451以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/13(水) 01:18:44.56fVIls569o (1/1)

マヤさんどんだけ淫乱なのw
男嫌いなのに自慰までしてるし


452 ◆y7//w4A.QY2017/09/13(水) 01:29:16.86xQjA2YmQ0 (4/22)

【ネルフ本部 執務室】

冬月「やはり、衝動は抑えきれなかったか」

ユイ「……」

冬月「どうした? 指を眉間に当てて。キミが望む結果だろう」

ユイ「いえ。人選を間違えたかなと」

冬月「……?」

ユイ「わかりませんか? 伊吹二尉は喜んでます」

冬月「そうなのか?」

ユイ「会話を聞く限りですが。無理やりだったのは最初だけで後半は様変わりしている」

冬月「そうは聞こえなかったが」

ユイ「電波障害が起こったので、なにか企んでいるのではと思っていたのですが……」

冬月「ならば、計画的だと?」

ユイ「それは杞憂だったようです。私にとって計算外だったのは、伊吹二尉の性癖です」

冬月「……」

ユイ「アレは、男を嫌っているようで男を待っていたんですよ。はぁ、どうしたものかしら」

冬月「想定外の事態というのは理解した。サードチルドレンは契約を守ったことになるぞ」

ユイ「まぁ、私の気が変わったといえば済む話でしょうけどね」

冬月「しかし、女とはそういうものか? その、いやよいやよも好きのうちというが」

ユイ「先生。女性について理解がなさすぎです。言った通り、単なる性癖です。セックスしたら好きになるタイプですね、彼女は」

冬月「そんな者は男だけだと思っていたが」

ユイ「女に性欲がないと?」

冬月「そうは言っていない。だが、しなくてもいい生物だとは思う」

ユイ「気持ちよくない経験をしている場合など個人によりますけど。セックスが好きな人は好き。男女、同じ条件ですよ」


453以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/13(水) 02:27:37.04X983fqXEO (1/1)

部屋が汚くなった時点で保護者として適正なしと判断、アスカも移されそうなもんだがなあ。
あとハウスキーパーぐらいアスカでも払えるだろうよ

あ、18禁部分は笑えてよかったです


454以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/13(水) 03:01:26.45U3j6dzeSO (1/1)

ミサトとマヤさんどっちが良いかと言えば
そりゃマヤさんだわな


455以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/13(水) 07:57:33.89wVXjDLgDO (1/1)

ふぅっ


456以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/13(水) 10:21:56.93KevBnbIuo (1/1)

それにしてもこのオペレーター、ノリノリである


457以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/13(水) 10:37:03.679RRYtRTco (1/1)

これはもう付き合うしかないw
しかしアスカとマナはシンジが歳上の女に寝取られたと知ったらどんな顔するだろうな…


458以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/13(水) 11:48:12.93xQjA2YmQ0 (5/22)

冬月「よく、わからん」

ユイ「(そんなだからその歳で独り身なのよ)」ジトー

冬月「なにかね?」

ユイ「いえ。今後を検討しなおさなければいけませんね」

冬月「この手段にこだわる必要はなかろう」

ユイ「指示した意図は、シンジが自分で手を下すことにあったのです」

冬月「しかし、キミはアダムのせいだと書いていたではないか」

ユイ「例えそうであっても、割り切れたり開き直れる性格ではありません。“アダムのせい”というのは、自分への言い訳として、ジワジワと蝕んでいきます」

冬月「やつが行動を起こしたのに変わりはない」

ユイ「罪悪感が薄くなってしまう。喜ばれては」

冬月「……」

ユイ「むしろ“良かった”と思わせるきっかけを与えてしまいます。相手は望んでいた、これから挽回すればいい、と」

冬月「面倒な」

ユイ「思い通りに行きませんね。ふぅ、失敗してしまったのかもしれません」

冬月「キミが自分の非を認めるのか。めずらしいな」

ユイ「勘違いしないでいただきたい、やり方についてではありませんよ。あくまでも、人選についてです」

冬月「では、別の女を当てがうか」

ユイ「反省点を踏まえ、慎重に動かなければならないですね。次は、更にシンジと薄い関係の者を選ぶか……」

冬月「伊吹二尉とサードチルドレンにこれまで接点はほとんどなかったはずだ。性癖についてまで調べるのか?」

ユイ「必要であれば。シンジには、自分の手で誰かを傷つけ、取り返しのつかない事態に陥ってもらいたい」

冬月「やつの成長、魂の浄化か。穢れを知った時、アダムが本当の意味で目覚める」

ユイ「――ひとつ、案を思いつきました」

冬月「聞こう」

ユイ「セカンドチルドレンを使いましょう」

冬月「やれやれ、付き合いきれんな。……まかせる。使徒はどうする? こちらのタイムスケジュールにないが」

ユイ「昼間の件ですか。それならば、誰の仕業か見当はついています」

冬月「……? もしや」

ユイ「タブリスでしょうね。あちらはしばらくやりたいようにさせておきます」


459 ◆y7//w4A.QY2017/09/13(水) 12:26:57.93xQjA2YmQ0 (6/22)

【翌日 マヤ宅 】

シンジ「(結局、あれから三回も)」

マヤ「う、うぅん」

シンジ「(マヤさんが上になったまま。はぁ……凄かったな。絡みついて。アダムになにか、別の力、魅惑してしまうとかあるのかな……。綾波に確認しないと)」

マヤ「シンジくん……私、あのまま」

シンジ「あ、マヤさん。起きました?」

マヤ「うん。その、もうおさまった?」

シンジ「(大丈夫そうだ。電波を遮断して話をしなくちゃ……あれ、感覚が。力が使えない? なんで?)」

マヤ「……」ギュゥ

シンジ「あの、マヤさん? どうして、抱きついて」

マヤ「やっぱり、いつものシンジくんに戻ってる」

シンジ「はい、そうですよ。よかった。マヤさんも正気に」

マヤ「私、シンジくんどころか、自分自身についてなにもわかってなかったみたい」

シンジ「え?」

マヤ「そ、その、き、気持ちよかった、の。昨日、シンジくんとひとつになって。今は解放されたって気分」

シンジ「は、はぁ」

マヤ「今まで、私、男を生理的に受け付けられなかった。でも、思い返してみれば元からそうだったわけじゃなくって。いつからだろう、高校、大学と勉強ばかりしてたから縁がなくて」

シンジ「……」

マヤ「いいかなと思う人はいたって前に言ったの覚えてる?」

シンジ「はい」

マヤ「でも、拒絶感が強かった。こわかったんだと、思う。他人に踏み込まれるとどうしていいかわからなくて、微妙な空気に耐えられなかった。そう過ごしてる内に、男なんていらないと思いだして、不潔だからとか理由づけして――」

シンジ「……」

マヤ「在学中に提出した論文が先輩の目に止まって。そこからまた自立した女性への憧れを強くしていって」

シンジ「そう、だったんですか」

マヤ「先輩がかっこいいなぁって思った。寂しかったから、私。男の中で孤独でも凛としてる姿が、輝いて見えた」

シンジ「……」

マヤ「昨夜、最中にわかっちゃったんだ。私、白馬の王子様を待ってただけなんだって。嫌悪感をこじ開けてくれる人を」

シンジ「えっと」

マヤ「抱きしめて」

シンジ「は、はい」ギュゥ

マヤ「安心する……。先輩を想って、お、[田島「チ○コ破裂するっ!」]してたって言った時、引いた?」

シンジ「い、いや、その」

マヤ「ほ、ほんとの話なの。たまに、してて。また、抑えきれなくなったら、言って?」

シンジ「へ?」

マヤ「次は、もっとうまく、できると思う。今は、そのまだ入ってるような感じがするから、すぐには、無理だけど」

シンジ「ま、マヤさんっ! あのっ!」

マヤ「幸せ……。私の幸せってこんなことだったんだ」

シンジ「(ま、まぁ、いいのかなぁ?)」


460 ◆y7//w4A.QY2017/09/13(水) 12:30:24.38xQjA2YmQ0 (7/22)

コマンド発動してるんでレスしなおし


461 ◆y7//w4A.QY2017/09/13(水) 12:31:52.64xQjA2YmQ0 (8/22)

【翌日 マヤ宅 】

シンジ「(結局、あれから三回も)」

マヤ「う、うぅん」

シンジ「(マヤさんが上になったまま。はぁ……凄かったな。絡みついて。アダムになにか、別の力、魅惑してしまうとかあるのかな……。綾波に確認しないと)」

マヤ「シンジくん……私、あのまま」

シンジ「あ、マヤさん。起きました?」

マヤ「うん。その、もうおさまった?」

シンジ「(大丈夫そうだ。電波を遮断して話をしなくちゃ……あれ、感覚が。力が使えない? なんで?)」

マヤ「……」ギュゥ

シンジ「あの? どうして、抱きついて」

マヤ「やっぱり、いつものシンジくんに戻ってる」

シンジ「はい、そうですよ。よかった、正気に」

マヤ「私、シンジくんどころか、自分自身についてなにもわかってなかったみたい」

シンジ「え?」

マヤ「そ、その、き、気持ちよかった、の。昨日、シンジくんとひとつになって。今は解放されたって気分」

シンジ「は、はぁ」

マヤ「今まで、私、男を生理的に受け付けられなかった。でも、思い返してみれば元からそうだったわけじゃなくって。いつからだろう、高校、大学と勉強ばかりしてたから縁がなくて」

シンジ「……」

マヤ「いいかなと思う人はいたって前に言ったの覚えてる?」

シンジ「はい」

マヤ「でも、拒絶感が強かった。こわかったんだと、思う。他人に踏み込まれるとどうしていいかわからなくて、微妙な空気に耐えられなかった。そう過ごしてる内に、男なんていらないと思いだして、不潔だからとか理由づけして――」

シンジ「……」

マヤ「在学中に提出した論文が先輩の目に止まって。そこからまた自立した女性への憧れを強くしていって」

シンジ「そう、だったんですか」

マヤ「先輩がかっこいいなぁって思った。寂しかったから、私。男の中で孤独でも凛としてる姿が、輝いて見えた」

シンジ「……」

マヤ「昨夜、最中にわかっちゃったんだ。私、白馬の王子様を待ってただけなんだって。嫌悪感をこじ開けてくれる人を」

シンジ「えっと」

マヤ「抱きしめて」

シンジ「は、はい」ギュゥ

マヤ「安心する……。先輩を想って、お、[田島「チ○コ破裂するっ!」]してたって言った時、引いた?」

シンジ「い、いや、その」

マヤ「ほ、ほんとの話なの。たまに、してて。抑えきれなくなったら、言って?」

シンジ「へ?」

マヤ「次は、もっとうまく、できると思う。今は、そのまだ入ってるような感じがするから、すぐには、無理だけど」

シンジ「ま、マヤさんっ! あのっ!」

マヤ「幸せ……。私の幸せってこんなことだったんだ」

シンジ「(ま、まぁ、いいのかなぁ?)」


462 ◆y7//w4A.QY2017/09/13(水) 12:36:30.02xQjA2YmQ0 (9/22)

sagaでもだめなんだ
テスト

オ ナニー


463 ◆y7//w4A.QY2017/09/13(水) 12:42:02.14xQjA2YmQ0 (10/22)

18禁板なのになぜこのような仕様に
よく見たら昨日のオ ナニーの台詞もそうなってるみたいなんで以降は半角スペースとかあけます



464以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/13(水) 12:56:07.70ijrQkaM3o (1/1)

よく見たら1.8禁だったとか

乙!


465以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/13(水) 13:16:49.21AqIrgWhGo (1/1)

お、なにーって俗語っぽいし自慰とかマスターベーションにするとか
難しい言葉使った方がエヴァっぽいし

冬月のコメントがいちいちまともで笑う。かつて好意を持っていた相手とはいえ内心引いてそう


466 ◆y7//w4A.QY2017/09/13(水) 13:30:20.84xQjA2YmQ0 (11/22)

【マヤ宅 リビング】

シンジ「腰大丈夫ですか?」

マヤ「う、うぅん……大丈夫じゃないかも。腰よりも、歩く時、痛いかな。してる最中はホルモン分泌するから緩和され、今は冷静になって痛みがぶりかえしてる、なるほど」

シンジ「……」

マヤ「これが膜を破った状態なのね。あ、ごめんなさい。つい癖で。知識はあったけど実体験を元に改めて分析しちゃって」

シンジ「いや、いいですよ。ご飯は食べれます? なにか作りますか?」

マヤ「体調が悪いわけじゃないもの。食欲はあるわよ。……そうね、簡単なお料理でかまわないなら、お願い」

シンジ「目玉焼きとスクランブルエッグ、どちらがいいですか?」

マヤ「目玉焼き。あ、ちゃんと黄身は焼いて?」

シンジ「わかりました」ガタ カチ

マヤ「ねぇ、シンジくん」

シンジ「はい?」カンカン パカッ

マヤ「あのさ、変なこと聞いてもいい?」

シンジ「どうぞ」ジュー

マヤ「シンジくんって、ほんとに、童貞だったの?」

シンジ「ぶっ」

マヤ「だ、だって。あの、責め方とか、指使いとか。してほしいところにこれ以上ないタイミングできたっていうか」

シンジ「したことありませんよっ!」

マヤ「そ、そうなんだ」

シンジ「はぁ……」

マヤ「(ということは、才能? せ、セックスの才能があるってこと?)」

シンジ「醤油ですよね?」

マヤ「え? あ、う、うんっ!」

シンジ「ヨーグルト、食べます?」カチャカチャ

マヤ「うん、食べる」

シンジ「……」

マヤ「(中学生、かぁ……。はぁ、せめて高校生だったらなぁ……)」

シンジ「ご飯にします? それともトースト?」

マヤ「トースト」

シンジ「はい」ガサ

マヤ「(両親は、ネルフ総司令。経歴は共に博士号を取得。まだ中学生……男としてみると、発展途上だけど。家事全般は完璧、自主性はあるし浮気の心配もなさそう。良い家庭を築けそうよねぇ……。マコトくんやシゲルくんよりも……うぅん、こ、これ以上ない、優良物件?)」

シンジ「……」ジュー

マヤ「(問題は、やっぱり私の歳、よね。倫理的な話じゃなくても、シンジくんが成人する頃に、私は三十路近い。遊びたい盛りに私を見たままでいてくれるかしら……でも、シンジくん、誠実な対応してくれるし)」

シンジ「出勤は何時から?」

マヤ「(待って、何考えてるのよ。昨日は、抑えられなかっただけ。でも、シンジくんが、私の扉を開けてくれて……)」ドッキン ドッキン

シンジ「マヤさん?」

マヤ「(思いだしたら恥ずかしくなってきた。き、昨日、この子と……征服されて、気持ちよかったぁ)」トロン

シンジ「あの」

マヤ「シンジくぅん」

シンジ「……?」

マヤ「ちゅう、し――」

シンジ「はい?」

マヤ「……え? な、ななんでも、ないですぅ」


467 ◆y7//w4A.QY2017/09/13(水) 13:33:51.17xQjA2YmQ0 (12/22)

>>465
それはいい案ですね、そうします


468以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/13(水) 15:06:20.97WtlshlmDO (1/1)

マヤ完落ちwwww


469以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/13(水) 15:30:10.28oCXVNbn7o (1/1)

やはり師弟は似るか・・・同じように親子も
シチュは明らかに違うが


470以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/13(水) 16:20:29.48cJFSnR9Ho (1/1)

恐ろしいことに気付いたが、ユイの見立てが悪かったせいで
アスカが次の被害者になるってことだよなこれ

とんだとばっちりじゃね?尻拭いやん


471 ◆y7//w4A.QY2017/09/13(水) 16:20:46.11xQjA2YmQ0 (13/22)

【ネルフ本部 発令所】

リツコ「朝一番で例のプロトタイプが到着するわ。すぐに検証をはじめたいからデータ収集の準備をしておいて」

マコト「おっ、早速ですか。やけに行動がはやいですね、戦自」

リツコ「技術力を固辞するチャンスですもの。最近あそこ、良いところないから」

マコト「ネルフは目の敵ですよ。この前、厚木基地へ視察に行った時だって――」

マヤ「おはようございます、すみません。遅れました」

リツコ「定刻より十三分の遅れね。いつも五分前行動を怠らないよう指導しているでしょう、社会人失格よ」

マヤ「申し訳ありません」

シゲル「こわっ、遅刻は俺もしないようにしなくちゃ」

リツコ「組織に準ずるにあたり、時間を守れないのはご法度。余裕を持って行動をできる、全ての基本だからです」

マコト「まぁ、もうそれぐらいに」

マヤ「すみませんでした、みなさんにご迷惑をかけてしまい……」

シゲル「まぁ、誰にだって寝坊ぐらいあるって」

マコト「これから準備をするところだったんだ。アプリケーションのインストール手伝ってくれるかい?」

リツコ「はぁ……学校のクラブ活動じゃないのよ、ネルフは」

シゲル「了解しておりますとも」

マヤ「本当に、すみません。以降、ないように努めます。あの、今日のスケジュールは」

マコト「ライフルの試作品が到着するみたいだよ」

マヤ「ポジトロンライフルですか。はやいですね」

マコト「同じこと言ってる。必要な部品はこっちで組み立てるんですか? それとも既製品が?」

リツコ「三分割にバラして輸送されてるはず。こちらで行う分には細かい作業を除かれていると考えていい」

シゲル「発射実験は、しなくていいんすか?」

リツコ「MAGIのサポートで威力は理論値で算出してあるけど、精密性に細かい誤差が生じる。忙しくなるかもしれない」

マコト「使徒が潜伏しているようだし、間に合えばいいんですけどねぇ」

リツコ「まずは、装備するにあたり現存するエヴァに最適か否か、そこから計算をはじめましょう。みんな、作業にとりかかって」


472 ◆y7//w4A.QY2017/09/13(水) 16:48:58.80xQjA2YmQ0 (14/22)

【第壱中学校 HR前】

ケンスケ「またな! トウジ」

シンジ「おはよ――」

トウジ「おっ、センセか。今日はちぃとばかし遅かったの」

シンジ「もう帰るの?」

トウジ「妹の見舞いや。午前中だけな」

シンジ「サクラちゃん? ……そうだっ! 手術は⁉︎」

トウジ「うまくいったで。それに関してはシンジのおかげや、ほんま感謝しとる」

シンジ「終わってた?」

トウジ「つい先日な。なぁ~んも心配あらへん。お医者様のお墨つきや」

シンジ「よかった。でも、どうしてわざわざ学校に? 電話連絡でいいよね?」

トウジ「あぁ、新聞配達が終わって暇やったからな。職員室によったあと、ケンスケとダベッとっただけや」

ケンスケ「そーゆうこと。そういうところは神経図太いよなぁ、僕ならまっすぐ家に帰るけど」

シンジ「そっか。気をつけて」

トウジ「おうっ! また見舞いにきたってくれ!」

シンジ「もちろん」

トウジ「ほななっ!」タタタッ

シンジ「(サクラちゃん、手術がうまくいったんだ……はぁ、よかった。肩の荷がひとつ降りた)」

ケンスケ「よいせっと」ゴト

シンジ「ケンスケ、それって――」

ケンスケ「ふっふーん! よくぞ聞いてくれました! 見よっ! この美しい曲線美!」

シンジ「カメラ、なんだね」

ケンスケ「ただのキャメラじゃないぞ! なんと! ワンシャッターで秒間60連写が可能なレスポンスになってるんだ! これなら、ピントの合わせずらい霧島も……! ぐっふっふっ!」

マナ「私がどうしたの?」

ケンスケ「わぁっ⁉︎」バッ

マナ「なに、なに隠したの?」

ケンスケ「い、いいいっいや? なんでも……」

マナ「どうせカメラでしょ?」

ケンスケ「ぎくぅ!」

シンジ「ケンスケ、声に出てるよ」

マナ「無駄だと思うけど」

ケンスケ「な、なんで?」

マナ「私、写真にうつらない幽霊なの」

ケンスケ「……は?」

マナ「ぷっ、あははっ、冗談だよ。本気にした?」

ケンスケ「な、なんだ。冗談か」

マナ「ふふっ、あのね、相田くん」

ケンスケ「……?」

マナ「私の写真撮ってるのわかったら、バラすよ?」ニコッ

ケンスケ「……」ゴクリ

シンジ「ケンスケ、諦めなよ」

ケンスケ「はぁ……いい商売になるのに。とほほ」


473 ◆y7//w4A.QY2017/09/13(水) 17:08:02.68xQjA2YmQ0 (15/22)

マナ「あの、シンジくん――」

レイ「……」ガララッ

シンジ「あ、綾波!」タタタッ

マナ「っと」

ケンスケ「……」ニヨニヨ

マナ「なに?」

ケンスケ「いやぁ? なんかことあるごとにシンジに声をかけようとしてるように見えてさぁ」

マナ「それが?」

ケンスケ「なんでも」ニヨニヨ

マナ「ふぅ……相田くん」

ケンスケ「ん? なんだぁっいてぇっ⁉︎」

マナ「そういう邪推はいけないと思うの」ギリギリ

ケンスケ「いだっ! ちょっ、なんで、僕がこんな目に!」

マナ「ごめんなさいは?」

ケンスケ「だって、事実だ、ろっ!」

マナ「ご・め・ん・な・さ・い・は?」

ケンスケ「ご、ごめんくさい!」

マナ「よし、よく出来ました」パッ

ケンスケ「なんだよ、一体。惣流といい霧島といい、顔がかわいいやつはすぐに暴力を。これじゃあ、碇は綾波に――ひっ⁉︎」

マナ「……」ニコニコ

ケンスケ「無言の笑顔はやめろ!」

マナ「こういう男の子の扱い慣れてるんだ。前の学校の友達で。まだ時間あるし、ちょっと、体育館裏いこっか?」

ケンスケ「や、やだよっ! いだ! いだだっ! 耳引っ張るっ」

マナ「……ね?」ニコニコ

ケンスケ「い、碇っ! た、たすけっ! もがっ⁉︎」

シンジ「……?」キョトン

マナ「あ、碇くーん! 相田くん借りるねー!」

シンジ「あぁ、うん」

ケンスケ「(そりゃないだろ! 友の窮地を見捨て……いや、あの顔はわかってないんだ!)」

マナ「行こう?」ニコニコ

ケンスケ「(し、シンジ~~~っ!! ヘルプミ~~~ッ!!)」ズルズル


474 ◆y7//w4A.QY2017/09/13(水) 17:35:24.64xQjA2YmQ0 (16/22)

シンジ「綾波、おはよう」

レイ「おはよう」

シンジ「今、時間ある?」

レイ「なに?」

シンジ「早急に確認したいことがあって。例のやつ」

レイ「わかった。屋上に行く?」

シンジ「いや、頻繁に二人で抜け出すのはあんまり良くない。変な噂を立てられても、綾波が困るだろうし。ぼかして話そう」

レイ「碇くんがそうしたいなら」

シンジ「その、今やってる“ゲームの話”なんだけど。綾波もやってるんだよね?」

レイ「ええ」

シンジ「装備で最近、手につけるやつとったんだ。それの効果でわからないというか、疑問に思うのが」

レイ「なに?」

シンジ「魅惑したり、催眠にかけたりだとか、そういう効果ってあったりするの?」

レイ「……?」

シンジ「その、僕に……じゃなくて、えぇと、プレイヤーに夢中にさせるとか」

レイ「ないわ」

シンジ「え、ないの?」

レイ「そんなものは存在しない。干渉できるのは限られてる。他のプレイヤーに対してじゃない」

シンジ「(他のプレイヤー……って、他の人間ってことだよな。それだったら、マヤさんはずっと正気だった?)」

レイ「それだけ?」

シンジ「あっ! いや、もうひとつ! 途中で効果が使えなくなっちゃったんだ。原因がわからなくて。使おうとしても、なにも感じない」

レイ「手、かして」

シンジ「あ、うん」

レイ「……」スッ ニギ

シンジ「どう?」

女子生徒A「わぁ、朝から手を握ってるぅ」

女子生徒B「恋愛って楽しいのかな」

シンジ「あっ! えっと! ごめん! なんか手相、僕が見ようとか言っちゃって!」キョロキョロ

レイ「原因がわかった」

シンジ「……! どうして?」

レイ「まだ不完全なのが一番の理由。コレは生まれたばかりの胎児と同じ。これから成長要素がある」

シンジ「成長?」

レイ「育成。プレイヤーが自分の身体の一部として定着させ、装備もまた、安定していく」

シンジ「衝動の波がくる理由と似たような話?」

レイ「あれは装備の個性。……いわゆる“呪われた装備品”」

シンジ「(つまり、アダムの衝動はこれから先もどうにもならなくて、同化が進めば使えないようには……不安定にならないのか)」

レイ「碇くん。昨日、なにかあった?」

シンジ「えっ? ど、どうして?」

レイ「これもひとつの段階手順だから。こうなるには、衝動を抑えるきっかけがあったはず」

シンジ「でも、昨日はそんな兆候はなにも……」

レイ「無意識という言葉がある。もしかしたら、碇くんが自覚してないだけかも。学校が終わったら私のマンションに寄って」

シンジ「なにか話が?」

レイ「……」コクリ


475 ◆y7//w4A.QY2017/09/13(水) 18:25:45.80xQjA2YmQ0 (17/22)

【授業中】

教師「あー、セカンドインパクト以降、このような社会情勢の動きになったわけであります。私はその頃、根府川に住んでましてね――」

シンジ「(生まれたばかりの、胎児、か。生命が誕生したばかり。産声をあげた赤ん坊ですらないんだよね、キミは)」ピピッ

『ねっ、今日終わったら、用事ある? M/K』

シンジ「(端末に、通信?)」キョロキョロ

マナ「こっち、隣だよ」コソ

シンジ「どうやって? この端末、オフラインになってるはずなのに」

マナ「コマンドプロンプトからシステムをちょっといじっちゃった。上書き。えへへ、驚いた?」

シンジ「まずいよ。ログは残るんじゃないの?」

マナ「いくつか余計な手順を加えるけど、そういうのは得意分野。戦自で叩きこまれたから」

シンジ「大丈夫なの?」

マナ「私にまかしといて。それでどう? 終わったら、時間ある?」

シンジ「今日は、ちょっと」

マナ「誰かと、約束?」

シンジ「うん、先約が」

マナ「アスカ?」

シンジ「そうじゃないよ」

マナ「そっか、わかった。ごめんね、無理言って」

シンジ「どんな用事だったの?」

マナ「うぅーん、昼休みなら、時間ある?」

シンジ「うん、それなら大丈夫」

マナ「話を聞いてほしくて――」

教師「今日は偶数の日ですから、えー出席番号順だと、碇さん、答えなさい」

シンジ「え?」

教師「ん? どうした? 端末に問題が表示されとるだろう」

マナ「(あっ、やばっ!)」カチャカチャ ターンッ

シンジ「えっと、その」ピピッ

マナ「(シンジくんごめん! 今切り替えた!)」

教師「おいおい、これは簡単な問題だぞ」

女子生徒D「クスクス、これわからないんだ?」

マナ「……!」キッ

女子生徒D「な、なによ?」

シンジ「あ、Aです。答えはA」

教師「ふぅ、よろしい。次からはもっとはやく解答できるように」

シンジ「ふぅ……」

マナ「シンジくん、ごめんね」

シンジ「先生に見られてるから、もう一度、回線開いてくれる?」コソ

マナ「う、うん、いいけど」カチャカチャ

シンジ「……」カチャカチャ

『僕は気にしてない。マナが当てられなくてよかった。S/I」

マナ「あ……」

シンジ「……」ニコ

マナ「(どうして、そんなに優しくしてくれるの)」


476以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/13(水) 20:41:48.63ffvb1rPrO (1/1)

シンジの手を汚させるならカヲル殺ればいいんじゃ?


477 ◆y7//w4A.QY2017/09/13(水) 21:53:57.69xQjA2YmQ0 (18/22)

前スレと今スレで大きく書き直してるポイントはそこなんですよ
端折って説明しますが前スレではシンジがカヲルを手にかけてまして、今スレではヒロイン達の出番を目一杯増やし違う展開にしています


478 ◆y7//w4A.QY2017/09/13(水) 22:16:09.53xQjA2YmQ0 (19/22)

【ネルフ本部 食堂】

シゲル「今日はなんにすっかなー。カツ定食もいいし、カツ丼も捨てがたいし」

マコト「カツばっかだな、お前」

シゲル「うめーだろ?」

マコト「卵とじかそうじゃないかの違いしかなくないか」

シゲル「ノンノン、カリッとしてるか、ふわっとしてるか。大きな違い」

マコト「なんでもいいからさっさと決めろよ。食券販売機の後ろに並んでる列が見えてるだろ」

シゲル「はいはいっと」ピッ

マヤ「うどん、ひとつ。お願いします」

シゲル「おっ、あれは」テクテク

マヤ「……」

シゲル「よっ、マーヤちゃん」ポンッ

マヤ「なに?」

シゲル「あれ? 意外だなぁ、すっげー嫌な顔されると思ってたんだけど」

マヤ「期待してたの? そういう趣味が……」ススス

シゲル「い、いやいやっ、違うってぇ。俺に気安く肩に手ぇ置かれるのいつも嫌がってるだろ」

マヤ「あぁ。なんだ、そういう」

シゲル「もしかしてこれって俺に脈あり?」

マヤ「天変地異が起こってもないわよ」

シゲル「きっつー。今はそうかもしれないけどさぁ、ある日突然変わるなんてこともあるもんだぜ?」

マヤ「ないわね。私、青葉くんみたいな人嫌いだもの」

シゲル「おやまぁ。はっきりと」

マヤ「それに、今は恋愛とかしてる暇ないし――」

シンジ『マヤさん』

マヤ「(や、やだ、なんでシンジくんの顔が)」

シゲル「そうかねぇ、恋はいつだってしていいと思うけどなぁ」

マヤ「そう思うなら勝手にしたらいいじゃない」

シゲル「なら、今度、俺とデートしねぇ?」

マヤ「お断り」

シゲル「なんでだよ。相手いないんだろ?」

マヤ「いるわよ、私にだって、相手」

シゲル「へぇ、誰?」

マヤ「教える必要ない」

おばちゃん「はい、お待ち! うどんね!」

マヤ「ありがとうございます」スッ テクテク

シゲル「ちぇ、黙ってりゃかわいいのになぁ」

おばちゃん「ちょっとあんた、しつこい男は嫌われちまうよ?」

シゲル「その内芽がでるかもしれないっすよ。カツ丼お願いしまーす」

おばちゃん「気がつかないのかい? あれはね、恋してる女の顔だよ」

シゲル「は?」

おばちゃん「いやぁ、マヤちゃんは良い子だからねぇ、ようやく春がきたってか。ほら、食券だしな。お邪魔虫」

シゲル「ひ、ひどくねぇすか?」スッ

おばちゃん「デリカシーのない男の扱いにはこれぐらいでちょうどいいのさ」ヒラヒラ


479 ◆y7//w4A.QY2017/09/13(水) 22:52:00.10xQjA2YmQ0 (20/22)

ミサト「だあーっもう! また負けたぁ」

マヤ「葛城一尉。隣、いいですか?」

ミサト「とほほぉ。これで今月も節約生活かぁ」ションボリ

マヤ「あの、葛城さん」

ミサト「あによ?」ギロッ

マヤ「えっと」

ミサト「あらぁ、マヤちゃんじゃなぁ~い! めずらしいわね! 食堂であたしに声かけてくるなんて」スポッ

マヤ「音楽でも?」

ミサト「あぁ、これ? 違う違う! そんなもんたいして聴かないもの!」

マヤ「隣、座ってもかまいませんか?」

ミサト「どーぞどーぞ! 汚いところですけど」

マヤ「失礼します。あの、音楽じゃないならなにを?」コト

ミサト「ラジオ。夏競馬って予想が難しいのよねー」

マヤ「け、競馬?」

ミサト「そぉ。たまにしかやらないんだけど。息抜きにねん」

マヤ「は、はぁ」

ミサト「すっかりはずしちゃった。これで今月も苦しくなっちゃうなぁ」

マヤ「不謹慎じゃありませんか?」

ミサト「へ?」

マヤ「昨日、シンジくんが遅く帰ってきた理由を聞きました。葛城一尉のお宅に伺ってたって」

ミサト「夕ご飯作ってもらっちゃったのよー。シンちゃんの手料理はもう食べた? アスカにして絶品だって評判よ~?」

マヤ「そうじゃなくって。パイロットですし、あまり遅い時間に帰宅させるのは。ホームヘルパーを雇ったりされたら……」

ミサト「そうしたいのはやまやまなんだけどさぁ。シンジくんに時給払う方が安く済むのよねぇ」

マヤ「そんなに相場高いですか?」

ミサト「セカンドインパクト前はけっこう繁盛してたみたいだけど。今って人手不足らしくって。足元見た値段設定してんの」

マヤ「それでも、パイロットの金銭はネルフの管理下にあるので要求できませんけど、葛城一尉は私より高給取りですし」

ミサト「まぁねぇ。その点については否定できませんけども。シンジくんがなにか言ってた?」

マヤ「あ、いえ。私はただ、パイロットの保安上の問題を指摘しただけで」

ミサト「んー、そうね。それなら、あたしが送るってうのはどう?」

マヤ「それなら」

ミサト「よし、それじゃ問題ない? きつねうどん、おいしそうね」

マヤ「まぁ、食堂のおばちゃん上手ですから。話は戻りますけど、シンジくんの――」

ミサト「ねぇ、マヤちゃん」

マヤ「え、はい。なんでしょうか」

ミサト「シンジくんとなんかあったの?」

マヤ「へ?」

ミサト「やけに気にするなぁと思って。深い意味はないのよ? ただ、これまでマヤちゃんとシンジくんって必要以上に接点なかったじゃない?」

マヤ「あっ、そ、それは」

ミサト「一緒に住み始めてから、なにか?」

マヤ「い、いえっ、なにも」

ミサト「……?」




480 ◆y7//w4A.QY2017/09/13(水) 23:20:57.93xQjA2YmQ0 (21/22)

【第壱中学校 昼休み 体育館裏】

マナ「これ、よかったら」パカッ

シンジ「サンドイッチ? マナが作ったの?」

マナ「うん、前回ははりきりすぎちゃって。量が、その、ね」

シンジ「ありがとう」

マナ「一緒に食べよ、えへへ。あ、そこの石段に座ろうよ」タタタッ

シンジ「うん」

マナ「ごめんね、簡単なので」スッ

シンジ「気にしないでよ。こうして作ってきてくれてるんだし」

マナ「私、こんな風に自然に学校生活送れるなんて思ってなかった。全部、シンジくんのおかげ」

シンジ「僕は、なにも」

マナ「そうなんだよ? ネルフにバレて、シンジくんが助けてくなかったら……今頃。だから、凄く感謝してるんだ」

シンジ「僕は、自分にできることをしただけだよ。それに、この生活をいつまで続けられるか」

マナ「気づいてる。いつかは終わりがくるもんね。任務を無事完遂できても、帰還命令がでればそれまで。私は戦自。シンジくんはネルフだから」

シンジ「それに、マナの友達も……」

マナ「うん。私がここにいる意味は、友達のため」

シンジ「……」

マナ「それも全部含めて、任務という枷をはずしてくれたシンジくんに感謝してるんだ。今はもう、なるようになっちゃえっ! って開き直れてる」

シンジ「そうなんだ」

マナ「頼れる人がいるのといないのってこんなに違うんだね。単独潜入って思うとこわかった……」

シンジ「……」

マナ「精一杯、取り繕って笑顔ふりまいて、なんでもないって自分に言い聞かせて。チルドレンに計算して近づかなきゃって内心、必死だったの」

シンジ「……」パク モグモグ

マナ「今は、一人じゃないよ。私」

シンジ「マナが計算でそうしてなければね」

マナ「へ?」キョトン

シンジ「冗談だよ」

マナ「ぷっ、あははっ、シンジくんも冗談言うんだ」

シンジ「うん」

マナ「私ね、シンジくんに色仕掛けしようとしてたの」

シンジ「へぇ」

マナ「あっ、なに? その興味ないって感じ。私、かわいくない?」

シンジ「そうは言ってな――」

マナ「ねぇ……ドキドキしない……?」ズィッ

シンジ「ま、マナ?」

マナ「シンジくん……こうやって近づいても、なにも感じない……?」スッ

シンジ「いや、えーと」

マナ「ぷっ、だめ、笑っちゃう」

シンジ「からかわないでよ、もう」


481以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/13(水) 23:24:17.06OfhPw5cqo (1/1)

大人の女を知っちゃったら中学生とか子供にしか見えないだろうな


482 ◆y7//w4A.QY2017/09/13(水) 23:39:31.13xQjA2YmQ0 (22/22)

マナ「あの、それで話っていうのは――」

シンジ「情報がほしいの?」

マナ「(やっぱり、わかってたのね)」

シンジ「一度も伝えてないから。そろそろ話さなきゃいけないと思ってたんだ」

マナ「ごめん。なんだか、催促してるみたいで。これじゃ、計算って思われてもしかたないね」

シンジ「マナが聞いてくる前に僕が言うべきだっただけだよ」

マナ「……」グスッ

シンジ「なにが聞きたい――」

マナ「どうして? どうしてそんなに優しくできるの? 私、利用してるのに変わらないんだよ。やってることと言えば、このサンドイッチだけ」ポロポロ

シンジ「あ……」

マナ「いなくなっちゃうんだよ? 最低な女だと思わないの? なんの見返りもないのに」

シンジ「……」

マナ「シンジくんなら、いいよ」

シンジ「へ?」

マナ「もっと、要求してきても。戦自の情報がほしい? それとも、私を使って――」

シンジ「そんなことはしないっ!」

マナ「……」ビクッ

シンジ「僕がしたいようにしてるだけだから。マナは気にしないで」

マナ「気にするよっ! 無償の優しさなんだもんっ!」

シンジ「マナだって、優しいじゃないか」

マナ「違うの! いたたまれないからラクになりたいだけ! だからっ、私はっ!」ポロポロ

シンジ「なにかしてないと気になるって言うなら。僕はもうもらってる」

マナ「え? なにを?」グスッ

シンジ「友達になれたし。それで充分だよ」

マナ「そんなのっ、私だって、もらってるよ」

シンジ「……」スッ

マナ「シンジくん」

シンジ「あんまり泣いてちゃ、目が腫れちゃうよ。ハンカチ」ポン

マナ「ありがとう……」スッ

シンジ「え、あの」

マナ「どうしよう、私、ムサシとケイタを救う目的できたのに、シンジくんの為になにかしたいって思いだしてる」

シンジ「えぇと」ポリポリ

マナ「でもね、あの二人にも、こうやって手をつないだりしたことない」

シンジ「そ、そうなんだ」


483 ◆y7//w4A.QY2017/09/14(木) 00:13:33.45XT8+GniQ0 (1/8)

マナ「恋人つなぎっていうんだって。指と指を絡めるの」

シンジ「……マナは、吊り橋効果にかかってる」

マナ「え?」

シンジ「切迫した状況だから。僕に恩を感じて、僕しかいないって思い込んでるんだと思う。いつも以上に頼り甲斐があって見えたり」

マナ「そ、そんなっ! 私! 本当にっ!」

シンジ「この任務が無事終われば、向こうの日常に帰れる。そうしたら遠い思い出みたいになるんじゃないかな」

マナ「違うもんっ! そんなんじゃない!!」

シンジ「答えは、そうなった時にわかるよ」

マナ「(だって、シンジくんみたいな同年代がいるっ⁉︎ この人、自分の価値をわかってない!)」

シンジ「今は、生き延びること。それに集中しよう。それがマナ自身、友達の為にもなるから」

マナ「……っ!」グッ

シンジ「なにを知りたいの?」

マナ「(悔しい。どうしたら伝わるんだろう……)」

シンジ「マナ?」

マナ「ふぅー……。戦自が必要としてる情報は、ネルフの人事に不審な点はないか。なにか、ある?」

シンジ「あるよ。だけど、全てはまだ教えられない。周辺調査はすすんでるの?」

マナ「もう一人、潜入してるの。そっちでも洗ってると思うんだけど……」

シンジ「え?」

マナ「ごめんなさい、誰かは私も教えられない」

シンジ「わかった。無理がないように小出しにしよう。ネルフという組織について、どこまで把握してる?」

マナ「表に出てる一通りは。知りたいのは、裏だから」

シンジ「だったら、参謀である副司令。冬月っていう名前なんだけど、彼に相当の発言力があるっていうのは?」

マナ「どれくらい?」

シンジ「そうだね、人事に口出しできるぐらい」

マナ「え? でも、ネルフは直接的に関われないでしょう? さらに上層組織が存在しているはず」

シンジ「だからだよ。怪しい点を見つけたって報告するんじゃだめかな」

マナ「どうして見つけられたのか、経緯が必要だわ」

シンジ「僕に聞いたと言えばいい。マナは色仕掛けをしようとしてたんだろ? そういう目的で」

マナ「あ、たしかに……」

シンジ「僕と距離が近づいてる。作戦は順調だ、ただし、核心に辿り着くのはまだ時間がかかりそう。こういうのはどう?」

マナ「うん! いいかも!」

シンジ「うん、そんなところかな」

マナ「早速、今夜連絡してみるね」

シンジ「またなにかあったら言って」

マナ「今夜、アスカのところにまた行くの?」

シンジ「昨日に作りおきしてあるから行かないよ」

マナ「作りおき? なにそれ?」

シンジ「あぁ、アスカと、ミサトさんっているんだけど。僕たちの上官にあたる人。その二人、一緒に住んでるんだけど、家事全般なにもしないから」

マナ「へぇ、それでシンジくんが? 大変だね。同じパイロットなのに任務が別って。アスカってそんなに優遇されてるんだ?」

シンジ「あ、いや、これは、任務じゃなくて」

マナ「へ? ま、まさか……」

シンジ「そう、まぁ、普通の、こと」


484 ◆y7//w4A.QY2017/09/14(木) 00:39:14.28XT8+GniQ0 (2/8)

【教室】

マナ「はぁっはぁっ」キョロキョロ

アスカ「それでさぁ――」

マナ「……!」ズンズン

ヒカリ「へぇ、そうなんだ。あれ、マナ。どうした――」

マナ「アスカぁっ!」ブンッ

アスカ「なに、え?」

マナ「このっ!」バチンッ

アスカ「きゃ!」ガターン

ヒカリ「ま、マナっ⁉︎ いきなりなにやって⁉︎」

アスカ「……」ツゥー

マナ「なに考えてるのよ!」

ヒカリ「アスカ、鼻血……!」

アスカ「……」ムクッ ユラァ

シンジ「はぁっ、はぁっ、マナ、待っ――……アスカっ⁉︎」

アスカ「言いたいことがあんならさっさと言いなさい。遺言は聞いてあげる」

マナ「シンジくんは奴隷じゃないのよ! あんた自分勝手すぎでしょ!」

アスカ「……」チラッ

シンジ「ちょ、ちょっと待ってよ! 二人とも!」ダダダッ

アスカ「あんたにあんたとか言われる筋合いないわよ。演技もここまでくればたいしたもんね」

マナ「アスカが勝手に思ってるだけでしょ?」

アスカ「言っとくけど、先に手をだしたのあんたの方だからね」

マナ「上等よ。黙ってやられると思ってんの?」

アスカ「はっ、とんだ猫かぶりだったわけね。いいの? ファンが減るわよ」

シンジ「ち、違うんだ! 僕は別になんとも思ってなくて」

アスカ&マナ「シンジ(くん)は黙って(なさい)!!」

シンジ「……」

アスカ「最初からどっかソリが合わないんじゃないかと思ってたのよねぇ~。いい機会だわ」ポキポキ

マナ「あら、奇遇ね。私もそう思ってた。エリートだっていつも鼻にかけてさ、嫌みったらしいたらない。存在するのは雑兵のがいてこそじゃないの?」

アスカ「それこそ負け犬の発想よ。いくら束になっても代わりのきかないのがエリート。雑に扱われないもの、読んで字の如くね」

マナ「……っ!」キッ

アスカ「やけに反応するじゃない? あんた、身分の低い雑兵?」

マナ「どうしてそうなのよ! あんただけが特別だと思ってんの⁉︎」

アスカ「はっはーん。思ってんじゃないの。事実! そうなの! っよ!」ブンッ

マナ「くっ!」ブンッ

シンジ「二人とも! だめだったら!」ダンッ


485 ◆y7//w4A.QY2017/09/14(木) 01:08:29.93XT8+GniQ0 (3/8)

アスカ「ちょっ!」

マナ「し、シンジ――」

アスカ「(無理っ!)」

マナ「(止められないっ!)」

シンジ「うぐっ」バチーーンッ

アスカ「あー」

マナ「だ、大丈夫っ⁉︎」

アスカ「見事に決まったわね」

マナ「て、手加減ぐらいしたら⁉︎」

アスカ「あんたも思いっきり振りかぶっておいてなに言ってんのよ」

マナ「私のせいにする気っ⁉︎」

アスカ「単細胞」

マナ「なんですってぇっ」

ヒカリ「少し落ち着きなさいよ! 今は、碇くんを」

シンジ「いっつ」ムクッ

アスカ「ふん、あたしは謝らないわよ。シンジが勝手に飛びこんできただけじゃない。事前に黙ってろって忠告したし」

マナ「なんて言い草」

シンジ「はぁ、いいんだ。アスカは」

マナ「平気? シンジくん」

アスカ「加害者のくせによくそんなマネできるわねー。プライドないの?」

マナ「……!」キッ

シンジ「二人とも、聞いて。僕は、前にも言ったけど、喧嘩するのに否定はしない。やりたいなら、やればいい」

アスカ「……」

マナ「……」

シンジ「マナが怒ったのは、僕のことを心配してくれたんだ。アスカにいきなり、その、ビンタしたのはマナが悪いけど。それがきっかけ」

マナ「シンジくん……」

シンジ「仲悪くなる原因が、僕だなんて嫌だよ。もちろん、二人はそうじゃないって言うんだろうけど」

アスカ「当然ね、きっかけはきっかけ。その程度で壊れる友情ならいつかはそうなる」

シンジ「うん、それも、もっともだと思う。だけど、僕がいなかったらとも、僕は思うんだ。ボタンのかけ違いなだけなのに」

マナ「……」

アスカ「はぁ」ポリポリ

マナ「アスカ、とりあえず、今日は」

アスカ「その点については同意。しらけちゃったし」

マナ「いきなり、はたいて、ごめん」

ヒカリ「……」ソワソワ

アスカ「謝罪はいらない。いつか、やり返すから」

シンジ「(人間関係って難しい。どうするのが一番よかったんだろう、喧嘩させた方がよかったのか)」

ヒカリ「碇くん、保健室いく? アスカは?」

アスカ「私はいい」

シンジ「僕も平気だよ」

ヒカリ「両頬にキレイなモミジができあがってるけど」

シンジ「え?」

アスカ「ぷっ、くっくっくっ、マヌケヅラ」


486以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/14(木) 01:53:40.29DCpfEGtoo (1/1)

最近ペースがよくて嬉しいどす


487以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/14(木) 02:50:34.17Qk6kLKuzo (1/1)

さりげないヘルパー事情は嬉しい。


488以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/14(木) 08:13:22.242OhPpwWIO (1/1)

部屋が汚いぐらいで監督能力なしと判断されるなら原作でも解消されとるわな
パイロットも給料もらってる場面ないし


489以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/14(木) 19:05:00.173aGdIRl3O (1/1)

誰かが家事を担うならって黙認されてただけでは?
パイロットの衛生状態が冒されるなら上が黙ってるとも思えん


490以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/14(木) 20:24:16.06QHuEBgjlO (1/1)

>>489
シンクロテストの結果が全てだぞ
不衛生、衛生的にかかわらず数値落ちなけりゃいい
ゲンドウがそういう方針


491以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/14(木) 20:36:21.62tS2Wyyh2o (1/1)

アスカの態度は確かに酷いけど言いなりになるシンジにも問題ある
そもそも第三者のマナが話もせずいきなり殴るのはルール違反。アスカの煽りがかっけー


492 ◆y7//w4A.QY2017/09/14(木) 20:53:02.80XT8+GniQ0 (4/8)

チルドレンの衛生面について書かせてもらいます

まず前提としてチルドレンの給料面と衛生管理について原作内でなにも言及されていません

・衛生管理面を理由に解除する場合
原作アニメ、漫画、両方にミサトのズボラな性格上、辻褄が合わなくなります
・パイロットのシンクロ数値重視で解除する場合
アニメ版19話以降のアスカのスランプ時に同居解除などの対応策を模索せずにそのまま放置したのでこれも違う

公式で見解が公開されていませんので黙認していたなど様々な考察の余地があると思います
実際、そこらへんを突っこんで解釈をしている二次創作物を読んだことがあります

自分個人の見解はパイロットはどうでもよかったんじゃないかなと
碇ゲンドウは「初号機さえあればいい」「パイロットを“補填”」と原作内で明確に発言していますし、サードインパクトを起こす際に必要だったのはシンジじゃなく初号機なんです
初号機がダミーを拒絶したので起動するのにシンジが必要になってしまいましたが、これを抜きにして考えると
使徒撃退に対する対抗策、つまり繋ぎの戦力程度ぐらいしか考えてない、と解釈しています

当二次SSではそこらへんはざっくりでいいと思ってるので詳しい理由づけはしません
このSSの世界ではそういうものだと思って読んでいただけると幸いです


493 ◆y7//w4A.QY2017/09/14(木) 21:35:13.92XT8+GniQ0 (5/8)

【放課後 教室】

アスカ「あー終わった終わったぁ」

ヒカリ「本当に大丈夫? 痛くない?」

アスカ「平気よ。転んだ拍子に鼻打っただけだし」

ヒカリ「マナったら、どうしていきなりあんなことしたんだろう」

アスカ「大方シンジがあたしの家に料理作りにくるのが気に入らなかったんでしょ」

ヒカリ「え? 碇くんが?」

アスカ「そ」

ヒカリ「なんで? ユニゾンの時に一緒に住んでたじゃない。今は別々に暮らしてるの?」

アスカ「そういやヒカリは知らなかったんだっけ。なんやかんやあって、シンジは別のとこ。あたしはミサトのとこのまま」

ヒカリ「そうなんだ。でも、近いんでしょ?」

アスカ「住んでるとこ? そうねぇ、バスで30分ぐらい?」

ヒカリ「……」

アスカ「どしたの? ヒカリ」

ヒカリ「あの、それって。無理やりじゃないよね?」

アスカ「そんなわけないじゃない。あいつがオーケーしたからそうなってんのよ」

ヒカリ「(嫌でも、断りそうにないからな。そっか、マナが怒ったのってそういう理由)」

アスカ「なに考えてるかわかる。嫌だとか無理なら断るべきでしょ。それでもやれって言ったわけじゃないし。本人の自己主張の問題よ」

ヒカリ「うぅーん」

アスカ「シンジだって得がないわけじゃないわよ? あたしの顔を拝める口実ができたんだからさぁ」

ヒカリ「そ、それは。学校でも……」

アスカ「ま、なんにせよ当事者同士で合意が済んでるなら外野は黙ってろって話。第三者があーだこーだ言うと話が大きくなるしこじれる。はっきりした態度を示さないシンジが悪いわ」

ヒカリ「うん、それは、そうかも」

アスカ「優柔不断って良く言えば優しいんでしょうけどねぇ、ナヨナヨしちゃってさ。ああいうとこ直せば少しは」ボソ

ヒカリ「ふふっ、そうだね。たしかに男らしさとは違うもんね」

アスカ「極端なのは嫌だけどね」

ヒカリ「言えてるぅ」


494 ◆y7//w4A.QY2017/09/14(木) 22:18:37.40XT8+GniQ0 (6/8)

【第三新東京都市 喫茶店】

マナ「アスカったら遠慮って知らないのかしら。普通、友達だったら、大変そうだな、とか考えるもんでしょ?」

ケンスケ「……」ズゾゾー

マナ「シンジくんの優しさに。甘えてるって自覚がないのよ。ねぇ、そう思わない?」

ケンスケ「なぁ、霧島」

マナ「なによ?」

ケンスケ「なんで僕はここにいて愚痴を聞かされてるんだ? 友達じゃないのか?」

マナ「ジュース奢ってるじゃない。相田くん暇そうだったし」

ケンスケ「(こいつはこいつで碇を特別扱いしてるってわかってない……)」

マナ「頭にかーっと血がのぼったのは悪かったけど。でも! アスカだって悪いわ!」プイッ

ケンスケ「はぁ、めんどくさいことになったなぁ」

マナ「相田くんはシンジくんと仲良いんでしょう?」

ケンスケ「たしかにねぇ、だけど、なんでもかんでもってわけじゃないさ」

マナ「どうして? 友達が困ってるかもしれないんだよ?」

ケンスケ「シンジが本当に嫌なら断ると思うし。まぁ、たしかに断りづらそうな感じするけど。惣流は気が強いからなぁ」

マナ「それに碇くん、ほっとけないって言ってた。ダメな子ほどかわいいって言うじゃない? それに似たような感じで、だらしないアスカが悪い」

ケンスケ「誰が悪いってこだわるよりも、それぞれ悪いところはあるんじゃないか?」

マナ「シンジくんが悪いって言うのっ⁉︎」バンッ

ケンスケ「ちょ、落ち着けよ。とほほ、最初はそんな子だと思ってなかったのに」

マナ「誰が? 私?」

ケンスケ「そーだよ。少し大人びて見えたからな」

マナ「今は伸び伸びしてるからね」

ケンスケ「今は?」

マナ「なんでもない! ……あれ? あそこ歩いてるの、シンジくんじゃない?」

ケンスケ「お、本当だ。よく見つけ――むぎゅ」

マナ「テーブルの下に隠れて!」ガッ

ケンスケ「ええい! 頭から手をはなせよ! 僕はテーブルとキスする趣味なんかない!」

マナ「はやく!」

ケンスケ「心配すんなって、窓際の席と言っても店内なんか見ないよ、というか、なんで隠れるんだ?」

マナ「変な誤解されたら困る」

ケンスケ「はぁ……そうですか。あれ? 一緒に歩いてるのって綾波か?」

マナ「ホントだ。先約って綾波さんだったの」

ケンスケ「碇、急に女の子と縁が増えたっていうか。最近はアスカに、霧島、綾波か。この三人のどれかと一緒だよなぁ……ひっ⁉︎」

マナ「相田くん」ニコニコ

ケンスケ「な、なんだよ」

マナ「シンジくんと綾波さんの関係で知ってること全部話して?」

ケンスケ「い、嫌だよっ! 僕は友達を売るようなマネ!」

マナ「……」ニコニコ

ケンスケ「(す、すまん。碇、僕は負けてしまうかもしれない)」


495以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/14(木) 22:30:11.14Mhqg98oKo (1/1)

どんどんマナがウザくなっていく


496 ◆y7//w4A.QY2017/09/14(木) 23:04:07.82XT8+GniQ0 (7/8)

【綾波宅 室内】

シンジ「綾波のところに来るの、久しぶりだね」

レイ「着替えるから、待ってて」ガララ

シンジ「あ、うん」

レイ「……」シュル パサ

シンジ「……? 綾波」

レイ「なに?」スッ パサ

シンジ「ここにあった、父さんのメガネケースは」

レイ「……」スルスル

シンジ「どっか別の場所に移動させたの?」

レイ「もう、必要なくなったから」ガララ

シンジ「必要ない? それって――わぁっ⁉︎」

レイ「……」スタスタ

シンジ「あ、ああああっ綾波っ⁉︎ どうして服きてないの⁉︎」

レイ「碇くん」

シンジ「ちょ、待って! なんで⁉︎ 服きてよ!」

レイ「私がイヤ?」

シンジ「嫌とかそんなんじゃ、状況が突然すぎてわけがわからないよ! とにかく前を」

レイ「必要な儀式」

シンジ「ぎ、儀式?」

レイ「生存、種存、存在。この三つにヒトの本能はわけられる。アダムがなぜ破壊衝動を持つか、わかる?」

シンジ「わ、わからないけど」

レイ「ヒトの概念にとらわれてはだめ。アダムに本能があるとすれば、好奇心。欲求を満たすため、それが突発的発作となって顕著になる」

シンジ「どういう関係があるの?」

レイ「私を壊していい」

シンジ「……っ!」

レイ「昨日、なにがあったの?」

シンジ「そ、それは……」

レイ「いい、今から強制的に呼び覚ます」スッ

シンジ「えっ」

レイ「……」ギュッ

シンジ「あ、綾波っ? ……うっ」

レイ(少女)「リラックスして。なにも考えなくていいわ」

シンジ「き、きみは」

レイ(少女)「アダムと対話しなくちゃ。そう、身体で」

シンジ「だ、だめだ……! そんなこと!」

レイ(少女)「ひとつになる。それはとてもとても気持ちのいいこと。碇くんだって、私とひとつになりたいでしょう?」

シンジ「こんなのっ」

レイ「抵抗すれば魂に揺らぎが生じる。苦痛を伴うツライ思いをするだけ」

シンジ「いいよ……! それでも! 大事なのは僕の意思だ!」

レイ「……」スッ


497 ◆y7//w4A.QY2017/09/14(木) 23:39:05.04XT8+GniQ0 (8/8)

シンジ「ぐっ、はぁはぁっ」

レイ(少女)「頑固ね」

レイ「どうする?」

レイ(少女)「原子と分子の融合の妨げになってしまう。碇くんの自我が保てなくなってしまうわ」

シンジ「綾波、ちゃんと話をするから」

レイ(少女)「経緯はそれほど重要じゃない。私たちが今日、碇くんをここに招待したのは、アダムの状態が次のフェーズに移行すると判断したから」

シンジ「次の?」

レイ「なにがあったの?」

シンジ「母さんから手紙を渡されたんだ。一緒に住んでるマヤさんを犯せって。それで、昨夜、マヤさんと」

レイ「テレビゲームに例えて話をしている時、碇くんはそういう兆候はなかったと言っていたわ。自分の意思で?」

シンジ「最初は、演技って話だったんだ。でも、途中からマヤさんが積極的で……結局、その、最後までしちゃって。だからアダムにそういう力はないのかと疑問に思った」

レイ「なんにせよ、ひとつになったのね」

シンジ「うん、まぁ」

レイ(少女)「アダムの好奇心を満たす行為は異性に対してじゃないとだめなの」

シンジ「……」

レイ(少女)「複雑な構造、難解な数式。緻密なものを解明するだけならありふれてる。“知恵の樹”の話、知ってる?」

シンジ「うん。旧約聖書だよね」

レイ「蛇にそそのかされて、善悪の知恵を得たアダムとイヴは全裸でいることを恥ずかしいと思うようになり――」

レイ(少女)「イチヂクの葉で陰部を隠した。実際は違うわ。知恵の樹があったのは本当」

シンジ「うん」

レイ「知恵を得て、その目の前にはわかりやすく、女性と男性がいた。だから、好奇心は単純に異性へと向けられたの」

シンジ「そ、そうなんだ」

レイ「お互いを貪るように。いくら続けても飽きることはなかった。神が創りたもうた人体、その神秘に触れ、欲深く望んだ」

レイ(少女)「もっと、もっと、もっとって。終わりのない、新しい発見だらけ」

シンジ「……」

レイ「種を残すため、存在を証明し自己を確立し、群れで生活する十八番目の使徒である人類。ことわりが違う」

レイ(少女)「アダムはいうなれば始祖」

シンジ「よく、わからないよ。なにを言ってるのか」

レイ「碇ユイがどういう思惑で碇くんに指示したのかはわからない」

レイ(少女)「はからずも、アダムは性交で得られる喜びを思い出した」


498 ◆y7//w4A.QY2017/09/15(金) 00:03:41.22WKrW6Ang0 (1/2)

シンジ「つまり、アダムが目覚めようとしてるってこと?」

レイ「段階があると言ったわ。これからは、衝動の頻度が多くなる」

シンジ「そ、そんなっ! 完全に融合しちゃったら僕どうなるのっ⁉︎」

レイ(少女)「碇くんであり、アダムであるモノ」

レイ「私たちが協力すれば“碇シンジ”という個は残る。その為の私」

レイ(少女)「私たちが望むセカイを教える」

レイ「ヒトの未来。可能性の先になにがあるのか、それが知りたい」

レイ(少女)「アダムとリリスの融合によって作られる新セカイではない。あくまでヒトの意思によって形作られた社会」

レイ「碇くんが消えてしまっては、アダムしか残らなくなる」

レイ(少女)「それでは私たちが望む結果にたどり着けはしない」

シンジ「おかしいじゃないか! だって、それって……! サードインパクトを起こすってことじゃないの⁉︎」

レイ「セカンドインパクトが起こった時点で終焉へと向かっているの。ヒトの科学力ではこの困難を耐えきれない」

シンジ「……っ! で、でもっ!」

レイ(少女)「私と私はあなたというヒトに賭けた。あなたが望むのならなんでもしてあげる」

レイ「あなたが生きられるのならなんでもしてあげる」

レイ&レイ(少女)「私にはなにもないもの。私を捧げたってかまわない」

シンジ「む、むちゃくちゃだ! 僕は嫌だ!」

レイ「碇ゲンドウの死。あの直後、碇くんは夢の中で私に見せられたはず」

レイ(少女)「この世界に蔓延る、ウソ、欺瞞、不完全なヒトの形」

レイ「碇くんは唯一にして、完全な個体となる人類の代表」

レイ(少女)「そして、あなたがセカイを創造する」

シンジ「む、無理だよ、そんな、僕には、無理だ」ガタッ

レイ「あなたは選ばれてしまった」

レイ(少女)「理由なんかないわ。あなたは選ばれたの」

シンジ「……」ゴクリ

レイ「私を使う?」

レイ(少女)「うふふっ、私たちには代わりがいるもの。いくらぶつけてもいいのよ。ヒトの身体では耐えきれないことでも――」

シンジ「い、嫌だ、そんなの、う、うわぁああああっ!!」ダダダッ ガチャ バタンッ!!

レイ「あっ」

レイ(少女)「また逃げた。……大丈夫。碇くんは私たちをきっと頼ってくる。そうするしかないから」


499以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/15(金) 01:14:23.01yYTq7V18o (1/1)

ワッフル


500以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/15(金) 10:05:41.58nUBOWhagO (1/1)

よくわからんのだがQみたいに浦島太郎状態になる前に全部知ってしまったシンジってこと?


501 ◆y7//w4A.QY2017/09/15(金) 19:51:16.60WKrW6Ang0 (2/2)

新劇は設定がテレビシリーズとかとまったく別物というのを一応
それらを除けばそんな感じです


502以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/16(土) 08:23:44.84YBs6za1Eo (1/1)

まだか


503 ◆y7//w4A.QY2017/09/16(土) 20:23:47.935QRrjQdb0 (1/9)

【第三新東京市 繁華街】

シンジ「はぁっはぁっ」タッタッタッ

カップル男「うぉっ⁉︎」ドンッ

シンジ「あっ、す、すみませ――」

カップル男「いってぇな! よく見ろよ!」ドゴッ

シンジ「うぐっ」ズサ

カップル女「あ~あ、なにも殴らなくたって。……中学生じゃん。大丈夫? ボク?」

カップル男「こいつが悪いだろうが。人混みでよ」

シンジ「……」ムクッ

カップル女「短気な性格なんとかしなさいよねぇ~」

シンジ「すみませんでした」ペコ

カップル男「ち、ったく」

カップル女「まぁまぁ。事故なんだから。ボクも気をつけてね」

シンジ「はい」

カップル男「たこ焼きでも食って帰るか?」

カップル女「なんでデートでたこ焼きなわけ? 炭水化物のかたまりとか」

カップル男「うめぇだろ――うぉっ⁉︎」ドンッ

マナ「大丈夫⁉︎ シンジくん⁉︎」

シンジ「ま、マナ? どうしてここに?」

カップル男「……」プルプル

カップル女「ちょっと、落ち着きなよ」

カップル男「おい、ガキども」

マナ「殴ることないじゃないですか⁉︎」

シンジ「あっ」

カップル男「なんだとぉ? 社会常識知らねーのかよ?」

マナ「いきなり手をあげるあなたに言われたくありません!」

カップル男「俺はなぁ、女にだって容赦しねぇぞ。カミソリのような男だからな」

カップル女「ふるっ。センスが昭和なんですけど」

カップル男「うっせぇっ! お嬢ちゃんよぉ、歯をくいしばれ」

マナ「いやです」

カップル男「な、なに?」

マナ「警察、呼びますよ」

カップル女「ちょっと。もうそれぐらいにしときなってマジで。通行人も足止めて見だしてるし」キョロキョロ

カップル男「警察やギャラリーがなんだっつうんだ! 世の中なめくさってるガキが!」ブンッ

マナ「……っ⁉︎」ギュッ

シンジ「ま、マナっ! ……がはっ」ドサッ

カップル男「おーおー、かわりに殴られるとはねぇ」

マナ「シンジくんっ⁉︎」

ケンスケ「――おまわりさん! こっちです!」

カップル男「げっ⁉︎ まだツレがいたのかよ⁉︎ はやくねぇ⁉︎」

カップル女「もう! だから言ったじゃん!」

警官「こらぁ! なにやってるんだ!」


504 ◆y7//w4A.QY2017/09/16(土) 20:47:49.395QRrjQdb0 (2/9)

カップル男「――だから俺は悪くねぇって! 悪いのはそこのガキどもだろーがよ!」

警官「話は交番でゆっくりな」

カップル男「なぁんで俺が⁉︎ 先に仕掛けてきたのこいつらで」

警官「すれ違いざまに肩がぶつかっただけだろう。そうだね?」

ケンスケ「はい! しっかり見てました!」

カップル男「そいつはツレだろう! 公正な判断をしろ!」

警官「ぎゃーぎゃーうるさい。立派な傷害罪にあたる」

カップル女「はぁ……帰ろっかな」

シンジ「あの」

警官「調書を書く必要があるから。キミも同行してもらうよ」

シンジ「いえ、そうじゃなくて。僕も悪かったですから」

カップル男「あ?」

マナ「シンジくん?」

シンジ「お互い様ってことで。その人、離してくれてあげませんか」

警官「そうはいかない。キミ、擦り傷があるじゃないか」

シンジ「ちょっとだけですから」

警官「訴えを取り下げるということかい?」

カップル男「……」

シンジ「はい。それとも罪を犯したことに変わりないなら、そういうの関係ないんですか?」

警官「いや。警察は法を取り締まる番人といわれてるが裁判官や弁護士や検事のような立場じゃない。捕まえるのが専門の仕事だ」

シンジ「はい」

警官「被害届けというものを申請されはじめて動く場合がある。実際に現場を目撃した場合は別だが、喧嘩はその場で示談になることも」

マナ「ねぇ、こういったのはきちんと罰を与えないと。反省するきっかけになるんだよ?」

シンジ「いいんだ。あの、すみませんでした」

マナ「シンジくんっ!」

ケンスケ「はぁ……」

カップル男「まぁ、悪かったな坊主」

カップル女「ここまでの騒ぎにしたのはあんたが悪いの」

カップル男「ちっ」

シンジ「これで、だめですか?」

警察「こっちとしても雑務に追われていてね。いいなら構わないが」

シンジ「だったら、手打ちで」

カップル男「おい、ガキども」

シンジ「はい?」

カップル男「たこ焼き、何味が食いたい」ブスゥ


505以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/16(土) 20:56:30.45sf1Wve5uo (1/1)

>マナ「いきなり手をあげるあなたに言われたくありません!」

これが究極のおまいう


506 ◆y7//w4A.QY2017/09/16(土) 21:27:38.325QRrjQdb0 (3/9)

【近くの公園】

ケンスケ「いやぁ、あのお兄さんも豪気だねぇ! 一人十パックも持たせてくれるなんてさぁ!」ぱくっ

シンジ「うん、そうだね」ガサ

マナ「……」

ケンスケ「食べきれるかなぁ。まぁ、帰って冷蔵庫に入れておけば」

マナ「なんで、あんな風に許しちゃったの?」

シンジ「ん?」

マナ「だって、シンジくんは肩にぶつかっただけじゃない。殴られるなんておかしいよ」

ケンスケ「(惣流に同じことやってるけどねぇ、ま、シンジに関するとなると見境いつかなくなるってのは理解したけど)」

シンジ「悪いと思ってくれたんだよ。だから、こうやって」

マナ「その場しのぎなだけよ! おごって餌付けしてやったからチャラ! 反省はしない! また繰り返すよ⁉︎」

シンジ「……」

マナ「警官がこなかったらどうなってたと……」

シンジ「一方的に痛めつけられてたかもしれないね。でもそうはならなかったよ。今、僕たちはこうしてたこ焼きを食べてる」

マナ「……」

シンジ「展開ひとつ違うだけで、どうなってたかわからないけど……僕に落ち度がなかったわけじゃないし」

マナ「シンジくん……」

シンジ「正解がわからないんだ。なにを選べばいいのか」

ケンスケ「まぁ、シンジは考えすぎなとこあるよ」

シンジ「そうかな」

ケンスケ「霧島もさ。過ぎたことはおしまい。そう割り切らなくちゃ。常に100パーセント正しい判断ができる人間なんかいないよ」

マナ「それは、そうだけど」

ケンスケ「惣流にもさ、ちゃんと話をした方がいいんじゃないか?」

マナ「なんで、いま、そんなこと……」

ケンスケ「それだって次の展開。将来を考えての話じゃないか」

マナ「うぅん」

ケンスケ「“感情”って、厄介だよなぁ。やっちゃいけないってわかってても制御できない」

マナ「見たいから、盗撮するの?」

ケンスケ「うっ! あ、あくまでビジネスだよ!」

シンジ「ぷっ、あはは、そうだなアスカには、落ち着いたら話てみたらいいよ」

ケンスケ「……さっきは、なにを急いでたんだ?」

マナ「綾波さんとなにか?」

シンジ「どうして、それを知って?」


507 ◆y7//w4A.QY2017/09/16(土) 21:43:49.275QRrjQdb0 (4/9)

マナ「あっ、えっと、その」

ケンスケ「たまたま一緒に歩いてるとこ見かけたんだよ」

シンジ「そうだったんだ」

マナ「……」ほっ

シンジ「すこし、ショッキングなことを知ってしまって。それで」

ケンスケ「おぉっ! なんだ⁉︎ 綾波になにか隠された事実でもあったのか⁉︎ これはスクープだぞ、ファンクラブの連中に――」

マナ「こぉら」コツン

ケンスケ「いで」

マナ「女の子を詮索してたら本当に嫌われちゃうよ」

ケンスケ「いや、でも。ほしいパーツが」

マナ「お小遣いがほしいなら別の方法にしなよ」

シンジ「これはケンスケにも話することができないんだ」

ケンスケ「ちぇ」

シンジ「(どうせ信じてもらえないだろうし。いや、話すと危険だから。また無関係な人を巻き込んでしまう)」

マナ「あの、私にも?」

シンジ「……ごめん」

マナ「(なにがあったんだろう……)」

ケンスケ「さぁて、そろそろ帰るか。トウジの家によってっておすそ分けでもしてやるかな」

シンジ「あ、それだったら僕のもついでに頼める?」

ケンスケ「いいよ」

シンジ「ありがとう」

マナ「途中まで、送ってくれない?」

シンジ「え? それなら、ケンスケが同じ方向だし」

ケンスケ「僕はトウジに家によるって言ったろ?」

シンジ「あ……」

ケンスケ「(女に恨まれちゃこわいって言うし)」

シンジ「わかった、また明日学校で」

ケンスケ「またな! 霧島! 碇!」


508 ◆y7//w4A.QY2017/09/16(土) 22:08:58.015QRrjQdb0 (5/9)

シンジ「……」テクテク

マナ「殴られて、痛かった?」

シンジ「大丈夫だよ、おかげですこし落ち着けた」

マナ「あんなに慌ててるなんて……どうしても、話せない?」

シンジ「うん」

マナ「そっか。……あの、ありがとう。かばってくれて」

シンジ「いいよ、気にしないで」

マナ「シンジくんっていつもそう言うね」

シンジ「……?」

マナ「“気にしないで“って。よく考えたら、それって自分勝手かも」

シンジ「どうして?」

マナ「だって、こっちが気になってることにたいしてもそうでしょう? 優しいけど」

シンジ「僕は優しくなんかないよ。自分のしたいことをしてるだけだから」

マナ「相手が中心にあるか、自分が中心にあるかでそれは違うの。シンジくんから感じるのは、思いやりの気持ち。……あはは、私が良いように考えてるのかな」

シンジ「そんなんじゃ……」

マナ「複雑だよね、人って。同じものでも、捉え方で見てる景色が180度反転する」

シンジ「……」

マナ「シンジくんの、そういうところ、好き、なんだと思う」

シンジ「え?」

マナ「いや、その……ちょっと、いいかなってっていうか。今まで、ガサツな人しかいなかったから」

シンジ「幼馴染の友達は? マナのこと、思いやってくれてたんじゃないの?」

マナ「もちろん。お互いにわかる部分が多いから。阿吽(あうん)の呼吸って感じで……かけがえのない人。でも、なんていうかな、家族みたいな」

シンジ「家族……」

マナ「小さい頃からずっと一緒にいたから。異性としてよりも、いて当たり前の存在になっちゃった」

シンジ「……」

マナ「部隊に配属されて知り合ったのは女の子ばかりだから。……はじめてかも。異性って思える人」

シンジ「僕は……」

マナ「いいの。なにも言わないで」

シンジ「……」

マナ「今は、こうして、はじめての感情があるだけでいい。大切にしたいだけだから――」


509 ◆y7//w4A.QY2017/09/16(土) 22:11:22.965QRrjQdb0 (6/9)

ちと間違ったんでレスしなおし


510 ◆y7//w4A.QY2017/09/16(土) 22:12:50.765QRrjQdb0 (7/9)

シンジ「……」テクテク

マナ「殴られて、痛かった?」

シンジ「大丈夫だよ、おかげですこし落ち着けた」

マナ「あんなに慌ててるなんて……どうしても、話せない?」

シンジ「うん」

マナ「そっか。……あの、ありがとう。かばってくれて」

シンジ「いいよ、気にしないで」

マナ「シンジくんっていつもそう言うね」

シンジ「……?」

マナ「“気にしないで“って。よく考えたら、それって自分勝手かも」

シンジ「どうして?」

マナ「だって、こっちが気になってることにたいしてもそうでしょう? 優しいけど」

シンジ「僕は優しくなんかないよ。自分のしたいことをしてるだけだから」

マナ「相手が中心にあるか、自分が中心にあるかでそれは違うの。シンジくんから感じるのは、思いやりの気持ち。……あはは、私が良いように考えてるのかな」

シンジ「そんなんじゃ……」

マナ「複雑だよね、人って。同じものでも、捉え方で見てる景色が180度反転する」

シンジ「……」

マナ「シンジくんの、そういうところ、好き、なんだと思う」

シンジ「え?」

マナ「いや、その……ちょっと、いいかなってっていうか。今まで、ガサツな人しかいなかったのもあって」

シンジ「幼馴染の友達は? マナのこと、思いやってくれてたんじゃないの?」

マナ「もちろん。お互いにわかる部分が多いよ。阿吽(あうん)の呼吸って感じで……かけがえのない人。でも、なんていうかな、家族みたいな」

シンジ「家族……」

マナ「小さい頃からずっと一緒にいたもん。異性としてよりも、いて当たり前の存在になっちゃった」

シンジ「……」

マナ「部隊に配属されて知り合ったのは女の子ばかりで。……はじめてかも。異性って思える人」

シンジ「僕は……」

マナ「いいの。なにも言わないで」

シンジ「……」

マナ「今は、こうして、はじめての感情があるだけでいい。大切にしたいだけだから――」


511 ◆y7//w4A.QY2017/09/16(土) 22:49:16.355QRrjQdb0 (8/9)

【マヤ宅 リビング】

シンジ「僕がですか?」

マヤ「たまには、人の作った料理食べてみたいって思って。だめ?」

シンジ「かまわないですよ。なにかリクエストあります?」

マヤ「シンジくんの得意なやつがいいかな」

シンジ「得意な……」

マヤ「和でも洋でも中でも。まかせる」

シンジ「わかりました。早速、とりかかりますね」

マヤ「あっ、ちょっと待って」スッ

シンジ「……?」

『今、電波遮断できる?』

シンジ「(紙に書いてるのは……うーん、あまりやりすぎたら怪しまれちゃうだろうし、どうしようかな。……大事な話かもしれない、よし)」

マヤ「……」

シンジ「ふぅ、今度はうまくできたみたいだ。どうしたんですか?」

マヤ「それって、身体に負担がかかるの?」

シンジ「まったくないってわけじゃありません」

マヤ「手短に済ませるね。聞きたいことがあったの。あの、シンジくんのその瞳。もしかして、ネルフに非人道的な実験で……」

シンジ「言えません」

マヤ「聞きたいの。私の意思よ」

シンジ「でも、これ以上知ってしまえば」

マヤ「危険になる。わかれば司令になにをされるか……それは理解してる。でも、それでも、ネルフが裏でなにをしようとしているか……知りたい」

シンジ「突然、どうしたんですか」

マヤ「考えてみた。どうしたらいいかなって。でも、考えても考えてもなにもわからない。与えられた責務に対して、疑問を抱かず、正しいことをしてるってやってきた」

シンジ「……」

マヤ「――空っぽ、だった。仕事に求めてたのは、安心と安らぎ。業務を通して、ちゃんと人並みの生活ができてるっていう安心感を得られてただけ」

シンジ「僕からは言えません」

マヤ「自分で調べる」

シンジ「えっ」

マヤ「シンジくんが教えてくれないなら。そっちの方が危険よ?」

シンジ「そ、そんな……」

マナ「私だって無駄に歳を重ねてるわけじゃないから。こういった狡猾さを身につけてるのよ」

シンジ「……」

マヤ「あなたの力になりたいのよ。シンジくん」

シンジ「僕の、力になりたいから?」

マヤ「ええ」

シンジ「だったら、こうして一緒に住んでくれてるだけで」

マヤ「相手は総司令という立場にいる人。ひいてはネルフという組織そのものでしょう? シンジくんがなにかに抵抗しようとしてる。そんなの見てれば気がつく」

シンジ「……」

マヤ「味方は多い方がいい、それも絶対に裏切らない人。そう思わない?」

シンジ「そう、ですけど」

マヤ「お願い、話して。ネルフはシンジくんに……なにをしたの? どうして赤い瞳なの?」


512 ◆y7//w4A.QY2017/09/16(土) 23:14:38.605QRrjQdb0 (9/9)

シンジ「言えません」

マヤ「そう……ふぅーん、わかった。じゃあ」

シンジ「ただ、全てをという意味です。自分で調べないという条件を飲んでくれるなら、どうして赤い瞳になったのかは教えます」

マヤ「わかった。今一番知りたいのってそこだから」

シンジ「次から次に疑問がでてくるかもしれません。そうなったとしてもですよ」

マヤ「……了解」

シンジ「ふぅ……瞳が赤くなってるのは、力を使ってるせいです。なぜかはわからない。力を使うとこうなるとしか」

マヤ「気がついたんだけど。レイに似てるって」

シンジ「(綾波はリリスの魂の容れ物だからねぇ。アダムに頼り力を発動してる状態の僕と……でも、それを話すことはできない)」

マヤ「シンジくん?」

シンジ「すこし、グロテスクなものを見せます」スッ

マヤ「あ、やっぱりその、手」

シンジ「昨日、包帯をとっちゃいましたから。今はもう任意で出し入れできるようになったんですけど、これのせいです」

マヤ「なに、それ? 胎児みたいな形してる」

シンジ「マヤさんが危険な目にあいそうになったあの日。お風呂場で見ましたね、これを」ニギ ニギ

マヤ「ええ」

シンジ「移植されたんです。ほんの一週間ぐらい前。それからしばらくして、力が使えるようになり、発動するときだけ、瞳がこの色に」

マヤ「移植って? 遺伝子操作を行った改造人間のようなものじゃないの?」

シンジ「そんなんじゃありませんよ。僕という個人に別の異物がはいりこんでる状態です」

マヤ「(DNAからいじってるのかと思ったけど、そうじゃないもの調べてたのね、私)」

シンジ「これだけです」

マヤ「待って。それの正体は?」

シンジ「……」

マヤ「そこまで聞いたらいい。お願い」

シンジ「使徒です」

マヤ「なっ⁉︎」ガタッ

シンジ「……」

マヤ「使徒⁉︎ 使徒が手のひらに⁉︎ う、嘘でしょっ⁉︎」

シンジ「本当の話です。だから、人では使えない力が使えます」

マヤ「し、信じられない。人体への影響は? そんなことが可能なの……」

シンジ「僕は僕のままでいられてます」

マヤ「それじゃあ――」

シンジ「質問はここまで。約束でしたよ」

マヤ「……」

シンジ「自分で調べるなんてマネもしないでください」

マヤ「……わかった。約束、だもんね。でも、平気なの? その、本当に、体調とか」

シンジ「今のところは。衝動もそのせいで」

マヤ「使徒の仕業だったの。だから……でも、司令がそう命令して」ブツブツ

シンジ「そろそろつらくなってきました。お話はそれぐらいでいいですか?」

マヤ「ごめんなさい、つらい思いをさせて」


513以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/17(日) 00:57:13.20MU2fcSbCo (1/2)

オッ


514 ◆y7//w4A.QY2017/09/17(日) 05:03:37.74F3jrjWUV0 (1/3)

【第三新東京都市 弐号機 格納庫】

カヲル「赤く染め上げられた拘束具、まるで道化師。……この子の魂は殻に閉じこもったままなのか」

ユイ「キレイでしょう」コツコツ

カヲル「……」

ユイ「夜更けになんのご用?」

カヲル「アダムから産まれたコレを見にきたくて」

ユイ「あなたにとっては、ただの模造品でしょ? デッドコピーと言うべきかしら。構造について興味があるの?」

カヲル「面白い。そんなところかな」

ユイ「好奇心、ね。アダムの魂、生き写しなだけはある」

カヲル「……」

ユイ「昼間の使徒へは静観の構えとします」

カヲル「なぜ?」

ユイ「バカバカしいからよ。過剰防衛をするのが。あなたのいたずら……火遊びだった? 付き合うのなんて嫌」

カヲル「そうやすやすと騙されてくれないね」

ユイ「人は、使徒だけじゃない。多くの脅威に晒されている。それでも、破滅するとわかっていながら尚、歯車を止められない」

カヲル「愚かだ。使徒というわかりやすい外敵が襲来しても、各地で起こる紛争、代理戦争は止むことを知らない」

ユイ「そう仕向けられてるから。情報操作、プロパガンダをばらまいて意図的に大衆を誘導し、操作している」

カヲル「情報化社会の弊害だね。あらゆる方向性から正しいと思うことは歪められ、また、常に変化し、狂う」

ユイ「13年前、葛城調査隊に発見されてからロンギヌスの槍を使用して……バラバラにされた記憶はあるの?」

カヲル「いいえ。目が覚めたら、というよりも意識があるのはこの肉体の中だけ」

ユイ「シンジの中にある、再構築したアダムは?」

カヲル「そのものだよ。使徒のもつ特殊能力、その中でもとりわけ神に近しい存在であるアダムにとって再生など造作もない」

ユイ「初号機もできるでしょうね」

カヲル「あの紫色の機体はリリスをベースに改修しているんだったね」

ユイ「シンジ同様、初号機も実物に近しいモノよ」

カヲル「しかし、オリジナルのリリスはここの地下奥深くに……」

ユイ「……」

カヲル「――……まさかっ⁉︎ そうか、そういうことか」

ユイ「核心とも言える部分を告げたのには理由があります」

カヲル「……」

ユイ「私達の眼前にいる弐号機パイロットであるセカンドチルドレン。彼女を、殺めてほしいの」

カヲル「あなたの権限を使えば赤子の手をひねるよりも簡単に遂行できるでしょう」

ユイ「シンジに悟られるわけにはいかない」

カヲル「……」

ユイ「あくまで、あなたがやったと思わせる」

カヲル「予定を繰り上げるつもりか」

ユイ「局面を分ける一手。そのひとつを打つ時がきたのです」


515 ◆y7//w4A.QY2017/09/17(日) 05:32:39.87F3jrjWUV0 (2/3)

【翌日 ミサト宅 リビング】

アスカ「ふぁ~ぁ。ねむぅ」

ミサト「どひゃー! 寝坊しちったぁ!」ガタガタ

アスカ「……ごはん、炊飯器」カパッ

ミサト「化粧ポーチどこやったっけぇ! アスカぁ~! 見てない~?」

アスカ「んぁ?」

ミサト「だぁ! だめだこりゃ、えーと、ここでもないそこでもない……あった!」

アスカ「間に合うの?」

ミサト「車の中で化粧するわ! 今日は絶対に遅刻できない日なのよ!」

アスカ「遅刻していい日なんてあんの」

ミサト「言葉のあやでしょーが! っと、いけない! 戸締りあとよろしくぅ!」シュタ

アスカ「おかず、おかず」

ペンペン「クェー」

アスカ「ペンペンのも……」

ペンペン「クェッ! クァーッ!」クイクイ

アスカ「はいはいわかったから。慌てなさんなって。食い物は逃げやしない――」

ペンペン「クェー!」コト

アスカ「あんた! その人形どこから……あたしの部屋に入ったのね!」パチン

ペンペン「……クェー」

アスカ「っとに、油断も隙もあったもんじゃない、シャチの群れの中に放りこむわよ」

ペンペン「クェッ⁉︎」ガタガタ

アスカ「ママ? 大丈夫?」ヒョイ

ペンペン「クェー?」

アスカ「これはね、ママからもらった大切な大切な形見なの。いい? わかった?」

ペンペン「クェッ!」ビシッ

アスカ「返事だけはいっちょまえなんだから。本当にわかってんの? ……ペンギンに言うのも変な話か」

ペンペン「クェー!」


516 ◆y7//w4A.QY2017/09/17(日) 11:08:15.49F3jrjWUV0 (3/3)

【早朝 下駄箱】

アスカ「……?」スッ

ヒカリ「あっ、アスカも今ついた所? おはよう」

アスカ「おはよ」

ヒカリ「手に持ってるのって、手紙? ラブレター?」

アスカ「下駄箱っていうおあつらえ向きのシチュエーションじゃそうなんじゃない? 中身は読んでないけど」

ヒカリ「わぁ、すごいな。あれ? でも転校してきた頃は連日そうだったような」

アスカ「最近はめっきり数減ったわね」

ヒカリ「それ、読むの?」

アスカ「捨てようかと」

ヒカリ「せっかくだし目を通すだけでもしてあげたら? 気持ちがこもってるのに」

アスカ「なんか、呪われそう」

ヒカリ「そう?」

アスカ「顔もわからない相手に想われてるってだけで気味が悪いもんでしょ、普通は」

ヒカリ「アスカはモテてるから。モテない人の気持ちがわからないんですよーだ」

アスカ「ヒカリは得体の知れない相手からもらって嬉しいの?」

ヒカリ「あ、相手によるかな?」

アスカ「ふぅ~ん」

ヒカリ「恋愛は、してみたいし……」

アスカ「じゃあ、いる? これ」

ヒカリ「なんでそういう話になるのよ! アスカ宛てでしょ!」

アスカ「案外わかんないかも」

ヒカリ「わかるわよ! どう見たら間違えるの!」

アスカ「じょーだんだって」

ヒカリ「もう! 私だって、いいなって想う人、いないわけじゃないし」ボソ

アスカ「なんか言った?」

ヒカリ「ううん、なんでもない。それより、どうするか決めた?」

アスカ「はいはい。読めばいいんでしょ、読めば。こんなの書いてあるのといえば決まり文句よ。どうせお世辞、一目惚れ、告白――」ガサガサ

ヒカリ「読んできちんとお断りすればいいじゃない」

アスカ「……これって……」

ヒカリ「どうしたの?」

アスカ「いつ? いつ下駄箱にいれたの?」キョロキョロ

ヒカリ「アスカ?」

アスカ「なんでもない。ヒカリ、今日の昼休みは一人でご飯食べてくれない?」

ヒカリ「いいけど……大丈夫? 顔色、悪いよ?」

アスカ「平気」グシャ


517 ◆y7//w4A.QY2017/09/17(日) 19:40:37.66/iWRPHOj0 (1/17)

【ネルフ本部 模擬体室】

マコト「ポジトロンスナイパーライフルの実機データ、入力完了。仮想敵、スタンバイ」

シゲル「了解。シミュレーションシステム、スキャンのプロセスを335までを省略」

マヤ「……」

マコト「おい、マヤちゃん」

マヤ「あっ、りょ、了解です。データローディング開始します」

リツコ「レイ? 調子は?」

レイ『問題ありません』

リツコ「大丈夫、プログラムの指示通りにやればいい。ディスプレイにターゲットがでたら、射撃ボタンを押して。なるべく早く、できる限り直感的にね」

レイ『はい』

リツコ「テストスタート」

マコト「20秒前、テンカウントよりはじめます」

マヤ「了解」

シゲル「15秒前」

マコト「10秒前……9.8.7.6.5.3……――投影開始」

レイ『……』カチ

リツコ「……? どうなってるの? なにも反応がないわ」

マヤ「待ってください。システムコード、エラー。プログラムが強制終了しています」

リツコ「バグ? エラーコードは?」

マコト「E1056辺りで……」

リツコ「躓く箇所ではないはず」

シゲル「だとすれば、物理的なパーツの劣化かな。コンデンサがショートしているのでは?」

リツコ「メンテナンスは怠らないように言ってあるのに。主要製品ラインの部署に至急、確認をとって」

マコト「了解」

レイ『(電子機器に干渉してる。来るのね、彼)』


518 ◆y7//w4A.QY2017/09/17(日) 19:57:51.26/iWRPHOj0 (2/17)

【第壱中学校 教室 昼休み】

アスカ「……」スッ スタスタ

トウジ「なんか今日はピリピリしとらんか。あいつ」

ヒカリ「鈴原……。やっぱり、わかる?」

トウジ「なんとなくなぁ。眉間にこぉ~んなしわよっせたら誰でも気がつくわい」

シンジ「どうしたの? トウジ。購買のカツサンド売り切れちゃうよ」

トウジ「訂正。シンジ以外はな」

シンジ「なんだよ、いきなり」

ヒカリ「あの、碇くん」

シンジ「……?」

ヒカリ「アスカの、様子がおかしいの」

シンジ「そうなの? 僕は気がつかなかったけど」

トウジ「まぁいっつも顔つき合わしとるからのぉ」

ヒカリ「今朝、下駄箱に手紙があって。それから様子が変なの」

シンジ「手紙?」

ケンスケ「ラブレターかぁ?」

ヒカリ「余計な横槍いれないでよ。うん、なんだか顔色が悪くて」

シンジ「ふぅーん」

ヒカリ「――あの、もしよかったら」

シンジ「……!」キョロキョロ

トウジ「おっ、なんや? ハエでも飛んどったんか」

シンジ「(この感じ。これは、アダムの……)」

マナ「シーンジくん! 一緒にお昼」

シンジ「みんなごめん、僕、ちょっと用事できたから」タッタッタッ

マナ「って……」

ヒカリ「碇くん!」

ケンスケ「なんだぁ、あいつ?」

トウジ「腹でも痛くなったんちゃうか」

マナ「……」シュン

トウジ「ところで霧島さま! そのお弁当はもしかして余ってしまったりするのでしょーか!」

マナ「え? これ?」

トウジ「はい!」

ヒカリ「あ、す、鈴原。もしよかったら」

マナ「あげないわよーだ! べーっ!」

トウジ「そんなご無体な!」

ヒカリ「だから、私の……」

ケンスケ「青春だねぇ」


519 ◆y7//w4A.QY2017/09/17(日) 20:32:26.81/iWRPHOj0 (3/17)

【体育館裏】

アスカ「どういうつもり⁉︎」

カヲル「……」スッ

アスカ「見ない顔ね……? 別のクラス? 上級生かしら。どうでもいいわ。この手紙!」ブンッ ポイッ

カヲル「気に入ってくれたかい?」

アスカ「“ママについて知りたければ来い”ですって⁉︎ あんた、何者よ!」

カヲル「その質問でいいの?」

アスカ「……?」

カヲル「この場合、目的と動機。この二つに分けられるんじゃないかな。キミが知りたいのは、ボクが何者であるのか。それを知りたいと?」

アスカ「なに言ってんの、こいつ。……さては、戦自? どうりで見ない顔だわ」

カヲル「ボクの質問にまだ答えていないよ」スタスタ

アスカ「そんな必要ないわ。もう我慢ならない、とりあえず、ママを引き合いにだしたあんたは」

カヲル「……」トンッ ビュ

アスカ「――っ⁉︎ なに、はやっ⁉︎」

カヲル「ここまでノコノコとやってきて減らず口ばかり」ガシッ

アスカ「がっ、かはっ⁉︎」

カヲル「驚いたかい? この肉体は容れ物とはいえ、人間相手ならこの程度。キミは最初の質問で“ボクが何者か”ではなく、“ボクがなにをしにきたのか”を聞くべきだったんだ」ググッ

アスカ「(ぐっ、この力、やばっ、首をしめられ)」

カヲル「そうしたら――キミを殺しにきたと教えて逃げられたかもしれないのに」

アスカ「うっ! ぐっ」ブンッ

カヲル「おっと。威勢がいいね、呼吸もままならないだろうに、膝蹴りとは。はやく苦しみから解放されるよう首の骨を折って――」

シンジ「アスカッ!!」

アスカ「し、ん……」

カヲル「そうか、やはり共鳴したのか」

シンジ「か、カヲルくん⁉︎ な、なにやってるんだよ!」

カヲル「見ての通りだよ、待ってて、もうすぐ終わる」ググッ

アスカ「あぁぁっ、うっ」ミシ

シンジ「や、やめてよ! カヲルくん!」ダッダッダッ ドンッ

カヲル「……」ヨロ

アスカ「げほっ、げほっ、おぇ、おぇえっ」

シンジ「アスカ、大丈夫?」スッ

カヲル「急激に酸素を吸い込むからそうなる。それは賢い選択とは言えないな」

アスカ「ぜぇ、ぜぇ」ギロッ

カヲル「シンジくん、無用な情けは彼女を苦しめるだけだよ。ラクに死なせてあげなくちゃ」

シンジ「どうしてこんなこと」

カヲル「ボクはね、彼女を殺しにきたんだ」

シンジ「……⁉︎ き、キミがなにを、言ってるのかわからない、がはっ!」ズザザー

カヲル「まだ回復するまでに時間がかかる。そうだろ? 惣流・アスカ・ラングレー」

アスカ「……」チラ

シンジ「うっ、ぐっ」

アスカ「蹴りだけであんなに飛ぶもんなのね。シンジがいくらヤワといってもありえない」

カヲル「彼に危害を加えるつもりはなかったんだ、ただ、邪魔だからね」

アスカ「(ちくしょう、足に力がはいらない……!)」グッ


520 ◆y7//w4A.QY2017/09/17(日) 20:51:41.88/iWRPHOj0 (4/17)

カヲル「言ったはずだよ」スッ ガシッ

アスカ「あうっ」

カヲル「キミになにか恨みがあるわけじゃない。だから、苦しませずに送ってあげたいんだ」

アスカ「じょ、じょーだんじゃないわ。私は死なない! 死んでたまるもんか!」

カヲル「残念だけど、ここで死ぬんだ。そして、シンジくん。キミは自分の無力さを呪うがいい」

シンジ「あす、かぁっ!」ググッ

アスカ「なにそれ、当て馬みたいじゃない」

カヲル「聞いていた通り。察しは悪くないみたいだね、残念だ」

アスカ「うっ!」

カヲル「……」ググッ

アスカ「(こんな呆気なく、突然、終わり? 私の人生、こんなとこで……)」

シンジ「……!」

アスカ「(こんな、こと、なら、もっといろ、いろ……やっときゃ、よかった。加持さんと)」

シンジ「アスカ……!」ヨロヨロ

アスカ「(――い、しき、視界、ぼや、け……ま、ママァ)」

シンジ「は、離せ!」

カヲル「……っ⁉︎」ピクッ

シンジ「――アスカを、離せっっ!!」ダッダッダッ

カヲル「くっ」パッ

アスカ「うっ」ドサ

シンジ「そこだ!」ブンッ

カヲル「なにっ⁉︎」ドンッ

アスカ「げほっ、げほっ、うっ、げほっ」

シンジ「はぁっはぁっ」

アスカ「し、シン……ジ?」

カヲル「驚いた。まさかこんなにも同化が進んでるとは。……容れ物のボクと、オリジナルのキミ。肉体の差か。まんまとマウントをとられてしまったよ」

シンジ「……」ガシッ

カヲル「それで? 馬乗りになってどうするつもりなんだい?」

アスカ「はぁ、はぁ、うっ、けほっ」


521 ◆y7//w4A.QY2017/09/17(日) 21:09:34.86/iWRPHOj0 (5/17)

シンジ「よくも、よくも」ゴス ゴス ゴス

カヲル「……っ! ぐっ、がっ」

シンジ「くっ、クックックッ」ゴス ゴス ゴス

アスカ「ちょ、ちょっと、シンジ」

シンジ「よくも、ヤッタナ! 容れ物の分際デ!」ゴス ゴス ゴス

カヲル「……」ピクッ ピクッ クテ

アスカ「ま、まずい⁉︎ シンジ! やめなさいよ!」

シンジ「取れないんだよ、L.C.Lの血の匂いが!」

アスカ「シンジ! あたしはもう大丈夫だから! それ以上はだめ! シンジったら!」

シンジ「いつもいつもいつも、関係ない人を巻き込んで! なんでいつも僕ばっかり!!」ゴス グシャ ゴス

アスカ「(くっ、足、動け、動け動け動け)」ヨロヨロ

シンジ「もうたくさんなんだ! 誰かが死ぬのは! なんで僕をこんな目に! どうして!!」ゴスッ ゴスッ

アスカ「シンジっ! やめて!!」ヨロリ ドサ

シンジ「はぁ、はあっ……アスカ?」ピタッ

アスカ「そうよ、私よ。大丈夫だから」ほっ

シンジ「いや、違う」

アスカ「……?」

シンジ「ボクは、ダレだ? 僕は、僕は」

アスカ「し、シンジ? あんた、一体、瞳の色……」

カヲル「そのまま衝動に身を任せていればいいのに」

シンジ「……!」ギョ

カヲル「詰めが甘い」グッ

シンジ「がはっ!」

アスカ「う、うそぉっ⁉︎ な、なんで⁉︎ 顔面血だらけなのよ⁉︎」

カヲル「僕にとっては、死はなにもこわくないんだ。生と死は等価値ではないからね。痛みも」

アスカ「こ、こいつ、なんなの」

カヲル「未知の領域だろうね。キミには。だけど、ほら。片割れである彼にとっては――」

シンジ「……」ムクッ ユラァ

カヲル「そう来なくちゃ」


522 ◆y7//w4A.QY2017/09/17(日) 21:34:24.40/iWRPHOj0 (6/17)

シンジ「――はぁぁぁっ!!」ズザザー

カヲル「(その調子、勢いに身を任せてるんだ。シンジくん)」

シンジ「うぁぁあああっ!!」ゴンッ

カヲル「っ!」ドガシャァ

アスカ「扉が。て、鉄製なのよ、それ。こ、こんなの、人間の力じゃ」

カヲル「ふふっ」

シンジ「はぁっ、はぁっ」

カヲル「冷静に見ればまだ弱い。それでもアダムの鼓動を脈々と感じる」ガシッ

シンジ「うっ」

カヲル「スタミナの面に課題が残るね。まぁ、それもゆくゆくは解消されるだろうけど。どうだい? 人にして人ならざる者へと変わっていく心境は」

シンジ「き、気持ち悪いだけ、だ」

カヲル「手に有り余る力だから? 使いようによっては、リリンが用いる科学よりも強力だよ」ググッ

シンジ「ぐっ!」ミシ

カヲル「もっとも、今のままじゃ単なる強力なイチ兵士といった程度か。うん、気が変わった」

シンジ「な、なにを……言って」

カヲル「ボクを彼女を[ピーーー]。その目的に変化はない。だけど、過程を楽しもうと思う」チラッ

アスカ「……!」

カヲル「シンジくんが彼女を守るんだ」

シンジ「……?」

カヲル「そこのキミ。今後は僕に殺されないように気をつけて。あぁ、ちなみに誰かに喋った場合は即座に[ピーーー]。ボクには契約があるから」

アスカ「脅し?」

カヲル「事実だよ、これは。試してみるかい? 命がけで」

アスカ「……」

カヲル「三人だけの秘密にしよう。さて、そろそろ騒ぎを聞きつけて人が集まってきそうだ」パッ

シンジ「うっ」ドサッ

カヲル「ボクにもシンジくんの可能性を見せてほしい。ああ、今わかった。ボクはキミに会うために生まれてきたんだね、ええと、ハンカチは、と」フキフキ

アスカ「……」

カヲル「また今度会おう」スタスタ


523 ◆y7//w4A.QY2017/09/17(日) 21:35:59.52/iWRPHOj0 (7/17)

コマンドは発動してるんでレスしなおし


524 ◆y7//w4A.QY2017/09/17(日) 21:36:54.40/iWRPHOj0 (8/17)

シンジ「――はぁぁぁっ!!」ズザザー

カヲル「(その調子、勢いに身を任せてるんだ。シンジくん)」

シンジ「うぁぁあああっ!!」ゴンッ

カヲル「っ!」ドガシャァ

アスカ「扉が。て、鉄製なのよ、それ。こ、こんなの、人間の力じゃ」

カヲル「ふふっ」

シンジ「はぁっ、はぁっ」

カヲル「冷静に見ればまだ弱い。それでもアダムの鼓動を脈々と感じる」ガシッ

シンジ「うっ」

カヲル「スタミナの面に課題が残るね。まぁ、それもゆくゆくは解消されるだろうけど。どうだい? 人にして人ならざる者へと変わっていく心境は」

シンジ「き、気持ち悪いだけ、だ」

カヲル「手に有り余る力だから? 使いようによっては、リリンが用いる科学よりも強力だよ」ググッ

シンジ「ぐっ!」ミシ

カヲル「もっとも、今のままじゃ単なる強力なイチ兵士といった程度か。うん、気が変わった」

シンジ「な、なにを……言って」

カヲル「ボクを彼女を[ピーーー]。その目的に変化はない。だけど、過程を楽しもうと思う」チラッ

アスカ「……!」

カヲル「シンジくんが彼女を守るんだ」

シンジ「……?」

カヲル「そこのキミ。今後は僕に殺されないように気をつけて。あぁ、ちなみに誰かに喋った場合は即座に[ピーーー]。ボクには契約があるから」

アスカ「脅し?」

カヲル「事実だよ、これは。試してみるかい? 命がけで」

アスカ「……」

カヲル「三人だけの秘密にしよう。さて、そろそろ騒ぎを聞きつけて人が集まってきそうだ」パッ

シンジ「うっ」ドサッ

カヲル「ボクにもシンジくんの可能性を見せてほしい。ああ、今わかった。ボクはキミに会うために生まれてきたんだね、ええと、ハンカチは、と」フキフキ

アスカ「……」

カヲル「また今度会おう」スタスタ


525 ◆y7//w4A.QY2017/09/17(日) 21:38:39.12/iWRPHOj0 (9/17)

ちょっと前まではsagaで大丈夫だったのにダメになってる



526以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/17(日) 21:43:34.922p0hn3Gao (1/2)

あれ?sagaで入らない?
もしかして大文字になってるとか?


527 ◆y7//w4A.QY2017/09/17(日) 21:46:42.41/iWRPHOj0 (10/17)

ちょいテスト

殺す


528 ◆y7//w4A.QY2017/09/17(日) 21:48:16.41/iWRPHOj0 (11/17)

シンジ「――はぁぁぁっ!!」ズザザー

カヲル「(その調子、勢いに身を任せてるんだ。シンジくん)」

シンジ「うぁぁあああっ!!」ゴンッ

カヲル「っ!」ドガシャァ

アスカ「扉が。て、鉄製なのよ、それ。こ、こんなの、人間の力じゃ」

カヲル「ふふっ」

シンジ「はぁっ、はぁっ」

カヲル「冷静に見ればまだ弱い。それでもアダムの鼓動を脈々と感じる」ガシッ

シンジ「うっ」

カヲル「スタミナの面に課題が残るね。まぁ、それもゆくゆくは解消されるだろうけど。どうだい? 人にして人ならざる者へと変わっていく心境は」

シンジ「き、気持ち悪いだけ、だ」

カヲル「手に有り余る力だから? 使いようによっては、リリンが用いる科学よりも強力だよ」ググッ

シンジ「ぐっ!」ミシ

カヲル「もっとも、今のままじゃ単なる強力なイチ兵士といった程度か。うん、気が変わった」

シンジ「な、なにを……言って」

カヲル「ボクを彼女を[ピーーー]。その目的に変化はない。だけど、過程を楽しもうと思う」チラッ

アスカ「……!」

カヲル「シンジくんが彼女を守るんだ」

シンジ「……?」

カヲル「そこのキミ。今後は僕に殺されないように気をつけて。あぁ、ちなみに誰かに喋った場合は即座に[ピーーー]。ボクには契約があるから」

アスカ「脅し?」

カヲル「事実だよ、これは。試してみるかい? 命がけで」

アスカ「……」

カヲル「三人だけの秘密にしよう。さて、そろそろ騒ぎを聞きつけて人が集まってきそうだ」パッ

シンジ「うっ」ドサッ

カヲル「ボクにもシンジくんの可能性を見せてほしい。ああ、今わかった。ボクはキミに会うために生まれてきたんだね、ええと、ハンカチは、と」フキフキ

アスカ「……」

カヲル「また今度会おう」スタスタ


529 ◆y7//w4A.QY2017/09/17(日) 21:49:49.74/iWRPHOj0 (12/17)

何回か使ってたらアウト?

テスト

殺す
殺す
殺す


530以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/17(日) 21:49:56.15f8zoa8JSO (1/1)

>>527
怖E


531 ◆y7//w4A.QY2017/09/17(日) 21:51:54.67/iWRPHOj0 (13/17)

あー、わかった!天然ボケかましてました!
ピーがはいった本文をコピペしてたからそのまんまだっただけでした!w


532以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/17(日) 21:52:13.832p0hn3Gao (2/2)

初めての事例だ。何でだろう?


533 ◆y7//w4A.QY2017/09/17(日) 21:53:49.46/iWRPHOj0 (14/17)

シンジ「――はぁぁぁっ!!」ズザザー

カヲル「(その調子、勢いに身を任せてるんだ。シンジくん)」

シンジ「うぁぁあああっ!!」ゴンッ

カヲル「っ!」ドガシャァ

アスカ「扉が。て、鉄製なのよ、それ。こ、こんなの、人間の力じゃ」

カヲル「ふふっ」

シンジ「はぁっ、はぁっ」

カヲル「冷静に見ればまだ弱い。それでもアダムの鼓動を脈々と感じる」ガシッ

シンジ「うっ」

カヲル「スタミナの面に課題が残るね。まぁ、それもゆくゆくは解消されるだろうけど。どうだい? 人にして人ならざる者へと変わっていく心境は」

シンジ「き、気持ち悪いだけ、だ」

カヲル「手に有り余る力だから? 使いようによっては、リリンが用いる科学よりも強力だよ」ググッ

シンジ「ぐっ!」ミシ

カヲル「もっとも、今のままじゃ単なる強力なイチ兵士といった程度か。うん、気が変わった」

シンジ「な、なにを……言って」

カヲル「ボクを彼女を殺すよ。その目的に変化はない。だけど、過程を楽しもうと思う」チラッ

アスカ「……!」

カヲル「シンジくんが彼女を守るんだ」

シンジ「……?」

カヲル「そこのキミ。今後は僕に殺されないように気をつけて。あぁ、ちなみに誰かに喋った場合は即座に殺す。ボクには契約があるから」

アスカ「脅し?」

カヲル「事実だよ、これは。試してみるかい? 命がけで」

アスカ「……」

カヲル「三人だけの秘密にしよう。さて、そろそろ騒ぎを聞きつけて人が集まってきそうだ」パッ

シンジ「うっ」ドサッ

カヲル「ボクにもシンジくんの可能性を見せてほしい。ああ、今わかった。ボクはキミに会うために生まれてきたんだね、ええと、ハンカチは、と」フキフキ

アスカ「……」

カヲル「また今度会おう」スタスタ


534 ◆y7//w4A.QY2017/09/17(日) 21:54:22.74/iWRPHOj0 (15/17)

できましたね。お騒がせしました。


535以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/17(日) 22:01:22.01MU2fcSbCo (2/2)

はよはよ


536 ◆y7//w4A.QY2017/09/17(日) 22:20:01.26/iWRPHOj0 (16/17)

【数十分後 保健室】

アスカ「ねぇ」ギシ

シンジ「……ん?」

アスカ「あいつ、なんなの?」

シンジ「さぁ」

アスカ「さぁ⁉︎ さぁと言った⁉︎ 殺されかけたのよ! ついさっき!」ガバッ

シンジ「(アダム。綾波と同じ……手のひらにあるのは魂が空っぽだったのか)」

アスカ「あんたもどーなってんの⁉︎」

シンジ「どう話せばいいか」

アスカ「はぁ……」ポフッ

シンジ「アスカ……?」

アスカ「さっき、本気で終わったと思った、あたし」

シンジ「ご、ごめん。巻き込んで」

アスカ「目的、なんなの?」

シンジ「わからない」

アスカ「またそれ」

シンジ「本当なんだ。目的がわからないのは。どうしてアスカを狙うのか」

アスカ「こういうのは、順序立てて考えてくもんよ」

シンジ「……」

アスカ「助かった。今はそれだけで満足してあげる」

シンジ「うん」

アスカ「でも、思考が落ち着いたら洗いざらい全部話しなさい。バカシンジだけじゃ心許ないから」

シンジ「う、うーん、それは」

アスカ「どうせいつものことだからウジウジ悩んでんでしょ? なに抱えてたか聞くのは」

シンジ「……」

アスカ「それから……ええい、今はいいや。少し眠りましょ」

シンジ「首、大丈夫?」

アスカ「ん。数日ぐらい痕になるかもしれない。湿布で隠しとく」

シンジ「ミサトさんへの言い訳考えなくちゃね」

アスカ「そうね。あいつへの復讐も」

シンジ「ふ、復讐って」

アスカ「やられっぱなしじゃ気が済まない。泣き寝入りなんてごめんよ」ゴロン


537 ◆y7//w4A.QY2017/09/17(日) 22:41:14.86/iWRPHOj0 (17/17)

【ネルフ本部 執務室】

ユイ「――失敗したですって⁉︎」バンッ

カヲル「はい」

ユイ「どういうつもり⁉︎ 契約を違えるつもりなの⁉︎」

カヲル「いいえ」

ユイ「バカにしてるの⁉︎」カシャン ブンッ

カヲル「万年筆は投げるものではありませんよ」パシ

ユイ「今すぐ戻って息の根を――」

カヲル「シンジくんとアダムの融合速度が想定を上回っています」

ユイ「……⁉︎ シンジの?」

カヲル「そういった事態は伺っていませんよ。あなたの落ち度です」

ユイ「邪魔がはいったのね? 細胞の活性化ができるようになっているの?」

カヲル「間違いなく。どういう仕組みで肉体が強化されるか気がついていないようですが」

ユイ「無意識?」

カヲル「(意図的だよ)」

ユイ「そう。既にそこまで……」

カヲル「誰もが持つ心の壁。A.Tフィールド。法則に辿り着くのも時間の問題かと」

ユイ「まずいわ。それは」

カヲル「リリンを超越した存在になりつつある。精神が未熟な中学生といっても脅威だ。わかりやすく言うと、ボクのような無から造られた人工物と違い、人と使徒のハイブリッド的存在だからね」

ユイ「……」

カヲル「いかように?」

ユイ「話をする必要はありません。あなたは契約を全うしなさい」

カヲル「ボクは自分の役割を――」

ユイ「私は次の手を打ちましょう」


538以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/18(月) 06:46:42.80l4S07ieXo (1/1)

オモロ


539 ◆y7//w4A.QY2017/09/18(月) 11:23:08.68yqnrO/IZ0 (1/16)

【数十分後 エレベーター内】

ユイ「分子成形、侵食スピードが常軌を逸しています。こちらが予測していた日数よりも遥かにはやい」

冬月「我々は前例にないことをやろうとしている。多少のズレはいたしかたあるまい」

ユイ「……」

冬月「アダムにとっても刺激的だったのやもしれぬな」

ユイ「使徒は学習し、知恵を身につけます。これまで襲来した特徴をとっても、外見、能力、それぞれが失敗と不満点を改善しようとしている」

冬月「自立志向型の考えを元に成り立つ。おかしいのは魂が空っぽであるにもかかわらず、どうやって肉体強化を」

ユイ「人は無から魂を作れない。神ではありませんのよ。“残り香”。魂をタブリスに移したのではありません。――厳密に言えば、“分けられた状態”なのです」

冬月「そうだとしても、サードチルドレンの内にある魂はしぼりカスではないのか?」

ユイ「原初の時代の遺物に確認しに向かっています」

冬月「ふっ、少なからず動揺しているのか。そんなに息子を心配せずとも」

ユイ「急展開になろうとしているかもしれないのです」

冬月「……?」

ユイ「もし、もし、肉体だけでなく、アダムそのものが再構築されているのなら――」

冬月「なに? もしや、魂の再生? そんなことは、まさか」

ユイ「本件は無用なパニックを避けるため、あらゆる角度からシンジの状態を分析する目的があります。パンドラの箱、我々は禁忌の領域を侵害している。忘れないで」

冬月「いかんな。完全な使徒として活動しだすとなれば人の脆弱な自我の容量を超え、ひとたまりもなく決壊する」

ユイ「……」チーン

冬月「セントラルドグマに降りてくるのはいつ以来か。そして――ここに安置してあるリリスと対面するのも」

ユイ「急ぎましょう」コツコツ


540以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/18(月) 11:48:08.24vVg1OtBW0 (1/1)

エレベーターがついた音だとはわかるが、タイミング的にユイが絶望顔になってるように見える


541 ◆y7//w4A.QY2017/09/18(月) 11:59:27.25yqnrO/IZ0 (2/16)

リリス「……」

ユイ「リリス。我々人類にとって母なる存在、聞きたいことがあるの」

冬月「ロンギヌスの槍で封印されている。魂でさえレイの中にある状態で、なにも認識できや――」

リリス『おかえりなさい』

冬月「……っ⁉︎」ギョッ

ユイ「黒き月。ファーストインパクトという大災害をおこし地球に降り立った最初の時、外殻は月に、葛城調査隊が発見する西暦2000年までアダムは休眠状態にはいった」

リリス「……」

冬月「ば、バカなっ! このような、ありえん!」

ユイ「生命の実を持つアダム、知恵の身を持つリリス。母さんは人類の元となる生命体に知恵を分け与え、人類はDNAを紡ぐことで継承していった」

冬月「ゆ、ユイくん。キミは一体」ガシッ

ユイ「アダムとリリスの融合。それは究極の生命体を意味する。さらに、ヒトをかけあわされば、どんな願いでも叶う」

冬月「ひ、瞳の色が――」

ユイ「お願い。私を初号機の中から呼び覚ましてくれた時のように、助けて。アダムの共振を感じているでしょう?」

冬月「初号機だと? リリスの助力で……な、なにがあったのだ」

リリス『なにを、望むの?』

冬月「(頭の中に直接言葉が浮かんでくる……)」

ユイ「シンジを、この世界のトリガーにしたい」

リリス『愛しく哀れな我が子。それが願い?』

ユイ「……不可解なの、母さんの肉体にある魂は完全な状態?」

リリス『違う』

ユイ「では、不完全な形での再構築」

冬月「……」ゴクリ

ユイ「ありがとう、母さん。まだもう少し休んでいて。もう少しだから」


542 ◆y7//w4A.QY2017/09/18(月) 14:10:49.37yqnrO/IZ0 (3/16)

冬月「待て。どういうことか説明してもらおう」

ユイ「それよりも――」

冬月「協力できない」

ユイ「……わかりました。この瞳はリリスの影響によるものです。といっても“混ざり”は薄い。レイを原液だとすればさらに水でうすめたもの。力は使えません。こうしてリリスとの対話ができるだけ」

冬月「俺にも聞こえたぞ。言葉がイメージとして浮かび上がった程度だが」

ユイ「私が近くにいることで少なからず影響を与えたのでしょう」

冬月「ユイくんはリリスの声が直に聞こえるのか」

ユイ「生身の人間では、存在の崇高さから自我を保てない。朧げにしか……聞いてはならないと防衛本能が働いてるのかもしれませんね」

冬月「初号機の中でリリスと邂逅したのかね」

ユイ「潜りすぎてとりこまれたあの日。私の肉体は液体状にまで還元され、魂はコアとひとつとなりました」

冬月「そこまでは承知している」

ユイ「その後になにが起こったのか。意識を確立できない狭間で、私はリリスと対話することに成功したのです」

冬月「……」

ユイ「膨大な知識が雪崩れ込んでくる。洪水のように。ひとつひとつの細胞が、まるで電気ショックを与えられているみたいでした」

冬月「脳では到達できない領域」

ユイ「アメリカ心理学の父であるウィリアム・ジェームズは“人の脳は普段、その10パーセントも使用していない”と提唱しました。100パーセントを使うと無理がでて耐えきれないからです。俗説だとする真っ向から否定した発表もあります」

冬月「……」

ユイ「それがどちらであれ、“それほどの量”の知識が私の中を駆け巡ったのです。想像できますか?」

冬月「言わんとする意図はわかる。対話に成功したキミは、コアを通してどうした」

ユイ「孤独を、理解しました」

冬月「……」

ユイ「リリス、アダムという原初の人々でも逃れる術はなかったのです。確立した存在である以上。それと同時に、私が今までどこか虚しいと感じていた理由も……」

冬月「コアから抜けだした方法は」

ユイ「ただ、もう一度、“会いたい”と願ったのですよ。純粋に。気がついたら、初号機の前にいました」

冬月「だが、肉体はサルベージに失敗して既に」

ユイ「科学でさえクローン技術を通して作れるのです。神に創造ができないとでも? 我々は彼らの力を模しているにすぎません」

冬月「うう、む」

ユイ「幸いなことに、私の魂は初号機のそばにありました」

冬月「つまり、その頃からキミはリリスと通じ合っていたのか? これまでずっと?」

ユイ「ふふっ、通じ合う? 概念はそのようなものではない」

冬月「……」

ユイ「もうよろしいですか? シンジの中にあるアダムをなんとかしなければ。覚醒させるには早すぎます」

冬月「よかろう。計画書の見直しが必要だな」

ユイ「修正はまだききます。表面化したのは幸いと考えましょう。私たちが気がつく前に、融合が今以上進んでないと」

冬月「セカンドチルドレンはどうなった?」

ユイ「まだ生きています。ですが、必ず死んでもらいます」

冬月「まずいことにならなければいいか」

ユイ「先生。感謝しています」

冬月「……」

ユイ「あなたがそうやって不測の事態を考慮してくれるからこそ、行き過ぎた行動に対して歯止めがかる」

冬月「ふん、俺は静観しているに過ぎんよ。キミも碇も言ってやめるような奴ではあるまい」

ユイ「サポートしていただいてるのは事実です。これからも、よろしくお願いします」


543以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/18(月) 14:23:00.05JURYdx4jO (1/1)

このSSのストーリーすげえな


544 ◆y7//w4A.QY2017/09/18(月) 15:03:47.79yqnrO/IZ0 (4/16)

【第壱中学校 保健室 放課後】

ヒカリ「失礼します。先生。アスカは」

先生「目を覚ましてるわよ。会ってく?」

アスカ「――ヒカリ?」

ヒカリ「あっ」タッタッタ シャ

アスカ「おはよ」

ヒカリ「なにを呑気な……首っ⁉︎」

アスカ「平気だって。ちょっと大袈裟に湿布はってるだけ」

先生「女の子ですものね。手形が残っているのなんて見せられないし。心配ないだろうけど……一応、病院は行くのよ? 碇くんだっけ、彼は、まだ起きない?」

アスカ「まだ眠っています。さっきは、頑張ってくれたから」

先生「そう。疲弊していたのね。まさか、暴漢がここに来るなんて、こわいわ。ネルフに連絡しておいたからすぐに捕まると思うけれど」

アスカ「(それはないわね、たぶん)」

ヒカリ「でも、よかった。本当に」グス

アスカ「泣かないの。女の涙はとっておきなんだから」

先生「言うわね」

アスカ「先生、ここは大丈夫ですから」

先生「そう? それじゃあ、ちょっとタバコ休憩にでも」

ヒカリ「碇くん、気がついて追いかけてくれてたんだ」

アスカ「……? なに? どういうこと?」

ヒカリ「ちゃんと伝えられなかったけど、アスカの様子がおかしいって言ったの。そしたら、突然用事があるからって」

アスカ「そうなの?」

ヒカリ「よかったぁ」

アスカ「そっか。ちったぁ男見せたんだ。こいつ」

ヒカリ「うん、暴漢を追い返したのって碇くんなんでしょう? すごいよね、そんな人だとは夢にも思わなかった」

アスカ「まぁ、よくやってたわよ。人間じゃできないぐらい」

ヒカリ「ぷっ、なにそれぇ?」

アスカ「……」

ヒカリ「碇くん、起こす? 下校時間だし」

アスカ「そうね、もうちょっと」

ヒカリ「えっ、でも。帰らなくちゃ……あ、迎えきてもらうとか?」

アスカ「ううん、違う、よっと」ギシッ シャッ

ヒカリ「やっぱり起こすの?」

アスカ「ヒカリ、黙って」ギシッ

ヒカリ「あ、アス――」

シンジ「すぅー……すぅー……」

アスカ「……」チュ

ヒカリ「え、ええぇぇぇっ⁉︎」ガタッ

アスカ「ばっちい」ゴシゴシ

ヒカリ「あ、ああああっアスカっ⁉︎ そ、それって、き、ききキスっ!」

アスカ「どんなもんかと思ったけど。なにも感じない」

ヒカリ「ほぇー」ポー

アスカ「はぁ……。さっさと起きなさい! ねぼすけシンジっ!」


545 ◆y7//w4A.QY2017/09/18(月) 15:31:05.86yqnrO/IZ0 (5/16)

シンジ「いっ⁉︎ な、なんだ⁉︎ なにが……あれ? ここは」

アスカ「ようやくお目覚め?」ぶっすぅ

ヒカリ「……」ドッキンドッキン

シンジ「アスカがどうして腰に手を当てて立って、洞木さんは」

アスカ「なに寝ぼけてんのよ! 下校時刻! ヒカリは迎えに来てくれたの!」

シンジ「寝たまま――」

アスカ「目は覚めた?」

シンジ「あ、うん。洞木さん?」

ヒカリ「へ?」

シンジ「どうしたの? ぼーっとして」

ヒカリ「だ、だだだって、今、アスカが――」

アスカ「なんでもない」チラ

ヒカリ「あ、うん、そ、そう。ちょっと考え事」

シンジ「アスカ、痛みは?」

アスカ「あんたそればっかりね。別にこれぐらいどーってことないわよ」

ヒカリ「わ、私っ! 保健室の先生に挨拶してくる! 二人で話してて!」タッタッタッ

シンジ「……?」

アスカ「まったく、ヒカリったら。余計な気まわしちゃって」

シンジ「(ふぅ。力が戻ってる。ただ、少しだるいな)」

アスカ「シンジ」

シンジ「なに?」

アスカ「落ち着いたら話、聞かせてもらうって言ったわよね」

シンジ「……うん」

アスカ「帰りに私のマンションに――」

マナ「シンジくんっ⁉︎ ごめん! 遅れて! 日直の仕事があって!」ガララッ

アスカ「またあんたぁ?」

マナ「アスカをかばって怪我したって! どこ⁉︎ どこ怪我したの⁉︎」ガタンッ

シンジ「いや、僕は別に」

マナ「よかったぁっ!」ギュウ

アスカ「ちょっと、なに抱きついてるわけ? あんたじゃなくシンジに用事があんのよ」

マナ「別に誰と誰が抱きついても関係ないでしょ。首、平気?」

アスカ「あんたに心配されたくないわ。離れたら? 苦しそうだし」

シンジ「あの、ちょっと、二人とも」

マナ「なんでアスカにわかるのよ?」

アスカ「怪我してるかもしれない相手によく体重かけられるわね。あんたの体重、5トンぐらいあるんじゃなかった?」

マナ「ご、ごとっ⁉︎ そんなわけないでしょ⁉︎」

アスカ「ほら、シンジ」ガシッ

シンジ「っと、あ、アスカ?」

マナ「いきなり腕掴まなくても! いつも強引なのね」

アスカ「ちっ、あんたにはわかんない話があんのよ」

マナ「あぁ~ら? どういう話?」

アスカ「言えない」


546 ◆y7//w4A.QY2017/09/18(月) 15:34:17.33yqnrO/IZ0 (6/16)

マナ「二人だけの秘密? ……アスカ、あなた」

アスカ「胸糞悪くなる勘違いしないでくれない?」

マナ「わかるよ、私。素直じゃないだけのくせに!」

アスカ「……っ! 言ったわね、このクソアマ。この前の続きがやりたいって――」

シンジ「もうやめるんだ! 二人とも!」

マナ「ご、ごめん」

アスカ「ふん」

シンジ「僕の態度がはっきりしないのがいけないんだ。マナ、アスカと話をする。自分の意思で。いい?」

マナ「あ……」ギュウ

アスカ「ふふん、残念でしたぁ~」

シンジ「アスカも。マナは心配してくれてるだけだよ」

アスカ「(バカシンジ。こいつは女の嫉妬をしてるのよ)」

シンジ「僕なら、大丈夫だから。マナも帰って」

マナ「えっ、でも、方向同じだし! わ、私も一緒に!」

シンジ「今日はアスカと二人にしてほしい」

先生「っとに。最近のマセガキどもは」

ヒカリ「な、なにやってるのよ。もぉ」

アスカ「あ……」

先生「そんだけ騒がれる元気があれば充分よ。とっとと帰りなさい。はぁ……。私なんか数年彼氏いないのに」

マナ「す、すみません」

先生「あわれみは余計みじめになるだけだわ……」



547 ◆y7//w4A.QY2017/09/18(月) 19:06:20.72yqnrO/IZ0 (7/16)

【ミサト宅 リビング】

シンジ「まだ散らかってないみたいだね」

アスカ「二日ぶりでしょ。さて、ここなら誰かに聞かれる心配はない。マナにもね」

シンジ「そんなに露骨に言わなくたって」

アスカ「マナは戦自で、あたしたちを調べてる。シンジにだって、演技に見えなくなってきたけど。……今いい。昼休みのやつ、知り合いみたいだったけど?」

シンジ「カヲルくん?」

アスカ「そう、それ。どこで知り合ったのよ」

シンジ「フォースチルドレンなんだ」

アスカ「あいつがっ⁉︎」ガタッ

シンジ「三号機が配備されるって聞いた。ネルフの通路でたまたますれ違って」

アスカ「戦自じゃなくあたしたちの同僚じゃない⁉︎ どうして狙ってくるの⁉︎」

シンジ「……わからない」

アスカ「あんたの目が赤くなった理由は?」

シンジ「そ、それは……」

アスカ「正直に言った方がいいわよ。隠すのって気づかれないことに前提にあるんだから。あたしはこの目で現場を見てる」

シンジ「(うまく、誤魔化すしか)」

アスカ「あんたとあいつ。動きは素人同然。直線的だし、身のこなしを見ればすぐわかる。格闘技経験じゃない。異常なのは、圧倒的な俊敏さと力強さ」

シンジ「……」

アスカ「蹴りがくるとわかってても、反応できない速さと、鉄製の扉を壊す威力。どうやったの?」

シンジ「僕にもよくわからなく――」

アスカ「……」バンッ

シンジ「……」

アスカ「シンジ。二度は言わない」

シンジ「ごめん。話しをすると危険になるんだ。アスカが」

アスカ「もうなってるでしょ⁉︎ 命を狙うって宣言してんのよ⁉︎」

シンジ「僕が守るから」

アスカ「なにも知らされず? いつ来るかわからないのにのほほんと生活しろって言わけぇ?」

シンジ「う、うぅん」

アスカ「あんたねぇ、共同生活してたんだからさぁ。もう少しあたしの性格ってもんを理解してないのぉ?」

シンジ「だけど……」

アスカ「命ならねぇ! とっくに賭けてんのよっ!」バンッ

シンジ「……」

アスカ「――じゃなきゃ、エヴァになんか乗れないじゃないっ!!」

シンジ「……」

アスカ「僕が守るぅ? あんたが、このあたくしさまを? たった一回うまくいっただけでのぼせんじゃないわよ!」

シンジ「そこまででいいよ。わかった……話すから、座って」

アスカ「……」スッ


548 ◆y7//w4A.QY2017/09/18(月) 19:36:03.23yqnrO/IZ0 (8/16)

シンジ「まず、いろんな人が関わってて」

アスカ「誰?」

シンジ「(加持さんは伏せておいたほうがいいかな)」

アスカ「ひとつ忠告しとく。いや、警告。今からあんたが言ったの、それを無条件で信じてあげる」

シンジ「……」

アスカ「ただし! ウソついたら絶対に許さない。変なごまかしも。……あんたと一生口きかないから」

シンジ「本気、なんだね」

アスカ「あたしとの関係がどうでもいいっていうんならそうすれば? 見殺しにだってできるんだから」

シンジ「……」

アスカ「誰かに殺されるなら、エヴァに乗って戦って死ぬほうがまだマシ。でも、そうなら仕方ない」

シンジ「わかったよ」

アスカ「じゃあ、聞く」

シンジ「順序立てて話すよ。まず、最初は、たぶん、誘拐された時が、全てのはじまりだったんだ」

アスカ「あぁ、そういやそんなことも」

シンジ「やったのは、母さんだったんだ」

アスカ「まじ?」

シンジ「その時は誰かわからなくて。しばらくして、父さんと食事してる時に姿を見せてきて」

アスカ「……」

シンジ「母さんだってその時はじめて知った。父さんは僕に写真は全部捨てたって言ってたから、わからなかったんだ」

アスカ「え、あんた、ママの顔、知らなかったの?」

シンジ「うん。おかしいよね。覚えてたのは記憶の中の声だけ。思い出そうと何度かしたことあったけど、首から上が影がさしてるみたいな感じ」

アスカ「……そう。ろくな思い出ないんだ」

シンジ「それから、またしばらくすると、いつのまにか、母さんが父さんを追い詰めてた」

アスカ「え?」

シンジ「僕はなにも知らなかったんだ! ただ、父さんに認めてほしかっただけだから! ……だから、頑張ろうと思ってた矢先のことだった」

アスカ「碇司令ってアラスカに調査に行ってるって……」

シンジ「(話していいのか、本当に……)」ギュウ

アスカ「……」スッ

シンジ「……っ!」

アスカ「手、そんなに強く握らなくたって。ほら、重ねてあげるから。こうすると安心するでしょ」

シンジ「……」

アスカ「続き、話して」


549 ◆y7//w4A.QY2017/09/18(月) 19:57:20.29yqnrO/IZ0 (9/16)

シンジ「父さんは、父さんは……死んだ」

アスカ「……っ⁉︎」ギョ

シンジ「母さんにとどめをさされた」

アスカ「碇、ユイ司令が⁉︎ ……関わってる人が少なくないって」

シンジ「アスカなら、わかるんじゃないの? 父さんと近しい人達」

アスカ「待って! ……まさか、ミサトもっ⁉︎」

シンジ「ミサトさんはなにも知らないよ。蚊帳の外と言ってもいいぐらい」

アスカ「……」ほっ

シンジ「父さんの側近達は、といっても数は少ないけど、母さん側についた」

アスカ「あんたの両親って殺し合いしてたの」

シンジ「実際にはそうじゃないんだ。父さんは夢にも思わなかったんだよ。母さんを愛していたから」

アスカ「背中から刺したみたいな?」

シンジ「うん、それに近い状況だと思う。母さんは母さんで目的があって、ネルフ総司令というポジションがほしかったんだ」

アスカ「それって普通に殺人事件じゃない!」

シンジ「だけど、罪に問われることはない。不公平だよね」

アスカ「どっかに申告とか」

シンジ「それだけは絶対にしちゃだめだ。ネルフの保安部も、諜報部も、第三新東京都市の旧警察機構だって自由に弾圧できる権限を持ってる」

アスカ「だ、だって、そんなの、ただの独裁者じゃ」

シンジ「ネルフのさらに上の組織がある。そこが母さんの味方をしている以上は、どうしようもできないんだ。ただ、母さんの計画の邪魔をするだけ」

アスカ「あ、あんた……とんでもない状況にいたのね」

シンジ「ふぅ……ジリ貧だって僕もわかってるんだ。このままじゃ誰かを守れない」

アスカ「(碇ユイ司令、ウソくさい人だと感じてたけど、まさか、そんな風になってるなんて)」

シンジ「あんな力が使えるのは……」

アスカ「使える、のは?」

シンジ「その、ネルフに、母さんにあることをされたんだ」

アスカ「なにを?」

シンジ「言いたくない」

アスカ「なんで? あたしの身が危険だって言うのなら」

シンジ「違うんだ。言ってしまうとどうなるかわからないから」

アスカ「……?」

シンジ「僕だってこわいんだよ、アスカ」

アスカ「……」

シンジ「アスカは、真実を知りたい。だけど、それだけで僕がどうなってるのかなんてどうでもいいんだろ」

アスカ「そういうわけじゃ」

シンジ「そうだよ。アスカの身の安全に関することだったら言う」


550 ◆y7//w4A.QY2017/09/18(月) 20:18:06.81yqnrO/IZ0 (10/16)

アスカ「……っ!」バンッ グイッ

シンジ「ちょ、ちょっ」

アスカ「いい? バカシンジ。一度しか言わないからね」

シンジ「な、なんだよ、ていうか、襟から手を離してよ。ちゃんとウソついてないじゃ――」

アスカ「そういうことじゃないのよ。あたしがあんたをどうでもいいと思ってるならこんなこと言わない」

シンジ「……」

アスカ「あんたがバケモノになってても、軽蔑しないって約束する。使徒相手にしてんだしさ」パッ

シンジ「ば、バケモノって」

アスカ「肝心なところを聞いてないもの。あんたの力の理由。くどいようだけどあれは人間技じゃない」

シンジ「……ふぅ。あの力は、使徒の力なんだ」

アスカ「使徒? あんたって使徒だったの?」

シンジ「あはは、そう直に聞かれると笑っちゃうね。使徒を移植されたんだよ、母さんに」

アスカ「えぇえぇぇっ⁉︎」

シンジ「だから、あんな力になっちゃったんだ」

アスカ「てことは、フォースも⁉︎ え? 待って? 最近のトレンド? エヴァのパイロットって改造人間にされちゃうのぉっ⁉︎」

シンジ「そ、そういうわけじゃないよ! カヲルくんと僕が異例で」

アスカ「た、助かった。あたしだったら絶対に嫌だし……でも、それで良い成績残せるなら、ううーん」

シンジ「あ、アスカ。なにも良いことないよ、こんなの。冷静に考えてよ」

アスカ「あたしは冷静よ。まぁ、それはいいけど。見た目的な変化は目だけ?」

シンジ「あと、この手なんだけど」スッ

アスカ「うげっ! キモっ! やっぱあたしはいいわ」

シンジ「……はぁ」スッ

アスカ「へぇ、任意で消すことできるんだ?」

シンジ「うん、まぁ」

アスカ「で? あんたって使徒なの? 人間なの? というか得体の知れないモンをよく移植させるわね」

シンジ「……」ポリポリ

アスカ「わかった。とりあえず、ユイ司令が裏の顔を持ってて、碇元司令が亡くなってること。あんたの力の正体も」

シンジ「(よかった、これで終わりそうだ)」

アスカ「誰が関わってるか、具体的な名前は聞いてない」

シンジ「……」ギクッ

アスカ「教えてよ」

シンジ「ううんと、アスカなら頭がいいから」

アスカ「あんた知ってるんでしょ? だったら、言ってくれたらいいだけじゃない」

シンジ「その、危険――」

アスカ「それは何度も聞いた。その上で言ってるともさっきも言ったわ」

シンジ「……」

アスカ「なにを出し渋ってんのよ」








551 ◆y7//w4A.QY2017/09/18(月) 20:46:15.93yqnrO/IZ0 (11/16)

シンジ「リツコさんと、副司令……」

アスカ「それだけ?」

シンジ「ううんと」

アスカ「違うんでしょ。全部吐いちゃいなさい。カツ丼はセルフサービスだから出前とるならはやくしてね」

シンジ「(た、たかられた経験はないけど、こんな感じなのかな)」

アスカ「……」ジトー

シンジ「アスカ。よく考えてよ。本当に、知りたいの? 今ならまだ」

アスカ「シリタイ。ヨクカンガエタ。オシエテ」

シンジ「考えてないだろっ! なんで棒読みになってるんだよ!」

アスカ「後悔はしない……。これから先、シンジのその力に頼ることはあるかもしれない。自分でいうのもなんだけど、プライドの高いあたしが折れてんのよ。それでも守られるだけは嫌」

シンジ「……」

アスカ「知りたいのは、知らなくちゃいけないから」

シンジ「ふぅーー。本当に、後悔しないんだね?」

アスカ「しないわ」

シンジ「……加持さんだよ」

アスカ「……」

シンジ「……あ、アスカ?」

アスカ「そ。わかった。それで終わり? ファーストは?」

シンジ「あ、綾波も。その関係してるけど、母さん側じゃないんだ。どっちかっていうと、僕の方」

アスカ「けっこう複雑な相関図になってるのね。戦自のマナもいるし、あいつは、まぁいいか」

シンジ「あの、ショックじゃないの?」

アスカ「加持さん? そりゃショックよ。表にだしてないだけ。あんたとさっき約束したから。無条件で信じるって」

シンジ「そんな……」

アスカ「加持さんがパソコンに向かってなにかしてるのはしょっちゅうだし。仕事だと思ってた。……まぁ、それも仕事だったのかもしれないけど」

シンジ「……」

アスカ「ミサトには、今日のことうまく誤魔化しとくから。あんたは帰っていいわよ」

シンジ「え? でも、ご飯とか」

アスカ「空気読みなさいよ。取り繕ってる内に、帰って」

シンジ「……やっぱり、話さない方が」

アスカ「これは私が知りたいと求めたこと。あんたは話をしただけ。……なにも悪くない」

シンジ「アスカ……」

アスカ「帰って。お願い」

シンジ「わかった……」ガタッ

アスカ「……」ギュウ

シンジ「あ、あれ?」ヨロヨロッ ドサ

アスカ「……? なにやってんの」

シンジ「なんだ、手が、まさかっ」ドクン ドクン

アスカ「シンジ?」ガタッ

シンジ「あ、アスカァっ! は、はやく、逃げて! 衝動が! 言ってないことがっこのっ手には! もうひとつ、厄介なことがあって」

アスカ「なに? なんかあんの?」

シンジ「こ、壊したくなるんだ! だ、だから、走って逃げてっ!」ググッ

アスカ「ちょ、ちょっとあんた、また、目の色が」


552以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/18(月) 22:36:11.70tuUTmUH7o (1/1)

はよ


553 ◆y7//w4A.QY2017/09/18(月) 22:46:35.28yqnrO/IZ0 (12/16)

シンジ「僕にふれちゃだめだっ!!」バチンッ

アスカ「いたっ」ドサ

シンジ「あ、違うんだ、そんなつもりは」

アスカ「いたぁ、いきなり手を叩かなかったって」

シンジ「だめだ、アスカはだめだ」

アスカ「シンジ、ねぇ」スッ

シンジ「うぅうぅぅっ!」

アスカ「壊したいの? えぇと、なにか壊せるもの、積み木は、ないし。そうだ! コップ!」

シンジ「違うんだ、これはっ、そういうものじゃなくて」

アスカ「違う? じゃあなに?」

シンジ「アスカ、助けて」

アスカ「え……?」

シンジ「僕が溶けてなくなってしまう。アスカの顔が、わからナくなル」

アスカ「ちょっと、どうしたのよ!」ユサユサ

シンジ「……」

アスカ「し、シンジ? 気失ってるの?」ソォー

シンジ「さわるな」

アスカ「あ、だけど」

シンジ「……」パァンッ

アスカ「いたっ! ってぇ! またやったわね! えっ⁉︎
――ちょ、なにっ、汚なっ、舌いれっ、んっ、いたっ」

シンジ「ぷはぁ、はぁーはぁー」

アスカ「このどすけべえっ! 誰がキスしていいっつったのよ! し、舌いれたでしょ⁉︎?」ゴシゴシ

シンジ「……」ググッ

アスカ「くっ、力、つよっ! ちょっと、シンジ! ほんとにどいて! どういうつもり! なにか喋んなさいよ!」ジタバタ

シンジ「……」ガシッ

アスカ「え?」

シンジ「……」ブチブチブチッ

アスカ「きゃあああっ⁉︎」

シンジ「くっ、くっくっくっ」

アスカ「まさか、衝動って……」

シンジ「うぐっ⁉︎」ドサッ

アスカ「(力が抜けた⁉︎)」

シンジ「アスカ、逃げ――うぐっ」ゴスッ

アスカ「とりあえず蹴り一発! さっさとどけ!」

シンジ「うぅっ!」ドサッ

アスカ「これはマジで逃げた方が良さそうね。ああ、まったく、制服破いてくれちゃって! ミサトにどうやって言い訳すんのよ!」

シンジ「そんなことより、今は!」

アスカ「わかってる! でも! 着替え!」

シンジ「もう持ちそうにない! はやくっ!!」

アスカ「えぇと、ええと、たしかこっちに脱いだままのワンピースが。こ、こっち見ないでよ!」

シンジ「み、みてない……」ドサッ

アスカ「え? ちょ、ちょっと、まだ待って。今着てる! 着てるからぁ!」


554 ◆y7//w4A.QY2017/09/18(月) 22:48:46.97yqnrO/IZ0 (13/16)

改行おかしくなったんでレスしなおし


555 ◆y7//w4A.QY2017/09/18(月) 22:50:30.45yqnrO/IZ0 (14/16)

シンジ「僕にふれちゃだめだっ!!」バチンッ

アスカ「いたっ」ドサ

シンジ「あ、違うんだ、そんなつもりは」

アスカ「いたぁ、いきなり手を叩かなかったって」

シンジ「だめだ、アスカはだめだ」

アスカ「シンジ、ねぇ」スッ

シンジ「うぅうぅぅっ!」

アスカ「壊したいの? なにか壊せるもの、積み木は、ないし。そうだ! コップ!」

シンジ「違うんだ、これはっ、そういうものじゃなくて」

アスカ「違う? じゃあなに?」

シンジ「アスカ、助けて」

アスカ「え……?」

シンジ「僕が溶けてなくなってしまう。アスカの顔が、わからナくなル」

アスカ「ちょっと、どうしたのよ!」ユサユサ

シンジ「……」

アスカ「し、シンジ? 気失ってるの?」ソォー

シンジ「さわるな」

アスカ「あ、だけど」

シンジ「……」パァンッ

アスカ「いたっ! ってぇ! またやったわね! えっ⁉︎――ちょ、なにっ、汚なっ、舌いれっ、んっ、いたっ」

シンジ「ぷはぁ、はぁーはぁー」

アスカ「このどすけべえっ! 誰がキスしていいっつったのよ! し、舌いれたでしょ⁉︎?」ゴシゴシ

シンジ「……」ググッ

アスカ「くっ、力、つよっ! ちょっと、シンジ! ほんとにどいて! どういうつもり! なにか喋んなさいよ!」ジタバタ

シンジ「……」ガシッ

アスカ「え?」

シンジ「……」ブチブチブチッ

アスカ「きゃあああっ⁉︎」

シンジ「くっ、くっくっくっ」

アスカ「まさか、衝動って……」

シンジ「うぐっ⁉︎」ドサッ

アスカ「(力が抜けた⁉︎)」

シンジ「アスカ、逃げ――うぐっ」ゴスッ

アスカ「とりあえず蹴り一発! さっさとどけ!」

シンジ「うぅっ!」ドサッ

アスカ「これはマジで逃げた方が良さそうね。ああ、まったく、制服破いてくれちゃって! ミサトにどうやって言い訳すんのよ!」

シンジ「そんなことより、今は!」

アスカ「わかってる! でも! 着替え!」

シンジ「もう持ちそうにない! はやくっ!!」

アスカ「えぇと、ええと、たしかこっちに脱いだままのワンピースが。こ、こっち見ないでよ!」

シンジ「み、みてない……」ドサッ

アスカ「ちょ、ちょっと、まだ待って。今着てる! 着てるからぁ!」


556 ◆y7//w4A.QY2017/09/18(月) 23:18:57.06yqnrO/IZ0 (15/16)

シンジ「……」ユラァ

アスカ「まずっ! ミサトの一升瓶にでも抱きついてなさい!」ブンッ

シンジ「……」パシッ

アスカ「ちっ、逃げなくちゃ」

シンジ「……」テクテク

アスカ「ここの出口はひとつ。その通路を塞ぐってわけ。そんなに私を襲いたいの」

シンジ「……」ジー

アスカ「うっ、気持ちわる。品定めでもしてる気? こんなんじゃ守るどころじゃないじゃない、ほんっと、バカなんだからぁっ!」ブンッ

シンジ「……」パシッ

アスカ「甘い! もういっちょうっ!」ブンッ

シンジ「……っ⁉︎」ゴーンッ ドサッ

アスカ「はっはーん! クリーンヒット! ……なんなのよっ、たく」

シンジ「……」ムクッ

アスカ「もぉ~~まだぁ? いい加減にしてよぉ~~っ!」ブンッ ブンッ

シンジ「……」パシッ パシッ

アスカ「(さすがに学習したか。ええぃ、こうなったら!)」

シンジ「……」

アスカ「し、シンジ~? ほぉら」チラリ

シンジ「……」ピクッ

アスカ「ふんっ!」ブンッ

シンジ「……っ⁉︎」スコーンッ ドサッ

アスカ「こ、こんなマヌケな手にひっかかるなんて。なにが衝動よ。単なるケモノじゃない」

シンジ「うっ、うぅ」ムク

アスカ「まだくるのぉ?」ゲンナリ

シンジ「あ、あれ? うわぁっ⁉︎」

アスカ「ミサトの! 焼酎瓶なら! まだまだ!」ブンッ

シンジ「あぶっ! あぶない! や、やめてっ! やめて! アスカ!」ガシャン

アスカ「……? 正気に戻ったの?」

シンジ「はぁ、たぶん」

アスカ「もう平気? ほんとに? 演技してるだけとか」ガシッ

シンジ「ち、ちちちっ違うよ! だから! 酒瓶を掴むのはやめて!」

アスカ「あんた、なに重要なこと言い忘れてんのよ!」

シンジ「ご、ごめん! 今来るとは思わなくて!」

アスカ「あーあ、部屋の中めちゃくちゃ」

シンジ「あ……うん」

アスカ「その衝動ってやつ。制御できないの? とんだ欠陥じゃない」

シンジ「自分じゃどうしようもできなくて」

アスカ「昼間のやつとあんた、どっちから襲われるかわかったもんじゃないわよぉ」

シンジ「それは……そうだね、ごめん」

アスカ「どーなの? もうなさそうなの?」

シンジ「たぶん」

アスカ「今起こったことは、事故だと思って忘れてあげる。でも、それで昼間助けてくれた借りはなし。チャラ。いーわね⁉︎」

シンジ「め、めんぼくない」シュン


557 ◆y7//w4A.QY2017/09/18(月) 23:40:02.93yqnrO/IZ0 (16/16)

【ミサト宅 数十分後】

アスカ「気持ち悪いったらもー」ガラガラガラッ ペッ

シンジ「そんな、念入りにうがいしなくても」

アスカ「なんか言った?」ギロッ

シンジ「なんでもないです」

アスカ「あのねぇ、雰囲気ってもんがあんでしょーが。無理やりが好きな女がどこにいるっつーのよ」

シンジ「……」シュン

ペンペン「クェーッ」コツコツ

アスカ「駄ペンギンは今更でてきて床舐めようとしてるし。くちばし濡らしてなにやってんだか」ガラガラガラッ ペッ

シンジ「あっ、ペンペンだめだよ」

ペンペン「クェ?」

アスカ「もう言ってないことない?」

シンジ「えぇと、ないことはないけど、さっきみたいな危害を与えるようなのは」

アスカ「それはあるっつーの!」

シンジ「そ、そっか」

アスカ「めんどくさそうだから今日はいい。感傷に浸る暇すらないじゃない」ブツブツ

シンジ「……」フキフキ

アスカ「ミサト、どう言い訳する?」

シンジ「あ……どうしようか」

アスカ「昼間の件は暴漢ってことにしたけど。それすらも怪しまれないか苦しいのに。問題は制服よ」

シンジ「うん」

アスカ「あんたが破いたってことにする?」

シンジ「えっ」

アスカ「二人きりでいたらあんたがあたしに欲情して、抵抗したら破けたって。大目玉くらうだろうけど」

シンジ「うぁ、それは、でも、そうするしかないね」

アスカ「使徒のせいにもできるけど、それ。ミサトに言いたくないんでしょ?」

シンジ「うん」

アスカ「だったら、変に誤魔化すよりは、本当のことを織り交ぜて言った方がいい。こっちも完全な作り話だとボロでちゃうし」

シンジ「わかった。それでいこう」

アスカ「厳罰は覚悟しときなさいよ。少しはフォローしたげるから」


558 ◆y7//w4A.QY2017/09/19(火) 00:06:23.16XHL6SpVG0 (1/3)

【また数十分後】

ミサト「――シンジくん。今の話は本当なの?」

シンジ「は、はい。すみません」

アスカ「あたしが魅力的すぎるっていうのも」

ミサト「アスカ、黙りなさい。シンジくんはそんなことしない子だと思ってたのに。思春期の性欲を舐めてたわね」

シンジ「本当に、すいません」

ミサト「いい? シンジくん。アスカは、多感な年頃なのよ? この時期に残る思い出って20代、30代の人格形成に大きく影響するの」

シンジ「はい」

ミサト「困ったことに、今だに実感が沸かないんだけど。あの制服を見たらねぇ」チラッ

アスカ「まぁ、そこまで気にしてないし」

ミサト「だめよ。こんなことになってしったのは、大問題だわ」

シンジ「……」

ミサト「このことは、司令はもちろん、同居している監督官の伊吹二尉にも連絡します」

アスカ「ちょっと。当事者のあたしがいいって言ってんのよ」

ミサト「これはね、甘やかしてたらシンジくんの為にならないの。今後に影響するのは、彼も同じなのよ。正しい道徳を身につけさせなくちゃ」

アスカ「ミサトは親じゃないでしょ?」

ミサト「監督者という責務があります。パイロットの管理は私に一任されているの」

アスカ「はぁ……」

ミサト「暫定処置として学校とネルフの往来以外は自宅謹慎処分を言い渡すわ。追加があれば、また連絡する」

アスカ「やりすぎじゃない?」

ミサト「やけにシンジくんをかばうのね」

アスカ「だからぁ、別に気にしてないって」

ミサト「いきなり襲いかかるなんて情状酌量の余地なしよ。却下します」

シンジ「わかり、ました」

アスカ「……」

ミサト「今日はもう帰りなさい。ここに来るアルバイトの件も、白紙に戻すから」

アスカ「いい加減にしてよねっ!」バンッ

ミサト「……?」

アスカ「ぐちぐちぐちと! あたしが水に流すって言ってんでしょう⁉︎」

ミサト「ちょっと、落ち着きなさい」

アスカ「ミサトは親でもなんでもない! シンジがここに来ない理由にはならないわ!」

ミサト「今言ったけど、これはシンジくんの為で」

アスカ「はん、職権乱用よ」

シンジ「アスカ、いいんだ。あの、ミサトさん。僕が悪かったですから、処罰は甘んじて受けます」

ミサト「……はぁ、本当にこのシンジくんが? どうしてもイメージが沸かないのは私も一緒」

シンジ「はい、それは事実です。アスカを見てると……」

ミサト「むらむらぁっときちゃったの?」

シンジ「はい、その、むらむらっと」

ミサト「……」チラッ

アスカ「なんでこっち見んのよ」

ミサト「あたしにも、むらむらぁっときた?」

シンジ「へ?」

ミサト「いや、あたしと、ほら、一緒にいる期間あったじゃない? アスカが来る前は二人きりで住んでたし」


559 ◆y7//w4A.QY2017/09/19(火) 00:31:31.75XHL6SpVG0 (2/3)

シンジ「いえ、ミサトさんには」

ミサト「あらぁ? だめ? まだまだイケると思ってんだけど。胸とか好きなんじゃないの? ほれほれ」もみもみ

シンジ「えっと」サッ

ミサト「どぉ~~もおかしい。目線を逸らすぐらいウブな子が?」

アスカ「ちっ。やっぱその処罰でいいわ」

ミサト「はぁ?」

シンジ「……」

ミサト「あんた達、なぁんかあたしにウソついてない?」

アスカ「なにも」

ミサト「シンちゃん?」

シンジ「いえ、なにも。み、ミサトさんにはむらっとしなくて、アスカはかわいいから」

アスカ「とーぜん!」

ミサト「処罰は、冗談じゃ済まされないわよ。撤回するなら今のうち。アスカも、シンジくんがつらい目にらあっていいの?」

アスカ「あたしはなにもなしでいいって言ってるじゃない!」

ミサト「だったら違う事実を話なさい。正直に」

シンジ「本当なんです! ミサトさん! 僕がアスカを襲ったのは!」

ミサト「ウソじゃないのね?」

シンジ「はい! ウソじゃありません!」

ミサト「了解したわ。それと、昼間の暴漢の件なんだけど。シンジくんがアスカを助けたんですって?」

シンジ「あ、そうです。体育館裏に行ったら、アスカが襲われてて」

ミサト「アスカ? どうしてそこに?」

アスカ「あたしは、今朝下駄箱に手紙がはいってたの」

ミサト「手紙?」

アスカ「そ。書いてたのは時間と場所の指定だけ。最初はどうせいつもの告白だと思って捨てようと思ったんだけど、クラスメートに行くべきだって言われてさ」

ミサト「それで、行ったら暴漢がいたと。シンジくんはなぜ?」

シンジ「僕は、その見ていたクラスメートから言われたです。アスカが体育館裏に行ったって」

ミサト「よく撃退できたわね?」

シンジ「無我夢中で。アスカの首を締めてたから」

ミサト「体育館の倉庫かしら? 鉄製の扉がひしゃげてたって報告がきてたけど、これは?」

アスカ「それは、その変態が、おっさんだと思うんだけどバイクを用意してたの。逃走用、だと思う」

ミサト「バイク?」

アスカ「シンジに体当たりされて、おどろいて逃げようとしたわ。でも、アクセルを力んだみたいでウイリーしちゃって。突っ込んだ」

ミサト「おかしいわね、部品は見つかってないみたいだけど」

アスカ「当たりどころがよかったんじゃないの? 老朽化でサビてたとか。その後、乗ったまますぐに逃げたし」

ミサト「ふぅーん、なるほど。今の話を統括すると――」チラ

シンジ「……」

ミサト「ねぇ、シンジくん」

シンジ「はい?」

ミサト「アスカのこと好きなんだ?」


560 ◆y7//w4A.QY2017/09/19(火) 00:57:25.79XHL6SpVG0 (3/3)

シンジ「な、なんでそうなるんですかっ!」

ミサト「だってー、アスカが告白されてるの知って、わざわざその場所見に行ったわけでしょ? それで助けたかと思いきや、二人きりになったら我慢できずに襲っちゃう」

アスカ「そうだったの?」

シンジ「ちょ、アスカ⁉︎」

ミサト「そう考えるのが自然じゃないのん?」

シンジ「うっ、た、たしかに、アスカのことはいいなって」

ミサト「へぇぇ~。いがぁい」

アスカ「しょーがないわよねぇ」

ミサト「ねぇねぇ、アスカのどこがいいの? 好きなら答えられるでしょ?」

アスカ「……」チラ

シンジ「あ、アスカはかわいいし」

ミサト「それはさっき聞いたわよ。顔だけなら一目惚れしてるでしょ? いつから?」

シンジ「最近、かな」

ミサト「じゃあ、別の部分なわけだ。どこ?」

シンジ「(ミサトさん、ウソついてるって当たりをつけてるな。仕方ない、こうなったら、僕がアスカに良いと思ってるところを言えば)」

ミサト「答えられないの? 女なら――」

シンジ「違います。本当に、アスカのことが好きなんです」

ミサト「おっとぉ」

シンジ「勝ち気なところ、そりゃほとんどひどいことばかり言われますけど。優しくないわけじゃないっていうのは、クラスで対応を見てればわかるんです」

アスカ「え……?」

ミサト「……」

シンジ「本当は、すごく優しい子なんじゃないかなって。容姿がいいのも本当です。誰だってかわいいにこしたことないじゃないですか。授業を受けている時もなんとなく見ちゃうものでしょう」

ミサト「そうね、それはあるかもしれない」

シンジ「一緒に過ごしてると、ユニゾンの時なんかはたまに喧嘩しました。張り合って」

アスカ「……」

シンジ「特別になりたかったんです。アスカの」

ミサト「そうだったの……。ユニゾン、か。あれがきっかけなら、作戦行動とはいえ、こちらにも非はあるわね」

アスカ「あんた、本当に……?」

ミサト「だからといって、繰り返しになるけど……襲うなんてやっちゃいけないことよ」

シンジ「ひどいことをしたと反省してます」

ミサト「(急に口調がなめらかになったわね。目つきも。こりゃマジ?)」

シンジ「(ふぅ……。アスカが言うように本当の出来事を織り交ぜて正解だったな。ウソついてるって引け目が少ない)」

アスカ「(シンジ……こいつ本当にあたしのこと好きだったんだ。だから、あんなに必死になって)」

ミサト「わかったわ。話は以上よ。犯人はネルフが総力をあげて検挙するから。アスカは安心して」

アスカ「え? ああ。うん」

シンジ「今日はもう帰ります。アスカ、本当にごめん」ペコ

アスカ「別に、気にしてない」


561以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/19(火) 02:09:02.495FPFqmueo (1/1)

旧劇だと多分アスカと相思相愛なんだろうけど…
いやでも綾波が死んだからアスカにいったのか?

少なくとも本編でアスカに依存する前に分岐してるのかこのss


562以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/19(火) 02:35:10.05o+7zENhOO (1/1)

旧劇じゃアスカと二人きりの浜辺エンドイメージ強くて相思相愛と思ってるやつ多いけどそうじゃないよ
シンジはアスカに逃げただけ


563以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/19(火) 03:00:46.16iWdZWX1IO (1/1)

>>1のあらすじに書いてあるじゃん
ユニゾンから数日後だって


564以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/19(火) 03:33:01.657OgBkqYDo (1/1)




565以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/19(火) 15:33:36.88KyUFjAUsO (1/1)

しかし行数ここまで詰めこんでよく続くね



566以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/19(火) 15:56:58.1613Lxsi5wo (1/1)

よし子さん、続きはまだかの


567 ◆y7//w4A.QY2017/09/19(火) 22:05:26.43ZsDOa4S/0 (1/4)

【マヤ宅 リビング】

マヤ「どうしてアスカを襲ったりなんかしたの⁉︎ 連絡きてびっくりしちゃったじゃない!」バンッ

シンジ「ええと、その、我慢できなくて」

マヤ「我慢できなかったって……。不潔よ! シンジくん!」キッ

シンジ「す、すみません。僕が抑えられたらよかったんですけど、マヤさんにもご迷惑かけて」

マヤ「そう、ちゃんと抑えなくちゃ……抑える?」

シンジ「いくらこの手のせいだと言っても、それを言い訳にできませんし」

マヤ「え? し、シンジくんが自分の意思で襲ったんじゃ?」

シンジ「違いますけど」

マヤ「あっ、そうだった。衝動のせいなのね、やだ、私ったら年甲斐もなく、早とちりしちゃって」

シンジ「どうしたんですか?」

マヤ「ご、ごめんなさい。葛城一尉の連絡を額面通りに受け取ってしまって。つい……。シンジくんは、やむを得ない事情があったんですものね」

シンジ「よくわからないんです」

マヤ「え? やっぱり……」

シンジ「あぁ、いえ、そういうわけではなくて。僕も男ですから。手を言い訳に、女の人相手にそういうことしたい気持ちがどこかにあったんじゃないかって」

マヤ「……」

シンジ「未遂で終われましたけど、アスカが機転を利かせず、やられたままだったら。そう考えると、どうしても割り切れません」

マヤ「シンジくん……」

シンジ「あの時、意識を乗っ取られてしまったのは事実です。……だけど、だけど、その考えが頭から離れない」

マヤ「なに?」

シンジ「本当は、僕がやりたいことを増長してるのかもしれない。お酒を飲んだことありませんけど、大人達はよく言ってるじゃないですか。気が大きくなるって」

マヤ「気分が良くなるからね。お酒の席は無礼講っていうぐらい」

シンジ「それと似たような感じじゃないかって自問自答してみても答えはでてきません」

マヤ「……おいで、シンジくん」

シンジ「えっ」

マヤ「いいから。こっちに来なさい」

シンジ「はぁ、なんですか?」ガタッ テクテク

マヤ「膝をついて座って?」

シンジ「はい?」スッ

マヤ「ラクにして」ギュッ

シンジ「え? ま、マヤさん、あの。む、胸が」

マヤ「頭を抱きしめてるのよ。そうなって当たり前じゃない。どう?」

シンジ「どうって……」チラ

マヤ「シンジくんは、どうして他人の為に考えようとするの?」

シンジ「僕なんかでも誰かの役に立てたら嬉しいから」

マヤ「どうして、“なんか”なんて言うの? 自分に自信がないの?」


568 ◆y7//w4A.QY2017/09/19(火) 22:27:24.40ZsDOa4S/0 (2/4)

シンジ「……」

マヤ「今、電波遮断できる?」ボソ

シンジ「あ、その為に。待ってください」

マヤ「うん」

シンジ「どうぞ。あんまり乱用するのはさすがに。こう頻度が続くと機械の不調だと通せなくなると思うし」

マヤ「碇司令はシンジくんが力を意図的に使用できるとご存じ?」

シンジ「いえ。たぶん、知らないと」

マヤ「だったら、制御できてないってことにできないかしら」

シンジ「……なるほど」

マヤ「騙す必要なんてないのよ。聞かれない限りは。聞かれた時にとぼければいい」

シンジ「いいかもしれませんね。これまで起こっていたことが起こらなくなるのも不自然ですし」

マヤ「身体の負担は平気?」

シンジ「はい。長時間でなければ」

マヤ「つらいかもしれないけど、我慢、できる?」

シンジ「こんなのどうってことないです」

マヤ「さっきの話に戻るけど。私だって自信なんかないのよ」

シンジ「……」

マヤ「他人がどう見られて、どう思われてるかわからない。行動することで傷つけてしまうかも。そう悩んで、一歩が踏み出せない人って多いの」

シンジ「そう、ですよね。みんな同じで……」

マヤ「だからこそね? リーダーシップがある人が輝いて見える。そういう部分があると、強く惹かれてしまう」

シンジ「……」

マヤ「先頭に立つって、思いがけない出来事や未知と真っ先に遭遇するの。対応の如何次第で、どう転ぶか、責任だって伴う」

シンジ「はい」

マヤ「言ってる意味、わかる? 組織という巨大な権力に抗おうとしてるんでしょう? 中学生に求めるのは酷だって、理解してるけど――私の目を真っ直ぐ見て」ガシ

シンジ「……はい」

マヤ「自信がなくても、まわりに悟らせちゃだめ。シンジくんが迷っちゃだめなのよ」

シンジ「……」

マヤ「できなくてもいい。失敗したっていい。あなたがあなたを信じて。守りたいと思う人がいるなら、そうしなきゃ」

シンジ「僕は……」

マヤ「私も力になってあげる。足りないところを補えるように」

シンジ「マヤさん……」


569 ◆y7//w4A.QY2017/09/19(火) 22:59:00.33ZsDOa4S/0 (3/4)

マヤ「よし、ところで衝動って女性じゃなく物を壊すことじゃ満足できないの?」

シンジ「あ……はい。その、女の人のみに限定されるらしくて」

マヤ「……う」ヒクヒク

シンジ「これ、アダムっていうんですけど。性に対する好奇心が強いみたいで」

マヤ「アダム? アダムって、聖書とかでよく知られてる……他の使徒と同じタイプのコードネーム?」

シンジ「いえ、これは本物みたいです。あのアダム――」

マヤ「じ、実在してたのっ⁉︎」

シンジ「みたいです」

マヤ「す、すごい発見よ! それ!」

シンジ「学術的価値はともかくとして、このアダムの衝動はいつ襲ってくるか、予測がつかないんです」

マヤ「力を使える代償ってとこね。もしかしたら、今こうしてる瞬間にも?」

シンジ「はい。極端な話、トイレの中でも、お風呂でも、学校でも、いつでもありえます」

マヤ「法則の原因究明しないと大変だわ」

シンジ「綾波から聞いた話によると、同化が進む上でどうしようもない、と」

マヤ「レイ? レイも?」

シンジ「あ、いえ、余計な話を挟んじゃいましたね。綾波は僕と違います。忘れてください」

マヤ「先輩が関係してるならレイも……おかしくない」

シンジ「マヤさん」

マヤ「ごめん、約束、したもんね。パターンを探りましょう」

シンジ「パターン、ですか?」

マヤ「サンプルが少ないから、断定できるほどのデータを収集する必要があるけど。シンジくんの手にある、アダム。例えば、そうね……刺激を与えてたとか」

シンジ「僕は、なにも」

マヤ「気持ちの高ぶりだとかなかった?」

シンジ「いえ、そんなことは」

マヤ「様々なケースが考えられるわよ。力を使用しすぎていたとか。最悪なのは、気まぐれ」

シンジ「気まぐれ……つまり、使徒の匙加減次第?」

マヤ「そうだったら、シンジくんに打つ手はなくなる。薬剤を投与して、細胞の活性化を抑えるとか、そういう別の手段しか……」

シンジ「……それでも、抑えられるなら」

マヤ「簡単に言わないでよ。そう決意したって、実現できるかどうか。薬剤の入手方法は? なにが有効なの? 様々な実験をして、シンジくんの身体に悪影響は?」

シンジ「あ……」

マヤ「ふぅ……どうしようかしら。あ、まだ電波は遮断してるわよね」

シンジ「もちろんです。聞かれちゃまずいですよね」

マヤ「うん。私、自分で調べてみるけど、期待はしないでね? 研究データがない限りは、ただの理論でしかないし。使徒の衝動を抑える方法だなんて……」

シンジ「でも、調べてるのがバレたら」

マヤ「これぐらいなら平気でしょ? ……まずいかなぁ」

シンジ「用心はした方がいいですよ」


570 ◆y7//w4A.QY2017/09/19(火) 23:29:02.61ZsDOa4S/0 (4/4)

マヤ「抑えられたきっかけは?」

シンジ「アスカがミサトさんの酒瓶を投げてきたので」

マヤ「さ、酒瓶を。それが身体にあたった衝撃で?」

シンジ「はい。なんとか正気に戻れました」

マヤ「アスカは知ってるの?」

シンジ「いろいろあって。今日、話しました」

マヤ「シンジくんの今の状態を知ってるのは、司令達を除けば、私とアスカとレイ?」

シンジ「はい。ミサトさんは知りません」

マヤ「少なくない人数が、知ってるのね。あまり、喋らない方がいいわよ。危険だし」

シンジ「極力、そうしたいと思ってます」

マヤ「うーん。私、薬学方面弱いんだよねぇ、先輩は天才だから心理学も専攻してたけど」

シンジ「あの、無理なら……」

マヤ「私と一緒にいる時間長いのよ? 帰ってきてずっと。衝動が起こったら、その、つい最近みたいに、また……」

シンジ「そ、そうならないようにします! そ、そういえば、マヤさん、あの時、正気だったんですか?」

マヤ「へ? なんの話?」

シンジ「僕、てっきり、アダムがなにか力を使ってると思って。マヤさん、積極的だったし」

マヤ「し、シンジくんっ!」バンッ

シンジ「は、はい!」

マヤ「はぁー……あれは、ちょ、ちょっとだけ、そのぉ」

シンジ「……?」

マヤ「い、言わせようとしてない?」

シンジ「そんなわけありませんよ!」

マヤ「そ、そう、なんだ」ガッカリ

シンジ「マヤさん?」

マヤ「じ、実験、してみよっか?」

シンジ「――え?」

マヤ「刺激与えなくちゃいけないでしょう?」

シンジ「あ、手にですか?」

マヤ「うん。色々、試してみない?」

シンジ「でも、それで本当に衝動がきてしまったら」

マヤ「そんなビクついてちゃ先に進めないわ。一度悪化させみるぐらいの気持ちでやらないと」

シンジ「ううん、わかり、ました。最初は、軽めからで」

マヤ「力って、電波遮断だけ?」

シンジ「あとは、身体能力の強化ができます」

マヤ「へぇ、それ、やってみようか」

シンジ「消耗が激しいです。監視されてる状況だと遮断をしなくちゃいけないし、長時間はとても。なので、別の方法から」

マヤ「了解。それじゃ、手、さわってみる。貸して」

シンジ「はい」スッ

マヤ「……」フニフニ

シンジ「……」

マヤ「どう? なにか感じる?」

シンジ「いえ、なにも」


571以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/20(水) 06:23:56.317a/VDZneo (1/1)




572 ◆y7//w4A.QY2017/09/20(水) 19:56:29.88W0aeVfls0 (1/1)

シンジ「これって本当に意味のある行為なんですか?」

マヤ「“百聞は一見にしかず。科学者たるもの、日常にこそ着目しなさい。ひょんな発見があるかも”」

シンジ「は、はぁ」

マヤ「どうだった? 先輩の口調をマネてみたんだけど」

シンジ「あ、あんまり……」

マヤ「そう、そうなのよ。いつもあの背中を追いかけてるつもりなのに。見えるのは、後ろ姿だけ」

シンジ「憧れ、なんですね」

マヤ「そういう域の人じゃなかったわ。象徴、シンボルだとしても過言じゃない。今は、素直に尊敬できなくなってしまったけど」

シンジ「僕のせいだ」

マヤ「いいえ。それは違う。たしかに巻き込まれたのは、私の意思があったかといえばそうじゃない。……けど、先輩の新たな一面が見えて失望したのって私なの」

シンジ「……」

マヤ「ううんとね」

シンジ「いえ、意味わかりますよ」

マヤ「そっか。だから、責任を感じるのはやめてね。これは、私と先輩の問題だから。私たち二人の間に割って入ってこないで?」

シンジ「……わかり、ました」

マヤ「続けよっか」

シンジ「あの、ちょっと辛くなってきたので、今日はもう」

マヤ「そんなに持続時間短いんだ。まだ30分も経過してないわよ?」

シンジ「そういえば、どれぐらい続けられるか測ったことないや」

マヤ「まず、自分になにができるのかをよく知った方がいいと思うわ。力の使い道に活用できるし」

シンジ「そうですね、やっぱり、限界まで続けてみようと思います」

マヤ「だいたいの目安だけど、今って20分ぐらいよね」

シンジ「はい」

マヤ「了解。そのままちょっと待ってて。ノート端末を取ってくる」ガタッ

シンジ「マヤさんが親切にしてくれる理由って?」

マヤ「……」ピタ

シンジ「……?」

マヤ「正直なところ、気がつけば、いつも思考の中にいる。シンジくんと一緒ね。……自分を認めて、向き合える自信がないの」

シンジ「……」

マヤ「先輩に裏切られたと感じてる、その寂しさを埋めてるだけなのかもって思う時もある。シンジくんに縋って」

シンジ「僕は、感謝してますよ」

マヤ「……」

シンジ「マヤさんがいてくれてよかったと思ってます。それでいいじゃないですか」


573 ◆y7//w4A.QY2017/09/21(木) 10:33:42.09oz+dgW4j0 (1/11)

マヤ「それ、シンジくんも同じだよ。あなたはエヴァに乗れるっていうだけで満足なの? 自分の価値を見出せる?」

シンジ「……」

マヤ「……励そうとしてくれてるのよね。でも、気になっちゃって頭から離れないの。いろいろな考えがまとまらない」

シンジ「(よく見たら目の下にうっすらクマができてる。いつからなんだろう。気がつけないなんて……僕は、バカだ)」

マヤ「お互いを反面教師にできたらラクになれるかもしれない、私たち」

シンジ「(迷ってるんだ。僕と同じ。だったら――)」

マヤ「どうしたら……」

シンジ「ふぅ、僕は、普段自分の思ってることを言いません。我慢しちゃうんです。とりつくろって」

マヤ「え?」

シンジ「波風を立てたくないから。争いごとや喧嘩が、時には必要なことだってわかってます。でも嫌いなんです。そういうの」

マヤ「それは私も同じ。人ってどうして争うのかな」

シンジ「自分のエリアを守りたいから。常識、社会、価値観の違い。僕らは独立した個だからです」

マヤ「……」

シンジ「あえてそこを突いて操作しようとする人もいます。母さんみたいに」

マヤ「性善説なんて、ありえないものね。悪意をもってる人もいる」

シンジ「それも突き詰めれば、“自分が満足したい”この一点に集約されます。あくまで僕の考えです」

マヤ「続けて」

シンジ「僕が誰かの役に立てるならと思うのは、自分の為でもあるんです。父さんに認められたい、僕はエヴァのパイロットなだけじゃないって、周囲に認めさせる為の」

マヤ「(学生時代、勉強だけと思ってた私と同じなのね)」

シンジ「自分で努力したわけじゃない。棚ぼたみたいに、ある日突然、人類の希望なんて言われたんです。有難いと思う人、調子にのる人もいるかもしれません。だけど、僕はそうじゃなかった。実感がわからなければ嬉しくともなかったんです」

マヤ「……」

シンジ「元いた場所、先生のところにいたときは別段なにか不満があったわけじゃない。ごく普通の日常、それが当たり前だと感じていたし、自分の意思でここにいるわけじゃない。なんで僕がってずっと思ってました」

マヤ「……」

シンジ「それでも逃げられなかったのは、ちっぽけなプライドと……“乗れと言われたから乗る”それだけでした」

マヤ「そう、だったの」

シンジ「誰かが、“僕のおかげで助かった”って言うと、ざまあみろって思うようになってきました。どうだ、僕はできるんだぞって」

マヤ「……」

シンジ「父さんに認められたい気持ちに今も変わりははありません。最終目標は、一番見返したい相手は、父さんなんです」

マヤ「……」

シンジ「(もう死んでしまったけど、恥ずかしくない生き方をしなくちゃ)」ガタッ

マヤ「それで……?」

シンジ「僕は、僕は、父さんとは違います。まだ中学生だし、子供です。なにが正解かなんてわからない、だけど、マヤさん」ガシ

マヤ「な、なに?」

シンジ「僕は、マヤさんのことも大切な人だと思ってます。悩みがあるなら、聞きます。力になれるなら、なんだってしますよ」

マヤ「……」

シンジ「不安、なんでしょう? マヤさんだって、僕を、他人を気遣ってる余裕ないのに」ギュウ

マヤ「あ……」

シンジ「……ありがとう。僕が伝えたかったのは、感謝の気持ち、それだけです」


574 ◆y7//w4A.QY2017/09/21(木) 11:13:25.48oz+dgW4j0 (2/11)

マヤ「(やっ、やっぱり、胸が高鳴る。憂いを帯びている表情が色っぽく見える)」

シンジ「……」

マヤ「(私、倒錯してるのかな。先輩を想って自慰をしてた時点で、そうだけど……でも、こんな年頃の子にときめくなんて)」

シンジ「マヤさん? 熱あるんじゃないですか?」

マヤ「……」ウットリ

シンジ「顔赤いけど平気ですか?」

マヤ「平気。もう少し、このまま」

シンジ「……はい。わかりました」

マヤ「(この子の喜ぶことがしたい、そう思いだしてる。はぁ……どうしよう。悩みがシンジくんのこともあるって言ったら、どんな顔するのかしら)」

シンジ「うっ」

マヤ「(軽蔑、するわよね。一度身体を重ねたぐらいでって思われるかもしれない)」

シンジ「ま、マヤさん、あの。限界、かもしれません」

マヤ「え? あっ!」

シンジ「このまま力を発動し続けるとどうなるか……!」

マヤ「オーバーヒートしそうなの?」

シンジ「わかりま、せん。ただ、眠くなってしまいます」

マヤ「睡眠をとることで体力を回復しようしてるんだわ……」

シンジ「あの、もういいですか?」

マヤ「いえ、限界までやってみてくれない? どうなるか観察したいの」

シンジ「う、わ、わかりました」

マヤ「待ってて!」ダダダッ

シンジ「(今までは、気がつけば、力が使えなくなってたりしてたから、はじめてだな)」

マヤ「はいっ、体温計! くわえて!」カポッ

シンジ「んむっ!」

マヤ「どう? 体調に新しい変化は?」

シンジ「いぇ、まらなにも。いいんふぇすか、これ、マヤさんの体温計じゃ」モゴモゴ

マヤ「今はいいから! えぇと、ノートパソコンは……」

シンジ「……」

マヤ「シンジくん? 今から本格的にデータを収集するわ。無理をしている状態は、悪化していると同義だけど、あなたの身体に変化が起きやすい状態ってことでもある」

シンジ「ふぁい」

マヤ「頭痛、めまい、痺れ、眠気、なんでもいいの。とにかく身体におこっていることを申告して。本当は心拍数とかも取りたいだけど、設備がないから」

シンジ「大丈夫、です」もご

マヤ「時間はだいたいではかる。何分毎にどういう変化がおこるか。記録を取り続けたいと思うの。できる?」

シンジ「……」コクコク

マヤ「実験、スタート――」


575 ◆y7//w4A.QY2017/09/21(木) 14:39:30.18oz+dgW4j0 (3/11)

【翌日 ネルフ本部 発令所】

マヤ「昨日採取したデータを検証しなくちゃ」

シゲル「マ~ヤちゃん。あいかわらず忙しそうだねぇ」

マヤ「なに? 邪魔しないでよ」

シゲル「なにしてんの? ライフルの検証?」ヒョイ

マヤ「勝手に見ないでったら!」

シゲル「うん……? なんだこれ? 生態調査とその傾向……なんの?」

マヤ「青葉くん! 公私混合はしないで! この際はっきりさせとく!」ガタッ

シゲル「ん?」

マヤ「私はあなたと仕事以外で関わりたくない!」

シゲル「今は、だろ?」

マヤ「なんで、なんでわかってくれないのよ」

シゲル「まぁそう肩に力をいれなさんなって。怒るにも体力使うぜ?」

マヤ「……」

シゲル「俺はこのとーり適当な人間だしさ。愚痴は言うし、軽口だって叩く。そうしなきゃやってられねぇもん。なんつーか、こう、マヤちゃん見てるさ。変なんだよなぁ」

マヤ「変? 私になにか文句があるの?」

シゲル「いやいやぁ、そうじゃないよ。生きてて楽しいわけ?ってそう見えるわけだ」

マヤ「私のなにがわかるって言うの」

シゲル「わからねーよ? わからねーけど、俺にはそう見えちまう」

マヤ「……」

シゲル「はぁ、なんでこう不器用なのかねぇ。たまには息抜きしなきゃ疲れちまうだろう?」

マヤ「私だって息抜きぐらい! それに、今はやりたいことがある! 集中したいの!」

シゲル「やりたいこと? ってーと、その論文を完成させるのが?」

マヤ「ほっといてよ! お願いだから!」

リツコ「それぐらいにしときなさい」

シゲル「おっと。おはようございます」

リツコ「青葉くん、あまりやりすぎるとセクハラとしてコンプライアンス違反になるわよ」

シゲル「俺はいやらしい発言を誘導したりボディタッチしてるってわけじゃ」

リツコ「嫌がってるでしょう。無作法なマネは自重しなさい。例えマヤを青葉くんが良いなと思っていても」

シゲル「えっ! いや、その」

マヤ「……そんな下心のために、気持ち悪い」

リツコ「マヤ、あなたにもまたお説教しなければならないようね。ついてきなさい」

シゲル「なにも本人にバラさなくたっていいのに。ちぇ」


576 ◆y7//w4A.QY2017/09/21(木) 15:08:41.03oz+dgW4j0 (4/11)

【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「――明日の電車で実家に療養なさい。司令には私から伝えておく」

マヤ「えっ⁉︎ そんなっ」

リツコ「命令よ。伊吹二尉。本日付けであなたを技術ニ課から解雇します」

マヤ「せっ、先輩っ! 待ってください! どうしてですかっ⁉︎」

リツコ「以前に私は忠告した。あなたの身元保証人には私がなっていると。それ、まだなにか調査しているのね。勝手な振る舞いに対する責任は負いきれないわ」

マヤ「ち、違うんです! これは、使徒の生態調査をしていただけで」

リツコ「使徒?」ピク

マヤ「これまでの使徒の襲来パターンから次の使徒に有効な分析や対策案を練ろうと」

リツコ「なぜ今なの?」

マヤ「あの、この前は先輩とあんな風に口論しちゃいましたし。落ち着かなかったので、なにか気持ちが落ち着くものをしようって思って。作業をしてれば忘れられるじゃないですか!」

リツコ「……」

マヤ「本当に、それだけなんです!」

リツコ「マヤ、見えすいた嘘はやめなさい」

マヤ「えっ」

リツコ「例えそれが本当だとしても、知り得た事実はあなたの負担になっている。これから起こる出来事に耐えきれないわ」

マヤ「わからないじゃないですか! お願いします! 今辞めたくはないんです!」

リツコ「……」

マヤ「先輩! お願いです!」

リツコ「なにが理由? なぜネルフにしがみつくの?」

マヤ「私の目標なんです。先輩が……どういう性格でも、研究に対する姿勢や視点について学ぶべきことはまだたくさんあります。ウソじゃありません」

リツコ「パソコンを貸しなさい」

マヤ「はい」スッ

リツコ「……これは。使徒? いえ、誰のデータ?」

マヤ「シンジくんです」

リツコ「あなた、やっぱり……!」

マヤ「どうしてですかっ⁉︎ 先輩はいつもフラットに物事を見極めていました! 科学者として証明するべきでしょう!」

リツコ「シンジくんに、なにか聞いたのね?」

マヤ「少しだけ。シンジくんは今日こうして先輩に話していることを知りません。私が自分の意思で話してることだからです!」

リツコ「……」

マヤ「先輩……! 目を覚ましてください! 私たちは、シンジくんにこそ協力をするべきです!」

リツコ「あなたを解雇する前にシンジくんに話を聞く」

マヤ「先輩っ!!」

リツコ「黙りなさいっ! どれほどの危険に首をつっこんでいるのかわかっているの⁉︎」バンッ

マヤ「わかってます! だけど、それでも私は! 先輩と……!」

リツコ「らちがあかないわね。もう通常業務に戻りなさい。シンジくんは今学校にいるから、終わったらここにくるように指示する。あなたも同席するのよ」

マヤ「……」ギュウ

リツコ「中学生にほだされるなんて。あなた、恥を知ったらどう?」

マヤ「先輩こそ! やっていいことと悪いことに年齢は関係ありません!」

リツコ「……さがって。さがりなさい。伊吹二尉」


577 ◆y7//w4A.QY2017/09/21(木) 15:29:06.55oz+dgW4j0 (5/11)

【第壱中学校 昼休み】

マナ「シーンジくんっ」

シンジ「……」ぼー

マナ「あれ? おーい、もしもーし」

ケンスケ「シンジなら朝からずっとこの調子だよ」

マナ「そうなの?」

ケンスケ「霧島は遅刻ギリギリにきたからな」

マナ「今朝は寝坊しちゃって」

トウジ「センセ、飯やぞ。飯」

シンジ「……」

トウジ「なんや、電池でも切れとるんかいな。おいケンスケ、ゼンマイ貸せや」

ケンスケ「人間に使えるネジなんかあるわけないだろ」

マナ「なにかあったのかな? もしかして、昨日のアスカ?」

アスカ「はぁ……あんたねぇ、ことあるごとにあたしに対抗心だすのやめない?」

マナ「噂をすれば。耳がよろしいのね」

アスカ「地獄耳だって言いたいわけ?」

トウジ「まぁまぁ! そないな猿蟹合戦よりも霧島さま! 今日のお弁当は……」

ヒカリ「あの、鈴原、よかったら、これ」スッ

トウジ「あん? 委員長やないか。どないしたんや、これ」

ヒカリ「うち、お姉ちゃんと妹の分も作ってるからあまりすぎちゃって」

トウジ「委員長の料理かぁ~。まずそう――」

マナ&アスカ「黙って食べなさいっ!」バチーン

トウジ「な、ナイスコンビネーション」パタリ

アスカ「シンジ。シンジ」ユサユサ

シンジ「……」ぼー

アスカ「ちっ! バカシンジっ!」ユサユサッ

シンジ「あ、うわ、うわぁっ⁉︎ あ、アスカ? み、みんなも? なに?」

ケンスケ「昼だよ」

シンジ「あぁ、そんな時間。トウジはなんで倒れてるの?」

マナ「気にしなくていいの。どうしたの? 体調、悪い?」

シンジ「(昨日、あれから気絶しちゃったし。力を使いすぎた影響なのかぼーっとしたままなんだよなぁ)」

ケンスケ「なんでもいいけど、さっさと食べちまおうぜ」


578 ◆y7//w4A.QY2017/09/21(木) 15:58:13.74oz+dgW4j0 (6/11)

【夕方 ネルフ本部 ラボ】

シンジ「碇シンジです。失礼します」カシャ

シンジ「(マヤさんも?)」

リツコ「あら。シンジくん、いらっしゃい。呼び出された理由、察しがついたんじゃなくって? ここは監視されてないから、好きに発言してもらって大丈夫よ」

シンジ「はっ! まさか……!」

リツコ「まずはお掛けなさいな。飲むのはコーヒーしかないけど。いる?」

シンジ「いえ」

リツコ「そう。それじゃ、私も座らせてもらうわね」ギシ

シンジ「……」チラッ

リツコ「ここに呼びだした理由は、マヤに関係していること。だから同席させている。シンジくんはマヤに取り入ることに成功したみたいだけど、部下の暴走まではわからないわよね」

シンジ「取り入る? 僕はそんなんじゃ」

リツコ「命にかかわるわよ」

マヤ「説明したじゃないですか! 使徒を移植されたことしか知らないって!」

リツコ「シンジくんに直接聞きたいの。余計な口を挟まないように」

シンジ「……マヤさんが言ってる通りです」

リツコ「危険だと承知していたわね?」

シンジ「母さんを納得させるためでした。指示が降りていたので」

リツコ「犯せと? それも先ほどマヤから聞いてたけど」

シンジ「はい。合意のない行為を僕は許せませんでした。なので、余計なことを除いて話した上でなにか対策を練ろうと思ったんです。僕からも質問いいですか?」

リツコ「いいでしょう」

シンジ「リツコさんにじゃありません。マヤさん、どうして……」

マヤ「ご、ごめんなさい。最初は先輩に言うつもりなかったんだけど、きっとわかってくれるって」

シンジ「……」

リツコ「このデータ。あなたの内に秘めた衝動を抑えるのに役立てるつもり?」

シンジ「僕じゃありません。使徒です」

リツコ「いずれひとつになる。あなたのものといっても間違いではないわ。ふぅ……どうしたものかしらね」

シンジ「母さんはまだ知らない。そうですよね」

リツコ「自己保身よ。私も厳罰を言い渡されるもの」

シンジ「リツコさんは、なんで母さんに協力してるんですか?」

リツコ「あなたに協力しろと?」

シンジ「そうじゃありません。知りたいだけです」

リツコ「人類はいずれ滅びてしまうからよ。ノアの方舟たる補完計画。舵取りに協力しているに過ぎない。犠牲になるものが何人いようともね」

シンジ「それだけですか?」

リツコ「中学生が生意気な口をきくんじゃありません。あなたは全体像が見えていない子供。綺麗事を並べて個人の生死に翻弄されているだけ」

シンジ「そうかもしれません。でも、勘違いしないでください」

リツコ「よく喋るようになったわね」

シンジ「リツコさんと同じです。僕は僕のやりたいようにやろうって決めてるだけ。その目的意識が、どうなのか。そこに違いは必要ありますか?」

リツコ「ないわ。望むように生きようとする権利は誰にでもあるもの」

シンジ「母さんに協力することを悪いと言ってるわけじゃない。リツコさんが正義だと思う、大義名分がそこにあるんでしょうから。でも、本当にそれだけですか?」

リツコ「(この子……)」

シンジ「誰だって、弱い部分はある。リツコさんは、そんなに完璧なんですか?」

リツコ「シンジくん。あなた、もしや、私の、知ってるの?」

マヤ「シンジくん……?」


579 ◆y7//w4A.QY2017/09/21(木) 16:20:31.86oz+dgW4j0 (7/11)

シンジ「ふっ、くっくっくっ」

リツコ「なにがおかしいの?」

シンジ「うろたえてるからですよ。誰にだって秘密は……触れられたくないことはある。そうじゃないんですか?」

リツコ「……」

シンジ「僕は、マヤさんを守りたい。リツコさんよりもです」

マヤ「し、シンジ……くん?」

シンジ「もし、マヤさんを殺せば、僕はたぶん抑えられなくてリツコさんを殺します。中学生ですから。ついうっかりってこともありますよね」

リツコ「年齢を言い訳にする気?」

シンジ「子供扱いしてるのはリツコさんの方です。対等に考えてください。僕に取り引き材料はないわけじゃありません」

リツコ「――脅し?」

シンジ「どう受け取ってもらっても結構です」

リツコ「(親に似てきたのかしら。いえ、短期間でそれはありえない。これはある程度の覚悟を持っているわね)」

シンジ「僕としてはゆっくり見守っていただきたいと思っています。マヤさんに危害を加えず」

リツコ「やけに思考が冴えているようね。それもアダムの影響?」

シンジ「いえ。そういうわけじゃありませんよ。僕はリツコさんがこわいので」

リツコ「私が?」

シンジ「はい。母さんの側近で、最も警戒すべき相手の一人だと考えています。そんな人と対峙している。どうなります?」

リツコ「ふふっ、なるほど。よくわかった。マヤは板挟みってわけ。私とシンジくんの」

シンジ「マヤさんは、なにも知らなくてよかったんです。僕達が巻き込んでしまった。そうでしょ? リツコさん」

リツコ「……そうね」

シンジ「今回だけは見逃してくれませんか。僕が使徒の力を自覚している件についても」

リツコ「口約束でしか保証しないわよ」

シンジ「契りは必要ありません。リツコさんを信じます」

リツコ「愚かだわ。大人を舐めると痛い目にあう」

シンジ「自分の都合の良いように振る舞うのが大人だっていうんですか?」

リツコ「それは一面よ。狡猾で、そういう生き方を知っているのも歳を重ねたものに多くなる」

シンジ「だったら、僕はリツコさんの人間性を信じます」

リツコ「あなたが、私を? 信じるという意味をわかってるの?」

シンジ「無条件にじゃありませんよ。マヤさんはリツコさんにとっても大切な部下でしょう」

リツコ「……」


580 ◆y7//w4A.QY2017/09/21(木) 16:50:34.50oz+dgW4j0 (8/11)

シンジ「人情っていうんですか? こういうの。難しい言葉はよくわかりませんけど」

リツコ「よく言うわ。もしかしたら、あなた、化けるかもしれないわね」パサ

シンジ「これは……? なんですか?」

リツコ「ダミーとその計画書。適格者が存在せずとも、エヴァの起動を可能にするシステムよ。読んで理解できる?」

シンジ「……」ペラ

マヤ「わ、私にも」

リツコ「黙って」

シンジ「……ベースは綾波ですか?」

リツコ「驚いた。一見しただけでよくそこまで考えが辿り着けたわね。やはり、親の血は受け継いでいる、か」

シンジ「無人機にしてどうするつもりですか」

リツコ「その前に、あなたのやろうとしていることはなに?」

シンジ「リツコさんから見れば、駄々をこねてるように見えるかもしれませんが、僕は補完計画を発動させない別の道を模索したい」

リツコ「ナンセンスね。第三の選択肢なんてありえないわ。発動させなければ人類は滅びてしまう。“再生させるか”、“無に帰すのか”。シンジくんはこの二択で終焉を選ぼうというの?」

シンジ「道がなければ作れば良い。人類はそうやって進化してきました」

リツコ「それは何世代も紡いで学習してきた時間があったからだわ。今回は結論をだすまでに一年も……もっと短いかもしれない。そんなに猶予はないのよ」

シンジ「最後まで足掻いてみたいんです。人が人のせいで終わりを迎えるというのなら、それも自然の摂理のはず」

リツコ「私たちのしようとしていることは神の真似事ですものね」

シンジ「いくら大義名分を掲げようとも。困難を前に諦めるのを強要しないでください」

リツコ「では、シンジくんは司令ととことんやりあうつもり?」

シンジ「僕が望むのは現状維持です。母さんは変革を求めている。この国だって他国がしかけてきたら自己防衛するじゃないですか」

リツコ「しかけているのは私たちだと?」

シンジ「その通りです。人類補完計画の発動を止める。その上で計画性がないとしても、愚かだとしても、人類の未来は人類が決めるべきです」

リツコ「あなたに対する評価を改めましょう。見た目を抜きにすれば、中学生が発するとは思えないわね。青臭いだけと言えなくもないけど」

シンジ「母さんもそうですが、リツコさんもですか」

リツコ「……?」

シンジ「採点してる気になってる時点で、上から見てるんですよ。評価って、そういうものでしょう」

リツコ「これは失礼。取り引きに話を戻しましょう。シンジくん、あなたは私がマヤを救いたいと思っているのね?」

シンジ「少なからずは」

リツコ「そうね。でも切り捨てられないわけじゃない、と言ったら?」

マヤ「(先輩、なんだか、楽しそう?)」

シンジ「そうだとしたら困っちゃいます」

リツコ「ふふっ、可愛げ、身につけたの?」

シンジ「ありのままを言っただけですよ」


581以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/21(木) 18:40:27.69iBtBJlfuo (1/1)




582 ◆y7//w4A.QY2017/09/21(木) 20:09:52.99oz+dgW4j0 (9/11)

【リツコ宅 リビング】

シンジ「食材は自由に使わせてもらいますよ。それにしても意外でした、まさか、条件を飲む理由が」

リツコ「なにもなしじゃ遊び心がないわ。口実だけど、シンジくんの手料理はおいしいって評判だし、一度食べてみたかったの」

シンジ「みんなが過大評価しすぎです。レシピ通りにやれば誰だってできる」

リツコ「美味しいものは美味しい。それでかまいやしないわ」

シンジ「電気タイプなんですね。ここのコンロ」ピッ

リツコ「どこまで把握してるの?」

シンジ「言いたくありません」

リツコ「もしかして、夢の出来事も覚えてるんじゃ? タブリスになにか吹き込まれた?」

シンジ「カヲルくんですか?」キョトン

リツコ「(違うのね。タブリスではない、一体誰が……。アダム、使徒からの直接コンタクト?)」

シンジ「……なにを知ったとしてもやりたいと思ってることは言った通りです」

リツコ「特別に教えてあげる。先程渡した計画書。あれは古い物よ。変更される前のね」

シンジ「……」トントントン

リツコ「新しいダミーの研究は既にはじまっている。ベースは渚カヲル」

シンジ「そうですか。やっぱり、やることに変わりはないんですね」

リツコ「補完計画に必要不可欠ですものね。それは、あなたも同様に。……どう? 人類代表に選ばれた気分は」

シンジ「元々、そういう計画じゃなかったでしょう」

リツコ「鋭い。まるで知っているかのよう口ぶりに先程から鳥肌がたってしまう」

シンジ「褒めたってなにもしませんよ」

リツコ「私、おべっか使うの嫌いなのよ。もし本当にシンジくんがなにも知らないままに推察だけで発言しているとしたら、これほど興味深い話はない」

シンジ「そうですか」

リツコ「とっても不自然ですもの。一週間ほど前まで、事なかれ主義だっただけに、不気味だわ」

シンジ「そんな気がするだけです」

リツコ「ふっ、たしかにシンジくんのお父様が提唱していた補完計画は、初号機が中心にあった。なぜだと思う?」

シンジ「なんでもわかるわけじゃありませんから」ジュー

リツコ「想像でかまわないわ。言ってみて」

シンジ「母さんが現れるまでの父さんは僕に興味がなかった。自分の息子というよりも、道具。僕が必要だっわけじゃない。必要なのは、パイロットだったんでじゃないでしょうか」

リツコ「……」

シンジ「そう考えると、ダミー計画を読んでみて納得がいきます。初号機さえあればいいと思ってたんじゃないかって」

リツコ「そこまでは正解。でも、それは碇司令に初号機が必要な理由であって、私の質問に対しての答えではない。補完計画になぜ必要?」

シンジ「見当もつかないや。発動するまでにいくつか条件があるんじゃないんですか? 僕の手にあるアダムがまず第一。そして二番目には初号機とか。そういういくつものピースが重なってる」

リツコ「(おそろしい子なのかもしれない)」

シンジ「おそらくですけど、今は準備段階。その合間に使徒が来てる。準備ができれば、いつでも補完計画を発動したいと思ってる」コトコト

リツコ「そこは違うわ。私たちはタイムスケジュールに沿って準備、行動しているの」

シンジ「(裏死海文書。真実が書かれた予言書のことか)」

リツコ「莫大な国連費がかかっているのよ。億を飛び越えて兆単位の資金。この時点で何人死んでてもおかしくない」

シンジ「お金、ですか」

リツコ「欲をだして人が死ぬなんてしょっちゅうある話でしょう。一億あれば人殺しをする輩なんて万といるわよ。それがネルフにかかっているのは兆。規模の大きを実感できる?」

シンジ「いえ、あんまり」

リツコ「桁が大きすぎるのね」


583 ◆y7//w4A.QY2017/09/21(木) 20:45:41.66oz+dgW4j0 (10/11)

リツコ「――ほんと。美味しい」

シンジ「どうも」

リツコ「これほどの腕前ならミサトじゃなく私が引き受け人になるべきだったかしら」

シンジ「今はマヤさんですけどね」

リツコ「シンジくん、マヤに頼るのはやめなさい」

シンジ「……」

リツコ「危険だわ。ユイ司令は、必要だと判断すれば容赦がなくなるわよ」

シンジ「わかってます。今は計画の中心にいるのが僕。それ以外は道具、でしょ」

リツコ「ご明察。そこまでわかってるのなら説明する必要はないわね」

シンジ「であれば、同居を解消するように働きかけてください。一緒に住んでいると否応にでも巻き込んでしまう」

リツコ「一理ある」

シンジ「衝動は時と場所を選んでくれません。僕の都合なんておかまいなし」

リツコ「それがマヤに向けられる。そう考えてるのね?」

シンジ「はい。そうなれば僕の望むところではありません。マヤさんに話をしたのはその対応策なんです」

リツコ「……シンジくんから?」

シンジ「そうです。マヤさんになにも非はありません」

リツコ「それはウソね。聞いただけじゃ、動こうとしないもの。あなたに惹かれるなにかがあったはず」

シンジ「曲がったことが許せないだけなんじゃないですか」

リツコ「かばってるつもり? お優しいこと」

シンジ「リツコさんのせいでもあります」

リツコ「私も?」

シンジ「憧れていた先輩が思っていた人ではなかった。現実と理想の違い」

リツコ「幻滅したのが?」

シンジ「気がつかないんですか。マヤさんにとって、リツコさんは心の支えだったんです。それがなくなってしまい、弱ってしまった」

リツコ「あの子、まだ子供ね」

シンジ「子供だとか関係ないと思います。むしろ、歳をとってるからこそ他人のありがたみがわかる。大事な人であればあるほど」

リツコ「あなた、まだ若いでしょう」

シンジ「この一週間、本当に密度が濃かったんですよ。自分の面と向き合うことを余儀なくされました。自分のしたいことで精一杯で、僕はまわりを見ていなかったと実感できるほどに」

リツコ「一時的なものね。人は忘れながらに生きているから」

シンジ「それでも、この出来事を僕は忘れないと思います」

リツコ「あなたの経験則から導きだされた答え。つまり、悟ったからみんなもそうであると?」

シンジ「違います。ただ、若さとは、無謀なことができる期間なんだと漠然と感じます」

リツコ「……」カチャ

シンジ「ワイン、飲まれますか?」

リツコ「シンジくん。将来はウェイターにでもなったら?」

シンジ「僕に将来なんてあるんですかね」

リツコ「自身の死についてまで悟りを開いたの?」

シンジ「いえ、よく、わかりません」

リツコ「もうこんな時間。話すぎたわね。帰っていいわよ」

シンジ「あ、はい」

リツコ「またいつでもいらっしゃい。敵といっても、私はお母様より融通が効くわよ」




584 ◆y7//w4A.QY2017/09/21(木) 22:07:42.55oz+dgW4j0 (11/11)

【マヤ宅 リビング】

シンジ「ただい……わあっ⁉︎」

マヤ「お父さん、お母さん、先立つ不孝をお許しください」

シンジ「ま、マヤさんっ⁉︎ なにやってるんですか⁉︎」

マヤ「あ、シンジくん、おかえり。ごめんね、いま、準備してるから」

シンジ「ロープから手を離して! そんなの一体どこから」

マヤ「帰りにホームセンターに寄って買ってきたの」

シンジ「いや、そうじゃなくて! 大丈夫ですよ!なにも心配しなくていいんです!」

マヤ「うふ、うふふ。私、失敗しちゃった。先輩ならわかってくれると思ったのに。また裏切られちゃったの」

シンジ「そ、それは……リツコさんもやりたいことがあって……!」

マヤ「私には仕事しかないもの。実家に帰るぐらいなら、生きてたって」

シンジ「そんなことありませんよ! 生きてればなんだってできます!」

マヤ「気力がなくなっちゃったの! シンジくんの力になりたかった、けど、逆に足を引っ張っちゃったね」

シンジ「一度失敗したぐらいでなんだっていうんですか!」

マヤ「取り返せるつまずきならまだいい。だけど、クビなら無理。やり直すにしても、ネルフとは別の場所」

シンジ「仕事が全てだなんて、そんな……」

マヤ「決めたの。先輩に見捨てられて、シンジくんにも迷惑をかけて。ボロボロだわ」ガタッ

シンジ「まって!」ダダダッ

マヤ「うっ」ガクッ ジタバタ

シンジ「くそっ!」ガシッ

マヤ「は、離してっ! シンジくん! 離してよっ!」

シンジ「暴れないでくださいよ! 持ちあげるのに力が……」

マヤ「死なせてよ! 死にたいの!」

シンジ「(こうなったら、力を使うしか……!)」

マヤ「え?」ヒョイ

シンジ「はぁ……。まさかそんなに張り詰めてたなんて」

マヤ「お、重くないの?」

シンジ「今は箸を持ちあげる重さぐらいですよ。使徒の力を使ってますから」

マヤ「そういう……あの、降ろして。お姫様抱っこされるような歳じゃ」

シンジ「もうしませんか? こういうこと」

マヤ「……」

シンジ「だったら、降ろせません」

マヤ「わかった。しないから」

シンジ「一瞬とはいえ苦しかったでしょ」スッ

マヤ「うっ……ぐすっ……」

シンジ「僕が止めたのは、マヤさんが死んだら悲しいからです。ここにいたっていいんですよ。ネルフにも」

マヤ「本当? 私、まだ、やり直せる?」

シンジ「リツコさんの了承は得られました。信じてもいいと思います。危険はありますが」

マヤ「ありがとう、シンジくん、ありがとう」ギュウ

シンジ「(女の人ってみんなこうなのかなぁ)」ポンポン


585以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/22(金) 19:13:10.2323+v/2wRo (1/1)




586以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/22(金) 19:48:04.40WQoYycWcO (1/1)

たまに見かける④ってなに?


587以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/22(金) 19:50:58.76g5r530lSO (1/1)

支援


588 ◆y7//w4A.QY2017/09/22(金) 22:21:24.44yBhD/MoW0 (1/6)

ちょいすんまへん
読み返すと>>576からセリフ回し荒くなってるんでレスしなおし


589 ◆y7//w4A.QY2017/09/22(金) 22:37:21.93yBhD/MoW0 (2/6)

【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「――療養の為、実家に戻りなさい」

マヤ「えっ⁉︎ そんなっ」

リツコ「命令よ。伊吹二尉。解雇予告だと思ってもらって結構です。休職期間が明けた後、技術局ニ課より……」

マヤ「せっ、先輩っ! 待ってください! どうしてですかっ⁉︎」

リツコ「ありのままの事実を伝えていたはず。身元保証人には私がなっていると。にもかかわらず、まだ調査しているわね。勝手な振る舞いに対する責任は負いきれない」

マヤ「ち、違うんです! これは、使徒の生態調査をしていただけで」

リツコ「使徒?」ピク

マヤ「これまでの使徒の襲来パターンから次の使徒に有効な分析や対策案を練ろうと」

リツコ「動機は?」

マヤ「あの、この前は先輩とあんな風に口論しちゃいましたし。落ち着かなかったので、なにか気持ちが落ち着くことをしようと思って。作業に没頭してれば考えなくて済むじゃないですか!」

リツコ「……」

マヤ「本当に、それだけなんです!」

リツコ「マヤ、見えすいた嘘はやめなさい」

マヤ「せ、先輩……」

リツコ「知り得た事実が負担になっている。これから起こるであろう出来事に耐えきれるように見えない」

マヤ「わからないじゃないですか! お願いします! 辞めたくはないんです!」

リツコ「……」

マヤ「先輩! お願いです!」

リツコ「なぜネルフにしがみつくの? ここで働いていたという実績があれば、引く手あまたよ」

マヤ「私の目標なんです。先輩が。……どういう性格だとしても、研究に対する姿勢や視点について学ぶべきことはたくさんあります。ウソじゃありません」

リツコ「パソコンを貸しなさい」

マヤ「はい」スッ

リツコ「……これは。使徒? いえ、誰のデータ?」

マヤ「シンジくん、です」

リツコ「あなた、やはり……!」

マヤ「どうしてですかっ⁉︎ 先輩はいつもフラットに物事を見極めていました! 科学者として証明するべきでしょう!」

リツコ「なにか聞いたのね?」

マヤ「少しだけ。彼はなにも知りません。私が自分の意思で話してることだからです!」

リツコ「……」

マヤ「先輩……! 目を覚ましてください! 私たちは、シンジくんにこそ協力をするべきです!」

リツコ「あなたを解雇する前にシンジくんに事情聴取しなくちゃ」

マヤ「先輩っ!!」

リツコ「黙りなさいっ! どれほどの危険に首をつっこんでいるかわかってるのっ⁉︎」バンッ

マヤ「わかってます! だけど、それでも私は! 先輩と……!」

リツコ「らちがあかないわ。通常業務に戻りなさい。シンジくんは学校にいるから、放課後ここにくるように指示する。あなたも同席するのよ」

マヤ「……」ギュウ

リツコ「中学生にほだされるなんて。恥を知ったらどう?」

マヤ「先輩こそ! やっていいことと悪いことに年齢は関係ありません!」


590 ◆y7//w4A.QY2017/09/22(金) 22:47:04.38yBhD/MoW0 (3/6)

【第壱中学校 昼休み】

マナ「シ~ンジくんっ」

シンジ「……」ぼー

マナ「あれ? おーい、もしもーし」

ケンスケ「シンジならずっとこの調子だよ」

マナ「そういえば、授業中もそうだったね?」

ケンスケ「めずらしーね。霧島がシンジのチェックを怠るなんてさ」

マナ「はぁ、緑化委員になんか立候補しなきゃよかった」

トウジ「センセ、飯やぞ。飯」ポン

シンジ「……」カクン

トウジ「なんや、電池でも切れとるんかいな。おいケンスケ、ゼンマイ貸せや」

ケンスケ「人間に使えるネジなんかあるわけないだろ」

マナ「なにかあったのかな? もしかして、昨日のアスカ?」

アスカ「はぁ……あんたねぇ、ことあるごとにあたしに対抗心燃やすのやめない?」

マナ「噂をすれば。耳がよろしいのね」

アスカ「へぇ、地獄耳だって言いたいわけ?」

トウジ「まぁまぁ! そないな猿蟹合戦よりも霧島さま! 今日のお弁当は……」

ヒカリ「あの、鈴原、よかったら、これ」スッ

トウジ「あん? 委員長やないか。どないしたんや、これ」

ヒカリ「うち、お姉ちゃんと妹の分も作ってるからあまりすぎちゃって」

トウジ「委員長の料理かぁ~。まずそう――」

マナ&アスカ「黙って食べなさいっ!」バチーン

トウジ「な、ナイスコンビネーション」パタリ

アスカ「シンジ。シンジ」ユサユサ

シンジ「……」ぼー

アスカ「ちっ! バカシンジっ!」ユサユサッ

シンジ「あ、うわ、うわぁっ⁉︎ あ、アスカ? み、みんなも? なに?」

ケンスケ「とっくに昼だよ」

シンジ「あぁ、そんな時間。トウジはなんで倒れてるの?」

マナ「体調、悪い? 保健室いく?」

ケンスケ「当たり前のようにスルーするなぁ」

シンジ「(昨日、あれから気絶しちゃったし。その影響なのか倦怠感が凄いんだよなぁ)」

ヒカリ「あの~、鈴原?」チョンチョン

ケンスケ「なんでもいいけど、さっさと食べちまおうぜ。残り時間短くなっちゃうよ」


591 ◆y7//w4A.QY2017/09/22(金) 23:03:17.60yBhD/MoW0 (4/6)

【夕方 ネルフ本部 ラボ】

シンジ「碇シンジです。失礼しま……す」アングリ

リツコ「いらっしゃい。シンジくん」

シンジ「マヤさんが、どうしてここに? そんな……⁉︎」

リツコ「まずはお掛けなさいな。飲めるのはインスタントコーヒーしかないけど。淹れましょうか?」

シンジ「いえ」

リツコ「そう。それじゃ、私も座らせてもらうわね」ギシ

シンジ「……」チラッ

リツコ「ここに呼びだした理由について、察しがついたんじゃなくって? なぜ同席させているのかも。シンジくんはマヤを従わせるまで成功したみたいだけど、部下の暴走はわからなかったようね」

シンジ「僕はそんなつもりじゃ」

リツコ「言葉を選びなさい? そうしないと、命にかかわる」

マヤ「何度も説明したじゃないですか! 使徒を移植されたことしか知らないって!」

リツコ「彼に直接聞きたいの。余計な口を挟むのは慎んでちょうだい」

シンジ「……マヤさんが言ってる通りです」

リツコ「そう。喋ったら危険だと承知していたわね?」コト

シンジ「母さんを納得させるためでした。指示が降りていたので」

リツコ「犯せと? それも先ほどマヤから聞いてたけど」

シンジ「はい。合意のない行為を僕は許せませんでした。なので、余計な部分を除いて話をした。時間稼ぎをして対策を練ろうと思ったんです。僕からも質問いいですか?」

リツコ「発言を許可します」

シンジ「リツコさんにじゃありません。マヤさん、どうして……」

マヤ「ご、ごめんなさい。先輩に言うつもりなかったんだけど、きっとわかってくれる、希望を捨てきれなくて」

シンジ「……」

リツコ「このデータ。内に秘めた衝動を抑えるのに役立てるつもり?」

シンジ「僕のじゃありません。使徒です」

リツコ「いずれひとつになるでしょう。過程と結果が違うだけであなたのものといっても過言ではないわ。ふぅ……どうしたものかしらね」

シンジ「母さんはこのことをまだ知らない。そうですよね」

リツコ「自己保身よ。私も厳罰を言い渡されるもの」

シンジ「リツコさんは、どうして母さんに協力してるんですか?」

リツコ「質問に質問を返すようだけど、あなたに協力しろと?」

シンジ「そうじゃありません。知りたいだけです」

リツコ「人はそう遠くない未来に滅びてしまうからよ。ノアの方舟たる補完計画。舵取りに協力しているに過ぎない。犠牲になるものが何人いようともね」

シンジ「それだけですか?」

リツコ「中学生が生意気な口をきくんじゃありません。あなたは全体像が見えていない子供。綺麗事を並べて個人の生死に翻弄されているだけ」

シンジ「そうかもしれません。でも、勘違いしないでください」

リツコ「よく、喋るようになったわね」

シンジ「リツコさんと同じです。僕は僕のやりたいようにやろうって決めてるだけ。その目的意識が、どうなのか。そこに違いは必要ありますか?」

リツコ「ないわ。望むように生きたいと願う権利は誰にしもに与えられる」

シンジ「母さんに協力することを悪いと言ってるわけじゃない。リツコさんが正義だと思う、大義名分がそこにあるんでしょうから。でも、本当にそれだけですか?」

リツコ「(この子……)」

シンジ「誰だって、弱い部分はあるんじゃないの。リツコさんは、そんなに完璧なんですか?」

リツコ「シンジくん。あなた、まさか……私の、知ってるの?」

マヤ「……?」


592 ◆y7//w4A.QY2017/09/22(金) 23:14:49.11yBhD/MoW0 (5/6)

シンジ「ぷっ、くっくっくっ」

リツコ「なにがおかしいの?」

シンジ「可笑しいですよ、うろたえてるのが。誰にだって秘密は……触れられたくない部分はある。そうリツコさんが言ってるのと同じじゃないんですか?」

リツコ「……」

シンジ「僕は、マヤさんを守りたい。リツコさんよりもです」

マヤ「し、シンジ……くん?」

シンジ「もし、マヤさんを殺せば……僕はたぶん抑えられなくてリツコさんを殺します。中学生ですから。ついうっかり弾みでってことが起こるかもしれない」

リツコ「年齢を言い訳にする気?」

シンジ「子供扱いしてるのはリツコさんです。対等に考えてください。僕に取り引き材料がないわけじゃありません」

リツコ「――脅し?」

シンジ「どう受け取ってもらっても結構です」

リツコ「(親に似てきた? ……不自然ね、これはある種の覚悟からきているのかもしれない)」

シンジ「僕としてはゆっくり見守っていただきたいと思っています。マヤさんに危害を与えず」

リツコ「やけに思考が冴えているみたいね。アダムの影響?」

シンジ「そういうわけじゃありませんよ。僕はリツコさんがこわいので」

リツコ「私が?」

シンジ「はい。母さんの側近で、最も警戒すべき相手の一人だと考えています。そんな人と対峙している。どうなります?」

リツコ「ふふっ、なるほど。よくわかった。マヤは板挟みってわけ。私とシンジくんの」

シンジ「マヤさんは、なにも知らなくてよかったんです。僕達が巻き込んでしまった。そうでしょ? リツコさん」

リツコ「そうね」

シンジ「今回だけは見逃してくれませんか。僕が使徒の力を自覚している件についても」

リツコ「口約束でしか保証しないわよ」

シンジ「契りは必要ありません。リツコさんを信じます」

リツコ「愚かだわ。大人を舐めると痛い目にあう」

シンジ「自分の都合の良いように振る舞うのが大人だっていうんですか?」

リツコ「それは一面にしかすぎない。ずる賢く、狡猾で、そういう生き方を正当化する方法を知っているのも大人なのよ」

シンジ「だったら、僕はリツコさんの人間性を信じます」

リツコ「信じるという意味をわかってるの?」

シンジ「無条件にじゃありませんよ。リツコさんにとっても大切な部下ですよね」


593 ◆y7//w4A.QY2017/09/22(金) 23:55:45.87yBhD/MoW0 (6/6)

シンジ「人情っていうんですか? こういうの。難しい言葉はよくわかりませんけど」

リツコ「よくもまぁぬけぬけと。……もしかしたら、化けるかも。試してみる価値はある」パサ

シンジ「これは……? なんですか?」

リツコ「ダミーとその計画書。適格者が存在せずとも、エヴァの起動を可能にするシステムよ。理解できる?」

シンジ「……」ペラ

マヤ「わ、私にも」

リツコ「黙って」

シンジ「――ベースは綾波ですか?」パサ

リツコ「驚きね。一読したかと思えば瞬時に辿り着いた。やはり、親の血は受け継いでいる、か」

シンジ「無人機にしてどうするつもりですか」

リツコ「その前に、あなたが計画していることはなに?」

シンジ「リツコさんから見れば、駄々をこねてるように感じるかもしれませんが、僕は補完計画を発動させない別の道を模索したい」

リツコ「ナンセンスよ。第三の選択肢なんてありえないわ。発動させなければ人類は滅びてしまう。“再生させるか”、“無に帰すのか”。シンジくんはこの二択で終焉を選ぼうというの?」

シンジ「道がなければ作れば良い。人類はそうやって進化してきました」

リツコ「それは数千年もの間、生命を紡いで反省と学習をできた期間があったから。今は結論をだすまでに一年……もっと短いかもしれない。猶予はない」

シンジ「最後まで足掻いてみたいんです。人が人のせいで終わりを迎えるというのなら、それだって自然の摂理のはず」

リツコ「私たちのしようとしていることに対して弾糾するつもり?」

シンジ「いくら大義名分を掲げようたって。知的生命体である人の可能性がある。どうしてやる前から諦めなくちゃいけないんだよ」

リツコ「ことのなりゆきを見守るだけでは99%の人が死ぬとMAGIの試算がでてる。果てしない暴力が終わった後、石器時代まで文明は退化するわよ」

シンジ「……僕が望むのは現状維持です。母さんは変革を求めている。この国だって他国がしかけてきたら自己防衛するのと一緒です」

リツコ「保守的ね。しかけているのはこちら?」

シンジ「補完計画の発動を止める。その後に計画性がない、愚かな選択だとしても、人類の未来は人という種が決めるべきです」

リツコ「評価を改めるべきかしら。見た目を抜きにすれば、中学生が発している意見と思えない。言葉に酔ってるだけと受け取れなくもないけど」

シンジ「母さんもそうでしたけど、リツコさんもですか」

リツコ「……?」

シンジ「採点してる気になってる時点で、上から見てるんですよ。評価って、そういうものでしょう」

リツコ「これは失礼。取り引きに話を戻しましょう。シンジくん、あなたは私がマヤを救いたいと思っているのね?」

シンジ「少なからずは」

リツコ「切り捨てられないわけじゃない」

マヤ「(先輩? なんだか、楽しそう?)」

シンジ「そうだとしたら困っちゃいます」

リツコ「ふふっ、可愛げ、身につけたの?」


594 ◆y7//w4A.QY2017/09/23(土) 00:20:10.14Nz14Uu3d0 (1/13)

【リツコ宅 リビング】

シンジ「食材は自由に使わせてもらいますよ。それにしても意外でした、まさか、条件を飲む理由が」

リツコ「なにもなしじゃ遊び心がないわ。口実になるけど、シンジくんの手料理はおいしいって評判だし、一度食べてみたかったの」

シンジ「みんな、過大評価しすぎなだけです。レシピ通りにやれば誰だってできるのに」

リツコ「料理人に失礼よ。美味しいものは美味しい。それでかまいやしないわ」

シンジ「電気タイプなんですね。ここのコンロ」ピッ

リツコ「どこまで把握してるの?」

シンジ「また続きですか……言いたくありません」

リツコ「もしかして、昏睡状態の出来事を覚えてるんじゃ? タブリスになにか吹き込まれた?」

シンジ「カヲルくんですか?」キョトン

リツコ「(違う、タブリスではない。だとしたら、一体誰がここまでの変貌に導いたのかしら……。外的要因をくわえなければ不可能なはず)」

シンジ「……なにを知ったとしてもやりたいと思っているのは言った通りです」

リツコ「特別に答えををあげるわ。先程渡した計画書。あれは古い書類よ。変更される前のね」

シンジ「……」トントントン

リツコ「新しいダミーの研究は既にはじまっている。被験体は渚カヲル。進捗状況までは教えない」

シンジ「構いませんよ。やっぱり、やることに変わりはないんですね」

リツコ「補完計画に必要不可欠ですものね。それは、あなたも同様に。……どう? 人類代表に選ばれた気分は」

シンジ「元々、そういう計画じゃなかったでしょう」

リツコ「鋭い。まるで知っているかのよう口ぶりに先程から鳥肌がたちっぱなし」

シンジ「褒めたってなにもしませんよ」

リツコ「私、おべっか使うの嫌いなのよ。もし本当になにも知らないままに推察だけで発言しているとしたら、これほど興味深い話はない」

シンジ「そうですか」

リツコ「とっても不自然ですもの。一週間ほど前まで、事なかれ主義だっただけに、不気味」

シンジ「そんな気がするだけです」

リツコ「シンジくんのお父様が提唱していた補完計画は、初号機が中心にあった。なぜだと思う?」

シンジ「なんでもわかるわけじゃありませんから」ジュー

リツコ「想像でかまわないわ。言ってみて」

シンジ「母さんが現れるまでの父さんは僕に興味がなかった。自分の息子というよりも、道具。僕が必要だっわけじゃない。必要なのは、パイロットだったんでじゃないでしょうか」

リツコ「ガッカリした?」

シンジ「いえ。そう考えると、ダミー計画を読んでみると納得がいきます。初号機さえあればいいと思ってたんじゃないかって」

リツコ「そこまでは正解。でも、それは碇司令に初号機が必要な理由であって、私の質問に対しての答えではない。補完計画にはなぜ?」

シンジ「見当もつかないや。発動するまでにいくつか条件があるんじゃないんですか? 僕の手にあるアダムがまず第一。そして二番目には初号機とか。そういういくつものピースが重なってる」

リツコ「(他人事のようね。冷静に分析してる)」

シンジ「おそらくですけど、今は準備段階。その合間に使徒が来てるのかな。……準備ができれば、いつでも補完計画を発動したいと思ってる」コトコト

リツコ「そこは違うわ。私たちはタイムスケジュールに沿って準備、行動しているの」

シンジ「(裏死海文書。真実が書かれた予言書か)」

リツコ「莫大な国連費で補っているのよ。億を飛び越えて兆の運用金。この時点で何人死んでてもおかしくない」

シンジ「お金、ですか」

リツコ「欲をかいて人殺しなんてしょっちゅうある話でしょう? それが一連の計画にかかっている単位が兆。規模の大きを実感できる?」

シンジ「いえ、あんまり」

リツコ「碇前司令も幾度となく手を汚しているわよ」


595 ◆y7//w4A.QY2017/09/23(土) 00:34:03.46Nz14Uu3d0 (2/13)

シンジ「驚きはありません。やってても不思議じゃないと思います。できましたよ、冷めないうちにどうぞ」コト

リツコ「あら、本当に美味しい。これほどの腕前ならミサトじゃなく私が引き受け人になるべきだったかしら」

シンジ「今はマヤさんですけどね」

リツコ「シンジくん、マヤに頼るのはやめなさい」

シンジ「……」

リツコ「危険だわ。ユイ司令は、冷酷になれば容赦がなくなるわよ」

シンジ「わかってます。今は計画の中心にいるのが僕。それ以外は道具、でしょ」

リツコ「ご明察。そこまでわかってるのなら説明する必要はないわね」

シンジ「同居を解消するように働きかけてください。一緒に住んでいると否応にでも巻き込んでしまう」

リツコ「ふぅん、一理ある」

シンジ「衝動は時と場所を選んでは……。僕の都合なんておかまいなし」

リツコ「それがマヤに向けられる。そう考えてるのね?」

シンジ「僕の望むところではありません。マヤさんに話をしたのは対応策の一環なんです」

リツコ「……シンジくんから?」

シンジ「そうです。マヤさんになにも非はありません」

リツコ「それはウソね。聞いただけじゃ、動こうとしないもの。あなたに惹きつけられるなにかがあったはず」

シンジ「曲がったことが許せないだけなんじゃないですか」

リツコ「かばってるつもり? お優しいこと」

シンジ「リツコさんのせいでもあります」

リツコ「私も?」

シンジ「憧れていた先輩が思っていた人ではなかった。現実と理想の違い」

リツコ「あの子のかかえる問題点は理解しているわ」

シンジ「気がついてないんですよ。マヤさんにとって、リツコさんは心の支えだったんです。それがなくなってしまい、弱ってしまった」

リツコ「(シンジくんのデータ、早急に書き換えなければ……)」

シンジ「この一週間、本当に密度が濃かったんですよ。自分の色んな面と向き合なくちゃいけなくなってました。したいことで精一杯で、僕はまわりを見ていなかったと実感できるほどに」

リツコ「一時的なものよ。人は忘れながらに生きているから」

シンジ「それでも、これまでの出来事を僕は忘れないと思います」

リツコ「経験則から導きだされた答え? 悟ったからみんなもそうであると?」

シンジ「違います。ただ、若さとは、無謀なことができる期間なんだと漠然と感じます」

リツコ「……」カチャ

シンジ「ワイン、飲まれますか?」

リツコ「シンジくん。将来はウェイターにでもなったら?」

シンジ「僕に将来なんてあるんですかね」

リツコ「自身の死についてまで悟りを開いたの?」

シンジ「いえ、よく、わかりません」

リツコ「もうこんな時間。話すぎたわね。ごちそうさま」

シンジ「あ、はい。でも、少し手をつけただけじゃ」

リツコ「料理自体に不満はない、頭の回転が鈍くなるから、少食なのよ。満腹感はどうしても受け付けたくないというだけ。またいつでもいらっしゃい。歓迎するわ」

シンジ「……」

リツコ「(今のあなたなら、ね)」


596以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/23(土) 00:43:03.41ub4QE0yxo (1/1)

リツコの考えがよくわかんないんだよな。冬月は毒を喰らわば皿までって
感じなんだろうけど、リツコはどうなんだろう。本当に人類のためなのかな?


597 ◆y7//w4A.QY2017/09/23(土) 00:46:54.89Nz14Uu3d0 (3/13)

【マヤ宅 リビング】

シンジ「ただいま。あれ? マヤさん、なにして――わあっ⁉︎」

マヤ「お父さん、お母さん、先立つ不孝をお許しください」

シンジ「ちょっとっ⁉︎ なにしようとしてるんですか⁉︎ なに考えてるんですかっ⁉︎」

マヤ「あ、おかえり。ごめんね、いま、準備してるから」

シンジ「ロープから手を離して! そんなの一体どこから」

マヤ「帰りにホームセンターに寄って買ってきたの」

シンジ「いや、そうじゃなくて! 大丈夫ですよ!なにも心配しなくていいんです!」

マヤ「うふ、うふふ。私、墓穴掘っちゃった。先輩ならわかってくれると思ったのに。また裏切られちゃったの」

シンジ「そ、それは……リツコさんもやりたいことがあって……!」

マヤ「私には仕事しかないもの。実家に帰るぐらいなら、生きてたって」

シンジ「そんなことありませんよ! 生きてればなんだってできます!」

マヤ「気力がなくなっちゃったの! シンジくんの力になりたかった、けど、逆に足を引っ張っちゃったね」

シンジ「一度失敗したぐらいでなんだっていうんですか!」

マヤ「取り返せるつまずきならまだいい。だけど、クビなら無理。やり直すにしても、ネルフとは別の場所」ツゥー

シンジ「マヤさん、泣いて……仕事が全てなんて、そんな……別の幸せが」

マヤ「決めたの。先輩に見捨てられて、シンジくんにも迷惑をかけて。もう、ボロボロだわ」ガタッ

シンジ「まってっ!」ダダダッ

マヤ「うっ」ガクッ ジタバタ

シンジ「くそっ!」ガシッ

マヤ「は、離してっ! シンジくん! 離してよっ!」

シンジ「暴れないでくださいよ! 持ちあげるのにきつくなる……」

マヤ「死なせてよ! 死にたいのっ!」

シンジ「(こうなったら、使徒の力に頼るしか……! こんなに使ったら、母さんに絶対にバレるきっかけを与えてしまう! けど!)

マヤ「え?」ヒョイ

シンジ「はぁ……。まさかそんなに張り詰めてたなんて」

マヤ「お、重くないの?」

シンジ「箸を持ちあげる重さぐらい。これが身体能力の強化です」

マヤ「今の状態が……あの、わかったから降ろして。お姫様抱っこされるような歳じゃないし」

シンジ「もうしませんか? こういうこと」

マヤ「……」

シンジ「答えを聞くまで降ろせません」

マヤ「しないから」

シンジ「一瞬とはいえ苦しかったでしょ」スッ

マヤ「うっ……ぐすっ……」

シンジ「僕が止めたのは、マヤさんが死んだら悲しいからです。ここにいたっていいんですよ。ネルフにも」

マヤ「本当? 私、まだ、やり直せる?」

シンジ「リツコさんの了承は得られました。信じてもいいと思います。危険はありますけど、納得、してるんでしょう?」

マヤ「ありがとう、シンジくん、ありが、とうぅっ……うっ、うああぁっ」ポロポロ

シンジ「(女の人ってみんなこうなのかなぁ?)」ポンポン


598 ◆y7//w4A.QY2017/09/23(土) 16:45:13.43Nz14Uu3d0 (4/13)

【ネルフ本部 執務室】

ユイ「これで何度目?」

諜報部「伊吹二尉のお宅に、ご子息が移られてからですか? 電磁波発生の頻度は――」

ユイ「バカな質問をしたわ。ほぼ毎日ね」

諜報部「いかがいたしますか? その、リユース品ではありませんし、あまりにも」

ユイ「こちらで検討します。疑問を抱かなくていい」

諜報部「はっ! 失礼いたします!」ビシッ

ユイ「シンジったら、もう。安直な手段を選ぶのはよろしくない。あの人に似たのかしら」

冬月「早計すぎるのではないか。やつが意図的に制御できているとなぜ言い切れはしまい。あるいは、垂れ流しているだけとも」

ユイ「魂の同化が促進されている点を憂慮すべきですね。アダムに振り回されているのか、意図的に行使できるようになっているのか」

冬月「直接問いただしてもいいが、素直に口を開くとも思えん。穏便に事を進めるのは難しいやもしれんな」

ユイ「……」

冬月「なに、割り出すのにそれほど難儀はせんだろう。こうまであからさまになっていては」

ユイ「豊富なサンプルを元に科学に頼るとしますか」

冬月「MAGIか。我々もラクな手段を選んでいるのだからサードチルドレンを笑えんな。便利な道具は人を腐らせもする。……おい」

リツコ「ごようでしょうか?」スッ

ユイ「一度帰宅したのに悪かったわね。行き違いだったとはいえ、残るよう通達するのを怠って」

リツコ「お気になさらず。やりかけの仕事を思い出していたので丁度良いぐらいです」

ユイ「データを洗い出してほしい。主に行動記録」

リツコ「承知いたしました」

ユイ「それと、伊吹二尉はどうするつもり? なにか知ったはずよね?」

リツコ「なんのことでしょうか」

ユイ「使徒の能力を使える状態にまで移行してるわ。同居人である彼女が無事な以上――」

リツコ「無用な詮索をやめるようきつく言い含めております。問題ありません」

ユイ「以前に言ったわよね?」

リツコ「はい。いかなる場合を以てしても責任は私が負います」

冬月「おい、それぐらいでよかろう。作業に必要な質問があれば聞こう」

リツコ「日付けはいつまで遡りますか?」

冬月「全てだ。幼少期から今日(こんにち)に至るまでMAGIの演算能力で総当たりにしろ。やつの分析も忘れるなよ」

リツコ「おまかせください。変異点を見つけ次第、逐一報告いたします」

ユイ「ねぇ、赤木博士」

リツコ「なんでしょうか?」

ユイ「どうしたら私に心を許す?」

リツコ「ご質問の意図を計りかねます」

ユイ「わからないから聞いてみたのよ。夫の真実を知って、私の存在を知って……あなたの心は死んだまま。ゾンビみたいに」

リツコ「安い挑発でなにか釣ろうとなさっているのですか。それもまた、以前と同様に」

ユイ「失敗という教訓を活かし鉄仮面を被ったってわけ。……以上です、取り掛かって」


599 ◆y7//w4A.QY2017/09/23(土) 16:48:49.28Nz14Uu3d0 (5/13)

あらら、ちょっとレスしなおし


600 ◆y7//w4A.QY2017/09/23(土) 16:50:43.88Nz14Uu3d0 (6/13)

【ネルフ本部 執務室】

ユイ「これで何度目?」

諜報部「伊吹二尉のお宅に、ご子息が移られてからですか? 電磁波発生の頻度は――」

ユイ「バカな質問をしたわ。ほぼ毎日ね」

諜報部「いかがいたしますか? その、リユース品ではありませんし、あまりにも」

ユイ「こちらで検討します。疑問を抱かなくていい」

諜報部「はっ! 失礼いたします!」ビシッ

ユイ「シンジったら、もう。安直な手段を選ぶのはよろしくない。あの人に似たのかしら」

冬月「早計すぎるのではないか。やつが意図的に制御できていると言い切れはしまい。あるいは、垂れ流しているだけとも」

ユイ「魂の同化が促進されている点を憂慮すべきですね。アダムに振り回されているのか、意図的に行使できるようになっているのか」

冬月「直接問いただしてもいいが、素直に口を開くとも思えん。穏便に事を進ようとする前提にこだわれば、ちと厄介だな」

ユイ「……」

冬月「なに、割り出すのにそれほど難儀はせんだろう。こうまであからさまになっていては」

ユイ「豊富なサンプルを元に科学に頼るとしますか」

冬月「MAGIか。我々もラクな手段を選んでいるのだからサードチルドレンを笑えんな。便利な道具は人を腐らせもする。……おい」

リツコ「ごようでしょうか?」スッ

ユイ「一度帰宅したのに悪かったわね。行き違いだったとはいえ、残るよう通達するのを怠って」

リツコ「お気になさらず。やりかけの仕事を思い出していたので丁度良いぐらいです」

ユイ「データを洗い出してほしい。主に行動記録」

リツコ「承知いたしました」

ユイ「それと、伊吹二尉はどうするつもり? なにか知ったはずよね?」

リツコ「なんのことでしょうか」

ユイ「使徒の能力を使える状態にまで移行してるわ。同居人である彼女が無事な以上――」

リツコ「無用な詮索をやめるようきつく言い含めております。問題ありません」

ユイ「以前に言ったわよね?」

リツコ「はい。いかなる場合を以てしても責任は私が負います」

冬月「おい、それぐらいでよかろう。作業に必要な質問があれば聞こう」

リツコ「日付けはいつまで遡りますか?」

冬月「全てだ。幼少期から今日(こんにち)に至るまでMAGIの演算能力で総当たりにしろ。やつの分析も忘れるなよ」

リツコ「おまかせください。変異点を見つけ次第、逐一報告いたします」

ユイ「ねぇ、赤木博士」

リツコ「なんでしょうか?」

ユイ「どうしたら私に心を許す?」

リツコ「ご質問の意図を計りかねます」

ユイ「わからないから聞いてみたのよ。夫の真実を知って、私の存在を知って……あなたの心は死んだまま。ゾンビみたいに」

リツコ「安い挑発でなにか釣ろうとなさっているのですか。それもまた、以前と同様に」

ユイ「失敗という教訓を活かし鉄仮面を被ったってわけ。……以上です、取り掛かって」


601 ◆y7//w4A.QY2017/09/23(土) 17:42:19.47Nz14Uu3d0 (7/13)

【翌日 ネルフ本部】

リツコ「ミサト、ちょっといい?」

ミサト「ふぁ~ぁ。なぁにぃ? デスクワークが溜まりまくっててさぁ、あんまり寝れてないのよぉ~」

リツコ「髪ぐらい整えたらどう? 監査近いんだから」

ミサト「へいへい。ありがたぁ~いお小言なら耳にタコができるほど――」

リツコ「生活態度があまりにだらしないから逸れてしまったわ。用件は別にある」

ミサト「なんでしょーか」

リツコ「特別プログラムの企画書を用意したの。見てくれない?」パサ

ミサト「文字読みたくないのに~。……わかりましたぁ! 睨まないでよ」

リツコ「現時点での成績はアスカが頭一つ抜きん出ている。誤差を約10パーセントほど離してね」

ミサト「ちょっと、なにこれ? なんでシンジくんがエースパイロットに? 成績からいってアスカでしょ⁉︎」

リツコ「チルドレン達にはまとめ役の人間が必要だわ。いわゆる中間管理職的な」

ミサト「だったら別個でそういうポジションを設ければいいだけなんじゃないの? シンクロ率で上回っているならまだしも」

リツコ「これまでの働きを多角的に分析し、判断しました。まず最初に太平洋上に出現した使徒は同乗。後半に驚異的な伸びを見せているから彼のおかげね」

ミサト「……」

リツコ「次に、日本でのデビュー戦においては、ミサトの命令を無視し、独断専行。無様にも撤退。その数日後、共同作戦を展開しての撃破」

ミサト「ふぅ~ん」

リツコ「いずれのケースもアスカの働きだけでと言える? 実戦においてどちらがエースにふさわしいかしらね?」

ミサト「プライドの高いアスカが認められると考えてるの? 到底ありえないわ。反発は必至よ」

リツコ「シンジくんには積み上げた“努力”という下地がない。それぐらいはわかっています」

ミサト「納得させる手を考えてるってこと?」

リツコ「そうではないわ。危機感を煽る為の競争意識」

ミサト「たしかに、そっかぁ。今のあの子はシンクロ率トップという肩書きの上にあぐらをかいてるものね」

リツコ「チームリーダー、そしてエースパイロットは必ず一致する必要はない。指摘には同意する。パイロット達がだらけきっているのも事実だけどね」

ミサト「それなら――……いっ⁉︎ ぺ、ページめくったらとんでもないこと書いてあるじゃない! こ、これって……シンジくんが耐えられる?」

リツコ「あくまで適正を診断する検証。承認はいかがいたしますか? 作戦司令」

ミサト「う、うぅ~ん。いや、でも、これはさすがに……大丈夫?」

リツコ「案ずるより生むが易しよ。試してみてだめだったら、引き上げればいい」


602 ◆y7//w4A.QY2017/09/23(土) 18:19:34.21Nz14Uu3d0 (8/13)

【ネルフ本部 執務室】

冬月「企画書は既に目を通してある。正気かね、サードチルドレンを」

ユイ「――戦自へ訓練生として入隊させるとはね」パサ

リツコ「不都合はありません」

ユイ「水面下で対立関係にあるのを知らないわけではないでしょう。そんなことを頼んだ覚えはないんだけど」

リツコ「戦自はネルフに鬱憤が溜まっています。国民ではない、うさんくさい組織の下働き。都合の良い召使い的な存在に成り下がっているのですから」

ユイ「言われなくともわかっています。ガス抜きに使う気?」

リツコ「特別扱いをさせては余計に不満を噴出させます。他の隊員同様の扱いであればあるほど望ましいかと」

ユイ「同じ扱い? 不可能よ」

リツコ「葛城一尉からは精神力を鍛えるのに適した環境だと同意を得ています。加えて、アダムの能力を使えるかの検証にも良い兆候を見出せるはず」

ユイ「電磁波だけでなく、身体能力強化、ね」

リツコ「昨夜のMAGIの結果は、賛成1、反対2でサードチルドレンにアダムの自覚はないとの結論がくだされました」

冬月「なに? ならば使徒が暴走しているということか?」

リツコ「賛成が1あります。限りなく0に近い数字ではあるものの、微妙な結果となってしまいました」

冬月「ううむ」

リツコ「つきましては、伊吹二尉との同居解除を提言いたします。戦自への入隊が決まれば、不要になりますので」

ユイ「肉体的、精神的に慣れない環境、追いつめてからの反応……」

リツコ「いかがでしょうか?」

ユイ「悪くない提案です。期間は設けないように」

リツコ「元よりそのつもりです。短い期間になるのは間違いありませんが、本人に告げると“その間だけ耐えればいい”と思わせてしまう。意味がなくなってしまいます」

ユイ「よろしい。承認します」

冬月「ええい、少し落ち着きたまえ。勇足すぎる。やつはこちらの核となる存在だぞ。あの線の細い身体に軍隊訓練なぞ」

ユイ「無理だと判断したらすぐに呼び戻します。ネルフから戦自へ何名か潜伏しているわね」

リツコ「はい」

ユイ「大至急、連絡をとってちょうだい。私は午後の予定をキャンセルしてあちらの責任者と会食を行います」

冬月「ネルフ総司令がアポもなしに突然の来訪か。てんやわんやする姿が目にうかぶよ。またヘイトを溜めるだろうな」

リツコ「(ここまでは順調。変わりようが本物かどうか。働きに期待してるわよ、シンジくん)」


603 ◆y7//w4A.QY2017/09/23(土) 18:59:09.75Nz14Uu3d0 (9/13)

【第壱中学校 昼休み 屋上】

マナ「サードチルドレンが部隊に⁉︎」

上官「こちらも突然の申し出で混乱している。実戦に就くわけではないが」

マナ「配属されるのってどこですか?」

上官「貴様の友人二人と同じ歩兵部隊になる予定だ」

マナ「まさか、そんな偶然……」

上官「我々が慌てふためる事態にならないよう、それを調べるのが貴様の任務なんだがな」

マナ「す、すみません」

上官「まぁいい。任務もとりあえずは解除という形になる」

マナ「えっ? あの、それって、ムサシとケイタを情報室に」

上官「満足に結果を出していないのにか? 考えが甘すぎるぞ、霧島隊員」

マナ「それじゃあ、これまでの話は」

上官「気を急かすな。キミが部隊に帰還した後、サードチルドレンの近くに身を寄せてもらう。解任されるのは潜入であって、情報の引き出し役は引き続きという運びになる」

マナ「あの、いつから?」

上官「明日だ」

マナ「あしたぁっ⁉︎」

上官「いちいちうるさい。電話越しとは言え頭が痛くなる」

マナ「失礼いたしました。急ですね、本当に」

上官「こちらとしても暇なわけでない上にお坊ちゃんのお守りとは。明日から部隊に復帰しろ。学校への必要な申請は済ませておく」

マナ「サードチルドレンは知っているんでしょうか?」

上官「こちらが預かり知るところではない。なにか聞いていないのか?」

マナ「いえ、なにも」

上官「報告について疑問視せざるをえない。本当に距離が近づいていたのか? 良いようにあしらわれていたんじゃないか」

マナ「そんなはずは。まだ知らないだけって可能性もありますし」

上官「至急、確認をとれ。それと、身分を隠す必要もないぞ。どうせ明日になればわかるからな」

マナ「しかし、ネルフに調査していた実態を把握されてしまうのでは」

上官「うまくやれ」

マナ「そんな。どうやって――」

上官「貴様が“女”を使うなりどうとでもしろ。以上だ」ブツッ

マナ「一体、なにがどうなってるの……。シンジくん」


604 ◆y7//w4A.QY2017/09/23(土) 20:23:21.10Nz14Uu3d0 (10/13)

【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「今頃職員室で聞いてるんじゃないかしら。断らないと思うわよ、彼」

マヤ「パイロットなのに、どうして……! 使徒が来たらどうするつもりですか⁉︎」

リツコ「使徒は来ない。まだね」

マヤ「先輩……昨日の件ですか? その当てつけに」

リツコ「私情を挟んでいるわけないでしょう。彼も同じよ。マヤの為に行くわけではない」

マヤ「なんでこんなマネしなくちゃいけないんですかっ⁉︎ 相手は中学生なんですよ! なのに、いい大人がよってたかって」

リツコ「年齢は関係ないと言ったのはあなたもなのよ」

マヤ「正しい行動に対してです! 本来ならば、自分の意思を貫くのも難しい年齢なのに」

リツコ「才能あるものの義務よ。スポーツ選手など様々な分野で突出した活躍を見せている子供達は見てごらんなさい。取材の受け答えとか機会はあるでしょう?」

マヤ「シンジくんは普通の子供でしょう! 年相応の!」

リツコ「それはあなたが枠を決め、限界だと見ているから。行き過ぎた心配は若人の可能性を潰す結果になりかねない」

マヤ「詭弁です!」

リツコ「たしかにほんの少し前までの彼ならば、私はこの発案を思いつきもしなかったでしょう。なぜならば、あまりにもイメージと反り合わないから」

マヤ「……!」ギリッ

リツコ「この一週間、ユニゾンの時と日数はそう変わらないけれど、成長は眼を見張るものがある。そう思わない? あの子が化けるなんて誰が予想できた?」

マヤ「そ、それは……」

リツコ「シンジくんを男として見てるのね。中学生と自分に言い聞かせながら、倫理と恋心との狭間で揺れている。世間一般的な常識では認められない、しかし、着実に胸にある情熱を育みつつある」

マヤ「わ、私はそんなつもり」

リツコ「そう? 大事に、大切にしまっているその想い。もし、と考えた経験があるはず。シンジくんの年齢があと数歳違かったら――」

マヤ「やめて、私の想いを汚さないでっ!」

リツコ「そんなつもりはないわ。四十と二十の結婚なんて世にありふれているのだから」

マヤ「先輩……っ!」

リツコ「(恨まれたかしらね。やはり、まだひよ子)」

マヤ「私をネルフに残していただいたことには感謝しています。ですが、もう、先輩を師とは仰ぎません」

リツコ「それでかまわないわ」

マヤ「どうでもいいんですか⁉︎ 私は、先輩以上にシンジくんに感謝しているからです」

リツコ「たった数日で? 私との数年はなんだったの?」

マヤ「こんな扱いをうけて黙っていられますか⁉︎ あの子は誠実に、私に対して真摯に接してくれます」

リツコ「また勝手なイメージで固定化するつもり?」

マヤ「私の想いを馬鹿にしないでください。たとえ数日しかなくても、あの子の為に尽力してみせます」

リツコ「技術サポートしか能のないあなたになにができると言うの?」

マヤ「結構です。先輩に……あなたに言われる筋合いはありません」

リツコ「私の気を引きたいの? なぜわざわざ宣言する必要が?」

マヤ「……っ!」ギリッ

リツコ「仕事に戻りなさい。伊吹二尉。あなたの居場所はここではなく、デスクのはず」

マヤ「この……っ!」

リツコ「言葉でなく能力で示しなさい。それが最後の教え。以上よ」


605以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/23(土) 21:09:15.54cB2Fxzbro (1/1)

大事なパイロットだし無理だったらちゃんと戻すのに過保護だぜマヤちゃん
中学生でも男の意地を見せてきたからリツコだって提案したんだし


606 ◆y7//w4A.QY2017/09/23(土) 21:44:35.04Nz14Uu3d0 (11/13)

【ネルフ本部 執務室】

加持「これはこれは、お早いおかえりで。戦自に、わざわざ敵陣の中に放り込むとは。崖から突き落とす獅子のようなマネをされますね」

ユイ「潜りこめる?」

加持「厳しいでしょう。俺は政府にツラが割れてるもんで」

ユイ「先に潜伏している者達だけでは心許ないわ」

加持「壮絶なイジメが待っているかもしれませんよ。寝食を共に過ごす団体生活な上、シンジくんが厳しい訓練についていけるはずもない」

ユイ「寝込みを襲われる危険性がある。相手は血気盛んな年齢だし、一歩間違えれば殺されるかもしれない」

加持「そいつぁ、ちとすぎると思いますが。辛い状況に陥るのに変わりありませんけど」

ユイ「あの子はパイロットとして行くことになるのよ」

加持「身の丈に合わない玩具を与えられ、ちやほやされていると傍目には見えるでしょうな。……妬み、僻みの対象か。醜いっすね。人間というものは」

ユイ「死んでしまうのは避けなけれれば」

加持「ま、コンタクトを試みますよ。政府の権限を使いこちらからも数名潜伏させておきます」

ユイ「注目度は予想の倍を想定して。鳴り物入りで入ってくる大型新人以上だと」

加持「なにせ、人類を守る英雄ですしね。ところで、そろそろ俺にも餌がほしいんですが」

ユイ「構造の断面図の件? 先生」

冬月「どうせ催促されるだろうと予見していた。既に用意してある」スッ

加持「準備がはやくて助かります。このUSBメモリの中身は?」

冬月「半分正確で、半分は偽のシロモノだ。ハリボテに過ぎんよ」

加持「なるほど。政府に渡すのは、肝心なところを伏せた部分ですか」

冬月「なにもなしではキミの安全が危うくなるからな。譲歩した結果だと思え」

加持「俺を使えると評価してくれてるんでしょ。甘んじて受けますよ」カチャ

ユイ「信じさせるには充分なデータのはずよ」

加持「了解。ご子息の件もこれで動きやすくなるでしょう」

ユイ「明日、シンジは入隊する。急いで」


607 ◆y7//w4A.QY2017/09/23(土) 22:08:17.39Nz14Uu3d0 (12/13)

【第壱中学校 校長室前】

シンジ「失礼しました」

マナ「はぁっ、はぁっ、ようやく見つかった、職員室に行っても、答えられないって言うからっ」

シンジ「マナ? ……なにか連絡があったんだね」

マナ「ほん、となの? ……ふぅ」

シンジ「今聞いたところなんだ。明日、戦自に入隊することになった。期間は設けられてない」

マナ「どうして? なんでいきなり?」

シンジ「僕にもなにがなんだか。思い当たる節がないわけじゃないけど」

マナ「……あるの?」

シンジ「たぶん、母さんが僕が使ってる力に気がついたんだと思う。隠し通ないとは思っていたんだ。でも、僕に直接確認せず、こうくるとはねぇ」

マナ「なんのこと言ってるかわからないけど、他人事みたいな感想を呑気に! 戦自じゃネルフはっ!」

シンジ「訓練ってきつい?」

マナ「こわがらせるかもしれないけど、正直に言うね。身体を鍛えるのが好きな人でも、夜中に逃げ出すぐらい」

シンジ「そんなに?」

マナ「装備って重い物だと数十キロの重量があるの。だから基礎訓練は徹底的に行われる。筋肉痛なんて当たり前、むしろ毎日。入隊間も無く行われるのは、体力作りと仲間意識のイロハ」

シンジ「そう、なんだ」

マナ「撤回できないの? その、貶してるわけじゃないんだけど、シンジくんの身体つきじゃ。……本当につらいと、思う」チラッ

シンジ「うぅん」

マナ「いじめられるかもしれない。四六時中一緒にいるわけじゃないし、かばいきれるかどうか」

シンジ「一緒って?」

マナ「あぁ、そっか。私も明日付けで部隊に復帰するように通達があって。上官、すごく不機嫌だったけど」

シンジ「聞いてないからか。ごめんね、伝えることできなくて」

マナ「私を気遣ってる場合じゃないんだよ!」

シンジ「それなら、マナの友達とも会えるかもしれないね」

マナ「す、すぐに会えると思うけど。なにしろ、同じ部隊だし、って、そうじゃなくって」

シンジ「トウジたちにも伝えよう。別れの挨拶はちゃんとしなくちゃ」スタスタ

マナ「ちょ、シンジくんってばぁ!」


608 ◆y7//w4A.QY2017/09/23(土) 22:53:56.21Nz14Uu3d0 (13/13)

【教室】

トウジ「な、なななななんやとぉっ⁉︎ シンジが、明日っから戦自に入隊っ⁉︎ おまけに霧島までっ⁉︎」

シンジ「うん」

ケンスケ「ふ、二人一緒にって。まさか、駆け落ちなんじゃ」

マナ「そんなわけないでしょ⁉︎」

トウジ「いつ決まったんや!」

アスカ「まじで言ってんの?」

シンジ「ちょっと落ち着いて。決まったことに慌てても仕方ないよ。質問は一人ずつ答えるから。まず、トウジ、さっき」

トウジ「さっきて⁉︎ ネルフはどないするんや⁉︎」

アスカ「ミサトは?」

シンジ「今のところはなにも連絡がない。待ってたらくるんじゃないかな」

アスカ「シンジ、ちょっと」

ケンスケ「お、おい。僕たちの質問がまだ」

アスカ「マナだって戦自に行くんでしょ? 質問したいこと済ませといて。あたしはこいつに大事な用があんの」

シンジ「わかった、いいよ。アスカ」スタスタ

アスカ「……」スタスタ

シンジ「教室の隅でいいんじゃないかな。声は潜めるし、カヲルくんのことだよね」

アスカ「そーよ! どうすんのよ、なんでいきなりこんな事態になってるわけ!」

シンジ「母さんがなにか手引きしてるのは間違いない。わかるのはこれだけ。もしかしたら力を使ったのがバレたのかも」

アスカ「はぁ……やっぱり体育館でのこと、誤魔化しきれなかったの」

シンジ「いや、それだけじゃないよ」

アスカ「他にもなにかあんのぉ? 期限はいつまで?」

シンジ「いや、特に言われなかった」

アスカ「パイロットは続けるの?」

シンジ「うん、そうだね。ただ、アスカと会えるのはこれまで通りとはいかないんじゃないかな」

アスカ「フォースはどうする気?」

シンジ「カヲルくんは僕が手を出せない状況では、たぶん、襲ってこないよ」

アスカ「根拠は?」

シンジ「可能性を見せてくれって言ってた。だから、僕がどう打開するかを試したいんだと思う」

アスカ「不安の残る話だわ。ま、あんな馬鹿力発揮できるんだから余裕でしょ。とどのつまり、筋肉バカの集まりよ。首席とれる成績残してさっさと帰ってきてよね」

シンジ「使徒の力は、使わない」

アスカ「ボリュームが小さくて聞き間違えしたのかしらぁ? もう一回言ってくれる?」

シンジ「正確には、使えないんだ。母さんにバレてるという確証を持てないから」

アスカ「軍隊舐めてない? 米海軍の話してるの聞いたことあるけど、戦自はクレイジーっつってたわよ」

シンジ「そういうことじゃないよ。繰り返しになるけど、入隊よりも母さんがこわいんだ」

アスカ「あんた、これまでろくに身体を鍛えた経験ないんでしょ? あの瞳の色してないときは普通の人間と同じなのよね?」

シンジ「うん」

アスカ「血反吐はくわよ」

シンジ「まぁ、やるしかないね」


609以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/24(日) 03:30:54.8323pHQwepO (1/1)

戻ってきたらリっちゃん落ちるな


610以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/24(日) 11:33:44.29dhs52MB4O (1/1)

すげー面白いこれ
展開がゲーム化しててもおかしくないぐらいじゃんというかしたい


611以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/25(月) 03:13:03.62mnK7Tb5ko (1/1)

遅いな、シンジくん


612 ◆y7//w4A.QY2017/09/25(月) 16:12:30.59ttRCl0Z50 (1/11)

【夜 ミサト宅 リビング】

アスカ「はぁ? まだシンジに言ってないの?」

ミサト「うん、まぁ……その、ね。通達は既に。だから、連絡してない」

アスカ「歯切れ悪いわねぇ。あたしたちの上官にあたるミサトが伝えなくて業務連絡だけなんて」

ミサト「なんか、言ってた?」

アスカ「自分で確認したらいいじゃない。そういうところばっかり。ずるいわよ、そんなの」

ミサト「悪いとは思ってるわ。ただ、シンジくんの為になることだとも思うのよ」

アスカ「そういうことを言ってるんじゃないの! ミサト一言、声をかけるべきでしょって!」

ミサト「たまに、何考えてるのかわからないところがあるのよ、あの子。最近は、特にその傾向が強くて」

アスカ「だから逃げるの?」

ミサト「帰ってきたら、ちゃんと話をするわ。だめでも褒めてあげるつもり。行くって即決しただけでもたいしたものよ」

アスカ「はぁ……戦自からネルフに通うようになるの?」

ミサト「いえ、ここからだと距離が離れすぎてるし、レイにサポートしてもらうけど弐号機の出番が多くなる。新兵器のテストもあるし」

アスカ「ってことは、あたし?」

ミサト「そうよ。ちょっち、これ見て」パサ

アスカ「……? なに、これ?」

ミサト「リツコが発案した、パイロットの役割分担」

アスカ「シンジがエースっ⁉︎ なんで⁉︎」バンッ

ミサト「彼が不在の間は、アスカの試験運用期間でもあるの」

アスカ「私の? そんな必要ないでしょ! シンクロ率はトップで」

ミサト「だからよ。いくらテストで成績が良かったとしても実戦で役にたたなければ――」

アスカ「あたしは使徒を二体も撃破してるでしょっ!!」

ミサト「いずれも、シンジくんのサポートがあってよね」

アスカ「……っ!」

ミサト「大きな枠でいえば、私達は全体がチームなんだし、助け合うのは間違いじゃない。むしろ良い傾向だと思うわ。だけど、作戦を立案するにあたり実力差が明確に把握できている方が都合がいいのよ」

アスカ「適材適所って言いたいの? エースも、チームリーダーも」

ミサト「あなたの実力で黙らせればいいだけよ。自信、ないの?」

アスカ「あるに決まってるわっ! あたしは、やるしかないんだもの」

ミサト「私だけじゃない、ネルフ上層部、赤木博士を唸らせる結果を求めます」

アスカ「……」ギュウ

ミサト「(やはり、競争は良い刺激になるみたいね。さすがリツコってわけか)」

アスカ「わかった。シンジよりもあたしがエースにふさわしいって証明してみせる」

ミサト「その意気よ。あたしも期待してるわ」

アスカ「(フォースのことは、とりあえず忘れなくちゃ。シンジのことも)」


613 ◆y7//w4A.QY2017/09/25(月) 16:35:47.27ttRCl0Z50 (2/11)

【マヤ宅 リビング】

シンジ「あの、マヤさん。お通夜みたいな暗い表情はやめてください。僕なら平気ですから」

マヤ「シンジくん。本当に脅されてるわけじゃないの? 私が、昨日、ポカしたから」

シンジ「違います」

マヤ「今の戦自は、ネルフに良い顔はしないわよ。この前、日向くんが行った時だって、嫌がらせされたって言ってた」

シンジ「……」

マヤ「エヴァが出撃する前、まず軍事力を使って使徒の持つ能力、正しくは戦力を計るの。その為に、戦自は、得体の知れない組織の下働きとして……時間稼ぎをする戦死者を毎回だしてる」

シンジ「そうですね」

マヤ「ネルフの要請が悪いわけじゃないの。高官達は、自分達のメンツを守るために無理だとわかっていても人材を投入してるから」

シンジ「……」

マヤ「でも、当事者である戦自内部はそう思っちゃくれないわ。全部、私達のせい。一番悪いのは使徒がもちろんだけど、ぶつけるところがそこしかないの」

シンジ「はい」

マヤ「……そういった恨みや遺恨がある場所に訓練生として送りこまれる。私、心配だわ」

シンジ「心配してくれて、ありがとうございます」

マヤ「なにかないか、考えたんだけど。オペレーターが主業務の私にできることなんて、明日の準備ぐらいしか」

シンジ「気持ちだけで充分ですよ。マヤさんが感謝して、心配してくれるだけで。僕は間違ってない、そう思えるから」

マヤ「シンジくんっ!」ギュウ

シンジ「わっ! あ、あのっ」

マヤ「無事に帰ってきてね。待ってるから」

シンジ「……はい」

マヤ「帰ってきたら、私の気持ちも、きっち地に足がついてると思う。そしたら、シンジくんに……」

シンジ「え?」

マヤ「今はまだ、天秤がどっちに傾いてるのか見定められない。でも、なにがあっても私はあなたの力になってみせる。ずっと味方よ。約束します」

シンジ「……ありがとうございます」

マヤ「立派よね、本当に。中学生とは思えない」

シンジ「いや、そんな」

マヤ「よーしっ、今夜は腕によりをかけて料理作っちゃうねっ!」


614 ◆y7//w4A.QY2017/09/25(月) 16:58:18.87ttRCl0Z50 (3/11)

【翌日 オスプレイ内 移動中】

戦自パイロット「今のうちに第三新東京市の景色をせいぜい楽しんでおけよ!」

シンジ「え? なんですか? プロペラとエンジン音がうるさくて」

戦自パイロット「外だよ! 外! しばらくはこいつが見納めになるだろからな!」

シンジ「あぁ」ぼんやり

戦自パイロット「なにをやらかしたか知らないがそんな華奢な身体つきで戦自への訓練生とはな! パイロットなんだろ? お前!」

シンジ「はい」

戦自パイロット「お坊ちゃんのくせしてパイロットに選ばれたんだろ? 俺たちの中からじゃなく! なんでお前みたいなナヨっちいガキが選ばれたんだ?」

シンジ「わかりません」

戦自パイロット「ふん、なんにせよもうすぐ到着する! 覚悟しとけよ小僧! 訓練はきついぞ!」

シンジ「はい」

戦自パイロット「声を張り上げろ! ボソボソと喋ってんじゃねえっ!!」

シンジ「あ……は、はいっ!」

戦自パイロット「(ネルフで使えないからこったきたのか? ちっ)」

マナ「私語は謹んでください! 到着までの予定は?」

戦自「ヒトヒトマルマルだ!」

マナ「シンジくん。ついたら、上官か分隊長から挨拶を求められると思うから」

シンジ「うん、わかった」

マナ「いい? 声は小さくしちゃだめよ? 腹筋にしっかり力いれて。恥ずかしいなんてもっての他。声を枯らす気持ちで」

シンジ「うん」

マナ「慣れてないから、気後れしちゃうと思うけど。できるだけ、理由を与えたくないの」

シンジ「理由?」

マナ「懲罰を与える理由。はぁ、無事に済めばいいけど」


615 ◆y7//w4A.QY2017/09/25(月) 18:23:48.27ttRCl0Z50 (4/11)

【厚木基地 滑走路】

分隊長「配置につけ!」

ムサシ&ケイタ「はっ!」ザッ ザッ

マナ「シンジくん、手」

シンジ「ありがとう」

ムサシ「ぷっ、なんだあいつ。女に手を引かれてんか」

マナ「ムサシ! 聞こえたわよ!」キッ

ムサシ「久しぶりなのに随分とご挨拶じゃないか」

ケイタ「やめろよ、二人とも」

分隊長「休めッ! 玩具のパイロットというのはキミか?」

シンジ「はい」

分隊長「声が小さい! もう一度ッ!」

シンジ「は、はいっ!」

分隊長「軍曹からはえこひいきをするなとの命令だ。メディカルチェックをまず受けてもらう。おい。奴を敷地内にある施設に連れていってやれ」

ムサシ「こんなやつがパイロットだったのか……いつっ! いってぇなぁっ! 頭叩くなよ!」

マナ「なに威張ってるのよ。ムサシだって入隊間もない頃はビクビクしてたくせに」

ムサシ「俺はこの隊の有望株だからな」

マナ「虎の威を借る狐みたいなこといっちゃって、一人じゃなんにもできないくせに」

ムサシ「こいつよりはできると思うけどねぇ」

マナ「前はそんなこと言わなかったのに。変わったわね」

ムサシ「ふん」

マナ「いい加減にしてよ! みっともない!」

ケイタ「はぁ……それじゃ行こうか。ネルフのパイロットくん」

シンジ「シンジ。碇シンジ」

ケイタ「ん? あぁ、自己紹介か。浅利ケイタ。キミと同じ隊の少年兵だよ。そんで、あっちで威張ってるのがムサシ・リー・ストラスバーグ。僕とマナはムサシって呼んでる」

シンジ「そっか」

ケイタ「でも、本当に大丈夫なの? 訓練に耐えられるように見えないけど」

ムサシ「おいケイタ! はやく済ませてこいよ! しごけると思うとワクワクしてるんだ!」

マナ「ムサシぃっ!」

ムサシ「なんだよ! 人を踏み潰すためにあのロボットに乗ってるんだろ! お前!」

マナ「なんてこと言うのよ!」

ムサシ「宇宙からくる怪獣と戦うって言われてちやほれされてるんだろどーせ!」

マナ「……っ! 」ブンッ

ムサシ「おっと」パシッ

マナ「くっ」

ムサシ「担当は情報室だろ、さっさと行けよ」

分隊長「そこまでにしておけ。焦る必要はない」

ムサシ「はっ!」ビシッ

分隊長「地獄を見せてやる。浅利隊員、なにをぼさっと突っ立っている。腕立てさせられたいのか」

ケイタ「は、はっ!」ビシッ

シンジ「ふぅ……」ポリポリ


616 ◆y7//w4A.QY2017/09/25(月) 18:42:52.60ttRCl0Z50 (5/11)

【軍事病院】

ケイタ「あ、検査終わった?」

シンジ「うん、これからどうすればいいの?」

ケイタ「僕たちが寝泊まりする場所を紹介するよ。歩きながらでいいからいくつか聞いてもいい?」

シンジ「いいよ」

ケイタ「ここに来るのこわくなかったの?」

シンジ「特には。なにをするのかもわからないし」

ケイタ「へぇ、戦自って海外からも過酷だって評されてるんだけど。ちっとも知らなかったのか」

シンジ「すこし、話を聞いたぐらいかな」

ケイタ「楽しいとこじゃないよ、ここは。すぐに他のことなんか考えられなくなる。きつい、それだけ。ははっ」

シンジ「長いの? ここ」

ケイタ「僕たちはまだそんなに。……数年ぐらいかな。夜中に逃げ出した経験あるんだ、僕。あ、もしかしてネルフじゃもっときつかったりするのかな」

シンジ「肉体を鍛えたりはしないよ」

ケイタ「そっか。それじゃ覚悟しておいたほうがいいよ。予想の三倍、もっとかな。身体が慣れるまで。……あと心も」

シンジ「キミはネルフに対してなにも思ってないの?」

ケイタ「どうだろう。キミがあまりにも普通すぎたから、なんだか拍子抜けしちゃって」

シンジ「……」

ケイタ「ただ、ここには味方なんていない。そう思って間違いないと思うよ。僕も含めてね」

シンジ「……わかった」

ケイタ「どうやってロボットのパイロットに選ばれたの? なにか試験があったの?」

シンジ「なにも。ただ乗れって」

ケイタ「ええっ⁉︎ 技術訓練で良い成績だったからとか、なにか」

シンジ「なにもない」

ケイタ「へ、へぇ」

シンジ「マナとは幼馴染だって聞いてるけど」

ケイタ「よく知ってるね」

シンジ「うん、まぁ」

ケイタ「マナとは小さい頃から一緒だったよ。戦自に入ろうって決めたのはムサシだけど。僕とマナはムサシについてきたんだ」

シンジ「さっきの?」

ケイタ「あいつも昔はこんな感じじゃない気さくなやつだったんだ。世の中が悪いよ。満足に飯も食えない」

シンジ「……」

ケイタ「マナはね、内臓が悪いだ」

シンジ「えっ? そうなの?」

ケイタ「うん、これは本人に言っちゃだめだよ。僕が“また”口が軽いって責められるから。だから、ムサシは余計はりきっちゃって」


617 ◆y7//w4A.QY2017/09/25(月) 18:59:56.13ttRCl0Z50 (6/11)

シンジ「内臓ってどうして?」

ケイタ「最初はマナもね、実務部隊にいたんだ。僕たちと離れたくない、たっての希望で」

シンジ「……」

ケイタ「でも、訓練の内容が過酷すぎた。連日、吐いちゃって、胃に負担がかかっちゃったんだ。騙し騙し、繰り返しているうちに倒れてしまった」

シンジ「病院に?」

ケイタ「うん、ここだよ。担ぎこまれて精密検査をしたら軍医からストップがかかった。不謹慎だけど、僕はすこしうらやましいと思ったな。もうきつい思いしなくて済むんだから」

シンジ「……」

ケイタ「国のため、国民のため、家族のため、僕はそんな大義があって入隊したわけじゃない。でも、死ななくちゃいけないんだろうね、ここにいる以上は」

シンジ「覚悟、できてるの?」

ケイタ「うん。できてる。僕には、ムサシとマナしかいないから。逃げ出したこともあったけど、今では、そう思うよ」

シンジ「そっか」

ケイタ「ムサシ、最近、暴走してるんだよな」

シンジ「……?」

ケイタ「あぁ、今のは独り言みたいなもん。上官の言うことを間に受けすぎるっていうか、戦地に出たがってるんだよね」

シンジ「戦地って、生身で出ちゃ死んじゃうじゃないか」

ケイタ「感覚がね、麻痺しているんだよ。ここにいると。そういう無謀なのが、勇猛だって思えてくる。キミはも数年過ごしたらわかるようになるよ」

シンジ「……」

ケイタ「さ、敷地内は広いから、この建物をでたらジープが止めてある。他の隊員と相乗りになっちゃうけど……」

シンジ「うん、わかった」

ケイタ「僕は、かばわないからね」ボソ

シンジ「え? なにか言った?」

ケイタ「なにも。碇隊員。戦自へようこそ」


618以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/25(月) 19:02:45.950Jt/Jhb1o (1/1)

トウジとケンスケみたいな二人組なんだな


619 ◆y7//w4A.QY2017/09/25(月) 19:18:05.51ttRCl0Z50 (7/11)

ムサシ、マナ、ケイタの知り合った時期や関係性などは鋼鉄のガールフレンドと似通ったところもありますが当SSではけっこう違ってるんでそこは一応書いときます。
特にケイタはゲーム中でもセリフらしいものがないので背景設定を元に創作してます。


620 ◆y7//w4A.QY2017/09/25(月) 20:01:44.46ttRCl0Z50 (8/11)

【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「ミサトがきてるのかと思えば、アスカじゃない。ずっと待ってたの? 学校は?」

アスカ「今日は昼まで」

リツコ「そういえば土曜日だったわね。それで、なんのごよう?」

アスカ「ミサトから聞いた。新兵器テストあるんでしょ?」

リツコ「必要になればこちらから声をかけます」

アスカ「焦れったい。なにかないの?」

リツコ「功を焦っても同じことよ。自然体でいるのが一番」

アスカ「負けらんないのよ。シンジなんかに」

リツコ「ふぅ、あなた頭がいいのに」

アスカ「褒めてんの? 貶してんの?」

リツコ「この場合は残念に思っている」

アスカ「ぐっ」

リツコ「試験期間の話、ミサトから聞いたのね」

アスカ「……」コクリ

リツコ「私達は、なにもアスカに失望しているわけではない。ただ、小さなコミュニティの中にも役割が必要でしょう。円滑にことを運びやすくなる」

アスカ「それは理解してる。だからこうしてるんじゃない」

リツコ「わかってないわ。待ちなさい、と言ってるのよ。来るべき時がきたら、最高の結果をだせばいい。小さなポイント稼ぎなんてせこい真似しないで」

アスカ「……っ!」

リツコ「パイロットなのよ。技術部の仕事を手伝えるとおもってるの?」

アスカ「思って、ないけど」

リツコ「回れ右する準備は済んだ?」

アスカ「どうして、ファーストじゃなく、あたしでもなく、シンジなの」

リツコ「一番結果を残してるから。シンクロテストだけではない、実戦も含めてね」

アスカ「シンジだって! 報告書を読んだらヤシマ作戦はファーストと一緒にっ!」

リツコ「その前の二体はシンジくんが一人でやってるわ。特に最初に乗った場合なんて、レイでさえ不可能だったことを成し遂げてる」

アスカ「……」

リツコ「信じられる? レイもアスカも、エヴァに乗るためだけに準備をしてきた。長い間ね。ところが――彼ははじめて乗って、シンクロ率40パーセント。起動指数を叩きだした」

アスカ「……」ギリッ

リツコ「その後の活躍。性格のことはおいておくと、シンジくんこそが、エースにふさわしい」

アスカ「それ、本気で言ってんの? チームリーダーも?」

リツコ「ぐいぐい引っ張っていくタイプではないけれど、面倒見が悪くないところを着目しました」

アスカ「はぁ? そんなんでまとめられると」

リツコ「あなたならできると言うの? レイやシンジくんを頭から抑えつけるだけではなくって? 手柄は全部独り占め」

アスカ「あたしが一番うまくできるんだからその方がいいでしょ!」

リツコ「駄目よ。それじゃ、実力以上を引き出してもらわないと。リーダーは消去法です。彼以外にまかせられる人がいないと言えば正しいかしらね」

アスカ「な、なんですってぇ」

リツコ「この際だからはっきりと言ってあげる。エースに捕らわれているアスカでは、リーダーたる資格はない」

アスカ「ぐっ! もういいっ!!」バァンッ クルッ スタスタ


621 ◆y7//w4A.QY2017/09/25(月) 22:36:57.65ttRCl0Z50 (9/11)

【ネルフ本部 発令所】

マヤ「たしかなの?」

シゲル「あぁ、葛城一尉が話してるのをちらっと聞いたんだ。なんでも、シンジくんをオフェンスにして後の二人はサポートに回すらしいぜ」

マコト「ケースバイケースなんじゃないのか? エヴァが三体もいるんだし」

マヤ「そうよ。それにエースなんて聞こえはいいけどオフェンスって……。一番危険な役割じゃない」

シゲル「たしかに。先陣、切り込み隊長的な扱いに思えるよな」

マコト「次にくる使徒の能力や戦力がわかってるなら決まったフォーメーションで対応できるけどなぁ。そうじゃないし」

シゲル「競争心を駆り立てようとしてんのかねぇ」

マコト「なるほど。それはありえる」

マヤ「アスカは、反発するでしょうね」

マコト「違いない」

シゲル「当のシンジくんは戦自だっけ。今日から」

マコト「そっちのが驚きだよ。まさか戦自とは。うぅ、想像しただけで震えちまう」プルプル

シゲル「マコトは最近行ったんだろ? 視察」

マコト「物資の点検に。まぁ、陰湿だったよ」

シゲル「あーらま。体育会系ってそういうとこあるよな。さっぱりしてそうで」

マコト「ネルフの関係者ってだけで疎ましい存在なんだろ」

マヤ「……」

シゲル「どったの? 急に深刻な顔して。お通じが悪いの?」

マヤ「ねぇ、日向くん。次に行くのっていつ?」

マコト「どこに……戦自? ちょうどライフルの予備部品を確認しなくちゃいけないから三日後だけど」

マヤ「代わってくれない? なにかおごるから」

マコト「いや、こっちとしてはむしろ……なにか見たい兵器でもあるのか?」

マヤ「そんなとこ。気分転換にもなるかなって」


622 ◆y7//w4A.QY2017/09/25(月) 23:03:56.50ttRCl0Z50 (10/11)

【厚木基地】

シンジ「はぁっ、はあっ、はぁっ」タッタッタッ

ムサシ「どうしたパイロット! 二周遅れだぞ!」バンッ

シンジ「うっ、はあ、はぁっ」

ムサシ「5キロ走っただけでへばっちまったのか? やっぱりたいしことねーな!」

シンジ「む、胸がっ」

ムサシ「心臓が苦しいだろ? そりゃそーだ! 心拍数が上がってるからな! 自分で脈はかってみな! でも足は止めるなよ!」

シンジ「ちょ、ちょっと、少し、歩かせて」

ムサシ「駄目だ! きついときこそ根性を見せろ! 吐くまで走れ! 吐き終わったらまた走れ!」

シンジ「こっ、これって、オーバーワークじゃ」

ムサシ「甘ったれたことを言うな! 休みたいだけだろうが!」

教官「なにを喋っとるか貴様らぁッ! その場で停止!!」

ムサシ「失礼いたしましたっ!」ビシッ

シンジ「よ、ようやく、止まれ――」

教官「懲罰! 腕立て! 100回!!」

シンジ「……っ⁉︎」ギョ

ムサシ「了解ッ! いち、に、さん、し――」

シンジ「はぁ、はぁっ……」

教官「なにをしとるか碇隊員! 命令が聞こえなかったのかッ!」

シンジ「す、すいません」スッ

教官「なんだそのへっぴり腰は! まだ追加されたいのか!」

シンジ「ぐっ、やります。ちゃんと、やります」ググッ

教官「しっかりと顎先をつけて持ち上げるんだ! 笛吹いてやるから合わせてやれ!」ピッピッピッ

ムサシ「――じゅうはち、じゅうきゅう」

シンジ「ご、ろく、なな」

教官「腕が震えとる!!」

シンジ「そ、それはしかたな――」

教官「つべこべ言うな!! まだ喋る余裕があるのか!」

シンジ「(やっぱり、生身じゃ、きついな)」

教官「どうしたどうしたぁっ! 動きが遅いぞ! 隣を見てみろ!!」

ムサシ「にじゅうきゅう、さんじゅう」

シンジ「(下向いてれば瞳の色に気がつかれないはずだし、少し、頼るか……というか、もう限界……)」

教官「こんなやつがあの紫色の機体のパイロットだったとは、まったく。……ん?」

ムサシ「さんじゅうご、さんじゅろく」

シンジ「10、11、12、13、14、15、16、17、18」

教官「お?」

ムサシ「さんじゅうはち……?」

シンジ「19、20、21」

ムサシ「な、なんだこいつ。急に」

シンジ「(いけない、やりすぎたか)」

教官「な、なんだぁ? 今度はまたプルプル腕が震えだして」

シンジ「に、にじゅうにぃ」プルプル

教官「火事場の馬鹿力か」


623 ◆y7//w4A.QY2017/09/25(月) 23:37:49.30ttRCl0Z50 (11/11)

【一時間後】

シンジ「はぁっ、はぁっ」

教官「ちっ、もう時間だ。碇隊員、止まれ」

シンジ「よ、ようやく休憩」

教官「勘違いするなよ。残ったメニューは全て、今日中に終わらせる。いいな? 全てだ。それまでは眠れないと覚えとけ」

シンジ「(残り、15キロか)」

教官「第壱隊集合!!」ピーーーーーッ

シンジ「ふぅ、ふうっ」

教官「整列しろ!」

ムサシ「おら、チンタラすんな。さっさと並べ」

ケイタ「……」

シンジ「わ、わかりました」

教官「遅いっ! もっと早く並べ! 戦場でも貴様らはらそんな動きをするのかッ!」

ムサシ「申し訳ありません教官っ! 点呼開始しますっ!」

教官「あぁ、点呼は省略する。なにせお坊ちゃんのせいで時間をおしてるからな」

ムサシ「はっ!」ビシッ

教官「各員、隣にいるやつの顔をよく見ておけ。そいつが貴様らの戦友になる。弾から守り、また敵を倒してくれる」

ムサシ「お前には無理だよな」

シンジ「はぁ、はぁっ、ふぅー」

教官「我々は家族だ! 仲間だ! 最も強い絆で結ばれてなくてはならない! 信用できないものに命を預けられるか⁉︎」

少年兵一同「できませんっ!」

教官「そうだっ! 全員が仲間だ! 志しをひとつにしろ! 一致団結!」

少年兵一同「一致団結っ!!」

教官「我々に倒せない敵はいないっ! 死んでも倒せ! 仲間のために! 家族のためにっ!!」

シンジ「(うわぁ、すごい、な)」

教官「今日から諸君に新しい家族が加わった。紹介しよう。……碇隊員っ! 前へ!」

シンジ「うっ、は、はい」

教官「声が小さいっ!!」

少年兵A「なんだよ、あいつ。あんなのかよ」

シンジ「はいっ!」

教官「手短に挨拶を済ませろ」

シンジ「碇シンジです! よろしくお願いします!」

少年兵B「なんでこんなやつが?」

ムサシ「……」ニヤニヤ

教官「さがれ、碇隊員。貴様らもゆくゆくは一個師団に合流し編成される。そうなったら、この日々がまだマシだと思える戦場が待っている。敵は容赦などかけてくれない」

少年兵一同「……」

教官「この日々を己の糧にしろ! 血にしろ! 肉にしろ! 学んだことが自分を守ってくれる! 家族を守ってくれる!」

少年兵一同「はいっ!!」

教官「一人でも多くの敵を道連れにしろ! 一人一殺で満足するな!! 気合いを叫べ!!」

少年兵一同「うおおおおおっ!!」

教官「よぉーし! 100メートルダッシュだ! 10セットッ!!」

シンジ「(な、なんなんだよ、これ)」


624 ◆y7//w4A.QY2017/09/26(火) 00:03:50.57MW53ChTl0 (1/9)

【夕方 トイレ】

少年兵A「おい、新入り!」ブンッ

シンジ「え? うっぷ」ベチョ

少年兵A「トイレ掃除ひとりでやっとけや。できるだろ?」

シンジ「でも、命令では、みんなで」

少年兵B「うるせえ! できるだろって聞いたんだよ!」

ケイタ「……」ゴシゴシ

少年兵A「生意気だな、お前。どうせ体験だとか甘い考え抱いてきたんだろ?」

シンジ「いや、そんなつもりは」

少年兵B「ほらよ、モップ」カラン

少年兵A「浅利、行くぞ」

ケイタ「うん、わかった」

シンジ「えっ、ちょっと待ってよ。集合時間までに僕が全部?」

少年兵A「きちんと磨きあげろよ! あとで教官のチェックがはいるからな!」

シンジ「そんなっ! 終わりっこないよ!」

少年兵B「終わらせるんだろうが!」

ムサシ「おい、お前らなにやって――」

少年兵A「新入りにここのルールを教えてやってたんだ」

ムサシ「ははぁん。俺も仲間に入れてくれよ」ニヤニヤ

少年兵B「なぁ? ホントなのか? 黙認してくれるって」

ムサシ「間違いない。上官たちはこいつを好きにしていいって言ってたぞ。徹底的にやってやれって」

ケイタ「む、ムサシ……」

ムサシ「行くぞ、ケイタ。パイロット、ちゃぁ~んと掃除しとけよ?」

シンジ「(そうか、そういう感じね)」

ムサシ「なんだぁ? その反抗的な目つきは」

シンジ「命令なんだろ。だったら、みんなでしなくちゃ」

ムサシ「ぷっ、おいおい聞こえたかよみんな」

少年兵A「お前が俺たちの仲間に数えられてると思ってるのか? ネルフの犬っころが!」

少年兵B「帰りたくなったんでちゅかぁ?」

シンジ「……そうじゃない。与えられた命令に責任を――ぐっ!」ドサッ

少年兵A「ロボットに乗ってるやつが俺たちに説教するな! 守られた環境で戦ってヒーロー気取りかよっ!!」

シンジ「やったことないくせに」

ムサシ「あ?」

シンジ「乗ったことないくせによくそんなこと言えるね」

ムサシ「乗れねーんだよ! 俺たちはなぁ! 地面這いつくばって生きてくしかねぇ! 雑草の気持ちがわかんのか! 踏みつけてるやつに!!」

マナ「あんたたちっ⁉︎」タタタッ

ムサシ「ちっ、うるさいのがきた」

マナ「――シンジくんっ⁉︎ 大丈夫っ⁉︎」

ムサシ「マナ。そいつに近づくな。雑巾で濡れてるからきたな……」

マナ「汚いのはあんた達の心でしょ⁉︎ 恥ずかしいと思わないの⁉︎ 彼だって国民の為に戦ってるのよ! ムサシ……! どこまで変わっちゃったの⁉︎」

ムサシ「俺はなにも変わっちゃいない!」

マナ「人を[ピーーー]なんて嫌だって言ってたムサシは、どこに。こんな、いじめみたいな真似して」


625 ◆y7//w4A.QY2017/09/26(火) 00:07:02.72MW53ChTl0 (2/9)

あらら、saga忘れたんでレスしなおし


626 ◆y7//w4A.QY2017/09/26(火) 00:07:34.67MW53ChTl0 (3/9)

【夕方 トイレ】

少年兵A「おい、新入り!」ブンッ

シンジ「え? うっぷ」ベチョ

少年兵A「トイレ掃除ひとりでやっとけや。できるだろ?」

シンジ「でも、命令では、みんなで」

少年兵B「うるせえ! できるだろって聞いたんだよ!」

ケイタ「……」ゴシゴシ

少年兵A「生意気だな、お前。どうせ体験だとか甘い考え抱いてきたんだろ?」

シンジ「いや、そんなつもりは」

少年兵B「ほらよ、モップ」カラン

少年兵A「浅利、行くぞ」

ケイタ「うん、わかった」

シンジ「えっ、ちょっと待ってよ。集合時間までに僕が全部?」

少年兵A「きちんと磨きあげろよ! あとで教官のチェックがはいるからな!」

シンジ「そんなっ! 終わりっこないよ!」

少年兵B「終わらせるんだろうが!」

ムサシ「おい、お前らなにやって――」

少年兵A「新入りにここのルールを教えてやってたんだ」

ムサシ「ははぁん。俺も仲間に入れてくれよ」ニヤニヤ

少年兵B「なぁ? ホントなのか? 黙認してくれるって」

ムサシ「間違いない。上官たちはこいつを好きにしていいって言ってたぞ。徹底的にやってやれって」

ケイタ「む、ムサシ……」

ムサシ「行くぞ、ケイタ。パイロット、ちゃぁ~んと掃除しとけよ?」

シンジ「(そうか、そういう感じね)」

ムサシ「なんだぁ? その反抗的な目つきは」

シンジ「命令なんだろ。だったら、みんなでしなくちゃ」

ムサシ「ぷっ、おいおい聞こえたかよみんな」

少年兵A「お前が俺たちの仲間に数えられてると思ってるのか? ネルフの犬っころが!」

少年兵B「帰りたくなったんでちゅかぁ?」

シンジ「……そうじゃない。与えられた命令に責任を――ぐっ!」ドサッ

少年兵A「ロボットに乗ってるやつが俺たちに説教するな! 守られた環境で戦ってヒーロー気取りかよっ!!」

シンジ「やったことないくせに」

ムサシ「あ?」

シンジ「乗ったことないくせによくそんなこと言えるね」

ムサシ「乗れねーんだよ! 俺たちはなぁ! 地面這いつくばって生きてくしかねぇ! 雑草の気持ちがわかんのか! 踏みつけてるやつに!!」

マナ「あんたたちっ⁉︎」タタタッ

ムサシ「ちっ、うるさいのがきた」

マナ「――シンジくんっ⁉︎ 大丈夫っ⁉︎」

ムサシ「マナ。そいつに近づくな。雑巾で濡れてるからきたな……」

マナ「汚いのはあんた達の心でしょ⁉︎ 恥ずかしいと思わないの⁉︎ 彼だって国民の為に戦ってるのよ! ムサシ……! どこまで変わっちゃったの⁉︎」

ムサシ「俺はなにも変わっちゃいない!」

マナ「人を殺すなんて嫌だって言ってたムサシは、どこに。こんな、いじめみたいな真似して」


627以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/26(火) 00:07:52.69fgaE3H0Uo (1/1)

こいつらパイロットがエヴァと神経接続してるって知らないしな
ロボット乗ってりゃ安全だろ程度に思ってんだろうな…


628 ◆y7//w4A.QY2017/09/26(火) 00:33:35.05MW53ChTl0 (4/9)

ムサシ「なんでそんな肩入れしてんだよ。別任務で離れてるって聞いたが、そいつと一緒だったし」

マナ「必要? その話が今」

ムサシ「なんだよ」

マナ「ねぇ、ムサシ。優しかったあの頃に戻ってよ。おかしいのよ。ここも。私たちも」

ムサシ「はぁ……」

マナ「これしかないって思わされてるだけ! 隊を抜けても、貧しくても、笑い合ってたあの頃に……!」

ムサシ「物乞いみたいなマネしろってのか!」

マナ「仕事ならきっとあるよ!」

ムサシ「俺は嫌だ! あんな生活! 二度とごめんだ!」

マナ「ムサシ……」

少年兵A「おう、ムサシ。先に行くぞ」

ムサシ「ああ、俺もすぐ行く」

マナ「ねぇ、考えなおして? 私も協力するから」グイッ

ムサシ「うるさいっ! ここには家族がいるんだ! 見捨てられるわけないだろっ!」バシッ

マナ「きゃっ」

ケイタ「ムサシっ!」

ムサシ「あっ……くそっ」

ケイタ「大丈夫? マナ」スッ

マナ「私たちはずっと三人一緒だったじゃない。ここの人たちは、みんな、仕方なく一緒にいるだけよ。命令違反をしたら守ってくれるっ⁉︎」

ムサシ「……」

マナ「もしそうなれば、みんなが牙を剥くわよ! そう教育されてるから!」

ムサシ「そんなことにはならない。命令違反なんてありえないからだ」

マナ「気がついてよ! 洗脳されてるの!」

ムサシ「――うるさいっ! うるさいうるさいっ! 命令は絶対だ! 守るべきものだっ!」

シンジ「ほんとにそう?」

ムサシ「なに……?」

マナ「し、シンジくん?」

シンジ「自分の考え、ないの?」

ムサシ「俺の考えがそうなんだ! 命令と常に同じだ!」

シンジ「マナや浅利くんとだったら、どっちを選ぶんだよ」

ムサシ「そ、それは……。お前には関係ないだろう! 気安く呼ぶな!」

ケイタ「……」

シンジ「このままここにいると、戦場にいっちゃうんだろう。浅利くん、死んじゃうかもしれないよ」

ムサシ「俺たちがやらなきゃ、どうせ誰かは死んでるんだ!」

シンジ「だったら、なんでキミ達が行く必要があるんだよ」

ムサシ「な、なに言ってんだ、お前」

シンジ「僕は、逃げたらいいと思う」

ムサシ「このっ! パイロットのお前がそれを言うのかっ⁉︎ 戦うべきだって言うべきだろ! じゃなきゃ死んでいったやつが――」

シンジ「僕が戦うよ。使徒とは」

ムサシ「……くっ、あっはっはっ。雑巾投げつけられたのにか? 頭おかしいんじゃないのかお前」

マナ「なにがおかしいのよっ! 立派じゃない!」


629 ◆y7//w4A.QY2017/09/26(火) 00:56:26.23MW53ChTl0 (5/9)

ムサシ「できもしないことを口にするのが立派なもんかっ!」

シンジ「……たしかに、今のは軽はずみだったかもしれない。けど、キミだって苦しいんだろ」

ムサシ「俺が苦しい?」

シンジ「最初は、ご飯が食べられればよかった。こんなつもりじゃなかったんじゃないの」

ムサシ「お前になにがわかる!」

シンジ「素直、なんだね。だから、こうやって受け止めてしまう」

ムサシ「ロボットがあるやつには永遠にわからない! 歩兵部隊のこわさも! 苦しみも!」

シンジ「……いい。わかった。僕がトイレ掃除しとくよ」

マナ「無理よ。時間に間に合わなかったら隊の全員が処罰対象になる。そうなったら、もっと……!」

シンジ「大丈夫。できることからやっていけばいい」

ムサシ「……」

ケイタ「……あの、碇隊員」

ムサシ「やめとけ、ケイタ。どうせできっこねぇ。そしたらまた風当たりが強くなるだけだ」

ケイタ「ムサシ」

ムサシ「行くぞ」スタスタ

ケイタ「ま、待ってよ、ムサシ!」タタタッ

シンジ「ふぅ……よっと」パンパンッ

マナ「シンジくん、私、手伝う」

シンジ「いいよ。ここは男子トイレなんだし」

マナ「ムサシ、あんな人じゃなかったのっぐすっ」ポロポロ

シンジ「あ……」

マナ「どんどん変わっていっちゃって。ケイタも、なにも言えなくて」

シンジ「そうなんだ、うん、大丈夫」

マナ「できれば、恨まないであげてほしい。私が勝手なこといってるってわかってるけど」

シンジ「平気だよ。これぐらい」

マナ「ごめんね」

シンジ「いいんだ。それよりもマナも戻った方が」

マナ「私、シンジくんに近づけって言われてるから」

シンジ「え? まだ続いてるの?」

マナ「うん、だからここに来れたの。きっと、シンジくんが辛い思いをしてる時に手を差し伸べさせたいんじゃないかな。離れられなくなるように」

シンジ「いろいろ考えるんだね」

マナ「汚いよね、大人って。利用して、利用されて。あるのは打算ばっかり」

シンジ「……そうかもしれない」

マナ「掃除、しよっか」

シンジ「いや、そこは僕ひとりでやる。マナは見てていいよ」

マナ「え? でも」

シンジ「僕がやらなきゃ意味がないんだ」

マナ「……うん、わかった」









630以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/26(火) 01:24:35.36xjXiNuolo (1/1)

>>627
まあ神経ブロックはできるし、エヴァの中が一番安全って言っちゃってるからなあ。

にしてもあんまりゲスに書きすぎると助ける必要性というか、蓋然性がなくならないか?



631 ◆y7//w4A.QY2017/09/26(火) 18:47:47.00MW53ChTl0 (6/9)

構成はこれまでの流れの中で無理のないように組み立てているつもりです
たいしたものではないですが戦自パートの導入部位みたいな感じですかね


632以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/26(火) 18:52:24.62Xk8i3Od9o (1/1)

>>630
ゲスになりすぎないようにマナが必死にフォローしてるんだろう


633 ◆y7//w4A.QY2017/09/26(火) 19:54:28.31MW53ChTl0 (7/9)

【数十分後 男子トイレ】

マナ「掃除の効率いいのね。あ、そのタオルは最後にここ。手洗い場で浸しておくの」

シンジ「なんとなく毎日してたら自然とこうなってた。洗剤使うの?」

マナ「うん。水がたまったら洗剤を少量いれて、タオルはこうやって伸ばして浮かせて」トプン

シンジ「へぇ、こんな洗濯法なんだ」

マナ「シンジくんって、ほんと、変わってる。普通かと思えば、そうじゃない思う瞬間もあって……。戦いとかそういう争い事に遠そうな存在に見える」

シンジ「エヴァがなかったら普通に暮らしてただろうからねぇ」

マナ「楽しい? 毎日が。自分のしたいことしてるの?」

シンジ「してるよ。選べる中からだけど。僕は自分の中で満足できればいいんだ」

マナ「やっぱり、戦自は似合わないよ。シンジくんには――」

ムサシ「おいっ! パイロット!」

シンジ「あぁ、おかえり」

ムサシ「ちゃんと掃除は……あ、あ?」

ケイタ「わぁ、すごい。これひとりで? マナも手伝ったの?」

マナ「私はぼーっと眺めてただけ」

ムサシ「ウソつけ! こんな短時間でそんなの無理に決まってるだろう!」

マナ「本当の話。なによ、自分たちだけどっかいっちゃったくせに。疑うなら最初から監視しとけばいいじゃない」

シンジ「疲れはしたよ。ただ、家事全般はもともと慣れてたし」

ムサシ「家事が得意な戦自だと⁉︎ お前は配膳係か!いちいちイラつく! 間の抜けた返事しやがって! まだ訓練メニューは残ってるぞ!」

シンジ「はぁ……ちょっと、聞いてほしいんだけど」

ムサシ「新兵の話なんぞ――」

シンジ「聞けって言ってるだろっ!!」ビターン

ムサシ「な、なん……?」

シンジ「まず、僕が新入りだってのはその通り。ここのルール、習慣なんて知らない。だから覚えるまでの間、こんなことがあっても納得はできる」

ケイタ「……」ポカーン

シンジ「問題は“このやりとりがいつまで続くのか”って話なんだ。ムサシ、くんの話を聞いてると僕がパイロットなのが気にくわないようと言ってるように思える」

ムサシ「当たり前だろ、お前みたいな軟弱者が」

シンジ「キミが僕を認めることはあるの? 今聞いてもないと即答で――」

ムサシ「ないっ!!」

シンジ「……だよね。それは嫌なんだ。僕はネルフの人間でパイロットだけど、そうじゃないと思ってもらえない?」

ケイタ「そんなの、無理だよ……」

シンジ「どうして?ここが戦自で、キミたちは隊員だから? でも、今は僕もそうだよ」

ムサシ「一定期間だけなんだろ! すぐに帰っちまうくせに!」

シンジ「いつかはネルフに戻るとは思う。でも、所属機関を間に挟まなければ、キミたちと僕の間になにもないじゃないか」

ムサシ「お前、頭のネジが一本はずれちまってんじゃねぇのか! そんなのがまかり通るわけねぇだろ!」

シンジ「だったら、どうしたらいい?」

ムサシ「そりゃ聞くまでもねぇだろ、体力テストで良い成績を残せば」

シンジ「(あぁ、やっぱりそうなのか、アスカの言う通り。ここで力を使ったら母さんの思惑通りなんだろうし……うぅーん)」

ムサシ「――それか、俺にタイマンで勝ったら認めてやる」

ケイタ「無茶言うなよ、ムサシ」

シンジ「ん? タイマン? それって負けても誰にも言わない?」

ムサシ「お前がか? いや、言いふらす!」


634 ◆y7//w4A.QY2017/09/26(火) 20:32:56.04MW53ChTl0 (8/9)

【昨夜 マヤ宅 リビング】

マヤ「プレゼントがあるの。はい、どうぞ」トン

シンジ「嬉しいな。僕、誕生日じゃないですよ?」

マヤ「いいからいいから」ニコニコ

シンジ「……?」

マヤ「開けてみて?」

シンジ「なんだろう……? え、これって」ガサガサ

マヤ「驚いた? カラーコンタクト。シンジくんには必要でしょ?」

シンジ「あ、瞳の色を隠すために?」

マヤ「外見的な特徴はただひとつ、やっぱりその瞳。普段は黒色なのに、力を使う時だけ赤い色に変化する」

シンジ「なんで今まで見落としてたんだろう」

マヤ「簡単なことほどね。灯台下暗しって言うじゃない」

シンジ「マヤさん……ありがとう」

マヤ「実験してた私が言うのもなんだけど、その力はあまり使わない方針がいいと思うの。特に戦自にいる間は」

シンジ「……?」

マヤ「もし、常人ではありえない身体能力してるってわかれば、とんでもない騒ぎになるはず。だから、力を誇示したいが為になんてしちゃだめ」

シンジ「はい」

マヤ「司令はまだ探ってるのかもしれない。シンジくんのその力について。……言ってないのならだけど」

シンジ「リツコさんは言ってませんよ。そう確信できます」

マヤ「とにかく、その力はここぞって時に使うのよ? 約束、ね?」


635 ◆y7//w4A.QY2017/09/26(火) 21:02:44.03MW53ChTl0 (9/9)

【再び 同男子トイレ】

シンジ「(カラーコンタクトはバックの中だったはず、いや、やっぱり……ここで力を使ったら軽率すぎるか)」

ムサシ「どうした! 怖気づいたのか!」

マヤ「もうやめてよっ!」

ケイタ「そうだよ、ムサシ。やるわけないさ」

シンジ「うぅーん」

ムサシ「とんだ腰抜け野郎だな」

シンジ「……うん、言いふらされると困るからやっぱりやらない」

ムサシ「負けるのがこわいのかっ⁉︎」

シンジ「そんな感じ」ポリポリ

ムサシ「はぁ、さっきまでの威勢はなんなんだよ。なぁ、マナ。なんでこんなやつにまとわりついてんだ?」

マナ「ムサシには関係ないでしょ?」

ムサシ「珍しいだけだろ。珍獣みたいな扱いか?」

マナ「なに? ヤキモチ?」

ムサシ「ばっ⁉︎ 俺がなんでっ⁉︎」アタフタ

マナ「悪いけど、ムサシはそういう対象じゃないから」

ムサシ「……っ⁉︎」

ケイタ「告白する前からフラれるってきついね、ははっ」

ムサシ「ケイタッ!! この野郎っ!」バシッ

ケイタ「いたっ」

シンジ「そろそろ集合時間じゃない?」

ムサシ「マイペースすぎんだろ。お前は結局なにがしたかったんだ?」

シンジ「うーん、僕もね、探ってる感じ」

ケイタ「探るってなにを?」

シンジ「なにが一番いいのか」

マナ「……?」

シンジ「遅れちゃうよ。急ごう」タタタッ

ムサシ「勝手に仕切るなっ!」

ケイタ「あぁ、行っちゃった。マナ、僕たちも隊に」

マナ「ねえ……ケイタ」

ケイタ「なに?」

マナ「なんか、不自然じゃない?」

ケイタ「え? なにが?」

マナ「あのさ、シンジくんってこれまでなにしてたの?」

ケイタ「トイレ掃除でしょ?」

マナ「その前」

ケイタ「ええと、ランニングとダッシュ……合間に腕立てと」

マナ「吐いた? それとも倒れた?」

ケイタ「そういえば、まだ……あれ? なんであんなに普通なんだろう? 最中は、かなり遅めのペースでひいひぃ言ってたのに」

マナ「普通ならだるくて死んだ魚の目をしてるはずでしょ? もう回復したってこと?」

ケイタ「う、うぅん。でも、今日はご飯は食べれないと思うよ。飯が喉を通らないくらい、疲れてる、はず……」


636 ◆y7//w4A.QY2017/09/27(水) 19:31:57.95A0IdrlUO0 (1/4)

【厚木基地 参謀本部】

総長「陸上軽巡洋艦トライデント級か。この作戦計画の立案者は例の?」

軍曹「はっ、我が軍に取り入る為、設計図を持参したかと」

総長「実現できるのか?」

軍曹「本人は必ずや実現できると信じているようです。熱の入りようは生半可ではありませんでしたよ」

総長「――時田シロウ。ジェットアローン(JA)計画の落ちこぼれか。日本重化学工業、通産省、防衛庁の共同計画を頓挫させた男」

軍曹「こちらから質問したら、陰謀だとまくしたてたそうです」

総長「ふん、例えそうだとしても失敗は失敗だ」

軍曹「仰る通りです」

総長「完成までどれぐらいかかると言っている?」

シロウ「失礼しますよ」

総長「お前は……なぜここに入れた?」チラッ

軍曹「し、失礼しました。至急、確認に」

シロウ「その必要はありません。防衛庁の者だと表に立っている衛兵に伝えたらすんなり入れてくれました。この身分証を提示してね」

総長「貴様は解雇されているはずだろう。なぜ持っている」

シロウ「必要だったからですよ……。再就職先に」

総長「ここがそうだと言いたいのか? 早計な」

シロウ「6年です」

総長「なに?」

シロウ「そのトライデントが完成するまでの月日の回答になります」

総長「6年もかかるのか?」

シロウ「なに、最初の使徒が現れたのは今から十数年前ではありませんか」

総長「ペースが早まっている」

シロウ「今が異常なんですよ。いつ現れるのかわからないのなら、次もまた十数年後かもしれない」

総長「だめだ。時間がかかりすぎる」

シロウ「タネを蒔いておかないのですか? やはり、あなた方は無能だ。ネルフの下働きが似合っている」

軍曹「き、貴様っ!!」

シロウ「あなた方が辛酸を舐めているのは、なにもしてこなかったからでしょう? 対人である戦争に明け暮れて、宇宙外生命体に対しての準備をね」

総長「……」

シロウ「このままでは、ずっとやつらに先を越されてしまいますよ? いいんですか?」

総長「口の減らないやつだ。ネルフに赤っ恥をかかされた恨みを晴らしたいだけだろう」

シロウ「はい、もちろんです。それのなにが問題で?」にっこり

総長「……」

シロウ「“ネルフを潰したい”。私達の利害は一致している。そうじゃないのですか?」

総長「……実現できると過程した場合の予算はいくら計上する目算だ?」

シロウ「軽く見積もって1兆ほど」

総長「……っ⁉︎ ば、ばかなっ! そんな財源がどこにある!」

シロウ「税率をあげるなりなんなり手はあるでしょう。この国に住まうものならば当然の義務。嫌なら国から出ていけばいい」



637 ◆y7//w4A.QY2017/09/27(水) 19:52:19.68A0IdrlUO0 (2/4)

総長「政府の認可が降りるわけないだろう!」

シロウ「そこはあなた方、軍上層部の腕の見せ所というわけです。私は出資を求めているのですから」

総長「話にならん」

シロウ「ふっ、よろしいですか。ネルフはそもそも、世界各国政府容認の元、治外法権化しています。法律的にいえば日本領土内に在りながらひとつの国家なのです」

総長「それぐらいは承知している」

シロウ「無尽蔵とも思える資金もまた、日本だけではない各国の後ろ盾があって成り立っている」

総長「……なにがいいたい?」

シロウ「潰す相手は“世界そのもの”だと言っているのです。1兆で買えるとなれば安いものでしょう? 世界のリーダーになりたくないのですか?」

総長「使徒は本当に現れないのか? 信用できん」

シロウ「その点についての確証は持てませんがね。そういうことではない。芽がでるタネの話なんです」

総長「規模が大きすぎる。提督の前でプランを話せ」

シロウ「では、私を紹介していただけますか? それと、6年後を見据えてパイロットの選定にもご協力いただきたい。もちろん、戦自出身者をね」

総長「話は通してやる。ただし、その後のことは自分でなんとかしろ。軍曹」

軍曹「はっ! 年齢に適齢期はあるか?」

シロウ「そうですね、20歳ぐらいがちょうどいいでしょう。サンプルの時間も大いにとれますし」

軍曹「リストアップする」

シロウ「ああ、勘違いしないでくださいよ。6年後にハタチですからね」

軍曹「……了解した。ということは少年兵からの選抜になるか。ちょうど活きの良いのがいる。次期主席候補でいいだろう」

シロウ「野心は必要ありません」

軍曹「心配するな。扱いやすいガキだ。透明性や言論性の自由も求めない」

シロウ「それはそれは。うってつけですね。モルモットにふさわしい。予備も一名ほしいんですが」

軍曹「問題ない。いつも一緒にツルんでいるやつがいる。そいつをつけよう」

シロウ「これで、パイロット候補生は話がつきましたね。早くて助かります」

総長「まだなにか具体的に決まったわけではない」

シロウ「ええ、ええ。もちろんですとも」

総長「先方の都合もある。日時はおって通達し――」

シロウ「今がいいですねぇ、鮮度が落ちてしまいますので。そこにおいてある衛星電話機を使えば一瞬で繋がるでしょう?」

総長「承認できん。有事の際以外は使用することを禁じられている」

シロウ「今がその時なんですよ。参謀総長」


638 ◆y7//w4A.QY2017/09/27(水) 20:21:13.18A0IdrlUO0 (3/4)

【夕方 食堂】

シンジ「うん、おいしい。雑かと思ってたんだけど、普通の料理なんだね」もぐもぐ

マナ&ケイタ「……」ぽかーん

ムサシ「それも全部国民の税金なんだ。役立たずのくせに申し訳ないとか思わないのか?」

ケイタ「あの。よく、食べれるね」

シンジ「え?」

マナ「食欲旺盛なんだ?」

シンジ「あぁ、うん、まぁ? どうしたの? なんかおかしい?」

ケイタ「いや、そういうわけじゃないけど……。どうだった? 今日一日終えてみて」

ムサシ「まだ終わってないだろ。これから点検とかやることが山積みだ」

シンジ「部活の合宿みたいな感じなのかな。僕は運動部に入った経験がないから想像だけど」

ケイタ「ぶ、部活の延長上……ね」

マナ「シンジくん、訓練についていけなかったんでしょう?」

シンジ「そうだね。やっぱり、やる量っていう密度が濃いのはそう思った」

ムサシ「当たり前だ。なんていったってここは――」

マナ「ムサシ、ちょっとうるさい。持てないものとか、あった?」

シンジ「いや? 途中で背負ったリュックは重かったな」

マナ「あぁ、装備一式を積んだバックパックのこと? 銃も携行したの?」

シンジ「うん、なんだっけ? M16? 銃も重くて驚いたよ」

ケイタ「そういえば、たしかに。後半はなんなくこなしてたような……」

シンジ「あれをいつも背負ったまま移動するんだよね? 大変だ」

マナ「ねぇ、ケイタ。今日は水泳訓練なかったの?」

ケイタ「なかった。そのかわり、地獄のトンボかけがあったけど」チラ

シンジ「このトンカツもちゃんと揚がってる」もぐもぐ

マナ「な、なんで?」

ケイタ「さぁ……?」

ムサシ「おい! そのカツ俺にも一切れくれ!」

シンジ「自分のあるじゃないか」

ムサシ「やかましい! 俺とお前で貢献してる度合いが違うんだ!」

シンジ「お断りだね」

ムサシ「な、なんだとっ! お前やっぱり!」

シンジ「その漬物、いらないの?」

ムサシ「あ? いや、これは最後に」

シンジ「僕のキャベツとトレードしよう」

ムサシ「なっ⁉︎ 馬鹿言ってんじゃねぇ! 俺は漬け物が好物なんだ!」

シンジ「し、渋いね」

ムサシ「ばあちゃんっ子だったからな、俺は。……ってそうじゃねぇだろ!」

シンジ「そういうことなら、漬け物あげるよ。少し箸つけちゃったけど」ヒョイ

ムサシ「お? お、おう」

マナ「ぷっ」

ムサシ「……っ! なんなんだよお前はっ!」


639 ◆y7//w4A.QY2017/09/27(水) 21:32:23.91A0IdrlUO0 (4/4)

【夜 戦闘機格納庫】

ケイタ「長いだろ。この階段。運搬用のエレベーターとかつけてくれたらいいのに」

シンジ「うん、これ、どこに? 戦闘機の銃弾って、重い、な」

ケイタ「まとまった数は梱包されてフォークリフトやクレーンをつかって運ぶんだけど。端数は、こうやって、人力でっ、よっと」

シンジ「スピードを要求されるんだね、こういう作業って」

ケイタ「“戦場じゃ敵は待ってくれない”が教官の口癖。出撃にしてもそう、使徒が襲来した時に、誰よりもはやく準備を終えていなきゃいない」

シンジ「……」

ケイタ「ネルフがもっと、僕たちに敬意を払ってくれてたら……。キミは陰でこんな仕事してるって知らなかっただろう?」

シンジ「うん」

ケイタ「魔法じゃないんだ。勝手に出てくるわけじゃないし、色んな人が動いて、ひとつの形になってる」

シンジ「そうだね……」

ケイタ「いつも汚れ仕事さ。華のあるキミみたいなパイロットと違って……雑草は、人のやりたがらない仕事を引き受ける」

シンジ「……」

ケイタ「誰だってできるってみんなそう思うのもわかるよ。肉体労働っていうのは、体が資本で、作業そのものは単純だから。でもやる人がいないと出撃すらままならないってことだけは理解しておくべきなんだ」

シンジ「うん。言い返す言葉もないや」

ケイタ「まぁ、それと組織の体質とは話しが繋がらないんだけど」

シンジ「そこまでわかってるのに、戦自じゃないとダメなの? 別の生き方が」

ケイタ「いったろ? 誰かがやらなきゃいけないんだって。僕は食いっぱぐれがなさそうだからっていう動機だけど、ムサシはそう考えてる」

シンジ「浅利くんは? やっぱりマナやムサシくんと一緒にいたいから?」

ケイタ「そうだよ。いつかは、離れ離れになるかもしれない。そういうことを考えないわけじゃない、だけど、今はみんなで一緒にいたいんだ。死ぬことになってもさ」

シンジ「……」

ケイタ「境遇なんてものはきっかけ。人は平等じゃないんだ。パイロットに選ばれる強運があればな。……のたれ死ぬやつもいるのに、僕なんて友達がいるだけマシな方だよ」

シンジ「……」

ケイタ「急ぐよ。遅れるとまた追加で懲罰が待ってる」カンカン

シンジ「わかった、よいしょっと」


640以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/27(水) 23:28:26.25kMpDJk9Jo (1/1)

時田さん…
人を巻き込まないためにJAを作ったんじゃないのか


641以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/28(木) 01:46:17.96LMhSvhxyo (1/1)

おつ


642 ◆y7//w4A.QY2017/09/28(木) 18:50:06.02NayB0tUw0 (1/3)

【射撃訓練場】

教官「皆聞け! 今回の座学では、兵站(へいたん)部の者に向けてのものとなる。貴様らは戦自陸軍の配属になる予定であるから、知識もまた重要である!」

少年兵一同「はいっ!!」

シンジ「うっ、重っ。ねぇ、聞くだけなのにわざわざ装備一式を担ぐ必要あるの?」

ケイタ「シッ。静かに」

教官「お前たちが身につけているものは、継戦能力を維持するのに必要な“最低限”の装備だ。ムサシ隊員!」

ムサシ「はっ!」ザッ ビシッ

教官「重いか⁉︎ 陸路を闊歩する場合に困難かっ⁉︎」

ムサシ「問題ありませんっ!!」

教官「よしっ! 各隊員よく聞け。注目すべきは銃弾や軽機関銃ではない。これが標準の総装備だということだ。海に投げ出されたらどうなる!」

ムサシ「重量が増すはずであります!」

教官「その通りだ! 水分を多量に含めば、衣服、火器、防具にいたるまで重さは今の三倍になる……」

少年兵一同「……」ゴクリ

教官「そうなればどうなる! 助かるための命綱ともいえる武器を手放すのか⁉︎ 」

少年兵一同「……」ドヨドヨ

教官「――否ッ! それは自殺行為である! 例え助かったとしても、浮上すれば敵が待っているからだ! 絶対に捨てるな!」

少年兵一同「はいっ!!」

教官「貴様らの誰が死んでも、必ずや突撃し、制圧し、仇をうってくれる! 武器に魂をこめるんだ! 上下一心!」

少年兵一同「上下一心ッ!!」

教官「碇隊員! 前へ!」

シンジ「あっ、はいっ!」スッ

教官「諸君、彼の姿をよく見ろ。……まるで似合っていない。孫にも衣装じゃないか? これでは装備が歩いているようなものだ」

少年兵一同「はははっ」

教官「誰が笑っていいと言った!」ピーッ

少年兵一同「……!」ピタッ

シンジ「(たしかに、厳しいかもしれない。でも、ここまで統率をとれるなんて……ネルフって結構自由なんだな)」

教官「貴様らもまだひよっ子にすぎん!」ドンッ

シンジ「うっ」ドサッ

少年兵一同「……」シーン

教官「どうした! 今のは笑っていいぞ!」

少年兵一同「は、ははっ」

教官「貴様がネルフでどんな鍛え方をしたか知らんが、ここにはここのルールがある! それを現時刻より身をもって体感してもらう!浅利隊員!」

ケイタ「はっ!」ザッ ビシッ

教官「痛めつけてやれ」ポン

シンジ「なっ、なんでっ⁉︎」

教官「他の者もだ! 各員列を作れ。……碇隊員を仲間に迎える儀式だ!」

シンジ「ぎ、儀式っ⁉︎ こんなのがっ⁉︎」

教官「口答えをしたな⁉︎ 軍規の乱れを見過ごすわけにはいかん! 笛の合図で代わり番で鉄拳制裁だ!」ピーッ

ケイタ「誰も味方じゃないって言ったよ。……恨まないでね」ボソ ブンッ

シンジ「グッ……っ⁉︎」ドサッ

教官「よしっ! 次ッ――」


643 ◆y7//w4A.QY2017/09/28(木) 19:56:11.17NayB0tUw0 (2/3)

【ネルフ本部 執務室】

冬月「時田シロウ。行方を眩ましていたかと思えば、まさかこんな形で再浮上してくるとはな」

ユイ「内通者からの定時報告によれば、海軍提督に直訴したようですね」

冬月「我々のシナリオにはないぞ」

ユイ「置き土産がまさかこんなところにもあるとは。JA計画潰しは夫の指示で先生も関与されていたんでしたね」

冬月「……」

ユイ「内閣府はどうでると見ますか」

冬月「一度失敗した者に対し、この国は甘くない。しかし、それは国民に信を問うた場合――」

ユイ「利権が絡めば、その限りではなくなりますね。企業体質といいますか、動く可能性はおおいにある」

冬月「然り。政府の連中も金の匂いには敏感だ。投資分以上の金額を回収すると確約できれば銀行も重い腰をあげるだろう」

ユイ「6年という気の長い月日……。黙認してもいいですが、調子づかせるのは嫌な予感がします。消しますか」

冬月「いいのか? つけいる隙を与えるやもしれんぞ」

ユイ「厄介なのは“執念”です。彼は当初の理念を忘れ、復讐という炎を燃やしている。よほどくやしかったのでしょうね」

冬月「輝かしい人生(レール)の汚点だからな。エリートとはえてしてそういうものだ。崇高な理想を掲げても、一度の挫折でこうなる者もいる」

ユイ「ふぅ……」

冬月「時田はいつ暗[ピーーー]る腹づもりだ」

ユイ「タイミングは見極めなければなりません。それによって開く穴は大きく、また、小さくなる」

冬月「研究中の事故となるよう工作するか」

ユイ「焦る必要はありません、障害になれば即座に」

冬月「承知した。決行に必要な準備は済ませるよう連絡しておこう」

オペレーター「司令。内通者より秘守回線が。なにやら変化があっているようです」

ユイ「繋いで」

軍曹『ご子息の件でご報告があります。現在、射撃訓練場にて隊員による集団暴行を目視確認いたしました。いかがいたしますか?』

ユイ「シンジの身体に変化は?」

軍曹『お待ちください。――……だめですね、双眼鏡を使っているのですが、不自然な点は』

ユイ「他には。なんでもいい」

軍曹『し、失礼しました。ここからだと、特になにか……』

ユイ「もう結構よ。怪しまれない程度に仲裁してちょうだい。深夜の監視は充分に警戒して」プツッ

冬月「ふむ。判断をつけずらいな」

ユイ「確認のための行為が覚醒を促すようなことがあってもいけませんし……」

冬月「どちらにせよ、手が出せん、か」


644 ◆y7//w4A.QY2017/09/28(木) 20:50:32.85NayB0tUw0 (3/3)

【再び 射撃訓練場】

シンジ「――ぐっ!」ドサァッ

軍曹「貴様ら! なにをしているかッ!」

マナ「シンジくんっ!!」タタタッ

ケイタ「マナ? どうしてここに」

教官「こ、これは、軍曹殿」

軍曹「消灯時間が近いゆえ、見回りだ」

教官「そうでしたか。新入りに軍規を叩きこんでいたところであります!」

軍曹「その辺にしておけ」

教官「まだ一巡しておりませんが」

軍曹「骨を折ってはいないな?」

教官「ムサシ隊員! 確認しろ!」

ムサシ「はっ! おい、立て」グイッ

シンジ「うっ、いつっ」ボロ

ムサシ「打ち身は数箇所ありますが、骨は無事なようです」

軍曹「解散しろ。霧島隊員。医務室まで連れていってやれ」

マナ「大丈夫っ⁉︎」

教官「よーしっ! 皆聞こえたな! 速やかに解散だ!」

少年兵一同「はいっ!!」

軍曹「そこのお前」

ムサシ「はっ!」ビシッ

軍曹「女手ひとつは大変だろう。同行を許可する」

ムサシ「了解! ……肩を貸してやる、捕まれ」

シンジ「うっ、うぅっ」

ケイタ「ムサシ! 僕もついていくよ!」

軍曹「明日のスケジュールはどうなっている」

教官「空挺部隊との合流訓練になっております!」ビシッ

軍曹「ということは、朝が早いな。本日の当直は俺が担当してやる」

教官「よろしいのですか?」

軍曹「たまにはな。デスクにウィスキーを置いてあるはずだ」ポン

教官「あ、ありがとうございます!」ビシッ


645以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/28(木) 22:04:51.01eL9SI/8No (1/1)

軍曹やったんかい


646以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/29(金) 14:10:09.401KvikAdgO (1/1)

支援



647 ◆y7//w4A.QY2017/09/29(金) 15:43:13.48J/eMFMqO0 (1/5)

【医務室】

医師「うん、頑丈な骨をしているな。湿布薬を貼っておけば腫れは引くだろう。……明日の訓練は見学させるよう私から話をしておいてやる。ではな」ポン コツコツ

マナ「なんで止めてくれなかったの⁉︎」キッ

ムサシ「なんだ、なぜ睨む? これは儀式だと教官は――」

マナ「わかってるはず! なんのために必要なのか!」

ケイタ「ま、マナ……」

マナ「洗脳の手順になってる! こうやって、痛めつけて、精神的に追いやることで次第になにも考えられなくなるわ! 自分の考えを持てなくなってしまうの!」

ムサシ「俺たちは命令を遂行すればいい。自分で判断することは輪を乱す行為だ」

マナ「どうしてよ! おかしいと思わないの⁉︎ 一般人がこんな目にあう場所なのに⁉︎」

ムサシ「命令だからだ。しきたりがある」

マナ「話にならない……。ねぇ、ケイタ。なんとか言ってやってよ」

ケイタ「ぼ、僕が?」

マナ「一度脱走しかけたなら私と同じこと思ってるはずでしょう? なんで口に出してくれないの……?」

ケイタ「だ、だって……」

マナ「黙ってついていくだけが友達じゃないのよ! ムサシを大切に想うなら……!」

ムサシ「黙れッ!! 俺たちは、俺はこれでいいんだ! 望んでここにいる!」

マナ「ぐすっ、うっ」ポロポロ

シンジ「うっ」

マナ「……っ! シンジくん⁉︎ 気がついた⁉︎」ガタッ

シンジ「声で、目が覚めた。いててっ、よく、喧嘩するんだね。三人とも」ムク

ムサシ「お前には関係のないことだ」

シンジ「さっきのパンチ、効いたよ。さすが鍛えてるだけはあるんだと思った。身体の芯に響くみたいな」

ムサシ「当たり前だ。そんじょそこらのゴロツキとは違う、腰の入ったモノだからな」

ケイタ「僕らは空手をやってるから、必修科目で。みんな帯持ちなんだ」

シンジ「やっぱり、努力してるんだね」

ムサシ「悔しいとかないのか、男なら誰だって」

シンジ「これまでの生活とあまりに乖離しすぎてて、実感が沸かないんだ。……痛くないわけじゃないよ」

ムサシ「そういうものか。本当にネルフで訓練してなかったんだな。抵抗もできないとは」

シンジ「普通はするの?」

ムサシ「黙って殴られるバカはお前ぐらいのもんだ。最初は全員にアレが行われる。反発すればするほど制裁はきつくなるが」

シンジ「自分の無力さをしらしめる行為ってことか」

ムサシ「はぁ……。たしかに、その通りだろう。あれをやる意味は、どんなに優れていようと、限界があり、数が束になれば、個なんてものはあっというまに蹂躙されると伝えることにある」

ケイタ「――最強は、強力な個じゃない。情報に基づいた戦略と、数による暴力」

マナ「想像より、実体験は身体に染みこんでしまう。だって、それが現実だから。でも、それは表向きよ。本当の意味は洗脳で……!」

ムサシ「くだらない妄想はやめろ」

マナ「なんで、どうして……」

ムサシ「使徒とかいうバケモンにはいくら束になってもデタラメな盾がある以上、なす術なしだが。……あれは人外だからノーカンだ。俺たちはあくまで対人を想定した部隊」

シンジ「……」

ムサシ「マナ……。俺たちはこの中で生きていくしかないんだ」

マナ「できるよ! 貧しくたっていい! 慎ましく暮らせばそれで……!」

ムサシ「俺は嫌だ。ケイタ、行くぞ」クルッ コツコツ

ケイタ「マナ……ごめん」タタタッ

マナ「ばか……。二人とも、ばかなんだから……うっ、うっ」ポロポロ


648 ◆y7//w4A.QY2017/09/29(金) 16:15:17.44J/eMFMqO0 (2/5)

【通路】

ケイタ「……なんでマナの為だって言ってあげないの? そうすればきっと」

ムサシ「そんなのは押しつけだよ」

ケイタ「でも! 伝えないよりは!」

ムサシ「マナの性格を考えればわかるんじゃないか。自分のせいだって知れば、自分を許せなくなる」

ケイタ「……っ!」

ムサシ「なにも知らなくていいんだ」

ケイタ「このままじゃ、僕たちの心が離れてしまうよ。ずっと三人一緒だったのに……」

ムサシ「どうせ成人すれば戦地に送りこまれて死ぬんだ。だったら、一人ぐらい幸せになったっていいじゃないか」

ケイタ「なにも知らないままで?」

ムサシ「痛みを分かち合うのが幸せなもんか。嫌われたっていい」

ケイタ「報われなくて、それでいいの」

ムサシ「想いを伝えるだけじゃない。陰ながら支えるのに、相手が気がつく必要なんか……」

ケイタ「ムサシ……」

ムサシ「これでいいんだ」

ケイタ「……」

ムサシ「いつかは、ネルフに帰る。マナを連れていってくれれば。ケイタもそう思うだろ?」

ケイタ「そ、それは」

ムサシ「マナはここに似合わない、やっていけないんだ」

ケイタ「そう、だね……」

ムサシ「だが、あれじゃいくらなんでも軟弱すぎる。やってやろうっていう気概が見えない。俺たちでいっちょ鍛えなきゃな」

ケイタ「うん」

ムサシ「ケイタにも、嫌な役を引き受けさせちまうことになる」

ケイタ「水臭いな。僕は、二人の為になれるならなんだってしてきたじゃないか」

ムサシ「一度逃げだそうとしたやつが言うかぁ?」

ケイタ「あ、あれはっ! その、あんまりにも辛くて……」

ムサシ「毎日だもんな。この暮らしが」

ケイタ「うん、ずっと続くと想像すると、耐えられなくてさ」

ムサシ「せいぜい怪我や病気に気をつけようぜ。除隊されてしまえばなにもできなくなる」

ケイタ「そうだね。その後の生活は保障されないし」

ムサシ「ああ……いっけね、就寝前に点呼があるの忘れてた!」

ケイタ「え? 今日は、別の当番のはずじゃ」

ムサシ「代わったんだよ! 走るぞ!」タタタッ

ケイタ「わっ、ま、待ってよっ! ムサシっ!」


649 ◆y7//w4A.QY2017/09/29(金) 22:05:59.54J/eMFMqO0 (3/5)

【再び 医務室】

マナ「うっ、うっ、ぐすっ」

シンジ「マナ……」

マナ「あっ、ご、ごめんねっ。見苦しいとこみせちゃって」

シンジ「いや、そんな風には思わないよ」

マナ「ありがとう……痛む? 平気?」

シンジ「平気だよ。そろそろ僕たちも戻らないといけないね」

マナ「ネルフにいつ帰る予定だとか、まだわからないの?」

シンジ「うん。初日だし、なにも連絡がない」

マナ「そっか……そうだよね」

シンジ「あのさ、マナ――」

マナ「うん?」

シンジ「黙ってこうしてるつもりはないんだ。協力、お願いできないかな?」

マナ「……? なにをするつもり?」

シンジ「情報がほしい。戦自の」

マナ「なにが知りたいの?」

シンジ「まず、ネルフと戦自のいがみ合いについての関係性はだいたい理解した。隊員達がどう思ってるのか」

マナ「うん」

シンジ「ただ、ネルフにとっては……悪く思わないでほしいんだけど。戦自ってそんなに重要じゃないんだ。相手にしてないと言ってもいいぐらいだと思う」

マナ「あ……うん」

シンジ「戦自は余計に気にくわないんじゃないかな。それでね、ここって国内の基地だとどれぐらいの規模なの?」

マナ「うーん、そうね、日本で三本の指に入るぐらいは」

シンジ「だったら、重要拠点のはず。戦自はネルフをどうしたいんだろう?」

マナ「えっと、あわよくば潰したい、んだと思うよ」

シンジ「そこまでになると気にくわないだけじゃないよね?」

マナ「……お金。ネルフって莫大な資本をバックボーンにしてるでしょ? それこそ、世界からかき集めてるぐらい。だから、それが狙い。直接掌握も視野にいれてる」

シンジ「ちょ、直接掌握? それって、攻めこんでくるってことだよね。でも、そんなことしちゃ各国政府が黙っていないんじゃ」

マナ「理由があれば、大義名分は作ることができるもの。たとえば、そう……ネルフの私物化とか」

シンジ「――そうか、だから僕と母さんの関係を調べてたんだね?」

マナ「私も全てがわかるわけじゃないけど、そんなところなんだと思う」

シンジ「ここの責任者、ええと、一番偉い人は?」

マナ「参謀総長じゃない、かな。さらに上に陸軍将軍がいるけど、国会議事堂に出頭してるはずだから」

シンジ「マナのここでの任務って?」

マナ「私は、通信士。管制塔の業務もたまにする感じ」

シンジ「さっきの軍曹は? マナと一緒にきたのはどうして?」

マナ「あの人は、いろんなところを兼任してるの。私が廊下を歩いてたら、たまたま呼ばれて。シンジくんに近づけさせようする任務の一環」

シンジ「……なにか行動を起こさなくちゃいけない」

マナ「えっ?」

シンジ「もうすぐ消灯時間だって言ってたよね」

マナ「うん、そうだけど……?」

シンジ「軍曹は今どこに?」

マナ「えっと、当直を代わるって言ってたから、宿直室じゃない?」

シンジ「案内してもらえる?」


650 ◆y7//w4A.QY2017/09/29(金) 22:44:26.98J/eMFMqO0 (4/5)

【宿直室】

軍曹「おっ、もうこんな時間か。どれ、様子を見に――……お前は、サードチル、ごほん、なんだ?」

シンジ「さっき止めてくれたお礼が言いたくて」

軍曹「気にせんでいい。身体の具合はどうか。なにか変わったところがあったら申告しろ」

シンジ「節々が痛むくらいです。あのままだったら、どうなってたか」

軍曹「霧島隊員はどうした? 一緒じゃないのか?」

マナ「あ、すいません、夜分遅くに」

軍曹「なんだ、いるじゃないか。大丈夫ならそれぞれの宿舎に戻れ」

シンジ「ちょっと話を聞いていただきたいんですけど」

軍曹「話? なんだ?」

シンジ「ネルフに関することです。正直、僕もあの組織には嫌気がさしてまして」

軍曹「はぁ?」

マナ「し、シンジくん?」

シンジ「情報、ほしいんじゃないですか?」

軍曹「なに言ってるのかわかってるのか?」

シンジ「タダでとは言いません。そのかわりなんですけど、軍曹殿に僕の身の安全を保障してもらえませんか」

軍曹「……つまり、その引き換えに?」

シンジ「はい。こわいんです、このままエスカレートするとどうなってしまうかわからなくて」

軍曹「(ふむ、保身に走ったか……どうしたものか。ここで俺が断れば次の取り引き相手を探すだろうな。そうなれば、ネルフの情報が戦自の手に……)」

シンジ「どうですか? だめですか?」

軍曹「いや、分かった。交換条件に応じよう」

シンジ「ほんとですか? 助かったぁ」

軍曹「それで、情報というのは?」

シンジ「なにが知りたいんですか?」

軍曹「そうだな。我々が探っている本丸は碇ゲンドウ、そしてその妻である碇ユイ。この夫婦と上層組織である国連に癒着がないかどうかだ」

シンジ「戦自ではどこまで掴んでるんです?」

軍曹「教える意味はない。まず貴様が持っているカードを切る番だ」

シンジ「いえ、重要なことなんです。お互いに有益にしたい」

軍曹「……しかたない、サービスだぞ。まだろくに証拠をつかめていない。公式発表のあった異動についてな」

シンジ「どうしてですか? 父さんはアラスカに行っていると知ってるんでしょ。会いにいけばいいのに」

軍曹「詳しい所在は極秘扱いになっていてな。国連でも一部のゼーレの名のつく代表団しか知りはしない。しかし、そのいずれもが安全面を理由に硬く口を閉ざしているのだよ」

シンジ「……」

軍曹「さぁ、話せ。なにを知っている?」

シンジ「僕は、あなた方がほしがっている答えを知っています」

軍曹「なに……? それは、つまり」

シンジ「ただし、教えるには僕の安全だけは釣り合わないと判断しました」

軍曹「たしかな証拠があるのか?」

シンジ「はい。あります」

マナ「し、シンジくん、ネルフと戦自の開戦の火種になる、よ」

軍曹「(こいつ、なにを考えてる? ネルフを売って寝返るつもりか?)」


651 ◆y7//w4A.QY2017/09/29(金) 23:16:32.68J/eMFMqO0 (5/5)

シンジ「戦自はエヴァに勝てるつもりでいるんですか?」

軍曹「あんなものは対使徒に特化しているだけの欠陥品だ。電源ケーブルを狙い撃ちしてしまえば五分で活動限界ではないか」

シンジ「……そうか、それはたしかに」

軍曹「永久機関である使徒と違い、やりようはいくらでもある。本部の直接掌握をしてもいいしな」

シンジ「(やっぱり、そういうことか……ん? あれって、どっかで見たような)」

軍曹「ん? なんだ? どこを見ている?」

シンジ「あっ、いえ。別に……」

軍曹「もったいぶらずにはやく教えろ。証拠とはなんだ」

シンジ「(うぅーん、どこで……はっ、そうだ。たしか加持さんがカフスにしてたボタンと同じ……?)」

軍曹「おい、もしやなにもなしではあるまいな?」

シンジ「あの、その机の上に置いてあるバッジは?」

軍曹「ん? ……あ、あぁっ、これか。ネルフに行った時に記念品として頂いてな」

シンジ「記念品?」

軍曹「そうだ。珍しくもないだろう」

シンジ「……いつ、ネルフに?」

軍曹「先日だ。それよりも、具体的な提示はまだか?」

シンジ「気が変わりました」

軍曹「なに……? 貴様、俺を舐めてるのか?」

シンジ「いえ、迂闊だったんです。母さんが送りこんでたスパイの可能性を考えずに。とんでもない墓穴を掘るところでした」

軍曹「す、スパイ? なにを」

マナ「え……?」

シンジ「それは――記念品なんかじゃないっ!」

軍曹「そ、そうだったか? いや、これはだな」

シンジ「僕に正体がバレたと母さんがわかれば、どうなるかわかりますね」

軍曹「……」グッ

シンジ「お互いにこの話はなかったことに。マナ、行こう」

マナ「えっ? いいの?」

シンジ「なにもせずに見送ろうとしてるじゃないか。それが答えだよ」

軍曹「小僧……。図に乗るなよ」

シンジ「諜報部の人ですか。それとも、保安部からの特殊部隊? どちらでもかまいません、もし、母さんにこの顛末を報告するつもりなら、一言伝えおいてほしい」

軍曹「俺がしないと高を括ってるのか?」

シンジ「そうじゃありませんよ。まだ、はっきりとは伝えてなかったから。僕は、母さんのやろうとしてることを認められないって」

軍曹「なにをするつもりだ? こちらを裏切るつもりか?」

マナ「そ、そんな。うそ……? 軍曹殿が、ネルフからの内通者だなんて……!」

軍曹「ちっ」


652以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/09/30(土) 01:10:36.16Qcw5UgHuo (1/1)

スパイと知らなかった上での交渉ならマジで売るつもりだったのか


653以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします2017/10/01(日) 21:36:35.01zpVr/23no (1/1)

今日は来ない系?


654 ◆y7//w4A.QY2017/10/02(月) 01:39:09.06IBAdFOvk0 (1/5)

【通路】

マナ「待ってよ!」タタタッ

シンジ「(先走りすぎた。まさか、ネルフから潜入工作員がいたなんて……)」スタスタ

マナ「シンジくんってば!」グィッ

シンジ「僕がバカだったんだ。マナの情報が筒抜けだったのも、そう考えればわかったはずなのに」

マナ「えっ? ……あっ、軍曹が流出させてたってこと?」

シンジ「誰がとかそうじゃないんだよ、マナ。一人とは限らない。もっといるかもしれない」

マナ「ごめん、よくわからないんだけど」

シンジ「中学校に転校してきた時、マナの正体は即座に見破られていたよね」

マナ「うん、だから、その犯人が軍曹って話じゃないの?」

シンジ「どうしてあの人だと思うの?」

マナ「だって、ネルフからの工作員って判明したじゃない」

シンジ「なんで一人だけだって決めつけるんだよ。判明したのは、軍曹はネルフから潜入してるのが確定したってことだけ。複数いるかもしれないだろ」

マナ「そっか……二人いたら、もう一人がってこともあるかもしれないものね」

シンジ「……」

マナ「シンジくん? なに、考えてるの?」

シンジ「嘘の情報を渡すつもりだったんだ。次に、母さんを混乱させたらと思った」

マナ「それじゃあ、取り引きを持ちかけたのはフェイクだった?」

シンジ「形だけのね。驚いた?」

マナ「驚くに決まってるじゃない。本当に戦争になっちゃうんじゃないかって思った」

シンジ「ごめん。突発的に思いついたから打ち合わせをしなかったね」

マナ「いいよ。でも、これからは? 軍曹に口止めしなきゃ困らないの?」

シンジ「どうやって? 弱みを握るとしても方法は……」

マナ「ねぇ、シンジくんは何を隠して……ネルフとどうなりたいの?」

シンジ「僕は、ある計画を止めたいんだ。その為に動こうと決めてる」

マナ「ある、計画?」

シンジ「詳しくは話せない」

マナ「……それって、母親と敵対しなきゃいけないの? 総司令だよ?」

シンジ「出たとこ勝負なところだってある。だけど、そうなったとしてもおかしくはない」

マナ「わかった。それ以上は聞かない……軍曹はどうする?」


655 ◆y7//w4A.QY2017/10/02(月) 02:03:24.03IBAdFOvk0 (2/5)

シンジ「……」

マナ「脅す?」

シンジ「脅すって、脅迫? 材料がどこに――」

マナ「まだろくに調べてないからなんとも言えないけど。家族をネタにするとか」

シンジ「そんな……それに、そうなったら逆に母さんに告げ口をされるきっかけを与えてしまうかもしれない」

マナ「でも、方法を見つけて対等の立場にならないと……シンジくんだけが不利になってしまってるのよ」

シンジ「わかってる」

マナ「時には汚いと思う手段だって必要だよ。すべてが順調なら頼る必要はないけど。失敗した分は取り戻さなくちゃ」

シンジ「落ち着いて考えなきゃいけない。明確なミスをしたのは一度だけなんだ。慌てて判断間違いを繰り返せば取り返せなくなる」

マナ「だけど……っ! 迅速に状況判断をして決断しないと……!」

シンジ「わかってるっ! わかってるよ、もしかしたら、今ごろ母さんに」ギリッ

マナ「……」

シンジ「――……ひと騒動起こすよ」

マナ「えっ?」

シンジ「カラーコンタクトを取りに行ってる暇はないから、範囲がどこまで有効か試したことないけど……力を限界まで使う」

マナ「力って……? なにするつもり?」

シンジ「基地に張り巡らされている電波を丸ごと妨害する。機器を一時的に使えない状態に」

マナ「そんなの不可能よ。軍事施設はサイバーテロのに対する備えだってあるんだから。予備の電源が……」

シンジ「僕がやろうとしてることは停電にするわけじゃないんだ。ただよってる電波に強力な上書きをするだけ。正常に働けないほどのね」

マナ「可能だとして、そんなことしてどうするの?」

シンジ「説明してる猶予はない。はじめるよ」

マナ「は、はじめるって……? どうやって?」

シンジ「ふぅ……」スッ

マナ「シンジくん……? 目を瞑ってなにを」

シンジ「……」キィーンッ

マナ「え、な、なに? これ。突然、耳鳴りが」


656 ◆y7//w4A.QY2017/10/02(月) 16:05:53.47IBAdFOvk0 (3/5)

【ネルフ本部 初号機格納庫】

カヲル「我慢できなかったのか、シンジくん……」

レイ「……」スタスタ

カヲル「キミは……。やはり行くんだね」

レイ「この初号機は仮初めのもの」

カヲル「……」ジー

レイ「要(かなめ)となるコアはないわ」

カヲル「そうか、そういうことか」

レイ「碇くんが呼んでる。行かなくちゃ」

カヲル「方法は?」

レイ「エントリー、手伝って」

カヲル「向こうにある赤い機体を使ったら?」

レイ「こっちの方がいい。碇くんの匂いがするもの」

カヲル「……わかった。ハッチはボクが開けてあげるよ」

レイ「時間がない。司令が発令をだす前に、行動を開始」

カヲル「やれやれ、人使いが荒いな」

レイ「あなた、ヒトじゃないでしょ」

カヲル「比喩表現さ。太陽のように明るい日差しが指すのか……それとも。ボクはまだシンジくんに希望の光を見出せていないのだけど」

レイ「またひとつの分岐点に到達した。選ぶのは私たちじゃない。見守り、そして、助力する」

カヲル「(この先にあるセカイは、果たして福音をもたらすに値するのか……)」

放送「緊急自体発生! 緊急自体発生! 使徒の反応を感知! 場所は厚木基地方面! 職員は速やかに――」

レイ「エマージェンシーコールが開始された」

カヲル「……」

作業班「ったく! いきなりは勘弁しろって! ……キミたちは、こんなところでやって?」

カヲル「こんばんは」スッ ドンッ

作業班「なんだ? ……か、体に宙にっ⁉︎ がはっ⁉︎」ドサッ

カヲル「急ぐんだ。ヒトが集まってくる前に」

レイ「ええ」タタタッ


657 ◆y7//w4A.QY2017/10/02(月) 19:16:55.50IBAdFOvk0 (4/5)

【ネルフ本部 発令所】

シゲル「厚木基地方面より半径10キロ範囲にて強力なジャミング波をキャッチ!」

冬月「衛星からの映像は?」

マコト「光波、粒子を遮断してる……す、すごいぞ、これは」

冬月「ろくにモニタリングできんか……ユイくん」

ユイ「暴走か、あるいは――」

冬月「意図的に力を発動しているかだな。……葛城一尉の所在は?」

マヤ「こちらに向かっているはずですが、まだ」

冬月「やむをえんな。到着するまでの間、陣頭指揮は司令部で執る」

マコト「まっ、待ってください! 初号機にエントリー反応!」

冬月「なに? 誰が乗っている?」

シゲル「こちらからの信号を拒絶! 内部をモニターできません!」

冬月「ケイジ周辺の映像を出せ」

マコト「そんな、どうなってるんだ。作業員たちが」

冬月「気絶? 死んでいるのか? 大至急、録画データを解析! 今より30分前にまで遡り怪しい映像がないかチェックしろ!」

シゲル「りょ、了解!」

冬月「現時刻を以って、第一種戦闘配備に移行だ! チルドレン達への通達も忘れるなよ!」

オペレーター「了解! 緊急発令! これより第一種戦闘配備へ移行!ただちに指定の配置につけ!」

マヤ「映像の巻き戻し作業を完了! ……これはっ⁉︎ ダメですっ! ノイズがひどくて!」

冬月「やはりタブリスが裏で暗躍していたか」

ユイ「初号機はどうなってる?」

マコト「独力で第三ロックボルトまで解除した模様!」

ユイ「出撃するつもりね。全カタパルト射出盤にロック。急いで」

マコト「了解! ――第二までのカタパルトロック作業、完了! 続いて第三……っ⁉︎」

ユイ「どうしたの? なにか問題が?」

マコト「ぱ、パターン青っ⁉︎ 第三カタパルト付近で使徒の反応を確認!」

シゲル「本部内部に使徒っ⁉︎ いつのまに!」

ユイ「技術班を至急現地に向かわせて。命を賭(と)して初号機の出撃を阻止するのよ」

ミサト「ぜぇっ……ぜぇっ。だぁ……っ、おくれ、ました」

マコト「葛城さん!」

ミサト「ふぅ、ふぅっ、んっ、日向くん、どうなってるの? なんの騒ぎ?」

リツコ「使徒みたいね」

ミサト「リツコ? あんたも今来たの?」

リツコ「マヤ、信号をキャッチした場所は?」

マヤ「あ、厚木基地方面です。現在、広範囲に渡り電波妨害が行われており、発生源の特定を急いでいます」

リツコ「(シンジくんったら、若いわね。我慢しきれなかったのかしら)」

ミサト「えっ、ちょっと待って。初号機がでてるの? パイロットは?」

マコト「不明です!」

ミサト「不明って……? 誰が乗ってるかわからないの⁉︎ レイとアスカはっ⁉︎」

リツコ「寝ぼけてるの? アスカは一緒に連れてきているのではなくて?」

ミサト「あぁっ、そうだった! セカンドチルドレンの弐号機へのエントリー急いで!」

ユイ「零号機の凍結も現時刻をもって解除。以降の指揮は葛城一尉に一任します」

ミサト「了解! さぁ、みんな、久々の使徒戦になりそうよ! 平和ボケしてんじゃないでしょーね⁉︎」


658 ◆y7//w4A.QY2017/10/02(月) 19:41:35.44IBAdFOvk0 (5/5)

【厚木基地 宿舎】

ムサシ「――なんだ? やけに静かだな」

軍曹「はぁ、はぁっ」

ムサシ「軍曹殿? 見回りの時間はまだ」

軍曹「全隊員、整列ッ!」ピーーーーッ

少年兵一同「……っ⁉︎」ガタガタッ

軍曹「さっさとせんかっ!!」

ムサシ「――隊員以下23名! 整列を終えましたっ!」

軍曹「現在、参謀本部が何者かにサイバー攻撃を受けている!」

少年兵一同「……」ドヨドヨ

軍曹「静かに! 従って全ての電子機器が使用不可能だ! 発生源の割り出しを急いでいるが、あらゆる可能性を想定して動かなければならない! 出撃準備!」

ムサシ「しゅ、出撃でありますか? しかし、どうやって?」

軍曹「人力に決まっておろう! ヤシマ作戦を思い出せ! さいわい、ガソリンで動くものはかろうじて起動ができる!」

ケイタ「ねぇ、ムサシ。EMP攻撃を受けてるのかな?」

ムサシ「電磁パルスか。ありえる。となると、隣国の嫌がらせか」

ケイタ「人間同士で争ってる場合じゃないのにさぁ」

軍曹「私語は慎め! 作業開始!」ピーーーーッ

少年兵一同「了解っ!!」

シロウ「ちょっと待ってもらえませんか」

軍曹「き、貴様は。まだこの基地に滞在したのか?」

シロウ「そう邪険にしないでくださいよ。面白いイベントに鉢合わせできたようだ」

軍曹「見ての通り急いでいる。引き止めた理由を簡潔に述べろ」

シロウ「ムサシ、くん。でしたか、彼とお友達を拝借したい」

軍曹「なんの為にだ?」

シロウ「急いでいるのでは? 詳しく話をすると余計な手間をとらせてしまいますが」

軍曹「ちっ、おい、ムサシ隊員! 浅利隊員!」

ムサシ&ケイタ「はっ!」ザッ ビシ

軍曹「時田博士に同行しろ。……のこりの物は各担当区域に急げ!」


659 ◆y7//w4A.QY2017/10/03(火) 22:38:08.54J0McYcGp0 (1/3)

【厚木基地 執務室】

シンジ「だめだ、これも違う。そっちは――」

マナ「こんなところに忍びこんでもし見つかったら……。それにその瞳の色」

シンジ「悪いけど、まだやる事があるんだ。急がなくちゃいけない。詳しい説明はあとで」

マナ「でも、基地の凄い騒ぎになってるし、シンジくんがなにかしたんだよね?」

シンジ「だから、今は……――あった」ガタガタ

マナ「なに? ……えっ、それって、ネルフの報告書?」

シンジ「……戦自はネルフを調べてるって言ってたよね。だから、調査報告書がどこかにあるはずだと思ったんだ。当てずっぽうでここに来たけど、運がよかった」パサ

マナ「入手してどうするつもり?」

シンジ「あるはずなんだ、きっと、アレが」

マナ「あれって? ねぇ、なんのことだかわからないっ」

シンジ「ここまで大規模に力を使ったら母さんは僕を怪しむ。いや、もう怪しんでいるんだろうけど」ペラ

マナ「それとその書類になんの関係が? 今は軍曹の口封じが先決なんじゃないの?」

シンジ「使い捨ての駒のひとつなんだよ。チェスでいうポーン。僕たちに彼を止める手立てはない。方法は殺すしか――」

マナ「こ、殺さなくてもっ! それなら脅迫する方がまだっ!」

シンジ「僕だってそんなつもりは毛頭ない。かといって、脅迫するつもりもね」

マナ「だったら、どういう?」

シンジ「僕はね、ずっと糸を頼りにその上を歩いてきた。ロープの上を歩く綱渡りの人生とかって言うじゃない?」

マナ「うん」

シンジ「僕の力の正体を隠すには、なにもしないのが一番いいんだ。誰かが困っていても、見て見ぬふりをしてやり過ごす。そう――……“行動”しなければ“起”は生まれない」

マナ「う、うん?」

シンジ「それだけじゃ嫌だったんだ。僕は、自分自信が好きじゃなくてキライだったから。……父さんにも、捨てられたくなくて。必死にこっちを見て、頑張ってる僕を見てってわめいてるだけの子供だった」

マナ「……」

シンジ「やっとそれが理解できそうになった時、父さんは帰らぬ人になってしまった。だから、自分を好きになれるように、父さんに褒めてもらえるように、みんなを守りたいんだ。自分の為にね」

マナ「……」

シンジ「――……あった」

マナ「なにが、あったの?」

シンジ「極秘ファイル。戦自が企んでいて僕たち知らないモノ」

マナ「交渉テーブルの材料に使うつもり?」

シンジ「決断の時がきてる。全てを母さんに曝け出すその時が」

マナ「シンジくん……?」