424以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/20(水) 00:55:59.27omphqAj60 (12/18)



  エミリア「…貴方がブルー、ね…ふぅん確かによく見ると色々違うわね」ジーッ



   ブルー「…」



 ポーチ付きのベルトに紺色のスカート、春先の若葉を連想させる明るい緑色のジャケットを着た女は目を細める
親友に倉庫から拘束を解き放ちここまで連行して貰った男と記憶の中にある戦友の容姿を見比べた

 一点を凝視してみたり、離れて全身を軽く見まわしたり
彼に近づいて一本の大樹を中心にぐるぐる回る様に様々な角度から覗き込んで見たり


 観察対象の彼はその行為にじれったさを覚えた、何がしたいんだ、言いたい事があるならさっさと言え、失礼な奴だ、等


心中は投げつけたい文句が浮かぶが、立場上ブルーは"今現在は加害者であるが故"に強くは出れない




 双子が旅立ってから三日目の晩、遡って二日前だった―――丁度このリージョンでブルーが[保護のルーン]を手にする為
暗黒街の地下にある[自然洞窟]でアニーと出会った、その時に彼は確かに言った




 - ブルー『こちらに非があるならば謝罪の一つでもいれるのが筋だ、…顔に出てるぞ貴様』ジロッ -




 目の前の女はまるで自分を舐めるように観察してくる…こうなった発端は元を正せば後先考えずに行動したブルー自身だ
"自分に非がある"と認めてるからこそ咎めない、許容範囲を軽く越した蛮行でもせん限りは様子見に徹している



  エミリア「ん、んっ~!ハイ、わかった、確かに違うわ、うん!アニー!ちょっと二人っきりでお話したいのよね~」

  エミリア「ちょーっとだけこのカレ借りちゃっていい?」ガシッ


  ブルー「お、おい…」

  アニー「OK」ビシッ




 悪戯を思いついた、そんな顔で猫なで声で妹分に許可をねだる元モデル

 何か面白そうなんで、と了承の二つ返事を姉貴分に敬礼つきで出す仕事人



 反論を口しようとする彼はその場から連れ去らんとする腕に黙殺される、そして終止ニコニコ笑顔のブロンド髪で
誰もが見返る魅惑的な美女に誰も居ない深夜の厨房まで引き摺り込まれてそして―――






       エミリア「リュートから話は全て聞いたわ、"身内殺し"をしようとしてるってこと」





分厚い扉は重々しい音と共に締まる、外部に音声を漏らすことはないだろう


突然の隙間風、季節風の様に何の前触れもなく吹いた風が蝋燭の灯火を消していったように、ニコニコ笑顔はふっと消えた




術士の肩に、細く白い綺麗な指が沈み込む、霊獣の毛皮を剥いで創った肩掛けにギュッと強く…桜色の爪化粧が喰い込む





425以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/20(水) 00:57:10.49omphqAj60 (13/18)


 静寂の中で石窯の傍に掛けられた木製の振り子時計が無言の睨み合い、緊迫した空気も読まずにただ己の役割を果たす
一瞬、驚いた顔をしたが何か合点が行った顔で肩を掴まれたままの男は目を細める、今度は自分が女を観察する番だ


  ブルー「……」

 エミリア「…っ」キッ!



  ブルー「まず、先程の件で詫びをさせてもらう、あれは全面的に俺が悪かったな」

  ブルー「他人に教えを乞う態度にしては乱暴が過ぎた、それは認める」スッ




  ブルー「そして、この先は別件だ、リュートから俺の目的を聞いた上で
            あの頭の悪い捏造シナリオを奴に吹き込んだのはお前か、何が目的だ?意図が読めん」


 エミリア「っ」キュッ!



 小さく頭を下げ、自分に非があったと睨みつけて来る女性に淡々と伝える
誠意の欠片も見当たらない謝罪後は一呼吸置いて、何が目的か問い始める


…元モデルというのが彼女の経歴だが
 一世を風靡する程のプロモーションと表現力を兼ねた彼女なら舞台女優でも通用することだろう

 ライザを交えてリュートから"家族殺し"をさせる狂った国家の話を聞いた時と全く同じ様に、目の前の男の言葉を聞き
彼女は下唇を噛んだ、行き場の無い怒りの行先だ




戦友ルージュの背負った理不尽な使命という悲運

目の前に居る戦友の兄ブルーはそれに何も感じないのかッ!という怒り

この双子にそのような命令を下す国家の残忍さ



あらゆるモノに対する腹立たしさが渦を巻いて胸の奥に燻っていた、よくもまぁアニーの前であんな上機嫌な女を演じたな



 エミリア「…意図、ですって?」

 エミリア「あなたねぇ、自分の弟を殺すのよ…何も思わないの、悲しいとか嫌だとか、…っ、辛いとか、感情は無いの」







  ブルー「無いな」






 そんなモノは無い、彼は正直に答えた



 エミリア「―――ッ!このっ」グッ!片手振り上げ


 エミリア「……っ」

 エミリア「…」

 エミリア「…。」


 エミリア「…ない、のね」スッ




426以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/20(水) 00:57:49.28omphqAj60 (14/18)


 振り上げられた手は、エミリアの落胆した声と同じく、だらりと重力のままに降りていく
初めから期待していた訳じゃない、[ヨークランド]出身の友人が語った通り冷徹さを印象付ける色の彼は
弟に"勝つ気"でいるのだ


そこに、罪悪感だとか、嫌悪感、本当は嫌だけど仕方なく国の命令に従っているだとか、そういう淡い"救い"を求めた


…初めから期待していた訳じゃない、のだけれど





  ブルー「…」





 無いな、弟を殺すという事柄に対して悪感情はあるのかという質問にこの男は即答したが…


本当に無いのだ、いや、"考え方そのものが違う"




 彼とルージュが旅立つ初日、国家の元首でもある魔法学院の長はなんと言った事か
強き術士となる為であらば『自分の目的を果たす為ならばあらゆる手段を用いてよい』と…


倫理、道徳…必要最低限の"普通の"モラルを学ぶ子供ならば忌諱となるだろう行いを『国家の為だからソレは正義です』と
ブルーの場合は特にその傾向が強い教育だった



資質を手にする為なら、相手から奪う、殺人さえ許可する、と



必要な行為だから、する
良くも悪くも考え方が"国家に忠実な兵隊さん"思想な所がある、もっと言えば隔離されて育ったからこそ兄弟の実感が無い



殺らなきゃ自分が殺される、そういう意味じゃお互い様
ただの抹殺対象、それ以上でもそれ以下でもない、だから情がどうこう以前の話








…とどのつまり、エミリアに対して言った「無いな」に込められた"ニュアンス"は微妙に違う


辛いとか、悲しいとか、嫌だ、ではないが
 逆に…殺せて清々するとか、大っ嫌いだからボコボコにしたいでも、嬉々として倒したかった、とかですらもなく



家族という実感そのものがイマイチ、ピンと来てない




強いて言えば、"自分を育ててくれた里親である国家に親孝行をする"が動機





  ブルー「お前はその確認をしたいが為だけにあんな創り話を考えたのか?」


  エミリア「…それ、もあったけど違う」

  エミリア「……アニーにあなたの旅の目的、真相を知って欲しくないからよ」





427以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/20(水) 00:58:56.77omphqAj60 (15/18)


  ブルー「なぜだ」


  エミリア「あの子、見た目はあんなふうだけどすごくいい子よ、家族思いで」

  エミリア「知ればきっと、あなたの事を止めようと食って掛かるわ…」


 ライザが危惧した内容をそのままエミリアはブルーに告げた、もしも、今この厨房に居るのが自分でなく
どんな会話が行われているのかも知らずに外で眠たげに欠伸でもしているアニーだったら



落胆の色を浮かべ振り上げた手を下げた自分とは違った行動を取ったことだろう

激怒の色を浮かべ勢いをつけ手をあげたに違いない



その後も、ブルーが白旗をあげるまで延々と彼の耳元で喚き続ける
 兄弟同士で殺し合うなんて間違ってる、長男が自分の下を傷つけるな!…姉弟で生きる為、頑張って来た長女なら言った



  エミリア「私の他にもう一人ライザって女性が居たでしょ、彼女もこのことは知ってる」

  エミリア「私もライザもあなたのことは止めたりはしないだから、これだけは約束して欲しい」


  エミリア「せめて、アニーにだけはそんなことを、残酷なことを教えたりしないで頂戴」キッ!



家族で殺し合う為の手助けをしてしまった

自分の知り合いが友達の戦友を殺させる切欠を作ってしまった


 事が終わった後にせよ、起こる前にしても、アニーはもう、ブルーに既に手を貸してしまっている
自分達家族が生きる為に報酬のカネを受け取った、仕事で仕方なくやった、としてもそれが少なからず小さな影を造る


こんな業界に居るから、いつかは…いや、エミリアが知らないだけで過去に似たような経験をアニーはしたかもしれない


…どちらにしても、そんなモノは無いなら、その方が断然いい

言ってしまえば気持ちの問題だ


  ブルー「…ふむ、言いたい事は分かった」


  エミリア「それで、約束は? YESかNO、決めてもらえないかしら」


  ブルー「アイツの性格はまだ知り合って日も浅いが大体わかる、[ディスペア]潜入や剣術の指南」

  ブルー「今後の予定に支障が出る不具合もある、良いだろう飲んでやる、あの馬鹿な脚本に従ってやろう」


  エミリア「…私、あなたのこと苦手、ううん、嫌いだわ…ルーファスとどっちがマシって言われたら悩むくらいよ」


  エミリア「正直、妹みたいに思ってるアニーに近づいて欲しくないくらいに、泣かせたら承知しないわよ」


   ブルー「そうか、それは結構、ところで…そちらから一方的に約束事を持ち出して虫が良いとは思わんか?」

  エミリア「…。」

  エミリア「…私が行動を共にしてた間のルージュの人柄や旅の様子を話す、前払いの契約金よ」スッ


   ブルー「そこまで"頼まれては"仕方ないな、約束を守るように善処しよう」ニコッ、スッ




…ガシッ、ギュッ

…金髪の美女はハッキリと嫌いだと物申した相手――満点の笑みを浮かべる金髪の男性と"仲直りの握手"をした




428以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/20(水) 01:00:28.10omphqAj60 (16/18)

―――
――




  アニー「ふわぁ…二人で何話してんだろ…」脚ぷらんぷらん



 暇を持て余した彼女は樽の上に腰掛け足をぷらぷらとさせていた、この惑星の気候は肌寒く特に豪雨の夜は一層冷える
店の雰囲気重視を謳う少し薄暗い照明と合わせて暖房をつけていない…というのは建前で単に"ケチ"なだけなのだ


眠たげな彼女の服装はいつものデニムパンツに、ブラジャーの上から緑色のジャケットを羽織っただけのラフな格好だった

 夜風に晒されてまで自宅に戻って厚着して帰って来る気にもサラサラなれず
店内にあったブランケットを適当に引っ張り出して来てポンチョの様に身体に巻いていた



スッ


  アニー「…はれ?ライザ」

  ライザ「今夜はまた、一段と冷えるわね…ホットチョコレートよ、飲みなさい」

  アニー「へへっ!サンキュー!」


白いマグカップが4つ、白の陶器は湯気立つ茶色と溶け合うミルクの色が渦を描く、手渡されたカップの淵に口をつけ一口


  ライザ「お味はいかがかしら、お客さん」フフッ

  アニー「うーむ、くるしゅうないぞ!っなんてね」ハハッ


紫髪の女性も樽に腰掛ける金髪少女の傍に立ち、カカオの香りを嗜む


  アニー「あの二人さぁ、何話してんのかなー?」

  ライザ「さぁ、気になるの」


  アニー「そりゃ気になるわ、エミリア美人だし男と厨房で二人っきりとかさぁ」

  アニー「よく言うじゃん?男はオオカミなのよ、気を付けなさい~♪って」

  ライザ「あら、懐かしい歌のフレーズね」


  ライザ「でも、大丈夫よ彼女はそんなヤワじゃない、そうでしょう」

  アニー「んー、それもそっか、ズズッ 温かくておいしい」


バタンッ!

   エミリア「二人共おまたせ~」スタスタ

    ブルー「ああ、遅くなって済まない和解は成立した」スタスタ


  アニー「おっ!や~っときたか、…まったく、ちゃんと反省してるわけ?」ヤレヤレ



    ブルー「あぁ、すまなかったな、ルージュのことになるとどうも頭に血が昇ってな」

    ブルー「エミリアも話してみれば大分話の分かる奴でな、…しっかりと"仲直りの握手"もできたくらいだ」

   エミリア「…ええっ!そうね!」ニコッ

    ライザ「……」

    アニー「えっマジ?なんか意外、アンタとエミリア絶対反りが合わないと思ったけど世の中わかんないものね」


    ライザ(仲直りの握手、…ねぇ)




429以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/20(水) 01:01:03.89omphqAj60 (17/18)


エミリアがアニーに近づいて小声で耳打ちする、そんな姿には目もくれずにブルーは得たアドバンテージを考える


 握手には広義の意味がある、単純に仲直りの為であったり、挨拶代わり……政治家のやり取り、商談成立の合図にも



  ブルー(ルージュがどの術の資質を得ようとしているのか、試練の進行状況はどうか
         アイツのペースを知る事で鍛錬の積み方、休息のタイミングも図りやすくなる筈だ)


  ブルー(はは、運気の流れは確実に俺に吹いてきてい―――)ツンツン



ふと、肩を指で突かれる感触に水を差され「なんだ?」と振り返る、すると…

















    アニー「はい、んじゃ今日からビシバシ行くからヨロシクな新人アルバイト!」つ『ピンクのエプロン』








           ブルー「…。 えっ」








 アニー「エミリアに謝ったら、罰として暫く住み込みでウチのイタ飯屋手伝ってもらうつもりだったのよ」

 -アニー『縄解いてやるわよ…ただし!エミリアにはちゃんと謝る事、そしてアタシのいう事にも従う事良いわね?』-




 アニー「あの時、悪戯っぽい顔で連れてくから何かと思ったけど、ピンクのエプロン着せる為だったとは恐れ入ったわ」

 アニー「エミリアが耳元で教えてくれた、厨房で話し合ったんだろ?ピンクのエプロンで良いって」



  エミリア「そうよねぇ、ごめんなさいねぇ~ピンクのフリフリが用意できなくてぇ、それで我慢してね」ニッコリ
  エミリア(タダでやられっぱなしなんてごめんよ、…フン!ざまぁみなさい陰湿男)



           ブルー「」


           ブルー「」



           ブルー( こ の ク ソ ア マぁ ぁ ぁ  ぁ   ぁぁぁぁ ぁ! ! !!!)




…笑顔の素敵な女優さんの心の声が彼には確かに見えた、エプロン渡され放心状態の彼の怒りの叫びが彼女には聞こえた



430以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/20(水) 01:18:42.20omphqAj60 (18/18)

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                 今 回 は 此 処 ま で !


                   △インフォメーション!▲


  現在経過日数 旅立ちから三日経過



 ~ 資質修得状況 ~

『陰陽】

・陽術(従騎士との乱闘騒ぎで現在取得不可)
・陰術(従騎士との乱闘騒ぎで現在取得不可)


【秘印』

・秘術(ルージュ、試練開始 4枚の何も書かれていないタロットカードを貰う)
・印術(ブルー、試練開始 4個の何も刻まれていないルーン文字の小石を貰う)


『時空】

・時術(現状どちらも手がかりをつかんでいない)
・空術(現状どちらも手がかりをつかんでいない)



<心術>
・心術([京]にあるらしいのでルージュが試練を受ける予定)


状況

ルージュ 資質0 試練進行度 0/4 (エミリアから金のカードの情報を貰った)

ブルー 資質0 試練進行度 2/4(既に2つ攻略済み、残りの在処もアニー、ルーファスから知る)




 『パーティーメンバー】

-ブルー組-

・ブルー

・アニー(通常仲間キャラ)

・リュート(主人公級キャラ)

・スライム(通常仲間キャラ)

・ルーファス(通常仲間キャラ)

・エミリア(主人公級キャラ)

・ライザ(通常仲間キャラ)

※ヌサカーン先生はクーンのパーティーに入りました

-ルージュ組-

・ルージュ

・アセルス(主人公級キャラ)

・白薔薇(通常仲間キャラ)

・レッド(主人公級キャラ)

・BJ&K(通常仲間キャラ)




▼…ブルーがエミリアからルージュの情報を聞き出してしまった…、まだ余裕がある事を知り暫く自己鍛錬ができると知る

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431以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/21(木) 22:39:06.44GtSfa+fT0 (1/1)

更新来てたのか、乙
ルージュが本編で実現不可能なドリームパーティーじゃないか


432以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/21(木) 22:43:15.71UkF5UJuX0 (1/1)

全員のシナリオを同時進行するサガフロとか見てみたいと思ってた


433以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/22(金) 11:48:21.39qWc/sLQpO (1/1)

乙乙
続きがめちゃめちゃ気になる


434書き溜め少し投下2019/02/22(金) 17:38:45.23EOANnSFz0 (1/15)











ペラッ…カキカキ


         僕は[クーロン]で一夜を明かして[キグナス号]へ二度目の乗船をしている








朝一番の始発で『7時27分』に僕は仲間と共に暗黒街の惑星から飛び立った、日記が書けそうな今の内に書いておく


黒一色の死の大空を飛ぶ船の展望エリアから矢の様に流れていく星々の灯りに目を奪われていた





外界に来て僕は友達がたくさんできたかもしれない、アセルス、白薔薇さん、エミリアさんやヒューズさん

それにルーファスさん、この船に一緒に乗っててさっき出逢ったレッドとBJ&Kもだ

本当に色んな人と出逢えて…良かったと思う、僕はきっとこの旅を忘れない。


    もうじき、[京]に着陸するらしい…ペンを置いて、船を降りる準備をすることにしておくよ





435以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/22(金) 17:40:32.77EOANnSFz0 (2/15)


【双子が旅立ってから4日目 午前9時14分】

 紅き術士は、その美しさに目を奪われた




  ルージュ「……すっげぇ…」



多種多様な惑星<リージョン>が存在する広大な宇域でも、この[京]というのは独特な文化を誇っていた
 旅行ガイドに簡単な紹介文は載っていたが実際に見るモノは違う、まず驚いたのは発着場だ
船を降りてターミナルの待合室に着いたが[マンハッタン]や[クーロン]、[マジックキングダム]とも全然違った


"お座敷"という見た事もないモノがある…


見れば他所の惑星から来た観光客がなんと靴を脱いでその上に上がり座り込むのだ!!


畳…タタミ、と呼ばれる床材でなんでも藺草<イグサ>という単子葉植物で作った独自の文化らしい

この惑星<リージョン>の人はその上で座ったり、寝っ転がって休んだりするそうな
 ちなみ、ルージュが眺めていた観光客たちは「オー、ジャパネーズ ブンカ デース!」と口にしていた
何言ってるのか意味はよく理解できなかったが"ブンカ"…文化と言ってる辺りカルチャーショックでも受けていたのだろう


 旅行鞄を持ったアセルスお嬢、白薔薇姫と合流し、術士は発着場を出て肌で感じ取った、空気が違う…

鼻孔を掠める紅葉と竹林の心穏やかにさせる香り、せせらぐ水と木造りの水車が回る音
 銀杏の実を蓄えた枝の先々には金色のイチョウの葉、今まで見た事も無い浴衣、着物……"和服"という民族衣装
靴だってそうだ、自分達が履いてるような動物の革や布のブーツではない

木の板に紐を通したような不思議な靴、アセルスが後に教えてくれたが草履や下駄という名前らしい


何もかもが新鮮、何もかもがルージュにとって見た事の無い未知だった



 彼は目を丸くして、キラキラと夜空の一番星のように輝かせた…齢22歳の好奇心旺盛な少年心を刺激するには十分過ぎた



  白薔薇「まぁ…!なんて綺麗な街並みなのでしょう!」


  ルージュ「! あ、あ、アセルス!!ねぇ!あれは!?アレは何!?あれって『寿司』って書いてあるよ!?」ソワソワ

  ルージュ「『天ぷら』とか薄らとだけど小耳に挟んだことあるよ!なんかその、食べ物なんでしょ!」ワクワク


  アセルス「もうっ!ルージュは落ち着いてってば、あぁ!!白薔薇勝手に景色を見に行かないで!迷子になるって!」



      「おーい!アセルス姉ちゃん!ルージュ!!」タッタッタ!!



  ルージュ「あっ、レッド!お仕事終わったんだね!」


  レッド「おう!遅れてすまねぇ…ユリアにお土産とか色々頼まれてよ…」

 アセルス「烈人君ごめんね、わざわざ忙しいのに時間見つけて私達の観光に付き合ってもらって」

  レッド「気に擦んなって!姉ちゃんにゃ昔っから世話になりっぱなしだからな!…所で、気になってたんだけど」


  レッド「白薔薇さんは一緒じゃないのかい?」ユビサシ



  ルージュ/アセルス「「…えっ」」クルッ


  アセルス「し、白薔薇ぁぁぁぁぁぁ!!!」

  ルージュ「う、うわぁぁぁぁちょっと目を離した隙に白薔薇さんが迷子になったぁぁぁぁ!?どうしよう!?」




436以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/22(金) 17:41:19.12EOANnSFz0 (3/15)

―――
――


【[京]の庭園】



  白薔薇「 」ポツーン

  白薔薇「あら、あらあら?…どうしましょう…いつの間にかアセルス様たちとはぐれてしまいましたわ…」オロオロ



 [ファシナトゥール]とは全く違った芸術美に思わず蜜のかかった林檎に誘われる蟻の様に釣られてしまった
薔薇飾りを頭に乗せた何処かおっとりとした妖魔の貴婦人が途方に暮れだした、そんな時だった―――






   Tシャツに鉢巻姿の酔っ払い「…うぃーっく!…くぅぅ、やっぱ酒飲むならこういう日本庭園だよなぁ!」グビグビ

      記憶喪失のロボット「ゲン様、飲みすぎです、タイム隊長達に怒られます」


 "ゲン"、焼酎という酒が入った瓶を片手に豪快に笑う男の名前だ、顔を赤くしてバシバシと隣居るロボットの肩を叩く



   ゲン「わぁーってるって、そうケチケチすんなって!ガハハハハ!それによぉ
                こいつぁお前の記憶の手がかりが見つかった祝いみてーなモンだろ?」ハッハッハ!



   記憶喪失のロボット「はい、間もなく[シンロウ]で"仮面武闘会"が開催されます」

   記憶喪失のロボット「その間遺跡の探索は禁じられますから、[古代のシップ]でヒントを得たのは大きな収穫です」


   記憶喪失のロボット「HQの存在確認と私の任務が"RB3型"の破壊であること」

   記憶喪失のロボット「もっと詳細を知る為に一度レオナルド様にお会いしましょう」



   ゲン「の前に、あのでけぇコウモリにやられちまった、ナカジマと特殊工作車を治すことだろ」

   ゲン「遺跡の中で蝙蝠倒しまくってたらいきなり出てきやがって流石に俺もヤバいかと思ったぜ、たく」



   ゲン「ん?T-260G、何見てんだ?」



   T-260「…認識完了、メモリ内と100%合致、ゲン様、以前[マンハッタン]で見かけた女性です」


   ゲン「あん?」チラッ





   白薔薇「どうすれば…」オロオロ




   ゲン「ありゃ、本当だな…こりゃまた奇妙な縁だな……」


   ゲン「なんかあの姉ちゃん前見かけた時も困った顔してたな、どうすっかね…」う~ん

   ゲン「…」


   ゲン「うっしゃ!決めた、これも何かの縁だろう、ちょっくらお節介焼きに行くぞ!」

   T-260「了解です」ウィーン




437以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/22(金) 17:41:55.30EOANnSFz0 (4/15)


 この惑星の観光スポットとして名高い庭園でしなやかに揺れる柳の幕を潜り向けお節介を焼きに来た中年の男と
古臭いデザインのロボットは妖魔の貴婦人に声を掛けた


  ゲン「おーい、そこの姉ちゃんアンタなんかお困りかい?」テクテク


  白薔薇「あ、はい…知り合いとはぐれてしまいまして…失礼ですがどちら様で」


  ゲン「んあ?あぁ…わりぃわりぃ、俺ぁゲンってんだ、隣に居るのが」

  T-260「制式形式番号T260 認識ID7074-878「こいつぁT-260だ見ての通りロボで小難しい事を言う」


  白薔薇「ゲン様に…?てぃーにーろくまる…様?」


  ゲン「おう、この辺ぶらぶらしてたらなんか困り顔の女が居たもんだからついお節介焼きたくなっちまったんだ」

  ゲン「人間困った時はお互いさまっていうだろ」ガッハッハ!


 彼は人情溢れる人間という奴なのだろう、酒瓶を持ったまま豪快に笑い隣に居るロボットの肩をバシバシ叩く
そんな様子につい思わず白薔薇も釣られて笑ってしまう、見知らぬ土地で独りというのは不安がある

話し相手の一人や二人いるだけで、その不安の根は大きく取り払われるモノだ

 初めて来たリージョンに知り合いなどいる筈もなく、右も左も分からない白薔薇はご厚意に甘えることにした



  ゲン「だったら、シップ発着場の方に行きゃいいってことだろ?降りてすぐにこの庭園に来たっつーことは…」フム



  T-260「我々もここから南東の道を通って向かうべきです」

  T-260「白薔薇様の御知り合いが発着場から土産屋方面に向かったのなら、都度、通行人に確認を取り後を追います」


  ゲン「だな、向こうが姉ちゃん探してこっちに来てんなら途中でばったり鉢合わせだろうし」

  ゲン「逆に変に反対方向に行って行き違いになっちまうよりかはその方がいいな」


  白薔薇「ありがとうございます」ペコッ


…テクテク…スタスタ…ウィーン!


  T-260「時に白薔薇様は人間<ヒューマン>でなく妖魔でしょうか?検知された生体エネルギーが人間では無かったもので」

  ゲン「おい、ポンコツ!失礼だろがっ!…すまねぇ」

  白薔薇「ふふ…お気になさらずに、T-260様の仰る通り[ファシナトゥール]から来た妖魔にございます」クスクス1

  ゲン「[ファシナトゥール]…んー、俺ぁ妖魔についてあんまし詳しくねぇからそのリージョンはよく知らねぇや」


  白薔薇「T-260様とゲン様はどちらからお越しで?」



 道中、知り合ったばかりの3人…いや、2人と1機は退屈しのぎも兼ねた他愛もない世間話に花を咲かせていた
会話のキャッチボールが続く中でT-260が発した何気ない一言から何処からこの地へ観光に?という話題に移った…



    ゲン「…」ピタッ


   T-260「ゲン様」

    ゲン「いや、いいんだ……そうだな、だんまりも失礼だわな」ポリポリ


   白薔薇「…?」


    ゲン「俺は…[ワカツ]ってトコの生まれでな」




438以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/22(金) 17:42:20.80EOANnSFz0 (5/15)




  白薔薇「[ワカツ]…ですか?」



   ゲン「ああ、サムライの惑星<リージョン>、なんて他所の奴らはよく言ってたもんさ」

   ゲン「腕っぷしに自信のある奴が技を磨くために訪れたり、[剣のカード]目当てで来る修行者もいた」


   ゲン「俺も、故郷でそこそこ腕のある剣豪だったんだが、色々あって今は放浪の身って奴さ」



  白薔薇「"色々"ですか…」


   ゲン「ああ…"色々"な」



妖魔の貴婦人はつい最近になって時が止まった様な鎖国リージョンから出た、それゆえに世捨て人の如く世間に疎い

彼の言う"色々"というのは新聞やニュースを観ない者でもよく知っている事件なのだが
……あるいは妖魔だからこそ詳しくないと踏んで彼は話したのかもしれない


何か、話辛い失礼な事を聞いてしまったのではないか…、ゲンの横顔を見て白薔薇は少し居た堪れない気持ちになった
 この話題にはあまり深く踏み込むのは良くないと判断し話題を変える事にした


  白薔薇「あの、ゲン様は剣にお詳しいのですか?」


   ゲン「うん?剣かい?そらぁ、まぁな…」




  白薔薇「でしたら、女性でも扱いやすい強い剣をご存じありませんか?」




[クーロン]で自分達を助けてくれたアルカイザーは言っていた、此処には様々な人が集まる
 旅人も疲れを癒すために寄ることが多いのだから優れた剣、装備品に関する情報も聞けるだろうと


アセルスの[フィーンロッド]の代わりとなる武器、[幻魔]を扱えるようになるその日まで…!彼女の実力に見合った剣を!


  ゲン「…そうだな、女でも振りやすいか」


顎に手を当て、剣豪を目を細める、東洋剣を専門とする彼はふと思い当たる節を口にした



  ゲン「………女でも振りやすいかは兎も角だ、嘘か真か[シュライク]に名刀が眠ってるって話なら聞いたな」


  白薔薇「…![シュライク]に」


…シュライク、アセルスの故郷だ
12年間姿の変わらぬままで育ての親の元へ帰り、怖れられた…あまりいい思い出の無い土地


  ゲン「ああ、なんつったかな、昔の偉い奴を埋葬した古墳があって[草薙の剣]ってのが一緒にあるとか」

  ゲン「なんで強い剣を求めてるかは知らねーが墓荒しなんて碌な目に合わねぇからよ、あんまオススメはしないぜ」


  ゲン「店売りの剣になっちまうから金もかかるし威力もずば抜けて高い訳じゃねぇが[ゼロソード]くらいだな」


   白薔薇「いえ、それだけでも十分ですわ」ペコリッ


―――タッタッタ…!

 アセルス「し、白薔薇ぁぁぁぁ!!よかったぁやっとみつけたぁ…っ!」ゼェゼェ



439以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/22(金) 17:43:02.03EOANnSFz0 (6/15)

―――
――


【双子が旅立ってから4日目 午前10時20分】 [京]の旅館前


    特殊工作車「」HP0

    ナカジマ零式「」HP0




   レッド「この回路をこうして…んで[インスタントキット]を取り付けてっと」カチャカチャ

  ルージュ「あ、あれぇ~?…れ、レッド!もしかして僕コード間違えちゃってる??」

   レッド「ん?…あー、そこはだな…」


    BJ&K「損傷がひどいですね、…所々に強い磁気を浴びたような形跡が」



  ゲン「わりぃな坊主たち、俺の仲間達を治すの手伝ってもらって」

  ゲン「最近の若い奴らは機械につえぇからなぁ、俺ぁそのインスタントなんちゃらは苦手だぜ…」ポリポリ


  ルージュ「いえいえ!白薔薇さんと僕達を探すの手伝ってくれたんです!このくらいお安い御用です」コード カラマリ


身体中にケーブルが絡まったルージュが胸を張っていい、それが可笑しいのかレッドが苦笑する


  レッド「ま、俺もBJ&Kの整備でメカ専用の回復道具の使い方は慣れてるしな!…しかし凄いなこのメカ」ジーッ

   ナカジマ零式「 」

  ゲン「そいつは[シュライク]で仲間になったんだ、中島製作所って所で縁があってなそこの社長から連れいけってな」

  レッド「へぇ!奇遇だなー、俺[シュライク]出身だからさ、故郷のメカって思うと尚更…」ジーッ


  ルージュ「れ、レッドぉ!たすけてぇ~!」コード グルグルマキ ミイラ


  レッド「おまっ、何器用な絡まり方してんだよ!?」


―――
――



   ナカジマ零式「いやぁ~、助かりました~」

    特殊工作車「感謝いたします。」


    ゲン「おう、おめぇ等やっと目が醒めたか明日になったらレオナルドさんトコに行くからな!」


    T-260「私達は明日まではこのリージョンに滞在します、何か要件があればご相談ください」ウィーン


   アセルス「ありがとう!ゲンさん、T-260、私達は行ってくるからね!」


    ゲン「おう!お嬢ちゃん達も観光楽しんで来いよ!!」手ひらひら



[京]の情趣溢れた旅館で鉢巻をつけた一人の人間が、個性豊かな三機のメカが一行を送り出す
 旅の魅力は初めて行った土地での"出会い"にもある、その土地柄、独特な文化…行き交う人々の民族衣装、料理、方言
それに人柄だってそうだ、今回の旅で彼等の様な人情深い人達と出会い
ちょっとした世間話やお互い知らぬ土地の話題に花を咲かせる…それはきっとすばらしいことなのだろう

 勿論、出会う人全てが"いい人"とは限らないが、それも踏まえた上で他者とのふれあいが異国情緒を楽しむことに繋がる


旅人4人+1機が[京]の街を観光し始めたころ、陽はもうじき一番高い位置に上がろうとしていた




440以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/22(金) 17:43:40.43EOANnSFz0 (7/15)



     ぐぅぅぅぅ~~…



  アセルス/レッド/白薔薇「「「えっ」」」クルッ





     ルージュ「ぁ…///」カァ///


 BJ&K「胃が強く収縮された時に生じる音を確認、空腹期収縮ですね、腹の虫が鳴くとも言われています」ピピッ



 ピタリと、歩みを止めて赤らめた顔をする紅き術士、と一歩先で振り返りそれを確認する面々、…冷静に分析するメカ
誰が一番に笑いを堪え切れなくなったのか、噴き出した声に一層照れくさそうにするルージュ


  アセルス「ふ、ふふ、し、白薔薇を探すのに夢中でまだご飯食べてなかったものね!」クスッ

   レッド「お、おう…くくっ、そうだな、もうじき昼メシ時だし…」ククッ


  ルージュ「わ、笑わないでくれよ!…しかたないじゃんか//」



  \ アハハハッ! /  \ ウフフッ! /    \ ヤ、ヤメテヨネ! /



  白薔薇「まぁまぁ、元はと言えば私の所為でもありますし…心術の試練より先にお昼に致しませんか?」

  ルージュ「そ、そうとも腹が減ってはなんとやらでしょ!ここはお昼が先だって!」



 豪華客船キグナス号は[京]で一泊二日の観光ツアー客を降ろし、翌日には[シンロウ]へ向かうスケジュールだった
この機を利用して乗務員も羽休めを許されている為、緊急に呼び出しでもない限りレッドも時間はある

旧知の仲であるアセルスお嬢、妙に意気投合できる気の置けない友人のルージュ、何か放っておけない白薔薇姫

三人に付き合って名所巡りや一緒に[心術]の資質を得る修行に挑戦するのも悪くないと思った


予定通りならば先に[心術]の修行場に行き"資質"修得に挑戦だったが…





   ルージュ「す、寿司ッ!…い、いよいよ僕はSUSHIとやらを食べるのか…」ドキドキ、ワクワク




    レッド「いや、あれは刺身だよ」
   アセルス「うん、寿司はそっちのお米の上にネタが乗ってる奴の事をいうんだよ」




まず、修行よりも腹の虫を鎮める方が大事である

 旅行者に優しい写真付きのメニュー看板を見て
『刺身』を『寿司』だと勘違いする異国人に指摘を入れる[シュライク]人二人、その後に続く妖魔の貴婦人


 BJ&K「…私は入口で店員さんにお願いしてバッテリー繋いで貰います」


物質を飲食できないメカは充電モードで待機してもらう事となった、メカだからね仕方ないね



   ルージュ「お、おぉ………!」キョロキョロ

    白薔薇「あらまぁ……」パチクリ




441以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/22(金) 17:45:19.19EOANnSFz0 (8/15)


 [京]の建築物は木と紙、あとは土を焼いたモノ…屋根に使われている瓦だったり、基本的に自然と共存している印象を
紅き術士と妖魔の貴婦人は受け取った、木造建築の内装でよく見かける畳という床材に、"襖"という紙で出来た横扉だ

 どこの異世界<リージョン>でも料理人の正装は白一色と決まっているのか、"板前"と呼ばれるシェフは白い服に帽子という
姿で、手にした包丁で綺麗に魚を捌いていた



   レッド「二人共こっちの席に座ってくれ」


   ルージュ「ハッ! あ、うんっ!」トテトテ…

    白薔薇「ただいま其方に…」



"おてもと"とリージョン共通語で書かれた紙の入れ物に入った竹製の割り箸、陶器製のコップ――湯呑み、というらしい

 郷に入れば郷に従え、この惑星<リージョン>が発祥の諺らしい、生憎とルージュはこの地での作法を知らぬ
ふんわりとした長い銀髪を揺らしながら彼は目線をレッドとアセルスに向ける、どうやら座布団と呼ばれるクッションに
術の精神統一に行う座禅の体勢で座り込むようだ



  ルージュ(本当に僕の知らない世界だなぁ…っと、こうかな?)ちょこんっ



 白薔薇姫がアセルスお嬢に教えられ、別に正座でなくても掘り炬燵式なのだから楽な姿勢で良いと言葉通りに座る
そして、お品書きを手渡される



   レッド「今日は俺の奢りだ、なんでも頼んでくれよな!…あっ、でもめちゃくちゃ高いのはカンベンな」



 安月給の機関士見習いレッド少年が当店のおすすめ、という部分を開いて渡してくれたので術士はそれをジッと見た
どうやらお寿司、以外にも先の刺身や…天ぷら、どんぶり、という物が在るらしい

 和食は食べた事が無いから、何が美味しいのか分からない
向かいに座る少年曰く「なんでもうまいぜ!」との事だった……アバウトだなぁ、とルージュは内心で困ったように笑う

 値段もお手頃(?)で少し食べたい人向けの寿司を注文してからすぐに運ばれてきた木の板…下駄のような皿の上には
小さな長方形のライスボールの様な物があり、その上には魚肉を切って乗せたモノがあった



  ルージュ「この黒いソースにつけて食べるのかい?」

  アセルス「醤油だね、ちょこんとつけるといいわよ……っ、う~ん!!久しぶりの和食だわぁぁ…」ホロリ



[ファシナトゥール]から[マンハッタン]…そして[クーロン]と旅してきた少女が久方ぶりの和テイストに感涙する
 隣に居る白薔薇も箸で一つまみ、お刺身を一口齧り「まぁ…!」と思わず頬肉を綻ばした




   ルージュ「いただきます、…ちょっと"ショーユ"つけて…もぐっ」パクッ






     ――――ポタッ

            ――――――ポタッ






      ルージュ「……」ポロポロ


      ルージュ「………感動したッ!」ポロポロ…(´;ω;`)ブワッ


泣きました。


442以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/22(金) 17:45:57.02EOANnSFz0 (9/15)



  レッド「なんだよお前大袈裟だなぁー」







  ルージュ「大袈裟なんかじゃないよ、お米についてるこの味、酢<ビネガー>かな…それにショーユのしょっぱさと」


  ルージュ「魚の甘み――魚って生で食べる機会無かった分かんなかったけど甘いんだね、あぁ、脱線しちゃったけど」


  ルージュ「それ等と別に何かピリッとしたモノがあって…っ!」




  ルージュ「そのスパイスが絶妙なハーモニーを生み出してるんだぁっっ!」ドンッ☆


<ハーモニーを生み出してるんだぁっっ!
<生み出してるんだぁ
<ウミダシテルンダァ



 ドン!っと漫画なら擬音でも出てそうな力説をかます紅き術士に「お、おう、そうか…」とレッドが気圧されかける
心なしか台詞にエコーでも掛かってそうなまである…まぁ気に入って貰えたなら何よりである



  アセルス「…というかルージュさ、何気にアレだったりするの?ほら…えっと、食通っていうの?」


湯呑みのグリーンティーを啜りながらアセルスお嬢が口を挟む、それにパチクリと目を瞬かせる


  アセルス「いや、酢飯を食べて酢<ビネガー>がどうとかさ初めて見る料理で何使ってるか一々分かる訳じゃないのに」

  アセルス「だから、思っただけ……味にもうるさそうだったし」



  ルージュ「んー、一応旅に出る前は僕が料理当番になること多かったからかな」


  レッド「うん?当番……あ、よくある家族で「今日は○○がお風呂洗い当番なー」みたいな?」



今日はお兄ちゃんが夕飯の夕飯のおつかい行く日ねー、あたしお料理当番だからー、みたいな感じかとレッドは尋ねる
 その答えはある意味近いと言えば近かったが…





    ルージュ「家族?……いや、"家族"、じゃないかな…僕、さ…物心ついた時から親居なくて国の施設に居たから」






  レッド「えっ」
 アセルス「えっ」


  白薔薇「施設、ですか…」



  ルージュ「そそ、[マジックキングダム]の魔法学院でずっと小さい頃から寮生活なんだよねー」

  ルージュ「みんな、僕が当番になると、やったー!ルージュの飯だーって喜んでくれてさ~」ハハッ



……あっれれー?なんか重いハナシになっちゃったぞー、レッド少年とアセルスお嬢はお互いに顔を見合わせたが
当事者のルージュは笑い上戸か何かのように明るく話すので地雷踏んだワケじゃなかったかと一息である



443以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/22(金) 17:46:28.15EOANnSFz0 (10/15)




  レッド「そうかぁ…しかし魔法学院の寮かぁ、なんか意外だったなぁ」



  ルージュ「意外ってなにが?あっ!僕が料理できるってこと!?ひっどいなぁ…」

  ルージュ「そりゃあ最初は魔法学院風味を利かせた精進料理もできなかったけど少しずつ腕をあげて」



  レッド「いや、そっちじゃなくて学院の寮ってとこのくだりだよ…なんつーか意外なモンだなぁって」

 アセルス「うん、…言われて見れば私も白薔薇も、ルージュが術の資質を得る修行の旅をしてることしか知らないわ」

  白薔薇「そうですわね、アセルス様が12年間眠り続けて、オルロワージュ様から現在逃げている事や
       レッドさんが犯罪組織の陰謀でご家族を亡くし"通りすがりの人"に病院に運ばれキグナスで働いている等」


  白薔薇「…私達お互いに深い所は知る関係になりましたが、考えてみればルージュさんの事は何も知りませんね」



アセルスと白薔薇は言わずもがな

レッドは……ヒーローの事は伏せるように、組織の幹部に殺されかけた時に"通りすがりの人"に病院に搬送され助かったと
 流石に『広大な宇宙の何処かにあるヒーローの惑星<リージョン>から来た正義の味方アルカールに救われました』などと
馬鹿正直には言えない、言えば記憶を抹消されてしまう








 ルージュは、良くも悪くも世俗に囚われない…知らなすぎる節がある




単なる世間知らず、というには見る者全てに「なんかそういうんじゃねーなコイツ」と思わせる浮世離れした雰囲気がある


見る"モノ"全てが初めて


建物、人物、文化、土地の風習…それもだが、誰もが知ってる当たり前の常識でさえも何処か抜けてて

歳相応じゃない、22歳にしては純粋過ぎる、…人懐っこい犬みたいに誰にでもホイホイついていくその感性だ
 世の中は善人だけではない、"そういう人間"を利用して利潤を得ようとする者も残念ながら居るのだ



――――だが、[ルミナス]で旅人をぼんやりと道行く旅人を見つめていた時といい
                         見ず知らずの旅人でさえあっさり信じる危うさがある



[マジックキングダム]は名の通り、魔法大国として栄えたリージョンだ

 だから出身地を聞いた時、…ああ、裕福なお家で箱入り坊ちゃんとして育ったのか?ともその世間知らずな所で思ったが
それとも違うのだ






  ルージュは、隔離されて育った。



王国の闇、影の部分である問題のある子供を極秘裏に育てる"影の学院"で

いつか、来るべき日…兄弟同士で殺し合いをさせるという御国のプロジェクトの為

他所の惑星から見れば国のお偉いさんは倫理に反している!!と非難殺到間違いなし
 世論が国家を滅多滅多に叩きまくって惑星間を跨ぐネット上で炎上しまくるのが確実な魔法大国の"暗部"


その片割れを隠しながら育てる為に、だ……ルージュが何処か、現世の人間とは違った雰囲気なのもそれが原因である



444以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/22(金) 17:47:02.18EOANnSFz0 (11/15)

―――
――


【双子が旅立ってから4日目 午後12時15分】



  レッド「…」トボトボ

  レッドのお財布『200クレジット』チャリン…




  レッド「…くっ!男児たるもの泣くもんかよっ」




  BJ&K「涙腺のゆるみを確認、感情の我慢は毒です」ピピッ

  レッド「うるせぇよ!」




 昼食を取り、[心術]の修行場へ赴くがてらに土産屋へ寄った、お祭りに使われる"提灯"という風変わりなランタンがあり
お菓子やお弁当の他に木刀や竹刀なんかも売ってたりする


  レッド「トホホ…ユリアが欲しがってたモンがこんな高いなんてなぁ、ん?」

  ルージュ「…」ジーッ



  インスタントカメラ『 』



  レッド「なんだルージュ、カメラが珍しいのかよ」トテトテ

  ルージュ「あっ、うん…ちょっとね」



 [京]と言えば、学生が修学旅行に遊びに来たいリージョンNo.1に選ばれる星だ、ちなみ次点はカジノの星[バカラ]
レッド少年も、アセルスお嬢も学校の行事で此処へは来た事があった

その時も、学生の旅の思い出にとよくカメラが売りに出されていたのは記憶に残っている



  ルージュ「これさ、いんすたんとかめら、っていうんだろ、上のボタンを押すと写真が出る」

   レッド「ああ、…良けりゃ買ってやろうか?安売りしてるみたいだし」


  ルージュ「えっ!いいの…!」パァァ…!



 気になる職場仲間の女の子への土産は買ったんだ、ならたかが時代遅れになりつつある消耗品のカメラの一つ二つ…
そんな気持ちで安売りされていたカメラを友人に気前よくくれてやった



  ルージュ「レッド!ありがとうっ!…これがカメラで、こっちの筒に入ってるのが替えフィルムかぁ…へへっ」トテトテ



   レッド「やれやれ、アイツ俺より本当に3歳年上なんだか」ハハッ

  アセルス「あっ、烈人君…ガールフレンドへの贈り物は決まったんだね」ヌッ


   レッド「おわっ!?ね、姉ちゃん!?」ビクッ



本来なら12歳年上の17歳女子高生が19歳男子の後ろからヌッと現れた、アセルス姉さんじゅうななさい




445以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/22(金) 17:47:37.17EOANnSFz0 (12/15)



  レッド「あぁ…姉ちゃんは、その紙袋の中身は?」

  アセルス「ふふっ、あれだよ」スッ



 緑髪の少女が指差す方角は衣服が売りに出されている一角だった
浴衣や着物もそうだが宇宙開拓<フロンティア>が進むにつれ客層もグローバル化が進みつつある…何処の惑星でも通用する
カジュアル服も当然ながらある、物価の高い[マンハッタン]、そこよりかは安く済む[クーロン]よりもなるべくなら
資金を消耗せずに済ませたい、…次の目的地が[京]と決まった時に買うならこっちの方がよいと判断したのだ



  アセルス「ずーっとこの貴族服だからね…」クルッ


  レッド「あ、そっか…姉ちゃん追われてるんだよな…」


  アセルス「うん…服を作ってくれたジーナ…あ、友達のいい子なんだ、そこの子には悪いけどこの服は鞄に仕舞って」

  アセルス「こっちの、人間だった頃によく着てた奴を着ようかと」ゴソゴソ




 アセルス編OP時の歩行グラフィック水色パーカー『 』ピラッ




  レッド「うわっ、懐かしい…」

  アセルス「あはは…私からしたら懐かしい、って感覚じゃないんだけどね…」ポリポリ



レッドから見れば12年ぶりの服装、最近目覚めたアセルスからすれば実に数日前の服装である
 追われる身であるのならばせめて中世ファンタジーの王子様ファッションから目立たない恰好にしておきたい

 …尤も妖魔は特有のオーラで何処にいるか大体わかるから多種多様な人種入り乱れるリージョンで人混み
特に妖魔系のグループが大勢いる辺りに紛れてる時ぐらいしか役に立たないかもしれないが


ちなみ彼女曰くジーナから貰った大事な服は間違っても捨てたりしない、らしい




  白薔薇「まぁ…色鮮やかで綺麗ですわ、…こ、こんぺーとー?」

  ルージュ「へぇ、これお菓子なのかぁ」ヒョイッ



金平糖<コンペイトウ>、白、赤、緑、黄…透明な瓶の中にはお星さまが沢山入っている
 土産屋のカウンターから老婆が顔を出し、茶菓子に如何か?と尋ねて来る
紅き術士と妖魔の出で立ちから、他所から来た人ならお一つご試食を、とご丁寧に広げた和紙の上に乗った星をくれたのだ



  ルージュ「…おぉ!あまーい!」パァァ…!

   白薔薇「ええ、口の中で少しづつ溶けていく…飴細工のようですわ」

  ルージュ「おばあちゃん、ひとつ貰うよ!」つ【お財布】


  「おんや、まぁ…そんなに気に入ってくれたかえ?」



  白薔薇「あら?こちらにもありますね…?いえ、これは―――」



  「ああ、それは[京]で精製した[精霊石]じゃよ」


  ルージュ「[精霊石]?…へぇ、[マジックキングダム]以外でも売ってるんだ」




446以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/22(金) 17:48:10.63EOANnSFz0 (13/15)


 土産屋の老婆が言うに、[京]の風水師や陰陽師が清めた魔道具や消耗品が特産品の1つでこの石もそうだという
投げれば、砕け散った破片が敵意を向けて来る者に刺さり自身を守ってくれると



  「ほっほっほ、それだけじゃないぞ、この[ラッキーコイン]や[アンラッキーコイン]やお守り各種も…」


  ルージュ「んー、ならコインを幾つかと[精霊石]を貰おうかな」



綺麗だし、旅の思い出ってことで良いかなと、故郷でも手に入る石をコインと一緒に購入した…



――――後に、この[精霊石]がブルーと出逢った時に役立つのだがそれはまだ先のお話




―――
――



  レッド「つーわけで、人間3人此処で修行したいんだ」

 アセルス「よろしくお願いしますっ!」

 ルージュ「頑張ります!」


  「うむ、では奥の部屋で座禅を組み、精神を集中させなされ…試練に挑戦できるのは一度のみじゃ」


 白薔薇「皆さん、頑張ってくださいね!」←見学

  BJ&K「応援してます」←見学



受付で[心術]の資質を得るべく、手続きを済ます…手続きと言っても特に変わったことをするでもなく
 ただ、受けたいからやらせてくれと言うだけである


 蝋燭の頼りない灯り、お香の独特な匂い…奥の広間で来客のルージュ等三人を出迎えたのは仏像という
変わった様式の彫像だった…物珍しいソレを眺める術士、「懐かしいなぁ学校行事で来た時はお試しコースだった」と
少女が言い、「こいつと睨めっこすればいいのか」と少年が頷く


赤の名を持つ少年が仏像の前に正座して目を閉じる、その隣に紫の血を持つ少女が、そんな二人に倣って紅き術士も




      ルージュ(二人と同じように眼を閉じてればいいのか…)パチッ

      ルージュ(……)

      ルージュ(…う、ん?)グニャァァ



―――
  ―――
      ―――
        ――…



      ルージュ「あれ?なんで草原みたいな所に…」

          「きぃぃぃぃーーーっ」     


      ルージュ「モンスター![ハーピー]か…ッ」シュタッ!



        「けけけっ! 血肉を寄越せェェ!!」グォンッ!




447以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/22(金) 18:04:45.07EOANnSFz0 (14/15)


 視界に広がるグリーンの絨毯に影がある、背中に生えた翼をはためかせた半鳥半人の化け物が陽光を遮って作った物だ

小さな豆粒ほどであったそれはルージュ目掛けて高度を落とすに連れて、…地表へ近づくことを示すように大きくなる
 両脚の鋭い爪が銀髪の垂れ下がる両腕の付け根を刺し、そのまま千切り取ってやろうと降りて来るも
彼は自分と地表の影が重なるタイミングを見計らい、それを[見切る]…っ!


頭上に豆電球でも灯った様な感覚だ、どうすれば避けられるか身体が自然と閃いたままに動く



    「ケェー!!、ちょこまかと…!」ガッ!


農夫が柔らかい土塊に渾身の力で鍬を振るったかのように[ハーピー]の両脚は突き刺さる、すぐに足を引き抜いて
 地の利を生かそうとホームグラウンドの蒼穹へ飛び立とうとするが…



    ルージュ「先に仕掛けて来たのはキミなんだ、…恨んでくれるなよっ!」カチャッ!BANG!


        「ゲゥ、…この餓鬼ぃぃ!よくも俺様の顔を…ケェエエエエエエエエェケッ」グォンッ


    ルージュ「エミリアさんみたく上手くはいかない!1発じゃ仕留めきれないかっ!」ダァンッ!ダァンッ!



    「へひゃひゃ!へたくそぉ!そんな豆鉄砲の腕じゃあ鳩だって堕とせねぇーぜ、ケヒッ」ゴォォォ…

    ルージュ「それはもう見切った――「甘ぇぇよ!!」ガッ! ボッコンッ



  同じ動作で再び紅き術士に爪を突き立てようとしたのか、否、人間の皮膚を切り裂くのが目的ではない
次はそのまま、土を掻っ攫うように地面に突き立てたまま前進し、地中の硬い大岩を踵爪に引っ掛ける
 土木建築のクレーン重機が持ち上げてみせるのと違わない動きを器用に熟して人の頭部を二周り以上大きくした岩を
ぐるぐると回転して遠心力付きでルージュに投げつける



    ルージュ「あく"ぅ―――っ」ガッ


     「いひゃひゃ!ヤッター、メイチュー、ストライクー、くひゃひゃ!」


 片脚に命中した大岩、衣服に広がる鮮血、尻餅をつき、片手で負傷した脚を引き摺ろうとするルージュを見て
モンスターは舌なめずりをする、狩りは鮮度の高い肉を喰えるから良いのだ


薄い桜色の脂、それを多く赤黒い体液、鉄の味がするワインに酔い、勝利の末に得た極上の肉を舌の上で溶かす


動きの鈍った獲物目掛けて[ハーピー]は今度こそトドメを刺そうと次は両脚をルージュの胸――心臓に狙いをつけて





        「心臓もーらいィ!それで俺様の顔の傷は許してヤルよ!あーひゃひゃひゃひゃ」


       ルージュ「…っ、[インプロージョン]!」キュィィン







            ボジュッ

                        ボトッ ベチャッ…ゴロゴロ…    バサッ…




笑った顔のまま、モンスターの"生首だけ"墜ちて転がった。

釣り上がった目元も舌を出して品性の欠片も無く哂った顔のまま、少し遅れて背中に生えていた筈の翼もバサっと墜ちた




448今回はここまで2019/02/22(金) 18:05:54.79EOANnSFz0 (15/15)


―――
  ―――
      ―――
        ――…


     「おい、ルージュ。 起きろよ!ルージュ…!!」ユサユサ



  ルージュ「うっ、…あれ、…ここ、さっきの」




    レッド「お、やっと起きたな寝坊助め…どうだ?夢に出て来た魔物倒せたか?」

   アセルス「どういう理屈か知らないけど、自分の中の不安とかが形になって出る来るから倒せたら成功だって」


  ルージュ「え、そうなの…それならなんとか…」


  ルージュ「…」



   -ルージュ『エミリアさんみたく上手くはいかない!1発じゃ仕留めきれないかっ!』ダァンッ!ダァンッ!-

    -『へひゃひゃ!へたくそぉ!そんな豆鉄砲の腕じゃあ鳩だって堕とせねぇーぜ、ケヒッ』ゴォォォ…-


  ルージュ「…。」

  ルージュ「自分の不安、か」




  ルージュ(結局最後は僕、術で倒したんだ…術が使えなくなった時、足手まといになる、僕が仲間の脚を引き摺る…)



目を片脚に向ければ大岩をぶつけられた痕も、衣服の血汚れもそこには無かった



   レッド「俺は、なんか変な腕が出て来たな…いきなり[空気投げ]喰らってな、そのあと巻き返したけど」

  アセルス「私は蝙蝠が襲ってきたわ……昨日苦しめられた[スクリーム]を使ってくる敵よ」グッ!



それぞれ魔法生物系モンスターの[ダガーグラブ]と巨大蝙蝠の[ソニックバット]が襲って来たらしい
 結論から言うと友人達もルージュ同様に撃退に成功し試練に打ち勝ったと

―――
――


   「うむ、合格じゃ…これでそなたらは[心術の資質]を得た」


  レッド「…なぁ、資質って言われて姉ちゃんはなんか実感あるか?」ヒソヒソ

 アセルス「えぇぇ!?…いや、言われて見れば心がスッキリしてるような、ないような…」ボソボソ



  ルージュ「いや…あるよ、ハッキリわかる」




  ルージュ「あの大仏の部屋を出た辺りから何か、目覚めそうな気がするんだ…今まで分からなかった事が分かる」


  レッド「ほ、本当か?俺は…あんましそういうのピンと来ねぇぞ?」ヒソヒソ

  ルージュ「…ううん、戦いの最中で、自分の生命を賭す局面で[心術]を使えば、明光のように突然パーって…」


えらく抽象的で感覚的な事を言われるな、とレッドは思う、だが…不思議と"妙な説得力がある"のだ…否定できない
 自身の心が何処かでソレを"納得"しているのだ…っ!…これが資質を得ている、ということなのだろうか


449以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/23(土) 21:26:54.59/iBvLIu90 (1/12)



  レッド「ま、俺は術の事はてんで素人だからな、術士のお前が言うならきっとそういうことなんだろうよ」

  レッド「そうと決まりゃ何か一つ基礎術のスクロール…で良いんだよな?」


  ルージュ「そうだね、お金で魔術書…スクロールを買って基礎術を教えて貰う、後は自分でモノにしてく感じだよ」

  アセルス「…だったらさ、全部買う必要ないんじゃない?頻繁に使いそうなの一つ買ってあとは節約するとか」


  レッド「おっ!いいなソレ!おーい受付の人、早速売ってる術見せてくれよー」




 「はい。」デンッ

・[克己] 料金300クレジット

・[呪縛] 料金300クレジット

・[隠行] 料金300クレジット





  レッド「 」


レッドのお財布『170クレジット』




  アセルス「へぇ~!色んな術があるのね【麻痺】効果の[呪縛]に、自身の怪我を完全治癒する[克己]…良いわね!」

  アセルス「烈人君はどれにする?やっぱり[克己]?」


  レッド「エッ、アァ、ソレガイイヨナ、ジツヨウテキ ダヨナ。」



目が点だ。


試練に打ち勝ち、資質を得た…試練には勝てたが現実には勝てなかった、世の中は金という天下が回っているのだ



ここでアセルスに泣きついて、姉ちゃん!必ず返すから金貸してくれぇぇ!と泣きつくのは容易い
 男としての矜持をかなぐり捨てるだけで借用書が一枚できあがりだ


…おそらくアセルスならレッド、否、烈人君でなかったとしても利子無しで貸してくれるのだろう
女から小銭を借りる男、ヒーローの男児のプライドに罅が入りそうでそれは嫌だ




 ツンツン


  レッド「ぁ?」チラッ

  ルージュ「…」腕ツンツン


  ルージュ「レッド、これ…僕から」つ『300クレジット』

  レッド「!? お、お、お前ぇ…」プルプル



ひそひそ声で300クレジットこっそり渡してくれる友人に目頭が熱くなる、「カメラのお礼だよ」と人差し指を口に当てて
これ内緒ね?と…声には出さないが仕草で伝える、男の誇りを理解する者同士、言葉はなくとも分かり合ったのであった

持つべきモノは友だなぁ…




450以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/23(土) 21:27:21.19/iBvLIu90 (2/12)


―――
――


【双子が旅立ってから4日目 午後14時32分】



このリージョンでの目的は最早果たしたも同然であった、…いやアセルスの武器はまだだが


 あの[森の従騎士]の様な一人で複数人を一斉に攻撃する範囲、又は全体攻撃の手段を所有する敵と対峙し
且つ回復が間に合わない状況下に陥ったとしても最低限、自身の傷は完治できる

それだけでも十分全滅の憂いを避けることができる…そして、ルージュにとって初の"資質"の入手だ…



       ちゃぷん…


                 カポーン!



  ルージュ(…資質、か)




国の命令を聞かなければ国家反逆罪で祖国の魔術兵が群れを成してルージュを追い回す
 それこそ大昔に何処ぞの惑星で実地された悪しき風習の魔女狩りを彷彿させる恐ろしさだ
最悪、紅き術士の身柄を拘束して洗脳や麻薬による狂戦士化状態でブルーと邂逅すらあり得る…馬鹿馬鹿しいと思う話だが
本当にその莫迦げた真似を実行するヤバさがあるからルージュにはどうしようも出来ない


自意識の無い幼子の頃から子供をどっちか死ぬまでの対決させるだけの為に施設に入れて国ぐるみで養育する狂気

しかも、ルージュの他に"裏の学院"には彼以外の子供の沢山いた、つまりそれだけ【そういうこと専用の候補生】が居た


出来ればそんな運命はまっぴら御免で、逃げられるなら何処へなりとも逃亡したい…

何処でどんな方法で監視か何かされてるのかさえ知らないが、体裁だけでも資質を集めている風に見せる必要がある




資質が手に入ったのは…純粋に今居る仲間の力になってあげれるから嬉しいがその反面で

自分の自由が終わる、兄弟同志で殺し合う為の舞台が整いつつある、そんな嬉しいとは真逆の相反する感情も孕んでいる




  ルージュ(…)ちゃぷっ!ちゃぷっ!


  ルージュ(…。旅してる内に解決策、何か考えないとイケナイ、わかってるけど何も思いつかないよ…)





        ザバァァァ!!




  ルージュ「うわっぷ!?」ばしゃぁぁあ!


  レッド「あっはっは!吃驚したか!」ハッハッハ!


  ルージュ「むぅ…!やったなレッド!」バシャァァ

   レッド「おっ!やるかぁ!」



……ちなみに彼等は今、[京]の日帰り温泉の露天風呂に居る、思いの外、手早く目的を果たせた、とお遊びモードだった




451以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/23(土) 21:28:08.20/iBvLIu90 (3/12)


 頭に乗っけた白いタオルがお湯を吸いずっしりと重くなる、おでんのはんぺんみたいになった布は銀髪の上で
しんどそうにだらけてて、お返しとばかりにお湯を掛けたサボテンヘアーの上のタオルも似たような状態になった

お風呂にタオルを入れてはいけない、と幸い他に客はいなく迷惑にはならないがマナーだからしないようにと言われた



…騒いだりお湯を飛ばすのは良いのかと問われれば首を傾げる所だがそこは触れないでおこう



  レッド「いやぁ、タダで入れる風呂っていいよなぁ…やっぱ[京]はいいなぁ」フゥ

  ルージュ「お湯の出が良いからなんだっけ?」


  レッド「そーそー、もっと広々として色んな効能ある湯に浸かりたきゃ値の張る宿だけどよぉ」

  レッド「俺もアセルス姉ちゃんもさ、学生やってた頃は学校行事でみんな一度は来るのさ」


  レッド「なんつったって[京]だからな!温泉入って仏像拝んで、んで帰りに土産屋で木刀とか買ってくんだよ」




  ルージュ「……。」



  ルージュ「機会があれば聞こうと思ったんだけど、度々聞く"シューガクリョコウ"っていうのがソレ、だよね?」


  レッド「ん?まぁ…そうなるな、ってかお前その言い方」

  ルージュ「そっか、これがシューガクリョコウなのか」


  レッド「お、おいおい…お前嘘だろ、修学旅行したことないのかよ」


  ルージュ「本で読んだことはあるよ、学生が自分達のリージョンから他所のリージョンへ遊びに行くんだろ?」

  ルージュ「僕は、一度だけ術の座学で[ルミナス]と[ドゥヴァン]に先生の術で数分くらい連れられたくらいかな」



人生で他所の国に遊びに行ったことがない

どころか魔法王国の学院生徒であった彼は修学旅行なんてもの一度も経験してない


基本的に[マジックキングダム]の民は他所への外遊を許可されていないのだから…





  ルージュ「…?レッド、震えてるけど、どうかしたの」


  レッド「~~~っ!」ガシッ!

  ルージュ「えっ?えっ?えっ?」



  レッド「 よ く わ か っ た !  ! !! 俺に任せろ!!」


  ルージュ「ま、任せるってなにを?」


  レッド「ばっかやろう!お前22歳になって修学旅行の1つも行ったこと無いとか人生損じゃねーか!」

  レッド「ダチとワイワイ騒いで、遊んでって青春の一頁だぞ!無いなんて悲しいだろ!俺に任せろ!」




何かわからんが心に火が灯ったらしいレッド少年の気迫に負け、とりあえず術士は頷いた…




452以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/23(土) 21:28:35.02/iBvLIu90 (4/12)

―――
――



  ルージュ「それで、どうするんだい?」

   レッド「へっ!温泉に来たんだぜ!男が温泉に来たらやることなんて決まってらぁ!」ニヤリ




―――
――


【露天風呂:女湯】



  アセルス「…」ちゃぷん


  アセルス(水面に映る私の姿……この、緑色の髪の毛)スッ




 アセルスお嬢は、陽気立つ水面が映す自身の顔を見た、生前――人間だった頃――と変わらない顔立ち
17歳で成長の止まった身体、それに合わせた歳相応のあどけなさが今の表情にはあった

どうすればいいのか、途方に暮れそうな、捨てられた子犬のような顔


戦地に一度立ち剣を振るわば、花を愛でる少女よりも勇ましく軍旗を振るう戦乙女の如し麗人さよ


そんなボーイッシュな彼女は自分の変色した髪色に溜息をつく
 以前は赤みの掛かった茶髪だったそれは人間じゃない生物に変貌した事を強く主張する…綺麗なエメラルドの美しさだが
当の本人はその鮮やかな色を好まなかった


 自分が人間を辞めさせられたことを強く実感するから……



 ちゃぷっ



  アセルス「っ!誰!?」ビクッ


  白薔薇「アセルス様…私です、お背中、お流し致しますよ」ペコッ


  アセルス「なんだ…白薔薇か、――って背中!?いいよ!私もう子供じゃないんだから///」

  白薔薇「ふふ、そう仰らずに」スッ



  アセルス「あっ……もうっ!」プイッ

   白薔薇「…ふふ、拗ねないでください」


  アセルス「……こそばゆいよ、まったく//」


  アセルス「……。」


  アセルス「ねぇ、私…もう一生、人間には戻れないのかな」



 白薔薇姫の手がその一言で一瞬止まった、だが…それは一瞬だ、何事も無かったように続ける

…少女に不安を感じさせまいと


   白薔薇「可能性が無いとは言い切れませんわ…」




453以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/23(土) 21:29:24.85/iBvLIu90 (5/12)




  アセルス「…私、怖いんだ」

   白薔薇「…」





  アセルス「寝てて、怖い夢を見たんだ…私が、オルロワージュを倒す夢」








 ―――手が止まった、今度は一瞬ではない


白く健康的な肩肌を震わせた少女はポツリ、ポツリ、と"悪夢"の内容を語る



自分を半妖にした原因たる人物、妖魔の頂点に立つ者、…魅惑の君[オルロワージュ]、白薔薇姫の主でもある人





   アセルス「私が、赤紫のお姫様が着る様なドレスを着てたんだ、鏡に映ってる私は……頭に角が生えてて」


   アセルス「すごく綺麗なんだけど悲しそうな顔をしたジーナがその夢に出るんだ、私の顔をみて怯えたような顔で」


   アセルス「…それで、夢に出てくる私は言うんだ『君は私にとって特別な人だ。私の最初の姫だからな。』って」




  白薔薇「…」




   アセルス「その後ラスタバンやイルドゥン…色んな妖魔が来て、思い思いに自分の感情を吐き出して」


   アセルス「私は、そんな彼等を切り捨てた、夢の私は…夢に出てくるアイツは…っオルロワージュと同じ、ううん」


   アセルス「刻の流れの止まったリージョンから外にも手を伸ばして全てを跪かせようとした、それ以上の悪魔だ!」






   アセルス「白薔薇…っ、怖いんだよ…その夢には何故か白薔薇が居なくて、誰も止めてくれなくて…怖くて…っ!」




   白薔薇「アセルス様、それは夢です…現実ではございません」ギュッ

   アセルス「…~っ」


   白薔薇「…少し、湯冷めしてしまいそうですわね…このままお湯に浸かりましょう?」ニコッ

   アセルス「…。」

   アセルス「はは、後ろから抱きすくめられたままの入浴って変だよ…」


   アセルス「……ありがとう」ギュッ



 アセルスお嬢は…自分を抱きしめる腕にそっと手を添え優しく握り返した、嗚呼、今は怖い夢の中じゃないんだな、と



454以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/23(土) 21:29:57.39/iBvLIu90 (6/12)

























一方その頃…



ガチャッ!


    レッド「ぐ、ぐおおおおぉぉぉぉ…!!  ぉ 」ドサッ

   ルージュ「…… も、   む り」バタッ




   ルージュ「ね レッド 、これが きみのいう おとこが来たら温泉で すること な  の?」

    レッド「さ、サウナ我慢大会は おとこの ロマン なんだ よ ガクッ」


―――
――



  コーヒー牛乳『 』フタ ポンッ!
  コーヒー牛乳『 』フタ ポンッ!


   レッド「ゴクゴクゴク…」
  ルージュ「ゴクゴクゴク…」


  レッド「くぅ~、汗思いっ切りかいたら、洗ってから冷たいコレだぜーっ!」プハァ

 ルージュ「美味しいね!これ!」



  レッド「な?我慢した甲斐があったろ?あの後だからこそ冷たいのがうめぇんだよ」


 ルージュ「ああ、いいものだ……、今度来る機会あったら僕が勝つからな」ニィ!

  レッド「いいや、次も俺が勝つね」ハハッ

<アハハハ!


  アセルス「あ、二人共…上がってたんだね」ホカホカ

  白薔薇「お待たせしてしまいましたか?」ホカホカ


  レッド「いや、そんなことはなかったぜ」
  ルージュ「うんっ!」



 充電させてもらってるBJ&K「……私はメカですので羨ましくありませんよ、ええ…放置されるのは慣れてます、ハイ」




455以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/23(土) 21:30:25.02/iBvLIu90 (7/12)




  ルージュ「このリージョン…本当いいとこだよね、紅葉が綺麗でさ…水の上に舞い降りて浮かんでるのがまたね」



 温泉の暖簾を潜り、湯上りの術士は親友達に語り掛けながら畔へと目を向ける

水面の青に、舞い降りる赤。


そこには調和がある



 枝からはらり、と巣立った葉は水鏡を征く小舟となる…自然の生み出すどこか儚く、切ない自然美だ

相反する色合いだからこそ、見映える…赤と青だからこそ重なり合った時にそれを美しいと思う、ただ反発するんじゃない



   ルージュ「……。」



正反対だから争う、ではない…相手とは違う方向性に秀でているからこそ足りないモノを補い合えればいい
 だが不思議な事に人間って奴はその発想に至れない、他者を見てそれに優劣をつけ競い、争い、蹴落とすという
徹底して相手を容認しない選択肢を取りたがるのだ


勿論、理屈では分かる、人と人が何故手を握りたがらないか、人間は動物とは違う…知性がある、それが何を意味するか


如何なる環境であれ、己の生存圏の拡大や権利の為に弱肉強食の闘争を繰り広げる行為も知性云々関わらずに在ることも




だが、どうせ"知性"を得た生物になったのなら、弱肉強食とは違った形で生きてみようと思わないのか、術士は度々想う





  レッド「だよな~、今言った通りここはその時期にそういう祭りもあるし」

  アセルス「うんうん!」



  ルージュ「……え!?あ、ごめん聞いてなかった!」



  レッド「なんだよ、景色に見とれてたのか?」

  ルージュ「まぁね、あっ、そうだ」ゴソゴソ




  さっきレッドに買ってもらったカメラ『 』バァーン!





  ルージュ「あのさ!みんなで記念写真撮らない?シューガク…コホン、修学旅行ってこういうことするんでしょ?」



  アセルス「あっ、それ良いわね!」

   白薔薇「写真ですか、…噂には聞いてますが、その小さな機械で時を切り取り絵画を生み出すのですね」



  レッド「いいじゃんか!いよいよらしくなってきたぞ!…あ、でもそれだと誰か一人写真に入れねぇ…」

  レッド「…うーん」

  レッド「そうだ、地元の人に頼んで撮ってもらおうぜ!」




456以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/23(土) 21:31:02.33/iBvLIu90 (8/12)



   ルージュ「そうか!僕、人を探してくるね!!」ダッ!


  アセルス「私達は此処で待ってるからねー!……白薔薇は私と手を握っててよ迷子になるといけないから」ガシッ

   白薔薇「は、はい…」



―――
――


タッタッタ…


  ルージュ(……今日で国を出て4日、か)ハァハァ…



  ルージュ(………不安しかなかった旅の始まりだった、決して旅の理由も素敵なモノなんかじゃないけれど)ハァハァ…










      それでも、それでも――今、自分が外の世界で出会えた人との巡り合わせ、"友達"と呼べる人ができたこと




     …それだけは自分の22年の人生で、きっと一番誇っていい、輝いてる宝物だと思う






       どんなに辛かろうとも旅路を思い返せば、嗚呼、いい旅だった…まるで夢のような時間だった、と



     きっと、そう言えると思う、―――いい夢だ、悪夢なんかじゃない







    "家族を殺す為"の旅…そんな呪われた因果の資質集めだけど






       ルージュ(綺麗な景色をたくさん見た、トラブルにも巻き込まれて…女装させられた時もあったっけ)


       ルージュ(見たことない食べ物を食べたり、温泉に入ってサウナ我慢大会したり…)


       ルージュ(……この"楽しい"って感情が、僕にとっての修学旅行なのかな)




 魔法学院を出て初めて祖国から出る許可を貰った、人生で最初にして"最期"になるかもしれない旅行


この旅は、殺し合いを控えてる彼にとって"本当の意味で最期かもしれない旅行"でもあるのだ


ならば…せめて夢心地で居たい、楽しい事をたくさん経験して、ぶらりと色んな所を見て回って…いい旅夢気分でありたい





457以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/23(土) 21:31:28.65/iBvLIu90 (9/12)








  ――――-今だけは夢気分、嫌な事も…近い未来の事も忘れてパーッと楽しもう、ううん、楽しみたいんだ







   ルージュ「…!あんなとこに人影が!おーい!そこのひとぉーーー!」手フリフリ





写真を撮ってくれそうな地元民を探し、すぐの事、息を切らせたルージュはその人影に向けて手を振った
 その出で立ちは正しく[京]にお誂え向きな鎧武者と言った具合であった











       通りすがりの悪の秘密組織の幹部「む?私に何か用か、若者よ」クルッ






   ルージュ「わっ、すごい鎧…かっこいい、あっ、じゃなくて、すいません地元の人(?)ですか?」





 振り返ってくれた地元民(?)は人間<ヒューマン>では無かった、メカだった、スゴイ和風ロボットである




 通りすがりの悪の秘密組織の幹部「地元民、か…生まれた地は違えど、この土地に住んでいる者ではある」



聞くに、このサムライロボットは[京]の書院に住み込みで働いているらしい、友達と観光記念写真を撮りたいから
 シャッターを頼めるかと聞けば快く引き受けてくれた、良い人(?)だ



―――
――

【双子が旅立ってから4日目 午後16時11分】



 悪の秘密組織の幹部「そこの貴婦人、もう少し連れのお嬢の方に寄って頂きたい、さすれば写真の良さが増す」


  白薔薇「はい、アセルス様、失礼します」ソソッ

 アセルス「う、うん…こう密着されると恥ずかしいけどね//」 


 悪の秘密組織の幹部「術士の若者よ、角度を右方向に少し曲げてピースサインを頼む」


 ルージュ「こうかな」ピース!


 悪の秘密組織の幹部「うむ、いい画になる…では、いざ参るっ!参、弐、壱!」カメラ パシャッ!




458以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/23(土) 21:31:55.91/iBvLIu90 (10/12)



  悪の秘密組織の幹部「…うむ、良い出来だ、現像を楽しみにされよ」

        レッド「ははっ!そうさせてもらうぜ!アンタいいメカだな!」


      ルージュ「いやぁ、本当すいませんね道すがら声をかけて、いきなり写真を撮って貰っちゃって」



  悪の秘密組織の幹部「気になさるな、…私もこの土地が好きでな、旅の者が良き思いでを土産にしてくれればと思う」



   レッド「…。」

   レッド(なんか、えらく人間味のあるメカだな…)ポリポリ



 メカ族は、コア…人間でいうところの心臓、脳にあたる大事なパーツを中心に構築される
疑似的な人格こそあれどそこに"感情"があるかと問われれば首振る所である


それは…バイオメカニクスの権威、小此木博士の息子であったレッドならよくわかる、科学者の父から言われた事だから


 実際レッドの隣に居るBJ&Kも多少感情的な動きをしている様に見えるが
それだって元となった人格モデルの行動パターンに過ぎない、心無い言い方になってしまうが…



…このサムライロボットはまるで、本当に心が備わってるのではないかと疑いたくなる程に―――



       アセルス「そういえばあなたのお名前は?」

  悪の秘密組織の幹部「おっと、名乗りが遅れ失礼致した…私は、メタルブラック、父は私にそう名付けた」



"父"…このロボットを開発した人物なのだろう、…本当に心があるようなメカ、さぞ素晴らしい科学者なのだろうな


      アセルス「メタルブラック…ここまで色々してもらって申し訳ないけど[京]にいい剣ってないかな?」

      アセルス「その、土産屋さんにあるような木刀とか竹刀じゃない奴…」



    メタルブラック「…刀をご所望か」



 [京]には武器を売ってる店が無い、装飾品や魔道具はあったが本格的なモノは無い
…[クーロン]の方がまだ良かったまである


 学生の為の木刀や竹刀でまさかモンスターと戦う訳にも行くまい、駄目元で地元民の機械に尋ねたお嬢に対し
メタルブラックは暫し、顎に手を当てて夕焼け空を見上げる、小考、…そしてアセルスに向き返り


  メタルブラック「すまないが、時間はあるだろうか?其方が良ければ[書院]まで来れぬか」

  メタルブラック「私が随分前まで愛用していた刀がある…決して良いモノとは言えぬが無いよりは幾分か良い筈だ」



願っても無いお申し出だった、丸腰か未熟な腕で[幻魔]解禁かの二択だった所に剣を頂けるのだから行かない手が無い

夕焼けの朱に照らされ[京]が一際美しさを増す時間帯、4人と2機は…[書院]への坂道を登り始めた


   レッド「なぁなぁ、ルージュ、カメラ貸してくれよ、夕陽に照らされた街並みがすげぇ綺麗なんだ」

   レッド「俺がベストショット撮ってやるからさ!」

  ルージュ「元々はキミが買ってくれたものだからね、断る理由はないよ」スッ


   レッド「へへっ!サンキュー!俺もカメラ買えば良かったかなぁ…待ってろよ~撮った奴はコピー機で――」




459以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/23(土) 21:32:56.07/iBvLIu90 (11/12)


 赤い少年が紅き術士からカメラを受け取り、坂道の先にレンズを向ける…赤焼けの瓦屋根の輝き、樹々の揺れる葉
そして[京]の[書院]という最高の風景写真を撮ってやろうと彼は思っていた



が、被写体は風景から人物へと変わる



 宇宙進出の技術が発展し、開拓<フロンティア>が進むこの御時世、最近のインスタントカメラも小馬鹿にはできない
画質の良さ、フラッシュ機能…そして遠くを写す遠望レンズ


 自分達が現在進行形で登る坂道に先客が居る、カメラ越しにその姿を見てレッド少年は目を見開いた
すぐに遠望モードに切り替え、その服装確認する





       レッド(あ、あいつは…間違いねぇ!!麻薬を売ってた巡礼者じゃねぇかッ!?)カメラ ノゾキ





パシャッ!


カメラのシャッターを切る、


パシャッ!

もう一度カメラのシャッターを切る、


パシャッ!


この先にある[書院]へ入っていくことをしっかりと捉えたカメラのシャッターを切る。







    アセルス「烈人君どう、いい写真は撮れたの?」

     レッド「…ああ、撮れたよ、すっげぇいいのが」

    ルージュ「本当かい、楽しみだなぁ~へへっ」



     白薔薇「…あら」


    メタルブラック「どうかされたか貴婦人殿?」ピタッ



     白薔薇「……、いえ、きっと気のせいですわね」

     白薔薇(ええ、そうですわ…今、感じた妖魔の気配…すぐに消えたからきっと……)スタスタ



―――
――

【双子が旅立ってから4日目 同時刻:[京]の庭園】


   「…おお、なんと美しい景色だろうか、[ファシナトゥール]から出て久しいが…いやはや…」スタッ

   「―――景色に見惚れている場合では無いな、あの御方の為にも…なんとしても私の妹姫、白薔薇に会わねば」



   金獅子「あの御方、オルロワージュ様に逆らう意図を…この私、金獅子が見定めてみせましょう…!!」




460以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/23(土) 21:34:10.590gnXiJw50 (1/1)

えらいこっちゃ


461以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/23(土) 21:36:28.35/iBvLIu90 (12/12)

*******************************************************




                     ※ - 第3章 - ※



            ~ 資質を得る、という事…ぶらり、いい旅夢気分 ~

                                              -完








 現在の[京]

・ワカツの剣豪 ゲンさん

・誰よりも勇ましく強かった寵姫、金獅子姫

・ブラッククロス幹部、武士<もののふ>の心を持つメタルブラック


京に強者集まり過ぎ問題






※サガフロはとある事情でブルーは[心術]の資質を得る事が出来ない

同様の理由で双子のルージュも本来なら得られませんが、人間<ヒューマン>は試練受けるのOKというゲームシステムの所為で
ルージュも資質を得られるという製作スタッフ側の設定ミスで彼も心術の資質を得られるという…

*******************************************************


462以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/24(日) 02:25:51.92UgyrRc4eo (1/1)


システムの都合丸出しなゲームとは違うだろうからルージュも心術の資質取れないよくらい言われるかと思ってたぜ


463以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/24(日) 21:58:45.46kA6y9cuuO (1/1)

乙乙、最近更新多くて嬉しい
閃きシステムは面白かったなあ


464書き溜め投下2019/02/24(日) 23:11:36.39KgqZGLId0 (1/10)







           ※ - 第4章 - ※



   ~ 想うこと、思うこと。 帰るべき場所、帰れる居場所。 ~






465以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/24(日) 23:12:44.56KgqZGLId0 (2/10)



 その日は、一際暑い一日だった


 石畳をじんわりと焼く強い日差しは遠く浮かぶ夏空に聳え立つ山が如し積乱雲を創り出す
手を繋いだ仲の良さそうな少年二人が入道雲の頂を眺めていた



 暑い中、二人のよく似た少年…整った顔立ちと長く伸びた髪から少女にも見えたかもしれない





 蒼を身に纏った金髪と、紅を身に纏った銀髪が石畳の噴水広場で生き物の様な形の雲を探して遊んでいた




【見て見て!でっかい怪獣の雲だよ!きっと周りの雲をお洋服みたいに着て飛んでるんだ】

『はははっ!いーや、違うな!あれは空飛ぶ居城に違いない、見た目雲だが突っ込めば亜空間に繋がってるんだ』



【えー、なにそれ~】

『前に図書館の本で読んだんだ、お菓子とおもちゃ、子供だらけの世界でデカい馬がその空間の王様なんだよ』



【へんなのー】

『ああ、俺も莫迦げた御伽噺だと思う、そんなふざけた空間あって堪るか』



【ふふ、そう思うのにあの雲を見てキミはその空間に繋がってるんだって言っちゃうんだ?あははっ】

『ああ、信じてない癖になんでだろうな…ははっ…』



『……誰かと、ふざけあったり、馬鹿な事を言って大笑いしたかっただけなのかもな』

【そっか、…。】





【なら、ひとつキミのお願い事が叶ったんだよ!イイ事じゃないか、もっと笑っちゃおうよ!こんな風にさ】
『そうだな』




【…。】
『…。』


【おっきい雲だよね…本当、アレに乗ってお昼ねできたらきっと気持ちいいんだろうね】
『…雲の上でお昼ね、か…そうだな、それこそ夢物語の楽園…"天国"だな』


【天国かぁ…どんなとこなんだろうね】

『…そう、だな、先生に少しだけ聞いた事がある…』

【えっ!?ほんとう!教えて教えてー、どんなとこなの!!】








  『天使…と呼ばれる羽の生えた人がたくさんいるところ、だそうだ』

  【へぇ天使かぁ…どんなところなんだろう、きっと綺麗なんだろうなぁ】




466以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/24(日) 23:13:25.26KgqZGLId0 (3/10)

【双子が旅立ってから4日目 午後16時37分 [クーロン]のイタ飯屋】


  ライザ「ありがとうございました」ペコッ

  ライザ「さて、今日は早いけどレストランの方は店仕舞いよ」クルッ


  アニー「OK、こっからは裏のお仕事だね」ニヒヒッ

  アニー「…エミリア、大丈夫よね」


 小さく笑った後にウェイトレス姿のアニーが此処に居ない同僚を気遣う
今朝から長いブロンド美女は店を留守にしていた
 何故なら彼女は今頃、軍人コスチュームで絶賛[ラムダ基地]に潜入中だからだ、[リーサルコマンドー]を身に纏い
全身包帯ぐるぐる巻きのミイラと化したルーファスに皮肉を投げつけた後、単身で基地へ二度目の潜入へ赴いた


ある程度、彼女が基地内部をひっかきまわした後でルーファス、アニー、ライザの3人が忍び込み合流


グラディウスの任務である古代文明時代の無限エネルギー発生装置…通称"キューブ"の在処を探るという手筈だ



  アニー「こんな時間帯まで何食わぬ顔で、何処にでもいる一般人の飲食店従業員やってたんだ」

  アニー「裏稼業ってバレない為とはいえエミリア一人なんて危なっかしくて心配にもなるわ」スタスタ…



  アニー「おーい!新人アルバイト!今日はもう終わりだから皿全部洗ったら終わりだ!」ガチャッ



  ブルー「やっとか…」シャカシャカ


  アニー「昨日試しにソースの仕込みとかやらせたけど、吃驚したわよ…フライパンが爆発したんだから」

  アニー「今日一日はずっと厨房で皿洗いオンリーだったけど、そんでも助かったわ、ありがとね」


  ブルー「…ふん、約束だからな」シャカシャカ


エミリアが居ない、その分人手が減るのは必然で表の仕事は忙しくなる
 空いた欠員を早速バイト術士で埋めようと、昨日の段階でもう考えていた、誤算があるとすればこの蒼い魔術師は
料理がとんでもなく下手だったということだ


フライパンで簡単なミートソースを作れと手本を見せながらやったら何をどう間違えたのか調理器具が爆発した

ただの鉄板が何の化学反応で吹っ飛んだのか、見ていた誰にも分からなかった…あれこそ魔術であった



金髪の少女は「こいつは剣術以外に基本的な自炊のやり方を教えた方がいいかもわかんねぇ…」と頭を抱えた程である




  ブルー「おい…忘れてはいないだろうな、貴様は他の奴らと何処かに行くと聞いたが?」

  アニー「ん?あぁ、エミリアの援軍に行くまでには2時間あるからね、その間は稽古に付き合うわよ」


  ブルー「なら良いのだがな」コトッ


洗った大皿を拭き、それを水切りラックに乗せる、剣の稽古の約束事を忘れていないならそれでいい
 彼女にも彼女の都合がある為、片手間になるかもとは言われたがそれも承知の上だ


ブルーがエプロンを脱ぎ、早速厨房を出ようとした時だった

ガチャッ…!



  ヒューズ「おーい!ルーファス~、一緒に[京]で[心術]の修行した仲だろ~メシ喰わせてくれよぉ」


…『close』と書かれた札看板が見えてないのか、迷惑な客がやって来た


467以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/24(日) 23:14:36.48KgqZGLId0 (4/10)


 その声を聞きつけ、店内の奥からサングラスを掛けたミイラ男が現れた…ルーファスだ
目元のトレードマークが無ければ恐らく誰か識別できなかっただろう彼は、…包帯とグラサンで分からないが
ゴミを見る目で傍迷惑な客を見ているのだろう


  ルーファス「…アニー、ライザ、すまないがオーダーが入った、こいつは一度来ると梃子でも動かん」

  ルーファス「店の外に叩き出してもすぐ戻ってくる、手早く喰わせてお帰り願おう」


 経験則から分かる、殴ろうが蹴ろうが切ろうが撃とうがタダ飯の為だけに何度でも来る
無駄な時間と労力の消耗より、一皿パパっと作って帰ってもらった方が圧倒的に安く済むと…


  ヒューズ「ひゅーっ!さっすがだぜ!」


   ライザ「という訳で悪いけど、サービス残業よ…」ハァ

   ブルー「…アニー」チラッ


   アニー「諦めなさい、運が無かったってことよ」


  ブルー(……)


   俺は一体、こんな所で何をしてるんだろうか…



 国の勅令で双子の片割れを抹殺する、その為にも鍛錬に明け暮れねばならないというのに…

こんなとこで、…店の中で乱闘するようなこんな連中と、ふざけた配色のエプロンをつけて皿洗い


   本当に何やってるんだ、俺は…



魔術師は心の中でずっとそう呟いていた

蒼き術士は、想定外で事が重なり上手く運ばないことへの苛立ち…焦燥感が少なからずあった
 本来ならこの事態にも怒りを覚えたかもしれない、だが…


昨晩ちょっとした契約があった、エミリアから抹殺対象の動向を知る限り教えて貰う、という事であった


 聞けば、向こうは自分と違い、[秘術]の試練を受けるらしいがルーン文字を既に2つ集めたブルーと比べ相手は何一つと
手つかずの状態であり、しかも何処にあるのかさえ詳細を知らないと…

エミリアが教えた金のカード以外は知らずと来た、進行度も情報も全てにおいて遅れている



それを聞いて、ブルーは拍子抜けした。



命を奪い合う、決戦の決め手にすらなり得る資質集めに対して意欲が無いのかと?…いや、そんな馬鹿な…


 疑問が浮かんだが、それはナンセンスだと振り払う。
向こうだって此方を殺す気でいるのだ、殺られる前に殺る、弟<ルージュ>は自分より劣っていた、それだけなのだ



彼はそう結論付けた、だから本来なら苛立ちを覚える、想定外の来客ヒューズ襲来にも怒りより呆れの感情が先行した


自分がハイペースで突っ走り過ぎただけだった、と少しだけ焦燥感から解放された





―――…ブルー自身は自分でも気づいていない、ルージュが自分より進展が無い事に安堵していること

      それは言い換えれば、無意識に恐れを抱いていることに繋がっている、相手が自分より優秀だったなら?

         自分の生命が脅かされるのではないかと危惧していて、その不安が薄れたから焦燥感から解放されたと



468以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/24(日) 23:15:06.90KgqZGLId0 (5/10)



1つ、エミリアは知らない情報がある、知らぬが故にブルーにも伝わってない情報…





―――"ルージュは、初めから兄弟で殺し合いをすることに嫌悪感を持っている"という事実




行動を共にした時、[マンハッタン]のカフェレストランで話をしていた時に
 ルージュはエミリアに資質集めの旅をしていると語った、双子対決の事は伏せて、だ


だからそれに対するルージュの想いを…葛藤を聴いていない、知らない

だから国家反逆罪で追われたくなくて今のところ体裁だけの資質集めだと、知らない



 戦いたくなんてない、殺したい訳じゃない




  ブルーに、ルージュの本心が伝わらない、という…





*******************************************************
―――
――


【双子が旅立ってから4日目 午後16時44分 [京]の書院】



 メタルブラックが住み込みで働いているらしい書院に招かれ、待つ事数分…彼はやって来た
その手に一本の[サムライソード]を抱えて




  メタルブラック「名刀とは言えない、何処にでもある武器だが持っていくといい、私には不要の長物だ」スッ

    アセルス「メタルブラック…」



  メタルブラック「そして術士の若者よ、ルージュと言いましたな…もしも資質を集めているのなら情報がある」

    ルージュ「それは…?」


  メタルブラック「私が知るのは秘術のカードの内1つ、[剣のカード]について」

  メタルブラック「かつて、侍のリージョンと呼ばれた[ワカツ]そこに剣のカードがあるのだが…」

  メタルブラック「[ワカツ]は今や亡者蔓延る魔城と化し、宇宙船<リージョンシップ>の便も閉鎖されている」


  メタルブラック「小耳に挟んだ情報だが、現地人の生き残りが居れば特例で船を出すという話だ」


     白薔薇「…あぁっ! そうですわ!大事な事でしたのに!!私としたことが、うっかりと…」ハッ!

     白薔薇「[剣のカード]目当てで人が来ると確かにゲン様は仰られておりました!」

   ルージュ「えっ、それってどういう…」

     白薔薇「今日、ご縁があってお近づきになったゲン様は[ワカツ]で剣豪をなさっていた御方ですわ」



   メタルブラック「ほう?…なんと数奇な命運か」

   メタルブラック「この広い宇宙で壊滅した惑星の生き残りを探す手間が省けるとは…[ワカツ]に行けますなぁ」




469以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/24(日) 23:16:13.73KgqZGLId0 (6/10)


  レッド「…待てよ?そういやルージュお前、印術じゃなくて秘術を求めてるのか?」

  ルージュ「え、うん…あれ?言ってなかったっけ」


  レッド「言われてねぇよ、けどカードか……だとしたら…」

  アセルス「烈人君、何か心当たりがあるとか?」



  レッド「いやさ、キグナス号で海賊騒ぎがあった時にヒューズのおっさんと二人で歩いてた時、ぼやいてたような…」


  レッド「なんか[盾のカード]がどうたらこうたら…」




世界は広い、然して世間は狭かった


自分の周りに秘術の試練のヒントやら関係者がポンポン出てくるではないか


アセルス等のとばっちりで誘拐され、偶然[ラムダ基地]で"金のカード"について知るエミリアに出会い

ここでメタルブラックから"剣のカード"の所在を聞き、驚くことにその土地への足掛かりとなる人物ゲンと白薔薇が出会う
 カードの話をしていたら芋づる式にパーティーメンバーの一人レッドが実は"盾のカード"を持ってる人を知ってると



  レッド「今度ヒューズのおっさんに会ったらカードの事聞いといてやるよ」

  レッド「それから…」クルッ


  レッド「メタルブラック、この書院に住み込みで働いてるんだよな
             教えてくれ…ここに巡礼者とかはよく出入りするのか?」


 [京]に巡礼者がやって来る、それは別に可笑しなことじゃない仏像の前で座禅組んで瞑想なんて旅行者なら誰でもやる
似たような恰好した団体様がツアーで来る事だってざらにある

 昨日、逃がしたあの麻薬密売人は旅行者ツアーに紛れてしまった、皆が同じ巡礼者の服装だったからこそ
レッドは追跡を断念せざるをえなかった、木を隠すなら森の中、まんまとしてやれた


そう思ったていたのがさっきまでだ、何の巡りあわせか、ルージュから借りたカメラにツアー客の団体から外れて単独で
この書院に向かう巡礼が1人だけ目撃できた


  レッド「どうなんだ?」


  メタルブラック「巡礼者だと?…ふむ、彼等は自らの心の不安を求めてこのリージョンへやって来る」

  メタルブラック「彼等の目的地は常に心の中にあるのだ」


  レッド「…。」

  レッド「つまり?どういうこと」クルッ


  アセルス「えっ、私!?えっとぉ…みんな一人ひとりが行きたい所に行くから
             誰が何処に出入りしててもおかしくない的な意味かな?たぶん」



要するに『温泉目当てで来る奴も居るし、仏像を観賞したいだけの奴も居るし、書物を漁りに書院に出入りする奴も居る』
随分と回りくどく曖昧な回答だ

レッドが見た巡礼者も偶々、この書院に関心があった無関係な一般人だったかもしれない、とそういう意味にもなる


  レッド「メカの癖にえらく哲学的なことを言うなぁ、俺が聞きたいのはそういうんじゃないんだけど」ポリポリ


…このメカは何も知らない、失礼だが聞くだけ無駄だったかもしれない、とレッドは肩を落とす




470以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/24(日) 23:16:50.71KgqZGLId0 (7/10)


 夕焼け空に赤蜻蛉<あかとんぼ>が飛んでいる、鎧武者のロボットは自分の羽で飛ぶ命を眺めて言葉を続ける


  メタルブラック「古人は言った、石には石の心があると、ならばメカにもメカの心があって然るべきだと」

 BJ&K「わかります」コクッ

 レッド「お、おう?」


  メタルブラック「だが、メカである私には自分の心が見えてこないのだ」

  メタルブラック「心を求めれば求める程に己の中に心が無い事を確信するのだ…それは虚しい」


 レッド「お、おう?」←全然分かってない顔

 BJ&K「感動しました」



 ルージュ「???」キョトン


 ルージュ「ねぇアセルス、僕は機械に詳しくないから良く分からないんだけどさ…」ボソボソ

 ルージュ「あれは心が無いって言えるのかな?」


紅き術士は、目を丸くして少し考え……ますますわからなくなった


赤焼け空の色を帯びて、黒鉄のボディーに赤みがついた侍を見ていた…彼は確かに人間<ヒューマン>ではない
 コアと呼ばれるパーツに予めプログラミングされた疑似人格パターンから思考し行動に移していく



風情溢れる都の空、儚い命の飛来を眺めて『"自分の心について考えるロボット"』を【心無い機械人形】とは思えなかった



  アセルス「いや、私もそういうのはちょっと…ロボット工学とか苦手だったし…」ボソボソ



自分に心が無い、と彼は言ったが、同時にこうも言った、求めれば求める程に無い事知ると


自分にとって嫌なことがあれば、生物はそれを避けようと必死になったり、時には意欲を失う場合すらある



だが、メカなら目の前に勝ち目が0%に等しい敵が居たとしても任務だから立ち向かおうとする
そこに情という起爆剤が無くともだ


 与えられた仕事をこなす、それだけが意義であり、それ以外を考えはしない
今日出逢ったゲンと共に居たT-260とてそうだ、任務を全うすることが全てであると





何かを求める、という行為は生物が生きる上で必要な"感情"だ



喩えば、勝ちたいライバルが居て倒すために力を求めるのだって勝ちたいという闘争心や意欲心から来る

喩えば、孤独が寂しいから人を求める、それだって愛されたい愛したいと、損得を顧みず無償の愛を配る行動だ




敬愛、友愛、親愛…恋慕

敵意、競争心、時として自分自身の誇り護る為、そんな自尊心…etc




…このメカは もう既に 心を"求める"という行動をしているではないか、そして無いと知り『虚しいと脳が判断した』




471以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/24(日) 23:17:43.99KgqZGLId0 (8/10)






    ルージュ(もう既に心があるって事なんじゃあないかなソレ、単純に当人がそれに気が付いてないだけで)



 石にも石の心がある、ある日突然、無機物に心が宿ったという神話やおとぎ話は世界に幾つもある

 鼻が伸びる糸無しの操り人形の童話だってそうだ、ただの木偶人形が自分を作った父親を探し求め
最終的に鯨の腹から逃げ出して人間として生きれるようになったという有名な話


  レッド「あー、なんか眠くなってきたな」ゴシゴシ

  レッド「姉ちゃんの剣やルージュに術の事教えてくれたり、巡礼の事とかさ、色々ありがとな!」


じゃ!先を急ぐんで、と手をあげてこれ以上小難しいハナシになる前にこの場を経とうとレッドが声を掛ける






   メタルブラック「待ちたまえ、レッドよ―――君はブラッククロスの事を知りたいのではないか」




レッドの脚は止まった。




   レッド「 何 か 知 っ て い る の か ッ ! 」カッ


   レッド「……。」

   レッド「いや、何故わかったんだ」


声を張り上げた仲間にメカを除いた全員がびくりと肩を震わす



  メタルブラック「自分自身の心は見えずとも、他者の心は読みやすい物だ」

  メタルブラック「あの組織には4人の幹部が居る、…ブラッククロス四天王と呼ばれ、己を見失った愚か者揃いだ」



  レッド「もっと詳しく教えてく――」pipipi


  レッド「っ、こんな時にキグナス号から従業員に戻れって連絡ぅぅ!?くっそー!」クルッ



  アセルス「れ、烈人君!」


  レッド「すまねぇ、姉ちゃんたち、俺緊急の呼び出し喰らっちまった!観光はここまでだ!」

  レッド「あとアンタ!必ず戻ってくるから四天王の事そんとき教えてくれ!」ダッ!

   BJ&K「…帰還します」ウィーン


タッタッタ…

ウィーン…


   白薔薇「…行ってしまわれましたね」

   白薔薇「…。メタルブラック様、御聞かせ願えますか?何故、その組織の幹部について存じているのですか」


凛とした[京]の空気が少しだけ変わった、肌寒い突き刺さるようなそれに




472以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/24(日) 23:18:28.71KgqZGLId0 (9/10)



  メタルブラック「この惑星には外来客が多く訪ねて来る、それで小耳に挟んだだけのこと…」



     白薔薇「…そうですか」

    アセルス「白薔薇、下がってくれ……メタルブラック、あなたから貰った剣の事は本当に感謝してるよ」

    アセルス「ルージュにも役に立つ情報を教えて貰ったからね」

    アセルス「私達は今日はもう帰らせてもらう、それでいいでしょ」


  メタルブラック「ああ」



―――
――



  白薔薇/ルージュ「「……」」テクテク


少しだけ俯いて足元を見ながら歩く白薔薇姫、その隣を何とも言えない複雑そうな顔で空を見上げる術士

あの時ブラッククロスの名、そして四天王と呼ばれる存在の情報を出され冷静さを欠いたレッドは黒鉄の侍が
犯罪組織の幹部という情報をどうやって知ったかまで気が回っていなかった


だから白薔薇はメタルブラックに問うた、何故知っているのだと、帰って来たあんな返答を流石に鵜呑みにはできないが
世話になった身だから今日は帰らせてもらう、と…それで良しとしたのであった




   白薔薇「…関係者、ですよね」テクテク

   ルージュ「…良い人、いや、いいメカだけど…そうだろうね」テクテク



 世の中、全ての人物が善人とは限らない

人の良さそうな顔をした人間、それこそ付き合いの良かったエミリアでさえ裏社会の人間なのだから…



 紅い魔術師はポケットに手を突っ込んだ、思い出の写真を撮ったカメラが入ったポケットに



  ルージュ「まださ、ヒューズさんみたいに極秘任務か何かで正体を伏せてるパトロール隊員かもしれないよ」

  ルージュ「メタルブラックが裏社会の人って決まったわけじゃないし」


  ルージュ「それにさ、エミリアさんやルーファスさんみたいな組織の人かもしれないもの」

  白薔薇「そう、ですわね…」


  アセルス「…」


並んで歩く二人の前を行くアセルスは何も言わない、二人からは影を作る少女の背中だけしか見えない、表情は窺えない



…きっと、アセルスお嬢も同じことを考えている




今日出逢った彼がレッドの家族の仇である犯罪組織の手の者だったら…いつか刃を交えることになるのだろうか、と




願わくば、その予測は的外れな妄想であってほしいと切に願った



473以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/24(日) 23:18:57.58KgqZGLId0 (10/10)

―――
――


【双子が旅立ってから4日目 午後17時37分 [京]の旅館】



  ゲン「わっはっは!いいぞぉ!」


  ナカジマ零式「はいは~い!ナカジマまわりまーす、空中パフォーマンスー」グールグル


  T-260「ゲン様、飲みすぎです」

  ゲン「いいんだって、ほれ、お前も飲め」ヒック!

  T-260「物理的に飲めません」



   特殊工作車「みなさん、お客様です」ウィーン

   ゲン「あん?お客だぁ、誰だよ、通せ通せ、なんなら宴会に参加してもらえって」ガッハッハ



ガラッ


襖は開かれ、そこに立っていた綺麗な銀髪を見据える



  ゲン「ん~、うぃーっく、なんだぁ銀髪の綺麗な姉ちゃんだな…旅館の中居さんかい?」ヒック

  T-260「ゲン様、ルージュ様です…水をお持ちしますので酔いを醒ましてください」



水を湯呑みに注ぎながら『過度のアルコール摂取による幻影を見ている模様』と音声を発する丸っこいフォルムのメカを
尻目に、ゲンは目を擦る…確かによく見れば銀髪美少女ではなく男だ



    ゲン「おっと、わりぃ…ルージュの兄ちゃんだったか!」

  ルージュ「あはは、どうぞお気になさらずに慣れてますから」


何処か引き攣った笑いを浮かべてルージュは本題に入ろうとする


   ゲン「で、何の用だい、俺が手伝えることなら手伝ってやるよもう顔馴染だしな!ほれ!お前さん等も飲め」


気さくに茶碗を差し出し、手招きする酔っ払いおじさんにルージュは意を決して言った





   ルージュ「僕達、[ワカツ]に行きたいんです、案内してください」スッ

     ゲン「…」ピクッ




両手をついて、膝を曲げて頭を下げる、畳の上でよく似合う土下座だ



     ゲン「…[ワカツ]か、1つ聞くがお前等正気か?」



 この時、ゲンはただの酔っ払いではなくなっていた、酒気を帯びていた顔は歴戦の武人の顔になっていて
達人級の者であればその闘気を瞬時に察する程であった


  [ワカツ]の剣豪ゲンは静かに3人の顔を見渡した




474以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/25(月) 12:44:26.63fMNlpLFdO (1/1)

読めば読むほどサガフロがやりたくなってくるぜ…


475以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/26(火) 01:32:20.71ajo86uV90 (1/1)

メタルブラックさん優しいな、地味にエミリア編がラスボス手前ぐらいまで進んでるのな


476以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/26(火) 01:55:58.12v1mvfdon0 (1/1)

最近更新多くて嬉しい


477書き溜め少し投下2019/02/27(水) 16:30:34.48sVXTGC7+0 (1/8)



  ゲン「[ワカツ]はなぁ…亡者が犇めく修羅の城と化している、てめぇの身はてめぇで守る覚悟があるってのかい」

  ルージュ「はいっ!」


 資質を集めねば、国家反逆罪で追われる

 退けど地獄、進むは未知…旅を続ける内に現状をどうにかする打開策は見つかるかもしれない、限りなく0に近くとも
可能性があるのならば彼に選ばぬ道はない、強いて言うなら進むレールの先にある終着点が奈落の底でないことを祈るのみ



  ルージュ「僕には、行かなきゃならない理由がありますから」



  ゲン「……」ジッ


  ゲン「兄ちゃん、若いな」

  ゲン「若いのに重たい目をしてんじゃねぇか、…いいだろう知り合いの誼みてやつだ、護衛を引き受けよう」


  ゲン「で?そっちの姉ちゃんたちはどうなんだい」


  アセルス「私達もだ!」

  白薔薇「お願いします」ペコッ



  ゲン「……」

  ゲン「わりぃな、レオナルドさんとこ行くのは後日になっちまうが、構わねぇか?」クルッ


  T-260「了解です」



  ゲン「明朝、[ワカツ]へ向かう…今の内に英気を養うんだな、いいな」

  ルージュ「はいっ!」



 術士、半妖、妖魔の貴婦人は礼を述べ、一泊このリージョンで宿を取り剣豪と連れのロボット達と共に[ワカツ]へ赴く
キグナス号職員全員に通達された緊急の呼び出しで別れたレッドにその事を告げたのは星の瞬くPM9時を越えた頃だった

 ゲンのご厚意で旅館の宿泊費まで出して貰い、そこのフロントにあった昔懐かしのダイヤル式黒電話から
レッド少年に通話して主旨を述べた

【双子が旅立ってから4日目 午後21時07分 [京]の旅館フロント】



  ルージュ「という訳なんだ、ごめん…」

  レッド『いいって!いいって!気にすんなって!』


  ルージュ「レッド」

  レッド『なんだ?』


  ルージュ「僕達さ、旅をしてたらまた会えるかな?ここで別れたらなんだかもう旅先で会えない気がして…」

  ルージュ「キミだって折角アセルスにも会えたんだろ?…だから、尚更さ」


死んだと思っていた幼馴染の女性との再会…、きっとレッドは身内の仇である秘密結社を壊滅するまで厳しい旅を続ける
 もう二度と旅路で交わることのない、そんな運命なのではないだろうか…そんな印象が脳裏に過ったのだ


  レッド『……』

  レッド『へっ!バッカだなぁお前は、…今生の別れじゃねーんだ、生きてりゃどっかでまた会えるさ!』ニィ


昔懐かしの受話器の向こうから聴こえる声は彼らしい爽快さがあった、生きてさえいればまた何処かで出会える、と


478以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/27(水) 16:31:15.27sVXTGC7+0 (2/8)


 ルージュ「! ははっ!そうだな!」

 レッド『ああ、そうさ、遠くない内にまた会えるさ』



――そこには信頼があった、初め会った時から気の合う友人<ダチ>になれる、そんな気はしていた

受話器の向こうで術士の言葉を否定し、生きていればまた会えると、確かに"親友"はそう言ってくれた



 レッド『…てか、お前普通に携帯持てばいいじゃねぇか、俺がヒューズのおっさんに[盾のカード]を聞くって言ったろ」

 ルージュ「へ? けーたい?」



 紅き術士が今使っている通話機器は、自国の文明には無い物だ…術力を介して念話する道具という似たようなモノはある
現在使っているダイヤル式の黒電話も見た目こそ一昔前だが、中身は別の惑星まで通話可能な"カジュアルだけのお古"だ


話そうと思えば銀河を越えて話せるこの御時世だ



 レッド『ああ、安い奴ならそんなクレジットかかんねぇしよ…それで集合場所とか決めれば』



……よくよく考えてみればそうだった
レッドはキグナス号からの呼び出しで、書院から別れたんだった、普通に連絡用の端末持ってる




なんか、神妙な顔して「もう今後会えない気がして」とかシリアスな雰囲気で言ってたのが急に恥ずかしくなった




その後、レッドに携帯電話のアドレスを教えて貰いそれをメモに書き留めた…無論、キグナス号乗務員が支給される
呼び出し用のポケベルではなく、ちゃんとレッド個人の電話番号だ


ルージュ(でも僕は携帯電話持ってないんだよなぁ…)


外界に旅立ってまだ4日、ルージュは携帯を持ってなかった…番号は知ったがまずは通話機器を得なくては話にならない
[ワカツ]から帰ってきたら機械文明の発達してそうなリージョンで買おう、そう決めた


なお関係ない話しだが、今、ルージュと代わって受話器を持ちレッドと通話中のアセルスに携帯の事を尋ねたら
『携帯?ああ!知ってるわガラケーのことでしょ!私も持ってたわ』と楽しげに語ってくれた



機械文明に疎い魔術の国出身の青年、機械音痴の種族妖魔、12年間眠り姫状態だった女子高生…


再度、代わって携帯の説明を求めたルージュの話を聞き、受話器の向こうでレッド少年が項垂れたとかなんとか…


―――
――


【双子が旅立ってから4日目 午後21時21分 [京] 庭園】


  ヒュゥゥゥゥ…
            ザワザワ…


 メタルブラック「……」


黒鉄の鎧武者は、湿った空気を帯びた風を鉄の身に受けたまま立っていた
 彼がメカではなく五感のある生身の人間であれば内臓されたセンサーではなく、鼻で雨の匂いを理解しただろう


 メタルブラック「……何奴だ、姿を見せるがよい」




479以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/27(水) 16:31:45.38sVXTGC7+0 (3/8)


 夜深の庭園に武士<もののふ>が一人、"問われた者"は木葉の桟橋を渡り、影の湖から月明りの陸へと歩み寄る
鋼鉄の侍はツインアイでその姿を捉えて感嘆の声をあげた、日に焼けた褐色の肌、百獣の王を連想させる美しい髪は月光に
照らされていた、その女性の瞳は力強い光に溢れていて見る側からすれば一種の美術品のような美しさであった


妖魔特有の気配を殺した佇まい、存在感を虚無へ置き去り、動く彼女は久方振りの外界にて物珍しい鎧武者を見た
 妹姫を探す使命を帯びた身でありながらその存在につい目線が映り、興味本位で観察をしたつもりだった



見破られるとは思いもしなかった





  金獅子「夜分失礼致しますわ、…驚かせてしまいましたか?」

  メタルブラック「いや、結構…貴婦人は妖魔とお見受けする」


 生体反応が人間<ヒューマン>の基準値を遥かに超えた数値を検出する、彼は初め金獅子姫を見た時、感嘆の声をあげたが
それは何も女性として肉体美に見惚れたわけではない


人ならざる生命力、鍛え抜かれた強靭な肉体、対峙して分かる剣気


戦闘メカとして開発された者の性<サガ>か…メタルブラックは彼女を一目見た時、鋼の心臓部が高鳴った




  メタルブラック「自分は名をメタルブラックと申す、願わくば名を教えては頂けますかな」

   金獅子「これは私としたことが名乗らずにご無礼を…、金獅子と申しますわ」



  メタルブラック「金獅子…金獅子殿、このような夜更けに何用で」

  金獅子「人を探しておりますわ、確かにこの地で彼女の気配を感じたのですが…」


  金獅子「外界は久しいもので、どうにも思うように探ることが叶わないのです」


 メタルブラック「左様か、時に貴女は相当な剣の手練れと見受けます、突然の申し出だと思われるかもしれませぬが…」





 メタルブラック「ひとつ、武人として手合わせを願いたい…!」




 漆黒の侍は、父たる開発者に"心を持った戦闘メカ"として開発された

どこの世界の科学者の知能も未だかつて成し得なかった、『人間<ヒューマン>と寸分たがわぬ本物の感情』を持った人工知能


目立つ事はするべきでない、と…自分が所属する組織の上から下された命令でもあった


心を持ったAIは現世に生まれて初めて、親の命令以外で、"自分が自身の意志でこの様にしたい"と、考え実行した




  金獅子「!…ふふっ、いいでしょう、旅はこれだから面白い…っ!挑まれた戦いに背を向けるは武人の恥も同然っ!」

  金獅子「オルロワージュ様、今暫し、使命を忘れて我で戦うことのお許しを……ッ!」



チャキッ!

シャキンッ!


     ―――――――月夜の晩に、武士と武人が相見えた



480以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/27(水) 16:32:22.32sVXTGC7+0 (4/8)



ガキィン! キンッ、カァン!


 金獅子「ぜぇいぃぃ―――っ!」ヒュッ

 メタルブラック「遅いッ」ジュゴォォォ


 獅子の振り下ろす剣が地を叩き割る、一撃が重い、それに対して鋼の侍は機械である身を最大に生かした速度戦で掛かる
背中部位のバーニアから火を噴き、重剣が金属の肉体を斬り捨てる前にその場から退避する


力量と技で言うならば金獅子姫に分配が上がるだろう

対して速力と無機物だからこその耐久性で向こうは補う



 金獅子「むっ…これはっ!」ガキィン

 メタルブラック「うぐ…は、はは!なるほど!!」ザンッ



シュバッ!キィィン!!


 メタルブラック(体内からのあの反応、恐らく火炎や冷気などのブレス攻撃を持つか!)

   金獅子(この者相手に長期戦はいただけないな、短期決戦で!)




  金獅子「[払車剣]!」シュバッ! ギュララララララ!

 メタルブラック「なにっ!」



 一撃は重いが当たらなければ何の意味もない、[スマッシュ]を打つよりも広範囲に及ぶ、剣気の乱気流で相手を絡め捕る
金獅子姫が月の下に舞う、劔の刀身もまた持ち手と同じく黄金に光り風を飛ばす

秋の木枯らしに似た、[京]に似合いの色合いをした剣気が鋼の肉体を刻む…っ!



 弾け飛ぶ金属片、裂かれたパーツの表面から飛び出した配線と火花
ずしゃり、重い鋼鉄の膝を庭園の水辺近い泥濘に沈める


  金獅子「これで終いとさせていただきましょう…![払車剣]」


膝をついた、とはいえ脅威の機動性を持つメタルブラックに近づいてトドメを刺すのは賢い戦いとは言えない
 一度見られた技であっても、この戦闘メカを倒すならばこれしかあるまいと、二度目の[払車剣]を放った


 刹那、風が吹いた


     ゴォォォォォオオオオオオォォォォ――――!



黒鉄の武士が持つスピードは金獅子も戦い続ける内に徐々に慣れては来ていた…
生物である自分、そして無機物である相手、それが最大の違いだ


背中部位は今まで"火"を吐き出して来たが、たった今噴き出したのは"爆発"だ


これまでの速度が10%だったとするならば、この瞬間に生み出した文字通り爆発的な加速はメタルブラック100%の出力だ




          メタルブラック「[ムーンスクレイパー]!」



黒鋼の武士<もののふ>は月影の下に弦月を描いた



481以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/27(水) 16:33:08.26sVXTGC7+0 (5/8)



黒鉄は閃光になった、光は直進してくる木枯らしを大きく迂回するように回り込み風の発生源へと奔る


雷光一閃…ッ!



         シュバァァァァ!



 金獅子「う、ぐあああぁぁぁぁぁあ!!…っ、…は、はは!」ブシュッ










 金獅子「素晴らしい手並み!見事だ!メタルブラック殿!」

 メタルブラック「その言葉、そのまま返そうぞ金獅子殿!」






 同時に思った、以心伝心というのだろう、お互いに相手の思惑が読めたのは…戦いに身を置く戦士だったからか
それとも、それ以上に似通った何かがあったからか




――――次に放つ一撃で決着がつく






        金獅子「メタルブラック殿、私は敢えて攻撃に出向きはしません」チャキッ


      メタルブラック「なに!?……むっ、その構えは…」




 獅子の如く気高い心を持った姫騎士は、これまで鋼の侍の剣捌きを防いできた片腕の盾を投げ捨てた
そして、劔を天に浮かぶ三日月の船底に向ける

その構えを見て、メタルブラックは相手の構えがなんであるか察した



   メタルブラック「面白い…[かすみ青眼]か!」



 剣術に置ける反撃技のひとつだ、[かすみ青眼]はその場を軸に正月遊びの独楽<コマ>の様に剣を構えて回転し
自分に向かってきた相手の勢いを利用し切り刻む変則カウンターだ


…当たり前のことだが、これは何も知らずに飛び込んで来た相手を狩る技であり、事前に放つと宣言していいモノではない


だが、金獅子は"敢えて"[かすみ青眼]を放つと宣言し、片腕につけた立派な盾を放り捨てた…それが意味するところは



      メタルブラック「…フッ、面白き剣士だ、此度、相見えたこと幸運に思うっ!」



メタルブラックは己の背部に推進剤を収束させる、再び爆発的な加速を産み敵に切りかかるあの技を!…突撃の構えを!

カウンター、反撃の布陣で待ち構える金獅子に対して放つために!!




482以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/27(水) 16:34:03.09sVXTGC7+0 (6/8)




  金獅子(見極めろ、心眼を開けっ、一点の曇りさえ無い蒼穹を思い描け、澄み渡る空に飛び込む敵意を…!)


 メタルブラック「エネルギー転換率120%オーバー、装甲パーツの損傷度合いに比例した自壊の警告・緊急停止OFF設定」







  金獅子(全ての敵意を避け、切り裂け…―――私に断てぬモノは、ないっ!)カッ


  メタルブラック「スラスター方位修正完了、対象物への進路障害物無し……全力全開だ…!!」コォォォ








            金獅子/メタルブラック「「いざ、尋常に勝負!!」」








黒鉄が何者をも貫く"最強の矛"となったッッッ!

獅子が何者をも防ぐ"最強の盾"となったッッッ!






               メタルブラック「[ムーンスクレイパー]!!」

                 金獅子「[かすみ青眼]!!」






    ―――矛と盾のぶつかり合いッッッッ!





    ヒュゴッッ!

    ギュルッッ!





    ズジャジャジャジャジャッッ!シュバッ!



―――
――




ヒュウゥゥゥ…

      ザワザワッ…


風が吹いた…

そして、止んだ、もう樹々の騒めきは鳴り止んだ、剣同士の打ちあう音も鳴り止んだ


483以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/27(水) 16:34:35.56sVXTGC7+0 (7/8)






         メタルブラック「 」バチッ…バチチチッ

             金獅子「 」ドサッ







戦場に立っていた者は…勝利者は居なかった。






矛と盾のぶつかり合い、月が角燈<ランタン>を持ち審判を務めた一夜の戦記


最強の攻、最強の守、古来より語られてきた物語と同じく今宵も"矛盾"した


両者共に大の字になって月夜を見上げていた


火花を激しく散らしたままのメタルブラック、青い血を皮膚から喉から吐き出す金獅子姫


鎧武者と獅子姫の試合はかくして幕を閉じたのだ…








 どれほど、そうしていたのだろう、メタルブラックは自身の内臓時計の計器が異常をきたしていないなら
30分近くはずっと倒れていたのだろうと推測した

 深手を負ったがメカの魂が宿る"心臓部<コア>"は無事だ、時間はかかったが生きてるプログラムが
動かなくなった手足のショートした回路を繋ぎ合わせる、ふらつくがどうにか立ち上がれそうだ…


   メタルブラック「……」スクッ

   メタルブラック「ふっ、私の完敗ですな金獅子殿」


   金獅子「何故そう仰るのですか」ヨロッ…



ふらつく頭を支えるように額に手を当てた姫騎士がゆっくりと遅れて立ち上がる…人間なら昏睡状態でも可笑しくない
 妖魔の尋常ならざる生命力が成せる回復力である



  メタルブラック「その気になればブレス攻撃、いや、それ以外の攻撃手段もありましたでしょうな」



金獅子姫はこの一戦、一度たりとも[火炎]や[冷気]を吐き出さなかったどころか[落雷]さえも撃たなかった
 あくまで"剣術"でのみ戦ったのだ


  メタルブラック「これを完敗と言わずしてなんと呼べましょうか」

   金獅子「そのようなものは幼子<おさなご>の屁理屈です、剣士として剣と剣、対等な戦いをしました」

   金獅子「同じ条件下で戦い、持てる力で真っ向からぶつかってお互いに倒れ、貴殿が先に立ち上がったのですわ」


  メタルブラック「…ふっ、そうですか」

    金獅子「ええ、そうです」





484今回ここまで2019/02/27(水) 16:35:50.26sVXTGC7+0 (8/8)



 メタルブラック「今宵は良き出会いに恵まれた、忘れませぬぞ金獅子殿」

 金獅子「それはこちらの台詞でもあります、尋ね人の事、主の事さえも一時とはいえ忘れて戦いに興じるとは」



獅子姫は、まだ口元に残る血を拭いながらも笑った、こころなしか機械であるはずの侍も顔が笑って見えた


 メタルブラック「誠に、楽しい時間であった感謝致す、……もしまた出会う事があれば再び剣を交えたく思う」

  金獅子「奇遇ですね、私も同じ事を思いましたわ」




笑い声が二つ、深夜の庭園に重なった




  メタルブラック「時に、金獅子殿…尋ね人とは如何様な御方だ」

     金獅子「…」




自身が認める程の実力者であった、とはいえ無関係な部外者に言うべきかどうか金獅子は少考したがすぐに答えを出した



 金獅子「私と同じ妖魔で、名を白薔薇と申します…」

 メタルブラック「なんと…あの貴婦人か」


 金獅子「ご存じなのですか?」

 メタルブラック「少々面識が…とはいえ、もうこのリージョンには居ないやもしれませぬ」


 金獅子「そうなのですか…」

 メタルブラック「行先を聞かないのですか」


 金獅子「…彼女は私自身の手で探し出会いたいのです」

 メタルブラック「…では何も言うまい、せめて武運を祈りましょう」スッ


 金獅子「ありがとうございます、……またいつか組手を致しましょう」スッ




その晩、激闘の末に負った傷を癒す為にも金獅子は[京]を去った…

 まだアセルス等が滞在していたことも知らずに



誰よりも強く、誰よりも気高い寵姫、金獅子は影に沈み、そのまま泡のように去り


残された武士<もののふ>の心を宿した戦闘メカは周囲の気配を探り、誰に見られること無くこの地の地下にある居城へ…




知られざる対決…これを知るのは唯一人、立会人となった月だけ知っている



【双子が旅立って4日目 午後22時28分】


―――
――




485以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/27(水) 19:18:08.90q0yr4SxE0 (1/1)

まさかの金獅子VSメタルブラック


486以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/28(木) 00:38:03.374qTTMpYbo (1/1)

レッド永久離脱かと思ったら文明の利器ってすげー!してたら金獅子とメタルブラックがバトルだと……


487以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/28(木) 10:16:11.63La9N+jA2O (1/1)

知られざる熱い戦い


488以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/02/28(木) 19:44:51.1207wKLK0f0 (1/1)

武士道と騎士道の戦いかっけぇ、乙


489少し書き溜め投下2019/03/02(土) 10:39:41.53NuKycUZ20 (1/8)


――
―――
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[京]で様々な物語が交差する最中、時間は少し巻き戻るが…あの暗黒街[クーロン]では…



【双子が旅立って4日目 午後 21時48分 [クーロン]イタ飯屋:エミリアの自室】



  エミリア「あ"あ"あぁぁ"ぁぁーーー、疲れたぁぁぁぁ!」バタンッ!足バタバタ!



 帰って来るや否やベッドのシーツにダイブして足をばたつかせるエミリアの姿があった…、コスプレ衣装から普段着に
着替え、メイクも落とすあたり元モデルの矜持なのだろうか


前回、アセルスの知り合いであるゾズマという妖魔の介入で失敗に終わった任務のリベンジだ


[ラムダ基地]に単身乗り込み、女を囲っていたあの醜夫、ヤルート執政官を締め上げて情報を聞き出す気でいたが
 敵を銃で撃ち抜きながら辿り着いた室内に居た人物は眼鏡を掛けた初老の男だった

彼曰く、ヤルートは執政官の座を降ろされ、代わりに自分が執政官として就任したとのことだった



  エミリア「……モンド、執政官か…」スッ、キラッ…



 今日出逢った人物は、不思議と嫌な感じはしなかった、気の許せる人物ではないことは確かだが
"幸運のお守り"だと言って渡された天使を模った装飾品を摘まみ照明に翳してみる



基地でのモンド執政官との会話を彼女は顧みる



  -モンド『これを君にあげよう。盗聴器などついていないから安心しろ』-

  -エミリア『なに…この、羽の生えた人?』-

  -モンド『それは私の故郷のリージョンに伝わる伝説に出てくるんだ、天使という』-

  -エミリア『天使…、どうしてこれを私に』



  -モンド『昔、まだ私が若かった頃、私もキミらと同じように多くの仲間と共に一つの目標に向かって戦った』

  -モンド『特に仲の良いのが二人居てね、私とその二人でよく三人でつるんだものだ』


  -モンド『私達三人には憧れの女性が居た、清らかな人だったよ、その人に贈るつもりのブローチだった』-

  -エミリア『…どうして渡さなかったの?』-



  -モンド『そう、だな…彼女は三人の内の一人と結婚してね、私は彼を友として尊敬していた、だから渡せなかった』-

  -モンド『だがね、この天使は私に幸運を授けてくれたようだ、こうしてトリニティの執政官まで上り詰めたのだ』-


  -モンド『これは君のような人が持つのが似合いだろう、受け取ってくれたまえ』-


  -エミリア『いいの?そんな大事なモノを…』-


  -エミリア『…』-

  -エミリア『分かったわ、大事にするわね、この…えっと』-

  -モンド『天使だ』-

  -エミリア『そう、天使ね!天使のブローチ、有難くいただくわ!』-




490以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/02(土) 10:40:17.06NuKycUZ20 (2/8)



人生はいつだって"一期一会"…人と人の出会いは未知で、誰彼の間柄も、人の縁も分からない



 名前を聞けなかった初老の野心家は後に包帯ぐるぐる巻きのルーファスからモンドという名で、執政官になる前は
ヤルートの部下で情報・警察部門の実質的な責任者であったと知った



 そして、冷酷無情にしてカミソリのように切れる男だと、警察部門のトップから執政官に昇格してくれてホッとしたと
あのルーファスにさえ言わしめる程の敏腕だった



エミリアは、サングラスの上司から聴いた話と受けた印象が違って思ったが、どちらが本当の顔なのだろうか…


 少し前にテレビのニュースで[ワカツ]がリージョン界を束ねるトリニティ政府に対してテロ活動を行おうとしたと報道が
あって、その後、原因不明の爆発でその惑星に封印されていた悪霊が目覚めて惑星を滅ぼしただとか…


 表向きの報道は悪霊によって亡者の巣窟になりアンデッド系モンスターが屯っているとのことだが
エミリア達、裏社会の人間…いや、"黒い噂話"として表にも流れているが警察部門が独断で大々的な空襲を行い
[ワカツ]を一夜にして火の海にして滅ぼしたと…


一時期は大騒ぎになったが、時間の流れと共に新聞の大見出しを飾った惨事もいつしか人々の記憶から"過去の出来事"扱い


ベッドに寝転んでブローチを眺める彼女とてそうだ、当事者でもなんでもないのだから深くは考えない事にした


それより、そんな黒い噂のある男の心情が気になった
 …グラサン上司曰く冷徹無情の執政官の素顔を少しだけ垣間見た、そんな気がしたのだ





<リュート!!貴様いい加減帰れ!!

<なはは!かてぇこというなよぉ~!



  エミリア「ん?店の方がなんか騒がしいわね…ってかこの声」スタッ



与えられた自室にまで届く怒声とお気楽な声に、金髪美女は革のロングブーツを履いて自室を出る
 記憶違いでないなら既に『close』の札は掛けてあるはずだが
この店はそんなモン無視して入店してくる客が如何せん多いのだ、昼間の刑事といい…今来てる客といい



スタスタ…ガチャッ



       ブルー「掃除の邪魔だから去れと言っているだろうがァ!!」つ『清掃用モップ』ブォン

          リュート「どわっ、あぶねっ!?」ガシッ




真剣白羽取りィーッッッ!



まだ齧り程度とはいえ、アニー先生に打ち込みのイロハを教わったブルーがモップブラシを振り上げ唐竹割りを放つ
 それを間一髪、両手で受け止める弦楽器を背負ったニートことリュート

反応が遅れれば頭にデカいタンコブを作る所だったと肝を冷やしていた彼は、先日のスライム投げの一件もあって
ブルーにはしこたま怒鳴り散らされていた


  リュート「悪かったって!でもあれは俺だけじゃなくお前も悪かったろ!?
                          …あっごめんなさい調子乗りました、やめてお願い」


…このまま眺めてるのも悪くないが、そろそろ仲裁に入ってあげるべきかしら、とエミリアは歩み寄った



491以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/02(土) 10:40:43.70NuKycUZ20 (3/8)


  エミリア「はいはい、二人共ストップ、モップで遊ばないの掃除は終わったの?」


  リュート「へへっ!ブルーってば怒られてらぁ!」ヘラヘラ

  ブルー(ぐっ…この野郎)ギリッ


  エミリア「それにしてもリュート久しぶりね、ライザから暫くこの街に滞在してるって聞きはしたけど」

  リュート「ああ!今は宿泊先に留守番させてるけど仲間になった[スライム]も居てな、今度会わせてやるよ!」


  リュート「うん?…エミリア、そいつぁ…」



  天使のブローチ『 』キラッ


 ふと、リュートは彼女が身に着けていた装飾品に目が行った、とても精巧な創りで素人目にも値の張る逸品だと分かる
元は表の世界で老若男女問わずに魅了した女だ、どこぞの金払いのイイ男にでも贈られたのか、彼は気になって聞いてみた

彼女も指差されたそれに、「ああ、これ?潜入先に居た人がくれたのよ」とだけ伝えた



  リュート「へぇ、"天使"かぁ…」

  ブルー「…」ピクッ


  エミリア「あら?リュートは知ってるのこの天使って羽の生えた人のこと」



エミリアの故郷の惑星には"天使"という存在に関する記述は無かったのか、元からそういう知識に疎かったのかはさておき
掃除用具を持つ手を動かしていた蒼き術士がその単語に作業の手を止め、耳を傾けた
 弦楽器を背負った無職の青年を見て、彼女はリュートがブローチの送り主と同郷であったことを思い出す




  エミリア「そうだったわね…ライザが言ってたっけ、"天使"って[ヨークランド]に伝わる御伽噺なのよね」

  リュート「そうそう!ウチの母ちゃんがよく枕元で子守唄代わりに話してくれる伝説だったんだ、懐かしいぜ!」




……エミリアは知る由も無い事である

 実はその[天使のブローチ]はモンド執政官がリュートの母親の為にオーダーメイドしたモノだということを…




人の出会いは一期一会、どこで誰と誰が何の縁で結ばれているか分からない、人間関係と因果は実に数奇な運命の下にある





  リュート「えーっと、なんだったかな、確か天使ってのはだな、えっと何処に住んでたんだっけ?」ハテ

  エミリア「なによ、全然覚えてないじゃないの…」



   ブルー「"天国"だ」



  エミリア「えっ」



   ブルー「人がいつか行ける極楽と安息の楽園…人々に幸福を齎す女神が住まい」

   ブルー「古代の王が授けられた"指輪"によって、その楽園に続く幸福の坂道を切り拓き」

   ブルー「貧困と絶望の底に居た多くの民を救うべく先導した……[マジックキングダム]に語り継がれる伝承だ」




492以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/02(土) 10:41:13.46NuKycUZ20 (4/8)



 子供の頃からずっと学院の教師に教えられてきた内容
勿論、ブルーとてその伝説がまるっきりそのまんまの話とは思ってはいない


語り継がれてきた伝承、つまりは永きに渡って人伝で語られてきた内容


 …簡単な例を挙げようか、"伝言ゲーム"という言葉は誰しもが知っていることだろう、その遊びは決まって
途中から聴く側が上手く聞き取れなかった、言う側の活舌が悪かった、中には訳の分からない独自解釈をし
そのまま間違った伝令を次の相手に伝えるというのがお約束だ


伝承というのもまた同じモノ、本当に最初期の内容は……いつしか歪曲され、捻じ曲がった偽りの真実として受け継がれる


 学生時代に歴史の授業で習ったけど、後年になって新しい発掘技術と解明で授業で習った歴史は実は間違いでした、等と
そのような発表だって今の御時世幾らでもある


 所々何らかの差異はあるのだろうが、[マジックキングダム]で大昔の指導者か何かが
貧困で困り果てた民を救う為に"天国"とやらの道を開いて、民を導いた…ということなのだろう、たぶん


ブルーはそう解釈した、ルージュも…あの国で育った子供は皆である




  エミリア「なんか意外ね、あなたってそういうの興味無さそうな人だと思ったけど」

  リュート「わかるー、ブルーだし『貴様ら御伽噺なんぞを信じるのか?おめでたい奴め』くらい言いそうだしなぁ」


  エミリア「あははっ!その声真似すごく似てるわよ!」


  ブルー「お前等なぁ…」



 呆れた顔で何か言おうとしたが、関わる時間を労力に費やした方が良いと判断したのか
彼は口を閉ざし作業の手を再び動かし始めた

ヒューズ刑事が帰った後、店内清掃は引き受けるから先に剣術指南をしてくれと、無理言ってやってもらったが…



  ブルー(他に客が居ないせいか、嫌でも二人の会話が耳に入るな)



やれ、故郷がどうだ、家族がどうだと…アニー担当だった床のモップ掛けを一人黙々とやりながら彼は
術の力こそが全てである祖国のことを思い浮かべた

 親孝行、育ての親である国家への奉仕、それこそが自分の使命であり、生きる意味なのだと


 それだけがブルーの人生観であって、それ以外の事を考える必要はなかった…というよりもだ
彼の場合は考えさせる人生の転機が与えられなかったと言っていいだろう


子供の成長と同じだ、壁に突き当たれば子供はそこで考える、目の前の壁をどうしたいか


登って乗り越えるか、発想を変え砕いて前へ進むか、壁そのものを迂回して進むか、そもそも壁を越える理由があるのか?


 何か問題にぶつかれば、そこで多くの事を考えるし
工夫を凝らそうとするものだ―――だがしかし"大層ご立派な御国の英才教育"とやらは道を一つに絞る


 自分は大人になったら国<親>の言いつけ通り自分の兄弟を殺して国<家>に帰って来るんだな、と
それ以外の選択権を与えない、実際問題ルージュも進む以外の道を今は選べない状況下にある


ブルーとて同じだ、ただ現状に疑問を持ったか持っていないかの違いだけ


  ブルー「モップ掛けもこれで終わりか」スッ

  リュート「おっ、ブルー終わったのかよ、ならお前時間空いてたりする?ちょいと[ネルソン]まで連れってくれよ」




493以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/02(土) 10:41:44.37NuKycUZ20 (5/8)



   ブルー「[ネルソン]だと…?お前もう金塊で得た金銭を使い切ったのか」

  リュート「いやいや、そうじゃねぇよ、ちょっと知り合いに会って話を聞いてみたいって思ったのさ」


  エミリア「なになに?何の話」ズイッ



反トリニティ政権の惑星<リージョン>…[ネルソン]、世間一般ではそう囁かれる磯の香り漂う夜海の星だ
 資金繰りで困った術士が無職の男と出会い、一儲けでお世話になった土地でもある

そしてノリの良さに定評のあるお姉さんエミリアが男二人の会話に身を乗り出して割り込む


 婚約者が死んで塞ぎこんでるかと思ったら、変な所で割り切りの良い持ち前の明るさが彼女の良さでもある

仮面武闘会を仮面舞踏会と勘違いしたり、[バカラ]のカジノ潜入作戦で一人だけバニーガール衣装であることを抗議した所
ライザとアニーに『似合ってるよ』『流石、元スーパーモデル』と褒められてノリノリで任務に戻る即堕ち2コマだったり



 リュート「ああ、エミリアと出会う前に俺一人旅してた時期あっただろ?そん時にまぁ、知り合った船の艦長が居てさ」

 リュート「自分の人生とか、いろいろどうなんだろうなって考えたらちょっとだけ、本当にちょっとだけな」

 リュート「話聞いてみたくなったんだ、その人は俺の父ちゃんの事知ってるからどんな人だったかって」



 ブルー「…お前は自分の親を知らないのか?」


 リュート「父ちゃんの事は俺もよく知らねぇんだ、母ちゃん何も言ってくれなかったからよ」



 今まで考えたこともなかった、知りたいとも思ったことがなかった、気づいた時には初めから居ない人で
ただお気楽に、自分が好きな事やって楽しい人生を送ってハッピーエンドが彼の人生観であった


    -リュート『――"お前の人生"、それでいいのかよ…!』-


昨日、彼がモップ持った術士に彼自身が言ってやった言葉だ

好きな事やって楽しい日々を送るというリュートの人生論は変える気は毛頭も無い、…でも気になるモノは気になる
 荒っぽいことは嫌いだし、 平和に済むならそれが何よりだ

――――…ただ、父親の事を何も知らないで一生を終える、というのは何か釈然としない

母親も多くは語ってくれない父親の事を知らない生涯、それこそ、"お前の人生"それでいいのかよ、である




英雄になりたい訳じゃない、革命家の象徴として祀られたい訳でもない、ただ自由気ままな雲のように好きに生きたいだけ




だからトリニティ…というよりもモンド執政官が[ワカツ]に造ったという秘密の軍事基地に戦争紛いな事を吹っ掛けよう等
そんなことは全く思わないのだ…




  ブルー(…自分の親をよく知らない、か)



  ブルー「……。」

  ブルー「いいだろう、偶には貴様に振り回されてやろう」


親孝行、育ての親に従い、尽くし、奉仕し続けることこそが産まれて来た人生の全てと"教育されてきた"ブルーは
なにやら思うところがあったのかリュートの都合に付き合ってやろうと承諾した


 エミリア「ねっ、私も行っちゃ駄目かしら?」




494以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/02(土) 10:42:25.40NuKycUZ20 (6/8)


 ここで視線がエミリアに注がれる、片方は『何故貴様までついて来る』と言いたげなジト目の視線
もう片方は『おっ、来るのか!綺麗な女が居ると賑やかでいいねぇ!』と歓迎の眼差し


  エミリア「[ネルソン]と言えば綺麗な夜景と独特な風味のお酒を出すカクテルBARがあるでしょ」

  エミリア「今日の任務はかなりの重労働だったのよ…ねっ!いいでしょ!この通りよ」


  ブルー「…ルーファスと同じくらい嫌いだと言ったのは何処の誰だ」


 溜息を吐いて、彼女を見る術士、ブロンド美女は胸を張って『それはそれ、これはこれよ!』とか
『今なら嫌いからちょっと嫌いにランクアップよ!わかったらレッツゴー!』などと宣う


変な所で割り切りのイイ前向きさに定評のあるエミリアお姉さんであった


―――
――



【双子が旅立って4日目 午後 21時57分 [ネルソン]】


 海原にある巨大な岩を削り、築き上げた岩窟―――そこに港を造り古き伝統を重んじる海賊の隠れ家と言った具合の港町
それが[ネルソン]というリージョンであった、その為、帆船が出港する穴から朝日が射しこんだとしても常時薄闇に包まれ
24時間街灯の火が消えることは無い


暗黒街から海賊の入り江へ、[ゲート]の術で早速降り立った三人はシップ発着場へと向かう


 リュートの目当ての女性は大概[オウミ]のレストランで此処とは違う味付けのシーフードに舌を巻いているのだが
生憎とこの時間帯ではその人は職務があるから自分の船に戻っているだろう


シップ発着場に行き、リュートは『ハミルトンさんは居るかい』と受付に尋ねた

少し待っていてくれと言われ、数分後、独立戦艦ビクトリアの艦長ことハミルトンが姿を現した




  艦長「やぁ、来てくれたんだね、キミの父上の遺志を裏切ってトリニティへ奔ったモンドの基地へ突入する気は?」

  リュート「悪いけど、そういうのはパスだ、俺は今日はそういうことの為に来たんじゃないんだ」


  艦長「む、そうか……無理強いはせんが、キミが一声かけてくれれば我々はいつでも[ワカツ]へ戦艦を飛ばす」

  艦長「しかし、そうでないならば何の用で来たんだ?」


  リュート「俺は、父ちゃんの事を色々知りたいなって思ったんだ…母ちゃんはあんまし喋ってくれねぇからさ」

  リュート「忙しい中わりぃとは思うんだけど…ダメ?」


  艦長「そうか、父上イアン殿ことについてだな…ウチの自慢のBARで酒でも飲み交わしながら話そう、私のおごりだ」


お連れさんもどうぞ、と口を挟まずに居た術士と美女もご厚意に甘えることになった


 ハミルトン艦長の紹介でやって来たのは以前にも金塊の売買で世話になった酒場で
顔馴染の客にしか出さない秘蔵の一本を開けてグラスに注いでもらった

 徐々に酔いが回り始めた頃、艦長は昔話を懐かしむようにリュートに活動家としてのこれまでを語りだす
リュートの父イアン、その友であったウェント、…同じく友であったモンドのこと


反トリニティの活動中にモンドが兵隊に追い詰められ、死を覚悟した後にイアンが自分の命を投げ売ってモンドを救った事


その後、モンドが何を想ったのか、突然、革命家を辞めてトリニティ政府で働くようになり最近じゃ執政官になったこと

[ワカツ]を爆撃機で空襲した後に秘密裏に軍事基地の建設、[シュライク]の街工場で人型兵器の開発禁止を言い渡す等
影で誰にも分からぬ怪しげな動きをしているということ…




495以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/02(土) 10:42:56.70NuKycUZ20 (7/8)



  ブルー(こいつの父親がそんな大物とはな…)


 透明なグラスを傾け小さく波打った強めのカクテルを眺めながら感想を浮かべた
このニートの父親がそんな大人物だとは



   エミリア「うっ…うぅ…っ」



一通り話を聞いて、むせび泣くような声がし、横を振り向くとなにやたエミリアが机に突っ伏している
顔は見えないが今の話で泣きでもしたのだろうかと声を掛けようか迷っていると…




   エミリア「う、うぅぅぅ、も、もうだめぇ…き、気持ち悪いぃ…」ウップ

   エミリア「ブルー、この際あなたでいい、トイレ連れてって…」グスッ


   ブルー「 」



この日知った、エミリアは酒に弱い。


 えっ、なのにお前酒飲みたいから[ネルソン]のBAR行こうとか言いだしたの?出かけた声を出せずにいるブルーの肩に
エミリアの白い手が触れる


  エミリア「や、やばいって…ほんと、は、はきそ」

  ブルー「おいぃぃぃ!?バカやめろぉぉ!!た、耐えろ、今連れてくから、おい!お、俺の方を向くなァァァ!!」





                 ~ しばらくお待ちください  ~




  ブルー「ぜぇ…ぜぇ…」

  エミリア「あぁ…飲みすぎたわぁ…うぅ」グスッ


危うく大惨事になる所だった、疲弊しきったブルーは今度こそ文句を言わずに居られなかった


  ブルー「だったら…ゼェ、何故、酒を飲むっ!ゼェ…馬鹿なのか貴様は!?」

  エミリア「だってぇ、疲れた時は嗜む程度に飲みたいじゃない!まさかこんな強いカクテルなんて思わなかったの…」


法衣を嘔吐物塗れにされては堪ったものではない、全速力で走って来た術士は息を切らした息を整えながら席へと返る
すると、なにやら話は終わっていたのかリュートは立ち上がっていた


  リュート「ありがとよ!ハミルトンさん…俺さ、やっぱそういうことに手はまだ貸したくないや」

   艦長「そうか…わかったよ、今晩は良い酒が飲めたよ」


  ブルー「リュート」

  リュート「お、戻って来たのか」



  ブルー「貴様、父親の遺志を継ごうとは思わないのか…」

  リュート「んあ?父ちゃんの遺志?」

  ブルー「お前の産みの親であろう、…志半ばで仲間の為に命を落とした」

  ブルー「なら息子であるお前は成してやりたいとは思わないのか…?」



496今回此処まで2019/03/02(土) 10:46:33.23NuKycUZ20 (8/8)






              リュート「いんや、全く」





即答だった


子は親の物、その考えが常であったブルーにとって興味深い返答だった、だから聞いた



   ブルー「…何故、だ」


  リュート「いやよ、なんつーか、父ちゃんは父ちゃんだし、俺は俺っていうのかな…」

  リュート「親の為に自分の生き方を全部捧げるってなんか違うんじゃねぇのって」


   ブルー「…。」


  リュート「お前には前言ったじゃん?俺は自分が好きなことやって楽しけりゃ人生万々歳ってさ」

  リュート「父ちゃんの遺志を継いで~、とか今の政府を転覆させて革命家の英雄だ~、とか」

  リュート「別にそういうんじゃ無いんだよ、俺は」



  リュート「本当に自分がやりたいって心で想ったことを、心が命ずる儘にやってこそ人生楽しいのさ」



  ブルー「自分の心が命ずる儘に……」


  リュート「まっ!めんどくせぇことが嫌いで気楽に生きていたいってだけなんだけどなww」

  ブルー(…)

  ブルー「お前は偶にただの馬鹿なのかそうでないのか分からなくなるな」フッ

  リュート「おろ?」



子は親の物、なら……親が初めから居なかったら?

親という自分を繋ぎとめてくれる存在が何らかの理由で無くなってしまったら―――



  ―――育ての親が、[マジックキングダム]国家が、万が一にもあり得ないが何らかの理由で滅びたとしたら?



そこまで考えて、ブルーは自分を嗤った

何を馬鹿な事を…所詮は万が一、あり得もしない"もしも"の話だろうに、こんな事を真剣に考えるなんてどうかしてる



その先の答えは考える事を止めた、…いや無意識にブルーは【逃げた】のだろうな


自分は本当は空っぽの人間だ、それが無かったら…心の在り所を失ってしまったら、――自分の"帰れる居場所"を失ったら



きっと、もうその時点でブルーという名前の人間は瞬間、存在価値が無くなる、生きる理由も何も無くなってしまうのだと





  存在意義を失くして、【世界中の誰からも必要とされない人間】になる、と…その答えに行き着きたくないから



497以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/06(水) 16:29:54.08rxG/DtiT0 (1/12)



 まだ酔いが抜けきらないエミリアとリュートを連れブルーは暗黒街へと帰った
早朝から叩き起こされて、皿洗いのバイトをしながら守銭奴の金髪娘に[鉄パイプ]を持たされてお稽古の時間
それが終われば、店内のモップ掛けをして夜遅くにやってきた馬鹿な知人と先輩のブロンド髪と一緒に酒盛りだ

そこそこに多忙な一日だったとは思うが、ブルーがこの晩、寝付く事が出来なかった


 三日近く世話になった貧乏臭い安宿の枕が恋しくなったわけではない
住み込みバイトとして与えられた個室が長らく使われてなかったから黴臭くてそれが眠気を妨げるということもない


 胸の奥に理由も分からないのに蟠りがある、エミリアの持ってたブローチや彼女とリュートの会話で芋づる式に天使
それに故郷の話になったり、飲みに行った潮の香りに包まれたBARで普段馬鹿だと思っていた男が語る人生観を聞いた所為



子供の頃、…これは今、寝具の上で眼を開けたまま寝がえりを打ち続ける彼に限らず誰にでもあることだろう



ひとつ気になる事があると、ついつい、それを考えて睡眠が取れなくなる

好奇心盛んな少年心が身に着く年頃になれば、哲学に手を伸ばす
それよりも少し若い頃にさえ誰でも一度は『人は死んだらどうなるんだろう?』そうなったら
今ここで考えてる僕の意識はどうなるのか、死んだ次の瞬間、今までの自分の記憶や自我は消えて別人になってるのか?等

出せるはずの無い答えを探そうと頭を捻ったり、あるいは極度にその妄想を怖れたり


そうしている間に時間だけが刻一刻と過ぎていく





ブルーは、まさしくその状態に陥っていると言っていいだろう



自分の人生、自分とは違う人間の人生、価値観、世間一般から見た弟殺しの見解




ルージュを殺す事に何も思わないのかと感情を爆発させた前日のエミリアの顔

弟と妹、自分の身内を養うために命を賭け金に綱渡りをするアニー

身内殺し事体を全否定はしないが、その時が来るまでの人生それで良いのかと問うリュート



ぐるぐる、ぐるぐる…頭の中で、色んな顔が、声が、次々と浮かんでは交じり合って消えていく
[ドゥヴァン]のコーヒー占いが自慢の喫茶店で飲んだ甘いカフェイン入りの液体の様に、渦を巻いて消えていく





  ブルー(今宵の自分は何処か変だ、エミリアの悪酔いがうつりでもしたのか)





病原菌じゃあるまい、何を馬鹿な、と考えて首を振った

天井ばかり眺めていた顔はその動作で木組みの机の上にあるデジタル表記の時計を見据えた、暗闇に視界が慣れたのだろう
ぼんやりとだがPMからAM、午後から午前へと日付を跨いだことが分かってしまった



嗚呼、眠れない、寝付けない


声が頭の中で煩い、蛇が脳髄でのたうつように五月蠅い、自分の声がうるさい




蒼き術士が意識を手放すのは明方間近であった…




498以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/06(水) 16:30:41.75rxG/DtiT0 (2/12)


【双子が旅立って5日目 午前 10時02分】




 ブルー(目元に隈つき)「…」シャコシャコ

 ライザ「あら、寝坊助さんおはよう」



 歯ブラシに歯磨き粉をつけて、目元に天然物の暗色メイクを施したブルーが鏡をぼんやりと見つめながら歯を磨く
後ろから紫髪の女性がくすくすと笑いながら挨拶をして来るモノだから彼は朝から血圧が上がった
プライドが無駄に高い男は何か言いたげだったが、グッと押し込みマグカップの中身で口を濯いで顔を洗った



 アニー「はいはい!両面焼きのハムエッグ追加だよ!」トンッ☆

 エミリア「お先に!」パシッ



 グラディウスモブ男「もうじき、デカい作戦だからそっちに準備割くんですか?」モグモグ

 ルーファス「ああ、[ヨークランド]の山奥にある[忘れられし聖堂]だ、そこにジョーカーは来るらしいが」パクッ



朝食担当の作った半熟の目玉焼きが乗っかったトーストを頬張りながら完治したルーファスが予定を仲間に話していた
 こんがりと焼けたパン生地のサクサク感と黄身を噛んだ時に広がるとろりとした半熟の卵が広がりそれがまた美味いのだ


 ルーファス「エミリアがモンドから聞き出した情報によれば、暗号の解読には時間が掛かる」

 ルーファス「奴の動向を探っていた[マンハッタン]支部からの情報網によれば、アイツを切ろうとしてる勢力も多い」

 ルーファス「例えば、[シンロウ]で秘密裏に取引していた"ブラッククロス"だ、奴らもジョーカーに見切りをつけ」

 ルーファス「獲物を横取りしようとしてるらしくてな、ジョーカーが[ヨークランド]に行けるのは当分先だ」


 グラディウスモブ子「それまでに私達が準備を万全にして、先回りからの罠を張り巡らせる、ですね!」


 サングラスを掛けた男は「そうだ」と頷いて、ドレッシングの容器を手に取る
透明な深皿に盛りつけられた薄緑色のレタスや色彩豊かなトマト、花野菜にぷりぷりとした海老を施設や軍勢に見立てる
アニーお手製ドレッシングで「我々はこのように、周辺を固め、敵対勢力をこのように絡め捕る」とトマトや花野菜に
味付けをしながら説明する


  バコンッッッ!



 ライザ「ルーファス、作戦の説明は構わないけど食べ物で遊ばないでくださる」ニッコリ

  ルーファス「 」



 ブルーを引き連れた鉄の女ライザが笑顔で上司の頭に拳を叩き込んだ
折角、包帯ぐるぐる巻きミイラから復帰したのに、また頭部に包帯を巻きそうだ、この男本当に組織のトップなのだろうか
後ろで引き攣った顔をして見ていた蒼き術士は何度思ったか分からない感想を浮かべた


 エミリア「ライザ、おはよう!あとブルーも」

 アニー「お、二人共やっと来たわね!で、何にする?」


 持ち運べる携帯食としてアンチョビサンドの仕込みで鰯<イワシ>の塩漬けをオリーブオイルに浸していたアニーは
遅れてやってきた男女に気が付いた、食べたいモノはあるか?注文のリサーチを始める


 ライザ「なら、私もルーファスと同じモノが食べたいわね」チラッ

 ルーファス「」チーン


自ら気絶させた男と同じ食事を注文して、彼女はデカいタンコブ作った男の隣にそっと座った、心なしか顔が赤い気もする
ブルーはソレを見て何か関わったらダメな世界な気がして、目を背けながら半熟目玉焼きを乗っけたトーストを頼んで
極力ルーファスとライザから離れた席に座る事にした



499以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/06(水) 16:31:41.12rxG/DtiT0 (3/12)



 ブルー「…午後4時から午後10時までとはな、そんな営業時間で大丈夫かこの店」サクッ


 胃にあまり物を詰め込む気にはなれず、一枚のトーストと目玉焼きで丁度良い
白い皿の上に置かれたパンを手に取り角から頬張る、…悪くない


コトッ


 ブルー「ん?」

 アニー「ほら、やるよ」つ『ミックスジュース』


 柑橘系の果汁をブレンドした朝の一杯、剣術指南の師範曰く仕事が始まるまでみっちりしごいてやるからサービスだ、と
渡されたついでに、この店は午前は開業しなくて良いのかと尋ねてみた、すると


 アニー「ん、そこだけど…ちょーっと裏のお仕事がね、今デカい山場なのよ」カチャッ、スッ


 パセリを添えた、焦げ目の無いチーズオムレットの腹をフォークで裂く
とろり、ふわっとした半熟の卵から熱々のチーズが流れ出す、それを口元に運びながら金髪の少女は言う


 アニー「あたし達が追ってる敵との決戦って奴を控えててね、総力戦になりそうなんだ」

 アニー「これがややこしい事に、その敵ってのは色んなとこに手を出してる奴でさ」

 アニー「ある時は麻薬売りと人攫いで有名なブラッククロスとの取引」

 アニー「[バカラ]の地下に居るノーム達から財をふんだくったり、トリニティの上層と繋がりを持ったり」

 アニー「その所為で、そいつを出し抜いてお宝をゲットしちゃおうって奴が多いのよ」


 ブルー「その話ならさっきそこでルーファスも言ってたな」


 アニー「ああ、なら話が早いわね、大掛かりなトラップを周辺にばら撒いて誰も邪魔できないようにするってワケ」


 ブルー「その準備に追われるから飲食店の方は短時間営業ということか」


 アニー「そっ!んでもってあたしやエミリアみたいな戦闘員は英気を養って、非戦闘員のみんなに頑張ってもらうの」

 アニー「つまりアンタの剣の腕を磨く時間があるってわけ、お分かり?」ニィ


 覚悟しとけよぉ?とニヤニヤ笑う女に不敵な笑いで返してやる、寝不足で肩に見えない重りが乗っていたが
そんな物は吹き飛んだ、漸く本腰入れて、鍛錬に打ち込めるのかと、グラスの中で揺れる甘酸っぱいビタミンを喉に流して
気を引き締める、盗める技術は盗む、使える技はなんであれ、自分の物としてみせる


残り一口になった焼けたパンを口に入れて噛みしめる
そんなやる気に満ちた門下生の横顔を金髪少女は面白い奴を見る様な目で眺めていた


*******************************************************
―――
――




 ゲン「…帰って来ちまったなあ」

 ルージュ「ここが、[ワカツ]…」


 早朝、ルージュ一行はゲン達と共に、4人と3機で[ワカツ]へとやってきた…
目指すはカードを得る為の部屋[剣聖の間]だ…沼の向こうに聳え立つ和風の城、[ワカツ]城に向かう為
茂みを掻き分け、桟橋へと向かった―――その桟橋には先客が居た、その者は皮膚はおろか、肉すらない



 アセルス「なっ、モンスター!?」チャキッ

 ゲン「剣を降ろせ、ソイツはモンスターじゃねぇよ……よう、俺達を向こう岸、城門前まで頼むわ」




500以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/06(水) 16:32:27.10rxG/DtiT0 (4/12)


[スケルトン]系のモンスターとしか思えない人骨は何を見つめるでもなく、自分達を見据えてポツリと一言



      「船を待ちな」



ゲンは、その骨を何処か懐かしむような、それでいて憐れむような眼で見つめていた
 [ワカツ]は亡霊の巣窟と化した惑星、目の前の橋渡しは生前は彼と知り合いだったのだろうか…


そんなことを考えている内に、ザザァと誰も乗っていない無人の小舟が不自然な流れ方をしてピタリと桟橋の先に停泊した


人骨は何も言わずに、道を開けて、乗れと首を船へ振るう


 剣豪は、黙って船に乗り込み腰を落として胡坐をかく、それに従うようにロボたちが小舟に乗り込み
後に案内を頼んだルージュ等も乗った

 船は鉄の塊である、T-260や特殊工作車、常に浮遊しているナカジマ零式は別として、その他に大の大人が数人乗って尚
重荷など何も無いかの如くスイスイと見えない力で沼を漕ぎだした


向こう岸に辿り着くのはあっという間の出来事で…全員が上陸すると示し合わせたのではと思う程綺麗な動きで船は去った



      ヒュッ!  ヒュッ!


  ルージュ「んんっ!?」



紅き術士は目を疑った、疑って自分の眼をごしごしと擦った


 白塗りの壁に一瞬、本のページの様に捲れてその裏側に人が居た様に見えたからだ…
もっと言えば櫓屋根の上を高速で走る人影がちらほら見える、その恰好は彼が学院に居た頃、文献で読んだことがある





  ルージュ「ニ、ニ…ニン」プルプル



  ルージュ「忍者だぁぁぁぁぁぁぁ!?」ガビーン!




アイエエエエ!?ニンジャ!?ナンデニンジャ!?

両手を頬にあて美術館に飾られたムンクの叫びめいたポーズで絶叫するルージュ=サン



 ゲン「ありゃあ[ワカツ]の亡霊だ…死んでも死に切れぬ魂がああして出て来ては生者を仲間に引き入れようとするのさ」

 ゲン「お前等も気を付けろよ、連中に追いつかれたら死ぬ気で抵抗しろ」スタスタ


この惑星に迷い込んだ旅人を殺しその血肉を喰らおうする悪しきニンジャソウル、それこそが[ワカツ]の亡霊であり
トリニティの連中が空襲をした際、爆撃が地下にあった封印を解いたことで[ワカツ]の亡者が溢れかえったとのことだった



 アセルス(…悪しき亡霊で忍者って…昔ウチにそんな漫画あったなぁ)テクテク



[シュライク]で実家が本屋だったアセルスはそんなことを思い出しながら皆の後を追った…


 至る所に死の痕跡が落ちていた道程を鉄の蹄が進軍していく、T-260、特殊工作車、[鉄下駄]を履いたゲン
靄が掛かった城を、まるで死者たちの鎮魂歌だと主張するような高らかな金属音、征く手を阻もうとする魔物でさえ
道を開けたくなるような果敢な行進曲<マーチ>




501以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/06(水) 16:33:20.87rxG/DtiT0 (5/12)



――――中には向かってくる命知らずな、"命なき者"もいた


  ゴーストA「けけけけっ!」フワァ

  ゴーストB「きひひひっ!」フヨフヨ

  ゾンビ「うばあ"ああ"あ"あ"あ""あ"」


  ライダーゴースト「ヒャッハー!オンナダァ!オレノモンダァ!」パラリラ!パラリラ!

  ナイトスケルトン「我、汝の命欲す…っ!」チャキッ










   特殊工作車「標準よし、撃ちます[電束放射器]」ビーーー、バチバチ!

     ゴーストA&B「「ぶべらっ」」チュドーン!!




   T-260「[剣闘マスタリー]ON、[多段斬り]発動!」ズジャジャジャジャジャ

     ゾンビ(みじん切り)「ウボァー」ザジュッ



  ナカジマ零式「へーい、そんなスピードじゃあ私にー、おいつけませーん、[神威クラッシュ]」ドゴッ

  ライダースケルトン「ちにゃッッ!?」ボコォ



  ゲン「[三花仙]」ヒュバッ!

  ナイトスケルトン「!…みごと、なり」ドサッ…シュゥゥゥ






  ルージュ「 」ポカーン

  アセルス「す、すごい…私達全然手をだす必要が無いわ」

  白薔薇「あっという間の出来事でしたわね…」




特殊工作車のアーム部分に取り付けられた重火器が電流を放ち、目の前にいた[ゴースト]2体を(物理的に)昇天させ
 T-260に至っては達人級の剣士の動きをトレースしたプログラムを発動させ、壱秒間に数十回動く屍を斬りつけて
玉葱のみじん切りより細かくバラバラにしてやった、断末魔をあげた[ゾンビ]は二度と蘇ることのできないレベルで
肉体を細切れにされ、その横をマッハ越えの速度でナカジマ零式が突き抜けて、やんちゃな幽霊にお灸を据えてやった

ぼっこりと、腹を突き破ってぐるっと宙返りしながら戻ってくるナカジマ零式の機影が[刀]を構えたゲンの真上を過ぎ去る

それを合図に、[鉄下駄]を履いて尚、骨騎士を上回る瞬発性で敵を切り裂く


その艶やかな一連の動きに、花が咲き乱れるような美さえ幻視した…


―――
――


   ゲン「…こっちは、床が完全に抜けてやがるな、オイ兄ちゃん、他の道行くぞ姉ちゃん達も足元に気を付けな」


どれくらい歩き続けたか、時刻は【午前11時49分】…早朝に来たはずだったが、思った以上に時間が経っていたようだ



502以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/06(水) 16:34:09.57rxG/DtiT0 (6/12)



 アセルス「はい…っとと…本当危ないなぁ」ギシ…ギィ

 アセルス「ちょっと足を乗せただけで軋むなんて…床板の腐食度合いが、うん?」


 白薔薇「…」


 アセルス「白薔薇、どうかしたのか」


 白薔薇「いえ…ただ」チラッ


 焼けた人形『 』



 おかっぱ髪に、焦げてしまっているが辛うじて緋色の和服を着せた人形なのだろうなと推測できる
アセルスは人間だった頃、3月になれば家に飾られる雛人形を思い出した
 これの創りもそれによく似ていて、きっと持主は人形を大切にしていた子供だったのだと…


  ルージュ「…小さい子も、此処に居たんだよな」


2人が見ていた子供の人形を見てから辺りを見渡すように、空襲の跡地を紅き術士は目を配った
 煤だらけの床に丁度、黒ずんでいない人型の綺麗な床が見えてその上には長い間、野晒しにされた白骨遺体が横たわる
折れた刀を持っていた右手は、今尚、柄を握って離さず…倒れた骨の視線の先には―――


 ゲン「…俺達は、何もしちゃいなかったさ、政府に逆らうだのそんな気なんぞ無かった」


 ゲン「誰が流したかも知らねぇ悪い噂、人の噂なんざ七十五日よ…」

 ゲン「あの日だって普通にお月さんが出て、寝てりゃあお天道さんが上がる変わらない明日って奴が来るはずだった」


 ゲン「だがよ、無数の爆撃機が隊を組んでこの城の上空に現れて俺達から"いつも通りの明日"を取っちまいやがった」


 ゲン「みんな、必死だった…腰に脇差引っ提げて、刀抜いてドタバタ走ったぜ」

 ゲン「敵は団体さんで空から爆弾落としてくるんだ、剣を振る俺達じゃあどうにもできなかった」



 ゲン「…そこで眠ってるそいつも、城を守るより、家族を護る為に走ったのさ」




…――柄を握ったまま離すことなく倒れた白骨死体は、空洞となった目から口惜しさの涙さえ流して見えた

折れた刀身が転がった先は、大人1人と子供1人と思われる遺体の傍らだった
 靄が掛かっていた空が一瞬だけ晴れ、空襲で空いた大穴から照らされた日光でその存在が漸く確認できた

カラァン、コロォン!

ガッシャ!ガッシャ!

ブロロロ…



テクテク…スタスタ…


 ゲン、彼は暇さえあればいつだって酒を飲んでいた
酒は良い、嫌な事も思い出したくない光景も酔いが見せる優しい揺り籠で溶かしてくれるから…

嘗ては共に剣を磨き合った友、護るべき主君、…家族、それらが一夜にして火の海に飲まれた


 ここにきて、彼はいつも持ち歩く酒瓶に口をつけることは無かった

 無言で自身に蔦を伸ばして来た喰人植物のモンスターを一薙ぎ、屋根の上から彼目掛けて飛び掛かろうした獣を縦に両断
忍者を思わせる出で立ちの亡霊が気配を消し瓦礫の塹壕から飛び出し奇襲を掛けるも、見向きすらせずに首と胴体を裂いた


[ワカツ]の剣豪ゲンの精神は研ぎ澄まされていた…



503以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/06(水) 16:35:23.11rxG/DtiT0 (7/12)



  ゲン「ここからなら、中に入れそうだな…」ガラッ


 櫓門の道は塞がれていたものの、城壁の一部が崩れていて、瓦礫を少し手で退かせば大人でも
通れそうなくらいの大穴が渡り廊下の壁に空いていた

 隙間風がカラカラと、赤い風車<かざぐるま>を回す、母親が吹いて赤子をあやす為に使っていた玩具は無造作に床に
突き刺さり、誰を笑顔にすることもなく悠久の時を空回りし続ける、[京]で見たような襖扉に生々しい赤を飛び散らせ
鉄臭さとそこから菌が繁殖したのか緑や黄の斑点模様で着飾った和紙の窓が切り裂かれていた

壁に東洋剣の破片が突き刺さっている、弓矢の矢も無造作に突き刺さりそれが何とも痛々しい



   白骨『  』

   白骨『  』



 ゲン「この一番上の階が[剣聖の間]だ…そこで試練を受けれる、一息だ」



  白骨『 』…ガタッ!


  白薔薇「ゲン様!そこに―――」


ガッ、ズシュッ!


  ゲン「…」チャキッ


 屍で築かれた山に紛れてアンデッドが死者の脇差を抜き取り、ゲンへと切りかかる、白薔薇の警告と同時に相手の眉間に
一刺し、頭蓋骨は見事に前から後ろまでよく見える覗き穴をあけて屍の山へ帰った


  ゲン「おう、姉ちゃんありがとうな」


 自分の身は自分で守れ、と[京]の旅館で言ったゲンだが、道案内も兼ねて率先して前を征き背後にも警戒を怠らない
何だかんだ言いつつもルージュ等をしっかりと守る男であった




……この地で守れなかったモノがあったからこそ、なのかもしれない、[ワカツ]の剣豪として想う所があった



彼にとっての生まれ故郷、此処はゲンの"帰るべき場所"であった筈なのだ…育った大地を踏みしめて彼は何を"想う"か



コツッ、コツッ…


 ゲン「…着いたぜ、此処がそうさ」



 案内された[秘術]を求める者の巡礼地は、こじんまりとした一室で、中央に畳が三畳だけ敷かれていた
中央の畳を挟む程度に燭台が3つあった、ただルージュや白薔薇姫にはあまり馴染の無い形式の燭台だ

 蝋燭の灯がかき消されないように、風除けの硝子が張られているオイル式の角燈<ランタン>に似てはいるが
風除けに使われている材質が紙だ、和紙を使われたソレが灯篭と呼ばれているのを知っているのは
ゲンと子供の頃テレビの時代劇で見た事があるアセルスお嬢、データベース内にある知識として記録しているメカ達だけだ


  ゲン「まず、両方の蝋燭に火を灯すんだ、そうすると後ろの屏風…はもう無ぇな、後ろの壁に3つの影が浮き上がる」

  ゲン「それぞれ、剣、兎、物の怪だ」

  ゲン「3本の剣と兎と物の怪が交互に浮かび上がる、全ての影を『剣』に揃えるんだ…誰が一番初めに受ける?」


中央の畳に、座り意識を集中させて目を見開く、すると浮かび上がった影はその心に応じて止まる
 随分と俗物的な言い方をするならカジノのスロットみたいなモンだ、絵柄を三つ揃えれば良い、違いがあるとすれば
試練を受ける術者の心次第で結果が出るということだが



504以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/06(水) 16:36:07.69rxG/DtiT0 (8/12)



 ゲン「俺は、こいつ等と亡者共が階段駆けあがってこないように見張りをする…いいな、テメェら」チラッ


 T-260「了解です」
 特殊工作車「右に同じく」
 ナカジマ零式「私たちにー、お任せあれー」


 若き日に成人式のしきたりのようなモノでゲンも[剣のカード]は取得している
三畳一間で彼等が瞑想を始め、剣が描かれた札に認めてもらえることを祈りながら見守る、その間、ゲンの仕事は
試練の邪魔をする無粋な輩を排除することである


 ルージュ「僕は、最後でいいよ先に二人からで」

 アセルス「そう?なら白薔薇」

  白薔薇「かしこまりました」スタスタ…スッ



 ゲン「じゃあ、火を灯すぜ…休憩を挟みたい時はいつでも言ってくれて構わねぇからな」カチンッ!ボォッ


 灯篭の中に赤々とした燈が点いて、影を浮かび上がらせる…この場所、[ワカツ]の天守閣は一種のパワースポットだ
術士であるルージュも妖魔の白薔薇姫も当然、半妖であるアセルスも薄々感づいていた

周りが穏やかな風の吹く草原なら、この場所だけピンポイントで渓谷や山岳地帯の岩々で一点に気流が集中する地点だ


 力の流れで浮かび上がった三つの影は兎や交差する刀、バケモノの姿形を造り飛び回る
蝋燭の灯りは和紙一枚の壁を越え、障害物は何一つとて無い、であるにも関わらず、兎や二本の長物、大口開けた妖怪

光の屈折だとか目の錯覚だのと、そんな次元の話じゃない、科学的に説明不可能な変化を目まぐるしく繰り返す




        白薔薇「…。」



        白薔薇「…」



        白薔薇「!」パチッ




  【兎】 【兎】 【兎】



    白薔薇「…失敗ですわ」シュン


  ゲン「まだ、終わったわけじゃねぇ、何度でも挑戦はできる、心の目でよくみるんだ、耳を澄ませ…」


  アセルス「良い線は行ってたんだ、白薔薇!もう一度…!」

  ルージュ「白薔薇さんっ!」


    白薔薇「 」コクッ


    白薔薇(もう一度…)スゥ…


    白薔薇「…。」





―――
――




505以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/06(水) 16:36:40.68rxG/DtiT0 (9/12)

*******************************************************
―――
――

【双子が旅立って5日目 午後 12時00分 [クーロン]】



  ブルー「てぁぁぁぁっ!」ブンッ

  アニー「もっと踏み込んできな!!」カキィン[ディフレクト]



 暗黒街の惑星の裏通りを抜けた先、元は地下鉄であった地下空間に金属音が鳴り響く
廃線になった駅のプラットホームはそれなりに広く強盗殺人を生業とする浮浪者の棲家でもあった

生憎と、剣道道場なんてモンはこの街に無い…

犯罪者が大手振って歩く空気の澱んだこの空間を利用して、練度をあげる為に手にした得物を振るっていた


犯罪都市で日々を過ごす手練れの追剥も法を犯すことを余儀なくされる低所得者も流石に出て行こうとは思わなかった
 情報が物を言う時代、それもこの都市ならば尚の事で、金髪の術士と裏組織の金髪女はヤバいと既に話が持ちっきりだ



 双子が旅立つ数日前、エミリアがグラディウスに新人メンバーとして加入した際もアニーの指導の下
女二人でこの近辺から店まで帰って来るという実践訓練を行ったものだ



この街で長生きする奴は、自分と相手の力量差をよく分かっている奴だ

早死にする奴は無謀な戦いを挑むか、もう後に引けず強者でも良いから生活の足しになるモノを奪う為にと自棄を起こすか


 大概、その二択である……指導の真っ最中で喧嘩を売りに来る低ランクモンスターが[鉄パイプ]持ったアニーに撲殺され
片手斧やナイフを構えて蛮勇を目に焼き付けながら突進する盗人はブルーの試し切りと魔術で感電させられ気絶していく


 稀に、二人よりもランクが上の実力者が現れ、戦いを挑んでくることもあったが
そんな実力があるなら他所の惑星でも十分喰っていけるだろうに、と思いながらアニーが剣に不慣れな弟子をフォローし
二人掛で仕留めて行った


   アニー「アンタの手に持ってるソレを自分の身体の一部と思え!」

   アニー「自分の手であたしに触れようって気で掛かりな!先端から鞘までが含めてアンタの腕だ」



   アニー「…"手首の先に棒状の武器がある"だからその分リーチがあって、間合いはそこまで詰めなくて良い」


   アニー「そんな考えは糞喰らえだッ!そんなんだからさっきからアンタは一撃もあたしに当てれないんだよ!」ブンッ


   ブルー「ぐぉっ…っ」ガキィィ…ギギギ!

   ブルー「…な、めるなァぁぁぁ!!」グワンッ ダッ!


   アニー「――っと!」バッ!


   ブルー「踏み込めばいいのだろうッ![天地二段]!!」バッ!ダンッ!


   アニー(やばっ!?調子乗り過ぎたッ)サッ!


 蒼を纏った魔術師が鍔迫り合いから相手を上に押し上げる形で崩し、金髪少女が僅かによろめいたのを見て攻勢に出る
プラットホームの地を離れ、飛翔し勢いよく振り翳した鉄の棒を振り下ろす
 遊び過ぎたか、と彼女はすかさず持っていたパイプを頭の上に掲げる
夏の浜辺で遊ぶ西瓜割りの様に縦に振られた得物を両手で横に構えた棒で防ぐ、何度目になるか分からない金属音と火花が
飛び散り、すぐさま、地に足をつけたブルーが着地と同時に胴体を薙ぐ一撃を放つ


  ――――カァン!!

  アニー「…っ、そう簡単にやらせないっつーの!」グググッ

  ブルー「くそ…!」ググッ



506以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/06(水) 16:37:45.56rxG/DtiT0 (10/12)


ピピピ…

 持ってきていた手荷物からアラーム音がなる、100均ショップで購入できる簡単なタイマー時計だ
ブルーは目の前の講師に一振りたりとも掠ることなく終わったのか、と心底悔しそうな顔をしていた


  アニー「12時丁度だ、ここまでのようね」


アニーは背伸びしてそこらへんで拾ってきた[鉄パイプ]を放り投げる
涼しい顔をしているが最後の[天地二段]は正直なところ焦った、対応が遅れれば胴に一本取られたかもしれない


  アニー「ブルー、聞きたいんだけどさ子供の頃に剣とか習ってたの?」

  ブルー「簡単な護身術なら学院の授業で習ったが、剣に関しては全く…」


 知識だけはあった、若気の至りで学校を一日だけサボって顔は思い出せないが偶々気の合う子供と知り合って
色々あって、剣道に関する本を読んだ記憶はある…

金髪少女は一本も取れなかったことを悔しがった弟子を見て思う、筋は悪くない、と。



 さっきブルーが使った[天地二段]でさえ"閃く"のにアニーは時間を掛けた、しかし昨日今日で剣の道を始めた彼は
もう自分の物にして彼女に放ったではないか


金髪少女と蒼の術士…"閃きの頻度"が、眠る才能の大きさが違う


 今でこそ悔しがっているが、いつかは師である自分があの顔を教え子のブルーに晒すことになるかもしれない
そんな予感を彼女は感じていた


  アニー(面白いわね、育て甲斐があるってもんよ!)フフッ


 コイツは自分の指導で将来どんな奴に化けるのか?豊富な経験でまだまだ負ける気はしないが
目の前の原石を見て益々、ブルーを鍛えてやりたいという気が強まった
 自分の持てる技術を叩き込んでどこまで高見に行くのか見届けてやりたいと…


  ブルー「…貴様、何を笑っている」ジトーッ

  アニー「うん?」

  ブルー「確かに、今日の俺はお前に対して手も足も出なかった…だが見ていろ、いつの日か必ず打ち勝つからな!」


  アニー「!」

  アニー「あはは!いいよ、いいよ…楽しみに待っててやるって」ヒラヒラ


手をひらひらと振って、笑う彼女は施設に居る弟の姿を目の前の男に重ねた


負けず嫌いで、強がりで……



  アニー(…、……ああ、こいつを鍛えたいって思うのはそういう所かなぁ)



―――
――


 荷物を持って地下鉄を出る、お世辞にも良い環境とは言えないが、換気扇が碌に聞いちゃいない澱んだプラットホームで
ランチタイムに洒落込みたくないからだ
 外は相変わらず雨が降っていた、背の高い建物同士の合間に出来た小さな隙間と誰が設置してそのままにしたのか
トタン屋根の恩恵を有難がるわけでもなく、当たり前のようにそこへ入り込み髪についた水滴を払うべく頭を振った

鞄から乾いたタオルを二つ取り出し手渡す


  アニー「ほらよ」つ『タオル』

  ブルー「ああ…すまないな、助かる」フキフキ




507以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/06(水) 16:38:25.02rxG/DtiT0 (11/12)


 髪をさっと拭いて首にタオルを巻く、そのまま鞄から折り畳み式シートと[結界石]を取り出す

 春先の公園にでもピクニックに来たなら広げるであろうレジャーシートを地面に敷き、横風で飛ばないように
重石の代わりとして砕いた[結界石]の破片を敷物の端々に置いておく


 こうすることによって、シート上に乗っている人物は周りから知覚されず
またあらゆる攻撃にもある程度は耐える結界が貼られる、簡易シェルターの出来上がりである



  ブルー「気前がいいな、[結界石]を使うなどと…」

  アニー「んー?ああ、これね…なんだかんだで結局最後まで使わずに取っといてさ、いっつも終わるのよ」



 これまで裏社会で様々な任務についてきたて、気が付いたら大量に手に入って大量に余っていた、という魔道具の1つだ
任務終盤で決戦を控えた時に術力、気力、生命力の回復の為にと温存したものの、最後まで使わずに任務を終わらせた

そんなことが多々あって、宝の持ち腐れとなった[結界石]がグラディウスの倉庫には山ほどある


  アニー「こうやって敷いた物の上に乗っけとくだけで、特訓してたあたし達の体力も回復する、鬱陶しい敵は来ない」

  アニー「それにさ、雨音も遠くなって、寒気もあんましないじゃん?…異臭もしないし」


 砕いた魔石の破片を置いたピクニックシートに座った二人の疲労は既に吹き飛んでいた
鼠の死骸やゴミ袋を漁る鴉の匂い、蓋の開いたマンホールから漂う異臭もシャットアウトされていた


  アニー「あとは、この洗濯紐をこうやってビルの雨樋や配管にうまいこと括りつけて…と」ゴソゴソ

  アニー「店から持って来た毛布を紐にこうやって掛ければ、ほい!カーテンの出来上がり」

  ブルー「ほう…[結界石]とは別で更に風除けにもなり、外を見ずに済む簡易テントになるか」


  アニー「そ!どうせ、昼食にするならそっちのがいいでしょ?ルーファスも余ってるから持って行けって煩いのよね」



 登山家ご用達のジェットボイルを取り出し、同じく持ってきていた2Lペットボトルの水を注いで沸騰させる

点火して直ぐにお湯になった水を見て、他所の惑星の科学文明の発達やら、やたら重い鞄に何が入ってたかと思えばだのと
ブルーは感心、呆れ、どちらも入り混じった感情で仲間の荷物を眺めた


  アニー「あ、そうだ…ブルーはどっちにする?」つ『カップ麺』


 名前を呼ばれ、目線を鞄からその持ち主へと向ける、彼女が手に持っていたのは以前、リュート等を交え
酒盛りをした日に一緒に行った"こんびにえんすすとあ"とやらで見かけた、確か…携帯保存食の一種だったと思うが…


  ブルー「貴様、店を出るときにアンチョビサンドを作ってなかったか」

  アニー「あれは任務で出かけた他の子の専用よ、あたし等はこれで済ませるの、で?どっち」



どっち、と問われて、両手の携帯保存食を見る……

正直に言って、"かっぷらぁめん"を見るのは生まれて初めてだった、味の違いなど分かるはずも無い


ブルーは、戸惑ったが…少し間を置いて、右手のシーフードと書かれたラベルの方を指さした、色も青だったから



  アニー「決まりね」トポトポ…!


蓋を半分剥がして、お互いのカップ麺に沸騰したお湯を注ぎ、コンビニで貰った使い捨てのフォークと箸を乗せる
 箸は使えなくないが、どちらかと言えば慣れない食器よりも慣れたモノを使いたい

 リュートが面白半分におでん屋でのブルーの箸の使い方を見ていたのが幸いした
彼に『ブルーの奴、箸の使い方ヘタクソなんだぜ~』と聞いてたから予め、割り箸の他にフォークも用意していた

お湯を入れて2分と約30秒近く、地下鉄内で訓練の時に使った安物のタイマーをセットしてアラームが鳴るまで待つ




508今回は此処まで2019/03/06(水) 16:39:18.37rxG/DtiT0 (12/12)


 待っている合間に缶コーヒーを2本、鮭入りおにぎりを同じく二つ取り出し手渡される
缶についてるプルタブの開け方は飲み会の時に学習した、手渡されたライスボールは丁寧なことに開け方が書かれていた
手順通りにやるならば三角の透明な包装の一番上を摘まんで洋服のジッパーを降ろすように破き、両サイドを引っ張ると…


   ブルー「…」ビリッ


   ブルー「…あぁっ!」クシャッ

   アニー「あぁ、コンビニのおにぎりあるあるだわ、そんな感じで失敗して海苔がバラバラになったりするのよ」


 引っ張ったら海苔もビニールと一緒に裂いてしまった、剥き出しの白いご飯と、取っ払った包装の中に未だある海苔
掌にペタペタとつく白米が物悲しい…



   アニー「ふふんっ♪ブルーよく見てなよ、こういうのにはコツがあってね…ここはこうして…あっ」ビリッ、グシャ

   ブルー「…フッ、中々素晴らしい手本だな、アニー」


   アニー「…う、うっさい、今日は調子悪かっただけだし、ていうかアンタだって失敗したろ!?」


ピピピ…!


   アニー「と、馬鹿なことやってる間に出来たわね…ほら、アンタのシーフードヌードル」スッ


ペリッ

乗せていたフォークを取り、底についていたシールも剥がして蓋を取る、[鉄パイプ]の打ち合いでカロリーは消耗していた
それに比例するかの如く、湯気と共に鼻をくすぐる匂いは食指をそそる

 黄色いふわふわに蛸の脚をスライスした物なのだろうか…?蟹と思われる食材も一口サイズで浮いていて刻み葱の下には
最初見た時、『こんな硬そうなモノが湯を入れただけで美味くなるのか?』と訝しんだ乾麺がお湯を吸い解れていた


ナポリタンスパゲッティと同じ麺を用いた食事、東洋文化の麺類をフォークで掬って口に運ぶ…



  ブルー「…美味い」


 カップの淵に唇を寄せて、スープも啜ってみる…塩気が少し濃くそこに何かを煮詰めて取ったダシ汁を加えた濃厚な味
舌が火傷しそうになるが、ついついもう一口とカップの中の液体を飲み干してしまいそうになる

 握り飯にも齧りつく白米の奥に見える紅色は珍しくはない魚のサーモンで塩漬けにでもされていたのか
これといって過剰な味付けを施されていない白飯としょっぱさを感じる魚肉のハーモニーが丁度いい具合になっていた


 [結界石]と風除けの布があるとはいえ常雨の街は気温が寒い部類だ、身体を温めて少しだけボーっと食後の余韻に浸り
今日の戦績を振り返ってみる、アニーとの模擬戦で得た技や偶に突っ掛かって来る命知らずな野盗やモンスター
稀に危険度ランクが高い方に部類される[トレント]や[ユニコーン]、そこまでではないが凝視攻撃が厄介な[アンノウン]


 ヌサカーンと共に[保護のルーン]を取りに来た頃と比べれば、敵も自身も強くなったものだ…
海星型モンスターの[ゼノ]や[ラバット]共を蹴散らした頃が遠い日々のように思える


 結界石『 』シュゥゥン…


 アニー「砕いた石の光が弱くなってきたね…そろそろ効果切れだ、準備しな」

 ブルー「わかった」


 250ml缶の中に半分程残ったカフェインを飲み干し立ち上がる、洗濯紐と毛布も回収して
シートをばさりと輝きの失せた石を吹き飛ばす、もはや只の石ころと変わらなくなった魔石は
路傍の石に紛れて分からなくなり荷物は全て収納した鞄を担いで再びブルーとアニーは地下へと潜っていった


小降りだった[クーロン]の雨はまた勢いを増し、大雨へと代わろうする頃合いであった…


―――
――




509以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/06(水) 19:09:23.59D2BhFtRm0 (1/1)

お疲れ様でした
今回も楽しませていただきました


510以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/07(木) 00:47:22.32lIKKg1YM0 (1/1)

これはブルーさんとアニーによる巧妙な飯テロスレ


511以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/08(金) 08:06:00.25Nws5bfq30 (1/1)

乙十字剣
結界石ってそう使うんか・・・


512以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/09(土) 11:08:39.20eG9FNXt1O (1/1)

乙乙
改めて文章で見るとリージョン間の文化の差が顕著で面白いな


513少し書き溜め投下2019/03/11(月) 22:22:51.72g926szxQ0 (1/9)

【双子が旅立って5日目 午後 12時31分】


 リュートは今日も今日とて、闇市場[クーロン]に物珍しい売り物が無いか、風の向くまま気の向くままに散策していた
珍しい獣の革、どこぞの軍隊からの横流し品、マニアなら泣いて喜ぶコレクション、眠らない常雨の街はいつだって活気に
満ちていて、怪しくも可笑しくもある空気を振りまいていた

宝石箱か、はたまた子供のおもちゃ箱かをひっくり返したようにちょっと見渡せば興味を引くものが転がっている


ボサボサ髪にちょこんと乗った民族帽は、ある一点を振り向き…視線を固定させた

一度見たら早々忘れられそうにない緑色の獣耳、ふさふさした尻尾のついた人間がトコトコと歩いていたからだ



  リュート「クーン!クーンじゃないか!」オーイ!


   クーン「? あっ!リュートだー!メイレン!リュートだよ!」

  メイレン「まぁ、元気にしてたかしら?」


  リュート「へへっ!俺はいつだって元気だぜ!…けど、あん時は勝手にパーティー抜けてごめんな」


  メイレン「いいわよ、そんなこと」

  リュート「それでさ、"指輪"集めの方はどうだい?例の全部集めると何でも願いが叶う指輪」

  クーン「えへへ!あの後ね!僕達2つも手に入れたんだよ!」ピョンピョン!


 元々クーンが旅立った際に故郷の長老から渡された指輪、リュート、ゲン、T-260とクーン等で街を仕切るヤクザ者達と
戦い勝ち取った指輪で2つ、そして[タンザー]で宇宙海賊ノーマッドから手にした物で3つだった

つまり現在5つの指輪が揃ったことになる



  メイレン「ここまで順調だったのも全部メサルティムと先生のおかげね!」


  リュート「先生と、メサルティム?」キョトン


知らない人物の名が挙がり、弦楽器を背負った無職は首を傾げた




         ヌサカーン「くくくっ、私としてはタダで病魔を観察できたのだ礼金を払いたいほどだよ」ヌッ!

          リュート「うっひゃぅ!?」ビクッ




 [クーロン]の裏通りに住む闇医者にして上級妖魔の医者、ヌサカーンはリュートの影からぬるりと出て来た
突然背後から声がしたと思えば、眼鏡を掛けた病的なまでに肌の白い白衣の医者が立っていた
死神か何かと一瞬勘違いするほどである


    メイレン「先生、あんまり驚かせないでいただけますかしら?」ヤレヤレ

   ヌサカーン「くくっ!いや、失敬…キミの驚き方は素晴らしい、その心拍数、健康な心臓だ」

   リュート「は、はぁ…、どうも」


   肌の色が黒い人魚「あ、あのー、高貴な御方…いえ、ヌサカーン様それは誉め言葉になってないのでは」フヨフヨ


   ヌサカーン「ん?そうだったかね?それは失礼したなメサルティム」

   メサルティム「ひぃぃぃっ!?すすす、すみません下等な下級妖魔の分際で上級妖魔の貴方にお言葉を…!」フヨフヨ

   メサルティム「出過ぎた真似をして申し訳ありません!どうかお許しを…!」ガタガタ ビクビク


   ヌサカーン(……怯えさせるつもりは無いのだがね…彼女には困ったものだ)ポリポリ





514以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/11(月) 22:23:21.62g926szxQ0 (2/9)


 メサルティムというのはどうやら、この宙に浮遊してる気弱そうな人魚の名前らしい
美しく長い銀髪で角が生えている人魚…話によれば、最初[マンハッタン]で売られている指輪を買いに行ったら
既に[オウミ]の領主が買っていて、それを譲ってもらいに行ったらなんやかんやで落とし穴に落ちたり
巨大な烏賊<イカ>と戦ったり、領主が実は偽物だったりと…紆余曲折があって苦労したらしい
 それでその道中で偶然知り合って、力を貸して貰い今現在、クーン達と行動を共にしていると


  リュート「いやぁ、こりゃまた別嬪さんだなぁ」ジーッ


  メサルティム「?」キョトン

  メサ子の胸『装備:☆』



―――スパァン!!


  メイレン「リュートぉ?そういうのはね、セクハラっていうのよ?田舎者のアンタでもわかるでしょ」

  リュート「は、はび、ずびばぜん…」ヒリヒリ
    訳(は、はい、すみません…)


メサルティム、彼女は男性から見れば実に魅力的な膨らみをお持ちの女性型妖魔だ…ただ、その…

なんというか…所謂、"ゾズマ・ファッション"なのが少々目に毒である


  メイレン「メサルティム!基本的に人目の多い場所ではこれを羽織ってと言ったでしょ!はいっ!」つ『白いローブ』

  メサルティム「あ、すいません…ついうっかりと」スッ、ゴソゴソ


 人魚だから下半身にスカートだのズボンなんて物は当然ながら無理なので、それは百歩譲って良いとして
せめて上半身は隠さねば…!いや、胸にお星さまつけるのは妖魔の正装なのかもしれないが…
だが、そう考えると白衣を着た闇医者も白衣の下はお星さまかもしれない、…なんかヤダなそれ

 リュートは目の前の白衣を着た男も胸部にお星さまを二つ付けてるかもしれないと想像して、ちょっと顔色を悪くした


  ヌサカーン「うん?どうかしたかね?顔色が優れない様だが…数刻の合間とは言え、自宅の診療所付近に帰ったのだ」

  ヌサカーン「無償でキミの具合をみてあげるがどうする?」ズイッ

  リュート「い、いや~俺は何処も悪くないんで、あと顔近いです、はい」

  ヌサカーン「キミはあのブルー君の友人であろう?彼には借りがある、また会えたら遠慮せず言うといい」

  リュート「ありゃ?あんた、ブルーの知り合いなのか?」

  ヌサカーン「ああ、以前[保護のルーン]を取りに行くのに少し同行した仲なのだよ」

  リュート「ふぅん…」







  ヌサカーン「……時に、ブルー君のその後はどうかね?」






  リュート「?」


  ヌサカーン「いや、なに、気難しい性格をしてるであろう?」

  リュート「あぁ、アイツ、すぐに仲間と喧嘩したりするんで困るぜ!」ハッハッハ!

  ヌサカーン「ほう、そうか"仲間と喧嘩"か……それは素晴らしい、良い傾向だ」

  ヌサカーン「人間はどんな小さな繋がりであれ、それが時として大きな強みになり、強い心を育む」



  ヌサカーン「最初、手の付けられない狼とも思えたが、孤立せず、共に過ごせる相手が居るならそれは良いことだ」



515以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/11(月) 22:23:51.97g926szxQ0 (3/9)





      ヌサカーン「近い将来、彼は絶望の淵に落とされるような真実を知るかもしれない」


      リュート「! おい、アンタ…それはどういう」



     ヌサカーン「そうなった時、彼の心に芽吹く病魔を殺せるのは心から支えてくれる友という特効薬だろう」

     ヌサカーン「医者としての忠告だよ…」スゥ!


   リュート「あっ、ちょっと待て…って消えちまった…」

   クーン「ヌサカーン先生って偶によく分からないこと言うんだよね、なんだか難しいの!」

   メイレン「…事情を知らない私には何の話かさっぱりだけど、要約するとその知人を支えてくれって事かしら?」




   フェイオン「メイレーン!」タッタッタ…!



 影に消えた、妖魔医師の謎めいた発言に頭を抱える一同の下に、ネオンの光を綺麗に反射させる美しい頭皮を持つ
武闘家フェイオンが駆けて来る、チャイナドレスの女は「遅い!」と腕を組み頬を膨らませ、クーンは陽気に手を振った



  リュート(…んあ?あの弁髪の人[タンザー]で見たような気が?)ハテ


   フェイオン「君が言ってた人物が指輪を売りたいと交渉を持ちかけたぞ!早速[バカラ]に…っと、取込み中か?」

   メイレン「ああ、気にしないで、ちょっと知り合いと再会したから世間話してただけよ」


 メイレンの知人ということで、頭皮が眩しい弁髪の男性とボサボサ髪のニートは握手を交わし簡単な自己紹介を済ませた
クーン等はこの街で指輪の所有者と取引できるかもしれないという話で一度戻って来たらしい
 本来なら[シュライク]にある古代の王の墓へ行く予定だったが、その間に指輪が誰かの手に買い取られては不味いと
優先度を変え、先に[バカラ]へ行く事に決めたらしい


  リュート「他には手にしなきゃならない指輪って何々あるんだい」

  メイレン「そうね、それ以外だと[ムスペルニヴル]の妖魔が所有しているもの、あとは刑期100万年の男の指輪ね」





  メイレン「前者はいつでも船で行けるとして問題は、後者よ、[ディスペア]の牢獄に居る男にどうやって会うか」


  メイレン「どうにかして[ディスぺア]に潜入したいのだけど…どうしたものだか…」ハァ



  リュート「…。」


  リュート「なぁ、それひょっとすっと何とかなっかもしんねぇよ?」


  フェイオン「なに!?それは本当か!」

  メイレン「どきなさいハゲ!!――リュート、それはどういうこと、詳細を!」ズイッ



フェイオンを押し退け、リュートに詰め寄るメイレンを制しながら彼は口を開く、フェイオンがシクシク泣いてる…


 リュート「あぁ、それなんだが、イタ飯屋に行ってみてくれないか?丁度[ディスペア]に行きたがってる奴が居てさ」

 リュート「今から頼み込めば準備とかなんとか間に合うかもしれないんだ」


丁度、蒼い法衣の魔術師がお金にがめつい金髪娘に潜入の手助けを依頼しているから、なんとかなるだろうと彼は思った



516以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/11(月) 22:24:25.78g926szxQ0 (4/9)

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―――
――


【双子が旅立って 5日目 午後 15時35分 [ワカツ]の天守閣】



  ルージュ「…っ」



 【兎】【剣】【怪】





 ルージュは悪戦苦闘していた。


あの後、白薔薇は2度目の挑戦で成功させ、天から舞い降りて来た一枚の札を手にした
 術士は拍手喝采を送り、緑髪の少女は喜びを伝えるべく白薔薇姫に抱き付き、それを眺めていた剣豪もよくやった、と
労いの言葉で祝福して背後のメカ達はサウンドプログラムで派手なファンファーレを鳴らす

二番手としてアセルスが[剣のカード]を得る試練に挑み、計4回目で見事に揃えた




 ここまでは順風だった、問題はルージュで最初は魔術師だからこそこの手の試練には一番向いているだろうと仲間達は
誰しもが考えたが、以外にも紅き術士は何度挑んでも、影を揃えることができなかったのだ


アセルスも白薔薇も固唾を飲んで見守る中、ゲンは目を細めてルージュを見ていた



   ルージュ「ま、まだだ…もう一度…っ」スゥゥ…


   ルージュ「あっ!?」



 【怪】【怪】【怪】



 影は三つ揃った、妖<あやかし>達が牙を剥く様…物の怪を3体揃えてしまった…っっ!



 3つの影『――――!』ドジュウウウゥゥ



 ゲン「全員、武器を手に取れ!」チャキッ





      影 が モンスター の 形 に 変貌 していく !



 ヘルハウンド「グルルルル…」

 モンキーライダーA「ウキキッ!ウキャッ!」
 モンキーライダーB「ウキキッ!ウキャッ!」



 焔色の吐息を漏らす口部は獄炎の園に続いているのか、大型犬の魔物は唸る度に高熱を吐き出し
生意気にも一輪車に乗った白猿は2匹で仲良く一行を嘲っていた、武器を構えだした一行よりも先に
片方の猿はペダルを漕ぎ、[暴走]するッ!



  モンキーライダーA「キャキャキャキャ―――ッッ!」ギュゥゥン!!





517以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/11(月) 22:24:57.98g926szxQ0 (5/9)



   一輪車『  』ギュラララララララララララララ―――ッッッ!


  白薔薇「あ、アセルス様!伏せてくださ あ"ぁっ!?」ドギャンッ



 獣系の魔物[モンキーライダー]はその愉快な見た目に反して相当なパワータイプであり、彼奴の駆る一輪車を
舐めて掛かってはならない、細い脚の何処にそんな筋力があって、何で一輪車が出来ているのか
過去に冒険者の成人男性がこの白猿が操る車輪で轢かれ、腹の贓物が見事にミンチ肉にされたなどという事案があった
 トリニティ政府はこの一件から、このモンスターを【危険度ランク4】相当の危険生物として認定した



 ルージュ「白薔薇さん!?っ――こ、こいつぅ!!」チャキッ BANNG!



 三畳の畳で座していたルージュは立ち上がり、持っていた拳銃の引鉄を引くが―――


  ヒュンッ!


  モンキーライダーB「ウキャキャキャキャキャキャ!」ゲラゲラ…!


  ルージュ「だ、駄目だ…!早すぎて当たらな――」



  ドゴォッ、グシャッ




  ルージュ「……。」

  ルージュ「ぇ」


 ゴロッ…ボトッ…ドクドク…


 ルージュの左手首『 』ドクドク…


  ルージュ「――――ッ、う か” あ””"あぁ"ぁ"――」




 左手は火が点いた様に熱くなった、宙に浮かぶような夢心地を一瞬感じで、身体が自然と後方へと倒れていく
ごつん!と後頭部を畳へ打ち付けて、何が起きたのか辺りを見渡した…

"何か"が倒れた自分に続く様にワンテンポ遅れて床に落っこちてきた、それは見覚えのある左手首で誰のだったか

脳がそれを理解した瞬間に、熱の灯った左手首の付け根が熱さから激痛へと変わった、それがルージュが気を失う前の光景








            ゲン「  [ 二 刀 烈 風 剣 ] !! 」ヒュッ!シュバン!シュバン!シュバンッ!






―――
――





518以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/11(月) 22:25:34.13g926szxQ0 (6/9)










   ルージュ「…うっ、ここは、…何処だ!?」




   「けけけっ!だから言ったろう!そんな豆鉄砲じゃ鳩だって堕とせやしないぜ!クケーッ!」


  ルージュ「…お前は!」




   ハーピー「そうともよ![心術]の試練じゃよくも術で殺してくれたな!けけ…でも許してやるよ!」

   ハーピー「お前は今から俺と同じトコに行くからサ!仲よくしようや!兄弟!ケケケッ!」


  ルージュ「兄弟!?ふざけるな誰がお前みたいな奴と…待て、なんだって、僕がお前と同じトコに…」





ガシッ


  気が付けば、ルージュは[ハーピー]の鉤爪に掴まれていた―――





   ―――いや、鉤爪じゃなかった、それは人の手だった、さっきまで拳銃を握っていたルージュの手と同じ人の…







     ハーピ?「聞こえなかったのか?お前はこれから俺と同じトコに行くんだよ」グニャァ…



   目の前の半人半鳥の化け物の顔が粘土のようにぐにゃぐにゃと代わる




     ハー?ー「お前はこれから血塗られた運命に従って悪行を重ねる、そんな奴が一丁前に銃を持ち友達を守る?」






     ?ルー「笑わせるな」




     ブ??「友を守るというのも建前だ、"資質"を得て俺を殺す為、いいや、違うな」

     ??ー「おまえは結局の所、反逆罪で殺されたくないから、その為に何かにつけて理由を述べ」

     ブル?「そして、資質を得て、自分が助かりたいから武器を手にしているだけだ…力を手にして俺を殺す為に」




    ルージュ「…ぁ、ぁあ…ま、まさか…君は」ガタガタ





519以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/11(月) 22:26:22.08g926szxQ0 (7/9)


   [ハーピー]の顔が誰かの顔に変わっていく…それは、朝起きて顔を洗う為に鏡を見ればいつでも会える顔…














          ブルー「なぁ?そうだろう"兄弟"」


          ルージュ「ち、違うッ!」














  ブルー「いいや、違わないさ、なら何故お前は仲間に旅の目的を打ち明けない?」

  ブルー「エミリアと[マンハッタン]で話をしていた時だってそうだ、あの4人での昼食時の時にでも言えれた筈だ」


  ブルー「『僕は国命令で実の兄弟を殺す為、修行の旅に出たんです』と、な」


  ブルー「言わないのは、お前が仲間を心の底から信じていないから…―――利用するのが目的だからだろう?」


  ルージュ「ッ!―――そんな訳が」






  ブルー「 な ら ッ ! 何 故 言 わ な い ! 答 え ろ ル ー ジ ュ !!」



    ルージュ「っ」ビクッ!





  ブルー「…。」

  ブルー「だんまりか?自分に都合が悪い事だとお前は誰にも何も口を出さないな、仲間にも真実を打ち明けない」




  ブルー「そんな迷いを抱えている様な、情けない男が…試練を1つだって乗り越えられる訳もないだろうに…」

  ルージュ「……ブルー…?」



  ブルー「貴様の仲間とやらは、お前の真相を知れば掌を返して突き放すような軽薄な人間か?」

  ブルー「ならこれまでの旅はとんだ"うわべっ面だけの友情ごっこ"だったな、貴様には似合いだ」


  ルージュ「…!」


  ブルー「まぁ、俺もお前も同じ所、……地獄に落ちるのだ、今更どうでもいい話だな」スゥゥゥ…



520以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/11(月) 22:27:02.91g926szxQ0 (8/9)



      ルージュ「き、キミ…身体が透けて…」



      ブルー「先に地獄で待ってるぞ」シュゥゥゥ…






    ルージュ「ま、待て!ブルー!ブルー…っっ!!     兄さん!」










  ゴォォォ!


     ルージュ「えっ、あ、うわああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!」





    ゴオオオオオオオオオォォォォォ!ボォォォ! メラメラメラ… バチバチ!



―――
――


【双子が旅立って 5日目 16時27分 [ワカツ]の天守閣】



  ルージュ「――ぃ、いやだ、いやだ…」う~ん


 ゲン「おい!しっかりしろ!兄ちゃん!起きろって!」ペチペチ


  ルージュ「…。」

  ルージュ「ハッ!?こ、ここは…さっきのは?」


 ゲン「兄ちゃん、白薔薇の姉ちゃんに感謝しろよな?妖魔だから比較的軽傷だったって、んで[克己]で完全回復して」

 ゲン「そっから気ぃ失っちまった兄ちゃんに付きっきりで看病してたんだぜ?[陽術]の使い手で助かったな」



 ゲン「なんの夢見てたんだか知らねぇがよ、…俺から一言言わせてもらうぜ」


ゲンの目が細くなる、さっきまでのルージュの試練を終止見ていた時の眼だ


 ゲン「[剣のカード]は心の試練だ、[心術]の修行と似てはいるが、微妙に異なる試練でな」

 ゲン「迷いがある奴は影を三つ揃えることはできねぇ……兄ちゃんを途中から見てて思ったのさ」


 ルージュ「迷い…」


 ゲン「ああ、…[心術]の修行ってのは聞くところによれば自分の心の奥底にある不安や怖れがバケモンの形で出る」

 ゲン「で、そいつに勝ちゃあ合格ってもんだがな、俺が思うにそれは"切欠"なんだわ」


紅き術士は「それはどういう意味ですか」と尋ねようとした、ゲンは腕を組み静かにルージュへと語る



521今回此処まで2019/03/11(月) 22:27:42.81g926szxQ0 (9/9)


 ゲン「そうだな、…俺は精神科のお医者様じゃあねぇからあんましどうのこうのと言えやしねぇけど」

 ゲン「人間の心には自分にしか分からない側面と、他人にしか分からない側面、自分にも他人にすら分からない面」

 ゲン「そういうのがあるって聞いた事ねぇか?」


 ルージュ「それは、あります…確か人間心理学におけるジョハリの窓でしたか…」


 ゲン「いやぁ、俺は専門家じゃねえからそんなもんの名称なんざどうでもいいんだ」

 ゲン「重要なのは、そこだ、【自分で気が付いていない不安や見つめなきゃならない問題】を気づかせる」


 ゲン「それが[心術]の修行における真の目的で、夢の中で魔物倒して資質を貰うのはあくまでオマケじゃないかって」

 ゲン「俺はそう思う、実際はどうだか知らねぇけどよ」




 ルージュ「……」




 -『へひゃひゃ!へたくそぉ!そんな豆鉄砲の腕じゃあ鳩だって堕とせねぇーぜ、ケヒッ』-

 -『けけけっ!だから言ったろう!そんな豆鉄砲じゃ鳩だって堕とせやしないぜ!クケーッ!』-


  -『おまえは結局の所、反逆罪で殺されたくないから、その為に何かにつけて理由を述べ』-

  -『そして、資質を得て、自分が助かりたいから武器を手にしているだけだ…力を手にして俺を殺す為に』-



  -『いいや、違わないさ、なら何故お前は仲間に旅の目的を打ち明けない?』-



  -『 な ら ッ ! 何 故 言 わ な い ! 答 え ろ ル ー ジ ュ !!』-


 -『だんまりか?自分に都合が悪い事だとお前は誰にも何も口を出さないな、仲間にも真実を打ち明けない』-






…[心術]の試練で、心の中に出て来た化け物と1対1で戦った


仲間は誰も居ない、その土俵でルージュと、"目の前の人物"と1対1で、決闘をしたんだ

そいつは、夢に出て来て、自分の行動を指摘した…なぜ旅を共にする友人に真実を打ち明けないのだ、と
 心の底にそんな重荷がある奴が試練を達成できるものか!と…見た事も会った事も無い兄に叱られた




 自分自身が気づいてない深層心理の奥底、本当は勇気をだして見つめなきゃいけない問題に気付かせる…



それが[心術]の資質を得た物が最初に開く学び舎の門であり、探求し続けなければならない課題



 ゲンに言われルージュはそうなのかもしれない、と思った、本当の意味で[心術]の"裏試験"を合格してないのかもな、と


  ルージュ「…ゲンさん、ご迷惑をおかけしました、自分の中で少しだけ答えが見えた気がします」



術士は、決意を宿した…帰ったら、アセルスお嬢にも白薔薇姫にも後に再開するレッド少年もだ


自分の…"親友"に、僕の旅の目的―――兄殺し――を告白しよう、と




522以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/12(火) 16:30:28.402xkBbZl7O (1/1)




523以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/13(水) 07:03:00.11aZm8qjWJO (1/1)


心術の資質を会得出来たこととも絡めてくるとは


524少し投下2019/03/16(土) 01:27:47.025vLt6XnI0 (1/8)



 ルージュ「もう一度だけ、…カードの試練を受けさせてください」ジッ



 ゲン「……ふむ」


 ゲン「…兄ちゃんの眼にゃ未だ迷いや戸惑いの色が見えるな」

 ゲン「だがその奥に強い意志の色も見える、腹括った野郎にしかできない目だわな」


[京]の旅館でも見た、瞳の奥にある力強い"何か"…、まだ20そこらしか歳を喰っちゃいない男がそんな重い目をできるのは
相当の理由がある、剣豪はだからこそこの魔術師を見守ってやろうと思った、一体腹にどんなモンを抱えてんのか、と



 ゲン「俺は護衛だ、兄ちゃんが折れるまでは何度でも傍に居てバケモン共を斬り捨ててやるさ、好きなだけやんな」

 ルージュ「…感謝します」ペコッ


 ゲン「おっと、礼はいらねぇぜ、それよか」

 ルージュ「はい、他に言うべき人が居る、ですよね」


 ゲン「わぁってんじゃねぇかよ、ほら、女は待たせちゃいけねぇんだ、とっとと行けって」


白薔薇姫とアセルスお嬢に心配かけてすまないと謝りに行こう、その思いを胸に彼は下の階層へと駆けて行った



  ゲン「やれやれ…、まだ危うさはあるが、あの分だとアイツは試練に合格するだろうな」ゴソゴソ


 剣豪はその場に胡坐をかき、一升瓶を取り出す…彼は考える、ああいう目をした奴はこの惑星<リージョン>が
世界最強の剣術家たちの憧れであった頃によく見た
 目の奥に宿る、命と命の奪い合い、生と死、自分の命を護る為に目の前にいる敵を斬り殺そうとする戦士の眼だ
合戦場で足軽から武将まで、全員が光らせる命を諦めまいとする眼差しとほぼ同じだ


  ゲン「―――」グビグビ、プハァ


  ゲン「かぁーっ!うめぇ!!」ダンッ



  ゲン「…」

  ゲン(心の迷い、かぁ…)


 酒瓶を床に、置きゲンは一人ボロボロの天守閣の天井を見上げた、優しい酔いが逃げ出したくなるような惨状を暈した
ぐにゃぐにゃと鍋の中で加熱し過ぎて煮崩れを起こした煮物の様に浮かんでくる情景も形を変える


そんな中、彼の頭に一つだけ鮮明な形をした一室が浮かんで来た、この城の地下にある…


  …強き者に最強の剣を授ける神をまつる部屋が―――







ゲンは首を大きく振った、何を考えているんだ自分は、と何処か彼らしくない自嘲めいた顔で浮かんだ景色を振り払った




  ゲン「今の俺じゃ[剣神の間]に行った所でなにも……ハンッ、俺の方があの兄ちゃんより迷いありまくりじゃねぇか」




そう独り言ちり、酒瓶に彼は再び口をつけた




525以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/16(土) 01:28:23.715vLt6XnI0 (2/8)

*******************************************************
―――
――


【双子が旅立って 5日目 午後 17時08分 [クーロン]】


 犯罪都市の裏通りに存在する小さな病院、消毒液のアルコール臭さと棚に並べられた怪しげな薬瓶から漂う異様な匂いと
塵埃が交じり合ったこの物件に家主が帰って来た、折角立ち寄ったのだからと自宅で寛ぎながら診断書<カルテ>でも
書き上げてしまおうかと考えたからだ

 1時間そこらしたら、すぐに切り上げて現在所属しているパーティーの元へ戻ろうと玄関口を開くことなく妖魔医師の影が
エントランスの中央に現れ、自分の影から、薄暗い水底からダイバーが浮上するようにヌサカーンは現れた



     ヌサカーン「ふぅ…、おや?…」スンスン



帰宅した医者は、戻って来るや否や鼻をひくつかせた、留守の間に変わった客人が来ていたようだ…
 砂漠に咲き乱れる一輪の白薔薇の様な香り、それに茨の園にある蕾に近い香り


"香り"とは言ったがそれはあくまで比喩表現だ


妖魔は、同族の気配を特有の感覚で察知することができる

 留守の合間に来ていた妖魔の置き土産である妖気は、強い芯を持っているがまだ咲ききれない蕾の様な物と
ハッキリとした品位を持った気高い存在だと窺い知れた、裏通りで観光客目当てに追剥紛いなことをして生計を立てる
溝鼠以下の下級妖魔のソレとはまた違う



   ヌサカーン「ゾズマ…ではないな、かといって私に治療を求めて来た浮浪者の妖魔でもないか」



奇病フェチとしてその界隈で名が通る変人のヌサカーンは、患者から代金を取らない

 いや、病院の設備維持費の為にも最低限は必要とするが

 普通の病院なら人間が生涯を終身まで延々と労働時間に当て、それで築いた莫大な資金を全額はたいてようやくという
法外な金額の医療費も、ヌサカーンなら『自分の知的好奇心を満たしてくれた』『趣味でやってるから金銭はいらんよ』と
世間一般的な欲望とは他の妖魔以上にあまりにも無縁な人格なのだ

 そんな彼の下に、金は無いが同族の誼、あるいは気まぐれで自分を治療してくれないかと
淡い期待で群がってくる妖魔は少なくない、本当に彼の気分で治して貰えた者以外は門前払いだったが…


神出鬼没の友人であるゾズマではないなら、留守中に忍び込んだ下級妖魔か?

いいや、違う…少し前に此処を訪れた白薔薇姫とアセルスお嬢だ


   ヌサカーン「…まぁいい、誰かは知らんが今は他の患者に付きっきりだからな」テクテク


 彼はクーン等との旅で、時間を見繕っては見つけて来た古い書物の束から一冊
古き時代のリージョン界に関する記述に書かれた本を手に取った




  ヌサカーン「その昔、数多く存在したリージョンが滅んだ、…星さえも破壊する人類の機械兵器」ペラペラ…


  ヌサカーン「これは、確かなんという名だったかな…? あーるびー、スリー…だったかな?」ペラッ


  ヌサカーン「破壊されたリージョンの中に古代の技術がある、星と共に破壊され永久に失われた技術」ペラッ、ペラッ

  ヌサカーン「…ふむ? 最後の皇帝… 麗しの、帝国、 七人の英雄、同化の力と継承の力……ダメだな」ペラッ、パタン




  ヌサカーン「失われた古代時代の情報だ、この本も殆ど掠れて読めんな」

  ヌサカーン「ブルー君の身体も弟の方も恐らくは、これの応用技術が使われている筈…」

  ヌサカーン「恐らく、双子が対面し、片方が片割れの命を奪った時、同化と継承の力が働き――」ブツブツ



526以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/16(土) 01:29:02.865vLt6XnI0 (3/8)



  ヌサカーン「何れにしても資料が足りん、となれば…[マジックキングダム]…[フルド]の奴か」ハァ…

  ヌサカーン「気が進まんな、あるいは裏であの魔法大国と黒い繋がりのある[シュライク]の[生命科学研究所]か」


闇医師は、そう言って再び影に沈み彼は仲間の元へと帰って行った…


―――
――



   ライザ「…。」テクテク…



 日が暮れて、一般家庭から繁華街の飲食店までどこもかしこも食指を刺激する匂いを漂わせる時間帯
当然ながら裏組織"グラディウス"のアジトたるイタリアンレストランも『open』の札を玄関口に掛けて、従業員一同が
店内でせかせかと働いている頃合いであった

そんな中、彼女は一人で雑踏が昼間以上に騒がしくなり始めた中心街を歩いていた、知り合いのニートの頼みだからだ


 一見すればただの買い物帰りにしか見えないパンの入った紙袋を抱えて歩くライザはターゲットの集団へ近づく

 緑色のケモミミ少年と、チャイナ衣装の男女
白いローブを羽織った人魚、…よくウチへ来てルーファスの料理を食べにくる怪しい医者、知り合いから聞かされた通りだ



   ライザ「よろしければどうぞ」スッ

   メイレン「あら、どうも」スッ



イタリアンレストランの割引券『 』



 一枚のクーポン券だ、ただし…"ワケありのお客"にしか手渡されない特別なソレ
普通の席に座り飯を食いに来ただけの一般客と特等席での会食を希望する者を区別する為のパスチケットの様なものだ


他に客の居ない静かな個室で従業員とビジネスの話をしながらの食事だ、カタギの奴らに聞かれたらダメな内容の奴の



  メイレン(彼から事前に聞いた話じゃ[ディスペア]には定期的にパイプや電装関係の修理工が入る)

  メイレン(このお店に行けば、潜入に手を貸してくれるプロが居るってわけね)


  クーン「ねぇ、メイレン…」


  メイレン「うん?」

  クーン「ボク、修理なんてできないよぉ」シュン

  メイレン「…あまり、大きい声で言わないで頂戴、大丈夫よ振りだけでいいのよ」ナデナデ


 獣耳がペタンと垂れ気味で落ち込んだ幼子の頭を撫でながら小声でメイレンは囁いた、フェイオンだってできないし
妖魔のヌサカーン先生…はわからないけど、メサルティムだってできないわ、と元気づけるように



  メイレン「上手くいけたら、刑期100万年の男に会いに行きましょう、ね?」

  メイレン「英気を養うために今晩はこのお店で美味しい物たくさん食べることにするし」クスッ


一枚のクーポン、特別客専用の、50%OFFチケットをひらひらとさせながら笑いかける
 食欲旺盛な緑の獣っ子は顔にパッと花を咲かせて喜び、小動物とも歳相応な幼子ともどちらとも受け取れる行動で
感情を体現した、メイレンの周りを雪が降った後に庭駆けまわる子犬の如くぐるぐる駆け回った


  ヌサカーン「あの店か、サングラスの店長が作るグラタンは絶品だからな、テイクアウトも頼もう」

  メサルティム「…で、では…私はシーフードサラダを…」



527以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/16(土) 01:29:46.275vLt6XnI0 (4/8)



  メイレン「ええ!なんだってじゃんじゃん注文しちゃっていいわよ!全額フェイオン持ちだから」ニコッ

  フェイオン「えっ」



  メイレン「そうね、私も…あっ、このスープオムライスとか美味しそうじゃない?」

  メイレン「あの紙袋の人、メニュー表まで渡してくれたのよね~」


  フェイオン「め、メイレン…あの、そのクーポン、一品しか割引されないんだが…それに俺の財布」


  メイレン「冗談よ、全く本気にしないでよね…ほら?『[ヨークランド]で手に入った資金』がそのままじゃない」

  フェイオン「そ、そうか!冗談か!ははは…キミも人が悪い…はは」



  メサルティム「あのー…私は[オウミ]で皆さんの旅に加わったので、詳しく経緯を知らないのですが…」



 なにがあったんです?とか、失礼ですが皆さんそんなにお金に裕福そうには見えませんでした、とオドオドしながら
人魚が説明を求める



  フェイオン「あぁ…あれは、なんというか、悲しい事件だったというか…その」ゴニョゴニョ

   メイレン「必要な犠牲だったのよ、[マンハッタン]で売りに出されてた指輪が超高額だったのが悪いわ」



 明後日の方角を見始めるメイレンと気まずそうに口籠るフェイオンにメサルティムの不安げな顔色が更に増した
いつでも笑顔のクーンと金銭感覚が可笑しい妖魔医師の方に顔を向けると二人は訳を語ってくれた



  クーン「えっとね、"豪富さんに貰った"んだよ!」ニコニコ

  ヌサカーン「私は別に治療費などいらなかったのだがなぁ……」フム





      ~ 回想 [ヨークランド]  ~




   病魔モール「ぎえええええええぃぃぃ!!…おのれぇ!この人間の命は私の物!邪魔をスルナ!!」



  [生命の指輪]をつけた幼女「ハァハァ…たす、けて…おねえちゃん…」ツーッ、ポロポロ



  ヌサカーン「来たぞ!先に説明した手順通りだ、奴は今、患者に憑りついている…これで逃げられん状態だ」

  ヌサカーン「だが、同時に患者から生命力を吸い尽くし憑り殺そうとする、このままでは患者の生命力が持たん」


  病魔モール「ぎひひっ、そうさ!小娘の命を吸い上げて殺してやるさ!未発育の少女の肉体ほど甘美な生命力は――」



  メイレン「気持ち悪っ!女の敵だわ…先生こいつはさっさと退治しましょう!!」


  ヌサカーン「よろしいならば早期決着だ、   こ れ よ り 手 術<オペ> を 開 始 す る ッッ!」


    病魔モール「エ、あの、チョット―――」


<[シルフィード][超風][短勁][妖魔の剣]

<あぎゃーーーーーっ!



528以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/16(土) 01:30:33.015vLt6XnI0 (5/8)



  病魔モール「ゲボ!」ドジャア


 メイレン「くっ、まだ息があるわね!!こうなったら連携技を決めるわよ!各自!連携しやすい技と術を!」(銃構え)



 ズドンッ! バッ、ドゲシャァ! ヒュンヒュンッ!バチチチ…ゴォォ!



  フェイオン「…既に虫の息だった気もしたが、やったな!」

  クーン「うんっ!これであの子も助かるよね!」





  [生命の指輪]をつけた幼女「う、う~ん…」




  豪富さん「せ、先生!ウチの娘の容態は!?」ガチャッ、バッ!


  ヌサカーン「安心したまえ、見ての通りだ」


  [生命の指輪]をつけた幼女「おとうさん!」

  豪富さん「お、おぉ…、良かった、良かった…」ポロポロ


  豪富さん「先生!皆さん!本当にありがとうございます!なんとお礼を申し上げて良い事か」


  ヌサカーン「いや、中々興味深い病原体を観察できたし寧ろ私がお礼を「あー!はいはい先生は少し黙ってくださる」


  豪富さん「皆さんにはできる限りのお礼を…」





  [生命の指輪]をつけた幼女「あ、おとうさん、少しだけ待って……よいしょっと」ベットから起きて歩き出す


  アニーの実妹の幼女「ハイ!これ」つ【生命の指輪】


  クーン「くれるの!?」

  豪富さん「お、お前!?それを渡してはお前の身体が…」

  アニーの実妹の幼女「ううん、もう大丈夫よ!それにね、夢の中で指輪が兄弟に会いたいって言ったの」



  アニーの実妹の幼女「クーン君が持ってるんだよね?だからあげるっ!」

  クーン「わーい!ありがとう!」ダキッ


  アニーの実妹の幼女「あっ、…うん、頑張ってね///」



―――
――



  ヌサカーン「とまぁ、このように童女趣味という変わった病原体を観察できて私としては中々愉快な時間だった」

  クーン「あの子元気かなぁ、旅に出る前に教えてくれたけど豪富さんの養子になる前は[クーロン]に居たんだって」


  メサルティム「は、はぁ…そうですか…」




529以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/16(土) 01:31:00.605vLt6XnI0 (6/8)


 メサルティムは話が大分脇道に逸れそうなのを察して、軌道を修正しようと考えた
緑の獣っ子は見ての通り、他者への説明が上手とは言えない…幼子特有の本題から脱線して別の話にすり替わるアレだ

 医者の方は、医者の方で完全に趣味の世界に生きてる妖魔だからこのままだと自分が治療してきた珍しい奇病や
某珍百景を紹介するテレビ番組の如く世界どっきり患者特集なんていうトークショーに発展しかねない




   メサルティム「そのー、結局の所どうやって大金を得たんでしょうか…」

   クーン「んっとね、豪富さんから沢山もらったの!」



      ~ 回想 [ヨークランド]  ~



  豪富さん「娘はああいってますが、これは私からです、どうか受け取ってください」つ『500クレジット』


  フェイオン「なんと!?このような大金を…」
  ヌサカーン「私は別に金など要らないのだが…」


  メイレン「二人共シャラップ、コホン…豪富さん、ありがとうございます…ですが、その…」






  メイレン「たいへん厚かましいとは思いですがもう少し頂いてもよろしいでしょうか?」ニコッ



  豪富さん「え、あ、あぁ…申し訳ない、娘の不治の病を治して頂いたのに」

  豪富さん「命の値段がたかが500とは確かに少なすぎましたね…今持って参りますので少々お待ちを」



  フェイオン「お、おい、メイレン…」

  メイレン「フェイオン!忘れたの!?[マンハッタン]で売られている指輪の金額を!」


  メイレン「3000クレジットよ!?わかる! 3・0・0・0、クレジット!!公務員レベルの月給いくらだと!?」ガシッ

  フェイオン「ぐえっ…わ、わかった首が閉まるから…ぎ、ギブギブ!」


  メイレン「[IRPO]の隊員みたいな高給の社員がねぇ!一世を風靡する女性モデルに婚約指輪代わりで贈る様な
         [パールハート]でさえ1500クレジットもするのよ!?3000なんてその2倍よ!わかっての!?ええっ!」


  フェイオン「ゎ、わかったから、やめ…あ、意識が遠く…」ガクガク


   ヌサカーン「まぁまぁ、その辺にしたまえ、酸欠になりかけているからな」

バッ

  フェイオン「げっほぇぇ…!!」ゴロゴロ


  豪富さん「お待たせいたしました!もう500クレジットです!…?どうかなさいましたか?」

  フェイオン「い、いえ…お気になさら「豪富さん!」


  豪富さん「は、はい!」

  メイレン「豪富さん…彼、私の恋人のフェイオンは先程の治療で病魔から受けた傷が痛むそうなんです」

  豪富さん「な、なんと…」


  メイレン「娘さんの命を奪われまいと、必死に戦い一歩間違えば此方が死ぬかもしれない激闘でしたわ…」グスッ
  ヌサカーン「いや別にそうでも無かっ「先生、シャラップ」

  メイレン「コホン、豪富さん…非常に申し訳ありませんが、もう500クレジット工面できませんか」



530以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/16(土) 01:32:18.875vLt6XnI0 (7/8)



  豪富さん「そ、そうでしたか…確かに皆さんのお命も危険にさらしてしまったのですね…しょ、少々お待ちを!」


ドタバタドタバタ…


  豪富さん「こ、こちらになります、これで合わせて1500クレジットです!」




  メイレン「豪富さん」ニコッ

  豪富さん「ぇ、ぇ、…あ、あの…」ゾクッ


  メイレン「お金はまた稼げば手に出来ます、でも命に替えはききませんよね?」


  豪富さん「…う、ウチの金庫にあったのはそれで全部で」


  メイレン「 」ニコニコ


  豪富さん「 」

  豪富さん「…ぎ、銀行の預金口座からお金をおろしてきます」


  メイレン「豪富さん!」


  豪富さん「!」クルッ


  メイレン「私達は一旦この家を出ます、…"次、私達がこの家に入ってきて話し掛けた時は"…わかりますね?」ニッコリ



  豪富さん「……は、はぃ…」



―――
――



     ヌサカーン「こうして我々は1時間おきに彼の家に出入りを繰り返し、3000クレジットを入手した」


     メサルティム「…うわぁ」


     ヌサカーン「……。」

     ヌサカーン「…最後はな、『もう勘弁してください』と涙と鼻水を垂らして顔色が真っ青でな」


     ヌサカーン「2階に居た患者の少女も吹き抜け手摺の所から眺めていてな」

     ヌサカーン「身体は健康体になった筈で何処も痛みは無いだろうにな、…泣いていた」


     ヌサカーン「不思議なモノだ、私自身は病に侵された事はないが、心臓部が締め付けられる様に痛くなったよ」


     メサルティム「そ、そうですか…それは、その…なんともうしますか…」


     クーン「んとね、次の日、ボク別のリージョンに旅に出ちゃうからあの子にお別れ言おうとしたんだ」

     クーン「でも、お引越ししちゃったんだって、近所の人が言ってたんだ『豪富さん夜逃げしちゃったよ』って」


     メサルティム「 」


     クーン「せんせー!"よにげ"ってお引越しのことなんだよね?」

     ヌサカーン「…うむ、それで合ってる、キミは賢いな、うむ」ナデナデ



531以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/16(土) 01:53:55.105vLt6XnI0 (8/8)

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                  今 回 は 此 処 ま で !



   豪富さん夜逃げしちゃったよ…、について、少々解説



 25歳の無職ことリュートの生まれ故郷である[ヨークランド]に住む豪富さんがクーン(プレイヤー)によって全財産を
 毟り取られ、養子であるアニーの妹を連れて泣く泣く夜逃げする様子である


 病魔モール撃破後に豪富さんに話しかけることで500クレジットを頂戴でき、更にもう一度話し掛けることで
 500クレジットの追加、更に話し掛けてでもう500せしめられるのであった


 記憶違いで無いなら、一度に3回までで、一度豪富さんの家を出てMAP切り替えをする、再び豪富さんの家に入り
 もう一度話し掛ける事で500クレジットを巻き上げる、そしてもう一度話すことで…以下ループ


 と、無限に金を奪えるように見えて、実は上限があり…この辺りイベント条件を忘れてしまい調べましたが

 この繰り返しで1500×2…計3000クレジットという大金を毟り取る事が可能だそうです
(記憶違いでしたか4回話し掛けるとマップ切り替え後にもう一度貰うが出来なくなったような気がしましたが…)


 未確認情報ですが、パーティーを強化しまくってヌサカーン先生を仲間にせず、病魔モールを初回で逃がさず倒すと
 更にもう500クレジット手に入れて 3500クレジット入手可能になるそうです





 ……大抵のサガフロプレイヤーはマンハッタンで売りに出される指輪の為に豪富さんを破産に追い詰めたことでしょう


 なお、小説版『ヒューズのクレイジー捜査日誌』においては、クーンに大金せしめられて夜逃げするのが正史らしく

 その豪富さんとアニーの妹は[シュライク]の[済王の古墳]近くで木の実を拾って食べたり
 ひもじいホームレス生活をしている…


*******************************************************


532以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/16(土) 07:47:55.89Bpp/IQrco (1/1)

悲惨すぎる・・・


533以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/16(土) 17:50:39.25rlcIrsbyO (1/1)

ヨークランドの富豪さん野子とは……嫌な事件だったね


534少し投下2019/03/19(火) 22:33:43.39RPhB0ynO0 (1/5)


 メサルティムは今更ながらこの人達の御供として着いて来て本当に良かったのか、と不安を抱き始めた
高貴な上級妖魔の気配を感じ、ひょっとしたら自分を以前救ってくれたアセルス様が来たのでは!?と期待を胸に
水面から顔を出したのが運の尽きであった
 見知らぬ御方とは言え上級妖魔、機嫌を損ねてはならぬと声をお掛けした結果が旅についてこいだったのだから仕方ない



  ヌサカーン「メサルティム、やはり顔色が優れないようだな」


  メサルティム「! い、いえ、そのようなことは…!!」アワワワ


  ヌサカーン「…何度も言うが、私は別に君を取って食おうとは思っていない落ち着き給え」ハァ…

  ヌサカーン「話しながら歩いていたからか、メイレン達と距離が空いてしまったな、少し早歩きで行くとしよう」

  クーン「はーい!」テクテク
  メサルティム「あぁ!お待ちください!!」フヨフヨ



―――
――

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―――
――

【双子が旅立って 5日目 20時07分 [マンハッタン]シップ発着場】



<4番ゲートより、間もなく[シュライク]行きの便が出ます、ご利用のお客様はお急ぎください



  ガヤガヤ…ザワザワ…




  ゲン「…なんてこった」パサッ



 剣豪は小銭を出して購読した新聞紙を無造作に可燃ごみの籠に放り捨てた
遡る事、数刻前…ルージュは、旅の同行者であるアセルス、白薔薇姫、そしてゲン達に自身の秘密を打ち明けた


その時の会話はこうだ


  ルージュ『―――という訳で、僕は…兄さん、ブルーを殺す為に国を出ることになったんだ、黙ってて、…ごめん』


  アセルス『…そんな』

   白薔薇『血を分けた兄弟で…』




  アセルス『…でも、話を聞く分には、嫌なんでしょ!?だったら…』

  ルージュ『うん、僕もどうにかして断ち切りたい、国に定められた宿命の闘いなんてまっぴらだ』


    ゲン『―――頭じゃ分かっちゃいるが今は、資質を集める、それしかねぇんだろ?』


  ルージュ『…はい、国が何処で監視してるのかは分かりませんが、資質集めの旅をしていないなら僕はきっと……』


    ゲン『そうか、……すまねぇが俺にはいい知恵を出せそうに無い』

  ルージュ『いえ、いいんです、寧ろここまでよくしてもらったんですから』



    ゲン『…うっし、なら俺から旅の途中で聞いた情報をやるぜ、カードの資質で[杯のカード]に関してだ』





535以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/19(火) 22:34:18.22RPhB0ynO0 (2/5)



  ゲン『俺は見ての通り、無類の酒好きって奴でよ、酒造の聖地とも呼ばれる[ヨークランド]に寄ったのさ』

  ゲン『そこで、[杯のカード]に関する話を小耳に挟んだんだ、酒蔵の奴らがカードに詳しいってな』



  ゲン『…だから、次は"英気を養うために数日経ってから"[ヨークランド]に迎え』


 ルージュ『えっ?』



  ゲン『旅をしなきゃ、反逆罪だっけか?なんかよくわかんねー理由でお前が処刑されるんだろ』

  ゲン『でもよ、厳しい試練なら当然、身体の調子を整えるのは重要だ…』


  ゲン『ここで[剣のカード]を得たら、数日休め、宿泊代は俺が出してやる…』


 ルージュ『…!ゲンさん』


 白薔薇『うふふ!そうですわね、試練に備えてベストコンディションにするのは重要ですわ』

 白薔薇『断じて、それはおサボりではありませんわね』クスクス


 アセルス『現状を打開する方法、考える時間はあるなら、たくさんあった方がいいものね』



  ゲン『俺にはこんな事しかしてやれねぇがよ…お前も気ぃ張ってばっかだと疲れるだろ?』

  ゲン『気にすんな、お前の国の奴らが来て兄ちゃんが怠けてるとか喚いたら俺が片っ端から叩きのめしてやらぁ』


 T-260『協力致します』

 ナカジマ零式『わーお、過激で面白そー、じゃないですかー!』

 特殊工作車『不安はありますが、きっと何とかなりますよ』




 ルージュ『…みんな…』





 嘘も方便、物は言い様、……何かしらの方法でルージュもブルーも、片割れが殺し合いを放棄しない様にと常に
見張る必要性がある、その手段はわからないが、数日程の休養を取る分には"向こう側"も文句は言わない筈だ

 必要な事だから仕方ないのだ、と

 実際問題ブルーでさえ、[ディスペア]潜入で数日足止めを喰らうわ、剣術の修行を始めるわと
試練に挑まず下準備の期間を設けている


 なら、この言い分だって多少は通ると信じたい


 それで何か上のお偉方から御叱りを受けるようなら『ブルーを殺す為に拳銃片手に射撃訓練してました』と
でも適当な口実を言えば良かろう



 そう考えれば多少は気も楽になるというものだ…


 そこから先は影を三つ揃える修行に戻ったルージュが嘘の様に精神を研ぎ澄ませて見事に交差する剣を三つ揃え
天に認められて[剣のカード]を取得した


 一行は[ワカツ]を出て、レッド少年と連絡が取れるように機械文明の発達した惑星で携帯電話を調達しようと
[マンハッタン]に向かった


―――と、ここまでが今現在、機械都市にゲン達が居る経緯である



536以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/19(火) 22:34:49.99RPhB0ynO0 (3/5)




  ゲン「まさか俺達が[シンロウ]だの[京]や[ワカツ]に行ってた間に…レオナルドさんが死んじまってたなんてな」



 ルージュ達との[ワカツ]でのやり取り、カード取得までの流れを振り返りながら剣豪は再び、自分が投げ捨てた新聞紙を
睨む様に眺めた、政治経済に関する見出しでヤルート執政官が失脚しモンドという男が執政官になった内容から最近起きた
爆破テロ事件でT-260とゲンに協力してくれたレオナルド博士が死亡したという文面までハッキリと見える



 レオナルド・バナロッティ・エデューソン…


 近所のバーガーショップで安いハンバーガー齧りながらT-260の独創的なデザインと構造に興味を持ち
特に深く理由を聞くことすらも無く、高い地位にある天才科学者の彼は無償でコアの解析やメモリ容量を増やしたり
助言をくれた話の分かる人物だった、…変人ではあったが



 トリニティ関連の人間は、少し前のゲンからすれば故郷を奪った目の仇だったが今は少しだけ見方が変わっていた


少なからず交流があったから、もう赤の他人じゃないから…顔見知りだから、とも言える

 レオナルド博士の様な御人好しのロボットオタクなど風変りな奴もトリニティには居る
政府の人間全員が悪人では無いと実際に腹を割って話したからというのもある




それだけに、知り合って数日の間に命を落とされたというのは……何とも言えない複雑な心境だ




  ルージュ「ゲンさん…」


   ゲン「あ?なんだい、兄ちゃんかよ驚かすなって、で?どうだった電話は買えたのか」

  ルージュ「それはバッチリです」


   ゲン「へへ、なら良かったじゃねぇか」

   ゲン「だがよ、今日含めて2泊で良いのかよ、もっとゆっくり時間作った方がいいんじゃねぇのか」


  ルージュ「二人共話し合ったんです、それなら2日後にレッドと合流して僕の事を打ち明けて」

  ルージュ「それからまた休んだ方がいいかなって」

   ゲン「あぁ、あのサボテン頭の坊主か…電話では言いたくないか?」

  ルージュ「ええ、こればかりは…面と向き合って僕の口から伝えたいんです」



 凛とした紅き術士の声に「そうか」とだけ剣豪は返した、受話器越しじゃない、本当に大事な事だからこそ
顔を合わせて生の声で伝えたい、その気持ちはゲンにもよくわかる





  ゲン「…『友達』は大事にしろよ、人ってのは何時会えなくなっちまうか分からねぇんだ」

  ルージュ「えっ…」




それは、果たして誰を指していたのか一瞬ルージュには分からなかった

[ワカツ]で死に別れた戦友だったのか、それとも数日だけ顔を合わせなかっただけで死んだレオナルドだったのか



何れにしても、これだけは共通だ―――"人は何時会えなくなるから分からない"…




537以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/19(火) 22:35:33.37RPhB0ynO0 (4/5)

―――
――



 機械都市の夜は穏やかだった、同じ夜でも日中と変わらぬ活気を見せた暗黒街とはまるで違う
全ての生命が寝息を立て、メカでさえもスリープ機能をONにして静寂に沈む

唯一の灯りは夜間でも出歩く者の為にと灯った街灯や無人パトカーのライトくらいだ



 シャワーを浴び、バスローブ一枚姿のルージュは白い布タオルで湯水滴る銀髪を拭きながらホテルのカーテンを少しだけ
隙間から覗いてみる様に夜景を眺めた、[クーロン]とはまた違って建築基準法に則った規則的な並びの高層ビルディング
 背の高い企業やマンションの輪郭に所々赤く光る航空障害灯のランプが見え
丁度その真上をヘリコプターが飛ぶのが見えた…



 自分の知らない世界だ


 僕はあと、何回この光景を見れるんだろう、どれだけ同じ景色を見ながら明日を迎えられるんだろうか





急に、心細くなった。




彼が居る部屋の隣室には、兄殺しの勅令を受けたことを正直に打ち明けた仲間の女性が二人寛いでいる頃だろう


仲間に自分の抱える闇を自白した、それでふと、重荷から解放されたような気分はあったが…それでもやっぱり
1人になると堪らなく不安な気持ちになる


明日、目が醒めたら自分を軽蔑する仲間の顔があるんじゃないのか、身内殺しと一緒に居られるかと言葉を吐き捨てられて
そのままルージュは捨てられてしまうんじゃないか




旅立った時と同じ、独りになるんじゃなかろうか


…、背筋が震えた、湯冷めしたのかもしれないな、ちゃんとタオルで紙を拭かなかったからだ

バスローブ姿のルージュは室内空調機のリモコンを手に取り、『暖房』の部分を指で押す
 そのまま、椅子に崩れ落ちるようにドサリと座り、新品の携帯電話を手に取った




  ルージュ「…今頃は[シンロウ]かな」




 慣れないタブレット操作で、登録した電話番号から今はこの場に居ない友達の名前を見る

正義感の強い彼ならどんな反応を示すだろうか、受け入れてくれるだろうか……、それとも拒絶か



 携帯電話を置いて次は掌を天井に翳してみる、意識を集中させる―――暗闇、何も無い真っ暗な空間を思い描く

 影の海に自分が飲み込まれたと考え、その黒一色の世界に一枚の白い紙札を連想し構築させる
暗闇に自由な発想力が生み出したカードがひらりと現れ、表に双剣の模様が浮かんでくるイメージを創る



      剣のカード『 』ポゥゥ…

      ルージュ「……」パシッ



想像は、現実に。

連想は、構築へ。



538ここまで2019/03/19(火) 22:36:25.89RPhB0ynO0 (5/5)





   ルージュ「……僕が、手に入れたカード、…資質の欠片、か」




   ルージュ「どう、したらいいんだろうな……」


   ルージュ「僕がブルーなら、…兄さんならどうするんだろう」




 髪を乾かして、手入れの行き届いた布団に潜りルージュは、目を閉じた……


―――
――

*******************************************************

【双子が旅立って 6日目 午前7時21分 [クーロン]】




  ブルー「ふっ!はぁっ!!」ブンッ!ブンッ!


  アニー「無駄に力を入れるなっ!…肩に力を入れればそれだけ大振りのスイングになる」

  アニー「繰り出す剣技や敵の部位によっては意味のある行動になるけど、"大振りになればそれだけ隙ができるわ"」


  ブルー「くっ、わかっている!!」

  アニー「…その癖を直してやりたいけど、いい加減炊き出しやらないとね、メシを食わせろって皆が騒ぐから」


 早朝から店の裏手で稽古に精を出す魔術師と指導する金髪少女は鍛錬を中断し、店へと戻っていく
蛇口を捻り流した汗を洗い落としてタオルで拭く、ブルーが洗面所から戻ると既に起きていたルーファスが新聞紙片手に
白いコーヒーカップを傾けていて…隣に居たライザと何かを話し合っていた


その横を通り過ぎ、自分の席に着いて魔術書を取り出して修得したルーン文字を書き込もうと万年筆を取り出す
 故郷に居た頃は馬毛の筆に墨汁を浸して使ったものだが、初めからインクを内蔵したペンという物は便利だ



何も無い、まっさらな紙。

そこが世界だ。



白に、黒をつける


眼を瞑り意識を集中させる、自分がこの瞬間…筆先を付けている"白"が世界であり全て

頭の中を空にする、白、何も存在しない、"無"


脳は腕の筋肉に電気信号を送らない、何も考えない、だが腕は自分の意志とは別で動く


流れに従う様に握られた万年筆もまた紙面上を滑り、先端から滲む洋墨の粒雫が線を創る



  ブルー「…。」スッ

  活力のルーン『 』ポゥ…



幻想は、現世に。

思念は、真理へ。




539少し投下2019/03/24(日) 22:58:57.43JO3QRXYu0 (1/7)



 蒼き魔術師は閉じた瞼をゆっくりと、劇場舞台の幕開けの如く静かに開く自分が無意識に
描いた文字は生命の遺志、生きようとする力を象徴する証



 ブルー「……どういうことだ」



 彼は、無意識の自分がルーンの導きの儘に描いた文字を凝視した





"逆位置"に描かれた[活力のルーン]を。




 情熱、活力、学び、意欲…前へ進もうとする意志、育ち次第に増していく物事の暗示
蒼い法衣の魔術師は神妙な顔をして占いの結果が何を意味するのか暫し考えを巡らせた


 このルーン文字における一般的な解釈としては向かうべき暗闇の先に明光が射しており
照らされた道を積極的に進むことで道が拓けるというモノ


だが、彼が…いや、彼の霊感が導き出した一文字は反転させた結果



 逆位置における意味は、強すぎる意欲、溢れんばかりの"活力"が水の溜った器に更に注がれて零れ
無駄な労力を使ってしまう、成果を得られずに失敗に終わる


即ち、"急いては事を仕損じる"という奴だ




 ブルー(現状では凶、手を休めて心身共に休養を取るのが吉、とでもいうのか)



頭を抱えたくなった、自分は来るべき果し合いの為に力を得ねばならぬというのに
 この占い結果を導き出したのが赤の他人であれば鼻で嗤って、無視するところではあったが
引き当てたのは他でもないブルー自身の霊感だ


 魔術師としての矜持、血反吐を吐くほどの努力と鍛錬の積み重ねで築き上げた確固たる自分という
決して揺るがない自分自身の能力だ


そう易々と、こんなもの当てになるわけないだろ、とは言えない







 アニー「アンタ、なに変な顔してんのよ、一人睨めっこでもやってんの?」


 ブルー「…なんの用だ」




 ボールペンと手帳を片手に、一人で百面相を試みている可笑しな男の元へ来たアニーは不審な者を
見る様な眼差しで問いかけた

 対してブルーは素っ気なく『何の用だ』と返したが…朝食は何を食べたいのかリサーチを
取りに来たのだろうと持ってる道具から容易に見当はついた

いつの間にか来ていたエミリアを始め、ルーファスやライザにも既に確認を取っていて
一番、端の席に座っていた自分にも注文を聞きに来た


 アニー「何って、見りゃ普通にわかるじゃん」




540以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/24(日) 22:59:49.98JO3QRXYu0 (2/7)


ああ、そうだったな、我ながらくだらん返し方をした

 彼は彼自身の出した気に喰わない占いの結果に腹を立てていた、その虫の居所の悪さも加担して
声に出す事こそはしなかったが顔に言いたい事が出ていたらしい



 アニー「なにさ、そのムッとした顔は…ったく、朝から何にイラついてんのか知らないけどね」

 ブルー「……悪かったな」プイッ


 アニー「…はぁ~、今日は折角稽古休んでエミリア達にも協力してもらうってのに」

 アニー「これじゃ先が思いやられるわ…」



 ブルー「は?おい、どういうことだ…」


 アニー「あっ」

 アニー「…いや、稽古ばっかじゃなくてさ
        偶にはエミリアやリュートと一緒にアンタを連れ回そうって話になったのよ」


 アニー「ちょっとした親睦を深め合いって奴よ、4人で街をぶらっと回るの、お分かり?」








胡散臭いなコイツ、それが彼の思ったことだった、大体なんだ今の間の抜けた『あっ』って
 絶対4人で街中を散策する以外に何か企みの一つ二つあるだろう




 ブルー「街をぶらりと、か…」




得た力を試すついでで何となしにやってみた印占いが示した易によれば攻め時に非ず


それこそ、今日の稽古でアニーに指摘された剣筋と同じだ、無駄に力を入れ過ぎてもそれが仇になる




  ブルー「いいだろう、だが何時出掛けるんだ?その話は経った今されたばかりだ」

  ブルー「準備も何もできてはいないが」


 アニー「あー…10時くらいね」

 アニー「それまでは適当に時間でも潰しといてよ」



 それより、何食うのか教えなよ、と急かす相手にトースト一枚に昨日と同じで半熟目玉焼きを乗せ
ミックスジュースを一杯頂こうと答えた



去り際に注文を承った彼女が『あ、[ディスペア]行きなんだけどさ、ちょっと同行者が増えるから』
そんな一言を言われ、思わず椅子から転げ落ちそうになった


 貴様ァ!何を勝手に――と口から飛び出す前に『邪魔はしないから、ただ入るまでよ』と
付け加えられ、ブルーは『それだけならば…まぁ、よかろう』と渋々ながら承諾した



自分の邪魔さえしないのであれば、何でも良い…




541以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/24(日) 23:00:21.56JO3QRXYu0 (3/7)

―――
――

【双子が旅立って 10日目 午前時49分 [クーロン]繁華街】


 エミリア「わぁぁ!!なにこれ可愛いっ!」ギュッ

 アニー「んー、そうね、確かに可愛いんだけどねぇ…」

 アニー「あたしはその手の可愛さを売りにした愛玩動物ってのは好きじゃないのよね」


 リュート「およ?そうだったか…じゃクーンと会った時は?」


 アニー「正直言うと苦手だったけど、金を落としてくれる客は別物よ」




<キャッキャ!ワイワイ



 ブルー「……。」



 ブルー( 買 い 物 が 長 い ッ !!)



女の買い物は長く、男は待ちぼうけを喰らう…というのは流石に偏見だろう

単純にこれは商店の棚に乗ったモノに興味を抱けるか否かの話だ、自分にとって興味関心を抱ける
掘り出し物であったならば人はそれを何時間でも眺められる
 逆に興味が無い、見てても退屈だ…そういう感想しか抱けない人間が見てて面白くも何ともない
時間が延々と続くだけ


楽しいことなら時間は早く過ぎるが、つまらない時間は長ったらしく思うモノ、体感時間の違い



実際、リュートは女子二人に混じってショッピングを楽しんでいた





  ブルー(…これであれば、部屋に帰って書物でも読み漁っていた方が有意義だったか)




 腕を組んで騒ぐ3人を眺めながら彼は溜息を吐いた、これが彼にとって興味の欠片でもあるか
さもなくば、彼自身の物を見る価値観がガラっと変わりでもしたならばあるいは3人に混ざり
売り物を手に取って良し悪しを語り合いでもしただろう、時間の流れも忘れるほどに



ツンツン



 ブルー「…。」

 スライム「(´・ω・)ぶくぶくぶー」ノソノソ



 ブルー「……」
 スライム「(-ω-)ぶー」ピトッ



 ブルー「貴様は行かないのか、あと俺に引っ付くな裾が湿る」

 スライム「…(´;ω;`)」ブワッ



脚にぴたりとくっつくゲル状の所為で右脚の裾が濡れる



542以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/24(日) 23:00:51.96JO3QRXYu0 (4/7)


 相も変わらず『ぶ』と『く』しか発音できないミネラル豊富な生物はブルーにべったりだった

 何の因果でこんなワケの分からん生命体に好かれたのか知らないが彼は半ば諦めに近い感情を
持ち始めていた、いくら邪険に扱おうとも蹴り飛ばしても罵ってもコイツは自分についてくる


 まともに相手をするだけ無駄で気力と体力を消耗するだけだと割り切った




 ブルー「大体、俺と居て何が楽しい?貴様に何のメリットがあるというのだ」

 スライム「(´・ω・`)…! ぶくぶー!」ピョンピョン、フルフル!



 飛び跳ねて、地面に落ちる…身体の破片がベチョ!と音を立てて床を濡らす
首(?)を大きく振り何かを否定する




  ブルー「ええいっ!!だから何だというのだ俺はリュートとは違う!解るわけないだろっ!」



 スライム「(゚Д゚;)!!」ビクゥ

 スライム「……(;´・ω・)」ウーン




 スライム「(; ・`д・´) !?」マメデンキュウ ピコン


その時、スライムに電球灯る…っ!


 スライム「( `・ω・´)ぶくぶーーーーーっ!!」ピョン!ズザザザザザザッ―――z_______!



 ブルー「…なんだ?自分の身体を撒き散らしながら地面をはいずり回って…」



 蝸牛<カタツムリ>なんかが通った後には粘液で跡が残る、突然自身の水分を撒き散らしながら
地面を高速移動するゲル状に魔術師は顔を顰めた

なんだこいつは気色の悪い奴め、と言おうとして気が付いた



 スライムの通った跡『 』ヌメヌメ


 ブルー「…喋れないから文章にするということか、単細胞生物にしては考えたな」



これは"文字"だ、自分の身体の破片(後で回収可能)をポロポロと零しながら走る…
 数刻前に白紙の上に万年筆で文字を書いていたブルーと同じだ、人間の言語を話せないからこそ
そういう手段で会話を図ろうとしたのだ



  ブルー「何々『違う、メリットどうこうじゃない、損得関係なく居たい』…だと?」

 スライム「(・ω・)ノ  ぶくっ!」コクコクッ



 身体の破片を回収しながら器用に鳴き声を上げるスライムにますます彼は首を傾げたくなった
損得関係なく居たい?なんだそれは…


以前、リュートは『お前に一目惚れしたらしくスライムプールから出て来てお前についてきた』と
勝手についてきた動機をそう通訳したが

その件に関して言えばブルーは冗談か何かのつもりで言っているのだと思った




543以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/24(日) 23:01:23.61JO3QRXYu0 (5/7)



 ブルー「仮にアイツの言う通りだとして、何故、常に一緒に居たがる…」

 ブルー「もう一度言うが"貴様には何のメリットも無い"のだぞ?」



 ブルー「俺が傍に居るだけで空から札束が降って来る訳でも無い、力を得られるわけでもない」


 "モンスター族"は"人間<ヒューマン>"や"メカ"それに"妖魔"とも違う…人は戦いを通して強くなり
妖魔もまた戦いや敵の力を奪い取る事で強くなる、メカならパーツの付け替えで強化が可能だ


 モンスターだけは違う、元々の個体差で生命力が違うことも然ることながら
戦いで倒したモンスターの細胞を吸収し違う種族の魔物に"姿だけ"変貌して強くなる

人間と四六時中一緒に居たら強くなったという話は聞いた事が無い



 ブルー「金銭的な幸福が訪れる訳でも、力を得て他種族より優位に立てるという事も無い」

 ブルー「損得関係なくだと?俺にはまるでお前の考えが理解できない」



心の底から、ブルーは不思議がった


本当に、本当に心の奥底から理解できない



生物は常に他者を蹴落とすことで常に前へ進む、一言で簡単に説明づけてしまうなら『弱肉強食』


人間が朝、起きてその日を生きるためには、元は生きていた何かを食す


それは水中を泳いでた者かもしれないし、空を飛んでたかもしれない

野を駆け群れでくらしていた者だったかもしれないければ…畑の土から産まれて生きていた者も



何かしら生あるものが、その生を奪われ他者を生かす為の踏み台になる






  ……この兄弟―――"兄<ブルー>"と "弟<ルージュ>"の関係性と同じだ




どっちか片方が、片方の命を奪い、明日を生きる権利を得られる



 この話に限ったことじゃない、喩えばギャンブル…儲かる人間が幸福を噛みしめられるのは偏に
【敗者となった誰か】が存在して初めて成立する


 若い子供なら誰だって通う学校の成績…そこから繋がる進学や就職、更に先を言えば
企業における地位<ポスト>だってそう





人は他者を蹴落とすことで日々、前へ進む…

双子同士での殺し合いを促進させる故郷の歪んだ教育の賜物もあってか

それが真理であり世の中の全てというモノだとブルーは想う




だからこそ、損得抜きで誰かと一緒に居たいと考えるスライムの考えが心底不思議に思えるのだ



544以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/24(日) 23:01:51.53JO3QRXYu0 (6/7)






 スライムは、人の言葉を話せない……でも『心』はある






人間が産まれた時、親から子へと授かる、子から親へと返してあげたいと思う感情も理解する


巨大生物[タンザー]の体内にあるスライムプールという場所は生命の鼓動である[活力のルーン]を
刻んだ巨石があった、それに触れる為にブルー達は訪れた


"保護"の力に護られた犯罪都市は治安が悪く、また不衛生なスラム化した裏通りが
存在するにも関わらず市場で数万人規模の使者が出る大規模なテロが起きることも疫病さえも無い


寧ろ最近のテロ関連で言えば、最先端技術による治安の良さが売りの[マンハッタン]の方が危険だ


ルーンの印が刻まれた場所は何かと力の流れがある、スライムプールと呼ばれる特異点で
大量の[スライム]が誕生するのもそれが関係している




 あの日、一匹の[スライム]が産まれた


その一匹はだけは他と違い、多感な感受性を持っていた、人間と変わらぬ『心』と
何が『良識』とされるかを分別できるだけの道徳は持っていた



言ってみれば、人間とさして変わらないのだ





その一匹は一人の人間を見た…身体の色は…"青"だった、頭には蜂蜜色の綺麗な髪


産まればかりのそれは、卵から孵ったばかりの雛鳥が初めて親鳥を見る、刷り込みと同じ様に



蒼と金糸雀の人間を、一目見て好きになった
"自分という自我が初めて出来た時"真っ先に見た一番最初の生命だったから


 ある意味でそれは"一目惚れ"で間違ってはいないのだろう
スライムはその日、ブルーに『愛』を抱いた


リュートはスライムの言った言葉を解釈し、ブルーに大まかに説明した





ふわふわとした感覚…この人が好きだ、堪らなく愛おしい、ずっと一緒に居たい人と











――――その感情はまさしく『愛』だ、…でも『愛』には種類がある






545今回ここまで2019/03/24(日) 23:03:14.96JO3QRXYu0 (7/7)





 親から子へと授かる、子から親へ返したいと思う感情…





『愛』だ。


損得勘定、打算がどうこう…そんなモノはどうだっていい、無償で贈り贈られる『愛』









とどのつまり、このスライムはブルーに対して

            『親子の愛』を…子供が親に対して持つ情愛を抱いているのだ……























   ブルー「…わからん、俺にはお前の考えが一切理解できないな」

   ブルー「損得関係なく、ただ一緒に居たいだなどと…ナンセンスだ」







   スライム「(・д・)……!?」


   スライム「(´;ω;`)……ぶくっ」ジワッ



   ブルー「……なんなんだよ、一体」ハァ…


   ブルー(人の身体にすり寄って、引っ付いて来て、四六時中俺にべったりで)

   ブルー(何の利点も無いのに一緒の時間を過ごしたい…それでいて突然泣き出す)


   ブルー(意味が分からん)ハァ…


    ブルー「 」チラッ

   スライム「(´;ω;`)…」ウゥゥ、グスッ


  ブルー「……チッ、おいゲル状生物ついて来い」




546以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/25(月) 06:59:38.41dG+sN7ADo (1/1)

スライムあわれ


547少し投下2019/03/26(火) 22:08:45.37lJEgZ43R0 (1/6)



 舌を打ち、面倒臭いと言った表情のまま、彼は水分をダボダボと流すスライムに手招きをする
それを見て未だ泣きべそかきながら地面に潤いを与え続けるアメーバーは
ぷるぷる震えながら彼の後を追いかける


 見様によっては、デパートのおもちゃ売り場コーナーで駄々こねる子供が愚図りながらも
親の後をついてくソレに見えなくも無い




  ブルー「そこの店員、すまないが――――」

  「はい?…―――あぁ!そうですか、その商品でしたら―――」



 スライム「(。´;ω;)? …ぶく?」グスンッ


  「毎度ありがとうございます!今後とも御贔屓を~!」


 ブルー「ほら…特殊な素材でできた手帳とペンだ」スッ

 ブルー「風呂の湯水に投げ入れたとしても破けず、インクが滲んで読めなくなることも無い」


 ブルー「少しばかり値は張ったが、これで多少はお前との意思疎通も巧くいくはずだ」

 ブルー「筆を咥えて動かすことはできるであろう?奴らと同じ釜の飯を食ってた時も
           お前が器用に色々使いこなしたのは見たんだ、できんとは言わせんぞ」



 曰く、身体の95%が水分のゼラチン質が持ったとしても大丈夫だと謳う店員から購入したものだ
多種多様な種族が銀河の海を渡航する時代なのだからコレくらいの代物も普通にあるらしい


 スライム「(*'ω'*) ぶくぶくぶくーーーーっ!!」パァァァ…!ピョンピョン


 ブルー「ふっ、そうかそうか、嬉しいか」


 相変わらず何言ってるか理解できないが、自分の手渡した手帳を頭に乗っけたまま
野兎並みに飛び跳ねてグルグル回る動作を見るに喜びを表しているのだろう

そう思えば満更でもないな、と静かに魔術師は微笑んだ



  リュート「あっれ?ブルーってばいつの間にスライムとそんな仲良くなったんだ?」

  エミリア「あの手帳ってブルーが買ってあげたの?へぇ~優しいトコあるのね」



   ブルー「なっ!?貴様ら…いつの間に」


 背後からの声に驚き、振り返ると同時にババッと飛び退く仕草に思わず笑いだす3人
一番最初に噴き出したアニーが『なによアンタ、ビビり過ぎでしょ!あははっ!』と
腹を抱えながら指差してくるものだから遅れて彼は顔を真っ赤にした


その反応が怒りから来るモノだったのか、はたまた羞恥からだったのかはブルーのみぞ知る



 スライム「(´・ω・) ぶ、ぶく、ぶー!」ピョーン音符ピョーン♪



 ワナワナと震えるブルーの背後では陽気にスライムが飛び跳ねる、そんな一幕のあと
4人と1匹は劇場街へと歩みを進めた


―――
――




548以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/26(火) 22:09:29.56lJEgZ43R0 (2/6)



 リュート「なぁなぁ、まだ根に持ってのかよぉ~」

  ブルー「…別に、気にしてない」プイッ


 エミリア「持ってるわよねぇ?」
  アニー「アイツ、結構顔に出るタイプなんだよねー」


 プライドの高い人間というのは総じて何処かしら"精神的に幼い一面"というモノがある
そもそも、他人からの評価や体裁を気にしたり、意地を張ろうとする時点で
その鱗片が出ていると言えよう


 隣をへらへら笑いながら歩く無職、声を押し殺してるつもりなのか笑い声も丸聴こえな女性組
真横を跳ねるアメーバー、誰に顔を合わせる訳もなくブルーは劇場街を見渡していた



 古めかしく錆びついた鉄筋アーチは地元民から観光客まで分け隔てなく歓迎する一文が掲げられ
環の下を潜り抜けて見返してみれば、これまた何時取り換えられたのか
識別できないような年代物の照明が通りすがる大勢の通行人の頭数を数えている


さて、[クーロン]を訪れた人間は財布の紐が緩むと言われている


 大概、7割は窃盗被害に遭い、スリの常連達の豪勢なディナーに消え、無事だった者の中身は
この街で最も銭の動きが活発な上位ランキングに消えていくのが関の山だ




 人の夢は終わらない。




 闇市場で取引される他所では手に入り辛いブツ、男と女の情緒が複雑に絡み合う娼館通り
物欲や色情を満たす為の代価として紙幣が飛び、そして上位3として挙げられるのは―――




      ブルー「…随分と賑わうのだな」


      アニー「おっ、わかっちゃう?人間は夢を追う生き物だからね」

      アニー「ルーファスじゃないけど、ロマンって奴に資金をつぎ込むカモが多いのさ」




 その昔、一人の経営者は有名な言葉を残していった、それは経理学の分野というよりも
人間心理学における哲学・思想に近しい言葉であった




 利益を追うなら、夢を追え、と




何時の時代でも如何なる世であったとしても大衆は"夢"を捨てきれない

それを追い求め掴もうとする為であらば投資を惜しまない


子供から大人まで、揺り籠から墓場まで。



誰よりも益を手に出来るのは、夢を本当に理解してる経営者だ

アミューズメント、エンターテイナー…大金を抱き込んだ成功者は、その中でも理解できた者だ




そして、この劇場街は謂わば、そんな未来の成功者たちの卵とそれを応援する出資者達の集いだ



549以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/26(火) 22:10:01.82lJEgZ43R0 (3/6)



 小規模なミュージカル劇場から、華々しい装飾のオペラ座…小さな屋台で人形劇をやってる奴ら
皆が皆、でっかい夢を狙ってる、ゼロから始めて誰の手も届かないような"星"にのし上がってやる


どこまでも貧欲に高みを目指す努力の化け物、憧れだけで夢を語り夢に手を伸ばせる天才肌


未来の大スターを発掘しようと目を光らせる利益よりも夢を追おうとするエンターテイナーの卵



 そこかしこに希望を抱いた人間や打ちひしがれた他山の石達がうろついていた
一世を風靡した絶世の美女はその空気に一抹の懐かしさを感じていた



 エミリア「…何処のリージョンもこういうのって変わらないものよね、新人時代を思い出すわ」

 リュート「あぁ、そういやエミリアってモデルさんだったんだよな」


 エミリア「そっ!ファッションモデル雑誌からハリウッド映画までなんでも来いってね!」

 エミリア「エミリアちゃんがテレビに映ってなかったことなんてないくらいだったんだからね」



 ふふっ、と婚約者殺害事件の犯人として無実の罪でヒューズに逮捕される前を振り返る
明るい笑顔を振りまく彼女を見てリュートはふと思い出した



 リュート(そういや[スクラップ]でメイレンと会った時もエミリアが載った雑誌見てたっけな)



 メイレンがエミリアと出会って事情を知ったらジョーカー討伐に全力で協力しそうだなー
なんとなくそんな光景が頭の中に浮かんでくる
ついでにメイレンの隣に座るクーンを可愛いっ!とか言ってそのままエミリアが持ち帰ろうとして
獣耳ショタっ子も仲間入りしそうなまである



 エミリア「そうそう、ハリウッド映画で思い出したわ…今から上映されてる話題の奴よね?」

  アニー「ええ、これから見に行くのはソレよ、ジョーカーとケリつける任務前だし」

  アニー「景気づけってことで見に行っちゃおうって話になったのよ」



  ブルー「映画…か」



ずっと景色だけを眺めていたブルーが単語に反応して復唱するかの様にポツリと呟いた
 ここ数日の付き合いで大体この不愛想な男がどういう人物かは読めた気でいた
恐らく文化圏の違いや彼自身の人生そのものが"映画"に縁の無いモノだったのではなかろうか、と



 リュート「ブルー、お前さんもしかして映画って見たこと無い?」

  ブルー「…見る必要性が無かったからな」



 一応、彼の国にも小さいながら映画館というモノはあるが、殆どが術士見習いの修行者や
勤勉な学生諸君で溢れかえった国だ、あるにはあるが娯楽というよりも教材寄りの内容で…


要するに退屈で眠くなる奴が多い、夏休み前の学生が体育館で聞かされるながーいお話系のアレだ


 そんなモンを眺めるくらいなら教科書を開いて自主勉してた方が効率が良いと宣うのがブルーで
彼にとっての映画とはそういう認識でしかない


 エミリア「えぇ…、それはちょっと勿体ないわよ?人生なんて楽しまなきゃ損じゃない」

 エミリア「これを機に楽しむってことを覚えなさいよ」




550以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/26(火) 22:11:02.96lJEgZ43R0 (4/6)



思わず口に出してから余計な御節介だったかしら?と自分の発言がこの男に有効だったか考えた
 蒼い魔術師に『…考えておこう』と小さく返され、てっきり不機嫌な顔で辛辣な言葉の機関銃を
撃ち返されるかと後悔が立ちかけたエミリアは意外そうに眼を丸くしたがブルー本人が
そういう思考を持ってくれたなら悪い事では無いだろうと思い『ええ、それが良いわ』と声にした



 劇場街の中心にある映画館では今シーズンの話題作のポスター看板が貼られ、ショップでは
グッズ商品が売られていた、作中の人物をモチーフにした紙カップに入ったポップコーン等



  リュート「何味にする、キャラメルとか塩バター醤油、いろいろあるぜ!」

   アニー「あたしは止めとくよ、それ食べた後って歯に挟まったりするし」

  エミリア「私もパス」


  リュート「わかってねーなぁ、映画っていえばポップコーンだろ、ブルーお前は?」

   ブルー「俺か?…そうだな、じゃあそのキャラメルとやらを」


  スライム「(´・ω・)ぶくぶー」


  リュート「OK、キャラメル2つと塩バター醤油1つな!」



 こういうレジャー施設は飲食物は持ち込み禁止で、中にある店で買わされるのがお決まりだ
しかも、この手の奴は"客の足元を見て来る"ものだ……一杯のジュースが他所で買うより圧倒的に
お高いお値段なのだからな


仲間達から手渡された一枚のチケットを持って番号が書かれたシアターホールへと入る

 薄暗く広々とした部屋の中で半券に書かれた番号とアルファベットの席を探し
大人4人とモンスター1匹の入場者は席に着き、スクリーン映像が始まるのを待った


 話題の上映作『鋼の13世 -時代を開拓者-』とかいう名前だ
なんでも実在のリージョンがモデルだとかいう話だ


――――
―――
――



  『王家の者が術の力を引き出せぬなど…!あれには失望させられた、あれは石ころ以下だ!』

  『あなた、あれとはなんです?私達の息子のことですか』


  『あんなものは私達の子ではない、お前もあれを忘れろ』

  『術の才など無くともあの子は私の子です
    私に宿り、私が乳を与え、私が育ててきました…私にとっては命を分け合った息子です』


  『ならば石ころ共々、この城を出て行け!!』






  『さぁ、行きましょう…大丈夫よ』
  『おかあさま…』


ザワザワ…

  『術が使えない王子様とそのお母さんだー』
  『こら、指をさしてはいけません』
  『出来損ないめー』
  『王家の者が術も使えぬとは…本当に国王との間の子なのやら』
  『薄汚い貧民街の者と不貞を働いたやもしれんな』




551以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/26(火) 22:11:35.87lJEgZ43R0 (5/6)


――
――
――


  『このこのっ!』ゲシッゲシッ

  『ギュ、ギュス様…やめようよ』



 『あっ、見てよあの二人…術が使えない王子と取り巻きの子だわ』
 『やだ、花を蹴ったり、鳥に小石投げてる…行こう、行こう、あんなの見てちゃ駄目よ』



  『へへっ、ほらお前もやれよ』

  『で、でも…』



  『なにをしているのですか!!』



  『げっ、かあさま…っ』

  『抵抗できない弱い者をいじめるなど、恥ずべき行いです』


  『フン、どうせ僕なんか術の才能がない人間のクズなんだ』


  パシィィ…!


  『――――っ!』ヒリヒリ


  『よく御覧なさい、樹々が花を咲かすのが術の力ですか』

  『鳥が空を飛ぶのは術があるからですか』


  『才能も自分の生まれも関係ありません、…あなたは人間なの、人間なのよ!』



――
――
――


  『こんにちは鍛冶屋の親方』

  『おお!これはこれはギュス坊じゃないか、そんなに鍛冶が面白いかい?』


  『うん、……あのさ、鋼で剣を創るのに術なんて使わないだろ?』

  『へ?そりゃあそうだけど』

  『俺に作り方を教えてくれ、自分の持ってる力でできること、探したいんだ』




―――
――


【双子が旅立って 6日目 午後15時38分 [クーロン]】


 リュート「良い話だったなぁ…」グスッ

  アニー「うん、正直予想以上にいい映画だったよ…あのあと病気の母親との別れとか」グスン

 エミリア「ええ…焼き討ちで消息不明になった後の世界での最後の演説なんてもうね」ウルッ

 スライム「(´;ω;`)」ブワッ




552以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/26(火) 22:12:17.54lJEgZ43R0 (6/6)


 大まかな物語の流れやテーマを簡単に説明するなら

一人の人間人生を描いた内容で
生まれや才能ではなく自分自身の意志でどう生きていくかを人は選び決めることができるという話



   リュート「なっ、良かったよなブルー!…あり?」


    ブルー「…。」


   リュート「どうしたんだ、難しい顔しちゃって」


   ブルー「うん?あぁ…映画か、確かに素晴らしかった、本心から認めよう」

   ブルー「少し今は考え事をしててな…」


   リュート「そうか?」



 今日は記念日になった、彼の中でつまらない物だと思っていた存在の価値観が180℃変わった
そして、同時に【自分の在り方】を少しだけ考えさせられる日だった



 ブルー(もしも、自分が産まれた時から術の才能も無い人間だったら、か)



 あれは全くのノンフィクション映画という訳ではない、どこぞの辺境の惑星<リージョン>が舞台で
実在した話だとは小耳に挟んだ


 高貴な身分に産まれながら才能に恵まれずに周囲から蔑まれ、疎まれ…そんな人間が自分の手で
運命を切り拓けた物語、術社会主義の[マジックキングダム]とあの作品の世界に置ける術の観点は
少しだけ似ている、だからこそより一層感情移入できたのかもしれない
 術こそが全てで、育ての親に敷かれたレールを走るだけの人生…


―――もしも、レールが初めから存在しなかったならば


あの主人公は最初、父親が最初から敷いたレールに乗って親の後を継ぐ運命だった

それが全くの想定外で人生のレールから弾かれ、定められた将来のスケジュール表は消え失せた
 しかし、どうだ?その後、主人公は暗闇の荒野に、自らの手で進むべきレールを築いた



自分の生き方を自分の意志で決めなければならないのだとしたらば

そう考えてブルーは自分には"何も無い事に改めて気が付いた"…





 それ以外の生き方なんて知らない

 それ以外を彼は考えたことも想像…いや創造することさえも叶わないのだ


 今ある価値観を全て捨てること、今持っている常識が180℃ひっくり返ったら
自分は何を想って行動できるのだろうか



 感情を持たないロボットや歯車と同じだ
誰かが何かをプログラミングしなければブルーは前へ進まない

"自分の意志"があるようで結局は"国家の為"、"育ての親への恩返しだから"と…口にする

自分の意志と言いながらそれは『自分』じゃない、行動や思想事体が既に他者への献身や貢献…




本当の意味で"自分"を持っていない。



553以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/27(水) 06:38:17.16X6iT2jM4o (1/1)

この映画三時間で収まってたんだろうか……


554以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/27(水) 18:57:35.23DSguIDn8o (1/1)

風と共に去りぬが4時間越えてたなぁ


555以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/03/29(金) 11:34:42.06y90zi1F1O (1/1)

まさかのサガフロ2


556以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/02(火) 21:23:25.76GDcAS2XD0 (1/9)




 アニー「エミリア、ちょいと耳貸して」ヒソヒソ

 エミリア「えっ、……うん、あぁ、わかったわ、此処から手筈通りね」ヒソヒソ






 アニー「おーい!新入りぃーー!そこボーっとした面で歩いてるアンタだよ新人バイト」

 ブルー「その呼び方はやめろ」


 アニー「なら早く皿洗い以外の作業を覚えるんだね、…さて、そんなアンタに昇進チャンスだ」

 アニー「映画の帰りに買い物してけって言われてんだ」つ『メモ』


 アニー「お使いが出来たら、新人バイトから普通のバイトって事にしてやるよ」

 ブルー「まるで意味が分からんぞ!?」



 結局はただのアルバイト呼びじゃないか、呼び名の頭から新人を取っ払っただけだろ、と
眉間に手をやる蒼き術士には決定権など無い、破天荒な女上司からの命令なら仕方ない

 職場における縦社会は誰しもが抗えない
それは尊大な態度を取ることの多いブルー自身も例外に非ず、都会に揉まれて多少は角が取れたか
 これでも一週間近く前よりかは大分、人間性が丸くなったと思われる

 半ば押し付けられるようにグイっと寄越された紙切れには、住所が記されていて一緒に
代金支払い済みの受け取り用の伝票まで添付されていた…



 ブルー「4件、しかもそれぞれ店舗の距離が結構あるじゃないか」

 アニー「アンタそんなナリでも男でしょ、これも筋力トレーニングの一環と思いなさい」



 ブルー「あぁ、くそ!…行けばいいのだろう!」クルッ!スタスタ…



 懐に剥き出しの感情の儘に紙の束を突っ込み、踵を翻して足早に最寄りの店舗に向かう
そんな魔術師の後ろ姿を眺め、やがて小さくなって揺れる蜂蜜色の結った髪さえも特徴的な蒼も
彼の存在を示す色彩が一切見えなくなってからアニーがエミリアとリュートの方へ向き返り



   アニー「うまいこと行ったみたいね」

  エミリア「今朝は内心焦ったわよ?アニーってばうっかりボロだしちゃうんじゃないかって」

   アニー「まぁまぁ!結果オーライだからいいじゃん」



  リュート「そんじゃ、俺も店の方に行って飾りつけでも手伝うとしますかね~」

  スライム「(。´・ω・)?」キョトン


  リュート「ん?あぁ、お前は何も知らないんだったな」


  エミリア「リュート、手伝ってもらって悪いわね」

  リュート「いいんだよ!俺だって暇だしタダで騒げて美味いメシと酒にありつけるしな」タハハ



   アニー「リュートが無職の暇人で助かったわ」

  エミリア「ええ、でもいい加減に就職先見つけなさいよ、イイ歳なんだし」


  リュート「君ら、ナチュラルに俺の心抉ってくれるなぁ」



557以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/02(火) 21:23:57.99GDcAS2XD0 (2/9)

―――
――



 ブルー「1件目は古い家電を修理して売りさばく、所謂リサイクルショップ」

 ブルー「そこで渡されたのがこのレコードか…」




  -『はいはい、…あぁ!ルーファスさんトコの店の人かい』-

  -『ほら!頼まれてたレコードだよ、なるだけ当時の音源が出る様に修復したんだ』-



 ブルー「随分と、古びた物だな…」スッ


 昔懐かしの蓄音機に添えて使うレコードが数枚
イタ飯屋の倉庫奥に埃被った布で覆われて眠っている置物に添えて使う気なのだろう


ブルーは眼を細めて、作曲者の名前を読もうとしたが如何せん古い物で文字が掠れて読めない



  ブルー「イ…ト……、駄目だな、読めん」


レコードケースに辛うじて読める曲名がある『情熱の旋律』という名で、その横に小さくスペルで
minstrel<ミンストレル>と書かれていた




        ブルー「…minstrel、…吟遊詩人か」




 作曲者の本名は不明、アーティスト芸名か何かなのか、ただ吟遊詩人と気取った横文字だけ

年代も何時のかは判明していないが、リサイクルショップの店主が修復がどうのと言っていた辺り
相当な古い時代の詩<ものがたり>なのだろう







 ……嘗て、この世界には―――いや、無限に広がる銀河の海には多くのリージョンがあった








 とあるリージョンは『塔』のような形だったかもしれない

 とあるリージョンは秘宝の眠る宝庫の様な世界や時空さえも廻れる世界だったかもしれない





 その昔、トリニティの上層部しか知らない秘められた歴史がリージョン界にはある


 人の英知が創り出した【惑星を破壊する無人機】とそれに対抗するリージョンシップ等の闘い


 その戦争の余波、あるいは指輪を集めるクーン少年の故郷[マーグメル]の様に惑星の寿命で
消滅してしまったリージョンは数知れない


 今、ブルーが何気なく持っているレコードも何時かの時代で誰かが見て来た冒険譚をそのまま
歌詞にした…そんな"SAGA<ものがたり>"なのかもしれない




558以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/02(火) 21:24:34.75GDcAS2XD0 (3/9)


 人の数だけ物語はある

 生命の数だけ音が、詞が存在する



 邪神に立ち向かう勇敢な戦士たちの詩もあれば、麗しの帝国の歴史を語った唄もある

 皆既日食の刻に運命の子供がリージョンを平面から球体に変えたなんて御伽噺だって存在する






 他にも幾つもの『物語』がある


 どこかの惑星から、何時、何処で、誰が、誰に、それを伝えたかは知らない

 だけど、確かにそれは語り継がれ、今を生きてる人の胸の内で生き続ける、長い歴史の末に
多少の曲解や間違った伝わり方をしたものもあるかもしれないが
 それでも伝わったのだ…




 これらの物語の舞台になった惑星は、かの[マーグメル]の様に星の寿命で滅んだかもしれない
あるいは古代の戦争で惑星破壊兵器に粉々にされたかもしれない


…そんなことはなく、今もこの時代で普通に銀河に煌めく星の1つとして輝き続け
 誰も見た事のない"その後"の物語を、その世界は創り続けているのかもしれない



―――
――




 ブルー「2件目は花屋で、3件目は酒屋…そして最後は…」



 花屋で受け取ったブーケと酒瓶、奇しくも、受けとった花の香りと色合いは
自分にとって好ましいと思える物で、酒瓶もここ数日の酒盛りで味わった中では一番好きな銘柄だ

少し重たく感じる荷物を抱えた腕も好きな物だからか然程、苦には感じなかった


 最後に訪れた店はこの犯罪都市にあるのが不思議なくらいに小奇麗な店で
白塗りの壁についている可愛らしい小窓から漏れているのか、小麦粉と砂糖の焼ける匂いがした
木戸を押し開けて、入店すると籠の中にショコラやクッキーが並べられていて奥のガラスケースに
大きなお祝い用のケーキ達が自分の引取りてをまだか、まだか、と待ちわびている



  ブルー「すまない、頼まれていた品を引き取りにきたのだが」スッ『受け取り用伝票』


    「は~い、ルーファス様ですね、ありがとうございます」スッ



 大きな紙箱に入れられたケーキを持って、ブルーは店員に一礼し自分の住み込み先の職場へと
歩き出す、これを無事に持ち帰ればおつかいは終了だ



   ブルー「やれやれだ、誰かの誕生日祝いだとでも言うのか…」



 帰路にて彼は、ふと自分が手にしている包みを見て思った
ケーキに花束…加えて音楽レコードに数本の酒瓶、これではまるで絵に描いた様な祝いの下準備だ

重たい荷物を持ったままブルーは職場まで戻ってくる
見慣れた道、イタリアンレストランの緑、白、赤のTricolore<トリコローレ>と扉に掲げられた看板


…ここでブルーは眉を顰めた、戸に掛かった看板の文字が『open』ではなく【close】である事に



559以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/02(火) 21:25:17.72GDcAS2XD0 (4/9)


 昨朝、睡眠不足だったブルー当人が目玉焼きの乗ったトーストを齧りながらが呟いた事だ
この店は午後4時から午後10時までの営業時間だと、あの日はアニーにも確認を取った
 裏稼業の方が山場だから準備のために時間を割いていて
午前中の営業は無い分、午後はしっかりやるのだと…だがこれは一体どうしたことか
店の看板に綴られた英文は、本日は営業を終了したと知らせる一文ではないか…


  ブルー「誰が当番だったか知らんが、札の裏表を間違えたか?」


 ならば早く戻って、店主であるルーファスに間違って【close】になっているぞ、と報告しよう
そう思い立って彼はドアに手を掛けたが…
 時刻はとっくに16時を過ぎていて、開店時間になっているはずだった、であるにも関わらず
カーテンは閉め切っていて、明りも点いていないことが外からでもよく分かった


 意図的に【close】の札にされているのか?

その思考に至ったのが戸を開いて足を暗闇の中へと進めた瞬間だった

















          「サプラァァァーーーーィイイイズ!!」パァァァァン






  ブルー「な、なんだ!?」ビクッ





 ぱんっ、ぱんっ!弾ける音が聞こえたと思えば、灯りがついて、彼の視界に飛び込んでくるのは
色彩鮮やかな紙吹雪と紐の波


 中身を放ったクラッカーを手にしたリュートが悪戯の成功に喜ぶ無邪気な子供じみた笑みで
こちらに歩み寄って来る

ただ、一点いつもと違うのは、ボサボサ髪にちょこんと乗っているのが彼の地元の民族帽ではなく
パーティー用のトンガリ帽子であることに付け加え、デカいお鼻と黒ひげ付きの渦巻き模様の眼鏡
所謂、鼻眼鏡スタイルであったことだ



   アニー「おっ、ちゃんと"おつかい"やれたじゃん!」



 同じくトンガリ帽子被ってクラッカー持ったアニーが、スライムが、ライザが居て
後ろにはルーファスも何故かバニーガール姿のエミリアも居る


  ライザ「アルバイトも正社員も関係ないわ、私達の所は新人には歓迎会を開く事にしてるの」



 エミリア「私はレストランじゃなくて"裏"の方だから無かったけどね…」ジロッ

 ルーファス「当たり前だ」


 ブルー「 」ポカーン


人は理解が追い付かないと脳がフリーズするという、魔術師は処理が追い付かず暫し固まっていた



560以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/02(火) 21:25:47.21GDcAS2XD0 (5/9)


  ブルー「…」ハッ!?

  ブルー「ま、待て、では…これは…」



  アニー「見ての通りアンタの歓迎パーティーよ」

  アニー「ウチの店で住み込みで働くんだから当然でしょ?」



 グラディウスモブ男「そうだぜ、新人歓迎の為に今日だけは特別に飲食店は休業さ!」

 グラディウスモブ女「その分明日はモーレツに忙しくなるから思いっ切り騒いじゃおうっ♪」


 リュート「へへっ、俺は一緒に金儲けした仲だしお前の相棒だろぉ~?ゴチになるぜ!」

 スライム「(/・ω・)/ ぶっくぶくっぶ~!」


  ライザ「あなたが手に持っている品はあなたの為の物よ」

 ルーファス「祝いの席の主役におつかいに店まで取りに行かせるのも可笑しな話かと思うが」

 ルーファス「内装の下準備やサプライズ用ということでな」

 エミリア「今朝の連れ回しから映画館まで、全部が時間稼ぎだったのよね~」



 いつもなら客が座る飲食店のテーブルや椅子は宴会仕様に変わっていて
丁度ブルーが帰って来る時間帯を見計らってか美味しそうな香りと熱を放つ出来て間もない
料理のフルコースが主役を待ちかねていたようだ

 レジが置いてある位置には倉庫で眠っていた蓄音機が居座り、花が飾られていない花瓶が
薄い空色のテーブルクロスの中央に乗っている

 皆が持ち寄った少しお高い酒瓶から希少な銘酒、安物の缶ビールが山積みになっていて
まだ数本酒瓶を置けそうなスペースが空いている

そのすぐ傍には大きなホールケーキを置くのにぴったりな空の大皿とナイフ、取り皿が数枚





  魔術師は困惑した。



 この状況よりも、自分の心の中に沸いた"知らない熱"に






     - 『…おい、見ろよ、ブルーだぜ』 -
     - 『学院の成績トップ、首席は揺るがないってあの…』 -
     - 『アイツ気に喰わないよな、あのお高くとまった態度…ちょっと勉強できるからって』 -
     - 『なんでアイツに勝てないんだよ、俺達だって必死で勉強してんのに』 -
     - 『あいつ、死なねぇかな…』 -



  リュート「ん~、どうしたんだよブルー、パーティーの主役のお前がそんな棒立ちで」

 グラディウスモブ女「あっ!わかりましたよ、ブルーさんきっと照れてるんですよ!」

 グラディウスモブ男「なんだそんなことかよ、俺達は同じ職場で働く仲間だしそんな必要ねぇ」

 ルーファス「ああ、同感だ、短期アルバイトであろうと正社員も関係ない」

  アニー「むしろ、ウチの店に住み込みなのだから家族みたいなものと思ってくれていいわ」

  ライザ「そういうことよ、折角の料理も冷めてしまうわ、いらっしゃい」

 スライム「(`・ω・´)ぶくぶくぶー」

 エミリア「…まっ、色々問題はあるけどさ、…慣れて見ればアットホームな職場なのよね~」




561以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/02(火) 21:26:14.72GDcAS2XD0 (6/9)



胸の奥が、急に熱くなった


そこに突然沸いた熱が膨れ上がって、小さな器から溢れてしまいそうで








-ヌサカーン『キミ、気づいていないのかもしれんがね
         彼等の声に耳を傾けていた時何処となく楽しそうに見えていたよ』-



-ヌサカーン『中々にイイ傾向だ、他者との交流、会話は自分の感情に彩をつける』-

-ヌサカーン『現にキミは【呆れ】や【驚き】時に【怒り】そして
               ……相手の思考が読めない事から【戸惑い】や【疑問】』-


-ヌサカーン『様々な『感情』を抱き始めているではないか
                    交流の無い者は次第に心を閉ざしていく』-


-ヌサカーン『キミの心に巣食い始める病の予防薬になるだろう』-






数日前に、ヌサカーン医師に言われた言葉が不意に甦った

【呆れ】でも【怒り】でもない感情…

確かに今の自分が感じている『何か』に【驚き】や【戸惑い】を隠せない





  ずっと冷え切っていた、蒼く、冷たく…閉じきっていた胸の奥に


  向けられた沢山の悪感情から、奥にあるソレを守る様に閉じていたそれがゆっくりと開かれ

  温かい物が見ていく感じ…久しくブルーが忘れかけていた『何か』だ






  その何か、が何なのか思い出せない、名前を、名称を彼は口にできない




 エミリア「えっ、ちょ、どうしたのよ…」






  ブルー「……?」ツーッ

  ブルー(…!これは…なんだ、俺の目から…)スッ


目元に触れる、指先が水分を認識する…何故、それが零れたのかはわからなかった


  ブルー「なんでもない、ゴミが入っただけだ、それよりもライザの言う通りだな…行こう」



『※※※』という名の感情を言葉にして言えなかった、ただ目にゴミが入ったから泣いたと
彼は言って、荷物を持って待っていてくれた仲間達の元へと歩き出した



562以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/02(火) 21:27:02.54GDcAS2XD0 (7/9)


 言葉では、表現しなかったかもしれない


 しかし彼は確かにそれを感じた、だから身体が表現した、目から鱗が一枚落ちた







 ――――紛れもなく、彼の心はそれを感じたのだ…嘘偽りなく




 酒瓶のコルクが飛び交い、気泡立つ液体がグラスに注がれて

温かな料理を味わいながら、音楽や内装の雰囲気にそのまま身を委ねる…不愉快とは思わない時間


祖国から使命を受けた身でありながら、もう少しだけこのままで居たいと思ってしまった一時だ






 アニー「あっ、そうだ言い忘れてたブルー!」

 ブルー「?」




 自作の人参と玉蜀黍のポタージュスープを飲んでいたアニーがふと思い出した様に
彼の方に声を掛けて、一言、次の言葉を発した









     アニー「おかえり!」


     ブルー「…。」キョトン





 アニー「いや、そんな顔されても困るでしょ…普通に考えて」

 アニー「さっきも言ったけどさぁ、ウチの店に住み込みなんだから」

 アニー「エミリアやライザと同じ家族みたいなモンだって言ったろ?」

 アニー「家に帰ったんだから『おかえり』っつわれたら『ただいま』って返すパターンじゃん」



  ブルー「……。」

  ブルー「た、ただいま…」ボソ


  アニー「そー、そー、言えたじゃない」ヤレヤレ


  ブルー「そ、それだけの為に声を掛けたのか…くだらん…」

  アニー「くらだん、ってなによ大事なことよ!」


―――
――





563以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/02(火) 21:27:55.07GDcAS2XD0 (8/9)


 [クーロン]のイタ飯屋はその晩、遅くまで宴会が開かれ
酔いつぶれて床に大の字になって倒れる者もいた

後片付けを終えて、日付が変わろうとする間際に蒼は自室で自分の帰るべき場所を考えていた

時を同じくして、紅もホテル内の自分に割り当てられた部屋で自分が居られる居場所を…




 ブルー「…『ただいま』か…」


 ブルー「そんな言葉を次に使うのは俺がルージュを殺し祖国に戻った時に使うモノだと思った」





全ては、自分の育ての親の為に



華々しい戦果を挙げ、勝利の栄冠を手にして[マジックキングダム]に名誉と誇りの凱旋を果たす

その時、彼は"初めて『ただいま』を言えるのだと"…


自分が本来居るべき場所、帰るべき場所に『ああ、俺は故郷に帰って来れたんだな』と感じられる
心の底から安心できる筈なんだと信じて止まない


 今日、この店に帰って来て、騒がしいアイツ等の顔を見て…『悪くないな』と思っている自分が
少しだけ心の何処かに居るのを薄々気付き始めてしまった


 帰れる場所、帰るべき居場所… ブルーにとっての居場所は何処なのだろうか

―――
―――
―――



 ルージュ「…結局、今日も何も思い浮かばなかった…」


 ルージュ「殺し合いなんてせずとも生きられる方法が、…思い浮かばなかったなぁ」




全ては、自由と自分自身が求める幸せの為に


人間誰しもが幸せになる権利と追い求める自由を与えられる

だが無情にも彼の祖国たる[マジックキングダム]と運命はそれを与えてはくれなかった…



ルージュは考える、今自分が居る、居場所を…仲間達と共に過ごす時間、一緒に居られる場所
それこそが彼にとっての帰れる居場所なのかもしれない

帰るべき場所は、…そこに帰る時は
きっと自分の手は血染めになっていて、背に兄殺しの十字架を背負う事となる


もしも、このまま何の妙案も浮かばねば
帰れる居場所から帰るべき場所に帰るなんてことにもなりかねない…


 帰れる居場所、帰るべき場所…ルージュが向かうべき運命の終着駅は何処なのだろうか

―――
―――


 家族や、仲間、故郷、今あるべき場所、これまで旅立った世界の景色、今視える風景、未来

思う事、想う事……双子はその晩、その意味をずっと考えさせられた――――





564以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/02(火) 21:31:30.47GDcAS2XD0 (9/9)

************************************




            今回は此処まで!



           ※ - 第4章 - ※



   ~ 想うこと、思うこと。 帰るべき場所、帰れる居場所。 ~


                              ~ 完 ~

************************************


565以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/03(水) 15:53:15.34mcVAfog1o (1/1)


実際のところ逃亡したらマジックキングダムはどれだけ本腰入れて捜索するんだろうな
放置してさっさと次の双子に移行するような気がしなくもないが……


566以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/03(水) 22:22:13.83p4DyODK+O (1/1)

乙乙
少なくとも「お前たちは本当の…」だから他の双子より執着してそう


567以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/03(水) 23:21:00.36U2bl1dDqo (1/1)




568以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/09(火) 22:28:00.17OunG5xPt0 (1/14)







           ※ - 第5章 - ※



  ~ 資質を得る、という事…② 今ここにある幸福論と旅路 ~






569以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/09(火) 22:28:41.80OunG5xPt0 (2/14)



 その日は、一際暑い一日だった


 東風が熱を帯びた身で忙しなく巡る人々の肌を焼く、日傘をさして歩く者も在らば麦わら帽子を被る者
 露店で売られている飲料を透き通るグラスに一杯注ぎ氷をひとつまみ入れる
 額に浮き出る玉汗をハンカチで拭いながらも聖堂へ脚を運び、修士として勤行に励む者のあらば
 快晴からのさして嬉しくも無い贈り物に根をあげ、ポプラ並木の木陰で涼を取る住民…



 暑い中、二人のよく似た少年…整った顔立ちと長く伸びた髪から少女にも見えたかもしれない




 そこに聳え立つは国家の象徴と呼べる女神像は広場から少し進んだ先の自然公園で彫られた

 蒼を身に纏った金髪と、紅を身に纏った銀髪が授業で習った歴史を確かめ合う様に語らった





 『嘘か誠か、この女神像はこの国の長い歴史を見届けて来た妖魔が創ったらしいな』



 【あぁ!知ってる知ってる、そこの…えっと、なんて名前だっけ?フ、フ、フランクフルト?】

 『フルドな』




 【そうそう!確かそんな名前だったよね!フルドって名前の人が創った女神様の像でしょ】

 『いつの時代からか知らないが噴水広場から下った所にその妖魔の名を冠した工房がある』


 【…そこって誰か住んでるのかな】


 『知らんな、そもそも子供は国の掟に従い出入り禁止だ…』
 『ただ、偉そうな恰好の大人達が入るのは目にするからな、稼働はしてるのかもしれん』


 【ふぅん…大人ってズルいよねー、いっつも子供には何でもダメダメ言ってさー】

 『フッ、同感だな…だがこれを口にすれば大人はいつだって決まり文句を言うさ』

 【内緒にできるのは大人の特権ですよー、みたいな?】

 『そしていつか大人になったら今度は貴方達が次世代の子供から秘密を独り占めしなさい、と』


 【だよねー…やっぱり皆言わるんだねぇ】


 『話は戻るが新年度になると新しい女神の彫刻像が学院に運ばれるんだ』

 【確か、三つくらいだよね】


 『あぁ、学院の何処に運ばれてるのかは不明だが、女神像が三つ…な』

 『子供の間じゃちょっとした七不思議扱いだ』

 【学校の七不思議、腕輪をつけた女神様の像が何処かにあるだよね…】


 『お前は信じるか?そんな話』

 【んー、どうかなぁ、そういうキミは?】


 『さてな、証拠でもあるなら信じてやるさ』
 【ハハハ、つまりは信じてないってことか】


―――
――




570以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/09(火) 22:29:12.39OunG5xPt0 (3/14)

********************************************
―――
――






             ルージュ「ハッ!…なんだ夢か」ガバッ





身体が痛い、服装はバスローブ姿で彼はどうやら椅子に座ったまま寝落ちしていたらしい
 本来なら微睡みに沈む前に味わっていただろう身体がよく沈むマッドレスではなく
夜景が良く見える窓際の椅子に座り、シックな黒塗りの机に広げた日記帳を枕にしていたらしい
 猫の様に折り曲げた背中は椅子の背凭れからは遠く、授業中に居眠りする学生の宛らの恰好で
広げたページに涎の跡なんかも残してしまったのが妙に恥ずかしい

そのページだけ綺麗に切り取って丸めて屑籠目掛けてロングシュートを決める



 ゲンが支払ってくれたホテルでの宿泊でゆったりとした休養を送り
入浴後に長い艶のある銀髪をルージュは乾かしていた、濡れた髪が渇いた後まだ眠る気がしなくて
バスローブ姿のまま、日記帳に冒険の記録を残していた辺りで
コックリ、コックリと夢の浅瀬へ向けて彼の意識は櫂<かい>を漕ぎだしていたのであった



 着替えもせずに、そのまんまの姿で寝てて風邪を拗らせなかったのは室温調整が完璧な
お高いホテルだったからだろうか…、そんなことを考えながら紅き魔術師は再びシャワーを浴び
眠気をすっ飛ばして後で普段着に着替えた




 ルージュ「…あっ、涎垂らしたページだけ破って捨てたから昨日の分、丸々書き直しだ」ガーン




今から急ぎで書けば白薔薇さん達が起床するまでに間に合うだろうか?

そう考えながらペンを握った彼は時計を一瞥してから急ぎで作業に取り掛かった






 【双子が旅立って 7日目 午前5時12分 [マンハッタン]:ホテル(ルージュの部屋)】



―――
――




 ゲン「おう、起きてたのか兄ちゃん」ブンッ!ブンッ!


 ルージュ「ゲンさん、おはようございます!朝の素振り練習って奴ですか?」

 ゲン「ああ、…しっかし、世の中何があるか分かんねぇモンだな」


 ルージュ「えぇ、まぁ…昨日は色々度肝を抜かされたといいますか何というか」


 ゲンとT-260はこのリージョンへ知り合いだったらしい博士を訪ねてやって来た
数日会わなかった合間に故人となった彼にせめて追悼の言葉でもとレオナルド博士の職場に
通して貰えないか、以前博士から渡された許可書を見せて役人にゲートを開いて貰い研究所の中へ
彼等は入れて貰える事となった、丁度、携帯電話の契約を済ませたルージュ等も同行して



 …まさか、その博士が自分が死んだ時の事を想定して、脳をコピーしてロボットに移植してた

そんなこと誰に予測できようか



571以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/09(火) 22:29:40.75OunG5xPt0 (4/14)


―――
――


【時間は遡り 双子が旅立って 6日目 午後14時24分  [マンハッタン]レオナルド・ラボ】





 -『今そこに居るのはT-260G君だね、済まないがそのスイッチを押してくれ』-



ゲン「な、なんだぁ!?死んだはずのレオナルドさんの声がするぞ!?」バッ

ルージュ「えええぇぇぇぇぇ!?まさか、お、お化け!?」

ゲン「なんてこったい!!レオナルドさん成仏できずに…」



アセルス「いやいや、二人共落ち着きなってコレどうみてもあそこのスピーカー音声だから」



白薔薇「とりあえず、声に従い、"すいっち"とやらを押すべきでは…」

T-260「了解」ポチッ



 ゴゴゴゴゴゴ…!ウィーン!パカッ


 謎のロボット「…ふぅ、いやぁ~君達が来てくれなければ何時までもこのままだったよ」


 ゲン「…。」アゼン

 ゲン「もしかして…アンタぁ、レオナルドさんなのかい?」


ルージュ/白薔薇/アセルス「「「えっ」」」



 三人は頭に疑問符を浮かべた、彼の言う人物はこの研究所の一番偉い人で数日前の爆破テロで
お亡くなりになった故人で、目の前のロボットがその故人だそうな


  ま る で 意 味 が 分 か ら ん ぞ !!!


レオナルド「こういう事態に備えてボクは自分の人格マトリックスをこのメカに移していたんだ」


ルージュ「ええっと…つまり?」


レオナルド「T-260G君の新しいお友だちかな?初めましてボクがこのラボラトリーの主人」

レオナルド「レオナルド・バナロッティ・エデューソンさ、簡単に言うと自分の脳をコピーして」

レオナルド「人間のボクの身に何かあったら、このロボットの身体で生きれる様になるってコト」



 メカになったからこそ分かる、生命力が異常値を検出する妖魔が複数いるから
機械文明に疎い人にも分かりやすい簡単な説明が必要とされると

 肉体は機械になってしまったがそれ以外は以前と何ら変わらないと、寧ろメカになった事で
病気にもならず、疲れ知らずで働けるので便利だと…

唯一の残念なのは自分が好きだったバーガーショップでハンバーガーが食べれない事だと言ったが
それもロボット化した自分の肉体に味覚機能と食物消化機構を取りつければ良いと発言した


…ルージュ等は何となく、ゲンが言っていた"変わり者"の意味を理解した気がした

―――
――




572以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/09(火) 22:30:08.99OunG5xPt0 (5/14)


【そして、現在…】




 ゲン「…まぁ、元気そう(?)で何よりだったな」

 ルージュ「あっ、はい、ソウデスネー」



二人はこれ以上考えることを止めた…とりあえず生きてて(?)良かったそれでこの話はやめよう



 ルージュ「でも、そうなるとゲンさん達ももう出発するんですか」

 ゲン「おう、アイツの無くなった記憶の手がかりがあるかもって言ってたしよぉ」



 昨日、復活を果たしたレオナルド博士にT-260は自分達の調査結果を話した
[シンロウ]にあった古代のリージョン・シップの残骸から幾つかの要になり得るキーワードを入手
そして、それを解析する為に博士の協力が必要で…[マンハッタン]に帰って来る道中で[京]に居た
ルージュ達と知り合いになったことなどを説明した


 博士の方は、事故に遭う直前までしっかりとT-260の失われた記憶を取り戻すために
古人で調査を続けてくれたのだが、曰く、トリニティの調査セキュリティーに引っ掛かり
それ以上先へ情報を得る事ができないとこのこと


そこで、準備が整ったらトリニティの中枢部―――通称[タルタロス]と呼ばれる場所の内部にある
中央情報室に向かうという方針になった


銀河全体を統治する政治機関トリニティの重要機密を保管している場であり、やはり警備も厳重で
博士程の権限を持つ上層の人物でもそう簡単には閲覧ができない

 だから、博士のラボにあるコンテナに入って、こっそり忍び込んでしまおうと
これまた危ないお話になったのである、世話になった身だし手伝おうかと妖魔女性組も赤き術士も
名乗り出たのだが、これは自分達の問題から気持ちだけ受け取っておくと断られた



 結局、ゲン、T-260、そしてレオナルド博士と特殊工作車、ナカジマ零式の人間1人(?)と
メカ4機(?)のパーティー構成で武具を揃えてから突き進むという事らしい…




  ルージュ「ゲンさん、本当にお世話になりました…お気をつけて」ペコッ

    ゲン「へっ、気にすんなよ、それよりあの逆立った髪型の坊主に会いに行くんだろ?」

    ゲン「ダチは大事にしろよな」肩ポン


  ルージュ「はいっ!」



 午前7時を少し過ぎた辺りで起床し既に一通りの身支度を終えていたアセルスお嬢と白薔薇姫と
ホテルでの朝食を口にし、シップ発着場へと向かった…


3人が手にしたチケットには自然豊かな畑と酪農…そして酒造の聖地と呼ばれる田舎の地名があり
それを持って、宇宙船<リージョン・シップ>に乗り込んでいく姿を見送る剣豪とロボット達


 宇宙<ソラ>へと飛び立つ船を見上げ「達者でな、元気でやれよ」と
鉢巻を巻いた剣豪は胸の内でそっと呟いた







 ゲン「さぁて、俺達も準備すんぞ!!レオナルドさんよ!戦力強化の当てがあるんだって?」

 レオナルド「うん、まず[クーロン]へ行こうか、裏通りにちょっとした知り合いが居るんだ」




573以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/09(火) 22:30:56.93OunG5xPt0 (6/14)

―――
――




 ヒュゥゥゥ…


   スタスタ…





 レッド「…遂に、船を降りちまったなぁ…」





【双子が旅立って 7日目 午前11時28分 [ヨークランド]】



 歳は19でまだ成人式さえ迎えていない少年が一人、肩に紐を通したナップサックを背負い
そのまま手首には古い革トランクを持ち、先程まで自分が乗船していた"白鳥"が去っていく姿を
歩きながら眺めていた


少しカラカラとした乾いた風が吹き、砂埃が舞う


 この時期、[ヨークランド]は特に乾燥が著しく、また湿度が少ない所為か喉がパサつく
だからこそ自然の恵みたる水と果実が美味く感じるのだと住民達は朗らかに笑うのだが

そんな土地に彼――レッド少年が降り立った事の経緯を簡単に説明しよう




 ルージュ、アセルス、白薔薇の3人と別行動を取る事になった彼はその後も
キグナス号の乗務員として働き古代遺跡探索ツアーと武術に覚えのある猛者が集まる仮面武闘会で
有名な惑星<リージョン>…[シンロウ]へとやって来た


 船の燃料や、食料品等の必要物資の積み込み作業が終わるまでクルーは自由行動を言い渡され
レッド少年もまた観光がてらに武闘会を観戦しに行こうと[シンロウ王宮]へ赴いた




 -『今大会も強者揃いだな!』-

 -『前回のあのピンクタイガーとか言う女性レスラー以上の奴はいないだろ』-

 -『あぁ、居たのぅ、そんな娘さんが…身体つきがイイ女じゃったなぁ…イデデ!?』-

 -『爺さんや、浮気はゆるさんぞ』-



 レッド『へぇ~…賑わってんなァ』キョロキョロ

 BJ&K『参加なさらないんですか?』ウィーン


 レッド『俺?…そうだなぁ、出る理由が―――!? 隠れろ』バッ!

 BJ&K『――へ』ガシッ




  レッド『…あの後ろ姿、間違いねぇ…父さんの親友だったDr.クライン…っ!』

  レッド『ブラッククロスで改造怪人を創る悪の科学者となり果てた野郎がなんで此処にッ!』



 悪の組織の科学者として、多くの怪人を誕生させた狂気のマッドサイエンティストを何の偶然か
彼はそこで見つけ、家族の仇の情報を得ようとレッドは大会に出場することを決意する
 この大会の裏、主催者側ともDr.クラインは何らかの繋がりを持っている事を調査で知ったから




574以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/09(火) 22:31:38.20OunG5xPt0 (7/14)



 レッド『…すまねぇ、急用ができた、此処で少し待っててくれないか?』

  BJ&K『了解しました、でもすぐに戻ってきてくださいね』


 タッタッタ…!


 レッド『この曲がり角なら丁度、人が居ない…変身ッ!アルカイザー!!』ペカーッ!!


 アルカイザー『…よし』タッタッタ…!



 受付『大会出場ですか?ではお名前を…』


 アルカイザー(名前…レッドなんて馬鹿正直には言えねぇよな…?)


 アルカイザー『レ…レ、レ』
 受付『レレレ、様ですね!わかりましたリングネーム<レレレ>様、ご登録完了です』

 アルカイザー『えっ、ちょ』



―――
――




 アルカイザー『ぐあぁぁっ!』

 図体のデカい悪の組織の幹部『フハハハハ!中々やるようだがこの[仮面の巨人]様は無敵だ』

 図体のデカい悪の組織の幹部『中々骨のある大会参加者だが試合の相手が俺様とは運の無い』


 図体のデカい悪の組織の幹部『何度、拳を打とうとも見切ってみせるわぁぁ!!』[スウェイバック]



 順調に試合を勝ち抜いていくアルカイザー、いやレッド少年…!
しかし、ここにきて何故か妙に強い巨人系統のモンスター族の参加者と決勝試合をすることになる


その対戦相手は何とッ!!レッドの格闘技を見切り、全て回避していく…ッ!

馬鹿な!ヒーローアルカイザーの筋力を以てしてもこうも躱される等と…一体何者なんだッ!?





 図体のデカい悪の組織の幹部『ハーッハハハ!ゆくぞ!喰らぇい必殺[雷炎パワーボム]ゥゥ』



 アルカイザー『くっ!…俺はこんなトコで負ける訳には行かないんだァァァァ!!』ピコン!


 仮面をつけた正体不明の謎の参加者相手に滅多打ちにされるレッド少年…
自分はこんな所で正体不明の一般人相手に倒されてしまうというのか…ッ レッドは負けられない
ここで優勝することで家族の仇に手が届くかもしれないからだ


彼の闘志は、暗闇の荒野に灯りを灯す


明光が射した、真っ暗闇な脳裏に豆電球でもついたかの様に、気づけば拳を前に突きだし叫んでた



  アルカイザー『射抜けぇぇ[アルブラスター]-――ッ!』


光り輝く拳――[ブライトナックル]が再び来るかと正体不明の大会参加者は身構えていた
 だが、放たれた輝く拳は明らかに自分には届かない、空虚を殴りつけるだけの動作でしかなく
ついにレッドが相手と自分の距離感すら掴む程ダメージを負い過ぎたのかと最初は思ったらしい



575以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/09(火) 22:32:08.70OunG5xPt0 (8/14)



 刹那、彼は自分の思い違いを思い知らされた


 レッドが今までの殴打技とは全く違う技名を叫んだからだ、何も無い空間を殴りつけた拳の光は
一層強まり、輝きが最高潮に達したかと思えば暴発するように腕の先からそれは飛び出した



名は体を表す。

彼の迸る闘志、生命エネルギーがそのまま放出され目の前の正体不明の参加者を射抜いた




 アルブラスター『 』ビュンッ!

 アルブラスター『 』ビュンッ!

 アルブラスター『 』ビュンッ!




 図体のデカい悪の組織の幹部の腹『 』ボコォォォッ!


 図体のデカい悪の組織の幹部の仮面『 』バキッ!パリーン





 図体のデカい悪の組織の幹部『ぐ、ぼっ…お、おぉ…』ドサッ



 図体のデカい悪の組織の幹部(し、しまった…俺の仮面に罅が――クソッ)

 図体のデカい悪の組織の幹部『飛び道具とは…油断した』サッ



 巨人タイプのモンスター特有の巨大な掌で[仮面の巨人]は罅の入った仮面を、素顔を晒すまいと
顔を覆い隠した、仮面武闘大会だから素顔を晒す事はタブーであるが、この男の場合はもっと違う


この巨人は故あって他者に自身の顔を見られたくないのだ、特に警察関係者に…

 だから不必要に顔が世間に割れる様な事は厳禁だ
それも『強者との闘いが趣味で武闘会に遊びに来て油断しまくった結果バレました』では
冗談にすらならないのである





 図体のデカい悪の組織の幹部『ふっ、だいたい見切らせてもらったぞ』ニタァ




 図体のデカい悪の組織の幹部『悔しいが降参だ!』バッ!ササッ…!



 かくして仮面をつけた正体不明の妙に強い大会参加者を倒したレッドは、優勝を果たし

 Dr.クラインの後を追跡したのだが…肝心な所で逃げられた挙句
まるで狙いすましたかの様な絶妙なタイミングでキグナス号から帰還命令が出された





――――それもあって、彼は決断した


 自分は、このままキグナス号の乗務員として働いていては何時まで経って仇が討てない


                    …船を降りよう、と



576以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/09(火) 22:32:49.63OunG5xPt0 (9/14)


 元より、親友達の旅路を手伝うことも頭の中にはあった

だから"有給休暇届け"を出すのではなく、"退職届け"を出すことに決めた

 両親を亡くしてから、ずっと世話になった上司であり恩人の機関士ホークに
礼と、船を降りる事を告げて彼はこの日、[ヨークランド]の地に降り立ったのであった


―――
――


そして冒頭へ戻る…


 レッド「…遂に、船を降りちまったなぁ…」

 ヒュゥゥ…



 レッド「暖かい風なのにな、少し寒いって思うのは寂しさのせいかな」


 BJ&K「でしたら、生姜の湯を精製しお出ししますか?」ウィーン

 BJ&K「私の体内機械構造なら簡易漢方薬くらいは直ぐ作れますよ、体温が上昇します」


 レッド「お前なぁ~…」


 BJ&K「冗談です、ロボット冗句です」ウィーン

 レッド「…やれやれ、…着いて来てくれてありがとよ」


 BJ&K「命令されましたからね『俺の傍から離れても壊す』と、だからついて行きます」

 BJ&K「自分の為、また貴方の健康をお守りする為、レッド…貴方について行きます」


 レッド「…あん時はちょっと荒っぽい口調で悪かったよ」

 レッド「改めて着いて来てくれてありがとう、おかげ独りじゃなくなったからさ」ポリポリ



 レッド「コホン、と、とにかくアセルス姉ちゃん達探そうぜ!!もう着いてるっぽいしな」



 急に気恥ずかしくなった、ロボット相手とはいえ、柄にもない事言ったなと顔を赤らめ彼は
明後日の方角を見ながらわざとらしく声を大きくして言った


 自分がこの惑星に降り立つ数刻前に、3人は既に到着して[杯のカード]に関する情報を得ようと
駆けまわっているらしい


そう広くない村なのだから、すぐに見つかるとは思うが…




 とりあえず、それらしい人を見かけなかったか、住民達に聞き込みに行こう
紅い法衣を着込んだ魔術師と緑髪の少女、後は頭に花飾り付けた貴婦人は居ないかと


レッド少年と医療メカはそう決めて、早速第一村人に声を掛けようと村の入り口へ脚を運んだ




  「あっそ~れ!イッキ!イッキ!」
  「ひゅー!いい飲みっぷりだよぉ!」
  「そらそら、酒はたーんとあるぞォ」


  ルージュ「んぐっ、んぐっ!ぷはぁ~…美味い//」トローン


  レッド「って早速居たァァァ!!!普通に居やがったァァァ!?」ガビーン



577以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/09(火) 22:33:34.49OunG5xPt0 (10/14)



第一村人発見ッ!からの聞き込み調査ドコロの話で無かった、村に足踏み入れて2秒で遭遇だった



 アセルス「…んっ、はぁぅ…///」トローン

 アセルス「うふふ、なんだか少し酔いが回って来たのかも…」


 レッド「うぉい!?姉ちゃん17歳!未成年だから―――あ、でも姉ちゃんは…いいのか?」ハテ

 レッド「ってそこじゃねぇ!カードはどうなったんだよ…」





この時期、[ヨークランド]の空気は乾燥していて喉がパサつく
            …がレッドのこの喉の渇きは気候の所為ではない



 レッド「ぜぇ…ぜぇ…喉乾いてきた」


 白薔薇「まぁ…レッドさん、でしたら此方はいかがでしょうか」つ『果物酒』


 レッド「…」


とりあえず、柔らかな聖母の様な微笑みを携えて酒の入ったグラスを手渡した白薔薇から受け取り
それを飲み干すことなく、説明を求めた



  ルージュ「んと、ね…ここでカードの試練について聞いたんだ…そしたら~」



―――
――



  レッド「…つまり、話をまとめるとだ」

  レッド「[杯のカード]を得る為には酒蔵の人に話を聞かなきゃいけなくて…」

  レッド「そこで一番度数の高いアルコールを全部飲み干さなきゃ住民は情報を一切教えない」

  レッド「そういう掟があるから、それに沿って皆でこうして陽の高い内から飲んでるのか」



 ルージュ「そーそー、…ゲンさん居れば楽勝だったなぁ~」フラフラ


 若干呂律が廻らなくなりかけているルージュと、千鳥足気味になっているアセルス
そして何も無い空間に向かって「あらあら~、うふふ」と気品溢れるお喋りを嗜む白薔薇姫



レッドは思った、キグナスに帰りたい。



 レッド「…まぁ、それが試練だってぇならしゃーねぇよな」ポリポリ


 「んん~、坊主も試練を受けるのかい?」
 「そういうことならウチの酒蔵に寄って来な、そこでたーんと酒飲んでもらうぞえ」
 「儂らの自信作じゃ!飲まん奴にはカードの事は教えてやらん」


 レッド「うっ…」


 「言っとくが若いの、ズルはよくないぞ、ちゃーんと皆酔っぱらうまで飲むんじゃ」





578以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/09(火) 22:34:09.41OunG5xPt0 (11/14)



 それから……





【双子が旅立って 7日目 午後11時58分】


 レッド「う"っ…気持ちわりぃぃ…」


 ルージュ「レッドってばお酒弱いんだねぇ~」アハハ



 酒蔵を数軒、廻り一体何杯飲まされたことか、[マジックキングダム]の術士ゆえに
術力回復の[術酒]を慣れるまで飲まされたルージュや妖魔になった事で体質が強くなったのか
はたまた、人間だった頃から耐性があったのか酒に強かったアセルスと比べレッド少年は
酒蔵巡りを半分終える前からグロッキー状態であった


…気合でなんとか最後まで飲み切ったが



 詳細をまだ聞かされていないから試練内容の実態が掴めないが、どうやらここでの修行は
酒を飲んで酔うことに意味があるらしい




耐性を持っていた三人でさえ、ぐでんぐでんになるまで何度も飲ませ

逆にレッドは"酔ったことさえちゃんと確認できれば"それで良いと言わんばかりに少な目の酒



明らかに個人個人で飲ませる量が違ったのだ



  「いやぁ、イイ飲みっぷりだね、今すぐ酒神さんの祠さ、行ってみるだよ」



覚束ない足取りと、情報を整理できない頭で、4人は"祠"とやらを目指す事になった





 BJ&K「私が集めた情報によりますと、この先にある沼地の奥に祠があるそうです」ウィーン




 …酔う、酔わない以前の問題であるロボットがパーティーに居て良かった
背中を押されながら、どうにか4人は鬱蒼とした森の先にある沼地へと辿り着く…


 [ヨークランド]の天然水が山から流れ、その水が地下の水脈を巡り、この湿地帯へと辿り着く
水そのものは美しく、また身体に優しい成分に溢れておりペットボトルにでも入れて
売り捌けば銭儲けにすらなる、暑く、寝苦しい夜に素足を浸けて涼を取るにも最適なのではと
そう思える程の良い場所とも思えるだろう―――…一見すれば


では、何故このような暑い日に村人は沼地に近づかないのか、試練の場だから?

神聖な場所扱いして誰も来ないとかいう理由だろうか?




いいや、違う





誰も来ない理由を4人と1機はすぐ知る事となった



579以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/09(火) 22:34:38.76OunG5xPt0 (12/14)


 沼地、というだけはある鬱蒼と生い茂った寒枯蘭<カンガレイ>や黄色い花を咲かせた河骨を見かける
一帯が寿樹のサークルに囲われているのも関係しているのか、水草と水面の色、日光の当たり具合
それらが絶妙なバランスで成り立ち花萌葱の絨毯が視界一杯に広がっていた


 一歩、片足を前に差し出す…ぬちゃり、と泥濘を踏んだ時特有の音がして、靴底越しに
心地よいとは言い難い感触を覚えるところだ、幸か不幸か酔っぱらっているが故に4人の感覚は
嘗てないほどに鈍っていて、うっかり沼水に勢いよく突っ込み靴が完全に浸水しても気に止めない





…靴下までびっしょりとずぶ濡れでそのまんま、浸水した靴を履いて歩き続ける



 素面に戻ったら女性陣が悲鳴をあげそうな状態ではある
水虫・水ぶくれの主原因となる白癬菌にとってこれほど喜ばしい事があるものか



 はてさて、そんな未来の心配はさて置き、4人は沼地の奥にある祠を目指してふらつく足取りで
丸太橋を渡ろうとしていた、雑木林の抜け道を越えてそこから地続きで途中までは行けたものの
道中で道が完全に水没している箇所がある…山岳部から低地まで下って来る湧き水を初め
雨季の例年と比べ予想外に多い降水量などあらゆる要因はあった
 何れにしても、脚の脛までなら我慢したとして腰までざっぷりと水に浸かる気はない
元は流木だったのだろう、太い丸太が丁度良く渡り橋の様になっていてくれた



  ルージュ「うっ…脚が、真っすぐ進まないよ…おえっ」グラグラ

  アセルス「ちょ、揺らさないでよ!…あぅ…私まで気持ち悪く…」ヨロッ


  白薔薇「あ、アセルス様…!」ガシッ


  アセルス「うぁ!?た、助かった…ありがとう」


  白薔薇「いえ、置きになさら―――うぅ、すみません私も」フラッ
  アセルス「えっ」



 バッシャーン!!


 ふらつきかけたアセルスに手を伸ばし、白薔薇は彼女を支える事に成功した―――のは束の間で
その直後に少女の身体を支えた筈の彼女がそのまま足を踏み外して丸太橋からあわや転落
ガッチリと緑髪の少女を掴む手は最後まで離さなかった…、つまり"そういうこと"である



  レッド「やべぇ!二人が落ちた!! うおえぇぇ…やべっ、吐きそ―――」グラッ、バッシャーン


  ルージュ「レッド!アセルス、白薔薇さ―――ばべっ!?」ツルッ、バッシャーン



 後ろを振り返り、クルリと回った瞬間に落ちて行った赤の後を紅が追って落ちた
一層綺麗な美様式か何かのようなシーンである





  BJ&K「…。」ウィーン

  BJ&K「あー、お助けしましょうか?」



落下原因:酔っぱらない



そんなこんなで芋づる式に落ちて行った生命体4人を無機質な機械が眺めながら答えた

若干、音声に呆れが混じっている気がするが、きっと気のせいだ



580以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/09(火) 22:35:13.61OunG5xPt0 (13/14)



  アセルス「…。」(泥んこ状態)


  アセルス「うえぇぇぇ……」グズグズ

  白薔薇「アセルス様、泣かないでくださいませ…そんな私まで、うっ、ううぅ…」グスンッ


  レッド「うっ、おげえぇぇぇ…き、気分わりぃ…」

  レッド「BJ&K~、引き揚げてくれぇ…」グデー



  ルージュ「…」(頭から水面に突っ込んで未だ起き上がらない)ブクブク



 酒臭い匂いがプンプンする男女4人が沼に落ちて全員びっしょ、びっしょに濡れた
泥だらけのお嬢ちゃんは泣き上戸か何かの様にワンワン泣いて、隣の従者も同じく

お酒に耐性の無かった坊ちゃんも込み上げる吐き気と気怠さに悲鳴を上げ

紅き術士に至っては水面から上がってすら来ないという…



      こ の 始 末 で あ る ッッ!!






 BJ&K「……」ピピッ

 レッド「ぁんだよぉ、早く引き上げ…うげぇぇぁぁあ…」


 アセルス「うえぇぇ…やだぁ、もうやだぁ!お家帰りたい…」ポロポロ

  白薔薇「うぅ…ひっぐ、…」


 ルージュ「  」ブクブク




 ………


 ………『何か』…『何か』が"奇妙"だ…








 レッド「う"っ―――おぇっ…た、頼む、マジで早く…苦しい」ハァハァ…


 アセルス「どうし、て…私、人間じゃなくなったから…おばさんも皆も私が怖いの…」ポロポロ

 白薔薇「…涙が、涙が止まりません…あぁ!目が、…視界が涙で…何も見えない…っ」グスッ



 ルージュ「 」ブクブク…

 ルージュ「 」ブクブ…


 ルージュ「 」



…………何かが…ッ! これは、『何かが"おかしい"…ッ!』この事態は良くない

…何かよくわからんが『異常』だッッ!!



581今回は此処まで2019/04/09(火) 22:35:55.48OunG5xPt0 (14/14)







                  チャプン…









 水音がした。




 少女も貴婦人も少年と術士もそうだ、皆が水中に居て抜け出すことが叶わずに居る
その様子を丸太橋の上から不動の医療メカが眺めている




 では、今の水音は"誰"の物だ?





 比較的症状がマシなレッド少年は背筋に冷たい物が這う感覚を覚えた
酒気に狂わされ愚鈍となった一行の中で、この瞬間に限り彼の感覚は鋭さを取り戻した


脳が警鐘を鳴らす、このままではよくない事が起こると…






 ―――レッド少年が背後で蠢く一本の"触手"を目視すると同時であった







   BJ&K「ピピッ―――確認完了、【状態異常】を検知、【毒】【混乱】【暗闇】【睡眠】」

   BJ&K「また強い敵対生物の存在を確認!直ちに退避を――――」




      ザッバァァァン!!


 突如、水面が割れた…っ!薄いボール紙の蓋を破るかの如く"ソイツ"は無数の触手をうねらせ
身動きが取れない4人と1機の前にその全貌を露わにした



               【 酔いが回る…! 】キィィィン!!



頭の中に、一文の文字が浮かび上がる、世界がぐにゃりと歪み虹色の輪郭がブレる

 レッドは"戦闘"が始まって早々に膝をつき吐き気と気怠さに苛みッ
 白薔薇は武器を構え仲間を守るべく立ち上がるも剣先は敵の姿を全く捉えていない…っ!
 アセルスに至っては、頭を抱えて蹲り、まるで数日前の[カウンターフィアー]を受けた時と同じ

 ルージュは…水底に沈んだまま、浮かび上がってすらこない…まさかそのまま溺れたのか!?



 獲物がやってきた…
     にやりと顔を歪め…[ヨークランド]の沼地"名物"――[クラーケン]は笑った




582以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/10(水) 12:45:34.59UuatjkrWO (1/1)

沼地はマジできついんだよなあ…水耐性つけてからいかないと


583以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/11(木) 14:02:22.45ZuuHve1NO (1/1)

沼地はロボ揃えて無理矢理突破するわ


584以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2019/04/12(金) 01:55:23.08IxZuFk9XO (1/1)

イカ出る前に序盤で突破やろな


585少し投下2019/04/20(土) 01:43:43.73WzuKBuWT0 (1/8)


 北欧神話に語り継がれる帆船の舵を取る船乗り達から畏怖の念を送られら大海の怪物
その名前を冠した巨大烏賊の魔物に目玉が飛び出そうな程の衝撃を受けた

 何せ[クラーケン]は【危険度ランク9】――トリニティ政府が定める危険生物認定の最上位種だ



近隣住人が沼地に近づかない理由はこれである

 [ワカツ]でもの天守閣でも経験したが、"カード"がある場所というのは一種のパワースポットと
なり得る、酒神を祀るという祠も力が収束される特異点の1つであり
 必然、スポットに近いこの沼地は強いモンスターが自然と集まるようになっている


水棲系モンスターで[ガイアトード]運が悪ければ[玄武]がよく出没するという魔境である


 …尤も、今回の場合は余程の"引きの悪さ"だったのか、ババ抜きで言う所のジョーカーを引いた

滅多な事では現れない[クラーケン]をよりにもよって引き当てたのだ



  レッド「マジかよっ!…うぶっ!?」オエェ…



 試練、それは何も知らされていない彼等は祠に行ってから何かがあるものだと考えた
タダでそう易々とカードが手に入る筈が無い[ワカツ]で影を揃えた時と同じ何かしらはある物と
そう身構えては居たがこれは完全な想定外だ


『辿り着いてから試練が始まる』……ではない、『辿り着くことそのものが既に試練』なのだ


 二つの意味で溺れる程の酒を飲み、千鳥足で更に体調も絶不調
道中凶悪極まりないモンスターの巣窟を、それこそ彼奴等の縄張りに足を踏み入れてはならない
その条件付きで一つの目的地に向かうというのが"[杯のカード]の試練"なのだ


…考えうる限りの最低最悪のコンディションで地雷源をタップダンスしながら進め、と




  クラーケン「~~~~~」スッ、ザバァァ



 巨大烏賊はゆっくりと10本ある触手を水中から引き揚げ天へと振り上げ
そのままの姿勢を維持した



   白薔薇(…?襲ってきませんの…)


 涙が止まらなくて、武器の先端が未だ烏賊から若干逸れた所を狙う白薔薇姫は酔いで
碌に回らない頭で必死に考えようとした、潤んだ瞳は巨大烏賊の姿を薄らと捉えては居る
 また、耳に異常はない為、触手が水底から帆船の錨の如く引き上がった音も聞こえた為
相手が今どのような状態でいるかも何となしに分かるのだ



…分からない、いや、"解"らない事があるとすれば、何故その態勢で止まるのか


普通腕を振り上げたのなら敵に向かって殴りかかるなり振り下ろすなり何かしらの行動に出るもの
対して目の前の[クラーケン]は一切動こうとしない、"まるで何かを待っている"様に



  白薔薇「あぁぁ!?いけません!!みなさん、何かに掴まりながら身を守ってくだ――」



 白薔薇とレッドには違いがあった、倒したモンスターを吸収する妖魔という種族は
それなりにモンスターに対する知識を持つ必要がある

力を吸うことで自らの強化へと繋ぐからこそ最低限、対処方法などを学ぶものだ


 当然、貴婦人はこの【危険度タンク9】と認定される災害クラスの怪物が持つ特徴を知っている
この巨体が触手を振り上げた時、それは――