626以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/03/29(金) 20:27:16.05zDl8y4C00 (3/5)

 彼女は有象無象として切り捨てようとするけれど、
 さすがに肉親相手では言葉でしたところで上手くいかない側面はある。
 かつてのループでは社会人であったことも手伝い、
 追放みたいな形で家から追い出してもさほど問題にならなかった。
 でも、今のダイヤちゃんは未成年。
 いくら彼女が能力が高く、追い出した相手が無能であっても
 周囲の目は小生意気なガキ扱い。
 持ち前の優秀さで評判を抑えたところで人の口には戸は立てられない。
 そういう相手がダイヤちゃんに口出しが出来ない以上
 誰に罵詈雑言をかっ飛ばすかと言うと、抵抗できない相手および、
 能力が彼女よりも劣る相手である。

「亜里沙に嫌われたことってないわ」
「羨ましい話です」
「ダイヤちゃんもそうよ、ルビィちゃんがあなたを嫌ったことなんて
 ただの一度もない」
「それは……客観的に、根拠のある意見ですか」
「シスコンの勘よ」
「……統計よりも、証拠よりも、根拠のある説明よりも、
 あなたの勘を信じてしまうわたくしがいる」

 力でゴリ押しみたいな戦法は私の得意とするところではある。
 天王寺璃奈ちゃんには数度もゴリラ扱いされるような無理矢理感漂う説得でも、
 何故かシスコンには通用してしまう側面がある。

「ダイヤちゃんも、自身の意見を押し通そうとするとき、
 もしくは自分をあげようとしたり、相手のマウントを取ろうとする時、
 一番手っ取り早い手段って分かるでしょ?」
「相手の不備を指摘すれば良い」
「ご明答、問題点の指摘は抵抗できない
 相手の弱点を攻めれば気軽にマウントを取れる
 ――反論すれば逆上、黙れば図星、直せば自分の意見を聞いた結果
 では、どうしよう?」
「わたくしには分かりません。
 ルビィのことを突き放すことはできません、
 罵詈雑言を飛ばす連中を粛清しきれません
 同じシスコンの先輩として未熟なわたくしに教示いただけますか?」
「迷ったけど、私は私だった、シスコンは、シスコンでしかなかったのよ」
「あなたはいつだって、どこだって絢瀬絵里ではないですか」
「だって絢瀬絵里以外で生きられないし」
「……自身のことは信じられませんが」


627以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/03/29(金) 20:28:07.84zDl8y4C00 (4/5)

 ダイヤちゃんが応えてくれた。
 こちらに芯の強い、思わずトキメキを感じてしまうような、
 意志の強い、思いのこもった、真剣な瞳。
 そして何のためらいもなく、このドシスコンエピソードにオチをつけるよう、
 私の胸元に手を伸ばしてきた。

「……いつから?」
「わたくしが絢瀬絵里のことを忘れるはずがありません
 何があろうと、世界があなたを忘却しようと、どこにいようと、
 やはり良いものですね、多少サイズはランクダウンしましたが
 この揉み心地というものはたまりません」
「雪菜クンみたいなこと言わないでくれる?」
「懇親会の件ですが、いい場所を確保しておきました」

 μ'sとAqoursの交流は少しずつだけど始まってきている。
 遠慮しいよっちゃんは花丸ちゃんやルビィちゃん、
 凛やことりと言った、以前までの記憶が戻っていない面々からの誘いに答え、
 こっちに来た瞬間にツバサとか理亞とか真姫あたりの
 どっちがラスボスなのか分からない強者に弄られもしている。
 鞠莉ちゃんも理亞に対して地獄に落としてやろうかというポーズは取っているけれど、
 理亞がお詫びの意味を込めて作成するお菓子攻撃により最近黙りつつある。
 お菓子を作らない誓いは曜ちゃん相手にのみ適応されるらしい。
 劇物の処理をする私の、最近はやっと美味しくなってきたのではないか?
 理亞も成長したんじゃないか。
 そんな発言を信じた海未がためらいもなくお菓子を口に入れ、
 ぐぁ! とか、がぁ! みたいな聞いたこともない声を出してのたうち回り、
 私は後少しで園田海未ルートを完結させてしまうところだった。
 青い顔をして修行が足りませんでしたと彼女は私にむしろわびてきたけど、
 海未をそんな扱いにすれば亜里沙や穂乃果が遠慮なく私の人権を奈落に落とし、
 面白がったツバサや真姫やニコが更に追撃を加える。
 理亞に手出しをしないのは、申し訳なさそうに彼女がお詫びの品として提供してくる――
 そんな劇物の処理が全部絢瀬絵里に押し付けられるからであると思う。
 劇物処理に当たらせるか、それとも先んじて地獄に叩き落としておくか。
 一番の被害者である海未には、今度ゆっくりデートでもしましょうと言っておいたので、
 わかりました! プランを練っておきますね! 
 彼女が楽しみそうにしているのがせめてもの救い、とりあえず登山する覚悟は決めた。


628以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/03/29(金) 20:29:15.05zDl8y4C00 (5/5)

「ミルクちゃんに会いに行きましょう」
「岐阜に行くの?」
「ええ、歩夢に話したら土地は有り余っているからと喜んでくれましたよ?」
「ほんとに? あそこ人が泊まれるところってほとんどないわよ?」
「わたくし、テントというもので過ごしたことがないので楽しみです」
「……牧場でテントは厳しいと思うわよ? 匂いとか」
「自然の中で過ごすのですから、ある程度の不満はあるものです
 ですが、問題を抱えつつ、交流を果たすことにより、
 かつて成し得なかった両スクールアイドルが手を取り合う姿が……
 わたくし、目に浮かぶようです」

 誰だこんな場所に連れてきたのは!
 そんなことを言うツバサであったり、理亞であったり。
 ダイヤちゃんが理想とするμ'sとAqoursが手を取り合う姿が
 果たして本当に見られるのかどうか。
 希にはまだまだ休んでいてもらわないといけないかもしれない、
 病み上がりに牧場や農場と呼ばれる場所で一晩過ごさせるのは、
 親友として心苦しい、嫌われても強制的に休ませるべきか。

 いつまで経っても帰らない絢瀬絵里を把握し、
 なにか問題でもあったんじゃないかと様子を見に来た黒澤ルビィちゃんが、
 自身の敬愛する姉が人の胸を揉みしだいて、楽しみ楽しみと言っているさまを見て
 誤解のないようにきちんと説明を果たすべきだったか。
 
 いろいろなことを考えた結果、珍しく私は風邪をひき、
 仕事もせず、一日中寝ているという体験をした。
 妹に”今年の風邪はタチが悪いようです”と言われ、
 ツバサに”差し入れは理亞さんのお菓子が良い? 凛さんのおかゆが良い?”
 と死刑宣告みたいなことを言われつつ心配され、
 真姫や海未と言った面々がメイド服を着てご奉仕活動にあたった。
 希に良いから寝ていなさい! と言おうとしたのに、私自身が寝ていたせいで、
 負担をかけてごめんねと謝られてしまい、人生うまくいかないことばっかりだなと思った。
 なお、私以外にはいちご狩りに行くと説明がなされた。

 イベント当日いちご好きな穂乃果やよっちゃんが恐ろしくテンションが跳ね上がり、
 二人で肩を組んでいちごの歌(作詞者不明)を歌う中、
 私は車窓から見える外の景色を眺め、
 何事もなく平穏無事にイベントが終わるよう神に願うしかなかった。

 ただ恐らくこのイベントが終わって帰宅の途につく時、
 私の神様嫌いが増強されているに違いなく。


629以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/03/29(金) 22:13:06.55e88VxVcaO (1/1)

ダイヤさん記憶引き継ぎ組だったのか、やはりこの世界のお姉ちゃんは侮れない
ミルクちゃんもとい聖良さんと理亞ちゃんの再開も一波乱ありそうで楽しみだ


630以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/03/31(日) 18:22:09.80VCM1jx2z0 (1/10)

 こぞって反発などされないように何台かに分乗し、
 自身は大好きな絢瀬絵里と同じ車に乗り込んだことにより、
 だいたいダイヤちゃんが何かを企んでいることは、
 敏い面々の間で共通認識されることになる。
 それでもまあ良いかで済まされているのは、
 自身の利益のために行動されたわけではないと予測されることと、
 未だにいちご狩りへ向かうことを信じて疑っていないよっちゃんや穂乃果が
 テンション高くいちごの歌を歌い続けているからである。
 μ'sの面々は穂乃果が楽しそうであるからいいや、で納得している部分があるし、
 Aqoursの面々はよっちゃんが楽しそうだから良いや、で納得している部分がある。
 二人が目的地に到着し落胆した際のフォローはダイヤちゃんや、
 一人だけ目的地を知っていそうな絢瀬絵里に任せておけばいいや、
 特に後者の人は憂さ晴らしにも適任だからどんな目に遭わせてやろうかな――
 というのは私の被害妄想だと思う、
 ツバサが真姫と一緒に露出度の高いコスプレの話をしているので、
 ミルクちゃんと一緒に晒し者コースなんだなと思ってるけど。
 
 暇なのでスマホで検索かけてみたら月島農場がクラウドファンディングをしてた。
 ある程度の投げ銭をするとミルクちゃんの画像や動画を見られることになっており、
 一体何が聖良ちゃんをそこまで突き動かすのかは分からないけれど、
 アイドルやってた時代よりもよっぽど稼いでいるのではないか疑惑はとりあえず封印。
 基本的に聖良ちゃんは恥ずかしい姿を他人に見られるのが好きなのではないか――
 そんな考えも姉に会えることをシスコンの嗅覚で察した理亞の
 楽しげな表情を見て考えないことにした。
 ただ、少しだけミルクちゃんプラチナ会員(月額一万円)の特典である、
 秘密画像と撮り下ろしボイスなるものが気になったので、
 それとなく理亞に”特に意味はないんだけどこれってなにが聞けるの?”
 と、尋ねてみたら、絵里も会員になってくれるんですか? と逆勧誘され、
 ”予算の都合が厳しくて”と言ったら、”わかりました私が出します!”
 なんて言われてしまい、申し訳ないのでお金を稼げるようになったら会員になるからと
 お断りしておいた、結局ボイスの詳細は聞けなかった。 


631以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/03/31(日) 18:22:36.81VCM1jx2z0 (2/10)

 休憩を取るためサービスエリアで過ごすというので、
 特に意味もなく牛肉でも食べたくなってしまった私。
 幼少時にはただの休憩所でしかなかった場所に
 数多くの子どもや観光客がいるのを見て、
 亜里沙の好感度上昇グッズでも買おうという気分になった。
 妹は私に代わりヒナのサポートというかプロデュース業にあたり、
 もうすでにあやせうさぎ(トマトあげると好感度上昇大)であるとか
 あやせみなみ(裏名考え中)であるとかを
 自作のゲーム(私がシナリオを作っている)においてのキャスティングしたり、
 散り散りになっていたスタッフをかき集めゲームを作る下地を作り上げてしまったので、
 おそらく妹の懐にはそれなりに分厚い財布があるであろう。
 たいして好感度のパーセンテージは上がるまいと思いつつ、
 何を喜ぶだろうかと首をひねりながら、マンゴーの入ったサンドイッチが目についたので、
 それを買ってプレゼントすると思いのほか好感度の上昇に関与することができた。
 しかしながら、それを目撃した赤毛のお嬢様(ヒロインC担当予定)とか元トップアイドルが、
 私にもよこせと要求してきたためお財布の中身は少なくなった。

「絵里ちゃん、ちょっといいかな?」

 この世界にて久方ぶりに顔を合わせた際に、
 ついつい昔なじみの姿に戻っていたので、
 テンションが跳ね上がり嬉しくなってしまい、
 久しぶりね! 元気だった!? 
 と、キャラにない感じで抱きついてしまい、
 それ以来微妙に距離が遠い気がすることりが声を掛けてくれた。
 嬉しくなって抱きついてしまいそうになったけれども、
 過去の失敗から学んでいかなければ、
 ことりも昔のキャラクターを取り戻す可能性がある、0ではないと思っているし。

「ええ、どうぞ? 
 でも、とても残念なことにお財布の中身は心もとないから、
 何かを食べるって言ったら空気くらいしかできないけど」
「絵里ちゃんモテモテだよね、いつの間にそんなことに?」
「体感的には、寝て起きたらだと思う」
「すごく斬新なプロローグから始まりそうな物語だね?」


632以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/03/31(日) 18:23:06.68VCM1jx2z0 (3/10)

 たしかにモテモテではあるんだけれども、
 相手からすごく好意を寄せられるばかりで、お金が次々と減っていくのは、
 ハーレム主人公の宿命? 相沢祐一を主人公とする二次創作も
 ヒロインにおごってばっかりな話だった気もする。
 攻略対象の機嫌ばかりが良くなり、私の財布は薄くなり。
 ことりを伴って、ゆっくり会話ができそうな場所を探したけれども、
 残念ながらサービスエリアでは顔を突き合わせて会話できる場所など稀、
 基本的に人がごった返している施設では少々周囲の声が騒がしいけれど、
 対面という条件はなんとか満たすことに成功した。

「相談事?」
「うん、はっきり言っちゃうと
 絵里ちゃんってμ'sのみんなと交流してなかったよね?」
「……不自然に穂乃果や海未と仲が良いのが気になる?」
「すごいね、確かに私が生徒会長を務めてる時に絵里ちゃんの仕事量を見たよ
 一人でやっているということに驚いた
 私はずっと絵里ちゃんってふだん何しているんだろうって思ってた
 ごめんなさい」
「いいのよ、確かに私はμ'sのみんなと接触を避けていた、
 生徒会の業務もろくに引き継ぎ作業をせず、
 後進であることりや二年生の皆にずいぶんと迷惑をかけてしまった」
「その側面は確かに存在するかもしれないけれど」

 私が一人で生徒会において仕事をし、結果の都合のいい面悪い面どちらも存在する。
 確かに3年生は私が全部何もかもやってくれたので得をしたかもしれないけれど、
 とても残念なことに引き継ぎ作業という作業はまるでこなせてはいなかった。
 2年生のみんなが私に全部任せきりだったとは思わない。
 他に役員はいないのかと聞かれてもスルーしていた私が問題点に気づかず、
 とりあえず全部私がやってしまえばいいやで突き進んでしまった結果だ。
 いかんせん仕事においては優秀であったものの、
 誰かを信頼して仕事を任せる点においては無能極まりなく、
 私卒業以降に生徒会の仕事が軽く滞ったことは想像に難くない。
 当時に海未や穂乃果が記憶を取り戻す機会があれば、難しい面もなかったかもしれない。


633以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/03/31(日) 18:23:49.39VCM1jx2z0 (4/10)

「私ね、穂乃果ちゃんや海未ちゃんのこと結構分かっていると思ってたの」
 
 お互いに謝罪をしてばかりでは話は進まないので、
 過去の記憶を振り返ることは一旦打ち切り。
 本題であることりの相談事に話題をシフトした。
 ループ時の記憶がない彼女は、穂乃果や海未が自身の知らない何かを知っていて、
 ことりが知らない事情まで把握している事に不自然さを覚えている。
 幼なじみの二人がろくに付き合いもなかった私に好感度高く、
 問題を解決するには声を掛けてみる他ないと思ったに違いない。
 負荷をかけて申し訳なく思うけれど、
 謝ったところで何が解決するわけでもないので、
 
「ことりは私よりもよく知っているわ、
 今の彼女たちに違和感を覚えるのも当然
 知らなくて興味がなければわからないでしょう? そういうことって」
「すごいね絵里ちゃん、結構長い間離れていたのに
 私のこともよく分かっているみたい」

 ことりが過去のループにおいて、露骨に千歌ちゃんを苦手にしていたのは、
 彼女が穂乃果のことを私分かってます! みたいな態度を取っていたからだと思う。
 穂乃果の幼なじみである海未やことり(このループではりんぱなと私も)の二人は、
 互いに互いのことを一番私が分かっていると思っているフシがあるし、
 間違っても私が穂乃果のことを世界で一番分かってますなんて言おうものなら
 海未やことりから総スカン食らう可能性もある。
 雪穂ちゃんあたりからも評価が下がること請け合いなので、
 怒った亜里沙に殴られる危険性もある。

「ことりは不安?」
「……何もかも分かられてしまうのは、ちょっと不安かな」
「穂乃果や海未みたいにね、私のことを信頼して好きでいて欲しい、
 なんて言わないわ、だけど
 今後、仲良くなれたら私は嬉しいと思う」
「絵里ちゃんは時々、ものすごく大人びたことを言うね? 達観しているっていうか」
「若さが足りないのよ」

 年齢の割に落ち着いて見えるという部分が、良い部分にもなるし悪い部分にもなる。
 扱いやすいという人もいれば、小生意気であると判断されることもある。
 自分を見守ってフォローしてくれる人が好きな穂乃果であるとか、
 穂乃果みたいにおとぼけている子を見守る立場にいるけど
 基本的に誰かに甘えたくて仕方ない妹属性の海未とは、
 ことりは一線を画している。


634以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/03/31(日) 18:24:22.70VCM1jx2z0 (5/10)

 それがデザインセンスに直結し、誰もおよびつかない個性になることもあるし、
 酒飲みのビッチ化する方面に行くこともある、聞いた話だからほんとうかどうかはわからない。
 かつてのループでも男をとっかえひっかえしているという話ではあったけれど、
 私はことりの恋人というのを見たことがない、おそらく曜ちゃんも見たことがないはず。

「仕事って……どうかな?」
「今の私の仕事が健全な仕事であるとはとても言えないけれど」

 健全な仕事をしているときもあった、エロゲー作りにも営業活動は必須。
 頭を下げて、苦労をすることもあった、でも、私の仕事というのは基本的に報われている。
 報われない仕事といえば、私は主婦を思い出す。
 お給料が基本的にない、相手を選ばないと感謝もロクにされない、
 いつもふらついてお喋りとかしているイメージがある、子育てをフォローされることが少ない。
 私と仲が良い面々で唯一海未だけは家庭に入っても良い
 みたいなことを言ったことを覚えているけれど。
 ツバサは死んでも嫌っていうし、理亞もそうみたい、亜里沙はどうだろう?
 私もそれほど嫌悪するわけじゃないけど――

「ことりは早々に就職を決めたのよね、3年の時?」
「アパレル関連のね、と言ってもデザインとかじゃなくてショップ店員だけど」
「デザイナーの道は厳しかった?」
「面接の人がたまたまμ'sを知ってて、それの縁故みたいな感じかな
 最初就活している時にμ'sのこととか絶対に言わないようにしてたの――
 でも、何の因果なんだろうね……」

 スクールアイドルという存在がそれほど輝かしい存在ではない世界において、
 ちょっと高校時代にアイドル扱いされてハメ外した存在な感を
 年上の人たちは持っていたりして。
 だからこそことりはスクールアイドルであったことを伏して就活し、
 穂乃果はμ'sのことを言って就活で連敗続き。
 記憶を取り戻すと同時に穂むらにいるか、それとも――
 なんて言いながら、いざとなったら絵里ちゃんに養ってもらおう!
 とも言っているけれど、同じような発言を海未や希や真姫にもされている。
 ヒナや亜里沙だけでも手一杯なのにこれ以上手のかかる子どもが増えれば
 ツバサには何人かよこせって言われるだろうし、
 理亞にはもうひとり追加良いっすか? みたいに言うに違いなく。


635以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/03/31(日) 18:27:25.63VCM1jx2z0 (6/10)

「と、私はこのあたりかな、もう時間なんだ」
「時間?」
「絵里ちゃんに話を聞いて貰おうの会、また今度も付き合ってくれる?」
「予約しておかないと私のスケジュールって開かないの?」
「本人のあずかり知らないところで予定が決まるって楽しそうだね」

 ことりはそう言いながら楽しそうに笑うけど、
 私はちらりと希がこっちを伺っているのが見えて、
 あーなに言われるんだろうなー、家庭訪問の話かなー。
 と、少し憂鬱になった。



 親友である希のことを少々蔑ろにしがちである、
 そんなふうな自覚を持ち、つねづね気を使ってきたと思う。
 かつては彼女自身から距離を取られたことも数回、
 私の方から殴りかかったことも何回か。
 当時の私が優秀で人の気持ちを常に慮り、器用に立ち回れていたのなら、
 おそらく、こんな若返ってエロゲーのシナリオ書いている――
 そんな状況は生まれるはずもなく。

「希、体の調子は?」
「エリちみたいに走ってる軽トラ追い抜いて
 金髪ポニーテールがバイクで暴走していると警察に数件通報されるとか
 それくらいには元気じゃないけど」

 バイクはバイクでも自動二輪ではなくマウンテンバイクである。
 あいにく免許は持ってない、暴走している自覚はあるけど。
 希はたそがれた表情でなんだかなあみたいな顔をしているけれど、
 そんな顔をされると私もなんだかなーという気分にもなる。

「ああ、希」
「うん、なになに?」
「あなた恋をしたって嘘ついたわよね?」
「な、なんのことやん!?」

 ちょっとだけ意地悪をされた心持ちになったので、
 簡単に伏線回収。
 石投げてきたから石を投げ返した感があるけれど、
 私が反撃すると誰かしらに袋叩きにされて終わる傾向が強い。
 ちょっと最近持ち上げられすぎて、あかん物語の主人公みたいやん!?
 と発言が希みたいになってしまいそうなので、そろそろ出る杭みたいに叩き潰されたい。


636以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/03/31(日) 18:27:53.02VCM1jx2z0 (7/10)

「ほら、わからないあなたの気持ちが、のところ」
「花陽ちゃんがなー、素っ頓狂なー、歌詞がなー」

 希の目が泳いでいる。
 何事か相談しに来たのは分かっているけれど、
 希が持ってくる話はだいたい大した話じゃない。
 そしてなにより、希が持ってくる話の大筋を私は理解している。
 あいにく希のことでわからないことほとんど無いし。
 昔なじみでもあるし、ことあるごとに親友やっている私としては、
 手に取るように分かる、距離が近いツバサや理亞のことはさっぱりなのに。

「恋愛したんだってね? 私にそういったわよね?」
「も、もちろん――い、いやー、痛かったなー」
「経験もなかったのに?」
「エリち、な、なんで……?」
「いや、希の発言を振り返ってね、確かに体験時の話は聞いたんだけど、
 その前のデートとか、付き合い始めの馴れ初めとか、愚痴や不満を聞いてないなって」
「そ、それは、どのループでも処女だったエリちに失礼やんなって」
「経験の話はいくらでもするのに? 凛が真姫に話した思い出エピソードみたいな話を?」
「ごめんなさい、土下座でいいですか?」
「私のほうが謝るべきなのよ」

 話を軌道修正。
 希は自身を悪いと思ってばかりいるから、
 こうして私がガス抜きしてあげないといけない、私がそうできないと
 希は常に病んだ方面に加速してしまうし。
 親友の顔を見て女子高生みたいに若々しいであるなと感想を抱きつつ、
 どう考えても学生と姉妹みたいな関係にしか見えないけれど、
 本当に彼女が言う通り熱烈な信頼を持って接せられている教師であるのか――

「わからないあなたの気持ちが、花陽に対してのセリフじゃないでしょ?」
「い、いやー、なんでこんな歌詞を作るんかなーっていう
 花陽ちゃんへのメッセージをね?」
「私の気持ちが、分からないってことなんでしょ?」
「……ウチは、真姫ちゃんや海未ちゃんが考えない――
 どうしても女の子相手っていうのを意識してしまうからね」


637以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/03/31(日) 18:28:22.12VCM1jx2z0 (8/10)

 のぞえり同人誌ではよく私を押し倒している(私も希を押し倒している)けど、
 彼女は意外と現実的に将来設計しがちだから、
 私を仮に押し倒して、私がどれほど働いてくれるかに頭が行くのだと思う。
 当たり前じゃないかと言う人もいるかも知れないけれど、
 そんなことは海未や真姫に言って欲しい。
 二人は比較的常識人だから暴動は起こさないけれど、
 タガが外れればなにかするのは過去のループからも容易に想像できる。
 誤解のないように言えば、タガが外れる=私に何かがあるであり、
 おまえは死亡フラグ建てなきゃ良いだろと言われれば、涙目で頷くほかない。

「ごめんなさい、あなたにはずいぶん迷惑をかけたわ
 できれば殴って欲しい、どうしてもっていうんなら膝蹴りまで良い」
「エリちはなんでそこまで暴力的手段を取られたいん?」
「それで心の傷が癒えるのなら、私はいくらでも殴られてもいいのよ」
「自己犠牲で仏像に僧侶みたいやね……」

 そこまで高尚な決意があるとは思わない。
 どちらかと言うと殴られるのが好きなドMの可能性だってある。
 安直な言い方をすれば、私自身が痛いのはいくらでも耐えられるけど、
 μ'sやA-RISEの面々が泣いてたりすると、なりふり構わず問題の解決にあたり、
 自身の肉体が悲鳴を上げていることに気づかず、だいたい結果的に倒れている。
 とても残念なやつであり、ツバサもよく、あなたって放っておけないタイプって言うし、
 理亞もフォローを入れつつ、面倒な人は好きですというし、それはフォローなのか。

「私は希といつまでも親友でいたいのよ」
「えらく直接的にフラレてない?」
「どうかしら? 親友でいたら、希の努力で絢瀬絵里攻略ルート開けるんじゃない?」
「他人力やね……」
 
 やりたければやれば? くらいのニュアンスであるけれど、
 別に突き放しているわけじゃない、今はその気はないですと言うだけ。
 今の希なら、私の人権をスルーして強制的に自身のものにはしないだろうし、
 仮にそうされても逃げ切れる手段が存在する、助けて雪姫ちゃん。

「ところで希。
 女磨きをしたあと、私を監禁しようとして花陽に説得されたんだって?」
「なんで知って……!? あ、違う、違う
 んなわけないやーん、もうエリチカボケてしまったん?」
「否定があまりに遅すぎる気がするけど、なんて言われたの? 興味ある」


638以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/03/31(日) 18:28:49.12VCM1jx2z0 (9/10)

別に希の黒歴史を知って金銭面で強請ってやろう――
 というわけではなく、これから私の周囲の人達がヤンデレる恐れがあるので、
 それを回避するためにも対抗策は取っておきたい。
 
「これ、内緒だからね? 誰に言ったらダメだからね?」
「内緒にできる内容ならね、警察に今すぐ駆け込むような話でなければ」
「……」
「なにか言ってよ希!?」

 冗談めかして言ったら思いのほか本気にされてしまったでござる。
 あと、東條希さんが本気だすと国家権力とか風の前の塵に同じだから、
 仮に警察署に駆け込んでもおまわりさん困っちゃう、
 ひのきのぼうじゃ魔王は倒せない。

「思えば事前準備に時間をかけずに、花陽ちゃんに計画がバレなければ」
「仮に本気でそれ実行してたら、あなたツバサに消されるわよ?」
「そうだね、ホント。善子ちゃんにもそうされたかも
 だからよかった、だからこそ私はこれ以上、エリちには近づかないよ」
「……あなた、誰かからそう言うと私が逆に近づいてくるって
 アドバイス受けなかった?」
「……なんでバレてしまったの?」

 花陽がヤンデレた希に言ったことには、
 絵里ちゃんは捕まえようとすると逃げるよ、
 トラップには簡単に引っかかるから無駄に労力使っちゃダメだよ、
 だったそうで、なんで花陽が私のことをそこまで理解しているかは不明だけど、
 直接的手段を取られるよりかは、間接的手段や籠絡で私は簡単に落ちると思う。
 誰かが仕掛ける籠絡は、仮に亜里沙が仕掛ければツバサや理亞が、
 真姫が仕掛けるとツバサや海未が、海未が仕掛けると穂乃果やツバサが、
 ツバサが本気だすと亜里沙が押し倒しにかかってくるので、絶妙なバランスを保っている。


639以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/03/31(日) 18:29:30.99VCM1jx2z0 (10/10)

 誰かが暴走すると綺羅ツバサさんがなんとかしてくれる説が私の中であるけど、
 仮に彼女がヤンデレる方面に行ったらどうなるかな?
 気になるけど、とりあえず彼女を敵には回したくない、
 敵に回すとオンラインゲームの彼らや、芸能界の彼らや、
 黒澤家の人達のように音もなく人権が消える。
 ただ、彼女も万能ではないし、私もまた万能ではない。
 なんとかしようとすればするほど新しい問題がひっついてくるので、
 できれば平穏無事に過ごしたい、おまえには無理だろって声がどこかから聞こえそう。

「もう! どうしたらエリちを同人誌みたいにウチのものにできるの!」
「私に聞かないでよ!?」

 はっちゃけた方面にオチがついてしまったけど、
 仮に、絢瀬絵里をこうすればモノにできるということを、
 他の誰かが知っていたら恐怖である、知っていても間違っていて欲しい――
 そんなことを考えながら車に乗り込もうとすると、
 そっちじゃないですよ? と国木田花丸ちゃんに言われ、
 え、こっちじゃないの? と思いながら誘われるがままに車に乗り込んだら、 
 果南ちゃん、凛、海未という武闘派三名――。

 助けを求めるように連れてきた花丸ちゃんを見ようとしたら、
 もう既に彼女は避難を完了させていた、

「……この三名、ちょっとリリホワっぽくていいわね」
「ダイヤが言う目的地に着いたら、秋のあなたの空遠くを歌ってあげるから」
「……別にそれは、私が天高く蹴り飛ばされる犯行予告ではないのね?」
「ああ、それいいね、私の蹴りは届きますかだっけ?」

 そうです蹴りの跡消えないのです――
 そうです鉄下駄がしまえないのです――
 蒼色傷跡が私のヘマね――
 あなたのキックよもう一度――

 嫌な歌が聞こえた気がして、もうちょっと希をいじっておくべきだったと思った。


640以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/03/31(日) 22:21:30.925+z8qUTDO (1/1)

ヤンデレ希ルートは一先ず回避できた感じ?
えりちの周囲が絶妙なパワーバランスで成り立ってるならいつ崩れるかハラハラですな


641以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/01(月) 19:09:36.34fb6E2ZE20 (1/3)

 車内の後部座席は星空凛、絢瀬絵里、園田海未の組み合わせになっている。
 真ん中の席が私という点については文句はない、海未のポジションが一番偉いのは
 年収という意味でも、μ'sでのポジションという意味でも正しい――。
 彼女は自分が常識人であり、いつも冷静沈着であり、
 問題行動をする面々がいれば窘める役目にあると思っている。
 一方、私の左隣にいる星空凛という女の子は
 一見するとボーイッシュで、乙女らしさも欠片もないみたいな自己評価をし、
 胸もないし(ニコの顔を見ながら)と発言し、料理を作ると劇物が完成する腕前。
 かつてニコと希という組み合わせで乙女式れんあい塾という歌を歌ったときにも、
 どこに乙女がいるのか? と疑問を呈し、そう言われてみればそうねと同調した私は、
 希やニコからスネを蹴り飛ばされる体験をした、解せない。

「凛……なにか言いたいことがあるの?」
「もう少し気持ちが落ち着くまで待って」

 岐阜に到着するまでこの身が安泰かどうかは心配だけど、
 口を開いた瞬間に代償はおまえの命だ! とか言われて車外に叩き出され、
 後続から来たトラックに跳ね飛ばされる場面が思い浮かんだので、
 殊勝な私は凛が何事かを発言するまで待つことにした。
 海未と凛が組み合わされると、だいたい希もメンバーに加わるけれど、
 この場においては欠席、発言を先回りしてヤンデレ化を防ぎ、
 同時に彼女のガス抜きまでした私の手腕を誰か褒めて欲しい――
 海未と凛という組み合わせはこの世界では幼なじみ同士であり、
 かつては微妙な三角関係も構成し、μ'sの中では数少ない非処女として、
 多くのメンバーに男なんて! と言わせる要因にもなったのは黒歴史。
 彼女自身は別にその出来事があったから
 海未に熱烈な愛情を向けるようになったわけではなく、
 冷静に考えてお付き合いするなら園田海未という結論に至ったようである。
 男前な恋愛ポエマーな海未を見て、理想と言ったら彼女という結論に至った理由は、
 今度花陽にも問いかけてみたい。


642以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/01(月) 19:10:03.62fb6E2ZE20 (2/3)

 そういえば以前ラブライブというアニメが放送され、凛のインタビューも雑誌に載ったけど
 花陽をかよちんと呼ぶ理由を問われ、忘れたの一言で済ませたのはどうなんだろう?
 重要なエピソードであると思うし、もしも私が部外者だったらソコは気になると思う。
 りんぱなの二人は私に手厳しいことが多いので、問いかけることが少なかったから、
 今度、三人で飲み会でも開いて色々聞いてみようかな。

「絵里ちゃん」
「なあに?」
「花嫁修業について聞きたいの!」

 え? とか、はい? と言ったと思う。
 あまりに衝撃的すぎて、自分の耳に凛の発言が入らなかった気がする。
 反応も何言ってまんがなみたいな形になってしまい、
 隣にいた海未の視線の温度がずいぶんと冷却方面に向いてしまった。
 だからそうやって、ア○と雪の女王みたいな感じでありのままの姿見せてそうな
 そんな視線はやめてほしいの、私に原因があるのは分かってるけど。

「……花嫁修業というのは、それはつまり、夜伽の訓練を」
「絵里、車内から飛び出すんなら手伝いますよ」
「あ、ごめんなさい、冗談、冗談なのよ、軽いジョーク」

 真剣な凛を茶化すような真似をして申し訳ないと思うけれど、
 星空凛の能力値は料理以外はほぼ完璧。
 かつては海未に仕込まれてあらゆる才能を発揮した彼女だけど、
 この世界ではあくまで大学生。
 まきりんぱなの組み合わせでどれほど普通の学生生活を送ったかは分からないけど、
 現、愛の天使イオリン(笑)登場のループではにこりんぱなの組み合わせで 
 綺羅ツバサと絢瀬絵里のコンビの人気すら凌駕してみせたから、
 真姫が言うほど平穏な大学生活は送っていないと推測される。
 私というオミソが着いてツバサが能力を発揮できなかったのではないか疑惑があるけど。

「絵里ちゃんのスキルを凛に教えてほしいの!」
「お、おお……」


643以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/01(月) 19:13:18.57fb6E2ZE20 (3/3)

いつまで持続できるかは分かりませんが、
理亞ちゃんルート及び、この海未ちゃんルート、
そしてオリジナル作品、悪役令嬢エヴァリーナちゃんの話を毎日更新するため、
分量としては少なくなりますが、楽しんで頂ければ……。

エヴァリーナという名前ではありますが、今作品とはまるで関係ありません。
ええ、ないんです、まったくもって。


644以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/02(火) 02:27:14.63wX8quGNW0 (1/3)

 星空凛から頼られたことが滅多になく、
 顔を合わせれば罵倒ばかりされる。
 一度、素直になれないだけよねー、本当は私のこと大好きなんだよねー
 って言ったら、頬を赤く染めながらそっぽ向かれ、
 照れてるのかと思いきや、今まで遠慮して悪口を言ってなかった自分がバカだった、
 なんてことを言い放ち、あ、これ地雷踏んだやつだと思った後に、
 さんざっぱら罵詈雑言をかっ飛ばされ、遠慮しい凛ちゃんカムバックと願った。

「泣いているのですか絵里」
「人から優しくされるのが、こんなにも嬉しいことだったなんて」
「大げさすぎだよ絵里ちゃん!?」

 大げさであろうがなんだろうが感動を覚える。
 基本的に私も素直でない側面があって、
 それに準じた面々の素直でない好意には慣れきっている。
 今の凛のようにワンコみたいな感じで純真無垢に好き好きされてしまうと、
 ついつい罠なのではないかと疑いつつも従ってしまう私がいる。

「絵里ちゃん、そんなに不遇な日々を過ごしていたの?」
「人から感謝されない日々を過ごしていました――」

 海未の視線の温度が多少向上する。
 それはおそらく、温かいと言うよりも生ぬるいと呼称するべきだけども、
 なにより、憐憫の情を浮かべられていると言うべきだけども、
 嬉しいものは嬉しいのである。
 何やってんだこの人達という果南ちゃんの視線はスルー。

「凛はちゃんとありがとうって言うよ?」
「ありがとう、ありがとう……」
「絵里ちゃんだいじょうぶ? やっぱり疲れてない? 肩揉んであげようか?」
「ありがとう、肩なんて揉まれるの久しぶり」
「……海未ちゃん少しは労ってあげなよ」
「ツバサのような態度が好感度を上げると思ってましたが、
 そういえば雪姫のような妹キャラが彼女の好みでしたね……」


645以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/02(火) 02:27:56.19wX8quGNW0 (2/3)

 私も常々厳しくされたほうが楽だと思っていたし、
 ツバサみたいに何かにつけて忠告してくれる友人と付き合いがちだったから、
 海未の言う通り雪姫ちゃんみたいに褒めてくれる人であったり、
 たまにスルーするけど、エヴァリーナちゃんみたいな子が可愛く思う事を忘れていた。
 他人への好意は弄れず素直でありたいと願ったエリーチカでした。

「凛ね、料理が苦手で、誰も食べてくれないの」
「安心して凛、あなたの作るものなら何でも食べるわ」
「集団食中毒事件として処理されそうになったものでも?」
「安心して凛、私は丈夫なの、
 かつて私は原祖の悪魔が滅しようとした料理も食べてみせた」
「ちなみにですが事実です」

 私が言うと、感謝の言葉で頭がおかしくなった故の妄想みたいなので、
 海未がきちんとフォローしてくれる。
 妄想でなくても悪魔が現実にいることも凛にはわからないだろうし、
 まだ黒澤サファイア(笑)さんには遭遇していないはずだから、
 この人すごいっすよとちゃんと説明しないといけない、人じゃないけど。

「絵里ならソコらへんに落ちているレジ袋を食べても平気です」
「亀じゃないんだから」
「はちみつはかけて欲しい」
「食べられるのを否定してほしいな!?」

 人工物ならばある程度はイケると思っている。
 必要に駆られればという条件は尽くし、おそらくそこらへんのものを食べる状況下になれば、
 誰かしらが助けてくれるし、そこまでの状況にならないとも思う。

「あの、ね、今日はサンドイッチを作ってきたの」
「……サンドイッチって紫色のオーラ漂ってたかしら?」
「あ、絵里にも見えるんですね?」
「愛情を込めたの!」


646以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/02(火) 02:29:11.52wX8quGNW0 (3/3)

 おそらくその愛情はヤンデレ方面だし、紫色の人って言うと
 ちょっと前に会ってきたような気もする。
 そうではないと断言するけど、サンドイッチと言えばパンで挟む料理だから、
 愛情なんぞ込めないでも、テキトーに作ってもそれなりに美味しい。
 ちなみにツバサさんは私の作ったサンドイッチ以外はまずいって言って食べない、贅沢な。

「絵里、これは確かにサンドイッチ、いえ、あえて言うならば、
 SAN度イッチ表現するべきでしょう、食べると0になります」
「ふふ、海未は優木せつ菜さんの料理も、鹿角理亞のお菓子も食べてなかったわね
 ――おそらくこれは、私にとって乗り越えるべきモノ」
「絵里ちゃんなんでそんなにこやかな笑顔で言うの?
 まるで死んじゃう前みたいだよ?」
「海未、私になにかあったら亜里沙をよろしく、とてもいい子よ」
「遺言まで!?」

 紫色のオーラを漂う劇物を食べるのは初めてではある。
 それは料理によって作成されたものと言うより、
 魔女の大鍋で作られた調合物と例えるべきなのは分かっている。
 しかしながらこうして、今の凛みたいに捨てられた子犬みたいな、
 不安で打ちひしがれている瞳で見上げられると、
 ちょっと死んでもいいかなっていう気分になる、ちょっとではすまなくても。

「ん……」

 サンドイッチを口に含む。
 なにが入っているのかは分からないけれど、ハムときゅうりだろうか。
 挟んであるものは普通なのに味が強烈に苦味に似た――
 私は経験がないけれど、水の中で溺れた子どもの視界が見えた。
 どんどん沈んでいく中、体温が下がり、希望もなにも無くなっていく、
 ああ、死ぬんだなみたいな空虚な気持ちが胸の中の広がり――
 
「絵里!?」
「絵里ちゃん!?」

 最近疲れていたことも手伝い、
 そういえば風邪も引いていたからちょっと免疫が少なかったかもしれない。

「ごめん凛、次はちゃんと残さず食べる――ごちそうさま」
「絵里ちゃん!? お願い目を開けて!」
「さすがです絵里、集団食中毒と言いましたが、
 実際に凛の料理を食べた人間は誰ひとりいなかったんです――」


647以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/13(土) 02:54:12.950wrwHq96O (1/1)

急に途絶えたな


648以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/08(水) 20:35:22.81slKnqBV90 (1/1)

なんで急に終わったの?


649以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/21(火) 20:11:51.618pjYQA6r0 (1/16)

 メシマズ属性というものがある。
 μ'sでは星空凛が該当し、数多くの劇物を作り出した結果、
 多少の毒素では物ともしない絢瀬絵里が生誕し、
 アイツは非人間疑惑が非人間の方々から持ち上がった。
 よく、ラノベなりコミックなりで味見をしないので、最悪の代物が出来上がる。
 そんな過程が存在したりするけれど。
 星空凛が料理作成の際に魔界の瘴気でも発生させ、
 見物していた私や花陽が幻覚でも観た可能性は確かにある。
 ただ、同じくメシマズ属性を持つ優木せつ菜(芸名)の姉である綺羅ツバサも、
 弟が味見をしたのを確かに見たと言っているので、
 アイツが魔界の正気ごときでどうにかなるとは思わないから、
 おそらく二人はきちんと味見をしているんだと思う。
 きちんと味見をするという行動をした結果が劇物であるので、
 もはや改善するための行動はできないと思われる、理亞と違って
 二人が料理をつくることは稀であるし。
 なお、鹿角理亞という少女はお菓子作りに今もなお絶対の自信を持っており、
 自身を昏倒させ悶え苦しませるほどの劇物を作り上げても、
 反応としてはたまたま失敗しただけにとどまっている。
 あまりにクソ不味いお菓子を食べたせいでブラック化し下ネタキャラとして
 一時期活躍したそうだけども、私は秋葉原でヒナと遊んでばっかりいたし、
 海未にいつの間にか座禅の修行により矯正されたそうなので、
 西木野真姫との共演はなされなかった、あのループでは西木野家に鹿角姉妹が滞在していたので、
 ワッキーの胃に穴が飽きそうになったらしい、気持ちはわからないでもない。


650以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/21(火) 20:12:47.978pjYQA6r0 (2/16)

「……つう、頭が感じたことのない痛みを発してる」

 気がつけば周囲の視界に映るのは以前も滞在したことのある、
 それなりにお高級なホテル。
 みかん色と表現してもいい薄い紅に黄色が交じった明かりや、
 清潔な白い壁や調度品の数々。
 岐阜県に滞在した折、なんか高級そうなホテル行こうぜ!
 とか言ったツバサの言葉に乗せられてテキトーに入ってしまったけれど、
 食事がついていたらもうちょっと財布が薄くなったんだろうなという感想の
 お値段が張る場所である、もう二度とこないものだと思われたのに。
 ここまでやってこれたということは、少なくとも岐阜県までは入ることが出来、
 私が昏倒してもなお農場まで数時間の距離の場所まで移動をすることはかなった模様。

「油断してた、まさか凛の料理がパワーアップしているとは」

 凛が作ったものでも人間が食べられるレベルであろうと油断していた私が悪い。
 人間の蘇生技術に精通している果南ちゃんや海未が控えていたのは、
 暴れだした私を取り押さえる役目ではなく、
 私が死にかけた時に蘇生させるという重要な役回りだったみたい。
 そこまで用意周到にしなければ私の命が危ないというのであれば、
 少しばかり、私にそれを食べさせないという選択肢が取れたのではないか。
 食べてしまった手前それを声高に叫ぶ気はないけれど。

「胃がもたれるっていうのは、こんな感じなのね」

 気分が悪くなることは少々ある私も、
 気持ちが悪いとか、頭が痛いであるとか、
 この感じは二日酔いに似た症状なんだろうな、と思う。
 体験がないので、あくまで似た症状であろうとしか言えないけれど、
 世間のオジサマ方はこの気分で日夜過ごしているのかと思うと、
 ちょっとくらいは同情しなくもない、お酒を飲むなといいたいではあるけれど。


651以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/21(火) 20:13:45.218pjYQA6r0 (3/16)

「……ツバサ?」

 待ち構えていたのか、と思ったけど、
 風呂上がりと言った感じな髪の毛をタオルで水気を拭うちょっと色っぽい姿に、
 私はドキドキしてしまって、もう不意打ちだわ――
 って場面を書いたのはヒナだけど、書いた後に真姫と会ってこの人誰って言ったし、
 真姫当人もこの人西木野真姫って書いてあるけどこの人誰って言った。

「危なかったわ……ショッカーの改造手術が成功しなかったら、
 凛さんが殺人犯になってしまうところだった……」

 真面目な顔をして俯きながらツバサが告げるので、
 信用味のある話のような気がした。
 未来人だの何だのがいる世界でショッカーがいないとは限らない、
 ツバサの顔の広さならば銭形のとっつぁんみたいな首領と知り合いでも不思議じゃない。
 もしかしたらお酒でも酌み交わす仲かもしれない。
 なお、私がアホなことを考えていることを把握したのか、
 呆れたというべきか、いつもの私をした見るような見下すと言った感じの
 表情を見せ、ひとまず私が特に精神に異常を来たしていない通常体だと
 認識してもらえたようである。
 
「私はライダーになるの?」
「ええ……これまで通りの生活は送れないかもしれない」
「でもいいの、デストロンが相手でも」
「なんで先にV3なのよ」


652以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/21(火) 20:14:13.678pjYQA6r0 (4/16)

 改造人間みたいな扱いをされることはあっても、
 ひとまず改造人間ではないし、変身もできない。
 凛の作った料理を食べれば昏倒するし、理亞のお菓子を食べればお腹を壊す。
 ツバサの弟さんの料理はまだ未体験だけど女体化していることから、
 メシマズランクとしては下がっている可能性がある。
 仮に彼女と今後会う際にパワーアップしているのならば、
 私は遺言でも残しておかないといけない、メシマズは顔を合わせると料理を作りたがる。

「あー、記憶はどう?」
「その前に風邪をひくから服を着なさい」
「ドキッとした?」
「今ちょっとドキッとするモノローグ考えるから」

 これでツバサが巻かれたバスタオルの下が最終兵器彼女みたいなことになり、
 ごめんね絵里こんな体になっちゃったたとか正体を吐露したならば、
 多少なりともドキッとする展開ではある。
 お色気要素が強まって心臓がドキドキする展開は、
 私にとっても、ツバサにとってもお呼びではないであろうし、
 仮にそんな展開になったところで自分はどうしたらいいのか分からない。
 急にムラムラしてキャラを押し倒すのはエロゲーの主人公だけで十分である。

「安心して手術は無事に成功したわ」
「まだその展開続けるの?」
「ええ、ライダーみたいなポーズを取りながら変身っていうと
 あなたの秘められた力が発動するから」
「え、ライダーみたいなポーズ前提なの?」

 ライダーみたいなと言っても、ライダーで思いつくのは昭和ライダーばかりなので、
 藤岡弘、氏の取ってるポーズを取りそうになってしまう。
 かつて年下なのに一つも気を使って貰ったことのない天王寺璃奈ちゃんには
 ハァ? みたいな顔をされるかもしれないし、下手すると穂乃果にも
 何それみたいな顔をされてしまうかもしれない、ツバサなら分かってくれる。


653以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/21(火) 20:14:41.278pjYQA6r0 (5/16)

「こう、懐中電灯を上に」
「ウルトラマンじゃん」

 ボケの連呼で多少ツバサの心配も解消できたのか、
 いつもどおりの私をアピールしつつ、体調の悪さはごまかせた模様。
 別の意味で頭が痛い会話をしてしまった気もするけれど、
 ツバサと私の間ではこれが通常運転なので気にしないで欲しい――
 誰に対してのセリフなのか。

「懐かしいわね、このホテル」
「代金は亜里沙に要求してちょうだい、手持ちがなくて」
「要求していいの?」
「できれば出世払いでお願いしたく」

 ダイヤちゃんは農場でテントを貼って眠ることも辞さないみたいないいかただったけど、
 さすがに辛いものがあると思われた。
 聖良ちゃんや歩夢ちゃんは気にしていない様子だったけれど、
 動物の匂いというのは想像以上に鼻につく。
 そんなことを口を滑らせてしまえば、SaintMoonの二人から胸ぐらをつかみあげられ、
 彼女たちお気に入りの万次郎あたりの餌にされてしまうかもしれない、牛は草食だ。
 住居スペースがほとんどないというのもあるし、海未が好きそうな山の上にあることも手伝い
 おそらく黒沢家の彼女が想像するコテージみたいなので
 20人くらいのうら若き女子が泊まれる場所というのはほとんど存在しないと思われた。
 なお、過去にはツバサと一緒に二人が暮らす住居スペースに滞在させてもらったけれど、
 愛の巣と言った様相で、理亞が観たら悲鳴でも上げそうな産物が、
 ところかしこに存在していて、二人で顔を見合わせながら何に使うんだろう?
 みたいなものもあった、三角ポールとか。

「で、身体は?」
「元気に決まってるでしょ、んなにやわじゃないわよ」
「凛さんの料理からはかつて、トリカブトを使用したような痕跡が」
「ような?」


654以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/21(火) 20:15:17.818pjYQA6r0 (6/16)

 ネタかと思ったけれど、残念ながらそうではなく。
 国家権力に精通しているとある方の圧力で有耶無耶にされたけど、
 匂いで人間がバッタバッタと倒れる劇物を作り上げ、
 専門家の調査が入ったところ、トリカブトの毒と似た成分が検出され、
 使用を疑われた結果、凛が様々な方の検知のもとで料理を作成、
 何ら不審なものを使った痕跡が見られないのに同じ成分が検出され、
 凛に対する疑いは晴れたのに、様々な課題が見つかり
 研究者はてんやわんやした模様。
 
「しびれはない? バッドステータスは?」
「ちょっと頭が痛い」

 ごまかしてみても長い付き合いであるので、
 私がちょっとばかり体調がへんであるのはバレたみたい。
 凛の料理の破壊力がことさらやばいであるからめちゃくちゃ心配された 
 可能性はなくもないのだけれど。
 ツバサも微妙に表情を引きつらせつつ、
 緊張しているふうであるのか、それとも他になにか意図でもあるのか、
 服を着ろと言ったのにもかかわらず、多少はだけさせる感じで
 私の隣に腰を下ろした、さすがに付き合いが長くても
 美少女面(見た目中心)している友人が隣にいると多少緊張はする。

「いいホテルね、みんな泊まっているの?」
「ええ、二人や三人の組み合わせでそれぞれね
 あなたの隣を勝ち取るのに苦労したわ」
「そこまでの価値は私にはないと思うのだけれどどうだろう」

 首をひねりながら言ってみると、
 ツバサはなにか考え事でもするみたいに指を顎に当て、
 上を向きながらうーんとか口に出した。
 彼女が考え事とかすると私は基本的にコメント不可なので、
 一体どんな組み合わせで泊まっているのかなーなんて言う
 益体のつかないことを考えてみた。
 凛と花陽の組み合わせに真姫が加わる可能性がある。


655以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/21(火) 20:15:44.888pjYQA6r0 (7/16)

 かつて一世を風靡したにこりんぱなの組み合わせを見ながら、私は?
 みたいな顔をしてはしゃぐ三人を眺めていた真姫ならば(私は酒につきあわされた)
 この度のお泊りイベントには積極的に仲間に入れてと宣言するかもしれない。
 いの一番にエリチカと寝たい(いろいろな意味で)と言い出したことが予測されるけど、
 何らかの対決でツバサが勝利していることから、願望は叶わなかったと思われる。
 聖良ちゃんのところに行くと分かってからテンションの高い理亞もどうせならエリチカと寝よう
 とか考えるかもしれない、というか考えて欲しい、付き合いの長さ的に。
 身体能力の高さではツバサには引けをとらない彼女も、頭脳面では(と言うか悪賢さでは)
 そこでふんぞり返って考えごとしているやつには敵わないので、
 もしかしたら真姫と二人かつてのループ時のように酒でも酌み交わしている可能性はある、
 ただ当時の二人は同じ年ではあったけれど、オトノキの一年生同士であったので
 色々と自重して欲しかった側面はある、私は生徒会長としてスルーしたけど。

「ねえ、絵里、あなた誰かと付き合うつもりはないの?」
「アホなこと考えている時に反応しづらいネタ振ってくるのはやめて?」
「あらごめんなさい、事後承諾だけど構わないわよね?」
「承諾するのを前提に構えられると、微妙に腑に落ちない面があるけど」

 ツバサは思考の読めない(いつも読めない)飄々とした表情で、
 んなこと口にせず黙っとけやくらいな声色で言うけれど。
 私もなんやかんや言って何を言われたところで許してしまうので、
 最初から承諾するつもりならば会話が面倒だからスキップしておけや
 という彼女の思考回路は分からなくもない。
 なお、思い出していただきたく願うのは、ツバサさんの格好(全裸にバスタオル一枚)
 であり、付き合うという言葉の意味が、大人な関係(代表例 かなまり)であることは察せられ、
 この場でツバサ以外を選ぼうものならば私が鮮血の結末を迎えてしまう。


656以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/21(火) 20:16:13.938pjYQA6r0 (8/16)

 今までなんとなく、付き合う付き合わない、恋人になるならないみたいな話は、 
 すっとぼけてきたというか、棚に上げてきた過去があるので、
 こうして真正面から付き合えやみたいな態度をされると反応に困る、私はノーマルだし。

「そろそろハーレム系主人公は終わりにするべきだと思うのよ」
「ハーレム系主人公が相手を選ぼうとすると話は終幕を迎えない?」
「終わりにする気はないの?」
「あなたにも分かるでしょ、どう考えても私には敵が多すぎる」

 実際に敵対関係にある人間はそうそういないけれども、
 私がストーリーテラーを務める物語には問題が多すぎる。
 どのヒロインを選ぶかという問題は先回しにしてスルーしても問題はないと思われた。
 ツバサ自身も理解しているであろうし、それでもなお自分を選びなさいと言ってきたのは、
 そうせざるを得ない事情があったか、それとも単なる独占欲か。
 私なんぞよりも数倍聡い子であるから、身勝手な感情だけで話を進めようとした理由は存在していても
 私がそれを許すかどうかまでは別問題だ、私は身勝手な自己犠牲は嫌いだし。

「どう動いてくるかわからない敵は不安?」
「昔なら良かった、今は自分自身に守りたいものが多すぎて」
「その自己犠牲精神には感服するけれど――
 あなたに守れるものなんてたかが知れているわよ、
 だから守れるものだけを守りなさい」
「……ふざけたこと言わないで」

 トロッコ問題というのがある。
 そもそもの前提がツッコミどころ満載であるという諸事情はともかく、
 私の答えはトロッコを破壊して全員を救うである。
 誰かを切り捨てて、物語はハッピーエンドを迎えるくらいならば


657以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/21(火) 20:16:44.858pjYQA6r0 (9/16)

 私は喜んで身を捧げてしまうことだろうし、今までもそうしてきたと思っている。
 正しい正しくないでいえば、確実に正しくない。
 私がそうしてきたからこそ、このふざけたループ現象にたくさんの面々を巻き込み、
 その健全な精神を不健全な方面に導いてきたのであるから。

「あなたのできることなんて、たかがしれているでしょう?」
「だから切り捨てろっていうの?」
「切り捨てるべきなら、切り捨てるべきよ」
「ふざけないで、”あなた”を切り捨てるくらいなら私は今ここで死んでやるから」

 だからこのたび、ハーレム系ラノベの主人公らしく、
 告白には、誠心誠意想いのこもった言葉で答えてみる。
 ツバサとは長い付き合いにもなったし、腐れ縁みたいな関係を築いてきた。
 私に問題が差し迫った時に、いつだって側に居てくれたのはちっちゃいこいつであるし、
 これから本当に問題に巻き込まれたときにはそばに居てほしいのはツバサである。 

「本気? 亜里沙さんや理亞さんでもなく、穂乃果さんでもなく私なの?」
「この場でちゃっかり海未や真姫を切り捨てたのはあなたらしいけど、
 あいにくね、私は恋人に対する理想は高いの」
「そしてクサいことを平気で言うわね、その顔とセリフがすぐに出れば
 本気でハーレム築けたかもしれないのに」

 ツバサは顔を伏せ、嬉しいであるような、悲しいであるような、
 ニュアンスの取れない微妙な表情を見せた。


658以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/21(火) 20:17:21.788pjYQA6r0 (10/16)

 そして急に立ち上がるからどうしたのかなって思ったら、
 ベッドの下に手を突っ込み、昔懐かしい銀髪の妖精みたいな美少女と
 もうひとり、黒色の髪のオッドアイの女の子を引きずり出した。
 名前を伏してしまったけど、エヴァリーナちゃんと西園寺雪姫ちゃんの二人。
 エヴァちゃんの方は本気で驚いているふうであったけれど、
 中二病患者(間違った方面)に過度に装飾されている雪姫ちゃんはしょうがないなー
 みたいな顔をしている、その顔が多少加藤恵に似ている。

「このお邪魔虫め」
「なぜ、なぜわかったのです――」
「ハーレム系ラブコメではね、こういういい場面になると必ず邪魔が入るものなのよ
 分かってないのはそこの金髪だけ」
「ククク……未来の予見者(サイキック・アンチストーリーテラー)よ
 未来を改訂して、その場に居合わせるシチュエーションを作り上げた私たちによく気がついた
 お礼にハーレム要員(すべり台送り)に格下げさせてやろう」
「中二病表現が絢瀬絵里に偏り過ぎなのよ!」

 西園寺雪姫ちゃんはとてもいい子なので、
 私の影響を多分に受けている。
 中二病でありながらネタが古く微妙におっさん臭く、
 美少女の外見を保ちながらも、男性人気が高い。
 過去には大人たちから絶大な支持を受けていた彼女も
 絢瀬絵里要素が加わったせいで、相手にされるのはツバサや真姫みたいな
 片足おっさんに突っ込んでいるような人ばっかり。
 なお私はもう既に両足を突っ込んでいることは確実なので深くは問わない。

「久しぶりね二人とも、私のこと殴りに来たの?」
「かつて英玲奈は言いました、絵里は殴られるのが好き」
「とんでもない風評被害を受けそうだけど、それで?」
「絵里お姉さんは殴られるのが好きではないんですよね、
 ギャフンってオチをつけたい人なんです」
「雪姫ちゃんはせめて最後まで中二病保って、そこだけ素直な妹キャラされると、
 なんか物語のオチがついて次の話に行きそうな気がするから」


659以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/21(火) 20:17:48.818pjYQA6r0 (11/16)

 一世一代の告白返しは見事にスルーされ、
 なんだかなあというオチがついてしまったけれど、私は一つの決意をした。
 思ったより真剣に返答されて、オチがついたことに安堵をしているツバサを眺め、
 ちょっとくらいびっくりさせてみようと思ったのである。



 結局ホテルの一室に一人で寝泊まりすることになってしまった。
 起床した時に一人でいたものだからついつい何か出来ることないかな?
 そんなふうに思った私。
 念入りにストレッチを重ね以前までと変わらぬ柔軟性を誇っているとほくそ笑み、
 少しばかりで汗ばんだ体をシャワーでも浴びてさっぱりさせよう。
 などと考え、ついでだから浴槽に浸かってのんびりとしよう。
 鼻歌なんぞ一人で歌いながら、気分がいいなーとか思って伸びなんぞしながら、
 気分転換をしていると浴室のドアが開き誰か来たかなって思って眺めると。

「機嫌がずいぶん良さそうだな絵里」 
「ついうっかり殺される準備をしてしまった気がするわ」
「いい覚悟だ。とにかく顔を貸せ、話はそれからだ」

 統堂英玲奈がこちらに向かってにこやかに微笑みかける。
 久方ぶりに見た彼女は、高校時代のクールな印象そのままに、
 過度のシスコンであると主張したところで誰も信用しないに違いない。
 おでこに朱音命とか書いてあるハチマキをしていなければ。
 一体何に気合を入れていたのか、私を殺すつもりで気合を入れていたんだろうか。
 憂鬱になってこのまま風呂場で沈みたいと思ったけれども、
 良いホテルで事件を起こすのは申し訳ない気がして憚られた。


660以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/21(火) 20:18:21.378pjYQA6r0 (12/16)

 風呂上がり、タオルで身体の水気を丁寧に拭き取りながら、
 用意されていた昔懐かしいUTXの制服を着用する。
 着用しなければ殺すぞみたいな顔をされてしまえば着たくなくても着てしまう。
 ただ一度身につけたいではあったので良い機会だとは思った。

「まずは感謝を、朱音とは随分仲良くなることができた」
「思い込みではないのね?」
「今まで私が愛情込めて接すれば必ず応えてくれると思っていたが
 押してもダメなら引いてみな、とても良いアドバイスだったぞ絵里」
「おかしいわね? そのアドバイス朱音ちゃんのためのセリフではなかったのだけれど」

 とはいえ活用して貰えたのは嬉しい。
 英玲奈の信頼度はかなり低めであると思われたし、
 顔を合わせれば投げられる可能性は高いと思われた。
 これから殴られる危険性は相変わらずあるようだけれども、
 それは失言をする私が悪いのであって英玲奈が悪いわけではない。

「ツバサを選んだのか?」
「朱音ちゃんの話はもういいの?」
「感謝を重ねたいのは山々ではあるが、
 あまりに不自然に何度もありがとうというのはおかしいだろう?」

 確かに今までの英玲奈との関係からすれば、
 何度も感謝の言葉を告げられてしまうとたちまち疑問が生じ始めてしまう。
 それはお互い様であるのでこれから良好な関係が築ければ良いと思う。
 誰かと仲が悪くなるのは心苦しくはあるし、
 仲良くなれない者同士ではないと確信している。
 統堂英玲奈はとても良い人間であると思うし。

「私が言うのもなんだか迷惑な女だぞあいつは」
「自分で言うのもなんだけど私ほどの迷惑な女はいないと思うわ」
「その点釣り合っているとでも?
 似た者同士であることは認めなくもないが、
 お互いの関係でこれからも良好さを続けるかどうかは私は疑問だ」


661以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/21(火) 20:18:49.568pjYQA6r0 (13/16)

 英玲奈が私を心配してくれているのはよくわかる。
 私なんぞよりもよっぽどツバサとの付き合いが長い。
 実は初恋の相手でしたというあんじゅよりもパートナーとして適切なのは
 英玲奈のほうだと思う。

「すまない止めるつもりはないんだ」
「止められると思う?」
「なぜお前の周囲の人間はお前の意思を無視するような選択をするんだろうな?」
「それはおそらく私の意志のままに過ごすと死亡フラグが立つからだと思うわ」
「確かにその通りではあるが、お前の意志を無視していい理由にはならんだろう」

 困ったように眉をハの字にする英玲奈。
 本気で心配している風であったので大丈夫大丈夫とごまかすよりも、
 こちら側の魂胆をはっきり話した方が良いと思われた。

「好きとか愛しているとかそういうんじゃないのよ」
「ほう? 随分安く見られたものだなA-RISEのリーダーが」
「その隣にいて欲しい人ではあるのよ?
 ただ私家族になるって感覚がよく分からなくて」
「……そうか、まあ私の両親は普通であったからな」

 困った顔の深刻さが増したような気がする。
 確かに私の両親を知っていれば彼女みたいに困るのは確実。
 愛しているのは自分のことばかり、そのついでで子育てをされた私たちは、
 多少愛情について歪んだ認識を持っているのは間違いない。
 それは何もあの人たちに育てられたからだと責任転換をするわけではなく、
 知る機会がなかったという自身の不備を指摘したい。
 困ったことになれば知る機会を入れたいと願うのは人間、
 残念ながら周囲の人から愛されていたらしい私は、
 その中で一人愛する人を決めるということに関してどういうことなのか、
 全くもって分からなかったのである。なんとも恥ずかしいことに。

「お前の愛は重いな」
「重々承知しているけれど」
「いや構わないんだ、ただお前たちは付き合い始めになるのだろう?
 最初から家族になるとかそういうことは決めるのは早いんじゃないか?」
「英玲奈はネタキャラにならなければかなり真面目な人だったのね?」
「一発ぶん殴ってもいいか?」


662以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/21(火) 20:19:19.358pjYQA6r0 (14/16)

 おちゃらけるにはまだ早かったよう。
 私の失言をする確率が高い事はみんな承知しており、
 一つや二つでは笑って許してくれる模様。
 機嫌次第でひとつでぶん投げられる危険性は常に存在するけど。
 
「真面目な話お前たちは誰かと付き合った経験はないのだろう?」
「英玲奈に彼氏がいたというエピソードは掘り下げるべき?」
「さあどうだろうな? あまり良い彼女ではなかったとは思うぞ?
 身体を許しても良いと思う程度には、
 相手に好意的であったと思う。
 別れてから気が付いたがな?」

 自嘲するように笑う英玲奈。
 私が恋人が100人ぐらいで百戦錬磨な女性であったら、
 彼女に適切なアドバイスが出来るのかもしれない。
 仮に100人恋人がいれば99人と別れたのかもしれないけれども、
 少なくとも一度たりとも男性経験のない私と比べれば、
 いい言葉が彼女にお礼として送れたかもしれないのにと残念に思う。

「ただ別れても後悔はしなかった。
 自分の悪い部分がいくらでも見えたしな、
 おそらくその経験がなければ朱音と本当に向き合うことはできなかったかもしれない」
「後悔しても、その経験が良かったということ?」
「そうだな、お前達ももしかしたら後悔をすることもあるかもしれん
 ただ人生終わった時にな、笑っていたものが勝つんだ
 笑顔でなみんなとお別れしたら、後悔していても構いやしないんだぞ」
「……私は笑っていたつもりだったんだけど」
「とても残念なことにお前は泣いていたぞ」


663以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/21(火) 20:20:28.168pjYQA6r0 (15/16)

 不覚すぎる。
 晴れやかな笑顔を持ってお別れが出来たと思っていたのに、
 なおのこと英玲奈には殴られないといけないかもしれなかった。
 
「良い女だぞツバサは、基本的に押しに弱いしな」
「そこが良いポイントだと訴えられると少し不安が残るんだけど」
「友人として付き合うのなら、とてもいいやつだ
 恋人として付き合うのは少し重いと思うがな」
「私の妹と一時期付き合っていたわ」
「お前の妹だからお前の重さに慣れていたんだろう
 二人が付き合ったらどこまでも沈み込みそうだな?」

 私のこともツバサのこともわかりきっている英玲奈の――
 何とも言えない表情を見て私は一つ息を吐いた。
 そしてこれから皆に彼女と付き合うことを宣言すると思っていたんだけど、
 反応が少し怖い。

「フォローお願いできない?」
「ふふっ、調子に乗るな、私は妹を愛するので忙しい」
「朱音ちゃん来ているの?」
「会わせんぞ? お前に会いたがっていたが、とても会わせられん」

 首をかしげながら理由を尋ねてみると。

「あまりに可愛いらしいからな、絢瀬絵里に妹が寝取られてしまったら
 私は勢い余ってお前を内浦の海に沈み込ませてしまうかもしれんからな?」
「朱音ちゃん可愛らしいものね亜里沙の次に」
「ふふ、お前はどんな人物に対しても絢瀬亜里沙の次にかわいいというのだろう?」
「かなわないわね、さすが世界一のシスコン」
「ふふん、そうだろうそうだろう」

 英玲奈との懇親会は無事閉幕を迎える。
 とりあえず殴られなかったので御の字である。


664以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/21(火) 20:24:31.618pjYQA6r0 (16/16)

諸事情が重なった結果、
二次創作自体の更新は問題がなかったものの、
ここでの更新作業に少々問題が起こりまして。
もう忘れて頂くほかないと告知もせずに更新停止して申し訳ありません。

本来、まあ良いかで済ませてはいけないのではないでしょうが、
考えてやめちゃうより、やって後悔すればいいやということで、
これから更新作業を再開します。

かまってちゃんのようであり、かまってちゃんじゃねーかと言われれば何の否定もできませんが、
これから海未ちゃんルートは最後までここで。

最後にもう一度、重ね重ね、
身勝手な理由で更新停止して申し訳なく思います。
謝罪の意を込めてこれからどしどし更新を重ねていければと思います。


665以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/22(水) 03:30:35.95M1jtyz340 (1/5)

 さてこれからホテルのロビーにて新しい彼女の紹介。
 などと息巻き多少、綺麗な格好して廊下を歩いている。
 身綺麗な格好と言ってもUTXの制服であり多くの人の印象はコスプレしてる奴である。

 こいつはとてもいいやつでね?
 こいつというと――馴れ馴れしいやつとも見えるような気もしなくもない 。
 長年連れ添ってきた妻に対してぞんざいな扱いをする夫のようにも見えなくもない。
 
 私の恋人の綺羅ツバサさんです――
 なんとなくいやらしい感じがしてとても恥ずかしいではあるんだけれども。
 これから殊勝な態度で彼女になってもらうとお願いするのであるから、
 下手に出るのはむしろ私の方かもしれない。
 俺の彼女になれみたいなイケメンには逆立ちしてもなれないのだし、
 私らしく土下座する勢いでお願いすれば思いのほか頷いてくれる可能性がある。
 何故か脳裏に嫌な顔をされながらパンツを見せてもらいたい――
 そんな言葉がよぎった。

「絵里ちゃん」

 ぅ絵里ちゃんとも聞こえなくもない穂乃果の声が耳に届いた。
 朝から困ったような声色であったらで私がUTXの制服を着ているせいである
 と勝手に理由をつけ、にこやかに恋人リスペクトであると主張しようとしたら、
 彼女が本当に困ったような表情をして私に話しかけてきたので、
 ボケる部分は完全に封印されてしまった。

「どうしたの穂乃果」
「どうしたはこっちのセリフだよ、絵里ちゃん」
「え? この格好の事?」
「違う違うツバサさんのこと」


666以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/22(水) 03:31:31.57M1jtyz340 (2/5)

 穂乃果が真剣に問いかけてくる風であったので、
 ついつい何の事を言っているのか? なんて疑問を呈してしまったけど。
 先ほど英玲奈からも同様の問い合わせをされていることに対して、
 すっかり記憶が抜け落ちてしまった、記憶不全を疑われても仕方がない。

「私を選んでくれると思ったのに」
「そのボケ、実に面白いと思うわ」
「あはは、そうだね、でも今の意見みんなから言われると思うよ?」

 こめかみに指を当てて頭痛を感じた。
 そんな場面がありありと想像できて、特に好感度高めの面々が、
 すごく気を引くように私に向かって告げることが思い浮かんで、
 逃亡する準備を始めなければならないそんな意味のないことを考えてしまった。

「これでサイは投げられたと思う」
「ごめんねあなたがバランスを取ろうとしているのは気づいたんだけど」
「その辺りの空気の読めなさが絵里ちゃんらしい」
「褒められているということでいいのよね?」

 むしろ私の方がよっぽど穂乃果よりも猪突猛進の習性がある。
 まあ、その辺りのクセは穂乃果由来ということで、
 どうにか許してもらいたい。

「それでも私は絵里ちゃんを応援するよ?」
「ありがとう穂乃果、でもなんでそんな逃げる折みたいな格好しているの?」
「嫌だなぁ月島農場に行くんでしょ? よっちゃんが聖良ちゃんに
 どんな扱いを受けるかなって心配で、ついついね」


667以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/22(水) 03:32:02.32M1jtyz340 (3/5)

 私自身が聖良ちゃんとエンカウントするのはこのループでは初めて。
 自分がぶん殴られる恐ればかりを考えてよっちゃんがどのような扱いを受けるか
 まるで考えてこなかったことがとても恥ずかしく思えた。
 ただ歩夢ちゃんもいることから、顔を見た瞬間殴りかかってくるのであれば
 私は積極的に楯になる心持ちではある。

「じゃあ私は一足先に準備してくるよ、ことりちゃんに顔を見せてくる」
「一緒じゃなかったのね」
「そうだねことりちゃんの方が良かったんだけど、
 海未ちゃんがどうしてもって」

 私に凛の料理を食べさせたこと、やはりと言うべきか後悔していたらしい。
 彼女の中にも罪悪感は多少産まれ、それに耐え切れなくなり、
 いざとなれば頼りにしてしまう穂乃果と一緒にいたかったのだと思われた。
 そんな甘えたがりな海未の顔を考えつつ、
 目の前で私を選ばなければ死にますなるという白装束の彼女も
 なぜだか脳裏に張り付いて離れないのである。

「ちなみに次の面会相手は小泉花陽ちゃんです」
「私の意思にかかわらず私の予定が決まっていく……」
「あはは、我慢して絵里ちゃん、しっかり」
「止めてはくれないのね」



 私がかつてのループと違いμ'sで一番背の高いキャラではない。
 160センチはキープしているけれども、胸も小さくなったし、
 かなり小型化しているのは間違いない。
 一方、かつてのループと身長が据え置きされているのは小泉花陽で、
 私との差はおよそ5センチ。
 そのサイズ小さかったのが過去の話で、
 今はいろんな意味で彼女の方が大きくて大きい、何がとは言わない。


668以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/22(水) 03:33:00.86M1jtyz340 (4/5)

「ごめんなさい花陽」
「絵里ちゃん……謝るのならやらないで欲しかったよ」
「あなたの背が大きいことを認められなくて」
「そっち!?」

 考えてみればμ'sで一番背の高いキャラクターである――
 というのが絢瀬絵里のアイデンティティでもあった気がする。
 その事実に目を背けてしまったのは私の恥ずかしい過去でもある。
 これから成長期が訪れる可能性は限りなく低いであろうとも、
 私はそのわずかな可能性を信じたいところではある。
 もっと他に信じるべきものがあるであろうことは薄々感づいている。

「話を戻して」
「あ、うん。じゃあ、絵里ちゃん?」
「殴るのなら、背中でお願い、一番痛くないし」
「殴られる前提なの?」

 悪いことをしたと思うとついつい暴力的手段を取られたい絢瀬絵里。
 非を改めるためには痛みが必要だと思う。
 精神的なものよりも肉体的なものの方が治りが早い。
 もちろん切断などされようものならどうあがいても手術不可だけども、
 そこまでされることはないと思われた。

「絵里ちゃん、ひとつだけお願いを聞いてほしいの」
「花陽のお願いなら叶えられるものは何でも聞くけど」
「どうして絵里ちゃんの中で私の評価が高いのかそんなにもわからないけど
 一つねクセを改めて欲しいところがあって」


669以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/22(水) 03:34:15.36M1jtyz340 (5/5)

 私が改善できるクセが果たしてどれほどあるのかわからない。
 花陽が言うくらいであるからある程度可能である可能性はある。
 私自身の能力は疑わしくともμ'sの誰かの言葉は信じられる。
 絢瀬絵里に対する信用度は限りなくゼロに近い。

「絵里ちゃんって褒められると疑ってしまうでしょ?」
「そ、そうね」
「知らない人のおべっかなら聞かなくていいと思う
 でも、今後ツバサさんの絵里ちゃんを褒める言葉は頷いた方がいいと思う」
「それは体験談?」
「そうだね、凛ちゃんの言葉を頷くことができなかったことが多かった
 小泉花陽の体験談だよ」

 本来なら、μ'sのみんなと主語を大きくしたかったんだとは思う。
 でも今までの人生の中で。
 褒められてしまうと疑う、そんな悪癖がある私を改善するのは難しい。
 小泉花陽の判断は 間違ってはいない。

「ところで花陽」
「なあに絵里ちゃん?」
「どうして逃げるみたいな格好をしているの?」
「そうだね直接的に言うと」
「言うと?」
「絵里ちゃんの血を見たくないものだから」
「あ、やっぱりその方向性になる?」

 花陽はしぶしぶという感じで頷いてくれた。
 ポジティブに見送りたいではあるんだと思う。
 それでもその可能性がミジンコくらいのサイズしかないものだから、
 彼女にとっても難しい判断だった。
 仮に四肢切断などされようものならば、
 ベルちゃんあたりの悪魔に助けてほしいと思う、神様助けて――


670以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/22(水) 23:41:15.58G87Zb4s2O (1/1)

お、続き来てたか


671以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/23(木) 03:06:49.3272WTPisN0 (1/3)

 もし仮に私が助かる可能性があるならば、
 ハーレム王に俺はなる! とかいう豪胆な宣言でもする必要がある。
 一部の人間からは総スカンを食らう可能性があるけれども、
 最低限、命が助かる可能性は急激に上昇する。

 扱いこそ最底辺になる可能性も急上昇するけれども、
 もとより絢瀬絵里の扱いなど大体の人間から最底辺である。
 そのことを考えれば他の女の子に手出しをして、
 ”もう! 女の子に関わるのは懲り懲りだぁ!”みたいな感じで
  逃亡するエンディングが見られるかもしれない。

 私は女性であるのに女性から逃げていると突っ込まれる可能性はある。
 しかしながら男性から相手にされていない以上相手にするのは女性でなければならない。
 なぜなら私の身が仮に安泰だったとしても、付き合っている恋人(男性)が無事でいられるとは限らない。
 ただでさえ男性方に対して横暴な態度されがちな人たちが集っているので、
 何か問題を起こせばすぐさま判決が処刑になる恐れがあります。
 
 そんなふうにアホなことを考えながらホテルの廊下を歩き続けていた。
 人払いでもされているのか、人っ子一人歩いてやしない。
 こんなことができるのはオハラグループのご令嬢しかいないけれども、
 そこまでするとなるとガチ度が急上昇するので、
 私の命の灯火は以前のループのように燃え尽きようとしている可能性がある。

 そういうことになると助けになってくれるのは、
 今何とも言えない表情でこちらを眺めている西園寺雪姫ちゃん。
 以前までは私の中の人として、絢瀬絵里退場劇から華麗なる復活まで、
 多岐にわたりプロデュースしていただきました。
 妹の亜里沙なんぞよりもよっぽど私に対する扱いが上手い疑惑がある。


672以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/23(木) 03:07:18.8772WTPisN0 (2/3)

「絵里お姉さん、この先は地獄という言葉が生ぬるいほどの修羅場です」
「あなたに初めて会った時も地獄っぽい場所だったわよね?」
「絵里お姉さんがあの時に言った
 現実の方がよほど地獄であるという言葉の意味が
 私はよく分かってしまいました」
「その言葉に対して何て反応をしていいのかよくわからないのだけれど」

 生前に一度会っているので、正確に言えば初対面ではないのだけれど。
 雪姫ちゃんはあの時から成長し続け今では中学2年生くらいと言ったところ。
 昨日までの中二病キャラはあまりにパニックになる事態があったのか、
 元からネタ方面に舵を切っていたせいであるのか、
 ひとまずは封印される方向に至ったらしい、
 私としてはどちらにしても可愛い妹みたいなもので、
 長い付き合いの彼女にこんな表情させてしまうのは大変申し訳ないのだけれど、
 以前までと何も変わらないし成長しない私に対して
 そっぽ向かないだけで彼女は女神か何かなのかもしれない。
 
「相方のエヴァリーナちゃんは?」
「リリーなら、真姫お姉ちゃんと一緒です」
「あの二人に仲いいわよね?
 過去に1億円持ってきた時に資金源が西木野家であると疑ってしまったのだけれど」

 エヴァリーナちゃんドラえも○疑惑のエピソード参照。
 基本的に他人に興味のないリリーちゃんではあれど、
 私に関する知識と西木野真姫に関する知識は、
 別格であるのか何か理由でもあるのか、多くの知識をベラベラと語ってくれる。
 基本的にリリーちゃんは真姫を褒めてくれるので、
 褒めてくれることに飢えている真姫は妹のように扱うケースもある。
 その姿を見て半分くらい妹の雪姫ちゃんはよく自重しろリリーと
 クソリプかっ飛ばしてたりしてたけど、私の脳内で。


673以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/23(木) 03:08:11.8172WTPisN0 (3/3)

「私もお供します」
「すごく嫌そうな顔しているんだけど
 大丈夫? Printempsはもう避難しているわよ?」
「いえ、この命に代えても絵里お姉さんをお守りするのが
 西園寺雪姫の役割でもあるのです」
「そんなことに命をかけなくても構わないのよ?
 大体あなた元は希に命を提供して昇天する予定だったじゃない」
「そんなネタバレする必要はないんですよ絵里お姉さん」

 呆れさせれば、もう絵里お姉さんなんて知りません!
 とか言って撤退してくれるかと思ったのだけれど、
 私のそういう自己犠牲精神を常に間近で見ていた雪姫ちゃんが
 その私の意図に気がつかないわけがなかった。
 賢くて人の心に聡い、それゆえにいらぬ苦労を抱えてしまう。

「第一のハードルは東條希さんです」
「戦闘力ではなかなかラスボスに近そうな気もするのだけれど」
「配下に津島善子さんがいらっしゃいます」
「なぜラスボスをそんな簡単に顎で使ってしまうのか
 私はものすごく疑問に思ってしまうわ」

 それでもよっちゃんが私の好感度高めで希に付き合ってくれるというのは
 茶番劇になるのか、ガチで命の奪い合いになってしまうのか。
 気になるではあるし、そこまで行くと私が何かできる要素はなくなってしまうので
 できればガチの戦闘シーンはなしの方面であってほしい。
 雪姫ちゃんがいる以上、アガートラームは使えなくはないけれど
 ホテルが真っ二つになってしまうのでできれば使用は控えたいところ。
 絢瀬絵里の死亡フラグを立ててやろうか?
 ただし(アガートラームで)真っ二つだぞ?

「……現実逃避はやめてそろそろ行きますか」
「絵里お姉さん!? やめてください顔に死相が出ています!?」


674以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/24(金) 15:54:40.38HZfeqgUm0 (1/5)

 津島善子と東條希との組み合わせ。
最近よく見るような見ないようなではあるんだけれども、
 浦女でもよく一緒にいるのが確認されている。

 私がなんとなく家庭訪問のイベントを終え、
 学院に入るのもお役御免かなと思ったのだけれど、
 生徒側から絵里ちゃん絵里ちゃんという問い合わせが多数寄せられ、
 仕方なしに今もなお制服を着て学院に行くことが決定されてしまった。
 ――私の意思に関わらずである。

 四捨五入すると20になるとはいえ、
 高校を卒業した人間が制服を着ているという点に
 痛々しさすら覚えるのはなぜであろう?

 需要のなさを問い合わせられるかと思ったら、
 一種の憧れとして神々しさすら感じる、
 というよくわからない意見まであるみたい。
 誰だんなことを言ったのは。

 晒し者として評判になっているという感想を残しつつ、
 慕われているのは悪いことではないので、
 悪評が先んじるようになるくらいまでは、
 今の生活を続けていこうかと思う。

 津島善子ちゃん――通称よっちゃん。
 私はよっちゃんよっちゃんと呼ぶばかりに、
 μ'sであるとかAqoursであるとか、
 最終的には理亞までもがよっちゃんよっちゃんと呼ぶようになってしまった。

 善子玉なんて呼称されるシニヨンも作ってなかったんだけど、
 あれはどうしたあれはどうした記憶が戻っていると判明されたAqoursの面々から
 ツッコミ及び指摘が多数寄せられ、
 最近はもう中身は高校生ではないのだから、
 あんな痛々しい髪型はできない、
 何ていう真っ当な意見も彼女は言っていたんだけども、
 あいにく自身よりも年上の人間が制服を着ている事実というありえへん世界に負け、
 かつての高校時代そのまま、善子玉は作られることと相成った。

 堕天使にはならないとそこは譲れないと言っていたけれども、
 私との決戦においては、1ハードルとして堕天使モードとしての参戦であるらしい。
 しかしながら東條希がアークデーモンみたいな格好してるので――

「……黒澤サファイアさん何やってんですか」
「よく見破ったわね、そっちの子気がついてなかったのに」


675以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/24(金) 15:57:00.75HZfeqgUm0 (2/5)

 マジで!? みたいな顔をして津島善子ちゃんがベルちゃんを見やる。
 確かに雰囲気と見た目こそ東條希にそっくりではあるんだけども、
 オーラの禍々しさが多少非人間寄りに偏っているので、なんとなく見破ってしまった。
 私のスキルの高さ故なのか、ベルちゃんがオーラを漏らしていたのか悪いのか。

「まあ、小ボスとしてはね、あなたと決戦してみたかったのよ、
 ちなみに希は次のハードルよ」
「数合わせ要員としてはハードル高すぎでは?」

 それに小ボスって……かつてラスボスから寝返り、
 そのまま味方として裏切ることもなく、頼めば言うことも聞いてくれる――
 扱い的にはとてもいい人、善玉と呼んでもいいかもしれない。

 しかしながら彼女は大昔から存在する大悪魔ベルフェゴールであり、
 とにかくまあ悪いお方ではある。
 かつてのループではよっちゃんへの不可侵条約を私の手で結ばされ、
 イベントには介入しなかったものの、それなりに楽しめたという感想残す。
 今もなお味方として活躍中。
 でも1ハードルとして出てきていい人ではない。 

「絢瀬絵里はバトルするには困難な相手ではない?」
「非人間に戦うならこいつっていうのが、私のありえなさよね?」
「こっち見ないでください」

 よっちゃんはもうすでに戦いを放棄して、
 雪姫ちゃんとお土産は何にしようかなんていう話をしている。
 浦女のみんなにどこか行くという話をしてしまい、
 じゃあお土産に何かよこせと言う田舎特有の厚かましさを断りきれなかったものであるらしい。
 雪姫ちゃんは コミュニケーションスキルに優れ、敵や味方問わず、
 あらゆる誰も味方にできる能力の持ち主である。
 女子校生を喜ばせるお土産を選ぶことぐらい造作もないことみたいだ。
 
「かつて、とある聖人も生を放棄させた――可能性がある」
「ボケなくていいのよベルちゃん」
「ま、私に比べればラーメン二郎とかのほうが人間堕落させてる」
「ある程度事実だけども!?」

 マックのハンバーガーに堕落させられた経験がある大悪魔としては、
 悪魔よりもよっぽど人間が作り出す食べ物の方が
 人間を堕落させることができることを経験上よく知っているみたい。
 ラーメン二郎を誰かの手によって食べさせられたのか分からないし、
 もしかしたらスマホで検索して知ったかぶりをしているだけの可能性もある。


676以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/24(金) 15:59:49.26HZfeqgUm0 (3/5)

「仕方ない私と戦おうというのであれば、一肌脱ぐ所存よ」
「ベルフェゴールと戦おう、ちょっと本気出すぞ。
 みたいな態度をされるとあなたが本当に人間がどうか怪しく思えてしまうわね」
「でぇじょうぶだ、ドラゴンボールで生き返れる」
「絵里お姉さんならドラゴンボールがなくても生き返れそうです」

 雪姫ちゃんの反応に誰しもがあーそうですね、
 みたいな感じで首を上下にウンウンと振り、
 喜んでいいのか悲しんでいいのか。

 家の中に何度も出てくる害虫みたいな扱いで、
 生命力としぶとさだけは常人を越えているとは思わないでもないけど。

 少しだけ話がずれてしまったであるので、
 何をもって対決をするのかそんなことを問いかけてみると、
 ベルちゃんは少しだけ緊張したと言わんばかりの表情を見せた。

 ガチの命の取り合いなどはしないであろうけど、
 多少痛い思いの一つくらいはしても構わない。
 彼女には割と気軽に言うことを聞いてもらっているし。

「世界三大劇物食べ比べ対決、はいよっちゃん」
「あなたまでよっちゃん呼びなの!? どんどんぱふぱふー」
「――死に急がなくていいのよベルちゃん」

 世界三大劇物とは星空凛の料理、
 優木せつ菜の手料理、
 鹿角理亞のお菓子の三つである。

 世界三大と言いつつ、どれも私の知り合いが作っているという事実には頭が痛くなってくる。
 けれどもかつて凛の料理を食べた時に吐血しながら、殺す気か!
 なんて叫んだこともある彼女にしては本当に死に急いでいるのではないか、
 そんな風に錯覚してしまうほど、バラエティ番組としては破格の見てて痛々しい芸風である。
 ちなみに料理を持ってきてくれたのもテーブルを用意してくれたらも鞠莉ちゃんの配下の人達みたいで。
 なぜか全員が全員防護服を着用していた。
 宇宙ステーションの中にいるみたいな格好に対して何故そんなことをしているのか、
 もしかして本当にやばいものが作られたのか、そんなふうに不安に思うではあるんだけども。

「優木せつ菜さんは相変わらずメシマズ属性なのね?」
「パワーアップしたそうですよ、エマちゃんの話によると」
「ちょいとよっちゃん、その話を私は聞いてないんだけど」


677以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/24(金) 16:03:55.82HZfeqgUm0 (4/5)

 小ボス(自称)さんの額から汗が出ている。
 汗腺が存在するとは驚きではあるんだけど、
 汗でも吹き出そうな料理が出てきたではある。

 おそらく鹿角理亞が愛しの聖良姉様に向けて、
 気合を入れて劇物を作成してしまったのであろう。

 普段は見た目では普通であり、
 それゆえに被害者を続出させることになってしまうんだけど、
 今回の劇物はフツーにやばいオーラを発している、とても食べ物とは思えない。
 多分理亞は小麦粉を使ったであるとか、普通にいちごを乗せました、
 くらいのことは平気で言うのかもしれないけれど、
 どう考えてもその食材は魔界とか宇宙の果てから取り寄せているに違いない。

「……タルトよね?」
「私に聞かないでよ、人間の世界のお菓子は明るくないの」
「どう考えてもあなたの世界の産物でしょ」
「私のいる世界にだってこんな禍々しいもの存在しやしないわ」

 オーラはともかく見た目はちょっと失敗して形が崩れてしまったかな?
 くらいの失敗に止まっていた。
 自称完璧主義者である鹿角理亞としては、
 テンションが高くて失敗したことに気づいていない可能性もある。

 ゴミ箱だって受け取りを拒否してしまうような失敗であれば、
 この対決はやめようなんて話になるけれども、ここで作られたお菓子はまだ前哨戦。
 どっちかが死ねばそうならないとは思うけど、
 一応救急隊員の方々は私を何とかしようと待ち構えている様子ではある――できれば止めてほしい。

「先手番は絢瀬絵里さんです」
「……仕方ないわね」

  とりあえず手に持って食べてみる。
 多くの人間からどよめきが上がった。
 手で触れることができないのほどの劇物に平気で触っているみたいな反応が気になるではあるけど、
 まだ食べ物で作られているのであれば食べ物である可能性がある。


678以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/24(金) 16:05:26.18HZfeqgUm0 (5/5)

 匂いはよくわからない。
 タルトだから多少甘い香りとか食材の香りくらいはするかと思いきや、無臭である。
 鼻が嗅覚を使うことを拒否している可能性もある。
 命の危険を感じているのか――この私が。

「……ぐふっ!? ……お、おお……ま、まだっ!」

 口に含んだ瞬間に熱波を感じた。
 おおよそタルトが発する波動ではないけど……。
 辛味でもない、えぐみでもない、痛みでもなかった。ただ味というより熱いなという感想が適切。
 熱湯口の中に注ぎ込まれればこのような感想を残す可能性はある。
 味覚が感想を拒否しており、どんな味と言われても全くわからない。

「後手番、黒澤サファイアさんです」
「うっ! 南無三!」

 大悪魔らしからぬ掛け声を上げながら、
 かつて大災害を引き起こしたと言う彼女がタルトを口に含んだ。
 その勢いのままに後方に倒れ、昏倒したままビクンビクンと震えている。
 その姿は多少、陸に上がった魚のようであった。
 救急隊員にどこかへと運び込まれる彼女を眺めながら、
 一体どんな治療を施すものであるのか気になって仕方がない。

「第二ラウンド! 凛さんの料理!」
「誰と戦っているの私は!?」
「あえて自身に」

 よっちゃんやみんなの手により、世界三大劇物は私の胃袋の中に収まった。
 ちょっとかっこよく絢瀬絵里の胃袋は宇宙だ、
 何て言ってみたら。
 宇宙というよりブラックホールと言った方が適切かもしれません、
 雪姫ちゃんの言葉はみんなの同意を得た――解せない。



679以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/26(日) 18:40:42.85Rr8/ewWx0 (1/10)

 原祖の悪魔を打倒したことにより、
 よっちゃんが仲間に加わった。
 パーティがより華やかになる、しかし二人は現役女子高生。
 微妙に肩身が狭い絢瀬絵里さん(元アラサー)

 これから倒した相手が仲間になるのかは不明。
 だけども不幸な事故さえなければ黒澤サファイアさんも仲間になったとのこと。
 凛の料理の犠牲になった人を気にせず、私はただ前を向くのみである。
 なお、ホテルのスタッフからはアイツ人間なのか疑惑が生じているらしい、その情報はいらない。

 次に勝負を仕掛けてくるのは東條希と園田海未の組み合わせであるみたい。
 海未を中心に絢瀬絵里と対決したいという人間は複数存在した。
 厳正なる抽選と時間の都合上――
 小原鞠莉ちゃんがホテルを貸し切りにできる時間も限られているということで、
 次のステージともう次のステージでイベント終了とのこと。

 ラスボスとして待つのは西木野真姫。
 頭脳派の彼女を支えるためには、肉体派のメンバーがラストに入るかと思っていた私。
 しかし意外や意外”にこまき”のふたりで私に勝負を仕掛けてくるらしい。
 にこまきと言うとイベントがあると一緒にいたぐらいで、
 私の中ではカップリングの一つと言われてもピンとこない。
 仲がいいと言われれば首をかしげながらも肯きつつ、
 仲が悪い聞かれれば全力を持って首を振るそんな組み合わせ。


680以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/26(日) 18:41:11.44Rr8/ewWx0 (2/10)

 にこまきがタッグを組んで責めかかってくるより、
 断然、凛が欠けているリリホワの方が私にとっては障害になる。
 二人は存外と私に対してぞんざいな扱いをするケースが有る。
 優しい性格をしているから私に対して遠慮しているところもあるんだけど、
 ストレスが溜まればその限りじゃない。

 常識人ではある2人組ではある。
 けども私が今後殴られて血まみれになる可能性はそれなりに。
 呪いとかで気がついたら血まみれになっている可能性もある。
 けれどそれはおそらく希の手によって意識を失わされている事もありえる。
 私を暴力的な手段をもってして痛い目を見るのはある程度納得しているので
 仕方ないということにしておいてほしい。
 雪姫ちゃんがさも疑問と言わんばかりにこちらを見た。
 
「来ましたか絵里」
「海未ちゃんとタッグを組んでエリちを潰しにかかってきたで!」
「死亡フラグを立てることに余念のない東條希さんちーっす」
「なんでそんなに エリちはハイテンションなん!?」

 人生で初めて食べたものは吐くという経験をした。
 誰かに対して食べ物は粗末にしないようにと忠告することはできなくなってしまい。
 私のアイデンティティの一つは失ってしまったことによりテンションが上がってしまった。
 
 吐かなければ死ぬと言うこともあったので、
 後日になれば何食わぬ顔して食べ物は粗末にしちゃダメよ、まったく!
 とか言いながら劇物を食べるハメになることにはなるであろうことは簡単に予測できた。

 星空凛は食べ物をちゃんと食べてくれる人が大好き! 
 なんて言ってくれたので、
 彼女のリクエストに応えるためにも私はどんどん劇物を食べていかなければならない。


681以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/26(日) 18:41:39.72Rr8/ewWx0 (3/10)

「絵里、友人の一人である東條希を言葉でなじってはなりません。
 その不遜な態度は肉体言語により矯正していかなければなりませんね」
「暴力的な手段によって性格を矯正しようというのはDVと同じよ、
 もし海未に恋人ができたとしたらそのクセは改めないといけないわね?」
「うふふ、正論を言われてしまいました。
 なるほど絵里は必要があればきちんと矯正してくれるということですね?
 さすがです、これからは積極的に甘えることにいたしましょう?
 どのような路線がよろしいでしょうか、家に帰ったら裸エプロンでいるとか?
 まるで新婚さんですね」

 海未がどんなことを考えているのかまではわからない。
 私がエロい格好をしながらエロいことをさせている――そんな妄想しているみたいではある。
 隣にいた東條希が、海未ちゃんはこんなキャラだったっけな?
 みたいな表情をして勝負の前に勝負が決しているような気がしなくもないのだけれど。

「ところで勝負の進行をしてくれるのは誰かしら?
 何かしらの対決をするっていうことは、
 私の方にも海未の方にも融通がきいてはならないわね?」
「その判断力はさすがです。
 私の絶対的な味方である彼女を呼びました、
 理亞カモン!」

 指パッチンをしながら(音が出ていなかった)理亞を呼ぶ海未。
 しぶしぶといった感じで理亞がいそいそと登場した。
 あまりにテンションが低く、
 ちょっと体調でも悪いのかなと心配になるくらい彼女の表情は暗かった 。
 陰気なオーラを発しつつ、儚いと表現できそうな、
 大手術前の美少女ヒロインみたいなキャラ作りをしている。
 海未の味方をしたくてしているわけではないアピールをしていた。
 理亞の様子に気づいているのか居ないのか、
 海未は胸を張りながらいい味方を手に入れたみたいなドヤ顔をしている。


682以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/26(日) 18:42:12.62Rr8/ewWx0 (4/10)

「私を罵ってください」
「あなたがドMになってしまうと聖良ちゃんのエムさ加減が
 目立たなくなってしまうのだけれど――
 私は喜び勇んで罵ればいいのかしら?
 それとも本当は何もしないでいる方がいいの?」
「これぞ私の作戦です!
 私は理亞を支配下に置けている!
 今回の勝負において優遇されるのは確実と言っても良いでしょう!」

 園田海未もなんかやけっぱちになってるみたいな感じで、異様にテンションが高い。
 この中で私に勝つつもりでいるのは東條希だけみたいだ。
 他に援護者でも現れては別だけど、
 見回す限り誰かが割り込んでくる様子も気配もまったくない。

 いざとなればこっちには元ラスボスであるよっちゃんもいる。
 よっちゃんに全てを任せてれば私の尊厳は保たれる。
 10秒くらいしか保たないけど。

「今回の対決はエロい衣装を着て自撮り対決です」
「なにそのコメント欄が炎上してしまいそうな対決」
「私が勝利するのが難しい対決ではないですか……
 あの時融通を利かせるという理亞の言葉を信用した私が間違いでした。
 ですが勝負においては勝利は至上命題です――
 ここは心を鬼にしてエロい衣装を着ることにしましょう」


683以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/26(日) 18:42:39.42Rr8/ewWx0 (5/10)

 海未発せられるエロという言葉になんとなく違和感を覚えなくはない。
 ただ、みんながみんなとりあえずやってみようかみたいな空気になっているのはどことなくおかしい。
 雪姫ちゃん一人が私は一応現役女子高生になるので応援に回ります――
 でも必要であれば――
 なんて健気な表情を向けたので、私は全身全霊をもって止めることにした。
 あなたが戦ってしまうとぶっちぎりで勝ってしまうからやめてちょうだい――
 そのように告げてかばい、好感度を上げることにも成功してしまった。
 あと1%でエッチシーン開放です――一体誰と誰の。

「またエリちが女の子を口説いている」
「またって……その風評被害やめてくれる?」
「景品の女の子に全部聞いたもん、ぷんすか」
「景品て、ぷんすかって」

 私に勝負をしかけてきた面々はツバサを人質に取り――
 その上でこんなことをやらかしてしまっているらしい。
 ツバサがそんな人たちに向けて、何事か言い放った――
 ここをこうすれば絢瀬絵里を落とせるよみたいな――
 
 とりあえずこちらとしてはノリよく今回のイベントに参加する、クリアしないと先に進めない。
 ただ、心の中で今も待っているであろうセイントムーンの二人に謝罪をした。
 ダイヤちゃんがいないのは二人に謝りに行ってるんだと思う。

「西木野真姫さんプレゼンツ、
 多くの露出の高いコスプレ衣装の発表です」

 まだらに起こる拍手。
 真姫がラスボスである以上彼女の意向がかなり強く反映されているみたいだ。
 スタッフの方々によって多くの衣装が集められた模様。
 中にはエロいどころか布一枚といった衣装もある。
 それを着ろよみたいな目をみんながみんなしているけど――
 あえて空気を読まずにその衣装(布)は全身全霊をもって避けることにした。


684以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/26(日) 18:43:10.24Rr8/ewWx0 (6/10)

 露出度の高い格好をして自撮りをするという目的がある以上。
 何を持って勝負の勝ち負けを決めるのか大変不安ではある。
 誰の評価を持ってして勝ち負けを決めるのか、
 私は何の説明されていない。
 おそらく園田海未と東條希も全く説明を受けていないと思われた。
 でないと普通にエロい格好すれば勝てるだろみたいな表情はできないはず。

「私は黒髪の大和撫子ですから――
 谷間の一つでも見せつければ勝利はおぼつかないことでしょう?
 
 なんです希……お前に谷間ができるのかみたいな顔は?
 気に食わないのですが、絵里の評価を引きずり落とす前に
 あなたの腸を引きちぎりますよ?」
「怖いよ海未ちゃん!?」

 もうすでに仲間割れが始まっている。
 参加者としてはよっちゃんもいた。
 この格好暑かったんですよねみたいなことを言いながら、
 中二病としてのアイデンティティを気軽に脱ぎ捨ててしまっている。
 一応名目上は雪姫ちゃんよりも年下であるので、
 この度の勝負には参加しなくてもいいんだけれども、
 もうそんな恥ずかしがるような年齢じゃないですしみたいな顔をしながら、
 とりあえずエロい自撮りは取る気満々であるらしい。

「まあエロいエロくないはおそらく真姫が決めるものであるでしょう。
 なら、二次元美少女に合わせた方が評価は高いでしょうね。
 コスプレならば昔からよくやらされているし、
 私に勝利の道筋が見えてきたかな」
「これ絵里さんに着て欲しいんですけど」
「金髪ってそういう魔法少女のイメージがある?
 金髪で魔法少女って言うとなんとなく
 首がなくなってしまいそうな気がしてならないんだけど」


685以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/26(日) 18:43:43.06Rr8/ewWx0 (7/10)

「そのイメージ古いですよ?
 今の流行はやはりパンツじゃないから恥ずかしくない方なんじゃないですかね」
「なんとなくそのイメージ……さらに古いような気がしならないわ」

 とはいえその501のコスプレ衣装もあるようで、
 コスプレ衣装とは名ばかりのパンツがあるんだけども。
 どうせならばストライカーユニットも用意して欲しかった。
 
 それがなければパンイチの露出魔であるし、
 この場において女の子しかいなくても、
 自撮りをする以上誰かしらにその場面を見られる可能性は存在する。


「ふふ? ウチが選んだ衣装はコレ!」

 東條希がした格好は全裸に包帯を巻きつけるだけのもの。エロい。
 ハロウィンで活躍しそうなミイラの格好であった。
 確かにエロければ良いのだし、希のスタイルが多少縮こまってしまったことを抜かしても、
 年頃の男子から見れば鼻血が出そうな格好ではある。

 この場において年ごろの男子を用意することは不可能ではあるでしょう。
 仮に高校生くらいの男子に見られるとすれば
 海未が発狂してしまいかねないので、そんなことはなされないものと思われた。

「なかなか良いですよ希、
 ですが私のミニスカ巫女さん+谷間全開に比べれば、
 エロさは微々たるものといったところでしょうか」


686以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/26(日) 18:44:20.70Rr8/ewWx0 (8/10)

 私の前でビビとはこれいかに。
 
 海未が全部説明してくれたけれども、清楚な中にもエロさはそこはかとなく存在する。
 エロゲーに出演してそうな破廉恥な巫女さんが海未の手で完成した。

 高校時代の園田海未ならば破廉恥ですと言いながら着用拒否するけど、
 彼女も成長したのか
 それとも衰退したどうかまではわからない。
 
 ただこういう衣装ノリノリで着てくれるノリの良さは身につけたみたい。
 私の影響が強いというガヤの声は、とりあえず聞かなかったことにする。

「私は悪の女幹部みたいなこれよ!
 やっぱりスタイルは良くないから似合わないかな――少し恥ずかしい」

 よっちゃんが着用しているのは特撮で出てきそうな無駄に露出の多い女幹部みたいな格好だ。
 悪の組織の中では実力があるのかないのかわからないし、
 いつもは賑やかし要員で戦うとなるとモンスター化したりする――
 人間体でいる必要性があるのかと問いかけたものある。
 
 確かに人間の女性の格好をした女幹部が
 特撮のヒーローをフルボッコにするというシーンは幼子に悪影響を与えなくもないので、
 気持ちは分からないでもない。
 だったら最初から登場させるなよというツッコミはとりあえず控えておく。


687以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/26(日) 18:44:50.88Rr8/ewWx0 (9/10)

「私は白スク水、1度起きてみたかったのよね」
「ダントツで絵里が優勝だと思います」
「自撮りをする前からはもうすでにいろんな箇所が濡れてそうやね?」
「恐ろしくエロゲー的ね……理亞はどう思う?」
「コメント不要よよっちゃん、
 やっぱりエロさにおいては絢瀬絵里以上のエロゲヒロインは存在しない!」

 なぜかみんなからご好評をいただいてしまった。
 何故そんなにエロいのか、冗談はよしこちゃん! 
 という台詞は言えずじまいであった。

「では、 自撮りという言葉は嘘ということで
 審査委員の皆様方に登場していただきましょう。
 この度このホテルに滞在していて今回のイベントに巻き込まれてしまった
 虹ヶ咲学園の2年生の皆様方です」

 は? とか。
 え? みたいな反応指し示したと思う。
 年ごろの高校生男子の前でハレンチな格好しているやつら(私たちのこと)
 着替えこそ見られなかったみたいだけれども、
 彼らの目が一点に集まり非常に恥ずかしいことになっている。
 これはやばいなと思った、
 私でもなく東條希でもなく、
 園田海未の鬱憤がいつしか爆発するんではないか。


688以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/26(日) 18:45:23.06Rr8/ewWx0 (10/10)

「……ふふ」
「逃げて! 男子高校生の皆さま逃げて!」
「何を言っているのです絵里?
 彼らの記憶を暴力的な手段をもってして消すのみです。
 大丈夫です暴力的手段を取られた事すら彼らは記憶できないほど、
 もしかしたら明日の朝日も拝めないほど、
 
 ――ふふ、1分後には生気を失い寝ているだけの状態になってしまう可能性も確かに存在しますが、
 ご安心ください、彼らがその暴力的手段を取られたことは全く記憶しておりません。
 つまり私の完全犯罪はなされたことになり、
 目撃者は女の子の皆さんと恥ずかしいコスプレをした皆様方だけです。

 恥ずかしい格好をした方々は正義の行動をする私に糾弾できないでしょう
 女性の方は、年頃の女子ですから好きな方の一人ぐらいもいるでしょう?
 その方がこんな年増のコスプレを見て興奮をなさっているようなことがあれば
 百年の恋も冷めるというものです。
 その百年の恋も冷めるような相手がどうなろうとも構いませんよね?」 

 勝負があっという間にうやむやになり、
 私たちは全身全霊をもって園田海未を静止させることに全力を尽くすのみになった。
 最終的に理亞にお菓子持ってないお菓子! なんて言葉を放ち、
 彼女の劇物を園田海未の口の中に放り込むことにより、
 この場の暴動は終息。

 なぜ虹ヶ咲学園の二年生がこの場にいたのか。
 景品であるツバサの意向がどれほど絡んでいたのか?
 この茶番劇は、いろんな意味で私やツバサのために行われていると推測される。
 みんな素直ではないから、
 こういうふざけた方面になり多くの人を巻き込む方面へとイベントを起こす。
 
 苦笑いしかできない結果を生むこともあるけれど――
 
「竜宮雪菜さんの記憶は目覚めないのね」
「そのようです絵里、よほど過去に嫌なことがあったのでしょうね――
 よっちゃんはどう思う?」
「ノーコメント」


689以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/26(日) 20:53:34.63P7q9sMoFO (1/1)

胸がなくなったハンデをものともしない白スクとは…そこにシビれるあこがれるゥ


690以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/27(月) 16:29:40.44lPmIsCOG0 (1/9)

 竜宮雪菜という人を見て、大変失礼ながら一番最初の感想はこの人誰であった。
 かつて天王寺璃奈ちゃんからこの人誰みたいな扱いを受けていた鹿角理亞も、
 この清楚な大和撫子みたいな人誰? という意見を持ち合わせるに至った。
 いかんせんとポカンと私と理亞が顔合わせの際にしているものだから、
 ガチの大和撫子である雪菜ちゃんは驚きを隠せないといった表情をしつつ、
 若干この人たち失礼だなみたいな感情を抱いていると思われた。

「私の料理を所望される奇特な方がいて大変驚きました
 しかも全部食べてくださったそうですね?
 そのような方は人生において存在していなかったので大変嬉しく思います」

 穏やかな口調で話されているけど少々声色にトゲがあり、
 感謝しつつと言いつつも先ほどまではしたない
 コスプレをしていた私たちに向けて(理亞は違う)
 それなりの警戒感を抱いているらしい。
 当然といえば当然である。
 ホテルを貸し切って修学旅行生を巻き込み、
 けったいなイベントを行っているのであることから察しても。

 後に控えている真姫たちには、
 今ちょっとフラグイベントを起こしているから休憩でもしていてと告げてある。
 景品であるツバサが一番偉そうに早くしなさいよと言いながら見送ってくれた。


691以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/27(月) 16:30:23.66lPmIsCOG0 (2/9)

「まわりの人たちが、アイドルのステージを見られたから今日はいい日だ
 そんなふうに言っていたけれど、雪菜さんはそうではないみたいね」
「はい、アイドルというものをあまり好ましく思っていないので
 はっきり言ってしまえばなぜあのように盛り上がってしまうのか
 問題行動でさえも許してしまうのか、大変疑問です」

 過去にあなたは女装してアイドルやっていましたよ、
 言っても信じてくれないし、
 隣にいる理亞は呆然といった表情を隠しきれていないから信用も薄い。
 印象としては理亞がいるおかげで何言ってんだコイツみたいに見受けられてしまうので、
 よっちゃんに頼んで回収してもらった。
 一応、以前はパートナーとしても活躍していたので、あの子の気持ちは大体分かる――
 ではあったそうなんだけどそのキャパシティを超えてしまっていたらしい。
 気持ちはすごくわかる。

「あの方もステージに上がっていました。
 ステージから降りるとただの人なのですね?」
「そうね、演技者が舞台から降りるとただの人になるのと同じ
 アイドルと言うと落差があるから少し目立ってしまうかもね」
「……今のは失言でした申し訳ありません」

  雪菜さんの意見としてはステージそのままの輝きを放っていればいいのに、
 ということだと思われる。
 若干ニュアンスとしては異なっていても、
 落差はもう少し控えめにしておけばいいのにということである。
 理亞だってあまりに驚いたことさえなければ、
 人の顔をまじまじと眺めてしまいごめんなさいの一言くらいはあるんだろうけれども、
 動揺は微妙に私へも伝播してしまっていることから彼女の衝撃度は……。


692以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/27(月) 16:30:54.68lPmIsCOG0 (3/9)

 それと咎めるつもりはなかったのだけれど、
 敏い彼女はどうしたって今の台詞を良い印象通りに受け取ってはくれなかったみたい、
 声に険を持ってしまった可能性もある。

「いきなりこちらに連れてこられて、大変だと私が認識してなかった
 ごめんなさい年上なのに気の一つも使えなくて」
「それではお互い様ということにしておきましょう、
 どちらも悪いと言っていれば話は平行線になってしまいますから」

 大和撫子である上に、おしとやかであり大人でもある。
 対応の美しさは私も見習わなければいけない。
 この手のタイプは一度心が折れてしまうと修復は難しい。
 かつての彼女(彼)は柳みたいなメンタルを持っていて、
 叩き潰したって気が付いたら復活してるような強さがあったけれども、
 竜宮雪菜という人の強さは前面に偏ってしまっている。
 
 人気があると聞いているけれど微妙に浮いてしまっているのは、
 その辺りに原因があると思われた。
 何気なくではなく自分が正しいと思えば人への忠告も
 はっきりと言ってしまう癖があるんだと思う。
 それだと人間関係はなかなかうまくいかない。ソースは私。

「チラリと姿が見えましたが、
 私のいとこだという方がいらっしゃいましたね?
 その方のわがままなのでしょうか今回の経緯は」
「その人だけではないと思う、
 8割くらいはその人のわがままだとしても、
 同意してくれる人がいなければこんなことはできないからね、
 あの人金遣い荒くないからお金で人を動かす術を知らないのよ」
「お金で人を動かさない? 人の情で人を動かすというのですか?」


693以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/27(月) 16:31:20.81lPmIsCOG0 (4/9)

「そうかな……?
 ギブアンドテイクのギブはだいたいお金じゃないわよあの人。
 自分がねその人にとって欲しいものをあげるの。
 すごいでしょ? そういう観察眼をあの人は持っているのよ、
 だからこそトップアイドルになれた」
「私は今までお金で人を動かす術を学んできました、
 絢瀬絵里さんでしたか不思議です、
 お金で動かない方というの初めて見た気がします」

 持ち上げてくれるのは嬉しいのだけれど、
 記憶を取り戻したという上原歩夢ちゃんもそうであるし、
 姿が見えないけれど宮下愛ちゃんもそう、
 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の面々はだいたいそう。
 おそらくではあるけれどお金で動かない方
 というのが印象に残らないタイプ何だと思う。
 悪気はないのだけれど人間はそのように動くものだという
 教育を過去から受けていたのだとあり。
 そのような奥手で清楚な人がツバサを見て
 ふざけている人だと思うのは無理からぬことだ。

「アイドルというのは、なんて表現したらいいのかなチャラチャラ?
 落ち着いていない印象を今でも受ける?」
「私の通う学園でもスクールアイドルなる存在がいます、
 楽曲のレベルも提供されるイベントのレベルも
 お遊戯会と言っても差し支えはないと思います」
「そうだね、A-RISEと比較してしまうと、
 どんなスクールアイドルを見てもお遊戯会レベルになる可能性もある」
「絵里さん?」
「でも、彼女たちは真剣よ?
 確かに提供される楽曲であったり、
 踊りはお遊戯会と言われても仕方がない、
 でもね下手だからといってやめようやめるべき、
 そんなことはね本人たちが決めなければならないこと」
「……私は、そんな」


694以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/27(月) 16:32:02.30lPmIsCOG0 (5/9)

 少し痛いところをついてしまったような気もする。
 人は得てしてレベルの低いものに対して辛辣である。
 つまらないであるとか技術が劣っているとか、
 何かしらの理由をつけて人に何かを辞めさせるコトは誰しもにある。
 本当に辞めさせた方がいい人も何人かいるんだけれども、
 大体は余計なお世話である。
 誰しもがそうであるから竜宮雪菜さんを許せとはツバサも言わないであろう。
 それどころか私の弟を泣かすんじゃねくらいに殴りかかってくる危険性はある。
 とりあえず私を待たせたから殴りつけるは覚悟してるけど。

「私も元々スクールアイドルだった、あんまり有名ではないみたいだけれど、
 今もこうしてね仲間たちと一緒にいたりするの
 もちろん楽しい思い出ばかりではない、辛いこともたくさんあった
 後悔することももちろん――
 竜宮雪菜さんは何か青春をかけてやりたいことってないかな?」
「私にはありません、才能がありませんから、
 やりたいことをして許される立場ではありませんし、
 親が敷いたレールの上を歩くしかありません。
 誰かは私を無欲と言います。
 ――でも、私は学園のスクールアイドルの皆様が羨ましかったのかもしれませんね」

 優木せつ菜復活フラグを立てることに成功した気がする。
 もちろん過去の記憶を取り戻してくれれば一番手っ取り早いではあるんだけど、
 彼は本当に女体化してしまっているので、
 過去の記憶を取り戻した瞬間精神崩壊する可能性もあるから――


695以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/27(月) 16:32:30.23lPmIsCOG0 (6/9)

 さすがにそのフォローまでは私にはできない。

「もしあなたが変わりたいと――」
「チョリーッス!」

 落とすにはあともう少しといったところで、
 空気を読まないと言わんばかりに破天荒なギャルが現れた。
 先日の世界のラストイベントでさりげなく登場し、
 祖母が好きという部分とダジャレが大好きという部分で妙に馬が合ってしまった
 正体不明の謎の女の子が――
 彼女は私を知っているみたいなんだけど私は彼女をまったく知らない。
 なぜだか突如現れて意気揚々と言わんばかりに、
 やたらテンション高い彼女は私と肩を組んで。

「会いたかった会いたかったエリチカ!」
「ええと、以前会ったことあるけど、名前を伺ってなかったわね?」
「あ、そうだったそうだった! 宮下愛!」
「宮下愛?」

 私の記憶の中で宮下愛という女の子は極めて地味で、
 一人称はわだす。果たしてそんな田舎が存在するのかというくらいの
 東北の田舎に住んでいて、主な食事は昆虫類、野花などになっていたはず。
 少なくともイケイケのギャルではなかったはずだし、
 同一人物と言われても恐ろしく疑問ではある。

「東北の山の中で神様の巫女をしていた宮下愛ちゃん?」
「そうそう、昔はダサい姿で野菜を交えながらそんなことをしていたね、
 まさに芋娘っていたところかな?」
「ちょっと雪菜ちゃん、待っててもらえる?」
「は、はい……」


696以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/27(月) 16:33:14.90lPmIsCOG0 (7/9)

 自称宮下愛ちゃんを伴って、竜宮雪菜さんから離れる。
 ギャグのセンスは私に及ばないもののなかなかいい感じではある。
 なかなかいい感じに留まっているから
 もしかしたら自分には理解できる可能性がある、
 私のギャグば発想が天才すぎて誰も笑ってくれない(笑)
 
「どうしてそんな姿に?」
「エリチカに憧れて、そうだ金髪にしなきゃって思って」
「別に私はギャルだから金髪ではないのだけれど」
「そうかもしれないけどわだすのアイデンティティーになったから」
「確かに唯一無二であるかもしれないけれど」

 一人称や反応から確かに宮下愛ちゃんであることが確認できた気もする。
 彼女がこれだけ私に対して慕ってくれているのにも関わらず、
 彼女の言葉を信用しないのは愛ちゃんに対して恐ろしく失礼なことだ。
 少し信じられないではあるのだけれども。

「でも愛ちゃんもう少し出番は後でもよかったのだけれど」
「あの子にスクールアイドルをやってもらうんだっぺ?
 んだば、無理なことよ、あの子が良くても環境が良くないからな」
「そんなにお嬢様面しているの?」
「ツバサさんもすごくお嬢様だけんども、竜宮家っていうのは結構敷居が高い感じだ
 土地の広さだったらわだすの所には負けないんだけどなー」

 ちなみに宮下愛ちゃんの土地というのはその地方全体を指すので、
 東京で言うと大田区くらいと同じサイズ。
 さすがに家が大田区と同じサイズではないのだろうけど、
 ツバサがホイホイと会いにいけない立場であることは分かった。


697以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/27(月) 16:34:32.17lPmIsCOG0 (8/9)

 雪菜ちゃんがいとこの人と言ったのは、
 それ以上の関係にはなれないというメッセージであった可能性もある。

「物語でありがちなご両親を感動させてとか無理そうかな?」
「エリチカならできる、わだすが応援してるエリチカなら、絶対できる
 エリチカができないことなんてわだすは知らね」
「そう、愛ちゃんがそう言うんだったらそうなんでしょうね、
 愛ちゃんはスクールアイドルやるつもり?」
「もちろん、スクールアイドルっていうのは楽しいしな、
 上原の歩夢ちゃんも誘うっぺ、
 ちょっとトラウマが激しそうだけんどもな」
「トラウマ?」
「体育の授業中な着替えてる最中に、彼女が隣におって」
「あーはいわかった」

 上原歩夢ちゃんと竜宮雪菜ちゃんは自他共に認める親友同士であったらしい。
 結構深いことまで話す関係であったせいか、
 記憶が目覚めてからの衝撃は歩夢ちゃんにとって激しいものであったみたいだ。
 その点に関しては私も謝らなければいけない部分もいくつもあるし、
 もう少し気を遣ってあげてもよかったかなと思わんでもない。
 ただメインヒロイン属性の彼女とすれば、
 ラッキースケベイベントにいの一番にぶち当たる、
 もしくは気づいてしまう。
 やっぱりエヴァリーナちゃんの言うとおり、
 彼女がなんだかの特異点に所属しているのは確実みたい。
 まあ特異点に所属することに気づかされるイベントが、
 大体ラッキースケベというところに不憫さを覚えなくもない。

「じゃあまたね」
「また会えることが嬉しい、それだけでも
 ここに来た価値があるさね」


698以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/27(月) 16:35:24.27lPmIsCOG0 (9/9)

今回のエピソードには欠席ですが、
この竜宮雪菜さんに桜坂しずくさんが何をしたかを思い出すと、
もっとお楽しみ頂けるかと思います。

では、また明日です。


699以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/28(火) 19:20:51.60H1efONUb0 (1/2)

 宮下愛ちゃんは確かにギャル化はしたかもしれない、
 でもその本質は心優しい、私を敬ってくれる、健気な女の子だった。
 そんな姿にちょっとだけ感動を覚えてしまい、
 肩を組みながらまるで同い年の友人に向かって話しかけるみたいな、
 そんな宮下愛ちゃんにエリチカは一言だけ言いたいのです。

「まだ食事は昆虫なの?」
「貧乏は敵だ、人付き合いでお金がどんどん減ってくねー」
「本当に困ったら言ってね、エマちゃん通じて今度メールアドレス教えるから」
「おお、天からの助けだ、金欠になったらすぐに言うから」
 
  彼女にどれほど助けになれるかはわからないけれども、自分を慕って自分を支えてくれた女の子に対して、それがどれほど勇気のある決断であったか、私も分からなくもないから、100万円よこせとかは言われないだろうけれども、その百分の一くらいは気軽にホイホイあげられる立場でありたい。
 今のところ妹の亜里沙に頼まなければ1000円でさえも辛い。これではみっともないので少し稼ぐ手段を考えるべきかとも考えなくもない。

「せっちゃんがわだすが連れてくでな」
「やっぱり私への印象は悪い感じかな」
「彼女は誰に対しての心を許す気配がないでな、でもそういうところにグイグイ来ちゃうのが愛さんのいいところよ!」

 彼女ならきっと雪菜ちゃんに心を許してくれるような関係に至ってくれると思う、上原歩夢ちゃんの心の傷が癒えれば2年生3人組でユニットの一つでも作ってみても構わないかもしれない。
 ただ愛ちゃんの憧れっていうのが、私であることに一抹の不安はあるのだけれど、真面目な彼女が高校生の違いで脱退何ていうことにならないように、ギャグは控えめにした方がいいよと忠告するべきかしないべきか。
 あれは愛ちゃんのアイデンティティでもあるから、禁止すると微妙にキャラが弱いような気がするんだよね。

「戻ってきたようですね、会話あぁー!?」
「よろしくせっちゃん、アタシの名前は宮下愛って言うの
 頭脳明晰なせっちゃんならもちろん知ってるよね」
「馴れ馴れしいですね、いきなりこれような肩を組む行為をなさるなんて」


700以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/28(火) 19:21:28.77H1efONUb0 (2/2)

「馴れ馴れしくないよ友達なら誰しもこれぐらいのことはやってるもんさ」
「友達って」

 そして雪菜ちゃんは愛ちゃんに引きずられるように退場していく、
 これから修学旅行でもベタベタするつもりなんだろうか、
 そしてこの季節に普通修学旅行など行われているのだろうか、
 なんとなく物語の整合性が気になる絢瀬絵里なのでした。



 そんな仲睦まじいと言わんばかりの二人が退場後、
 彼女たちの会話に参入できなかったと思われる、
 綺羅ツバサが私の背後に忍び寄った。
 その隠密行動をするみたいな応対は反応に困るのでやめてもらいたい。
 
「自身を慕ってくれる後輩を見つけてデレデレしているわよ絵里」
「たまにはどうやって持ち上げられないと、下に落ちた時に底辺である自覚を持てないじゃない」
「そこまで卑下する必要は何もないと思うけれど、どうだった」
「記憶が戻る可能性は今のところをほぼないと言ってもいいところだった」
「そのようねスクールアイドルという単語を聞いても無反応、
 まさかあの子があそこまでお嬢様になっていたなんて思いもしなかったわ」
「そういうお嬢様に気軽に会いに行けるあなたも十二分にお嬢様なのではないの?」
「私がお嬢様だったら、あなたもお嬢様に見えるわよ山賊」
「何よ蛮族」

 このまま罵り合いが始まるかと思いきや、意外にも殊勝な態度を見せるツバサ。
 眉をハの字にしていかにも困ったと言いたげな表情に、
 ついつい昨日のことを思い出してここで押し倒しの一つでもしてやろうか、
 いやそんなことをしたらいろんな人に殺されてしまうけどね、何ていう自己ツッコミをしつつ。

「でも、ああいう子は帰ってみせるのがアイドルのいいところじゃない?」
「私がステージに立っても無反応だったのよ?
 あなた程度の人間が一体何ができるって言うの?」
「私一人だったら無理かもしれない、でも私とあなただったらどうかしら?」
「ちなみにあの子達は今日岐阜城に向かうそうよ」
「さすがに岐阜城ではスクールアイドルのイベントは難しいわね」
「私が織田信長だったらあなたは……ヤスケ」
「いや確かに奴隷的な扱いはみんなから抜けているような気がしなくもないけど」
「さすがに冗談よ絵里、そこは反発してふざけるなというところよ
 真面目に自分の立場がヤスケに近かったと考えるのは予想外の反応だからね?」
「ごめん、ネタにマジレスかっこ悪かった」


701以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/29(水) 10:45:30.72YZI8LH490 (1/1)

高校の修学旅行は10月頃が多いけど5月にいくとこもあるとは思う


702以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/30(木) 04:02:12.21EOXETaht0 (1/6)

 どうでもいい話から話題は展開し始める。
 別に織田信長の話がしたかったわけではないのだけれど、
彼女が口を開くとマシンガンのようにこっちに言葉の銃弾を浴びせ掛けてくることばかりなので、
 いつのまにか英玲奈やあんじゅが対応している彼女の操縦法を身につけたようではある。
 A-RISEのふたりはツバサに付き従っているようで、
 面倒事は絶えず彼女に押し付けてる傾向があるので、
 なんで私ばっかりという点はツバサも感じているようだけれども、
 なんやかんや言って能力の高い彼女についてこれるのは、
 過去の私であったり理亞であったり、
 覚醒した朝日ちゃんであったり。
 生半可なアイドルでは自身についてこれないことが分かっているので、
 意外と悪い扱いをするA-RISEのほかのメンバー相手でも強気に出れない。
 その点絢瀬絵里なら安心である。
 いくらフルボッコしても心が痛まないことはないではあるけれども、
 基本的に悪い扱いをしても喜んでくれるので、
 ツバサは自身にはないとドS性を 遺憾なく発揮している。
 亜里沙と一緒にいるケースが多かった過去においては、
 尻に敷かれっぱなしで、ろくに反論すら許されていなかったことから、
 本来は上から指示されるのが好きなタイプではあるのだとは思う。
 能力が高いから指示してくれる人が誰もいないだけで。
 
「彼女はねアイドルを嫌っているみたいなの」
「好きな子に意地悪をしたくなるタイプ、というわけではないの?
 素直になれないだけにも見えるわよ?」
「それが頑なだから頭が痛いの」

 この世界における竜宮雪菜という人は、
 大変なお嬢様ではあるようではある。
 虹ヶ咲に入学したのは物語的な都合と言うかご都合主義的な何かがあるんだろうけれども、
 生活においては他者の行動にあまり介入したりしないし、
 友達作りは得意だけど本心はなかなかさらけ出さないみたい。
 なんでそんなことを知っているのかと言うと、
 エマちゃんが不気味だから何とかしてほしいというメールを絶えず送ってくるからである。
 彼女からすれば都合のいいアゴで使える相手はいなくなってしまい、
 買い物の時に荷物持ちがいなくなって久しい、とか、
 なんやかんや言って能力が高かったから目標にしていたのに、
 話しかける機会もなくなってしまって寂しい、
 などという素直なんだか素直でないんだかわかんない反応をしていて、こちらとしても反応に困る。


703以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/30(木) 04:04:37.97EOXETaht0 (2/6)

 胸の一つでも揉ませれば思い出すんじゃないの?
 と言うメールも返したこともあったんだけど、
 そんなことをしたら親衛隊に嬲り倒されてしまう、とのことらしい。
 桜坂しずくちゃんが起こしたとある事件により、
 セクハラに関しては周囲の目も彼女自身も厳しいらしく、
 余計なことしやがってとはエマちゃんのそのままの台詞。
 しずくちゃんは相変わらずステージでは清楚キャラとして売っており、
 本性がとても下ネタまじりで口を開けばセクハラ発言ばっかり言っているとは思われていない模様。
 虹ヶ咲内部では危険な存在として認知されているみたいだけど、
 ファンは本心を理解しえないものではあるらしい、
 観察眼もあり人の不備を指摘することには右に出る人はいないので、
 あれでよく下ネタ属性が他の人にはバレていないというのが信じられない。
 何回かセリフを言ったら男性器の名前がでるような人よ?

「周囲の仲間たちに包まれて、
 もう一度スクールアイドルとしての楽しさを思い出したら
 もしかしたら彼女の過去の記憶を取り戻すんじゃないかしら」
「過去の記憶を取り戻したら自害とかしないわよね?」
「できればそこらへんは融通を利かせてもらえると助かると思うわ」

 過去に優木せつ菜(芸名)という人はどんなキャラであったのか、
 基本的に真面目で努力家心優しい性格、オタク属性以外は非の打ち所のない。
 過去の他の人の反応だと清楚すぎる美少女だとか、
 女神みたいな人、どういう反応があり、概ね支持されている。
  基本的に他者に厳しいエマちゃんやしずくちゃんも、あいつは女神かなんかだ、
 という反応が返ってくることもあり、性格面では欠点がおおよそない。
 
 年頃のオトコノコであったせいなのか、それとも姉の教育が間違っていたのか、
 セクハラ方面のイベント事になるとやたら張り切ってしまう傾向があり、
 それを防げるのは胸がない面々のみ。
 彼女らにはやたら辛辣。
 エマちゃんの名言でもある璃奈ちゃんボードを胸に付けてるんじゃない発言をさらにパワーアップさせて、
 どこもかしこもボードにしてるんじゃねえだとか、
 まな板が私の後ろに立つんじゃねえみたいな発言は姉にも突き刺さっている。


704以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/30(木) 04:07:20.68EOXETaht0 (3/6)

 顔を突き合わせるばすぐには過去の記憶を取り戻すかと思いきや、
 そうではない辺りよっちゃんはその点だけかなり余計なことをしてくれたと思われた。
 優木せつ菜(芸名)どういう人への反応に関しては、
 嫉妬心が先んじてしまい、
 常軌を逸していた傾向にあるので彼に関しては謝った方がいい可能性がある。
 それでも立ち上がってきた彼をみて、
 こいつはもしかして物語の主人公かなんかなんじゃないのか、
 というコメントちょっと前に残した。
 やっぱり今でも苦手ではあるようではある。

「分かったしばらく様子を見てみる
 とりあえず景品は真姫さんたちの顎で使われることにするわ」
「自由にホイホイを歩いているみたいだけど本当に景品なの?」
「ちょっと準備があるから、そこにいる凛さんとお話ししてたら?」

 少しだけ嫌な予感がしたけど、星空凛という人は過去での記憶を取り戻さず、
 平穏に過ごす運命にあるみたいなことを聞いたような気がするので、
 少々安堵しつつ、それでも膝蹴りの一つは腹部に受ける覚悟で、
 にこやかに微笑みかけてみた。
 今まで話しかけてこなかったことから、超絶人気アイドルに対して遠慮していた部分はあるようである。

「あのね絵里ちゃん」
「どうしたの凛」
「また料理食べてくれたんだよね?」
「ええ、今度はきちんと完食したわ、ご馳走様」
「私ね、料理人になりたいと思って」

 とんでもない告白をされてしまった気がする。
 ジェイソンが私チェーンソーを持ちたいんです。そんな発言をしたような、
 人殺しの相談ならもっと穏便にしてくれ、
 そんな反応したいではあった。
 でも目をうるうるさせながら、
 自身が料理が苦手なことは重々承知した上で夢を追いかけたいみたいな反応であるので、
 さすがに現実的に人が死ぬような料理をしなくなったらねとコメントすることは未然に防がれた、
 私も空気はちゃんと読めるようになったようではある。
 私の中の人が警告したっていうのもあるけど、命の危機ですって言って入ってきた。

「絵里ちゃん、料理を教えて欲しいの」
「それはもちろん、私にできることならちゃんと教えてあげるわ」
「今までねどんな人も匙を投げてきたの」
「……あ、ちょっと待って、いま希呼ぶわ」 


705以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/30(木) 04:08:50.66EOXETaht0 (4/6)

 自身の能力の低さを棚に上げつつ、
 彼女が何らかの術をかけている可能性は存在している。
 現実的に考えて、
 お勉強家である星空凛がいくら料理をしても劇物を作成してしまうのは
 何らかの呪いがかけられていると考えた方が現実的ではある。

 凛の家には本当に私が台所に立てない呪いをかけられており、
 かけた希もそういえば忘れていた、みたいなエピソードが過去には存在していたし。
 どうせどっかで話聞いてるんだろうと思い、
 周囲を見回してみたら、はいはいと言わんばかりにこっちに向かって駆けてきた。
 本当に私の話を逐一聞いているかと思うと、色々考えたいことはあるのだけれど、
 何から何まで腹を割って話してしまうと、壮絶ヤンデレルートの解放フラグが立ってしまう気がする。
 彼女が多少病んでる方面に性格が偏っているのは、
 私自身にも多少の原因はあるんだけれども、希が言うには元から暗いからね? ではあるみたい。 

「希、凛に呪いの一つや二つ掛けてるんでしょ」 
「その、友達に対して平気で呪いの一つや二つかける人扱いされると
 ウチも困ってしまうんだけど」
「でもことりに腹黒くなる呪いかけたよね?」
「なぜそれを……じゃなかった、そんなわけないやん!」 

 なぜ今の私が希の過去の罪状を逐一把握してしまっているのは、
 自分の中の検索エンジンが優秀になってしまっているからである。
 このたび肉体を持って現世に現れている西園寺雪姫ちゃんも
 やろうと思えば私の中に入ることができるらしく、
 過去改変をすることにより昨日ベッドの下に潜り込んでいたけれども、
 なんでそんなことができるのか? という問いに関しては答えてくれなかったけど、
 ある程度自由が利くことは白状してくれた。
 今も私の中に入り、記憶の検索エンジン、
 つまり他者が経験したあらゆる全てを把握している私自身の記憶回路を探り、
 必要な情報を持ってきてくれているのである。

 さりげなくやっているけど、自分には不可能な仕事ぶりで、
 それこそなんでそんなことができるのかと問いかけたい、
 大いなる意志が協力とか言ってくれているんだけれども、
 それはいったい何なのか、本当に私に害する存在じゃないのか少々疑わしいではある。


706以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/30(木) 04:10:50.43EOXETaht0 (5/6)

 ちなみに天王寺璃奈ちゃんの祖母(仮)である司令も大いなる意志の部下であるらしく、
 彼女は大いなる意志のあらゆる全てを統括しているから司令であるらしい、
 過去に希と一緒にいた姫ちゃんは彼女の部下でもある。
 彼らのグループは一枚岩ではないらしく、
 たまに妙な連中が私を持ち上げたり、利用しようとしたり近づいてくるけど、大体ロクな目に遭わずに退場している。
 司令はナンバー2なんだけど、その司令と同格の存在が雪姫ちゃんである。
 彼女は下っ端ですのでとか言ってるけど、
 司令以外の面々で大いなる意志の声が聞けるのは雪姫ちゃんだけである。

(絵里お姉さんはネタバレに関して遠慮がないですね)
(ちょっと記憶回路がいじられて正直になってしまったのかしらね?)
(これからはできるだけ私がサポート致します)
(でもあなたにはあなたの人生がある、私なんぞに関わっていないで
 お友達と過ごしなさい、朱音ちゃんとか)
(では代わりを置いていきましょう、絵里お姉さんの言葉ならば何でも聞いてくれる優秀な子です) 
(別に私の中に置いて行かなくてもいいのよ? 今のところ困らないから)

 聞いてくれたかどうかわからないけれども、
 まあ何があろうとも私の言うことを聞いてくれるのであれば困らないであろうと結論づけた。

「あんまり人に呪いかけちゃダメよ、結局そうやって自分が苦しむことになる」
「希ちゃん、私に変なことした……?」
「あ、その目、ウチの罪悪感が10倍増しぐらいになっちゃう」

 庇護欲を誘う凛の目は私でさえ罪悪感を覚えるほど、
 健気で美しく、とても可愛らしく頭を撫でたいくらいであった。シスコンと言われてもしょうがない。
 ふるふると震えつつ本当は怒鳴りつけたいほど怒っているのかもしれないけど、
 でも自分に悪い所があるのなら直すよみたいな目で希を見ている。

「エリち、ちょっと検索かけて」
「私はアレクサじゃないけど、はいはいやりますよ」

 やるのは私ではないけど、知識を把握しているのは私なので、
 私が行っているということで胸を張ってもいいかもしれない。

「ええと、確かにある程度呪術はかけているみたいね」
「多分、凛ちゃん自身から頼まれたんだよね?」
「ええ!? 私頼んでないよ!?」
「ああ、ごめん、こっちの話」
「凛の話なのに!?」


707以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/30(木) 04:11:27.29EOXETaht0 (6/6)

 確かに記憶をたどると凛から頼まれたことにはなっているみたい。
 どこまで真実かと言われると反応しづらいけれども、
 呪術をかけられてしまったこと自体は事実であるみたいなので、
 ちゃんと元に戻しなさいよとは言っておいた。

「よかったこれで料理がちゃんと作れるようになるんだね」
「ええ、まあ、不安だったら私が食べてあげるわ
 料理が上手になってもっと色んな人に食べてもらえるといいわね」

 そんな会話をする私たちを希が苦笑しながら眺めている。
 凛が料理を作ってくる! 何て言いながら退場したあと、
 彼女がこっそり。

「でも知らないよ? 昔は過去のトラウマがあって料理を封印することになったけど」
「凛ならちゃんと乗り越えられる、サポートはするつもり」
「ふうん? そういうの全部わかっちゃってるんだね?」
「分かってしまっているから、なんでもかんでも手を出してしまいそうになる
 やっぱりこの検索エンジンはダメね、私では扱うのが難しい」
「ご安心ください絵里お姉さん! 今! 少しバージョンアップいたしました!」
「中の人が出てくるなら、もう少し前置きがあってくれると嬉しいわ」

  肉体を持つ持たないということに関して自由が利く、
 というのはかなりチートスキルだと思うんだけど、
 なんでかしら不思議とあまり能力が高そうに見えない。

(なんでかしら? ちょっと理由を探ってみてくれる?)
(かしこまりました)

 西園寺雪姫 チートスキル 検索結果 102件
 などと、脳内に浮かび上がる文字。

(これ、一個一個クリックしないといけないやつ?)
(はい、これが雪姫の指定した条件です)
(今さらカムバックって言えないわ……)

 とりあえず私の能力は雪姫ちゃんが中にいて最大限に発揮される模様。
 しばらくポンコツと呼ばれても仕方がないかもしれない。 


708以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/30(木) 10:55:56.312x/7hNHwO (1/1)

呪いがあらゆる面で万能すぎる


709以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/31(金) 03:13:55.750c7BuQAN0 (1/2)

 途中小休憩が挟まれてしまったけれども、
 この度のイベントは勇者エリーチカが魔王マッキーを倒すために、
 恋人であるツバサを助け出すために奮闘するストーリーである。
 途中仲間がいたような気がしたけれども、ちょっともう付き合えへんわ
 なるという言葉を筆頭に今は私ひとり。
 勇者は孤独なるものということで、仲間が冷たかったわけではない。
 最近流行りというわけではないけれど、
 パーティーから追放されてしまうのはよくある話ではあるみたい。
 誰か分かりやすい悪にして、
 その誰かが悪いから自分は悪くないというのは、
 私は苦手ではあるので、できれば一方的に私を悪者にして欲しいものである。
 ーーみんなは心優しいから、そうしないのはわかっているんだけども。
 たまにそんな優しさが辛くなる時がある。

「絵里、あなたのモノローグは大変ネガティブです」
「藤咲璃々ちゃんって呼べばよかった?」
「はい私に個体名は存在しません、何と呼ばれようとも構いません
 もし機会があるならば、絵里に私の名前を決めて欲しいのです」
「まさか子どもの名前を決める前に、
 私の大切なお友達の名前を決めなくてはいけないとはなんという」

 この子の名前はいまいち安定しないけれども。
 私からすれば初対面時のリリーとか、長い付き合いな名前のエヴァリーナ
 そして今回は藤咲璃々であり、璃々は何となく分かるけど。


710以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/31(金) 03:14:23.520c7BuQAN0 (2/2)

「なんで藤咲なの?」
「私の声がその人に似ているという話がありましたので」
「ウサ?」
「ウサ」

 最初、かおりとか言ってボケようかと思ったんだけども、
 誰のことですかとか言われると妹好きとしては困ってしまうので、
 もし知らない人がいれば藤咲+かおりで是非にもググってほしい。
 攻略ヒロインが二人しかいないのにゲームで、
 1番人気が高い非攻略キャラの声の人。

「しかしながらよもや絵里とダンスで対決しなければならないとは」
「ネタバレがさすがに早すぎると思うのだけれど 
 このようなところであなたのダンスは危ないと思うわ」
「はい、このような場所で踊れば建物が崩壊します」
「崩壊しないように気をつけてくれると助かるのだけれど」
「さすがです絵里、略してさすおに」
「どこからお兄様が出てきたのかはわからないけれど、
 褒めてくれるのは嬉しいわ」
「はい絵里は褒める要素がいっぱいあるので
 何も考えずともホメリマ・クリスティです」
 
 ずいぶんとエヴァリーナちゃんの私要素が強まっている気がする。
 雪姫ちゃんの私要素は余計なものでしかなかったけれども、
 エヴァリーナちゃんの私様子はちょっとチャームポイントにも思えてしまうから
 かなりたちが悪いと思う。


711以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/01(土) 04:05:03.84bnFGxEFW0 (1/4)

 ダンス勝負と言うのでいったいどんなダンスをするのかと思いきや、
 意外や意外、聞こえてきたBGMは和風といえばいいのか
 日本特殊なダンスというよりも踊りと言うべきであるような、
 有り体にはっきりと言ってしまうと盆踊りをしている――

「納涼とか夏といった感じの音楽ね」
「はい日本人として、盆踊りから江戸しぐさと呼ばれるものを
 学びたいと思いました。事実かどうかは知りませんが」
「あえて言うのならば、古来の文化というのであれば
 平安仕草とか学んだ方がいいんじゃないかしらね
 国風文化の起こりであるから」

 過去に小さな時に夏祭りに参加したことを思い出す。
 今となってはどこまで自分自身の記憶だったか定かではないけれど、
 何度も何度も盆踊りというのは行ったことがある。
 真夏、ひぐらしの鳴き声でちょっと秋の気配を見たようになるそんな時期
 カレンダー上では確かに8月の週末に向かい9月の足音が近づいてくる
 ちょっと憂鬱にもなり、宿題に追われる学生はこのまま夏休みだったらいいのに
 なぜだかエンドレスエイトという言葉が思いついたけれどノーコメントでお願いします。

「日本人にとってお盆とは、お笑い芸人の一人である」
「そういうボケはいいのよ、あんまり真面目に解説するとなると
 ちょっとこだわりがあるから長くなってしまうけれど」
「さすがは絵里です、私の小ボケにもちゃんと付き合ってくれます」
「私に合わせてネタを提供することは他の人には通じないから注意してね」


712以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/01(土) 04:05:35.89bnFGxEFW0 (2/4)

そこんじょそこらの女子高生がおぼんこぼんと言われて、
 お笑い芸人の? 何ていう反応が返ってくるとは思わない。
 怪訝そうな目に見られ、仮にスマホとかでググって出てきたとしても
 この人たち誰と言われるのがオチだと思う大阪とかの学生ならともかく。

「大丈夫です絵里、私はUTXで他の学生と交流いたしません」
「その友達が少ない宣言は心配になってしまうけど」
「私は人と関わることが最小限にせねばならないのです」

 アイドルであるがゆえだろうか?
 確かにお高くとまっている彼女らからすれば、
 他の生徒たちと交流をして仲良く話していると、
 マイナスポイントになる可能性は存在している。
 そのあたりの事情は私よりもツバサが詳しく、
 彼女の記憶を辿ればどういう経緯でお高くとまったかは
 確かめられないわけでもない。
 でもそんなことをすればぶん殴られるのがオチなので、
 殊勝な私はそんなことはしない、したくはないというのが正しいでもあるけど。

「では踊ります」
「璃々ちゃんのダンス期待してるよ」
「もちろんです、どのような踊りやろうとも全て完璧にこなしてみせます」

 大言壮語というなかれ中で彼女のダンスの実力は、
 綺羅ツバサよりも上である。
 はっきり言ってツバサよりも踊りができる人間がいることを、
 正直私は感心するほど驚いたことを覚えている。
 あいつは思い上がりとか言うかもしれないけれども、
 ツバサよりも何事かできる人間っていうのは、
 私にとって珍しい存在であるのはお約束しよう
 ――いったい私は誰に向かって呼びかけているのか。


713以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/01(土) 17:40:22.35bnFGxEFW0 (3/4)

 どれほどの盆踊りの見せてくれるのか、
 私の期待はひたすらに高まり、頭の中には空を飛ぶまで行くのではないか
 そんなことがよぎり、それは盆踊りじゃねえ!
 というツバサのツッコミが聞こえてきたような気がした。
   
 空を飛ぶのは無理だとしてもキレッキレの盆踊りは見られると思い、
 対決だというのは重々承知だとしていても素晴らしいものは目にうつる
 期待がほのかに膨らみ始め――

「……あれ?」

 それは盆踊りというよりロボットダンス。
 人間がコミカルに動き滑稽さを笑う、そんな――
 オチをわかりやすくするためにふざけているのかと思った。
 しかし彼女の表情は思いのほか真剣である。
 もっと楽しそうに踊った方が盆踊りに見えるのではないか、
 そんな感想を抱いてしまうけれど。
 どのようなアドバイスをくればロボットダンスが
 人間が提供する盆踊りに変わるのか私はよく分からずにいた。

「ダンスに関してはボケは挟まないのよね?」
「あえて私を挑発し、動きを鈍らせようと言うのですね
 さすが絵里汚い、さすが絵里」
「褒めるのなら、ちゃんと褒めて?」

 ボケているのならばネタが判明した時点でこちらに向かって微笑みかける
 そんな動きを予想していたんだけども、応対の仕方が明らかにツバサ寄りで、彼女は真面目にやっていると簡単にわかってしまった。
 真剣な表情や、動きの硬さなどから見ても、
 エヴァリーナちゃんは真面目に盆踊りを踊っているものであると判明した。
 しかしながらこのシュールなロボットダンスを踊りと評するのは難しい。
 誰かやっているのかと言われればどう考えてもコロ○ケ。
 顔が美少女な分、違和感が半端ないけど。
 指差して笑える人は私しかいないので、
 ヘタレ手入れ私はとりあえず拍手を送っておくことにした。
 日和ったとか言わないで欲しい。


714以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/01(土) 17:41:09.46bnFGxEFW0 (4/4)

「この私の素晴らしい盆踊りを見て
 絵里の意欲が踊る前になくなってしまうことを願います」
「そう、その踊りを盆踊りと評するのね?
 見てなさい! 本当の盆踊りというものを教えてあげるわ!」
「台詞はかっこいいですが、提供されるのは盆踊りだと知っている私は
 あえて苦笑いを持って絵里を応援したいと思います」

 過去には夏の祭りに参加し、
 皆の先頭に立って踊った経験もある――気がする。
 どのみち踊りは得意であるバレエを習っていた過去もあるし、
 才能は発揮できなかったけれども、
 今なお身体能力の維持にこれほど役に立つものは存在しない。
 本物の盆踊りを彼女に見せあげ、口をぽかんと開けたまま
 私は間違っていましたと言ってくれることを願っている。
 その思考回路こそが間違っているかと言われれば、
 私は涙を飲みながらはいと言わざるを得ない。

「やぐらの上から、民たちを見下ろすであるような
 そんな優雅なスマイルを絵里がしているーー!」

 盆踊りの知識は彼女には存在したようである。
 基本的にお勉強家のエヴァリーナちゃんが
 盆踊りも知らないという可能性は低かったとはいえ、
 本当は何も知らないで私に花を持たせたかったという考慮も
 存在したかと思ったんだけども。
 心優しく親友を思う気持ちは人一倍。
 情に厚い彼女が私なんぞを見捨てずに今まで付き合ってくれた感謝を込めて、
 全身全霊気合のこもった盆踊りで、彼女の涙を誘うと思う。

「どうエヴァリーナちゃん! 私の全力の盆踊りは!」
「そこまで気合を入れられてしまうとボケた意味がなくなってしまいます」
「あ、やっぱボケてたのね?」
 
 私の全身全霊の気合い空回り。
 ――いつものこといつものこと。


715以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/01(土) 21:47:30.94xXrj6++bO (1/1)

金髪美女と銀髪美少女の盆踊り大会はちょっと見てみたい


716以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/02(日) 09:17:27.00bGj/c0Dc0 (1/4)

 グダグダに終わったダンス対決を勝利という結果をもっておさめた。
 そんな――私こと、絢瀬絵里。
 エヴァリーナちゃんからの評価はダダ下がりしてしまったように思うし、
ここまでのイベントでは倒したら相手が仲間になっていたはずだけど、
 雪姫の解説を求めますという言葉とともに彼女は撤退してしまった。
 
 意気揚々(笑)と次のダンジョン――もとい次の対戦相手を求める。
 実に申し訳なさそうな表情をしつつ、
 本当はやりたくないんだけどと言わんばかりに、
 苦痛にも似た表情しながらやってきたのは矢澤にこだった。
 くたびれたような表情と、力のない笑顔を見て、
 散々何か言わされたか何かをやらされたような、
 ツバサとかのむちゃぶりに対して対応する自分自身を見ているかのようで
 一発でニコに同情の念を抱いてしまった。
 彼女は西木野真姫の配下としての登場。
 過去までの世界であったらこんな登場の仕方はしないはず。
 少なくとも真姫に顎で使われるのは我慢ならなかったように思う。
 とりあえずもったいぶったしょうがないわねぇ?
 なんて言葉はまるで聞かれず
 悟って諦めきった表情のまましょうがないわね、みたいに言っている。
 一応同い年のはずだけど、
 そのこびりついたと言わんばかりの磁場を重ねた多いみたいなものが、
 彼女にしわなんてひとつもないんだけど、
 しわくちゃのおばあさんが無理に笑ったみたいな涙が出てきそうな表情を見て、つい慈しみを覚えてしまう。
 彼女が実は60歳くらいなんですと言っても、
 あーそうねよくわかるわと反応してしまう可能性すらある。

「勝負よ、絵里」
「ニコはとりあえず休みなさいよ」
「私も帰ってそうしたいけど、真姫ちゃんが満足しないからね
 なんなのよあのポーズ異様にカッコ悪いじゃない」
 


 



717以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/02(日) 09:18:27.97bGj/c0Dc0 (2/4)

 ニコが何のポーズを持ってきて異様に格好悪いと称したのか、
 今の私は知る由もない。
 お笑い番組に出演すれば会場のみんなをドッカンドッカン笑わせる、
 ニコニーの鉄板ギャグも異様に格好悪いような気もするけれど、
 あれは仕事であるのか、それとも彼女自身はかっこいいと思っているのか、
 天王寺璃奈ちゃんがヤケになって示す”胸板璃奈ちゃんボード!”
 にも似た、矢澤にこ胸板鉄板疑惑のギャグ――
 過去においてはこういうギャグもあるのねと感心していたけれど今となってはかなり笑うことができない。
 ここで気を利かせて何のポーズをとったのは問い合わせていれば、
 後で怒りに震えてどうしようもなくなってしまうのも防げた可能性もある。
 その辺りの気の利かせようは残念ながら私には持ち合わせない才能であるので、
 今後に期待と言うかできる人にやってもらって下さいとお願いしたいところではある。
 ツバサとか真姫とかがなんでこんな茶番のようなイベントを起こしたのか、
 次回をお楽しみに……ってまだこの話は続くわね……?

「お笑いで勝負よ」
「プロのあなたに素人が叶うと思っているの?」
「持ち上げてくれるのは嬉しいけれど――
 ああ、絵里なら私が芸人でなくても面白さで勝ってしまいそうね」

 私がお笑い芸人の鏡であると評する――
 そんなトリオの3人組と共演している矢澤にこを過去に何度も見たことがあるけれど、
 彼らと遜色の無い扱いやギャグを披露していて、一応アイドルなんだよなという反応残したの覚えている。
 この度アイドルからお笑い芸人へと転向し、
 お茶の間にお笑いを提供し続けてきたニコもとある都合で一旦休業。
 肩肘力の抜けた彼女を見ていると、
 以前までの世界では絶えず苦労を続けていたんだなと思わなくもない、
 誰のせいかといわれると涙目で俯くしかないけど。

「ふふ? 負けられない戦いといったところかしら?
 さすがの私にお笑いで負けるわけにもいかないものね?」
「プロとして本気を出すのは大人げないとは思うけれども、
 そこまで挑発をされたら矢澤にこは子どもから、
 あ! 胸だけ成長してないお姉ちゃんだ! て、ディスられた時と同じ反応せざるを得ないわね!」


718以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/02(日) 09:20:00.10bGj/c0Dc0 (3/4)

 悲しみを誘おうとしているのか、
 それとも同情して勝負を放棄して欲しいのか、
 とりあえず彼女が真剣な面持ちであるので、笑みを浮かべるなと頻りに念じるほかなかった。
  この場のムードとしてはもうすでになんだかなと言わんばかりの感じたけども――

「審査員は誰がするの? 愛ちゃん?」
「彼女が仮に絵里のシンパでも、私の親衛隊に加わってしまうほど、
 虜にさせることができるけれども、とても残念なことに彼女はこれから岐阜城へ行くらしいわ」
「じゃあ誰が?」
「僭越ながら、散々セイントムーンの二人から罵られ倒した
 不肖、黒澤ダイヤがお笑いの審査員として登場です」

 目の前には女子高生であることが疑わしく感じてしまうほど、
 焦燥しきった表情を浮かべた黒澤ダイヤちゃんがこちらに微笑みかけた。
 微笑みというより頭に後光でも差させた――
 疲れきってパトラッシュと共に眠りにつこうとするネロみたいな感じで、
 もういいから休め! 休め! と抱きついてしまいそうになる。

「お二人とも怒ってる?」
「とても怒っていらっしゃいます、全責任を絢瀬絵里のせいだとしておきましたので、
 今後罵られることがあるとすればあなたのほうかと」
「それで二人が満足してくれるならいいけど」

 私の表情が砂漠の中を三日三晩さまよい歩いた後の旅人――
 みたいな感じになっていないことを祈りつつ、
 自分が両手を広げてダイヤちゃんを手招きすると、
 至福の瞬間――生命力を流し込まれたと言わんばかりに私に向かって抱きつかんばかりに近づき、
 胸元をわっしわっしといじり始めた。
 これがちょっと前のエピソードまで絶対零度、
 鋼鉄の美少女と言われていた黒澤ダイヤと同じ人とは思えない。 
 ニコも、え? みたいな顔して目の前のお嬢様のご乱行に対して
 口を開いたまま驚きの表情を見せている。
 ダイヤちゃんは視界が開けた、悩みが全てなくなったと言わんばかりに、
 目の前にある霧が全て開けてしまったとこちらに向かって微笑みかけた。
 今までのはすべて彼女の演技なのではないかと疑ってしまうけれども、
 満足してもらったようであるならば私は小さくなった胸も喜んでくれると思う。

「まさかその人が、絵里の信者だったとは」
「わたくしは自らの価値判断に私情を含めるつもりはありません」
「口はかっこいいけど、目尻が下がりまくってるわよ?」


719以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/02(日) 09:21:26.16bGj/c0Dc0 (4/4)

 初孫を可愛がるお年寄りのように、目の端にシワを寄せながら、
 私の胸を揉みしだく姿に、これがシリアスクラッシャーの本懐かと思った。
 この世で一番尊いものがと問われれば、
 絢瀬絵里の胸であると何食わぬ顔でいってしまいそうなくらい、
 激しい情愛を向けている。
 かつては演技で本当にダイヤモンドみたいな硬さを誇っていたけど、
 あの演技に気がつかなかった私をとりあえずぶん殴っておきたいと思う。

「このような状況下でも、逆転のホームランを打つのが
 芸人矢澤にこの真骨頂と言ってもいいでしょう」
「本当に逆転のホームランを打っても喜んでくれるのかしら
 その顔を見ていると
 絵里が何をやっても大爆笑してくれそうで私は不安だわ」
「ご安心ください、かつて絢瀬絵里が放ったギャグで
 わたくしが笑ったことはただの一度もありません」
「ちなみに本当なのよ?」

 とりあえず社交辞令として笑ったことはあるけど、
 心の底から爆笑するというシーンは未だかつて見たことがない。
 彼女自身が大爆笑するシーン自体が珍しいんだけれども、
 妹のルビィちゃんがダンディ坂野直伝のゲッツをやった時、
 特に意味もなく大爆笑していたから笑うことができるんだと思う、
 忖度しないという主張はとても信用できないけど。

「分かった、いまだかつて笑わなかった人がいない、
 渾身のネタを披露してあげるわ、
 笑いすぎてお腹を壊さないようにね!」

 大言壮語がいつものことではあるんだけれども、
 こんなに自信満々に笑いに関してネタを提供してくるとは私は思ってもみなかった。
 芸人としてかなり幸せであるからこのような発言をしていることがわかり、
 無理この世界の脱出であるとか、
 世界改変のための準備であるとかもする必要はないのかなと今のうちはそんなふうに考えている。
 
 ――そしてダイヤちゃんは面白すぎると言わんばかりにお腹をくの字にしながら、
 絶頂でも迎えたみたいにビクンビクンと震えながら笑っていた。
 ニコは本当にそうなると思ってなかったらしく多少引いていた。


720以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/02(日) 21:24:06.07iN3rhzOLO (1/1)

一体どんなギャグを披露したんや……


721以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/03(月) 02:56:46.10bUsbbgzZ0 (1/4)

 矢澤にこは私に困ったような表情を向ける。
 悄然したと言わんばかりであるし、かなわないなぁと嘆いているようにも見える。
 そんな表情を向けられても、私が困るばっかり。
 
 なぜダイヤちゃんがそこまで笑ったりあるのか、確かに面白いネタではあるけど、
 ビクンビクンと震えながら笑うほどのネタではなかった気がする。

「いまだかつて、今のネタで笑わなかった貧乳はいない」
「何故そこでひとくくりにしてしまうのか分からないけど、
 彼女は割とあるほうだと思うの自虐的に無いと言うけど」
「そのギャグすごく面白い、私の負けでいいから」
「勝負に勝ったのは黒澤ダイヤちゃんって言うべきかしら」
 
 とりあえず陸に打ち上げられた魚であるみたいに悶絶しているので、
 ニコに介抱を任せて先に進むことにする。
 がっかりとして腰の辺りからガクッと力が抜けてしまったような気がしたけど、
 次はいつもイベントはまだまだ続いていくということで――

「思いのほかお早い到着ね? 絵里」
「食事の時間に来てしまったのは本当申し訳なかったわ」

 サンドイッチを口に含みもぐもぐしながら、
 彩りの良い用意されたテーブルを前にして座り、
 イベント会場の奥の方で私を待っていたはいいけれど、
 暇なものだから食事をしてしまっていたらしい。
 緊張感のない間は思うところがあるけれど、私の渾身のネタが披露されず
 それどころか審査員がケンシロウに秘孔を突かれた悪役みたいな感じなので、
 五分くらいで勝負がつくとは西木野真姫も思っていなかったようである。

「その料理誰が作ったの? テーブルの上がお花が咲いてるみたい」
「いい褒め言葉ね、絵里。その人がいるからお礼を言うといいわ」
「きっととても良い人なのね? 一つ一つの料理に気を使われていて
 ――できれば私の人間としての尊厳も保って欲しいし、
 殴るのであれば麻酔でもして、意識を失い昏倒させて欲しい」
「良い度胸です絢瀬絵里、私も遠慮なくあなたをボコボコに殴ることができます」


722以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/03(月) 02:57:15.27bUsbbgzZ0 (2/4)

 私の背後に音もなく忍び寄り、まるで樹木が並び立つよう。
 恐怖を覚え、痛みを覚悟し、天井を見上げた。
 真姫にここまで気を使って調理することができるのは、
 姉である西木野和姫さんその人しかいない。
 ――シスコンが言っているのだから間違いない。
 私もそのうち水に浮かぶほこりみたいにプカプカとその辺に――
 できれば死体損壊と言われるような感じではなく、
 内浦の覇者(ギャグに震えてる)に処理を頼んで欲しいものである。

「記憶の目覚めが遅れました、
 あなたにばかり責務を押し付け、
 妹を妹として扱うことができなかった――
 シスコンとして不徳の致すところです」
「あまりにそうやってシスコンシスコンと言うと
 シスコンっていうのが病気であるように思えてしまうわ」
「シスコンは病気なのですよ絵里さん」

 初耳である、精神病と言われればそうである可能性は高いと、
 でも私はお医者様ではないのだし、自分の身勝手な想像で、
 シスコンが心の病であると言うことはできないと思っていた。
 不倫が文化であるならば文化の体現者でありそうな、
 総合病院の院長の娘の一人、各地方に一人ずつ娘がいるとか、
 一人一人娘を捜すと1ヶ月に1人は仕込んでいる計算になるとか――
 なぜさけるチーズをさくみたいに子どもをしこむことができるのか?
 真姫いわく、思いのほか姉も妹もたくさんいた、
 シスタープリンセスのお兄ちゃんになった気分――
 的確すぎて言葉にならない。
 
「私は審査員を務めます忖度はいたしませんので
 そのつもりで」
「お嬢様サンドイッチむさぼり食べてるけど、
 その状態でも勝てる勝負なの?」
「もちろん、私の本業が何なのか忘れたのかしら?」


723以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/03(月) 02:57:49.46bUsbbgzZ0 (3/4)

 唇をふきつつ、自信と確信に満ちた良い声を発する。
 頼りになるお姉ちゃんが来てくれたから喜ばしいであるのか、
 それとも私で遊ぼう企画的な感じで良いネタを思いついたであるからなのか。
 おそらく矢澤にこが本業であるお笑いで勝負をしかけてきたのであるから、
 西木野真姫は当然本業である声優として――演技の勝負をしかけてくる。
 彼女に羞恥心がないとは言わないけれども、
 演技をするにおいて羞恥心は軽く捨てられるらしいから、
 恥ずかしい思いをするのはこの場においては私一人である。

「今回の勝負はよりエロい感じでセリフを言えた方が勝ちです」
「その判断、和姫ちゃん任せでいいの?」
「当然です私の脳内にはあらゆる18禁声優のデータが
 縦横無尽に記憶されています。
 どの程度のランクにあるのかすぐさま判断することができるのですよ」
「もうちょっとまともなデータを脳内に入れたら?」
「その失言でお嬢様の信頼を失うことがないと願いますよ
 まあとりあえず蹴りは一発入れておきましょう」

 確かに今のは声優を本業とする西木野真姫の目の前で発言するには、
 不適格な発言であったのでスネをカカトで蹴り飛ばされても仕方がない。
 でも、できれば喘ぎのエロい部分じゃなくて、
 演技の部分で着目して欲しいものである。
 データベースにはちゃんと演技の出来不出来も含まれているのであろうか、
 そんなことばかりが気になってしまう。
 西木野真姫という女の子は、演技に対しては虚飾をしない無欲である、
 媚びないし、へつらわないし、いつも自信満々にあふれている。
 真面目一筋にあるし、実直で、なおかつ素直である。
 恋愛に関してはアブノーマル要素が多分に含まれてしまうけれども、
 それは私が悪いであるので、放っておけない要素を持つ私が悪いので。
 苦情は絢瀬絵里にお願いします。


724以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/03(月) 02:58:47.29bUsbbgzZ0 (4/4)

「シチュエーションや、どのように演技すれば良いのか、
 その辺りのことはこの紙に書いてありますのでチェックして下さい」
「私に有利な条件をつけてくれるのね?」
「すごくエロい感じに書けましたので、それを見ながら羞恥に震えるあなたを
 みたいとお嬢様がお望みであったので、是非そうしてください」
「おかしいわね? 演技を始める前から演技を求められている……」

 とはいえ苦情出しても受け入れてもらえないので、
 言われた通りのことをやるほかない。
 精一杯反発したところで、蚊でも潰すみたいに私が潰されるので。
 羞恥心をかなぐり捨てて、紙に書かれたエリーなる魔法少女が
 ひたすら悪役から陵辱されるシーンを想起し、演じるための準備をする。
 一応そういうゲーム(純愛)を作らねばならない目的もあるので、
 それではあるけれどそのための準備も兼ねているんだと思う。
 そう思わないとやっていられない。
 
「絵里、演技というものは、現実に存在しないものを体現することにより成り立つ
 また、聞いた人見た人が体験したと錯覚してしまうくらい、
 そんなリアルな感じになると良いとされているわ」
「おかしいわね? 言っていることはまともであるのに
 今から私が演じるのは魔法少女が触手に二穴責めされるシーンだけど
 それで本当に体験したと錯覚してしまって構わないの?」
「私が絵里に陵辱されるのであれば、構わないと思う
 勇んで闇堕ちしてくれていいのよ?」
 
 足が棒になったみたいな精神の鈍化を覚えつつ、 
 一度突き飛ばされてば二度と起き上がれることはなさそうなくらい疲労感があり。
 演技の前にはこういうものだという真姫のアドバイスも手伝い、
 積極的に現実を放棄したい衝動にかられた。

「人はこういう状態の時に耳かきボイスを聞くのかしら?」
「仕事でやったことあるけど、ブランドが違うけどスタッフは同じだった」
「そういう裏事情は暴露しなくていいのよ?」


725以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/05(水) 01:33:19.432dXLccVO0 (1/9)

 私の声がとある声優さんに似ていると言われたことがあった。

 真姫は私の声はいい声だと言ってくれる。
 私に辛口な人たちは声だけは良いよねって言うこともある。
 〇〇だけはいいよねの確率が高いけど、〇〇に当てはまる言葉が複数――喜んでいいの?

 淫靡な台詞を言わせられるたびに、
 もっともっと聴きたいと言ってくれるのが嬉しくて、
 ついついどんなリクエストにも答えてしまう。
 ――私が淫猥ではなく演技にハマったからである、エロからではない。

 真姫のリクエストを受け続けてきたことを少しばかり後悔している。
 後悔と言葉では生ぬるい、黒歴史にするにはその後に起こった事象は私に深い傷を残した。
 聞かなければよかった、
 そんなふうに思ったことも何とかあったような気がした、
 そのこともたまたま思い出してしまった。
 ちなみに今私がいる場所は和姫ちゃんが運転する車の中。
 
 淫猥な台詞を読まされることはど嫌いではない。
 好きかと言われると疑問、面白くはあるけど。

 淫猥な存在であるから台詞を読むのが楽しくて仕方がないというわけではなく、
 そのようなセリフを読む職業な人をリスペクトしているからである。
 実際にやってみろと言われればちょっと勘弁してくださいみたいな台詞も、
 演技という大義名分のもと、
 高らかに読み上げる声優さんと呼ばれる職業の方は本当に素晴らしい存在だと思う。

 エロい演技をしろと言われても演技ができているかどうかも分からない。
 それに未だに処女、エロいかどうかもわからない、真姫(処女)はエロいって言ってくれる。
 彼女が言うほど私が演技ができてるかどうかも分からない。
 ただひとつ言えることは読み上げてるセリフが、
 多くの方に聞かれていると羞恥心を刺激するのである。


726以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/05(水) 01:34:12.492dXLccVO0 (2/9)

 人前で台詞を読み上げさせるのは可哀想です、
 ――こちらを心配する和姫ちゃんの台詞もあり、
 衆人環視からは避けられた状態で淫猥なセリフを読まされ続けていた。
 大義名分は演技対決ではあるんだけれども、
 対戦相手にある西木野真姫はあんまりセリフを読まなかったような気がする。

 乗せられるがままに対魔忍になったような気分で、
 シラフでは言えないような、いやらしいシーンの台詞も読んでしまった気がする。
 上手だとをおだてられるばかりに、
 ここがホテルの中だということも忘れ、
 私の声聞いたとあるメンバーが「エリちって経験ないよね?」と言い、
 その問いに「脳内では経験してるだよ、ファイトだよ!」って誰かが応えた。
 誰かを追求するつもりはない、私はわかってる。

 私、絢瀬絵里現在護送中――監視人園田海未。
 卑猥なセリフを高らかに読み続けた結果。
 ふと気が付くと周囲に明らかに偉そうな方がいた。
 スーツ姿の男性、社長とか、会長って言葉が似合いそう。
 その彼が鞠莉ちゃんを伴っている。
 鞠莉ちゃんの表情がこちらに対して敵意にも似たものだった。
 「ノξソ・ω・ハ6」みたいな感じ。敵意あるのこれ?

 もちろん彼女が本気でこちらを敵意をもって睨みつけるような表情をするわけがない。
 ――半分くらい呆れが入っているから、敵意も幾分マイルド。
 ポーズだとは後で白状してくれた。

 果南ちゃんなんかは片手でリンゴを叩き潰しそうなほど怒っている感じだった。
 千歌ちゃんの目つきが殺人犯みたいだよ!? という声で我に返らなかったら、
 絢瀬絵里は果南ちゃんの手で握りつぶされてた、顔を掴まれてグイッと。
 「∫∫( c||^ヮ^||」みたいな顔で、サイコパスか。


727以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/05(水) 01:35:05.312dXLccVO0 (3/9)

 でも私にとってはそんなことは遠く霞んでしまうほど、
 その後に起こったイベントシーンが私の脳内にこびりついて離れようとしない。
 演技対決はグダグダであったし、
 結構いやらしいセリフ高らかに読んでるとストレス解消になるかもね! 
 と真姫にフォローしなければならないほど、
 矢澤にこのセリフは私の脳内から離れようとしない。
 聞いた記憶の戻っているμ'sのメンバーの表情も含めて、
 何もかもが私の脳裏に張り付いて離れない。

「いつから気が付いてた?」
「聞いても疑わしいのは事実でした、
 そうではない矢澤にこというのを想像できませんでした、
 修行が足りませんね」

 エロい私を矯正してくれる人ということで隣には海未がいる。
 彼女は私の肩に頭でも乗せて、
 海が綺麗ですねと言わんばかりな――
 ビーチに体育座りをしながら寄り添う恋人同士みたいな感じで私と世間話を続けている。
 雰囲気はまるでそんなんじゃない、世間話という体ではあるけど。

 西木野真姫が記憶の戻っていない矢澤にこを前面に出し、
 ニコも真姫ちゃんがなんでこんなことをしているんだろうみたいなことを言いつつ、
 それでも私を楽しませんがためにイベントに参加してくれた。

 μ'sにとって、
 少なくとも記憶の戻っている面々にとって。
 μ'sだけじゃないAqoursもA-RISEも――
 にこにこにーって言えばいいの? なにそれ? あのポーズって何かのギャグ?
 という発言がどれほど衝撃を与えたか、。

 なんでこんなイベントが起こされたのか。
 高らかに笑いながら完結へと向かうことは出来なかったのか。


728以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/05(水) 01:35:43.182dXLccVO0 (4/9)

 そして今さらながらに月島農場に向かっているのはなぜであろうか?
 よっちゃんが聖良ちゃんに謝りに行きたいのを知ったダイヤちゃんが、
 顔を繋いでくれたがために今回の大元のイベントが企画されたのは確かだけども。

 パンフレットに書かれたミルクちゃん歓迎会。
 シリアスな雰囲気のまま聖良ちゃんはミルクちゃんになるのかと思うと居た堪れない。
 それとも何か意図があってミルクちゃんになるのか。
 私は疑問でならない、だってミルクちゃんはやばい。
 ――ミルクちゃんはひとまず置いておいて。

「お父様が健在というのがよもや伏線とは……」
「絵里は知っていたのですか? ニコの口癖が
 お父様の遺言のような、メッセージ由来のものだと」
「とりあえず知っていたのは希だけだったみたいね?
 あの子もニコから聞いて知っていたというより、
 情報として把握していたと私は見るわ。
 ああいう感じの希を見たのは久しぶり」
「おちゃらけていられませんでしたね、
 必死におちゃらけようとしたんですけど」
「本当におちゃらけるつもりで私に対魔忍の快楽堕ちの台詞を言わせるつもりだった?」
「今でも言って欲しいくらいですけど、
 さすがにこの現場では空気を読んで言わないことにします」

 園田海未が沈痛な表情を浮かべながら、
 真姫みたいに髪の毛を指でいじる。
 行儀が悪いですね申し訳ありません――
 髪の毛をいじっていたことに気がついたと言わんばかりに。

 私も今どんな表情をしているのかわからない、
 なんでという感情が私の中に対する渦巻いている。
 一番辛そうにしていたのはよっちゃんだった気がする。
 記憶の戻っている面々の中で辛そうにしていないのは誰一人いなかった気がする。
 気がするというのは私の中でダメージが大きすぎて、
 そうであったくらいの認識しか覚えていないからである。


729以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/05(水) 01:36:14.552dXLccVO0 (5/9)

「真姫は今どうしているの?」
「絵里、誰かのことを考える前に、まずは情報を整理しましょう
 辛いかもしれませんが、今はあれが現実なんです」
「……そうね、少し情報を洗ってみる……海未も手伝ってくれる?」
「はい、とはいえ、記憶を洗うという作業に私は役に立てるとは思わないのですが」
「支えになってくれればそれでいい、
 考えるとすれば――高校時代、μ'sとしての1年間」

 ニコがにこにこにーを恥ずかしいポーズであるといい放ち、
 こんなポーズは私にはできない――
 という発言を最初はギャグのように思った。
 ギャグにしか思えない台詞であった。
 彼女の代名詞みたいな存在で、
 少なくともにこにこにーを抜きにして、
 矢澤にこという存在を語ることはできないと、
 勝手に考えていたフシすらある。

 彼女がそのポーズを本格的に取り始めるようになったのは、
 少なくとも私が知る限りではμ'sとして踊るようになってからだと思う。

 高校入学当初にそのポーズをとっていた記憶はない。
 一応生徒会役員としてスクールアイドル部の活動は把握していたから、
 ステージには何度か顔を出していた記憶がある。
 それは希も知っているはず――私の保持されていた記憶が、
 本当に私だけの記憶家は疑わしいけど。

 にこにこにーに関しては二度と顔を合わせたくないような
 元々のスクールアイドル部の人達にも聞いてみて確かめることはできる。
 この世界では彼女達とは険悪な仲になっていないから、
 会いたいと言えば会ってくれる可能性がある、忙しければその限りではないけど。

「ニコがキャラづくりの重要性を指し示したところ?」
「凛が、ちょっと寒くない? と言った記憶があります」
「当初、本気ではなかったみんなが見たら
 矢澤にこの本気は空回りしていた可能性がある」
「絵里も空回りしていましたよ」
「それは私も自覚してるからいいの、海未も言うようになったわね」


730以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/05(水) 01:36:53.232dXLccVO0 (6/9)

 ため息をつきながら海未の頬を突く――そこまで言って内緒なんてずるいわ。
 それは私の台詞なのか。
 記憶は黒歴史も蘇らせてくるけど、
 そこらへんの痛みに負けて過去の記憶を戻す作業を止めることはできなかった。
 なんとなく、そこらへんの痛みはむしろ体験していた方が
 衝撃的な現実についてこられるかもしれない。

「とにかく、μ'sにとってにこにこにーは、矢澤にこの代名詞って言うか」
「その結論はひとまず先延ばしにしましょう、
 今はそうではない、そう結論付けてどうすれば良いか
 安心してください絵里、私も考えます一人で抱え込まず
 もっとμ'sのメンバーを頼ってください」
「そうね冷静になれるかどうかはわからないけれども――」

 あまりに衝撃的な事実が起こってしまったせいで、
 ツバサへのガチ告白を白状するのは先延ばしされることになった。
 
 ――ってそうじゃない。
 何かしら意図を思って今回のイベントは企画された。
 発案者は西木野真姫――
 彼女はそんなことないと否定するかもしれないけどニコのことをよく観ている。
 少なくとも私たちは今まで、矢澤にこがにこにこにーをやった記憶がないと
 まったく気が付いていなかったくらいだから。

 もう少しおちゃらけた空気になるものだと思われた。
 ちょっと前まで私の気分は対魔忍ユキカゼ。
 ことりや凛の反応から観るに
 そんなに衝撃を受けているのかと言われても過言ではない。
 今まで記憶が戻っていないと嘘をつき続けていた国木田花丸ちゃんでさえ、
 本当に深刻な口調で冗談はよしこちゃんとよっちゃんに向かっていったので、
 Aqoursにも一定の衝撃を受けさせたものだと思われる。
 そのおかげで果南ちゃんが私をトマトにするのは改めてくれた。

「私たちは彼女に記憶を取り戻させるべき?」
「どうなのでしょう? 私はそうしない方が良いと思いましたが
 第一、色々なことが私たちにとって都合が良かったではないですか
 これからもそれが続くのだとばかり思っていました。
 Aqoursとともにイベントごとに参加し、ラブライブの優勝ももしかしたら
 彼女が――千歌が廃校をきちんと受け入れて
 笑顔のまま高校生活を終えてくれるのではないかと
 そのための世界が今の世界なのだと」


731以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/05(水) 01:37:23.432dXLccVO0 (7/9)

「それはねもちろん誰もに都合が良い世界だったら、
 歪みというものはもちろん存在してしまう、
 誰しもに都合がいいなんてことは本来ありえない」
「そのようですね、見て見ぬふりをしていたのかもしれません
 不覚だったといえばそれまでかもしれません」

 和姫ちゃんの運転は相変わらず運転はうまい。
 一昔前の刑事ドラマみたいな運転もできるみたいだけど、
 今そんなことされてしまうと私の頭の中が大変なことになってしまう、
 できれば控えてもらいたいやりたそうにうずうずしてるのはわかるけど。
 
「悪くないと思ってたでしょ? この世界
 文句や不満はある、でも感想としては悪くないだった」
「そうですね、確かに不平不満を漏らすばきりがありません。
 薄ら寒いと思うこともあります。
 でも、よっちゃんがああすることによって一時的に仲良くなった私たちが、
 本当に仲良くできるかもしれないという世界が悪いものではあるわけがないのです」
「あなたまでよっちゃん呼びなのね海未、あ、ごめんなさい茶化すようなこと言って」

 これであらゆる面々がよっちゃんのことをよっちゃんと呼ぶようになってしまった。
 海未の声から察するに彼女への好感度はかなり高いと思われる。

「なんとかしなければなりませんか」
「私たちが犠牲にしたものの大きさが見えてしまった。
 犠牲と言うより、まあいいかですませていたものが、
 自己愛に包まれていた自分に気がついてしまった」
「でも私たちは受け入れなければならない、
 そうであると思っていたんですよ、そうであると……」
「これは仮の提案、海未にだけは白状しとく」
「光栄です絵里、そのシリアスなあなたを観ていると
 白雪姫を起こすみたいにするところでした」
「その前後の脈絡がないあなたの本音っていうのが私は聞いたほうがよかった?」


732以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/05(水) 01:38:07.352dXLccVO0 (8/9)

 私は大きく息を吐きつつ、心の中に整理をつける。
 どのように言っても感情の揺らぎを感じる。
 それほどに大きな決断を迫られた気もする。

 おそらく私の決断は、みんなが受け入れてくれることだと思う。
 少なくともμ'sとA-RISEは――

 Aqoursはどうだろう? ダイヤちゃんには泣かれてしまう可能性があるけど――

「私たちはなかったことになった方がいい」
「そのようですね」
「期限は来年の3月、いや浦の星の廃校祭?」
「それが良いでしょう、新しい学校には私たちは顔を出せないので」
「理亞にもそろそろルビィちゃんと仲直りしてもらわないと
 思い残すことが多すぎて何から手を出していいか」
「千歌はどうしますか?」
「過去の記憶を取り戻してもらいたい、そして受け入れて欲しい。
 ……そしてAqoursとして、あの曲を歌ってもらいたい」
「そうですね、勝手な話かもしれませんが
 創作物ぐらいでは私たちがいた痕跡を残してもいいかもしれません。
 ――別れは辛いですが」

  窓を覆うように黒い幕がかかっているから外の景色までは分からない。
 でも先ほどから曲がりくねった道の連続みたいなので、
 山を登っているんだな程度のことはわかる。
 車の酔いが激しい人なんかは大変よね……などと現実逃避をしつつ。
 あの曲の歌詞を千歌ちゃんに完成させてもらう心づもりでいた。
 海未にも協力は頼むつもり、
 やってくれるとは思うけど礼節は尽くさないと。

「ところで絵里。
 私の聞かされているミルクちゃんなる存在のステージイベントですが、
 本当に彼女が水着で踊るのですか?
 共同生活をしましたが、過度に露出することすら稀でしたよ?」
「とても残念なことに水着で踊るわ……
 すごいわよ? もう本当にすごいのよ?」
「本当にすごいですか、現実逃避をするために、
 よく目に焼き付けておくことにしましょう」
「本当に現実逃避のため? すごく楽しみみたいな顔をしているけど」
「あんな淫猥なセリフを読み続けていた絵里の発言とは思えません
 今は私一人しか聞いていないのでもう一度読んでもらって良いですか?」
「わかったわかった、ミルクちゃんのイベントの時に耳元で囁いてあげるから」



733以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/05(水) 01:40:42.152dXLccVO0 (9/9)

海未ちゃんルートの最中ににこっちがにこにこにーやってたら
設定忘れて勢い余ってのミスです、やってたらタコ殴りにしてください……
亜里沙ルートで一回やったのは覚えてるんですけど。

そして、聖良姉さまのイベントですが、
おそらく次回以降メインを張るのは、理亞ちゃんやよっちゃんなので、
海未ルート(笑)みたいな感じですね?


734以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/05(水) 13:09:37.76MIzPPZFSO (1/1)

ツバサルート入ったのかと錯覚してた


735以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/06(木) 19:03:01.97sPVaM/qu0 (1/1)

右手首が特に意味もなく激痛が走るので、
しばし更新を控えます、申し訳ないです。

前々から痛い痛いと思ってスルーしていたら、握力がやばいので
しばしキーボードでの執筆を控え、音声入力で行きます。
誤字脱字があれなので、投稿はできませんが執筆はするので、
できるだけ早々に復帰できればと思います。


736以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/09(日) 18:58:38.54/B+ehobB0 (1/6)

 過去に月島農場に訪れた時には、
 岐阜県には土地があり余っていますので東京ドーム何個分の土地と言われても、
 あんまり自慢にはなりませんから――
 何ていう風に、歩夢ちゃん言われて鵜呑みにしたことがある。
 今から思えば、その通りなのかもしれないな、と思う自分もいるし。
 だからってこれだけの敷地を様々な動植物と一緒に過ごすのは大変でしょう?
 と疑問に思う自分もいる。
  彼女たちはアイドルをやっていた時代の方がよっぽど楽しかったと語ったけれども、
でも牛の万次郎とかと一緒に過ごしている彼女を見て、この姿は妹の亜里沙には見せられないなと思っていた。
 すっかり出番がご無沙汰のような気もする妹を隣に置いて、
 牛や馬、様々な動物を眺めつつ、私たちは歩夢ちゃんから解説を受けていた。

「うちは米も作ってるけど、やっぱり一番は牛だね
 乳製品のよく、ミルクちゃんのイベントで出してね
 売り上げがいいんですよ」
「さすがね、前からあなたの経営者としての資質は
 この子よりも上だなって思ったし」
「自分のことを棚に上げ、私をディスった上に、
 何の根拠もない歩夢に対してのマウント取りお疲れ様です」

 妹の絢瀬絵里の評は誰よりも的確。
 反論の要素がないし何よりも正しい。頷きたいところではある。
 私なんぞが、あなたは優れている! といったところで、
 何をもってして、その言葉を吐いているのか根拠がない(ように聞こえる)し。
 歩夢ちゃんはそれを苦笑いしながら聴きつつ、
 相変わらず亜里沙はお姉ちゃんのことが大好きなよねなんて言った――
 どの辺りがそう聞こえるのか彼女の耳を疑うしく思ったけれども、そこらへんをツッコんでしまってもしょうがない。

「絵里さんはどうして私が経営者として優れているの――
 なんてトンチンカンなこと言ってしまったんですか?」
「オチを求められているような気がするけど、 
 あなたは人を使うのが上手だから、この妹。
 人を使う時に私情を入れてしまうから
 上に立った時に失敗する確率が高いの」
「相変わらず分かったような事を言っているようですが
 そんなことはありませんよね歩夢」
「ごめんね亜里沙、今の発言を聞いたこちらのからすると
 絵里さんが正しいと思う、あなたは人の上に立ってはいけない人よ」


737以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/09(日) 18:59:15.42/B+ehobB0 (2/6)

 ふてくされたように唇を尖らせる妹。
 どうやら自覚は持っているようである、南條さんも苦労してたし。
 私はそんな妹を見て可愛いなぁと思いつつ。
 さらには牛の解説を聞いていた。
 牛に関してそこまで語ることがあるのだという驚きをもった。

 月島農場にたどり着いた時、
 バニーガールで晒し者になるかなと思って警戒したんだけども。
 残念なことに(?)私に話しかけてくる人は誰一人いなくて。
 海未も絵里の人気が地に落ちましたね、まるでかつてのソルゲ組のようです。
 と思わず本音(自虐)が出てしまうくらい、私は相手にされなかった。
 車を多数分譲させ、おそらく私を含めないメンバーで何らかの話し合いが行われ、
 これからについて話し合われたものと思われたけど。
 その辺りの話題を私の耳に入れないのが正しいと思う。
 自分で言うのもなんだけど、そこら辺の面倒ごとを抱えて倒れるのはいつものことであるし。
 海未を穂乃果に連れて行かれて、一人寂しくいると、
 妹が姉さんの居場所はあそこですよなんて牛舎を指さしながら隣に来た。

「亜里沙がPとして失敗する時
 必ず誰かのことを考えるんですよ、だいたいプロデュース相手なんですけど」
「とても残念な事によく分かるわ、
 Re Starsもそれで成功しなかったし」
「絢瀬絵里というイレギュラーがいたせいでプロデュースが成功しなかったのです
 結論から言えば私は悪くないと言えるでしょう」

 セイントムーンが亜里沙に手を出されなくて良かった。
 と、歩夢が言い、私も同調してRe Starsを赤羽根Pが担当したらどうだったかな?
 なんて言いながら妹の様子を眺める。
 ちなみにRe Starsとしてアイドルグループとしてデビューしてパッとしなかったのは、
 メンバーのが不仲だったというわけではなく、
 絢瀬絵里をみんなで取り合って険悪だったというわけでもなく、
 単純にアイドルグループとしてパッとしなかったせい。
 もちろん亜里沙が悪いわけではない。
 彼女が私情を交えず、プロデューサーとして私たちを扱っていれば、
 売れる要素はあったんだと思う、英玲奈やツバサもイケると言っていたし。


738以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/09(日) 18:59:54.73/B+ehobB0 (3/6)

「でもこの子たちは私情は関係ない
 亜里沙も今後に人を使うんだったらこの子たちから学ぶといいよ」
「歩夢はどこに行くつもりなんです?」
「よっちゃんが謝ろうとして追いかけているのに
 ふてくされているお姉さんを調教しに」

 私が後ろはやめてあげてねといい、
 妹もあんまり過激なプレイはやめてくださいよと言い、
 歩夢ちゃんは何一つ否定をしなかった。
 鹿角聖良ドM疑惑が私の中であるけど、
 今のところその疑惑は解消される予定はないみたい。

「牛から何を学べというのです」
「私は珍しく答えが分かっているけれど、
 亜里沙のことを想って答えは教えてあげない」
「自分が分かっていないからそのようなことを言っているのでしょう?
 ですが私は姉さんよりも優秀なので
 姉さんよりも優れた答えを見つけ出しましょう、
 余計なことは言わないでください」

 妹も感じるものがあるらしく、
 万次郎を眺めながら彼は牛のくせにイケメンですね、と言っている。
 彼と言っている子は乳牛。

「絵里ちゃん」

 振りかえるとことりがいた。
 海未や穂乃果が二人で話し合っているみたいなので、
 記憶が戻っていない組の彼女はあぶれてしまったのだろう。
 二人が仲良さそうにしているのよく寂しそうな目で見ているから、
 私もついつい彼女を構いたくなってしまう。
 心優しい子であるという印象は過去から変わっていないし、
 彼女の中で評価が高かったというのは感じている。


739以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/09(日) 19:00:36.00/B+ehobB0 (4/6)

「絵里ちゃんの隣にはいつも違う女の子がいるね?」
「私のハーレムに入る? 挑戦者は随時募集中よ」
「ハーレムは遠慮しておくけど、かまってもらっていいかな?」
「私に構わずどうぞ、女の子と見るとこの人は誰に対しても手を出しますけど」
「妹がこんなことを言っているけれど、そんなことしないからね?」

 ことりは楽しそうにコロコロと笑いながら、
 妹に断って私の隣に来る。
 その点の配慮を過去から感じてはいたけれども、
 露出しないように心がけていたのは知ってる。
 彼女はとても可愛らしい、それこそ人から嫉妬されてしまうほどに。
 μ'sの中でも一番の美少女は誰かなんて話になれば、
 南ことりか西木野真姫の二択になるみたい。
 残念ながら絢瀬絵里は選外。
 デザイナーとして才能発揮する際、美少女デザイナーなんて
 呼ばれるのが嫌で、外見にできるだけ着目されないように口調を荒くした。
 そして今も女性からの評価はあまり高くないようである。
 μ's以外のメンバーとは今だに壁があるみたいで、
 他人からどう思われるというより、
 嫌われる確率が高いということを彼女は察しているみたい。
 ちなみによっちゃんと理亞はことりを観ると、この人誰みたいな顔してる。

「絵里ちゃんは本当に女の子を見ると手を出すの?」
「手を出すとどうなると思う? 亜里沙を見て十秒で答えなさい」
「あはは、他の子に背中を刺されて終わりだね」
「でしょう? ちなみに今は誰が刺してくると思う?」
「誰かって特定することはできないかな」

 ことりは聡い子だからある程度は察しているみたい。
 もちろん本当に刺してくるような子はいないけれども、
 荒れそうな人間は何人かいる、親友の希もそうであるし、海未もそう。
 ツバサは刺してくるというより
 私を振り向かせようとして気合を入れてくるから何とも言えない。
 ちなみに彼女は現在ぷりぷりと怒っている。
 告白まがいのことをしたのに、
 ニコのことでそっちのけにしてしまった私にご立腹。
 子どもみたいに無視したり睨み付けたりするのではない。
 怒っているから話しかけるなと言って、理亞を伴って牧場に入ってしまった。
 私に話しかけてもらおうとしているのが丸わかりではあったんだけれども、
 それをしてしまうとツバサルートが開放されてしまいそうであるので、
 そこら辺の機微に詳しい(エロゲ由来)理亞に後を任せることにした。


740以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/09(日) 19:01:06.13/B+ehobB0 (5/6)

「ところでこんなカードがあったんだけど」
「なんか入り口のところで置いてある紙みたいなやつ?」
「この人確か、よっちゃんに追いかけられてる人だよね?」 

 亜里沙も私の隣に寄ってカードなるものを眺める。
 それはポストカードと呼ばれるもので、ミルクちゃんが印刷されていた。
 これを入場者に配っているのか、
 それともセルフサービスで持って行ってもらうようにしているのかはわからないけれども。
 少なくとも普通の牧場にはビキニを着たお姉ちゃんのポストカードが置いていないと思う。
 妹もこれぐらい好きな人を使えるようになったのならば、プロデューサーとして優れた才能を発揮できた可能性がある。

「ここって別にいかがわしい場所とかじゃないんだよね?」
「アイドルのイベントは行われているそうよ?」
「野外ステージみたいなやつ?」
「そうですことりさん、
 ここではミルクちゃんが牛たちと一緒に踊るんです」
「ここで牛と踊る……この格好で――
 やっぱりここいかがわしい場所なんじゃないの?」

 彼女の疑問はごもっとも。
 SaintSnow時代のクールなイメージとはまるで違う、
 超絶電波ソングを歌うミルクちゃんを観。
 私はあの人誰って言ったし、ツバサもあの人誰って言った。
 聖良ちゃん曰くあれは歩夢ちゃんに強制されてという話ではあったんだけれども、
 どこをどう調教したらあの真面目にクールでかっこよかった鹿角聖良ちゃんが
 あんな風に電波ソングを高らかに歌ってしまうのか。
 ちなみに作詞はすごく有名なアニソンのシンガーソングライターの人、
 私でも聞いたことがある人で畑……なんたらって言ったっけ?
 
「いかがわしいとは心外です」
「聖良ちゃん」
「あれはミルクちゃんの正装です
 いかがわしい目的があってあのような服装をしているのではありません」
「ことりや亜里沙がすごく疑わしいっていう態度を隠していないけれど
 鹿角聖良ちゃんはそこら辺ちゃんと反論できる?」

 よっちゃんから逃げ出して、偏差値30の彼女が出した結論は、
 絢瀬絵里の近くにいればフォローをしてくれるだろうということだった――実に的確である。
 ちなみによっちゃんからの謝罪を受け入れてもしょうがないという態度であるし、
 逃げ出しているというのもある程度ポーズであるのは知っているけど、
 少なくとも不遜な態度を取りつつ、お高くとまっているようにも見える彼女が、
 ステージに立つと牛柄のビキニを着てミルクちゃんと化すのは未だにおかしいと思う。
 自信満々な感じで腕を組みながらこちらを見下すように眺めているけれども、
 私たちの手にあるのはミルクちゃんのポストカードである。
 どうしたって目の前にいる彼女と比べてしまう、
 そのことにどうやら鹿角聖良ちゃんは気が付いていないようであった。



741以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/09(日) 19:02:52.38/B+ehobB0 (6/6)

手首の事情を鑑み、しばらく不定期の更新になりますが、
お付き合い頂ければ幸いです。

いつも読んでくれる方々へ感謝の念しかありません。
ありがとうございます。


742以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/09(日) 20:07:53.90xt8GkP5LO (1/1)

ミルクちゃんポストカード俺も欲しい


743以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/16(日) 15:25:26.13EN97AfiJ0 (1/2)

 ただいま時刻は正午を過ぎている。
 私たちはお昼ごはんを食べようなどと会話をしながら、
 岐阜県は月島農場に到着した――
 この場で鹿角聖良ちゃんはアイドルイベントを行い。
 ミルクちゃんとして男性方の前で歌って踊っているのである。
 気の強そうな瞳、抜群のスタイル、
 水着の写真集でも出せばツバサの数百(千?)倍は売れたであろう。
 普通にしていても誰かを見下してるように見える――
 そんなツン要素の強い鹿角聖良ちゃん。
 絢瀬絵里なんて下駄箱に入った消臭剤、
 それくらいの存在価値しかないみたいな顔をしているけれども、
 南ことりと絢瀬亜里沙の両名は一人でにらめっこするみたいにポストカードを眺め、 
 やがて決断し聖良ちゃんに問いかけた。

「この水着デザインしたのは誰?」
「……!?」

 ことりがおずおずといった感じで鹿角聖良ちゃんに問いかけた。
 彼女のおっかなびっくりみたいな態度は注目に値するけれども、
 聖良ちゃんの驚きっぷりは半端なく、印籠差し出された悪役みたいな顔をして、
 
「それはイベント限定で配られた……」
「牧場の入り口にあったけど」
「歩夢めぇーーーーーー!?」

 イベント限定で売れ残った――
もしくはゴミとして処理する予定だったものを私たちに嫌がらせのような感じで配布する。
 彼女は先程に会った時に結構ニコニコしていて機嫌が良さそうではあったんだけれども、
 聖良ちゃんは何かと逆鱗に触れるようなことを迂闊に言ってしまったりもするので、もしかしたら腸が煮えくり返るようなこともあったのかもしれない。
 絢瀬姉妹に対しては対応が普通であったので、
 私は何事か怒らせるようなことをしたということはあってほしくない、お尻は調教されたくない。

「そのデザインは有名デザイナーに頼みました、
 ちょうど知り合いに滋賀県出身のデザイナー候補生がいたもので」
「このデザイン何か引っかかる。
 淫靡なんだけど、それだけじゃない聖良ちゃんの魅力を存分に引き出す――
 写真を見ただけでこれだけの仕事をするってことは優れたデザイナーであることは確実……」


744以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/16(日) 15:26:53.00EN97AfiJ0 (2/2)

 妹に脇腹のあたりを小突かれる。
 ことりの記憶が目覚めようとしているのであれば、私は積極的に戻してあげたいと思っていた。
 ブラックな部分まで元に戻られてしまうと、
 私の精神的な安定が保たれなくなるんだけれども、
 だからといってもとに戻ることまでは止められない。
 記憶を検索をするみたいに調べてみると、
 希が呪いをかけるような現場にはだいたい私が隣に立っているのである。
 ことりがブラックになる現場にもいたようで、
 むしろ私がブチ切れたからこそ希がそんなことをした、
 みたいな映像が脳内に浮かび上がって困る。
 唐突に苦笑をして頭を抱えそうなばかりに俯いた私に、
 見上げるような感じで心配そうな目を向ける妹ではあったけれども、
 心配をされてしまうと姉のメンタルが折れかけてしまうと気が付き、スネのあたりを蹴り飛ばす――悶絶するほど痛い。

「ことりならどんなデザインにする?」
「なんだろう今まで全然思い浮かばなかったようなものが
 泉が湧き出るみたいに浮かんでくる……」

 紙とペンをご所望であったみたいなので、
 黒澤サファイアさん提供のスケッチブック(異次元から出てきた)をことりに手渡し、
 みるみるうちに聖良ちゃんの衣装が出来上がった。
 監獄でムチでも振っていそうな黒を基調とした衣装が出来上がり、
 それを見た私たちはこれを鹿角姉妹が着たらとても映えそうな衣装だなと思った。
 衣装というよりもボンテージに近い感じで、
 スクールアイドルとしてはこの衣装は着られないかもしれないけれども、
 さらし者になるような牛柄のビキニを着させられるよりは鹿角聖良ちゃんに似合っているような気がした 。
 活動期間としては少なかったけれども、
 かつては絢瀬絵里と鹿角理亞の二人で純白の衣装を着て活動をし、
 もうすぐ死ぬんですか? 死装束ですか?(by朝日さん)と突っ込まれた経験もあった。その時の理亞のあだ名は大天使。
 ちなみに私の衣装を見て一時期ツバサも真っ白な衣装を着ていた、
 当人いわく死装束であったらしいけどあいつは何があっても死ぬ要素がない。

「なんだかわからないけれど、姉妹で歌ったら
 こんな感じかなって思った」
「ありがとうございますことりさん、大切にします
 いつか姉妹で歌う機会があれば、この衣装を身につけたいと思います」
 
 そして何しに来たのか忘れてしまったみたいに、聖良ちゃんがそのままスタコラと退場し、この場には南ことりと絢瀬姉妹が残った。

「ねえ絵里ちゃん」
「何かしらことり」
「ちょっと椅子になってもらえるかな? いいデザインが思いつきそうなの」
「それは私が椅子にならないと……ダメみたいねわかった、
 ちょっと亜里沙、この椅子一人用だから、あなたまで座る必要ないから」

 あくまでもピュアピュアなふたりの椅子になった私。
 その後、列を作って、みんながみんな私に座りたがったけれども、
 私が椅子になっている最中に、愛されていますね、
 という理亞の言葉は聞かなかったことにした。


745以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/22(土) 16:17:48.14EGZAinLp0 (1/4)

 農場で行動していようがいまいが、時間が来ればお腹がすくのが人類である。
夕食の作成に取り組むということになった際、私が私がと言うリクエストは存在していたのだけれども、
 実際に星空凛に料理を作らせてしまっては多くの人間に後日からの活動に影響が出てしまうし、
 鹿角理亞に料理を手伝わせれば、気が付くとお菓子という名の危機物を作成してしまうので、やはり後日の活動に影響が出てしまう。
 なお、初日からミルクちゃんのライブを見ることができると期待していた園田海未は、
 絵里の力で何とかしてラッキースケベみたいなイベントを起こすことはできませんかとお願いしてきたのだけれども、
 いまだかつてそんなイベントを引き起こした記憶が……ないことはないのだけれども、
 その辺りの事は優木せつ菜さんにお願いして欲しいところ。
 かつての彼は1日に数度虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の面々とラッキースケベイベントを引き起こしていたらしく、
 主要な被害者は上原歩夢ちゃんとか桜坂しずくちゃんあたりで、
 今回のループ世界でも着替えを覗かれている上原歩夢ちゃんにはそろそろスケベな神様からお詫びの言葉でも告げていただきたい。
 ただ海未は取り繕うように、彼女たちに提供されてる楽曲の作詞のレベルを知りたいであるとか、
 イベント事に不埒な輩が存在していないか確かめる、みたいな言い訳を重ねて、
 牛柄のビキニを着た鹿角聖良ちゃんには全く興味はないみたいなことを言っていたけれども、
 どのあたりまで彼女の言葉を信用していいものかは私は把握していないことにする。

 そうそう料理の話に戻る。
 夕食には私がまず作成スタッフの第一候補に挙げられ、
 多くの人間からもこいつはうまいこと使ってやればシリアスなことも忘れるだろう!
 みたいな感じで持ち上げられ囃し立てられ、料理の作成に関しては一日の長があることから、
 厳選するまでもなく、料理作成者の一員として名前が含まれることは最初から予測していた。
 かつては綺羅ツバサと一緒にこの月島農場に訪れた際に料理を作成しているし、
 その際には鹿角聖良ちゃんをアシスタントとして料理の作成をした。
 なお、私たち作成の夕食を平らげた面々は、
 鹿角聖良ちゃんが思ったより使えるということを把握していなかったらしく、
 絢瀬絵里が全部作り上げたんでしょみたいな話をしたんだけれども、
 彼女は私の意志を無視して自分の作りたいものを作っていたので、
 その辺りの事まで私が作成したということになってしまうと、
 聖良ちゃんの恨みをむやみやたらに買ってしまうことになるので、
 控えていてほしいところではある。


746以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/22(土) 16:19:12.72EGZAinLp0 (2/4)

 そのあたりの事情があるのか、それとも他に何かやることでもあるのか、
 鹿角聖良ちゃんはアシスタントとして手をあげることはなかった。
 妹の理亞ちゃんが積極的に手をあげるのを止めてくれたので、私に何かしらの敵意を向けているというのはないと思われる。
 
 先ほど多くの人が先程私の背中に座りたかったけれども、
 津島善子ちゃんと言うパートナーを引き連れて鹿角聖良ちゃんも私の背中に座った。
 詳しい経緯は把握していないけれども、恋人同士であるかのようにイチャラブする感じで私の背中の上で話をしていたので、
 良かったとは思うのだけれども、別に私の背中の上でなくても仲良くすることはできるのではないかと少し疑問ではあった。
 そうそう以前のループでヨーロッパのパリなる場所があると鹿角聖良ちゃんが主張し、
 何度説明したところでヨーロッパはたくさんの国があるということを納得してくれなかったんだけれども、
 とりあえずアメリカとヨーロッパは違う国であるくらいのことは彼女は認識しているらしい――
 そしてなぜイタリアとかフランスとかイギリスっていうのではなくヨーロッパで一括りしているのかと言うと、
 鹿角聖良ちゃんは何故かはよくわからないけど、あそこらへんの国はヨーロッパとして頭の中に入っているみたい。
 なので新婚旅行ではヨーロッパに行きたいですねみたいなことを言っていて、一体どこの国に行くのか、何をしに行くのか大変興味がある。

「絵里、手が疎かになっているわよ?」
「ああ、ごめんなさいツバサ、ちょっと今ね過去回想していたものだから」
「そういうメタネタっていうのは読者受けが悪いからやめたほうがいいと思うわ」
「だって誰か私の心の中をのぞいているかわからないでしょ?」
「物語の主人公みたいなこと言ってるんじゃないわよ」

 絢瀬絵里の料理のアシスタントとして多くの面々が手をあげてくれたんだけれども、
 でもぶっちゃけ全部絵里ちゃんが全部やっちゃうと思うから、という穂乃果のコメントで、
 そう言われてみればそうだなみたいな感じでだいたいのメンバーが手をあげるのはやめてしまった。
 その中でじゃあ私が絵里をうまく使うみたいな感じでツバサが手をあげてくれたのは大変嬉しく思った。
 先ほどまで怒り心頭みたいな感じではあったのだけれども、
 そのうちぷりぷりと怒っていることが馬鹿らしくにもなってしまったのか、
 今では普通の態度で私と接してくれている。パフォーマンスで怒っていたのは重々承知ではあるのだけれども、
 その態度が思いのほか周囲に影響を与えることに察したのか、
 それとも穂乃果の絵里ちゃん好きすぎないですかっていう冷静なツッコミが影響を与えたのか。
 
「新婚旅行にはヨーロッパに行きたいという話をしている聖良さんが言っていたけど、
 絵里はどこか旅行に行きたいって言うリクエストとかはあるのかしら?」
「そうね、今まで行ったことのない国には行ってみたいっていう要望はあるけれども、海外は遠慮しておくわ」
「あら、でも日本で行ったことのない場所ってそんなにないでしょ?」
「なぜかしらね? 乗ったら飛行機が墜落してしまいそうな気がするのよ」
「確かにあなたの死亡フラグの建て方ぶりには定評があるけれども、さすがに飛行機事故が起こる可能性は低いのではない?」


747以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/22(土) 16:21:14.52EGZAinLp0 (3/4)

 別に何か意思があって飛行機に乗らないわけではないのだけれども、移動なのか電車とか車の方が楽な私ではある。
 その方が時間がかかるけれども安上がりという事情もあるんだけど、飛行機が浮き上がる感覚がどうにも慣れなくてしょうがない。
 誰に言っても理解をしてもらえない感覚ではあるんだけれども、
 死んだ時であるとかループする前の感覚に近くて、飛行機に乗ることはちょっと恐怖感を抱いてしまう。
 追及されれば死んだときの感覚を思い出すから嫌、と説明するつもりではあるんだけれども、そこをよもや追求はしてこないだろうとは思っている。
 その辺りの事情に気が付いているのかいないのか、ツバサの手の動きを見てもこれぽっちもわからないけれども、
 何も言ってこないということも何も知らないということで納得しておこうと思う、余計なことを考えてもしょうがない。

「それで? この食材を見て何を作ろうというの?」
「大人数で食べるのだから鍋というのが一番かと思ったのだけれど、
 とても残念なことにこの食材では足りないわね」
「様々な食材を用意されているみたいね、以前に来た時はなかったコテージみたいな建物もあるし、なかなか儲かっているのかしら?」
「私はこの御殿をミルクちゃん御殿と名付けたいのだけれど、命名センスとしてはどう思う?」
「牛柄のビキニを着て踊れば、私もこれくらいの需要はあるのかしら」

 お互いに需要はないのではないか、そんなふうに考えてしまうのだけれども、
 そこでお互いに需要がないと言ってしまうよりかは、鹿角聖良ちゃんだからこそ人気が出た、とコメントする方が適切か。
 なお、ミルクちゃんと同じように動物達と歌って踊るアイドルというのはこの世界では多数存在していて、
 一番人気はやはりミルクちゃんではあるらしいんだけれども、
 規模としては北海道は富良野でラベンダー娘48(重ねすぎでしょ)なるグループが最大――
 全員が全員ラベンダー色の水着を着て踊るらしいんだけれども、
 そこまで行くとなんだかS○Dとか、S○とか○レステージとかから発売されてそうなビデオを彷彿させるんだけども。


748以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/22(土) 16:21:42.78EGZAinLp0 (4/4)

「唐突に話題を転換してしまうけれども、エマちゃんに水着を着てもらって、羊の毛刈りをするイメージビデオとか発売させたらどうかしら」
「話題の転換がなされていないような気がするんだけれども、確かにそれはインパクトが大きいわね……彼女は高校三年生なのよね?」
「時折メールが来て助けを求められるんだけれども……そろそろ虹ヶ咲学園にも顔を出さなければいけないかしら」

 記憶が強固に封印でもされているのか、優木せつ菜ちゃんは未だに過去の記憶を取り戻していない様子ではある。
 嫌なことがあってそうされているというわけではなく、単純に思い出すきっかけがないだけではないか、と、希もツバサも見ている様子。

「私が先日ステージに立った時は、私を見て思い出してくれるのではないかとは、淡い期待を抱いてしまったわ」
「何かキッカケが必要なのでしょうね? 私の顔を見てもツバサの顔を見ても思い出さないのであれば、見当がまるでつかないのだけれども」
「絆とか仲間意識というもので、私たちは繋がっていたけれども、弟にとってはそうではなかったということかしら?」

 彼が結局のところを男性であるから私たちの想像の及ぶところではないのか、それとも誰かさんの推測通り条件でもあるのか。
 とりあえず姉妹の再会じゃなかった――姉弟の顔を合わせても全く思い出してくれなかったので、
 それこそ本当に胸の一つでも揉ませなければ思い出せない可能性すら存在する。
 私は過去とは違いサイズが小さめになってしまっているので、
 その役回りは他の誰かに任せなければいけないけれども――

「フライパンでぶん殴ってみるとかどう?」
「確かに昔そういうスーパーファミコンのゲームがあったような気がするけど、
 仮に殴って記憶が目覚めなかったら私たちは拘束されるのではない?」

 過去の優木せつ菜ちゃんからは想像できないほど、現在の彼女はバリバリのお嬢様である。
 エマちゃんから送られてきたメールによると、
 桜坂しずくちゃんがとんでもない失礼な事を成してしまったらしく、
 仮に彼女が鎌倉の大豪邸に住むお嬢様でなかったら、たくさんの人に拘束されて東京湾の藻屑になっていた可能性がある。
 詳しい話は姉である綺羅ツバサにはお話できないけれども、
 過去のループ世界ではかなり高頻度で好意を寄せていたような気がするんだけれども、
 そういう男性に対してスカートを引きずり下ろすという行動は適切であったのだろうか今でも疑問。


749以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/23(日) 08:20:57.309i1ZlSlF0 (1/3)

 置かれた食材をだいたい使い切ってしまい、多くの人間が集う月島農場とはいえ、
何日か分の食材を先回りしておいていただけなのではと不安になり、
 ノリノリで様々な食材を使いああしろこうしろと私に指示をし続けていたツバサに
 アイコンタクトでやりすぎではなかったかと問いかけてみると、
 彼女は私の意図に気づきながらも、天井を見上げた。いざとなれば天高く昇天し逃げ出せということであろうか。

 料理に対して辛口な面々というのは存在しないのだけれども、
 普段から良い食材を食べている小原鞠莉ちゃんにあるとか、
 松浦果南ちゃんあたりにもご好評いただくことができたので、
 料理の出来に関してはかなり満足している。

 食べているみんなにも喜んでいただいて恐縮ではあるんだけれども、
 園田道場のお嬢様がこの料理を毎日食べたいと至福の表情で宣言し、
 それを聞いた西木野総合病院のお嬢様が、私
 が囲うつもりだからトラナイデ(懐かしい響き)と言った。

 しかしながら二人に対してとある語尾に「ニャ」をつけがちな女の子が、
 そんなに料理を食べたいなら私が作るよみたいなことを言い出し、
 夕食の空気は一気にお通夜の方面に向かうことになった。

 彼女には感謝しておかなければならないのだけれども、
 あなたの料理は私以外は食べることができないのよとはっきり言うこともできず、
 わかったわかったこれからあなたの料理を毎日食べるわと言ってみたら、
 すごく喜んでくれたけれども、
 隣にいたお米大好きガールさんが「また絵里ちゃんがフラグを建ててる」と言ってのけ、
 それに対抗した色んな女の子がお菓子を作るだの料理を作るだの言い出し、
 最終的にはとある妹さんが、では私の作ったお菓子を食べてくださいとにこやかに宣言し、
 やはり食卓の空気はお通夜の方面に向かった。

「ミルクちゃんのパートナー?」
「はい」

 食卓が平穏な空気のまま終了し、さてのんびりお風呂にでも入ろう、
 みたいな気分でぼーっとしていると、
 鹿角聖良ちゃんが私に向かって声をかけてきてくれた。
 ただミルクちゃんのパートナーを探したいという話ではあったんだけれども、
 私はミルクちゃんではありませんよみたいな顔をしながら尋ねてくるので、
 いやミルクちゃん=鹿角聖良ではないのとツッコミたいではあるんだけれども。


750以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/23(日) 08:24:22.279i1ZlSlF0 (2/3)

 彼女自身も設定を忘れてしまうので、たまにしか披露されないんだけれども、
 ミルクちゃんのサポーターをしている(設定上)鹿角聖良ちゃんは、
 彼女にパートナーがいないことを心配している様子ではある。
 ステージの上で人間一人が露出度の高いビキニを着ながら歌い踊り、
 子どもに見せたくないアイドルナンバーワンになりつつあるミルクちゃんではあるけれど、
 楽曲であるとかパフォーマンスのスキルは極めて高く、
 彼女のスキルが高いからこそ、他のアイドルが模倣してもミルクちゃんレベルの人間がなかなか出てこない。

「人材はいるのです、ただ名前が思いつかなくて」
「命名センスの無さはみんなに指摘されているけれども、そんな私でよければ考えてもいいけど……」

 ココアちゃんと言うと何となく矢澤にこの妹であったり、
 なぜだかよくわからないけれど絢瀬亜里沙の顔を思い出してしまうので、
 なんとなくミルクちゃんのパートナーとしてココアちゃんという名前を出すのはためらわれた。
 
 私に命名センスがないのは誰しも理解しているはずなので、
 提案したところで採用されることはないだろうと思い直し、
 彼女も数ある提案者の中の一人として私に世間話の体で話しかけているだけみたいだから、
 私も気楽に考えることにした。

「ミルクちゃんっていうのは、コンテンツの視聴層としてはどの辺りの人たちを想定しているの?」
「アイドルなのですから、当然アイドルを目指す女児向けに」

 おまえは何を言っているんだというミルコ・クロコップみたいな顔をしていないことを祈る。
 確かに大きな友達に大人気であるプリキュアも女児向けアニメとして提供されているし、
 そう考えればミルクちゃんの女児向けのコンテンツであると考えても過言ではないかもしれない。
 まず間違いなく誰しもが過言というではあるけれども。

 ミルクちゃんの名前というのは彼女が牛柄のビキニを着ているから、
 というわけももちろん存在するんだけれども、
 月島農場が当時を推していた商品が牛乳でもあったから、という理由もあったりもする。
 なお、ミルクちゃん提供の月島農場の牛乳はこれを飲むと胸が大きくなる、
 特に風呂上がりに飲むと効果が抜群、何て言う煽り文句を月島歩夢ちゃんが披露し、
 すぐさま冗談と彼女は言ったんだけども、彼女の隣にいた鹿角聖良ちゃんに皆の注目が集まる。
 冗談と訂正はされたんだけれども、


751以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/23(日) 08:26:02.159i1ZlSlF0 (3/3)

 牛乳を飲む西木野真姫とか園田海未とか黒澤ダイヤちゃんの牛乳を飲むペースは一向に治まる事がなかった。
 資金源が存在する彼女たちに買い占められてしまったら、
 おそらく牛乳をいくら絞っても枯渇してしまうんだろうなという感想を抱きつつ。

「では乳製品とかそういうものは避けたほうが良さそうね、
 または競合する企業の推している商品であるとか、
 地元で人気がある商品も避けた方がいいかも、
 そう考えるとやっぱり農場とは全く関係のないものがいいかしらね?」
「彼女を使って商品を売り出すコトはしませんけど
 ……でもそういう事に気を使っていただけるのは助かります」

 特に他にアイドルが売り出しているようなものをパクったみたいな扱いをされてしまうと、
 知名度と人気度に影響が出てしまうので。ただその点に悪影響を及ぼしたとしても、
 ミルクちゃんのパフォーマンスは飛びぬけて優れているので、悪評はすぐさま払拭できるものと思われる。
 と、ここで先ほどの園田海未の行動を思い出し、
 仮にパートナーが胸の大きいキャラであったら、
 彼女が商品を買い占めてしまう可能性を考慮し、彼女が苦手にするものであったら無用な心配をする必要もないであろう――
 そんなことを思いついてしまった私は、先ほどまでの考慮を全く無碍にしてしまうような名前を披露してしまった。

「ラムネちゃんとか」
「飲み物系ですか、確かにこれから夏場にラムネちゃんとしてデビューし、
 彼女の人気を高めるためにはいい名前かもしれませんね」

 思いつきではあったのだけれども、
 思いのほか聖良ちゃんはすごくいいと言わんばかりに頷いて見せ、
 鼻歌を歌いながら私に背中を向けて歩き出した。
 ただ聖良ちゃんのパートナーとして、そこんじょそこらの女の子をデビューさせるのは厳しいものとは思われる。
 パートナーである聖良ちゃんがトップアイドルの中でも才能が抜きん出ているし、
 彼女と遜色なく踊れる相手がいるとしたら、それこそ綺羅ツバサであったり、
 妹である理亞でなければいけないと思う。
 ツバサがラムネちゃんというのが大変想像できないことでもあるし、
 理亞も聖良ちゃんと踊りたいという思いは抱えているかもしれないけれども、
 ミルクちゃんのようなパフォーマンスをしろと言ったら、
 彼女は尻込みをしてしまう可能性もある。
 聖良ちゃんが過去にハニワプロで売れなかった時代に、
 その障害になっていたのは、彼女自身のスキルの高さであり、
 遜色なく踊ることができた歩夢ちゃんが、たまたまユニットを組んで活動できるほど暇ができたからこそセイントムーンは売れたのだし。

「それに何より、聖良ちゃんが認めるような相手でなければ、
 パートナーは組んでくれないよね、私も一時的だったら、
 ラムネちゃんとしてパフォーマンスを披露してもいいんだけどな」


752以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/24(月) 10:05:16.94NGpV7QsAO (1/1)

お姉ちゃんユニット結成か!?


753以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/24(月) 20:13:07.16PsQJmBAV0 (1/3)

 ではお風呂にでも入ろう、ということになった際に誰か付き合ってくれないかなぁと見回してみると、
 みんながみんなお風呂上がりではあったので、仕方ない一人で入るかと思ったのだけれども。
 そんな寂しがり屋の私に付き合ってくれる子が一人だけいた、南ことりである。
 先ほど私を椅子にしてデザインに赴いてしまったのを大変申し訳なさそうに謝り続けてくれて、
 いいのよいいのよ椅子になるのは慣れているから、何て言ってしまったので台詞を間違えたような気もしなくもない。
 とにかくこちらに向けて謝意を伝えたかったのは明らかであったようなので、
 お風呂上がりの彼女ではあれど快く付き合ってもらうことにした。
 とはいえ背中を流すとか、体を懇親丁寧に洗うからという誘いは謹んでお断りさせていただくことにした、
 彼女にしてもらうのは構わないんだけれども、
 私に好感度の高い面々が調子に乗らせるなよみたいな顔をして眺めているので、
 その恐怖に屈したということで許してもらいたい。
 特に園田海未の目は暗殺者か何かみたいで、
 近くにいた穂乃果が海未ちゃんゴルゴ13みたい目をしてる!
 と言われるまでその視線の強さに気がつかなかった模様。
 別に南ことりに対してみんなが思うところがあるというわけではなく、
 私が彼女が親しげに話した結果、記憶が戻ってしまう事を皆は考慮しているのである。

「絵里ちゃんさっき、椅子になるのは慣れてるって言ったけど、もしかしてみんなからそんなひどい扱いをされてしまっているの?」

 こちらに対して心配そうな視線を向けることり。
 発言からすれば私に関わりにある、もちろんことりにも関わりのあるμ'sの面々から、
 椅子扱いされていると思ってしまっても不思議のない発言をしてしまった。
 単純に考えれば、理由はどうであれ人間を椅子扱いするというのは、
 その人間の人権をなかったことにし、精神面を著しく阻害し、
 聞いた人が思わず心配になってしまうような出来事であると考えるのも不思議ではない。
 私は別に椅子にされてもかまわない人だからと説明したところで、
 優しいことりが私以外の面々に疑わしい目を向けてしまうのは致し方ないことである。


754以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/24(月) 20:15:50.61PsQJmBAV0 (2/3)

 ツバサであるとか真姫であるとか海未であるとかが、
 私に対して親愛の情を込めた罵詈雑言をかっ飛ばすのを見ていれば、
 この人たちは絢瀬絵里に悪意を向けていると判断しても仕方のないことではある。
 幼なじみである園田海未はともかく、
 西木野真姫と綺羅ツバサの両名はスクールアイドルとして一緒だったという接点しかない。
 Printempsの両名がいくら丁寧に絵里ちゃんは、ああいう扱いをすると喜ぶ人だからと説明したところで、
 悪口を言っているという事実は変わらないし、
 たまに暴力的な手段をもってして私を是正しようとするのは、
 あまりいい印象を受けないというのも分かっている。
 とはいえ今更ながらに、ちょっと殴るの控えめにであるとか、
 蹴り飛ばすのは二人っきりの時にお願いなどということはできない。
 迂闊な発言をしてしまった時には蹴り飛ばされることぐらいはしたいところではあるし、
 何より彼女たちの愛情表現であることがわかっているからこそ、私はそういう手段を受け入れているわけだし。
 などとは考えるんだけれども、私が納得しているから暴力的手段を見逃せとも説明しがたい。
 彼女は優しさから絢瀬絵里が暴力的手段をもってして是正されるのは可哀想と思っているわけだし、
 それが人として正しい行動であるのはよくわかる。
 これが幼い子への親の教育であったり、
 教育現場でなされているシチュエーションであったのならば全身全霊をもって、
 そういうことをしている教育者(笑)を地獄に叩き落とすつもりで再教育を施すところでもあるけれども。

「そんなに酷い扱いをされているわけではないわ、と私は思っていたのだけれども、
 ことりや他の子から見てそう見えるのであれば、そういうことはしないようにと忠告するつもりよ」
「そんなことを言って殴られちゃったりしないかな?」
「正しいことを言って、図星をつかれたから暴力的な手段をもってして、
 それを解決しようとする友人はいないから心配しないで」

 ここで納得しないように首を傾げる姿を見れば、海未の名前を使って彼女はそういう人ではないでしょうと諭すつもりではあったけど、
 渋々といった感じで意見を取り下げてくれた。
 論争を重ねても仕方がないし、私の意見に納得できないと言うのであれば、卑怯ではあるけれども穂乃果や花陽に頼るほかなかった。


755以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/24(月) 20:17:13.65PsQJmBAV0 (3/3)

「ところで何かデザインを描いていたみたいだけれども」
「さっき聖良ちゃんに、ラムネちゃんのデザインを頼まれてさ」
「やる気なの? ことりがそういうことをしたくないって言うのであれば、私から彼女達に言ってもいいのよ?」
「ううん、確かにμ'sの活動を境にデザインしないっていうのは決めていたんだけど、
 今はね私ができることを残しておかなければいけないなって思って」

 できることはいつまで続くかわからないし、できなくなってしまうのは一瞬。
 そしていつ復活するかは全くわからない。そういうことを知っているデザイナーが、
 できるうちに何かを残そうと思うのは必然と言っても構わないかもしれない。
 デザインを頼むということは、
 誰が身に着けるのかはもうすでに決定事項ではあるんだろうけど、それをことりに尋ねるのは卑怯な気がした。
 ミルクちゃんは白と黒の――牛柄のビキニであるので、ラムネちゃんは青と白とかがいいのではないかと思われる。
 そのあたりのデザインセンスは私には存在しないので、ことり任せではあるんだけれども、
 彼女がどんな色にすればいいかななんて問いかけてきてくれたので、採用しないでねと前置きをして、そのように告げてみた。

「ラムネっていうのはどんなイメージ?」
「そうね晴れ渡る夏の日って感じかな、のんびりね軒先で何か飲みつつ、
 空を見上げながら友達と話す。炭酸飲料って聞くとそんなイメージがするの。
 でもねそれはコーラとかサイダーじゃなくて、やっぱりラムネかなって」

 ラムネという飲料に関して随分過大評価をしているような気もするんだけども、
 サイダーやコーラではなく夏といえばラムネを飲むような気がしてならない。
 それは別にラムネに対して並々ならぬ愛情を向けているというわけではなく、
 その可能性ももちろんあるんだけど、みんなで飲むものといったらラムネ一択であるような気がした。
 それは海未が炭酸飲料が苦手でラムネしか飲むことができないというのもあるし、
 私自身がそういう物語的なイメージにとらわれているということもある。

「なるほどなるほど、創作意欲が湧いてきたよ」
「ことりに協力できてよかった、やっぱり素直な子と話すのは楽しいわね、
 何か言うと言っているそばからそんなわけないでしょとか、哀れな子を見るような目をされてしまうと、
 何かを言うのにためらいを覚えてしまうものね」
「その発言をできればためらってほしいと思ったよ、
 やっぱり前言撤回して、絵里ちゃんが暴力を振るわれるの止めた方が良かったかな」
「今のは私に非があるから、私が悪いということで前言撤回しないでもらえるととてもありがたいわ」

 なんとなくお風呂でのイベントがグダグダになってしまった感はあるけれども、
 こうして一緒に裸の付き合いなんてしてみると、とても良いものだなと思った。
 そしてお風呂上がりにツバサが飲み物を持ってきてくれて、
 これはめんつゆだよなと思ってぐいっと飲み干したらちゃんとした麦茶で驚いてしまい、
 何でめんつゆじゃないのと叫んで隣にいたことりから怪訝そうな目で見られてしまった。



756以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/26(水) 01:12:11.33Pidvhjid0 (1/4)

 みんなが宿泊している場所は、コテージのようになっていて、
 普段、会話をすることができていないメンバーと枕を横に並べることができるかなと思ったのだけれども、
 なぜだか脅迫に屈して一人部屋で寂しくベッドに横になっている。
 その脅迫現場には私一人ではなく隣に西木野真姫も存在していたんだけれども、
 普段は私に対して下ネタをかっ飛ばしつつ、
 お酒を飲みながらセクハラまがいの言動をする彼女も、
 あんまりなシチュエーションに、では一緒に寝ましょうなんて言葉もなく、
 酔いも冷めた感じでさっさと撤退してしまったのが印象的だ。
 私達みたいな酔っ払い組がお酒を酌み交わす中、
 唐突にこんな施設の管理者でもある月島歩夢ちゃんや鹿角聖良ちゃんがやってきた。
 酔いも回っていた私たちはセクハラまがいの言動をしつつ、
 二人はこれからイチャラブしちゃうんですかみたいなことを海未も真姫も言っていた気がする。
 普段であったのならば基本的に酔わない私も、
 なぜだか曇った表情をする二人を見て、
 気分を盛り上げてもらおうとお似合いであるとか、
 おべっかを使って彼女たちを褒め称えたような記憶もある。
 そこら辺の記憶が曖昧であるのは、別に私はその状況下で酔っ払っていたからというだけではなく、
 その辺りの記憶が吹っ飛んでしまうような脅迫をされたからということに他ならない。

「部屋割りを決めていたんですが、誰もが絵里さんの部屋に泊まりたがってしまって困っているんですよ」

 最初に歩夢ちゃんはそんな発言をした気がする。
 誰もが寝たいというよりも、
 寝たいと強硬に叫ぶメンバーが声がでかいだけではないかそんな印象も抱くんだけども、
 その発言を聞いた海未と真姫が二人こぞって、自分は絵里と寝たいと主張したなどと言い出した。
 絵里と寝たいというよりも、
 絵里とシタいと言った方が彼女たちの欲望を表現するのが適切ではないかと思うのだけれども、
 でも彼女たちもぶっちゃけネタで言っているだけで、本気で私とイチャコラしたいと言うわけではないと思われた。
 あんまりわがまま言うと過去のツバサみたいに、
 うるせぇ! 牛の所に寝かせるぞ! ミルクちゃんも一緒にな!
 とか言われてバッサリと斬られてしまうのがオチなので、反発の声もほどほどにした方がいいわよと忠告したのはなんとなく覚えている。


757以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/26(水) 01:16:01.49Pidvhjid0 (2/4)

「そのように言われてますが、絵里さんは誰か特定の方と寝たいとかそういうことは考えていますか?」

 そんなことを言われて、私は普段会話をしない面々と少しだけ横になりたいなあというリクエストを飛ばしたのを覚えている。
 別に両隣にいる二人と寝たくないというわけではないのだけれども、
 せっかくこういう交流イベントが起こったのだから、
 少しくらいはAqoursの面々と合流したい気分でもある。
 とても残念なことにAqoursの面々は現役高校生であられるので、
 お酒を酌み交わすということが倫理通念上不可能であるから、この場においては私と同年代の面々しか存在しない。
 しかしながら私の発言を何と捉えたのか、
 園田海未も西木野真姫も二人して、自分がいかに絢瀬絵里と普段会話をしていないかというアピールをしだした、
 酔いも回ってきているのか、マシンガンと言わんばかりに二人がベラベラベラベラ喋っているので、
 これはそろそろ止めてあげないと私が痛い目をみるパターンだよな、
 なんてことが頭をよぎり、そのよぎったシチュエーションがまさかあんな感じなものになるとは思いもしなかった。

「私たちもこのように絵里さんと寝たいとアピールすれば方がたくさんいて、
 絵里さん自身も特定の方と寝たいというのは考えていないようなので、
 やはり一人ずつ黙らせるのが一番かと思いまして」

 口調は丁寧ではあるけれども、
 歩夢ちゃんは多くの面々から私と寝かせろみたいなことをさんざんぱら言われ続けたらしい、
 この場にツバサはいないけれども、
 なんやかんや言いつつ私とのイベントが起こるのを楽しみにしてくれた――
 であるのならば、うまいことやって二人っきりにさせろみたいなことは言う可能性がある。
 彼女が主張するのであれば、多くの面々がそれに賛同する可能性もあって、
 私が私がという声がどんどんどんどん増えていくのは簡単に予測することができた。
 それに頭を抱えた歩夢ちゃんが聖良ちゃんでストレス解消するというのは容易く推測できる。
 しかしながら挑戦的な目を向けられてしまうと、熱く燃えてしまうのが園田海未と西木野真姫の両名である。
 いとも簡単に黙らせることはできるとは思わないことですね、みたいなことをどちらかが言ったような気がする。
 フラグとしては完璧だけれども、その後の退場劇まで完璧になろうとは思わなかった。

「こちらに一つのバイブがあります」


758以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/26(水) 01:16:46.60Pidvhjid0 (3/4)

 そんなことを言いながら彼女がどこかから取り出したのが、
 妙な機械音を発しながら上下左右様々な動きを見せるバイブである。
 どこかから取り出したというより――詳しいことは何も言うまい、
 明らかにどこかに入っていたと言わんばかりの玩具に対して私たちは思わずたじろいでしまった。
 やっぱりこのパターンなのと思ったのは私だけで、
 二人も噂くらいは聞いていたかもしれないけれども、
 目の前にいるカップルというのはなかなかアブノーマルな感じではある。
 物欲しそうな目で淫猥な動きをするバイブに釘付けなせい……ミルクちゃんは私は見なかったことにしたい、
 人間色々な面が存在して構わないと思う、でもどっちだかと言うと笑顔が素敵な女の子というより、アヘ顔が素敵な女の子にしか見えない。
 度々私も好感度99%みたいな女の子と会話することがあるけど、
 好感度100%にした後にアイテムを使ってさらにプレゼント送ると追加のシーンを見られる――
 そんなゲームがあるけれども、100%を超えた100%っていうと、女の子っていうのはこういう顔をするのかなって思った。

「絵里さん寝ていただくのですから、どうせこういうものを使ったプレイというのも乙なものかと思います、
 どうせならば私たち――じゃなかった一般的なカップルが使用する双頭バイブというものもご用意しておりますので、その覚悟がおありでしたら――」
「やはり絵里は一人で寝るべきかと思います」
「そうね、むやみに手を出してしまって後ろから刺されてしまうよりは、一人で寂しくいた方が身のためだと思うのよね」

 後ろから刺されるというセリフを言いながら、真姫は怯えたようにバイブを眺めていた。
 収録現場で用意されてましたみたいなことをスタッフブログで書いて、
 メーカーが大炎上したことがあるけれども、当然、知らないものではないと思うのだ。
 収録現場というものは常に緊張感が溢れていて、結構シリアスなのよと真姫は言うんだけれども、
 いかんせん使用感が溢れるものだから、営みというものを如実に想像することができて、
 絶対にこれが突き刺さってしまったら痛いよな? ということも考えてしまうであるし、
 仮にこれを使用するとなったらどちらが刺される方なのか? ということも考えてしまう。
 冷静な西木野真姫であったのならば、こういうのは一人で使用するものよね、
 絵里もちょっと使わせてもらいなさいよくらいのことは言ってのけるけれども、
 愛というよりも根性が試されそうな太さのバイブに対して、何を言うこともできず、
 酔いもあっという間に覚め、前述の発言のようにさっさと撤退して行ってしまった。 


759以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/26(水) 01:18:35.96Pidvhjid0 (4/4)

「……誰とも会話することができないというのは寂しいではあるけれども、でも考えをまとめるっていうのには適切かもわからない」

 考えるべきことがたくさんある。
 私たちのこれからのことに関してもそうだし、Aqoursの事に関してもそう。
 みんながみんなこの世界から退場したいわけではないし、
 そういう道を選ぶのが適切であるかどうかも分からない。
 私自身の意志でみんなの意思をないがしろにすることがとてもできやしない。
 そんな時私の部屋のドアをノックするなんともチャレンジャーな――もしかしてバイブなんか持って来たりしないよな?
 そんなことが頭によぎりつつ、部屋を開けてみると理亞が立っていた。
 かわいらしい黄色を基調とした寝間着を着ていて、フリルなんかもそこかしこに施されている。
 おそらく自身の私物ではないので、誰かからこういうものを着用するように求められたからこそ服を着ているのだと思う。
 元々が美少女の聖良ちゃんの隣にいてもさらに美少女に見える理亞なのだから、
 可愛らしい格好をしていても当然映える存在ではある――
 そういえば先程の聖良ちゃんの表情は、すごく好みのゲーム(R18)をプレイした後の理亞の表情にそっくりであるな、
 そこはやはり姉妹なのだなということを考えてしまったので。

「とりあえず先にシャワーを浴びてきた方がいいと思うわ」
「そのボケとても面白いです絵里、しかしながら脱がすことを考える前に、
 相手の服装を褒めた方が好感度が上がると思います」
「そうよね、先ほど好感度上げすぎてしまったヒロインみたいな顔をした人を見てしまって、
 ついつい動揺してしまったわ――
 とても可愛らしい格好よ、あなたによく似合っている、花が咲いたようと表現してもいいし、
 まるで天使みたいだと褒め称えてもいい」
「そんなガチで褒めなくてもいいんですよ!?」

 ついつい口説き落とすようなことを言ってしまい、好感度の上昇がなされたのか、
 それとも低下するイベントが起こってしまったのかはわからないけれども、
 真っ赤になった理亞の頭を撫でつつ、私たちは一緒に眠ることにした。


760以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/29(土) 15:09:02.96a1nmi5aO0 (1/6)

 なんだか眠れない感じがする。
 気になると言うか、喉に魚の小骨が引っかかったみたいな違和感を覚える。
 なんとなく予定調和的な何かを見たり聞いたりしてしまったみたいで、
そもそもこうなることを誰かによって望まれたみたいな感じ。

 それは先ほど聞いた、
歩夢ちゃんが持っていた中に入れると性的に興奮する道具の機械音を耳にしている風であり、
もしくは、今までずっと仲良く過ごしてきたのに、やむにやまない事情のおかげで別れをするといったふうであるような。

「……ねえ、理亞」
「起きてしまいましたか、
寝ている間にこれを何とかして入れてみようかと思って」

 それは先ほど見たこけしほどのサイズの、男性器を模した道具。
 これを自身の中に入れられてしまえばさぞかし痛いことだろう、
入れられる部分は少ないけれどもどこに入っても痛い気がしてならない。
 
 ――なぜか理由はよくわからないけれども、いつのまにかに理亞に恨みを買ってしまったようである。
 少なくとも好意の表れからバイブを中に入れるなどという恐ろしい発言は聞かれまい。

「よくは分からないけれども、それを本人の許可無く使ってしまったら、
あなたは誰かにしょっぴかれなければならないと思うわ」
「寝ている間だったら合法ということになりませんか?」
「斬新が法律に関しての認識だけれども、
相手が寝ているという状況は同意を得てないということになるから、
罪を問われる確率は高まると思うわ」



761以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/29(土) 15:16:50.90a1nmi5aO0 (2/6)

 彼女だって本来は理解しているのだ。
 なにせその極太の物を入れれば、誰だって目を覚ますはず。
 熱々の白玉もどこかしらに入れられてしまえば誰だって起きるはず。
 寝ていることなどありえない。

 どうして彼女がそんなことを言いたくなってしまったのか、
 もしくはしたくなってしまったことを問いかけてみるのが重要である。

 罪状は明らかではあるのだけれども、
 いつものように鈍感な私が何かしら悪いことをしたから、
背中に冷や汗をかくような体験をしているので。

「それで何か相談事?」
「これは愛を確かめる道具なのでしょうか?」
「確かにこれを入れるというのは、
相手に対しての愛情がなければなし得ないことだとは思う。
私にはあまり理解ができない世界だけれども」

 理亞は何かを考える風にしながら、私の言葉に耳を傾けてくれている。
 いかんせん手に極太のバイブを握ったままであるので、
どこまで私の話を聞いているかは疑わしいではあるんだけど、
それでも表情を読み取る限りは、私の言葉に真摯な態度で接してくれているはず。

「……ラムネちゃんの話は聞きましたか?」
「聖良ちゃんのパートナーは大変でしょうね」
「昼夜問わず、パートナーであるとされるそうですよ?」
「夜のパートナーと聞くと不安を覚えてしまうのはなぜかしら」

 昼のステージだけではなく、夜のステージまで付き合わされてしまうとしたら、
アブノーマルな彼女たちに何をされてしまうか分からない。
 今日の会場はオジサマの腰の上です! 何て説明をされたラムネちゃんが、
昼で見せた過激なパフォーマンスとみたいに腰を振る姿を想像し私は恐怖を覚えた。

 ――そんなことが全くの想像であることは、確かなんだけども。



762以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/29(土) 15:31:22.92a1nmi5aO0 (3/6)

「明日、ラムネちゃんが披露されるそうです」
「え? ステージ衣装の作成であるとか、振り付けであるとか、
 聖良ちゃんへの顔合わせとかも済んでいるの?
 なかなか難しいと思うわ、付け焼き刃の技術しかない子が聖良ちゃんと合わせるのは」
「とても良い判断だと思います、私も私の知り合いでなければ、
 明日ステージイベントをいきなり行うというのは難しいと言うでしょう」

 なんと理亞の信頼を得ていることをも彼女の発言から察してしまった。
 どこぞの有象無象のアイドルであったり、
 どこかしらのスクールアイドルを連れてきて聖良ちゃんのパートナーにするということになれば、
 シスコンの気がある彼女は絶対に反対するに違いない。
 
 反対する感情が個人的なものであっても、
 どれほど客観的に理由付けできるかで説得力が変わっていってしまう。
 そしていくらでも客観的な根拠で否定的な理由を付けられるような人であったら、
 そもそも聖良ちゃんのパートナーにはなれない。

「ステージ衣装はさっちゃんに頼むことにしました」
「その人、太古から存在する恐ろしい悪魔なんだけど」
「私のお菓子と凛さんの手料理を食べさせるぞと言ったら、快く了承してくださいましたよ?」

 それはベルフェゴールだけではなく、絢瀬亜里沙だって綺羅ツバサだって首を上下に振る行いだと思う。
 もしくは首を縦に振らない人は地球上で私だけの可能性すらある。
 快く了承してくれたと理亞は言っているけれども、
 否定をすれば命の危険性がある状況下で潔く死を選ぶのは誰でも難しいと思う。

 でもまあ、反発できるメンバーが了承しているのだから、
 経緯はどうであれ快く了承したということでいいのだろう、おそらく。





763以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/29(土) 15:49:09.96a1nmi5aO0 (4/6)

「ことりがデザインするのだからとても良い衣装なのでしょうね」
「はい、デザインされたものを具現化されたのを眺めましたが、
 先日までデザイン活動をほとんど引退していたとは思えません」
「彼女自身の才能であるのか、それともループを重ねすぎてしまった弊害であるのか」
「絵里は、自分の起こした出来事に対して悲観的過ぎると思います」

 私はいつだって不安極まりない。
 自分が余計なことをしたからみんなを付き合わせた、と考えてしまってもいる。 
 いくらみんなが、私も自分の意思でこうすることにしたからとフォローしてくれても、
 その原因が自分自身にあれば、やはり思い悩んでしまう。  
 穂乃果みたいに前向きでありたいとは思うんだけれども、
 前を向いているとどうしたって後ろが不安になり、
 ついついどうしようもない状態で後ろを振り返ってしまうのは、
 私の悪い癖であるのはわかりきっている。

「ことりさん謝りたがってましたよ、絵里を椅子にしなくてもいいデザインができたって、
 あんなことする必要はまったくなかったって」
「それはおそらく、
 ことりが椅子を必要としなくなった後も私に座り続けた面々に対して含むところがあるんじゃないかしら?」
「やっぱりそうですかね?」
「そうであると思うのが適当であると思うわ」

 ことりからビシバシと蹴り飛ばされていた私でも思い出したらしい、理亞は口をつぐむ。
 南ことりが悪意のある存在に対してとる行動は時おり苛烈を極める。
 わざわざμ'sの”のぞえり”以外のメンバーを揃え、
 母親である理事長先生をフルボッコにしたことも話に聞いたことはある。
 ネタばらしをしてしまうけれども、彼女が黒幕に進言をしなければ、
 高坂雪穂ちゃんが早々に退場することもなかったので、
 穂乃果がどれほど怒り狂っていたかは想像するだけにとどめておく。




764以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/29(土) 18:42:13.50a1nmi5aO0 (5/6)

「ラムネちゃんの候補になるのは誰だと思いますか?」
「あなたが適切だと思う」
「……それは、絵里の近くに私はいらないということですか?」
「違う、断言してしまうけどそれは違うわ」

 聖良ちゃんレベルのアイドルに対して、
 生半可な実力の人間を付け焼刃な感じで設置したところで、
 彼女のレベルについてこれないで諦めてしまうか、
 そもそも相性が合わなくて解散してしまうか。

 セイントムーンの時にコンビを組んでいた歩夢ちゃんも、
 理亞から姉さまをお願いしますと頭を下げられるほどの逸材であったし、
 私もたまたまエンカウントした時に、亜里沙と仲が良さそうであったので、
 これからも亜里沙を支えてくれるようお願いしますと頭を下げた記憶がある。

 よっちゃんが無理をして彼女を退場させることになったのは、
 私が退場してもなお、
 そして理亞がお願いしてもなお、アイドルとして立ち上がってくれなかったから――と白状してくれた。

 つまりは聖良ちゃんのパートナーというのは、それぐらいのレベルのアイドルが基本となる。
 私の知り合いの中で該当をするのは、理亞か、ツバサのどちらか。
 後者だとミルクちゃんが目立たなくなってしまうので、必然的に理亞一択になってしまう。

「ラスボス化したよっちゃんが、自身を倒すのはあなた達としたように、
 あなたたちの絆は、あなた達が思う以上に強固であるのよ」
「……私がいなくなったら寂しいですか?」
「寂しいに決まっているでしょう、死ぬほど嫌よ」

 ため息をつきながら理亞に向かって言葉を向ける。
 彼女の手には相変わらず極太バイブがウインウインと鳴りながら動いているけど、
 全く気がつかないといった感じで手に強く握られている。
 私のお尻に向かって突っ込むぞみたいな感じではあるんだけれども、
 おそらくそうではないと思う。



765以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/29(土) 18:56:44.67a1nmi5aO0 (6/6)

「死ぬほどですか、誰よりもというのでないのが残念です」
「ごめんなさい、やっぱりね聖良ちゃんを倒してあなたを奪うというのは私には荷が重いわ」
「その時にはやはり私は花嫁衣装を着ていなければならないでしょうか」
「結婚式で花嫁を奪うというのは、確かに劇的なストーリーかもしれないけれども、
 逃げている途中で、必ず捕まってしまいそうね」

 私が理亞のことを、一番大事な誰かと考えることができないように。
 理亞が私のことを、一番大事な人と考えることができないように。

 一番の仲良しであることが結ばれる条件ではないとは思う。
 過去の優木あんじゅのように、ツバサが好きだけど諦めざるを得ないから、というケースもあったりもする。

 そしてなによりそこら辺の恋愛事情で不器用になってしまうのは、
 私たち姉妹がどういう人に育てられてきたか、ということに由来してしまうのだろう。

「ラムネちゃんのデビューイベント楽しみですか?」
「すごく期待しているわ、あなたたち姉妹の復帰のイベントを」
「ええ、ご期待に添えるよう最善を尽くします」
「歌も歌うの? あなたラップくらいしかできないんじゃない?」
「そのネタ引っ張るんですか? ラムネちゃんにそぐわないのでラップはありませんよ、
 ご期待に添えず申し訳ないです」
「それはそれでありのような気がするのだけど……」

 二人でいろんな会話をする――
 後日のイベントに差し支えてしまうほどに眠らず。
 私と別れて行動するということが、今後どのようなものになるのか、
 彼女だってわかっているはずなのだ。

 そして何より、その道が正しいものであると、
 理亞も、分かってくれているから背中を押してくれるのだ。

 ならば、絢瀬絵里も頑張らなければなるまい。



766以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/30(日) 09:18:19.83tys7uFso0 (1/2)

 ラムネちゃんの方から控室に入りますか?
 何ていう問いかけがあり、謹んでお断りさせて頂いた。
 別に彼女たちの歓迎を受けたくないというわけではなく、
ひとりの観客として彼氏たちのイベントを楽しみたいという目的があったため。
 
 なので、そこら辺の機微に疎そうな綺羅ツバサであるとか、
黒澤ダイヤちゃんとかを引き連れ、いかにイベントを盛り上げるか――
 とは言っても観客は彼女の知り合いしか存在しないので、何かしら失敗があってもフォローができる算段はついている。

 前日にミルクちゃんの写真を配られている記憶の戻っていないメンバーは、
 どんな不埒なステージは始まるんだろうみたいな感じで、
 ここにいてもいいのかなみたいな表情を浮かべているけれども、それぞれに親しい友人達が、
 大丈夫だから本当に大丈夫だからと言っているのが印象的である。

 やはり、極太のバイブを見て表情を蕩け顔気味にしていたミルクちゃんのインパクトは強く、
 それだけの印象がなければ(もしくはスクールアイドルとして活躍していた知識がなければ)
 どんな淫猥なステージが行われるのであろうと思うのは致し方ない。

「良かったの絵里? 慕ってくれる後輩キャラとお別れして」
「無様なステージを見せるようなら、連れて帰るつもりだけど」
「それは無用な心配ね、彼女の実力を考えれば、
 あなたをびっくりさせる程度のステージなんかお茶の子さいさいと言ったところなんじゃないの」

 なんやかんや言ってツバサも理亞を高く買っている様子ではある。
 事ある度に私のハーレム要員から外しがちなんだけれども、
 それは彼女を深く警戒していたからという可能性もある。

 別に私のハーレム要員だからといって、私を慕ってくれているとか、
 敬ってくれているということはないので、本当に私がハーレムを作っているのかとは疑問に思いつつある。



767以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/30(日) 09:30:58.53tys7uFso0 (2/2)

「わたくしが思うに、今回のステージはSaintSnowが再び輝けるようになる、
 とっておきのステージになると思います」

 自身と親しい巨乳キャラは聖良ちゃんぐらいしかいなくなってしまい、
 その聖良ちゃんの胸を揉んでいると、
 怖い表情した歩夢ちゃんにこれを入れますかなんて、
 敬う要素のない敬語表現でバイブを見せられてしまったとか。

 するとダイヤちゃんは座薬を入れるみたいにそんなものは入りませんわ、
 と反発を生みかねない表現で反論してしまい、
 この子には結構入るんですよ見せて差し上げましょうか?
 反撃の反撃を食らってしまい、ぐうの音も出ず、
 最近は空気の胸(ダイヤちゃんなりの表現)を揉み続けている。

 そんな姉の姿を見て、ルビィちゃんはバストアップの準備を始めたらしい、
 しかしながらはそのアドバイスを求めたのが友人の花丸ちゃんではなく、
 よっちゃんであったのはどういう意図が含まれるんだろう。

「そうね、SaintSnowなら逆風をものともしないでしょ」
「逆数の大半は自業自得なんだけれども、本当に彼女達は覆せるのでしょうね?」

 こういうアイドルのイベントには参加したことのない、記憶の戻っていないメンバーは、
 おっかなびっくりといった感じでステージを見上げている。

 非人類のサファイアさんにあるとか、見せ場を提供されて張り切っていると希とかが、
 数分で会場を作り上げ、ラムネちゃんのデビューイベントの準備は万端に整っている。

 どんな淫猥なステージを見せられるんだろう、みたいな反応もあるんだけど、
 サファイアさんであるとか希に対して、
 この人たちは何の力を使ってステージを作り上げたんだろうみたいな感じの反応もある。

 SaintSnowだけが逆風を作り出しているわけではないとだけは信じてほしい。



768以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/01(月) 14:09:12.673o3gRLwZ0 (1/2)

「お、そろそろ牛たちが搬入されてきたわね」
「そこは入場と言っておきましょうよ」

 何とも言えない表現を使ってステージに立つ牛たちのことを表現するツバサ。
 たまにたくさんのブタさんを乗せて走っているトラックを見たことがあるけど、
 聖良ちゃんのパートナーである牛たちも似たような感じで運ばれてくるのだなぁという感想を抱いた。

 人間と動物との共存みたいな感じで、パンフレットには書いてあるんだけれど。
 どう考えても牛さん達の方が絢瀬絵里より扱いがいい。
 月島農場にこんなにスタッフがいたのかと感心してしまうほど、たくさんの人が牛に付いて世話をしている。
 
 羽島さんであったり三国山さんであったり白川さんであったり、普段はどこにいるんですかという農場のスタッフも登場。
 まだ生きてたんですか絢瀬さんとか言われたけど、今のところ死ぬ予定はないので勘弁してほしい。

 素直なAqoursの面々は牛たちと踊るということに懐疑的な姿勢である。
 特に動物がちょっと苦手なルビィちゃんは、牛たちのつぶらな瞳を見ながら美味しそうと言っていた。
 牛たちもルビィちゃんのことはとても可愛らしく見えたみたいで、
 こんなテンションの高い万次郎は見たことがない、という嫉妬する聖良ちゃんのコメントも頂いた。

 私からすればどれもモウモウ鳴いている牛だし、誰が見たって牛は牛なのではないかと思うのだけれども――

「絵里さん、なぜルビィは牛たちに大人気だったのでしょうか?」

 ダイヤちゃんが今、気がついたと言わんばかりに私に問いかけた。
 牛のことは牛に聞かなければ分からないとは思うし、
 私に聞くよりも聖良ちゃん辺りに聞いた方が、実りのある答えが返ってくるような気がするんだけど。


769以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/01(月) 14:17:06.583o3gRLwZ0 (2/2)


 ステージが始まるまでの世間話の体であるのならば、
 私の身勝手な想像話してみても構わないのではないかと思う。

「やっぱりかわいさというのは牛にも分かるのではないかしら」

 おべっかでもなんでもなく、ルビィちゃんはとても可愛らしい。
 ルビィちゃんに限らずAqoursのメンバーであるとか、
 SaintSnowの二人であるとか、歳下のスクールアイドルはとても可愛らしい。

 希が一時期、今のスクールアイドルは可愛くて、ウチなんかは入る隙間がないなぁ、
 なんて自虐的につぶやき、単純にそんなことないと言えばよかったのだけれども、
 ついつい熱意を持って希の可愛らしさを語ってしまったら、もうやめてって言われた。

「なるほど、確かにルビィの可愛らしさは、人間だけではなく牛にも魅力的に映るということですね」
「お前ら変態かよ」

 満面の笑みで妹で惚気るダイヤちゃんであったり、
 牛っていうのは意外と人を見ているのかもしれないわね、
 なんて牛のことを饒舌に語りだした私に、綺羅ツバサはジト目を向けながら辛辣な反応を見せた。

「……と、そろそろステージが始まるみたいね」
「はじまった……」
「これが物語なら、私達は勝ちました……いえ、勝たねばならない」
「あなた達、ステージに対する語彙がそれしかないの?」

 ボケをかましてみると、そのセリフを聞いていないはずの綺羅ツバサが無難なツッコミを入れた。


770以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/02(火) 03:43:44.42jNVfd9qS0 (1/4)

 ステージが始まる。
 正直言うと私はドキドキしていた。
 姉妹であるとはいえ、今まで離れ離れになっていたのだから、
 動きを合わせるだけでも至難の技だと思っていたのに。

 そして何より聖良ちゃんよりも、私の方が理亞のパートナーに向いていると思い上がっていたのである。

 1曲目は、ラムネちゃんのソロから始まった。
 背後にいる牛たちがステージが始まる前まではモーモー泣いていたのだけれども、
 音楽がかかった瞬間、魔法でもかかったみたいに鳴くのをやめた。
 あれは一体どういう原理なのか――
 ステージを見上げているダイヤちゃんが感心してしまうほどのマジックだった。

 理亞の能力の高さというのは、かつては遠慮によって発揮なされなかった。
 その要因の一つが彼女の気の弱さ。
 周囲がなんやかんや言って彼女に能力を発揮させることを許さなかったというのもある。

「ようやく本気を出したみたいね」
「まさか、私にも遠慮していたとは思わなかった」
「病気してたあなたに遠慮しない人なんていたの?」
「そこにいるような気がしてならないのだけど」

 ラムネちゃんとしては目立つパフォーマンスはしない、と教えられていたんだけれども。
 ステージに設置されたトランポリンであるのか何らかの器具を用い、
 とにかくどういう原理かは全く分からないんだけれども、彼女は唐突に跳躍した。


771以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/02(火) 03:44:13.96jNVfd9qS0 (2/4)

 宙返りをした、と表現をしても構わないし。
 踊っている最中に空を飛んだみたいな感じで表現しても適切であるかもしれない。
 とにかく見ている面々がみんながみんな、
 何をしてるんだあの人みたいな感じで眺めていたのが印象的である。

 そして何より跳躍している最中も高らかに歌い上げているのが、
 彼女の能力の高さと言うか、化け物じみた能力であるような気がしてならない。
 
 そうそう、触れるのが遅れてしまったけれども、
 ラムネちゃんの衣装は青と白を基調とした、夏場にふさわしいドレスと称してもいい格好をしている。
 だからつまり、
 イメージとしてはウェディングドレスで格闘シーンをしているハリウッド映画みたいな感じで、
 目の前のステージが展開している。

 しかもそんな風にステージで乱痴気騒ぎしているようではあるんだけど、
 背後にいる牛たちが時折、彼女に合わせて踊っているような動きにも見えるダンスをしている。
 牛たちはステージの添え物ではなく、
 彼らもステージを構成する一員なんだと認識してしまうほどに動きは揃ってきた――一体どういう原理なのか。

 2曲目はミルクちゃんのソロであった。
 彼女がステージに上がった瞬間に多くのため息が聞かれた。
 感嘆であったような気もするし、多くの人間が胸元を押さえていることから、
 自身とのサイズ差を、如実に分からされてしまったような気がしてならない。

 死んでも痛感するかよみたいな感じの表情をして、嫉妬で歯噛みと言わんばかりの苦々しい表情をしながら、
 ツバサもダイヤちゃんも私の胸元触っているのが――そろそろ膝蹴りの一つでもかませなければいけないかもしれない。

 後者の人にそんなことをしてしまえば、絢瀬絵里が内浦湾の藻屑になってしまうので、遠慮したいところではある。


772以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/02(火) 03:45:07.70jNVfd9qS0 (3/4)

 その時に南ことりの声が聞こえた気がする。
 それ以上強く揉んだらちぎれちゃうよ!

 一体誰の話であるのか、
 あんなにミルクちゃんのパフォーマンスを楽しみにしていたのに――

「みんなミルクちゃんだよー!!」

 語尾に☆でもつけてそうな感じで、ステージに上っているミルクちゃんが話し始めた。
 ダイヤちゃんが実際に彼女のステージを見たのは初めてだったらしく、あの人誰って言った。
 
 私たちも彼女のステージを見た時にあの人誰って言ったから、
 誰しもがあの人誰って言ってしまうほどのインパクトだったと思う。

 それでいて超人的な動きをする理亞の後に出ても、
 遜色ないパフォーマンスをしてしまうのだから鹿角姉妹というのはいろんな意味でチートである。

「おいおーい、声が出てないぞ、みんな大きな声で私の名前を呼んでくれるかな?」

 私は名前を高らかに叫んだ。
 ヤケだったと思う。


773以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/02(火) 03:46:48.37jNVfd9qS0 (4/4)

 だって、観客の誰しもが私の方を見たと思ったから。
 実際問題ステージの上にいる、ミルクちゃんも私をちらりと見たような気がしてならないのだ。

 ここで大きな声を出して晒し者になるのはあいつだなみたいな感じで。

「はーい! 声援ありがとう、これからも盛り上がっていこう!!」

 その後数曲入れ替わり立ち代わり曲を披露した。
 そして私たちの盛り上がりも、ステージの雰囲気も、
 牛たちの興奮度もマックスになった時に、
 ついに二人揃っての曲が披露されることと相成った。

「私達姉妹が披露する曲は一体何がいいだろうと考えました」
「そんな時にスター西木野さんが、詞に曲をつけたから歌っても構わないわよ、と言っていました」

 その時にスター西木野はステージを見上げているようで、どこか遠くを眺めているような気もしてなかった。

 後々、あの時何を考えていたの? と尋ねてみた時に、
 スーパーロボット大戦のおっぱいの動きって実際にするのね? とか言っていたから。
 ミルクちゃんばっかり見ていて、彼女たちが何を話したのかまったく聞いていなかった様子である。

「作詞絢瀬絵里」
「作曲スター西木野」
「「お腹いっぱい食べたいな、聞いてください!!」」

 そしてあの子たち、一回作ってさっさと封印した私の黒歴史を引っ張り出した。
 実際引っ張り出したのは西木野真姫であるんだろうし、この曲は近江彼方ちゃんも参考にして自身の楽曲に加えていたから。
 何かしら引っ張り出す要素はあるんだと思う。

 誰かの何かに影響を与えるのは嬉しいんだけれども――


774以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/03(水) 04:09:23.45bdi1w2Xj0 (1/2)

 帰り道は一体どのようにして帰るのかなと思っていたら、修学旅行でも使われそうな大きいバスが農場の入り口で停車していた。
 あまりに大きかったので、すごく……大きいですって言ってみたら、それはそこで使う表現なのかとツッコミを入れてくれた。

「あまりにもどうしようもないパフォーマンスをするようなら、内浦に連れて帰ろうかと思った」
「ありがとうございます」
「もう、私の手は必要ないみたいね」
「そう、ですね……」

 今生の別れみたいな、そんな会話をしている。
 私と距離をとるということは、私たちはこの世界からの撤退を考えている以上、実際にありうる話。
 そして、私たちが撤退した以降。
 二人再会したとしても、記憶をお互いが持っているかどうかわからない。

 また出会う時に、初めましてという可能性は高い。

「すごかった、いい踊りをしていた。輝いてた」
「遅すぎますかね?」
「別に? 今もなお、行き遅れているような私みたいな人がいるからいいのよ」

 人生において遅いか早いかなどおおよそ重要ではない。
 プロになって輝きを放つ勝負師みたいな職業では話は別かもしれないが、私たちはアイドルである。

 どんな年齢でも輝けるようになると謳っている以上、私たちは遅いか早いかなどそんなことは重要視したりはしない。

 なお、彼女のパートナーである聖良ちゃんは、渋る理亞を見送りくらいはして来なさいと姉らしく忠告してくれたらしい。
 ミルクちゃんの衣装であったというのが玉に瑕だけども、そこんトコロを突っ込んでしまってもしょうがない。

 理亞はちゃんと普段通りの衣装に着替えているんですよ?


775以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/03(水) 04:10:24.90bdi1w2Xj0 (2/2)

「絵里は、これからどうするんですか?」
「気の向くままに生きることにする」
「またニートに戻るつもりですか、せっかく亜里沙さんが外の世界に連れ出してくれたのに」
「妹の手に引かれてっていうのが、姉として思うところがあるのよね、まるでリードを付けられて散歩する犬みたいじゃない?」
「あなたらしいです、どこに行くかわからない危うさがすごく心配ですが」

 ちなみに、大きなバスを用意してくれたのは誰かと言うと、ダイヤちゃんではなく鞠莉ちゃんである。
 虹ヶ咲学園の面々が修学旅行の最中すごく楽しそうな表情をしていたので、羨ましくなってしまったらしい。

 知り合いのマジックミラー号を作ってるところに提供お願いしたと言ったけれども、
 あなたはそういうネタを振るような人ではないでしょと言っておいた。

 赤毛のお嬢様がはっきりバコバスなのって言ったけど、殊勝な絢瀬絵里はあえてツッコミを入れないことにする。

「見送るというのは辛いですね、仲間を見送るというのも受け入れるのは、すごく」
「私は見送られてばかりだから、その辺りの気持ちはよくわからないけれども」

 別れが惜しいと思うのは、すごく楽しい時間を過ごしてきたからで。
 良い出会いをしたから、別れが惜しくなってしまう。

 だからこそ私たちは、別れが惜しい人生を歩んでいかなければならない。

 寂しいねと言いつつ、また会えるように言いつつ。
 別れや終わることを考えて、出会うことを忘れてしまったら、私はミイラかなんかになってしまいそう。

「またね」
「はい」

  

 



776以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/07(日) 17:50:51.85qZyHfiaL0 (1/1)

 高校時代の修学旅行を彷彿とされそうなバスの中で、
私は窓の外の景色を眺めながら無言を貫いていた。
 どうしたって口を開けば泣きそうになってしまうものだし、
 別れというのは年齢がいつになっても辛いものである。

 今度出会う機会があれば、お互いに始めましてと言ってしまう可能性すらある。

「……内浦に着くまでに、松の木が百本あったら今日も幸せ」

 松の木などどこにでも植えてあるかと思いきや、
 実はそうでもなかったりする。
 気をつけて探せばまた違った見方が出来るのかもしれないけれども、
 そんな気力が湧いてこなかったりもする。

 そんなテンションだだ下がりになった私を、他のみんなは放っておいてくれている。
 仲の良い友達同士でめちゃくちゃと喋りながら、それなりに仲の良い友人であった人たちと別れているのに、
 今まで通りのみんなを眺め――強いなと思った。

 特に記憶の戻っているAqoursのメンバーであったり、
 ツバサであったり、理亞と長い付き合いのある面々は、
 私の気持ちを特に理解しているみたいで。

 お互いに牽制し合って私の隣に来れないようにしている――
 そんな疑惑はあるのだけれども、とりあえず今は誰かと話すよりも、
 自分一人でぼーっと何もせずにいる時間が愛おしく感じる。




777以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/08(月) 18:36:42.81bDqWnuaX0 (1/1)

 しかしながら、ずっとぼーっとしていると疲れてしまうので。
 そろそろ誰かと会話したいなー、とか思っていたら。

 ふと気がつくと穂乃果が隣に座っていた。

「音もなくやってくるのって、流行ってるの?」
「気配を[ピーーー]ことができるんだよ、こんな世界繰り返してるとね」
「何それ、私もやってみたいんだけど」

 穂乃果が特別なスキルを身につけたわけではなく、私が気が付かなかったというだけの話である。
 その点に関して的確に私が突っ込みを入れることができるボケを放つ彼女は、なかなか私のことを的確に理解しているのではないか。

「ファイトだよ! ってあるじゃない」
「あるみたいだね、アニメで使用されたから私の口癖みたいになってるけど」
「バイトだよ! とか、ルートだよ! みたいな発展形をね」
「それを私にやれって? なかなか酷だよ絵里ちゃん」

 アニメに関してはお互いにいい思い出がない。
 私のキャラ付けに関してアニメが正史みたいなところがあるし、穂乃果もアニメとは違う未来に進んだものだから、
 そのギャップのせいで人から印象が違うみたいなことを言われることもあるし。

「オーバースロースリークォーターアンダースロー、あと一つは」
「サイドだよ!」
「誰でもひとり ひとりきり?」
「コートだよ!」
「安心宇宙旅行!」
「ヤットだよ!」

 ひとしきりボケを重ねつつ、穂乃果もボケを放ちつつ。

「面白かった、じゃあ、寝るね?」
「おやすみ、王様さん」



778以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/15(月) 14:29:04.23i63Omi5a0 (1/4)

 十千万旅館に帰還後、早々に高海姉妹の上二人から”絵里ちゃん働いて!”
 と、有無も言わせぬお願いをされた。
 抜け殻になりたいほど意気消沈したかったのに、その暇もないまま、
 あれやこれやを言いつけられ、24時間働けますか状態。 

 ――栄養ドリンクのCMを言いつけるならぜひ私に。

 しばらく引きこもりたいので、とか言おうとした私をあざ笑うよう――
 旅館の従業員はこんなにも働いているのかと感動しそうなほど、
 そしてなにより、抜け殻になる暇もないままに働いて働いて、じっと手を見る。 

 過労死ラインという言葉をあざ笑うほど働きに働き、
 お客様からあの金髪の人以外に従業員いないの? そんなことが評判となり、
 
 孫をブラック企業に殺されたというお祖母様からしこたま優しくされ、
 理亞と別れたショックは次第に癒えつつある。

 そんなことで癒えないでくださいよ! この前電話した時に言われたけど。

 働きに働いた結果、笑みもだんだん浮かべられるようになり、
 いつものペースで罵倒されるパターンも増え、凛の料理の餌食になる機会も増えた。

 呪いは解かれたはずだけど、凛が作るのは相変わらず劇物。

 十千万旅館では調理できないので、近所の料理教室が彼女専用の調理場になっているけれど、生ゴミを放置してもカラスが出ないと評判。 

 志満さんのあだ名が鬼畜ヤンキーになる中、
 誰かに頼まれて私をこき使っているというのはなんとなくわかった。

「働くって素晴らしいわね……」

 高海千歌ちゃんが遊び行きたい! というので、
 わかった! お風呂掃除は任せて! うまく千歌ちゃんがやったようにやるから!
 と発言をしたのをすっかり忘れ、見事にテッカテカにしてしまった。


779以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/15(月) 14:30:11.26i63Omi5a0 (2/4)

 しかし、千歌ちゃんも心得たもので、無理だと思いますって言ったし、
 遊び相手の亜里沙もツバサも、無理でしょって言った。

 三人でどこ行くのって聞いたら、ダイビングって答え。
 いいなあ、私も行きたいなあ! って言ったら、
 
 素潜りでもしてこいって言われた、誰が言ったのかは秘密。
 

 前の世界ではニートをしていたはずだし、アイドルとかバーテンダーとか。
 様々な業務に勤務していた記憶もある。

 とはいえ、ループを繰り返した末にこのような能力の高さを身につけたのならば、
 今までのことは何も無駄ではなかったのだと思う。

 よっちゃんが私たちからラスボスラスボスとか呼ばれているせいで、
 Aqoursのメンバーにまでラスボスって呼ばれるようになってしまったのは、
 私が悪いということで一つ。



 働かせすぎだと苦情が出た――そんな、一つも申し訳なさそうな志満さんの顔を眺め、

 部屋で謹慎みたいなことをさせていても気分が盛り上がるだけでしょ?
 だから、海未ちゃんに頼んで仕事持ってきたから。

 何をさせられるのかと思った。
 もうすでに東條希からの頼みで、彼女が本来するべき教師としての仕事を分け与えられているのに、これ以上仕事を山積みにさせるつもりか。

 とは考えてしまったけど、確かに動いていないと泣きそうになるので、
 彼女の判断は正しいと思われる。


780以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/15(月) 14:30:41.09i63Omi5a0 (3/4)

「……つまり、ゴーストライター」

 暇だからという理由で真姫と一緒に作詞作曲活動をしている海未。
 
 以前までの法外なレートでは作詞活動はしていないけれども、
 泉のように歌詞が湧いてくる! 絵里とも再会できましたし!
 
 と、タッグを組んで次々と名曲を完成させていく。
 それらは下火になっているスクールアイドルの為に無償で提供された。

 しかもサンプルとしての曲は、元A-RISEの面々が歌っていて。

 匿名なものだからA-RISEが歌っているとは思っていない人たちが、
 とんでもなく上手い人が歌っている、しかも曲も素晴らしい――

 なんだか一大ブームを巻き起こしている。
 私がちょっと凹んでしまっている間に、世界が変わりつつある。

「海未も直接言えばいいのに、こんな手紙を用意するなんて」

 手紙の内容は、気分転換に作詞でもしろ、添削はします。
 みたいな感じであった。
 部屋で寝てばかりいても気分は落ち込むだけなので、
 何かをさせてもらうのは大変嬉しい。


781以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/15(月) 14:32:39.60i63Omi5a0 (4/4)

 しかしながらは希が私に持ち込んだ小テストの問題作成であるとか、
 他の教師が担当しなければならない課題の問題作成とか、
 私が請け負って構わないものなのか疑問だ。

 もうすでに半分以上取り組んでしまった私が言うのもなんだけど、
 部屋にいたところで寝る暇がないのはなぜだろう。



 そんなこんなで、部屋にやってくる真姫とかツバサの相手をしながら、
 私は作詞活動を続けていた。

 いつのまにか1人部屋に隔離されてしまっていた私も、
 心の傷が癒えようとしているのは感じる。

 苦しいことっていうのは時間が治療薬になるのだな、そんな感想を抱く。

 部屋にこもっていたせいか、あの金髪の人働かせ過ぎて労働局から訴えでもされたの? との風評被害も起こったせいで、やっぱり高海姉妹にはこき使われてるけど。

 あとブラック企業に孫を殺されたというお祖母様は、最近孫が結婚したらしい。
 記憶があやふやになることはよくあるからね……。


782以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/19(金) 19:44:13.57+IHzkB+n0 (1/1)

現在園田海未ルート更新中ではあるのですが、
ちょっとメンタル面の調子を崩し、これからシリアスにちょっと傾く場面を書いていけないので、
一旦この場での更新は停止します……。

絵里やツバサが虹ヶ咲学園に行くのですが、
そこで登場する優木せつ菜さんがね? あの人基本シリアスだからね?
ということで、深くお詫びします。エリちが。

なお、鹿角理亞、園田海未、両ルートは更新停止しますが、
ハーメルンの方で、西木野真姫ルートでお茶を濁そうかと。

海未ちゃんルートのアフターであり、
書きたいものを書いて、幸せな話にしてやるとか、甘ったるい話にしようと。

真姫ちゃんルートの前日譚はこの場において、
その後はハーメルンにて。