406 ◆c6GooQ9piw2019/03/26(火) 09:10:32.52piYOyBD9O (1/2)

ほむら「……っ」

ほむらの胸が痛む。
どのような理由があろうと、まどかを苦しませるのはほむらの本意ではない。

本当にこの方法しかなかったのだろうか。

矛盾した行動をとらざるを得ない現状に、疑問を抱かないわけではない。
だが、この類いの問答は数えきれないほど繰り返してきた。

結論はいつも同じだった。

ほむら(ここまできて別の方法を試すなど、できるはずがない)

それはもはや、まどかを見捨てることと同義だ。

たとえ間違っていようが、ほむらは走り続けるしかないのだ。


407 ◆c6GooQ9piw2019/03/26(火) 09:11:58.29piYOyBD9O (2/2)

ほむら「……」

ただ、それは必ずしも前向きな感情からくる結論ではない。

もしかしたらほむらは、他に道はないからと、半ば逃げるような気持ちで繰り返してはいないだろうか。
もはや今のほむらには、その問いを自信を持って否定することができなくなっている。

もしそのように流されるように繰り返していても、決して成功するはずはないし、いつかほむら自身が擦りきれてしまう。

結局、シンプルな話ではある。
こうして繰り返していることで、少しずつ成功に近付いているという実感があれば、ほむらも希望を持って次に挑めるだろう。

しかし現状、ほむらが繰り返せば繰り返すほど、まどかを助けることなどできないのではないかと思わされてしまう。

それなのに、もはや目の前に他の手は残されていない。
どうにかしなければならないのに、これ以外の手段ではまどかを助けられないという確信だけがほむらの中にある。

──どうすればいいのか、わからない。

そんな後ろ向きな感情が、じわじわとほむらの心を蝕んでいく。
ソウルジェムの穢れが、ほむらの心情を明確に示していた。


408 ◆c6GooQ9piw2019/07/28(日) 19:35:48.13VkMOFHkb0 (1/2)

ほむら「……!」

突然の人の気配に、ほむらは素早く振り向いた。

杏子「よう」

ほむら「あなた……」

侵入者は、佐倉杏子。
その背には、美樹さやかの姿があった。

いや、正確に言えば──『それ』はもはや、美樹さやかそのものではないはずだ。

ほむら「……」

予想はしていたことだ。
ほむらに落胆はなく、やはりそうかと府に落ちる思いすらあった。

すでに幾度となく見た光景だ。
杏子の心情を思えば胸にくるものはあるが、ほむら自身に動揺はなかった。

ただ、ここで考えるべきは──

ほむら(……杏子は、どこまで事態を正確に把握しているのかしら)


409 ◆c6GooQ9piw2019/07/28(日) 19:42:53.09VkMOFHkb0 (2/2)

ほむらも、この状況から杏子を騙して協力させようとは、もう思っていない。
杏子は情に熱い一面はあるが、それで目を曇らせるほど愚かではない。

ある程度は──おそらく、さやかが魔女となってしまったことまでは、察しているはずだ。
そこをごまかすのはさすがに無理だろう。

そして、真実を知った杏子の行動は、もう決まっている。

ほむら「……」

この時間軸で失敗が確定した以上、この後のほむらの行動は特に考える必要はない。
杏子を追い出して、家でひとりワルプルギスの夜の襲来を待つのも悪くない。

ほむら(……だからといって、完全に放置するわけにもいかないでしょうね)

万が一、杏子がこの場でほむらに逆上して襲いかかる可能性も、なくはない。

杏子は本質的には理性的な魔法少女だが、さすがにこの状況で、ほむらに全く敵意を抱いてないということはないはずだ。

そういう意味でもやはり、今の杏子を放っておくわけにはいかないだろう。


410 ◆c6GooQ9piw2019/11/22(金) 23:12:23.37MAd8f5eGO (1/1)

ほむら「何の用かしら?」

杏子「聞きたいことがある」

ほむら(……でしょうね)

キュゥべえの誘いに乗らないように一応忠告はするつもりだが、それで引き留められないことはもうわかっている。

ほむら「……」

ほむらの目的に繋がらない以上、ここで適当なことを言って煙に巻くのは簡単だ。

だが、もはやほむらに嘘をつく気はなかった。
贖罪というわけではないが、杏子の疑問に正直に答えるくらいのことはするつもりだった。

杏子「さやかに、何が起こったんだ?」

ほむら「予想はついているんでしょう?」

杏子「……」

険しい表情だ。
状況が状況だけに仕方ないのかもしれないが、元凶はあの悪魔だとわかっているのだろうか。
万が一にもほむらに一因があると思われているのなら、その誤解だけは解いておきたい。


411以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/11/23(土) 23:40:30.71nYl+Wymho (1/1)

おお、続いてたのだな 読んでるよ


412 ◆c6GooQ9piw2019/11/24(日) 21:38:02.23iKvy3stU0 (1/3)

杏子「さやかが倒れた……いや、死んだ。そして、魔女が現れた」

ほむら「……それで?」

杏子「お前は知っているはずだ。さやかに、何が起こった?」

ほむら「……」

否定してもらいたいのだろうか。

いや、杏子はそれほど弱い人間ではない。
すでに、現実を受け入れる覚悟ができているのだ。
その上で、解決の手段を模索するために、まずは状況を正確に把握する必要があると考えているのだろう。

目の前の絶望から目を反らすほど、杏子は愚かではない。

──だからこそ、キュゥべえはそこにつけこんでくる。

ほむら「……あなたの想像の通りよ。さやかは、魔女と化してしまった。これからは、絶望を振り撒いて生きていくことになるわ」

杏子「……!」

ほむら「元に戻すことは不可能よ。バカなことは考えないことね」

忠告だけはしておく。
これで万が一にも杏子が生き残るならありがたいが、まずあり得ない。


413 ◆c6GooQ9piw2019/11/24(日) 22:23:07.85iKvy3stU0 (2/3)

杏子「……次の質問だ」

ほむら「何かしら?」

杏子「魔法少女のソウルジェム……あれの正体は何だ」

ほむら「──」

ほむらはわずかに思考を走らせた。

杏子がそこに疑問を持つ場面は、この時間軸ではあっただろうか。

ほむら「……どういう意味かしら」

杏子「たぶんあれは、ただの道具なんかじゃない。あたしたちにとって大事な、いや、まさか……」

ほむら「……」

杏子「魔法少女、そのもの、か……?」

いったい、どこでそこまでの確信を得たのか。
何にせよ、ほむらに嘘をつく理由はない。

ほむら「その通りよ。ソウルジェムは、魔法少女の魂そのもの。私たちは、契約の際に身体から魂を抜き取られている」

ほむらの答えに、杏子は顔をしかめた。

杏子「くそっ、キュゥべえの奴……」

杏子が悔しがる素振りを見せるが、ほむらには疑問が残る。


414 ◆c6GooQ9piw2019/11/24(日) 22:25:27.99iKvy3stU0 (3/3)

ほむら「あなた、そのことにはいつ気付いたの?」

杏子「……」

ほむらを見る杏子の目に、敵意は感じられなかった。
どうやら黒幕を誤解されてはいないらしい。

杏子「お前がさやかを撃とうとしたときだ。あたしが防いだが……あのとき狙っていたのは、さやかのソウルジェムだっただろ?」

ほむら「……そうね」

杏子「あのときの殺気は本物だった。本気でさやかを殺そうとしていたはずだ」

ほむら「……」

杏子「それで狙うのが、ソウルジェム、か?」

横から防いだ杏子が気付いたのなら、狙われたさやかも間違いなく気付いただろう。

もしかしたら、それが後押しとなって──

ほむら「……彼女には、悪いことをしてしまったかもしれないわね」

杏子が何を今さら、と苦笑する。

杏子「殺そうとした奴の台詞じゃねーよ……あとはまあ、さやかが魔女になったところを見たからな」

杏子は、さやかのソウルジェムから魔女が生まれる瞬間を見たのだろう。
同時に、さやかの身体はぬくもりを失い始めたはずだ。


415以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/12/08(日) 23:43:14.40XiTXQQaT0 (1/1)

更新楽しみに待ってます!


416以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/12/13(金) 09:36:48.78UkstH1db0 (1/1)




417 ◆c6GooQ9piw2019/12/17(火) 17:08:07.76AS20VPtjO (1/3)

ほむら「……なるほどね。質問は終わり?」

杏子「ああ。やらなきゃならないことができたからな」

──やはり、そうなってしまうのか。

ほむら「言ったはずよ。さやかは二度と元には戻らない」

杏子「キュゥべえは、魔法少女は奇跡を起こす存在だと言っていたぜ」

既に接触されていたか。

ほむら「嘘よ。私は魔法少女が魔女になるのを何度も見てきた。例外はないわ。魔法少女に戻ることは、絶対にあり得ない」

杏子「わからねーだろ。前例がないことはキュゥべえからも聞いた。だが……」



杏子「可能性はゼロじゃない」


418 ◆c6GooQ9piw2019/12/17(火) 17:13:18.56AS20VPtjO (2/3)

ほむらの中で、何かがほとばしった。

──その台詞を、簡単に口にするんじゃない!

ほむら「無駄なのよ! 私がどれだけ絶望した魔法少女を見てきたと思ってるの!? 何度試したところで同じこと……決まりきった結末を変えることなんてできないのよ!」

杏子「……」

全く、誰に向けての台詞なのか。
ほむらは、失望感とともに幾分落ち着きを取り戻し、軽く首を振った。

ほむら「……無理なものは無理なのよ。おとなしく諦めなさい」

杏子はやけに冷静だった。

静かに、ほむらを正面から見つめ、口を開く。

杏子「100回失敗したからといって、101回目もダメとは限らねーだろ」

ほむら「……っ」

杏子の言葉が、ほむらの胸に突き刺さる。
落ち着きかけていた心が、燃え上がる。

思わず言い返そうとして──続く杏子の台詞に遮られた。


419 ◆c6GooQ9piw2019/12/17(火) 17:14:34.90AS20VPtjO (3/3)




杏子「だからこそお前も、何度も繰り返してんだろ?」






420 ◆c6GooQ9piw2020/03/06(金) 06:27:10.62FJvn9tXJO (1/1)

ほむら「──ッ!?」

ほむらの全身が強張った。
息をすることすら忘れ、杏子の台詞を反芻する。

──今、杏子は何と言った?

杏子「……」

言葉の羅列だけが耳に残る。
頭が理解を受け付けていない。

ほむら(……あり得ない。それだけは、絶対にあり得ない。気付くはずがない……!)

混乱する頭で、杏子がこちらを見ていることを思い出す。

ダメだ。今は考えている余裕はない。
落ち着け。平静を保たなければ──

ほむら「……繰り返している? どういう意味かしら」

杏子の表情が読めない。

どこまで知られている?
どこまで読まれている?


421 ◆c6GooQ9piw2020/03/08(日) 13:34:20.04wGdW5X1X0 (1/2)

数秒の沈黙の後、杏子が口を開いた。

杏子「ポーカーフェイスはさすがだがな。普段から無表情だから、逆にわずかな変化も浮き上がってしまうってもんさ。隠すなら、むしろ常に表情を作っておくべきだ」

ほむら「……っ」

杏子「しかしまさか……本当にそうだったとはな」

かまをかけられた……?

いや、いずれにせよある程度の確信はあったはずだ。
そうでなければ、繰り返しているなどと口にすることすらあり得ない。

いったい、どうして……


422 ◆c6GooQ9piw2020/03/08(日) 13:36:40.25wGdW5X1X0 (2/2)

杏子「お前には結末がわかってるんだろ。聞かせろよ、さやかを元に戻そうとすると、あたしはどうなるんだ?」

おそらく、杏子はわかっているのだろう。
ほむらの目的──ワルプルギスの夜を倒すことと照らし合わせれば、答えは容易に導かれる。

ほむら「……死ぬわ」

ほむらの言葉に、杏子はため息をついた。

杏子「やっぱりそうか。だから、さやかを殺そうとしたんだな」

ほむら「……」

もはや、ほむらが繰り返していることを前提として話が進んでいる。
しかしほむらとしては、今後のためにも確認しておかなければならない。

ほむら「……なぜ、わかったの?」

杏子「ヒントはあったさ」

杏子は、軽い調子でつぶやいた。

杏子「魔法少女の能力は、願いによって決まる」


423 ◆c6GooQ9piw2020/05/13(水) 22:39:45.63k7/lCzN/0 (1/2)

杏子「さっき、確かにあたしはあんたを打ち負かしたが、あれははっきり言って偶然だった。少しでもタイミングが違っていれば、どうなっていたかわからない」

ほむら「……」

今思えば、あれもそうだ。
杏子はどうやってほむらの能力を封じたのか。
どうして、ほむらの能力を知っていたのか。

杏子「違うな」

ほむら「……え?」

杏子「あのとき、あたしはあんたの能力を把握していなかった。ある程度絞っていたとはいえ、まさか時間を止められるとは思ってなかったよ」

ほむら「なら、どうして……」

杏子「相手の手の内が見えない以上は、発動前に勝ちきるしかない。あたしはただ、開始と同時に自分の能力を全力で発動させただけさ」

能力……まさか──

杏子「あんたがあたしの能力を知っていたら、勝敗は逆だったかもな」


424 ◆c6GooQ9piw2020/05/13(水) 22:42:08.95k7/lCzN/0 (2/2)

──幻惑魔法。

ほむら「いいえ、知っていたわ……でも」

知っていて、警戒していなかった理由。
想定の外に置いていた理由、それは……

ほむら「あなたは、能力を使えなかったはずよ」

そう、使えなかったはずだ。
確か、自分の願いを否定するような生き方をしていたせいで、能力を使えなくなったと──

杏子「……知っていたのか。そうさ、使えなかった。他人のために魔法少女になっておきながら、自分のためだけに生き続けるあたしには、気付けば能力を使うことができなくなっていた」

それが、佐倉杏子という魔法少女だった。

家族を失い、かつての自分を否定した。
自分のためだけに生きていれば、何も他人に期待することはないと、悲しむこともないと、ひとりで生き続ける。

杏子「だが、あたしがあんたと戦った理由は──さやかを守るためだった」

恐らく、杏子の本質は変わっていない。
そう簡単に切り替えられるものではないだろう。

しかし杏子にとって、あの一瞬だけは確かに、自分以外の誰かを守るための戦いだった。


425 ◆c6GooQ9piw2020/07/09(木) 23:00:54.93F8rkEtqD0 (1/3)

ほむら「だから、能力を使えたというわけね。よくやるわ。うまく発動できるかも不安だったでしょうに」

杏子「……」

ほむら「あるいは、それだけさやかを助けたいという感情に自覚があったということかしら」

ほむらはわざとからかうように口角を上げた。
負けた悔しさがないわけではない。
このくらいはいいだろう。

若干の気まずさからか、杏子は舌打ちをする。

杏子「話を戻すぞ。あのときあたしがあんたに見せた幻は、『自分が敗北するイメージ』だ。内容は本人が無意識に決めるから、あたしにはわからないがな」

あのときの光景を思い出す。

ほむら「……確かに、そうだったわ」

杏子「うまく発動していて何よりだが……違和感があった」

ほむら「……?」

杏子「能力の効き具合や、そもそもお前の感覚を狂わせていたからと言えばそれまでなんだが──」

杏子「それでも、決着が『早すぎた』」


426 ◆c6GooQ9piw2020/07/09(木) 23:04:31.16F8rkEtqD0 (2/3)

言葉の意味がわからない。

ほむら「どういう意味かしら」

杏子「お前の降参があまりにも早かったんだ。あたしの体感では、能力を発動させてから数秒ってとこだな」

ほむら「……」

杏子「あれだけの執念を見せるお前が、そんなに早く諦めることに、どうしても違和感があった」

数秒……?
自分でもはっきりとは覚えていないが、いくらなんでもそこまでは……

しかし確証はない。
確かに、自分でもそう簡単に諦めたとは思えないが、別にそれでほむらの執念が否定されるわけでもない。

あれだけの極限状態だ。
能力による影響がなくても、時間の感覚が多少ずれていてもおかしくはない。

あるいは杏子が言っていたように、ほむらの感覚自体が、杏子の能力でずらされていただけのことではないだろうか。

そうでなければ……


427 ◆c6GooQ9piw2020/07/09(木) 23:06:38.93F8rkEtqD0 (3/3)

ほむら「──!」

そこまで考えて、ほむらに衝撃が走った。

違う。杏子の能力じゃない。
ずれていたのは感覚ではなく、時間の流れそのもの。

あのとき、ほむらは『何をした』?

時間のずれの原因は──

杏子「お前も同じだったはずだ。開始と同時に、能力を発動させた。そのために、決闘の形式なんて持ち出してきたんだろ?」

ほむら「……そして、互いの能力が同時に発動した」

杏子「そう、お前は……」

杏子が、真相を告げる。

杏子「自ら停止させた時間の中で、幻覚を見ていたんだ」