480以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/02(火) 16:28:42.49YmoQ0jae0 (9/16)


天使はいるか、と聞かれたら。

眼前に降臨している、と今なら答えられる。

今まで貰ってきた義理チョコの中でも一番嬉しいチョコレートだ。

言葉にならない喜びをどう表現していいのか分からないから

サンディの頭をワシワシと撫で繰り回してしまう。

あわわわ、とちょっと髪が乱れながらも、気持ちよさそうな表情を浮かべる彼女が一層愛おしい。


「ありがとう、サンディ。大事に食べさせてもらうよ」

「は、はい……っ!」


幸せそうな、でもどこかでやり遂げたような顔をしているサンディ。

丁度そんなタイミングで、カウンター奥から気配がする。

どうやら注文したココアが出来上がったようだ。


「あいよ、お待たせ」

「有難う、マスター」

「あ、ありがとうございます」


マスターは僕の手元を見たあとに、サンディを見て破顔一笑。

サンディも彼を見ては何度もコクコクと頷いている。

なんだ、この一言も発さずに互いを察するようなやり取りは。

いつの間に二人とも仲良くなったんだろうか、などと少し気になったりもする。
 


481以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/02(火) 16:37:43.13YmoQ0jae0 (10/16)



まぁ、それはさておき。

僕は手元に備えていたサンディからの義理チョコをマスターに

借りを返すかの如くこれ見よがしにとちらつかせる。


「いやー、マスター。確かにいい男の前には自然と集まってしまうみたいですな」

「良かったじゃねぇか。なぁ、嬢ちゃん?」


そう言いつつサンディに話を振ると、当の彼女は真っ赤になった顔を隠そうと俯きつつ、

両手をマスターに向けてパタパタと振っている。かわいい。


「確かに、義理でも人情味があるとチョコの良さも一際グッときますね」


パタパタ振ってたサンディの手が止まった。

そして油の切れたロボットのようなぎこちなさで顔を上げ、マスターの方に向ける。

向けられた彼は片手で顔を覆いつつ、天を仰ぎながらも何某かのジェスチャーをサンディに返す。

あの阿呆には俺から言ってやろうか、的なモーションだ。

するとサンディは首をブンブン振って、ガッツポーズのような動きを取る。

これからも頑張ります、的なモーションだ。


「嬢ちゃん、そのココアは奢りだ……。ゆっくり飲みな……」

「ありがとう、ございます……」

「いいってことよ……」


僕の知らない所でハードボイルドが繰り広げられている気がする。

 


482以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/02(火) 16:49:05.50YmoQ0jae0 (11/16)



それからしばらく喫茶店でココアを堪能したのち、僕とサンディは帰路に就いていた。

帰り道の途中にある、街灯のオレンジ色に淡く灯る光が、僕らを緩く照らしてくれる。

サンディは僕の少し後ろを歩いているようだ。

がさがさと紙袋の擦れる音で、彼女がしっかりついて来てくれているのが分かる。

僕は僕で、サンディから貰ったチョコレートを割らないように

普段よりも注意深く歩いている。

鞄にしまったチョコレート、添えられたメッセージカードの真心が嬉しい。

僕もメッセージくらいは準備しておくべきだったかな。
 


483以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/02(火) 16:53:59.72YmoQ0jae0 (12/16)


一直線に長い遊歩道の中間あたりで、足を止めてみた。

誰もいない夜の狭間。静けさだけが僕らを包む。


「サンディ、おいで」

「はい」


あえて前を向いたまま呼んでみる。

少し小走りな足音が後ろから聞こえてきて、丁度僕の横に並んだ。

止まったままの僕を何事か、と彼女は覗き込んでくる。

そのタイミングで、僕は鞄から物を取り出した。

縦に長いそれは、黒を基調とした入れ物に赤色でラッピングがされている。

それを、サンディに渡してみた。僕なりの真心を。


「はい、ハッピーバレンタイン」

「……え?」

 


484以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/02(火) 17:08:57.94YmoQ0jae0 (13/16)


サンディは目を丸くして驚いている。

まさか自分が貰えるとは、といった心境だろうか。

昨今は男性から女性に送るバレンタインも珍しくないらしいので

僕からの小さなサプライズを送ってみた。


「い、いいんですか……?」

「いいも何も、君のためだけに準備したチョコだよ。受け取ってくれたら嬉しいな」


なんだか少々照れ臭い。いや結構照れ臭いなこれ。

サンディが僕にチョコ渡す前に顔が真っ赤になっていた理由が何となく分かった。

自身の耳が赤くなってそうだが、そこはハードボイルドらしく冷静に振舞っておこう。

そんな僕の義理チョコを受け取ってくれた彼女は、

胸いっぱいにそれを抱きしめている。

幸せそうに、幸せそうに、抱きしめている。

 


485以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/02(火) 17:10:51.20YmoQ0jae0 (14/16)


「じゃ、じゃあ用件も済んだことだし、帰ろうか」

「はい……!」


サンディは僕の横に並んだかと思えば、スキップするような足取りで軽やかに抜き去って

数メートル先の街灯の下まであっという間に辿り着いていた。

喜んでくれたのは素直に嬉しく思う。

こういう些細な喜びがある日々をもっと増やせていけるよう、僕なりの努力はしてみたい。

義理と人情で引き受けたサンディとの共同生活だけれど。

一握りくらいは愛を込めてもいいのかな。

そんな事を思いながら、サンディの待つ橙色の光が灯る街灯まで駆け出した。

 


486以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/02(火) 17:18:50.78YmoQ0jae0 (15/16)



~ 後日談 ~


サンディから受け取ったメッセージカードには、

沢山の感謝の言葉が綴られていた。

出会った頃に助けてもらった事から始まり、何でもない日々の中で本人すら覚えていないような

些細な気遣いの行動に関して等、とめどなく溢れるような沢山の感謝の言葉。


締め括りの文章に書かれていたのは下記の通り。



“私と居てくれてありがとう、おにいさん。 好きです。大好きです。”



それを夜中に読んでいた探偵は、

あまりの尊さにおうおう涙を零しながら、うわごとのように

「うちの子本当に可愛いんですよ……」を只々繰り返すだけのマシーンと成っていた。

 


487以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/02(火) 17:29:54.08YmoQ0jae0 (16/16)

「季節感」とかいう置いて行かれるためだけにある言葉よ。
ネタはあるものの書き溜めしていないと、どうしても時間がかかりますね。

業務多忙の日々も少し落ち着いたゆえ、久々に綴ってみまして。
読んでくださった方々が少しでも楽しんでくれたのなれば幸いです。

作業用BGMより一曲



488以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/02(火) 21:29:32.70Vjx0L5x2O (1/1)


浄化される…


489以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/03(水) 01:20:56.84lIPkH7iso (1/1)

いやー…尊い


490以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/03(水) 08:21:17.97AXP6EEd0O (1/2)

更新乙です

あぁ、癒される??


491以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/03(水) 08:23:44.34AXP6EEd0O (2/2)

せっかくの感想誤字ってる( ̄▽ ̄;)

でもこれで研修頑張れます


492以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/05(金) 22:04:36.33fCLfJEqw0 (1/1)

更新乙です
ソフトマイルドなお兄さんよりハードボイルドしてますねサンディさん…


493以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/01(水) 05:05:40.57XMZ3frEk0 (1/1)

令和記念


494以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/07(金) 21:00:08.85gsIZWItq0 (1/1)

保守


495以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/16(日) 13:23:48.74MPJ0sY3a0 (1/1)

まだ待ってますよ~ (*^-^*)ノ


496以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/29(月) 19:57:10.561u2H/ZMS0 (1/1)

保守


497以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/15(木) 20:46:17.00dn7JADrJ0 (1/1)

保守



498以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/09/18(水) 16:37:49.44W6AdXEGX0 (1/1)

保守


499以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/10/08(火) 11:41:58.30DAHSTfS1O (1/1)

保守


500以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/07(木) 06:57:56.5837vZtoMZO (1/1)

保守


501以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/12/01(日) 22:03:46.73qyKV0/ei0 (1/1)

保守


502以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/06(月) 16:51:00.93lpdju8Jx0 (1/12)

新年あけましておめでとうございます。
今宵どこかで投下をば。


503以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/06(月) 18:12:48.12uhGUIKFFo (1/2)

あけおめ!


504以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/06(月) 20:50:20.17lpdju8Jx0 (2/12)

 
秋の兆しよりも、夏の名残が風に乗って頬を撫でてくる。

そんな九月の半ばを迎える暦の頃。

私は探偵事務所のテーブルで、とある同年代の子と一緒に向き合って勉強をしている。


体面にいる男の子の名前は、水瀬 真生(みなせ まお)くん。

先月の夏祭りで知り合ったばかりだが、

なんとなく彼とは非常に気が合いそうな気がしている。

日本語でいう“同好の士”とでもいうのだろうか。

いや、何か違うような気がするが、それに近い空気を感じるのだ。


>>444
 


505以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/06(月) 20:55:31.70lpdju8Jx0 (3/12)


彼は非常に中性的な顔立ちをしていて、

黙っていると女の子にも見えてしまう。

同じくらいの年の友人なんて殆どいないけれど、

テレビで見るような賑やかな子ども達とは違う、独特の雰囲気がある。

そんな彼を見つめていると、チラッとだけ目が合った。


「……なに?」

「あ、いや、別に……なんでも、ないです……」


ふーん、とだけ言葉を残して、マオくんは再びテーブルの下に目を落とす。

人の動向を見過ぎる仕草は失礼に値する。

昔そう教えられていた事もあり、反省をしつつ

私も机に敷かれた積本を崩す作業に戻ることにした。

カリカリ、カリカリと鉛筆が滑る音に紛れて

ペラリ、ペラリと本を捲る音が、私たちのいる空間に反響する。

とても静謐で淑やかな時間だと感じている。

マオくんとは出会ったばかりなのだけれど、あまり緊張しないのは

こういう空気を共有できるからなのかも知れない。
 


506以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/06(月) 21:01:10.70lpdju8Jx0 (4/12)


そのまましばらく時が流れて、私は本を一冊読み終えた。

さて次は何を読もうと考えていると、体面で机に噛り付いている子が目に入る。

ふと興味が湧く。マオくんが何を一心不乱に学んでいるのか。

そっと覗いてみると、どうやら国語の四字熟語を覚えるために

何度もノートに書きなぐっていたのだ。


私も日本語は文字通り叩き込まれながら覚えたのだけれど、

当時を振り返ると四字熟語は結構苦手だったりした。

慣用句と違い、漢字のみで形成される言葉の成り立ちがイコールで結び付けづらいから。

設問を間違えた回数分、シャープペンを腕に突き立てられた事もある。

私は無意識に左腕の少し肉厚になった傷跡に手を添えていた。

過去の記憶を思い出しそうになり、思わずぶんぶんと頭を振ると、

訝しげな表情でマオくんが見つめてきていた。


「なに? ……どこか痛いの?」

「え、う、ううん。大丈夫です、大丈夫……」


そっか、と言いながらも、チラチラと私を気にするように、

目が合う頻度が少し上がった気がする。

マオくん、優しいなぁ。
 


507以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/06(月) 21:07:00.63lpdju8Jx0 (5/12)


ただ、私がいることで彼の気を散らせてしまっているのなら申し訳ない限り。

ずっと勉強を続けているマオくんの息抜きになればと、

ほんの少し勇気を出して話しかけてみた。


「それ、何の勉強をしているんですか?」

「ん、塾。宿題とは別にテスト勉強してるだけ」

「へぇ……すごいなぁ。私、そういうのやった事ないから」

「そうなの?」


マオくんが不思議そうに首をかしげる。

何となく猫を想起させてくる仕草だなぁ。

私は、うん、と首を縦に振りながら、思っている事を口から紡いだ。


「ちょっとだけ憧れているんだ、学校みたいなこと」

「学校に来たことないの?」

「うん」

「そっか……」

「マオくんは、学校楽しい?」

「別に。俺は早く大人になりたいから、学校に居ること自体、なんかもやもやしてる」

「大人になりたいの?なんで?」

「それは、その、そう……何となく、かな。
 せ、背伸びしてるみたいでダサいよな……」


そう言いながらも、彼は耳を真っ赤にしている。

ふと笑顔の素敵なお姉さんが脳裏をよぎった。

きっと、好きな人に一秒でも早く追いつきたいんだ。


「わかります」


私は思わず口に出していた。
 


508以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/06(月) 21:12:26.37lpdju8Jx0 (6/12)


彼はきょとんとした顔で、私を見つめてくる。

次は私の鼓動が早くなる番だった。

何も考えずに零れた言葉、私の心。

言葉の裏に思い描くのは、私の神様。

あの人の横に並べる女性に成りたいから、私は大人になるまで生きていたい。

生きていたいと、願ってしまうのだ。


「君も、そうなんだ……」


コクリ、と首を振ってマオくんからの質問に答える。

何故か凄く恥ずかしい。耳まで真っ赤になっているのが分かる。


「じゃあ俺たち、戦友だな」


マオくんが、二カッと無邪気な笑顔を返してくる。

私は、ようやく彼が男の子と認識できたような気がした。

何故か不思議と嬉しくなって、返事の代わりに笑顔を向けてみた。


イザベル、クロエ。

わたし、友達ができたよ。
 


509以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/06(月) 21:15:35.35lpdju8Jx0 (7/12)


それから私とマオくんは、他愛もない話を交わしていく。

マオくんは学校の友達のこと。通っている塾のこと。

そして、お姉さんのこと。

私は基本的にお兄さんのことが話の内容として多くなってしまう。

そんな話の流れは、マオくんが勉強をしている四字熟語の事にスポットが当てられた。


「マオくんは何の四字熟語を勉強していたの?」

「ん、色々。 今は“岡目八目”ってのを覚えていた」

「岡目八目?」

「サンディにはあんまり馴染みないかもね。
 囲碁っていうゲームから生まれた言葉だし」

「それってどういう意味?」

「ああ、それはね……」


マオくんがその解答を告げようとしたその時、

探偵事務所の扉がきぃ、と音を立てて開いた。


「ただいまー。 二人ともお留守番ありがとね。
 アイス買ってきたから、お利口さん方は好きなの選んじゃって」


朗らかな声が私の鼓膜と心を震わせてくれる。

お兄さんの声だ!!
 


510以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/06(月) 21:19:14.86lpdju8Jx0 (8/12)


「おお、マオくん。勉強いつも頑張ってるね。
 お姉さんから『塾が始まるまでの一時間だけ預かってくれ』って頼まれてるし、
 時間がくるまでゆっくりしていっていいよ」


お兄さんはマオくんにそう告げると、

マオくんは、「……りがとざっす」と、小さな声でお礼を返す。

そしてお兄さんは手元のコンビニ袋を私たちに差し出してくれた。

マオくんが「先にいいよ、サンディ」と気を使ってくれるので

なんだか恐縮してしまって「ま、マオくんからいいよ!」と返事をする。

じゃあ遠慮なく、と言わんばかりにラムネ味のアイスバーを彼は選んだ。

残る一つはなんだろうと袋の中に手を入れ、それを取り出してみる。

私が選んだアイスは、千切ると二つになり、啜るように食べるものだった。

パ〇コと書いてある。

前にお兄さんと分けて食べた事があるが、チョコ味でとても美味しかったのを覚えている。

おもむろに袋からそれを取り出し、二つに分けてお兄さんに差し出す。

お兄さんは嬉しそうにそれを手に取り、余った手で私の頭を撫でてくれた。

嬉しさ半分、こそばゆさ半分。

いや、やや嬉しさが勝っている。体感の比率では8:2くらいか。

マオくんが何か考えながら私たちを見ているような気がするが、気のせいだろう。


「ありがとう、サンディ」


お兄さんは嬉しそうに言う。

わたしは、それが、とってもうれしい。
 


511以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/06(月) 21:24:58.75lpdju8Jx0 (9/12)



「でもサンディのご褒美で買ったんだから、二つ食べていいんだよ?」

「あ、そ、それはですね……今日読んだ本に……」

「何か書いてあったの?」

「“愛する人には、全てを注ぐの。何も見返りを望まずに。”って……」


視界の端でマオくんが、やるじゃん、と言わんばかりの顔をしている。

お兄さんがパ〇コを返そうとしたから、口から咄嗟に出た言葉なんだけれど。

愛などと大層な言葉を使ってしまい、恥ずかしさが止まらない。


「『献身』か。僕もそう在りたいな。いい本を読んでいるね、サンディ」


そういうと、またしても頭を優しく撫でてくる。

慈しむように触れてくるから、胸がいっぱいになってしまう。
 


512以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/06(月) 21:29:52.70lpdju8Jx0 (10/12)


アイスをガリガリと齧りつつ、何やら考えていたマオくん。

「ああ……そういう事ね……」と呟きながら、

ハズレの表記が出たまま半分残っているアイスを銜えつつ、テーブルを片付け始めた。

お兄さんはそれに気づいて、事務所に置いてある時計に目を向けた。


「もう塾の時間か。自分で気づけてえらいね。
 またこうしてサンディと一緒に遊んでくれたらうれしいな」

「はい、また来ます。 俺、サンディと気が合いそうなんで」


お兄さんは嬉しそうに、うんうんと頷いている。

そして勉強道具をすべて仕舞い込んだマオくんが、帰る前にそっと私に耳打ちする。


「大変だな……」

「なにが?」

「いや、なんでもない……。二人のおかげで、一つ勉強になったよ」

「?」



「岡目八目、ってやつ」
 


513以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/06(月) 21:37:52.89lpdju8Jx0 (11/12)

ご無沙汰しております。
またこうして、ゆっくりと綴っていけたらいいな、と。
たまには覗いてくれると嬉しい限り。


514以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/06(月) 21:42:15.944RYyFHTu0 (1/1)


ずっと待っていたよ


515以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/06(月) 22:09:28.80uhGUIKFFo (2/2)

おつおつ!
よろしくお願いします
こいつ…中々の察し、どこかのソフトマイルドさんは見習って?


516以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/06(月) 22:14:29.05lpdju8Jx0 (12/12)

感想を頂ける喜びを噛み締めつつ、
話を綴る楽しさを改めて思い出しています。
有難うございます。感謝。


517以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/09(木) 06:37:58.01eXxQ/tD40 (1/1)

あけおめ更新乙


518以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/09(木) 08:20:02.51utGKCd1V0 (1/1)

昨日読み始めて追いついたけどすごくいいねファンになったわ


519以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/21(火) 10:22:41.38cnAJyixHO (1/1)

相も変わらずオサレだなぁ……
更新お疲れ様です


520以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/26(日) 10:51:19.00uZ4Ygj190 (1/1)

【二人のエピソード】  ※連れて行きたい場所、日常の一コマ、未来の話など

>>521


【視点:男 or サンディ or その他】

>>523


521以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/26(日) 11:22:49.255H/sa4jy0 (1/1)

たまには仕事帰りのお兄さんを


522以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/26(日) 11:23:20.83xQE9gnT5o (1/1)

イザベル、クロエ、会いに来た


523以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/01/27(月) 08:33:47.84TeAvOi/SO (1/1)

サンディ視点で


524以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/03/04(水) 10:48:14.35KaEFgGcH0 (1/1)

保守
のんびりとお待ちしております


525以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/04/04(土) 21:00:54.26oQRrTn2I0 (1/1)

保守


526以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/04/11(土) 07:13:09.11Y25hWkHhO (1/1)

引き込まれますね
続き楽しみです
保守


527以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/04/11(土) 10:29:11.41awJL6YJno (1/1)

読み返したくなる名作
そして毎回クリスマスで死ぬ


528以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/05/05(火) 05:56:13.01reK9YqafO (1/1)

保守


529以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/05/12(火) 14:20:11.10GSr3VfmPO (1/1)

保守


530以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/06/03(水) 08:19:30.35uokk9BjHO (1/1)

保守


531以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/06/24(水) 00:32:02.605DmSTfA6O (1/1)

保守


532以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/07/02(木) 19:58:55.23xBNddiV40 (1/18)


【二人のエピソード】  ※連れて行きたい場所、日常の一コマ、未来の話など

たまには仕事帰りのお兄さんを


【視点:男 or サンディ or その他】

サンディ視点
 


533以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/07/02(木) 20:00:49.06xBNddiV40 (2/18)

 
六月中旬。夕刻の頃。

どんよりとした空模様から、しとしとと降っている生温い雫がアスファルトを濡らす。

天気予報の週間予想は、一昨日からずっと傘マークを示していた。

これほどまでに雨が続くと、恵みの雨と表するには少々供給が過ぎているようにも感じる。


夏が始まる前の日本の空のカーテンは、グレイの色合いをしていた。

今まで私が居た場所の天井を想起させてきて、何だか少し気が滅入る。

ただ、外の景色を歩く人々は、色とりどりの傘を差していて

灰色の用紙にビビットな色彩の絵の具を撒いたような

高翌揚感のある風景も一緒に見せてくれる。
 


534以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/07/02(木) 20:03:00.90xBNddiV40 (3/18)

 
街並みを探偵事務所から見下ろしながら、私は一人の影を探す。

探し人は、居候先でお世話になっているお兄さんだ。

今日はお仕事で午前中から外出していて、帰宅が夕方頃になるとの事。

お兄さんを玄関で「おかえりなさい」と迎えたいので、

帰路の姿を見つけられるよう、こうしてチラチラと外を気にしてしまう。

まだ来ない、まだ来ない……。

待ち続けること三十分。

その間、「ただいま」と私に向けてくれる、ほんわかとした笑顔を思い描くたび。

何故だか耳が紅潮してしまい、どうしても落ち着かない。


535以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/07/02(木) 20:04:08.16xBNddiV40 (4/18)

 
既に家事は粗方片付いており、強いて言えば夕飯をどうするか悩んでいるくらい。

いつも夕方の時間帯はテレビを見ているか、読書、勉強をしているけれど、

今日はそんな気分ではない。

窓の外に映る景色が気分を落ち着かせてくれているのか、

もしくは昔の景色が瞼の裏に映って気分が落ち着かないのか。

お昼寝をしたらお兄さんの帰宅のタイミングを逃すかも知れないので、

何某かの行動はしておきたいところ。

何か良いものは無いものかと事務所内を見渡してみると、

旧型のラジオが目に飛び込んだ。

早起きした時にお兄さんがそれをよく聞いているので、

周波数は合っていると考えられる。


ご飯の準備の片手間に、ラジオでも聞いてみようと思い、

電源スイッチをオンにしてみると、丁度のタイミングで曲が流れてきた。

美しく澄んだ女性の声が耳に心地よくて。

それ以上に、歌の最初のフレーズに私は心を鷲掴みにされた。
 


536以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/07/02(木) 20:05:45.55xBNddiV40 (5/18)



Someday I want to run away
(いつか私は 逃げ出したい)

To the World of Midnight
(真夜中の世界へ)


曲自体は二分となく、短いものだった。

でも、その歌がずっと頭の中をリフレインしている。

覚えたフレーズだけ、自然と口から紡がれる。

 


537以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/07/02(木) 20:06:33.16xBNddiV40 (6/18)



「さーむでぃ……あい、うぉんと…とぅ、らなうぇい……」


いつか私は 逃げ出したい。


「とぅ……ざ、わーると…おぶ、みっどないと……」


真夜中の世界へ。
 


538以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/07/02(木) 20:08:01.30xBNddiV40 (7/18)

 
私が、ずっと、ずっと考えていた事。

逃げ出して、どこかに行きたかった事。

あの時に居た暗がりよりも、暗いところに行きたかった事。
 


539以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/07/02(木) 20:08:50.62xBNddiV40 (8/18)


堅い木材で頭を殴られた事を思い出すような衝撃だった。

不意に前に居た場所を思い出し、呼吸が少し荒くなる。

苦しさを顔に出すと更に折檻を受けた事を体が覚えていて、もっと息が辛くなる。

いきているのが、つらくなる。

お兄さんから渡されている青い錠剤を、ポケットから取り出し、

台所から水を調達して急いで胃の中へ流し込んだ。
 


540以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/07/02(木) 20:09:31.00xBNddiV40 (9/18)


ぜぇぜぇ、と肩で息をしながら、ふっと深呼吸をする。

深く息を吸い、ゆっくりと吐く事を数度。

心拍数はやや乱れているものの、先ほどよりも幾分か気分が楽になった。

それでも、あの美しい歌声が、頭の中で優しく響いてくるのは変わりなく。

悲しい曲。けれど、とても美しい曲だな、と感じたから。

つい、ぽつぽつと、私のか細い声帯はその歌を奏でてしまう。


雨音にかき消されるように小さく歌うその曲が、

誰もいない探偵事務所に反響する。


それを数度繰り返していると、その中で一番大きな音が鳴り響いた。

ピンポン、ピンポンというチャイムが二回。

お兄さんが帰ってきた合図だ。
 


541以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/07/02(木) 20:10:06.57xBNddiV40 (10/18)


私はバタバタと慌てて玄関まで走り、お兄さんを出迎える準備をする。

お兄さんが濡れているかも知れないから、タオルを片手に持ち、ドアのチェーンを外した。

金属を擦る無機質な音が聞こえてから一拍、ドアがきぃ、と開いた。


「ただいま、サンディ」

「おかえりなさい、お兄さん」


優しく微笑む彼の顔を見て、私は嬉しくなり、笑顔を返す。

そして手に持っていたタオルを渡すと、ありがとう、と受け取ってくれた。
 


542以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/07/02(木) 20:11:13.24xBNddiV40 (11/18)


「いやー、外は思ったより降っていたけれど、大きめの傘だったから殆ど濡れなかったね。
 出かける前に一緒に見ていたテレビの天気予報さまさまだよ」

「ふふ、それは良かったです」

「だからね、サンディ。気になる所は一つだけ」


お兄さんは手に取ったタオルを、優しく、優しく私の顔に添えてくれる。


「君の頬の方が濡れてる」

「えっ?」

「そりゃっ!」


お兄さんはそのまま、私の顔をタオルで覆い隠すようにぐるりと巻いて、

肩と膝裏に手を添え、お姫様抱っこの要領で私を持ち上げた。

突然の事に、うひゃあっ、と声が漏れてしまう。

顔が真っ赤になっているのが直ぐにバレそうだったので

恥ずかしさを隠す為にタオルはそのまま顔に添えて、

後はもうお兄さんの好きにしてほしいと言わんばかりに身を預けた。
 


543以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/07/02(木) 20:13:07.62xBNddiV40 (12/18)

 
そしてそのまま事務所のソファまで運ばれ、一番フカフカのクッションを敷いた所に私を置いた。

どうやら無意識のうちに滂沱の如く涙を流していたようで、

ようやく首元の襟筋まで濡れていることに気づき、割と新品の服を汚したようで申し訳ない気持ちがある。

お兄さんは心配しながらも、内証について深くは聞かず、

私にホットミルクを作ってくれた。じんわりと心まで温めてくれる、優しい味。

彼は私がミルクに口を少しずつ付けるのを、見守るように微笑んでいたあと、

部屋着に着替えるために自室へ戻った。

ふっと、また歌が頭を駆け巡る。

美しい歌の歌詞が、私の口から零れてくる。


「サンディ、声が綺麗だね」


自室の奥からお兄さんの声が聞こえ、私は気恥ずかしくなって俯いた。
 


544以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/07/02(木) 20:14:21.15xBNddiV40 (13/18)


恰好を部屋着にシフトしたお兄さんは、片手にコーヒーを持って私の横に腰を下ろした。

そのまま何も言わず、私の頭にそっと右手を伸ばして、自分の肩元に抱き寄せる。

何故だかまた涙が溢れてきた。

雨のような生温さのそれは、私の頬をポロポロと零れてゆく。

ふと、自分の頭の上から、調子が少し外れた歌が聞こえてくる。


「Someday I want to run away、To the World of Midnight……♪」


私が聞いたあの曲を、楽しそうにお兄さんが歌っていた。
 


545以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/07/02(木) 20:15:15.50xBNddiV40 (14/18)


「サンディ、懐かしい歌を知ってるね」

「え、あの……さっきラジオで聞いていたので……」

「この曲をラジオで流すのもまた凄いな……最近のFMを見くびっていたよ……」

「お兄さんはどうしてこれを知ってるんですか?」

「ああ、前の所長がジャンル問わずで音楽を車内で流す人でね。
 好きな作品で使われた曲だってのを熱弁された事があるんだ」


そう言いながら事務所の天井を見上げるお兄さんは、

どこか遠くの暗い場所を覗き込んでいるような、寂しい目をしていた。
 


546以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/07/02(木) 20:16:05.75xBNddiV40 (15/18)

 
「サンディ、ハードボイルドが生きる時間帯って知ってるかい?」

「いえ……分からないです……」

「ハードボイルドは真夜中に生きているんだよ」


ハードボイルドは生き物だったのか。

などと一瞬思ったがそうではなく、恐らく活動時間帯の事を指しているのだろう。


「だからね、サンディ」


お兄さんはくしゃり、と私の髪を撫でてくる。


「ハードボイルドたる僕は真夜中の世界にいるからさ」

「逃げてきたんじゃなくて、僕の所に走ってきたと思えばいいさ」


あの歌を聞いて、原因の分からない気持ちを抱えていた私は、

ようやく泣いていた意味を理解する。

あの場所から、この世界から、逃げ出したかった気持ちの後ろめたさを

全て包んでくれるような言葉を貰ったような気がした。

この人は、どうして私の事が分かるのだろう。

私でも分からない所を、分かってくれるのだろう。

色々な感情が混ざり合い、何も思考が出来なくなって。


私はふっと立ち上がり、お兄さんの額を右手で捲り、

そこに唇を当ててみた。

 


547以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/07/02(木) 20:16:45.09xBNddiV40 (16/18)


その感触で正気に戻り、お兄さんの顔を見つめる事無く、

我ながら物凄い勢いで台所の奥へと駆けだした。

この状態で目が合ってしまえば、きっと息が出来なくなる。

どうしようもないほどに心拍数や脈拍が上がってしまうけれど、

これはきっと、悪い症状ではないのだと、自分に言い聞かせる。


「お兄さん! 今日の晩御飯は何がいいですか!?」

「え、あ、じゃあ、ハンバーグで……」

「承知しました!いっぱい作りますね!」

「おおぅ、急に元気になったね、サンディ……」

「はい、もうずっと元気です!!!」


貴方が居てくれるから、私は元気でいられます。
 


548以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/07/02(木) 20:18:26.20xBNddiV40 (17/18)

 
 
貴方は自分を真夜中の世界の住人みたいに仰いましたけれど。

それを聞いた私は、貴方の事をそうは思っておりません。


私は生きている。

明るくて、温かい、お日様の世界に。

 


549以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/07/02(木) 20:21:05.34xBNddiV40 (18/18)

日々なかなかの勢いで忙殺されていて、家の役割が風呂と就寝くらいしか果たせていない今日この頃。
投下が遅くなって申し訳ございません。
ボチボチと書いてはいますので、またゆるりとお付き合い頂ければ幸いです。


※サンディが聞いていた楽曲



550以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/07/02(木) 20:24:53.51HhIAA2dDo (1/1)

待っててよかった、…、!


551以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/07/02(木) 21:03:42.026Oaw9sEq0 (1/1)


待ってた


552以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2020/07/04(土) 06:31:07.02ZkPPyWBy0 (1/1)

投下乙です
日向に生きるハードボイルドがいたっていいじゃない