内心で感謝しながら
魔術師にも手渡そうとするが…



 ブルー「必要ない、――"古き天帝よ、光球にて照らせ"」ポォォォ!


  光の球『 』パァァァ…!



 クーン「すっごーい!周りが明るくなったよ!」

 スライム「(*'ω'*)ぶくぶく!」ピョーン



 メイレン「…」ジーッ

 メイレン「…貴方、随分と変った術を使うのね」


 メイレン「私、少しは陽術を心得ているのだけど、その術はその系統とも違う…」



 ブルー「ほう?分かるか、失われた古代文明時代の術らしくてな」

 ブルー「祖国が再現しようとしたものだ、嘗ては敵対者への攻撃術だったらしいがな」フフンッ♪


 エミリア(うわぁ、めっちゃ笑顔で話すわねコイツ)


 何時になくノリノリで話し始める魔術師、彼は友達が少ない。

 魔術の話題ができる友人というモノが外界に出て少なかったし
祖国に居た頃は同級生から疎まれていたのだから、心成しか若干笑顔だ



 ブルー「古代文明時代の術でな名を[ライトボール]という」

 ブルー「天術という今は無き資質の術でな、陽術の性質に近いことから再現が出来た」

 メイレン「天術…なるほど、聞いたことはあるわね、大昔の惑星<リージョン>で王族が使ったと」



<それでだな
<それは初耳ね!



 フェイオン「…」ポツーン

 クーン「ねぇねぇフェイオン、ブルーとメイレンすっごく仲良しさんだね!」

 フェイオン「えっ、あ、あぁ…術の話で盛り上がっているようだな、うむ…」シュン



618以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/05/17(金) 22:52:38.51dul1cWFZ0 (3/5)


 弁髪の男は少しだけ、ほんのちょっぴりだけ背中が遠くに見える恋人のメイレンを眺めて
小さく首を振った、修行に精を出し過ぎていつも置いてけぼりにしてしまったから
愛想を尽かされたのではなかろうか、[タンザー]での一件でそれは無いとは思いたいが…



 少しだけ影が心に差し掛けた所で心の靄を払う様にもう一度首を振り―――走り去る鼠色を見た




 フェイオン「い、いたぞ!!あそこだぁ!」スッ!



 指輪を被った鼠「チュイ?」トトトト…!

 クーン「ま、待ってよぉ~!」


 暗がりの地底を頼りない吊るしランプとブルーの[ライトボール]を頼りに指輪泥棒との鬼ごっこ
2回戦目を開催し、道中で迷い込んで来た旅人を狙うモンスターの群れを蹴散らしながら追跡する



 ブルー「!止まれ、…見ろ、こっちに向かって何か明りが近づいてくる」ガシッ

 クーン「本当だ、ボク達以外にも誰か居るの…?」キョトン



 闇を照らす光球と仲間が持っていた幾つかの懐中電灯とは別で進路から光源がこちらに
迫ってきているのが嫌でも分かる、岩壁から光っていたソイツは姿を現した


「ギギギッ!」バチバチ…

「キシャーーーッ」


 羊、四足歩行でもこもことした体毛に覆われた動物と地の底という場違いな所で鉢合わせた
それだけでも十分異質だが、羊の頭部からは雄山羊の角だとでも言うのか
金属製の無骨なアンテナが2本皮膚から突き破る様に生えていた
 フランケンシュタインの頭から突き出たボルトを思わせるアンテナからは
電気が通っているのだろう、火花をバチバチとスパークさせていてそれが光源となっていた


 生物と機械を混合させた、生物兵器は常に放電していて…その明りによって隣にいた
グロテスクな姿の蟲がより際立って見えた
 ぬらぬらとした青紫色の体色、三本爪のような牙が開かれると
異臭を放つ緑色で粘度の高い唾液がべちょりと硬い岩床に落ちるのがくっきりと見えた



 ブルー「…[電気羊]と[ラバーウォーム]か…っ!」



 目視できた敵影を一瞥して彼は小さく呟く、決して強い手合いではない上にこの大人数だ
難無く片をつけられるだろうが…



  指輪を被った鼠「チュ!」トットコ!トットコ!


 ブルー(モタモタしてる間に鼠には逃げられてしまう!)



 こんな入り組んだ洞窟内で掌サイズの対象を見失っては見つけるだけで骨が折れる
瞬時に判断したブルーは指示を飛ばす



 ブルー「リュート、スライムにフェイオン!…そして"陽術"が使えると言ったなメイレン!」

 ブルー「お前達4人はこいつ等の面倒を頼んだ、俺達は鼠を追う!」ダッ!



 メイレン「ちょ、ちょっと!何を勝手に――」




619以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/05/17(金) 22:54:11.08dul1cWFZ0 (4/5)



 指示を出され困惑するメイレンは抗議の声を上げたが、そんな物知った事かと言わんばかりに
クーンの手を引いて敵の真横を潜り抜けようとする魔術師は茫然としていたエミリアにも
強く声を投げかけた



 ブルー「 エ ミ リ ア ! ぼさっとするなッ!!」

 エミリア「ぇ、あ?、あっ、はいいぃ!?」バッ!



 人間心理学において、人というもの…いや生物は大きな音に反応する習性がある
理屈じゃなくその場の流れや勢いで押せばどうにでもなる、という状況を思い浮かべて貰えば
分かりやすいかもしれない


要するに頭であれやこれや少考させる暇を与えずノリとテンションで押し切るという奴だ

 突発的な指示で相手が混乱したら間髪入れずに大声による脅し、恫喝で
一気に"その流れを作ってしまおう"と、一分一秒が惜しい今、彼はそれを実行した



「キシャアアアアァァァーーーー」



 ブルー「なにをしてる動けスライム!道を拓く援護を」


 スライム「Σ(゚□゚;)ぶ、ぶくっ!」ハッ!

 スライム「(`・ω・´)ぶぅぅぅぅぅぅ」<[溶解液]



 走り去ろうとする3人を丸呑みしようと[ラバーウォーム]が大口を開き迫って来るのを見て
未だ、狼狽えているパーティーに怒声を飛ばす、声を聞き取りこの瞬間に自分がすべき行動を
示唆されたスライムは[溶解液]を蟲の大口目掛けて飛ばす―――蟲肉が焼ける音がして
3人を喰らおうとしたモンスターは悲鳴を上げて仰け反った


 ブルー「メイレン、フェイオン!借りは返す!任せたぞ!」タッタッタ…!

 クーン「うわぁぁん!ブルー手を放してよボク一人で走れるからぁ!」
 エミリア「え、えっとぉ…ごめーん!そっちお願いねぇぇ!」タッタッタ…!


 メイレン「ああぁん!!もうっ!勝手過ぎよ!」

 メイレン「フェイオン!一気に片づけて追いかけるわよ!」

 フェイオン「応!リュート、俺の後に続いてくれ」
 リュート「オッケーだ!」


―――
――



  エミリア「ま、待ちなさいってば!」タッタッタ…

   ブルー「なんだ!?要件は手短に言え、そして目の前の鼠を見失うなよ!」タッタッタ…

  エミリア「リュート達置いてきちゃっていいワケ!?」


   ブルー「…問題無い、リュートは兎も角あの二人は相当の手練れだ」


 走りながら魔術師は質問に答えた。


  ブルー「メイレンはさっき本人が言っていた『私、少しは陽術を心得ているのだけど』とな」




  ブルー「陽術が使えるということは治癒術である[スターライトヒール]が使えるはずだ」




620今回此処まで2019/05/17(金) 22:55:09.91dul1cWFZ0 (5/5)



 ブルー「回復役<ヒーラー>が最低1人それに加えて
        カジノで鼠を追ってた時の身のこなしでも分かる体術使いのフェイオン」

 ブルー「一時期組んでたらしいリュートを置いてきたのは手の内がお互い分かってるからこそ
         "連携技"も意識しやすいと思ったからだ、仲間内で使う技を知ってるからな」

 ブルー「あの無職には[傷薬]も相当持たせているし、何か不測の事態が起きた時の為に
      更に人員を割いてスライムも置いておいたのだ、問題無かろう」


 エミリア「あっ、適当に選んでたんじゃなくて考えて――ってそうじゃなくて!」




 エミリア「なんで私までアンタと一緒なのよ!」

 ブルー「貴様、そんなことも分らんのか馬鹿め!以前此処に来たとか言ってたのは何処の誰だ」


 クーン「ん~、つまりエミリアは前に来た事あるから迷路みたいな洞窟の道も分かるって事?」

 ブルー「貴様より、クーンの方が賢いな…だからお前を選別したというのに」ヤレヤレ



 戦力的に考えて4人置いてきて(あわよくばスライムがモンスターを吸収できれば良し)
地下洞窟の入り組んだ道を少しは覚えている事を期待してエミリアを連れて来た…そこまでが
魔術師が咄嗟に導き足した考えだった


 エミリア「じゃ、じゃあクーンは…」


 ブルー「…。」ピタッ

 ブルー「まったく、貴様とくだらん問答をしていたせいで見失ったではないか…」


 ブルー「…クーン、その鼻で鼠を探せるか?」

 クーン「ボクの鼻?うん、やってみるね!」ピョン



 緑の獣っ子が鼻をひくつかせて辺りを嗅ぎまわっている合間に魔術師はブロンド髪に向き返り
この洞窟内を詳しく教えろ、と紙とペンを取り出して聞き始めた
 相変わらずの偉そうな態度に彼女は苛立ちを覚えたが、それをグッと飲み込んで
怒りを忘れるように紙面に覚書の地図を記載していく



 エミリア「…ハイ、こんな感じですよーだ」ムッス!


 ブルー「…ふむ」ペラッ

 エミリア「その左上がノーム達が金を溜め込んでる場所、でもって此処を行くとぐるっと一周」

 ブルー「では、この道をこうして通ればこっち側に出るという事か?」


 指で地図の細い道をなぞり、尋ねる
頬っぺた膨らませたブロンド髪のバニーガールは「ええ、そのルートに出るわね」とだけ答える



 ブルー「…これは使えるかもしれんな」ボソッ

 エミリア「?」




  クーン「二人共~!あの鼠の匂いだよ!そっちの細道に続いてる!」ピョンピョン!


 ブルー「わかった、進む前に提案がある耳を貸せ」

―――
――




621以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/05/18(土) 12:02:40.24C/Ouf7dSO (1/1)

クーンはかちこいな


622以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/08/02(金) 08:57:38.25nadPPTveO (1/1)

久々に長めに空いてる?
待ってるぜ~


623以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/11/16(土) 21:31:45.423xguwCLJ0 (1/5)


 ジャリっと石床の砂利を踏みしめてエミリアとクーンが声を高らかに声を上げた
必ずお前を捕まえてやると言った主旨を、指先突き付けての宣戦布告だ
いっそ大袈裟な、芝居掛かったオーバーリアクション気味に



  エミリア「さぁさぁ!観念するなら今の内なんだからねっ!」

  クーン「そーだ!そーだ!おとなしくおなわにつけー」



 指輪を被った大泥棒はそんな二人を可笑しな物でも見たと言いたげに「チュゥ」とだけ鳴いて
文字通りうねうねした尻尾撒いて逃走する
 当然だが美女と獣っ子もその後を追跡する



――本気で捕まえようとはしない、ただ見失わない距離を保って








  - ブルー『俺からの提案は馬鹿のキサマでもできる簡単な事だ』-

  - ブルー『まず、お前達二人は奴を追跡し、枝分かれした道からこの道を通る様に誘導』-

  - ブルー『足の速いクーンと二人掛かりで向かわせるのはその為だ』-

  - ブルー『回り込んで道を塞ぐなり、アシストくらいはできるだろう?』-







  指輪を被った鼠「チ"ュィ!」トットコ!トットコ!



 クーン「おっと!その方角に行く気なら」ババッ!


 エミリア「ざーんねん!三つある内この方角はお姉さんが通せんぼでーす!」アッカンベー



 三叉路の内、モンスター特有の素早さで進行方向へ先に立つ緑の少年
動きを見てそれより早く行くことは問題無い、小回りの利く小さな怪盗を捕縛すること難しいが
進路妨害くらいならどうとでもなる




  - ブルー『もし道中でさっきみたいなデカい蟲や狂った機械が襲ってきたとしてもだ』-

  - ブルー『エミリア、"ルーンの石"を集めてるなら[保護のルーン]くらい使えるだろう』-


  - ブルー『それに聞けばクーンも姿を隠せる指輪を所持しているらしいな』-




  - ブルー『敵意を持った者の眼や鼻を欺く手段を有しているならば問題無い』-




 敵意など持たずにひたすら逃げの一手に走る逃亡者は兎も角、敵意満々で横やり突っ込んでくる
第三者の介入から逃れる術を彼女も少年も持っていた、この場にいない金髪の魔術師もそれは同じ


   指輪を被った鼠「チュ、チュ!」Uターン、キキィーッ グルッ ダダッ


   エミリア(よし、狙い通りの道へ入ったわね…)




624以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/11/16(土) 21:35:22.373xguwCLJ0 (2/5)



 鼠は二人の追跡者に追われ、地下迷宮を駆けずり回る…そして―――


  ブルー「でかした、よくぞ誘導してくれたな」ザッ


   指輪を被った鼠「チューーー!?」




 ブルー「エミリアの覚書通りなら迷宮はドーナッツ状でぐるりと回って来れる筈だったからな」

 ブルー「こうして挟撃構図になっていると分かったさ」




  エミリア「はぁはぁ…まったく、人使いの荒い人ね」

  クーン「でも、追い詰めたよ!」




 前後に追って、完全に袋の鼠と化したネズミは―――ッッ!!










   指輪を被った鼠「チュイ」シュバッ




       ネズミが逃げ込んだ穴『エミリアも知らない横穴』






 普通に逃げ切りました。











  ブルー「」


  クーン「…逃げちゃったね、すごく呆気なく」




  ブルー「ど、どういうことだ…」ワナワナ

  ブルー「このエミリアの描いた覚書通りならば…狭くて挟み撃ちにすれば如何に鼠でも
         確実に捕まえられる細い通路で逃げられる抜け穴の無い一本道の筈だぞ!?」



  ブルー「エミリアァァァッ!!貴様ァ!!」クワッ


  エミリア「ひっ、そ、そんな怒鳴んないでよ!」

  エミリア「わ、私だってまさかこんな通路あるなんて知らなかったんだってばぁ!」




625以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/11/16(土) 21:42:48.413xguwCLJ0 (3/5)



  ブルー「くっ…」ギリッ

  ブルー(…いかんな、治すようにしようとは思っているが…つい怒鳴ってしまう)フゥ




 地底大空洞の全域に響き渡りそうな怒りの声を上げてから一拍子おき
彼は冷静になろうと努めた、自分の欠点は気に喰わない事柄にぶつかるとすぐに
反発したり怒りを爆発させることだ…


自覚はある。


"キグナス号の海賊騒動"でも名前が気に喰わないからという理由で
問題解決の為に手を貸してほしいと交渉してきた相手の頼みを蹴ったのは記憶に新しい


 性分とはいえ、怒りっぽい癖をどうにかせねば…




  ブルー「…一応聞くが、このちっぽけな横穴の先はお前も知らない未知の場なのだな?」

  エミリア「そうよ…知ってたら覚書にちゃんと描いてたわよ…」


  ブルー「…。分かった止むを得んな」

  ブルー「何があるか分からんが追跡をするしかあるまい…」

  エミリア「えっ、行くの?」

  ブルー「この先が万が一にでも地上に繋がっている可能性だってある、出られたら厄介だ」



 不安の入り混じった感情の儘、彼等は小さな横穴を屈みながら進んでいく
この場にはノーム達が来た事ないのか、天井に灯りが吊るされてはおらず…広々としたホールを
思わせる空洞になっていた…




   クーン「あれ?」スンスン

   クーン「ねぇ、なんだか変な匂いがしない?こう…野生の動物っていうのかな」

   ブルー「俺とエミリアは人間だからな、その辺はよく知らん…クソ、暗いな」ポォォォ!



 [ライトボール]の出力を上げて、迷宮奥地にあった未踏の小部屋を照らす

 最初はここから地上へ逃げられるのではと危惧し顔を曇らせたブルーであったが
今は口角がつり上がらせた――出口どころか横道さえない、完全な行き止まり


 鼠は逃げる為にと、自ら袋小路に迷い込んで"袋の鼠"とやらになったワケだ
これで窮鼠に噛まれるなんて展開がなければ完璧である



  ブルー「くっ、くくっ…どうやら俺達はまだツキに見放されてはいないようだな」ニヤリ

  ブルー「それどころか、奴め何かに引っ掛かって身動きが取れないと見た」


 どこからどう見ても悪役のソレとしか形容できないような薄笑を浮かべて
"何か"を潜り抜けようとした矢先で上半身が引っ掛かった鼠を照らす



  エミリア「ん~~?ブルーもう少しだけ明るくできない?」

  エミリア「あのネズミ何かに引っ掛かってるみたいだけどそれが何なのかよく分からないわ」

  ブルー「気にしてどうなる、どうせ植物の根か何かだろうよ」スタスタ…

  ブルー「クーン、ソイツの頭に嵌った指輪を取り上げるぞついて来い」



626以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/11/16(土) 22:06:11.273xguwCLJ0 (4/5)



 どうにも拭えない違和感を抱きつつも名を呼ばれてクーンは小さな足で目の前を歩くブルーに
追いつこうと小走り気味に続いていく、そして鼠に近づけば近づく程、モンスターである彼にしか
分からない"獣臭さ"が鼻を擽るのであった



  クーン「やっと捕まえたぞ!」


   指輪を被った鼠「チュイ!?チュッチュゥ!」ジタバタ


  クーン「大丈夫、君には何もしないよ」スッ


 お騒がせな指輪泥棒の頭にすっぽり嵌った王冠を取り外し、鼠を逃がしてあげようとした
あくまで彼等の目的は伝説の指輪であって、この灰色の怪盗ではないのだから


  クーン「逃がしてあげるよ、この根っこみたいなのが邪魔なんだね!」ガシッ












  ここで初めて気が付いた。



 否、なんで今更だったのか、こうも獣臭さを感じていながら
何故この広い空洞に自分と鼠、ブルーとエミリア以外に生物が居ないと決めつけたのか

…いやもっと根本的な所から疑念を抱くべきだったのだ


 何故、このホールのような広い空間には天井に明りが吊るされていないのか―――地下空洞を
知り尽くした土の精霊ノームがこんな広い空間を見過ごすか?
どうしてここに彼等が一切手を加えていないのか


 物事には何にでも順序というモノがある、Aの事柄にはBという要因があるからAが成り立つ等

 土の精霊が地面の真下にあるこの大空洞で手付かずの空間を作ったのは何故か、簡単だ




"手付かずなんじゃあない"、あえて"手を付けなかった"んだ…もっと言えば足を踏み入れたくない



      ゴゴゴゴゴゴ…!!!!



  ブルー「ムッ!?」

  エミリア「きゃっ、地震…?」




 蒼き術士はブロンド美女に覚書の地図を書かせたが、この場所の存在は知らなかった
それもそうだ、前回来た時はエミリアは婚約者の仇ジョーカーをみすみす見逃してそのまま地上へ
戻ってしまったのだから…だからこそ"ジョーカーの罠"という災難を皮肉にも回避できたと言おう


 もし、前回エミリアが此処を訪れていたならば彼女は高笑いをする仮面の男に次の様に言われた




            - かかったな、[巨獣]の餌食となれ!! -





627以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/11/16(土) 22:13:48.2365Ft1ViuO (1/1)

イッチ!いきとったんかワレ!


628短いけど今回ここまで2019/11/16(土) 23:43:35.233xguwCLJ0 (5/5)





     「グオオオオオオオォォォォォォオォオオオォォォォオオオォォンンンンンン」



 怒声、低い唸りを上げて"ソイツ"は眠りから目覚めた
銀河の大海に浮かぶ博徒達の楽園[バカラ]、その真下に広がる大空洞には支配者が居る
 土の精霊ノームでさえも足を踏み入れたくない、近寄りたくない化け物の塒<ねぐら>


 不幸にも縄張りに迷い込んで来たモンスターは主の尻尾を植物の根か何かと
勘違いして踏んだり、噛んだり……そして代償として踏まれたり、噛まれたりして絶命するという


 鼠が絡まっていた植物の太い根と思われていた尻尾を掴んだ時、クーンは思わず目を見開いた
生物特有の生温かさと血管が機能しているのがよく分かる脈拍を感じたからだ
 さっきから自分が感じていた獣臭さの正体がなんであるか察した瞬間である
[巨獣]が寝そべった状態から身体を起こすだけで空洞全体が揺れ、牙を覗かせる大きな口からは
怒声がもう一度飛び出した


 二本足で立ちあがった屈強な脚、膝はプロテクターの様な水色の硬い甲で覆われていて
腹部は鍛え抜かれたアスリートかとでも言わんばかりに割れた腹筋、胸部は紺碧色の硬いアーマー
鼻先、頭部にかけて雄山羊の角に近い形状が3本生え、背から尻尾まで脊髄に直接繋がってるのか
太古の大昔に滅んだ恐竜のソレに近い棘が生えそろっている




  クーン「うひゃぁ!!すっごーい!おっきいねぇ~」

  ブルー「暢気な事を言ってる場合かッ!!糞ッ!こんな話聞いてないぞ…」バッ!

  エミリア「これはちょっと、お友だちになりましょうねって顔じゃないわよね…」チャキ



鼻をひくひくと動かし、[巨獣]は血走った眼を地に向ける


 冬眠していた熊が永い眠りから目覚め、春先で一番に飢えを満たそうとする様に彼奴もまた
胃を満たす得物を求めていた、自分以外の生命の匂い、食指を刺激する血の香りを…


 すぐさま臨戦態勢を取り、険しい顔付きで術の詠唱を始める蒼き魔術師
引き攣った顔で銃の安全装置を解除するブロンド美女、鼠から抜き取った指輪を落とさない様に
ポケットにしまう緑の獣っ子…


   巨獣「グゴォォォ!!」ブンッ!!


 名に違わぬ巨体、重量のある太い腕を振り下ろされる先に居るのはクーンだった
まずは一番仕留められそうな者から潰して敵の攻め手を減らそうという考えであろう



   クーン「わわっ!?」



 ギュィィィン!!シュルッ!!


   巨獣「グゴッ?」ヂヂヂヂヂ…


   ブルー「ちぃ…!ぼさっとするな」グググッ

 
 野太い腕を標的目掛けて振り下ろそうとするも、爪先がクーンの頭上で止まる
[巨獣]は手首に巻き付いた熱源を疎ましく睨みつける、チリチリと皮膚を焼く魔術の鎖は確かに
彼奴に痛いを与えていたが何分、その巨体ゆえにそれほど効果はない…


  巨獣「ゴオォオォォオオオォッ!」ブンッ

  ブルー「ぐおぁ!?」ブワンッ


 鬱陶しい、と腕を振るい鎖ごとブルーを振り回す、これは堪らんとばかりに術を解除した術士は
そのまま硬い地に身を打ち付け苦悶の声を漏らした


629以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/11/17(日) 23:26:39.92FwisgZtE0 (1/1)



  クーン「ブルー!」


 打身の痛みがじんわりと背を中心に広がっていく、歯を食いしばり名を呼ばれた術士は眼を開く
すると視界は彼を覆い尽くさんとする影が広がっていた
 図体のデカい獣だとは思ったがその巨体さからは想像も着かない敏捷性に驚かされた
魔術師を振りほどいた[巨獣]は攻撃対象をクーンからブルーへと切り替え、両脚をバネのように
伸縮させて跳んだ、身を地盤に打ち付けまだ起き上がれずにいる蒼き術士を[ふみつけ]る為に



  ブルー(ぐっ…ッッ!!)ゾワッ



 あれだけの体積に踏みつぶされれば然しものブルーであってもタダでは済まない
数秒後には間違いなく破裂音と共に潰れたトマトの出来上がり、そんな自分の最期を連想すらした



――――――ダダダダダッ!ズサ―――――ッ!!ガシッ



     エミリア「うァらぁあああああああぁぁぁぁ―――ッッ」[スライディング]‼

     ブルー「!!」ガシッ、バッ‼





       ズシャンッッッ!!




  エミリア「ゼェゼェ…い、今のは危機一髪ってとこかしらね……大丈夫?」

    ブルー「あ、あぁ…すまん助かった、今のは流石に肝が冷えた所だ」



 心臓がバクバクと音を立てる、肝を冷やしたというのは紛れも無い本心だ
ルージュを殺すという使命を果たせぬまま道半ばで贓物を撒き散らしながら死ぬのかと焦った
 そこへエミリアが本来敵への脚を使った攻撃である[スライディング]を使って滑り込み
倒れた術士の身体を掴んでそのまま掻っ攫って窮地を脱した、正しく滑り込みセーフという奴だ



    巨獣「グゴッ?」



 一方、片足を上げて足裏で獲物を踏み殺した感触を感じなかった事に違和感を覚えた彼奴は
眼を動かしバニーガール姿の女が標的を救助したことを知り憤慨した…っ!



   巨獣「グゥゥゥゥゥゥオオオオォォォォォオオオオ!!!」ビキビキ…!



 低い唸り声、音を立てて浮かび上がる血管、青筋…っ!
腹を立てた[巨獣]は両腕を振り上げ次なる一手を繰り出そうとした



    クーン「ブルー!今[傷薬]で回復させるから…っ!」

    ブルー「構うな、そんなことよりも貴様はさっさと変身しろ!戦闘態勢に入って迎撃を」



 支えられながら彼は敵から目を離さなかった、ちょっとした気分転換とやらで[バカラ]に来たら
この有様だ、今日は厄日か、と毒づいて戦闘する羽目になった強敵の動きを観察する
 対応を間違えば全滅しかねない…ッ!


   巨獣「グォッ!」ゴッッ!


 振り上げた両腕は3人目掛けて振り下ろされ――――


630以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/11/18(月) 00:14:19.20K/xAsfNW0 (1/1)















――――――――――は、しなかった









      ブルー「なっ!?マズイ―――」




 両腕の拳は初めから3人に向けた物ではなく、彼奴が腕を伸ばせばすぐ当てられる大空洞の石壁
そこへ目掛けての一撃だった
 洞窟内における戦闘行為は蒼き術士にとって奇妙な縁があるようだ[クエイカーワーム]等が
潜んでいたあの[クーロン]の地下での戦いを含め空洞内部での戦いで最も注意すべきは
落盤や地盤沈下などによる被害で自分達が致命傷を負うことであった


 下手なモンスターの攻撃よりも、天井の崩落や地割れに飲み込まれてしまう事の方が問題だった



 だからこそ初撃で爆裂の術たる[インプロージョン]や最大火力の[ヴァーミリオンサンズ]ではなく
比較的に周囲に然程影響の無い[エナジーチェーン]を使ったのだ
 あの時と違い狭く振動が伝わりやすいこの空間に置いてはそれが最適解だったから






 [巨獣]の怒りに任せた一撃はそんな彼の危惧する事態をいともたやすく引き起こす




  ゴゴゴゴゴゴゴゴ…!


  エミリア「きゃ、きゃあああぁぁ!?じ、[地震]だわ…!!」


 砕いた石壁の破片、大揺れによって罅割れそのまま落ちて来る天井の大岩
身を守ろうと両腕をクロスさせて頭部を守る様にする
 降り注いできた礫がそんな3人に情け容赦なく降り注ぎ腕を、胴を、脚を、痣だらけにしていく



  巨獣「ウゴオオオォォォォ!!」



 人間の丈の何十倍もある巨獣からすればそんな大岩のシャワーもぺちぺち当たった所で
彼等程の痛みも感じず気にせず猛進してくる
 次こそは縄張りに入った不届き者の息の根を止めてやらんと右脚で踏み込み上体を捻り
腰にかけて身体を大きく振りかぶる、棘のついた尻尾を勢い任せで振り回す[尾撃]で
まとめて一掃してやろう、そういう魂胆なのだろう


最初から態勢が整っていれば話は違ったが完全に不意を突かれた形で後手後手に回った戦闘…ッ!!


 未だ幼い少年の姿からモンスター形態へ変身できないクーン、詠唱の時間を与えられないブルー
降り注ぐ礫の雨霰で他の二人同様動きを阻害され銃口を思うように向けられないエミリア

 [巨獣]の尻尾がすぐそこまで迫り3人を薙ぎ払わんとするその刹那…ッ



631以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/06/07(日) 23:24:58.454S5jX4+aO (1/1)

待ってるやで


632>>631 ちょっろっと再開やで2020/06/09(火) 00:08:47.58O8O4mgnI0 (1/3)














                メイレン「射貫け閃光よ――[太陽光線]――っ!!」バッ!







 暗中より射す熱量を持った光が[巨獣]の顔を、量の眼を焼き焦がさんと照りついていた
これは堪らんとばかりに悲鳴を上げて、野太い腕で顔を覆いながら身を捩らせた大怪獣の[尾撃]は本来の弧を描く軌道から
かけ離れた動きへと変わる、焼けた顔を抑えていなければ獣は尻尾の薙ぎを無理やりにでも元の動きに戻して術士達を
一掃することも出来たかもしれない



    フェイオン「ふぉ―――ぉぉぁたァァァ!!」シュバッ!ダッ――バンッ!!

    巨獣「グゴッ!?!?」ゴッッッ!!



 最高のタイミングで陽術を唱えて窮地を救った女性の背後から飛び出した黒い影は洞窟内部の岩肌を"蹴り昇って"
自身の背丈の数倍は優にある[巨獣]の頭部よりも高い位置へと一気に躍り出る、彼奴が漸く陽光で焼かれた目を見開いた時
見えた物は頭上まで飛翔した男が勢いをつけて自分の鼻っ面に急降下してくる姿であった
 避け切れない、そう脳が認識するよりも先に文字通り脳が震える様な衝撃が獣を襲うッッッ!!




     リュート「ヒューッ!流石フェイオン!良い[三角蹴り]だぜ!」タッタッタッ…!

     リュート「エミリア、クーン、ブルー三人共無事か?今[傷薬]をやるからな」ゴソゴソ


      ブルー「お、お前達…何故ここに、いや、助かった礼を言うぞ」ヨロッ…

     メイレン「お礼ならその子に言うのね、私達だけだったら貴方達を見つけられなかったわよ?」








       スライム「(`・ω・´)ぶくぶくぶー!ぶくぶくぶー!」ピョン!ピョン!





 入り組んだ大自然の迷宮と化している[バカラ]の地下、それもその最深部で
一度は此処に潜り込んだ経験のあるエミリアでさえも未踏の地であった[巨獣]の住処…そんな魔境に迷い込んだ術士達を
見つけ出すというのは至難の業であり、リュート等だけでは間違いなく早期合流は不可能だった事だろう




 然しながらスライムだけは一切道に迷うことも無く、彼等3人の居場所を察知して見事に仲間を先導したという…



 人間<ヒューマン>ではなくモンスターだからこそ成せた業か、日頃ブルーに付きっ切りのこのゲル状生物だけは彼の匂いを
辿ってこの抜け穴の先まで追跡できたのだ…っ!


 [スターライトヒール]の詠唱に入ったメイレンに言われて蒼の術士は驚く、自分達はコイツに救われたのかと
ドヤ顔で『俺の通訳があったからすぐにブルー達の事も見つけられたんだぜ!』とか言い出す無職の言葉は右から左に流し
魔術師はスライムに対する評価を自分に寄りそってくる鬱陶しい生命体から少しは使えるヤツと改めた




633以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/06/09(火) 00:10:55.13O8O4mgnI0 (2/3)


 劣勢にあった状況から一転、追いかけて来てくれた仲間達の到来で活路を見出す事ができる
古人曰く戦いとは数が物を言う、無論それは状況にもより必ずしもその限りではないがこの戦闘に関して言えばそうだ


 重量感のある[巨獣]の一撃こそ手痛いモノだが、その分動きに難がある相手を取り囲む陣形を取り
四方八方から攻めれば良い…相手が誰かへの攻撃を開始したならば死角になる位置から先程のメイレンやフェイオンの様に
振り下ろされる拳や蹴り、尾の軌道を逸らすなり術士を救出したエミリアと同じ機敏な動きができる仲間
あるいは防御性に自信のある者が割って入り援護する、そういう手段もある



     巨獣「グ、ぐおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」ゴガァァァ!!


       ブンッ!グォン!!



     フェイオン「うっ!?」バッ!

      リュート「いけねっ!奴さんプッツンしちまったみてぇだ!腕をブンブン振り回しまくってらぁ!!」



      巨獣「ォオオオオオォォォオオオッ!!」ウデ フリマワシ!!

      岩肌『 』ゴガッッッ!!




     メイレン「―――っ!フェイオンそっちに行っちゃ駄目よっ!」ハッ!



 [三角蹴り]をお見舞いし、相手の顔を蹴りつけた勢いでそのまま飛び去る一撃離脱を取った弁髪の男に対して恋人は叫ぶ
飛び離れた方角が命取りとなり得る、怒り任せに[巨獣]は鋭い爪のついた手を振るい岩肌に爪を突き立てながら
削り取るかの如く大腕を滑らせた

 癇癪を起した小さな子供が丁度組み立てた積み木の城でも壊していくのと何ら変わらない
抉り取られた岩肌は…否、そのまま宙に浮いたフェイオンの身体を粉々にせんと吹き飛ばした[岩石]の質量弾は彼の右肩に
勢いよくぶち当たる



     フェイオン「うぐぁぁぁぁっッ!!」

      メイレン「フェイオン!!」ダッ!



  リュート「ブルー!エミリア!もう動けるか!?動けるなら急でワリィけどアイツ止めんの手伝ってくれ!」


 メイレンのヒステリックな叫びが地下空洞に響く、銃を構え相手に向けて
牽制射撃しつつも右肩を抑えたまま大地に墜落した愛する男の元へ駆け寄る姿を見てリュートは直ぐに指示を飛ばす

 普段冷静なメイレンでさえ取り乱す事はある、クーンの治癒もまだ終わっていないのに思わず走り出して
フェイオンの回復に向かったのは[傷薬]を持ったリュートが居るから大丈夫と判断してか、それすら頭から一瞬抜けたか
 緑の獣っ子の手当てをするべく目の前の大怪獣を足止めして欲しいと彼は術士とブロンドの女にそう頼んだ



   エミリア「任せてよね、ここからが私達の反撃タイムよっ!」ジャコッ!

    ブルー「よかろう!さっきまでの礼をたっぷりとしてやろうじゃないかッ!スライム貴様も後に続け!!」



 銃口を洞窟内部の天井から垂れ下がる岩垂氷に向けた女性が引鉄を引くのと、アニー直伝の[稲妻突き]を試そうと男性が
動いたのはほぼ同時であった
 パァン!と銃身が火を噴く音がして僅かに遅れて岩垂氷が落下する、脆い箇所を瞬時に見極めピンポイント射撃で
敵方の頭上に対象物を激突させる[曲射]だ

 剣を構えて曇空を裂く稲妻を思わせる急発進、急加速の突きを繰り出したブルーは未だ暴れ回る[巨獣]が
片脚を一瞬上げたその時を狙って攻撃を仕掛ける、人間にも同じ事が言える…勢いをつけた物体が片脚上げた状態の者に
正面から衝突すればどうなるか?身体のバランスを崩して後方へ仰け反る様にふらつく


 刺突によるダメージを受け、尚且つ1歩、2歩分後方へとズレた所でエミリアのピンポイント射撃が生きる…っ!


 仰け反った相手のその位置に清々しい程綺麗に岩垂氷が入ったッッ!!2人連携技[曲射突き]であるッ!!!!



634以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/06/09(火) 01:06:50.55O8O4mgnI0 (3/3)


 べしゃっ、ドジュウウウウゥゥ!!!!


      巨獣「ッ!?」


 大きく仰け反れば自然と上半身は天にひけらかす形になり
無防備の儘で曝け出された腹部から胸部、喉元そして頭部には岩がドコドコと当たり、特に胸部は[曲射]で落とされた
先の岩垂氷が刺さったままの状態となった


 泣きっ面に蜂、更に半歩後ずさる様に左足を下がらせた所で何か水っ気のあるモノを踏んだ、直後足裏に激しい熱と痛み


     スライム「(`・ω・´) ぶくっ!」キリッ!


 それはスライムが放った[溶解液]であった、後ずさる事を見越しての相手のすぐ真後ろの地面目掛けての射出
大地をも熔かす酸の水溜りが出来て間もなく[巨獣]の脚はそれを踏み痛みに呻く


    ブルー「チィッ!まだ斃せんというのか!?タフな奴め…!!」タッ!

   エミリア「身体が大きいから生命力も高いってことなのかしらね…っ」チャキッ

   スライム「(; ゚`Д゚´) ぶ、ぶくぶく…!」




              「いんや、これで終わりだぜ!」ヘヘッ!

              「3人共!あとは僕に任せて!」ズモモモモ…!!



 敵方の並々ならぬ生命力と攻撃性にこのまま持久戦が続けば流れを変えた旗色もまた良くない方へ流れる
2人と1匹がそう考えた矢先、何かを勝ち誇ったような笑みを浮かべたリュートが終わりだと告げる
 弦楽器を背負った男の背後には黒く蠢く不定型の影が見えた

 影は音を立てて姿形を変貌させて一匹の見慣れぬモンスターへ変化を遂げる



       ブルー「その声は…クーンか!だがあの姿はもしや」

      エミリア「なにアレ!?綺麗だわっ!!」スッ



 無意識の内にエミリアはモンド執政官から渡されたブローチを取り出していた、彼女の視界に映ったモンスターの姿は
渡された装飾品のモチーフによく似ていた、リュートの故郷に伝わる御伽噺の生物にも…ブルーの国に伝わる神話でも出た



      フェイオン「うっ、…メイレン、すまないキミにまた不甲斐ない所を見せた…」
       メイレン「本当よ、馬鹿」ギュッ

      フェイオン「…ああ」ギュッ


 治癒が完了したフェイオンは目の前に居る女性と共に"翼を広げて飛び立ったクーン"の姿を見て安堵した
彼等の長い旅路で多くの危機と隣り合わせの戦いを繰り広げてきた中で少年が得た力…これで決着が着くであろうと



     クーン(マリーチ)「皆を傷つけて…もう許さないぞ!![グランドヒット]-――っ!」ヒュンッ



 ――モンスターという種族は自分が倒した敵から力を吸収し、その姿形を違うモノに変質させることができる
[ラモックス]であったクーンもその例に漏れず、彼が成った姿はまさしく"天使"そのものと言っていい姿だった

 神秘的な美を感じさせる何処か儚く清楚な盲目の天使、されど自身の周りに浮かぶの人間<ヒューマン>の眼球という歪さ
決して自身の眼は開かない天使は大翼でこの場の誰よりも速く、誰よりも高く飛び、[グランドヒット]を放つ




 舞い上がった天使の急降下攻撃は、無慈悲なる一撃は[巨獣]の胸部に深々と突き刺さったままの岩垂氷へ…

 吸血鬼の心臓に食い込んだ杭に更なる鉄槌を振り下ろして心の臓に根深く杭を打ち込ませるが如し……ッッ!!




635以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/06/15(月) 18:13:23.02ZtX35vb7O (1/1)

勝ったッ!バカラ編完!


6362レスのみですが少々投下2020/07/26(日) 23:15:37.32NSZsnUVN0 (1/2)

―――
――


【双子が旅立って 7日目 午後22時57時分 [クーロン]】


 暗黒街の滑走路に宇宙船<リージョン・シップ>が降り立ち、旅行客が機体から列を作り降りていくその中には
どっと疲れた顔をしたブルー一行の姿もあった、ちょっと仲間と共に気分転換で賭場に遊びに行ったら波乱万丈な大冒険に
付き合わされたという災難であった、その癖得るものが何も無かったのだから不満以外の何物でもなかろう


   ブルー「…。」ムスッ

  リュート「なはは!まぁまぁ怒るなって人生はアクションの連続って言うだろ?」

   ブルー「…もう突っ込む気にもならんよ」ハァ…


 怒鳴っても無駄に体力と精神力を消耗するだけだと結論付けて言いたいことは飲み込む
アクションでもアクシデント満載のアトラクションだろうと勘弁願いたい物は願いたい
 指輪を取り戻した後、どこにそんな体力が残っていたのか光の速さでメイレンが引っ手繰る様に取って懐に仕舞い
依頼主に渡してそれから正式に買い取るわ!ここから先は私達の仕事だから任せて!!と矢継ぎ早に言った

 リュートから後で聞かされたが『指輪は私達が取り返したんだから買取金額は割り引かせてもらうわ』と
指輪の元の持ち主にそう持ち掛けて本来の指輪買い取り金を相当払わずに済む交渉に漕ぎ付けたとかなんとか…



  クーン「わーい![クーロン]だ!この街って人がたくさんいて楽しそうだしご飯も美味しいから好きーっ!」

  ブルー「……。」



 只でさえ碌でも無いドタバタ騒動に巻き込まれたのだから術士の彼は二度とこの集団に関わるまいと思っていたのだが
何の因果か、この一団は"指輪"を求めて奇しくも自分の目的地の1つ[ディスペア]の監獄に行く予定らしい…

 "解放のルーン"を求めて行く自分とは違って"刑期100万年の男"とやらに会いに行く訳だから
恐らく道中で別れることになるとは思うが…それまではこの喧しい連中との付き合いを
まだ続けねばならないのかと蒼き魔術師は頭痛を覚えていた


  ブルー「…今日は心底疲れた、だから後日にはするが…本当にその指輪を見せてくれるのだろうな?」

  クーン「うんっ!ブルー達は助けてくれたお友達だもん!それくらい良いよ!」


 …なんと警戒心の無い生物だろうか聞けば全て揃えばどんな願いでも叶う指輪なのだろうにそんなモンが実在するとは
眉唾程にも信じちゃいないが仮に自分が願い叶えたさでそれを盗む様な者だったらどうする気だ
 ルージュをこの世から抹殺するという願いを叶えられるなら是非も無い、と言いたいところだが自分自身の手で葬らねば
自分が御国に求められる完璧な術士である証明にはならない


 ゆえに願いを叶える秘宝自体が不必要だし、そもそも信じられないので万に一つの可能性も無いが…



  エミリア「前に話してくれた御伽噺の指輪に似てるから調べたいのよね?」

   ブルー「…まぁ興味本位という奴でな」



 敬愛する祖国の伝承に類似する古代遺物なら…まぁ多少は興味ある、願いが叶うなんて信じちゃいないけど…

話しかけてきたエミリアに対してブルーは気怠げに一言だけ返した…


   ブルー「…。」チラッ

  エミリア「? なによ」

   ブルー「いや別に、なんでもない」テクテク



   ブルー(この女、自分のアジトに帰るまでバニーガール衣装で居る気なのか…)困惑


 ブルーが心底疲れた顔をする理由にもう一つ、旅客機内でもずっとバニーちゃん衣装で他の観光客から
滅茶苦茶ガン見されまくったり、ヒソヒソと色々言われて無駄に恥かいたせいでもある

…こんなことならメイレンやフェイオン、あとまだ見ぬ妖魔の仲間2人が座ってるらしい後部座席の区画に座れば良かった



637以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/07/26(日) 23:17:24.48NSZsnUVN0 (2/2)



 妖魔の仲間があと2人居るらしいクーンのパーティだが魔術師一行は未だ顔を見合わせては居なかった
なんでもその内の1人がかなり繊細な水妖で[バカラ]の空気に当てられて体調を悪くしたらしい
 カジノ内で見かけなかったのもそれが要因で、宿泊先のホテルの個室でもう1人の医学に心得のある妖魔を付き添わせた



…妖魔という種族は医者志望でも多いのだろうか?


 白衣を着た長髪で眼鏡を掛けた胡散臭い闇医者の姿ブルーの脳裏に過ったが…きっと別人だろうと首を振った

例の藪医者を思い出しそうでなんかイヤだった上にそんな面倒臭そうな水妖や破産して金が欲しい指輪の持ち主に無慈悲な
交渉を持ちかけるメイレンが居たりで後部座席に座るのは嫌だと、前の区画の席を取ったが失敗だったと
 今更ながらにブルーは後悔した…



  ブルー(というかこの女、どういう感性してるんだ…街中バニー衣装で歩くって…世間体とか考えろよ)ゲンナリ



 荷物を持ってボーディング・ブリッジから発着場ターミナルへと出ると外は大雨だった
耳に窓硝子を打つ雨粒の音、出入口の先から聴こえる人々の雑踏、賑わい…ネオンの光と機械の音

 初日この無法都市へやって来て煩わしいことこの上ないと感じたそれらを見て彼は「…あぁ、帰って来たな」と
思った、だからこそ驚いた


 スロットマシンの音もバカラが回る音も人生の勝者敗者が決まり歓喜する声、絶望に打ちひしがれる声
何もかもが耳障りだった[バカラ]とは違った意味で煩い街




 ……"実家の様な安心感"、そんな言葉が似合う感情をこんな街に抱くなんて自分は相当疲れてる様だ


早くイタ飯屋に帰って自分に割り当てられた部屋のベッドで泥の様に眠りたい
 後ろで仲間達がなんか言ってるが、適当に空返事だけしながら彼はヨロヨロと帰路に着いた



  リュート「ありゃりゃ…ブルーの奴行っちまったよ、アイツ話聞いてたのかね?」

  スライム「(´・ω・`)ぶくぶくぶ…」


―――
――


  ガチャッ…!


  アニー「あっ、おかえり!どうだった!?エミリア達と楽しんで来たんでしょ?」ワクワク

  ライザ「その様子だと、お土産は期待できそうにないかしらね?」グワァシッ
  ルーファス「」プラーン、プラーン

  アニー「えぇ…なぁんだお土産無しか、つまんないの」


 賭場の戦利品を期待していた女子二人、特に金髪娘の方は落胆の色を見せた

 …自分達が出掛けている最中に一体何があったのか気絶したグラサン店主が
ライザに首元を掴まれてプランプランと宙吊りにされている、なんか知らんけど関わらんでおこう
 気力も面倒毎に首突っ込む体力も無い魔術師は無視を決め込んで自室に帰ろうとした時だった


    アニー「あっ、ちょっと待ってよ!ブルー忘れてるわよ!」

    ブルー「なにを?」


    アニー「おかえり、って言ったでしょ」

    ブルー「…ああ、"ただいま"」テクテク


 わざわざ呼び止めるから何事かと思えばそんなことか…全く疲れる、重い足取りで寝台の上に横たわって服も着替えずに
そのまま意識を眠りの底に沈めようとした、微睡み掛かった所で入口の方から遅れて帰宅したエミリアの「ただいまー」の
一言で折角寝かかっていた意識を起こされるのはまた別のお話



638以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/07/27(月) 08:50:52.51mJIdDNpPO (1/1)

ルーファス生きてるよね……?


639サガフロリマスターおめでとう!!!!!ヒューズおめでとう!!!!2020/12/12(土) 23:43:33.04yXoGn0ku0 (1/5)


投下前に、一つご訂正を…

>>636で

>…こんなことならメイレンやフェイオン、あとまだ見ぬ妖魔の仲間2人が座ってるらしい後部座席の区画に座れば良かった

とありますが、メサ子はカジノの空気にあてられて体調不良を起こして
 ヌサカーン先生付き添いの元[オウミ]のホテルで療養中です、>>1の間違いです…申し訳ない



>>637でも


>例の藪医者を思い出しそうでなんかイヤだった上にそんな面倒臭そうな水妖や破産して金が欲しい指輪の持ち主に無慈悲な
>交渉を持ちかけるメイレンが居たりで後部座席に座るのは嫌だと、前の区画の席を取ったが失敗だったと
> 今更ながらにブルーは後悔した…

とありますが、これも単に破産してちょっとでも金銭が欲しい依頼人から支払金をハネようとしてるメイレンに引いてて
関わり合いになりたくないから後部座席を嫌ったという設定でお願いします…すいません

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640以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/12/12(土) 23:44:16.31yXoGn0ku0 (2/5)






僕の朝は早い



自炊できる時は倹約の為に積極的に自炊した方がいいかな~って僕は常々考えてるから朝ご飯を創る為に早起きになる




特に今日からはレッドが僕らと一緒に本格的に旅に加わってくれるから腕によりを掛けてたくさん作ってあげなきゃ!





僕達は[杯のカード]を手に入れたことで秘術の試練も折り返し地点に来たんだなって安心してる





その上、残ってる2つだってエミリアさんから[バカラ]に行けばいいこと

[盾のカード]だってキグナスで知り合ったヒューズさんが実は持っているから頼めばすぐだってレッドが言ってくれたから








行先も何をすればいいのかも心当たりがあるから少なくとも今回みたいな過酷な試練にはならないだろうなって安堵してる





だから少しだけ、そう…ほんの少しだけ僕達はまだ[ヨークランド]で束の間の平穏を楽しんでいたいんだ




不思議な事にあれからアセルスと白薔薇さんを狙う妖魔の追ってもまだ来ていない


警戒を怠らないのも大事だけど常に気を張り過ぎるのもきっと良くない、こんな時だからこそ心にゆとりを持つことが大切





新鮮な空気と美味しい野菜や果物、酪農も盛んだから心を休めるのにこの惑星<リージョン>は適している



試練から帰った僕達が宿を探していた所、ウチで泊っていけばいいと言う親切な人にも出会えたのだから幸運だ





641以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/12/12(土) 23:47:44.78yXoGn0ku0 (3/5)



 朝一番の水は冷え切っていて、比較的に暖かな気候たるこの惑星<リージョン>でも少しだけ悴みそうだった

 宿泊させて貰っているとある一件の民家、台所をお借りしたルージュは洗い終えた野菜の皮を剥き、程よいサイズに切る
大自然に恵まれた土地ならではの恩恵は他所の市場で見るよりも形や色艶がよく瑞々しい

 焦がさない様に弱火で熱をちょっぴりと加えた鍋底に落としたバターを木べらで小突けば滑りながら融けていき
続いて投入された地産鶏の胸肉を少しずつ狐色に変えていく


 食料品の買い出しに出かけたルージュは市場で見かけたオリーブオイルとバターのどちらを使うか最初迷いはしたが
長旅での長期保存を考慮した上で今日はバターを使う事に決めた
 世界を渡り歩く上で楽しむべきは文化や風習の違いだということはまだ日の浅い新米冒険者の彼にも理解できた
食文化は特に紅き魔術師とその仲間達にとって何よりも大きいもので惑星<リージョン>毎の特色ある食材や伝統の味は激戦で
日々疲弊していく心身に癒しを与えてくれる

[ヨークランド]産のオリーブから搾った油は次の調理でじっくり味わうとして、今回は地元の牧場で造られたバターにした


 次に玉ねぎを加えてこれも透き通る飴色になるまで炒めていく、火を通したことでじんわりと水分が出ては蒸発していく
基本的にルージュは野菜の水分を無駄にしたくないという考え方の持ち主だった
寮生活の時にもう居なくなってしまった先輩や先生から野菜の水分は栄養価も高く独特な旨味や甘味もある
できることなら味を逃がさない方がいいと教えられたからだ

ほんの少しだけ、蒸気となって逃げていく旨味を勿体ないなぁと内心苦笑しつつ他の材料も投下していく…



 バターの風味を利かせた鶏肉と野菜の煮汁から灰汁を取り除いて、パキッと小気味良く音を立てるシチュールーと
新鮮な牛乳を入れて後はクリームシチューが程よくなるまで待つだけだ



     ルージュ「さてっ、と弱火にして…じゃがいもが柔らかくなったらかな」


ガチャッ


     ニートの舎弟「ルージュさーん!コレここに置いときますねーっ」

    ルージュ「ああ、ありがとう助かるよサンダー!」



 エプロン姿で調理場に立つ紅き魔術師の所に人参やトマトと言った野菜がどっさりと入った籠を抱きかかえながら
随分と大柄なモンスターが入ってきた…外見は一言で言えば子供が泣いて逃げ出しそうな鬼で逞しい筋肉量とあらゆる物を
噛み砕きそうな牙と顎を持った[オーガ]種である

 しかし、その厳つい姿形に似合わずまるで小さな子供の様な純朴さを持った彼ことサンダーはニコニコと微笑みを携え
彼よりも一回りも二回りも小さい人間<ヒューマン>であるルージュに深々と頭を下げるのであった




 [杯のカード]を得てから帰ってきた魔術師御一行はどこかで身を休める場所を探していた
凶悪極まりない烏賊の襲撃もあってか帰ってくる時は満身創痍で怪我の手当て、BJ&Kの充電ができる場所も探していた
重い脚を引き摺って村の中を回った結果…



  『なんだいアンタ等、体中ボロボロじゃないかい…宿を探してる?
           それなら丁度ウチの馬鹿息子が上京して部屋が空いてるから泊まってきな』



っと、親切なおばさんに出会えたのは幸運だった

 案内された一軒家の戸を潜った時に『アニキ!?帰ってきたんスか!?』と大声で叫ばれて何事かと振り返った時に
血相を変えて走ってきたサンダーの姿が見えた、それが彼とルージュ達の出会いであった


 なんでもサンダーが"アニキ"と慕う人物はお世話になっているこのお宅の一人息子さんらしくゾロゾロと集団で家に
見知らぬ旅の一行が入っていくのが見えてもしや"アニキ"が何らかの理由で誰かと帰ってきたのか!?と勘違いしたらしい


血相を帰ってどすどす土煙を上げながら走ってくる強面のモンスターを見て、思わず臨戦態勢に入るレッドとアセルス
剣を構えられたことで『ひぃっ!!』と悲鳴を上げて土下座するサンダー…



一悶着はあったがどうにか誤解が解けて今はこうして打ち解けている………彼は見た目とは裏腹に憶病な性格らしい



642以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/12/12(土) 23:49:26.47yXoGn0ku0 (4/5)


 サンダーの事を知る近所の人曰く、腕っぷしは強いが気が弱い、よく野菜泥棒をしてウチの畑でトマトを丸かじりする
前に任務で巡回に来たとかいう[IRPO]の隊員を見て『ウワー!警察だー!』と慌てて崖下に飛び降り逃げる様に転がった等

 煙草を咥えた黒ジャケットのパトロール隊員もその光景に思わず口をあんぐりと開けて煙草を落としたそうな…
終始怯えるサンダーにたかだか野菜泥棒如きで逮捕しねぇから落ち着けよと諭されるまで逃げ続けるエピソードが印象強く
これにはルージュも思わず笑ってしまいそうになった


 さて、そんなサンダーだが今日は野菜泥棒ではなく畑仕事を手伝った対価として貰った野菜を持ち魔術師の所にきた
家主のおばさんに腕っぷしを買われて暫くはこの家でお手伝いさんとして働いているらしい、お客人のお手伝いも
彼の中ではその一環ということらしい


  ルージュ「サンダーはお皿の用意をしてくるかな?ちゃんとキミの分もあるからね」

  サンダー「俺の分も!?やった、やったー!」


 茄子、パプリカや人参を一口大に切って、ひよこ豆とざく切りにしたトマトを加えて
更にケチャップを投入して炒めて、そこにスパイスとしてほんの少しの唐辛子を入れたなんちゃってラタトゥイユ

 食卓に緑が足りないと感じてシンプルながらもご飯に合うほうれん草のソテー、まだ使い切っていないバターで
茸類のしめじ、えのき…それからベーコンとを炒めて[京]に立ち寄った時に買った醤油と黒胡椒を振って
フライパンから皿へと移す


そこに野菜サラダも加えて――――全体的に今日は野菜が多い過ぎたくらいかもしれない、けど…これでいいよねっ


エプロンを外しながら紅き魔術師は心の中でそう呟いた



―――
――



  レッド「ぐかー……ブラッククロスが修学旅行かよ…ムニャムニャ」

  BJ&K(充電中)「…。」




  ルージュ「気持ちよさそうに寝てるなぁ…」



 両手を上げて万歳の態勢で鼾<いびき>をかきながら、ついでに何の夢を見てるのか寝言まで言いながら眠っている仲間
朝食が出来たから起こしに来たのだがこうも熟睡されていると何だか目覚めさせるのに引け目を感じてしまう
 眉を八の字に困った笑みを浮かべつつ彼はレッド少年を起こした


  レッド「んあ?…ふわぁっ、なんだもう朝か?」ゴシゴシ

 ルージュ「そーそー、朝ご飯出来てるよ」


 シャツ一枚にパンツ一丁とラフな格好の少年はまだ重い瞼を擦りながら自分の着替えが入った鞄を漁る
魔術師はカーテンを開けて部屋に日光を取り込み、教わった通りに医療メカの起動スイッチを入れる

 稼働し始めたBJ&Kは人間<ヒューマン>よりも丁重に朝の挨拶を述べて自分でお借りした電源から自身の充電用コードを抜く
メカである彼に女性陣を起しに行ってもらえないかと頼み
まだ寝ぼけ眼で歯ブラシを咥えながら鏡に映った寝ぐせと睨めっこしているレッドに先に戻ってるねと一声掛けて台所へ…


―――
――



   レッド「うめぇ…っ…うめぇじゃねーかっ」ガツガツ

  アセルス「ええ!なんだろう…この優しい味っていうのかな、家庭の味って感じがする」



 外食で味わう旨さとはまた違う、一般家庭の手作りの味…白米もパンもありどちらにも合うようで[シュライク]組はお米
白薔薇姫とサンダー、そして家主のおばさんはパンを手に取っていた、ちなみに術士は気分的に今日は白米派のようで
 副菜のほうれん草ソテーもなんちゃってラタトゥイユも、なにより鍋一杯だったシチューも飛ぶように売れた事が
彼には嬉しかった料理当番冥利に尽きるという奴だ




643以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/12/12(土) 23:57:28.91yXoGn0ku0 (5/5)

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                  短いですが今日はここまで!


          まさか数年の時を経て、サガフロがリマスターされるとは…

      実装されずに終わった8人目主人公ヒューズ編まで搭載されて帰ってきた!!!

アセルスのパーティーにヌサカーン先生が居たりする辺りアセルス編の没イベントもちゃんと没じゃなくて実装されてるッ



 こんなに嬉しいことはない…ッ

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644以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2020/12/14(月) 00:23:22.09yuXxdgBFO (1/1)

投下乙待ってた
リマスターするのか…めちゃくちゃ楽しみだな


645以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/01/24(日) 20:14:30.21FI1jYbhMO (1/1)

リマスターにはシナリオ追加があるとか聞いてちょっと期待している俺がいる


646リマスターおめでとう!!!土日のどっちかで漸く纏まって書く時間できそうなんで1レスだけ2021/04/15(木) 00:19:00.40fn0LG1a/0 (1/1)



  レッド「ふぅ、食った食ったごちそうさん」


 最後にコップ一杯の水を飲みほして満面の笑みを浮かべた少年は栄養補給も完璧だしこれで野良仕事もバッチリだぜ、と
腕捲りして力瘤を作って見せる、そんな明るい彼につられて思わずルージュも噴き出しそうになるのを堪えて
白薔薇姫と共に下膳を手伝うのであった


 「あんた達すまないねぇ、朝食を作ってもらうだけじゃなくてウチの畑仕事まで手伝ってくれるなんて」


 家主の女性がそう言ったのに対して、流し台で皿洗いに従事していたアセルスお嬢は当然のように答える


 アセルス「そんな一晩タダで泊めてもらったんですよ、これくらいのお手伝いは当たり前ですよ」


 「……」


 アセルス「? あのー…どうかされましたか?」


 家主は彼女の言葉を聞いてほんの少しだけ動きが止まった、驚愕も呆れとも違う感情の色が顔に出ていた
不思議に思った少女は固まった相手に思わず問いを投げかける
 問いに対して暫し目を細めて在りし日に想いを馳せるような顔を浮かべた後、家主は言った


 「…あんた達は術の資質を集めてるんだろ?さっきの言い方といい、なんだか亡くなった夫や古い知人を思い出してね」


 無自覚に触れてはいけない所に触れてしまったのだろうか?と半妖少女の顔に影が差し掛けたが直ぐに家主は
別に気にしないでいい、むしろこんな歳を食った女の思い出語りに付き合ってくれないか?と持ち掛けられる
 年長者として年若く見える娘への気遣いか、はたまた単にこの人自身が自分の話を誰かに聞いて欲しかったからなのか
ルージュには一瞬どちらなのか分からなかった



 「ウチの惑星<リージョン>はあんた達も行ってきた通り[杯のカード]が祭ってある祠があって、その手前には沼地がある」


 毎年時期にもよるが[ガイアトード]や[玄武]、そして昨日危うく全滅の危機に陥りかけた[クラーケン]など…
危険種とされるモンスターが大量に繁殖しより良い環境を、より強い力を感じられる場所を、と
 宛ら街灯の明かりに群がる蛾や地面に落ちた溶け掛けのドロップスに群がる蟻が如し
アルカナの祀られたパワースポットに引き寄せられる様にやってきてはそのまま住み着くのだ




 当然ながら近隣住民がその危険性に気付いていない訳もなく、そして調査の結果沼地からは出てこないのだから
此方から積極的に踏み込まない限りは生命の危険性は無いとしてそれほど危険視してはいないのだという



…人間とは次第に慣れていく生物だ、あんなにも人里近くに魔境があるにも関わらずいつしか住民は気に留める事を止めた


 どれほど前の世代から"伝統"と化したのかは知らないが、危険度ランク9相当のバケモンが遊泳する危険地帯を
日常にある当たり前の光景とし、更には男達の腕っぷしを鍛えるちょっとした肝試しの様な物にすらなっているのだという



  「イアン……ウチの亭主も、[杯のカード]を取りに行ったことがあるのさ、当時よくつるんでた3人でね」


 ルージュ「…よくつるんでた3人、といいますと?」


 人生の先輩から思い出話を聞くことになった紅き術士は思った疑問を口にした
いつの間にやら皿を全て洗い終えたアセルスも椅子に座った白薔薇姫やレッドも誰もが真剣に耳を傾けていた


 「亭主のイアンとその親友、ウェントとモンドさんの3人さ…あの頃はあたしも皆、若かった、誰もが夢を持ってたわ」

 「明日自分達がどうなるか、明日どんなことがあるか、先の先のずっと先なんてまったく考えずに走った事だってある」


 齢40を上回って顔に小皺を蓄えた女性の目は懐古の念を追う毎に輝いていた、人間誰しもが持つ煌めいていた時の心
初老を迎えつつある彼女はこの瞬間だけ少女時代に戻って楽し気に語る、いつも大騒ぎして馬鹿な事をやってた3人組を
遠目に眺めている事が好きだった事、ある日[杯のカード]の試練を乗り越えた3人組の内1人がその日の内に告白してきた事

 「丁度あんた達みたいな感じだったのさ血気盛んな若者集団でお人好しでねぇ…試練帰りのズタボロで求婚したり」クスッ



647以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/04/18(日) 22:12:32.93Lirpwszt0 (1/3)


 試練帰りに求婚を申し込んだ男性というのが恐らくは今は亡き彼女の夫イアン氏なのだろう
夫とその友人達は3人で何か大きな事に挑んでいたという事は知っているが具体的に何をどうしようとしたのかまで
子細には知らないのだという…


 ただ一つ、これだけは言える


 妻である彼女が遠目から見てて妬けてしまうくらいには仲が良く、この3人が揃っていれば如何様な苦境も乗り越えると



  レッド「ん~?」

  白薔薇「どうかなされましたか?」



  レッド「いや、"モンド"って名前なんか聞き覚えあるような…なんだったかな?」

  Bj&K「テレビや新聞で載ってましたね、新たに赴任したトリニティの執政官ですよ」



 機械仕掛けの医師が少年のうろ覚えな記憶に解を当てはめる、それを聞いて合点言ったのか両手を叩いて「それだ!」と
レッドは声をあげた、トリニティの中枢がある[マンハッタン]を初め各地を巡るシップに
機関士見習いとして乗っていただけある、社会情勢や政治には疎いが流石に執政官が変わったなんてビックニュースくらい
嫌でも耳にするというものだ



 「そうそう、風の噂には聞いてるよなんでも第七執政官になったとかねぇ…人の人生ってのはどうなるか分らんもんさ」


 同郷の人間がそんな大出世を果たした、喜ばしい話の筈だがどこか家主の言葉は他人事の様に聞こえた
ずっと近くに居た身近な人が遠い雲の上の存在になったようで、未だ信じられないのか
はたまた同姓同名の赤の他人だと思っているのか

いや、後者は無いだろう、口振りからして


 先程まで旦那さんとその友人達(当然モンド氏も含まれる)がよく組んでひたすら夢に向かって奔走した話を
綺麗な宝物でも自慢するように話してくれたのに、…過去のモンド氏ではなく現在のモンド執政官殿に対しては何処か
遠い存在を、名前も顔も知らない別人の事でも語っている感じがしてルージュには分からなくなった

 少なからず交友のあった人なのだろうに、こうも余所余所しいというか…"壁"を感じる言い方…


身近であった過去のモンドと、雲の上の存在になった今のモンド

 家主が語った青春時代の話と成りあがった知古の男性のサクセスストーリーとで温度差があるように感じたのだ



 三文小説でよくある展開だ「あんなにも親しかったのに」と周囲の人が嘆きの声を漏らす場面
幼少からの知り合いだったのに、十数年一度たりとて顔を合わせる機会が無くなり、交友関係が断たれて次第に
関係が希薄になってしまうお話


 ある日とある街角ですれ違ってもお互いに気づかず素通りして終わってしまう日

 声をかけても「すいません、どちら様でしたか?」と言われて終わってしまう時―――そんな切ない人間関係の話だ






…それこそ今しがた彼女が語った"人の人生ってのはどうなるか分らんもん"なのかもしれない


 会話から察するにモンド氏やウェント氏も決して付き合いの悪い間柄では無かったことが窺える、特に前者に関しては
なんなら家主に対して想う所があり、少なからず好意的に接してくる彼を毛嫌う理由がある筈もない


 そんな彼女からしてみれば過去の良い友人は、今や遠くに居る何処か知らない世界の顔も声も思い出せない住人なのだ




人間の縁や絆、そういうのひっくるめてどうなるかなんて分からない





648以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/04/18(日) 22:13:17.53Lirpwszt0 (2/3)


 この話は何もこの人に限った話じゃない、そう…自分達自身にだって言えることだ
だからこそルージュは家主の言葉には色々と感じる所や考えさせられることがある




 人の絆や縁はどうなるかなんてわからない、…もしも、もしも万が一にだが自分が双子の兄を殺したとしてその後
彼や彼女達は身内殺しの自分をいつもと変わらぬ態度で受け入れてくれるだろうか?

 表面上はそうであっても心の奥底では何かしらがあるのではないか?




 例えばありえん話だが、アセルスお嬢が自分の身に宿された妖魔の君の血に蝕まれ、高慢で我欲に走る暴虐の帝となった
そして世の美女を自分の寵姫に変え、全リージョン界を支配せんとしてレッド少年やルージュと敵対したら?

 …世界征服なんて目標を掲げて侵略戦争を始めたら当然こうやって仲良くバカ騒ぎはできないだろうな
世の中には悪の組織を潰そうとする正義のヒーローが実在する、つい最近知り合ったアルカイザーとは敵対するに違いない




 レッドが仇討ちの目標を終えたとして旅を続ける理由が無くなったら、いつまでも自分達の旅路に付き合う必要ある?
紅き魔術師には旅の最終的な目的はあるにはある、祖国から粛清されないように資質を集めつつ兄と対話をする予定だが
対話をしたところでその後どうなるというのだ?殺し合いを避けれるのか?

…百歩譲って避けても[ファシナトゥール]からの逃亡生活を送るアセルス同様に
彼もまた[マジックキングダム]の刺客から逃げ続ける日々が始まるだけではなかろうか?


 そうなってしまったとして本当に何一つ悪くない彼まで波乱万丈な人生につき合わせるのか
今はまだ良い、だが時が経てばやがて人は老いて逃げる力さえも無くなる

 今後の余生をヨボヨボの老人になってまで戦う日々を続けられるのかと真剣に問うたらどうだ?
迷わず彼は首を縦に振るか?理想や情熱、夢…大いに結構、それらは紛れもなく尊い物で何物にも代えがたい


 しかし、現実と理想はいつだって噛み合わない物



 熱に浮かされて勢いだけで夢に突っ走るのもまた人生だが、その後で後悔は無いのか
もっと別の道を選べば"幸せ"も有り得たのではないのかと走る前にほんのちょっぴりで良いから現実を見据えても良い筈









   いつまでもこの関係じゃ居られないかもしれない



 こうして術士と少女と少年、もちろん貴婦人や機械医師も一緒だが馬鹿騒ぎして笑って大冒険して…


 そんな関係が永遠と続けられるかと問われれば、そうもいかない…いつかは関係も今とは変わった物になるだろう




 ただ、願わくば関係や立場が変わっても交友だけは、絆だけは変えたくない…

偉い人になってもならなくても、いつもの様に変わらない集まり、いつもの日常会話、偶に喧嘩なんかもして笑って―――




  ふと、家主の語りを聴いていたルージュは自分の中に沸々とそんな沢山の考えが浮かんでいる事に気が付いた



  白薔薇「ルージュさん、随分と難しい顔をなされてますが…」

 ルージュ「あっ、いや…ちょっとね」




649続きは22日頃に2021/04/18(日) 22:15:09.53Lirpwszt0 (3/3)


  レッド「おいおい、本当に大丈夫かよ?この後お前も俺と畑仕事やるんだぞ」

 ルージュ「あぁ、本当になんでもないんだ」

 俺が全部やるからお前は休んでても良いんだぞ?と気遣ってくれる親友になんでもないと笑いかける
流石にサンダーが居るとはいえ全部任せて自分だけ休むのは気が引けるし、年上の男として矜持ってのがある
 "年下の少年<レッド>"に任せていては自分のなけなしの誇りに傷が付くってもんだ

―――
――


  レッド「ふぅー、こりゃあ思ったよりキツイかもな…畑仕事ってのは腰に来るぜ」ザック!ザック!

 サンダー「そっスよねぇ、最近畑を拡張したもんだからノルマがきつくて…」


 どこぞの鉱夫みたいな台詞をぼやきながらサンダーが、鍬を持ったままレッドが手拭で汗を拭きながら青空を見上げる
[ヨークランド]の空は本日も晴天なり、収穫物で重くなったずた袋を荷車に乗せてルージュも農家の偉大さを知った


 ルージュ「はは…でもさ、しんどいけど…結構面白いかもねこの仕事」

 ルージュ「…。」


 ルージュ「ねぇ!レッド」

  レッド「ん?なんだよ」


 ルージュ「レッドはさ、組織を倒せたらその後どうするの?」



 唐突に、聞いてみたくなった。




  レッド「はぁ?突然どうしたんだよ」
 ルージュ「いいから!」



  レッド「どうったって、そうだな…正直そんなこと考えた事ねーんだよな」ポリポリ

 ルージュ「考えた事が、ない?」


  レッド「だってそうじゃねぇか、考えたってそん時そん時で考えた通りに100%なる保証が無いからな
                            なんでも事前に分かっちまったらそんなの預言者だ」

  レッド「そりゃある程度は未来予想図みてーなのは立てるかもしれねぇけど少しずつ想定図には"横槍"が入るさ」

  レッド「ブラッククロスをぶっ潰すっつー俺の人生計画には少なくとも
        アセルス姉ちゃんやお前と会って旅する予定は本来無かったんだぜ?でも今こうして旅してるだろ?」


  レッド「なんつーか、俺も難しい事は言えねぇけど臨機応変(?)って言葉があるだろ?
           目標に向かって歩いてる内にそれが終わったらやりたい別な目標が道中で出来るかもしれない」

  レッド「そんなのはその時にならないと分からない、人生ってのはそういうもんじゃねぇか?」

 ルージュ「…でも、ずーっと先で『あぁ、あの時慎重に考えればコレは回避できたかも』っていう嫌な事があったら?」


  レッド「う~ん…そうだな、こいつぁ俺の持論になっちまうからお前には当て嵌まらないかもしれんが」ポリポリ

  レッド「起きた事を悔やむとかよりは、その時で次に何をすべきかを考えるかなぁ
        過去の俺が別の選択をすれば今よりは良くなった場合ってのはあるかもしれねぇけど、でもよ」




  レッド「その時の俺自身は間違いなく"これが正しい"って信じて突き進んだ選択な訳じゃねーか、だったら…よ」


  レッド「悔みはしても、"間違った"とは思いたくねぇな、その時の俺がその時で考えられるベストを出したんだぜ?」



  レッド「良い事も悪かった事も全部俺の人生なんだ、なら全部受け入れて前に突っ切るっきゃねぇさって話だ」ハハッ!



650以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/04/20(火) 18:05:02.63ZqIYzG6Bo (1/1)


考えすぎて自縄自縛になりやすいルージュはもう少しレッドを見習って肩の力を抜いたほうがいいということなんだな

それはそれとしてリマスターすごいいい出来でマジファンなら買って損はないすごい
みんな買おう(迫真)


651以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/04/22(木) 15:01:07.23kPTXPL490 (1/5)



 十人十色、人間が10人そこに居れば思想や物事に対する捉え方もまた皆それぞれに違う
"紅"の前に立つ"赤"は確かに考え方が違うようだった、自分には無い考え方だ、純粋に思った


  ルージュ「…。」ポカーン


 呆気、ただ眼を丸くして立ち尽くす術士にレッドは眉を顰めた、何かそんなに変な事言っただろうか?
とりあえず無反応な彼の名前を呼んでみる


  レッド「あー、ルージュ聞いてたか?」

 ルージュ「ハッ!?……う、うん、にしても――――なんだよソレ要は行き当たりばったりって事じゃないか」フフッ

  レッド「あっ!?人が真剣に語ったってのに笑ったなこんにゃろう!」

 ルージュ「だって君らしいっちゃ君らしいんだもん!」ケラケラ



 苦笑しつつ、大袈裟に両手を広げて肩を竦めてみせる、少年もそんな術士の肩をポカポカと軽く冗談めかして小突く


  レッド「このこの!こいつめっ!」ポカポカ

 ルージュ「いててっ、あはは!降参降参!悪かったってば」ケラケラ





  レッド「まったく…」

 ルージュ「…はははっ」






  レッド「…。」

  レッド「なぁ、ルージュさっきも言ったけどな人生なんてのはどうなるかなんて誰にもわかんねぇんだ」


  レッド「最初っから後ろ向きに考えてても仕方がないんだと思う」







  レッド「その、お前のアニキのこと…とかさ」

 ルージュ「…うん」



 風が一陣吹いた、[ヨークランド]の香草の匂いと砂を含んだ乾いた風が野良仕事で汗をかいた身体には心地良かった
手にしていた鍬を肩に担いでレッドは何処までも続いてる遥かな青空を見上げた





  レッド「昨晩はさ、お前がいきなり重たい話をし出すから酔いが一瞬すっ飛んだぞ」

 ルージュ「ははっ、面目ない…」







 ルージュ御一行は[杯のカード]の試練を突破して家主の家に一晩お世話になることになった
…紅き術士は覚悟を決めていた[ワカツ]でゲンとも話をして決断していたんだ、アセルスや白薔薇にも打ち明けた様に


 ―――親友に、レッドに自分は身内<実の兄>を殺すという祖国の勅命を受けて旅を始めたのだとッッ…!!



652以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/04/22(木) 15:01:34.94kPTXPL490 (2/5)



 祖国たる魔法王国は原則として自国民に他国への外遊を禁じている、他所の惑星<リージョン>から見れば変な国家だな、と
誰しもが思う、理由を聞いても宗教上の掟がどうだとそんなことばかりで観光客は首を傾げるばかりであった
―――今にして思えばある種の情報統制だったのかもしれない


 …別に他国からの訪問者を拒むなど鎖国しているわけではない、寧ろウェルカムオープンなまであって
ショップで[魔術]を購入できたり、自国製の[ルーンソード]や[術酒]など特産品だって普通に販売している



 要は誰も困らないし、その国特有の宗教上の掟だからと言われれば「ああ、そうなんですね」の一言で済む



 だから誰も魔法王国の"暗部"については知らない、知る由もない




 まさか毎年卒業式を迎えた学生がこんな物騒な慣例やってるなんて普通の生活してる普通の一般人は知ってる訳がない
術関係者や国事情に詳しいトリニティ政府高官が良い所だろう






 必然、[シュライク]の一般的な家庭で生まれ育ったレッドにとっては耳を疑うような話だった




 少年はまだ術士の脳が酒に冒されていて、これは…そう!きっと悪酔いの延長で出た質<タチ>の悪い冗句だろう!と
そう思いたかった、だが悲しいかな嫌に全否定できない証拠が少年の記憶にはあるのだ






         - ブルー『貴様の名前が気に喰わん』 -





 先日、自分が働いていた職場に親友になった術士と瓜二つの顔した人間が居たのだ…っ!


双子同士で殺し合う、あながち酔った勢いで口から飛び出した出鱈目な妄想話と切り捨てられるモンじゃない








   レッド「あいつが…そうだったんだろうな」

  ルージュ「僕も、君から聞かされて驚いたよ偶然同じ船に乗り合わせてたんだって」



 術士はまだ見ぬ兄の事を当然レッドに問うた、どんな顔をしてたのか、やっぱり同じなのか
どんな声だったのか、どんな術を使う人なのか、どんな服装だったのか、やっぱり同じなのか




――――…自分<弟>を、どんな風に思っていたのか



 気づけばルージュは両肩を掴んで激しく揺さぶって問い詰めていた、僅かな邂逅であった上に非協力的で
そんなに身の上話をしてくれた訳じゃないんだから解らないと引き剥がされて
 それから…揺さぶったり質問責めしてごめん、とだけ謝罪したのは記憶に新しい



   レッド「お前は殺し合いじゃなくて会話がしたいんだろ?…なら、今は頭空っぽにしてそれだけ考えればいいさ」




653以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/04/22(木) 15:02:36.09kPTXPL490 (3/5)



   レッド「先の事なんてわからねぇ、でもお前自身はやりたいことが決まってるんだ」

   レッド「『自分の兄弟と会って話をする』ってな!」


   レッド「ならそれだけを"今の"最終目標にしてればそれでいいさ、そん先の事はそん時に考えればいい」

  ルージュ「…。」

   レッド「話し合った後で事が起きたんなら、…そん時に逃げたければ逃げたっていい、戦えるなら戦う」



   レッド「おっと、勘違いするなよ?戦うっても殺すんじゃねぇ
            蹴ったり殴ったりしてボコボコにしてふん縛って、その後で向こうが折れるまで説得する」





 説得だって立派な戦いだぜ?と少年は笑ってみせる


 魔術士は心の底から思った、嗚呼…打ち明けて良かった


真直に自分の運命についてどうすればいいのか、途中から話声が聞こえたと部屋に入ってきたアセルスや白薔薇姫を含めて
4人(…あとメカ1機も入れて)は夜遅くまでああでもない、こうでもないと語り合った



 祖国から命令されたから"戦う=殺す"という考え方がどうにも定着していた…



 固定概念に囚われない考え方というのは大事な物で、三人寄らば文殊の知恵というのもまた真理なのだろう
アセルス、白薔薇、レッドの三人(それとBJ&K)は教えてくれた



 別にブルーを絶対的に殺す必要性が無い



 話し合った結果、和解に失敗して相手が一方的に襲ってきたのであれば当然こちらも戦いはする
然して相手を絶命させる為の武力行使ではない、相手から武器を取り上げ術を使用不可能にして無力化させてやればいい



 当然ながら祖国からの刺客だとかブルー自身が無力化から立ち直って再び襲ってくる等々、根本的な解決策ではないけど
それでも家族を、唯一の肉親を自らの手で殺めずに済むかもしれないのだ




  - ルージュ独りでは決して辿り着けなかったかもしれない、たった一つの冴えたやり方 -



 …100%成功するなんて保証は誰にもできない、力加減を間違えば最悪の展開が起こりうるし逆に力不足であるならば
それすらも成し得ない可能性もある、極めて細い小さな糸口、だけど今この段階で彼ら彼女らが考え得る最適解の解決口



 気乗りしない術の資質集めも、【殺す為】ではなく『無力化する為、自衛の為』と考えて取り組めば幾分も気は楽になる


  ルージュ「そう…だね、そうだよね」

   レッド「ああ、そうさ」









 アセルス「おーい!!三人ともーっ、お昼のお弁当持ってきたよーっ」手フリフリ

  白薔薇「アセルス様、走っては転びますよ」



654以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/04/22(木) 15:03:23.86kPTXPL490 (4/5)


 ランチボックスを引っ提げて緑髪の少女と妖魔の貴婦人がこちらにやってくる
それを見て腹の虫が鳴り始めた[オーガ]種と少年はガッツポーズを取る


   サンダー「お昼ご飯だー!やったー!やったー!」バンザーイ

    レッド「へへっ!待ちくたびれちまったぜ!働いた分しっかり食わねぇとな!」



 女性陣がピクニックシートを[ヨークランド]の芝生の上に敷き準備をしている間に
野良仕事用の軍手を外して近くの水場で手を洗ってくる、戻ってきた時には豪華なお昼御飯がシートの上には陳列していた



    レッド「うめぇぇ!!やっぱり握り飯はこういう青空の下で食うもんだよなぁ…」

   アセルス「あっ、分かる!私も小学校の行事で古墳近くまで遠足に行って――そこで食べたおにぎりが美味しくて」

    レッド「学校行事かぁ、そういやそうだったな~、そういや俺がガキん時は姉ちゃんが手製の弁当を―――」



   白薔薇「ルージュさん何かいいことでもありましたか?」


 ライスボールを片手に晴れやかな顔をしている紅き術士に貴婦人は尋ねた

…先程まで暗い気持ちだった術士はもう居ない、陰鬱な悩みは霧がごとく四散して[ヨークランド]の空の彼方に消えていた




  ルージュ「いいことですか、確かにありました」


  ルージュ「白薔薇さん、僕は…貴女達に、皆に会えて本当に良かったって改めて思えたんです」



  ルージュ「アセルスや貴女に、エミリアさんやヒューズさん達、レッドやゲンさん達とも…」


  ルージュ「[マジックキングダム]の外に出て、出逢って、知れて、色んな事を教えてもらって―――」


  ルージュ「きっと僕一人じゃ色んな物に圧し潰されてたかもしれない」






  ルージュ「皆が居たから、ここまで来れた、双子の兄をもしかしたら殺さなくても済む手立てにも気づけたんです」



   白薔薇「ルージュさん…」


  ルージュ「皆それぞれ旅の目的があって、今は道中が一緒だから旅路を共にできる」

  ルージュ「先の事なんてわからないけれど、今こうして居られるこの時が、この瞬間が、この時間が」


  ルージュ「何気ない"今"が幸せなんだって思ったんです」

   白薔薇「ふふっ、今ここにあることこそが幸福ですか、確かにそうかもしれませんわね」クスッ

   白薔薇「どう転ぶか分らず不確定な未来よりも実感できる幸せがあり、それを手にしている、確約された幸せな今」


  ルージュ「ええ、…感謝してもしきれませんよ、こんなにも心が晴れ晴れとしていて」


   白薔薇「そういう事、ずっと続くと良いですよね」

  ルージュ「はいっ!」


ずっと続けばいい、ずーっと、ずーーっと続いて欲しい、ルージュは自分が刹那に見出した幸福論を切に願った――――





655次、土日のどちらか2021/04/22(木) 15:04:30.87kPTXPL490 (5/5)

************************************




            今回は此処まで!



           ※ - 第5章 - ※



   ~ 資質を得る、という事…② 今ここにある幸福論と旅路 ~


                              ~ 完 ~

************************************


656以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/04/28(水) 08:03:23.45NyBaG+MBO (1/1)


リマスターで追加されたヒューズ編には各主人公毎のIFストーリーがあってその中にはブルー編だけじゃなくルージュ編もあるらしいね


657速報復活したようですね!!これ含めての導入部2レスだけですが…置いておきます、続きは日曜日2021/04/30(金) 02:55:53.583OMBWUHI0 (1/2)







           ※ - 第6章 - ※



        ~ 蒼月に祈りを、暁月に誓いを ~






658以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/04/30(金) 02:56:24.743OMBWUHI0 (2/2)



 その日は、一際暑い一日だった


 暑月特有の気温とは裏腹に見上げた蒼穹は涼々とした印象を受けた
あの大空は海原で流れる雲は漣<さざなみ>なのではなかろうか差し詰め飛んでく練雲雀は鴎か
 天地がもしもひっくり返るのなら…、空を地として海を仰ぐ
そんな馬鹿げた空想を浮かべて暑気払いを試みるが効果など知れたことだった



 石畳をじんわりと焼く強い日差しは遠く浮かぶ夏空に聳え立つ山が如し積乱雲を創り出す
手を繋いだ仲の良さそうな少年二人が入道雲の頂を眺めていた



 暑い中、二人のよく似た少年…整った顔立ちと長く伸びた髪から少女にも見えたかもしれない





 無限の広がりと可能性を秘め、また限界という言葉を知らぬは若気の特権で

 蒼を身に纏った金髪と、紅を身に纏った銀髪が空想の世界を空に描いていた





 【こうやって両腕を横に伸ばしてさ、お空だけを唯見上げながら走るんだ】

 『前を見ないと危ないぞ、転ぶかもしれないだろ?』



 【こうしてると僕もなんだか鳥やお魚になったみたいであの青の中を――――わわっ!?』

 『だから危ないって言っただろう?もう少しで人にぶつかる所だったぞ?』


 【てへへ…ごめんごめん、でもさ楽しいんだもん、あの空だけを見上げて自由になれてるもん】

 『…確かに楽しいな、でも空だけ見てて前を見ないと躓いたり、転んだりぶつかったり』



 【前を見るのも大事かぁ…】

 『そうさ、大事なんだ』





 【あっ、いいこと閃いたよ!!なら二人でお互いに前と上を"代わり番こ"に見ればいいんだよ】

 『変わり番こ?二人でか?』

 【片方がお空を見て、もう片方が前を見てお互いに助け合うの!時間になったら交代だよ!】

 『…なるほど、前を見て危険が無いかを確認して同時に時計の方も見ておけば代われるか』

 【うんうん!今まで僕がお空をびゅーんっ!ってしてたから次はキミの番!楽しいからやってみなよ】

 『…こ、こうか?こんな風に腕を広げて』



 【そうそう!鳥さんとかになったみたいで何だか楽しい気分でしょ?】

 『うーむ、確かに』

 【キミが前に図書館の本で見たっていうお菓子とおもちゃだらけでお馬さんの王様が居る世界見えるかもよ】

 『むぅ…見えるだろうか、…そっちは人にぶつからないように知らせてくれよ?あと交代の時間』

 【おっとっと、そうだった、…わぁ!!あの時計屋さんたくさん時計が並んでる!!あの砂時計いいなぁ】

 『…おい、真面目にやってくれよ』

―――
――



659以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/02(日) 22:36:02.422L6pWzyP0 (1/5)













パチッ…


         …今何時だ? 【15時36分】…いかんな軽い仮眠を取るつもりが思ったより深い眠りに落ちていた








[バカラ]騒動の疲れが抜けきっていなかったのとアニーからの剣術指南がそこそこにハードだったのもあるな






ジョーカーとやらの一件が終わるまでは午後4時から10時までの営業時間


6時間の合間だがやるからにはキッチリと仕事はこなさなくてはな






身支度を整えて店の方へ向かうとするか…







660※ 昨晩(>>637)の回想2021/05/02(日) 22:39:01.342L6pWzyP0 (2/5)


【双子が旅立って8日目 午後 15時49分】


 蒼の術士がエプロンを着用して厨房に入ろうとしたところで肩を掴まれ引き留められた
無言で掴まれた為、最初それが誰であったのか気付かずエミリアかアニー辺りだろうと勘繰って振り返ればそこには――




     リュート「よっ!相棒、可愛いピンクのエプロン着てんな!」ナッハッハ!




 ゴベシャッ!!


 …う~ん、ナイスヒットだな、我ながら今のは百点満点と言わざるを得ない素晴らしい[裏拳]だった
なんで開店前のイタ飯屋の厨房に入り込んでんだ貴様とか、色々喉から声が出るより先に拳が出た
腕に蚊が止まってたのを見て反射的に叩き潰すのと同じくらいの間隔で[パンチ]を繰り出そうとしたら
流れる様に[裏拳]になった、脳裏に光る豆電球まで過った




    ブルー「なんで開店前のイタ飯屋の厨房に入り込んでんだ貴様、部外者だろうが」

   リュート「ほ、ほはへ…いひひゃひひへぇじゃへぇは!!」
       (訳:お、おまえ…いきなりひでぇじゃねぇか!!)



 拳に遅れて漸く言いたかった言葉が出た、だらだらと鼻血が流れる鼻っ面を抑えながら何かプー太郎が言ってる
床に垂れた鼻血は何処から持ってきたのか濡れた雑巾でスライムが忙しなく拭いてくれている、飲食店は清潔が大事っ!


   リュート「あ~…ったく、お前やっぱり話聞いてなかったんじゃねぇかよ」

   スライム「ぶくぶー…('ω')」


    ブルー「? なんの話だ」



   リュート「いや、何って今日丸一日お前レンタルするぞって話だよ…」






                ブルー「は?」






   エミリア「あっ、リュートじゃん!もう来たんだ」トテトテ

   リュート「おーっすエミリア~!相棒を引き取りに来たぜ」


    ブルー「待て待て待て!!いやちょっと待て!本当に何の話だ!?俺は知らんぞ!!」


   エミリア「えっ、昨日[クーロン]から帰ってきた時に話し合ってブルーに許可取ったらいいぞって言ったわよ?」



    ブルー「意味が解らんぞ!?俺が今日丸一日このニートと行動するだと!?しかも俺が許可を出した覚えなぞ…」


―――
――


      -早くイタ飯屋に帰って自分に割り当てられた部屋のベッドで泥の様に眠りたい -
      -後ろで仲間達がなんか言ってるが、適当に空返事だけしながら彼はヨロヨロと帰路に着いた-

       - リュート『ありゃりゃ…ブルーの奴行っちまったよ、アイツ話聞いてたのかね?』-




661以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/02(日) 22:40:08.102L6pWzyP0 (3/5)



      -後ろで仲間達がなんか言ってるが、適当に空返事だけしながら彼はヨロヨロと帰路に着いた-

      - 【後ろで仲間達がなんか言ってるが、適当に空返事だけしながら】 彼はヨロヨロと帰路に着いた-





 言葉に、ならない


 覚えなぞない!そう主張しようとして言葉を固唾と共に飲み込んだ
心労を抱えるとどうしても人間は集中力が途切れ思考もおざなりになってしまう、情報処理能力の低下それに伴う視野狭窄
 一晩経って余裕が出始めた頃で振り返ってみればハッと気が付くのだ、何故あのような事を口走ったのかと


 嫌な汗がタラリと伝う、言葉に詰まったということは言ってしまえば心当たりがあるということで…
当然ながら馬鹿だが処世術だけは一級の無職が動揺から生まれた一瞬の隙を見逃す訳もなく



  リュート「なぁんだ、お前ちゃんと覚えてんじゃんかよぉ~」ガシッ

   ブルー「ハッ!馬鹿やめろ肩を組むな!!俺は今から―――そう!店員だ!店員としてここでの仕事が――」



  エミリア「あら、大丈夫よ?全部ライザ達に話したら快くOK貰ったもの」



 何してくれてんだこの女ァ!!とブロンド美女を睨みつける、…そういえば自分が寝台で横になった辺りで
イタ飯屋に遅れて帰ってきたエミリアの声が響いたなと自分の嫌に冷静な部分が分析する
 恐らくあの後彼女がグラサンの指導者を囲んで私刑にしてた女性陣にも事を話していたのだろうな


  エミリア「リュートの提案はグラディウスにとっても益になるってあの後ルーファスが横から口出して来たのよ…」


 文句の一つでも言いたそうな不満げな顔で美女はそう呟く
黙って話を聞いてみれば万年無職が今回持ち掛けてきた話は割と真面目な話らしい…



    リュート「いっぺん[ワカツ]に行ってみようと思ってさ、戦力的にもお前が必要なんだって頼むよぉ~」



 さて、ブルーは昨晩話半分にしか聞いておらず、空返事で適当に返していたのもありイマイチ話の全容がわからず仕舞い
なので本筋をここで語ろう…



 昨晩、双子が旅立った7日目の23時に差し掛かろうという所でリュートは前々から考えていたことがあった
それは以前、ブロンド美女と蒼き魔術師が共に飲みに行った[ネルソン]での一件だ

 リュートの父親イアン氏と現トリニティ執政官に成り上がったモンド氏の件である


 気高い理想を胸に立ち上がった若き3人の革命家、その1人だったモンド氏が活動に限界を感じて"外"からではなく
"内"に入り込んで政府のやり方を変えようと動いて数十年

 当初の気高い理念すら忘れてしまいそうな莫大な権力を前にして野心家と変わり果てて政府の転覆を密かに狙っている
そんな話をリュートは[ネルソン]の"艦長"から聞かされた



 全く知らない仲ではなく、地元から旅立つ折に軍船に乗せて[マンハッタン]に降ろしてもらった等の恩義がある
何よりも死んでしまった父親の友人だというのだ、そんな人と討つ気にはどうにもならない


 …どうにもならないが、同時にこうも想う、「父ちゃんの友人だった人にそんなことさせていいのか?」と


 政府の転覆ともなれば秩序の破壊、それに伴う法治または経済活動の麻痺など社会的な混乱も大きい筈だ
仮に、仮にの話だが父が生きていたとしてそれを良しとするのか?




―――父親の親友だった人にそんなことはして欲しくない、リュート個人の考え方としてはこうだった




662以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/02(日) 22:41:11.682L6pWzyP0 (4/5)



 リージョン界の統括行政機関を転覆させる気なのだからそれなりに規模の大きな秘密基地があって然るべきだ
噂としてこれは有名だが[ワカツ]がトリニティ政府に爆撃されたのは実はモンド執政官の工作があり
 廃墟とかしたあの"惑星<リージョン>"の何処かに秘密基地が存在するとその筋では囁かれているのだ



 攻め込む訳じゃない、ただ…そう!これはただ調べに行くだけだ!そんな物はもしかしたら根も葉もない噂で嘘っぱち!



 それを証明するための調査になるかもしれない!!そんな淡い期待ももしかしたらあったのかもしれない
だから[ワカツ]に行ってみたいと弦楽器の名を冠する彼は考えた

 当然ながら戦力は居る、万が一に…噂が、―――噂が本当だったのだとして囲まれて逃げ場が無くなってしまった時
保険として[ゲート]が使えるブルーに同行して貰いたいという話だったのだ


 エミリア経由で話を聞かされたルーファスも、右腕を務めるライザもコレには快く承諾
元よりモンド氏とは因縁がある、執政官に成り上がってくる前の警察組織のトップだった頃モンド氏は敏腕を振るい
グラディウスの面々を窮地に追いやる事も多々あった、下手に腰の重い政府組織じゃない市井の分、苛烈を極めたらしい



…それだけでも何かと縁があるお相手で、政府の転覆を狙う反乱分子だ

 グラディウスとしても警戒はする、動向を探る事自体にも意味がある
[ネルソン]の"噂の艦長"殿と太いパイプを持つのも吝かではないという話だ








   ブルー「…俺には、まったく関係の無い話ではないか」ムスッ



 未だ拘束された術士にとっては憤慨モノだ、自分は関係ないじゃないか!仏頂面がそう物語る


 リュート個人と彼の父親の因縁、グラディウスにとっての益、もっと広義に渡って拡大解釈するのであれば
全リージョン界に暮らす者にとっても無関係とは言い切れないが
 魔術師にとっては勝手にやってろと悪態も吐きたい所であった、彼にとっては利となる物が何もない


   アニー「行ってやればいいじゃないのケチ臭いわねぇ」テクテク…


 渋る術士を見兼ねてか此方に近づいてきた黄金色の髪が声をかける、その後ろからサングラスを掛けた男性が続ける


 ルーファス「[ワカツ]は嘗て剣豪達の手によって栄えた地だ、キミは[剣技]を鍛えているのだろう?」

 ルーファス「"倒すべき者"が居るのであればより強力な力、技術が必要となる良き経験になるのではないかね」


   ブルー「むぅ…」


 …彼らは自分を巧い事言いくるめて利用しようとしているのだとは分かり切っている、分かってはいるのだが
言ってる事自体には然程間違いがない、ルージュを抹殺する為に術と技を磨いている身としては一理ある
 予定ではあるが自分は[ルミナス]で[陽術]の資質を得ようと考えている
高位の術には[光の剣]なる物が存在していて、卓越された剣術家が振るう事で何者をも切り裂けるという
光り輝く魔法剣を召喚する術だ


 折角得た術も使いこなせないのであれば意味がない、究極の魔法剣を召喚できても持っているのがド素人では
精々がちょっと[ディフレクト]できて身体の動きがよくなる程度でその辺の[ボーイナイフ]と変わらん



 [体術]しかできない奴が銃を持っても腐らせるし、剣しか握る気のない奴が資質を得ても使わんのなら無意味でしかない



    ブルー「…言い分は、理解したが、肝心の[ワカツ]にどうやって向かうというのだ?」


[ゲート]の術は一度行った事のある場所にしか飛べないのだぞ?と険しい顔をする魔術師に
無職の男は然も待ってました!と謂わんばかりの笑みを浮かべた



663続きは水曜日2021/05/02(日) 22:42:35.182L6pWzyP0 (5/5)



   リュート「へへっ!だよなぁ~!そこが肝心で無理って思うよなァ、けど日頃の行いって奴だぜ!」ドヤァ

    ブルー「勿体ぶってないでさっさっと言え」イラッ



   リュート「んんっ!ごほん!……実はな、一昨日の夜、ほら?お前のイタ飯屋就職パーティーやっただろ?」


 未だに職に就けない無職が一昨日の華やかな記憶を語り始める
日付も変わりかける頃合いまでドンチャン騒ぎのイタ飯屋でほぼ全員が大の字になって酔い潰れる中
比較的に酒に強いリュートは店を出て帰路に着く、するとどうだろうか
ネオン煌めく飲み屋の屋台で自分と同じく飲んだっくれて看板を抱いて寝てる男がいた

 頭にハチマキ巻いてシャツ一枚に、その周りに見覚えのあるスクラップで作ったボディ―――と周りに新顔のメカ複数
指輪騒動で大冒険を共にしたクーン等と少しの間リュートは[スクラップ]にてその男と共闘したのだッ!!


  リュート「[ワカツ]の剣豪、ゲンさんに再会してさ、いや~人の縁<えにし>ってのはどこでどうなるやらだ」

  リュート「こんな所でなにしてんのか聞いたらT-260の記憶を探る手掛かりの場所に潜るのに戦力が必要でな?
          なんかこの街のどっかに新顔のメカ―――レオナルドさん?だっけ―その人の知り合いが居るって」




  ルーファス「…。」


 少し見なかった間にゲンとT-260の間に新顔が3人、…否、3機居たそうだ
[シュライク]の製作所で知り合ったメカ修理担当の特殊工作車と同製作所で作られたらしいナカジマ零式とやら
 そして、見た事も無い"型番<タイプ>"のメカ、レオナルドという新人が居た…一応は特殊工作車と同じタイプ6だが
それにしては妙に人型で変わっている


 何れにしても[クーロン]に戦力となりうるメカが居るからそれをスカウトに来たと






 サングラスの男性にはその名前に聞き覚えがあった

 裏社会の情報網は伊達じゃない、今回のモンド氏が起こした事件は[ワカツ]だけではない数日前に[マンハッタン]で
テロリストによるビルの爆破があったが外部勢力の仕業に見せかけた内部の抗争だ


 モンド執政官がトリニティ政府の邪魔な勢力を排除するに当たって裏でテロを起させ、そのとばっちりで
レオナルド博士は亡くなったのだから…


…何の因果か、モンドによって滅ぼされた"惑星<リージョン>"の生き残りが同じくモンドの策動の犠牲者と行動している



 それは置いておいて、この情報が入ってきた時ルーファスは焦りを感じた、何故なら対ジョーカー包囲網の対規模作戦で
使用する予定の火器に関しては["さる秘密の横流し店"]をあてにしているからだ

 犯罪都市の裏通りにトリニティ政府からの横流し品を売る違法店がある、法外な値段だが破壊力は折り紙付きの重火器
それを売り払うメカが居て、グラディウスも彼には中々"御懇意"にさせてもらっているのだ


 重火器の利点はライザやアニーの様に身体を鍛えていない、それこそ初期のエミリアよりも身体能力が劣る一般人でも
連携を組むことで強者を撃破することが可能になることだ
 そんな物を売ってくれる店の店主がジョーカーとの決戦を控えた重大な局面でよりにもよってポッと出の集団に横から
スカウトされるかもしれないのだから頭痛もしてくる



 だからこの転がり込んできた"伝手"は渡りに船、畑に翠雨が如しだ




 知ってる間柄のリュートからゲン達へのモンドの一件を交えたアプローチ、"店主の恩人"であるレオナルドとのコネで
可及可能な限り店を畳まれる前にあらゆる重火器を貰えないか?という算段をルーファスは立てた

 グラディウスの今後の為にもコレは必要な事で、こちらからエミリアとアニーを派遣するとして
組織の部外者だが実力もありリージョンを自由に行き来する[ゲート]の術が使えるブルーも巻き込めるなら是非もない

 早い話が使える者はなんでも使おうという腹積もりなのだ



664以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/05(水) 04:57:19.82H9cv8V7D0 (1/1)

最近リマスター漬けでサガフロ熱高まってたところにこれはいいスレを見つけた
とても面白くて一気読みしました


665以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/05(水) 23:30:12.97U1gqCs3B0 (1/4)


 少考、自分にとって利と損の比率をまず考える

 剣豪が住んでいた亡国ともすればこの街のマンホール下で売られている[刀]よりは切れ味のいい業物が拾えそうではある
墓荒らし紛いな行い自体に嫌悪が無いと言えば嘘になるのだが自分はそう遠くない未来で己と瓜二つの顔をした男と死合う
 我が身の為、自分が生のチケットを手にする為にも勝率は上げたい


 武具の類も然ることながら間近で[ワカツ]の剣術とやらを見れるのも良い、人間が磨き上げてきた技術の髄の一端だ
祖国が誇る魔術とは異なるがソレも確かに人間が長い歴史の中で手ずから鍛え蓄え築き上げてきた…そんな至高の文化だ


 身に着けたい戦闘術としても学術的な観点からみた歴史的な遺物としてもお目には掛かってみたいという所は正直あった



 損があるとすれば自分には関係が無い点だ

 別に[秘術]の資質を得ようとしているわけではない、しかもエミリアからの話だと
ルージュの同行者が[金]をいくつか持ってるから[印術]よりは[秘術]の方を選択しようとしてる傾向にあるらしい
 尚更、カード集めをやる気になどなれない

 次に"敵"と出くわした際の場合だ…







    ブルー「…ひとつ、確認を取りたい」


   リュート「おろ?」

  ルーファス「なんだね」




  ブルー「話を一通り確認させてもらったが、[ワカツ]に行きそこでモンドとやらの基地があるかどうかの"調査"」

  ブルー「それがお前の目的であり、基地に直接侵入して政府の転覆を狙う…いや狙えるだけの勢力を倒す、ではない」

  ブルー「認識としてはソレで合っているのだな?」




 "敵"…モンドとかいうトリニティの執政官が隠し持つ私兵や基地兵器の類と殴り合う、そういう場合だ

 自惚れのつもりはないが自分は戦える人間だと自負している、しかしながら相手の規模が規模だ
祖国の命令でもなく自分の生死が直接関わる案件でもない、全く以て無関係な立場の自分がゴタゴタに巻き込まれて
要らんことに不必要な労力を注ぐ、というのは聊か割に合わんと思わないだろうか?


 あくまで"調査"が主目的であり、…"敵の総大将<モンド>"の首を撥ねてこい、というのではないな?と念を押して訊く



   リュート「ああ、本当にそんなもんがあるか調べるだけだぜ、ヤバくなったら逃げたっていいさ」

  ルーファス「キミは部外者だからな、いざとなれば[ゲート]の術で撤退するのは当たり前の権利だ」


 なるほど、部外者だから逃げるのは当たり前の権利、か…、「その割には俺をやたら行かせたがっているようだが?」と
サングラスの男を薄目で睨んでやればこの男「キミの経験になるだろうというのは嘘ではない、キミの為を思ってだ」って
いけしゃあしゃあと正論でも言うかの如く何でもない顔して言い切ったのだ、よくもまぁ口の回る



  ルーファス「ああ、言い忘れていたが臨時給金は出そう本来なら閉店時間までウェイターとして働いてもらった筈だ」

  ルーファス「一応は当店からの派遣、出先での買い出し等の雑務に従事してもらう体になるのでね、有給もつける」


    ブルー「むぅ…」



 臨時給金、蒼き魔術師はクレジットには今の所困ってはいないが有給という言葉には惹かれた
皿洗いだの注文取りなんぞに時間を浪費せずに術の修行や読書に割ける時間ができるというのは魅力的だったから
 元々住み込みアルバイトになった経緯も感情任せでエミリアに掴みかかった事からの…まぁ懲罰みたいなモンだった
望んでイタ飯屋の店員になった訳ではない



666以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/05(水) 23:30:58.49U1gqCs3B0 (2/4)



 自分がやるのは簡単なお使い、危険地帯となっている[ワカツ]には赴くが腕利き戦士が最低でも3人以上はつく
無論自分も多少の戦闘行為に参加する可能性はあるがこちら側の人数規模からして負担も小さい
 敵の総大将とは戦わない、危険を感じたら直ぐに撤退が可能で周りが勝手に特攻し出したら我関せずでそそくさと
モンドに突撃噛まそうとしてる同行者を有無を言わさず見捨てて帰っても文句を言われる筋合いも無い


 得られるものは戦闘技術と店のバイトから逃れて自由に好き勝手できる時間を貰える事


 これらを損得鑑定で計算した結果、天秤は利の方がずっしりと沈みだした



  ブルー「…いいだろう、その話乗ってやる」



 本当なら今から午後22時まで延々と店の従業員として束縛されるのだ
それが外で多少暴れられて有給も付くなら是非もない、今朝やったルーンの文字占いでもまだ[活力のルーン]の逆さが出る
 主たる目的に向かって急いては事を仕損ずる、回り道や関係ないこと、ゆったりと落ち着くことで何かを得られる暗示だ
自分が得ようとしてる資質とは関係無いより道をする、重い戦闘はしない
あくまで軽い肩慣らし程度に戦って修行の成果を確かめ、得られる技術は見て盗む
 くどい様だが危険地帯に踏み込んだならすぐ逃げる、それだけで良いのだ



  ブルー「貴様にも言っておくが俺は自分が潮時だと判断したら即刻帰還する、置いて行かれたくなければ従え」チラッ

 リュート「おう!付き合ってくれてありがとな!」ニィッ



 念の為に、今の話の流れで理解できてるか分からない馬鹿に再度確認の意味も込めて言ってやる




  ルーファス「決まりだな、ではこれを持って行くといい」つ『カメラ』

    ブルー「これは…写真機か?」ヒョイ


  ルーファス「何も無ければそれはそれで構わない、だがもし何かを発見したなら撮影してくるといい」



 グラディウスにとって益となる情報であればあるほど相応の対価を払おう、と付け加えられ初めて目にする文明の利器を
手渡される……この男はどこまで単なる飲食店アルバイトの人間にやらせる気だ?人手が足りんのかこの地下組織は?
 言いたいことは色々あったが成果を出せば褒賞も多く出る、頑張りに応じて店番せずに済むと考えれば俄然やる気も出る


―――
――




 イタ飯屋を出て魔術師達は屋台広場へと向かう、[ゲート]の転移先として登録された場所だ
弦楽器を背負った無職と初めて出会ったのも丁度この辺だったなと考えながら歩いていれば目標の集団が一つの屋台に居た





    ゲン「ういーっ!おやじ!酒だ酒!あと味の染みた卵と竹輪」ガッハッハ

    T-260「ゲン様、もうじきリュート様がお見えになられる時間ですが」

 レオナルド「まぁ良いじゃないか、結局ボク達はこの街の地理に詳しい案内の人が来るまで待つしかできないんだ」

 レオナルド「裏路地がタダでさえ迷路の様に入り組んでいるんだから土地勘の無いボク達じゃ目当ての場所に行けない」

 レオナルド「特に制限時間がある旅でもないんだから多少時間が掛かっても良い筈だよ」


    T-260「任務遂行の速度よりも安全性を優先とした進軍の為の準備、了解致しました」



 レオナルド(…それにしても驚いたなぁ、[マンハッタン]のバーガー屋であった彼、リュート君とこの街で再会とは)

 レオナルド(流石にメカになったから向こうはボクだって気付いてなかったみたいだけど)



667以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/05(水) 23:32:07.84U1gqCs3B0 (3/4)



  リュート「おーい!ゲンさーん!」

    ゲン「おっ!来たかぁ、そっちの連れ達がこの街に詳しいっていう――――」ピタッ


 酒気を帯びた真っ赤な顔が一瞬、色を失ったようだった
知り合いに瓜二つの顔がそこにあったからだ、……ただ、その知り合いとは何もかもが違い過ぎた
 知人の魔術師を人懐っこい犬、あるいは朗らかな太陽と印象付けるならば目の前の知り合いそっくりな魔術師は対極だ


 ほんの少し前に[ワカツ]城への案内を頼まれ、そして…背負っている重苦しい運命<さだめ>を打ち明けてもらった
だから顔を一目見てピンと来た





   ブルー「……あなたがゲンか?」

    ゲン「ああ?俺に用か、にいちゃん…まぁ飲めよ」スッ


   ブルー「[ワカツ]城への案内をたのm「ちょっとタンマ!?その台詞まだ早いだろっ!!」



 ルージュに瓜二つの顔を見て呆気に取られた剣豪を前にずいっと蒼き術士が前へ出て「……あなたがゲンか?」と問うた
彼らはリュートからの話では迷宮の様な暗黒街を案内してくれる水先人の筈だが1人だけ明らかに違う雰囲気で迫られた
更に言えば剣豪からすると色々と事情通な事もあってどんな言葉が飛び出すか内心で予測しつつ乱れたペースを整えようと
これまでも酒場で見知らぬ相手と友好的に接してきたように酒をまず勧めてみた




…開幕いきなり「[ワカツ]城への案内を」と来たのには色んな意味で変化球すぎた

ガイドを頼んだのは自分達の筈だが?いつガイドを頼まれる側になったのだ?



   リュート「その台詞は色々早いだろって!?…ああ、わりぃ実はちょっとワケありでさ…ちゃんと道案内はするよ」

   リュート「ただ、それが終わった後でどうしても…どうしても俺達を[ワカツ]に連れてって欲しいんだ!!」バッ!



     ゲン「お、おい…にいちゃん街ん中でいきなり頭下げんなって」


  リュート「利用するみたいで悪いとは思ってるけど、どうしても父ちゃんの親友の為に確認しないといけないんだ」

  リュート「コイツ、術士で瞬間移動できる術が使えるんだ!!だから一度入口まで通してもらえればそれでいいから」



 現在[ワカツ]への"宇宙船<リージョン・シップ>"は運航していないくもないが亡霊が蔓延る為に
最低でも地元民が一人いない団体は通してくれないという規定になっている、だから彼の存在は必要不可欠なのだ


  ゲン「……」ポリポリ

  ゲン「はぁ…なんだか知らねぇけど漢が頭下げるってのは相応なモンだぜ?知らねぇ仲じゃねぇしな」



  ゲン「すまねぇがレオナルドさんも、お前らもちょっと寄り道してもいいか?」





  レオナルド「ボクは構わないよ?さっきも言ったけど別に急ぐ旅じゃない[タルタロス]にはいつでも潜り込めるもの」

     T-260「戦力増強の手段を確保する過程で必要な対価ならば必要な行動です」




   特殊工作車「仕事ができるなら正直どこでもいいです」

  ナカジマ零式「なんか面白そうですし私も賛成ですー」




668続きは金曜日2021/05/05(水) 23:33:14.92U1gqCs3B0 (4/4)


<ワーワー!
<おっしゃっ!決まりだ!!



  「なんだ?隣のおでん屋の屋台今日は偉く賑わってるなぁ…」


 IRPO女性隊員「……」


  「しかもよく見ると向こう金髪の綺麗なお嬢さんが3人も、いいねぇ~…あっ、お客さんも別嬪さんですよ」


 IRPO女性隊員「ラーメンご馳走様、お代はここに置いていきますから」チャリンッ

  「あっ、へ、へい!!またのお越しを!!」


コツコツ…

 靴のヒール音が不夜城を謳う街の雑踏に紛れていく、これから仕事で"犯罪組織の一端"が居るという"惑星<リージョン>"に
向かう彼女は右手を額に当てて小さくため息を吐いた
 偶には一人で静かに屋台のラーメンでもと思ったのがいけなかったのか、思いの外お隣のおでん屋が騒がしくて
ゆっくりと食事を取ることも叶わなかった




  IRPO女性隊員「はぁ…シップに乗る前に頭痛薬でも買うべきかしら」コツコツ…

  IRPO女性隊員「サイレンスは[ルミナス]で起きた戦闘行為の調査で長引くのが確定だし…」コツコツ…

  IRPO女性隊員「コットンは何故か音信不通、ラビットは[京]に置き去りにされてるらしいし…ヒューズの奴全く!!」



 女性は蟀谷<こめかみ>を一層強く抑えた、元より一人で静かにラーメン屋の屋台で食べるタイプじゃなかったが
職場の同僚(特に約1名)がこれでもかと言うほど毎回問題を起こす所為で誰もいない静かな場所でストレスを感じずに
食を取りたいと思うことがあるのだ

 歩きながらついつい独り言、大体がクレイジーな同僚の愚痴になるがソレを口にして
更に頭痛を覚えるという悪循環であった



コツコツ…ピタッ



  IRPO女性隊員「…ヒューズか、そういえばアイツ興味深い事を言ってたわね」

  IRPO女性隊員「サボテンみたいな髪型をした少年とその仲間達についていけばクロに当たる、か」



  IRPO女性隊員「…アイツ、本当どうしようもない奴だけど嗅覚だけは優れてるのよね」



 そう独り言ちて頭痛薬を購入した後、彼女は[シンロウ]行きのシップへと乗り込んだ


―――
――



【双子が旅立って8日目 午後 18時20分】


  ゲン「ほう!そんじゃにいちゃんは[ワカツ]流剣術に興味あるってか」

 ブルー「ああ、幼少時代に本で少しだけ目にしたこともあってな」


 大所帯となった蒼い術士達は裏路地を歩いていた、道中性懲りもなく浮浪者やモンスター、暴走したメカが無謀にも
襲い掛かってくるが特殊工作車の[機関砲]やナカジマ零式の[レールガン]が容赦なく相手の身体に大穴を開けて
レオナルド博士の[ビームソード]による袈裟切りが相手を切る――というより蒸発させた――

 銃弾の補充やエネルギーの補充中という僅かな隙の襲撃さえもグラディウスの面子達とで余裕の撃破であった
戦闘面においての問題は初めから無いに等しく、唯一問題視されていた下水道や階段、梯子、屋根の間に架かる板切れの橋
そういった複雑な道順も水先案内人を任された彼ら彼女らによって難なく進んで行けた



669以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/07(金) 23:36:45.03SIaEYkWJ0 (1/3)


 "九龍<クーロン>"の名に相応しい暗黒街の夜は早い、高層ビルに囲まれているが故に地表から見上げても空が見える場所は
ほぼ無いに等しく、また無法が罷り通る街だからこそ所謂、日影規制をまるで無視した土地開発が行われてき
建築基準法違反なんて言葉はこの"惑星<リージョン>"には存在しないのだろうな

 さて、そんな訳で日光が全く射さない裏通りの廃線跡――昔はちゃんと電車が通っていたのかさえ不明――の近く
崩れた地下鉄トンネルの近くに彼の根城はあった


 切れかけの灯りが頼りなさげに自身の存在を主張していて、辛うじて住人が居る住居だと解る紅い扉を開く
床には赤や黒の電源コードが伸びきっていて天井の飾りやネオン看板、箱型テレビやその他機器に電力を供給していた
 そんな店奥から店の主こと"pzkwⅤ"は来客者たちに背を向けたまま、ある種定型文とも言える言葉を発したのであった





    pzkwⅤ「よくこの店を見つけたな、トリニティからの横流し品がどっさりだぜ!」クルッ




 自慢げ(?)にメカである彼は振り返り、珍しく大所帯な客の顔を一瞥した…
[ヨーク綿の帽子]を被った糸目の一見客、同じく見知らぬ蒼い法衣を纏った術士風の人間
それに常連のイタ飯屋の女2人と重火器とは無縁そうな鉢巻にTシャツ一枚の中年男性と後ろに控えたメカ達―――




         pzkwⅤ「!?!?!?!? 先生っ!?」



 一瞥していた横流し店の店主は驚愕した、背後に控えたメカ集団の内1機には見覚えがあった
生前、と評していいのか判断に困るが人間だった頃のレオナルド博士の面影があったからだ、だからこそ注視した
 機械であるがゆえに波長や脳波の読み取りも多少はできなくもない某豪華客船の医療用のメカが
体温検査や生体反応を検知できるのと理屈としては同じである

 目の前のメカからは確かに自身の"恩人"と同じ脳波パターンが検出されるのだ、疑い様が無く彼は命の恩人
レオナルド・バナロッティ・エデューソンその人なのだと


       レオナルド「やあ、元気?」


 久しぶりだね!と気さくに声を掛ける博士に密売店主は困惑した、一体どうして何があった!?
人間だった筈の博士が何故メカになどなっているのだ、と


       pzkwⅤ「先生!?メカに商売替えですか!?」

     レオナルド「んー、説明すると長くなるけど色々と事情があってね」


 博士が自分がテロリストの起こした爆破事件…に見せかけたモンド一派の内部粛清にとばっちりで巻き込まれた事
こんなこともあろうかとオリジナルの自分に何かあった時様に人格マトリックスをメカに移しておいたこと
T-260達の為に[タルタロス]に降りるという趣旨を伝えている傍らでグラディウス組は物品の目利きを始めていた




1880クレジット[火炎放射器]
1110クレジット[ソニックブラスター]
1110クレジット[電撃砲]
4020クレジット[対装甲ロケット]
3200クレジット[キラーバウンド]
3300クレジット[粒子加速砲]
1550クレジット[マシンバルカン]
4020クレジット[破壊光線銃]





   アニー「んー、やっぱりさ弾数多い方が良いわよね?」

  エミリア「だったら[マシンバルカン]とか?これでジョーカーの頭をハチの巣に…」


 弾数多くても一度に使う弾が多いから凡そ8回分しか撃てないだの
なら連携に組み込む上で威力も重視して[粒子加速砲]にしようとか、物騒な話が飛び交ているが気にしてはいけない


           pzkwⅤ「先生!ぜひ私にもついて来いと言ってください!!!」ガタッ



670以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/07(金) 23:37:25.28SIaEYkWJ0 (2/3)



  レオナルド「という事らしいけどどうする?よく働く良い奴だよ」


 敢えてそんな一択しかないような事を訊いてくる、元々戦力強化の為にここに来たのだからスカウトは当たり前だろうに
…が、博士のそんな一言でガタイの良いメカが双肩をビクッと震わせるのが見えた

 心なしか、顔に不安の色が見え隠れする……いや、メカに顔色も何も無いのだが


 自分も連れてってくれと息巻いていたのに、強行しないのは命令に背かないメカの性質ゆえか
恩人レオナルドの命令を頑なに遵守しようとする意志を感じる、来いと言われれば絶対的に忠義を近い
来るな、と言われれば行きたくとも「仕方ないな」と博士の言霊に服従する、そんな気配があるのだ





      pzkwⅤ「せ、先生…っ」オロオロ



  レオナルド「んー、どうしたもんかなぁ、ボクとしては連れて行きたいけどこの人数だし皆の意見は尊重したいなぁ」






……それにしてもこの博士、愉しんでらっしゃる


 初めっからスカウトする気満々の癖して敢えてここでどうするか訊いて、密売店主の狼狽えっぷりを愉快そうに見ている
蒼き魔術師達は出逢って日も浅いからこの人物の性格がイマイチ掴み切れていないがゲンやT-260は比較的に
付き合い長い所為か「ああ、またか…」と呆れ始めていた


 最初レオナルドを探していた時も[マンハッタン]のバーガーショップでレオナルド博士を知ってますか?と尋ねたら
自分がそうだと直ぐに明かさずにラボまで連れてきてから実はボクが君たちの探してた人物でしたー!と言い出したり
そもそも自分が事故死したときの為にメカ化する仕掛けを用意したり、割と茶目っ気の強い人物ではあった


     ゲン「あー、俺ぁ良いと思うぜ、なぁ?」チラッ

     T-260「戦力増強はこちらとしても願っています」

   リュート「旅は多い方が楽しいぜ!!」



   レオナルド「だってさ、ついて来い!」グッ

     pzkwⅤ「うおおおおおおおおおおおおおおーーーーっ!!先生!一生ついていきますぜ!」ガッツポーズ





   ブルー(なんだこの茶番は…)


 メカの癖に妙に暑苦しくて恩人への義理堅い密売人という…
ワーカーホリックの特殊工作車とも自由人のナカジマ零式ともまた違った意味で癖の強いメカが仲間になったものだ


     pzkwⅤ「これは手土産だ受け取ってく「あぁ、待った待った」


 持参品として店の商品を一つもって加入しようとするのをレオナルドが一旦止める



   レオナルド「さて、ここで道案内までの契約報酬の半分を支払うんだろう?」チラッ

     アニー「そうそう、わかってるじゃん」


   レオナルド「ボク達について来るってことはこの店は畳めちゃうんだよね?そこでこの店の商品なんだけどさ…」


 閉店セールスってことで半額でいいからこっちの人達に譲っちゃくれないかな?とグラディウスの面々を指して
恩人は言った、常連客のアニーと最近購入の為にお使いで来ることが多くなったエミリアの顔を見て店主は考え込んだ




671続きは明後日 日曜日2021/05/07(金) 23:38:10.27SIaEYkWJ0 (3/3)



    pzkwⅤ「おい、ネーちゃん達先生の御知り合いなんだよな!?」

   エミリア「知り合いっていうかついさっき知り合ったばかりなのよね…」



    pzkwⅤ「先生の御顔もある、半額なんて言わないタダでこの店の商品は全部くれてやるぜ!」


    アニー「マジで!?店主太っ腹じゃん」ヒューッ


 思わぬ大収穫である、恩人の顔パス利用でジョーカー包囲網に向けて兵器を安く購入するというのが
ルーファスの算段だったがまさかタダでくれるとまでは思っていなかった、アニーも思わず口笛を吹く程
 グラディウスの女子陣が飛び跳ねて両手を合わせて喜び合っている中で店主が何か秘蔵の品を持ち出しているが
そこは目を瞑っておこう



    pzkwⅤ「へへっ、コイツと私がありゃあ負けなしですよ!」つ[ハイペリオン]


 
 方に物騒な実弾兵器を担いだメカが豪気に語る、それだけではない、"身体<ボディ>"の至る所に備わっている火器
そのどれもこれもが前に立ちはだかる者を粉砕するのは想像に難しくなかった


―――
――



【双子が旅立って8日目 午後 21時12分】

【クーロン:屋台広場】



   リュート「あぁ…疲れたぁ、めっちゃ働いたぞ…」グッタリ

    ブルー「確かあの店にあった武器を全部グラディウスに運ぶのは中々に重労働だったな…」


 兵器の運搬作業は優に裏通りを4往復するに至った、道中襲ってくる敵は大したことはなくとも何度も
足場の悪い順路とグラディウスとをシャトルランするには骨の折れる作業である

 こんな街だから何があっても不思議ではないとはいえ表向きただの飲食店にそう何度も軍の横流し武器が搬送されたら
流石にあらぬ噂が立ってしまう、だからこそ一度に持ち出せる武器の数にも限りがあるし人目に付くのもあまり好くない
 気が付けば後1時間しない内にイタ飯屋も『clause』の札を出す時間にまで差し掛かってしまった


 …剣や術の実戦訓練になるとはいえ、皿洗いの方が良かったかもしれないと若干ブルーは思い始めていた


 ラーメン屋の屋台で前よりは上達した箸使いで麺を啜り、一息つく
これから[ワカツ]への行軍を果たすのだから中々に濃いスケジュールだ



     ゲン「おう、お前らもお疲れさん頑張ったな」


 剣豪が隣の席に座る、リュートを間に挟んで蒼い魔術師はゲンに声を掛ける



    ブルー「ああ、全くだ…大分遅れたが今度こそ[ワカツ]への案内を頼むぞ」

     ゲン「わぁってらぁい、しかしなんだってにいちゃん達はあそこに行こうってんだ?」

     ゲン「そっちの青い方のにいちゃんは剣術や使ってた武器、文化に興味があるからって言ってるがよ」


     ゲン「お前さんはどうなんだ?なんか親父さんの親友がどうだとか言ってたが?」



  リュート「ああ、実は…俺の父ちゃんの親友、モンドって言う人なんだけどさその人の事で[ワカツ]を調べたいんだ」



 "モンド"、その名を耳にした途端、ゲンの目が据わった…横目に見ていた術士はそう感じ取った



672短いですが2レス2021/05/09(日) 23:05:44.50eAQpa41A0 (1/2)



  ゲン「モンド…モンドねぇ」


 隣席の男が発した名前を復唱しながら御猪口の安酒をゲンは喉へ押し込んだ、いつもよりも早いペースで
不思議と喉が渇いていた、大声をあげて怒鳴り散らした訳でもないのに、全力疾走した後でもないのに喉奥がチリチリした
 いつかの昔、どこかの"惑星<リージョン>"で似たような経験が彼にはあった、ある日何の前触れもなく
自分の日常が崩れ去っていく様、何かしようと奔走した挙句何も成し得ずみすみす護るべきモノが焼けて廃塵と化した記憶


    リュート「ゲンさん、頼む…モンドさんのやった事は多分アンタも知ってると思う、…承知の上でお願いだ」

    リュート「俺は真実を知っときたいんだ、人伝じゃなくて俺自身の足で現地に行って見聞きして知りたいんだよ」


 噂の域でさえもトリニティによって[ワカツ]は滅ぼされたと情報通の一般人に広まっている
表向きは原因不明の疫病の蔓延だの、人間に憑依する悪霊達の封印が解けて観光客や他国への被害が出るからと
よく分からない有耶無耶な理由付きで"苦肉の決断の末"に爆撃したという話になっているが

 事を始める前からトリニティ政府に反抗的な国家だとある事ない事を垂れ流して反乱分子だとも吹聴していたのだ
どっちにせよ何者かが意図的に滅ぼす気があったのは明確で

 当時、被害にあった出身者のゲンが一番その辺の事を知っていて当然な訳だ
自分が住んでた"惑星<リージョン>"がトリニティへの反乱など企てていないことも
疫病や悪霊だとかいう物が蔓延してるっていうのも嘘っぱちで単に攻撃する為の適当な口実に過ぎない事も…!



 ブルー「…俺も外界に出てから情報誌や"いんたぁねっと"とやらに触れては来たが[ワカツ]の件は不明瞭な点が多い」

 ブルー「情報が錯綜していて結局爆撃された理由がいまひとつ納得できんと感じたな」



 独自に発展した国家の文明やその風土を生かした文化遺産と呼べる物を遠慮なく破壊することは快く思えない
もしもコレが敬愛する祖国[マジックキングダム]だったら?と考えたら蒼き術士にはゾッとする話だ
美しい街並み、ポプラの木が並ぶ通りと中央の噴水広場、荘厳たる魔術学院や三女神に祈り信仰を捧げる聖堂…
それら全てがある日突然、何の前触れもなく理不尽な力によって蹂躙されたら?…考えたくもない


 珍しく術士は目の前の郷土愛のある剣豪に、他者に対しての共感を持っていた、なまじ興味のある剣の国だったから尚更



    ゲン「真実を知りてぇ、か…」


  リュート「…。」コクッ

    ゲン「…いいぜ、お前たちにも聞かせてやるよ[ワカツ]の同胞達の無念と、その想い、声をな」

  リュート「すまねぇ、俺の我儘で…ゲンさんだって辛いのは分かってるのに」


    ゲン「へっ、よせやい![ワカツ]の事を知ってくれる奴がちょっとでも増えるってぇならそれで十分だ」




    ゲン「真実を探したいんだろ?なら…俺だって、な」



 そう言って破顔する剣豪を見て弦楽器の男も漸くいつもの能天気な笑みを浮かべて麺を啜り出した
彼ら2人の成り行きを見届けたブルーも止めていた箸を再び進める、麺はすっかり伸び切っていてスープも冷めていたが
今この時この3人で食したラーメンの味は決して悪くはなかった


 腹も膨れた頃、[ワカツ]行きの便が出るのも丁度いい時間帯となり団体はシップ発着場へと向かう
道中、リュートの悪知恵で一山当てた例の金券ショップ前を通り掛った所、客が騒いでるのかこっちまで声が聞こえる




 「ええぇぇぇ!?!?[金]ってこんな高いのかよ!?…とほほ、俺がキグナスで働いてた頃の何カ月分だよ」

 「白薔薇の手持ちで2つだから、あともう2つか…昼の内に[クーロン]で求人広告探したけど収入良くないし怪しいし」

 「参ったなぁ、僕たちの手持ちのクレジットじゃ足りないしお金を稼ぐ手段が……!!そうだ確か[シンロウ]って――」



 …騒がしい客が居るものだな、まぁこんな街では然して珍しくも無いか、と蒼い術士は仲間達と発着場の自動扉を潜った



673続きは水曜日2021/05/09(日) 23:06:56.71eAQpa41A0 (2/2)


【双子が旅立って8日目 午後 23時00分】

 午後11時、日付変更線が自分達の真上を通過するまで一刻という折に彼らはその地へ降り立った
桟橋の上に死して尚、舟渡として客を延々と待ち続ける骸骨に背中越しに声を掛ける、帰ってきたのは「船を待ちな」と
簡潔な一言だけだった…程なくして一隻の小舟がやってきてメカ集団は後からで
先に"人間<ヒューマン>"組が乗り込み向こう岸で待つという流れになった


 波風立たぬ水面に舟渡が櫂<かい>を入れる


 澄んだ水面は夜空を映しぼんやりと青白く光る月の写し身もそこにはあった、切り込む様に櫂がそれを乱し
星も月も揺らいでは消えて、後には水底の泥が浮かんでくる
 透き通った水が反射した宵の光は沈殿物の浮上に消えて、いつしか浮かんだ物はまた沈み、星光を映す


 人の栄華にも似ているな、と近付きつつある向こう岸を捉えてブルーは思った


古城、半分雲隠れした蒼月に照らされた[ワカツ]城の独特な意匠を見て亡ぶ前はさぞ栄えたのだろうなと
同時に今の荒廃ぶりに一種の哀れみに似た感情を抱いていた
 人世は何時だって如何様な事があるか分からない、時代が進めば進むだけ進化はあり、順応できなければ取り残されて
廃れていく、だから栄華にはいつしか終わりがやってくるのだが、そこから伝統を守りつつも新しい風を吹き込む事で
文化、文明という物は成長を続ける


 砂上の楼閣の如き一時の夢であったとしても、崩れた跡に崩れ去った物を超える素晴らしい物を造ればいい
当然ながら過去の教訓を踏まえて次は簡単に崩れ去らない様にと




 だが、目の前の[ワカツ]城を見ていると、"次"なんてモノは果たしてあるのだろうか?と思わされてしまう



 復興という言葉は無関係な人間ほど軽々しく口にするが、現地へ赴き見ればわかる
何から手を付ければいいのか分からない混沌としたソレ、目の前に立つだけで呆然とただ気が遠くなっていく感覚
 する側からすれば諦めの二文字を叩きつけられるだろうな


  ブルー「これは…」ザッ

 エミリア「酷いわね」


 [ワカツ]への渡航は制限されている、最低でも現地の出身者1人がいないと通せないという話だが
その唯一の生き残りの存在自体が絶望的でゲン以外に居るのかどうかさえ分からない
 実質トリニティ政府による航路閉鎖の様な物で記者やカメラマンが立ち入れる場所じゃない

 情報誌やマスメディアによる報道、ネット情報でもその惨状は視覚で知ることは不可能である


 エミリア(ブローチをくれたあの人が、ね…なんだか複雑な心境)キョロキョロ
 リュート(……。)


   ゲン「それで何処に行くんだ、言っておくが剣聖の間―――城の天守閣の方には基地なんて大層なモンはねぇぜ」

   ゲン「つい最近ワケありの若人共を連れてったからよ」


 本当につい最近[剣のカード]を求めてきた集団を連れて行ったから知っている、上の方にはモンドの基地なんて無い


  リュート「んー、ならあっちの方とか?」


 無職は"天守閣のような高い所には無い"と言われたので、なんとなくで本丸から少しずれた位置を指さした
何気なく指し示した方角を見て剣豪は渋い顔をする


  ゲン「…あそこは、…確かにあっちの方は俺も前回行かなかったな…」

 ブルー「おい、あっちには剣聖の間とか言うのとは別で何かあるのか?」


 丁度メカ集団を迎えに行った舟渡が帰ってくるのを背景に不思議な力の流れを感じた術士が渋い顔を作った剣豪に問う




       ゲン「…あぁ、あそこは城の地下―――"剣神の間"へと続いてるのさ」



674以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/10(月) 07:31:57.447S8V41ap0 (1/1)


あの船渡しの骸骨好き


675以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/12(水) 01:42:37.70EoSARVvs0 (1/1)

成程そうかブルーが滅ぼされたリージョンを見るの何気に相当意味出るんだな…


676ちょっと予定変更で金曜日に投下2021/05/12(水) 23:07:00.56ZN1uTtP90 (1/1)



  ブルー「剣神の間?なんだそこは…」

   ゲン「道すがら説明してやるよ、ついてきな」


 そう言って歩き出した剣豪の後について行く、曰く城の地下に剣神を祀っており優れた剣豪は剣神より刀を授かるとか…
聞き手に回っていた弦楽器の男は興味交じりで「神様がくれるってんなら凄い剣なんだな」と茶々を入れる
 その発言に対してゲンは生憎見た事が無いからわからないなと苦笑する、彼程の男であっても生きてる内に
見る機会が無かったとのことらしい

―――
――




    pzkwⅤ「ッらおらおらァ!!どけってんだ!!」ジャコッ


   陽子ロケット弾『』ジュゴーッ!




  バッグォンッッッッ!!



 \ あぎぃぃぃぃぃ!!! /



 [ヘルハウンド]の群れ目掛けて放たれた弾薬は見事に群れ中心に居た一匹に直撃した、密売店主の秘蔵っこ品なだけある
四足歩行の魔物が火球へと変貌するのはあっという間で、炭化して生体活動を秒で停止させた個体を中心に炎の幕が広がる
"円形状<サークル>"に広がった熱の波は憐れにも近くに居た個体も巻き込み、本来熱に対して耐性を有していた種を焼く
 身体に纏った火を消そうと跳ねまわり、地を転げまわる獣にエミリアの[精密射撃]が入りそれも仕留められる
離れていた為無事であった群れも既に[刀]を振り下ろし終えたゲンとアニーの手によって切り伏せられていた



   T-260「危険生物の沈黙を確認、進軍を再開します」

 レオナルド「ふぅ、今ので会敵で何回目だい?」

   T-260「通算8回目になります」

 レオナルド「入口から歩いてまだそんなに経っていないんだけどねぇ、繁殖しすぎでしょ」



 名は体を表すとは言うが、地獄の犬にとっては死骸が無造作に放置されていたこの地は絶好の餌場だったのだろう
死者の弔、火葬にせよ埋葬でもなんでもされずにずっと野晒にされていた人間の躯<むくろ>はこの地を狩場として
屯っている犬共には丁度いい栄養源であったと言える


 外に腐敗した死体が殆ど無いのは、おそらくそういうことなのだろう


 "迷惑極まりない移民者"の血肉と成らなかったモノは骨だけの[スケルトン]種や
魂だけが一人歩きしてやがて[リッチ]と言った厄介なモンスターにもなっていたことだろう


 痛々しい崩落跡や階段や通路があった場所に走る亀裂、どうしても遠回りせねばならない道は多々あった
特に本来、剣神の間に続く地下への道は完全に表からは行けないようで裏手から回り込んで
櫓の中にある階段を降る必要があった

 裏手に行くための道を探すことがまた大変で前回そこを目指さなかった剣豪もまた崩れ通行が
不可能になった道には舌を打った


   リュート「おわっ!?今度はでけぇ蛾まで飛んできたぞ!?」チャキッ


 [グルームモス]を御供に連れた[ナイトスケルトン]が塀の上から剣を構えてこちらに飛び降りてくる
両手で柄を握りしめ膝を曲げて大地に劔の刃先を突き刺すように降り立ってくる骸骨騎士に応戦しようと
リュートは剣を構えるが、彼の後方から青い影が飛び出して彼と骨騎士の間に割って入った


     ブルー「ボサっとするな!」パリィ!![ディフレクト]

    リュート「ありがてぇ!![ベアクラッシュ]!!」ブンッ!




677明日明後日も少しずつ投下2021/05/14(金) 23:34:32.44PFmBWCuC0 (1/1)


 攻め手を防がれた上にそのまま押し退けられて仰け反った形の骸骨騎士に容赦の無い熊殺しの一撃が決まる
飛び上がってから落下の勢いを加味した渾身の叩き割りが骨騎士の頭部を両断したカボチャの様にして黙らせる

 毒々しい色合いをした蛾の怪物が[ペインパウダー]を放とうと翼を広げて羽ばたくも
蛾の巻き起こす風に逆らって飛んでくる機影が1つ、向かい風の形でナカジマ零式が[加速装置]を起動させた超スピードで
敵方の片翼をぶち抜く、バランスを失えば必然[グルームモス]は覚束ない飛行を始める
 機動力が低下した蟲を切り捨てるのは難しいことでもなくリュートを庇っていた術士が
その場から飛翔して唐竹割からの横凪一閃、[天地二段]を決めた


  ナカジマ零式「おっとっと…少しエネルギー不足ですね~、WPの補充をお願いしますね~」

   レオナルド「はいはい、キミはもう少し[神威クラッシュ]の使用は控えてほしいなぁ…WP容量は30までなんだから」

   レオナルド「よいしょっと、補給完了だよ」

  ナカジマ零式「おぉ、ありがとうございまーす!でもでもぉコレばっかりは浪漫ですから仕方ないですね~」

  ナカジマ零式「敵がこんなにわんさか出る環境ですもん致し方無しって奴~?」



 敵がわんさか出る、確かに間違ってはいない

 倒しても倒してもキリが無いのは事実だ、突如何もない虚無から忍者服の人影が現れたかと思えばアンデットが出る
此処ではそれが常であった、目視できるならば走り抜けて無用な戦闘自体を避けようとできるのだが
突然現れるのだから半ば事故の様な会敵だ



  ブルー「ゲン、この辺りで休めそうな場所はあるか?少しばかり術力を回復させたい」


 戦闘が多く術の消費も多かった彼は小休止できる場所は無いかと尋ねた
忍者の風貌した亡霊もそうだが、トリニティが爆撃していった後の名残なのだろうメカ系の敵が嫌に多い
地上掃討に使われたと思式[メカドック]が今も普通に稼働していて生きている者を誰彼構わずに襲ってくるのだ
 それらの対応をしてきた結果術力は空っぽでさっきから剣を振るって戦っていたのだ
[クーロン]の裏通りとは規模が違い過ぎる数の襲撃が頻繁にある、人数が多いとは言えゆっくり[術酒]を飲んでる暇もない



   ゲン「なら、ちぃと道はズレるが天守閣の方だな、前に剣聖の間に向かおうとして入った場所の入り口だが」

   ゲン「あそこなら奥に行かない限りは敵も見当たらなかったからな」


 剣聖の間の力に寄せられてか、城内にモンスターは陣取る様に身構えて、出入口には何故か彷徨っていなかったからなと
彼は付け加えて言った、分岐路となる場所を本来なら北上するのだが敢えて南下して進んでいく奇しくもルージュ達が
歩んだ道と同じ道をブルーは進み一息つけそうな所までやってきた


 荷物を置いて、[術酒]の小瓶を一本開けて飲み干す
アルコール特有のほろ苦さとは別の独特な味に舌がヒリヒリしていくのを感じ取る、旅を始めたばかりの頃とは違って
自分の術力も随分と増えた、小瓶1本分では足りないなと2本目を開けて飲もうとした時
いまだにシャッターを一回も切っていないカメラが目に入る



  ブルー「……。」


 悲惨な有様の[ワカツ]を知る者はいない、世界の誰一人としてだ


 そういう用途で渡された物ではないが写真に剣豪達の惑星で起きた真実を写しておきたい、少しだけそう思った


  ブルー「柄にもないことだな…」スッ


 ポケットに小型カメラを入れて、彼は2本目の酒を胃に流し込んだ



―――――ウケケッ!ハハハッ、ヒヒヒッ


  ブルー「!」ハッ!?


 頭の中に直接響く声の様な物を感じ取る、機械音声のエコーが掛かったような3人分の声を…
野営地としている此処から南方の方から変わった力――術の力を感じた
 魔物の中にも術を扱える素養がある者が存在する、おそらくこれは[邪術]の力だ



678以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/15(土) 01:13:37.66L6lvClOc0 (1/1)


言われてみればワカツにメカ系うろついてるのそういう事だったんか


679以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/15(土) 22:27:01.397nNE/mTO0 (1/3)


 ふらりと立ち上がり、声に導かれ―――いや、誘われたのだろうか、彼は歩き出した
そんな彼に気が付いたのはいつも一番近くに居たスライムであった


   スライム「( ゚Д゚)ぶくっ!?」

   スライム「(;´・ω・)ぶくぶくぶー」オロオロ


 名前通りの青い瞳は空虚を映していて、見ていて危なっかしい足取りでどうみても正常ではない、だというのに…
"誰一人"として仲間が気づかない、いや気づけないのだ
 異常事態だと悟ったスライムは直ぐに前ブルーに買ってもらった防水仕様の特殊手帳に同じく特殊な筆で書き込む



  スライム「ぶくくぶー!(; ・`д・´)」イソイソ



  エミリア「あら?どうしたの」


 一番近くに居た地下組織の二人組に声を掛ける、ブロンドの美女は身を屈めてゲル状生物と同じ目線(?)になり
話を聞いてみる……とはいえ、向こうで剣豪と何か話をしている無職と違って魔物の言葉は分からないのだが


  アニー「んー?なんか持ってるわね、…これって皆で映画見に行った日にブルーが買ってた奴じゃん」


 防水仕様手帳のページに急ぎ殴り書きで書いた文字に気が付き2人は目を細めた
術士がふらふらと虚ろな目をして野営地から出て行ってしまったという旨が書かれていたのだから…!


  アニー「はっ!?アイツが勝手に出歩いたって…―――!!本当だわ、居ないいつの間に…」キョロキョロ
 エミリア「そんな、どうして誰も気が付かなったのかしら…」キョロキョロ


 仲間内での話し合いに夢中になっていた、なんて言葉で片づけるにしては不自然だ
確かに天守閣に入れそうな横穴の出入り口付近を野営地にもした、周辺には霧が出ても居たが人間1人が外に出れば
直ぐにでも気が付く筈なのだ

 これだけの人数が居て誰一人としてその現場に気が付かないのは明らかにおかしい…ッ!

 異常性を察した二人が直ぐに剣豪と無職に声を掛け、またこれを機に各メカ達をメンテナンスしてたレオナルド博士にも
まだ整備中で動けない人員はこの場に待機、動ける者だけで捜索に出ると決めて直ぐに術士を探しに出かけた

―――
――




 コッチダ、コッチ



  ブルー(誰だ…俺を呼んでいるのは)フラフラ

  ブルー(こっちか?こっちにくればいいのか…)フラフラ



 遠くを見つめて見えざる何かの声を聴き彼は1人階段を降りていく、天守閣から南方…激しい戦闘があったのか
古戦場の痛々しい跡が目に付く中で彼はソレを見た


  宝箱『 』


  ブルー「……。」ボーッ
  ブルー「…。」



  ブルー「!?」ハッ!

  ブルー「な、なんだ!?俺は何故こんな所まで来ているんだ!?」バッ


 "色"を失っていた蒼い瞳は"色"を取り戻した、今の声はなんだったんだ!?何故自分は野営地からこんな所まで!?
敵対生物や暴走機械に亡霊が蔓延る危険地域で単身で歩くなど自殺行為ではないか!?

 白昼夢でも見ていたとでもいうのか、自分の行動に驚愕した彼は落ち着こうと息を整える…冷静にならねば



680以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/15(土) 22:28:26.857nNE/mTO0 (2/3)


 深呼吸をして不可解な自らの行動とその前後を考える、自分は…そう声だ!何者かの声に導かれて此処に来たのだ
声を聴いて術の気配を感じた、それから頭の中が靄にでも包まれた様にボーっとして

 そこまで考えて彼は"まだぼんやりと『させられた』頭"で目の前を見る


  ブルー「…。」

  宝箱『 』


 この"惑星<リージョン>"特有の宝箱、紫色の紐でしっかりと縛られた漆塗りの刀箱がそこにあった
焼け落ち煤に塗れて倒壊した城の中にあるにも関わらず綺麗な状態で残った箱が…


 彼は双子の片割れと同様に術士として幼い頃よりあらゆる教養を施された上に生まれつきの天性があった
弟と同じく感受性は強い方だが時として感受性が強いという事は災いをも齎す、何事も表裏一体で長所も短所もある


 だからこそブルーは"彼奴ら"の呼び声を受信してしまったのだろう…

 彼はその刀箱に…






    銘刀―――[双龍刀]―――の入った刀箱に近づいてしまった








―――クハハハハハハ!!!
―――キタゾ、キタゾ!!
―――サァ、ワレラ ノ ナカマ ニ ナレ!!



     ブルー「っっ! [ゴースト]だと!?」



 ゴーストA「ぐふ、ぐふふ…来たナ」
 ゴーストB「いひひ…」
 ゴーストC「つよい 力をもったセイジャ、ワレラの同志となれ」


 トリニティ政府の指定認定危険度、通称【敵ランク2】相応のアンデッド…[ゴースト]
薄汚い茶色のローブに羽が生えた存在が蒼き魔術師の周りを囲むようにぐるぐると飛び回る
 フード奥の闇から覗かせる妖しい赤眼はまるで彼の存在を、命の価値を値踏みでもしているようで
それは魔術師の癪に障った


  ブルー「貴様らか…っ、下等種のアンデッド風情が俺を誘導するとは…」ギリッ


 奥歯を噛みしめて苛立ちをそのままぶつけるように指先を飛び回る亡者に向ける


  ブルー「冥府に還れ死にぞこない共がッッ!![エナジーチェイン]ッ!」


 指先から迸る翠色の思念波が空を舞う襤褸布<ボロぬの>を捕らえる、耳障りな笑いが呻く様な声に変わり
汚れた布切れは魔術の鎖に焼かれて煙を上げ始める


 敵ランク2程度の塵芥であるならばこれで絶命―――いや、昇天しただろうとブルーは鼻を鳴らして術を解除する
こんな奴に折角回復した術力を使い続けるのも勿体ないと内心で呟いて直ぐに残り2体も滅してやろうと態勢を変えるが…


  ゴーストA「…」ジュゥゥゥ、プスプス




  ゴーストA「…ケケケッ」ニタァ

   ブルー「なっ、馬鹿な…」



681次明日2021/05/15(土) 22:32:02.637nNE/mTO0 (3/3)


 今までも[ゴースト]とは戦ったことがある、更に上位種に位置する敵ランクの怪物とも渡り合った事がある
故に、目の前の下等種が自分の術で仕留めきれなかった事に驚きを隠せなかった



 この時、漸くブルーは"頭の中に送られた靄"を振り払うことができた




 ―――…考えてみればずっとおかしかったのだ、彼1人が野営地から出て誰一人として"気づかなかった事"も
感受性の高い術士の頭の中に声を直接送れた事だってそうだし[邪術]を扱えるという時点で
並みのモンスターにはない知性がある



 もっと言えば魔法王国の誇る優秀な術使いの"意識を鈍らせた"くらいには普通じゃないのだ




   ゴーストC「うけけっ 悶え苦しメ…」スッ



――――[激痛]!



 襤褸布の裾から人の物とは思えぬ青白い皮膚にも似た手袋が出てきてその指先が天を指す
赤眼が上弦の月を描く、唇は見えないが呪いの言葉を吐き出す


 ぴしっ、みしっ


 神聖な酒で満たした術力の無駄遣いだ、節約がどうと言ってる場合じゃないと[ヴァーミリオンサンズ]で蹴散らそうと
詠唱を始めるよりも先に相手は動いた、戦場に立つ何者の追従も許さぬ"最速行動<ファストトリック>"で紡がれた呪文
 聞き取ったと同時にブルーは自身の身から罅割れ、圧を加えられて折られる様な痛みを錯覚する



  ブルー「う" ぐッ っっ!!」



 実際、身体には内外共に損傷は無い、ダメージなど負っていないのだが身体の神経が痛みを"錯覚"する
プラシーボ効果の様な脳の思い込みから成る現象、一種の催眠術に近いソレを意図的に引き起こす[邪術]の効力で
在りもしない痛みに思わず膝をつく、詠唱も途切れて術の発動も失敗に終わり完全にスタン状態に陥ってしまった…っ!



  ゴーストB「はははハはは、苦シめ」
  ゴーストA「お前も我らノ仲間となレ」


 強き力を宿した人間が死に、その魂が同志となることを望む悪霊は笑いながら宙を踊る、両腕を広げてその場で大回転
空気が渦を巻いて霊の身体から瘴気が放たれる、毒々しい紫色の強風―――[イルストーム]が剣豪の故国に吹き荒れる
 生命を冒す暴風を風任せに流れて先の思念波で焼いた亡霊が術士に両腕を伸ばす



 それはまるで新たな仲間を抱擁するように、慈愛に満ちた、それでいて残酷な黄泉の国の手引きのようであった





           「ぶくぶーーーっ!」ドゥッッッ



――――ゴッッッ!!


  ゴーストA「ぐギャ!?」バキッ


 敵ランク2相応の下位アンデッドが得意とした[ゴーストタッチ]とは天と地ほどの差がある
相手の生命を削り取る[ライフスティール]を仕掛けようとした矢先、何者かに邪魔された…っ!

 亡霊共は超スピードで[突進]してきたソイツに目を向ける
紫色の鬣<たてがみ>に立派な一本角、本来その種の個体より一回り小さい馬型モンスターを…っ!



682以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/16(日) 23:55:24.755aIbr/8D0 (1/2)


 本来の個体よりも一回り小さな一角獣―――[ユニコーン]は倒れた術士の前に出て蹄を鳴らす
生命の象徴、治癒を司る聖獣が死者達を前に立ち塞がった


   ブルー「…お前、スライム、か…?」


 身体を蝕む存在しない[激痛]が収まりつつあった彼はゆっくりと顔を上げる
自分の前に立つ獣はその身に似つかわしくない「ぶ」と「く」だけの発音で答え、角を天に掲げる様に大きく首を振るう



   キラキラ…!


  ブルー「…むっ、これは」ポワァァァ…


 吹き荒れた瘴気を肺に取り込んだ事で感じていた身体の不調が浄化されていくのがわかる
[マジカルヒール]による奇跡の輝きに包まれたのだと魔術師は解った



  アニー「そいつに感謝しなさいよねっ!いの一番でアンタが居ないのに気づいたんだ!!」


 雷光一閃、稲光が走ったかと勘違いするような速さで剣を構えた金髪が一直線上に居た亡者を突き刺す、突き飛ばす
心の臓があった場所を全力疾走の勢い付きで一突きから背部周り込みで打ち上げ、喉首を搔っ切り脳天を勝ち割る動き

 [神速三段突き]の動きで有毒の気体を発生させた個体を打上げられた際に銃声が2発
夜闇を裂くように紫電を帯びた弾丸がいくつもの線を描いた後にアニーが最後の一太刀を脳天に振り下ろすタイミングで
ぴたりとフード部分から覗かせた赤眼に寸分違わずに直撃した



 [二丁拳銃]からの[跳弾]によるダブルパンチと[神速三段突き]が織りなすダメージに耐え切れず霊が掻き消えたと同時に
ホルスターから銃を引き抜いた状態のエミリアが上の階段から飛び降りてくる…っ!



   リュート「いたいた!!心配したんだぞ~!勝手に居なくなるなよなぁ」タッタッタッ!

     ゲン「魑魅魍魎<ちみもうりょう>共か…っ!にいちゃん無事か!?」タッタッタッ!



 抜刀した状態の剣豪、新調した[サムライソード]を両手にそれぞれ1本持った自称相棒がその後に続いて駆け降りてくる
呑気な口調でいながらも中段まで降った所から狙いをつけての[二刀烈風剣]を放ち牽制して
本命の剣豪による[飛燕剣]が襤褸布お化けを切り裂いていく








  ブルー「お、お前達まで…」




 増援の到来と同胞を喪った事に襤褸布は憤怒する、そして[ユニコーン]の姿に変化したスライムを一瞥した
"魔物<モンスター>"という種族は同じ魔物を倒し吸収することでその力を取り込み徐々に強くなる種族だ
 "人間<ヒューマン>"と異なり閃き、成長といった物には縁の無い性質上…術という存在にもそこまで関わってはこないのだ


…普通の術であれば、だ




 例外的に[邪術]は違う、術というカテゴリーにありながら"人間<ヒューマン>"や並の"妖魔"にさえ扱えない異質な術系統

"魔物<モンスター>"だけが扱える術だからこそ、同じ"魔物<モンスター>"種のスライムは気付いたのだ




  ゴーストA「オノレ…おのレ、許さンゾ怪馬よ」グググッ
  ゴーストC「そのチカラを吸わせろ、それで贖うガいい」コォォォォ




683次木曜日2021/05/16(日) 23:56:47.795aIbr/8D0 (2/2)


 襤褸布の怪は同胞を喪った怨嗟の声を歌として響かせる、崩落した城の瓦礫に呪歌が反響して力場を築く
耳障りで聞いているだけで気力が捥がれていく嫌な音だ


  アニー「きゃっ、な、なに…」STR DOWN×3

 エミリア「頭割れそ―――なんなのよ!銃の狙いが定まらないじゃないの!」WIL DOWN×3


 リュート「うおっ、なんちゅうド下手糞な音程だ、力がへなへな抜けてくぞ…」ガクッ
   ゲン「グッ、上等じゃねぇか化け物!!」ブンッ


 憎悪の声は[サッドソング]となって自軍を蝕んでいく、剣の柄を握る握力も振るう肩の筋力さえ著しく落ちていて
それでも負けじとゲンが一太刀振るい後にリュートとアニーも続くのだが決定打を与えきれない
 頭の中で嫌な音の濁流と戦うエミリアの銃口も火線が定まらず、急所への狙いが大きく狂いズレて
相手の身体をギリギリ掠める程度にしか傷を負わせられないままだ…っ!


 彼奴等の産み出した力場というのはそれ程までに厄介極まり無いのだ、本来ならば先程一体仕留めたのと同じ様に
亡者共を消滅させられる筈なのだが、威力の低下に加えて[ライフスティール]でこちら側の生命力は着実に削りつつ
向こうは吸い取った生命力で大幅に回復するのだから溜まった冗談ではない
 このまま膠着状態が続けば自分達が先に根を上げる持久戦になるのは間違いない



  ゴーストC「くはハは、[激痛]に悶エるがいい」

  ブルー「い、いかん…アレは気をつけろ!!」



 不利な力場環境を作られた状態で弱体化させられた集中力を使う、どうにか全身の霊感を高めることで初見よりかは
大分身体の自由を利かせられるが、それでも術や技の発動までには至れない

 他の仲間達もまた少し前のブルーと同じように激痛に顔を歪めてその場に蹲る、唯一ゲンだけは気合で[激痛]を振り切り
濁流が如く敵を切りつけに行こうとしたのだが


  ゴーストA「分霊ヨ、[雑霊撃]!!」


     ゴースト『』スゥゥゥ…

ゴースト『』スゥゥゥ…  ゴースト『』スゥゥゥ…


 亡霊の身から現身の様な存在が3体現れ、半透明なソレ等が剣豪に付きまとい取り押さえる
この世成らざる者の魂に触れて全身に突き刺さるような痛みを感じたかと思えば足が止まる
 麻痺――というには凶悪な物でもない痺れが全身に回り、物理的にその動きを止めたのであった


  リュート「く、くっそ~…なんだって[ゴースト]の癖にこんなにつえぇんだよ…っ」ヨロッ

   ブルー「…。」ググッ



   ブルー「俺に、―――俺に考えがある」ボソッ

  スライム「ぶ、ぶく…?」


 幻覚の痛みでふらつきつつあるスライムを始め他の仲間達が術士の顔を見る、誰も彼もが辛そうな顔で―――だけど


  リュート「なんだよなんだよ!起死回生の策があるってのかよ、こりゃあ俺達もまだ助かりそうだなっ」ニィ
  エミリア「もう!それなら早く言いなさいよね…口も性格も悪いけど実力は確かだって認めてるんだからね」フッ


―――だけど、誰一人として諦めてはいない、口角を釣り上げて希望を見た様に誰も彼もが目を向けてくる


    ゲン「おう、にいちゃんその策ってのはどうすりゃいいんだい、俺は何をやりゃあいい?」
   アニー「アンタの策ってヤツに乗っかってやるさ、だからあたし等に指示を出してよ」


    ブルー「…助かる、俺の考えは――――」




 ……大勢の仲間と戦うのも、悪くないな、 蒼の魔術師はそう思った



684以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/20(木) 14:53:12.818LDl/Jlh0 (1/2)



    ゴーストC「苦痛を味ワえ、[激痛]よ!」

    ゴーストA「コォォォォ…ばあ"あ"ああ"""あ"」カパッ、ブォォォォォォァァァ――!!


 "最速行動<ファストトリック>"で発動する偽りの痛みは身体を通る神経に浸透し、強者の精神さえも蝕む苦痛の枷となる
搦め手に溺れた6人の真上目掛けて襤褸布の怪はフード越しに見えぬ口を開き冥府の吐息――[デッドリーパウダー]を吐く
 黴の胞子にも似たソレが真冬に舞い降りる雪が如く降り注ぐ、地に落ちる同時に弾け飛び肉を腐らせる毒をまき散らす

―――
――



 戦局を覆す場合、用兵術の一説に"攻撃三倍の法則"というものがある、曰く牙城を崩したくば敵勢力に対して
3倍相当の兵を揃えよという理だ

 古来の合戦上で雑兵1人を3人の雑兵で囲い確実に仕留める戦法、武人が目の前の相手と鍔迫り合いをしてるところで
左右から横槍が飛んできて脇腹を貫く単純明快な話だ
 当然、数の暴力を物ともしない一騎当千というイレギュラーや相手の優れた策を用いた手痛い反撃で
三倍の法則も破られることはあるのだが…



 祖国の学院でも当たり前だが用兵術に関しては多少なりに学んでいた、今の状況が正しくそれにあたる


 修羅場を潜り抜けてきた実戦経験豊富な地下組織の構成員2人、[ワカツ]の剣豪1人、なんやかんやで生き残る無職
決して弱くはないモンスターに変化したゲル状生物、魔法王国から勅令を受けた術士

 単純に数を見ても6対2、であるのに何故苦戦しているか



 自軍が身動きを取れない状態になることで無力化されるから、戦力としてカウントできない"案山子状態"であるなら
それは6対2とは呼べない、ではどうするか?




  - ブルー『…助かる、俺の考えは――――"1度だけ俺が隙を作る" その際に迅速に片方だけ落として欲しい』 -




 筋力、集中力が著しく低下して個々の戦闘パフォーマンスも落ちている、その状態でも全員で片方に対して集中攻撃を
掛けさえすれば攻め落せる計算だ、元より最初に倒せた奴も2人居れば勝てたのだ
 なら能力低下を加味しても5人総出で1対に集中砲火を当てれば撃破も可能、残るのはラスト1体…

 如何に動きを封じる[激痛]があろうと意味がない
動きを封じたはいいもののその間に攻撃を仕掛ける役割を担う者が居ないのだから



   - ブルー『連中の定石は相方が居るからこそ成立する戦い方だ、片方が動きを止めてもう片方が攻める』 -



 鍔迫り合いに持ち込んで身動き取れない敵を真横からバッサリと討ち取る、それと変わりない


 強いて言うならば封じ込めの影響範囲が1人ではなく6人全体に広がるという違いでしかないのだ


 - ブルー『この中で一番霊感を高められるのは恐らく俺だ、此処に呼び寄せられたり彼奴等の術中も味わった』-

 - ブルー『だから高めた霊感を身に纏い護りに転ずれば一度だけは耐えきれる、その後直ぐに――――』-

―――
――


    ゴーストC「くかかカカかかか……クカ?」
    ゴーストA「んンん~?」



   ゲン「…へ、へへっ、まだ死ねねぇなぁ…」ヨロッ
 スライム「ぶくっ!」


 剣を突き立てて杖代わりにまだ立ち上がる剣豪、すぐ傍に一角獣の姿をしたスライムが居る



685続き土日のどっちか2021/05/20(木) 14:54:48.918LDl/Jlh0 (2/2)



  アニー「ここが正念場ってね…っ」チャキンッ
 リュート「そうなるみてぇだな」スッ


 剣の切っ先を真っすぐ向けていつでもスタートを切れる状態のアニーと二刀流の構えでいるリュートが後ろに居る
そしてその背後で銃を構えたエミリアが、未だ膝をついたままのブルーが居る


 亡霊達は闘志を絶やすことなくこちらを見つめる生者達をせせら笑った、まだ諦めないのかと
搦め手に嵌まっている以上、チェックメイトからは抜け出せないのがわかっていないと
 よしんば[激痛]に耐えれる者が1人2人居たとしてその人数では自分達に致命傷を与えられない
受けたダメージも[ライフスティール]で相手から命を奪いつつ自己回復も図れるから負ける通りなど無いと


  だから、これまでもそうしてきたように呪いの言葉を紡ぎ出した

 動きを封じてその隙に少し前までは2体居た同志が無抵抗な者を甚振り殺していくセオリー通りの動きだ







    ゴーストC「かかかカカカかッ、愚かナ者達には相応しイ痛みを―――」





 [激痛]、今まさにそう言おうとした瞬間だった



































       ブルー「その力の奔流に飲まれ自らを滅せよ![サイキックプリズン]…!!!」キュイィィン!!








 蒼き術士が呟く様な声で詠唱を始めて印を切り始めたのは[デッドリーパウダー]が降りしきる中であった
一行の中で一番霊感が高いが故に[激痛]の呪術に耐えきった、仲間がスタン状態に陥るその中で敵に向けて密かに
魔力の檻を用意しておいた…っ!

 相手を爆殺する[インプロージョン]によく似た変形二十二面体の牢獄…っ!"科学的超能力<サイオニック>"の高位術が
亡霊の今まさに放たんとする[邪術]の力に反応して橙色の防壁へと変色していく…っ!!




686以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/21(金) 10:45:24.06qcWIB+rgO (1/1)

そういや術だからバックファイア有効なのか


687以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/22(土) 01:50:09.981BYRLjE00 (1/1)

ほんとにやたら強いんよなあのゴースト


688続き火曜日2021/05/23(日) 22:20:12.42ysoEIPa80 (1/1)



                [ バ ッ ク フ ァ イ ア ]



 変形二十二面体からジジジッと高圧電流でも流れた音がする、檻の中で暴発した術力がピンボールよろしく跳ね返り
術者たる襤褸切れお化けの身を焼いていくのは誰の目から見ても明らかだった

 敵方の定石は先述の説明通り片方が動きを止めてその隙に相方達が身動き取れない相手を甚振り殺すことだ
拘束する役割を担っていた片方は御覧の有様、とすればもう一方の動きはどう出るか…いや元からどうだったのか



  ゴーストA「な、なニィ!!!」

  ゲン「うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ――――っ!!!」ダッ



 堰き止められていた川が氾濫するように、彼らは駆けだす…っ!剣豪が、一角獣が、金髪の女が…っ!
その背後からは二丁の銃声が響き、烈風の剣気を飛ばす影も見える

 焼けた同胞が魔封じの檻から漸く開放された所を亡霊は目にするも今からでは到底[激痛]は間に合わない
自分が詠唱を始めたとしても走り出した連中を食い止めるより先に我が身に一撃が入りそこからは畳みかけられてしまう
 詠唱に時間の掛らぬ[雑霊撃]は?…対象が1人だけに限定されて1人止めても他が雪崩れ込む…っ!



   ゴーストA「ぐ、ぐぐグぐ…ぐそおおおお"おお"お"おぉぉぉ""ぉぉ!!!」カパッ、ゴォォォォォォ!!



 物の怪は一か八かの賭けに出たッッ!!

 呪詛を呟く為の口を大きく開き"声"を解き放つ――――音波攻撃に属する[スクリーム]を前方に目掛けて打ち出す
もはや動きを封じ込めるのは不可能と知り、ならば一人でも多く自分が叩き出せる最大火力の範囲攻撃で迎撃するしかない

 大気を震わす衝撃波は最前線に居る剣豪の身を襲う、次は幻覚でもない本物の痛みだ…しかしゲンは止まらない
衝撃波の勢いは先頭の男が壁となることで落ちていき、その真後ろには人よりも身が大きい一角獣が居て
それもまた後方への負担を和らげる緩和材となっているのだ


    ゴーストA「な、なぜダ!!!なぜ直撃で平然ト…ハッ!?」



   スライム「ぶくぶくぶーーーーーっ!!」キラキラ



 ゲンの真後ろにぴったりとくっつくように追従してくる[スライム]の一本角から七色の光が漏れていた
それは蒼き術士の毒を消し去った癒しの光[マジカルヒール]の輝きだ

―――
――


 - ブルー『その後直ぐに―――奴の拘束術を無効化する反撃の術を唱える、そこから一気に攻勢に出るが…』-

 - ブルー『彼奴等とて黙ってこちらの反撃を見過ごす間抜けではない、当然迎撃してくるだろうよ』 -

 - ブルー『そこでゲン、すまんがお前には弾避けの役を担ってもらう』-

 - ブルー『俺の見立てではこの面子で頑丈なのはお前と次いで[ユニコーン]に変身したスライムだ』

  - ゲン『なるほどね、所謂タンク奴っちゅー奴か…いいぜ引き受けてやらぁ』-


 - ブルー『スライム、お前はゲンをサポートしながら前進だ俺にやったのと同じ奴をできるな?』-

- スライム『ぶくっ!!』-

―――
――



 満身創痍だったゲンの体力を回復させつつ、先の[雑霊撃]の様なスタン作用を持つ何かしらの攻撃が来ても即時復帰で
敵への猛進を遮らせない手段…っ!最前線に立ち誰よりも早く前へ前へと進むことで相手方からすれば迫るゲンこそが
優先順位の大きい敵兵となる、到達順を考えれば遠くに居る敵よりも一番自分に近い敵を落とそうとするのが心理という物

 こうすることで後方に居るエミリアやリュートは勿論、まだ回復していないアニーにも攻撃ヘイトが向き辛い
[マジカルヒール]は生憎と1度に1人しか回復できないのだ、そこまで踏まえてのこの布陣である



689以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/25(火) 23:56:52.905fq+83BG0 (1/4)


 円環状の振動波を化した魔声を一身に浴びつつも剣豪は止まらない、止められない
生命の象徴に擬態した仲間の助力を得て"音撃波<ソニックウェーブ>"を真っ向から裂いて進んでいく
その様は荒れ狂う濁流が如し…ッッ!!



   スライム「ぶ、ぶくぶくぅ…」ヨロッ

   ゲン「…おう、ここまで付き合ってくれてありがとよ、ここまでくりゃあ十分だぜッ!!」ジャキッ



 とっておきの一撃を喰らわせられる射程範囲に魑魅魍魎を捉えた、ずっと傷を癒しながら背にぴたりと並んで走り続けた
小さな聖獣に労いの言葉を一つかける、後は物の怪を黄泉へと送り返すのは…っ!



   アニー「あたし等の仕事だっ!!」


 スライムの脚が徐々に速度を落とし、反対に剣豪は速度を上げる…っ!あまりの速さ故に残像さえも視える
韋駄天の域に達した侍の残像が彼自身の闘気を纏い、宛ら質量を持った残像と言うべき存在に変わる
 1人だったゲンが4~5人に分裂したと見紛う光景を見てスライムは安堵する、嗚呼、自分はやり切ったのだと
親愛なる術使いの期待に応えられたのだな、と…

 縺れそうになる脚、よろけそうになった身体の真横を一直線にアニーが通り抜ける
「後は自分達が引き受けるから安心しな」、すれ違い様に見せた清涼感のある笑みは功労者のスライムにそう語っていた


 一切合切の迷いが無い、直線的な走りでありながら静かに流れる様にも見える動き…それは小川に流れる清流が如くッ!



 キュィィン!キュィィン!!


            2連携 [ 濁 流 清 流 剣 ]





 瞬く間の出来事ッ!!

 質量を感じさせるゲンの残像が散開して気が付けば襤褸布を取り囲んでいた本体含めた5人分の人影が一斉に構え
同じタイミングで同じ動きで切り抜け碧色の闘気の線が5条流れ――――そこに蒼白の道が現れる
まだ闘気の余韻残るそこに…っ!濁流の流れで築かれた力の淀みへ清流が流れ込むッ!!


 碧の闘気に蒼白を上塗りして剣気を余すことなく敵方へと注いでやる、できたばかりの傷口に容赦なく塩を塗り込む様に



   ゴーストA「ぎぃぃ"ぃぃぃ"ゃああ"あ"ああ"あ"あああああ――――っ」ズバァァァ!!



 小さな羽の生えた茶色のローブは2人分の剣気に裂かれて物の数分せぬ内にバラバラになっていく
頭部のフード、左右の裾腕、上半身と下半身、五つのパーツに切り分けられ、その上で身体の中心線から左右へと
清流によって縦一文字に切り開かれた



   ゴーストC「わガ同胞ヨ…!」

   ゴーストA「お、ノれ」


 キュィィン!キュィィン!!

  バシュンッ!ダダンッ!

            2連携 [ 二 刀 烈 風 跳 弾 ]


 剣豪が放った闘気によく似た翠色の烈風が二撃、散り散りになっていく亡霊の身体を細かく分解して
それが元は着物であったことが分からぬ程に細切れにした後に飛んできた跳弾で紙吹雪をばらまいたみたいに空に舞った


 暴発した術力の乱反射から解放されたソイツは掻き消された同族を見て手を伸ばす

 だが、もうそこに生者の魂を求める悪霊は居ない




690以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/25(火) 23:57:36.825fq+83BG0 (2/4)


 勝敗は決まった、これまで数の不利を覆せたのも倒した亡者がこちらの大半を機能不全にしていたからに過ぎない
役割を担う者が潰えた今、詰みの一手を指し迫られた盤上を引っ繰り返す事なぞ不可能だ


       ゴーストC「ハッ!?」バッ!


 手負いの悪霊は己を取り囲む者達を見た


 いつの間にやら至近距離まで詰めてきてこちらに銃口を向ける元モデル
柄を握りしめて何時でも天高く跳び上がる用意が出来ている黄金色の髪をした女、いつでも術を発動できる魔術師
抜刀の構えで下から上へと切り抜く気の満々の剣豪、功労者のスライムに[傷薬]を与えながらも逃げさ無い様に囲む無職





    ゲン「還りやがれってんだ!―――ここは"死者<てめぇ等>"の住む世界じゃあねぇんだよ…っ」チャキッ




            3連携 [ 十 字 逆 風 の 二 段 ]






 闘気を込めた銃弾が5発、頭部、心臓部、下腹部、両腕と十字架を刻む様に放たれて直ぐ様[逆風の太刀]が入り
飛翔したアニーの振り下ろし、着地と同時の横凪で最後に残った亡霊もまた黄泉の国へと送られていく…



   ゴーストC「グ、し"ぃぃぃああああああ"あかか"かあ"ぁあぁぁ"ぁ"」ボジュウウゥゥ…


 死者が最期に上げる声を断末魔と評していいのかは分からないがソレさえも無くなりタダの襤褸布切れとなったソレは
術士の爆裂術によって完全に灰となる


―――
――






   ブルー「…終わった、か」


  リュート「ふぃーっ、いやぁ今のは正直ヤバかったぜ~…なんにしても危機は脱したし一件落着ってトコかね」


 印を切って、襤褸布を火葬した術士のすぐ傍でリュートが弦楽器を取り出し陽気に歌い出す
さっきまでの緊迫した空気はどこへやら、そんな糸目な彼につられて思わず最初にエミリアが噴き出す


  エミリア「ふふっ、一件落着ってまだ調査も終わった訳じゃないのに」


 結果だけ見れば偶々思わぬアクシデントに遭遇して要らぬ疲労を得た、モンドの基地とやらの調査自体は完了してないが
呆れを通り越してなんだおかしくて、それが緊張の糸を解いてくれたのだろうな


  エミリア「それとブルー、今度からは気を付けてよね?」


   ブルー「それは…その、なんというか本当にすまなかった」

   ブルー「今回の件は間違いなく俺に非があった」ペコッ


 リュート「おおっ、ブルーが頭を下げたぞ!いつもこれくらい素直にデレてくれるなら相棒として俺も――いてて!?」


   ブルー「誰が相棒だ、誰が」グイーッ

 リュート「痛い!?ちょっ、耳伸びるからやめて!?調子に乗ってすんませんって!!ねぇブルーさん!?」




691以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/25(火) 23:58:03.845fq+83BG0 (3/4)



  スライム「ぶ、ぶくぶー…(´・ω・)」ノソノソ

    ブルー「ん?」チラッ


 むず痒さを紛らわす為、都合よく調子のいい事を言ったリュートの耳を引っ張っていた魔術師は背後に居るゲル状生物に
気が付いた、もう[ユニコーン]の姿から元の[スライム]に戻っている
 蜂蜜色の髪を揺らしながら彼はスライムに近づきそっと身を屈めて…



   スライム「('ω')…ぶ? ぶく?」

    ブルー「…。」スッ










              ブルー「お前のおかげで俺は死なずに済んだ、ありがとう」


                      スライム「(´・ω・)!?」





 フッ、と柔らかい微笑みを浮かべて蒼い術士はそう告げた

 これにはスライムも……いや、ブルーという人物をよく知る無職とグラディウスの面々は目を丸くして驚いた
明日は天変地異が起こるかもしれない、リージョン界が滅亡するのでは?



   アニー「う、うそぉ…」
  エミリア「あのブルーがお礼を言うなんて…不吉だわ」
  リュート「マジか!?明日は雪、いやいやリージョン破壊兵器が表れて世界の終わりが来てもおかしくないぜ!」


  ブルー「貴様ら言いたいことがあるならハッキリ言え」





   スライム「(´・ω・)…」


   スライム「(*'ω'*)…っぶく!」パァァァァァ…!キラキラ






   スライム「(*‘ω‘ *))))=((((*'ω'*) ぶくぶくぶー!!ぶくぶくぶー!」ピョンピョン!ササッ





 ブルーに褒められた。

 それが嬉しくて彼の周りをぴょんぴょん跳ねながら、ぐるぐると回るスライム…宛ら親に褒められた子供のようだった


 ゲン「ははっ、コイツにいちゃんに褒められて嬉しいみたいだな、けどそんなに走り回ってると危ないぞ―――」


  スライム「(*‘ω‘ *)ぶくぶく――――」



 床に落ちてた宝箱『 』ドカッ!!

 スライム「( ゚ω゚)ぶくっ!?」ドンッ、ポテッ



692次、木曜日か金曜日2021/05/25(火) 23:58:48.445fq+83BG0 (4/4)



  ゲン「ああっ、ほら言わんこっちゃね…ぇ?」キョトン



 はしゃいでたスライムが何かに躓いて(というかぶつかって)転んだ…箱状のそれは先の戦闘で[ゴースト]共の放った
[イルストーム]や[デッドリーパウダー]で吹き飛ばされてうまい具合に瓦礫の山に突っ込んでいて
危うく誰も気づかず帰る所であった…


  ゲン「こいつぁ刀箱じゃねぇか…」


 紫色の紐でしっかりと縛られた漆塗りの刀箱、空襲で城が焼け落ちた時も汚れ一つなく
ましてや戦闘の余波で吹き飛ばされたにも関わらず綺麗な状態で残った箱は…まぁ普通の箱というわけではなく



  ブルー「おい、ゲン…この箱はなんなんだ?
           そもそも俺が下級アンデッド共の呼び声に惹きつけられて気付いた時もこの箱の前だったぞ…」


   ゲン「これは武士の命を収めとく箱だ、しっかしこれだけ綺麗に残ってるとなると普通の[刀]じゃねぇな」


 [ワカツ]というのは剣豪が、侍が技を競い、洗練された刀を作る鍛冶の国家だった
それゆえに[ルーンソード]の様な術を込めた特殊な劔や妖力を秘めたる銘刀も取り扱っている


  ゲン「……」

  ゲン「もしかしたら、あの魑魅魍魎はこの中に入ってる刀を護ってたのか、はたまた未練がましく憑いてたのかもな」





  ゲン「武器ってのは使い手の心を映す鏡だ、人を殺める殺人剣にもなりゃあ人を活かす活人剣にもなるんだ」


  ゲン「良くも悪くも元の持ち主の念が入って、呪われた妖刀だの守護の劔だと謳われるようになっちまう」



 神話や伝承に伝え聞く祝福を受けた聖剣や呪いの武器、というのはありきたりだが何処の国にもその手の物はある
[シュライク]のとある古墳にも嘗て栄えた王が使っていたとされる剣が眠っていると言われるくらいだ
 ともすれば、これもそうなのだろうか…



  ブルー「…すると、何か?あの3匹の敵ランク2とは到底思えん[ゴースト]共はこの宝箱の中身の為だけに居た、と」

   ゲン「可能性は、まぁあるだろうな…」


 なんと傍迷惑な話だ、剣に憑りついて死にきれない魂が寂しさからここをふらりと立ち寄った生者を亡き者にして
お仲間に加えようっていうんだ…堪ったもんじゃない



  アニー「ねぇ、ゲンさん…この中に入ってる剣って店で売ってる[刀]よりは強いんでしょ?」

   ゲン「んあ?そりゃああんなのが憑りつくくらいには強ぇだろうな」


  アニー「そんであたし達が倒したからコレにはもう何も憑りつていない、そういう事だよね?」

   ゲン「うん?あぁ…そうだな」


  アニー「じゃあブルー、アンタ戦利品としてコレ貰ってきなよ」


  ブルー「はっ!?お、俺だとォ!?」

  アニー「そっ、アンタよ!今ゲンさん言ってたじゃんか、変なの憑いて無いから大丈夫って…あっ、あたしはパスね」


  ブルー「お、お前なぁ…」ワナワナ


 ……こうして一波乱あった末に刀箱に入っていた銘刀―――[双龍刀]―――を彼らは手にするのであった




693続き明日2021/05/28(金) 23:49:20.22JAK6wrJy0 (1/1)


【双子が旅立って9日目 午前 1時03分】


 [ゴースト]三人衆との激戦の末に野営地に戻ってきた6人は疲弊状態から脱する為にもう暫くの休息を要した
術力は近辺の安全を確保したのちで[術酒]ないし[神酒]を飲むことでどうとでもなるが、技力はそうもいかない
 おかげで軽い休憩のつもりが長引いてしまったが


  ブルー「…。」

  ブルーの手『 [双龍刀] 』キラッ


 今度は焚火を6人全員で囲って腰を下ろす、流石にこれだけ近くに居て誰かおかしな動きをしでかして野営地を離れたら
一発で分かるだろう、と…レオナルド博士が整備を終わらせたメカ4体も博士と共に野営地に近づく影があるか警戒する
 本格的なメンテナンスの真っ最中で身動きできなかった今と違ってメカ軍団は120%の戦闘パフォーマンスを発揮できる
ぶっちゃけた話、"人間<ヒューマン>"組(+スライム)よりも明らかに強い
 全員最低でも[パワードスーツ]を1つ以上装備の上に強力な武器、頭装備等を持っているのだから
この中で[武道着]の上から買ったばかりの[武神の鎧]を装備したゲンよりも明らかに堅牢である




 なんならさっきの襤褸布お化けもメカが1人、2人居たら秒で片付いたまである





 T-260や博士の[剣闘マスタリー]を駆使した[多段切り]や特殊工作車の[どっきりナイツ]で
黄泉比良坂の向こう側まで吹き飛んでいてもおかしくなかった



  リュート「しっかし、その剣、かっちょいーよなぁ」

   ブルー「ん?…あぁ確かにこの意匠は芸術品としても高いと思う」


 剣豪が崩落した城の中から燃料となりうる木材や布を拝借してきた、それを城の残骸で作った簡易焚き火台に焼べた
ゆらゆらと燃える炎に照らされて二首の龍が絡み合う様な鍔とその先から伸びた持ち手の貌さえ映る水鏡を思わせる刀身
冷たく凍り付くような美しさと何者をも打ち砕かんとする内なる強さが銘刀からは感じられた


  ブルー「振り易さも刃渡りの長さから切れ味の好さまで全てが良い、マンホール下で売られてた[刀]とは段違いだ」

  ブルー「[ワカツ]の鍛冶技術に関しては文献で知識として知っていたがこれ程とは思わなかったよ、他に――」


  ゲン「…。」

  ブルー「ゲン?」


 他にこれ以上の業物が存在するのか?と問おうとしたところで眉間に皺を寄せて難しい顔をしている剣豪の表情を見た


  ゲン「…あ、わりぃ…少し考え事しててよ」

 ブルー「どうした貴様、随分と思いつめた顔をしているようだが…」


 初めはこんな有様の故郷に帰省してきたからだと思っていたが、どうやらそれとは違うらしいことに薄々気付いた
時折、彼はとある蔵がある方角を気にして、今度は術士が得た戦利品を見て同じような顔をしていた事…


  ブルー「……貴様が偶にみている方角、お前が道中に言っていた"剣神の間"とやらか?」

   ゲン「!!……ははっ、わかっちまうか、……まだ若ぇ頃に何度も忍び込んで行ってみたもんさ」


   ゲン「…"剣神の間"、優れた剣士には剣神から剣が授けられるという」


   ゲン「だが、俺は…」グッ!!


 剣豪は利き手で無を虚しく握りつぶす、…いつの日にか自分は手にするんだと胸焦がれたまま、遂には叶わなかった
あの忌まわしき大空襲の日も陰謀によって[ワカツ]を灼き払うトリニティ政府の連中を一網打尽の返り討ちにできうる
劔を授かることもできなかった、自分にもっと力があれば何か変わったのではないか…そう思わなかった日も少なくない


   ブルー「……なるほど、ついぞ取れなかったという未練か、であれば――――行ってみるか?」



694以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/29(土) 15:41:48.20gVx/wbFz0 (1/1)

スライムがあまりにもかわいい乙


695以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/29(土) 22:33:39.84QsEDsMMD0 (1/2)



  ゲン「行くって…"剣神の間"にか!」

 ブルー「今の話の流れでそれ以外の何処だというのだ、こっちは例の基地とやらを探すべくその方角にも向かうのだ」

 ブルー「少しくらいの寄り道はしたって構うまい?」


 天守閣方面、即ち[ワカツ]城の上層にはそれらしいものは無い、他に可能性があるのならば"地下"だ
この城で地下に降りる階段があるとするならば、道すがらゲンが話していた剣神とやらを祀る間へ繋がる蔵の階段しかない


   ゲン「……。」



  リュート「今度はやれるかもしれねぇだろ?諦めなければ人間なんだってできるって俺の母ちゃんも言ってたぜ」

   アニー「なんだってやってみるもんじゃん、あたし達もついていくって」





   ゲン「…へっ!駄目で元々たぁよく言うもんだぜ、俺の青春時代のリベンジって奴だ」

   ゲン「すまねぇがちょいと付き合ってくれや」


  ブルー「決まりだな」


―――
――




  地割れ『 』



   ゲン「この先だ、助走つけて地割れを飛び越えるぞ!」ダダッ、バッ!

 エミリア「ふっ!!―――ととっ!?」バッ、シュタッ――フラッ


  アニー「エミリアっ!」ガシッ



 野営地での十分な休養が取れた事で一行は北上して件の蔵を目指すがその道のりというのがまた酷い物で
階段部分が普通に崩れていて底が見えない程の奈落と化しているのだ
 走り幅跳びの要領で飛び越せるが、『行きは良い良い帰りは怖い』とは謂う物で…帰り道が無い
高所から低所に向かって跳ぶ形だからどうにか大穴を越せるが逆に低所から高所へと戻ろうと思えば厳しいものだ

 いざとなれば[ゲート]の術で別の"惑星<リージョン>"へ脱することで帰還は可能ではあるのだが…



  エミリア「アニー!!…そのまま後ろに仰け反って転落死するかと思ったわぁ!!」ヒシッ!!

  アニー「もう…しっかりしてよねお姉さん」


 若干涙目で腕にひしっ!と抱きつく年上を制しながら黄金色の髪をした女は前を見る、[キャンキャン]や[メカドック]と
暴走したロボットが居るのだが不思議とこちらには近寄ってこない



   メカドック「…」ピピピッ!

  キャンキャン「…。」ガーッ、ピーッ




 アニー「…あいつら何でこっちに襲ってこないのかしら?助かるから良いんだけど」



 その理由を直ぐに知る事になろうとはこの時、彼女らは思いもしなかったのである…
後ろから飛べるナカジマ零式を除いたメカ4機が向こう側からブースターを吹かして溝を飛び越えてくる



696続き明日2021/05/29(土) 22:34:14.50QsEDsMMD0 (2/2)



    T-260「…。」ピョン

 レオナルド「よいしょっと!」ピョン

 特殊工作車「はい」ブゥゥゥン!!ジュゴォォォ

   pzkwⅤ「あらよっと!!」ダンッ!!



 ナカジマ零式「ぶんぶーんw お先にひとっ飛びしますよー」ビューン




  地割れ『 』




 メカ軍団が一斉に跳んだ、そして着地した。




 ミ シィ メキィ ミリミリ…っ



 荒廃した[ワカツ]の階段『 』ミシィィ…!!



  リュート「うおぁ!?」グラグラッ

    ゲン「ぬおぉぉっ!?」ヨロッ



 メカとは言ってみれば鉄の塊だ、当然ながら重量は人間やモンスターのソレとは比較にならない
そんな集団が一斉に跳んでただでさえ脆くなった溝付近に着地すれば当然、負荷が掛かるわけで…


 レオナルド「おっと…っと、あー皆大丈夫かい?」

 レオナルド「ボクとしたことがうっかりしてたよ、今のボク達相当重いんだったね」


  エミリア「き、気を付けてよね!!…はぁ、やっぱり私機械って苦手かも」ボソッ


  アニー(…もしかしてあいつ等が襲ってこないのって溝を警戒してってことだったのかしら?)


  アニー「……うん?」ハテ



 ふと、彼女は思った



          暴走メカにしては地層の脆さから溝に近づいてこない辺り賢いAIだな…と




 メカドック「グルルルルル…」

 キャンキャン「ピピッ! 排除!排除!」



 ブルー「チッ、襲ってこないかと思って少し近づいたらコレだ、全員サッサと片付けて進むぞ!!」

 アニー「え、えぇ!!そうね!」チャキッ


 何か奇妙な違和感があるが、それは一先ず置いておき生きてる者の存在を認識して排除しようと襲ってくるメカに
剣を構えて応戦する、英気を養った事で頗る調子の良い一行は難なく目前の対象を動かない鉄屑に変えて
目的の蔵まで到達したのであった




697以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/30(日) 23:12:04.72MmAOglQK0 (1/5)



 蔵の裏口から入り込んで直ぐに中央から広がる大穴が見える、がっぽりと開いたソレの所為で正面口からの侵入は不可で
こうして回り込んでくるしか無かったのだ、よく見ると穴の向こう側の――つまり正面入り口側――天井に何かが
へばり付いている、天井隅の影にあるため分かり辛いが微妙に光沢の様な物が外の月明りから分かる辺り
[リキッドメタル]の様な無機物系の魔物だろうと察せられる


 ゲン「そこの階段を下ればいいんだが昼間ならまだしもこんな時間だ、流石に地下まで月明りは来ねぇからな」


 焚き火台を探してきた時についでで持ってきていた手持ち提灯に火を灯す
術士も魔力を指先に集中させて光球を発生させて足元を照らしながら階段を降りていく…


 割れた壺の残骸、箱に入った布包みや厳重な錠前付きの木箱、保管庫の様な所だったのか?と初めて来る者達は
思いながら歩いていく、途中で大きな壺の中から昆虫魔物の[デスポーカー]が出てきて飛びかかっても来たが
それを難なく切り払う




 やがて…異様な一室へと彼らは足を踏み入れた






     ブルー「これは…何と壮観な」

    リュート「ひゃ~~っ、たまげたぜ…これが剣神さんって奴なのか?」



 月明りも太陽の光も何一つとして届かない筈の屋内だ、ゲンの先述通り今しがた通ってきた道は月光の届かぬ地下
だというのに、この部屋だけは光が射しこんでくるのだ

 中央には人ならざるものとしか表現できない巨大な武者鎧が大きな武器を片手に佇んでいる

 肩に膝に、あらゆる部位に矢を受けて朱色の槍が何本も突き刺さり貫いていた…それは遠目には紅い紐の様な物で
強大な力を持った何者かを決して動き出さぬ様にと縛り上げて封印でもしている様にも見えただろう

 異質と言わざるを得ない武神の頭上、鉄兜の真上からは件の光が…まるで神々しい光がかの存在の背から放たれて見える
畏怖の念を抱きもする恐ろしい化身の祀られた部屋、だが恐ろしさの中に秘められたある種芸術性があるとも呼べる光景



   ゲン「おうさ、城の地下に祀られた剣神よ…真後ろのに開いた覗穴みてぇに小さいのは何時できたのか知らねぇ」

   ゲン「ただ地下だってのに外のお月さんも真昼間の御天道様の光もここから射すんだ、どういう理屈かよ」


  ブルー「…ふむ、力の流れを感じるな」ジーッ

  アニー「やっぱり術的な力が働いてるってわけ?」


  ブルー「そんなとこだな…実に興味深い」


 早速、自分の興味がありそうな事象を前にして光が射しこむ理屈は何か?

 [陽術]で直接光源を創ったり[陰術]を利用した光の屈折で外の明かりを取り込んでいるのとも違うのか?
何時の時代の何処の"惑星<リージョン>"にあった術式系統なのか等々、前のめりにそれを解析しようとする術士を見て
元スーパーモデルは「あっ、これ長くなる奴だ」と嫌な予感を察知した


 エミリア「そんなことよりゲンさん、剣神から剣を授かるんでしょ?」

  ゲン「あぁ…そうだな」テクテク


 術マニアが変に没頭して無駄に時間をかけては困る、速やかに目的を達成してこの部屋を離れなければいけないと
ブロンド美女は剣豪に目的を遂行するように促す、剣豪はテクテクと祀られた鎧の前に歩いていき…そして目を閉じて


         ゲン「…。」スッ

         ゲン「……。」



         ゲン「…。」



698以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/30(日) 23:13:26.39MmAOglQK0 (2/5)



  リュート「…」ゴクリッ

  スライム「(;´・ω・)…」ドキドキ




















           ゲン「…剣神よ」

           ゲン「…。」



 ゲンは目を閉じたまま、その場に立つ






























  しかし なにも おこらなかった 。









―――
――




  リュート「ゲンさん、元気出してくれよ、その優れた剣士が貰えるとかいう剣って誰も見た事ないんだろ?」

  リュート「だったらそんなの本当は存在しない嘘っぱちだったかもしれねぇじゃんか…」

    ゲン「ははは、励ましてくれてありがとな、にいちゃん」




699以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/30(日) 23:14:53.35MmAOglQK0 (3/5)



  ゲン「野営地出る前に言っただろ『駄目で元々』って、…"剣神の間"にゃ未練はあったさ」

  ゲン「だからよ挑戦できた事自体に意味があるんだ
        泣いても笑っても俺の青春時代のリベンジは果たせた、それでいいじゃねぇか」ニィッ



 へへっ、これで心残りが消えてスカッとしたぜ!そう朗らかに笑うゲンを見てリュートもまた笑い返す、強い人だなぁ
そう感じながら彼は剣豪に対して笑い返した



  エミリア「んんっ、それにしてもモンドの基地全然見つからないわよねぇ…本当にあるのかしら?」



 話題を変えてあげようとブロンド美女が主目的の事を口にする、上層になければ地下だろうと結論付けたが
その地下とやらに続く階段の先も"剣神の間"とその手前にあった物置の様な小部屋1つだけで
間違っても政府を転覆させようと企む大物が潜めるような大規模基地の入り口など無かった



 レオナルド「モンド執政官の基地か、確かに彼程の人物が隠し持つ基地の入り口があんな小さな小部屋にってのは無い」

 レオナルド「[シュライク]にある[中島製作所]、そこで開発された画期的なシステムを押収したり…」

 レオナルド「秘匿してる戦力や彼自身の私兵の数、規模を考えればあんな小さな地下には収まり切らないよねぇ」



 全"惑星<リージョン>"を統べるトリニティ政府へのクーデターを画策するのなら最低でも
戦艦クラスの"宇宙船<リージョン・シップ>"を1隻2隻どころか艦隊が組めるくらいにあっても不思議ではないのだ

 そんな大掛かりなドックがあるのだとすれば、もっと広い空間が必要になる


 単純に隠し通路兼秘密の入り口があるとしてもあんなちっぽけな地下部屋には作らないし、戦艦が数隻は搬入可能な
超巨大なスペースもあんな蔵の階段をちょろっと降りた程度の深度にある筈も無い



 ならば一体どこにあるのだ……




 [ワカツ]に秘密基地があるという情報そのものがガセなのでは?信憑性に疑いを持ち始めつつ集団は進んでいく
剣神が祀られた部屋に来る為に高所から低所へ溝を飛び越えてきたのだ、来た道をそのまま戻れば帰れる訳ではない
三叉路になっている地点まで来て蔵から出て左手になる曲道を曲がる、そのまま道なりに進んでいくと再び溝があった



  地割れ『 』


   ゲン「っと、まーたでけぇ溝か…」

 リュート「でもこの先の道は見覚えあるぜ!!ここを跳べば帰り道に無事つけそうだな」



  ブルー(…結局モンドとやらの基地は発見できず、か…)

  ブルー(やれやれ有給は期待できそうにないが、まぁ個人的に興味あった[ワカツ]の写真は幾つか撮れたな)


 ナカジマ零式「へいへーいw 飛べる私は先に行っちゃいますよー」ビューン!


    pzkwⅤ「っしゃ!思いっきし助走つけて行くぜ!」ダダダダダッ――――







         床に落ちてた[鉄下駄]『 pzkwⅤの足 』ガッ


  pzkwⅤ「…はえっ!?」ヨロッ




700以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/30(日) 23:16:32.23MmAOglQK0 (4/5)




    pzkwⅤ「おどっ!?おどどど…ど、どわぁぁぁぁぁ!?!?!?」バッ!


 この中で一番重火器を身に着けていて、一番重量のあったpzkwⅤは偶然落ちていた[鉄下駄]を踏み大きくバランスを崩す
すっ転びそうになった彼は子供の片足ケンケンに似た姿勢でそのまま半端に跳んでしまい―――


     ガシッ!!



   ナカジマ零式「へっ?」チラッ

   pzkwⅤの手『ナカジマ零式を掴む』



   ナカジマ零式「の、のわーーーっ、ちょーっとアナタ何掴んでるんですか!?!?おわぁぁ落ちるぅぅぅぅぅ」



    pzkwⅤ/ナカジマ零式「ああああああああああーーーーーーーーっッッ!!」ヒューッ!!





――――――ゴ ッ ッッッ!!




 鈍い音、中途半端に跳んだ歩く弾薬庫とそんな彼に掴まれつつも彼諸共に向こう岸に届く程の飛距離を稼いだ飛行メカは
2機分の重量を分散させることなく大地に叩きつける


 さっきの4機同時に一斉に跳びこそすれど、着地地点がばらばらで衝撃が分散されるのとは異なった2機分の重量と衝撃が
一箇所に収束されるソレは訳が違う
 一点集中で運動エネルギーを受けた地盤は当然のことながら軋むような音を上げてそして――――!!



    荒廃した[ワカツ]の階段『 』バコンッッッ




    pzkwⅤ/ナカジマ零式「うぎゃあああああああーーーーーーーーっッッ!!」ヒューッ!!




 …そして、当然の如く崩れた、底の見えぬ奈落へと通ずる溝は更に広がったのであった

 2機のメカが地割れに飲まれ母なる大地の底から伸びる引力の手引きと
重力の後押しで落ちていく様を見て一同は困惑した…『えっ…どうしよう…』と


 レオナルド「……、と、とにかく少し待とうか!ほら零式くんは飛べるから、無事なら自力で浮かんでこれるよ、うん」


 などと珍しく慌てた博士の発言に一同は待つしかなかった、じゃあ無事でなければ浮かんでこないのでは?とか
無事だったとしてどうやってpzkwⅤを引きあげるんだ?とか割と問題解決になってない等ツッコミは誰もしなかった



   レオナルド「……!!ほら飛んできたぞ!いやぁ無事だったかナカジマ零式くn――――」








   ナカジマ零式「たたたた、たいへんでーす!モモモモ、モンドの基地を発見しました~~!!」ビュウウウウン




 奈落の底に不慮の事故で落下した2機の内、片方は帰ってきた、猛スピードで…それはもう大慌てで
諦めかけていたモンド氏の秘密基地を奈落の底で発見したというとんでもない手土産を持って…



701次、木曜日か金曜日の予定2021/05/30(日) 23:23:43.30MmAOglQK0 (5/5)

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                      今回は此処まで!

               【解説 ワカツ3点セットとモンド基地その①】



                  鉄  下  駄  ☆



・[鉄下駄]…[ワカツ]のMAP上に落ちているアイテムの内1つ

 防御力8で地味に脚装備の中じゃ店売り最強の[フェザーグリーブ]より上という…丈夫さも+10補正値が入り
 プッシュ耐性と何より固有技で[鉄下駄シュート]という技が使えるようになる戦闘中に1度しか使えない技だが
 FFで言う所のダイスみたいなもので、出目によってダメージが変わる仕様

 [鉄下駄シュート]は下駄が命中して裏が出るとダメージが5倍という浪漫技でもある



 入手場所がやや面倒くさい場所にあって、[ワカツ]をぐるっと一周してこないと取れない、段差を飛び越えて
 剣神の間方面を通ってこないと手に入れられないので困る





※当SSにおいては、pzkwⅤがその原作通りの場所に落ちてた[鉄下駄]踏んづけて滑って落下したということになってます




・[双龍刀]…攻撃力41で某古墳で拾える[天叢雲剣]より普通に強い刀武器である(そもそも天叢雲剣は刀装備じゃないし)


 こちらは下駄の方と違って比較的入手がしやすい、剣聖の間方面にあるためカードのついでで大体のプレイヤーは取る

拾えるアイテムのシンボル、なんか金銀財宝の中に剣が1本突き刺さってるみたいなアレのグラフィックとは違いコレだけ
宝箱に入っていて、しかもすぐ近くに特別個体の[ゴースト]3体グループと固定エンカウントする忍者敵シンボルが居る


 双龍刀の前の持ち主だったのか刀についた悪霊なのか何のかマジで不明
ここにだけこんな意味深な固有モンスターを配置する辺りスクウェア社は当時ここに特別な何かを実装する気だったのか

なお、別にコイツ等は倒さなくても問題ない、シンボルエンカウント形式だから普通にMAP上で回避して刀だけ盗むの可



・[流星刀]…攻撃力55の刀武器、最強の刀武器はやはり[月下美人]だが
 全体攻撃の[ミリオンダラー]が使えるという良さがある


 剣神の間にてゲンさんの最大WPが70以上無いと剣神が授けてくれない、月下美人は一応どの主人公でも
 頑張れば入手は可能ではある、ただ特定の敵相手にひたすらドロップできることを願って戦闘しなきゃいけない
 道中の宝箱で手にできるのもアセルス編とレッド編(ついでにリマスターのヒューズでアセルス√に行った時)ぐらい

 ゲンさんのWPを70より上げればあっさり取れる強い刀武器という点では便利である

 余談だがこの刀、尤もルージュバグとヒューズバグが活用できる武器でありパーティー離脱する術士と刑事に[流星刀]を
持たせて一旦別れて剣神の間にくれると何本も授けてくれる、剣神様太っ腹すぎやしませんかねぇ?




 モンド基地に関して①

 トリニティの執政官にして実はトリニティの転覆を目論む野心家モンドの秘密基地、リュート主人公時のラスボスが
居を構える最終ダンジョンである、原作で[ワカツ]からは決して侵入できず、また何処にあるのかも確たる明言が無いため
これは完全に独断と偏見ですが…おそらく[モンド基地]は[ワカツ]の地下深くにあると推測
(もしくは舟渡が船を漕ぐ例の城周りの水底に海底基地みたいな感じである)


 まず、モンド艦隊の旗艦"ホエールタイプ"の規模はネルソン艦隊のビクトリアと見比べても明らかにデカい
ビクトリアがキグナス号より小さいシップなのもありますが、鯨の名を冠するだけある戦艦とそれを搬入できるだけの基地
それが表にあれば航路封鎖されてて人が来なかったにしても流石にバレる、空間的な問題にしても
作中のモンド基地の内部構造を考えてみれば地下にあると考えるのが妥当かと…

あのラスダン、リフト型のエレベーターで延々と下に向かって降りてくんだもん…ぜってぇ地下だ

リマスター版で[スクラップ]経由から資材を持ち込んでいた事が判明した為、恐らくは非合法な…カバレロ辺りから
建築用資材を足のつかない方法で手にして秘密裏に基地建設をやっていた説

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702以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/05/31(月) 18:16:25.09loQ5f2IL0 (1/1)

おつです
ゲンさん足りなかったかあ


703ここでまさかのルージュ側切り替え2021/06/04(金) 07:32:24.11g62tNk5x0 (1/2)
















            …zzz、ZZZZZ……むにゃっ?














 はれ? ここは何処だ?…ええっと確か[ヨークランド]を発って[クーロン]で[金]を買おうとして


 それから購入金が足りなかったからお宝探ししようって![シンロウ]に向かって



 …ってなんで僕、檻の中に入ってるんだ!?






704続き、土日のどっちか2021/06/04(金) 07:33:48.91g62tNk5x0 (2/2)

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―――
――



【双子が旅立って9日目 午前 6時10分】



 紅き魔術師は眠りから覚めて困惑した、まず鼻に突き抜けるのは黴臭さのある湿った匂い
冷たい石畳の上で横になっていたせいか―――いや、それだけじゃない、身体の節々が痛いと感じたが
単に硬い地面の上で寝たからじゃない


 よく見れば体中に痣がある、だんだんと何があったのか思い出してきた











             IRPO女性隊員「…お目覚めのようね、ルージュ君」









   ルージュ「ドールさん!!ここは一体…確か僕たちは遺跡探索してて…それから扉を開けようとしたら変なガスが」





 ドール、そう名前を呼んだのは[シンロウ]に到着して間もなく同行することになった弟を探しているという女性である
最初、この"惑星<リージョン>"に来た時に困った様な顔で辺りを見渡していた人を見つけて、見るに見かねたアセルスお嬢が
初めてルージュに接した時と同じ様に声を掛けて事情を聴いた所、遺跡の探検に出かけた弟さんが帰らないとの事で
丁度遺跡探索に行く自分達と一緒に探しに行きませんか?と話をつけたのであった


 道中で[ガイアトード]や双子の[ヴァルキリー]と戦ったり、精霊銀製の防具や[ツインソード]等のお宝を見つけたり
兼ねてよりの懸念だった懐事情とパーティーの武具問題を微量ながら解決したり、様々な事があった


 そして、とある扉を開けようと手を伸ばした瞬間おかしなガスが噴出してそれを吸った一行は正気を失いパニック状態に
陥ってしまった、更に誰がどこにいるかまともに判断できない最中、全身黄色のタイツスーツを着た集団が天井から現れて




……そして、気付けば自分は檻の中だ




        ドール「ここはブラッククロスの幹部、ベルヴァの秘密基地よ」

       ルージュ「ブラッククロスだって!?それはレッドの――――ハッ!?れ、レッド!?彼は…?」キョロキョロ



 術士は辺りを見渡す自分の他には―――武装を完全に外されたBJ&Kだけ居る、妖魔の二人は居ない



     ドール「彼女達なら他の檻よ、妖魔は貴重だから特殊な怪人にできるって考えてるのでしょうね」

    ルージュ「くっ、改造手術で怪人にするってことか…っ」

 ドール「レッド君はさっき連れていかれたわ、このままでは彼もきっと…武器も取られて助けにも行けないお手上げよ」



 苦々しい顔でドールが呟く、さっきから術を使って檻をぶち破ろうと試みるルージュだが術が発動しない
檻全体に術士用の対策が為されているのだ嫌でも思い知らされる



705以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/06/05(土) 07:25:43.20pIu88LTH0 (1/1)

ルージュくんパート来た!


706以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/06/05(土) 16:10:04.34eK1ETQhJO (1/1)

ドール昔はそんな興味無かったけどリマスターで解像度上がって背中がめちゃエロい事に気づいて好きになった


707>>706 ドールさん良いよね、小説版だとシュライクのグラビア誌に匹敵するスタイル持ちと判明しますし2021/06/06(日) 22:22:43.99UtZ6Y/9O0 (1/2)



  ドール「無駄よ、[ディスペア]でも採用されている凶悪犯罪者用の特殊合金で造られているわ」


 監獄の"惑星<リージョン>"と名高い刑務所はあらゆる囚人が収容される、腕っぷしが強い傑物から高名な魔術師まで
内部から鉄格子をぶち破られては堪ったものではなく、そこで術対策も成された特殊合金が使われているのだ


  ルージュ「…っく、駄目だっていうのか…」ガクッ

  ルージュ(ヤルートの時といい、今回といい……僕ちょっと捕まり過ぎじゃないのか?)


  ルージュ「…。」


  ルージュ「ドールさん、檻の材質がわかったりブラッククロス幹部の事を知っていたり貴女は…?」


 彼女自身も資質こそは持っていないが[陰術]と[妖術]が多少使える身だ、特殊合金の一件は試したと言われたらそれまで
…然し、幹部の名前を知っているのは解せない
 以前[京]で観光記念写真を撮ってもらったりアセルスに剣を一振りくれた親切なメカから悪の組織には四天王と呼ばれる
幹部が居るとは教えてもらったが名前は知らない、ドールは此処が[ベルヴァ]という幹部の基地だと言い当てた



――――ただの行方不明になった探検家の弟を探す一般人のお姉さん、で片づけるには不自然だ




  ドール「そうね、もう隠す必要も無いから明かさせて貰うわね私は[IRPO]の捜査官ドールよ」

 ルージュ「!! パトロールの方だったんですね…」


  ドール「ええ、貴方達の事はヒューズから聞いてるわ」



―――
――



  -ヒューズ『あー、もしもしオレオレ、俺だよドール……あっ!詐欺じゃねーから!切らねぇでくれって』-

  -ヒューズ『えっ、冗談?…いやね、アンタが言うと洒落に聞こえねぇんだよアイシィドール』-



  -ヒューズ『おう、そんで話ってのはな例の犯罪組織の事だがな奴らをぶっ潰す上で面白い連中がいるんだ』-

  -ヒューズ『見た目が賑やかな集団だから見たら一発で分かる、そいつ等について行けばクロにたどり着けるぜ』-


  -ヒューズ『サボテンみてーなヘアスタイルした小僧と緑色の髪したコギャル、頭に白い花つけた妖魔の婦人』-

  -ヒューズ『そんで白毛の大型犬っぽいモフモフした毛玉が紅い服着て歩いてる様な奴な』-



―――
――




   ルージュ(…大型犬、毛玉…)ズーン



 随分な言われようである、毛玉呼ばわりされた紅き術士は表情に影を落とし、ついでに肩まで落とした
[クーロン]で別れて以来未だ再会はしていないがよく自分とアセルスがレッド少年と旅を共にしていると分ったものだ
その辺腐っても"銀河の海<混沌>"を股に掛けてあらゆる"惑星<リージョン>"に足を運ぶパトロール隊員だ
 警察機関の所属ゆえにその手の情報を掴むのは早いのだろう


  ドール「騙すような形でごめんなさい、でも捜査中に指名手配犯の[ベルヴァ]が潜伏したこの地で身分は…」


 できる事なら正体は明かさずに行動したい、刑事だとバレたら当然[IRPO]本部からの応援要請を警戒して
下手に手出しをしてこない可能性も有り得た……尤も、各隊員は今諸事情で大半が来れないのだが



708続き火曜日か水曜日のどっちか2021/06/06(日) 22:23:37.03UtZ6Y/9O0 (2/2)



  ルージュ「あ、いいんです!そういう事情があるなら仕方ありませんからっ」


 そんなことより今はこの窮地を脱する方法を考えないと!術士は女刑事にそう告げながら
とりあえず武装が外されたBJ&Kの電源ボタンを押して起動させる


  ドール「…無線機は取り上げられてるから他の隊員と連絡は取れないわ、取れても皆、現場を離れられないのよ」


 ロスター刑事ことクレイジー・ヒューズは[キャンベル・ビル]の武器密輸を追ってる
妖魔隊員のサイレンスは[ルミナス]で調査中、メカのラビットは[京]で麻薬密造基地を…コットン隊員は何故か行方不明





……そして、ヒューズの後輩だったレン隊員は数日前に死んだ、"らしい"



 応援要請も不可能、武器も取り上げられておまけに術も通用せず…八方塞がりもいい所だ
重い空気が場を支配し始めた時だった…








< キー!!

< [太陽光線]!!ピカァァァ!!
< [飛燕剣]ヒュィィン
< [ディフレクトランス]シュバッ―――ドカァァァ!!


< キー!!!!!



  ルージュ「うん?騒がしい様な」ハテ




ドタドタドタ…!





    白薔薇「居ました、皆さんご無事です!」

   アセルス「良かったドールさんもルージュもそれにBJ&Kも無事だったんだね!」



   アルカイザー「やあ、大丈夫かい?ブラッククロスの基地に潜入したら偶然君達を見つけてね」スッ



   ルージュ/ドール「アルカイザー!」


   アルカイザー「さぁ早く逃げるんだ!さっき戦闘員を倒した時に君達の荷物と牢の鍵を見つけたんだ」ガチャッ


 なんという僥倖だろうかッ!!まさか囚われの身で絶体絶命のピンチの時に偶然にも正義のヒーローが基地に居て
ルージュ達を助けてに来てくれたぞ!!いやぁ凄い偶然があるものだなぁー



  ルージュ「あ、あの!!アルカイザーさん!レッドって少年を見ませんでしたか!?彼も捕まってるんです」

 アルカイザー「安心したまえ彼ならお嬢さん達を助ける前に見つけてね、改造されそうになって居た所を助けたんだよ」


 拘束具で雁字搦めにされて気を失っていた所を救出し、速やかに安全な外へ連れ出した、とアルカイザー兼レッド少年は
嘘をついた、目の前の仲間は正義の使者の正体が話題の少年だとは夢にも思うまい……女刑事だけは眉を顰めていたが




709以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/06/07(月) 06:02:16.97q/sI8gnL0 (1/1)

スゴイ偶然ダナー


710続き、金曜日か土曜日のどっちか2021/06/09(水) 23:12:17.63jKdIKJZp0 (1/1)


 ルージュはBJ&Kに正義の使者と共に慣れつつある手つきで武装の取り付け作業を行う
これで医療メカは何処の戦場に出しても恥ずかしくない立派な戦闘メカになったな!!…いや医療メカが戦闘ってなんだよ
 紅き術士は内心でそう独り言ちて苦笑した、仲間の無事が確認できたからか心に余裕が戻ってきた証拠である


 精霊銀のピアス『』チャリッ


 遺跡探索の道中で見つけたピアスをつけて赤の魔術師は仲間達の武装を確認する
ピアスと同じ材質の鎧を身に纏い"音撃波<ソニックウェーブ>への対策を兼ねたアセルスが[ツインソード]と[サムライソード]
探索中に見つけた剣と以前親切な和風メカから譲り受けた刀を帯刀している

 ドールはIRPO隊員の支給品一式が帰ってきていて[防弾ベスト]等の防具は勿論
拳銃の[アグニSSP]から重火器の[ハンドブラスター]まで手元にある
白薔薇姫は…倒した[ヴァルキリー]の姉妹が落とした[精霊銀の腕輪]、本来レッドが付けていたものだが当人不在の為
少しでも守りを固めるということで彼女の腕に装着させた


 魔術師も何度か使ってきた[アグニCP1]の弾丸も確認して準備が整った所で脱出開始だ

―――
――



   「キー!(脱走だ!捕まえろ!!)」

   「キー!(アルカイザーも居るぞ!!)」



 ルージュ「…相変わらず『キー』しか言わないから何言ってるか分かんないよ」BANNG!BANNG!


 術力温存の為に拳銃で[集中連射]しながら地上を目指して走る、弾雨を受けて向かってくる勢いが衰えた敵に
正義の飛び蹴りが炸裂する、相方がやられた戦闘員が玉砕覚悟で拳を振りかざそうと前進するも
突然支えを失った木偶人形の様に前のめりに倒れだす


  ドール「無力化はさせたわ…、出口はこの階段を上った先みたいだし急ぎましょう」コツコツ…


 靴底のヒール音を響かせてドールが地上行きの階段を目指す、今しがた[パワースナッチ]で生気を吸い取り倒した相手に
目もくれることなく…



 ルージュ「…今のは、[陰術]…」

  ドール「少々心得があるのよ、資質はもっていないのだけれどね」


 癖が強くて扱い難さはあるけど面白い使い方はできるわよ例えば、と付け加えて…


 バンッ!

   ゴブリン「脱走しようとしてもそうは行かんぞォ!貴様らを倒して隠し扉前の見張りから出世してやる―――」


   ブゥン!!



   ゴブリンの背後『 ドール 』ピトッ…


  ゴブリン「!? なっ、だ、誰だァ俺の背後を取る奴は!?まさかまだ仲間が居て救援に―――」クルッ


―――ドゴォッ!!



            2連携 [ ハ イ ド ラ ン ス ]


 番人を任されていた小鬼は脱走の報せを受け、モーニングスターを振り回しながら戸を開けた…が、背後に突然何者かの
気配を感じ振り向いた瞬間、彼の頭は光を纏った跳び蹴りにぶち抜かれた

 ドールが生み出した[ハイドビバインド]による偽りの気配に気取られた一瞬、"敵前で無防備な背を見せる"という醜態を
曝して見事に研ぎ澄まされた[ディフレクトランス]を受けて撃沈したのであった




711続き明日2021/06/12(土) 23:00:12.96Xbu1mo7J0 (1/1)


 一撃を受けて伸びた[ゴブリン]を素通りして地下基地の先が何処に繋がっているのかを見渡す
正義の使者には隠し扉の先にあった一室に見覚えがあった
キグナスの機関士見習いを辞職する決意を固める切っ掛けにも場所、Dr.クラインを追って辿り着いた離宮だ


  アルカイザー「[シンロウ]の王宮、どうやら此処へ繋がっていたらしい」キョロキョロ

  アルカイザー「以前も仮面武闘会が開催されていた時に組織の者を見かけたが、やはりか」


    アセルス「じゃあこのお城に住んでる人達も共犯ってこと?」

  アルカイザー「…いや、わからない脅されていたのかもしれない、とにかく行こう」



―――
――



 結論から言えば、探し出した王宮の人々は[ベルヴァ]に脅されていて地下に人体改造の基地を設置されたそうだ
遺跡探索に来た屈強な冒険者を怪人にし、それとは別で定期的に開かれる仮面武闘会も彼奴の娯楽を兼ねた優秀な戦士探し





…そしてブラッククロスの"客人"と接触を図る、お客様窓口の役割でもあるのだと



 キャンベル社長の所有するビルも黒星だが、この王宮自体もアウトだ

 クライン自慢の改造物である[ベルヴァ]や戦闘員の性能実験、客に対しての宣伝効果…元来"巨人種"のモンスターである
ベルヴァは決して"人間<ヒューマン>"の様に閃くことができない、そんな彼が敵の技を見て見切る事ができるのも改造の賜物


 ブラッククロスの技術力の高さを見て、それを評価し高く買うソッチの道に伝手のある資産家や政治家、極悪人が
商談を持ちかけることも多い、特に直近では"ジョーカー"と呼ばれる仮面をつけた男、そしてトリニティ政府の高官

2人の男達がブラッククロスに秘密裏に接触を果たした


 1人は自らの野心の為、資金繰りと兵器を要した為に自分が元々属していた警察機関の情報を売り対価を受け取りに

 1人は復讐心と権力欲に歪んだ理想実現の為、自らが搭乗予定の起動兵器に使う[バスターランチャー]の開発を




    「わ、私達はベルヴァに脅されていたんだ!!」ガタガタ


 ドール「落ち着いてください、事情は分かりましたので貴方達は王宮から避難を」



 酷く震え上がり縮こまっている王族と側近達を見るに自責の念と
結果的に犯罪の片棒を担いでしまったことが[IRPO]の刑事に露見したことなどからすっかりと委縮しているのだと分る
犠牲になった人々の数を考えれば正直思う所もあるが彼らとて好きでやってきたことじゃない酌量の余地はあるだろう

 詳しい取り調べは後でさせて貰うとだけ言って女刑事は民間人をまずは王宮から避難させることを優先とした
地下基地内にもまだ戦闘員が居る上に、王宮の闘技場で日課の鍛錬に励むベルヴァが居るらしいのだ
 自分達が脱走した報せはおそらく伝わっており、幹部本人が直々に出向いてくる可能性
そこで民間人を人質に取られるリスクは避けたい

 王族の方々や宮殿内に取り残された熟れた果実を意中の人に食べさせたがっていた恋人たち、呑気に日焼けをしていた者
多くの人間を出口まで護衛して、最後に武闘会で救護班をしていた医師の手当を受けて技力も術力も万全の状態となった



……民間人を王宮から避難させることを優先したドールさんの采配は神だったなぁ、と後に魔術師ルージュはそう語る





 まさか王宮が木っ端微塵に大爆発するなんて誰に予想できるか

―――
――




712続き、水曜日か木曜日2021/06/13(日) 22:52:39.90Fh8QX/pG0 (1/1)


 王宮の闘技場の中央にてその魔人はどっしりと構えていた

 来賓や王族が見守る特別観戦席から様子を伺った一行の気配に気づき「降りてこい!!」と怒声を飛ばす四天王に
正義の鉄槌を下すべく皆が飛び降りていく

 見た目から察せられるように恐らく相手は遠距離武器の類を持たない完全なインファイター、であればあのまま
特別席からの銃や術による狙撃で正直倒せない事も無かったが、距離は詰めておきたい
 可能であれば四天王の生け捕り、他の四天王や基地についての情報を尋問する必要があるのだから
 あんな図体の癖して機敏な動きをすると以前仮面武闘会で逃げられたアルカイザーが口にしていた、ついぞ遺跡内では
遭遇しなかったが仮に最奥に到達してベルヴァと一戦交えても倒しきれず逃げられていたかもしれないと
言い切られるくらいには逃げ足の速い改造戦士だ、逃げ道を塞ぐ為にもなるべく距離は取りたくない


   ベルヴァ「アルカイザー貴様かッ!我が基地をめちゃくちゃにしおって!」ギリィ

 アルカイザー「ベルヴァ貴様の悪事もここまでだ、Dr.クラインはどこだ、ブラッククロスの本拠地いはどこにある」


   ベルヴァ「フッ、素直に洗いざらい白状するとでも思ったか?ブラッククロスの四天王を舐めるなよ」



  ドール「"惑星<リージョン>"指名手配20348号ブラッククロス幹部ベルヴァ…遺跡の宝を利用して冒険者を誘い」スタスタ

  ドール「そして拉致して改造戦士にしてきた罪で逮捕します」チャキッ



 銃を構える女刑事に続き魔術師もメカも攻撃態勢に入り半妖少女と貴婦人も鞘から剣を抜く、それを見て心底不快そうに
悪の四天王は鼻で嗤う



   ベルヴァ「はっ!細腕の女子供に貧相な術士の集まりが気取りおって、そうとも
           この基地で組織の戦士を産み出してきたが、こうなっては基地の役割もお終いだ」



   ベルヴァ「最後にここを貴様らの墓標としてやろう!!」ニヤリッ



 そういって、魔人は懐から小さな"リモコン式のスイッチ"を取り出し、親指でボタンを一押し…すると



                   ドォォォン!!  バッグォォン!!


    アセルス「っ!?この揺れは!?それに今の爆発音って…」


   ベルヴァ「フハハハ!こんなこともあろうと王宮と地下基地全体には爆弾が仕掛けてあるのよ!もう遅いッ」

   ベルヴァ「こうなれば時期に全ての爆弾に誘爆してこの王宮は粉微塵に吹き飛ぶ貴様らの命運も終わったのだ!」


 そんなことをすれば自分だって死んでしまうというのに!!彼奴は自らの死を恐れないとでもいうのか?
あるいは死んでも再び蘇る算段でもあるというのか!?自らの生命を試みない蛮勇にルージュは慄いた



   ベルヴァ「さぁ…来るがイイ、"最期の試合<デスマッチ>"を楽しもうではないかっ!」ニタァ



 アルカイザー「くっ!皆、諦めるなコイツを手早く倒して王宮から急いで脱出するんだ!間に合うかもしれない!」


 実際、王宮全体がどれほどの速さで爆炎に包まれるのかは分からない、こうなった以上は迅速に勝利して
退避せざるを得ない…組織の幹部を逮捕して本拠地の場所等を尋問したかったが、こうなってしまった以上は不可能か…ッ

 正義の使者は先陣切って光輝く拳[ブライトナックル]を突き出す、が…


 ベルヴァ「フッ、何故この俺が仮面武闘会に出てるか分かるか?武術の達人が放つ技を見て日々己を研磨する為よ!!」
 アルカイザー「なっ!?攻撃が躱され―――」


  ベルヴァ「貴様の技は武闘会で見切った!俺には通用せんぞ!」ピコンッ![ベルヴァカウンター]


 残像が幾重にも折り重なって見える動きッッ!!筋骨隆々の図太い腕が脚が、瞬時に繰り出されてヒーローを打ち付ける
独自の動きから繰り出された強烈なカウンターを受けてアルカイザーの身体が宙を舞ったッッ!!


713以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/06/14(月) 01:55:38.80DLzJgEhM0 (1/1)

ベルヴァ戦のドールさんの名乗りいいよね


714続き 金曜日2021/06/16(水) 14:53:02.51H41N9cL70 (1/1)


 超重量級の重い一撃はスーツ越しのレッド少年の腹骨に折る、フルフェイスマスク故に傍からは決して分からないが
衝撃を受けた彼は吐血し、嫌でも天井を見上げる形になった
 [シンロウ]の王宮闘技場の明かりにヌッと大きな人型の影が割り込む様をバイザー越しに捉える、先のカウンターから
追撃の[ダイビングプレス]で圧し潰そうとする魔人の姿がそこにあったのだ!




      白薔薇「星光の加護よ、彼の者に安らぎを―――![スターライトヒール]」パァァァァ



 打身のアルカイザーが自由落下から地に叩きつけられ、一直線上の真上に全体重を掛けて降ってくる[ベルヴァ]の構図に
幻想的な輝きが割り込んでくる、室内に瞬いた星光に思わず目が眩み「むっ!?」と声を上げながらも標的に
追撃を仕掛けた彼奴を全快したヒーローが寸での所で身を捻り、転がる様に躱す

 折れていた腹骨が[陽術]による奇跡の光で完治したからこそ取れた回避行動



    ベルヴァ「妖魔の女がこざかしい…―――ツッ!!」ズシュッ、ブシャァァ



 塵埃を舞わせた身の上体を起しながら忌々し気に白薔薇姫を睨む四天王の右腿に[精密射撃]が撃ち込まれる
舞い上がった粉塵で相手の姿が目視し辛くとも機動力を削ごうとする女刑事の銃弾が闘技場の床に血飛沫を付着させた




   BJ&K「レーザー射出します、連携の準備を」ビィ―――ッ!

  アセルス「てぇぁぁぁぁぁ!![生命波動]っ」フワッ!

  ルージュ「了解だ!![エナジーチェーン]」キィィィン







            3連携 [ レ ー ザ ー エ ナ ジ ー 波 動 ]





 医療メカが圧縮されたレーザー光線が大口開けた猟犬の牙の様に広がって展開され、獲物を喰らうが如く魔人へ向かう
右腿に弾を受けた相手は回避不可能と判断、小さく舌打ちして両腕をクロスさせて防御の構えを取る
 幾条もの光の線に身を焦がされ身体の外回りを焼くレーザーとは別で翆玉色の思念の鎖が中央
ど真ん中ストレートに飛んでくる

 左右と上方向の逃げ道をBJ&Kの光線で塞ぎ、真正面からはルージュの術が一直線で来るから前方向に抜け切ろうが
後方へバックステップしようとも結局は焼かれるという逃げ道の無さ、故に四天王が咄嗟に取った防御は正しい判断だろう


  ギュィィィン!!シュルッッ!!



   ベルヴァ「むむっッ!?」ジュウウウゥゥゥ!!



 [魔術]の鎖はそのまま腕をクロスさせた[ベルヴァ]の身を焼き―――そこで終わりではなかった


 身に絡みつき縛り上げる、ジリジリと巻き付かれた箇所を焼かれ更に動きを封じられた所へ…




            アセルス「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」ブンッ




 生命から迸るエナジーッッッ!!

 心の力を解放し、人間の内に眠る潜在能力で浮遊したアセルスは"気<オーラ>"を収束させる
彼女が持つ生命力が形になり、肉体から可視化された黄金の輝きは一本の槍と化した
 アセルスお嬢はそれを投擲槍として魔力の鎖に拘束された悪人へ向けて放つ…っ!相手を穿つのだとッ!



715続き 土曜日か日曜日2021/06/18(金) 14:11:40.36MoOq1xSE0 (1/1)


 生命力の槍が巨人に突き刺さり爆散するッ!!―――元より使用者のアセルスお嬢はこの中で一番生命力に溢れている
この広い世界でただ1人の"半妖"というイレギュラーな種族だ、並大抵の妖魔どころか頂点に君臨する妖魔の君から
血を注がれた蘇りを果たした程の生体エネルギー


 これほどまでに心術の上位術たる[生命波動]と相性の合う人材がいるだろうかッ!!


     ルージュ「やったか!?」


 3連携から織りなす光撃、特に最後の最大火力を受け組織の四天王もあわや爆散四散、短期決着が着いたかと声に出す

…が、しかし…っ!








      ベルヴァ「…。」プスプス

      ベルヴァ「・・・・・・・・フゥぅぅぅ…」






 腕をクロスさせた魔人は、今なお健在であった




     ベルヴァ「今のは…痛かったぞ」



 "気<オーラ>"の一撃を受けた魔人は防御姿勢を解いた…無傷とまでは流石に言わず自慢の筋骨隆々の腕はボロボロで
正直な所ベルヴァ自身、クロスの構えを解く動作だけでもヒリヒリと焼けた痛みが走り出す程だった




    ベルヴァ「今のは……痛かったぞォォォォォォォ!!!!小娘共がああああああぁぁぁぁぁぁ!!」ドウッ!!



 激昂する魔人は爆弾の起爆で振動する王宮を更に揺るがす怒声を張り上げ、腕を振り上げてアセルスへと向かう
痛覚よりも怒りが勝ったのだ、荒ぶる魔人――――否、魔神と化した腕が灼熱を纏う

 全てを滅する"神の一手"…ッッ



      ベルヴァ「死ねぇぇぃぃ!!ゴォォォォッドハァァァンド!!!」ゴァッ!



――――[ゴッドハンド]ッッ!! ベルヴァの[魔人三段]に並ぶ目の前に立つ者を確実に屠ってきた死出への切符
 当たれば間違いなく無事では済まない腕がアセルスに迫り、彼女をまさに掴もうとした瞬間


       白薔薇「 」バッ!


     ベルヴァ「ッ!邪魔をするかならば貴様からだ妖魔風情ッ」ガシッ
     アセルス「白薔薇何を!やめろぉぉぉぉぉぉ――――」



 貴婦人が護るべき少女の前に突如として現れ彼女を庇ったのだ!魔人に首を掴まれた白薔薇は天高く掲げられ
ベルヴァから漲る闘気の爆炎に呑まれた…っ!



           白薔薇の花飾り『 』シュゥゥゥ… フッ



 焦げ付いた白薔薇の花飾りが無常にもアセルスお嬢の前に落ちて消滅した、妖魔の死―――それは遺体すら残らない消滅



716以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/06/19(土) 20:24:23.58TwG9KE/A0 (1/1)

フリーザ様!?


717以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/06/20(日) 23:00:25.75m5x041L60 (1/2)






                 「[サンダーボール]!!」ビュンビュンビュンッ!!





 声が闘技場に響き渡り光輝く雷球が魔人の背に焼け跡を残した、彼奴が振り向き驚愕の表情を浮かべる…何故ならば






        ベルヴァ「き、貴様は!?馬鹿な―――今この手で殺した筈だっ!?」








              白薔薇「ですが御覧の通り、私は健在ですわ」

              妖魔の具足『 ドラゴンパピー 』バチバチ…!




 死出の旅へ誘う神の一手は確実に妖魔貴婦人を葬った、腐っても四天王の座を担う実力者だと改造巨人は自負している
だからこそ解せない…っ!間違いなく白薔薇姫の身体をこの手で消滅させた実感があるというのに…っ!

 巨人が冷や汗を流す一方で純白の淑女はやんわりと微笑んで茫然としていたアセルスやルージュにご心配おかけしました
そう頭を下げて[妖魔の具足]に吸収した翼竜の力を再び解放する
 襲い掛かる電撃を鬱陶しそうに防ぎつつ魔人は後ずさる…、何故だ、何故生きているのだ!?と
理解が及ばないトリックに困惑しながら


 どのような手品を使ったのか奥義を打ち破られた事実は[ベルヴァ]の思考回路を真っ白にショートさせるには十分で
動きには迷いや戸惑いが顕著に出始めていた
 如何なるの戦士と言えども自分が持てる全てを尽くした切り札を見切られ、防がれるのは心理戦で大きな意味を持つ
一転攻勢に出て戦局を反そうにも今の事例が出来た事でベルヴァの脳裏には嫌でもある考えが浮かんでしまう




       - 得体の知れない先程のトリックでまた自分の攻撃を無効化されるのではないか? -




 一度疑念を抱けばそれは凝り固まって"疑心暗鬼"となる


 防戦の現状を打破すべく攻めに転じるのであれば当然の如く、火力を惜しむ必要など無いがそれを無にされるのであれば
出方を変える必要もあり威力重視の隙が生じる大振りの技なんかを撃って妖魔貴婦人の力で空振りに終われば代償は高い



     ドール「はっ!!」BANNG!

    アセルス「[烈風剣]」バシュンッ

  アルカイザー「唸れ[アル・ブラスター]!!」パシュンパシュンッ!




   ベルヴァ「ぐぅぅ…えぇいい!こざかしい!」


 王宮『 』ドカァァン!…グラグラ、ゴゴゴゴ…


   ベルヴァ(王宮の崩落も近い…っ とは言えこの流れでは奴らが瓦礫の下敷きになる前に俺が敗北し逃げられる)


   ベルヴァ「おのれぇぇぇ…ッ [雷炎パワーボム]」ダッ!!




718続きは 火曜日か水曜日予定でしてよ2021/06/20(日) 23:02:45.79m5x041L60 (2/2)


 このままでは自分はそう遠からずに敗れアルカイザー一味はまんまと王宮から逃げ果せてしまうと悟り
謎が解けぬまま魔人は大技を仕掛けに向かった、最早ブラッククロス幹部としての意地であったッ!

 肉体的に一番脆弱な紅き魔術師を仕留めようと大分傷を負った巨人は駆けだした、ルージュは咄嗟に銃を構えて迎撃を
試みるが間に合わない、相手の腕が伸びる方が速い

 殺人的な投げ技を掛けるべく巨人の魔手が彼を掴もうとしたその瞬間だったッ!!



     白薔薇「 」バッ!
    ベルヴァ(ッッッ――!?この女またしても…いや、どうやってだ、俺とこの小僧の間にいつの間にッ)ガシッ


 二人の間に突如として現れた白薔薇姫、技を掛けるべく動いたベルヴァはもう止まれない…っ!
無駄だと理解しつつも勢いを殺して急制動するなど無理な段階まで来ている
 大地踏みしめ彼女の身体を持ち上げたまま必殺の一撃を喰らわせるべく天高く飛翔し……そして――――



        ベルヴァ「……」

        ベルヴァ「……ア"?」(白薔薇姫を持ち上げ逆さまにした状態)






 ドール「」←銃を構え跳び上がったベルヴァを見上げる

 アセルス「」←術の詠唱を始める

 アルカイザー「」←[レイブレイド]を構える

 ルージュ「」←咄嗟に庇ってくれた白薔薇を捕まえ飛翔したベルヴァを見上げる

 BJ&K「」←傷ついた仲間を治療する



 白薔薇「」←"白薔薇姫"を持ち上げたベルヴァを見上げる





             ベルヴァ「――――――――!!!」




 改造の賜物で限界を遥かに超えた動体視力を得たベルヴァは跳び上がってから大地を見下ろした、そして見てしまった


 "自分が掴んだ女と同じ女が何故か地表に立っていて自分を見上げている"という光景を…ッ!白薔薇は二人居たッ!!


  ズドンッッ!!


 殺人プロレス技が炸裂し重力と大地の引力、そして悪鬼の剛腕によって妖魔の貴婦人は石畳の上に頭からめり込む
常人であれば間違いなく首の骨が折れるどころか柘榴の様に頭が割れて脳髄をぶちまける惨事だ
 上級妖魔の彼女はその可憐な花飾りを散らして消滅した―――妖魔の死、それは遺体すら残さず消滅するというもn――



      ベルヴァ「き、貴様ァ!!そういうことだったのかぁッ!!」

       白薔薇「まぁ、バレてしまいましたわね」


 口元に手を当て、あらどうしましょう、目が合ってしまったから気付かれたとは思いましたが…とおっとりマイペースに
困った様な顔で笑う白薔薇にベルヴァは怒りでワナワナと震えた、自分の致死技を回避してきた手品のタネを漸く理解した






  白薔薇「揺蕩うは幻妖の水鏡に写せし我が御身―――[ミラーシェイド]…堪能して頂けましたでしょうか」





719続き金曜日か土曜日2021/06/23(水) 22:36:12.85GLJgREOY0 (1/1)



   アルカイザー「これなら反撃もできまい![カイザーウイング]」ヒュバッ!

     アセルス「もう一度だ![生命波動]っ!」ブンッ



 跳び上がった正義の使者は手にしていた輝く剣を天に掲げ悪を断罪せんと振り下ろす、[飛燕剣]に似た剣気が一直線に
大技直後の硬直で動けない魔人へと飛んで行きそれに追従するように生体エナジーの槍もまた敵を穿たんと放たれた
 続いてレーザー、銃弾、爆裂魔術、幻夢からの来訪者…

 どんな勇者も猛者や英雄であっても例外なく多くの敵の連携には膝をつく


 驚異的なタフさを持つベルヴァと言えどもそれは当て嵌まる、元より3連携が織りなす光のシャワーを浴びて
既に両腕も並みの生物であれば使い物にならない怪我を負っていた
 怪物もいい加減ここが年貢の納め時と言えよう


    ベルヴァ「…ハァ、ハァ…お、俺が、こんな奴らにこうも…っ!!」


   ―――――年貢の納め時、だ







    ベルヴァ「…く、くくくっ、はははは!はーっはっはっ!!」






   ――――――納め時、だからこそ…足掻くのだッ!!とっておきの悪足掻きをッ





    ベルヴァ「ウオオオオォォォォォォーーーー!!」グオォォォ




 女刑事ドールは高笑いを始めた魔人を見て薄ら寒いモノを感じた、仕事柄追われる立場にある犯罪者という物を
嫌になるほど見てきた誰も彼もが捜査官の追跡を免れず逃げ場の無い袋小路にぶち当たり形勢逆転は不可能と悟る
 その時の表情は殆どが共通して焦燥、諦め、あるいは現実を受け入れられないと茫然自失していく顔
手配犯の中にはそこから更に先へ…悪い意味で一歩先の段階へ飛び立つ者もいた

 正しく目の前に居る笑い出した魔人がその部類に入る人物だ、敗北を悟りトチ狂った様に笑ったかと思えば雄々しく叫ぶ
今生の別れ際に自分の存在をこの世界でこれからも生きていく者に認識させようと
 まるで自身の生がここに在った事を主張するかのように大声を上げて腕をを振り上げる姿をドール捜査官は目にした


 自暴自棄、せめて一人でも多く道連れにして死んでやる、せめてお前達の魂も冥土へ引きずり込んでやる


 追い詰められたことで狂人の発想に至る犯罪者の思考そのものと言えよう


 ドールの声が全員に退避命令を出そうとするより先にベルヴァは渾身の力で腕を地面に叩きつけた
言葉通りの意味での[怒りの鉄拳]は王宮全体を揺るがす[地響き]を招き、柱や天井の崩落へと誘発させる
 仕掛けられた爆弾によって唯でさえいつ崩れても可笑しくない状況でこれだ、滅びゆく自身と運命共同体に運ぶ算段ッ



   崩れていく天井『 』バッコォン!ガラガラ…!


  アルカイザー「っ…おのれ[ベルヴァ]め!なんということを」

    アセルス「ああっ!!そんな出口が今の崩落で完全に塞がれてしまった!」


  ベルヴァ「クハハハハ!俺は死ぬ!!だが貴様らも此処で瓦礫の下敷きになって死ぬのだ!もはや脱出不可能よッ!」


 [地響き]を発生させるために打込んだ最期の一撃で言葉通り彼奴の腕は"お釈迦になった"ようだ、あらぬ方向に曲がり
痛みすら感じない…完全に神経が死に腕の腱も断たれた



720以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/06/25(金) 15:43:46.51Esm/b0R60 (1/1)

おつ


721以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/06/26(土) 22:59:02.19wc/w8o8Y0 (1/2)


 狂気を宿す眼光のまま魔人は高らかに笑う、命の次に大切にしていた自慢の剛腕は肉の塊に、そして己が生命さえ捨てる

 対価は憎き敵達の人生…四天王ベルヴァは強敵と死闘の末に両者痛み分けに持ち込めたのだ
もう何一つとして思い残すこともあるまい



             ルージュ「まだだ!まだ逃げ道はある…っ!」


 絶体絶命の窮地に立たされて尚そう言葉を発したのは紅き法衣の術士だった
完全に出入口が断たれ、この場に居る全員が最大火力で瓦礫の山を吹き飛ばそうと尽力しようとその頃には粉微塵になる
誰がどう見ても絶望的なその状況下でもまだ希望を捨ててなかった


   ドール「なにか手があるというの!?」

   白薔薇「…!!そうですわルージュさんでしたら"アレ"が使えるのでしたね!」


   アセルス「えっ?どういうこと!」
 アルカイザー「事情は呑み込めないがまだ助かるんだな!?」


 妖魔の君の血を注がれたアセルスもアルカイザーに変身したレッドでさえも流石に今回ばかりはお手上げかと
焦りを感じていた最中で仲間に視線を向ける


 そう…レッドもドールもBJ&Kもまだ実際に見た事も無いとっておきの手段、アセルスは"当時"気絶していたから存在は
知っていたが直ぐには思い当たらなかった"アレ"だ




        ベルヴァ「な、なにをする きさまら――!」ハァ、ハァ



 出血量も酷く息も絶え絶えで、視界も薄れてきた魔人は目を見開き内心で叫ぶのだ
「ありえない!唯一の逃げ道は潰した逃げれる筈がない、この俺様が自分の命を犠牲にしたのだぞ!!!」と
 ここで貴様らは俺と運命を共にすべきなんだ!そう叫びたかったが咽び咳き込む




       ルージュ「みんな!僕にしっかり掴まってて!」

        BJ&K「掴まりました、ですが一体何を」


 仲間達が全員ルージュの身に触れる、そして彼は願わくばあまり使いたくないと思っていた祖国からの支給品を取り出す
緑髪の少女はそれを見て漸く何をする気か解った、[ルミナス]で紫の血を流しながら意識不明になった自分と白薔薇を
大衆の目に触れさせない為に[ドゥヴァン]まで一気に移動した彼だけが使える方法を…!




       ルージュ「異次元への扉よ開け![ゲート]―――[シンロウ]!!」バシュッ!!




 叫ぶと同時にルージュを中心にアルカイザー達は蒼い光に包まれていく、光は深海を思わせる輝きで
水泡の様に膨らんだそれに包まれた一行は瞬く間に何処ぞへと消えていった…っ!




        ベルヴァ「…」ハァハァ…

        ベルヴァ「…。」



   倒壊していくシンロウ王宮『』ゴゴゴゴゴ…!ガラガラ…



    ベルヴァ「…く、くくく、ははは…うぅ、ぐすっ、くははっ、くひひ…はーっははははははは!!!」

    ベルヴァ「あひゃひゃひゃひゃひゃ…っいーひひひひひひっ!!――――――畜生ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」





722続き明日2021/06/26(土) 22:59:43.18wc/w8o8Y0 (2/2)





【双子が旅立って9日目 午前 8時22分 [シンロウ]】



 チチチチチ…



 ――――フッ!



 アルカイザー「とっ、ととと…みんな無事かっ!?」バッ

    ドール「ここは[シンロウ]の遺跡…!?」


 蒼い光に包まれたと思えば彼らは[シンロウ遺跡]に移動していた
魔法王国の人間だけが持てる[ゲート]の術による空間移動だ、祖国から支給された[リージョン移動]を媒体とすることで
使用できるのだが…




     - ルージュ『! この宝石は…』 -

    - 教員c『[リージョン移動]、知っての通りお前たちがそう呼んでいる<ゲート>の術を使う為の媒介だ』 -


  - ルージュ『うっ…!?』 -

  - 教員c『?…どうした』 -


-ルージュ『…質問ですが、僕がこの旅で一度も<ゲート>を…ひいてはこのアイテムを使わないのは構いませんね?』-





 旅立ちのあの日、教員から媒体となる蒼い宝石を受け取った時に言いようの無い不快感を感じ取った
全身総毛立つような嫌な感触…昔から霊感が高い所為か感が鋭い所はあった
 これは単なる思い過ごしかもしれないし、抹殺対象の兄をどうしても連想させるカラーだからそう思うだけかもしれない
理屈は分からないが自分は[ゲート]の術を…[リージョン移動]をあまり使いたくないのだ、なんなら何処か適当な場所に
投げ捨ててもいいとさえ思っている


 言い知れぬ謎の不安、妙な胸騒ぎを覚えるから…流石に[ルミナス]で白薔薇姫に涙ながらに懇願された時や今回の様な
使わなければ全員死ぬというやむを得ない場合は致し方ない





       ――――――ドォォォォォン!!ドンドン! ボッゴォォォォン!




        MAP上の[シンロウ王宮]跡地『 でかいクレーター 』





  アセルス「こ、この振動に音は…」グラッ
   白薔薇「どうやら王宮が爆発したようですわね、見てください彼方の方角を」

  ルージュ「うわっ…なんだあの爆発、あのお城あんなに爆弾仕掛けられてたのかよ…」タラーッ


 今更ながら嫌な汗がどっと噴き出す、[ゲート]を使っていなければあの爆炎に呑まれて自分達もこの世には居なかった


アルカイザー「君達のおかげで助かったよ、ありがとう!…名残惜しいが私は次の任務があるので――さらばだっ!」バッ


   ルージュ「あっ、アルカイザーさん!―――行っちゃった…あの人もお仕事大変なんだなぁ…」

    ドール「…」ジーッ



723続き水曜日か木曜日2021/06/27(日) 22:07:05.64V4FtrY/p0 (1/1)

―――
――


【双子が旅立って9日目 午前 9時01分 [シップ発着場]】


    レッド「よっ!ルージュ無事だったんだな」

   ルージュ「あぁ君も無事で本当に良かったよ」

    レッド「俺だけ先にブラッククロスの奴らに改造されそうな時にアルカイザーが助けてくれたからな~」ハハハッ


   ドール「…。」ジーッ


 [シンロウ]の王宮は跡形もなく消し飛んだが幸いにも人的被害は無かった、事前に避難させたおかげで発着場に
人々は集まっていてスタッフが忙しなく動き回っている姿が目に入る
 王族達は家臣らと今後どうやって王宮の…いやこの"惑星<リージョン>"の財政や信頼を再建していくのか
観光旅行客は我先にと他所へ逃げ出す為に"宇宙船<リージョン・シップ>"の席を取るべく受付に殺到…
いつかの[マンハッタン]で見たような光景だ


  ドール「レッド君、それに貴方達も少し時間を貰えるかしら?」


 女刑事はここでは少しと場所を変える為に一行を連れて受付カウンターの方へと歩き出す
あえて場所を移そうとする辺り公にしたくない会話内容なのだろう、汗水流すシップ発着場のスタッフに
ドールは[IRPO]隊員であることを証明する身分証を提示して秘密裏に停泊させてある[IRPO]専用のシップへと通してもらう

 停泊中のパトロール隊員専用シップは[シュライク]でもよく走っている自動車のパトカーとかいう車に似たフォルムで
シップなだけあってそこそこの広さがあり作戦会議に使われるブリーフィングルームへと通された


 ルージュ「あのぉ…なんでここに連れてこられたんですか?事件に関わったから軽い事情聴取的な奴だったりします?」

  ドール「いえ、今更素性に関しては問いませんヒューズからも色々と伺っていますからね」

  白薔薇「でしたら一体…」



  ドール「貴方達に我々が調査中のブラッククロスに関する資料を渡そうと思っているのよ」



  レッド「!!」

 アセルス「えっ!?待って!それって良いの?…私達一応は一般市民よ、なのに警察が追ってる秘密結社の資料って…」



  ドール「そうね、本来なら一般人である貴方達に見せることは良くないわね」


 アセルス「ならどうして…」


  ドール「…この案件は私達が当初から長年追っていた事件
        それをここ数日前に突然現れて組織の事を調べ始めたヒーローがいる、アルカイザーよ」


  ドール「…認めざるを得ないわ、私達パトロールだけの力ではブラッククロスは倒せない」


  ルージュ「??? あの…それと僕達に何の関係が?確かにアルカイザーさんとは知り合いですけど…」

   レッド「」ダラダラ


   白薔薇「? レッドさんもしや体調が優れないのですか?汗をかいていらっしゃいますが…」

   レッド「えっ、あ、そうかもなー…あはは」ダラダラ


   ドール「早期に事件が解決すればそれだけ多くの人が助かる、市民の犠牲者をこれ以上出さない為にも」

   ドール「事件の調査資料を渡したいのよ、でも彼は正体不明で何処にいるのかさえ不明」チラッ

   レッド「」ビクゥッ


  ドール「……だから私は思うのよ、"何かと彼に縁のありそうな貴方達"に渡した方が彼にも間接的に届くってね」ニコッ



724以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/06/29(火) 17:50:31.25US/RoTJC0 (1/1)

さすがクールな大人の対応や


725以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/07/01(木) 08:27:32.18WInuAAGY0 (1/2)


 レッド少年は気が気じゃなかった…ヒーローの掟を破った場合待ち受ける末路を知ってるがゆえに生きた心地がしない
あからさまにバレてる、女刑事の反応は彼にはそうとしか思えなかった

 だが依然として我が身に何も降りかからないところを見るに[サントアリオ]の判定としてはセーフなのだろうか?


 結局ドールはその後もアルカイザーの正体に迫る様な発言はせず書類ファイルを手渡して
ブリーフィングルームを後にしていった
 [ゲート]の術を使えば一度行った事のある土地に瞬間移動が可能だから[シンロウ]をすぐに発つことも可能ではあったが
激戦を終えた後だ束の間の休息は取りたい、幸いにもドールの御厚意で一行を[クーロン]まで連れて行ってくれるらしい
冷暖房までバッチリ完備のパトロール御用達のシップだ
 四天王との戦闘行為で消耗した術力や技力の回復も兼ねて仮眠でも取りながら運んでいただくことにしよう
[金のカード]の為にも今は宿代だってケチりたい時分だ


 遺跡探索の結果は剣が一振りに精霊銀を使った鎧や腕輪、ピアス、それに[結界石]なんかだが


 クレジットがまるで貯まっていない…[金]を買う現金が足りてないのだ


 金稼ぎのつもりで当初[シンロウ]へ来たのだがその本懐が果たせなかった以上は他の場所で金銭を稼ぐ他ない



 ルージュ「遺跡探検じゃ思ってたよりは儲からなかったね…」ペラッ

 アセルス「ゲンさんの話だと古代船の残骸からはメカのパーツや1200クレジットが手に入ったらしいけど…」ペラッ



 曰く、知り合いの剣豪が旅の共をするロボの記憶の手がかりを求めて潜り込んだ"宇宙船<リージョン・シップ>"の残骸
そこで金銀財宝を見つけたり[イクストル]とかいうデカい蝙蝠に危うく殺されかけたり色々あったそうな
やはり他人の成功談の様に一攫千金とは行かないものか



  レッド「とほほ…世の中世知辛いよなぁ」ペラッ



 渡された書類ファイルをペラペラと捲りねがら秘密結社の情報見ていく
特に今後レッドの敵討ちの旅に関わる重要なソレを…



   白薔薇「あら…この"キャンベル"という方のビル…」






    - 『白薔薇(…?あの塔、…いえ、"ビル"というのでしたね、妖魔の気配がしますが…)』 -





   白薔薇「…やはり私が[マンハッタン]で1人逸れてしまった時に感じた妖魔の気配の」

   レッド「…キャンベル社長のビル、か怪しいとは分かってたさ」



    BJ&K「正確な所在は不確かですがこちらの書類には[クーロン]に基地があると推定されていますね」ペラッ

   レッド「あの街かぁ…あそこ迷路みてーに入り組んでるからなぁ、見つけられっかなぁ」ポリポリ


  ルージュ「…[クーロン]…ハッ!?」ピコーン


    - エミリア『何かあったらそこを頼ると良いわ、私が居なくても、その名刺さえ見せれば』 -

    - エミリア『グラディウスの誰かがちゃんと手を貸してくれるから』 -



  ルージュ「確かここに」ゴソゴソ

貰った名刺『お困りごとなら何でも解決!裏組織 グラディウス![クーロン]イタリア料理店、詳しくは店前の女まで!』




726続き土日のどっちか2021/07/01(木) 08:29:07.42WInuAAGY0 (2/2)



   ルージュ「エミリアさんから貰ったあの時の名刺…これなら―――」ボソッ


 [マンハッタン]で昼食を取っていた時に渡されたグラディウスの名刺…餅は餅屋に、蛇の道は蛇に
暗黒街に息を潜める犯罪組織の事を知りたいなら地元に居る裏社会の住人に聞くのが早い

 ルージュが仕舞っていたソレを取り出し提案しようとしたその時であった






       レッド「ッッ…!!」グッ



 書類にどこよりもハッキリと書かれていた四天王の所在地を見て、レッド少年は用紙を掴む指先に思わず力を込めた
険しい顔立ちに何事かとアセルスや白薔薇も同じく横から書類を盗み見た――――そして顔に陰を落とす


  ルージュ「えっ!?み、皆どうしたの!?」


     レッド「~~っ……あぁ、いや、すまねぇ…なんつーかよ、これはな…」

    アセルス「嘘よ…あの人、あんなに親切だったのに…」

     白薔薇「関係のあるお方だとは思っていましたが現実というのは時に残酷なものです」



 ルージュは名刺を仕舞って白薔薇から書類を見せてもらう、そこにはハッキリと四天王の名前と基地所在が記されていた














          ルージュ「…なっ!?……メタル、ブラックさん…?」









 そこには面識のあるメカの顔があった、忘れもしない美しき[京]の風景、夕日に照らされた[書院]
見ず知らずの旅人であった自分達のカメラ撮影のお願いを聞いてくれて更に[剣のカード]の情報や[[サムライソード]譲渡
 世話になった身でなのだ…



  アセルス「…私が[幻魔]に相応しい腕前を身に着けるまでの間使用する剣ってことで今使ってるこれ」チャキッ

  アセルス「この[サムライソード]はあの人から貰ったものなんだよね…」


   レッド「……。薄々、解っちゃいたんだ、巡礼者が入っていくのがあの時カメラ越しに見えちまったからよ、けど」

   レッド「やっぱ、さ―――認めたく無かった、っていうのかな…これは、な」



  ルージュ(…。)

  ルージュ(裏社会に属するメカだとは感づいてた、でもエミリアさんみたいな良い裏組織の人だったり)

  ルージュ(実はヒューズさん達みたいに正体を隠してるメカのパトロール隊員かもって信じたかった)


  ルージュ(…そっか、…そうか………嫌な予想っていうのは的中しちゃうんだな…)



727続き 水曜日か木曜日2021/07/04(日) 23:13:02.20BcpE90610 (1/1)


 
  ルージュ「…。[京]に行ってみるかい?君が行くのなら僕も付き合うよ」

   レッド「お前…」


 知らん仲じゃない相手と親友が刃を交えるかもしれないのだ、想う所はある
話し合いで穏便に―――済むとも思えないが一抹の希望でもあれば藁を縋る思いになるのが人間の心情というモノ

 宿命を背負った紅き法衣の魔術師もまた何処にでもいる普通の人間だったということだ



  ルージュ「僕の旅そこまで急がなきゃいけない旅じゃないからさ」

  ルージュ「アセルス達は暫く[IRPO]に保護してもら「私達も行くよ!」


 折角[IRPO]隊員のドールとお近づきになれたのだから、二人でメタルブラックの基地へ乗り込んでいる間
彼女らには警察で保護してもらってはどうかと提案しようとしたところバッサリと案は切り捨てられる
 女性陣、特にパーティー中最年少のアセルスを今回の一件に関わらせるのは流石に憚られる
先述の通り話し合いで穏便に済めばいいのだが、それは単なる都合のいい理想論に過ぎず十中八九メタルブラックとは
一戦交えるだろうと想像はできる


 友人としてレッドをこのまま単身で命の危険性がある敵地に行かせたくはない、今日だって四天王の1人[ベルヴァ]と
危うく無理心中しかける激闘をルージュ自身が体験したのだ脅威性は十分に分かっている
 かといって自分がレッド少年に付きっ切りになればその間[ファシナトゥール]からの刺客が来た時
アセルス達を護れる者が単純に減る


 あれから一行に刺客と遭遇しないのは運がいいだけなのか、アセルスの服装を水色パーカーに変えたからか
どちらにしても戦力が分散されればその隙を突かれた時に対処しきれない、故に警察に暫く匿って貰いたいのだが…



  アセルス「私達にとっても、知ってる人だから…無関係じゃないからっ!」


   レッド「姉ちゃん…」
  ルージュ「アセルス…」


  アセルス「説得に失敗したら二人はメタルブラックの事を……その、討たなきゃ、いけないん、でしょ…」

  アセルス「戦いになったら、どちらかが倒れるまで戦いが終わらなくなる」



  アセルス「二人が敵の基地から生還してきたらそれは彼が破壊されてしまった証、逆に帰ってこなかったら
                 それはメタルブラックは助かるけど烈人くんとルージュは死んでしまった証になる」



  アセルス「…きっと後悔すると思うんだ、その場に居合わせなかった事を」

  アセルス「私だって説得時に声を掛けられたかもしれない、私だって二人の命が危ない時に助けられたかもしれない」



  アセルス「"もしも自分がその時その場に居たら何かが出来たかもしれなかったのに"――そう後悔するのは嫌だ」




 心情は、理解できる。




 以前[ヨークランド]でレッドが言ってたその時の自分がベストと思う道を貫くこと、その結果がお世辞にも良い成果と
呼べなくて悔やむ事はあっても"間違った"とは思いたくないという趣旨の話

 ここで一緒に行かなければその時々で取れたかもしれない選択肢の幅も縮まる
未来の選択肢を増やさないという『選択肢』を今ここで選んでいることになる、それは彼女にとってはベストではないと



   レッド「…。」

   レッド「最悪の場合になったら覚悟は決めてもらう、それが条件だ」

  アセルス「…。」コクッ



728以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/07/05(月) 12:19:30.41MwvBlh1k0 (1/1)


レッドとアセルスが揃ってると会話の主人公感がすさまじいな


729今回此処まで次回日曜日か月曜日2021/07/08(木) 22:02:44.28g0jfdCYl0 (1/1)



   白薔薇「では次の行き先は決まりですわね」


 彼らのやり取りをそれまで静観していた貴婦人が声を発する、アセルス嬢の付き人として元より何処までも同行するのだ
流れとしては白薔薇姫も来ることになるのだろう
 視線を合わせて「白薔薇、付き合わせちゃうけどお願い」と言葉にせず眼差しで語る少女に対して彼女は優しく笑う


 方針が決まったところで次はどのように潜入するかだ、事情を知らずにドールと共に遺跡探索に向かって罠に引っ掛かり
なし崩し的に[ベルヴァ]の基地を叩いた今回とはワケが違う


 今度は明確にこちら側から攻め込む姿勢になるのだ、半ば偶発的な事故で迷い込むのではなく


 [傷薬]系の道具はもちろん、装備の一新から所在が判明している敵基地の最も警備が手薄になる時間帯
入口の隠し通路を初めとする侵入経路への理解

 準備できることはたくさんある





  レッド「…爆弾」ボソッ


  ルージュ「へ?」



   レッド「いや、今回俺達がブラッククロスの基地に殴り込みに行くだろ?」

   レッド「んで準備する物でちょっとだけ考えたんだ、奴らの秘密基地は残しておいても百害あれど一利なしってな」



 レッドが調査ファイルをペラペラと捲りながら告げる、各地にあるブラッククロスの拠点は各々が何かしらの役割を持つ
例えばここ[シンロウ]の基地なら倒した魔人が言っていたように屈強な冒険者や遺跡探検家を捕らえて人体改造手術を施し
組織に忠実な怪人や戦闘員に変えてしまうと


 謂わば、ここの基地は役割としてなら人員補充―――強者を見つけては組織の人手とする役割だ


 [マンハッタン]にあるキャンベルのビルなら表向きは女性受けするブランドメーカーだがその実態は兵器開発工場だ
生活必需品からファッションに化粧品、重火器まで何でも事業の一環だと
 表社会の流通ルートから足を探らせずに裏社会にある各拠点に武器を回すのが仕事
表向きは法に触れない正規の売買、受け渡しにしか見えない




 唯一[クーロン]にある所在不明の基地は役割が何なのか不明、憶測だが戦闘員の育成、戦術指南、各地での破壊工作など
テロ行為を行う実働部隊が控える兵舎拠点なのではないか?と書かれている




 そして問題の[京]だがあまりにも異常な麻薬の密売人の検挙率とヤクの貿易ルートから察するに
組織の財布の紐を握っているのがこの基地の役割なのだろうなと分かる
 麻薬密造施設があり、そこで造られたブツを売りさばいては金を貪り各拠点へ儲けた資産を送るシステムだろう



 デカい組織であればあるほど、維持や運営には莫大な資金や資源を要する
個人ならともかく、組織という一つの集合体にとって金の流れは血液の流れる生命線そのものと呼べる
 それを切ってしまえばどうなるだろうか?




     レッド「この書類通りなら麻薬の密造釜があるかもしれない、なら時限式の爆弾を仕掛けられねぇかなって」

    ルージュ「…なるほど、[クーロン]ならそういうのも売ってるかもしれないしね」


 あとはこの基地捜査を担当する"ラビット"なる隊員とコンタクトを取れるようにしたい
話し合いは順調に白熱していくのであった

―――
――



730以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/07/12(月) 23:23:25.13bHbg1V8V0 (1/2)
















            …ん?もう時間か、わかったから急くな














 折角、相手方の本拠地を見つけたからには準備を万全にして潜り込みたい


 わざわざこうして[ゲート]で[クーロン]まで戻ってきてしっかりとした睡眠まで貪ったんだ



 モンドとやらの基地の全容、隅から隅まで調べて優賞を授かるとしよう





731今回はここまで 次回土曜日か日曜日予定  リュート編ラスダン突入!!!2021/07/12(月) 23:25:09.98bHbg1V8V0 (2/2)

―――
――



【双子が旅立って9日目 午前 11時20分 [ワカツ]】


 転移魔術によって蒼き魔術師と機械団体、地下組織の女構成員2人に地元民の剣豪とスライムそして今回の一件に置いて
おそらく一番因縁があるであろう青年が再びこの地へと舞い戻ってきた

 目指すべくはpzkwⅤが転落事故を起こしたあの裂け目、偶然の賜物で見つけ出したモンド執政官の秘密基地に続く大穴だ


     アニー「…。」


  -  暴走メカにしては地層の脆さから溝に近づいてこない辺り賢いAIだな…と  -


     アニー「今にして思うとあの[メカドック]や[キャンキャン]は番犬だったのかもしれないわね」ボソッ



 道中の敵を切り伏せながらアニーは独り言ちる、荒城を彷徨う"暴走メカ"にしては溝への落下を警戒するなど
随分と優秀なプログラムが搭載されていたなと妙な引っ掛かりを覚えていた
 [ワカツ]大空襲の際にトリニティ政府が地上掃討に放ったメカの残党がこの"惑星<リージョン>"に蔓延るメカ達だ
つまり相当古いブツで尚且つ碌すっぽに整備もされず野晒しになった物


 "人間<ヒューマン>"と違い"メカ"という種族はコアさえ無事ならいつまでも生きられるが
外付けの"肉体<ハードウェア>"でどうとでもなり得る、それこそ[追加メモリーボード]が1つ付いてるか否かで
知能指数が大幅に増減するのだ

 老い衰えて性能が悪くなる有機生命体の脳みそと彼らメカ族の半永久的に存続できる知恵の回路はその辺が違う



 …極稀にT-260の様な"心臓部のコア<ソフトウェア>"の面で問題が応じて知識や記憶の欠落、AIの性能低下というのも有るが





 何れにしてもあの近辺に居たのはモンド氏が持ち込んだ番犬と見ても良いのかもしれない


 木を隠すなら森の中、機を紛れ込ませるなら同じく暴走機の群れに


 渡航禁止とは言え条件さえ満たせば来れる土地だ、何らかの間違いで勘のいい旅人が自分の基地を見つける可能性がある
暴走メカに襲われて落命という事故に見せかけた抹消、あるいはそれとなく基地入口の裂け目に近づけない様に立ち回る
 そんな役割だったのかもしれない



   ナカジマ零式「ふ~、どーにか此処まで戻ってきましたね~」スィー

      pzkwⅤ「あぁ、こっから落ちた時は流石に肝が冷えたな」


     エミリア(肝?メカに肝なんてあるのかしら?)ロープ バサァ


 崩壊した城壁の一部に縄を括りつけたエミリアは機械達の真横に立ち暗黒街で買ってきた登山用のそれを下す
人間<ヒューマン>組、メカ勢の順に降りていき最後はスライムが縄を処理して飛べるナカジマ零式に乗せてもらって降りる
 それで侵入した形跡もちゃんと消せる仕組みとなるだろう



    ゲン「…わりぃが俺が一番乗りさせてもらうぜ」グッ

  リュート「ゲンさんが先に行くのか」


 力強く縄を握り底の見えない大穴へ降りて行こうとするのは亡国の剣豪であった、リュートはそんな彼を見て思わず
声に出していた「先に行くのか」と、何時でも酒を飲むことを忘れない漢が基地を発見してからは[クーロン]一時帰還後も
この道中での戦闘終了後でさえ常に持ち歩いてる一升瓶を飲んでいないのである、―――明らかに様子がいつもと違った


    ゲン「へへっ心配すんなって手を滑らせてそのまま転落なんて情けねぇ真似しねぇよ」


 リュートはそうじゃない、と口を開こうとするも剣豪は彼の言葉を待たずに先に降りてしまった…、彼らしくない逸りだ



732続き水曜日か木曜日2021/07/18(日) 22:05:59.49xbCkABq00 (1/1)


 かくして[モンド基地]への潜入に成功した彼らは周囲に警戒しながら移動を始める
入口から入って一本道に進み、道中見張りと思われるメカや雇われの妖魔やモンスターを蹴散らし巨大な昇降リフトが
設置されている部屋へとたどり着く


    レオナルド「斜行プラットホームリフトかぁ、おそらくそこのパネルで下層へと降りていけるだろうね」


 基地の構造上、地下へと何階層にも渡り降りていくが故の造りだ
地層を掘り進めて搬入した建築資材を注ぎ込み築き上げた地下基地は堅牢な内壁や床からして
簡単に崩壊はさせれない事が手に取るように分かる


  リュート「パネルってのはこれかい?」ピッ
  リュート「どわっ!?」ガションッ、ウィーン…


 ほんのちょっと指先が触れただけでリフトは稼働し出して乗っていた全員を地下へと案内し始める
下層に居る見張りのモンド私兵は当然ながらこの事態に反応してリフト乗り場へと駆け込んでくる
"予定にも無いリフトの稼働"があったのだから当然だ
―――
――



  ワンダードギー「どうなっている!?今日はモンド様は会議に出ていて基地にお戻りになられない筈だぞ!?」ドタバタ



 下位妖魔の[ワンダードギー]は愛用の[ワンダーランス]を手に通路を駆け抜ける
人間社会に上手く溶け込めない妖魔の大半は浮浪者として物乞いや強盗紛いな方法でその日を生きる者が多い
 もしくは野垂れ死にかどんなに惨めであっても同種族から一度は[ファシナトゥール]を出た身と蔑まれてでも帰国するか


 そんな下位妖魔の中にはのらりくらりと人間社会でなんとかやっていける存在は居る
起業に成功したり自分の工房を持てたり様々だ

 然して"社会で成功した妖魔"の成功、というものが全て真っ当なモノとは言い難く
中には当然後ろ暗い経歴での成り上がりをした者だっている例を挙げるなら悪の秘密結社の改造手術を自主的に受け
幹部の地位に立った者、仮面をつけた野心家とトリニティ政府の機密に触れようと目論む者



  この[ワンダードギー]も所謂"同じクチ"という奴だった



 敵ランク1というカテゴリーに位置付けられ、半ば逃げるように飛び出た故郷たる妖魔の都でも人間社会でも
同種族、他種族から嗤われ続けたが故にいつの日にか世界を動かす存在になりたいと、成り上がりを夢を見た野心家である


 元来、妖魔という種族は努力を忌み嫌う。

 生まれついての才、能力の高さ…身分を全てと考える一種の選民思想的なモノがある
世の中にはその唾棄すべき努力などという行為を重ねに重ね妖魔の君の位を受けた者――[時の君]と呼ばれた存在も居るが


 何れにせよ例外を除いて、大概の妖魔は日頃より鍛錬や学習に励むことはない



  ワンダードギー「クソ!見張りは何してやがる…監視カメラの映像は、…なんだコイツ等は?」カチカチ、カタカタ…



 さて、そんなド底辺に位置する妖魔の彼が何故[モンド基地]の見張りとして立っているか
先述の通り彼は政府認定の危険度としても最弱の烙印が押された存在だ、…理由は大きく言って2つ

 1つ目は雇い主のモンド氏は最悪の場合いつでも"蜥蜴の尻尾"として扱える駒それこそ金で動く浮浪者を必要としていた
 2つ目は…


  ワンダードギー「基地全体に警報を鳴らす!侵入者あり!繰り返す侵入者あり!場所は―――」カタカタ、ピッピッ!



 妖魔という種族は機械を努力と同じくらいに忌み嫌い、だからこそ理解が薄く知識の学習と伝播が無い
専門的な技能の教育機関や教導する者が居ないのだから総じて機械音痴という現代社会にあるまじき欠点が生じていた
 厄介極まり無いことに『機械は汚らわしい存在』というその認識が
個人レベルなら兎も角"妖魔"という1つの民族思想レベルで普及してるのだから手に負えない


 だからこそモンドはこの妖魔を雇いたいと思った。ド底辺だからこそ、成り上がろうと努力を惜しまず機械さえ学ぶ彼を



733続きは明後日土曜日2021/07/22(木) 23:52:19.69iUbJmz9U0 (1/1)


―――
――


ガシューッ!



    エミリア「止まったわね」キョロキョロ


 基地全体に緊急事態を知らせる音が鳴り響いたのは下層へと降りていた彼らの耳にも届いていた、程なくして乗っていた
リフトは静止して最上層から1つ下の層に停まる
 レオナルド博士がパネルを動かし最下層へ何とか行けない物かと試みるのだが…


   レオナルド「うーん困ったね、電力自体が通ってないみたいなんだ」

   レオナルド「さっき警報が鳴った時にコレの電力供給が断たれたらしくてね」


      T-260「レオナルド様どうにかなりませんか?」



 鋼鉄の瞼を閉じて小考、工学の天才は腕の指先から螺子を取り外す為のドライバーを生やす
SFアニメでサイボーグと化した人間の指先が銃になるなんて展開はありがちだが、工具道具がニョッキリ出てくる展開は
早々お目に掛れるものではないだろう
 直ぐにパネルの分解作業を初めて彼は内部構造に眼を向けてから音声を発した



   レオナルド「結論から言うとどうにかなりそうだね」

    リュート「本当かい!?そのどうにかってのはどうすりゃいいんだ?」


   レオナルド「まず、ここの穴を見てくれ―――六角レンチ用の穴に似たサイズのここさ」

   レオナルド「基地全体の動力部が何らかの諸事情で駄目になった時、こういうのは非常用の予備バッテリーがある」


   レオナルド「ここにケーブルを差し込んで、予備バッテリーになりそうな機材から電力をちょっとだけ頂こう」


   レオナルド「そうすれば更に下層へは降りられる」


 "予備バッテリーになりそうな機材"、大がかりな荷物や大人数を運搬できる程の斜行リフトを稼働させるともすれば
消耗するエネルギー量も当然増えることは間違いない
 電力ケーブルの方は博士の先程の螺子回しと同様で格納された内蔵機器にその役目を果たせる物がある
つまりはバッテリー替わりになりそうな何かを持ってこい、というのが漸くした内容だった


   レオナルド「秘密裡に兵器の開発を行っているようだからね、基地内にもバッテリーになりそうな機材はあるさ」



   リュート「ってーとだ、こっから下に行きたきゃまずはこの階層でなんかの部品をかっぱらって来てそれを使うと」

   リュート「そしてこの下でも同じ様にそこそこエネルギー溜まってる何かの部品を拾ってそれを利用してって…」

   リュート「そんな感じで最下層を目指すんだな?」


   レオナルド「そーゆーコト、さっそく降りて奥の部屋に入ってみようか」



 侵入が知れ渡った上で、武器に手を掛けながらリフトから降りて部屋の中へと入っていく
すっきりとした見渡しの良い入口とは打って変わって遮蔽物と成り得る白い箱状コンテナ
無数のケーブルが大河の如く敷かれた、ごちゃごちゃとした部屋というのが写真を撮っているブルーの第一の感想だった


    ブルー「随分と散らかっているな、それにさっきまで何かを建造していたのだろうか」パシャッ


 巨大な機械の一部と思わしく物体が奥にはあり、彼は敵を屠りつつ恩賞を貰う為に必要な写真を撮り続けていた
明らかに敵対勢力を駆逐する為のロボットにしては規模が大きい
 これ1つで中規模~大規模戦用の戦闘メカか何かかと一瞬思ったが、にしては可笑しいのだ

 まだ造りかけで内側の細かい部分まで見えてしまうソレには不思議な事にメカの魂ともいうべきコアが存在しない
もっと言えばレオナルド博士はそれ等が構造上、それ等自身でさえパーツの1つに過ぎないと



734以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/07/23(金) 01:55:20.69GuCcyMTG0 (1/1)

乙乙


735以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2021/07/24(土) 23:57:55.00dvOrl/i/0 (1/2)



 「侵入者だ!1人残らず殲滅しろ!」


 遮蔽物と成り得る白い箱状コンテナの影から[メカドビー]が3体飛び出してくる
当然ながら警報音を聴き侵入者を亡き者にせんと潜んでいたのだ、当たるも八卦の[ドビーランチャー]を構え出鱈目に
筒砲から飛び出すソレの嵐を駆け抜け重い一撃を剣豪が浴びせる


    「ぐばっ!?」ゴッ

  ゲン「邪魔するんじゃねぇ」


 清流が如く、流れる様な無駄の無い動きでありながら決して振るわれる剣圧はヤワではない
一撃の下に沈黙した仲間を目にした2体目は担いでいた兵装でゲンを殴りつけようと飛び出すも[インプロージョン]で
爆散し最後の1体は特殊工作車に備え付けられた機銃とT-260に取り付けられた重火器による連携を受けて火を噴いて倒れる



   ゲン「…」ブンッ、――チャキッ



 刀に付着した機械油を払うように剣を一振りしてから鞘え納め、フロアの探索に戻ろうとする剣豪








   ブルー「おい貴様、どういうつもりだ」スタスタ



   ブルー「連中の精密さに欠ける乱射ならその辺の機材の影でやり過ごしてからでよかろう、前に出過ぎだ」

   ゲン「あぁ、悪ぃ…けどよ奴さんには侵入バレてんだ、ちんたらしてらんねぇだろ」



 くどい様だが遮蔽物と成り得るコンテナボックスや機材がこの階層フロアには大量に置かれている
ならば無駄に突飛するよりやり過ごしてから切り込むなり、術やメカ達とエミリアの狙撃、あるいは[烈風剣]等を使うなど
適した戦術はあっただろうと蒼き術士は咎めた


 逸っている、どこか気持ちが急いているのだ


 リュートだけではなくブルーもエミリアも今日まで付き添ってきたメカ達でさえもソレには気が付いていた
剣豪当人からすればこの基地は故郷を滅ぼした仇の物で、最奥には己から全てを奪った張本人が鎮座してるやもしれぬのだ

 そんな仇を切り伏せれるかもしれぬ千載一遇の機、何も想う所が無いわけじゃない…人間の感情<ココロ>は理性や理屈で
簡単に片づけられるモノではない事くらい解っているのだ、解ってはいるのだが…





  ブルー「逸るな、死ぬぞ貴様」

   ゲン「…」

  ブルー「勘違いするな、俺達の目的は基地の地形構造、武器、設備の情報をコレに収め帰還することだ」つ『カメラ』

  ブルー「此処で首魁を討つことではない」スタスタ


   ゲン「わぁってらぁ」



 他の仲間達より少し先に進んだ所で行われた男二人のやり取り、それを遠目に見ていたエミリアも会話内容までは
聞こえずとも凡そ何について話しているか察した、正直な所これに関して彼女はどちらかと言えばゲン寄りの感情だ


   エミリア(…大切な人や幸せだった日常を壊した憎い仇への復讐、かぁ)


 人間は"感情<ココロ>"で動く生物だ、ゲンを突き動かす行動原理をブロンドの女は痛い程に理解できる、できてしまう