1以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 19:22:31.268mU1puuW0 (1/31)






                         __、
  /ヽ   /ヽ          ( ̄ ̄   ノ           /ヽ
 / /   l l´ _        く ソ´ ̄            _| |_  _
( <  , -、 | |〈  ノ , -、      l l<〉,へ-、 ヘ_  /ヽ- 、 (_  ,-‐' 〈_,ノ ,-―'フ  ,へ-、
 > 〉l 0 j | し' l l 0 j     ノ |  `l γ / ,-、ヽ l r'7| | |   _  i くフノ  `l γ
// ー、ゝ ー-; l  ー、ゝ    ー   く_ゝ 、 ー' ノ |_ノ〈__|  |_ノ  l´ | ヽニ=-  く_ゝ
         l/                  ̄            ー'





[注意書き]


※一部のサガフロ 没ネタ

※クレイジー・ヒューズネタ があります

※オリジナル解釈と原作中に無い展開もあるのでご注意ください



※クレイジー・ヒューズ程じゃないけどキャラ崩壊もございます




2以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 19:23:19.198mU1puuW0 (2/31)






           ※ - 序幕 - ※



  prologue<プロローグ> ~ 7歳の修士、忘れ去った思い出 ~










3以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 19:23:46.318mU1puuW0 (3/31)





 その日は、一際暑い一日だった


 降り注ぐ猛暑が石畳を熱し、雑踏を奏でる靴底にさえ悲鳴をあげさせるのではないかと心配する程だった
額に浮き出る玉汗をハンカチで拭いながらも聖堂へ脚を運び、修士として勤行に励む者のあらば
快晴からのさして嬉しくも無い贈り物に根をあげ、ポプラ並木の木陰で涼を取る住民…


心なしか、夏の風物詩たちの鳴き声すら力無いように感じられる






その子供は修士のローブを身に纏い、そんな光景をぼんやりと眺めていた
 半刻ほどで時計の短針は正午を告げるだろう時間帯に噴水広場で座り込み
虫取り網や空っぽの虫籠をぶら下げた同世代くらいの少年たちが走り回る姿をただ、ただ見ていただけだった



「…どうしよっかなぁ」パタパタ



齢7歳、行き交う人々を眺めながら―――――彼は考えなしに飛び出したことをちょっぴりだけ後悔していた

歳相応に脚をばたつかせる、2本の脚が左右交互に宙を掻き分け、その度の影も動く


長く伸びた癖の無い銀髪、風に靡くキラキラとしたソレは噴水の水面に煌めく陽光の輝きにも勝るとも劣らない



「帰ったら、きっと先生達にまたお仕置きされるだろうなぁ…」



眼を細めて空を仰ぐように見つめる、眼界にはどこまでも蒼い空があり、その蒼さに吸い込まれていきそうな気さえした
 着の身着のままで森の奥の奥、誰に見つかることも無いであろう施設から大人の監視を掻い潜ってでも観たかった外


書物の上のインクでしか知り得なかった事柄や挿絵の中だけの情景、触れることができるのか、っと淡い期待を胸に
飛び出して来たが世の中というのはそこまで甘くなく

結局の所、知りたいと思った世界の1/10にすら満たなかった




…いや、1/10だから実りは有った、0じゃないのだから、有ったのだ








「…んんっ?」





彼はそれを見つけた


思えばそれは見えざる手によって手繰り寄せられたとも言えなくもない邂逅だった







4以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 19:24:17.668mU1puuW0 (4/31)



 その日は、一際暑い一日だった


 東風が熱を帯びた身で忙しなく巡る人々の肌を焼く、日傘をさして歩く者も在らば麦わら帽子を被る者
露店で売られている飲料を透き通るグラスに一杯注ぎ氷をひとつまみ入れる
銅貨を数枚手渡し、これ見よがしに、それでいて贅沢に茹だる様な暑さに苛まされる者に見せつけて喉を潤す住人


猛暑日を肴に冷酒を嗜む、そんな夏の風物詩を満喫する通行人の顔が目に入る






その子供は修士のローブを身に纏い、木の根元に腰かけ書物を読んでいた
 半刻ほどで時計の短針は正午を告げるだろう時間帯にポプラ並木の木陰で捗らない読書にため息を吐いた
どうしても学院に居たくなかった、だから外へ飛び出したが失敗だったか、っとうんざりしていた



「……よくもまぁ駆けずり回れるものだ」



齢7歳、時折手にした書物から視線を外し―――――彼は何も考えずに溌剌と動き回る同世代に聴こえぬ言葉を放つ

歳の割りに大人びて見える彼は、そんな口調とは裏腹に羨望の眼差しを向けていた


束ね上げた長く艶やかな金髪は肩から流れるようで、丈夫な寿樹を背もたれにしていた彼の白い肌は雪のように美しい



「…我ながら馬鹿な事をした、抜け出せば帰った後がどうなるかわかるだろうに」



眼を細めて考えたくも無い事柄から逃避を図るように紙の上の文章へ眼を向ける
 この国一番の荘厳な創りの学院から、愛読書という名の教科書片手に窓から飛び出した


すこしだけ外の世界には興味があった、それが彼の知的好奇心を刺激する事もさることながら
気に入らない教師に教鞭を振るわれるのを嫌っていたという事も手助けしたのだ

何でも良い、何だって良いから適当な理由をこじ付けて逃げ出したかったのかもしれない




…我ながら馬鹿な事をした、と後々後悔すると分かっていてもせずにいられない若気のなんとやらだ








「……なんだ?」





彼はそれと目が逢った


思えばそれは見えざる手によって手繰り寄せられたとも言えなくもない邂逅だった







5以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 19:24:54.788mU1puuW0 (5/31)




「ねぇキミ、僕と一緒に遊ぼうよ」

「お前と遊ぶ理由が無い、去れ」




初対面の少年に彼は手を差し伸べ声を掛けました

初対面の少年に彼はそれだけ言い放つと再び本に視線を戻しました




「えー、なんでさー」

「なら答えてみろ、俺がお前と遊ぶ理由があるか、言ってみろ」



少年は初対面の彼に問答を投げました

少年は初対面の彼からの謎かけの答えを探しました




「理由?そんなの簡単さ」

「簡単なモノか、嘘をつくな」



少年は初対面の彼に対して朗らかに笑いかけました

少年は初対面の彼に対してムッと頬を膨らませ怒りました










           「だって、キミはさっきから友達と遊んでる子をじーっと見てたもの」





少年は回答を口にしました

少年は回答を耳にしました




「どうかな?」

「…」



彼は口を開きました

彼は口を開けなくなりました





ずばり、彼の心の内を言い当てたのです、正解でした

ずばり、彼は言い当てられたのでした、驚きました




6以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 19:25:20.298mU1puuW0 (6/31)


「本当は誰かと遊びたいと思ってるよね、でもお友だちがいないから一人で本を読んでる」

「仮にそうだとしたらなんだ、それとお前と俺が遊ぶ理由に繋がらないぞ」








首を振り、本の文面から視線をあげて銀髪の少年を見つめる

金色の糸がはらり、と肩から零れ落ちる




何処に行く宛ても無く、知り合いも居らず、頼れる者もなく、無計画に飛び出した

何をすれば好き事かもわからず結局のところいつもの書物を読み漁る"フリ"をするしかない




ただ、ただ…羨望の念に駆られて他者を見ているしかないだけの、そんな自分を








目の前の少年はそんな彼を言い当てたのだ




出会って間もない、名前も知らない彼に自分の立場を言い当てられた








「あるよ、僕も同じだから」

「なんだと」







「僕もお友だちがいないから、ぼんやり見てるだけしかできないから
                だから、僕とお友だちになってほしい、僕と遊ぼうよ」







「つまり、"お前とお友だちになればひとりで本を読む理由が無くなる"と」


「うん、僕もお友だちができて遊べるし、キミもじーっと見てるだけじゃなくて済むよ」



「それが"お前と遊ぶ理由"だというのか」


「そうだね、それが"キミと遊ぶ理由"になるね、ほらね簡単だったでしょ」





7以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 19:25:56.668mU1puuW0 (7/31)


「面白い奴だな、いいだろう」

「ありがとう、キミも中々面白いと思うよ」





この時、しかめっ面しかしていなかった彼が初めて微笑みました、心からの微笑みでした

この時も、その前からもずーっと笑っていた彼は一層明るく笑いました、心からの喜びでした




同じ背丈、同じくらいの歳頃、両手を合わせてみれば鏡に触れたようにピッタリな手の大きさ





整った顔立ち、傍から見れば女の子に間違われてもおかしくない端麗さ
















           なにもかも "生き写し" のように そっくりな ふたり は 歩き出しました












 これは、15年後…此処、魔法大国の"リージョン"として名を馳せる[マジックキングダム]にて
運命の日を迎えであろう少年たち2人の忘却の彼方へ置き去りにされた思い出







      この運命的な接触から15年の歳月が流れる…


*******************************************************
――――
―――
――






8以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 19:28:20.058mU1puuW0 (8/31)

【旅立ちの日 時刻 12時00分】



シュルッ…  スッ―――






              ブルー「…行くか」






 艶やかな蜂蜜色の髪を束ね、藍色の術士の法衣に裾を通し、22歳になった彼は長年暮して来た寮の部屋を発つ
後に使うであろう者の為に整理整頓をしっかりとし、修士修了の日を迎えようとしていた



教員a「修士ブルーよ、ついてくるが良い」



 重々しい声色が扉越しに彼を呼んだ、名を呼ばれた彼はゆっくりと瞼を開き廊下で待ち構える教員の後に続く





*******************************************************
【旅立ちの日 時刻 12時00分】



シュルッ…  スッ―――






           ルージュ「この部屋ともお別れか、なんだか寂しいなぁ」






 待っている間が暇なのか、するべきことない彼は癖の無い長く伸びた銀髪を弄っていた、朱色の術士の法衣に裾を通し
齢22歳の彼は椅子に座って脚をパタパタとさせていた
 時折欠伸をしたり腕を伸ばしたりと呑気に修士修了の日を迎えようとしていた



教員b「修士ルージュよ、ついてくるが良い」



 重々しい…が、何処となく哀しそうな声が彼を迎えに来た






コツッ…コツッ…




 教員b「…数年も前からお前には言っていたな、お前に双子の兄が居ること」


 ルージュ「はい、先生…えっと、僕と同じで兄も今日、学院を発つのですよね?」


 教員b「……そうだ、それと無理に敬語は使わんでもよい、いつものように話せ」




9以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 19:35:24.318mU1puuW0 (9/31)



教員b「お前の兄は我々"裏の学院"と違い、"表の学院"で育てられた…
     我らが"裏"は学院の外へ出る事は禁じられている
      もっともそのことはお前が一番わかっているだろうから私からはこれ以上何も言わん」


ルージュ「兄のブルーは外へ―――」



教員b「……表と裏は違う、向こうは"リージョン"を出ることさえしなければ街を自由に出歩ける」


教員b「だがお前の兄はお前の事を名前しか知らない、顔も性格も、何もかもだ、お前と同じで、な」


それ以降だんまりを決め込む教師を見て、ルージュは肩を竦めそのまま歩く、これ以上は訊くだけ無駄なのだろうと




教員b「…」


教員b「これは独り言だ」


ルージュ「?」



教員b「私含め、一部を除いた殆どの者がお前を我が子のように想っている、よく立派に育った」

教員b「だから送り出すのが辛いのだ」




ルージュは"独り言"を聴いていた、此方から何かを口出しするでもなくただ聴くだけだった




教員b「修士修了式でお前は晴れてこの国の術士の1人となる、そして、何をすべきか勅令を授かる、それだけだ」




自分よりも一歩先を進む年上の人物は表情を窺えない、だが、その声だけはこれまでの"独り言"で一番哀しみに溢れていた




*******************************************************
【旅立ちの日 時刻 12時15分】

【BGM:ブルー編OP】



                『修士修了式 開会!』

            『終了者の氏名発表を主任教授から行います』




長い廊下を渡り、荘厳な大扉は開かれる、高い天井には天国に住まう住人たる天使たちが描かれていた
 そんな室内全域に響き渡るように開会式の発表は執り行われた


  『教授会による厳正な成績審査の結果、全会一致により今期の修士修了者を…』

           『修士ブルーに決定致しました』



            『 修士ブルー! 前へ! 』


ブルーは寡黙に、いや…普段冷静な彼でさえもこの時ばかりは緊張したかもしれない
 それだけ強張って見えたのだ、彼とて人の子だ

この優等生は"いつも以上に背筋を伸ばして"入室した


10以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 19:36:05.418mU1puuW0 (10/31)


髭を蓄えた学会のお偉方は口元を綻ばせ拍手喝采で蒼の術士を歓迎する



      『ブルーよ…汝をマジックキングダムの術士に列する』

     『術士としての義務を果たし、キングダムへの忠誠を全うせよ』





 ブルーは表情にこそ出さないように努めていたが内心、打ち震えていた



自分は王国の為に…我が祖国の伝統と誇りある術士の1人となれた、と

祖国の名誉とさらなる躍進の為の1人となったのだ、と



それは中世の貴族が一国の妃に跪き、剣を天に掲げ命を賭す誓いを捧げる気持ちと通じているのだろう
 さながら物語の主人公か何かになったように義務と責任を背負うことに打ち震えた










     『慣例に従い、キングダムを離れ…リージョン界への外遊を許可する!』






"リージョン"界



この世界には混沌と呼ばれる漆黒の海がある、それは喩えるならば宇宙空間のようなモノで
 その真っ暗闇の空間に無数の"リージョン"と呼ばれる小さな世界がある





"混沌"を宇宙空間と喩えるのなら

"リージョン"はさながら暗黒の海に浮かぶ小惑星<べつせかい>である



機械技術が発達し、人工知能を搭載したロボットやサイボーグが生きる異世界が存在し

サムライ、忍者と呼ばれる風変わりな戦士が生まれ育った別世界もあり

ドラゴンやスライム、各種多様なモンスター種族が平和に暮らす小惑星も実在し

そして、此処…[マジックキングダム]の様に魔法大国として名を馳せるリージョンがあるのだ







このご時世、船<リージョン・シップ>に乗り、宇宙旅行…もといリージョン旅行なんてさして珍しくもなんともない

 されどもこの主任教授の御言葉を聴いて分かる通り、原則として[マジックキングダム]の住人は
船に乗り、他所の異世界へ気軽に旅行へ行くことは禁じられているのだ


外からの観光客は来るのに、内から余所へは許可なく行けない…この時勢にしては珍しく閉鎖的な部類の国家だ





11以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 19:38:11.538mU1puuW0 (11/31)




   『修了者の第一の務めはリージョン界を巡り、術の資質を身に付けより高度な術を鍛錬することである』





資質、…焚火を起こそうと思えばそこには火種となるモノが必要となる、火種があって、燃えるモノがあり
初めてそこに大火を立ち昇らせる事ができる


資質を持つものは鍛錬を積むことで基本術以外の術、…即ち高位の術を操れるようになる
 それゆえに術士を志す者は喉から手が出る程に欲しいモノだ





 さて、22歳の若者に下された勅命は此処までを簡単に訳せば

国外へ旅立ち、術の資質を身に着けて最強の魔術師になって来い、簡単に訳せばそれだけだ




そう、これだけで終わる話ならば







              『……そのためには"あらゆる手段を用いてよい"』











*******************************************************

兄のブルーは幼少の頃よりそう学んだ、そしてそれは双子の弟であるルージュも同じである


目的達成の為ならば"あらゆる手段"を使う事も厭わないように、と


あらゆる手段…つまり人道に反する行いであっても、それを許可するというのだ






         ルージュ「あらゆる手段を…」ゴクッ







時を同じくして、全く同じ内容を聞かされていたルージュの顔は険しいものへと変わる

 彼もまたブルーと同じことを学びはした、しかし彼は"お利口さん"ではなかった



世の中の大半の人間は利益の為と他者を蹴落とし、時には何かしらの見返りを求めて動く、効率的な賢い生き方



生憎と、彼はその生まれつきの性格ゆえに他者を蹴落とす事よりも手を取り起き上がらせることをするのだ

何の見返りも無く、ただただ純粋な善意で他者に手を差し伸べる、全く以って非効率的なやり方

*******************************************************


12以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 19:39:18.838mU1puuW0 (12/31)




                   『異例の事だが出発前に校長からのお言葉がある』





"裏の学院"でルージュがそれを聞き、ハッと我に戻ったころ

"表の学院"でブルーは、天を見上げ校長の言葉に意識を傾ける







                    - ブルー、貴方は選ばれし者です -


                      - 双子ゆえに魔力が強い -

                     - しかし、双子のままでは -

                   - 術士として完成することはありません -

                 - 貴方はその運命に従わなくてはなりません -



                       - 今日、別な場所で -

                    - 貴方の双子の片割れのルージュも -

                    - 同じように終了の日を迎えています -



                   - キングダムには不完全な術士よりも -

                    - 完璧な一人の術士を求めています -

                   - それは貴方だと信じてますよ、ブルー -









             - 行きなさい 資質を身につけ 術を高め そして――――  -













                双子の術士は同じ時間、同じタイミングで御言葉を耳にした






13以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 19:42:24.058mU1puuW0 (13/31)









                   ル ー ジ ュ を 殺 せ !







14以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 19:42:53.238mU1puuW0 (14/31)








                    ブ ル ー を 殺 せ !







15以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 19:49:02.498mU1puuW0 (15/31)



魔術師を育成する学院の校長にしてこの国を治める者…

              …御国の最高権力者からの勅令、それは…







[双子の兄弟同士で殺し合え]という命令だった、22年間、彼等は生まれた時には既に施設に居た



一度たりとも出逢ったことの無い、双子の片割れ


名前しか知らない、赤の他人と変わりない相手



だけど、双子の兄弟


















      - 片方を殺して、自分こそが優れた魔術師であると、最強の証明をしてみせよ -














この物語は…

15年ほど前に、実は禁を犯して学院の脱走を試みた弟と兄が出会っていたという在りもしない物語




ただ、お互いに忘れてしまった

ただ、お互いが生き別れの家族だと知らない



たったそれだけの話




かくして、今日この瞬間、この言葉を合図に殺し合いは始まった



           - 国の威信を背負い、決闘に打ち勝ち生きる為に兄は旅立ち -


      - 兄弟殺しに躊躇いを感じながらも、国家反逆罪を恐れ戦う道を取るしかない弟 -




16以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 19:53:09.978mU1puuW0 (16/31)







           ※ - 第1章 - ※



        ~ ファースト・コンタクト ~









17以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 19:58:08.128mU1puuW0 (17/31)



 ルージュの足取りは酷く重かった


彼は先述の通り、"御人好し"と評されるタイプの人種だ

 温和でそして子供っぽさの残る純真さ、そんな彼に出逢った事が無いとはいえ(実際には会ってるが)
双子の兄を殺せと命を下されたのだ

 国家の最高権力者から直々の勅令、王国の意向に背く事となればどのような理由であれ
それは"国家への反逆"を意味する


平和なリージョンとして有名なこの王国に限った話ではないが国の"暗部"というのどこもそうだ
裏では人に言えない事が平然と行われるものだ


自分を迎えに来た教師の辛そうな声色、今ならあの意図も理解できる…


まだ見ぬ兄は殺し合いをどう思っているのか?生き延びる為にルージュを本気で殺すつもりなのか…




ルージュ「…ブルーを殺せ、か」トボトボ




出発前に教授等からいくらかの支給品を渡される

[バックパック]にいくらか詰め込まれた傷薬に精霊石、そして―――




ルージュ「…わわっ、1000クレジット」ジャラッ



教員c「国からの援助資金だ、最初の1ヶ月はそれでどうにかなるだろう
     その先は自給自足となる学院でサバイバルの心得は一通り学んだバズだ」


ルージュ「…1ヶ月かぁ」ジャラッ


教員c「それとこれも渡しておく」スッ



ルージュ「! この宝石は…」


白い手袋をはめた掌の上に輝く蒼い結晶…それは彼も見た事があった、魔術を学んできた彼にとって
それはある術を使う為にどうしても必要なアイテム


教員c「[リージョン移動]、知っての通りお前たちがそう呼んでいる<ゲート>の術を使う為の媒介だ」

教員c「これが無ければ一度行った事のあるリージョンへの瞬間移動も侭ならない、失くしても再発行はしない、良いな」


ルージュ「…はい」


銀髪の好青年は教員から重要なソレを受け取った、その直後だった
 昔から勘の良い彼が全身総毛立つような嫌な感触を覚えたのは



ルージュ「うっ…!?」

教員c「?…どうした」



ルージュ「…質問ですが、僕がこの旅で一度も<ゲート>を…ひいてはこのアイテムを使わないのは構いませんね?」


その質問に眉を顰めたが、別に構わないと答え聴き、ルージュはありがとう、と軽く会釈した
 この蒼い宝石から得体の知れぬ何かを感じた、願わくば資質集めの旅の最中で何処かに捨てても良いとすら思う程に



18以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 19:59:52.718mU1puuW0 (18/31)

*******************************************************




ブルー「資質集めの旅か、証明してみせる…!」グッ



ルージュがシップ発着場へと歩き始めた頃、紅い宝石を強く握りしめ、彼は強く念じる






ブルー(祖国は不完全な1人の術士よりも完璧な術士を求めている)

ブルー(資質を集めろ?双子の片割れを殺せ?)




ブルー(俺こそが優れていると証明してやる、全ては国の為に!)






ブルー(そして…俺自身が生きる為に
      会った事も無い赤の他人同然の奴にみすみす殺されてなるものか!)




闘争心、互いの命を懸けた競い

優れているのは自分の方だと言ってくれた上層部への期待に応えるべくブルーは真っすぐに
自分が華やかに勝利という凱旋を通り、忠誠心を示すことに燃えていた

そして、同時に死にたくない、まだ生きて色んな世界を見たい


小さな望みもあった


だから尚更に負けられなかった、死ねばそこで終わる、どんな生物だってそうだから…







ブルーは意識を集中させる、頭の中に自分にとって連想しやすいモノを…"青"を


海…深海の奥底に居るイメージを思い起こす、そして空想の海にピラミッド状の抽象的な像を浮かべる


無数の三角形が姿形を変える、その"世界"を…その"リージョン"を象徴するヴィジョンへと変換するッ!








 ブルー「…さらば、故郷よ…必ずここに戻るその時までは…っ!」




ルージュ「バイバイ、マジックキングダム…必ず帰って来るからねっ!」







2人はそれぞれ行くべき世界を…進むべき小惑星<リージョン>目掛けて旅立った!



19以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 20:00:48.128mU1puuW0 (19/31)

*******************************************************



                 ブルー「<ゲート>! …[ドゥヴァン]へ!!」シュンッッ!!




                 ルージュ「[ルミナス]行きのシップに乗せてください!」




*******************************************************


20以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 20:02:42.878mU1puuW0 (20/31)



―――
――



【双子が旅立ってから…初日、18時27分】




「ピンポンパンポーン♪ Attention, please! Attention, please! お客様!
  本日は当機をご利用いただき誠にありがとうございます、[マジックキングダム]発、[ルミナス]便は間もなく
 [ルミナス]に着陸致します…機体が揺れますので、しっかりとお席についてシートベルトを着用お願い致します」






 キィィィィン…!  プシュゥゥゥゥ…






       ガヤガヤ…!



「着いたなー!ルミナス!此処で精神の修行かぁー!」
「ねぇ!陽術と陰術どっちにする?やっぱり光を操る術よね?恰好良いし!」
「ばっかだなー!恰好良いってったら影操る魔法だろぉ!!」



シップの着陸と同時に観光客や修行目的の客がなだれ込むように降りて来る、その中にも当然ルージュは居た





ルージュ「…すっげぇぇ!ルミナスに着いちゃったよ…術を使ってないのに!」キラキラ…!





マジックキングダムは機械科学に疎い、そして外遊を一部の者以外は許されない

つまり、まるで田舎から都会にやって来て大はしゃぎの子供よろしくと彼は浮かれていた


ゲートの術を使えば既に登録済みのこのリージョンへは一瞬で来られる、にも関わらず態々機械の船に乗って
混沌の海を越えて別の惑星に時間を掛けて来るなど非効率と言えよう




それでも彼は"アレ"を使うのが何故か気が引けたし、何より彼自身機械や外の世界の技術に興味があった



これがルージュと外界のファースト・コンタクトであった




「ねぇ?さっきの人なんだったんだろう?ほら?[オーンブル」の前に居た」ヒソヒソ
「ああ、随分前から此処に張り込みしてるパトロールさんだよ、なんでもリージョン強盗団を追ってるとか」ヒソヒソ
「妖魔だよな、あれ…俺、人間<ヒューマン>以外の種族見た事無くってさぁ」ヒソヒソ



ルージュ「…とりあえず、どうしよう」キョロキョロ



此処へ来たのは光の力を司る陽術の資質、もしくは闇の力を操る陰術の資質を得る為である
光と闇は裏表、どちらか一つの資質しか得ることができないのだ
 しかも出発前に兄ブルーの得た資質を得る事ができないと耳にした、…早い者勝ちの競争だから考え所だ



21以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 20:04:06.918mU1puuW0 (21/31)



ルージュ「う~ん…」


発着場のラウンジの椅子に座り、悩む…


最終的には双子の兄と殺し合いをせねばならない、それを踏まえた上でどんな術を得るべきか
闘い方もある程度考えて置く必要がある








            緑髪の少女「……はぁ」トボトボ

            妖魔の女性「お辛いとは思いですが今はこれからを考え無くてはなりません」ギュッ



        緑髪の少女「…うん、そう…だよね、もうおばさんの家には帰れない、だからっていつまでも
                      くよくよする訳にいかないよね、いつも支えてくれてありがとう」ニコッ


            妖魔の女性「ふふっ、貴女様は笑顔でいらっしゃる方が素敵ですよ」






ルージュ「…」ポケー


ルージュ(…あの二人、珍しい人だなぁ…人間<ヒューマン>…じゃないよね?)




他のシップが次々と着陸し、ターミナルゲートはすぐに観光客の波でごった返し始めていた
そんな時、なんとなくぼんやりと眺めていた彼は2人組の女性が目に留まった



片方は紛れもなく妖魔だ

20代の女性で物腰が柔らかく、美しい女性
白いドレスに茶髪に着飾った花飾りがよく似合う女性が付き人を励ましていた


もう一人は10代半ばだろうか、緑髪の整った顔立ちでさっきまでがっくりと肩を落としていたが
付き添いの人に励ましの言葉を貰って笑顔を振りまく、その笑みは太陽のように眩しいものだった





ぐぅぅ~




ルージュ「っと、見とれてる場合じゃないや、まだご飯食べてなかったんだよねぇ
                  降りたら食べようと、シップ内の売店でお弁当を――」スッ








ルージュ「…!?あ、あれ? 僕のスーツケースが無い!?」




22以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 20:05:30.748mU1puuW0 (22/31)



スリ「へへっ!見るからに旅慣れてない観光客だぜ」つ【ルージュのスーツケース】

スリ「早速[クーロン]の闇市あたりで売っぱらって―――へっ?」ガシッ






緑髪の少女「おい!見ていたぞ、さっきあそこに居た銀髪の人から盗んだだろ、返せ!」



スリ「な、なんだよお前!連れか!?離しやがれ!」ググッ

緑髪の少女「違う!ただ…そういうのは放っておけないだけだ!」ググッ




ルージュ「ああーーっ!僕の荷物!」




スリ「げっ!?…クソったれ!」バッ! タッタッタ…!




緑髪の少女「ふぅ…はいっ!これ!あなたのでしょ?」つ【ルージュのスーツケース】

ルージュ「あ、ありがとう…!いやぁ、まさか気づかれない内に盗られてたなんて」


緑髪の少女「リージョン旅行は初めて?観光客を狙うスリが多いから発着場は油断しちゃダメだ」


ルージュ「あ、あはは…お恥ずかしい」



 紅の術士は気恥ずかしそうに顔を朱に染めて後ろ頭をかいた、盗人から手荷物を取り戻してくれた
緑髪の少女はそんな彼をおかしくおもったのかはにかむ様に微笑んだ、そして――







  アセルス「私はアセルス、少し訳あって行く宛ての無い旅をすることになったんだ…」




 自己紹介をしてくれた、どのような訳があるか知らないが、それを口にする時に少しだけ目を伏せ
陰りのある顔を見せた



  アセルス「それと、こっちは白薔薇、私に付き合ってくてる人なんだ」

   白薔薇「白薔薇と申します、以後お見知りおきを…」ペコリ



白薔薇…そう呼ばれた妖魔の女性はやはりというべきか育ちの良いお上品なお辞儀をしてくれた
 外界に出て早々に盗難被害に遭うというアンラッキーに見舞われたが、端麗な顔つきをしたボーイッシュな少女
そして麗しの貴婦人とお知り合いになれたのだ、彼の旅立ちは幸先の良いものなのかもしれない





  ルージュ「僕はキングダムの術士ルージュだ、術の修行の為に各地を廻ってるんだよ」




彼は荷物を取り戻してくれた二人の女性に簡単な自己紹介をした



23以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 20:07:39.808mU1puuW0 (23/31)



アセルス「へぇ…術の修行の為にか…(1人人称が僕か、変わったお姉さんだなぁー)」


ルージュ「?」キョトン



 若干違和感を感じたが、気にせず「まぁ、各地を廻ってるっていっても今日旅立ったばかりだけどね」と付け加え
紅き術士はふと気になった事を尋ねてみた




ルージュ「君も術の資質を集めているのかい?」




 [ルミナス]を訪れる者は大抵、陽術か陰術の資質を求め旅に出た者だ
とすれば彼女達もそうなのだろうか?そう思い立ってルージュは質問してみたのだ


もしそうならば、此処で出会ったのも何かの縁、協力して集めないかと誘おうかと考えた

 資質、それは生半可な覚悟では得られぬ試練を越えねばならないのだ1人より大勢の方が良いに決まってるし
ルージュ自身が純粋に彼女に恩返しをしたいとも思っている



アセルス「えっ!?えぇ…と」チラッ

白薔薇「アセルス様の御心のままに」



アセルス「ルージュ、私達はさっきも言ったように訳があって宛てのない旅をしてるんだ
       此処に来たのも…その成り行きで…」

アセルス「…資質集めをしに来たとか、特に明確な理由はないんだ…ただ逃げて来ただけ、でさ」



ルージュ「ごめん、言いたくない事だったら言わなくて良いから」




 ばつの悪そうな顔で途切れ途切れの言葉を発するアセルスは
自分が置かれている状況をどう説明すべきか言葉を選んでいるようだった



"逃げて来た" その一言がこの女性二人が何者かに追われる身であるという事を意味していた



アセルス「気を遣わせすまない、女性の1人旅は大変だろうけど、キミも修行の旅を頑張ってくれ」




ルージュ「うん!ありが―――じょ、せ、い?」



アセルス「?」



白薔薇「…アセルス様、お耳を」ヒソヒソ

アセルス「どうしたんだ、白薔薇……ん?………!?えっ、は!?っ?お、男の人!?」ヒソヒソ






ルージュ(…ははは、そっかー、僕女の子と間違われたんだー)ズーン


…やっぱり幸先よくない旅路だったかもしれない、これが彼の外界とのファースト・コンタクトであった


24以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 20:08:53.908mU1puuW0 (24/31)




アセルス「ご、ごめ…っ!あっ、いや、だって髪だってサラサラで綺麗だったし
               顔も女の子っぽくて可愛い感じでそのつまりそのアレでえーっと」ワテワテ



自分の失態に真っ赤に染まった顔で両手を振りながら思いつく限りのフォローを入れようとする少女


が、思いっ切りその効果は願うモノとは真逆な効果した出していない




ルージュ「素敵なフォローをありがとう…」ズーン




これ以上は更に気まずくなると判断し白薔薇が二人の間に割って入るように
「アセルス様、陽術の館へ術だけでも見に行きませんか?」と声を掛ける、その助け船に乗るように
「あ、あーそうだった!資質はともかく白薔薇みたいに<スターライトヒール>くらい使いたかったからねー」と
抑揚の無い声でそそくさと逃げていく



アセルス「ま、またね!ルージュ!縁があったら何処かで逢いましょう!」




そういって発着場のセントラルゲートから[ルミナス]へと続く扉を開き彼女は出て行った



ルージュ「…」ポカーン


ルージュ「色々と忙しない子だったなぁ…」フゥ…


――キラッ


ルージュ「ん?」

ルージュ「これは…カフスボタンかな?」スッ



 床に落ちていたそれを拾い上げルージュは天上の灯りに翳す、赤紫の輝きを放つ宝石をあしらった見事な逸品
衣服の装飾品としてだけでなくコレ単体でも美術品として値が張るような代物だった




ルージュ(…あっ、これアセルスのだ)



 中世の貴族のような爵位の高い人物が身に纏うような衣装、言い換えると時代掛かった古めかしい…
ミュージカル劇場の舞台役者が着こなしてそうな服装のあの男装麗人の少女を思い返す

さっき大袈裟に両腕を振っていたがあの時に外れたのか…




ルージュ「走れば間に合うかな、落し物は届けてあげなくちゃっ!」タッタッタ!




…ルージュは"お利口さん"ではなかった

頭に馬鹿がつく程の御人好しだ、…そんな彼は思いもしなかっただろう



   …これが後の腐れ縁に繋がり、なおかつ資質集めの旅の長い長い寄り道になるなどと…




25以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 20:10:29.978mU1puuW0 (25/31)

*******************************************************
―――
――



【双子が旅立ってから…初日、14時49分】




- [ドゥヴァン]には秘術と印術の手がかりがある、急げ!ルージュの得た術をお前が身に着けることはできないぞ! -


 表の学院に所属する教授等に背を押され、旅立ったブルーは<ゲート>を使い
占い師が集うリージョン[ドゥヴァン]へと舞い降りた



ブルー「…着いたか」



ルージュが[ルミナス]へ到達する時刻より時は遡る…彼はシップ発着場の手前に姿を現し初めてみる外界に目を配らせた
芝生の絨毯を踏み鳴らし、群れを成す矢印看板の示す方角へと歩き出す




      「へいっ!そこ行く綺麗な金髪ポニテのおねーちゃん!占いどうだい!」
      「俺も占えるぜ、骨占いだぜ、うん!明日も晴れだぜ」
      「ハープ占いどうですか~?」




ブルー「…」ムスッ


マスター「はいっ、コーヒーですよ」コトッ





ブルーはご機嫌ナナメだった、理由は至って簡単だ

来て早々に"綺麗な金髪のおねーちゃん"扱いをされたからだ



彼は男だ


が、端麗な顔、生まれつきの雪の様に白くきめ細やかな肌、そして蜂蜜色の艶やかな髪が見る者に女性の印象を与えさせた
奇しくも双子の片割れも今の自分と同じように、数時間後に女の子と間違われるのだが、それはまた別のお話である



外界に来て彼はすぐに疲れ切ったような表情だった


…祖国の為!

……上層部からの期待に応えるべく!

………誇りと伝統、名誉ある人間の1人としてっ!



と息巻いていたものの…来て早々にこれでは、と頭を抱えそうになった


まず、この[ドゥヴァン]というリージョンは風変りこの上ない土地だった

骨占いだの、植物占いだの…手相、ハープの音色だ、占星学だなんだと、何処もかしこも観光客を
見つけては頼んでもいないのに勝手に占っていくというのだ


此処を訪れた、何も知らないブルーは正しく、鴨がネギを背負ってきたようなモノなのだろう
詰め寄っては勝手に占い、「どうですか!!!ウチの占い素晴らしいでしょう!?でしょう!?アナタもどうぞ!」

と、訳の分からない"勧誘"をしつこく薦めて来るのだ、さっそくブルーは頭痛を覚えた


26以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 20:12:39.838mU1puuW0 (26/31)




ブルー「手相図鑑に、星座の表…花の種…くそっ!いらんぞこんなもん!」イラッ


それらと一緒に手渡された契約書のような紙切れ、サインと朱印をすれば晴れてあなたも〇〇占いの同志ですっ!なんて
怪しい一文までついている



[ドゥヴァン]より先に[ルミナス]へ飛べば良かったかもしれないと浮かんできた悔恨の念を喫茶店のコーヒーで飲み流す




…甘い、砂糖とミルクの程よい甘味が彼の苦悩を溶かすようだった
齢22歳、術の修行に青春時代も何もかもを打ち込んだ"優等生"は甘党だった



同世代からの僻み、陰口…才ある者にはそれが付き纏う、更に努力家ならば尚更だった



いつの頃からか彼、ブルーは甘いモノを好むようになっていた、ブドウ糖の摂取は脳を活性化させるとはよくいったモノで
それをよく知らない子供の頃はとにかく甘いモノを食べれば頭が良くなる、というガセネタに踊らされたそうな


何れにせよ彼は甘いモノが好きになった、ソレだけの事だ



マスター「お客さん」


ブルー「ああ、良い味だったこれは少ないが受け取ってく――」





マスター「底の方にどろどろとしたのが残ってるだろう?」ニッコリ



ブルー「……」



財布からチップを差し出そうとするブルーの手が止まる、にっこりと爽やかな笑みで喫茶店のマスターは言葉を続ける


マスター「底に残ってる残りの形で運命を見るんだ、当店自慢のコーヒー占いさ!」フッ!




ブルー「…」







         " 貴様もか店主っ!! "





声に出さずとも目だけでブルーは訴えました


―――
――



「印術の誘いへようこそ!」

ブルー「…印術の資質について教えてくれ」ゲンナリ…



27以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 20:16:10.248mU1puuW0 (27/31)



初日で既に疲れを覚え始めたブルーは気怠そうに尋ねる



すると、どうだろうか?

「ふふっ!流石印術、この間の金髪美女達と同じで訪れる者が多い!アルカナとは違うんですよ!はーっはっはっは!」


と高笑いまでし始めた…




さっさとこのリージョンから出て行きたい、ブルーの心境はその一言で埋め尽くされていた




「おっと、失礼…ふふっ、あなたの髪色を見て以前[クーロン]からお越しの3人組の女性を思い出しましてね」


ブルー「無駄話は良いから早く教えろ、頼むから」





「ええ…印術とは印(ルーン)の力、加護を得る術です、高位のルーンを召喚するには印術の資質を要します」


「また、印術の力とアルカナを呼び出す秘術の力は相反する為、どちらかを得るにはどちらかを捨てねばなりません」



「資質を得るには…この小石を以て各地にある4つのルーンに触れる必要があります」コロッ



そういって4つの小さな石を取り出す、何も描かれていない小石、だが微かに魔力を感じ取れた



「ルーン文字が刻まれた4つの巨石、"保護のルーン"は[クーロン]に、"勝利のルーン"は[シュライク]に
  "解放のルーン"は[ディスペア]に、そして"活力のルーン"は[タンザー]にあります」



「巨石に触れ、4つの小石が全てルーンの小石と変わった時、あなたは術の資質を手にすることになるでしょう」



ブルー「巨石を探すために世界各地を旅する、それが印術の試練か…良いだろう、寄越せ」

「ふふっ!印術の同志が増える事は歓迎です!どうぞ!」




 ブルーは小石を手にし、そして基本術の術書を購入する、資質は無くともこれで最低限の印術の術は唱えられる
 術の書物と同時に謎の契約書も手渡してこようとする相手を無視してテントを出る




ブルー「<ゲート>の術は一度行った事のある場所にしか飛べない、シップに頼ることになるな」



例外的に[ドゥヴァン]、[ルミナス]だけは初めから飛べる、手渡された媒介となる宝石に初めから登録さているからだ



ブルー「まずは[クーロン]だ、そこへ行ってみるか」




クーロン…九龍…九龍街、立ち並ぶ高層ビルに空は覆われ、ネオン輝く街並み、常に夜なのでは?と思う程の外観と
治安の悪さで有名なリージョンだ、彼も噂だけなら訊いた事があった


人間<ヒューマン>、妖魔、モンスター、メカ…各種多様な種族が共存し繁栄する暗黒街だと、彼は早速チケットを購入した


28以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 20:18:03.238mU1puuW0 (28/31)


―――
――



「ぎゃーっはっはっは!こんな所に丸腰でくるなんて無用心なんじゃあねぇのか?ええっ!パツキンのチャンネーよぉ~」

「へへっ!此処を通りたきゃ通行料を払いな!1000000クレジットってトコを美人だから特別100に負けてやるぜぇぇ」



ブルー「」イライラ






早速、絡まれました。




発着場を降りて、まずブルーは驚いた

想像以上に人でごった返していたのだ、ネオン輝く街並みにスーツ姿のサラリーマン風の男から
スカートをたくし上げ胸元を寄せ、あからさまに"そういう金稼ぎ"を行うけばけばしい化粧の女たち

路上販売で声を張り上げ野菜を売るモンスター、汗水垂らして(るように見える)働くロボットたち


雑踏の伴奏に酔っ払いと売春を生業とする娼婦たちのコーラス、この汚れた都会のフルオーケストラに
平和なリージョンからやってきた青年は耳を塞ぎたくなった


耳はやられるは、目はネオン煌めくいやらしい看板やらの灯りでチカチカする


慣れるのに苦労しそうだ、と逃げるように裏路地にブルーは入り込んだ





そして、これである。





「あー、通行料が払えねーってんならそれで良いんだぜ?へへっ」

「そーそー、その代わりよォ、俺達とベットの上であつぅい夜を一緒に過ごそうぜぇ」




ブルー「」イライライライラ




何度も言うがブルーは男である、そして女性に間違われることは彼の密かなコンプレックスであった



「なぁなぁ、いいだるぅろぉぉ?こんな薄暗い所に一人でくるなんて、"そういう事"だろ?」

「ヒューッ!アンタみたいなネエチャンと一発よろしくヤれるなら本望ってもんさ!さぁ行こうぜ、愛の巣へな!」


              「「 ギ ャ ー ッ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ! 」」







 ブルー「」イライライライライライライライライライライライライライライライラ…ブチッッッ!!



今日だけで何度女と間違われたか分からない彼の堪忍袋はその卑下た笑い声を口火についに切って落とされたッ!


29以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 20:21:18.278mU1puuW0 (29/31)

―――
――


黄金色の髪の女「あーっ!!!くっそぉ!!!ルーファスの奴!ほんっと腹立つ!!!」

紫色の髪の女性「…彼は昔からああなのよ、貴女だってわかるでしょ」





黄金色の髪の女「そりゃ分かってるさ!けど…けど…!
          エミリアは女なのよ!…あんな薬で眠らせて奴らに売り払うなんてっ!」ギリッ



紫色の髪の女性「…ええ、帰ってきたら謝らなくちゃいけないわね」






[クーロン]の街中を慣れた足取りで二人の女が歩いていた

犯罪が日常で財布の紐をきつく締め、隙を見せてはならないこの街で慣れた歩き方をする手練れの二人は愚痴を口にした



紫色の髪の女性「勝手な行動は許されない
         仮に出来てもラムダ基地に入る方法は今の所無し…エミリアを信じる他ないわ」

黄金色の髪の女「そんなの、わかってるよぉ…はぁー…」


紫色の髪の女性「今の私達に出来ることは彼女が帰って来た時
            次の作戦をスムーズにこなせるように準備をするだけ、ね?」

黄金色の髪の女「うん…」





             ――――ズドンッッ!!!



「「ぎゃーーーーーーーーーーっっッッ!!」」





黄金色の髪の女「!? な、なに今の悲鳴…」

紫色の髪の女性「…男性の声ね、それも二人…裏路地の方からだけど」


突然の悲鳴に驚く女と行き交う人々の騒音に紛れて僅かに聴こえた爆発音に首を傾げる女

それぞれがその方角を振り向くと…




ブルー「…」スタスタ



「「…」」



1人の人間とすれ違った、この街で見かけない術士の服装…


黄金色の髪の女「何事も無く悲鳴の方から来たわね…」

紫色の髪の女性「相当な腕前ね、パッと見ただけで分かったわ」


紫色の髪の女性「何にしても私達とは関わりの無い人間よ、行きましょう…」



30以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 20:22:52.628mU1puuW0 (30/31)


―――
――



ブルー(チッ、薄汚い街だ、どいつもこいつも汚い…見た目も中身さえも)



虫の居所が悪いまま彼は路頭を彷徨う、術に関する情報を求め、此処にあると言われる"保護"のルーンを探し出すために
手当たり次第に声を掛け、聞き込みに回っていたが、これと言ってめぼしい収穫は無かった



 途中、宿を見つけ、10クレジットで宿泊できることも確認した
このまま実りが無いのであらば今日の探索は諦めようかと思った






「いらっしゃい!いらっしゃい!安いよ安いよ!」

「トリニティからの横流し品だよ~!リージョン界と統一する政治機関の開発した最新軍事品がなんとこのお値段!」

「革を買うよ!」

「わぁぁぁ…!すっごーい!メイレン!此処[スクラップ]よりも人が沢山だね!」

「そうね、そんなことより次の指輪よ、豪富が持っているっていう指輪を探しに行きましょう」

「足の装備品~!如何っすか~!大安売りだよー!」

「俺は見たんだ!アイツが鉄パイプを剣のように操るのを!」

「そこの宿屋の裏、ニワトリの後ろを通った所にある情報端末で調べたら?」

「ありがとうございます、ゲン様、行きましょう」

「おう!ん?にいちゃんどうした?」

「わりぃ!俺、此処のイタ飯屋に少し前に一緒に旅してた友達が居るんだ、久しぶりに会いたいし此処でお別れだ!」

「おう!そうかい!犬っ子とネエチャンには言っとくぜ!」

「サンキュー!」

「そこのお兄さん♡アタシとイイコトしない?うふっ」

「新聞!新聞はいらんかね~?巷で噂のアルカイザーの記事が載ってるよ![シュライク]で誘拐犯を倒したヒーローだ!」







全く以って騒がしい

だが、これだけ人が集まるのならこのリージョンが繁栄するというのも頷ける



ブルー「すいません、お時間よろしいでしょうか?」

「ん?なんだい?」


ブルー「私は故郷を離れ術を勉強する者なのですが、この街に保護のルーンがあると聴きやってきたのです
     何かご存じないでしょうか…」


「ん~…ルーンねぇ、あっ!そういうことなら裏通りの医者が詳しいかもしれないぜ」


ブルー「!本当ですか!ありがとうございます!」



猫被りのブルーはやっと有力な情報に辿り着いた…!

時刻は【18時03分】既に[クーロン]は闇夜に包まれていた


31今回は此処まで!2017/07/07(金) 20:24:10.488mU1puuW0 (31/31)


[BGM:サガフロより…アイキャッチ専用曲]
───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三


                                        , ソ , '´⌒ヽ、
                                 ,//     `ヾヽ
                                 ├,イ       ヾ )
                               ,- `|@|.-、      ノ ノ
                           ,.=~ 人__.ヘ"::|、_,*、   .,ノノ
                        , .<'、/",⌒ヽ、r.、|::::::| ヾ、_,ニ- '
                       〈 :,人__.,,-''"ノ.。ヘヾi::::::ト
                        Y r;;;;;;;;ン,,イ'''r''リヾヽ、|;;)
                        ヽ-==';ノイト.^イ.从i'' 人
                         .ヾ;;;;;イイiヘr´人_--フ;;;)
     .,,,,,,,,,,,,,,,,,,,.    .,,.          ヾ;;;|-i <ニ イヽニブ;;;i、
   ,,,'""" ̄;|||' ̄''|ll;,.  ,i|l          ,;;;;;イr-.、_,.-'  ./;;;;;;;;i
  ,,il'    ,i||l   ,||l'  ,l|' ,,,,,. .,,,, ..,,,,,,   (;;ヾ'ゝ-'^    ,.イ;;;;;;;;;;;ヽ
  l||,,.    l|||,,,,,,;;'"'  ,l|' ,|l' .,|l .,,i' ,,;"   ヽ;;;||、_~'   .|`i;;;;;;;;;;;;;|
  ''"   ,l||l""""'ili,,.. ,|l .i|' .,i|' .,||'",,. .,,.  |;ノ|_`"'---´ゝ  `_'''''''r-、
 =======,|||=====||||=≡=≡≡=≡==≡= ~ リヽ`<二入oiン ' ン,人ヽ`ヽ、_
      .,|||'   .,,,i|ll'              /::::::/ヽ-ニ=ii@ く´  ゞ\;、_、`;ヽ、
    ''''''''''''''''''''''''''              /::::::/  .`'´ ヾヾヽ-、__ `゚  ""'''''''
                       /::::::::イ  |    .ヾ 、 `ヾ=、'
                     /::::::::/i´「`-、|     \\_,_._ンヽ- 、
                    <::::::::::::/ | └、 |      `ブ <ヽ、'~
                     レノ-'  |`-、、__ ト、、_, -' ´ _,ノヽ~
                          ~` -、、フヽ、__ ,, -'´ ̄ル~'
                            ヘ`~i、 ̄ ̄リ ノヽ ̄~
                            `|;;;;;;|ヽ~-←-ヘ
                             |;;;;;|    ヽ- ┤
                             l::::人    .ヽ  .|
                             ///     ヽ .|
                            ノ´/      .ヽ  |
                           ` ̄        .ト、 .ヽ
                                      ヾ、.A
                                       .ヽノニ'


───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三


32以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/07(金) 23:24:36.39cYnk1Lvso (1/1)

サガフロとかすげぇ懐かしい


33以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/07/08(土) 01:49:34.63fFXjqsuI0 (1/1)

主人公が皆、並行で進んでるっぽいなエミリア編が一番進んでるの?


34以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/15(火) 22:07:24.05VlusM6ch0 (1/2)



曇天、[クーロン]の街並みはこの時期、雨季であった

 他の異世界<リージョン>と比べれば降水量の多い土地にあたり尚且つ双子が旅立ったこの時期は
陽光を遮る灰色の空が我が物顔で天空を支配していた


 裏通りに朽ち果てたメカの残骸は主人を失い破棄された者達の死骸と言えた、物言わぬ鉄屑と化したそれに群がるのは
同じく捨てられたロボットたちで、錆びた自身のパーツを外し使える部分を死骸から奪い取る

道端で自動車に轢き殺された野生動物を食い漁る鴉の群れと変わらない鋼鉄の人型共


その人型共となんら変わらない行為をする者は他にもいた


貧困から逃れるべく迷い込んだ憐れな観光客を狙う浮浪者、彼等もまた金目のモノになるロボットだろうと
財布をぶら提げた人間だろうと、奴隷として売り飛ばせるモンスター種族の観光者であってもお構いなく襲う







人心は荒んでいた



これは言ってしまえば一種の"病気"である、心の病










だからだろうか?

…ただでさえ無法地帯として名を馳せる九龍<クーローン>街の裏通りを『彼』が居城とするのは






ブルー「…」スタスタ…パシャ…






蒼の術士が水溜りを踏みしめる

地に降ろされる靴底の圧力で飛沫は飛び、へこんだ空き缶の真上を飛び越える



 彼は印術の資質を得る為、広いリージョン界の各地を巡り、印<ルーン>の文字に触れるという修行の旅路を進む
この暗黒街には保護のルーンが刻まれし巨石があるのだ


 疑問に思っただろうか? 裏通りはご覧の通り濁った水が降り注ぎ、衛生面はハッキリ言って最悪
…そこかしこに黴菌が繁殖する不衛生極まりない裏通りだ、雑居ビルの群れと曇天で滅多に射さない日光

それが悪循環を更に加速させていると言っても良い


そんな異世界<リージョン>でありながらも表通りの繁華街にはなぜか一滴も雨水は垂れないのだ、疫病どころか感染症一つ
裏通りから表通りに流れてこない





それは単に此処が"保護"されているからだ

昔々のそのまた昔、誰も知らない程の大昔から、強い魔力を秘めた文字によって




35以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/15(火) 23:56:11.93VlusM6ch0 (2/2)




「おい見ろよ…綺麗な髪だなアレ…」
「へへ…金糸かぁ、売ったらさぞイイ値段のウイッグになるんだろうなぁ」



 汚れた段ボール、菌類の繁殖しまくったベニヤ板、その上に乗っけただけの瓦棒屋根
お世辞にも家屋とすら呼べないソレから無数の視線が術士を値踏みするように見ていた



 先程、ブルーが二人組の不幸なごろつきに絡まれた階段をゆっくりと降りていく最中
蒼の法衣に身を包んだ彼は自分の影が"何かの影"と重なるのを見た


小さな影は徐々に大きくなり、それは上空から飛来してくる鳥系のモンスター族の影であることに気がついた





「ケケケ!そこのお前、有り金全部出しな!!鞄も、そのひらひらの服も脱げ、靴も全部だ!!」

「オイオイ、待てよ相棒…独り占めは狡いぜ、久しぶりの金ヅルだ、俺にも食わせろよ」

「私も混ぜてよ…きゃははっ!」




 裏通りに巣食う者共は単独で犯罪を起こす者から種族の壁を越え、1つの目的の為に徒党を組んで襲う者も居る
舞い降りて来たのは人体に鳥のシンボルとも呼べる翼と鉤爪の足を持つ半人半鳥の[ハーピー]が2体

 紅髪を二つに結ったツインテールに露出度の高いアーマー右手には鈍い輝きの斧を携えた人間の女が
品の無い卑しい笑みを浮かべて舌なめずり…勝った後の戦利品分配でも考えているのだろうか


「俺も相棒も姐さんも気が短けぇからよ、分かったら早ぇとこ全部寄越しな、そうりゃ命は取らねぇぜ!ケケ」
















                ブルー「断る、失せろ蛆虫共」
















沈黙

ブルーを迷い込んできた馬鹿な旅人と嘲る笑い声はピタリと止み、雨音だけが場を支配する


 彼は頗る機嫌が悪かった、初日から何度眉間に皺を寄せたか分からぬ程に
そんな彼の声はゾッとする程に冷淡で、同じ血の通った人間とは思えない程に冷めていた






36以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/16(水) 01:58:35.98S8PCjT6F0 (1/14)



[ハーピー]に斧を持った女戦士[アックスボンバー]…裏通りは先述の通り浮浪者の巣窟である
だが此処に居る3体の実力はその中でも段違いだ


 電線の上から兎のようなつぶらな瞳で黄色い小動物に蝙蝠のような翼の生えた[ラバット]
犬猫程の背丈を持つ蛙[フェイトード]等が"自分達よりも圧倒的に強い"者に不遜な態度を取る術士を見ていた

ああ、あの金髪の人間は生きて帰れないだろうな、と憐れむ様に







その予測はすぐさま裏切られるのだが





「‥ケ、ケケ…てめぇ、許さねぇその綺麗なお顔ぐちゃぐちゃにしてやらぁぁぁああああああああ!!!!!!」

「アンタたち!!このクソッタレをやっちまいなぁァ!!」




 縄張りのボス気取りたちの顰蹙を見事に買ったブルーは涼しい顔だった
彼は目を瞑り、歌うように口ずさむ、右手の中指と人差し指を合せ自身の額に近づける…



             「ケェェェェェー―――――ッ!!」ヒュォォォォオオ



 鷹が獲物目掛けて行うような急降下、[ハーピー]の鉤爪はブルーの喉元を切り裂くため
先頭の1体に続き後続は心臓を鷲掴みそのまま抉る為にそれぞれ狙いをつけていた









          ブルー「『<インプロ―ジョン>』」キュィィィン 










ぼしゅっ、




音がした


 後続の[ハーピー]は目の前の相棒が光に包まれたのを間近に見た、光は相棒を取り囲む球体の檻のようになっていて
立方体…そう無数の正三角形と正五角形で形作る変形二十二面体のような檻だった

半人半鳥のモンスターを閉じ込めたそれは徐々に小さくなり、"消滅した"…中身ごと



"爆裂魔法<インプロージョン>"の檻に閉じ込められた憐れな一体は塵一つ残さずに"焼失"した、だから消えたように見えるのだ


     ブルー「…む?完全に消し飛ばせなかったか…頭部だけが残ったか…ちっ」


 光の檻が内部にある者を"爆裂"させる寸前に頭部だけが檻の外…範囲外に突き出ていた
だから首から下が忽然と消えた生首が宙を舞った



37以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/16(水) 05:28:30.99S8PCjT6F0 (2/14)







「う、ウワアアアアアアアアアアアアアアアアア」




 戦慄した、突如として光と共に消えた相棒の首から下、残った頭部は首の付け根部分から血飛沫をあげて吹き飛ぶ
サッカーボール大の頭部は胴体がコンマ0.02秒で焦げ臭さすら残さずに焼失…否、消滅した為


 頭部の下はギロチンで切り落としたかのような断面図となった、そこから噴出する真っ赤な鮮血
空気でパンパンにした風船に爪楊枝で穴を空けた時のように、急降下していた筈の"ソレの一部"は逆に上昇した




上から無色透明な雨水とは別で紅い体液が降り注ぐ、[ハーピー]その様に半狂乱となり―――










               ブルー「『<エナジーチェーン>』…!」









ギュルッ! ―――ベシャッ ジタバタ…!



「あっぐぶゥ!?お、おごっぉ ォ こ"こ"こぉぉ"ぉ」ジタバタ






ブルーの術、[マジックキングダム]の技術によって生み出された科学的超能力<サイオニック>の力…!



指先から放たれる光り輝く念動力の鎖は相手との実力差も分からぬ愚か者の首を縛り上げた






べしゃ、ゴミが浮かぶ水溜りに絞殺刑に今この瞬間、処されんとする憐れな半人半鳥が墜ちた



「い、い いい"い"い"いいい""いいいい"いいいき"きぎき"きぃぃぃぃいィぃィ」バチバチッ



古い電線剥き出しになったコード…銅線に当たる部分に鴉や雀が引っ掛かった瞬間を見た事があるだろうか?
それが雨の日ならば尚更だ、電流が流れ瞬く間にローストチキンになる瞬間だ


 魔力の塊、念動力の力……蒼き術士の攻撃的な思念を鎖の形にしたそれは巻き付いた首元を焼いていた
焼け爛れていく首、絞めつけられ酸素供給ができなくなる気道

水溜りに落下した事で更に"感電"していく彼は先ほど弾け飛んだ相棒の顔と同じく苦悶の表情を浮かべていた





38以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/16(水) 05:54:46.74S8PCjT6F0 (3/14)



「…な、なんなんだいアンタはァ…」ガチガチ




人間の所業ではない、それが同じ人間の―――生きる為に強盗殺人を生業とする者の率直な感想だった



彼は蜂蜜色を束ねた髪は湿気と雨水で重みを増し、前髪から滴る水滴を鬱陶しそうに払う

 今しがた絶命した[ハーピー]2体を屠る時などさもどうでもいい、それより前髪から垂れて来る水滴の方が
面倒だとでも言いたげで…その仕草がより一層この人間には赤い血など流れていないのではないか?
血脈を循環しているのは冷水か、さもなくば人間<ヒューマン>と異なる種族、妖魔と同じ青い血でも流れているのでは、と?





ブルー「丁度いい、こういう事は地元の奴に尋ねるのが手っ取り早い」


ブルー「貴様、この辺りに医者は住んでいるか?裏通りに"ルーン"に詳しい医者が居ると聞いてきたんだ」


ブルー「さっさと答えろ…オイ聞いているのか」





「っ、の野郎……イイ気になってんじゃないよ!!!」




猫被りの時とは全く以って違う、礼儀正しい青年を"演じる"ブルーの本性…





「っずぁらああああああああああああああァ」ブンッッ



ずばっっ!蒼い法衣の左肩を切り裂く…じわりと蒼が赤く染まる




「はっ…ははははっ…」




なんだ、この冷血無比な術士にも紅い血が流れているのか
乾いた笑みが浮かぶ、目尻に涙が溜る、瞳の奥に詠唱を終えトドメを刺そうとする死神が焼き付く





ブルー「ふん、斧を振り回すしか能が無い女か、屑め」





ブルー「死ね」






取り繕う必要性が無い相手、体裁をなど気にする必要性の無い相手

それにだけ見せる"冷徹な男<ブルー>"の本性


今宵、暗黒街[クーロン]の裏通りに本日2度目の悲鳴が上がった



39以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/16(水) 06:24:26.69S8PCjT6F0 (4/14)

―――
――



ブルー「…」スタスタ…



ブルー(失せろと言った時に消え去れば良かったものを、答えろと言った時に答えて逃げれば良いものを)







くだらない事に術力を使った、くだらないモノで自分の手を汚した、不愉快だ、彼の心中にあるのはそれだ


先に言っておくが彼は裏通りの最奥に息を潜める様なクレイジーな快楽殺人犯とは違う


-『自分の目的を果たす為ならばあらゆる手段を用いてよい』-


自国で、国の最高責任者から言われた事、幼少の頃から学んだ教え




国家からの勅令、国の威信と名誉の為ならば何をしても良い、それが"正義"である、そう教えられて育った



"王国の術士"としてなら必要あらば100人だろうが1000人だろうが関係なく殺す、王国の忠実な術士としてなら、だ



襲われたから殺した、自分の命、ひいては国家の任務遂行の妨げになる障害物だったから消した、たったそれだけの話
そうでなくとも、どの道あの手の連中は迷い込んだ観光客の命を食い物にする


何れにせよ死傷者は出る、今回の場合それは相手側で、そしてこれ以上死傷者は出なくなるという話、たったそれだけ







ブルー「…」スタスタ…ピタッ

ブルー「…此処か」




雑居ビルに囲まれた裏通り、長い長い階段を降り、点滅する電子の輝きを見つめる
そのネオン看板は病院でお馴染みの十字のマークとは違っていた

喩えばアルファベットのNを反転させて少し傾けた見た目の文字




ブルー「…エイワズ…ふっ、此処にこの文字とはな」




それを見て鼻で笑った




エイワズ、ルーン文字の一つであり暗示する意味は『生命の樹』『防御』…そして『死』

命が生まれる場所であり、万病の攻め手から防御する為の場であり、そして最後は誰かに看取られて死を迎える…


蒼の術士は古びた診療所の戸を開く





40以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/16(水) 07:06:07.84S8PCjT6F0 (5/14)



まずブルーを出迎えたのは鼻につく消毒用のアルコールの匂いだった


 薄暗い病院のエントランスにして待合室となる間はパイプ椅子が数脚
机の上には人体について詳細が書かれた医学書が無造作に置かれていて、受付のには今時誰も使わないような黒電話
ダイヤル式の電話機の向こうに見える壺や壁棚板の上に陳列する薬瓶には元からこの医院に居た人物と来院した術士を映す


此処の責任者に話を伺いたいが受付には人影はなく、それどころか呼び鈴の一つだってありゃしなかった


訝し気に眉を顰めたブルーは何時頃から待っているのか分からない男に語り掛ける事にした、誰も居ないのなら
この人物に尋ねる他ないからだ、無論、礼儀正しい青年を演じて




ブルー「あのー、待ってるんですか?」




青白いカッターシャツ、俯いたままの青白い男はやけに肌が白かった

医院の薄暗さも手伝って気づけなかったのかもしれない





ごとんっ、男の首が取れて落ちた、先程の[ハーピー]のように


落ちたクルリと振り返る、ああ、暗さも手伝って気づけなかった



この男は肌が白いと思っていたが思い違いだった





振り向いたその男の生首は白骨だった







理科室の標本にありがちな頭蓋骨がケタケタ笑いだし、スゥーっと消えた



           ボォォン……!


                      ボォォン…!




それを合図にするかのように柱時計が音を鳴らし、その横にあったアルコールを溜めた洗面器にぴちょりと音がなる
何処か雨漏りでもしてるのか




ブルーは少しだけ目を見開いていた、狐にでもつままれたとでも言いたげな顔で固まっていた

彼とて人の子だ、人並みの感情は当然有していて、戸惑いもする


先の事が事だけに今のはブルーに少なからず情動を与えた






41以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/16(水) 07:07:54.84S8PCjT6F0 (6/14)














 「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ」















42以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/16(水) 07:45:20.12S8PCjT6F0 (7/14)




ブルー「」ビクッ


「次の方、どうぞ」




診察室、と札が掛けられた部屋の向こうから声が聞こえた



心臓に悪い所だ、固まっていた術士は気を取り直して、ドアノブに手を掛けた…



ギィィ、と木製の扉の軋む音を耳に彼が目にしたのは膝下まである白衣と流れる様な黒髪の後ろ姿



裏通りの闇医者「よろしい、早速手術だ、そこに横たわり給え」


ブルー「…外界の連中は人の話を聞かないものなのか」





[ドゥヴァン]の占い師共といい、ごろつき共といい、この無免許医師といい…額に手を当て、噂の闇医者をよく観察する


 風変わりな医師、医療費を取らずに難病を抱える患者を片っ端から治療する闇医者
裏通りに入る前、ルーンに詳しい医者が居ると知ってからある程度、どのような人物かさらりと聞き込みは行っていたが





ブルー「それとも、貴様が人間ではなく妖魔だからか?」


裏通りの闇医者「…ふむ、よくわかったな」ピクッ



ブルー「貴様から感じる魔力…いや妖力、人とは明らかに異質であることぐらいわかる」



ブルー「人間だろうと妖魔だろうとそんなことはどうでもいい、保護のルーンについて何か知っているか?」



裏通りの闇医者「[クーロン]の地脈には保護のルーンが刻まれている、その力がこの土地を栄えさせている
         しかしだ…近年この街の治安は悪くなる一方だ」



そう言って闇医師は…妖魔は振り返る、眼鏡を掛けた気品ある端麗な顔立ちは一目で彼が上級妖魔だと悟らせる



ヌサカーン「私の名はヌサカーン、君も知っての通り此処を根城に医師をしているモノだ」

ヌサカーン「尤も、君達の言葉を借りるなら私は"モグリ"という奴だがね」

ヌサカーン「どうだろうか、私は地脈に異常が無いか調査に赴きたいと前々思っていた、だが私一人では何分厳しくてね」



ヌサカーン「何があるか分からないから中々踏み出せず困っていた、そこへ君が都合よくやって来た」

ブルー「貴様なら道案内ができるという訳か」


少し考える素振りを見せ、ブルーは「良いだろう」と胡散臭いこの妖魔の医師と少しの間同行することにした


紫色の怪しげな炎が揺らめく燭台、二つの影が揺れ、妖魔医師は「よろしく、ブルー君」と笑うのであった




43一旦此処まで2017/08/16(水) 07:54:04.47S8PCjT6F0 (8/14)





一旦此処まで

───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三



      i⌒\     .
      |   \    .
      |  l\  \ 
      l | \__ ) 
⌒\  |  |       
\  \|  |       
.. \.    |       
   \_,,丿     


『<エイワズ(ユル)>』

暗示:『生命の樹』『防御』『死』


───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三


ヌサカーン先生宅の看板の文字が地味にルーン文字だったり凝ってる



>>32 名作ですね

>>33 YES、現在エミリアはラムダ基地潜入(?)の為、シップに乗せられてる…つまりアセルス達は…


44以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/16(水) 18:28:28.06S8PCjT6F0 (9/14)



妖魔、それは姿形こそ人間に酷似しているが異なる種族である


彼ら、彼女らに性別という概念は無い
女性的な容姿、男性的な容姿と身体の創りや人格そのものに差はあるが、世間一般的な人間の概念でいう性別とは違う






美麗の男性が同じく顔立ちの整った男と仲睦まじく暮らす様子を見ることもあれば

華奢な身体の女性が美しい人魚姫のような女性型の同種族と愛を育んでいたり…









傍から見ると怪しい関係を疑いたくなる種族であるが、彼等(彼女等?)には人類と同じ性別の概念は通じない






 人と比べて飲食を必要としない者、年中一睡も必要とせず生きることができれば、生殖機能が存在しない生態系だったり
大小なれど差はあるが根本的に人間<ヒューマン>と違うのだ





今、ブルーの目の前にいる眼鏡を掛けた白衣の医師も同じ

見た目こそ人間の成人男性に部類される肉体だが、何処か人と違う



血管は全ての妖魔に共通する青い血液が流れていて
見た目こそ年若い美青年だが年齢など、余裕で100歳を超えているのかもしれない





ヌサカーン「ふむ、…肩に切り傷があるな」ズイッ

ブルー「寄るな、食い入るように私の肩に顔を近づけるな」



若干引き攣った顔でブルーはこの妖魔から距離を置こうとする





ヌサカーン「なぜだね?…ん?あぁ……そうか、安心したまえ、私は"病気という存在を愛する者"でね」

ヌサカーン「世にも珍しい奇病や病状の患者と出会い、それを観察するというのが私の望みなのだよ」

ヌサカーン「従って君達、人間社会で言うところの同性愛とやらには興味の欠片も無いし、世間帯とやらも熟知している」



純粋に"興味の対象物である『患者』"を見たいからでありブルーが危惧するようなことはないと男性型の妖魔は告げる



無音、風も何も無い室内で妖魔の身に纏う白衣は不可視の力ではためき、蒼の術士の肩に幻想的な輝きの粒子を舞わせた



ヌサカーン「どうだね?ん?痛みは消えただろう」


左手で肩に触れる…なるほど、上級妖魔なだけはあると彼は思った



45以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/16(水) 19:00:22.66S8PCjT6F0 (10/14)



古びた廃病院に勝手に住み付き、勝手に改築した風変りの人ならざる者はしばしの間自身の根城を留守にする




懐に柄部分のスイッチを押す事により刃が出る光学兵器[レーザーナイフ]を忍ばせ、その手に大型の重火器[水撃銃]を持つ
 ブルーは記憶の引き出しから書物で知る限り妖魔という存在は機械音痴で有名だという話を引き出していた




ヌサカーン「…くくっ、意外かね?」


ブルー「!」



ヌサカーン「そう目を丸くされてはすぐにわかってしまうよ、ブルー…どうやら君は冷静に見えて感情的な人間のようだ」


ヌサカーン「……私も長い年月を人間社会で生きた、何より患者を観察するのが好きだった」


ヌサカーン「そうこうしている内に科学文明というモノにも詳しくなったのさ」





ブルー「そうか…」フイッ



それだけ言うと彼は絶え間なく水を地表へ注ぐ天を見上げた、いや、逸らした
あまりこの妖魔と長く話していたくない、自分の心の内さえ見透かされそうだから




ヌサカーン「くくっ…この[水撃銃]というのも中々に面白い、銃"火"器という部類でありながら高圧で水を飛ばし…
         ああ、面白いと言えば君の魔術もそうだ、魔術と銘打っておきながら科学的超能力<サイオニック>と――」




ブルー「なんでもいい、早く行くぞ…」スタスタ






どっと疲れた、初日からこれで本当に自分は資質を集めきれるのか…

勢いを増し始める降水量、水煙で眼鏡のレンズを曇らせながら不敵な笑みを浮かべる闇医者
目的を済ませて宿のシーツに顔を埋めたくて仕方がない旅の術士は目的地へと続く廃線へと続くマンホールを降りていく




 道中、海星の中央に蛸の様な口部(触手の下にある肛門のような部位)を持つモンスター[ゼノ]を初め
溶解液を飛ばす[スライム]…人に混じり金銭の略奪を働く下級妖魔らに襲われたが…




1人はもはや説明するまでもなく、もう片方の同行者も両手銃で向かい壁まで弾き飛ばし、解剖手術でも行うように手際良く
モンスター、あるいは人や妖魔の野盗たちを掻っ捌き、時には妖魔の術やカードを召喚する術で無謀にも襲ってきた
身の程知らずを次々と叩き伏せて行った








【18時53分】[クーロン]裏通りでの出来事であった…

*******************************************************


46以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/16(水) 19:05:15.72S8PCjT6F0 (11/14)
















            …あっれれ~?おかしいなぁ?どうして僕こんなことになっちゃったんだろう?














時刻は完全に月が昇る【19時49分】


彼は"喫茶店"で項垂れる様に今現在の自分の状況を振り返った






そう…あれは遡る事、1時間と少し前…








47以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/16(水) 19:34:59.54S8PCjT6F0 (12/14)

*******************************************************
―――
――


【時刻 18時40分】


 此処、陰陽の術を操れる資質を求め各地より修行僧が集う異世界<リージョン>、[ルミナス]で紅き法衣に身を包んだ青年が
大慌てで走っていた行先は光の力の尊さを説く陽術の館



ルージュ「こんな高そうなカフスだもん、落とし主には届けなくちゃ…!」タッタッ…!



 赤紫の宝石を握りしめた掌の中に、人の良い彼はスリから荷物を取り戻してくれた少女アセルスの後を追う
発着場から扉を勢いよく開き、ロープと丸太で組んだだけの簡素な吊り橋を渡って陰陽の分岐路へ向かう…その時だった



            ぞわっ…!



昔から彼は直感が優れていた

術士として霊感能力が高かったのも確かにあったかもしれないが野生の直感に近かった




背筋に嫌な感触が這う、走ったせいもあるかもしれないが額に玉汗が滲む、こういう時いつだって碌なモンに遭遇しない
22年間生きてきた彼の人生経験が警鐘を煩いくらいに鳴らす



 無意識にルージュは足を速めた、短距離走で後先考えずに力の限りを尽くすような疾走、丸太の吊り橋が揺れ
他の観光客から「何しやがる!」なんて罵声が飛ぶが脇目さえ振らない


            "まずい、このままじゃ手遅れになる…ッ!"


 根拠なんて無い、だが紅の法衣は更に加速する、銀の髪が靡く、息が苦しい…
だからどうした?後悔することになるよりはマシだ、歯を食いしばり彼はそこに辿り着いた!





               「逃がしませんよ!!」





その声が聞こえ、空間が歪みだしたのと同時だった

ルージュがグニャグニャと景色のブレる結界に飲み込まれていく二人の美しき女性たちの元へ滑り込んだのは――


―――
――




アセルス「きゃあああぁぁ!!」

白薔薇「アセルス様っ!」



 貴婦人の女性型妖魔と緑髪の10代半ばの少女が結界の中へと飲み込まれようとしていた

 彼女達は"追っ手"の魔の手から逃れる為に逃亡を余儀なくされていたが、此処に来て見つかり
邪魔が入らぬようにと閉鎖された異空間に引き込み始末するつもりなのだ

 レースカーテンのような影のベールに飲み込まる寸前、白薔薇は悲鳴をあげる少女の身を守るように抱く
彼女自身も追手の奇襲という恐怖に怖れを感じていたが腕の中で震える小さな少女を勇気づけねばと気丈に振る舞う

だから反射的に目と瞑らなかったアセルスと違い白薔薇姫は確かに見た、影に飲まれゆく自分達の元へ彼が走って来たのを



48以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/16(水) 19:57:24.41S8PCjT6F0 (13/14)





ルージュ「どぅおおおおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!」ズサァ――!



スライディング、靴底がすり減り、シャッターの様な影の結界で完全に外と内が遮断される直前で紅き術士はやって来た



白薔薇「ルージュさん!?」

アセルス「…ぇ、…!?ル、ルージュ!?どうして!!」


恐る恐る目を開けたアセルスが知り合ったばかりの闖入者の登場に驚きの声をあげる

闖入者に驚いたのは二人だけではない




水の従騎士「なんですか、貴方は…」




それは清流のように穏やかにして静かな声に…聴こえないことも無いが、言葉を発する全身鎧固めの騎士から溢れる
敵意を見てしまえばそんな印象は何処かで跳んでしまう事だろう



一方でルージュはその鎧騎士を見て一瞬呆気に取られた

この騎士風の妖魔と思しき存在が「逃げて来た」と口にしたアセルス達を追ってきた者だと察することはできた


問題は…



ルージュ「……"青"」



青…蒼…ブルー…

そのカラーリングは嫌でも双子の兄を連想させる、言ってみれば彼にとって今一番見たくない色合いであった




水の従騎士「…何者か存じませんが、邪魔をするのならばその命、もらい受けます」チャキッ



白薔薇「従騎士!この御方は私達とは関係の無い方です、結界の外へ逃がしてください!」

アセルス「ハッ!そ、そうだ…!ルージュは関係ない!やめろ!」




なんで来たんだ!?と叫びたかった緑髪の少女は目の前の追手が黒鉄の剣の切っ先をルージュに向けたのを見て慌てた

自分達の所為で無関係な人間が巻き込まれ命を落としてしまう…っ!なんとしてでも逃がしてあげねばと考える





だが、ルージュは―――



ルージュ「いいや、関係なくなんて無いよ、目の前で物騒な恰好した奴が無抵抗の女性を追っかけ回してるんだ」

ルージュ「人間としてそんなの放っておけないッ!理由なんてそれだけ十分だ!」



正義感の強い、超が付くほどの御人好しはそれを見過ごせる程に器用な人間では無かった



49今回は此処まで2017/08/16(水) 20:46:48.05S8PCjT6F0 (14/14)



ルージュ「それにね、その恰好!」ビシッ!



全身"青"を基調としたカラーリングの鎧騎士を指さし彼は言った




ルージュ「すっごい個人的な感情だけどさ、今一番見たくない色合いの人に言われると反発したくなるんだよねっ!」フン!




兄の件で思い悩んでいるというのに、ただでさえ蒼色を自分の抱えてる悩みで頭痛がしそうだというのに…!
そんな私情で彼はこの騎士のいう事なんて聞いてなんかやるもんか!と息を巻く



水の従騎士「…いいでしょう、黄泉の国で後悔なさるが良いっ!!」



その言葉を皮切りに騎士は玄武の盾を構え突撃してくる、狙いはルージュだ



アセルス「でやぁぁぁ!!」ディフレクト!

水の従騎士「ぐぅっ!」ギギッ…



 重厚な見た目に反し、敏速な動きで一気に間合いを詰めた鎧騎士は右腕の得物を天へ振りかざし唐竹割りの要領で
ルージュの頭部を叩き切る気でいた、だがそれに一早く反応したのは先ほどまで震えていた少女アセルスだった



 予想に反した動きに反応が遅れた好青年、目的を邪魔する者を排すべく動いた騎士の隙間に割り込むように
彼女は腰に下げていた血濡れの様に妖しく、それでいて美しい妖刀の刀身で黒鉄の刃を受け止めたのだ



アセルス「くぅぅぅ~っ」ググッ

水の従騎士「はッ!!」ガンッ!ゲシッ!



アセルス「きゃぅ!」



 大剣に近いソードの創りと刀に部類されるブレードでは質量にも差があった
何より彼女の細腕と見るからに逞しい騎士の剛腕では鍔迫り合いに持っていたアセルスが打ち負けるのも当然と言えよう


一瞬、腕を引いてその後に勢いをつけて押し返しアセルスが後方へ仰け反った隙をついて蹴り飛ばす


小さな悲鳴と共に尻餅をついたアセルス目掛けた刺突を騎士は繰り出す
 その一突きは態勢を崩した少女の身体を突き刺すことは無かった、何故ならば突如として伸びて来た念動力の鎖に
腕を絡めとられたからだ、彼女の胸部を貫き心臓の動きを止める筈だった一撃は大きく逸れ、大地に深く突き刺さる



水の従騎士「貴様…っ!」


ルージュ「アセルス!ごめんっ、助かったよ!!
       そして騎士さんとやら!狙うなら初めっから1人に絞っとかないとこんな風に横やり入れられちゃうよ!」


鎧越しに伝わる熱と締め付けられ軋み罅が入る鎧に更なる追い打ちが掛かるッ!


白薔薇「門よ!声に耳を傾け開きなさい!『<幻夢の一撃>』出でよ…!"ジャッカル"」


貴婦人を中心にサークル上の陣が展開される、異界より召喚されるは術者に仇なす者を喰い殺す魔狼
 その牙はルージュの<エナジーチェーン>で締め上げられた腕の罅に突き刺さった…!




50以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/18(金) 23:08:41.65CAIPkBBV0 (1/1)



 異形の魔獣が突き立てた牙は罅を更に広げ、冑に覆われ表情を窺い知る術はないが騎士が苦悶の声を漏らし
牡山羊を彷彿させる2本の角が生えた頭部を振るう姿を見るに恐らく皮膚にまで食い込んだのだろう





紅き妖刀を手にアセルスが咄嗟に機転を利かせた防御

あれだけ大口を叩いた癖に油断したッ!と舌を打ちながらも飛び退きエネルギー集合体で敵の腕を縛るルージュ

詠唱を終え、自身を中心とした陣で異形の存在を呼び出す妖<あやかし>の術でジャッカルを召喚した妖魔、白薔薇姫




 単純に力量差ならば騎士に分配が上がっていた
しかしながら古来より戦いというモノは数に左右される、如何なる兵<ツワモノ>も、百戦錬磨の英雄であろうとも
多くの敵の連携を前にしては辛酸を舐めさせられる事となる





 白薔薇「星光の加護よ、彼の者に安らぎを―――『<スターライトヒール>』パァァァァ!!



 澱んだ溝水のように一点の光さえ刺さない結界の中に一筋の輝きが降りて来る
それは従騎士の剛脚で蹴りつけられた腹部を押さえていたアセルスを温かく包み、光に抱擁された彼女の表情も和らぐ




アセルス「白薔薇!すまない……、私にはまだこの妖刀を、幻魔を扱い切れないのか…っ」



手にするは紅い劔、ただならぬ気配が漂う刃は何も答えてくれない



 先程、ルージュを護った紅き妖刀を鞘に納め、少女は右手を前に翳す…
何も掴んでいなかった筈のその手の中に突如として1本の長剣が姿を現した



ルージュ(…!何も無い空間から剣を取り出したっ!?)

白薔薇(っ、アセルス様…それは!!)



水の従騎士「…ほう、[妖魔の剣]を呼び出せるようになったのですね」

アセルス「だぁぁぁぁぁぁあぁあああああぁぁ!!」ヒュッ!スパッ!



水の従騎士「仮にもあの御方の血を注がれ、半分とは言え妖魔の仲間入りを果たされただけはある…しかし!」ガキィィン!


ルージュ「うおぉおお!?(なんて腕力だ、腕を振り回して縛ってる僕ごと)」




念動力の鎖が巻き付いた腕を大きく振り回し、ルージュごと振り回す
大地から足が離れ遠心力に翻弄されたルージュは堪らず術を解除し、地面に叩きつけられる


彼の身体が地につくのとは真逆だった、彼女が全く同じタイミングで地から飛翔したのは…!



 青年の肉体が地を2度跳ね、少女が剣の先を敵の顔面目掛け突き刺すような姿勢で跳び
妖魔が驚愕の表情のまま口元を手で覆い、騎士は自由になった利き腕の剣で迎え撃つ



これが一瞬の出来事であった




51以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/19(土) 00:48:39.95QDQEiEeC0 (1/7)










                        【< 妖 魔 化 >】







―――――――カッッ!!








 目を見開いた、春の若葉を連想させる綺麗な緑髪は暗色を深め、重力に反するように外側は逆立つ
その姿を見たルージュは勢いよく突きを放つアセルスの剣先を目で追う…


その刃先は水の従騎士の冑で眼の位置に当たる部位を突き刺すのは間違いなかった







剣先が届けばの話だ










水の従騎士「クゥォォオオオオ、ボッッッッッッ!!」ガコッ ブシャァァァァ!!!





口の部分がシャッターのように開く、人間とは違った歯並びの大口が顔を覗かせた


 消防車のポンプから噴き出す高出力の水圧、いや、それ以上の出力で
それこそ重火器[水撃銃]に匹敵する[水撃]が妖魔の騎士の喉奥から放たれたのだ



 鈍い音、障害物も何も無く、真っすぐ跳んでくるはずだったアセルスの右肩から骨が折れたような音がした
滞空中の少女の身体はさながら風を受けた風車のように回りながら弾き飛ばされる




そして追い打ちの一太刀がアセルスの身体を裂かんとする





時間を要する白薔薇の術は間に合わない

弾き飛ばされすぐさま態勢を整えて術を放とうとするルージュでも間に合わなかった





17歳の少女の鮮血が騎士の剣先に付着した



52以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/19(土) 01:46:08.84QDQEiEeC0 (2/7)




言葉を失った、自分の目の前で助けられたかもしれない人が命を落とす





深々と刃が通った少女の肉体が嫌にルージュの網膜に焼き付く、脇腹から臍の位置までざっくり…
やや、斜め上に胃腸から肝臓まで切ろうとでもしたのだろう



あれでは助からない




ルージュ「なんてことだ…」ワナワナ




 このような非道が許されようか、年端もいかない娘が目の前で切り殺されたて平然と何故できようか!?
握り拳を創り、彼は暴挙をあげた騎士を何としても葬らねばと怒りに震えた


 誰にでも優しい彼とて相手が微塵たりとも救いようの無い極悪非道の悪漢ならば手心など加えない
容赦なく爆裂魔法<インプロージョン>でその生命をも奪う事だろう



立ち上がり、彼が術を唱えようとしたその直後―――












                     "それ"は起きた











         ドクンッ!

                 ドクンッ






        ―――ゆらり…





本日何度目になるか、分からないがルージュは絶句した


何故ならば…










53以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/19(土) 01:48:25.86QDQEiEeC0 (3/7)





                 ドクンッ!

                     ドクンッ!



                ドクンッ!












            シュウゥゥゥゥゥ…!
























                  アセルス「」ユラァ…






























     明らかに致命傷を受けた筈のアセルスが立ち上がったのだっ!!その手に血染め色の妖刀[幻魔]を手にして!





54以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/19(土) 02:20:19.42QDQEiEeC0 (4/7)




                             ビチャッ!


アセルスの血が地面に落ちた…




アセルスの―――















ルージュ「紫色の血液…?」



妖魔の血は青色

人間の血は赤色




あの血はなんだ?





白薔薇「アセルス様…」





裂けた腹からは血液が滴る…そして驚く事にその傷口が尋常ではない速度で塞がっていくのだ、術の力じゃない


ジュゥゥ…!



ルージュ「あ、アセルス…キミは一体」



アセルス「」フラリ…フラリ…フラッ



意識が無い、何も答えず、虚ろな眼は何も映さない

ゾンビのように起き上がり、風に揺れる草原の芝のように左右に身を揺らし、そして―――






             アセルス「           」ボソッ








  彼女は誰に聞き取れる訳でも無い小声でつぶやいた



55以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/19(土) 02:26:14.79QDQEiEeC0 (5/7)

            / ::../:::::::::/:::::::::::::::::::::::::::::::::::..   \
             /::.. / ..:::::/::::::::/: .:::::::::::::::: `Y⌒ヽ::::ヽ
              ,':::::. / .:: .::/:::::::/:::: .:::::::::::::::::::::::l|:::::!::::ヽ::::ヽ
           ′::〃::::. ' .:: :/::. .:/:: .:::::::::::::: : l| :::|\:::::::::::',
            |::::::|l::::::. |:.:: /:::::::/: .::::/ ::::/::. l| :::|  ヽ::::::::i
            |::::::|l::::::. |:.:/:::::::/ .:::::/ .:/ /:::/l! :/ / !::::::l、
            |:::i::|l::::::. |/:::::::/::..:::;イ: / /::::/ l|::l/,.ィヤ|::::::ll  ̄ヽ
            |:::l::|l::::::: /::::::::/::://::::/‐/‐/- //≠::ム /::::::l|  !
           Ⅵ:::l!::::/:::::::://.::/::::;;∠==_- // ''゚¨´ /:i:::::/}    ヽ
          /八、:l:/:::::::/:::; ィ'::、斗。:::¨厂`/ 、  イ/::://   イ
         /  _ 厶:/::::/:厶イ `  ̄´  /  '   /:::/   /  {
           _  -‐^ヽ/::、:::::\\      _  イ /メ∧/     \
               イ`ヽ、::ト、ヽ:\  .._    ̄ ニ´/ /ヽヽ_  -ー /
                / /    |  \ \  ` T ー‐イ     ヽヽ    {
..r─---─-……<く        ヽ_   ` ー─‐イ_   \   ヽヽ─ 丿_
|`ヽ        _ヽヽ__    { \       /((_) `ヽ、_j    √ ̄∨´ `ー-イ、
| |        ゝ、___  ̄ ` ヽ、 `ヽ、_ /: :斤ト、: :| |   _/ - ニ ヽ、__  ノ ヽ
| |      _______`_ヽ、    `    マY| l L!: :| |  イ   xf ニヽヽ /   _人
| ! _ - ( ___          /: : ヽレ'_:_:_j j/  ! 八 l辷ソiリ /¦  ∨'Y
亅   ヽ|f⌒ヽ `ー-、___` ̄`      ヽー、: :├──イ   { 〈 ヽ戈Zノ / l!     〉 }
`ヽ、   \ |   >、  (::(`¨     _∨: : :\  `ヽ    =≧=彳_ヽ′ノ    /ハ
   >、 j/| ∠   ` ̄{厂 > 、 {: : : : : : : : :.ト、  `Y  、_  ̄ _ - ´   ヽ_ノムノ
  |\」/   ヽ{f⌒i    / ̄   |:>'=-: : : : : :..:| f=ーハ     ̄  }    ,f´广´
  ヽ      \ ヽ  / 7ヽ  ハ: :..:∧ニニつ:.//: :..:/ ゝv'⌒)__ノ廴/>′
     ̄ ̄>、  入ノ`ー`ー': : | /  X/_: !: : : : :〈〈: :/    / >、ィ´⌒`‐ア〈
      ト、⊥/  ヽ: : : : : : : \__」/: :L|: : : : : :V: |    ̄/    _ - ' /
        ` ー─‐r}:\: : : : : : : : : : : : : ト、: : : :/,′       ‐´   /}_
               |ハ: :.:\: : : : : : : : : : : !: :\〈:::/           / / ヽ
               |:.:ゝ-、_: : : : : : : : : : : : : : : }'ー-、           /  /





          -    幻   魔   相   破   -











56以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/19(土) 02:28:09.72QDQEiEeC0 (6/7)

    .|  .|    . ゙゙ゝ..、  _..-'"          |i |i            ヽ              }l
`゙゙'''''‐.!   l       .`'''く、                 |i |i           l              }l
    .|   .レ~゙'''ー、i..,,、   `ゝ、            |i |i             l              |!
    .|   ! ,/゛  .`'''ー ..,_  `ゝ、.         |i │            |             |!
   ._イ   .|'´         `゙'ー ,,, `'-、          |i !  _,,....._,,,..   }          !
 ./ .!   |                 `'-. _  .‐|i |'''¨¨"´      |           |
/ / |   .l ,..-‐''"゙ ゙゙゙゙̄"''ー ,,.   _,,. -¬'"¨-¬'"¨´ |l |          j}           |
./   !  ,,-″    _..-''''''¬- "   _,, -'''.゛        | l        j}               |            /  /
    .! /      .∠-‐''"゛  ._.. -'"´            |l           j}             l        /////  //
    ./′     ./    _,, -''㍉,,、                          j}              |      ./   ///////
   ./       ./_,, -'"゛      `''ー、,、                  j}            |!     ./゛        /   / /
-'''フ       ,i[゛            ゙''-ミ'-、、                /            !  . /                /
. /       l |!               `'-,,゙゙'-、、         /               l,/゛                /
/       /  }l                 ゙''-、`'-、、      /                l              /
        l   :}l                   `'-、 `''-、   ./              !               /
       ,!    }l                    `'-,  .`''-./              ,!           /
       .l゙     :}l                        \  /              ,!          /
       l{     }l                          У              l        . /
      .il        }l                           /                l       /
      .!l{       }l                     _..-'/                !     ,/
      ,! l{      }l                   _..-'"゛ ./                 !   _/
      | l{        }l            _..-'"´    /                    / . /
      |  l{        :}l      _.. -''″      /                      /<
      |  l{        }i _,, -'''″         /                      /  \
      |   l{          }i               /                   /    \
      .!   ,l{          ヽ           /                   /       \
      .l‐''"  l{        ヽ            /                   /          \
       l    l{           ヽ       ./                      ∧            \
      │    ゙l{        ヽ     /                      / }l,            \
         }!      l{          ヽ   /                        /  }l           \



57以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/19(土) 23:39:04.33QDQEiEeC0 (7/7)



気がついた時には全てが終わっていた



妖魔の騎士はもう動かなかった



蒼を基調としたカラーリングの鎧は音を立てて砕け、その破片が砂粒のように変貌する

流れ出した粒子は天へ昇り、蝶へと変わって何処かへ飛び去って消えゆく




幻想的な『死』だった…


後には彼が持っていた[玄武の盾]が転がっていた







意識を失ったアセルスもまた、元の[ルミナス]の風景に戻ったこの場所に倒れていた





「おい!何の騒ぎだ!」

「戦闘があったんじゃないのか…」

「誰か!警察を!IRPOのパトロール隊員を呼べ!」



ルージュ「騒ぎを聞きつけて人が…」バッ!



 倒れて動けないアセルス、その傍らに泣き出しそうな白薔薇
群がる群衆…パトロール隊員の要請、…穏やかじゃないのは確かだ



白薔薇「嗚呼…!そんな!」


白薔薇「厚かましいとは思われますが!お願いです!どうか人を近づけないでください…!」


白薔薇「今のアセルス様を人に視られる訳には!」






紫色の血液を流した少女…


人に視られる訳にはいかない…


シップ発着場の方から来る人集り、逃げ場がない…







    ルージュの中で答えは出た



ルージュ「白薔薇さんっ!アセルスの身体をしっかり掴んで僕に捕まってくれ!」つ【リージョン移動】




58以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/20(日) 04:48:40.34FCDawJzU0 (1/5)



外界に出てからは一度たりとも使うまいと思っていた宝石を強く握りしめた



 涙ながらに悲願する貴婦人の妖魔、如何様な理由があるかまだハッキリと分かってはいないが
今、彼女らが民衆の眼に触れるという事は"泣くほど"の事なのだ


ならば誰の眼に触れることも無く脱出する手段を使う他ない

























                ルージュ「『<ゲート>』…[ドゥヴァン]へ!!」
























―――
――



時刻(アセルス達を連れて逃げた回想シーンから今、現在)【19時49分】





「お客さん、どうだいウチのコーヒー占い」ニカッ


ルージュ「あー、すごくいいです」グデー


白い歯を見せて笑うマスターを前に喫茶店のカウンターに突っ伏すようにルージュは疲労の混じった声を出す





59以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/20(日) 05:48:40.42FCDawJzU0 (2/5)



ルージュ「…陰術か陽術の資質を取る為に[ルミナス]に行ったはずなんだけどなぁ…あれ~おかしいなぁ」

ルージュ「なんで僕ってば丸1日使ってこんな事になってんのかなぁ、あはははははー」(泣)




「ありゃ?間違ってコーヒーにお酒入れちゃったかな?お客さん?大丈夫ですか」ポリポリ




ルージュ「大丈夫です、それとお酒入ってないんで安心してください、うっ、うぅぅ…」ブワッ






カランカラン!




アセルス「…あのー…此方に銀髪の男の方はいますか?」


ルージュ「」ビクッ ハンカチ、トリダシ ナミダフキ!



ルージュ「やぁ!!もう平気なんだね!良かったぁ」


アセルス「ルージュ、…此処に居たんだ、白薔薇の手当のおかげでなんとか、それで目を覚ました後で聞いたんだ」

アセルス「資質、私達のごたごたに巻き込まれたから取りに行けなかったんでしょ…ごめんなさいっ!」ペコッ


ルージュ「…いや、そのことは良いんだ、自分から突っ込んでいったんだしさ」

ルージュ「それよりも大口叩いといて結局僕は何もできなかった謝るのは僕の方だ」


アセルス「…」チラッ

ルージュ「…マスター!コーヒー美味しかったし個性的な占いで楽しかった、また来るよ!じゃあね!」



緑髪の少女はチラリと喫茶店の店主を見た、目配せ…


此処じゃ話せない事があると暗に言いたいのだ、それを汲みルージュはアセルス、そして外で待っていた白薔薇と共に
神社の方へと歩き出す


白薔薇「ルージュさん…アセルス様のことでお話があります、ただ口外しないことをお約束願いた―――」

アセルス「いいんだ白薔薇、どうあれ巻き込んだのは事実だ、だから…私の口から"話す"」


白薔薇「…畏まりました」





神社の長い階段、紅葉が風に舞い、蒼白い月の光はそれを幻想的に染め上げる


アセルスは告げた…彼女達の立場を、包み隠さずに






60以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/20(日) 06:05:45.15FCDawJzU0 (3/5)

*******************************************************


[BGM:主人公アセルスのテーマ(未使用曲) ]







妖魔、人とは異なる種族が住まう世界<リージョン>がある


妖魔の王の中の王、"魅惑の君"と崇められるオルロワージュなる者の統治の元その地は悠久の時を流れていた


変わらぬ日々、代わり映えの無い行動、決められたルーチンワーク、住人も城の召使も騎士も皆が淀んだ時間を過ごす




時が止まったように動かない世界、何もかもが"いつも通り過ぎる"世界



そこで"人間の少女"アセルスは目を覚ます




彼女は困惑した、生まれ育ったリージョン[シュライク]の自宅ではない、見た事も無い天井、見た事も無い部屋での目覚め


彼女は思い出す、育ての親の叔母の頼みでお得意先に本の配達に向かった事を…


彼女は思い出す、その帰り道に





  命を落としたことを…






アスファルトの上を歩いていた、真夜中の道路上には自動車のライトもエンジン音も何も無かった

そう、音もなく、突如として現れた馬車に、馬に、轢き殺された





思い出して頭を押さえた、このご時世で馬車? …頭を強く打って記憶がこんがらがってるのか?ここは何処の病院だ?と



もしかしたら、自分はおとぎの国に迷い込んだ夢でも見てるのかもしれない、なんて楽観的な考えも持っていた

中世のお城のような内装を歩き…


棺桶に入ったたくさんの女性を見て青ざめるまでは





彼女は知る事になった


その城に住まう妖魔の君、オルロワージュの馬車に轢き殺され絶命した事を

そして、"暇つぶし"で城主オルロワージュに妖魔の青い血液を注がれ

半分人間で半分妖魔という、この世でたった一人の奇異の存在に変えられてしまった事を…っ!


*******************************************************



61以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/20(日) 06:22:41.60FCDawJzU0 (4/5)



アセルス「お願い!この城から出たいの!叔母さんに…家族の所に帰りたいの!!」


白薔薇「アセルス様…」



妖魔の君より、教育係としてアセルスの面倒を見ることになった者が2人居る

1人はアセルスに武術を教えるようにと騎士を(尤も手当たり次第に圧倒的実力差のモンスターと戦わせるだけの人だが)




1人はアセルスに礼儀作法、妖魔の世界について教育するようにと99人居る城主の寵姫<ちょうき>…人の言葉で言う愛人
その99人の側室の中で誰よりも優しい姫、白薔薇姫が担当することになった



血液を体内に注がれたアセルスとは違い、妖魔の君に血液を吸われ…それこそ御伽噺の吸血鬼のように吸われた白薔薇姫は
人間としての人生を強制的に終わらせられ、妖魔へと変えられた


そんな白薔薇姫は故郷に、そして家族の元へ帰りたいと願うアセルスの姿にかつての自分を重ねたこともあり

彼女の脱出に加担する



そして、念願の[シュライク]へと帰郷できたものの…






アセルスの叔母「…アセルスは12年前に行方不明になったんだよ!あの時と変わらない姿なんて…私を騙す妖怪かい!」

アセルス「叔母さん…違う、違うの!私、アセルスだよ!生きてるんだよ…っ!」





アセルス「12年…、私が意識を失って12…年…?」


アセルス「白薔薇…どうして、教えてくれなかったの?」



白薔薇「…私達のリージョン[ファシナトゥール]では時間の流れなど意味を持ちません」

白薔薇「ですがそれ以上にアセルス様に…ショックを与えたくなかったのです」



眠り姫

もしくは、竜宮城から帰って来たばかりの浦島太郎か



母親代わりの叔母は白髪で、数日前までは同級生だった女子高校生は子供の母親…、街並みは所々変わっていて



アセルス「12年も歳を取らないなんて…やっぱり私はもう人間じゃないんだ…、化け物なんだっ!!」

白薔薇「そのような物言いをしてはいけません!」




城を抜けだしたことで、帰る場所を…迎えてくれる人も失くした自分の唯一の理解である白薔薇姫を奪い返そうと

従騎士たちがやって来る


自分はもうどこにも行けない、誰の元へも帰れない、だからアセルスは白薔薇を護る決意を…逃げ切る決意を胸にする


*******************************************************



62以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/20(日) 06:33:42.56FCDawJzU0 (5/5)

           。-‐ァ:ァ゚^ヾ;;{: :{: : : : : : : : : : : :\| : : : |うY: : : : : :|
      ,.。co:% ミj{ ;{{,rfう^ヽ: : :、:\: \:_;.」:{: :| : : : |) }: : : : : :|
    % o:% ミミ;i{ ;{{ ゝクフハ'ヽ: :l\: :、:'|\トゝ:| : : : レ ノ: : : : : :八
   .o:%  ミミi{{ ;{{ゝ='フフ ,ノ ,}:八 ヽ,斗ぅ炒フ| : : : |X>: : :ハ/
    %≫==ミミミ≧ミ主彡_,ノ,,ク;::::.ヽ   ´ ̄  | : : : |X>: :/
    ;{{ ,rfう^ヽヽヽi_,ノ_,ノ_,ノ_,,彡、 }      |: : : :八: i/
   ;{{ ゝクフ }}〔_ノ_,ノ_,ノ゙´) )::)へ `__      |: : :/: /`|`ヽ
    i{ ゝ='フフノノノ_,ノ_,ノ _,. -‐   ,ニヽ`ニ`    |/:/: /  { |
    ≫=ミ彡ク:::}彡i'",x芋ミ  仞》{:\__ イ |:∧/     _\
    i{{ ,rfう^ヽ} }ノ_彡癶'ツ     `゙^'Yハ⌒Y^Y゙ミヽ  _  {:::\`ー‐ァ‐-
   i{{ゝ='フフ ,ノ,ノミ _彡}       , 〉 八::}i:i:i:}ツ   ', ', {:::\\:::}  {:::.:.
    `ー-=ニ彡イミミ _彡}      .._  /彡イ_:ツ:i     ', ', {:::::::::\`ー‐ァ'⌒
    :/: :/´{:::::lミミ _彡}      ゙ニ’ /_彡イ:i  i:i     ', ',丶::::::::::}  {:::.:.:.
   /: :/:::::{:::::{ミミ _彡} ≧=- _ .イ_,彡イj:i  i:i     ', 》′:::::`ー‐ァ'⌒::
    彡'::::::::{:::::{ミミ _彡}    / . :_,,彡イ~'⌒'~'⌒'~i′::::::::::::::/ ∧
    ⌒ヽ彡ヘ:{ミミ _彡}  /   . : _,,彡イi|        } .:::::::::::::{ /:::.:.
      〕i   ヽヽ 彡}  ,:.  . : _,,彡イ人__j__j      } ::::::::::::::ヽ{:::::.:.:.
    /〕i     く 彡}  : . . :  _,,彡イ 人__j__j    ,ノ :::::::::::::::::::::::::::.:.:.
    /〕i     く彡  : : : : _,,彡'′ 人__j__j  ,ノ ..:::::::::::::::::::::::::::::.:.:
     〃^ヽ,    i`ヽ  : : : (  ,. -‐‐-  ミ  ノ .:::::::::::::::::::::::::::::::::::.:.
       〃^ヽ,  |  }  : : : : ./ /      \( .:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::





白薔薇「アセルス様…これから何処へ向かわれるのですか?」

アセルス「…何処だって良い、二人で逃げ切れる場所へ行くんだ…」


―――
――





そして二人が乗り込んだシップの行先は[ルミナス]だった…そこから先はルージュも知る通りである





ルージュ「そんなことが…」


アセルス「お腹、切られちゃったんでしょ?私」

アセルス「でも、この通り私はもうピンピンしてるんだ、血管を流れてる血だって人の赤と妖魔の青で紫」




アセルス「前にもお腹をグサッて刃物で刺された事があるけど、すぐに傷口が塞がってさ…ゾンビみたいに」





アセルス「気味が悪いでしょ?」



自嘲気味に笑った、それがなんとも言えない、…この少女が一体何をしたというのだ



アセルス「[ファシナトゥール]から逃げて来る前にこの妖刀、[幻魔]を手に入れた」

アセルス「逃げるなら少しでも万全の準備が必要だったからね…でも、困った事にこの剣は使いこなせてないし…
                       白薔薇を護るって言っときながら実際、騎士との闘いはあんなんだよ」


アセルス「私が劔を使ったんじゃない、私が劔に使われた、気絶したまんま、引き摺られるようにね」


アセルス「何から何まで駄目さ」





63以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/23(水) 00:45:33.92jsyQzSm60 (1/7)



ルージュ「君達は、これからどうするんだい」



 彼には使命がある、祖国の最高権力者から双子の片割れを殺せ、と…国家が欲するのは完璧な1人の術士
双子の片割れを決闘を通じて打ち倒す事で唯一無二の最強を証明せよ、と



その勅令を無視すれば国家反逆罪として追手がやってきてルージュは始末される、それは兄ブルーにも言えることだが…









生き残るためには国の御言葉に黙って従い、各地での修行を終え、資質を集め、術を磨き兄を抹殺する事…






アセルス「もう引き返せないんだ、これからも追手から逃げ続けるさ、白薔薇と二人でね」

ルージュ「―――っ!」





目の前の彼女は、追手に追われる身の彼女は他人事とはどうしても思えなかった

未来の…そう、選択によってはこうなるであろう、未来の自分の姿なのだ





ルージュ「僕も…」


振るえる唇から声を絞り出す、止められない



ルージュ「僕も…君たちの旅路に付き合わせてくれないか…資質集めの旅で世界各地を歩き回る」

ルージュ「君達が安住の地を見つけるその時までボディーガードくらいにはなれる!」



アセルス「ルージュ……」


その眼差しには光があった、何かを見出したい

国を出て、これから誰かに言われた通りに決められたレールの上を歩くだけの人生、兄を殺すか殺されて終わるか



たったそれだけの『生』の中で何かを残したい、その何かを残せるかもしれない、そんな希望があった



 紅き術士の旅の最終目的を知らない半妖の少女は戸惑い、共に逃げて来た妖魔の貴婦人に目を配らせる
それを見かねた白薔薇は口を挟む


白薔薇「ルージュさん、わたくし達と共に行動をなさるという事は従騎士に襲われる危険があります」

白薔薇「それでも良いと仰るのであらば歓迎いたしますわ」


アセルス「し、白薔薇?」ギョッ


 目配せはした、危険に巻き込むのも吝かではないアセルスはこの男性にどうお断りの言葉を掛ければ良いか困っていた
しかし瞳の奥にある希望を見たような光に戸惑い彼女に助け船を出したが、予想に反した声が来たので驚いた



64以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/23(水) 01:53:53.32jsyQzSm60 (2/7)



 白薔薇の姉姫…"44番目の姫"に勇敢な姫君が居る、噂で聞く限り城主に眠らされ続けている彼女に限らず
決意を持つモノの眼には通ずる物があるのだ、一歩たりとて退こうとしない強き意志を宿した目…それを彼女は知っている


恐らく、彼は『退かない』そういう目をしているのだと解るのだ



ルージュ「覚悟の上です、それでこの命を落とすというのなら…僕はそれまでの人間だったということだ」


ルージュ(そう、兄に殺される、国家反逆罪になり大勢の人間に囲まれ死ぬ、旅路の果てで死ぬ)


ルージュ(死ぬまでの過程で何かを作りたい、誰かの役に立ちたい…
         もちろん死なずに済む方法、兄を殺さずに済む策が見つかるならそれが一番だし)









ルージュ(それに、知ってしまった以上もう他人事とは思えない…!)





白薔薇「アセルス様、私からのご意見をお許しください…現状私達は行く宛ても無く、また頼れる人もおりません」


白薔薇「此処はルージュさんのご提案を受け入れるべきだと思いますわ、…アセルス様の心中もお分かりですが」



アセルス「……分かった」クルッ


アセルス「ルージュ、私達が安住の地を見つけるまで…お願いできる?」


ルージュ「ああ!当然だ」ニィ!




朗らかな笑み、青年は手を前に差し出し、少女もその手を握ろうと前へ――――





             「今だっ!!!」」ブンッ!




       プシュウウウウウウウゥゥゥ――――っ!


ルージュ「!?」

アセルス「な、なに!?」





 茂みの中から光る物体が飛んできた、それは月光に照らされて僅かに反射することから金属だと解することはできた
スプレー缶の噴出音の様なそれは二人の合間に飛んできて"ガス"を噴き出す


ルージュ「げほっげほっ…こ、れ――ぁ」バタッ

アセルス「ルー…げほっ!」


「おおっと、そこの嬢ちゃん動くんじゃない!」




65以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/23(水) 02:36:19.54jsyQzSm60 (3/7)



 目が痒い、それと同時に襲ってくるの体内に妖魔の血が流れているアセルスでさえも意識を手放しかねない強烈な睡魔
茂みからガサガサと掻き分けて歩いてくる音と野太い男性を聴覚は認識する


「俺達は手荒な真似したくないんだ、それにそっちの白い子を視ろよ」


アセルス「し、白薔、ごほっ…」フラッ


 睡魔、"ガス"に遮られ視界が暈ける中、いつの間に白薔薇の身体を取り押さえたのか男が数人
白薔薇を拘束、口元を覆うようにハンカチのような布を押し当てているのが見えた


がっくりと項垂れるように、目を瞑った彼女…恐らくこのガスと同じ成分の薬を染み込ませた布で白薔薇を眠らせたのだ




アセルス「!白薔薇、しろばらああああぁぁぁぁ」


「うるせぇ!!お前も眠ってろ!!」


アセルス「ぅぐうっ!…‥っ!…!!…・・・っ・…」ジタバタ、…ガクッ





「ふぅ…いっちょ上がりか、へへっ…イイ女が3人も」





…3人、どうやらこの男達、全員女だと思い込んでいるようだ



「どれもこれも上玉だぜ…、にしても…聞いてた情報と違うな」

「ああ、[ドゥヴァン]の神社に[ファシナトゥール]から逃げ出した妖魔の姫が出没するって噂だったが…」チラッ

「この頭に花飾りつけてる奴じゃねぇのか?」
「俺に聞くなよ、噂だけで容姿とかは分らなかったしよ…そもそもガセネタの可能性があったろう?」



"[ドゥヴァン]の神社に妖魔の姫君が居る"…リージョン界で誰が流したか知らない噂…尤も眉唾物として扱われていたが



「っていうか、この銀髪のネーちゃん人間じゃねぇの?」

「なんだっていいさ、このレベルならヤルート執政官も満足するだろうよ」




「ああ、最近妖魔狩りに凝ってるっていうあの変態のな…あんなのが各地のリージョンの取締役、トリニティの執政だろ」

「政治家が軍事基地に自分のハーレム作って女と変態プレイとか…世の人々が聞けば税金返せって喚くよな…よいしょっ」


「おい!そっちの女たち運べや!…小型の高速艇をわざわざ借りてシップ発着場に止めたんだ」

「早いトコ運んで礼金貰おうぜ!」



「おう!あのシップならトリニティのラムダ基地まで1時間もしねぇつけるぜ」


―――
――





66以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/23(水) 02:53:20.28jsyQzSm60 (4/7)
















            …まずは一つ目か、認めたくないが背を預けられる者が居るというのは悪くない














自然洞窟、人間がいつしか忘れ去ったそこは神秘的な世界だった


希少価値の高いレアメタル、鉱石、あるいは古代のお宝を求めた野盗、モンスターも徘徊していたが…






 それでもこの空洞は表の[クーロン]よりも居心地が良いと感じたのは保護の力だろうか…





67以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/23(水) 07:44:18.75jsyQzSm60 (5/7)



ヌサカーン「ほう…大したモノだな」




 白衣の妖魔医師は目の前で荒れ狂うルビーの嵐に感嘆の声を漏らす
蒼の術士が唱えた魔術はその名を冠するにふさわしい輝きを見せた、朱色の太陽達…そのまんま、その通りだ


彼が言葉を切ると同時に巨大な宝玉が現出し、それは惹きあうようにぶつかり砕け、弾け飛ぶ




衝突の瞬間に出た火花は正しく日没の一瞬の煌めきに等しい光で、その残光は飛び散った無数の破片に乱反射する

物理法則を完全に無視した光の迸流、大気も何も無い無風の空間に渦巻く竜巻




熱を帯びた鉱物の棘は地脈から"保護の力"を喰らっていた巨虫たちを貫き、体内に熱を送る

 腹、胸、頭の三構造を持つ体節はどれもこれも針の筵の上を転がされたかのように穴だらけで
タンパク質の焼け焦げた異臭と白い煙が立ち上り始めていた、蚤虫に酷似したモンスターの死骸を見てから
ブルーは1匹だけまだ息のある蟲…[クエイカーワーム]を睨みつけた



ブルー「醜い粗虫め、今楽にしてやる…」



文字通り虫の息、放っておいても息を引き取るであろうモンスターに向けて爆裂魔法<インプロージョン>を打ち込もうと――



ヌサカーン「…ふんっ!!」シュバッ!


「ギィッ "ッ ッ」




ヌサカーン「たった一撃で沈む相手にそれはないな、仮にも医者を前にして瀕死の相手に追い打ちをかけるのはどうかね」

ブルー「……」



ブルー「……」プイッ



ヌサカーン「やれやれ…君は情けや人情とやらを学ぶべきだな」



手にした[妖魔の剣]を霧雨のように消し、妖魔は白衣をはためかせながら眼鏡越しに目の前の青年の後ろ姿を見る
 決して殺しを愉しんでいる訳ではない…、それは分かるのだが



ヌサカーン「人間にも様々なタイプが居る者だ、冗句の通じない相手などがな」



 他者に自分の心の領域を犯す事を一切許そうとしないタイプ、調和性が極端に低い人種
根が真面目過ぎるが故に手加減を知らぬ者…


束ねた金糸の髪が揺れる彼はその3点が見事に揃っているという…



ヌサカーン「私から君に診断結果を告げるべきかな?…君は人との繋がりを持つとイイ、さすれば自ずと心にゆとりが」
ブルー「どうでもいい話は後にしろ、それよりもルーンは何処だ」



やれやれ、と肩を竦め「まだルーンが何処にあるか気づかないのかね?」と妖魔医師は言葉を続けた



68以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/23(水) 07:59:09.13jsyQzSm60 (6/7)




ブルー「なに?」ピクッ



ヌサカーン「」トントン



妖魔は何も言わない、ただ片足をあげて爪先で地表を叩く

革靴の底が2回音を鳴らし、術士はそれが意味する所に気がついた




ブルー「…!なんと」


ヌサカーン「この街が何故ここまで栄えたか理解できたようだね」




ルーン文字の刻まれた巨石に触れる、そのためにリージョン界を廻る旅をすることになった
巨石というからにはそれなりのサイズだろうと思ってはいたが…






           ブルー「この地脈そのものが保護のルーンだというのか」




"今自分が立っている大地そのものが"目的の大岩だったのだ


 地盤そのものが目的の石、大地には窪みがあった、1本の長い…川か何かが元は流れていてそれが干からびてできたと
そう思えるような痕があった、途中枝分かれのように三岐路になったような地層



もしもブルーが鳥か蝙蝠か…何れにせよ翼を持った生命体でこの地下空洞のこの場所を
少し浮遊して真上から見ればすぐに分かった事だろう



この場所こそが保護のルーン…<エオロー>の刻まれた巨石だと…!!












                フォン…!

      i⌒i    
. <^\ .|  |. /^>
  \     / .
    \  /   .
      |  |    
      |  |      フォン…!
      |  |    
..    弋_ノ    


  フォン…!



           『保護のルーン』を手に入れた!





69今回は此処まで!2017/08/23(水) 08:00:55.39jsyQzSm60 (7/7)


[BGM:サガフロより…アイキャッチ専用曲]
───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三


                                        , ソ , '´⌒ヽ、
                                 ,//     `ヾヽ
                                 ├,イ       ヾ )
                               ,- `|@|.-、      ノ ノ
                           ,.=~ 人__.ヘ"::|、_,*、   .,ノノ
                        , .<'、/",⌒ヽ、r.、|::::::| ヾ、_,ニ- '
                       〈 :,人__.,,-''"ノ.。ヘヾi::::::ト
                        Y r;;;;;;;;ン,,イ'''r''リヾヽ、|;;)
                        ヽ-==';ノイト.^イ.从i'' 人
                         .ヾ;;;;;イイiヘr´人_--フ;;;)
     .,,,,,,,,,,,,,,,,,,,.    .,,.          ヾ;;;|-i <ニ イヽニブ;;;i、
   ,,,'""" ̄;|||' ̄''|ll;,.  ,i|l          ,;;;;;イr-.、_,.-'  ./;;;;;;;;i
  ,,il'    ,i||l   ,||l'  ,l|' ,,,,,. .,,,, ..,,,,,,   (;;ヾ'ゝ-'^    ,.イ;;;;;;;;;;;ヽ
  l||,,.    l|||,,,,,,;;'"'  ,l|' ,|l' .,|l .,,i' ,,;"   ヽ;;;||、_~'   .|`i;;;;;;;;;;;;;|
  ''"   ,l||l""""'ili,,.. ,|l .i|' .,i|' .,||'",,. .,,.  |;ノ|_`"'---´ゝ  `_'''''''r-、
 =======,|||=====||||=≡=≡≡=≡==≡= ~ リヽ`<二入oiン ' ン,人ヽ`ヽ、_
      .,|||'   .,,,i|ll'              /::::::/ヽ-ニ=ii@ く´  ゞ\;、_、`;ヽ、
    ''''''''''''''''''''''''''              /::::::/  .`'´ ヾヾヽ-、__ `゚  ""'''''''
                       /::::::::イ  |    .ヾ 、 `ヾ=、'
                     /::::::::/i´「`-、|     \\_,_._ンヽ- 、
                    <::::::::::::/ | └、 |      `ブ <ヽ、'~
                     レノ-'  |`-、、__ ト、、_, -' ´ _,ノヽ~
                          ~` -、、フヽ、__ ,, -'´ ̄ル~'
                            ヘ`~i、 ̄ ̄リ ノヽ ̄~
                            `|;;;;;;|ヽ~-←-ヘ
                             |;;;;;|    ヽ- ┤
                             l::::人    .ヽ  .|
                             ///     ヽ .|
                            ノ´/      .ヽ  |
                           ` ̄        .ト、 .ヽ
                                      ヾ、.A
                                       .ヽノニ'


───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三


70以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/23(水) 14:31:20.74OL516RZpO (1/1)

乙乙
久々にサガフロやりたくなってきたわ


71以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/26(土) 00:46:15.11oub8EXv60 (1/2)


【時刻 21時23分】




 常闇の街は夜が深まるにつれ昼間以上の輝きと華やかさを増す
特に居酒屋、路上で鍋から湯気を湧き立たせる屋台には顔を赤くしてグラス一杯の焼酎を呷るスーツ姿が目に映った


闇医師ヌサカーンと別れ、1人[クーロン]の安宿へとブルーは歩いていた


 夜なのに昼間以上に明るくなる摩訶不思議な街はその特徴的な色を濃くしていた、路上で客引きをする売春婦
酔っ払い同士の殴り合いを肴に酒を呷りどっちが勝つか金銭を張る警官…数が明らかに増えていた


喧騒と欲望に塗れた暗黒街の小さな安宿、カウンターの向こう側には翼竜の姿をしたモンスター種族の店主が経営している



「1泊、10クレジットだよ」


良く言えば質素な、悪く言えばただの寝床が置いてあるだけの部屋を貸し与えるだけの宿
シャワー、食事等は別料金のオプション扱いだ



しかし、隙を見せれば無一文、裏通りを歩けば追剥の末に骸へと変えられかねない無法地帯で羽休めができる所とあらば
喩え雑魚寝しかできない粗末な場所であろうとも砂漠のオアシスに等しい楽園なのだ




部屋の鍵を受け取った後、シャワーと軽く胃に詰められる物を注文しようと思いながら荷物を整理していた時だった






ブルー「!?…無い、無いっ!!」ガサゴソ



ブルー「【リージョン移動】が無いだとっっ!!」



息を荒げ、何度も自身の荷物をひっくり返して鞄の底を漁る、目当ての宝石は出て来ない
ブルーは一旦呼吸を整え、考えられる可能性を一つ一つ挙げた…

盗まれた?いや、それは無い、此処がどういう街かこの数時間でいやという程に知った
それに、自然洞窟へ入る前に[傷薬]の確認等で一度鞄を見たが…その時は確かにあった…とすれば



ブルー「くそっ!!自然洞窟に落としたというのかッ!」


 ヒステリックに両手で自身の金髪を掴み、忌々し気に床を蹴り飛ばす
疲れた身体に鞭打って彼は既に目的を果たした筈の地下空洞へと再び赴くこととなったのだ…






災い転じて福となす、これは何処かのリージョンに伝わる諺だが、これが後々彼の資質集めの旅にまた関わって来る



無論、福となす方…つまり良い意味で



―――
――






72以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/26(土) 01:24:47.00oub8EXv60 (2/2)




黄金色の髪の女「…はぁ…モヤモヤするなぁ~」


紫色の髪の女性「そう」



黄金色の髪の女「そうって、ライザぁ…」



ライザ、と向かいの席に座る女を呼んだ女は机に突っ伏したまま洋酒入りのコップの淵を指でなぞっていた






ライザ「あと2時間するかしないかでラムダ基地にエミリアを乗せたシップが着地するでしょうね…」


ライザ「エミリアが自分の婚約者の仇、ジョーカーの情報を首尾よく掴めたとしてどう脱出するか」ゴクッ


ライザ「私達は現状、助けたくてもそれが儘ならない…
       基地から適当に小型艇でも奪ってエミリアが逃げて来るのを信じて待つ他ないわ」



口にアルコールを含んだ女が一呼吸おいて淡々と事実だけを述べる

仲間の1人が任務の為とは言え女癖の悪い事で有名な政治家の元へ薬で眠らされて売られたのだ
 表に出さないだけで心配してはいるのだろうが…




ライザ「それで、アニー…貴女はどうする気なのかしら?このまま私と朝までヤケ酒を交すつもり?」ゴクッ


アニー「…遠慮しとく」グデー




アニー「…」

ライザ「」ゴクッ、ゴクッ…




アニー「ライザ」

ライザ「なにかしら?」



アニー「暇」

ライザ「そう」





そっけない返事に黄金色の髪を持つ彼女はムッと頬を膨らませた


アニー「はぁー、もう良いよ…!本当はエミリアが帰ってきたら3人で行く気だったけど…」チャキッ


そういって、彼女はポケットの[レーザーナイフ]とは別で仲間達と同行中に街中で買った得物を…
机の脚の所に凭れさせていた[サムライソード]を手に立ち上がる



アニー「解放、活力は取ったけど、身近にある保護と[シュライク]の勝利は後回しにしてたからね」

アニー「自然洞窟のお宝さがしついでに行ってくるよ、ちょっと鬱憤晴らしたいしさ!」




73以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/26(土) 16:16:46.90xELsypRTO (1/1)

アニー来た!


74以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/26(土) 20:52:14.63hsAywGgW0 (1/1)

巨乳きたか!


75以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/28(月) 00:09:13.64Mh5gDrEmo (1/1)

う~ん、でかい


76以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/28(月) 00:34:04.87VcHYNB2LO (1/1)

でもレッドの出番は少なさそう
というかなさそう


77以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/28(月) 01:01:02.90rmSlmX26O (1/1)

ルージュと組ませればワンチャン


78以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/29(火) 21:49:54.648EAxpLHc0 (1/1)



 鬱憤を晴らす為、金銭を得る為、と威勢良く飛び出していった彼女の後姿をライザはコップを傾けながら見送った
ショートパンツにブラジャーの上から緑色のジャケットを羽織っただけの相変わらず露出度の高い彼女は店を出る前に
溌剌とした笑顔で「お宝みつけてくるから!楽しみにしてなよ!」とだけ言って飛び出す



ライザ「」ゴクッ



傾けたコップを卓上の上に置く、片寄った液体は水平になりイタ飯屋の照明の灯りを何処か寂しげに反射させる







「心配なら、ついていけば予感じゃないのかい?此処で独りでの飲んでたってつまんないだろう?」







ライザ「…珍客ね、今日は定休日なのだけど」ゴクッ





「いやぁ~![クーロン]に寄る機会があったもんでさぁ!久しぶりにエミリアに会いに来たんだよ!」



イタ飯屋…皆が犯罪履歴を持つ構成員であり、役に立たないパトロールや法律ではどうにもできない事柄を解決する
裏組織"グラディウス"の隠れ蓑である店内にやたらと明るい声が冴えわたる




 扉の前に居る珍客は紺色でボサボサの髪に民族風の帽子と服装…如何にも「田舎から出てきました」と言った風貌で
腰には使い込まれた剣が一本、その背中には彼の名前と全く同じ弦楽器が背負われていた





ライザ「そう、残念ね、エミリアは今"お仕事中"なのよ…それより、貴方まだ仕事が見つからないのかしら?」ゴク



弦楽器を背負ったニート「ありゃ?エミリア居ないのかー………仕事の方は、まぁぼちぼちな!」



ライザ「…貴方の言う通り、一人でお酒を飲むのも虚しいわ、面白いお話でも聞かせてくれないかしら?」





弦楽器を背負ったニート「おっ!なら今日の出来事を話すぜ!」


弦楽器を背負ったニート「[スクラップ]の酒場で出会った"指輪を集める奴"と"謎のメカ"と一緒に悪党を退治した話さ!」


弦楽器を背負ったニート「さぁさぁ!聞くも語るも愉快な物語の始まりだぜ!」ポロロン~♪






―――
――




79以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/29(火) 22:07:19.34HT+lE5s/0 (1/1)

ニート、一体何者なんだ(棒)


80以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/30(水) 00:29:57.89m2WBEQKN0 (1/9)

【時刻:22時14分】





アニー「[飛天の鎧]だ!」チャリッ!



軽快な足取りで自然洞窟へ脚を踏み入れた彼女を絶好のカモと勘違いし戦いを挑んだモンスター、野盗が返り討ちにされて
そこら中に転がる中、彼女は頬を綻ばせた


そんじゃそこらの出店では早々見つからない希少価値のある宝が湯水の如く湧いていたと言うべきであろうか
上機嫌で値打ちのある手土産を収穫し、もはやオマケと目当てが逆になりつつある保護のルーンを彼女は目指す




「くそ…!此処にも無い!」




アニー「ん?」スタスタ









ブルー「…考えられるとすれば、やはりあの粗虫共の所か…っ!」


アニー(あいつ…裏通りから出て来た奴か)コソッ





男性二人の悲鳴が上がった路地裏の方から何食わぬ顔で歩いてきた珍しい法衣の人物の顔はよく覚えていた
 妙に苛立った様子で辺りを散策する様子に眉を顰め、岩陰に身を隠す

術士の周りにはなんとも惨ったらしい死体が複数転がっており、それがアニーを警戒させる一因でもあった


妙な気配を感じるから戦闘の準備を、とヌサカーンに言われ、ルーンの地脈がある空洞へ入り込む前に[術酒]の瓶を開けた
 酒瓶を取り出す為に鞄を一度開けたが、あの時に何らかの形で彼の命の次に大切な国家からの大事な支給品を落とした


宿を飛び出てすぐにそう考えて再び最奥の此処まで彼は戻って来たのだ





 裏組織グラディウス、常に命の綱渡りを繰り返す組織に属するアニーは…いや、組織に属する前から厳しい環境で
育った彼女は人一倍、自己保存と自己防衛の本能に研ぎ澄まされている



だからこそ不用意にブルーには近づかない



下手な真似をすればすぐさま自分もあそこに転がる死骸の仲間入りを果たしかねないからだ


後退ろうと一歩脚を退いた、不味かった




                  ―――コツッ



ブルー「!? 誰だ!!」

アニー(っ!…アタシとした事が、しくっちまった…)チッ



81以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/30(水) 02:52:36.95m2WBEQKN0 (2/9)




アニー「あたしはこの奥にあるルーンを探しに来たんだ…そしたらアンタの姿が見えてね」ザッザッザッ…

アニー「先に言っとくけどその辺の野盗共と一緒にしないどくれよ…この通りだ」



両手を上げながら、ゆっくりとアニーは術士の前に出る

 隠れてやり過ごすことは不可能、逃げれば後ろから術を撃たれる可能性も無きにしも非ず…
ならば両手を上げて敵対の意志が無い事を示した方が良いと考えたのだ



ブルー「…証拠はあるのか?」ジトッ



アニー「あたしの鞄の中に[ドゥヴァン]で貰ったルーンの小石がある、それが証拠さ」
ブルー「出してみろ、ゆっくりとだ、妙な動きは見せるな」



ゆっくりと、その言葉に従うように鞄から小石を取り出す…


アニー「ほら、これさ…アンタその恰好からして術士だろ?術士がこんなとこに居るんだなら、同じ石を持ってるはずだ」



ブルー「…!("活力"、それに"解放"まで…)確かにそのようだな…」



ブルー「女、貴様も資質集めをしているようだな?」


アニー「…ああ、それとあたしはアニーって言うんだ、女なんて名前じゃないね」ムッ!




目の前の術士のやけに尊大な態度に内心怒りを覚える
上から目線で他者を見下したような眼差し、…ハッキリ言ってアニーにとって苦手なタイプの人種だ


ブルー「ならば訊くが、この付近でこれぐらいの大きさの宝石を見なかったか?」


アニー「…いや、見てないね」




 正直に言えば仮に見ていたとしてもシラを切ってやりたいと思ったが、相手の機嫌を損ねたくない
見ていたと言えば、案内しろと言われかねないし、もし道中拾っていたとして知らないと言えば「ならば鞄を見せろ」と
そう言われる可能性もある



ブルー「鞄の中身を見せろ」



ほれ、言わんこっちゃない

アニーは内心で愚痴る





アニー「…ほら?嘘はついてないだろう」


ブルー「…疑ってすまなかったな、どうにも気が立っているようでな」


アニー「…ふぅん?」


これは意外だ、偉そうな態度が鼻につく奴だと思っていたが、謝るとは…



82以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/30(水) 03:37:38.87m2WBEQKN0 (3/9)



ブルー「こちらに非があるならば謝罪の一つでもいれるのが筋だ、…顔に出てるぞ貴様」ジロッ


アニー「そ、そう…」ギクッ




ブルー「それにしても、そうなるとやはり…」ブツブツ

アニー「…あのさぁ、アンタ落し物ってことはこの奥まで行ったの?」


その宝石とやらをこの自然洞窟で落としたというからには一度ここに脚を踏み入れたという事、それが意味するところは
この術士もルーンを求め此処へ来たばかりか、事を為し終えた後のどちらかである


ブルー「ああ、そうだが」


アニー「だったらさ、あたしを保護のルーンのある所まで案内してくれない?その代わりアンタの探し物を手伝う」


アニー「あたしは保護のルーンに触れられるし、アンタは探す目が増える、悪くないと思うけど?」



ブルー「ふむ?」



 道中、野盗やモンスターの群れを剣の錆にしてきたアニーではある、だが予想を超えて広がる大自然の地下迷宮と
敵意を以て襲い来る者達の数の多さに少しだけ疲れの色が出ていた


突破できるかできないで言えば目的を果たしてライザの元へ帰る事はできる

しかし、1人だと威勢よく此処へ来たものの流石に疲弊の色が滲んでくるのだ



見る限りこの術士は相当の手練れ、ならば戦力として申し分ないし、それはこの術士ブルーにとっても同じ事が言えた





            露出度の高い女…見るからに頭の悪そうな女


アニーは世の男が見れば放っておかない容姿だ、女としての魅力があるのだが…

如何せん、目の前の男は例外中の例外、世の全ては知性で決まると判断する男で外見的な容姿には目もくれない




 この場にもし、リージョン界を魅了した元スーパーモデルの金髪美女が居たとしても『頭の悪そうな女だ…』と
鼻で笑うような男である




上記の通り、ショートパンツに上半身はブラジャーにジャケットという肌の露出の多い姿はブルーにとって最悪な第一印象
しかも、岩陰に隠れて此方を窺っていたのだから尚更である




…当然ながらブルーとしては、「こんな女と行動なんぞ共にしたくない」というのが本音なのだが




ブルー「…いいだろう」



[術酒]はヌサカーンと来た時に使った、宿から此処まで全速力で悪鬼の如く駆け抜けて立ちふさがる者を術力の限り屠った
術力が底を尽きればブルーは戦力を失い窮地に立たされることになりかねないのだ

不本意ながら、剣を手に此処まで来たであろう女を利用する他ない



83 ◆u5jU/0ZJi22017/08/30(水) 05:03:11.37m2WBEQKN0 (4/9)



それに、この徹底した合理主義者にはもう一つだけ目論見があった




アニーの持っている"活力"と"解放"のルーンだ





 リージョン界の何処かにある巨石探しの旅路で、ブルーは初日で残り3つの内2つの在処を知る事が出来るのだ
双子の弟が今、どれだけ資質集めの旅を進めているのかは知らないが



 自分の名を告げ、[マジックキングダム]から資質集めの修行の旅をしている事を語り、他愛の無い会話をすること早数分
彼が"活力"や"解放"に関する情報を聞き出そうとしたところで―――






ブルー「所で、訊きたいのだがその小石――」

アニー「おっ!こんなとこにクレジットが落ちてるなんて使ってくださいねっていってるようなもんじゃん!」チャリッ









ブルー「…先程は言いそびれたが貴様の集めているルーン―――」


アニー「500クレジットだわ!」ダッッ! チャリッ!










ブルー「……見たところ既に"活りょ―――」イライラ

アニー「[術酒]だわ!…飲めるのかしらねコレ」チャリッ!









ブルー「………貴様の持っている"解ほ"―――」イライライライライラ…!

アニー「[星屑のマント]じゃん!!これで軍資金もかなり財布の中に貯めとける!」チャリッ!

アニー「ふふっ、これで大儲けね」ニィ








   ブルー 「 い い 加 減 に しろ ! !!さっきから金、金、金!と守銭奴か貴様はッ!!」




キレました。



84以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/30(水) 06:11:32.18m2WBEQKN0 (5/9)




アニー「~っ!んな大声出さなくったって聞こえるっての!!」キーン


 両手で耳を押さえる女をしり目に肩で息を切る術士、フラストレーションを一気に解き放つ
その怒声は薄汚れた都会の地下に存在する大迷宮に響き渡り反響させる






ブルー(…っく、これだから薄汚い街の女はッ)ギリッ





アニーに背を向け、見えない様にブルーは端麗な顔を歪める…顔は見えずとも歯軋りは聴こえているかもしれない



表の街並みで見かける売春婦を汚物でも見る様に彼は見ていた、金の為に身体を売る女
そんなにまでするのか、と





冷ややかな眼差しは背後の女を見ない、見ないが「どうせこいつも薄汚い下賤な者だろう」とアニーを見下していた



"この時までは"





アニー「っ!」チャキッ

ブルー「!」バッ!




「きぃぃぃーー!!」キコキコ…!




アニー「…チッ、アンタがバカでかい声出すから余計なモンが来たじゃない」

ブルー「ふん…!悪かったな」プイッ







一言でいうとソレ


真っ白な体毛、長くうねうねと動く尻尾、それは紛れもなく白猿そのものであった
奇妙な点を挙げるとすれば、その猿は人類に利器(?)に跨っている事だ…


頭に[ヨークランド]の民族衣装を連想させる帽子を被り、一輪車を乗りこなす猿…[モンキーライダー]だ



アニー「2匹か、お互い一匹ずつ片づけるわよ」


ブルー「ああ、そっちは任せた」



アニーが[サムライソード]を手に地を蹴り、それを皮切りにブルーも術を口ずさむ



85以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/30(水) 07:03:03.04m2WBEQKN0 (6/9)



「ウキャキャ!」


大道芸の荒業か、ペダルを漕ぎながら突撃してくる白猿は一輪車に跨ったまま跳ぶ、でこぼこ状の石床を器用に走りながら
ペダルに両脚を乗せたまま猿は人の背丈を優に二回りを越える大ジャンプを果たす


「キッキィィ~っ!!」



高く飛び上がるライダーはそのまま鍾乳洞に在りがちなつらら状に垂れ下がった鍾乳石にしがみつき
公園のブランコで子供が遊ぶ様を再現するように猿は動きをつける、後退、前進、それを生かし

ニタニタと笑いながら猿はアニーを車輪で踏みつけようと勢いをつけて強襲を仕掛ける――――ッ!





             ジュバッッッ




「キッ きゃ?」ブシャアアアアアアアアアアアアァァァ




[モンキーライダー]の網膜に映った映像は…



アニーが[サムライソード]で何も無い空間を切った光景



[モンキーライダー]の鼓膜に飛び込んだ音声は…



見えない真空の刃が自分目掛けて飛ぶ音





気がつけば白猿の視界は180℃反転していた、地表に居るはずのアニーを見つめていた二つの眼は天上を見つめていた


 黄金色のショートヘアーを揺らしながら彼女が放った[<飛燕剣>]は…剣気によって生じた真空の刃は
猿の首をスッパリと切断した、天井の洞窟生成物に

べちゃり、と音を立てて何かが突き刺さるが見るまでも無い

 頭部の無い遺体がアニーの数㎝先に落下し、紅い水溜りを創る
そして主を亡くした一輪車はカラカラと音をたてながら何処へなりと駆けた



…派手な音がアニーの後方から鳴り響いた、きっと壁にでも衝突したのだろう




アニー「ふぅ…掃除完了っと…」クルッ



ブルー「…先を急ぐぞ」



プスプスと煙を上げる焼死体を背にブルーが声を掛ける



アニー「ちぇっ、先に仕留められる自信あったのに」

ブルー「誰も競争なんぞしてはおらんだろうが…」




86以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/30(水) 07:20:55.54m2WBEQKN0 (7/9)




ブルー「」スタスタ…

アニー「」テクテク…








アニー「…アンタ、は……さ…その、"家族"とか居るの?」テクテク…


ブルー「なんだ藪から棒に」スタスタ…


アニー「良いから、答えなよ、別に減るもんじゃないしいいだろ?」




ブルー「……」







ブルー「居る、」






――――――物心ついた時から…施設暮らしだった、祖国の学院で…自分は育った


―――――――祖国は自分の親代わりだ、自分を育ててくれた父親であり、母親である


――――――――― 子供は…子供は大恩ある親に尽くす義務がある…
              だから俺は…祖国の誇りの為に尽くし、国家の為に身を粉にする、それが俺の誇りでもある






             だから俺は…――――-






ブルー「たった"1人だけ"…居る」









             ― 名前しか知らない、顔も見た事無い双子の弟<ルージュ>を殺す ―





      ―――弟を殺して、自分こそが優れた人間である証明を掴む、そして祖国に求められる完璧な魔術師となる








87以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/30(水) 07:43:16.36m2WBEQKN0 (8/9)



後ろを歩く女は目の前を歩く男の顔を見ることはできない

もし見たのならどれだけ険しい顔だったかを知れただろう






アニー「たった"1人"…?」



アニー「…そう」


アニー「…」





アニー「あたしさ、どうしてもお金が欲しいのよね」テクテク…


ブルー「なんだ突然、話の前後が繋がらない――」スタスタ…














     アニー「あたしには弟と妹が居る…あたしが稼いで養わなきゃいけないのよ、あたし達、親いないから」




                      ブルー「…」ピタッ







"弟"という言葉に反応するように、男は足を止めた




アニー「二人共施設に預けててさ、こんな街だから費用も馬鹿にならない」

アニー「身体の弱い妹は[ヨークランド]の裕福な家庭に養子になったから一安心なんだけどね」

アニー「弟の方はまだ小さくて、そんでもって手が掛かる悪ガキで」



アニー「こんな街で女が小遣いを稼ぐなんて殆ど決まってる…男に身体を売るか荒っぽい事をするかの二つ」


アニー「あたしだってこれでも女だからね……腕っぷしでヤバい橋を渡る方を選んだわ」



アニー「アンタの言う通りあたしはお金にうるさいの、気分を悪くして悪かったわね」




アニー「…」

アニー「ああ!!やめやめ!こんな湿っぽい話、らしくない!」




88以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/30(水) 07:56:32.81m2WBEQKN0 (9/9)



数分前、アニーはこの不遜極まりない男に驚かされた


今度はブルーが目の前を通り過ぎて行った女に驚かされた



「薄汚い街の女」「どうせ肌の露出の多いその恰好…表に居た醜い売春婦共と同じだろう」と見下していたが…




その考えは改めざるを得ない、人は外見に寄らない、目に見える物、言動だけが全てではない




ブルーにとって今日一番の外界で驚かされた事、一番の衝撃との出会い、ファーストコンタクトだ










ブルー(…露出度の多い女には違いないがな)














  この世に かみ が居るとするならば、なんと数奇な巡り合わせを用意したのだろうか…




  奇しくも此処に居る者は…【弟を自らの手で殺す為に戦う男】と『弟たちが生きれるよう食わせていくために戦う女』









    これほど奇妙な組み合わせがあるだろうか…














2名は自然洞窟の奥、[クエイカーワーム]が巣食っていた空洞内へと到達する


ブルー「!! 【リージョン移動】…此処にあったのか!」ダッ!






89以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/08/30(水) 12:25:51.927X8P3L88O (1/1)


やっぱアニー良いな


90以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/19(火) 13:18:42.16Eggdf3fJ0 (1/10)





          「ギュィィイイイイイイイ イ   イ イ "ィイ "ぃ 」シュバッ


             ブルー「 ?!ぐ、がっ ぁ!?」ド ゴ ッ





地下空洞の最深部に落し物はあった

彼は敬愛する祖国からの支給品という命の次に大切なそれをここに至るまでに術を乱発し文字通り血眼になって探し求めた








だから、気が抜けた、有り体に言えば完全に"油断していた"




 妖魔医師と一度ここに来た時、ブルーは自身の唱えられる最高位の攻撃術を放った…目に見える物全てを巻き込み
広範囲に渡る灼熱の宝玉の嵐、熱を帯びた鉱物の破片は蟲の群れを物言わぬ亡骸へと確かに変えた


辛うじて生きていた粗虫もヌサカーン医師の一太刀で生命線を断ち切りそれを締めに殲滅したと思った





 先入観や思い込み、これほど恐ろしいモノは他にあるまい…入口から一直線に入って来たブルーの鳩尾目掛けて
突進してきた巨蟲のモンスターは何処に潜んでいたのか、はたまた彼等が一度地上へ帰還していた合間に余所から来たのか




アニー「!!―――っくぉぉっっらぁぁ」シュパッ!ザシュッ!


「ギッッ!」ガシュッ!ジュブッ



アニー「おい!しっかりしろ!生きてるのか…おい!返事をしろって!」



 目の前を歩いていた蒼の術士が猪を裕に上回る大型の昆虫モンスターの突撃で跳ね飛ばされると同時に
彼の後ろをついて来ていた彼女は脊髄反射で[サムライソード]を鞘から引き抜き蟲の前脚を切り飛ばした



 大胆不敵に思い切った踏込、そして股下から頭部目掛けた切りつけ、剣術における"逆風"という名称のそれを放つ


前脚を切り飛ばされ血飛沫を上げる蟲を見据え牽制しつつも彼女…アニーは後方の術士に声を掛ける


ブルー「…ぅ、粗蟲共…まだ居たのか…っ」ヨロ…


アニー「…生きてるんだね、良かった」ホッ



腹部を抑えながらも返事を帰してくれた男の顔はまだ見れない、だが生きている事が確認でき安堵した



アニー「目の前で死なれたりされちゃ、流石にあたしも夢見が悪いからね」チャキッ





91以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/19(火) 13:59:51.21Eggdf3fJ0 (2/10)




「ギィィ…」ギチギチ
「ギュゥゥィイイイ」カサカサ…





 刺々しい触覚のような手足、牙をギチギチと鳴らし威嚇をする[ワームブルード]の群れ
前方に2体、右斜め後ろに前脚を切り飛ばした1体…羽音を響かせながら降りて来るのが1体…計4匹の巨蟲がお出ましだ




ブルー「…おい、ゴホ…女」


アニー「…あたしは女なんて名前じゃないね、なんだよ」


ブルー「さ、っきので、上手く声を――うぐっ…だ、せん  ゲホッ」ビチャ…


アニー(コイツ血ぃ吐いてんのか…)




 目を離せば彼奴等はなだれ込む様に襲ってくる、後ろの魔術師は察する所、術を唱えようにもそれが儘ならないときた







ブルー「整うま、で…ッ 時間が居る、時間を稼げ」

アニー「言ってくれるじゃん、難しい注文をさぁ…!」ダッ!





 要点は確かに聴いた、女手一人で馬鹿デカイ蟲の化け物を4匹相手にしろと言っている
術の使えん魔術師など恰好の餌食でしかない、ならばこそアニーが猛進し後方のブルーに近づけさせない、それしかない




<うらぁぁぁ!! ガキィィン ザシュッ!
<キイイイィィ ィ ィ ィ ィィ ィ!!







ブルー「ゼェ…ゼェ、くっ…」スッ!バッ!



ブルー([ドゥヴァン]で買った術書が功を成すようだな…!)シュッ!サッサッサッ!





 シップに乗っていた合間に術書を開き、内容を頭に叩き込んだ彼は両手を動かす
幼子のあやとりを初めとする手遊びや手話のように忙しなく動かし、"印"を表す


それはかのリージョンでは"九字護身法"などと呼ばれる式の築き方だ




ブルー(印を構築した…あとはこのまま印を切りれば…)ゴホッ



永い詠唱はできない、短く、それでいて今の自身を癒す方法…!


92以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/19(火) 14:23:02.72Eggdf3fJ0 (3/10)






           ブルー「…生命を繋げ…っ [活力のルーン]!!」






 素早く印を切り、短く喉の奥から捻り出すように声を捻出する

基本術の一つにして自身の細胞を活性化させ身体の損傷を癒す印術[活力のルーン]目の前に出現するライトグリーンの光は
ルーンの文字を宙に描き、ブルーの身を包む…すぐさま自身の身にせいの力が漲って来るのを感じ取る




―――
――




    キィン…!



                 パァァン…!







     アニー「あうっ!」ドサッ


 アニー「~っ、こいつ…他の奴よりも強い…どうして…」ハッ!?










  「ギッ~ギイギイィ…!」バタタタタッ![アシスト]!


  「ギイイイイイイイイイイイイイ――――ッィイ!」"STR UP!"."QUI UP!"."INT UP…










アニー「くそっ!こいつら仲間同士で互いに強化させてるからか!」




「キシャアアアアアアアアアアアァァァァァアアアアア!!」バタタタタタッ!ガリッ



アニー「なっ!―――きゃあああっ!!」ガシュッ



猛スピードで突っ込んできた1匹に肩を喰われる

鍛え抜いた反射神経で掠る程度には留めたものの羽織っていた緑のジャケットが裂け、露出した肩肌からは血が滲みだす





93以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/19(火) 14:56:36.94Eggdf3fJ0 (4/10)




アニー「い"っ‥‥、こ、こんのぉ!クソ蛆虫ぃぃ!あたしのお気に入りだったってのに!!」






肩の痛みを気に入りの服を破かれた怒りで紛らわす、目尻に浮き出た涙を振り払うように渾身の一撃を打ち込む






        アニー「喰らええぇぇぇぇ!!![稲妻突き]ぃぃぃ!!」ダンッッ――ギュンッッ!!



             「ビギィィッ!?―ギッ」ブチュンッッッ!!グシャ!




雷光一閃


刺突技を十八番とする彼女が可能な限りの瞬発力を発揮し稲妻の如く突っ込む






 [仲間の体術使い]と[銃火器を巧みに扱うスーパーモデル]等と共に

"多くの剣術を閃き"[達人]の域に到達した彼女の剣先には闘気が渦を巻き、稲妻が迸る突きの一撃は滞空する虫の胴体を
ものの見事に吹っ飛ばす、頭部、腹、なんやようわからん昆虫系モンスターの臓器が散乱する



同胞の贓物と血飛沫の雨に臆んだか、後に続いて追い打ちをかける予定だった1匹の動きはやや鈍いモノとなる


勢いを落とした突撃など多くの修羅場を潜り抜けて来た彼女からすればスローモーションで―――






         アニー「ふっ!!―――」サッ




くるり、踊るような足さばきで回避行動を取ると同時に手早くジャケットの内ポケットから[レーザーナイフ]を取り出し
グリップを握り締めてボタンを押す


このご時世何処にでもあるビーム兵器の大して珍しくない駆動音と同時にナイフの柄から先に光り輝く刃先が伸びる








 ――――――クルッ…ザシュッ! ガシュッ!





           アニー「…[かすみ青眼]っと!」ボソッ





遠心力を上乗せした両手の得物で害虫を一匹スライスする



94以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/19(火) 15:24:38.09Eggdf3fJ0 (5/10)




アニー「これで2匹、あとは―――」キッ!




害虫を2体駆除し、すぐさま[<アシスト>]で肉体を強化された粗虫共を睨みつける


アニーが振り返ると同時に虫の一匹(最初にブルーに突撃して彼女に脚を切り飛ばされた奴)が強化された奴の頭上を
忙しなく飛び回っていた



すると何ということだろうか、強化済みの[ワームブルード]の身体についた切り傷が癒えていくではないか…っ!!






アニー「…[<マジカルヒール>]回復までできんのね、随分と多芸な事で」チッ!



最初に仕留めとけば良かったと舌を打つ、芸達者の蟲は凝りもせずアニー目掛けてその巨体で体当たりを仕掛ける


当然ながら彼女もそれに対して迎撃すべく剣を構え地を蹴る…










…が!











          ヒュンッ! ヒュンッ―――!






             アニー「!!」






強化された蟲の背後から飛んでくる力の塊、それはモンスター特有の技[エルフショット]であった―――ッ




 飛んできたエネルギー弾の直撃はもはや免れようがない、それでも抵抗すべく刀身で2発叩き落としたが残りは全弾被弾
後方から放たれた援護射撃に遅れて強化済みの蟲がアニーの身体を撥ね飛ばす


血を吐いて仰け反る様な恰好で吹き飛ぶ彼女に[エルフショット]を放った蟲が牙を突き立てるべくアニー目掛けて羽ばたく




 余程、片足を切り飛ばされた事でも根に持っているのか
その執念の赴くままに接近し柔らかな人間の女性の肌に[毒液]滴るその牙を…!




95以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/19(火) 15:45:22.74Eggdf3fJ0 (6/10)








            ブルー「爆ぜろ、[インプロージョン]!」キュィイイイン!






「アギッ!」ボンッッボジュッ





…粘り気の強い[毒液]が滴るその牙は彼女の身体に突き刺さらなかった




短い断末魔、一瞬の焦げ臭さを残し、この世から消え失せた


片脚を切り取ばされた恨みよりも、不意打ちで鳩尾に一撃喰らわされた魔術師の方が根に持つタイプだった、それだけの話






ブルー「ふぅーっ…このクソゴミ蟲共が…此処に保護のルーンがなければこの場所諸共消し飛ばしてやりたい所だ」




見るからに青筋を立てて、惜しみなく不機嫌を表現する術士は目だけで人が殺せそうな視線を残りの害虫に向ける




アニー「なぁ…こいつはあたしにヤらせてくんない?」




腹部を片手で抑え、同じく怒りで肩をわなわなと震わせる黄金色の髪をした女がゆっくりとブルーの背後に近づいてくる

ブルーは呆れた、この女の耐久性に





自分でさえああなったというのに、強化された彼奴の突撃を直に受け止めてその程度で済んでるのか、と







                      ブルー「勝手にしろ」

                      アニー「ん、わかった」



                      「ギッ!?ギイイイィィ!?」









元より、お宝さがしに加えて鬱憤晴らしの為に来たのだ
蟲如きにコケにされては財宝の他に苛立ちまでお土産にしてしまう、怒りの一撃をお見舞いせねば



96以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/19(火) 16:13:11.45Eggdf3fJ0 (7/10)



不穏な空気を感じ取ったのか、モンスターは脇目も振らずに一目散に逃げ出そうとする



アニー「逃がすかぁぁぁぁ!!」



 剣を構える、達人の域に到達した彼女が閃いた一つの到達点
無駄なく敵の急所のみを狙い、生命活動の源となる部位を確実に寸断する手法








       アニー「だあああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」シュバッ!















                   [デッドエンド]ッッッッ!!











 地下空洞内全域に轟くような音、天井すれすれまでに跳躍した彼女の身体は逃走を試みる小蟲の一生に幕を下ろした



―――
――



[BGM:クーロン]



【クーロン:発着場前】



ブルー「まさかあんなところに抜け道があるとはな」

アニー「大昔の地下鉄だからね、こうやってシップ発着場に繋がってる場所もあんのよ」



 お互いに目的を果たした男女は[クーロン]の街へと戻って来ていた、アニーは同僚のライザから教わった道を使い
蒼の術士と共に帰って来たのだ


アニー「あのデカイ蟲が保護のルーンになんかしてるから、街の治安が悪くなるんでしょ?」

アニー「なら、これで安心して暮らせる奴もちょっとは増える、良い事ね」




自分の後ろについてくる術士から聴いた話からそんなことを考える、お宝は手に入るし運動にもなった
挙句にはこの街で暮らす人々の平穏にもつながる良い事じゃないか、と



97以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/19(火) 16:29:27.52Eggdf3fJ0 (8/10)




ブルー「…」スタスタ


ブルー「おい、おん………アニー」






「おい、女」と言いかけて改める、初めて目の前を歩く女の名前を尊大な態度の術士は口にした





アニー「な、なにさ?」




この無礼極まりない男が急に改まったので内心驚きを隠せない、とりあえず返事を返してみれば








ブルー「癪だが、貴様には一つ借りができたな…」

ブルー「粗虫の最初の不意打ちからあれだけの数に囲まれれば俺も命を落としたやもしれん」




ブルー「礼を言わせてもらう」




アニー「お、おう……気にすることないっての…」



偉そうな態度が鼻につく男ではある、が最初の邂逅の時もそうだったが自分に非がある時は素直に謝るのが筋だと述べたり
この男は変なところで真面目だ



ブルー「この借りはいつか何らかの形で貴様に返させてもらう」

アニー「そ、そう?(なんか調子狂うわね)」




借りを返す、かぁ…しかし、返してもらうにしたってどうする
どうせな貰うのなら満足のいくものが良いと思うのが人の常





アニー「……!ねぇ!アンタさ!その恩返しだけどなんでも良いの?」

ブルー「? ああ、可能な事であるならばな」



命を救う、これに匹敵する恩ならば返してやってもいいと思うし、何よりこの女は"[解放]のルーン"、"[活力]のルーン"

ブルーが喉から手が出る程欲しいモノの情報を彼女は二つも有しているのだっ!






…要するに、純粋に恩義に報いてやるのが半分、もう半分は貴重な情報源の機嫌を損ねたくないという利己的な考えなのだ



98以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/19(火) 16:49:15.15Eggdf3fJ0 (9/10)








アニー「ふっふっふ…なんでも良いのね♪」ニシシ




―――この時ッ!アニーの頭上に豆電球が灯るッ!



アニー「じゃあ、あたし含めてあたしの仲間達をディナーに連れてって欲しいのよ!アンタの出費で」


ブルー「晩飯を奢る程度で良いというのか?その程度なら構わんが」




アニー「OK!契約成立ね!取り消しは無し!」つ【紙切れ】




ブルー「? なんだこ―――」





ブルーが手渡されたのは一枚のチラシだった…先程のリージョンシップ発着場で誰でも気軽に貰えるチラシ







アニー「すっっっごくお金の掛かる豪華客船での食べ放題バイキングディナー」

アニー「いやー、一度で良いから皆で行きたかったのよねぇ~♪」





ブルー「  」





そのチラシにはこう書いてありました






                         【チラシ】

  ~『美しき白鳥のフォルム、展望台から一望できるリージョンの空!満点のサービスに豪華三ツ星ビュッフェ』~


     ~『 [マンハッタン]発の宇宙船<リージョン・シップ>  《キグナス号》で優雅な一時を! 』 ~
            ※三ツ星ビュッフェは別料金となり、クレジットはお一人様――――




アニー(…エミリアが帰って来た時に、詫びの一つは要るだろうとは思ってたし…)

アニー(グラディウス皆でちょっとした旅行みたいで良いわよね!)ニシシ♪


アニー(不本意だけどルーファスの奴もこのキグナスって船に乗せてやって、皆でご馳走ね)






99今回は此処まで2017/09/19(火) 17:10:22.15Eggdf3fJ0 (10/10)


───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三

      【解説:アニーの閃き率】

どの主人公を選んでも印術の資質入手EVで仲間に出来る子、ラッキースケベの主人公曰く「う~ん、でかい。」

仲間キャラそれぞれに閃きやすい系統というモノが存在する、"体術" "剣技" "銃技"…その中で彼女は剣

とくに[突き]系の剣術を閃きやすいというが…



   実 は そ ん な こ と は な く 寧ろ 全仲間キャラの中で閃きが一番悪い

 というのも彼女だけが閃きの系統が異質、剣とか銃とかそういうレベルじゃなくて

 彼女は 『[名前がカタカナ]系の技』 を閃きやすいという 何故か独特の系統が設定されてるらしい


 だから漢字の刀技や剣技も新技が覚えにくいらしく
       代わりに[ディフレクト]とか[ロザリオインペール]等の名前がカタカナは閃きやすいという噂



           , _,r '' ´ ̄ ̄ ̄`ヽ、
          //               \
         _//                  ヽ---イ
        /            \ \\  \ヽ
      / /        / |     ヽ ヽ ヽ   l l
      l//      / |  ト 、 ヽ  |l  |ハ | | |
      | |   /  / /| |  | `、 || | |イ} リ | | |
      | |   |   | ハ |⊥|-- | || / ,ィ〒| /| リ
      | |   |   | { l八,⊥= l /|/ ヒj_ K |/
      | |      |川 リィlトイ:} リ/〃   、 "VV
      リ} l     ||ト|ヽ ゞ='´     ′ ハ ト==‐
      〃|| |    ヽ \`ヽ、""   ー一  /| | |
        |j/ /  ヽ\ヾミ        /| | |/
        // / │ | | hヽ ‐- ..__, イ {/イ
       //// ∧ | | lTリ____」 │  | {〃
      |/|/ / /川川/ナ人____| ̄`Y | ヽ、_
      |l | / ///レ┴┴‐tュ_r‐┬r)〉  ト|ヽ、_ノ
      l! | / //      \┴┴'⌒ヽト、
          | { ケ/>====t \   \ \
          〈rイノイ´ ̄ ̄ ̄|L -ヘ ___>‐、ヽ、
           〈 〈 |       └┬⌒〉      ヽ `ヽ、
            ヽ| |  , ---- 、|  |       }     ヽ、_
            ヽV , ---- 、)  |        /     /フ二入
             |Y      |   |     ∧   // 〃    `丶、
             | |      |  |二>--イ ヽ` '‐|レ/_          `>- 、
            /│       |   |-──┤   \//″ ` ''‐ 、 __/    ``ヽ.
            /   |      |    lニニニl  /// |    ,、‐ ''´     `ヽ、    ヽ
            \  |     |    l     レ'  | || | ,  '´             /       |
              ヽ_|       l    \  /|   ノノ/      /      |_i    |
              |     |一''´ ̄ ̄ _l |ァ-イ/         | {        | |l、__/ lハ
             / ̄ ̄ ̄ヽ---─ ''´ |」k/|==ァ     V       し1 / 丁7
             〉‐───く __r─ニロテ7 /|) 〃      /        / 〃 / /
             L -──‐、_)テ }} // |// ∨ ̄了    /         しl |_/‐'
              レ── 、|〉   }}厶//レ'   ヽ 〃    /          /
              |       ん~┬〒イ  |    ヽ-─┐/         /`丶、
               |      /   / |  | |   |       \ //           /    `ヽ、
                |     /   / |  | |  |      ヽ/           /        \
             j     ハ  / │ l |  ヽ      /,'          /    /      ヽ
            ∧   / `、   |  | ヽ   \   / !           / __/ノ      |
           / ヽ二二ソ  \      \   `ニン |       /´              |
        rr '´       |     \         __ノ   |       /            /
        //ヽ__人   ノ      `ー‐ '´ ̄ ̄    /|      /            /
       / / /  , `'"            ____,.  '´  │     /               _/
      (_/    ̄       rァ⌒ト-‐''´  /     j       /        ,  '"´
                 _,ノ /    /      / /    /_...  --‐ ''´
               , イ   //    /      r'´ ̄ ̄`ヽ、/
            //  / |「レ== 、_ ヽ、___, イ       ヽ
            厶/ |< M Lト=ッ7/7| _.. -'´ /         /个L
            | ∧//ヽ|ラ‐イ//|し1´    〈 ┬‐ 、  (( イ/| 〉〉
            レ冖\__/Jl」 ̄      /   ト|`Tヒ// |しノ
            `ヽ⊥ -‐'´           |__  \\//大」
                            ├  ``ヽ、 ̄|/ ⌒⌒ヽ、_
                            | r─、    ̄ ̄二二ー‐ヽ
                            ヽ三三 r─‐ 、` ー----ハ
                                  ``<┬三三三ヽ/
                                     ` ーニニソ

───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三


100以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/19(火) 17:53:01.66xEXM+K6SO (1/1)

そんな特殊な閃き条件ついてたのかこの子……


101以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/19(火) 18:13:14.39z1+jwyCk0 (1/1)

はへ~知らんかったわ


102以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/19(火) 19:06:25.87HaVOXXHnO (1/1)

乙乙
でもカタカナ技ってあんまり強いの無いのよね……それでもスタメンだけど
オチはレッド編に繋がるフラグかな?


103以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/19(火) 19:33:04.68uHsU3M6UO (1/1)

今回も乙

「貴様の名前が気に食わん」をどう料理するかが楽しみだ


104以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/26(火) 21:37:30.93tFbJF3ye0 (1/2)

















    …うぐっ!? 痛い…? 僕はどうなったんだ…?確か[ドゥヴァン]の神社でアセルスの身の上話を…














痛みで覚醒した僕はゆっくりと瞼を開いた、紅葉の香りが鼻をくすぐったあの神社の前とは全く違う光景だった


無骨な鋼鉄の部屋、まるで僕が本で読んだ牢屋みたいな何も無い部屋で


  [マジックキングダム]の寮部屋みたいな二段ベッドが幾つかあって…僕はその寝具の梯子部分に縛られてたんだ





目の前には知らない男の人が数人いて、なんだか困ったような顔で僕を見てる…







105以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/26(火) 22:03:22.92tFbJF3ye0 (2/2)

*******************************************************
―――
――



【双子が旅立ってから…2日目、夜明け間際 4時27分… トリニティの軍事施設があるリージョン [ラムダ基地] 内部】




「やっと目ぇ覚ましたぞ…」ハァ

「…で、こいつどうすんだよ……つーか誰だよコレが女とか言った奴」




ルージュ「???」キョロキョロ




 ラムダ基地…赤焦茶色の岩肌だらけのその土地に築かれた前線基地には
この広いリージョン界を束ねる政治機関"トリニティ"の執政官が着任している…現状この基地に居る執政官は…まぁ、その









…実に評判がよろしくない




その理由は…










「どうするよ、あの変態になんて言い訳すんだ?」

「どうったて…なぁ…」


「さっきの妖魔の女たちはヤルート閣下のハーレムに送ったが…この男は…」ウムム…





…税金で創られた軍事基地に美女を集めハーレムを築いているという悪評が出回っているからだ
 物的証拠が無い為、誰も検挙できないでいるが噂自体は広まっている、これで変態執政官と名高い彼のハーレムから
半ば拉致監禁に近い形で連れられた女性が基地内から脱走し証言でもすればお巡りさんが手錠を持って動くだろうが…



ルージュ「!妖魔の―――アセルスと白薔薇さん!!彼女達を何処へやったんだ!」ギッ!ギッ!




 縄で両手両足を拘束された彼は華奢な身体を精一杯動かし、反抗的な態度を露わにする
穏やかな眼つきを鋭いモノへ変えて目の前の男衆を睨み恫喝するのだが…



「あー、ったくうるせなぁ!あの女共ならこの基地のお偉いさんトコに連れてったよ」

「女好きのドスケベ野郎だ」



特に臆することも無く、縛られた男一人、術さえ使われなければどうとでもなるだろうといった風である



106以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/26(火) 22:55:20.48RQuFY+1SO (1/1)

う~ん、でかァァァァァァい。説明不要!


107以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/27(水) 00:43:01.63ToaxGTU40 (1/5)




ルージュ「…あなた達はこんなことをして…恥ずべきだと思わないのかっ!!」



 男達の口から飛び出す内容を整理して凡そ分かった事、それはこの男衆は所謂人攫いのようなモノで
自分達はその"ヤルート閣下"とやらの基地に連れて来られたということ


そしてその閣下とやらが無類の女好きということもハーレムという単語からよくわかる、手癖の悪い男だ




「思わんね、正義感なんぞじゃ腹は膨れん、おまんまの食いっぱぐれだけはお断りだ」

「そんなことよりもこいつの処遇をどうするかだ…」ハァ



ルージュ「くっ…なんて奴らだ!」ジタバタ




「…」ジーッ


「あん?どうしたんだ…」


「いやさ、この男…本当に女みてーな顔してんなぁって……思ったんだけどさ」













「こいつ女の恰好させてヤルート閣下に引き渡せば良くね?」





「…」ピタッ
「…」ピタッ


ルージュ「…」ジタバタ…ピタッ








 刹那、凍り付いた…
威勢よく暴れていたルージュもまるで[停滞のルーン]でも使われたんじゃないかと見間違う程に微動だにしない




ルージュ「」ダラダラ…



「いやさ?だって…あのヤルート閣下だぜ?妖魔狩りにハマるような変態度だぞ?なんかもう男の娘です!とか言ったら」



ルージュ「」ダラダラダラダラ…


滝のように汗が噴き出る、止まらない…



108以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/27(水) 11:07:11.93Pk8gK3KB0 (1/1)

寝落ち?


109 ◆u5jU/0ZJi22017/09/27(水) 12:37:25.87ToaxGTU40 (2/5)


―――
――





「出ろ」




アセルス「…」テクテク






アセルス(意識を失ってあの後、目が覚めたら此処に連れて来られた…)


アセルス(白薔薇の安全を確認して助け出すまでおとなしくしなきゃ…っ)ギリッ


アセルス(…あいつら、ルージュを女の人と間違えて連れて来たって言ってたから此処にルージュも居るはずだし、まず)















           トリニティ軍人?「こんな連中に捕まってしまうなんて…まだまだだね君は」フゥー










アセルス「?」


 俯き気味だった半妖の少女はその声に顔を上げた、声の主は深々と帽子を被り軍服をピシッと着込んだ少し色黒の男性で
妙に親しげに話し掛けるこの男性が何者であったか記憶の引き出しを漁り答えを探そうとしていた



少考、一呼吸の間を開けて結局誰だか分らなかった彼にアセルスは



アセルス「誰?」



そのまま抱いた疑問を言葉にして投げかけるしかなかった



色黒の男は「ふふっ」と…そう、まるで悪戯が成功して喜ぶ無邪気なお子様染みた含み笑いを浮かべ帽子を取る

 アセルスはこの時、漸く声の主が誰であったか思い出した、逆立った赤紫色の髪、悪戯小僧と名付けたくなる笑い…
一度見たらそれはもう忘れられない衝撃的な恰好のアイツだ


…今はその衝撃的過ぎる恰好じゃないからこそ、規則遵守を体現したような出で立ちだから思い至らなかったのやもしれん




110~ アセルス編没イベント集より 囚われのアセルス ~2017/09/27(水) 12:59:28.61ToaxGTU40 (3/5)











     乳首にお星さまを付けた上級妖魔「この程度の縛めなんて、ちょっと力を入れるだけで破れるのに」ヤレヤレ



      アセルス「ゾズマっ!!!此処で何をしてるんだ!!」






帽子を取り、逆立った赤紫の髪を、そして「ふぅー、この堅っ苦しい服は嫌だねー」と服を脱ぎだす上級妖魔



アセルスが[ファシナトゥール]で出会った男性型の妖魔

 彼曰く「自分は此処のナンバー2で自分を止められるのは妖魔の君だけ」との事、自由を誰よりも愛し
自分を束縛する者を嫌う、興味がある事にはとことん首を突っ込むスタイルで俗にいう美男子という顔立ちであり
上半身裸で乳首にお星さまをつけるという一度見たら誰もが通報したくなるようなスタイルを進む自由人である





 ゾズマ「別にアルバイトとかそんなんじゃないよ…よいしょっと」ドサッ


 アセルス(!私達の荷物…)


 ゾズマ「妖魔を弄んだ連中に、火遊びが過ぎるとどうなるか思い知らせてやるのさ」


 ゾズマ「もう数人侵入して手筈を整えているところだ」フフッ



 アセルス「…ふぅん、随分と仲"魔"思いだな」



何考えてるんだか正直よう分らん露出狂くらいにしか見てなかったがちょっとだけこの自由人の評価が彼女の中で上がった



 ゾズマ「さぁ~どうかな♪とにかく楽しい宴になりそうだよ」ニヤニヤ







 アセルス「…」





 アセルス(こいつめ、何やらかす気だ…?)





決して長い付き合いとは言えないがある程度この上級妖魔の事で分かった事がある


コイツがこういった悪戯を思いついたような悪ガキめいた笑みを浮かべる時は大抵ロクでもない事を起こす時だと

先程上がった評価がまた元の位置に戻りそうだ





111以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/27(水) 13:40:56.27ToaxGTU40 (4/5)




アセルス「君、この先に白薔薇が居るのかい?」スタスタ…


「はい、ゾズマ様がご確認なさっております、白薔薇姫様の他、お連れの方もいらっしゃいますよ」


アセルス「そうか、ありがとう、此処から先は私一人で行けるから君はゾズマの所に戻ると良い」


「畏まりました」スゥ…


アセルス「…消えた、アイツ何人この基地に妖魔を潜入させたんだ…」スタスタ…



扉を潜ればそこは……





アセルス「 」







アセルス(う、うわぁ……)ヒキッ




 如何にも成金趣味の部屋だった、いや下手するとそれより酷い、天井にキラキラ光るカラーボール
一昔前に流行ったディスコかと見紛うような内装で女の子が1人の肥え太った醜夫を満足させる為にいやらしく踊っている



醜夫「そらそら~もっと踊らんか!生皮剥いで釜茹でにしてしまうぞ~」


「いやぁ~ん、ヤルート様ってば~そんなことしないでぇ」



 軽口のように飛び出た恐ろしい拷問に掛けられまいと媚びを売った声色でバニーガール衣装の女が
扇子を仰ぐ東洋風の礼装に身を包んだ女が愛想笑いを浮かべご機嫌取りと来たものだ




ヤルート「ぐへへ…そういわれちゃぁなぁ」デヘヘ

道化師のような仮面をつけた男「……ヤルート閣下、そろそろ取引を」



ヤルート「まぁ待たれよジョーカー殿、もう少し余興をお楽しみくだされ…ぐへっ」ゲヘゲヘ!



 歯磨きなんて生まれてこの方一度たりともしてないんじゃないかと思うような粘りっ気の強い唾液が
前歯にこびり付いているのを見てアセルスは嫌悪感を露わにする

脂ぎった手で近くにいた10代半ばの少女を抱き寄せ頬ずりする様はなんともまぁ……


アセルス(あからさまに嫌そうな顔してるよ…)


ヤルート「ゲへへ、最近身体の発育がよくなったんじゃないのか~」


「や、ヤルート様に美味しいご飯を頂いているからです…」


ヤルート「おお!そうか!そうか!うむ!そっちの女子も近くに寄れ」

「は、はいぃ…」



112以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/27(水) 13:59:41.80ToaxGTU40 (5/5)



アセルス(…あ、あまり目を合せない様にしよう)ゾーッ


中央で椅子に踏ん反り返りハーレムを楽しむ醜夫、仮面の所為で表情は窺えないが呆れの色が見て取れる男性
そんな二人を余所にアセルスは白薔薇を探す…



アセルス(…!居た、あんな隅っこに!…でもルージュは何処に居るんだろう)キョロキョロ



バニーガール、民族衣装の少女、ヤルートの趣味でランドセルを背負い腿が良く見えるスカートの女子大生程の人
誰も彼もが拉致同然に連れられたのだ…


そこにはアセルスが嫌悪感を拭えない理由がもう一つある





それは、自分の今の境遇の元凶たる魅惑の君と通ずる所があるからだ





 先程ゾズマに荷物を返してもらった、当然[幻魔]だって手元にあるし
あそこのドスケベ魔人に対して峰内でも叩き込んでやりたいのが率直な感想だ鞘から引き抜かなければ
妖刀に引き摺られることもないだろうし…

ただ、軍事基地のお偉いさんにそれをやれば周りの連れて来られた人に危害が無いとは言えない、だから堪えるしかない



アセルス「ごめん、そこを通して…!」



半妖の少女は水着姿で踊る少女等に道を譲ってもらい漸く辿り着いた

白薔薇姫はベリーダンスを隣に居たセーラー服の銀髪美女と踊っていた



アセルス「白薔薇!私だよ…!」ヒソヒソ

白薔薇「!…アセルス様!ご無事で何よりです!」ヒソヒソ


白薔薇「此処に連れられた方々はこの戯れが終われば自分達に与えられた部屋へ戻されるそうです」

白薔薇「ですのでその時が来るのを待ち、隙を見て逃げ出しましょう」ヒソヒソ

アセルス「うんっ!」ヒソヒソ


 逃げ出せる好機を怪しまれぬよう他の者に混ざり踊りながら待つ白薔薇のすぐ横でアセルスも彼女の真似をする
舞などこれといってできるモノは無いが、白薔薇の動きを真似るぐらいならばなんとかなると考えた


アセルス「……ねぇ、ルージュは何処にいるの?この基地の何処かに捕まってるんでしょ」ヒソヒソ


白薔薇「…ルージュさん、ですか…」


アセルス「…? 白薔薇?」

何故か苦笑する白薔薇に首を傾げた、白薔薇の視線の先がある一点へ向けられる、その先を目で追えば-――



セーラー服を着た女子大生くらいの年頃の銀髪美女「……///」プイッ




アセルス「……」

アセルス「あっ(察し)」



113以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/27(水) 19:22:39.47+YHdLQ5VO (1/1)

ルージュとんだ災難だなww


114以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/27(水) 22:40:58.73fhMMCxNSO (1/1)

>男性型の妖魔

男性器の妖魔に空目した


115以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/28(木) 05:13:00.58vrwrZIxv0 (1/1)

乙乙
白薔薇のベリーダンスは開発2部ネタかな?


116以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/10/05(木) 18:50:03.44S0wkO+cY0 (1/3)



"それ"に気がついて間抜けな声が出た

緑髪の少女はさっきから白薔薇姫の隣で舞っていた銀髪美人が誰なのか、漸く悟った




アセルス「……」


アセルス「えーっと、そのぉ…なんていうか、うん、似合うよ、うん」



白薔薇(アセルス様、フォローになっておりませんよ…)



 さて、読者諸氏は既にお気づきの事だろう、この麗しの銀髪美女が何処の誰なのか…
彼女、否、"彼"は顔を赤らめていた、名は体を表すとよく言ったものだが赤色を冠する名を持つ彼は若干半泣きだった


なにゆえ自分はこんな所でこんなワケのわからない恰好をさせられているのか?


理不尽だ、と彼…ルージュは心底そう思った





ルージュ「…素敵なフォローをありがとう」ズーン

アセルス「あっ、そ、その…なんかごめん」アセアセ




どんよりとした顔で力無く笑う彼を見てアセルスは強引に話題を変える、変な気まずさに耐え切れない、空気を変えねば!



アセルス「ル、ルージュ…私!荷物を取り戻したんだ!あの[ゲート]って術を使う為の道具も入ってる!」ボソボソ

ルージュ「!…どうやって?」ボソボソ


アセルス「此処に知り合いが居て、そいつが持って来てくれたんだ」

アセルス「詳しくは私も知らないけどもうじき何かを起こすらしい、その隙がチャンスかも」



この場で直ぐにでも別のリージョンへ移動するのは容易い、が…




アセルス「…相談があるんだ」






アセルス「此処に捕まってる女の人達…皆を連れて移動ってできる?」


ルージュ「此処に居る全員を…」


此処に居る女性は皆が、アセルスやルージュ達と同じだ






何の前触れも無く人攫いに捕まり、此処に監禁された謂わば被害者なのだ、同じ女として、そして…

魅惑の君、オルロワージュの居城に軟禁されて十数年…家族との繋がりを断たれたアセルスだからこそ救いたいと願った




117以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/10/05(木) 19:11:39.51S0wkO+cY0 (2/3)



アセルスの境遇は知っている、だから彼女の心情は紅き術士にも妖魔の貴婦人にも当然汲み取れる
白薔薇はアセルスの望みを叶えてあげたいし、ルージュもこのような状況を見過ごせない



ルージュ「…できないこともない、けど全員を一か所に集めなければならない」チラッ



 気持ちとしては彼女の頼みに快くYESと言いたい、しかし重々しく開かれた口から出た言葉はこの無駄に広い娯楽室で
両手で数えきれない人数の女性を一切、不審に思われる事無く集めて術を発動させるという到底不可能である事を
VIP席に座る執政官と傍らの仮面の男を見ながら言った




最悪、あの醜夫はどうとでもなる…問題はそこじゃない





ルージュは…いや、白薔薇姫もアセルスも奇妙な仮面をつけた男を警戒していた、確か"[ジョーカー]"と呼ばれていた


被り物の下がどのような表情を浮かべているか分からない、だが…妖魔の二人も、魔法大国出身の青年も分かるのだ
 あの仮面男の前で妙な動きをすれば命取りになる






 ウィーン!



アセルス/白薔薇/ルージュ「「「!」」」



3人がどうすべきか思い悩んでいた最中、事態は好転することになる

アセルスが入って来た入口の扉が開かれたのだ…そこにブロンドの髪を結った幸運の女神様をお通しするかのようにッ!













   元スーパーモデルの金髪美女(うわー、悪趣味な所…あの怪物がトリニティの執政官??)スタスタ…












 童話で喩えよう、雑踏といっそ耳障りなくらいにい煩いオーケストラ賑わう舞踏会にシンデレラが舞い降りた
伴奏を奏でる音楽家も政略結婚を狙う口煩い政治家の話術もハイヒールの雑踏さえもピタリと止まる



瞬き程の僅かな合間、ルージュ等も拉致監禁された沢山の女性も、ヤルート執政官も



……そして、ジョーカー、もその姿に目を奪われた…




118今回は此処まで2017/10/05(木) 19:43:01.55S0wkO+cY0 (3/3)



ヤルート「―――ハッ!」


ヤルート「如何ですかな?私のコレクションは?」



 入って来た女性にヤルートは惚けた、艶のあるブロンドの髪を結わせたポニーテールが歩くたびに揺れ
しなやかな身体のラインがくっきりと強調された煽情的な踊り子の装束
透けて見える空色の薄布は腰回りをより色っぽく、くびれも上半身に実ったたわわな果実も魅せる露出度で―――



――いや、一番は"女"の部位を前面的に押し出した美貌じゃない、雰囲気だ




例えば同じ美人美女でも歩き方一つで感じる印象が違う



同じ顔立ちでも前を見て朗らかに微笑みながら歩く女と、鬱蒼とした顔でオドオド歩く神経質な女じゃあ抱く感情が違う


舞台役者が一つの劇、芝居でその役を完璧に演じるように、そのものに為り切っているように…目の前の美女は歩く



心の底から『美しい』『綺麗だ』そう感じ取らせるオーラがあったのだ…!





アセルス(うわぁ…綺麗なヒトだなぁ…//)ポーッ

白薔薇「…アセルス様、舞わねば不審に思われますよ」ボソ

アセルス「ぁ、う、うん…!」


相手方に気付かれないように脇腹を小突く白薔薇とアセルス、ルージュもハッと我に返り止めていた動きを再開する

それは水溜りに投じた一石から生まれ出る波紋のように広がり、止まっていた全ての女性等の動きを、執政官達を動かす






ジョーカー「…流石はトリニティ第三執政官のヤルート閣下、良いモノを飼っておいでです」




 被り物に隠された顔は相変わらず読み取れない…筈だが、心なしか仮面の男の声がほんの少しだけ感情を持った
そんな風にルージュは感じた



ヤルート「それでは今日は特別に1匹、お持ち帰りになるとよろしい!ジョーカー殿!」ゲヘ!ゲヘ!


気分を良くした醜夫は来客のジョーカーに揉み手をしながら愛想笑い、対照的に入って来た女は心を波立たせる







元スーパーモデルの金髪美女(ジョーカー…っ!!)






波立った心を落ち着けようと彼女は演技に全意識を集中させる、でもなければ歯軋りが聴こえてしまうだろうし
 今にも自分の婚約者を殺害した憎き仮面男をこの手で縊り殺さん勢いで飛び掛かってしまいそうだったから…




119以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/10/15(日) 05:00:47.16Xn7nVrpQ0 (1/2)



ヤルート「いやぁ…丁度鮮度の良いのが入荷したようですな、おい、お前何かやってみせろ!」


鮮度の良い入荷品の出来をまずは知ろうとヤルートは命じる、その声に彼女はハッとする



ヤルート「んん~?どうした?早くしないと生皮を剥いで釜茹でだぞ!」



元スーパーモデルの金髪美女(やっぱりヒドイ所だぁ~!ルーファスの奴…帰ったら覚えてなさいよ!)


 彼女の頭の中には常にサングラスを外さないロン毛男が浮かび上がる、帰ったら真っ先にグラサンを叩き割ってやろう
そう決意を固めながら「舞わせて頂きます」と初々しくお辞儀をする


今は上司への恨み言は後回し、最優先は役を演じ切ることだ





そうこうしてればグラサンの上司と、気の合う仲間…[ライザ]そして[アニー]が助けに来てくれると信じて…




 軽やかな足取りで中央のダンスステージに飛び乗り金髪美女は舞う、この人の邪魔をしてはいけない
舞い込んだ白鳥に魅了された女性たちは彼女の為に十分なスペースを開けようと静かにその場を離れていく…




これはなんだ?

踊りか?

それとも劇か?



ゆったりと降り立った女性は明るく、この世の幸せは此処に在る、とでも言いたな表情で舞うのだ



まるで女が求める最大の幸せ、愛おしい男との結婚を控える女が魅せるような顔



幸せの絶頂に居る、しかしその後の舞は一変、至福の丘から絶望と哀しみの奈落への転落
エキゾチックな衣装の彼女は天を仰ぐように…どうかこれは悪い夢で目が醒めれば幸せに戻れるますようにと

乞い願う女性を演じた、満ち足りていた表情も今は演技なのか本当に泣きそうなのか分からない顔立ちであった









 結婚を控えた幸福な女、突然の悲劇、絶望に打ちひしがれ、一筋の光が差す…女がゆっくりと再生に向かって立ち上がる





踊りというよりも寧ろオペラ座や歌劇に近かった


それも迫真の演技だ、特に何かを決意した女がゆっくりと再生に向かっていく様は鬼気迫る物すら感じる


起承転結、物語性のある舞いだった…疑問なのは『起』『承』『転』こそあれど『結』の部分が無いことだ





120以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/10/15(日) 05:23:50.34Xn7nVrpQ0 (2/2)



ジョーカー「…美しい」ボソ

ジョーカー「見事な舞い、これを頂きたいですな」




ヤルート「い、いや、ま、待ってくれ!これはワシも気に入った、中々に食欲をそそられるぞ!」

ヤルート「代わりにアレなんてどうだ!?[ファシナトゥール]から命からがら盗み出して来た女だ!」

ヤルート「妖魔に血を抜かれて体質が変化しているのだ、中々興味深いぞ」



 想像以上に見栄えの良い女が手に入った
執政官は思わぬお宝を客人に横取りされては堪らんと上擦った声でアセルス等を指差す、『特別に1匹持って帰ると良い』
そう言った手前、この仮面をつけた上客に前言を撤回する訳にいかない

 雇った男衆がその辺のリージョンから偶然見つけて来た妖魔の女を
妖魔の総本山[ファシナトゥール]から命懸けで盗んできました!とちょっとでも箔がつくように嘘を付け加える

それだけ手放したくないのだ



そんなこんなで指差され夏祭りの出店で売りに出される兎や雛鳥か何かの如く指定されたアセルス等はギョッとした


これはマズイ


そう感じた次の瞬間…っ!







    ズ ド オ オ オ オ オ オ ォォ ォ ォ ォ  ォ ォン







基地全体が揺れた、電気系統に異常が出たのか次々と天井の照明が切れていく




ヤルート「な、何事だ!?」

元スーパーモデルの金髪美女(グラディウスだわ!!)パァァ…!

アセルス(…ゾズマか)ハァ…



狼狽える執政官

仲間達が来てくれたと勘違いし、花が咲いたように喜ぶ金髪美女

「ああ、これか…アイツめ、無茶苦茶な」とため息を吐くアセルス




ジョーカー「トリニティの基地で非常事態とは、世も末ですな」

ジョーカー「ヤルート閣下の足元も意外と脆いのやもしれませんな」クルッ




仮面の男が呟くと同時に全ての照明が切れ、室内は闇に包まれる




121 ◆u5jU/0ZJi22017/10/18(水) 20:39:25.88ncNr6e5B0 (1/4)



 悪趣味な娯楽室が闇に包まれる、静寂を破ったのは誰の甲高い悲鳴だったか
それはルージュ等にもヤルート達も金髪美人にも分からない、唯一つ理解できたことはそれを切っ掛けに拉致された女性が
一斉に非常灯目掛けて駆け出したという事だけだった


 川の流れを塞き止めていたダムというのは一度決壊すれば後は濁流が止め処なく溢れるモノで狭い出入口からは
女達が凄まじい勢いで飛び出していった


その中には騒ぎに紛れて部屋を脱するルージュ、アセルス、白薔薇の3人

次に遅れてヤルート執政官、ジョーカーの姿もあった、3人とは別の方角へ逃げていく姿は人の波に紛れ目撃できなかった





ルージュ「おわっとと…」ヨロッ


ルージュ「ふぅ…なんとか逃げられたけど…これじゃ」チラッ




あちらこちらと逃げ惑う人影を見て彼はバツの悪そうな顔をする、これでは到底[ゲート]の術で全員を逃がすなどできない


アセルス「…」

白薔薇「アセルス様…時には妥協も必要に迫れるときもございます」




アセルス「分かってるよ…、理解はできる、理解だけなら」




 これ以上は此処に留まる訳にはいかない、この騒ぎで基地全体は臨戦態勢に入る…モタモタしてればそれだけ逃げ遅れる
奥歯を噛み締めその場を去ろうとした時、彼女等は声を掛けられた







    元スーパーモデルの金髪美女(…!人が3人、留まってるわ)タッタッタ…!



    元スーパーモデルの金髪美女「早く逃げて!」ハァハァ…!








息を切らして金髪の美女は駆けて来る、その手には何処に隠しもっていたのか黒光りする厳つい銃火器が握られていた
3人を逃げ遅れた人と判断したのか、軍人たちがやってくる前に逃げろと促す

基地内部に居る以上それはあまり意味を成さない忠告なのだが…




ルージュ(この人…さっきの…)

アセルス「貴女は逃げないの?」




元スーパーモデルの金髪美女「私…ふぅ…私は、ね――――」



一呼吸置いて、金髪の美女は悪戯を好む年上の女性の様な笑みを浮かべて告げる



122以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/10/18(水) 20:44:30.00ncNr6e5B0 (2/4)




[BGM:主人公エミリアのテーマ]


───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三



                ,.z、   ____
                 .<  ´ ̄     >.、
             ,.イ    y _         >.、
         ,.イィ  ィ、 y / ィケヘ  ー 、   >.、>z、  ,
        ̄ /   l .rミ.y///∧ ヤ ヘ  ヘ ヽ  、 ヘ   ̄
.         /,イ   .l .!ヤ/////ヤ.!ーヘ  ヤ ',  \ヘ
        /ィ , /  ! !´´` ̄ ̄ リ!  ヤ .リ ',     iヘヤ
         / ,'/チ/l !シ l      |! __ヤ l!ヾ、,.ク   l ヘ
.        / .l//イ l .l ゞ、     サ _,,,.._l! !イ癶ゝ  l!
.          |/イ / .! !ー \     l ヘ:::cじ>=≠   ヘ
       / !/l,'ノ、.!、 ィ=、      ーメリイイイ入 !ヽ.\
.          | , ,イヤ!.ヘ    ノ      'ノイoイ  ヘリ ゝ         『私はこれから、お仕事♪それじゃ!』
            !,イ .! l!ヤ゚ヤ、  ` 、   ,  イ.ll l !    ヘ、
         メ,.イサ」ヘl:l:Y>    ̄ イ,イ.サイ:l     ヘ \
          ィ  ィリ_ 〉ヘl:lヘリl:l:o><  ,.イリzl.',       ヽ、
      /   /r _以ー‐七ァ入。メァ'゚ーo7:.:.キj       >z-
   rーイ、   ,.孑チ:.:.:.:.:.:./イ ,.ィ!ー‐゜゚´ .ム:.:.:.リ\      ∧
  」∧_ \_入<:.:.:.:.:.:.:/_  .〈_/   / リ:.:.,イ!:.:.:.キ      .リ
.  l7  /☆ Y:.:.イ >:.:.,イ   ヽ   イ __ ム:.:.:.:.:.:.:.:.:ヤ、     ハ
.  〉<ヽヤ  イイ ´:.:./      ` ´     .,' .:.:.:.:.:.:.:.:.:_jヤ ヽ   ,イ.リ
  l:.:.:.:.:. ̄ヽ〈ヽ,>チ、   .:       /:.:.:.:.:.:.>¨ ̄ーハ     .!
 ノ:.:.:.:.:.:.:.:.:/γ: : : :ヽヽ  /´ ,.斗ー,、 /:.:.:.:.:.:.:.∧.:.:.:.:.:.:.:,イ   ./
 リ:.:.:.:.:.:.:.:.:.l ;: : : : : : :ヽヾ<><´ヘ:.ソ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:∧.:.:.:.:.Y  イ,イ
 l:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.lヘ: : : : : : : :Y: : : : : : : : :/:.:.:.:.:.:.:.:.:.___ヤ=У,イ イl′
 l!:.:.:.:.:.:.:.:.:.:l:.:ヽ: : : : : : :! : : : : : : : :l.:.:.:.:.:>"´:.:.:l !ヾ7 /イイ ,'
 l:.:.:.:.:.:.:.:.:.:リ:.:.j:.\: : : : ヘ : : : : : : :.!.:.:./j:.:.:.:.:.:.:.:.\//Y !
 l:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.j:.Y:.:l !:ヽ: : : : : :ー ‐ : :!:./:.:/:.:.:.:.:.ヤr、:.:/イ
. !:.:.:.:.:.:.:.:.:.リ:.:!:.:l !:.:j: : : : : : : : :z- リ:.l!:.j:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.7
 .l:.:.:.:.:.:.:.::.ノ:.入.j_!γ⌒ヽ_: : : :、__.,':.:.l!/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:7
  V:.:.:.:.:.:.:.:/ / l!  .リ」 ̄ ̄ 」:.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.7
  ヽ:.:.:.:/ /: : : ゝーイー─七.l:.:.j.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:j!
───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三


123以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/10/18(水) 21:20:51.39ncNr6e5B0 (3/4)




ぱからっ…!ぱからっ…!


金髪の美人が片手に拳銃…[アグニCP1]を持ちながらその場を去ろうとした時だった、その蹄音が耳に入ったのは

 目と耳に悪いハイテクな機械仕掛けの灯りとけたたましいアラーム音が鳴り響く軍事基地にミスマッチした足音に
彼女は首を傾げた、幻聴か?とゆっくりと音のする方へ視線を動かせば






「ヒヒィィィィー―――z_______________ンンッ!!」パカラッ!パカラッ!





元スーパーモデルの金髪美女「ぇ、えええぇぇっ!?!?」





馬だ。


いや、こんな所に馬が走って来たというだけでも驚きなのだが何よりもその額には一本の角が生えている

それはモンスター種族の中でもそれなりに高位の存在として知られる有名な獣…一角獣[ユニコーン]そのものだった!




この基地で軍が飼育しているだとかそういう情報は一切無い、人間を襲う意志に満ちている血走った目
 どうみても人間社会で暮らす種とは違う、野生のソレだ


剛脚と言っても過言ではない2本の前脚を振り上げ目の前に居る金髪美女の頭部に蹄を振り下ろさんと動く[ユニコーン]
 あれが直撃すれば美女の脳天は憐れ、柘榴のようにパックリかち割られてしまうであろう






                ―――ズドンッッ!


「ギュゥゥグゥゥゥ―――ッ!?」ブシャァァ



突然の事でルージュは無論、白薔薇姫も対応に遅れた、アセルスでさえ[ディフレクト]することが間に合わない…!
その一瞬誰もが目を覆う悲劇が到来すると皆の脳裏に過り掛けた…


が、それは一発の銃声と共に打ち砕かれる


右眼を寸分違わず、針に糸を通すような[精密射撃]で撃ち抜いたのだ、金髪美女が



 誰も彼もが反応に遅れた中、敵に一番近い位置に居た彼女が脊髄反射で射抜く、一角獣の眼球が付いていた部位からは
血飛沫が噴出し、痛みと奪われた視力で大きく目測を誤った蹄の一撃は彼女の真横―――何も無い地面を叩き割る




元スーパーモデルの金髪美女「―――全く、潜入捜査だからってこんな拳銃しか渡されなかったっていうのに!」



"いつもの彼女なら"今手にしている[アグニCP1]なんて威力の低い安物とは雲泥の差がある高火力の銃を両手に構え
お得意の[二丁拳銃]捌きを披露した事だろうが…生憎と彼女の手によく馴染んだ愛銃はサングラスを掛けた上司が
薬で眠らせてこの基地へ送り込む前に没収したという…


不満を口にしながらも彼女――エミリアは持ち前の気丈さと共に後ろの3人にコイツを片付けるの手伝って!と声を掛けた



124以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/10/18(水) 21:26:23.98ncNr6e5B0 (4/4)

───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三


           \   今 回 此 処 ま で !  /

           lヽ     ,_
           ヽ\゛⌒::て     _
            {`´::ノ ⌒i::}   /::::::`ヽ
            シ゛    }シ⌒` ̄ヽ:::::::|
            /  ● , '      }::::::::し
             /   /      .|´⌒´
           ヽ、/{     ___,、 l
                    | i`‐´| | {  } {
                   } {  } {_{  }_{
                  }_{  }_{;;} {;;;;}
               {;;;;}. {;;;;}
───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三


125以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/10/18(水) 22:01:46.03/lU5MQnCO (1/1)

乙乙
やっぱエミリアは銃持ちか


126以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/10/18(水) 23:57:09.41l7qYqyLHO (1/1)


ユニコーンには気の毒だがまあ前に出てくるのが悪いよね


127 ◆MQKemQ7EZz9R2017/11/14(火) 22:09:56.72TIjgsdFU0 (1/2)






                「フゥーッッ…!フゥーッッッ!」ギリッ






本来ならば眼球が"あった"部位からは止めどなく、油のようにどろりとした粘度の高い血液が、

そしてボタッ、という音と共に腐れて腐汁が溢れ潰れたトマトを思わせる眼球だったモノが落ちる








目の前の4本脚が息を荒げ熱り立ち発砲した女を睨むのも当然と言えた。






エミリア「…」チャキッ!




それに対し彼女、エミリアは臆することなく無言で銃を構え続ける


エミリア「貴女達、得意な分野は何?…見たところ術士の人もいるみたいだけど」

アセルス「…一応剣を、後ろの二人は術がメインだ」バッ



[幻魔]をいつでも鞘から引き抜けるように半妖の少女も抜刀の姿勢に入り、後ろの人間と妖魔も術を発動させる態勢へ移る



エミリア「…分かったアイツの足止めをする、貴女はあいつに一太刀浴びせて頂戴!後ろの二人も術で彼女を援護して!」





言うが早いか、それを合図に一角獣は額に生えた雄雄しい[角]の先端を戦槍の如く憎き相手の銅目掛けて突っ込む…ッ!


  「ギィヒィィィィィン!!」ダンッ

  エミリア「遅いっ!」ズダダダダダッ!!




 槍と銃、近接武器と飛び道具…ただの馬ではない4本足の瞬発力を以てすれば銃弾に勝ることすら可能であったが
相手はそれ以上の反射神経の持ち主であることは先の眼球を撃ち抜いた件でもハッキリとしていた



場数が違う、この女相当の修羅場を潜り抜けているのだ…レベルに差があり過ぎる




片手銃で[早撃ち]からの[地上掃射]という荒業を実践するエミリアの真横をアセルスが駆け抜ける!
 地団駄を踏む様に忙しなく四股を動かし、被弾しないように努める[ユニコーン]の喉元目掛け横凪に一閃
紅い劔の軌道上にワンテンポ遅れて一角獣の鮮血が後を追うように迸る


白薔薇「光熱よ降り注げ…っ!―――『<太陽光線>』」




128 ◆zJZqNVVhtuCN2017/11/14(火) 23:56:28.12TIjgsdFU0 (2/2)



 白薔薇姫が手を天に翳す、掲げた右手は太陽へ手を伸ばす女神の絵画を連想させ――掌は小さな淡い光に包まれ
その輝きから直径20㎝相当の光球が生み出される

風船が浮力を持って地を離れるように彼女の手から浮かびあがり…っ!






         ドジュウウウウウウウウゥゥゥゥ!!



「ぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいじぃぃじゅぅぅいいいいいいーーーっ」




熱線を放つッッ!アセルスが切りつけた剣傷をなぞっていく光線は肉の焼ける音と血の蒸発する異臭を漂わせる
『<太陽光線>』が照射されるタイミングに合わせて飛び退いたアセルスお嬢は生き物が焼ける匂いに顔を顰めたが
幸いにも他の3人は後方支援に徹している為、敵の最前線にいる彼女の顔を見る者はいなかった


陽術の神秘が純白の毛並みを黒く焦がし、肌を焼き、皮膚の裏側を―――傷口から焦熱が入り込む



外と内、両方への攻めに悶え苦しみ奇声を上げる[ユニコーン]は首を狂ったように振り回す
 苦し紛れの挙動、出鱈目に振り回す角の先端は宛ら執拗に肌を焼く光を薙ぎ払おうとしているようにも思えた




ルージュ「…これで、眠ってくれ!!『<インプロージョン>』」キュィィィン!!



 人に仇なす野生のモンスターとは言え、その有様にはさしものルージュも憐れみを覚えたのか、最後にそう言ってから
爆裂魔法を発動させる、二十二面体の光の檻が一角獣の棺となり―――獣を一瞬でこの世から消し去った







  せめて、痛みも苦しみも感じる間も無く、逝けるように彼がそんな念を込めて放った即死の魔術である







エミリア「」ポカーン


エミリア「貴女…、すごいじゃないの!なぁんだ!一撃でそれができるなら早く言ってよね!」


ルージュ「えっ、あ…はい」



"貴女"…金髪の女性の自分を見る目とニュアンスから…『ああ、またか…』と彼はうんざりした顔をした



エミリア「? ああ、自己紹介が遅れたわね!私はエミリアよ!貴女達は?」

アセルス「私はアセルス!そして」クルッ


白薔薇「白薔薇と申します」


エミリア「そう!(白薔薇…凄いあだ名ね)」


アセルス「そっちの銀髪の人はルージュっていうんだけど…その人は…その男の人なんだ」




129以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/11/15(水) 00:02:32.046/TbcSGm0 (1/11)





エミリア「へぇ!アセルスに白薔薇ちゃん!そしてルージュ…」










エミリア「…」













エミリア「ごめん、もっかい言って?」



ルージュ「僕は男なんです…今、こんな格好だけど、無理矢理着せられたんです…」





今度はアセルスではなくルージュ本人が答えた














エミリア「ええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇ!?!?!?!?」









仰天、そりゃそーだ、こんなセーラー服の似合う銀髪女子大生としか思えない人間が男とか誰も信じない


エミリアは色んな意味で叫んだ


『なにそれ!?似合い過ぎでしょ!』とか…『えっ、あの怪物<ヤルート>ってそういう趣味もあったの?』とか…




とにかく驚いた、目を白黒させた



130以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/11/15(水) 00:42:20.626/TbcSGm0 (2/11)



ハハハ、と乾いた笑みを出し始めたルージュを見て、ハッと我に返り彼女は
『それにしてもなんであんなのが基地に居るのかしら?』と目をそらしながら口にした



感情豊かな人なのだろう、表情をコロコロと変えるエミリアを見て率直な感情を胸にアセルスが回答を述べる


アセルス「きっとゾズマ―――私の知り合いの妖魔なんだけどね、そいつがこの基地を大騒ぎにしてやるって言ってた」


アセルス「さっきの[ユニコーン]もたぶん、アイツが連れ込んだんだ」




エミリア「えぇ!?グラディウス関係無いの!?」ガーン

エミリア「…ルーファス達はなにやってるのよぉ…」ハァ…



がっくり肩を落としてグラディウス…後に説明されたが、彼女エミリアが所属する組織らしい…そのグラディウスとやらが
自分を助けに来なかったことに落胆した


エミリア「…あぁっ!もうっ!良いわ!」キッ!

エミリア「貴女達、此処から出たいんでしょう?
      私はこれからあのヤルートの奴をとっ捕まえて色々聞き出さないといけないの!」


エミリア「荒っぽいことになるから、何処かに隠れるなり避難した方が良いわ」






アセルス「ヤルートを捕まえるの…?」

アセルス「ルージュ!白薔薇!」バッ!






振り返ったアセルスの眼を二人は見つめ返す

分かってる、手伝いたいのだろう…






白薔薇「アセルス様のご随意に」ペコリ
ルージュ「まぁ、見過ごせないよね!」ニコッ


アセルス「…ふたりとも、ありがとう」




  アセルス「エミリア!ヤルートを捕まえるなら私達も手伝うよ!……あんな奴は許しておけない!」



"あんな奴は許しておけない"その一言にはアセルスの個人的な感情も含まれていた



かくして、旅のトラブルはまだまだ続くのであった…

―――
――




131 ◆zJZqNVVhtuCN2017/11/15(水) 02:13:09.196/TbcSGm0 (3/11)







           ※ - 第2章 - ※



        ~ 交叉するキグナス号の紅蒼 ~








132以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/11/15(水) 02:56:45.866/TbcSGm0 (4/11)
















            [活力のルーン]を手に入れた!














…まさか、このような事になろうとはな


塞翁が馬、とでも言えばよいのか?






 今なら、この不快な空間に居る事すら笑って許してやれる程だった



133以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/11/15(水) 03:13:41.106/TbcSGm0 (5/11)























     弦楽器を背負ったニート「いやぁ~良かったじゃんか!探してたルーンが手に入ったんだろう?」











                       ブルー「…」





今なら、この不快な空間に居る事すら笑って許してやれる程だった

彼は今現在、自分がこんな気色の悪い生物の体内に居る原因の一人を不問にしてやろう、と考えた







なぜこんなことになったのか?そう…あれは時を遡る事数時間前、まだ[クーロン]に居た頃だ…














【双子が旅立ってから…2日目、早朝 朝6時27分  [クーロン:安宿]】
*******************************************************



134 ◆zJZqNVVhtuCN2017/11/15(水) 03:56:44.436/TbcSGm0 (6/11)



 
 7時前に蒼き術士は起床し、気怠そうにラウンジへ脚を運んだ…薄っぺらい食パンにキツネ色の焦げ目がついていて
その上に溶けだしたバターの乗ったトーストが一枚、レタスとミニトマトだけのサラダが注文<オーダー>した朝食だった




昨晩は…疲れた、術力を使い果たす程には戦闘を重ね、肉体にもダメージを負い…ついでに悩みの種が出来た



ブルー「…不味い」モグモグ



味気ない、値段の割にカロリーが全くない薄いトーストと酸味の無いドレッシングの掛かったサラダという最低な朝飯だ
 淵が少し欠けたカップに注がれた苦みを喉に流し込む…角砂糖もミルクもついてこない100%のブラックは否応なしに
ブルーの瞼の裏に残る微睡を吹き飛ばす


 この安宿は食事等のオプションは別料金制になっている、それは以前書き記したことだろう
サービス自体は決して良い店舗とは言えないがそれでも物足りなそうな顔で頬杖をついている彼が
文句を言わずとも済む献立くらいは用意できた、金さえ払えば




ブルー「世の中、金か…チッ」ゴクゴク




肉体、精神ついでに悩みの種を作って来た一夜、その悩みの種というのが…





   - アニー『ん?"[解放]のルーン"と"[活力]のルーン"について教えて欲しいって?』 -


   - アニー『…ふっふっふ…良いわ、教えたげる、あっちの方に"イタ飯屋"はあるでしょ?そこ行ってみな』 -


   - アニー『そこに[解放]のルーンに詳しい女が居るのよ、…ついでに[活力]にも』 -


   - アニー『案内料は高くつくけど、その女にしか案内できないから、んじゃ!そういうことで~♪』 -











  ブルー「 お 前 じ ゃ な い か !!ふざけるな!!!」机ダンッ!!



空になったコップを半ば叩き付けるように怒りと共に机を叩く



早速そのイタ飯屋に脚を運んでみればどうだ?シップ発着場で別れた女が何喰わん顔で店前で壁に寄りかかって
彼が来るのを待っていた、別れ15分も経たない再会であった

しかも開口一番にこう言ったのだ



   - アニー『よく来たわね、待ってたわよ?解放のルーンは刑務所のリージョン[ディスペア]にあるわ』 -

   - アニー『そ!アタシがその案内人の女ってワケ!んで案内にはとーぜんお金が要るわ、これも商売なんで♪』 -


ちろっと舌を出して、監獄に潜入するには定期的に行われる電気系統の修理点検や配管工に扮して入る他ない事

それをやるには彼女…アニーの協力が必要不可避という事を知らされたのであった



135 ◆zJZqNVVhtuCN2017/11/15(水) 04:41:16.486/TbcSGm0 (7/11)



 ぴしっ、叩きつけた衝撃で元から欠けてたが安っぽい瀬戸物に罅が入る…

ブルーは額に手をやり深くため息を吐いた、これはいけないカルシムと糖分が絶望的に足りない


旅立ちから僅か2日で資金難に陥るなど誰に想像できようモノか



 無駄な出費が出そうになった所で冷静になろうと努める、如何せん彼は冷静さを象徴する色を名に持ちながら
直情的な一面がある……というよりも神経質な所があるのだ


今まで国家の誇る優等生として学院に大事に育てられた温室育ちのお坊ちゃんだったのも加味しているのだろうな




豪華客船のチケット代とバイキングディナーの料金…それに加えて[ディスペア]への潜入費用
 家族を養うべくお金が必要なアニーへの支払金は今のブルーの手持ちでは…"ギリギリ足りない"


いや、頑張ればどうにかできそうではあるが、その日から路上ホームレス生活まっしぐらである














           ブルー「…金を稼ぐ方法…そんなの俺は知らんぞ…どうすりゃいいんだ…」











そうなのだ、ブルーは"温室育ち"なのだ


両親がいない、物心ついたころから国家の保護施設に居て、『親』である御国の為に奉仕する、それがブルーだった

周りの学友の中には街でアルバイトというモノをやっていたのをブルーは聞いた事があった


自分でお小遣いを溜めて欲しいモノを買ったり、友達と遊んだり……だがブルーにはそれが無い

 欲しいモノなど無いし、特別仲の良い友人と呼べる間柄の人物も居なかった、青春の大半は術士としての学に励んだ
修行の日々、魔術の学問を追い求める、それだけ



ある意味で欲の無い男だった。



そして、『普通の人』とは明らかにズレていた、世間を全く知らない、善くも悪くも俗世に疎かった






  天才であると同時に努力家でもあった、…だが融通が利かない

   なんでも知ってるようで、本当はなんにもわかっちゃいない…"世間の一般的な事"を何一つ分かっちゃいない


  22歳になって金銭を稼ぐ方法をまったく分からない…そんな現実に天才は打ちのめされた




136以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/11/15(水) 05:32:27.816/TbcSGm0 (8/11)



途方に暮れる、と言った所だ

頭抱えて少しの間一考するも、濁り模様の思惑に光明が射すことはなかった




ブルー(…考えても仕方あるまい、今できる事をせねば)




今できること、修得可能な術の資質を手にすること…即ち陰陽のどちらかの資質を取得することだった




太陽の力、光を司る"陽術"

影を、闇の力を操る"陰術"



どちらを取得するかブルーは既に決めていた…宿でチェックアウトを済ませ『<ゲート>』で[ルミナス]へと飛ぶ










もう一度言おう、ブルーはあらかじめ取るべき資質を決めていた

そこまでは良かったのだ…








悪い事や不都合というのはどういうワケか一度起きるとドミノ倒しのように連動するようで…

[ルミナス]に到着したばかりのブルーは…







        ブルー「封鎖中だと!?おい!どういうことだ!!!」


  「お、落ち着いてください!…コホン、お客さん見たところ術士の御方ですよね…なんとも間が悪い」

  「いえ…昨日、このリージョンでちょっとした事件があったらしんですよ」

        ブルー「事件だと?一体なんだというのだ!」





  「それが…昨日の19時近く吊り橋の先、分岐路付近で戦闘行為があったらしいんですよ」

        ブルー「なっ!?修行者の聖地[ルミナス]で戦闘行為だと!?どこの馬鹿だ!」




おずおずと答える職員の口から告げられた事実にブルーは激昂する
 術士にとっての聖地と言っても過言でないこの地は…ルミナパレスとオーンブル以外は非戦闘区域と指定されている
にも関わらず戦闘を行うなどよっぽど非常識な輩に違いない、もし会おうものなら殴りつけてやりたいと思った



…ちなみ、その非常識な輩は今、緑髪の半妖少女、頭に花飾り乗っけた妖魔、金髪美女と軍事基地に居る



137以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/11/15(水) 05:53:20.666/TbcSGm0 (9/11)



「詳しい詳細は不明ですが…妖魔が関わっているとかで…今、IRPOの方にも捜査してもらっているのですが…」



そこまで言って職員は首を横の振る…



「誠に申し訳ございませんが、お客様の安全の為です…テロの可能性もありますので…当面の間は陰術も陽術も…」



ブルー「~っ!くそっ!!」






術さえ使えば[ルミナス]にはいつだって飛べる、それは分かるがこれは何とも間が悪い話だ…


結局ブルーは[クーロン]に戻って銭を稼ぐ方法を調べるか、他のルーンを探す旅に出るかしかない訳だ









クレイジーなIRPO隊員「はぁ~…ったく、なーんもわかんねぇ、か」

無口な妖魔のIRPO隊員「………」

クレイジーなIRPO隊員「あぁん?なんだって……マジか、妖魔の君絡みか…めんどくせぇ」

クレイジーなIRPO隊員「お前は引き続きこっちの調査やっといてくれ、俺?俺は別件でこれから[マンハッタン]だよ」

クレイジーなIRPO隊員「前々から話に挙がってたろ?ミス・キャンベルの件だ…ちょっくら行ってくるわ」






遠目にIRPOの捜査官と思わしき人物が何やら話し合っているのが見えた、だがそれはブルーには関係の無い出来事である

しばらくしてから来るしかない、ブルーはすぐに『<ゲート>』の術で飛び去った



―――
――


【双子が旅立ってから…2日目 朝7時14分】



弦楽器を背負ったニート「あ"ぁ"~…」ヨロッ

弦楽器を背負ったニート「飲み過ぎたぁ……」



弦楽器を背負ったニート(酒には自信あったんだけどなぁ…ライザ飲み比べ強すぎるぜ)



 [クーロン]の屋台が立ち並ぶ通りで空がぼんやりと明るみだした頃…

 如何にも二日酔いです、といった風の男が1人歩いていた、ぼさぼさの長く伸びた髪に田舎者丸だしな服装
民族風の帽子を頭から落とさないように抑えながら彼は電柱やら建物の壁やらに無許可に張られた広告や求人のチラシに
視線を泳がせていた





138以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/11/15(水) 06:11:18.216/TbcSGm0 (10/11)





弦楽器を背負ったニート(なぁんかエミリアは仕事で今は居ないっていうしなぁ、近場に寄ったから顔見せに来たけど)


弦楽器を背負ったニート(こりゃクーン達についてくべきだったかな…)ポリポリ




弦楽器を背負ったニート(…んと、何々?頭を取り外して笑える人大歓迎…ヌサカーン院…なんのバイトだよ…)チラッ



弦楽器を背負ったニート「…面白そうな事ねぇかな…」スタスタ













弦楽器を背負ったニート「…やっぱ、艦長さんトコにでも行ってみるべきかね」スタスタ













何処か不思議な男だった、飄々としていて、不思議と目を向けたくなる…そんな気にさせる男が歩いていた

 田舎から就職の為に上京してきたが、未だ職にありつけないでいる彼は
ひょんなことから出逢ったとあるリージョンシップの艦長の事を思い出した


自分の父親の知り合いらしい女性、そしてあまりにも無唐無稽な話を語り出した反トリニティの旗を掲げるリージョンの人






―――そこまで考えて彼は首を振った







弦楽器を背負ったニート「これからどーすっかなぁ…―――」




両腕を組んで後頭部に当てながらブラブラと街中を歩いていた彼は妙な気配を感じた

妙な、としか言いようがない、風も何も無い室内で木の葉が風に舞っている、そんな矛盾した感覚

彼はその方角へ目を向けるすると…




   ブルー「…いっそのこと先に[勝利]のルーンを探すべきか…」ブツブツ



何も無い空間から1人の人間が音も無く現れた、それをみて彼は思った『面白いモノを見つけた』と



139今回は一旦此処まで2017/11/15(水) 06:25:58.056/TbcSGm0 (11/11)




弦楽器を背負ったニート「なぁ!!!そこのアンタ!!」キラキラ!


ブルー「!?!?」ビクゥ!!




 朝っぱらから大音量の音声がブルーの鼓膜に直撃する、考え事をして足元を見ながら歩いていたのも相まって
その大声は効果抜群だった、術士が無駄に肺活量の高い人物の方を振り向くと




弦楽器を背負ったニート「今のスゲーな!どんな手品だ!?あっ!その恰好…はは~ん分かったぞ術士だろ~!」ニヤニヤ


ブルー「…」










ブルー(なんなんだこの男は)



変なの目をつけられた、瞬時に悟った彼は『すいません、先を急ぐ身なので』と逃げる様に立ち去ろうとするが…





弦楽器を背負ったニート「~♪」テクテク

ブルー「…」テクテク





ブルー( な ぜ つ い て く る !! )



ブルー「あの、僕に何か用ですか?」クルッ

弦楽器を背負ったニート「ん?別に俺はあっちの方角に用事があるだけだぜ」




ブルー「そうですか…」

弦楽器を背負ったニート「おう!ところでアンタさ!」





1つ、失敗を犯した

此処で振り返ってこの男に声を掛けた、そのまま無視して相手が諦めるまで歩けば良いものの…

ブルーはこの男に『会話を切り出させる機会を与えてしまった』のだ




      成績優秀で融通が利かない世間知らずの天才

      田舎からやってきた無職<ニート>…なのだが、世間を巧く乗れる男



アニーに続く後の腐れ縁その2との出会いだった



140以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/11/15(水) 22:55:03.572QrfuOapo (1/1)


いい根性してんなアニーww


141以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/11/16(木) 11:30:00.66LmV+rv+aO (1/1)

乙乙
ボれるとこからはボっておく精神
そしてここでリュートか、続き楽しみ


142以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/11/16(木) 17:01:43.09QXh9rXoy0 (1/1)

続き来てた




143以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/06(水) 00:19:01.931MyQWKN50 (1/7)





弦楽器を背負ったニート「その法衣、[マジックキングダム]の人だろ?俺、前に観光に行ったからよくわかるんだ~」


ブルー「…そうですが何か?」



好奇の目に晒されるのは好かない、見世物小屋の珍獣じゃないんだぞ、と苛立ちが滲みだしそうなブルーは
さっさと会話を切り上げてしまいたかった





この返答はミステイクだった





弦楽器を背負ったニート「ふぅん…やっぱそうか~[ルミナス]とも[ドゥヴァン]とも違うからそう思ったんだよな~」

























弦楽器を背負ったニート「あの国ってさ、国民は他所のリージョンへ外出が禁止されてんだろう?アンタ何者なんだい?」

                    ブルー「!」ハッ!





[マジックキングダム]は国の最高機関である"学院"が定めた者以外、リージョン界の外遊を許可されない
ブルーの返答はこの男の興味心を更に掻き立てる返答だったのだ







ブルー「…貴様」ジロッ




空気が変わった、眉間に皺を寄せ不機嫌を露わにするブルーに動じない男は呑気な声調で
「おいおい、そんな怖い顔しなさんなって、単なる興味本位さ」と笑うのだ




怖いモノを知らないのか、それともこの男が大物なのか、その態度が彼は気に喰わなかった





144以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/06(水) 00:43:33.171MyQWKN50 (2/7)



だから…ちょっと脅してやろう、と彼は考えた、無論この鬱陶しい男を遠ざけたいのもあった


ブルー「…故郷のちょっとした風習でな、俺は外界でより高度な術を学ぶために資質を得る旅をしている」


弦楽器を背負ったニート「へぇ~、それにしても『俺』かぁ、なんとなく思ったけどやっぱ猫被りだったんだなアンタ!」


ブルー「」イラッ


へらへらと笑いながら横を歩く男にムッとしながらも話しを続ける

ブルー「己の術を磨き、どこまでも洗練しそして…」




弦楽器を背負ったニート「そして?」ワクワク










          ブルー「故郷の慣例に従って、自分の身内を殺す」









御伽噺に出て来る魔女か何かだ、口元を歪めて悪い魔女が魅せる様な笑みを浮かべる

彼の予想通りとでも言うべきか、目の前のボサボサ髪の男は面食らったような顔で立ち尽くした




ブルー「国の習わしで、双子が生まれた場合…片割れがもう片方を殺すという風習なんだ」

ブルー「分かったか?血が繋がった相手を殺すという宿命なんだお前に構ってる暇なん「アンタ双子なのか!すげー!」





ブルー「……は?」




弦楽器を背負ったニート「いやぁ~俺んトコの地元にも双子が居るんだけどさぁ、双子って珍しいからなァ」

弦楽器を背負ったニート「それにしても双子同士で争うって物騒だな、もっと平和的に解すりゃいいのに」






ブルー(…な、なんなんだこの男は!!)




頭痛がしてきた、自分からこの話題を振っといてなんだが、このノリは何だ!?


弦楽器を背負ったニート「宿命の対決かぁ…あっ、そういや俺まだ名前言ってなかったな俺、リュートってんだ!」

リュート「兄ちゃんアンタは」





145以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/06(水) 01:21:46.601MyQWKN50 (3/7)




ブルー「……なんでお前に名乗らねばならんのだ」


ペースが乱される、艶やかな金髪を鷲掴むように頭を抑え、この―――…鋭いんだか天然ボケなんだかよく分からん男に
目線も合わせずに答える




リュート「えぇー、別に良いだろう減るもんじゃねーしよぉ……なら、そうだな…」ジーッ




ブルー「…」アタマ、イタイ




リュート「よしっ!」グッ



リュート「アンタ蒼い服着てるから、ブルーな! Mr.ブルー!」ニカッ!



ブルー「っ!?」ドッ!




すっ転びかけた、本当にペースが乱される


リュート「んん?どうしたんだ?」


ブルー「…いや何でもない」


―――
――




リュート「って訳で俺は故郷から就職できる場所を探して旅してるってワケさ!」

ブルー「朝っぱらから酒臭い匂いを漂わせてる奴が言う台詞じゃないがな」




二日酔いのリュートに指摘する、終始調子を狂わされっぱなしの彼は、追い払うことを諦めた…



リュート「それにしてもアンタも銭稼ぐのに困ってんだなぁ」

ブルー「ふん…」



観念したブルーは口数の多い男を話しながら歩いていた、昨日のがめつい女に関する愚痴や[ルミナス]に行ったのに
無駄足だった事…

誰でも良いから胸の内を吐きたかった、追っ払えないなら精々コイツを話し相手ぐらいにしてやろうと開き直ったとも言う




リュート「しっかし、アンタ聞けばとんでもない女にふっかけられたんだな、そんな簡単に用意できないぜ?」

ブルー「ああ、まったくだ…」ハァ…





146以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/06(水) 01:36:27.901MyQWKN50 (4/7)



リュート「俺の知り合いにもお金が好きな女が居るけど…」


ブルー「はっ!そんな奴がこの世に何人も居るなんぞ考えたくも無いことだがな!」




鼻で嗤う金髪の術士は知らない、実は今隣を歩いている男の知り合いの金に目が無い女が同一人物であることを


リュート「…お金、金…カネ…」










リュート「!」(豆電球)ピコンッ!




リュート「なぁ!!さっきの術![ゲート]だっけ?あれって一度行った事ある場所ならどこでも行けるのか?」ガシッ


ブルー「なんだ突然藪から棒に…」



肩を強く掴まれ訝し気に眉を顰めるがそんなの知った事かとリュートは続ける








      リュート「俺とコンビ組まないか?今日一日でアンタを大金持ちにしてやれるぜ!」ニィ!!


                ブルー「…どういうことだ?」







リュート「へっへっへ!なぁに!真面目に働くのも良いことだけどさぁ~、こういうのは財テクってのがあるんだ」


リュート「良いか!兄ちゃんよォ、まずアレを見な」びしっ



ブルー「?」チラッ





         金券ショップ:クーロン店『 金、銀、プラチナ…なんでも買います! 』ドンッ☆






ブルー「…あれがどうかしたか?」


リュート「移動しながら話す!まずはシップ発着場だ!そこから[ネルソン]へ行くんだよ!」ダッ

ブルー「お、おい!待て!まだ俺はお前と組むなんて一言も言ってないぞ!説明しろ!!」ダッ!





147以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/06(水) 01:54:39.753xGmg1wE0 (1/1)

金転がしか、俺はジャンク屋で稼いでたなあ


148 ◆zJZqNVVhtuCN2017/12/06(水) 03:06:44.071MyQWKN50 (5/7)



―――
――




…これ弦楽器を背負ったニートことリュートとの出会いであり、今現在巨大生物[タンザー]に飲み込まれた発端である

割愛するが、リュートと名乗る青年の提案はこうだった




[ネルソン]というリージョンがあり、そこでは金塊を一つ500クレジットで購入できる…

世界を統括する政治機関…トリニティに属さないリージョンの為、グローバル通貨であるクレジットが手に入らない
つまり他所のリージョンから輸入ができない

そこで観光客に地元の品とクレジットの交換を求めるケースが多いのだ




金塊、金のインゴットが1つ辺り500という価値に対し、此処[クーロン]街における金相場は1000…

早い話が安い所から仕入れて物価の高い土地で売り払う、単純な転売という事だ


[ネルソン]は今説明した通り、少々特殊なリージョンで片道だけでも船の乗り継ぎが必要という手間の掛かる土地だ



船賃と時間、人件費を考えるなら大抵の人は素通りしていく、資産家が一気に買い占めて一気に売り払う
極力、安くないだろう船賃を払って何度も行ったり来たりしない、という前提で漸く利益を取れる




そう…"何度も船賃を払って往復するから収支差益があまり良いモノと呼べない"のだ






なら交通費用が無料<タダ>だったら?余計な経費が無ければその分黒字が増えるのは当然と言えよう


この案に術士は目を丸くした、このちゃらんぽらんなニート…中々面白いことを考えるじゃないか
ブルーはこれに承諾、さっそく船に乗り込み一攫千金目指して船内で身を休める事にした

















 世の中、甘くない

 乗った船が童話のピノキオに登場するオバケ鯨よろしく船を飲み込む怪獣[タンザー]に飲み込まれるアクシデントと遭遇







  ブルー「 ど う し て こ う な っ た !!」

  リュート「いや~、ついてないなぁ!」ハッハッハ!





149 ◆zJZqNVVhtuCN2017/12/06(水) 04:13:41.481MyQWKN50 (6/7)



 巨大生物[タンザー]…あらゆる生物が生存不可能な混沌の海に唯一耐性がある生物であり
その体内は一つのリージョンとも呼ばれていた


がっくりと膝をついて項垂れる金髪術士の隣で何が可笑しいのかお気楽に笑う男、その少し先には他の乗客達が
困惑の色を浮かべ、思い思いに不安を口にしていた


「ここは何処だ!」
「ひょっとして[タンザー]とか言うのに飲み込まれちゃったの!?」

「嘘だろ…俺は船乗りたちのホラ話だと…」









緑の獣っ子「あれ~?…ねぇメイレン、僕達[ヨークランド]に行く予定じゃなかったの?ここが[ヨークランド]?」

チャイナドレスの美女「違うわ…此処は[タンザー]よ…予定と違ったけど此処にも"指輪"があるわ」







リュート「ん?あれは―――…」

ブルー「…いや、こういう時こそ[ゲート]で脱出すれば」ブツブツ…







   「おらおら!!全員動くんじゃあねぇぞ!船から積み荷を降ろせぇ!」
   「へっへっへ…久々のシップだぜ…酒や食料はたーんとあるだろうなァ」



見るからに柄の悪い…ヨレヨレの服を着た男達、恐らく"不幸にもタンザー]の先住民となってしまった輩"なのだろう


   「このバケモンに飲み込まれてから俺達の食糧も底をつきかけてたんだ…天は俺達を見捨ててねぇぜ!」へへっ

   「オラァ!ハチの巣にされたくなけれりゃ全員荷物を寄こしなァ!ついでに金目のモンもだーーーっ!」ズドドド




リュート「おい、ブルー、いつまでもそうやってぶつくさ言ってる場合じゃないぜ?」ポンポン

<ヤメロー
<逆らう気か!?この獣!


ブルー「そうだ、此処にはアニーから聴いた話だと[活力のルーン]があるはずだ、ならば不運なんかじゃ――」ガバッ!

ブルー「…?なんだあの連中は」


<ほー、アンタら強いね


リュート「此処の先住民じゃないか、…ってかお前今アニ「ちょっと待ったぁ!」



     ザワザワ…

              …誰?


弁髪の男「その女についていってはならん!」




150 ◆zJZqNVVhtuCN2017/12/06(水) 05:14:55.971MyQWKN50 (7/7)



弁髪の男「その女は悪名高いリージョン強盗団のノーマッドだ!」


「強盗!?」
「マジ!?」
「いい女だ…」ポーッ


ノーマッド「ああ、そうさ、あたしゃ外じゃそれなりに悪さしまくったさ」

ノーマッド「言い訳する気はさらさらないけど、どうすんだい?ちんたらしてたら[タンザー]の奥まで飲まれちまう」

ノーマッド「あたしについてくも良し、そのハゲ頭についてくのも良しさね」





弁髪の男「ハゲではないッ!!」




ノーマッド「ふんっ!」シュタッ!



ざわざわ…がやがや…



リュート「ほへ~…なんか俺らが喋ってる間に色んな事が起きてんな~…ってブルー?」チラッ











ブルー「…」スタスタ




リュート「あっ!?おい!勝手に独りで何処行く気だよ」トテトテ…!




ブルー「ふん、外野共が何をしようが知ったことか、俺は此処でルーンを見つけてあとは[ゲート]で出て行く」スタスタ



先の喧騒…弁髪の男と此処に呑まれたらしい強盗の女首領との小競り合いだの、なんだのは微塵も興味が無い
 自分の目的をとっとと達成して此処を出て行くだけである…[ネルソン]の金塊の売買に関しては何でもリュートに
コネの効く人物がいるらしい、リュートくらいは連れてってやろう、彼はそう言いて他の群衆とは違う道を―――


2人で[タンザー]奥へと歩いていくのであった





そして―――今現在




         リュート「いやぁ~良かったじゃんか!探してたルーンが手に入ったんだろう?」






                       ブルー「…」




151以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/06(水) 08:49:22.05vyhsoMPdO (1/1)


金転がしの利益を思えばこの程度苦労でもなんでもないどころかルーンまで手に入るとかいいことづくめであるんだよなぁ


152以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/06(水) 12:07:19.61FNLOgK98O (1/1)

乙乙


153以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/06(水) 16:11:38.731o+2dcah0 (1/1)

ブルー編だとそのまま本当にリージョン移動でフェイオン見捨てるから仲間にできないんだよなぁ



154以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/10(日) 04:18:41.27eD7lB2/00 (1/5)




   リュート「しっかし凄かったなぁ!…あの術、[ヴァーミリオンサンズ]だっけ?」


 時折…足元にある無数の網目模様じみた緑色の血管が脈を打っていた
それは偏にこの巨大生物[タンザー]がちゃんと生きている証拠であり、ぶよぶよとした毒々しい肉の壁も
天井から垂れ下がった人間<ヒューマン>の肝臓に似た何かも規則的に動いていた


生物の体内に居るというのは本能的に居心地が悪い



今居る所が身体の部位で言うところの胃、消化器官にあたるのならば尚更であった




術士ブルー、放浪の詩人…もとい就活中の男リュートは[タンザー]内部の最深部へと脚を踏み入れた

磯巾着のような触手蠢く入口に自ら飛び込み別の区画に移動する事もあった、胃液の様な粘液で滑る下り坂も降りて行った
そうして、到達したのが通称"スライムプール"と呼ばれる場所だ


…尤も、この二人は此処に詳しかった先程の弁髪の男…フェイオンという名なのだが、その男を無視して手探りで来たから
そのような名称で呼ばれている事など露知らずなのだが



胃の消化液の代わりをしているのかどうかは分からない、だが此処に誤って入り込んだ者は
無尽蔵に湧いてくるゲル状モンスター[スライム]の群れに囲まれ四方八方から[溶解液]を噴きかけられて溶かされるだろう






 - アニー『―――ってわけよ、ヤバかったわマジで…全体攻撃無いとキツイわよ[活力のルーン]…』ハァ -





 ブルー(…早速情報が役に立ったか)





ブルーは予め此処に一度来た経験のある人物から覚えている限りの道順と対策を聞いていた
だから、弁髪の男達を無視して勝手に此処まで来れたのだ

そうでなければ、何の手がかりも無しでルーンを探すなどと言う無策には走らない


以前、此処に来たというアニーは自身含めた3人組で、剣、銃、拳で無限湧きの[大スライム]に苦戦したそうな





 複数の[大スライム]とその後ろに更に一際大きい[特大スライム]…それ等は
自分達に生を与えてくれる大事な物を護っていた

キラキラと輝く結晶体、水晶玉にも見えるその中に刻まれた"活力"を意味するルーン文字を




リュート「真っ赤なデケェ宝石が出てきて、バーン!って割れて皆ぶっ飛ばしちまうんだもんなぁ~」

リュート「俺も覚えらんないか?あれが出来たらスゲーだろうしよぉ」



ブルー「貴様には無理だ、あれは【魔術の"資質"】を持った者だけが扱える高位の術だ」

ブルー「魔術の"資質"は[マジックキングダム]で生まれた人間にしか授かる事ができん、諦めろ」





155以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/10(日) 04:40:09.04eD7lB2/00 (2/5)



 単細胞生物の群れを昨日の粗蟲共と同じく、自身が使える最大火力で消し飛ばし
粘液のプールから新たな生命を持って再誕する前に手早くルーンが刻まれた結晶体に[触れる]…これで手持ちの小石に
2つ目のルーンが刻まれた[保護]と[活力]…



 後は[解放]と[勝利]だけだ…それでブルーは【印術の"資質"】を会得できる…っ!
祖国の勅令に、育ての親への奉公がまた一歩出来る訳だ




ブルー「ふん…、用が済んだならこんなとこに長居は無用だ、リュート掴まれ、此処を出るぞ」つ【リージョン移動】




ブルー(身体中がベトベトだ……くそっ!一度シャワーを浴びたいくらいだ)チッ



リュート「おう、今行く…ぜ?」


ブルー「どうした!さっさとしろ!」

リュート「…なぁ、ブルー、アンタ「なんだ歯切れが悪い、さっさと言え」



リュート「んー、まぁいいや、アンタ早く出たそうだし後で言うよ」スタスタ



コイツは何を言ってるんだ?身体中、粘液塗れでどろどろのぬとぬと状態の術士が少しだけムッとした顔になる
彼は目の前のお気楽者が何を言いたがったのかすぐには察せなかった


舌打ちするくらい、早く帰って湯浴みをしたいと考えていたのも相まったのだろう










リュートが蒼いの術士の足元を凝視していた理由……水溜り(?)を踏みつけたブルーの脚に"そいつ"が這っていた事に






   [タンザー]帰りのお土産「…(´・ω・`)ぶくぶくぶくぶー。」ピトッ ヨジヨジ…







…こうして[ゲート]の術で 2 人 と "1 匹"  が[タンザー]から脱出したのであった











【双子が旅立ってから2日目 朝 10時25分  ブルー[タンザー]脱出】


―――
――

*******************************************************


156以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/10(日) 04:43:06.02eD7lB2/00 (3/5)

*******************************************************




                オマケ【術士が去った後の[タンザー]】


 【双子が旅立ってから2日目 朝 10時 26分】


*******************************************************


157以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/10(日) 05:02:10.93eD7lB2/00 (4/5)




弁髪の男「ハイーーーーッ!!」ヒュッ!ゲシィッ


「ウゲェ!?」ドゴッ

「野郎!―――おぼげぇ!!」ドシャッ!




緑の獣っ子「…ふぅ、フェイオン!大丈夫?」



 [あびせ蹴り]を強盗団の一人にお見舞いした男は背後を狙われていた、凶器を振り下ろされるよりも先に
緑色の影が弁髪の男―――フェイオンを救うべく背後から不意打ちを仕掛けようとした相手の鳩尾目掛けて飛び出した




フェイオン「すまない、クーン助かったよ」


クーン「えへへ!褒められちゃったぁ!」



チャイナドレスの美女「クーン!フェイオン!まだ終わってないわ!和むのは後よ、後!」ジャキッ



ケモ耳と尻尾の生えた緑の子供とフェイオンに声を張り上げながら前方に[アグニCP1]を構え直す
3人は今現在リージョン強盗団の女首領ノーマッドを追っていた

ノーマッドが所有する"指輪"を手に入れる為だ



フェイオン「くっ、しかし…数が多すぎるメイレン!」


メイレン「ええ、雑魚に一々構っている時間は無いわ、そうこうしてる内に彼女は更に奥に逃げてしまう…っ」ギリィ




チャイナドレスを着た紫色の髪を結った美女が儘ならないこの状況に奥歯を噛み締める
このままでは"指輪"に逃げられてしまう、と




               グラッ…!





その矢先だった、突然、[タンザー]が苦しみ出すかのように暴れ出したのだ!


体内に居る彼等彼女等、皆に聴こえる程の唸り声を、…身体全体の細胞が地震災害に遭ったかのように揺れ動き
その場で交戦していたあらゆる者達が思わず、蹲る程の揺れ…






それもその筈だ



[タンザー]の体内、奥部で広範囲に渡る、とんでもない火力の全体魔術をどっかの金髪の蒼法衣の男がぶっ放したのだから








158今回此処まで2017/12/10(日) 05:15:40.46eD7lB2/00 (5/5)




「な、なんだってんだ!今のは!!」

「う、うるせー!俺が知るかよ、んなことより野郎共を」










「てっ、てぇへんだ!てぇへんだぁぁァーーーーーーーーーーーーー!!」ハァハァ…!







「おお!丁度いい所に!お前!加勢し「ばっきゃろぉ!!それどころじゃねぇ!!フェイオンの旦那ァ!後生だ!」バッ






フェイオン「な、なんだ…一体?」

メイレン「気を付けて、私達を油断させる罠かも」ジャコッ!チャキッ!


フェイオン「ま、待ってくれ…相手はあの通り土下座までしてるんだ話くらい聞くんだメイレン」ガシッ

クーン「そうだよ、メイレン!鉄砲を下ろしてあげて」



メイレン「…引鉄は引かないわ、でも牽制の役目はさせてもらうから」



フェイオン「…昔からそうだった、こうなると君は梃子でも動かないからな、分かった」




フェイオン「すまない、そのままの状態で話してくれ!何があった!」





「い、今の揺れで…お頭が!お頭が[タンザー]に喰われちまったんだ!」

「な、なんだってーーー!?」
「お頭がァ!?」


フェイオン「何!?ノーマッドの奴が!?」

メイレン「!?!?!?"指輪"がっ!?」


クーン「??? 何言ってるの?ボク達は[タンザー]に飲まれてるでしょ?」



「い、いやそういう意味じゃなくてよぉ…なんか[タンザー]の器官だか何だか、にウチのお頭が喰われかけてて…」

「あぁ!!んなこたぁどうでもいい!頼む!フェイオンの旦那ぁ、俺達じゃどうにもできねぇ!お頭を!!」


フェイオン「うむ!例え悪党だろうと善人だろうと関係ない!あんな奴でも助けねば!」

メイレン「ええっ!指輪を手に入れなくちゃ!」

クーン「ああ!待ってよぉ~!」

~ オマケ1 完~ 
*******************************************************


159以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/10(日) 14:10:27.27pUf27zNZo (1/1)

おみやげはブルーが持っていったからクーンはもらわずにすむな
やったねクーン餌の取り合いにならずにすむよ!
ブルーさんは御愁傷様です


160以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/11(月) 09:16:53.61RpCcFrYsO (1/1)

そういえばスライムついてきてたなww
乙です


161以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/11(月) 14:21:42.897YoFnztT0 (1/1)

このメイレンさんの執着心・・・例のアレに冒されるの早すぎませんかねぇ(困惑)
乙乙


162以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/11(月) 18:44:01.92IWh+TUR40 (1/1)

メイレンは許さない(半ギレ


163以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/12(火) 22:27:19.59oBhf20Wx0 (1/2)



 その日は、一際暑い一日だった


 東風が熱を帯びた身で忙しなく巡る人々の肌を焼く、日傘をさして歩く者も在らば麦わら帽子を被る者
 露店で売られている飲料を透き通るグラスに一杯注ぎ氷をひとつまみ入れる
 額に浮き出る玉汗をハンカチで拭いながらも聖堂へ脚を運び、修士として勤行に励む者のあらば
 快晴からのさして嬉しくも無い贈り物に根をあげ、ポプラ並木の木陰で涼を取る住民…



 暑い中、二人のよく似た少年…整った顔立ちと長く伸びた髪から少女にも見えたかもしれない





 蒼を身に纏った金髪と、紅を身に纏った銀髪が石畳の広場を歩く







    【わぁ!見てよ!広場に青いシートが敷いてあるよ!キミの服と同じ色だね!!】
    『…何の変哲も無いブルーシートだろ、大袈裟な…』


    【えへへ~!僕はお外で遊ぶ事ってあんまりないから色んな物が珍しいんだ】
    『そうか、…どうやらアレは露店のようだな、縁日にはまだ早いが他所のリージョンから来たようだ』


    【他所のリージョン!?凄い凄い!見てみよう!】
    『お、おい!引っ張るな!』



    「いらっしゃい!色んな品があるよ!」



    【わぁ…これ何ですか!】

    「それはおもちゃのピストルだよ、空気しか出せないけど恰好良いだろ?」

    『…ふむ、[ワカツ]剣道?…面白い本だな』

    「ほー、キミ[ワカツ]流の剣術に興味があるのかい?いやー[シュライク]書店から買った甲斐があったね」



    【? 露店のおじさん、この本は?】ペラペラ


    「あー、それは―――!?」





    【…?なんでこの女の人達みんな服脱いでるんだろう?】キョトン


    【ねぇキミ、なんでこの人暑いの?】スッ


    『……なんだ、この本、文字が全く書かれていない上に下品な女達の絵だけ…』ペラペラ


    『無意味な本だな』ポイッ




    「あ、あー、キミたちこれは見なかったことにしてくれ!なっ!」アセアセ

          【『???』】


―――
――




164以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/12(火) 22:35:31.15oBhf20Wx0 (2/2)

*******************************************************







―――って、ってば、ねぇ!ルージュ! 起きて!!そろそろ到着するよ!!























              ルージュ「…むにゃ?」パチッ













アセルス「はぁ~、漸く起きた…確かに[ラムダ基地]でのドタバタで疲れたけど、油断し過ぎだよ」

アセルス「また荷物盗まれるよ?」



ルージュ「…あー、ごめん、なんか小さい頃の夢見てた…」ゴシゴシ


白薔薇「夢ですか?」



ルージュ「うん、夢だから顔がぼんやりとしか思い出せないけど…昔、仲の良い友達と遊んだ夢…」ふわぁ…







エミリア「3人とも![クーロン]行きのチケットどうにか手に入ったわ!」タッタッタ…!










【双子が旅立ってから2日目 朝 11時17分  [マンハッタン]:ショッピングモール】


165 ◆zJZqNVVhtuCN2017/12/13(水) 00:26:24.66hwTtdp/P0 (1/2)




 都市型リージョン[マンハッタン]…リージョン界を統括する政治機関"トリニティ"の御膝元であり
また最先端科学の髄は此処に在りとさえ言わしめる程に発展している


貿易センタービルが立ち並ぶ大都会の中央にはトリニティの"セントラルゲート"が聳えている
 今現在、彼等はショッピングモールの真ん中で別行動を取ったエミリアを待っていた



白薔薇(人がたくさん居ますわね…)キョロキョロ



[ファシナトゥール]から数百年余りは他所のリージョンに出た事が無い妖魔の姫君は現代の発展に目を丸くしていた

 何処もかしこもも、人、人、人…居眠りをしていたルージュとアセルス等と共に待つ傍ら、摩天楼を一頻りに眺めては
ある一点に目を向けた





白薔薇(…?あの塔、…いえ、"ビル"というのでしたね、妖魔の気配がしますが…)





妖魔は機械音痴の種族、それもあってこのリージョンでは妖魔は特に珍しい
…従って、"何故か大勢の妖魔が集まっている"場所が嫌でも目に付くのだ






後に、とある出来事が切欠で昇る事になるビル…"キャンベル貿易ビル"である




ルージュ「すいません、僕達の分のチケットまで確保して頂いて」


エミリア「いいーの!いいの!ヤルートの件を手伝ってくれたお礼も兼ねてるから」


 パチッとウインク一つ、金髪美女は朗らかな笑みで返してくれる…あの後、結局ヤルートには逃げられ
エミリアも追っていた仮面の男ジョーカーに関する情報は得られず終いに終わった


唯一の救い、とでも言えば良いのか…捜査中にアセルスの知り合い…ゾズマに出逢い
『モンスターを侵入させて基地を混乱させたんだから責任ぐらい取ってよね!!』と強気に出たアセルスが
拉致監禁された女性たちの身柄保護、そして基地から脱走の手助けをゾズマ率いる部下の妖魔達に手伝わせた事ぐらいだ






…どうでもいい話だが、最初ゾズマの恰好を見たエミリアは黄色い悲鳴をあげて銃をフルオート射撃しそうになったそうな


女装男子に続き、上半身裸で乳首に星型ニップレスという色黒イケメンという時代を先取りしたファッションの妖魔と遭遇



なんというか、その後もどっと疲れた様子で「ばかやろー…」と力無く嘆く姿が物悲しかった





ルージュ「ほんっとうにすいません!!」ペコッ ペコッ

アセルス「私からも本当にごめん!私のトコの変態が!」ペコッ ペコッ



エミリア「い、いや!良いから!二人共顔上げて!周りの人の目線が痛い!?」




166このレスは判定に含めない2017/12/13(水) 01:46:42.60hwTtdp/P0 (2/2)





      エミリア「白薔薇ちゃん!この二人をどうにか…ってあれ?白薔薇ちゃんは?」








ピタッ、助けを求めだしたエミリアのその一言が"皮肉"にも目の前の二人を止めた




周りはこれでもかと言わんがばかりの人混み、その雑踏溢れる賑わいの中に花飾りの貴婦人の姿は―――無い





アセルス「し、しろばらぁぁぁぁぁ!!!」

ルージュ「白薔薇さんがいなくなったぁ!」ガーン!?






…妖魔は機械音痴の種族である、そして浮世離れした妖魔の姫君は絶賛、機械仕掛けの摩天楼で迷子となっていた


―――
――





白薔薇「」ポツーン


白薔薇「こ、此処は一体どこなのでしょうか…」オロオロ







Tシャツに鉢巻姿の酔っ払い「…んで、次は何処行くんだ?」テクテク



記憶喪失のロボット「レオナルド博士にメモリを増やして頂きました」

記憶喪失のロボット「その点を踏まえ次は[シュライク]、その次に[シンロウ]へ行く事を推奨します」


Tシャツに鉢巻姿の酔っ払い「なら次は[シュライク]だな…っと」

記憶喪失のロボット「どうされましたか?」


Tシャツに鉢巻姿の酔っ払い「…いや、派手な格好だなって、あんまジロジロ見るのも悪ぃな、行くぜ!」

記憶喪失のロボット「はい」




白薔薇姫の姿はこの通り傍から見て目立つ、おとなしくしていればすぐに3人に見つかるのだが
 見慣れぬ環境…[ファシナトゥール]ではまずお目に掛かれないメカの存在が彼女を"じっと"はさせなかった

人は自分にとって慣れぬ物、理解できない物を見ると興味を示すか、訳も無く畏れてそれから遠ざかろうとする心理が働く


彼女が前者か後者か、どちらの心理が働いたのかは分からないが、その場でとどまるという事はさせなかった



167以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/13(水) 02:13:57.68+OjESLO60 (1/1)

ワカツの剣豪!ワカツの剣豪じゃないか!


168以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/13(水) 08:06:15.86TlvmAdiUO (1/1)

ちょいちょいサブキャラが出てくるのが楽しいな


169以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/13(水) 14:15:37.96mc53ejAqO (1/1)

乙乙
ゲンさんはカードと小石両方取って先にスタメン入りだったわ


170以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/14(木) 23:37:55.77LuywdMZLo (1/1)

物語が交差してる感じがすごくいい


171以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/19(火) 15:45:37.818tJ19dmT0 (1/2)








クレイジーなIRPO隊員「さぁ~て…キャンベル社長のトコに行く前にちと早いがちょっくら昼飯にでも―――」スタスタ












白薔薇「」オロオロ



クレイジーなIRPO隊員(なんだぁ?ありゃぁ…映画の撮影か何かか?)




 近未来都市の摩天楼に一人の貴婦人が居る、通りがかりの男はその麗しの美人をマジマジと見つめていた
ブロードウェイのミュージカルシアターから舞台衣装のまま女優さんが逃げ出して来たのか、と通行人なら皆が思う

 男は全身黒づくめ、靴もジーンズもダークカラーで統一していて襟元に毛皮が付いた革ジャケットを羽織り
裾口から先の手首もこれまた真っ黒なグローブという服装だった

唯一、暖色が見えるとすれば、襟元の毛皮と紅いネクタイ…そして外側が少しはねたショートヘアのくすんだ金髪だ



ポケットに手を突っ込み、先程まで煙草をふかしながら歩いていた彼は遠目に見える"問題の企業"を目指していた

職業柄、いつも手帳と何処のリージョンでも使用可能なタブレット端末…そして、腰ベルトの背には銃が備わっている






彼は[IRPO]隊員だ



I…inter<インター>

R…region<リージョン>

P…patrol<パトロール>

O…organization<オーガニゼーション>






即ち…混沌の海に浮かぶ無数の惑星<リージョン>を跨いで、日々犯罪者を追い続けるリージョン警察である


 今日、彼は[IRPO]本部から[ルミナス]で起きた戦闘騒動の調査後
すぐに此処[マンハッタン]にある、とある企業を捜査する手筈だった、吸い殻をポイ捨てしたいトコだったが
 仮にも市民のみなさんを護るお巡りさんがそれをやると苦情が来るから面倒臭がりの性格である彼は渋々と
最寄りのコンビニによって煙草の吸殻を捨て、仕事前にお気に入りのファーストフード店にでも入ろうかとした矢先だった



クレイジーなIRPO隊員「…あー、そこの麗しいお嬢さん、何かお困りですかな?」ニッコリ


白薔薇「?」キョトン



紳士スタイルで美女に接する下心丸出しな隊員Hさん



172ちょっと席を外します2017/12/19(火) 16:14:23.148tJ19dmT0 (2/2)



クレイジーなIRPO隊員「あぁ、失礼、私はこういう者でしてね」ピラッ


黒ジャケットの男はそういうと腕に[IRPO]の正式隊員であることを証明する腕章を見せる、これに白薔薇はしばし戸惑った




彼女は外界を、世間一般の常識を知らない

無知という訳ではない、数百年あまりの悠久の時を鎖国状態のリージョンで過ごしたからだ



稀に[ファシナトゥール]にIRPO隊員が来る事があってもその腕章が何を意味するのか、知らぬのだ



白薔薇(…!そうですわ!アセルス様が教えてくださいましたわ、これは確かパトロールの御方の!)ハッ!


白薔薇「刑事さん、でよろしいのですね?」


クレイジーなIRPO隊員「ええ!そうです!見たところお困りのようですが、何かありましたか?」



男は大袈裟に両腕を広げておどけてみせる、芝居じみたその仕草に緊張が解けたのか白薔薇も小さく笑い
仲間とはぐれてしまった事を告げた



クレイジーなIRPO隊員「なるほど、…お仲間さんのお名前は?」スッ



情報端末を取り出す、全パトロール隊員に配布されたタブレットは各リージョンの住人は無論、シップ発着場から
下船したお客の情報も問い合わすこともできる

パスポートの偽装、違法シップの運用を想定してだ

パトロール隊員はあらゆる権限を持たされており、隊員1人の権限で企業、店舗の営業停止から突然の立ち入り捜査まで
許可されている……簡単に言えば、この広いリージョン界でほぼ何でもできる権力を持っている


 それゆえに権限の悪用や、"収拾がつかない状態"にならぬようにと、隊員は増やし過ぎず…それでいて
人格面、能力全てが厳選されている





余談だが隊員は全部で な ん と "6 名" …いや、1人殺害された、とのことで5名である


数多の惑星<リージョン>に対してたった5~6名ほどしか任命されない、逆に言えばそれだけ権限を持った者達なのだ





白薔薇「…その機械は?」


クレイジーなIRPO隊員「ん?ああ、これは発着場から来た人達を調べる機械でしてね」

クレイジーなIRPO隊員「あぁ…妖魔の方ですか、通りでお美しいと思いましたよ」ピッピッ


人助けの為であって悪用する訳じゃないのでご安心を、と笑う男に白薔薇はどう答えるべきか困った








[ラムダ基地]から船を奪ってなんとか逃げ出して来た自分達をどう説明する?

もっと言ったら、12年前に行方不明となったアセルスの名前なんて出せるかッ!面倒な事になるに決まってるッッ!



173以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/19(火) 16:50:06.40v3eHFheI0 (1/1)

エミリア、ゲンさん、ヒューズ、あぁそうか ブルーが印術√だからか


174以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/19(火) 18:41:50.71qtK1GM2/O (1/1)

なんか誰の名前出しても面倒くさそうww


175以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/19(火) 20:08:34.96jCosaYnU0 (1/1)

エミリアなんて無実なのにヒューズに刑務所送りにされたもんなw


176以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/19(火) 21:13:43.900fm3HvFEO (1/1)

>>173
何言ってるか分かんなかったけど秘術イベントで仲間に出来るキャラって今気がついた


177以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/20(水) 00:48:58.49/NaxgDC30 (1/14)



 しばしの戸惑い、その一考に革ジャケットの男は少しだけ眉を顰めた、名前を言うのに何を躊躇う必要がある?
腐っても厳選される程には有能な刑事さんのようだ







   白薔薇「私のお連れの方なのですが…その"ルージュ"という殿方なのです」


クレイジーなIRPO隊員「ほー、ルージュ…フランス語で赤ですか」ピッピッ





クレイジーなIRPO隊員「………」ピッピッ




クレイジーなIRPO隊員「お嬢さん、お間違いはありませんかね…?ウチの機械に、"ルージュって名前が出ない"ですがね」







空気が変わった。









白薔薇「それもその筈ですわ」

クレイジーなIRPO隊員「はぃ?」



白薔薇「その御方は術士の方なのです、昨日[ルミナス]で出会い術の修行の旅にお付き合いすることになりまして」

白薔薇「ルージュさんは[ゲート]という術でリージョン間を移動できるのでして」

白薔薇「私達はシップに乗ってきたわけではないのです…だからどうご説明すればよいのか迷いました」



クレイジーなIRPO隊員「…」



男は下顎に手を当て考えた、なるほど、それなら入国…もといリージョン入りしても記録に残らない訳だ
術による移動事態はトリニティの制定した法律上、違法でも何でもない

名前を端末で検索しても情報が無いから徒労に終わる、彼女が名前を出すのに躊躇ったのも全て辻褄が合う









   クレイジーなIRPO隊員(俺の勘が告げてやがる…どうもそれだけじゃねぇな…それに[ルミナス]から来ただと?)


   クレイジーなIRPO隊員「なら此処は一つ、元来た道を戻ってみるってのはどうかな?」


   クレイジーなIRPO隊員「お連れさんとはぐれたんなら、向こうも探してるだろうし…可能性が高いと思うぜ?」






178 ◆zJZqNVVhtuCN2017/12/20(水) 01:19:24.77/NaxgDC30 (2/14)




クレイジーなIRPO隊員「自己紹介が遅れたが、俺はヒューズって言うんだ、麗しのお嬢さんお名前をお伺いしましょうか」



ニィ、と男は…ヒューズは笑う、…コードネーム、一度キレたら手の付けられない男<クレイジー・ヒューズ>

本名ロスター捜査官の通称だ



白薔薇「白薔薇と申します」ペコリ



ヒューズ「白薔薇さん…う~ん、なんとも可憐なお名前だ、おっと途中から敬語じゃなくなってるがすいませんね」

ヒューズ「俺はどうにも敬語って奴ぁ苦手でしてね、教養の無さは多めに見てくださいよ、っと」



へへっ、と笑うヒューズ、ふふっと笑う白薔薇…



 掴みは上々、綺麗な女性に良い男アピールができたヒューズは此処でもう一押し
紳士的にエスコートして差し上げようと手を差し伸べる




うんうん、これも警察として当たり前の事だ、なーーんにも下心なんて無いモンねー、と内心で呟きながら




































   アセルス「この痴漢めぇぇ!!白薔薇から離れろおぉぉぉぉ!!」ゴスッ!!!!

   ヒューズ「へっぶぁぁぁぁっ!?」ボキャァ!!





鼻の下が思いっ切り伸びまくっていたお巡りさんに清々しい程に右ストレートが決まった





179以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/20(水) 01:33:09.99/NaxgDC30 (3/14)




アセルス「このっ!このっ!このぉ!!!白薔薇逃げて!!」


白薔薇「あ、あのぉ…アセルス様」オロオロ


ヒューズ「ひでぶっ!?おい、おま――ちょ、やめ、あっぶぅ!?」












  ヒューズ「 や め ろ っって ん だ ろ が ッ!!こ の コ ギ ャ ル が ぁぁぁ!!」クワッ


   アセルス「きゃあああああああぁぁぁぁ!?!?」







ルージュ「白薔薇さんっ!やっと見つけ―――…えっとこれはどういう状況?」


<キャー!ヘンタイー!

<ウルセー!!



白薔薇「…何から説明すればいいのか」



―――
――





アセルス「ごめんなさい!ごめんなさいっ!」

ヒューズ「…あぁ、俺も悪かったわ」ポリポリ



アセルス「白薔薇を保護してくれてた人に、あんな早とちりを……」



どうにも白薔薇絡みになるとアセルスは冷静さを欠く傾向があるがある…ルージュは短い間だが一緒に居て分かった
アセルスの事情は知ってるし[ファシナトゥール]から此処に至るまでに幾度となく支えられてきた謂わば心の支えなのだ






――――もしも…もしも、だ








【白薔薇姫が "何らかの形" でアセルスの元から引き離されてしまったら】きっとアセルスの心は折れてしまうのでは?


そう一抹の不安さえも感じてしまう程に依存している傾向にあるのだ



180誤字 傾向があるがある… → 傾向があるがようだ…2017/12/20(水) 02:20:08.56/NaxgDC30 (4/14)



ヒューズ「ま、お連れさんが見つかって良かったじゃねぇか」


白薔薇「はい」

アセルス「あの…!お礼とお詫びも兼ねて何かできませんか」



自分の早とちりで傷つけてしまった人に出来る限りのお詫びをしようと申し出るアセルスに対して


ヒューズ(血の気が多い娘だが、なんだい良い子じゃねぇか…)


ヒューズ(まだ子供だが後数年すりゃあいい女だな)ウンウン



アセルス「あの…?」


何故か自分を見て頷いた男に疑問符を浮かべる、殴った頬が傷むのだろうか?公務執行妨害とやらで逮捕されるのか?



ヒューズ「んじゃ、ご厚意に甘えて昼飯でも奢ってもらうか!」ニシシッ


ヒューズ「俺の気に入ってるファーストフード店があってな、そこでハンバーガーでも…」














          蒼褪めた、サーッと音が聞こえるくらいにみるみるうちに顔から血の気が引いた









読者諸氏、彼…クレイジー・ヒューズを知る人が居れば彼がどのような人物で過去に何をやったか知っていることだろう



彼の眼は人混みの中にある"一人"を捉えた、向こうはこちらに気づいていなかったのが幸いだ




モノクロ写真のように回りの風景だけは色をなくし、その人物だけは色があった…




リケーネカラーリングのスカートに緑色の上着を羽織り、艶のあるブロンドの髪を靡かせながら歩く見返り美人



[ラムダ基地]で着ていた衣装から本来の私服姿に着替えた"元スーパーモデル"…そして…





 ヒューズが冤罪で証拠も何も無いと知っていながら、キレて裁判もせず刑務所…[ディスペア]送りにした女エミリアだ






181 ◆zJZqNVVhtuCN2017/12/20(水) 04:40:03.87/NaxgDC30 (5/14)



ヒューズ「」ダラダラ…


あっ不味い、見つかったら俺間違いなく殺られる、不良警官は思った

 汗が止まらない、なんか見つかったら関節技キメられそうな気がする
…もっと言ったら投げ技を極めた人物にしかできない一人連携技を喰らって頭蓋骨が陥没しそうな気がする



アセルス「ヒューズさん…や、やっぱり私が殴った所が痛かったんじゃ…」




ヒューズ「いや、違うんだ…なんつーか、ちょっと腹が痛くなって…あ、今度会えたら、なっ!お礼そん時で良いから!」

アセルス「えっ、あの、待って!」



ヒューズ「じゃ、じゃあな!!!」ダッッ!!





ルージュ/アセルス/白薔薇「「「…」」」ポカーン





エミリア「此処に居たのね!!白薔薇ちゃんが見つかって良かったわぁ…?どしたの3人共」ハァハァ…


ルージュ「いえ、なんでもないです…」


何がどうしたというのだ?3人共首を傾げるばかりであった…

―――
――



アセルス「白薔薇、今度ははぐれないようにしてね?」

白薔薇「申し訳ありませんでした…」



エミリア「さて、[クーロン]行きの船がもうすぐ出るけど…貴女達…[クーロン]へは何しに行くの?観光とか?」



[シュライク]行きのシップが滑走路から飛び立ち混沌の海へと飛んで行ったのを発着場のカフェレストランの窓際の席から
眺めながらエミリアは尋ねてみた


エミリアは[クーロン]に詳しい、というより詳しくなったという方が正しい…






  エミリア「私の仕事仲間が[クーロン]に居るのよ、それであの街には詳しくてね、観光名所巡りならできるわよ♪」


  ルージュ「仕事仲間、と言いますと、その"グラディウス"…ですっけ?」



法律で裁けない者や解決できない事件を"法に反する手段"を以て解決する組織…ルージュは小声で組織名を口にする




  エミリア「そっ!仕事仲間で…ライザ、それからアニーって気の合う女友達も居て、…後、女心の分からない上司も」





182 ◆zJZqNVVhtuCN2017/12/20(水) 05:31:31.76/NaxgDC30 (6/14)



アセルス(うわぁぁ…エミリアさん、すっごく嫌そうな顔…)



 緑髪の半妖少女は目の前の綺麗なお姉さんがご機嫌から不機嫌に一変するのを垣間見た

基地から脱出の際、サングラスを掛けた彼女の上司に睡眠薬を盛られて寝てる隙に人攫いに自分を売り飛ばさせて
あの悪趣味なハーレムへ潜入させたという話は半ば愚痴のような形で聴かされはしたが…


 アセルスは自分達の目的を話す、という名目で話題を変えた方が良さそうだなーと
フォークに刺したハムエッグを口に運びながら考えた


ルージュ「僕は術の資質集めの旅を続けていて、リージョン界を廻る旅をしてます」

ルージュ「[クーロン]には情報収集のためにも前々行ってみたいとは思ってました」



そんな彼女の考えを察したのか紅き術士が先に口を挟む、


エミリア「…術の資質、ねぇ」んーっ



頬に手を当てて少し考える、それからエミリアは自分のポケットから"あるもの"を手渡したのだ



ルージュ「名刺ですか?」パクッ


ほうれん草とベーコンのキッシュを頬張りながら術士は小さな紙に書かれていた文を黙読する



ルージュ(…お困りごとなら何でも解決!裏組織 グラディウス![クーロン]イタリア料理店、詳しくは店前の女まで!)




ルージュ「あの、これは…?」

エミリア「名刺よ」



ルージュ「いえ、そうではなく…」



裏組織が住所とか堂々と書いた名刺作るなよ…、ツッコミを入れたいと思うのは野暮だろうか
岩塩の塩っ辛さだけがやけに舌に残るキッシュだ、ハズレメニューを頼んだかなと水で口直しをする


エミリア「何かあったらそこを頼ると良いわ、私が居なくても、その名刺さえ見せれば」

エミリア「グラディウスの誰かがちゃんと手を貸してくれるから」



 ウチは術の資質を取りたいって人のために手助けもしてるってアニーから聴いたのよ、お金は取られちゃうけどね
それだけ言うと元モデルはカフェオレのカップに口をつけた








この段階ではまだ誰も知る由もないことである




後にエミリアから貰ったグラディウスの名刺が、 "悪の組織と戦う正義のヒーロー" を幹部のアジトまで導く事になると






183以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/20(水) 05:36:54.97BgkODNfbO (1/1)

なるほど、そう繋げるか


184以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/20(水) 07:30:12.85/NaxgDC30 (7/14)



白薔薇「そういえばルージュさんは秘術と印術どちらを取得なさるのですか?」


 至極まともな問いが飛んできた、エミリアの友人のアニーさんとやらが術の資質集めを手伝う仕事も請け負っている
それは今聞いたが、問題はそれが『印術』なのか、はたまた『秘術』かだ


パチクリ、それを聞いて再びパニーニを口にした貴婦人を見返した



そうだった…よくよく考えてみたらまだ印術にするか秘術にするか決めてないじゃないか……



エミリア「ルージュ、あなたは希望とかあるの?」

ルージュ「実の所、とくには無くて…」




 ただ双子の兄とは相反するモノでなくてはならない…被ったら早い物勝ちの競争になること必須で、そうなってしまえば
先に相手に取得され、これまでの苦労が水の泡に終わる

そんなリスクだけは極力可能な限り避けたい


第一、ルージュは祖国からの使命にあまり乗り気じゃないのだ…


会った事が無いとは言え、双子の兄弟をこの手で殺めるなどと人道に反する行いだと重々承知している
できることならこのまま修行の旅が終わらなければいい




それこそ[ルミナス]で適当な旅人を見つけて『資質集めの旅をしてるんです!協力して一緒に集めよう』とでも言い
 その後、旅人の背中についてって自分の使命すっぽかして一生終わりの見えない旅をしたって良いとすら思ってる


…思ってはいるけど現実問題そうは行かない


国家反逆罪で追われたくないから、体裁だけでも良いから取り繕うしか無いのだ、少なくとも今現在は



エミリア「…印術は、正直オススメできないわね」


ルージュ「何故ですか」



エミリア「んー、私と仲間二人が印術の試練に挑戦してるのよ、ほら」つ『ルーンの小石』×2


ルージュ「!? "解放"と"活力"のルーン!!凄い!昔、学校の本で見たのと同じだ!」



エミリア「…この二つ、滅茶苦茶厄介な所にあったのよにあったのよ」ハァ…



余程苦々しい思い出なのかエミリアは重いため息を吐く

1つは自分の復讐劇の序幕が上がった場所、2つは気色悪い巨大生物の体内のこれまた気色悪いゲル状モンスターのプール




エミリア「強制じゃないけど…私は秘術にした方が良いんじゃないかって思うのよ」






エミリア「それに、秘術の試練だけど、その内の1つは何をすれば良いのか知ってるわ」




185以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/20(水) 08:11:52.99/NaxgDC30 (8/14)



ルージュ「試練の1つを知っている!?」ガタッ


アセルス「わっ!!ルージュ!突然身を乗り出さないでよ!飲み物が零れるでしょ!」



ごめん、と矢継ぎ早にアセルスを制しエミリアに続きを話して欲しいと促す




エミリア「私、ある任務でカジノのバニーガールをやってたのよ!」

ルージュ「……」




ルージュ「は、はぁ…?」



とりあえず、黙って続きを聞く事にした、細かい事は敢えて触れずに


エミリア「そのカジノ…[バカラ]ってリージョンなんだけど、そこの地下に金を集めるのが好きな精霊ノームが居たわ」


エミリア「金よ、金塊!…あの人(?)達はとにかく金が好きで」

エミリア「"たくさん"の金を持って来た人間には快く秘術の試練…アルカナのカード集めの1つ"金のカード"をくれるわ」


ルージュ「た、たくさんの金ですか…」





金塊をたくさん…そんなお金が何処にあるというんだ!!!




ルージュは頭を抱えたくなった、奇しくも今日、全く似たような悩みを双子の兄も抱えたという…









白薔薇「これでは足りませんか?」つ『金』×2




エミリア/ルージュ「「えっ」」


アセルス(あ、[ファシナトゥール]から逃げ出す時に飛ばし屋さんに払った貴金属…そういえばまだあったんだね)





白薔薇「ルージュさん、これでよろしければ…」


ルージュ「い、いやいや!受け取れませんって!」



アセルスと白薔薇は妖魔の王から逃げている最中、安定した衣食住だって保証できない、いつ終わるやも分からぬ逃亡生活

先立つモノが必要になるに決まってる、そんな人から何故これを受け取れようか…





186以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/20(水) 08:27:58.49/NaxgDC30 (9/14)



ルージュ「二人共、お金は必要になるでしょう!!そうでなくてもこんな高価な…」



白薔薇「私もアセルス様も命を賭してまで助けて頂いたのは事実です」

白薔薇「であるならば今度は私がアセルス様の分も含めその恩をお返しするのが道理です」



ルージュ「で、でもですね―――」



白薔薇「では、こうしましょう、私は『秘術の資質』を得たいと思っています」

白薔薇「この金はその為に使用するモノであって貴方にはお渡ししません、私が"個人的"にノームへお渡しします」



白薔薇「これで如何でしょうか」



ルージュ「…(唖然)」



アセルス「…」フゥ…


アセルス「『君も術の資質を集めてるのかい?では協力して集めよう』」

アセルス「ルージュ、キミ自身が言った言葉だ、"協力"して集めよう…白薔薇はこうなると退かないんだ」



困ったように笑う緑髪の少女を見て、「参った、降参だ」と手をあげる術士
「アセルス様にこうなると退かないんだ、と申されますとは…」苦笑する貴婦人

これは面白い人達に出逢ったと笑顔でカップを傾ける金髪美女…



まだ100%秘術にするとは決まっていないが
どちらかといえば"アルカナ"のカード集めにするのも良いかなと彼は思い始めていた



昼、12時49分、シップ発着場のカフェレストラン…滑走路から飛び立つ宇宙船<リージョン・シップ>が一望できる窓際の一角は
談笑に包まれる温かな空間だったという…



















           ドォ ォ ォオ オオオオオオオオ オオ オオ オオ   オオ  ン!!!!












187以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/20(水) 08:37:36.43/NaxgDC30 (10/14)






――――それは、何の前触れも無く起きた







エミリア「っ!!な、なんなのよ!今の音は!!」



店内、いや、発着場そのものさえ揺れる大きな振動、カップの中身がテーブルの上に零れる

アセルスは傍らに居た白薔薇の手を握り、周りを警戒する…そしてルージュは…!
















ルージュ「! み、みんな、見てくれ!あのビル!! あの一番大きな建物から煙が出てるぞ!!」












「て、て…!!」






「テロだぁーーーーーーーーっ!!!!」



「た、大変だぁぁぁぁ!!!!!」



「う、嘘だろぉ!あの建物は…っ、トリニティの中枢が!セントラルゲートが!!!」


「爆破テロ!?どうなってんだよぉ!!」
「お、落ちつけって!事故か何かかもしんねぇだろ!」




誰が開口一番にそう叫んだか、正午の穏やかな談笑など、いともたやすく消し飛んでしまった

そこかしこから悲鳴があがり、民衆はパニックに陥っていた…


―――
――





188以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/20(水) 08:40:14.23/NaxgDC30 (11/14)

                 マム   マム \ / `マム:::::  |l;  /
                     マム    丶マムヽ    マム  マム/|
           \     __マム  冫ヽ\  |\   /|  マム     ボッゴォォォン!!
                 \マムマ≧ムマム、     |\  \   |  > i\
                 \ム \ \マ          ..::::   /;. |  \
                  \マ   、   、_、  ;  ,'  `丶   |   \
            ヤ7   ムマ  冫`丶、、;           ,,|l ;     _______
            `'    \マムマ丶\\     ..,,、、ヽ`   :;!  |三三二─___
                  >\ \マ 、冫 ,,,斗  \      冫|  |三三二==─
_              > ´    \ \  ;:       、、丶ヾ`` |  \<\ ヽ丶
/≧;,.      > ´.       _..:≦::::!\\ ;:、、、`冫゙``.          |          /7
/////:> ´       ..:≦|::::::|:::::|::::;!  ` ``    _..:≦::::!      |  |≧._  ヽっ ´
> ´      _.    |:::::l:::::|>' ´      ..:≦|::::::|:::::|::::;!     |  |:::::::::::i  `
     _..:≦::::!    i>' ´      _     |:::::l:::::|>' ´        |   ` .丶!
 ..:≦|::::::|:::::|::::;!        _..:≦::::!.     i>' ´       _.      |
. |:::::l:::::|>' ´      ..:≦|::::::|:::::|::::;!        _..:≦::::!     |  |≧._
. i>' ´       _    |:::::l:::::|>' ´        ..:≦|::::::|:::::|::::;!.      |  |::::::::::::i
     _..:≦::::!.   i>' ´.           |:::::l:::::|>' ´.         |   ` .丶!
 ..:≦|::::::|:::::|::::;!        _..:≦::::!.    i>' ´       _      |
. |:::::l:::::|>' ´      ..:≦|::::::|:::::|::::;!        _..:≦::::!       |  |≧._
. i>' ´       _    |:::::l:::::|>' ´      ..:≦|::::::|:::::|::::;!       |  |:::::::::::i
     _..:≦::::!.   i>' ´       _.     |:::::l:::::|>' ´.         |   ` .丶!
 ..:≦|::::::|:::::|::::;!           _..:≦::::!.   i>' ´       _      |
───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三
         ,イ.| ̄i| |i ̄ ̄|i>。.
        / i|!|i才| |斗-=ミs、i| |>。.
        /|i,x ≦´ .i| |i _   i| |i  |i 。
     /斗´  i||i-‐ |!|i ̄ ̄`ヽ |ij{’ヽ.|i  `'守
    ./´ .| ,. i||i   |i|i-ニ三`ヽi!ヽ  .i!ヽ |ii|`'守 / ̄ヘ
     .|i>i! , ´i!x≦i!|i    \{  `ヽ!. ..ヽ|i  /ヘ    `ヽ/|
     .|i  i|_ ‐ |i   |i|i斗-ミ  |iヤ   ヘ. .|i|*'”          |_    _   ,イ
     .|i*'”i}  .j{--=.|i|i   .>。i! ヤ   i|`ヽ' / ̄ ヘ       `ヽ / / ̄`ヽヘヽ
     .|i  .j{_ ‐ |i|  .|i|斗-=ミ  |i `_  i|>’./            / /´ ̄ ̄ノ'ヘヘ
    .|i  |i_ ‐ .|i|‐=ニ.!!_≠ミ、’|i ― /   j{            ,'   ,.  ´  ノ'
    .|i *'” ̄.|i|-=ァ|i ̄ ̄ミxミ.j{ ヘ {    ヾ≧s、>''´    j{ヽ-   ./            _
    .|i  |i,x≦|i|.  .|i     ヘ{ミ、ヘj{    ヘ     j{___/     /i|_  _     /,―ミ、\
    .|i*'”{  .{.i!   i!-斗-=ミ |i < ’<   斗-===ミ           __,,..>,x≦´.{ {    } }
    .|i  |i _,≪ii!-=ニi|   -=ニ二 ̄    \    /|       |ヘ   /,x  ´     .{ ハ   / /
    .|i-‐|i ̄ |i _.|i ̄二ミヽ三ニ―    ヘ  ヘ,'  Tヽ   .|i/    ̄        ’<三>´
    .|i  |i -=|i ̄ .|i_ニミi、 |i>ー。._   人      | ヘ   '           ,.  ´
    .|i_.‐|i ̄._.|i,x ≦|i ̄ ̄ i!ヽ|i `ヽi| .,イヘ´   _    ヘ |i       _ -=ァニ^¨
    .|i .._|i   |i   !|i     .!|i` 、゚.i!|/     j{ ヘ    ヘ,'     ,'; -ニ_
    .|iニ..|i   |i _ニ..|irぉiひ''*x!|i.  ./ ,イ ヘY  `ヽ         ´   _ニ-
    .|i_ |i_.ニ!|i  ...|i __   .|i /-=ニ ̄!  i´            ヽヘ ̄
    .|i  |i   |i_三ニ|i ̄ ̄`ヽi!.|i  `i|*。..|  {      `ヽ      }、` ト 、
    .|i  |i-三.|i _ニ|i―ニミヽ .|i`ト、..i| `.i|  人__      }   Tヽイ ≧=-
    .|i  |i_.=-.|i ̄ !|i     `ヽ|i` 、...i|i、  |  |i /i|`ト、 _,. ´   / ヘ ヘ
    .|i=-|i   |i   !|i__   !|i>...!i| `i!|  |i' |iヘ  Y ̄`ヽ ̄   ヘ^丶   バッグォォン!!
    .|i  |i_-ニ!|i-ニ .|i ̄ ̄> !|i    |`'守| /` |i  ー'ト  i| ヘ     j
    .|i..,x|i   |i   !|i__   !|ト  .|  !|./`ト.|i>。 | >i。. ヽ   _/
    .|i. . |i_ - .i! ≦´i| ̄ ̄ミ>。|i   .¨ト  i|' .>iト`  ト.、 i|  |`ー', ,i
    .|i-. |i   |i_ニ  |_ニミ   .|i>。 !|  iト _  |i >。トi、 .i|  |
    .|i  |i-=ニi} ̄ ̄|i    `ヽ |i。   ト 、.!|  =-|i 、  |>。!|、 !|
    .|i-=|i   |i   !|i      .|ト゚' * |i  |=-  |i `ヽi|   |  |
───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三


189 ◆zJZqNVVhtuCN2017/12/20(水) 09:16:52.54/NaxgDC30 (12/14)


【双子が旅立ってから2日目 昼 12時49分  [マンハッタン]:セントラルゲート前】



「た、たすけてぇぇぇ!!」



ヒューズ「IRPOの者だ!!一般人はさっさと現場から離れやがれ!!…クソったれッ!!キャンベルどころじゃねぇ!」


ヒューズ「おい!そこのアンタ!車どかすの手伝え!救急車が怪我人運べねぇだろ!」


ヒューズ「…あ"ぁ"ん"!?決まってんだろ壊れてんだから手で押すんだよ馬鹿野郎!!力入れろ!」ググッ!!




<ピーポー! ピーポー!

<ウゥーーー、ウゥーーー!!





「救急隊です!怪我人は!?」

「消火栓にホース運べ!急げ!」


「まだ中に人が居るんだ!お願いだ早く」


「おい!肩貸してくれ!この子両脚が潰れてるんだ!」



「生き残ったのはこれだけか…」

「何がどうなってるんだ…うぐっ」









「あ、嗚呼…! レオナルド博士がまだビルの中に閉じ込められてる!!」

「うっ…、駄目だ…見ろよ、あの爆発をよぉ」

「…博士のラボがある階が粉々に吹っ飛んじまったぁ!!」


「そんな、レオナルド博士が…」








この日、政治機関の中枢で爆破テロが起きるというリージョン界を震撼させる事件が発生した


これによりトリニティ上層部は、テロ実行犯の逃亡阻止、また他のリージョンで何らかの事件が起こる事を危惧し
トリニティ政府に属する全リージョンのシップの運行を丸一日ストップさせるという異例の法令を発した


犠牲者は数え切れず、その人数は裕に数千人規模…!





死亡者リストにはロボット工学の権威、[レオナルド]博士…レオナルド・バナロッティ・エデューソン氏の名前も載った





190 ◆zJZqNVVhtuCN2017/12/20(水) 10:00:26.56/NaxgDC30 (13/14)



政府の対応は早かった


爆破テロの実行犯、あるいは支援する組織が他所のリージョンで犯行を犯した際、逃げ場を潰して置くためにも
また、発着場、移動中の船内で爆破を起こされる二次被害が起きてはどうしようもない




ルージュ一行の居る発着場にも当然ながら、シップ運行緊急停止の法令がすぐに届いた
厳戒態勢が敷かれ、こうなってはどんな船も気づかれずに離陸は不可能である






エミリア「……なんか、大変な事になっちゃったわね」




 発着場のターミナルでは見当違いなクレームを、罵声の数々を同じく被害者である発着場職員にぶつける旅行客
理不尽な怒りを受けてなお、歯を食いしばりひたすら平謝りを続ける職員の光景がいつまでも続いていた


本来の持ち場から立ち往生を余儀なくされた旅行客にブランケットとクッションを配るキャビンアテンダントの女性

怒鳴り散らしてもどうにもならないと漸く悟り、一夜を発着場で過ごそうと不貞寝を始める客達

サイレンの音が今だ鳴り止まない街に勇気を振り絞って踏み出し、空いている格安宿を探しに出る者達…etc




アセルス「みんな、ピリピリしてるね…」



眉間に皺を寄せている男達を見て居心地の悪さを覚える女性陣…いや女でなくとも人の怒声なんて聞いて良いモンじゃない



ルージュ「[クーロン]経由の船も欠航…僕らも此処で一日足止め、か…」






ルージュに至っては術で他所へ行ける、が…[ゲート]は一度行った事のある場所にしか瞬間移動できない

つまり[ルミナス]か[ドゥヴァン]にしか行けない
仮に行った所で全シップが運行を停止されているのだから他所へは旅立てない


 こんな非常態勢が敷かれてる中で悠々と飛べる船があるとすれば、トリニティに属さない[ネルソン]の船か…
海賊が乗った違法シップくらいである





アセルス「はぁ…明日まで[クーロン]はお預けか」



エミリア「…そうだ」




ふとエミリアはさっき聞けなかったことを訊こうと思った

ルージュが[クーロン]に行きたがる理由は知った、だがアセルス達はどうして[クーロン]に行きたがる?


多種多様な種族が暮す街だから身を隠すのに丁度いい?ルージュの手伝いか、…いや
どちらかと言えば彼の方がアセルス等を手伝ってる方だし


エミリア「ねぇ、アセルス達はどうして[クーロン]を目指す気になったの?観光じゃないなら――」



191アセルス編没イベント ② 妖魔訪問編 - 妖魔医師 -2017/12/20(水) 10:19:59.79/NaxgDC30 (14/14)





     アセルス「…私が[クーロン]に行こうと思ったのは私の身体を"診て"もらうためなんだ」




     エミリア「診てもらう…って貴女」








アセルス「ルージュは知ってるし、エミリアさんにも基地から逃げる時簡単に説明したでしょ?」


アセルス「私は妖魔から元の人間に戻りたい」


アセルス「普通に歳をとって、普通に生きて、普通に死ねる身体に戻りたいんだ」

アセルス「剣で刺されてもゾンビみたいに塞がったり、血の色が紫だったりしない……元に戻りたい…っ!」ギュッ!






白薔薇「…[クーロン]にはゾズマの知り合いで上級妖魔の身でありながらも人の社会を好み、医者として働く方がいます」




エミリア「…ゾズマ、ああ、あの…」




白薔薇「…た、確かに人間社会で暮らしたがる変わり者という点でゾズマとは気が合ったらしいのですが!」

白薔薇「人間社会に順応なされている御方です、きっと服装は人と変わりませんよ、たぶん」





一瞬死んだ魚みたいな目をしかけたエミリアにすかさずフォローを入れる白薔薇姫、最後は妙に語気の弱い言葉だった…







白薔薇「コホン、兎に角、まずはその御方にお会いして、アセルス様の御体を診察して頂く事」


白薔薇「それが[クーロン]を目指す私たちの理由です」




アセルス「うん、…今は藁にも縋りたいんだ、人間のお医者さんじゃどうしようもできない、なら1%でも賭けたいから」



アセルス「だから[クーロン]に住んでるっていうそのお医者さん…名前は…確か」





その続きは白薔薇姫が答えた




       白薔薇「…妖魔医師 [ヌサカーン]様ですわ」




192以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/20(水) 13:03:01.11+tJHnjJGO (1/1)

>旅人の背中についてって自分の使命すっぽかして一生終わりの見えない旅をしたって良いとすら思ってる
だから誰彼構わずついていってたのかルージュ……


193以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/12/20(水) 23:34:33.70aAt+rg8i0 (1/1)


一気に色々繋がってきたな


194以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2018/01/23(火) 22:55:11.74Wwx/aAqe0 (1/2)



【双子が旅立って2日目 午後15時20分】



 結局、今日一日は機械仕掛けの摩天楼で足止め…
ルージュ等一行はエミリアの誘いで裏組織"グラディウス"の[マンハッタン]支部で一夜明かす事になった


 此度のドタバタ騒ぎでどこのホテルも空きは無い、路上のベンチや飲み屋街の看板を抱き枕にして倒れる旅行客すら居た
自棄酒もここまでくればいっそ清々しいモノだ




ルージュ「…それじゃ、明日はどうにかして[クーロン]のヌサカーン先生?って人に会いに行くとして」

ルージュ「僕は今の内に術を使って[ドゥヴァン]へ行こうと思うんだ…印術か秘術か、気になる方を取って来るから」




エミリア「二人は任せて頂戴、此処なら妖魔の1人、2人来たって平気だから」



 追われる身にある妖魔二人が匿ってくれる金髪美女達に恭しく頭を垂れる、行く宛てもなく、保護してくれる人も居ない
そんな彼女等にとってエミリアの誘いはこれ以上ない申し出であった


一夜限りとはいえ、安心して眠りにつけるのは有難い







             ルージュ「[ゲート]!…[ドゥヴァン]へ!」ヒュン!!





 光の粒子に包まれて、何光年と先の遠い宇宙<ソラ>の先にある他所の小惑星<リージョン>へ瞬間移動したルージュを見届け
エミリアは受話器を取り、ダイヤルを回す…


アセルス「エミリアさん、何処へ電話を?」

エミリア「うん?あぁ、友達の所にね、…ほら?今日の騒ぎでシップのチケットが駄目になったからそのことで」




…プルルル! プルルルル!


エミリア「…もしもし!」








  受話器の向こうの声『エミリア!!!アンタ無事だったのね!!』



  エミリア「ええ!なんとか命からがらね、それとジョーカーの件だけど…収穫は無かったわ」



  受話器の向こうの声『…そっか、いや、そんなモンどうだって良いわ!無事で良かった、ライザも心配してたわ』


  受話器の向こうの声『あ、言っとくけどライザはグルじゃないからね…』


  エミリア「うん…」




195以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2018/01/23(火) 22:58:50.8272kpGaSCo (1/1)

おお、続き来てる


196以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2018/01/23(火) 23:07:57.76Wwx/aAqe0 (2/2)





   エミリア「もう、ニュースになってると思うけどさ」


   受話器の向こうの声『ええ、シップが全便欠航でしょ…本当災難よね』



   エミリア「なんとかならない?できれば早めに[クーロン]に帰りたいのよ…」


   エミリア「訳あって連れてかなきゃいけない子が居て」



   受話器の向こうの声『ふーん…OK!アタシに任せな!何人だろうと問題無く[クーロン]に連れてくから!」



   エミリア「本当!?…詳しく事情は聴かないのね」



   受話器の向こうの声『なぁに言ってんのよ!アタシとエミリアの仲じゃん!気にしないっての!』






   エミリア「ありがとう、アニー」





   受話器の向こうの声『お安い御用よ、明日の便で帰れるように手配しとく!で?連れは何人』






―――
――



【双子が旅立ってから2日目 午後16時01分】


ルージュ「…」



「では!この4枚のカードを…ってお客さん聴いてます?」


ルージュ「え、あ、あぁ…ごめんなさい、少しボーっとして」


「なんだか顔色が優れませんが…ハッ!?まさかルーンの誘いのテントで怪しい勧誘でも受けたんじゃ!」


ルージュ「ははは…いえ、そういうんじゃないんで」


「あそこは悪徳ですからねー!それに比べて秘術は素晴らしいぃ!!」

「誠実、安心、最高の術ッ!あんなオンボロテントとは大違いです!あなたは実にお目が高い!!」ドヤァ


ルージュ「ははは…」




"既に双子の兄がやって来た"その事実を先程、そのオンボロテントで聞いた…自分を殺す為に旅立った双子の片割れの事を


…夢でもなんでもなく、本当に自分の兄が資質集めの旅、――自分を殺す旅路ををしてると実感を得る証言だった



197 ◆zJZqNVVhtuCN2018/01/24(水) 00:04:36.62CmfbuI/m0 (1/3)



出逢った事はなくとも、血の繋がりがあるのならばあるいは―――心の何処かでそんな淡い期待はあったかもしれない









 だが、実際に兄…ブルーの姿を見たという人間の証言を聞いてしまうと






「お客さん、本当に大丈夫ですか、冗談じゃなく本当に顔色悪いですよ…まるで」





まるで死人か何かだ



 そう言いかけて、慌てて取り繕うように「そんな時こそ!『杯』の術は如何ですかー」と誤魔化す目の前の人間に
気にかけて頂きありがとう、と愛想笑いをしてルージュは出て行く…





ルージュ(…ここに、本当に兄さんが来たんだ)フラフラ







                   ドンッ!










ルージュ「あっ!…す、すいません!よそ見してて」





余程、精神的にキていたのだろう…覚束ない足取りの彼は小さな少女とぶつかってしまった…








      転生した幼女巫女「……おぬし、嫌なニオイがするな」


      ルージュ「ぇ?」パチクリ


      転生した幼女巫女(…オルロワージュの匂い、いや…これは残り香というべきかのう)


      転生した幼女巫女「おぬし、最近妖魔か何かと知り合いになったか?」


      転生した幼女巫女「悪いことは言わん碌な目に遭わん内に縁を切るのじゃな」




198 ◆zJZqNVVhtuCN2018/01/24(水) 00:37:17.67CmfbuI/m0 (2/3)




出会い頭に奇妙な事を言われたものだ、紫色の髪…小さな背…しかし、目先の子供から感じる大人びた物腰




ルージュ「…あの、つかぬ事を窺いますか貴女は」




どう見ても自分よりも年下だ、だがこの人物には"目上の人に対する態度"で接せねばいけない、直感的に彼はそう思った




転生した幼女巫女「なに、そこの神社で巫女をやっておる身じゃ、忠告はしたからな」クルッ ザッザッ




ルージュ「あ、ちょ、ちょっと待ってください!…行っちゃったよ」



ルージュ「…どういう事だろう…」




<まぁまぁ!かてぇ事言うなって
<リュート!!貴様ァ!




ルージュ「なんだかあっちの方が騒がしいな…はぁ…僕も帰ろう」


―――
――

*******************************************************
【双子が旅立って2日目 午後15時31分】







リュート「いやぁ!にしてもアレだな!俺達はやっぱ運が良いよなぁ!」テクテク


ブルー「…」テクテク



リュート「俺達が[ネルソン]で金を買って、んでその直後だろ?なんか[マンハッタン]でテロがどうとかって」

リュート「シップは全便欠航、俺達はこの機に乗じて金塊を転売しまくる」

リュート「他の資産家は他所のリージョンに行けないから実質俺達の独占だったよな~、金融市場」




ブルー「…」テクテク





   [タンザー]帰りのお土産「…(´・ω・`)ぶくぶくぶくぶー!」





ブルー「貴様はいつまで俺達の後をついてくるんだ」イラッ




199以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2018/01/24(水) 15:28:09.86CmfbuI/m0 (3/3)




  [タンザー]帰りのお土産「…(´;ω;`)」ブワッ


  リュート「オイオイ、ブルー…何もそんな冷たい言い方するこたぁないだろう?見ろよ?」

  リュート「このスライム泣いてるだろ」



  ブルー「俺には違いがさっぱり分からん」




 [タンザー]から脱出の際、ブルーの脚に引っ付いていたモンスターが1匹、ぬるぬるとしたゲル状のボディー
それ以上でもそれ以下でもない、そう[スライム]だ



スライム「ぶくぶくぶく…;つД`)」ポロポロ…



リュート「なぁブルー、こいつの目を見ろよ?こーんな円らな瞳なんだぜ?涙ぐんで、可哀想に」


ブルー「そいつの何処に目玉がついてるのか分からん、強いて言えばそのヌメッとした粘液が噴出してる所か?」



ゲル状生物の…顔?にあたる部分から湧き水のように粘液が出ている、そこが眼なのか…?




リュート「なんでもお前に一目惚れしたらしくスライムプールから出て来てお前についてきたってよ、健気だろ?」

スライム「ぶくぶー (`・ω・´)」キリッ



ブルー「俺はお前が何故『ぶ』と『く』しか発音できない生物がそう言ってるように思えるのか不思議だ、病気か?」




リュート「いや、俺ン所にモンスターの知り合いが多くて自然と分かるようになったっつーか、それよりもどうだ」

リュート「こいつを連れってやろうって思わないのかい?こんなに一途なんだぜ?」



ブルー「思わん」キッパリ



リュート「思う、だって!?良かったなァ!連れてってくれるってよ!」

スライム「ぶくぶーーーー!(`・ω・´)」



ブルー「言ってないだろうが!!」

リュート「ハハハハ!まぁまぁ!かてぇ事言うなって」ヒョイ(スライム抱き上げ)


スライム「Σ(・ω・ノ)ノ!ぶくっ!?」ビックリ!


リュート「そーれっ!」ポーン ベチャッ!



朗らかに笑いながら、抱き抱えたスライムちゃんをポーン!とブルーの肩目掛けて放り投げるリュート
べちゃっ!!ミネラル成分満載の可愛い可愛いスライムちゃんがブルーの肩に着地!



     ブルー「リュート!!貴様ァ!」




200以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2018/01/26(金) 00:58:09.93hJQN+BIeo (1/1)

スライムの表情……?言葉……?
こればっかりはブルーに全面的に同意するぞリュート……


201以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2018/01/26(金) 22:35:58.78Squ3hirp0 (1/3)





 キィィ―ィィイイィン…!





ブルー「!」ピクッ





リュート「わわっ、悪かったって!確かに悪ふざけが過ぎ…ってあり?」

スライム「(。´・ω・)?」ノソノソ



 肩に乗ったモンスターを払いのけ、拳を強く握り後ろのお気楽男を怒鳴りつけた所で術士は魔力を感じ取った
それは…自分がよく使う[ゲート]の力と同じような









  ブルー「いや…まさか、…"居た"、というのか?」バッ!







急に熱が冷め、忙しなく周囲を、人の姿を探すかのようで、身構えていたリュートは思わず尋ねた



リュート「誰か知り合いでも見かけたのか?」



ブルー「…」

ブルー「…いや、気のせいだ」



リュート「そうか?一儲けができてすぐにこのリージョンに飛んだからてっきり此処に知り合いか誰か居て探したのかと」

ブルー「違う、そんな理由じゃない」スッ


術士が首を振り、蒼い法衣の袖先はこの土地で一番小高い場所を指さしていた
 鳥居の先にポツンと居を構える祭神の家、此処の観光地の1つともされる神社であり、彼が[クーロン]に戻らず
此処へ寄り道に来た理由の一つであった



ブルー「以前訪れた時には留守だったようだが、あそこの社に居る巫女が『"時術"』…『"空術"』に関して知っている」

ブルー「そう聞きつけてな、今日ならば帰ってきていると聞いたんだ」


リュート「ふぅん?」



 噴水広場を突っ切って、左手にアルカナ・パレスそして昨日の喫茶店を、と横切り奇妙な狛犬(?)達の間を抜けて
年中紅葉が頂上からヒラヒラ舞ってくる山の石段を登っていく…


―――
――





202以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2018/01/26(金) 22:55:12.79Squ3hirp0 (2/3)

*******************************************************

【同時刻:マンハッタン 『キャンベル・ビル :社長室』




「しゃ、社長!例の物はなんとか回収し終えました!」




 機械仕掛けの摩天楼、そのリージョンの一等地にあたる立地条件で尚且つ大規模の高層ビルがある
大手ブランドメーカーとして名を馳せる、大企業"シンディー・キャンベル氏"の経営する会社だ

社長室内に慌ただしく駆け込んだ女性社員の声に落ち着きなさいな、と背を向けたまま口を開く



女社長「今日、[クーロン]行きになる筈だった品物は全品回収したのね?」


「は、はい……それにしてもとんだアクシデントでした、まさか爆破テロが起きてシップの立ち入り調査とは」




 ギィ、音を立ててキャスター付きのリクライニングチェアが向きを180℃変わる赤紫の帽子を被り
女社長ことミス・キャンベル氏は妖艶な笑みを浮かべて煙管<キセル>を吹かす…


キャンベル「うふふ…それもまた一興というものよ」ニコッ


「は、はい…//」ドキッ


キャンベル「あら?顔が赤いわね…階段を駆け上がるのに息を切らせたのかしら…それとも」スッ



煙管を手にしたまま、女社長は立ち上がる
 高そうな絨毯の上をゆったりと歩き、女性社員のすぐ間近で立ち止まる…品定めでもするように
息の上がった顔、少しはだけたカッターシャツから脚の爪先までをじっと眺める




キャンベル「私に逢いたくて堪らなかったのかしらねぇ?」クスクス


「しゃ、社長!お戯れを…」



キャンベル「あら、冗談ではないわよ、私の眼をごらんなさい」







女性社員は目の前の美しい瞳を見つめた、そして思うのだ「ああ、いつ見てもお美しい、ずっと眺めていたい」と






  まるで "蜘蛛" に絡めとられた蝶にでもなった気分だ



同じ女性でありながら、こうも夢中にさせられる、その辺の人間には決して感じられない色香に惑わされる
 …この会社に居る多くの人材がそうであった


キャンベル「…貴女、この後空いてるかしら?」

「はい?…あっ、いえ、あ、空いてますが…」





203以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2018/01/26(金) 23:24:33.38Squ3hirp0 (3/3)








          キャンベル「――――――」ボソボソ



               「~~~~っ!!///」







 - 貴女さえよければ、私の愛する人にならない?その気があるなら今夜、社長室にいらっしゃい -




耳元で愛の言葉を囁く



「あ、あぅ…」



言葉は女性社員の胸に火を灯す、耳たぶから顔全域が真っ赤だ




キャンベル「冗談ではなくてよ?…ふふ、貴女みたいな可愛い子は食べてしまいたいと思うわ」



ミス・キャンベルが舌なめずりをする、唇の端から反対側まで紅い舌の動きを目で追ってしまう…
 胸の動悸が収まらない、火照った身体が時よ、過ぎ去れ、陽よ今この瞬間に沈めと願ってしまう程に熱い
夜の冷えた外気に肌を晒したくて仕方ない、この女性の前で晒したいと強く想わずに居られない



キャンベル「どうかしら?……この世の物とは思えない多幸感を教えてあげるわよ」スッ…ススッ



ゆっくりと腕を女性社員の背に回し、後ろ首を撫でる…獲物を捕食せんとする蜘蛛の動きそのものだ



「わ、わたしでよろしければ…!!!」


キャンベル「ふふっ、良い子ね…そういう子は好きよ」ナデナデ


キャンベル「楽しみにしているわ、今夜をね」


「は、はい!…し、失礼しました…!」ダッ


キャンベル「まぁ、あんなに慌てて走ってしまって…そんなに恥ずかしいのかしらねぇ」




キャンベル「…今夜、私の元に来れば貴女に至福を与えることを約束するわ…」







     キャンベル「我らが【ブラッククロス】の劣兵として生まれ変われる至福を、ね」ジュルッ



…もう、後ろ姿さえ見えなくなった女性社員に、女社長はそう呟いた


204 ◆zJZqNVVhtuCN2018/01/27(土) 00:10:06.93WitPJlKy0 (1/5)




キャンベル「…あの子を初め、社員の4割は事実を知らないわね…」スッ



煙管を再び口につけ、椅子に腰を下ろす背凭れに身体の重心を預け室内に誰も居ないことを再度確認して独り言ちる
 "表向き"は新作のブランド物バックに欠陥があったため、出荷前に全品回収という筋書きだ



だが、本当の所はそうじゃあない





[クーロン]の"シーファー商会"なる場所にあるブツを発送する手筈だった…法律に触れるヤバい奴を、だ


偶然にも今回のテロ騒動で全便欠航、立ち入り調査が起きた為、事が発覚する前に社員に急ぎで
 欠陥品のブランド物の衣服や鞄を回収、世間様に自社のお株が下がってしまうようなお恥ずかしい事がばれる前に
引き取りをしました、とでも普通の社員は思っているだろう





 まさかこの会社が国際的な犯罪組織の武器を秘蔵に創り

  組織の支部に送っていると…犯罪の方棒を担がされているなど夢にも思うまい






キャンベル「さて…」カタカタ



煙管を置き、オフィスデスクのPCを立ち上げ、明日のリージョンシップのデータを見る…



キャンベル「まったく…シュウザーも急な注文を寄越すものね…戦闘員の育成がうまく言ってないのかしら」カタカタ



キャンベル「……明日、[クーロン]にあれだけの荷物を積載しても問題なく、その上で最短で到達する船は―――」









――――液晶画面には、白く美しい白鳥のフォルムを模った船が映し出されていた







キャンベル「リージョン・シップ『キグナス号』…ええ、今日のテロ騒動で配達できなかった分はこの船に乗せましょう」





社長室で…人ならざる女社長は魔女のような唇を釣り上げて笑う


―――
――





205 ◆zJZqNVVhtuCN2018/01/27(土) 00:59:40.76WitPJlKy0 (2/5)
















            …俺は何をしてるのだろうか














俺には使命がある


国家から、"親"である祖国に忠義を尽くすという大事な責がある






 だというのに、どうしてこうなった…







206 ◆zJZqNVVhtuCN2018/01/27(土) 01:54:54.97WitPJlKy0 (3/5)

*******************************************************
―――
――




【双子が旅立ってから2日目 夜19時07分 [クーロン] アニー視点 】





- エミリアも御人好しよねー、潜伏先に基地で知り合った男女3人を連れてきたいか -

- ブルーの奴に『キグナス号』の乗船代を約束させたけど、流石に明日までに用意しろー、とか無理よね -




- しゃーない

  そんときゃアタシのポケットマネーで建て替えときますかね、っと!このお惣菜半額シールじゃん!ラッキー! -





 九龍<クーロン>街にあるスーパーマーケット、そこは一般的な主婦もよく出入りする"普通"の店舗であった
大概、この街の店と呼べるモノは普通じゃない…マンホールの下で本物の拳銃の取引が行われたり
裏通りで政府軍の兵器が横流しで売られたり、白衣を着た怪しい学者風の男が[裏メモリーボード]を売ってたりする


 一見普通の飲食店にしか見えないイタリアンレストランだって金さえ振り込まれれば違法捜査やらなんやらを行う
裏組織があったりするのだから困る



買い物籠を腕にぶら提げ、"次の仕事"があるまで長期休暇の女が1人、仲間の無事を確認できたことからその祝いも兼ねて
ちょっとした酒盛りをしようとつまみを買いに来ていた


 活発な印象を受ける短髪の金髪ショートヘアー、男が見れば釘付けになるだろう裾の短いショートパンツに
ブラジャー一枚の上に緑のジャケットを羽織っただけのいつものラフな恰好




昨晩、ブルーと共に粗蟲の群れを撃退した女性アニーであった



余談だが、蟲に破かれたジャケットは自分で塗って縫合したらしい



アニー(エミリア帰還祝い、うんっ!パーッと飲み明かそうっと!)


緑の買い物籠の中は缶飲料(チューハイ)や酒瓶が数本、あとは缶詰の類や閉店間近の値引きシール付きお惣菜で埋まる


アニー(店が閉まるギリギリだと財布に優しいから良いわよね~、人参に大根、胡瓜、生野菜スティックも悪くない)ヒョイ



 瞬く間に籠の中身は埋まっていく、片手で持つには少し重くなった籠を両手で持ってレジへ運び会計を済ます
郵便局で施設に居る弟にも生活費の仕送りも済ませた、やるべきことは完璧、あとは友人…ライザ辺りを誘って
朝まで酔いつぶれてしまおうという算段だったが



アニー「えっ、ライザ来れないの!?」

受話器から聴こえる声『ごめんなさい、ルーファスと作戦の相談があって』

アニー「! へぇー、ルーファスとねぇ~」ニヤニヤ

受話器から聴こえる声『…作戦の相談だけよ、他意はないわ』


アニー「わかってるわ、ちょっとからかいすぎたわ…それじゃ!頑張ってね!」

ちょっと、アニー!と受話器から聴こえてくる声を半ば無視して通話を切る
『close』と書かれた看板をぶら提げたイタ飯屋に帰って1人寂しく、店内で飲み会か、とアニーは夜空を仰いだ