1以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 00:03:21.96ZMBRJL+YO (1/7)


【独房】

盗賊「……」

看守「おい」

盗賊「…スー…スピー…」

看守「寝ている? こいつ、一体どんな神経をしているんだ。おい!起きろ!!」ガンッ

盗賊「ッ!びっくりしたぁ!! なに?もう処刑の時間?」

看守「違う。もうじき、ある御方が此処へ来る。くれぐれも失礼のないように」


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2以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 00:04:51.00ZMBRJL+YO (2/7)


盗賊「あ、そう。どんな奴?」

看守「会えば分かる」

盗賊「女?」

看守「……会えば分かる」

盗賊「なんだ、男か……」ハァ

看守「お前は本当におかしな奴だな」

盗賊「どこが?」

看守「全てだよ。処刑を言い渡されたというのに何事もなかったかのように振る舞い。手枷足枷をされた状態で熟睡し。果ては性別で一喜一憂だ」



3以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 00:05:54.04ZMBRJL+YO (3/7)


盗賊「捕まるのは慣れてますから」ハイ

看守「盗賊が聞いて呆れるな。よくもまあ、今まで生きてこられたものだ」

盗賊「まあまあ。でもさ、あんただって厳つい男と見目麗しい女だったら後者の方が嬉しいだろ?」

看守「そんなザマで、こんな状況でもか?」

盗賊「こんなザマで、こんな状況だからさ」ニコニコ

看守「……長いこと看守をしているが、お前のような囚人は今まで見たことがない」



4以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 00:06:41.59ZMBRJL+YO (4/7)


盗賊「褒めてる?」

看守「ああ。感心する程に愚かで、呆れる程に前向きで向こう見ずな奴だ」

看守「順番待ちしていた悪党共を差し置いて真っ先に独房に入れられたのも頷ける」

盗賊「俺には全く理解出来ないね。昨日の晩から首かしげっぱなしで首が痛えよ」

看守「単に寝違えだけだろう」

盗賊「はははっ、そうかもな。でもやっぱり納得行かねえなぁ。何もしてないってのにさ」

看守「王家の宝を狙って王宮に忍び込んだのが罪にならないとでも思ったのか?」



5以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 00:07:11.00ZMBRJL+YO (5/7)


盗賊「未遂、未遂だから」

看守「未遂だろうが何だろうが、武器を携帯して王宮に不法侵入したんだ。暗殺の嫌疑を掛けられるのは当然だ」

盗賊「俺の眼を見てみろよ。殺しをするような奴がこんな純粋な眼をしてるはずないだろ?」

看守「純粋な奴は不法侵入などしない」

盗賊「純粋な気持ちで盗みに入ったから誠心誠意しっかり平謝りすれば不起訴で済むかも…」

看守「不起訴はあくまで不起訴であって無実にはならないからな?」

盗賊「そりゃそうだけど処刑はやりすぎだろ。見ただけで盗んだわけじゃないし、誰も傷付てないんだぜ?」

看守「はぁ…お前は極まった馬鹿なようだから分からないかもしれないが、処刑されるに足ることをしたんだ」



6以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 00:07:40.80ZMBRJL+YO (6/7)


盗賊「見ただけなのに?」

看守「お前も分からない奴だな。それが処刑される理由なんだ」

盗賊「(人目に触れることすら禁じられた秘宝か。でも、確かにあれはなぁ……)」

ーーーー
ーーー
ーー


盗賊『(宝物庫に見張りは無しか。大体の奴等は狙い通り、王のとこに行ったみたいだな)』

盗賊『(大方、暗殺者か何かだと勘違いしてんだろう。失礼な話だぜ。ま、いいけど)』

盗賊『さて、と。やりますか』スッ

カチャカチャ…ガチリ…

盗賊『(開いた…けど、何か妙な感じだな。多少複雑な構造だったけど、そこまでじゃない)』



7以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 00:08:45.40ZMBRJL+YO (7/7)


盗賊『(何度も開けられた形跡がある)』

盗賊『(宝物庫なんて滅多に開ける機会はないはずだ。多少錆び付いててもいいようなもんだけど……)』

盗賊『(まあ、楽に済むならそれに越したことはないか。さて、ご対面と行こうか)』

ガチャッ…ギギィィ…

『……んっ…誰ですか?』

盗賊『……は?』

『……賊、ですか。外には物騒な輩がいると常々聞かされていましたが、どうやら本当だったようですね』

盗賊『(なんだこりゃ? 何で宝物庫に女がいるんだ? つーか寝巻き? 見るからに高そうなやつだな)』



8以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 00:12:19.80MXFnJz4+O (1/5)


『……あなたは…ニンゲン…ですよね? わたしを殺しに来たのですか?』

盗賊『殺す? いや、王の輪転機を盗みに来たんだけど……きみは?』

『王の娘です。血縁関係はありませんが』

盗賊『(王の娘? 王女? もし本当なら、何の理由があって宝物庫に入れられてるんだ?)』

王女『どうします? 盗みますか?』

盗賊『盗むって言ってもなぁ。枕元の日記くらいしかなさそうだけど、人様の日記を盗むのはちょっと…』

王女『違います。わたしを、です』

盗賊『俺は人攫いに来たわけじゃないから止めとくよ。どうやら部屋を間違えたみたいだし』

王女『間違えてはいませんよ? わたしが王の輪転器ですから』



9以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 00:12:59.18MXFnJz4+O (2/5)


盗賊『きみが宝具? どこからどう見ても寝巻きを着た女性にしか見えないけど……』

王女『宝具など最初から存在しません。必要なのは王の力を受け継ぐ器。それが、輪転器です』

盗賊『……うつわ。じゃあ、きみが次の…』

王女『ええ、そうなりますね。どうします?』

盗賊『……はぁ、こりゃあ参ったなぁ』ポリポリ

王女『(何だか変な人。わたしを見て怖れる風もない。扉が開いているのも変な感じです。でも、今なら……)』



10以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 00:14:44.04MXFnJz4+O (3/5)


盗賊『……決めた』

王女『?』

盗賊『面倒なことになる前に帰る』ウン

王女『いいのですか? わたしを殺せば英雄になれますよ?』

盗賊『生憎、そういう類のものには一切興味がないんだ』

盗賊『それに、英雄になったら悪いこと出来ないだろ?』

王女『フフッ…ええ、そうですね』

盗賊『お休みのとこ邪魔して悪かったな。それじゃ』



11以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 00:15:33.78MXFnJz4+O (4/5)


王女『あっ…』

盗賊『ん?』

王女『……いえ、何でもないです』

盗賊『……大丈夫、扉は開けたままにしておくよ。この部屋から出たいんだろ?』

王女『何で…』

盗賊『顔に書いてある…ってのは嘘だけど、俺が入ってきた時のきみは何だか嬉しそうな顔をしてた』

盗賊『何て言うか、牢屋の扉が開いた時の囚人みたいな。そんな感じ』



12以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 00:18:00.98MXFnJz4+O (5/5)


王女『……囚人』

盗賊『何も知らないのに好き勝手言って悪い。俺がそう感じたってだけだから』

王女『……外は…楽しいですか?』

盗賊『う~ん、そうでもないんじゃいか?』

盗賊『楽しいことより辛いことや苦しいことの方が多いし』

王女『……そう、ですか…』

盗賊『でも、俺がきみだったら……』

王女『?』

盗賊『退屈ってやつに殺される前に、外に出るよ』



13以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 00:24:59.31GBNVh6xqO (1/7)


王女『!!』

盗賊『んじゃ、もう行くよ』

王女『あ、あの…』

盗賊『悪いけど連れて行くのは無理だ。その格好は目に毒だし。どうしてもって言うなら特別にーー』

王女『いえ、そうではなくて……その、後ろ…』

盗賊『…………』クルッ

ゾロゾロ…

盗賊『……もうちょっと早めに言って欲しかったなぁ』


『『『確保ォ!!!』』』


盗賊『うおっ!? ちょっと待っ…痛ッ! 痛い、痛いから!! 大人しく捕まるからやめろって!! 痛ッ!ちょっ…やめ……』



14以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 00:26:36.33GBNVh6xqO (2/7)

ーーーー
ーーー
ーー


盗賊「(……あの子、今頃何してんのかな)」

看守「……そろそろか」ソワソワ

コツ…コツ…

看守「!!」ビクッ

盗賊「どんなお偉いさんが来るのか知らないけど看守が囚人の前でビビってどうすんだよ」

看守「うるさい。静かにしろ」ビクビク

盗賊「ハイハイ」

盗賊「(この怯え、極度の緊張。どうやら当たりを引いたみたいだな。さてと、ここからが本番だ……)」

コツ…コツ……

老人「………」

盗賊「………」



15以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 00:28:41.53GBNVh6xqO (3/7)


老人「……下がれ」

看守「し、承知致しました」サッ

老人「お主が盗賊か。思っていたより若いな」

盗賊「あんたが魔王だろ?待ってたぜ」

老人「……儂が来ると分かっていたのか?」

盗賊「いや、来る方に賭けただけさ。来なかったら逃げてたよ」

老人「盗賊よ、お主ーー」

盗賊「あ~、ちょっと待った。話す前に枷を外させてくれ。こんなのぶら下げてちゃ集中出来ないから」

カチャカチャ…ガチッ…ガシャンッ

老人「……そう簡単に外せるものではないはずなのだが、やはりお主には意味を成さないようだな」



16以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 00:30:03.20GBNVh6xqO (4/7)


盗賊「なんだ、俺のこと知ってんのか」

老人「標的に定めたものは必ず奪い盗る。それが物であれ、命であれ、如何なるものでも……」

盗賊「輝くものなら何でも盗むってだけさ。光り物には眼がないもんでね」ニッコリ

老人「成る程、鴉と揶揄されるだけはある。『あれ』はそれ程まで輝いて見えたか?」

盗賊「ん~、そうだな。今まで見た何よりも輝いて見えた。瞼の裏が火傷するくらいに」

老人「フッ、中々に面白い男だ。盗賊よ、あれを殺さなかったのは何故だ?」

盗賊「あ~、何か誤解してるみたいだから言っとくけど、俺は盗むつもりで入ったんだぜ?」



17以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 00:31:12.52GBNVh6xqO (5/7)


老人「殺す気はなかったと?」

盗賊「無い。これっっっぽっちも無い。魔王の秘宝、輪廻転生機。通称『輪転機』。俺はそれが欲しかっただけだ」

老人「…………」

盗賊「実物を見た時は驚いたよ。まさか輪転『器』だとは思わなかったからな」

老人「では、諦めるか?」

盗賊「諦めたら逃がしてくれる…」

老人「………」

盗賊「……わけないよな。まあ、諦めるつもりはさらさらないけど」



18以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 00:47:29.96GBNVh6xqO (6/7)


老人「儂の眼を掻い潜り、あれを盗めるとでも?」

盗賊「既に一度掻い潜ってる。二度あることは三度あるし、一度出来れば二度目も出来る」

老人「何故そこまで固執する? いや、それ以前にあれを盗ってどうする? お主には何の役にも立つまい」

盗賊「見せたくなった」

老人「?」

盗賊「あの子が知ってる世界はあの部屋だけだ。そんなのって寂しいだろ?」

盗賊「何の不自由もない豪華な暮らし。でも、それを幸せだと感じるかどうかは本人次第だ」

盗賊「きっと彼女は生まれ変わりたいと思ってるはずさ。今の自分、今いる世界からね」

老人「……あれがそう言ったのか? あれが自ら口を開いたのか?」

盗賊「大した会話はしちゃいないさ。ただ俺を見たとき、ほんの一瞬だけ瞳が輝いたんだ」

盗賊「期待、願望。望みが叶ったような…そんな感じの眼だった」

盗賊「とまあ、色々言ったけど俺の勘違いかも。そんだけ落ち着いていられるってことは輪転器…彼女はまだあの部屋にいるんだろ?」

老人「………」

盗賊「何だよ、急に黙り込んで……悩み事があるなら聞くぜ?」

老人「……頼みがある」

盗賊「?」

老人「あれを…儂の娘、輪転器を盗んでくれ」

盗賊「………は?」



19以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 01:02:08.58GBNVh6xqO (7/7)

また明日


20以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 02:40:44.77BwlCMyOmO (1/1)

いいね


21以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 06:16:24.80dmdhQCirO (1/1)

nice


22以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 06:55:42.108Xq9vpDgO (1/1)

こりゃあ久々に面白そうだ
主人公が魅力的


23以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 11:03:37.91Gk3bxKGUO (1/4)


盗賊「盗ってくれっていうなら頂くのもやぶさかじゃねえけど……何か裏がありそうな感じだな」

老人「そう難しい話ではない。儂はこの通り老いた……儂の期限はもうじき切れる」

盗賊「なにそれ、賞身期限?」

老人「そんなものだ。間もなく儂は死ぬ。だが、王の力は輪転器へと引き継がれる」

老人「輪転器は魔王となり、次代の魔王が誕生するというわけだ。これまでのようにな」

盗賊「(これまでのように…ってことはこの爺さんも元々は……)」

老人「これより更に時期が迫れば輪転器を暗殺せんとする者が現れるだろう。それもまた、これまで通りだ……」



24以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 11:06:21.20Gk3bxKGUO (2/4)


盗賊「……そっか。あんたも苦労したんだな」

老人「フッ…ああ、随分と昔の話だがな」

盗賊「……で、俺にどうしろと?」

老人「お主はあれに外を見せたいと、そう言ったな」

盗賊「ああ、確かに言った」

老人「なら盗め。そして何処へでも行くがいい。王の力が印刷される、その時まで……」

盗賊「それってさ、あんたが死ぬまであの娘を守れってことだよな?」



25以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 11:09:53.42Gk3bxKGUO (3/4)


老人「そうだ。魔王とは不死であり、不滅の存在であらなければならない」

老人「常にニンゲンの脅威でなくてはならないのだ。あれが死ねば、『魔王』は死ぬことになる」

盗賊「要件は分かった。けど、何で俺に?」

老人「怖ろしいのは外より内だ。この歳になると身内も信用出来なくなる」

盗賊「……なるほどね。分かった。引き受けるよ」

老人「引き受けた後で悪いが報酬はない。その時には儂は死んでいるからな。それでも引き受けるのか?」

盗賊「そりゃあまあ、出来ればあった方が嬉しいけど……別に無くても構わない」

盗賊「正直、魔王がどうなろうが知ったことじゃないんだ。ただ、あの娘に死なれんのは困る」ウン

老人「何故?」

盗賊「一目惚れして目が眩んだから」



26以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 11:34:20.17Gk3bxKGUO (4/4)


老人「それは宝にか? それとも…」

盗賊「さあ、どっちだろうね」ニッコリ

老人「………」

盗賊「そんな怖い顔しなくても大丈夫さ。きちんと盗むし、きちんと守る」

盗賊「昨日の今日で申し訳ないけど、今夜の内に盗みに行くから警備は厳重にしといてくれ」

老人「言われずともそのつもりだ。手練れを揃えておく、心して掛かれよ」

盗賊「分かってるって。じゃあ、俺は夜に備えて寝るよ。あんたも少し休んだ方がいいぜ?」

老人「これより先は休む暇はなどない。おそらく、次の眠りが最後になるだろう」

盗賊「………」

老人「……娘を頼む」

カツン…カツン…カツン…

盗賊「(老いた魔王は朽ちた輪転器。器を変えて、王の力のみが生き続けるってわけだ……)」

盗賊「………ハァ」

盗賊「(あの爺さんも、あの娘みたいに監禁されてたんだろうか……とてもじゃないけど俺には耐えらんねえな)」



27以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 20:27:39.96iuwd4mISO (1/5)


【宝物庫】

何も変わらない毎日。

何も変わらない部屋。

朝も昼も夜も同じ景色。

私が輪転器であることを知る人は、これは命を守るためだと言う。

けれど、それはわたしが輪転器であるからであって、大事なのはわたしの命ではない。

あくまで、王の器として。

でも、わたしは王の器なんかじゃない。

弱虫で怖がりで従うことしか出来ない臆病者。そんなわたしが、王の器であるわけがない。

わたしは容れ物。王の容器。

価値あるものを入れるために選ばれた空っぽの存在。



28以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 20:42:29.17iuwd4mISO (2/5)


この部屋から出た時…

空っぽの容器が満たされた時、わたしはどうなっているんだろう?

まったくの別人になっているのだろうか? 王に足る者へ生まれ変わるのだろうか?

こんなわたしが、怖れ敬われる存在に…魔王になれるのだろうか?

だとしたら、今のわたしはどうなるんだろう。そう考えると酷く怖ろしい。

でも、ニンゲンから皆を守るためだと思えば、輪転器に選ばれたのはとても光栄なことだ。

わたし一人が消えれば、皆が救われる。

国の皆が、これまでと変わらない生活を続けていける。

なら、わたしはそれで……



29以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 21:27:27.51iuwd4mISO (3/5)


そうだ、それで良い。仕方が無いんだ。

今まではそんな風に思っていたのに、そう思い込もうとしていたのに。

昨日の晩に現れたニンゲンが、それら全てを吹き飛ばしてしまった。

輪転器に選ばれたあの日から、王になるのは誉れだと、そう教え込まれてきたのに。

彼が開かないはずの扉を開いた時に吹き抜けた風が、この部屋の空気を全て入れ換えてしまった。

わたしの中の覚悟や決心すらも。

……ううん、違う。これは覚悟なんて格好の良いものなんかじゃない。



30以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 21:30:17.23iuwd4mISO (4/5)


これは諦めだ。

わたしは、諦めていたんだ。

誰かの為になるならと、ニンゲンから守る為ならと、そんな風に言い聞かせて……

今更になって怖ろしいのは、見えてしまったからだろう。

とうの昔に蓋をしたはずの希望が、彼の現れによってひょっこりと顔を覗かせたのだ。

今なら出られるかもしれない

もしかしたら、外に出られるかもしれないと。



31以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 21:38:41.77iuwd4mISO (5/5)


頬を撫でる風、屋根叩く雨音。

何処までも続く空、煌めく星の川、満ち欠ける月の姿、照り注ぐ太陽の温もり。

遠いあの日には当たり前だったものを、再び感じられるかもしれない。

この部屋から出ることなんて出来やしないのに。


『でも、俺がきみだったら……』

『退屈ってやつに殺される前に、外に出るよ』


彼は今頃、何をしているのだろう。

変わったニンゲン。おかしな泥棒。気さくな賊。

白馬の王子ではないけれど、わたしが求めていたものを届けてくれた人。

出来ることなら、また話してみたい。叶わないことだとは分かっている。

でも、もう一度だけ。もう一度だけ、あの扉を開け放って下さい。

もう、迷わないから。



32以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 23:11:34.32nCX3XoB0O (1/4)


王女「………」パタンッ

王女「(結局、何も変わりはしない。素直になれるのは日記の中だけ。こうして願いを綴るだけでも気が晴れる)」

王女「(だからもう、昨晩のことは忘れよう。あれはなかったこと。有り得てはならなかったことなのだから……)」

ガチャッ!

王女「!!?」ドキッ

騎士団長「姫様、御無事でしたか!!」

王女「えっ?」

騎士団長「驚かせてしまいましたね。声もかけずに申し訳ありませんでした」

王女「い、いえっ…大丈夫です」

王女「(あぁ、一瞬でも期待してしまった自分が恥ずかしい……)」



33以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 23:29:36.14nCX3XoB0O (2/4)


騎士団長「如何されました?」

王女「いえ、何でもありません。お気になさらないで下さい。それより何があったのですか?」

騎士団長「誠に不甲斐ないことですが、またしても賊に侵入を許してしまいました」

騎士団長「まして二日続けて同じ輩に侵入を許すなど、騎士団に身を置く者として一生の恥」

王女「彼…コホン…あのニンゲンが?」

騎士団長「ええ。王の命により以前にも増して警備を強化したのですが……情けないばかりです」

王女「し、しかしどうやって? あの賊は昨晩捕らえられたばかりではありませか」

騎士団長「ええ。ですが奴は再び現れました。まさか、あの独房から抜け出す者がいるとは……」



34以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 23:43:10.95nCX3XoB0O (3/4)


王女「独房、ですか? 主に処刑を言い渡された者が入るという?」

騎士団長「そうです。これまで一度たりとも破られたことはありません」

王女「あ、あのっ…」

騎士団長「?」

王女「賊…あのニンゲンは、そんなに凄いのですか?」

騎士団長「相当の手練れと見て間違いないでしょう。そして、常識の通じない相手です」

騎士団長「脱獄したその日に再び王宮に侵入するなど常人の思考ではない」



35以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 23:55:14.75nCX3XoB0O (4/4)


王女「………」

騎士団長「少々喋り過ぎました。さて、そろそろ行きましょう」

王女「えっ? でも、部屋から出てはならないとあれほど……」

騎士団長「奴の狙いは姫様です」

王女「!!?」

騎士団長「奴はこの場所を知っている。速やかに別の場所へ移すようにと王に命じられました」

王女「……そうですか。分かりました」

王女「(まさかこんな形で此処から出ることになるなんて……でも、彼は何故…)」



36以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/29(月) 01:13:34.54MfTBN0bcO (1/6)


騎士団長「夜は冷えます。姫様、これを…」

王女「ありがとうございます」ファサッ

騎士団長「では、参りましょうか」

王女「はい」

コツ…コツ…

王女「(身を震わす寒さすら心地良い。このまま王宮を抜け出せたならどんなに……)」

騎士団長「止まって下さい」サッ

王女「?」

騎士団長「曲がり角に潜んでいるようだが無駄だ。不意打ちは喰わん。潔く姿を見せろ」

ザッ…

盗賊「あ~あ、見付かっちまったか。大人しく喰らってくれれば楽に済んだだけどなぁ」



37以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/29(月) 02:28:36.79MfTBN0bcO (2/6)


王女「あっ…」

盗賊「今晩は、お姫様」ニコッ

王女「は、はい。こんばんは?」

盗賊「昨日に続いてこんな夜更けに来ちまって悪いね。早速で悪いけど攫われてくれないかな?」

騎士団長「ふざけるな!! 貴様にはドブ浚いが似合いだ!!」ダッ

ドゴンッ!

盗賊「……ふ~っ、危ねえ危ねえ。あんた、見かけ通り短気だな」

騎士団長「(素早い。我が鉄槌をああも容易く躱すとは……やはり只者ではないな)」

盗賊「(凄え腕力だ。手練れを揃えておくって言ってただけはある。さて、どうすっかな)」



38以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/29(月) 02:30:22.17MfTBN0bcO (3/6)


騎士団長「ふ~ッ…さあ来い!!」

騎士団長「姫様を攫おうなどという不届き者め、成敗してくれる!!」

盗賊「(うん。男には好かれそうだけど女には見向きされないタイプだな)」チラッ

王女「………」ガタガタ

騎士団長「来なければ此方から行くぞ」ズンッ

盗賊「(……甲冑か。あんまり待たせて姫様に風邪引かれても困るし、ささっと終わらせるか)」スッ

ヒュパッ…グイッ!!

盗賊「重っ!! なんだこりゃ!ビクともしねえ!!」グイグイ

騎士団長「鞭で足を取る気か。小癪な真似を…だが無駄だ。その程度で倒れる程やわな足腰ではない!!」



39以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/29(月) 02:32:37.14MfTBN0bcO (4/6)


盗賊「じゃあ、もう一本追加で」ヒュパッ

騎士団長「むっ!!」サッ

盗賊「あ~あ、避けちゃった」

グルンッ…ガシッ…

王女「えっ?」

騎士団長「何ッ!!?」

盗賊「戦いに熱中し過ぎたみたいだな。熱中症対策はしっかりしないと…ねっ!!」グイッ

王女「きゃっ!」

騎士団長「ッ、しまった!!」



40以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/29(月) 02:37:23.36MfTBN0bcO (5/6)


王女「(あっ、落ち……)」

ギュッ…

盗賊「大丈夫かい?」

王女「え、ええ。何とか…」

盗賊「そっか、なら良かった」

騎士団長「ひ、姫様っ!!」ダッ

盗賊「(あ~あ、脚に鞭巻き付いてんの完全に忘れて走ってるな。今なら簡単に…)」グイッ

ズデンッ! ゴチンッ!

盗賊「お~、盛大にコケた。鈍い音したけど大丈夫かな? まあ、いいや……」

王女「……あ、あの」

盗賊「あのさ、今夜は月がとっても綺麗なんだ。星も沢山出てる」

王女「?」

盗賊「俺は今から外に出て星を眺めようと思ってるんだけど、良ければ一緒にどうかな?」



41以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/29(月) 02:38:25.75MfTBN0bcO (6/6)

また明日


42以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/29(月) 03:06:58.47X515PZofO (1/1)


盗賊と姫って王道良いよね


43以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/29(月) 22:09:46.38r0gIcZfKO (1/5)


盗賊「ダメかな?」

王女「(今すぐに頷きたい。此処から連れ出してと叫びたい。でも、わたしが居なくなったら沢山の方に……)」チラッ

盗賊「………」

王女「(同意なんて求めずに連れ出してくれたら…っ、やっぱり、わたしは弱虫で臆病者だ)」

王女「(こんな時になっても他人に身を委ねようとしている。わたしには、何も変えられない)」

王女「(今こそが変わる機会なのに。それなのに……わたしは……)」

ガチャガチャ…

王女「っ、兵が来ます。逃げて下さい」

盗賊「そりゃ無理だ」

王女「ご自分の置かれている状況を理解しているのですか!? 殺されてしまうかもしれないのですよ!?」

盗賊「そんなことは百も承知さ。おそらく牢にぶち込まれることなくその場で殺される」



44以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/29(月) 22:13:20.08g/Rl8ycBo (1/1)

爺に頼まれたって言えばそれで済むのになんで言わないの?


45以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/29(月) 22:13:30.37r0gIcZfKO (2/5)


盗賊「どうかな?」

王女「(今すぐに頷きたい。此処から連れ出してと叫びたい。でも、わたしが居なくなったら沢山の方に……)」チラッ

盗賊「………」

王女「(同意なんて求めずに連れ出してくれたら…っ、やっぱり、わたしは弱虫で臆病者だ)」

王女「(こんな時になっても他人に身を委ねようとしている。わたしには、何も変えられない)」

王女「(今こそが変わる機会なのに。それなのに……わたしは……)」

ガチャガチャ…

王女「っ、兵が来ます。逃げて下さい」

盗賊「そりゃ無理だ」

王女「ご自分の置かれている状況を理解しているのですか!? 殺されてしまうかもしれないのですよ!?」

盗賊「そんなことは百も承知さ。おそらく牢にぶち込まれることなくその場で殺される」



46以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/29(月) 22:16:09.97wnXFQb9SO (1/1)

>>44
アスペ


47以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/29(月) 22:41:24.07r0gIcZfKO (3/5)


王女「なら何で!!」

盗賊「だって、きみの返事を聞いてないだろ?」

王女「っ…わたしのことなんてどうだって良いではないですか!! もっと自分のことを…」

盗賊「そうだね。全く以てその通り」

盗賊「きみの場合、俺なんかの心配をせずに自分のことを考えるべきだ。きみの人生なんだからさ」

王女「(……わたしの…人生…)」

盗賊「それに、攫うとは言ったけど無理矢理ってのはあんまり好きじゃないんだ」

盗賊「きみが外へ出たいって言うなら、どんなことがあっても連れ出してみせる。部屋に戻りたいって言うならそれでもいい」



48以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/29(月) 23:16:43.13r0gIcZfKO (4/5)


王女「………」

ガチャガチャ…

盗賊「……もう一つだけ。きみは輪転器なんて無機質なモノじゃない。きみは、生きてる」

王女「!!」


『『『賊め!姫様を離せッ!!』』』


盗賊「(うじゃうじゃ来やがって。まあ、道は塞がれたけど天井高いし何とかなるか)」

王女「……あの」

盗賊「ん?」

王女「まだ、間に合いますか?」

盗賊「勿論さ。何事も遅すぎるなんてことはない。出来ればもう少し早くして欲しかったけどね」ニコッ

王女「……クスッ…わたしも星空を見たいです。だから…だから、此処から連れ出して下さい」ギュッ

盗賊「分かった。じゃあ、責任を持ってお連れするよ。星空の見える場所に」



49以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/29(月) 23:52:11.19r0gIcZfKO (5/5)


盗賊「さて、と。じゃあ、ささっと行きますか」

王女「(何でこんなにも余裕を持っていられるのでしょう? まるで、こういった状況に慣れているような……)」

盗賊「姫様、そのまましっかり掴まってくれ。それから深く息を吸って息止めて」

王女「は、はいっ」

『『『もう一度言う、姫様を…』』』

盗賊「絶対に離しません」ポイッ

ボフッ…ブワッッ…

『煙玉? こんなもので逃げられ…何だ…眼が…痛ッ!?』

『ゲホッ…ゲホッゲホッ!! 涙が止まらん!!何だこれは!!』



50以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/30(火) 00:05:51.39DGgZ3uF7O (1/4)


盗賊「よっ…」ヒュッ

王女「(奥の柱に鞭を絡ませた…一体何を…)」

盗賊「おっさん、悪いけどちょっと肩貸りるぜ?」タンッ

『ゲホッ…上だ!上にいる!天井を狙え!!』

『馬鹿、止せ!! 姫様に刺さったらどうする!!武器を下げろ!!』

グサッ…

盗賊「ッ…」ダッ

王女「(凄い、壁を走ってる。私を抱き抱えているのに……最初から、こうするつもりで…)」

盗賊「……ッ!!」グラッ

ズダンッ…

盗賊「ふ~っ、何とか上手くいったな。姫様、怪我はねえか?」



51以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/30(火) 00:36:32.67DGgZ3uF7O (2/4)


王女「は、はいっ。大丈夫です」

盗賊「なら良かった。さて、増員が来る前にずらからねえとな。しっかり掴まってろ」

王女「………」ギュッ

盗賊「ッ…じゃあ、行くか」ダッ

王女「(……風を切る音がする。それから、彼の鼓動も…)」

盗賊「(背中が痛え。こりゃあ結構深いな、後で縫って貰わねえと……)」

王女「どこか痛むのですか? 顔色が…」

盗賊「たまに顔が紫色になる体質なんだ。だから気にしなくて良い。それより聞きたいことがあるんだ」



52以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/30(火) 01:02:18.47DGgZ3uF7O (3/4)


王女「何です?」

盗賊「姫様って裁縫とか出来る人?」

王女「え、ええ。刺繍や編み物などは好きですから多少は…ですが、何故そんなことを?」

盗賊「いや、何となく聞いただけ。俺、料理と裁縫出来る人が好きなんだよ」

王女「そ、そうですか……(案外、普通の人なのかも…)」

盗賊「(感覚がなくなってきてる。視界もぼやけてきやがった。けど、もう少し…もう少しで……)」

王女「ところで、何故上に向かっているのですか?」

盗賊「正門はがっちり固められてる。一階からは無理だ。でも、下りなきゃ逃げられない」



53以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/30(火) 01:03:41.17DGgZ3uF7O (4/4)


王女「では、どうやって脱出を?」

盗賊「あの大窓から飛び降りる。丁度あの真下に厩舎があるんだ」

王女「へっ? 今までずっと上へ上へと走っていましたよね? 結構な高さがあるのでは…」

盗賊「準備はしてあるから大丈夫」

盗賊「さ、破片入らないように目を閉じて。それから舌噛まないように口も閉じてな」

王女「んッ…」

盗賊「じゃあ、行ッ…くぜ!!」ダッ

ガシャンッ!



54以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/30(火) 13:21:13.24yTB1hwJs0 (1/1)




55以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/30(火) 19:20:38.40coyGi7G7O (1/12)


盗賊「くッ!!」ヒュッ

ガギッ…ギシッ…ギシギシッ…

盗賊「ふ~っ…姫様、大丈夫か?」

王女「ぅ~…」

盗賊「(気ぃ失っちまったか。でもまあ、暴れられるよりはマシだな。後は壁伝いに…)」ギュッ

ギッ…ギシッ…

盗賊「(厩舎に兵が集まり始めてる。厩舎の側にある見張り塔の兵もいるな…よし…)」

王女「んっ…っ!!」

盗賊「静かに。大丈夫、大丈夫だよ。しっかり掴んでるから落ちたりしない」

王女「で、でもっ…」ビクビク

盗賊「俺は絶対にきみを離したりしない」

盗賊「だから落ち着くんだ。きみが暴れたら星を見る前に二人揃ってお星様になっちまう」



56以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/30(火) 19:21:53.64coyGi7G7O (2/12)


盗賊「そんなの嫌だろ?」

王女「!!」コクコク

盗賊「……高いとこは嫌い?」

王女「……ど、どうやらそうだったみたいです。今初めて知りました」ムギュゥ

盗賊「……そっか」

盗賊「(自分のことさえ知らないか。そりゃそうか、部屋から出たことねえんだもなんな…)」

盗賊「(しかし、こうも抱き付かれちゃ動けねえ。本来なら喜ぶべきとこなんだろうけど、こんな場所じゃあ素直に喜べねえな)」

王女「………」ギュゥゥ

盗賊「……姫様と同じで、星も高所恐怖症だったりしてな」



57以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/30(火) 19:24:35.55coyGi7G7O (3/12)


王女「?」

盗賊「たまに落ちてくるんだ。うっかり足を滑らせた間抜けな奴が綺麗な尾を引きながら」

盗賊「いや、もしかしたら地に足を着けたかったのかもしれない……」

盗賊「そりゃあもう凄い速さで落ちてくるんだぜ? 願いを唱える暇なんてありゃしない」

王女「……それって…流れ星…のことですか?」

盗賊「うん。あいつらってさ、一体何処に向かってんだろうな? 無事に着陸出来てりゃいいけど」



58以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/30(火) 19:26:20.17coyGi7G7O (4/12)


王女「フフッ…やっぱり変な人…」

盗賊「少しは落ち着いた?」

王女「…ええ、先ほどよりはだいぶ…取り乱してしまって申し訳ありません……」

盗賊「いいって、気にすんな」

盗賊「それより姫様、こんな場所で悪いけど一つ頼まれてくれないかな」

王女「わ、わたしに出来ることなら」

盗賊「そんな顔しなくても大丈夫さ。まずは腰の革鞄に紐の付いた玉が入ってるから取り出してくれ」

王女「分かりました。んっしょ…ん~っっ! あっ、取れました! これですか?」



59以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/30(火) 19:27:13.71coyGi7G7O (5/12)


盗賊「うん、それで合ってる」

王女「あのぅ…これってもしかして…」

盗賊「あ~、うん。そうだね。姫様の想像通りのものだと思う」

王女「ど、どうすればいいのでしょうか?」ガタガタ

盗賊「火を着けて厩舎の屋根の上に落とすだけでいい。右腕の手甲に擦り付ければ点火出来る」

盗賊「見ての通り俺は両手が塞がってる。これはきみにしか出来ないんだ」

王女「……わたしにしか、出来ないこと…」

王女「(だ、大丈夫。きっと出来る。此処は厩舎の真上。高さはあるけれど外すことの方が難しいくらいだもの)」



60以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/30(火) 19:33:19.57coyGi7G7O (6/12)


王女「(……だけど、万が一…)」

王女「(万が一狙いが逸れて兵の方々に当たったら…それに、急に風が吹いたりしたら……)」ガタガタ

盗賊「(あ、震えてる)」

盗賊「(大方、下にいる奴らに当たったら…なんて考えてんだろうなぁ)」

盗賊「(こんな時まで他人の心配か。優しいと言うか悠長というか……)」

王女「(やっぱり、わたしには出来…えっ?)」

盗賊「ん? どうかした?」

王女「いえっ、何でも……」

王女「(手のひらに血が…勿論わたしのじゃない。おそらくこれを取り出した時に付着したもの……)」



61以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/30(火) 19:36:16.22coyGi7G7O (7/12)


王女「(…じゃあ、これは…)」

盗賊「?」

王女「(……きっとあの時。兵の頭上を跳び越えた時に刺された…なら、彼はあの時からずっと……)」

王女「(余裕なんてないはずなのに、わたしを怒鳴ることもせず気遣って……それになのに、わたしは…)」

盗賊「姫様?」

王女「やります。もう、大丈夫です」

盗賊「いや、別に無理しなくても…」

王女「出来ます!」

盗賊「そ、そう? じゃあ、早速お願いします」

王女「(右腕の手甲に導火線を擦り付けて……)」ジュッ

王女「(後は、落とすだけ)」パッ



62以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/30(火) 22:31:15.19coyGi7G7O (8/12)


コツン…ドガンッ!

『な、何だ!?』

『マズい!今の音で馬が!!』

盗賊「馬達よ、夜遅くに走らせて悪いな。姫様、助かったよ。降りるからじっとしててくれ」

王女「はい」ギュッ

盗賊「(なんか顔付きが変わったような気がする。気のせいか?)」

王女「………怪我、してますよね?」

盗賊「……あ~、うん。背中をちょっと小突かれた」

王女「小突かれた程度で血は出ません。背中を刺されたのでしょう? 早く手当てをしないと」

盗賊「気持ちは嬉しいけど今は此処から抜け出すことだけ考えろ。俺のことは気にすんな」



63以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/30(火) 22:35:01.19coyGi7G7O (9/12)


王女「でもっ…」

盗賊「じゃあ、頼んでもいい?」

王女「ええ。わたしに出来ることであれば何でも言って下さい」

盗賊「後で俺の背中縫ってくれない?」

王女「分かりました」

盗賊「えっ?」

王女「えっ? どうかしました?」

盗賊「いや、冗談のつもりだったんだけど……本気? かなり気分悪くなると思うよ?」

王女「気分が悪くなる程度であなたの傷が塞がるなら安いものです」

盗賊「(自分より他人か。優しさとはちょっと違うのかもしれないな)」



64以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/30(火) 23:44:11.61coyGi7G7O (10/12)


王女「………」ギュッ

盗賊「(そうか、怖いのか。誰かが傷付くこと、傷付きを見ることが…)」

盗賊「(あんなに躊躇っていたのに爆弾を投げたのも、自分が逃げ出す為じゃなく俺の傷を知ったから?)」

盗賊「(まったく…あの爺さんは何でこんな娘を選んだんだ? いや、この娘だからこそか?)」

王女「……下は、凄い騒ぎになっていますね」

盗賊「そりゃそうさ。王女様が攫われたんだぜ?」

王女「輪転器です。彼らにとっては…」

盗賊「そうかな、姫様が輪転器だってことを知らない奴だっているんだろ?」

王女「ええ。けれど、何故か他人事のように見えてしまうのです。わたしのことなのに、別の何かを捜しているような……」



65以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/30(火) 23:48:49.50coyGi7G7O (11/12)


盗賊「じゃあ、自分探しだな」

王女「自分探し?」

盗賊「だって姫様は自分のこと知らないだろ? 高所恐怖症だってことも知らなかったしな」

王女「………」

盗賊「きっと迷子になってる。なら、きちんと捜してあげないとダメだ」

盗賊「自分は何が好きで何が嫌いなのか。得意なことや苦手なこと。他にも色々ね」

王女「……自分探し…わたしに見つけられるでしょうか?」

盗賊「きみにしか見つけられない。だから迎えに行こう。外に出て、探しに行くんだ」

王女「……あなたは、本当の本当に不思議なニンゲンですね」



66以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/30(火) 23:51:37.27coyGi7G7O (12/12)


盗賊「じゃあ、自分探しだな」

王女「自分探し?」

盗賊「だって姫様は自分のこと知らないだろ? 高所恐怖症だってことも知らなかったしさ」

王女「………」

盗賊「きっと迷子になってるんだ。なら、きちんと捜してあげないとな」

盗賊「自分は何が好きで何が嫌いなのか。得意なことや苦手なこと。他にも色々ね」

王女「……自分探し…わたしに見つけられるでしょうか?」

盗賊「きみにしか見つけられない。だから迎えに行こう。外に出て探しに行くんだ」

王女「……あなたは、本当の本当に不思議なニンゲンですね」



67以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/31(水) 00:13:09.12WrFUAt64O (1/10)


盗賊「そうかな?」

王女「ええ、わたしたちともニンゲンとも違うような気がします」

盗賊「よっ…」

スタンッ…

盗賊「ようやく地に足付けられたな。さて、続きは星を見ながら話そうか」

王女「いえ、傷を縫うのが先です。縫いながら話しましょう」

盗賊「ははっ、分かった。じゃあ、馬を探すから付いてきてくれ」

王女「馬ですか? 馬は先ほどの爆発で全て逃げ出したのでは?」

盗賊「あれは兵士を追っ払う為にやったんだ。一頭くらいはいるはずだ。肝の据わってる奴が…」

『こ、こらっ!暴れるな!!』

『そいつは相手にするな。誰の言うことも聞きやしない駄馬なんだ。それより賊を捜…ぐはっ!』



68以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/31(水) 00:49:50.40WrFUAt64O (2/10)


王女「……いましたね」

盗賊「……ありゃあ何人か殺ってるな」

王女「逞しい白馬ですね。ちょっと青白いですけれど……あれは雄でしょうか?」

盗賊「いや、あれは雌だな」

王女「見ただけで分かるのですか?」

盗賊「つぶらな瞳してるからな」ウン

王女「えっ?そんな理由で判断するんですか?」

盗賊「今のは冗談。でもあれは確かに牝馬だ。きっと男性社会でストレス溜まってるのさ」

盗賊「牝馬ってのは若い頃は粗暴なもんなんだ。さっきみたいな扱いするから男性不信になるんだよ」



69以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/31(水) 01:19:41.99WrFUAt64O (3/10)


王女「……あれに乗る気ですか?」

盗賊「そうだね。どうやら一番肝が据わってるのは彼女みたいだから」

王女「だ、大丈夫でしょうか?」

盗賊「大丈夫だって、俺の後ろにいてくれ」

スタスタ…

白馬「……」ギロッ

盗賊「夜更けにごめん。きみと話がしたいんだけど…ちょっといいかな?」

王女「(凄い、暴れ馬に話しかけてる。でも動物と会話だなんて出来るのでしょうか?)」



70以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/31(水) 01:21:33.38WrFUAt64O (4/10)


白馬「……」

王女「(あ、何か満更でもない感じ。やっぱり女性だったんですね……)」

盗賊「ありがとう。実は、この王宮から出たいんだ。きみが力を貸してくれれば出られる」

盗賊「その後……きみが良ければだけど、丘の上で星空を眺めながら干し草でもどうかな?」

白馬「……」フイッ

王女「(あぁっ…)」

盗賊「そっか、残念だよ。邪魔して悪かったね。それじゃ…さようなら」クルッ



71以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/31(水) 01:24:36.60WrFUAt64O (5/10)


王女「(あっさり引き下がった? あれ、馬の様子が……)」

白馬「……」グイッ

盗賊「どうしたの?」

白馬「……」グイグイ

盗賊「離してくれ、僕には時間はないんだ。本当はきみが良かったけど、きみが嫌なら仕方ない」

盗賊「女性に無理強いするようなことはしたくないんだ。さあ、離してくれ」

白馬「……」コテン

王女「(甘えた感じで彼の肩に頭を乗せた!? あれは乗せてもいいということなのでしょうか?)」

盗賊「ありがとう、僕なんかの為に……悪いけど、彼女のことも乗せてやってくれないかな?」



72以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/31(水) 01:27:19.58WrFUAt64O (6/10)


白馬「………」チラッ

王女「こ、こんばんは」

白馬「…フーッ…フーッ…」

王女「(もしかして嫉妬!? 馬って凄い!!)」

王女「わ、わたしは別にそんなつもりはないです。どうか乗せて下さい。お願いします」ペコッ

白馬「………」フンッ

王女「(は、鼻で笑われた。何だかよく分からないけど悔しい……)」

盗賊「さあ、行こうか」スッ

王女「わたしが前なんですか?」

盗賊「後ろで俺に掴まってたら変に見られるだろ? きみはあくまで俺に攫われるんだから」



73以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/31(水) 01:50:15.18WrFUAt64O (7/10)


王女「……そうでしたね。分かりました」

盗賊「じゃあ、行こうか」

ガガッ…ガガッ…

王女「(うわぁ、景色が凄い速さで変わっていく。馬ってこんなに速かったんだ!!)」

盗賊「(大門の前には槍兵と騎兵の壁か……)」

盗賊「(あの爺さん、何がなんでも俺を討ち取れって言ったんだろうな)」

盗賊「(依頼がバレないように警備を増やせとは言ったけど、ここまでやれとは言ってないぜ)」

盗賊「(槍兵は騎兵を崩せば何とかなる。戦う必要もない。隊列さえ崩せればそれでいい)」

ガガッ…ガガッ…

盗賊「どっちの馬が優れてるのか」ジュッ

盗賊「度胸試ししようじゃねえか」ブンッ

ドガンッ!ドガンッ! ブワァッ…

王女「土煙で前が!」

盗賊「そりゃあ向こうも同じさ。このまま突っ切る!!」

ガガッ…ガガッ…

盗賊「良しッ、隊列は乱れた!! 跳べッッ!!」



74以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/31(水) 02:07:24.84WrFUAt64O (8/10)


王女「(月が目の前に…本当に飛んでる)」

盗賊「越えた!このまま突っ走るぞ!!」

ヒュッ…ドッッ…

盗賊「ぐっ…」クルッ


射手「……………」


盗賊「(見張り塔? あんなとこから当てやがったのかよ。バケモンかアイツは)」

王女「どうかしましたか?」

盗賊「ッ、いや、何でもない。前見てろ。このまま行けるとこまで行くぞ」



75以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/31(水) 02:08:58.98WrFUAt64O (9/10)


王女「は、はいっ!」

ガガッ…ガガッ…

盗賊「(やっぱり報酬は貰おう。何がなんでも貰おう。これじゃ流石に割に合わねえ)」ボタボタッ

ガガッ…ガガッ

王女「かなり遠くまで来ましたけど、これからどうしますか?」

盗賊「……まだだ。もう少し…走る…」

王女「もう無理はしないで下さい。早く傷の手当てをしないと……」クルッ

盗賊「…………」

王女「あのっ、聞いてま…!!?」

盗賊「…………」グラッ

ドサッ…ゴロゴロ…



76以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/31(水) 02:11:16.78WrFUAt64O (10/10)

また明日


77以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/31(水) 04:20:32.00TvKBxbBaO (1/1)


面白いよ


78以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/31(水) 17:35:24.56gZZNvJr/0 (1/1)




79以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/31(水) 19:19:22.76vgh55vgsO (1/5)


盗賊「(あれ、何で寝転んでんだ?)」

盗賊「(……あぁ、そっか。馬から落ちたのか。あちこち痛え。矢傷に刺し傷。それから打撲)」

盗賊「(まあ、あんだけのことやったんだ。命があるだけマシだと思わねえとな)」

ガガッ…ガガッ……

盗賊「(あ~あ、戻ってきちまった)」

盗賊「(ったく、そのまま逃げりゃあいいのに。今にも追っ手が来るかもしれないんだぜ?)」

盗賊「(…って言っても無駄なんだろうな。つーか少しは疑え。こんな奴を簡単に信じちゃ駄目だ)」

王女「泥棒さん!!」

盗賊「(何だよ泥棒さんって…まあ、間違っちゃいないけどさ。にしても間抜けな響きだな)」



80以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/31(水) 19:23:05.18vgh55vgsO (2/5)


王女「今行きます!んっしょ…きゃっ!」ズルッ

盗賊「(あっ、落ちた。馬に乗ったのも初めてなんだろ? あんまり無理すんなって……)」

王女「いたた…っ…泥棒さん!!」タッ

盗賊「(もう泥棒さんでいいから落ち着けって。そんなに走ると転んじまう)」

王女「はぁっ、はぁっ…泥棒さん!しっかりして下さい!!」

盗賊「(悪い。声が出せないんだ)」

王女「わたしの声が聞こえているなら瞬きを二回して下さい!!」

盗賊「(へ~、凄いな。そんなのどこで覚えたんだ? そういや部屋には本が沢山あったな。読書家?)」



81以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/31(水) 19:35:08.56vgh55vgsO (3/5)


王女「良かった。意識はあるみたい」

王女「っ、酷い傷…失血も酷い。早く手当てをしないと……」

王女「(でも、こんな所で手当てしていたらすぐに見つかってしまう。そうなったら彼は……)」

盗賊「?」

王女「(っ、そんなのは絶対に嫌。わたしが何とかしなければ彼は死んでしまう)」

王女「(わたしが助けるんだ。他の誰でもない、自分自身の手で。もう、人任せにはしない)」

王女「(とにかく、何処か身を隠せる場所に移動しなければ。手当てをするにもそれからだ)」

王女「(ここに来るまで通ってきた道にそれらしい場所は……!!)」

王女「(少し戻ってしまうけれど、先ほど通った橋の袂の坂を下って川辺に行けば…)」

王女「(でも、戻って見つかったりしたら……)」

盗賊「…ハァッ…ハァッ……」

王女「(っ、今更怖じ気付くな臆病者。見つかったら、その時に考えればいい)」



82以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/31(水) 19:49:12.73vgh55vgsO (4/5)


盗賊「(なに考えてんだ?)」

王女「泥棒さん、今から運びます。もう少しだけ頑張って下さいね?」

盗賊「(馬に乗せる気なのか? 止めとけ、姫様には無理だって)」

王女「んっ…おもいっ…」

盗賊「(おいおい…無茶すんなよ)」

王女「わたしが助けるんだ。絶対、絶対に助ける。わたししか、いないんだから……」

盗賊「………」

王女「…はぁっ…はぁっ…ん~っっ!!」

ドサッ…

盗賊「(……本当に乗せやがった。以外と根性あるんだな)」



83以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/31(水) 19:52:50.75vgh55vgsO (5/5)


王女「…はぁっ…はぁっ…」

王女「白馬さん、もう一度だけ背に乗せて下さい。彼を橋の袂まで運びます」ヨジヨジ

白馬「……ブルルッ…」

ガガッ…ガガッ…

王女「あのっ、ありがとうございます!」

白馬「………」フンッ

盗賊「(律儀か。馬相手に何してんだよ)」

王女「すぐに着きますから待ってて下さいね。きっと…ううん、絶対大丈夫ですから」

ガガッ…ガガッ……

盗賊「(……なあ、姫様。俺を変わり者だって言ったけどさ、きみも十分変わってるよ)」

ガガッ…ガガッ…

王女「あ、あの橋です! あそこから下りて下さい!!」

盗賊「(あ~あ、こんな娘が魔王になんのかよ。今のままでいいのに、勿体ねえなぁ……)」

ガガッ…ガガッ…ガガッ…



84以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/31(水) 21:39:38.34J6McHLMVO (1/1)


ド根性お姫さま


85以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/01(木) 00:01:15.66yC23JsdKO (1/6)


【玉座の間】

老人「そうか、捕り逃がしたか」

騎士団長「陛下、誠に申し訳ありません。全ては不覚を取った私の責任でございます」

老人「済んだことだ。もうよい、頭を上げよ」

騎士団長「ですが姫様を…」

老人「よいと言っている。して、彼奴はどうであった」

騎士団長「?」

老人「直接対峙したのはお主のみ。彼奴が強者であったのかと聞いておるのだ」



86以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/01(木) 00:04:12.80yC23JsdKO (2/6)


騎士団長「強者であります。紛うことなく」

騎士団長「刃は交えておりませんが、戦の最中であって沈着冷静。機転も利く男です」

老人「……ふむ。そうか…」

騎士団長「しかし陛下、何故にそのようなことをお聞きになるのですか?」

老人「……初代王の傍らには、常に一人の騎士がいた」

老人「闇夜にあって幾千の敵を討ち。屍から屍へと渡り歩くその姿はあたかも鴉のようであったという」

老人「彼の者は畏敬の念と共に死の騎士と呼ばれ。多くの騎士に崇められていたそうだ」

老人「王は彼の者を半身の如く信頼し、深く愛していた。添い遂げることは叶わなかったがな」

騎士団長「……そのような話は初めて聞きました。如何なる文献でも見かけたことはありません」



87以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/01(木) 00:19:20.33yC23JsdKO (3/6)


老人「そうであろうな……」

老人「これは輪廻する力に宿る王の記憶。いや、王ではなく一人の女の記憶やもしれん」

老人「幾度もの輪廻。長らく探し求めていた相応しき器。あれを得た時の歓喜たるや…フッ…フフッ…」

騎士団長「へ、陛下?」

老人「そう怪訝な顔をするな。安心しろ、呆けたわけではない。これは事実なのだ」

老人「そして、偶然か必然か。或いは輪廻か……我が娘を奪い去った男は鴉と呼ばれている」

騎士団長「……何故にそのような話を私に?」

老人「お主は期待を裏切らぬ男だからだ。これまでも、現在もな」

騎士団長「は、はぁ…」

老人「……もう下がってよいぞ」

騎士団長「姫様の捜索は…」

老人「追う必要はない。何もせずとも、あれは近々帰って来る。必ず、必ずな……」



88以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/01(木) 01:28:43.19yC23JsdKO (4/6)


【川辺】

盗賊「………」

王女「(革鞄には消毒薬と包帯、針と糸が入っていた。それに、体には数え切れない傷痕……)」

王女「(刺し傷に切り傷。それから火傷。命に関わるようなものも数多くあった)」

王女「……はぁ」

王女「(矢も抜いて傷口も縫って…本で見た薬草を傷口に貼って止血も出来た。後は目覚めを待つだけだ)」

盗賊「…スー…スー…」

王女「泥棒さん。あなたはいつもこんな怪我をしているんですか?」

王女「そんなに沢山の傷を負ってまで手にしたい物って何ですか?」

王女「男の人だからですか? ニンゲンだからですか? わたしには、そこまでする意味が分からないです……」



89以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/01(木) 01:34:15.87yC23JsdKO (5/6)


盗賊「…ッ…ぅぅ…」

王女「(震えてる。先ほどよりも冷えてきているし、何より血を流し過ぎたから)」

王女「(わたしが羽織っていたものを被せたけど、これだけでは足りない……)」

王女「(でも、どうしよう。彼の服は血塗れだったから洗ってしまったし……)」

盗賊「…ハァッ…ぅぅ…」

王女「…………」パサッ

ギュゥゥ…

王女「(迷う必要なんてない。こうすれば温められる。この人を死なせはしない)」

王女「(あなたはあの場所からわたしを連れ出してくれた。傷を負い、血を流してまで……)」

盗賊「………」

王女「泥棒さん。わたし、まだ星を見ていないんです」

王女「一緒に星を見よう。そう言ったのはあなたでしょう?」

王女「……生きて下さい。お星様になんかなっちゃ駄目ですよ…」ギュッ



90以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/01(木) 01:35:33.97yC23JsdKO (6/6)

また明日


91以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/01(木) 18:07:56.69do/w+HRCo (1/1)




92以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/01(木) 21:49:50.858I1ke8g50 (1/1)

盗賊と姫様の見た目気になるな
盗賊は軽装だけど、鞭やら手甲やら爆弾やら結構色々仕込んだ装備?
姫様は寝間着にケープか何か羽織っただけで持ち物特に無しかな


93以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/01(木) 23:49:30.16zp8uLoG+O (1/1)


盗賊「(ここは…つーか姫様…)」

ムギュゥ…

盗賊「!?」ビクッ

王女「…スー…スー…」

盗賊「(……通りで温けえわけだ。ったく、臆病なのにやることは大胆だな)」

盗賊「(包帯…手当てまでしてくれたのか。嫌なもん見せちまったな……)」

王女「…っ…ん~っ…」

盗賊「………」

王女「…スー…スー…」

盗賊「………起きるか。え~っと…服はあそこか」



94以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/02(金) 00:26:58.63oNb79cG2O (1/7)


盗賊「危ねっ…」フラッ

ボフッ…

白馬「…ブルルッ…」

盗賊「そっか、きみも一晩中傍に居てくれたんだね。ありがとう。助かったよ」

白馬「……」コテン

盗賊「昨日は無理させて悪かったね。怪我してなくて良かったよ」

白馬「……」スリスリ

盗賊「…っくし! ごめん。もう少しこうしていたいけど早く服着ないと…」ザッ

盗賊「(濡れてる。汚れもねえ。姫様、服まで洗ってくれたのか……)」



95以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/02(金) 00:53:45.01oNb79cG2O (2/7)


盗賊「(コートだけ羽織っとこ)」バサッ

王女「…スー…スー…」

盗賊「(まさか攫った相手の世話になるなんて思いもしなかったな……)」

盗賊「っくし! 寒っ…枯れ枝集めて火でも起こすか。早いとこ服も乾かさねえとな」

ーーー
ーー


パチッ…パチパチッ…

王女「…んっ。あれっ…泥棒さん?」

盗賊「お~、こっちこっち」

王女「(良かった。いなくなってしまったのかと…)」

盗賊「どうした?早くこっちに来て一緒に火に当たろう。服着てからな」



96以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/02(金) 01:22:50.42oNb79cG2O (3/7)


王女「えっ……あっ!!」イソイソ

トコトコ…トスン…

王女「えっと…おはようこざいます」

盗賊「うん、おはよう。傷の手当てから洗濯まで、何から何までありがとう」

王女「いえっ、そんな…」

盗賊「……きみがいなかったら、こうして朝日を拝むことなんて出来なかったと思う」

盗賊「あっ、こういう場合は朝日なんかより姫様を拝むべきなのかもな」ウン

王女「クスッ…泥棒さんが生きてて良かったです。体はどうです? ふらついたりとかは…」

盗賊「血ぃ流し過ぎたからなぁ。たらふくメシ食って寝ればその内に治るさ」



97以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/02(金) 02:10:33.19oNb79cG2O (4/7)


王女「………」

盗賊「いや、本当に大丈夫だから!そんな顔すんなって!!」

王女「でも、傷を負ったはわたしのーー」

盗賊「傷を負った俺が間抜けだからさ。きみのせいじゃない。この話はこれで終わり」

王女「………」

盗賊「さて、と。服も乾いたしそろそろ行こうか」ザッ

王女「えっ? 行くって何処へ……」

盗賊「何処へって、姫様の自分探しに決まってるだろ?」



98以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/02(金) 02:13:06.84oNb79cG2O (5/7)


王女「………」

盗賊「いや、本当に大丈夫だから!そんな顔すんなって!!」

王女「でも、傷を負ったはわたしのーー」

盗賊「傷を負ったのは俺が間抜けだからさ。きみのせいじゃない。はい、この話はこれで終わり」

王女「………」

盗賊「さて、と。服も乾いたしそろそろ行こうか」ザッ

王女「えっ? 行くって何処へ……」

盗賊「何処へって、姫様の自分探しに決まってるだろ?」



99以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/02(金) 02:28:45.31oNb79cG2O (6/7)


王女「(彼は本当に何なのだろう?)」

王女「(あんなにも酷い傷を負っているのに、わたしの何倍も疲弊しているはずなのに……)」

王女「(何故こんなにも、瞳をきらきらと輝かせていられるのでしょう?)」

盗賊「まずは姫様の服を買って、それからメシも食わねえとな」ウン

王女「(まるで昨夜のことなどなかったかのよう。はしゃいでいる子供のような、そんな笑顔…)」

盗賊「姫様も腹減ってるだろ?」

王女「えっ? は、はい…」

盗賊「じゃあ行こうか。俺が外を案内するよ」ニコッ

王女「(彼といれば、わたしもこんな風になれるのでしょうか? 彼のように、自由に……)」



100以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/02(金) 02:49:06.77oNb79cG2O (7/7)

>>92
盗賊は軽装備で複数のウエストポーチ?のようなものに色んな道具を入れています。
所持しているのは鞭と爆弾と催涙玉。それから縄に鉤爪の付いてるやつ。他の武器などは後から出てくると思います。

姫様は寝巻きの上に白熊みたいな、もふもふしてるやつを羽織ってるだけです。

また明日。


101以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/02(金) 03:15:56.70+s1RSyp0O (1/1)


もふもふお姫さま


102以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/02(金) 21:09:29.73zq6/qIcJO (1/3)


【街道】

ガガッ…ガガッ…

王女「わぁ…凄いなぁ…」

王女「(どんどん景色が変わっていく。わたし、本当に外に出たんだ)」

王女「(青空には先ほどより輝きを増した太陽が。ふわふわとした雲は泳いでいるようにも見える)」

王女「(白馬さんが地面を蹴って体が浮くたび、わたしも空を飛んでいるような…そんな気分になる)」

ガガッ…ガガッ…

王女「(ほのかに香る土の匂い。風に揺られる草花。それから挿絵とは全く違う、本物の緑……)」

王女「(何処を見ても何を聴いても心地良い。此処には…外には全てが詰まってるんだ)」

盗賊「姫様、気分はどうだい?」

王女「とっても楽しいです! でも、まだ信じられません。何だか、ちょっとだけ怖いんです」



103以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/02(金) 21:50:18.16zq6/qIcJO (2/3)


盗賊「怖いって何が?」

王女「……昨日までとは違いすぎるからです。望みが叶うなんて思いもしませんでしたから」

王女「それから、こうも思うのです。もしかしたら、これら全ては夢なのではないか…と」

盗賊「人なんて夢遊病者みたいなもんさ。寝てる奴も起きてる奴も、みーんな夢を見てる」

王女「……誰もが、夢を見る…」

盗賊「そ。でも大丈夫、姫様は起きてるよ。流石の俺も人様の夢にまでは入れない」

盗賊「万が一これが夢でも、姫様の夢は誰にも盗めないよ。これは、きみだけの夢だからね」

王女「……もし、もしですよ? 二人一緒に同じ夢を見ていたらどうします?」

王女「これは夢で、現実では牢に入れられてたりしたら? そう考えると、わたし……」



104以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/02(金) 21:55:28.43zq6/qIcJO (3/3)


盗賊「ははっ、面白いこと考えるなぁ」

王女「わ、笑わないで下さい。これでも真剣に考えてるんですから……」

盗賊「分かった分かった。そんなに不安な声出すなよ。旅立ちの朝なんだぜ?」

王女「だって…何だか怖くて……」

盗賊「……もし夢だったら、だっけ?」

王女「は、はい。泥棒さんならどうしますか?」

盗賊「う~ん。そうだなぁ…夢の終わりまで一緒にいればいいんじゃないの?」

王女「どうしてです?」

盗賊「夢の中で一緒なら、目が覚めた時も傍にいるかもしれない。そしたら、またすぐに連れ出せるから」

王女「じ、じゃあ! もし別々の場所で目が覚めてしまったらどうしますか?」

盗賊「その時はきみを捜して連れ出すよ。そんで、夢の続きを見る。一緒にね」



105以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 00:04:51.98jI8nlcmOO (1/9)


王女「(一緒に、夢の続きを…)」カァァ

盗賊「少しは落ち着いた?」

王女「えっ、ええ。安心とは少しばかり違うかもしれませんが、もう大丈夫です」

盗賊「?」

王女「(随分と前に読んだものだから題名は思い出せないけれど、似たような台詞があった)」

王女「(確か…身分の違いから引き離され、それでも互いを愛し続けた男女の物語……)」

王女「(彼女は思い人に会えぬ辛さから心を病み、自害。遠い地にいた彼は、ある日彼女が自害したことを知る)」

王女「(彼女の死を知った彼は嘆き、絶望し、世を憎んだ。何より、強引にでも彼女を連れ去らなかったことを後悔した)」



106以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 00:10:17.59jI8nlcmOO (2/9)


盗賊「おっ、見えてきた」

王女「(彼も遂には毒薬を飲んで自害してしまう。そんな、悲劇的な物語)」

王女「(もう眠ろう。わたしは夢を見るのだ。何度でも何度でも。あの日に夢見た、彼女との夢の続きを……)」

王女「(毒薬を飲む直前の台詞だけれど…いえ、だからでしょうか。今でも心に残っている)」

盗賊「そろそろ着くか。あ~、ハラ減ったなぁ」

王女「…………」

ギュッ…

盗賊「どうかした? まだ怖い?」

王女「いえ、そうではありません。少しばかり体が冷えてしまいました」



107以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 00:16:30.73jI8nlcmOO (3/9)


盗賊「寒いのか? こんなに日が照ってんのに?」

王女「いえ、寒くはありません。熱いくらいです」

盗賊「あ~、昨日はかなり無理してたからな。もしかしたら熱があんのかも……」

王女「……熱、ですか…」

盗賊「もう少しで街に着く。それまでは何とか我慢してくれ」

王女「あっ、急がなくても大丈夫です。こうしていれば、すぐに良くなりますから……」

盗賊「えっ? よく分かんねえけど本当に大丈夫なんだな?」

王女「ええ。心配させてしまうようなことを言って申し訳ありませんでした」

盗賊「何かあったら正直に言ってくれよ? 無理して倒れたら元も子もねえからさ」

王女「(自分は傷を負っても何も言わなかったのに…もっと自分を大事にしないと駄目ですよ……)」



108以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 00:25:37.90jI8nlcmOO (4/9)


盗賊「姫様?」

ギュゥゥ…

盗賊「痛い痛い痛い!! 何!?どうした!?」クルッ

王女「……いえ、別に。何でもないです」プイッ

盗賊「はぁ!?」

王女「何でもないですよ?」ニッコリ

盗賊「そっ、そうですか。ならいいですけども……」

王女「前を見ないと危ないですよ? もし落馬してしまったら傷が開いてしまいますからね」

王女「また縫って欲しいのなら構いませんけれど、怪我はして欲しくないので早く前を見て下さい」

盗賊「そ、そうします(笑顔こわっ! 何かしたっけ? まるで分かんねえ)」

王女「(きっと、何を言っても聞いてはくれないでしょうね。あなたは、優しい人だから……)」



109以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 01:20:31.60jI8nlcmOO (5/9)


王女「………」

盗賊「(急に黙っちまった。にしても、追っ手が来ねえのは妙だ)」

盗賊「(王宮ではあんだけ警備固めて俺を取っ捕まえようとしてたってのに……)」

盗賊「(あの爺さんなら、俺との関与を少しでも疑われないように大勢使って追わせるはずだ)」

盗賊「(……やっぱり、あの爺さんにも何か裏がありそうだな)」

盗賊「(儂が死んで力の印刷が済むまでとか何とか言ってたけど、それだけじゃねえような気がする)」

盗賊「(……王の輪転器か)」

盗賊「(もう少し調べてみた方が良さそうだな。姫様にも知らされてねえ事実がありそうだし)」



110以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 01:29:08.00jI8nlcmOO (6/9)


王女「泥棒さん?どうしました?」

盗賊「いや、何でもねえ。それよりさ、街に着いたら服買うけどどんなのがいい?」

王女「服ですか? 特にこだわりはないので、どんなものでも構いません」

王女「あっ、これからは移動することが多くなると思いますので、動き易いものが良いすよね?」

盗賊「あ~、そうだな。じゃあ旅人みたいな格好にするか」

王女「でも、よろしいのですか?」

盗賊「何が?」

王女「……わたしはお金品など一切持っていないので、泥棒さんに負担が掛かるでしょう?」

盗賊「そんなの気にすんな。高い物は買わねえしさ。でも、服で誤魔化せっかなぁ」

王女「?」

盗賊「何て言うか…気品?みたいのが邪魔しそうなんだよ。仕草とか口調とか」



111以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 01:31:36.37jI8nlcmOO (7/9)


王女「泥棒さん?どうしました?」

盗賊「いや、何でもねえ。それよりさ、街に着いたら服買うんだけどどんなのがいい?」

王女「服ですか? 特にこだわりはないので、どんなものでも構いません」

王女「あっ、これからは移動することが多くなると思いますので動き易いものが良いですよね?」

盗賊「あ~、そうだな。じゃあ旅人みたいな格好にするか」

王女「でも、よろしいのですか?」

盗賊「何が?」

王女「……わたしは金品など一切持っていないので、泥棒さんに負担が掛かるでしょう?」

盗賊「そんなの気にすんな。高い物は買わねえしさ。でも、服で誤魔化せっかなぁ」

王女「?」

盗賊「何て言うか…気品?みたいのが邪魔しそうなんだよ。仕草とか口調とか」



112以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 01:34:35.48jI8nlcmOO (8/9)


王女「では、教えて下さいませんか」

盗賊「教えるって何を?」

王女「泥棒の仕草です。泥棒さんのようになるにはどうすればよいのでしょう?」

盗賊「っ、あははっ! 姫様にゃ無理だって、なれっこねえよ」

王女「な、何故ですか?」

盗賊「そういうところだよ。真面目だし高所恐怖症だしさ」

王女「……なら、泥棒以外で…」

盗賊「いや、そう言われてもなぁ……まあ、街に入ったら一緒に考えようぜ?」

王女「分かり…ました……」

盗賊「(何で落ち込んでんだろ。また何か考えてんのかな。夢とか何とか言ってたし…)」

王女「(本気だったのに、あんなに笑わなくたっていいじゃないですか……)」



113以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 01:35:21.48jI8nlcmOO (9/9)

また明日


114以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 01:57:38.99AvIYN9lto (1/1)




115以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 06:02:52.85FggD4TT2O (1/1)

盗賊が鈍感キャラなのは違和感あるな
牝馬はコマしてるのにw


116以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 07:44:13.28gg6fNRybO (1/1)

盗賊が鈍感なわけではなく互いに考えてることが擦れ違ってる


117以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 12:40:52.64FvJOLbsjO (1/1)

REDSTONEのシーフで再生される



118以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 20:30:45.91JZOH/8mGO (1/10)


盗賊「見ろよ姫様。あれが街の正門だ」

王女「あ、あれが正門ですか? それにしては飾りっ気もなくて小さいような気が……」

盗賊「はははっ!そっか、小さいかぁ」

盗賊「でもまあ、王宮の大門を見ちまった後じゃそう思うのも仕方ねえかもな」

盗賊「でもさ、あの街の中には王宮にはないものが沢山詰まってる。絢爛豪華とは程遠い街だけどさ」

王女「入ったことがあるのですか?」

盗賊「ん~、何度かね。他にも候補があったんだけど、見知った顔もいるから此処にしたんだ」

王女「(……見知った顔? というか、泥棒さんは何で『こちら側』に来たのでしょうか?)」

王女「(王の秘宝。宝具を求めてやって来たと言っていたけれど、ニンゲンである彼が何故…)」



119以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 20:34:26.89JZOH/8mGO (2/10)


盗賊「あっ…」

王女「?」

盗賊「街に入る時に検査みてえなのがあるんだ。姫様は普通にしといてくれ」

王女「えっ!? あのっ、普通と言われましても一体どのようにしたら良いのでしょうか?」ワタワタ

盗賊「そんなに慌てなくても大丈夫さ。そのままでいいってことだから」

王女「は、はぁ…」

盗賊「但し!」

王女「はいっ! 何でしょう?」

盗賊「何があっても馬から下りないように。何があっても俺が何とかするから」

王女「……分かりました。無茶はしないで下さいね?」

盗賊「心配しなくても大丈夫さ。簡単に通れるさ、簡単にね」



120以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 22:25:53.24JZOH/8mGO (3/10)


王女「(そう簡単に行くでしょうか……)」

王女「(こちら側の者はニンゲンに対して敵対的。とは言わないまでも友好的とは言い難い)」

王女「(国家で認定されているような商人ならば問題はないでしょうが、彼のようなニンゲンには風当たりは強いはず……)」

王女「(……けれど、これら全ては本で得た知識でしかない。実際に目の当たりにしたわけではないから何とも言えない)」

門番「はい、そこで止まって下さ…何だ、ツノ無しか……」

王女「(あぁっ、露骨に嫌そうな顔してる。やっぱりこれが普通の反応なんだ……)」

盗賊「角が立たないようにしてるんだ。何事も丸く収まるようにね」



121以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 22:36:57.91JZOH/8mGO (4/10)


王女「(な、何で挑発するようなことを…)」

門番「そうか。だが残念だったな。たった今、お前の不用意な発言で角が立った」

門番「さあ、今すぐに馬を下りろ。ニンゲンに見下ろされるのは大嫌いなんだ」

盗賊「はいはい」ザッ

門番「……連れがいたのか。女、お前も下りろ」

王女「(ど、どうしよう。下りなきゃ何をされるか分からない。でも泥棒さんは下りるなって…)」

門番「聞いているのか!さっさとしろ!!」

盗賊「まあまあ落ち着けよ。今なら円満に解決出来るぜ?」ポンッ



122以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 22:38:16.53JZOH/8mGO (5/10)


門番「気安く触るな」バシッ

盗賊「やれやれ、一方的に嫌われてちゃ会話もままならねえな。今なら円満に解決出来るのに」

門番「お前はもう黙ってろ。次に口を開いたら牢にぶち込むからな」ジャキッ

盗賊「………」

王女「(つ、剣を抜いた!もう耐えられない。早く下りないと…)」

門番「………」ツカツカ

王女「(き、来た! ど、どうしよう……)」オロオロ

門番「ん?何だこの馬? まるで青ざめたような毛色だな。気色の悪い」



123以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 22:41:06.49JZOH/8mGO (6/10)


白馬「………」ピキッ

盗賊・王女「あっ…」

門番「あ?」

ドガッ!

門番「ぐぇッ!?」

盗賊「そうやって外見で判断すっからそうなるんだよ。色だのツノだの尻尾だの耳だの…挙げればキリがねえ」

門番「こ、この野郎……」

盗賊「おいおい、何怒ってんだよ。蹴られたのはあんたが彼女を侮辱したからだろ?」

盗賊「これからは気を付けた方がいいぜ? 女性ってのは繊細なんだからさ」

門番「言われんでも分かるわ!こちとら妻子持ちじゃボケ!!」ダッ

盗賊「あ、そうなんだ。じゃあ、これで美味いもんでも食わせてやれよ」ピンッ



124以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 22:43:54.08JZOH/8mGO (7/10)


門番「あだっ!? これは…き、金貨!?」

盗賊「言ったろ、円満に解決出来るって。ニンゲン嫌いでも金貨は好きだろ?」

門番「………」

盗賊「で、通ってもいい?」

門番「……とっとと行け。気が変わらんうちにな」

盗賊「あんたが話の分かる人で助かったよ。さて、行こうか」

白馬「……ブルルッ…」

盗賊「大丈夫さ、気色悪くなんかない。彼にはきみの魅力が分からないんだよ」

王女「(まったく動じてない。わたしなんて、まだ脚が震えてるのに……)」



125以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 22:45:40.49JZOH/8mGO (8/10)


盗賊「よっ…じゃあ行こう」

門番「………」

盗賊「あ、そうだ。ご家族によろしく」ニコッ

門番「……うるさい。さっさと行け」

盗賊「分かった分かった。でも、そんなに怖い顔してると子供に嫌われるぜ?」

カカッ…カカッ…

門番「(金貨三枚。家族分ってわけか。もう一枚足りないんだが、まあいい……)」

門番「(しかし妙な奴だったな。口の減らない奴だったが、怒る気も失せてしまった)」

門番「……帰りにせがまれてたおもちゃでも買って行くか。それから、嫁にも…」



126以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 23:20:07.48JZOH/8mGO (9/10)


ガヤガヤ…

王女「うわっ、人が沢山いますね」

盗賊「賑やかだろ?王宮の連中は時計仕掛けで決まった動きしかしないけど、此処の連中は違う」

盗賊「いや、この街に限ったことじゃない。それぞれがそれぞれの生活をしてるんだ」

王女「な、何だか目が回りそうです」

盗賊「はははっ、慣れるには時間が掛かるだろうな。さて、服を買いに行くか」

カカッ…カカッ…

王女「(皆さん、とっても活き活きとしている。王宮の静けさとはまるで真逆……)」

王女「(それぞれがそれぞれの生き方をして、行きたい場所へ向かって歩いている)」

王女「(わたしと泥棒さんも、周りから見ればそのように見えているのでしょうか?)」



127以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 23:59:50.88JZOH/8mGO (10/10)


カカッ…ピタッ…

盗賊「はい、此処が服屋」

王女「何だか怪しげな場所ですね。あまり人気もないですし、お店も暗そうな感じで……」

盗賊「ここらの店は大体こんなもんさ。実際怪しげなもの売ってるしな。骸骨とか」

王女「骸骨!? 何に使うのですか?」

盗賊「さあ?飾ったりすんじゃねえの? 此処はそういう物好きが来る場所なんだ」

王女「……あの、この店は大丈夫なのですか?」

盗賊「う~ん。割と普通、なのかな?」

王女「割と…普通……」

盗賊「大丈夫大丈夫。俺も此処で服買ったことあるから。変装用のやつ」スタッ



128以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/04(日) 00:02:15.23cunM1KS2O (1/6)


王女「変装?」

盗賊「まあ、入ってみりゃ分かるさ。さ、掴まって」スッ

王女「あ、申し訳ありません。まだ一人では下りられなくて……」ギュッ

盗賊「昨日今日で出来るようになるのは無理だ。少しずつ覚えていけばいい。よっ…」

スタッ…

王女「(少しずつ、かぁ……)」

盗賊「さ、入ろうぜ」

王女「白馬さんはどうするんです? 置いていくのですか?」

盗賊「ちょっとだけ待っててもらう。あんまり待たせないようにささっと済ませよう」

王女「そうですね。一人は危ないですし……白馬さん、ちょっとだけ待ってて下さいね?」



129以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/04(日) 00:03:12.28cunM1KS2O (2/6)


盗賊「ほら、行こうぜ」

王女「は、はいっ。白馬さん、ちょっと行って来ます」ペコッ

白馬「………」イラッ

ゴツンッ…

王女「あうっ…す、すぐに来ますから」

ゴツンッ…

王女「あうっ…な、何で頭突き…」

ゴツンッ…

王女「あたっ…」

盗賊「(何やってんだ。つーか、やっぱ変わってんなぁ……)」



130以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/04(日) 01:04:10.93cunM1KS2O (3/6)

ーーー
ーー


王女「どうでしょう?」

盗賊「う~ん。似合わないわけじゃないけど、やっぱり違和感があるな」

王女「そうですか……」

王女「出来れば泥棒さんのような服装が良かったのですが、駄目でしょうか?」

盗賊「いや、駄目ってわけじゃないんだ。何て言うか、隠せてないんだよ」

王女「隠せていない? 何をです?」

盗賊「街に来る途中にも言ったけど、気品っていうか姫様の感じが隠せてない」

盗賊「これから追っ手が来るって考えたら、違和感なく見付かりにくい服装が良いだろ?」



131以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/04(日) 01:06:02.29cunM1KS2O (4/6)


王女「確かにそうですよね……」

盗賊「う~ん……あ、これとかどうかな?」スッ

王女「それは、修道服…ですか」

盗賊「俺みたいなもんと一緒にいるのは違和感あるだろうけど、姫様単体で見た時は違和感ないと思うんだ」

盗賊「言葉遣いや仕草もこれ着てれば自然に見えるはずだ。いい案だろ?」

王女「そうですね……ただ、人の眼を欺く為に修道服を着るのはどうなのでしょうか?」

盗賊「……まあ、そのくらいなら神様も目を瞑ってくれるさ。神には誓えないけどね」

王女「フフッ…分かりました。それにしましょう。あまり時間を掛けたら白馬さんに悪いですし」

盗賊「じゃあ決まりだな。一応こっちも買っとくか。姫様が気に入ったやつ」



132以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/04(日) 01:10:18.89cunM1KS2O (5/6)


王女「そんなっ、一着で十分です」

盗賊「せっかく来たんだ。買わなきゃ損だろ? 着るかどうかは別としてさ」

王女「買わなきゃ、損?」

盗賊「だってそうだろ? 外に出てから初めての買い物だし記念みたいなもんだと思えばいい」

盗賊「それに、あって困るもんでもないだろ? 姫様が泥棒になれるかは別としてさ」ニコッ

王女「い、いつか似合うようになります!」

盗賊「ははっ、そっかそっか。じゃっ、楽しみにしとくよ。気長にね」

王女「(意地悪……)」

盗賊「そんじゃ、会計済ませて早くメシ食いに行こうぜ。腹減り過ぎてくらくらしてきた」ザッ

王女「(……何故だろう。薄暗くて変な場所だけれど、とっても楽しくて胸の奥が騒がしい)」

王女「(わたしはお買い物が好きなのでしょうか? それとも服選びが好きなのでしょうか?)」

王女「(どうなんでしょう。もしかしたら、どちらも好きなのかもしれない……)」

王女「(うん、きっとそうだ。いつかまた、こんな風にお買い物が出来たらいいなぁ……)」



133以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/04(日) 01:11:38.89cunM1KS2O (6/6)

また明日


134以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/04(日) 02:09:52.70k/kZxvatO (1/1)

頭突き可愛いなww


135以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/04(日) 02:23:16.24NxtN5HVm0 (1/1)




136以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/04(日) 07:42:58.52cQbeti0Jo (1/1)

牝馬かぁ馬のマ◯コ めちゃくちゃ綺麗なんだよなぁ……


137以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/04(日) 21:07:56.02zg2KpDPrO (1/9)


【訓練場】

騎士団長「う~む……」ウロウロ


『今朝からずっとあの調子だ。いつもなら稽古を付けて下さるのに……』

『姫様の安否を考えているのだろう。賊を捕り逃がしたのは自分の責任だとも言っていたよ』

『……そうか。出来ることならば、いつもの溌剌とした団長に戻って欲しいものだ』

『そうだな。あのような姿を見るていると俺まで沈んでしまうよ……』


騎士団長「(追わなくともよい、か。陛下は何を考えておられるのだろうか? 分からん……)」

騎士団長「(何やらお考えがあるようだが、単に我々騎士団ではなく隠密隊に任せたとも考えられる)」

騎士団長「(何より不可解なのは、何故にあのような話を私にしたのか。ということだ)」



138以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/04(日) 21:09:28.31zg2KpDPrO (2/9)


【訓練場】

騎士団長「う~む…」ウロウロ

『団長は今朝からずっとあの調子だな。いつもなら稽古を付けて下さるのに……』

『姫様の安否を考えているのだろう。賊を捕り逃がしたのは自分の責任だとも言っていたよ』

『……そうか。出来ることならば、いつもの溌剌とした団長に戻って欲しいものだ』

『そうだな。あのような姿を見ていると俺まで沈んでしまうよ……』

騎士団長「(追わなくともよい、か。陛下は何を考えておられるのだろうか? 分からん……)」

騎士団長「(何やらお考えがあるようだったが、単に我々騎士団ではなく隠密隊に任せたとも考えられる)」

騎士団長「(何より不可解なのは、何故にあのような話を私にしたのか。ということだ)」



139以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/04(日) 21:11:08.42zg2KpDPrO (3/9)


騎士団長「(初代王と鴉の騎士……)」

騎士団長「(いや、死の騎士だったか。調べてはみたものの、これと言った成果はなし)」

騎士団長「(それ程の人物であれば騎士団創設の記録に残っているはずなのだが、そのような記述は見当たらなかった)」

騎士団長「(まあ、それはいい。何より気掛かりなのは姫様の安否。しかし、姫様はあの時……ん?)」

射手「………」

騎士団長「どうした? 貴様にも弓兵隊の指導があるだろう?」

射手「……もう昼だ。休憩中」

騎士団長「む、もう昼時か。それは気付かなかったな……ところで、何の用があって此処へ?」



140以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/04(日) 21:12:51.58zg2KpDPrO (4/9)


射手「……当てたが、逃がした。私のせいだ」

騎士団長「そんなことはない!! 私がしっかりしていれば姫様は攫われずに済んだのだ!!」

騎士団長「何よりも姫様を優先すべきだった。なのに、あろうことか戦いに熱くなって……」

射手「……あまり、気に病むな。お前が気落ちすると団の志気が下がる。これ食え」

騎士団長「弁当。貴様が作ったのか?」

射手「……料理すると雑念が消える。それ食って元気出せ」

騎士団長「っ、済まない。気を遣わせてしまったようだな。心遣い、感謝する」ペコッ



141以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/04(日) 21:16:49.91zg2KpDPrO (5/9)


射手「……別にいい。いいから食え」

騎士団長「うむ。ありがたく頂こう」パカッ

射手「……美味いか?」

騎士団長「ああ、美味い。しかし意外だな、貴様に料理が出来るとは微塵も思わなかったぞ」モグモグ

射手「……練習したから」

騎士団長「ん?」

射手「……別に何でもない。たくさん食え」

『団長はいつになったら気付くのだろう。手作り弁当だぞ?』

『さあな。射手さんは口下手だし、うちの団長は煩悩を捨てろとか言う人だし』

『……俺達も食堂で昼飯食おうか。婆さんのしょっぱい手料理だけどな……』

『……そうだな。お二人の邪魔しても悪いし、そうするか』



142以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/04(日) 21:38:11.51zg2KpDPrO (6/9)



騎士団長「………」モグモグ

射手「……何か、あったのか」

騎士団長「ああ。俺の聞き間違いかもしれんが、姫様はあの時……」

射手「……どうした。らしくない」

騎士団長「始めに言っておくが、この話は他言無用で頼む。まだ誰にも話していないことだ」

射手「……分かった。約束する」

騎士団長「あの夜…鞭で脚を取られ転倒した時、朧気ながらに二人の会話を耳にしたのだ」



143以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/04(日) 21:39:52.68zg2KpDPrO (7/9)


射手「……二人とは?」

騎士団長「奴と姫様だ。奴は姫様に一緒に星を見ようなどと言葉巧みに誘ったが、姫様はそれを拒否した」

騎士団長「しかし、君は無機質なモノではない。生きている。そう言われると姫様は……」

射手「……なんだ。言ってくれ」

騎士団長「ッ、此処から連れ出して欲しいと、そう言ったのだ。そこで私は気を失ってしまった」

射手「……姫様は、自ら望んで?」

騎士団長「いや、先ほども言ったが私の聞き間違いかもしれん。そう決めるにはまだ早い」

騎士団長「それに加え、気になることがもう一つある。陛下が追っ手を出さなかったことだ」



144以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/04(日) 21:53:11.72zg2KpDPrO (8/9)


射手「……賊を刺激しない為。そう聞いた」

騎士団長「あくまで個人の考えだが、奴が姫様を殺すとは到底思えない」

射手「……奴は切れてる」

騎士団長「ああ、確かに異常だ。二日続けて王宮に侵入するなど正気の沙汰ではない」

騎士団長「だが対峙してみると、どうにもそのような狂人や異常者の類には見えなかった」

騎士団長「それに、あれだけの警備体制を行き当たりばったりで抜け出せるはずがない」

騎士団長「今朝、侵入手口と脱出手段を聞いた。聞けば聞くほど、良く練らたものだと思ったよ」

射手「……結局、何が言いたい」

騎士団長「奴は姫様を連れ出す為だけに忍び込んだのかもしれん。事実、金品の類は一切盗まれていない」



145以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/04(日) 22:19:10.75zg2KpDPrO (9/9)


射手「……何故、姫様を」

騎士団長「分からん。ただ、輪転機がどうのと言っていたような気もする」

騎士団長「輪転機とは王が所持する転生の秘宝。王が不死である為の宝具」

騎士団長「噂の域を出ないが、姫様は輪転機の在処を知ったが為にあのような場所へ入れられたと聞く。もしかすると……」

射手「……情報を聞き出す。その為に攫った」

騎士団長「そうだ。ただの推測だが、私はそう考えている。或いは……」

騎士団長「受け継がれてきた王の系譜を絶つべく送り込まれた、ニンゲン側の刺客」

ーーー
ーー


盗賊「俺は決めたけど、姫様は?」

王女「あっ、これ…いえ、こっちの方が…どれも美味しそうなので迷ってしまいますね」



146以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 00:03:38.33jAb96GMeO (1/11)


盗賊「じゃあ、両方頼もうぜ?」

王女「えっ?」

盗賊「姫様は自分が食べる分を取る。残りは俺が食べる。そうすれば問題ないだろ?」

王女「……そうは言っても、運ばれている料理を見てみると結構な量ですよ?」

盗賊「ハラ減ってるから大丈夫だって」ウン

王女「いきなり食べると胃が痛くなりますから、ゆっくり食べて下さいね?」

盗賊「分かってるって。あ、注文お願いします!」

看板娘「あっ、は~い」

盗賊「えっ~と、これとこれ…あとこれも頼むわ。野菜多めで」



147以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 00:06:12.74jAb96GMeO (2/11)


看板娘「………」

王女「(急に顔が険しくなった。まさか、またなのでしょうか? 嫌だなぁ……)」

盗賊「あの、聞いてます?」

看板娘「は~い、勿論聞いますよ。盗賊さん」ニコニコ

盗賊「……あっ」

看板娘「やっと思い出しましたぁ?」

看板娘「以前、きみの尻尾はとってもステキだね。って言われて不覚にもキュンときたんですけどねぇ」



148以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 00:11:24.35jAb96GMeO (3/11)


盗賊「あ~、そんなこともあった。かもね……」

看板娘「へ~、修道女さんですかぁ。本当に見境ないんですねぇ」

盗賊「そういうわけじゃーー」

看板娘「どうやらあたしにだけじゃなくて、色んな娘に言ってるみたいですねぇ」チラッ

王女「(笑顔が怖いっ!)」

王女「(けど、綺麗な人…狐のしっぽだ。あっ、ちょっと色が変わってる)」

看板娘「よくもまあ平気な顔して女連れて来られましたねぇ。バカにしてるんですかぁ?」ニコニコ

盗賊「いやいやいや? 詳しくは話せないけど彼女とは色々な事情があってーー」

看板娘「気にしてたしっぽを褒められて舞い上がったあたしの喜びを……返せっ!!」ブンッ



149以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 00:15:44.89jAb96GMeO (4/11)


盗賊「危ねっ!」ヒョイッ

看板娘「避けんなっ!」

ガシッ…

看板娘「ちょっ…離してよ!」

盗賊「いいから聞けよ」グイッ

看板娘「あっ…」

盗賊「きみの尻尾が綺麗だって言ったのは本心だ。これっぽっちも馬鹿になんかしてないよ」

看板娘「じゃあ、その娘はなんなのさ。あたしのことをからかって楽しいわけ?」

盗賊「そんな悪趣味なことはしねえよ。俺は今、彼女の護衛をしてるんだ」



150以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 00:17:46.70jAb96GMeO (5/11)


看板娘「……ほんと?」

盗賊「ああ。嘘だと思うなら思いっ切り叩いて構わないぜ? きみの気が済むならね」

看板娘「なら、遠慮なく」

コツンッ…

盗賊「いてっ…」

看板娘「な~んてね。嘘じゃないのは分かるよ。あんた怪我してるしさ。また無茶したわけ?」

盗賊「あ~、うん。まあ、それなりにね。本当に色々あったんだよ」

看板娘「…ハァ…ねえ、修道女さん」

王女「えっ、わたしですか!? な、何でしょう?」

看板娘「この人、酷いくらい優しいからら本気になっちゃダメだよ?」ボソッ



151以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 00:20:10.53jAb96GMeO (6/11)


看板娘「……ほんと?」

盗賊「ああ。嘘だと思うなら思いっ切り叩いて構わないぜ? きみの気が済むならね」

看板娘「なら、遠慮なく」

コツンッ…

盗賊「いてっ…」

看板娘「な~んてね。嘘じゃないのは分かるよ。あんた怪我してるしさ。また無茶したわけ?」

盗賊「あ~、うん。まあ、それなりにね。本当に色々あったんだよ」

看板娘「…ハァ…ねえ、修道女さん」

王女「えっ、わたしですか!? な、何でしょう?」

看板娘「この人、酷いくらい優しいから本気になっちゃダメだよ?」ボソッ



152以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 00:59:28.10jAb96GMeO (7/11)


王女「えっ?」

看板娘「それじゃ、少々お待ち下さ~い」トコトコ

盗賊「はぁ、化かされたのはこっちじゃねえか。ったく、分かりにくい冗談は止めろよな」

王女「……あの」

盗賊「ん?」

王女「彼女とは何があったのですか? しっぽだけでああはならないでしょう?」

盗賊「ちょっとしたトラブルに巻き込まれてたから助けただけさ。それ以来、あんな感じ」

王女「(……嘘。それだけでニンゲンに対する不信感や敵対心が消えるとは思えない)」

王女「(それどころか、あの方は泥棒さんに好意を抱いている)」

王女「(それが恋愛的なものなのかは分からないけれど。何というか、信頼のような……)」



153以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 01:08:48.34jAb96GMeO (8/11)


看板娘「はいお待ち」

盗賊「お~、相変わらず美味そうだな」

看板娘「あんたさ、あんまり無茶しちゃダメだよ? 一人じゃないんだからさ」

盗賊「はいはい、分かったよ」

看板娘「ったくもう。じゃっ、ごゆっくり」トコトコ

王女「………」

盗賊「どうした? 早く食べようぜ」

王女「あ、はい。そうですね……」

盗賊「?」

王女「(彼を知りたいと思うのは好奇心から? それとも単純に、彼に好意を抱いているから?)」

王女「(何だか、ちょっとだけもやもやします。それに、他人に対してこんなにも干渉的になるなんて……)」

王女「(わたしって、こういう性格だったんだ。本当の本当に、自分のことを知らなかったんですね)」



154以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 01:27:12.21jAb96GMeO (9/11)


盗賊「ほい」ヒョイッ

王女「んぅっ!?」モゴモゴ

盗賊「ははっ、悪りぃ悪りぃ。口開けっ放しだったからさ、どう?」

王女「…ゴクンッ…とっても美味しいです!」

盗賊「そっか、そりゃあ良かった」

王女「でも、もう止めて下さいね? 喉に詰まったりしたら大変ですから」ニコッ

盗賊「は、はい。分かりました」

王女「あ、そうでした。白馬さんは大丈夫でしょうか? 預けた先で何もなければ良いのですが……」

盗賊「性格とかは言っといたから余計なことをしなければ大丈夫だよ。今頃は彼女も大人しくメシ食ってるだろうさ」



155以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 01:44:56.45jAb96GMeO (10/11)


王女「何を食べているんでしょうか?」

盗賊「干し草とか林檎とかじゃないか? 金は渡したし腹いっぱい食ってると思うよ」

王女「ずっと走っていましたからね。凄いですよねっ!白馬さんって!」キラキラ

盗賊「(尊敬してんのかな。いや、多分してんだろうなぁ……向こうはどうなんだろ?)」

ーーー
ーー


白馬「(あの女、今頃は彼と一緒に…チッ、帰ったら一発お見舞いしてやろうかしら)」

白馬「(しかし、此処には碌な男がいないわね。まるでなっちゃいないわ)」

白馬「(彼、後で迎えに来るって言っていたけど早く来てくれないかしら。退屈……)」



156以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 01:46:13.00jAb96GMeO (11/11)

また明日


157以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 02:29:09.16f91Kuai90 (1/1)




158以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 19:40:20.53gVdzg8QYO (1/10)


白馬「(……食べよ)」モグモグ

白馬「(ま、彼が選んだ厩舎だけはあるわ。ご飯の質は悪くない。78点くらいね)」ウン

白馬「(彼があの女と二人きりなのは気に入らないけど、食べてる姿を見られるのって好きじゃないし……)」

『馬を預けたいんだが空いてるかな?』

『ええ、大丈夫ですよ』

『そうか、助かるよ。ところで、あの馬は?』

『ああ、つい先ほどやって来たお客様のものですよ。よい牝馬です。ウチで育てたいくらいですな』

白馬「(フン、まっぴら御免だわ。というか食事中なんだから静かにしなさいよ)」モグモグ

ツカツカ…

『ふむ、まだ若い。これは成長が楽しみだな。競走馬にしたらさぞや人気が出るだろう』



159以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 19:42:16.69gVdzg8QYO (2/10)


白馬「………」ギロッ

『あ、あまり近付かないで下さい。とても気性が荒いとのことなので……』

『この馬を預けたのはどんな男でした?』

『……何故、そのようなことを?』

『友人の馬によく似ているんだ。もしからしたら、と思ってね。どんな風貌だったかな?』

『申し訳ありませんが他のお客様のことはお話出来ません。トラブルの元ですので……』

『女性を連れていなかったか?』

『いえ、お一人でした。さあ、もうよろしいでしょう。手続きはこちらでお願いします』トコトコ



160以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 19:49:05.54gVdzg8QYO (3/10)


『……怖いか?』

白馬「………」フンッ

『中々肝が据わってるな。普通なら逃げ出すか暴れ出すんだが……』

白馬「(こいつ…)」

『睨み返すとは良い度胸だな。ニンゲンに渡すには惜しい馬だ。まあ、今はいい。今は…』

『お客様?どうされました?』

『……ああ、これは済まない。あまりに美しいものだから見惚れてしまってね。今行くよ』

ツカツカ…

白馬「(っ、何なのあいつ……鼻が曲がりそう。何で誰も気付かないの?)」

白馬「(まるで汚濁そのものを煮詰めたような悪臭。こんなにも酷い臭いは嗅いだことがない)」



161以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 20:01:48.46gVdzg8QYO (4/10)


白馬「(あれは何かが違う…)」

白馬「(あいつは『今は』と言っていた。それが本当なら、まだ時間はある)」

白馬「(彼とわたしを追ってきたのは間違いない。もしくは、あの女を狙っている)」

白馬「(伝えるにも苦労しそうだけど、彼が来たら何とかして伝えないと……)」

ーーー
ーー


盗賊「はぁ~、こちそうさまでした!」パンッ

王女「フフッ…ご馳走さまでした」

盗賊「ハラ減ってたのもあるけど、やっぱり美味かったなぁ。うん、満足」

王女「泥棒さん、本当に全部食べちゃいましたね……道行く方も見入ってましたよ?」



162以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 21:25:56.71gVdzg8QYO (5/10)


盗賊「そうでなくちゃ困る」

王女「?」

盗賊「泥棒になりたい姫様に一つだけ教えよう。泥棒とは目立ちたがり屋でなくてはならない」

王女「えっ? 主に暗がりや路地裏などを移動するのではないのですか?」

盗賊「と、思って捜すだろ?」

王女「……あっ、なるほど。泥棒ではなく泥棒を追う立場になって考るということですね?」

王女「確かにこんな人通りの多い場所。まして屋外で食事しているだなんて想像もしないです」

盗賊「でも、確実に姿を消す方法はない。向こうだって泥棒の立場になって考えてるからね」

王女「へぇ~、そういう駆け引きがあるんですか。色々考えているのですね」



163以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 21:31:03.25gVdzg8QYO (6/10)


盗賊「そう、時には派手に大胆に」

盗賊「ある時は繊細且つ慎重に…ってね。状況によって変わるんだ。服装とか仕草とかもね」

王女「泥棒さんはどっちが好きですか? 派手か、慎重か」

盗賊「派手か慎重か?」

盗賊「そんなこと聞かれたのは初めてだな。そうだな、強いて言うなら……どっちも?」

王女「フフッ、両方ですか。欲張りなんですね」

盗賊「そりゃもう当たり前さ!」

盗賊「って言うか、欲張りで目立ちたがりじゃなきゃダメだ。そうじゃなきゃ面白くない」



164以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 21:33:35.49gVdzg8QYO (7/10)


王女「質問があります」ハイ

盗賊「はい、どーぞ」

王女「それは盗むのが楽しいのですか? それとも盗むまでが楽しいのですか?」

盗賊「ん~。そう聞かれるとどうなんだろうな? あんまり考えたことねえや」

王女「では、質問を変えます」ハイ

盗賊「ん。どーぞ、何でも聞きたまえ」

王女「色々な女性に気のあるような素振りや言動をしているというのは本当ですか?」

盗賊「……え~っと。保留出来ます?」

王女「残念ながら出来ないようです」ニッコリ

盗賊「……別にそんなつもりはない。ってこともないんだけどさ。何て言うかなぁ…」



165以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 22:02:57.69gVdzg8QYO (8/10)


王女「(何と答えるのでしょう?)」

盗賊「まず、男なら女の前で格好付けます。そういうもんです。多分」

盗賊「女だって美しくありたい綺麗に見られたいと思うだろ? それと同じさ」

王女「それは、そうかもしれませんけど……」

盗賊「だろ? で、男ってのは強がって粋がって死ぬまで走り続けるんだよ。本当に、死ぬ瞬間まで……」

王女「(顔を伏せた…声も少しだけ震えているような……)」

盗賊「いつかヘマして死んじまってもさ。あいつは格好の良い泥棒だった。そう言われたいんだ」

盗賊「って言うと子供っぽいかな?」

王女「い、いえっ! そんなことはないです。わたしには理解は出来ないですけど……」



166以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 22:48:17.62gVdzg8QYO (9/10)


盗賊「はははっ!そうだよな。まあ、俺はそんな感じ」

王女「(……笑ってる。わたしの気のせいだったのでしょうか?)」

盗賊「お~い、金はテーブルに置いとくからな~!」チャリン

看板娘「は~い!良かったらまた来てね!」

盗賊「おう、ごちそうさま!」

盗賊「さ~て、そろそろ迎えに行くか。首長~くして待ってるだろうからさ」

王女「ええ、そうですね」

盗賊「ふ~、腹一杯食ったら眠くなってきた。早めに宿の予約しとくかぁ」

王女「(……自分から聞いておいて何ですが、何故話してくれたのでしょう?)」

王女「(先ほどのは本当は全部嘘で、はぐらかしただけなのでしょうか? それとも全部本当のことを話したのでしょうか?)」



167以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 22:56:48.87gVdzg8QYO (10/10)


盗賊「姫様?」

王女「いえ、何でもありません。行きましょう」

トコトコ…

王女「(考えが読めなくて不思議な人……でも、だからこそ知りたいと思う)」

王女「(本の続きが気になる感覚と似ている。早く知りたい。もっと見ていたい)」

王女「(でも、そう簡単には結末に辿り着けない。泥棒さん、それはわざと? それとも天然?)」

盗賊「蛇料理か。美味いのかな……」

王女「(フフッ、きっとあれが自然なんですね。表も裏もない、そのままの姿……)」

王女「(わたしは彼と居て楽しいと感じている。だったら難しく考える必要はない)」

王女「(わたしの結末は変わらないけれど、こうして外に出られただけでも幸せなのだから……)」



168以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/06(火) 07:39:36.15VP+l2tcRO (1/2)


ザワザワ…

盗賊「ん? 何だか騒がしいな」

王女「泥棒さん!あ、あそこを見て下さい!」

盗賊「……煙、ありゃあ厩舎のある辺りだな。こっからじゃ分からねえ。急ごう」

王女「は、白馬さんは大丈夫でしょうか?」

盗賊「姫様。今は彼女の心配より自分の心配をした方がいい。もしかすると追っ手が来たのかもしれない」

王女「だからってあんなことを…」

盗賊「まだそうと決まったわけじゃない。でも、もしそうなら。あれは狼煙かもな」

王女「複数で来たと? 王宮から騎士が来たのなら街が騒ぎになると思いますが……」

盗賊「騎士じゃねえのかもしれない。とにかく、行ってなけりゃ分からない」



169以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/06(火) 07:43:31.33VP+l2tcRO (2/2)

また夜


170以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/06(火) 12:15:18.51CqMs2SY0O (1/1)

白馬さん…


171以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/06(火) 20:08:38.41Z6mKXuU6O (1/13)


ザワザワ…

盗賊「ん? 何だか騒がしいな」

王女「人集りが出来ていますね。何があったのでしょ…ど、泥棒さん。あれ……」

盗賊「……煙? ありゃあ厩舎のある辺りだな。こっからじゃよく分からねえな。急ごう」

王女「は、白馬さんは大丈夫でしょうか?」

盗賊「姫様。今は彼女の心配より自分の心配をした方がいい。もしかすると追っ手が来たのかもしれない」

王女「だからって火を付けるなんて…延焼して大火になったら街の人がーー」

盗賊「そうと決まったわけじゃない。追っ手の連中が上げた狼煙の可能性もある」

王女「王宮から大勢の騎士が来たのなら街が騒ぎになると思いますが……」

盗賊「騎士じゃないのかもしれない。とにかく行こう。直接見なけりゃ分からない」



172以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/06(火) 20:11:53.06Z6mKXuU6O (2/13)


王女「そ、そうですよね……」

盗賊「(とは言ってみたものの…すっげー嫌な予感がする。妙な感覚だ。気持ち悪りぃ)」

王女「(……もしこれが追っ手の仕業なら、わたしが外に出たせいだ)」

王女「(外に出ても輪転器であることは変わらない。大人しくあの部屋にいるべきだったんだ)」

盗賊「姫様、背中に乗れ。俺が姫様をおぶって走った方が早い。はぐれる心配もないしな」

王女「でも、背中の傷がーー」

盗賊「いいから早く乗ってくれ。離れられちゃ困るんだ。姫様だって迷子になりたくないだろ?」

王女「……分かりました」ギュッ

盗賊「ッ…よし、行こうか。それから、あんまり考えるな。自分を責めたって何も変わらない」ダッ



173以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/06(火) 20:14:37.07Z6mKXuU6O (3/13)


王女「わたしは何も言ってません……」

盗賊「言わなくても顔見りゃ分かるよ。姫様は顔に出やすいから」

王女「…………」

盗賊「(落ち着いたら話してみるか。でも、今はこっち優先だ。追っ手の仕業かどうか確かめねえと)」

ーーー
ーー


盗賊「はぁっ、はぁっ…厩舎は無事みたいだな」

王女「ええ、煙は既に収まっているようですね。火事ではなくて良かった……」

『なあ、何があったんだ?』

『ついさっき兵士の会話を聞いちまったんだが、厩舎の主が焼け死んでたって話だ……』



174以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/06(火) 20:17:40.06Z6mKXuU6O (4/13)


『ってことは、さっきの煙…おぇっ…』

『……そういうことだろうな。気の良い人だったのに…本当に残念だよ』

王女「えっ…そんな……」

盗賊「…………」

『し、焼身自殺ってやつか?』

『そこまでは分からんよ。ただ、壁に妙な落書きがあったとか何とか言ってたような……』

盗賊「……悪い。ちょっと通してくれ」ザッ

王女「ど、泥棒さん。わ、わたしっ……」

盗賊「さっきも言ったろ。まだ、そうと決まったわけじゃない」

盗賊「仮に追っ手の仕業だとして、騎士団の連中が無関係の奴を手に掛けるとは思えない」



175以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/06(火) 20:23:30.87Z6mKXuU6O (5/13)


王女「で、でもっ…」ガタガタ

盗賊「(駄目だ。完全に怯えちまってる。あんな話を聞いたんだ。落ち着けって方が無理か)」

警備兵「此処は今立ち入り禁止…お前、ニンゲンか?」

盗賊「ああ、見ての通りニンゲンだ。此処に馬を預けてたんだけど……」

警備兵「入れ。俺もお前に聞きたいことがある。背中にいる女性は?」

盗賊「連れの修道女さんだ。事情は聞かないでくれると助かる」

警備兵「……まあいいだろう。付いて来い」

盗賊「(妙だな。ニンゲン嫌いが滲み出てんのにすんなり現場に入れるなんて…)」

王女「泥棒さん、辛いでしょう? もう下ろしてください。自分で歩けますから……」



176以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/06(火) 20:29:04.08Z6mKXuU6O (6/13)


盗賊「……分かった」トサッ

盗賊「なあ姫様。かなり気分が悪いだろうけど、俺の傍から離れないでくれ」

王女「……はい。あのっ、腕に掴まっていてもよろしいでしょうか?」

盗賊「ああ。でも無理に見る必要はない。近くにさえいてくれればーー」

王女「いえ、行きます。わたしなら大丈夫です。大丈夫ですから……」キュッ

盗賊「……分かったよ。じゃあ、行こうか」

ザッ…ザッ…

王女「あれ、馬がいない。預けに来た時は沢山いたのに。白馬さんはーー」

警備兵「馬なら裏手の牧場にいる。この厩舎の主の焼死体と一緒にな」



177以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/06(火) 21:29:08.20Z6mKXuU6O (7/13)


盗賊「どういう意味だ」

警備兵「見て貰った方が早いんだがな。そちらの女性には刺激が強すぎるだろうから説明しよう」

盗賊「……助かるよ」

警備兵「主人は首を斬られて殺害。馬も同様の手口で殺害されていた。預けられていたものも含めてだ」

警備兵「何の理由があって馬を殺害したのかは分からないが、奇妙なのはここからだ」

盗賊「野次馬の話だと燃やされてたらしいな」

警備兵「それだけじゃない。主人の遺体は山積みされた首無し馬の上にあった」

警備兵「両手を頭上より高い位置まで伸ばし、自分の頭部を掲げるようにしてな」



178以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/06(火) 21:31:26.08Z6mKXuU6O (8/13)


王女「うっ…」フラッ

ガシッ…

盗賊「……大丈夫か?」

王女「ご、ごめんなさい。大丈夫です」

警備兵「ああ、これは済まない。火に当てられたせいか説明に熱が入りすぎたようだ」ニコリ

盗賊「随分と悪趣味な男だな」

警備兵「その台詞は是非とも犯人に言ってやってくれ。一番迷惑しているのはこっちなんだ」

盗賊「……で、俺みたいなニンゲンを現場に入れた理由は?」

警備兵「どうやら一頭が逃げ出したようなんだ。その馬は青ざめたような毛色だったらしい」

警備兵「門番の話によれば、その馬は門を抜けて街の外へと逃げ出したそうだ」



179以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/06(火) 21:33:57.69Z6mKXuU6O (9/13)


盗賊「それは俺が預けた馬だ」

警備兵「ほう、意外に正直だな。ニンゲンにしては」

盗賊「あんたは一言余計なんだよ。それで?」

警備兵「犯人は馬が怯えて逃げ出す前に殺害出来るような奴だ。首を一太刀で両断してる」

警備兵「手際が良いと言うか、そのままの意味で手が早いんだろう。凄まじくな」

警備兵「そんな奴が一頭だけ見逃したんだ。何か意味があると思うだろう?」

盗賊「ああ、俺もそう思うよ」

警備兵「気が合うな。それから、外壁には次のような殴り書きがあった。血文字でな」ニコリ

王女「………」カクンッ

盗賊「ッ、あんたには呆れたよ。余計なことは言わずにさっさと話してくれ」



180以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/06(火) 22:12:11.40Z6mKXuU6O (10/13)


警備兵「冠を戴くのは勝利者」

警備兵「我が王冠は貴様の手に在り。貴様の王冠は我が手に在る。さあ、戴冠の戦を始めよう」

盗賊「いや、まるで意味が分からねえ。思いっ切りイカレてんじゃねえか」

警備兵「追伸」

盗賊「は?」

警備兵「嘘吐きは嫌いだ。嘘を吐かせのは貴様だな。実に良い馬だ。生かしておこう」

盗賊「………」

警備兵「生きているのはお前の馬だけだ。これはお前に向けられたメッセージで間違いない」



181以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/06(火) 23:39:04.14Z6mKXuU6O (11/13)


警備兵「嘘を吐かせたというのは何だ?」

盗賊「馬を預けた時、誰に何を聞かれても一人だったと言ってくれって主人に頼んだ」

盗賊「嘘を吐かせたと言われて思い浮かぶのはそれだけだ。他に思い当たる節はない」

警備兵「何故そんなことを言った」

盗賊「さっきも言っただろ。理由は聞かないでくれると助かるってな」

警備兵「今、それが通用すると思うのか?」

盗賊「分かった分かった。怖い顔すんな、ちゃんと答えるよ」



182以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/06(火) 23:41:03.58Z6mKXuU6O (12/13)


警備兵「さっさと言え」

盗賊「道ならぬ恋ってやつさ。見ての通り彼女は修道女でね。一緒に逃げて来たんだ」

警備兵「修道女である前に、ニンゲンと恋に落ちる女がいるとは思えないがな」

盗賊「なんなら彼女に聞けばいい。あんたのせいで気を失っちまったけどな」

警備兵「…チッ…心当たりは?」

盗賊「こんなに素敵な女性をニンゲンが奪ったんだ。恨んでる男なんて山ほどいるだろうさ」

警備兵「……だろうな。彼女を抱えていなければ叩き斬ってるところだ」

盗賊「あんた、意外と素直なんだな。もっと冷静で嫌味な奴かと思ってたよ」



183以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/06(火) 23:45:53.47Z6mKXuU6O (13/13)


警備兵「口の減らない奴だ」

盗賊「それはお互い様だろ?」

盗賊「それより、俺なんかに構ってる暇があるなら犯人を捜した方が良いと思うぜ?」

警備兵「………」

盗賊「……もう用がないなら行かせてもらうけど、いいかな?」

警備兵「……いいだろう。今のところは見逃してやる。ただ、犯人が見付かるまで街から出ることは許さない」

盗賊「……そんなつもりはねえさ」ボソッ

警備兵「何?」

盗賊「いや、何でもない。色々教えてくれて助かったよ。じゃあな」ザッ

警備兵「(狂人に狙われていると知っても冷静さを保っていられるとはな。奴は何者だ?)」

警備兵「(奴の正体はともかく、この事件に関わる重要人物であることは間違いない。監視を付けるか)」



184以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/07(水) 01:15:05.90KuT/zeXNO (1/4)


トコトコ…

盗賊「(どう考えても普通じゃねえ)」

盗賊「(俺を狙うってんなら分かる。無関係の奴まで平気で殺すのがどうかしてる)」

盗賊「(あんなに残忍な方法で殺す意味が分からねえ。犯人の目的なんなんだ?)」

盗賊「(王冠ってのが姫様のことを指してんなら、やっぱり輪転器絡みだよな……)」

盗賊「(王宮から遣わされた奴か?)」

盗賊「(いや、王宮から遣わされた奴が殺しをする理由がねえ。狙うなら俺にするはずだ)」

盗賊「(ましてあの爺さんが指示したとは考えらんねえ。なら爺さんとは無関係の、独自で動いてる暗殺者?)」

盗賊「(……輪転器を暗殺せんとする者がいるとか言ってたけど、暗殺者にしては過激だ)」

盗賊「(恨みっつーか怨念めいたもんを感じる。あの爺さん、やっぱり何か隠してやがるな)」



185以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/07(水) 01:34:21.46KuT/zeXNO (2/4)



盗賊「(……駄目だ。幾ら考えても分かりゃしねえ)」

盗賊「(ただ確かなことは、死人が出ちまったってことだ。気の優しいオッサンだったのに……)」

盗賊「…………」ギリッ

盗賊「(もし死人が出るとしても、それは俺だと思ってた。それが間違いだったんだ)」

盗賊「(俺の考えが甘かったせいでオッサンを巻き込んじまった。俺が死なせちまったんだ)」

王女「…んっ…うぅ…」

盗賊「(……魘されてるのか)」

盗賊「(姫様もかなり参ってる。目が覚めたら泣くだろう。きっと自分を責めるだろう)」

盗賊「(……くそっ!何が輪転器だ。何が魔王だ。何でこの娘じゃなきゃならねえんだよ)」



186以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/07(水) 01:38:51.71KuT/zeXNO (3/4)


盗賊「(何で、こんな娘一人に押っ被せんだよ)」

盗賊「(普通の娘じゃねえか。自由になりてえと思って何が悪りぃんだよ)」

盗賊「(外を見たかっただけなんだぜ? ただそれだけなのに、何でこんなことになっちまうんだ)」

盗賊「(……姫様を守ると約束した。いや、今はもうそんなことはどうでもいい)」

盗賊「(約束がなくても絶対に守る。でもな、狙うなら俺を狙えよ糞野郎……)」

盗賊「(戴冠式だか何だか知らねえが、俺とお前の戦だろうが。他の奴に手を出すんじゃねえ)」


『あれが輪転器。ふむ、あれならば申し分ないだろう。あれこそ私に相応しい』


盗賊「…………」ピクッ


『勘の良い奴だ』

『少々手こずるかもしれないな。だが、それは必ずやこの私が貰い受ける』



187以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/07(水) 01:39:56.26KuT/zeXNO (4/4)

また明日


188以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/07(水) 13:38:29.58QY4AFE940 (1/1)




189以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/08(木) 21:31:10.22X9kGqpLKO (1/3)


【詰所】

警備兵「……有り得ない」

警備兵「(犯人を目撃したという情報は数多く寄せられた。そこまでは順調だった)」

警備兵「(だが何故だ。あれだけの目撃情報がありながら何故見付からない……)」

警備兵「(白銀の甲冑を身に付けた騎士)」

警備兵「(そんな目立つ格好をした奴が、どうやったら姿を消せるというんだ)」

警備兵「(甲冑などそう簡単に脱ぎ捨てられるものではない。かといって持ち歩けるわけもない)」

警備兵「(派手な現場。多くの目撃情報。俺も含め警備隊の皆は早期解決すると思っていた)」

警備兵「(だが、一向に進展は見られない。一切の手掛かりも掴めていない)」

警備兵「(確かなことは、犯人はあのニンゲンに対して並々ならぬ感情を抱いているということだ)」

警備兵「(そこで、一度犯人から離れ、あのニンゲンについて調べてみることにした)」



190以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/08(木) 22:39:07.56X9kGqpLKO (2/3)


警備兵「(だが、それも空振りに終わりそうだ)」

警備兵「(ニンゲンの犯罪者名簿。これを見始めてから何時間が経っただろうか……)」

警備兵「(幾らページをめくっても、出てくるのは人相書きに処刑済みの判が押されている者のみ)」

警備兵「(まあそうだろう。こちら側で犯罪を犯すということはそういうことだ)」

警備兵「(だからこそ、これは犯罪者名簿ではなく死亡者名簿と呼ばれている。故に、これを見る者などいない)」

警備兵「(ニンゲンの前科者など存在しない。何故なら既に処刑されているから。これが我々の常識になっている)」

警備兵「(しかし奴の落ち着きようから見て、まず真っ当な生き方はしていないだろうということは分かる)」

警備兵「(そう思ってリストを見てみたものの、やはり処刑済みの判で埋め尽くされている)」



191以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/08(木) 23:16:00.09X9kGqpLKO (3/3)


警備兵「……ふ~っ。もう、夜か…」

バサッ…

警備兵「チッ…事務員の奴め」ガタッ

スタスタ…

警備兵「(書類整理くらいしっかりしろ。茶を啜りに来るのが仕事だとでも思ってるのか。まったく……?)」

警備兵「これは中央から届いた犯罪者名簿? 届いたのは、今朝か……」ペラッ

警備兵「……!!?」

警備兵「(罪状は王宮への侵入。暗殺未遂。現行犯逮捕。特別独房行き。処刑確定……)」

警備兵「これは、これは一体どういうことだ?」

警備兵「(この人相書きは間違いなく奴だ。それはいい。問題は既に処刑済みの判が押されているということだ)」

警備兵「(こんな大罪人を生かす理由がない。が、奴は確かに生きている)」

警備兵「(まるで意味が分からない。死亡者扱いにしてまで生かしている理由は何だ?)」

警備兵「(……どうやら、もう一度話をする必要がありそうだな…)」



192以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/09(金) 00:29:36.99qg9BFOksO (1/6)


【宿屋】

王女「んっ…暗…」

盗賊「あ、起きたのか。おはよう姫様。よく眠れた?」

王女「あの、此処は……」

盗賊「あぁ、此処は宿屋だよ。姫様の部屋みたいに立派なもんじゃないけどね」ニコッ

王女「……ごめんなさい」

盗賊「?」

王女「昨晩からというもの、わたしは泥棒さんには迷惑ばかり掛けてしまっています」

王女「此処までも泥棒さんが運んでくれたのでしょう? 今更ですけど、何だか情けなくて……」

盗賊「そんなことねえよ。それに、姫様は軽いから運ぶのは楽だったしさ」ウン



193以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/09(金) 01:03:27.21qg9BFOksO (2/6)


王女「何故ですか…」

盗賊「何故って何が?」

王女「何故そんな風に出来るのですか? わたしと一緒にいても碌なことにならないのに……」

盗賊「何だよ急に。どうしたんだ?」

王女「人が殺されたんですよ!? わたしが外に出なければこんなことにはならなかった!!」

盗賊「…………」

王女「泥棒さんに傷を負わせたのも厩舎の主さんを死なせてしまったのも、元はと言えばわたしの我が儘のせいです」

王女「……あまりにも軽く考えていました。何処へ行こうと、わたしは輪転器なんです」



194以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/09(金) 01:37:26.99qg9BFOksO (3/6)


王女「………戻ります」

盗賊「それは駄目だ。俺がさせない」

王女「何故ですか!? だってこのままじゃ、また関係のない方がーー」

盗賊「姫様、少し落ち着いてくれ。それから、今から俺が話すことを良く聞いて欲しい」

王女「………はい」

盗賊「……俺は、きみを外へ連れ出すように頼まれた。きみの父親、魔王からね」

王女「えっ…」

盗賊「俺に依頼した理由は内部に輪転器を暗殺しようとする奴がいるからだと言ってた」

盗賊「だから、王の力が受け継がれるまできみを守って欲しい。そう依頼されたんだ」

盗賊「そして、俺はその依頼を受けた。きみを連れ出し、きみを守る為に」



195以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/09(金) 02:11:15.86qg9BFOksO (4/6)


王女「……そう…だったのですか……」

盗賊「それから、厩舎の主を殺害した犯人は俺にメッセージを残してた」

盗賊「どうやら俺と王冠を賭けた戦をしたいらしい。その王冠ってのは、おそらくきみだ」

王女「………」

盗賊「酷なことを言うけど、きみが王宮に戻ろうが外にいようが命を狙われることに変わりはない」

王女「……依頼されたから…ですか?」

盗賊「?」

王女「連れ出してくれた時の言葉も、高所で励ましてくれたことも……」

王女「これまでの優しい言葉や笑顔…」

王女「昨晩から今に至るまでの全ては、父に依頼されたからしたことなのですか?」



196以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/09(金) 02:50:16.76qg9BFOksO (5/6)


王女「泥棒さん。答えて下さい……」

王女「あなたがわたしに向けてくれたもの。あれらは全て偽りだったの?」

盗賊「違う」

王女「あなたがわたしに見せてくれたものは何? 何もかも依頼されたからやっていたことなの?」

盗賊「違う」

王女「あなたは何の為にわたしを連れ出したの? 報酬を得たいから?」

盗賊「……違うよ」

王女「なら何故です?」

王女「何故そこまでしてくれるのですか? わたしには、あなたが見えません」ポロポロ



197以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/09(金) 03:09:23.09qg9BFOksO (6/6)


盗賊「一目惚れしたから」

王女「えっ…」

盗賊「あの時、きみに一目惚れした。今まで見た何よりも綺麗で、誰よりも輝いて見えた」

王女「……それは…わたし?」ポロポロ

盗賊「そう、きみだよ。輪転器なんかじゃない。きみを盗みに行ったんだ」

王女「ほんとう?」

盗賊「本当さ。まあ、当初は輪転機を盗もうとしてたけどさ……」

盗賊「俺はきみを連れ出して、色々なものを見せたくなった。勿論、きみの同意を得てからね」ニコッ

王女「……グスッ…うぅ~…」

盗賊「え~っと…大丈夫?」

王女「ぜんぜん大丈夫じゃないです。泣きすぎて頭が痛いです。うれしくて、はずかしいです」



198以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/09(金) 03:35:32.20zFPvQqIIO (1/1)


盗賊「そっか。盗んで良かったよ」

王女「……わたしも、ぬすまれてよかったです」

盗賊「はははっ、やっぱり変わってんなぁ」

王女「泥棒さんはひどいです。ひとの気持ちをもてあそんで…グスッ…」

盗賊「……あのさ」

王女「はぃ?」

盗賊「守るから。きみを傷付けないように、傷付けるものから守るよ……」

王女「……泥棒さん…」

盗賊「だからさ、嬉しいなら笑ってくれよ。泣いてる顔は、あんまり見たくないんだ」

王女「……グスッ…いまは、むりです。それどころじゃないです。うれしすぎて…ダメです……」

盗賊「……そっか」

王女「(泥棒さん…ありがとう。わたしを見てくれて…そんな風に言ってくれて、ありがとうございます……)」



199以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/09(金) 11:37:50.44mq/ikPRzO (1/1)


お姫から不穏なオーラを感じなくもないね


200以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/09(金) 14:18:40.02bhFvH77MO (1/1)

なんだスイーツか


201以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/09(金) 19:41:38.63VveZrm8XO (1/1)

スイーツってまだ使われてたんだ
久しぶりに見た気がする


202以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/09(金) 23:57:18.98DnhtZz7aO (1/2)


王女「…グスッ…」

盗賊「あんまり泣きすぎると枯れちまうぞ?」

王女「……大丈夫です。こんなに泣いたのは初めてなのでまだまだ泣けます。今までずっと泣き溜めしてましたから」

盗賊「寝溜め食い溜めは聞いたことあるけど、泣き溜めは初めて聞いたな……」

王女「わたしも初めて言いました。でも、泣くっていいですね。すっきりしました」

盗賊「落ち着いた?」

王女「……油断してるとまた泣きそうです」

盗賊「あ~、それは困るな。そうだ、準備するから手伝ってくれないかな」



203以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/09(金) 23:59:41.57DnhtZz7aO (2/2)


王女「準備ですか? 一体何の?」

盗賊「傷付けないとか言っといてなんだけどさ、犯人と戦うことになると思うんだ」

王女「戦うって…まさか犯人とですか!?そんなの危険過ぎますよ!!」

盗賊「分かってる。けど、そうするしかない。あんなことをする奴だ。避けることは出来ない」

盗賊「宿屋の周りには街の警備隊がいる。俺を監視してるんだ。だから、街から出ることも出来ない」

王女「そんなっ…まだ傷も癒えていないんですよ? そんな体で戦ったらどうなるかーー」

盗賊「ああ、どうなるか分からない」

盗賊「ただ、そうしなきゃ終わらないってことは確かだ。奴が諦めるとは到底思えない」

盗賊「俺の後を付けて背後から刺す。そんな奴ならまだマシだった。奴は違うんだよ」



204以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/10(土) 00:03:01.6155cdPeiLO (1/5)


王女「違う?」

盗賊「狙ってる奴に対して自分の存在を知らせるなんてことはしない。普通ならね」

盗賊「奴の執着心はそれだけ異常なんだよ。それを示す為に殺した可能性は充分にある」

盗賊「ただ、俺を狙っているのか姫様を狙っているのか。それが読めないんだ」

王女「……泥棒さんは先ほど王冠という表現をしていましたよね? あれも犯人の?」

盗賊「ああ。我が王冠は貴様の手に、貴様の王冠は我が手に在り。そんな文面だった」

盗賊「俺か姫様か。どっちが狙われてようと危険だってことは変わらない」

王女「……泥棒さんが考えている通り犯人の王冠がわたしを指しているとしたら…」

王女「泥棒さんの王冠とは何なのでしょう? 文面通りに捉えれば犯人が持っているんですよね?」



205以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/10(土) 00:28:30.3655cdPeiLO (2/5)


盗賊「何か、そうみたいだな」

盗賊「でも、どれだけ考えたって誰かに何かを預けた憶えはないんだ。混乱させるつもりなのかもしれない」

盗賊「そもそも白銀の甲冑を身に着けた騎士の知り合いなんていねえしさ」

王女「……白銀の騎士?」

盗賊「目撃者は口を揃えてそう言ってた。すぐに見付かりそうなもんだけどーー」

王女「泥棒さん。目撃者の方達は本当に白銀の騎士と言っていたんですか?」

盗賊「ああ、目撃者は大勢いるみたいなんだ。宿屋に来るまでに何度か耳にしたよ」



206以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/10(土) 01:02:12.8455cdPeiLO (3/5)


王女「白銀の騎士。白い騎士…」

王女「あのっ、壁に書かれていた文面のことをもう少し詳しく教えて下さいませんか?」

盗賊「え~っと、王冠を戴くのは勝利者。戴冠の戦を始めよう。とかだったかな」

王女「!!」

盗賊「何か心当たりでもあるのか?」

王女「その…でもこれは…」

盗賊「些細なことでもいいんだ。知ってることがあるなら教えてくれないか」

王女「……全面戦争にはならなかったものの、我々とニンゲンは過去に三度の戦をしています」

盗賊「今の線引きが出来上がる前の時代だろ?最後の戦は三百年も前だっけ? それがどうかしたのか?」

王女「その戦の度に、歴史に名を残すような騎士が現れて戦を収束させているのです」

王女「一度目の戦に現れたのが白い騎士。攻め入ったニンゲンを退けた後、すかさず侵攻を開始」

王女「そこからは勝利に次ぐ勝利。当時の境界線を塗り替え領土を拡大したという話です」



207以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/10(土) 01:26:24.7755cdPeiLO (4/5)


盗賊「勝利に次ぐ勝利、ね」

王女「ええ。更にはその時代の王から王冠を力を受け継ぎました。つまりは戴冠です」

王女「ですが、幾ら活躍したとはいえ騎士が王になるなど余りに荒唐無稽な話……」

盗賊「まあ、確かにそうだな」

盗賊「その頃には既に輪転器はあるわけだし、次期王も決まってるはずだ」

王女「その通りです。だからこそ白い騎士には様々な憶測があります」

王女「わたしが読んだ文献の中では、白い騎士は自分が王となるべく王にさえも戦を挑んだ。とありました」



208以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/10(土) 01:33:43.1655cdPeiLO (5/5)


盗賊「勝利に次ぐ勝利、ね」

王女「ええ。更にはその時代の王から王冠と力を受け継ぎました。つまりは戴冠です」

王女「ですが、幾ら活躍したとはいえ騎士が王になるなど余りに荒唐無稽な話……」

盗賊「まあ、確かにそうだよな」

盗賊「その頃には既に輪転器はあるわけだし次期王も決まってるはずだ」

王女「その通りです。だからこそ白い騎士には様々な憶測があります」

王女「わたしが読んだ文献の中では、白い騎士は自分が王となるべく王にさえも戦を挑んだ。とありました」



209以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/10(土) 08:57:56.69GbC1UfhZO (1/1)


盗賊「戴冠の戦か……」

王女「はい。事実かどうか確かめる術はありませんが、似通った部分があると思ったのでお話ししました」

盗賊「……姫様。その白い騎士はどうなったんだ?」

王女「数多くの勝利を積み上げた彼も、死に勝利することだけは叶いませんでした」

王女「彼は共に戦を駆けた甲冑を身に着けたまま亡くなった。と記されていました」

盗賊「一応聞いておくけどさ、そいつは死んだんだよな?」

王女「勿論です。一度目の戦は千年近くも前ですから。でも、やっていることも似ているので何だか怖ろしくて……」



210以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/10(土) 16:26:16.19XZo31lO7O (1/4)


盗賊「似てる?」

王女「彼の逸話と事件の内容です」

王女「彼は積み上げた遺体の上に立つと、これこそが勝利の証であるとした。ともありました」

盗賊「勝利と功績か。そういったもんを誇示すんのが大好きな奴だったんだな」

王女「ええ。挿し絵では積み上げた屍の上に城を築く姿が描かれていましたから……」

盗賊「う~ん。聞けば聞くほど似てるな。犯人はそいつを真似てんのかもな」

王女「わたしもそう思います」

王女「自分を他人だと思い込み、あたかも本人であるかのように振る舞う」

王女「度を超した憧れや崇拝が心蝕み。遂には塗り潰してしまう。それはとても怖ろしいことです」

盗賊「……もしかしたら、生まれ変わりたかったのかもしれないな」



211以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/10(土) 16:28:17.27XZo31lO7O (2/4)


王女「えっ…」

盗賊「自分に嫌気が指して、違う誰かになりたかったのかもしれない」

盗賊「まあ、本当のところは本人に聞いてみなきゃ分かんねえけどさ」

王女「(わたしもそうなってしまうのでしょうか。力を受け継いだ時、まったくの別人に…)」

盗賊「まっ、幾ら考えても仕方ねえか。でも勉強なったよ。ありがとう」

王女「いえ、そんな…でも、警備隊の方達は知らないのでしょうか?」

盗賊「何を?」

王女「白い騎士のお話です。捜査の役に立つかは別ですけれど……」



212以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/10(土) 16:29:25.98XZo31lO7O (3/4)


盗賊「有名な話なのか?」

王女「そう言われると…どうなのでしょうか。外ではあまり知られていないのかも……」

盗賊「(そうか。知識の一つを取っても比較する相手がいねえから分からねえんだ)」

盗賊「(姫様の世界と外の世界じゃ知識の常識ってやつが違うんだろうな……)」

王女「あっ、そうでした」

盗賊「?」

王女「準備を手伝って欲しいと言っていましたが、わたしは何をすればよろしいのですか?」

盗賊「あ、そういやそうだった。まあ、準備って言ってもこれを渡すだけだけどね」



213以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/10(土) 16:32:06.57XZo31lO7O (4/4)


盗賊「とりあえず、はい」スッ

王女「……これは、泥棒さんが投げていた煙玉ですよね?」

盗賊「煙玉っつーか目潰しみてえなもんだな。舞い上がった粉が目に入れば涙が止まらなくなる」

盗賊「何かあったら、それを相手の足下に投げて逃げるんだ。強風や雨の場合は使えないけどな」

王女「……なるほど。分かりました」

盗賊「ああ、これは革鞄ごと姫様にやるよ。腰に巻いといてくれ」

王女「えっ? それでは泥棒さんがーー」

盗賊「いいっていいって遠慮すんな。それに、姫様に渡せるものはそれくらいしかないんだよ」



214以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/10(土) 22:16:47.43A3PWqiuHO (1/9)


王女「?」

盗賊「だってさ、そういうもんならともかく爆弾なんか渡されても姫様は使わないだろ?」

王女「……はい。多分使えないと思います」

盗賊「だろ? だから、それはあくまでも護身用ってやつだ。それなら使えると思ってさ」

王女「泥棒さんはどうするのですか?」

盗賊「俺? 俺はまあ、手持ちの物を色々使って何とかするよ。でも、向いてねえんだよなぁ」

王女「向いていない?」

盗賊「うん。基本、盗む時って戦う必要はないんだ。見付かったら終わりだからな」

盗賊「この爆弾だって爆発音で見張りを追っ払ったりするのに使ってるんだ」

盗賊「服装だってこの通り。動き易いもん着てるだろ? だから真正面の戦いには向いてない」

王女「で、ではどうやって戦うのですか? 何か有効な策が?」



215以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/10(土) 22:19:59.12A3PWqiuHO (2/9)


盗賊「あ~、出たとこ勝負?」

王女「出たとこ勝負ってそんな…自分のことなんですよ!?」

盗賊「そりゃあ分かってるさ」

盗賊「でも、どんな戦い方をしてくるかなんて分からないだろ? 臨機応変にやるしかない」

王女「……無茶ですよ。背中の傷だって全然治ってないのに……」

盗賊「大丈夫。自分で何とかするから」

王女「……っ、服を脱いで下さい。包帯を取り替えます」



216以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/10(土) 22:21:49.94A3PWqiuHO (3/9)


盗賊「え?」

王女「昨晩から取り替えてないですからね。どんな状態なのか確認しておきたいですし」

盗賊「そ、そう? じゃあ、お願いします」パサッ

王女「………」クルクル

盗賊「何か悪いな。嫌なもん見せちまってさ」

王女「そんなことないです。やはり、まだ出血がありますね。血止めの草を張っておきます」

盗賊「そんなの持ってたっけ?」

王女「昨晩、念の為に数枚採って泥棒さんの革鞄に入れておきました」



217以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/10(土) 22:24:08.62A3PWqiuHO (4/9)


盗賊「(凄えな姫様…)」

王女「ごめんなさい、ちょっと染みます。じっとしていて下さいね」プチッ

ポタポタッ…

盗賊「ッ、ビリッてきた。今のは?」

王女「今のは痛み止めです」

王女「小さな果実なんですが、潰して液体を傷口に垂らせば麻痺させる効果があります」

盗賊「へ~、そんなのがあんのか……」

王女「それから血止めの草を張って」ペタッ

王女「後は包帯で固定すれば終わりです。矢傷の方も同様のやり方で……」クルクル



218以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/10(土) 22:26:37.74A3PWqiuHO (5/9)


盗賊「姫様って物知りなんだな」

王女「そんなことは…これら全ては本で得た知識。古い古い民間療法です」

王女「きっと今なら、こんなことをせずとも傷薬を買えば済むのでしょうね……」

盗賊「でも、森や草原に薬屋はいないからなぁ」

王女「?」

盗賊「姫様の言う通り、今の薬の方が効くかもな。でもさ、いざという時に役立つのはそういう知識だと思うんだ」

盗賊「もし姫様にそういった知識がなかったら、俺は昨日の晩にお星様になってた」

王女「………」クルクル

盗賊「だからさ、誇っていいと思うぜ? 今時そういうことを出来る人はいないだろうし」



219以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/10(土) 22:53:33.74A3PWqiuHO (6/9)


王女「そう…なのでしょうか……」

盗賊「うん。それに、普通は傷を縫ったり出来ない。多分逃げ出すんじゃないかな? 怖くてさ」

王女「怖い?」

盗賊「怖いっていうか嫌だろ? 血を流して死ぬ姿を見るなんて誰だって嫌なもんだよ」

王女「……わたしは死を見るより、あなたがいなくなることの方が怖かったです」

王女「もしかしたら、一人になることが怖かったのかもしれません。自分の為だったのかも…」

盗賊「それでもいいさ。生きてんだから」

王女「……生きて下さい。そして今度こそ、一緒に星を見ましょう」

盗賊「いつの夜なるか分かんねえけど、それでもいいなら……」



220以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/10(土) 23:42:23.10A3PWqiuHO (7/9)


王女「構いません。いつまでも待ちます」

盗賊「(こういうことをさらっと言うのがズルいんだよ。分かってなさそうだけど…)」

王女「(わたしに共に戦うことは出来ない。けれど少しくらい、あなたの役に立たせて下さい)」

クルクル…キュッ…

盗賊「………」

王女「終わりました。効果は短いでしょうが多少は痛みも和らぐと思います」

盗賊「ん、ありがとう」バサッ

王女「……お役に立てるか分かりませんが、白い騎士について思い出したことがあるのでお話しします」



221以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/10(土) 23:44:04.54A3PWqiuHO (8/9)


王女「彼は特殊な武器を扱っていたそうです」

王女「それは籠手と剣が一体化したようなもので、彼の技量も相まって凄まじい威力を誇ったとされています」

盗賊「籠手の先に短剣をくっ付けた。みたいな感じ?」

王女「いえ、刃は長剣です。近接ではなく中距離で戦うことになると思います」

王女「籠手も泥棒さんのものとは違い、拳から肘辺りまで完全に覆うものでした」

盗賊「(パタとかいうやつか? やりにくそうだな……)」

王女「もし犯人が白い騎士に成り切っているとしたら、同じ武器を扱っているかもしれません」

王女「それからもう一つ。その姿はあたかも舞うようであった。とのことです」



222以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/10(土) 23:58:02.56A3PWqiuHO (9/9)


盗賊「(隙は無さそうだな……)」

盗賊「(つーか甲冑着ながら舞うんじゃねえよ。面倒くせえ奴だな)」

盗賊「(甲冑着てるってだけでも面倒なのに。でもまあ、近付けば何とかなるか)」

王女「……お役に立てましたか?」

盗賊「ああ、イメージは出来た。その武器なら腕の振りが早いのも頷ける」

盗賊「厩にいた馬を手早く捌けたのも、それがあったから出来たのかもな……」

王女「白馬さん、今頃何処にいるのでしょう。心配です」

盗賊「帰ったのかもな。幾ら肝が据わってても、そんな危ない奴がいたら逃げるに決まってる」

王女「……泥棒さんは、逃げようとは思わないのですか?」

盗賊「逃げられない。ってこともないけど、向こうが逃がしてくれそうにないからな」

盗賊「出来ることなら此処で終わらせたいんだ。追われるのって疲れるしさ」



223以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/11(日) 00:09:28.73e+UqcoFdO (1/12)


王女「……犯人。この街にいるんですよね」

盗賊「だろうな。何処に隠れてんのか見当も付かねえけどさ」

コンコンッ…

盗賊「盗み聞きにしちゃあ長かったな。厩にいた警備隊だろ? さっさと入れよ」

王女「えっ?」

ガチャッ…パタンッ…

警備兵「…………」

王女「(あっ、本当に昼間の警備隊の人だ。この人、苦手だなぁ…)」

警備兵「何だ、分かっていて話していたのか?」

盗賊「理解を深めて欲しくてね。俺のこと調べてたんだろ?」



224以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/11(日) 00:49:58.55e+UqcoFdO (2/12)


警備兵「その前に、何故俺だと分かった」

盗賊「歩き方。つーか、そんなことが聞きたくて来たのか?」

警備兵「気味の悪い奴だな。まあいい、早速本題に入ろうじゃないか」

王女「(嫌な予感しかしない。何だか蛇のような眼をしている。何を考えているのでしょう……)」

警備兵「王宮への侵入及び暗殺未遂。特別独房行き。これに間違いはないな」

盗賊「侵入は認めるけど目的は暗殺じゃない。盗みに入っただけだ」

盗賊「それ以外は大体合ってる。つーか特別独房だったのか。にしてはお喋りな看守だったな」



225以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/11(日) 00:54:39.15e+UqcoFdO (3/12)


警備兵「何を盗むつもりだった?」

盗賊「王の秘宝。輪廻転生機」

警備兵「……次の質問だ。何故、お前は生きている」

盗賊「何か難しい質問だな。哲学?」

警備兵「そのままの意味で、だ」

盗賊「心臓が動いてるからじゃねえの? そこに関しちゃ俺もあんたも変わらねえと思うけどな」

警備兵「はぐらかすな。此処には処刑済みの判が押されてある」ガサッ

盗賊「あ、本当だ。つーか人相書き下手だな。もっと上手く書いて欲しいもんだ」

警備兵「答えろッ!!」

王女「きゃっ…」ビクッ

盗賊「分かった分かった。話すから大きい声出すな。『姫様』が怖がってんじゃねえか」



226以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/11(日) 01:04:03.56e+UqcoFdO (4/12)


警備兵「……姫様だと」

盗賊「ああそうさ。偉大なる王の娘にして次の魔王。ついでに言うなら輪廻転生機の正体だ」

警備兵「何を馬鹿なーー」

盗賊「俺は王から直々に彼女を攫うよう依頼された。内部に暗殺者がいる可能性があるらしい」

盗賊「俺は依頼を受けて彼女を攫った。それに関しては彼女の同意も得てある」

警備兵「………」

盗賊「疑うなら王宮に手紙でも出せばいい。応答があるかは分かんねえけどな」

盗賊「とにかく、これが全てだ。用が済んだら帰ってくれ。あんまり関わるとあんたも殺されちまうぜ」



227以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/11(日) 01:09:51.54e+UqcoFdO (5/12)


警備兵「白い騎士にか?」

盗賊「聞いてたんなら分かるだろ?」

警備兵「お前が語ったこと全てが嘘なのか? それとも全てが本当なのか?」

盗賊「それはあんたが決めることだ」

盗賊「俺が何を言っても所詮はニンゲンの言うことだからな。どうせ信じやしないだろ?」

警備兵「……作り話にしては話が大きすぎる」

警備兵「それだけ口が回るなら、もっと控え目な嘘を吐くはずだ。納得の行く程度の嘘をな」

盗賊「だろうな。普通なら」

警備兵「信用されたい奴が吐くような嘘ではい。が、俄には信じ難い」



228以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/11(日) 01:16:27.94e+UqcoFdO (6/12)


盗賊「どうする?」

警備兵「………」チラッ

王女「全て本当のことです。彼は嘘など吐いていません。投獄するというなら、わたしも行きます」

警備兵「…チッ…どうにも面倒なことになったな」

盗賊「思いっ切り関わるか、この場で手を引くか。今の内に決めといた方がいい」

盗賊「俺と彼女が狙われてるのは事実なんだ。関われば確実に巻き添えを食う」

警備兵「……お前は一体何なんだ」

盗賊「俺か?」

盗賊「俺は監視がいると分かっていながら逃げもせずに彼女の寝顔を眺めてた間抜けな泥棒さんだよ」



229以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/11(日) 02:20:35.37e+UqcoFdO (7/12)


警備兵「……質問がある」

王女「はい。何でしょう」

警備兵「君は何故このニンゲンと共にいる。いや、何故共にいられる?」

王女「……わたしは長らく一つの部屋で生きてきました。彼は、わたしが会った初めてのニンゲンなのです」

警備兵「………」

王女「あらゆる文献を読みました。知識の中にあるニンゲンは狡猾で怖ろしい種族……」

王女「ですが、彼はそうではありません。わたしにとっては、そうではないのです」

警備兵「君にとってはそうかもしれないが、このニンゲンは犯罪者だ」

王女「ええ、分かっています。本来であれば怖れるべき人物なのでしょう」



230以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/11(日) 02:22:54.54e+UqcoFdO (8/12)


警備兵「なら何故?」

王女「彼のことは、不思議と怖ろしいとは思わないのです」

王女「彼は傷を負い、血を流しました。けれど、それでもわたしを王宮から連れ出してくれた」

王女「閉ざされていた世界の扉を開き、わたしに外の世界を見せてくれたのです」

警備兵「恩人というわけか」

王女「いえ、失いたくない人です」

警備兵「………分かった。二人共に詰め所に連行する」

王女「そんなっ、彼を裁くのですか!?」

警備兵「いや、死んだニンゲンは裁けない。そのニンゲンは世界から抹消された存在だ」

王女「ならば何故連行するのです!?」

警備兵「関わるか否か。その答えが出たからだ。これより君を保護する。宿屋よりは安全だ」



231以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/11(日) 02:25:04.35e+UqcoFdO (9/12)


盗賊「俺は?」

警備兵「勝手にしろ。逃げたければ逃げるがいい。彼女の傍にいないのなら、そうしろ」

盗賊「あ、そう。じゃあ、お言葉に甘えてご同行しまーー」

ガチャンッ…

盗賊「……おいおい、そりゃないだろ」

警備兵「黙れ。こうでもしないと示しが付かないんだよ。仲良しこよしで歩けるか」

盗賊「何だよ。素直じゃねえなぁ」ニヤニヤ

警備兵「お前には手錠より轡が必要のようだな。耳障りなことばかり口にする」

盗賊「舌の根が乾いたことがないのが自慢でね。罪にはならないだろ?」



232以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/11(日) 02:27:13.74e+UqcoFdO (10/12)


盗賊「俺は?」

警備兵「勝手にしろ。逃げたければ逃げるがいい。彼女の傍にいたいのなら、そうしろ」

盗賊「あ、そう。じゃあ、お言葉に甘えてご同行しまーー」

ガチャンッ…

盗賊「……おいおい、そりゃないだろ」

警備兵「黙れ。こうでもしないと示しが付かないんだよ。仲良しこよしで歩けるか」

盗賊「何だよ。素直じゃねえなぁ」ニヤニヤ

警備兵「お前には手錠より猿轡が必要だな。耳障りなことばかり口にする」

盗賊「舌の根が乾いたことがないのが自慢でね。罪にはならないだろ?」



233以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/11(日) 02:33:34.43e+UqcoFdO (11/12)


警備兵「行くぞ、猿」グイッ

盗賊「痛い!痛いから!」

警備兵「さあ、君も来るんだ。詰め所までは警備隊が護衛する」

王女「あ、ありがとうございます!」ペコッ

警備隊「………」ザッ

ガチャッ…パタンッ…

警備兵「ほら、歩け」グイッ

盗賊「んなことしなくても歩くって!! ったく、乱暴な男は嫌われるぜ?」

警備兵「お前に好かれるくらいなら舌を噛み切って死んだ方がマシだ」

トコトコ…

王女「本当にいいのですか? 狙われるかもしれないのですよ?」

警備兵「こう見えて仕事熱心なんだ。職務放棄はしたくない。それから、昼間は済まなかったな」ザッ

トコトコ…

王女「(何だか不思議。泥棒さんといると色んな人が変わっていくような気がする。わたしも変わったのかな……)」



234以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/11(日) 02:34:44.34e+UqcoFdO (12/12)

また明日


235以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/11(日) 09:27:51.93oUPebYb80 (1/1)




236以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/11(日) 16:08:59.00LZdsXNJDo (1/1)

続きが愉しみ


237以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/11(日) 22:18:46.173SZ+PfozO (1/4)


【詰所】

盗賊「男ばっかだな。きちんと掃除しろよ」

警備兵「少し黙ってろ」

盗賊「ハイハイ。分かったから睨むなよ」

警備兵「…チッ…着いて早々で悪いが、君は何故狙われているんだ?」

王女「……あの、今更言うのも何ですが兵士さんはわたしが王女であると信じるのですか?」

警備兵「信じたわけではない。ただ、君とそこにいる猿が狙われてることは確かだ」

警備兵「君が宿屋で話していた白い騎士とやらに関しても同様の見解だ」

警備兵「千年も前のことはともかくとして、犯人が白銀の甲冑を身に着けていたことは疑いようのない事実だからな」

王女「……なる程、あくまで事件解決の為ということですか」

警備兵「その通りだ。その為に、君が王女だと仮定して話を進めようというわけだ」



238以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/11(日) 22:35:21.213SZ+PfozO (2/4)


盗賊「何だそりゃ?」

盗賊「そんなの信じてんのと変わんねえじゃねえか。あんたって本当に素直じゃないんだな」

警備兵「黙ってろ。次に口を開いたら自慢の二枚舌を三枚に下ろすからな」

盗賊「ハイ」

警備兵「……さて、お聞かせ願おうか」

王女「先ほど話した通り、わたしは長らく一つの部屋で生きてきました」

王女「ですので、王宮の内情については詳しくありません。それでもよろしければお話しします」

警備兵「それでも構わない。思い当たることがあれば話してくれ」

王女「……明確な意思を持って狙うとするなら、兄以外には考えられません」

王女「輪転器とは王の力を継ぐ器。本来であれば実子である兄が次期の王になるはずでした」

警備兵「実子である兄? ちょっと待ってくれ。ということは、君はまさか…」



239以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/11(日) 23:03:24.933SZ+PfozO (3/4)


王女「ええ、お考えの通りです」

王女「魔王である父とわたしに血の繋がりなど一切ありません」

警備兵「……これはまた、とんでもない話だな」

盗賊「そうなのか?」

警備兵「王の血は途切れることなく今日に至る。純血であり神聖なる存在。それが常識だ」

警備兵「彼女の話が本当なら、俺はとんでもない秘密を聞いてしまったことになる……」



240以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/11(日) 23:07:13.173SZ+PfozO (4/4)


盗賊「ビビってんのか?」ニヤニヤ

警備兵「お前はニンゲンだから笑っていられるだろうが、国を揺るがす事態に発展する可能性も十分に有り得る」

警備兵「民は王を神の如く崇め、唯一無二の存在としている。魔王とは、そういう存在なのだ」

盗賊「へ~、そうなんだ。それよりさ、姫様って姫様になる前はどうしてたんだ?」

王女「遊牧民の子だったような気がするのですが、王宮に入る前後の記憶が曖昧なのであまり…」

盗賊「……そっか。あっ、悪い。続けてくれ」

警備兵「では、兄が暗殺者を差し向けていると? 白い騎士も彼が?」

王女「断言は出来ませんが、その可能性は高いと思います」

王女「他所から連れて来た見ず知らずの娘に力を継がせるなど許せないでしょう?」



241以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/12(月) 00:03:16.36Xz0S6i1pO (1/10)


警備兵「確かに…」

盗賊「で、どうすんだ?」ニヤニヤ

警備兵「…チッ…お前は王家の跡継ぎ問題を街の警備隊がどうにか出来ると思うのか?」

盗賊「出来ねえだろうな。おまけに犯人の目星も付いてねえ、正に八方塞がりってやつだ」ウン

警備兵「随分と能天気な奴だな。事の重大さを分かっての台詞なら尚更だ」

盗賊「まあまあ。跡継ぎ問題とかは置いといて、罪のないうら若き女性が狙われてるんだぜ?」

盗賊「だったら警備隊としてやるべきことは決まってるんじゃねえの?」

警備兵「守るしかない、か? 確かにその通りだ。だが、お前に言われると無償に腹が立つな」



242以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/12(月) 00:04:36.94Xz0S6i1pO (2/10)


盗賊「ニンゲンだから?」

警備兵「口の減らない小僧だからだよ」

盗賊「そうかい。ところで、俺と姫様の後に街に入った奴は調査したのか?」

警備兵「当たり前だ。既に調べてある」

盗賊「あ、そうなんだ。でも、その様子じゃ進展なしみたいだな」

警備兵「お前が厩に馬を預けた直後に入った男がいてな。そいつで確定かと思ったんだが証拠は出なかった」

盗賊「参考までに聞いとくけど、その男はどんな奴だった? 右手に火傷してなかったか?」



243以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/12(月) 00:06:35.95Xz0S6i1pO (3/10)


警備兵「何故それを…」

盗賊「決まりだな。そいつが犯人だ」

警備兵「何を言ってる? その男は甲冑はおろか武器の類も一切所持していなかったんだぞ?」

盗賊「白い騎士が使ってた武器の話は聞いてたか?」

警備兵「籠手と剣が一体化したようなもの。だったか? それがどかしたのか?」

盗賊「犯人は馬の死体と厩の主の死体を運ぶ時、その武器を外したんだ」

盗賊「パタってのは籠手の中に握りのある武器だ。籠手ごと外すしかない。つまりは素手」

盗賊「で、火を放った。その時に火傷したんじゃねえかと思ってさ」



244以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/12(月) 00:19:20.95Xz0S6i1pO (4/10)


警備兵「面白いが決定打に欠けるな」

盗賊「でも、疑わしいのはそいつしかいない。いっそ正面切って行ってみるか?」

ガチャ…ガチャ……ザッ…

警備兵「!!」

王女「ま、まさか……」

盗賊「姫様、奥に隠れててくれ」

王女「は、はいっ」サッ

コンコンッ…

警備兵「何故俺だと分かったのかと聞いた時、お前は足音で分かったと言ったな」

盗賊「あ?」

警備兵「甲冑の音に気付かなかったのか? 全く、肝心な時に役に立たない耳だな」

盗賊「あのなぁ、扉の前に来て初めて聞こえたんだぜ? それまでは馬の足音しか聞こえなかった」



245以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/12(月) 00:38:02.37Xz0S6i1pO (5/10)


警備兵「…チッ…まあいい。用意はいいか?」ザッ

盗賊「どうする気だ?」

警備兵「扉ごと奴をぶっ飛ばす。その間に彼女を連れて逃げーー」

『夜分に申し訳ない。少しばかり訊ねたいことがあるのだが宜しいか?』

盗賊・王女「あっ…」

警備兵「どうした?」

盗賊「え~っと。なんつーか…知り合い? 出来ることなら二度と会いたくなかったけどさ」

警備兵「……お前の仲間じゃないだろうな?」

盗賊「違う違う。俺とは真反対の正義の味方だよ。かなり暑苦しいけどね……」



246以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/12(月) 00:52:14.42Xz0S6i1pO (6/10)


警備兵「いいんだな?」

盗賊「まあ、問題はあるけど今の状況なら何とかなる。大丈夫だ」

警備兵「……今開ける」

『おお、有難い。では、失礼する』

ガチャ…

騎士団長「ん?」

警備兵「……王宮騎士か?」

盗賊「よっ!」

騎士団長「なっ…き、貴様ァ!姫様は!姫様は何処だ!! まさかーー」

盗賊「姫様、呼んでるぜ? 出てこいよ」

ガタガタッ…

王女「お、お久しぶりです」ヒョコッ

騎士団長「ひ、姫様!? よ、良かった。本当に良かった。ご無事で何よりです……」



247以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/12(月) 01:08:14.17Xz0S6i1pO (7/10)


盗賊「あのさ、頼みがあるんだけど」

騎士団長「誰が貴様の頼みなど聞くか!この場で引っ捕らえてーー」

王女「き、聞いて下さいっ!!」

騎士団長「ひ、姫様?」

騎士団長「(あの大人しい姫様が声を張り上げた? 顔付きもどこか頼もしくなられたような…)」

盗賊「手短に話すから良く聞いてくれ。この街で殺人事件が起きた。犯人は姫様を狙ってる」

盗賊「犯人の目星は付いたけど姫様を一人にするわけにはいかない。守ってくれる奴が必要なんだ」

盗賊「犯人は手練れだ。おそらく警備隊だけじゃ足りない。あんたの力が必要なんだ。力を貸して欲しい」



248以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/12(月) 01:22:52.33Xz0S6i1pO (8/10)


騎士団長「………」チラッ

王女「事実です。どうか、信じて下さい」

騎士団長「……分かりました。姫様の頼みとあらば断るわけには行きません」

盗賊「いや~、助かったよ」

騎士団長「貴様に礼を言われる筋合いはない。姫様に感謝するんだな」

王女「あの、先ほどから気になっていたのですが、どうやってこの街に来たのですか?」

騎士団長「それが、何と言ったらよいのか。馬の導きとでも言いますか……」



249以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/12(月) 01:27:16.50Xz0S6i1pO (9/10)


王女「馬の導き?」

騎士団長「ええ、そこの賊が逃走する際に乗っていた馬です」

騎士団長「いきなり帰って来たかと思えば、付いてこいと言わんばかりに走り出しましてな」

騎士団長「これは何かある。そう思って追い掛けてきた次第であります」

カカッ…カカッ…

白馬「………」

盗賊「(やっぱりそうか。賢い馬だとは思ってたけど、まさかここまでとは思わなかったな)」

王女「は、白馬さんっ!」タタッ

白馬「………」カカッ

ゴチンッ…

王女「あたっ…でも良かった。無事だったのですね。本当に心配したんですよ?」

白馬「(別にあなたの為じゃないわ。彼の役に立ちたくて走っただけよ)」フンッ



250以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/12(月) 01:28:25.36Xz0S6i1pO (10/10)

また明日


251以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/12(月) 07:22:35.0335T3vRLMo (1/1)




252以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/12(月) 10:04:09.02e2KMnnIMo (1/1)

しろうまさんかっこいい


253以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/12(月) 22:44:06.00kf1lpa/w0 (1/1)




254以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/14(水) 00:05:51.42CqWIlVceO (1/4)


【玉座の間】

将軍「宜しいのですか父上」

老人「何がだ?」

将軍「騎士団長が独断で輪転器を追った件についてです。支障が出るかも分かりません」

老人「それならばそれでよい。あの男ならば遅かれ早かれそうするであろうと思っていたからな」

将軍「これも予定通りですか」

老人「予定通りとは言えぬが想定していた通りの動きだ。その程度で計画が狂うことはあるまい」

将軍「………」

老人「焦るな。誰もが思惑に沿って動くわけではない。して、白騎士は?」

将軍「街に入りましたが接触はまだのようです。結果は明日までに出ることでしょう」



255以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/14(水) 00:10:55.95CqWIlVceO (2/4)


老人「フッ、そうか……」

老人「どのような結果が出るか楽しみだな。これ程まで朝を待ち遠しく思うのは久方ぶりだ」

将軍「……父上はあのニンゲンを随分と買っているようですね。期待するに値する男でしたか?」

老人「それを確かめる為に白騎士を遣わした。場合に寄っては今夜で終わってしまうだろう」

将軍「……それにしては落ち着いていますね。父上には既に見えているのですか」

老人「見えてなどおらんよ。ただ、確信めいたものを感じるのだ。奴は必ず蘇るとな」

将軍「それは、中にいる者がそう言っているのですか。それとも父上個人が?」

老人「どうなのだろうな。王の力を継いでから随分と経つ。最早どちらがどうであるかなど分からんよ……」

将軍「……父上、これが王の悲願であることは重々承知しております。ですが、無理はしないで下さい」



256以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/14(水) 00:41:50.96CqWIlVceO (3/4)


老人「無理などしておらん」

老人「儂とて出来ることならば早く手放したいところだが夜が明けるまでは何とも言えん」

老人「確信はある。だが、奴がそうでなかった場合は次を待つことになるだろうな……」

将軍「………」

老人「転生に次ぐ転生。幾人もの魂を渡り歩いて千と余年が経ち、遂に相応しい器が現れたのだ」

老人「儂はただ、此度の転生が長く苦しい旅路の末であることを切に願う。王からの解放をな」

将軍「力は? そうなった時、王の力はどうなるのです?」

老人「分からん。相応しき者へと渡るか、或いは願いを叶えて消えるか。そのどちらかだろう」



257以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/14(水) 01:10:22.79CqWIlVceO (4/4)


将軍「っ、失礼します」ザッ

老人「待て」

将軍「何でしょうか」

老人「それ程までに王の力を欲するのならば奪ってみせよ。お前が何を目論んでいようと止めはせん」

将軍「有り難う御座います」

老人「但し、此度の輪転器は一つではないことを忘れるな。野望を叶えたいのなら、焦らぬことだ」

将軍「……はい。分かっております」

ーーー
ーー


王女「えっと。というわけで今に至ります」

騎士団長「何と、そのような残忍な事件が起きていたとは…しかも将軍が関与しているなど……」

王女「まだそうと決まったわけではありません。あくまでも、そうする可能性が高い人物を述べただけです」



258以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/15(木) 00:45:17.192R8Uw+FOO (1/3)


騎士団長「………」

王女「……あの、申し訳ありません。急にこんな話をされては混乱しますよね…」

騎士団長「……謝ることなどありません。ただ、整理するには時間が掛かるかと思います」

警備兵「(それはそうだろう。街の警備隊である俺ですら動揺を隠せないでいるんだ)」

警備兵「(極めて近しい立場。王宮にいた者にとってその衝撃は計り知れないものだろう)」

警備兵「(血縁ではないという事実。輪廻転生機の正体。王位継承の裏で蠢く策謀)」

警備兵「(王に仕える騎士団)」

警備兵「(その団長である彼にとって、これらを一辺に理解しろと言うのはあまりに酷な話だ)」



259以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/15(木) 01:15:34.802R8Uw+FOO (2/3)


騎士団長「姫様は…」

王女「?」

騎士団長「姫様は姫様です。血縁がどうだと言われても、私にとって姫様は姫様なのです」

騎士団長「輪転器であったことも王位継承の件についても私にしては…その、何と言いますか…」

騎士団長「それら全ては些細な事。と言ってしまうと語弊がありますが、何も変わりません」

王女「何も…変わらない?」

騎士団長「先程も申し上げた通り、姫様は姫様です。私が姫様に抱くものは幾らかも変わってはおりません」

盗賊「へ~。気の利いたこと言えるんだな。もっと不器用かと思ってたよ」

警備兵「話の腰を折るな。猿は黙っていろ」

盗賊「……あのさ、その猿って呼び方はニンゲン呼びから昇格したの? それとも見下してんの?」



260以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/15(木) 01:36:59.772R8Uw+FOO (3/3)


警備兵「それくらい自分で考えろ。猿」

盗賊「猿と話せるってことはあんたも猿ってことになるわけだけど、それについてはどう考えーー」

警備兵「黙ってろ」

盗賊「はぁ~、話にならねえな」

警備兵「何故だか分かるか? それは俺が猿ではないからだ。そもそも話になるわけがない」

盗賊「あんた友達いないだろ」

警備兵「うるさい」

王女「フフッ…」

盗賊「えっ?」

王女「あっ、ごめんなさい。何だかんだ言いながら楽しそうにお話していたので、つい笑ってしまいました」



261以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/16(金) 19:27:05.40qg/nRbuLO (1/8)


警備兵「良かったな。笑われて」

盗賊「あんたも笑われてんだよ!」

王女「フフッ…」

騎士団長「……姫様、一つ聞いておきたいことがあります」

王女「は、はい。何でしょう?」

騎士団長「……昨晩、その男に連れ去られた時のことです。私は二人の会話を聞いていました」

王女「!!」

騎士団長「気を失う直前のことでしたから聞き間違いではないかと思っていました。いや、そう思いたかった……」



262以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/16(金) 19:53:30.79qg/nRbuLO (2/8)


騎士団長「姫様、どうかお答え下さい」

騎士団長「外へ出たのはご自分の意思ですか。それとも、その男に誑かされーー」

王女「違います」

騎士団長「!?」

王女「外へ出たのは、わたし自身の意思です。わたしが決めたことです」

騎士団長「っ、やはり…そうでしたか。何とはなしに、そんな気はしておりました」

王女「えっ?」

騎士団長「ご自分ではお気付きにならないでしょうが、とても晴れやかな顔をしています」

騎士団長「私はそのような顔を…何の屈託もなく笑う姫様を見たことがありません。感情を露わにするお姿も……」

騎士団長「そんな姫様を見て嬉しく思う反面。何も知らなかった自分を情けなく思います」



263以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/16(金) 20:48:53.23qg/nRbuLO (3/8)


騎士団長「姫様、申し訳ありませんでした」ザッ

王女「そんなっ…頭を上げて下さい。迷惑を掛けているのはわたしなのに……」

騎士団長「謝らなければならない理由はそれだけではありません。実はその…」ガサゴソ

王女「?」

騎士団長「何かしらの手掛かりになるかも知れないかと思い…姫様の部屋からこれを……」スッ

王女「そ、それは…か、返して下さい!!」バッ

騎士団長「申し訳ありませんでした!!」

王女「……見ましたか?」

騎士団長「そんなまさか! 婦女子の日記を盗み見るなどするわけがありせん!!」



264以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/16(金) 20:52:03.18qg/nRbuLO (4/8)


盗賊「本当かぁ?」

騎士団長「貴様のような盗人に言われたくはないわ!! その日記は姫様の為に隠していたのだ」

盗賊「姫様の為?」

騎士団長「そうだ。中に重大な機密情報が書かれていたとしたら大変だからな。何者かに持ち出される前に私が守っていたのだ」

盗賊「言ってることはともかく、やってることは盗人そのものじゃねえか」

騎士団長「喧しい!!」

王女「あのぅ、本当に見てないですよね?」

騎士団長「勿論です!誓って見ておりません!!」



265以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/16(金) 22:58:02.40qg/nRbuLO (5/8)


王女「(はぁ、良かった……)」

警備兵「諸々の状況整理は終わったな。で、お前はどうする。行くのか?」

盗賊「場所さえ教えてくれればな。あんたと団長さんは此処に残って姫様の警護をしてて欲しい」

警備兵「一人でやる気か?」

盗賊「ああ、俺の戦だからな。当然、向こうもそのつもりでいる。だから、俺が終わらせる」

警備兵「………」

盗賊「それとも何か? ニンゲンの俺に手を貸してくれる奇特な奴がいんのか?」

警備兵「……場所はお前がいた宿とは真逆。街の西側にある宿だ。さっさと行け」

盗賊「分かった。そいつが当たりかどうか分かんねえけど、とりあえず行ってみるよ」



266以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/16(金) 22:59:55.98qg/nRbuLO (6/8)


盗賊「……姫様を頼む」ボソッ

警備兵「ああ、任せろ。彼女は我々警備隊が責任を持って警護する」

王女「ま、待って下さい!!」タッ

ガシッ…

王女「!?」

騎士団長「……姫様、なりません」

王女「一人で行くなんて危険過ぎます!! 彼は怪我をしているのですよ!?」

盗賊「大丈夫。すぐに帰って来るよ。それまでは此処で待っててくれ。んじゃ、行ってくる」ザッ

王女「泥棒さーー」

ガチャ…バタンッ…



267以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/16(金) 23:02:03.36qg/nRbuLO (7/8)


王女「……何故ですか」

警備兵「何故とは?」

王女「先程はわたし達を保護すると言ったではありませんか。それなのに何故……」

警備兵「君を保護するとは言った。だが、二人を保護するとは言っていない。協力するともな」

王女「そんなっ…」

警備兵「外を知らないから仕方がないかもしれないが、我々とニンゲンには埋められない溝がある」

警備兵「加えて言うなら奴は大罪人だ。罪人同士が殺し合おうが知ったことではない」

警備兵「どちらが死のうと結果的に罪人一人が消えてくれるなら安いものだ。違いますか?」

騎士団長「………」

王女「っ、そんなの間違っています。姿形は違えど我々もニンゲンも同じーー」



268以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/16(金) 23:15:11.40qg/nRbuLO (8/8)


警備兵「黙れ」

王女「!!」ビクッ

警備兵「これまで何の苦労もなく温々と過ごしてきた奴に何が分かる」

警備兵「向こう側で行き場を無くした屑共が流れ込み多くの犯罪を犯しているのが現状だ」

警備兵「それを……言うに事欠いて我々とニンゲンが同じだと? 笑わせるな」

警備兵「ニンゲンが死んで喜ぶ奴は数多くいるだろうが悲しむ奴などいやしない」

警備兵「そもそも君が外へ出なければこのような事態にはならなかった。それを忘れるな」

王女「わたしはただ…」

警備兵「君が何を思おうが起きた事実は変わらない。分かったなら黙っていろ『お嬢さん』」

王女「…っ、はいっ…」キュッ

騎士団長「(姫様が思っているほど、外は美しい世界ではない。私を含め、彼のような考えを持っている者が大半だ)」



269以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/17(土) 00:21:30.80JDKwS+7HO (1/1)


騎士団長「(ただ、少なくとも…)」チラッ

警備兵「………」コクン

騎士団長「(やはりそうか。少なくとも彼だけは協力するつもりでいた)」

騎士団長「(しかし、警備隊である彼がニンゲンに手を貸せば立場は危うくなる)」

騎士団長「(奴はそこまで考えて一人で行くと言ったのか? だとしたら……)」チラッ

王女「………」

騎士団長「(だとしたら姫様が信頼するのも分からなくはない。あんなニンゲンはこれまで見たことがない)」

騎士団長「(……姿形が違えど、か。もしそうであれば、どれだけ良い世界になっていただろう)」

ーーー
ーー


盗賊「(……そういや、一人で歩くのは久しぶりだな。いや、そうでもねえか)」

盗賊「(大した時間は経ってねえはずなのに、姫様とは長いこと一緒にいたような気がする)」



270以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/17(土) 12:43:12.97Ldb6e3ZbO (1/1)

警備兵イケメン過ぎる



271以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/17(土) 22:33:14.96A50nUZETO (1/3)


トコトコ…

盗賊「っくし! 冷えてきたな」

盗賊「(しっかし静かだな。街の皆様方はお布団の中でぐっすりか。羨ましいぜ)」

盗賊「(さっさと終わらせたいとこだけど、どうなるもんかな。一応準備はしてきたけど上手く行くかどうか……)」

ブワッ…ヒュゥゥゥ…

盗賊「なんだ…今の風……」ゾクッ

シーン…

盗賊「(……気味が悪りぃ)」

盗賊「(一瞬で空気が重苦しくなった気がする。まるで沼の中に沈んでくような感じだ)」

盗賊「(首筋にジリジリきやがる。全身が粟立つのが分かる。向こうで何かが起きたのか?)」



272以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/17(土) 22:42:19.57A50nUZETO (2/3)


トコトコ…

盗賊「っくし! 冷えてきたな」

盗賊「(しっかし静かだな。街の皆様方はお布団の中でぐっすりか。羨ましいぜ)」

盗賊「(さっさと終わらせたいとこだけど、どうなるもんかな。一応準備はしてきたけど上手く行くかどうか……)」

ブワッ…ヒュゥゥゥ…

盗賊「なんだ…今の風……」

シーン…

盗賊「(……気味が悪りぃ)」

盗賊「(一瞬で空気が重苦しくなった気がする。まるで泥沼の中に沈んでくような……)」

盗賊「(ッ、首筋にジリジリきやがる。全身が粟立つのが分かる。向こうで何かが起きたのか?)」



273以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/17(土) 23:02:08.93A50nUZETO (3/3)


盗賊「(にしては悲鳴の一つも聞こえねえな)」

盗賊「(一体何なんだ? 街の雰囲気すら一変したような気がする。嫌な予感しかしねえ)」

盗賊「………」ザッ

盗賊「(この街、こんなに暗かったか? 街並みはそのままなのに全く別の場所に感じる)」

盗賊「(もし…もしこれが奴の放つ気配だとしたら奴は人じゃない。勿論『こっち側』の奴でもない)」

盗賊「(ツノだとか牙だとか耳だとか尻尾だとか、そんな話しじゃねえ。正真正銘のバケモノだ)」

盗賊「……ッ…何にせよ、行かなきゃ始まらねえか」ダッ

ーーー
ーー


盗賊「(……着いた。辺りは静かだな)」

盗賊「(でも、空気は重苦しいいままだ。宿屋の中は…この中はどうなってる?)」ザッ

ガチャ…ギィィィ…



274以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/18(日) 00:25:15.7917lus0uEO (1/5)


盗賊「…ッ…酷え…」

ビチャッ…ビチャッ…

盗賊「(滅茶苦茶だ。何をどうしたらこんな風になるんだ? 天井も壁も床も全部血で……)」

ズルッ…ドシャッッ…

盗賊「ッ、いい趣味してるぜ」

盗賊「(まともな死体は一つもありゃしねえ。飛び散った肉片が壁や天井に張り付いてやがる)」

盗賊「(血の雨でも降ったような…ってのは正にこのことだろうな。あっという間に血塗れだ)」

ゴトッ…

盗賊「!?」バッ

「ひっ…た、助けてくれ。頼む。もう止めてくれ。私は何もしていないんだ」



275以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/18(日) 00:27:12.7917lus0uEO (2/5)


盗賊「落ち着け。やったのは俺じゃねえ」

「分かってる。そうじゃない。違う。違うんだ。あいつが、白い騎士が来る。出て来る」

盗賊「……出て来る? それよりあんた、その手の火傷はーー」

「違うっ! 私じゃない。私じゃないんだ。出て来るんだ。勝手に…出て来るおぇぇッ…」

盗賊「お、おいっ。しっかりしろ!!」

「はな…でろ…ばだでろ…離れろ。いげ、もう。もう。だめだ。ぐる…ででぐるっ!!」

盗賊「ちっ!!」バッ

「おげぇぇッ…ぎ、ぐるででぐる腹がか突きやぶってぐぼぁっ…」ガクガク



276以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/18(日) 00:34:22.0417lus0uEO (3/5)


盗賊「(何だ? 口から何かが…)」

ゴバッッ!

白騎士「…ハァァ…やれやれ、脱ぐにも一苦労だな」

盗賊「なっ…」

白騎士「これはこれは…随分と見苦しい所を見せてしまった。どうした?顔色が悪いぞ?」

盗賊「……通りで見付からねえわけだ。まさか甲冑が人を着てるとはな」

白騎士「驚いたかね?」

盗賊「ああ、吐き気がするほどにな」

白騎士「はははっ、恐怖を植え付けるには良い演出だっただろう?」

白騎士「これは戦に必要不可欠な技術であり、戦場を彩る数少ない芸術でもあるのだ」

盗賊「悪りぃけど全く共感出来ねえな。俺とあんたじゃ美的感覚が違い過ぎる」



277以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/18(日) 01:13:30.3917lus0uEO (4/5)


白騎士「そうか。それは残念だ」

盗賊「(マズい。完全にやられた。この野郎、俺が来るのを待ってやがったんだ)」

盗賊「(まともにやって勝てる相手じゃねえ。何とかして此処から出ねえと……)」

白騎士「此処は狭いな。やはり屋外、開けた場所にすべきだったか」

盗賊「(ッ、今しかねえ!!)」ヒュッ

ドガンッ!

白騎士「……逃げたか。面白い奴だ」

白騎士「しかし、あんなものは見たことがないな。武器も戦も変わったと言うわけか」

ーーー
ーー


盗賊「(外へ出たのはいい。この先はどうする? どうやって勝つ? 考えろ。考えるんだ)」ダッ



278以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/18(日) 01:53:11.6817lus0uEO (5/5)


盗賊「(甲冑の隙間。関節部位…突けるか?)」

盗賊「(そもそも近付けるかどうかも怪しいもんだ。とにかく、今はこのまま距離をーー)」ゾクッ

ズドンッ! パラパラッ…

盗賊「…っぶねえな」

白騎士「よく避けた。褒めて遣わす」

盗賊「そりゃどうも。つーか色々おかしいだろ。どうやったら甲冑着けたまま飛べんだよ」

白騎士「そういった常識や限界は自らを拘束する枷でしかない」

盗賊「答えになってねえよ」

白騎士「常識に囚われるなということだ」

白騎士「凡人は往々にして限界を定め自らに枷をする。不可能などないというのに」

盗賊「あんたの動きはヒト科の範疇を超えてんだよ。少しは弁えろ」



279以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/18(日) 20:54:09.00ru+hyu8uO (1/5)


白騎士「弁える必要などない」

白騎士「勝利するには何者をも寄せ付けぬ力が必要なのだ。その為には理の外へと踏み出さねばならない」ザッ

盗賊「(武器は姫様の言ってた通りだ。刃は長く厚い。籠手でいなせるような代物じゃない)」

白騎士「……故に進む。進み続ける。ただひたすらに、勝利のみを求めて」トッ

盗賊「(また跳びやがった。身が軽いとかって話じゃねえぞ!!)」

ドギャッッ! 

盗賊「…ッ、跳ぶわ走るわ…とんでもねえ奴だな。中身入ってんのか?」スタッ

白騎士「知りたいのなら勝利して確かめろ」

盗賊「(……やっぱり、こいつは半端じゃねえ)」

盗賊(石畳を砕いて地面を抉りやがった。刀身が根本までぶっ刺さってる)」

盗賊「(斬擊や打突の類じゃねえ。ぶん殴るって表現が一番しっくりくる)」



280以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/18(日) 21:05:31.78ru+hyu8uO (2/5)


白騎士「………」ズッ

盗賊「(相手は甲冑装備。素早さなら勝てると思ってたけど、ぎりぎりだな)」

白騎士「眼が良いな。実に良い眼をしている」

盗賊「そりゃそうさ、まだまだ夢見る年頃なんでね。綺麗なもんだろ?」

白騎士「ハハハッ! 夢、夢ときたか。そうだな、夢を抱くのは良いことだ」

盗賊「……あんた眼はどうだ?」

白騎士「何?」

盗賊「あんたはその兜の奥でどんな眼をしてる? あんたの眼は何を見てる?」



281以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/18(日) 21:28:36.22ru+hyu8uO (3/5)


白騎士「無論、輪転器」

盗賊「なら、こんな道草食ってる暇はねえと思うけどな。行かれても困るけど」

白騎士「民草の血肉は喰らったが道草は食っていない。求めるものは目の前にある」

盗賊「あんたが求めてんのは俺との戦か? 戴冠の戦だっけ? 俺の冠が見当たらねえけどな」

白騎士「案ずるな。此処に在る」

盗賊「……まるで意味が分からねえ。あんたは何なんだ? 生きてんのか?死んでんのか?」

白騎士「難しい質問だな」

盗賊「千年も前に死んだって聞いたぜ。死には勝てず、甲冑を身に付けたまま眠ったってな」

白騎士「あの輪転器から聞いたのか。しかし、私の時代の書物が残っているとは考えられん」

白騎士「大方、後期の者が好き勝手に書いたのだろう。過去に泥を塗るような脚色は好かんな」



282以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/18(日) 21:59:53.17ru+hyu8uO (4/5)


盗賊「脚色?」

白騎士「他に何が書いてあったかは知らんが、ただ一つだけ確実に間違っている点がある」

盗賊「何がだよ」

白騎士「私は負けてなどいない」

盗賊「……あんた、すっげー頑固だな」

盗賊「本物かどうかは分かんねえけど、本物並みに勝利に餓えてんのは間違いなさそうだ」

白騎士「私を真似られる者などいない。後にも先にも、私は私だけだ」

盗賊「自分でそんなこと言うなんて随分と驕り高ぶった御方だな。王様に喧嘩売ったってのも頷けるぜ」



283以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/18(日) 22:28:33.57ru+hyu8uO (5/5)


白騎士「そうでなくてはならない」

盗賊「?」

白騎士「夢を抱き夢を叶えようとするのなら、敗北は決して許されない。勝ち続けるしかない」

白騎士「貴様もそうであろう? 得難きを得るべく歩き続けているのだから」

盗賊「………」

白騎士「故に驕り高ぶり、故に限界を定めず、己が往く道を妨げる者は徹底的に排除する」

白騎士「積み上げた勝利。勝利の上の勝利。全ては私が到達せんとする場所に辿り着く為に」

盗賊「……その為なら何をしても許されるってか?」

白騎士「私以外に私を赦す存在はいない。私を赦せる存在などいてはならない」

盗賊「ああそうかい。なら、今からでも俺に謝る準備しとけ。絶対に許さねえけどな!!」ヒュパッ



284以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/19(月) 01:02:46.17DF1P7wLNO (1/5)


グルンッ…ギチッ!

盗賊「あんたの首を貰う」グイッ

白騎士「……実戦で鞭を使うとは少々驚いたな。だが、その程度で首は取れんぞ」ブチンッ

盗賊「んなことは分かってるさ」

白騎士「(何の武器も無しに向かって来るか。何か策があるのだろうが……)」スッ

盗賊「(あの構え、突いてくるか斬ってくるか判断出来ねえな。けど、行くしかねえ。懐に潜る)」

白騎士「敵が特殊な武器を扱う場合、その特性を殺す。先を取り懐に潜る。基本だな」

盗賊「(ッ、腰を落としやがった)」

白騎士「鞭による奇襲。予想外の武器を扱った割に攻め手は教科書通りか」



285以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/19(月) 01:24:34.36DF1P7wLNO (2/5)


盗賊「(下からの突き。直線攻撃。半歩外)」

ゴッッ!

盗賊「(ッ、脇腹掠めた。危ねえ、もう一歩踏み込んでたら腹に風穴空いてたな)」

白騎士「(二度。たった二度見ただけでこれを見切るか。流石はーーー)」

ズドッッ!

盗賊「(入った。普通なら、これで終わる。つーか終わってくれ)」

白騎士「……ミセリ…コルデ…か」ガクンッ

盗賊「……あんたに対して慈悲の気持ちはないけどな。痛いなら無理しないで倒れてくれねえか」

白騎士「フッ、フフッ…これで確信したぞ。やはり貴様で間違いない」ズッ

ガシィッ!

盗賊「がッ…まだ動けんのかよ。俺のことはいいから…先に…逝ってろ!!」ジャキッ



286以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/19(月) 01:52:50.67DF1P7wLNO (3/5)


白騎士「!?」

ズギャッッ!

白騎士「……これはジャマダハルに似ているな。まさか籠手にまで武器を仕込んでいるとは」

ミシッ…ミシミシッ…

盗賊「ぐっ…ガハッ…無理すんな。安らかに眠れ」

白騎士「こうも痛みが酷くては眠れんよ。かえって目が覚めた」ググッ

盗賊「ッ、さっさと逝け。冥府の船頭に渡す金がねえなら後で代わりに出してやる」

白騎士「此処まで来てのだ。二百年も待てんな」

盗賊「頑張っても五十年だ。向こうで待ってろ。つーか何で死なねえんだよ」



287以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/19(月) 02:04:59.08DF1P7wLNO (4/5)


白騎士「!?」

ズギャッッ!

白騎士「……これはジャマダハルに似ているな。まさか籠手にまで武器を仕込んでいるとは」

ミシッ…ミシミシッ…

盗賊「ぐっ…ガハッ…無理すんな。安らかに眠れ」

白騎士「こうも痛みが酷くては眠れんよ。かえって目が覚めた」ググッ

盗賊「ッ、さっさと逝け。冥府の船頭に渡す金がねえなら後で代わりに出してやる」

白騎士「此処まで来たのだ。二百年も待てんよ」

盗賊「頑張っても五十年だ。向こうで待ってろ。つーか何で死なねえんだよ」



288以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/19(月) 02:45:38.77DF1P7wLNO (5/5)


白騎士「知りたいのならーー」

盗賊「勝利して確かめろ…だろ?」ニヤッ

白騎士「ほう、この状況になって尚も笑うか。まだ何か策があるというのか?」

盗賊「ゲホッ…さあ…どうだろうな」

白騎士「出来ることならばもう少し付き合いたいところだ。しかし、私には時間がない」

盗賊「なに…言ってんだ?」

白騎士「(あれだけ喰らってもこの程度しか保たんとはな。此処では駄目だ。あの場所へ行かなければ……)」ダンッ

ズガンッ!ズガンッ!ズガンッ!

盗賊「ガハッ…(ったく、こんな夜更けに民家の壁ぶち破るなんて何考えてんだ。常識ってもんはねえのか)」

盗賊「(それより、何で心臓刺されてんのに走れるんだ。手応えはあった、外したはずはねえ)」

ズガンッ!ズガンッ!

盗賊「(ッ、今ので完全に傷が開いたな。痛み止めも切れた。すっげー痛え)

盗賊(背中縫って貰わねえと…姫様、怒るだろうな……あ~、頭が回らねえ…)」



289以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/20(火) 20:12:21.56TdQm0sKQO (1/3)


ダッダッダッ…

白騎士「ぐっ…」ブシュッ

ボタボタッ…

白騎士「(……最早己の肉体さえ儘ならぬか)」

白騎士「(だが終わらんぞ。終わりなど認めん。この私に終わりなど訪れるはずがない)」

白騎士「(死など存在しない。あってはならない。私は不滅でなくてはならないのだ)」ダンッ

バリンッッ!

『な、何だぁ!?』

白騎士「ハァァァ…」クルッ

『ひッ…ひぃぃッ!!』

白騎士「(これでは駄目だ。これでは足りぬ。今は喰らう時間すら惜しい。急がねば)」タッ

ドガッッ!パラパラッ…

『て、天井が……な、何だったんだ今のは……』



290以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/20(火) 22:09:39.80TdQm0sKQO (2/3)


白騎士「………」ズダンッ

盗賊「…ゴフッ…ゲホッゲホッ…何を焦ってんだ。まだ夜は始まったばかりだってのによ」

白騎士「フッ、そうだな。これは始まりの夜だ。新たな始まり、終わりではない」

盗賊「何を言ってんのかさっぱり分かんねえ。俺にも分かるように言ってくれよ」

白騎士「話すより見せた方が早い。理解出来るかは別としてな」ダンッ

盗賊「(また跳びやがった。ったく、どんな跳躍力してんだ。つーか高え、着地出来んだろうな)」

ビョゥゥゥ…

白騎士「欲したものは必ず手に入れる。何があろうと、必ず……」

盗賊「(……今、何か言ったな。風に遮られて良く聞こえなかったけど……)」



291以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/20(火) 23:44:36.35TdQm0sKQO (3/3)


ビョゥゥゥ…

盗賊「(……つーか、この状況はマズいな)」

盗賊「(この高さだ。首根っこ掴まれたまま着地されたら間違いなくボキッといっちまう)」

盗賊「(仕掛けは済んでる。今ならやれるか? いや、風に邪魔されちまうのがオチだ……ん?)」

白騎士「………」ブシュッ

盗賊「(……何でか分かんねえけどさっきから出血してんな。俺が刺した場所以外からも血が溢れ出てる)」

盗賊「(掴む力もかなり弱まってる。今なら内肘を刺して振り解けるんじゃねえか?)」

盗賊「(でもなぁ、これは流石に高すぎる。下に何か…落下の衝撃を逃がせる何かがあれば……)」チラッ

盗賊「(……あった。どうせこのまま落ちたら首折れて死ぬんだ。やるしかねえ)」



292以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/21(水) 00:34:02.37Eyhl8jLIO (1/2)


盗賊「……あんた、流れ星は見たことあるか?」

盗賊「消える前に願いを三度唱えれば、その願いは叶うらしいぜ。間に合えばだけどな」

白騎士「……何を言っている」

盗賊「見せてやるよ、流れ星。三度唱える時間があるか分かんねえけどな!!」ヒュッ

グサッッ!

白騎士「ぐっ!?」ズルッ

ビョゥゥゥ…

盗賊「ふ~っ…これで思いっ切り空気が吸える。よしっ…」

盗賊「助かりますように助かりますように助かりますように助かりますように!!」

盗賊「(何だよ、案外簡単に言えるじゃねえか。一回多く言ったけど、流れ星の願いって叶うのかな……)」

ビョゥゥゥ…

盗賊「(……まあ、なるようになんだろ)」



293以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/21(水) 01:26:14.42Eyhl8jLIO (2/2)


ボフッッ!

盗賊「……願っといて良かった」ガサッ

盗賊「(あの野郎が跳んだ先に牧場がなかったら死んでたな。あちこち痛えけど生きてりゃいいや……)」

盗賊「……ん、何だありゃ?」ザッ

盗賊「(地面が淡く光ってる。これは焦げ跡? ってことは遺体があった場所か)」

盗賊「(妙な紋様もあるな。あの野郎、儀式でもしたのか? やっぱりまともじゃねえな)」

ズダンッッ!

盗賊「!?」クルッ

白騎士「落ちた時は少々肝を冷やしたが、そこまで運ぶ手間が省けたな」



294以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/21(水) 20:23:32.38rDYNLnmxO (1/4)


盗賊「……早かったな。願いごとは唱えたかい?」

白騎士「願いとは叶えるものだ。唱えるだけでは叶わない。私の願いはそう安いものではない」

盗賊「……その願いってのは何人殺せば叶うんだ。そこまでして叶えたい願いってのは何なんだよ」

白騎士「直に分かる。ここからが戴冠の戦だ」ザッ

盗賊「(相変わらず何言ってんのか分かんねえ。輪転器が狙いじゃねえのか?)」

盗賊「(そもそも何で俺と戦う必要がある? あの爺さんに殺せって命令されたのか?)」

白騎士「冠を戴くのは勝利者のみ」ブシュッ

盗賊「(……まあ、それはいい。それより、何であの出血で動ける。歩くたびに甲冑から死が噴き出てーー)」

白騎士「往くぞ」ダンッ

盗賊「(鎧通しでぶっ刺した。心臓も貫いた。それなのに、まだこんな動きが出来んのかよ)」



295以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/21(水) 22:40:57.74rDYNLnmxO (2/4)


白騎士「………」グオッ

ブンッッ!

盗賊「(さっきと同じだ。ぶん殴るような大振り。これを避けてもう一度中にーー)」

白騎士「先の攻撃に眼が慣れたようだな。撒かれた餌とも知らずに」

盗賊「回っ…くっ!!」

ザンッッ!

盗賊「…はぁっ…はぁっ…くそっ…」ガクンッ

白騎士「(咄嗟に身を捩ったようだが傷は深い。だが、眼は生きている)」

白騎士「(要らぬ小細工をされると厄介だ。もう一押し、際の際まで追い詰める)」ダンッ

盗賊「(ッ、気を保て集中しろ。大きく動くな小さく躱せ。まだ終わらねえ、勝ち目はある)」



296以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/21(水) 23:37:15.71rDYNLnmxO (3/4)


白騎士「(眼が変わったな)」ズッ

盗賊「(突き。よく見える。これは誘いだ。飛び込んだ瞬間に肘を曲げて背中を刺すつもりか)」

白騎士「(……縦ではなく横に動いた。この程度の誘いには乗らんか)」

白騎士「(深傷を負えば勝負を急くだろうと思ったが、中々に冷静な男だな)」

盗賊「…ハァッ…ハァッ…」ジャリッ

白騎士「(諦めた様子は微塵もない。まだ勝とうとしているのか、面白い)」ヒュンッ

盗賊「(野郎、さっきとはまるで違うじゃねえか。一撃の力押しを止めて繋げて来やがった)」

ザシュッッ…ジリッッ…

盗賊「(ッ、しかも途切れねえ。これを全て躱し切るのは無理だ。どうしても小さいのを貰っちまう)」

盗賊「(このままじゃ受けてちゃマズい。何とかしてえけど、ああもくるくる舞われたら付け入る隙もねえ)」



297以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/21(水) 23:43:07.79rDYNLnmxO (4/4)


白騎士「(眼が変わったな)」ズッ

盗賊「(突き。よく見える。これは誘いだ。飛び込んだ瞬間に肘を曲げて背中を刺すつもりか)」

白騎士「(……縦ではなく横に動いた。この程度の誘いには乗らんか)」

白騎士「(深傷を負えば勝負を急くだろうと思ったが、中々に冷静な男だ)」

盗賊「…ハァッ…ハァッ…」ジャリッ

白騎士「(諦めた様子は微塵もない。まだ勝とうとしているのか、面白い)」ヒュンッ

盗賊「(野郎、さっきとはまるで違うじゃねえか。一撃の力押しを止めて繋げて来やがった)」

ザシュッッ…ジリッッ…

盗賊「(ッ、しかも途切れねえ。これを全て躱し切るのは無理だ。どうしても小さいのを貰っちまう)」

盗賊「(このまま受けてちゃマズい。何とかしてえけど、ああもくるくる舞われたら付け入る隙もねえ)」



298以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/22(木) 00:39:28.96kbFSV2H3O (1/2)


白騎士「(この眼、機を窺っているな)」

白騎士「(私にも時間はない。何もさせぬまま、このまま押し切る)」グンッ

盗賊「(ちっ、まだ上がんのかよ。くそっ、速過ぎる。これ以上は避けきれねえ……)」グラッ

白騎士「(血を失いすぎたか。捉えたぞ)」

グサッッ!

盗賊「………」ガクンッ

白騎士「右肩を貫いた、利き腕はもう使えまい。この戦、私の勝ちだ。後はあの場所ーー」

盗賊「籠手は右手にあるからな。こうするしか方法はなかった。膝を突いたのは隠す為だ」

盗賊「俺の持ってる爆弾は小せえし威力も高くない。でもな、近距離で二つ三つ爆発させれば話は別だ」



299以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/22(木) 01:20:04.03kbFSV2H3O (2/2)


白騎士「何?」

盗賊「……あんたはすぐに鞭を引き千切ったけど、巻き付いた部分は首に残ってる」

盗賊「鞭の先には爆弾を括り付けてある。甲冑を着けてても首を吹っ飛ばせるくらいにはな」ジュッ

白騎士「!!」バッ

盗賊「今更取ろうとしても遅えよ」ヒュッ

白騎士「(蹴り飛ばして距離をーー)」

盗賊「(このままじゃ俺まで巻き込まれる。後ろにーー)」

ドガンッッ!

盗賊「…はぁっ…はぁっ…危ねえ」

盗賊「(タイミングが良かった。跳んだ瞬間に蹴り飛ばされてなかったら巻き込まれてたな)」



300以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/22(木) 20:46:41.08yQJdRAdIO (1/5)


白騎士「(この眼、機を窺っているな)」

白騎士「(だが、私にも時間はない。何もさせぬまま、このまま押し切る)」グンッ

盗賊「(ちっ、まだ上がんのかよ。くそっ、速過ぎる。これ以上は避けきれねえ……)」グラッ

白騎士「(血を失いすぎたか。捉えたぞ)」

グサッッ!

盗賊「………」ガクンッ

白騎士「右肩を貫いた、利き腕はもう使えまい。この戦、私の勝ちだ。後はあの場所にーー」

盗賊「こうするしか方法はなかった。左手さえ動けば着火出来るからな」

白騎士「……何?」

盗賊「俺の持ってる爆弾は小せえし威力も高くない。でもな、近距離で二つ三つ爆発させれば話は別だ」



301以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/22(木) 20:51:08.50yQJdRAdIO (2/5)


白騎士「だから何だとーー」

盗賊「あんたはすぐに鞭を引き千切ったけど巻き付いた部分は首に残ってる」

盗賊「その鞭の先には爆弾を括り付けてある。爆発すれば甲冑を着けてようが首を吹っ飛ばせる」ジュッ

白騎士「!!」バッ

盗賊「今更取ろうとしても遅えよ」ヒュッ

白騎士「(蹴り飛ばして距離をーー)」

盗賊「(このままじゃ俺まで巻き込まれる。後ろにーー)」

ドガンッッ!

盗賊「…はぁっ…はぁっ…危ねえ」

盗賊「(タイミングが良かった。跳んだ瞬間に蹴り飛ばされてなかったら巻き込まれてたな)」



302以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/22(木) 20:56:50.38yQJdRAdIO (3/5)


盗賊「ッ、詰め所に…戻らねえとな……」フラッ

盗賊「(くそっ、意識を保つのがやっとだ。気を抜いて倒れたらそのまま逝っちまう)」

ガシャッ…

白騎士「…ゴボッ…ガフッ…」

盗賊「(おいおい冗談だろ。首吹っ飛んでんのにまだ生きてんのかよ。頭が胸元まで垂れ下がって……)」

白騎士「……右肩を狙わせたのは武器を封じる為か。利き手を失ったのは私の方だったと言うわけだ」ザッ

盗賊「(有り得ねえ。今に分かったことじゃねえが、あいつは本物のバケモノだ)」

白騎士「ゴフッ…鞭を使ったのは先を取る為ではなく、初めからこれを狙ってのこと……」

白騎士「全ては確実に仕留める為の布石。堪え忍び、息を殺し、この時を待っていた。そうであろう?」

盗賊「(もう、声も出ねえな。ここまで来ると笑えてくるぜ)」

白騎士「見事、実に見事。褒めて遣わす。それでこそ私の輪転器に相応しい」



303以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/22(木) 22:44:29.67yQJdRAdIO (4/5)


盗賊「(何? 今、何て言った?)」

白騎士「私は終わらん。私に死は訪れない。新たな血と肉を得て、私は再び歩き出す」ダッ

盗賊「(……ざけやがって、あんなのどうしろってんだよ。もう策は尽きた。避けようにも体が耳を貸さねえ)」

白騎士「ハハハッ! 体が歓喜に震える。久しい、久しいぞ。そうだ、そうであった」グオッ

盗賊「イカレ野郎が……」

ガシッッ!

盗賊「ぐッ…ゲホッ…」

白騎士「求めるものは苦難の果てにある。それこそが勝利。私の求めるもの」

ダッダッダッ…ドサッ!

盗賊「(ぐっ…この場所は遺体があったとこか? 何だ、さっきより光が……)」



304以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/22(木) 23:59:23.58yQJdRAdIO (5/5)


白騎士「これで準備は整った」

盗賊「(まさか男に覆い被さられる時が来るなんてな。これが美女なら諦めも付いたのに……)」

ゴシャッ! ズルリ…

盗賊「(今の音は何だ? 垂れ下がった頭が邪魔で何も見えねえ)」

白騎士「今こそ、転生の時……」

ゾブッ…

盗賊「(ッ、何だ。腹ん中に何かが入ってくる。くそっ、すっげえ痛え…力が抜けてく……)」

盗賊「(寒くて冷たくて眠い。今目を閉じたら、さぞや気持ち良く眠れるんだろうな)」



305以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/23(金) 00:25:52.20U0wfq6ijO (1/3)


白騎士「貴様の死が、私の新たな始まりだ」

盗賊「(……ああそうか、これが死ってやつか。何か、妙に落ち着くな。悪くねえ気分だ)」

盗賊「(死ぬのはいい。どうせいつかは死ぬんだ。でも、こんな奴に殺されんのは御免だ)」

白騎士「さあ眠れ。私の器として生まれたことを光栄に思うがいい」

盗賊「……そんなに死ぬのが怖いのか。あんた、案外臆病な奴なんだな」

白騎士「まだ減らず口を叩けるとはな。だが、もうじき終わる」

盗賊「……口さえ動けば上等さ。口さえ動けば、喉元に齧り付けるからな」

ガブッッ! ブチブチッ!

白騎士「がッ!?」

盗賊「(これで死ぬかどうか分かんねえ。ただ、やれることはやる。死ぬまで諦めねえ)」



306以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/23(金) 01:28:35.59U0wfq6ijO (2/3)


白騎士「…ゴブッ…よ…ぜ…やめろ」

盗賊「………」ギチッ

白騎士「やめろォォォッッ!!」

盗賊「………」グイッ

ブチブチッッ! ゴロンッ…

白騎士「」ドサッ

盗賊「……どんな奴でも死ぬときゃ死ぬんだよ。憶えとけ」

ガシャンッ…

盗賊「?」チラッ

盗賊「(兜が外れたのか。つーか、あの顔……まあいいや。何かもう、色々疲れた……)」



307以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/23(金) 01:33:10.41U0wfq6ijO (3/3)

また明日


308以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/23(金) 05:31:57.08ZRDtCuwJo (1/1)




309以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/24(土) 00:28:28.78/HbUbsMAO (1/8)


【これまでのあらすじ】

王の秘宝、輪廻転生機。通称『輪転機』

輪転機を狙って王宮に忍び入った盗賊だったが、宝物庫で目にしたのは寝間着の女性であった。

状況を飲み込めずにいる盗賊に対し、彼女は自分が王女であること、探し求める輪転機が自分であることを告げる。

輪転機とは輪転器。王の力は器を変えて代々受け継がれているのだという。

「わたしを盗みますか?」

盗賊は面倒事になるからとその場を立ち去ろうとするが、駆け付けた騎士に取り抑えられてしまう。

暗殺未遂で処刑を言い渡された盗賊は独房へと入れられたが、さして気にすることもなく看守と談笑していた。

そこへ老人(魔王)が現れる。老人は看守に下がるように言い、盗賊に語り始めた。

「儂の体は長くは保たない」

王位継承の時は刻々と迫っており、この時期になると輪転器暗殺を企む輩が現れる。

何故にそんな話をするのかと問う盗賊に、今や王宮内部の者達は信用出来ないのだと言う。



310以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/24(土) 00:30:23.78/HbUbsMAO (2/8)


「儂の娘を、輪転器を盗んでくれ」

王の力が輪転器へと渡るまで彼女を守って欲しい。それが、魔王の依頼であった。

盗賊はその依頼を引き受けると夜に脱獄。再度王宮へと忍び込み、宝物庫にて王女と再会する。

まさかの再会に驚く王女。

彼女は輪転器であることを受け入れながらも、外界への憧れを捨てきれずにいた。

「今から外に出て星を眺めようと思ってるんだけど、良ければ一緒にどうかな?」

盗賊の言葉に大きく心を動かされる王女だったが、自分の我が儘で混乱を招くことを恐れ、決断を下すことが出来ない。

いっそ何も言わず連れ去ってくれたなら。そんなことを考えている間に騎士達の足音が迫っていた。

それでも王女の答えを待つ盗賊。曰く、無理矢理に攫うような真似は好きではないらしい。

「きみは輪転器なんて無機質なモノじゃない。きみは、生きてる」

この言葉により、王女は王宮を出ることを決意する。

「……今からでも、間に合いますか?」

盗賊は王女の願いを叶える為、傷を負いながらも王宮から脱出するのであった。



311以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/24(土) 00:33:44.81/HbUbsMAO (3/8)


逃亡中、失血により盗賊が落馬してしまう。

王女の手当てによって傷は塞がったものの盗賊に意識はなく、失血と寒さに身を震わせていた。

「迷う必要なんてない。この人を死なせはしない」

文字通り命を賭して王宮から連れ出してくれた盗賊を救う為、王女は服を脱ぎ、冷え切った体に寄り添った。

一夜が明け、添い寝の甲斐あってか盗賊は意識を取り戻す。

「行くって、何処へ……」

「姫様の自分探しに決まってるだろ?」

こうして、二人は街を目指した。

盗賊は追っ手が来ないことを不審に思いながらも馬を走らせ、街に到着。

王女は門番によるニンゲンへの差別を目の当たりにし、これが世の常識なのだと実感する。

一触即発と思われたが、賄賂によって門を潜り抜け、二人は街に足を踏み入れた。

「な、何だか目が回りそうです」

王宮とは全く違う景色に驚く王女。街の人々はそれぞれがそれぞれの生活をしていた。



312以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/24(土) 00:38:06.17/HbUbsMAO (4/8)


変装用の服を買い。遅めの朝食。

朝食を終え、預けていた白馬を迎えに行こうとするも、何やら騒ぎが起きていた。

見れば厩の辺りに煙が上がっており、急いで駆け付けると野次馬の会話が耳に入る。

『ついさっき兵士の会話を聞いちまったんだが、厩舎の主が焼け死んでたって話だ……』

厩へ近付くと警備兵に呼び止められ、二人は厩の中へと案内される。

警備兵によると盗賊の馬のみが逃げ、他の馬は全て斬殺されたと言う。

そして、壁には盗賊に向けた殴り書きがあった。

「我が王冠は貴様の手に在り。貴様の王冠は我が手に在る。さあ、戴冠の戦を始めよう」

盗賊はその意味が分からぬまま、気を失った王女を背負い宿屋へと向かったのであった。



313以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/24(土) 00:52:53.17/HbUbsMAO (5/8)


目覚めた王女は、外へ出たことを悔いていた。

「泥棒さんに傷を負わせたのも、厩舎の主さんを死なせてしまったのも、わたしの我が儘が原因です」

これ以上迷惑を掛けるわけにはいかない。王宮に戻る。そう言い出した王女に、盗賊は全てを打ち明けた。

王の依頼内容。輪転器暗殺を企てている存在。何処へ行こうとも君は命を狙われるのだと。

それを聞いた王女は、これまでの行いは全て依頼の為だったのかと涙ながらに問い質す。

「あの時、きみに一目惚れしたんだ。今まで見た何よりも綺麗で、誰よりも輝いて見えた」

更に泣き出す王女であったが、徐々に落ち着きを取り戻し、事件のあらましについて盗賊に訊ねた。

話を聞く内に、王女はある人物を思い出す。それは千年も前に没した白い騎士。

犯人と戦うことを決意した盗賊。その助けになればと思い、王女は語り出した。

王女が白い騎士について話し終えると、盗賊は部屋の前にいた警備兵を招き入れた。

警備兵は王女の言葉を信じ、宿屋よりは安全だと言い、二人を詰め所へと案内する。



314以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/24(土) 02:02:22.81/HbUbsMAO (6/8)


詰め所へ到着した後、盗賊は犯人について警備兵に訊ねたが進展はなかったという。

特に怪しいのは盗賊が馬を預けた直後にやって来た男。盗賊の言うように右手に火傷はあったが何も所持していなかったとのこと。

盗賊がその男に会いに行こうとした時、突如王宮騎士団長が現れる。何故此処が分かったのかと問う王女に、馬の導きだと答える騎士団長。

騎士団長の背後から現れたのは白馬。白馬は逃げ出したのではなく、盗賊の危機を報せる為に走ったのだった。

盗賊は二人に王女を任せ、詰め所を後にする。宿屋に到着し足を踏み入れると、中は血の海であった。

宿泊客全員が殺害されたかと思ったが、犯人と思しき男のみが生きていた。

男は何かに怯えるように小刻みに震えている。盗賊が近付こうすると、男の絶叫と共に何かが現れた。

男の体を突き破って現れたのは白い騎士。白銀の甲冑を着た男が犯人かと思われたが、甲冑が人を着ていたのだ。



315以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/24(土) 02:11:01.38/HbUbsMAO (7/8)


長い戦いが始まった。

一度距離を取ろうとするが追い付かれ、接近戦を余儀なくされる。

石畳ごと地面を穿つ圧倒的な力に戦慄しながらも間一髪で避け、鞭による奇襲を仕掛ける。

攻撃を掻い潜り鎧通しで刺し貫き、更には心臓を貫くが白い騎士の動きは止まらない。

白い騎士は動揺する盗賊の首を掴み、盗賊を盾に家屋を次々と突き破り、屋根を蹴り跳んだ。

盗賊は内肘を突き刺し空中で拘束を解き、牧場に落下。藁の山に救われる。

焼け跡が淡く光っていることに疑問を持つ盗賊だったが、直後に白い騎士が牧場に降り立ち再び戦いが始まる。

先程とは打って変わり舞うように斬り付けてくる攻撃に付いて行けず、袈裟に斬られてしまう。

身を捩って体勢を立て直したものの白い騎士の猛攻は収まらず、遂には右肩をも貫かれる。

膝を突き敗北したかに見えたが鞭に仕掛けていた爆弾を誘爆させ、首を吹き飛ばすことに成功。

しかしそれでも白い騎士を倒すことは叶わず、遺体現場に組み伏せられてしまう。

盗賊は死を覚悟したが、垂れ下がった首の繊維に齧り付き、白い騎士の頭部を引き千切ろうと試みる。

やめろと叫ぶ白い騎士の声が届くことはなく、頭部を引き千切られ完全に沈黙。

死闘の末に勝利したものの、盗賊は深い微睡みに落ちたのだった。



316以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/24(土) 02:21:06.13/HbUbsMAO (8/8)

普通に続き書けば良かった。また明日。


317以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/24(土) 17:06:25.49paZgWt6xO (1/1)

あらすじとか必要ないから本編書いてくれよ


318以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/24(土) 19:19:14.57sMx/A2h3o (1/1)

投下おつ


319以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/25(日) 00:04:27.76vxyR53DYO (1/4)


【詰所】

コンコンッ…

警備兵「誰だ?」

『事件現場の見張りを担当している者です。報告があります』

警備兵「その場で話してくれ」

『裏手の牧場にて白い騎士とニンゲンが交戦。両者共に死亡したかと思われます』

王女「そんなっ!! あなた達は一体何をしてーー」

警備兵「黙っていろ」

王女「!!」ビクッ

『何か問題でも?』

警備兵「いや、何も問題ない。それより死亡したと思われるとは何だ? 生存確認は?」

『いえ、しておりません。その必要はないと判断しました』



320以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/25(日) 00:09:42.97vxyR53DYO (2/4)


【詰所】

コンコンッ…

警備兵「誰だ?」

『事件現場の見張りを担当している者です。報告があります』

警備兵「その場で話してくれ」

『裏手の牧場にて白い騎士とニンゲンが交戦。両者共に死亡したかと思われます』

王女「そんなっ!! あなた達は一体何をしてーー」

警備兵「黙っていろ」

王女「!!」ビクッ

『何か問題でも?』

警備兵「いや、何も問題ない。それより死亡したと思われるとは何だ? 死亡確認は?」

『いえ、しておりません。その必要はないと判断しました』



321以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/25(日) 00:42:24.95vxyR53DYO (3/4)


警備兵「……今から行く。医者を手配しておけ」

『その必要はないかと思いますが』

警備兵「念の為だ。死亡していた場合は医者の診断書が必要になる」

警備兵「後になって報告書に時間を取られると面倒だ。早い内に済ませたい」

『それもそうですね。了解しました』ザッ

タッタッタッ…

警備兵「申し訳ない。お聞きの通り急用が出来たので少しばかり外します」

騎士団長「ああ、了解した」

王女「…………」

警備兵「では、失礼」ザッ

ガチャ…パタンッ…

王女「……これも、外では当たり前のことなのですか?」



322以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/25(日) 01:26:38.04vxyR53DYO (4/4)


騎士団長「姫様、聞いて下さい」

王女「彼等は警備隊なのでしょう!? 警備隊とは守る立場にある方々ではないのですか!?」

王女「先ほど報告に来た方は現場にいたと言っていました!彼等なら助けられたかもしれない!!」

騎士団長「(姫様……)」

王女「……助けることは出来なくともお医者様は呼べたはずです。なのに放って置くなんて、わたしには理解出来ません」

王女「それも、あんなにも平然としていられるなんて……何故ですか? 彼がニンゲンだからですか?」

騎士団長「……そうです。ニンゲンとは我々にとって『その程度』の存在なのです」



323以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/25(日) 10:16:53.48OvgkZgD8O (1/4)


王女「っ、何故そこまで…」

騎士団長「守る立場だからこそです。我々のような者にとって、ニンゲンとは犯罪者でしかない」

王女「全てがそうと言うわけではないでしょう?中には善良なニンゲンもいるはずです」

騎士団長「確かにそうでしょうな。全てのニンゲンが悪であるとは思いません。民間人の中には親しくしている者もいるかもしれません」

騎士団長「しかしながら、私のような立場にある者は犯罪を犯すニンゲンしか知らない」

王女「知らない?」

騎士団長「知らないと言うより、仕事上悪党を相手にすることが圧倒的に多いのです」

騎士団長「その為、私や警備隊の彼等にとってニンゲンとは悪であるという考えが根付いた」

王女「……余りにも偏った考えです。そこに救うべき者がいるのなら種族など関係ないはずです」

騎士団長「そうでしょうな。私もそうあるべきだと思います。しかし、世に平等などない」



324以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/25(日) 10:41:01.77OvgkZgD8O (2/4)


騎士団長「この際、はっきりと言っておきます。姫様が仰っていることは綺麗事です」

王女「!!」

騎士団長「差別もあれば偏見もある。それはニンゲンに限ったことではありません。此方側でも起きていることなのです」

騎士団長「耳や尻尾を持つ者を獣だと迫害する者もいれば、私のように角がある者を野蛮だと罵る者もいる」

王女「………」

騎士団長「……ニンゲンによる殺人事件が起きた場合、そのご家族は誰を憎むと思いますか?」

王女「いきなり何をーー」

騎士団長「彼等は犯人ではなく、ニンゲンという種族そのものを憎みます」

王女「…………」

騎士団長「同族による殺人事件ならば犯人を憎むでしょう。しかし、種族が違えば種族を憎む」



325以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/25(日) 11:09:19.00OvgkZgD8O (3/4)


王女「……わたしには、分かりません」

騎士団長「そうでしょうな。姫様には書物で得た知識しかない。彼等が与えられた痛みを見たことがないのですから」

王女「……っ」キュッ

騎士団長「彼等警備隊はその痛みを知っている。何度も何度も見てきたことでしょう」

騎士団長「そして、一度根付いたものは消えることはない。種族の違いとはそれ程までに大きい。姫様、これが現実なのです」

王女「だからニンゲンである彼を見殺しに? ニンゲンならば見殺しにしても構わないと?」

騎士団長「………」

王女「……被害者の家族は犯人ではなくニンゲンそのものを憎む。そう言いましたね」



326以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/25(日) 14:30:44.28OvgkZgD8O (4/4)


王女「そのお言葉を返すようですが」

王女「わたしはニンゲンという種族に救われたのではありません。わたしは彼というニンゲンに救われたのです」

王女「彼は彼です。自由で優しい、温かい心を持った…わたしの……」ポロポロ

騎士団長「………」

王女「……彼は境界線を飛び越えて、種族を飛び越えて、わたしをわたしとして連れ出してくれた」

王女「まだ二日と経っていないけれど、彼は短い間に沢山のものを見せてくれたのです……」フラフラ

ガシッ…

王女「離して下さい。彼に会いに行きます……」

騎士団長「なりません。姫様を守ると約束しました。これは奴の頼みでもあります」

王女「…っ…うぅ…わたしは、まだ彼に何も……与えられてばかりで…何も……」ポロポロ



327以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/25(日) 23:17:08.89BGtx0UxZO (1/1)


王女「お言葉を返すようですが」

王女「わたしはニンゲンという種族に救われたのではありません。わたしは彼というニンゲンに救われたのです」

王女「彼は彼です。自由で優しい、温かい心を持っています。彼は…彼はわたしの……」ポロポロ

騎士団長「………」

王女「……彼は境界線を飛び越えて、種族を飛び越えて、わたしをわたしとして連れ出してくれた」

王女「まだ二日と経っていないけれど、彼は短い間に沢山のものを見せてくれたのです……」フラフラ

ガシッ…

王女「離して下さい。彼に会いに行きます……」

騎士団長「なりません。姫様を守ると約束しました。これは奴の頼みでもあります」

王女「…っ…うぅ…わたしは、まだ彼に何も……与えられてばかりで…何も……」



328以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/26(月) 00:47:45.00b2rVHaqQO (1/6)


騎士団長「姫様、落ち着いて下さい。まだ奴が死んだと決まったわけではありません」

騎士団長「此処を出る前に警備兵が医者を手配させたのを憶えていますか?」

王女「……ええ、死亡診断書とやらを書いて貰う為でしょう?」

騎士団長「いえ、私はそうではないと思います。彼は奴に助力するつもりでしたからな」

王女「えっ…」

騎士団長「おそらく、報告書や診断書云々は医者を呼ばせる為の方便」

騎士団長「どうにかしてあのニンゲンを助けたい……」

騎士団長「などと言った所で聞く耳を持たなかったでしょう。あのように言うしかなかったのです」



329以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/26(月) 01:00:42.58b2rVHaqQO (2/6)


王女「では、兵士さんは泥棒さんを……」

騎士団長「ええ、助けるつもりです。死亡確認していないのであれば、まだ分かりません」

騎士団長「ですが、先程の報告者は確認するまでもない言っていました。となれば相当の深傷を負っていると見て間違いないでしょう」

王女「……助かる可能性はあるのですね?」

騎士団長「可能性はありますが助かるか否かは分かりません。そればかりは運としか……」

王女「……なら、待ちます。あのっ、先程は取り乱してしまって申し訳ありません」ペコッ

騎士団長「そ、そんなっ、姫様が謝ることなどありません!! 謝らなければならないのは私です。姫様に対してあのような過ぎた口をーー」

王女「お気になさらないで下さい」

王女「あれは警備隊の方々や此方側が抱えている様々な問題。それらを教える為に言って下さったのでしょう?」



330以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/26(月) 01:30:13.97b2rVHaqQO (3/6)


騎士団長「………」

王女「現実。そう言われた時は頭をがつんと殴られたような気がしました」

王女「差別について納得は出来ませんが、現実に起きていることとして受け入れようと思います」

王女「ですから、謝ることなどありません。いつまでも無知なままでは駄目ですから」

騎士団長「姫様……」

王女「外は美しい世界だとばかり思っていました。これからは気を付けなければなりませんね」

騎士団長「これから? それは一体どういう……」

王女「泥棒さんが帰って来たら、また旅に出ることになると思いますから」



331以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/26(月) 01:45:03.02b2rVHaqQO (4/6)


騎士団長「ですが、生きているかーー」

王女「ええ、生きているかどうかなど分かりません。だからこそ、信じて待ちます」

王女「泥棒さんはすぐに帰ってくると言っていました。だから、きっと大丈夫。きっと……」

騎士団長「(姫様のこんなお姿は見たことがない。たった一日で随分とお変わりになられた)」

騎士団長「(……いや、姫様が変わったのではない。私が姫様のことを何一つ知らなかったのだ)」

騎士団長「(私にとって、姫様があの部屋にいるのは当たり前だった。姫様が苦しんでいることなど知る由もなかった)」

騎士団長「(……違うな。もっと言うなら、私は知ろうとすらしていなかった)」



332以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/26(月) 01:54:56.19b2rVHaqQO (5/6)


王女「……どうか、彼をお救い下さい」

騎士団長「(内向的で読書が好きな少女。勝手にそう思い込んでいたが、どうやら違っていたようだな)」

騎士団長「(おそらく、これこそが本来の姫様なのだろう)」

騎士団長「(泣きもすれば笑いもする。感情を露わにするのは変化ではない。当たり前のことだ)」

騎士団長「(しかし、また旅に出たいなどと言い出すとは。出来ることなら一刻も早く王宮へ戻って欲しいが……)」チラッ

王女「……お願いします。彼をお救い下さい」

騎士団長「(奴が生きて帰ったらどうするべきか……今の内にどちらを選ぶか決めておいた方が良さそうだな)」



333以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/26(月) 01:55:43.99b2rVHaqQO (6/6)

また明日


334以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/26(月) 18:48:26.80kq6tQuAQO (1/1)

姫がいくら盗賊庇おうが犯罪者だしな城に侵入する建物破壊する兵士を傷つける……
うん、ゴミ野郎だな盗賊



335以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/26(月) 20:11:22.654ZwKmF14O (1/1)

ついでに言えば姫様誘拐してるし白馬盗んでるし門番に賄賂渡してるし白騎士のことなんて殺しちゃってるしな
とんでもない極悪人だよ


336以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/27(火) 06:56:58.50Hhk4OGsIO (1/1)

極悪人だな盗賊に稼ぎ頭の夫(兵士)が傷つけられて路頭に迷う家庭もあったりするんやろな


337以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/27(火) 07:45:00.806mn+ZYD/O (1/1)

そんな描写ないけど>>336には何が見えてるの?


338以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/27(火) 07:50:15.27NTKWR3S9o (1/1)

誰一人傷付けてない上に城を破壊して雇用を生み出す有能盗賊。
なお白馬は、厩舎が爆破された際に見捨てられたところを、盗賊が回収しただけの模様。


339以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/27(火) 19:46:34.50ojhQIDIBO (1/11)


【厩舎】

『おい、これ見ろよ』ジャラッ

『こ、こいつは凄え。それ全部金貨かよ。このニンゲンは一体何者だ?大した身なりじゃないが……』

『そんなことはどうだっていい。それよりどうだい? 二人で山分けにしないか?』

『おいおい。死人から剥ぎ取る気か?』

『人聞きの悪いこと言うなよ。どうせ使い道がないんだ。このままじゃ金が泣いちまうだろ?』

『……まあ、それもそうだな。今なら誰にもバレやしない。今のうちに頂いちまおう』

『へへっ、現場の見張りなんて退屈で仕方なかったが、まかさこんなご馳走にありつけるとはな』

『ああ、これで当分は遊んで暮らせる。いっそ警備隊なんぞ辞めてーー』

ザッ…

『『!!?』』

警備兵「厩の前に姿がないから何をしているかと思えば二人揃って死体漁りか」



340以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/27(火) 20:38:40.39ojhQIDIBO (2/11)


『何だよ。文句あんのか?』

警備兵「いや? 別に文句はない。ただ、考えていた筋書きと異なる展開なので少々困っている」

『筋書き?』

『まさか独り占めにする気じゃねえだろうな?』

警備兵「……勇敢な警備隊員が殺人鬼に襲われていたニンゲンを助け、殺人鬼を打ち倒した」

警備兵「忌むべきニンゲンをも救おうと奮闘した警備隊員は街の英雄となり、更には莫大な報奨金を手に入れる」

警備兵「事件は解決。警備隊全体の評価も上がる。とまあ、こう考えていた」



341以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/27(火) 20:41:16.51ojhQIDIBO (3/11)


『ちなみに、その勇敢な警備隊員ってのは?』

警備兵「お前達以外に誰がいる?」

『……いまいち信用ならないな。あんたは何をしに来た』

警備兵「そこの白い騎士に警備隊が使っている剣を刺しておこうと思ってな」

『何でだよ?』

警備兵「そこのニンゲンに手柄を横取りされては警備隊の面子が潰れるだろう?」

『誰もニンゲンがやったなんて思わねえだろ』

警備兵「甲冑を見てみろ。見る奴が見れば誰がやったか分かる。そのニンゲンが使ったのは特殊な武器のようだしな」



342以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/27(火) 20:44:42.18ojhQIDIBO (4/11)


『た、確かにそうかもしれねえな』

警備兵「そこで、警備隊が殺したという確固たる証拠が必要になるわけだ」

警備兵「だが、『今のところ』そんな証拠は何処にもない。さて、どうする」

『なる程、読めたぜ。なければ作れば良いってわけだな?』

『そういうことなら俺達の剣を使ってくれ』ザクッ

警備兵「そうか、それは助かる。二本ともしっかり刺しておこう。報告書にもそう書いておく」

『裏切ったらただじゃおかねえぞ』

警備兵「そんな馬鹿な真似はしない。そんなことをすれば俺も終わるからな」



343以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/27(火) 21:00:25.78ojhQIDIBO (5/11)


『共犯ってわけだな。後は頼むぞ』

警備兵「ああ、そうだ。ちょっと待て」

『『?』』

警備兵「名誉の負傷だ。受け取れ」

ヒュッヒュッ…ブシュッッ…

『いぎゃあああ!!』

『ひ、ひぃぃっ!! 腕、腕が!!』

警備兵「傷がなければ不審がられる。それも必要な証拠だ。さっさと医者に行け。血相を変えてな」

『か、肩を貸してくれ』

『ッ、早くしろ。行くぞ』

タッタッタッ…

警備兵「富と名誉の為なら斬られても文句一つ言わないか。欲深い奴らだ」

警備兵「……しかし、奴等が英雄か。あの傷が癒えたら、酒場あたりで女相手に得意気に語るのだろうな」



344以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/27(火) 21:04:10.97ojhQIDIBO (6/11)


『共犯ってわけだな。後は頼むぞ』

警備兵「ちょっと待て」

『『?』』

警備兵「名誉の負傷だ。受け取れ」

ヒュッヒュッ…ブシュッッ…

『いぎゃあああ!!』

『ひ、ひぃぃっ!! 腕、腕が!!』

警備兵「傷がなければ不審がられる。それも必要な証拠だ。さっさと医者に行け。血相を変えてな」

『か、肩を貸してくれ』

『ッ、早くしろ。行くぞ』

タッタッタッ…

警備兵「富と名声の為なら斬られても文句一つ言わないか。欲深い奴らだ」

警備兵「……しかし、奴等が英雄か。あの傷が癒えたら、酒場あたりで女相手に得意気に語るのだろうな」



345以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/27(火) 22:13:11.39ojhQIDIBO (7/11)


警備兵「…チッ…まあいい。おい、人払いは済んだ。もう出て来ていいぞ」

ガサガサッ…

医師「………」

警備兵「何をしてる。さっさと始めろ」

医師「あんたも警備隊だろ? 何でそこまでしてニンゲンをーー」

警備兵「いいからさっさとしろ。それから、来る途中にも言ったはずだ。お前に拒否権はない」

医師「……例の件、本当に見逃してくれるんだろうな」

警備兵「ああ、助けることが出来たらな」

医師「っ、畜生。何でニンゲンなんか治療しなけりゃならないんだ……」ブツブツ

カチャカチャ…ヂョキヂョキ…

医師「……酷いな。脈はあるが助かるかどうか分からんぞ。適切な処置をしても見込み薄だ」



346以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/27(火) 22:28:15.00ojhQIDIBO (8/11)


警備兵「…………」

医師「も、勿論全力は尽くす。けどな、助からなくても文句は言うなよ」

警備兵「文句は言わないが口が滑るかもしれないな。怪しげな薬を売り捌いて違法に利益をーー」

医師「分かった!分かったよ!! やれば良いんだろ!!」

キュポンッ…バシャバシャ…

警備兵「今の液体は?」

医師「消毒と止血剤だ。微量の麻痺毒も混ぜてある。体が跳ねるかもしれないから抑えててくれ」

警備兵「分かった」ガシッ

医師「しっかし、この傷で生きてるのが不思議なくらいだ。普通ならとっくに……ん?」

警備兵「どうした?」

医師「臍の辺りに何かが刺さってる。何かの破片のようだが……まずはこっちだな」



347以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/27(火) 23:00:51.59ojhQIDIBO (9/11)


ジクジク…

医師「……なあ、やっぱり聞かせてくれないか」

医師「何でニンゲンを助ける? あんたは今まで何人ものニンゲンを取っ捕まえてきた」

医師「殺したことだってあるはずだ。それなのに何故だ? どうにも理解出来ない」

警備兵「お喋りな医者だな。まずは自分の口を縫ったらどうだ」

医師「真面目に聞いてるんだ。答えくれ」

警備兵「……偽りの名声を得る為に斬られる奴。誰かの為に命を張る奴。お前ならどっちを取る」

医師「それは後者だろうよ。ニンゲンじゃなければな」

警備兵「そうだな、ニンゲンじゃなければ隠れて助ける必要もなかった。あんな奴等に手柄をくれてやることも……」

医師「……あんたがそこまでして助けるなんて今でも信じられない。そんなに良い奴なのか?」



348以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/27(火) 23:06:09.07ojhQIDIBO (10/11)


警備兵「いいや、悪党だ。王宮に侵入して王の秘宝を盗もうとして捕まった」

医師「そんな馬鹿な……冗談だろ? そんなことしたってんなら既に処刑されてるはずだ」

警備兵「…………」

医師「……マジなのか?」

警備兵「ああ、これ以上詳しくは言えないがな」

医師「だったら尚更だ。何で助ける?」

警備兵「馬鹿だからだ」

医師「は?」

警備兵「このニンゲンは此方側の女の為に命を張って戦った。たった一人で、助けを求める素振りも見せずにな」

警備兵「まるで種族なんぞ関係ないように振る舞って、当然のように一人で戦いに行ったんだ」

医師「それでこのザマってわけか。正しく馬鹿で愚か者だな。満足げな顔しやがって……」



349以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/27(火) 23:37:58.77ojhQIDIBO (11/11)


警備兵「気に入らないだろ?」

医師「気に入らないな。この顔を見てると腹が立ってくる。いけ好かない奴だ」

ビクンッ!

医師「っ、始まったか。しっかり抑えててくれよ」

警備兵「ああ、分かっている」ガシッ

医師「……その女ってのはさぞかしイイ女なんだろうな。男を馬鹿にさせるくらいに」

警備兵「そんな魔性ではない。確かに美しいが世を知らぬ箱入り娘だ。純粋で疑うことを知らない」

医師「そういう女の方がそそるのかね。まあ、分からんでもないな。守りたくなるってやつか?」

警備兵「かもしれないな。俺は御免被るが」

医師「何でだい?」

警備兵「彼女と共にいれば命が幾つあっても足りないからだ。傍にいれば『こうなる』」

医師「何でまた、そんな厄介な女に……」

警備兵「言っただろう。馬鹿なんだよ、こいつは……だから何としても助けたい。そして、俺が捕まえる」

医師「……そうか、なら協力しないとな。こんな凶悪犯をあの世に逃がすわけにはいかない」



350以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/28(水) 00:13:48.96uSRogMXUO (1/7)


ジクジク…ヌリヌリ…

医師「……よし。後は破片だけだな」

警備兵「これは?」

医師「白銀のように見えるな。しかし妙だ。出血が全くない。刺さっていると言うより、めり込んでいるような……」

医師「とにかく引き抜いてみるしかない。金属片というのは厄介だからな。これで挟んで……」カチッ

ズズ…ズルリ…

警備兵「……長いな。こんなものが腹に入っていたのか」

医師「まるで結晶柱のようだ。綺麗に磨き上げられてる。それより見てくれ、引き抜いた箇所には傷一つない」

警備兵「こんなことが有り得るのか? 傷を負わせずに杭を打ち込むようなものだぞ?」

医師「……何かは分からないが、下手に触らなくて正解だった。小瓶に入れておこう」



351以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/28(水) 00:16:58.82uSRogMXUO (2/7)


医師「(しかし気味が悪いな)」

医師「(微かに脈があるような気がする。まるで生きているようだ……)」

カチャカチャ…カランッ…キュッ…

医師「ふ~っ、これで終わりだ。最善は尽くした」

警備兵「いや、まだ終わっていない。運ぶのを手伝え」

医師「…ハァ…ああ、分かったよ。しかし当てはあるのか?」

警備兵「ある。そこの荷車に乗せて運ぶぞ。急げ」

医師「まったく、本当に人使いの荒いお人だな。俺は医師だぞ? 走るのは馬の仕事だ」

警備兵「さっさとしろ。準備は良いな?行くぞ」

医師「準備もなにも拒否権は無いんだろ? 分かってるよ」ハァ

ガラガラガラ…



352以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/28(水) 00:58:13.61uSRogMXUO (3/7)


ーーー
ーー


『気でも狂ったか白騎士よ』

『私は正気だ。ただ、仕える人物を間違えた。私が仕えるべきは貴様ではない』

『呑まれたか。哀れな男だ……』

『哀れ? 哀れだと? 貴様に私を哀れむ資格など微塵もない。貴様も所詮は王の傀儡だ』

『……我が国の英雄の最期がこれか。やはり渡すべきではなかったな』

『何とでも言うがいい。私が仕えると決めたのは生涯ただ一人。彼女だけだ』

『聞け、白騎士。彼女はもういないのだ。正気を取り戻せ、それに呑まれるな』

『ならば待つまでだ。百年だろうと千年だろうと待ち続けよう。彼女は必ずや蘇る』



353以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/28(水) 01:40:31.20uSRogMXUO (4/7)


『……最早何を言っても無駄なようだな』

『私が勝利を捧げるべきは彼女のみ。勝利は我が手に在り。いざ、参る』

盗賊「ッ!!」ガバッ

ゴツンッ!

盗賊「(ッ、いってえ!! 体中が痛え!!)」

盗賊「(あ~痛え。ていうか暗いし狭いな。これは蓋か? 足で押してみるか)」ググッ

ギギィッ…ガコンッ……

盗賊「(開いた…けど薄暗いな。此処はどこだ? つーかこれ棺桶じゃねえか。死んだと思われたのかな)」

盗賊「(でも、毛布が掛けてあるってことは生きてるの分かってて棺桶に入れたってことだよな)」

盗賊「(……端っこに机と椅子がある。机の上にあんのは姫様の日記か?)」

盗賊「(ってことは姫様は無事なのか。でも何だってこんなとこにーー)」

コツコツ…ガチャッ…

王女「泥棒さん、林檎と葡萄の絞り汁を持って来ました。少しでも栄養を取らなーー」ポトッ

盗賊「………えっ~と、お帰りなさい。いや、ただいま?」



354以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/28(水) 01:42:03.36uSRogMXUO (5/7)

また明日


355以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/28(水) 01:48:09.76uSRogMXUO (6/7)


『……最早何を言っても無駄なようだな』

『私が勝利を捧げるべきは彼女のみ。勝利は我が手に在り。いざ、参る』

盗賊「ッ!!」ガバッ

ゴツンッ!

盗賊「(ッ、いってえ!! 体中が痛え!!)」

盗賊「(あ~痛え。ていうか暗いし狭いな。蓋でもされてんのかな? 足で押してみるか)」ググッ

ギギィッ…ガコンッ……

盗賊「(おっ、開いた…けど薄暗いな。此処はどこだ? つーかこれ棺桶じゃねえか。死んだと思われたのかな)」

盗賊「(でも、毛布が掛けてあるってことは生きてるの分かってて棺桶に入れたってことだよな)」

盗賊「(……端っこに机と椅子がある。机の上にあんのは姫様の日記か?)」

盗賊「(ってことは姫様は無事なのか。でも何だってこんなとこにーー)」

コツコツ…ガチャッ…

王女「泥棒さん、林檎と葡萄の絞り汁を持って来ましたよ。少しでも栄養を取らなーー」ポトッ

盗賊「………え~っと、お帰りなさい? いや、ただいま?」



356以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/28(水) 01:49:13.69uSRogMXUO (7/7)

また明日


357以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/28(水) 02:06:07.16GTF8G2J50 (1/1)




358以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/28(水) 20:09:32.91C1mbaYfEo (1/1)

凄い引き込まれるな
一気に読んで追いついた


359以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/29(木) 00:28:09.35Qgswn/tEO (1/2)


王女「泥棒さん…グスッ…よかった……」ペタン

盗賊「お、おいっ…」

王女「お医者様に意識が戻らないかもしれないって言われて、傷も酷いし体はとっても冷たくって……」ポロポロ

盗賊「……そうだったのか」

王女「わたしを連れ出してくれたあの日から泥棒さんは傷を負ってばかりです。本当に、本当にごめんないっ」

盗賊「この傷は姫様に負わされたものじゃない。姫様が謝ることはないよ」

王女「でもっ、わたしは何もしてあげられない。あなたに与えられてばかりで何も……」

盗賊「姫様、自分のことをそんな風に思ってたのか。そんなことないのに」

王女「へっ?」

盗賊「俺は姫様に色んなものを貰ってる。だからさ、そんな悲しい顔しないでくれ」



360以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/29(木) 01:18:49.55Qgswn/tEO (2/2)


王女「…グスッ…何をです?」

盗賊「えっ? 何って何が?」

王女「わたしに貰っていると言いました。わたしは泥棒さんに何かを与えているのですか?」

盗賊「何って言われると上手く言えないけど、傍にいてくれりゃあそれでいいよ」

王女「……あ、ありがとうございますっ」カァァァ

盗賊「よっと」スタッ

王女「あっ、急に動いては体に障ります。まだ横になっていないと……」

盗賊「んなこと言われてもな。さっきから腰を抜かして立てないんだろ? ほら」スッ



361以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/29(木) 01:54:11.40DEEXV1bcO (1/1)


王女「(左手。やっぱり右手はまだ……)」

盗賊「どうした?」

王女「い、いえっ。何でもありません……」スッ

ギュッ…グイッ…

盗賊「そういや、さっき何か落としたみたいだけど。あぁ、これか?」ヒョイ

王女「あ、それは軟膏です。右肩の刺し傷と胸の切り傷、それから背中にも塗るようにとお医者に渡されました」

盗賊「へ~、そりゃありがたいな」

王女「後はこれを頂きました。葡萄や林檎をすり潰して作った飲み物です」

盗賊「美味そうだな、早速飲んでもいいか?」

王女「ええ、どうぞ。ゆっくりと飲んで下さいね?」スッ

盗賊「ん、分かった。んっ…ゲホッゲホッ…」

王女「だ、大丈夫ですか!?」

盗賊「ゲホッ…悪い。気を付けて飲んだつもりだったんだけどな……」



362以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/30(金) 00:38:09.00J4JnjP9PO (1/3)


王女「っ、泥棒さん」

盗賊「けほっ…けほっ…ん?」

王女「ちょっとずつ。口に含んでからゆっくりと飲んでみて下さい」

盗賊「そうするよ……んっ…お~、めちゃくちゃ美味いなこれ。じわってくる」

王女「……よかった。さっきは口に含んだ量が多かったので体が驚いたんだと思います」

盗賊「胃とか弱ってんのかな。腹は減ってんだけど、この調子じゃ食うのは無理そう…ッ」クラッ

王女「!!」

ギュッ…

盗賊「っと……悪い、ちょっとふらついた。もう大丈夫だ。一人で立てる」

王女「……無理はしないで下さい。立っているだけでも負担は掛かります。横になりましょう?」



363以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/30(金) 01:14:47.02J4JnjP9PO (2/3)


盗賊「えっ、せっかく棺桶から這い出たのに永眠しろとーー」

王女「泥棒さん、掴まって下さい。それから永眠とか言わないで下さい。そういう冗談は嫌いです」

盗賊「ハイ、ゴメンナサイ」

王女「んっしょ…」ギュッ

トコ…トコ…トサッ…

王女「ふぅ…大丈夫ですか?」

盗賊「あ、うん。つーか姫様に運ばれるのはこれで二回目だな。ありがとう」

王女「………」キュッ

盗賊「?」

王女「……こんな聞き方は狡いですけれど、泥棒さんは後悔していませんか?」



364以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/30(金) 02:20:47.37J4JnjP9PO (3/3)


盗賊「人生に?」

王女「………」

盗賊「冗談、冗談だから。で、何に後悔してるって?」

王女「それはその……『こうなって』しまったことに。です」

盗賊「ない。これっぽっちもない。そもそも俺が攫ったんだ。後悔なんてするわけない」

盗賊「姫様は後悔してんのか? あの時、外に出たいなんて言わなかったら良かったってさ」

王女「外に出たことに後悔はありません。けれど、それによって巻き込まれ命を奪われた人がいます」

王女「あの時、泥棒さんはわたしの人生だと言ってくれました。その時、わたしは自由に触れたいと思ったのです。自分の思うように生きてみたいと……」

王女「でも、自由とは無関係の方々まで巻き込んで手にするものなのでしょうか……」



365以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/30(金) 18:14:17.61RlZ2n5szO (1/5)


盗賊「人生に?」

王女「………」

盗賊「冗談、冗談だから。で、何に後悔してるって?」

王女「それはその……『こうなって』しまったことに。です」

盗賊「ないよ。これっぽっちもね」

盗賊「姫様は後悔してんのか? あの時、外に出たいなんて言わなかったら良かったってさ」

王女「……外に出たことに後悔はありません。けれど、それによって命を奪われた方がいます」

王女「泥棒さんはわたしの人生だと言ってくれました。そう言われた時、わたしは自由に触れてみたいと思いました。自分の思うように生きてみたいと」

王女「でも、それは無関係の方々の命を奪ってまで欲するべきものなのでしょうか……」



366以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/30(金) 18:16:46.04RlZ2n5szO (2/5)


盗賊「かなり思い悩んでるみたいだけど、姫様が自分を責める必要は全くないぜ?」

盗賊「殺しの動機は分かんねえけど、命を奪ったのは紛れもなく白い騎士の仕業なんだ」

王女「でも、犯人はわたしを狙ってこの街にーー」

盗賊「その前提から間違ってる。奴は姫様を狙ってこの街に来たんじゃない。俺を狙って来たんだ」

王女「……えっ」

盗賊「俺も最初は姫様を狙って来たもんだと思ってたよ。でも違ったんだ」

王女「あの、何故そう言い切れるのですか?」

盗賊「奴は俺のことを輪転器だと言った」

王女「!?」

盗賊「びっくりだろ? 奴は初めから俺を狙ってたんだ。実際、姫様のとこに向かう素振りは一切見せなかったしな」



367以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/30(金) 21:10:32.16RlZ2n5szO (3/5)


王女「い、意味が分かりません。何で泥棒さんを輪転器だなんて言ったのでしょう?」

盗賊「さあね、俺にもさっぱりだ。でも、奴は確かに輪転器と言った」

盗賊「私の器として生まれたことを光栄に思え。今こそ転生する。そう言ってたよ」

王女「ですが、輪転器とは王のみが所持するものなのですよ?」

盗賊「ああ知ってる。だからこそ秘宝って呼ばれてるわけだしな。でも、それだけじゃない」

王女「?」

盗賊「奴にとどめを刺した時、あるものを見たんだ」

盗賊「血を流し過ぎて頭がおかしくなったのか幻覚を見たのかもしれない。それを踏まえた上で聞いてくれ」

王女「えっ…は、はい。分かりました」

盗賊「意識を失う直前、奴の顔を見た」

盗賊「……俺と同じ顔。まるで水面に映したみたいにそっくりだった」



368以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/30(金) 22:49:24.35RlZ2n5szO (4/5)


王女「冗談…ではないのですね」

盗賊「ああ、朦朧としてたけどはっきりと憶えてる。兜が外れたと思ったら俺の顔が出てきたんだ」

盗賊「……まあ、だから何だって話なんだけどさ。でも同じ顔なんて気味が悪いだろ? 輪転器だとか言われるしさ」

王女「……今のお話を疑うつもりはないですが、顔や白騎士について確かめる術はありません」

盗賊「確かめる術がない? 遺体が消えてたとか?」

王女「い、いえ、そうではありません」

王女「王宮関係者である騎士団長さんも立ち会って身元を確認したらしいのですが、判別不能だったと言っていました」



369以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/30(金) 23:12:43.97RlZ2n5szO (5/5)


盗賊「えっ、何で?」

王女「……遺体が枯れ果てていたらしいのです。まるで血の一滴まで吸い取られたように」

盗賊「んな馬鹿な!! あんなに元気に飛び跳ねてたってのに中身は干涸らびてたってのかよ」

王女「兵士さんや騎士団長さん。警備隊の皆さんも同じ反応をしていました。あり得ない…と」

盗賊「ってことは白騎士については何も掴めなかったのか。益々わけが分からなくなったな」

王女「……そうですね。様々な思惑が蠢いているような気がします」

盗賊「(あの爺さんが嘘吐いてんのか? それとも将軍が裏で何かやってんのか?)」

王女「………」キュッ

盗賊「(……家族に命を狙われてるかもしれないんだ。血の繋がりがなくても、そう考えるだけで辛いだろうな)」

盗賊「(姫様は巻き込んだって言ってたけど、巻き込まれたのは俺達の方なんじゃねえか? 何かもっと、大きなものに……)」



370以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/02(日) 01:56:05.18If7cuYzZO (1/1)

飽きた?


371以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/03(月) 23:32:06.85uwchgiKz0 (1/1)

まってる


372以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/08(土) 18:07:10.88/nEX0JHPO (1/9)


盗賊「………」ウーン

王女「泥棒さん? どうしました?」

盗賊「あ~。いや、何でもない。さっきのやつまだ残ってるかな。喋り過ぎて喉が渇いてきた」

王女「あっ、はい。まだありますよ」スッ

盗賊「ありがとう。んっ…あ~、美味い。ところで姫様、俺はどのくらい寝てた?」

王女「丸二日です。あの夜、兵士さんとお医者様がこの教会跡地に運んでくれたのですよ?」

盗賊「……そっか。じゃあ後で礼を言わねえと。姫様にも面倒掛けちゃったな」

王女「いえ、そんなことはありません。わたしにはこれくらいしか出来ませんから……」

盗賊「そんな風に言うなよ。俺はその『これくらい』ってやつに助けられたんだからさ」ニコッ

王女「……泥棒さん…」

盗賊「それに、長いこと此処に居て様子を見ててくれたんだろ? そこの机に日記あるし」



373以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/08(土) 18:15:41.22/nEX0JHPO (2/9)


王女「それはその、色々ありまして……」

盗賊「色々って?」

王女「……街のお医者様がニンゲンに付きっきりで看病することは出来ないと仰ったのです。今にも息絶えようとしているのにですよ?」

盗賊「そ、そうなの?」

王女「はい。それでわたし、恥ずかしながら怒鳴ってしまいまして……泥棒さんの命を救って下さった恩人に対して何て失礼な真似を……」

盗賊「ま、まあそれは仕方ねえさ」

王女「……仕方がない?仕方がないとは何が仕方ないのですか? 死んでいたかもしれないのですよ?」

盗賊「(怖っ!!) い、いや、俺みたいなニンゲンを看病したら気が触れてると思われちまうだろ?」

盗賊「死にかけのニンゲンを助けようとしてくれただけでもありがたいもんだよ。軟膏とかもくれたしさ」



374以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/08(土) 19:09:41.02/nEX0JHPO (3/9)


王女「……泥棒さんは傷付いたりはしないのですか?」

盗賊「ニンゲンの扱いに?」

王女「ニンゲンの扱いではありません。ニンゲンに対する接し方に。です」

盗賊「接し方…ね。こっち側じゃあ随分と変わった言い方だな。初めて聞いたかもしんねえ」

王女「っ、やはり酷いのですか?」

盗賊「別に酷いとは思わない。こっちにはこっちの常識ってもんがある。だろ?」

王女「……わたしには…あなたを殺してしまう常識など必要ありません」

盗賊「姫様?」

王女「ニンゲンだから助けない。ニンゲンだから一人で戦わせる。ニンゲンだから死んでも構わない。ニンゲンだからっ……」キュッ



375以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/08(土) 19:38:02.65bUPlqLnM0 (1/1)

きた!


376以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/08(土) 20:46:11.91/nEX0JHPO (4/9)


盗賊「そう言ってたの?」

王女「……はい。差別や偏見はニンゲンに限ったことではない。それはこちら側でも起きていることなのだと言われました」

王女「泥棒さんにはこちら側に思うところはないのですか? そういったものに対して……」

盗賊「ん~、何だか難しい話だなぁ。あのさ、これって俺個人の考えでいいんだろ? ニンゲンとして。とかじゃなくてさ」

王女「はい。泥棒さんの考えを聞かせて下さい」

盗賊「俺はこっちも向こうも変わりないと思うよ? 良い奴はいるけど悪い奴はもっといる」

盗賊「確かに風当たりは強いけど、初めて会った奴といきなり仲良くなんて出来ない」

盗賊「姫様だって初対面の奴に『同族なのでお友達になりましょう』なんて言われたら戸惑うだろ?」

王女「そう…かもしれませんね」

盗賊「なっ? だから種族なんて関係ないのさ。そんなのは性格の不一致ってやつだよ」



377以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/08(土) 21:06:45.13/nEX0JHPO (5/9)


王女「……性格だけではないと思います」

盗賊「そりゃあ根付いた差別なんかが邪魔するかもしれないけど、良い奴は良い奴さ」

盗賊「ツノがあっても尻尾があっても牙や爪があっても、そこは絶対に変わらない」

王女「そうなのでしょうか……」

盗賊「そうさ。だって実際に助けてくれたのはニンゲンじゃないだろ?」

王女「それは…そうですけれど……」

盗賊「姫様は難しく考え過ぎだよ。種族は違っても男は男。女は女」

盗賊「どのくらいの種族がいるのか知らねえけど性別は二つしかない。必要なのは愛だよ、愛」ウン



378以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/08(土) 21:44:21.42/nEX0JHPO (6/9)


王女「あ、愛!?」

盗賊「だってそうだろ? 種族が違っても綺麗な女性は綺麗な女性なんだ」

盗賊「ツノが生えていようが尻尾が生えていようが綺麗な女性だという事実に変わりはない」

盗賊「男は女性を守るべきだし女性は男を優しく包み込む存在であるべきだ。と私は思うわけだよ」

盗賊「そう考えれば種族間の問題なんて些細なもんさ。そう思うだろ?」

王女「……何だか、やけに饒舌ですね。言い慣れているように思えます」

盗賊「……これは種族の垣根を越えて仲良くなる為の必要技能なんだ」

王女「綺麗な女性と。ですか?」ニコッ

盗賊「いやいやいや? 俺は別にーー」

王女「泥棒さんが眠っている間、あのお店の看板娘さんから色々な話を伺いました。先日お見舞いに来てくれたんですよ?」ニコッ



379以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/08(土) 22:16:07.03/nEX0JHPO (7/9)


盗賊「へ~、そうなんだ。それは嬉しい限りですね」

王女「ええ、わたしも嬉しかったです。ニンゲンとしてではなく本質を見ている方でした。あのような方がもっといれば良いのにと心から思います」

王女「ところで、とってもお上手なようですね。女性を口説くのが」

盗賊「姫様、それは違う。あれは行き違いというか擦れ違いというかアレがアレなんだよ」

王女「フフッ、何がですか?」

盗賊「……え~っと。ほら、アレだよ。気になる女性に微笑みかけられると俺に惚れてるんじゃないかと思ったりするやつだ」

盗賊「あのキツネ娘は俺が助けた時に掛けた何気ない言葉をそのように捉えたのだと思います」ハイ

王女「勘違いさせるような言葉を言ったのではないのですか? 例えば……」

王女「俺はきみの尻尾は綺麗だと思うぜ? 他の奴等が何を言ってるか知らないけどさ。とか」

王女「尻尾にその模様がなかったら俺ときみがこうして出会うこともなかった。とか」

王女「きみが特別だから尻尾も特別なんだよ。きっと天が二物を与えたのさ。とか」

盗賊「(……あのキツネ、都合のいいとこだけ切り取って姫様に話しやがったな)」



380以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/08(土) 23:25:00.85/nEX0JHPO (8/9)


王女「……本当に色々なことを聞きました」

盗賊「?」

王女「思い立ったらすぐに動く。何かあれば所構わず飛び込む。無茶ばかりしていると」

王女「根付いた差別や偏見などどこ吹く風、種族も境界線も飛び越えて何処までも自由に……」

盗賊「そんなに考えてねえよ。やりたいことをやってるだけさ」

王女「……大凡の者はそのようには出来ません。何故です? 何故そのように生きられるのですか?」

盗賊「単純な話さ。こういう奴なんだよ、俺はね」

王女「……それでは答えになってませんよ。ずるいです」

盗賊「でもさ、そんなもんだよ。行きたい場所へ行って、見たいものを見る」

盗賊「俺がやってるのはそれだけさ。余計な荷物は肩に載せないようにしてるんだ」



381以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/08(土) 23:33:23.52/nEX0JHPO (9/9)


王女「余計な荷物?」

盗賊「差別だとかそういうもんだよ。そんなもんベタベタくっつけてたら身動き取れなくなる」

王女「………」

盗賊「くぁ…ごめん。急に眠たくなってきたから寝るよ」ゴソゴソ

王女「あっ、はい。申し訳ありません。傷が痛むのに長話に付き合わせてしまって……」

盗賊「そんなことないよ。多分さっきの飲み物に何か入ってたんだと思う。姫様も疲れてるだろ? 早めに休んだ方がいいぜ」

王女「……はい、そうします。ゆっくり休んで下さい」

盗賊「ん、お休み……」

王女「あ、ちょっと待って下さい。包帯の取り替えと軟膏を塗らないと」

盗賊「あ~、そっか。じゃあ、お願いします」ムクッ

スルッ…パサッ…

王女「(酷い傷。何度も見たけれど、見るたびにそう思う。治るまでにどれだけの時間が……あれ?)」



382以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/09(日) 00:12:19.83LVRUYPaNO (1/2)


盗賊「…スー…スー…」カクンッ

王女「あっ…」

ポフッ…

王女「ふぅ、危なかった。無理をさせてしまいましたね。後は任せてゆっくりと休んで下さい」

スルスル…ヌリヌリ…

王女「(右肩と胸の傷は勿論、背中の傷にもまだ熱がある。触れていると火傷しそう)」

王女「(聞きたいことは沢山あったけれど、こうして生きているのならそれだけで……)」

盗賊「…ん…」ビクッ

王女「(やはり痛むのでしょうか。泥棒さん、ごめんなさい。もう少しで終わりますから)」

盗賊「…くす…ぐったい…」

王女「(ふふっ、くすぐったかったんですね。何だか赤ん坊みたい……)」



383以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/09(日) 00:28:35.82LVRUYPaNO (2/2)


盗賊「…ん~……」

王女「(そう言えば看板娘さんが言っていましたね。こんな無防備な姿はそうそう見られるものじゃないって)」

盗賊「…スー…スー…」

王女「………」スッ

プニプニ…

王女「(体は引き締まっているけれど頬は柔らかい。黒髪、おでこ、瞼、鼻筋、唇……)」

王女「(顎から首をなぞって鎖骨から胸板に……)」

盗賊「……寒…い……」

王女「(っ、わたしは何を……早く終わらせて服を着せないと……でも、何だかおかしい)」

王女「(早く傷が癒えて元気になって欲しいのに、ずっとこのままでいられたらなどと考えてしまう……そんなこと駄目なのに)」

ズキッ!

王女「っ、違う。わたしは何も間違っていない。ずっと二人きり。そう、この人はわたしのーー」



384以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/09(日) 17:44:47.80zCyzYusgO (1/1)

面白いですね、乙ー


385以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/11(火) 12:14:12.29axYEm/xEO (1/5)


【玉座の間】

老人「首尾はどうだ。順調か」

将軍「それは父上が一番良く分かっているでしょう。私が改めて報告せずとも感じているはずです」

老人「ああ分かっている。分かっているからこそ、お前の口から聞きたいのだ」

将軍「……全ては父上の目論み通りですよ。奴は白騎士に勝利しました。辛勝ではありますが」

老人「納得出来ないと言った顔だな。まだ信じられぬか?」

将軍「いえ。白騎士に期限が迫っていたとは言え、奴は最後まで一人で戦い抜き勝利した。その戦術と技量は認めざるを得ません」

将軍「加えて意志の強さ。抗い難い死の誘惑をも撥ね除ける力を持っている。相応しい器だとは思います」



386以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/11(火) 12:17:08.65axYEm/xEO (2/5)


老人「ふむ。ならばその顔の陰りは何だ?」

将軍「認めざるを得ない男ではあります。しかし、奴はニンゲン。器として保つのか否か。そこが気掛かりでなりません」

老人「白騎士に勝利したのが何よりの証明だと思うがな。現に呑まれてはいまい?」

将軍「それは三騎士の全てに通じることです。その結果、彼等は呑まれている」

老人「呑まれたのは彼女を求めたからに他ならない。だが此度は違う」

老人「長い長い時を経て、遂に二つの輪転器は揃ったのだ。求めるものが傍らにあるのなら呑まれはせんだろう」

将軍「輪転器が輪転器の狂いを抑えると? 不確定なものに縋るのは如何かと思いますが」



387以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/11(火) 12:19:34.38axYEm/xEO (3/5)


老人「フッ、抑える。か」

将軍「……何か可笑しいことでも?」

老人「お前は誰かを愛したことがあるか?」

将軍「質問の意味が分かりません。それとこれと何の関係がーー」

老人「良く聞け。もう二度と会うことは叶わぬと悲観に暮れていた。その最中に思い人と再会出来たらどうする?」

将軍「……戸惑うでしょうね。もう二度と会えぬはずだったのですから」

老人「悲観に暮れていた時が千年ならばどうだ? いや、もっと長い時ならばどうする?」

将軍「……想像も出来ません。父上、この問いの意図は何です?」

老人「結論から言えば抑えることなど出来はしないと言うことだ。何せ千年以上も煮詰めた愛だ。止める術などありはせんよ」



388以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/11(火) 12:43:04.47axYEm/xEO (4/5)


将軍「あの二人を引き合わせたのは、その狂いを抑える為だったのでは?」

老人「それもある。が、儂の目的は王の力からの解放。あの二人を引き合わせたのもその為だ」

将軍「……今のは父上自身の言葉ですか?」

老人「ああ、これは紛うことなく儂の言葉。彼女の愛を垣間見た、王の声だ」

将軍「千年以上も愛し続けるなど常軌を逸している。そんなものを見続けるなど苦痛でしかないと思いますが」

老人「……王の力を継承をした者の宿命だ。だが、直に解放される。このまま何の邪魔も入らなければな」

将軍「………」

老人「その様子だと上手く行っていないようだな。早めに手を打つものと思っていたが」

将軍「時を計っているだけです。輪転器の破壊はより一層慎重にすべきだということが今の会話で分かりました」

老人「計っている間にも時は回る。頭の中で策を巡らすだけでは何も得られぬぞ」



389以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/11(火) 12:44:43.86axYEm/xEO (5/5)


将軍「急かしているようにしか聞こえませんね」

老人「助言しているだけだ。父としてな」

将軍「父の言葉といえども助けにならぬものを助言として受け取るわけには行きません」

老人「フッ、そうか。ならば好きにするがよい」

将軍「元よりそのつもりです。では……」ザッ

ギギィ…パタンッ…

将軍「(奴は負傷している。父上が次の騎士を動かす前に一度仕掛けてみるのも手だ。騎士団長のお陰で口実は出来ている)」

将軍「(こういった場合は挑発に乗った方が面白い。如何なる状況だろうと楽しむ。苦境など苦境と思わなければいい)」

将軍「(明らかに不利な戦であろうと常に有利であるような心持ちで動く。心に余裕があれば戦術の幅も広がる)」

将軍「………そうですよね、父上…」ポツリ



390以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/16(日) 00:15:00.68M5pIqeUiO (1/1)


【詰め所】

警備兵「……ハァ」コトッ

警備兵「(報告書を書こうにも何と書けば良いのか分からない。この二日で何枚無駄にしただろうか)」

警備兵「(事実は事実。起きた事をそのまま書けば良いのだろうが、問題はその事実というやつだ)」

警備兵「(干涸らびた遺体が殺人を犯したなど誰が信じる? これではまるで作り話。創作だ)」

警備兵「…チッ…もう面倒だ。やはりそれらしく現実的に書いた方がーー」

ガチャッ…バタンッ…

騎士団長「……はぁ」

警備兵「お疲れのようですね。団長殿」

騎士団長「それは君もだ。隈が酷いぞ」

警備兵「創作のような事件をさも現実の事件のように創作するのに四苦八苦していましてね」



391以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/16(日) 14:44:16.94luxEjUDrO (1/1)

乙ー


392以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/17(月) 00:55:23.551R/q2gQOO (1/7)


騎士団長「報告書か。こんな街の警備兵にしておくには勿体ない程に勤勉だな」

警備兵「お褒め頂き光栄です。団長殿は彼女の付き添いを?」

騎士団長「うむ。あのような輩と二人きりにするわけにはいかんからな。今ならば問題ないだろうが」

警備兵「ということは、奴はまだ?」

騎士団長「ああ、未だ目覚めてはいない。姫様もいつになく思い悩んだ顔をしておられた」

警備兵「……そうですか。ところで彼女は何処に?」

騎士団長「医師の所へ送り届けた。今頃は奴の経過などを話していることだろう」

警備兵「一人で置いてきたのですか。この二日間、片時も離れずに護衛していたというのに」

騎士団長「今日もそのつもりではいたのだが、私が傍らにいると姫様の気が休まらないと思ってな……」



393以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/17(月) 01:12:13.631R/q2gQOO (2/7)


警備兵「まあ、そうでしょう」

騎士団長「?」

警備兵「いや、湯浴みにさえ付いて来られればそうなるでしょう? 流石にあれは度が過ぎていますよ」

騎士団長「ぐっ…し、しかしだな……」

警備兵「ご心配なさるお気持ちは分かりますが彼女の素性は知られていません。もう少し楽にしたらどうです?」

騎士団長「それは自分でも思う。しかし敢えて手を抜くだとか肩の力を抜くだとか、そういう類のことは昔から苦手なのだ」

騎士団長「戦闘や訓練ならば出来ないこともないのだが、こういった任務だと中々な……」

警備兵「(厳密には任務ではない。それを任務と捉えて行動するあたりが正に堅物だ。良く言えば勤勉。悪く言えば融通が利かない)」

警備兵「(ただ、部下に好かれる男だということは分かる。思いやりがすぎる嫌いはあるが……)」



394以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/17(月) 01:39:52.031R/q2gQOO (3/7)


騎士団長「同じく隊を率いる君に聞きたい」

警備兵「は、はぁ。何でしょう?(こんな街の警備隊と王宮騎士団を一緒にしていいのか……)」

騎士団長「君はいつもどうしている? 癖のある連中をまとめるのは疲れるだろう」

警備兵「まとめてなどいませんよ。事件が起きた時は私が勝手に推理して勝手に解決しているだけです」

騎士団長「何? では、これまで起きた事件の全てを一人で?」

警備兵「ええ、大体は。私ような奴に付いてくる者はいません。ここでは変わり者ですから」

騎士団長「うぅむ、街の平和の為に尽力する者を変わり者扱いか。まるでなっとらんな」

警備兵「……警備隊とは言っても自警団に毛が生えた程度ですからね。仕方がないですよ」

警備兵「隊長はかなり高齢の方で腰痛を理由に長らく休んでいますしね」

騎士団長「高齢ならば若い者が代わればいいではないか。彼は次期隊長を指名しなかったのか?」

警備兵「……実のところ何度も頼まれてはいるんですがね。独断専行の自分には隊長など務まらないと固辞しています」



395以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/17(月) 02:10:30.435HwslOvro (1/2)

乙ー


396以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/17(月) 02:17:42.741R/q2gQOO (4/7)


騎士団長「いかんな」

警備兵「?」

騎士団長「如何なる集団だろうと長は必要だ。頼るとも頼らざるとも部下の自由だが、長がいれば個々が締まる」

騎士団長「警備隊の面々を見たが、俺がやらずとも誰かがやるだろうという雰囲気に満ちている。その『誰か』というのが君だ」

警備兵「………」

騎士団長「有能が故に同僚と馴染めないのなら、才を活かして上に立つべきだ」

警備兵「親身になって頂いて恐縮ですが、私は人を束ねるような器ではないので……」

騎士団長「束ねずともいい」

警備兵「どういうことです?」

騎士団長「上に立つ者が成果をあげれば勝手に付いてくる。君の場合、同じ立場だからいかんのだ」



397以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/17(月) 02:24:38.981R/q2gQOO (5/7)


警備兵「はぁ、そうなんですかね」

騎士団長「ああ、断言出来る。君と似た奴が王宮で隊長をやっているからな」

警備兵「(意外と懐が深いんだな。輪を乱す者は許さない徹底した規律を持つ集団かと思っていたんだが……)」

騎士団長「そいつは腕は良いが口数が少なくてな……」

騎士団長「誰よりも献身的なのだが人目に付かないようにしていたものだから誰もそれに気付かなかった」

警備兵「では、どうやって隊長に?」

騎士団長「周りが放っておかなかった」

警備兵「?」

騎士団長「倒れたのだ。何もかも自分で出来るものだから無理が祟ったのだろう。それをきっかけに皆が気付いた」

騎士団長「訓練用の武器の手入れや管理。それらを知らぬ間に片付けていた存在にな」



398以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/17(月) 02:28:11.861R/q2gQOO (6/7)


警備兵「………」

騎士団長「何でも出来るが頼ることを知らん。口数も少ない。ならば皆で支えよう……という運びになったようだ」

警備兵「そうなるとは限りませんよ。私と彼では環境が違う」

騎士団長「うむ、そうだな。しかし、このままでは機能しなくなるぞ」

警備兵「まあ、考えてはみますよ。それより、そろそろ迎えに行った方が良いのではないですか?」

騎士団長「そ、そうであった!! 早く行かなくては……では、失礼!!」ザッ

ガチャッ…バタンッ!

警備兵「慌ただしい人だ。しかし、あんな風に話したのは初めてだな。あれも彼の人柄の為せる業か……」

警備兵「……俺にああいったことは出来ない。そもそも上に立つなど柄じゃない。やはり一人の方が性に合ってーー」

ガサッ…バサバサッ…

警備兵「……いや、やはり事務員くらいは欲しいな。あまりお茶を飲まなくて綺麗好きでうんと真面目な奴がいい」



399以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/17(月) 02:36:23.611R/q2gQOO (7/7)

今日はここまで


400以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/17(月) 13:53:28.515HwslOvro (2/2)

乙ー


401以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/19(水) 18:28:13.70LEa1hsVBO (1/12)

ーーー
ーー


医師「……何でまたそんなことを」

王女「深い理由などありません。ただ、あの人にはもう少しだけ休んでいて欲しいのです」

王女「あの日からというもの傷を負ってばかり。ゆっくりと眠る間も、傷を癒やす間もありませんでしたから……」

医師「だから嘘を? まだ二日しか経っていないから今はそれで凌げるかもしれないが長くは続かないぞ?」

王女「ええ、分かっています。でも、せめて人の手を借りてでも動けるようになるまでは休んで欲しいのです。だから協力をーー」

医師「悪いが無理だ。俺の立場も危ういんだ。警備兵の旦那には何かあったらすぐに報告しろと言われてる」



402以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/19(水) 18:51:45.06LEa1hsVBO (2/12)


王女「っ…どうか、お願いしますっ」

医師「………ハァ…分かったよ。あんたのような美女にそこまで頼まれちゃあ断れん」

王女「!! あ、ありがとうございますっ……」

医師「一つ聞いても良いか?」

王女「え、ええ。わたしが答えられる範囲であれば……」

医師「なに、そう難しい話じゃない。俺個人の興味から来る極々単純な質問だ」

王女「?」

医師「お嬢さん。あんたはあいつに惚れてるのか? あのニンゲンに」

王女「はい。わたしはあの人を愛しています。もう、随分と前から……」



403以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/19(水) 18:54:20.07LEa1hsVBO (3/12)


医師「………」

王女「あの、どうかしましたか?」

医師「い、いや、あまりに素直に答えたもんだから面食らった。付き合いは長いのかい?」

王女「……どうなのでしょうね」ポツリ

医師「?」

王女「自分でも分からないのです。とても長かったような、ほんの瞬きの間だったような気もします」

王女「気付いた時にはあの人を愛していました。この思いは決して叶わぬこととは分かっていながら、わたしはあの人を愛してしまった……」

医師「(叶わぬ恋か。それはそうだろうな。ニンゲンと恋に落ちるなど許されるはずがない)」

医師「(美人な上に家柄もかなり良さそうだ。きっと親が猛反対したんだろう)」



404以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/19(水) 18:56:21.84LEa1hsVBO (4/12)


医師「………」

王女「あの、どうかしましたか?」

医師「い、いや、あまりに素直に答えたもんだから面食らった。付き合いは長いのかい?」

王女「……どうなのでしょうね」ポツリ

医師「?」

王女「自分でも分からないのです。とても長かったような、ほんの瞬きの間だったような気もします」

王女「気付いた時にはあの人を愛していました。この思いが決して叶わぬことと分かっていながら、わたしはあの人を愛してしまった……」

医師「(叶わぬ恋か。それはそうだろうな。ニンゲンと恋に落ちるなど許されるはずがない)」

医師「(美人な上に家柄もかなり良さそうだ。きっと親が猛反対したんだろう)」



405以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/19(水) 19:33:01.48LEa1hsVBO (5/12)


王女「あの日のことは、今でも忘れられません」

医師「(なんて深い悲しみに満ちた顔だ。というか、これは若い女が出来る表情じゃない。何というか、まるで未亡人のような……)」

王女「……ごめんなさい、あの人とのことは上手く言葉に出来ません。本当に沢山の…色々なことがありましたから」

医師「そ、そうか。色々と大変だったんだな。済まないな、立ち入ったことを聞いしまって……」

王女「いえ、そんなことはありません。今のわたしはあの人に寄り添って生きていける。それだけで幸せですから」

医師「…ハァ…まったく、そこまで言ってくれる女がいるなんて心底羨ましいぜ」

医師「奴が起きたら今の言葉を直接言ってやれ。痛みを忘れて飛び跳ねて喜ぶだろうよ」

王女「そ、そうでしょうか?」

医師「何を言ってんだ? そこまで言われて喜ばない野郎がいるわけがないだろう?」



406以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/19(水) 20:11:54.91LEa1hsVBO (6/12)


王女「……難しい人ですから」

医師「そうなのか? 話を聞いた限り馬鹿で向こう見ずで楽天的な奴だと思っていたんだが」

王女「そう見えるだけで内面はしっかりしていますよ? 白い騎士との戦いに臨んだのも熟考した上でのことです」

王女「そうでなければ白い騎士を相手に五体満足で勝つことなど出来なかったでしょう」

医師「……まあ、確かに」

王女「考え無しに思えて実はそうではないのです。あの人はあの人なりにしっかりと物事を見ているのですよ?」

医師「分かった分かった。負けたよ。だからそんなに熱く愛を語らないでくれ。このままじゃ胸焼けしそうだ」

王女「そ、そんなつもりで話していたわけではありません!」カァァ

医師「ハハハッ! 済まないな。あまりに熱心に語るもんだからからかいたくなった」

王女「真面目に話していただけなのに……」

医師「(……やけに大人びてると思えば恥じらう少女のように顔を赤らめる。こういうとこにやれらたのかね)」



407以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/19(水) 20:44:53.50LEa1hsVBO (7/12)


カランッ…カタカタ…

医師「っ、またかよ。本当に気味が悪いな。何なんだよこいつは……」ガシッ

王女「………」

医師「驚いたろ?」

王女「えっ……あっ、はい。とても驚きました。申し訳ありません。突然のことで声も出なくて……」

医師「こんなものを見れば誰でもそうなる。俺も初めて見た時はそうだったからな」

医師「一見普通の結晶に見えるが生き物みたいに動きやがる。興味深いがそれ以上に不気味でな……」

王女「……あの、それをどこで?」

医師「これは奴の腹から取り出したものだ。半ばまで突き刺さっていたんだが傷一つなかった。まったく奇妙なもんだよ、こいつは」カランッ

王女「っ、もし宜しければその結晶を頂けませんか?」

医師「はぁ? 何だってこんなもんを?」

王女「既にご存知だと思いますがあの人は泥棒です。そのような珍妙な品には目がないのですよ」



408以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/19(水) 21:48:39.27LEa1hsVBO (8/12)


医師「泥棒?」

王女「え、ええ。そうです。ご存知だと思っていましたが……」

医師「(……そう言えば、警備兵の旦那が王宮に忍び込んだとか言ってたな。詳しくは教えちゃくれなかったが)」

王女「……あの、駄目でしょうか?」

医師「いや、別にやるのは構わんよ。置いていても不気味なだけだ」スッ

王女「あ、ありがとうございますっ。急に譲ってくれなどと言って申し訳ありませんでした」

医師「礼も謝罪もいらんよ。元々は奴の腹に刺さってたものだからな」

王女「………」ギュッ

医師「大層嬉しそうだが泥棒ってのはそんなものでも喜ぶのか? 変わってるんだな」

王女「……こういった曰く付きの品を蒐集するのが好きな人なので……」

医師「世の中にはそういう奴がいるみたいだが俺にはさっぱり理解出来んな。何がいいのやら……」

医師「しかし、あんたのようなお嬢さんが泥棒に恋をするなんて信じられんよ」



409以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/19(水) 23:00:45.40LEa1hsVBO (9/12)


医師「しかも奴はニンゲンだ。尚更疑問だよ」

王女「種族の違いなど些細なことです。同族であっても見るに堪えない争いを起こします」

王女「種族の繋がりなど脆い。今この瞬間にも同族の手によって苦しんでいる方もいるでしょう」

医師「………」

王女「そんな世界で誰を信頼し、誰を愛するのか。それはとても難しいことです」

王女「けれど、わたしは幸運にも彼のような存在に出会えました。この人だけは失いたくない。そう思える存在に……」

王女「彼が何者であろうと、わたしは最期まで共にいるつもりです。それがわたしの望みですから」

医師「(夢見る年頃。良いとこのお嬢さんかとばかり思っていたが、どうやら間違っていたようだ)」

医師「(まさかこんな覚悟を持っていたとは思いもしなかった)」

王女「?」

医師「(まったく、立派な女性だよ。歳で判断するもんじゃないな……)」



410以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/19(水) 23:09:59.66LEa1hsVBO (10/12)


ガチャッ!

医師「!?」

騎士団長「ひ…お嬢様!!!」

王女「!!」ビクッ

騎士団長「良かった。入れ違いになってしまったのかとーー」

医師「…ハァ…心配して来たのは分かるが驚かさないでくれ。お嬢さんの心臓が止まったらどうする?」

騎士団長「も、申し訳ない……」

王女「あの、何かあったのですか?」

騎士団長「いえ、異常はありません。お迎えに上がりました」

王女「そ、そうですか……」

騎士団長「お嬢様、もうじき日が暮れます。宿に戻りましょう」



411以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/19(水) 23:38:52.15LEa1hsVBO (11/12)


王女「え、ええ。分かりました」

騎士団長「さあ、行きましょう。何があるとも分かりませんからな」

医師「なあ、警護の人」

騎士団長「……警護? あ、ああ。私に何か?」

医師「いや、随分と過保護だと思ったもんでな。彼女はそんなに良いとこのお嬢さんなのか?」

騎士団長「良いとこのお嬢さんだと……貴様、この方を誰だと思っている」

医師「いや、だから良いとこのお嬢さーー」

騎士団長「喧しい!! いいか、1度しか言わぬから良く聞け!! この方は畏れ多くもーー」



412以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/19(水) 23:41:27.87LEa1hsVBO (12/12)


王女「あ、あのっ!」

騎士団長「如何しまし………」ハッ

王女「落ち着きましたか? では、そろそろ行きましょう」

騎士団長「は、はい。そうですな」

王女「お騒がせして申し訳ありません」

医師「え? あ、ああ……」ポカーン

王女「それから、お話を聞いて下さってありがとうございます。では、今日はこれで失礼します」

バタンッ…

医師「何がなにやら。まるで嵐のようだったな……」ポツン



413以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/20(木) 01:28:19.25GasoOL9so (1/1)

乙ー


414以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/23(日) 07:10:00.25RQkqjq3cO (1/1)

エタ


415以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/24(月) 00:17:19.57Y3JrDDfTO (1/8)


トコトコ…

王女「………」

騎士団長「(う、うぅむ。何か気を悪くさせるようなことをしてしまったのだろうか)」

騎士団長「(先程から何も言わず俯いたままだ。やはり湯浴みに付いていこうとしたのが悪かったのか……)」

王女「……騎士団長さん」

騎士団長「な、何でしょうか?」

王女「好きな人はいますか?」

騎士団長「は…えっ!? 姫様、今なんと?」

王女「何かを犠牲にしても守りたいと思う。真っ先に思い浮かぶ。そういった方はいますか?」



416以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/24(月) 00:19:25.36Y3JrDDfTO (2/8)


騎士団長「い、いえ、おりません」

王女「それは何故です?」

騎士団長「何故と言われましても。職務上、愛や恋に現を抜かす暇などありませんので……」

王女「今はそうでしょうけれど恋をしたことはあるでしょう?」

騎士団長「……それは、まあ…騎士になってから交際したことはありませんが」

王女「苦しくはないのですか?」

騎士団長「そんなことはありません。職務の方が大事ですので」

王女「……そうですか。わたしは苦しかったです」ポツリ