1 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:28:25.09gE5KwWw00 (1/29)

P「なあ、夏葉」

夏葉「なにかしら?」

P「取り敢えず、5W1Hで話をしよう」

夏葉「唐突に何を言っているの?」

P「混乱してるんだ。とにかく状況確認がしたい」

夏葉「……よく分からないけど、まあいいわ」

P「助かる」

夏葉「それなら『When』からね」

夏葉「『いつ』」

P「……土曜日だな。土曜ではあるが俺は出勤日だ。本来なら」

夏葉「私はオフよ。大学も休みだわ」

P「次は『Where』だな。これがまず聞きたかった」

夏葉「見たらわかるじゃない」

P「自分の認識に自信がないんだ。まだ夢の中にいる気すらしている」

P「というわけで……『どこで』」

夏葉「プロデューサーのアパートよね」

P「だよな。そうだよな。俺のアパートの俺の部屋だ」

夏葉「お邪魔しているわ」

P「ああ、いらっしゃい」

夏葉「初めて来たけれど、結構落ち着く場所ね。気に入ったわ」

P「それはどうも」

夏葉「ええ」

P「……」

夏葉「……」

P「いや、なぜいる」


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2 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:29:46.83gE5KwWw00 (2/29)

P「家の場所、夏葉に言ったことないよな?」

P「というかアイドル達には誰にも……」

夏葉「『プロデューサーのお見舞いに行きたい』と伝えたら、教えてくれたわよ」

P「なるほど、はづきさんか」

P(別に住所を知られて困りはしないが、それは会社としてどうなんだろう)

P「えーっと……じゃあ鍵は? かかってただろ?」

夏葉「管理人の方に事情を話したら開けてくれたわ」

P「なるほど」

P(それ問題になりませんかね、大家さん)

夏葉「納得してくれた?」

P「まあ、夏葉が部屋に入った方法に関しては」

P(まだまだ疑問は尽きないが……すごく気になることが一点あるが……)

P(ともかく話を進めよう)

P「『Who』で……『誰が』」

夏葉「見ての通りね。私、有栖川夏葉よ」

P「『What』、『何をした』」

夏葉「プロデューサーを看病しに来た」

P「『Why』、『なにゆえ』」

夏葉「アナタが寝込んでいると、私が困るから」

P「ふむ」

夏葉「最後はHで『How』ね」

夏葉「『どのようにして』」



3 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:30:30.00gE5KwWw00 (3/29)

P(『How』か。これだけだと、質問として漠然としてるんだよな)

夏葉「……何を答えるべきなのかしら」

P(5W1HのH……Hか)

夏葉「交通手段? それとも他の……」

夏葉「持ってきたものとか、伝言とか……」

P(Hか。H……)

夏葉「……そうね。アナタから何か質問して頂戴。何でも答えるわ」

P(夏葉……H……)

夏葉「プロデューサー? 聞いてるの?」

P(Hで……Hなのは……)

P(……エッチなものは……)

P「夏葉の格好だ」

夏葉「へ? 格好?」

P「メイド服」

夏葉「ああ、それが合ったわね。忘れていたわ」

P(……)

夏葉「……」

P(……なんで?)

P(……なにゆえ!?)

P(メイド服を着ていらっしゃるんだぁぁぁぁあああああ!?)


4 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:31:35.54gE5KwWw00 (4/29)

P(整理しよう)

P(風邪を引いたのが三日前)

P(無理して仕事をした結果、家に帰り着いた頃には動けなくなっていたのが二日前)

P(朦朧とした意識で横になっていたら、夕方にはマシになってきたのが一日前)

P(そして今日。『大事を取れ』との社長命令で、午前中まるまる寝ていたのだが……)

P「眠りの長いトンネルを抜けると夏葉であった」

夏葉「ひょっとして……『雪国』のつもり?」

P「いや、白いしさ。メイド服が」

夏葉「……そんな妙なことを口走るくらい動揺しているのね」

P(当たり前だろ。起きがけにメイド服夏葉を見たら誰だってそうなる)

P(可愛すぎるからな)

夏葉「そんなに驚くことかしら?」

P「起きた時に人がいたら、普通はビックリするだろ」

夏葉「それもそうね」

P(あ……夏葉が立った。机に飲み物が置いてあるのか。ちゃんとスポドリだな)

P(しかし、夏葉のメイド服……あれは確か、ちょっと前に仕事で使った衣装だよな)

P(あんなに背中がパックリひらいてるメイド服なんて、通常のものなわけないし)

P(うん、魅力的だ。よく似合ってる。ずっと眺めていたい)

P(それにあの美しい背中を見てると、視線がスーッと下に吸い寄せられて……)

P(ついつい夏葉の……)

P「はっ!」

夏葉「プロデューサー、飲み物と体温計よ」

P「あ、ああ……ありがとう」

P(いかんいかん、俺は何を考えているんだ。担当アイドルに劣情を抱くなど)

P(そんなことをしたら、プロデューサー倫理観で肺が潰れて、血反吐をはくハメになってしまう)

P(いかんな。煩悩退散、煩悩退散。夏葉は相棒。夏葉はパートナー)



5 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:32:20.76gE5KwWw00 (5/29)

P「あー、その……」

P「そのメイド服は、はづきさんが用意してくれたのか?」

夏葉「ええ、『こんなこともあろうかと~』って言って渡してくれたわ」

夏葉「いつのまにか、レンタルしていたみたいよ」

P「はづきさんナイスゥ!」

P(そうか。公私混同とはけしからんな)

夏葉「プ、プロデューサー?」

夏葉「なんだかアナタらしくない言葉が聞こえた気がしたのだけど……」

P「き、気のせいだ」

P(いかんな。まだ風邪が残ってるのか? 本能のままの発言が……)

夏葉「でも嬉しいわ。前も『似合ってる』と言ってくれたものね」

P「そう……だったな」

夏葉「あら? それとも、あれはお世辞だったのかしら?」

P「俺が夏葉に世辞を言うわけないだろ」

夏葉「そうよね。ふふっ」

P(今日の夏葉はやけに上機嫌だな)

P(だけど、まあ……)

P(俺も人のことは言えないか。夏葉が来てくれて嬉しいのは事実だし)

P(メイド服にも部屋に入ってたことにも驚いたけど、悪気は一切無いみたいだしな)

P(むしろ……)

P(そうだな。プロデューサー冥利に尽きる、というべきか)

P「……お、三十八度五分か」


6 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:34:54.93gE5KwWw00 (6/29)

夏葉「あ、そうだわ。アナタが起きたら聞こうと思っていたのだけど」

夏葉「これ、何かしら?」

P(うん? 俺の机の上から何か取ったな。あれは……)

P「辞典だな。英英辞典」

夏葉「じゃあ、これとこれは?」

P「筆記用具と参考書だ。『よくわかるビジネス英会話』」

夏葉「そうよね。そして、この英文が書かれたノートを見るに……」

夏葉「プロデューサーは昨日、これらを使って勉強をしていたのよね」

P「ああ。夕方には少し持ち直してたから」

P「休みも貰ったしな。家にいるならいるで、やれることをしようかと……」

夏葉「そう……やっぱり、そうなのね」

P(あ、あれ? 夏葉の言葉に若干の怒気が含まれてるような)

夏葉「……そんなことだろうとは思っていたわ」

夏葉「アナタのそういうところは嫌いじゃないけど、風邪がぶり返すとは思わなかったの?」

P「あ……」

P「あー……いや、まあ、大丈夫かなと」

夏葉「……」

夏葉「……やっぱり、この服を着てきたのは正解だったようね」

P「な、夏葉?」

夏葉「いいわ! 任せなさいっ!」

P(……!?)

夏葉「プロデューサーがそういうつもりなら、私だって本気でやらせてもらうわ!」

夏葉「全力でアナタに奉仕して、アナタを全力で休ませてあげる!」

夏葉「このアルティメット・メイド……有栖川夏葉がね!」

P(……)

P(……『バーン』という効果音が聞こえた気がした)

P(夏葉は熱い。夏葉は真っ直ぐだ。いつものことだが)

P(ん? 熱い? 熱いは……)

P(『warm』、『熱意のある・思いやりのある』)


7 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:35:52.12gE5KwWw00 (7/29)

夏葉「良い休息は、良い衣類と良い寝床から……」

夏葉「と言うわけで脱いで頂戴、プロデューサー」

P「早速だな」

夏葉「早速よ」

夏葉「時間は一秒たりとも無駄にできないもの。早くことを済ませば、それだけ休める時間が増えるわ」

P「……着替えるくらいは、俺一人でも
出来るぞ?」

夏葉「ついでに体も拭いておきたいのよ。温めたタオルも、もう用意してあるから」

P「そ、それこそ一人で……」

夏葉「自分の背中とかを拭くのって、結構難しいじゃない?」

夏葉「遠慮しなくていいのよ。私とアナタの仲じゃない。さ、早く脱いで」

P「い、いやいや……! 正直に言って恥ずかしいんだが」

夏葉「私だって恥ずかしいわよ」

P「そうは見えないぞ!?」

夏葉「私が恥ずかしがったところで、アナタの病状は改善しないでしょ」

P「それは……そうだが。合理的だけどさ」

夏葉「それに、プロデューサーは何度も私の背中を見てるじゃない。水着撮影とかで」

P(ついさっきもな)

夏葉「だから、おあいこよ」

P「それはプロデューサーとアイドルの違いだろう」

P「プロデューサーがアイドルの背中を見るのは自然なことだ。ちゃんと仕事の上でなら」

夏葉「それなら、私がアナタの背中を拭くのも自然なことになるわ」

P「なんでだ?」

夏葉「だって私とアナタは、背中を預け合う関係でしょう?」

P「む……」

P「そう言われると弱いな」


8 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:37:18.34gE5KwWw00 (8/29)

P「じゃあ、背中だけ頼む。前は自分でやるから」

夏葉「ええ、任されたわ」

夏葉「着替えはこっちに置いておくわね」

P「おーう」

夏葉「始めるわ」

P(……うん、サッパリして気持ちがいいな)

P(風邪の時はむしろ、普段より小まめに着替えたほうがいいもんだよな。気分的には……)

P「あ、そういえば」

夏葉「どうしたの?」

P「そのメイド服、夏葉は何処で着替えたんだ?」

P「まさかその服で外をうろついていたわけじゃ……」

夏葉「それは無いわ」

P「だよな」

夏葉「背中拭き終わったわよ。はい、タオル」

P「ああ」

夏葉「終わるまで、扉の方を見てるわね」

P(出てはいかないのか……別にいいけども)

夏葉「着替えには、ここの居間を借りさせてもらったわ」

P(……なんですと?)

P「それは無用心じゃないか? 俺が起きてきたら鉢合わせしてたぞ?」

夏葉「その可能性は考えなかったわね」

夏葉「そのくらい、アナタはぐっすりと眠っていたから」

P(それは見て分かるものなのか)

夏葉「無用心と言うなら……そうね」

夏葉「アイドルが一人暮らしの男性の家に入っていること」

夏葉「そっちの方を注意されると思っていたのだけれど」

P「その点に関しては信頼してるよ。夏葉だからな」

P「見てなくとも、上手くやってることは分かってるさ」


9 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:38:59.52gE5KwWw00 (9/29)

P「しかし……」

P「家に着いた時に俺が起きていたら、どうするつもりだったんだ? そのメイド服」

夏葉「その時はお蔵入りね」

P「それはそうか。もしそうなってたら、ざ……」

P「……いや、何でもない」

夏葉「言いかけたのなら、最後まで言うべきじゃないかしら。気になるわ」

P「いや、本当に何でもないんだ。言っても仕方ないことだよ」

夏葉「そう言われると、尚更気になるのだけど」

P(……今日の俺は、どうやら口が滑りやすいようだ)

P(あんまり考えを口にしまくってると、夏葉のことを褒めすぎて、引かれてしまいかねん)

P(夏葉からの信頼を失ったら、死んでも死に切れなくなる)

P(自制だ俺。自制せよ……)

夏葉「……」

夏葉「プロデューサー、しりとりをしましょう」

P「え、し……?」

P「し……っ!?」

夏葉「ど、どうしたの? たしかに突拍子は無かったけど、驚きすぎじゃないかしら」

夏葉「ただのしりとりよ」

P「あ、ああ。し……しりとりだな。構わないぞ」

夏葉「前の時は途中で終わってしまったから、ずっと気になっていたの」

P(そういえば、いつかの送迎の時に夏葉としりとりをしたっけ)

P「その時の続きからにするか。たしか夏葉が『サー』と言って、止まってるんだったよな」

P「この場合は『さ』? それとも、『あ』?」

夏葉「それは……『あ』にしましょうか」

P「分かった。あと、文章とか動作でも良いんだよな?」

夏葉「ええ、もちろん。ルールもあの時の引き継ぎで」

夏葉「……いえ、むしろ少し変えて、『会話文のみオーケー』にしましょうか」

P「よし、了解だ。『あ』からだな。『あ』……」



10 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:40:20.60gE5KwWw00 (10/29)

P「『ありがとう、来てくれて』」

夏葉「『て』……『丁寧な謝辞の言葉、痛み入るわ』」

P「『私の不徳の致すところです』」

夏葉「……『凄くかたい物言いね』」

P「『猫は柔らかい』」

P(この会話文しりとり……普段の会話を思い出せば、次がある程度予想できるな)

P(これなら、多少ボケ気味の頭でも何とかなりそうだ)

P(……今更だが、夏葉は何でしりとりを?)

夏葉「急に猫が出てきたわね」

P「駄目か?」

夏葉「面白かったからいいわ。えーと、『い』ね。『い』……」

夏葉「『犬派よ』」

P「『よく知ってる』」

P(しりとりの方は大丈夫だ。スムースに答えられてる)

夏葉「『留守番もちゃんとできる良い子だわ』」

P「『悪いことさせちゃったかな』」

夏葉「『なら、来ない方が良かった?』」

P「『魂に誓って、それはない』」

夏葉「……『い』」

P(自然な話し口調の『わ・ね・よ』。あとは疑問文での『の・た・ら』)

P(そのあたりを意識しておけば……)

夏葉「『今』」

夏葉「『今、私がメイドの格好じゃなかったのなら』」

P(疑問文か)

夏葉「『アナタはどう思ったの……』」

P(ほら来た。『の』だな、『の』……)

夏葉「『さ?』」



11 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:41:12.35gE5KwWw00 (11/29)

P「さ……」

P「『さ』ぁ!?」

P(『どう思ったのさ』)

P(……ってことか!? 夏葉、お前普段はそんなこと絶対に言わないだろ!?)

夏葉「ええ、『さ』よ」

P(しまった! 『さ』なんて、何も考えてないぞ!?)

夏葉「『ざ』でもいいわよ、プロデューサー」

P「なにっ!? そ、それなら、えーっと……! 」

P「『さ』……『ざ』…… 」

P「『ざ』……!」

夏葉「ふふっ」

夏葉「『メイド服を着てこなかったら、どう思ったのざ』?」

P「『ざんねん』……」

P「あっ!」

夏葉「あら、私の勝ちね」

P(……か、完璧にしてやられた。はめられた。完全敗北だ)

P(だが……不思議と不快感はない)

P(『楽しく話せたな』感すら覚える)

P(こういうのは……つまり、夏葉が……)

P(『witty』、『機知に富んだ』)


12 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:44:48.23gE5KwWw00 (12/29)

夏葉「居間の方に布団を敷き直したわ」

P「あれ? さっき寝巻きと一緒に、洗濯しに持って行かなかったか? 」

夏葉「私の家から新しいのを持ってきたのよ。予備が無いかと思って」

P「自分以外が泊まることないからな。予備の布団、事務所にはあるんだが」

P「あ、それより……」

夏葉「布団のお金の話ね。聞かれると思ったわ」

夏葉「請求するつもりはない……と言っても、アナタは納得しないのよね」

P「そりゃそうだ」

夏葉「だから後回しにしましょう。今日は休むことが最優先」

夏葉「それ以外のことは、完治した後にゆっくり話せばいいわ」

P「……布団、ありがとうな」

夏葉「どういたしまして。なら次に行きましょう」

P「次は何を?」

夏葉「掃除ね」

P「掃除か」

夏葉「居間の方の掃除は終えているから、次はアナタの部屋よ」

P「寝ている間に掃除してくれたんだな。言われてみれば、凄い綺麗になってる」

夏葉「事務所の机もそうだけど……アナタって、整理整頓が苦手な方よね」

P「面目ない。自分のことになると、どうにも」

夏葉「そういうわけで、アナタの部屋の掃除をさせてもらうわ」

P「俺が自分でやると言ったら?」

夏葉「横になるように説得するわね。手伝う、でも同様よ」

P(……やる必要ない、と言っても聞かなそうだな)

P「それなら、よろしく頼むことにするよ。夏葉」

夏葉「任せなさい」

P(掃除してくれること自体は有難いしな)

P(……まあ、あれに関しては大丈夫だろう。多分)



13 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:45:37.63gE5KwWw00 (13/29)

夏葉「本とかの紙類は、大きさごとに一纏めにして……」

夏葉「ここは掃除機をかけて……」

夏葉「カトレアの毛が落ちてないのは、少し新鮮な感じね」

夏葉「あ、ここもホコリがたまってるわ」

夏葉「フローリングは、軽くでも布がけしておいた方が……」

夏葉「…………」

夏葉「……」



夏葉「……ふう、これで一段落かしら。目に付くところは綺麗になったわね」

夏葉「あとは……」

夏葉「ベッドの下、ね」

夏葉(……大丈夫よ。分かってる)

夏葉(分かっているわ、智代子)



14 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:46:15.85gE5KwWw00 (14/29)

ーーー

智代子「あとは生姜湯とかもオススメかな。すっごく暖まるんだよ」

夏葉「生姜湯……」

智代子「じゃあ、そっちの作り方も書いておくね」

夏葉「何から何まで悪いわね、智代子」

智代子「ううん、気にしないで夏葉ちゃん。私もプロデューサーさんに早くよくなって欲しいから」

智代子「……よし書けたっ! 園田家直伝・風邪退治のお粥レシピ!」

夏葉「それと、生姜湯の作り方ね。助かるわ」

智代子「他は大丈夫なんだよね?」

夏葉「大丈夫よ。家事で不安なのは調理くらいだから」

智代子「そうだよね。夏葉ちゃん、ちゃんと一人暮らししてるんだもんね」

智代子「ちなみに夏葉ちゃん、お粥にプロテインは……」

夏葉「入れないわ。分かっているわよ」

智代子「あ、よかった」

夏葉「でも、そういう確認は大事よね。他に何か思いつかない?」

智代子「他? 他に、したらダメなこと……だよね?」

夏葉「ええ」

智代子「うーん、と……あ」

夏葉「思いついたのね」

智代子「あー、でも……言わなきゃダメ、かな?」

夏葉「何でも言って欲しいわ。プロデューサーの体調がかかっているのだもの。下手は打てないわ」

智代子「それは……そ、そのぉ……」

智代子「ベッドの下を掃除する……とか?」



15 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:47:21.59gE5KwWw00 (15/29)

夏葉「ベッドの下を掃除……」

夏葉「それは、何故いけないのかしら?」

智代子「え」

夏葉「智代子?」

智代子「そ、それは、もちろん……プロデューサーさんも男の人だからで……」

智代子「万が一があったりなかったりしたら、気まずかったり気まずくなかったりするかも……みたいな?」

夏葉「要領を得ないわね」

智代子「えっと……夏葉ちゃん、ホントに分からない感じ?」

夏葉「その言い方だと普通は分かるものなのね」

智代子「普通は分かると言うか……お約束と言うか……」

夏葉「……ごめんなさい、想像もつかないわ。教えて頂戴、智代子」

智代子「……」

智代子「夏葉ちゃん」

夏葉「ええ」

智代子「理由は、私にもよく分からないかな」

夏葉「そうは見えなかったけど……」

智代子「と、ともかく!」

智代子「絶対ダメなんだよ! ベッドの下の掃除は絶対、絶対に!」

智代子「いい夏葉ちゃん!? ベッドの下の掃除は絶対にしたらダメだからね!」

智代子「絶対に! 絶対にだよ!」

夏葉「わ、分かったわ。ダメなのね。絶対に」

智代子「コホン」

智代子「……それじゃあ私、ラジオの収録があるから」

智代子「プロデューサーさんによろしく伝えておいてね、夏葉ちゃん」



16 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:48:15.47gE5KwWw00 (16/29)

夏葉(智代子の言葉……何か含みがあったような)

凛世「あの……夏葉さん……」

夏葉「凛世じゃない。どうしたの?」

凛世「夏葉さんの……お知恵を拝借したく……少々お時間を頂いて、よろしいでしょうか……?」

夏葉「もちろんいいわよ」

凛世「ありがたく……存じます……」

凛世「この頃……『バラエティ』の勉強をしているのですが……解釈し難いことが有りまして……」

夏葉「一緒に判断して欲しい、というわけね。分かったわ」

凛世「はい……では、こちらの映像を……」



芸人『押すなよ! 絶対押すなよ!』

芸人『絶対押すな。絶対押すな。絶対押すなよ』

芸人『絶対、絶……ァァアヅゥイ!!』



凛世「……」

夏葉「……」

凛世「何故、この方は……押されてしまったのでしょう……」

凛世「『押すな』という言葉を、『押せ』と読み換える……そんな文法が、あるのでしょうか……?」

夏葉「……そうね。多分、凛世の言う通りだと思うわ」

凛世「……! 夏葉さんは……ご存知なのですね……」

夏葉「私も小耳に挟んだくらいよ。『絶対に』が着くと、禁止の命令系の意味が逆転するという文法」

夏葉「芸能の世界には、そういう『お約束』がある……と……」

夏葉(あら?)

夏葉(さっきの智代子の言葉って、ひょっとして……)

ーーー


17 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:49:11.32gE5KwWw00 (17/29)

夏葉(フリ、と言うらしいわね。来る途中に軽く調べたわ)

智代子『掃除しちゃダメだからね!』

智代子『絶対に掃除しちゃダメだからね!』

夏葉(つまりこれは、『ベッド下を掃除をしろ』という意味になる……)

夏葉(了解よ智代子! アナタの忠言、しっかりと受け取ったわ!)

夏葉(……でも……)

夏葉(智代子に、そんなつもりは無くて。フリでも何でもなかったとしたら……)

夏葉(いいえ。ベッドの下を掃除して悪いことにはならないはずよ)

夏葉(どう考えても、病状の悪化に繋がるとは思えないもの)

夏葉(むしろ埃が溜まりやすい分、念入りに掃除すべき箇所だわ)

夏葉「よし、やるわよっ! まずは収納物を外に出して……」

夏葉「あら、奥に雑誌が挟まってるわね。寝転んで読んでいたのかしら」

夏葉「机の上に戻しておき……」

夏葉「……裸の人?」

夏葉(……)

夏葉(…………)

夏葉「きゃっ!」



P「どうした夏葉ー? 小さな悲鳴みたいなのが聞こえ……」

P「ん? ンンンー!?!?」

P(お、俺の秘蔵コレクションの一冊がァァアアア──ッ!?)


18 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:50:06.80gE5KwWw00 (18/29)

P「な、夏葉ぁ!? そ、そのブツを……どこから……」

P「い、いやいやいや! それより……!」

夏葉「……ない、わ」

P「へ?」

夏葉「……何も、見てないわ」

P「ほ?」

夏葉「……私は、何も見ていないわ」

P「そう……か」

夏葉「だから、プロデューサーも何も聞いていないはずよ」

P(め、めっちゃ白々しい……!!)

P(さすがに、それは無理があるぞ! 顔が耳の先まで真っ赤だし!)

P(……というか、ここまで恥ずかしがってる夏葉を見るのは初めてかも)

夏葉「少し席を外すわね。智代子に今すぐ電話をしたいの」

P「智代子に?」

夏葉「謝ってくるわ」

P「お、おう……」

P(とても俊敏な動きで出て行ったな)

P(薄々思っていたが……やっぱり夏葉って、こういう生々しいのには耐性ないのか)

P(そういう部分は、お嬢様なんだな。たまに忘れかけるけど)

P(変なところで純真無垢というか、いや当然可愛らしい部分ではあるんだが)

P(加えて、さっき白々しかったし、今日はメイド服だしで……)

P(『white』、『白い』)

P(……さて、そろそろ現実と向き合うか)

P「……鬱だぁ……」


19 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:50:49.33gE5KwWw00 (19/29)

P「美味いな、この粥」

夏葉「智代子から教えてもらったのよ」

P「そうか。通りで」

テレビ『……次はお天気情報です……』

テレビ『……今夜から明日の朝にかけて、全国的に雨模様となるでしょう……』

P「なら、プロテインは入っていないんだな」

夏葉「プロデューサーもそれを言うのね」

P「前科持ちだしなぁ……」

テレビ『……この時間からは、地域ごとのニュースをお届け致します……』

テレビ『……都内では今夜……』

夏葉「生姜湯もあるわよ」

P「お、ありがとう。こっちは夏葉の分もあるのか」

夏葉「私も飲んでみたくてね」

P「ああ、なるほど。じゃあこれも、智代子様々なわけだ」

テレビ『……今年も花粉の舞う季節となり……』

テレビ『……例年と比べ、今年は花粉量も多く……』

P「なんというか……」

P「いつもより、時間がスローに感じるよ」

夏葉「そのために色々とやったのだもの」

P「そうだったな。まったりで……落ち着く感じだ」

夏葉「ええ」

テレビ『……お出かけの際は、マスクやサングラスなどを……』

P「ぐびっ……」

夏葉「くぴっ……」

P・夏葉「「……ふぅ……」」


20 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:51:27.35gE5KwWw00 (20/29)

P「……夏葉、失礼なこと言ってもいいか?」

夏葉「聞きたいわ」

P「世の中にはさ、『風邪でも頑張れ! 気合いだー!』……みたいな人もいるだろ?」

夏葉「いるわね」

P「初めて会った時は、夏葉もそういうタイプの人間かと思ったんだ」

夏葉「ふふっ、何よそれ。本当に失礼ね」

夏葉「でも今は、そう思っていないんでしょう?」

P「そりゃな。思ってたらこんなことは口にしないよ」

P「俺の勘違いだった、というだけの話さ」

夏葉「分からないわよ? 当時の私が、何をどんな風に考えていたかなんて」

夏葉「さすがに、そこまで過激なことは言わないと思うけど」

P「そんなもんか」

夏葉「でも、そうね」

夏葉「体が弱まっていたら休息を。心が弱まっていたら『頑張れ』か『大丈夫』を……」

夏葉「少なくとも今の私は、そんな風に考えているわ」

P「心も体も弱ってたなら?」

夏葉「その時は、そういう時は……」

夏葉「元気になるまで側に居てあげるわ」

P「今みたいに?」

夏葉「今も、よ」

夏葉「風邪なんて、まさに『そういう時』じゃない」

P「……色々考えてるんだな、夏葉は」

夏葉「何を言ってるのよ、プロデューサー」

P「変なこと言ったか、俺?」

夏葉「言ったわ。だって、そういうことって……」

夏葉「全部、いつものアナタがしてくれてることじゃない」


21 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:52:26.07gE5KwWw00 (21/29)

P「なっ……」

夏葉「あ、もう飲み終えてしまったのね」

夏葉「食後にもう一度、検温をしておきましょう。体温計を取ってくるわ」

P「……お、おう……」

P(……)

P(……ダメだな。今日の夏葉には勝てる気がしない)

P(別に勝ち負けじゃないけど、いいようにされっぱなしだ)

P(そして、それに安らぎを覚えてる自分がいる。それもまたなぁ……)

P(これは、なんと言ったもんかな。夏葉が……)

P(『weak』、弱さを……)

P(いや、なんか違う)

P(視野が広いとか、器が大きいという意味で……)

P(『wide』?)

P(んー、それもしっくりこないな)

P(ああ、もういいか。そこら辺全部引っくるめて……)

P(『worthy』、『尊敬すべき』)

P「くびっ……」

P「……ふぅ……」

P(穏やかな午後だなぁ)

P「……三十七度八分、っと」


22 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:53:28.11gE5KwWw00 (22/29)

夏葉「本当に行くのね?」

P「元よりその予定だったからな。夕方には一度出社するつもりだった」

夏葉「でも……」

P「書類を届けに行くだけだよ。すぐに帰って、また横になるさ」

夏葉「私が代わりに責任持って届ける、って言ったら?」

P「アイドルにそういうお使いを頼むわけにはいかないよ」

P「それ以前に、大事な書類を人に預けるなんて論外だしな。社会人として」

夏葉「じゃあ、私も一緒に行くというのは……」

夏葉「……問題あるわよね。そっちは、アイドルとして」

P「だな。家から事務所まで連れ立って行くのは、誰かに見咎められるリスクがある」

P(四半日ほど一緒に居ておきながら何を、という話ではあるが)

P(そこは棚上げする)

P「……まあ、病み上がりだし心配してくれる気持ちはわかるよ」

夏葉「それもあるけど、それだけじゃないわ」

夏葉「私は『全力でアナタを休ませる』と言ったもの。口にした以上は、それを違えたくない」

P「夏葉は誠実だな」

夏葉「当然のことよ」

P「それなら、その辺は……そうだな」

P「『全力で休めたから、憂いなく出社することが出来るのだ』」

P「そんな風に解釈してくれると助かる。夏葉の看病があったからこそだよ」

夏葉「……そう言われると、何も言えなくなってしまうわ」

夏葉「でも、安心したわ。調子が少しでも戻ってきたみたいで」

P「少しは頭も冴えてきたよ」

夏葉「ふふっ、そうみたいね」

P(今日は一日、夏葉に言い負かされっぱなしだったしな)


23 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:54:14.76gE5KwWw00 (23/29)

P「じゃあ夏葉。これ合鍵だから」

P「出る時は戸締りの方よろしく頼む」

夏葉「え……」

P「はい、確かに渡したからな」

夏葉「い、いいの?」

P「いいも何も、無いと困るだろ。俺が戻るまで家から出られなくなるぞ」

夏葉「それは、そうだけど……」

P「俺を待たずに帰っても、全然問題ないからな」

P「鍵は……好きな時に返してくれれば、それでいい」

夏葉「無用心じゃない?」

P「無用心じゃないよ」

夏葉「……そう」

夏葉「そういうことなら、合鍵受け取らせてももらうわね」

P「ああ、そうしてくれ」

夏葉「……でも、待っているから」

P「そうか」

夏葉「それで、その……」

夏葉「夕ご飯、用意して待っていることにしたから」

夏葉「だから、寄り道しないで帰ってきて欲しいわ」

P「了解した。なるだけ早く戻れるように努力するよ」

夏葉「……お願いよ?」

P「ああ、行ってくる」



P(これから出勤。そのために家を出る)

P(その見送りに夏葉がいて、その夏葉が『待ってる』と言う)

P(……とても、フワフワとした気分になった)

P(だって、それはまるで……)


24 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:55:03.71gE5KwWw00 (24/29)

夏葉「──行ってらっしゃいませ、旦那様」

P「だ、旦那ぁ!?」

P「……な、夏葉? 唐突に何なんだ? その呼び方は」

夏葉「唐突じゃないわ」

夏葉「考えてみれば、メイドらしい呼び方はしてなかったから」

P「いやいや。メイドらしいことは、もう十分してくれたと思うんだが」

P「それに、メイドなら『ご主人様』じゃないのか?」

夏葉「その呼び方は少し違うと思うのよね」

P「……まあ、確かに」

夏葉「ちょっと言ってみたかっただけよ。気にしないで」

夏葉「それとも、不愉快だったかしら?」

P「それはないが……単純に凄く驚いた」

P(心が読まれた気がして)

夏葉「驚いただけ?」

P「様になってると思ったよ。また、メイド服の仕事を取ってこようと思ったくらいには」

P「……あと、可憐だとも思った」

夏葉「ふふっ、言ってみた甲斐があったみたいね」

夏葉「……見送りの間だけ、そういう感じにしていましょうか?」

P「あー、それは……」

P(メイド夏葉は素晴らしかった。だけど……)

P「いつも通りにしてくれた方が、俺は嬉しいかな」

P「いつも通りと言いつつ、立場は逆になってるけど」

夏葉「それもそうね。分かったわ」

P「それじゃあ、改めて」

P「……夏葉、行ってきます」

夏葉「ええ。行ってらっしゃい、プロデューサー」


25 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:55:46.05gE5KwWw00 (25/29)

P(旦那……旦那、か。変に反応してしまったかな)

P(実際、夏葉は俺のことをどう思ってるんだろうか)

P(信頼は得れている、それは確信しているが……)

P(それに俺自身、夏葉をどういう風にみてるんだろうか)

P(……そう、だな)

P(『wedded』、『結婚の・深く結びついて』)

P(可能であるかとか、夏葉の気持ちとかを無視して考えると……)

P(私生活の面でも夏葉とパートナーになれたなら、それは幸せことなんだろうな)

P(なによりも、幸せなことに違いない)

P(だが……)

P(それはいつか考えるべき話だ。今はまだ、やるべきこと、やりたいことがある)

P(明日から、また懸命に仕事をしよう)

P(時々疲れたら、今日みたいにしっかりと休もう)

P(夏葉との夢を叶える為に、全力で)

P(よし……)

P(頑張るぞっ!)


26 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:56:18.39gE5KwWw00 (26/29)

ーーー
ーーー


27 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:57:03.01gE5KwWw00 (27/29)

P(……雨の、音……)

P(……俺は確か……)

P(事務所から帰ってきて……夏葉と食事をして……横になって……)

P(すぐに眠りに落ちて……)

P(今の時間は……深夜の二時か)

P(当然だが、夏葉は見当たらない)

P(ああ、昼間に寝ていたせいだ。妙に目が覚めてる)

P(風邪の時あるあるだな)

P(……何とかして寝よう。これで睡眠不足になったら馬鹿みたいだ)

P(こういう時は、眠くなるような考え事だ)

P(すなわち英語)

P(そして、ゆっくり過ごせた時間を思い出そう)

P(すなわち今日のこと)

P(『warm』、『witty』……)

P(『white』、『worty』、『wedded』……)

P(これで5Wだから、残りはH……)

P(……H……)

P(今日あったことで……夏葉で……Hで……)

P(Hだったのは……エッチだったものは……)

P(俺が自然と、目の端で追っていたのは……)



28 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:57:38.78gE5KwWw00 (28/29)


P「夏葉の『hip』だ」

P「こふっ(吐血)」




29 ◆/rHuADhITI2019/03/05(火) 00:58:48.86gE5KwWw00 (29/29)

終わりです。お目汚し失礼しました。



『夏葉の一番の魅力は?』という問いは哲学的かつ、大きな多様性を誘発する問いであり、ある意味ナンセンスですらあります。
しかしながら『言うてエロいよね?』という問いに関しては、一定の見解の一致が得られると信じております。



と、メイド夏葉を見た時に思いましたまる


30以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/03/05(火) 09:57:35.14PB4KAcKDO (1/1)



果穂なら食べるのになー

夏葉は消費期限切れだからなー


31以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/03/06(水) 20:55:00.40WIDCYA9Po (1/1)

乙乙

学のあるPからの見事なオチ


32以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/03/15(金) 18:58:30.38gHWbCnRYO (1/1)

水着夏場の流れるおっぱい好き