381以下、名無しが深夜にお送りします2019/02/20(水) 01:05:10lRk3.Imo (1/1)

向こうってのを教えてくれ死ぬ程更新を待ってる


382以下、名無しが深夜にお送りします2019/02/20(水) 06:05:29E8O.u7nI (1/1)

速報Rだよ 今ならさほど苦労せずに見つかるよ

とだけ言っておく


383以下、名無しが深夜にお送りします2019/04/22(月) 11:13:56YYiMyUNw (1/1)

初書き込みなのでマナーなってなかったらすいません。

昨日車で一時間かけてバイクショップに行き、初めてクロスバイクとロードバイクに乗ってきました。
(島風ちゃんの乗ってるスペシャライズドの直営店?みたいなお店でターマック?というのに乗りました)
乗ったのは10分少々でしたが、速さ、ギアのパチンとはまる感じ、とても気持ちよかったです。
このSSを読んで自転車に興味をもち、実際に体験してみてもっと興味が沸きました!

投稿者の方、レスで興味深い記載をしてくださる読者の皆様、ありがとうございました!


384以下、名無しが深夜にお送りします2019/04/22(月) 12:01:02ngdqWRsQ (1/1)

>>383
実際に自分のロードバイクを手に入れてみるとびっくりするほど楽しいぞ。


と、このスレの影響でロード沼にはまった先達として助言しておくわ。


385以下、名無しが深夜にお送りします2019/04/23(火) 20:14:24oOeuaM5o (1/1)

先日、シーパラまで20kmくらいなのでお散歩がてら走ってきた。
開園から閉園近くまでがっつり遊んだら筋肉痛になったw自転車での筋肉痛じゃないよな…


386以下、名無しが深夜にお送りします2019/05/04(土) 23:05:20D.Xey2Lc (1/1)

ロードバイクって車道走るの?
車に轢かれたりしないんか?圧倒的に車とスピード違うけど
ママチャリで歩道しか走ったことの無い俺には想像も出来ん世界だ


387以下、名無しが深夜にお送りします2019/05/05(日) 04:20:16g5L9KCro (1/2)

>>386
車道じゃないと速度出せないし逆に危ない
でもバイクや車には勝てないから、上手く譲ったり避けて走るよ
疲れるけど楽しい+トレーニングにもなる+移動費浮かせるetcと良いことは多い
ミラーもハンドルの端につけられるから、後方確認もミラー→直視と安全面に気を使えるぜ


388以下、名無しが深夜にお送りします2019/05/05(日) 06:37:22mikBEF2g (1/1)

車運転する側としてはこの上なく邪魔なんだけどな!


389以下、名無しが深夜にお送りします2019/05/05(日) 12:20:39g5L9KCro (2/2)

>>388
俺も車運転するから分かるよ。だからそこは側溝脇まで避けてどんどん譲るよ


390以下、名無しが深夜にお送りします2019/05/05(日) 16:23:31NXmTzZR2 (1/1)

普段は譲るけど、冬に豪雪地帯でムチャやってた時は避ける場所が無いのと半端に避けると逆に引っ掛けられて死にそうになったから左轍を占拠してたなぁ
もろちん、大名行列になったタイミングで適宜脇道とかに逃げて、後続車両のヘイトを稼ぎ過ぎないように工夫してたけど

ついでに、そんなムチャやった経験ではアイスバーンに強いタイヤは、実はロード用の細いやつ


391以下、名無しが深夜にお送りします2019/08/15(木) 21:25:11S9mlLr3g (1/1)

台風で乗れぬ・・・


392以下、名無しが深夜にお送りします2019/08/24(土) 09:22:01bbqRUO1I (1/1)

今更ながら影響受けてクロスバイク買ってみたわ

ママチャリとは違いすぎて初めて乗ったときに笑ったわ


393以下、名無しが深夜にお送りします2019/11/22(金) 15:20:41fyQmjrWA (1/1)

もうこないのかねぇ


394 ◆gBmENbmfgY2019/11/28(木) 23:36:37FmezigXg (1/5)

※お久しぶりです

 流石に間が開きすぎたので土日にでも投下させていただきます

 内容が分からない人のためにあらすじ


395 ◆gBmENbmfgY2019/11/28(木) 23:38:43FmezigXg (2/5)


【大体合ってる1話目のあらすじ】

長良「いい物に乗っているではないか」

提督「おお長良、乗りたいのか? じゃあお前の奴を」

長良「司令官が乗っているそれがあるではないか……寄越せ」

提督「え? い、いや、サイズが大分違うし、これは俺のだし思い出もこれから……」

長良「――関係ない。それを寄越せ」

提督「」


396 ◆gBmENbmfgY2019/11/28(木) 23:50:24FmezigXg (3/5)

【大体合ってる2話のあらすじ】
 大淀が自転車に興味を持った。ただしそれがルック車(LOOKのことではない)だったことを知り提督がプッツン。共に自転車ショップまで二人連れだって自転車を走らせることになったのだ。

大淀「提督と自転車デート♪ 自転車デート♥」

青葉「デートと申したか」

大淀「!?」

長良「公道を走るとな? この長良に先んじて……」

大淀「わ、私はそのようなことは……」

 口は禍の元。大淀のどでかいつぶやきを聞いていたパパラッチと軽巡界覇者がお目見え。 共に河川敷を走った先には、見たかったものが見えた。戦い、戦い、戦い抜いて得た平和があった。人がいた。思い思いに励んでいる。遊んでいる――笑っている。

 このために戦ってきたことを実感した彼女たちは、

青葉「青葉、また司令官に、泣かされちゃった……」

大淀「私は、私は、このために戦ってきたんだって。これを知った以上、私はどこまでも強くなれるんだって、そう思いました」

長良「これからは私たちも、生きる場所……心が滾る。自由になっていく。なんてすばらしい心地なんだろう」

 感涙にむせびながら、彼女たちはいつまでも河川敷の光景を見つめていた。そして後日――。


397 ◆gBmENbmfgY2019/11/28(木) 23:53:24FmezigXg (4/5)


提督「おまえのDOGMA-F8が届いたぞ。流石のイタリア謹製、コンポは全て電動デュラ。ホイールもフルクラム! 直線じゃあちょっと他に負けない強さのあるいいフレームだぞ」

長良「一番気に入っているのは」

提督「なんだ?」

長良「(司令官との)お揃いだ」

提督(きゅん)

 泣いて帰って来たのは罪だから罰として、司令官は五十鈴やら衣笠やら明石やらにボコボコにされた。


398 ◆gBmENbmfgY2019/11/28(木) 23:57:21FmezigXg (5/5)

【大体合ってる3話あらすじ】

 五十鈴以下、長良型の姉妹たちは激昂した。必ずやかの容姿端麗にして才気煥発な提督におねだりせねばならなかった。
 五十鈴らにはロードバイクはわからぬ。だがそのロードバイクに長良だけが夢中になっているのは我慢ならなかった。
 「くれ」という申し出に対し、提督は即座に「いいよ!」と返す。
 好みのロードバイクが全てが純正イタリアンブランドだったりしたが、スムーズに受け渡しは終了。

 鬼怒が誰の股下が一番長いかなんてことを言いだすまでの話であった。平穏なんてものはすぐに崩れてなくなる、悲しいものなの。


399 ◆gBmENbmfgY2019/11/29(金) 00:02:01FWsp9qxM (1/3)

【大体合ってる4話のあらすじ】
 島風が挑んだ。生身で。
 夕張が受けた。ロードバイクで。
 提督の介入により、勝負の途中で島風がロードバイクを得た。
 夕張は滾っていた。これまでの悔しさ、劣等感を吹き飛ばすほどの島風の一言が、夕張を熱く燃え上がらせた。

 ――夕張は、速いね。

 どれだけ嬉しかったのだろう。
 絶対に認められるはずがないとあきらめていた人からの称賛は、夕張にとってはいかなる勲章にも勝る栄誉であった。
 そして島風もまた滾る。
 自分よりも前を走る存在がいる。本気で頑張っても追いつけないかもしれない、そんな存在は初めてだった。
 レースが始まる。
 初めてのレース。
 そして、これからも続く二人にとっては、まだ一回目のレースに過ぎなかった。


400 ◆gBmENbmfgY2019/11/29(金) 00:05:23FWsp9qxM (2/3)

【大体合ってる5話のあらすじ】
 雪風は初心者である。されどそのヒルクライム技術は初心者にして初心者を逸脱した恐るべきクライマーであった。
 島風と共に初体験となる山岳――ヒルクライムに挑むも、その脚質の違いを見せつけるようにするすると坂道を駆けあがっていく。
 そして雪風の一言が、提督の魂に火を点けた。

 上がるケイデンス、上昇し続ける体温と心音のビート。
 勝利の女神が山頂で微笑むのは、果たしてどちらか。


401 ◆gBmENbmfgY2019/11/29(金) 00:06:15FWsp9qxM (3/3)

※こんなところじゃね。明日明後日をお楽しみに


402以下、名無しが深夜にお送りします2019/11/29(金) 01:19:41wYO5CWM. (1/1)

待ってた
ずっと待ってた
お帰りなさい


403以下、名無しが深夜にお送りします2019/11/29(金) 09:59:26RwEv3oU2 (1/1)

舞ってた


404以下、名無しが深夜にお送りします2019/11/29(金) 11:41:49gLZSYS/6 (1/1)

まってたよ。潜水艦娘が提督選定のジャージ(ツルツルして空力的)を身に纏って輪になって「ワオーン」ってウルフパックごっこするのはまだですか?


405以下、名無しが深夜にお送りします2019/11/29(金) 12:48:00Qh6iEEwE (1/1)

待ってたよ


406 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 21:53:09hgJRyAx. (1/43)


>>376の続き

提督(大淀も俺の知らんところでやらかしがあるんだな……普段はきっちり仕事を定時内に片づけ、他の艦娘達の規範となるべく振る舞っているデキる子の大淀が。

   …………かはは、なんだよ、そんなカワイイ一面もあるのかあいつ)


 何故か提督の好感度を上げる鬼畜メガネ。


提督(まあそれはそれとしてやってることはイカレなので、夕張ともどもきっちり叱るか)


 なお個人的な好悪は別として、司令官としての人格は明確に二人への罰則が必要だと訴えているので、きっちり締めるところは締める。

 それは古参の艦娘ならば、誰もが知っていることだった。


イムヤ(…………)


 もちろんそれは、イムヤも。

 また聞こえ出した。嫌な『音』が聞こえた。いつもの『音』だ。鉛色の音は、喪失の音。

 はじまりの音で、おわりの音。


407 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 21:54:45hgJRyAx. (2/43)


提督「――まあ、そういうことで、だ」


 雑な話題転換の言葉を枕に、提督はぱんと手を打ち鳴らした。


提督「基本は押さえられただろう。コンポの違い、フレームとコンポのチョイス、クロモリという選択。フレームについてはそれこそ星の数ほどあるからな。明石のところで予約して他の試乗車に乗りながら決めてもいい」


 はーいと元気よく返事をする潜水艦の同僚たちの声。提督が会話の締めに入る気配を感じ、イムヤはびくりと肩を震わせた。

 このまま、提督を帰らせてしまってもいいのだろうかと思う。

 胸の内の不安を、彼に打ち明かすべきではないかと思う一方で、このまま杞憂と決め込んで抱えてしまった方がいいと思う自分がいた。


提督「さて、そろそろ俺はお暇するよ」


 ――どうすればいい。言うべきか、言わざるべきか。

 そんな葛藤が心を締め付けた時だった。


提督「――イムヤ」


408 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 21:56:02hgJRyAx. (3/43)


 声が、意識に差し込まれる。


提督「少し、外を歩かないか? 見送ってくれ」


 イムヤの返答を待たず、提督は椅子を立った。有無を言わせぬ決定事項は、僅かに命令の『色』を帯びているのを察したイムヤは、粛々と頷き、同じように立ち上がる。


ろー「はいはいはい! それ、ろーちゃんも行きたいって――ごふっ」


 ぴょんぴょん跳ねながら立候補する無邪気な少女の首筋に容赦なく手刀を打ち下ろす軽空母がいた。


龍鳳「当て身」


 龍鳳だ。その胸部装甲は甘やかな顔立ちに似合わぬほど豊満であった。

 ぴくぴくと死にかけたGのように地べたを這うろーちゃんを一瞥すらせず、龍鳳はにこりと笑い。


龍鳳「では提督。ご一緒したいところではありますが、少しばかり個人的な要件がありますので、ここで失礼させていただきます」

提督「ん。あんまり遅くならないようにな。おやすみ、龍鳳。おやすみ、みんな」


409 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 21:57:16hgJRyAx. (4/43)


 ひらひらと手を振って、イムヤと連れ立って潜水艦寮のリビングを出ていく提督に、各々がお休みの言葉を返す。ろーちゃん以外は。

 ばたん、とドアが閉められたところで、ろーちゃんは怨嗟の声を上げた。


ろー「な、なして……? なして今、ろーちゃんは龍鳳さんにぶたれたんですって……? でっち……おしえて?」

ゴーヤ「空気を読めてねーんでち。そしてまだ喋る余裕があるおめーのフザケた口がホザいた言葉によって、ゴーヤもおめーを殴らねばならなくなったでち。ゴーヤの拳が光って唸る」

ろー「お慈悲!」


 いつもの二人がいつもの様子でじゃれ合う中で、龍鳳や他の潜水艦娘たちは、静かに提督とイムヤが出て行ったドアを見る。


龍鳳「はっちゃん」

はち「はい、龍鳳さん」


 わずかに緊張した面持ちで、はちが龍鳳に向き直って敬礼する。


龍鳳「――もう、大丈夫でしょうか?」

はち「はい。この部屋はプライベートルームを除けば、比較的防音が効いている部屋です」


410 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 21:58:35hgJRyAx. (5/43)


 そう前置きした後、龍鳳は深くため息をついた。


龍鳳「あの子の心配性や、自分に信を置けないところは……結局治らず仕舞いでしたか」

はち「……面目ありません。繊細なあの子を支えていかなきゃならなかったのは、私たちだったのに」

ニム「? ???」


 二人のやりとりに疑問符を浮かべるのは、この中では最も新参であるニムだった。空気を読んで黙っていたし、イムヤが何か思い悩んでいることは察していた。

 だがその真意は、未だに分かっていなかった。

 そんな様子を察したのだろう、龍鳳は柔らかく笑って、ニムへと伝えた。


龍鳳「ニムちゃんは知ってるかしら。あの子は――イムヤはね、先読みがすごいんですよ」

ニム「は、はい。それはもちろんあたしも知ってます」


 終戦も間際ではあった。だがニムは何度も出撃を経験している。その際に、何度も何度も先輩にあたる彼女たちの強さに驚かされた。

 特にイムヤの――敵の居場所を察知するあの能力には、瞠目に加え、畏敬すら覚えたほどだった。


411 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 21:59:29hgJRyAx. (6/43)


龍鳳「そう。それじゃあこれは知っていましたか。あの子の耳が、とても良いことと――」


 言葉を区切り、居住まいを正す龍鳳の様子に、ニムもまた表情を引き締めて頷く。

 これはきっと、真面目に聞かねばならない話だと、彼女は察した。


龍鳳「――あの子は、元々はこの鎮守府の艦娘じゃあないんです」


 龍鳳の口から語られるのは、悲劇の物語だ。

 それは、とてもとても『嫌な音』の話。



……
………


412 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:00:04hgJRyAx. (7/43)


………
……



提督「――昼間は少し暑いくらいだったのに、やっぱり夜はそれなりに冷えるな」

イムヤ「……はい」


 呟く声は遠いようで近く、中天の星をわずかに揺さぶらせた。

 夜の鎮守府は明るい。広大な面積を誇る鎮守府道路は、設置されているライトで足元がはっきりわかるほど照らされていた。

 それでもイムヤにとっては、まるで大雑把に煤を散らした画用紙の上みたいに感じられた。

 先行する提督の歩みはゆっくりだ。それに合わせてイムヤはその三歩後ろから、同じようにゆっくりと進む。

 それきり、提督は何も言わなくなった。沈黙が両者の間を包む。

 だけど、イムヤにとってそれは不快なものではなかった。気まずくなる要素など何もなかった。

 だって、『音』が聞こえるからだ。その『音』が知らせてくれる。司令官は別に怒っているわけでも、動揺しているわけでもないと。

 ただ、待ってくれている。

 そう、信じられている。


413 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:00:50hgJRyAx. (8/43)


イムヤ「ねえ、司令官」

提督「なんだ」


 だから口を開いた。口火を切るとはよく言ったものだと、イムヤは思う。


イムヤ「覚えてる? 潜水艦隊……最初は、私とゴーヤだけだったよね」

提督「ああ、覚えてるとも。すぐに龍鳳が――大鯨が来た。ゴーヤのやんちゃっぷりに最初はあわあわしてたっけな」

イムヤ「うん、そう。そうだった」


 もう三年近く前になる。初夏を迎える直前の晩春の頃、イムヤはこの鎮守府に着任した。

 泳ぐには冷たい夜の海の底で、震えていた自分を救い上げてくれた人。


イムヤ「司令官、約束したこと、覚えてる?」


 イムヤは思い出す。嫌な『音』を、思い出す。


イムヤ「もう叶えてくれた約束よ」


414 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:02:02hgJRyAx. (9/43)


 嫌な『音』は、いつだって聞こえていた。今ではもう、あまり大きくないけれど。

 それでも聞こえている。戦争が終わったあの日に、聞こえなくなったと思っていたのに。


イムヤ「司令官、イムヤはもう、ひとりぼっちじゃないわ」


 提督は立ち止った。背後のイムヤの足音が聞こえなくなったからだ。

 振り返った先で、イムヤは俯いていた。


イムヤ「司令官が、いっぱい仲間を連れてきてくれた。だから……」


 ゆっくりと見上げた、その顔は。


イムヤ「イムヤはもう、さびしくないわ」


 とても悲しげで、寂しそうだった。そんな顔で、イムヤは孤独じゃないと呟いた。


イムヤ「司令官、いっぱいイムヤとの約束をかなえてくれたよね。私、本当に嬉しかったのよ」


415 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:02:36hgJRyAx. (10/43)


 大きな瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれた。


イムヤ「でもね、司令官。私、きっと弱くなっちゃった」


 先ほど提督は、春先の夜は冷えると言った。その寒さに凍えるほどのものはない。

 それでもイムヤは、己の身体を掻き抱いた。震える体を温めるように。


イムヤ「こわいの、こわいのよ」


 思い出すのは、戦争が終わった日の事。


イムヤ「あれだけ頑張ったのに、みんなが、みんなで、一生懸命がんばって、戦争が終わった。終わったの。やっと平和になったのに」


 あの時、イムヤが感じたのは、恐怖だった。漠然とした恐怖だった。今はそれが、明確な形を持っている。


イムヤ「イムヤ、こわいの。嬉しくないの、ないの、ない、のよ」


 戦争が終わった日に感じた思いの正体を、やっと理解した。そう思った理由までも。


416 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:03:41hgJRyAx. (11/43)




イムヤ「だって、戦争が終わっちゃったら、平和になっちゃったら」


 その恐怖の正体が、やっとわかった。


イムヤ「司令官はきっとイムヤのこと、いらなくなっちゃう――」


 自分でもよくわからなかった思いが、するりと言葉に出た。

 発露した思いを自覚した瞬間、イムヤは己の感じていた焦燥と恐怖の正体を理解した。

 イムヤには、何もない。

 何もない自分を救い上げてくれた。

 何もない自分を掬い上げてくれた。

 そんな彼の事が好きだった。好きで好きで、どうしようもないぐらい好きで、だけど自分は彼にふさわしい存在ではないことを、イムヤ自身が認めて諦めていた。 


イムヤ「司令官は、立派だもの。なんだってできる人だもの」

提督「そりゃ買い被り過ぎだ」


417 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:06:21hgJRyAx. (12/43)


 そうかもしれない、とイムヤは思った。だけど、こうも思うのだ。


イムヤ「私がいなきゃ、できないってことは、ないでしょう?」


 あの日の事を思い出す。この鎮守府に来るきっかけを思い出す。


イムヤ「司令官に、必要とされなくなっちゃうって思うの。悪い子なのよ」


 あの日も、イムヤは何もできなかった。それでも司令官は来てくれたのだ。イムヤがいなくても、きっとできたのだろう。

 平和を迎えることが、できたのだろう。


イムヤ「だって、イムヤは………『聞こえる』だけだもの」


 ――――イムヤには、最初から聞こえていた。


イムヤ「敵がいっぱいいるところが聞こえるだけだもの。何をしようとしているのかが聞こえる、だけだもの……行こうとするところが分かるから、そこを張ってるだけ」


 ――――イムヤには、最初から聞こえていた。


418 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:07:06hgJRyAx. (13/43)


イムヤ「なのに、司令官や友達のことが、わからないんだもの」


 ――――イムヤには、最初から聞こえていた。

 だけど、イムヤには何もできなかった。出来なかったのだ。


 イムヤは、海域で保護された艦娘だ。

 だが、ドロップ艦娘と呼ばれる深海棲艦が艦娘へと『反転』した存在ではない。


 イムヤは、別の鎮守府の艦娘だった。

 もう、今はどこにもない鎮守府の――――所属艦娘だった。



……
………


419 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:07:39hgJRyAx. (14/43)

………
……




 ――駄目だよ、そっちに行っちゃ駄目だよ。戻らなきゃ。鎮守府に戻らないと。


 イムヤは仲間たちに、そして自らの鎮守府の長たる司令官に、そう訴えた。


 ――敵が待ち伏せしてるんだよ。そっちに行ったら駄目だよ。いっぱいいるの。私たちの倍はいるの。迂回しなきゃ……『聞こえる』んだもの、そっちには、いっぱい敵がいるの。


 その日のイムヤは、連合艦隊の一員として、ある作戦に参加していた。


 ――だって、聞こえるじゃない。エンジン音が、艦載機のエンジン音が。


 必死に彼女は、自身の司令官にそう訴えた。


 ――声だって聞こえる。どうして、みんなには聞こえないの――!?


 通信が入る。彼女にとっての、当時の司令官の声だ。決して無能な人ではなかった。


420 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:08:50hgJRyAx. (15/43)


『………艦隊の誰もが、そんなものは聞こえないと言っている。すまないが、その意見はとても受諾できない』


 此度の作戦は連合艦隊による任務。イムヤの司令官は、多くの鎮守府が合同で参加するその作戦に乗った。責任者は、彼女の司令官ではない。

 どうしようもなく、巡り合わせが悪かったと言えばそれまでだった。

 だがそれはイムヤにとって、死刑宣告にも似た声だった。ただし死刑が宣告されるのは、イムヤではなく――――。


 ――駄目だよ、駄目なのに、なんで、みんな死んじゃう。みんな死んじゃうよぉ……!!


 イムヤを除く、艦隊の仲間達だ。

 同じ艦隊にいたけれど、イムヤは諜報として別行動を取っていた。

 その異常な索敵能力を、イムヤはうまく説明できなかった。説明できていたとしても、理解してくれたかもわからない。それほどまでに信じがたい話だった。

 それでも、イムヤには聞こえていた――深海棲艦たちが待ち伏せを目論んでいる会話が。

 イムヤにはずっと聞こえていた。そしてもう一方で、ある鎮守府を襲撃しようとする二面作戦の内容が。

 最初からすべて――――イムヤには聞こえていたのだ。

 イムヤは決断を迫られた。連合艦隊を護りに行くか、鎮守府に襲撃をかけようとしている別動隊を叩くか。


421 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:11:00hgJRyAx. (16/43)


 イムヤは後者を選択した。距離の問題があった。僅かに鎮守府に戻る方が距離が短い。

 命令違反と叱責を受けようと、最悪解体されることになっても、その方がマシだった。

 だが、時間と距離の残酷さが立ちはだかる。

 ――浮上してどれだけ急いで航行しても、鎮守府まで一日半はかかる距離に、イムヤはいた。

 それでも、イムヤは必死に泳いだ。


 一緒にご飯を食べた仲間。

 明日はどんな世界になるだろうと、夢を語り合った友達。


 ――ゴーヤちゃん。ゴーヤちゃんがいる。助けなきゃ、助けなきゃ。


 誰にも聞こえない全ての声と音が、イムヤにだけは聞こえていた。

 世界で自分だけが孤立しているような気分を味わい、そして、一日が経った。

 唐突に、暗い音がする。何かが爆発する音だ。


 ――あ。


422 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:11:58hgJRyAx. (17/43)


 次いで音が響いた。何かが壊れていく音だ。


 ――ああ。


 聞こえたのは、鉛の音。

 もうそれしか、聞こえない。


 ――あああああああああああああああああ!!


 あふれる涙をそのままに、イムヤは泳いだ。泳ぎ続けた。ますます音は耳朶を打ち鳴らす。

 助けて、という言葉が聞こえた気がした。そんな気がした。気がしただけだ。イムヤには聞こえない。


『――――助けて、イムヤちゃん。いたいよぅ。いたいのいたいの、とんでかないよぅ』


 そんな悲痛な声が聞こえた……気がした。気がしただけのはずだ。だから、イムヤには聞こえない。

 だって、そんな声が聞こえるはずがないのだ。


423 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:12:37hgJRyAx. (18/43)


 ――ああ、そうだ。司令官の言う通りだ。私がおかしいんだ。そんなの、聞こえるわけがない。


 イムヤが必死に危険を訴えた時、イムヤが潜航する海域は、彼女たちが出撃していった海域と――――600km以上も距離が離れていたのだ。

 もうイムヤは、泳ぐのをやめた。

 海の底で耳を塞いだ。必死に耳を塞ぎ続けた。


 そしてイムヤは――本当に、ひとりぼっちになった。


 海の底は、落ち着いた。

 嘘だ。

 何も聞こえない。

 嘘だ。

 自分の心音。

 そちらの方が、小さく聞こえた。

 どんどん苦しくなってきた。


424 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:13:53hgJRyAx. (19/43)


 イムヤの存在に気付いた深海棲艦が、絶望する彼女を取り囲んで嘲笑する。

 もう、このまま死んでしまってもいいと思った。

 そんな折だった――今の鎮守府の司令官が――彼が、艦隊を率いて駆けつけてくれたのは。


 ――――あ。


 イムヤの瞳に、光が灯った。

 だってその人の心音が、とてもとても綺麗だったから。

 自信にあふれた音だ。生きている音だ。

 義憤に高鳴る鼓動は、猛々しいマジェンタの色。

 冷徹に凍てつく鼓動は、透明感のあるシアンの色。

 慈愛に溢れた鼓動は、お日様のようなイェロウの色。

 三原色の色合いが、奇跡のようなバランスで配置されていた。素晴らしい色を持つ音だった。

 
 だから、もう一度だけ、もう一度だけ縋ってみようと思った。


425 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:16:05hgJRyAx. (20/43)


 ―――――初めてその心音を聞いたその時から、イムヤは提督に恋をした。


 海の中にいると、嫌な音が聞こえる。

 どうしようもなく、耳にこびりついて離れない。

 今も聞こえる。

 どうしようもなく聞こえる。

 どうすればいいのか、わからない。

 気付けばイムヤは、自分の心音が鉛色に聞こえるようになっていた。

 だけど司令官の音は、何一つ変わらない。

 変わらないまま、大きくなった。背丈も、そのスケールも、地位も、何もかも――――心音さえも。

 それを、あらためて実感できた。


提督「イムヤ」


 過去に沈んだ意識が、その声で引き揚げられた。


426 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:19:59hgJRyAx. (21/43)


 察しの良い人だと、イムヤは知っている。

 イムヤが何を考えているのかも、察してくれたのだろう。


提督「イムヤがいなくなっちまったら、誰が俺を守ってくれるんだ?」


 提督の心音は変わらない。

 激情のマジェンタ。

 冷徹のシアン。

 慈愛のイェロウ。

 その配置は、イェロウの割合が強くなっていた。だから、イムヤは笑った。優しい人だから、笑えた。


イムヤ「あは、嬉しいなぁ……でも、イムヤがいなくなっても、いっぱいいるじゃない。司令官を護ってくれる子、いっぱいいるよ。イムヤよりずっと強くて、可愛くて、綺麗で……」

提督「イムヤ」


 色合いが、濃くなった――最初はそう思った。

 だけど違った。単純に、音が大きくなった。


427 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:22:53hgJRyAx. (22/43)


提督「俺の『ここ』には、もうお前がいる」


 抱き締められていた。イムヤの耳に、司令官の胸が密着していた。


提督「イムヤがいなくなってしまう寂しさは、いったい誰が埋めてくれるんだ?」


 わずかに音が高鳴った。どうしてか、その色合いに鉛の色が混ざり出す。

 聞いたことのない音だった。


提督「俺が望む幸せの形の中には、もうイムヤがいるんだ」


 マジェンタの色は、怒りの色。ひときわに濃くなった。


提督「誰かがいなくなると、心にはその人の形と大きさの穴が開く。どんなに優しい人でも、どんなにきれいな人でも、その形にぴったりと嵌る人はいない」


 シアンの色は、悲しみの色。染みのように広がっていく。


提督「俺が嘘を言っているか?」


428 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:26:13hgJRyAx. (23/43)


 イェロウの色は、優しさの色。その色で、司令官の音が溢れた。


提督「居なくなってしまった悲しさは、完全には埋まらない。時間が立てば、その人を形作っていた空白を色んなものが埋めてくれる。

   友達、仲間、兄弟、恋人――――それでも、隙間が残る。その人の形を取れるのは、その人だけだ。その人が居てくれなきゃだめなんだよ、イムヤ」


 その色に、どうしてか鉛の色が縁取る。

 ――ああ、そうか。この色は。この音は。


提督「前にも教えただろ、イムヤ。痛いなら、苦しいなら、声を出さなきゃだめだって。息をしなきゃだめだって」


 ――私の音だ。私の色だ。その色が、司令官の中で混ざって、ひとつになっている。


提督「お前ほど耳は良くないけれど」


 イムヤの身体を、太い男の腕がきつく抱きしめる。


提督「俺は痛いと声を上げてくれるなら、助けて欲しいという声が聞こえたなら、いつだって助けにやってくる」


429 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:30:57hgJRyAx. (24/43)


イムヤ「ほ、んと、に?」

提督「もちろんだ」


 心が跳ねた。イムヤの心音がだ。

 ばくんばくんと、かつてない音で響く。

 その色合いが、鉛の色ではなくなっていくのを、イムヤは確かに感じた。


提督「お前が与えてくれるなら、痛みでも、悲しみでも、喜んでそれを受け入れよう」


 その色はどんどん提督の色と混ざっていく。


提督「俺だって痛いのは嫌だ。でも、イムヤが一人で痛いのは、それ以上に嫌だ。イムヤが喜びを与えてくれるなら、そっちのほうが嬉しいよ。

   でも、痛みを俺にくれるってことは――――それは信頼があるからこそだ」


 提督の色もまた変わっていく。


提督「イムヤがいない人生を考えるとな、もう辛い。信じられないぐらい辛いよ。そういうことは抱え込まずすぐに言えっての」


430 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:36:58hgJRyAx. (25/43)


提督「イムヤがいなくなる? あーやだやだ、俺はとても寂しい。寂しくて死ぬ。そんなのは嫌だ。俺は嫌なのは嫌だ。だって、嫌なものは嫌じゃあないか」

イムヤ「なに、それ……ふふ」


 イムヤは笑った。嬉しかったからだ。彼としての彼も、司令官としての彼も。変わらず、イムヤを大切に思ってくれている。それが『色』で理解できた。


提督「イムヤのことがいらなくなるわけないだろう――俺がジジィになっても、例えイムヤが耳の遠いバァさんになったってだ。イムヤは俺の傍にずっといるんだ」

イムヤ「あはは、あははは、やめて司令官、やめて、あははは」


 泣きながら笑った。

 聞こえる音に、もう鉛色はなくなっていた。

 その代わりに、幸せの色が聞こえた。


 幸せの色は、とても淡くてきれいな――――桜の色をしていた。




……
………


431 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:47:20hgJRyAx. (26/43)


………
……



龍鳳「――ということがあったんです」


 ――未来の鎮守府でも、その話は語り継がれていた。


イヨ「……ちょ、自分、涙いいすか」

ヒトミ「びぇええ、びぇええええ」

ごー「イムヤしゃん……」

しおん「……その、ゴーヤさんは」

ゴーヤ「ん? 呼んだでち?」

しおん「い、いえ。その……イムヤさんが元々着任していた鎮守府のゴーヤさんは……」


 その時のゴーヤは、今はもう―――。


432 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:50:40hgJRyAx. (27/43)


ゴーヤ「え? だから呼んだでち?」


 提督が救い出し、もうこの鎮守府に馴染んでいる。


イヨ「えっ」

ヒトミ「えっ」

ごー「えっ」

しおん「えっ」

ニム(うっわー、すごいデジャヴが。デジャヴ)


 なおニムが説明された時もべえべえ泣いて、ゴーヤが生きてると知ったときにはゴーヤに抱き着いて更にべえべえ泣いていたのは内緒である。


龍鳳「――まあ、そういう話ですよ。つまりイムヤちゃんに内緒話はできないって事です」

イヨ「う、うん……? そんな雑な締め方でいいのかな?」

ヒトミ「だ、だけど、イムヤさん……今はとても楽しそうだし、それでいいんじゃない、かな……?」

ごー「ヒトにレキシありってこういうことを言うのね」


433 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 22:55:57hgJRyAx. (28/43)


しおん(何かが違う気がします)


 それを口に出さないだけの優しさがしおんにはあった。


ゴーヤ「んなことより、さっさと昼練いくでち! オラッ、つまんねえ昔ばなしは終わりです!」

龍鳳(つまらない?)


 ゴーヤの檄が飛び、ひええと新人潜水艦達が悲鳴を上げる中、龍鳳は密かにゴーヤへの教育値を高めた。


イク「イクのー!! もう道路でイムヤちゃん待ってるの!」

はち「今月末の駆逐艦・潜水艦・海防艦クラスのレース、私たちがいただきです! 追い込んでいきますよ!」

ろー「ですって! げきあつですって!」

まるゆ「まるゆとしおいちゃんは今回は応援ですが、練習にはまるっとおつきあいです!」

しおい「うん! いっぱい応援するからね! 目指すは優勝だよ、優勝!!」


 夏が来る。一年前とは違う夏が来る。


434 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 23:01:24hgJRyAx. (29/43)


 駆け出した潜水艦娘たちが向かう先には、オリョクルズのリーダーがいる。

 鉄の絆はそのままに。

 鉛の色は遠く消え。

 銀輪がアスファルトを切り裂く音が近く響く。

 春の温かな空気が、既に灼熱のそれに変わっていても。



イムヤ「さあ、今日も気合入れていこう!!」



 今日もイムヤの世界は、優しい桜の色で包まれている。


【4.5 鉄血のオリョクルズ】

【大成功!】



【続く!!】


435 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 23:02:27hgJRyAx. (30/43)


********************************************************************************

海大VI型 潜水艦:伊168改
【脚質】:パンチャー
 ――――奪え。

 鎮守府内で提督の七色ボイスを見破る、もとい聞き破ることのできる艦娘の一人。聴覚のギフトを持つ。
 『ほぼすべての海上艦の天敵』とまで呼ばれている『鉄血のオリョクルズ』リーダーにして、駆逐艦を含む最強のパンチャー。というか対潜能力を持たない深海棲艦にとっては悪夢以外の何物でもない。
 陸上型は魚雷無効? 残念、しおいの晴嵐さんと、はっちゃんのアハトアハト(レギュレーション違反)がある。もうやだこいつら。なお例の瑞雲狂いにとってはさほどの脅威でもないとか。日向マジ日向。
 当鎮守府最強の艦娘たる武蔵でも艦隊内演習で相手艦隊にイムヤがいると聞くと仮病を使ってまで出たくないと言い張る。五十鈴が相手艦隊にいると今度はイムヤが嫌そうな顔をする。
 色聴の共感覚を持っている。紛れもないギフトであるが、それを抜きにしても異常なまでに広い探知能力を持つ。それに磨きをかけて反響定位(エコロケーション)を物にしているのであった。
 その聴力は日常生活においても常人の数倍にも及び、艤装補助を受けて海の中に潜れば数百倍にも及ぶ。
 海中においては千キロ先の敵すら補足する。鯨か何か? 師は大鯨ですがなにか? 妙な説得力を付けるのはよしなされ。
 ロードバイク鎮守府で最も信用度の高い艦娘ソナーであり、敵艦隊の配置を丸裸にする。『音海の狩人(スナイパー)』とは良く言ったもの。なおその能力はS級秘匿事項であり、提督以外だと龍鳳およびオリョクルズメンバー、そして大淀を始めとする司令部メンバーや極一部の艦隊旗艦にしか知らされていない。
 駆逐艦で知ってるのは霞・初霜、それと卯月ぐらいである。最後の卯月っていうのが大問題であった。
 ロードレースにおいてもエコロケーションを活用。というか常時展開。路面状況の把握に、敵チームの心拍の乱れやギアチェンジの音でアタックタイミングを容易に察する。ヒソヒソ内緒話も聞こえちゃう。
 ヘタな駆け引きするだけ無駄。前提としてイムヤに勝る地力がないと勝負にもならない――――のだが。

卯月「…………」

 悪魔の頭脳の持ち主は、それを利用してくる。嘘ついてる時に心拍が変わらない奴がいるとは夢にも思わぬイムヤちゃん。
 提督に一目惚れ勢。正しくは一聴き惚れ勢。
 初めて提督の心音を聞いたときから好きだったというお話。この話を出すと茹蛸のようになって悶えるのであまり弄るとオリョクルズが怒る。弄っていいのは私たちだけだとばかりに。
 イムヤ曰く『透明感のあるコバルトブルーの内側でマジェンタが炎のように揺らめくように聞こえる』らしく『聞いていると安心する一方でとてもどきどきする』とか。成程、わからん。極めて特殊な才能を要する感覚の領域だ。

 閑話休題。その聴覚を活かした敵のアタックタイミングの察知に長ける。というか心音や呼吸音からフェイントかそうでないかまで100%バレる。敵への挑発なども心音からファンブル判定可能。ガチート。
 レースにおいても司令塔であり、潜水艦のみに伝わるハンドサインで言葉を介さず意思疎通可能。OK、オリョクル!


436以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/01(日) 23:03:35ZB/ohLIg (1/1)


イムヤ嫁提督だからイムヤメインの話が読めて嬉しかった!
向こうのスレの方も期待してるね!


437 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 23:07:45hgJRyAx. (31/43)

 そして敵チームの心音や呼吸音が聞こえるということは、完全に相手の疲労度を測ることができるということ。そしてイムヤはパンチャーだ。もうお察しであった。
 アップダウンコースにおけるイムヤの逃げ成功率は、100%である。逃げる時は成功が確約されている時。
 別の見方をすると、そこまでにアタック潰しの名手(特に大井)を潰しておかなければならないムリゲーめいた難易度を達成しなければならないのだが、それは別のオリョクルズに適任がいる。アタック潰しを潰すスペシャリストだ。

【使用バイク】:CUBE LITENING C:68 SL(Team Wanty)
 イムヤのバイクはドイツの新興ブランド・キューブ、そのフラッグシップのライトニング・C68よ!
 え、知らない? んー、まあそれならそれでいいけれど。
 日本じゃあ知名度のないバイクかもしれないけれど、あのツール・ド・フランスにもレース機材を供給したメーカーなんだからね!
 これで私は一番になるの! そ、そして、表彰台で、その、司令官に、えっと……だ、だめ! 言えないわ!

********************************************************************************


438 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 23:08:56hgJRyAx. (32/43)


【夜空を焦がす】


雷「ライトニングと聞いて飛んできたわ!」

電「あの稲光、なのです!」

提督「雷、電。ライトニングと言っても綴りはLightning(稲光)の方じゃなくて、Litening(照準ポッド)の方だ」

雷「あ、あら、先走っちゃった?」

電「な、なのです……だけど、来てよかったのです! イムヤさんのロードバイク、とても素敵なのです! 可愛いのです!」

イムヤ「海のスナイパー、イムヤにぴったりでしょ?」

雷「でも68だと、1が足りないわね」

電「妖怪1足りないの仕業なのです」

提督「あの野郎絶対許さねえ……!!」


 なおこの妖怪はこの鎮守府においても頻繁に出没するが、「うるせえ沈め」とばかりにルール違反のもう一発でゴリ押しする艦娘ばかりである。

 提督的に許せないのは「てめえらみたいな海の塵屑が無駄に生き汚い足掻きしたせいで弾薬一発分を余計に消費したぞ……!!」っていう慈悲なき怒りだ。


439 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 23:09:55hgJRyAx. (33/43)


イムヤ「ふふ、そうよ。1はね、足りないの――――今はね」

ろー「??? どういう意味ですって?」

提督「このバイクで、レースで『1』番になったら?」

ろー「え? ……! おおー!? かしこい!!!」

イク「い、いくぅ……」

ニム「に、にむぅ……」

提督「ろーもかちこいぞ(ちゃんと察してくれる当たりが他の残念な子と比して特に)」

イムヤ「そ、それと、こ、恋の、結果でも、その、うん……」

雷(綺麗な顔してる)

電(こっちまでドキドキしてくるのです)


 イムヤは純粋に提督のお嫁さんになりたい。子供は五人ぐらい欲しい。

 そこまでは提督も知っている。というか初対面の時に知ってた。だが提督すら知らないことがあった。


440 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 23:11:19hgJRyAx. (34/43)


イムヤ「司令官とくっつくと、なんだかドキドキするの。なんでかな……凄く気恥ずかしい気分になって、だけどもっとくっついていたいって気持ちになってさ……ちゅ、ちゅーとかしたくなっちゃったりして」

はち(ふむふむ)

イク(きゃっ)

ニム(いやーん)

イムヤ「ちゅ、チューしたら、あ、赤ちゃんできちゃうもんね。我慢我慢」


ゴーヤ・はち・イク・ニム((((それはひょっとしてギャグで言っているのか!?))))


 イムヤは子供の作り方までは――――知らない。スマホの使い方が下手だからだ。これを知った時は流石の提督も絶句であった。

 やはり性教育の導入は急務であると思う一方で、それによっていらぬトラブルが発生しそうな気がしていてならない。


しおい(そういえば赤ちゃんってどうやってできるんだろう?)

まるゆ(キャベツ? レタス? 白菜? でしたっけ? その権化らしいですよ、赤ちゃんって)


 サイバイマンかな? そのままでいて欲しい、しおいとまるゆ。


441 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 23:13:57hgJRyAx. (35/43)


イムヤ「愛する人と一緒にキャベツ畑に行ってキスをする、その儀式を行うことで、抑止の輪より天秤の守り手たる黄金のコウノトリさんが荘厳なBGMと共に突如として飛来し、赤ちゃんを運んできてくれるって聞いたわ」


 なおこの説明をしたのは秋雲だ。純粋無垢にして性的な知識のない朧と共に、キラキラした瞳でそんなことを聞かれてしまったのが、折り悪く秋雲だったのである。

 秋雲は頑張った。頑張って言葉を濁したのだ。その背後で待機していた漣と朝霜は同意を示すように神妙に頷きながらも、内心では「笑いてぇよぉおおおwwウォオオンwwww」ってな具合で必死に腹筋を制御していたのだ。


しおい「そうなんだ! なんだか素敵だね!」

まるゆ「なるほどー!」

ゴーヤ(色々混ざってよくわからない異教の儀式と化してるでち)

ろー(ろ、ろーちゃん、流石にそれは知ってるって……保健体育のお勉強、でっちとがんばりましたって……)


 以前提督が入浴中の浴場に突撃したことがあるろーちゃんは、ゴーヤによってきっちり教育されていた。

 かくしてオリョクルズの絆は日々深まっていくのだ。相互理解はチームにおいてとても大切である。つまりはKENZENだ。


442 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 23:16:24hgJRyAx. (36/43)


【一方その頃のOCHIDO】

不知火「赤子? フッ……舐めないで貰いたいわ。キスすればできるに決まっているでしょう?」

天津風「あっはっは、不知火姉ったら冗談ばっか………り……―――――ッ!? ッ……!! ッ~~~~~~~~~~!!」


 流石に冗談だろうと思ったが不知火がマジの顔をしていたので全てを察し、物凄く何か言いたげだが、何を言っても姉の顔を潰すことになるので言葉に詰まる天津風。


陽炎「……」


 オロついてる天津風の肩に手を置き、無言で首を左右に振る陽炎。彼女も頑張ったのだ。以前説明したことさえある。だが理解不能になった不知火はそのまま鼻血を噴いて気絶し、目覚めたときには性知識を失っていた。


親潮「」


 同じく察した結果、絶句する親潮。


雪風「さすが不知火おねえちゃんです! はっ!? ど、どうしましょう!? ゆきかじぇ、しょっちゅう幸運の女神のキスをかんじちゃってます!」

不知火「大丈夫よ雪風――――おでこやほっぺたで赤ちゃんはできません。ましてや女の子同士で、赤ちゃんはできないわ」


443 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 23:17:23hgJRyAx. (37/43)


雪風「さすがは不知火おねえちゃん! さすしぬ!」

不知火「褒めてくれるのは嬉しいのだけれど、その略し方はやめてくれますか、雪風。『流石に死ぬ』みたいに聞こえるわ」

雪風「さ、さすぬい!」

不知火「『刺して縫う』みたいなマッチポンプというか、長く楽しめるかのようなサイコパスを感じるからそれもちょっと……」

時津風(ま さ に 落 ち 度)

陽炎(どうしよう。一周回って酷く愛しいっていうか、尊いものを感じるわ)

黒潮(自分が酷く穢れた存在に思えてくるからやめーや)


 なんですか? 不知火に落ち度でも?


444 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 23:28:42hgJRyAx. (38/43)


********************************************************************************

巡潜3型 潜水空母:伊8改

【脚質】:ルーラー(スピードマン)/ランドヌーズ

 ――――長距離巡航の持続力なら、誰にも負けませんっ!

 海に8.8cm KwK 36(アハトアハト)持ち込んで敵戦艦をくり抜いたことがあるレギュレーション違反に定評のあるはっちゃん。人呼んで【オリョール海のマジ○チ】である。
 本人は大変遺憾に思っており【オリョール海の知将】とか言ってほしいらしい。誰もが苦笑いするばかり。
 なおロードレースの実力だが、前述の発言に偽りなく、長距離巡行の持続力はマジで誰にも負けないんだよなあ。ペース走を得意とする一方、急激な速度変化やアップダウンの多いコースは苦手。
 長距離クリテリウムなどの平地メインの周回レースでは名取・由良にも匹敵する巡航を魅せる。
 自分のペースで一定距離を走らせたら、自己ベストをぽんぽこ更新する点では自己管理能力トップクラス。スケールの違いはあるが、足柄に匹敵する。
 実はチームレースより個人レースの方が得意。といっても僅差だ。元々自己管理能力も他者への指示出しもうまいからだ。まだチームが完熟していないから個人レースの方が得意という意味である。
 アタック潰しは少し苦手だが、他のチームへの体力を伴わない精神的駆け引きに長ける。

【使用バイク】:FOCUS IZALCO MAX(Black/Yellow)
 はっちゃんのバイクは、ドイツのフォーカス・イザルコマックスです。
 コンポーネントはカンパニョーロ……―――スーパーレコードEPSです。
 ええ、古きよきものとしてポタリング用のバイクは別に用意していますが、はっちゃんのレース用決戦仕様はこれですね。
 ええ、アイウェアにもこだわりがありましてね。私のはオークリーのフライトジャケット・プリズムロードです。
 1枚レンズは視野角が広いのがいいですね。どうです、似合ってますか? うふふ、ありがとうございます、提督。

********************************************************************************


445 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 23:30:16hgJRyAx. (39/43)


【フォーカスというバイクについて(ろんぐらいだぁす!の倉田亜美ちゃんも乗ってる)】

提督「おおー……フォーカスというとシマノ組みばっかり見てたが、なかなかどうしてカンパが似合うじゃないか」

はち「ドイツメーカーですからね。ゲルマンは完璧主義の傾向が強いので、とっても造りが丁寧で精度がいいんですよ?」

提督「(その割にプライベートやDIY的な日常大工はすっげえ雑な印象が強いが)なるほど」

イムヤ(あっ、司令官、今、本心を押し隠すような心音に……!!)

しおい「乗り味はどうなの? きもちー?」

はち「ええ、もちろん。よく言えば全く『くせ』がないわね。回さなきゃ進まないとか、ひたすら硬いとか、安定感に欠けると言ったデメリットがありません。ハンドル高を高めにすればロングライドでも全く問題なく行けます」

イク「ほえー、万能なところに纏めてきてるのね」

ろー「それもまたドイツらしさですって! はい!」

はち「悪く言えば……面白みに欠ける、と言ったところでしょうか」

提督「そうか? どんなコンディションでもイケるってのは非常に頼もしい相棒じゃないか。俺、長丁場で山多めのステージをガンガン攻めてくんだったらオールラウンド性の高いバイクってすげー好き。

   フォーカスは直進安定性にも定評がある扱いやすいバイクだよ。ピーキーさがないのはロードバイクの乗車姿勢に慣れていない初心者にも、極限状態におけるトラブルを避けたい玄人にも広くお勧めできる安心感だ」

はち「! はい! 提督にそう言ってもらえると、はっちゃん嬉しいです」


446 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 23:32:11hgJRyAx. (40/43)


提督「はは、しかしイイの選んだね。フォーカスはパッと見だとありがちな近代ロードバイクのテンプレート的な外観だが、かなり細部にこだわったメーカーだ」

イムヤ「!? なにこのシートポスト!? 穴が開いてる!?」

ゴーヤ「ヘッドチューブ、かなりボリュームあるでち……って、このアウターケーブル受け!? 見たことない形してるでち!」

ろー「わぁ、シートステーとチェーンステーが細いですって! すっごくスマート……あっ、フロントフォークもしなやかですって!」

イク「塗装も丁寧でつややか……すっごくピカピカなの!」

まるゆ「あ、あれ? よく見る形だなあって最初思ってたのに、じっくり見てると、どんどんカッコいいところが見つかっちゃいます……?」

はち「ふふ、でしょう?」

提督「そんなカッコいいフォーカスの特徴と言えば、その『素直さ』だな」

しおい「素直さ?」

まるゆ「です?」


447 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 23:34:02hgJRyAx. (41/43)


提督「どうペダルを回せば進むのか―――回すタイプ、踏むタイプ、もがくタイプ、振るタイプ。

   反応性――――トルクをかけるとギュンッとシームレスに加速するタイプ、じわりとパワーを均(なら)すようにグングン加速するタイプ。

   回した時に足に来る感触―――ひたすら固い一枚板タイプ、微かにしなるタイプ、あからさまにバネを感じるタイプ。

   重心が下に来るタイプ、上に来るタイプ、その中間。

   フレームには各メーカー・各国によっての特色があり、狙った性能があり、それによって癖がある。

   フォーカスはライダーに対して『こうやって乗るんだよオラァン!?』みたいな強いる乗り方と言うものがない。とても素直で穏やかだ」

ニム「吹雪型の子みたいに普通ってことですね」

提督「吹雪型をディスるのやめろ。吹雪だけだ、普通なのは」

ゴーヤ(てーとくが一番吹雪ちゃんをディスってると思うでち)

イムヤ(いいえ、アレはディスってるようで信頼の裏返しよ。吹雪ちゃんほど、正しく『普通』を体現している子はいない。いい意味でよ?)


 イムヤは真剣な顔で言う。


イムヤ(彼女ほど多くの海域で活躍した駆逐艦はいないわ。全海域制覇かつ出撃数だけならウチの最多よ、最多)


448 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 23:36:29hgJRyAx. (42/43)


【提督指定の……】


提督「しかしまあ、なんだ。改めてお前たちを見ていると」

ゴーヤ「でち?」


 ずらり勢ぞろいした潜水艦娘たちのロードバイク用の正装は――――。


提督「水着姿じゃないお前たちを見てると、なんだかほっとするんだよ」


 もちろんレーシングジャージであった。お揃いのオリョクルズマークが胸と腕に刺しゅうされた、色違いのジャージ。


提督「男としちゃあ複雑というか、誤解を招きかねんのだが」

イムヤ「……司令官のえっち」

イク「あははー! イクの水着が見たいなら、提督にならいつだって見せちゃうの! スクール水着じゃない水着でもOKなのね!」

ろー「ですって! みんなお揃いです! れんたいかん? がげきあつになるんですって!」


449 ◆gBmENbmfgY2019/12/01(日) 23:45:20hgJRyAx. (43/43)

※今日はここまでですね。

 改めまして遅くなって申し訳ない。

 実はけっこう書き溜めあるんだけど、リクエスト聞いておこうかな。

 少し手直しすればすぐに投下できそうな設定集や小話、レース話があるんだ。

【各艦娘】

・睦月型
・吹雪型(特Ⅰ型)
・綾波型(特Ⅱ型)
・白露型
・改白露型
・朝潮型
・初春型
・夕雲型
・秋月型


【レース】
1.足柄さんはポタリングに行きたいようです(レース。え? 時系列的に離れてるので別スレ立てる)

2.那珂ちゃんは、泣かないよ(レース。時系列的に離れてるので別スレ立てる)

3.軽巡洋艦最速決定戦(ワンデーレース。本編)

×:加賀と瑞鶴の確執(※本編用。まだ発表するには早すぎる時期なので凍結)


450以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/01(日) 23:54:44/2heHpAU (1/1)

おつおつ
その中だと個人的には秋月の話が気になるな


451以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/02(月) 01:18:02jeXe0O3I (1/1)

乙ー

別スレ建てるのは勿体無いので本編投稿希望

> 日向マジ日向
まぁ、そうなるな


452以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/02(月) 02:39:19qis2OfI6 (1/1)


質素倹約の秋月型がどんなバイク乗ってるか気になる


453 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 12:27:46/sduyqbU (1/35)

※おお、忘れてた。他にも候補あるよ。
 オリョクルズのバイク紹介と小話終わったら正式にリク取ってみよう
 じゃけん上記で挙げた秋月型とかも含め、詳細内容も断片的に添えて羅列しておきますね~。なお全部書くよ。見たい順番を参考までに聞くだけ。

【各艦娘】(本編)
・睦月型:提督とポタリングする話。瑞雲の話をしていたらヤツがきた。提督の女子力に如月が轟沈する。キレてねーっつってるじゃないすか。卯月さまはとても頭の良い御方。望月はかったるいことでもガンバるようです。カワイイね!
・吹雪型(特Ⅰ型):吹雪はダメダメな艦娘だったようです。頑張り屋の白雪。ズイフター初雪。叢雲は槍女で鼻が利く。健気な磯波。ド根性浦波。深雪様はピュアッピュア。
・綾波型(特Ⅱ型):思春期の艦娘は提督に恋愛対象として見てほしい。自転車活用術。ぼのたんは多趣味。天霧と朧はトレーニングジャンキー。狭霧は絵になる。漣はオチ担当。潮は子供。敷波は可愛い。綾波は釈迦。
・白露型:後述の改白露型を後日譚とするお話で、白露型・改白露型でレースするお話。白露がいっちばんを目指す理由。江風がいっちばんを目指す理由。涼風がかっこいい話。ちょっとだけ満潮。
・改白露型:上述の白露型のお話の後日譚。江風は井の中の蛙だったようです。山風が鎮守府の中心でタスケテを叫ぶ。海風はピッコロさん。涼風は寝ている。提督とパワトレする話。
・朝潮型:白露と共に朝潮がレースで詐欺にあう話。詐欺……いったい何月の仕業なんだぴょん……。アゲアゲ大潮。平地最強格の荒潮と山雲のあははあららうふふ。朝潮はいい子だからこそ、エースになれないという話。朝雲おねえちゃん。霞ガンガン。霰フリーダム。満潮は頭を抱えた。
・初春型:子日は駆逐艦内最強のオールラウンダーのようです。今日はどんな日なのか、いつも気になっていた。だけど今は、明日が気になる。今日は、子日の日だ。初春と叢雲の話。若葉は辛くてキツくて長く続く苦しい壊れちゃいそうなのがお好き。はつしもふもふ。
・夕雲型:夕雲型の長女はヤベーやつのようです。陽炎と双璧のヤベーやつ。秋津洲と高波は自転車のバラ組に挑戦。朝霜ちゃんはクソガキムーブな乙女。長波様は子日に勝ちたいようです。
・秋月型:初月は終戦間際に着任したせいで大分甘やかされていたようです。秋月っていうヤベーやつと照月っていうヤベーやつ。ロードバイクを欲しがります、勝ったから。提督の愛も欲しい二人。だが誘惑方法が80年代。
・海外艦娘たち:艦種問わず。ビスマルクたちが鎮守府へ帰還。みんながロードバイクに乗ってることにプンプンするようです。海外の文化についても少しだけ。レーベが尊い。マックスがデレッデレ。リベが尊い。そうだ、湖畔を走ろう。


454 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 12:48:42/sduyqbU (2/35)


・神風型:とんでもねえ鎮守府に着任しちまった彼女たちの日々はそれでも過ぎていくようです。鎮守府施設や福利厚生、給料諸々。下積み時代だがんばれ。
・海防艦たち:明石がハンドメイドフレームに挑戦するようです。やだいやだい佐渡さまもロードバイク乗りたいんだい! 子供特有の欲にも応えてくれる匠の技。もう二度とばかしなんて呼ばせない。だが彼女は馬鹿だった。

提督(一人に作ったら、ほかの子も欲しがるに決まってんだろ……おまえ自分の腕の良さ分かってんのか……? こないだの夕張んときから何も成長していない……)

【小話】
・球磨型:大戦後、北上さんがニートになった話。バイクの話だ。バイクのな……。
・ゴトランド:ゴトランドは提督にロードバイクとフィンランド式サウナ(ロウリュ)の設置を求めるようです。由良や明石と一緒にサウナでゆらゆらする話。サイクリングもしちゃう。サウナに入る時にはね、もっと静かで、落ち着いていて、なんていうか救われてなきゃあダメなのよ。
・ロードバイクテクニック講座(大丈夫? 提督の教導だよ?):多くの艦娘が登場。小競り合いも発生。舞風や野分、一部艦娘は講師役で大活躍。きぬぅ!!
・天龍ちゃんと龍田ちゃん:あちこち走り回っている彼女たちが気付いたこと、疑問に思ったことを提督が応えていくスタイル。体重が落ちすぎるって話とか。冬場? 積雪時? アキラメロン。
・隼鷹が悪夢にさいなまれている話。遠くに行きたかった。誰も自分の事を知らないところへ行きたかった。
・菊月がトランペットに憧れる少年のように、とあるロードバイクに惚れ込むお話。ほちい。
・ガンビーが日本横断するようです。太平洋から日本海への約360kmライド。果たしてガンビーは迷わず辿り着けるのだろうか(※無理です) ベーイ、ベーイ(泣き声)
・デ・ロイテルはオランダバイクの良さをわからせてやるようです。わかるわかる? コガよ!
・提督のパーフェクトスプリンター育成教室。長良や霧島が悲鳴を上げるようです。
・暁「一人前のレディとしてビンディングペダルにするわ!」


455 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 12:59:11/sduyqbU (3/35)

・雲龍が提督と姉妹たちと共に渋峠に上り、雲海を見下ろして感慨にふけるお話。真面目なお話。それと草津の湯。
・提督に騙される艦娘たちは、あちこちの峠を走らされるようです(メンツは度々変わったり常連がいたり)

【以下、本編に組み込むのでよっぽどリクエストが来ない限りは単独では書かないボツ】
・響「山岳用決戦ホイールは結局どれがいいんだ!」(底なし沼・山岳編)
・赤城「ビッグプーリー? 小さいのとは違うのですか?」(プーリー編)
・球磨「グルメライドするクマー♪」(美味しそうな匂いのするお話編)
・葛城「BB規格が多すぎて何が何だかわからない……」(超生臭い話編)
・まるゆ「シマニョーロ?」(禁断の果実編)
・鳳翔「そ、その、提督……この格好は、少し、私には、その……はしたないというか……」(サイクルウェア編)
・大鳳「ま、またパンク……?」山城「不幸だわ……」(パンク修理編)
・日向「手組ホイール! そういうのもあるのか!」(ホイール手組編)
・熊野「フレームをガラスコーティングしますわ!」(コーティング編)
・漣「ご主人様ぁ……漣の脚、揉んでぇ?」(スポーツマッサージ編)
・瑞鶴「来たわよ空母ババア……カタパルト寄越せ!!」空母棲姫「カエレェエエ!!」(瑞鶴の狂犬時代+蹂躙)


 カタパルトだ! 持ってんだろおまえ!! カタパルト出せ! カタパルトだよ!! カタパルトォオオオオオオオオオオオ!!!

 出さないなら殺す! 出したら楽に死なす! もったいぶるなら殺して奪う! 出せ! カタパルト! 私に必要なもんなんだよあの腐れ一航戦に一泡吹かせるためによォオオオオオオオオ!!!


456以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/02(月) 21:34:09xWpODVLk (1/1)

神風型見たい


457以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/02(月) 22:11:45ttcUCqdA (1/1)

北上さまの婿提督なのでぜひ読みたい


458 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:22:33/sduyqbU (4/35)


********************************************************************************

巡潜乙型 潜水空母:伊19改

【脚質】:TTスペシャリスト/クラシックハンター(クラシックスペシャリスト)

 ――さぁイクの! 地平線の彼方までカッ飛ばすのね!

 脚質はスプリンターとTTスペシャリストの両方のいいとこどりであり、どっちかと言えばTTが得意という誤差のレベル。上り坂? 死んでほしいの!
 【オリョール海の魔神】の異名を持つイク。いつも曖昧になってるわけではない。曖昧になるのは魚雷外した時や難しい話をされた時だけだ。何よりも曖昧の先の領域に開き直られると面倒である。
 とにかくトルクにモノを言わせたペダリングにより、トップスピードに達するまでが速い。だが落ちるのも速い。それだけならガッカリ性能なのだが、イクは回復するのも速くゾンビの如し。
 性格は極めてマイペースで悪意のない自分本位(わがまま)で、かつ刹那的快楽至上主義者。当て感が良いなんてレベルではないぐらい魚雷を当てまくる。勝負勘が強い。感覚派の極みに位置している。
 個人ワンデーレースが性に合ってるのは当たり前の事であった。根拠とか過程を抜きに、感覚のみで最適解を導き出す類の、集団生活を送る上では厄介なあれ。イムヤが苦労させられたのはもちろんである。
 とはいえチームワーク皆無ではオリョクルズでやっていけるはずもなく、そのあたりのルールは大鯨(龍鳳)やらイムヤやらにきっちり仕込まれた。ほぼ催眠に近い方法で。

龍鳳「出撃が終わったら、好きにしていいんです。でも出撃中は自分勝手なことをしてはいけません。もししたら……」
イク「し、したら……? ど、どうなっちゃうの?」
イムヤ「――死ぬ」
イク「い、逝くぅ……」

 死にます。逝きます。そういう暗示がかかっている。ひでえ話もあったものである。なお着任当初の話であり、今は自発的に協力する。チームワークは大事! なの!(※死ぬので)
 とはいえ、イクはそもそも戦うことなんて大嫌いなのだ。戦いを刺激とするほどウォーモンガーではない。原則ぐーたらしていたいし、人の面倒を見るなんてのも性に合わなかった。
 誰かと目的を共有してそれを達成する喜びは実感としてわかるが、個人的な勝利こそを至上としていた。
 そんなイクの意識が変わったのは、終戦も間際の事。
 伊26――ニムが着任したことがきっかけである――。
 続きは本編で。


459 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:23:31/sduyqbU (5/35)


【使用バイク】:SPECIALIZED S-WORKS TARMAC (gloss chameleon purple)
 イクのバイクは、スペシャライズド・Sワークスのターマック! なの!
 もちろんコンポはスラムのRED-eTAP! 無線の時代がキてるのー!
 かたろぐ? すぺっく? ぶっちゃけよくわからないけど、多分これがイクにとってベストな一番速いバイクだと思ったの!
 イクの両脚がうずうずしてるの! 戦艦だろうと空母だろうと、イクの大逃げを止められるものなら止めてみろ、なの!

********************************************************************************


460 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:24:28/sduyqbU (6/35)


********************************************************************************

巡潜乙型 潜水空母:伊26改

【脚質】:ルーラー(スピードマン)

 ――――私は、チームを勝たせるためにここにいる。だから、だから……だから!!

 オリョクルズのみんな絶対勝たせるウーマン。
 オリョール海の新たなる刺客。オリョール海の深海棲艦は潜水艦を見る度に震え上がるほどのトラウマを抱える破目に陥る。
 【オリョール海の新たなる死亡フラグ】【三つの問いかけ】【どう答えても魚雷】。終戦後だというのに、オリョール海へしつこく間引きに行くオリョクルズ達。そのときに貰った二つ名。
 イクと正反対に相手の気持ちを慮ったり空気を読んでの大人な対応ができる。勉強熱心で料理上手。
 本編開始時点でオリョクルズの中では一番の新参だが、イクを始め潜水艦隊のみんなとの関係も良好である。面倒見も良い。きっと後輩たちが入って来た時には良き先輩となるだろう。
 そんなニムの脚質はルーラー。万能な脚質はチームレースでのサポートに特化しており、本人の気質もあいまってやる気満々。進んで誰かのフォローができる。
 イクとは着任当初こそ不仲とは言わないまでも壁や距離を感じていたがあったが、既に阿吽の呼吸でやってのける。ハンドサインもばっちり。オーケイ、オリョクル。
 今ではイクのみならず、潜水艦仲間のやらかしをバッチリフォローできる立場に。イムヤと同じく苦労人気質かもしれない。
 イムヤやゴーヤにとっては救いの女神に等しい。やっと、やっとまともな後輩が入ってくれた……! はっちゃん? あれはヤベーやつよ。

【使用バイク】:SPECIALIZED S-WORKS TARMAC (Red)
 ねえ! ねえねえねえ、聞いて! ニムのバイクが納車されたの!
 イクお姉ちゃんと同じ、スペシャライズド・Sワークスのターマック! いいでしょ、いいでしょいいでしょ!
 もちろんコンポもお揃いでスラムのRED-eTAP! 無線の時代がキてるね! キてるキてるキてるよ!
 これってすっごいバイクなんだって? なんかいっぱい、有名なレースで勝ったり、有名な選手がこれに乗ってたりするんでしょ?
 これなら私も、お姉ちゃんやオリョクルズのみんなを立派にサポートできるよね! できる! できるできる!
 まだまだ新参で無名に等しいあたしだけど、ここでいっちょう凄いことを、艦隊のみんなにアピールしなきゃね! 見ててね! 見てて見てて!

********************************************************************************


461 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:26:11/sduyqbU (7/35)


【お揃いSワークス】

提督「出たなターマック……!! レアなフレームがいいと言った割には王道で攻めてきたじゃあないか」

イク「色合いがレアなの! それと多分このバイク、すっごく速いと思うし、イクの脚にも合ってると思ったのね!」

ニム「お姉ちゃんが選んだから多分間違いないかなって! ねえねえねえ、そうでしょ?」

提督「お、おう……(当たってるよそれ。根拠なしに決めてるくせしてどーしてそうなる? イクってば徳の高い何かが憑いてんじゃね?)」


 このターマック――提督が島風へプレゼントするロードバイクを考えた時、最後まで残った候補であった。スプリンターやTTスペシャリスト、オールラウンダー御用達の名車である。


イムヤ「そんなにいいバイクなの?」

提督「ああ。輝かしい栄光に彩られたロードバイクフレームだ」


 とてもとても分かりやすい硬度を備えた直線スプリントに強いオールラウンドフレームであり、様々な試乗会において一二を争う人気を誇っている。


提督「すっげえ扱いやすいのよコレ。加速力もグンッッと来る感じで、踏み心地もパリッとインパルスが走ったような反応を返してくれる。

   つーか俺も欲しいんだよね。ローバルのホイールも試してみてーし」


462 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:27:54/sduyqbU (8/35)

********************************************************************************

巡潜乙型改二 潜水空母:伊58改

【脚質】:オールラウンダー

 ――――まだ、行けるでち。そうでしょ?

 ロードバイクチーム・鉄血のオリョクルズ、そのエース。特にステージレースを得意とする。
 海においては【オリョール海の必殺仕事人】とか【深海棲艦絶対殺すウーマン】とか【伝説の始まり】とか呼ばれている。
 とにもかくにも深海棲艦には死んでもらいます。殺意高め。勝利への嗅覚はイクの方が優れているが、それを補って余りある勝利への執念はゴーヤが勝る。プレッシャーに強い。正しくはそれをねじ伏せる術に長ける。
 提督に対するスタンスはお兄ちゃん勢――――ではなく、御屋形様勢という希少種。
 義理と人情を重んじるゴーヤにとって、自分とイムヤを救ってくれた提督は足を向けて寝れない大恩人である。もちろんその人間性においてもゴーヤにとっては好ましいらしく、尊敬と敬愛と敬意を持っている。
 実は提督の言葉はすべてに優先すると思っており、死ねと言われれば笑って死ぬレベルの忠義の輩。これには朝潮もマッハで首を縦に振って同意。ヤンデレ予備軍。
 もちろん提督は誰がそんなこと命じたよ頼んでもいねーよと度々苦言を呈している。
 そう提督に言われてからは、一見するとお兄ちゃん勢っぽい接し方になった。ゴーヤはそのあたりは頑固ではないので、普段は提督にも結構お気楽な態度で接している。なお朝潮は改善しないもよう。
 提督に軽んじられるのは彼女にとって堪らない苦痛であるらしく、自己研鑽は怠らない。この辺りはイムヤと同じだ。必要とされなくなるのが怖いのだ。史実における戦後処理の事も恐らく響いている。無用物になりたくない。
 着任当初からイムヤを支え続けた。イムヤにしかわからないイムヤの苦悩に寄り添い、励ましながら頑張り続けてきたオリョクルズ影の功労者である。素でいい子。
 そんなゴーヤにも転機が訪れる。ドイツからの友軍であるUボート――U-511の面倒を見ろと、提督直々に命が下された時のことだ。続きは本編で。

【使用バイク】:MERIDA SCULTURA 10K-E
 ゴーヤのバイクは、台湾のメリダ、そのオールラウンダーモデルの最上位、スクルトゥーラのフラッグシップでち!
 そう、日本の誇るロードバイク選手、新城幸也選手も乗ってるメーカーなんだよ!
 コンポはもちろん、提督指定のデュラエースDi2だよ! やっぱり提督が愛用してるだけあって、すっごく機能的でち!
 軽量オールラウンドモデルを謳っているだけのことはあって、すっごく軽いし加速性能も登坂性も両立した名機です!
 これでゴーヤは勝って見せるね、提督! 誰にも負けないよ! 誰にも――――あの馬鹿にも、でち。

********************************************************************************


463 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:30:10/sduyqbU (9/35)

********************************************************************************

呂号潜水艦:呂500

【脚質】:スプリンター

 ――――げきあつですって!!

 かつてはドイツのUボート。ユーと呼ばれた少女は、斜め上の方向へと成長してろーちゃんとなった。
 【オリョール海のスマイリーデス】とか【苦瓜のお供】とか【最恐の助手】とか【天使のような悪魔】とか。
 オリョクルズ最強のスプリンター。がるるぅー、がるるー! 後半の伸びが凄まじい。というか粘りが凄い。一度抜かれた後に再加速とか信じられないことをやってのける。
 典型的な競うタイプで、そこで強者を名乗れる域に達している。
 下積み時代にとっても苦労した経験が、今も生きている。それも全てはゴーヤのおかげと言ってのける。
 ゴーヤのことが大好きで、そのことを隠そうともしない。ゴーヤはいつものむっつり顔で適当にあしらってるが、内心ではまんざらでもない。
 チームレースではチーム、ひいてはゴーヤのアシストとしてしおいと共にアタックしかけまくりポイント狙いまくり。
 エーススプリンターとしてそこそこポイントも取れる。


【使用バイク】:CANYON AEROAD CF SLX
 ろーちゃんです! はい! ろーちゃんのロードバイクはドイツのキャニオン! えあろーどしーえふ、えすえるえっくす――ですって!
 えへへ、かっこいいでしょ? プロ選手のマルセル・キッテルさんも使ってるバイクなんですって! げきあつですって!
 ねっと販売だけのメーカーなんですって! でっちと龍鳳さんと一緒に組んだんですって!
 それでね、でっちったらね、文句言いながらも組むの手伝ってくれました! ろーちゃんもがんばって組みました! すごいでしょ? 褒めて褒めて!
 レースもサイクリングも、いっぱい楽しみたいって! それにてーとくと一緒に、温泉にも行きたいですって!
 でっちも誘って、今度行こうね! ぜったいです!

********************************************************************************


464 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:32:30/sduyqbU (10/35)



【ユーのもくひょう】

 ユーは、ほんとうはいやでした。

 ニホンにくるの、いやでした。

 しらないクニ。しらないコトバ。しらないヒトたち。

 どうしてユーなんだろうって、あたまのなかでぐるぐると、なんどもなんどもいやになりました。なやみました。かえりたいっておもいました。

 だけどこたえはでなくって、うまくニホンゴがしゃべれなくて。

 こわくて、ふあんで、こころぼそくて、ユーはしくしくなきました。

 ひとりぼっちで、なきました。さびしくてさびしくて、かなしくてかなしくて、いっぱいいっぱいなきました。


「――――世話の焼けるやつでち」


 だけど、そんなユーをひとりぼっちにしてくれないひとがいました。

 ゴーヤという、せんぱいでした。

 ユーのせんぱいは、「でちでち」いうひとでした。とってもカワイイこだけど、とてもコワイひとでした。


465 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:33:14/sduyqbU (11/35)


 ゴーヤってよべっていわれたけれど、でちでちいってるからでっちってよぶことにしました。でもよぶとおこります。こわい。


「いいでちか? 魚雷の狙いはこう」


 いわれるままに、いっしょうけんめいがんばりました。

 ユーはまだまだニホンゴがへたっぴで、うまくいしそつうができなかったけれど。

 ゴーヤは、ユーをみすてませんでした。ユーがわかるまで、ずっとずっとおしえてくれました。


「手紙を書く? そりゃ喋るのも厳しいおめーにゃ難易度高いでちねえ……箸の握り方から教えてやりてーとこでちが……しゃーないでち、付き合ってやるでち。いいでちか? ここは……」


 このおてがみも、ゴーヤがかきとりのべんきょうをしてくれたおかげでかけました。あ、ないようは、ないしょです。はずかしくて、つたえられないから。

 なんどもなんどもかきなおすことになったけれど、ゴーヤはずっとずっとかきとりのおべんきょうにつきあってくれました。ニホンゴは、だんだんじょうたつしてきたとおもいます。

 ゴーヤには、かんしゃのきもちでいっぱいです。

 ゴーヤだって、いっぱいいっぱいくんれんして、へとへとなのに。

 ユーのおせわをしてくれながら、にんむだってこなしているのに。

 そうおもったら、ユーは、なみだがでました。


466 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:34:19/sduyqbU (12/35)


 ユーはまたなきました。いっぱい、しくしくなきました。

 だけど、それはかなしいからじゃありませんでした。

 くやしかったからです。

 ユーはおにもつなんだって、やくにたてていないんだって、それがくやしくてくやしくて、なみだがとまりませんでした。

 あるひ、ゴーヤとぎょらいのくんれんをしてるときに、たえられなくて、ユーはまたなきました。

 くやしい、くやしいっていって、なきました。


「本当に、世話の焼ける奴でち」


 ゴーヤはあきれたようにそういって――だけど、それでもユーをみすてませんでした。

 なさけなくなきじゃくるユーを、ちからいっぱいだきしめてくれました。


「最初は誰だって役立たずでち。だけど、役立たずのままじゃいられねーんでち。その点、おめーはよくやってるでちよ。

 ――なぜならおめーは、それが悔しくて、情けなくて、そんな自分のままじゃあいたくないって、ここで強くなろうと足掻いてるからです。

 おめーは泣き虫ですが、立派な潜水艦でち――どれだけ泣いても、どれだけ悔しくても、おめーは毎日訓練してる。諦めることを考えていない」


467 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:35:17/sduyqbU (13/35)


 それはゴーヤでもむずかしいことなんだって、ゴーヤはそういいました。


「だから、泣かずに――――ここで強くなろ? ゴーヤと一緒に、ね?」


 みあげたゴーヤは、やさしいえがおをユーにむけてくれました。

 ユーはまたなきました。

 いっぱい、ゴーヤのうでのなかで、なきました。

 くやしかったし、かなしかった。だけど、それいじょうにうれしかったからです。

 ユーにとってたいせつなひとができました。

 ゴーヤは、ユーのたいせつなひとになりました。

 いつかりっぱなせんすいかんとして、ゴーヤといっしょにたたかいたいとおもいました。

 だから、ユーのもくひょうは。



 ――ゴーヤといっしょに、へいわなうみをとりもどすことです。


468 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:36:33/sduyqbU (14/35)


………
……


ろー「でっちー! ねえねえ、でっちー!」

ゴーヤ「でっち言うなと言ってるサルゥ!! 仕舞いにゃ五体解体(バラ)して魚の餌にしてやるでちよ!?」

ろー「で、でも、ゴーヤはしょっちゅうでちでち言ってるって。だからでっちー」

ゴーヤ「だからでっちってのは丁稚っつー昔の下働きの小者未満って意味があるって言ってるでち!! 現代じゃ蔑称そのものでち!」

ろー「そ、そうなんだ……で、でも」

ゴーヤ「でも、なんでち?」

ろー「ろーちゃんにとって、でっちはでっちですって。その、べっしょう、なんかじゃ、ないですって。

   でっちの口癖、優しい感じがします。ろーちゃん大好きですって」

ゴーヤ「っ、ば……」



 それからユーは、がんばってつよくなって。

 ユーは、ろーになって。


469 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:41:00/sduyqbU (15/35)


 ニホンで、大切なお友達ができました。いっぱいいっぱい、できました。

 イムヤちゃん、イクちゃん、はっちゃん、まるゆちゃん、ニムちゃん。

 駆逐艦の人たち、軽巡、重巡、軽空母、空母、戦艦の人たち。

 ほかにもいっぱいです。

 だけど、一番の大切なお友達は、やっぱりゴーヤで。

 そんなゴーヤに出会えたのも、ろーちゃんがユーだったときに、ここに来たおかげでした。



 ろーちゃんは、日本にこれて、良かったと思っています。




……
………


470 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:43:07/sduyqbU (16/35)


【宛名はドイツのビスマルク】

ビスマルク「ユーから……ろーからの手紙は読んだかしら、グラーフ。私が昔、バルト海を暴れまわってた頃に貰ったのよ。私はもちろん日本語だって完璧だから当然読めたんだけど、それがまさか仇になるとは……なつかしいわね……グラーフ? グラーフ?」

グラーフ「ちょっと目から水漏れがな……おまえは平気か、ビスマルク」

ビスマルク「フフ、そりゃあ平気よ――――何せ昨日の夜に読み返したら不覚にも涙ボロッボロで既に枯れ果てたわ!!」

グラーフ「……なるほど、道理で目が赤いわけだな」

アイオワ(堂々と言う事じゃないわゼッタイ)


 ビスマルクの言動はいちいち『スゴ味』があった。


レーベ「この手紙読んでると、ボクも昔を思い出すなあ」

マックス「この戦線ももうじきひと段落―――そろそろ帰らない? 日本へ」






【ユーのもくひょう――つづく】


471 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:47:03/sduyqbU (17/35)



********************************************************************************

潜特型 潜水空母:伊401改

【脚質】:パンチャー/クラシックスペシャリスト

 ――――ここのポイント、貰い受けるよ!

 【オリョール大サーカス】とか【焦げたしばふ】とか【スズメバチ】とか【素晴らしき晴嵐さん】とか【脱ぎ女】とか多くの異名を持つ。真っ二つ。
 ロードバイクチーム・オリョクルズにおいての役割はマルチプレイヤー。遊撃である。ステージレースにおけるポイントハンターであり、あの手この手でどぼーんとアタックしていく。
 潜水空母としての能力と同様、ロードバイク乗りとしても隙のないマルチプレイヤーかつ、超攻撃的なレース展開を得意とする。
 アタック。アタック。そしてアタック。地形問わず仕掛けてくるあたりが嫌らしい。いい意味で空気を読まないし悪い意味でも空気読まない。
 個人ワンデーレースにおいては自身の勝利を積極的に狙っていくアタッカー――かと思いきや、意外とクレバーで冷静なレース運びをする。
 提督はお兄ちゃん勢。メッチャ甘える。ごきげんようと挨拶するのは、提督の気を引きたいのもある。おしゃま。
 だが羞恥心がなかった。知識もねえ。提督が入浴時に乱入しようとする(故意・事故問わず)未遂を起こした数は数知れず、全艦娘中最多を誇る。
 しおんの着任によって改善――されるといいな、と提督は消極的かつ楽観的な希望を抱いている。思考を放棄した提督はゴミだと教えたはずだがな。
 かつて、蒼き鋼と共に霧の艦隊を撃退した際、海域で発見された艦娘。今はいない潜水艦の少女との間には、確かな友情があった。

【使用バイク①(ポタリング用)】:GIOS REGINA
 ごきげんよう! これがしおいの蒼き鋼! ジオスのレジーナだよ!
 うーん、いいですよね、この深い青! レースでメインに乗るのとは別で、これにはしおい、思わず一目惚れです!
 はい、やっぱり思い出しちゃいますよね、あの子の事!
 ――イオナちゃん、元気かなあ。タカオさんやハルナさんも、きっと元気にやってるよね。
 また……逢えるよね。逢えますよね、提督。


472 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:47:36/sduyqbU (18/35)



【使用バイク②(レース用)】:Daccordi 80+1(Ottanta Piu Uno・Matt Black/Blue)
 じゃじゃーん! しおいのレース用バイクはこれ! イタリアはダッコルディのおったんた……ええと、お、お、おった、おったん……。
 …………て、提督、読んで?
 …………お、おったんた、ぴう、うの! ですよ! 読めました、へへ……。
 高耐性カーボンを使った、すっごいカーボンフレームなんです!
 ハンドメイドのバイクもいいけれど、そういう老舗が作るカーボンも、いいよね? いいと思います!

********************************************************************************


473 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:50:11/sduyqbU (19/35)


【お目付け役】


提督「くれぐれも頼んだぞ、はち。イムヤやゴーヤがフォローできないところについては、君の手腕にかかっていると言っても過言ではない。嫌なプレッシャーだとは思うが、よろしく頼んだ」

はち「お任せください、提督が危惧していることは分かっています。このはっちゃんの目が黒いうちは決して――――」


 初夏の陽気。その日、提督はオリョクルズと共にサイクリングを楽しむことになったのだが――。


しおい「はー、暑い暑い……ジャージの前、開けちゃお……あー、風が入ってきてきもち―。良いね、良いと思います!!」

ゴーヤ「確かに暑いでちね……って、しおいィィィイイイ!? なんでおめーインナー着てねえんでちィィイイイイイ!? それで前全開って、羞恥心どこに捨ててきたァアアアア?!」

しおい「はー? 何それ、おいしいのー? 別にいいじゃない、減るもんじゃないよ」

イク「またしおいちゃんの露出癖が出たのぉ! お茶の間にちょっとしたえっちなハプニングをお届けするあざとい作戦なのね!!」

しおい「え、なにそれ? って、あ! 提督だ! おーい、おおーーーい!! 今日は楽しくサイクリングしよーねー!」

ゴーヤ「ギャーーーー!? てーとく、こっち見ちゃ駄目! ダメったらダメでちぃいいいい!!」

イク「ニ、ニム! 早く! 早くモザイク持ってくるのぉおおお!!」

ニム「ゴッドモザイク! ゴッドモザイクはどこ!? しまった、ポタリングで油断してた持ってきてない!」


474 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:52:25/sduyqbU (20/35)


 しばしば曖昧になるイクのご尊顔を隠すため、ニムはゴッドモザイクを持ち歩いている。


はち(目が黒いうちどころか、まだ目を付ける前のやらかしなんて想定外にも程があるでしょう?)

提督「きゃああああああああああああああああ!?」

はち「ああっ!? 提督が絹を引き裂くような悲鳴を上げながら自主的に記憶を抹消しようと、また岩を!! 見ちゃったんですね!? だから岩を!! 頭で!!」

鬼怒「え、鬼怒呼んだ? 鬼怒を引き裂くとか不穏な単語も聞こえたけどやる気? うっかり殺しちゃうよ?」

まるゆ「うわああああ!? なんでこのタイミングでぇ!? あっちいけ! あっちいけぇ!! 長良型の悪魔!!」


 長良型はナチュラルに精神を追い込んでくる上に、人が嫌がるベストタイミングを狙いすましたかのように突っ込み、進んで嫌なことをする軽巡の鑑である。



 オーリョクールズ
 閑話休題。



提督「全く君には呆れましたよしおいさん」

しおい「ねえ、なんでしおい、正座させられてるの? そして提督、なんで敬語なの? それと大丈夫? 頭から血がいっぱい出てるよ?」


475 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:54:30/sduyqbU (21/35)


提督「おまえが【ハレンチ学園黙示録】したっつーその事実だけを残して映像記録を抹消したんだよ言わせんなクソ痛い」

しおい(提督が何を言っているのか、しおいはたまにわかりません)


 そろそろ理解してほしい提督と、本気で分かっていないしおい。平行線なのだ。いくら提督がインナーを着ろと言っても、


しおい「ええー? やだよー、暑いもーん」

提督「おだまりなさい。君はまだインナーウェアの重要性や快適性を知らないだけなのです」


 言って、提督はポケットからサッとインナーウェアを取り出した。用意の良い事である。


提督「このノースリーブのメッシュインナーを着なさい。今なら提督からの厚意で本来なら1着のところを3着プレゼント」

しおい「でも、お高いんでしょ?」

提督「プレゼントっつってんだろ」

しおい「タダより高いものはない!」

提督「うまくないぞぉう」


476 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:55:53/sduyqbU (22/35)


 しおいの説得は、提督にとっても困難であった。

 故に、提督は助っ人を呼んでいた。

 淑女が淑女を心がけぬ、こんな時代に嘆いた淑女を。

 かつて悪鬼と呼ばれ、全ての空母から恐れられた彼女を。


しおい(―――えっ)


 ――その時、鴉が哭いた。

 鎮守府の両脇に茂る林から、けたたましい鳴き声と共に、大量の鴉が空へと逃げていく。


提督「ッ……来てしまったか、我が鎮守府の秘密兵器が……!」

まるゆ「心揺さぶられる響きですね、秘密兵器って!」

しおい「ロマンを感じますよねぇ。いいと思います! しおいも秘密兵器だったし!」

提督「ああ、秘密兵器だ……あまりにも恐ろしすぎて秘密にせざるを得なかった兵器が……!!」

まるゆ「あっ(察し)」


477 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:57:28/sduyqbU (23/35)


 しおいの説得は、提督にとっても困難であった。

 故に、提督は助っ人を呼んでいた。

 淑女が淑女を心がけぬ、こんな時代に嘆いた淑女を。

 かつて悪鬼と呼ばれ、全ての空母から恐れられた彼女を。


しおい(―――えっ)


 ――その時、鴉が哭いた。

 鎮守府の両脇に茂る林から、けたたましい鳴き声と共に、大量の鴉が空へと逃げていく。


提督「ッ……来てしまったか、我が鎮守府の秘密兵器が……!」

まるゆ「心揺さぶられる響きですね、秘密兵器って!」

しおい「ロマンを感じますよねぇ。いいと思います! しおいも秘密兵器だったし!」

提督「ああ、秘密兵器だ……あまりにも恐ろしすぎて秘密にせざるを得なかった兵器が……!!」

まるゆ「あっ(察し)」


478 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:58:12/sduyqbU (24/35)


しおい「えっ」


 しおいは知らない。


提督「残念だ、しおい。俺が優しく説得しているうちに、君は素直に耳を傾けるべきだったのだ。

   そも俺もお説教対象となる。俺が悠長に、そのうち羞恥に目覚めるさなんて思って楽観していたのもいけない。共に地獄を見よう」


 しおいはもう、詰んでいたのだ。

 鴉に続いて、次は猫だ。野良である。

 彼らはその存在に対して、道を作るかのように、綺麗に列をなしてごろんと地面に転がった。


提督「小動物が自主的に自らを贄にしろと腹を見せだした……来るぞ……!!

しおい「い、一体、何が――」


479 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 22:59:51/sduyqbU (25/35)




竜飛「淑女を心がけない子がいると聞きまして」

しおい「」


 【マッマ】【おかん】【おかあさん】【おっかさん】【マンマ】【ママーーーッ!】。

 うっかりそう呼んでしまった艦娘の割合、なんと八割越え。(青葉通信Vol.34:2015年度)

 彼女を前にした瞬間、全てを悟ったしおい。

 小麦色のしおいの肌が、漂白剤をブチ込まれたかのような驚きの白さに。

 なお武蔵の時も同じだったもよう。


龍鳳「………ちょっとこちらへ」


 龍鳳もついている。

 微笑んでいた。


しおい「や、やだ……やだやだやだやだやだ、やだぁああああああああああ!!!」


480 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 23:01:01/sduyqbU (26/35)


 しおいは己が何を間違ったのか分からない。

 だが悟った。本能がそれを悟らせた。

 ――――恐ろしいことが起こる。

 ――――自分は何かとてつもない間違いを犯していて、そのせいでこれからとっても怖い目に合うのだ、と。

【りざると:しおい】

・異性の前で脱がなくなった。

・そもそも野外で脱がなくなった。

・お風呂にどぼーんはする。これはもはや常識。そしてしおいのアイデンティティ。

・だが彼女の小麦色の日焼け跡に変化が。そう――水着の肩紐部分がくっきりと白くなるようになったのだ。


【りざると:提督】

・鳳翔をしばらく「さん」付けで呼ぶことになった。自主的に。

・ガミガミされた時に「そんなに怒らないでくれよ母さん」と思わず母さん呼びしたところ、何故か赤面されてビンタされた。首から上がすっ飛んだかと思った。雑木林に頭からダイブする威力。提督、全治一週間。

・今度、居酒屋鳳翔で飲み食いすることになった。わけがわからないよ。


481 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 23:04:08/sduyqbU (27/35)


********************************************************************************

三式潜航輸送艇:まるゆ改

【脚質】:クライマー/ダウンヒラー

 ――――土竜の登坂を見せてあげる。

 艦ダム・マルユトス。【オリョール海の白い悪魔】とか【白い土竜】とか【忍者】とか。最後の異名の由来はそのうちわかる。
 ロードレースにおいては山岳における最強のアシストであり、ヒルクライムレースにおいては文句なしのエースでもある。山岳ゴールではないがコースに超級山岳があり、続く平地などがゴールとなる場合、まるゆ以上のアシストはいおない。
 チームレースでメンバーにまるゆがいるだけで、地獄のような山岳コースも確実かつ最速なヒルクライムをお約束。超頼もしい。(なお苦しくないとは言っていない)
 潜水艦で最も小柄な体型、されど単位時間当たりの最大出力は駆逐艦含め最強という脅威のポテンシャル。これには島風もびっくり。平地を流すような速度で坂を……!?
 思考は固いが、記憶力に優れる。記憶の引き出しを検索する能力が優れており、既存の戦術をなぞるのが上手い。
 読み筋以外の新手に弱いのが弱点と言えば弱点だが、長考の余裕さえあれば最低でも堅実に対応し、うまくいけば打開策を練り上げて見せる。
 ただ本人は勘が鋭い。鋭い故に己の中の戦闘論理とたまに相反するため、上手く歯車がかみ合わないと空回りしてしまう。いわゆる「野生」と「理性」が上手く調和しないのである。
 「嫌な予感がする」とのこと。それなりに虫の知らせがあるらしい。伊19や伊13も同じこと言ったらトラブル確定。未来予知かな? フォース的な? ニュータイプ的な?
 趣味は相撲観戦と将棋、押し花。他の潜水艦の仲間と同じくダイビングを好む。谷風らとは趣味が合う。お相撲さん達はおっきくてかっこいいので好きとのこと。
 たいちょーも一緒に、素潜りどうですか? まるゆ、近代化改修も済ませて練習もして、とっても上手になったんですよ! ちゃんと浮かべますし!
 平地巡航は雪風より少しだけマシってレベル。別に体力無いわけじゃないが、体重と最大出力の都合上、まるゆは絶対的に見ると持続できるパワーが足りない。
 シフトウェイトをうまく使って最大出力以上の絶対的なパワーを引きずり出すのが極めて苦手。平地のアタックとか苛め以外の何物でもないと思ってる。素の体重が軽すぎた。
 見た目通り体重が軽く、華奢で小柄ながらも非常にリズムよく丁寧なペダリングでスルスル坂を上っていく。八割の力を九に見せたり、時に五に見せたりするあたりが業師である。はい! もぐもぐアタックです! 土の中の土竜は正体不明と言いたいらしい。
 平地はとってもとっても苦手。といっても単独で信号なしノンストップで平地巡航35km/hはクリアしている。これでも駆逐艦の運動能力平均値から見てもかなり遅いレベルである。
 集団内にいるなら50km/hを30分ぐらいならイケる大丈夫。
 同じ陸軍出身のあきつ丸とは深い交流があり、気心の知れた友人関係。時折、あきつ丸のやらかしに巻き込まれることもあるが、それを加味しても仲良しである。なおあきつ丸も組手は強い。ダブル烈風拳。モロに喰らうと相手はしばらく飯が食えねえ。そういうことである。
 木曾は憧れの人で大好きである。まるゆにとって木曾は着任当初からヒーローだった。
 既に木曾が幾度とない挫折と難渋を乗り越えた末に改二となり、頼もしくなっていたこともあるが、弱いまるゆをいつも励ましてくれた。だからまるゆは天龍のことも好きだ。だから提督も好きだ。
 大好きがまるっと繋がっていくこの鎮守府が大好きだ。


482 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 23:05:52/sduyqbU (28/35)


【使用バイク】:YONEX CARBONEXHR (Graphite)
 はい! まるゆのロードバイクは日本国産、ヨネックスのカーボネックスです!
 え? ヨネックスって言ったら、テニスやバドミントンだろ……って? そんなぁ!?
 すっごく軽くて登坂には最高のフレームなんですよ!
 あ、コンポはカンパニョーロにしました。はい、機械式のスーパーレコードです! やっぱりエルゴパワーがまるゆの手にはしっくりきます。
 日本国産のフレームと合うかなあって心配でしたけど、どうです? カッコよくないですか?
 で、ですよねたいちょー! たいちょーもカッコいいって思いますか! そうですか!

********************************************************************************


483 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 23:24:35/sduyqbU (29/35)


【もぐもぐ登坂(弱)】

 ――――なおそんなまるゆも、乗り始めはヒルクライムが苦手であった。


まるゆ「はぁ、ふぅ、へひぃ……ぅわぁあん……へとへとだよぉお……」


 特別おかしなことではない。ヒルクライムの技量とは積み上げるものである。

 ヒルクライム初体験時にホビーレーサーの中堅どころを軽く凌駕するテクや結果を残した雪風や阿武隈の方が圧倒的におかしいのである。


まるゆ「……ぅう、たいちょー……ヒルクライムが、どうにもまるゆ苦手で……」

提督「しょうがないにゃあ……(多摩声) んー、今度一緒に走ってみるか。俺の後ろについて、俺の真似しながら走ってみそ」


 そんなこんなで、提督と共に近場の中級者向けの山岳コースまで走ったのだが、


まるゆ(何、この安心感……!?)

提督「呼吸を整えてー、深く吸ってー、吐いてー。あんまり下は見ないことー。アップライトに構えて、胸を張って、息をまた大きく吸ってー」

まるゆ(たいちょーの大きな背中に隠れて、次の坂道が見えない……なのに)


484 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 23:25:27/sduyqbU (30/35)


 言われた通り、まるゆはただついていくだけ。駆けあがっているのは、辛さに負けて足を突いてしまったことのある坂道だった。

 それが、どうしようもなく楽になっている。


まるゆ(たいちょーの走るラインに合わせていれば、ただケイデンスだけに気を払ってれば……あっ? ライン取りが変わって……?)


 提督が走るライン取りを変えながら、ちょいちょいと地面を指さすジェスチャーを取る。まるゆがその指先を視線で追えば、


まるゆ(あ! 地面にクラックあったんだ……まるゆ、全然余裕がなくって、気づけなかった)

提督「はい、上を見てー。何が見える?」

まるゆ「えっ、あ―――さ、山頂が!!」


 永遠に続くと思われた坂道が、そのゴールがすぐそこまで。


提督「んじゃラストスパート! ギアを二段上げて、ダンシング開始するぞー。ケイデンスはできるだけ維持しなさい」

まるゆ「あ、はい! えい、えいっ」


 ジャコンジャコンと、小気味よい音を立ててギアが上がる。


485 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 23:26:00/sduyqbU (31/35)


 その度に両足にかかる重さは増していったけれど。

 まるゆはもう、山頂がそこにあることを見た。

 心が、軽くなっていくようだった。


提督「さ、立ち上がれ。そろそろお尻も疲れてきちゃったろ?」

まるゆ(あ……まるゆ、ずっと座りっぱなしでペダルを回してたんだ)


 何気ないアドバイスの一つ一つが、まるゆにとっては新鮮で、とても有意義なものだった。


まるゆ(ふぅ、ふぅ……ダンシングって疲れるけれど、座りっぱなしで固まってる筋肉がほぐれる感じがします……そっか、たまにはダンシングを入れないといけないんだ)

提督「そこで力をかけすぎない」

まるゆ「!?」

提督「潜水艦らしく肺活量も中々だ。トルクかける走りもいいが、基本は心拍で走れ。筋力使うのはここぞってところがいい」


 そう言って、まるゆに並走する提督は、優しく微笑みながら、ヘルメットごしにまるゆの頭をぽんぽんと撫でた。


486 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 23:27:17/sduyqbU (32/35)


提督「センスあるぞ、まるゆ。ヒルクライム頑張れば、きっとすごい乗り手になれるぜ」


 前を向けば、もう山頂まで100m程度。


提督「牽かれることで、すごく楽に走れただろ? 何よりも気持ちが」


 そうだ。心が軽くなったんだ。その気持ちを、まるゆは覚えている。

 だから、なりたいと思った。


提督「山岳がキツいレースにおいて。山岳では誰もが頼りにする――――そんな子になるのはどうだ?」


 ――そうなりたいと、思ったのだ。


はち「やってみせ、言って聞かせて、させてみて」

ゴーヤ「誉めてやらねば、人は動かじ……まるゆは自分に自信のねー子でち。未知のことについては、特に」

はち「自分で自分の才能に蓋をしてしまいがちですからね。提督に先を越されちゃいましたか」


487 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 23:28:04/sduyqbU (33/35)


ゴーヤ「てーとくの手を煩わせちまったでち。罰として今日はゴーヤと一緒にスプリント地獄でちよ、ろー」

ろー「」



 ろーは納得できなかったが口ごたえできなかった。


【もぐもぐ登坂(弱)・完】


488 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 23:28:45/sduyqbU (34/35)

※こんなところですね

 次からは別の話(本編か小話)になりマッシュ。


489以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/02(月) 23:39:02zaz9wW/. (1/1)

乙なのね!

悩ましい、実に悩ましい!
全部読みたいぞ全部だ!

でもまずは秋月型かな


490 ◆gBmENbmfgY2019/12/02(月) 23:48:50/sduyqbU (35/35)

※秋月型のリクエストが多いのは何故だろう





 何故だろう
 ぼくにはかいもくけんとうがつかない


491以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/02(月) 23:49:28ZH.B2jyI (1/1)

乙なのです
朝潮型が読みたいのです


492以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/03(火) 07:18:46f7e36tGY (1/1)

吹雪の描写とか見てるとそれだけで
この作者の艦これは安心して読めるって
気持ちにさせてくれるのが良い

……魔法レアトレジャーも余裕できたら再開してほしいね


493 ◆gBmENbmfgY2019/12/03(火) 21:02:37hqf5poSc (1/7)

※ご感想およびリクエストありがとうございます

 秋月型が3票と獲得数最上位なので秋月型にするかな

 ちょっと書けるとこまで書き足して投下していく

 その次当たりに神風型と朝潮型か、もしくは北上さんだ。さらにリクエストあれば前向きに考慮はする。(やるとはいってない)

 なお北上さんがニートになる話は、正しくはニートじゃない。

 大戦が終わった北上さんが燃え尽き症候群になって部屋の隅で膝を抱えて虚空を眺めつづけて一日を終えるという状態が続いたことで、異変に気付いた大井っちがギャン泣きしながら提督に土下座で助けてくださいと懇願する話である

 提督は結婚をはぐらかされたカイザーみたいな顔をしている


494以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/03(火) 22:01:52.f45OP8w (1/1)

北病みさんとか最高じゃないか……!
ひょっとして初期艦大井っちだったりするのだろうか?


495 ◆gBmENbmfgY2019/12/03(火) 23:49:58hqf5poSc (2/7)


【6.秋月型トレーニング!】

 初月が鎮守府に着任してから、約半年が過ぎた。

 週に一度、バイキング形式で振る舞われる月曜日の朝食ですら、初月にとっては堪らないひと時だ。


 ――今日も一日がんばるずい!


 むんと両手を握りこぶしの形に固め、自らに言い聞かせるように声を出す初月の姿がある。その名に関する一文字を体現したような初々しさを感じさせるしぐさだった。

 今日も一日が始まる。訓練が始まるのだ。優しくも厳しい、理想的な先輩たちに囲まれ、充実した一日となるだろう。

 慣れというものは恐ろしいものである。よその艦娘がこの訓練に参加した日には、一日を待たず一時間で脱走するか死ぬかする訓練だ。だがこれこそがここの鎮守府にとっての平常運転なのだから、大戦が激化していた時は比較にならない程に辛かったのだろう。推して知れる。

 だからこそいつまでも新人気分ではいられないと一念発起する彼女は、秋月型四番艦・初月だ。怜悧な顔立ちからクールな印象を抱かれがちな彼女はその実、心の内側に熱い情熱を秘める頑張り屋である。

 瑞鶴主導による対空射撃訓練から始まってしまう陰鬱かつ凄惨なはずの月曜日が、この朝食のおかげで待ち遠しさすら感じる曜日になる。

 艦娘や憲兵、鎮守府のスタッフたちでいっぱいになった食堂には列ができる。まだ朝六時だというのに、艦娘も憲兵もスタッフもバッチリカッチリと各々の制服を着こなして、活気に満ちた顔色を輝かせていた。

 思い思いが食器を手に持ち、列を形成している。その始点には、大量の卵と色とりどりの食材が並ぶ移動式の調理台――――その前にはフライパンを持った間宮や伊良湖、そして瑞鳳と鳳翔、たまに提督までもが立っている。

 オムレツやスクランブルエッグ、目玉焼きや卵焼きを焼いてくれるのだ。その順番待ちの列である。

 卵の調理方法を選んだ後、中に入れる具材はリクエストに応えてくれる。そのための背後の大量の食材だ。


496 ◆gBmENbmfgY2019/12/03(火) 23:51:37hqf5poSc (3/7)


 瑞鳳の焼いてくれる卵焼きも人気だったが、提督のオムレツや鳳翔の出汁巻き卵、伊良湖の絶品ふわトロオムレツスフレ、間宮のトロたまベーコン巻きも負けていない。

 特に初月は提督が作ってくれる刻んだタマネギとハム、チーズにトマトを大匙一杯分加えた、中ぐらいのサイズのオムレツが大のお気に入りだった。

 初月好みの焼き加減を熟知しており、それに違うことなく仕上げてくれるので、提督に調理してもらえる日はとてもツイている。

 もちろん今日の初月が並んだのは提督の列だ。今日は一番人気で列が最長である。両隣の鳳翔と間宮がむぅと頬を膨らませているのが見える。両者の視線にどこ吹く風で、いつも通りの笑顔で艦娘たちに料理を手渡していく提督は図太い男であった。

 かくして朝の糧を手に入れた初月。一番先に手を付けるのは、瑞々しい採れたての、色とりどりの野菜で構成された至高のサラダだ。シャクシャクと噛みしめると、わずかに残っていた眠気がスッキリ取れてくる。

 思考と味覚が鋭敏になってきた頃、まだアツアツの提督特製オムレツにナイフを走らせる。

 割ってみれば、期待を裏切らない極上のふわふわとろとろ、中身がこぼれない絶妙かつ究極の焼き加減だ。表面は黄金色のくせに、中には指定した食材がぴったりと収まっている。

 たまらずフォークで掬って口に放り込む。


初月「…………♪」


 初月の頭頂部、その左右から飛び出した髪の房が、ぴこぴこと揺れる。


初月(か、完璧だ……完璧に、僕のイメージした、僕の理想とする、オムレツだ……好きな具材が適当に入った焼き卵じゃない。卵というシルクの帯に、食材という宝石が最も美しい配列でちりばめられている……)


 意外と詩的な初月である。


497 ◆gBmENbmfgY2019/12/03(火) 23:53:28hqf5poSc (4/7)


 意外と詩的な初月である。

 重層の帯が重なり合ったような半熟の卵に絡む、タマネギの食感とジューシィなハムの旨み、芳醇な酸味弾けるトマトと薫るチーズ……混然とした旨みが、舌の上でとろりと解ける。


初月(きっとジ○リアニメの登場人物は、毎日こんなのを食べているに違いない……!!)


 添え物のマッシュルームの肉厚な歯ごたえと風味が口の中をさっぱりさせ、次の一口への欲求をこれ以上なく掻き立てた。

 サクサクの焼き立てクロワッサンをほおばり、もぐもぐと咀嚼した後に、菊月の珈琲を流し込む。

 ごくりと喉を鳴らして嚥下すると、ずっしりとした心地良い重みが胃を満たしていく――――ああ、食べた。いっぱい食べたなあ、と。

 仕上げとばかりに、伊良湖が趣味で作り出したカスピ海ヨーグルトに旬の果物をトッピングしたものを掻きこみ、濃厚なエスプレッソを三口で嚥下すると、初月の気力ゲージは最大限に高まっているという寸法である。

 これだけで『今日も一日頑張るずい!!』という気持ちになれる。週の始まりに欠かせない活力の源であった。

 それは初月のみならず、多くの艦娘達にとってもそうだ。


加賀「――――素晴らしい。今日も朝からやる気がわいてきます」

赤城「はふはふ、おいしいですねぇ……あら、加賀さん、今日は変わり種で納豆オムレツにしてもらったんですけど、これもイケまふよぉ」

加賀「オムレツに、納豆ですか」


498 ◆gBmENbmfgY2019/12/03(火) 23:55:47hqf5poSc (5/7)


 表情こそ変わらないが、加賀は驚きからぱちぱちと瞳を瞬かせた。


赤城「はい。意外とイケます」

加賀「ふむ……成程、私の常識からするとなかなか発想の浮かばない組み合わせです。しかし物は試しと言いますね……ええ、それでは一口頂けますか? 私のチーズとほうれん草のオムレツもどうぞ」

赤城「はい」

加賀「ありがとうございます。では………む、これは、確かに……意外な組み合わせのようで、いえ、思えば納豆に卵を割り入れることもありますね。加熱によりナットウキナーゼが死ぬという話も聞きましたが、おいしいは正義……加熱の有無でここまで違いが……ふむ、ふむ、美味ですね」

赤城「いえいえ、ではこちらも……まあ、これもまたおいひぃれふねぇ……あむ、はぐ……」

蒼龍「あのお二人は本当に美味しそうにご飯食べるなあ」

飛龍「いいじゃない。ごはんが美味しいって、それって幸せってことよ。ね、多聞丸!」

蒼龍(うん、貴女も負けてないけどね飛龍)


 戦艦や空母らは五回ぐらい並び直して大盛おかわりする始末である。

 纏めて調理してもらうようなことはしない。巨大なオムレツや卵焼きは見た目が愚劣である。それに出来立ての方が美味しいから何度でも並ぶのだ。


499 ◆gBmENbmfgY2019/12/03(火) 23:56:30hqf5poSc (6/7)


伊勢「うん、うん、ふふ、おいしいねえ日向」

日向「ああ。空っぽの腹に、力強く染み渡っていく……今日も瑞雲の光をあまねく世界に輝かせようという活力が湧いてくるな」

伊勢「え?」

日向「ん?」


 ロードバイク鎮守府――――衣食住においても比類する鎮守府はそう多くない。とても無碍な話をすれば資金力が違う。

 特に体を資本とする艦娘達へのクオリティ・オブ・ライフ(生の質)への、提督の力の入れようは半端ではなかった。


扶桑「はぁ……今日もスッキリ快眠、訓練の疲労も抜けて、月曜日の朝ご飯はとっても美味しい……幸せね、山城」

山城「扶桑姉さま……油断してはいけません。禍福は糾える縄のごとしと言います」

扶桑「あのね山城……貴女にはもっと前向きに生きて欲しいなって思うの。姉さま思うの。思うのよ……割と本気で。どれぐらい本気かというとスリガオ海峡で敵艦隊をブッ沈滅(ちめ)た時並に」

山城「前向きだからこそ、油断なく一歩一歩を踏み出すのです、姉さま……機雷とは『え、嘘、そこに?』ってところに潜むものです」

扶桑(うん、やっぱりこの子が西村艦隊の旗艦よね。私が支えてあげなきゃ……)

時雨(山城は今日もいつも通りの山城だなあ……うん、今日の月曜モーニングも、いつも通り……美味しいね)


500 ◆gBmENbmfgY2019/12/03(火) 23:57:56hqf5poSc (7/7)


 寝台一つとっても艦娘一人一人にあった寝具を手配、医療施設においても女所帯である鎮守府の体制を鑑みて、女性比率の高い医療スタッフが常勤、作戦開始時から終了までの期間は非常勤スタッフも増える。

 トレーニング施設も充実の一言。都内のジムならば月額数十万円はかかるだろうトレーニング器具や艦娘の身体能力を熟知した一流どころのインストラクターを取りそろえ、科学的なスポーツ療法までもを盛り込んでいる。

 なんせ提督が率先してこの体制を生み出したのである。なお経費は鎮守府の収入で賄っているから大本営の援助金はない。文句を言おうものなら「じゃあウチんとこより劣る施設でウチより戦果上げるか、使った費用に対する効果、即ち戦果を示せ」と返すのが定期である。

 あれこれ難癖付けて異動させ、この鎮守府を慰労施設にしてしまおうという意図が隠す必要もなく見え見えなのだから、提督も怒り心頭である。維持するだけの金も捻出できん癖に人の所有物をねだるあたり、我儘なクソガキよりもタチが悪いと提督は思う。提督はナリだけの大人というのが大嫌いであった。


長門「うむ……やはり朝はプロテインよりもこの素晴らしき朝食よな。やるぞ、やってやるぞ、という気持ちになる」

陸奥(それでも起き抜けにプロテイン飲むわよね貴女。ホエイのプレーンのやつ。まあ、提督も推奨してはいるけれど)


 不足しがちな栄養素はサプリで補うのは今や常識的である。可能な限りは食事で摂取するという点においては実に健全であろう。

 憲兵的にも自分たちの健康維持のためにウルトラOKですってな代物だ。なんせ艦娘らと交流を深めつつ旨い朝食で活力を得られるのだから反対する理由が一つもない。

 艦娘達にとっても、提督以外の男性との会話になれるための、ある種の社会勉強の一環と認識しつつも、純粋に会話を楽しみながら食事をとる。

 提督が前述した台詞通り、かけた費用に対してあげる戦果の割合、即ち利益で考えるととてつもなく高い。使った金は高くつくが、それ以上に利益を出し、利益率が極めて高いとなれば文句のつけようがなかった。

 他の鎮守府の艦娘からも「あそこで建造・ドロップ、あるいは異動できたら日常生活面の充実を150%保証」と言われている。余った50%は想像以上という意味だ。

 そもそもロードバイク鎮守府への異動に当たっては、並の艦娘では達成不可能レベルに厳しい条件がある――――達成できた艦娘は、極僅かな例外を除き、五指で数え切れる。

 しかも無事に異動できたとしても、トレーニングはシャレにならないぐらいキツいのでトントン、むしろややマイナスと言ったところか。


501 ◆gBmENbmfgY2019/12/04(水) 00:05:56x9H3IH0c (1/6)


 そう、マイナスなのだ。それでもマイナスになる。それほどの訓練密度である。

 だがそれも慣れる。慣れるまでが大変で、慣れてしまえば天国だ。ただし、この天国には常に地獄が隣接している――否、ミシン目のように編み込まれているのだ。

 即ち、初月が今立っているのはそのミシン目なのだ。直面している地獄は、


秋月「――食制限をしますよ、初月。一週間の合宿です」

照月「体を締めるわ。イエスと言いなさい、初月」

初月「絶対にノゥ! 奪うのか!? 与えておいて、それを今更僕から奪うのか!!!? 姉さんたち!?」

秋月「はい。今更何かを言えた話ではありませんが、初月――私たちは、貴女を可愛がりすぎました」

照月「うん。甘やかしすぎたよ。ちょっとそのあたり、秋月型が有する力に目覚めてもらうためにも、合宿への参加はマストだからね」

初月「なんて、ことだ……」


 こんな旨いものは食べたことがないと、着任当初は食事のたびに涙を流していた。

 一食二食ぐらいならば粗食はいいだろう。むしろ初月自身が望むところである。事実、秋月・照月は節制と健康を心がけ、贅沢な食事は多くても月に三回程度であった。そちらの方が喜びも大きいという実体験が、初月に「贅沢とはたまに味わうからいいものだ」という実感を与えていた。

 ただ初月の場合問題なっているのは、その頻度だ。毎日である。朝がっつり贅沢したらあと粗食。朝と昼に粗食だったら夜贅沢、といった有様。

 それが一週間……これは立派な罰ゲームであった。一週間ともなればもはや拷問だ。


502 ◆gBmENbmfgY2019/12/04(水) 00:08:19x9H3IH0c (2/6)



 これから初月は、一日に一度の贅沢が許されない。一週間の禁欲生活(食)に入るのだ。

 汗水流して、へとへとになって、さあご飯だ、楽しみだなあ―――――そんなところに脂っ気の少ないお料理。新手の拷問である。それ以外の何物でもなかった。

 タンパク質は脂の滴る肉や魚からではなく、植物性の大豆や、さっぱりとした鳥のササミから摂取することを強いられる。これが先が見えるならいい。一週間後は贅沢なご飯が待ってるという希望があれば耐えられる。

 ―――それを断つ所業だ。鬼! 悪魔! 提督!

 阿賀野が以前ダイエットしていた時に食していたプランであるが、阿賀野の時とは事情が違う。阿賀野には体重が減少し体がみるみる動くようになることの楽しさというモチベーションアップの要素があった。

 初月にはない。だって素晴らしいスタイルをもともと持っているからだ。体だってピンピン動く。

 だが逆らえぬ理由があった。提督、その人自身である。

 他のトレーニングを経て、提督はヘロヘロ状態だ。誰が見たってやせ我慢しているし、生まれたての小鹿のほうがまだガッツがあると思うだろう。

 だから。


初月「ッ――――やってやろうじゃないか!!! この血の一滴、この肉の一片に至るまで、姉さんたちと鶴姉妹に鍛えられたんだ!! 僕の憧れた、あの人達に!! この僕を、秋月型を舐めるな!!」


 なおこの決意は、数分と持たないのは誰もが予想可能であった。


503 ◆gBmENbmfgY2019/12/04(水) 00:09:09x9H3IH0c (3/6)

※かるーく導入編ですね

 秋月達にはお腹いっぱい食べて欲しい欲がある提督は意外と多いのである


504以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/04(水) 00:25:00KWSyRr02 (1/1)


飯テロでこんな時間なのにお腹が空いてしまった


505以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/04(水) 11:04:45TfvjDvmI (1/1)

乙おつー


506 ◆gBmENbmfgY2019/12/04(水) 23:42:28x9H3IH0c (4/6)


 さて、物語は少しばかり前後する――。

 提督は人間である。たまに自信がなくなるとは艦娘たちの言葉だ。古参の艦娘ほど答えに窮し、悩んだ末に「人間だ――多分な!」と、自信たっぷりに自信なさげに答えるという有様。

 そんな提督は最近、ロードバイクで速くなりたい艦娘たちを募って、個人練習なるものを定期的に行っている。

 各人のレベルや脚質、身体能力を加味した上で方針を立てるのだ。得意分野を伸ばす、あるいは苦手分野を無くす、得意分野を作る、苦手分野は捨てる――目的は様々、狙いも様々だが、共通していることはトレーニングを望む艦娘たちの個人個人に方針を立てて、そのトレーニングプランを考えているということ。


提督『懐かしいな。まだウチの鎮守府の規模が100人未満だった頃にはしょっちゅうやってた。こういうのも俺の仕事だったんだよ。やれ砲撃の威力を高めたいとか、命中率上げたいとか回避重視で立ち回りたいとか、いろいろあったなァ』


 鎮守府で正式に雇っているトレーニングスタッフ(艦娘への心理的ストレス軽減を鑑みて女性オンリー)が舌を巻くほどの、艦娘たち一人一人の事が分かっていなければとても立てられないプランを矢継ぎ早に作成し、後学のためトレーニングスタッフたちにも確認してもらい、文句なしに太鼓判を得た後に実施するという念の入れよう。

 とはいえ、これには問題があった。提督の仕事が増える、という点もそうだが、ロードバイクの技量を教え込む人員が、提督以外に居ないという点である。スタッフの中にも少しばかりロードバイクについてかじっている人間はいた。だが提督の経歴を聞いて、誰もが身を退いた。退かざるを得なかった、そんな経歴だったという。

 与えられた計画に乗っとってトレーニングを進める艦娘たちにも、疑問は出てくる。このトレーニングのやり方は? 意図は? そこは提督を信じてるから聞かないけれど発展するにはどうすればいい? そんな質問が飛んできた場合、提督はどうするか。

 ――――時間の許す限り、同行するのだ。主に鎮守府内道路を使ったテクニック講座や、登坂でのスキルにおいては自転車のソフトを用いたローラー台での実演など、その方法は多岐にわたる。

 提督はへとへとだった。体力的な面でも精神的な面でも搾りつくしている。

 そんなタイミングで、今度は初月のトレーニングに付き合ってくれるという。


初月(多くの先輩方が、こいつを尊敬するわけだ。視線が同じなんだ――司令官として、僕たちの上位者として、そこに絶対の線を引いておきながら、それをするりと飛び越えて寄り添ってくれる。同じ嬉しさや悩みを共有してくれる……ああ、これは)


507 ◆gBmENbmfgY2019/12/04(水) 23:50:30x9H3IH0c (5/6)


 戦いの中で寄り添われた艦娘たちは、どれだけ嬉しかっただろう。どれだけ心強かっただろう。それが初月にも理解できる。

 ――堪らない男だと、初月は思った。子供と言っても過言ではない年齢なのに、しっかりとやることは大人だ。初月の目には、提督がとても好ましい男に映った。

 翻って、自分はどうなのだ?

 初月は思う。まだ初月は与えられる側に過ぎない。新人であるなしは関係がない。

 まだ何一つ、提督に返せていないのだ。

 そんな男の傍に立っても見劣りしない存在になるには、どうすればいいのだろう。


秋月「強くなりなさい」

照月「強くなるしかないわよ」


 姉たちが口を揃えてそう言った。初月も同意した。心の底からそう思った。しかし大戦は終わった。既に戦果を挙げられる場所は欧羅巴圏や、亜米利加圏に僅かに残るばかり。

 初月は既に、そこでも戦い抜けるだけの力は有していた。

 ここに所属してからわずかに半年だが、されど半年――――修羅の鎮守府と呼ばれるここに所属する先輩艦娘たちが、惰弱を惰弱のままにのさばらせてくれるはずもなく、初月は相応のトレーニングを積んで強くなっていた。まだレ級はワンパンできないけれど、ワンツーで倒すことぐらいはできる。

 しかし、そうして戦果を上げれば、彼にふさわしい存在になれるだろうか――自覚のない恋心が、初月を悩ませ、考えさせた。考えて考えて――考えても分からなかったので、提督を見ることにした。

 気づいたのだ。彼はロードバイクが、本当に大好きだということが。


508 ◆gBmENbmfgY2019/12/04(水) 23:54:36x9H3IH0c (6/6)

※毎日更新を目指してゆっくり投下していきます。
 こういうコメントは今後なるべく控えます。
 切りの良い節々で差し込みます。
 でも読んでいただいたら感想いただけるとモチベが上がって島風スプリントや夕張スプリントがすこぶります。
 感想はもちろん、この子の話が読みたいといったご要望もあればじゃんじゃん書いてってください。励みになります。


509以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/05(木) 03:30:49f1Qd.nbI (1/1)


やっぱ貧乏性の秋月型とか機械オンチっぽいイメージのある神風型とかが人気よね
意外性があってどんなバイク乗ってるか想像がつかない分見てみたくなる


510以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/05(木) 09:48:24GRmx1vCg (1/1)

乙おつ
いつも楽しませてもらってます
連載中断してた間も何度も読み返して待ってました
本編の流れ的にはまだまだキャラ紹介や序盤の段階っぽいですが、島風と夕張の時みたいな熱いレースも早く読みたいぞー!


511以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/05(木) 13:48:56piJCSsYk (1/1)

>>509
神風おばあちゃんの事を機械オンチとか言っちゃダメだろ!いい加減にしろ!


512 ◆gBmENbmfgY2019/12/05(木) 22:44:55Fk1pz5TE (1/10)


秋月『貴女が知りたいと思った人の為人が知りたいならば、まずはその人の気持ちになって考えなさい』


 当たり前の事。だがその当たり前の何と難しい事かと、初月は改めて姉の偉大さを知った。

 ロードバイクについて教えたり実践して見せる時の提督は、年相応の幼さがにじんで見えた。弱冠19歳という異例の栄達。最速の英雄。全鎮守府の頂点。彼の心が休まるときはいつなのだろうと考えた。

 それがきっと、これなのだろう、と。

 出撃した時の事を思い出す。

 出撃前は母港で集合だ。それぞれが艤装を身に着け、提督からの激励の言葉を水面の上で待つ。

 波止場の上に立ち、海面に集結する艦隊を見下ろす提督の表情は真剣そのもので、そこに笑みはない。生きて帰ってこいと伝えられて、出撃する。

 思い返してみれば――提督は苦しんでいたのではないか。

 そのままだが――着せたくない服を着た少女を見る。そんな目で見ていた。

 だが、今はどうだ?


提督『お、利根! 新しいジャージ、カッコイイじゃないか!』

利根『目の付け所が違うの、提督! 吾輩かっこいい? かっこいいじゃろ! そうじゃろそうじゃろ♪』

提督『ヘルメットもアイウェアもばっちりだ! 筑摩に選んでもらったのか? センスいいなあ』


513 ◆gBmENbmfgY2019/12/05(木) 22:51:40Fk1pz5TE (2/10)


利根『そうじゃろそうじゃろ! 筑摩のせんすは天下一品じゃからな! お揃いで吾輩も筑摩もすーぱーかっこいいのじゃ!』

筑摩『まあ、利根姉さんったら……お褒めの言葉、ありがとうございます、提督。提督から頂いたロードバイクにぴったりあうジャージを選んだつもりです』

提督『ん。楽しんでるようで何よりだ』


 ――楽しんでいるのは、提督のように見えた。

 提督は艤装よりも、私服を好む。

 私服よりも、ロードバイクを楽しんでいる子達を見ると、本当に嬉しそうに笑うのだ。

 何故か、初月はその笑顔を見ているたびに、温かな気持ちと一緒に、悲しい気持ちになってくる。

 それがどうにもわからなかった。

 考えても考えても分からなかったので――今分かっていることを実践しようと思った。

 提督はロードバイクが好きだ。彼の言葉を借りるなら、愛している艦娘たち――――が、己の好きなものを好いてくれるから、余計に嬉しいのかもしれない。

 ならば、提督は――ロードバイクで速く走れる艦娘は、もっと好きになってくれるのではないか?

 初月が辿り着いた答えはそこだ。

 姉たちが自分を合宿で鍛えると言い出したのは、渡りに船だったのかもしれない。


514 ◆gBmENbmfgY2019/12/05(木) 23:00:25Fk1pz5TE (3/10)


 これより初月が参加する合宿名は――――ロードバイク合宿というそのままのネーミングだ。

 一週間の間、ロードバイク漬けのトレーニングを中心に日々を過ごし、食事についてもプロのロードレース選手がツアー中に実際に食しているものと同じ献立で組まれる。

 かくしてへろへろの提督を伴っての合宿が、次の日から幕を開けた。なお昨日までへろへろだった提督は、あっさりばっちり完全に回復していた。

 かくして始まる一つ目のトレーニングは――。


提督「――――おまえたちの最大値を測る」


 まずは実力を確かめようということだろう。この場には多くの艦娘たちが集まっていて、その中の一人に過ぎない初月はそう思ったが、半分は間違っていた。

 実力を測ると同時に、トレーニングにもなる――そんなアクティビティだ。


提督「ローラー台に自転車をセットし――20秒間、全力でこぎ続けろ。その後は10秒のレストタイム(休憩)。終わればもう一度20秒スプリント、10秒のレスト。スプリントとレストを1セットとし、これを8回連続で行う」


 聞いた時、艦娘たちの反応は様々だった。

 新人ほど「そんな簡単でいいの?」と疑問符を頭上に浮かべた。初月もまた疑問に思った側だ。

 中堅の艦娘は「あ、ヤベ」と顔色を悪くした。

 古参の艦娘は「気合入れていかねば」と、まるで戦場に赴く直前のように、口元を引き締めた。


515 ◆gBmENbmfgY2019/12/05(木) 23:16:12Fk1pz5TE (4/10)


 どんなトレーニングなんだろう、そんなに辛いのだろうかと、期待と不安をそれぞれ1:1の割合でカクテルされたものが心の中に満ちている初月の耳に、ある駆逐艦たちのやり取りが聞こえてきた。

 ――タバタ・プロトコル、と。

 話していたのは、天霧と朧だ。そして続く言葉に、初月の心の七割を不安が占拠し始めた。

 ――何人、立って終われるかな、と。

 その言葉の意味を、この時の初月は理解していなかった。誰も彼もが気合を入れた表情をしている。瑞鶴も、翔鶴も、そして――秋月と照月も。

 途端に心に闘志が流れ込み、不安も期待も一切合切を吹き飛ばした。何が何でも『僕は立って終わらせてやる』と決意した。

 このトレーニングの成否は、それが全くの逆だったとも知らず。


 そうして艦娘たちが順番に提督の指示を受けて、トレーニングを終えた頃。

 ――初月は、立って終われた。

 望み通りの結果だった。先ほどまで気合を入れてトレーニングに挑んだ古参の艦娘たちが全員倒れているのに、初月は倒れなかった――倒れることが出来なかったのだ。

 そうだ。倒れてしまうほどに、己を追い込めなかったのだ。

 ――タバタ・プロトコル。このトレーニングの狙いは心肺機能上昇と持久力向上にあるが、8セットから成る『疲労困憊に至る間欠運動』を前提、否、目的とする。

 8セットのトレーニングタイムは合計で僅かに4分。無酸素運動と有酸素運動を交互に行うトレーニング。無酸素運動では常に全力で20秒間。有酸素運動では軽い運動に留める。


516 ◆gBmENbmfgY2019/12/05(木) 23:23:34Fk1pz5TE (5/10)


 だが、この1分20秒の休みが曲者だった。

 休めないのだ。正しくは、『休み切れない』のである。

 20秒間の全力疾走後は、当然全身に疲労がまとわりついている、呼吸は乱れに乱れ、心臓は爆発しそうなぐらいに動悸し、耳元で血管の中で血が走り回る音が聞こえるほどだ。

 それらの疲れは、10秒間の休みによって帳消しに――ならない。心肺は酷使され、脈拍は180を数える。呼吸はいくら吸っても吐いても苦しいばかり。10秒でどうにかなる筈がない。

 そんな状態で、次の全力疾走が始まるのだ――全力で。という言葉を添えられて。
 
 8セットを行ううちに、初月は己の愚かさを知ることになった。

 ――信じられないほど、辛いのだ。レストタイムに入るたびに安堵し、始まるたびに心が擦り切れていく。

 もう足を止めたいと願う。勝手に足から力が抜けていく。だって、苦しいのだ。全力を出すことは苦しい、それは当たり前だと分かっていた。苦しい戦いには慣れている?

 ――もう二度と言えない。

 終わってみれば、初月は疲労困憊の状態にあった。肩で息をしている。頭はクラクラしたし、胸の中で弾む心臓は痛いぐらいに血液をポンプしている。


 だが、瑞鶴と翔鶴、秋月と照月は違った。

 8セットを終えた後、ローラー台に設置した自転車から崩れ落ちるように地面に倒れ、大の字で寝転がる――瑞鶴と照月。

 ハンドルにもたれかかり、もう二度と顔を上げたくないとばかりにぐったりしている――翔鶴と秋月。


517 ◆gBmENbmfgY2019/12/05(木) 23:24:14Fk1pz5TE (6/10)

※>>516ミス


518 ◆gBmENbmfgY2019/12/05(木) 23:24:54Fk1pz5TE (7/10)


 その内の休みは合計で1分20秒。実際に全力を出しているのは、僅かに2分40秒に過ぎない。

 だが、この1分20秒の休みが曲者だった。

 休めないのだ。正しくは、『休み切れない』のである。

 20秒間の全力疾走後は、当然全身に疲労がまとわりついている、呼吸は乱れに乱れ、心臓は爆発しそうなぐらいに動悸し、耳元で血管の中で血が走り回る音が聞こえるほどだ。

 それらの疲れは、10秒間の休みによって帳消しに――ならない。心肺は酷使され、脈拍は180を数える。呼吸はいくら吸っても吐いても苦しいばかり。10秒でどうにかなる筈がない。

 そんな状態で、次の全力疾走が始まるのだ――全力で。という言葉を添えられて。
 
 8セットを行ううちに、初月は己の愚かさを知ることになった。

 ――信じられないほど、辛いのだ。レストタイムに入るたびに安堵し、始まるたびに心が擦り切れていく。

 もう足を止めたいと願う。勝手に足から力が抜けていく。だって、苦しいのだ。全力を出すことは苦しい、それは当たり前だと分かっていた。苦しい戦いには慣れている?

 ――もう二度と言えない。

 終わってみれば、初月は疲労困憊の状態にあった。肩で息をしている。頭はクラクラしたし、胸の中で弾む心臓は痛いぐらいに血液をポンプしている。


 だが、瑞鶴と翔鶴、秋月と照月は違った。

 8セットを終えた後、ローラー台に設置した自転車から崩れ落ちるように地面に倒れ、大の字で寝転がる――瑞鶴と照月。

 ハンドルにもたれかかり、もう二度と顔を上げたくないとばかりにぐったりしている――翔鶴と秋月。


519 ◆gBmENbmfgY2019/12/05(木) 23:33:02Fk1pz5TE (8/10)


 見れば、初月以外の新人、新人上がりの多くは、倒れ切れていなかった。

 それでも、全員が出来ていないわけではなかった。

 吹雪型――浦波は見事にやり遂げていた。

 綾波型――天霧もそうだ。

 神風型――達成できたのは旗風だけだ。

 誰もがこのトレーニングの真意を知り、悔し気に俯いていた。俯くだけの余裕がある自分が、初月も悔しかった。

 どうしてだ。なんでだ?

 初月は自問自答する。姉たちに教わったように。

 ――身体能力なら、僕はこの中で特別劣っているわけじゃない。瞬発力、持久力に優れる天霧や浦波には及ばないだろう。

 だけど、旗風は達成できている。

 僕よりも身体能力では、間違いなく下と断言できる旗風がだ。

 どうしてこうなるんだろう。

 悔しさで頭の中が真っ赤になった思考で考えたが、答えは出なかった。

 酷い敗北感で、初月の心は千々に乱れた。


520 ◆gBmENbmfgY2019/12/05(木) 23:38:44Fk1pz5TE (9/10)


 ――僕は、駄目な奴なのだろうか。


 そんな思考が脳裏をよぎった。

 慌てて首を振って考えを払拭させる。諦める思考に陥りそうになっていたのを自覚した。

 深く呼吸する。浅く呼吸する。出し切れなかったため、次第に呼吸と共に思考は落ち着いてきた。

 冷静になって考える。

 ――僕にはなくて、旗風や天霧、浦波には、僕にはない何かがあった。

 そう考えることにした。ではそのないものはなんだろう?

 そればかりは、どうしてもわからなかった。

 達成できなかった他の新人たちも同じことを考えているのだろう。一様にむっつりと押し黙り、思案に耽る。

 そんな折だった。提督が声をかける。


 ――何が何でも達成してやるって意志が、足りなかった。正しくはその達成してやるって気持ちを燃やし続ける術を知らんのだ、おまえたちは。


 言葉に冷たいものはなかった。だけど、僕はその言葉が痛かった。自分には根性がないんだと、口先ばかりの奴なんだと、言われた気がした。

 涙がこぼれそうになった。こんなんじゃ、こんな様じゃあ、あいつの傍にはいられない。立つことなんてできない。


521 ◆gBmENbmfgY2019/12/05(木) 23:47:44Fk1pz5TE (10/10)


 そんな初月の内心を見透かしていたわけでは――ないのだろう。だが続く言葉には、確かな糧があった。


 ――今感じている『それ』だ。『それ』だって燃料になるんだぜ。


 今感じている思い――憤怒、悲哀、後悔、情けなさ、不甲斐なさ、無力感。


 ――そいつをもう二度と味わいたくないっていうのもまた、燃料だ。

 ――そして達成できたときに何を得られるのかを考えろ。


 僕は、達成できなかった。考えるより先に、達成できた人たちを見た。

 瑞鶴も照月姉さんも、まだ苦しそうだった。翔鶴も秋月姉さんも、まだハンドルにもたれかかったまま動かない。

 だけど、声が聞こえた。苦しげだけど、嬉しそうな声だった。


 ――これで、一航戦にまた近づけた。

 ――赤城さん、加賀さんの……一航戦の先輩たちの背中は、私たちが守るんです。

 ――これで、朧先輩に負けない。

 ――比叡さんも、霧島さんも、護り抜ける強さを、掴むまでは。


522 ◆gBmENbmfgY2019/12/06(金) 00:00:49V/II/Ac. (1/3)


 初月は唖然とした。

 だけど、否定してはいけないものだと思えた。何の事情も知らない初月が、訳知り顔で『そんな理由』などと言ってはいけないことだと思った。

 並々ならぬ何かがそこにあるのかもしれない。あるいはないのかもしれない。

 誇りなのか、安いプライドなのかはわからない。


 ――お前たちには、そんな苦しい思いをしてまで勝ちたいという欲がない。心に闇を飼っていない。飼いならせていない。


 言って、提督は新人たちから視線を切り、古参の艦娘たちに――――新人と同じく、達成できなかった古参の艦娘に―――向ける。

 視線の先には、朝潮と深雪と皐月がいた。

 彼女たちが今『茫然自失』の状態にあることは、遠目に見る初月にも分かった。


 ――お前たちは今日、自分に負けたんだ。強かったかもしれない自分か、弱かったかもしれない自分に。そんな自分に勝ちたいなら、悪い子にならなきゃならない。いい子のままじゃあ、勝てないんだよ。


 びくり、と三者の肩が震えた。大きな瞳には涙が浮かんでいたが、気丈にも上を向いて、決して溢れないようにと、悲痛な表情で歯を噛み締めているのが、初月には見えた。

 初月は――――僕はこの時に気づいたんだ。

 強くなるためには、目的がいる。どうして強くなりたいのかという、明確な理由がいる 強くなるという大きな目的と、それを達成するための質なり量なりを伴う理由が必要なんだと。


523 ◆gBmENbmfgY2019/12/06(金) 00:07:57V/II/Ac. (2/3)

※ミス修正
>>518
×:苦しい戦いには慣れている?

  ――もう二度と言えない。
○:苦しい戦いには慣れている? 誰の言葉だっただろう。

  少なくとも僕には――もう二度と言えない。


524 ◆gBmENbmfgY2019/12/06(金) 00:11:30V/II/Ac. (3/3)

※キリ良しとする。前哨戦終了。

 合宿は続く。初月には強くなるための燃料が足りない。

 強くなりたいという願いはいくらあってもいい。大きなものが一つでもいい。

 だけどそれを絶対に達成してやるんだもんげ!という燃料をどっから持ってくるかという話。

 照月がフラグ立てたろ。アレだ。秋月型が持つ能力をイカせ。

 という次回予告で続きは明日。またの投下をお楽しみに。


 タバタきついよ。死んじゃうぐらいきついよ。自分の性根と向き合えるよ。初心者から玄人までお勧めだよ。死んじゃうけど。


525以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/06(金) 02:01:29MbbpBIi. (1/1)

おつ


526以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/06(金) 08:28:18cVx1tL3c (1/1)


トレーニングの段階で熱さが伝わってきそうな展開
メンタル面でも鍛えにいくのかな


527以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/06(金) 23:27:11eqwkHPVQ (1/1)

だもんげを読んだ瞬間心のギアが三つくらい落ちた
してやられたぜ


528以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/08(日) 01:48:04p6c8m0Qw (1/1)

オレの中ではロードバイク提督は空自の官品息子説が半ば確定してしまったのだが、作者様的にはソレが創作の邪魔にならないか少し心配ではある


現状あんまり関係無いけど、オレが個人的に知ってるリアル提督こと「海自隊員の艦これ提督」で最も階級が高いヒトは、確か空自の官品マンだったな


529 ◆gBmENbmfgY2019/12/08(日) 03:22:41zDNbxelo (1/11)


>>528
※そのうち落ち着いたら過去を小出しにしていこうと思っていましたが、少しだけバラします。(つーか以前>>1が書いたSSで晒したネタをちょいちょい拾い集めて繋げた設定を流用している)

 そういうのが嫌な人は次のレスをスルー推奨。


530 ◆gBmENbmfgY2019/12/08(日) 03:27:06zDNbxelo (2/11)


 致命的なネタバレを伏せてバラしますと、老舗料亭の次男坊という設定だったりする。叢雲の舌はこれで陥落した。五人兄弟。

 十歳以上年の離れた跡取りの兄(料亭の跡取り。こと料理に関しては提督以上のスキル持ち。ただし超がつくコミュ障。嫁がいる)、七歳年上の姉は製薬会社の社長(すんげえ蓮っ葉なお姉さん。すげえ美人だがメシマズ。提督に対しブラコン気味)、双子の妹が一人、六歳離れた妹が一人(カワイイ)の構成。

 提督はいわゆるギフテッド。同時にタレンテッド。提督の兄と姉も提督ほどではないがギフテッド。そのおかげで親の理解があったという幸運に恵まれ、姉の同伴で幼少時からイギリスで生活、その後ドイツ。行く国のメシがことごとくマズい。そして姉のメシがマズい。提督はまず料理を覚えた。

 かくして非営利活動法人のギフテッド養成機関で専用のカリキュラムを組まれてすくすく成長。当時の担当教員や機関長からの評価は歴代最高。そらイムヤも『何でもできる人』だという。

 「極めて多才。興味を示した分野はもちろん、示さない分野でも高レベルの結果を残す。八種の多重知能全てにおいて均衡の取れた万能のギフテッド。

 創造力の分野においても卓越しており、好奇心旺盛で知識に貪欲、高度な思考能力を備え、既得権益を淘汰することなく新たなビジネスモデルを展開していくバランス感覚に優れる。

 高いリーダシップあり。他のギフテッドの少年少女らの中でもひときわ高い能力を持ち、リーダーシップを発揮。たまに愉快犯。扇動者になる危険性あり。

 ソーシャル・スキルにおいて特に稀有な能力を有しており、道を誤まれば新興宗教立ち上げてヤベー教祖になりそう。それと身体能力マジパナイ。ぶっちゃけ人間じゃないっすわあの子」

 これが教育者の言うことかよ。マジブリカッス。だが合ってるぞ流石だグレートブリテン。ある意味不変のコロンビア。マルチプレイヤー。スペシャリストにしてジェネラリスト。子供の頃から色々ビジネスに手を伸ばしており、不労所得いっぱいのガチな高等遊民である。

 そら天才の島風やら雪風、イムヤ、まだ掘り下げてない他の天才艦娘たちの気持ちが痛いぐらい理解できるわけである。

 競える人間がいない、理解してくれる人がいない、孤独感を感じる、自分以外の人間が馬鹿に見える――それがたまらなく辛いことだというのを実体験で知っている。

 なお叔父の方が自衛隊関係者。ただし陸自。なお空挺教育隊のエリートのもよう。フィジカル・メンタルにおいて無敵を誇る。未だ現役。アホみてえに優秀な叔父。

 もちろんロードバイクやらモーターバイクを始め、サバイバーな趣味を教えたのはこの叔父の仕業。提督が真っ向のステゴロ勝負で勝てない数少ない人類。

 環境が人を作るというが、そういう点では誰よりも恵まれているガチート。なお上記のネタバレでも全然致命的なネタバレは含んでいないので、行間を読んで想像するのもよいのではないかと。


531 ◆gBmENbmfgY2019/12/08(日) 03:33:17zDNbxelo (3/11)


 僕にはきっと、それがない。すぐに気づいた。トレーニングが終わった後、僕は動けなかった。

 だけど――朝潮と深雪と皐月は、すぐに動き出していた。申し合わせたかのように三者はトレーニングルームの飲食スペースに移動し、プロテインを飲んだ。アミノ酸、電解質、炭水化物を含んだサプリメントも摂取した。

 僕はまだ、提督に言われた言葉がぐるぐると頭の中をめぐって、動く気力すら湧き上がってこなかったのに、彼女たちはすぐに切り替えた。

 黙々とストレッチをしつつも、その瞳に決意の火を灯す者、己が信頼し尊敬する艦娘に教えを乞う者、再び己を追い込みはじめる者。

 行動は三者三様、しかし彼女たちには悩んだり落ち込んだりするよりも先に、やるべきことがあると分かっている。
 
 
 ――僕に、あるのだろうか。できるのだろうか。強くなりたいという思いを次々に作り出し、燃やし続けることが。


 そんな不安を抱えたまま、全員の計測が終わった。今日のデータをもとに、提督が次の日のトレーニングメニューを考案するという。


 ――初月、体が冷えるわ。ひとまずプロテイン飲んで、柔軟しましょう。


 呆然とする僕の肩を叩いて誘ってくれたのは、瑞鶴だった。

 乱れた心拍と呼吸を整え終わったのだろう。秋月姉さんと照月姉さん、そして翔鶴も合流した。


532 ◆gBmENbmfgY2019/12/08(日) 03:45:48zDNbxelo (4/11)


 ――基本的に、ねっ? 負けず、嫌い、なの、よっ……私に、限らずっ、艦娘ってっ、そう、いう、もの……よっ。


 長座体前屈で筋肉をほぐしながら、瑞鶴はそう語り出した。


 ――まあ、艦娘に限らずとも、多かれ少なかれ負けたくないって気持ちはあるものよ。誰にだってそう。


 同意するのは、翔鶴だった。言われてみれば当たり前の事なのだろうけれど、初月には意外に思えた。いつもおっとりとして、上品な彼女にも、そんな気持ちがあるのだろうか、と。


 ――ええ。それは誰にでもある。誰だって負けたくないのよ。だけどそこから『どうするのか?』……それは人によって異なるわ。


 秋月の言葉で思い出すのは、やはり先ほどの三人の事だ。朝潮と、深雪と、皐月。


 ――飛び越えられなかったハードルにまた挑むのもいい。諦めるのもいい。諦めた、負けた、と。そう認めることができるなら。折り合いをつけることができるならね。


 照月はそこに「だけど」と付け加える。


 ――それを認めないのは、駄目よ。『最初から戦っていない』とか『本気でやっていなかったから』とか『自分は駄目なやつだから』とか……そんな理屈で自分を誤魔化すなら、もう駄目よ。


 その言葉に、初月は背筋に氷柱を突きこまれたような恐怖を覚えた。


533 ◆gBmENbmfgY2019/12/08(日) 04:00:48zDNbxelo (5/11)


 図星だった。トレーニング直後に脳裏をよぎった『僕は、駄目な奴なのだろうか』という考え。

 必死に否定しようとしたけれど、その考えは少しずつ、初月の心を侵していった。軋みを上げる心の内側の感覚が、次第に鈍くなっていく。

 そこに、滑り込んでくる言葉がある。


 ――だから照月はこう言うわ。『そんなことはないよ』と。その人が駄目にならないうちに。


 じわりと少しずつ腐っていくような感覚が走る心に、確かな震えを感じた。


 ――小さな勝利を積み上げる。大きく勝つことを知る。それを知ることで、『負けたくない』という気持ちが強まる。障害が発生した時、闘争か逃避かを選択する。自然な在り方です。健全と言えますね。知性を備えた生物は、選択していくことによって強くなる。誰かが言った言葉だったかしら。


 続く翔鶴の言葉もまた、小さく、しかし確実に心を揺らす。


 ――負けることは怖いわよね。私だって怖いわよ。だって負けるのって嫌だもの。悔しいもの。不甲斐ないって思うもの。でもね、初月。それ以上に怖い事ってあるのよ。 


 立ち上がった瑞鶴は、真剣な面立ちで言う。


 ――冷たくなっていくこと。自分の中に確かにあった情熱が、崩れ落ちていくこと。強くなりたいと誓った自分を、嘘つきにすること。


534 ◆gBmENbmfgY2019/12/08(日) 04:15:46zDNbxelo (6/11)


 鼓動が熱を持った。初月は己の内側で、『それ』が跳ねる音を聞いた。

 思い出したことがある。

 いくつもの思い出があった。

 着任した時の事。提督との初顔合わせの時、酷く緊張していたことを思い出す。

 姉と再会したこと。右も左もわからない初月に、姉たちは張り切って鎮守府を案内してくれた。

 その時に鶴姉妹に抱き締められたこと。二人とも本当に嬉しそうに、初月との再会を喜んでいた。

 そして、共に訓練に励んだこと。充実した日々だった。訓練は辛く厳しかったけれど、それでもあの時の初月は、一度だって弱音を吐かなかった。


『海を平和にするんだ。皆で笑い合うんだ』


 そんな気持ちが、確かに胸の内側で燃えていた。

 その時の熱とは異なる、確かな熱が心の内側で燃えている。

 ――ここにあったんだと、心が叫ぶ。


「あ」


535 ◆gBmENbmfgY2019/12/08(日) 04:20:28zDNbxelo (7/11)


 すとんと、二つの事が理解できた。

 終戦後、初月がどこか漫然と日々を過ごしていた時だった。遠く、雷鳴のように聞こえる声があった。


『――見つけた!! これだよ!! 提督!! これだった!! 私が欲しかったのは!! これだった!!』


 その声に導かれ、出逢ったものがある。


『ッ……おッ、りゃあああああああああああ!!!』


 雷鳴のような声が、幾度も聞こえた。


『――――な、んです、か、あれは……?』


 窓の外には、初月の知らない乗り物を駆る、島風と夕張の姿があった。


『し、知らない。し、新兵器?』


 姉二人も知らないその乗り物は、銀輪を携えた漆黒の馬と青緑の馬だった。


536 ◆gBmENbmfgY2019/12/08(日) 04:46:59zDNbxelo (8/11)


『おお……!! アレは凄いな、姉さん!』


 あれを見た時の興奮を、今でも覚えている。あんなにも速く、大地を駆け抜けることができる乗り物があるのかと思った。


 ――僕も、あれに乗ってみたい。


 始まりは、そんな単純な欲求だった。

 それが提督から与えられた時のことも思い出す。ぴかぴかのフレームだった。これが今日から自分の者になると思うと、心が弾んだ。

 一日中、飽きもせず乗り回して、体中のあちこちが痛くなって、姉たちと笑いあったことを覚えている。

 それに乗った人たちが集まって、誰が一番速いかを競うレースがあると知ったときの興奮を覚えている。

 個人レースもあれば、チーム編成でのレースがある――それを知った時のことを。

 初月は、覚えている。


 ――ああ、そうだ。僕は、僕は……僕がやりたいことは。譲れないことは……。


 それを思い出して、初月はぎゅうと強く左胸を押さえた。掌に伝わる鼓動は、熱く、そして速かった。


537 ◆gBmENbmfgY2019/12/08(日) 04:47:46zDNbxelo (9/11)


 ――それでもはき違えて欲しくないことがあります。艦娘の本分は、海上での戦いにこそある。


 初月の思考に、秋月の言葉が割り込んだ。とても優しい声だった。


 ――貴女が今感じていること、想像はできる。だけど、正確なところはわからないの。


 そうだ。初月はまだ一度も伝えていない。呆然としていたところに姉と鶴姉妹に話しかけられて、ただ伝えられる言葉を聞いていただけだった。

 何がしたいのか。

 どうしたいのか。

 その意思を、伝えていない。

 初月は自分が甘ったれていたことを自覚する。

 手を差し伸べられるのを、待っていたのだ。助けてあげると、言ってほしかったのだ。浅ましくも。女々しくも。

 初月はそんな自分に、腹が立った。


538 ◆gBmENbmfgY2019/12/08(日) 04:48:55zDNbxelo (10/11)


 ――どうしたいの、初月。これは趣味に過ぎない。本気でやろうと、手を抜いてやろうと、どっちだっていいのよ。


 諦める、と言えば、きっとそれでもいいと言ってくれるのだろう。

 どうもしたくないなんて、誤魔化そうとすれば、きっとすぐにバレてしまうのだろう。

 怒られるのかもしれない。

 悲しまれるのかもしれない。

 呆れられてしまうかもしれない。

 ……見捨てられてしまうかも、しれない。

 それはとてもイヤだった。

 だけど、それよりもずっとずっとイヤなことがある。


 ――……ロードバイクで、速くなりたい。レースに出たい。ぼ、僕は―――。


 胸から、熱があふれ出た。言葉が閊(つか)えた。行き場を失った熱量が、瞳から火のように溢れ出して、ぼろぼろと零れ落ちた。

 それでも熱は失われなかった。次々に胸の内側に溢れ出す熱が、大粒の涙となっていく。

 未だ心に燃えているこの熱を、もう失いたくなかった。誤魔化したくなかった。


539 ◆gBmENbmfgY2019/12/08(日) 04:52:32zDNbxelo (11/11)




「姉さんたちと、ロードレースに出て、優勝したい……みん、など、いっじょ、に……はじりだい、でず……それを、あ、あぎらめだぐ、ない……」


 悔しかった。提督に言われた言葉が辛くて、苦しくて、それでもあの三人みたいにすぐに動けなかった自分は『負けた』と思ったのだ。

 ――だけど負けたという思いから目を逸らした。僕は駄目な奴なんだと、姉さんたちに思われたくなくて。

 ――悔しくなんてないと、自分に嘘をつこうとした。

 だけどもう駄目だった。抑えられなかった。誰が好きとか、何を失いたくないだとか、もう関係なかった。


「僕を、鍛えて、ぐだざい……おねがいじまず、おねがい、じまず」


 ――ロードバイクが、好きなんだ。

 提督が好きだったからじゃなかった。

 初月自身が、既に惹かれていた。

 呆れたように―――だけど瑞鶴は、優しく笑った。翔鶴と同じ笑みだった。


「ちゃあんと言えるし、泣いちゃうぐらい悔しいなら――――そこにあるじゃない。貴女の燃料」


540以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/08(日) 14:44:40KO6M2MQ6 (1/1)

いっぱい更新されてる!
レースはまだ先かな


541以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/08(日) 23:18:476ORMXbQA (1/1)

やっぱ胸熱な台詞は良いな
乙です


542 ◆gBmENbmfgY2019/12/09(月) 23:52:07y4axZzL6 (1/1)

※忘年会、を、わすれて、た
今のテンションだと邪神系列のしか書けないので明日明後日あたりにどうか、どうか……


543以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/10(火) 20:25:43ugT8qspg (1/1)

待ってる


544以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/10(火) 21:31:21VlYsF7RQ (1/1)

>>1のおかげでクロスバイクを買って自転車にハマって今日ピナレロの17年式GAN S アルテグラを新車で買ったわ

>>1本当にありがとう


545 ◆gBmENbmfgY2019/12/12(木) 23:28:38uvs5v5VM (1/6)

>>544
おお、おめでとうございます! 私のSSの影響で買ってくれたと言われるとすごくうれしいです。こちらこそありがとう。
初のロードバイクでPINARELLO GAN S ULTEGRAとはお目が高い。レースもロングライドもイケちゃいますな。
世界中で高評価な東レのカーボンt700を使用、安心と信頼のスレッド式BB、そして所有欲を満たしバッチリ変速が決まるアルテグラ。
素晴らしい選択だと思います。
艦娘でGAN Sに乗せる予定の子がすでにいたりしますのでお楽しみに。


546 ◆gBmENbmfgY2019/12/12(木) 23:29:53uvs5v5VM (2/6)


………
……


 同日同刻、同鎮守府の異なる場所においても、初月が願ったように、他の艦娘達も同じことを願った。

 ロードバイクで速くなりたい、と。

 弱い自分に負けたくない、と。

 強い自分ですら上回る自分になりたい、と。


吹雪「――ありますよ」


 こともなげに、深雪の姉……吹雪はそう言った。己の限界を超える方法は、確かにあるのだと。

 深雪は、その言葉を信じた。否応なく信じられた。

 何故ならば――誰あろう吹雪こそが、その限界を次々に越えてきた艦娘だからだ。

 それは深雪のみならず、彼女の経歴を知る誰もが認めるところだった。その軌跡は決して華やかではなかったかもしれない。だが、深雪は知っている。

 決して才能があるとは言えない吹雪は、人よりも多く失敗した。時に涙を流し、時に辛酸を舐めることもあったが、それでも一切腐ることなく、できることを探し、見つけ、挑み、失敗し、成功し、弛まずに歩み続けた。

 深雪はそれを知っている。恥ずかしくて本人に言うことはできなかったけれど、いつだって尊敬している姉だった。


547 ◆gBmENbmfgY2019/12/12(木) 23:47:35uvs5v5VM (3/6)


 吹雪は変わらない。自らを衒うことなく、極端に卑下することもなかった。ありのままの自然体で、いつだって一生懸命だった。

 それでも雪風や島風すら上回る駆逐艦最多の出撃数、誰よりも多くの海を越えてきた経験は、確かな自負となって吹雪の中で根付いている。確かな背骨が、真っ直ぐに彼女を立たせている。

 その吹雪が言うのだ。同情でもおためごかしでもない。深雪の瞳を真っ直ぐに見つめる瞳には、真実だけがあった。


吹雪「耐久力や強さ、そしてスピード……あらゆるものには物理的な限界というものがあるよね。それは人間でも、もちろん私たち艦娘にもそれはある。

   だけどね、深雪ちゃん――『自分の事を自分以上に知ってる人』がいないと思うのは大間違いだよ?

   案外、自分で思ってるよりもずっとずっと高い能力があるもの。当の本人が気づいていないだけで、深雪ちゃんもそうだよ」

深雪「……根性論、か?」

吹雪「うーん、それがないわけじゃあないんだけど……それを言っちゃうと、ホラ」 


 吹雪は苦笑いしながら深雪の背後を指さした。釣られるように深雪が振り返ると、果たしてそこには根性なんて欠片もなさそうなのがいた。

 初雪だ。初雪は先ほどのタバタ・プロトコルで見事に結果を出していた。単純な出力だけならば、吹雪型でも最高の結果を叩き出していた。

 そんな初雪はゲームをしている。据え置きハードでの格闘ゲームだ。対戦相手は叢雲であるが、その優劣は一目瞭然である。


初雪「なぁにその甘えた攻撃……本気出していいのよ叢雲?」

叢雲「ア、アンタ、この叢雲様を煽って……!?」


548 ◆gBmENbmfgY2019/12/12(木) 23:53:10uvs5v5VM (4/6)


 淡々と処理を行うように淀みなくスティックとボタンを操作する初雪に対し、叢雲の表情は必死であった。

 程なくして、叢雲の本日初めてとなる「きぃいいいいい」という叫び声が上がった。勝敗は、もう見るまでもなかった。


初雪「ハチュユキィ、ウィン」

叢雲「く、き、ぎぎぎ……も、もう一度よ! もう一度勝負!」

初雪「頭まで槍女と化した叢雲に初雪が負ける理由はかけらもないし……」


 ぎゃあぎゃあと喚きながらTVゲーム――鳳翔や磯波が言うところのぴこぴこ―――に興じる彼女たちは、とても楽しそうであった。

 ひとしきりその様子を眺めた後、深雪は吹雪へ向き直った。

 苦虫をかみつぶしたような顔だった。別に勝負していたわけではないが、深雪は思った。

 ――あたしはあんなのにすら劣るのか、と。


吹雪「深雪ちゃんがさっき言ってた根性論……初雪ちゃんにあると思う?」

深雪「ハハッ、ナイスジョーク」

吹雪「あるよ」

深雪「あるのかよ!!」


549 ◆gBmENbmfgY2019/12/12(木) 23:56:32uvs5v5VM (5/6)


 猛烈にツッコミを入れる深雪に、助け船を入れるのは白雪だった。


白雪「健全な精神は健全な身体に宿れかし、という言葉がありますね。そう、誤用されまくっているあの言葉です。

   正しくは『健全な精神は健全な身体に宿れかし』です。

   意味するところは『健全な精神は健全な体に宿るべきなのになあ』という願望というか、そうあれかし、そうあるべきという意味なんですよ」

叢雲「デキムス・ユニウス・ユウェナリスだったかしら? パンとサーカスで有名な?」

白雪「この白雪と格ゲーしながら会話するとか余裕ぶっこいてますねその余裕を撃たせていただくし……!!」


 二度目の「きぃいいいいいい!」が響いた。


白雪「……誤用された原因は大体、世界大戦で主要各国が上げたスローガンのせいですが、まあそれは置いておくとして――」

深雪「あたしは……鍛え方、足りねえのか?」

白雪「う、うーん、そっちのネガティブ思考になっちゃいますか、深雪ちゃんは」

叢雲「鍛えは足りてるけれど、単に頭が悪いのよアンタの場合」


 いつの間にか叢雲が深雪の横に仏頂面で立っていた。振り返った先では、初雪がうつぶせのまま倒れ伏していた。恐らく槍女に槍されたのだろう。ぴくりとも動かなかった。


550 ◆gBmENbmfgY2019/12/12(木) 23:57:33uvs5v5VM (6/6)

※助け船入れるってなんだよ脳味噌邪神かよ

 助け船を出すだよね。出す方が邪神っぽい気がしてきた。ので今日はここまで。


551以下、名無しが深夜にお送りします2019/12/13(金) 07:22:53zBKJ3Lds (1/1)


それにしても秋月姉妹や鶴姉妹が
身体中から色々なもの排出しつつゼエゼエしている空間に出くわしたら
絶対正気や理性失う自信あるわ


552 ◆gBmENbmfgY2019/12/13(金) 20:26:07YTX8C94c (1/1)

※先日の投下で誤字脱字誤記多すぎて死にたくなったので投下し直していいですかダメっすかそうすか

>>548
×:初雪「頭まで槍女と化した叢雲に初雪が負ける理由はかけらもないし……」
○:初雪「頭まで槍女と化した叢雲に初雪が負ける要素はかけらもないし……」

>>549
×:白雪「健全な精神は健全な身体に宿る、という言葉がありますね。そう、誤用されまくっているあの言葉です。
○:白雪「健全な精神は健全な身体に宿れかし、という言葉がありますね。そう、誤用されまくっているあの言葉です。

×:白雪「この白雪と格ゲーしながら会話するとか余裕ぶっこいてますねその余裕を撃たせていただくし……!!」
○:初雪「この初雪と格ゲーしながら会話するとか余裕ぶっこいてますねその余裕を撃たせていただくし……!!」


今日は頑張って投下しよう。

>>551
その反応はきっと健康的な男子としては健全ですが、きっと>>551が望む描写はどっかの邪神に満たされたSSの方にあると思うんだ


553 ◆gBmENbmfgY2019/12/14(土) 00:02:1839liyFfo (1/2)


 そして深雪も動けなくなった。膝をついて五体投地だ。いつもの深雪ならば馬鹿呼ばわりされた怒りで叢雲に噛みついているところだったが、タバタを達成できなかったのが殊の外堪えていたらしい。


吹雪「叢雲ちゃん、言い方」

叢雲「何よ。本当の事じゃない? できるはずのないことをやろうとして、当たり前のように達成できなくて、当たり前の事なのに落ち込む。馬鹿以外のなんだっていうの?」

深雪「た、達成できないのが当たり前なんてわけねえだろ?」

叢雲「――いいえ、少なくとも今のアンタには達成不可能よ。さっき白雪が言ったのとは別に、原因はいくつかあるけれど……まずアンタ、司令官の言うことを鵜呑みにして、馬鹿正直に全力でやりすぎたんだもの」

深雪「………どゆこと? だって全力でやらなきゃ意味がねえトレーニングだろ? そんぐらいあたしだって知ってる……やったことだって、ある」


 深雪とて最古参の一人だ。大戦時から提督が指導するトレーニングの中にはタバタ・プロトコルはもちろん、様々なHIIT(High Intensity Interval Training)が含まれていた。

 そのやり方は提督から艦隊旗艦たちへと伝えられており、軽巡たちも非常にこのトレーニングを好んでいたし、深雪たちが所属する三水戦――川内もまた頻繁に訓練へ取り入れていた。

 名取率いる五水戦――皐月が所属する水雷戦隊もそうだ。神通らが率いる二水戦――朝潮もまた、それを好んだ。だが三者ともに、自転車では失敗した。

 深雪も、皐月も、朝潮も、それらを全て達成してきた。だからこそ、今回の失敗はショックだったのだ。


叢雲「自転車でタバタやるのは今回が初めてだったでしょ?」

深雪「そりゃそうだけどよ。結局のところやることは同じだろ!? 全力で20秒間体を動かして、10秒休む! あたしはちゃんとやったぞ? やって、やったけど…………8本目のラストで、全力出せなくなっちまった、けど」


 言葉を紡ぐごとに、深雪の気勢が萎れていく。その一方で、叢雲は頭痛を抑え込むようにこめかみを揉んだ――呆れたのだ。深雪が自信なさげに言ったことの、あまりの凄さにである。


554 ◆gBmENbmfgY2019/12/14(土) 00:11:3939liyFfo (2/2)


 なのに当の深雪が、どれだけ凄まじいことをしているのか、気づいていないのだ。

 吹雪もまた気付いていた。白雪も。そして初雪もだ。磯波は深雪と同じグループ枠でタバタ・プロトコルに参加していたため、おそらく気付いていなかっただろう。


叢雲「だからアンタは馬鹿なのよ。いえ、司令官の言葉を借りれば『いい子』なのよ」

深雪「いい子じゃ、駄目だって……だ、だけど」

叢雲「そう。司令官がトレーニング後に言ってたでしょ――『いい子』のままじゃあ、勝てないって」


 深雪は目に見えて落ち込んだ。意味が分からなかった。分かったことは一つだけだ。司令官が言うなら、きっと自分はいい子なのだろう、と。だけどそれじゃ勝てないという。

 ならば悪い子になろうと思う。だけどその方法が分からない。自分がどうしていい子と呼ばれてしまったか、その原因が分からないからだ。手を抜く、というのはきっと違うと思う。それじゃあトレーニングは、本当に達成できなくなってしまうからだ。


初雪「呆れた――じゃあぶっちゃけ初雪がもう答えの一つを教えてあげるんだけど……」


 ピクリとも動かなかった槍女に槍された被害者・初雪がむっくりと起き上がり、深雪にダウナーな雰囲気のままに告げる。


初雪「あのさ、深雪。朝潮も皐月もそうだったけどさ……タバタやってたときはひたすらに『踏む』ペダリングしか、してなかったじゃん?」

深雪「…………え? 駄目なのかあれ?」

叢雲「この、馬鹿……できるわけないでしょ。むしろできるギリギリまでやってのけたアンタは凄いのよ、あんな馬鹿丸出しの手法で!」