406 ◆c6GooQ9piw2019/03/26(火) 09:10:32.52piYOyBD9O (1/2)

ほむら「……っ」

ほむらの胸が痛む。
どのような理由があろうと、まどかを苦しませるのはほむらの本意ではない。

本当にこの方法しかなかったのだろうか。

矛盾した行動をとらざるを得ない現状に、疑問を抱かないわけではない。
だが、この類いの問答は数えきれないほど繰り返してきた。

結論はいつも同じだった。

ほむら(ここまできて別の方法を試すなど、できるはずがない)

それはもはや、まどかを見捨てることと同義だ。

たとえ間違っていようが、ほむらは走り続けるしかないのだ。


407 ◆c6GooQ9piw2019/03/26(火) 09:11:58.29piYOyBD9O (2/2)

ほむら「……」

ただ、それは必ずしも前向きな感情からくる結論ではない。

もしかしたらほむらは、他に道はないからと、半ば逃げるような気持ちで繰り返してはいないだろうか。
もはや今のほむらには、その問いを自信を持って否定することができなくなっている。

もしそのように流されるように繰り返していても、決して成功するはずはないし、いつかほむら自身が擦りきれてしまう。

結局、シンプルな話ではある。
こうして繰り返していることで、少しずつ成功に近付いているという実感があれば、ほむらも希望を持って次に挑めるだろう。

しかし現状、ほむらが繰り返せば繰り返すほど、まどかを助けることなどできないのではないかと思わされてしまう。

それなのに、もはや目の前に他の手は残されていない。
どうにかしなければならないのに、これ以外の手段ではまどかを助けられないという確信だけがほむらの中にある。

──どうすればいいのか、わからない。

そんな後ろ向きな感情が、じわじわとほむらの心を蝕んでいく。
ソウルジェムの穢れが、ほむらの心情を明確に示していた。


408 ◆c6GooQ9piw2019/07/28(日) 19:35:48.13VkMOFHkb0 (1/2)

ほむら「……!」

突然の人の気配に、ほむらは素早く振り向いた。

杏子「よう」

ほむら「あなた……」

侵入者は、佐倉杏子。
その背には、美樹さやかの姿があった。

いや、正確に言えば──『それ』はもはや、美樹さやかそのものではないはずだ。

ほむら「……」

予想はしていたことだ。
ほむらに落胆はなく、やはりそうかと府に落ちる思いすらあった。

すでに幾度となく見た光景だ。
杏子の心情を思えば胸にくるものはあるが、ほむら自身に動揺はなかった。

ただ、ここで考えるべきは──

ほむら(……杏子は、どこまで事態を正確に把握しているのかしら)


409 ◆c6GooQ9piw2019/07/28(日) 19:42:53.09VkMOFHkb0 (2/2)

ほむらも、この状況から杏子を騙して協力させようとは、もう思っていない。
杏子は情に熱い一面はあるが、それで目を曇らせるほど愚かではない。

ある程度は──おそらく、さやかが魔女となってしまったことまでは、察しているはずだ。
そこをごまかすのはさすがに無理だろう。

そして、真実を知った杏子の行動は、もう決まっている。

ほむら「……」

この時間軸で失敗が確定した以上、この後のほむらの行動は特に考える必要はない。
杏子を追い出して、家でひとりワルプルギスの夜の襲来を待つのも悪くない。

ほむら(……だからといって、完全に放置するわけにもいかないでしょうね)

万が一、杏子がこの場でほむらに逆上して襲いかかる可能性も、なくはない。

杏子は本質的には理性的な魔法少女だが、さすがにこの状況で、ほむらに全く敵意を抱いてないということはないはずだ。

そういう意味でもやはり、今の杏子を放っておくわけにはいかないだろう。


410 ◆c6GooQ9piw2019/11/22(金) 23:12:23.37MAd8f5eGO (1/1)

ほむら「何の用かしら?」

杏子「聞きたいことがある」

ほむら(……でしょうね)

キュゥべえの誘いに乗らないように一応忠告はするつもりだが、それで引き留められないことはもうわかっている。

ほむら「……」

ほむらの目的に繋がらない以上、ここで適当なことを言って煙に巻くのは簡単だ。

だが、もはやほむらに嘘をつく気はなかった。
贖罪というわけではないが、杏子の疑問に正直に答えるくらいのことはするつもりだった。

杏子「さやかに、何が起こったんだ?」

ほむら「予想はついているんでしょう?」

杏子「……」

険しい表情だ。
状況が状況だけに仕方ないのかもしれないが、元凶はあの悪魔だとわかっているのだろうか。
万が一にもほむらに一因があると思われているのなら、その誤解だけは解いておきたい。


411以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/23(土) 23:40:30.71nYl+Wymho (1/1)

おお、続いてたのだな 読んでるよ


412 ◆c6GooQ9piw2019/11/24(日) 21:38:02.23iKvy3stU0 (1/3)

杏子「さやかが倒れた……いや、死んだ。そして、魔女が現れた」

ほむら「……それで?」

杏子「お前は知っているはずだ。さやかに、何が起こった?」

ほむら「……」

否定してもらいたいのだろうか。

いや、杏子はそれほど弱い人間ではない。
すでに、現実を受け入れる覚悟ができているのだ。
その上で、解決の手段を模索するために、まずは状況を正確に把握する必要があると考えているのだろう。

目の前の絶望から目を反らすほど、杏子は愚かではない。

──だからこそ、キュゥべえはそこにつけこんでくる。

ほむら「……あなたの想像の通りよ。さやかは、魔女と化してしまった。これからは、絶望を振り撒いて生きていくことになるわ」

杏子「……!」

ほむら「元に戻すことは不可能よ。バカなことは考えないことね」

忠告だけはしておく。
これで万が一にも杏子が生き残るならありがたいが、まずあり得ない。


413 ◆c6GooQ9piw2019/11/24(日) 22:23:07.85iKvy3stU0 (2/3)

杏子「……次の質問だ」

ほむら「何かしら?」

杏子「魔法少女のソウルジェム……あれの正体は何だ」

ほむら「──」

ほむらはわずかに思考を走らせた。

杏子がそこに疑問を持つ場面は、この時間軸ではあっただろうか。

ほむら「……どういう意味かしら」

杏子「たぶんあれは、ただの道具なんかじゃない。あたしたちにとって大事な、いや、まさか……」

ほむら「……」

杏子「魔法少女、そのもの、か……?」

いったい、どこでそこまでの確信を得たのか。
何にせよ、ほむらに嘘をつく理由はない。

ほむら「その通りよ。ソウルジェムは、魔法少女の魂そのもの。私たちは、契約の際に身体から魂を抜き取られている」

ほむらの答えに、杏子は顔をしかめた。

杏子「くそっ、キュゥべえの奴……」

杏子が悔しがる素振りを見せるが、ほむらには疑問が残る。


414 ◆c6GooQ9piw2019/11/24(日) 22:25:27.99iKvy3stU0 (3/3)

ほむら「あなた、そのことにはいつ気付いたの?」

杏子「……」

ほむらを見る杏子の目に、敵意は感じられなかった。
どうやら黒幕を誤解されてはいないらしい。

杏子「お前がさやかを撃とうとしたときだ。あたしが防いだが……あのとき狙っていたのは、さやかのソウルジェムだっただろ?」

ほむら「……そうね」

杏子「あのときの殺気は本物だった。本気でさやかを殺そうとしていたはずだ」

ほむら「……」

杏子「それで狙うのが、ソウルジェム、か?」

横から防いだ杏子が気付いたのなら、狙われたさやかも間違いなく気付いただろう。

もしかしたら、それが後押しとなって──

ほむら「……彼女には、悪いことをしてしまったかもしれないわね」

杏子が何を今さら、と苦笑する。

杏子「殺そうとした奴の台詞じゃねーよ……あとはまあ、さやかが魔女になったところを見たからな」

杏子は、さやかのソウルジェムから魔女が生まれる瞬間を見たのだろう。
同時に、さやかの身体はぬくもりを失い始めたはずだ。


415以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/12/08(日) 23:43:14.40XiTXQQaT0 (1/1)

更新楽しみに待ってます!


416以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/12/13(金) 09:36:48.78UkstH1db0 (1/1)




417 ◆c6GooQ9piw2019/12/17(火) 17:08:07.76AS20VPtjO (1/3)

ほむら「……なるほどね。質問は終わり?」

杏子「ああ。やらなきゃならないことができたからな」

──やはり、そうなってしまうのか。

ほむら「言ったはずよ。さやかは二度と元には戻らない」

杏子「キュゥべえは、魔法少女は奇跡を起こす存在だと言っていたぜ」

既に接触されていたか。

ほむら「嘘よ。私は魔法少女が魔女になるのを何度も見てきた。例外はないわ。魔法少女に戻ることは、絶対にあり得ない」

杏子「わからねーだろ。前例がないことはキュゥべえからも聞いた。だが……」



杏子「可能性はゼロじゃない」


418 ◆c6GooQ9piw2019/12/17(火) 17:13:18.56AS20VPtjO (2/3)

ほむらの中で、何かがほとばしった。

──その台詞を、簡単に口にするんじゃない!

ほむら「無駄なのよ! 私がどれだけ絶望した魔法少女を見てきたと思ってるの!? 何度試したところで同じこと……決まりきった結末を変えることなんてできないのよ!」

杏子「……」

全く、誰に向けての台詞なのか。
ほむらは、失望感とともに幾分落ち着きを取り戻し、軽く首を振った。

ほむら「……無理なものは無理なのよ。おとなしく諦めなさい」

杏子はやけに冷静だった。

静かに、ほむらを正面から見つめ、口を開く。

杏子「100回失敗したからといって、101回目もダメとは限らねーだろ」

ほむら「……っ」

杏子の言葉が、ほむらの胸に突き刺さる。
落ち着きかけていた心が、燃え上がる。

思わず言い返そうとして──続く杏子の台詞に遮られた。


419 ◆c6GooQ9piw2019/12/17(火) 17:14:34.90AS20VPtjO (3/3)




杏子「だからこそお前も、何度も繰り返してんだろ?」






420 ◆c6GooQ9piw2020/03/06(金) 06:27:10.62FJvn9tXJO (1/1)

ほむら「──ッ!?」

ほむらの全身が強張った。
息をすることすら忘れ、杏子の台詞を反芻する。

──今、杏子は何と言った?

杏子「……」

言葉の羅列だけが耳に残る。
頭が理解を受け付けていない。

ほむら(……あり得ない。それだけは、絶対にあり得ない。気付くはずがない……!)

混乱する頭で、杏子がこちらを見ていることを思い出す。

ダメだ。今は考えている余裕はない。
落ち着け。平静を保たなければ──

ほむら「……繰り返している? どういう意味かしら」

杏子の表情が読めない。

どこまで知られている?
どこまで読まれている?


421 ◆c6GooQ9piw2020/03/08(日) 13:34:20.04wGdW5X1X0 (1/2)

数秒の沈黙の後、杏子が口を開いた。

杏子「ポーカーフェイスはさすがだがな。普段から無表情だから、逆にわずかな変化も浮き上がってしまうってもんさ。隠すなら、むしろ常に表情を作っておくべきだ」

ほむら「……っ」

杏子「しかしまさか……本当にそうだったとはな」

かまをかけられた……?

いや、いずれにせよある程度の確信はあったはずだ。
そうでなければ、繰り返しているなどと口にすることすらあり得ない。

いったい、どうして……


422 ◆c6GooQ9piw2020/03/08(日) 13:36:40.25wGdW5X1X0 (2/2)

杏子「お前には結末がわかってるんだろ。聞かせろよ、さやかを元に戻そうとすると、あたしはどうなるんだ?」

おそらく、杏子はわかっているのだろう。
ほむらの目的──ワルプルギスの夜を倒すことと照らし合わせれば、答えは容易に導かれる。

ほむら「……死ぬわ」

ほむらの言葉に、杏子はため息をついた。

杏子「やっぱりそうか。だから、さやかを殺そうとしたんだな」

ほむら「……」

もはや、ほむらが繰り返していることを前提として話が進んでいる。
しかしほむらとしては、今後のためにも確認しておかなければならない。

ほむら「……なぜ、わかったの?」

杏子「ヒントはあったさ」

杏子は、軽い調子でつぶやいた。

杏子「魔法少女の能力は、願いによって決まる」


423 ◆c6GooQ9piw2020/05/13(水) 22:39:45.63k7/lCzN/0 (1/2)

杏子「さっき、確かにあたしはあんたを打ち負かしたが、あれははっきり言って偶然だった。少しでもタイミングが違っていれば、どうなっていたかわからない」

ほむら「……」

今思えば、あれもそうだ。
杏子はどうやってほむらの能力を封じたのか。
どうして、ほむらの能力を知っていたのか。

杏子「違うな」

ほむら「……え?」

杏子「あのとき、あたしはあんたの能力を把握していなかった。ある程度絞っていたとはいえ、まさか時間を止められるとは思ってなかったよ」

ほむら「なら、どうして……」

杏子「相手の手の内が見えない以上は、発動前に勝ちきるしかない。あたしはただ、開始と同時に自分の能力を全力で発動させただけさ」

能力……まさか──

杏子「あんたがあたしの能力を知っていたら、勝敗は逆だったかもな」


424 ◆c6GooQ9piw2020/05/13(水) 22:42:08.95k7/lCzN/0 (2/2)

──幻惑魔法。

ほむら「いいえ、知っていたわ……でも」

知っていて、警戒していなかった理由。
想定の外に置いていた理由、それは……

ほむら「あなたは、能力を使えなかったはずよ」

そう、使えなかったはずだ。
確か、自分の願いを否定するような生き方をしていたせいで、能力を使えなくなったと──

杏子「……知っていたのか。そうさ、使えなかった。他人のために魔法少女になっておきながら、自分のためだけに生き続けるあたしには、気付けば能力を使うことができなくなっていた」

それが、佐倉杏子という魔法少女だった。

家族を失い、かつての自分を否定した。
自分のためだけに生きていれば、何も他人に期待することはないと、悲しむこともないと、ひとりで生き続ける。

杏子「だが、あたしがあんたと戦った理由は──さやかを守るためだった」

恐らく、杏子の本質は変わっていない。
そう簡単に切り替えられるものではないだろう。

しかし杏子にとって、あの一瞬だけは確かに、自分以外の誰かを守るための戦いだった。


425 ◆c6GooQ9piw2020/07/09(木) 23:00:54.93F8rkEtqD0 (1/3)

ほむら「だから、能力を使えたというわけね。よくやるわ。うまく発動できるかも不安だったでしょうに」

杏子「……」

ほむら「あるいは、それだけさやかを助けたいという感情に自覚があったということかしら」

ほむらはわざとからかうように口角を上げた。
負けた悔しさがないわけではない。
このくらいはいいだろう。

若干の気まずさからか、杏子は舌打ちをする。

杏子「話を戻すぞ。あのときあたしがあんたに見せた幻は、『自分が敗北するイメージ』だ。内容は本人が無意識に決めるから、あたしにはわからないがな」

あのときの光景を思い出す。

ほむら「……確かに、そうだったわ」

杏子「うまく発動していて何よりだが……違和感があった」

ほむら「……?」

杏子「能力の効き具合や、そもそもお前の感覚を狂わせていたからと言えばそれまでなんだが──」

杏子「それでも、決着が『早すぎた』」


426 ◆c6GooQ9piw2020/07/09(木) 23:04:31.16F8rkEtqD0 (2/3)

言葉の意味がわからない。

ほむら「どういう意味かしら」

杏子「お前の降参があまりにも早かったんだ。あたしの体感では、能力を発動させてから数秒ってとこだな」

ほむら「……」

杏子「あれだけの執念を見せるお前が、そんなに早く諦めることに、どうしても違和感があった」

数秒……?
自分でもはっきりとは覚えていないが、いくらなんでもそこまでは……

しかし確証はない。
確かに、自分でもそう簡単に諦めたとは思えないが、別にそれでほむらの執念が否定されるわけでもない。

あれだけの極限状態だ。
能力による影響がなくても、時間の感覚が多少ずれていてもおかしくはない。

あるいは杏子が言っていたように、ほむらの感覚自体が、杏子の能力でずらされていただけのことではないだろうか。

そうでなければ……


427 ◆c6GooQ9piw2020/07/09(木) 23:06:38.93F8rkEtqD0 (3/3)

ほむら「──!」

そこまで考えて、ほむらに衝撃が走った。

違う。杏子の能力じゃない。
ずれていたのは感覚ではなく、時間の流れそのもの。

あのとき、ほむらは『何をした』?

時間のずれの原因は──

杏子「お前も同じだったはずだ。開始と同時に、能力を発動させた。そのために、決闘の形式なんて持ち出してきたんだろ?」

ほむら「……そして、互いの能力が同時に発動した」

杏子「そう、お前は……」

杏子が、真相を告げる。

杏子「自ら停止させた時間の中で、幻覚を見ていたんだ」


428 ◆c6GooQ9piw2020/09/21(月) 19:34:44.82tumhSjWG0 (1/2)

──そういうことか。

その結果生じた、不自然な時間のずれ──それが、杏子を真実へと導いた。

ほむらがあのとき、杏子のわずかな動揺に気付けていれば、あるいは……

いや、今さらそんなことを考えても仕方がない。

杏子「そして、能力がわかれば願いも予測できる」

ほむら「……!」

杏子「お前は、あまりにも知りすぎていた。始めは未来予測か何かかと思ったが、能力が時間停止とくれば、これしかない」

ほむらの息が、詰まる。

杏子「時間遡行──お前は過去に戻り、同じ時間を繰り返している」

あぁ、初めてだ。
これまで、いくらほむらが打ち明けても信じてもらえなかった真実に、杏子はたどり着いている。

杏子「それもたぶん、数えきれないくらいには何度も繰り返しているはずだ。違うか?」

ほむら「……なぜ、私が『何度も』繰り返していると?」

杏子「ワルプルギスの夜の出現範囲予測──あれは、範囲を絞れるくらいには繰り返したってことだ。どう考えても、1回や2回じゃないだろ」

ほむら「──なるほど、ね……」


429 ◆c6GooQ9piw2020/09/21(月) 19:48:26.87tumhSjWG0 (2/2)

喜びにも似た感情が抑えきれなかった。

どうせ信じてもらえない。
もう不可能だと、もはや不必要だと思っていた。

他人に理解してもらえなくていい。
それなら、自分で状況を操作してまどかを救うだけだと。
理解者など必要ないと──そう思っていた。

しかし──

ほむら(たったひとりに理解してもらえただけで、これほど心が温まるなんて)

利害うんぬんの話ではない。
まどかを救うために必要かどうかではない。

ただ、自分を理解してくれる人がひとりいるだけで、こんなにも違うとは。

ほむら(あぁ、これで──)

一度は諦めた。
もうこの時間軸では無理だと、まどかを救えないと、目を背けた。

そこに現れた、ひとりの理解者。

そんな想定外の存在を前にして、ほむらは──

ほむら(──これで、勝機が見えた)

ただ、前だけを見つめていた。


430 ◆c6GooQ9piw2020/11/29(日) 13:14:30.69jqvXxmx+0 (1/1)

今まで何度説明してもわかってもらえなかったのだ。
それが今は、向こうから確信を持って真相に触れている。

千載一遇のチャンス。
もう二度とないかもしれない。
これを逃す手はない。

杏子「もういいだろ。ここまできたら、全て話せよ」

今度こそ、ワルプルギスの夜を倒せるかもしれない。
まどかを救えるかもしれない。

ほむら「……えぇ、わかったわ」

正念場だ。
失敗は許されない。

ほむら「全ての元凶は、鹿目まどか」


431 ◆c6GooQ9piw2021/01/07(木) 13:35:48.266URNH5dY0 (1/2)

杏子「鹿目まどか?」

杏子は思案する様子を見せた。

杏子「……あぁ、確かさやかと一緒にいたピンク髪の奴か。キュゥべえが、かなりの素質があるとか言っていたな」

ほむら「彼女の素質は、そんな言葉で言い表せるほど生易しいものではないわ」

言葉を選ぶ必要がある。
どこから説明するべきか。

ほむら「そうね……魔法少女が絶望し、やがて魔女になることは、もうわかったでしょう?」

杏子の表情が、わずかに歪む。
まだ完全には飲み込めていない部分もあるだろうが、彼女なら恐らく問題ない。

杏子「……あぁ」

ほむら「魔女の強さは、魔法少女だった頃の強さに比例する。鹿目まどかが魔女になれば、ワルプルギスの夜なんて比較にもならないわ」


432 ◆c6GooQ9piw2021/01/07(木) 13:37:13.596URNH5dY0 (2/2)

さすがの杏子も、動揺を隠せなかった。
ワルプルギスの夜を超える強さの魔女というのが、そもそもあり得ない認識のはずだ。

杏子「……そんなにか?」

ほむら「えぇ、当然そんな魔女、誰も倒せるはずがない。いえ、もはやそんな対象ですらないわ」

元がまどかであることを差し引いても、ほむらは立ち向かおうとさえ思えなかった。
あの魔女には、対峙することすら敵わない。

ほむら「ワルプルギスの夜は、一般人からはその姿が見えず、災害として処理されることが多い。でも、所詮はその程度。後世に伝わる程度の脅威でしかない」

杏子「……」

ほむら「その魔女は、生まれた時点で人類の滅亡が確定する」

杏子の顔が、驚愕に染まる。

杏子「……そんな魔女が、存在するってのか」

悪くない反応だ。

ほむら「もちろん、存在させてはならない。だから、私たちでワルプルギスの夜を倒さなくてはならないのよ」


433 ◆c6GooQ9piw2021/03/15(月) 20:48:16.35QLoOq0Yg0 (1/2)

ほむら「確かに鹿目まどかが契約すれば、ワルプルギスの夜なんて一撃で倒せるわ。しかしそれは、伝承されるほどのワルプルギスの夜の絶望を、一身に受けることになる。魔女化は避けられない」

杏子「契約さえさせなきゃいいんだろ? もしあたしらでワルプルギスの夜を倒せなくても、そいつの契約さえ防げれば……」

ほむら「キュゥべえはそこにつけ込んでくる。ワルプルギスの夜に破壊される街を盾にして、彼女に契約を迫ってくる」

杏子「説得はできないのか? 全て話して、何があっても契約するなと説得するのはどうだ?」

ほむら「信じてもらえると思う? 無駄よ。今のあなたは、本当に例外でしかない」

杏子「だが……」

ほむら「それに、結局は同じこと。彼女は、目の前で崩れていく街を見て、じっとしていられるような性格ではないわ」

杏子「……」

ほむら「私はもう、 数え切れないほど失敗した」

杏子が思案する素振りを見せる。

杏子「……キュゥべえの目的はなんだ? あたしもあいつが仲間だとは思っちゃいなかったが、少なくとも共生関係にはあると考えていた。しかし、人類が滅亡しても構わないとなると、話が違ってくるじゃねーか」


434 ◆c6GooQ9piw2021/03/15(月) 20:50:56.40QLoOq0Yg0 (2/2)

ほむらは思わずため息をついた。
認識が甘すぎる。

ほむら「キュゥべえの目的は、魔法少女の感情エネルギー……らしいわ。宇宙のために必要とか言っていたけれど、それもどこまで信用していいか」

杏子「あたしらは、利用されているだけだってのか」

ほむら「あいつは、私たちのことを家畜としか思ってないわ。そこに悪意はない」

杏子「……だが家畜だとしても、利用価値はあるってことだろ。人類が滅亡すれば、奴だって困るんじゃねーのか」

本来ならその通り。
人類がこれまで生き延びてこれたのは、キュゥべえと私たちの利害が奇妙に釣り合っていたからだ。

そのバランスは、それほど強固なものではない。

ほむら「逆よ。あいつにとっては、鹿目まどかが魔女になりさえすれば、人類が滅んでも構わない」

杏子「な……」

ほむら「奴にとって、彼女の素質がそれだけ魅力的ということよ」

杏子が口をつぐむ。

話すべきことは話した。

いけるはずだ。
杏子なら感情に流されず、冷静に判断できるはず。

そんな期待が顔に出ないよう注意しつつ、杏子の言葉を待つ。

杏子「……話はわかったよ。それなら確かに、あたしはあんたに協力するしかない。人類が滅んじまうってんじゃ、他に選択肢はないよな」


435 ◆c6GooQ9piw2021/05/16(日) 16:23:26.59aU28sdYH0 (1/2)

ほむら(……やった)

希望が繋がった。
これで、この世界線でもまだ戦える。

ほむら「じゃあさっそく、ワルプルギスの夜の対策についてだけど」

杏子「その前に」

杏子に制される。

後から思えば、このときの私は少々油断してしまっていたのだろう。

杏子「まだ、隠してることがあるよな?」

ほむら「ッ!?」

杏子の刺すような視線に虚を突かれ、思わずたじろぐ。
しかし、嘘はついていない。

ほむら「……ないわ。あなたの説得のためとはいえ、今話したことは全て真実よ」

杏子「そうか? それなら、もっと簡単な方法があるじゃねーか」

ほむら「……え?」

他にどんなやり方があるというのだ。
ほむらがどれだけ繰り返して、あらゆる手段を試し尽くしたかを、杏子は知らない。

しかし、続く杏子の言葉は、確かにほむらの予想を裏切るものであった。



杏子「鹿目まどかを、殺してしまえばいい」


436 ◆c6GooQ9piw2021/05/16(日) 16:25:17.38aU28sdYH0 (2/2)

ほむら「──ッ!」

恐らくは本気ではない。
ほむらの様子をうかがうための一言だろう。
そうわかっていながら、ほむらは沸き上がる怒りを抑えることができなかった。

杏子「それで全て解決だ。そうだろ?」

ほむらが思い付くはずがない。
それでは、ほむらの一番の目的が果たせない。

ほむら「彼女は何も知らないのよ。何も悪くない。そんなひとりの少女を殺してまで、目的を果たそうとまでは……」

苦しい言い訳だ。

そして、言った直後に気付く。
ダメだ、この返答では──

杏子は、ゆっくりと口を開いた。

杏子「──さやかは殺そうとしたのにか?」

ほむら「……」

今度こそ、返す言葉がなかった。


437 ◆c6GooQ9piw2021/07/09(金) 17:54:52.207HjWDTiE0 (1/3)

杏子が鋭い目で、ほむらを見据える。

杏子「もう察しはついてるがな。言えよ、お前の本当の目的はなんだ?」

見透かされている。
これ以上、欺くことはできない。

ほむら「……」

口先だけの弁明なら、できなくはない。
しかし、なぜかそんな気にはなれなかった。

これまで自分がどれだけ人を欺き、いいように利用してきたかはわかっている。
そんな自分には、到底似合わない感情かもしれない。

しかし、なぜか今だけは、杏子の強い想いに応えたくなった。

ほむらは唇を震わせ、確かな意志を込めて、その言葉を口にする。

ほむら「まどかを、救うことよ」

声に出すことで、改めて自分の目的を胸に刻み込む。
これだけは、決して揺らぐことはない。

ほむらの言葉に、杏子はわずかに目を見開いた。

杏子「初めてお前の本音を聞いた気がするよ」


438 ◆c6GooQ9piw2021/07/09(金) 17:57:00.447HjWDTiE0 (2/3)

そう、まどかを救うこと。
全ての始まりだ。
それだけがほむらの目的だった。

それはこの時間軸でも、諦めたわけではない。

ほむら「……目的も知れて、これで少しは納得してもらえたかしら」

杏子「そうだな。今のお前の言葉が本心だってのは、十分わかったよ」

問題はない。
確かにほむらは自身の目的を語ったが、それで杏子の行動が変わるわけではない。

まどかが魔女化すれば、人類は滅びるのだ。
それが嘘ではないことは、杏子もわかっているだろう。

ほむら「……じゃあ、改めてワルプルギスの夜の対策を説明するわ。頭に叩き込みなさい」

たとえ杏子と共闘したところで、ワルプルギスの夜を撃退できるとは限らない。
しかし、この貴重なチャンスを無駄にするわけにはいかない。
できるだけのことはやって、仮に失敗したとしても、必ず次につなげなければならない。

全ては、まどかを救うために──



杏子「いや、その必要はねーよ」


439 ◆c6GooQ9piw2021/07/09(金) 18:02:02.987HjWDTiE0 (3/3)

ほむら「……え?」

杏子の言葉に、ほむらの思考が遮断された。
いったい、何を言っているのだろうか。

ほむら「必要がないって……どういう意味かしら?」

狼狽するほむらに対し、杏子は、少々あきれたような表情を浮かべていた。

わかりきったことを説明させるなとでもいうような口調で、杏子は答える。

杏子「どうもこうも、そのままの意味だろ。そんな話は、あたしが無事に戻ってきてからにしてくれよ」


440 ◆c6GooQ9piw2021/09/26(日) 06:59:19.62t8r4Odp60 (1/3)

ゾクリ、と。
ほむらの背中に、冷たいものが走る。

──無事に?

まさか。

まさか、杏子は……!?

杏子「あたしはさやかを助けたい。もし無事に戻ってこられたら、そのときは共闘でもなんでもしてやるよ」

言葉の意味が理解できない。
頭がくらくらする。
意味がわからない。

ほむら「──ッ」

もはや、ほむらは限界だった。

ほむら「ふざけないで! あなた、自分が何を言っているのかわかってるの!?」

杏子「……」

ほむら「言ったでしょう!? 死ぬのよ! 美樹さやかは絶対に助けられない! これだけ言われて、まだわからないの!?」

杏子に動揺はなかった。
ほむらが叫べば叫ぶほど、その感情の隔たりから、より一層杏子との距離を感じるようだった。


441 ◆c6GooQ9piw2021/09/26(日) 07:04:17.91t8r4Odp60 (2/3)

視界が揺らぐ。
足元がふらつき、まともに立っていられない。

ほむら「……ああ、私の言ったことを疑っているの? でも、わかるでしょう? これが嘘だったとしたら、私があなたを止める理由がないでしょう?」

すがるようなほむらの言葉に対し、杏子は首を振って応える。

杏子「別にあんたを疑ってるわけじゃない」

ほむら「じゃあ、なんでよ!?」

気づけばほむらは、涙を流していた。
これほど感情を表に出したのは、いつぶりだろうか。

杏子「言ったろ。可能性はゼロじゃない」

ほむら「……あなた、本気で言っているの?」

杏子「……」

ほむら「確かにゼロだとは言わないわ。私も、その考えのもとに何度も繰り返している。いつか必ず、まどかを救えると信じて」

その通りだ。
しかし、ほむらと杏子では事情が違う。

ほむら「でも、あなたは何度もやり直せるわけじゃない。たった一度のチャンスで、本当にほんのわずかな可能性をつかみ取れるとでも思ってるの? 賭けにしても分が悪すぎるわ」


442 ◆c6GooQ9piw2021/09/26(日) 07:06:18.10t8r4Odp60 (3/3)

今度は杏子も、ほむらの言葉を否定しなかった。

杏子「わかってるよ。あたしもそこまでバカじゃない。あんたの言う通りだ。あんたの見てきた通りだ」

ほむら「……ッ」

杏子「まあ……無理だろうな」

ほむら「だったら!!」

懇願するかのようなほむらの叫び。
しかし、杏子の表情は変わらなかった。

もう、とうに覚悟は決まっていたのだろう。
杏子は、わずかな笑みさえ浮かべていた。

杏子「あたしが死ねば、今度こそ、あんたは完全に手詰まりなんだろ?」

ほむら「……?」

一瞬、意味がわからなかった。
しかし、次の杏子の言葉で理解する。

杏子「できれば、次はさやかのことも助けてやってくれよな」


443 ◆c6GooQ9piw2021/11/30(火) 13:09:17.06mkSBAl5bO (1/3)

──ああ、そういうことか。

やっと、全てが府に落ちる。

杏子は死ぬつもりなのだ。

仮にこの時間軸でワルプルギスの夜を倒せたとしても、それは杏子が望む結末ではない。
いや、むしろそれは、さやかが救われない結末を確定させてしまうことに他ならない。

結局、ほむらの時間溯行を杏子が知ってしまった時点で、杏子の協力は望めなかったのだ。

ほむら(これで、完全に勝ちの目は消えた)

全身の力が抜ける。
ほむらは、その場に崩れ落ちた。

終わりだ。
この時間軸では、まどかを救えない。
また、失敗した。

ほむら「……」

ほむらの様子に痺れを切らしたのか、杏子はほむらから目を離す。

杏子「……じゃーな。もう行くぜ」

杏子が踵を返し、歩き出す。



ほむら「待ちなさい」


444 ◆c6GooQ9piw2021/11/30(火) 13:26:09.46mkSBAl5bO (2/3)

ほむらの言葉に、杏子が足を止める。

杏子「……何だよ。もう十分だろ」

煙たがるような杏子の声は、ほむらの耳には入らなかった。

立ち上がり、杏子をしっかりと見据える。

これだけは、言っておかなければならない。
これだけは、言っておかなければ気が済まない。



ほむら「必ずさやかを救ってみせなさい」


445 ◆c6GooQ9piw2021/11/30(火) 13:28:28.09mkSBAl5bO (3/3)

杏子「は……?」

杏子は、唖然とした表情を見せた。

しかし、ほむらは止まらない。

ほむら「諦めるなんて許さない。私にここまで語ったからには、奇跡を起こしてみせなさい!」

ほむら「ワルプルギスの夜を倒すためには、あなたが必要なのよ! 必ずさやかを救って、ここに戻ってきなさい!」

ほむら「誓いなさい! そうでないと、行かせるわけにはいかないわ!」

杏子「……」

息を切らし、杏子に訴えかける。

始めから死ぬつもりで挑むなんて、絶対に許さない。
それでは、本当に可能性はゼロになってしまう。

これまで、数え切れないくらい失敗した。
いくつの時間軸を繰り返したかなんて、もう覚えていない。

でも、始めから諦めて挑んだことなんてない。
一度たりともだ。
本当に最後の最後まで、あらゆる可能性を探り続けてきた。

そうでなければならない。

それでこそ──奇跡を起こせるってものでしょう?

ほむら「私は、ここであなたを待っているわ」

目を丸くしていた杏子が、にやりと笑う。

杏子「ああ、待ってろ。必ずさやかを救ってやるよ」

そうして、彼女は姿を消した。


446 ◆c6GooQ9piw2022/02/08(火) 06:48:15.18LFTSgn+s0 (1/2)

……

どれほど経ったのだろう。

数時間、あるいは、もっと──

明確な時間の感覚はもはやなかったが、ほむらは思考を続けていた。
それだけの時間は、ほむらが冷静さを取り戻すのには十分だった。

もし、杏子が生きて帰ってきたら、ワルプルギスの夜に二人で挑める。
そのためのシミュレーションは、決して無駄にはならないはずだ。

仮に、この時間軸でそれが叶わなかったとしても──

ほむら「……」

ほむらは、自らの思考を反芻する。

これは、杏子の覚悟に対する冒涜だろうか。
あのような言葉をかけておきながら、ほむらは杏子が生きて帰ってくることを、決して信じてはいない。

いや、より正確に言うなら、杏子がどのような結末を辿ろうが、ほむらは構わないのかもしれない。

ほむらはただ、その状況に応じて、ベストだと思われる行動を──あるいは、それを探るために、まだ試していない行動を──ひたすらに選び続けるだけだからだ。


447 ◆c6GooQ9piw2022/02/08(火) 06:53:57.78LFTSgn+s0 (2/2)

それはまるで、ゲームのシナリオを網羅するための、機械的な作業のようだ。

しかし、それでいい。
いつかは、正解に辿り着けるはずだ。

問題は、ほむらの精神がどこまで耐えきれるか。

ほむら(……自分に嘘はつけない)

どちらでもいい?
そんなはずはない。

言うまでもなくほむらは、杏子が生きて帰ってくることを望んでいる。
当然だ。

──だが、祈ってはいない。

その希望に、依存してしまうからだ。
もし杏子が帰ってこなかったときに、立ち上がれなくなってはならないからだ。

パンドラの箱を開けてはならない。

ただ──奇跡を信じてはならないが、奇跡が起こる可能性くらいは信じてもいい。

今はまだ、この時間軸での攻略を考えていてもいいだろう。

可能性は、ゼロではないのだから。


448 ◆c6GooQ9piw2022/05/20(金) 17:07:25.97gFGYNPlR0 (1/4)

そして、そのときは訪れた。

ほむら「……!」

ほむらは目を見開いた。
背後に気配を感じたのだ。

──逡巡。

ほむらは、振り向くのをわずかにためらった。

来訪者が杏子であれば、希望は残る。
いや、それ以上だ。
幾度となく繰り返してきて、初めてと言ってもいいかもしれない、勝算が見えてくる。

まどかを、救えるかもしれない。

しかし──

QB「やぁ、ずいぶんと久しぶりな気がするね」

ほむら「……」

そこにいたのは、杏子ではなく──悪魔だった。


449 ◆c6GooQ9piw2022/05/20(金) 17:15:04.66gFGYNPlR0 (2/4)

QB「杏子は死んだよ」

ほむら「……ッ!」

まるで世間話のような調子で、あっさりと口にする。

感情はないというその目に、やはり悪意は感じなかった。
こいつは常に、純粋に目的のために動いている。

つまり、ほむらの心を折りにきたわけだ。

QB「これで、ワルプルギスの夜に勝つのは相当厳しくなったね。どうするつもりだい?」

ほむらは、キュゥべえの言葉を聞き流した。

──ショックはない。

ほむらは精神を落ち着け、自問自答する。

わかっていた。
杏子が生きて帰ってくることなど、あるはずがない。
期待してはいなかったのだ。
想定内の事象に過ぎない。

だから──大丈夫。

ほむらは、自身のソウルジェムを一瞥し、穢れが溜まっていないことを確認して、一呼吸した。


450 ◆c6GooQ9piw2022/05/20(金) 17:19:04.08gFGYNPlR0 (3/4)

QB「……聞こえなかったかい? 無視しないでくれよ」

ほむら「あぁ、悪かったわね。報告ありがとう」

当然皮肉だが、キュゥべえに通じたかどうか、非常に怪しい。

QB「それで、どうするんだい?」

答えはとうに決まっていたが、わざわざ教えてやることもないだろう。

ほむら「さあ、どうしようかしらね」

QB「……」

キュゥべえは珍しく……本当に珍しく、わずかに怪訝な様子を見せた。

QB「おかしいな。君の目的と、おおよその状況は把握してるつもりだったんだけど」

内心、相変わらずの情報通ぶりに舌を巻く。

ほむら「……何かおかしなことでも?」

QB「そうだね、正直不可解だ」



QB「どうして君は、まだ絶望していないんだい?」


451 ◆c6GooQ9piw2022/05/20(金) 17:26:34.08gFGYNPlR0 (4/4)

ほむらは思わず目を丸くした。
浮かれているつもりはない。
むしろ、この時間軸での失敗が確定して、落ち込んでいるというのが正解に近いはずだ。

ほむら「……そう見えるかしら。そもそもあなたは、人の感情を理解できないのではなかったの?」

QB「理解はできなくても、統計からある程度は割り出せる。特に魔法少女の希望と絶望は、僕たちも最重要視している事項だからね。研究も進めているのさ」

よくも、ぬけぬけと。

ほむら「それなら、その研究結果が的外れだったということね」

過去に戻ることが確定しているからといって、時間遡行や、ほむらの知っていることを教えてやる気はない。
どんな手を用いてくるかわからない以上、油断はできない。

キュゥべえにも、ほむらが情報を与える気がないことは、伝わったようだった。

QB「そうかい。君がここからどう足掻くのか、見せてもらうよ」

その言葉を最後に、キュゥべえは姿を消した。


452 ◆c6GooQ9piw2022/05/21(土) 19:29:46.12cQQyCtVH0 (1/6)

***

──そして。

ほむらは、ワルプルギスの夜に敗北した。

あらゆる手段を駆使したが、わずかな勝機すら見えることはなかった。
せめて先に役立てるものを見つけられればよかったが、わかったことは、独力でのワルプルギスの夜討伐は、ほぼ不可能だということだけだった。

しかしほむらは、全力で戦った。
そうしなければ、杏子に悪い気がしたのだ。

見届けてはいないが、恐らく杏子は、最後まで諦めなかったはずだ。

ならばほむらも、たとえどれほど低い可能性だとわかってはいても、本気で挑まないわけにはいかなかった。

そう、これからも。


453 ◆c6GooQ9piw2022/05/21(土) 19:32:18.67cQQyCtVH0 (2/6)

QB「全く、わけがわからないね。一体君は何がしたかったんだい?」

ほむら「……」

QB「勝てないとわかっていただろうに……正直、自暴自棄になっているようにしか見えなかったよ」

ほむら「……」

QB「まぁいいよ。君の状態はいまいち釈然としないけれど、とにかく僕は目的を果たした。それで十分だ」

ほむら「……」

QB「終わりだね。さようなら、暁美ほむら」


454 ◆c6GooQ9piw2022/05/21(土) 19:33:21.55cQQyCtVH0 (3/6)

キュゥべえがその場を去り、姿が見えなくなってから、ほむらはひとり呟いた。

ほむら「……まだ、終わりじゃない」

ほむら「終わらせない。絶対に、救ってみせる」

ほむら「運命を、変えてみせる!」

そして、ほむらは──


455 ◆c6GooQ9piw2022/05/21(土) 19:34:51.46cQQyCtVH0 (4/6)

繰り返す。

何度だって繰り返す。

未だに突破口は見えないが、それは諦める理由にはならない。

杏子の台詞が頭をよぎる。

『100回失敗したからといって、101回目もダメとは限らねーだろ』

──えぇ、その通りよ佐倉杏子。

100回だろうが、1000回だろうが、何度でもやり直してみせる。

そうすれば、いつか──


456 ◆c6GooQ9piw2022/05/21(土) 19:38:30.49cQQyCtVH0 (5/6)



──繰り返す。

私は何度でも繰り返す──




457 ◆c6GooQ9piw2022/05/21(土) 19:40:16.60cQQyCtVH0 (6/6)

終わりです。
ありがとうございました。


458以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/05/22(日) 00:05:50.57TuhFG20XO (1/1)

長期連載乙、良かったぜ


459以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/05/22(日) 06:10:16.79iJakJveDO (1/1)

一気読みした
心理描写がとても良かった
見透かしてこようとするまどかさんこわい…


460以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/05/23(月) 08:46:45.26nx/OEeskO (1/1)

完結お疲れ様です
読み返してみます