779 ◆P2J2qxwRPm2A2017/11/30(木) 18:15:13.20Yf32d9Oe0 (14/24)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
「え、ツバキ。そんなことしてくれてたんだ」
「はい、きっと白夜のみんなが助け出してくれる。リョウマ兄様やヒノカ姉様、タクミ兄様も、私を助けるために頑張ってくれてるはずだからと」

 それは私の耳には痛い話だった。ツバキの口にしていた白夜の印象というのは、幻想と言ってもいいものに過ぎなかった。
 なにせ私はカムイから白夜の残した爪痕を耳にしている。とても、民を守るために戦っているとは言い難い惨状、暗夜に手を貸した者を容赦なく凶弾し、死地へと送る。
 なんの手助けも、何の援助もしない、勝てば故郷へと戻ることが出来る。そんな叶うことのない望みをちらつかせて、多くの人間を暗夜に置き去りにした。
 ヒノカ王女はその中の一握りを助けただけに過ぎない。敵になったはずのカムイに懇願しなくてはいけないほどに、今の白夜に彼らの安息は無いのだと知っていたから。そうなっているかもしれない白夜の現状を私は聞いている。
 その言付けが何時から行われていたものなのか、それはわからない。でも、白夜が侵攻を開始した夜と知らせが来た夜。あの日、カザハナが私の部屋の扉を叩いた夜までは……。
 今さっき、部屋の前で言い合いをした時、彼の顔に一瞬だけ走った色が今になって頭を巡る。あの嫉妬に似た、暗い影……

「それで、ツバキが部屋に来なくなったのはいつかしら?」
「え、えっと数日前です。その、白夜が侵攻してきたっていう話があってからだと思います……」


780 ◆P2J2qxwRPm2A2017/11/30(木) 18:17:09.92Yf32d9Oe0 (15/24)

 予想通りと言えばいいくらいにツバキはその日を境に、サクラ王女に話をしなくなったみたいだ。
 それがどういうことなのか、少しだけ分かる気がする。

「……思ったより、ツバキにも可愛いところがあるのね」

 可愛いというよりも、少し幼い部分なのだと思う。
 でも、それがどういう経緯でやってきている物なのか、それはわからなかった。

「可愛いところって、そんなところあるように思えないんだけど……。でも、初めて会った時のツバキは今よりもっと堅物だったから、ある意味可愛くなったってことなのかな?」
「そうなの?」
「うんうん、ツバキって完璧主義者だからさ。もう、何でもできなくちゃ気が済まないっていう、同期の女の子からは完璧主義者のツバキ様とか、黄色い悲鳴も多かったよ」
「そうですね。ツバキさん、とっても人気がありましたから」

 懐かしむように話をする二人、確かにあれは美少年で振る舞いだけでいえば、完璧と言って差し支えない。
 完璧主義者の青年とすれば多くの無理をしているのは確かだろう。完璧なんてものはまやかしだ、ツバキにとって完璧でいることは生きるために必要な事なのだから。
 だとすると、サクラ王女に話をしなくなった理由も不思議と埋められてくるものだ。


781 ◆P2J2qxwRPm2A2017/11/30(木) 18:19:12.69Yf32d9Oe0 (16/24)

「いきなり話を切り出すわけにはいかないみたいね…」
「えっと、カミラ王女、どうしたの?」
「ふふっ、ちょっと段階を踏まないといけない気がしたのよ。そうしないと、色々な問題が起きてしまいそうだから」
「いろいろな問題って……。カミラさん、一体何のことなんですか?」
 
 サクラ王女の問い掛けに私は「すぐにわかることだから」とだけ伝えて部屋を出る。
 廊下に漂う静かな気配、ずっと過ごしている場所のはずなのに、どうしてかとても違う場所のような気配がした。
 いや、それも当然だ。
 だって、ここは境界線、私から動くか動かないかの境界線。カムイが来るからと来賓室の準備に向かうこともできるそんな場所。
 出しゃばる必要はない、私がするべきことは決まっているし、それだけでも十分、私は役割を担えているはず。
 というのになぜだろう、それはとてもいけないことだと、私は自答する。
 この先に進めば、もっともっと深みにはまる。
 そこまでする義理は無い、そんなことまでする必要はない、相手は敵国白夜の人間、むしろこのままにしておく方が暗夜のためになるかもしれない……。

「……はぁ、仕方ないじゃない。私はカムイのおねえちゃんで、あの子たちを任されてるんだから」

 歩み出す。境界線の導は来賓室ではない場所へと向かっていく。隣の部屋をノックするけど、気配はない。ココにはいない、ならどこにいるのか。静かに私は屋敷を進む。
 私の部屋、食堂、大浴場に書斎、それらに影は無かった。
 最後に行っていないとするなら中庭だけ、私はそこを目指して足を進めた。
 中庭に続く扉を開ける。手入れの行き届いたガーデンと白い大理石の導が中央にある屋根付きの休憩所まで続いていて、そこにぼんやりとした影が一人、ポツリとあった。


782 ◆P2J2qxwRPm2A2017/11/30(木) 18:26:27.36Yf32d9Oe0 (17/24)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 雲行きは少しだけ怪しく、すぐにでも大きな音を立てて地面を濡らし始めるような気配もあった。
 あの中央の休憩場は確かに雨風を防ぐことは出来るけど、空の天気を見る限り戻った方が濡れずには済む、だというのにツバキはそこから動こうとしていなかった。
 ただ、白い大理石の床に視線を落として、ただただぼんやりと時間を無駄に過ごしている。私は静かに休憩所に入り込むと、その対面に腰を下ろした。
 私が来たことにツバキは何も言わないし、動こうともしなかった。
 少しばかりの沈黙、その沈黙をかき消したのは耳に走り始めたぽつりぽつりと降り注ぐ雨の雫の音だった。
 静寂が無くなると、それはまるで物語の開演を促すかのように。

「白夜軍は撤退したんだってね……」

 物事の境界線に入り込んで来た私に、ツバキが口を開く。すでにツバキはそのことを知っていたようだった。
 淡々とした声には、それを静かに受け止めている姿勢が感じられる。むしろ、観念しているという雰囲気があった。
 なら、それをごまかす必要はないと答えを出す。

「ええ、黒竜砦、港町ディア、そしてマカラス、すべての場所で白夜軍は敗退。白夜の完全撤退という形で、今回の戦いは幕を下ろしたわ」

 淡々とツバキが知っている白夜敗退という話、その知らない内部の事を口にする。ツバキは何も言わなかった。
 ただ、その敗退を受け入れている。だけど、それを受け入れているにしてもツバキには何か聞きたいことがある。それがなんであるのか、少しだけ予想は出来ていた。


783 ◆P2J2qxwRPm2A2017/11/30(木) 18:30:44.25Yf32d9Oe0 (18/24)

「……あの話は本当のこと?」
「あの話というのは、どの話の事かしら?」

 真意を探る様にツバキから言葉を出すように促す。声のトーンは幾重にも落ちている、ツバキはただ虚ろともいえる瞳で私を見るとそれを口にした。

「……白夜が……。白夜が多くの民を、暗夜に連れてきて置き去りにしていったっていう話のことです」
「どうしてそれを?」
「いいから、答えてくれる?」
「……私は現場を見たわけじゃないわ。でも、カムイとレオンの話を聞く限り、本当の事よ。白夜は暗夜と関係を持った人間を、この戦いに連れて行って置き去りにした。そして、私たち暗夜に処理させた」

 私は知っている限りのことを全て語る。ツバキはその言葉をずっとずっと静かに聞いていた。
 マカラスでの戦闘の事、カムイが受け入れた白夜の民間人の事、そして、今の白夜で起きている事。それはカムイが来てから三人に話すべきことだった。
 それをこうして話しているのは、ツバキにとってこの話が他のみんなといるときに聞きたくないであろう話であったからだ。
 多分ツバキは……、白夜のこの所業をサクラ王女の前で聞くことに堪えることは出来なかったと思う。
 ツバキの顔は酷く歪んでいる、青ざめていた。それは白夜の所業に対しての反応にも思えたけど、私には違うものに思えた。
 それが、多分あの白夜侵攻の知らせが、サクラ王女の下にツバキが足を運ばなくなった理由だろう。そして、先日カムイとレオンから聞かされた話をツバキは扉の影に潜んで聞いていたんだと思う。あの来賓室の扉の軋む音は、多分彼の動揺で響いた音だったということだ。
 いずれ話すことだからと、あの日来賓室に近寄らないようにとは伝えていない。カザハナとサクラ王女は座して待つことを選んだけど、ツバキは待つことを選ばなかったそれだけのこと。



784 ◆P2J2qxwRPm2A2017/11/30(木) 18:35:00.81Yf32d9Oe0 (19/24)

「ははっ、そっか……。俺の存在に気づいたからした与太話じゃなかったんだねー」
「やっぱり、扉の前で聞き耳を立てていたのね。感心しないわ、そういうことは」
「……少しでもいい知らせがあったらって思ってさ……。サクラ様の耳に入る前に俺はそれを聞きたかったんだ」
「そう、だけどそれだけじゃないでしょう?」

 それだけじゃないと私は思っている。私との言い合いの後のあの嫉妬が混じった視線、そういうのを考えるとツバキは情報が欲しかったのではなくて、もっと違う意味でほしい何かがあるのだと思った。
 ツバキはサクラ王女に大丈夫だと毎日のように言い聞かせていたそうだ。でも、それが途絶えた日に何があったのか、それを考えれば少しだけツバキの求めている物がわかってくる。
 あの日の白夜侵攻はどちらかの意味があった。一つはサクラ王女を助け出すために奮起したという意味、もう一つはサクラ王女の命を軽視しているという意味。向こうの意図はわからないけれど、当事者でないサクラ王女達がどちらであるとすれば、きっと前者に賭けるだろう。白夜はサクラ王女のためにこの侵攻を行ったと。
 だが実際、この侵攻で行われたのは何のためだったのか?
 サクラ王女を助け出すためではなく、自軍内にいる信用に値しない者たちを切り捨てるための侵攻だった。
 もう一度、サクラ王女に伝えるためには何かしらの意思が必要で、それをツバキは求めていたのだとすれば、カムイとレオンの報告はその意思とは真逆の黒く穢れたものでしかなかったのだ。
 ヒノカ王女がカムイにサクラ王女と救えた僅かな民を託したのは、今白夜がそれらを守ることができない場所になりつつあるということを証明する証拠でもあった。



785 ◆P2J2qxwRPm2A2017/11/30(木) 18:39:14.33Yf32d9Oe0 (20/24)

「俺は白夜のみんながサクラ様を助けてくれる。だからサクラ様もみんなを信じて待ちましょうって、そう言ってきたんです」
「そう……」
「でも、あの日、白夜はサクラ王女が暗夜に囚われていることを知って侵攻してきました。カザハナの言ってた通り、そんなことしたらサクラ様の身に危険が及ぶことくらいわかってたはず、だからサクラ王女を救うために侵攻してきたんだって思った……。いいや、実際は思うことにしたんですよ…」
「あなたが欲しかったのは白夜がサクラ王女のために侵攻したっていう確信だったのね……」
「……」

 無言のままのツバキを見ながら、それを肯定と私は受け取った。
 ツバキは何も言わないまま、ただただ項垂れているばかりで、私は静かに腰を上げて彼の横に立つと、その背中を優しく撫でる。
 泣きそうな子供をあやすように、背中を数回、そうすると不快だというように彼は顔を上げた。

「……何の真似かな」

 その瞳にはさっき、部屋の前を後にしたときと同じ面影があった。
 嫉妬しているこの視線の正体、それがなんであるのかようやくわかった。

「大丈夫。サクラ王女はあなたの事をちゃんと信頼しているわ。私じゃない、あなたのことを信頼しているはずよ」
「え……」
「それに聞いているわ。あなたってなんでも完璧に熟さないといけない、そう思ってるって」
「……」

 誰から聞いたのかときょとんとした態度になる。誰から聞いたのか、それは答えを聞かなくても分かる問題で、ようやくツバキが恐れていることに私は手が届いたと思う。



786 ◆P2J2qxwRPm2A2017/11/30(木) 18:41:18.32Yf32d9Oe0 (21/24)

「ツバキ、誰でも失敗はするものよ。あなたが信じたことがここに来て否定されたことは、覆せないことだとは思うけど、そんな失敗でサクラ王女はあなたを見放すような人じゃない。こんなにわずかな時間しか一緒にいないけど、私はそう思うわ」
「……そんなこと、貴女にわかるわけ」
「ええ、わからないわ。そんなことわからない、これは私が考えただけの結論だもの。だけど、それを確認もしないで自分だけの答えに固執するのは、サクラ王女を信じていないのと同じじゃないかしら?」

 完璧であればあるほど、間違えを犯せなくなる。完璧であればあるほど、前後の矛盾に対応できなくなる。
 ツバキは何も悪くはない。彼はごく自然にサクラ王女のために白夜は動いてくれると信じたのだから。

「それとも、その考えは完璧故の考えだったのかしら? サクラ王女を心配したからじゃなくて、完璧な人ならこう考えるはずなんて、そんなことを思った。そう言う事?」
 
 そんなことあるわけないだろう。サクラ王女の臣下は本当に主君を案じている。それも身だけじゃない、その在り方にも一緒に動くことが出来る。そうでなかったら、無限渓谷まで追いかけてくることは無いはずだから。
 本来あっていい事じゃないけど、主君の願いのために自分たちを賭ける。そんなことをやってのけるツバキが、サクラ王女の事でいわゆる完璧な判断をするとは思えなかった。
 もしも完璧な判断を求めるなら、彼はサクラ王女を殺していただろう。敵地で何をされるかわからないし、死ぬまでの在り方はこちらの都合よく模造される。だらしなく命乞いをして死んでいったというそんな不名誉な話が流れ、白夜やサクラ王女の名誉に傷かつくのであるなら……。
 あの無限渓谷で、サクラ王女達は命を絶っていた。



787 ◆P2J2qxwRPm2A2017/11/30(木) 18:42:50.57Yf32d9Oe0 (22/24)

 それが王族としての潔い最後であり、誰もが胸を打たれる完璧な終わりなのだから。
 少しの間の沈黙、だけどこの場所だけは何十分にも感じられるほどに濃密な物だった。
 雨の音は激しさを増していた、か細い声をかき消すようなそれ、でも彼の声は確かに……

「俺は……。俺はサクラ様に安心してもらいたかったんです」

 この雨の中でも私の耳に届く。ちゃんとした意思を持った言葉として、私に伝わっていく。

「だけど、こんな結果になって……。俺の言葉が間違っていたってサクラ様が気づいたら…、それでサクラ様にとても辛い思いをさせてしまったらって……。俺の言葉でサクラ様が泣いてしまったらって思うとすごく辛くて……。日に日にサクラ様が貴女と打ち解けていく姿を視ていると、白夜を信じるっていった俺の言葉が紙切れみたいに思えてきて……」
「そう、だから私にあんな目を向けてたのね」

 だから、ツバキは私に嫉妬に似た目を向けてきたんだろう。サクラ王女が暗夜の人間に信頼を置き始めている事、そして白夜が行った侵攻の顛末と結果、それを全て自分の中にため込んでいた。
 今日の夜、その話を一気にしたらどうなっていたのか、予想などできない。

「間違っても人の主人を勝手に食べたりしないわ」
「……あんまり信用できないけどね」
「はぁ、そこなのよね。サクラ王女とカザハナ、素直でとってもいい子だけど、ツバキほどじゃないにせよ、出来れば少しくらいは敵意を抱いてもらいたいわ。そういう意味では貴方がいるおかげで適度に緊張感があっていいのよ」
「ふーん、緊張感で済んだらいいねー。ほら、何かしら企んでるかもしれないからさ」


788 ◆P2J2qxwRPm2A2017/11/30(木) 18:45:22.35Yf32d9Oe0 (23/24)

 調子が戻ってきたのか、ツバキの声量が大きくなり始める。
 顔に先ほどまでの焦燥感は無い。私を敵と認識しているからか、それともこれ以上の貸しを作らないためなのか。
 これを貸しとは思わない。そう、これは必要なことだから。
 雨の勢いが少し落ち着いていた。視線は中庭入り口を見ている。
 そこに、メイド数名に傘を刺してもらいながらやってくる影があった。

「なら、ちゃんと伝えないと、あなたの事を信頼して心配してくれる王女にね?」
「……あ」

 冷たい雨の中、テトテトと歩んでくるサクラ王女とカザハナの姿にツバキは罰の悪い顔をする。
 私は静かにツバキの横の席を開けて、やってきた二人を招き入れた。ツバキはこの後、どんな話をするのだろうか。
 ここで誤魔化すようだったら私が代わりに話してあげると目線を送れば、余計な心配ありがとうございますと、挑発的な笑みを向けてくる。
 意を決してツバキが離し始めたのを確認して、私は視線を雨の降る中庭へと向けた。もう、私が入り込む必要はなくなったのだから。

 三人の話が終わったら、私も話すべきことを話そう。カムイのお株を奪ってしまうというのは何時もならしないことだけど、ここまで入り込んだのだからそうしよう。
 いや、そうしようというのではなくて、単純に――
 今はそうするべきだと、私がそう思ったのだ。


789 ◆P2J2qxwRPm2A2017/11/30(木) 18:47:43.81Yf32d9Oe0 (24/24)

 今日はここまで
 
 カミラ王女、誕生日おめでとう。
 カミラはこう母性的だから、ツバキとかはそれに甘えるみたいなのある気もする。

 まきゅべす2は次回になります。

 FEH第2部始まった。早くリリスの配信をお願いします。


790 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 22:07:54.31RCcLxYY/0 (1/26)

◆◇◆◇◆◇

 前作「カムイとまきゅべす」3スレ目889

【カムイとまきゅべす2~氷の双子~】



 朝の始まりは優しいメイドの囁きである。朝の日差しが部屋を仄かに照らす中、薄ぼんやりと意識が顔を上げ始める。
 昨日、突然やってきた資料を確認していたのだが、忙しさと暖炉の心地よさに船を漕いで寝てしまったらしい。
 自身の仮面が顔に食い込んでいる感触を確かめつつ、マクベスは自身の顔を上げた。

「おはようございます、まきゅべす様。本日も良い天気にございます」

 深々とお辞儀をするモーニング担当のメイドにそうですかと、小さく返事を零してマクベスの一日は始まる。
 よもや、まきゅべすと呼ばれることに抵抗は無く、正すことをあきらめていた。
 だが、目の前のメイドが寝起きの一杯を準備していないことが少々気にかかった。
 昨日は熱い珈琲を準備してくれたというのに、なぜ今日は準備していないのかと。

「何かしら飲み物を準備してもらいたいものですね。昨日は準備してくれたと思いますが?」
「今日は御準備しておりません」

 その言葉にメイドは釈明しなかった。
 マクベスはなぜ?と聞き返す。

「この時間、窯に火が入っているのは一箇所だけですが。その一つをカムイ王女様が使っております」
「……なるほど、そういうことですか。はぁ、王女は朝の楽しみまで奪っていくというのですねぇ」

 大きくため息を吐く、王女というのはこの城塞に住まうカムイ王女の事である。
 こうして共に過ごして一年ほどが過ぎたが、未だに自身のことをマクベスと呼ぶ気配はなかった。
 いや、むしろマクベスと呼ばれることの方が稀で、なんというか王城に出向いた際、兵士からマクベス様と呼ばれることに違和感を覚える程である。

「まぁいいです。あなたも違う仕事に行くように。私を起こしただけで仕事が終わるわけではないのですからねぇ」
「はいはい、わかっていますよ、まきゅべす様。それでは失礼いたします」

 深々とお辞儀をしてメイドは部屋を出て行き、彼は先ほどまで突っ伏していた机の上に置かれている仕事に目を向ける。
 そのほとんどはこの城塞の維持管理の事ばかりで、マクベスは可能な限りこれを切り詰めていた。
 王族と聞くと華やかなイメージを持つものが多い。
 王族は民を無視して華やかなパーティーを連日催しているという話は、中間層の民が口にする典型的な愚痴である。
 しかし、そんなことを連日行えるわけがないことなど、普通に考えればわかることだ。
 マクベスは見せるべき時に主君は着飾る必要があると考えている人間だ。
 常日頃の生活は最低限の支出で抑えるべきと考えているし、無駄な投資は無くすべきとも考えている。
 だからこの城塞の経費というのは暗夜の中で群を抜いて抑えられていた。
 彼の手腕は確かな物、それがこの城塞で仕事を熟すメイドたちの共通認識でもあった。


791 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 22:10:40.71RCcLxYY/0 (2/26)

「……ふむ、少々外壁の修理が必要ですねぇ。あまり立ち寄らない場所と言っても、何かが起きてからでは遅い…。メイドたちの中でそう言った作業経験のあるものは――」

 城塞の問題個所を記した資料に目を通しながら、自然と手が空を切る。
 空を切ったところで今日の朝は飲み物が準備されていないのだったと思い出す。
 いつも仕事に取り掛かる前にコーヒーを飲むのが日課であるマクベスは、ため息を吐くと共に立ち上がる。
 朝のモーニングコールに関してだけ言えば準備をしてもらっているが、マクベスは基本的に自分でものを準備する。
 この城塞にいる使用人の数は少ない、わざわざ一杯を用意させるために呼んで、城塞の動きを悪くするのは愚の骨頂と考えているからだ。
 マクベスは人を動かすのが好きだ。しかし、その動かすというのは大局的なものであって、個人の生活の一部には当てはまらない。
 それに小さな事は出来る限り自分でやるという在り方は、カムイの教育にもなる。
 そんなことを考えながら、扉へと向かうとコンコンと叩く音が聞こえた。
 いつも音が聞こえる位置よりも幾分か低い、それに扉が開く気配もなかった。
 何かの悪戯か、それとも寝ぼけているのかと再び動いたところで、またコンコン。
 どうやら、何かいるらしい……。

「ううっ、まきゅべすー、開けてぇ……」

 可愛らしい声が扉越しに漂ってくる。
 このまきゅべすの言い方、イントネーションはただ一人しかいない。
 一つ溜息を吐いてその扉を静かに開いた。
 まず目につく白い寝間着、この前マクベスが王都より持ち帰った特注品である。
 そして次にマクベスのお腹に届くくらいの頭、寝癖でとんでもないことになっていて、城塞の中に天幕の森がそこにあった。
 最後に目についたのはその手に持たれた小さなお盆である。
 二つのカップからは静かに湯気が立ち昇っていて、その人物はマクベスの事を見上げると泣きそうな顔を花のような笑顔へと変えていった。
 カムイである。

「おはよう、まきゅべす。あのね、こぉひぃもってきたの……」

 少し恥ずかしそうに、でも何処か嬉しそうにカムイは語る。
 そんなカムイに中へと入るよう促して扉を閉めると、ようやく一つカップを手に取った。
 口に運んで味を確かめてみるが、やはりメイドの立てたモノに比べて一味足りないというのが、マクベスの感想である。

「まきゅべす、その、どうかな……」
「残念ですが、まだまだです。もう少し精進することですね」
「うん、わかった!」

 言われたことを素直に受け取るカムイの頭をポンポンとして、マクベスは作業を再開する。

「紙がいっぱいだね……」
 
 マクベスの腕の下からひょっこりと顔を出したカムイがそう呟き、そのままマクベスの膝の上にちょこんと座りこんだ。


792 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 22:14:26.03RCcLxYY/0 (3/26)

 マクベスの机の上は書類で溢れていた。
 これでも夜長毎日目を通して処理をしているのだが、終える量よりも増える速度のほうが明らかに早い。
 口にしたコーヒー一口分の安らぎが、今まさに溜息と共に何処かへと旅立っていったように感じる。
 更に問題があるとすれば、今日の午前中、これの相手をすることが出来ないということだった。
 マクベスはとりあえず適度に資料を分けると、カムイに膝上から降りるように視線を向けた。

「え、まきゅべす。今日もここにいるんじゃないの?」
「人を引きこもりみたいに言うのは感心しませんねぇ。私だってここ以外でする仕事がありますから」
「うー、今日はまきゅべすの仕事してるところ、見てたかった……」

 頬を膨らませながら訴えてくるカムイにマクベスはため息を漏らした。
 少し前まで従順であったというのに、この頃はわがままを口にするようになってきていることに対してだ。
 前回の七色ソースハンバーグの件から、どうもカムイはマクベスに対してわがままなお願いをしてくる。
 それをマクベスは受けたり受けなかったりと時を考えて選別していた。
 受ける理由を説明するつもりはない、大抵受けたりするときは受けない理由が無いからに決まっているからだ。
 しかし、ダメな時にはちゃんと理由が存在するものだ。
 それをマクベスは説明する。
 それがある種の礼儀だと、カムイが覚えのを信じて。

「カムイ王女、私がそこに行かなくては成り立たないことというものがあるのです。それに貴女は先ほど、私が仕事をしているところを見たい、そうおっしゃいましたね?」
「うん……」
「なら、私の仕事を円滑に行えるようにすることが、今カムイ王女のすべきことです。結果的にそれが私の仕事をしている姿を視ることに繋がります」
「………でも」
「でもではありません。それに別の仕事があるのは午前中だけの話、午後にはまたこちらに戻っております」
「……わたし、午後からおべんきょうある……。午前中だけしか、まきゅべすの仕事見られない……」

 不貞腐れたように、ぷくぅと頬を膨らませるカムイ。
 しかしマクベスはパンケーキのように膨らんでますねぇと、思いながら今日の用事はカムイにも来てもらう必要があるのだと今さら思い出した。

「まぁ、こうしてここに来てくれたことで手間が省けたというものなのですがね。カムイ王女」
「うーうー」
「うーうー言うのはやめなさい。そろそろ行かなくてはいけません。支度をしにあなたの部屋まで戻りますよ」
「え?」

 カムイはその言葉でむくれた顔を元に戻した。こういうところの理解だけは早いとため息を吐こうとして、無理やり飲み込んだ。


793 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 22:16:43.69RCcLxYY/0 (4/26)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 カムイはマクベスの手を握って廊下を闊歩していた。
 とても上機嫌であり、服も寝間着から与えられたドレスに変わっている。
 まるで遠足にでも向かうのかというほどにルンルン気分のカムイを気にすることなくすれ違うメイドたちに、マクベスは挨拶をしていた。
 おはようと返せば、おはようございますまきゅべす様とメイドたちが深々と礼をし、逆に挨拶をされればおはようと返す。

「まきゅべす、今日誰か来るの? ここってお父様をお迎えした、あの大きな広い場所に続く廊下だよね?」
「ええ、そうです。カムイ王女があそこに行くことが出来るのは来賓が来る時だけですからね」

 それがマクベスの敷いているもう一つの条件である。
 カムイがこの城塞のエントランスに来れるのは来賓があるときだけとなっている。
 つまり、カムイにとってエントランスというのはとても特別な意味を持っているのだ。
 前回はお父様であるガロン王がやってきた、なら今回は誰が来るのかとカムイは少し興奮気味で、一方のマクベスはあまり乗り気ではない。

「まきゅべす、なんだか元気ないよ……」
「おやおや、カムイ王女にそうみられるとは心外ですねぇ。この軍師(予定)マクベスの体調を伺うとは……」
「だって、まきゅべす、めんどーって顔してる……」
「……はぁ」

 歯に衣着せられないカムイの言葉に、マクベスは溜息を漏らす。
 しかし、漏らしたところで時間は止まることは無く、足はその扉を越えて至るべき場所に至った。
 そこには少なからずメイドたちがいた。
 だが、ガロン王をもてなした時のような華やかさは無く、カムイも今日来る人というのがお父様のような人ではないということを察する。

「それでその者たちは?」
「はい、そろそろ到着する頃だと思います……」
「そうですか。はぁ、まったくどうしてこういう事ばかり押し付けられるのでしょうかねぇ」

 マクベスは頭を振り、その仮面の淵をなぞった。
 マクベスの態度は明らかな苛立ちがある。カムイはその原因がわからなかったが、その手を強く握り返す。

「まきゅべす、怖い顔してる」
「怖い顔ですか。どちらかというと、こういったことを押し付けてくる方々に一言投げかけたいという顔ですよ」

 それは実際怒っているのと大差ないのではないか、メイドの誰もが思ったが野暮なツッコミを入れることはない。
 入れようとしたときには、エントランスの扉が大きな音を立てて開かれたからである。
 そこには三つの影があった。
 一つは暗夜の兵士、それを見るのが初めてではないカムイは自然と残りの二つの影へと目は向かう。
 兵士の後ろ、一人とその陰に隠れるもう一人。二人はマクベスたちの様子を伺っていた。


794 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 22:19:08.70RCcLxYY/0 (5/26)

 カムイは二人の様子を眺めていたが、不意にマクベスの手から力が抜けるのを感じて、その手を放す。
 手が離れたことを確認してから、やってきた兵士へと近寄っていく。
 その兵士の後ろで震える影と、凛として立ち続ける影を一瞥した。

「マクベス様、ただいま到着いたしました」
「ええ、ご苦労。それでその二人が?」
「はい、反乱の疑いを持った部族、フリージアの娘になります」
「そうですか……」
 
 説明を聞いてようやく視線を真っ直ぐ、その二人へと向ける。
 あまりにも弱弱しい二つの影、背の高さはカムイより少し大きいほどか。
 多分、歳も十を越えた頃合いだろう。
 ここは託児所ではないのですがねと心で愚痴をこぼしながら、兵士から鍵を受け取る。
 その鍵は今、この空間に響く鈍い金属音を消すためのものだ。
 彼女たち二人の足元手元から響く鈍い音、カムイはそれをずっと見つめていた。

「では、私はこれで失礼いたします」
「ええ、あとはこちらにお任せくださいと、ガロン王様にお伝えください」
「わかりました、それでは」

 一度姿勢を正して、兵士はエントランスを後にする。
 大きな門が音を立てて閉じていき、完全に閉まったところで、陰に隠れていた少女が怯えたように肩を揺らした。
 マクベスが一歩近づく度に少女の顔は慄いていくが、守るように立つ少女だけはそれを無理矢理抑えて対峙した。
 強い瞳を軽く流しながら、マクベスは問う。

「さて、まずは名前を聞いておきましょうか?」
「……ふ、フローラといいます……」

 その言葉に前に立つ少女はためらいながらも、静かに答えた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 数日前、ガロン王からマクベス宛に書簡が届いた。
 王直々の書簡、ついに私も王城デビューを果たせる。
 そう舞い上がっていたマクベス。
 しかし、内容を知って浮足立った心は無限渓谷の底に落ちるかのように急速に冷めていった。
 事の発端は、マカラス周辺の部族に不穏な動きがありという情報である。
 なんでも、氷の部族フリージアは、暗夜転覆を模索しているという噂が立ったのだ。
 それがどういった根拠で作り上げられたものなのかはわからないが、フリージアにはその疑いを晴らすために人質を差し出す必要があり、それがここに連れてこられた二人、フローラとフェリシアという少女だった。

「はぁ、まったく。部族が反乱を企てたところで、大きな運動になるわけがないというのに」

 マクベスは執務室に戻って、開口一番にため息を漏らした。
 ガロン王から受け取った書簡には日実の指定など書かれていない。
 それが一番困ったことなのだ。


795 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 22:21:41.86RCcLxYY/0 (6/26)

 それは状況によっては何年間もということになるわけで、それが何かのプラスになるようには思えなかった。

「ガロン王様も何を考えておられるのか」

 カムイはいずれ暗夜の王族としてその名を連ねる。
 それは自身の軍師としてのポジションをモノにするためのプラス要素となりえる。
 しかし、今回の二人がここに送られてきたとして、昇進の役に立つようには思えない。

「はぁ、いくら考えても仕方ありませんね」
 
 落胆しながら執務室を出る。
 廊下を進み、先ほどの二人の少女を通すように告げていた来賓室へと入り込むと、そこにはどうすればいいのかわからずキョロキョロしているカムイとその様子を楽しそうに眺めるメイド、そしてフローラの陰に隠れるフェリシアの姿があった。

「あ、まきゅべす……」

 カムイの瞳が入ってきたマクベスを捕らえる。
 その瞳は前回のハンバーグ事件と同じすがるようなもので、大きなため息を持ってマクベスは耳を貸した。

「何か問題でも起きましたか、カムイ王女」
「な、何を話せばいいのかわからないよ……。まきゅべすも一緒にかんがえてよぉ」
「はぁ、そんなことでは社交界でにぎやかに談笑など夢のまた夢ですねぇ」

 そう口にしてマクベスはカムイの横に腰を下ろす。
 それを合図と見たのか、フローラの背筋が伸びた。
 相変わらずフェリシアは目を合わせようとしないので、マクベスも溜息を吐くしかない。

「フェリシア、いつまで隠れているの?」
「だ、だってぇ……ひっ」

 マクベスの顔を見るたびに怯える。
 これでは話ができたものではないと、マクベスは諦め気味にもう一度溜息を漏らそうとしたときである。
 カポッという音が聞こえた。
 マクベスの視線に一度だけ肌色が差して、視界を何かがかすめていくと、目の前に付けているはずの仮面を持つカムイの姿があった。

「まきゅべす、仮面外したほうがこわくないはず――あはははははっ」

 次に聞こえてきたのは笑い声、マクベスは何が起きたのか全く分かっていなかったのでメイドに視線を向けた。

「いかがしましたか、まきゅべすさ――、ふふっ、うふふふっ」

 それを見たメイドも笑った。マクベスはなぜ笑われているのかわからないまま、もう一度正面を向く。
 そこには今にも決壊しそうな二人の顔がある。
 なぜ、そんなことになっているのか、もう一度カムイに目を向ければ、また再び吹き出してマクベスの顔を何度も指差した。


796 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 22:24:17.21RCcLxYY/0 (7/26)

「まきゅべす、顔にすごい痕がついてる! あははははは」

 カムイの言葉に昨日は仮面をつけたまま寝落ちしていたことを思い出して、近くの鏡に自分の姿を視る。
 寝ている最中にずれたのであろう、仮面の痕がこうもくっきり残っていて、まるでノスフェラトゥを彷彿とさせる。
 慌ててカムイから仮面を奪い取り、装着して場を取り繕うと試みるが、慌てて付けたために仮面がまた落ちる。
 ノスフェラトゥが顔を覗かせたところで、対面の一人は限界を迎えた。

「ふふっ、あはははっ……」

 フェリシアが笑いを堪えられずに笑い出す。
 しかし、すぐにやってしまったと無理に顔を戻そうとするものだから、アンニュイな表情が出来上がってしまう。
 そんなフェリシアを見て、カムイが再び笑い出す。
 収集の着かない現場にマクベスはしばらく話すことを止め、顔のほてりを冷ます時間に当てることとした。

「さきほどは妹が、その……」
「もう過ぎたことです。いいですか、あなた方は何も見ていなかった。よろしいですね?」

 ようやく落ちついたので威厳をもってそう口にするマクベスであるが、一連の流れの所為もあって威厳も何もあったものではない。
 フェリシアは小さくなってはいるものの、マクベスへの怯えは軽減しているように見える。
 むしろ、マクベスに同族意識のようなものを感じているのか、ちょこんとフローラの横に座れるまでになっていた。

(これは舐められていますね。このマクベス、何れはガロン王様の右腕となる男だというのに)

 輝かしい未来予想図を脳内ではためかせ、ようやく落ち着いた。
 フローラはそんなマクベスから視線を逸らして、その横に座るカムイへと目を向ける。
 まだ外部の人間とあまり関わりを持たないカムイはフローラの視線に気づくとビクリと体を震わせて、マクベスの裾を気付かれないように握ったが、マクベスが気づかないということはなかった。
 蛇に睨まれた蛙が如く、カムイはじっとしたまま身動きが取れない様だ。
 このままでは埒が明かないと、マクベスはようやく本題に入る。

「私はマクベス、この北の城塞を任されている者です。そしてこちらがこの城塞の主であるカムイ王女」
「は、はじめ、まして……カムイです。その、あ、ううっ」
 
 言葉に詰まってマクベスに助けを求めるが、今回彼から助け船は無かった。
 というよりも、彼よりも早く、対岸から船がやってきたのだ。


797 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 22:25:41.85RCcLxYY/0 (8/26)

「こちらこそ初めましてカムイ王女様、それにマクベス様。改めまして、わたしはフローラ。フリージアからやって来ました。こっちは妹の――」
「あ、フェ、フェリシアです。その、今日からお世話になります……」

 フローラはきちんとしたお辞儀、フェリシアはペコリという柔らかいお辞儀をする。
 どうやら姉であるフローラはそれなりに作法を学んでいるようだが、フェリシアにはそのような経験もないらしい。
 手を重ねて優雅さを保っているフローラに比べて、膝の上でグーを作って相手を気にするフェリシア、なんともあべこべな姉妹である。

「フェリシア、お世話になるんじゃないわ。私たちはこの人たちに仕えるのよ。その握りこぶしをほどきなさい」
「あ、姉さん、ごめんなさい…」

 フローラの言葉にシュンとするフェリシア、喧嘩とまではいかないその会話の流れをメイドとマクベスは特に気にせずにいたが、一人だけあわわっとしている者がいる。
 カムイだ。
 今にも殴り合いが始まるのではないかと、マクベスの裾に顔を隠しながら、でも事の成り行きには興味があるとおっかなびっくり状況を確認している。
 
(何をやっているんですか、カムイ王女は。ああっ、裾が寄れてしまいますよ。このヒラヒラした衣装、皺無く伸ばすのに結構な時間が掛かるんですから、ああ、あああああ)

 先ほどの指摘が原因か、フローラはフェリシアの至らない部分をチクチクと指摘していく。
 確かにフローラの言うことはその通りなのだが、だんだんと過熱していく躾もマクベスから見ても行きすぎた度合いにまで膨れ上がり始める。
 フェリシアの視線が時々マクベスたちへと向けられて、仕方ないとその躾に切り込みを入れていった。

「フローラ、今は不問としますから肩の力を抜く様に。こうしてカムイ王女の前で言い争う事こそ失礼でしょうに」
「は、はい……すみません。マクベス様」
「その正そうという姿勢は評価しますが、心の余裕は常に少なからず身に持っておくべきものです。何を焦っているのか知りませんが、ここはあなた方が喧嘩をするための部屋ではありません。わかりましたね?」

 二人はそのまま静かに俯く、その細い腕と足に付けられた腕輪と足輪はまだ外れそうになかった。



798 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 22:30:25.27RCcLxYY/0 (9/26)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 それから数日、二人はこの城塞のメイドとして内部で活動していた。
 もう鎖の音は聞こえないが、その腕輪はまだ足と腕に付けられている。
 マクベスは二人の腕輪と足輪の鎖を外しはしたが、輪を外すことしなかった。
 それはまだ、ここの住民として受け入れていないという証明でもあり、認められるために二人は仕事をこなす。
 てきぱきと仕事をこなしていくフローラに比べて、フェリシアはというと、通算十五回目になるバケツとの格闘に従事していた。
 フェリシアが物を使うと、それは生きているのではないかと思う奇妙な動きをする。
 今日もバケツがあっちへフラフラ、こっちへフラフラ、まるで酔っぱらいのように揺れ、やがて中身を吐き出してしまう。
 無論、掃除用具が生きて動くわけはなく、問題はフェリシアであることに間違いはなかった。

「はわわわっ!、ど、どうすれば……。あっ、ひゃあああっ!」

 どうすればそう不器用に振舞えるのか、自身の零した水面に転んで体中が水浸しになる。
 腕輪と足輪が転んだ衝撃で大きく音を上げて、腕に痕を付けた。

「また、やっちゃいました……。なんで、こんなこともうまくできないのかな……」

 水を吸って重くなったメイド服はそのままに、モップで床に広がった水面の処理に追われる。
 どうしてうまくいかないのだろうと彼女は考える。
 でも、何をしてもうまくいくことなんてなく役に立てない自分自身の不甲斐なさが先に沸き立ち、胸の内で沸々と音を立て始めた。

「……うううっ。だめ、泣いちゃダメ、泣いちゃだめなんです……」

 しかし、涙がどうも抑えられそうになかった。手が自然と瞼へと向かう。涙を拭うために。
 そうして手が瞼に触れたところで――

「フェリシアさん……?」

 後ろから声を掛けられた。
 潤んだ瞳で見た世界に、カムイの姿がある。
 水浸しで今にも泣きそうなフェリシアを見たカムイは何も言わずに立ち去っていく。
 一人になった心細さにもう限界だと目から雫が一つ落ちると、背中から柔らかくて暖かいものが掛けられた。

「え……」

 そこにはカムイの姿があって、フェリシアは自身に掛かる毛布を見る。

「これ……?」
「フェリシアさん。すごく、濡れてる……。このままじゃ風邪引いちゃう。何があったの?」
「あ、あの、これは……」

 バケツを零してしまってと言おうとして、これがフローラに知られたらと思った途端に、口が二の足を踏む。
 自然と視線が下に向かって、もうどうすればいいのかわからなくなる。
 だから――

「え、えっとね。フローラさんに言ったりしないから、でも、このままじゃだめ、こ、こっち……」

 そう先に口にしてくれたカムイに自然と顔が上がった。


799 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 22:32:27.72RCcLxYY/0 (10/26)

 掃除用具はそのままにカムイはフェリシアの手を握って廊下を進む。
 誰にも見られないようにコソコソと歩みを進めて、ようやく目当ての部屋にたどり着く。
 コンコンと二回ノックすると、少しして部屋の主が現れた。マクベスである。

「む、カムイ王女。どうされましたか?」
「あ、え、えっと……その」

 ここに来てカムイが二の足を踏んでしまう。
 でも、訴えかけるように毛布を上から被ったフェリシアに視線を向けている。
 フェリシアは震えていた。
 カムイは粗相をした自分をマクベスに見せびらかすためにここまで連れて来たんじゃないかと。
 数日前の時とは違う。
 フェリシアはここで生活をしている以上、前のように甘くはいかないだろう。
 きついお仕置きが待っているかもしれない、もしかしたらもっと酷いこともありえる。
 そんなことを考えて、恐る恐るフェリシアは顔を上げる。

「とりあえず入りなさい、フェリシアもです。奥に小部屋がありますから、そこで服を着替えるように、拭くものはあるものを使って構いません」
「うん、ありがとうまきゅべす! フェリシアさんも、はいろ?」
「え、でも……」
「その格好では風邪を引きます。体調は崩すだけで、人手を割かなくてはいけなくなるもの。ただでさえいっぱいいっぱいの人員問題を増やさないでいただきたいものです」

 マクベスは興味が無いという表情で、さも当然のように奥の部屋を使うように促す。
 最低でも平手打ちくらいは覚悟していたフェリシアはきょとんとして、再び握られた手の力に導かれる様に奥の部屋へと入っていった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 奥の部屋にフェリシアに合う服は無かったので、下着姿に毛布を被って出てくる。
 男性の視線ということを気にしていたフェリシアであったが、予想に反してマクベスは机に向かって資料の整理ばかりしていた。
 指示を貰っていないフェリシアはどうしていいのかわからずそこに立ちつくすしかない。
 ようやくカムイが出てくると資料を見ていた顔が上がり、貴女がフェリシアをここに連れてきたのですから、濡れた服やタオルなどはあなたが運ぶのですよとマクベスは告げる。
 フェリシアはその言葉に驚く、ここにはメイドとして自分がいるのに持っていくのはカムイの仕事だというのだ。
 自分に持っていかせるべきだとカムイが口にするかと思ったが、一方のカムイは二つ返事でタオルと濡れたメイド服を毛布に纏めて、部屋を出ていく。
 ちゃんとフェリシアに待っててね、すぐに服を持って戻ってくるからと添えてだ。
 フェリシアが聞いていた暗夜王国の王族、貴族の印象とはまるで違うことに内心驚きが隠せない。
 もっと、人をボロ雑巾のようにこき使って、ミスをすればひどいお仕置きをするような人々かと思っていたのだから。



800 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 22:35:43.55RCcLxYY/0 (11/26)

「なにを立っているのですか。そこに立たれていても迷惑なだけ、座ってカムイ王女を待ちなさい」
「す、座っていいんですか……」
「ええ、座りなさい」

 マクベスの指示を受けて、フェリシアはその椅子に腰を下ろした。
 毛布に下着だけという姿であるが、マクベスの視線がこちらに向くことはない。
 ただただ、いくつもの報告書に目を通しては印を押していく行為を繰り返す。
 とても静かな時間、いつも仕事の最中はこんなに静かではなかった。
 何かしらの失敗が音になるから耳が休まることは無く、今日も水浸しになった服の水の音を聞きながら、仕事に勤しむことになると思っていたのに。
 とても静かで、それがとても心地よく感じる。嫌な話をすれば、どこよりも今が一番落ち着いていた。

「仕事がうまく出来ていないようですね、フェリシア」

 だから、唐突のマクベスの言葉に体が跳ねる。
 怖くて頷くことしかできなかった。

「このところ、城塞内部の出費が増えていますので、色々と調べてみましたが、多くのことが貴女のミスだとわかりました……。正直、この量は驚異的ですよ」

 マクベスは紙の束を見せた。
 そこには廊下の絨毯の全清掃や食器の破損枚数、ダメにしてしまった茶葉の量など、フェリシアの仕事の成果が事細かく記されている。
 フェリシアは委縮する。
 こうして叱られることは予想していたのに、少しだけ静かな時間があったから期待してしまったのだ。
 考えて見れば、何か間違いを犯して怒られない通りは無い。
 しかし、マクベスを直視するのは難しかった。
 でも、それは口にしないといけないと、ようやく絞り出すようにその言葉は出た。

「……ごめんなさい」

 か細い声である。
 今の精一杯のフェリシアの言葉にマクベスは特に表情を変えることはなく。

「今度からは誰かと一緒に仕事をしなさい。このままでは調度品を全て取り替えないといけない事態になりかねませんので」
「……」
「……」
「あ、あの」
「なんですか?」
「えっと、その……」

 何かもっと言われるかと思っていた。ダメな奴だとか、何をやっても成長しないとか、姉さんと比べてまったく使えない、そういったことを……。

「まさか、姉であるフローラと比べて何か言われると思ったのですか?」
「な、なんでわかったんですか……」
「はぁ、誰かと比べてなんていうのは意味のないことです。フローラはここに来るまでにそれ相応の事を踏んでいるようですが、あなたは何も知らないズブの素人、そこに何を期待しろと?」

 マクベスは淡々と意見を述べていく。
 もう少し包み込んだ言い方をしてもいいのにと思えるほどにズバッとストレートに伝えてくる。
 しかし、そこに相手を貶すような音色は無かった。
 ただただ、事実を述べるだけ、それはなんだか先ほどの静かな時間に似た心地良さがあり、フェリシアは少し呆けて我に返ると頭を下げた。


801 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 22:37:43.93RCcLxYY/0 (12/26)

「あ、はい……ごめんなさい」
「ですから、出来ないことは先人に尋ねるべきことです。努力をしているのであればなおさらというものです」
「でも、全然できてないです。今日もバケツをひっくり返しちゃいましたし……。カムイ様にも迷惑を掛けてしまいました」
「あなたに手を差し伸べたのはカムイ王女です、あなたが助けを求めたわけではないでしょう?」
「……はい」
「なら、それはカムイ王女が行ったこと。それをあなたは拒否しなかった、ただそれだけの事です。気に病む必要はありません。それに助けた後、処理をせずに立ち去るのであれば、助けない方がいい。助けるという責任は、その一時の後も支えることであるべきですからね」

 マクベスはそう告げて紙の束を持ち、フェリシアの対面に座る。
 毛布から顔を出して、その紙の束を静かに見つめていると、マクベスの顔は特に怒っているわけではない、むしろ少しばかり楽しそうだった。

「それに、あなたの努力は形になっていますからねぇ」

 愉快な口調で、フェリシアは頑張っていると真正面から褒めてくれた。
 だから困惑した、今日までにミスをしなかった日は無いというのに、なぜなのかと。
 フェリシアは不思議を通り越した表情で、マクベスに尋ねた。

「見て見なさい、損傷の具合が段々と減っています。ミスは確かにありますが、その頻度や規模が減っているのは、あなたの努力によるものでしょう。ただ、今のままではその失敗をフォローできそうにありません。だからこそ、貴方は誰かと共に行動すべきだということです。努力を怠らず、少しでもどうにかしようとする姿勢事態は嫌いではありませんから」
「その……失敗してもいいんですか」
「いやいや、開き直られては困ります。いいですか、失敗は無い方がいいに決まっています。しかし、失敗しない人間などいはしません。まぁ、私は違いますがね」
 
 自信満々に告げるマクベスに、最初の日の仮面の痕のことが過った。
 言っている事はあべこべだけど、マクベスは忠実に評価を下している事だけは、フェリシアにもわかった。

「そういうわけです、わかりましたか?」
「は、はい、がんばります。えへへ」

 先ほどまで落ち込んでいたのが嘘のようにフェリシアはやる気を取り戻している。
 持ち直すのは早い様で、それはそれで助かるとマクベスは思いつつ、素朴なことを口にした。

「しかし、これほどまでに家事が絶望的とは、何か得意なことは無いのですか?」
「と、得意なことですか……」

 ええ、さすがに一つはあるでしょう、と口にしてみたが正直このどん臭さだ。肉体関連で得意なことがあるとは思えない。
 今度は書類の整理でも手伝わせてみてもいいが、資料にインクを零されたりしたら大変で、口に出すのが憚られる。
 一方のフェリシアは神妙な顔で、そのマクベスの質問に答えるべきかを悩んでいる。
 驚いた、フェリシアにはそれなりに自信のあることがあるらしい。



802 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 22:40:24.99RCcLxYY/0 (13/26)

「思い当たるものはあるようですね?」
「え、あの……ここでは役に立つようなことじゃないと思って……」

 フェリシアはそうきっぱりと言った。
 役に立たない、ここでは役に立たないことというのはどんなものだろうか。

「わかりました。ならこれ以上言うことはありません。貴女はあなたにできる限りのことを頑張りなさい」
「言わなくてもいいんですか?」
「役に立たないと貴方が言っているのであれば、それが100%の力で運用されることは無いでしょう。ですが、この城塞でその力を振るうに値する出来事があったのであれば、一度試してみるなさい。それで、役に立つと思うのでしたら私にお見せするように。それから判断いたします。ですので、今は与えられた仕事を熟せるように努力すること、わかりましたね?」
「も、もちろんです! 私、頑張っちゃいます!」

 体と言葉が同時に動く性質なのか、フェリシアは勢いよく立ち上がった。
 その足に何かが絡む、大きな毛布はフェリシアの足を包み込んでいたのだから、そんな中で勢いよく立ち上がればどうなるのか、答えは簡単である。

「はわっ! あわわわっ!」

 踏まれた毛布はそのまま力任せにフェリシアの体を前のめりに変えていく。
 目の前には机があり、このまま行けば前頭部が直撃することだろう。マクベスもさすがに危ないと手を伸ばしてその体を支えたところで、ガチャリと扉の音がした。

「まきゅべす様、失礼いたします。カムイ様からフェリシアの服を用意してほしいと言われましたので、お届けにあがりま……した」
「フェリシアさん、服を持ってき……たよ」

 果たして入ってきたメイドとカムイは、そこでマクベスに抱きしめられているフェリシアの姿を目撃する。
 フェリシアは泣いているのか目元が少し赤くなっていた。
 下着姿の年端もいかない少女を抱きしめているマクベスという構図は、とてつもない偏向した趣味であることを示すかのような光景で、さすがのメイドも驚愕した。
 大袈裟にフラフラとその場に尻もちまでついて、口に当てた手はわなわなと恐怖に震えさせる。細かな演技が光る場面だ。

「ああ、やはりおかしいと思っていたんです。こんなにメイドがいるというのに、まったく興味を示さなかったのは、まきゅべす様が幼い少女しか好きになれないためだったのですね」
「何を言っているのですか貴女は、私にはそのような趣味はありませんよ」
「説得力がありません。はっ、もしかしてまきゅべす様という言い方も、カムイ様がしたのではなくて、幼い子の舌足らずな感じを出すために強要した、そういうことなんですね……」
「これ以上、変なコトを言ったら三月ほど減給としますが、よろしいですね?」
「……服をお持ちしました、まきゅべす様」

 打って変わってとはこの事だろう。抱きとめたフェリシアをやんわり離すと、その頭に落ちた毛布を掛ける。
 その行為はとても暖かくて優しいもので、フェリシアの視線は自然と上にあがった。

「何をしているのですか? さっさと服を着替えてくるように。今日は始まったばかり、仕事は終わっていません。そうですね、彼女が一緒に仕事をしてくれますので」
「え、私ですか」
「あなた以外に誰がいますか、私に対する暴言をこれで無しにしてあげようというのですから、これはとても安いものですよ」
「……はぁ、わかりました。フェリシア、早く着替えてきて、そうしないと私の給料が減額されかねないから」
「は、はい、すぐに着替えてきます!」

 勢いよく奥の部屋へと入っていったフェリシアを見送って、マクベスは疲れたようにため息を吐き、仕事を再開した。
 新しい作業着に着替えたフェリシアに目を向けることはなかったが、彼女はとてもうれしそうにマクベスに視線を送りながら部屋を後にしていった。



803 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 22:42:25.51RCcLxYY/0 (14/26)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 夜になると、城塞はとても静かな場所となる。
 城塞の入り口となる下町はとても静かな場所であるから、人々の声は聞こえず。辺りを包むのは漆黒の闇と言っていい冷めた空気だけであった。
 そんな中でもマクベスの執務室には、まだ小さな明かりが灯っている。
 連日の処理はまだ終わりが見えない。

「……ふぅ、もう真夜中ですか。しかし……」

 まだ休めそうにありませんねと、溜息を漏らす。
 膨大に積まれた資料の山は、今日も夜深くまで作業が必要なことを暗示していた。

「ふむ……」

 先ほど入れたコーヒーはもう無くなっている。
 あと数時間は仕事をしなくてはいけないとなると、もう一杯は欲しいと椅子から立ち上がったところで、扉を叩くか細い音が聞こえた。
 こうして仕事に集中していない時でないと聞こえないであろう音、それに気が付いてマクベスは扉へ向かう。
 メイドが今日の終業報告をしに来たのかもしれない、そう思って扉の奥を覗いて予想外の影に目が点となる。

「……こんな時間に何の用ですかな? それとも、まだ仕事が終わっていなかったのですか?」
「……」

 扉の先にいたフローラは未だに仕事着のままでそこにいた。
 しかし、仄かに香る石鹸の匂いが仕事は終わっていると伝えている。
 仕事の話ではない、とするといったいなぜ夜にやってくるのか理解が出来ない。

「こんな夜中に来てもらっては要らぬ誤解を招きます。明日ではだめですか?」
「要らぬ誤解ですか……。いずれは誤解でもなくなるのでしょう?」

 フローラの声は淡々としていた。
 マクベスの言葉にどこか噛みつくような視線と態度、どうやら彼女が来た理由というのはその要らぬ誤解に関することのようだった。
 マクベスとしては、そんな話に付き合いたくはないのだが、この折れるまで絶対にここを動かないというフローラの気概に折れることを選ぶ。

「……まあいいでしょう、入りなさい。寒いですから、暖炉の前で話をしましょう」

 フローラを自室へと促して、扉をゆっくりと閉める。
 燃え盛る暖炉の前、用意された椅子にフローラは腰かけると、その面持ちが更に真剣な物へと変わった。 
 
「それで、話とは何ですか?」
「……今日、妹が迷惑をかけてしまったそうで、申し訳ありませんでした」
「あなたに謝ってもらう問題ではありません。すでに謝罪は本人からもらっていますのでね。まさか、そんな謝罪のために来たのではありませんね?」

 それはそうだろう、そんな話をするためにわざわざここまで足を運ぶ必要はない。
 どうやらその通りで、フローラの顔に安堵は無い。
 スカートの上に置いた手は開かれておらず、握りこぶしは少しばかり震えている、怖がっているようにも思えた。


804 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 22:45:00.46RCcLxYY/0 (15/26)

(いいえ、違いますね。恐怖しているならば瞳に現れるものですが、この瞳にあるのは……。圧倒的な敵意といったところでしょうか)

 フローラの視線にはマクベスに対する敵意だけがあった。
 この城塞を預かっている人間に対して、このようなことをしてくるということは、何かしらの覚悟があっての事だろう。
 それともまだまだ子供故、そう言った感情を隠しきれないのか。
 歯に着せた衣を拭わんばかりの剣幕、しかしそれをどうにか抑えてフローラは言葉を紡いだ。

「……に手を出したのですか?」
「なんですか、もっとはっきりと言いなさい」

 聞こえないとマクベスは言った。
 その言葉にフローラは力強く立ち上がり、その額に青筋まで立てはっきりとそれを告げた。

「……私の妹に手を出したのですか、と聞いているんです!!!」

 暖炉の炎はフローラの感情に起伏するかのように炎の柱を上げる。
 部屋全体がマクベスを凶弾するかのように、部屋に寒々しさが広がっていく。
 マクベスは、その言葉を受けて……

「………は?」

 何を言っているんだこの小娘は。
 目の前に仁王立ちするフローラを蔑むように眺めるほかなかった。
 私がフェリシアに手を出した、ホワイ、なぜ?
 なぜそのようなことになっているのか? マクベスの脳内には大量の疑問符が軍団となって連なり、今や理解の壁に大挙して押し寄せていた。
 そのようなこと身に覚えがない、そんな素振りを見せるマクベスにフローラの怒りは限界と言わんばかりで、証拠は光っているのだとさらなる追撃に移行する。

「しらばっくれても無駄です。今日、フェリシアから聞きました。仕事のことを。今日もうまく出来なかったと。そしてあなたに抱かれたって……」

 かなり飛躍した話だ。
 フェリシアは事細かに説明をしないらしい、これは報告書などを手伝わせることもできないとマクベスは心底呆れていた。
 そして不運にも、その呆れた態度を開き直っていると見るのが、このフローラであった。
 マクベスの態度はそれがどうしたと言っているように見えるし、彼女はストレートにそう解釈してしまったのだ。

「あの子のミスに付け込んで迫ったのでしょう。フェリシアがあんな顔になってしまうくらいのことを、この部屋で迫ったのですね!?」
「あんな顔っていうのは一体どういう顔の事ですか?」
「っ!!!」

 その言葉がまさに起爆剤で部屋の中が更に凍り付いた。
 マクベスは身に感じるその冷たさに体を震わせる。
 このマクベスともあろうものが、少女の剣幕に身を震えさせているのかと。


805 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 22:47:50.83RCcLxYY/0 (16/26)

 いや違う、これは心が恐怖しているから寒いのではない。
 物理的に冷気が対面する方角から流れている。
 見ればわかる、発生源はフローラであった。

「な、なるほど、氷の部族というだけはあぁ、ありますねぇええ」

 流石は氷の部族、冷気の扱いになれているということですかと心の中で感心するが、まったく体は温まらん。
 部屋の中に吹き荒れる木枯らし、暖炉の炎は風に吹かれて勢いを増しているが、その熱気が届かない。
 マクベス執務室は、今や絶対零度の極寒地へ変貌しつつあった。

「寒いですよね。当然です、私はあなたを殺すつもりでここに来たんですから、要らぬ誤解ではありません。ふふっ、フェリシアに手を出しておきながら、生きていられるとは思っていなかったでしょう?」
「ま、まさか、こんなに思い込みの激しいいい、小娘だとは、おも、おもいま、せんでで、したよおよよ」

 姉妹揃って一癖も二癖もある。
 こうして妹の言葉を鵜呑みにしてやってくるのだ、あの過剰なまでの躾は、多分妹の身を案じての事なのだろう。
 フェリシアはその躾に怯えているようだが、何のことは無い。
 このフローラからすればあれが愛情表現なのだから。

「ふふふっ、妹に手を出した報いを受けてくださいね、マクベス様。大丈夫です、明日にはあなたは凍死したという形で報告されるだけ、フェリシアと私は慎ましく生き残らせてもらいます」
「――――っ、ううっ……」

 段々と視界が薄くぼんやりとしていく。

(ああ、何という事か、こんなことでガロン王様から承った任から外れてしまうなど)

 もう、体を動かそうにも動かせる気配がなかった。

(まったく、日頃の行いには注意をしていたのですがねぇ……)

 目の前では殺気を隠すこともなく、冷気を垂れ流すフローラだけが見える。
 指向性を持った冷気はマクベスだけを容赦なく凍えさせていく。
 部屋全体ではない、マクベスだけが絶対零度の極致へと連れ去られつつあったのだ。
 もう思考も止まりつつある。この先の黒い縁は死に繋がっている。
 もう、何処にも戻ることのできない死が近づいていて、マクベスの視界が真っ白に溶け込み始める。
 どうにか視線を動かして打開策を練ろうとするがすでに遅く、最後に見つめたのはこの部屋の出口であった。

(ああ、コーヒーを飲んで温まろうと思っていたのに……。これなら、ポッドなどを部屋に置くべきでした……)

 沈黙を守り続ける景色、フローラの勝ち誇った笑み。
 すべてが凍り付いていく。そんな光景が目に凍り付いていく、その刹那……。氷の背景に一瞬だけ変化が起きた。
 扉が少しだけ開いた。
 開いて何かがフローラに近づいていくと、とても機敏な動きでそれはフローラの背後を取り、そのままフローラを昏倒させた。
 正に早業で、冷気が一気にその姿を無くしていく。
 ぼんやりとした視界の中、マクベスはその靄の掛かったピンク色の物体を前に意識を落とした。



806 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 22:50:38.86RCcLxYY/0 (17/26)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 そして目覚めた。

「……?」

 悪い夢を見ていたのか。どうにか記憶を掘り起こして失う前の景色を思い出す。
 勘違いしたフローラに氷漬けにされた記憶が蘇ってきた。
 しかし、氷漬けにされたというのなら、こうしてベッドにいるわけがないし、光景を克明に思い出せるわけもない。
 そうして体を起こしてみれば、ここはあまり使わない奥の寝室であることに気が付いた。
 隣の部屋では何やらごちゃごちゃと音がしているものの、誰かが入ってくる気配はなく、自身の腹が鳴ったことに結構な間、眠っていたことを感じ取った。

「はぁ、一体何が起きているのか」

 と、そこで扉が開かれる。
 ノックが無いのはマクベスが未だに眠っていると思われているからだろう。
 ぼんやりとした視線で目を向ければ、そこにはカムイとフェリシアの姿があった。
 二人はまるでおばけを見るかのようにマクベスを見る。
 肌は思ったよりも白いので、確かにお化けに思えなくもないなどと自身で思いながら、おはようございますと声にすれば、それを合図にカムイは床を蹴って、勢いそのままにマクベスの腹へと頭突きを喰らわせた。

「まきゅべす! まきゅべす、よかったよぉ」
「ごふっ、カムイ王女。頭をグリグリするのはおやめください……。いったい何があったのか……教えていただきたい所です」
「え、えっとね……」
「その……あの……」
「まきゅべす様、殺されかけたんですよ」
 
 カムイとフェリシアの二人が言い辛そうにする中で、淡々と執務室からメイドが一人現れて何の感慨もなくそう告げた。
 見えた執務室は多くの家財が無くなっているものの、机だけは健在であるようだ。
 仕事机だけでも残って良かったと、マクベスは安堵の息を漏らす。

「…そうですか。それでフローラは?」
「今は地下牢にいます。もう、三日になりますか。何も言っては来ませんけど、できうる限り何もしないように目は光らせています」

 目を光らせているというのは多分、自害しないようにという意味であった。
 勝手に死なれてはマクベスとしても困るのだ。反逆の噂があるとはいえ、死なれでもしたら色々な問題が発生するのは目に見えている。
 最悪、本当に部族反乱が始まりかねない。
 そうなれば、ガロン王の手を煩わせることになる。
 それだけはダメだ。
 だからこそ、そうならないように命を助けてくれた者に礼を言わなければならなかった。

「そうです、私を助けてくれたものに、礼をしなければいけません。あの時間、メイドの誰かが私の部屋を訪ねてきたようですが……」

 マクベスはそうして意見を求めるとメイドは丁寧にその人物を示す。
 どうやらこの部屋にもう入ってきているようだと、マクベスは部屋を眺め、自身を含めて四人しかいないことに首を傾げ、さらにそのメイドが指示している人物を見て困惑した。
 正直、それはないだろうと疑いを持ったまま。

「まさか、貴女だというのですか? フェリシア」
「はい、マクベス様……。私の得意なこと、役に立ててよかったです……」



807 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 22:52:45.12RCcLxYY/0 (18/26)

 フェリシアはそれだけを淡々と告げた。
 その言葉からマクベスは彼女が得意なことをようやく理解する。
 このぽわわんとしていて、何をするにもドジなこの小娘は見た目に反して戦闘という意味では、他よりも優れた才覚を持ち合わせていると。
 ならば、フェリシアが自身の特技を役に立たないものと言ったのも頷ける。
 メイドとして仕事をするのに、そんな戦闘技術は必要ないと考えるのが一般的なのだから。
 自身の得意なことをマクベスに語って彼女は静かになった。
 もう覚悟をしているのだろう。
 それは当然のことか、姉であるフローラがしでかしたことを止めたとはいえ、実際マクベスは殺されかけたのだ。
 それを不問にすることは出来ない、何かしらの処罰が無くては示しがつかない。

「覚悟はできているようですね。その在り方は素晴らしいものです。ですが、その前に一つ、お聞きしてもいいですかな?」

 だが、命を助けてもらった手前、何も聞かないというのは筋が通らない。
 物事はできうる限り平等に見るべきである。だから、マクベスはそれをフェリシアに問う。

「一つだけ願いが叶うとするなら、フェリシア。貴女は今を望むのです?」

 その質問に彼女は慌てることも、何より悩むことなく一つの願いを口にした。
 本当にそれだけが今ある願いであるように。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
 地下牢でフローラはその最後の時を待っていた。
 もう助かることもない、自分はこの先殺される運命にあると信じて疑わなかった。
 勘違いと思い込み、それを制御できずに駆け出した結果が今のこの状況である。
 あれほどの啖呵を切ってしまったのだ、マクベスは容赦ない処罰を下すことだろう。
 なにせ、命を狙われたのだ、そんな危険人物を生かしておく理由などない、それが当たり前の事なのだから。

「ふむ、思ったよりも元気そうですね。部屋の隅で震えていると思っていましたが」

 突然聞こえたその声に視線が上がった。鉄格子の先に殺そうとした男がいる。
 不敵な笑みは浮かべていない、閉じ込められたフローラを確認しても表情を変えず淡々とした面持ちでのままに見下ろしていた。


808 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 22:54:28.26RCcLxYY/0 (19/26)

「……私の処遇が決まったんですね。あなたが目を覚ましたということは……つまりそういうことでしょう?」
「ええ、そうなります」
「そう、それじゃ。さっさと殺していいわ。これは私が個人的に行ったこと、フェリシアは関係ないことだから」

 この首を持っていけばいいとフローラは首を出す。
 マクベスはその行動を眺めつつ、その手に持ったものを使って――
 牢の鍵を開けた。
 重々しい錠前が解除された音にフローラは顔を上げた。
 そして、中に入ってきて止めを刺すのだろうと、マクベスの到来を待つことにする。
 しかし、マクベスは入ってこない。
 当然のことだ、マクベスはフローラが出てくるのを待っているのだから。
 互いが互いの動きを待つ中で、しびれを切らしたのはマクベスの方であった。

「いつまでそこにいるつもりですか、早く出てこちらに来なさい」
「え?」
「え、ではありません」

 マクベスが手招きしてくる。
 それに従うように両足に力を入れて立ち上がると、重々しい牢の扉を押し開ける。
 今さっきまで入っていたはずの牢の外に自分がいることが、とても信じられなかった。
 温度は変わらないけれど、鉄格子に囲まれた先ほどに比べて息苦しさは感じられない。
 どうして外に出してもらえたのか、それがわからないとマクベスに視線を向ければ、彼はすでに先を歩いていた。
 フローラはそれを追いかける。
 その背中は付いてくるように語っていたからだ。
 冷たい石の階段を上がり続ける。
 だんだんと肌が暖かい空気に触れ始め、気づけばこの数日で見慣れた廊下に出た。
 それで終わりではなく、結局そのまま廊下を進み、やがてその部屋にたどり着く。
 そこはマクベスの執務室だった

「……あの、どういうことですか?」
 
 この事態にはさすがのフローラも声を上げた。
 なぜ、ここまで連れてきたのか、処刑を自身の執務室で行うつもりだというのなら、このマクベスという男、かなりの変態ということになる。
 それに、処刑するのにわざわざこんな場所を用意する必要はないと思うのだ。

「私の処刑なんて、あの地下牢か寒空の下ですれば……」
「処刑? あなたは一体何の話をしているのですかな?」

 マクベスは何を言っているんだこの小娘はという視線を向けた。

「まさか、処遇と聞いて処刑されると思っていたのですか?」
「ち、ちがうの? 私はずっと殺されるものだと……。どうせ、死ぬならすぐにでもと何度か……牢で死のうとしていたのに」
「はぁ、本当にメイドたちは頑張ってくれたんですねぇ。牢で勝手に死なれてしまっていたらと思うと胃が痛くなります。勝手に死なれては困るのですよ、いや本当に」


809 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 22:56:02.41RCcLxYY/0 (20/26)

 フローラは混乱していた。
 マクベスからそのような言葉を聞けるとは思っていなかったからだ。
 こうしてここにやってきたとき、すでに死を覚悟していたフローラからすれば、そんな言葉を聞くことなどないと思っていたのだから。

「それはどういう……」
「それについてはあなたが知る必要はありません。いいではありませんか、こうしてあなたは生きているのですから。それに、貴女がこんなに早く復帰できたのは私の決定ではありません。まずは、その方に礼をしなさい」

 そうして、マクベスは部屋の中へと入っていく。
 フローラは恐る恐るとその部屋の中に入っていく、三日前にマクベスを凍死させようとした部屋には、いつもの仕事着に身を包んだフェリシアの姿があった。

「あ……姉さん!」

 フローラの姿を視た直後に、フェリシアは駆け出す。
 飛んできた彼女を抱きしめる。三日ぶりの妹の感触、妹の匂い、妹の温もり。
 すべてが生きているからこそ得られる感触で、それが急速に生きているということをフローラに実感させる。

「フェリ……シア……」
「うん、姉さん。よかった……。あ、あの、後ろから叩いた時の傷とか残ってないですか……。その思いっきり叩いちゃったから……」
「大丈夫、大丈夫よ。フェリシア……。本当に、あなたは戦闘だけは得意なんだから……」

 抱きしめ返してくれたことが何よりもうれしくて、フローラの視界はみるみる濡れていく。
 それを見ながら、マクベスは呆れたようにため息を漏らしていた。

「フェリシアに感謝するように。私を救った礼、その願いとしてあなたを助けることを望んだのですから」
「え……、どうして、そんなことを」

 それはフェリシアの判断に対するものではなく、マクベスがそれを受け入れたことに対する疑問であった。
 それこそ聞かなくてもいい事だというのにと、面倒くさそうにマクベスは首を上げた。

「……貴女は私を殺そうとしました。しかし、逆にフェリシアは私を助けてくれたのです。死と生を同じ価値で見れば、フェリシアの願いは私が貴女に殺されそうになったという事実を消すに値した。今回は動機が動機でしたから、それを掘り下げる意味もないので不問としただけの事です。というよりも、正直思い出したくもありません。あのような低俗な勘違いで殺されかけたなど、認めたくもありませんのでね」

 マクベスは語気を荒げて言葉を紡ぐ、ああ、まったくもって面倒くさいと。
 フローラの方も、その部分を口にしたくはなかった。
 誰が言えようか、実の妹が食い物にされたと勘違いをして腹を立てた末の行動だったなどと……


810 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 22:58:04.65RCcLxYY/0 (21/26)

「そうです、そうです。姉さんがマクベス様を襲ったのってどうしてなんですかぁ?」
「フェリシア。そのことは掘り下げないでほしいのだけど……」
「私からもお願いします。変な噂が立ちかねませんので」

 そう言葉を添えて、マクベスは執務の机に向かっていく。
 その背中を少しだけ追いかけて、突然握られた手の感触にハッとする。
 顔を上げれば、そこにはフェリシアがいた。

「姉さん、ありがとうございます」
「ありがとうって、私はいい事なんて何もしてない……」
「ううん、マクベス様言ってました。姉さんがこんなことをしたのは、私のことを大切に思っているからですって」
「あれがそんなことを? とてもじゃないけど、そんな風には思えない」
「えへへ、私もびっくりしちゃいました。マクベス様、私の答えを聞いた後にそう言ってくれたんです。姉さんは、私の事をとっても大切に思っているって」

 その言葉に開いた口が塞がらない。
 どういう顔で話せばいいのかわからず、金魚のようにパクパクと開閉運動を繰り返す。

「なんですか、そのように口をパクパクと。もう少しは反省の色というのを見せていただきたいものです」
「な、なんてことを妹に吹き込んで!」
「実際事実でしょう。あなたの優しさはとても不器用です。相手に伝わらなければ、それはタダの暴力になりかねません。こうして、私の命を狙ったのですから、その動機の最もたる部分には正直になるべきでしょう。それが嫌なら別にかまいませんよ、これからもまるで妹を厳しく躾ける姉を続けるといい」

 マクベスはそう憎たらしい笑みを浮かべた。
 ここまで状況を作られて、否定できるほどフローラは冷たい女ではない。
 フェリシアの手のぬくもりは本物だし、フェリシアを大切に思っているのも事実だ。
 よもや逃げ場はない。

「……わかりました。わかりました、私の負けです。私は妹を大切に思っています」
「ね、姉さん。そんなどうどうと言われても……照れちゃいますよぉ」
「ここは言わないと、納得してもらえませんからね。でも、ミスをするようだったら、変わらずに指摘しますから。そのつもりでいなさいフェリシア」
「は、はいぃ……ううっ、もう少し優しくしてほしいですぅ」


811 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 23:01:22.19RCcLxYY/0 (22/26)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 これでいいでしょと、フローラの目は訴える。
 マクベスは私が良いと決めるわけではないのですがと、口にして二人の元へと歩み寄る。

「二人とも手を出しなさい」
「え?」
「いいから出すのです。もう、さすがに付けておく必要はありませんからね」

 フェリシアとフローラの手がマクベスへと向かう。
 その手の平を通り抜けて、腕まで手が伸びると、カチャリという音が静かに響く。
 それは腕から始まって、次に足元へ。
 重みを持って響いたそれは、やがて床に転がり音を発することは無くなった。

「腕輪と足輪を外しちゃっていいんですか?」
「マクベス様?」
「もう、あなた方には必要ありません。それは奴隷が付けるべきもの、すでにこの城塞の一員となったお二人が身に着けるべきものではないのです。それに、主の前でそのような物を付けるのは無粋ですからねぇ」
「あ、主?」

 フローラは睨みつける、もちろんマクベスをだ。
 それにマクベスも睨みを返す、誰がお前たちの主になるかと。
 そもそも、この城塞の主は一人しかいないのだから、どうしてそういう勘違いが出来るのか、まったくこれだから忠誠を誓ったことのない田舎者はと心底呆れた。

「まぁいいです。まずは、顔合わせと行きましょう」

 そうして手を叩く。
 その新しい主は奥にあるマクベスの寝室から、メイドを一人従えてやってくる。
 両手と両足が同時に出ているのは愛嬌ということで見逃すしかない。
 そうして現れた主、カムイは二人に深々とお辞儀をして、何もしなかった。

「カムイ様?」
「そ、その……。ううっ、フローラさんが怖いよぉ」

 別に睨んでいたわけでもない、しかしカムイはマクベスの背後に隠れてしまう。
 マクベスのはぁ……という溜息が響く。

「カムイ様、臣下を恐れては舐められてしまいますよ」
「……だって、フローラさん。まきゅべすに酷いことしたから、私にもひどい事するかもしれない……」
「それはもう終わったことです。カムイ様、たとえ過ちを起こしたとしても、その物に改正の余地があるのであれば向き合うのも一つ上に立つ者の役割。少なくとも、私はフローラが改正すると思っております。それを含めて、カムイ様に二人を臣下として与えるのです」

 ご自慢の高説を謳いあげるマクベスであるが、カムイは足に巻き付く様に掴まっていて、一向に出てこようとしない。
 その状態をフローラに投げかける。
 それはある意味、最初の臣下としての仕事という物だろう。
 主から信頼を勝ち取るという重要な仕事、スタート地点と言ってもいいものだ。


812 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 23:05:17.05RCcLxYY/0 (23/26)

 一歩、また一歩と進む。
 気づけば、フェリシアも一緒に横を歩いてくれていた。
 もう、フェリシアとカムイの間には少なからず絆が出来上がっている。
 今、そこに立たなくては姉として妹を守っていけない気がした。
 だから、臆することなくフローラは歩み、そしてカムイの前に立った。

「……カムイ様。今日から、貴女の臣下として仕えさせていただきます。私がマクベス様に行った狼藉、それは消えないことです。そんな私を信用しろというのは難しい話かもしれませんが、お願いします。私を貴方の臣下としてください。私にフェリシアと一緒に仕えることを、お許しください……」
「わ、私からもお願いします。カムイ様!」

 深々としたお辞儀、沈黙の時間が流れた。
 フローラは頭を上げない、フェリシアも頭を上げない。
 マクベスは何も言うことは無く、カムイはその足に捕まったまま――

「まきゅべすに酷い事、もうしない?」

 そう問いかけた。
 顔を半分だけ見せて、二人の姿を視て。

「はい、もう致しません。カムイ様」

 カムイはその言葉を吟味するかのように、少しだけ思案して、ゆっくりとマクベスの陰から出てくると、二人の前に立った。
 フェリシアとフローラは頭を下げたままだ。
 カムイはその二人を前に沈黙を守り続け、そして、どうすればいいかわからないという視線をマクベスに向ける。

「単純な事です、カムイ王女。この二人を臣下として認めるなら、頭を上げさせる。ただそれだけのこと」
「……。フローラさん、フェリシアさん。顔を上げて」
「はい、カムイ様」

 フェリシアとフローラの声が重なり、同じように上がる。
 視線の先には今、主となった女の子がいる。
 その子はさっきまでの怖がっていたのが嘘のように、笑顔で二人に抱き着いた。

「よろしく、フェリシアさん、フローラさん」
「はい、カムイ様!」
「はい、ありがとうございます。カムイ様」

 三人が抱擁し合う姿をマクベスは眺めつつ、ちょっとした悪戯心にこんなことを口にする。

「ところでカムイ王女、ここで二人に初めての仕事を与えてみるというのはどうでしょうか?」
「仕事?」
「ええ、仕事です。臣下となった今、二人も何かしらの命令を欲しているはず。それに応えるのも主の義務というものですからね」

 マクベスは楽しそうに笑みを浮かべている。
 これが彼なりのフローラへの復讐であるが、スケールの小ささにメイドは内心で哀れな男を眺めていた。


813 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 23:07:57.91RCcLxYY/0 (24/26)

 マクベスの言葉にカムイは考える。
 考えてみるが、一向に思いつく気配がない。
 いきなり何か命令をしろと言われても、簡単に思いつくものではなかったのだ。

「マクベス様、それは無茶ぶりというものです。カムイ様が困惑しています」
「そうですよぉ、マクベス様」
「おやおや、臣下になると言った傍から、これではいけませんねぇ。なにご心配なく、このマクベスがここまで教育を行ってきたのです。無理難題を口にすることはありません」

 マクベスは自信を持ってそう伝える。
 ある意味、ここが教育成果を見せる一つの機会でもあった。
 カムイが臣下を持ち、そして下す初めての命令に高揚感を感じながら待ち続け。

「いん、決めた。決めたよ、フェリシアさんとフローラさんへの命令!」
「おおそうですか、さすがはカムイ様です」

 マクベスはよくやりましたと、その頭を優しくポンポンとし、カムイはその感触を堪能した後に、二人と向き合った。

「カムイ様、ご命令をお願いしますぅ」
「カムイ様、ご命令を……」
「うん、あのね二人には――」

 二人の声にカムイはにっこりと笑って、その初めての命令を口にした。


814 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 23:13:24.60RCcLxYY/0 (25/26)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 朝の始まりは優しいメイドの囁きである。
 そう、それは何時も通りの朝の始まりだった。
 しかし、困ったことにあの日を境に、それは少し変わってしまった。

「まきゅべす様~。起きてください、朝ですよぉ~」
「まきゅべす様、起きてください。起床時間をオーバーしています」

 机で伸びているマクベスを左右から揺さぶる声、片方はどこかしっかりした口調で、もう片方はおっとりとした口調。
 それぞれの音色がマクベスの鼓膜を揺らす。
 あの日、カムイの臣下となった二人は、カムイの命令通りに事を遂行していた。
 ああ、いやだ、なんでこんなことになったのかと、マクベスは己のうっかりを呪う。
 カムイの命令は、二人にマクベスをまきゅべすと呼ばせることであったのだから。

「ううっ、毎度毎度思いますけど、なんでこんないい方をしなくてはいけないんですか」
「私は気にしてないです。それにまきゅべす様って、可愛い呼び方だって思いますから」

 姉妹の会話が耳に入る。
 どうして二人がマクベスを起こしに来ているのかといえば、それもカムイの所為である。
 コンコンと扉を叩く音が響き、それに合わせてフローラが扉を開ける。
 そこには四つの湯気の立つコーヒーをお盆に乗せたカムイがいた。

「まきゅべす、おはよう。今日もこぉひぃ淹れてきたよ」
 
 もう日課となったカムイのコーヒーが部屋へと運ばれてくる。
 マクベスの机に置くと、そのままフェリシアとフローラに手渡す。
 そして、椅子に座ってマクベスを待つ態勢へと移行した。
 マクベスはというと、その日課となりつつある光景にため息さえ出ない。
 わずかに開いた扉から感じる視線、どうやら今日もフェリシアとフローラの身を案じるメイド数名が張り込みをしているようだ。
 前までは朝に一人メイドが来るだけだったのに、こんなことに時間を割く暇があるなら、さっさと仕事を始めなさいと心で辛辣に叫ぶ。
 しかし、フェリシアとフローラにさえもまきゅべすと呼ばせているという形から、ロリコンまきゅべすなる異名まで付いている始末。
 それが勘違いであり、身も蓋もない誹謗中傷であることを示すためにも、抗議の声を上げることは出来ないのだった。

「まきゅべす、はやくはやく~」
「まきゅべす様~、珈琲がさめちゃいますよぉ」
「まきゅべす様、早くこちらへ。まさか、主の命令には従うことと言っていたあなたが、カムイ様の命令に背くなどということをするわけがありませんよね?」

 三者三様でマクベス包囲網が出来上がってい中、フローラは一番群を抜いていた。
 マクベスの発言をそっくりそのままカウンターで返してくるのだ。
 主従の力量バランスが危うくなっていることをマクベスは察している。
 ならば、その席には着くべきではないのだが、朝の一杯というのは、気持ちの切り替えを行う上ではとても有用な物で、それをマクベスは無下にしなかった。
 観念したように机から立ち上がり、机に置かれたカップを取ると空いている椅子に腰かけた。
 隣にカムイ、対面にフローラ、その隣にフェリシアという形でそれぞれのカップから湯気が立っている。
 特に号令はない、四人が全員カップを持ち座ったところで、それぞれが飲みたいタイミングでコーヒーを口に運んでいく。
 今日のマクベスは三人目くらいであった。
 口の中に入ってくるコーヒーの味は、やはり他のメイドが淹れるモノに比べればまだまだであるが……

「ふむ……」
 
 新しい住人たちと共に飲んでいるからなのか、それともこうして何度も口に運んでいるからなのか。
 思ったよりも飲み慣れたものになっていた。
 さぁ、仕事をに取り掛かりますかと、マクベスは机へと戻り、他の者たちも部屋を後にした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~

 これはどこかの物語。
 カムイとマクベス、そして人質として連れてこられた双子の邂逅の物語。
 
 If(もしも)の一つ……。

 カムイとまきゅべす2―おわり―


815 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/13(水) 23:23:03.91RCcLxYY/0 (26/26)

今日はここまで 

 マクベスパルレとか、あったらやりたいよね。 
 次回から本編に戻ります。12/31に無双のifDLC、槍は騎乗ユニットしかいなかったからオボロとアクアが地味に楽しみである。

 次の展開を安価で決めたいと思います。参加していただけると幸いです。

◆◇◆◇◆◇
 カムイと話をする人物。
前回のスサノオ長城戦に参加した仲間から二人。
・カミラ
・サクラ
・アクア
・ルーナ
・ラズワルド
・ピエリ
・フランネル
・エルフィ
・ブノワ
・ハロルド

>>816 >>817

◆◇◆◇◆◇
遊撃部隊のメンバーで支援イベントの組み合わせ
・ラズワルド
・ピエリ
・フランネル

>>818 >>819

◆◇◆◇◆◇
城壁攻撃部隊のメンバーで支援イベントの組み合わせ
・エルフィ
・ブノワ
・ハロルド

>>820 >>821

 このような形ですが、よろしくお願いいたします。


816以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/14(木) 00:09:55.362/NsAbUx0 (1/1)

サクラ


817以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/14(木) 01:34:18.47W4lOFia40 (1/1)

ルーナ


818以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/14(木) 08:10:48.84YiIYjBUWo (1/1)

ラズワルド


819以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/14(木) 09:59:22.93Pz4zUumRo (1/1)

ピエリたそ~


820以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/14(木) 19:21:28.96QxpCifjG0 (1/1)

エルフィ


821以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/14(木) 20:49:37.38xWssW7e8o (1/1)

ブノワ


822 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/19(火) 21:18:24.16LFZndOZy0 (1/3)

◆◇◆◇◆◇
―暗夜王国・王都ウィンダム『郊外の森』―

エルフィ「あれは……ブノワ。こんな森で何をしているのかしら? ブノ――」

熊「グルルル……」

ブノワ「……」

エルフィ「熊に襲われてる!? 助けないと!」ダッ

 ガサササッ!
  ダダッ
   ダダダッ

ブノワ「あ……。だ、誰だ?」

エルフィ「わたしよ、ブノワ。危ないところだったみたいだけど、怪我はない?」

ブノワ「エルフィか。大丈夫だ、俺に怪我はない」

エルフィ「そう、よかった。それにしても王都の近くに熊が現れるなんて……。周囲の警備を強化してもらった方がいいかもしれないわね」

ブノワ「いや、あれはただ迷い込んで来ただけで、王都に悪意を持って近づいてきたわけじゃない……」

エルフィ「そう……なの?」

ブノワ「ああ、帰り道を教えているところにエルフィが来た。どうやら驚いて逃げてしまったみたいだ……」

エルフィ「そうだったの、ごめんなさい……」

ブノワ「いや、エルフィの所為ではない。もう少し周囲に気を配るべきだった。あの熊はとても不安そうにしていた、本当なら安心して話をしてくれる場所にまずは誘導するべきだった……。俺の落ち度だ……。だから、探しに行く」

エルフィ「ブノワ……。わたしも手伝うわ。一人よりも、二人の方が早く見つけられると思うし、何より邪魔をしてしまったのはわたしだから……」

ブノワ「そうか……なら、すまないが頼んでもいいか?」

エルフィ「ええ、わかったわ」

【ブノワとエルフィの支援がCになりました】


823 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/19(火) 21:38:38.48LFZndOZy0 (2/3)

◆◇◆◇◆◇
―暗夜王国・王城クラーケンシュタイン『廊下』―

ラズワルド「はぁ、マークス様に叱られてへとへとだよ。どこから街に繰り出してることがばれたのかな?」

ピエリ「あ、ラズワルドなの。またマークス様に叱られたの?」

ラズワルド「あはは、まぁ、そうだよね。うん……」

ピエリ「お仕事しないで街に行くのがいけないの。ピエリ知ってるの、ラズワルドお仕事で街に出てるんじゃなくて、女の子とお話しするためだって。マークス様が怒るのも当然なのよ」

ラズワルド「そうは言っても僕にとっては欠かせない日課の一つだし、こんな一日でも一つ一つの出会いを大切にしたいんだ。もちろん、今日ピエリに会えたのもその大切な一つだよ」

ピエリ「すごいの、ラズワルド! この前、他の女の子に言ったことと、同じこと言ってるの」

ラズワルド「ぐっ、今のはちょっとダメージ高いよ。僕の引き出し、足りなくなってきちゃったかもしれない……」

ピエリ「ねぇ、ラズワルド。女の子とお話しするのが日課の一つって言ってたけど、もう一つ何かあるの?」

ラズワルド「え、もう一つ?」

ピエリ「そうなの。ピエリ、ラズワルドの日課は女の子とお話しすることくらいだって思ってたの。他に何してるの? 今すぐ教えるの!」

ラズワルド「えっと、それは……」

ピエリ「教えないと、えいってしちゃうの」

ラズワルド「わわっ、槍を取り出さないで。教える、教えるから!」

ピエリ「わーい、ピエリとっても嬉しいの。ピエリ、ラズワルドの事大好きなの!」

ラズワルド「そ、そう……////」

ピエリ「あ、ラズワルド照れてるの。ウブってやつなのー!! とっても可愛いの」

ラズワルド「は、恥ずかしいから大声で言わないでよ、もう……」

【ラズワルドとピエリの支援がCになりました】


824 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/19(火) 21:51:22.57LFZndOZy0 (3/3)

今日は支援だけで
 
 エルフィはブノワが熊と話が出来ているという事実に疑問を持たない気がするのよね。

 ピエリとラズワルドは見てて安心できる二人組だなって思う。


825以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/19(火) 22:07:21.45Dr6A2IYzo (1/1)

ラズピエいいよね…
てか今気づいたけど支援が起きた時系列は本編より昔なのか
まあそりゃ同じ人に仕える以上タクミ城まで来てようやく支援Cなのは変だわな


826 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/24(日) 20:39:10.00a2sHDrRm0 (1/6)

◆◇◆◇◆◇
今日はピエリの誕生日なので、ピエリリスのピエリ誕生日SSを少々。

~~~~~~~~~~~~~~~~

 くしゅんと鼻が鳴って、私はふと顔を上げた。
 綺麗にラッピングされた数多くのプレゼントを背景に、その子は恨めしそうに窓の外を眺めている。外には雪がチラついていて、今日の夜も大分寒くなることを予感させていた。

「ピエリ、もう風邪治ったの…ずずっ」
「そんなに顔真っ赤にして何言ってるんですか。子供じゃないんですから、風邪を治さないと新年をきちんと迎えられませんよ?」
「ううっ……それは嫌なの」

 自室のベッドで布団に包まりながら私にしょぼくれた顔を向けてくるピエリさんを、私はポンポンと宥める。今日の朝、私は一番に城塞を出てピエリさんのお屋敷にやってきた。
 去年の誕生日は私が風邪を引いてしまったこともあって、プレゼントをちゃんと渡せなかったから、今回はフライング気味にササッとやってきたのである。
 しかし、出迎えてくれたのはメイドの方で、丁度良かったとこうしてピエリさんの寝室に案内されて、この状況を目の当たりにした。
 この様子ではとても誕生日会を行うわけにもいかないだろうと決まったらしく、私はプレゼントを置いて帰ろうとしたところで、こうして呼び止められたのだ。
 でもと言いよどむ私に、うるうる涙ぐんだ瞳とそのわがままボディを駆使してピエリさんは迫り、こうして傍に今日一日いることになった。
 そして、これで何十個目になるのかわからない、ピエリさんへのプレゼントが届く。今度はマークス様からのようだった。

「あ、マークス様からのなの……ごほごほっ」
「起き上がっちゃだめですよ」
「でも、みんなからもらったプレゼント、開けてみたいの」
「それは明日の楽しみにしててください」
「ぶー、リリスはケチなの。リリスはケチケチなの!」
「ケチとかじゃなくてですね……。はぁ、本当にピエリさんは出会った時から変わりませんね」

 そうやって拗ねる所とか、癇癪を起すところとか本当に成長が止まってしまった子供のようだ。だけど、そういう姿に見合わない女性らしい豊満さは彼女がきちんと生きてきた証でもある。だから、変わっていないというわけではないと思うのだけど……


827 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/24(日) 20:42:03.50a2sHDrRm0 (2/6)

「リリス、リンゴの皮むき終わったの?」
「はい、終わりましたよ。待ってくださいね、今食べやすい大きさにカットしますから」
「早くしてなの、早くあーんしてほしいの!」

 ベッドの上で楽しそうにはしゃいでいる姿は、ずっと変わらない彼女のいいところの一つで、私の好きな部分だったりする。戦場で見せる人殺しとしての面の無邪気さと同じだけど、そこには純粋にその時を愉しんでいる子供の顔があった。それが堪らなく愛おしく感じるから、こう負けてしまうのだ。

「はぁ、私も相当甘いですよね」
「リリス?」
「なんでもありません、はいこれくらいの大きさですけどいいですか?」
「わぁ、一口サイズなの。リリス、ありがとうなの」
「お礼はいいですよ。よし、出来ました。はい、あーん」
「あーんなの!」

 ピエリさんが私の差し出したリンゴを頬張る姿を見る。正直、これほどの贅沢はないかもしれないと、今さらになって私は思い始めた。だって、今ここには私とピエリさんしかいない、時々メイドさんがピエリさんに届いたプレゼントを私に来るが、それは一瞬の事だ。
 プレゼントを置いたらすぐに部屋を出て行ってしまう、また二人だけの時間が始まる。その、そういう趣味はないけれど、これでも私はピエリさんの事がそれなりに好きなわけで、こう誕生日に独占しているというのは、こうなんだか優越感に似たものを覚えてしまう。
 好きな友人と二人きり、しかも誕生日に。こんな無防備にリンゴを食べている姿を世界で私が一人だけ見ているのだ。

「ん、リリス。なんだかうれしそうな顔してるの」
「え、そ、そうですか?」
「うん、ピエリのこと見ながらニコニコしてたの」

 どうやら顔に出ていたらしい、少し自分自身を自制しないとだめだと思ってリンゴを口にする。口の中に広がるまろやかな味わいに、先ほど意識した優越感がマッチして再び顔が綻んだ。
 それをもう一度味わおうと、もう一つのリンゴを口にしようとしたところで、ピエリさんが声を掛けてきた。


828 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/24(日) 20:47:32.96a2sHDrRm0 (3/6)

「ねぇ、リリス」
「なんですか? ピエリさん」

 どうにか綻んだ顔を直してピエリさんに目を向けると、そこにはさっきまでとは違うなんだか元気のない姿があった。

「ど、どうしたんですか、ピエリさん? もしかして、お腹を痛めて……」
「ううん、ちがうの……」

 そう言って口元を布団の中に隠してごにょごにょする。その顔はさっきよりも赤くなっている気がした。心配になってその額に手を当てると冷たかったのか、ピエリさんがひゃっとする。もっと赤くなった気がした。

「あのね、ありがとうなの。ピエリの我侭聞いてくれて……」
「我侭って自覚あったんですね。ピエリさん」
「うー、ピエリだってそれくらいわかるの……リリスは意地悪なのよ」

 口元を未だ隠して瞳だけで抗議してくるピエリさんの額をペタペタと触って、機嫌を直してくださいと気持ちを込める。今日は一年で特別な日だから、出来る限り笑顔でいてもらいたいというのは、私だけの我侭ではないはずだ。

「ふふっ、ごめんなさい。だけど、どうしたんですか? いつもなら私たちの事情なんて気にしないのに……」
「……それはわからないの」
「風邪の所為ですね。違いありません」
「リリス、さすがに怒るのよ」

 ぷりぷりと怒りながら、でも私の手に額を押し付けて、もっと撫でてとせがんでくる。今日は誕生日だからと、それに応えるように額を優しく撫で続けてあげた。

「……今日、ひとりぼっちでいたくなかったの。朝起きて、体がフラフラして、熱があるって言われて、今日のピエリのお誕生日会はやらないって言われた時、すごく不安になったの」
「仕方ないじゃないですか。無理に誕生日会を開いて、ピエリさんの風邪が悪化したら、それこそ問題になってしまいます」
「わかってるの。でも、この頃の誕生日はみんながお祝いしてくれたから……。また、前みたいなのは嫌なの……」



829 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/24(日) 20:51:55.26a2sHDrRm0 (4/6)

 その言葉に私はハッとする。ピエリさんが俯いて、何も言わなくなってしまった。
 ピエリさんがしてきたことを考えれば、今までの誕生日会に多くの人が集まってくれたとは思えない。快楽的に人を殺す少女の誕生日にわざわざ行こうなんて言う酔狂な人はそういないはずだから。でも、カムイ様と一緒に世界を救うために戦った多くの人たちは、ピエリさんを理解してくれた。
 だから、あの頃の誕生日に、ピエリさんは戻りたくないのだと、今ここになって理解した。
 
「ピエリさんは、皆さんと一緒に誕生日を過ごしたかったんですね」
「……うん」

 弱弱しい声。それを少しだけでも元気付けたいと心がトクンっと鳴った。

「その、今日は私だけじゃダメですか?」

 鳴った。思った。口に出た。
 私は無意識にそう零して、数秒してから何を言っているのかと首を振る。
いや、本当にそんな趣味はないんです、ただピエリさんを元気付けるにはどうしようかと思って考えを巡らしたら、たまたま考えがそのまま口に出たと言いますか、不可抗力というか。なんか、そんな意味にも聞こえてしまっていたらどうしましょう?
 混乱する私、そんな私のほっぺたに柔らかい感触があって、横を向くとそこには体を起こしたピエリさんがいる。私の手は、いつの間にかピエリさんの手の中に納まっていた。

「ダメじゃないの。さっきありがとうって言ったのよ。リリスが一緒にいてくれて、ピエリとっても嬉しいの」

 そう、さっきよりも赤みの引いた顔でそう伝えてくれる。手中に収まった私の手は、今の言葉への返答を模索して、カチコチに固まっていた。
 そして何よりも、今さっきのほっぺに感じた柔らかさは何なのかと、残った手でその個所に触れる。
 感じるとても熱い熱量、どうしてここだけが熱を帯びているのかわからないままに私はピエリさんに視線を向けた。
 すると、ピエリさんは無邪気に笑顔を咲かせていく。とても、恥ずかしいことを言われる気がした。



830 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/24(日) 21:00:56.12a2sHDrRm0 (5/6)

「カミラ様から、お礼にはこうするといいって言われたの。リリスのほっぺ、とっても柔らかかったのよ」

 そう言われて、私の方が風邪を引いたみたいに真っ赤に染まっていく。どうやら私も風邪にやられてしまったらしい、そんなことを思いながら、ピエリさんに伝えるべき言葉があったと今さら思い出した。

「ピエリさん、お誕生日おめでとうございます」
「うん、ありがとうなの」
「はい、それじゃちゃんと暖かくしてください、今日は一日ピエリさんが寂しくないように一緒にいてあげますから」

 私の言葉にピエリさんは笑顔を満開にして、ゆっくりとベッドの中へ戻っていく。さっきまでの落ち込んだ面影は無くなっていた。

「リリスの手、欲しいの」
「はい。どうぞ」
「ありがとうなの。ピエリ、早く良くなるの。良くなって、改めてお誕生日会するの!」
「はい。微力ですけど、私もそのお手伝いをしますから、今はゆっくり休んでくださいね」

 私の言葉にピエリさんは安心したように目を瞑り、差し出した手に感じる温もりが段々と弱くなっていく。やがて、その手は力を失った。
 ピエリさんにとっての大切な日を守る様に、私はその力の抜けた手を握った。
 雪はその勢いを弱め始める。まるでピエリさんが安心して眠れるようにと気を利かせているかのように思えて、明日にはピエリさんの体調も良くなる気がした。
 だから、こうして握った手を優しく温める。ピエリさんが寂しくないように、ひとりぼっちじゃないと言い聞かせるように。
 何よりも今日という日が、ピエリさんにとって幸せでありますように。
 そう私は静かに願った。

 ―終わり―


831 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/24(日) 21:01:26.23a2sHDrRm0 (6/6)

今日はこれだけ

 ピエリ誕生日おめでとう。


832 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/28(木) 20:17:49.34e9/MsKDU0 (1/20)

◆◆◆◆◆◆
―白夜王国・スサノオ長城『暗夜野営地・天幕』―

暗夜偵察兵「以上が報告になります」

カムイ「そうですか、何も見つからなかったんですね」

暗夜偵察兵「はい、白夜王都方角の大規模な森林地帯に戦闘の痕跡を見つけることは出来たのですが……」

マークス「痕跡だけだったということだな……」

暗夜偵察兵「はい。遺体がどこにもないのです……」

カミラ「ベルカが一緒にいたと思うけど、あの子はなんて?」

暗夜偵察兵「出血の量から見て、とても逃げきれるとは思えないと……。豪雨の影響もあって痕跡が徐々に消えつつあります。また調査している者たちも、あの見えない敵の陰に怯えています……」

レオン「わかった、今日の探索と調査はここまでだ。調査に出ている者たちに戻る様に伝えてほしい。今日も交代で監視をしながら夜を越すことになるだろうからね」

暗夜偵察兵「はっ、わかりました。失礼いたします」バサッ

マークス「やはり、敵が死体を奪っていったということなのか? レオン、話に聞いていたが、王都でゾーラがお前を襲撃した際、奴の死体が消えたということだったが……」

レオン「うん、ゾーラは殺されて死体ごと姿を消した。おそらくだけど、今回の件と同じように回収されたのかもしれない」

マークス「……死体を隠して何をするつもりだ。アクア、その目的が何かをお前は知っているか?」

アクア「おそらくだけど、死体を自身の駒として使っているのだと思う」



833 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/28(木) 20:35:21.68e9/MsKDU0 (2/20)

カミラ「死体を駒として?」

アクア「ええ……それが奴の力の一つ。今回の戦いの目的の一つが多くの死体を回収することだったのかもしれない。それを利用して何をするのかはわからないけど、ここで起きたことよりもっと醜悪なことをするつもりなのかもしれないわ」

エリーゼ「……どうにかして止められないの」

アクア「奴を倒す以外に手はないわ。でも、そうすると白夜の問題を後回しにすることになる。今の白夜の状況を考えると……」

レオン「そうだね。前線を預かっていたヒノカ王女は敗走、そもそも彼女が戻れているかもわからないんだ。ただ、結果はどうあれ強行派はそこを確実に突いてくるよ。こんな時なのに失敗の清算を王族に求める可能性だってある。」

サクラ「失敗の清算って……」

レオン「……言いたくはないけど、王族の誰かが処刑される可能性がある。この処刑に意味なんてない、ただ少しでも白夜が敗北するという現実から逃れるための小休止に過ぎないとしても、それをしないといけない状況に白夜はなっているかもしれないからね」

カムイ(誰かが……処刑される?)

???『さぁ、お前の希望が絶望に変わって、王都で待っていることだろう』

カムイ(リョウマさんか、ヒノカさんのどちらかが……)



834 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/28(木) 20:45:34.97e9/MsKDU0 (3/20)

カムイ「……」

アクア「カムイ?」

カムイ「……あ、なんですかアクアさん」

アクア「大丈夫、顔色が悪いわ」

サクラ「カムイ姉様……」

カムイ「すみません、少しだけ悪いことを考えてしまって。もう大丈夫です、心配をかけて申し訳ありません」

カミラ「いいのよ。心配させてちょうだい?」

エリーゼ「そうだよ。カムイおねえちゃんのこと、心配するのは当たり前のことだもん」

レオン「まぁ、そうだね。カムイ姉さんは思ったよりも背負い込んじゃうみたいだからさ」

サクラ「はい、カムイ姉様は一人じゃないんですから。もっと、こう、私たちをいっぱい頼ってください」

マークス「そうだな。それはお前のいいところでもあるが……。いや、これは前にも言ったことか」

アクア「マークスの言いたい気持ちも分かるわ。でも、カムイのそこが治るとは思えない、私たちでちゃんと支えてあげないとね?」

カムイ「言い返せないところが、ちょっと痛いところですよ、本当に」

カムイ(そうですよね。私がそんな最悪を想定してどうするんですか……。私がそれを否定しないで誰がするというんです。こんなに支えてくれる人たちがいるんですから)



835 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/28(木) 21:00:00.63e9/MsKDU0 (4/20)

マークス「ところでカムイ、お前はどう思う?」

カムイ「今後の方針についてですよね?」

マークス「ああ、現在の戦力のまま、白夜王都へと向かうか。応援を待つか。それともテンジン砦まで……」

カムイ「マークス兄さん、それだけはありません。私は白夜との戦いを終わらせることを選んだんです。だから、今背中を向けて帰るわけにはいきません」

カムイ「私たちは先に白夜との戦いを終わらせることを選びました。なによりも奴を倒したところで、ユキムラさんが私に抱いている憎悪が消え去るわけではありません。白夜と暗夜の戦いを終わらせるために、ここまで戦ってきた意味を私は消したくありません。まだ、手が届いていないのに諦めるわけにはいかないんです」

マークス「……わかった。それがお前の答えということだな」

カムイ「はい」

マークス「わかった。ならば、そのお前が信じる道を進もう、この剣はお前と共にある、そう胸に秘めて戦いに加わったのだからな」

カムイ「マークス兄さん……」

マークス「レオン、伝令隊を組めるか?」

レオン「明け方までにはどうにかするよ。目的地はテンジン砦でいいかな?」

マークス「ああ、クーリアへ応援要請を頼む。侵攻の手助けではなく、このスサノオ長城で医療活動を行えるものを多く寄越すようにとな」

レオン「わかった。すぐに取り掛かるよ」

カムイ「レオンさん、お願いしますね」

レオン「任せて」タタタタッ

マークス「よし、スサノオ長城を任せる後続部隊の到着を持って、白夜王都へと侵攻する。各自、それまで体を休め、万全を喫するよう努めてほしい、兵にもそう伝えておいてくれ」

カミラ「ええ、わかったわ。カムイも誰か見かけたら教えてあげてね?」

カムイ「はい、わかりました。カミラ姉さん」



836 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/28(木) 21:09:26.49e9/MsKDU0 (5/20)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
―白夜王国・スサノオ長城『野営地・離れの草むら』―

カムイ「誰かを見かけたらと言われましたが、多くの方々は野営地の中で、ほとんど話は通っているみたいですね。もしかしたらと、野営地周辺に繰り出してみましたが、誰かいるようには……ん?」

 ブンッ ブンッ

カムイ(この風を切る音、誰かが鍛錬でもしているのでしょうか?)

 タッ タッ タッ
  ガササッ

カムイ「誰かそこにいるんですか?」

ルーナ「やあっ、て――ん? あれ、カムイ様?」

カムイ「その声、ルーナさんですか。どうしたんですか、こんな野営地から離れたところで」

ルーナ「なにってみればわかるでしょ」

カムイ「はい、素振りですね」

ルーナ「訓練って言ってほしかったんだけど」

カムイ「あ、訓練ですね。わかりますよ、この草むらを越えて聞こえてましたから、精が出ますね」

ルーナ「そうそう、今度からはそう言ってよね。それでどうしたの、何か話があったんじゃなくて?」

カムイ「そうなんですけど、今後の方針についてはもう耳にはしてますよね?」

ルーナ「ようやく決まったの。ならさっさと教えなさいよ。あの見えない奴らを叩きに行くわけ?」


837 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/28(木) 21:18:26.84e9/MsKDU0 (6/20)


カムイ「いいえ、私たちは後方からの援軍の到着予定が立ち次第、白夜王都を目指すことになりました。あの姿の見えない不気味な者たちのことは気になりますが、今私たちが向かうべき問題は白夜のこと以外にありえません」

ルーナ「そう……。大本を叩いてからっていう考えはないってことね」

カムイ「大本ですか。確かにその考えもありましたけど、それですべてが解決するわけではありませんから。私たちが大本に近づいている間に、あの見えない兵が現れ白夜王都に攻撃を加えてしまったら、もう暗夜と白夜の関係を修復することは出来なくなると思ったんです」」

ルーナ「たしかに、あたしたちがいない間に白夜に攻撃を加えられたら、その攻撃が暗夜の物だって考えるしかないわけね……」

カムイ「はい、だから私は白夜との長い戦いをまず終わらせるつもりです。それがルーナさんたちの使命に繋がっていればいいんですけど」

ルーナ「繋がってるわよ。そうじゃないと、どの面下げて帰ったらいいのかわからなくなるし……」

カムイ「ふふっ、どの面ですか。私はどんな人が見ても可愛いって思う、とても素敵なお顔だと思いますけど?」ピトッ

ルーナ「ひゃひっ! ちょっと、いきなり触るなんて反則、んやっ」ピクリッ

カムイ「ふふっ、くすぐったそうですね。この頃はあまりこうしていなかったからか、力加減が難しくなってきました。ここらへんの耳裏当たりとか、どうでしょうか」サワサワッ

ルーナ「ちょ、タイム。だめ、だ、誰もいないからってこんなことし、んっ! や、やるならちゃんとカムイ様のお部屋で……その」ボソボソ

カムイ「そうですね。ルーナさんのこんな可愛らしい反応、他の誰かに見せたくはありません。できれば私だけが知っていたいものです」

ルーナ「ば、ばばばばばばばば」



838 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/28(木) 21:32:42.08e9/MsKDU0 (7/20)

ルーナ「ばっかじゃないの!? そ、そんな恥ずかしい事、よく口に出して言えるわね!? そ、そんなこと言ってると、色々と勘違いされるっていうか。その、そういうことよ!」

カムイ「なにを怒ってるんですか。私は本心で――」

ルーナ「あー、やめやめ! こういう話はこれで終わり! もう、顔が熱くて死にそうよ……////」

カムイ「……」

ルーナ「な、なに。まだ何か言いたいわけ?」

カムイ「いいえ。こうやって話をしていますけど、いつかルーナさんは故郷に帰られるんですよね?」

ルーナ「まぁ、そうなるわ。戦いが終わったら、あたしたちも移動しないと。元々、戦いのために来たんだから」

カムイ「なんだか悲しいですね」

ルーナ「悲しいって、いずれ別れる時なんて来るもんでしょ?」

カムイ「違いますよ。ルーナさんの戦いはまだ続いていくのかもしれない、そう思ってしまって。私たちの戦いが終わった後、ルーナさんもゆっくり休めたらと思うのですが。こんなに戦ってくれたルーナさんに、その休みが訪れないのはあまりにも悲しいじゃないですか」

ルーナ「……悲しいね」

カムイ「少なくとも私はそう思いますよ。戦いの合間にある小休止のようなものじゃなくて、もっと自由になれるそんな時間が訪れてほしいって思っていますから」

ルーナ「……そう、なら言い出しっぺのカムイ様は、あたしのその時間に付き合ってくれるってことよね?」

カムイ「え……」



839 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/28(木) 21:36:47.92e9/MsKDU0 (8/20)

ルーナ「ふふん、これで戦争を終わらせる目標が一つ増えたわ。カムイ様、この戦いが終わったら、あたしのショッピングの手伝いをすること。自分から提案してきたんだから反故になんてさせないから」

カムイ「うう……困りました。まさかルーナさんがここまで鋭く入ってくるなんて、てっきりそんな心配される筋合いはありませんと、言われて終わりになるかと思っていたので」

ルーナ「ひどっ、カムイ様の言ってる事、それなりにわかってるつもりなんだけど!」

カムイ「ふふっ、ごめんなさい。だけど、ルーナさんならそのあとに照れながら、ありがとうって言ってくれたと思いますから」

ルーナ「い、言うわけないでしょ////」

カムイ「そ、そうなんですか。すみません、本当におせっかいだったみたいですね」

ルーナ「いや、そのベ、別にお節介だなんて思ってないっていうか……。その心配してくれるのはうれしいし、えっと――」

カムイ「ふふっ、やっぱり思った通りでしたね」

ルーナ「あ、カムイ様あたしを試したわね!」

カムイ「試したわけじゃありませよ。ルーナさんのことはそれなりにわかっているつもりです。実は仲間思いで努力を怠らない人で、とっても優しいそんな女の子、それが私の知ってるルーナさんです」

ルーナ「……そ、そう/////」

カムイ「はい。約束の方、覚えておきますね。戦いが終わったらルーナさんのお手伝い、させてもらいます」

ルーナ「ふ、ふん、見てなさいよ。いっぱいいーっぱい買い物して度肝抜いてあげるんだから」

カムイ「お手柔らかにお願いしますね」



840 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/28(木) 21:37:18.75e9/MsKDU0 (9/20)

ルーナ「ふふっ。そ、それより、カムイ様はもう戻る?」

カムイ「はい、ルーナさんはまだ鍛錬を?」

ルーナ「もう暗くなり始めたからこれで終わりよ。そ、それとちょっと冷えるから……」ギュッ

カムイ「ルーナさん?」

ルーナ「い、いいでしょ。カムイ様の手が寒そうだから握っただけなんだから。その、他意はないんだからね!」

カムイ「はい、丁度寒さを感じてたのでとても助かりました」

ルーナ「でしょ、感謝しなさいよね」

カムイ「はい、それじゃ戻りましょうか?」

ルーナ「う、うん……。そのカムイ様」

カムイ「はい、なんですか?」

ルーナ「約束、破ったら怒るから。本気で、怒るからね!」

カムイ「それは怖いですね。わかりました、肝に銘じておきます。戦いが終わった、一緒にお買い物をしましょう」

ルーナ「うんうん、素直にそう言えばいいのよ。カムイ様」

ルーナ「……」

ルーナ「えへへ……」ギューッ



841 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/28(木) 21:38:38.23e9/MsKDU0 (10/20)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
―白夜王国・スサノオ長城『城壁上部通路』―

 ヒュオオオオオッ

カムイ「……思ったよりも冷え込みますね。できれば皆さんにもゆっくり休んでもらいたいんですが……」

カムイ(見えない敵のことで皆さんが怯えている。この不安を払拭出来ればいいのですが……)

カムイ「白夜王都へ向かうまでの間は、怯えながら過ごすことになるかもしれません。精神的にも辛い待機時間になりそうですね」

 テトテトテトッ

サクラ「あれ、カムイ姉様?」

カムイ「その声はサクラさん?」

サクラ「はい、どうしたんですか、もう辺りは真っ暗になってますよ?」

カムイ「それはこちらの台詞ですよ。サクラさんこそどうしたんですか? カザハナさんとツバキさんが一緒ではないんですか?」

サクラ「カザハナさんとツバキさんは今日の夜に当番らしいので」

カムイ「そうだったんですね。でしたらサクラさんはいったい今まで何を?」

サクラ「その、夕陽を見てました」

カムイ「夕陽、ですか?」



842 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/28(木) 21:40:46.27e9/MsKDU0 (11/20)

サクラ「はい、このスサノオ長城から見る夕陽はとってもきれいなんです。山の陰に隠れていくのが最後まで見えるんです。段々と夕陽が落ちていくと森の木とかも夕陽の光で照らされて、最後に山に消えるときがとってもまぶしくて、綺麗なんですよ」

カムイ「そうなんですね。サクラさんが言うんですからとってもきれいなんでしょうね」

サクラ「あ、ごめんなさい。その、カムイ姉様は……」

カムイ「いいんですよ。それにサクラさんが説明してる仕草はとても可愛らしく感じました。それにどんな風景なのか、今教えてくれたじゃないですか。私にはそれだけでも十分ですよ」

サクラ「そう言ってもらえると、うれしいんですけど。その少しだけ恥ずかしいです」

カムイ「……今回の戦いのこと、色々と申し訳ありませんでした」

サクラ「え?」

カムイ「サクラさんにその、人を……」

サクラ「……大丈夫ですよ。カムイ姉様」

カムイ「……ですが」

サクラ「確かにとっても怖かったです。今まで人の命を本当に奪うために矢を射ったことはなかったから。いつも、どこかで攻撃を加えることに仕方ないとか、そういう思いがありました。でも、それがそもそも間違ってたんです」

カムイ「サクラさん」


843 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/28(木) 21:42:57.87e9/MsKDU0 (12/20)

サクラ「本当はそんなことで濁しちゃいけないことなんです。人を殺める事っていうのは、仕方ないことで済ましていい事じゃなくて……。もっと、向き合わなくちゃいけないことだって……」

カムイ「……向き合うことですか」

サクラ「はい、人を殺すということを本当の意味で行った時、体中が震えました。とっても怖くなりました。今までの私が壊れてしまうような、そんな錯覚を覚えてしまうようで。怖がっちゃいけない、自分のしたことを受け止めなくちゃいけないって」

カムイ「怖がることが受け止めていないというわけではないと思いますよ。サクラさんはきっと、それをわかっているから怖く思ったんです」

サクラ「……」

カムイ「えっと、サクラさん?」

サクラ「ふふっ、カムイ姉様、アクア姉様と同じようなことを言ってます」

カムイ「すでにアクアさんがそんなことを言っていたんですか。その……」

サクラ「大丈夫です。それにカムイ姉様にもそう言ってもらえて、とっても自信が持てます。人が死ぬことを悲しんでもいいんだって……。怖い事とか、悲しいことになれなくてもいい。ずっと、ずっと、怖がっていてもいいって……」

カムイ「はい。サクラさんの優しさは、誰かのことを心配できるその姿勢だと思います。ずっと、ずっとその気持ちを温めて大事にしていってほしいです」

サクラ「はい……わかりました、カムイ姉様」

カムイ「ふふっ」


844 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/28(木) 21:44:56.92e9/MsKDU0 (13/20)

サクラ「そ、そのカムイ姉様……一ついいでしょうか?」

カムイ「はい、何でしょうか?」

サクラ「その、えっと、良ければその、お部屋まで一緒に来てもらってもいいですか?」

カムイ「別にかまいませんよ」

サクラ「そ、それじゃ行きましょう。その、ココも暗くなってきましたし、それに何かが出そうな気がして……」

カムイ「なにか、ですか?」

 ビュオオオオオッ!!!

サクラ「きゃっ!」ガシッ ギュウッ

カムイ「サクラさん?」
サクラ「うう、いません。いません、お化けなんていません。うううっ」

カムイ「そういうことですか、わかりました。ちゃんとお部屋までお連れしますね」

サクラ「あ、あの。もう一つ、いいですか……」

カムイ「ふふっ、甘えん坊さんですね」

サクラ「そ、そんなこと……」

 ビュオオオオオオッ!‼‼

サクラ「きゃあああっ!」ガクガクブルブル


845 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/28(木) 21:49:01.45e9/MsKDU0 (14/20)

カムイ「さ、サクラさん。本当に怖いんですね。わかりました、何でも聞きますよ。おねえちゃんに何でも言ってください」

サクラ「そ、その、今日はカザハナさんが帰ってこなくて、その兵舎の一室を頂いているんですけど、思ったよりも暗くて……今日、その一緒に寝てくれませんか?」

カムイ「……ふふっ」

サクラ「笑わないでくださいよ……」

カムイ「いいえ。わかりました、今日はこのままサクラさんのお部屋にお泊りしましょう。あ、布団は持ってくるべきでしょうか?」

サクラ「そ、その出来れば一緒の布団で…その/////」

カムイ「わかりました。今日は一緒に寝ましょうね」

サクラ「はい……。そのわがまま言ってごめんなさい、カムイ姉様」

カムイ「ふふっ、いいんですよ。なんだかおねえちゃんみたいで悪い気はしませんから」ナデナデ

サクラ「ありがとうございます、カムイ姉様……」

カムイ「……」

カムイ(ヒノカさん……。あなたは生きて、ちゃんと王都で待っててくれますよね。リョウマさんと一緒に私が来るのを……)


846 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/28(木) 21:50:52.05e9/MsKDU0 (15/20)

◇◇◇◇◇◇
―白夜王国・シラサギ城『王の間・玉座前』―

ユキムラ「ほう、これは面白い結果になりましたね。王族を支持していたもののほとんどが未帰還とは、笑い話にもなりません。そうは思いませんか、リョウマ王子?」

リョウマ「……何が言いたい」

ユキムラ「言わなくてはわかりませんか? この責任をどう取るのかという話です」

リョウマ「責任か、未だに多く残っていた人員を王都に待機させたままにしたお前たちにも原因はあると思うが?」

上級武将A「王子、そのような喧嘩腰では困りますな。結果を見ればわかること、スサノオ長城での防衛戦はとても大きな傷跡となりました。それも王族であるヒノカ様がいながら、これでは我々も王族への態度を改めなくてはいけなくなります」

上級武将B「まったくです。しかも、増援として贈られた部隊は我々を打倒するための戦力を白夜王都へ帰還させるために向かわせたというのを、風の噂に聞きましたが……」

リョウマ「ほう、貴殿の耳には風の囁きも真実というわけか。なるほど、ならば今後のことはその風とやらに聞けばいいだろう。こんなところで俺の話を聞くよりは、いい噂を聞けるはずだ」

上級武将B「リョウマ様! ご自分の立場をわかっていないようですね!?」

リョウマ「立場をわきまえていないのは貴様らだ。ここは王である者がいるべき場所、そこに俺を呼び弾圧する。ここはそのようなことのために使う場所ではない。少しでも白夜の侍であるのなら、場所への配慮を考えてもらいたいものだな」

上級武将A「貴様、言わせておけば!」

ユキムラ「まぁまぁ、リョウマ王子の言うことも一理あります。そうですね、確かに弾圧するのはよくありません。ここで話すべきことはもっと単純な事。この大敗の結果をどう拭うかということです。多くの民はこの大敗で戦意を失いつつある、このままでは暗夜に王都は落とされてしまうことでしょう。暗夜に侵攻を許し、ココを奪われることこそ、代々続いてきた白夜王国にとって許されることのない出来事、それくらいはリョウマ王子も分かるでしょう?」

リョウマ「……御託はいい。ユキムラ、お前は俺に何を望んでいる」

ユキムラ「そうですね。リョウマ王子、先ほどの風の噂、残念ながら多くの者たちが噂ではないと思い始めているのです。そして王族には大敗という結果がある。それを拭うのに一番いい方法は何かわかっているでしょう?」

リョウマ「……っ」

ユキムラ「別にそれをしないというのならば結構です。あなたをもう一度独房に放り込み、残った王族にその責任を取ってもらうだけのこと……」

リョウマ「貴様!!!」

ユキムラ「おやおや、恐ろしい顔をされます。ですがリョウマ王子、これも白夜王国のため。すべてが一丸とならなければ、暗夜と戦うことは出来ません。もちろん、それはあなたの事も含まれています」

リョウマ「ユキムラ……お前はそれまでして――」

ユキムラ「話は以上です。独房の中でゆっくりお考え下さい、なにどちらを選んでも構いませんよ。なにせ――」

「流れる血はどちらかの妹の血であることに変わりはないんですから……」



847 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/28(木) 21:53:07.86e9/MsKDU0 (16/20)

○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアA
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ギュンターA
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアB+
(カムイに従者として頼りにされたい)
フローラB++
(すこしは他人に甘えてもいいんじゃないかと言われています)
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
リリス(消滅)
(主君を守り通した)

―暗夜第一王子マークス―
ラズワルドA
(あなたを守るといわれています)
マークスB++
(何か兄らしいことをしたいと考えています)
ピエリB
(弱点を見つけると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
オーディンA
(二人で何かの名前を考えることになってます)
ゼロB+
(互いに興味を持てるように頑張っています)
レオンA
(カムイに甘えてほしいと言われて、いろいろと考えています)

―暗夜第一王女カミラ―
ルーナA
(目を失ったことに関する話をしています)
カミラA
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ベルカB
(生きてきた世界の壁について話をしています)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼA
(昔、初めて出会った時のことについて話しています)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィB++
(一緒に訓練をしました)

―白夜第二王女サクラ―
サクラA
(カムイと二人きりの時間が欲しいと考えています)
カザハナA
(素ぶりを一緒にする約束をしています)
ツバキB
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
シャーロッテA
(返り討ちにあっています)
フランネルB+
(宝物を見せることになっています)
サイラスB+
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB++
(許されることとはどういうことなのかを考えています)
スズカゼB
(おさわりの虜になったようです)
モズメB+
(時々料理を食べさせてもらう約束をしています)
リンカB
(イベントは起きていません)
ブノワC+
(イベントは起きていません)
アシュラB
(暗夜での生活について話をしています)


848 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/28(木) 21:54:24.68e9/MsKDU0 (17/20)

 仲間間支援の状況-1-

●異性間支援の状況
【支援Aの組み合わせ】
・レオン×カザハナ
 C[本篇の流れ] B[3スレ目・300] A[3スレ目・339]
・ジョーカー×フローラ
 C[1スレ目・713~715] B[1スレ目・928~929] A[2スレ目・286]
・レオン×サクラ
 C[1スレ目・511~513] B[2スレ目・297~299] A[3スレ目・797]
・ラズワルド×ルーナ
 C[1スレ目・710~712] B[2スレ目・477] A[4スレ目・177]
・アクア×オーディン
 C[3スレ目・337] B[3スレ目・376] A[4スレ目・353]
・ルーナ×オーディン
 C[4スレ目・352] B[4スレ目・411] A[4スレ目・460]
・ラズワルド×エリーゼ
 C[1スレ目・602~606] B[3スレ目・253] A[4スレ目・812]
・ベルカ×スズカゼ
 C[3スレ目・252] B[3スレ目・315] A[5スレ目・57]
・オーディン×ニュクス
 C[1スレ目・839~840] B[3スレ目・284] A[5スレ目・362]
・サクラ×ラズワルド
 C[5スレ目・303] B[5スレ目・337] A[5スレ目・361]
・アクア×ゼロ
 C[1スレ目・866~867] B[4スレ目・438] A[5スレ目・456]

【支援Bの組み合わせ】
・ブノワ×フローラ
 C[2スレ目・283] B[2スレ目・512]
・エリーゼ×ハロルド
 C[2スレ目・511] B[2スレ目・540]
・レオン×エルフィ
 C[3スレ目・251] B[4スレ目・437]
・アシュラ×サクラ
 C[3スレ目・773] B[5スレ目・106]
・ギュンター×ニュクス
 C[3スレ目・246] B[5スレ目・480]

【支援Cの組み合わせ】
・サイラス×エルフィ
 C[1スレ目・377~380]
・モズメ×ハロルド
 C[1スレ目・514~515]
・ルーナ×ハロルド
 C[3スレ目・375]
・カザハナ×ツバキ
 C[3スレ目・772]
・ツバキ×モズメ
 C[5スレ目・15]
・ラズワルド×シャーロッテ
 C[5スレ目・479]
・ブノワ×エルフィ←NEW
 C[5スレ目・822]
・ラズワルド×ピエリ←NEW
 C[5スレ目・823]


849 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/28(木) 21:54:50.71e9/MsKDU0 (18/20)

仲間間支援の状況-2-

●同性間支援の状況
【支援Aの組み合わせ】
・リンカ×アクア
 C[1スレ目・888~889] B[2スレ目・285] A[3スレ目・254]
・ピエリ×カミラ
 C[1スレ目・752~753] B[2スレ目・478] A[2スレ目・513]
・フェリシア×ルーナ
 C[1スレ目・864~865] B[1スレ目・890~891] A[1スレ目・930~931]
・フローラ×エルフィ
 C[1スレ目・471~472] B[3スレ目・338] A[3スレ目・377]
・レオン×ツバキ
 C[1スレ目・492~493] B[1スレ目・870] A[3スレ目・798]
・ベルカ×エリーゼ
 C[2スレ目・284] B[3スレ目・301] A[4スレ目・354]
・ピエリ×ルーナ
 C[3スレ目・249] B[4スレ目・317] A[4スレ目・412]
・アクア×ルーナ
 C[3スレ目・283] B[4スレ目・461] A[4スレ目・813]
・カミラ×サクラ
 C[4スレ目・175] B[5スレ目・58] A[5スレ目・107]
・ギュンター×サイラス
 C[1スレ目・926~927] B[3スレ目・316] A[5スレ目・363]
・シャーロッテ×カミラ
 C[2スレ目・476] B[4スレ目・439] A[5スレ目・436]
・ラズワルド×オーディン
 C[4スレ目・459] B[5スレ目・338] A[5スレ目・457]
・フェリシア×エルフィ
 C[1スレ目・367~368] B[2スレ目・541] A[5スレ目・481]

【支援Bの組み合わせ】
・シャーロッテ×モズメ
 C[3スレ目・248] B[3スレ目・285]
・ベルカ×ニュクス
 C[4スレ目・176] B[4スレ目・410]
・シャーロッテ×カミラ
 C[2スレ目・476] B[4スレ目・439]
・ジョーカー×ハロルド
 C[1スレ目・426~429] B[5スレ目・336]
・ラズワルド×オーディン
 C[4スレ目・459] B[5スレ目・338]

【支援Cの組み合わせ】
・エルフィ×モズメ
 C[1スレ目・423~425]
・ピエリ×リンカ
 C[3スレ目・247]
・ピエリ×フェリシア
 C[3スレ目・250]
・フローラ×エリーゼ
 C[4スレ目・178]
・エルフィ×ピエリ
 C[3スレ目・771]
・スズカゼ×オーディン
 C[4スレ目・318]
・サクラ×エルフィ
 C[3スレ目・774]
・ルーナ×フローラ
 C[4スレ目・781]
・ルーナ×カザハナ
 C[4スレ目・780]
・エリーゼ×カザハナ
 C[5スレ目・14]
・ハロルド×ツバキ
 C[5スレ目・56]
・アシュラ×ジョーカー
 C[5スレ目・105]
・マークス×ギュンター
 C[5スレ目・302]
・ラズワルド×ブノワ
 C[5スレ目・435]


850 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/28(木) 22:00:11.59e9/MsKDU0 (19/20)

今日はここまで

 この疑いと大敗の結果を覆す方法は一つだけ……

 今年の更新はここまでで、更新頻度が遅くなってしまって申し訳ありませんでした。もう少し頻度を上げられるように頑張っていきます。
 次の展開を安価で決めたいと思います、参加していただけると幸いです。

◆◇◆◇◆◇
○カムイと話をする人物(支援A以外)

 ジョーカー
 フェリシア
 フローラ
 マークス
 ピエリ
 レオン
 ゼロ
 ベルカ
 ハロルド
 エルフィ
 サイラス
 ニュクス
 ブノワ
 モズメ
 リンカ
 カザハナ
 ツバキ
 スズカゼ
 アシュラ
 フランネル

 >>852と>>853

◇◆◇◆◇
○支援イベントのキャラクターを決めたいと思います。

 アクア
 ジョーカー
 ギュンター
 フェリシア
 フローラ
 マークス
 ラズワルド
 ピエリ
 レオン
 ゼロ
 オーディン
 カミラ
 ベルカ
 ルーナ
 エリーゼ
 ハロルド
 エルフィ
 サイラス
 ニュクス
 ブノワ
 シャーロッテ
 モズメ
 リンカ
 サクラ
 カザハナ
 ツバキ
 スズカゼ
 アシュラ
 フランネル

 >>854と>>855

(すでにイベントが発生しているキャラクター同士が選ばれた場合はイベントが進行、支援状況がAになっている組み合わせの場合は次レスのキャラクターとの支援になります)

次に続きます。


851 ◆P2J2qxwRPm2A2017/12/28(木) 22:05:10.82e9/MsKDU0 (20/20)

○カムイと話をする人物(支援A以外)の項目
 レオンとカザハナはカムイとの支援がAになってるので、選択不可でお願いします。
 すみませんでした。

◇◆◇◆◇
○進行する異性間支援の状況

【支援Bの組み合わせ】
・ブノワ×フローラ
・エリーゼ×ハロルド
・レオン×エルフィ
・アシュラ×サクラ
・ギュンター×ニュクス

【支援Cの組み合わせ】
・サイラス×エルフィ
・モズメ×ハロルド
・ルーナ×ハロルド
・カザハナ×ツバキ
・ツバキ×モズメ
・ブノワ×エルフィ
・ピエリ×ラズワルド

 この中から一つ>>856

(会話しているキャラクターと被ってしまった場合は、その一つ下のになります)
 
◇◆◇◆◇
○進行する同性間支援

【支援Bの組み合わせ】
・シャーロッテ×モズメ
・ベルカ×ニュクス
・シャーロッテ×カミラ
・ジョーカー×ハロルド

【支援Cの組み合わせ】
・エルフィ×モズメ
・ピエリ×リンカ
・ピエリ×フェリシア
・フローラ×エリーゼ
・エルフィ×ピエリ
・スズカゼ×オーディン
・サクラ×エルフィ
・ルーナ×フローラ
・ルーナ×カザハナ
・エリーゼ×カザハナ
・ハロルド×ツバキ
・マークス×ギュンター
・ラズワルド×ブノワ

 この中から一つ>>857

 このような形ですみませんがよろしくお願いいたします。


852以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/29(金) 07:30:49.37V2QxqXmA0 (1/1)

リンカ


853以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/29(金) 08:20:56.33LUd+winYO (1/1)

ベルカ


854以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/29(金) 08:25:20.26+cjsSI+YO (1/1)

サクラ


855以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/29(金) 09:01:15.44nNU0PX7hO (1/1)

ニュクス


856以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/29(金) 09:03:10.45WN6sCkBu0 (1/1)

マークス


857以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/29(金) 19:27:26.17i+/70Qwh0 (1/1)

ルーナとカザハナ


858以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/29(金) 21:14:14.25AXDGoeOqo (1/1)

異性間支援マニキいないしこれ浮いたままよな
ピエラズ


859以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/29(金) 21:23:35.27u40Nu4nro (1/1)

ユキムラは王家と全く血縁もないぽっと出の女>正当な白夜王族みたいに考えてる節あるよな
うーんこの


860 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/07(日) 21:02:24.22BCDE70lB0 (1/4)

◆◇◆◇◆◇
―白夜王国・イズモ公国『宿場』―

サクラ「ふふっ、とってもおいしいです」

ニュクス「サクラ王女、何をしているの?」

サクラ「あ、ニュクスさん……えっと、これはその……」ササッ

ニュクス「そんな隠さないで。白夜の甘味のようだけど……」

サクラ「はい、その久しぶりに食べたくなってしまって……」

ニュクス「そう。でもそんなに甘いものをどんどん食べられるわね」

サクラ「とってもおいしいから、いっぱい食べられちゃいます。カザハナさんには食べ過ぎって怒られちゃいますけど」

ニュクス「そう、若いっていいわね。私はそんなに多くの量は食べられないわ」

サクラ「そうなんですか?」

ニュクス「正直、そういう甘いものよりも苦いものの方が好きなの。それに私みたいなのが食べていてもサクラ王女みたいに可愛いものじゃないわ」

サクラ「そんなことありません。誰が食べても甘いものはおいしくて顔が綻んじゃうんですから。ニュクスさんだって、可愛くなっちゃうはずです」

ニュクス「可愛くなっちゃうはずって……。サクラ王女、口元が白くなってる」

サクラ「え、あ、どうしましょう。えっと、布巾を………」

ニュクス「動かないで、今拭いてあげるから。これでよしと……」

サクラ「あ、ありがとうございます。ニュクスさんってすごいですね」

ニュクス「こんなこと、特に褒められることでもないと思うけど?」

サクラ「だって、私より年が下なのにこんなに気配りが出来ていますし、その甘いものより苦いものが好きっていうのも、なんだかすごく大人っぽいって言いますか」

ニュクス「……大人っぽい、私が……」

サクラ「ニュクスさん?」

ニュクス「ふふっ、大人っぽいね……」

サクラ(どうしたちゃったんでしょうか……。さっきまで大人な感じがしたんですけど。今はなんていうか見た目の通りと言いますか……)

ニュクス「サクラ王女、その、もう一度どこが大人っぽかったのか、言ってもらえないかしら?」

サクラ「は、はい……。えっとですね――」

【サクラとニュクスの支援がCになりました】


861 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/07(日) 21:11:03.96BCDE70lB0 (2/4)

◆◇◆◇◆◇
ー白夜・イズモ公国『宿場』―

ルーナ「ど、どう?」

カザハナ「へぇ、暗夜の人でも浴衣って似合うのかわからなかったけど、結構似合ってるわね」

ルーナ「ふん、だから言ったでしょ!」

カザハナ「でもすごね、この浴衣を一から手作りしたなんて、ルーナって器用なんだね」

ルーナ「こんなの朝飯前よ。まぁ、あたしの完全オリジナルってわけじゃないんだけどね」

カザハナ「作れるだけでもすごいと思うけど? うわぁ、この花とってもきれいね。すごく丹念に縫われてて、ふふっ、ルーナ、ここ一番頑張ったでしょ?」

ルーナ「な、なんでわかるわけ!?」

カザハナ「だって、この花だけとっても豪勢だし、なんていうのかな気持ちが伝わってくるっていうのかな?」

ルーナ「物を見て気持ちが伝わってくるね……。そうかも、これを作ってるとき、どうにかして形を再現したいって躍起になってた気がする」

カザハナ「ふーん、でもどうして?」

ルーナ「無くした浴衣だけど、故郷から唯一持ってきた物だったの。肌身離さずってわけじゃないけど、そういう物って一つは持っていきたくなるでしょ?」

カザハナ「そうだったんだ。あたし、ルーナはそういうの気にしない人かと思ってたけど、違ったんだね」

ルーナ「なによそれ、あたしそんな薄情じゃないんだけど!?」

カザハナ「あはは、ごめん」

ルーナ「まったくそれじゃもう着替えていい? 久しぶりに着たけど、とくに何かするわけでもないし」

カザハナ「えー、まだ来てようよ。他のみんなも呼んで来るから」

ルーナ「嫌よ、動きづらいし、あたしの浴衣姿は安くないの。ふふん、もっと見たかったら、何か催し物でも考えてから出直してきなさい」

カザハナ「むー」

【ルーナとカザハナの支援がBになりました】


862 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/07(日) 21:18:58.22BCDE70lB0 (3/4)

◆◇◆◇◆◇
―暗夜王国・王都ウィンダム『裏路地』―

ラズワルド「ふぅ、ようやく終わったよ。ああ、もう、こんな時に何で賊が現れるのかなぁ」

ピエリ「あ、ラズワルドなの。こっちはみんな殺しちゃったの! 見て見て、ピエリとってもきれいになってるの」

ラズワルド「うん、そうだね。今回もとっても派手になってるね……。ってなんでこっちに来るの!?」

ピエリ「派手は綺麗ってことなの。ピエリうれしいからラズワルドに抱き着きたかったの!」

ラズワルド「それはうれしいけど、今その姿では止めて。ただでさえ、ピエリと一緒に戦ってると血が飛び散って服への出費が酷いんだ。この戦闘服、まだ新調したばっかりなんだよ?」

ピエリ「ひぐっ、ラズワルド。ピエリにハグされるの嫌なの? ピエリが嫌いだからハグハグさせてくれないの?」

ラズワルド「いや、ピエリの事は嫌いじゃないよ」

ピエリ「ほんとぉ? 本当にピエリのこと嫌いじゃないの?」

ラズワルド「本当だよ。だから機嫌を直してくれるとうれしいんだけど」

ピエリ「じゃあ、ハグハグしてほしいの」

ラズワルド「はぁ……そうなるよね。だめだよ、さすがに僕まで血まみれだとマークス様に色々と、その、えっと、うん、あれだよ、あれ!」

ピエリ「ピエリ、難しいことはわからないの。さぁ、ラズワルド、ピエリとハグハグするの。ピエリは準備できてるのよ」バッ

ラズワルド「えーっと……僕からしなくちゃいけない?」

ピエリ「そうなの。ハグハグしてくれなかったらピエリ、マークス様に今週のラズワルドの予定をぜーんぶ教えちゃうのよ」

ラズワルド「な、そこまでしてハグハグされたいのかい!?」

ピエリ「されたいの!」

ラズワルド「はぁ、わかったよ。ピエリ、ちゃんと約束は守ってよね」

ピエリ「任せてなの! えへへ、ラズワルドだーい好きなの」

ラズワルド「はぁ、もうピエリのその言葉にも馴れちゃったなぁ……」ダキッ ベチャ

【ラズワルドとピエリの支援がBになりました】


863 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/07(日) 22:06:53.50BCDE70lB0 (4/4)

今日は支援だけで

 


864 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/08(月) 20:35:02.96IerMbaZ40 (1/17)

◆◆◆◆◆◆
―白夜王国・スサノオ長城『暗夜軍野営地』―

アクア「はぁ、カムイは一体どこに行ったのかしら?」

アクア(マークスに頼まれて起こしに来たけど、部屋はもぬけの空。見た限り、昨日の夜からいなかったように思えるけど……)

アクア「仕方ないわ。まずはサクラを起こして、それから探しましょう」

アクア(カムイは大丈夫かしら。昨日は問題なかったけど、リョウマ達が処刑される可能性に動揺してるかもしれない……。そういうことを悩んでいたら……)

アクア「……」

アクア(カムイは一人で背負い込む癖がある。カムイもようやく一人で戦っているんじゃないって自覚を持ち始めたけど、そう簡単に変われるわけがない。私たちがちゃんと支えてあげないと……)

アクア(だけど……。出来れば私が支えて行きたかったわね……。他の誰でもなくて、私だけで……)

アクア「……だめね、こんなことを考えるなんて。しっかりしなさい、私」

アクア(確かサクラの部屋はここだったわね……。手早く済ませて、一緒に探すのを手伝ってもらいましょう)

アクア「サクラ、入るわよ。悪いのだけどマークスから招集が掛かっているわ。あと、よかったらカムイを一緒に探してもら――」

カムイ「あ、その声はアクアさん? おはようございます」

アクア「……」

アクア(なんでカムイがサクラの部屋にいるの……それと)ジーッ

カムイ「?」ナデナデ

サクラ「んっ……すぅ、すぅ……カムイ姉様ぁ……」ギューッ

アクア(なぜ、サクラを膝枕して頭を撫でているわけ?)


865 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/08(月) 20:44:54.53IerMbaZ40 (2/17)

カムイ「どうかしましたか、まだ朝も早い時間だと思いますけど」

アクア「そんなに早くないわ。」

カムイ「そうでしたか、すみません時間に関しては曖昧なので……。その、私何かアクアさんの機嫌を損ねてしまうようなことをしてしまったんでしょうか?」

アクア「なぜそう思うの?」

カムイ「その、なんだかツンツンしてると言いますか、トゲトゲしいと言いますか。語尾がとても重たいと言いますか……」

アクア「気の所為よ」

カムイ「でも……」

アクア「き・の・せ・い、そうでしょう、カムイ?」

カムイ「は、はい…」

アクア「それでカムイ、なんで朝からサクラの部屋にいるの? 昨日は部屋に戻っていないようだったけど」

カムイ「昨日、上でサクラさんにお会いして、そこで色々ありまして」

アクア「色々ね……」

カムイ「はい。サクラさん、人を殺めてしまったことを悩んでいました。そして、私はサクラさんに人殺しをさせてしまったんだと、わかってしまって……」

アクア「それが戦いという物よ。それに彼らの狙いはわたしたちにとって、とてもじゃないけど受け入れられるものではなかったわ」

カムイ「はい。だけど、どんな理由があったとしても、私たちは人を殺めていることに変わりはありません。今行っていることが、その犠牲に足るものなのか。答えは見つからないままです」

アクア「どんなに悩んでも、今その答えを得ることは出来ないと思う。だけど、いつかきっと見つかるはずよ。だって、それがあなたの戦いでしょう?」

カムイ「……そうですね。ふふっ、アクアさんの前だとどうも弱みが出てしまいます、精進しないといけませんね」

アクア「別に私はそれで構わないのだけど……」

カムイ「?」


866 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/08(月) 20:53:23.05IerMbaZ40 (3/17)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~
―スサノオ長城『暗夜野営地・会議天幕』―

マークス「そうか、アクアはサクラ王女と一緒に来るという事か」

カムイ「はい。まだ私とマークス兄さんしかいない様ですけど、他の皆さんは?」

マークス「ああ、レオンとカミラには資料の準備を任せている。エリーゼは……おそらく寝坊しているな」

カムイ「ふふっ、では私が起こしに行きますね」

マークス「いや、私が向かおう。お前はここで他の者が来るのを待っていてくれ。さすがに誰もいないとすれ違いも起きやすい」

カムイ「それもそうですね。わかりました、ここは任せてください」

マークス「よろしく頼んだぞ」タタタタタッ

カムイ「……」

カムイ「……」

カムイ「……はぁ、こういった準備作業ではあまり役に立てないのが悲しいところですね。誰かが戻ってくるまでお留守番ですか……」

 バサッ バサッ

カムイ「?」

ベルカ「……カムイ様だけ?」

カムイ「その声、ベルカさんですか?」


867 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/08(月) 21:02:19.80IerMbaZ40 (4/17)

ベルカ「おはよう、カムイ様」

カムイ「はい、おはようございます。もしかして、カミラ姉さんに用事ですか?」

ベルカ「ええ、ここ周辺の調査が終わったからその報告をしに来たのだけど……」

カムイ「そうなんですね。カミラ姉さんはレオンさんの手伝いをしているそうです。少しすれば戻ってくると思いますけど」

ベルカ「そう、なら待つわ」

カムイ「はい。良かったです、一人でいるのは何かと寂しいので。それにベルカさんとはもう一度お話をしたいと思ってましたから」

ベルカ「……私は別に話すことはないわ。周辺のことで聞きたいことがあるなら答えるけど…」

カムイ「いいえ、それはこの後の会議で聞くことにします。すみません、色々と嫌な仕事を頼んでしまう形になってしまって」

ベルカ「前にも言った。命令や仕事は完璧にこなす、その内容に文句を言うつもりはないわ」

カムイ「でも、とても危険なことを任せているのですから……。心配になります」

ベルカ「……そんな心配は必要ない。そんな簡単に死ぬつもりはないし、カミラ様から最後の任務を受けたわけでもないから。私にとってカミラ様が戦えと言えば戦う、もういいと言われればそれで終わる、ただそれだけのことだから」

カムイ「だとしても、私はベルカさんの事が心配です。ベルカさん、とっても可愛い声で鳴いてくれますから、もしも死んでしまったらあの声が聞けなくなってしまいますし」

ベルカ「……あなた、まだ懲りてないのね。言ったはずよ、変なコトをしたらその手を……」

カムイ「そう言われましても、やっぱり私にとっては触れ合うことが一種のコミュニケーションです。ベルカさんのことをもっと詳しく知りたいと思ったら、やはり触るのが一番だと思うんです」


868 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/08(月) 21:18:13.96IerMbaZ40 (5/17)

ベルカ「私はあなたに忠誠を誓っているわけじゃない、そんな相手とコミュニケーションを取る必要があるとは思えないけど」

カムイ「私はあなたともっと親しくなりたいですし、できれば信頼されたいと思っています」

ベルカ「あなた、やっぱり変わっているわ。私から見たらとてつもなく、おかしな人間よ」

カムイ「はい、私もそう思います。だから私とベルカさんの生きる世界は同じです。だって、互いに変わっているって思えるのですから、こうして同じ気持ちを抱いている以上、私とベルカさんの生きる世界が違うなんてことはありませんよ」

ベルカ「……そういうことはわからないわ。けど、カムイ様がとてもおかしな人だっていう事だけは、確かなことだと思える。本当に、おかしい人ね」

カムイ「これでも結構まじめに考えているんですよ、どうやったらベルカさんを私の膝上に誘導できるのかとか……」

ベルカ「残念だけど、それが実現することはないわ」

カムイ「ふふっ、それを今打ち砕いてあげましょう」ポンポン

ベルカ「……それは、なに?」

カムイ「さぁ、ベルカさん。今私の膝上は空いています!」ポンポンポン

ベルカ「……座らないわ」

カムイ「まぁ、そういわずに」ポンポン

ベルカ「……」

カムイ「……おかしいですね。エリーゼさんやサクラさんはこうすると乗ってくれるんですが……」

ベルカ「私は二人とは違うから、いくらやっても座ることはないわ」

カムイ「そうですか。私の膝も魅力が足りないみたいです。もっと精進しましょう」

ベルカ「……何を訓練するのよ?」


869 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/08(月) 21:26:00.63IerMbaZ40 (6/17)

 ガササッ

レオン「姉さん、もう来てたんだね」

カムイ「おはようございます、レオンさん。それにカミラ姉さんも」ポンポン

カミラ「挨拶を先越されちゃったわね、おはようカムイ。それにベルカもいるのね。頼んでいた資料を持ってきてくれたのかしら?」

ベルカ「ええ、カミラ様これを」

カミラ「ありがとう。ふふっ、いい子よ、ベルカ」ナデナデ

ベルカ「んっ、カミラ様……止めて」

カミラ「ふふっ、今日も可愛いわ。ところでカムイ、さっきから膝をポンポンしてるけど、どうしたの?」

カムイ「ベルカさんに私の膝上は空いてますと伝えているんですが、座ってもらえなくて」ポンポン

カミラ「あら、勿体ないわね。私がお邪魔してもいいかしら?」

レオン「今はよしてよ。マークス兄さんに気難しい顔をさせるのはあれだからさ」

カミラ「残念。それじゃ、今度の機会にしましょう。ベルカは次の指示があるまでゆっくり休んでいて」

ベルカ「わかったわ。カムイ様、私はこれで」

カムイ「はい。私はいつでもお待ちしてますからね、ベルカさん」

ベルカ「……そう、気長に待てばいいと思うわ」テトテトテトッ

カミラ「ふふっ、ベルカにまでちょっかいを出して、カムイはいけない子ね」

カムイ「いけない子って、私は純粋な気持ちでお誘いしているだけなんですよ?」

レオン「純粋ね。純粋な誘いだったらあんなふうに振舞わないとは思うけど?」

カムイ「ただ私はベルカさんに可愛い声を出してもらいたいだけで……」

レオン「とても不純な動機で言葉に困るかな」

カミラ「とりあえず、準備に入りましょう。みんなが集まったらすぐに話を始められるように」

カムイ「はい」


870 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/08(月) 21:36:32.22IerMbaZ40 (7/17)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

マークス「以上が偵察隊のまとめたここ周辺の状況になる。多くの場所に戦闘の痕跡などが見受けられたが、死体も生存者もその姿を確認できなかったらしい」

カムイ「やはり、もうこの周囲には……」

カミラ「ベルカ達も懸命に探索してくれたみたいだけど。現在行方不明の人がおそらく見つかることは、もう無さそうね」

アクア「ええ、おそらくはもう……」

カムイ「ええ、なら私たちはこれ以上の犠牲を出さないために動くだけです。マークス兄さん、本題というのは……」

マークス「ああ、後続への増援要請はおそらく今日の夜には届く。その点を踏まえて、白夜王都攻略の手筈を整える。それが本題となるな」

カムイ「わかりました。アクアさん、申し訳ないのですが、その……」

アクア「任せて、わからないところはちゃんと教えるから」

レオン「それじゃ、まずはこれからだね。よいしょっと」バサァ

エリーゼ「わわっ、すっごく大きい紙……これってなに?」

レオン「ああ、このスサノオ長城にあった白夜王都の地図だよ。生き残った白夜の兵士に聞けるだけ話を聞いて、現在の王都の状態を書き写してある。といっても、王都自体に大きな変化はないってところかな」

カミラ「大きなものだからどんなものかと思ったけど、こんなものを準備していたのね」

サクラ「すごいです。流石はレオンさんですね」

レオン「まぁね。さてと、ここからが本題なんだけど。僕は正直、王都の構造的な部分に脅威を持ってない。王都自体はかなりシンプルに作られてて、守るのには向いていない。かなり広々としているし、暗夜みたいに谷や崖を利用して作っているわけでもないみたいだからね」

マークス「ああ、王都まで敵が来ることが無かったからかもしれないが、外敵からの防衛という意味ではあまり強いとは言えない。代わりに王城であるシラサギ城の防備は万全を喫しているだろう……」

レオン「ああ。話を聞いた限りだと、この数日で王都全体に迎撃の陣を敷くのは難しい。少なくとも設備を整えるのは不可能だよ」

エリーゼ「じゃあ、何が脅威になるの? やっぱり、敵の兵隊さん?」

レオン「そうなるけど、僕が脅威に感じているのは敵兵の中でも一番問題のある相手だよ。多くの兵が死んだ今、まだ兵士は多くいると見せるために駆り出される人たちがいてもおかしくない」

カミラ「それって……」

サクラ「王都に住んでいる民の皆さんがそれに巻き込まれる。レオンさんはそう考えているんですよね」



871 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/08(月) 21:44:19.57IerMbaZ40 (8/17)

レオン「……ああ。僕たちにとって一番の脅威はそれを出されることだ。そして、ユキムラはこの手を確実に使ってくる」

カミラ「なりふり構っていられない状況という事ね……」

レオン「ああ、スサノオ長城での惨敗でリョウマ王子やヒノカ王女への責任追及が行われているなら、残った王族派はそれを覆すためにこの戦いに加わるしかない。戦力はユキムラ達、強行派のほうが高い、もう彼らに戦いを回避する術はないと思う」

マークス「出来る事ならユキムラたち、強行派だけを一網打尽にしたい。しかし奴らの事だ、王城に最後まで籠城するつもりだろう。そして戦っているところをテンジン砦と同じような手口で殲滅するつもりかもしれない。奴らが前線に武装した市民を出してきたのなら、その可能性も考慮する必要がある」

カムイ「武装した市民を抑える役割と、シラサギ城へ攻撃を仕掛ける部隊。二つの部隊が必要ということですが……」

マークス「正直、そのような戦力を用意することは難しいだろう。形としては少数先鋭でシラサギ城を落とす以外に方法はないだろう」

レオン「そういうこと。僕としてはその方がまだ勝算はあるし、なにより白夜の民の犠牲を抑えられると思っている。リョウマ王子とヒノカ王女、この二人を助け出して王族派と一時的な協力関係を築ければ、状況は覆る可能性もある」



872 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/08(月) 21:52:46.02IerMbaZ40 (9/17)

カムイ「レオンさんはそこまで考えているんですね」

レオン「当たり前だよ。サクラ王女やカザハナ、それにツバキをちゃんと白夜に返してあげたいし、なにより僕たちは白夜を滅ぼすために戦ってるわけじゃない。なら、白夜と暗夜にとって意味のある結末を望みたい」

サクラ「レオンさん……」

レオン「それに、もうこの戦争は何処の陣営も人員と規模が臨界点に達してる。旧暗夜も僕たちも、そして白夜も戦いを継続できる状態にない。もう戦争を続ける状況では無くなっているんだ」

マークス「……だが、あの男……、ユキムラは違うだろう。あいつにとっての戦争は続ける価値のあるものになっている」

カムイ「そうですね、私を殺すことが唯一、ユキムラさんにとっての戦争の終わりなのですから」

サクラ「……ユキムラさんは、どうしてこのようなことを続けるんでしょうか……」

カムイ「いずれ、本当の意味が分かるときが来ます。それがどんな理由であっても、負けるわけにはいきません」

エリーゼ「うん、あたしも頑張って戦うよ!」

カミラ「ふふっ、元気いっぱいね。それでマークスお兄様、どう動くことにするの?」

マークス「全ての物事が順調に進んでいると仮定して動こう。白夜兵の捕虜と負傷者を任せられるだけの先行部隊が来る予定だ。その先行部隊の到着を持って、我々は白夜王都へと侵攻する。各自、準備に取り掛かるのだ!」

カムイ「……」

カムイ(ようやく私は足を踏み入れるんですね。白夜王都、私の生まれ故郷……私が壊してしまった場所)

カムイ(かつて優しく暖かった、あの国に……)


873 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/08(月) 22:09:34.37IerMbaZ40 (10/17)

◆◆◆◆◆◆
―白夜王国・スサノオ長城『橋を越えた先の平原』―

カムイ「……」

 ザーーーーー

カムイ「ん、風が強いですね……。しかし、誰もいない草原というのはなんとももの悲しく思えてきます」

リンカ「あれ、カムイ?」バサバサッ

カムイ「リンカさんですか。 あれ、えっと……どちらにいるんですか?」

リンカ「上だよ、上。戦闘が終わったって言っても、こんなところに一人でいるのは危険だぞ」バサバサ

カムイ「そう簡単にやられることはありませんよ。それに、ちゃんとリンカさんが見回りをしてくれてるみたいですから」

リンカ「いや、見回りは終わってる。こいつを自由に飛ばしてやりたかっただけで、たまたま通りかかっただけだよ」

カムイ「そうですか。なら、偶然にも私はリンカさんに見つかってしまったというわけですね」
 
 スタッ

リンカ「そうなるな。まぁ危険なのは確かだ、あの姿の見えない気配だけの奴らがどこにいるかもわからない以上、用心した方がいい」

カムイ「思ったよりもリンカさん、私のことを心配してくれているんですね」

リンカ「途中からこの戦いに参加した奴らはマークスの言葉に乗った奴らだけど。あたしたちはあんたの言葉を信じてここまで来たんだ。この戦争で白夜から切り捨てられたあたしを受け入れてくれたあんただからこそ、心配するんだよ」


874 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/08(月) 22:12:30.72IerMbaZ40 (11/17)

カムイ「そうですか。ふふっ、なんといいますか。本当に私たちは不思議な縁で繋がっていますね。元は捕虜として、次には助けた恩人として、次には敵として、そして最後には仲間になる。こんなに大きな世界で、こうやって繋がりあえたことは、ある意味奇跡ともいえるのかもしれません」

リンカ「ああ、だからこそ。あたしはこの戦いの終わりは少なくとも悪い物で終わらせたくはない」

カムイ「……そう言ってもらえるのはとてもうれしいです」

リンカ「まぁ、戦っている以上。勝って終わりにはしたいだけさ。戦いっていうのは勝ってこそ意味がある。あたしはそう考えているからな」

カムイ「勝ってこそですか。極論ですけど、確かにその通りです」

リンカ「まぁ、カムイには負けっぱなしだ」

カムイ「そうですね。ふふっ、リンカさんは私にとってある意味初めての臣下でしたから。スズカゼさんと一緒にお父様の前で戦ったのが懐かしいですね」

リンカ「言うな。負けた時の話は聞いても面白くない」

カムイ「ふふっ、いじけているんですか?」

リンカ「いじけているわけではない! だた、面白くないだけだ」

カムイ「そうですか。でも、私はあの時、とても楽しかったですよ。私の今までの修行の成果を試すことが出来たんですから」

リンカ「あたしとスズカゼはお試し相手という事か……。ますます気に入らないな」

カムイ「では、もう一度手合わせしてみますか?」



875 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/08(月) 22:17:43.05IerMbaZ40 (12/17)

リンカ「ほう、前までのあたしが相手ではないんだぞ?」

カムイ「そうですね。ここまで一緒に戦ってきたリンカさんが相手となると、苦戦しそうです」

リンカ「ふっ、苦戦で済めばいいがな」

カムイ「では、手合わせしましょうか。今のリンカさんの本気、私が受け止めてみせます」

リンカ「いいだろう。あたしが今持っている本気を全てぶつけてやる! あたしが勝ったら、あの時の試合結果は無かったことにしてもらうとしよう」

カムイ「過去を無かったことにですか。中々に難しいことを言いますね」

リンカ「どうなんだ。受けるのか受けないのか」

カムイ「いいですよ、その条件で行きましょう。ところで、私が勝った場合はどうなんですか?」

リンカ「万が一にもないなこというのか。だが、もしもそうなったら同じように何かあたしに命令すればいいさ」

カムイ「わかりました。では、私が勝ったら―――」

カムイ「リンカさんの顔を、いっぱい触らせてもらいますね。このところ、リンカさんの感――いえ、表情のリニューアルをしないといけないので」

リンカ「ちょ、ちょっとまて! それは――」

カムイ「はい、これで成立です。それじゃいきますよ、リンカさん」ダッ

リンカ「くっ、いやここで勝てばいいだけの事だ。いくぞ、カムイ!!!」ダッ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カムイ「ふふふっ」

リンカ「っ、くっ、うううっ、ふああっ/////」

カムイ「はぁ、やっぱりリンカさんの鳴き声、とってもいいです。頬の筋肉とかピクピクしていて、とても触り甲斐があります」サワサワスリスリ

リンカ「つ、次は、次は必ず勝ってみせる、っぅぅぅう、カムイ、次は絶対に――。っんあ/////」ビクンッ

カムイ「はい、私はいつでもお待ちしてますよ――」シュッシュ

「リンカさん。ふふふっ……」

休息時間2 終わり


876 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/08(月) 22:20:11.24IerMbaZ40 (13/17)

○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアA
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ギュンターA
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアB+
(カムイに従者として頼りにされたい)
フローラB++
(すこしは他人に甘えてもいいんじゃないかと言われています)
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
リリス(消滅)
(主君を守り通した)

―暗夜第一王子マークス―
ラズワルドA
(あなたを守るといわれています)
マークスB++
(何か兄らしいことをしたいと考えています)
ピエリB
(弱点を見つけると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
オーディンA
(二人で何かの名前を考えることになってます)
ゼロB+
(互いに興味を持てるように頑張っています)
レオンA
(カムイに甘えてほしいと言われて、いろいろと考えています)

―暗夜第一王女カミラ―
ルーナA
(目を失ったことに関する話をしています)
カミラA
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ベルカB→B+
(生きてきた世界の壁について話をしています)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼA
(昔、初めて出会った時のことについて話しています)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィB++
(一緒に訓練をしました)

―白夜第二王女サクラ―
サクラA
(カムイと二人きりの時間が欲しいと考えています)
カザハナA
(素ぶりを一緒にする約束をしています)
ツバキB
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
シャーロッテA
(返り討ちにあっています)
フランネルB+
(宝物を見せることになっています)
サイラスB+
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB++
(許されることとはどういうことなのかを考えています)
スズカゼB
(おさわりの虜になったようです)
モズメB+
(時々料理を食べさせてもらう約束をしています)
リンカB→B+
(過去の雪辱を晴らそうとしています)
ブノワC+
(イベントは起きていません)
アシュラB
(暗夜での生活について話をしています)


877 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/08(月) 22:24:23.90IerMbaZ40 (14/17)

 仲間間支援の状況-1-

●異性間支援の状況
【支援Aの組み合わせ】
・レオン×カザハナ
 C[本篇の流れ] B[3スレ目・300] A[3スレ目・339]
・ジョーカー×フローラ
 C[1スレ目・713~715] B[1スレ目・928~929] A[2スレ目・286]
・レオン×サクラ
 C[1スレ目・511~513] B[2スレ目・297~299] A[3スレ目・797]
・ラズワルド×ルーナ
 C[1スレ目・710~712] B[2スレ目・477] A[4スレ目・177]
・アクア×オーディン
 C[3スレ目・337] B[3スレ目・376] A[4スレ目・353]
・ルーナ×オーディン
 C[4スレ目・352] B[4スレ目・411] A[4スレ目・460]
・ラズワルド×エリーゼ
 C[1スレ目・602~606] B[3スレ目・253] A[4スレ目・812]
・ベルカ×スズカゼ
 C[3スレ目・252] B[3スレ目・315] A[5スレ目・57]
・オーディン×ニュクス
 C[1スレ目・839~840] B[3スレ目・284] A[5スレ目・362]
・サクラ×ラズワルド
 C[5スレ目・303] B[5スレ目・337] A[5スレ目・361]
・アクア×ゼロ
 C[1スレ目・866~867] B[4スレ目・438] A[5スレ目・456]

【支援Bの組み合わせ】
・ブノワ×フローラ
 C[2スレ目・283] B[2スレ目・512]
・エリーゼ×ハロルド
 C[2スレ目・511] B[2スレ目・540]
・レオン×エルフィ
 C[3スレ目・251] B[4スレ目・437]
・アシュラ×サクラ
 C[3スレ目・773] B[5スレ目・106]
・ギュンター×ニュクス
 C[3スレ目・246] B[5スレ目・480]
・ラズワルド×ピエリ
 C[5スレ目・823] B[5スレ目・862]←NEW

【支援Cの組み合わせ】
・サイラス×エルフィ
 C[1スレ目・377~380]
・モズメ×ハロルド
 C[1スレ目・514~515]
・ルーナ×ハロルド
 C[3スレ目・375]
・カザハナ×ツバキ
 C[3スレ目・772]
・ツバキ×モズメ
 C[5スレ目・15]
・ラズワルド×シャーロッテ
 C[5スレ目・479]
・ブノワ×エルフィ
 C[5スレ目・822]


878 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/08(月) 22:24:59.18IerMbaZ40 (15/17)

仲間間支援の状況-2-

●同性間支援の状況
【支援Aの組み合わせ】
・リンカ×アクア
 C[1スレ目・888~889] B[2スレ目・285] A[3スレ目・254]
・ピエリ×カミラ
 C[1スレ目・752~753] B[2スレ目・478] A[2スレ目・513]
・フェリシア×ルーナ
 C[1スレ目・864~865] B[1スレ目・890~891] A[1スレ目・930~931]
・フローラ×エルフィ
 C[1スレ目・471~472] B[3スレ目・338] A[3スレ目・377]
・レオン×ツバキ
 C[1スレ目・492~493] B[1スレ目・870] A[3スレ目・798]
・ベルカ×エリーゼ
 C[2スレ目・284] B[3スレ目・301] A[4スレ目・354]
・ピエリ×ルーナ
 C[3スレ目・249] B[4スレ目・317] A[4スレ目・412]
・アクア×ルーナ
 C[3スレ目・283] B[4スレ目・461] A[4スレ目・813]
・カミラ×サクラ
 C[4スレ目・175] B[5スレ目・58] A[5スレ目・107]
・ギュンター×サイラス
 C[1スレ目・926~927] B[3スレ目・316] A[5スレ目・363]
・シャーロッテ×カミラ
 C[2スレ目・476] B[4スレ目・439] A[5スレ目・436]
・ラズワルド×オーディン
 C[4スレ目・459] B[5スレ目・338] A[5スレ目・457]
・フェリシア×エルフィ
 C[1スレ目・367~368] B[2スレ目・541] A[5スレ目・481]

【支援Bの組み合わせ】
・シャーロッテ×モズメ
 C[3スレ目・248] B[3スレ目・285]
・ベルカ×ニュクス
 C[4スレ目・176] B[4スレ目・410]
・シャーロッテ×カミラ
 C[2スレ目・476] B[4スレ目・439]
・ジョーカー×ハロルド
 C[1スレ目・426~429] B[5スレ目・336]
・ルーナ×カザハナ
 C[4スレ目・780] B[5スレ目・861]←NEW

【支援Cの組み合わせ】
・エルフィ×モズメ
 C[1スレ目・423~425]
・ピエリ×リンカ
 C[3スレ目・247]
・ピエリ×フェリシア
 C[3スレ目・250]
・フローラ×エリーゼ
 C[4スレ目・178]
・エルフィ×ピエリ
 C[3スレ目・771]
・スズカゼ×オーディン
 C[4スレ目・318]
・サクラ×エルフィ
 C[3スレ目・774]
・ルーナ×フローラ
 C[4スレ目・781]
・エリーゼ×カザハナ
 C[5スレ目・14]
・ハロルド×ツバキ
 C[5スレ目・56]
・アシュラ×ジョーカー
 C[5スレ目・105]
・マークス×ギュンター
 C[5スレ目・302]
・ラズワルド×ブノワ
 C[5スレ目・435]
・サクラ×ニュクス
 C[5スレ目・860]←NEW


879 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/08(月) 22:37:39.57IerMbaZ40 (16/17)

今日はここまで
 
 戦いが始まる僅かな合間は、誰にとっても大切で暖かい時間であってほしい。

 FE新作の情報がそろそろ出てくるのかな……。次回作、召喚士の持ってるのが形的に銃だから、もしかして銃あたりが出てくるのかもと期待している。

 次の展開を安価で決めたいと思います。参加していただけると幸いです。
◆◇◆◇◆◇

○カムイと話をする人物(支援A以外)

 ジョーカー
 フェリシア
 フローラ
 マークス
 ピエリ
 レオン
 ゼロ
 ベルカ
 ハロルド
 エルフィ
 サイラス
 ニュクス
 ブノワ
 モズメ
 リンカ
 カザハナ
 ツバキ
 スズカゼ
 アシュラ
 フランネル

 >>881

◇◆◇◆◇
○支援イベントのキャラクターを決めたいと思います。

 アクア
 ジョーカー
 ギュンター
 フェリシア
 フローラ
 マークス
 ラズワルド
 ピエリ
 レオン
 ゼロ
 オーディン
 カミラ
 ベルカ
 ルーナ
 エリーゼ
 ハロルド
 エルフィ
 サイラス
 ニュクス
 ブノワ
 シャーロッテ
 モズメ
 リンカ
 サクラ
 カザハナ
 ツバキ
 スズカゼ
 アシュラ
 フランネル

 >>882と>>883

(すでにイベントが発生しているキャラクター同士が選ばれた場合はイベントが進行、支援状況がAになっている組み合わせの場合は次レスのキャラクターとの支援になります)

 次のレスに続きます


880 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/08(月) 22:38:45.85IerMbaZ40 (17/17)

◇◆◇◆◇
○進行する異性間支援の状況

【支援Bの組み合わせ】
・ブノワ×フローラ
・エリーゼ×ハロルド
・レオン×エルフィ
・アシュラ×サクラ
・ギュンター×ニュクス
・ラズワルド×ピエリ

【支援Cの組み合わせ】
・サイラス×エルフィ
・モズメ×ハロルド
・ルーナ×ハロルド
・カザハナ×ツバキ
・ツバキ×モズメ
・ラズワルド×シャーロッテ
・ブノワ×エルフィ

 この中から一つ>>884

(会話しているキャラクターと被ってしまった場合は、その一つ下のになります)
 
◇◆◇◆◇
○進行する同性間支援

【支援Bの組み合わせ】
・シャーロッテ×モズメ
・ベルカ×ニュクス
・シャーロッテ×カミラ
・ジョーカー×ハロルド
・ルーナ×カザハナ

【支援Cの組み合わせ】
・エルフィ×モズメ
・ピエリ×リンカ
・ピエリ×フェリシア
・フローラ×エリーゼ
・エルフィ×ピエリ
・スズカゼ×オーディン
・サクラ×エルフィ
・ルーナ×フローラ
・エリーゼ×カザハナ
・ハロルド×ツバキ
・アシュラ×ジョーカー
・マークス×ギュンター
・ラズワルド×ブノワ
・サクラ×ニュクス

 この中から一つ>>885

 このような形ですみませんがよろしくお願いいたします。


881以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/08(月) 23:12:51.59+2ErCkHJ0 (1/1)

ベルカ


882以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/08(月) 23:19:43.94buP3LyvhO (1/1)

マークス


883以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/08(月) 23:21:23.23xkDjG8zEO (1/1)

リンカ


884以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/08(月) 23:37:51.863hooXrXxo (1/1)

ラズピエリ


885以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/08(月) 23:38:31.47WbSVuE3Do (1/2)

レオンエルフィ


886以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/08(月) 23:38:57.51Ubh9HZn9O (1/1)

サクラ×ニュクス


887以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/08(月) 23:39:11.82WbSVuE3Do (2/2)

あリロしてなかった
ルーナカザハナで


888 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/15(月) 21:25:31.75/KQigfGu0 (1/4)

◆◇◆◇◆◇
―暗夜王国・クラーケンシュタイン『会議室』―

マークス「む、来てくれたか、リンカ」

リンカ「あたしに暗夜王国の王子がいったい何の用なんだ?」

マークス「呼び出したのは他でもない。お前は白夜王国の人間ではあるが、馴れあいを好まない部族の出だと聞いた。そこで一つ、お前に訪ねたいことがあった」

リンカ「そうか……。それでその訪ねたいことっていうのはなんだ?」

マークス「ああ、お前の部族がどのような戦い方を行っているのか、それが気になったのだ」

リンカ「部族としての戦い方、そんなことを知ってどうする?」

マークス「活かせるものは活かしたいというだけの事だ。戦いの基本は集団戦術にあるが、リンカの戦い方は一人で抜きんでることが多いと聞いている。並みの者ではそのようなことをして生き残れるはずもないが、お前はここまで生き残っている」

リンカ「なるほどな。だけど何も話すことはない」

リンカ(別に話すことはないからな。あれはあたしが好きに戦っているだけに過ぎない、マークスもよくよく考えれば理解できるはずだからな)

マークス「そうか、そう簡単に話せることはないということだな。すまなかった、お前の気持ちを理解していたなかったようだ」

リンカ「え? 何を言っているんだ?」

マークス「いいんだ。だが、話す気になったのなら言ってほしい。その時を私はゆっくり待つことにしよう」タッ タッ タッ

リンカ「いや、だから、あたしの戦い方は……。くっ、勝手に決めつけて帰っていった。あたしは、どうすればいいんだ!?」

【マークスとリンカの支援がCになりました】


889 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/15(月) 21:50:42.53/KQigfGu0 (2/4)

◆◇◆◇◆◇
―白夜王国・イズモ公国『露店通り』―

サクラ「あ、ニュクスさん」

ニュクス「あら、サクラ王女。貴方も買い物に?」

サクラ「は、はい。ニュクスさんもですか?」

ニュクス「ええ、珈琲を切らしてしまったから、代わりになるものをと思っているのだけど」

サクラ「珈琲、初めて聞きます」

ニュクス「飲んだことはないの?」

サクラ「はい、飲み物なんですか?」

ニュクス「ええ、苦いものだから甘くする人もいるけど、私はブラックのままが好みなのよ。サクラ王女は甘いものに目がないみたいだから、あまり向かないものかもしれないわね」

サクラ「そ、そうかもしれません。やっぱり、ニュクスさんはすごいと思います」

ニュクス「ふふっ、ありがとう。だけど、ここにも出回ってはいないみたい。戦争中っていうこともあるから仕方ないことね」

サクラ「……あ、でしたらこれはどうですか? はい」

ニュクス「これは、白夜の紅茶?」

サクラ「暗夜にあった紅茶とは違いますけど、白夜ではよく飲まれているもので、お茶って言います」

ニュクス「オチャ?」

サクラ「はい、これは煎茶という種類なんですよ。甘い和菓子にとっても合うんです」

ニュクス「うれしいけど、別に紅茶が欲しいわけじゃないの。私が欲しいのは……」

サクラ「苦いものですよね。煎茶は程良く苦みがありますから、そのニュクスさんがよろしければ……」

ニュクス「……そうね。サクラ王女が勧めてくれたのだから、いただくことにするわ」

サクラ「はい。ご一緒に甘いものはどうですか?」

ニュクス「そのお茶だけで十分よ、いただくわね」ズズズッ

サクラ「……あの、どうですか?」

ニュクス「珈琲とは違うタイプの苦みね。でも後味はすっきりしてて……悪くないものね」

サクラ「すごいです、ニュクスさんは。私だとお供に甘いものが欲しくなっちゃうのに。私も大人っぽくなりたいです」

ニュクス「別にそんな急ぐことじゃないわ。ゆっくりと大人になっていけばいい、貴女はちゃんと成長できるんだから」

サクラ「ニュクスさん?」

ニュクス「ごめんなさい、なんでもないわ。それより、甘いものを買うんでしょう? 一緒に見てあげるわね」

サクラ「は、はい……」

【サクラとニュクスの支援がBになりました】


890 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/15(月) 22:08:33.94/KQigfGu0 (3/4)

◆◇◆◇◆◇
―暗夜王国・クラーケンシュタイン『廊下』―

ラズワルド「はぁ、マークス様に呼び出された。また何かあるのかな……」

ピエリ「あ、ラズワルドなの! またマークス様に呼ばれちゃったの?」

ラズワルド「うん、そうなんだよね」

ピエリ「またラズワルド怒られちゃうの?」

ラズワルド「うん、そうかもしれないね。はぁ、呼び出されるって基本そういう事ばっかりだから、気が滅入っちゃうなぁ」

ピエリ「ラズワルド、落ち込んでるの?」

ラズワルド「少しだけね」

ピエリ「そうなの、ならラズワルドじっとしてるの! えーいなの!」ダキッ ナデナデ

ラズワルド「わっ、ちょ、ピエリ! な、何してるわけ!?//////」

ピエリ「何ってハグハグしてナデナデしてるの。ラズワルドが頑張ってる事、ピエリちゃんと知ってるのよ」

ラズワルド「ピエリ……」

ピエリ「えへへ、それにピエリとラズワルドはマークス様の臣下なの。ラズワルドが困ってたら、ピエリが支えてあげるの」

ラズワルド「こんな僕の事でもピエリは心配してくれるんだね」

ピエリ「当たり前なの。だって、ラズワルドはピエリの仲間で相棒なのよ」

ラズワルド「……相棒?」

ピエリ「そうなの。だからこうやって一緒に支え合えって、マークス様が言ってたのよ」

ラズワルド「……うん、確かにそうだね。ねぇ、ピエリ」

ピエリ「なの?」

ラズワルド「その、なんだか改まって言うのも何なんだけど……。こういう風に呼び出されちゃう僕だけど、これもからも相棒として支えてくれるかな?」

ピエリ「もちろんなの! ラズワルド、辛くなったら言ってなの、ハグハグして頭をナデナデしてあげるのよ」

ラズワルド「……それじゃ、僕はピエリにハグハグしてって言われたら、ちゃんと抱きしめてあげないといけないってことだね。この前みたいにさ」

ピエリ「ラズワルド、これからもピエリがいっぱい頑張れたらハグハグしてくれるの?」

ラズワルド「どうせ、しないって言ったら泣き出すでしょ?」

ピエリ「なの!」

ラズワルド「やっぱり……。まぁ、そういうわけだからこれからもよろしくね、ピエリ」

ピエリ「うん、ピエリがんばちゃうの!」

【ラズワルドとピエリの支援がAになりました】


891 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/15(月) 22:13:12.57/KQigfGu0 (4/4)

今日は支援だけで

 リンカは炎の部族の一人。しかし部族は炎の紋章とは何も関わりがない。なぜなのか……


892 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/20(土) 10:23:05.634jPSGPJA0 (1/6)

◆◆◆◆◆◆
―白夜王国・スサノオ長城『カムイの天幕』―

カムイ「……」

カムイ「………」

カムイ「…………」

 ムクリッ

カムイ「眠れませんね……。休めるときに休まないといけないというのに、こんなのはよくありません」

カムイ(……かといってここにいても眠れる気はしませんし、少しだけ外に出て気分転換しましょう)ガサッ

 バサッ バサッ
  タッ タッ タッ

 リンリンリンリン……

カムイ「これは虫の鳴き声でしょうか。ふふっ、暗夜も白夜も、夜に聞こえる音はどこか似ていますね」

暗夜兵「おや、カムイ様。如何されましたか?」

カムイ「あ、すみません。その寝付けなかったので、少しだけ歩こうと思っていたのですが」

暗夜兵「そうでしたか。現在、特に異常はありません。しかし、あまり遠くへと行かないようにお願いいたします」

カムイ「はい。引き続き、警備をお願いしますね」

暗夜兵「はっ、お任せください。応援到着までの間は、我々が皆様をお守りいたしますので」

カムイ「はい、ありがとうございます。でも、無理はしないでくださいね」

暗夜兵「わかっております。では、失礼いたします!」タタタタタタッ

カムイ「あまり、遠くには行かないよう言われましたから、橋や森の方へと行くことは出来ませんね。ただでさえ、敵の襲撃があるかもしれない状態ですからね。さて、どうしたものでしょう?」

ベルカ「それなら、寝床に戻って休んだらどう?」


893 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/20(土) 10:26:46.404jPSGPJA0 (2/6)

カムイ「わっ、ベルカさん!? もう、気配を消して近づいてこないでください。流石にびっくりしてしまうじゃないですか」

ベルカ「気が緩んでいるだけよ、私の所為じゃないわ」

カムイ「気配を消して近づく必要はないと思うんですけど。ベルカさんも巡回ですか?」

ベルカ「ええ、今日の夜から朝に掛けて応援が到着する見込みだから、竜騎兵隊も定位置で待機するように命令が出ているわ。上空からなら、森から向かってくる先行部隊の発見も容易だし、確認に行くのも速いわ」

カムイ「なるほど、そういうことだったのですね。さすがはカミラ姉さんの臣下さんです」

ベルカ「関係ない。言われた通りに仕事をこなす、それが私のするべきこと、ただそれだけ。そういうことだから、カムイ様は戻って休んだ方がいいわ」

カムイ「そうしたいのは山々なんですけど、どうも寝付け無いようで。少し気晴らしに出てきたところなんです」

ベルカ「そう……」

カムイ「どうやら、ベルカさんもまだ巡回の時間ではないみたいですね」

ベルカ「どうしてそう思うの?」

カムイ「強いて言うなら雰囲気でしょうか。なんだか柔らかい感じがして、まだ任務に入っていないって思ったんですよ

ベルカ「……何か不思議な術を使っているみたいね」

カムイ「そんなもの使ってませんよ。目が見えない分、雰囲気を読み取るのに自信があるだけの事です」

ベルカ「私には理解できない。相手がどう動いてくるのかはそれなりにわかっているつもりだけど、そう言った他人の心情は役に立たないから……」

カムイ「今後、興味を持ってみるのもいいですよ。それよりも、まだ時間が余っているなら、少しご一緒しませんか?」

ベルカ「一緒にいる意味ても、特に何もないと思うけど?」


894 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/20(土) 10:30:04.034jPSGPJA0 (3/6)

カムイ「一人で気晴らしをするのは寂しいですし、それにベルカさんとはまだまだ色々と話したいことがありますから」

ベルカ「話すだけね……。そうは思えないわ」

カムイ「警戒してます?」

ベルカ「あまりあなたの事を信用していないから」

カムイ「おかしいですね。ここまで色々と話をして、私に対しての不信感などを丁寧に拭ってきたつもりなんですけど、何処がいけなかったんでしょうか」

ベルカ「……はぁ、あなたって本当に戦っている時と、今では人が違うわ」

カムイ「そうかもしれませんね。いえ、そうしないといけなくなったといったほうがいいかもしれません。前のまだ何も知らない私でしたら、こんなことを口にさえしなかったでしょう」

ベルカ「……それは弱くなったってこと?」

カムイ「いいえ、私は元から弱かったんです。弱くて、でも自分の弱い場所に気づいてさえもいなかった。それくらい、前の私には何もなかった。毎日起きて、マークス兄さんやレオンさん、カミラ姉さんにエリーゼさんに見守られながら剣技を磨いて、お土産やお話をいっぱい聞いて、そして一日を終えることの繰り返し。多分、あの頃の私には世界がそれだけで、自分が関わる事の意味を理解していなかったんです」

ベルカ「……」

カムイ「私は何かを失ってようやくそのことに気づく、そんな愚かな人間です。戦闘と今のような時に人が違うように見えるのは……、二つの現実を混同できないからだと思います」

ベルカ「その言い方だと、生きている世界が二つある様にも聞こえるわ」

カムイ「実際そうでしょう。前のようにどちらの世界にいても大丈夫だった私はいなくなってしまいました。どこかで仕方なかったという区切りを付けないと、私は今いる私に帰ってこれない。それがここまで歩んで来た私の本質でしょう、私はこうして皆さんを率いていますが、実際私にその立場は務まっていませんよ。マークス兄さんのような方こそが、人々を率いて導く者だと思っていますから」

ベルカ「なら、どうして戦いを続ける? 戦わなければ、区切りをつける必要もないと私は思う」

カムイ「ベルカさんは手厳しいですね」


895 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/20(土) 10:40:54.644jPSGPJA0 (4/6)

ベルカ「私が生きてきた世界はそういうものだった。暗殺もそう、任務が終わった時に死んでしまう人間もいた。どんなに辛いことでもしなければ生き残れなかったから」

カムイ「……」

ベルカ「でも、カムイ様は戦いを止めてもいい。辛いことならやめても構わない。私はそれを責めたりはしないし、他の誰も責めることは出来ないはずよ」

カムイ「ふふっ、ベルカさんは思ったよりも優しい方なんですね。そんな風に言ってくれるなんて……」

ベルカ「逃げることが出来るなら戦いから身を引くべき、そういうことを言っているの」

カムイ「言い直されちゃいましたね。だけど、それが一番楽になれる事は知っています。でも、私はそれを選ぶことが出来ませんでした。あんなふうに、私の事を叱ってくれた人がいたら、逃げるわけにはいきませんからね」

ベルカ「……」

カムイ「すべてを投げ出して逃げることはしたくない、そう思ったんです。逃げたらどうなるかなんてわかりません、だけどその先の可能性を考えることは、あまりにも空しいじゃないですか。こうして皆さんと積み重ねてきた物よりも、捨てた先の事を考えるなんてことは、だから私はその選択をしませんでした。こうやって皆さんと辛い道を歩んでいく方が、意味のあるものだと思っていますから」

ベルカ「そう……」

カムイ「だから、ベルカさんも私と同じ世界の一員です。一緒に戦ってくれる戦友なんですからね」

ベルカ「……わからないわ。でも、悪い気はしない」

カムイ「ふふっ」

ベルカ「ふふっ」


896 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/20(土) 10:44:49.304jPSGPJA0 (5/6)

カムイ「ですから、私はベルカさんとのコミュニケーションも諦めませんよ!」

ベルカ「……どうして、そういう話になるの?」

カムイ「さぁ、ベルカさん。私の膝上は空いています! ほら、少し少し寒いでしょう、今から巡回に出るのに体を冷やしてはいけません。さぁ、私の膝上で温まってください」ポンポンッ!

ベルカ「……」

カムイ「……」ポンポンッ

ベルカ「……」

カムイ「……ダメですか?」シュン……

ベルカ「……わかったわ。これ以上振り回されるのも面倒、すぐに済ませて」

カムイ「ふふっ、やりました。それじゃ、座ってください」

ベルカ「……それじゃ」チョコンッ

カムイ「ふふっ、ベルカさんをようやく膝上に乗せることが出来ました」

ベルカ「……そんなにうれしいもの?」

カムイ「ええ、こうして触れ合う事しか、私にはベルカさんを感じる術がありませんから。お話をするのもいいですけど、断然こちらですね」

ベルカ「そう……。ほんのりだけど、たしかに暖かいわ」

カムイ「では、もっと暖かくしてさしあげ――」ガバッ

ベルカ「何かしたら、その手を逆に曲げてあげるわ。覚悟しておいて」パシッ

カムイ「………ハイ」

ベルカ「………」

ベルカ(………だけど、こういうのも偶にはいいかもしれない。偶にだけど……)ポスッ


897 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/20(土) 10:45:20.844jPSGPJA0 (6/6)

一旦ここまで
 
 残りは夜にでも


898 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/21(日) 11:23:33.548r9LZb+Z0 (1/15)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カムイ「はぁ、ベルカさんは最後の最後でガードが堅いです。そこは少しサービスしてくれてもいいと思うのですが……」

アクア「なにがサービスなのかしら?」

カムイ「あ、アクアさん、こんばんは」

アクア「こんばんは。まったく、何処に行っていたの?」

カムイ「少し気晴らしに、その中々寝付けなかったもので……」

アクア「そう、逆に都合が良かったかもしれない。眠っているあなたを起こして話をするのは、少しだけ気が引けるから」

カムイ「そう言いますけど、アクアさん、容赦なく起こしますよね?」

アクア「そうね、それなりに重要な話なら」

カムイ「では、それなりに重要な話があって探していたということですね。ここで話もなんですから、天幕に戻りましょう」

アクア「あ……」

カムイ「?」

アクア「その、今日は私のところへ来てほしいわ。その、紅茶を準備しているから」

カムイ「それはもったいないです。すぐに向かいましょう?」

アクア「ええ、そうしてくれると助かるわ」


899 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/21(日) 11:31:17.078r9LZb+Z0 (2/15)

アクア「はい、紅茶よ。馴れてはいないから、渋いかもしれないけど……」

カムイ「ありがとうございます。いただきますね」ズズッ

アクア「ど、どう?」

カムイ「おいしいですよ。体もぽかぽかして来ました」

アクア「そう、うまく出来たみたいでよかったわ」

カムイ「で、話というのは何ですか?」

アクア「そのことなのだけど、竜石は持っているかしら?」

カムイ「はい、持っていますよ。と言っても、もう状態に変化があるとは思えませんけど……」ガサガサッ ゴトリッ

アクア「……」

カムイ「どうですか?」

アクア「……真っ黒なままよ。おそらくだけど、もう獣の衝動を抑えるような力が残っているとは思えないわ」

カムイ「そうですか。アクアさんは、またいつか私が暴走してしまう。そう考えているんですね」

アクア「そんなことはないって言いたいけど、貴女はそれを許してくれないでしょう?」

カムイ「はい、出来れば偽ってほしくありません。それにわかっていた方がいい事もあります。それがどんなに辛いものであったとしても、覚悟をしておけばその分、準備できるものもあります。それに、アクアさんは悪いことを否定するためにこうして話をしに来てくれたんですよね? 色々と気を遣わせてしまって、申し訳ないです」

アクア「カムイ、そういうことじゃないの」

カムイ「?」

アクア「もう一度私の力を使って竜石との繋がりを強めておくべきだと思って呼んだのよ」

カムイ「アクアさん……」

アクア「私は、貴方に消えてほしくない。戦いが終わるまでに暴走しないとも限らない、ならここでもう一度……」

カムイ「……ありがとうございます」

カムイ「でもそれは受け入れられません。お気持ちだけ受け取っておきます。それは今するべきことではありませんから」


900 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/21(日) 11:35:41.188r9LZb+Z0 (3/15)

アクア「それは、暴走したときに使うべき力だということなの?」

カムイ「勘違いしないでください、私はアクアさんの事を道具として見ているわけではないんですから」

アクア「……ごめんなさい。だけど、私はあなたにあのような姿になってほしくないわ。他のみんなだってそう思ってるはず。なら、私が力を使ってそれを押しとどめるのは間違いでも何でもないでしょう?」

カムイ「そうかもしれません。でも、私はそのアクアさんが苦しんで得る力より、もっと身近で大切な力を信じたいんです」

アクア「身近で大切な力?」

カムイ「はい、私は皆さんとの絆を信じています。どんなに辛いことがあっても、私を信じてくれる皆さんとの絆、私が私としてい続ける理由にその絆を繋ぎ続けることは含まれています。獣としての衝動や、憎悪なんかに負けるつもりはありません。だって、皆さんとの絆はとても暖かくて、かけがえのないものなんですから」

アクア「そう、皆の絆ね……。ふふっ、カムイらしいことを言うのね。私もその中の一つなら、そう簡単に解かせないからね?」

カムイ「たしかに、アクアさんがいるととても強いものになりますね」

アクア「私が力強いと言っているように聞こえるのだけど?」

カムイ「そうですよ。私の中でアクアさんとの絆はとっても強いものですから」ギュッ

アクア「え、カムイ?」

カムイ「……ほら、こんなに近くにいてこんなに力強く結ばれていて、私のために命の危険がある提案をしてくれる。そんな強いアクアさんに強い絆を感じるのは自然だと思います」

アクア「そ、そう……」

カムイ「それに、なぜかアクアさんと一緒にいるととても落ち着くんです。なんだかポカポカするって言いますか、その……えーと、言葉が見つかりません。でも落ち着くんです」


901 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/21(日) 11:38:21.578r9LZb+Z0 (4/15)

カムイ「私が逃げることを止めてくれましたし、何よりもあなたと出会えたことは私にとってとても重要なことでした。あなたに出会うことが無ければ、私はこうして誰かとの絆を信じる事無く、どこかで死んでいたはずですから」

アクア「カムイは、私と出会ったことで後悔することはないの?」

カムイ「それは私の台詞ですよ。アクアさんに無理な約束を押し付けたり、竜石の処置をしてもらったり、色々と面倒を起こしてばかりじゃないですか」

アクア「そう言われてみると、確かにそうね」

カムイ「あれ、そこはそうでもないと言ってくれるものだと思っていたんですけど」

アクア「事実だから仕方ないでしょ?」

カムイ「ううっ、予想外の展開です。ここはアクアさんに慰めてもらえると思っていたんですけど」

アクア「…隣にいるっていうのが私とあなたの約束だけど、甘やかすのは約束じゃないわ。だけど、覚えていて私はちゃんと隣にいるから……」

カムイ「ふふっ、ありがとうございます。あの紅茶をもう一杯貰ってもいいですか?」

アクア「ええ、すぐに淹れるからまって……?」

 バサッ

レオン「アクア、ちょっといいかい?」


902 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/21(日) 11:46:31.888r9LZb+Z0 (5/15)

カムイ「あれレオンさん、こんな夜にどうかしたんですか?」

レオン「あ、姉さんここにいたんだね。アクアなら姉さんの居場所を知ってると思ったけど、ここにいるとは思ってなかった」

アクア「……それで、何の用かしら?」

レオン「……なんか、刺々しい声だけど。僕、何かしたかな?」

アクア「別に……」

レオン「そ、そうかい。ならいいんだけど……」

カムイ「私に用があるみたいですが、一体?」

レオン「そうだった。今、先行隊が今到着してね、一度打ち合わせをするから姉さんにも来てもらいたくて」

カムイ「わかりました。ということは応援部隊の完全到着は明日の昼頃ほどになるかもしれませんね」

レオン「大体それくらいだね。それを見越しての小さな会議ってところかな」

カムイ「では、すぐに向かいますね。アクアさんはゆっくり休んでいてください。その紅茶は今度でもいいですか?」

アクア「ええ、仕方ないもの。私が出る必要はないみたいだから、ゆっくり休ませてもらうわね」

カムイ「はい。では、いきましょう、レオンさん」

カムイ(この戦いの終わり。それがいったいどこに至るのかはわかりません。でも、進み続けるしかありません)

カムイ(白夜と暗夜の戦争。この戦いを終わらせるために……)


903 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/21(日) 11:47:27.088r9LZb+Z0 (6/15)

 一旦ここまで


904 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/21(日) 22:53:07.648r9LZb+Z0 (7/15)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◇◇◇◇◇◇
―白夜王国・シラサギ城『ヒノカの部屋』―

ヒノカ「……すぅ……すぅ……」

リョウマ「……」

ヒノカ「ううっ、うううううっ……うあああああっ!!!!」

リョウマ「ヒノカ! 今薬を準備する、少しの間、我慢してくれ」ガサゴソガサゴソッ

ヒノカ「ううっ、一人に……しないで……。うああああっ」

リョウマ「ヒノカ、これを。ゆっくりでいい、少しずつ飲むんだ……」

ヒノカ「んっ、んぐっ……はぁ……はぁ……。リョウマ兄様……? ここは、私は……」

リョウマ「大丈夫だ、俺はお前の傍にいる。何も心配することはない、だから今はゆっくり休め。疲れているだろう?」

ヒノカ「そうか、私は疲れているんだな……。疲れたままではアサマとセツナに迷惑を掛けてしまう……」

リョウマ「なら、今は休むべき時だ。大丈夫だ、次に目が覚めた時には疲れもなくなっているはずだからな」

ヒノカ「ああ。すぅ……すぅ……」

リョウマ「……」
 
 タタタタタッ

ミタマ「失礼いたしますわ、リョウマ様」


905 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/21(日) 23:04:08.178r9LZb+Z0 (8/15)

リョウマ「ミタマか……」

ミタマ「物音が聴こえましたので、ヒノカ様になにかあったのかと思いましたので」

リョウマ「もう大丈夫だ。すまない、本当ならばお前も休みたいはずだというのに、ヒノカの事を任せてしまって」

ミタマ「いいえ、敵の待ち伏せに気づかず、途中で逸れてしまった私たちは、ヒノカ様を守れなかった、お世話をするのは当然のことですわ」

リョウマ「いや、わずかだが王都にたどり着けた者もいる。それにヒノカはこうして生還した、これ以上望むことなどありはしない」

ミタマ「ですが、臣下のお二人はまだ……」

リョウマ「……聞いている。探索隊を出してはいるが、それももうないだろう。ユキムラは王都の防衛を優先するつもりだ、もう戻ってこない者たちを探すことはないだろう。それよりもミタマ、お前たちが対峙した敵はカムイ達にも刃を向けたのだったな」

ミタマ「はい……。ユキムラ様を支持する方々には、何を言っても通じませんでしたが、彼らは私たちも暗夜軍も見境なく攻撃してきました。おそらく、ガロン王の手の者と思いますけど、話ではテンジン砦の一件で、ガロン王の部隊は大きな損害を出したと……」

リョウマ「出所はわからないが、向こうにはまだそれほどの力があるということだろう。しかし、そんな中でもカムイはヒノカを救うために戦ってくれたのだな。こんなに近くにいながら、何もできなかった俺と違ってな……」

ミタマ「リョウマ様は監禁されていました。私たちをスサノオ長城に送り、出来る限りの人々を王都へ帰還させる。それがあの時に出来た最善の手ですわ」

リョウマ「最善か……」

リョウマ(多くの将兵を死に追いやっておきながら、これが最善と思わなくてはいけない。思いたくもないというのに、心のどこかではこれしかなかったと諦めている己がいる……。それが、とても不快でならない)




906 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/21(日) 23:29:55.678r9LZb+Z0 (9/15)

リョウマ「……ユキムラは何と言っている」

ミタマ「敗北に対する罪の清算を民に見せないままでは収拾がつかないということを言っていましたわ」

リョウマ「形を成したいんだろう。ユキムラも民が思ったように動いてくれないことに、いい加減苛立ちを隠せないでいるようだからな……。もう、白夜は国として歩むことさえままならなくなっているということだ……」

ミタマ「リョウマ様、あまり大きな声では言えませんが、多くの兵が最後の機会を伺っています。こちらの数は多くはありませんが、今打って出ることも……」

リョウマ「それ以上は言わないでいい。俺がそれに頷くことはない。お前たちにその気があろうとも、俺はそれに賛同することは出来ない」

ミタマ「リョウマ様……」

リョウマ「ミタマ、ヒノカの傍にいてやってほしい。俺はもう牢に戻らなければならない。よもや、監視もつかないほどに、俺を脅威と思っていないとしても、体だけは取っておいたほうがいいからな」

ミタマ「は、はい……」

ヒノカ「……んんっ」

リョウマ「……ヒノカ、いい夢を見るんだぞ」

ヒノカ「すぅ……すぅ……」

 タッ タッ タッ
  スーッ ピシャリ

ミタマ「リョウマ様は多くの兵を王都に戻して、何をしようとしていたのでしょうか。いえ、もうそれを考える意味はありませんわね。多くの兵は、あの戦いで命を落としてしまいましたから」

ミタマ(私たちは運よく逃げ切れただけ、もうこの王都に……。いえ、白夜王国には満足に戦える戦力など残っていません。それはユキムラ様も分かっているはず、たとえ王族の誰かを処刑したところで、戦いに人を駆り立てられるわけもないというのに……)

ミタマ「それでも戦うのは、やっぱり人の性というものでしょうか」

ミタマ「……『死地の庭、佇む陰と、陽の光』……」

ミタマ「陰と陽、どちらの理由であっても、これは思いが作った地獄に他なりませんわ」


907 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/21(日) 23:32:40.018r9LZb+Z0 (10/15)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
―白夜王国・シラサギ城『個室』―

上級武将A「聞いたか……。民の間の暗夜軍の噂を」

上級武将B「まったくです。それもこれも王族の失態が原因でしょう。よもや、民の中に降伏するべきだと口にする者がいるとは」

上級武将A「これは由々しき事態だ。早く、王族の一人でもいい。先刻の失態の責任を取らせるべきところだろう! 多くの将兵も暗夜の影に怯え、これでは何のためにユキムラの下に付いたかわからぬ。白夜の民を戦地へと送った我々を彼らは、許しはしない。奴がそう言ったからこそ、我々はこうしてユキムラの指示にしたがっているというのに!」

上級武将B「それを言っても始まりませんよ。今は生贄となる王族を決めることの方が先、と言っても使い物にならなくなったヒノカ王女以外に選択肢などありませんが」

上級武将A「しかし、あのリョウマ王子がそれをするとは思えない。ユキムラ様は大丈夫だと言っていたが、果たしてそうなるのか? それにリョウマ王子がこの状況下で暗夜軍と手を組み、襲い掛かってくるかもしれない。そうなってしまったら、我々は袋の鼠だ」

上級武将B「……やはり、風の噂は本当の事と考えていいでしょう。ほら、突然決まったスサノオ長城への応援、あの者たちは王族を慕う方々ばかりでした。それに、ヒノカ王女戦死という形で白夜の指揮を高めるというユキムラ様の案。そのことに気づいているからこその応援と考えれば、私たちに反旗を翻す大義名分をリョウマ王子は持ったと言ってもいい」

上級武将A「ではどうするというのだ!? 暗夜とリョウマ王子が手を結べば、我々に勝ち目など……」

上級武将B「ですから、そうさせないようにすればいいんですよ。リョウマ王子に選択肢などないということを、教えてあげればよいのです」

上級武将A「しかし、ユキムラに何も言わずにことを進めても良いのか?」

上級武将B「いいのです。どちらにしても、風の噂を流すだけですから。それが早ければ早いほどいいし、流れても困る物ではありません。なにせ――」

「それで恨まれるのは私たちではなく、ユキムラ様だけなのですからね……」

休息時間3 終わり


908 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/21(日) 23:34:02.958r9LZb+Z0 (11/15)

○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアA
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ギュンターA
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアB+
(カムイに従者として頼りにされたい)
フローラB++
(すこしは他人に甘えてもいいんじゃないかと言われています)
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
リリス(消滅)
(主君を守り通した)

―暗夜第一王子マークス―
ラズワルドA
(あなたを守るといわれています)
マークスB++
(何か兄らしいことをしたいと考えています)
ピエリB
(弱点を見つけると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
オーディンA
(二人で何かの名前を考えることになってます)
ゼロB+
(互いに興味を持てるように頑張っています)
レオンA
(カムイに甘えてほしいと言われて、いろいろと考えています)

―暗夜第一王女カミラ―
ルーナA
(目を失ったことに関する話をしています)
カミラA
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ベルカB+→B++
(生きてきた世界の壁について話をしています)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼA
(昔、初めて出会った時のことについて話しています)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィB++
(一緒に訓練をしました)

―白夜第二王女サクラ―
サクラA
(カムイと二人きりの時間が欲しいと考えています)
カザハナA
(素ぶりを一緒にする約束をしています)
ツバキB
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
シャーロッテA
(返り討ちにあっています)
フランネルB+
(宝物を見せることになっています)
サイラスB+
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB++
(許されることとはどういうことなのかを考えています)
スズカゼB
(おさわりの虜になったようです)
モズメB+
(時々料理を食べさせてもらう約束をしています)
リンカB+
(過去の雪辱を晴らそうとしています)
ブノワC+
(イベントは起きていません)
アシュラB
(暗夜での生活について話をしています)


909 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/21(日) 23:35:18.328r9LZb+Z0 (12/15)

 仲間間支援の状況-1-

●異性間支援の状況
【支援Aの組み合わせ】
・レオン×カザハナ
 C[本篇の流れ] B[3スレ目・300] A[3スレ目・339]
・ジョーカー×フローラ
 C[1スレ目・713~715] B[1スレ目・928~929] A[2スレ目・286]
・レオン×サクラ
 C[1スレ目・511~513] B[2スレ目・297~299] A[3スレ目・797]
・ラズワルド×ルーナ
 C[1スレ目・710~712] B[2スレ目・477] A[4スレ目・177]
・アクア×オーディン
 C[3スレ目・337] B[3スレ目・376] A[4スレ目・353]
・ルーナ×オーディン
 C[4スレ目・352] B[4スレ目・411] A[4スレ目・460]
・ラズワルド×エリーゼ
 C[1スレ目・602~606] B[3スレ目・253] A[4スレ目・812]
・ベルカ×スズカゼ
 C[3スレ目・252] B[3スレ目・315] A[5スレ目・57]
・オーディン×ニュクス
 C[1スレ目・839~840] B[3スレ目・284] A[5スレ目・362]
・サクラ×ラズワルド
 C[5スレ目・303] B[5スレ目・337] A[5スレ目・361]
・アクア×ゼロ
 C[1スレ目・866~867] B[4スレ目・438] A[5スレ目・456]
・ラズワルド×ピエリ
 C[5スレ目・823] B[5スレ目・862] A[5スレ目・890]←NEW

【支援Bの組み合わせ】
・ブノワ×フローラ
 C[2スレ目・283] B[2スレ目・512]
・エリーゼ×ハロルド
 C[2スレ目・511] B[2スレ目・540]
・レオン×エルフィ
 C[3スレ目・251] B[4スレ目・437]
・アシュラ×サクラ
 C[3スレ目・773] B[5スレ目・106]
・ギュンター×ニュクス
 C[3スレ目・246] B[5スレ目・480]

【支援Cの組み合わせ】
・サイラス×エルフィ
 C[1スレ目・377~380]
・モズメ×ハロルド
 C[1スレ目・514~515]
・ルーナ×ハロルド
 C[3スレ目・375]
・カザハナ×ツバキ
 C[3スレ目・772]
・ツバキ×モズメ
 C[5スレ目・15]
・ラズワルド×シャーロッテ
 C[5スレ目・479]
・ブノワ×エルフィ
 C[5スレ目・822]
・マークス×リンカ
 C[5スレ目・888]←NEW


910 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/21(日) 23:36:14.638r9LZb+Z0 (13/15)

仲間間支援の状況-2-

●同性間支援の状況
【支援Aの組み合わせ】
・リンカ×アクア
 C[1スレ目・888~889] B[2スレ目・285] A[3スレ目・254]
・ピエリ×カミラ
 C[1スレ目・752~753] B[2スレ目・478] A[2スレ目・513]
・フェリシア×ルーナ
 C[1スレ目・864~865] B[1スレ目・890~891] A[1スレ目・930~931]
・フローラ×エルフィ
 C[1スレ目・471~472] B[3スレ目・338] A[3スレ目・377]
・レオン×ツバキ
 C[1スレ目・492~493] B[1スレ目・870] A[3スレ目・798]
・ベルカ×エリーゼ
 C[2スレ目・284] B[3スレ目・301] A[4スレ目・354]
・ピエリ×ルーナ
 C[3スレ目・249] B[4スレ目・317] A[4スレ目・412]
・アクア×ルーナ
 C[3スレ目・283] B[4スレ目・461] A[4スレ目・813]
・カミラ×サクラ
 C[4スレ目・175] B[5スレ目・58] A[5スレ目・107]
・ギュンター×サイラス
 C[1スレ目・926~927] B[3スレ目・316] A[5スレ目・363]
・シャーロッテ×カミラ
 C[2スレ目・476] B[4スレ目・439] A[5スレ目・436]
・ラズワルド×オーディン
 C[4スレ目・459] B[5スレ目・338] A[5スレ目・457]
・フェリシア×エルフィ
 C[1スレ目・367~368] B[2スレ目・541] A[5スレ目・481]

【支援Bの組み合わせ】
・シャーロッテ×モズメ
 C[3スレ目・248] B[3スレ目・285]
・ベルカ×ニュクス
 C[4スレ目・176] B[4スレ目・410]
・シャーロッテ×カミラ
 C[2スレ目・476] B[4スレ目・439]
・ジョーカー×ハロルド
 C[1スレ目・426~429] B[5スレ目・336]
・ルーナ×カザハナ
 C[4スレ目・780] B[5スレ目・861]
・サクラ×ニュクス
 C[5スレ目・860] A[5スレ目・889]←NEW


【支援Cの組み合わせ】
・エルフィ×モズメ
 C[1スレ目・423~425]
・ピエリ×リンカ
 C[3スレ目・247]
・ピエリ×フェリシア
 C[3スレ目・250]
・フローラ×エリーゼ
 C[4スレ目・178]
・エルフィ×ピエリ
 C[3スレ目・771]
・スズカゼ×オーディン
 C[4スレ目・318]
・サクラ×エルフィ
 C[3スレ目・774]
・ルーナ×フローラ
 C[4スレ目・781]
・エリーゼ×カザハナ
 C[5スレ目・14]
・ハロルド×ツバキ
 C[5スレ目・56]
・アシュラ×ジョーカー
 C[5スレ目・105]
・マークス×ギュンター
 C[5スレ目・302]
・ラズワルド×ブノワ
 C[5スレ目・435]


911 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/21(日) 23:42:40.538r9LZb+Z0 (14/15)

今日はここまで

 白夜で蠢く悪意、それが齎すものは……
 
 次の展開を安価で決めたいと思います、参加していただけると幸いです。

◆◇◆◇◆◇
○カムイと話をする人物(支援A以外)

 ジョーカー
 フェリシア
 フローラ
 マークス
 ピエリ
 レオン
 ゼロ
 ベルカ
 ハロルド
 エルフィ
 サイラス
 ニュクス
 ブノワ
 モズメ
 リンカ
 ツバキ
 スズカゼ
 アシュラ
 フランネル

 >>913と>>914

 次に続きます。


912 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/21(日) 23:44:11.218r9LZb+Z0 (15/15)

○支援イベントのキャラクターを決めたいと思います。

 アクア
 ジョーカー
 ギュンター
 フェリシア
 フローラ
 マークス
 ラズワルド
 ピエリ
 レオン
 ゼロ
 オーディン
 カミラ
 ベルカ
 ルーナ
 エリーゼ
 ハロルド
 エルフィ
 サイラス
 ニュクス
 ブノワ
 シャーロッテ
 モズメ
 リンカ
 サクラ
 カザハナ
 ツバキ
 スズカゼ
 アシュラ
 フランネル

 >>915と>>916

(すでにイベントが発生しているキャラクター同士が選ばれた場合はイベントが進行、支援状況がAになっている組み合わせの場合は次レスのキャラクターとの支援になります)

○進行する異性間支援の状況
【支援Bの組み合わせ】
・ブノワ×フローラ
・エリーゼ×ハロルド
・レオン×エルフィ
・アシュラ×サクラ
・ギュンター×ニュクス

【支援Cの組み合わせ】
・サイラス×エルフィ
・モズメ×ハロルド
・ルーナ×ハロルド
・カザハナ×ツバキ
・ツバキ×モズメ
・ラズワルド×シャーロッテ
・ブノワ×エルフィ
・マークス×リンカ

 この中から一つ>>917
(会話しているキャラクターの組み合わせと被ってしまった場合は、その一つ下のになります)
 
○進行する同性間支援
【支援Bの組み合わせ】
・シャーロッテ×モズメ
・ベルカ×ニュクス
・シャーロッテ×カミラ
・ジョーカー×ハロルド
・ルーナ×カザハナ
・サクラ×ニュクス

【支援Cの組み合わせ】
・エルフィ×モズメ
・ピエリ×リンカ
・ピエリ×フェリシア
・フローラ×エリーゼ
・エルフィ×ピエリ
・スズカゼ×オーディン
・サクラ×エルフィ
・ルーナ×フローラ
・エリーゼ×カザハナ
・ハロルド×ツバキ
・アシュラ×ジョーカー
・マークス×ギュンター
・ラズワルド×ブノワ

 この中から一つ>>918

 このような形ですみませんがよろしくお願いいたします。


913以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/21(日) 23:55:34.516/DwhZ+h0 (1/1)

フローラ


914以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/21(日) 23:57:54.916onytxLbO (1/1)


ハロルド


915以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/22(月) 00:08:00.73/ssB5IlSO (1/1)

サクラ


916以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/22(月) 00:11:03.43GcLXKvT60 (1/1)

ニュクス


917以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/22(月) 07:43:31.29o6rKcDCP0 (1/1)

・マークス×リンカ


918以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/22(月) 10:40:55.960gMlq2zQO (1/1)

エリーゼカザハナ


919 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/25(木) 21:49:16.599xscSEjG0 (1/4)

◆◇◆◇◆◇
―白夜王国・イズモ公国『宿場の部屋』―

サクラ「あのニュクスさん……」

ニュクス「あら、サクラ王女。いったいどうしたのかしら? また甘いものを食べに行ったのかと思っていたのだけど?」

サクラ「そんな毎日食べませんよぉ」

ニュクス「ふふっ、ごめんなさいね。つい、揶揄いたくなってしまって。それでどうしたの?」

サクラ「……ニュクスさんって、本当は私よりもずっと年上なんですよね?」

ニュクス「……どうしてそう思ったの?」

サクラ「前にニュクスさんが言ってたことが気になって、それで……そのニュクスさんってとても落ち着いていますし、私と同じくらいに見えるけど、違う気がして、もしかしたらって……」

ニュクス「そう、サクラ王女って見た目と違って、よく考えられる子なのね。これだけしか話してないのに、見破られてしまうなんて、私も色々としゃべりすぎちゃったのかもしれないわ」

サクラ「そ、それじゃ、やっぱり……」

ニュクス「……気持ち悪いでしょう? 貴女よりも小柄なのに、ずっと年上だなんて言われたら、気味が悪くてしょうがないと思うのも無理はないわ」

サクラ「どうして、そうなってしまったんですか。こんな風に成長が止まってしまうなんて…」

ニュクス「私はね、悪魔と言われてもおかしくないほどに罪を犯して来たの。あなたと同じくらいの時の事だけど、思い起こせば子供だったからという言い訳が通用しないような、恐ろしいことを行っていたの」

サクラ「それが原因なんですか?」

ニュクス「ええ、これは私に与えられた罰なの。どんなに時間を掛けても拭えない、一生背負っていくことになるもの。そんな女と一緒にいたくはないでしょう?」

サクラ「……そんなことありません。私、ニュクスさんと一緒にいて楽しかったです」

ニュクス「話を聞いてなかったの? 私は……」

サクラ「その話だけ聞いてるとニュクスさんが昔ひどいことをしてたことはわかります。でも、それは今のニュクスさんと接する私には関係のないことです。私が知ってるのは、大人っぽくて落ち着いてて、甘いものよりも渋かったり苦かったりするものが好きで、大人っぽいって言われてウキウキしちゃうニュクスさんだけです」

ニュクス「な、何を言っているの。あの時の態度はそういう物じゃないわ」

サクラ「では、どういう物なんですか?」

ニュクス「うっ……、中々やるわね。あなたの事、ただの箱入り娘だと思っていたけど、中身は思ったよりしっかりしてるじゃない」

サクラ「えへへ。私、ちゃんと大人になります」

ニュクス「?」

サクラ「ニュクスさんに言われた通り、ちゃんとゆっくり大人になっていきます。ニュクスさんにいつか大人になったって言ってもらえるように」

ニュクス「……ふふっ、そういう事だったのね。いいわ、あとどれくらいで大人になれるのかはわからないけど、サクラ王女が成長していくのをのんびりと見させてもらうわね」

サクラ「はい。見ててください。ニュクスさんが驚くくらい、立派な大人になって見せますから!」

【サクラ×ニュクスの支援がAになりました】


920 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/25(木) 21:56:18.749xscSEjG0 (2/4)

◆◇◆◇◆◇
―暗夜王国・クラーケンシュタイン『訓練場』―

リンカ(結局、マークスに誤解されたままだ。だが、今日こそは誤解を解いておかないといけない)

リンカ「マークス、少しいいか?」

マークス「む、リンカ。どうかしたのか?」

リンカ「この前の話のことだ。あたしの戦い方について、聞きたいと言っていただろ」

マークス「ああ、もしや話してくれる気になったのか?」

リンカ「いや、そうじゃない。あたしの戦い方を知りたいと言ってくれるのはうれしいが、教えることなんて何もないんだ」

マークス「……」

リンカ(この無言、わかったということか?)

マークス「リンカ」

リンカ「なんだ?」

マークス「つまりお前はこう言いたいのだな。私には伝える意味がないと?」

リンカ「そ、そうだ。あたしの戦い方はマークスには理解できないものだろうし、なによりも教える意味のないものだからな」

リンカ(この説明で、納得してくれるはずだ。なにせマークスは暗夜の王子なんだからな……)

マークス「なるほど、すまなかったな、リンカ。私は誤解をしていたようだ」

リンカ「わかってくれたか」

マークス「ああ、どうやらお前は根っからの実力主義者のようだ。今の言い方、おそらく対等に渡り合えるもの出ない限り、戦い方の作法を教えられないし、理解できない。そういうことだな?」

リンカ「な、何を言っているんだ!?」

マークス「ならば、私は私の力をお前に示すまでのことだ」

リンカ「どうしてそうなる!? マークス、落ち着いて話を聞け。あたしの戦い方はあんたの求めてるようなものじゃなくて――」

マークス「行くぞリンカ! 我が剣捌きがお前と渡り合うことのできると証明してみせる!」

リンカ「なっ、くそっ、こうなったら戦うしかない。うおおおおおおっ!!!!!」

【マークスとリンカの支援がBになりました】


921 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/25(木) 22:04:22.159xscSEjG0 (3/4)

◆◇◆◇◆◇
―暗夜王国・レオンの屋敷『中央の庭』―

エリーゼ「カザハナ、白夜にはどんな花が咲いてるの?」

カザハナ「白夜に咲いてる花だよね。えっと、たんぽぽ、梅、椿に牡丹、それに菊とか……他にもまだまだいっぱいあるかな」

エリーゼ「そうなんだ。ねぇねぇ、カザハナはどの花が一番好きなの?」

カザハナ「えへへ、あたしは桜だよ」

エリーゼ「えっと、あたしサクラの話じゃなくて、好きな花の事を聞いてるんだけど……」

カザハナ「あ、エリーゼ王女は知らないんだね。白夜には桜って名前の花があるんだよ」

エリーゼ「ええ、そうなの!?」

カザハナ「うん、花としての桜も主君としてのサクラも大好きだから。エリーゼは好きな花はあるの?」

エリーゼ「え、えっと、うーん、いっぱいあるからすぐに決められないよぉ」

カザハナ「そっか。エリーゼ王女の特別にも特別な花が出来るといいね。あたしは、ずっとサクラと一緒に過ごして来たから、桜の花の事も好きになっていったんだ」

エリーゼ「どんな花なの?」

カザハナ「桜ってこんなに大きな木なんだよ、それで春先になると小さな蕾が出来て、それがぱぱぱって開くの。満開の桜はとっても綺麗で、見てるだけで思わず息が漏れちゃうくらいなんだから」

エリーゼ「そうなんだ。いいなぁ」

カザハナ「?」

エリーゼ「羨ましいって思って。サクラはとっても大きくて綺麗な花と同じ名前だから……。だけど、あたしは……」

カザハナ「エリーゼ王女?」

エリーゼ「……ううん、何でもないよ。それより、今日は何して遊ぼっか?」

カザハナ「……うん、なにしよっか? あ、そうだ。互いに花束を作って交換するっていう遊びはどう?」

エリーゼ「花束だね。よーし、とびっきり綺麗なのを作って、カザハナを驚かせちゃうんだから! がんばるぞー!」タタタタッ

カザハナ「あ、ちょっと先に始めるなんて、ずるいよ!」

カザハナ(さっき、何か言ってたけど……。もしかしてエリーゼ王女の名前も、サクラと同じで花の名前なのかな?)

【カザハナとエリーゼの支援がBになりました】


922 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/25(木) 22:06:06.079xscSEjG0 (4/4)

今日は支援だけ

 ニュクスの呪い云々は多くの仲間たちには知られていないらしいけど、恋愛小説と珈琲を欠かさない当たり。多くが勘ぐってる気がしてならない。


923 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/29(月) 20:41:45.8314dIXqkY0 (1/18)

◆◆◆◆◆◆
―白夜王国・スサノオ長城『作戦会議用天幕』―

カムイ「それで、準備の方はどうなっていますか?」

暗夜兵「はい、大まかな作業は終わっております。残りは各員の携帯物資の仕分けなどですが、これも間に合いそうです。そして、先行隊からの話では応援本隊の到着予定は正午程と思われます」

カムイ「わかりました。引き続き、残りの作業に取り掛かってください。後続の到着後、すぐに動き出さなくてはいけませんから」

暗夜兵「わかりました、それでは失礼いたします!」

タタタタタッ

レオン「みんなよく頑張ってくれてるよ。あんなことがあって、まだ日もそれほど経っていないっていうのにね」

カムイ「はい。皆さんにはずっと戦い続けてもらっていますから。本当に感謝しないといけません。ところで、白夜王都までの道に何かしらの障害はあるのでしょうか?」

マークス「偵察のために数人を向かわせた。今日の明け方に戻った者たちの話では、しばらくの間は森が続いているが、白夜軍が駐留している気配はないと報告がある」

レオン「仕方ないよ、このスサノオ長城から王都まで生きて帰った兵はあの見えない敵を知っているし、ユキムラの案に乗った人間も王族派のほとんどが帰っていないとなれば、準備はしても王都の周辺でもない限りは陣を作らないはずだ」

マークス「王都周辺に陣を作って我々が来るのを待っているとすれば、この森を抜けるまでの間に白夜軍との大規模な戦闘は起きないと考えられる。もっとも、ただの仮説に過ぎないがな」

カムイ「仮説でも十分です。それに戦わないで済むのならばそれに越したことはありません。王都まで出来れば早く至れるなら、この機会を逃すわけにはいきません」

マークス「その通りだ。しかし、王都決戦を考えている以上、向こうも兵力の補強を無理矢理にでも図る可能性があるな」

カミラ「ええ、足りない兵を民間人で埋める可能性もあるわ。私たちからすれば一番してもらいたくないことね」


924 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/29(月) 20:56:23.1314dIXqkY0 (2/18)

アクア「彼らが市民に武器を持たせて戦いを始める前に終わらせたいところだけど、それは難しそうね。それに土壇場で切り札を使われる可能性もあるわ」

サクラ「切り札、ですか?」

マークス「我々にとって脅威となりえる切り札。やはり、リョウマ王子にヒノカ王女といった王族の存在になるだろう」

アクア「ええ、それを盾にしてくる可能性もあるという事よ」

カムイ「リョウマさん、ヒノカさんを使って降伏を迫ってくるという事ですか?」

レオン「その可能性は高いけど、もしかしたらユキムラはそういう形で王族を使わないかもしれない」

エリーゼ「レオンおにいちゃんはどうしてそう思うの?」

レオン「単純な話だけど、二人のどちらかを人質としたその瞬間に白夜のパワーバランスは変化する。処刑の話が上がれば、王族派はもうユキムラに従う必要がなくなるからね。ヒノカ王女もリョウマ王子も処刑されるという話になれば、さすがに王族派の離反は必死だ。王族の死というが僕たちが原因であるとは言えなくなる以上、その手を使ってくるとは思えないんだ」

サクラ「暗夜王国の所為に出来るから、ヒノカ姉様を殺そうとしていたということですよね」

レオン「恐らくはね。ヒノカ王女が無事に王都へと戻っているなら、まだ時間はある。ただ、死亡しているという最悪のケースを想定した場合、もうユキムラはヒノカ王女の死を僕たち暗夜の仕業として謳いあげているはずだ……。もっとも、スサノオ長城から王都まで逃げ切れた人間は少なからずいるだろうから、そう簡単にユキムラの思う通りに事が運ぶとは思えないけど」

カムイ「……最悪の場合だったとしても、今はそれに賭けるしかないということですか。どちらにしても、白夜王都には早く到達する必要がありそうです」

エリーゼ「そうだよね。もたもたしてたら、もっと悪いことをするかもしれないもん」


925 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/29(月) 21:01:56.1014dIXqkY0 (3/18)

マークス「敵に新たな策を討たせる余裕を与えるつもりはない。王都までの道は最短を通っていく予定だ。だが、大勢で動けばいずれ発見されるのは間違いない。そこから敵の準備が整うよりも早く、王都に肉薄するのが最初の目的となるだろう」

カミラ「そうね、だけど王都の陣を突破してから王城の攻略では時間が掛かりすぎるわ」

マークス「ああ、そこで王都での戦いと王城への少数先鋭による攻撃は、ほぼ同時に行う。王都の攻撃部隊は敵を引き付け、王城に侵入した者たちで敵の中枢を叩く。これが主な作戦行動となるだろう」

レオン「カムイ姉さん、同時に行う作戦だから土壇場でメンバーは決められない。突入するメンバーの選抜を最優先に考えてくれるかな? 出来る限り早くでお願い、それによってこっちも作戦を練ることになるからさ」

カムイ「はい、わかりました。レオンさん」

サクラ「これで、両国の戦いが終わるんですよね……」

アクア「ええ、長く続いてきた戦いだけど。もう、この戦いは終わるはずよ」

マークス「多くの者が望まない戦いであることはわかっている。だが、それでも我々は戦わなくてはならない。そうだろう、カムイ?」

カムイ「はい、マークス兄さん。すみませんがよろしくおねがいします」

マークス「よし、正午の出発に備え、各員最終調整と準備に取り掛かれ。ここからしばらくの間、休むことはできないとすべての兵に伝えよ! 一時解散とする」


926 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/29(月) 21:06:48.7314dIXqkY0 (4/18)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◆◆◆◆◆◆
―白夜王国・スサノオ長城『兵員物資置き場』―

カムイ「あと少しで白夜王都に向かって出発ですか……」

カムイ(私の戦ってきたことの一つの終着点、それがもう迫ってきているという事なのでしょうね。この血に溺れている正義、それが得ようとしている一つの結果……。それが奴の言う絶望だったとしたら、私は……)

カムイ「……いいえ、こうして考えても仕方ありません。それに悪いことを考えても意味はないとこの前思ったばかりじゃないですか。しっかりしないと……」

ハロルド「おや、カムイ様」

カムイ「その声、ハロルドさんですね。こんにちは」

ハロルド「ああ、こんにちは。どうかしたのですか?」

カムイ「いえ、物資の仕分けが終わっているそうでしたので、こうして自分の分を取りに来たんです」

ハロルド「そうでしたか。よし、ここでお待ちください。私が取ってきますので」

カムイ「いえ、私が取りに……。そうですね、仕分けされていたとしても、目が見えない私に荷物を取れるわけがありませんから、すみませんがお願いできますか?」

ハロルド「もちろん、お安い御用です。では!」

 タタタタタッ

 ガサゴソガサゴソッ

 タタタタタタッ

ハロルド「お待たせしました。それでは行きましょう」

カムイ「え、行きましょうとは?」

ハロルド「はい、カムイ様の天幕まで物資をお運びいたしますので」

カムイ「いえ、悪いですよ。ここからは私が――」

ハロルド「ご心配なく、それにカムイ様には色々と迷惑を掛けてばかりですから、これくらいのことでも手伝わせていただきたいのです」

カムイ「ハロルドさん……。わかりました。それじゃ行きましょう」

ハロルド「はい、荷物はきちんとお守りしますので、安心してください」

カムイ「ふふっ」


927 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/29(月) 21:14:20.3514dIXqkY0 (5/18)

 タッタッタッ
  タッタッタッ

ハロルド「……白夜の天気というものは暗夜に比べると澄んでいますね」

カムイ「はい、でも夜は暗夜とあまり変わりませんね。虫達の鳴き声も時折聞こえてきますから、少しだけ懐かしい気持ちになります」

ハロルド「やはり、暗夜が恋しくなったりするのですか?」

カムイ「そうですね。暗夜の事を時々思い出します。といっても、ほとんどが暗闇の中にある音の記憶ばかりですが。私にとっては鮮明に残っている思い出です。ハロルドさんにはそういう思い出はあるんですか?」

ハロルド「もちろんあります。そうですね、やはり正義とは何かということを親に教わったことかもしれません」

カムイ「正義……そういえばハロルドさんは正義の味方なんですよね。やっぱり、親の影響だったんですか?」

ハロルド「はい、王都の治安を守ることが喜びでありますが、思えば両親の言葉が今の私を育てたと言えるでしょう」

カムイ「そうなんですね。親はどんな言葉を掛けてくれたんですか?」

ハロルド「はい。正義とは何か…。それを心に問いかけて行動しろ、そう言われました。幼い私はいっぱい考えて、その一つとして自衛活動を始めた。そして今の私がいるというわけです」

カムイ「そうだったんですね。そうですか、ハロルドさんはそんなに幼い頃に正義というものを考え始めていたのですか……」

ハロルド「はい。しかし、お恥ずかしい話を聞かせてしまいましたね」

カムイ「そんなことないですよ。いい話ですし、なによりハロルドさんのしようとしていることは正義と言っていい者ですから。それに比べたら、私のしていることが正義なのかどうかわからりません……」

ハロルド「……カムイ様」

カムイ「はい、なんですか?」

ハロルド「その、あなたが思う正義が間違っているという事はないと、私は思うのです」


928 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/29(月) 21:16:58.6514dIXqkY0 (6/18)

ハロルド「……カムイ様は正義というものが何なのか、よくわからないという顔をしていますが、それは誰にもわからないものです」

カムイ「でも、ハロルドさんは正義の味方なんですよね? では、ハロルドさんのやっていることは正義ではないんですか? 少なくとも、私には正義だと思います。人のためになることを率先して行っているじゃないですか」

ハロルド「そうですね。それが私の思う正義だからです。カムイ様もここまで戦ってきた事は、少なくとも悪いことだと思って始めたわけではないでしょう?」

カムイ「それはそうですが……」

ハロルド「なら、それは正義と呼んで間違いありません。私が育んで来た正義がある様に、カムイ様にも考え育んだ正義がある。正義とは考え抜いた先にある自身の善意の心であり、その志が折れない限り、それは正義であり続ける。私はそう思っています」

カムイ「……すごいですね、ハロルドさん。まるで正義の伝道師みたいです」

ハロルド「伝道師と言えるほどではないと思いますが。でも、よかった」

カムイ「?」

ハロルド「いえ、カムイ様のお力になれたようなので。私は兵士ですから、本当なら戦いの場で力になれることの方がいいのかもしれません。ですが、こういったお話の方で、貴女のお役に立てたのはとてもうれしいのです。それに、このところは色々と辛い出来事ばかりでしたから、力になれたらと思っていたので」

カムイ「……そうでしたか。すみません、そんな風に心配させてしまって。もう、前のようにはいかなくなってしまいましたから、色々と皆さんを幻滅させているかもしれません」

ハロルド「そんなことはありません。カムイ様も人ですから、辛いことや悩みがあるのは当たり前です。それをこうして支えられるのなら、皆喜んで力を貸してくれるはず。もちろん、このハロルドも全力でお支えいたしますよ!」

カムイ「ふふっ、ありがとうございます。やっぱり、ハロルドさんとこうして話している、なんだかとても落ち着きます」

ハロルド「そう言っていただけるだけでも、私はうれしいで――うおおおっ」ツルッ

 ドンガラガッシャンッ!


929 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/29(月) 21:19:16.3814dIXqkY0 (7/18)

カムイ「ハ、ハロルドさん、大丈夫ですか!? ものすごい勢いで転んだみたいですけど?」

ハロルド「あ、ああ。ふぅ、気を抜いてしまうと直ぐこれだ。はぁ、最後までカッコよく決めさせてはくれない様だ……」

カムイ「そうみたいですね。ふふっ、うふふっ」

ハロルド「まったく、はははっ」

カムイ「ここまでありがとうございます。それに荷物はきちんと守ってくれたんですね」

ハロルド「もちろんだとも、カムイ様。それではまた何かあったら相談してほしい。少しでも力になれるのなら、それはとても誇らしいことだからね」

カムイ「はい、でも次はこういうくらい話じゃなくて、もっと明るいお話にしましょう。そうですね、ハロルドさんの武勇伝か何かを聞かせてもらいたいです」

ハロルド「武勇伝ですか、わかりました。とびっきりの話をご用意いしましょう!」

カムイ「はい、楽しみにしています」

ハロルド「ええ!」


930 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/29(月) 21:22:57.8314dIXqkY0 (8/18)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カムイ「よいしょ、よいしょ……ふぅ、私の分の物資はこれで運び終わりましたね。あとは仕分けだけですか。と言っても、すぐに戦闘が始まるとは思えませんし、予備はこちらの荷物入れの中に入れて置きましょう」

カムイ(……しかし、物の形を捕らえるのはやはり難しいです。これは傷薬で、これは、えっと大きさは携帯食のようですけど、でも、この感触は――)ムニムニ

カムイ「うーん、どちらでしょうか?」

 バサッ

フローラ「失礼いたします、カムイ様。……何をされているのですか?」

カムイ「あ、フローラさん。えっと、この携帯食料をどうしようかと思いまして……」

フローラ「カムイ様、それは負傷時に使用するガーゼですよ」

カムイ「あ、ガーゼでしたか。形だけだと、携帯食の類かと思ってしまって、ありがとうございます」

フローラ「ふふっ、カムイ様の気配を読む力は素晴らしいものですけど、そういったものはやはり苦手なのですね」

カムイ「ええ、こればっかりはうまくいきません。それで、どうかしたんですか?」

フローラ「その用は後ほど、今はカムイ様の荷造りを手伝った方がよさそうです。出発の時になってカムイ様の荷造りが終わっていないとなれば、色々と問題になってしまいますから」

カムイ「いえ、大丈夫ですよ。ココから失敗はしませんから」

フローラ「そうですか……。では、これが何かわかりますか?」スッ

カムイ「え、えっと……今度こそ携帯食料ですね」

フローラ「これもガーゼです」

カムイ「……。手伝ってもらってもいいですか?」

フローラ「はい、お手伝いいたしますね。私が品を言うのでどちらにいれるべきかをカムイ様が選んでください」

カムイ「は、はい……」



931 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/29(月) 21:28:35.4214dIXqkY0 (9/18)

カムイ「ふぅ、ようやく終わりました。一人ではやっぱり難しかったです。ありがとうございます、おかげで出発まで少し休める時間が出来ました」

フローラ「いいえ、主を支えるのが私たち臣下の仕事ですから」

カムイ「いろいろと面倒を掛けてしまう主ですみません」

フローラ「そんなことありませんよ。むしろ、城塞を出てからあまりカムイ様にしてあげられる仕事も減ってしまいましたから、こういう小さなことでもお役に立ててうれしいものです」

カムイ「そう言ってもらえると、助かります。それでフローラさんはどうして私の元に? さすがに私が荷造りで困っているのを予想してきたようには思えませんでしたから」

フローラ「それはですね……。カムイ様と紅茶を一緒にと思いまして……」

カムイ「紅茶ですか、そうですね。今度もご一緒すると約束しましたから」

フローラ「はい、カムイ様にその約束を守ってもらうために来たんですよ? ここを出たら、しばらくの間、ゆっくりできるとは思えませんから」

カムイ「ええ、白夜との戦いも大詰めですから、しばらくの間は休むことは出来ないでしょう」

フローラ「そんな戦いに行く前に、ゆっくりカムイ様と過ごしたいと思ったんです」

カムイ「ありがとうございます」

フローラ「それでは、今から淹れさせていただきます。少々――」

カムイ「そんな畏まった言い方はいいですよ。今は主君としてではなくて、フローラさんの友人として接してほしいんですから」

フローラ「友人と言われましても……」

カムイ「逆に難しいですか?」

フローラ「そうですね。カムイ様は命の恩人であり、主君でもあり、そしてなにより私に甘えてもいいなんて言ってくれた、大切で特別な人ですから」


932 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/29(月) 21:31:30.0714dIXqkY0 (10/18)

カムイ「フローラさん」

フローラ「ふふっ、このわずかな期間でカムイ様はとても変わりました。そうですね、前まで感じられなかったカムイ様の内にあるものも、感じられるようになったと言った方がいいかもしれません」

カムイ「なんだか、恥ずかしいですね。私の中を見られてしまっているようで」

フローラ「少しだけです、ほんの少しだけですから。はい、カムイ様。熱いのでお気を付けください」カチャッ

カムイ「ありがとうございます。……んっ、ふふっ、やっぱりフローラさんの紅茶はおいしいです」

フローラ「ジョーカーやフェリシアが淹れたものにも同じことを言っているじゃないですか」

カムイ「それはそれ、これはこれです。それに、こうしてフローラさんと二人きりで楽しむ紅茶は特別なものですからね」

フローラ「特別ですか」

カムイ「はい。この戦いが終わって城塞に戻っても、時折こうして二人で紅茶を楽しむ時間を続けたいです。こうやって二人きりでゆっくり紅茶を飲みながら、ゆったり過ごすんですよ」

フローラ「……本当にそう思ってくれるのですか?」

カムイ「ええ、フローラさんがそれを望んでくれるならです。フローラさんの日常の中に、私を少しでも頼ってくれる時間が合ってもいいなら、私を求めてください。私から甘えてくださいって言った事です、否定する事なんてありませんから」

フローラ「……そうですか」

カムイ「ですから、今だけでもいっぱい甘えてください。今なら、自信満々の私があなたを抱き留めますから」

フローラ「ふふっ、カムイ様はやっぱりおかしな人です。では、少しだけ失礼しますね」スッ

カムイ「はい」スッ

 ダキッ



933 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/29(月) 21:34:54.2414dIXqkY0 (11/18)

カムイ「……いいですよ、もっと強くしていただいても」

フローラ「はい、では遠慮なく」

 ギューーッ

フローラ「はぁ……暖かいです。カムイ様」

カムイ「フローラさん。戦いが終わったら、もっといっぱいお話をしましょう。お仕事終わりの秘密の密会みたいで、とてもワクワクします」ナデナデッ

フローラ「はい、カムイ様。ああ、だめですね」

カムイ「?」

フローラ「こうされる¥ていると、依存してしまいそうで。その、ご迷惑になるかもしれません」

カムイ「私に依存すると大変ですよ。毎日、顔を触られたりとかしちゃいますし、もしかしたら先にフローラさんが根を上げるかもしれません」

フローラ「それは、悪くありませんね。だって、カムイ様は私をこんなに甘やかしてくれる人ですから。逆に、カムイ様が困ってしまうくらい甘えちゃうかもしれませんよ?」

カムイ「ふふっ、そんな日が来ると思うと、少しだけ楽しみになってきますね。フローラさんが私に甘えている光景というのは中々に貴重な物でしょうから」

フローラ「今がそうじゃないですか?」

カムイ「もっとすごいかもしれませんから、ほら理想は高くあるべきだって言いますし」

フローラ「そうですか。なら、無事に城塞に戻れた時は、もっともっと甘えさせていただきますね、カムイ様」

カムイ「ふふっ、わかりました。フローラさん」



934 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/29(月) 21:38:04.9014dIXqkY0 (12/18)

カムイ(あと少しの時間、動かないでほしいと思っていてもそれは来てしまうんでしょうね……。いえ、もうそれは来ているのかもしれません。だって――)

 タタタタタタッ

フローラ「……カムイ様」スッ

カムイ「ええ、どうやらもうおしまいみたいですね」

フローラ「そうみたいです。すぐにご準備を、お手伝いいたします」

カムイ「はい、よろしくお願いします。あ、ごくっ……。美味しかったです、フローラさん。また今度、ご一緒しましょう」

フローラ「はい、カムイ様」

カムイ「……」

カムイ(そうです。私は戦争を終わらせるために戦いを選んだ。戦いの歯車が回り始めた以上、終わりはそう簡単に訪れない。いや、訪れるものではないんです、なぜなら……)

暗夜兵「カムイ様。後続部隊の姿が確認できました、マークス様がお呼びです」

カムイ「はい、今すぐ向かいます」タッ

カムイ(この戦争は私が始めたもので、そして止めることが私の使命でもあるのですから……)


935 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/29(月) 21:42:19.7814dIXqkY0 (13/18)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◆◆◆◆◆◆
―白夜王国・スサノオ長城『白夜王都へと続く街道入り口』―

 ザッ ザザッ

マークス「これで全員だな?」

レオン「うん、これで全員だよ。到着した後続部隊への引継ぎも完了して、今は怪我人や病人の手当ても始まっている。もう僕たちがここで待つ必要は無くなった」

マークス「そうか……。いよいよ、我々は白夜王都に向かうということだな」

カムイ「ええ、出来れば戦う以外の理由で訪れたかったのですが」

エリーゼ「仕方ないよ。カムイおねえちゃんはやれることはやったんだから」

カミラ「やりきれない思いはあるだろうけど、それは今考えてもひっくり返らないこと、今できる最善を出せるようにすることが今できる事なんだから」

カムイ「はい、その通りですね。今できることを、私たちは行うだけです」

マークス「カムイ」

カムイ「はい、マークス兄さん。もう覚悟はできています」

マークス「わかった。お前の意思、確かに伝わった。あとは私に任せてほしい」

カムイ「ええ、お願いします」

マークス「うむ……」

 パカラパカラッ


936 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/29(月) 21:47:08.8714dIXqkY0 (14/18)

暗夜軍兵士一同「………」

 ヒヒーンッ
  パカラパカラッ

マークス「皆の者、よく聞け。ここまで長きにわたる戦いを共に歩んでくれたこと、言葉だけでは言い表せぬほど感謝している。まだ戦いは終わっていない、しかし戦いの終わりはもうそこまで来ている。この長きに渡る暗夜と白夜、両国を蝕んで来た遺恨。それはこの戦いを持って断ち切るべき連鎖であり、戦いの終わりはこれを断ち切ることに他ならない」

 シャキンッ チャキッ!

マークス「諸君の力を貸してほしい」

マークス「諸君の命を預けてほしい」

マークス「諸君の隣を歩ませてほしい。そう――」

マークス「この混沌とし、すべてが失われつつある戦いを終わらせ、真の平和を迎えるために!」

暗夜軍兵士一同『!!!!』

マークス「共に来る先鋭たちよ、その剣を抜き、空へと掲げよ!」シャキンッ

 チャキンッ バッ

暗夜軍兵士一同『うおおおおおおおーーー!‼‼‼』

マークス「みんな、ありがとう。これより、白夜王都へと進軍する!」

 ワーーーーーッ
  ワーーーーッ

カムイ(さぁ、行きましょう。暗闇に包まれた、私の戦いの路――)

(その一つの終着地へ……)タッタッタッ

 休息時間終わり


937 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/29(月) 21:48:12.8714dIXqkY0 (15/18)

○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアA
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ギュンターA
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアB+
(カムイに従者として頼りにされたい)
フローラB++→A
(すこしは他人に甘えてもいいんじゃないかと言われています)
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
リリス(消滅)
(主君を守り通した)

―暗夜第一王子マークス―
ラズワルドA
(あなたを守るといわれています)
マークスB++
(何か兄らしいことをしたいと考えています)
ピエリB
(弱点を見つけると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
オーディンA
(二人で何かの名前を考えることになってます)
ゼロB+
(互いに興味を持てるように頑張っています)
レオンA
(カムイに甘えてほしいと言われて、いろいろと考えています)

―暗夜第一王女カミラ―
ルーナA
(目を失ったことに関する話をしています)
カミラA
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ベルカB++
(生きてきた世界の壁について話をしています)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼA
(昔、初めて出会った時のことについて話しています)
ハロルドB→B+
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィB++
(一緒に訓練をしました)

―白夜第二王女サクラ―
サクラA
(カムイと二人きりの時間が欲しいと考えています)
カザハナA
(素ぶりを一緒にする約束をしています)
ツバキB
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
シャーロッテA
(返り討ちにあっています)
フランネルB+
(宝物を見せることになっています)
サイラスB+
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB++
(許されることとはどういうことなのかを考えています)
スズカゼB
(おさわりの虜になったようです)
モズメB+
(時々料理を食べさせてもらう約束をしています)
リンカB+
(過去の雪辱を晴らそうとしています)
ブノワC+
(イベントは起きていません)
アシュラB
(暗夜での生活について話をしています)


938 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/29(月) 21:49:03.0914dIXqkY0 (16/18)

 仲間間支援の状況-1-

●異性間支援の状況
【支援Aの組み合わせ】
・レオン×カザハナ
 C[本篇の流れ] B[3スレ目・300] A[3スレ目・339]
・ジョーカー×フローラ
 C[1スレ目・713~715] B[1スレ目・928~929] A[2スレ目・286]
・レオン×サクラ
 C[1スレ目・511~513] B[2スレ目・297~299] A[3スレ目・797]
・ラズワルド×ルーナ
 C[1スレ目・710~712] B[2スレ目・477] A[4スレ目・177]
・アクア×オーディン
 C[3スレ目・337] B[3スレ目・376] A[4スレ目・353]
・ルーナ×オーディン
 C[4スレ目・352] B[4スレ目・411] A[4スレ目・460]
・ラズワルド×エリーゼ
 C[1スレ目・602~606] B[3スレ目・253] A[4スレ目・812]
・ベルカ×スズカゼ
 C[3スレ目・252] B[3スレ目・315] A[5スレ目・57]
・オーディン×ニュクス
 C[1スレ目・839~840] B[3スレ目・284] A[5スレ目・362]
・サクラ×ラズワルド
 C[5スレ目・303] B[5スレ目・337] A[5スレ目・361]
・アクア×ゼロ
 C[1スレ目・866~867] B[4スレ目・438] A[5スレ目・456]
・ラズワルド×ピエリ
 C[5スレ目・823] B[5スレ目・862] A[5スレ目・890]

【支援Bの組み合わせ】
・ブノワ×フローラ
 C[2スレ目・283] B[2スレ目・512]
・エリーゼ×ハロルド
 C[2スレ目・511] B[2スレ目・540]
・レオン×エルフィ
 C[3スレ目・251] B[4スレ目・437]
・アシュラ×サクラ
 C[3スレ目・773] B[5スレ目・106]
・ギュンター×ニュクス
 C[3スレ目・246] B[5スレ目・480]
・マークス×リンカ
 C[5スレ目・888] B[5スレ目・920]←NEW

【支援Cの組み合わせ】
・サイラス×エルフィ
 C[1スレ目・377~380]
・モズメ×ハロルド
 C[1スレ目・514~515]
・ルーナ×ハロルド
 C[3スレ目・375]
・カザハナ×ツバキ
 C[3スレ目・772]
・ツバキ×モズメ
 C[5スレ目・15]
・ラズワルド×シャーロッテ
 C[5スレ目・479]
・ブノワ×エルフィ
 C[5スレ目・822]


939 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/29(月) 21:49:28.3814dIXqkY0 (17/18)

●同性間支援の状況
【支援Aの組み合わせ】
・リンカ×アクア
 C[1スレ目・888~889] B[2スレ目・285] A[3スレ目・254]
・ピエリ×カミラ
 C[1スレ目・752~753] B[2スレ目・478] A[2スレ目・513]
・フェリシア×ルーナ
 C[1スレ目・864~865] B[1スレ目・890~891] A[1スレ目・930~931]
・フローラ×エルフィ
 C[1スレ目・471~472] B[3スレ目・338] A[3スレ目・377]
・レオン×ツバキ
 C[1スレ目・492~493] B[1スレ目・870] A[3スレ目・798]
・ベルカ×エリーゼ
 C[2スレ目・284] B[3スレ目・301] A[4スレ目・354]
・ピエリ×ルーナ
 C[3スレ目・249] B[4スレ目・317] A[4スレ目・412]
・アクア×ルーナ
 C[3スレ目・283] B[4スレ目・461] A[4スレ目・813]
・カミラ×サクラ
 C[4スレ目・175] B[5スレ目・58] A[5スレ目・107]
・ギュンター×サイラス
 C[1スレ目・926~927] B[3スレ目・316] A[5スレ目・363]
・シャーロッテ×カミラ
 C[2スレ目・476] B[4スレ目・439] A[5スレ目・436]
・ラズワルド×オーディン
 C[4スレ目・459] B[5スレ目・338] A[5スレ目・457]
・フェリシア×エルフィ
 C[1スレ目・367~368] B[2スレ目・541] A[5スレ目・481]
・サクラ×ニュクス
 C[5スレ目・860] B[5スレ目・889] A[5スレ目・919]←NEW

【支援Bの組み合わせ】
・シャーロッテ×モズメ
 C[3スレ目・248] B[3スレ目・285]
・ベルカ×ニュクス
 C[4スレ目・176] B[4スレ目・410]
・シャーロッテ×カミラ
 C[2スレ目・476] B[4スレ目・439]
・ジョーカー×ハロルド
 C[1スレ目・426~429] B[5スレ目・336]
・ルーナ×カザハナ
 C[4スレ目・780] B[5スレ目・861]
・エリーゼ×カザハナ
 C[5スレ目・14] B[5スレ目・921]←NEW


【支援Cの組み合わせ】
・エルフィ×モズメ
 C[1スレ目・423~425]
・ピエリ×リンカ
 C[3スレ目・247]
・ピエリ×フェリシア
 C[3スレ目・250]
・フローラ×エリーゼ
 C[4スレ目・178]
・エルフィ×ピエリ
 C[3スレ目・771]
・スズカゼ×オーディン
 C[4スレ目・318]
・サクラ×エルフィ
 C[3スレ目・774]
・ルーナ×フローラ
 C[4スレ目・781]
・ハロルド×ツバキ
 C[5スレ目・56]
・アシュラ×ジョーカー
 C[5スレ目・105]
・マークス×ギュンター
 C[5スレ目・302]
・ラズワルド×ブノワ
 C[5スレ目・435]


940 ◆P2J2qxwRPm2A2018/01/29(月) 21:58:40.4714dIXqkY0 (18/18)

今日はここまで 

 カムイと城塞組は戦いが終わった後、ゆったりとあの城塞で一緒に暮らしてほしいと思う。
 なんだかんだ言っても、カムイの故郷はあの城塞であるはずだから。
 FEHにまだリリスがこない。選挙はもちろんリリスにいれたけど、いつ来てくれるのかね

 次回はカミラ×サクラ隊の番外とあともう一つ、プチ番外をやってこのスレは終わりだと思います。
 安価にご協力いただけると幸いです。

◆◇◆◇◆◇
・『ガンズが笑うとき』
・『三匹のリリス』
・『星界裁判』
・『ソレイユのフォレオ追跡紀行』

 上の四つの中で先に3回選ばれたものにしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。


941以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/29(月) 22:14:59.57J3uv8mWV0 (1/1)


『星界裁判』で


942以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/29(月) 23:44:43.99/VDItxLGo (1/1)

フォレオくん!

これほどジョーカーが出てこないカム子主人公のif二次もそうあるまい…


943以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/30(火) 00:17:35.54de3jspkBo (1/1)

>カムイの故郷はあの城塞であるはずだから。
ヒノカが飛んできそうな発言だと思ったww

フォレオ

海外版(fate)のフォレオ(Forrest)とソレイユ(Soleil)の支援会話は確か全部書き直しになっている(内容も全然日本のと違う)から、2人の新しい関係性を知る意味では調べてみても面白いかも


944以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/30(火) 20:57:16.87UoVRs9fnO (1/1)

裁判


945以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/30(火) 21:18:23.27QmC4Hnwdo (1/1)

追跡紀行で
リリスも見たいがあっちでやってくれるでしょう


946以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/30(火) 21:25:42.61kIxs2241O (1/1)

裁判


947以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/30(火) 21:52:16.70+CJWi1Al0 (1/1)

暗夜側の子世代の出番は本編ではあまり望めそうにないし
ここはフォレオくんで


948 ◆P2J2qxwRPm2A2018/02/15(木) 18:12:44.72YSodv2Da0 (1/21)

◆◇◆◇◆◇

番外『ソレイユのフォレオ追跡紀行』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「可愛い」

 ぼそっと呟いたあたしの気配を感じたのだろう。落ち着いた色の帽子が振り返った。
 しばしの間、歩いてきた道を見ると、やがて何事もなかったようにテクテクと歩き始める。その足取りはとても穏やかで、あたしの存在に感づいたわけではないようだった。いつもの可愛らしい服ではなくて、旅行客を思わせる服装でフォレオが前方を歩いている。そして、あたしは彼を追っていた。
 いつもの暗夜の紋章が施されたレザーアーマーではなく、一般観光客を装った出で立ちだ。それはもちろん、フォレオにばれないためである。

「うん、やっぱり可愛いなぁ~」

 久しぶりに見えるフォレオの姿に私はため息を漏らす。あの巻かれた髪もそうだけど、何より溢れる女の子らしさ、それを見ただけで体中の細胞一つ一つが、ぱあっと花開くような感覚に陥る。いや、実際陥っていると思う。それくらいフォレオはあたしにとっておいしい栄養なのだ。

「ああ、今すぐ抱きしめたいよぉ。こんなに長い間、フォレオを抱きしめてないなんて、ちょっと信じられないくらいだし」

 あふれ出た欲望を口にしながら、でも飛び出さないように細心の注意を払って、フォレオの後を追いかける。
 いつもならすぐに飛び出すところだけど、今はそうもいかない。

「オフェリアとエポニーヌのために、ちゃんと探ってからにしないとね」

 今、王都にいるフォレオの臣下である友人たちを思う。
 どうして二人がフォレオと共に行動していないのか。そして、あたしがなぜこうしてフォレオから隠れて行動しているのか。
 それは一週間ほど前、クラーケンシュタイン城に向かって日課を熟そうとしたときに遡る。


949 ◆P2J2qxwRPm2A2018/02/15(木) 18:16:49.56YSodv2Da0 (2/21)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「あのね、私の中にある乙女の純石が震えているの」
「えっと、もう一回話してもらっていいかな?」

 椅子に拘束されながら、あたしは目の前に立つオフェリアにもう一度話すように促す。
 朝、少しばかりの自主練を終えてやってきた王城、狙いはもちろん可愛い女の子の観察である。この観察を行うことで、あたしは毎日の幸せ成分を補充しているのだ。
 いい男を見るとやる気が出ると言っている門兵のシャーロッテさんには悪いけど、あたしからすればシャーロッテさんみたいな綺麗で可愛い女の子を見た方が、俄然やる気が沸いてくる。立て続けに可愛い女の子を見てモチベーションを高めて、こうしてゴールにやってきたというわけ。
 そのゴールはなんともくぁわいいレースがあしらわれたルームプレートの場所、今日も最高の可愛いさ、それを満喫して一日を始める、はずだった……。
 叩いた扉からは何の音もなく、捻ったドアノブからはくぐもった施錠の音、そして極めつけに通りかかったメイドから、フォレオは朝方にお出かけになったと知らされた。
 こうしてノルマは達成されなくなった。でも、仕方ないよねと、半ば諦めて反転したところ、視界を奪われた。
 そして、気づけばエポニーヌの部屋にいて今に至る。
 そこにはエポニーヌとオフェリアがいて、フォレオが出掛けているのに二人がいることに疑問が浮かんだ直後に、先ほどの説明を受けた。

「由々しき問題だよ。フォレオが私を置いていくなんて……」
「あの、フォレオの彼女か何か?」
「そうね、本当に由々しき問題だわ。これじゃ、毎日の日課が台無しよ。いつも、朝早くから門に立っている衛兵、何気ない挨拶から始まった禁じられた恋……そして二人は朝日に互いを重ねながら……うふふっ」
「うん、やっぱりエポニーヌの考えはあたしに理解できないよ」

 オフェリアとエポニーヌ、二人とも平静を装っているけど、それが出来ているようには思えない。
 オフェリアは魔石を床に散りばめて何かを占っているらしく。エポニーヌに至っては、何だろう脳内で何かを考えているみたい、多分あたしには理解できないことだろう。
 で、そんな理解できないことを考えるより、今この状況を考えることの方が有意義なのは間違いなく、あたしはとりあえず現状を二人に確認する。


950 ◆P2J2qxwRPm2A2018/02/15(木) 18:20:39.23YSodv2Da0 (3/21)

「つまり、フォレオは出かけていて、だけど二人とも王城にいるように言われたってこと?」
『………』

 二人はだんまりした。だんまりしているけど、オフェリアの魔石を持つ手は不思議と震え、エポニーヌは、ここでフォレオが上になるとかよくわからないことを言っている。
 二人はとても混乱していた。
 そんな二人に純粋な疑問を投げかける。

「で、あたしが束縛されてるのはなんで?」
「ソレイユ、大地の精霊が囁いているの。あなたはフォレオがどこに行ったのかを知っているって」
「その精霊、絶対に碌な精霊じゃないよ」
「あたしも感じているの。フォレオが男に会いに行ったって、ソレイユがその行方を知っているって」
「フォレオ女の子説を唱えてるあたしとしては、不本意だけどその説を推したいかな……」

 しかし、フォレオは男の子だ。多くの仲間に確認してそれはもう揺らぎようのない事実だと知っている。だけど、考えてほしい、あんな華奢な体つきで、常に女の子らしい仕草をしていて、尚且つ可愛いのだから女の子と思いたくなる。むしろ自然に女の子って思うはず。
 一部ではそれで男なのがいいとよくわからない発言を耳にするけど、フォレオは私の中で未だに女の子としての位置付けがとても強い。実際、あの服の下に男の勲章があるなんてこと、正直想像できない。

「で、結論から言うと、二人はあたしに何をしてほしいのかな?」
「精霊は言っているわ。フォレオとの契りを破れない今、すべての希望はソレイユにあるって。この私の胸の高鳴り、アウェイキングホーリーの加護を、今こそ貴方に授けるべきだと」
「フォレオがどんな相手と駆け落ちしたのか、知りたいじゃない?」
「どっちの言い分が本当かは知らないけど、つまりフォレオの事を追跡してほしいってこと?」

 あたしの言葉に二人は静かに頷く。確かにフォレオが二人に王城待機を命じるのはとても珍しいことだ。必ずどちらかが外出の際には同伴するのが普通の事、この状況に対する二人の懸念も分かる。
 しかし、もうすでに城を出発したという話、今から追いつけるのかどうか、正直わからないのが現状だった。


951 ◆P2J2qxwRPm2A2018/02/15(木) 18:24:58.93YSodv2Da0 (4/21)

「フォレオがどこに行ったのか、心当たりはあるんだよね?」
「大丈夫、それについては心当たりを見つける予定だから」
「おかしいな。こういうのってすでに見つけてるものなんじゃないの」
「大丈夫、大丈夫。すぐに見つかるはずだから、ソレイユはあたしたちに協力するって言ってくれればいいだけ」
「そうだよ、ここで協力してくれるってソレイユが頷いてくれるだけでいいんだよ」

 協力しないと縄を解いてくれない、そんな気がした。おかしい、自分は結構な変人だと思っていたけど、今ここに至ってはあたしが正常な人間に思えてくるほどに、エポニーヌもオフェリアも会話が成立しそうになかった。
 でも、あたしは毎日の日課としてフォレオを抱きしめているんだから、ある意味正常だ。そう、これは生命活動に必要な事なんだから、もう仕方がない。

「わかったよ。あたしもフォレオに用事があるからさ、朝の元気貰わないと頑張れないからね」
「また抱き着く気だよね……。ソレイユ、そういうのはどうかと思うの。フォレオ、すごく困ってたから」
「その相手にフォレオの追跡を任せてようとしてるって自覚ある?」
「フォレオからもらえる朝の元気、中々に意味深ね」

 そして、あたしは縄を解かれる。このわずかな間に疲れが溜まって、体がフォレオ分を求め始めていた。今日の終わりまでにそれを叶えないと割に合わないよね、これ。
 そうして、あたしはエポニーヌとオフェリアに連れられて、あのくぁいいネームプレートの掛かった部屋の前にたどり着く。

「さぁ、何処に向かったのか、突き止めるわよ」
「うん、エポニーヌ」
「え、そんなことしていいの!?」

 いきなりドアノブを調べ始めるエポニーヌの姿に声が出た。
 さすがのあたしも勝手に入ったりしないんだけど。
 しかもエポニーヌが使っているのがどう見てもピッキング用の器具で、ちゃんとした鍵じゃない。これは忍び込むつもりということだろう。
 だけど、そんなことを気にさせないくらいにエポニーヌは堂々としている。オフェリアも堂々としていた。あたしの不安気な表情に、エポニーヌは優しく語り掛けてくる。

「大丈夫、心配する事ないわ」
「本当?」
「うん、ソレイユに無理やりやらされたってことにしておくから、これも選ばれし者の特権ね」
「は?」
 
 大きな音を立てて扉が開き、エポニーヌとオフェリアが中へと入り込み、あたしは背を向けて逃げようとしたところを引きずり込まれる。
 部屋の中はとてもきれいに片付いていた。それ故に机の上に置かれている手紙が目に付く、それは中身の入っていないものだけど、その表の紋章には見覚えがあった。

「これって……」
「これは……」
「……」

 これが旅の始まりになるとは、この時思いもしなかった……。


952 ◆P2J2qxwRPm2A2018/02/15(木) 18:28:03.64YSodv2Da0 (5/21)

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 翌日、あたしは馬に乗って大地を駆けていた。
 休暇の申請はすんなり通った。相当無駄遣いをしている気がしなくもなかったけど、それはもう言いっこなしで、暗夜王国を駆け抜ける。
 結局、フォレオが向かった場所がどこであるかはわかっていない。だけど、大体の予想は付いた。
 それは、フォレオの部屋にあった書簡。中身は無くなっていたけど、表に付けられた紋章は白夜の物だった。
 それが今回のお出掛けに関係していると二人が直感的に告げたこと、そして協力すると言ってしまったあたしは、こうして白夜を目指して馬を駆っている。
 唯一持ってきた、アンナ商会から買った着物姿のフォレオの写し絵を見て元気をもらいながら、休むことなく駆け続ける。
 暗夜と白夜の境、無限渓谷は今も変わらず悪天候で、雨が降ってきたら大変だと写し絵は防水に優れた入れ物に包んで一気に駆け抜けていく。ざぁざぁと風で木々が軋む音は、どこかあの戦いの日々を思い出させるけど、敵を追いかけて駆け抜けた日々に比べると、贅沢なことで走り回っている気がする。
 戦争が終わっても変わらない傷跡はある。この無限渓谷はまだ白夜と暗夜の蟠りが残っていることを示している。暗夜側からは簡単に通れるここも、こうして白夜の領域に入り込むとなると、白夜の衛兵に止められるからだ。
 衛兵に止められて、自身の身分を証明するものを見せると衛兵は「ほー、暗夜王マークス様のご子息の臣下さんとはな。そう言えば昨日だったか、確かレオン様のご子息が通られたよ。いやー、あれで男だって言うんだから、世の中不思議なこともあるもんだねぇ」と零した。
 どうやら、フォレオが白夜に向かったのは間違いない様で、もう少し詳しく尋ねると、それを合図とするように空に轟音が響く。
 ポツリポツリと地面に斑点模様が広がって、気づけば本格的な雨足になった。いわゆる立ち往生という奴で、あたしは溜息に沈む。しかし、衛兵曰くこういった雨は少しすれば止むそうで、ならフォレオがここで何をしていたのか、訪ねることにした。
 衛兵は、そうだねぇと顎に手をやって、そして思い出したようにあたしに話し始める。
 やはりというか、この衛兵もフォレオの事を女の子だと思ったらしい。

「あの容姿で男とは本当に信じられなかったよ」
「うん、あんなに可愛いのに男の子なんだ。フォレオ様は……」

 様を付けつつ、あたしはため息交じりで答えた。


953 ◆P2J2qxwRPm2A2018/02/15(木) 18:30:57.77YSodv2Da0 (6/21)

 最初、衛兵はこんな別嬪さんを一人で旅に出すなんてどんな親だと思ったそうだけど、暗夜王の弟の息子とわかったところで、その認識を改めたそうだ。
 フォレオの実力は暗夜だけではなく、白夜にも届いているからだろう。衛兵は瞳を入れ替えたようにフォレオを見直したそうだ。
 通り雨があって、フォレオは少しだけ濡れていたとか。雨露が絡まった髪は何とも言えない美しさがあって、最初声を掛けるのを躊躇うほどだったのだそうだ。話を聞いている限り、そんなものを目に出来るなんて、正直とてもうらやましい。
 あのフォレオが雨露に濡れている姿をこの衛兵は独り占めしていた。その事実がとてもうらやましい。多分、あれだ、雷の音にきゃっ、とか声を上げたりするに違いない。あたしが近くにいたら抱きしめて守ってあげられるのに。
 衛兵との他愛のない話を続けていると、フォレオがどうして白夜にやってきたのかという点が上がった。衛兵もそれが一番気になるし、それを確認することが仕事であるのだから当然のことだろう。
 その質問にフォレオはちょっと人と会う用があって白夜に来たんです。とだけ答えたそうだ。
 となると、あの机に置いてあった空き封筒は、白夜に住む誰かからの手紙だったということ、臣下を置いて会いに行くとはよほど大切な用事だろう。

「ちなみにどこで会うかっていうのは……」
「たしか、テンジン砦で会う約束をしてるって言っていたな」
「テンジン砦か……」

 テンジン砦、そこがゴールなのかどうかはわからないけれど、次の目的地が決まったのは確かだ。
 衛兵と話を負えると、あたしは雨が止むのを待つことに専念する。旅の終わりには程遠いいようだ。


954 ◆P2J2qxwRPm2A2018/02/15(木) 18:35:26.39YSodv2Da0 (7/21)

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 今、テンジン砦は大きな交易所として稼働している。
 戦争が終わり、暗夜と白夜の間で交流が盛んになると、多くの物資が流入するはず。リョウマ王はそれを見越してテンジン砦の改装を行って、大きな交易所へと姿を変えたというわけだ。
 ここには東西の様々な物資が溢れていて、暗夜の地下街で見る商品も並んでいるから、少しだけホッとする。
 なんだかんだ、暗夜の地を離れて不安に思っていた部分もあったということかもしれない。暗夜でよく見る商品を目にする度に、どうも父さんと母さんの顔が頭を過った。

「はぁ、少しホームシックなのかな……」

 手にしたティーカップを眺めてため息交じりに呟いた。これは家にあるのと同じ型の物で、いつも母さんが珈琲を準備してくれる。しかし、いくら思い浮かべても珈琲の香りはしてこないので、早々にカップを置いてその露店を出た。
 呼び込む声は暗夜も白夜も変わらない。活気も変わらない、どんな状況であっても人が生きていくことは、そう言った変わらないものの積み重ねなのかもしれない、そんなことを思いつつテンジン砦にいるのかはわからないけれど、フォレオの探索を始める。
 まずは可愛らしい小物の類や、フリフリの可愛らしい洋服など、フォレオが興味を持ちそうな物が置いてあるお店を中心に写し絵を見せながら、こんな可愛い女の子が来なかったかと尋ねて回る。しかし、どの露店でもそんな子は見ていないという返答ばかりが帰ってきた。

「この露店街には足を運んでないってことかな?」

 誰かと会う約束をしていたということは、露店に用はなかったということだろう。
 なら、宿場になら手掛かりはあるはずと向かい、同じように写し絵を見せて尋ねるが、今日までの宿泊客にこのような方はいないと言われてしまう。
 どうやら、フォレオは宿を利用していないという事らしい。

「……万事休すだね」

 オフェリアとエポニーヌの頼みでここまで来たけど、あまりの八方塞がり具合にお手上げ状態だった。
 フォレオの痕跡を完全に失い、途方に暮れてあたしはとぼとぼと歩き続ける。
 徒労に終わるとはこのことだろう。何も得る物がないと諦めが付いたところで顔を上げたところ、立派な建物が目に入る。同時に彩鮮やかな布が顔を覗かせていることに気が付いた。


955 ◆P2J2qxwRPm2A2018/02/15(木) 18:40:11.64YSodv2Da0 (8/21)

「ん、これって……」

 思い出したように写し絵を取り出して見比べる。フォレオの姿とそこに並べられている物、柄は違うけど多分同じタイプの着物だ。この頃、暗夜の市場にも少なからず出回るようになったけど、大量に扱っているお店はないからと食い入るようにあたしは眺める。
 写し絵の姿と置いてあるものを交互に見ていると、段々こういったものを着てみたいという欲が出てくる。そう考えた時には、入り口を潜って中に入っていた。
 店内は外の活気に比べるととても静かで、別世界に入ってきたような錯覚に陥るほどだ。少しばかりキョロキョロと視線を巡らせていると、ようやく奥から声が聞こえてくる。

「いらっしゃいませー、ごめんなさいねぇ。おまたせしちゃって……あら? 見たところ暗夜の人みたいね。何をお探しかしら?」
「え、えっと、そのちょっと興味があって覗きに来ただけで」
「そう、見て行くだけでもいいから、目を通していってちょうだい」

 独特の音色の店員さんはそう言うと、並んでいる浴衣の中の数着へとあたしを誘導する。あたしに合いそうな色というのは確かにある、そしてちゃっかりともう着付けに必要なものまで集め始めていた。どうやら、一着は着ないといけないみたいだ。
 そろそろ夏場も近づいているからか、生地の厚みが少し薄い気がした。確かにこの写し絵のフォレオが着ている物は夏にはちょっと熱いよねと思いつつ、商品に視線を向ける。
 赤い生地の物、薄いピンクの生地、そして青……。
 父さんのイメージの色だからかもしれないけど、自然と青に手が伸びる。どちらかというと男性向けの色な気がして、隣にある水色はまだ女の子向けかなと、手を伸ばす。

「うーん、これかな……」

 そうして手に取って振り返ると、もう着付けの準備を終えていた店員さんと目が合った。
 パパッと脱いで胸を布で撒かれる。少しだけきつくしたのは、着物はこの方が見栄えがいいからだそうだ。着物の着付けは生れて初めてのことだから、言われるままに袖を通して言われた通りに動く。気づいた頃には着付けも後半に差し掛かっていた。

「一人で着るのは大変ですね、これ」
「そうね、馴れてない人だと腰巻みたいになったりするから。特に暗夜の人は袖を通しても、その後はボロボロって感じね」
「店員さんはとってもうまいですね。それにとっても美人さんです。そうだ、この後お茶でもどうです?」

 もうフォレオを追いかけるのは難しそうだと判断して、あたしはこの女の人とお茶をして暗夜に戻ろうと考えていた。
 相手はあたしの提案に少しだけきょとんとして、だけどすぐに砕けたようににっこりと笑った。


956 ◆P2J2qxwRPm2A2018/02/15(木) 18:43:30.21YSodv2Da0 (9/21)

「あらあら、この歳になってお茶に誘われるなんて思ってもいなかったわ。でも、残念ね。交代の子が来たら、すぐにイズモへと行かなくちゃいけないのよ」
「イズモって、イズモ公国の事?」
「ええ、今そこでお祭りの準備が行われてるのよ。向こうで着物の販売と着付けとかを行う予定なのよ」
「そうなんだ。それじゃ、無理してお茶するわけにもいかないよね」
「ええ、それに非番でも暗夜王の息子の臣下が、白夜でナンパするのはまずいと思うわよ?」

 その言葉に方がピクリと跳ねた。すぐに振り返ると変わらないニコニコスマイルがあった。この人、あたしのことを知っている!?

「え、えっと、あのあたしとどこかでお会いしたことありましたっけ? その、見覚えが無いんですけど……」
「直接はないわ。タクミ様とレオン様との交流の場が設けられると、夫と一緒に暗夜へ向かうことがあるから、時々女の子を追い回してる貴女を見かけていたからね?」
「……もしかして、父さんの戦友?」

 あたしの問い掛けにその人はええ、と答えた。キョロキョロと周囲を見回すと、入り口にある看板が目に入る。そこには『オボロ呉服店』という文字があった。

「お、オボロさんっていうんですか?」
「ええ、よろしくね。いきなりこんな話をされても困惑するだけだと思うけど、少しは王の息子さんの臣下であることを自覚したほうがいいわよ。いつかこんな顔で怒られるかもしれないから」

 背後から感じる気配に覇気が混ざりこむ。いったいどんな顔をしているのか、確認したくても確認できない。

「は、はい。き、気を付けます……」
「ふふっ、それにしても一緒に来たわけじゃないのね?」
「一緒?」
「昨日、フォレオ様がいらっしゃってね。予定通りに来てくれて助かったわ」

 その言葉を聞いてフォレオの部屋に置いてあった白夜からの書簡が頭を過った。
 どうやら、フォレオが会いに来たのはオボロさんのようである。


957 ◆P2J2qxwRPm2A2018/02/15(木) 18:46:14.50YSodv2Da0 (10/21)

「そ、そのどういった要件だったんですか?」
「フォレオ様から着物の件で話があって、本当ならこちらが暗夜王国に着物を届ける予定だったんだけど、直接見に来るっていう話になってね。ちょうど、イズモ公国の祭事で用事があったから、ここで商品を確認してもらうことにしたのよ。昨日は夜遅くまで時間が掛かってね、ここに泊まってもらったわ」
「そ、そうだったんですか……」

 こういったものを妥協しないフォレオの事だから、長い時間を掛けてしまったんだろう。そしてあの書簡の正体が分かり、ホッと一息吐いた。エポニーヌとオフェリアはあの書簡の相手とその内容を気にしていたけど、これですべての謎が解けたと言ってもいい。
 安心すると、今度は違う事が気になった。ここに着物の件でフォレオが来たということは、無論それを買っていったということだろうから、その内容が気になったのだ。

「ちなみにフォレオは何着買っていったんですか?」
「たしか、四着ね」
「四着!?」

 新しい情報が追加されて、あたしの中のフォレオが四人に分裂した。しかし、何色かわからないから展示されている着物をそれぞれ着せ替えていくことにする。
最初は桜をあしらった薄ピンク、次に情熱的な赤、百合の花が刺繍された白、他にもまだまだ色々とあるけど、それだけでも口元が緩みまくってしまう。こんな素晴らしい世界が望めるなんて……

「着物って素晴らしいですね、オボロさん!」
「そんな腑抜けた顔で言われても、返しに困るわね。だけど、すごくいいものだと思うわ」

 そう言って、あたしの腰当たりがポンと押された。
 
「はい、終わったわ。中々、似合っているわよ」
「……わぁ」

 大きい姿見に映る自分の姿に感嘆する。自分の姿に見惚れるなんてと思うけど、今までこんな自分は見たことない。
 水色の着物はあたしの桃色の髪に合っていたし、装飾された赤い金魚が生えていて、とても良かった。

「ふふっ、その様子だと、気に入ってくれたみたいね」
「はい! こんなに可愛いなんて思ってなかった。えへへ、フォレオと一緒に着物でお祭りとか回ってみたいなぁ……」
「お祭りと言えば、イズモ公国の祭事だけど……。フォレオ様は最後にそこに寄ってから帰ると言っていたわ。着物も持って行ったから、もしかしたら参加するのかもしれないわね」
「参加ですか……」

 フォレオがお祭りに向かったと聞いて、この着物が欲しいという思いが過る。

「ちなみに……これっていくらなんですか?」

 それにオボロさんはにっこりと笑みを浮かべて親切丁寧に答えてくれた。
 あたしはもう何とも言えない気持ちになり、その日のうちにテンジン砦を後にした。
 そして、あたしはこの旅を終わりにするために、決戦の地へと赴くのだった。


958 ◆P2J2qxwRPm2A2018/02/15(木) 18:50:29.47YSodv2Da0 (11/21)

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 イズモ公国に到着したのは祭りが始まる前日ほどで、まだ本格的に見物客が溢れてはいなかった。
 ここには白夜の人も暗夜の人も同じくらいいる。この時期、イズモ公国の祭事に合わせて港町ディアやミューズ公国からも特別便が設けられていることもあるからかもしれない。
 でも、混雑のピークは明日であることを考えると、今が一番落ち着いている時間だとも思えた。

「はぁ、着物欲しかったなぁ……」

 宿で腰を下ろしての開口一番はこれだった。
 実際、あの水色の着物に若干惹かれていた部分もあったから、今の手持ちで買えたらと思ったけど無理な話だった。
 オボロさんの言った通りフォレオがここに来ていると考えれば、お祭りには参加するだろう。
 フォレオを追ってここまで来たのだから、探し出して抱き着かないことにはあたしの旅が終わらない。
 出来れば着物姿で驚かせたかったが、逆立ちしてもそんなお金は出てこない。

「今度からそれなりにお金を持って旅をしないと。どこにチャンスが転がってるかわからないからね」

 そうして、あたしは腰を上げて宿屋を飛び出す。腰に忍ばせた携帯用のバックにフォレオの写真を忍び込ませて、街道を歩く。
 目に映る提灯や神輿という白夜で使われている神様を乗せる台座が、風景に彩を加えている。暗夜の収穫祭とはまるで違うその様をまじまじと眺めつつ、道を進んだ。
 そして、もう一つ大きな街道に出たところで、帽子を被った誰かが目の前を通り過ぎた。
 一度は視線を外して前を向いたけど、視界の隅で揺れる縦ロールが無理矢理視線を戻させる。
 手に持ったバックに可愛らしい横顔、フリフリと揺れる縦ロールと口元に時々伸びるやんわり握った手。服装だけだと誰かはわからないけれど、何度も何度も目にして抱きしめて、さらに追いかけ回しているあたしには一目瞭然だった。

「……フォレ――」

 名前を叫ぼうとした口、しかしそれを咄嗟の判断で止めて素早く物陰に隠れる。
 今の声に気づいたのか、立ち止まった人がキョロキョロと周囲を見回す。横切った時の顔に比べて不安気そうに周囲の様子を伺っていて、その被っている帽子から顔が見えた。
 フォレオだった。


959 ◆P2J2qxwRPm2A2018/02/15(木) 18:54:38.23YSodv2Da0 (12/21)

「今、ソレイユの声が聞こえたような……」

 何度も追っているからかもしれないけど、フォレオはあたしの声をよく覚えてるみたいで、その事実にうれしさと緊張が同時に走った。
 ここまで来て、フォレオに逃げられるわけにはいかないという心と、もうどうでもいいから今すぐハグっとしに行きたいという心が鬩ぎあう。
 その合間もフォレオは小動物のようにフルフルとしている。ハグっとが一歩踏み込んだ。
 同時に体が動く、物陰から飛び出してフォレオを抱きしめようとするハンターとしてのあたし。

「だ、誰ですか!」

 フォレオの声が響く、静寂を切裂いたその言葉、その視線の先にいたのは……

「にゃーお」
「……猫? そうですよね、ソレイユにお出かけの予定は伝えていませんし、第一ここは白夜なんですから、いるわけありませんよね」

 裏路地から現れた猫にフォレオは安堵の息を漏らす。その手前でどうにか踏ん張りとどまったあたしは、額から顎先までを駆け抜けた汗に生き心地をようやく感じる。
 間一髪だった。一瞬でも遅れていたらフォレオに感づかれていたことを思うと、慎重に事を運ぶべきだと改めて自覚する。
 そして、ようやくフォレオが歩みを始めたので、それを追った。
 フォレオは街の様子を眺めつつ、奥へ奥へと進んでいく。周囲の風景を眺めながら、時折女の子みたいに柔らかい笑みを浮かべる。
 それを見る度にあたしの中が温かい気持ちで溢れ、長い禁フォレオ生活の苦しみが浄化されていくのを感じた。
 そうして時々、振り返るフォレオの視線を退けながら、坂の前にやってきた。
 どうやら、フォレオはこの坂の上にある何かに用事があるようで、フォレオはまったく後方を確認しないで、ただただ坂を上り続けていった。
 ようやく上り切ったそこには小さなお店があって、フォレオは吸い込まれる様に入っていく。逃げ場のない空間だけど、あたしはそのお店の中に入り込む。
 そこはとても煌びやかな世界だった。
 キラキラと光る髪飾りや、服に添える装飾品などが展示されていて、その一つ一つが特別な輝きを持っているように感じる。


960 ◆P2J2qxwRPm2A2018/02/15(木) 18:58:40.81YSodv2Da0 (13/21)

「すごく、綺麗……髪飾りとかみたいだけど……」

 その一つ一つが身に着けた人の幸せを願っているように感じられて、あたしはウキウキとそれらを眺める。
 そして、フォレオがこのお店に来た意味を大体理解した。
 おそらく、着物に合う装飾品を選びに来たんだ。四着、柄も別々な物を買ったはずだから、装飾品もそれぞれに合わせて用意したいということだろう。少女みたいに可愛いものが好きなフォレオがどんなものを選ぶのか、すごく気になった。
 ちらっと奥を見ると、店の主人とフォレオが話をしているのが分かる。着物も一緒に置かれているから、真剣に悩んでいるみたいだ。多分、背後に立ってもばれないと思う。

(もう、ばれる前提だから覗きこんじゃおう)

 そう思って、フォレオの後方に立って、聞き耳を立てることにした。同時に、どれが似合うのかなと、フォレオの写し絵を取り出して一度目を通し、すぐに取り出せるようにと、バッグの口は開けたままにする。
 ちょうど最後の着物に似合う物を選んでいるようで、聞き耳を再開したところだった。

「そうかい、贈り物なのかい」
「はい、ソレイユが気に入ってくれるといいんですけど……」

 その言葉を聞いて全身が固まった。
 今、誰が気に入ると言った?
 ソレイユ……、もしかして、あたし?
 どうしてあたしの名前が出てくるの?
 混乱しかけた頭に釘を打って、あたしは再び耳を傾ける。主人はこの色で刺繍が赤だとこれかこれと話している。それを受けてフォレオは真剣に考えながら、でもあたしのことを考えるとこっちの方が可愛いかもしれないとか言い出す。
 あたしは、体の一部が破損したみたいにガクッとなった。
 ちらっと顔を伺う。そこにはいつも以上に真剣な表情のフォレオがいる。あたしの中にあるフォレオ像とは全く違う輝きがあって、いつもの恥じらう可愛い乙女なフォレオは何処に行ってしまったのか。そして、さっきまでハグしようと意気込んでいたあたしもどこに行ってしまったのか。
 意識の迷路に迷い込みつつあるあたし、それにさらなる追い打ちが襲う。

「へぇ、こんなに真剣に悩んでるってことは、その相手を大切に思ってるみたいだな」
「はい。みんな、こんな僕のことを受け入れてくれる、大切な人ですから」


961 ◆P2J2qxwRPm2A2018/02/15(木) 19:02:41.29YSodv2Da0 (14/21)

 たた、たたた、たららったたらた、大切な人ぉ!?
 いつからあたしはそんな存在になったのか、全く分からない。わからないけど、思わず背筋をピシッと伸ばす。落ち着けと、手ごろな装飾品であるアヒルを手にした。
 アヒルとにらめっこしながら、そう言えばことあるごとにフォレオのこと考えていたことを思い出す。バックにはフォレオの写し絵まで入っているし……。
 自身の行いを思い出しながら、第三者から見て多分そうなのかもしれないと思い始める。このままだと脳が破裂するかもしれないと、アヒルを置いてお店から脱出を開始した。
 まだフォレオは店主と話しをしている、今なら気づかれずに抜け出せるはず。そう思って一歩を進む。そしてもう一歩進んだところで、何か音がした。
 コトンッと静かだけど、きちんと耳に響く音が木霊する。足元には置いたと思ったアヒルの装飾品が鎮座していて、それは意図的かあたしの後ろを見ている気がした。振り向いたら命は無い、そう実感したからこそ、何食わぬ顔でそのまま出口に進もうとして。

「え、ソレイユ?」
「……」

 フォレオの声が背中に刺さった。
 心臓が思った以上に跳ねる。
 跳ねて転んで、喉が一瞬でカラカラになった。おかしい、いつもみたいにフォレオは可愛いなぁとか言って抱き着きに行けばいいのに、今は何とも足が重い。
 フォレオの呼び止めはまるで呪縛だ、回避率がとてつもなく下がる。しかも範囲がやたら広い、二人分距離が開いているのにあたしはもう攻撃を避けられないほどになっている。
 こうなったら恍けるしかないと、下手な芝居に興じる。

「え、えっと……。あ、あたしはソレイユじゃないよ。と、通りすがりのセレイユだよ……」
「ソレイユですよね? その桃色の髪、白夜じゃあまり見ませんし」
「へ、へぇ、そのソレイユっていうのは、あたしと同じ色の髪をしてるんだね、いやー、すごい偶然だなぁ」
 
 しどろもどろになりながら、どうにか動く足を使ってじりじりと出口へと向かっていく。アヒルは未だに後方を見つめていたけど、拾って棚に戻す暇はなかった。まずはこの窮地を脱出しないと、そうして体を思いっきり動かした。
 パサリッ……そんな音が真後ろからやってくる。今の音はなに?
 振り返ることが出来ないまま、新しい音が生まれたことで深みを増す無音空間にさらなる呪縛を掛けられてしまう。
 それを打ち破ったのはフォレオの声だった。

「……それじゃ、今バックから落ちたそれは何なんですか?」

 それ? 後ろのバッグに入っていた何かが落ちたらしい。震える手でバッグを前に持っていき、中身を確認した。
 写し絵が無かった。無かったということは落としたということだ。ここに来るまでに落とした? でも、今さっき一度手にもって確認して、バッグに戻した。ハラリッという音を聞いた。つまり――

「しょ、しょれ、しょれはぁぁぁ……」
「……ソレイユ」
「あう、あううっ」
 
 逃げ場が無くなると、視界がぐにゃぁと歪むって聞いたことがある。本当にその通りで、立っていられなくなったあたしはへなへなとその場にへたり込むのだった。


962 ◆P2J2qxwRPm2A2018/02/15(木) 19:05:49.49YSodv2Da0 (15/21)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 お店のすぐ外にあるベンチに腰掛けながら、あたしはカチコチになっていた。
 隣に座るフォレオを見ることが出来ず、ただただ自身の手に視線を下ろし続けるしかない。
 さっき、フォレオがあたしのことを大切な人だと語っていた。そのことがどうも頭から離れないからだ。
 いつもならうれしぃなぁとなるのに、今日ばかりは勝手が違う。なにせ、脳裏には先ほどの凛々しいフォレオが焼き付いているのだ。どんなに乙女フォレオを思い浮かべても、すぐに霧散してしまう。
 どうにかして誤魔化さないと、そう思って顔を上げる。

「その、ソレイユ……」

 恥じらいを感じさせる音色が、あたしの耳に届いた。
 一マス隣にいるフォレオは顔を赤らめている。いつもの流れなら可愛いと即ハグするけれど、今はとてもそうできない。
 あたしの顔も真っ赤っ赤で、胸のドキドキがどうしても止まらない。踊りの練習を見られた時よりも、ドクドクしている。恥ずかしさじゃない気がした、よくわからないけど、これはそういう物なんだと、なぜか思ってしまう。
 いつも通りの空気に戻すことはもうできない。フォレオは指を付き合わせながら、あたしに視線を向けた。

「その、さっきのお店での僕の話……、聞こえてましたか?」

 よし、落ち着けあたし。今からでもいい、どうにか軌道を修正するの。
 ここでの答えは『ううん、聞こえなかった』だ。これ、これしかない。
 さぁ、いくわよ!
 
「うん、聞いてた……」

 ちょちょ、ちょっと待ってよ脳内回路。どうして肯定した!?
 ここは回避、回避の一点張り。すこしでも避けられる可能性に賭けて森とか柱、墓に逃げ込むところでしょ!?
 いや、もしかしたらこれはフォレオが『ソレイユ、聞こえてなかったですよね?』と聞き返してくるパターンを予期したに違いない。後手不敗がモットーの傭兵ならではの戦術を、脳が導き出したという事ね。
 つまり、フォレオの返答は……

「そうですよね、あんなに近くにいたんですから、聞こえてないわけないですよね……」
「……うん」



963 ◆P2J2qxwRPm2A2018/02/15(木) 19:09:55.91YSodv2Da0 (16/21)

 駄目でしたー。
 レオン様から受け継いだフォレオのブリュンヒルデがあたしに刺さりました。もう、逃げ場がありません。
 そんな追い詰められたあたしに、フォレオがさらに接近する。肩が密着するような状況、こんな時だけどやっぱりフォレオの香りはいい香りだった。
 可愛らしい乙女の香り、でも乙女の香りで浮かび上がるのは凛々しいフォレオ。どっちがほんとのフォレオなの?
 混乱するあたしを尻目に、フォレオは一度俯いて膝の上で拳を作って、決心を固めたように口を開いた。

「ソレイユ……。その、こんな形でお伝えするべきことではなかったんですけど。でも、今さらここまで来てやり直すこともできないから……その、いいですか?」

 いいですかって何のこと?
 そう、思っていても言葉が出ない。あたしの無言を肯定と受け取ったようで、フォレオが静かに動き始める。
 それに合わせて、なぜかあたしは目を瞑る。なんで目を瞑るのかはわからないけど、お母さんが言っていた。こういう時は自然と目を瞑ってしまうんだと。

「ソレイユ……」

 フォレオの膨張した声が耳に入り込んで、あたしの意識を束縛する。何かの音がして、少しだけ身構えた。
 そしてずっと待った、待った待った、長い時間を待った。
 だけど、何も起きなかった。
 暗闇の中、何かがおかしいとようやく思い至る。

「ソ、ソレイユ、その、そういうことを求められても……ぼ、僕たちは恋人同士とかでもありませんから……」

 うん、何かがおかしいとようやく踏ん切りがついて、勢いよく目を開けた。するとどうだろう、隣にいたはずのフォレオは真正面に立っていて、その手には大きな包みがあって、それはあたしに向けて差し出されているようだった。

「えっと……これは?」
「ソレイユ、受け取ってくれますか?」

 ずいっと差し出されたそれをあたしは受け取る。包まれたそれは感触から察する限り重いものでもないし、特別硬いものでもなかった。
 フォレオに視線を向けると、開けてみてくださいと可愛らしく言われた。
 ゆっくりとそれを開いてみると……中から水色の下地に浮かぶ、赤い金魚が現れた。


964 ◆P2J2qxwRPm2A2018/02/15(木) 19:13:29.59YSodv2Da0 (17/21)

「これって……」
「はい、ソレイユに似合うのはこれかなって思ったんです。その、お気に召しませんでしたか?」

 そこには、あのオボロ呉服店で着用した着物と同じ柄の物が入っていた。あの刺繍された赤い金魚があたしの視線にまた現れたことに感動する一方で、どうしてという思考があたしの頭の中をぐるぐる回る。

「どうして、あたしに?」
「ソレイユだけじゃありませんよ。オフェリアとエポニーヌにもプレゼントする予定だったんです。ここにソレイユが現れるのは予想外でした」

 そう言ってフォレオは後方に置かれているバックを指差す。どうやら、あの中にも着物が入っているらしい。

「え、フォレオは自分用の着物を買いに来たんじゃ……」
「自分用のも買いましたけど、いつもお世話になっている人にもプレゼントしたいなって思っていたんです。オフェリアとエポニーヌは異界のお祭りで着ていましたから、二人の柄はすぐに決まりました。でも、ソレイユは着ていなかったので、すごく迷っちゃいました。その、どうでしょうか? 僕なりにソレイユに似合う色だって思ったんですけど……」

 不安そうな表情を浮かべるフォレオに対して、あたしは困惑だけが張り付いていたと思う。

「いや、そうじゃなくて……。どうして、あたしに?」
「え?」
「だって、あたしっていつもフォレオに迷惑かけてるから。それに、本当ならサプライズで渡したかったと思うし、あたしフォレオの邪魔ばっかりしてて、一緒にいるのだって本当は――」
「……確かに、ソレイユはその色々と僕が苦手に思ってることをしてきたりします。今回は同時に渡したかったっていう僕の計画もめちゃくちゃにされてしまいました」
「うっ……。返す言葉もありません」
「だけど、こうやって僕のことをいっぱい可愛いって言ってくれる女の子のことを嫌ったりなんてしません。ソレイユがお世辞じゃなくて、本当にそう言ってくれてることはわかっていますから」

 世の中、何が幸いするかわかったものではないなと、この時ばかりは思う。

「だからソレイユにも着物をプレゼントしたいって思ったんです。僕の大切な友達であるソレイユに、喜んでもらいたいから」
「……あー、大切な人ってそういう意味だったわけね」

 そして矢継ぎ早に先ほどの発言が受け取ったあたしの勘違いだと気付く。もう胸のドキドキは形を潜めて、今はその反動からか安堵と疲労がぷっくり顔を出し始めた。


965 ◆P2J2qxwRPm2A2018/02/15(木) 19:16:23.33YSodv2Da0 (18/21)

「えっと、ソレイユ、その駄目でしたか?」
「え、ううん、そんなことないよ! ただ、ちょっと長旅で疲れちゃっただけで……」
「そうだったんですね。でも、ソレイユの行動力には脱帽しちゃいます。白夜に一人で来るなんて」
「はぁ、サプライズもいいけど、二次災害に巻き込まれるあたしの気持ちも考えてくれるとうれしいんだけどね」
「?」

 フォレオは首を傾げていた。出来るならエポニーヌとオフェリアのことも伝えるべきかと思ったけど、それはしないでおくことにした。というか、ここで話して色々と問題が再発するのは御免だからだ。
 ようやく肩の荷が下りたような開放感を得て、あたしはふぅーと安堵の息を漏らす。隣ではまだフォレオがきょとんとしていて、これが何とも可愛らしいではないですか。

「フォレオはこれからどうするの? すぐに暗夜に戻る?」
「まだ戻りませんよ。ソレイユ、明日からここではお祭りがあるのは知ってますか?」
「知ってるよ。フォレオは参加するの?」
「はい、着物の試着も兼ねて参加しますよ。と言っても最後まではいません、多分明後日にはここを発つと思います」
「そっか、ならここで別々に行動するのもアレだから、一緒にいてもいいかな?」
「はい、もちろんいいですよ。それじゃ、荷物を置きに行きましょうか」

 そう言ってフォレオは着物の入った風呂敷を手に立ち上がる。
 いつも通りの可愛いフォレオになっている。
 そう、あたしが抱きしめたくて止まない、女の子にしか見えないフォレオ。
 そう言えば、色々とあって頭の中から抜け落ちていたけど、少し前まで何をしようとしていたんだっけ?
 あたしは腕を組んで考えた。この旅の目的、こうしてフォレオの痕跡を辿りつつ追いかけた時間、そのゴールが何かを思い出す。


966 ◆P2J2qxwRPm2A2018/02/15(木) 19:19:24.14YSodv2Da0 (19/21)

「ふふっ、この着物は浴衣っていうんですよ。前に着た物と比べて気軽に着替えが出来てとても良さそうです。はやく、明日になるといいですね」
 
 そうルンルン気分に語るフォレオ。背を向けて先を歩いていくその姿と、写し絵の姿が重なる。
 とてもかわいらしい、本当に抱きしめたいくらいに可愛らしい。
 抱きしめたい……、抱きしめたい……。
 フォレオに飛びかかって、後ろから抱きしめて頬ずりしたい、頬ずりしてフォレオ分を回復したい。
 そう、回復だ。

「……うん、そうだったね」

 スッと立ち上がる。一歩二歩三歩、軽快なリズムで進む。
 フォレオの真後ろまで接近して、手をガバッと開く。
 そして、閉じた。

「え?」
「ふああああっ、久しぶりの感触~」
「そ、ソレイユ!? な、何をしているんですか!?」
「え、何ってフォレオ分の回収。もう、一週間もフォレオを抱きしめてなかったなんて、信じられないくらいだよ」

 ぎゅうぎゅうと抱きしめて、柔らかいプニプニな頬に頬ずりもする。あたしの頬とフォレオの頬、二つが重なってまさに夢心地だった。

「そ、ソレイユ! こんなこと止めてください。周りの人が!!!」
「気にしないでいいよ。フォレオもあたしも女の子なんだからさー」
「僕は男ですよ! なんで、やめ、そんなきつく抱きしめられたら、はううっ」

 腕の中で暴れるフォレオ、それすらもあたしは楽しむ。
 空っぽになり、飢えに襲われていたあたしの内部集落にフォレオ分がみるみる注がれていく。
 フォレオは今にも泣き出しそうだけど、その姿も可愛い。というか、どんな姿のフォレオも可愛い。
 結局のところ、やっぱりフォレオは――

「可愛いすぎるよぉ」


967 ◆P2J2qxwRPm2A2018/02/15(木) 19:25:19.87YSodv2Da0 (20/21)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 クラーケンシュタインに戻ってきたのは休暇の最終日で、あたしはオフェリアとエポニーヌが待つ部屋に行き、結果を報告した。

「そう、やっぱり私の思った通りだったわ」
「どこがどう思った通りなのか、教えてほしいんだけど」
「着物の買い物で、あたしたちが同行できなかった訳が分からないんだけど」
「まぁ、色々とあるんだよ、きっと。二人ともフォレオに嫌われたわけじゃないんだから、よかったでしょ?」
「そ、それはそうだけど……」

 フォレオがどうして着物を買いに行ったのかということは伏せたままにして、特に密会とかでもなく、ただの買い物だったと伝えた。
 二人は少し納得できない様子だったけど、連れて行ってもらえなかったのは嫌われたではないことに安堵する。それが確認できただけでも十分だった。
 そしてあたしは立ち上がって部屋を後にする。部屋を出ると、そこにはフォレオがいた。
 その手には袋が握られていて、打ち合わせ通りやってきたあたしを見て笑みを零す。

「二人なら部屋にいるよ」
「はい、ありがとうございます。すみません、今日までの休暇なのに、こんなことを頼んでしまって」
「いいよ、あたしもそれなりに楽しかったし。だけど今度からはちゃんと説明したほうがいいよ。あの二人、結構ショック受けてたみたいだからさ。それと、あたしにも出かけるときは事前に言ってよね。フォレオを抱きしめて元気を貯めておかないといけないから」
「はい、今度からは気を付けます。だけど、その元気を貯めるのだけは勘弁してください」

 そう言ってフォレオは二人がいる部屋の扉を見つめた。袋を持つ手に力が入っている。

「はぁ、このプレゼントを気に入ってくれるといいんですけど」

 そう不安げなフォレオを見て、あたしは自然と手を伸ばして頭を撫でる。元気付けるような感じで、もう元気はいっぱい貰ったから、あたしが出来る最大限の応援を送る。

「大丈夫、あたしはすっごく嬉しかったから。二人とも喜んでくれるはずだよ」
「ソレイユ、ありがとうございます。でも、男なのに頭を撫で撫でされるのは、少し恥ずかしいです」
「……もう、可愛いなぁ」

 ようやく撫でるのを止めて、あたしはフォレオを見送る。
 扉を叩いて、少しして部屋へと入ったところでフォレオの姿が視界から消えた。
 あたしは、最後の休日をいつも通り町で過ごすために、王城を後にした。
 こうして、あたしのフォレオ追跡紀行は終わりを迎えたのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 これはもしもの話



 ソレイユがフォレオを追う、奇妙な旅の話。



 ifの一つ……



『ソレイユのフォレオ追跡紀行』おわり

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


968 ◆P2J2qxwRPm2A2018/02/15(木) 19:28:49.70YSodv2Da0 (21/21)

今日はここまで

 ソレイユとフォレオは友人関係なスタンスが好みです。
 やっぱりドラゴンは緑色だなって、ミネルバを見て思った。


969以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/02/15(木) 20:42:59.19G6Q3eRhfo (1/1)

フォレオ隊とかいう可愛さの暴力
女装家、ロマンチスト、腐女子と色物だけど本当にかわいい


970 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 18:19:23.47YQSvpWbd0 (1/25)

◆◇◆◇◆◇

番外『カミラ×サクラ隊・最後』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「そんなことがあったのね」

 白夜の暗夜侵攻の熱が冷めないうちに起きたシュヴァリエ公国の反乱は、カムイを苦しめた。
 シュヴァリエ公国の騎士の一人と交流があったことを理由に王都で反乱を企てていたという疑いを掛けられ、身の潔白を証明するために鎮圧に向かった。
 そして、反乱鎮圧の知らせが届き、数日すればカムイが戻ってくると聞いて、私は到着を待った。
 到着予定の今日、扉を叩いてやってきたのはレオンで私にシュヴァリエで起きたことを教えてくれた。
 カムイが暴走したこと、アクアがそれを止めたこと。そして、カムイの臣下であるリリスが戦死したこと。何よりも私の中で一番衝撃的だったのは、お父様がカムイから光を奪ったという淡々とした事実だった。

「お父様は、どうしてそんなことをする必要があったの?」
「わからない。出来ればそのことについて調べたいところだけど、今父上に昔のことを尋ねたりすれば、新しい疑惑を生むことになるかもしれない」
「動けないというわけね……。カムイ、苦しんでいないかしら。目のことだけでも酷なのに、リリスまで失ってしまうなんて」
「本人は大丈夫だって言っているけど、実際は消耗してる。だから僕が代わりに伝えに来たんだ。それに姉さんにこういうことに馴れてもらいたくない、一人でいられる時間があれば、きちんと向き合って落ち着けるはずだからね」

 レオンの言葉は切実にそれを願っている言葉だ。
 私もそうだ、あの優しいカムイが友人や家族の死に動じなくなってしまう事なんて考えたくはない。カムイは何時だって誰かを大切に思っているはずだから……


971 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 18:30:00.13YQSvpWbd0 (2/25)

「まかせて、シュヴァリエでの事はサクラ王女たちに伝えておくわ。カムイには落ち着いてから顔を出すように伝えてちょうだい」
「わかったよ、カミラ姉さん。ごめん、サクラ王女達が眠る時間まで待ってもらってさ」
「いいのよ。それにいきなりそんな話をされても、あの子たちが困ってしまうもの。だけど、カムイが無事だってことが分かっただけでもいいことよ。あの子ね、カムイの事ばかり心配していたから」

 私は思い出して、そう呟いた。
 シュヴァリエが反乱を起こしたという知らせが入ったあの日……。カムイが反逆者として捕まったという知らせに、一番動揺していたのはサクラ王女だった。この反乱に白夜が絡んでいるとわかった時点で、その報復があるかもしれないよ自分たちの心配をするべきなのにサクラ王女はカムイの事ばかり気に掛けていて、それがとても印象に残っている。

「あの子たちはいい子よ。いい子すぎて、白夜の人間だってことを忘れてしまいそうになるくらい」
「ははっ、カミラ姉さんは長く一緒にいるからそう思うのかもしれないね」

 レオンの言い方は、僕は違うけどねと告げていた。多分それが正解だと思う。
 だとしても、私の中には少なからず違う感情が芽生えているのが分かる。
 初めて会った時に比べて、私はあの子たちの力になってあげたいと、どこかで思っているのだから。


972 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 18:37:56.18YQSvpWbd0 (3/25)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 中庭の休憩所でゆったりと月を眺める。少し前にここでツバキを慰めて、三人にカムイが伝えるべきだったことを、掻い摘んで伝えたのは記憶に新しい。そんな中で起きたシュヴァリエでの反乱は、三人の心を休ませてはくれなかっただろう。

「……サクラ王女、今日はぐっすりと眠れているかしら?」

 反乱鎮圧の知らせが届いたのは二日ほど前、そしてカムイが無事だという知らせは昨日届いた。その時のサクラ王女の安堵した表情はとても印象に残っている。
 見ている人も安心させるような穏やかさ、純粋に人のことを思い、そして誰かのために祈ることが出来る、それがサクラ王女の人間性なんだと思う。
おそらく、サクラ王女は大切な人のことを素直に思うことのできる人なのだろう。理由は要らない大切から大切なのだと。
 そう考えていたら、ふと笑みがこぼれた。
 サクラ王女のことを考えて笑みを零すなんて、ここに彼女たちが来た当初では考えられないことだった。思った以上に私も変わっているのだとつくづく思う。
そろそろ戻ろうと視線を屋敷へ向ける。視線の先には屋敷内へと戻るための扉が見え、そこを目指して足を進めようとしたところだった。
その扉の前に立ちつくしている影があることに気づく。それは私の存在に気づくことなく、空を見上げている。
空には月があって、その光に照らされたサクラ王女がそこにいた。彼女は一人、静かに月を眺めている。どこか儚さを覚えるそのシルエットを見つめながら、いつも一緒にいるカザハナとツバキの姿が無いことに気づく。
そう言えばこうして二人きりになるのは初めてだと、私は改める様に腰を上げて歩み寄ることにする。
しかし、歩み寄っているというのに、彼女は気づかない。どれくらいで気付くのだろうかと思って歩を進めていると、もう手の届く距離になっていて、観念したように声を掛けた。

「こんな時間にどうしたの、サクラ王女」
「え、あ、カ、カミラさん! こ、ここんばんは……」

 私の声にようやくサクラ王女は行動する。ふいに声を掛けられたからか慌てて動く、そして私に背を向けた。


973 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 18:45:25.16YQSvpWbd0 (4/25)

「……もしかして、私のことが嫌いだったかしら?」
「あ、これは違うんです。そ、その……」
「違うっていうのは何が違うのかしら、声を掛けてすぐに背中を向けられちゃったら、勘違いも何もないと思うけど?」

 声を掛けた直後に背を向けられれば、勘違いも何もあったものではないと思う。それに対して、サクラ王女は大きく深呼吸してから答えてくれた。

「え、えっとその……、実は私、あがり症なんです……」
「あがり症?」
「は、はい……。その、大勢の人と一緒にいるときは大丈夫なんですけど。こうして誰かと一対一で向き合って話をするのは、そのえっと……」
 
 意外な事情だと思った。いや、嘘を吐いているのかもしれないと、話し続けるサクラ王女の正面に回る。その顔は真っ赤で、正面の私に気づいていない。そうして、次の言葉を考えているところで不意に上がった顔が私を見つけた。そして、くるっと回って背を向ける。

「か、カミラさん近いです、近すぎます!」
「あらあら、本当に苦手なのね。私を遠ざけるための方便かと思ったのだけど」
「ご、ごめんなさい」

 どうやらサクラ王女と二人きりになる機会が無かったのはこれが原因のようだ。ツバキもカザハナもよくサクラ王女の近くにいるけれど、多分このあがり症のことも含めて傍にいたと考えられる。小さくなった背中、見えなくても顔を真っ赤にしているだろうサクラ王女の姿が思い浮かんだ。

「本当は、克服したいと思っているんです。でも、中々うまくいかなくて。同い年の人とかはどうにかなるんですけど、そのカミラさんみたいにとっても大人っぽい方とかは、まるで別世界の人に思えてしまって、何を話していいのかわからなくて……」
「まぁ、人を異世界の住人のように言うなんて……。はぁ、傷ついちゃうわ」

 そう言いながらも私の口元は綻んでいる。背中を向けたままで不安を感じているのか、小刻みに揺れている彼女にゆっくりと近づく。私の接近に気づいていないようで、サクラ王女は矢継ぎ早に言葉を連ねていった。

「ご、ごごごめんなさい! その、別に話しをしたくないっていうわけじゃないんです、出来れば、カミラさんとはちゃんとお話しできたらって思ってはいるんですけど――」
「なら、これはどうかしら?」

 それを止める様に、私は静かに背中を合わせる。背中に感じるサクラ王女の感触は見た目通り小さく柔らかい。そして、背中を合わせてから少しするとサクラ王女もやがて落ち着き、私の背中に身を預け始める。さっきまでの流れていた空気が軽いものになるのを感じた。


974 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 18:52:33.38YQSvpWbd0 (5/25)

「カミラさんは優しいですね」
「そうかしら、あなたたちを最初殺そうとしていた以上、優しいなんて言えないと思うけど」
「いいえ、カミラさんはとても優しい方です。少なくとも私はそう思っています」

 落ち着いているからなのか、サクラ王女の言葉に詰まりは無かった。
 だけど、私を優しいというのは間違っている。私が優しく接しているのはとどのつまり、それがカムイのためになるからに他ならない。

「ふふっ、ありがとう。お世辞でもうれしいわ」
「お、お世辞なんかじゃありません! 私、カムイ姉様が信じているカミラさんを信じられます。カザハナさんにもツバキさんとも向き合ってくれたあなたが優しくないなんて、そんなことあるわけないです!」

 饒舌に話すサクラ王女、その言葉に少しだけ暖かい気持ちを感じた。あまり嘘を吐ける性格ではないと思ったけど、ここまでストレートに言ってくるのは誤算だった。気恥ずかしさをごまかすように、私は空を見上げる。まだ月が私たちを見下ろしていた。

「ねぇ、どうして月を見ていたの?」
「もしかして、見ていたんですか」
「ええ、あんなに一生懸命月を見つめちゃっていたから。もしかして気になる人のことでも考えていたのかしら」
「そ、そんなこと考えていませんし、気になる人もいませんから……」

 私の問い掛けをサクラ王女が慌てて否定する。なら、どうして月を見つめていたのか尋ねると、見えない先で彼女の視線が上がる気配があった。

「ここから見る月も、白夜で見る物と変わらないって思ってしまって。それがどうしてなのかを考えていたんです」

 それはサクラ王女のような幼い外見の子から出てくる言葉には思えなかった。
 月は月だと言ってしまえばそれまでだけれど、サクラ王女の言いたいことは物体としての事ではないことくらい理解できる。おそらく、ここから見える月と白夜で見た月、違う場所にいるのに全く同じに見えてしまうその理由を、サクラ王女は知りたがっているようだった。


975 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 19:02:34.24YQSvpWbd0 (6/25)

「そうね、例えばサクラ王女にとって月が大切なものではないから、そういうことだったりはしない?」
「大切なものじゃないですか?」
「ええ、私にとって敵の命がどうでもいいものであるように、サクラ王女にとって月はどうでもいいもの。だからどこから見ても変わらない、ほら理由になりえるでしょう?」
「え、えっと、そうかもしれませんけど。それはなんだか悲しすぎると言いますか、寂しいと言いますか」

 サクラ王女の言いたいことはわかる。すべての物を二つに分けてしまったら、それは興味のある物と無いものになってしまう。極論ではあるけど、世界は多分これだけで成り立っているはずだ。考えて見ればとても寂しいことかもしれないけれど、私にはそれくらいの分別で丁度よかった。
 私の考えを口にするとサクラ王女は少しだけ唸って考えていたが、やがて降参するように肩を落とした。

「ごめんなさい、私にはそういう風に考えることは出来ません。でも、どういう風に思うべきなのかもわからなくて……」
「ふふっ、サクラ王女にはまだそういうのは早いのかもしれないけど、いずれわかる日が来るはずよ」
「そ、そんなものなんでしょうか」

 それに私は、そういうものなのよと答えた。


976 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 19:07:05.23YQSvpWbd0 (7/25)

 うーん、とサクラ王女は再び考え始め、私はそれを背中に感じながらこの子たちのことを思う。シュヴァリエの反乱には白夜が一枚噛んでいることはわかっていた。それが彼女たちを危険に晒す可能性があることも……。
 戦争が進めば進むほど、それはサクラ王女達の命が消費されていくことを表している。白夜が優勢になれば、人質としての価値は上がる。逆に暗夜が優勢で白夜が劣勢なら、人質の価値は下がっていくことだろう。だけど、どちらの終わりも深く暗い闇に違いはなかった。
 サクラ王女たちの命が助かる可能性は、今現在どこにもない。それは誰もがわかっているけれど、口に出さないことだった。

(サクラ王女達は気づいているのかしら……)

 背中越しに感じるサクラ王女の温もりは確かなものだけど、それが何時消えてもおかしくない灯でもある。
 だけど、彼女は知っているのかもしれない。自分の命が何時潰えてしまうのかわからないということを。だから、ふとこんな疑問が浮かんだのかもしれない。それがどういう意味なのかは分からないけれど、サクラ王女には必要な事だと思えるから。

「うーん、カミラさん。やっぱりわからないです」
「ふふ、考えて見つかる物じゃないのかもしれないわ。ある時ふとわかる物だったりするものだから、気長に考えたほうがいいわ」
「わかりました。あの、もしもそれがわかったら、カミラさんに最初にお話してもいいでしょうか?」
「ふふっ、いいわよ。楽しみにしているわ」
「はい、ありがとうございます」
 
 今はその夢が続く様にと、私は手を差し伸べた。




977 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 19:13:59.52YQSvpWbd0 (8/25)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 サクラ王女と夜に話をしてからわずか一週間後のこと、そのセレモニーは開かれた。
 カムイを公式に暗夜の王族として公表するその式典は、かつてないほどに盛大なものとして扱われた。
 反乱を鎮圧した英雄、暗夜を勝利に導く女神、マークス兄様に並ぶ剣の名手、他にも様々な二つ名がある中でダークブラッドという称号が今のカムイを表している。そんなカムイの姿を私は遠くから眺める。

「行かなくていいんですか?」
「ええ、ここからでもカムイの姿は見えるもの。それにあなたたちを置いて行くわけにはいかないわ」

 私の近くにいたサクラ王女はそう言ってぎこちなく笑う。サクラ王女がここに呼ばれたのはいわば見世物のようなもので、正直こういう雰囲気に馴れていると言われなかったのでホッとした。
 周囲からはシュヴァリエ公国の反乱に加担していた白夜を誹謗する言葉が時々漏れてくる。中には下世話な視線と言葉でサクラ王女を見ている者たちもいる、なんとも性質が悪かった。
 本来、ここにサクラ王女達が来る必要はない。カムイの式典だとしても、それに白夜の人間が参加する通りなど無いのに彼女たちはここに呼ばれた。
 お父様の命令だから仕方ないかもしれない。でも、ここに呼ぶことに意味があるようには到底思えなかった。


978 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 19:17:19.68YQSvpWbd0 (9/25)

「あ、いたいた。カミラ王女、サクラ様!」
「サクラ様、大丈夫ですか?」
「あ、ツバキさん、カザハナさん。そんな慌てなくても大丈夫です」
 
 少しの間だけでもサクラ王女を見失ったからか、慌てた様子で二人が駆け寄ってくる。カザハナはもう離れたりしたらダメだからねとサクラ王女の手を取り、ツバキは周囲でそう言った下世話な話をする者たちを牽制し始める。
 その視線にうんざりしたのか、サクラ王女が反応を示さないからなのか、興味を無くして散っていく。ようやく落ち着いたところでカザハナが呆れて溜息を漏らした。

「サクラ様、大丈夫? ああいう奴らってホント信じられない」
「は、はい、ありがとうございますカザハナさん。その、手が少し痛いです」
「ダメだよ、手を離した隙に変な奴がサクラ様を攫うかもしれないでしょ、これだけは譲れないからね!」

 ますます強くなっていく手の力にサクラ王女の眉間に皺が寄っていく。サクラ王女にしては中々に渋い顔が出来上がりつつあって、可愛さが台無しになりそうな勢いだった。それをツバキがやんわりと緩ませるように指示たところで、サクラ王女の表情に安堵が混じった。

「ふふっ、カザハナはサクラ王女のナイトなのね」
「ナイトって白夜でいう侍みたいなものだよね! もちろん、そうだよ。これからもサクラの事はあたしが守っていくんだから!」
「カザハナ、それは聞き捨てならないなー。俺もずっとサクラ様のことを守っていくつもりなんだけど」
「何を言われても、サクラは渡さないからね」
「へぇ、なら今度勝負しよっか。それで負けた方が引き下がるってことでどう?」
「カザハナさん、ツバキさん落ち着いてください。カミラさんも二人を説得してください」
「さぁ、どうしようかしら?」



979 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 19:20:13.17YQSvpWbd0 (10/25)

 困って顔を赤らめているサクラ王女はなんとも幸福そうだった。
 サクラは白夜の花の名前だからかもしれない。花が開いたような笑顔というのはあながち間違いではないと思う。そんな可憐で美しいものを見ると、口元が綻んでしまうのも当然のことねと、自身の口を緩ませたままにした。

「カザハナさんにツバキさん、それ以上続けるなら、私カミラさんに護衛を頼んじゃいますよ」

 と、今度は私の元にサクラ王女が駆け寄ってくると、ドレスの裾を掴みつつ私を盾に隠れる。私もこの修羅場にもなっていない修羅場の輪に入れられてしまったようだ。
 そしてサクラ王女のその行動に二人は驚く。信じられないものを見た様にあんぐり……とまでとはいかないが、ぽかんと口を開けていた。

「え、いつの間にカミラ王女とそんなに仲良くなったの!?」
「俺たちの知らない間に何かあったみたいだけど……」

 二人は羨望の眼差しと言っていい物を私に向けている。その二人の反応にサクラ王女が隠れるのを止めて、私の真横に立った。

「え、えっとですね。その……」

 何とか弁解しようとしているみたいだけど、二人が他人にそういう視線を向けたのは珍しいことなのか、言葉を選びきれないようだった。

「ふふっ、ちょっとおねえちゃんが相談に乗ってあげただけよ。あなた達と同じ、カザハナにもツバキにもそうしたように、サクラ王女のお話を聞いてあげただけ」
「そ、そうです。カミラさんに色々と聞いてもらって」
「ええ、私としてはもっと大胆な夜のコミュニケーションも悪くないのだけどね?」



980 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 19:22:19.31YQSvpWbd0 (11/25)

 私の言葉にカザハナが顔を真っ赤にして、ツバキに続いてカミラ王女まで!? サクラ、あたしも夜にお話しに行ってもいい?と矢継ぎ早に言うものだから、それにサクラ王女まで真っ赤になる。
 そんなカザハナの発言から庇うように、私はその頭を優しく撫でてあげた。

「あらあら、サクラ王女に頼まれたら守ってあげないといけないわね。サクラ王女」
「ひゃっ、カミラさん。そんなに撫でないでください」
「いいじゃない、守るものは愛でてこそだもの。ふふっ、サクラ王女を守ってあげたくなる二人の気持ち、わからないわけじゃないわ」
「そ、それはそうかもしれないけど、サクラはあたしが守るの!」
「俺たちはサクラ様の臣下だからね、カミラ様に悪いけど、その役目は返上してもらわないと」
「そう、サクラ王女は幸せ物ね。こんなにあなたを守ってくれる人がいるんだから」

 私はサクラ王女に視線を下ろした。まだ赤くなっているその顔を見てあげようと考えて覗き込んだ。だけど、その顔は予想と違う物だった。

「……」

 私が見た時、サクラ王女はただ静かに見えている景色を見つめていた。
 まるで時間が止まってしまったように、さっきまで可愛らしく思えたその顔はどこか冷めているようにさえ感じてしまった。
 
「サクラ王女?」
「……あ、カミラさん」



981 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 19:25:41.96YQSvpWbd0 (12/25)

 声を掛けられるまで、時間が止まっていたのかもしれない。声を掛けなかったらサクラ王女の時間は止まったままだったのかもしれない。そう思えてくるほどに、サクラ王女の言葉はか細いものだった。
 一体何が原因なのかと視線を動かす。まずは正面、カザハナとツバキもサクラ王女の様子を心配している。二人がこの変化の原因とは考えられないから、視線を奥に進めた。
 しかし、進めても同じような貴族の姿以外に何もなかった。何も特徴的な物はない、誰かがサクラ王女の命を狙っているのかとも考えたけど、このセレモニーはあのマクベスが全体の指揮を執って行っていて、それはお父様からの指示を受けての物だ。生ぬるい警備などしていないだろう。
 だから原因は何もわからなかった。わからないけどサクラ王女に起きた異変は確かなもので、今できることは気遣う事くらいで、あまりにも弱々しい言葉しか出てこない。

「大丈夫?」
「はい、大丈夫です。ごめんなさい、少しだけ眩暈がして」
「も、もしかして風邪とか? 今から屋敷に戻る?」
「大丈夫です、カザハナさん。もう収まりましたし、それにカムイ姉様の式典には最後までいたいです」
「……そ、そう」

 カザハナも気づいているし、ツバキはわかっているから何も言わない。
 サクラ王女の苦し紛れの嘘、眩暈で誤魔化した本当の理由。その理由の力になりたいと二人は思っているはずなのに、聞き出そうとはしなかった。
 それで区切りをつけた様にカザハナは調子を戻してサクラ王女と接し、ツバキも同じように接していく。物事を修正するように動く世界の中で、私だけが取り残された気がした。
 同時にさっきの原因が他の誰でもない……
 私にあるのかもしれないという予感を、なぜか感じるのだった。


982 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 19:29:16.96YQSvpWbd0 (13/25)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 セレモニーが終わり、屋敷に戻るとカザハナとツバキはすぐに部屋へと戻る。それは自分たちに出来ることは今なにもないと言っているようにも感じられた。
 二人は多分信じているんだろう、サクラ王女がいつかきっとそのことを話してくれる。だから、今は静かに待つのが私たちに出来ることだということを。
 そして、私はその理由をサクラ王女から聞くべきだと思った。
 少しの間、書斎で資料の整理を行って時間を弄んだ。終わりの来ない時間の渦があるとするなら、それは思考の中にあるのだろうとサクラ王女を見て思う。
 あの時、サクラ王女の思考に浮かび上がったものは何だったのかはわからない。だけど私が関係している気がするのは、自惚れではないと思う。だって、私はサクラ王女の悩みを聞いているのだ。
 月の印象が変わらないという話、その原因である何かをサクラ王女はさっき掴んだのかもしれない、ならそれを聞くのは私の役割だった。
 なぜなら、私はそれを最初に聞くと約束しているのだから。
 どれくらいの時間が過ぎただろうと、私は腰を上げる。他の扉には目もくれず、私は中庭への扉を叩いた。
 自分の居場所だというのに、今日の扉の感触はいつもと違うものに思える。それはこの先にサクラ王女がいることを予見させるには十分すぎる物だった。
 重々しい中庭への扉、それを開いた先にサクラ王女はいた。


983 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 19:33:53.97YQSvpWbd0 (14/25)

「……」

 あの日と同じでじっと静かに月を眺めている。どこか儚げに感じたシルエットもそのままに、彼女はそこにいる。それに話しかけないでもいいと、考える自分もいた。サクラ王女の悩みに手を差し伸べたところで、もしかしたら意味などないのかもしれない。そう考えれば自室に戻ってしまうのもいいだろう。

「……そうはいかないわよね。あんな顔をされちゃったら……」

 セレモニーのあの瞬間だけ見せたサクラ王女の顔。冷めたように見えた顔、あれはどこか喪失感を漂わせていた。私はあの顔を知っている。昔、あらゆる日々に怯えなくてはいけないと知った時、私もあの顔をしていたような、そんな気がするからだ。
 最初の一歩を踏み出すのは時間が掛かったけど、歩き出してしまえばもう止まることは無い。その背中を見た時、この距離はそうそう埋まらないものだと思っていたけど、気づけばもうその背中に手が届く場所にいた。

「何を見ているのかしら?」
「……月を見ていました」

 サクラ王女は短くそう答えた。前と同じように背を向けたままだ。
この前話をした時のように、私はその背中に背を合わせた。サクラ王女は驚くことは無くて、そのまま私に背中を預けてくる。少しだけ支えてくれますかと尋ねているかのようで、それには私は少し背を丸くして腰を下ろす。二人して背中合わせに膝を抱える。そのわずかな静寂は思ったよりも重く圧し掛かってきた。
 でも、それにも終わりはやってくる。私はそれを、ただただ待ち続ける。そして、その時は静かに訪れた。


984 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 19:39:38.78YQSvpWbd0 (15/25)

「カミラさん、あの約束覚えてますか?」
「月が同じに見える理由を、私に最初に話してくれる約束の事?」
「はい、覚えててくれたんですね」
「サクラ王女が私に最初に話してくれるんだもの、忘れるわけがないわ」
「はい、ありがとうございます」

 弱弱しい微笑みが聴こえた。サクラ王女の思ったことが何なのか、それを私から聞くことは無い。彼女が話したいと踏み出すまで、私は静かに待つことにする。

「カミラさん……」
「なに、サクラ王女?」

 幾度かの呼吸の音を経て、覚悟を決めたサクラ王女の声が耳に届いた。
 少しだけ震えるサクラ王女の手に私の手を添える。それが私のできる最後の譲歩、ここからはあなたが紡がないといけないのだから。

「……この前の事、その理由が今日分かった気がしたんです。多分変わっていないのは月じゃないんだって……」

 なら、変わっていないものはなんなの?と私は尋ねる。サクラ王女の背中の感触が一層強くなった気がすると、彼女は静かに語り始めた。


985 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 19:46:48.99YQSvpWbd0 (16/25)

「私、白夜にいる頃からずっと守られてばかりだったんです。常に危ないことから守られる立場で、危険なことを進んでやるなんてこともありませんでした。お城にいるときも侍女の方がいて、軍議への参加も強制されていませんでしたし、何か怖いことがあるとお母様が優しくしてくれて、私はずっとそうやって過ごして来ました」

 それはなんと恵まれた世界だろうか、幼少期の私にはそんなものは無かった。常に親族の争いに怯えて、出来る限りお母様同士の争いに巻き込まれない様にと願う日々。私が泣いてもお母様がそれを殺めてくれたことはほとんどない。機嫌がいい時は違う母親の子が死んでしまった時くらいだった気がする。

「あの日、カムイ姉様を追いかけた時、私は何かが変われていた気がしたんです。守られるだけじゃない私になる事が出来た気がして……。でも、それは違いました。さっきの会場で、わかってしまったんです。私は守られることをどこかで当然のことのように思っていて、それが普通の事だと思っていたんです。月を見て何も変わってないって思ったのは、何も変わっていないことを誤魔化したかっただけで、結局私は成長も何もしてなかった…。私の身勝手が多くの出来事を引き起こしたかもしれないのに……」

 サクラ王女の声にあるのは失望と虚しさだった。
 まだ守ってもらえているということにホッとしている自分が許せない、あんなことをしておいて未だにそう思っている自分自身に失望していた。
 危険を承知でカムイを追いかけた結果、カザハナとツバキを巻き込んでしまった。そして、もしかしたら白夜の侵攻なども自身が原因なのではと考えてしまっているのかもしれない。
 それは彼女の他人を思いやる優しさ故のこと。誰かを思うことがどれほど大変な事なのか、それをサクラ王女は知らずにこなしている。だけど、そんな優しい彼女だからこそ、ここまでずっと守られ続けてきたことを理解してしまったのかもしれない。


986 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 19:48:48.45YQSvpWbd0 (17/25)

「……」

 それを優しい言葉で繕うことは簡単だ。なぜなら、弱まった心にはそういった言葉が良く浸透する。
 状況が状況だ、仕方ない、あなたの立場を考えれば仕方のないことだ、言葉の形は色々だけど、その本質は同情という名の逃げていいという口実で、今のサクラ王女はそういった言葉を求めているわけじゃなかった。
 サクラ王女は慰めてほしいからこういう話をしているんじゃない。ただ迷っているだけ、ならそれに少し手を差し伸べるのが私に出来る事だ。
 いつか、私がカムイを守るために強くなろうと決めた時のように……。それは自然と自分の胸に浮かび上がる物なのだから。

「そう、それが貴女の思う理由という事ね」
「ごめんなさい、こんな話をされても迷惑でしたよね……」
「これは約束だもの、迷惑でも何でもないわ。ねぇ、サクラ王女」
「なんでしょうか、カミラさん」
「あなたには、もう変われる力があるわ。こうして私に心の内を話せていることもあるけど、何よりあなたはそれを自覚して変わりたいと願っているもの。それはね、一番単純だけどとても重要な事。サクラ王女はそれを知っているのだから、そんなに怯えなくてもいいのよ」

 変わるために必要なのは今までの自分を知って、なりたい自分を思うことだと私は思う。
 サクラ王女は自分のことを知っている、そしてなりたい自分の姿も知っている気がした。


987 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 19:54:20.83YQSvpWbd0 (18/25)

「カミラさんはどうして、そう言ってくれるんですか?」
「ふふ、サクラ王女を見ていると、昔の私のことを思い出すの。あなたみたいな悩みではなかったけれど、そこに共通していた悩みの形は同じだったはずだから」

 私はずっと恐怖にさらされてきた。ずっと、ずっと。だけどそれはカムイと出会って変わったことだ。
 私は、私よりも悲惨な彼女を助けたいと思った。今まで自分が逃げていても手に入れられなかったものを、この子に与えたいと思ったのだ。
 だけど、このままじゃ彼女を助けられないと理解したときから、私は変わろうと考えた。
 それが私の起点だった。変わりたい自分を見つけて、そしてそれを克服しようと動き出すこと、それは今のサクラ王女と同じように思えた。

「……カミラさんを変えたのは何だったんですか?」
「カムイよ。私はあの子と出会って変わったの。昔の私はね、怖がりの臆病者で、とてもじゃないけど誰かのために何かをするなんて発想を持っている子じゃなかったわ」

 私の言葉にサクラ王女が驚きの声をあげる。それはなんだか今の自分の姿が間違いじゃなかったと思わせてくれるものだった。

「ねぇ、サクラ王女。人は勇敢にもなれるし臆病にもなれる。でも、それは勝手になっていくものじゃなくて選ぶことによって得られるものなの。今の自分から変わりたいと願うなら、選ぶことを恐れてはいけないわ」
「だけど、私は選べてなんていません……」
「今まさに選べているじゃない」

 土を強く握っているサクラ王女の手に手を重ねると、その綺麗で小さな手を優しく介抱する。爪に入った土を優しく出すよう、その悔しさは重要だけどもう必要ないものだというように。だって、その悔しさに値するものをサクラ王女は選んでいるのだから。

「こうして私に話してくれたことがその証拠よ。自分の弱いところを敵である私に教えてくれたこと、そして私の話を全部聞いてくれたこと。貴女は選んでいるわ、ちゃんとあなたが望むあなたの姿のためにね?」
「カミラさん……ううっ、ひぐっ……」



988 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 19:56:37.25YQSvpWbd0 (19/25)

 サクラ王女が静かに涙を流し始めると、私の手が強く握られる。背中越しに聞いたサクラ王女の悩みが溶けだしていくようにも感じた。

「私、誰かを守れる人になりたいです……。今まで、いっぱい、いっぱい守ってもらえた分、誰かを、誰かを守れる自分になりたいです……」
「ふふ、素敵な夢ね」
「カミラさんのこともきっと、きっと守れるようになりますから……」
「あらあら、いいのかしら? 私を守るのは結構大変だと思うけど?」
「大変だとしても守ります。私、いつかきっと守れるようになりますから……」

 泣きながらサクラ王女は話してくれた。その約束が果たされる日が本当に来るかはわからないけれど、私には大きな絆の流れが感じられる。
 だから自信を持って言葉を返した。

「そう、楽しみにしているわね。サクラ王女」
「は、はい……」

 サクラ王女は私に背中を預けたまま、静かに涙を流し続ける。それが悲しみの涙ではなくて、嬉しさの涙だろう。
 私とサクラ王女の交わした新しい約束。
 それが何時か果たされる日が来ることを願いながら、夜の月を私は眺めて彼女が泣き止むのを静かに待ち続ける。
 今日見えている月が、サクラ王女にとって特別な意味をもつ月になりますようにと、心の中で願いながら。


989 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 19:58:12.05YQSvpWbd0 (20/25)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「あの、みなさん昨日はお騒がせしました」

 そうサクラ王女が頭を下げて現れたのは、ツバキとカザハナに今後の事について意見を聞いている時だった。昨日の夜の事を思い出しながら、私の対面に腰かけるサクラ王女に笑みを返す。

「サクラ、えっと……」
「サクラ様」
「ツバキさん、カザハナさん。その昨日はごめんなさい。そしてありがとうございます、待ってくれて」
「いいんですよ。サクラ様にも色々と事情はあると思いますし。それに、どうやら解決したみたいで何よりですよ」
「みたいだね。今日のサクラ様、とっても可愛いもん」
「わっ、カザハナさん。くすぐったいですよ」

 カザハナに抱きしめられて楽しそうなサクラ王女を見て、私はくすりと笑った。この先の苦難は確かに辛いものだけど、この子たちにしてあげられることのすべてをしてあげたいと思えてくる。それは、なんだか自分が変わっていくような感触だった。

(……そういうことね。まさかこんな形で、気づかされちゃうなんて)

 この子たちの力になりたいと思っているのではなく、そうしたいと私は動いていた。カムイに頼まれたからという理由を前に置いていたのは、多分自分の中のプライド的なものが素直になる事を許していなかったからだろう。
 昨日、サクラ王女に伝えた言葉がそのまま私に帰ってきたようで、そのおかしさに苦笑すると三人が私に視線を向けてきた。



990 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 20:02:04.01YQSvpWbd0 (21/25)

「ごめんなさい。本題に入る前に一つだけいいかしら?」

 私はそう言って、三人と向き合った。
 カザハナ、ツバキ、そして、サクラ王女。この三人に出会うことが無ければ、私はきっとカムイと一緒に過ごしているだけだったのかもしれない。
 それも確かにいいことね。でも、こうして選んできたこの道にも、確かな意味があるのだと私は思う。いや、この道を進んだからこそ得ることのできる物が確かにあるのだから、私はこうして伝えなくちゃいけないんだと思う。

「あなたたちのこと、私に守らせてちょうだい。いつか、白夜にあなたたちを送り届けるその日まで……ね?」

 私は伝える。三人を守っていくことを、どんな形であっても三人をきっと白夜に送り届けることを。それがどんな苦難の道だったとしてもだ。
 なぜなら、これはカムイの願いではなく、私が願うことなのだから。
 三人は少しの間、きょとんとしていたけれど最後に嬉しそうに笑みを浮かべてくれて、それに私は微笑んだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 これはもしもの話。


 カミラがサクラ王女達を守っていくことを誓う物語。


 Ifの一つ……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『サクラ隊カミラ』番外 おわり


991 ◆P2J2qxwRPm2A2018/03/11(日) 20:12:21.32YQSvpWbd0 (22/25)

○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアA
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ギュンターA
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアB+
(カムイに従者として頼りにされたい)
フローラA
(すこしは他人に甘えてもいいんじゃないかと言われています)
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
リリス(消滅)
(主君を守り通した)

―暗夜第一王子マークス―
ラズワルドA
(あなたを守るといわれています)
マークスB++
(何か兄らしいことをしたいと考えています)
ピエリB
(弱点を見つけると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
オーディンA
(二人で何かの名前を考えることになってます)
ゼロB+
(互いに興味を持てるように頑張っています)
レオンA
(カムイに甘えてほしいと言われて、いろいろと考えています)

―暗夜第一王女カミラ―
ルーナA
(目を失ったことに関する話をしています)
カミラA
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ベルカB++
(生きてきた世界の壁について話をしています)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼA
(昔、初めて出会った時のことについて話しています)
ハロルドB+
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィB++
(一緒に訓練をしました)

―白夜第二王女サクラ―
サクラA
(カムイと二人きりの時間が欲しいと考えています)
カザハナA
(素ぶりを一緒にする約束をしています)
ツバキB
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
シャーロッテA
(返り討ちにあっています)
フランネルB+
(宝物を見せることになっています)
サイラスB+
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB++
(許されることとはどういうことなのかを考えています)
スズカゼB
(おさわりの虜になったようです)
モズメB+
(時々料理を食べさせてもらう約束をしています)
リンカB+
(過去の雪辱を晴らそうとしています)
ブノワC+
(イベントは起きていません)
アシュラB
(暗夜での生活について話をしています)