445名無しさん@おーぷん18/12/04(火)10:07:10uTi (1/1)

乙~


446名無しさん@おーぷん18/12/04(火)11:44:33snH (1/1)

おつです
更新頻度安定しててうれしい


447名無しさん@おーぷん18/12/05(水)08:21:22BkW (1/1)




448名無しさん@おーぷん18/12/06(木)10:49:53xrO (1/4)

乙!


449名無しさん@おーぷん18/12/08(土)16:28:42lfe (1/1)




450◆vVnRDWXUNzh318/12/13(木)23:08:57d8R (1/5)

街全体が突然謎の殺人症蔓延で壊滅状態に陥り外部との連絡も途絶、おまけにその地の治安部隊も“パンデミック”に巻き込まれ機能停止………全く、こうもゾンビ物の王道を突っ走られると一周回って笑えてくる。

奴らを“黙示録の使者”とする中東の狂信者共の論にあえてノるなら、ダニー=ボイルや佐藤信介、ヨン=サンホ、既に泉下に旅立っているジョージ=A=ロメロ辺りも神々による歓待リストに名を連ねていることでしょうね。

ロメロ作品風に準えるなら、さしずめ感情を残し多少の自我を持ちながらも深海棲艦に操られる“暴徒”達は近代社会で理不尽な雇用主の下不本意な仕事を強いられる労働者の縮図ってところかしら?
少なくともこの舞台を整えた奴が【Land of the Dead】を参考資料にしたことだけは間違いない。

………こういう思考がサラッとでてきちゃう辺り、なんだかんだ私も立派にあの鎮守府の艦娘だわ、えぇ。

└(*・ヮ・*;)┘「さーて、どうするかね!?弾薬はできるだけ持ってきたけど潤沢とは言えないし、あんまりこの場での長丁場はオススメできないよ!

銃器装備の“暴徒”が集まりつつあるなら尚更だ!」

∬メ;´_ゝ`)「それに、さっきの……あー……」

「雷巡チ級」

∬;メ´_ゝ`)「ありがとう、深海棲艦の艦種には疎いのよ私……チ級以外の敵艦の動向も気になるしね。あそこのアイツとか」

阿音の指摘に、私も一瞬振り返って“あそこのアイツ”を、ムルマンスクで【駆逐ナ級】と名付けられた新型の姿を見上げる。

中央で屹立するナ級は出現直後の大暴れぶりから一転、その場から不動を保っている。ただし、“静かにしている”ワケじゃない。

『『ァアアアアアァアッ!!!!』』

【Helm】の大編隊が飛び去っていった直後辺りから、ナ級は時折雄叫びを上げながらある方向への激しい砲撃を続けている。
それは船尾のもう一体も同様であり、更に言えば船内のあらゆる場所で瞬く砲火もその全てが同一の方角を指向した。

私の記憶と感覚が正しければ、そっちには陸地が、大洗町がある筈だ。


451◆vVnRDWXUNzh318/12/13(木)23:11:20d8R (2/5)

首都圏の目と鼻の先、奴らの爆撃機なら1時間足らずで往復も可能な位置に停泊中の学園艦から深海棲艦が突如出現する……賭けてもいいけど、そんな異常事態をあのディープワンフェイスは絶対に放置しない。
アイツが政権を取って以来自衛隊が極めて俊敏身軽な軍事組織に生まれ変わっていることも考慮すれば、大洗町並びに近郊諸地域の避難誘導と陸自・艦娘を主力とした水際防衛線の構築ぐらいは恐らく既に完了させている。

この攻撃は十中八九、その大洗町に築かれた防衛線に対するもの。陸地側からも結構な量の砲声が聞こえてくる辺り、かなり大規模な艦隊戦力による強襲上陸も行われているらしい。

∬メ;´_ゝ`)「随分と盛大だわねぇ……」

└(*・ヮ・*#;)┘「モー!陸の連中は何やってんのさ!!

鎮守府の艦娘だっているだろうにこんな一方的にやられっぱなしでいる意味がわからないよ!!」

鈴が怒りに満ちた叫び声を上げるけど、そんなの当たり前ね。この船が“学園艦”であることを考えれば、自衛隊や大洗鎮守府に反撃なんて出来るはずがない。

∬;メ´_ゝ`)「……鈴。あんたここが大惨事になってるとはいえ未だ何千、もしかしたら何万の生存者を乗せている船だって解ってる?」

└(*・ヮ・*;)┘「あっ」

鳴り響く砲声の数から逆算して確実に100隻強、それもその大半が恐らくは空母を含むヒト型。
本来なら“防衛線の展開”なんて悠長な真似はすっ飛ばして、爆装させたありったけのF-2と近隣鎮守府の全艦娘による総攻撃で対処すべき案件にあたる。

奴らが何もない海原から現れたなら、市ヶ谷や永田町はその対処法を迷いなくとったに違いない。
だが、今奴らの主力艦隊が陣取っているのは学園艦。艦内に取り残された民間人という“最強の盾”を、10万前後も乗せた海上教育施設だ。

当然、自衛隊、艦娘が手を出せるワケない。血の気の多い在日米軍でも、国外からの観光客も多数が乗船している中で大火力投射に踏み切るのは至難の業でしょうね。
表沙汰になれば国際問題一直線は間違いなし、最悪水面下で敵対している中国に艦娘利権介入の口実を与えるような事態を招きかねないもの。

つまり自衛隊の沿岸防衛線と大洗鎮守府の艦娘達は、何か打開策が見出されるまではこの“無敵の海上拠点”から降り注ぐ艦砲射撃に対して全く抵抗する術がない。

深海棲艦がどこまでこっちの内情を把握してるか知らないけど、少なくとも大洗女子学園の拠点化はその辺を見込んだ上での行動だろう。そして奴らは、この「自衛隊と艦娘を一方的かつ安全に打撃できる機会」を最大限活用しに来ている。

現に、奴らが差し向けてきたのはいかに高性能な地上ユニットを装着しているとはいえ根本が砲雷撃戦に───ひいては陸上戦に向いていないチ級2隻だけ。しかもその2隻が沈められて以降は、後続艦を送ってくる気配すらない。

まぁ深海棲艦からすれば、対深海棲艦戦闘に置いて屈指の練度を誇る軍事組織と保有艦娘が80隻規模の正規鎮守府に纏めて大打撃を与える千載一遇の機会が鼻先にぶら下がった状況だ。
投入しうる全ての火力を用いて、人類側が態勢を立て直すまでに可能な限り戦果を拡大したいという考えはよく理解出来る。仮に私が奴らの指揮艦だったとしても同じ考えに至るだろう。


452◆vVnRDWXUNzh318/12/13(木)23:16:27d8R (3/5)

そして、そんな奴らの思惑こそが、

「……ンスね」

∬メ;´_ゝ`)「え?」

「チャンスって言ったのよ、この状況が」

私たちにとっては、付けいる隙だ。

└(*・ヮ・*;)┘「チャンス、ねぇ。そりゃ煉獄の現世を旅立って極楽浄土への道が開かれると考えればチャンスって言えなくないけど、さ!」

∬メ´_ゝ`)「ポジティヴシンキングが過ぎる」

「つーかそんなワケあるか。どこの苦行僧よアンタは」

弾切れに併せてしゃがみこむ私の頭上で、鈴のPSG1が高らかに銃声を鳴らす。阿音からリロードされたUSPをそのまま後ろ手に突き出して引き金を引くと、足音が止み迫ってきていた誰かが短く野太い悲鳴を上げて倒れた。

「勿論、私らが置かれた現状そのものじゃないわ。大洗女子学園全体でのことよ」

沿岸部への砲撃に大半のリソースを割き、艦内での“異変”に対する投入戦力は最低限に留める……奴らの戦略的には確かに理に叶った動きかも知れない。
だがそれは同時に、私達が露骨に後回しにされている───より正確に言えば完全に舐められているということでもある。

屈辱を感じないわけじゃない。しかしそれ以上に“喜悦”が浮かぶ。政治外交の舞台で嘗められることはこの上なく致命的な事態になるが、戦場において相手が此方を軽んじ甘い認識でいてくれることは何物にも代えがたいアドバンテージだ。

何より、絶対有利に立ち此方を勝ち誇ったドヤ顔で見下してくる敵に屈辱と絶望を植え付けてやる瞬間ほど、快感をもたらしてくれるシチュエーションは存在しないもの。

「深海棲艦がこっちを雑魚の物量だけで抑え込んでおける相手と見てくれている内に、こっちから動く。奴らに“脅威”と認識されてもう何隻かヒト型を寄越してくるようなことになったら、今度こそ本格的に詰みよ」

└(*・ヮ・*;)┘「意見としてはごもっともだけど、それチ級沈めた時点でもう手遅れじゃないかい!?」

∬メ´_ゝ`)「……いや、そうとも言えないんじゃないかしら」

阿音がピンを抜き投げて寄越したM26手榴弾を、ブレイドの腹で正面に打ち込む。向かってきた“群れ”の前衛数人が吹き飛び、焦げた肉片が撒き散らされた。

∬メ´_ゝ`)「素人目に見ても叢雲のダメージは小さくないし、実際私達が……ち、チ級?に攻撃をかけた時彼女はトドメを刺される直前だったわ。

奴らがどういう連絡手段を持っているのかは解らないけれど、艦娘が深いダメージを負っているという情報の共有を向こうが怠っているとは考えがたい。
なのにここに“確実に息の根を止められる”戦力が送られてこないのは、深海棲艦側がまだ事態を楽観視しているからかも」

「ご明察。……詳しくないなんていう割に頭回るわね」

∬メ´_ゝ`)「下の肉親二人が両方おバカだからねぇ、もしかしたらその分の知能私が吸い上げちゃったのかも」

阿音の推察に強いて材料を一つ付け加えるなら、奴らは人間を強く憎む一方で戦闘力に大きな開きがある故か人間そのものに対する警戒は緩い傾向がある。

既に満身創痍で武装も貧弱な艦娘に「ほんの少し一般的な個体より強いだけの貧弱な哺乳類」が2匹援軍についたところで、奴らはさして意に介さないだろう。

まぁチ級達の言い争いは未だに引っかかるけど、状況から鑑みて間違いなくアレは突発的に発生している。内容がどうあれ、深海棲艦側の基本方針や現状はおそらく私の推察から大きく外れていない。


453◆vVnRDWXUNzh318/12/13(木)23:18:59d8R (4/5)

∬メ´_ゝ`)「で、貴女の言う“チャンス”の意味は概ね理解したけど、そのチャンスをどう生かすつもりなのかしら?

差し支えなければご教授願いたいんだけど」

「大洗女子学園本校舎に向かう」

└(*・ヮ・*)┘「………わぁお」

鈴が上げた驚きの声は、私が今し方ブレイド一振りで一気に寄生体4匹の首を跳ね飛ばしたこととは多分関係ないだろう。
というか、あっちも銃床の殴打一回で暴徒三人の顎粉砕してるしね。滅茶苦茶度で言えばお相子か、鈴が生身の人間であることを考えればあっちの方が若干上回っているぐらいだわ。

└(*・ヮ・*;)┘「叢雲ちゃん、艦娘であることを加味しても君の実力が並外れてるのはこの短時間でそれはモーよく理解できたぜ?

でもさ、そいつぁ素麺を生で食べるぐらい無茶じゃないかな?」

∬メ;´_ゝ`)「というか、本校舎に向かって何を……いや、貴女が何をしに行くつもりか自体はだいたい予想できるけど、“その後”はどうする気?

正直、気持ちは解るけど艦外と連絡さえまともに取れない状況で取るべき選択肢とは───」

「その後?決まってるじゃない、この学園艦を奪還するわ」

阿音の台詞を遮り、言い切る。二人の銃声は止まらなかったが、呼吸音は束の間背後から消えた。

└(*・ヮ・*;)┘「いよいよもって正気かいお嬢さん?

どう少なく見積もっても数万人の暴徒とそっから生えてくるなんかキモいウミヘビ、何より総数不明の深海棲艦が艦内を跋扈している状況下でそれは大風呂敷を通り越して完全に狂人の戯言だぜ?」

∬メ;´_ゝ`)「まぁ、当然貴女なりの考えがあるんでしょうけど………その自信の出所だけでも教えて欲しいわね、ちょっと半信半疑よ私も」

「ちゃんと根拠も展望もあるけど、流石にこの場で説明するには時間が足りない。

ただ勿論、信用できないならこれ以上無理に着いてこなくていいわ、そもそもチ級から助けて貰っただけでも十分すぎるほどありがたいし」

『ギュプァッ』

正面に全速でブレイドを繰り出す。真っ正面から刺突を受けた寄生体が、断末魔を一つ残して粉砕される。
そのまま後続をUSPで牽制しつつ、私は切っ先でひらひらと前方の“群れ”を指し示して見せた。

「阿音、鈴、貴方たちの選択肢は二つ。

このまま私と別行動を取り、囲いを突破した後本土から差し向けられる増援が来るまでどこかに隠れてやり過ごすか。

或いは、頭がイカレたとしか思えない駆逐艦の小娘の口車に乗って、弾薬も欠乏しつつある中で生ける軍艦とその下僕・眷属が群れなす中に突貫するか。

私は二人の選択に一切口を出すつもりはないけど、どうする?」


454◆vVnRDWXUNzh318/12/13(木)23:51:17d8R (5/5)

我ながら、なんという言いぐさだと呆れてしまう。

どっちにする?もクソもない。後者の選択肢は言ってしまえば、「一緒に死にに行ってくれ」と遠回しに頼んでいるようなもの。普通に考えて、阿音と鈴が言うとおりその根拠が示されない限り乗ろうと思う人間はいない。

∬メ´_ゝ`)「一応、もう一度聞くわね。

貴女の今後の目的は?」

「一応、もう一度言うわ。

この学園艦を“奪還”する」

仮に居たとすれば、それこそソイツは私や司令官達と同類────言わば、“狂人”にカテゴライズされる存在に違いない。














尤も、一つ言わせて貰うなら。

∬メ´_ゝ`)「「────だから気に入った」」└(*・ヮ・*)┘

この二人が、流石阿音と牛尾鈴が私たちと“同類”だということには、出会ってから割と早くに勘付いていたことだけど。


455名無しさん@おーぷん18/12/14(金)05:27:45Rbw (1/1)




456名無しさん@おーぷん18/12/14(金)10:59:10lrg (1/1)




457名無しさん@おーぷん18/12/18(火)11:15:59cv7 (1/1)

地獄の血みどろマッスル鎮守府の方もまだかのう...


458名無しさん@おーぷん18/12/18(火)18:19:070qU (1/1)

校舎といえば、地下にブーン先生達が籠城してなかったっけ?


459◆vVnRDWXUNzh318/12/28(金)00:41:35NTc (1/10)

└(*・ヮ・*)┘「はっはぁ!いいねいいね叢雲ちゃぁん!マジでイカレてんねその提案!だけど始末書上等不良保安官のいてまえ鈴ちゃんにゃあお似合いだ!」

∬メ´_ゝ`)「やっぱり無謀にも程があるとは思うけど実際私も対案はないしねぇ。ここに留まるよりはマシだろうし、私もその賭けにノらせて貰うわ」

声高に言い放ちつつ、二人はより激しく弾幕を張り巡らす。その口元を歪ませるのは隠しきれない高揚と歓喜が籠もる笑み。
だけど、それについて私がとやかく言う権利はない。
だって私自身、未だほのかな罪悪感も残しつつ同質の笑いが浮かぶのを抑えられずにいるのだから。

「………流石阿音二等陸尉、並びに牛尾鈴巡査官に伝達!これより両名に駆逐艦【叢雲】を加えた臨時の分隊を結成する!

尚、特に反対がない場合作戦の円滑な遂行を鑑みて私が指揮を執るわ!」

∬メ#´_ゝ`)「流石弐尉より“旗艦”殿、異論はありません!」

└(*・ヮ・*#)┘「旗艦殿、牛尾巡査より意見具申致します!」

「許可!」

└(*・ヮ・*#)┘「分隊を組むにあたり、互いを本名で呼び合うと連携に齟齬が生じる可能性があります!

臨時に分隊名を設定し、以後は相互呼称を隊名と番号に固定するべきかと!」

∬メ´_ゝ`)「……下の名前で呼び合えばいいし、どっちかって言うと貴女の趣味的な意図を感じるんだけど」

└(*・ヮ・*#)┘「いいじゃんか、前々から【ブラヴォー01】とか【チャーリー03】とか呼ばれてみたかったんだよ!」

……言葉を交わしたときから薄々思ってたけど、鈴はどうも思考だけじゃなくて嗜好もウチの司令官にかなり似通っている節があるらしい。“諸事情により映画と仮称された見る系の精神修行”を好き好むところまでそうかは解らないけど。
というか、呼んでくれる上層部もないのに分隊名(コールサイン)なんか決めて何の意味があるのよ。

ただ、まぁ、そうね。

「鈴、コールサインは何でもいいのかしら?」

└(*・ヮ・*)┘「そりゃもっちろん!隊長殿の決定に異論なんか挟まないさ!けど、出来るだけカッコいいのを頼むよ!!」

∬メ;´_ゝ`)「ていうか、まさかノるとは思わなかったわ……」

非効率的な事だと理解している。ただ、どれだけ常識人ぶろうが結局は私も【地獄の血みどろマッスル鎮守府】の副司令艦。アンツィオ高校の如く効率を度外視して“ノリと勢い”に身を任せることは必ずしも嫌いじゃない。

況してやこの戦場はあらゆる意味で気が滅入る。寧ろノリや勢いで無理矢理にでも気を入れないと、肉体だけじゃなくて精神的にもどこかで持ち堪えられなくなる。

あと、これは本当に個人的なことだけど、ふっと“名乗りたいコールサイン”が頭に浮かんだからというのも理由の一つだ。


460◆vVnRDWXUNzh318/12/28(金)00:43:06NTc (2/10)

さっき阿音が言ったとおり、私達がコールサインを決めたところで呼んでくれる上層部はない。逆説的に言えばそれは、どんな内容だろうが心置きなく名乗れるということでもある。
ならば、たまには少しはっちゃけた名乗りにしてみるのも一興だろう。

決して、洒落た単語じゃない。ウィットに富んだ名乗りとも言い難い。ただ、私自身“名乗りとしてはダサい”という自覚はある。

アイツが毎回大本営に申請してはロマさんに却下される、アルファベット6文字。汗臭くちょっと間抜けな響きで、確かにロマさんが日頃言うとおりコールサイン向きじゃない。












────だけどこの単語なら、私があの鎮守府の、あの司令官の艦娘だということを、最も的確に示してくれる。

それが例え、この場では誰にも伝わらないものであったとしても。

「Muscle。

分隊コールサインは、【Muscle】で行くわ。異論は言うのは認めるけど聞かないわよ」


461◆vVnRDWXUNzh318/12/28(金)01:23:43NTc (3/10)

∬メ;´_ゝ`)「…………うん、別に誰かに聞かれるってワケじゃないし私はノーコメントで」

└(*・ヮ・*)┘「アタシも異論はないよ叢雲ちゃん!脳筋のアタシにゃピッタリのクールなコールサインだ!!

もう一回言うけど、“だから気に入った”よ!!」

ま、決めといてなんだけど阿音の反応が当然よねぇ。やっぱり鈴は精神年齢面でもウチの司令官にかなり似てるわ。

└(*・ヮ・*#)┘「で、叢雲ちゃん改めMuscle-01!目標地点はさっきの指示と変更無しで大丈夫かい?!」

「ええ、問題はないけど────敵の状況は!?」

∬メ´_ゝ`)「相変わらず、地面が三分に敵が七分の物量で突撃してきているわ。ただ、例の駆逐艦2隻は陸上への攻撃を継続しヒト型の増強気配も見られず。

火器持ちの“暴徒”も少しずつ増え始めてるみたいだけどまだ優先撃破で対処できる範囲内ね。ただ、擲弾とグレネードの残弾が少し怪しいわ。向こうが数を増やす前に速やかな包囲突破を進言致しますわ」

……嫌がってた割に今さらっと02名乗ったわね。まぁいいけど。

「Muscle-01より02並びに03、引き続き火力を後方の敵部隊に集中し進軍を遅滞!その間に私が前方の敵群体前衛を打通、切り崩して突破口を作る!!」

└(*・ヮ・*#)┘「03、了解!」

∬メ#´_ゝ`)「02より01、何分待てばいい!?」

「30秒!」

∬メ#´_ゝ`)「02、了解!!」


462◆vVnRDWXUNzh318/12/28(金)01:24:13NTc (4/10)


『「『ぎゃああつ!!!?」』」

投げ渡された手榴弾のピンを指先で引っかけ、くるりと回して抜きながら前方に投げつける。
爆発で崩れた敵陣に踏み込み、刃を一閃。斬撃の軌道に沿って一気に10を超える人体の上半身が弾け飛ぶ。

∬メ#´_ゝ`)「擲弾!!」

ほぼ同時に、背後でも炸裂音。寄生体と暴徒がそれぞれ10体前後ずつ、くぐもった悲鳴を上げるのが一拍遅れて聞こえてきた。

∬メ#´_ゝ`)「擲弾、残あと4!89式の予備弾倉も残余6まで減少!」

「最悪私がカバーするから小銃の残弾は気にせずぶっ放しなさい!ただ、爆発物はしばらく温存を!」

∬#メ´_ゝ`)「OK!」

さて、打開の糸口は見いだせたとはいえ、今はあくまで細く儚いその先端を指先で摘まんでいるような状態に過ぎない。いつ手から擦り抜けてもおかしくない手応えで、脳裏で急速に構築している策もかなりの部分が綱渡りだ。

だが、それがどうしたというのか。そんなの、私達にとっての“いつも通り”じゃない。

└(*・ヮ・*#)┘「後方敵群体、前衛の損害甚大により進軍著しく鈍化!寄生体の突出も停止中!」

「Muscle Team、作戦行動を開始する!突貫せよ!!」

∬メ#´_ゝ`)「「了解!!」」└(*・ヮ・*#)┘

ここからが私の────【地獄の血みどろマッスル鎮守府】副司令艦の、“本番”なのよ。


463◆vVnRDWXUNzh318/12/28(金)01:27:35NTc (5/10)






「6年前、突然海の底から侵略が始まった。深海棲艦と名付けられたその強大で膨大な侵略者を前に、僕たちは当初あまりにも無力だった」

「ものの数ヶ月と経たず、僕たち人類は制海権・制空権を地球規模で喪失した。あらゆる国と地域の沿岸諸都市に砲撃や爆弾が降り注ぎ、軍民問わず多くの人命が失われた。

あー……大変、痛ましいことにね」

「英米日露の4カ国が辛うじて“膨大な流血”を避け得たのも、米国以外は正直地政学的な幸運に助けられていた面が大きい。唯一真っ向から奴らと殴り合っていたアメリカにしろ、コスト意識を度外視した大火力投射で辛うじて押し止めていただけだ。

たかだか一個艦隊6隻相手の対応に弾薬満載のB-2爆撃機を20機もつぎ込み毎日飛ばすなんて真似、かの国の経済規模でも保つわけがない。
当時海上物流が滞りニューヨーク市場が“暗黒の木曜日”をもう一発ぶちかます気配を見せていた点も考慮すれば、米軍以前にアメリカという国家それ自体が早晩限界を迎えていただろう」

「故に、極東の島国が────日本の自衛隊が硫黄島で起こした“二度目の奇跡”は、世界中に衝撃をもたらした」

「無理もない。その時点では世界最強最大を謳われていたアメリカ軍でさえ撃退が手一杯だった深海棲艦を、それも数百隻規模の大艦隊を“殲滅”することに成功したんだ。これが驚かずにいられると?

かく言う僕も、ロンドンタイムズが関連記事を大々的に発表した時は何度も新聞の日付を確認したよ。そして、4月1日ではないことにもう一度驚かなきゃいけなかった」

「後は君たちも知っての通りだ。今度は国後島沖から攻勢をかけてきた深海棲艦の艦隊に対して、海上自衛隊が初めて艦娘【大井】と【吹雪】を投入。再び深海棲艦の殲滅に成功。

その後、本格的な実装・量産がなされた艦娘達が世界中に展開し、一時的に深海棲艦を各国の近海から駆逐した」

「紛れもなく、艦娘は僕たち人類にとって英雄だろうね。僕自身、毎朝好物のボイルド・エッグとキュウリのサンドイッチを食べられるのは彼女達の御陰だということを忘れたことはない。

ただ、一方でこうも思う」

「僕たちは、この【救世の英雄】について、或いは【画期的な新兵器】について、あまりにも無知過ぎる、と」


464◆vVnRDWXUNzh318/12/28(金)01:30:23NTc (6/10)

「深海棲艦と艦娘の間に関連性を見出すことは、そう難しくない。類似点や共通点があまりにも多すぎるし、逆に明確に違うところと言えば軽巡洋艦級以下の姿形と人類にとって敵か、味方かぐらいだ。

関係がある、どころか、互いがコインの裏表のような立ち位置だったとしても僕は驚かないよ」

「だとすれば、艦娘をより深く調べることによって、深海棲艦に関する多くの謎も解き明かすことが出来るかも知れない。
脳味噌がデルタやトソン並みに凝り固まってでもいない限り、簡単にできる発想の転換だ。

────そして、ヨシヒデ=ミナミやリクマ=スギウラがその程度の発想を出来ないはずがない」

「深海棲艦と艦娘が、どちらも第二次世界大戦の海上兵器をモチーフとした武装を用いるのは何故か?

深海棲艦の最初の襲撃が、太平洋戦争の終戦日に太平洋戦争の始まった地に行われたのは何か理由があるのか?

硫黄島での“二度目の奇跡”の直後に艦娘が実装されたのは、ただの偶然なのか?

“海軍”に日本から派遣された人員の多くが、その“二度目の奇跡”に参加していた自衛隊員である理由は本当に「練度の高さ」だけなのか?

────あのイカしたマスクを被った提督が尋常ならざる力を発揮できるのは、果たして彼が言うとおり“筋肉があるから”だけなのか?」

「これらの疑問に対する答えを、日本が隠しているであろう答えを、あらゆる手を尽くして探し出して欲しい。大英帝国首相として、君たちにはこの任務を遂行するにあたってあらゆる行為を許可を待たず行う権利を与えよう。

特に、最後に上げた疑問点は現時点での最優先追求事項だ、絶対にとは言わないが、限りなくそれに近いつもりで答えを探し出してくれ」

「ん?あぁ、勿論武器の使用も自由だ。多少の流血は必要経費だよ、僕だって覚悟はしているさ」


465◆vVnRDWXUNzh318/12/28(金)01:30:48NTc (7/10)













(´・ω・`)「政治家は感情に流されるべきじゃない。例え世界や歴史から冷血漢と唾棄されたとしても、僕は6人の作業員が乗るレールに向かって走るトロッコを迷わず1人しかいないレールの方に切り替えよう。

既に僕等の状況は、人命を尊さより量で比較しなきゃいけない段階になっているのだから」

(´^ω^`)「尤も、作業員のどちらか一方がイギリス国民だった場合は、必ずしも同じ答えではないけどね」


466◆vVnRDWXUNzh318/12/28(金)01:37:32NTc (8/10)

【焼き魚が】妻のメシがヤバい 246食目【焼き深海棲艦に】

384: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:29:00.02 ID:umx5edf5
>>382
ウチのはテレビ見ながら今「大洗ヤバいねー」とか言ってるけどまず手元見てくれ。この間ワイドショー見ながら作ったカレーの中からドロドロのビスケットが出てきたのを俺は忘れてないぞ。

385: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:30:10.41 ID:48mz849Z
大洗町の住人は深海棲艦から避難。俺は異臭がする台所から避難。

386: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:30:28.43 ID:dDcgsm01
>>385
ワロタ

387: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:30:50.29 ID:m2h7koeS
>>385
俺等からしたら命の危機を感じさせる存在であるという点は変わりないな

388: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:31:03.68 ID:4kfb5e97
メシヤバ住人からすれば寧ろ常時殺しに来る「妻のメシ」の方がよほど怖い説

389: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:32:40.97 ID:C58gqdTHz
>>388 間違いないなww

390: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:33:07.66 ID:ka66KmdB
>>384
よそ見系メシヤバは爆撃の時間が読めないのがなぁ。因みにウチで出た遅めの昼飯は味噌汁の奥から刻まれたチョコレートが半煮えでプカーッと浮いてきた orz

391: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:33:18.85 ID:ks2Yb11j
>>384
その程度で弱音吐くんじゃねえよチーズケーキの中に納豆練り込まれてからほざけオォン!?

392: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:33:52.90 ID:r1p2GaFk
>>391
シーフード風味の新食感と称してチョコフォンデュの材料にイカの塩辛を食わされた俺に何か一言

393: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:34:18.01 ID:ks2Yb11j
>>392
マジ可哀想


467◆vVnRDWXUNzh318/12/28(金)01:39:08NTc (9/10)

394: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:35:59.43 ID:J9P4ep15
ヤバい、本土避難用の連絡船の中で配られてる非常食マジヤバい。
まず食える。それだけでも凄いのに、味がする。
どこの三つ星レストランだよ

395: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:36:40.21 ID:ksYb2Yb11j
>>394
また懐かしいコピペを改変したな

396: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:37:30.08 ID:yb2DE25s
>>393
おざなりすぎて草生える

397: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:37:31.53 ID:ut6l2Ove
>>394
横須賀住みだけど早く強制避難来いや。これ絶対シチューの匂いじゃねえよなんでこんなに甘ったるいんだよ食べたくねえよ

398: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:37:40.01 ID:6nIntgbC
まだ大洗町解決してないの?

399: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:37:49.42 ID:g2k63shK
>>397
横須賀でガチ避難開始とかになったらメシどころか日本がヤバいんですがそれは

400: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:38:00.00 ID:4slj3WSty
>>398
自衛隊、艦娘、海保は展開したらしいけどその後の情報はわからん。政府も記者会見はテンプレばっかで無言とあまり変わんねーし

401: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:38:28.59 ID:S3Cpldhz
>>399
日本どころか既に世界がヤバいんですがそれは大丈夫なんですかねぇ……

402: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:38:29.09 ID:2grPn26m
>>399
ヤバくなりようがないだろ。
大和・武蔵に一、ニ、五各航戦の最高練度部隊にビッグセブンコンビ揃い踏みの上で総艦娘数800隻越えだぞ。これに海自と在日米軍加えた戦力とか深海魚が何万隻こようが落とせるはずがない。

403: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:38:45.37 ID:bdBb53Gn
>>400
ツイで爆撃機飛んできたとか茨城の内陸住みの奴らが騒いでるけど防衛線破られたとかねーよな……


468◆vVnRDWXUNzh318/12/28(金)01:41:15NTc (10/10)

404: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:38:52.52 ID:4slj3WSty
>>402
ネトアイきっしょ

405: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:38:53.04 ID:8bsAy4tn
>>402
国防の話になった途端ネット愛国者ニキがシュバってきて草生える

406: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:38:55.17 ID:kFk0pkpk
俺勤務先水戸市社蓄、深海棲艦の騒ぎのせいで仕事が立て込み帰れないと嫁に電話することを決意。なお会社からは寧ろ早く帰るよう言われている模様

407: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:38:56.02 ID:2grPn26m
>>404 >>405
ただ駐屯戦力羅列しただけでネトアイ扱いとかウェブサヨはマジ頭わいてんなwwww

408: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:39:43.56 ID:py1tDFF8
わざわざメシヤバスレで政治談義するんじゃねーよにゅう速か亜細亜でやれやカスが

409: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:40:17.36 ID:z2Ged18K
>>406
( ・∀・)人(・∀・ )ナカーマ

嫁よ許せ……昨日食べた君のラーメン(自称)のこの世の物とは信じられない味を思い出すととても帰る気にならないんだよ……

410: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:40:48.29 ID:je2BiuN7
大洗町で思い出したけどしほ様って絶対メシヤバ妻だよね(唐突)

411: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:40:59.98 ID:dbg1n3eC
>>406
新潟社蓄僕、深海棲艦関連のメシヤバ回避手段が皆無で噎び泣く

412: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:41:18.17 ID:isd00OwN
>>410
萌え豚でBBA専で亀カスとかお前救いようがなさ過ぎるから俺嫁のイカ飯(放射性廃棄物)食ってタヒんだほうがいいよ

413: 無名さん@満腹です 2017/11/17(金)
17:42:35.43 ID:kFk0pkpk
>>409 >>411
回避できるのはいいけど職場が署に近いからデモがウザいわ……いつまでやってんだあいつら……

近くで飲もうと思ってたけどちょっと離れっかなぁ……


469名無しさん@おーぷん18/12/29(土)11:21:50mXk (1/1)




470名無しさん@おーぷん18/12/31(月)09:05:47w5w (1/1)




471名無しさん@おーぷん19/01/02(水)01:34:44nfS (1/1)

あけおめ乙


472名無しさん@おーぷん19/01/09(水)21:28:348cM (1/1)

あけおめ


473名無しさん@おーぷん19/01/25(金)23:01:05CoQ (1/1)

そろそろ続きが待ち遠しいです


474名無しさん@おーぷん19/01/26(土)12:53:08NIm (1/1)

俺も続きまってる


475名無しさん@おーぷん19/01/27(日)00:33:54a8o (1/1)

私まーつーわ


476名無しさん@おーぷん19/01/30(水)09:46:14a1t (1/1)

いつまでもまーつーわ


477◆vVnRDWXUNzh319/01/31(木)23:11:16Hif (1/4)








日本には銃刀法という法律が存在し、原則銃器の類いを一般人が保有・使用する事は固く禁じられている。故に僕を含め大多数の国民にとって──少なくとも国内にいる限り──、自動小銃や拳銃といった類いは本来“日常”に介在し得ない。

例えば僕はベレッタ92という銃器について知っていて、Wikipediaに書かれている程度の内容だがどんなものか説明することも出来る。モデルガンや写真で形状も理解している。

けれど、実際に“本物”を目にしたことは一度もない。突きつけられたことも手に持ったことも、ハワイで親父に習ったこともない。そもそもここに落ちてくる直前機動保安隊が装備するH&K MP5を遠目に視認したことさえ、僕にとっては記憶する限り初めての体験だ。

(;メ^ω^)「………」

だが今、僕の目の前には拳銃が……前述のベレッタ92がある。机の上に無防備に、手を伸ばせば容易く取れる位置に。

展示目的とも、脅迫目的とも違う。僕が装備し、当然、使うことを促すために置かれた。
それも、法を守る側の人間の手によって。

(メ._⊿,;)「本来、民間人である貴方にお渡しするべきものではないのですがね」

これを差し出した人物────三月(みつき)保安官の声には、重苦しい疲労と苦悩が滲み出ている。僕の困惑を感知してか口元に苦笑いを浮かべようとしているみたいだが、今のところその試みは上手くいっていない。

(メ._⊿,;)「ただ、我々は現時点で既にそういった配慮ができる状況ではありません。最早“民間協力”を形振り構わず募らなければ、区画の防衛体制を構築するだけの戦力さえ抽出できない………大変情けない話ですが、ご理解ください」

(メ;^ω^)「……お気になさらずというのは無理かも知れないけど、心中はお察し致しますお」

三月さんとは、顔を合わせれば会話を幾らか交わす程度には互いに知った仲だ。そして僕が知る限り、彼は責任感と正義感に満ち職務に忠実で優秀な保安官である。

そんな彼が、やむを得ないものとはいえ「民間人に武器を配り自衛に任せる」という決定を下すのにどれほどの心痛を伴ったかは想像に難くない。


478◆vVnRDWXUNzh319/01/31(木)23:14:11Hif (2/4)

僕が落下してきたこの区画には、大きく分けて三種類の人間がいる。まず“お銀”さんを筆頭に、この区画を元々溜まり場にしていた船舶科の不良生徒達。次に、三月さんたち保安官や整備班に所属していた根賀さん等“艦橋”の関係者。

そして最後に僕を含んだ、甲板上の各区画から深海棲艦に追われて避難してきた多数の民間人。

この内避難民の数が明らかに区画の許容量を超えていて、小部屋や休憩用のスペース等は彼らの為にほぼ全て開放されているが到底足りない。収容できたのはお年寄りやまだ小さな子供、傷病者など、最優先で保護された一握りのみで、それらの人々さえ全員からは程遠い。
部屋に入ることが出来なかった避難民の大半は、電力の不足から空調も照明も止まった廊下で寒さに身を震わせながら寄り集まっているのが現状だ。

僕と三月さんがいる部屋───この区画の生徒達からは【どん底】と呼ばれているバー風味の一室も、幾つかのテーブルは重傷者のベッド代わりに使われすぐ外には数十人の避難民が固まっている。
お銀さんはこの区画を“大洗のヨハネスブルグ”と呼んでいたけど、この有様はどちらかというと“大洗のダダーブ”の方が適当だと思う。

あくまでも、個人的な見解だけど。

(メ;^ω^)「……っとと」

(メ._⊿,)「むっ」

無機質な黒光りを放つベレッタ92を眺めながらそんなことをボンヤリ考えていると、突然轟音と共に【どん底】が───いや、区画全体がギシリと揺れる。
真上から押し潰してくるような衝撃に天井の豆電球が激しくぶれて明滅し、扉の外からは十何人分かのくぐもった悲鳴が聞こえてきた。

甲板上で繰り広げられる、何百隻分にもなろうかという、膨大な量の艦砲射撃。まぁ深海棲艦によるもので間違いないだろう。
大分前に始まったそれらは、未だ収まる気配がない。大体は微かに震動と音が伝わってくる程度だけど、時折さっきみたいに一際大きな音と揺れを伴う砲声が挟まる。

いったい、甲板上は今どんな惨状になっているのか。これらの砲火が向けられているであろう陸地は大丈夫なのだろうか。

同僚達は、生徒の皆は、西住さん達は無事なのだろうか。


479◆vVnRDWXUNzh319/01/31(木)23:17:52Hif (3/4)

(メ;^ω^)「………随分、長いですおねぇ」

(メ._⊿,;)「っ、そうですな」

胸の奥から湧き出てきたそれらの不安を紛らわしたくて言葉を発すると、三月さんは顔をしかめながら頷いた。

……元々、本校舎の方に来ると一部の生徒が落ち着きを無くす程度には彼は美男子だった。
健康的に日焼けした肌に引き締まった逆三角形の体型、寡黙で生真面目な性格という体育会系的な容姿が“女子の園”においては物珍しかったこともあってか影の人気ぶりは凄まじく、非公式にファンクラブらしきものが結成されたという噂も耳にしたことがある。

だが今、精悍だった顔立ちはその面積の殆どに切り傷や擦り傷が刻まれている。包帯で覆われた右半分の、本来眼がある位置に滲む赤黒い染みがその悲壮さを更に助長した。

(メ;^ω^)「あの、差し出がましいようですけど休まれた方がいいんじゃないですかお?」

(メ._⊿,)「お気遣いは有り難いですが、階級的に全体の判断を下せるのは本官だけですので」

そう言って三月さんは苦笑いを浮かべたが、記憶が正しければ確か彼の階級は巡査部長。機動保安隊においては小隊長相当の立ち位置である人間が、しかもこれ程の重傷を推してでも指揮をしなければならないほど保安隊は深刻な被害を受けたらしい。

まぁ相手が深海棲艦や………得体の知れない、「あんなもの」であることを考えれば寧ろこれだけ生存者がいる時点で奇跡のようなものかも知れないけど。


480◆vVnRDWXUNzh319/01/31(木)23:19:00Hif (4/4)

(メ;^ω^)「………“アレ”は、いったい何なんですかお?」

(メ._⊿,)「不甲斐ないことですが、我々にも皆目見当がつきません」

思わず口を突いて出たなんの前置きもない疑問だったが、三月さんも“アレ”が何を指すかはすぐ気付いたらしい。彼の眉間に苦痛によるものとはまた別種の深い皺が作られた。

(メ._⊿,)「深海棲艦に関係する“ナニか”であることは間違いないでしょう。しかしながら何分、我々には海自や鎮守府のように奴らに対する知識も経験則も有力な対抗手段も持ち合わせていない。

少なくとも艦外から救助・増援が来るまでは、我々に状況の劇的な打開は困難です」

(メ;^ω^)「やはり甲板上でも同じことが?」

(メ._⊿,)「より酷いかも知れません。深海棲艦の存在もあるのである意味当たり前のことですが。

ただ、奴らが甲板を突き破って艦上に現れる前の時点で、既に商業4区と居住区に発生した“暴徒”の規模は相当なものになっていました。
……民間人保護を優先するために我々を含む一部駐在所と機動保安隊は途中“暴徒”への対処を沈静から鎮圧に切り替えましたが、それでも食い止めきれませんでした。人的損失については、寧ろ“暴徒”との交戦によるものの方が大きいです」

(メメ^ω^)「………ゥブッ」

鎮圧という表現にショットガンで頭部を吹き飛ばされる女子生徒の姿がフラッシュバックし、こみ上げかけた吐き気を飲み下す。

同時に想起されるのは、校門で展開した機動保安隊の通信。彼らの指揮官もまた、避難誘導の指示を出す際に“暴徒”という単語を口にしていた。
あの時既に、三月さんが言うような光景が深海棲艦の真下でも繰り広げられていたのだろう。

(メ;^ω^)(……あんな、“本校舎から1キロちょっとしか離れていない”位置に?校門を守っていた機動保安隊が、ヌ級の空襲で壊滅しただろう状況で?)


481名無しさん@おーぷん19/02/01(金)11:18:10mov (1/1)

更新来てた
ブーン先生非戦闘員なんだからこれ以上ひどい目に合わないように祈りたい



482名無しさん@おーぷん19/02/01(金)18:47:24qyS (1/1)

きたー!
おつ!


483名無しさん@おーぷん19/02/02(土)00:39:31Xl7 (1/1)

キマシタワー
更新乙です


484名無しさん@おーぷん19/02/02(土)11:36:19t1X (1/1)

マッスルさんの活躍にも期待したい


485◆vVnRDWXUNzh319/02/28(木)23:29:05NcZ (1/7)

直後脳裏を過ぎった“最悪の予想”を、必死に閉め出す。あまり長く思い浮かべると、それがそのまま現実になってしまう気がしたから。

いつの間にか自身の心理が、生徒の安否を“気遣う”から“祈り、願う”に移り変わっていることを認めないわけにはいかなかった。

(メ; ω )「……どうして、こんなことに……」

「起きてしまったことを嘆いたって意味はないさ。それで現実や未来が変わるわけじゃないんだ」

(メメ゚ω゚)そ「おっぶふぉうっ!?」

「うおっと!?」

思わず漏れた呟きはただの独り言で、別に誰かからの答えを求めてのものではない。にもかかわらず真後ろから唐突に“返答”がなされ、僕はなんとも言えない奇声と共に椅子から飛び上がる。

そのまま転げ落ちる直前に伸びてきた腕が僕の肩口を掴み、辛うじて腰の強打は回避した。

「危ねえなオイ………まだ具合悪いのか?ひっでぇ顔色だぜ?」

「確かに、まるで水死体みたいな色だね。まぁ水死体なんて一度もお目に掛かった事はないけどさ」

振り向くと、呆れたように眉根を寄せながら僕の身体を支えているムラカミさんと眼が合った。すぐ隣では、お銀さんが俯いてクツクツと笑い声を漏らしている。

「しかし、ここに来たときといい今といい少し驚き過ぎじゃないかい?か弱い乙女なんてタマじゃないのは自覚しているけど、そこを差し引いても流石にちょいと傷つくなぁ」

(;´・_ゝ・`)「もし本当にそう思うなら、こんな薄暗い部屋の中で背後から話しかけるべきじゃないと思うんだけどね」

遠慮がちにお銀さんを窘めるその声を聞いて、僕はようやくバーに入ってきたのがお銀さんとムラカミさんの“二人”だけではなかった事に気付いた。


486◆vVnRDWXUNzh319/02/28(木)23:30:49NcZ (2/7)

“三人目”にあたる男性は、豆電球の明かりに照らし出された範囲から少し外れるようにして入り口のすぐ脇に立っている。

背は僕より頭一つ分程高く、対照的に身体の線は「ひょろり」というオノマトペが彼のすぐ近くに現れそうなほど細い。
顔の真ん中にデンっと大きな鼻が居座り、彫りの深い目元や気弱げに垂れ下がった太く濃い眉毛も合わさったその風貌はさながら気弱げなモアイ像のように見えた。

……それと、まぁ、その。
彼とは初対面だけど、なんというか、“人生における苦労の量”がいかに膨大かをなんとなく推し測れた。

主に、前髪の生え際付近に如実に表れているので。

(´・_ゝ・`)「………おっと。どうも初めまして」

僕の視線に気付いた──反応から察するに幸い“具体的に何処を見ていたか”はバレていないらしい──男性が、一瞬眉根を上げた後此方に一歩踏み出して頭を下げる。
マナー本にお手本として写真が載りそうな程の、“手慣れた”お辞儀だ。

(´・_ゝ・`)「盛岡 満(もりおか・みつる)です。以後お見知りおきを」

(メメ;^ω^)「ええと、どうも……」

こんな時だというのに律儀に差し出される名刺を、少し困惑しつつ受け取る。明朝体で縦に書かれた氏名の右側には、「戦車道連盟広報部 企画課長」の文字が並んでいた。

(メメ^ω^)「……戦車道連盟の?」

(´・_ゝ・`)「えぇ。部下も一人来ているのですが、そっちは今ちょっと外に出ておりまして」

そういえば、以前も連盟関係者が学園に来たことがあったのを思い出す。僕は実際にその現場を眼にしなかったけど、確かあの時も例のドキュメンタリー映画の関係でやはり広報部の人間が来ていたはずだ。

(メメ^ω^)(………あれ?でも今朝の職員会議でそんなお偉いさんが来るなんて話周知してたかお?)

(´・_ゝ・`)「いや、今回の乗艦は西住みほさん達の件とは別の用事だったんですよ」

思わず首を捻った僕の疑念を看破してか、先に盛岡さんが口を開く。

(´・_ゝ・`)「戦車道関連グッズの販売の事で、商業区の方で少し話し合いが必要だったもので。……まさかこんな騒ぎに巻き込まれることになるとはねぇ」

(メメ^ω^)「あぁ、成る程」

商業区も一応大洗女子学園の一部ではあるけど、施設の所有権・管理権は運営する企業が持つ。学園側はあくまで「誘致」した立場であって、区画の利用料の不払いや著しい規約違反でもない限りその運営に介入することはない。
まぁ生徒会側にはお達しぐらいあっただろうけど、学区側に関わる可能性が低いなら周知がなかったのも頷ける話だ。


487◆vVnRDWXUNzh319/02/28(木)23:33:46NcZ (3/7)

(メ._⊿,)「それで、避難民の様子はどうですか?」

「静かなもんだよ。お行儀がいいというよりは騒げるような元気が残ってないだけのように見えるけどね」

問いかけに答えるお銀さんの口元には、いつの間にかパイプ───を模した飴細工が咥えられている。柑橘系の甘い匂いが、ふわりと室内に拡がった。

「今はカトラス達がメシと飲み物を配ってる。後でお巡りさん達も取りに行くといい、温かいご馳走とは行かないけれど、大航海時代の虫が湧いた干し肉よりはずっとマシだろうさ。

まぁ、大航海時代なんて実際に体験してないけど」

(メ._⊿,;)「その味の表現で食欲がそそられるかは別として、感謝します」

(メメ^ω^)(カトラス……あぁ、【カットラス】かお)

Cutlass。“海賊”という単語を耳にしたときに、多くの人が反射的に思い浮かべるであろう歪曲刀の正式名称だ。狭い空間での取り扱いに優れ海上近接戦闘武器の代表的な存在だが、一方で中東の奴隷傭兵【マムルーク】が馬上刀として重宝したという記録も残る。
ディズニー作品について相応の知識を持つ人なら、【パイレーツ・オブ・カリビアン】より先に【アラジンと魔法のランプ】が頭に浮かぶかも知れない。

そう言えば、彼女の名は僕がここに(情けないことに文字通り)抱え込まれてきた時にも耳にしている。食料と飲料水の残量についてラムさんが尋ねたとき、ムラカミさんが確認先として名前を挙げていたはずだ。

この上食事配給の指揮もしているとなると、食料の管理はその“カトラスさん”が請け負っているらしい。……カットラスは寿司の材料としても使われる“タチウオ”の別名でもあるけど、まさかそっちの方が由来だったりして。

(メメ;^ω^)(にしても、見事なまでに海関連の「ソウルネーム」ばっかりだお)

傾向から推察するに、“お銀”はロバート=ルイス=スティーブソンの名著【宝島】における敵役・ジョン=シルバーから取ったと思われる。架空・実在それぞれの海賊に、ラム酒にカットラス───そろそろ、フリントロック銃辺りをベースにした名前が登場する頃合いだろうか。

(´・_ゝ・`)「フリントさんはどちらへ?さっきまで同行していたと思いましたが」

「船尾側のバリケードの様子を見に行ってるよ。ま、そう掛からず戻ってくるんじゃねえか?」

(メメ^ω^)「おぶふふぅ」

(メ._⊿,)「えっ」

(メメ^ω^)「失敬、ちょっと喉が。ゴホンゴホン」

うん、知ってた。

元々極めて濃い予感はあったけど、改めて確信する。この子達が持つ趣味趣向は、松本さん達や聖グロリアーナの面々と物凄く親和性が高いもののようだ。


488◆vVnRDWXUNzh319/02/28(木)23:35:45NcZ (4/7)

それにしても、少し意外に思う。

大洗女子学園内における不良生徒の溜まり場の存在自体は、一種の都市伝説のように生徒達が語っていたのを何度か耳にしている。
この手の話には尾鰭が付き物として僕はその大半を聞き流していたけれど、それでも“大洗のヨハネスブルグ”という名にも聞き覚えがある。ただ僕の記憶が正しければ、そこの生徒達はあの角谷さんでさえ積極的には触れないほど“荒れに荒れたアウトロー集団”だった筈だ。

そして実際に“ヨハネスブルグ”と称される区画は実在し、そこに属する生徒達はどうやら確かに不良生徒のようで、わざわざ海賊由来のソウルネームを好んで付ける程度には気も自我も強い。
だがその一方で、学園艦保安官という秩序の代行者のような存在である三月さんに対し、使う言葉こそ乱暴だけど行動を見る限り単に従うどころか積極的に協力してすらいる。

状況を鑑みればそれは決して不自然じゃないし、普通科の子達と違ってお銀さんの事を僕は殆ど知らない。
だがそれ故に、“不良生徒の溜まり場の長”という先入観に引っ張られ、それが“良くないこと”と自覚した上で彼女の行動に勝手な違和感と驚きを抱いてしまう。

(メメ^ω^)「………」

「アタシみたいなのがお巡りさんと仲良くしてると変かい?先生」

(メメ;^ω^)「あぁ、いや、その」

「はっはっ。そう慌てなくていいよ、こっちも多少自覚してるからさぁ」

思わず向けていた視線に気付き、振り向いたお銀さんに問いかけられる。バツの悪さから口ごもる僕の姿に、彼女は苦笑いを浮かべつつ軽く肩を竦めた。

「アタシ等は確かに、頭も口も悪くておまけに喧嘩っ早い荒くれ者の集まりさ。けれど、荒くれ者には荒くれ者の矜持と掟がある。

校則と算数が覚えられないできの悪い頭でも、人としてのルールまで忘れてしまったらそれはただのチンピラだ。

海賊だって、“パーレイ”の言葉を耳にすれば殺しを辞めるのが筋だからね」

(メメ^ω^)「……。申し訳ない」

気がついたら、僕は素直に頭を下げていた。

考えてみれば、彼女達の噂については度々耳にしながらも「実害が出た」という話は公式にも非公式にもただの一度として聞いたことがない。噂話の内容自体も、この区画に「自分から不用意に近づいた」場合にどうなるかというものが大半だ。

これほど多くの生徒が集まり独自のコミュニティを築きながら、一度も大きな問題にならなかった理由。それはとりもなおさず、お銀さん達が彼女達なりの“矜持”に基づいて明確な線引きをしてきたからに他ならない。

そうした部分に眼を向けず、よく知りもしない生徒を、しかも助けて貰った分際で勝手なステレオタイプに当てはめて色眼鏡で評価するなど、言語道断だろう。

(メメ^ω^)、「君たちに対して、教師としてあるまじきちょっと失礼な偏見を持っていたお。許してくれとは言えないけど、謝らせてほしいお」


489◆vVnRDWXUNzh319/02/28(木)23:42:45NcZ (5/7)

「………あー。

先生、気にしてないことをそんなに真っ当に謝られると流石にちょっとばかり居心地が悪くなるんだけど」

「かーーーっ、マジメ過ぎだろアンタ!」

顔を上げると、頬を?きながら微かに身じろぎするお銀さんの横でムラカミさんが額に手を当てて天井を仰いでいた。彼女はしばらくその姿勢を保った後、僕の方にずいっと乗り出し満面の笑みを作って見せた。

「アタシ達ゃ色眼鏡で見られるのなんて慣れてるし、不良生徒なのは結局本当なんだからアンタの見方は別に普通だよ普通。

そこのポリ公なんて、つい昨日まではこの【どん底】を撤去させるために何度か“お友達”連れてきてるんだぜ?」

(メ._⊿,)「それは君たちが仮にも生徒の集まりがある区画で居酒屋紛いのものなんて開いているからだ。
君たちが勉強を不得手としているのは日頃のやり取りで重々承知しているが、それにしても“未成年が飲酒をしてはいけない”という法律ぐらいは知ってるだろう?」

親指で指された三月さんが、痛みとは別の理由で顔をしかめる。彼のやや棘のある口ぶりから察するに、どうやら今の協力体制には“呉越同舟”という故事をピッタリ当てはめられるらしい。

「だからそりゃそっちの勘違いだったじゃんか。実際こうして見ても、アタシ等は一滴たりとも酒なんか置いてなかっただろ?」

(メ._⊿,)「それならそうと素直に言うべき所を思わせぶりに濁してきたのは何処の生徒達だったかな、先月の立ち入り検査で“アレ”を飲まされた甲斐巡査は二週間もトイレの度に地獄を………いや、今は話を戻そう」

「賢明な判断だね」

一連の応酬を見て笑いを噛み殺しているお銀さんに三月さんはもう二、三言“余談”が喉元まで出かかったようだけど、最終的に彼は強靱な精神力でその衝動をねじ伏せた。

(メ._⊿,)「確認になりますが、飲食料品や災害時用の物品についてはそれなりに備蓄があるというのは間違いありませんか?」

「そこはアタシ達にとっても死活問題だからね、入念に確認させて貰ったよ」

そう言うとお銀さんは、コートの内側から二、三枚の紙を取り出しテーブルの上に滑らせる。三月さんは幾つかの数字が書かれたそれらを手に取り、素早く眼を通していく。

「食い物と飲み水は九日から十日、乾電池はきっかし一週間、あと“女特有の厄介なアレ”に必要な物もかき集めれば五日分ぐらいの予備は手に入る筈さ」

(メ._⊿,;)「んんっ!ゴホンッ!」

(メメ;^ω^)「………おっ」

五日分の備蓄が集まった“ナニカ”に言が及んだ瞬間三月さんが強烈な咳の発作に襲われ、僕も突然天井の一点を見つめたい欲求が湧きあらぬ方向に視線を向ける。
あの、女の子があっけらんかんとその辺りの事情について話すのやめて。男として凄く反応に困るから。


490◆vVnRDWXUNzh319/02/28(木)23:44:26NcZ (6/7)

(´・_ゝ・`)「……」

僕と三月さんが俄に挙動不審になる中、盛岡さんだけは少し眉根を寄せてお銀さんを一瞥したぐらいしか目立った反応を見せなかった。デスクワークとはいえ、基本は女所帯である戦車道の世界に関わっているとこう言った話題にも耐性が生まれるのだろうか。
……女子校勤めなのに耐性がない僕が言えたもんじゃないけど。

(メ._⊿,;)「オホンッ!お銀さん、君もあまり大人をからかうもんじゃない。況してや、今は未曾有の緊急時です」

「からかうとは心外だね、アタシは単に備蓄物資の報告をしているだけじゃないか」

約一名を除いた男性陣の狼狽ぶりに、お銀さんの声と肩が震える。明らかに笑いを噛み殺しているその様子から察するに、案の定一連の言動は確信犯だったらしい。

「……で、だ」

だがその笑みは、比較的すぐに引っ込められた。

「確かに必要な物は揃っている、カトラスには余裕を持たせて勘定させたから、幾らかはここに人数が増えても問題はない。逆に食料なんかは、ケチればもう少し長くここらに篭もれる計算になる。

あくまで、数字の上ではね。お巡りさんもその辺りは解っているだろう?」

(メ._⊿,;)「……あぁ、勿論」

突然の真剣な問いかけに多少の困惑を見せつつ、三月さんも頷く。

(メ._⊿,)「優先収容している怪我人や高齢者ですら、部屋が足りず一部が廊下に溢れ出ている。深海棲艦とその眷属は艦内の至る所に犇めき、対する我々は選抜した一部民間人や生徒の手を借りなければ治安維持も出来ないような有様だ。

こんな状況下で、長期間の籠城なんて正気の沙汰じゃない。二、三日で限界が訪れる」

(´・_ゝ・`)「お言葉ですが三月巡査部長殿、その計算は些か大幅な修正を要します」


491◆vVnRDWXUNzh319/02/28(木)23:50:57NcZ (7/7)

盛岡さんが照明下に一歩進み出る。抑揚のない平坦な声だけど、身体の前で落ち着きなく何度も組み直されている両手に現在の彼の心情がよく表れていた。

(´・_ゝ・`)「内藤教諭の救助が行われた辺りと前後して、例の“暴徒”達による襲撃頻度が大きく増加しています。

全隔壁は今のところ何れも破られる気配は皆無ですが、奴らが扉を叩く音は避難者達にとって強烈なストレス要因となるでしょう。

現に先程、一部の避難者が保安官や武装自警団に“暴徒”の一刻も早い排除を求めていたという報告が日屋根からありました。このまま“暴徒”の出没が続けば、彼らがより“強硬な手段”に訴えるのは時間の問題かと」



    【( ・∀・)】



(メメ^ω^)(………アイツかぁ)

日屋根という名を聞いて、僕がここに担ぎ込まれてくる時にショットガンをぶっ放していたあの男の顔がボンッ!という擬音を伴って脳裏に蘇る。
……助けて貰っておいてなんだけど、あの狂乱ぶりを思い返す限り彼に銃火器を渡すという判断は幾ら“必要に駆られて”の事とはいえ、そして幾ら三月さんが大丈夫と判断してのこととはいえ正直不安が拭えない。

というか、盛岡さんの口ぶり的にアイツ戦車道連盟の人間かよ。何で一役人があんな鮮やかにモスバーグM500を扱えてたんだ、それこそハワイで親父にでも習ったのだろうか。


492名無しさん@おーぷん19/03/01(金)17:38:244Uf (1/1)

待ってた
短くても嬉しいわ


493名無しさん@おーぷん19/03/03(日)15:04:34g60 (1/1)

やっと追いつけた…
各所の奮闘も立派だけど敵の物量がはんぱないし、打開策が厳しすぎる


494名無しさん@おーぷん19/03/04(月)23:05:33RB3 (1/1)

更新来てた!
ブーン先生頑張れマッ鎮がもうそこまで来てるぞ


495名無しさん@おーぷん19/03/14(木)10:33:37JfR (1/1)

生理云々でテンパるの童貞だけじゃね?


496名無しさん@おーぷん19/03/14(木)19:09:17Yn8 (1/1)

つまり、ブーン先生は…
蝶野教官は死ねなくなったな!


497◆vVnRDWXUNzh319/03/15(金)23:12:52lPk (1/4)

(メ._⊿,)「……由々しき事態ではある。が、如何せん我々はあまりにも戦力が不足している」

部屋の中に響く乾いた軽い打撃音は、三月さんの裏拳が机の上を叩いたときの物。
本来なら渾身の力を以て殴打したかったのだろうけど、バーの隅で横たわり眠る負傷者達や彼自身の立場が怒りに身を任せての八つ当たりを許してくれなかったらしい。

(メ._⊿,)「区画外への戦力投入に伴う周辺の“暴徒”の駆逐、或いは民間人の脱出路の確保。どちらを実行するにしても、火力、人員、練度……これらの不可欠要素が何れも全く足りていない。

我々に出来るのは現状の維持が精一杯、それすらあくまで相手が“暴徒”である限りの話だ」

まぁ、それは仕方のないことだと思う。

深海棲艦と、奴らの影響を受けたと思わしき集団による大規模な襲撃。こんなもの、民間人である僕から見ても警察や保安官の仕事としては遥か埒外の内容だ。自衛隊の一○式戦車や艦娘の35.6cm連装砲で対処すべき敵を、ニューナンブM60でなんとかできる筈がない。

(メ._⊿,)「我々の方からアクションを起こそうにも、より事態を悪化させる可能性の方が遥かに高い以上下手に動くことはできない。結局、今は一秒でも早く救助が来ることを願うしかないですな」

「その事だけどさぁ、ホントに助けは来るのかね」

本来なら十倍増しぐらい深刻な声で発されてもおかしくない問いを、ムラカミさんはまるで授業中教師に難読漢字の読み方を尋ねるような気軽さであっさりと口にした。

「さっきラムとも話したんだよ、深海棲艦に攻められる前にアタシ等ごと沈めちまおうって結論に陸の連中が至ることはないのかって。

あたしゃ政治はからっきしだけど、仮に日本の“お上”がそう考えなくてもアメリカとかロシアの連中が先走っちまうようなことってなんとなくありそうだと思ったしさ。それに、映画とかじゃその手の展開ってお約束じゃん」

(メ._⊿,;)「そんなことはっ!……あり得ない、筈だ………自衛隊や政府が……そんな暴挙を許すわけが……」

(;´-_ゝ-`)「……うーむ」

深海棲艦による北欧侵攻の際にロシアが取った行動が脳裏を過ぎったのだろう、三月さんの反駁は語尾に向かうに従って勢いを失う。瞑目し唸り声を上げる盛岡さんも、“最悪のお約束”に思い至ってしまったせいか額に汗を浮かべている。


498◆vVnRDWXUNzh319/03/15(金)23:16:10lPk (2/4)

かく言う僕も、否定の言葉が喉奥でつっかえて出てこなかった。

今ムラカミさんが口にした、アメリカとロシアについては恐らくそこまで心配する必要はない。
確かにどちらもかなり乱暴なイメージが───そしてそのイメージを裏付け助長する数々の歴史的な“実績”があるけど、この二国は日本と正式に同盟を結んでいる。

せっかく築いた世界最大の“艦娘保有国”との良好な関係を、自ら破壊するような真似はいかに二大国とはいえ避けてくるはずだ。

特にロシア連邦は、ドイツに対する核兵器投射とムルマンスクにおける一件からつい最近まで国内外から現政権が袋だたきにされていた。この上日米との関係を拗らせれば、ただでさえ孤立気味なロシアの国際社会における地位を著しく失墜させるだろう。
動き方次第では、近年ようやく価値を取り戻しつつあったルーブル紙幣が一夜で紙屑以下の存在に転げ落ちかねない。

だけど、中国だけは事情が異なる。かの国と日本は同盟も協定も結んでおらず、更に言えば“友好的”ですらない。寧ろ“艦娘”の実装以降は、その扱いの主導権を巡って両国は表裏を問わず激しく対立してきた。

軍事についてはドがつく素人の僕でもなんとなく解る。艦娘には、「極めて画期的で強力無比な対人・対国家兵器」にもなり得る側面があると。
アメリカと対を成すアジアの覇権国家を自称し、また実際にそうなろうとする野心を常に露わにしてきていたあの国が、その利権争いに大きく食い込める“好機”を逃すだろうか。

(メメ^ω^)(……ロシア自体は、既にドイツ相手に強硬手段を取ったことがある手前尚更“二度目”はやりにくい筈。だけど、中国は“初犯”だお。しかも、積極的な武力行使の大義名分が転がり込んできている状態だお)

自国の目と鼻の先にある地域に、深海棲艦が大挙侵入した───“国防のためのやむを得ない事情で”軍事力を行使するにあたって、お題目として押し立てるのにこれより適当かつ国際社会の理解を取り付けられるものはない。

しかもその前例は、日本の同盟国であるロシア連邦が作ったばかりだ。


499◆vVnRDWXUNzh319/03/15(金)23:20:06lPk (3/4)

ロシアが取ったその行動に対して、当時日本とアメリカは一応の非難声明は出している。だけどそれらは使われる言葉こそ激しいもののあくまでも言葉のみであり、例えば経済制裁などの具体的な行動は全く伴っていない。

どころか、ロシアから天然ガスの共同開発が日本に依頼されるなど、寧ろ両国はその後も関係を強化していた。つまり当の日本ですら、“国防を目的とした強力な武力行使”を事実上追認していたと見ることもできる。

(メメ^ω^)(おまけに中国の手元には、北朝鮮という便利な駒があるお。表向きの言動は中国より遥かに過激で、日米への敵意を隠そうともせず、弾道ミサイルを保有し、突拍子もない暴走を日本に対してやらかしても不思議じゃないと思わせられる一党独裁制の軍事国家が)

間近に迫った深海棲艦という強大な脅威に対し、焦った北朝鮮の指導部が暴走。中国含め周辺国への事前通告無しに、襲撃があった大洗町近郊に中距離弾道ミサイルを集中運用。

大きな損害が発生した同地域に、【人道的配慮】と【国防的観点】から派兵。
深海棲艦残党の駆逐を表向きの目的として、なし崩しに日本本土に人民解放軍を進駐させる………例えばこんな筋書きなら、直接日本やアメリカと事を構えずとも「北朝鮮の尻拭い」という体で労少なくして艦娘利権の争いに食い込むことが出来る。

少々誇大妄想が過ぎる気もするけど、やはり“過去の行い”に眼を向ければ中国も米露に負けず劣らずの“暴君”だ。正直、これぐらいの暴挙をかましてきても僕は驚かない。

(メメ^ω^)(……もう一つ気になるのは、あの駆逐艦が艦上に現れる直前で流れていたニュースだお)

今なお南西から本土に接近しているであろう、フィリピン海に浮上した敵の新型艦。【第二次マレー沖海戦】や青ヶ島の時ですら成されなかった事前の避難勧告を政府が出すほどの強敵となれば、自衛隊や鎮守府艦隊からは相当な戦力が対応に割かれる筈。

そして、奴らの侵攻経路が大洗(ここ)とフィリピン海の二つだけで済んでいると思うのは、あまりに希望的観測が過ぎるだろう。

日本は島国。海に、「深海棲艦の本拠地」に囲まれているのだ。オホーツク海、ベーリング海、南シナ海、そして何より──広大極まりない太平洋。
これら全方位から深海棲艦が雪崩れ込んできているとすれば、他国との連携を考慮しても日本に余力なんて残らない。多分、国内の艦娘も総動員態勢で迎撃することになる。

(メメ^ω^)(そう。例えば、日本海側の戦力も)


500◆vVnRDWXUNzh319/03/15(金)23:46:00lPk (4/4)

日本海は世界でも非情に希少な“深海棲艦の出現が1隻も確認されていない”海域だけど、にも関わらず対馬と尖閣を筆頭に少なからぬ艦娘・自衛隊戦力が配備されている。
表向きは、台湾との連携や万一深海棲艦の出現・流入が確認された場合に対する予備として。その実は、点在する島々への領土的野心を仄めかす“一部の国々”に睨みを利かせる抑止力として。

日本に手を出せば米露を始め世界中の列強国を敵に回す。ただしそれは、あくまで【艦娘】という圧倒的な軍事力に基づいた利害関係によるものだ。
逆説的には、もしもここを迅速に抑えることが出来れば途端に国際世論はその矛先を鈍らせるだろう。

仮に……本当に仮に、僕の今までの考察が何かの間違いで正解に近いものだったとして。日本海を守る抑止力までが失われた状態のこの国に対し、中国指導部がそれを“できる”と思わない保証があるだろうか。
そして時間が経てば経つほど、彼らが決断するに足る材料は増えていくのではないだろうか。

そして実際にかの国が“強引な手段”を取ろうとすれば………ロシアはともかくアメリカは、間違いなく「中国が艦娘利権に絡むこと」、「中国が日本を抑えること」に対して強い危機感を抱く。
その危機感は或いは、多少の関係悪化を必要経費と捉えた上で大女子学園における事態の“早期解決”を謀る要因になりかねないのでは?

(メメ;^ω^)(………いい歳して中二病も甚だしいお。流石に、考えすぎだお)

ただ、一連の“妄想”は置いておくとしても実際あまりここに長居する気にはなれない。盛岡さんが上げた治安の件やムラカミさんが口にした“外で起きる何か”も懸念事項だが、それ以上にこの艦は深海棲艦が現在進行形で跋扈しているのだ。

ヒト型であれ非ヒト型であれ、軍艦の力をその身に宿したあの化け物共にとっちゃあここの隔壁を粉砕するなんて紙襖を蹴破るよりも容易いに違いない。
奴らが本格的に艦内の僕等を殲滅しに動く前に、せめてなんとかして艦外から救助を誘引できないだろうか。


501名無しさん@おーぷん19/03/16(土)19:04:50L30 (1/1)

キタ━(゚∀゚)━!


502◆vVnRDWXUNzh319/03/18(月)01:07:46Xcz (1/2)

(メメ^ω^)「三月さん。実際保安官はどれぐらいの人数がこの区画にいるんですかお?」

(メ._⊿,)「人数は40人ほどですが、多くは負傷などが原因で戦闘行動に大きく支障を来す状態です……私を含めてね」

そう言って三月さんは、微かに顔を歪めつつ包帯が巻かれた顔の右半分をポンポンと掌で叩いてみせる。

(メ._⊿,)「実際にある程度銃火器を操れる状態の保安官は……せいぜい半分程度ですな。武装も、大半はニューナンブ等の拳銃で一定以上の火力として計算できる武器はごく一握りです」

(メ;^ω^)「……そんな状態で一般の人たちに銃器を配布して大丈夫なんですかお?三月さん達の判断を疑うわけじゃないですけど、流石に危ないんじゃ……」

(メ._⊿,)「あぁ、その点ならご心配なく」

三月さんの手が、机の上からベレッタを取り上げる。彼は銃口を天井に向けると、なんの躊躇もなく引き金を引く。

思わず首を竦めた僕だけど、咄嗟の警戒に反してカチャン、カチャンと軽い金属音が2回鳴っただけだった。

(メ._⊿,)「配布する人物の吟味・選別も可能な範囲で徹底はしていますが、それでも流石に実弾を込めて渡すような真似はしませんよ。

それらはあくまでも避難民間の治安維持目的での配布です。実態はただの筒でしかないにしても、存在それ自体が不埒を考えているような人間に対する牽制にはなり得る。……根賀整備員や日屋根さんのように相当取り扱いが手慣れている人員は緊急時ということもあっての特例ですが」

(メメ^ω^)「で、ですよねぇ~~~~!弾倉は空なんてあったりまえっすよねぇ~~~~!!あっははぁ!!」

「………先生、なんか口調が変じゃないかい?」

(メメ^ω^)「気のせいってことにしといて」

……考えてみれば、「学園艦船底通路」という手狭な空間でド素人の民間人に銃を撃たせるなんて自殺行為と同じ様なものだ。跳弾の嵐で何がどうなるか解ったもんじゃない。
ナチュラルにベレッタは実弾が込められているという前提で考えていた自分の脳味噌の中学二年生ぶりに、改めて辟易する。


503◆vVnRDWXUNzh319/03/18(月)01:10:16Xcz (2/2)

強烈な羞恥に人知れず頬を熱くする一方で、眉間には別の理由で皺が刻まれた。

確かに、数百人規模の民間人に対して保安官の人数が実質20人程度というのはあまりにも少ない。今から学園艦の“外”で何かが起きる前に脱出を謀るとして、この人員比率で秩序だった移動を維持することはほぼ不可能と言って良い。
深海棲艦や“暴徒”の襲撃を守り切れないのもそうだし、何らかの緊急事態で恐慌が拡がれば瞬く間に人の津波が狭苦しい通路の中で荒れ狂うことになる。その後に待ち受ける光景は地獄もかくやの悲惨な物になるはずだ。

タチの悪いことに、「ここに留まり続けた場合」でも危険度はそう大きく変わらない。寧ろ、盛岡さんたちの話を聞いた限りでは留まり続ければより早く“暴発”する危険性が高まる。

(メメ^ω^)「お銀さん、ここから一番近い連絡船の格納区画まではどれぐらいになりますかお?」

「……記憶が正しけりゃ、小走りなら10分程度でいける場所がそうだね。でも、オススメはしないよ先生」

お銀さんは僕の言わんとすることを汲み取ったらしい。バーのカウンターに腰掛けながら、肩を竦め小さく首を振ってみせる。

「確かに、こっから甲板上を目指すよりは遥かに近いし、深海棲艦それ自体が暴れ回ってるっていう上よりは大分マシだろうさ。

………ただ、ここの全員を脱出させるほどの数があったかは定かじゃないしそもそも深海棲艦の奴らがわざわざ“脚”をアタシ等に残すとも思えない。断言はしないけど、出たところでただの無駄骨になる可能性の方がずっと高いだろうさ」

(●▲●)「俺から言わせて貰うなら、そもそも“甲板上よりマシ”って部分も大分眉唾だと思うしな」

バーの扉を軋ませて入ってきた“四人目”は、そう言って僕の方へと歩み寄ってくる。腰からぶら下げられたSIG SAUER P226が、豆電球に照らされて鈍い光を放つ。

(●▲●)「多少元気になったみたいで何よりだよあんちゃん。

整備班の根賀広(ねが・ひろし)だ、よろしくな」

(メメ;^ω^)「あっ、大洗女子学園教員の内藤芳頼ですお。よろしく……」


504名無しさん@おーぷん19/03/18(月)09:16:501rk (1/1)

投下乙です

マッスル提督はそこまで来てるし、ブーン先生も無事で希望が見えてきた
そろそろ大洗町の戦況がどうなってるかも気になってます


505名無しさん@おーぷん19/03/18(月)14:44:29Nuo (1/1)

おつおつ
こんな極限状態で落ち着いた振る舞いを…なんてのも厳しいよなあ


506名無しさん@おーぷん19/03/20(水)10:12:34L4e (1/1)

おつ
艦これ知らないけど過去作から全部読んだよ
面白い


507◆vVnRDWXUNzh319/03/20(水)23:46:544ac (1/3)

(●▲●)「ははぁ、アンタ先生かい!そういやさっきも言ってたね、道理で利口そうな顔つきしてると思ったよ!」

差し出された右手を握り返すと、根賀さんはそのままがっちりとホールドした後ブンブンと凄い勢いで僕の腕を上下に振る。

(メメ;^ω^)「わわっ、とと……その、助けていただ、き!ありが、とうご!ざいますお!」

(●▲●)「なぁに気にすんな気にすんな!!そっちが無事で何よりだ!!俺も日頃機械弄くってる手で拳銃なんかぶっ放した甲斐があったってもんよ!!」

そう言って、ガハハという割れ鐘のような声で笑いながら彼は僕の肩をバシバシと叩く。……整備員故かあまり“対人”の力関係は上手い方ではないらしく、痛みで顔をしかめない為に結構な精神力を割くことになった。

(メメ;^ω^)「そ、それで根賀さん、今の言葉の意味は?」

(●▲●)「んぁ?あぁ、そのまんまさ。下は甲板と同等かそれ以上に危険だろうってことだ……何せ、“暴徒”はそもそもこの下から現れたんだからな」

作業用のブーツが床を踏みしめる重い音。さっきまでの“気のいい壮年の男性”という雰囲気から一転、怒りを露わにした目付きで彼は足下に視線を落とす。深い吐息に併せて、両側に垂れた鯰髭が震える。

(●▲●)「多分“奴ら”と最初に出くわしたのは、多分そこの嬢ちゃん達のお友だちか俺らのどっちかだ。

確か朝四時過ぎぐらいだったかね、艦下層の生徒から“異音”が聞こえるって通報が艦橋に入ってな。そん時深夜待機してた俺たちは、点検のため通報があった区画に急行した」

朝四時………商業区はチェーンコンビニ以外のほぼ全てが店終い状態で、艦内で起きている人間なんてそれこそ一握りしかいない時間帯だ。そんな早くから、この異常事態は既に始まっていたというのか。

(●▲●)「まぁ船底の施設なんてキングストン弁や水力発電用スクリューを筆頭に重要施設のオンパレードだからな。何かあったら一大事ってワケで、俺たちも工具担いで大急ぎで現場に向かった。

………だけど、そこに着いた俺たちを待ってたのは、機器や施設の異常なんて生やさしいもんじゃなかった。なかったんだ」

その時の光景を思い出してか、根賀さんの喉がゆっくりと上下する。彼は詰まった呼吸を確保しようと、この冷え込んだ空気の中で作業着の襟元を引っ張っている。


508◆vVnRDWXUNzh319/03/20(水)23:50:284ac (2/3)

(●▲●)「……そこは、なんつーか……陳腐な言い方だが、地獄だった。

まるで一度に十数人ぐらいの人間が肉風船になって、針で突かれて破裂したのかってぐらい……とにかく、血と肉がそこら中にこびりついて、雨ざらしにされた錆び付いた鉄の板から漂ってるみたいな臭いが充満していた。

身体の右半分とか上半分とか3/4とか、まぁとにかく酷く滅茶苦茶になった、船舶科の制服の切れ端をくっつけた人体の残骸が足下を埋め尽くしてやがっ………ウボォ……ッ……」

一瞬嘔吐きながら身を折ったものの、彼は僕たちが気遣いの言葉を掛ける前にそれを目線で制し言葉を続ける。

(●▲●)「………二日酔いが十日分纏めて来たよりもひでぇ吐き気を堪えて辺りを見回すと、壁にどでかい穴が空いててな。中にあったガス管や配水管や電気ケーブルが、何本も滅茶苦茶に断裂していた。
俺たち整備班は最初、ここで何か爆発が起きて、それにここらで屯してた不良生徒が巻き込まれたって、そう思った。

考えてみりゃ、そんなドデカい事故が起きてんなら“異音”なんかで済むはずがないって解りそうなもんだったが、俺たちはあの時屍体の山を眼にしてパニクってたんだろうな。

気がついたらゲロぶちまけてた何人か以外は、俺を含めあろうことか肉塊の山と血の海のど真ん中で破損箇所の修理準備を始めてた」

根賀さんはそう言って、口元に笑みを浮かべる。だがその眼は虚ろで、笑ってもいなければどこも見ていない。

(●▲●)「そして、俺たちが間抜けにも“仕事”の準備をしている時に………屍体の山の中から、突然一人が起き上がった」

言ってしまうなら陳腐な、それこそA級B級問わずあらゆるゾンビ映画のジャンルで使い古されてきたであろう光景。
だが、“ありがち”であるが故に、現実にそれが自分の眼前で起きたときの恐怖は想像が容易かった。

(●▲●)「目を疑った。その娘は確かに他の肉塊から比べれば幾らかマシな程度には“原型”があったが、それにしたって右手は千切れ飛んでたし下顎もなかった。おまけに頭は上ッ側が陥没して空気の抜けたゴム鞠みてえになって……

とにかく、明らかに“生きた”人間の姿にゃ見えなかったし、よしんば生きてたとして普通の人間なら自分の二本脚で立てるような状態じゃあなかった。

だが………野間の馬鹿野郎は、それに気付かなかった」

その名を口にする時、根賀さんの声が微かに震える。口ぶりから、彼がいかに同僚達のことを大切に思っていたかということと───野間と呼ばれた整備員の運命を、察することが出来た。

(●▲●)「野間がその生徒らしきモンに近づいたとき、声が………あぁクソッタレ、赤ん坊が親にあやされて心底愉しそうに笑ってるみてえな声が聞こえてきやがった。

んで、それが響いた瞬間に、ソイツの顔が、上半身が膨れあがって、破裂して、中から白い“何か”が飛び出してきて────野間の腰から上が、なくなった」

(メメ^ω^)「………赤ん坊の、笑い声」

あの時だ。間違いなく、あの時ムラカミさんに背負われながら耳にした声と同じ物だ。


509◆vVnRDWXUNzh319/03/20(水)23:53:264ac (3/3)

その笑い声が深海棲艦関連であることは──元々他に考えようはなかったが──これで恐らく確定だろう。とはいえ、声の正体それ自体については、相変わらず僕には皆目見当もつかない。

(メメ;^ω^)(……深海棲艦の幼体でも現れたのかお?でも、仮にそんなものが居たとしてどんな経路でそれが艦内に?)

(●▲●)「そっから先は……まぁ、正直なところあまり記憶にねぇ。ただ野間がやられた直後に、もう幾つか“屍体”が立ちあがっていたのは覚えてる」

脳内で疑問がグルグルと回っている間に、根賀さんの語りはどうやら終局へと向かっている。額から流れ落ちる汗を袖口で拭うと、彼は青ざめた顔で一つ息をついた。

(●▲●)「気が付いたら艦内のそこら中が“暴徒”やあの化け物で溢れていて、どいつもこいつも片っ端から殺されていった。

俺の班の奴らもだ。石原も、比嘉も、達川も、白濱も、皆、皆やられた。殴られて、噛まれて、食われて、殺された」

(メ._⊿,;)「……どうして現場に遭遇した時点で艦橋なり最寄りの駐在所なりに連絡しなかった!何か一報があれば、我々にもそれなりの対処が」

(#●▲●)「とろうとしたさ!何度も何度も、遭遇した直後も逃げてる最中も!だけど無線も有線電話も携帯も、幾ら掛けてもうんともすんとも言わなかった!!」

腰を浮かせながらの三月さんの追求は、強烈な反駁に気圧されたか尻切れトンボに終わる。根賀さんは三月さんの胸を指で突いて座らせると、自身を落ち着かせようとしてか額を何度も撫でつつ僕へと向き直る。

(●▲●)「………すまんね先生、声を荒げて。

とにかく、この下はそもそも奴らが“現れた”場所だ。そこに、保安官さえ碌な数が居ないのにこっちから殴り込むなんて自殺と同じさ。

どんなやべえのが待ち受けてるか解ったもんじゃねえ」


510名無しさん@おーぷん19/03/21(木)23:41:21X6o (1/1)

おつおつ
…何気に最悪の化け物と遭遇して凌ぎきってる貴重な証人なのか
耐え凌げなきゃ地下も全滅待った無し…というかそこから立て篭もれる状況にできたのもすげえw


511◆vVnRDWXUNzh319/03/22(金)00:05:53xrO (2/4)

(メメ;^ω^)「…………」

「………実際、こっちがこの騒ぎに気付いたのは根賀さんより後だし、今言ってた光景を直に見たわけじゃない。

けれど確かに、“暴徒”騒ぎは下から上へ拡がっていってるようには見えた」

思わず向けた視線の意図が伝わったらしく、今度はお銀さんが口を開く。流石に根賀さんの語った内容は彼女にとっても衝撃的だったようで、口調こそ淡々としているけど表情はかなり険しい。

「この話が本当だとすれば、奴らの発生源に突っ込むような真似はアタシもちょっと賛成しかねるね。まず尚のこと連絡船が無事な可能性が下がるし、無事だったとしてたどり着くまでに何人も死ぬ。

よしんば奇跡的に無傷で突破するような方策が思いついたとしても、電力が死んでりゃ外に出すこともできないしねぇ」

(メ._⊿,;)「だが、このままここで救助を待つという選択肢もさっき言ったとおりじり貧を招くだけだ。

自衛隊も全力を尽くしているだろうが、“我々の存在”それ自体が深海棲艦にとっては強力な“盾”になり行動を制限する。区画の治安が崩壊する前に、救助が間に合うという保証はどこにもない」

(●▲●)「じゃあどうするってんだ?俺は“下がヤバい”とは言ったが、“上がヤバくない”なんて言うつもりはないぜ?だいたいこのあんちゃんを数区画先から拾ってくるのさえ命辛々だったんだ、丸六層も駆け上がって甲板まで出るなんて出来るわけがねぇ」

(;´・_ゝ・`)「しかし移動自体はできなくもありません。例えば治安維持はお銀さん達に任せて、自警団や保安官の方々から選抜隊を組織し甲板上に派遣するというのは……」

「おいおい冗談でしょおっさん。ヨハネスブルグの仲間だけならともかく何百人も“外”の奴らが入ってきてる状態だぞ?

多少腕っ節に自信があるのは認めるけど、それにしたってアタシ等が一介の女子高生に過ぎないってのを忘れてないかい?この“サルガッソーのムラカミ”でも、流石に十何人も大人に組み付かれたら負けるっての」


512◆vVnRDWXUNzh319/03/22(金)00:55:24xrO (3/4)

侃々諤々。意見は様々に飛び交うけれど案は出ず、苦境を脱する可能性を否定する材料だけが増えていく。かく言う僕も、脳内でグルグルと回る思考は一向に纏まる気配を見せず、胸の内に無力感と絶望感が降り積もる。

(メメ^ω^)(普段ナード寄りな頼りないキャラクターが突然趣味や仕事の知識を武器に大活躍……なんてのは、所詮創作物の中だけだおね)

思わず口元に浮かぶ、自嘲的な笑み。考えてみれば僕の“知識”なんて、国語教師という職業に関連したものの他は史学や戦車道の歴史を多少囓ってる程度。それが、一体今この瞬間を切り抜けるのになんの役に立つというのか。

否、僕だけじゃない。

保安官に、戦車道連盟役員に、整備員に、女子高生。教師である僕を含め、この部屋にいる誰もが、本来なら深海棲艦と何ら関わりを持つことがない存在。
この先ずっとそうだったかは定かではないにしろ、少なくとも今日この日までは、日本という“艦娘先進国”の恩恵によって深海棲艦と戦うどころかその姿形を直接眼にしたことすら一度も見たことがなかったのだ。

そんな人間達が雑多に寄り集まって頭を捻ったところで、フィクションの世界でもない限りこんな状況の打開なんて出来るわけがない。商業区で出会った叢雲さんの姿が一瞬脳裏を過ぎりはしたけど、彼女にしたって完全オフの中で起きた襲撃だ、恐らく、対処は難しい。

(メ._⊿,#)「────だから救助が間に合う保証がどこにあるというんだっ!!」

(#●▲●)「化け物の群れに真っ正面から突っ込むよりはよっぽどマシだろうがよ!!」

「辞めな!んな大声出したら寝てる怪我人にも響くっての!」

(メメ;^ω^)「ちょっ……三月さんも根賀さんも落ち着いてくださいお!」

────それでも、或いは。

特にヒートアップしてきた二人をムラカミさんとともに止めながら、僕は胸の内で密かに抱いている一つの微かな“願望”を振り切れずにいる。

教師としてあまりにも相応しくない考えだと知りながら、一人の大人としてあまりにも情けない事だと自覚しながら。

それでも、“彼女”なら。

戦車道というスポーツの試合の中でとはいえ、幾つもの信じがたい奇跡を起こして二度もこの学園の危機を救った彼女なら。

日中戦争と太平洋戦争でその名を轟かせた、“軍神”の血を引く彼女なら。






西住みほさんなら、僕等が思いも寄らないような“奇跡”を起こしてくれるのではないか────そんな身勝手な、願望を。


513◆vVnRDWXUNzh319/03/22(金)01:11:08xrO (4/4)

(メメ^ω^)「………お?」

「どうかしたのかい?先生」

(メメ^ω^)「えっ、あぁ、いや……」

荒い呼吸の三月さんを悪戦苦闘の末根賀さんから引き離しながら、僕はふと足下に視線を落とした。カウンターからお銀さんが問いかけてくるが、伝えるべきかどうかはっきりと確信が持てず結局曖昧に言葉を濁す。

実際、それははっきりと“聞こえた”わけじゃない。何せ甲板上では現在進行形で無数の艦砲がオーケストラを繰り広げていて、近くで鳴った音でもなければまともに拾うことは難しい状況だ。故に、聞き間違いという線は十二分にあり得る。

ただ、もしも聞き間違いでなかったとしたら。









大洗女子学園全体を文字通りの意味で揺るがす、砲火の嵐。鳴り響くそれらの中でただ一つ、微かに混じった明らかに“砲声”とは違う音質の爆発音。

それは僕等の………この【どん底】と名付けられたバーの、更に下から聞こえてきたもののように思えた。


514名無しさん@おーぷん19/03/22(金)17:14:39SRo (1/1)

投下おつです


515名無しさん@おーぷん19/03/23(土)16:01:26mpv (1/1)

おつ


516◆vVnRDWXUNzh319/04/05(金)23:39:07cLB (1/4)








急に、が何時か気になって、左手首の腕時計に視線をやった。保安官試験に合格したときに父親が買ってくれたクロッシーはいつの間にか滅茶苦茶に壊れていて、文字盤はろくに読めず短針がなくなっている。
それから間もなく胃癌で亡くなった父の形見でもあるため捨てるのも忍びなくて、ため息をつきながらそれを胸ポケットにしまう。

一体、学園艦がこの有様になってからどれ程の時間が経っただろうか。眼にしてきた光景はまるでつい数秒前眼にしたかの如くはっきりと記憶されていて、身体は丸一日を訓練に費やしたときよりも草臥れきっている。
日が傾きつつある中、艦上の各所に煌々と瞬く爆光と、一定のリズムで途切れることなく響き続ける砲声の嵐が時間経過の感覚を更に曖昧なものにしていく。

『「『────アァアアアアアッ!!!!」』」

《敵影、多数接近!》 

《狙撃班各位、射撃開始!射撃開始!!》

机やら廃材やら出所不明の鉄パイプやら、そこら中のガラクタをとにかく手当たり次第に積み上げて作った煩雑なバリケード。その向こう側で響く奇声の合唱と足音に被せるようにして、足下に設置された無線ががなり立てる。
背後で銃声が鳴り、頭上を風切り音が駆け抜け、迫り来ていた足音と奇声の内幾つかが湿った破裂音を残して止まる。

周囲を賑やかすそれらの戦闘音をボンヤリと聞き流しながら、私はふと、保安官になると報告したときの父の言葉を思い出した。


517◆vVnRDWXUNzh319/04/05(金)23:40:30cLB (2/4)

学び舎の、“安”を“保”つ立場にあることを、常に自覚して、そして誇れ。

自分の仕事について、常に胸を張れる“保安官”であり続けろ。

「………アハハッ」

思わず、乾いた自嘲の笑いが漏れる。

声を荒げることが滅多にない、どちらかというとのんびり屋な人だった。そんな父が、私が記憶する限り唯一厳しい口調で、私の眼を真っ直ぐに見つめて言い聞かせてきた言葉。

それは私という人間が親の元から独り立ちするにあたって、“子供”から“大人”になるにあたって贈られた「卒業証書」として、今でも心の奥底に刻んである。

……………嗚呼、畜生。

父ちゃん、ゴメン。

《クソッ、ダメだ止まらない!》

《接敵間もなく、前衛班各位警戒せよ!!》

『ア゛ア゛ア゛ッ!!!』









<ヽ#`∀´>「接敵!」

(#*‘ω‘*)「前衛各位、射撃開始っぽ!!」

アンタの娘は今、アンタの言葉から最も遠いトコロに居るよ。


518◆vVnRDWXUNzh319/04/05(金)23:43:55cLB (3/4)

声高に号令を下しつつ立ち上がり、構え、引き金を引く。ニューナンブM60が手の中で跳ね、レボルバーが回転し、吐き出された空薬莢がチャリンと背後で金属音を奏でる。

「ァがっ』

眼前には、棒状の何かを振りかぶった中年の“暴徒”が一人。彼は一瞬自分の左胸に穿たれた穴とそこから流れ出る血の筋に視線をやった後、そのままぐるりと白眼を剥いてバリケードから転げ落ちていった。

『かひゅっ……」

「うおっ───ぎぃやっ!?』

間を置かず、更に射撃。出刃包丁だろうか、小振りな刃物を滅茶苦茶に振り回して突っ込んできたエプロン姿の女が、か細い呼吸音を漏らし喉を押さえて倒れ込む。後続していたステテコ姿の爺さんがけっつまづいて蹌踉けたところに、三発目を叩き込んで黙らせる。

「ぃいやっ!!』

(;*‘ω‘*)「うわっ!?」

不覚にも疎かになっていた注意。物音に気付いて銃口を向けたときには既に遅く、いつの間にか接近してきていた四人目の“暴徒”がバリケードを一気に駆け上がってきていた。

某コンビニチェーンの制服に身を包んだソイツが繰り出してきたのは、逆さに構えられたモップの柄。武道でも囓っていたのか正確かつ鋭い狙いで眼球に迫る突きを、ダッキングで辛うじて躱す。

(#*‘ω‘*)「んにゃろっ!」

「コホッ───ぃがっ!?』

照準を向け直す暇もなく、そのまま振り下ろされた追撃を銃床でぶん殴って逸らしつつ蹴り。下腹部に一撃食らったソイツが動きを止めると、横合いから飛んできた銃弾が側頭部をぶち抜いた。

<;ヽ`∀´>「怪我はないニダか?!」

(#*‘ω‘*)「余計なことすんなっぽ瓜生!!」

<ヽ;`∀´>そ「助けてやったのに酷い言い草ニダね!」

抗議の声を上げる瓜生の手元で、もう二回銃火が瞬く。バリケードの手前まで来ていた影が二つ、立て続けに眉間から血を噴き出して倒れる。
……撃たれた人影の内片方がこの学園の水産科の制服を着ていたことについては、努めて考えないよう脳内から閉め出しておく。

(#*‘ω‘*)「リロードするっぽ、援護を!」

<#ヽ`∀´>「了解!」

残りの二発をとっととぶっ放し、瓜生にカバーを任せてしゃがみ込む。再度込め終えたところで丁度瓜生が弾切れになったので、今度は私がアイツを援護する。
その後は、互いに隙を作らないよう交互に射撃を続け、着実に周囲の“暴徒”を撃ち倒していく。


519◆vVnRDWXUNzh319/04/05(金)23:46:42cLB (4/4)


けれど、幾ら撃ち倒しても、撃ち殺しても、その数は減らない。

(;*‘ω‘*)「瓜生、向かってきている“暴徒”の総数は!?」

<#ヽ`∀´>「本官が知るか!とりあえず地面が三分に敵が七分ニダ!」

「『「『ァアァアアアアアッ!!!!』」』」

居住区・市街地の方角から絶え間なく押し寄せてくる“群れ”の勢いは、増してこそ居るが衰える気配はまるで見られない。こっちの射撃で一人倒しても、その屍を踏み越えて二人の“暴徒”がバリケードに取り付こうとするという有様だ。

凡そ10万人以上とも言われる当時の乗船者の内、何割が“奴ら”の眷属にされてしまったのか。想像するだけで胃の中の物を全部吐いてしまいそうになる。

「クソッ、数がヤバい!」

「狙撃班、もう少しペース上げられないのか!?」

《これが限界だバカヤロォ!!》

無論、“暴徒”を迎撃しているのは私と瓜生だけじゃない。この中堅ラインではバリケードの彼方此方で併せて20人を超える保安官が射撃を続けていて、後方からはスナイパー仕様の7.62mm小銃とL96A1による狙撃支援が行われている。

誰もが必死に戦っているけど、如何せんニューナンブも狙撃班の武装も連射が利かない。“点”に対する制圧力・破壊力はそれなりにあったとしても、今のように“面”で圧迫してくる敵に対してははっきり役者が不足している。
巨大な岩は梃子の原理を応用すれば例え棒っ切れでも動かせるけど、巨大な津波の中に棒を突き入れたところでどうにもならないのと同じだ。

「『「『ォオオァアアアアッ!!!』」』」

限界は直ぐに訪れる。“点”の射撃は迎撃どころか遅滞の効果すら直ぐに失い、たちまち何百という“暴徒”が口々に憎悪に満ちた叫び声や聞くに堪えない罵詈雑言を吐き出しながら殺到する。
隙間だらけの火線をくぐり抜け、奴らはバリケードの直前に犇めきそれを上ろうと、或いは崩そうと我先に手を掛ける。

此方の、狙い通りに。

《─────~~~、以上各分隊、射撃を開始してください!!》

「了解!

総員前進!射撃開始、射撃開始!!」


520◆vVnRDWXUNzh319/04/06(土)00:37:15Tyv (1/1)

未だ上がり続ける無数の砲声と“暴徒”達が上げる雄叫びの大合唱にも負けない、凜とした声が無線から響く。それを合図として、バリケードの裏、私達の足下に隠れて息を潜めていた【伏兵】が一斉に立ちあがる。

「ァボァッ』

『ぎゃあっ!?」

「ひぃっ、ひぃいいいいいっ!!?』

迸る銃火。先程まで私達が張っていたものとは、比べものにならない密度の“弾幕”。構えられた15の銃口から、秒間十数発の頻度で弾丸が吐き出され“暴徒”達に降り注ぐ。

元々合流していた奴等や艦内のあちこちから命辛々逃げ延びてきた機動保安隊の面々を集めて再編した、虎の子の火力部隊。大半はH&K MP5だけど、僅か三挺ながら89式5.56mm小銃を装備した隊員もいる。

「うぎゃああああっ!!?』

「ぁあ………あぁあぁ………』

保安官の中にも“暴徒”と化してしまった奴は幾らかいるらしいが、少なくともここにソイツ等の姿はなく銃器を装備している“暴徒”もいないらしい。
ろくな反撃手段がないことに加えて、最初に私達が見せた火力の貧弱さに“吊られ”たせいで奴らはバリケードの周囲に密集し自ら物量の利を封印してしまった。

狙わずとも撃てば当たる状態の“暴徒”に、頭上から機動隊の銃火が突き刺さる。憎悪と殺意の雄叫びは恐怖と苦痛の悲鳴に変わり、辺り一帯にはあっという間に血の臭いが充満する。

「分隊より指揮車、“暴徒”前衛に大打撃!敵の攻勢鈍化、尚【ヌタウナギ】の姿は現状見られず!」

《出てくる前に押し返します!M37、起動してください!》

(;*‘ω‘*)「承ったっぽ!」

折り重なった屍の山に、吐き気を催す暇もない。私達の“暫定指揮官”殿は、火力の集中運用という戦術の大原則に非常に忠実だった。

指示に従い、私と瓜生を始め数人がバリケードの上に“それ”を引っ張り上げ備え付ける。昔取った杵柄で私が設置を主導し、弾帯を装填し、安全装置を外す。

<ヽ;`∀´>「設置完了、照準ヨシ!」

「おい北方、こんなもんホントに撃つ気か!?」

(;*‘ω‘*)「っ、今更何言ってんだっぽ!撃つぞ、耳塞げ!!」

こんなもん………あぁ、本当に“こんなもん”としか言い様がないね。

ブルーノVz.37。第二次世界大戦開戦の直前にチェコスロバキアで開発された、重機関銃。ナチス・ドイツはMG37(t)と命名し、一部戦車・自走砲の車載機銃としても採用している。

戦車格納庫の中に38(t)戦車B/C型の予備部品としてあったものであり、あくまで「戦車道用」の部品のため実物ではない。装填した弾丸も、戦車道試合用の特殊カーボン製模擬弾だ。

………だけど、受けるのが戦車ならいざ知らず、生身の人間にぶっ放すなら模擬弾も実弾もさしたる差はない。


521名無しさん@おーぷん19/04/06(土)17:58:15jFY (1/1)

乙です


522名無しさん@おーぷん19/04/07(日)13:30:49y5L (1/1)

おつおつ
いよいよ学園組みか…と思ったら、半年振り位になるのかなw
マッスルの面々も篭城戦してる側に合流できればなあ…


523名無しさん@おーぷん19/04/07(日)14:36:06nZ5 (1/1)

おつ


524名無しさん@おーぷん19/04/09(火)02:50:57fUZ (1/1)

更新乙です
西住殿無双2が始まるのか!


525名無しさん@おーぷん19/04/23(火)11:14:1742y (1/1)

マッスルさんに時雨の過去編マダー?って言っといてくれ笑


526◆vVnRDWXUNzh319/05/15(水)22:50:17OyL (1/8)


(#* ω *)「────~~~~ッッッッッッ!!!!!」

唐突に湧き出てきた得体の知れない感覚に、私は堪えきれず叫ぶ。

喉の奥から飛び出した「音」がどんな言葉を形成していたかは自分でも覚えていないし、きっと言葉になっていなかったと思う。まるで気が触れたみたいにとにかく喚きちらしながら、私はトリガーを引いた。

「エビュフッ────』

『えっ?…………フギッィ───」

(#;* ω *)「        ッ!!!!」

手元で銃身が震え、吐き出された弾幕が唸りを上げて群れる“暴徒”達に突き刺さる。7.92mm弾が軌道上の人体を打ち砕き、引き裂き、薙ぎ払い、次々と物言わぬ肉塊へ変えていく。

「アレまさか……き、機関銃!?』

『嘘だろおい………!!」

バリケード周辺で繰り広げられる「虐殺」を目の当たりにして、後続してきた新手の“暴徒”達が足を止める。

旧式とはいえ重火力兵器を投入した此方の動きは、彼らにとって樹木園での機動保安隊よる実弾銃撃なんか比べものにならない衝撃になったのだろう。凄惨な光景に対する恐怖以外にも、明らかな狼狽と動揺が浮かび、瞬く間に“群れ”の中を伝播した。

「どっからあんなもn───おがぁっ!?』

『………んぁ?」

グワラと音が鳴り、地面が揺れる。爆風に吹き飛ばされた人影が、幾つかのパーツに分かれながら宙を舞う。足下に落下した一本の右腕を、“暴徒”の一人は間の抜けた声を上げてボンヤリと見下ろす。

そうして束の間の沈黙を挟んだ後、ようやく奴らは自分たちが“砲撃”された事を認識した。


527◆vVnRDWXUNzh319/05/15(水)22:52:42OyL (2/8)

『に、逃げr────いぎぃっ!?」

ある男の叫びかけた言葉が、もう5秒ほど前に発せられていたらと思う。そしたら彼の右側頭部は、5.56mm弾に貫かれずに済んだことだろう。

それに“暴徒”達の士気を完全に挫くために機動保安隊と狙撃班が放った追撃の火線で、もう数十人ほどが薙ぎ倒される事態も避けられたはずだ。

《Reload, OK!!》

《車体方向微修正完了、いつでも撃てるよん》

《前衛分隊各位は制圧射撃を展開しつつ前へ!全狙撃班、引き続き前線の支援をお願いします!!

───主砲、撃て!》

「了解!分隊各位、出ろ!互いのカバーを忘れるなよ、接近してくる“暴徒”を」

《狙撃手はなるべく後方の奴を狙いつつ周囲警戒!【ヌタウナギ】が出やがったら直ぐに優先目標を切り替えろ!》

無線機が吐き出す「的確な指揮」を受けて一斉にバリケードから駆け下りる機動保安隊の頭上を、二発目の砲弾が飛び越えた。また「ぐわら」と音がして、今度は左手側で何人かの暴徒が爆炎に呑み込まれる。

「アカンでこれ!早よぉ逃げぇや!!』

『うわぁあああああああああ!?」

「た、助けて……助けてぇ!!』

はるばる訪れた観光客だったのだろうか、列の中程で今度こそ後退を促す言葉が言い切られた。

それを合図に、残った“暴徒”達が踵を返して走り去っていく。どこか整然とした印象を受ける「撤退」という単語は少々当てはまりづらい、寧ろ蜘蛛の子を散らすという表現がしっくりとくる─────理不尽で一方的な、殺戮と弾圧の現場から脱出しようとする民間人のような有様で。


528◆vVnRDWXUNzh319/05/15(水)22:53:38OyL (3/8)

《狙撃班より指揮車、中央防衛線正面からの敵群体後退を確認!再攻勢の兆候は見られず!また、【ヌタウナギ】の出現も現状は無し!》

《指揮車より狙撃班、居住区並びに商業区の“敵艦”に動きはありますか!?》

《視認しうる限り動きは無い!何れも対地艦砲射撃を継続!》

勝利。

私達の現在置かれた状況を鑑みた上で今し方の事象を一言で纏めるなら、それはきっとこの二文字が最も適切なんだと思う。

それも、単なる勝利じゃない。前にもう二文字、「完全」と入れて煌びやかに装飾してもなんら問題がないほどの勝利だ。

「機動保安隊各位、点呼完了!損害ありません!」

《速やかに残弾を確認!消費量に応じて“格納庫”から補給を出させます!また対空警戒を厳に、もし機影を確認した場合は先程指示したとおり最大火力で対応してください!》

「了解!各隊装備点検急げ、それとバリケードの状態も確認しろ!空にも気を配れよ、敵機だけじゃなくて友軍機飛来の可能性も忘れるな!」

何せ、圧倒的な兵力差の“武装勢力”と交戦し、痛撃を与えた上で撃退。しかも此方には、人的損害が軽微どころか皆無と来た。

彼我の装備も考慮すると、流石に世に名高き「ベルリンの奇跡」には遠く及ばない。とはいえ、“右寄り”の主義主張が顕著な某新聞社が大々的に一面で取り上げたり、所謂「まとめサイト」が連日連夜関連情報を掲載し続ける程度にはセンセーショナルな内容に違いない。



529◆vVnRDWXUNzh319/05/15(水)22:55:30OyL (4/8)

───でも私は、眼前の惨状に対して、たった今自分がやったことに対して。

そんな前向きな響きの単語を当てはめる気にはなれなかった。

<;ヽ`∀´>「………蜜柑、大丈夫二か?」

(* ω *)「…………吐きそうだっぽ」

理屈では、他に選択肢はないと解っている。
仮に何者かに(つまりは深海棲艦に)操られたせいだとしても、アレは私たちに対して明確な害意を、殺意を持った集団だ。数百、数千、艦全体で言えば数万人にも及ぶそれらが押し寄せてくる中で、“可能な限り火力を投入し迎撃する”以外の手段を模索する余裕は私達にはない。

私たちが少しでも照準を鈍らせれば、その分だけ私達の後ろにいる避難者達が危険に晒される。平和的解決、人道的配慮、貴賤なき人命………そんな綺麗事は、ここが実際に「戦場」となった数時間前の時点で価値を無くしている。

………私も解ってるんだ、理屈では。

「もういや、もう沢山!!自衛隊の救助はいつ来るの!?」

「現実見ろよ、こんだけ盛大に深海の奴らがドンパチできるってのはつまり“そういうこと”だろ。

前衛より指揮車、バリケードの破損箇所が思ったより多い。廃材の追加はあるか?」

《此方指揮車、補給班に“格納庫”から弾薬と併せて運ばせるので重要度の高い箇所から先行して補修を!》

「了解。とりあえず中央から始めるぞ、手が空いてる奴は集合しろ!」

それでも、気がつけば考えてしまっている。本当に「そうするしかなかった」のかを。

《“格納庫”より指揮車、定時報告。

艦外に対してのあらゆる通信手段は相変わらず不通。携帯は圏外、無線も通じない。有線電話を用いた艦内施設への呼びかけにも現状応答はないぞ》

《解りました、電力にも限りがありますから一度外部への電子通信は中断を。ただ、パニックを防ぐため庫内の避難者の方々には呼びかけを継続していると伝えてください》

《右翼防衛線より指揮車、死傷者は居ないが一部の隊員が精神的に参っちまって継戦が難しい!後方に下がらせることは可能か!?》

《増援の分隊を向かわせます!再度の襲撃が行われた際に戦力不足を突かれる恐れがあります、人員の到着・展開完了までは戦闘態勢の維持を!》

例えばの話。

もしもあの“暴徒”達の洗脳が、実は適切な治療を施せば解くことが出来る病気のようなものだったとしたら。
治療どころか、私達でも出来るような簡単な処置で、あの人達を元に戻せる方法があるとしたら。
さっき押し寄せてきた“暴徒”の中に、洗脳されたフリをして紛れ込みここまで逃げてきた生存者がいたとしたら。

「なあ、今ので何人───」

「………考えないようにしてんだから口に出すんじゃねえよ」


私達は、保安官として「守るべき対象」を、殺したことになる。


530◆vVnRDWXUNzh319/05/15(水)22:57:18OyL (5/8)

無論これらは全て「そういう可能性がある」だけで、実際どうだったのかを私達で判断する事は技術的にも状況的にも不可能だ。ただ逆説的に言えば、これらを“絶対にそうじゃなかった”と否定する材料が私達にはない。

そして、この後の研究で結果論的に“暴徒”達の症状が回復・治療不可能なものだったと判明しても。その前の時点で、私達が本来守るべき学園艦内の人々の命を明確に“取捨選択をした”という事実は変わらない。

いっそ、それこそ映画のゾンビのように解りやすく損壊してくれていれば────そんな醜い考えを脳裏に浮かべていた自分の内面に、再び吐き気がこみ上げてくる。

だが、それらも。それらでさえも。


















《Hey ニシズミ、Sniper-Teamから通信よ!居住区方面で“Rioters”の活性化を確認、遠目で断定はできないけど“何か”を追っているような動きらしいわ!

それと、今はLostしたけど家から家へと跳び移っているSPIDER MANみたいな奴も居たようね!》

《そのまま状況を観察、特に跳躍する個体はおそらく深海棲艦ですから動向を注視させてください!

それと“暴徒”並びに追跡対象の移動先は以後逐次報告を!学校側に接近してくる場合最悪此方側から迎撃します!》

《Alright!!》

《西住ちゃん、Ⅳ号は動かすかい?もし居住区の“暴徒”がこっちに来るなら左翼防衛線側からだと思うけど》

《現時点では車両はまだ動かしません、このまま待機を。ただ、直ぐに動かせるようエンジンは暖めておいてください》

《あいよ~》

《ブタさん分隊と蛙さん分隊は“格納庫”から左翼防衛線へ!

また、屋上の鷹さん分隊はしばらく左翼側の支援・監視に専念を!先程お伝えしたとおり居住区の動向には特に気を配ってください!》

《【Pig】並びに【Frog】了解、これより左翼バリケードに急行する!》

《【Hawk】より指揮車“鮟鱇”、命令を受諾した。尚、報告した“跳躍個体”は地面に飛び降りたきり2分ほど姿が確認できない。着地地点は距離が遠すぎることや土煙に遮られていることもあり視認不能!》

一介の女子高生に、戦争の────“人殺し行為”の指揮をさせている事に比べれば、糞さ加減はまだまだと言わざるを得ないだろうけど。


531◆vVnRDWXUNzh319/05/15(水)23:02:46OyL (6/8)

(*‘ω‘*)「………瓜生、悪ぃけど機銃見といてくれっぽ。私はちょっと行ってくるっぽ」

<ヽ;`∀´>「またニダか?」

意図を察してか、瓜生が眉を顰めて私を見てくる。剣呑とまではいかないが、若干非難がましい目付きに見えるのは気のせいじゃなさそうだ。

<ヽ;`∀´>「蜜柑、気持ちは解るけど」

(*‘ω‘*)「解るなら黙って行かせろっぽ」

<ヽ;`∀´>「状況を見るニダ、本官達は他の選択肢を取るような余裕が無いのはお前にも解るはずニダ」

(*‘ω‘*)「じゃあお前はそんな“大人(こっち)の都合”で高校も卒業してない“子供”の手をこれ以上血で汚していいと?」

<ヽ;`∀´>「…………」

予想通り、“本音”はコイツも私と変わらなかったらしい。それでもしばらくは窘めるように睨んできていたが、やがて諦観のため息を一つついて奴は肩を竦めた。

<ヽ;-⊿->「あくまで“強制”はダメニダよ?」

(*‘ω‘*)「わあってるっぽ。あと今更だけどその語尾なんとかしろっぽ」

<ヽ`∀´>「本当に今更過ぎる上お前に言われるのは納得いかねぇニダ……」

二十年来の悪友が複雑な表情で首を傾げるのを尻目に、バリケードの内側に駆け下りる。水分補給用の飲料が入った段ボール箱からペットボトルを五つ取り出すと、その足で私はⅣ号戦車へ向かった。

「──────あ、北方さん」

(*‘ω‘*)「おっすっぽ」



532◆vVnRDWXUNzh319/05/15(水)23:03:55OyL (7/8)

私が辿り着くのと、上部ハッチが開いて中から少女が出てきたのは丁度ほぼ同時だった。この“戦場”の暫定指揮官である少女────西住みほは、片手を上げ挨拶した私の姿を眼にするとあのはにかむような微笑みを浮かべた。

(*‘ω‘*)「飲み物持ってきたっぽ。角谷ちゃんたちの分もあるから車内の皆で分けてくれっぽ」

「わぁっ、ありがとうございます!丁度良かった、喉もうカラカラで………」

五本のペットボトルを受け取った彼女は、パアッと表情を明るくしながら車内に身体を引っ込めた。……喉が乾くのは当たり前だ、何せこの“防衛線”を構築してから、いや、正確には樹木園で【ヌタウナギ】の襲撃を振り切ってから、西住ちゃんは殆ど休み無く周囲に指揮を出し続けている。
深海棲艦の艦砲射撃が始まって以降は確実に指揮を通すため大声を出すことも強いられているので、尚更消耗は激しいだろう。

「………ふぅっ。ホントにありがとうございます。私、これ大好きで!」

飲み物を配り終えて再び車内から出てきた彼女は、私の直ぐ隣に降り立つとそう言ってさっきより幾分明るくなった笑顔を向けてくる。

ところで「これ」が指すのは飲み物それ自体なのか、それとも某コンビニチェーンとのコラボでボトルに撒かれたナントカ熊のパッケージなのか………まぁ、漫画なら薄らハートが浮かんでいるであろう目付きでペットボトルを眺めている姿から推して知るべしか。

(*‘ω‘*)「それで、あー。西住ちゃん、ちょっと時間いいかっぽ?」

「ええと、少しなら………ハイ、大丈夫です」

そう言いながら、彼女の視線は手元のスマートフォンと背後の戦車を経由した後私に向けられた。

「あの、ただ、防戦に参加しないでほしいという話なら先程と返事は変わりませんけれど」

(;*‘ω‘*)「……むぐぅ」


533◆vVnRDWXUNzh319/05/15(水)23:08:51OyL (8/8)

口を開いた瞬間に機先を制されて、迷子になった私の言葉は最終的に奇妙な唸り声へと変換されてこぼれ落ちた。

流石は天下に聞こえし西住流の次女にして、大洗の廃艦を防いだ軍神。手強い。

(;*‘ω‘*)「あー、西住ちゃん。貴女はあくまで民間人で、私達が保護するべき対象の一人だっぽ。

散々戦わせておいて今更過ぎる言い草かも知れないけど、貴女が最前線にいるのは私達にとってあまり好ましいことではないんだっぽ」

「…………自覚は、あります。自分が、かなり非常識な事をしているという自覚は」

ここで退いては元も子もないと、そのまま閉じかけた口を無理やりこじ開ける。ちくちくと痛む良心を努めて無視し語気を強めると、彼女は少し俯き、心底申し訳なさそうに眉根を寄せる。

「それでも、ここで私が逃げるわけにはいかないんです」

だがそれは、あくまでも一瞬のこと。次の瞬間には、西住ちゃんは真っ向から私の視線を迎え撃ってきた。

これっぽっちも衰える様子の無い、強い闘志と決意を秘めた眼光に、此方の方がたじろいでしまう。

「勿論、私たちの存在が皆さんの負荷やご迷惑になっているのなら直ぐに退きます。逃げたくないというのは、ただの私の我が儘ですから。

……その、もし本当に足手纏いになっていたならすみません」

(;*‘ω‘*)「いやいやいや、そんなワケないっぽ」

深々と頭を下げ純粋な謝罪を述べる謙虚な“軍神”の姿に強烈な罪悪感を掻き立てられ、私は慌てて彼女の言葉を否定する。

(;*‘ω‘*)「足手纏いどころか、貴女や戦車道チームの子達が居なかったらそもそも私らはとっくの昔におっ死んでたっぽ。

寧ろ、西住ちゃんは私達の命の恩人だっぽ」


534名無しさん@おーぷん19/05/16(木)10:55:18bvW (1/1)

おっつ


535名無しさん@おーぷん19/05/17(金)01:00:43jtH (1/1)

おっつおっつ


536名無しさん@おーぷん19/05/17(金)16:01:34peB (1/1)

西住どのが和やかに悲壮な覚悟されてる…


537名無しさん@おーぷん19/05/17(金)20:55:57TQQ (1/1)

おつおつ
土壇場で踏ん張れても複雑だよなあ…
寄って来る相手の掃討戦状態ならマッスル組みも対応せざるをえないか


538名無しさん@おーぷん19/06/03(月)21:29:157xS (1/1)

マッスル提督ー!早く来てくれー


539◆vVnRDWXUNzh319/06/27(木)22:56:21CfW (1/4)

これは世辞でも方便でも無く、私自身の本音であり恐らく保安官全体の総意でもある。戦車道履修者の子達が───特に西住みほという存在がもしもこの学園に居なかったら、私達は少なくともあの樹木園のところで避難者も保安官も皆殺しにされていただろう。

足手纏いなんてとんでもない。救世主と呼んだって私達的には大袈裟じゃないぐらいだ。………そしてそれ故に、彼女の参戦が必要不可欠になりつつある今の状況が大変厄介でもあるのだが。

(;*-ω-*)「えー、その………逆に言えば、もう西住ちゃんは十分すぎるほど協力してくれたっぽ。この上無理を重ねず、後は本職であり大人である私達に任せてほしいっぽ」

「お気遣いありがとうございます。だけど、未だに事態収拾の目処が立っていない中で中核戦力の編成を変えるのは避けた方がいいです」

お世辞にも性能が良いとは言えない頭を精一杯稼働させてひり出した詭弁は、的確な戦略的判断に基づく「正論」に正面衝突して即座に砕け散った。

「この“暴動”がどれほどの規模かは解りませんけど、さっき押し寄せてきた分と狙撃班が居住区で確認した分を併せて考えても相当な物の筈です。

仮に艦内人口の三割と仮定しても3万人前後、私達が与えた損害は全体からすればごく僅かに過ぎません」

(;*-ω-*)「………居住区方面で逃走者も目撃されたと言うことは、生存者は私達だけじゃない。つまり、全ての“暴徒”がこっちに向かってくるとは」

「言えません。ですが、生存者がどれほどなのか、その人たちはここのようにある程度の集団を形成できているのか、そして“暴徒”にとってそこは優先順位の高い攻撃先なのか等はどれも私達からは確かめようがありません。

確かめることが出来ない以上は、私達は敵の“全ての戦力”がここに向かってくると前提すべきです」

決して、強い口調でも威圧するような声色でもない。また逆に、無理に平静を装って話しているような様子も見られない。

彼女は自然体で、理路整然と本物の“戦争”に関する自身の展望を語っている。


540◆vVnRDWXUNzh319/06/27(木)22:58:52CfW (2/4)

その姿に、ザワリと心がさざ波立つ。さっき“暴徒”にMG37の銃口を向けたときよりも遙かに強い衝動が、全身を駆け巡り荒れ狂う。

「現時点で私達が保有している戦力は到底多いとは言えません。彼我の物量差が明確である以上、重火力をどこまで的確に運用できるかが戦線維持の鍵に」

(#* ω *)「────もうやめてくれっぽ!!!!」

なけなしの理性が感情の濁流に一瞬で呑み込まれ、尚も淡々と続けられようとしていた西住ちゃんの言葉を怒鳴り声で遮る。気付いたら私の両手は、驚いたように眼を見開いて固まる彼女の肩を掴んでいた。

(#* ω *)「私達は大人で、保安官で、守らなきゃいけない側なんだっぽ!貴女たちは子供で、民間人で、守られるべき側なんだっぽ!!

戦力として良いか悪いかとか作戦として上か下かの問題じゃないんだよ!!間違ってるんだよ、“子供”が!“戦争”に参加すること自体が!!」

我ながら理不尽な物言いをしていると思う。大の大人でも怯え竦むような状況下で、冷静さを保つどころか自ら立ち向かってすらいる西住ちゃんの姿は立派な物だ。賞賛を受けることはあれど、批難される謂われはない。
況してや、彼女に助けられた立場の人間があれこれ言ったところで説得力なんてありゃしないだろう。

それでも、八つ当たりのような───八つ当たりそのものである怒声を止められない。

(#* ω *)「貴方たちはもう十分協力してくれた、十分すぎるほどの人を救ってくれた!だからこれ以上無理をする必要は無いんだよ!もうとっくの昔に、子供が手を出していい領分じゃなくなってるんだよ!!」

そりゃあ、彼女たちが潜り抜けてきた修羅場は生半可な物じゃないし、西住ちゃんに至っては元々自分の身も顧みず濁流に流される戦車に飛び移るような子だ。同年代と比較しても、精神の強靱さが図抜けていることは想像に難くない。

だがそれは、あくまでも同年代の中での話だ。廃艦回避の過程で様々な修羅場を潜ってきたにしろ、根本的には彼女達は結婚可能年齢を超えるか超えないかの普通の女子高生に過ぎない。
武道の全国大会優勝という肩書きも、それなりに希少ではあっても絶無じゃない。年端もいかない女の子達を戦場のど真ん中に放り込む理由付けにはなり得ないだろう。

別に、年相応に深海棲艦に怯え竦めと言うつもりはない。でもだからと言って、彼女達が自ら武器を手に取り戦いに身を投じることは絶対に“正しいこと”ではない。

じゃあ、何で今、その“正しくないこと”が起きている?

深海棲艦が襲ってきたせいか?違う。

政府の防備体勢が甘かったせいか?違う。

彼女達の強すぎる正義感のせいか?違う。

(;* ω *)「だから………もっ、もぅ…………」

私達に、力がないせいだ。


541◆vVnRDWXUNzh319/06/27(木)23:02:58CfW (3/4)

畜生。

目の前の年若く心優しい“軍神”を説き伏せるに足る論を述べなければならないのに、喉奥からこぼれ落ちるのは嗚咽に近い音だけで。

彼女を理で納得させるに足る策を述べなければならないのに、脳内に渦巻くのは空虚な感情論ばかりで。

「…………改めて、お気遣いありがとうございます。北方巡査」

(;* ω *)「っ────」

情けなく無様に黙り込んでしまった私に、“軍神”が語りかける。

いつも通りの優しい声色、いつも通りの柔らかい微笑み。けれど瞳の奥に輝くのは、今まで以上に強固で激しい決意の光。

気圧されて、弱く無力な私は無意識に眼を逸らしていた。

「巡査の仰ることは、“平時”なら正しいことなんだと思います。それに、心の底から私達のことを案じて言ってくれていることも解ります。

ですが、今私達が置かれている状況は“戦時”です。お言葉ですが、“平時”の道徳的観念に則ったその行動が最善であるとは私は思えません」

はっきりと言い放たれる正論に、私はいよいよ顔を上げられなくなり項垂れる。

「先程説明した通り、私達と深海棲艦の間には、質量共に圧倒的な戦力差があります。その差を僅かでも埋めるためには“機甲戦力”の的確な運用が不可欠であり………自惚れかも知れませんが、現状その戦力を十全に運用できる人間は私達だけです。

故に、艦外からの救援が来るまで持ちこたえてここに居る人たちの生存確率を上げるには、“道徳的”な判断は慎むべきだと私は判断します」

一部の隙も無い戦術論に、彼女の肩を掴む両手から力が抜けていく。西住ちゃんはそれをやんわりと外し、労るように両手で包み込んでくる。

感じられるのは優しげな温もりなのに、私はまるで冷え切った銃口でも押し当てられているみたいに震えた。

「北方巡査。戦闘への不参加要請については、私自身の意思で、今一度お断り致します。仮に何らかの法律違反で罰せられるようなら、全責任は私が負います。

……とはいえ、その裁きを受ける為にはどの道この場を凌ぐ必要がありますけど」

(;* ω *)「………この状況が怖くないの?沢山の人が殺されてるのに。得体の知れない化け物の群れが暴れてるのに。貴女自身も殺されるかも知れないのに。

貴女自身が、人を、殺さなきゃいけないかも知れないのに」

「そんなことありません。私だって、怖くて怖くて仕方ないです。戦車道はスポーツ、戦争じゃない……サンダースのケイさんの受け売りですけど、私も、別に戦争のために“自分の戦車道”を探していたわけじゃありませんし」

理論もへったくれも無い陳腐で感情的な問いかけに、可憐な“軍神”はそう言って困ったように笑う。

そんなことを言っている割に、彼女は怯えも、決意を揺らがせる様子も欠片も見せちゃいないけど。


542◆vVnRDWXUNzh319/06/27(木)23:38:24CfW (4/4)


「でも私にとっては、この学園が無くなってしまうことの方がよっぽど怖いんです。

私は、大洗女子学園に来たことで救われました。この学園の皆に救われました。だから、私もこの学園を守りたい。皆の力になりたい。

その守りたかった人たちが、既に沢山犠牲になってしまったことは解ってます。でも、それはここに居る人たちを、学園艦のどこかでまだ生きている人たちを一人でも多く守ることを放棄していい理由にはなりません」

既に二度、廃校という窮地を救っている。だからこれ以上義理を果たす必要はない───喉元まで出かけたその台詞を、すんでの所で飲み込む。

西住ちゃんの中でこの行為は、義理でも義務でもなく「当然の行い」という認識になっている。ならば恐らく、この説得は彼女からすれば的外れであり響かない。

それに、私はもう十分すぎるほど行動でも言葉でも彼女に酷いことをしている。その上更に、この学園艦のことを自分の家のように大切に思ってくれている少女に対して、その思いを「恩に対する義理返し」という安っぽい物に貶めるような真似はしたくなかった。

(;* ω *)「………そうか、っぽ」

そして私は、遂に“軍神”に反駁し得る言葉を完全に失った。

(* ω *)「防衛線構築への“協力”、保安官として感謝するっぽ。ただ、戦闘行為それ自体については非常に大きな危険が伴う以上、可能な限り私達に一任して欲しいっぽ」

「はい。その時はお願いします」

そう言って少しだけ私の手を強く握った後、西住ちゃんは戦車に再搭乗すべく背を向ける。私も、周囲の同僚達から飛んでくる様々な感情が交じった視線の集中砲火から逃げ出すように踵を返す。

<ヽ`∀´>「…………ひっでぇツラニダね」

持ち場に戻った私を出迎えた瓜生は、此方を覗き込んで小さく眉を顰めた。

<ヽ`∀´>「そんな有様じゃ照準もろくにつけられないだろ、本官の頭蓋骨ふっとばす前に何とかするニダ」

(* ω *)「………仮に両眼がガラス玉に変わったってそんなヘマしねえっぽ」

心にもない毒を吐きつつ差し出されたハンカチをひったくり、顔中を拭う。だが嗚咽は止まらず、涙も鼻水も後から後から溢れ出る。

情けなかった、悔しかった。民間人を、それも成人さえしてない女の子を戦場に立たせてしまう自分の無力さが。理で諭すことが出来ず喚き散らし、挙げ句子供に気を遣わせてすらしまった自分の不甲斐なさが。

何より。

(*;ω;*)「うぐっ、うぁっ…………うぁああ…………」

西住みほを説得できなかった、彼女が戦場を離れなかったという事に。

貴重な“戦力”が戦場に残ったという事に、どこか安堵を覚えてしまったかもしれない自分が、許せなかった。


543名無しさん@おーぷん19/06/28(金)22:48:45q1w (1/1)

おつおつ
北方さんは立派な大人なだけに葛藤が凄いはなあ・・・


544名無しさん@おーぷん19/07/01(月)12:29:55Ktu (1/1)

いつの間にか更新来てた!やったー!おつです
しかし、まだ状況は好転しない…


545◆vVnRDWXUNzh319/07/05(金)09:27:2771H (1/5)







つくづく、“大人”って奴は傲慢だと思う。

これは個人的な見解だけど、子供と大人の間にある差はたった一つ、「生きた時間の長さ」だけだ。
よく大人の優位性として挙げられる人生経験やら身体能力やら教養やらは、所詮年齢の積み重ねから来る平均値の差違に過ぎない。個人個人で見れば、そこらの「大人」なんかより色々な面で優れている「子供」は幾らでもいる。

………勿論、私自身がそうだと言うつもりはないけど。

まぁ重要なのは、「大人か子供か」ではなく「本人がどうか」ってことね。仮に年齢的には“子供”の側の方が“大人”を守れる力があるなら、率先して守る側に立ったとしても問題はないと言うのが私の意見だ。
況してやMCUでマイティ・ソー辺りのヴィランを勤めててもおかしくないような化け物相手なんだから、尚更子供が云々なんて言ってる場合じゃないでしょう?

だというのに、ここの大人どもはこの期に及んでも、「子供は自分たち守らなきゃいけない物」って本気で思い込んでいる。そしてその結果、

<(' _';<人ノ「…………」

li イ ;゚ -゚ノl|「…………」

「Phew」

「守らなきゃいけない物」が自分の意思で戦いに参加しただけで、シビル・ウォーを見た後のマーベルファンみたいなツラになっている。

マジで、世話が焼けるわね。


546◆vVnRDWXUNzh319/07/05(金)09:29:3371H (2/5)

ニシズミとキタカタのやり取り───特に後者の声は、直ぐ傍だったことも手伝ってⅣ号車内にもわりかしはっきりと聞こえてきていた。十中八九その影響なんだとは思うけど、大人子供の下らない色眼鏡を除いたらニシズミのあの宣言の何処に暗くなる要素があるっていうのかしら。
アメリカなら間違いなくこの場は皆のUSAコールで溢れてるでしょうに。

「……Hey, そんなシケた顔しないで頂戴。

ただでさえ戦車の中なんて湿気に満ちてるんだから、これ以上湿っぽくされたらパンツァージャケットにカビが生えちゃうわよ」

<(' _';<人ノ「で、でも、アリサちゃん………」

あえて気怠げに適当な感じで茶化してみたけど、同乗するPolice Officerの一人、ミワ=タカギ(高木美和)は私の努力も虚しく陰鬱な表情のまま項垂れる。

<(' _';<人ノ「私達、貴女たちの事を守らなきゃいけない立場なのに、こんな………子供の貴女たちを、戦争なんかに………」

li イ ; - ノl|「…………ヒグッ」

(Fuck!!)

ウジウジと後悔の言葉を連ねるタカギの隣では、もう一人の婦警であるイチコ=アカイ(赤井市子)も青い顔をして俯いている。喉奥から小さな嗚咽を漏らし今にも泣き出しそうなその姿に、私は一人胸の内で毒づいた。

(ホンッッッッットに面倒ね大人って奴は!!)

私達を守りたいというなら、何より先ず戦闘に集中する事を優先してほしいものだ。しかも二人はこの戦車のLoader(装填手)とGunner(砲手)。まともに動けないとなればマジで私達全員の死が見えてくる。

せめて直接“殺す”事だけはさせないようにという保安官達からの大変温かい配慮によるものらしいけど、こんなザマになるなら私からすれば有り難迷惑もいいところだ。


547◆vVnRDWXUNzh319/07/05(金)09:31:3771H (3/5)

「まーまー、高木巡査達もそう気に病まないでよ」

私の苛立ちを汲み取ったのか、制するように視線をこっちに向けた後アンズがやんわりと二人を宥めに入る。

「私達“民間人”の事を必死に守ろうとしてくれる気持ちは凄く伝わってくるし、嬉しいからさ。こんな事になるなんて誰も予想してなかったし、思うように対処できないのは仕方ないって」

li イ ; -;ノl|「う、うぇえ、うぇえええええ…………」

<(' _';<人ノ「………」

とうとうガチ泣きに移行したアカイの肩をアンズが軽く叩いて慰めるという、どちらが大人か解ったもんじゃない(いやまぁ体格を比較すりゃ実際の所一目瞭然なんだけど)光景を眺める。
タカギの方も、相変わらず今にも首を吊りかねないツラという点には変化がない。

(Jesus………)

実力だけなら、さっきの動作を見る限り二人とも申し分ない。特にタカギの装填の手際は、サンダースでも余裕でレギュラーを張れるレベルだ。
だけどたった一度の戦闘でこのヘコみ様。しかも原因は戦闘とはまるで関係ないところと来れば、天に在す我らが父の名を叫んで頭を抱えたくなるのも無理ないでしょ。寧ろ、実際に声に出すのを耐えただけでも褒めて貰いたいわ。

《格納庫よりCT、格納庫よりCT、応答を願います》

「……All right. 此方Command-Tankアリサ、聞こえてるわ。用件をどうぞ、タケベ」

今後の展望を考えて軽い目眩を覚えたところで、無線機がタイミング良く声を発する。正直車内の空気の重さも合わさって大分参っていたところだから、気を紛らわせるのは歓迎だわ。

《オッケー、音声良好!それでねありぽん》

「次そのふざけたニックネームで呼んでみなさい、アンタのケツ穴が二つに増えるわよ。それも75mm砲製のドデカい奴がね」

前言撤回。今すぐこの無線切りたい。

《待って、何でそんな怒ってるの!?あっ、やっぱりありりんの方が良かった!?それとも搦め手であさりん何てのも考えたけど………》

「安心なさい、どれで呼んでたとしても我が愛車の出番だったことに変わりはないわ。というか最後の候補文字の取り方おかしくない?なんで三文字の名前で真ん中一文字飛ばすのよ」

《だって搦め手だもん》

誰がミソ・スープ御用達の魚介類か。

「はぁ………もういいわ。普通の呼び方に戻した上で報告お願い」

《解った。それでねありぽん》

決めた。この修羅場を生き延びたら、真っ先にM4シャーマンの手入れをしよう。特に主砲は念入りに。


548◆vVnRDWXUNzh319/07/05(金)09:35:0971H (4/5)

「つーか、レイゼンの奴はどうしたのよ。さっきまで通信担当アイツだったじゃない」

《麻子?麻子なら今は休憩に行ってるよ。あれ、なんか麻子に用事あるなら呼ぶけど?》

「……いや、別に大丈夫よ」

危ない、「アンタと話すよりマシだからよ」って喉元まで出かけた。もし口に出していたらもう5分は拗れていること請け合いだ。

「で、もっかい聞くけど用件は?定時報告にしちゃ前の通信から間隔が短いけど」

《あっ、うん。レオポンさんチームからもう一挺MG34の整備と弾薬点検が終わったって連絡来たよ!いつでも動かせる!》

「OK.ニシズミから設置場所は引き継いでるわ、左翼側バリケードへ運搬して。弾薬も心持ちそっちに多めに配分して頂戴」

《解った、伝えておくね!》

これで、既に設置が完了しているセンターラインのものと併せて二挺目。警官と即席義勇学徒兵の連合部隊が手にする火力としては上々だけど、狙撃班から報告があった居住区での“Rioters”活性化の件もある。
まだまだ、予断は許されない。

「Car Clubの連中には引き続きありったけの機銃を整備するよう伝えて。

悪いけどIntervalを挟めるような暇私達にはないわ。手が足りないようなら避難民に呼びかけて、機械整備や鉄鋼の関係者がいたら協力を要請して」

《オッケー……って!もー、ありぽんもちゃんとチーム名で呼んでよ!いつもと違う呼び方にしたらいざという時に連携が乱れちゃうかも知れないじゃん!》

「Are you seriously!?

勘弁してよ口にするだけでダサすぎて死ねる自信あるっての!解りやすく呼ぶよう努力はするけどまんま口にするのは御免被るわ!!」

《ひどーーい!!みぽりんが一生懸命つけたのにーー!!》

「Who cares?!」

何が悲しくてティーンエイジャーがJunior Schoolのお遊戯会みたいなコールサインで呼び合わなきゃいけないのよ。

「とにかく、Car Clubの連中にはしっかり伝えてよ!機銃の有無はアタシ等にとってわりとマジで死活問題なんだから!」

《もー、解ったよー……でも、次からはちゃんとチーム名で呼んでよ!?》

「善処するわ」

《それ絶対しない奴じゃん!》

大洗の戦車道車両格納庫を中心に置いた、半径大凡200m前後の円形の空間。私が知る限りここは、この学園艦において私達の生存と自由が確保されている現状唯一の場所だ。

だけど、この空間を脅威から守る為の戦力は貧弱で数も少ない。対深海棲艦は言わずもがな、“Rioters”相手ですら平面で真っ向から戦えばたぶん10分と保たず物量に磨り潰されて終わり。
故に、奴らの動きを阻むバリケードと面に対しての高い制圧火力を有する機関銃の存在は、このⅣ号の主砲火力に次いで重要なアクターとなる。


549◆vVnRDWXUNzh319/07/05(金)09:37:1271H (5/5)

勿論、これらが揃ったとしてもワンサイドゲームとはいかない。何せこっち側は機銃の弾もバリケードの素材も有限で、その「限り」も潤沢からは程遠い。
あちらさんの“人的資源”が枯渇するまで現有量のみで持ち堪えるのは………無理でしょうね。

(結局のところ今は、いつ来るのか、そもそも来るかどうかのアテすらない外部からの救援を待つしかないってワケか)

ま、贅沢は言えないけどさ。エイリアンもどきの餌になるか自分で舌を噛み切るかのクソッタレた二択しかなかった数時間前からすれば、例えブルーベリーの粒より小さくても「生き残れる」可能性があるなら上出来じゃないか。
見えない「未来」を嘆くより、見える「今」を生きることに全力を尽くすとしよう。

《それでありぽん、他に指示はある?》

「いいこと、こっちがあらゆる手を尽くしてカール自走臼砲の購入を決意する前にその呼び名をやめなさい。とりあえず今はないわね、後はニシズミが戻ってきたら適宜あるだろうけど───あぁそうだ。

タケベ、ウツキの奴は大丈夫?」

《…………うん》

無線を切る間際に投げかけた問いは、ふと気になっただけで他意はない。けれどその名を聞いたタケベの声は、明らかに半オクターブほど落ち込んだ。

《大分落ち着いてはいるけど、今度はずっとふさぎ込んでる。梓ちゃん達が頑張って声を掛けても返事が殆どなくて………ご飯も食べてくれないし》

「…………。そう」

当たり前の話だけど、精神の強さには個人差がある。幾ら大洗の戦車道チームって言っても、全員が全員ニシズミやアンズ、或いはイスズのようにこれ程の事態に真っ向から立ち向かえる勇敢さを備えているわけじゃない。
アキヤマやソノ、あの異様に無口な子を除いた一年生連中のように、恐怖に竦み、怯え、意気消沈して戦えない奴らも当然出てくる。


550名無しさん@おーぷん19/07/05(金)21:16:29pXO (1/1)

平日朝から短期間更新おつです!

アリサのバイリン口調がちょっと読みにくいです…
いや、雰囲気あっていいんですけどね


551名無しさん@おーぷん19/07/08(月)15:06:55X1U (1/1)

おつおつ
指揮官が頼もしいのは救い…だけど振り回されててワロタ


552名無しさん@おーぷん19/07/08(月)17:44:107bK (1/1)

>>540


553◆vVnRDWXUNzh319/07/21(日)23:22:243Er (1/1)

かく言うアタシも、生き残るために半分ヤケクソになってるだけで正直内心はビビりっぱなしよ。今の気分は、例えるなら杖を突きつけられた状態でヴォルデモート卿の前に跪くピーター=ペテュグリーってところね。

だから、“立ち向かえない”奴らの気持ちも、大人子供関係無しにアタシにはよく理解できる。
年齢の大小で取るべきスタンスを勝手に決めつけるのがバカバカしいってだけで、全員が勇敢に武器を持ち立ち向かうべきだなんて持論をぶちまけるつもりは毛頭ない。マジモンの“War”に放り込まれるなんて誰だって怖いに決まってるじゃない。

おまけに舞台設定は映画【ミスト】を300倍程酷くしたClosed Circle。絶望のあまり自ら命を絶とうとする奴がいても不思議ではない。
ましてやここに来る前の経緯も併せて考えれば、ウツキが実際に“あんな真似”をした理由や気持ちもある程度は察せられる。

まぁ“察せられた”からと言って、保安官から奪ったピストルで側頭部をぶち抜こうとしてるヤツに「要望通りの行為」を許すかはまた別問題だったが。

「Auch!」

右腕に走る、生後数時間の引っ掻き傷の内一つを緩く撫でる。もう包帯に新しい血が滲む様子はないけど、こんな小さな刺激でも静電気のように微かな痛みが走った。
ったく、割と力一杯引っ掻きやがったわねアイツ。まぁ一緒にアイツを押さえ込んだニシズミはこの2倍近い傷を拵えてたけど。

「暴れてないなら何よりね。とりあえず、またぶり返して馬鹿な真似しないようできるだけ見といてやって」

《うん、解った》

「それと、もう少し立ち直ったらウツキのヤツに伝言お願い。

ここを生き延びたら、散々引っ掻かれた件は絶対Boonに言いつけるってね」

《うん────ありがとね、ありぽん》

「……な、何で礼なんて言われたか解らないけど、もし本当にそう思うなら早く呼び方を変えて頂戴。じゃあね」

思わぬ言葉を投げかけられて少し面食らいながら通信を切る。一息ついたところでアタシに向けられた視線に気付き顔を上げると、アンズがからかうようなニヤケ面を向けてきていた。
あと保安官コンビも、此方は戸惑いというか驚いた様子でアタシのことを見ている。

「…………Hey, 何か言いたいことでもあるのかしら?マジメな通信手であるアタシとしては、職務放棄には車長報告で対処する用意があるけど?」

「ま、ま、カタいこと言いっこなしだよあーりん。ただ、意外な一面だなって思っただけだよん」

「待ちなさい、その“あーりん”とやらが誰を示すか先に言いなさい。仮に最悪の想定が現実になるなら、次の大会ではヘッツァーがカールの60cm砲弾で木っ端微塵になるわよ」

ニシズミといいタケベといい、大洗は入学試験に「ネーミングセンスの珍妙さ」を競う項目でもあるのだろうか。


554◆vVnRDWXUNzh319/07/22(月)00:34:26U9L (1/2)

「大学選抜の時から思ってたけどさ、あーりんって意外と義理堅いというか優しいよねぇ~。
今日の授業にしたって、別にブーン先生の性格考えれば本当に強制参加なんてさせられなかっただろうしさ」

「うん、やっぱりあーりんってアタシだったんだ。オッケー、マムにJAPANESE☆DOGEZAしてでも次の大会までにカール自走砲取り寄せるからね。

それとも、親善試合名目で軍からM1エイブラムス借りてきてやろうか?あ?」

「ツッコミの勢いがいいねぇ~、座布団一枚!

………マジメな話、こんな時だからこそあーりんみたいな何時もと違うメンバーが居てくれると精神的にも空気的にも助かるよ。アタシからもお礼を言わせてくれ、ありがとう」

「……………タケベの時もそうだったけど、突然ガチのトーンで言われても反応に困るっての」

それに実際、礼を言われるような事なんて一つもしていない。大洗の連中は随分好意的に捉えてくれているみたいだけど、アタシは単にこのクソッタレた“戦場”から生きて救出されたいだけだ。
そしてその目的を果たす為に、自分で最良と判断した行動を取っているに過ぎない。

大学選抜の件にしろ、潰れられたらアタシが“借り”を返せないからマムに着いていって参加した。けど、大洗の連中のためにだなんてこれっぽっちも………えぇ、えぇ、絶対に、これっぽっちも考えるわけないでしょ!

(誰に言い訳してんのよ………)

兎に角アタシは、それこそニシズミのように誠心誠意「他人のために」動ける人間じゃない。
打算的に合理的に、自分の目的達成を最優先にして動くのがアタシのポリシー。ありがちな善人認定なんてされたら鼻っ柱が痒くなるから勘弁して欲しいわね、全く。

(………………)

「っと、お帰り西住ちゃん」

「すみません、少し戻るの遅れてしまって。状況に何か変化はありますか?」

<(' _'<人ノ「いや、現状特にh「Hey, ニシズミ」

そして今回の“目的”を果たすにあたって、ふっと胸の内に湧いて出た一つの疑問。

この防衛線の指揮官殿が戻ってきたところで、その疑問は殆ど無意識に口から零れ出た。

「何で、深海棲艦は“こっち”に攻めてこないのかしら」


555名無しさん@おーぷん19/07/22(月)19:57:182Ry (1/1)

更新乙です


556◆vVnRDWXUNzh319/07/22(月)23:37:41U9L (2/2)

バリケードに重機関銃、アサルトライフルに狙撃銃、そして……戦車。これらの火器は、確かに“Rioters”には今のところ十二分に威力を発揮している。樹木園で遭遇したチェストバスターもどきについても、多少難易度は上がってもある程度は迎え撃てるとは思う。
物資、特に弾薬の残量という極めてシビアな条件は付きまとうけど、逆説的には仮にそこさえ解決できる方法があるなら粘る時間は幾らでも延ばせる。

だが深海棲艦それ自体が出向いてくるような事があれば、その時点でここは一環の終わりだ。例えそれが、所謂Destroyer-Classだったとしても。

「ここの火力は、現時点でも確かにかなりのもんよ。少なくとも弾が尽きない内は、艦内では無敵に近い。あくまで“対人戦闘”に限定した場合はね。

もしも“対艦戦”が起きるような事になったら、多分5分と保たないわ。にもかかわらず、奴らがアタシ達を見逃し続けている理由が見えない」

<(' _';<人ノ「こ、この戦車があるんだし少しは戦えるんじゃ……」

「HA, Nice jokeよタカギ。バーナード=ショーの後釜張れるんじゃない?」

確かに、艦娘が現れる前は上陸した深海棲艦を戦車が主力となって迎撃していた。けれどそのキルレシオは、深海棲艦1隻に対して平均8~10両。練度が飛び抜けてるドイツが多少例外な部分もあったくぐらいで、到底互角だったとは言い難い。
しかもこれは、DestroyerやRight-Cruiser相手の話。重巡以上───つまりは“Humanoid-Type”との戦いになると最早手も足も出なくなっている。

重要なのは、このキルレシオが現代戦車を基準としたものである点だ。

「タカギ、アンタM1A1とⅣ号の主砲の性能差は知ってる?初速が75mmの385m/sに対してラインメタル120mmは最大1750m/s、4倍以上よ?当然、貫通力だって比例して途轍もない差がある。文字通り、桁違いのね」

具体的には、ラインメタル120mm-L44が距離2000から700mmという数字を叩き出しているのに対し、75mm-KwK-37は徹甲弾を用いた距離100からの射撃で「浸透」が41mmに留まる。同じ距離2000での射撃に至っては、たったの10mmぽっちでしかない。
まぁ後者は傾斜装甲に対する実験のデータではあるけど、そこを考慮してもこの数字差は流石に大きすぎる。

「現代戦車が何両も束になってグロッキー状態でようやく沈められる化け物よ?遥かに性能が劣る第二次大戦仕様の、しかも競技用改装が施された骨董品が何百両揃ったって叶う相手じゃない。

それこそ、向こうは片手間で口笛吹きながらアタシ等をひねり潰せる」


557◆vVnRDWXUNzh319/07/23(火)00:22:35RZG (1/3)

「………陸の方から来る援軍に備えてるって事はないかな?学園内の深海棲艦はかなりの数だろうけど、それでも横須賀辺りと大洗鎮守府の艦娘を併せれば十分圧倒できる程度だと思う。

向こうがこっちにおいそれと乗り込めないよう、火線を維持するために戦力を割く余裕が無いとか」

アンズの指摘は案外いいトコを突いていたが、アタシは首を横に振る。

「確かに一理あるわ。鎮守府だけじゃなくて陸自・空自の基地からも近いし、今のPrime Ministerはクレイジi………決断力があるから自衛隊や艦娘を既にかなりの規模で動かしている可能性が高い。現に、さっきは艦娘のドローンが艦の上空まで偵察に来てたしね。

でもねアンズ、繰り返すけどアイツ等はここを“片手間”で潰せるのよ。迎撃火線に穴を空ける程の数を割かなくてもいい、駆逐艦1隻でも差し向けられたらアタシ達は皆殺しにされる」

li イ; ゚ -゚ノl|「………」

少し強い口調で言い切ると、ようやく泣き止んでいたアカイの肩がビクリと震えて再び眼に涙が溜まる。幸いタカギが直ぐに背中をさすって慰めだしたので気を遣ってやる必要はなくなった。
まぁ、仮にそのまま泣き出したとしても気を遣う予定はなかったけど。

「それにもし陸で奪還作戦の兆候があるなら、尚のことここを放置しても深海棲艦側にとってのMeritはないのよ。

だって奴らからしたらこのスペースの存在自体がそれこそ迎撃火線の空白になりかねないし、陸からの救援部隊は間違いなくこのスペースを橋頭堡として利用するわ」

大洗女子学園の7.6kmという面積は広いようで狭く、またその直中に存在する半径200M強の空間は小さいようで大きい。奴らが今艦上に展開している戦力が何隻かは見当もつかないけれど、聞こえてくる砲声の量から判断する限り“何千隻”や“何万隻”といった規模では恐らく無いはず。
また、最初に生えてきた2隻と校門前に現れたあのドローンを吐き出す奴、そして船尾に現れた同型2つ以外にデカい奴の艦影も見えない。

少なくとも現時点では、この200Mは奴らの推定戦力から逆算して普通に“穴”となり得る。そして200Mものスペースがあれば、CH-47やV-22の着陸───そしてその中に満載されるであろう、数十隻の艦娘の展開も十分に可能だ。


558名無しさん@おーぷん19/07/23(火)07:13:03HH4 (1/1)

ほぼ毎日更新おつです
戦線が停滞すると次に大きく動く予感(絶望的な方へ)


559名無しさん@おーぷん19/07/23(火)10:36:28TWf (1/1)

対深海戦闘の素人どころか模擬戦しかしたことない実戦経験皆無の学生連中がもっともらしいこと言って事態を牽引してるのにすごい違和感

いやファンタジーだしそれを言っちゃ無粋なのはわかってるんだけどね……


560◆vVnRDWXUNzh319/07/23(火)23:07:50RZG (2/3)

一応こっちの予想以上に奴らが寡兵で、純粋に一隻も差し向ける余裕がないという線もあり得なくは無い。けど、それならそれでまだドローンによる“空襲”という手が残っている。

思い出されるのは、艦砲射撃に併せる形で陸の方へと飛び去っていった途方もない規模の大編隊。アレを見る限り、ドローンの方にも“数的余裕がない”という事は考えづらい。
少なくとも、碌な対空迎撃手段を持たない此処が五秒で更地になる程度の機数は簡単に用意できる筈。

li イ; ゚ -゚ノl|「し、深海棲艦が私達の存在にまだ気付いてないとか………」

「ねぇ気は確か?じゃあ樹木園でアタシ達が海底製チェストバスターから逃げ回っていたときは、親玉連中は皆シエスタでもむさぼってたのかしら?

さっき“Rioters”が単調ながら明らかに組織化された動きで押し寄せてきたのは、団体学生が引率の先生に連れられてピクニックに来たからとでも言いたいわけ?」

li イ; ゚ -゚ノl|「ぇう…………」

…………こんな事態に大人も子供も無いとは思う。思うけど、それでもイチコ=アカイがアタシより6年強も長く生きてる“大人の”人間というのはちょっと信じがたいわね。しかも保安官ってのが尚更。

「落ち着きなよあーりん。………疑問の内容は解ったけどさ、じゃあ実際深海棲艦が此処を無視してる理由って何だろうね。

いや、厳密には攻撃自体は受けてるけど」

「そこまでは解らない、ただ間違いなく何か狙いがあるはずよ。だから警戒するに越したことは───」

「沈めたくないから」

……確かにアタシは、最初にこの疑問を口にするとき「問いかけ」の形を取った。だけどそれは、他人からの意見を取り入れながら自分の中で疑問点の整理するための儀式的なもの。
正直なところ、この場で直ぐに誰かが──アタシ自身も含めて、明確な答えを出してくれるなんて端っから期待しちゃいない。

期待しちゃ、いなかった。

「深海棲艦は、大洗女子学園を“沈められる”事を恐れている。

だから、“此処”に手を出さないんだと思います」

ニシズミが、口を開くまでは。


561◆vVnRDWXUNzh319/07/23(火)23:53:25RZG (3/3)

それは別に力強くも大きくもない、寧ろ呟きに近い声で発せられた言葉だった。だけどそれ故にDebateの真っ只中にあった車内では異質で、全員を沈黙に導く効果を発揮した。

ミサの真っ最中の教会よりも静かになったⅣ号の車内に、ニシズミの声が淡々と響く。

「甲板上の私達の存在は、確かに深海棲艦にとっては邪魔です。戦力展開のスペースを圧迫されるし、戦車はアリサさんの言うとおりダメージは与えられないにしても砲撃ができるというだけでそれなりの用途はある。
輸送ヘリや輸送機の着陸が成功すれば、此処を橋頭堡に艦娘や自衛隊の皆さんが艦内に浸透していくような事態も十分に考えられます。

だけど逆説的には、私達がここに居る限り、本土の人たちは“大洗女子学園に生存者が居なくなった”という判断を下すことができないんです」

「…………Oh」

<(' _';<人ノ「あっ、そっか」

予期しない方向性からの、しかし想像以上にリアリティのある仮説に思わず髪を掻き上げて唸る。意外なことに、タカギも口元を押さえて納得したように何度も頷いていた。

<(' _';<人ノ「はっきりと“生存者がいる”状態を本土に見せつけておけば、強引な制圧に乗り出そうとしたり西住さんが言ってるみたいに深海棲艦諸共学園艦を吹き飛ばそうとするような動きを牽制できる。

こういうことだね?」

「はい。もう一つ副次的な効果として、艦娘も学園艦に直接乗り込んでの近接戦闘に作戦が大きく限定されます。

深海棲艦にとって一番ツラいのは、学園艦を遠巻きに包囲された上での空襲と艦砲射撃による波状攻撃の筈ですから。けれど、甲板上に私達という明確な生存者集団があれば、巻き添えを回避するため本土側の戦略は自然と大規模な火力投入を躊躇せざるを得ません」

勿論、ここが無かったとしても船内・船底に生存者が多数いる場合も考えられるワケだからおいそれと“撃沈”という結論には至らないだろう。けど、甲板上の生存者が皆無であるならそれだけでも火力投入に対するLimitはかなり軽減される。

確かにニシズミの仮説なら、襲撃は受けつつもそれが“耐えうる範囲内”であった理由は説明が付く。要はアタシ達は、“人質”が健在であることを艦外に示すためのサンプルってワケだ。


562◆vVnRDWXUNzh319/07/24(水)23:21:16EbD (1/2)

li イ; ゚ -゚ノl|「そ、そんなリスクを冒してまで、何で深海棲艦は大洗女子学園への攻撃を避けようとしてるんでしょうか………」

「やっぱ日本本土への攻撃拠点にするためじゃない?学園艦ぐらいデカけりゃ、それこそ“艦載艦”なんて真似もできそうだし」

「いえ、それはないと思います」

即答。

アンズの答えは非常識なものでも、的外れなものでも無い。寧ろ誰が考えてもそうなるだろう、常識的で一般的な部類の発想。

だけどニシズミは、まるで迷いも戸惑いも見せず即座にその“常識的な”解答を否定した。

「確かに一見すると、学園艦は拠点として凄く魅力的です。高い耐久力と自力での移動能力を持ち、一度に多数の戦力を輸送できる巨大洋上施設。しかも深海棲艦なら、甲板上に出ることでそのまま“艤装”としてあらゆる攻撃行動を取ることもできる、極めて理想的な強襲揚陸兵器になります。

でも、日本列島への浸透攻勢の為だとすればこれは間違いなく無駄な動き、二度手間です。それなら学園艦の占領を狙うより先に、投入し得る全戦力で大洗港を攻撃するべきでした」

彼女はそう言って、ポケットから折り畳まれた紙を一枚取り出して広げる。描かれていたのは、港を含め大洗町全体を写した地図だった。
恐らく聖グロとの模擬戦辺りで使った作戦図を引っ張り出してきたのだろう、幾つか矢印や走り書きが記されているものの、まだ十分判読はできる。

ニシズミが指を伸ばし、地図の一角を示す。そこにあるのは、錨二つがクロスしているような形の地図記号───【鎮守府】を示すマーク。

「茨城県の沿岸部には30箇所以上の艦娘駐屯拠点がありますけど、その殆どは警備府。大規模な戦力が展開し得るのはこの大洗鎮守府だけです。
千葉県は横須賀の管轄下ということもあって、浦安鎮守府はあくまで予備戦力程度の保有艦隊規模に留まります。早期の段階で奇襲に気づけたとしても、多分せいぜい房総半島への南下を防ぐ防衛線の構築が限界で増援を出すようなことは難しい。

そして今回の、“暴動”の発生に併せた迅速な攻撃。何時からかは解りませんが、深海棲艦は既に海上防衛網の“内側”、そして本土近海にかなりの戦力集結を完了させていたことが窺えます。

つまり大洗鎮守府さえ速やかに壊滅させられたなら、横須賀司令府が動き出すまでの間に深海棲艦は茨城県沿岸部全域を制圧すし本土に直接前線基地を確保するチャンスがありました。

───ドイツと、同じように」

その言葉に、ぞわりと皮膚が粟立つ。

2000万人を優に越す死者と5000万人強の難民を出し、三つの国が全土通信途絶状態に陥っているという、人類史上最悪の惨事。その内容をアタシはサンダース寮のテレビで見ていただけで、怖いとは思いつつも“遠く離れた国”の出来事としか認識していなかった。
けどそれが、下手をしたら──本当にニシズミの予想が正しければ──アタシ等の鼻先で起きる直前だったという。

既にいつおっ死ぬかも解らないような状況に放り込まれているのに何を今更と我ながら思わなくはない。
だがそれでもやはり、自分が生活しよく知る国が今日にも消えてなくなってもおかしくないという恐怖は、改めて突きつけられると別格だ。


563◆vVnRDWXUNzh319/07/24(水)23:47:32EbD (2/2)

そしてその“別格の恐怖”にアタシのプティングより繊細なハートは耐えきれず、気がつけばニシズミに反論しようと頭を巡らせていた。

状況が、自分の覚悟よりももっともっと絶望的なものだという事実を、想像していた“最悪”よりも悪い事態が起きている可能性を、否定してくれる「何か」が欲しかった。

「………いきなり強襲揚陸を掛けたとしても、成功したかどうかは解らないわ。大洗や横須賀だけじゃなく、この町はさっきも言ったとおり自衛隊の拠点にも近い。

上陸までは成功したにしても拠点を確保される前に袋だたきに会ったかも知れない。深海の奴らもそう考えたから、先に戦力の収容が可能な洋上拠点の確保を優先したんじゃないかしら?」

「だとしても並行して“同時”に襲撃すべきです。

学園艦の戦力はたかが知れています。単に制圧するだけなら、所謂ヒト型を数隻投入するだけで十分だったはずです。人質も大洗町を占領すれば十分に確保できますし、百里基地を直接陸路から伺えるようにした方が自衛隊側の動きの制限も遥かに大きくできる。
“暴動”だって、陸で直接起こした方が遥かに広域に拡散させることができたかも知れません。

勿論、横須賀司令府以外にも日本国内には強力な艦隊を持つ鎮守府・泊地がいくつもありますから、そこまでしても陸の橋頭堡を維持できたかまでは正直怪しい。

ただ、仮に失敗した場合まで考えても、制圧範囲が学園艦に限定されている今よりも遥かに大きな損害を強いることはできました」

「そこまで上手くいくかなぁ。ベルリンが起きたのってつい最近でしょ?日本だって当然警戒してる。

陸の事情はあんまり詳しくないけどさ、沿岸部に艦娘常時戦闘態勢で並べて上陸できないようにするぐらいはしてたんじゃないの?」

<(' _';<人ノ「いや、残念だけどそうはなってなかったと思うよ」

アンズの助け船には、タカギの横槍が突き刺さる。

<(' _';<人ノ「確かに警戒自体は厳重だった。連絡船で本土の県警に行くときかなりの頻度で艦娘の皆が海域を巡回しているのは何度も見たし、海保や海自だけじゃなく県警との連携も強化しようとして大鎮の提督が署長と会談しに来たこともある。

だけど、多分陸ではそもそも艦娘を鎮守府外に出すこと自体難しかったんじゃないかな。例の法案以降反戦団体のデモとかも頻発してたし、特にあの辺りは警備府の駆逐艦の子が攫われる事件まで起きたぐらいだし。

周辺地域の住民を刺激しないように、ぐらいの指示は出ていたと思う」

「Goddamn」

今のDebateとは関係ないところで発生した頭痛に、思わず天井を仰ぐ。

この期に及んで反戦団体ぃ?向こうが人類皆殺し求めて喧嘩ふっかけてきてるのに、ソイツ等から自分たちを守ってくれてる存在に対して“殺しに来る奴らと仲直りしろ!”ってプラカード掲げてシュプレヒコール挙げる奴らがいるわけ?

とんでもないCrazyね。


564名無しさん@おーぷん19/07/26(金)00:49:31PhS (1/1)

おつおつ
軍神様きれっきれでワロタ

…というか世界全体でもほんの一握りしか思い至らないような極致に、最前線に立ったまま行き着くってw
前線に立って英雄にまでなったドクみたいなのもあるけど、あっちは軍属だしなあ


565◆vVnRDWXUNzh319/07/28(日)01:13:241pz (1/2)

だがこれで、いよいよニシズミの仮説を否定する材料が無くなった。
深海棲艦の連中が日本側の防衛体制をどこまで事前に把握していたかは解らないけど、学園艦と日本本土のどちらが狙いにしろ“全く把握していない状態”で攻撃を開始したとは考えづらい。

本人も言っているように、結局“予想”の域を出はしない。けれど、“的外れな妄想”として片付けるには付合点が多すぎる。出来ることは大いに限られているけど、それでも警戒するに越したことはないだろう。
世界最大の艦娘保有国による海上警備すらかいくぐって、本土近海に大艦隊を集結させられるほどの隠密性と知能がある奴らを相手取るなら尚のことだ。

「…………まぁ確かに、アンタの話を聞く限りじゃコッチに戦力全振りってのは解せないわ。

でも、じゃあその最上級のチャンスをスルーしてまで奴さん方が“大洗女子学園の確保”に拘ったのは何でかしらね?」

「流石に材料が少なすぎて、そこまではまだちょっと。それにここまで言っておいて今更ですが、私の予想も必ず合っているとは限りませんし………

ただ、もし予想が正しいのであれば、真の目的は学園艦確保の“先”にあると思います。もしも確保自体が目的なら、ある程度の占領を成した時点で外海への離脱を謀る筈ですから」

言われてみれば、これだけ時間が経っているにも関わらず艦が移動する様子は全くない。単に動かす手段が無いだけなのかも知れないが、そうなると連中はそもそもこれだけ巨大な洋上拠点を操舵・移動させる方法を用意せず襲ったことになる。
深海棲艦がJapan Animationのヒロインばりにドジッ子である可能性を考察するよりは、ニシズミの言うとおり奴らの計画の一端で“あえて”動かしていないと見る方が余程適切でしょうね。

<(' _';<人ノ「私が言うのも情けない話だけど、西住ちゃんは本当に凄いねぇ。深海棲艦の動きまで読めちゃうなんて、まるで鎮守府の提督さんだ」

「いえそんな………私は、皆のために自分が出来ることを精一杯やってるだけですから」

(その“自分に出来る精一杯の事”がトンデモレベルだから言われてるのよ)

タカギから手放しの賞賛を受けて、ニシズミは困ったように眉を下げて必死に首を振っている。
本人は恐らく本当に“言葉通り”の感覚でいるのだろうけど、アタシのように「性根がねじ曲がった凡人」からすれば、あえて意地悪に表現するなら“嫌みな謙遜”としか思えなくて少々苛立たしい。

(そりゃタカシも、こんな卑屈な女願い下げか)

あら、長年苦しんできた“叶わぬ恋路”の謎があっさり解けたわね。答えは【私自身の性格】。
ワオ、こりゃ納得ね。HAHAHA!!

………OK, 泣くのは後よアリサ。ええ、涙なんてこの場を生き残るまでは絶対に見せるもんですか、Fuck.


566◆vVnRDWXUNzh319/07/28(日)01:43:331pz (2/2)

(まぁとにかく、確かに規格外よねニシズミは。

それこそ、“戦車道”なんてアマチュアスポーツのチンケな枠の中じゃ推し測れないぐらいに)

例えば夏のコーシエントーナメントで大活躍したスラッガーが居たとして、ソイツがいきなりメジャーリーグ入りしてアロルディス=チャップマンの超剛速球を打てと言われても余程の才能がない限りは無理だろう。
況してやフェンウェイパークのグリーン・モンスターを飛び越すほどの打球を打つとなれば、改めて「プロ」として相当量の練習を熟す必要があるはずだ。

ニシズミもまた、本来の立場的にはこの“コーシエンのスラッガー”と──どうでも良いけど何で毎年数人「十年に一人の逸材」が出てくるのよ──大して変わらない。
彼女の戦術眼や指揮能力が並外れているのは敵としても味方としてもよく知っているけれど、それはあくまでも戦車道というスポーツの枠内での話。アマチュア同士の試合なら【大洗の軍神】でも、仮に本物の戦争となれば当然彼女だって何も出来なくなる…………筈だった。

それが現実には、彼女は右往左往する他の生徒やより“professional”に近い保安官達をさえいつの間にか統率し、堂々と戦術指揮を熟している。
さらには、戦略の面でもプロの軍人顔負けの(それこそまさしく“素人目には”というヤツだけど)大局的な読みを披露した。

本当にコイツは、西住みほは凄い。

、、、、
凄すぎる。

「……………戦車道履修者が、何で鎮守府の保有戦力だの艦娘の運用方法だのを勉強する必要あるのかしらね?しかも、自主的に」

li イ ;゚ -゚ノl|「? あの……今何か?」

「独り言よ、気にしないで」

指揮が上手いというだけなら、それでも“ニシズミが凄いヤツ”と単純な結論だけで無理矢理片付けることも出来る。だけどニシズミの場合、戦術指揮も戦略論も深海棲艦や艦娘に対する知識・研究を元に組み立てていた。

(ニュースを適当に流しで見ていたとか、そんなレベルじゃない。さらっと“ドイツの時と同じ”なんてワードが出てくる辺り、ニシズミは深海棲艦や艦娘の関連情報を事前にかなり深く調べてる)

これほど短時間で理論を組み立てられるほどの知識を習得するとなれば、収拾に必要となる時間も手間も計り知れない。
そこまで親しくない以上はっきりとしたことは言えないが、少なくともアタシが知る限りニシズミに三突のコスプレイヤー連中と同じ様な、この行動が“趣味の一部”になるような嗜好はなかった筈だ。

戦車道に役立てるため調べていた?一見あり得そうな仮説だが、方や海で方や陸。それもルールに則った武道と、突然出現した正体不明の化けものとそれを迎え撃つ正体不明の少女集団の殺し合いの間に応用可能な共通点があるとは思えない。

ならば、コイツをここまで突き動かす動機は一体何処にあるのか。

否、そもそも、

(ニシズミ………アンタの目は、本当の意味で“ココ”をちゃんと見てるのかしら?)


567名無しさん@おーぷん19/07/29(月)07:59:546IG (1/1)

西住流の「実戦派」は伊達じゃない
更新乙です


568◆vVnRDWXUNzh319/08/26(月)22:59:54xpk (1/4)

趣味でも戦車道のためでもないならば、熱心な“お勉強”の目的として考えられる内容はより実用的なものに絞られる。

例えば、学校の課題で深海棲艦や艦娘に関するレポートを書かなきゃいけないとか。志望の大学で鎮守府制度辺りが試験科目に含まれていて、受験勉強の一環だったとか。

────例えば、ニシズミ自身が深海棲艦と戦うつもりだった、とか。

(………………それも、昨日今日に思い立った話じゃない。ニシズミは、多分もっと前から奴等と戦うと決めていた)

我ながら、crazyな"妄想"だ。深海棲艦や艦娘に多少詳しいってだけで「ソイツが戦争に行こうとしている」だなんて、理論の飛躍にも程がある。
それこそ、常に軍靴の幻聴を聞きながらHystericに平和を叫ぶ連中と、イカれ具合では同じようなレベルだろう。

けれど、もしも"そう"だったとしたら。

何故、Boonの座学を受け(させられ)ていた時から、たまにアイツの周りで妙な空気が流れていたのか。

何故、「戦車道に秀でている"だけ"の女子学生」が、このイカれた状況にすぐさま───ただ受け入れるだけではなく、的確な戦況分析ができるほどまでに順応できたのか。

そもそも何故、戦闘への参加にここまで積極的だったのか。

これらの疑問に対して悉く、「合理的な解答」を用意できる。

できて、しまう。


569◆vVnRDWXUNzh319/08/26(月)23:03:16xpk (2/4)

学園艦を守るため、この場を生き残るため。別に、タカギやキタカタに語ったアイツの言葉が嘘だとは思わない。

だけどそれは、ゴールではなく"通過点"だ。ニシズミの目標は、この状況からの生還で終わらない。
だからこそアイツは、率先しての陣頭指揮という明らかに"キャラじゃない"行為を積極的に実行した。

ただ生き残るだけではなく、深海棲艦との実戦経験を積むというまたとないチャンスを無駄にしないために。

「……………Shit」

小さな、自分でも本当に口にしたのか疑わしくなるほど小さな声で呟く。

別に、ニシズミが"この後"でどうなろうが、関係のない話だ。
何処とも知れない遥か遠方の地で奴等の砲撃に吹き飛ばされようが、マジモンの英雄と化して世界的に祭り上げられようが、あのイカれたMasochist Bearに全財産を突っ込もうが、それはニシズミ個人の選択の結果でありアタシには関係ない。
アタシは、この地獄から生きて出られればそれでいい。寧ろ、トランス状態で軍人顔負けの指揮官がいるというのはその目的にとって好都合ですらある。

だが一方で、その指揮官の目が、既に「此処ではない何処か」を見据えている(かも知れない)という事実が、妙に不安を掻き立てる。

それに、アー、何て言ったらいいかしら。

やっぱり友d…………、見知った顔がバカで命知らずな計画をしている可能性があるのに、ダンマリ決め込むってのは寝覚めが悪いのよね。

(…………つっても、現時点でアタシにできることなんてないけどね。仮に「そう」だったとして)

大した付き合いがあるとは到底言いがたいアタシでも、ほんの少し材料が揃うだけでこれぐらいの推測はできたのだ。
ならば、Goosefish-Teamの面々やアンズを筆頭に、学園艦ではより日常的にそれらの兆候を察する機会があった筈。加えて最近は、大学選抜との試合や例のマゾグマ繋がりで島田流のところのガキんちょとも仲が良いと小耳に挟んでいる。

これらの連中が全員、その変化に気づかないというのはちょっと考えづらい。にもかかわらずニシズミの"症状"がこれだけ進行しているというのは、つまり「そういうこと」なのだろう。


570◆vVnRDWXUNzh319/08/26(月)23:04:21xpk (3/4)

そもそも、身も蓋もないことを言えば本当に「そう」なのかどうかさえ結局は解らない。

アタシがここまでしてきた考察は全て類推に過ぎず、何の根拠も裏付けもない。ニシズミの行動に対する疑問点への"合理的な解答"とやらも、本人に「こじつけだ」と否定されればそれまでだ。
強いて言うなら「女の勘」はこの考察が正しいと直感しているけど、観測気球による補正抜きの勘に何処まで信憑性があるかは自分自身でも大いに疑わしい。

だいたいその「女の勘」とやらの精度が本当に高ければ、そもそもこの艦に乗ってなかったでしょうし、ね。

(はっ、深海棲艦の領海内侵入と学園艦の占領なんて前代未聞の事態を察知できない勘なんざ不良品もいいところ───────)

…………………。

前代未聞の、事態?

「………………………ねぇ、アンズ。日本って、艦娘を何隻ぐらい保有してたかしら?」

「んぇ?ごめん、あんま覚えてないなぁ。確か20000隻は越えてたと思うけど」

「現時点では、23769隻ですね。さっきの陸地に対する艦砲射撃と爆撃で"轟沈"がでていなかった場合ですが。

揚陸艦のあきつ丸さんや潜水母艦の大鯨さんなどの特殊艦を除いて最も艦種・隻数が少ない潜水艦の皆さんでも、150隻以上が配備されています」

アンズの解答に、直ぐ様ニシズミが正確な修正を加える。艦種毎の配備数まで記憶しているとは全く恐れ入る限りだが、その詳細な答えは、却ってアタシの"最悪な想像"を肯定するものだった。

確かに、"学園艦の占拠"の方は前代未聞だ。だが"深海棲艦の領海侵入・本土上陸"については、直近でも考えうる限り最悪の実例────さっきアンズも挙げたドイツの一件が発生している。
そんな中で鎮守府や自衛隊が何の対策も立てていないというのは、どう論理的に考えてもあり得ない。

無論タカギがいう通り、クソッタレな"市民運動"とやらへの配慮で水際迎撃線の構築が難しいという一面はあっただろう。だけど、ならば尚更防衛側は"接近、上陸させない"ことに最大限リソースを割こうとしていた筈だ。


571◆vVnRDWXUNzh319/08/26(月)23:07:41xpk (4/4)

深海棲艦が"艦種を問わず潜水できる"という話が本当なら、それでも日本と言えど全方位が事実上の最前線にあたる為完璧に封じ込めることは難しい。

ただ、艦娘の絶対数が足りないか保有すらしていない他国と違って、そのリスクを最大限に軽減することはできる。
仮に潜水艦型の艦娘でカバーしきれなくても、戦艦や空母にも対潜警戒用の装備ぐらいあるだろう。海上自衛隊も20隻超の潜水艦隊を保有しており、直接の戦力とまではいかずとも索敵網の強化程度は可能な陣容と見ていい。

そして、にもかかわらず今回の襲撃は発生した。

(…………いくら敵が神出鬼没かつ無尽蔵の化け物だとして、"本土から目と鼻の先の海底"に潜む数十~数百隻規模の艦隊が、その兆候さえ掴まれないってあり得るの?)

無論アタシは所詮トーシロで、考察対象は突然世界中への侵略を開始したUnknownのモンスターだ。アタシが、或いは人類が知らないだけで、一見不可能に近いこの状態を発生させ得る何らかの特性や技術を持っていたとしてもおかしくはない。

それを踏まえた上で、「人類側の常識」に当てはめて考えた場合。それでも、一つだけ…………少なくともアタシが思い付く限り、この状況を作り出す方法がある。

もしも、"誰か"が意図的に、海上防衛網のどこかにパッと見はわからないほど巧妙で小さな傷をつけていたとしたら。

もしも、"誰か"が計画的に、深海棲艦を領海内へ誘引していたとしたら。





もしも"誰か"が─────この国の、鎮守府や政府に勤める"誰か"が、今回の襲撃事件が起きることを望んでいたとしたら?


572名無しさん@おーぷん19/08/27(火)10:51:01DeS (1/1)

お疲れ様です


573名無しさん@おーぷん19/08/28(水)09:58:48Qe2 (1/1)

無いだろうけど
勘のいいガキは嫌いだよパターンまっしぐらでちょっと笑った


574名無しさん@おーぷん19/09/24(火)12:09:34exw (1/1)

マッ鎮の方の更新もあったのに見逃してた…ロシアの顛末も海軍は伏せようとしとったのか


575名無しさん@おーぷん19/11/27(水)10:47:29iXB (1/1)

まだかなー


576◆vVnRDWXUNzh319/12/12(木)23:09:52FCs (1/3)

身体の中で響く、ザザザって感じの砂嵐のような音。それが、凄まじい勢いで引いていく「血の気」によるものだと気づくのに、幾らかの時間を要した。

そりゃあ、世界が手に手を取り合ってあのディープワンどもと戦っているかと問われれば答えは即答で"No"だ。ロシアと旧EU陣営はベルリンの後もいがみ合い、イギリスには相変わらず数えきれないほど舌がついていて、北朝鮮は偉大なる総書記閣下サマを筆頭に今日も通常営業中ときた。
中東やアフリカの内陸部じゃ、我らがアメリカ海兵隊はM16をもっぱら"同族"の眉間に風穴を開けている。

日本にしろ、別に世界中から手放しで称賛され好かれる人気者ってワケじゃない。時代遅れの帝国主義にとりつかれている中国からすりゃ事実上の覇権国家になりかけている島国の存在は眼の上のコブだし、実際この二国は戦争が始まってからも外交上で何度も衝突してきた。
ここ数年で"高額くじに当たったあとの自称親戚"のように増えまくった同盟国や支援団体の中にも、内心では「艦娘大国」の躍進を快く思ってない連中は山ほどいるだろう。

でも"これ"は、そんな、「外交上の摩擦」を理由に起こしていい事象のレベルを明らかに越えている。

艦娘は、深海棲艦という化け物を真っ向から打ち倒せる唯一無二の存在だ。だがその数は、敵が有する物量に対して明らかに世界規模で不足している。日本以外の国や団体が、独自に艦娘の製造・配備方法を確立したなんてニュースもアタシが知る限り流れたことはない。

そんな状況で、Silver Bulletを安定的に生産・供給できる世界でただひとつの国が、もし"ついさっきニシズミが提示したような結末"を迎えたとしたら?
………艦娘それ自体についての知識には乏しいアタシでも、Keter-Class-Objectの収容違反発生より酷いエンディングは容易に想像がつく。

だから、アタシの脳裏をよぎった"妄想"は「理論的」にはありえても「論理的」にはあり得ない。
眼の上のコブを除去したいからって、そのコブに拳銃を押し当てて脳みそごと吹っ飛ばせばそれはFoolを通り越して最早Crazyだ。
ましてや、日本国内の、鎮守府や政府の関係者だなんて尚更あり得ない。ドン=ドーラ―だって、きっとこんな陳腐なシナリオは鼻で笑って紙屑籠に投げ捨てるでしょうよ。

だが。

(……………………………Jesus)

あり得ない妄想の筈なのに、Crazy極まりない愚行の筈なのに、まるでそれが"偶然にもたどり着いてしまった真実"であるとでも言いたげに。

胸の内で、女の勘が激しく騒ぎ立てる。


577◆vVnRDWXUNzh319/12/12(木)23:12:00FCs (2/3)

「…………………Hey, ちょっと聞いてh」

「──────シッ」

自分でも何故、この事を話そうと思ったのかは解らない。このバカげた「妄想」をアンズたちに語ったところで、現状の打破には何の役にも立ちやしないというのに。

あるいは、無意識に誰かからの否定を求めたのだろうか。それは実際あり得ないことだという明確な否定を、アタシの「観測気球抜きの勘」がいかに的はずれで役立たずかという確実な証明を。

ただ、仮にそうだったとして、その試みは皮肉なことにそれをもたらしてくれる可能性が最も高い人物によって遮られたけど。

「あの、西住ちゃん、どったの?」

「………………」

小声でアンズが問いかけたけど、ニシズミは微動だにしなかった。彼女は床に跪いて微かに首をかしげ、真剣な表情で耳元に手を添えている。
まるで、敬虔なクリスチャンが足元から聞こえてくる神の啓示を必死に聞き取ろうとしているかのように。

<(' _';<人ノ「………………」

li イ; ゚ -゚ノl|「………………」

「……………………うん」

時間にして、恐らく数十秒。ニシズミは瞑目し、何に納得したのか一度だけ頷くと──────咽頭マイクのスイッチをいれた。

「防衛区画内、各位に伝達。今から出す指示に従ってください。






これより、本車を主力として部隊を編成し居住区の敵性戦力を強襲します」



578◆vVnRDWXUNzh319/12/12(木)23:16:13FCs (3/3)

一瞬、未だ続く深海棲艦による艦砲射撃以外の、全ての音が止まったような気がした。ただ、その静寂は本当に「一瞬」で破られる。

≪【Hawk】より指揮車"鮟鱇"、指示を了解した。居住区の状況は先程と変わらず。跳躍個体の再出現も見られない。尚、観測された「戦闘」は蛇行傾向でこちらに接近してきていると思われる≫

「CTより鷹さん分隊、ありがとうございます。引き続き戦闘箇所の移動は最優先で報告してください。また、敵駆逐艦や空母の動向も注視を。

ほぼないですが、もしこちらに照準を向ける、或いは艦載機が投入されるような動きがあった場合直ちに作戦を中止します」

≪格納庫より指揮車、強襲に随伴歩兵は必要か?カツカツだが一個分隊はなんとか準備できる≫

「いえ、格納庫の保安官の皆さんは待機、避難者の方々の掌握と固守態勢の維持に勤めてください。万一敵艦に動きがあった場合、迅速な避難誘導が必要になります。

ただ、可能ならばバリケードから二名か三名、射撃が得意な方を随伴戦力として選抜していただけると助かります」

(*‘ω‘*)≪西住ちゃん、外に出るつもりなら車両指揮者の交代を≫

「すみません、それはできないです」

(*‘ω‘*)≪……………なら、随伴は私と瓜生でいく。それなりに自信はあるっぽ≫

<ヽ`∀´>≪本官の意思完全無視ぇ…………まぁ異論はないニダ。二田瓜生巡査、指揮車"鮟鱇"に同行するニダ≫

≪左翼線バリケード【Pig】より指揮車、現在周辺に敵影はなし。引き続き厳戒態勢を維持する≫

「お願いします。【ヌタウナギ】が出現した場合、"暴徒"はバリケードに誘引しての白兵迎撃に徹し全火力をそちらの撃破に回してください。この方針は、私が帰還するまで継続を」

≪了解≫

次々と下される的確な指示と、それに応える声が無線越しに飛び交う。外から響く足音や作業音が、俄にせわしなさを増す。

反論の声は上がらない。キタカタは微かに抵抗を示したけど、それはあくまで"子供が戦争に参加すること"への拒絶であって、彼女も指示それ自体に疑問を抱いている様子は見られない。

そしてそれは、大人連中に限った話じゃない。

≪みぽりん、Ⅳ号だけで大丈夫?レオポンさんチームが整備してくれたから、ポルシェティーガーとⅢ?は動かせるようになっているけど≫

「旧式とはいえ、機甲戦力を複数投入すると流石に深海棲艦に余計な刺激を与えてしまうかもしれません。今回はⅣ号のみで突貫します」

≪こちらナカジマ。西住さん、そっちが戻ってくるまでに火力支援用の車両は出しておいた方がいい?≫

「今後を踏まえて、稼働できる機甲戦力が複数あることもできれば敵に見せない方がいいと思います。各車整備は継続しつつ、引き続き屋内に待機。

代わりに、バリケード各方面へ新たに機銃の配備を。弾薬も最大限投入できるようにしておいてください」

≪あいよ!≫


579名無しさん@おーぷん19/12/12(木)23:50:39XaV (1/1)

お疲れ様?


580◆vVnRDWXUNzh319/12/13(金)00:29:03T4q (1/2)

保安官も、この学校の生徒も、この場にいる誰もが、ニシズミの提示した作戦を受け入れ、従っている。まるで、それが"当然のこと"であるかのように。

こと"戦争"に関しちゃド素人数人と競技用戦車のみで、化け物が跋扈する市街地へ突貫するというイカれた作戦を、その根拠が録に示されていないにも関わらず。

こんな状況なのだから、年齢云々じゃなくて能力の有無で対処に当たる人員を選ぶべきだという意見は変わらない。また、この中でその能力に最も秀でているのがニシズミであることも確かだ。
そして、コイツが勝算皆無の無謀なGambleを、それも自分のみならず他人の命まで質に入れて挑むような人間じゃないこともよく知っている。

けど、幾らなんでもここまで全ての判断をニシズミ一人に委ねるのは危険すぎる。
別にアイツはアテネの化身でもハンニバルの生まれ変わりでも、全知全能の神でもない。例え能力や才能に嫉妬すらできないほどの差があったとしても、アイツはあたしと同じだ。ただのSchool Girlだ。ならば、絶対にニシズミが間違えないという根拠はどこにある。

あいつに依存し、全てを押し付けていいという道理がどこにある。

「ちょっ………!ニシズミ正気!?流石に理由ぐらi」

「角谷先輩、Ⅳ号の動作状況を報告してください。高木巡査は主砲弾の残余を!」

「Ⅳ号の稼働に問題なし!いつでもいけるよん!」

<(' _'<人ノ「残弾点検も完了!あんま撃ってないし継戦能力は十分だね」

li イ; ゚ -゚ノl|「し、照準に関してはなにか指示はありますか………?一応、砲塔稼働に問題はありませんでした…………」

「皆さん、ありがとうございます。主砲については居住区の敵駆逐艦に照準。仮に"格納庫"側への動きを見せた場合、最悪発砲してこちらに注意を引きます。

アリサさん、無線には問題ありませんでしたか?」

「っ、ニシズミ聞きなさい!アンタちょっと焦りすg」

「アリサさん、無線に問題は?」

「………………。

無かったわ。レイゼンたちの呼び掛けの結果から考えて、バリケードの外に出たあとどれだけ使い物になるかは眉唾だけど」

「そうですか、ありがとうございます」

さっきと違って、今度は明確に、意図をもってアタシの反論はニシズミに遮られる。気圧されてそう答えると、彼女は満足げに笑い、頷いた。

笑ったのはあくまで、口許だけだったけれど。


581◆vVnRDWXUNzh319/12/13(金)00:56:13T4q (2/2)

「此より、IV号並びに随伴歩兵は居住区へ侵入。観測されている戦闘地帯に突貫し、当該区画の友軍戦力と合流します。

時間に限りがあるので詳細は今は言えませんが、成功すれば私たちがこの危機を切り抜けられる可能性が大きく上がります。

必ず成功させます、だから皆さん、どうか信じて、私たちを待っていてください」

情けなさに自己嫌悪を抱き俯くアタシの横で、ニシズミは隊長席に座りながら咽頭マイクのスイッチを入れて語りかける。決して大きな声ではない、けれど、不思議と耳に残る声で、その言葉は一つ一つが力強く、聞く者を安心させる優しさに満ちている。
マッチしたBGMさえ用意できるなら、きっとハリウッド映画でハイライトを飾る名シーンの出来上がりだろう。
歓声こそ上がらなかったけれど、この区画で彼女の"演説"を聞いたほぼ全員が胸の内を盛った犬より激しくイキり立たせているのはきっと間違いない。

少なくとも、今のアタシ以外は、だけど。

無線機からすら場違いな熱気が漂ってきたような気がして、アタシは思わず顔を背けた。結果としてその動きは、隊長席のニシズミの顔を見上げる形をとらせた。















今まさに、声高に号令を下そうとする"大洗の軍神"の眼は、相変わらず決意と使命感に輝いていて。

「【ガッツン作戦】、開始します!!

パンツァー…………フォーーー!!」

その視線は相変わらず、ここ以外のどこか遠くを見ているような気がした。


582名無しさん@おーぷん19/12/13(金)09:25:55zJs (1/1)

おつかれー


583名無しさん@おーぷん19/12/13(金)21:32:38n62 (1/1)

更新キター!
超乙です


584名無しさん@おーぷん19/12/15(日)11:28:333GD (1/1)

みぽりんがあまりにも別人で草
およそ現代日本では考えられない極限状態で仲間の存在によって芯の強さが上手いこと発揮された結果覚醒したって感じだけど……欲を言えばその内面の描写を見てみたかったな
これからあるのかな?だとしたらすまん
何にせよ乙


585名無しさん@おーぷん19/12/16(月)16:24:59zC1 (1/1)

楽しみにしてた、更新乙です

ニシズミはやっぱりドイツを…


586名無しさん@おーぷん19/12/16(月)18:21:34eTh (1/1)

更新乙です!続いて良かったw
かなり賭けだけど市街地組みも救われるなあ…


587名無しさん@おーぷん19/12/19(木)23:05:369vo (1/1)

更新乙でした!
生きててうれc


588◆vVnRDWXUNzh320/02/11(火)01:13:12itk (1/4)

.






西住ちゃんがこの学園に来てから、私は何か一つでも、彼女に報いられたものはあるだろうか。

ずっと私は、西住ちゃんに助けられてきた。戦車道を復活させる時も、初めての試合に望んだ時も、全国大会の時も、大学選抜戦の時も。

いつだって、彼女の背中は私達の前にあった。私達の道を、それを当初は望んでいなかったにも関わらず、彼女は切り開いてくれた。

いつの日だったか、西住ちゃんは私に「ありがとう」と言った。自分の戦車道を見つけられたのは私のお陰だと、私が声をかけたから自分は仲間を得られたのだと。

違う、違う、違う。

自分自身がよく解っている、私は何もしちゃいない。彼女が口にした感謝の源は、全て彼女自身の力が引き寄せたものだ。彼女の勇気が、彼女のひたむきさが、彼女の努力が、彼女の強さが、道を創り、人を引き寄せた。その過程に、私という存在は一欠片も関与してはいない。
仮に私がそうしなくとも、彼女はきっと自分自身で立ち直り、再び自分の道を歩み始めていただろう。私は、彼女が歩む道にただ障害物を置いて不要な回り道をさせた邪魔者だ。

なのに私は、彼女に何一つ返せていない。優しさに甘え、言葉に寄りかかり、胸を罪悪感が過る度に自分を誤魔化して、今日まで理解者の一人であるが如く振る舞い続けてきただけ。

そして今。この期に及んで尚、彼女の"歪み"に気づいて尚。


私はまた、彼女に寄りかかろうとしている。


589◆vVnRDWXUNzh320/02/11(火)01:16:55itk (2/4)

解ってる。あーりんが、何を言おうとしたのかぐらい。

解ってる。今の西住ちゃんが、私達を見ていないことぐらい。

…………解ってる。私とあーりん、どっちの姿が彼女の「友達」として正しいかぐらい。

なのに私は、小さな歪みを抱えた彼女を、それに自分で気づかず、一見"いつも通り"に振る舞う彼女を、地獄のような有り様の中でも"いつも通り"に戦おうとする彼女を。

それが唯一の道だと言い訳しながら、他に選択肢はないと逃避しながら、止めようとしなかった。

結果だけ見れば、正解ではあったかもしれない。私達はこの惨状の中で生き残っているどころか、保安官と民間人のみの集団で比較的安全な空間の確保と防衛線の構築すら成し遂げているのだから。

けれどそれは同時に、私達の西住ちゃんに対する"依存"を決定的なものにした。

既に二度この学園艦を救っている彼女が、「三度目」の奇跡を見せてくれるかもしれない。この空間の誰もが、そんな期待を抱いている。
今、この空間に正気を──これを"正気"と呼ぶべきは甚だ疑問だけど──もたらしているのは、これら"大洗の軍神"に対する縋りつくような依存であり、盲目的な信仰だ。故に、それを揺るがすわけにはいかない。

西住ちゃんの"絶対性"に、それに対する"信仰"に、ほんの微かにでもヒビが入れば、支えがなくなった正気は瞬く間に崩壊し、抑えがなくなった狂気は一瞬で私達を蝕むだろう。
実際既に、"中心"である───しかもただの女子高生に過ぎない彼女が危険に晒される作戦にあーりんと北方巡査以外録に疑問を呈せないほど、場の空気は熱されてしまっている。

その、逃げ場のない"中心"に。先のない"先頭"に。

様々な言い訳を並べ立てて、私は自分ではなく、彼女を立たせてしまったんだ。


590◆vVnRDWXUNzh320/02/11(火)01:18:35itk (3/4)

(…………何が、"報いられたものはあるだろうか"だか)

自嘲の笑みが口許に浮かぶ。解りきったことを、今さら自問して、私は何がしたい?

結局私は、"なにもできなかった"じゃないか。最初に廃校を言い渡された時も、大学選抜の時も、今も。誰も、どこも、何も護れなかったじゃないか。勝ち取れなかったじゃないか。

まぁ、うん。もう「過ぎたこと」だ。後悔先に立たずってね、今さら過去の行いに懺悔を並べ立てたって、それでなにかが変わるわけじゃない。
今できることに全力を尽くせってね。

幸いなことに、あーりんは西住ちゃんの異変に気づいている。それに、あんこうチームを筆頭に戦車道履修の皆は、仮に西住ちゃんが揺らいだとしてもきっと彼女を支えてくれる。

五十鈴ちゃん、秋山ちゃん、武部ちゃんが新生徒会組も全員格納庫に残るなら、多少の混乱も抑えられるはず。


591◆vVnRDWXUNzh320/02/11(火)01:20:24itk (4/4)


.



















なら、問題ないっしょ。


"何もできなかった前生徒会長"が、一個ぐらい最後に無茶をしてもさ。


592名無しさん@おーぷん20/02/11(火)11:51:03qN0 (1/1)

お疲れ様です


593名無しさん@おーぷん20/02/12(水)23:05:06XDy (1/1)

更新きてた!
ありがとうー


594名無しさん@おーぷん20/02/13(木)19:20:50ak7 (1/1)

更新乙です


595名無しさん@おーぷん20/02/18(火)14:17:45JiE (1/1)

更新乙!


596名無しさん@おーぷん20/05/13(水)10:55:25PCR (1/1)

わたーしまーつーわ


597名無しさん@おーぷん20/05/18(月)02:02:14TV4 (1/1)

いつーまでーもまーつーわ


598名無しさん@おーぷん20/05/21(木)00:25:30sea (1/1)

たとーえあーなたーが


599名無しさん@おーぷん20/05/21(木)06:07:26jrD (1/1)

かきこんでーくれなくてーもー


600名無しさん@おーぷん20/05/27(水)20:28:25YoF (1/1)

まーつわー!!!!!!!!!


601◆vVnRDWXUNzh320/05/29(金)09:44:519XS (1/9)

.





('(゚∀゚∩

「…………………」

中央のタイマー部分を丸ごと占領するような形で、その絵は描かれていた。故に、設置作業をしていると否が応でも正面切ってのにらめっこを強いられる。

当然、愉快な気分とは言いがたい。破壊兵器にあるまじき満面の笑みだけでも十二分に気にくわないが、その横に吹き出し付きで綴られた「なおるよ!」の五文字が尚更“愉快ではない気持ち”を掻き立てる。

ただの塗料の集合体にこんなことを言っても意味ないのは解っているが、それでも声を大にして問い詰めたい気持ちだ。

自分の役割と対極の台詞を吐いて、お前はいったい何がしたいのか、と。

≪ハ、ヤ、ク、シ、ロ≫

(…………おっと)

常人には理解しがたい前衛的なセンスへの考察で、どうも手が止まっていたらしい。バイザーの右端で"伊-58"の文字が光り、途切れ途切れの電子音声が耳朶を打つ。

潜水艦娘といえど、流石に水中で喋るのは至難の技だ。そのため私達は、奥歯に小型通信機を装着してモールス信号の要領で噛み合わせることで意思疏通を行う。
………それなりの遠距離でも届くので便利であることは間違いないが、私は無駄に発信者に似せられるこの無機質極まりない機械音声があまり好きじゃない。

やっぱり、女の子の麗しい声ってのは生で聞いてナンボよ。愛らしく艶やかな嬌声であれば尚良しね。


602◆vVnRDWXUNzh320/05/29(金)09:45:489XS (2/9)

「ヒ、ト、マ、ル」

一通りの作業を終え、最後の仕上げにタイマーをセット。私自身その場から離れつつ、散開のハンドサインと共に起爆までの時間を仲間に伝える。

7、8メートルほどの位置で私が艦艇に身を伏せたのと、設置箇所で強烈な光が瞬いたのはほぼ同時だった。

(ぅおっ、と………!)

張り付いている全長数キロの船体が軋む程の衝撃。深海棲艦との戦いでは経験したことがないレベルの圧力波が全身に叩きつけられ、一瞬息が詰まり視界が眩む。

着ている“海軍”印のアーマーがなきゃ、私が艦娘であることを差し引いても気絶は免れなかっただろう。下手をすれば小破程度の物理的損傷を負っていたかもしれない。

そして、光が収まり改めて爆心地に目を向ければ、ぽっかりと口を開ける四方5メートル強の穴。

(ひぇえ…………)

思わず舌を巻く。ため息が、ゴポゴポと音をたてて気泡に変わる。

確かムルマンスクじゃ、陸で使われたコイツの試作型がホ級を一発で木っ端微塵にしたとか参加したしおいが言ってたっけ。聞いたときは眉唾物だと思ってたけど、この光景を見る限りだと強ち全面的に嘘っぱちってワケでも無さそうだ。

≪ト、ツ、レ≫

(ハイハイ────っと?)

「技研の本気」の凄まじさにドン引きする間もなく、耳元でがなり立てる機械音声。だけど科学の粋によって抉じ開けられた“侵入口”に泳ぎ出す直前、赤色の明滅と共に響く耳障りなアラームが思考と動作を寸断する。

まぁ、あれだけ派手にぶちかませばそりゃ気づかれるか。寧ろ、全く察知されることなくここまで行程を進められただけでも御の字だ。

「テ、キ、ミ、ユ」


603◆vVnRDWXUNzh320/05/29(金)09:47:039XS (3/9)

奥歯を鳴らし、迫り来る“お客様”の存在を仲間に伝達。同時にアーマーの袖口から魚雷発射管と、捕鯨銛を模した水中用白兵装備を展開。

視界の左端、バイザーに表示されたレーダーでは、敵影を示す赤点の大半が自陣のど真ん中に現れた私達“艦娘”から蜘蛛の子を散らすように離れていく。
向かってくるのは20程で、足並みも揃っているとは言い難い。陣形や艦数もバラバラで、奴等の混乱ぶりが伺えた。

「カ、カ、ソ、150」

この内、最も距離が近い三隻の方に向き直る。潜水艦娘の眼なら既に視認可能な距離まで迫っていたそれらの内訳を報告しつつ、こっちから出迎えてやるべく水を蹴った。

『『『─────!?!?』』』

シュノーケルのようなもので口許を覆い、小脇に駆逐級を思わせる形状の魚雷発射管を抱えた、潜水カ級。

頭に砲塔つきの偽装を被り、抱える魚雷管がカ級と比べて二つに増えた、潜水ソ級。深海棲艦の潜水艦種は全てヒト型のため大きさから判別することはできないが、目や艤装の色から判別するに三隻とも通常種だろう。

視認した段階ですら、いつもは憎悪一辺倒の表情に明らかな困惑を浮かべていた三隻。私が突貫を開始した今、そこに驚愕と恐れも加わる。

先ずは中央のソ級が、次いで両翼のカ級たちも、見えない壁にぶつかったかのような急停止の後反転する。そのまま陣形もなにもなく逃走を開始した連中の背を、此方も更に速度を上げて追う。

(逃がさないっての)

速力はこちらが上で、更に向こうは停止からの反転運動で再加速の真っ最中。当たることはないにしろ魚雷の一つでもばら蒔いていれば少しは逃げ切れる可能性もあったけど、最早後の祭りだ。

(敵の船底に、大穴開けてやるんだから!!)

決め台詞は口にしたところで気泡に変わるだけなので、胸の内だけで留めておく。伸ばせば手が届くような位置まで近づいたカ級の背に向かって、銛を振りかぶって全力で突き出す。

『────ッ………───…………』

船底ではなく心臓に大穴が開き、カ級の口元から大量の気泡が吐き出された。性的な意味での夜戦で絶頂を迎えたときみたいに一瞬ピンッ!と伸ばされた手が、すぐに力を失ってダラリと垂れ下がる。

(もう一丁!)

『ゴポッ────………』

沈黙したカ級の遺骸を蹴って外し、勢いを駆って体を回転させ隣に並ぶもう一隻の喉笛に銛の「あご」を打ち込む。そのまま刃を引くと、もがき苦しむカ級の傷口からドロリと青黒い体液が大量に吹き出した。


604◆vVnRDWXUNzh320/05/29(金)09:48:119XS (4/9)

『────────ッ!!!!』

僚艦二隻を一瞬で沈められ、ある意味ソ級は観念したのかもしれない。せめて相討ちにとでも思ったか、再度私の方に反転した奴の両脇には剥き出しの魚雷が二本ずつ抱えられていた。

(おっそーい)

けれど、その時点でこっちは“詰め手”に移っている。某痴女系ファッション駆逐艦のごとく脳内でぼやきつつ、銛を二度振るう。

『ギッ,ガッ』

切断された両腕から、魚雷が零れ落ちる。激痛に思考を飲み込まれ起爆指示を出せずにいるであろうソ級の眉間に銛を突き立てると、奴の眼から青い光が消えてその体がゆっくりと沈んでいく。

すぐさま背後を振り向いて身構える。だが幸いにして“やったか!?系のお約束”が再現されることはなく、さっきまで悶えていた二隻目のカ級も今は全身を弛緩させて沈み行くところだった。

新手の襲来に対する警戒は続けつつ、レーダーに改めて眼をやる。
爆破直後に散開した大半の赤点は更に遠くへ散らばりつつあり、向かってきていた潜水艦連中も先陣三隻が立て続けに沈められたことで動揺したか、動きが明らかに鈍っている。完全に動きを止めた艦影も少なくない。

(オッケー、狙い通り…………い゛っ!?)

≪コ!ウ!タ!イ!

ハ!ヤ!ク!≫

自身の“戦果”に悦に浸りかけた私を、現実に引き戻す機械音声。別に大きさや響きが変わったわけではないけれど、一音ごとの間がいつもより明らかに長い。通信主の怒りの大きさが伺い知れて思わず身を竦める。

(………わぁお、怖いわね)

まぁちょっと深追いが過ぎたのも確かだ。ある程度目的は果たしたワケだし、長居は避けておこう。

それに、後退しながらでもできることはある。“退がれ”とは言われたが“もう攻撃するな”とは言われていない。

(────さぁ、戦果を挙げてらっしゃい!)

水を蹴って浮上しつつ、背泳ぎのような体勢で左手の艤装を構える。
61cm四連装酸素魚雷、護身用にと支給された虎の子の16発。その全てを、順に装填し四方八方へ片っ端からぶっ放す。


605◆vVnRDWXUNzh320/05/29(金)09:49:279XS (5/9)

艦娘と深海棲艦の間で、潜水艦戦はそもそも起きること自体が皆無に近い。互いにヒト型の為小回りが利きすぎ、命中弾が殆ど期待できないからだ。

用途はせいぜい進路妨害と目眩まし程度、海上における砲雷撃戦のように、弾速や射程でカバーできる範囲も大いに限られる。
無駄弾ばら蒔くぐらいなら“本来の使い方”でしっかり戦果をあげろというのが、艦娘にとっての常識。

ウチのゴーヤや青ヶ島の伊-19のように、潜水艦相手の雷撃戦で数多の戦果を挙げる猛者もいるにはいる。だが、少なくとも私はそれが“できる側”の艦娘じゃない。

故に私の酸素魚雷は、凡人らしく最初から──────“本来の標的”にのみ向けられている。

(ビンゴッ!!)

海の中をほんの僅かに震わせる小さな衝撃と下方の水底で微かに瞬くいくつもの光。レーダーを見ずとも、雷跡を追わなくても、それだけで解る。全弾命中だ。

深海棲艦は確かに全艦種が水中に潜れるという凶悪な特性を持つけど、それは“自在に動ける”とイコールでは結ばれない。艤装は使えず、動きは鈍重になり、立体的な回避運動も録に取れなくなる。
通常の艦船相手ならいざ知らず、海の中同士ならヒト型だろうがへ級flagshipだろうが私たちにとっては等しくただの的と成り果てる。

(まっ、あれだけ密集されて一発でも外すなら“海軍”艦娘なんてやってられないわね)

とっとと浮上して反撃体勢でも取ったなら私も下手な手出しは回避したけど、“陸”からの砲撃や空爆の的になるのを恐れたか。【Cubs】と【Blizzard】の海上降下も動きの牽制に一役買っただろう。
弾薬の誘爆や巻き込み沈没等も起きたらしく、“感触”としては二十隻強は沈められたようだ。

押し出してきていた潜水艦連中も、今度は全ての艦影が隊列を乱して動揺を隠そうともせず下がっていく。

(戦果は上々、ってね~♪)

自画自賛したくなる、完璧なゲームメイク。全ての目論見を余すことなく満たし、心が浮き立つ。

文字通り自分の“頭上”で何十万という人たちが苦しんでいる事実も、バッドエンド待ったなしな世界の今の有り様も、私の高揚に水を指すことはできない。無意識の内に、鼻唄さえ漏らしている自分に気づく。

司令官やゴーヤに知られたら、不謹慎だって怒られちゃうかしら。

そんなことを自覚しつつも、私はその“不謹慎な真似”を止めることはせず、








そのまま、頭上の巨艦へ────【大洗女子学園】へと浮上し続けた。


606◆vVnRDWXUNzh320/05/29(金)09:50:549XS (6/9)

.




「ぷはっ────ぁえ?」


例の“科学の粋かつ技研のおふざけ”によってぽっかりと口を開けた大穴から、船内に突入すること数秒。水面から顔を出した瞬間、私の首根っこを誰かが鷲掴む。

「そおいやぁっ、でちっ!!」

「わたっ!?」

聞き慣れた響きの掛け声と共に、宙を舞う体。突然のことに脳がついていかず、受け身も取れぬまま背中から落下。
艦娘故の頑健さに加えて技研特性の潜水スーツをまだ着ているとはいえ、投げた側も艦娘。ノーダメージとはいかず、腰から背中にかけてじんわりと痛みが広がっていく。

「ちょっと何すんのよ、ゴー……やっ!?」

私を放り投げた犯人───潜水艦・【伊-58】、通称“ゴーヤ”は、そのまま一言も発さずに覆い被さるようにしてのし掛かってきた。
見たことがないほど真剣でギラついた眼差し、餓えた獣のように荒い呼吸、そしてこの体勢…………その、どう考えても、“そういうこと”よね?

(や、やだもうゴーヤったら作戦中にどうしちゃったのよ周りにも見られちゃうしでもそういう強引で乱暴なのも悪くiイダダダダダダダダダダッ!!)

期待と覚悟を抱く私の体をゴーヤはうつ伏せの形にひっくり返し、腰の辺りに座り直し、掴んだ両足首を思い切り引き上げはじめた。
ゴーヤが座った位置を起点として“人体として許されない姿勢”を取らされた私の体は、バキバキという「背骨が絶対出してはいけない音」ベストスリーにランクされるであろう異音を響かせる。

そう、その体勢はまさに───────


607◆vVnRDWXUNzh320/05/29(金)09:51:279XS (7/9)

!AA
 _人人人人人人人人人_
 >   ボストンクラブ  <
 >  逆海老固め  <
  ̄ Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
           ∧_∧?
          ?(#?伊-58)?
           /   ̄⌒ヽ?
       ?. lヽ〈|  ?.#lヽ、?|?__?
       ?. L___| #? L__| |_.?`ヽ?
          ?ヽ〉? ?;;? ?lヽ‐'〉 .|?
           / ?__  \/ ?.| >>
           |__,´ー-`\ \,,ノ?
     ∧二∧ ̄? ? ? ? ?`ヽ ?)?
   /(伊-168;) ?     ,// /?
 ?と⌒ ̄ ̄ ̄´ ,ィ‐!ニヽ ̄ 〈__ `ヽ?
  `⌒´ ̄ ̄ ̄´? ? ? ? ? ? ? ̄ ̄?


608◆vVnRDWXUNzh320/05/29(金)09:54:159XS (8/9)

「ちょまちょまちょま!ゴーヤ、ゴーヤ!?ギブギブギブギブ!!イムヤの体からヤバイ音聞こえてる!女の子云々じゃなくてヒト型が出しちゃいけない音が骨から、背骨から!!」

「散布!!」

「はいよ!!」

“海軍”入り以来かれこれ四年苦楽を共にしてきた仲間の悲鳴が自分の尻の下で響いているというのに、ゴーヤはこちらを見向きしない。指示を受けたイヨ───【伊-14】が、スーツのバックパックから何かを取り出し私たちが侵入した穴へと投げつける。

白い楕円形をした掌サイズのそれが床に当たって砕けた瞬間、緑色の光を纏った薄い煙のようなものが吹き出す。煙は穴の縁に沿う形で周囲を囲った後、麺棒に伸ばされるピザ生地のように穴の表面を薄く覆う。

途端、今まで轟々と唸りをあげて続いていた海水の流入が、蓋でもしたみたいにピタリと止まった。

「……………【高速修復剤】、散布並びに起動を確認。また、後続敵艦隊の接近は見られず」

「よし」

「きゅう……」

傍らに立っていた【伊-13】“ヒトミ”の報告にゴーヤが頷き、同時に拘束が解かれる。圧迫されていた私の気道も革命直後のフランス市民のごとく自由を取り戻した。

なくしてわかる宝物という言葉は、健康のみならず呼吸にも当てはまるようだ。命最高、酸素万歳。

「ゲホッ,ゴホッ…………ゴーヤ、アンタいつの間にプロレス技なんて身に付けたのよ」

「知らん。なんか身体が勝手に覚えてたでち」

此方にしっかり冷たい視線は飛ばしつつも、ゴーヤは手の結び開きを繰り返しながら心底不思議そうに首をかしげている。
実際、ゴーヤがどこでこれ程見事な動きを体得したのかは気になるところね。私たちの鎮守府も白兵戦術の訓練はやるけど、流石にプロレス技が対深海棲艦戦術として採用された覚えはない。

「……………大丈夫、なの?まだ、顔色悪いみたいだけど」

「あー心配無用でち。いつものことだから」

マスクを外しながら屈んで此方を心配そうに覗き込むヒトミ。ただでさえ眼福な光景はローアングルだと彼女の双丘がより強調され最早拝みたくなるほどだったけど、さりげなくゴーヤが間に割り入って覆い隠してしまった。

私がヒトミの「特定の部分」をガン見していたことにも気づかれたらしい。浴びせられる視線の温度は、マイナスを飛び越し一気に絶対零度まで急低下した。まぁこれはこれで興奮するけど。

「戦闘力はゴーヤたちの艦隊の中でも確かに折り紙付き、第一艦隊に次ぐレベル。ただ同時に、独断専行や“野生の勘”を優先した作戦ガン無視の動きが多い問題児、それがウチの伊-168でち。

こうして適度に締め付けて“躾”をしないと、増長して手がつけられなくなるでち」

「もう、酷い言いぐさn」

「あとコイツド変態クソレズ色情魔が原因で“海軍”送りになった問題艦だからあんまり近づかない方がいいでち」

「えっ………」

「ちょっ!?」


609◆vVnRDWXUNzh320/05/29(金)09:58:019XS (9/9)

ナチュラルに盛り込まれた「躾」という単語で想像が益々甘美な広がりを見せたのは一瞬のこと。続けて放たれる容赦ない罵倒の嵐に、反論しようと慌てて起き上がるが後の祭り。

ゴーヤの足元でヒトミは若干の怯えさえ見せながら後退り、侵入口の傍にいたイヨと伊-26───“ニム”も明らかにドン引きの表情で此方を見ている。
この中では唯一私たちと以前から付き合いがあるしおい(伊-401)も、「見慣れた光景」に苦笑いを浮かべこそすれ清廉潔白な私にかけられた濡れ衣を晴らそうとはしてくれない。

誤解、誤解よ!!イムヤはただ、小汚ない竿がついたクソ醜い生命体より清らかで美しく滑らかな身体を持った乙女が恋愛の対象になるだけだから!!
そして、そんな彼女たちの艶かしい姿や声、その他与えられる全ての行為行動気配要素液体原子に対して尊さを感じてしまうだけだから!!
※ガチのプロレス技を除く

「ゴーヤ、幾らなんでも酷くない!?その言い方じゃイムヤが見境なく艦娘に手を出す変たi「集合でち!!」

私の抗議をかき消すようにゴーヤは声を張り上げ、それを聞いたイヨ達が一度警戒を解いてこちらに集まってきた。

私以外は既に、ゴーヤも含めて全員“艦内戦闘用”の武器を手に持っている。

「イヨ、侵入口の“処理”は?」

「あのとーり」

尋ねられたイヨが、MP5を担ぎながら親指で背後を指す。目を向ければ、さっきまで口を開けていた穴は例の緑色の煙に覆われてすっかり見えなくなっている。
耳を済ますと、そちらから微かに聞こえるのは炭酸が弾けるようなジュワジュワという音。

「あと1、2分もすれば完全に修復完了だな。電探で確認していた限り、深海連中が突っ込んでくる様子もない」

「なんというか、流石は“高速”修復剤って感じだねぇ」

イヨの動きに釣られる形でイムがそちらに顔を向け、ポツリと呟く。彼女の──潜水スーツの上からでも解るほど豊満で形がよくそれでいてきっと私を夢心地に誘う弾力を兼ね揃えていると断定できる──双丘には、自衛隊の9mm機関拳銃がぶら下げられていた。

「あんなのがニムたちの体や艤装を直してくれてるって思うと、ちょっと変な感じ」

「ん?変な感じするの?怪我だったら大変だわ隅々までイムヤお姉さんに見せてみなさイダダダダダダダ」

ゴーヤにおもっくそ足を踏まれ、仲間思いな私による健全で真摯な医療行為は中断されてしまう。せっかく何のとは言わないけど触り心地とか感度とか確認するチャンスだったのに。

…………まぁ冗談はおいとくとして、ニムの言い分も理解はできる。私達艦娘がオーバーテクノロジーの塊である以上、治癒・修復に用られる物品もまた超科学の代物になるのは当たり前と言えば当たり前だ。
だが“道理”であったにしろ、厚さ数メートルの特殊合金製装甲をものの一分ほどで塞ぎきってしまうようなとんでもない劇薬を使っているという事実は改めて突きつけられるとやはりゾッとしない。
ましてや私達は、ソレを何百倍にも希釈してとはいえ経口薬や入浴剤に利用しているのだから尚更に。

仮に、その正体や原理が解っていたとしても。


610名無しさん@おーぷん20/05/29(金)20:06:26ipF (1/1)

舞ってました!
突入作戦になったのはいいけど、修復剤滅茶苦茶だなw
分かってても味方ごとってのも狂気地味てるし


611名無しさん@おーぷん20/05/29(金)21:07:06qY8 (1/1)

更新乙です!
ナオルヨ君と高速修復剤のイカれ具合よ
本当になんであのマッスルは高速修復剤使って無事なんだ?


612名無しさん@おーぷん20/05/31(日)08:29:50SJi (1/1)

待ってたぁぁぁ??


613名無しさん@おーぷん20/06/01(月)12:38:192UT (1/1)

やったー更新きた!
学園艦に増援も来た
しかし、潜水艦娘たった5隻でどうするつもりだ?


614名無しさん@おーぷん20/06/07(日)11:06:45RMe (1/1)

>>611
そりゃ筋肉は裏切らんからよ


615名無しさん@おーぷん20/06/08(月)18:43:52RpE (1/1)

更新乙です
生きてて嬉c


616◆vVnRDWXUNzh320/06/13(土)23:17:23S9L (1/3)

「結局さ、これの正体ってなんなのかな?前技研の人たちに聞いたけど、はぐらかされて答えてくれなかったし」

「さぁ…………噂はいろいろあるけどな。アメリカの核実験の副産物だとか、アフリカの奥地にある秘薬を解析して量産したものだとか、実は某財団が実在して高速修復材は本当はそこで収容されているオブジェクトの一つだとか、ホントいろいろ」

「うーん………」

イヨと言葉を交わしたあと、しおいが小さく唸りながら小首を傾げる。可愛い仕草だけど、彼女の背中に担がれたH&K MG4のいかつい風貌とのミスマッチ具合が尋常ではない。

「ねぇ、ゴーヤはどう思う?」

「興味ないでち」

更に話をふられるが、ゴーヤはバッサリきっぱりと一刀両断した。

真面目な性分の影響で元々作戦中はあまり愛想がいい方じゃないけれど、この話については本当に心底無関心なのだろう。作戦概要でも確認しているのか、バイザーを操作する手を止めずしおいには視線すら向けない。

「効果と、それがゴーヤたちに役立つ事が解れば十分でち。出所とか由来なんて追求したところで役に立たん」

「それは一理ある…………かな」

同意を示したのはヒトミ。しゃがみこんだ体勢のまま、自分が手の内で弄ぶM93R【ベレッタ】を物憂げな表情で眺めている。色気がたまらん、場所が場所ならむしゃぶりついてるわ。

「例えばもしも本当に某財団があったとして、オブジェクトナンバー振られて“確保、収容、保護”されちゃう側なのは………私たちも同じ。クラスがThaumielにしてもらえるのかKeterになっちゃうのかは、ちょっと………微妙なところかもしれないけど」

軽く瞑目した彼女の口許から、小さく吐息が漏れる。誘ってるのかと思わず手が疼いたけど、このヒトミとイヨが“あの提督”の鎮守府所属だったことを思い出して踏みとどまった。

「人格があっても、個性があっても、私たちは結局……兵器。自分達を直してくれるものが“異常”なのも当たり前だし、その上で直してくれるっていう“事実”があるなら…………それで十分。



─────それに」

彼女の口端がつり上がる。妖艶で、それでいて凄みのある微笑みと共に、手の中でベレッタが動きを止める。

『アアアアアァッ……………ッガ!?』

直後、甲高い金属音が廊下に木霊する。落下してきた金属板の後に続くようにして、雄叫びをあげ降ってきた人影。彼女は、笑顔のままソイツに向かって引き金を引いた。


「ヒトミは、“楽しいこと”ができるなら…………それで十分♪」


617◆vVnRDWXUNzh320/06/13(土)23:19:03S9L (2/3)

至近距離、真っ正面からの銃撃を食らい、“襲撃者”の身体が大きく仰け反る。着ている作業着と、「白濱」の文字が刻まれた胸元の名札が吹き出した血で──元々酷い有り様だったけど更に──赤く染まる。

襲撃をかけてきた時点で、彼の「元人間」という肩書きは既に付与されてからそれなりの長さになっていたのだろう。乱暴な幼児が人形をそうしたように引きちぎられた左腕と、右脇腹に空いた大きな穴がそれを物語る。

『『『キィャアアアアアアあアアアッ!!!!』』』

そして当然、襲撃はこれで終わらない。“白濱さん”の凄惨な有り様に哀悼の意を抱く暇もなく、今度は廊下の奥からおぞましい奇声が響いてくる。

『ギィヤァアアアアアッ………ア゛ッ………』

『『………!?』』

黒板の上に鉄製の爪を立てて食い込ませ、渾身の力で引き下ろしたかのような叫び声と共に、此方へ凄まじい速度で迫ってきた三本の白くヌラヌラと光る細長い何か。その先端についた三つの黒い頭部の内一つが、轟音と共に弾け飛ぶ。

『ギョエッ……』

『ガギッ!?』

「…………ったく!」

突然吹き飛ばされた同胞の姿に驚いてか動きを止めた残りの二体も、そのまま立て続けに砕け散る。頭を失くしたそれらが操り人がいないホースのような動きで青い体液を撒き散らす様を眺めながら、ゴーヤは盛大に一つ舌打ちをかます。

小脇に抱えられたバレットM82A1が、重苦しい音を立ててリロードされる。

「本当は作戦内容をしっかり共有し直してから動きたかったのに!イムヤのせいで時間がなくなったでち!」

「暴論が過ぎるんじゃない!?時間がないならプロレス技なんてやらなきゃよかったじゃん!!夜のプロレスは大歓迎だけど!! 」

「独断専行した艦娘に対する制裁・罰則は綱紀粛正の観点から必要事項でち!つまり、余分な“手順”を増やしたイムヤが悪い!

あとホントそのピンク脳いい加減にするでち!!」

全く、確かに独断専行は悪かったけど、戦果を挙げたのにこんなに怒ること無いんじゃないかしら?きっとゴーヤは、逆転サヨナラホームランを打っても送りバントのサインを無視したって怒るタイプね。


618◆vVnRDWXUNzh320/06/13(土)23:23:04S9L (3/3)

「二人とも、喧嘩は後で!………来るよ!」

「しおい、喧嘩の前に痴話の二文字をつけ忘れてるわ」

「お前一回死んでおいた方がいいでち」

軽口をたたいてはみたが、実際しおいに言われるまでもなく気を抜くつもりはないしそんな余裕もない。何せ【寄生体】が現れた時点で、想定される限り最悪の事態が─────

『『『ァァアアアアアアアアアッ』』』

─────大洗女子学園の艦内がムルマンスクと同じ状況に陥っていることが、確定したのだから。

『オァアアアア─────ッア゛?!』

『ィギアッ………』

「射撃開始!射撃開始!」

「ああクソ、盛大な出迎えだな!!」

寄生体が襲ってきたのと同じ方から、非常照明の下に“ゾロリ”と涌き出る【暴徒】達。廊下を端から端まで埋め尽くし互いにひしめき合うようにして押し寄せるそれらを迎え撃つべく、イヨとしおいが進み出る。

『『ギィッ……!?』』

「あれ、何人ぐらいいると思う!?」

「さぁな!とにかく全部ぶっ倒せばそれで終いだ!!」

腹這いになったしおいのMG4が連中の足元に弾雨をばら蒔き、態勢を崩したところでイヨのMP5が頭や胸など急所を射抜く。射撃面を上下二つに分けての完璧な火線展開に、たちまち【暴徒】達の進軍が停止した。

だけど、敵が取れる襲撃の経路は一つではない。

「敵襲………!!」

『『『シィアアアアアアッ!!!』』』

『ズァッaアウ゛ッ!?』

護衛するような形でゴーヤの横を固めていたヒトミとイムが、天井に銃を向ける。一秒と間をおかず、“白濱さん”が飛び降りてきた排気口と思わしき穴から現れた新手の人影4つ。
内一つが、ヒトミの弾丸に喉笛を貫かれ揉んどり打って倒れる。

「このぉっ!」

『アヴァッ』

『ギィイッ!?』

出鼻を挫かれても怯むことなく、二人がイムに飛びかかる。イムは先に掴みかかってきた男の顔を鷲掴みにして壁に叩きつけ、もう一人の──作業着の袖口に“達川”の文字が刺繍されていた──脳天に9mm機関拳銃のグリップを振り下ろす。
立て続けに二つの乾いた破砕音が響いて、壁には赤とピンクと白がない交ぜの生臭い染みが広がった。

『ア゛ア゛ッ!?』

『ギャァウッ!?』

「Fuck!!」

残り一人となった“降下猟兵”の腰を蹴り砕き、【暴徒】の隙間を縫うような動きで接近を試みた【寄生体】を一匹吹き飛ばしつつ、ゴーヤの悪態。どうでもいいことだけど、最近提督の“趣味”の影響を色濃く受けて言動が金剛さんやアイオワさんに似てきているのが気になる。

「案の定キリがないでち!この有り様の艦内を一個艦隊で制圧!?オリョクルより酷いでち!!」

「愚痴ったってもう始まっちまったんだから仕方ないだろ!んで実際どーすんだ、イヨもしおいさんも別に弾薬はそこまでたっぷり持ってるわけじゃねーぞ!」

「押し通る!!」

…………わぁお♪やっぱり、こういうところで即断できるのは、ゴーヤのかっこいいところよね。ますます惚れちゃうわ。


619◆vVnRDWXUNzh320/06/13(土)23:49:35Lwv (1/1)


「元々ゴーヤ達の目的は艦下層部の制圧とそれに伴う生存者の発見・保護、動かなきゃ始まらない!よしんばそれらを投げ捨ててここで持久戦に持ち込んだって、“海軍”主力と自衛隊の学園艦奪還が成らなければ物量差に擂り潰されるだけでち!

なら、こっちから力の限り暴れまわって奴らの後方を掻き乱す!

各艦突撃用意!合図があり次第攻勢に出るでち!」

「ヒトミ、了解…………しました!」

「イヨ、了解!ま、それしかないよな!」

「ニム、了解だよー!出番なら、任せてよー!」

「伊-401、旗艦指示に従います!…伊400型の戦い、見せる準備はできてるからね!」

銃撃の手は止めないながら全員が異論皆無で即座に賛同の声を挙げる辺り、流石は“海軍”艦娘ってところかしら。四人の返答を受けてゴーヤは一つ頷くと、肩越しに私を振り返る。

「おう変態、出番でち」

「了、解♪」

ごく自然に混ぜ込まれた罵倒はこの際置いておくとして、私もまた異論はない。寧ろ歓喜すら感じるわね、さっきの“一暴れ”だけではやや消化不良だった分を公然と、今度は「独断専行」なんて言われることなく発散できるのだから。

『『『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛っ!!!』』』

「……………大漁、大漁♪」

イヨとしおいの弾幕越しに改めて【暴徒】の物量を確認しながら呟くと、ゴーヤから軽く睨まれる。もう、これくらいの軽口は見逃してよ、ホントに任務に対しては堅物ね。

「それで、突入に際して何か特別に指示とかはある?」

「特にないでち。いつも通り暴れろ……………Go!!」

「はーい───っと!」

『グギュウッ!?』

M82A1の銃撃と共にゴーサインが下され、ほぼ同時に排気口から飛び降りてくる新手の人影。絶妙なタイミングで現れてくれた“踏み台”を遠慮なく使い、宙に身を踊らせる。

「頭上注意!」

ゴーヤがイヨ達に注意を促すが、ぶつかるへまなんかするわけない。脚部ユニットを起動させ、天井を蹴り更に前へ。射撃を続けるしおいとイヨの上を飛び越え、身体を捻り、足先から着地。

『ア゛ア゛オ゛ッ!!』

即座に船体殻が張り巡らされ、背後からの弾幕が表面で次々と弾けた。火花と非常灯に照らされながら、眼前の【暴徒】が私に掴み掛かってくる。

「っふ!!」

『ォ゛…………』

“艤装”を抜き、一閃。【暴徒】は崩れ落ち、裂かれた喉笛からは大量の血が迸った。


620名無しさん@おーぷん20/06/15(月)10:36:44UV6 (1/1)

更新おつです!

潜水艦娘たちは別動隊か
本隊には誰が出るんでしょう
マッスル提督は大洗市街に展開中ですよね


621名無しさん@おーぷん20/07/05(日)18:52:34o3d (1/1)

おっっっそ


622◆vVnRDWXUNzh320/07/14(火)22:37:38ax9 (1/6)

生研の報告書によると、深海棲艦の眷族となり果てた人間は大きく三種類に分類することができるらしい。

暴力性の向上や若干の身体機能の強化が確認できる一方、未だ感情の発露も見られ生前(便宜上の表記らしいけど)の行動様式や性格によって個体ごとの活動内容に差異が見られる【Rioter】。

身体能力の向上が顕著になり四肢や内臓が欠損した状態でも活動可能となる一方、理性・知性が消滅し突撃・前進と単調な暴力行動しかとれなくなる【Zombie】。

深海棲艦の幼体、或いは寄生体を体内に宿した【Nursery】。

無論、これらはあくまでも“現時点”での話であり、生研も大本営も全容は全くつかめていない。そもそも、この三種が連続的かつ段階的な“発症”なのかそれぞれ別枠の“変体”なのかも不明で、感染経路についても手懸かりは皆無ときた。
まぁ、サンプルがムルマンスクしかない中で何もかも解明しろというのがそもそも無理だろうけど。

(とりあえず、見た感じ【Rioter】は居なさそうかな)

先鋒の一体を斬り伏せてからも、視界に入る限り“群れ”の中で動揺や怯みが現れた場所はない。聞こえてくるのもゴーヤ達の銃声以外では意味を為さない唸り声やあの金属音紛いの不快な鳴き声ばかりだ。

(寄生体の数と襲撃頻度からして、おそらく【Nursery】も一握り。群れの大半は【Zombie】っぽいわね)

ムルマンスクでこの現象が確認されたときは、発露した個体の七割前後が【Rioter】
だったと聞いてたけど……その割にはこの場での比率が不自然だ。なにか理由があるのかしら。

(…………っとと)

『ギョアッ!?』

「なにボーッとしてんだてめぇはぁ!!!」

頭の片隅でそんなことをツラツラと考えていたら、後続する一体が斬り伏せられた仲間の屍を踏み越えて掴みかかってくる。首筋に伸ばされた手をスウェーバックでかわすと同時にそいつの頭が弾け、背後では銃声をも掻き消す怒号が弾幕に混じって飛来した。

「また助平な考え事かピンク脳!次はアロガントスパークぶちかますぞゴルァッ!!」

(語尾忘れるほどキレてる………)

多少気が漫ろだったとしても私がこの程度の奴らに遅れを取るようなタマじゃないのは知ってるでしょうに。真面目さだけじゃなくて心配症についても過ぎたところがあるわよねゴーヤって。

ただまぁ、またプロレス技をかまされても叶わないし、他事に気を取られてしまっていたのも事実だ。何より、せっかくできた「お楽しみ」の場をしっかり堪能しないのは勿体ない。

ここから、マジでいく。

「っふ!」

『『『オバッ』』』

息を思いきり吐き、ブレードを横に振るう。軌道上に存在した三つの首が斬り裂かれ、頭三つが低い呻き声と共に天井に舞い上がる。

『ビァッ』

『『ガァアッ!?』』

内一つを鷲掴み、投擲。直撃した個体が周りの連中を巻き込むようにして吹っ飛はせ、群れが大きく隊列を乱す。

『ギャッ!?』

廊下に満ち、ひしめき合うようにしていた奴らの直中に空いたスペース。間を置かず踏み込みつつ、私は手近な一体の心臓に刃を突き立てた。


623◆vVnRDWXUNzh320/07/14(火)22:39:33ax9 (2/6)

身長は目算170cmぐらい。勿論イムヤよりは背が高いけど、日本男児としては恐らく平均値のど真ん中ぐらいかな。持った感じでは体重も見た目どおりのせいぜい70kgちょい、「中肉中背」を地で行く体つきだ。

本音を言うともう少し“大きめ”のを選びたかったけど、仕方ない。パッと見手近なところでは他に優良な選択肢がありそうにもないし、弘法筆を選ばずの精神で贅沢は封印しよう。

「それっ!!」

『『『ギャアオッ!?』』』

刺さったブレードはそのままに、襟首の辺りを掴み正面を覆うような形で屍を掲げる。腰を屈め、脚部ユニットの出力と艦娘としての身体能力をフル稼働させて一気に前へ。
ドンッという鈍い衝撃が腕から伝わり、吹っ飛ばされた【Zombie】たち………或いは、奴らの欠落した四肢が壁や天井に激突する音が後に続く。

『ゲアッ………』

『オグッ』

時おり、刃物や鉄パイプなど凶器を持った個体がそれらを用いて迎え撃ってくるが、殴打も刺突も前面に掲げた“盾”のお陰で私の体にまでは届かない。
生身での体当たりは案の定しなくて正解だったわ、いくらクソザコ連中相手でもこの数に真っ向から飛び込めば“事故”の可能性を0にはできなかったでしょうね。

『ジァッ!!』

「あら」

14、5mほど突進したところで、Zombieの内一体が突き出した腕が“盾”を貫通する。
そいつを斬り伏せた後で手元に目をやれば、ソレは既に「ボロ切れが纏わりついた肉の塊」といった有り様で、原型はほぼとどめていない。

「そりゃそうなるわよね」

一人でそうこぼしつつ、周辺に残っていた数体を斬り払う。超技術二つ分の全力全開をただの人体が諸に受けて無事でいられるワケはないし、この半分ぐらいの距離でダメになることを想定していたから寧ろよく持ったと思う。

それに、これだけスペースがあれば“後続”の侵入口としては十分だ。

「うぉらっ!!」

『『ギッ…………?!』』

あれだけ多数をなぎ倒されておきながら、Zombie共は尚もこちらへの前進を再開しようとしていた。
崩れた隊列も──元々隊列と呼べるほど上等な連携ではなかったけど──ろくに建て直さず、押し合いひしめき合い呻きながら向かってくる「群れ」の行進はしかし、前衛の内数体がまとめて頭部を蹴り砕かれたことで再び停止する。

「いち、に、さん、よん、ごっ!!」

壁を駆けて群れの中に飛び込んだイヨは、そのまま片膝をついてMP5の射撃に移る。彼女がカウントした分だけ、弾丸を頭部に受けた個体が崩れ落ちる。

『『グガッ!?』』

「6、7、8」

「9!」

『オボッ』

更に低くかがんだイヨを飛び越えて、倒れた分だけ空いた新たなスペースに着地。そのままカウントを引き継いで三体の喉笛を立て続けに突き刺す。背後からダクトが外れて落下する音と共に人間大の“何か”が着地する気配がしたが、イヨの新たなカウントと銃声がそれをすぐに黙らせる。


624◆vVnRDWXUNzh320/07/14(火)22:41:49ax9 (3/6)

「10、11、12!!」

「ええと、13から17」

『『『ゴッ…………』』』

すぐさま正面に向き直ったイヨの連射に対して射線を開けつつ、壁を蹴って跳び横合いから群れの中程に突っ込む。いちいち数えるのも億劫なので着地ざまに斬った分は纏めて勘定に加えておく。

「18、19………ごめん抜かれた!」

「20、21、22、23───っと!」

『ヴォッ…………ギャッ!?』

私の斬撃とイヨの銃火の僅かな隙間をすり抜けるようにして、女のZombieが一体イヨに迫った。不覚にも奇襲させる形になってしまったがイヨは冷静に迫ってきたソイツの両膝を撃ち抜き、倒れたところで頭を地面に叩きつけて片付ける。

「足元注意!」

「オッケー!」

脳味噌を潰された直後でビクビクと痙攣を続ける屍を、イヨは一度振りかぶった後こっちに向かって滑らせる。

『『ギェッ………』』

『『『ヴァアアアッ………』』』

その場で跳び上がった私の下を潜り抜け、屍は凄まじい速度で群れに突入する。足元を掬われた、或いは足そのものが粉砕されたZombieたちが次々と倒れ廊下に折り重なっていく。

「何体?」

「あー、とりあえず────まとめて1カウントで!」 

『ゴガッ…………』

さっきと同じダクトから、新たに一体の襲撃者。バタフライナイフをもって振り下ろされた腕を振り向き様に受け流しつつ、イヨが顔を縦断させるようにして連射を叩き込む。

「にじゅう…………ごぉおっ!?」

「っ!?」

『キィアアアアアッ!!!』

態勢を崩したソイツが仰向けで床に倒れた直後、胸元の肉を突き破り飛び出してくる【寄生体】。
バンシーが実在するならきっとこんな声なんじゃないかと思わせる鳴き声と共に繰り出された頭突きに、イヨの体が数メートル床を圧された。私も流石に咄嗟過ぎてブレードの腹で防ぐにとどまる。

『キィアアボォアッ』

間髪入れず再度攻撃姿勢をとろうともたげられた黒い頭部はしかし、口内めがけて撃ち込まれる12.7x99m弾によって四方に飛び散った。

『ジュアッ』

『ピィッ!?』

「掃射、掃射、掃射!!」

「「「了解!!」」」

今の奇襲と連携しようとしたか“群れ”の向こう側からさらに襲来した何匹かを立て続けに撃ち落としつつゴーヤが下した号令に、後続していたしおい、ヒトミ、ニムが呼応して進み出る。そこにイヨも加わった四つの銃口から一斉に光と鉛弾が迸り、眼前の“群れ”に降り注ぐ。

「────止め!」

体感20秒ほどが過ぎ去ったところでゴーヤが再度号令を下し、銃声の四部合唱は終わりを告げた。

眼につく範囲では、一先ず動くものは私たちだけになっていた。


625◆vVnRDWXUNzh320/07/14(火)22:43:52ax9 (4/6)

「よし!Clear…………」

『『『ギァアアアアアアアアッ!!!』』』

「………の、反対」

「まぁ、学園艦全体からすれば一握りにもならないから」

計算された出来の良いコメディのように完璧なタイミングで、四方から聞こえてくる無数の雄叫び。意気揚々と発した報告をコンマ1秒で否定されたイヨの頬が不機嫌そうに膨らみ、隣ではしおいが弾帯を差し替えながら苦笑いを浮かべる。

「乗船者は観光客含めて十数万人だっけ?そりゃ、まだまだいるよ」

「で、あれだけ大立ち回りをやってのけたら…………そりゃ、集まってくるよねぇ」

げんなりした表情で肩を落とすニムの口から、「やだやだやだ」という小さな呟き声が漏れる。彼女の言うとおり、一部の絶叫と足音は着実に間違いなく私達の方へ近づいてきていた。
それも、音響から判断するにかなり纏まった数の“群れ”が幾つも。

「さっきの連中といい、意外と統率取ってくるわね。もうちょい無秩序に動くもんだと思ってたけど」

「どうせ、外から指示を出してる“指揮艦”がいるでち。ちょうどゴーヤたちが介入する直前に“適任”が目撃されてるみたいだし」

「………あー」

言われて、海保の巡視艇を沈めた【潜水艦棲姫】の存在を思い出す。大洗港への総攻撃が始まってからは海中に潜ったっきりで新たな目撃報告もなく、イムヤたちも大洗女子学園に突入するまでの間にそれらしい艦影を捉えることはなかった。
が、姫級ともあろう個体が損害も受けていないのに前線から離れたとは考えづらいし、どこか混乱に乗じて湾内や指示が届く範囲の近海に潜伏して指揮を執るというのは大いにあり得る話だ。

さらに、記憶が正しければ確か艦橋でも重巡棲姫の姿を自衛隊の空母艦娘が確認していたと聞く。

「クソザコとはいえ圧倒的な物量差で、それを指揮する立場に棲姫が最低2隻、ね。こりゃ、流石に油断できないなぁ」

「寧ろ油断する気だったことに驚きを隠せないでち────移動を再開する!各艦、複縦陣にて準備!」

…………さて。私たち艦娘は、陸における機動力はお世辞にも高いとは言いがたい。
勿論フィジカル・体力の面で圧倒的なアドバンテージがあるため活動時間などは圧倒的だけど、少なくとも歩いたり走ったりしたときの速さそれ自体は人間を凌駕できるほどじゃない。

故に仮に私たちが「通常の移動方法」で今回の任務をこなそうとした場合、途方もない時間がかかる。
艦の端から端までただ移動するだけでも数時間は消費するし、そこに「階層」という縦の移動も存在する点や中には深海棲艦とその眷族が満ち満ちていることも考慮すれば、不眠不休でも最低3日は見なければいけないだろう。

だけど当然、私たちは…………正確に言うと上層部と技研は、しっかりと“対策”を用意してきている。

「陣形形成、完了!」

「脚部ユニット設定に移れ!システムを【高機動モード】に切り替え、速度は巡航・20ノット!」

「了解!速度巡航、20ノット!」

「安全装置解除、ユニット出力正常値での上昇を確認!」

ゴーヤから指示が飛ぶと同時に、腕に巻かれた端末で指定の操作を終えた後右足の踝辺りにあるツマミを回す。バイザーで覆われた視界が薄い青色に染まり、ブゥンっという低い音が着込んでいるスーツのあちらこちらから聞こえてきた。

微かに、ほんの数センチほどだが、はっきりと身体が“浮き上がる”のを知覚する。

『『『キィアアアアッ!!!』』』

「ヒトミより旗艦………正面に、新たな【Zombie】の集団を視認………!距離は500、尚も接近!」

「コースは変えない、正面から突入する!

発進三秒前!二……一………









零!!」

カウントダウンが終わると同時に、大和級戦艦の砲弾が飛翔して空気を切り裂いたかのような音が六つ、廊下に響き渡る。

そして、私たちは“航行”を開始した。


626◆vVnRDWXUNzh320/07/14(火)23:29:07ax9 (5/6)

当たり前の話だけど、潜水艦娘にとっての主戦場は“海中”だ。海上に出て戦闘行動を行う機会は非常に限られているし、仮にその機会があったとしても兵装的に考えて他の艦種の子たちと同じように大っぴらなドンパチができるわけもない。

だから陸上戦とはいえ、“海上艦”のように滑走して移動するという行為はなかなか新鮮に感じられる。そりゃあ流石に多少の慣熟訓練はあったけれど、実際に戦場で使うとなると景色も雰囲気もガラリと変わる。

《撃て!》

無線から響いたゴーヤの指示で前衛のイヨ、ニム、しおいが次々と引き金を引き、瞬く間に鼻先まで迫ったZombieたちに弾丸を浴びせる。
銃火にZombieたちがなぎ倒されていってることは気配で解るけれど、弾丸が肉を切り裂く音も奴らが床に倒れ込む音も耳に届く前に視界諸共後ろへ置き去りにされていく。

《突破に成功!》

結局100は確実に超えていたであろう“群れ”を抜けるまでに、ものの十秒もかからなかった。

《音響反応から計算する限り、現状新たな群体は進路上で確認されず!目標区画到達まではあと五分です!》

《区画到達後は事前の打ち合わせ通りゴーヤ、イヨ、ヒトミとイムヤ、ニム、しおいに別れて各自で捜索・制圧に移るでち!また、その際脚部ユニットのバッテリー残量確認は怠るな!》

《しおい、了解!》

《ニム、了解したよ~!》

《ヒトミ、了解しました……!》

《イヨ、りょーかい!………にしても、ホントすごいなコレ》

イヨが言う“コレ”が何を指すかは、まぁ聞かなくても解る。実際最高速度は39.8ノットというカタログスペックも含めて、私も「スゴい」という単純な感想しか述べようがない。

最初に持ってきた技研の科学者は、試験運転で装着するときに反重力がどうのこうのと小難しいことを言っていたっけ。
もし真面目に聞いていたとして内容を理解できたとは思わないけど、とりあえず彼らが開発してきた歴代の珍兵器の中では現時点での最高傑作と言っても過言ではないだろう。

《あの悪趣味な手榴弾といい、高速修復剤といい、コレといい…………マジで技研の奴らって良くも悪くもイカれてるよな》


627◆vVnRDWXUNzh320/07/14(火)23:59:01ax9 (6/6)

《正直、ここまでされると某財団云々の噂も本気で否定しづらくなってくるでち》

流石に、今回は多少面食らった部分があったのだろう。珍しく、ゴーヤも雑談に参加してきた。

《そもそも、突入の時は流したけどあんな強烈な爆発をそれなりに間近で受けて動作不良一つ起こさないこのスーツの耐久力からして異常だし、高速修復剤は効能もそうだけどそれを日本だけがとはいえ何百何千と量産できてるのは尋常じゃない。
この脚部ユニットだって、明らかにオーパーツに近い存在でち。

ヒトミも言ってた通りゴーヤたち自身がオカルトみたいな存在なんだから考えても仕方ないことかもしれないけど…………技術の“出所”は、ゴーヤも大分気になってきてる》

《……………》

そりゃあ、そうなるか。しょうがないよね。

《今は考察できるだけの時間も材料もないんだし、一先ず“真相は霧の中”ってことにしていいんじゃない?それより、区画まであと三分切ったわよ》

《…………。それもそうでちね。

旗艦より各艦、散開用意!また、探索時は【Zombie】や【Nursery】のみならず寄生体の単独襲撃にも注意を!可能性は低いけどヒト型と遭遇する可能性があることも頭に入れておくように!!》

《《《了解!》》》

《了解!………あ、ねぇねぇねぇ、イムヤ!さっきの諺間違ってない?たぶん、“真相は闇の中”の方が正しいと思うんだけど!》

わざわざ振り向いてそう指摘してきたニムに対し、私は曖昧に笑って答えに変える。

間違い、とんでもない。ちゃんと合ってるわよ。

少なくとも、イムヤにとっては、ね。


628名無しさん@おーぷん20/07/15(水)08:22:51dTV (1/1)

乙です!
ぞくぞくとSF技術が出てきてますねえ

そういえばマッスル鎮守府の青葉、平行世界に由来しますよね
通常艦娘は記憶処理されてるようだけど


629名無しさん@おーぷん20/07/15(水)14:50:47mVc (1/1)

おつです
一ヶ月で更新とは早い!


630◆vVnRDWXUNzh320/07/15(水)23:03:0743m (1/7)

【皆で】大洗実況スレ part25【死のうや】


708: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:49:28.11 ID:dk0utd44

野 党 乱 入


631◆vVnRDWXUNzh320/07/15(水)23:03:5843m (2/7)

709: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:49:29.00 ID:wk563296
野wwwww党wwwww

710: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:49:30.01 ID:tkkj0810


711: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:49:30.19 ID:jK1ha8su
なにやってだこいつら

712: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:49:33.05 ID:nt94w234
なんかキタ────( ・∀・)─────!!

713: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:49:35.90 ID:k137iwsd
なんやこいつら(ドン引き)

714: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:49:36.53 ID:mko3tcgi
茂名官房長官の顔www

715: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:49:38.19 ID:062rm0th
茂名「えっなにこれは(ドン引き)」

716: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:49:55.25 ID:uMkg13m6
他人の記者会見中に乱入とか前代未聞やろ

717: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:50:10.48 ID:d20R2dj0
世界が大変なときにクソみたいなプラカード持って人の記者会見に遊びに来れるメンタルだけは評価する
しかも国外記者もおるのに

718: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:50:12.04 ID:jps5moeN
茂名のおじいちゃんガチ困惑で草


632◆vVnRDWXUNzh320/07/15(水)23:04:4943m (3/7)

719: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:50:15.83 ID:nj9o8ntn
今北産業(激古)

720: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:50:20.70 ID:knkr70om
ネトアイ兄貴大喜びでパソコン開いて書き込み始めてそう

721: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:50:37.29 ID:ktks1711
ウェブサヨそっ閉じ不可避

722: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:50:45.43 ID:ik4k5idd
>>719
・定期記者会見中に
・野党が
・プラカード持って乱入

723: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:50:58.68 ID:kd1597me
愛国党と進歩党以外の全ての野党勢揃いしてて草

724: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:50:59.92 ID:kjme2bsr
一番手前の記者の顔wwwww

725: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:51:19.63 ID:aAa3mj44
流石のマスゴミさんもこれには愕然

726: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:51:23.90 ID:omg11ejc
外国人記者誰かオーマイガー言ってて草

727: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:51:30.44 ID:11bm11bb
野党クッソ煩くて草。日本語でぉK

728: 雨降れば名無し 2017 /11/17(金)
18:51:32.47 ID:bbr318ns
確認できた乱入議員一覧
民心党:守部、月元
共栄党:宝木、志田
未来の党:光本、田部井
優政党:山内
社公党:福山、赤井、左野
日生党:近藤

これはAVENGERSですわ


633◆vVnRDWXUNzh320/07/15(水)23:06:2143m (4/7)

729: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:51:40.28 ID:ash119sd
宝木顔に生気なくね。この場で一番生き生きとしててもおかしくないのに

730: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:51:44.07 ID:boktsor1
>>728
メンツやばすぎで草

731: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:51:45.73 ID:fF7rsIko
>>728
世界よ、これが日本の野党だ!!

732: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:51:46.53 ID:tggy123
月元発狂しまくりでワロタ

733: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:51:50.50 ID:r2cp0Ct
>>728
クソみたいな戦力で草

734: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:51:52.43 ID:iDmcmd44
>>728
アベンジャーズ?→アホンジャーズ○

735: 雨降れば名無し 2017/11/17/(金)
18:52:00.04 ID:94amZmaa
>>729
確かに一番騒ぎそうなのに一番静かだよな

736: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:52:18.91 ID:d4a15JeF
いろ速さんワイはドドメ色でオナシャス!

737: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:52:20.47 ID:8gOm10ks
これで支持率上がると思ってるなら最高にガイジ集団

738: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:52:25.68 ID:taNt4nnE
そら南国政党一強になりますわ


634◆vVnRDWXUNzh320/07/15(水)23:07:3843m (5/7)

739: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:52:48.13 ID:gE33R4ti
宝木よく見たらなんか言ってね?

740: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:53:00.90 ID:f10Kwiyo
月元クソうるさいのに誰でも知ってるようなことしか言ってなくて草

741: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:53:22.84 ID:j1rGscNp
バカ元「“国連特殊海軍”とやらの設立に日本も関わったのなら問題だ!!」

一理あるけどこの一大事にわざわざ記者会見遮ってまで追求することちゃうやろ

742: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:53:37.24 ID:pp30gNtn
宝木声ボソボソでワロタ

743: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:53:40.48 ID:taNt4nnE
宝木しゃべってるっぽいのに誰も気づいてないの笑う

744: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:53:43.67 ID:8gOm10ks
いろV民が政治家やった方がマシ説

>>741
言うほど一理あるか?平和維持法的にグレーかもしれんけどどう考えてもそこ込みで国連もアメリカ様も承認済みやろ

745: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:53:48.29 ID:ASo13grG
月元相手にならなくて草

746: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:53:52.40 ID:taNt4nnE
お絵描きwwwww暇人呼ばわりwwwww笑かすなwwwww

747: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:53:52 ID:dk0utd44
乱入から五分と経ってないのにもうフルボッコで大草原不可避
茂名のおじいちゃん強すぎる

748: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
18:55:27 ID jmH2ef4s
ちょっと男子~、月ちゃんが泣いちゃうでしょ~。あんまりセメントいてよ~


635◆vVnRDWXUNzh320/07/15(水)23:18:1243m (6/7)

( ・`ω・´)「……………まぁ、これが当然の反応だな」

手元のスマートフォンに視線を向けながら漏らされたその男の呟きに、周囲で反応を示した記者はいなかった。
誰も彼もが会見会場の入り口に…………たった今野党議員という奇妙な闖入者たちが現れた方向に視線と耳、それからカメラを集中させており、同業者の動向等に注意を払う余裕は誰も持ち合わせていない。

況してやこの記者───近畿日報記者・眉見虎信(まゆみ とらのぶ)のように、記者会見視聴者の反応をリアルタイムで拾おうと思い立つ者がどれ程いるだろうか。

( ・`ω・´)(定例会見は数こそ頻繁だったが新情報はほぼ出ていなかったし、フィリピン海の“新型の艦種”や“大洗女子学園内の詳細な状況”等国民が本当に知りたがっている情報ははぐらかされていた。

そのタイミングでの野党乱入、奴らが何か情報を暴露して場が動くことを期待していたんだが)

眉見が抱いたその微かな期待は、野党連中が手に持っていた陳腐なプラカードと民心党議員である月元の第一声によって残念ながら跡形もなく吹き飛ばされた。

「我々は南政権の隠蔽体質を糾弾するためにここに来た!!」

( ・`ω・´)「…………ふんっ」

勇ましい言葉で装飾された、「何も解ってないけどとりあえず仕事をしているとアピールしたいから来ただけ」だという遠回しな自白。聞いた瞬間思わず失笑した。
そして実際月元たちが口にしたのは、事態収容に動いている“国連特殊海軍”とやらの設立には日本も噛んでいたのではないかというあまりにも今さらな内容の“糾弾”だ。

( ・`ω・´)(そんなもの、とっくの昔に誰もが勘づいているというのに)

今や“艦娘大国”として事実上の覇権国家に最も近い存在となり、深海棲艦に独力で対抗し得る数少ない存在の一つとなった日本。
深海棲艦に即応可能な国連保有戦力なんてものが突然現れれば、日本の介入は寧ろしていないと見る方が難しい。

というか揚げ足を取るような言い方をすれば、そもそも既に先の会見でアメリカのフォックス=カーペンターは国連特殊海軍の設立に“艦娘保有国”も関わっていると明言している。

その上で、今は“日本本州が深海棲艦の攻撃を受けている”という未曾有の事態を収集することが何よりも優先されるべきだろう。この「解りきった公然の秘密」をわざわざ議題に上げるのは、ただただ時間の無駄に過ぎない。

( ・`ω・´)(案の定、ネットの反応も芳しくない…………というより、政権への苛立ちが少しずつ表出し始めていたのに今や批判の矛先が完全に野党に向いているな)


636名無しさん@おーぷん20/07/15(水)23:31:30bBu (1/1)

更新乙です!
2日連続だなんて…


637◆vVnRDWXUNzh320/07/15(水)23:53:2743m (7/7)

スマートフォンの画面に再度視線を落とす。眉見自身もしばしば利用する“ちゃんツー”の掲示板の一つ、【いろいろ実況Venus】が開かれている。
普段は野球を中心にスポーツ関連の実況や雑談スレが立つ場所だが、今はここも大洗に関する話題で持ちきりだ。

現在最も勢いがある「大洗実況スレ」は野党乱入を境に益々レスが増えているが、普段は南政権や国政党に対してやや辛辣な風潮が強いこの板でも野党のこの動きに対する擁護は殆んど見られない。
直ぐ下には「野党議員蔑称一覧」なるスレも作られ、こちらも瞬く間に実況スレと同程度の勢いで伸び始めた。

( ・`ω・´)(他の掲示板やSNSも好意的な反応は殆んどない。動画サイトのコメント欄も一部信者や南アンチのアカウントを除いては野党批判一色だ。取り上げ方は概ね決まったな)

情報は最も価値のある商品だとはよく言われることだが、マスメディアが大衆に情報を届ける場合相応の加工をする義務がある、という持論が眉見の中にはある。ただしそれは、別に曲解や捏造を交えるという意味ではない。

( ・`ω・´)(野党の行動それ自体は擁護の余地はないが………実際、平和維持法が揺らぐようなことになるのは危険かもしれない。それに対する問題提起は必要だろう)

あくまで事実を、しかしながらより多くの人間に行き渡るよう彼らが好む文体・伝え方で「大衆」に提供し、一方でただ受けとるのではなくその情報を元手に“考えること”を促す。
それがマスメディアとしての役割だと眉見は認識し、記者になって以来そのスタンスをずっと保ち続けて来た。

そしてその甲斐あってか、このネット全盛期かつ新聞の衰退期にあって、眉見の所属する近畿日報だけは相応の発行部数を維持しネットニュースの会員登録者数も好調だった。

( ・`ω・´)(重要なのは鮮度だ。なるべく直ぐに記事を上げるためにも今のうちに内容を大幅に修正しておいた方がいいな)

「官房長官、無駄とはなんですか無駄とは!!あまりにも礼を失しているじゃないですか、取り消しなさい!!」

( ´∀`)「いえ、事実なので取り消しません。というかこの会話さえ無駄でしょ実際。ついでに貴女方が作ってきたそのプラカードも紙の無駄ですね」

既に眉見の興味は、野党のバカ騒ぎからは半ば失われている。彼はスマートフォンも椅子の肘掛けにのせて細かく確認しつつ、パソコンを立ち上げ記事文の作成に取りかかる。
とはいえ、ネタになりそうな事柄を逃がさないため正面の壇上にいる茂名官房長官と野党の間で飛び交う会話には同時に耳をそばだてているが。

( ´∀`)「貴女方は一時期政権を握っていたときに“政治の無駄を省く”とかいっていろいろ仕分けをされていたようですが…………どうして貴女方自身の議席を“仕分け”なかったんですか?一番無駄でしょうに」

「なっ………!」

(;*・`ω・´)「ブッホ!ゴホッ、オホンッ!!」

「ゲフンッ,ゲフンッw」

「ブフヒヒヒヒww」

強烈極まりない皮肉に、眉見やその周囲の記者数名がまるで何かを誤魔化すように次々と怪しげな咳の発作に見回れる。直接見なくても、わななく声から月元の顔色や表情が今どのようになっているかは概ね想像がついた。