1 ◆tdNJrUZxQg2018/12/28(金) 05:30:52.3361VgGgXt0 (1/20)

ラブライブ!サンシャイン!!SS
コメディ

クリスマス終わってますけど、よかったらどうぞ。
千歌とダイヤは付き合ってます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1545942651



2 ◆tdNJrUZxQg2018/12/28(金) 05:32:13.3061VgGgXt0 (2/20)



……12月24日。クリスマスイブ。聖夜と言う名の恋人たちの夜。


千歌「え……クリスマス、一緒に過ごさないの……?」

ダイヤ「え、ええ……まあ、その、いつも家で過ごす習わしと言いますか……」

千歌「……」


私はてっきり一緒に過ごせるものだとばかり思っていたため、恋人のダイヤさんの言葉を聞いて、顔を顰めた。


ダイヤ「あ、あの……千歌さん?」

千歌「……ふーん、ダイヤさんは恋人よりも家族なんだね」

ダイヤ「い、いや、そういうわけでは……」

千歌「別にいいよ。ダイヤさんってそういうタイプだもんね」

ダイヤ「そ、その……」


思わず皮肉たっぷりな言葉を口をついた。

でも今思えば……

ここで大人しく引き下がっていれば、


千歌「いいもん……チカに魅力がないのがいけないんだもん……」

ダイヤ「そ、そんな……!! わ、わかりましたわ!! イブは一緒に過ごしましょう!!」

千歌「……ホント……?」

ダイヤ「ええ、もちろんですわ! 家族も説得しますわ!」

千歌「……なら、お泊り」

ダイヤ「泊り……。……ええ、構いませんわ」


私は聖夜にあんな目に遭う事はなかったのに……。





    *    *    *



3 ◆tdNJrUZxQg2018/12/28(金) 05:32:40.4961VgGgXt0 (3/20)



……12月24日。クリスマスイブ。聖夜と言う名の恋人たちの夜。


千歌「え……クリスマス、一緒に過ごさないの……?」

ダイヤ「え、ええ……まあ、その、いつも家で過ごす習わしと言いますか……」

千歌「……」


私はてっきり一緒に過ごせるものだとばかり思っていたため、恋人のダイヤさんの言葉を聞いて、顔を顰めた。


ダイヤ「あ、あの……千歌さん?」

千歌「……ふーん、ダイヤさんは恋人よりも家族なんだね」

ダイヤ「い、いや、そういうわけでは……」

千歌「別にいいよ。ダイヤさんってそういうタイプだもんね」

ダイヤ「そ、その……」


思わず皮肉たっぷりな言葉を口をついた。

でも今思えば……

ここで大人しく引き下がっていれば、


千歌「いいもん……チカに魅力がないのがいけないんだもん……」

ダイヤ「そ、そんな……!! わ、わかりましたわ!! イブは一緒に過ごしましょう!!」

千歌「……ホント……?」

ダイヤ「ええ、もちろんですわ! 家族も説得しますわ!」

千歌「……なら、お泊り」

ダイヤ「泊り……。……ええ、構いませんわ」


私は聖夜にあんな目に遭う事はなかったのに……。





    *    *    *



4 ◆tdNJrUZxQg2018/12/28(金) 05:34:23.7261VgGgXt0 (4/20)





──12月24日。

二人で過ごしている中、ダイヤさんは部屋を見回しながらそわそわとしていた。


千歌「どうしたの? ダイヤさん」

ダイヤ「……あ、いえ」


ダイヤさんの視線を追うと、部屋に施されたクリスマスの飾りを見てから、チカのベッドに視線を送って、そのあとチカの方に戻ってくる。

そんなことを繰り返していた。

少し張り切り過ぎたのかもしれない。

御堅いダイヤさんのことだ、少し浮かれすぎな私を見て引き気味なのかも……。


千歌「飾りつけ……変だったかな……?」

ダイヤ「あ、いえ……変というか」

千歌「というか……?」

ダイヤ「……大切なものが足りないといいますか……」

千歌「大切なもの……?」

ダイヤ「ほら……ベッドに」

千歌「ベッドに?」

ダイヤ「……」

千歌「……?」


ダイヤさんと一緒にベッドに視線を送る。

今日、ダイヤさんと一緒に寝る、ベッド。

──なんだか、意味もなく恥ずかしくなってくる。

いや、意味もなくってことはないか。

だって、まあ、その、えっと、

今日は恋人たちの夜だから。チカとダイヤさんはきっと、このあと、そう……まあ、そうなのだ。


ダイヤ「千歌さん? 顔が赤いですわよ……?」

千歌「ふへぇ!?/// 気のせいじゃないかなっ!?///」


むしろダイヤさんがクール過ぎるでしょ。


千歌「そ、そんなことより……!!/// 足りないって……何が?」

ダイヤ「ああいや……靴下がないと思いまして」

千歌「……靴下?」

ダイヤ「はい」

千歌「……?」


靴下……?

クリスマスの飾りの靴下がない……ってことだよね?

自分の部屋を見回すと、部屋の隅にある机の上のミニツリー、壁に掛けられたリースみたいな定番の飾りつけはふんだんに揃っているけど、確かに靴下は用意しなかった。

……というか、



5 ◆tdNJrUZxQg2018/12/28(金) 05:34:57.8161VgGgXt0 (5/20)



千歌「靴下……いる?」


クリスマスのパーティグッズの中で、靴下のカーストはそんなに高くない気がする。


ダイヤ「……はぁ、千歌さん」

千歌「え、な、なに……?」

ダイヤ「貴女……それでもこれからクリスマスに望もうと言う人間の態度なのですか?」

千歌「え、っと……」

ダイヤ「クリスマスと言えば靴下、靴下と言えばクリスマスでしょう!」


……聞いたことないけど、


ダイヤ「……そうでないと、サンタさまが困るでしょう」

千歌「……ん?」

ダイヤ「ですから、ちゃんと大きな靴下を用意しておかないと、サンタさまが困るでしょう?」

千歌「え」

ダイヤ「……全く、準備がなってないのですから……。そういうところも嫌いではないのですけれど」

千歌「あ、えっと……」

ダイヤ「まあ、こんなこともあろうかと……ちゃんと靴下は用意してきましたわ。おっちょこちょいな千歌さんが忘れていることも考えて、二つ」

千歌「あ、あー……。ダイヤさん、確認してもいい?」

ダイヤ「はい、なんでしょうか? あ、大きい方はわたくしの靴下ですからね!? こういうのは忘れる方が悪いのですから……っ!」

千歌「あ、うん。それはいいや。そのおーーっきな靴下にさ」

ダイヤ「はい」

千歌「えーっと……その、サンタが──」

ダイヤ「サンタさまですわ」

千歌「……サンタさまが」

ダイヤ「はい」

千歌「夜のうちに、プレゼントを」

ダイヤ「ええ」

千歌「入れておいてくれるってことだよね」

ダイヤ「ええ、それ以外に何があるのですか?」

千歌「…………ちなみに参考までに、そちらのサンタさまは、どちらのサンタさまでしょうか……?」

ダイヤ「……? サンタさまはサンタさまでしょう? どちらのって……サンタさまの出身地のことですか?」

千歌「い、いやー……そのー……そんな感じかなー……」

ダイヤ「ふーむ……確かフィンランドでしたか……」

千歌「……そうだよね! サンタさまの出身地はフィンランドだよね!」

ダイヤ「もう……どうしたの?」


冷や汗が止まらない。



6 ◆tdNJrUZxQg2018/12/28(金) 05:35:55.5461VgGgXt0 (6/20)



千歌「そ、そんなサンタさまはさー」

ダイヤ「?」

千歌「どこでプレゼント調達してるんだろうねー!?」

ダイヤ「……はぁ、千歌さん」

千歌「はいー!?」

ダイヤ「プレゼントのことを詮索するのは卑しいですわよ」

千歌「……だよねー!!? 冗談だよー!?!?」

ダイヤ「……?? 千歌さん、なんだか様子がおかしくないですか?」

千歌「き、気のせいだよ!!」

ダイヤ「はぁ、そうですか……」

千歌「そ、それより、今日は何時に寝るつもりかな!?」

ダイヤ「そうですわね……。0時になって起きていたら、サンタさまに迷惑が掛かってしまいますわ。10時くらいには布団に入って居たいと思いますが……」


時計を振り返る。

現在の時刻は午後9時。


千歌「ダメだよ、ダイヤさん!!!」

ダイヤ「え!? 今度はなんですか!?」

千歌「眠りが浅かったりしたら、サンタさまが部屋に入りづらいって感じちゃうかもしれないでしょ!?」

ダイヤ「……!! 確かに……!!」

千歌「それに、今日は、チカがー無理矢理ー誘っちゃったからー……」


自分で言ってて軽く泣きそう。


千歌「慣れない枕で、寝付くのに時間掛かるかも……しれないし……」

ダイヤ「……その通りですわ」

千歌「ちゃんと静かに眠って、良い子にしてないと……サンタさま、プレゼント、くれないから、さ」

ダイヤ「……千歌さん」

千歌「……はい」

ダイヤ「考えが甘かったのはわたくしの方でしたわ……。今日と言う大事な日、ちゃんとサンタさまに向き合って、早く就寝しましょう」

千歌「……うん……そうだね、今日はもう寝ようね」

ダイヤ「……ええ!!」


気合いたっぷりに就寝を意気込むダイヤさんを尻目に、私は独り静かに──覚悟を決めた。





    *    *    *


7 ◆tdNJrUZxQg2018/12/28(金) 05:37:13.9861VgGgXt0 (7/20)





──時刻は午後11時。


ダイヤ「……すぅ……すぅ……」


静かに寝息を立てる最愛の彼女に、小さな声で、


千歌「ダイヤさーん……寝てるー……?」


声を掛ける。


ダイヤ「……すぅ……すぅ……」

千歌「……よし」


そのまま一人で静かに布団を這い出る。


千歌「……さむ」


暖房を切って布団に潜って、あれから2時間。

冷え切った自室の中で、私は改めて頭を抱えた。


千歌「プレゼント……どうしよう……」


私のベッドの横につるされた二つの靴下。

チカ用に、と貸してくれた小さいやつは、もう正直この際どうでもいい。

ダイヤさんの大きな真っ赤な靴下。

……誰がこれにプレゼントを入れるのだろう????

高海家では、クリスマスの夜、サンタさんが訪れなくなって久しい。

詰まるところ、この大きな靴下にプレゼントが詰め込まれる可能性はゼロに等しい……というか、このままじゃゼロだ。


ダイヤ「……すぅ……すぅ……ん……サンタ、さま……良い子に……してます……から……」

千歌「……」


……もうこうなったら、やるしかない。

愛するダイヤさんの夢をこんな形でぶち壊すわけにはいかない。

私は静かに上着を羽織、そのポケットにスマホを捩じ込んで、真冬の夜の内浦へと駆け出したのだった。





    *    *    *


8 ◆tdNJrUZxQg2018/12/28(金) 05:38:28.6761VgGgXt0 (8/20)





千歌「……さっむ……!!!」


私の静かな叫びは白い息と共に内浦の夜空に虚しく吸い込まれていく……。

内浦は比較的暖かい土地だけど、さすがに真冬の深夜となれば普通に寒い。かなり寒い。


千歌「……本当だったら、今頃ぬっくぬくな布団の中でダイヤさんとめくるめく夜を過ごしていたはずなのに……」


まあ、独りで誰に言うでもない恨み言を呟いていても仕方ない。

とりあえず、外に出たのはいいものの、プレゼントをどうするか……。

就寝直前にダイヤさんにアンケートを取ったところ……。


────
──


千歌「ダイヤさんはサンタさまに、何お願いしたの?」

ダイヤ「ふふ、それはないしょですわ♪ もうお手紙を差し上げたので……」


くそー可愛いな。

心の中で呟く。


千歌「そっかー……明日の朝は何時ごろに起きるの?」

ダイヤ「……いつもの時間に起きるつもりですから、6時くらいでしょうか……。でも、毎年この日だけは早くに目が覚めてしまうのです……」

千歌「あはは、楽しみなんだね」

ダイヤ「え、ええ……/// な、なんだか恥ずかしいですわ……///」

千歌「それで毎年何時くらいに起きちゃうの?」

ダイヤ「4時過ぎくらいに目が覚めてしまいますわね……」

千歌「4時……4時かぁー……」

ダイヤ「?」

千歌「もうちょっとゆっくりでもいいんだよ? 学校もないんだし? いっそお昼まで寝てても……」

ダイヤ「……そのような怠惰、来年からサンタさまからプレゼントを貰えなくなってしまいますわ」

千歌「だよね!! チカもそう思う!!」


──
────


もうこの際、贈り物の選別はやめよう。

ある程度のクオリティなら、リクエストと多少違っても納得がいく。

私も事前にサンタさんに頼んでいたものと違うものが枕元に置いてあることは何度もあった。

最初は『頼んでたものと違うー』なんていうものの、なんだかんだでそれを遊び倒すのだ。

そして、思った以上に愛着が沸いて、思い出の一品になる。それがクリスマスプレゼントの醍醐味だろう。

いや、もはやそうあって欲しい。そうじゃないと困る。


千歌「どっちにしろ、リミットはあと5時間……」



9 ◆tdNJrUZxQg2018/12/28(金) 05:40:23.9261VgGgXt0 (9/20)



いや、3時過ぎくらいには用意しておきたいから、4時間くらいかな……。

納屋からガシャガシャと自転車を引っ張り出しながら、スマホにコールする。


千歌「梨子ちゃん……お願い、出て」


知恵を借りよう。こんなときのための仲間だ。

……こんなときのための仲間だったっけ……??

……まあいいや。

なりふり構うよりも、ダイヤさんの夢を守るのが大事だ。たぶん。


ガチャッ
『──桜内です』

千歌「!! 良かった繋がった……!! 梨子ちゃん……!! あのね、助けて欲しいんだけど……!!」

『只今、電源が切れているか、電波の届かないところにいるので、ピーという音のあとに伝言メッセージを吹き込んでください』

千歌「あるよねっ!! 知り合いに掛けたときに本人の声で録音メッセージ吹き込んであると、咄嗟に話しかけちゃうの!!!!」


何故か半ギレで電話口に向かって叫ぶ。

私は通話を切る。

こんな時間だ、仕方ない。

他を当たろう。

私は今度は曜ちゃんの番号にプッシュした。

数コールの後──


曜『もしもし? 千歌ちゃん?』

千歌「ありがとう曜ちゃん!!!!」

曜『え? ど、どういたしまして……』


もはや通話に出てくれただけでこんなに嬉しいと思う日が来るとは思わなかった。


曜『それで……どうしたの? こんな時間に……? というか、今日ダイヤさんと一緒なんじゃ……』

千歌「うん、そんなダイヤさんのことで相談があってね……!!」

曜『え!? ち、ちょっと私、二人の夜の営みのこととか、そういう込み入った感じのことは答えられる自信がないんだけど……///』

千歌「うん、私の電話のタイミングが悪いよね。確かに勘違いするよね。わかる、私も最初はそう思ってた。でも落ち着いて、そんな色っぽい感じの相談じゃないから」

曜『よ、よーそろ……?』

千歌「かくかくしかじか……」

曜『……なるほど。朝までダイヤさんへの贈り物を調達しないといけないってことか』

千歌「このままじゃ、ダイヤさんの純粋な心が……」

曜『そうだね……。うっかり、千歌ちゃんが誘ったばっかりに、ダイヤさんに一生モノのトラウマを植え付けかねないってことだよね』

千歌「ぐっ……!?」


さらっと胸を抉られる。



10 ◆tdNJrUZxQg2018/12/28(金) 05:41:53.2961VgGgXt0 (10/20)



千歌「……そ、そういうことだから……何かいいプレゼントないかな……?」

曜『千歌ちゃん、聞いて』

千歌「……?」

曜『ちっちゃい頃、小学生のときだったかな』

千歌「う、うん?」


なんか昔話始まったんだけど。


曜『私たちお金なんかまともに持ってなくてさ、それでもプレゼント二人で交換しあおうって、クリスマスにプレゼント持ち寄ったこと……あったよね』

千歌「う、うん」

曜『あのとき、千歌ちゃんから貰った、綺麗な貝殻……今でも持ってるよ』

千歌「あ、私も持ってるよ! 曜ちゃんから貰った貝殻!」

曜『ホント? 嬉しいなぁ……。いざ出してみたら、お互い海で探した貝殻だったんだよね』

千歌「あはは、そういえばそんなことあったよね……懐かしいなぁ」

曜『それでね、あのとき思ったんだ……プレゼントってそういうものなのかなって』

千歌「そういう……」

曜『お金が掛かってるとか、手が掛かってるとか、そういうのも良いことなのかもしれないけど……一番大事なのは、今自分が相手に贈れる最高のものをいっぱい考えて、相手を想った心が……幸せな気持ちにしてくれるんじゃないかって』

千歌「曜ちゃん……」

曜『今でもあのとき千歌ちゃんから貰ったプレゼントは宝物なんだ……』

千歌「……うん、私もだよ」

曜『えへへ……嬉しい。千歌ちゃんと友達で良かった……』

千歌「曜ちゃん……うん、私も曜ちゃんと友達で良かった」

曜『だから、きっと……こういう気持ちをダイヤさんに贈れば、それがなんであれダイヤさんは喜んでくれるよ!』

千歌「……うん!」

曜『それじゃ、頑張ってね……!!』

千歌「うん、ありがと、曜ちゃんっ!!」


……ツーツー。


千歌「……って今そういう話じゃないじゃん!!? なんか良い話っぽくまとまったから流れで切っちゃったけど、なんの解決にもなってないよね!? え、朝起きて、わくわくしながら特大の靴下の中覗き込んで、貝殻あったら何かの間違いだと思うでしょ!? それがチカからの贈り物だってわかるんならまだしも、サンタさんからの贈り物だったらトラウマモノでしょ!? サンタに対する信用度未来永劫消えうせるでしょ!?」

『──渡辺曜です! 只今、曜ちゃんの電話は電源が切れているか、電波の届かないところに──』

千歌「電源切ってる!!? 完全にめんどくさいことに巻き込まれまいと上手いこと逃げられた!!!?」


さっきまでの友情賛歌はなんだったんだ……。


千歌「ぐっ……曜ちゃん覚えてろよぉ……!」



11 ◆tdNJrUZxQg2018/12/28(金) 05:42:41.5661VgGgXt0 (11/20)



自転車を押しながら、スマホで次のメンバーを探す。


千歌「……善子ちゃん! 善子ちゃんなら何かいいもの持ってるかも!!」


それっぽいもの即席で貰う! 何か高価なものだったら、あとでどうにか新しいものを買って返そう、それでいこう。

──prrrrrr...


千歌「……善子ちゃん、お願い……」


──prrrrr....


千歌「……く……ダメか……」


ただ鳴り続けるコール音に諦めそうになったところで、


善子『──あ、あんた何時だと思ってんのよ……』

千歌「善子ちゃん……!!」


繋がった……奇跡だよ……!!


千歌「あ、あのね、善子ちゃ」

『誰から?』

善子『え、あ、ちょ、リリー』

千歌「……は?」

『今日は私以外のこと考えないって、言ってたじゃん……』

善子『え、あ、いや……』

『誰か知らないけど……ごめんなさい、そういうことだから』


ブツ。ツーツー。


千歌「…………」


自転車に跨り、ペダルを踏み込む。


千歌「……うん! だって今日は聖夜だもんね!! 恋人たちの夜だもんね!!! 仕方ないよね!!!! むしろ、ごめんね善子ちゃんも梨子ちゃんも!!!!!! 恋人たちの夜に水を差しちゃったね!!!!!!!!」


もはやヤケクソ気味に自転車をかっ飛ばしながら、内浦の夜の海に私の叫び声が、吸い込まれていく。

──あ、なんか涙出てきたかも。





    *    *    *


12 ◆tdNJrUZxQg2018/12/28(金) 05:44:43.8861VgGgXt0 (12/20)





果南『もしもし、千歌? どしたの?』

千歌「今一人!?」

果南『え、まあこんな時間だし、一人だけど……』

千歌「果南ちゃんはイブの夜にお一人様なの!!?」

果南『え、なんでいきなり煽られてるの……? まあ、さっきまで鞠莉と二人でディナー食べてたけど……』

千歌「へー!!!! それで鞠莉ちゃんとはいい感じなの!!!?」

果南『え、いや……鞠莉のはそういうんじゃないと思うけど……』

千歌「鞠莉ちゃんには同情するけど、果南ちゃんは私の味方だよ!!!! ありがとう!!!!!」

果南『は、はぁ……どういたしまして……? というかテンション高いね? 何かあったの? ……ってか、今日はダイヤと過ごすとか言ってなかったっけ』

千歌「そうだよ!! かくかくしかじか……なんだよ!!」

果南『……ダイヤってまだサンタ信じてたんだ……知らなかった』

千歌「知らないで居てくれてよかった!! 知ってたら、教えてくれなかったことを恨んでたところだったよ!!」

果南『かなり、ヤケクソ気味だね……』

千歌「だって、ぶっちゃけこの時間に内浦走り回ってもプレゼントなんて見つかるわけないじゃん!!!!?」

果南『……あーまあ』

千歌「私も最初は頑張ろうって思ったよ!!!? でも、私をあざ笑うかのように、古くから友から見捨てられたり、私が追い求めた恋人たちの夜をまざまざと見せ付けられる仕打ち、ちょっと軽くおかしくなりそうだよ!!!?」

果南『だいぶキてるね……』

千歌「もう一度お願い!!」

果南『え? ……だいぶ』

千歌「良い感じー!!!!!」

果南『……千歌、だいぶキてるね』

千歌「うん、自分でもこんなナチュラルハイみたいな感じになるの初めてかもしれないって思うよっ!!!!!」

果南『とりあえず、アテがない感じ?』

千歌「割と泣きそう。こんなときのための鞠莉ちゃんも電話繋がらないし」

果南『千歌は鞠莉のことなんだと思ってるのさ……。鞠莉はもう寝てると思うよ。めちゃくちゃ眠り深いから、朝になるまで何しても起きないと思う』

千歌「果南ちゃんが鈍感じゃなかったら、今頃、鞠莉ちゃんとロックなナイトを過ごしてるところだったと思うよ!!!!!」

果南『え、なに突然?』

千歌「でも、そうだったらチカの心の傷は今の比じゃないもんね!!! 鈍感な果南ちゃんで居てくれてありがとう!!!!!」

果南『……? どういたしまして……?』


鞠莉ちゃんが朝までオヤスミと言う話を聞いて、7人のメンバー中、4人が頼れないことが確定した。

残りは今進行形で相談している果南ちゃん含めて3人、だが。


果南『ルビィちゃんに電話掛けるってのは? 何か知ってるかもしれないし』

千歌「考えはしたけど……ルビィちゃんもサンタさん信じてたらどうするの?」

果南『…………確かに』


ルビィちゃんに相談した結果『え……サンタさんって……居ないの?』なんて言われたときには私はどうすればいいんだろうか、

しかも、ルビィちゃんを端にその先でほぼ確実にダイヤさんに波及する。

黒澤姉妹の夢を同時に壊した先で、私はその良心の呵責に耐え切ることが出来るだろうか? いや無理だ。


13 ◆tdNJrUZxQg2018/12/28(金) 05:45:35.8261VgGgXt0 (13/20)



果南『でも、どうするの?』

千歌「とりあえず、沼津に向かってる!!」

果南『いや、いくら沼津が内浦より都会だって言っても、さすがに店閉まってるでしょ……』

千歌「チカにどうしろって言うのさ……っ!!!!!!?」

果南『そんな泣きそうな声で言われても……』

千歌「今、内浦で何探すのさ!!!!? 曜ちゃんが言うみたいに貝殻探してダイヤさんにトラウマ植え付けろってこと!!!!!?」

果南『貝殻はともかく……他になんかあるでしょ』

千歌「他!? 雑草とか!!!?」

果南『あ、海草なら、嬉しいかも……』

千歌「そんなの果南ちゃんだけだよ!!!!!」


そこらへんの浜辺に打ち上げられてるワカメとか昆布とか、せっせと靴下に詰め込んでる姿を想像する。地獄絵図すぎる。


果南『あ……!』

千歌「もう、今度は何……!!!?」

果南『浜辺にはいいもの、あるじゃん!!』

千歌「え……!?」





    *    *    *


14 ◆tdNJrUZxQg2018/12/28(金) 05:47:00.4661VgGgXt0 (14/20)





果南「おーい、千歌ー!!」

千歌「果南ちゃん……!! 来てくれたんだ……」

果南「まあ、提案した手前ほっとくのもね……」

千歌「あれ、でもジェットスキーって夜間は使えないよね?」

果南「だから手漕ぎボートで」

千歌「……なんか、また果南ちゃんの脳筋エピソードを聞かされてる気がするけど、考えるのは後にするよ……とりあえず、探さないと」


浜辺に四つん這いになって、探す。


千歌「シーグラス……」


果南ちゃんの提案したものは、シーグラスだった。

綺麗に光る、浜辺の宝石。

暗がりの中で探すのは大変だけど、先ほどから何個か見つけている。


果南「拾ったやつ、見せて」

千歌「あ、うん」

果南「どれどれ……」


シーグラスを詰めた袋を手渡すと、果南ちゃんは持ってきたペンライトで品定めを始める。


果南「緑、透明、茶色、オレンジのも……結構いろいろあるもんだね」

千歌「うん!! 意外とどうにか!」

果南「なんか、色によってはかなり希少なシーグラスもあるって聞いたよ」

千歌「ホント!?」

果南「何色だったっけ……赤だっけか」

千歌「こんなときはAqoursの知恵袋に……!!」


──prrrrrrrr.....


花丸『……もしもし……ふぁ……』

千歌「あ、花丸ちゃん、ごめん寝てたよね……?」

花丸『……ん……千歌ちゃん……どうしたの……?』

千歌「あ、えっと……シーグラスについて聞きたいんだけど……」

花丸『シーグラス……? シーグラスってあのシーグラスずら?』

千歌「うん、今集めてて……」

花丸『……そうなんだ? ……えっと、シーグラスは海岸で見つかるガラス片で波に揉まれて、角が取れた小片が流れ着いたもののことだけど』

千歌「希少なやつとかって知ってる?」

花丸『んーっと……赤いのは5000個に1個、オレンジのは10000個に1個くらいの割合って言われてるずら』

千歌「え!? 果南ちゃん、オレンジのシーグラス!! さっきあったよね!?」

果南「え、あ、うん」

千歌「き、奇跡だよー!!!! オレンジは1万個に1個だって!!!」

果南「ホントに!?」

花丸『え、今って現在進行形なの!? 深夜の1時だよ!?』


15 ◆tdNJrUZxQg2018/12/28(金) 05:48:27.8161VgGgXt0 (15/20)


千歌「あ、えっと……かくかくしかじかで……」

花丸『……なるほど』

千歌「でも、この調子で……!!」

花丸『あのー千歌ちゃん』

千歌「ん、何?」

花丸『すごく言い辛いんだけど……』

千歌「?」

花丸『……大きな靴下覗き込んで、こんもりシーグラス入ってたら……たぶん、それはそれでトラウマになるんじゃないかな』

千歌「…………ハッ」


花丸ちゃんの言葉でハッとなる。


花丸『その……コレクターでもない限り、サンタさんから貰って嬉しいかって言われると……』

千歌「…………」


絵面を想像する。

大きな靴下を嬉しそうに覗き込むダイヤさんの表情が、みるみる曇って行く姿が容易に想像出来る。


果南「千歌? どうしたの? 顔色悪いよ?」

千歌「果南ちゃんのバカァ!!!!!」

果南「え!? 何!?」

千歌「かなり追い詰められてたところに、妙案閃いたみたいな感じで言われたから、完全にわけわかんなくなってたよ!!!? ナイスアイディアだと思って、砂浜に這い蹲ってたチカがバカみたいじゃん!!!?」

果南「え、ええ!? ダメかなぁ……この前、鞠莉にあげたら喜んでくれたんだけど……」

千歌「鞠莉ちゃん基準……鞠莉ちゃんは果南ちゃんから貰ったものなら、それこそ雑草でも喜ぶよ……っ」

果南「千歌は鞠莉のことなんだと思ってるのさ……!!」

千歌「むしろ果南ちゃんはそれで鞠莉ちゃんの何をわかったつもりになってるの!!!?」



16 ◆tdNJrUZxQg2018/12/28(金) 05:48:55.9861VgGgXt0 (16/20)



花丸『あ、えーっと……じゃあ、その……頑張ってね、千歌ちゃん……』


プツ。ツーツー。


千歌「……万策尽きた」


神様ごめんなさい。チカのワガママのせいで大好きなダイヤさんの夢を一つ、壊してしまうようです。

そのとき……

──ブーブー。


千歌「……ん?」


スマホが着信を告げるために震えていた。

今更チカが言うのもなんだけど……こんな時間に電話? 誰から?


千歌「……え?」


私は焦って、通話を繋ぐ。


千歌「も、もしもし……?」

ルビィ『あ、やっと繋がったよぉ……千歌ちゃんずっと通話中で……』

千歌「え、えっと、ルビィちゃん……?」


相手は、なんと……ルビィちゃんだったのです──





    *    *    *


17 ◆tdNJrUZxQg2018/12/28(金) 05:50:21.5461VgGgXt0 (17/20)





ルビィ「はい。これ事前にお母さんが買っておいてくれた、抹茶スイーツの詰め合わせ……プレゼントは用意してたけど、千歌ちゃんの家に泊まりにいったことうっかりしてて……」

千歌「スイーツ詰め合わせ……」

果南「想像より安上がりだね」

ルビィ「ぅゅ……これ8000円ぐらいするみたいだけど……」

果南「え、マジで……?」

千歌「これがダイヤさんの欲しがってたプレゼント?」

ルビィ「うん。お姉ちゃんすごい物欲のある人じゃないから……昔からプレゼントはお菓子を欲しがることが多くて……」

果南「確かに言われてみれば、煌びやかなアクセサリーとかねだるイメージないもんね」

千歌「一周まわってある意味ダイヤさんらしい……のかな」


ふと、ダイヤさんのプレゼントのリクエストのことを思い出す。


千歌「そういえば、ダイヤさん……サンタさんには手紙でプレゼントのリクエストを送ってるって言ってたけど……」

ルビィ「あ、えっとね、お手紙はお母さん経由でサンタさんに渡すことになってるから……」

千歌「……なにそれかわいい」

果南「というか、ルビィちゃんは全部知ってたんだね」

ルビィ「ルビィが知ってるというか……お姉ちゃんが知らないだけと言うか……」

千歌「……最初からルビィちゃんに電話すればよかった……」

果南「だから言ったじゃん……」

千歌「果南ちゃんも納得してたくせに……」


最悪の事態を想定した結果、いらぬ苦労をするハメに……


果南「まあ、解決したし、いいじゃん」

千歌「ん……まあ……そうだね。ありがとう、果南ちゃん」


なんだかんだで最後まで付き合ってくれた果南ちゃんにはお礼を言って然るべきだろう。


果南「いいっていいって」

千歌「今度、鞠莉ちゃんとうまく行くように手伝うからね……」

果南「……? 鞠莉とは今でもうまく行ってるけど……」

千歌「うん、こっちの話」

果南「??」

ルビィ「あはは……」

千歌「さて……そろそろ家に戻ろうかな……」

ルビィ「千歌ちゃん、お疲れ様……」

果南「お疲れ、千歌」

千歌「うん……疲れた……」


時刻はそろそろ3時前……どうにかミッションコンプリートのようだ……。

ダイヤさんの夢は守ったよ……。





    *    *    *


18 ◆tdNJrUZxQg2018/12/28(金) 05:52:34.2161VgGgXt0 (18/20)





「──かさん……千歌さん!」

千歌「……ん……」

ダイヤ「千歌さんっ! プレゼント! サンタさまからプレゼントですわ!」

千歌「あ、あぁ……うん……」


やっと意識が混濁し掛けて来たところに揺り起こされる。

ぼんやりと自室の壁掛け時計に目をやると、3時40分を指していた。

4時どころじゃないし……ホントギリギリセーフだった。


ダイヤ「お願いしていた、スイーツ詰め合わせ……嬉しいですわ」


プレゼントを嬉しそうに抱きしめながら、ダイヤさんがニコニコと笑っている。


千歌「よかったね、ダイヤさん」

ダイヤ「はい! 千歌さんは何を貰ったのですか?」

千歌「……え?」


……あ、忘れてた。


千歌「あー……」


ダイヤさんの大きな靴下の隣にある、一回り、二回り小さな靴下は就寝前と変わらず、ぺしゃんこのままだった。


ダイヤ「え……もしかして、千歌さんの分は……ないのですか……?」

千歌「……まあ、チカあんまり良い子じゃないから……たまにこういうことあるんだよね」

ダイヤ「そんな……」


ダイヤさんは抱きしめていた、お菓子の詰め合わせと、チカの顔を何度か見比べてから、


ダイヤ「……サンタさまも少し見る目がないですわね……。千歌さんが悪い子なわけないのに……」


そう言って頬を膨らませた。


ダイヤ「来年はお手紙に、千歌さんの分も頂けるようにお願いしてみますね」

千歌「あはは、ありがと」

ダイヤ「今年は……わたくしのプレゼントを一緒に頂きましょうか」

千歌「いいの?」

ダイヤ「ええ、貴女と一緒に食べるのが、一番美味しいですから」

千歌「……」


ああもう……こういうところなんだよね……。

愛しくて、思わず抱きしめる。


ダイヤ「きゃ……千歌さん……」

千歌「もう……ダイヤさんのこと、好き……」

ダイヤ「ふふ、ありがとう……わたくしも好きよ」


19 ◆tdNJrUZxQg2018/12/28(金) 05:53:14.4661VgGgXt0 (19/20)



しばらく抱き合ってから……ふと、


千歌「あ、そうだ……」

ダイヤ「?」


もそもそと布団を這い出て、掛けてあった上着のポケットから、ソレを手に握り締めて、


千歌「これ、あげるね」

ダイヤ「……?」


ダイヤさんに手渡した。


ダイヤ「これシーグラスですか?」

千歌「うん、オレンジ色の珍しいやつ。見つけたからあげるね」

ダイヤ「あ、ありがとうございます……?」

千歌「チカの努力と奇跡の結晶だから……」

ダイヤ「……なんだかよくわかりませんけど……大切にしますわ」

千歌「うん……ふぁぁ……」

ダイヤ「あ、ごめんなさい……朝早い時間ですし、まだ眠いですわよね……」

千歌「う、ん……」


まだ、というか……もう……さすがに限界……。


ダイヤ「もう一眠り……致しましょうか」


布団に倒れこむと、ダイヤさんが抱きしめてくれる。

心地良い温もりに包まれたまま、私は夢へと落ちていくのでした……。





<終>


20 ◆tdNJrUZxQg2018/12/28(金) 05:56:18.8261VgGgXt0 (20/20)

終わりです。お目汚し失礼しました。


スクフェスでダイヤさんのクリスマス限定ボイスを聞いたらつい書きたくなって……。


また書きたくなったら来ます。

よしなに。


毛色全然違いますが過去作もよかったらどうぞ。

善子「一週間の命」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1495318007/

千歌「――私はある日、恋をした。」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491711229/