274 ◆JZBU1pVAAI2017/04/02(日) 23:41:27.77r/WNV3U20 (11/13)

番外編「合宿所⑨」


どうにか出来上がった昼飯をみんなで食べたのち、俺たちは2階へ移動した。

八幡「ここの部屋もかなり広いな」

花音「ま、午後は全員で作業をするしそんなに時間もかからないんじゃない」

遥香「2階は共有スペースにするんでしたよね」

蓮華「えぇ。そしたらここにみんなが置きたいものを1つずつ置いていってほしいな~」

え、何それ聞いてない。そこのプロダクションの事務所ですか。

八幡「俺何も持ってきてないんですけど」

みき「あ、先生に連絡するの忘れてました」

八幡「おい、俺のこと忘れないで」

昴「でも先生、アタシたちのグループラインにいないんですもん」

うらら「そうだ、これを機にハチくんもグループに入ってよ!」

八幡「え、やだよ。個別に連絡してくれれば済む話だし」

ミシェル「でもみんな忘れてたら今日みたいなことになっちゃうよ?」

望「それに、正直個別に連絡するのメンドイし…」

サドネ「だからおにいちゃんもグループに入って!」

八幡「わかったよ…」

そう言って俺はポケットからスマホを取り出した。その瞬間、何本もの手が伸びてきて一瞬で俺のスマホは拉致されてしまった。

八幡「ちょっと、いくら俺のスマホだからって雑に扱わないで?」

だが俺の言葉は届かず、それどころかスマホのロックも外されてしまった。

楓「先生の履歴、女の人ばかりですわね」

遥香「この『小町』っていう名前は先生の妹さんの名前ですよね」

くるみ「でもそれ以外にも『☆★ゆい★☆』とか『平塚静』とか『戸塚彩加』とか他にも色々あるわ」

ひなた「八幡くん、モテモテだね!」

あんこ「ここにある人のアカウントを調べればどんな人か特定できるわね」

八幡「やめください、返してください、お願いします」

ゆり「ほら先生も困っているだろ、みんな、返すんだ」

みき「でもゆり先輩も興味津々で先生のスマホ見てましたよね?」

ゆり「そそそ、そんなことはない!」

火向井は叫びながらスマホを奪い、俺に押し付けてどっかに行ってしまった。

詩穂「ふふ、でもこれで先生も私たちとラインが出来ますね」

心美「これからよろしくお願いします、先生」

桜「そろそろ始めようぞ。わしはもう眠いのじゃ」

蓮華「あらあら、桜ちゃん、れんげが膝枕してあげるわよ」

明日葉「こら蓮華ふざけるな。今日はお前がみんなをまとめるんだぞ」

蓮華「はーい。じゃあみんな~、持ってきたものをどんそん置いていきましょう~」



275 ◆JZBU1pVAAI2017/04/02(日) 23:41:56.75r/WNV3U20 (12/13)

番外編「合宿所⑩」


ひなた「ひなたはね~遊ぶためのトランプ!」

桜「わしは枕じゃ」

サドネ「サドネはお菓子!チョコがいっぱい!」

ミシェル「ミミはお気に入りのウサギさんのぬいぐるみ~」

楓「ワタクシは絵を描くためにキャンパスや絵の具を」

うらら「うららはダンスの練習のための大きな鏡!」

心美「わ、私は神社で御祈祷したお守りを持ってきました…」

みき「私はお料理のレシピ本です!」

遥香「みんなが落ち着ける音楽のCDをいくつか」

昴「アタシは筋トレグッズです!みんなでやりましょう!」

ゆり「私は練習用の竹刀を。決して罰を与えるためのモノじゃありません!」

くるみ「私は幸福をもたらすというガジュマルの鉢植えを」

望「アタシもみきと似ててファッション雑誌を何冊か!」

花音「私はダンスの練習用にスピーカーを。うららと被らなくてよかったわ」

詩穂「私は花音ちゃんの歴史が詰まった特製アルバムです」

あんこ「ワタシはノートパソコン。ここ、なぜかWi-Fi飛んでるのよね」

明日葉「私も本で被ってしまうが、おすすめの小説を何冊か」

蓮華「で、れんげはカメラ~」

何人かおかしなものを持ってきてるような気がしたが、つっこむべきなのだろうか。いや、俺が怪我しそうだし黙っておくか…

八幡「とりあえずみんな置けたな」

改めて見るとなんとも統一感の無い空間が出来上がった。人数分とは言えないまでもテーブルやイスがいくつかある他に、無造作にみんなのものが所せましに置かれている。

でも、こういう個性がバラバラで、でもみんな近くで支え合っている星守クラスを象徴しているような気がして不思議と違和感は感じない。

蓮華「みんな~、れんげのカメラで写真撮りましょうよ~」

昴「いいですね!」

遥香「でもその写真、悪用しないでくださいね」

蓮華「もちろんよ、今から撮る写真は使わないから」

桜「ということは他に撮った写真は悪用する気じゃな」

なんだかんだ言いながら結局みんな一つにまとまっていく。合宿所の本来の使い方からは間違っているが、これもこれでいいのかもしれない。

みき「ほら先生!撮っちゃいますよ!」

八幡「あぁ、今行く」

この日撮った写真も後日、この2階のお守りの隣に飾られた。いや、さすがにもう少し違うところに飾ってほしいんですけど…なんか縁起悪いみたいじゃん。


276 ◆JZBU1pVAAI2017/04/02(日) 23:46:20.78r/WNV3U20 (13/13)

以上で番外編「合宿所」終了です。もっと短くするはずが⑩までいっちゃいました。実際合宿所はみなさんどのくらい使ってるんでしょうか。個人的に合宿所は教室同様全員入居できないのが寂しいところです。


277以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/04/03(月) 09:57:25.29UilpYTKlo (1/1)

乙です


278以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/04/03(月) 19:02:28.26WnnZkv2UO (1/1)

おつおつ、めっちゃレス増えてて見間違いかと思ったw
合宿所は経験値貯めたい子をトロフィー部屋にぶちこんでるだけという現状


279 ◆JZBU1pVAAI2017/04/09(日) 00:06:52.557WQX1+Fa0 (1/1)

本編3-1


小町「へ〜。ふ〜ん。あ、おにいちゃんおはよー」

八幡「おう、おはよう」

俺は小町と挨拶を交わしてテーブルに座り、コーヒーにミルクと練乳を入れたものを飲みつつ、小町が作ってくれた朝ごはんを堪能する。

俺が神樹ヶ峰に行くようになって以来、家を出る時間が早くなったのだが、小町もなぜか俺と同じように早く起きてくれる。全く出来た妹である。だが、小町は早く起きても朝ごはんを作るとやることがなくなるので、こうして暇を持て余してるのだ。今日は女子中高生に人気そうな雑誌を眺めている。そういう雑誌の記事って何一つ信用できないよね。なんで売れるんだろう…

小町「うーん、すごいなぁ」

八幡「なにが」

小町「いやね、この雑誌の『輝くティーンエイジャー!』っていう特集に載ってる子たちってみんな小町とかおにいちゃんとかと年は変わらないのにすごい人ばっかりだなぁって」

八幡「ふん、そういう記事に載るような人ってのは『頑張ってる私、ステキ!カワイイ!みんな褒めて!』とか思ってるような奴ばかりだからな。注目されたいっていう魂胆が丸見えなんだよ」

小町「うわぁ、出たよおにいちゃんの捻くれた思考回路。そりゃそういう人もいるだろうけど、例えばこの子みたいな純粋な子もいるんだよ!」

八幡「小町、それは『純粋を装った目立ちたがり屋』だぞ。勘違いするな」

小町「なんでそうやってすぐ否定するかな…いいからこの子の記事だけでも読んでよ!」

そう言って小町は俺に雑誌を押し付けてきた。まぁ読みもせず批判するのはダメか。しっかり読んでこの記事をメッタメタにしてやろう。

----------------------------------------

特集「輝くティーンエイジャー!」

今回の「輝くティーンエイジャー!」は中学3年生ながら〇〇神社で巫女さんとしても頑張る朝比奈心美ちゃんへの直撃インタビューを掲載しちゃうよ!

インタビュアー(以下、イ)「心美さんは中学生と巫女を両立して頑張ってると思うんだけど、大変だよね?」

心美ちゃん(以下、心)「い、いえ、どっちも私にとっては大事なことなので、大変ですけど、だ、大丈夫、です…」

イ「それに学校では部活動にも取り組んでるんだよね?天文部、だっけ?」

心「は、はい。星を見るのは大好きなので…」

イ「うんうん、とっても素敵だと思うよ!じゃあ、そんな心美ちゃんにこの記事を読んでる同年代の女の子たちへメッセージをお願いできるかな?」

心「え、そんな、私なんかが言えることなんて、ありませんよぉ…」

イ「心美ちゃんは謙虚なんだね、ますます好感度が上がっちゃったよ!今回は本当にありがとう!」

心「あ、ありがとうございました…」

------------------------------------------

うん、もういつもの朝比奈だよね。文面でもあのちょっと怯えてる感じが表れてるなぁ。同じページには明らかに緊張してる巫女姿の朝比奈の写真もあるし。って

八幡「これ朝比奈じゃん…」

小町「え、なになにおにいちゃんこの子知ってるの?」

八幡「知ってるもなにも俺のクラスの生徒の1人だよ…」

なんでこいつ雑誌のインタビューなんか受けてるんだよ。明らかに人選ミスでしょ…

小町「すごいすごい!てことはこの子も星守なの?」

八幡「まぁそういうことになるな」

小町「小町と同い年で星守も巫女さんもやっちゃうんだ。すごいなぁ」

まぁ確かに傍目から見たらそう映るのかもしれない。現にこうして雑誌で取り上げられて、読者の小町も感心してるし。

小町「ほらおにいちゃん、みんながみんな目立ちたがり屋な女の子なわけじゃなかったでしょ?」

すごい憎たらしく微笑しながら小町は俺に言ってくる。妹じゃなきゃ殴っててもおかしくないが、言ってることは正しい。

八幡「ま、そうだな。そこは訂正する」

小町「これを機に少しは捻くれた考え方も直したら?あ、もう時間だよおにいちゃん。早くしないと遅刻するよ」

八幡「おう、じゃ行ってくる」

小町「いってらっしゃい!」


280以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/04/09(日) 01:49:07.84pmqHPkM3o (1/1)

乙です


281 ◆JZBU1pVAAI2017/04/11(火) 13:02:02.20UOYZX4ALO (1/1)

本編3-2


学校での朝の作業が終わってしまい、手持ち無沙汰だったので早めに教室に行くことにした。

八幡「うす」

心美「せ、先生、助けてください…」

俺が教室に入るや否や朝比奈が俺に駆け寄ってきた。

八幡「なんだよいきなり」

心美「あの、みんなが雑誌のことで私を質問責めに…」

うらら「ここみ!まだ話は終わってないわよ!」

そう言って蓮見も俺たちのところへやってきた。教室の後ろの方では何人かの生徒たちが机の上にある雑誌をあーだこーだ言いながら眺めている。

心美「だってうららちゃんの雰囲気ちょっと怖いんだもん…」

うらら「うららより先に雑誌のインタビュー受けるなんて…もっとその時のことを詳しく教えなさい!」

どうやら小町に今朝読まされたインタビュー記事のことが話題らしい。

八幡「あぁ、あの記事か」

うらら「え、ハチくんあの雑誌読んでるの?それはさすがに…」

八幡「俺じゃねぇ。妹が読んでるんだ。それで今朝読まされた記事がちょうど朝比奈のやつだっただけだ」

心美「せ、先生あの記事読まれたんですか?」

八幡「まぁ、一応」

心美「うぅ…恥ずかしいです…」

うらら「なに言ってるのよここみ!ハチくんでさえ読んでるのよ!今こそ世間への知名度アップのチャンスじゃない!」

心美「私は別に知名度はいらないよぉ」

うらら「甘い、甘いわよここみ!アイドルはいつチャンスを与えられるかわからないの!与えられたチャンスは最大限生かさないと、いつまでたっても有名になれないわよ!」

心美「私アイドルじゃないのに…」

八幡「おい、朝比奈も嫌がってるしそこらへんで」

うらら「でもでもハチくんもあのインタビューは物足りなかったでしょ?」

八幡「ん、まぁ、正直もう少ししっかり受け答えできるようになってもいいとは思うが」

うらら「ほらここみ!ハチくんもこう言ってるわけだし、インタビューの特訓よ!」

心美「えぇ、私にはムリだよぉ、うららちゃん…」

うらら「うららより先にインタビューを受けといてその態度は許さないわ!早速お昼休みから始めるわよ!」


282以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/04/13(木) 14:30:39.27MSAyqMNdo (1/1)

乙です


283 ◆JZBU1pVAAI2017/04/14(金) 18:40:19.197foyU3WJ0 (1/1)

本編3-3


昼休みになり俺が孤独にランチをしていると、蓮見が朝比奈の腕を引っ張りながらこちらへやってきた。

うらら「さ、ここみ。早速インタビュー特訓を始めるわよ!」

心美「え、う、うん…」

八幡「待て、なんでここでやるんだ。俺は1人で昼飯を食べたいんだ。あっちでやれ」

うらら「だってハチくんいるところじゃないとここみやらないって言うんだもん」

そう言われた朝比奈は俺に近づいて耳打ちしてきた。

心美「先生がいたほうがうららちゃん抑え気味にしてくれるかなって…迷惑ですか?」

八幡「いや、迷惑じゃないけど…」

それよりも腕に当たってる柔らかい感触が迷惑かもしれないです…

俺の返事を聞くと朝比奈は顔を遠ざけ、その表情は幾分か柔らかくなったように思える。

心美「あ、ありがとうございます…」

うらら「さ、じゃあやるわよ!まずは記事を見ながらダメだったところを見直すわよ」

八幡「そんなことからやるのかよ」

うらら「当然!うらら、インタビュー記事の直したほうがいいところにチェックしてきたから、これ参考にしてね」

そう言って蓮見が出した雑誌のインタビュー記事のページには付箋とマーカーと赤ペンとでびっしり埋まっている。どんだけこの記事読み込んでるんだよ…

心美「す、すごいねうららちゃん…」

八幡「もう何が書いてあるかさっぱり読めん」

うらら「これでもかなり少なくしたわよ」

八幡「……さいですか」

うらら「まずは最初よね。『大変ですけど、だ、大丈夫、です』なんて言っちゃダメよ!もっと可愛く自分をアピールしなきゃ!」

心美「ぐ、具体的にはどうするの?」

うらら「そーね、『でもうららは~学生生活も、アイドル生活も、どっちも大好きなので~、大変ってよりもむしろ今の状況が幸せです!』みたいな感じかしら」

八幡「おい、もうそれ蓮見の考えになってるぞ」

心美「うららちゃんはそうかもしれないけど、私はそんな風には言えないよ…」

うらら「甘いわよここみ!大事なのはこれを読んでくれる人にどう思われるのか。そのためなら自分を捨てる覚悟をしなさい!」

八幡「大袈裟だな…」

うらら「ハチくんも甘い!今の業界は本当に厳しいんだから!そもそも~」

そうやっていつの間にか蓮見のアイドル論、業界論が始まり、俺と朝比奈はただ聞いてるだけしかできないうちに昼休みを終えるチャイムが鳴った。

心美「う、うららちゃん、もう昼休み終わっちゃうよ」

うらら「そうね、でもここみのインタビューについて全然話せてないじゃない!」

八幡「いや、お前が勝手に自分のこと話してたから終わらなかったんだろ」

うらら「しょうがないわね、続きは放課後やるわよ」

八幡「まだやるの?もうよくね?」

うらら「ダメよ!ここみにもきちんとインタビューくらいこなせるようになってほしいもん!」

心美「うん、私もインタビューに慣れたい」

うらら「よく言ったわここみ!ということだからハチくんも協力してね」

心美「私からもお願いします、先生」

八幡「…わかった」

妹と同じ年の女の子たちからのお願いなので断ることもできないどうも俺です。ほんと甘いな、俺。MAXコーヒーと同じくらい甘い。…はぁ、面倒なことを引き受けてしまった。


284 ◆JZBU1pVAAI2017/04/15(土) 00:14:43.41cXq54sKu0 (1/3)

番外編「ひなたの誕生日前編」


八幡「くぁっ、あー」

俺は今、学校の中庭を散歩している。ここは晴れた時の昼休み、爽やかな風が吹いて常盤が世話している植物が揺れるのを見るのがとても心地いい。何より人があんまりいない。騒がしい教室や職員室なんかよりよっぽど中庭のほうが気分転換に向いている。

ただ、今日は少々状況が異なっていた。

ひなた「うーん、うーん。ちょっと待っててね〜、今助けるからね〜」

見ると向こうの方にある1本の木の下で南が何かに話しかけながら上に向かって手を伸ばしている。何してんのあいつ。儀式?

関わりたくないなぁ、と思ってそれとなく回れ右をしたら突然大きな声が背中に飛んできた。

ひなた「あ、八幡くん!ちょうどよかった、ちょっと手伝って!」

八幡「いや、そんなわけのわからない儀式に付き合うほど俺は暇じゃない」

ひなた「違うよ!この木の上にネコがいるんだけど下りられなくなっちゃってるの。だから手伝って!」

あぁ、だから気に向かって手を伸ばしてたのね。そうならそうと早く言ってよ。

八幡「まぁ、そういうことなら別にいいけど」

ひなた「じゃあひなたのこと肩車して!」

八幡「はっ?」

ひなた「だって手伸ばしてもネコまで届かないんだもん」

八幡「つか俺には無理だから、多分」

ひなた「やってみないとわかんないでしょ!ほら早く屈んで!」

八幡「いたっ、肩を押すなよ…」

俺は渋々体を屈めて南を肩の上に乗せる。

八幡「ちゃんと乗れたか?」

ひなた「大丈夫!」

八幡「よし。ふんっ」

我ながら情けない声を出しながら俺は南を肩車する。思ったより南は重くないが、それでもキツイものはキツイ。

ひなた「おぉ!高い高い!」

八幡「そういう感想はいいから、早く猫捕まえて…」

ひなた「わかった!さぁ、おいで〜ネコちゃ〜ん」

南はゆっくり手を伸ばしてネコを捕まえようとする。その時突然猫が南の顔に飛び付いた。

ひなた「うわぁー、前が見えない〜!」

八幡「ちょ、動くな…」

そう言って南が俺の上で暴れ、それにつられて俺も右に左に揺れてしまう。

ひなた「八幡くん、動かないで!」

八幡「お前こそ動くな、って」

次の瞬間、俺の足は地面を離れ盛大に転倒してしまった。

八幡「いってぇ…」

ひなた「大丈夫?」

顔を上げると南がネコを抱えながら俺を心配そうに見つめている。

八幡「俺はまぁ平気だけど、お前は?」

ひなた「ひなたはちゃんと着地したからどこもケガしてないよ!ネコも大丈夫!」

ネコ「ニャー」

相変わらず抜群の運動神経なことで…


285 ◆JZBU1pVAAI2017/04/15(土) 00:16:24.97cXq54sKu0 (2/3)

番外編「ひなたの誕生日後編」


ひなた「それで、このネコどうしよう。何かエサもってきたほうがいいかな」

八幡「いや、ひとまずこのままそっとしておくのが1番だろ。見た所子猫のようだし、多分親猫がこいつを探してるだろ。むやみにエサあげて懐かれても、この後ずっと俺たちが世話してあげられるわけじゃないしな」

ひなた「そっか。じゃあ昼休み終わるまではひなたたちと一緒に親ネコ待ってようね」

ネコ「ニャ」

そう鳴くと子猫は座っている俺と南の隙間に入り丸くなって寝始めた。

ひなた「ふふっネコ寝ちゃったね」

八幡「いくらなんでもくつろぎすぎだろ…」

ひなた「ひなたと八幡くんの間にいるから、じゃない?」

八幡「まぁ俺は人間以外には好かれるからな。それにウチにも猫いるし扱いには慣れてる。俺からしたらお前が落ち着いてるのが意外だ」

ひなた「あ、ひどーい。今日はひなたの誕生日だからね。『オトナ』な女性になったんだよ」

八幡「そのセリフがもう子供っぽいわ…」

ひなた「もう子供じゃないもん!って、あれこの子の親ネコじゃない?」

南が指差した方には確かに子猫と似た毛並みをした親猫が歩いていた。

ひなた「ほら、お母さんかお父さんが迎えに来たよ」

南が優しく揺らすと子猫はすぐ起きて親猫のほうに歩いて行った。そして一度こっちを振り向いて「ニャー」と一鳴きした。

ひなた「うん、またね!」

そう言って手を振りながら子猫を送り出す南の横顔が、いつもの南とは全く違うように見えた。

ひなた「子ネコいっちゃったね」

猫が歩いていった方向を見つめながら南がつぶやいた。

八幡「あぁ。てかお前、もっとさびしがるかと思ってたけどそうでもないんだな」

ひなた「だってあの子ネコ、八幡くんの言う通り親ネコと会えたんだもん。これであの子も安心でしょ?」

八幡「…お前、意外とちゃんとしてんだな」

俺がそう言うと、南は頬を膨らませながら俺のことを軽く睨んでくる。

ひなた「またそうやってひなたを子供扱いする!ひなたは『オトナ』な女性なんだってば!」

八幡「だからそのセリフが子供っぽいんだっつの…でも、ま、お前ももう少し年を重ねたら、立派な『大人』な女性になれるんじゃねえの」

ひなた「ほんと?」

八幡「確証はできんがな。お前の努力次第ってとこだ」

実際、子猫を送り出すときの南の表情はあどけなさは全くなく、むしろ「美しい」ともいえるものだった。でもその表情も一瞬だったし、こうやって褒めるとまた南が調子に乗りそうだから言わないけど。

ひなた「じゃあ、ひなた頑張る!頑張って八幡くんに認められるような『オトナ』な女性になる!」

そうやって宣言する南の顔は、いつもの無邪気な笑顔に戻っていた。

八幡「でも今のままじゃまだまだだな」

ひなた「え~、そんなことないってば!」

俺たちはそうやって言い合いながら教室へ戻っていった。


286 ◆JZBU1pVAAI2017/04/15(土) 00:18:17.13cXq54sKu0 (3/3)

以上で番外編「ひなたの誕生日」終了です。ひなたお誕生日おめでとう!正直、エヴィーナの次に考えるの難しかったです…


287以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/04/15(土) 02:03:15.39lJZcpRQFo (1/1)

乙です


288 ◆JZBU1pVAAI2017/04/18(火) 20:26:50.56guKBuReR0 (1/1)

本編3-4


放課後、ところ変わって俺たち3人はとあるカフェにいる。てっきり俺は学校で特訓とやらをやるのかと思ってたのだが、蓮見の「せっかくだから3人でケーキを食べたい!」という発言を受け、移動したのである。

で、このカフェがまた見事に若い女性客ばかりで現在進行形で視線が痛い……入り口で店員に人数を言った時も「本当に3名様で宜しいですか?」とか聞き返されたし。まぁ、麗しい制服姿の女の子2人と、目が腐ってるスーツ姿の男1人でいたらそりゃ怪しまれますよね、はい。とりあえず席にはついたが、相変わらず居心地が悪い。

八幡「ねぇ、この店女性客ばっかりじゃない?」

うらら「だってこの雑誌に紹介された店だもん。当たり前でしょ」

そう言って蓮見は件の雑誌を開く。そこには「今話題のオシャレカフェ!」と題して、今いるカフェの店内の写真と紹介文が載っている。

八幡「つまり、このページ見て来たくなったのね…」

うらら「うぅ、だって女の子なら惹きつけられるのよ!ほら、ここみだって夢中じゃない」

俺の対角線上、蓮見の隣に座る朝比奈はそんな俺たちの会話が聞こえてないのか、メニューをじっと見て「これも美味しそう、でもこっちもいいなぁ」とブツブツ呟いている。

まぁ俺もさっさとメニュー決めるか。うーん、なんかここのケーキ、名前だけ凝っててどんなものか全然わからん。無難なものだと、

「無難なのだとこれがいいんじゃない?」

後ろから指さされたのはチョコケーキだった。

あぁ、確かに普通のチョコケーキとかなら味も予想つくな。って、後ろから指?

ガバッと振り向くとそこには俺と同じアホ毛が揺れる、ニコニコ笑う美少女が立っていた。

八幡「……小町、こんなとこで何してんの」

小町「お兄ちゃんのいるとこ、必ず小町もいるのです。あー、今の小町的にポイント高い?」

てへぺろっとしながら小町は空いている俺の隣に座る。ホントいちいちあざとい。

八幡「うぜぇ、で実際のとこは?」

小町「雑誌でこのお店を見て来たくなりました。ていうか、そういうお兄ちゃんこそ何してるの、女の子2人も連れて」

八幡「あぁ、それは、まぁ」

何て説明するのがいいのだろうか、と思っていると向かいの蓮見が俺に問いかけてきた。

うらら「ねぇ、ハチくん、この人誰?」

八幡「ん?俺の妹だ」

小町「はーい!お兄ちゃんの妹小町でーす!兄がいつもお世話になってます!それでお兄ちゃん、このお二方は?」

八幡「神樹ヶ峰の生徒の、」

うらら「蓮見うらら、中学3年生よ!よろしくねこまっち!そっか〜、ハチくんの妹か〜可愛い~、なんかあんまり似てないね♪」

八幡「うるせぇ……」

蓮見は俺の言葉を遮って自己アピールをしつつ、俺をけなしてきた。まぁ、こんな兄に似ず、可愛く成長したのは奇跡だろう。ほんと似なくてよかった。特に目とか。てかこまっちって何?もしかしなくてもあだ名?

小町「おおっ、小町も中3なんだ~!よろしくね!」

八幡「で、こっちが、」

小町「も、もしかして朝比奈心美ちゃん?」

小町は身を乗り出して朝比奈に迫る。対して朝比奈は少し身を引いて答える。

心美「は、はい、朝比奈心美です、よろしくね、小町さん…」

小町「わぁ!本物の心美ちゃんだぁ!雑誌で見るよりすごい可愛い~!ていうか同い年なんだから小町でいいよ!」

心美「じゃ、小町ちゃん、で…」

小町「きゃー可愛い!もう、お兄ちゃん、こんな可愛い子たちとカフェでお茶とは、なかなかいい御身分ですなぁ」

八幡「俺はただの付き添いだ」

うらら「うららたち、今から心美のインタビューの特訓をやるの。こまっちも一緒にどう?」

小町「楽しそう!小町も参加していい、お兄ちゃん?」

八幡「……勝手にしろ」



289 ◆JZBU1pVAAI2017/04/19(水) 18:23:47.80uAWsROAo0 (1/1)

本編3-5


うらら「こまっちはここみのインタビューどう思った?」

心美「な、なんでも言って?」

小町「うーん、失礼かもしれないけど、なんだかすごく受け身だなって思った」

心美「受け身って、どういうこと?」

小町「なんて言えばいいのかな。ただ質問に答えてるだけっていうか、心美ちゃん自身の伝えたいことが何なのかよくわからなかった。それも可愛かったけどね!」

うらら「確かにそうね。ここみはもっと主体性を持つべきだわ!」

心美「しゅ、主体性?」

うらら「そうよ!自分が思ってることをもっと外に出していかないと!」

八幡「おいおい、いきなり主体性なんて言ってもそう簡単に身につくものじゃないだろ」

小町「え〜、そうかなぁ?」

うらら「うららは主体性持ってるよ!」

八幡「……確かにお前らは主体的すぎる。少しは遠慮しろ」

心美「や、やっぱり私がダメなのかな」

八幡「……ま、俺は朝比奈のそういう大人しいところも一つの個性として成り立ってると思うし気にしなくていいと思うけどな」

心美「そうですか?」

八幡「あぁ。俺を見てみろ。働きたくない、学校行きたくない、って常々言ってるだろ。それに比べたら全然大丈夫だ」

小町「いや、そりゃお兄ちゃんに比べたら人類のほぼ全員が良い人になっちゃうよ」

うらら「でもハチくんもなんだかんだキャラが立ってるのよね〜。それこそ主体的に『働きたくない』『早く帰りたい』って言ってるもん」

……確かに俺も一般的な人間とは口が裂けても言えない。まぁ小町や蓮見とは方向性が違うけど。

小町「あ、そうだ!小町閃いちゃった!」

そんな時突然小町が何か思いついたらしく声をあげた。

八幡「なに?」

小町「小町たちで心美ちゃんの魅力を見つけれてあげればいいんだよ!きっと自分の魅力がわかれば主体的になれるはず!」

うらら「それ名案!」

小町「でしょ?名付けて『心美ちゃんをプロデュース大作戦!』」

心美「そ、そんな、悪いよぉ」

朝比奈は遠慮がちに言うが、小町と蓮見はおかまいなしに話を続ける。

うらら「安心しなさいここみ。うららたちが必ずここみの魅力を見つけ出してあげるわ!」

小町「小町も全力でサポートするから!」

心美「あ、ありがとう」

なんだか話がおかしな方向に進んでないか?ここらで切り上げないとさらに話が脱線しそうだ。

八幡「そろそろいい時間だし帰るぞ、小町。じゃあな2人とも、気をつけて帰れよ」

小町「あ、ほんとだ。じゃあうららちゃん、心美ちゃん、またね!」

うらら「うん!またね、ハチくん!こまっち!」

心美「せ、先生、小町ちゃん、さようなら」



290以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/04/19(水) 23:28:36.03HjBF9Yhio (1/1)

乙です


291 ◆JZBU1pVAAI2017/04/20(木) 18:03:12.34utF8+NEZ0 (1/1)

本編3-6


八幡「ただいまー」

小町「あはは、もううららちゃん面白い〜!あ、お兄ちゃんお帰り~」

カフェの帰り際に小町は蓮見と朝比奈と連絡先を交換し、それ以来よく2人と電話するようになった。まぁ学校が違うから会えないってのはあるとは思うが、そんな電話することあるの?

小町「うん、うん、そうだね〜、それなら〜」

相変わらず電話を続ける妹を無視して俺はご飯をよそう。すでにテーブルの上には今日の晩ご飯のおかずが準備されている。たまに俺が帰るのが遅くなる時もあるのだが、そんな時でも小町はご飯を食べるのを待ってくれている。良い妹だ。絶対よそには行かせん。

八幡「ほら小町。飯食べるぞー」

小町「はーい!じゃあうららちゃん、こっちは任せてね。じゃあね!」

小町は電話を切って俺の向かいに座ると、わざとらしく咳払いを一つする。

小町「いやぁ〜、小町中3で受験生じゃん?家でも学校でも勉強してるからストレス溜まっちゃって。だからお兄ちゃん、週末小町のストレス発散に付き合って?」

えー、今の今まで楽しそうに電話してたじゃん。ホントにストレス溜まってるのかこいつは?と、思っても俺は言わない。何故かというと、言っても無駄だからだ。

八幡「まぁ、いいけど」

小町「ほんとに?」

八幡「小町がそう言うなら俺に拒否権はない」

小町「わーい!ありがとうお兄ちゃん!」

八幡「で、どこでなにすんの」

小町「そ、れ、は、当日のお楽しみでーす!」

こいつしばいたろか、と思う心を俺はぐっと抑える。

八幡「ふーん」

小町「テキトーだな。まぁいいや。とりあえず、週末は朝早く出かけるつもりだからよろしくね」

八幡「え、休日くらいゆっくり寝かしてくれよ」

一番楽しいのが次の日が休日の夜に死ぬほど無駄な時間を過ごして夜更かしして、次の日遅くまで寝ることじゃないのか。で、起きても結局夜まで何もせず「俺今日何やってるんだろ」って思って次の日の平日に絶望するまでがお約束。

小町「ダメ。寝るだけの休日なんて体に悪いよ。たまには外にも出ないと!」

八幡「はいはい、わかったよ……」

俺の反応を見て小町は満足したのか、ごはんを食べ始める。

小町「じゃ、よろひくねお兄ひゃん!」

八幡「食べながらしゃべるな、汚い」


292以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/04/21(金) 03:24:47.62q2Ns2skOO (1/1)

期待


293 ◆JZBU1pVAAI2017/04/21(金) 20:55:43.23fmvzb7dp0 (1/1)

本編3-7


迎えた休日。俺は早朝に小町に起こされ、今電車の中にいる。休日の、しかもまだ朝早いためか、そこまで人も乗っていない。

こうして空いてる電車に兄妹2人で乗ってると、なんか逃避行みたいで少しワクワクする。本当に現実から逃げられないかなぁ。最近の神樹ヶ峰との交流からは特に逃げたい。

小町「なーに朝から目腐らせてるのお兄ちゃん」

八幡「俺は悪くない。社会が悪い。つか、これどこ向かってるの」

小町「んー、まだ内緒〜」

今はこんな理解できない状況からも逃げ出したい。

小町「でももう着くから!ほら、ここで降りるよ」

小町に促され電車を降りたものの、周りにはこれといって目立つ建物は見当たらない。

八幡「小町、こんなところで何するつもりなんだ?」

小町「行けばわかるから!ほら行くよ〜」

そう言って意気揚々と歩く小町の後ろを付いて歩いていく。しかし、見渡してもストレスが発散できそうなスポットは見えない。強いて言えば緑豊かな景色くらい。

すると唐突に小町が立ち止まった。

小町「はい、到着!」

八幡「は?ここ?なんもないんだけど」

小町「え、あるじゃん鳥居」

八幡「なに、鳥居巡りでも始めるの?」

小町「小町そんな趣味は持ってないよ…ここで待ち合わせすることになってるの」

八幡「待ち合わせ?誰と?」

うらら「うららとだよーん!ハチくん、こまっちおはよー!」

心美「うららちゃーん、1人で行かないでよぉ」

突然の蓮見と朝比奈が神社の中の方からこちらへ走って来た。

小町「あ、うららちゃん、心美ちゃんおはよ!約束通りお兄ちゃん連れてきた!」

うらら「さすがこまっち!」

心美「き、今日はよろしくお願いします」

八幡「……あの、状況が全く飲み込めてないんですけど」

心美「実は雑誌にインタビューが載って以来、平日でも参拝客が増えちゃったんです。だから休日はもっと増えると思って、うららちゃんと小町ちゃんにお手伝いをお願いしたんです」

うらら「で、それに合わせてこの前カフェで言ってた『心美をプロデュース大作戦』も実行するの!」

八幡「……はぁ、なんとなく状況はわかった。で、なんで俺も連れてこられたの?」

小町「少しでも人手あったほうがいいと思って連れてきちゃった。どうせヒマでしょ?」

八幡「いや、ヒマだけどさ。それならそうと言ってくれよ」

小町「でもお兄ちゃん、神社でお手伝いって言ったら絶対来なかったでしょ」

八幡「……確かに」

心美「あの、迷惑だったでしょうか?」

八幡「ま、来ちゃったからには、俺にできる範囲で手伝うわ」

余計逃げ出したくなったのが本音だが、今さら帰るとも言えないし……

心美「あ、ありがとうございます」

うらら「よーし、そしたら心美の神社のお手伝いアーンド『心美プロデュース大作戦』決行よ!」

小町「おー!」

心美「お、おー」

八幡「はぁ……」


294 ◆JZBU1pVAAI2017/04/22(土) 23:44:40.47Jg67jXwl0 (1/1)

本編3-8


朝比奈に連れられ、俺たちは神社の奥の控え室に案内された。

心美「で、では先生。ここが先生の控え室です。着替えをして少し待っててください」

八幡「着替えって、これにか?」

俺は机の上に置いてある袴を見ながら尋ねる。

心美「は、はい。一応、それなりの格好をしてもらわないといけない決まりになってるので」

八幡「……了解」

小町「もしかして小町の服もあるの?」

うらら「もちろん!こまっちの服は隣の控え室にあるわよ」

小町「おぉ!やった!」

心美「じゃ、じゃあ私たちも着替えてくるので失礼します、先生」

八幡「おう」

でも1人になって改めて考えると、これ着るのけっこう恥ずかしいな。てかこれどうやって帯しめるの?

悪戦苦闘してると隣の部屋から声が聞こえてきた。

小町「お兄ちゃんー、小町たち着替え終わったよー」

八幡「おー、俺も終わったぞ」

結局帯の結び方がよくわからず適当に結んでしまった。ま、着れてればいいでしょ。

小町「じゃ入るねー」

襖が開くと、そこには3人の艶やかな巫女が立っていた。

3人とも真っ白な白衣を上半身に纏い、下半身には鮮やかな赤い緋袴を身につけている。髪もみんないつもと違い、後ろで一つにまとめていて清楚な雰囲気を醸し出している。

うらら「どうどうハチくん?」

小町「小町たち、似合ってるでしょ?」

八幡「あぁ。まぁ、いい感じなんじゃねぇの」

ついぼーっと眺めてしまい、そんな感想しか口に出せなかった。

小町「ありがとー!でもお兄ちゃんはそんなに似合ってないね」

八幡「うっせ」

心美「あ、あの、先生。結び方が間違ってます。直すので動かないでください」

そう言うと朝比奈は膝立ちになって、俺の腰の帯を結び直そうと腰に腕を回してくる。……なんかこの状況そこはかとなくいかがわしくない?

心美「はい、結べました。先生苦しくないですか?」

朝比奈は少し心配そうに上目遣いをしながら聞いてくる。そんな表情すんなよ、ちょっとドキッとするだろうが。

八幡「え?おう、大丈夫大丈夫。助かった」

心美「よかったですぅ」

安心したように笑顔になる朝比奈とは異なり、小町は不敵な笑みを浮かべ、蓮見は拗ねるようにそっぽを向いている。

八幡「おい、どうした?小町、蓮見」

小町「思わぬダークホースの登場かな?」

うらら「……ここみには負けないもん」

2人はなにかぶつぶつ言っているがよく聞こえない。

八幡「なんだって?」

小町「べつに~」

うらら「なんでもないわよ!」


295以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/04/23(日) 10:28:28.52iH7JofyDO (1/1)

つ④


296 ◆JZBU1pVAAI2017/04/23(日) 14:31:09.31yZ6uxURGO (1/3)

本編3-9


うらら「はーい家内安全お守りは800円でーす!」

小町「おみくじはこっちですよ~!」

着替え終わった俺たちは境内で手伝いを始めた。小町と蓮見は売店で売り子さんをしている。売店はたちまち盛況になり、「売り子さん可愛いよね」みたいな会話がたまに聞こえてくる。で、そんな俺は

八幡「……」

売店に並ぶ長蛇の列の整理役をやらされている。それも『こちらが列の最後尾です』という看板を持って立ってるだけ。列に割り込もうとする人に声をかける以外は無言である。なにも面白みはないが、心のスイッチを切れば耐えられないこともない。

そして朝比奈はというと

少女A「めっちゃ可愛い~!」

心美「あ、ありがとうございます」

少女B「一緒に写真撮ってもらってもいいですか?」

心美「は、はい」

本殿のほうでちょっとした人気者になっていた。朝比奈の周りには同年代の女の子たちが群がり、遠くから怪しいおっさんが数人、その光景をカメラに収めている。おい、おっさん。それ犯罪だぞ。やめろよ。

男「すんません、トイレどこっすか?」

八幡「あ、トイレなら絵馬掛けの向こう側にあります」

男「あざーす」

俺に声をかけてくる人はこんなもんしかいない。それでも大変なのに、3人とも大勢の人に笑顔で対応してすげぇな。俺には絶対できない。

そうして突っ立ってしばらく経った昼ごろ、小町と蓮見が俺のところへやってきた。

小町「お兄ちゃんお疲れー」

八幡「おう、そっちは休憩か?」

うらら「うん。うららとこまっちの可愛さでお守りが飛ぶように売れちゃって大変!」

八幡「そいつはよかったな」

小町「ほらお兄ちゃん。もうそんなに列も長くないし、本殿のほう行こ」

八幡「本殿でなんかあるの?」

うらら「心美が舞うの!」


297 ◆JZBU1pVAAI2017/04/23(日) 14:39:15.48yZ6uxURGO (2/3)

うららの喋り方のコレジャナイ感がすごい…
どうすればうららっぽい喋り方になるんだ…


298以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/04/23(日) 20:11:02.51d/K9nV+A0 (1/1)

乙。
別にそう違和感はないよ、脳内再生余裕
「ここみ」がいつの間にか漢字になってるけど


299 ◆JZBU1pVAAI2017/04/23(日) 23:10:01.65yZ6uxURGO (3/3)

>>298うららの心美への呼び方が違ってました。これから先は気をつけます


300以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/04/24(月) 02:01:05.16OO3I0VXxo (1/1)

乙です


301 ◆JZBU1pVAAI2017/04/24(月) 22:26:02.71JbfaqJzS0 (1/1)

本編3-10


俺たちが本殿に行くとすでにかなりの人だかりができていて、舞台には朝比奈が立っていた。

放送「これより当神社の巫女、朝比奈心美が舞を披露いたします。参拝客の皆さま、美しい舞を是非ご覧ください」

放送が終わると、神楽が鳴り始める。朝比奈はその音楽に合わせてゆったりと、優雅に舞う。手にある扇も使いながら美しく舞う姿からはいつもの臆病な雰囲気は全く感じない。

小町「キレイ……」

うらら「やるわね……」

小町や蓮見はもちろん周りの人たちも朝比奈の舞に魅力されているようで、ため息や囁き声があちこちから聞こえる。

小町「心美ちゃんすごいねお兄ちゃん」

八幡「あぁ」

小町「でも舞台が黒いのがもったいないよね。ちゃんと掃除しなきゃ。せっかく舞が綺麗なのに」

八幡「あ?床?」

注意して見てみると、確かに木が黒くなっている箇所がある。あれって、

八幡「……!おい蓮見。舞台の床を見ろ」

うらら「え?ん〜、あっ。これってまさか……ここみ!床!!」

蓮見の声が聞こえたのか、舞台上の朝比奈も床の異変に気付き舞を中断する。

その時床の黒い魔法陣が光り、そこからイロウスが出現した。

うらら「イロウス!」

心美「皆さん!今すぐここから逃げてください!」

蓮見はすぐに武器を出しイロウスへ飛びかかる。朝比奈は舞台上から大声で呼びかけるが、その途端に参拝客は我先に走り出し、本殿は混乱している。このままだと参拝客が危ない。それを防ぐには、

八幡「小町。お前は神社にいる人の避難を指揮してそのまま逃げろ」

小町「え?でもお兄ちゃんは?」

八幡「俺はここに残る。曲がりなりにもあいつらの先生だからな」

小町「なら小町も残る」

八幡「ダメだ。参拝客には完全に避難してもらわないと戦いづらい。それに、もし小町の身に何か起こったら俺が親父に殺される。俺の命のためにも逃げてくれ」

小町「目的が半分お兄ちゃんのためになってるよ……でもそう言うならわかった。お兄ちゃんの言う通りにするよ」

八幡「頼む」

小町は一度大きく頷いて人混みの方へ駆け出していった。

八幡「蓮見、なんとか小町が参拝客を避難させるまでここで持ちこたえてくれ」

うらら「わかった!」

心美「あの、私は何を」

八幡「朝比奈は参拝客が残っていないか神社を見回って、誰もいないのが確認できたら連絡してくれ」

心美「わ、わかりました。待っててねうららちゃん!すぐ戻ってくるから」

うらら「足止めは任せときなさい!」



302以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/04/25(火) 00:38:39.21tUQrPHfXo (1/1)

乙です


303 ◆JZBU1pVAAI2017/04/25(火) 20:44:38.28wURqF/Kd0 (1/1)

本編3-11


八幡「じゃあ俺たちはこいつらをどうにかするか」

改めて俺と蓮見はイロウスに向き合う。

うらら「どーにかするのはうららでしょ♪」

八幡「……確かに」

うらら「いや、そんな意味で言ったんじゃないからね。元気出して!」

八幡「別に落ち込んでねぇよ。ほらイロウスに集中しろ」

うらら「大丈夫!小型イロウス数匹くらいなら余裕よ!」

蓮見はそう意気込んで杖を構える。魔法陣から出てきたところを見ると、こいつはレイ種ってやつか。

うらら「星守うららのステージ開幕よ!『炎舞鳳凰翔』!」

たちまち炎に包まれた蓮見は飛び上がり、上空からイロウスに向かって突撃する。その攻撃で周囲のイロウスはたちまち消滅する。

うらら「どうどうハチくん!うららの勇姿!」

八幡「ご苦労さん。あぁ、まぁ良かったんじゃねえの」

うらら「うわー。こまっちに聞いた通り、褒めるのも素直じゃないなぁ」

八幡「うるせ。つかまだ大型イロウスを倒せてない。油断すんな」

小型イロウスをいくら倒しても大型イロウスを倒さないと意味がない。絶対近くにいるはず。

その時通信機が鳴り出した。多分朝比奈からだろう。

八幡「もしもし」

心美「せ、先生!助けてください」

予想に反してかなり切羽詰まった声色だ。

八幡「どうした」

心美「神社全体にイロウスが出現していて、私1人では倒しきれないです。ど、どうすれば」

八幡「わかった。蓮見とすぐそっちに向かう。今どこだ」

心美「い、今は売店前の参道にいます」

八幡「すぐ蓮見と向かう。俺たちが行くまで無理はするなよ」

心美「わ、わかりました。お願いします」

そうして通信は切れた。くそ、すでに神社全体が襲われてるのか。

八幡「おい蓮見。ここだけじゃなくて神社全体にイロウスが現れてると今朝比奈から連絡があった」

うらら「ここみは大丈夫なの?」

八幡「無理はしないように言っといた。だが早く合流しないとマズイ」

うらら「すぐ行くわよ!」


304 ◆JZBU1pVAAI2017/04/27(木) 23:19:42.34dn6LpICn0 (1/1)

本編3-12


俺たちが参道に着くと、朝比奈が多数のイロウス相手に孤軍奮闘していた。

うらら「ここみ!」

心美「うららちゃん!先生!」

八幡「大丈夫か?」

心美「は、はい。でもイロウスが多すぎて対処しきれなくて……」

小型イロウスばかりだが、いかんせん数が多いのと散らばってるのとで効率的に倒せていない。

うらら「ハチくん!うららのスキルで一網打尽にするわ!」

八幡「でもさっきのスキルじゃせいぜい周り数メートルのイロウスしか倒せないだろ」

うらら「ふふん、うららを甘く見ないでよ!さ、ステージ第二幕の開演よ、『パンプキンクイーン』!」

蓮見が叫ぶと上空から大きなかぼちゃが降ってきた。かぼちゃ?

八幡「は?なにこれ?」

心美「うららちゃんのスキルです。あのかぼちゃが時限爆弾になってるんです」

八幡「時限爆弾?」

うらら「でもただの時限爆弾じゃないわよ!」

何がだ、と言いかけた時異変に気づいた。どの小型イロウスもかぼちゃに吸い寄せられていくのだ。

八幡「もしかしてこの爆弾」

うらら「そう、かぼちゃがイロウスを引き寄せてくれるの。さ、ここみ!今のうちにイロウスを叩くわよ!」

心美「う、うん!」

そうして2人は外からイロウスを攻撃してその数を減らしていき、

うらら「そろそろ爆発するわ!」

時間が経ったかぼちゃは周りに残ったイロウスを巻き込んで爆発した。

八幡「よし、これでかなり数が減ったな」

心美「でもまだ残ってます」

うらら「もう一回かぼちゃをやればいいだけの話よ!『パンプキンクイーン』!」

再びかぼちゃが降ってきて、イロウスが引き寄せられていく。

うらら「いくわよここみ!」

心美「うん!」

だが次の瞬間、かぼちゃが爆発した。

八幡「な、なにが起こった?」

うらら「うっ。実はあの爆弾、一定以上のダメージを受けても爆発する仕組みになってるの」

八幡「てことはまさか」

心美「た、多分出てきたんだと思います。大型イロウスが」

煙が晴れてくると、朝比奈の言う通り大型イロウスの輪郭が見えてきた。高さは4,5メートルほどで全身骨だが、角としっぽがあるぶんさらに巨大に感じる。

八幡「こいつがおそらく親玉だな」

心美「お、大きいよぉ」

うらら「しっかりしなさいここみ!大丈夫、うららたちならできる!」


305 ◆JZBU1pVAAI2017/05/01(月) 00:57:32.71UaigGRmc0 (1/1)

本編3-13


蓮見と朝比奈は杖を構え大型イロウスへ攻撃を仕掛けようとする。しかしその攻撃を次々と湧いてくる小型イロウスが身代わりとなって受け、大型イロウスに攻撃が届かない。

うらら「もうっ!なんなのよあの小型イロウスは!」

心美「し、しょうがないようららちゃん」

八幡「攻撃し続ければ隙が生まれるはずだ。そこを逃すな」

そうして攻撃を続けると小型イロウスが湧いてこない瞬間ができた。

八幡「今だ!」

うらら「はあっ!」

心美「やぁ!」

2人はすぐさま攻撃するが、大型イロウスは地中へ潜って攻撃をかわす。

うらら「今度は隠れるのね」

心美「ど、どこから現れるんだろう……」

マジか、また地中に隠れるのか。千葉に現れたシュム種といい、イロウスって地中が好きなの?そのまま地中に潜っていなくなってくれるとありがたいんだが。

などと考えていると蓮見の足元に大きな黒い魔方陣が出現した。

八幡「蓮見!足元に注意しろ!」

うらら「わかってる!」

すぐに魔方陣が光りだし、そこから大型イロウスが腕を振り回しながら現れる。だが、蓮見は素早く緊急回避のためにローリングして攻撃をかわす。

心美「うららちゃん!」

うらら「うららは大丈夫!早く大型イロウスに攻撃を!」

心美「うん!」

朝比奈は大型イロウスを攻撃する。しかし大半の攻撃はまた湧き出した小型イロウスが身代わりに受けたため、ほとんど大型イロウスにダメージを与えられない。

心美「ま、また小型イロウスが……」

うらら「もうどうすればいいのよ!」

八幡「どうするもなにも、こうなったら小型イロウスもまとめて攻撃するしかないんじゃないか」

心美「それならスキルを連発するしか……」

うらら「なら連発すればいいじゃない!」

そう言うと蓮見は矢継ぎ早にスキルを連発していく。

うらら「『チャーム・アイズ』!『エレクトロサポート』!」

蓮見のスキル攻撃でダメージを大型イロウスに与えることに成功した。

うらら「『チャーム・アイズ』でマヒさせて、『エレクトロサポート』でパワーアップしたうららの攻撃を受けなさい!『炎舞鳳凰翔』!」

だが蓮見がスキル名を唱えてもさっきみたいな炎は出てこない。

心美「うららちゃん……?」

八幡「……お前もしかして」

うらら「SP使い切っちゃった……」

八幡「なにやってんだ。スキル使えなくなるってかなりやばいぞ」

うらら「だ、だって参道に来た時に『パンプキンクイーン』何回も使っちゃたんだもん!それに小型イロウスもまとめて攻撃しろって言ったのハチくんじゃん!」

八幡「いや、確かにそう言ったけど、ここまでするとは思わないだろ」

自分でできること減らしてどうするんだよ。でも今さら後悔してもどうしようもない。まずはこの状況を打開することを考えないと……


306以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/01(月) 02:43:43.767O88FGMMo (1/1)

乙です


307 ◆JZBU1pVAAI2017/05/02(火) 01:25:05.61CeRDX9tz0 (1/1)

本編3-14


心美「あ、あの」

朝比奈が胸の前で手をもじもじさせながら話しかけてきた。だから、その胸の前に手置くなよ。見ちゃうだろ。小町や蓮見にはないものを。

八幡「どうした?」

心美「わ、私のスキルでうららちゃんのSP回復してあげられますけど」

八幡「ほんとか?」

うらら「さすがここみ!」

心美「で、でもスキルの攻撃力はそこまで高くないんですけど」

八幡「蓮見のSP回復が最優先だ。すぐ頼む」

心美「じゃ、じゃあ、先生。私のそばに来てくれませんか?」

八幡「え、なんで?」

心美「そうしないとスキルが発動できないんです……」

なにその発動条件。回復対象の蓮見が近づくならわかるけどなんで俺?

うらら「ほらハチくん!早くここみに近付いてよ!」

俺が朝比奈に近付かないことに見かねて、蓮見が俺の背中を押した。そのせいで朝比奈との距離がほぼゼロ距離になり、朝比奈からうっすらシャンプーのいい香りがするっていうどうでもいい知識を身につけた。てかめっちゃ近いんですけど。色々女の子らしいものが目の前にあって視線が泳ぐ。

八幡「あ、悪い」

心美「い、いえ」

……なにこの沈黙。あれ、てかなんで俺朝比奈に近付いたんだっけ。

うらら「ほらここみ!早くスキル発動させなさいよ!」

心美「あ、うん。じゃあ先生」

そう言って朝比奈はハンカチを出して、それを俺の顔に向けてくる。自然とそのハンカチを目で追っているとその向こう側の朝比奈と目が合う。

心美「ブ、『ブラッシュアプローチ』!」

その瞬間、朝比奈はハンカチを引っ込めて顔を赤らめて横を向いてしまう。そんな朝比奈から大量のハートが飛び出して降り注ぐ。

……ていうか何この状況、どうすればいいの?なんか朝比奈の顔、真っ赤になってるし。こういうときって俺がフォローすればいいの?いや、そんなことして朝比奈が全然気にしてなかったら俺恥ずかしいだけだし。でも相手は朝比奈だぞ?絶対男の人にこんなことしたことないだろ。やっぱり何か一言言うべきか。

八幡「あ、」

うらら「ありがとうここみ!SPも回復できたし早く大型イロウス倒すわよ!」

俺が口を開く前に、蓮見が朝比奈に声をかけた。

心美「う、うん!そうだねうららちゃん」

蓮見の声掛けによって朝比奈も落ち着きを取り戻したらしい。むやみに俺が話しかけなくてよかった。

と思ったら蓮見が俺の腕をつかんでそのまま強引に引っ張ってきた。おかげで顔と顔がめっちゃ近くなって、蓮見の髪から朝比奈と同じシャンプーのいい香りがするっていうどうでもいい知識を身につけてしまった。蓮見はそんな俺にはおかまいなしに耳元で囁いてきた。

うらら「ここみに変な感情抱かないでよ」

八幡「んなわけないだろ。持たねぇよ」

うらら「でも赤くなってた」

八幡「あれは、まぁ、不可抗力だ」

うらら「ま、そうだね。今も赤くなってるし♪」

八幡「なっ」

恥ずかしくなって俺は蓮見の腕を強引に振りほどく。蓮見は残念そうに「あぁ~」とか言ってる。

八幡「おい、からかうなよ」

うらら「しょうがないでしょ。ここみには負けたくないんだもん……」

最後の言葉がよく聞こえなかった。何がしょうがないんだ。聞こえないんだよ。

八幡「なんだって?」

うらら「なんでもない!」


308以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/02(火) 21:05:08.87eoaofe1Zo (1/1)

???「え!?なんだって!!??」


309以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/03(水) 05:31:43.09VeiXW3NAo (1/1)

乙です


310 ◆JZBU1pVAAI2017/05/04(木) 00:06:31.97JglSceBy0 (1/3)

番外編「昴の誕生日前編」


5月4日。本来ならゴールデンウイークを家で謳歌しているはずなのだが、今日は若葉と出かけることになっている。しかし、ゴールデンウイークというのは本当に素晴らしい。長い連休は普段のせわしない生活からの脱却を可能にし、自分の時間をゆったり過ごす余裕を与えてくれる。反動として連休明けの戻って来た日常への反抗心もまた大きなものになるのが悩みどころだが。

さて、集合場所に来たのはいいものの、すごい人だな。さすがゴールデンウイーク。で、若葉はどこ?いない?ならしょうがない。帰るか。

昴「あ、先生!こっちです!」

声のする方を見ると、若葉が両手をぶんぶん振って俺にアピールしている。服装はいつもの制服やジャージではなく、白のTシャツの上に黄緑色のノースリーブのパーカーを重ね着している。下は黒のホットパンツでいかにも若葉らしい健康的な印象を受ける。

八幡「うす、よく俺の事見つけられたな」

昴「先生見つけやすいですから」

八幡「俺そんな悪目立ちしてる?」

昴「そ、そういう意味で言ったんじゃないですよ!とりあえずここから移動しませんか?」

八幡「あぁ、でもちょっと休ませて。普段こんな人込みの中にいないから今の状況ツライ」

昴「まだ会って何分も経ってないじゃないですか!ほら行きますよ!」

俺は若葉に引っ張られ今日の目的地、サッカースタジアムまで歩き出した。

八幡「つか、今更だけど別に一緒に行くの俺じゃなくてもよかったろ。星月とか誘ったら絶対付き合ってくれるんじゃないの」

昴「いえ、色々声をかけてみたんですけどさすがにサッカー観戦までは付き合ってくれなくて。ホントはもともと先生と行きたくて誰にも声かけてないけど」

最後のほうが周りの雑音のせいでよく聞こえなかった。何、誘っても断られるとかちょっと同情しちゃう。

八幡「ま、せっかくチケットもらったんだから有効活用しないともったいないか」

実は数日前、くじで当てたとかで御剣先生からサッカーの試合のチケットを2枚もらった。俺はあまり興味がなかったからフットサル部の若葉にチケットを譲ったのだが、一緒に行く人がいないということで俺が付き合うことになったのだ。

昴「そうですよ!アタシ、この試合ずっと生で見たかったんです!でも人気なのでなかなかチケット手に入らなくて」

八幡「へぇ、そんなに人気なのか」

昴「はい!両チームとも毎年優勝争いを繰り広げる強豪なんです!だからこの対決はその年の優勝チームを決める上で毎年大事な一戦になるんです!」

八幡「ふーん」

昴「あの、先生。もしかしてあまり乗り気じゃないですか?反応が薄いような」

八幡「ま、正直そこまで乗り気ではない。サッカーの試合なんてテレビでしか見たことないし」

昴「正直すぎますよ……でも生で見るサッカーはテレビよりも何倍も楽しいですから!アタシが保証します!」

八幡「でも俺サッカー見ても何がすごいのかイマイチわからないんだけど」

昴「それなら試合が始まるまでアタシが教えてあげますよ!今日の2チームはその特徴がはっきりと分かれていて、注目の選手がそれぞれ……」

途中から何を話しているか理解できなくなったが、若葉は試合が始まる直前まで話を止めなかった。

八幡「若葉、そろそろ試合が始まる時間なんだが」

昴「あ、もうそんな時間なんですね。気づかなかったです」

八幡「あぁ。ま、途中からお前喋っててばっかりだったもんな」

昴「す、すいません。でもとにかく今日の試合は盛り上がること間違いなしなんです!」

八幡「わかったわかった。ほら、選手入場だとよ」

いつもテレビで聞く名前がわからない音楽が流れると、選手が入場してきた。

昴「わぁ!先生!本物の!本物の選手たちですよ!」

八幡「わかったから少し落ち着け、な?」

昴「落ち着いてなんていられませんよ!この対戦を見られるなんて夢みたい!」

八幡「そうですか……」

若葉はそんなハイテンションのまま、試合終了までまさに全身全霊で試合を楽しんでいた。


311 ◆JZBU1pVAAI2017/05/04(木) 00:18:03.77JglSceBy0 (2/3)

番外編「昴の誕生日後編」


試合は両チームとも見せ場があり、素人の俺でもそれなりに楽しめる内容だった。

八幡「ほら若葉。試合終わったから帰るぞ」

昴「は、はい」

だが俺たちの負けられない戦いはここから始まったのだ。帰りの電車に乗るために観客が一斉に駅に移動する。最寄り駅は一つしかなく、それもまた大きいとは言えなかった。そこにこの数万の観客が一気に押し寄せるのだ。必然、スタジアムの出口付近から大混雑が始まる。

八幡「おい、若葉。大丈夫か?」

昴「大丈夫です!」

押し合いへし合いながら、俺たちは時々声をかけ合い駅まで進んでいった。しかし、スタジアムと駅の中間地点くらいからまずます混雑が激しくなってきた。

八幡「若葉?いるか?」

当然いるものだと思って声をかけたのだが返事がない。

八幡「若葉?返事しろ!?」

もう一度声をかけても返事がない。……はぐれたか。ま、あいつなら一人でも帰れるか。俺より頑丈そうだし。

昴「先生……」

その時、かすかに、でもはっきり若葉の俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。

八幡「若葉!」

俺がなんとか体を入れて流れに逆らって歩いてきた道を戻ると、道のすみで膝を抱えてうつむきながら座り込んでいる若葉を見つけた。

八幡「若葉、お前何やってるんだよ」

昴「先生?ほんとに先生?」

俺が声をかけると、若葉は顔を上げて俺を見つめてくる。その目はうっすら潤んでいる。

八幡「いくら目が腐ってるからとはいえ、幽霊扱いはさすがに傷つくぞ」

昴「幽霊なんて言ってないですよ。はは、でも本当に先生だ」

若葉ははにかんでそう言うが、声に力がない。それこそ幽霊みたいに見えてもおかしくない。

八幡「……はぁ」

仕方なく俺も若葉の隣に座ることにした。こんな状態の若葉を放っておけないし、かといって無理やり動かすのも気が引ける。

しばらく無言のまま座っていると、若葉がぽつぽつと語りだした。

昴「アタシ、今日浮かれてたんです。誕生日にずっと見たかったサッカーの試合を先生と見ることができるんだって」

八幡「……」

昴「でも、帰る途中に先生とはぐれて思ったんです。今日楽しんだのはアタシだけだったんじゃないか。先生は無理にアタシに付き合ってくれたんじゃないか。だからアタシは先生とはぐれちゃったんじゃないかって」

八幡「ま、確かにサッカーに関してはあまり興味はなかったな」

昴「そうですよね……」

八幡「でも、なんだ。今日はお前の誕生日なんだから、お前が楽しめたならいいんじゃないのか?それに、俺も今日若葉と過ごせて、悪くはなかったかなって思ってる」

その言葉に嘘はない。なんだかんだ楽しめた気がする。若葉の話のおかげで試合の見るポイントもわかったし、試合が見れたから若葉が楽しむ理由もわかったのだ。だから若葉が自分で自分を責める必要は全くない。俺1人で見てたら絶対ここまで楽しめなかった。いや、1人だったら見には来ないか。

昴「……ありがとう先生。やっぱり先生と来られてよかったです」

八幡「そうか」

昴「さ、帰りましょうか。もう人もだいぶ減りましたし」

八幡「あぁ」

そう言って俺たちは立ち上がって歩き出した。ふと空を見上げるとどの星も瞬いているように見える。普段の夜空と変わらないはずなのに今日に限っては普段より綺麗な感じがする。

そんなことを考えながら歩いていると、ふいに若葉が数歩走ってから立ち止まり、こっちを振り返った。その顔は今日見た中で一番の、若葉らしい眩しい笑顔だった。

昴「先生!来年もまた2人でサッカー見ましょうね!」

八幡「……チケットがあれば考える」

昴「言いましたね!絶対手に入れますから!」

そんなことを言い合うと俺たちはまた駅に向かって歩き出した。


312 ◆JZBU1pVAAI2017/05/04(木) 00:28:34.18JglSceBy0 (3/3)

以上で番外編「昴の誕生日」終了です。昴誕生日おめでとう!自分も昴とサッカー観戦したい。


313以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/04(木) 16:32:26.32BIHD/P4To (1/1)

乙です


314 ◆JZBU1pVAAI2017/05/05(金) 17:41:55.56xi67hfcp0 (1/1)

本編3-15


うらら「『炎舞鳳凰翔』!」

朝比奈にSPを回復してもらった蓮見は再びイロウスに対しスキル攻撃を行う。そして数回スキルを使った後、

うらら「ここみ!回復お願い!」

心美「う、うん!『ブラッシュアプローチ』!」

うらら「よし!まだまだいくわよ!」

こうして蓮見がイロウスを攻撃し、朝比奈が蓮見のSPを回復するという役割分担が自然と出来上がった。俺はと言えば、スキル発動のために毎回毎回朝比奈と顔を近づけているだけである。さすがに何回もやれば慣れるだろうと思ったが全然そんなことはない。むしろ毎回ドキドキしすぎて心臓が過労死しそうなレベル。

心美「な、何回もすみません先生」

八幡「い、いや、スキルのためだもんな。しょうがないしょうがない」

朝比奈もまたこの状況に慣れないのは俺と同じらしく、毎回動作がぎこちない。

うらら「もうここみもハチくんもいい加減慣れてよ!初心なカップルみたいな光景を見せられるうららの気持ちも考えて!」

何回目かの朝比奈のスキル発動ののち、蓮見がしびれを切らして文句を言い始めた。

八幡「いや、そう言われても慣れないものは慣れないし」

心美「ご、ごめんねうららちゃん」

うらら「まぁ百歩譲ってここみは普段男の人と関わりないからいいとして、ハチくんはなに?高校生でしょ?こういうことの一つや二つ経験あるでしょ?」

八幡「俺をなめるな蓮見。今まで俺の恋愛が成就したことなんて一度もない。それどころか失敗ばかりが積み重なっていき、結果が今の俺だ」

そう、誕生日にアニソンセレクトを送ったり、やたらメールをしてみたり、話しかけられただけで勘違いしたり。負けることに関しては俺最強。

心美「せ、先生も大変なんですね。わ、私は男の人に話しかけることなんてできないのですごいと思います」

うらら「こまっちの話だと高校で何かしらあってもいい感じだったのに。意外とそうでもないのね」

そんな俺の発言に2人は意外にも好意的な反応を示してくれた。

八幡「ま、そういうことだ。だから蓮見、俺たちがぎこちなくても許せ。どうしようもないことなんだ」

うらら「ならここみ!うららと役割変わって!」

八幡「は、お前何言ってんの」

うらら「だって、このままじゃいつまでたってもぎこちないままでしょ?ならうららがハチくんに色々教えてあ・げ・る」

八幡「いやいらないから。それにこれはイロウス倒すために仕方なくやってることなの。わかってる?」

心美「し、仕方なくですか……先生は私に近付かれるのが嫌ですか?」

八幡「別に好きとか嫌いとかの話じゃなくて。つか、そしたらイロウスには誰が攻撃するんだよ」

うらら「ここみがやればいいじゃない」

心美「でもうららちゃん、SP回復スキル持ってないよね?」

うらら「う、それはあれよ。ほら、気合でなんとか」

八幡「できるわけないだろ。てか話してる暇なんてないだろ。2人ともイロウスに集中しろ」

うらら、心美「はい……」

そうこうしてるとまた蓮見のSPが切れたため、朝比奈のスキルを使うときがきた。しかし朝比奈がなかなか近づいてこない。

八幡「あの、朝比奈?早くしてくれない?」

心美「あ、あの、私も早くしたいんですけど、先生も私と同じで経験がないってことがわかって余計意識しちゃって」

なんでそんなに顔赤いんだよ。俺まで余計に意識しちゃうだろうが。

その時、朝比奈の背後から大型イロウスが現れ、朝比奈の足元に黒い魔方陣が現れた。だが朝比奈はゆっくりこっちに歩いたままそれらに気づかない。

八幡「朝比奈!危ない!」

心美「え?」

俺は走り出しながらそう叫んだ。朝比奈はようやくイロウスや魔方陣に気づいたが、もう回避行動をとるには遅すぎる。すでに足元の魔方陣は光り出している。

心美「あ、あぁ」

朝比奈は恐怖のあまりその場から動けないでいる。だが俺も助けるには走っても位置的に間に合わない。


315 ◆JZBU1pVAAI2017/05/08(月) 18:45:27.16WuUQBt0z0 (1/1)

本編3-16



うらら「ここみ!」

その瞬間、蓮見が目にも止まらないスピードで朝比奈向かって飛び込み、魔法陣の中から身を呈して救い出した。

八幡「大丈夫か⁉︎」

俺は参道に倒れたまま動かない2人の元へ駆け寄る。

うらら「うん、うららは大丈夫」

そう言って蓮見は立ち上がろうとする。だが朝比奈はまだ起き上がれず何か呟いている。

心美「私、私……」

うらら「ここみ、起きなさいよ」

心美「……」

うらら「ここみ!」

そう言って蓮見は強引に朝比奈の顔を持ち上げて強烈な平手打ちを食らわした。

うらら「ここみ、あんた何してんのよ」

心美「うららちゃん……」

うらら「うららたちのやるべことは何?早くイロウスを倒してこの神社を守ることじゃないの?それをいつまでたってもスキルにもたついて、さらには動けなくなる?いい加減にしてよ!」

八幡「おい蓮見」

うらら「ハチくんは黙ってて」

八幡「はい……」

怖っ、蓮見怖。こんな人を突き放すような声も出すのかこいつ。

うらら「ここみはうららのライバルなんだよ?それなのにこんなみっともない姿晒さないでよ!」

そう言って蓮見は朝比奈をそっと抱き寄せる。

うらら「だから、一緒に頑張ろ。ここみ」

心美「うん、うん。ごめんね、うららちゃん」

涙声になりながら朝比奈も蓮見と抱き合う。この光景を近くで見るのはかなり罪悪感というか、見てはいけないものを見てる気がしてドキドキする。が、今はそんな風に眺めていられる場合じゃない。

八幡「あの、お2人さん。けっこうヤバイ状況なんだが」

そう、この一連の流れの最中に周りを小型イロウスに囲まれてしまった。ガイコツが四方八方で浮いてるのホント不気味。

うらら「安心してハチくん。うららたちにかかれば朝飯前よ!」

心美「そ、それは言いすぎだようららちゃん。でも、絶対倒します。私たちで」

2人の宣言を聞いて、絶望的な状況なのにこいつらならやってくれるっていう確信めいた何かを感じた。

八幡「もう大丈夫なんだな」

うらら「もちろん!じゃあここみ。うららのSP回復お願い」

心美「うん」

俺を見上げる朝比奈の目は決意を固めた目をしていた。……そんな目されたらこっちも覚悟決めるしかねぇじゃねぇか。

心美「いきますね先生。『ブラッシュアプローチ』!」

これまでよりもハートが多く降り注いでいる気がするのは気のせいですかね。そんなハートが周りの小型イロウスを攻撃する。

心美「うららちゃん!」

うらら「わかってるわよ!『エレクトロサポート』!」

蓮見の放つ大量の電撃が小型イロウスをまとめて撃破していく。気づけば周囲のイロウスはほとんど姿を消していた。

うらら「一気にいくわよここみ!ついてきなさい!」

心美「うん!」


316 ◆JZBU1pVAAI2017/05/12(金) 12:59:35.82OlOvuVhO0 (1/1)

本編3-17


それからの2人の勢いは凄まじかった。次々に湧き出て来るイロウスを無双シリーズ並に蹴散らしていく。そんな光景を俺はただ眺めることしかできなかった。
いや、たまには敵の位置教えたりはしたよ?でも俺何もできないし、完全にいらない子状態である。

だがしばらく攻撃してもなかなか大型イロウスを倒すところまではいかない。ダメージを与えてはいるものの決定打に欠ける感じだ。

うらら「はぁはぁ、しぶといわねあの大型イロウス」

心美「はぁはぁ、体力が多いんでしょうか」

八幡「体力もあるだろうがおそらく防御力も高いんだろう。だからこっちも攻撃力を上げて一気に大ダメージを与えないと厳しいと思う」

うらら「でもうららは攻撃力を上げてるわよ!」

八幡「あぁ、だが朝比奈は主に補助に回ってるからそうじゃないだろ」

心美「でも補助もしないと長期戦には耐えられません」

八幡「ここまでの朝比奈の働きは間違ってない。確かに長期戦において回復スキルは必須だ。だが、どこかで波状攻撃をしかけないとジリ貧になる」

ドラクエのボス戦とかな。まずはスクルトとかフバーハ。ダメージくらったらベホマ。で、その合間にバイキルドからのはやぶさ斬り。

うらら「ということはうららとここみが2人で大型イロウスにスキルを直撃させないといけないわけね」

心美「で、でももし失敗したらピンチですよね?」

うらら「今はそんなこと考えないの!絶対成功させるの!」

八幡「蓮見の言う通り、これは絶対成功させないといけない」

心美「先生……」

八幡「だが根性だけでなんとかなる話でもない。成功率を上げるためにできることはしないとな」

うらら「じゃあどうするの?」

八幡「流れの確認だ。まず2人の攻撃力を高めるスキルを朝比奈が使う。そののちすぐに蓮見が与えられるだけダメージを与える。そしてとどめはもう一度朝比奈だ。この流れで大事なのは攻撃力が上がっているうちにいかにダメージを与え続けられるかだ。大型イロウスに守る隙を作らせるな」

心美「素早く攻撃ってことですか」

八幡「あぁ。小型イロウスに防御されたり、大型イロウスに地中に潜られたりするとどうしても攻撃が滞るだろ。せっかくの攻撃が散発的なものになりかねない」

うらら「ということは心美が攻撃力を上げるスキルを使ってからは時間勝負ってわけね」

八幡「そういうことだな。だから2人にひとつ約束してほしいことがある」

心美「なんですか?」

八幡「この作戦中は大型イロウスにダメージを与えること。これだけに集中してほしい」

うらら「?そんなの当たり前じゃない」

八幡「違う。極論を言えばどっちかが危険な状態になっても攻撃をやめるな」

俺の言葉に朝比奈が顔を引きつらせた。

心美「つまりうららちゃんを助けるなってことですか?」

八幡「あぁ。攻撃力を上げられる時間は限られている。その間は大型イロウスだけを見ていろ。さらに言えば自分が小型イロウスから攻撃を受けても気にするな。攻撃を続けろ」

うらら「……そうね。そのくらいの覚悟は必要ね」

心美「覚悟、ですか」

……ちょっと言い過ぎたかな。緊張でガチガチになられても困るしフォローしとくか。

八幡「まぁそれくらいの心持ちでいてくれって話だからあんまり気負わないでくれ」

心美「わ、わかりました」

うらら「やってやるわ!」

2人は力強く返答した。

八幡「そしたら攻撃開始のタイミングを合わせて作戦開始だ」

うらら、心美「はい!」


317以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/13(土) 01:57:30.92MNSzZMOo0 (1/1)

有能な司令塔やってるな八幡くん


318以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/14(日) 15:12:38.72uV9/QN8to (1/1)

乙です


319 ◆JZBU1pVAAI2017/05/16(火) 00:33:52.042gmheKoN0 (1/1)

本編3-18


心美「じゃあいくようららちゃん!『ウォーミングカイザー』!」

朝比奈がスキルを唱えると下から温泉が湧き出して2人を包み込む。蓮見はその状態のまま大型イロウスのほうへ突っ込んでいく。

うらら「はぁぁぁ!『ラバブル・フィースト』!」

大きな誕生日ケーキが突然現れ、それに触れた小型イロウスが次々に消滅していく。小型イロウスが消えたことで大型イロウスに攻撃を与える隙が生まれた。

八幡「よし、朝比奈!いけるぞ!」

心美「は、はい!」

そうして朝比奈は杖を大型イロウスに向けた。

心美「『ハニカミ桃色パルス』!」

にわかに閃光がほとばしってあたりに爆発が起こる。

うらら「やったわ!案外ちょろいわね」

八幡「あ、バカ。お前それ死亡フラグ」

俺がツッコミを入れた瞬間に爆煙の中から大型イロウスが現れた。見るからに荒れ狂っている。

うらら「ちょ、あの爆発でまだ消滅しないの!?」

八幡「やべぇ……」

うらら「ちょっと!どうすんの!」

八幡「お前があんなこと言わなければよかったんだよ」

うらら「うららのせいって言いたいの?」

八幡「いや、別にそこまで言うつもりはないけど」

心美「先生、うららちゃん。私に考えがあります」

俺とは蓮見があほな言い争いをしていると朝比奈が声をかけてきた。

八幡「なんだ」

心美「あの大型イロウスは多分体力がほぼないはずです。あと一押しすれば倒せます。だから最後の勝負を仕掛けたいんです」

八幡「具体的にはどうすんだ」

心美「もう私の攻撃力はもとに戻っていますが、うららちゃんは『ラバブル・フィースト』の効果でまだ攻撃力が上がってるはずです。うららちゃんが攻撃できれば倒せると思います」

うらら「でもあんなに暴れてるあいつにどう近づけって言うのよ」

心美「……私が攻撃を引き付けるから背後からうららちゃんが攻撃して」

うらら「待ってここみ。それは危険すぎる!」

心美「でも先生とさっき約束したよね。どっちかが危ない状況になっても攻撃を止めるなって」

うらら「そ、それはそうだけど」

確かに蓮見の言う通りこの作戦は危険すぎる。だが時間がないのも確かだし、なにより朝比奈がこれまでにないくらい凛とした表情をしている。なら俺が確認することは一つだけだ

八幡「朝比奈。大丈夫なんだな」

心美「はい。大丈夫です」

八幡「だとよ蓮見。これはもうやるしかねえだろ」

うらら「うぅ、ハチくんもここみもそこまで言うならやるわよ!」

心美「がんばろうね、うららちゃん」

うらら「当たり前よ。それとここみ」

心美「なに?」

うらら「絶対うららがあいつ倒すから。それまで倒れないでよ。絶対」

朝比奈は一瞬はっとした顔をしたがすぐにっこり笑って答える

心美「うん」

うらら「じゃあうららとここみの最終ステージ開演よ!」


320 ◆JZBU1pVAAI2017/05/17(水) 23:30:45.67YYJy4cRe0 (1/1)

本編3-19


心美「いやぁぁ!」

朝比奈は杖をかざして大型イロウス相手に正面から突っ込んだ。

だが、動きを止められるまでには至らない。

八幡「くそ、だめか」

朝比奈は依然大型イロウスの攻撃を引き付けている。と、その時朝比奈が杖を落とした。

八幡「何する気だあいつ」

大型イロウスはそれを見てすかさず腕を振り上げる攻撃を仕掛けてくる。それが朝比奈にクリーンヒットする。

心美「きゃぁ!」

八幡「朝比奈!」

だが朝比奈は倒れなかった。それどころか大型イロウスの腕を捕まえている。

心美「うららちゃん!今だよ!」

だが小型イロウスの群れが蓮見の行く手を阻む。

うらら「ここみ……くっ、この、こんなときに邪魔だよ!」

……こうなったら一か八か、こうするしかないか。

八幡「どけ蓮見。んで、俺の後から突っ込め」

うらら「え、そんなことできるわけ、」

八幡「俺にはこれくらいしかできないんだからやるしかねぇんだよ!」

困惑する蓮見をよそに俺は小型イロウスに向かって体ごと飛び込んだ。骨ばかりな見た目通り、さほど重くはない小型イロウスは俺ののしかかりで何体か倒れこむ。

八幡「ほら!いけ!」

蓮見は一瞬驚いた顔をしたが、すぐ俺が作った隙間を飛び越えて朝比奈の所へ向かう。

うらら「ここみ!」

蓮見は魔法弾を放つが、攻撃力がもとに戻っているのか大型イロウスにダメージが通らない。

うらら「あとちょっと、あとちょっとなのに」

なにか使えるものはないか。今すぐダメージ量を増やせるもの……そうだ。

八幡「蓮見!朝比奈の杖も使え!」

心美「うららちゃん!私の杖も使って!」

俺と朝比奈はほぼ同時に叫んだ。

うらら「わかった!使わしてもらうね」

蓮見は落ちていた朝比奈の杖を拾い大型イロウスに向き直る。にわかに両方の杖の先が光り出してきた。

うらら「ここみもこまっちも参拝客も危険にさらしたことは許さない!はぁ!」

そう言って蓮見は魔法弾を連発し、大型イロウスを見事消滅させた。

うらら「ここみ!大丈夫?」

心美「うん、大丈夫。ありがとうららちゃん」

うらら「それはうららのセリフよ。ありがと、ここみ」

倒れこむ朝比奈を優しく蓮見が抱きかかえる。美しい光景だ。べ、別に、俺も体張ったのになんも言われてないなぁとか、それどころか最後の蓮見の発言の中に俺が登場しなかったなぁなんて全然気にしてないんだからね!

八幡「お疲れさん」

心美「先生。ほんとうにありがとうございました」

八幡「ちげぇよ。お前らが頑張った結果だ」

うらら「そうだよね~。ハチくんが今日やったことと言えば、列の整理とここみにドキッとしたのと小型イロウスに倒れこんだくらいだもんね」

八幡「うっせ」

まぁ蓮見の言うことに間違いはないので反論はしない。ひとまずこれでもうこの神社も大丈夫だろ。小町に連絡して帰るとするか。


321以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/18(木) 14:38:57.60BHCOuKxc0 (1/1)

ツインロッド…熱いっすね


322 ◆JZBU1pVAAI2017/05/19(金) 10:27:22.17+JmIImL60 (1/5)

番外編「風蘭の誕生日前編」


俺は今、雑用を押し付けてくる権化が巣くうラボの前に立っていた。はぁ。今日は何の実験台にされるんだろうか。この前やった武器改良の試し撃ちの的にされたときは死ぬかと思った。あんな体験は二度としたくない。でもここで何を言っててもしょうがない。行かないとさらにヤバいことが起こりそうだもんな。

俺は半ばあきらめの境地に入りながらラボのドアを開けた。

風蘭「おぉ比企谷。待ってたぞ」

八幡「どうも。で、今日は何をするんですか?また俺は犠牲者になればいいですか?」

風蘭「今日はただアンタとゆっくり話がしたくて呼んだだけだよ。今飲み物持ってくるからそこらへんに座って待っててくれ」

あ・や・し・い

いつもなら飲み物はおろかろくな説明もなしに実験を始める御剣先生が俺とゆっくり話したい?ありえない。絶対に何か裏があるはずだ。

座って少し待っていると飲み物とお菓子を持って御剣先生が戻って来た。

風蘭「お待たせ。ほれ比企谷」

そう言って御剣先生は飲み物を手渡してくる。だが俺にそんな手は通じない。ここはあえて渡されない方をとる!

八幡「あ、俺こっちがいいんでそれは御剣先生が飲んでください」

風蘭「え?いや、それは」

八幡「見た感じどっちも同じジュースですよね?ならどっち選んでもいいじゃないですか」

風蘭「う、」

おぉおぉ。あからさまに動揺してるな。ここはダメ押しだ。

八幡「俺待ってて喉渇いちゃったんですよね。早く飲みましょうよ先生。はい乾杯」

風蘭「うぅ……」

俺が飲み物を口につけたのを見て御剣先生も観念したのか、コップの中の飲み物を一気に飲みほす。ふ、計画通り。

八幡「で、ゆっくり話すって何話すんですか」

風蘭「……バカ」

八幡「え?」

風蘭「八幡のバカ!」

ちょっと待て落ち着け俺。なんで俺は今顔を赤らめた御剣先生から下の名前で呼ばれ、あまつさえ可愛く「バカ」と言われた?

八幡「あの、御剣先生?」

風蘭「風蘭って呼んで?」

八幡「いやそれはさすがに」

風蘭「今だけでいいから。お願い」

俺の先生がこんなに可愛いわけがない。なんだこの変わりようは?やっぱあの飲み物に何か入ってたんだろう。飲まなくてよかった。

八幡「ふ、風蘭はなんでこんな変わっちゃたんですか?」

風蘭「実はあたしが飲んだジュースの中に自分の気持ちに嘘をつけなくなる薬を混ぜてたの。本当は八幡に飲んでもらって普段の捻くれた言動の裏に何を考えてるか知りたかったんだけど失敗しちゃった」

八幡「なるほど。てことは今この状態がみつ、風蘭の本性ってわけですね」

風蘭「うん」

八幡「それにしては普段と違いすぎやしませんか?」

風蘭「だって学生の時から喧嘩ばっかりしてたから自然と男っぽい話し方になっちゃったんだよ。それに、そもそも男の人と話すの慣れてないし……」

八幡「あぁ、神樹ヶ峰の卒業生って言ってましたもんね。女子校出身で女子校勤務だと出会いなさそうですし」

風蘭「う、うん。でもそれだけが理由じゃないっていうか、その、」

八幡「それだけが理由じゃない?」

風蘭「じ、実はあたし男の人にすごく興味があるの……」

御剣先生はいかにも乙女っぽく顔を赤らめながらそんなことを口にした。


323 ◆JZBU1pVAAI2017/05/19(金) 10:28:17.56+JmIImL60 (2/5)

番外編「風蘭の誕生日後編」


なん、だと。御剣先生が男に興味があるだって?イメージと違いすぎて頭が追いつかない。

八幡「そ、それはつまり異性として男性に興味があるってことですか?」

風蘭「うん。だ、だってあたしの将来は、お、お、お嫁さんになることだから!」

八幡「……」

風蘭「八幡?何か言ってよ」

八幡「あ、あぁ。い、いいんじゃないですか」

おいおい、こんなことまで言っちゃうのかよ、素直になる薬すげぇな。いや、それより心でははこういうこと考えてるのに普段の言動に一切出さない御剣先生もすげぇ。

風蘭「だからホントは八幡に薬を飲ませてあたしのことどう思ってるか聞こうと思ってたんだ」

八幡「へ?」

我ながら間抜けな声が出てしまった。さらには御剣先生は座ってた向かいの席から立ち上がり、俺の隣に接近してくる。

風蘭「ねぇ、八幡。あたしのことどう思ってる?」

八幡「そ、そうでしゅね。いい先生だと思ってますよ」

風蘭「そうじゃなくて」

御剣先生はさらに俺に近付いてくる。体触れちゃってますよ先生!い、意外と柔らかいんだなこの人。ってそんなこと考えていい状況じゃない。

八幡「あの、御剣先生。とりあえず離れてもらえないですか?」

風蘭「風蘭って呼んでよ!」

そう言って盛大に肩を叩かれた。めっちゃ痛いんですけど。素直になっても筋力は変わらないんだな。

八幡「わ、わかりました。だから叩かないで」

風蘭「わかればいいの。で、八幡は、あ、あたしのことどう思ってるの?」

八幡「俺は、」

正直そんな目で見たことなんて一度もなかった。いつもよくわからない発明品の実験台にされたり、雑用させられたりと大変な思いばかり味わってきた。でも、別にそれが嫌だったかと言われればそんなことはない。めんどくさいことをさせられるってわかってても次は何をするんだろうかと楽しみにしてる自分もいる。

八幡「俺は、風蘭とこうして色々やるの別に嫌いじゃないですよ」

風蘭「……」

八幡「まぁなんていうか、少し自重してほしいこともありますけど、いつもの感じも、今の感じも悪くないですよ」

風蘭「……」

八幡「あの、風蘭?」

さっきから俯いてこっちを見ない御剣先生に顔を近づける。

風蘭「近い!」

八幡「うっ」

盛大に顎にパンチをもらってしまった。

風蘭「いや、アタシが変なこと考えたとはいえ空気に流されて変なこと言う比企谷もおかしいぞ!もっと自分の言動に責任を持て!」

八幡「ちょっと待ってください。いつの間に元に戻ってるんですか」

風蘭「ひ、比企谷がアタシの印象について語りだしたあたりから」

八幡「ならすぐに言ってくださいよ。わざわざあんなこと言う必要なかったじゃないですか」

風蘭「いや、でもせっかく言ってくれるなら聞いとこうかなって。と、とにかく。アタシとあんたがこんな状況になってたと知れたらマズイ。だから強硬手段を使わせてもらう」

そう言って御剣先生は何かごそごそと機械の山から何物かを取り出した。

八幡「なんすか、それ」

風蘭「これは特殊な電波を流して人の記憶を1時間消すことのできる機械だ。なかなか使う機会がなかったが絶好のタイミングだ。さぁ、比企谷こっちにこい」

俺が何かアクションを起こす前に御剣先生は俺の頭をがっちり捕まえ、持ってる機械を装着してくる。痛い痛い。やばい、頭がつぶれる。

風蘭「おとなしくしろ。さ、スイッチオン!」

俺はそこで意識を失った。



324 ◆JZBU1pVAAI2017/05/19(金) 10:31:22.40+JmIImL60 (3/5)

以上で番外編「風蘭の誕生日」終了です。ふーちゃんお誕生日おめでとう!これまでで一番キャラ崩壊させてしまいました。こういう風蘭もありかなと思ったんですが強引だったかもしれないです。


325 ◆JZBU1pVAAI2017/05/19(金) 17:32:11.52+JmIImL60 (4/5)

本編3-20


神社での戦いの数日後。朝比奈のもとには雑誌やら新聞やらのインタビューが何回かあったらしい。読む限り、完璧な答えではないが最初の雑誌のインタビューよりかは数段まともになった印象を受ける。

星守クラスでも朝比奈のインタビュー記事が出回っていてここ数日の話題の中心だ。

朝のHR前、そんなクラスの光景をぼーっと眺めてるとなぜかドヤ顔の蓮見が話しかけてきた。

うらら「ふふん、やっぱりうららたちの『ここみプロデュース大作戦』のおかげで、ここみのインタビューも少しはマシになったみたいね」

八幡「そういやお前らそのなんとか作戦言いながら何やってたの」

うらら「うららは徹底的にウケのいい答えを教えててわ。特によく聞かれそうな質問にはテンプレを作って暗記するくらいにね。で、こまっちがひたすらここみのいいところを列挙してくって感じ」

八幡「なにそれ、なんかの拷問?」

うらら「しょうがないじゃない。ここみってば全然自分に自信がないんだもん。こっちからどんどん魅力を言ってあげないとダメなの」

八幡「へぇ。そういえば朝比奈はどうした?」

うらら「ここみなら職員室に呼ばれてたわ。なんか悪いことでもしたのかしら」

八幡「お前じゃあるまいし、それはないだろ」

うらら「うららのことなんだと思ってるの」

蓮見はジト目で俺を睨んでくる。

八幡「だって昨日も宿題忘れて八雲先生に呼び出し食らってたろ」

うらら「あ、あれは、そうよ!ニ◯ニ◯動画ですCOLO GIRLSの一挙放送が深夜にあったからしょうがないの!」

八幡「完全に自業自得じゃねぇか」

うらら「そういうハチくんこそ授業中に寝ててよく八雲先生に怒られてるじゃん!」

八幡「仕方ないだろ、眠いんだから」

うらら「開き直った!?」

俺と蓮見がくだらないことを言い合ってると教室のドアが開いて朝比奈が戻って来た。その表情はいつにもまして不安そうだ。

八幡「どうした朝比奈」

心美「じ、じつは明日インタビューが来るらしいんです」

うらら「何よ、インタビューくらい別に今さら不安になることないじゃない」

心美「それが、テレビのインタビューなんだって……」

うらら「テレビ!?」

八幡「マジか」

心美「は、はい。だからどうしようかすごく不安で」

確かに雑誌とテレビじゃ話が違うな。顔とか話し方とかも全部映像になって伝わるぶん大変そうだ。

すると蓮見が何か思いついたように不敵な笑みを浮かべた。

うらら「これは『ここみプロデュース大作戦』臨時会議が必要ね」

そう言うと蓮見は携帯を取り出して誰かにメールを送った。するとすぐ俺の携帯がメールの着信を告げた。開いてみると小町からだった。

小町『こまちも今日うららちゃんたちと会うことにしたから!お兄ちゃんも来てよ。絶対帰っちゃだめだからね』

……こうやって俺の退路をすぐ断つあたりまじ蓮見さん策士。

うらら「こまっちも来れるっていうし、放課後この前のカフェに行くわよ!」

心美「うん!ありがとううららちゃん!」

朝比奈もヤル気だ。多分またあのカフェ行けるのが楽しみなんだろ。ま、あそこのケーキ割と美味しかったしそう思う気持ちはわかる。俺の財布の中身が心配になるが。

心美「先生も、あ、ありがとうございます」

朝比奈がやわらかい笑顔で俺にお礼を言ってきた。

……そうやって笑顔で接してくるあたりまじ朝比奈さん策士。違うな。俺がチョロイだけでした。



326 ◆JZBU1pVAAI2017/05/19(金) 17:35:37.97+JmIImL60 (5/5)

以上で本編第3章終了です。やっと中学生組が終わりました。次回からは高校生組の話になっていきます。


327以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/19(金) 18:08:32.00Qdbl3zNDO (1/1)

乙です。
次はようやくヒッキーがみきの料理を食べるのか。


328以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/20(土) 01:43:10.82Ds78eiEto (1/1)

乙です


329 ◆JZBU1pVAAI2017/05/20(土) 17:05:35.48MYMlAbfc0 (1/1)

本編4-1


ある平日の朝。俺はいつもの通りベッドの誘惑をなんとか振り払いリビングに朝食を取りに行くと、いつもはこの時間にはいるはずのない母親がコーヒーを啜っていた。母親は俺がリビングに入っていくと一瞬「誰だこいつ」って目で俺を凝視してきやがった。おい、息子の顔忘れるなよ。仮にも母親だろ。

八幡の母「あらあんただったの、意外と早いのね」

八幡「……この時間に起きないと間に合わないんだよ。つか母ちゃんこそ今日遅くね。仕事は?」

八幡の母「今日は少し遅い出勤なの。ま、それでも世間の社会人よりかは早いんだけど」

母親の目の下に刻まれた隈がさらに深くなるくらい暗い発言だった。ホント社畜って人間を破壊していく。将来は働くお嫁さんをきちんといたわってあげよう。

八幡の母「そういえば、あんたしばらく見ないうちに少し変わったわね」

八幡「え、何突然」

嘘。母ちゃん、いつも小町の事しか見てないと思ってたら俺のこともきちんと見ててくれたの?八幡感激。

八幡の母「なんか前より丸くなった気がするわ。太った?」

衝撃の発言だった。お、俺が、太った?まままままさか。

八幡「待て母ちゃん。俺が太った?そんな馬鹿な話があってたまるか」

小町「うーん、言われてみると確かにお兄ちゃん少し太ったかも」

いつの間に起きてきたのか小町まで会話に参加してくる。

八幡の母「小町もそう思う?やっぱりね。最近あんたが始めたなんとかって学校との交流?だかなんだか知らないけど、それが原因なんじゃないの」

八幡「2人とも勝手な言いがかりはよしてくれ。俺だってまだ高校2年生の成長期だぞ?体が大きくなることだって十分あり得る」

小町「いきなり横に大きくなるのを成長期だとは言わないよお兄ちゃん」

八幡の母「このままいくとあんた、ただの目の腐ったデブになって一生を終えることになるわよ」

俺は頭の中で材木座の目が腐った姿を思い浮かべてみた。うん、ないな。もはや人間とは呼べない。どこかの絵巻物に出てくる化け物だ。

八幡「そ、それは嫌だ」

八幡の母「ならなんとかしな。そろそろ私出かけるから。2人とも車に気を付けて学校行くんだよ」

小町「はーい!いってらっしゃい!」

八幡「いってらっしゃい……」

母親がいなくなり、兄妹2人で朝食を食べ始めると先ほどまで元気だった小町が少し心配そうな声色で尋ねてくる。

小町「でもお兄ちゃん、ほんとにヤバいかもよ?家族でもわかるくらい変わったなら他の人なんてとっくに気づいてるよ」

八幡「でも別に神樹ヶ峰では何も言われてないぞ」

小町「そりゃ面と向かって『太ったね』なんて言う人がいるわけないでしょ。で、なんか原因はないの?」

ついさっきお前と母親に面と向かってそう言われたばっかりなんだが?と心の中でツッコミを入れつつ原因を少し考えてみる。

八幡「言われてみれば神樹ヶ峰に通うようになって自転車に乗ることもなくなったし、学校で体育もやってないから運動する時間は減ったな」

小町「それだよお兄ちゃん。このまま運動しないとお兄ちゃんの友達の中二病の人みたいになっちゃうよ?そしたら小町口ききたくないよ」

なぜか材木座がとばっちりを受けた。だが兄妹だと考えることも似てくるらしい。ごめんな材木座。

八幡「それはお兄ちゃん困る。あと材木座は俺の友達ではない」

小町「まだそれ言い張るんだ……とにかく今のままだとダメだよお兄ちゃん。なんとかしてね」

八幡「何とかって言われても」

小町「だから運動すればいいじゃん。休日に」

八幡「小町。休日は休む日だ。なんでわざわざ疲れることをせにゃいかんのだ」

小町「そんなこと言ってるから太るんだよ。あ、なら学校で汗を流しなよ。いっそのこと星守クラスの子と一緒に運動したら?」

そういえば若いときに運動をしないといけないとか、一緒に運動しましょうとか、前に誰かに言われたような気がする。誰だったかな。ま、いいや。

八幡「そういうリア充イベントは俺には絶対起こらない。断言してもいい」

小町「えー」

八幡「えー、じゃねぇ。とにかくこの話は終わり。俺もそろそろ行かなくちゃ遅刻しちまう。じゃな小町。いってくる」

小町からも話題からも逃げるように俺は家を出た。


330 ◆JZBU1pVAAI2017/05/22(月) 18:43:53.78FMP4dTeL0 (1/1)

本編4-2

その日の昼休み、教室でぼーっとしていると1枚の写真が足元に落ちているのに気づいた。拾って見てみると俺が神樹ヶ峰に来た日のチャーハンパーティの時に撮った写真だ。

みき「あ、先生。それ私のです!」

声のする方に顔を上げるといつの間にか星月が俺の目の前に立っている。手を差し出してるということはどうやら写真を返せということらしい。

八幡「ん、ほれ」

みき「ありがとうございます!」

星月は俺から写真を受け取るとしばらくじっと写真を見て、また俺をじっと見る。

八幡「な、なんだよ」

みき「いえ、今の先生と写真の中の先生がなんか違うなって」

八幡「そ、そんなことないんじゃないか?」

今朝のこともあって返事がしどろもどろになってしまう。

みき「えぇー、そうですか?そうだ。遥香ちゃんと昴ちゃんにも見てもらいましょう!おーい!遥香ちゃん!昴ちゃん!」

遥香「どうしたのみき」

みき「これ先生が星守クラスに来た日の写真なんだけど、なんか今と違くない?」

そう言って星月は2人に写真を見せる。2人は写真をじっと見て俺をじっと見てため息をつく。

昴「これは、先生……」

遥香「薄々そんな感じがしてたんですけど、やっぱり」

みき「2人もそう思う?」

みき、遥香、昴「先生。太りましたね」

3人ともが揃って俺の心にナイフを突き立てて来た。俺の周りには人を傷つけることしか言わない悪魔のような女性しかいないの?

八幡「今朝、母親と妹にも同じこと言われた……」

遥香「家族の方にも指摘されるなんて相当変化があった証拠じゃないですか」

みき「先生!今のままだと数年後、自分の過去を見られなくなりますよ!」

八幡「確かにどうにかしないといけないとは思うんだが」

昴「なら先生もアタシたちと一緒に特訓やりますか?実際に武器を使ったシミュレーションとかはムリですけど、それ以外のグランドでやる特訓なら一緒にできると思います」

絶対やりたくねぇ。何度かチラッと見たことはあるがみんなキツそうな顔してたし。なんとか言い訳をしてこの特訓からは逃れよう。

八幡「……いや、星守の特訓に一般人の俺が参加しちゃダメだろ?」

遥香「大丈夫ですよ。ただの体力増強のためのトレーニングですから」

八幡「てか俺が参加してもお前らに迷惑だろ?」

みき「そんなことないですよ!むしろ私たちの特訓を見てもらえればそれだけでヤル気が出ます!」

八幡「そもそも俺全然動けないんだけど?」

昴「先生のペースに合わせますから!」

遥香「そうやって言い訳を並べても無駄ですよ先生。さ、明日からはジャージを持ってきて放課後はグランドに集合ですよ」

八幡「いや、放課後には仕事が」

昴「私たちの特訓を見るのも立派な仕事ですよ!」

八幡「そうは言っても、」

みき「なら今から八雲先生と御剣先生に放課後特訓の許可をもらいに行きましょう!」

昴「みきナイスアイディア!」

遥香「そうね、私たちで勝手に決める訳にもいかないものね」

3人は意見がまとまると職員室に向かうために教室を出ようとする。

みき「先生。何してるんですか?行きますよ?」

席を立たない俺を星月が催促してくる。はぁ、俺の意志は無視ですかそうですか。だったらなんとか八雲先生と御剣先生はこっち側に引き込もう。てかそれしかない。


331 ◆JZBU1pVAAI2017/05/23(火) 23:41:15.35/cPjTZY60 (1/2)

本編4-2


星月を先頭に俺たち4人は職員室に入っていく。

みき「失礼しまーす!あ、八雲先生!」

樹「あらみんな揃ってどうしたの?」

昴「実は先生にお願いがあるんです」

樹「なにかしら?」

遥香「明日からの放課後特訓を比企谷先生と一緒にこなしたいんですがいいでしょうか?」

樹「いいわよ」

何のためらいもなく八雲先生は放課後特訓を承認した。

八幡「ダメじゃないんですか?」

樹「むしろこっちからお願いしたいくらいだわ。一緒に特訓をすることであなたたちの『親密度』も上がるんだから」

八幡「親密度?」

どっかのギャルゲーみたいな言葉が飛び出してきて思わず聞き返してしまった。

樹「簡単に言えば仲良くなるってこと。辛いことを一緒に乗り越えれば関係性も一層深まるはずよ」

八幡「そんな簡単に人が仲良くなれるんだったら、世の中からは戦争なんてなくなってますよ」

樹「どうしてこんなに屁理屈ばかり言えるのかしら……とにかく比企谷くんの特訓参加は決まりです」

八幡「でも俺放課後にも仕事があるんですけど」

樹「その仕事も風蘭から押しつられる雑用でしょ?もともと比企谷くんは星守たちとの交流が目的でここに来てるんだから特訓を優先してもらって何も問題ないわ。風蘭には私から言っとくから安心して」

完全に退路を断たれてしまった。「そうねぇ。優先すべきは仕事よね。やっぱり特訓は無理だと思うわ。仕事があるもの」なんていう展開を予想してたのに、「仕事」というワードが一切仕事をしなかった。

樹「というか比企谷くんが特訓をやりたいって言いだしたんじゃないの?」

八幡「やめてくださいよ八雲先生。俺がそんなこと自分から言いだすわけないじゃないですか」

樹「そ、そんな目を腐らせながら自信たっぷりに言われても困るわ……」

みき「私たちが先生を特訓に誘ったんです!」

遥香「比企谷先生の体型改善のために」

八幡「おい、成海。お前もう少しましな言い方あるだろ?」

昴「と、とにかくアタシたちもせっかくだから比企谷先生と特訓したいなって思ったんです!」

樹「そう。でもどんな理由にしろ比企谷くんが特訓に協力してくれるっていうなら助かるわ。よろしくね」

八幡「……はい」

こうして俺たちは八雲先生から特訓の許可をもらい職員室を後にした。

みき「先生!これで明日から存分に特訓できますね」

昴「でもいきなりすごい特訓はできないよみき。先生だってついてこられないだろうし」

遥香「そうね。それに無理をすればケガにつながるわ。しっかりメニューを考えないと」

3人は俺の事なんていないかのように特訓の話に夢中だ。こうなったら適当にうやむやに済ませることにしよう。

八幡「なぁ。別に俺のことなんて気にしなくていいぞ?なんなら俺だけでやるからお前らはお前らで特訓頑張ってくれ」

遥香「ダメです。先生の特訓は私たちがきちんと管理します」

昴「トレーニングはしっかりやらないと効果出ないですよ!」

みき「それに私たちは先生と一緒に特訓したいんですよ?別々にやったら意味がないじゃないですか!」

星月の発言に成海と若葉も頷く。正直ここまでストレートに言われて断るほど俺は腐っちゃいない。もとはと言えば運動してこなかった自分が悪いわけだし、さっさともとの体型に戻して特訓を終わらせる方が生産的だろう。

八幡「……わかった。よろしく頼む」

みき、遥香、昴「任せてください!」


332 ◆JZBU1pVAAI2017/05/23(火) 23:42:15.64/cPjTZY60 (2/2)

>>331は本編4-3でした。すみません。


333以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/24(水) 00:17:09.78JUWsJyWho (1/1)

乙です


334 ◆JZBU1pVAAI2017/05/25(木) 00:01:01.94KptkaY1y0 (1/4)

番外編「茉梨の誕生日前編」


わたし酒出茉梨。神樹ヶ峰女学園に通う高校3年生!いつもわたしはいっちゃんとふーちゃんと放課後に特訓したり遊びに行ったりしています。

よし、もう掃除は終わったし、今日は特訓はお休みの日だから2人とコンビニの新作お菓子を探したいなぁ。

樹「茉梨。ここにいたのね」

茉梨「あ、いっちゃん!ふーちゃん!」

風蘭「さ、茉梨も見つかったことだしサクッと行っちゃおうぜ」

茉梨「行くってどこに?」

風蘭「ナイショー」

樹「ほら茉梨早く行くわよ」

茉梨「え、え、」

わたしはいっちゃんに手を引っ張られてなぜかラボにやって来た。

茉梨「ねぇ、ここで何するの?」

樹「ここでは何もしないわ」

風蘭「そうそう。ほらここに立った立った」

茉梨「でもこれって、転送装置だよね?」

風蘭「そうだけど?」

茉梨「もしかしなくてもこれでどこかへ行くつもり?」

樹「えぇ」

茉梨「な、なんで?ふーちゃんがやるならまだしも、いっちゃんまでこんなことするなんてびっくりだよ!」

樹「理由は後で説明するわ。ほら風蘭!」

風蘭「わかってるって!転送!」

転送時の独特な感覚を味わった後、周りの空気が明らかに違うのに気づいた。なんていうか、あったかい感じ。

樹「茉梨、大丈夫?」

茉梨「うん。大丈夫だよ。それで、ここはどこ?」

風蘭「ふふん、見てわからないか?」

お店がたくさん並んでるのを見ると、ここは商店街なのかな?でも近くの商店街じゃないなぁ。ここにはいかにも南国っぽい木がたくさん植えられているし、いたるところに「沖縄」って文字がある。え、沖縄?

茉梨「まさか、まさかここって那覇の『国際通り』?」

風蘭「大正解!」

茉梨「嘘!なんで2人はわざわざ沖縄までわたしを連れてきたの?」

樹「だって今日は茉梨の誕生日じゃない。こうして私たちが神樹ヶ峰で一緒にいられるのも残り少ないし、思い出作りのために、ね」

風蘭「そうそう!いつもなら絶対イツキはこんなこと許してくれなかっただろうけど、茉梨の誕生日に何かサプライズしたいって言ったらノリノリで協力してくれたんだぜ」

樹「そ、それは、誕生日って年に一回の大切な日だし、私も風蘭も茉梨にはいつも感謝をしているし、そのお礼がしたくて」

わたしのために2人は前から準備してくてたんだ。とっても嬉しいな。

茉梨「いっちゃん、ふーちゃん……ありがとう!」

樹「ふふ、じゃあ行きましょうか」

風蘭「マリのためにうまいサーターアンダギー売ってる店を探しといたからな」

茉梨「サーターアンダギー!?」

樹「せっかくなら本場の味を食べましょ」

茉梨「うん!」


335 ◆JZBU1pVAAI2017/05/25(木) 00:01:40.52KptkaY1y0 (2/4)

番外編「茉梨の誕生日後編」


樹「ほら、あそこよ」

茉梨「うわぁ!すごい!」

いっちゃんが指さす方からは美味しそうな香りが漂ってくる。我慢できずにお店の前まで走っていくと、たくさんのサーターアンダギーが並んでて、看板には「揚げたて」と書いてある。

茉梨「こんなにいっぱいサーターアンダギーがあるなんて、夢みたい。100個くらい買っちゃいたいなぁ」

風蘭「そ、そんなに買うのか?」

茉梨「だってなかなか来られないんだよ?家に買い置きしておきたいじゃん!」

樹「でも茉梨、あなたそんなにお金持ってないでしょ」

いっちゃんに言われてお財布の中を確かめてみると1000円札が数枚と小銭が少し。

茉梨「……100個も買えない」

樹「まぁそうよね。逆に買えるだけの大金を持ってても怖いけど」

風蘭「あ、そういえばアタシお金全然持ってなかったんだ。マリ~貸して~」

そう言ってふーちゃんはあたしにすり寄ってくる。ふふ、こうやって甘えてくるふーちゃんも可愛いなぁ。

茉梨「しょうがないなぁ。いいよ」

風蘭「やった!バイト代入ったら返すから!」

茉梨「うん。約束ね」

樹「まったくもう。誕生日の茉梨にお金を借りるなんて風蘭ったら何考えてるのかしら」

茉梨「まぁまぁいっちゃん、せっかくの沖縄なんだから楽しもう?」

樹「……えぇ」

こうしてわたしたちはサーターアンダギーを食べた後、沖縄の他の特産品を食べたり、シーサーと写真を撮ったりして国際通りを満喫した。気づいたらだいぶお日様も低い位置にあってわたしたちの影も長くなっている。

樹「さて、そろそろいい時間だし帰りましょうか」

風蘭「おぉ。じゃあ転送装置のリモコンを。って、あ」

茉梨「どうしたの?」

風蘭「リモコン、ラボに置きっぱなしだ」

樹「ちょ、何やってるのよ風蘭!帰れないじゃない!」

茉梨「と、とにかく学校に連絡してみよ?」

風蘭「そうだな。でも先生にばれるとまずいから、そうだ!多分アスハが学校に残って特訓をしてるはずだ。アスハに頼んでみよう」

そう言うとふーちゃんは通信機を取り出してあーちゃんに連絡をつける。

風蘭「お、繋がった。もしもしアスハか?1つ頼みたいことがあるんだ。ちょっとひとっ走りラボまで行って転送装置を起動させてくれないか?」

明日葉「わかりました!待っててください!」

少しするとまたあの独特の感覚が体を包み、目を開けるとラボに戻っていた。目の前にはあーちゃんと理事長が立っている。

樹「理事長!?」

牡丹「明日葉がラボに行くところを見かけましてね。不審に思って来てみたら無断で転送装置が使われた形跡があったのでここであなたたちを待ってたんです」

風蘭「アスハ~ばれちゃダメだろ~」

明日葉「す、すみません!」

樹「なんで明日葉が謝るの。完全に私と風蘭が悪いんだからいいのよ。むしろこちらこそ迷惑かけてごめんなさい」

茉梨「わたしだって悪いよ!わたしのために2人がやってくれたことなんだからわたしにも責任があるよ。ごめんねあーちゃん」

理事長「だいたい事情は分かりました。大方、今日誕生日の茉梨を喜ばせるために樹と風蘭が転送装置を使って沖縄に行くことを考えたのでしょう。親しい友のために行動するその友情は十分伝わりました」

風蘭「それじゃあ、アタシたちお咎めなしですか?」

理事長「それとこれとは話が違います。3人には罰として明日から一か月間の特別特訓を課します。一生懸命励んでくださいね」

そう言って理事長はラボを出ていった。外はすっかり暗くなっている。もう帰らないといけないけど、どうしても一言だけみんなに言いたい。わたしは大きく深呼吸をしてからしっかりと3人を見据えた。

茉梨「いっちゃん、ふーちゃん、あーちゃん。今日は本当に楽しかった!わたし、今日のことは一生忘れないね!」


336 ◆JZBU1pVAAI2017/05/25(木) 00:02:57.59KptkaY1y0 (3/4)

以上で番外編「茉梨の誕生日」終了です。茉梨誕生日おめでとう!第3部にしか出てこないキャラクターなので八幡との交流はしないようにしました。


337以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/25(木) 01:09:18.534cXvV3uuo (1/1)

乙です


338 ◆JZBU1pVAAI2017/05/25(木) 01:40:45.07KptkaY1y0 (4/4)

風蘭の明日葉への呼び方をカタカナにしてしまってました。脳内補完しておいてください。


339 ◆JZBU1pVAAI2017/05/28(日) 00:24:09.91WbCWzppU0 (1/7)

番外編「私たち、拗ねてるんです!①」


八幡「うーす。朝のHR始めるぞ」

俺が普段通り教壇に立って挨拶をすると途端に教室が静かになった。いつもはガヤガヤとうるさいし、俺に対して無駄に絡んできたりもするのだが、今日はなぜかそんなことは全くない。ま、静かなら連絡もしやすいしいいか。

そんな雰囲気の中、2,3の連絡を伝え終えた。

八幡「以上で俺からの連絡は終わりだが、みんなからはなんかあるか?」

この質問に対しても反応はなし。さすがに少し不安になってきた。

八幡「なぁ、みんなどうしたんだ?」

楓「別に何もないですわ」

遥香「えぇ。何もないですよ先生」

ぶっきらぼうな返事しか返ってこない。

八幡「いや、そんなあからさまに嫌そうに言われても信じられないから」

望「そんなに言うなら自分の心に手をあてて考えてみてよ」

ひなた「そうだそうだ!」

八幡「なんで俺が悪いみたいになってるの……」

そうこうしてると1時間目が始まるチャイムが鳴り八雲先生が入ってきた。

樹「みんな、なにしてるの」

そう言って八雲先生は教室全体を見渡す。

樹「なるほど、そういうことね。今日の授業は自習にします。各自勉強しておくように。それと比企谷くんは私と一緒に来て」

八幡「え、なんでですか?」

樹「いいから早く!」

八幡「はい……」

俺は半ば強引に理事長室に連れてこられた。

八幡「あの、ここで何するんですか?」

樹「一度理事長に直接話をしてもらいます。私や風蘭が言うよりも効果があるから」

八幡「いや、でも俺何も悪いことしてないんですけど」

樹「そういうことは理事長に言いなさい」

八雲先生は冷たく言い放つと、俺に理事長室に入るよう促す。

八幡「……失礼します」

ノックしてドアを開けると正面の椅子に神峰牡丹理事長が座っていた。相変わらずの服装に相変わらずのロリフェイスである。

牡丹「あら比企谷くん、それに樹まで。どうされたんですか?」

樹「理事長、実は星守達が全員『拗ね期』に入ってしまいました」

牡丹「それは大変ですね。で、比企谷くんを連れてきたわけですか」

樹「はい。私はひとまず星守達の対応をしますので、彼のことをお願いしてもいいでしょうか?」

牡丹「もちろん。さ、私に任せて行きなさい」

樹「よろしくお願いします」

八雲先生は一礼すると理事長室を後にした。残されたのは俺1人。いったい何をされるの?

牡丹「比企谷くん、そんなに怖い顔をしなくても大丈夫ですよ。ひとまずそこのソファに座ってください。今お茶を入れますから」

八幡「は、はい」

言われるままに俺はソファに座る。しかしこういうところのソファって無駄に柔らかくて、座るだけでも緊張するんだよな。今みたいな状況だったら余計に。

牡丹「さて、では少し私とお話ししましょうか」


340 ◆JZBU1pVAAI2017/05/28(日) 00:25:09.27WbCWzppU0 (2/7)

番外編「私たち拗ねてるんです!②」


俺の対面に座り、2人分の湯呑を置きながら理事長が口を開いた。

牡丹「まずは今の星守たちの状況について説明しますね。今、彼女たちはあなたに対して『拗ね期』という状態にあります」

八幡「『拗ね期』ですか?」

牡丹「えぇ。文字通りあなたに拗ねてるんです。」

なんだそりゃ。聞いたことがない。つかそもそも拗ねられるようなことをした覚えがない。

八幡「あの、どうして彼女たちは俺に拗ねてるんですか?」

牡丹「心当たりはありませんか?」

八幡「いえ、全く。彼女たちには何もしてないはずなので」

牡丹「それです」

八幡「はい?」

牡丹「彼女たちはあなたが何もしないから拗ねてるんです」

俺が何もしてないから拗ねる?まったくわからない。

牡丹「伝わってないようなので例を出して説明します。例えばひなたがソフトボールの試合で勝ったと報告してきたとしたら、比企谷くんはどう答えますか?」

八幡「多分、ふーんとかへーとか答えると思います」

牡丹「ではもう1つ。くるみが裏庭の花壇を新しくしたから今すぐ見に来てほしいと言ってきたらどう答えますか?」

八幡「後でな、って答えますね」

牡丹「その反応がいけないんです。彼女たちはあなたに褒められたいんです」

八幡「いや、まさかそんなわけ」

牡丹「では思い返してみてください。程度の差はあれ、彼女たち全員があなたにいろいろなことを言ってきたはずです」

そう言われてみると南やサドネはもちろん、煌上や粒咲さんなんかもたまに俺に話しかけてくるな。

牡丹「ね。彼女たちはみんなあなたに認めてもらいたいんです」

八幡「……じゃあ仮に、万が一そういうことだとして、俺はどうすればいいんですか?彼女たちの言うことに良い反応をすればいいんですか?」

牡丹「それも大事ですけど、今はそれよりも優先してやることがあります」

八幡「あんまり聞きたくないですけど、なんですか?」

牡丹「彼女たちの頭をなでることです」

だと思ったー。だからどこのギャルゲーなんだよ。

八幡「やっぱりそれですか……」

牡丹「あら、気づいてたんですか?ならどうしてやらないんですか?」

八幡「できるわけないですよ。同年代の女の子の頭なでるなんて」

牡丹「でも私たちは比企谷くんのなでなでを見て星守クラスの担任にしたんですよ?」

八幡「確かに最初はそうでしたけど、だからってそうほいほいなでられるわけないじゃないですか」

牡丹「安心してください。彼女たちは例外なく比企谷くんになでてもらうことを望んでますから」

そんな風に言われたとしても信用できないし、仮に本当だったとしても恥ずかしくてなでなでなんてできるわけがない。毎日黒歴史を生むようなものだ。

八幡「いや、でも」

牡丹「仕方ないですね。では荒療治といきましょうか」

理事長はすっと立ち上がると扉を開け、座ったままの俺のほうへ振り返る。

牡丹「何してるんですか?行きますよ。星守クラスへ」


341 ◆JZBU1pVAAI2017/05/28(日) 00:27:47.86WbCWzppU0 (3/7)

番外編「私たち拗ねてるんです!③」


俺はゆっくりと歩く理事長の後を無言でついていく。なんか気まずいなぁ。

牡丹「ごめんさいね。色々迷惑をかけて」

八幡「いえ、別に」

牡丹「でも比企谷くんだからこそ彼女たちを任せられるんですよ?誰にだって頼めることじゃない」

八幡「はぁ。それがなでなでですか?」

星守クラスの前で理事長の歩みが止まる。

牡丹「……正直、彼女たちには本当に申し訳ないことをしていると思ってます。大切な中高時代をイロウスとの命がけの戦いに巻き込んでしまっていることを。だからせめて学校では彼女たちの希望をできるだけ叶えてあげたいんです」

確かに星守というのはイロウスを倒せる唯一の存在であり、その見た目の麗しさも相まって一部では「女神」ともまで言われている。だけどその実は授業を受け、部活に出て、休日に友達と遊ぶ女の子だ。そのことは短い間でしか関わっていない俺にも十分わかる。だったら、俺がするべきことは。

八幡「……俺に何かできることがあれば、協力したいです」

牡丹「……ありがとうございます比企谷くん。では早速頑張ってもらいますね」

理事長はにっこりと笑うとドアを開ける。

牡丹「みなさん、お待たせしました。比企谷先生を連れてきましたよ。なんと比企谷先生、自分にできることがあれば何でもするって言ってましたよ」

入るなり何言ってくれてるんですか理事長?ほら、教室中の視線が一斉に俺に向けられるし。すでに居づらい。

明日葉「そうですか。ありがとうございます比企谷先生」

楠さんは席を立つと教壇に上がり教室中を見渡す。いや、俺何も言ってないけど?

明日葉「ではこれより『比企谷先生にいかに頭をなでてもらうか』について話しあいを始めます」

みんな「はーい!」

突然摩訶不思議な話し合いが始まってしまった。

八幡「ちょ、ちょっと待ってください。いきなりなんですか?」

明日葉「私たちの要望は『なでなで』です。ただやみくもに先生にお願いするのも申し訳ないので、今からルールを作りたいと思います」

八幡「ルール?」

明日葉「はいそうです。みんなの中で何か意見がある者はいるか?」

ゆり「やっぱり日直の人は『なでなで』されていいと思います!」

うらら「あと部活頑張った人も!」

心美「ぶ、部活以外でも学校で何かお仕事した人にもしてほしいです」

遥香「学校以外で頑張った人にもお願いします」

ミシェル「うーん、でもそれだけだと少ないよ~」

八幡「いや、今でも十分多いから……」

あんこ「なら、HRで何かゲームをやってその上位何名かも『なでなで』してもらえるっていうのはどう?」

楓「それは面白いですわ!」

蓮華「でもどんなゲームするかによって得意不得意ができちゃうから、日直の人がゲームを考えるって言うのはどう?」

昴「いいですね!」

明日葉「ではここまでの流れを整理すると、日直の人、部活頑張った人、部活以外でも学校で頑張った人、学校以外でも頑張った人、HRに行うゲームの上位数名って感じですね」

八幡「多い。多すぎる……」

くるみ「でも先生が私たちのことを無視するのがいけないんですよ?」

サドネ「サドネたち寂しかった」

そういう寂しいアピールをされると何も言えなくなってしまう。ほんとあざとい。助けを求めて理事長を見るとただにこっとされた。いや、そういうことを望んでるんじゃないんですけど。

しかし、どうやらこの状況は俺が妥協しないといけないらしい。正直な話、こんなに可愛い子たちの頭を撫でられるっていうのは非常においしい役割であることは否定できない。ただ、それ以上に良心の呵責に苛まれる。



342 ◆JZBU1pVAAI2017/05/28(日) 00:29:08.77WbCWzppU0 (4/7)

番外編「私たち拗ねてるんです!④」


八幡「……わかった。みんなの提案を受け入れる」

俺がそう言うと、これまでの沈んでいた空気が嘘みたいに活気づいた。

詩穂「やったわね花音ちゃん」

花音「べ、別に私は嬉しくなんてないんだから」

桜「これでより昼寝が気持ちよくなるわい」

みき「じゃあ早速今日からお願いしますね先生!」

八幡「え?せめて明日からにしてくれない?」

蓮華「ダメよ~今まで散々れんげたちのこと放置してたんだから~」

望「その分今度はアタシたちに付き合ってもらうから!」

もう逃げられないっぽいなこれ。これからますます大変な日常がやって来るんだろう。せめて黒歴史にならない程度にしておきたいが、どうだろうか。

つか、これ普通に犯罪にならない?あとで賠償請求とかされない?大丈夫?セクハラとか言われたら八幡社会的に死んじゃうよ?

ま、こいつらならそんなことはしないか。

風蘭「話は聞かせてもらった!」

八幡「うお!びっくりした。突然入ってこないでくださいよ御剣先生。今いい感じに終わりかけてたじゃないですか」

風蘭「まぁまぁ。とにかく、アンタたちの中から比企谷になでなでしてもらえるやつを何人か選べばいいんだよな?」

明日葉「え、えぇ。そうですけど」

樹「だったら最初は私たちが考案したゲームに勝った人になでなでされる権利を与えるわ!」

いつの間にか八雲先生も乱入してきてる。なんでこの人たちこんなノリノリなの。

ミシェル「ゲームって何するの?」

風蘭「今回アンタたちにやってもらうゲームは!」

樹「あみだくじよ!」

八幡「……そこまで息巻いてあみだくじですか?」

樹「勝負に勝つには幸運の女神に微笑んでもらうことも時には必要よ」

風蘭「そうそう。それに運勝負ならみんな文句は言えないしな」

単純にあなた方2人がこの状況を面白がってるだけじゃないの?

明日葉「先生方がそうおっしゃるなら、まずはあみだくじで選ぶとしよう」

みんな「賛成!」

あれ、おかしいと思ってるの俺だけ?俺が変なの?

などの俺の心の叫びは通じるはずもなく、あっという間に黒板に大きなあみだくじが書きあがり、次々に名前が加えられていく。

樹「さ、全員の名前が書けたわね」

風蘭「今回の当たりは3人だ。さ、誰が当たるかな~」

先生2人のテンションとは反対に、星守たちは水を打ったように静かになる。

樹「1人目は、蓮華」

蓮華「あら~、れんげ、先生にお触りされちゃうのね。緊張するわ~」

風蘭「2人目はひなた!」

ひなた「やったー!いっぱいなでなでしてもらおうっと!」

樹「そして最後3人目は、楓」

楓「ワタクシですの?ま、まさか当選するなんて思ってなかったですから驚きましたわ」

あっという間に3人が選ばれてしまった。他の15人は明らかに落ち込んでいる。


343 ◆JZBU1pVAAI2017/05/28(日) 00:30:09.78WbCWzppU0 (5/7)

番外編「私たち拗ねてるんです!⑤」


風蘭「じゃ、今からここでなでなでターイム!3人は前に来い」

八幡「ちょ、今この状況でですか?」

樹「だってこうでもしないと比企谷くんなでなでしないでしょ?」

観客の居る前で女の子の頭なでるとか公開処刑ですか?

八幡「あの、みんなの前とか恥ずかしいんですけど」

風蘭「じゃあ2人きりならできるのか?逆にそういうシチュエーションのほうが危ないだろ」

樹「風蘭の言う通りよ。あくまで教育の一環なんだから比企谷くんは堂々となでればいいのよ」

やっぱりこの人たちの考えおかしいと思うんだよな。なに、星守になる人ってみんなどこかおかしい人なの?

風蘭「ほら時間内から始めるぞ~。まずは誰がしてもらう?」

ひなた「はいはい!ひなたが最初!」

元気に宣言して南が俺の目の前に近寄ってくる。が、俺を見上げるその目はまだまだ幼い。ゆえにあまり緊張しないで済む。最初がこいつでよかった。

八幡「ま、じゃあ……」

俺はゆっくり南の頭をなでる。

ひなた「ひなた、そうされるの気持ち良いんだぁ……えへへ……」

しかしなんだか犬をなでてる感じに思えてきた。気持ちよさそうに目を細めてるあたりマジで犬。

ひなた「八幡くんの手、あったかくて大きいから、だーいすきなんだっ!」

八幡「お、おう。そうか」

俺が少したじろいでいると御剣先生が俺から南を離す。

風蘭「はーい。お時間でーす」

まるでどこかのアイドル握手会の剝がしをする人みたいな対応だ。

ひなた「えー、もう?まぁしょうがないか。八幡くん、ありがとう!」

八幡「……おう」

樹「じゃあ次はどっちがやってもらう?」

楓「で、ではワタクシが……」

今度は千導院らしい。ま、こいつも小町より年下だしなんとかなるだろ。

八幡「ん」

俺が頭を触ると千導院の肩が震えた。

八幡「大丈夫か?」

楓「と、殿方とのスキンシップには慣れていないので……」

八幡「無理しなくていいぞ?」

楓「は、恥ずかしさはありますが……それよりも嬉しさの方が……」

顔を赤らめながら言うあたり本当に恥ずかしいんだろうな。多分俺も同じくらい赤くなってるはず。

風蘭「はーい。時間でーす」

そして例のごとく剥がされていく。

楓「は、はい!先生、ありがとうございました。またお願いいたしますね」

八幡「あ、あぁ」


344 ◆JZBU1pVAAI2017/05/28(日) 00:37:57.03WbCWzppU0 (6/7)

番外編「私たち拗ねてるんです!⑥」


樹「えー、そしたら最後は」

蓮華「やーっと蓮華の番ね~。待ちくたびれちゃった~」

八幡「やめて芹沢さん、いきなり抱きつかないで……」

全部が当たってるけど主にやわらかい2つの凶器がヤバいです。

俺が少し抵抗すると意外にもあっさり腕を振りほどき頭を差し出してくる。

八幡「じゃ、じゃあ、失礼します」

年上の人の頭なでるの初めてだな。緊張する……

蓮華「やあ~んっ♪そんなの、くすぐったいじゃないですか~!」

八幡「いやそう言われても……」

蓮華「でも、れんげだって……嬉しいですよ……そうされるの……」

八幡「え」

冗談だよな?冗談だろ?わかってるよ。訓練されたぼっちの俺がそんな言葉に動揺するわけがない。全然余裕。むしろもっとバッチこい。

風蘭「はーい。お時間でーす」

すでに慣れた手つきで御剣先生が芹沢さんを引き離す。何この人。絶対本場で剥がしを経験してるでしょ。

蓮華「ちょっと短かったけど、よかったわ、先生♪」

八幡「はは……」

うらら「むぅ。なんだか3人の見てたらやっぱりうららもなでなでしてもらいたい!」

サドネ「サドネにもして!おにいちゃん!」

八幡「いやもう俺限界だから」

あんこ「だったらまた他のゲームをやるわよ」

望「今度は絶対アタシ勝つんだから!」

ミシェル「ミミだって負けないんだから!」

八幡「だから俺の話を聞けって……」

詩穂「ふふ、でも先生のあの手さばきを見せられたら私たちだってしてもらいたくなっちゃうわよね。花音ちゃん」

花音「ま、まぁあいつ自体にはこれっぽっちも興味なんかないけど、せっかくだから一回くらい体験しといてもいいかもね……」

樹「ふふ、みんなやる気ね」

風蘭「おーし、じゃあ次は星守っぽくイロウス討伐で競うか!ラボに移動だ!」

みんな「おー!」

この日、俺が18人全員の頭をなでるまでこの盛り上がりが収まることはなかった。そして夜に恥ずかしさのあまりリビングでのたうち回っているところを小町に見られ、詳しく事情を説明することになったというのは言うまでもない。

ま、でも悪かったってことはないですね。うん。ていうかむしろずっとドキドキしてました。


345 ◆JZBU1pVAAI2017/05/28(日) 00:40:46.86WbCWzppU0 (7/7)

以上で番外編「私たち拗ねてるんです!」終了です。何か月か前に頂いたアイデアをもとに書いてみました。あみだくじの3人は実際やってみて当たった子たちです。本当は全員のなでなで書きたかったんですが、難しかったのでこういう形になってしまいました。


346以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 01:30:16.24rhYU3Isio (1/1)

乙です


347以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/28(日) 16:28:14.99vyQ7tLJqO (1/1)


アニメも楽しみだけどゲームもこのままがんばってほしいね~


348 ◆JZBU1pVAAI2017/05/29(月) 17:24:06.40kC9v2x230 (1/1)

本編4-4


翌日の放課後。総武高校のダサい蛍光緑のジャージに身を包んだ俺は体操服の星月、成海、若葉とグラウンドにいた。

みき「先生!今日から頑張りましょうね!」

昴「まずはストレッチからです!」

遥香「運動不足の人がいきなり激しい運動をしてもケガをするだけですから」

八幡「 へいへい」

3人はいつものルーティーンになってるのか、特に声をかけあうこともなく開脚を始める。ただでさえ体操服で色々目のやり場に困るのに、目の前で開脚なんて見せられるとドキドキしてしまう。それにしても3人とも柔らかいな。胸までベターッと地面に付いている。

遥香「先生?ちゃんとやってますか?」

八幡「え、お、おう。当然だ」

みき「全然足開いてないじゃないですか!もしかして体固いんですか?」

八幡「まぁな……」

昴「な、なら、アタシが手伝ってあげます!」

そう言うと若葉は俺の後ろに回り背中を押してくる。

みき「先生。足が曲がっちゃってますよ。押さえてあげますね」

遥香「じゃあ私はみきとは反対の足を」

あっという間に女の子3人に体を押さえつけられてしまった。おかげで主に下半身があまりの痛さに悲鳴をあげている。相撲部屋の新入りへの稽古のような状態である。このままだと何か開けてはいけない扉が開いてしまう。

昴「じゃあこれで10秒頑張りましょう!いーち、にー、さーん」

みき「しー、ごー、ろーく」

遥香「しーち、はーち、きゅー」

みき、昴、遥香「じゅう!」

八幡「ぐはっ……」

なんとか10秒耐え抜き、3人は俺を解放する。

遥香「これから毎日お風呂上がりにストレッチしてくださいね」

みき「体が柔らかくなると色々いいことありますから」

昴「じゃあ次のストレッチいきましょう!」

八幡「ちょ、待っ」

俺の嘆きは聞き入れられず、その後しばらくの間徹底的に体を虐められてしまった。もう八幡お嫁にいけない!

遥香「ではそろそろ特訓に入りましょうか」

八幡「もう俺の中では今日の特訓終わってるんだけど」

昴「まだストレッチが終わっただけですよ……」

みき「ほら先生立ってください!」

星月に強引に起こされ、グラウンドのトラックに移動した。

八幡「で、ここで何するの」

遥香「ここではランニングをやります」

みき「じゃあ私と昴ちゃんがまず走って、その後に遥香ちゃんと先生って順番で!」

昴「今日も負けないからねみき!よーいスタート!」

掛け声に合わせて2人は50メートルほどの直線を駆け抜けていく。あれ?なんか2人とも全力じゃね?

八幡「なぁ成海。これってランニングじゃなくてダッシュっていうものじゃないの?」

遥香「……まぁそうとも言えますね。でも私たちはこれをランニングと習ったので」

八幡「お前、わかってて騙したろ」

遥香「ほら先生、昴があっちで手を振ってますよ。私たちも走りましょう。いきますよ?よーいスタート!」

成海は強引に話を打ち切って走り出した。だが、いくら運動不足だとはいえ、年下の女の子にダッシュで負けるのは情けない。ここは本気を出すしかない……!



349 ◆JZBU1pVAAI2017/06/01(木) 00:38:24.55xx58rS780 (1/1)

本編4-5


八幡「はぁっ、はぁっ、なんとか勝った……」

遥香「ふぅ。あと少しだったんですけど、次は負けませんよ」

昴「待ってよ遥香!次はアタシが走る!」

八幡「待て待て、今の俺の状態見たらムリだってわかるだろ?」

昴「これくらいでへばってたらダメですよ先生!」

みき「ゆっくりでもいいですから頑張りましょう!」

そうして3人に励まされつつ、なんとか10分ほど走り終えた。

みき「お疲れ様です、先生!ランニング終了です!」

遥香「頑張りましたね先生」

八幡「終わり?マジ?」

やっと終わった。正直自分の体の鈍り具合にかなりがっかりしてる。ここまで動けなくなってたのか。

昴「明日はもっと激しくいきますから覚悟してくださいね!」

八幡「いや、多分明日は筋肉痛で動けないと思うぞ」

遥香「そうならないために今からストレッチです」

八幡「え?」

みき「また私たちが手伝いますから先生はそこに座って足を広げてください!」

八幡「お、お手柔らかにお願いします……」

遥香「善処します」

ニコッと笑った成海は容赦なく俺の背中をぐいぐい押してくる。星月と若葉もそれに続けと言わんばかりに俺の足を力いっぱい押してくる。運動した後だから余計痛く感じる。

八幡「あぁぁ」

夕焼けで赤く染まった空に俺の叫び声が空しく響いた。

-----------------------------------------

特訓でのダメージが蓄積された重い体を引きずって、なんとか家までたどり着いた。リビングに入ると小町が参考書と格闘していた。

八幡「ただいま」

小町「あ、お兄ちゃんおかえり!ってどうしたの?なんかすごく疲れてない?」

八幡「あぁ。もうお兄ちゃん、燃え尽きちゃったよ」

小町「何があったの?あ、もしかして星守クラスの人と運動したの?」

流石我が妹。見事な洞察力である。

八幡「まぁ、そんなとこだな。俺は嫌だって言ったんだがしつこく誘われたから仕方なくな」

小町「そう言いながら一緒に頑張るお兄ちゃん嫌いじゃないよ?あ、今の小町的にポイント高い!」

八幡「はいはい高い高い」

小町「むぅ、適当だな。ところでお兄ちゃん、その星守の人たちとは仲良くなれた?」

八幡「あ?別になってねぇよ。そもそもお互いに体を鍛えることが目的だし」

小町「はぁ、これだからごみいちゃんは。いい?年ごろの女の子がそんな目的だけでわざわざ男の人、ましてや目の腐ってる捻デレお兄ちゃんなんかを誘ったりしないよ?」

八幡「小町ちゃん?さりげなくお兄ちゃんを卑下するのはやめてね?」

小町「とにかく!これはチャンスだよお兄ちゃん!これをきっかけに仲良くなること!いい?」

八幡「いきなりそんなこと言われても困るんだが」

小町「でも交流が終わったら気軽に会うことはできなくなっちゃうよ?今のうちに仲良くなっておかないともったいないよ!小町はお兄ちゃんを心配して言ってるんだからね?あ、今の小町的にポイント高い!」

八幡「はいはい。もう俺疲れたから自分の部屋行くわ」

思わずため息が出てしまったが、小町の最後の発言に少し引っ掛かりを覚えた。本来、俺とあいつらは会うはずのない関係だ。なのに交流とか訳のわからない理屈で今はこうして関わりを持っている。

でも、だからって仲良くすることが正しいとは言えない。いつかくる終わりを意識して関係を深めようとするのを果たして仲良くなると言えるのだろうか。そんな関係は得てして時間が経てば消滅していく空虚なものでしかない。これこそまさに俺が嫌ってきた青春そのものじゃないか。だがいつの間にか俺は今の状況を甘受してしてしまっている。当たり前だと思ってしまっている。……俺は、このまま彼女たちと接していいのだろうか。


350以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/01(木) 18:39:57.946JdLy0bBO (1/1)

このめんどくさい思考、八幡らしい


351以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/02(金) 17:26:30.37Ua2jyrg3o (1/1)

乙です


352 ◆JZBU1pVAAI2017/06/03(土) 00:10:43.30EzBsCKrq0 (1/3)

番外編「ミシェルの誕生日前編」


暑い。まだ6月になったばかりだというのに最近暑すぎない?汗でシャツもべとべとになるし、不快指数が限界突破しそうだ。こういう日こそ、家から出ずにクーラーや扇風機のある涼しい部屋でのんびり過ごすのが吉。つまり家から出ない専業主夫が最強。

八幡「いたっ」

ミシェル「むみっ」

そんなことを考えながら歩いていると廊下の角で綿木とぶつかってしまった。綿木はぶつかった勢いで転んでしまう。

八幡「悪い、大丈夫か?」

ミシェル「大丈夫~」

綿木はそう言いながら起き上がり、落としてしまった箱を持ち上げようとするが、なかなか持ち上げられない。中にかなり重いものが入っているようだ。

八幡「手伝う。どこ運べばいいんだ?」

俺がそう言って何箱か取り上げると、綿木は嬉しそうにはにかんだ。

ミシェル「ありがとう先生!じゃあラボまでお願い!」

ラボってことはまた御剣先生か。今度は何をするんだか。

八幡「了解」

こうして俺たち2人がラボまで荷物を運ぶと、予想通り中で御剣先生が何やら機械をいじくっていた。

風蘭「ミシェルありがとう。お、比企谷もいるのか。ちょうどいい。2人ともこっちに来てくれ。発明品の実験に付き合ってほしいんだ」

御剣先生はさっきまでいじっていた銃型の機械を誇らしげに掲げる。

風蘭「今回はミシェルにうってつけの発明だぞ。その名も『ぴょんぴょんドールくん』!」

ネーミングセンスがTo LOVEるのララと同じだった。不良品だって公言してるようなもんだぞ、それ。

風蘭「この『ぴょんぴょんドールくん』から放たれるビームを浴びた人はたちまち体がウサギのぬいぐるみに変化するっていう代物だ。どうだ?すごいだろ?」

ミシェル「すご~い!御剣先生!ミミをぬいぐるみさんにして!」

八幡「落ち着け綿木。いくらお前がぬいぐるみになりたいからって、この機械だけはやめといたほうがいい」

風蘭「流石ミシェル。そうこなっくちゃな。じゃあいくぞ!スイッチオン!」

止める間もなく御剣先生は引き金を引く。『ぴょんぴょんドールくん』の銃口から放たれたビームはみるみるうちに綿木を包み込む。

ミシェル「む、むみぃぃぃ」

そして一瞬、ぱっと輝いた後、綿木がいた場所には20センチくらいのウサギのぬいぐるみが落ちていた。

風蘭「成功だな。じゃあ比企谷。ミシェルの面倒よろしくな」

八幡「え?」

風蘭「アタシはこう見えても忙しいんだ。1時間くらいでその効果は切れるからそれまでぬいぐるみ持って適当にうろついてくれ。せっかく夢がかなってぬいぐるみになれたんだ。楽しませてあげてくれ。あ、それとそのぬいぐるみ刺激には弱いから気を付けてくれよ」


八幡「……はい」

そうして俺はラボを追い出された。でもどうすればいいの?まずぬいぐるみ持ってる時点でめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。

八幡「なぁ、どこ行けばいいの?」

ぬいぐるみに聞いてみるものの、当然反応はない。当たり前だわな。

八幡「とりあえず教室でも行くか」

幸い、教室には俺たち以外誰もいなかった。このまま手に持ってるのもあれだなぁ。ひとまず綿木の机に置くか。

八幡「おう、どうだ?ぬいぐるみになって眺める教室は?」

多分、むみぃ!面白い!とか思ってるんだろうな。

八幡「ぬいぐるみの生徒ができるなんて、変なことも起こるもんだな」

樹「何やってるの比企谷くん……」

声がした方を見てみると、いつのまにか扉が開いてて、八雲先生がドン引きした顔でこっちを見ていた。

八幡「あ、」

樹「ご、ごめんなさいね、邪魔しちゃったかしら」

そう言い残すと八雲先生は教室から走り去ってしまった。



353 ◆JZBU1pVAAI2017/06/03(土) 00:11:33.49EzBsCKrq0 (2/3)

番外編「ミシェルの誕生日後編」


まずい。このままだと「放課後の教室でぬいぐるみに話しかけるキモい男子高校生」というレッテルを貼られてしまう。そうなったら俺の人生は終了だ。安西先生でも諦めるに違いない。

俺はぬいぐるみを放置し、八雲先生を追いかけた。

八幡「八雲先生!」

樹「ひ、比企谷くん?あ、安心して?さっきの見た光景は誰にも言わないから。たとえ比企谷くんが放課後に誰もいない教室でウサギのぬいぐるみに話しかけるちょっとおかしな人だとしても私は引かないから」

八幡「めっちゃ引いてるじゃないですか。てか、あれには深い事情があって……」

事の顛末を話し終えると、八雲先生は呆れたように頭を抱えてしまった。

樹「なるほど、そういうことだったの。ごめんね勘違いしちゃって。それにしても風蘭には困ったものね。後で注意しておかなくちゃ」

八幡「いえ、では失礼します」

ふぅ、なんとか俺の面目は保たれた。危うく社会的に死ぬところだった。さ、ぬいぐるみを回収しに行くか。

余裕綽々で教室に戻ってみたら、さっきまであったはずのぬいぐるみがなくなっていた。あれ、なんで?

楓「先生?どうなさったのですか?」

教室中を捜索していると部活終わりだろう千導院に声をかけられた。

八幡「な、なぁ。あそこに置いてあったウサギのぬいぐるみ知らないか?」

楓「あぁ、それでしたらミミの忘れ物だと思いまして、さっき手芸部に渡してきましたわ」

なん、だと。もうそろそろ効果が切れるころだ。早く回収しに行かないと大変なことになりかねない。

八幡「わかった。サンキュ」

俺はすぐ手芸部の部室に走り出した。途中千導院が何か言ってた気がするが構ってる時間はない。

八幡「はぁはぁ。ここか。すみません、失礼します」

部室に入ると何人かの部員らしき子たちが机に置いてあるウサギのぬいぐるみを興味深そうに眺めている。すぐに1人の子が俺に気づいて不審者を見るような目つきで睨んでくる。

部員A「あなた誰ですか?」

八幡「あー、俺は星守クラスに交流で来てる比企谷だ。ちょっとそのぬいぐるみ渡してもらっていいか?」

部員B「えー、これミミちゃんのだって星守クラスの子に言われましたよ」

八幡「あぁ、だから俺が返しとくから渡してくれない?」

部員C「待ってください!このぬいぐるみ本当によくできてるから構造だけでも確認させてください」

そう言うと部員たちはぬいぐるみを押したり引っ張ったりし始めた。

部員C「これどうやってできてるんだろ~」

部員B「あれ?なんかぬいぐるみ光ってない?」

そういえば刺激に弱いって言われてたっけ。あれ、そしたらこの状況非常にまずくない?

八幡「やばい!」

俺はぬいぐるみを強引にひったくり、ラボに向かって全力疾走を始めた。

走っているとぬいぐるみからの光がどんどん増してくる。なんとかラボまで間に合ってくれ……

八幡「着いた!」

そうして俺がラボのドアに手をかけた瞬間、ぬいぐるみが手の中から滑り落ちてしまった。倒れこみながら必死に手を伸ばしてキャッチするが、その握力が刺激になったのかぬいぐるみがぱっと輝いた。余りの眩しさに目がくらむ。

少したってから目を開けると、ぬいぐるみは消えていた。代わりにうつ伏せに倒れた俺の体の下に綿木がすっぽり収まっていた。俗にいう「床ドン」の体勢である。

ミシェル「先生ありがと!ミミ、ぬいぐるみになって先生と一緒にいれて楽しかったよ!手芸部で体いじられたときとか、先生に掴まれたときはびくってなったけど……」

八幡「それは、悪かった。俺が目を離さなきゃそんなことには、」

ミシェル「だからね!だから、また今度、ちゃんとぬいぐるみのミミをエスコートしてね?」

そうやって小動物みたいに涙目で言うのは反則じゃないですか?それに俺の体の下から出ようともしないし。そんな風に言われたら無下にできるわけないじゃないですか。

つか、これ以上こんな体勢でいたらやばい。俺は立ち上り、まだ地面に寝ている綿木に向かって手を伸ばしながら答えた。

八幡「……ま、気が向いたらな」


354 ◆JZBU1pVAAI2017/06/03(土) 00:19:13.22EzBsCKrq0 (3/3)

以上で番外編「ミシェルの誕生日」終了です。ミミお誕生日おめでとう!できれば八幡にも「むみぃ」を言わせたかったんですが無理でした。


355以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/03(土) 18:57:11.47lbkVnDkDo (1/1)

乙です


356以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/05(月) 01:59:19.16tVkrcOWV0 (1/1)

八幡「むみぃ…」

……ありだな!


357 ◆JZBU1pVAAI2017/06/06(火) 17:04:22.49CL1oron80 (1/1)

本編4-6


特訓が始まってから数日経った。未だ俺の中で彼女たちへの接し方の答えは見つかっていない。

だが相変わらず交流は続き、放課後特訓もだんだんその強度を増してきて、ランニングの他に素振りとダンスをこなした。

そして今日。本来休日であるはずなのに当然のごとく3人に呼び出された。断ることもできず、着替えを済ませグラウンドに向かうと、既に3人が固まって喋っていた。成海がいち早く俺に気づき手を振ってくる。

遥香「先生!こっちですよ」

八幡「お前ら早くね?」

昴「アタシたち、先生と特訓するのが待ちきれないんですよ!」

落ち着け俺。こんなのいつも言われてるだろ。いつも通り、いつも通りの反応だ。

八幡「……そうか」

みき「……」

なぜか星月が黙って俺のことをじっと見つめている。

八幡「なんだよ」

みき「え?いえ、何でもないです!」

昴「じゃ、じゃあ早速始めますか!」

遥香「そうね、7時間もやるわけだし」

八幡「は?何時間だって?」

聞き間違いであることを願って若葉に問いかけるが、無慈悲な笑顔で一蹴される。

昴「7時間です!」

八幡「そんなに長い時間跳ばなきゃならないのか?」

遥香「そうしないと特訓になりませんから」

特訓と言うより最早拷問だった。ここだけ昭和なの?今どきスポ根は流行らないと思うよ?

なども心の中で文句を垂れてもどうしようもないので、俺は落ちている縄跳びを拾う。その光景を見て3人は驚いた表情を見せる。

八幡「なに」

遥香「いえ、先生が自分から縄跳びを拾ったのが意外だったので」

八幡「そうか?」

昴「いつもよくわからない理屈をこねてサボろうとするじゃないですか」

八幡「人をサボリ魔みたいに言うのやめろ。案外俺は真面目なんだぞ?宿題は自分でやるし、仕事なら嫌なことでもこなすし、小6レベルなら家事全般できる。もはや俺の人間力はエベレスト並に高い領域にあるわけだ。だから逆説的に、俺に人が寄り付かないまである。孤高な存在ゆえにな」

俺の力説に3人は素で困惑した表情をしている。

遥香「いつも以上に何を言っているかわからないです、先生……」

昴「アタシも……で、でも先生にやる気が出てきてよかったね、みき」

みき「うん。そうだね……」

そう答える星月の声は幾分か小さい。朝に変なものでも食ったか?

遥香「みき?どうしたの?」

みき「なんでもないよ。さ、今日も特訓頑張ろう!おー!」

遥香、昴「お、おー」

星月の気合につられ、2人もぎこちなく腕を上に伸ばした。

みき「ほら先生も。おー!」

八幡「……おー」

……なにこのグダグダな雰囲気。ま、いつも通りと言われればいつも通りか。じゃあ何も問題ないな。何も問題ない。


358 ◆JZBU1pVAAI2017/06/09(金) 18:41:01.61C9cDcFgo0 (1/1)

本編4-7


八幡「はぁ、はぁ」

一体、何時間こうして俺はなわとびを跳んでんのかなぁ。かよちんでもこんなに跳ばないっての。

昴「ほら見て遥香!三重跳び!」

遥香「さすが昴ね。私もはやぶさ跳んじゃおうかしら」

右にはいつもより若干テンションが高めな若葉と成海。多分ちょっと調子が良いんだろう。

みき「ふぅ、ふぅ」

左にはいつもより若干テンションが低めな星月。多分ちょっと調子が悪いんだろう。

みき「いたっ」

俺に見られてるのを気にしたのか星月は縄につまづいてしまう。他の2人もそれに気付いて縄を回す手を止める。

昴「休憩にする?みき?」

遥香「そろそろお昼ご飯の時間だしね。お腹減ったわ」

昴「遥香はいつもでしょ?」

遥香「そんなこと、ないわよ」

昴「目そらしながら言ったってバレバレだよ〜」

みき「あはは……うん。お昼にしようか。実は私、今朝みんなの分のお弁当作ってきたんだ」

刹那、若葉の顔から血の気が引いた。元凶は今でもなく、星月からの遠慮がちな、でもはっきり聞こえた「お弁当」の単語。

昴「で、でもアタシ自分の分のお弁当持ってきてるんだよなぁ……」

八幡「お、俺も妹が作ってくれた愛兄弁当が」

遥香「私みきの料理大好きだから是非食べたいわ」

成海ぃぃぃ、余計なことを言うなぁぁぁ。巻き込まれる俺らのことも考えてください、お願いします。

みき「じゃ、じゃあはい」

星月が取り出した弁当箱の中に入ってたのは、

八幡「サンドイッチ?」

そう。まぎれもなくサンドイッチだった。星月の料理がこうやって形になってるのを見るのはほぼ初めてだ。まさに奇跡。いつもなら得体の知れない物体Xとかになるはずなのに。俺と同じことを思ってるのか、横で若葉もびっくりしている。

みき「は、はい。全然うまくできなかったんですけど、良かったらどうぞ」

昴「じゃ、じゃあ1つもらおうかな」

八幡「俺も」

タマゴサンドであろうものを一口食べてみる。

八幡「すげぇ。普通のタマゴサンドだ」

昴「アタシのも普通のハムチーズサンドだよ」

見た目が壊れてないだけでも奇跡なのに味も壊れてなかった。ものすごく美味しいわけではないが、ザ・手作りって感じ。

遥香「いつものみき独特の味付けとは違う気がするけど、美味しいわよ」

みき「私の味付けになってない……」

昴「いや、でもこれはこれでいいと思うよ?ね、先生?」

八幡「あ、あぁ、そうだな。いつものよりも王道な手作り料理って感じがするな」

すかさず俺と若葉はフォローを入れた。ここで星月に勘違いされても困る。むしろこのままの方向性で料理のスキルアップを図ってもらいたいところだ。何があったかは知らんが、今までとは比べ物にならないほど改善されてるんだから、これに乗らない手はない。

みき「そうですか……」

そう言って星月はまだサンドイッチが残ってる弁当箱を閉じる。

八幡「どうした?」

だが星月は俺の声に反応せず、俯きながら弁当箱を持つ手を震わしている。


359以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/09(金) 23:45:43.64b640l3XDO (1/1)

ポイズンクッキング三時間殺しかな?


360 ◆JZBU1pVAAI2017/06/11(日) 22:47:59.34oP2TgmX+0 (1/1)

本編4-8


みき「……です」

八幡「え?」

みき「みんな私に優しすぎるんです!」

八幡「何言ってんだお前?」

みき「だってそうじゃないですか。サンドイッチだって明らかに失敗作なのに美味しい美味しいって食べてくれて」

昴「いや、あれは実際いつもの数百倍は美味しかったんだけど……」

みき「でも遥香ちゃんは私の味付けになってないって言ってた」

遥香「確かにそうは言ったけど、今日のもとても美味しかったわよ?」

みき「またそうやって優しくする!私はみんなにもっと正直に言ってほしいの!」

八幡「落ち着け星月。どうしたんだ突然」

みき「そもそも先生が悪いんです!」

八幡「俺が何かしたか?」

みき「先生、ここ最近ずっと上の空でしたよね?私たちと特訓を始めたときから、毎日。私ずっとそれが気になってたんです」

八幡「……」

みき「ほら否定しないじゃないですか」

昴「みき。ちょっと冷静に」

みき「昴ちゃんも気づいてたよね?先生の私たちへの接し方がいつもと違うって」

昴「そ、それは……」

遥香「実は、私も気づいてた。でも、なんで先生がそうなっちゃったのかわからなかった。私たちに原因があるんじゃないかって色々考えたりしたけど」

八幡「そんなことはない。お前たちは、悪くない」

みき「じゃあどうしてですか?どうしていつもの先生じゃなくなっちゃったんですか?」

星月は目に涙を浮かべながら追及してくる。若葉も成海も目を赤くして俺の言葉を待っている。

だが、俺はその疑問に答えることはできない。悪いのは俺だ。彼女たちには一切非はない。ならば彼女たちに背負わなくていい重荷をわざわざ与える必要なんてない。俺自身の問題は、俺自身で解決するべきだ。

八幡「……なんもねぇよ。別にいつもと変わらねぇ」

みき「嘘です」

昴「先生、話してください」

遥香「私たち、なんでも協力しますから」

八幡「なんもねぇって言ってんだろ」

つい口調が荒くなってしまった。だが口は止まってくれない。

八幡「お前らいつから俺の親友になったんだ?曲がりなりにも俺は先生としてここに来てるんだぞ?それを考慮に入れてもそもそも俺が今、この場にいる必然性はないし、俺の話をお前らにする義務もない、だから」

違う、こんなことを言いたかったんじゃない。いつもならもっとうまく言いくるめることができた。いや、それ以前に考えもしないことで悩んで、八つ当たりしてしまっている。

八幡「俺に、かまうな」

俺の言葉に誰も反応しない。誰も言葉を発しないまま、重苦しい雰囲気が俺たちを包み込む。

みき「……わかりました。それが、先生の本心なんですね」

それからどのくらい時間が経ったのだろうか。星月は小さくそうつぶやくと弁当箱も持たず、グラウンドを後にする。

昴「みき!待ってよ!」

若葉は俺を見向きもせず、星月の後を走って追いかけ、

遥香「……最低です」

成海は強烈な一言を言い放って2人を追いかけていった。

グラウンドに残ってるのは放置されたなわとびと弁当箱、そして俺。はっ、そうだよ。こういう状況こそぼっちマイスターな俺にふさわしい。だけど最近は交流とか言って女子校に来られて、だいぶ調子に乗ってたらしい。まぁ、いい薬になったわ。これからはまたもとのぼっち生活が始まるわけだ。彼女たちとも接しなくてすむし、余計な悩みも生まれないし、これにて一件落着。

だけど俺はしばらくグラウンドから一歩も動くことができず、その場で立ちつくしていた。


361 ◆JZBU1pVAAI2017/06/13(火) 20:58:25.04I76UsQrX0 (1/1)

本編4-9


星月たちと喧嘩別れした次の日の月曜日、俺は校門で朝の挨拶兼、登校時の服装チェックなることをやらされていた。

なんで俺が月曜の朝からこんなことをしなくちゃならんのだ。そもそもこの学校に校則とかあったっけ?けっこうみんな自由な服装してる気がするんだが。

八幡「はぁ、だるい。帰りたい……」

「先生が朝からそんなこと言ってていいのかなぁ?」

声がした方を見るや否やバッグが腹に直撃した。

望「おっはよ!先生!」

ゆり「こら望!先生に何やってるんだ!」

くるみ「先生、大丈夫?」

お腹をさすりながら顔を上げると天野、火向井、常磐の3人が周りを囲んでいた。

八幡「……あぁ」

ゆり「先生どうされたんですか?顔色よくないですよ?」

八幡「別にいつも通りだろ」

くるみ「でも目つきがいつもより暗い感じがする」

望「ほんとだ。クマもひどいよ?保健室行く?」

八幡「なんもねえって」

みき「望先輩、ゆり先輩、くるみ先輩、おはようございます!」

俺が3人を振りほどこうとした時、星月がこっちに向かって歩いてきた。だがその目線は俺のことを捉えようとはしていない。

望「おはよー!てか見てよみき。先生のクマひどくない?」

八幡「だからこれくらい大丈夫だって」

ゆり「でも心配だから保健室に連れて行こうと思うんだが、手伝ってくれるか?」

星月は一瞬苦し気な表情をしたが、すぐに笑顔になって話し出した。

みき「……先生が大丈夫だって言うなら大丈夫なんじゃないですか?」

くるみ「みきさん?」

みき「別に先生も子どもじゃないですし、私たちがそこまで先生に踏み込んでいく必要もないと思いますよ?」

望、ゆり、くるみ「……」

星月に諭された3人は茫然としている。多分、星月は自分達の味方をしてくれると思ってたんだろう。その予想が見事に裏切られたわけだ。

みき「あ、そろそろ教室に行かないとチャイム鳴っちゃいますよ?」

ゆり「え、あ、あぁ。そうだな。遅刻をしていてはダメだな。なぁ望?」

望「う、うん、そうだよね。早く教室行かなきゃ。ね、くるみ?」

くるみ「え、えぇ」

みき「じゃあ4人で昇降口まで競走しましょう!よーいドン!」

そう言うと星月は俺に背を向けて走り出した。天野たちも少し遅れて星月を追っていった。

八幡「……なんだあいつ」

遥香「みき、大丈夫かしら」

背後の声に気づいて振り返ってみると、俺と目が合って不機嫌そうになる成海と、それを見て心配そうな若葉が立っていた。

遥香「ま、先生には関係のないことですよね」

そう冷たく言うと成海はさっさと昇降口へ向かってしまう。

昴「せ、先生、あの、その、」

八幡「チャイム、もうすぐ鳴るからお前も教室行け」

昴「……はい」

俺が強引に若葉の言葉を遮ると、若葉はそれ以上何も言わず昇降口に寂しげに歩いていった。


362以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/15(木) 11:51:13.53fv3Zqu3xo (1/1)

乙です


363 ◆JZBU1pVAAI2017/06/16(金) 22:38:06.47PvR04w9Y0 (1/1)

本編4-10


八幡「ただいま……」

小町「あれ?お兄ちゃん?帰ってくるの早すぎない?もしかして先生クビになった?」

八幡「そんなわけないだろ。今日は特訓なかったんだよ」

放課後にチラッとグラウンドを覗いてみたが、いつもはチャイムが鳴ると同時に飛び出していた3人の姿はなかった。ま、昨日、今朝の態度から考えても当たり前か。

小町「ふーん、そっか。じゃあせっかく早く帰ってきたんだから部屋の掃除しちゃってよね。お兄ちゃんの部屋、物が散乱してて掃除機かけられないから」

八幡「ん、了解」

俺の返事を聞いて小町が俺の顔を不思議そうに見つめてくる。

小町「……どうしたの、お兄ちゃん?」

八幡「なにが」

小町「いや、なんか口数少なくない?いつもなら今日あったことを小町が聞かなくてもベラベラ喋るじゃん。まぁ、9割方愚痴だけど」

八幡「……そうか?別になんもねぇよ。部屋片付けてくるわ」

これ以上小町と話していたら色々問いただされることになるだろう。俺はさっさと部屋に逃げ込むことにした。

八幡「うん、確かに汚いな」

ここ最近、部屋に入ったら即就寝、起きたら即着替えて出勤、の生活だったからか部屋の中はかなりごちゃごちゃしている。足の踏み場もない、ってわけではないが、毎日使うベッド以外はけっこうひどい状態だ。

八幡「はぁ」

仕方ないし片付けるか。むしろ何かしてたほうが気が紛れていいかもしれない。まずは散らばってる服を集めて、と。パンツと下着は下の棚で、ジャージは上の棚。

……そういえば、特訓始めてからジャージとか着るようになったな。神樹ヶ峰に行くようになってからずっとスーツで、体育もやらなかったからなぁ。特訓やってるときはけっこうキツかったけど、運動して汗かくのは案外悪くなかった……

っていきなり考えちゃいけないこと考えちゃってるじゃん。バカなのか俺は……。気を取り直して次は特に汚い机の上の整理をするか。いらないプリントは捨てて、文房具は引き出しにしまって。ん、なんだこの写真の束。……そうか、俺はハーミットパープルのスタンド能力に目覚めたのか。ならいったい何が念写されているんだろうか。戸塚の背中のあざとか写ってねぇかな。

八幡「あっ……」

間違いない。俺が神樹ヶ峰に来た日の写真だ。確か初めは八雲先生が撮影係をしてくれてたはずだが、途中からそんなことおかまいなしにみんな撮りまくってたっけ。そのせいで後日、何百枚っていう写真を渡されたときはびっくりしたわ。

八幡「……」

今の心持ちで見たらいけないことはわかってる。でも写真をめくる手が止まらない。俺がチャーハン食ってる姿を隠し撮りされた写真。中学生組に纏わりつかれて撮った写真。年上お姉さん方に絡まれて撮った写真。せっかくだからと同い年で撮った写真。なぜかものすごくはしゃいでた先生たちと撮った写真。

どの写真でもみんな心から楽しそうに笑っている。チャーハンパーティーの時はもれなくずっと誰かに絡まれていた気がする。この前に大型イロウス相手に星月と死にそうになりながら戦ってたってのに。

……思えば最初に会った時からみんな俺に積極的に絡んできてくれたな。星月なんかは、特に。

そう思いながら写真をめくっていると星月、成海、若葉と4人で撮った写真が一番上に来た。3人は笑いながら中央の俺を見ていて、そんな俺はきまり悪そうにカメラを見ている。でも、こうして見ると、今までの俺史上で最もまともに写っていると言ってもいい写真だ。よくある修学旅行の後に貼り出される写真とか、まず俺が写ってるのが存在しているのかどうか怪しいレベル。なんとか1枚見つけても俺の目が腐りすぎてて、親に「あんたもう少しまともに写ってるのないの?」と言われる始末。

俺、なんでこんなにちゃんと写ってるんだろう。いや、変に写りたいとかではないが、いつもの俺ならもっと目を腐らせていてもおかしくないはず。

小町「お兄ちゃーん!お風呂湧いたよー!部屋片付けたら入っちゃってー!」

おそらくリビングからだろう、小町の声が響いた。

八幡「へーい」

ま、そこそこ綺麗になったし、ちゃちゃっと入ってきますか。

俺は写真の束を引き出しの奥にしまってから風呂場に移動し、服を脱いで洗濯機に放り込む。浴室に入り、椅子に座ってふと顔を上げると鏡に自分の顔が映っていた。

八幡「え……」

その顔は、これまで見た中でも指折りのひどい顔だった。特に目の腐り方が半端ない。今時ハリウッドでもここまでしないだろうってレベル。そして脳裏にはさっき見た写真の中の自分の顔がちらつく。

八幡「……っ」

俺は脳内イメージをかき消すように力ずくで頭を洗った。泡を落として顔を上げると、もう鏡は湯気で曇ってて俺の顔はそこには映っていない。

八幡「ふぅ……」

結局俺は一度も鏡の曇りをとることなく、いつもより幾分か早く浴室をでた。


364以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/17(土) 07:33:39.55Py0Igk4b0 (1/1)

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365 ◆JZBU1pVAAI2017/06/18(日) 22:22:46.82RbosLVBr0 (1/1)

本編4-11


それからの数日は、朝のHRを必要最低限で終わらせ、授業を適当に受け、放課後は少し雑務をして終わり次第すぐに帰るという無味乾燥の日々を過ごしていた。神樹ヶ峰に来た当初から待ち望んでいた平穏な生活を俺は手に入れたはずなのに、心は晴れるどころか暗鬱さに拍車がかかっている。そのせいで、放課後に廊下を歩く足取りも重い。

風蘭「おう、比企谷」

前方からいつもの白衣を着た御剣先生に遭遇した。

八幡「なんですか御剣先生」

風蘭「今手空いてるか?空いてるよな?ちょっと資料整理手伝ってくれ」

八幡「いや、俺は……」

風蘭「いいから手伝え」

いつもの感じとは違う、鋭い目つきとはっきりとした口調だ。そんな風に言われたら怖いんですけど。怖くて断れないんですけど。

八幡「はい……」

風蘭「よーし、じゃあラボに行くぞ~」

御剣先生は俺の返事を受けると打って変わっていつもの顔つきになって、さっさとラボに歩いていった。

---------------------------------

ラボに着くと、パソコンの周りに無数の紙が山となって積まれていた。

風蘭「この資料をパソコンに打ち込んで欲しいんだ。アタシはこっちの山から片付けるから比企谷はそっちの山を頼む」

八幡「……俺の持分のほうが明らかに多くないですか?」

風蘭「何言ってるんだ。アタシはこれ以外にもやらなきゃいけない仕事が残ってるんだよ。手伝うだけありがたいと思え」

いつの間にか俺が御剣先生に手伝ってもらってることになってましたー。

八幡「はい……」

この人相手にはどんな文句、言い訳、その他論理も意味をなさない。黙って機械のように指示されたことをこなすことだけが残された道。だから俺は抵抗を止め、紙の山に手を付けた。

八幡「つかこれなんの資料ですか?」

風蘭「あぁ、そっちの山のは星守たちの訓練データだ。紙に書いてある数値をデスクトップの左上の方の「星守特訓」のExcelに打ち込んでくれ」

八幡「はぁ、でもなんでこんなに溜まってるんですか」

風蘭「いや、最近アンタがみきたちと特訓をやってただろ?だから今まで押しつけてた仕事もアタシがやらなくちゃいけなくて、後回しにしてたんだ。それが昨日樹にバレて、めちゃくちゃ怒られた……」

八幡「なるほど……」

まぁ、俺が手伝わなくなった故に溜まった仕事なら、俺がその後処理をやらされるのは筋が通ってるようにも見える。でも御剣先生は俺がこの学校に来る前はどうやって仕事をこなしていたのだろうか。多分、なんだかんだ八雲先生が手伝ったのだろう。この2人、すごい仲良いしな。

風蘭「ほら比企谷、手が止まってるぞ。早く打ち込め」

八幡「は、はい」

おっと、注意されてしまった。ぼちぼちやらないと解放してもらえなさそうだな。えーと、これは、星月たち高1の特訓データか。2週間前から打ち込まれていないから、そこまでデータを遡ってっと。ほう。やっぱり徐々にではあるがシミュレーションでのイロウス撃破数が伸びてるんだな。他の学年に比べても最近の伸び率には目を見張るものがある。

八幡「ん?」

おかしい。今週に入ってから3人の記録が伸びていない。それどころか急激に下がっている。見間違えかと思い、書類の数値と照らし合わせても、やっぱり数値に誤差はない。他の生徒の成績も、今週に入って伸び悩んでいる人がほとんどで、何人かはほんの少し記録を下げているのもあった。

八幡「これって……」

風蘭「気づいたか?」

いつの間にか御剣先生が俺の左真横に座って、俺が作業しているパソコンの画面を見ながらつぶやいていた。

風蘭「今週に入ってから星守たちの動きに迷いが生じている。数人なんかじゃなく、全員の動きにだ。このまま放っておいていい状況じゃあない。特に、みき、遥香、昴の3人は深刻だ。そう思うだろ?」

八幡「……まぁ、そうですけど」

風蘭「……ホントはアタシがこうやってとやかく言うような役は似合わないんだ。でも今回は事情が違う。それはアンタが1番よくわかってるはずだ」

八幡「だからって俺にどうしろと……」

風蘭「そんなことアタシにはわからないよ。それに、こういうことを話すのはアタシとじゃなくてあいつらと、だろ?」

そう言って御剣先生が顔を向けた先には、星月、成海、若葉が立っていた。

風蘭「ほら!男らしく、けじめをつけてこい」

俺は御剣先生に思いっきり背中を叩かれて、椅子を立ち上がった。


366以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/19(月) 09:51:46.56b4UVd9Kio (1/1)

乙です


367 ◆JZBU1pVAAI2017/06/21(水) 23:45:08.801sHP3UWw0 (1/3)

本編4-12


八幡「……」

みき「……」

遥香「……」

昴「……」

誰も一言も話さない。俺が立ち上がった意味は何。沈黙は嫌いじゃないけど、こういうのは別です。俺にはどうしようもできません。誰かこの雰囲気誰かどうにかしてください。

風蘭「あー、そういやアタシ樹に呼び出されてたんだっけなぁー。早く職員室行かないとなぁー。そういうことだからアンタたちでここ自由に使ってていいから。比企谷、飲み物とお菓子でも出してやれ。じゃな」

そうして御剣先生は逃げるようにそそくさとラボを出ていく。……後は俺たちでどうにかしろってことですか。気遣いの仕方がわかりやすいですよ、御剣先生。

八幡「……とりあえず座れよ。今飲み物持ってくる」

昴「わ、わかりました」

遥香「……はい」

みき「……」

まさかこの場面でいつも御剣先生にお茶を出してる経験が生きてくるとは思わなかった。これからはもう少し御剣先生に優しくしよう。

だけど今はそんなこと考えてる場合ではない。この状況をどう打開する方法を見つけないと。このままだと1対3で確実に俺が負ける。いや、別に戦ってるわけではないけど。つか、あいつらこそ何をしにここに来たんだ?もう数日ろくに話してないし、とうとう決定的に絶縁を言い渡されるのか?あぁ。戻りたくねぇな。でも行かないとダメだよなぁ。待たせたらまたそれで何か言われそうだし。

八幡「お待たせ。冷蔵庫にあったのを適当に持ってきたから好きなの選んでくれ」

俺は目の前のブラックコーヒーに手を伸ばしながら声をかける。

遥香「ありがとうございます。私もコーヒーいただきます」

昴「アタシお茶。みきどれにする?」

みき「……じゃあリンゴジュース」

俺たち4人はとりあえず飲み物を啜りながら、誰が口火を切るかお互い目だけで確認する。すると意外にも成海がカップの中のコーヒーを一気に飲み干すと、俺の顔を真正面から見つめてきた。

遥香「先生。この前はすみませんでした」

成海は机に額がつくほど深く頭を下げた。

八幡「顔上げてくれ成海。なんでお前が俺に謝るんだ」

遥香「この前の特訓のとき、私が『最低』なんて言ってたことを謝ってるんです。先生のこと、傷つけてしまいました」

八幡「別に俺は傷ついてはない、わけじゃないが、正直ちょっと傷ついたが、それでも俺はお前に謝まる必要はない。俺の方こそ、お前らの気持ちも考えずひどいこと言った。すまなかった」

俺は成海と同じように、頭を下げた。

遥香「顔を上げてください。先生」

久しぶりに聞く、成海の温かな声を聞いて俺はゆっくり顔を上げる。

遥香「私は、今の先生の言葉を聞けてひとまず満足です」

成海はいつもの柔らかい笑顔を浮かべていた。この表情も久しぶりに見る気がする。

八幡「……そうか」

昴「つ、次はアタシです。先生、最近アタシたちの成績が悪くてすみません」

若葉も頭を下げる。

八幡「それについても、若葉が謝ることじゃないだろ。あの日の特訓以来の俺の態度が原因だ。俺こそ、余計なことで気を煩わせてすまなかった」

今度は若葉に向かって頭を下げる。

昴「や、やめてください先生!そういうことも含めて、もっとアタシたちが強くならなきゃいけないんです。でも、先生にそう言ってもらえて気が楽になりました。これからはもっと頑張ります!」

若葉はいつもの、いやいつも以上に元気な笑顔でそう宣言した。しかし、その後、また場に沈黙が流れる。未だ、星月は顔を俯かせたままでどんな表情をしているか向かいに座る俺からは判断できない。だが星月を真ん中に、両脇に座る成海と若葉は星月の肩にそっと手を置いて星月に囁くように声をかける。

遥香「さ、あとはみきだけよ」

昴「大丈夫。アタシたちもここにいる。ちゃんと自分の気持ちを伝えよ?」


368 ◆JZBU1pVAAI2017/06/21(水) 23:46:39.801sHP3UWw0 (2/3)

本編4-12


八幡「……」

みき「……」

遥香「……」

昴「……」

誰も一言も話さない。俺が立ち上がった意味は何。沈黙は嫌いじゃないけど、こういうのは別です。俺にはどうしようもできません。誰かこの雰囲気誰かどうにかしてください。

風蘭「あー、そういやアタシ樹に呼び出されてたんだっけなぁー。早く職員室行かないとなぁー。そういうことだからアンタたちでここ自由に使ってていいから。比企谷、飲み物とお菓子でも出してやれ。じゃな」

そうして御剣先生は逃げるようにそそくさとラボを出ていく。……後は俺たちでどうにかしろってことですか。気遣いの仕方がわかりやすいですよ、御剣先生。

八幡「……とりあえず座れよ。今飲み物持ってくる」

昴「わ、わかりました」

遥香「……はい」

みき「……」

まさかこの場面でいつも御剣先生にお茶を出してる経験が生きてくるとは思わなかった。これからはもう少し御剣先生に優しくしよう。

だけど今はそんなこと考えてる場合ではない。この状況をどう打開する方法を見つけないと。このままだと1対3で確実に俺が負ける。いや、別に戦ってるわけではないけど。つか、あいつらこそ何をしにここに来たんだ?もう数日ろくに話してないし、とうとう決定的に絶縁を言い渡されるのか?あぁ。戻りたくねぇな。でも行かないとダメだよなぁ。待たせたらまたそれで何か言われそうだし。

八幡「お待たせ。冷蔵庫にあったのを適当に持ってきたから好きなの選んでくれ」

俺は目の前のブラックコーヒーに手を伸ばしながら声をかける。

遥香「ありがとうございます。私もコーヒーいただきます」

昴「アタシお茶。みきどれにする?」

みき「……じゃあリンゴジュース」

俺たち4人はとりあえず飲み物を啜りながら、誰が口火を切るかお互い目だけで確認する。すると意外にも成海がカップの中のコーヒーを一気に飲み干すと、俺の顔を真正面から見つめてきた。

遥香「先生。この前はすみませんでした」

成海は机に額がつくほど深く頭を下げた。

八幡「顔上げてくれ成海。なんでお前が俺に謝るんだ」

遥香「この前の特訓のとき、私が『最低』なんて言ってたことを謝ってるんです。先生のこと、傷つけてしまいました」

八幡「別に俺は傷ついてはない、わけじゃないが、正直ちょっと傷ついたが、それでも俺はお前に謝まる必要はない。俺の方こそ、お前らの気持ちも考えずひどいこと言った。すまなかった」

俺は成海と同じように、頭を下げた。

遥香「顔を上げてください。先生」

久しぶりに聞く、成海の温かな声を聞いて俺はゆっくり顔を上げる。

遥香「私は、今の先生の言葉を聞けてひとまず満足です」

成海はいつもの柔らかい笑顔を浮かべていた。この表情も久しぶりに見る気がする。

八幡「……そうか」

昴「つ、次はアタシです。先生、最近アタシたちの成績が悪くてすみません」

若葉も頭を下げる。

八幡「それについても、若葉が謝ることじゃないだろ。あの日の特訓以来の俺の態度が原因だ。俺こそ、余計なことで気を煩わせてすまなかった」

今度は若葉に向かって頭を下げる。

昴「や、やめてください先生!そういうことも含めて、もっとアタシたちが強くならなきゃいけないんです。でも、先生にそう言ってもらえて気が楽になりました。これからはもっと頑張ります!」

若葉はいつもの、いやいつも以上に元気な笑顔でそう宣言した。しかし、その後、また場に沈黙が流れる。未だ、星月は顔を俯かせたままでどんな表情をしているか向かいに座る俺からは判断できない。だが星月を真ん中に、両脇に座る成海と若葉は星月の肩にそっと手を置いて星月に囁くように声をかける。

遥香「さ、あとはみきだけよ」

昴「大丈夫。アタシたちもここにいる。ちゃんと自分の気持ちを伝えよ?」


369 ◆JZBU1pVAAI2017/06/21(水) 23:51:17.751sHP3UWw0 (3/3)

すいません。間違えて2回同じものを投稿してしまいました。


370以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/22(木) 04:01:32.24kyHFvNSSO (1/1)


気にせんでええで


371以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/22(木) 14:43:46.88qw64p78Oo (1/1)

乙です


372 ◆JZBU1pVAAI2017/06/24(土) 17:54:51.37P990LI0n0 (1/1)

本編4-13


星月は顔を上げずにぽつぽつと言葉を紡ぎ出す。

みき「……私、悲しいんですよ?」

八幡「……あぁ」

みき「……私、怒ってるんですよ?」

八幡「……あぁ」

みき「それをわかってて、ああいう態度をとってたんですか?」

八幡「……すまん」

まるで一番始めに戻ったかのような受け答えだ。あの頃と今とで、俺は何か変わったのだろうか。……いや、人間そう簡単に変わらないっていうのは俺が常々思ってたことじゃないか。どんなとこに来たって、どんなことをしたって、俺は、俺でしかない。

みき「そんな風に言われても、私引き下がれません」

星月は涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら必死な形相で体を投げ出して迫って来た。そして次には小さい子を慰めるかのように語り出す。

みき「……話して、くれませんか?」

八幡「それは……」

みき「私たちじゃダメなんですか?」

八幡「そういうことじゃない。この前も言っただろ。これは俺自身の問題だ。だから、俺が解決しなきゃいけないんだ。わざわざお前らに話すようなことじゃない」

みき「……わかりました」

観念したのか、星月は姿勢をもとに戻す。なんとか諦めてくれたようだ。よかった。

八幡「そうか。ならこの話は、」

みき「先生の話を聞くまで、私先生から離れません」

突然のトンデモ発言に思わず耳を疑った。

八幡「ちょ、ちょっと待て。なんでそういう結論になるんだ」

みき「だって先生、話したくないんですよね?優しい先生の事だから、私たちの負担になることはしなさそうですから」

八幡「……」

みき「先生は話したくない。でも私は聞きたい。そして知りたい。だったら、踏み込んでいくしかないじゃないですか。今までよりも、もっと」

星月の言葉に両脇の二人も顔を見合わせて頷く。

昴「うん、アタシもみきと同じ気持ち。だからアタシも先生の話を聞くまで帰りません!」

遥香「私も。先生の話聞きたいです。みきたちと一緒に」

八幡「若葉、成海……」

昴「さ、先生。これでもう逃げられませんよ?」

八幡「いや、俺話すなんて一言も言ってないんだけど」

遥香「私たち、本気ですからね?」

八幡「だとしても、いつまでも話さないかもしれないぞ」

みき「いつまでだって待ちます!」

昴「もし下校時間過ぎちゃったら、みんなで合宿所にお泊りだね」

みき「あそこのベッド、ふかふかで気持ちいいもんね」

遥香「楽しみね」

なぜか三人は俺を無視して楽しそうに会話を始めた。今までのシリアスな雰囲気はどこに消えたんだよ。人の話を聞かない星守はこれだから困る。

でも、そんなこいつらが俺の話を聞きたいと言ってきた。あの言葉に嘘はないだろう。成海はともかく、星月と若葉は嘘つくの下手そうだし。

……そうか。俺は変わってない。現に今、ぼっちで頭をフル回転させて思考しているんだから。でも、周囲は変わった。今までと違って、俺のことを知りたい、と言葉にして伝えてくる人が、俺に踏み込みたいと願う人がすぐそばに何人もいる。もしかしたら、こいつらだけじゃないのかもしれない。

もちろん言葉にしてもその意味が完全に伝わることなんてない。行動にしたってそうだ。特に俺は人の言動を深読みして、その裏に隠された真意までもくみ取ろうとしてきた。そして間違えてきた。

だとしたら、俺のことを知りたいと願われているこの状況で、今までと変わらない俺はどう行動すればいいのだろうか。

……ダメだ。いくら考えても答えが出ない。まぁ、当然だな。今まで間違ってきたんだから、答えが出たとしても多分間違ってるし。むしろ、このままずっと何も話さないままこいつらと一緒にいる方がいいかもしれない。


373 ◆JZBU1pVAAI2017/06/26(月) 00:07:34.60De9rxzWL0 (1/3)

番外編「蓮華の誕生日前編」



今日は芹沢さんの誕生日。そんな日の放課後に俺と芹沢さんは2人っきりでとある部屋にいた。

蓮華「先生、早く頂戴……」

八幡「待ってくださいって」

蓮華「れんげもう待てない!」

八幡「ほら。これで、どうですか」

蓮華「あぁ~ん‼いいわぁ~!でも、もっと。もっと頂戴!」

八幡「じゃあ俺のとっておきを……」

蓮華「あはっ、先生‼最高だわぁ~‼」

芹沢さんは艶麗な表情で俺のに夢中だ。まぁ、男としてはこういう表情にさせることができて悪い気はしない。むしろ誇らしいまである。

蓮華「先生、写真撮る才能あるわ~。この写真のあんことか、れんげでもなかなか見れないスーパーレアショットよ~」

八幡「はは、そうですか……」

はい。ネタばらしのお時間です。芹沢さんは俺が撮った星守たちの写真に興奮してるだけでした。

実はここ数日、俺は八雲先生と御剣先生に言われて、星守クラスの日常風景を写真に収めている。そして数十分前、なぜか芹沢さんが写真の整理をする俺のとこへ写真を見せろとせがんできて今に至る。

八幡「ほら、写真見せたんですから、作業手伝ってもらいますよ」

蓮華「仕方ないわねぇ。れんげは何すればいいの?」

八幡「学校のHPに載せられそうな写真をこのUSBにコピーしといてください」

蓮華「いいわよ。でもここにはパソコン1台しかないわよ?先生はどうするの?」

八幡「俺は今から放課後の星守たちを撮ってきます。部活の写真とかも必要なんで」

蓮華「は~い!れんげも行きた~い」

八幡「ダメですって……」

蓮華「なんで~?」

八幡「だって芹沢さんが行くとみんなあなたに引いちゃうんですもん」

芹沢さんは不服そうにしかめっ面をするが、1つ深いため息をつく。

蓮華「仕方ないわね。今日はれんげ、先生に免じて我慢しとくわ」

八幡「はぁ……ありがとうございます」

蓮華「でも、適当な写真撮ってきたられんげ許さないからね。みんなのとっても可愛い写真、よろしくね」

落ち着け俺。ここで反応したら芹沢さんの思う壺だ。いや、すでに壺の中にいる説すらある。

八幡「はは、頑張ります……」

蓮華「いってらっしゃ~い」

写真を見ながらニヤニヤする芹沢さんに見送られて俺は部屋を出た。

--------------------------------------

はぁ。とりあえず校内に残ってる人たちは撮り終えた。粒咲さんとか朝比奈とか写真なかなか撮らせてくれなくて余計に体力を消費した感じだ。

八幡「どうですか?作業終わりましたか?」

部屋に戻ってみると、まだ芹沢さんはニヤニヤしながら画面を見ていた。

蓮華「う~ん。これも可愛いけど、何か足りないわぁ~」

八幡「芹沢さん、大丈夫ですか?」

主に頭とか。もしかしなくてもこの人ずっと写真見てたのか……。

蓮華「あら先生。おかえりなさい」

八幡「お、おう……」

蓮華「ふふ、なんだか今のやりとり夫婦みたいね。もしかして先生、少しドキッとしちゃいました?」


374 ◆JZBU1pVAAI2017/06/26(月) 00:11:02.61De9rxzWL0 (2/3)

番外編「蓮華の誕生日後編」


そんな言葉1つでぼっちマイスターの俺の心が揺れ動くとでも?甘い。甘すぎる!動じていない男は冷静に反応するものさ。

八幡「べべ別に、しょんなことないでしゅよ」

決意とは裏腹に噛みまくりだった。

蓮華「ふふ。ま、先生がそう言うなら、そういうことにしといてあげる」

さっきの「おかえりなさい」がけっこうグッときちゃったどうも俺です。はぁ、情けない。

八幡「つか作業は終わったんです、か……?」

あれ、俺の目がおかしいのかな。俺が渡したUSBは黒色だったはずなのに、今パソコンに接続されているのはピンクのUSBなんだけど。なんで?

蓮華「まだ終わらないのよ~。思ったより写真多くて」

八幡「終わらないのはやってる作業がおかしいからじゃないですか?」

俺は強引に作業を中断し、ピンクのUSBを引き抜く。

蓮華「あ、先生!何するんですか!」

八幡「それは俺の台詞ですよ。なんで自分のUSBに画像移してるんですか」

蓮華「移してないわ。コピーよ」

八幡「いえ、別にそこはどうでもいいんですけど……そもそも俺が頼んだ作業はどうしたんですか?」

蓮華「あぁ、それならすぐに終わらせたわ。はい、これ」

芹沢さんはポケットから俺が渡したUSBを取り出した。

八幡「終わってたんですか。なら素直に渡してくださいよ」

俺が手を伸ばすと、ひょいと芹沢さんがUSBを遠ざける。

八幡「早く返してくださいよ……」

蓮華「え~、でもれんげ頑張って写真選んだから、先生からご褒美欲しいなぁ~」

八幡「なんなんですかご褒美って……」

蓮華「さっきまで星守クラスの子たちの写真を見てて、れんげ何か物足りないなぁ~って思ってたの」

俺の問いは無視して、芹沢さんは椅子から立ち上がると、ゆっくりと俺の方へ歩いてくる。

蓮華「それで先生が部屋に戻ってきて、その足りない何かに気づいたの」

八幡「は、はぁ……」

いつの間にか俺と芹沢さんは数センチの距離まで近づいていた。やべ、芹沢さんの睫毛めっちゃ長い。

蓮華「じゃ、先生。いきますね……」

何が?いったい何が?いや、いきなりそんなこと言われても、俺にも心の準備ってものがいるんですけど!

そんな俺にかまうことなく、芹沢さんは俺の胸に手を伸ばしつつ、頬と頬がふれあうほど顔を近づけてきた。

蓮華「はい、チーズ」

刹那、スマホのフラッシュが俺を襲う。突然の眩しさに目がくらむ。俗にいう目が、目が~状態だ。

蓮華「ふふ、先生、変な顔ね~」

八幡「……写真撮るならそう言ってくださいよ」

蓮華「だって撮りたいって言ったら先生嫌がるでしょ?それに、油断してる先生をれんげは撮りたかったの」

八幡「そうですか……」

全くこの人は心臓に悪い。ピュアな男子高校生の心を弄ぶなんて魔性の女だ。

蓮華「……それに、こうでもしないとれんげ、余裕をもって先生と写真撮れないもの」

八幡「何か言いましたか?」

蓮華「なんでもないわぁ。じゃ、先生。また明日」

まだショックで動けない俺を置き去りにして、芹沢さんは優雅に手を振りながら部屋を出ていった。

数分後、『先生、今日はありがと♡れんげ、この写真を先生からの誕生日プレゼントだと思って大事にしますね』というメッセージと、さっきの画像が送られてきた。ま、一応保存しとくか。……一応、隠しフォルダに入れてばれないようにしとこ。


375 ◆JZBU1pVAAI2017/06/26(月) 00:14:44.16De9rxzWL0 (3/3)

以上で番外編「蓮華の誕生日」終了です。蓮華、誕生日おめでとう!来週からのアニメが待ちきれないこの頃です。


376以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/26(月) 00:28:54.96jRnxvXk7o (1/1)

乙です


377 ◆JZBU1pVAAI2017/06/29(木) 00:48:16.00gK6Ho32c0 (1/1)

本編4-14


あれ。なんだろ。急に視界がぼやけてきた。目の前の三人の表情がわからなくなった。その代わりに、頬に熱いものが流れる。

昴「先生……?」

八幡「な、なんだよ」

遥香「泣いてるんですか?」

八幡「ばっか、ちげぇよ、単に目にゴミが入っただけだ」

俺はあわてて袖で涙を拭おうとするが、それより前に、ハンカチの柔らかな感触とその下から感じる指先の温かさがが俺の頬を包む。

みき「もう、私たちの前で強がらなくていいんですよ?」

星月は俺の涙を拭いながらなおも続ける。

みき「そりゃ、私たちじゃ力不足ですけど、それでも私たちが先生を思う気持ちは誰にも負けていないつもりです」

昴「そ、そうです!アタシたちを信頼してください!」

遥香「何でも言ってください」

三人はそろって俺の心にド直球を投げ込んでくる。でも、三人とも少し勘違いしている。それだけは、今ここで伝えなきゃならない。

八幡「俺は、別にお前らを信用していないわけじゃない。すべては俺自身の問題だ」

みき「どういうことですか?」

八幡「正直、今までこんなに周りに受け入れられた経験がなかったからな。受け入れてもらいたいとも思ってなかったのもあるが。だからなおさら、この学校に来てからの状況に疑問を持ってたんだ。何年も経ってすべてを知り尽くした関係ならまだしも、交流に来てすぐの時から無条件に求められることは、正しいことのか。交流が終わったら消滅するような関係なのに、それを大事にする必要があるのか。俺に、そんな風に求められる資格があるのかって」

俺の静かな告白にしばらく沈黙が続いた後、星月が口を開いた。

みき「私は、先生が私たちのことでそんな風に真剣に悩んでくれてたってわかって嬉しいです」

八幡「え?」

みき「いえ、正直半分くらい何言ってるかわからなかったです。私そんなに頭よくないので。でも、先生が私たちのことをちゃんと考えてくれてるんだなってことはわかりました。じゃなかったらそんなに深く悩まないですよね?」

確かに言われてみればそうかもしれない。俺は「なぜ」こんな風に考えるようになってしまったか、その理由を考えたことがなかった。いや、考えないようにしていたのかもしれない。

みき「それと、さっきの話で1つだけ私たちが答えられることがあります。ね、昴ちゃん、遥香ちゃん」

昴「うん!」

遥香「えぇ」

三人は頷くと立ち上がって同じ言葉を叫んだ。

みき、昴、遥香「先生は十分魅力的な人です!」

突然の言葉に俺は開いた口が塞がらない。

八幡「えーと、あの……」

昴「ち、違いますよ?男性として魅力があるってことを言ってるわけでは、まぁ全くないわけじゃないですけど、とにかく違うんです!」

遥香「先生は、屁理屈を使っていろんなことをすぐにサボろうとするし、そのくせ大事なことはこうして隠してるし、とっても面倒くさい人だと思うんです」

ちょっと?なんで成海は俺の事真正面からディスってくるの?歯を素っ裸にしすぎじゃないですか?温かい服着せてあげて。

みき「でも、おんなじくらい、いやそれ以上に私たちの事をすごく真剣に考えてくれて、私たちのために動いてくれてる人だってことも感じてるんです。でもどうしてそこまでしてくれるかわからない。そんな先生に、私たちは惹かれるんです。だから、先生の事もっと知りたくなるんです。だから、先生の傍にもっといたくなるんです」

みき「こんな理由じゃ、私たちが先生に近付く理由になりませんか?」

完全に言葉を失ってしまった。わからないから知りたい。知ったから傍にいたい。この両方を達成するために人に近付く。もしかしたら、こんなことは世の中のリア充連中は意識せにずやっているかもしれない。だとしたら、これは人間本来の欲求だと言い換えられる。人間は知って安心したい。安心するところへ行きたい。だから人と人は繋がりを持たずにはいられないのだろう。

八幡「でも、いつかは俺たちの関係は終わるんだぞ。少なくとも、交流が終わってしまえば……」

みき「そんなこと、その時にならないとわからないですよ!」

俺の言葉を遮るように星月は叫ぶ。

みき「これから先、いや今からでも私たちと先生が近づくことができれば、関係は終わりません。だって、『今』の関係の積み重ねが『未来』の私たちの関係になるんですから」

星月の言葉に、一度は止まっていた感情がまた目から溢れてきた。俺の思考とは裏腹に涙はとめどなく流れ続ける。

そんな俺の両脇に若葉と成海が座り、俺の肩に優しく手を置く。そして真正面からは星月があの太陽のような笑顔でにっこり笑う。

みき「先生。これからもよろしくお願いしますね!」

もう言葉は出てこない。それどころかまともに頭も働かない。ただただ腐った目だけが自分の汚れを落とすかのように涙を流し続けているばかりだった。


378 ◆JZBU1pVAAI2017/07/01(土) 00:00:13.14WWQHmvpZ0 (1/3)

番外編「先生!次の授業はアニメですよ!」前編



なんだか最近クラスの雰囲気がそわそわしている。南や蓮見がはしゃいでるのはまだしも、千導院や粒咲さんまで落ち着きがない。

そんな中のHR。案の定、俺の話はあまり聞こえていないようである。

八幡「なぁ、お前ら最近どうした?いつもよりも落ち着きがないぞ」

俺の投げかけに星月が立ち上がって感極まった感じで話し出す。

みき「だって、ついに、ついに明日はアニメですよ!先生!」

八幡「……それで?」

思わず俺は素で聞き返してしまう。

昴「すごいことじゃないですか!」

八幡「そうか?」

遥香「昴。先生はもう2クールもアニメに主役として出演してるのよ。多分、これくらいなんともないんだわ」

八幡「おい。いきなりメタ要素入れ込むなよ。ツッコミづらいだろうが」

うらら「でも、それなら先生にアニメに出るにあたっての心構えとか聞いておきたいなー」

八幡「あ?別にそんなもんねぇよ」

ひなた「でもひなた、このままだと緊張しちゃうよー!」

八幡「いや、そんなことないから。そもそもここにカメラが来るわけでもないし」

あんこ「でも先生はイメージアップのためにヲタクの要素隠してるわよね。原作だとガンダムネタとかアイマスネタとかたくさん喋ってるくせに、アニメだとそんなこと全然言わないし」

思わぬところから不意撃ちを受けてしまった。

八幡「そ、そんなことないと思いますけど?」

蓮華「あと、原作だとちょっとHなことも考えてるのにアニメだとほとんどカットされてるわね~」

花音「やっぱりこいつ変態だったのね。どうせ今も心の中では気持ち悪いこと考えてるんでしょうね」

八幡「……」

望「え、マジ?」

八幡「お、俺だって高校2年生、思春期真っただ中の男の子だぞ。この時期の男子はみな程度の差はあれ、そういうことは想像してしまうもんだ」

サドネ「??おにいちゃんが何言ってるかわからない」

桜「サドネ。わしらにはまだ早い話じゃ」

サドネの他にも何人か首をかしげている。これ以上俺の株を下げてもいいことはないし、ここらで話題を打ち切ろう。

八幡「とにかく、お前らが気負う必要は一切ない。俺だって別にアニメだからって何か特別なことをしたわけじゃないし」

強いて言えば、アニメーションによって戸塚の可愛さがさらに神々しいレベルまで高まったくらいだな。アニメで動く戸塚を間近で見れて、幸せだったなぁ。

ミシェル「むみぃ、でも1つくらい何かアドバイスないの?」

八幡「そんなこと言われても……いや、あるな」

くるみ「なんですか?」


379 ◆JZBU1pVAAI2017/07/01(土) 00:00:55.34WWQHmvpZ0 (2/3)

番外編「先生!次の授業はアニメですよ!」後編



八幡「……作画に気を付けろ」

心美「ど、どういう意味ですか?」

八幡「そのままの意味だ。下手したら制作会社が変わって、1期と2期で雰囲気がガラッと変わっちまうことだってあり得る」

楓「正直、イマイチ要領を得ないアドバイスですわね」

八幡「ま、いつも通りのお前らでいれば大丈夫だ。心配すんな」

樹、風蘭「いや、アニメはそんな甘いものじゃない!」

そう豪語しながら八雲先生と御剣先生が教室に入ってきた。

樹「アニメは戦場よ!比企谷くんは主役だったから何もしなくても映っただろうけど、私たちはそうはいかないわ!」

さりげなく「私たち」って言いましたよね?映る気満々じゃないですか。

明日葉「ということは、私たちが自力で目立たないといけない、ということですか?」

風蘭「大正解だ明日葉!こういう女の子がたくさん出てくるアニメでは、いかに印象を残すかが大事なんだ!一瞬一瞬が戦いだと言っても過言じゃない。下手したら何週も映らない、なんてこともあるぞ!」

詩穂「なんだか実際に体験してきたような感じですね……」

樹「私たちのアドバイスをしっかり心に刻んで頑張っていきましょうね」

風蘭「毎週毎週色々言われると思うが、めげずにやっていこうな」

星守たち「はい!」

いや、みなさん普通に返事してるけど、この人たち映る気満々だよ?下手したらタイトルが「バトルティーチャー・ハイスクール」とかになりかねない。何それ、めっちゃダサい。

牡丹「みなさんどうしたんですか?いやに張り切ってますね」

教室の盛り上がりを聞きつけたのか、理事長までやってきた。

八幡「いえ、明日アニメが始まるからってみんな盛り上がってるんですよ」

牡丹「そういえばそうでしたね。でも、比企谷先生には関係ないですよね?だってアニメには出ないんですから」

ゆり「先生アニメに出ないんですか!?」

牡丹「この場所が二次創作、かつ作品をクロスオーバーしている特殊な空間だから成立しているんです。だからアニメには他作品のキャラクターの比企谷先生は出られないんですよ」

理事長の言葉に、教室中に何か変な空気が流れる。みんな俺をちらちら見て、目が合うと申し訳なさそうに目をそらされる。あれ、もしかして気を使われてる?

八幡「ほら、あれだ。別に俺がいなくてもお前らなら大丈夫だろ。むしろ、こういうアニメには男性キャラは不必要まである」

ラブライブなんて、主人公のお父さんでさえ首より下しか映ってないんだぞ。可哀想すぎる。ゆるゆりやけいおんにいたっては男の気配ゼロ。モブキャラまで全員美少女。どんな世界だよ。

みき「……わかりました。アニメでは、比企谷先生無しで頑張ります!」

星月の言葉に星守みんなが頷く。なんだか、みんなの成長を感じて少し感動するなぁ。

樹「でもその代わり、比企谷くんは円盤を買って私たちを応援してね」

風蘭「もちろん、初回生産限定盤をな」

牡丹「主題歌やキャラソンのCDもお願いしますね」

八幡「あなたたちのせいで締めが台無しですよ」



380 ◆JZBU1pVAAI2017/07/01(土) 00:02:15.47WWQHmvpZ0 (3/3)

以上で番外編「先生!次の授業はアニメですよ!」終了です。短いですけど、アニメ応援ということで投稿しました。


381以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/01(土) 00:37:06.944RvuhWrjo (1/1)

乙です


382以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/01(土) 03:50:00.67c8lbLqOq0 (1/1)


突然のメタネタに驚いたけど面白かった
PVには先生らしき男性がチラッと映っていたが果たして…


383 ◆JZBU1pVAAI2017/07/04(火) 22:02:21.24Lk++xY/20 (1/1)

本編4-15


ブーブー

突然ラボ内に警報音が鳴り響いた。

遥香「この音は」

昴「イロウス!」

みき「早く行かなきゃ!」

3人はすぐに転送装置に向かって走る。俺はその姿を見て、自然と足が動いていた。

昴「先生……?」

八幡「……俺も行く」

昴「大丈夫ですか?」

八幡「あぁ。むしろ連れってくれ。頼む」

なぜ積極的に戦場へ向かおうとしているのか自分でもわからない。でも、俺も一緒に行かないといけないってことは直感した。

そんな俺の言葉に星月が嬉しそうに反応する。

みき「もちろんです!行きましょう!」

八幡「……すまん」

昴「謝らないでくださいよ!」

八幡「す、すまん」

遥香「次謝ったら特訓メニュー倍にしますよ?」

成海が冷たい笑顔を浮かべながら忠告してきた。

八幡「す……わかった」

昴「遥香目が笑ってないよ……」

みき「あはは……」

俺は転送先の座標を設定してから転送装置に向かう。

八幡「準備はいいか?」

みき、遥香、昴「はい!」

八幡「よし、転送」

-----------------------------------

転送が終わると、俺たちは荒野に立っていた。

みき「ここにイロウスがいるんですか?」

八幡「あぁ。そのはずだ」

昴「どんなイロウスですか?」

八幡「それがよくわからないんだ。全くイロウスに動きがなくて判別できなかった」

遥香「動かないイロウス、ですか?」

八幡「あぁ。ひとまずここらへんにいるのは確実なんだ。あとは俺たちで動いて探すしかない」

みき「頑張ろう!昴ちゃん!遥香ちゃん!先生も!」

八幡「おう。じゃ、行くか」

俺が歩き出すと、3人は物凄く驚いた表情を見せる。

昴「せ、先生が自分からイロウスに向かって歩き出した……」

八幡「若葉、お前失礼だな。相手は得体のしれないイロウスなんだぞ。別行動するより、全員一緒にいた方が安全だ。幸いにも周りに人家はなさそうだし、時間かけても安全に仕留めることを優先してもいいだろ」

みき「な、なるほど」

遥香「やっぱり先生の頭の回転の速さにはかないませんね」

……実は俺1人でいると危険だから集団行動したかった、ってのは黙っておこう。


384 ◆JZBU1pVAAI2017/07/07(金) 00:01:47.96sIXeq07Y0 (1/3)

番外編「望の誕生日前編」


俺は今、学校帰りにあるスポーツ用品店に来ている。もちろん1人でだ。星守たちの特訓にも付き合うようになり、かつ最近暑くなってきて運動着が数枚必要になったから買いに来ただけだ。

だが、いざ店に来ると何を買えばいいのかさっぱりわからない。まぁ、サイズが合えばなんでもいいんだが、そうは言ってもどれを選べばいいか迷う。

望「あれ、先生?」

なんだかやけに通る声がしたけど気のせい、気のせい。

望「先生!おーい!先生!」

がっつり目が合って手を振られたけど、気のせい。きっと気のせい。

望「せんせー!なんで無視するの!」

とうとうカバンを掴まれてしまった。これ以上無視できないから仕方なく反応する。

八幡「おう。天野か。じゃあな」

望「うん、ばいばい。じゃないよ!先生こんなところで何してるの?」

ちっ、押しきれるかと思ったけどダメか。

八幡「買い物だけど……」

望「奇遇だね!アタシも買い物してるんだ!せっかくだから一緒に見て回ろうよ!」

八幡「いや、別に1人でいい」

望「えー、そう言わずにさ!どうせどのウェア買えばいいか迷ってるんでしょ?特別に望ちゃんがコーディネートしてあげるよ!」

八幡「いらないって……」

だが、俺の抵抗を聞かず、天野はノリノリで運動着を選び始めた。

望「先生は別にスタイル悪くないし、シンプルなやつも似合うかな。でも思い切って奇抜な色合いで攻めるのもアリかな?」

八幡「そこまで悩まなくていいぞ。適当に3枚くらい見繕ってくれれば」

望「ダメだよ先生!いついかなる時でもファッションには気を付けなきゃ!」

八幡「えぇ……別に何着たって一緒だし」

望「そんなことない!アクセサリー1つとっても、ファッションは違ってくるもんだよ!」

天野が鬼気迫る感じで迫ってくる。こいつのファッションへの意気込みは凄まじいものがあるな。

八幡「あ、あぁ。わかった。それならもう全部任せるわ」

俺はもう口出しするのも諦めて天野に丸投げすることにした。

望「オッケー!任せて!」

------------------------------

俺はそこから数十分、着せ替え人形と化してひたすら天野の言う通り運動着を試着させられた。

望「ふぅ、楽しかった!」

八幡「疲れた……」

望「先生もこれを機にオシャレに目覚めたら?楽しいよオシャレ!」

八幡「俺には無理だ。それにいざと言うときは妹に見繕ってもらえばいいし」

望「それは兄としてどうなの……?」

八幡「いいんだよ。どうせ俺の服装なんて誰も見てねぇし」

望「そんなことないです!」

八幡「え……?」

予想外のタイムラグゼロの反論に思わず反応してしまった。

望「いや、その、なんていうか……ほら、いつもと違う服装してたら目立つじゃん?それが先生だったら特に!学校には先生しか男の人いないわけだし」

天野は手をこねこねしながらそれっぽいことを並び立てる。ま、男1人なら何をしたって悪目立ちはするか。

八幡「男が俺1人の時点ですでに目立ってるじゃねぇか。俺は目立たず過ごしたいんだ。だからオシャレはしない」

望「そんなこと言わないでオシャレしようよー」


385 ◆JZBU1pVAAI2017/07/07(金) 00:02:37.41sIXeq07Y0 (2/3)

番外編「望の誕生日後編」


八幡「つかお前はここに何買いに来たんだ」

俺は自分への話題の矛先をそらすために天野に質問した。

望「アタシは部活で使えるサンバイザーを探しに来たんだ!あ、そうだ。先生も付き合ってよ。サンバイザー選び」

八幡「なんでだよ。俺の意見なんてあてにならないぞ」

望「ファッションは他人にどう見られるかも大事だからね!先生からの客観的な意見が欲しいの!」

八幡「いやでも……」

望「ほらちゃっちゃと行くよ!」

こうして俺は天野にテニスコーナーへ強制連行された。

望「うーん、いっぱいあるなぁ。どれにしようかな~」

八幡「……」

望「あ、これとかオシャレ!でもこっちも捨てがたい!ねぇ先生、どっちがいいと思う?」

そう言って天野はチェック柄で色違いのサンバイザーを2つ、俺の前に掲げてきた。

八幡「ん?どっちもいいんじゃねぇの」

望「むぅ、じゃあこれとこれなら?」

今度は花柄のサンバイザーを掲げてきた。

八幡「どっちも似合うと思うぞ」

望「……先生、本気でそう思ってる?」

やべ、流石に適当に返事しすぎた。

八幡「いや、正直どれも悪くないと思う。天野ならそういう派手目なサンバイザーもいんじゃないか?」

望「なんかイマイチ煮え切らない答えだな……あ、なら先生が選んでよ。アタシに似合うサンバイザー!」

八幡「は?俺が?」

望「そ。さっきはアタシが服選んであげたんだから、今度は先生が選んで!ね!」

そう言って天野は期待に満ちた目で俺を見つめて来る。わかったよ。選べばいいんだろ、選べば。

八幡「……わかった。でも文句はナシな」

俺はこのコーナーに来た時から気になっていたシンプルな白いサンバイザーを差し出した。

望「なんでこれなの?」

八幡「ま、なんだ。サンバイザーは熱中症対策のもんだろ?なら、白いほうが熱を放射しやすくね?」

望「え、まさか機能面だけで選んだの?」

やめろ。俺は、友達の誕生日プレゼントに工具を真っ先に思いつくようなどこぞの氷の女王ではない。

八幡「いや、ほら。お前目立つ色の練習着よく着てるだろ?ならサンバイザーはシンプルなほうがいいかな、って思って。白ならその髪色にも合うだろうし……」

ついキザっぽいセリフを吐いてしまった。やべぇ、気持ち悪がられる……

望「嬉しい……」

八幡「え?」

望「先生、なんだかんだアタシのことよく見ててくれてるんだね!うん。アタシ、これにするよ!これがいい!」

天野は目を輝かせながらサンバイザーを眺めている。俺はそのサンバイザーを天野から奪うと自分の持ってる買い物かごに放り込んだ。

望「え?サンバイザーくらい自分で買うよ?」

八幡「別にいいよ。俺の運動着選びになん何十分も付き合ってくれたお礼と、お前の誕生日プレゼントと併せて、買ってやる」

天野は急に顔を下に向けてもじもじし始めた。なんだよ、トイレ行きたいのか?ならさっさと行って来いよ。

八幡「おい、大丈夫か?」

心配になって声をかけたが、顔を上げた天野には満面の笑みが浮かんでいた。

望「うん。大丈夫!先生、ありがとう!このサンバイザー、一生大切にするね!」


386 ◆JZBU1pVAAI2017/07/07(金) 00:04:48.82sIXeq07Y0 (3/3)

以上で番外編「望の誕生日」終了です。望、誕生日おめでとう!とうとうアニメが始まりましたね。この先どんな展開になるか楽しみです。


387以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/07(金) 08:58:17.51x7Eq948ao (1/1)

乙です


388以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/07(金) 20:53:13.40OoLC+gu80 (1/1)



ホントみんなの性格掴むの上手いなぁ
比企谷も同年代だと遠慮がなくなってるのもいい感じ


389 ◆JZBU1pVAAI2017/07/08(土) 09:33:50.15D/03jL2M0 (1/3)

本編4-16


そうして四人でしばらく歩いていると成海が何かに気づいたような声を上げた。

遥香「あら、あれはなにかしら」

みき「どうしたの遥香ちゃん?」

遥香「向こうの方に何か浮いてない?」

成海が指さす方向を見てみると、確かに丸っこい物体が空中に浮いている。

昴「先生、アタシちょっと見てくる」

八幡「おぉ。頼む」

若葉は元気よく走っていく。でも、物体に近付くにつれてそのスピードが遅くなっているような……?

少しして若葉が帰ってきた。

みき「どうだった昴ちゃん?」

昴「多分、あれがイロウスだよ。あいつの周りだけ重力が強くなってるみたいで体が重くなっちゃったし」

あぁ、だからスピードが遅くなってたのね。重力を扱うなんてプッチ神父か何かですか?

遥香「でもイロウスなら私たちで倒さないといけないわね」

みき「じゃあみんなで行きましょう!」

俺たちはイロウスの能力が届かない距離まで近づいた。

みき「遥香ちゃん、一緒に攻撃してみよ?」

遥香「えぇ」

そう言って星月はガンで、成海はロッドで攻撃するが、あまり効いているとは思えない。

遥香「遠距離攻撃じゃ効果がないのかしら」

昴「なら近距離攻撃するしかないね!」

八幡「じゃあ俺はここで待ってるからお前ら、」

みき「先生も行きますよ!」

八幡「ちょ、腕引っ張んなって」

なぜか俺までイロウスの傍に行くことになってしまった。そして重い体を動かし、なんとかイロウスの目の前まで来ることができた。

みき「なんか、このイロウスただ浮いてるだけだね」

遥香「何もしてこないイロウスなんているのかしら」

八幡「まぁ、何もしてこないならそれに越したことはないんだが」

昴「なら今のうちにサクッと倒しちゃいましょう!」

そう言って若葉はハンマーを出してすぐさま振りかぶる。

昴「やあっ!」

若葉は強烈な一撃をイロウスに加えた。

みき「あ、体が軽くなった!」

遥香「流石ね昴」

昴「へへ~」

3人はイロウスを討伐できたことに安心しているようだ。だが、このまま簡単に終わっていいのか……?

そう思ってイロウスを見てみると、灰色だった色が赤くなり、膨張しているようだ。これってまさか……

八幡「逃げるぞ……」

みき「え、なんですか?」

星月をはじめ3人ともキョトンとしている。

八幡「いいから逃げるぞ!」

状況を呑み込めていない3人を急き立て、俺たちはイロウスから離れた。次の瞬間、イロウスは盛大に爆発した。


390 ◆JZBU1pVAAI2017/07/08(土) 10:30:21.37D/03jL2M0 (2/3)

本編4-17


あ、危なかった。間一髪だった。

遥香「はぁはぁ、爆発して攻撃するイロウスだったんですね」

昴「はぁ、先生が気付かなかったらヤバかったよ」

みき「はぁはぁ、先生ありがとうございます」

八幡「ぜぇぜぇ、いや、ぜぇぜぇ、おう、、」

急にダッシュしたから息が整わない。返事どころかろくに呼吸すらできてない。

昴「じゃあ他にもイロウスがいないか探しに行こう!」

八幡「ちょちょっと待って。少し休憩させて……」

みき「先生……」

遥香「仕方ないですね。先生が落ち着いたら行動を再開しましょう」

数分後、なんとか息を整えて、俺たちは動き出した。するとほどなくして若葉が声を上げる。

昴「あ!またさっきのイロウスが浮いてる!」

みき「奥の方にさらにいっぱい」

遥香「なら私たちも別れて倒しに行きましょうか」

3人はハンマーを出してイロウスへ向かう。

八幡「……俺はここにいるわ」

これ以上俺にできることはないし、何よりもう走りたくない。

みき「はい。後は私たちで倒せますから大丈夫です!」

昴「安全なとこで待っててください!」

遥香「すぐ戻ってきますから」

……ん?なんか死亡フラグに聞こえたのは俺の気のせい?

そんな俺の心配をよそに3人は次々にイロウスを倒していく。その度に大きな爆発があるから、待ってる身としては気が気じゃないんだが。

つか、改めてあたりを見渡すと、さっきのイロウスがどの方向にも浮いてるじゃん。どんだけ倒せばいいんだよ……

遥香、昴「先生」

いつの間にか成海と若葉が帰ってきていた。

八幡「おう。お疲れさん」

昴「けっこう倒したんですけど、それ以上にイロウスが湧いてきたんで、いったん引き返してきました」

遥香「私たちだけでどうにかできる数じゃなくなってしまったんですが、どうしますか?」

八幡「一番の策は星守の数を増やすことだな。こっちの手数を増やさないと、イロウスを減らすことはできないし」

昴「それなら、一度学校に戻りますか?」

八幡「あぁ、だけど星月も戻ってきてからじゃないとな。あいつだけ置いていくことはできない」

遥香「そうですね。無事だといいんですけど」

成海が心配そうに呟く。

昴「みきなら大丈夫だよ。すぐに戻ってくるって」

遥香「昴……そうね。みきなら大丈夫よね」

八幡「ほら、現に戻ってきたぞ」

俺の視線の先には必死の形相で走ってくる星月の姿があった。なんであいつあんな急いでんの。

みき「みんな~!」

遥香「みき、おかえり」

みき「みんな、大変なの!」

昴「大変って何が?」


391 ◆JZBU1pVAAI2017/07/08(土) 15:19:58.36D/03jL2M0 (3/3)

本編4-18


みき「さっきあっちのほうまで行ってイロウスを倒してたんだけど、あるイロウスの爆発が他のイロウスを刺激しちゃって、どんどん爆発が広がってっちゃった……」

八幡「てことはつまり……?」

みき「ここら辺、爆発まみれです……」

遥香「何やってるのみき……」

みき「だ、だって!久しぶりに先生にいいところ見せられると思って、張り切っちゃって」

昴「そんなこと言ってる場合じゃないよ!爆発がそこまで迫ってるって!」

若葉の言う通り、星月が走って来た方角から大きな爆発音が止まることなく鳴り響いていて、段々音量も大きくなっている。

八幡「こうなったら早くここから逃げるぞ」

みき、遥香、昴「はい!」

俺たちはもと来た道を引き返していく。だが、なぜか嫌な感じがする。

遥香「なんだかこっちからも爆発音が聞こえない?」

昴「うん、そんな気がする……」

みき「ど、どうしよう先生?」

八幡「とにかくここから脱出する。爆発に巻き込まれるのだけは勘弁だ」

そうして俺たちは方向転換を繰り返していったのだが。

昴「……先生」

八幡「なんだ」

遥香「この状況は、どうやって打開しますか?」

八幡「そんなこと俺が聞きたい」

みき「そんな~」

八幡「もともとお前が撒いた種だろ……」

もうどこに行ってもイロウスが爆発しまくっていて逃げ場がない。いわゆる袋のネズミってやつだ。

昴「爆風を避けながら走れば、」

八幡「流石に無理だろ……」

遥香「私のスキルが先生にも効果があればよかったんですけど」

八幡「ごめんな。俺が星守じゃなくて」

成海はイロウスからのダメージを無効にする効果を持つスキルを持っているのだが、いかんせんただの人間の俺にはスキルが効かない。だから物理的にどうにかして爆発から逃げないといけないのだが、正直打つ手なくね?

みき「先生!私に考えがあります!」

なんでこんな状況になっても元気なんだこいつは。

八幡「……何」

みき「私があの爆発から先生を守ります!」

八幡「は?どうやって?」

みき「私の爆発系のスキルを使うんです!イロウスの爆発より強力なスキルが打てれば、爆発を相殺できて先生を守れます!」

思ったよりもまともなアイデアだった。でも致命的な欠陥を発見してしまった。

八幡「数体くらいの爆発ならともかく、四方八方から爆発は迫ってるんだぞ?お前1人でどうにかできるレベルじゃないだろ」

みき「あ、そっか……」

俺の指摘に星月はうなだれてしまう。が、成海と若葉は逆に明るい表情になった。

遥香「大丈夫よみき。私たちも一緒にスキルを使えばなんとかなるかもしれないわ」

昴「うん!3人で先生を守ろう!」

みき「遥香ちゃん、昴ちゃん……」


392 ◆JZBU1pVAAI2017/07/11(火) 00:46:35.61Rm0mq5+k0 (1/4)

本編4-19



八幡「……危険すぎる」

遥香「え?」

八幡「危険すぎるって言ったんだ。お前らのスキルがイロウスの爆発より強力な保証はないし、3人のスキルのタイミングと威力が少しでもずれたらバランスが崩れて、結果全員の命が危ない。そんな賭けに俺は乗れない」

昴「なら、先生はどうするのがいいと思うんですか?」

八幡「お前らが助かるのに最も確実なのは成海のダメージ無効スキルを使うことだ。俺に効果はないが、それでもお前らが助かる方を優先するべきだ」

最優先するべきは3人の安全だ。彼女たちはイロウスを倒せる唯一の存在、星守だ。そして、それ以前に俺の生徒だ。絶対に死なすわけにはいかない。

だが、俺の言葉を聞いて、3人は明らかな怒りを顔に出しながら俺に詰問する。

みき「それじゃあダメです!私たちは、4人でイロウスに勝つんです!先生1人だけ見捨てるなんて、私たちにはできません!」

八幡「だけど、」

遥香「逆に先生は私たちが失敗すると、そう言いたいんですか?」

八幡「いや、そういうことじゃない。が、」

昴「ならアタシたちに任せて下さい!アタシたちが必ず先生を守ります!」

八幡「お前ら……」

この星の星守は、俺の生徒は、想像以上に心が強い子ばかりらしい。まぁ、それくらいの気概がないと、こんな危険なことを自分からやりたい、なんて言う筈がないか。

八幡「……わかった。俺の命、よろしく頼む」

みき、遥香、昴「はい!」

……あぶね。なんだか笑みがこぼれそうになった。笑ってられる状況じゃないってのに。むしろこれからが本番だ。気を引き締めないと。

八幡「よし。そしたら作戦を立てるぞ。まずは俺を中心に3人は正三角形の頂点に立ってくれ」

昴「ここらへんですか?」

八幡「あぁ。それと、スキル強化のスキルを誰か使ってほしいんだが」

みき「はい!私が使えます!」

八幡「よし。そしたら星月のスキルを使ってから3人でスキル発動だ。なるべく同じスキルがいいんだけど、なんかないか?」

遥香「それなら『炎舞鳳凰翔』は私たちみんな使えます。爆発系のスキルで威力も同じです」

八幡「ならそれでいこう。後はタイミングのそろえ方だな」

みき「合図は先生が出してください!」

八幡「俺?」

遥香「そうですね。3人の真ん中っていうちょうどいいポジションにいるわけですし」

昴「先生の合図なら、アタシたちさらに頑張れますから!」

……むぅ。正直気乗りはしないが、3人が一番やりやすい状況を作る方が大事だしなぁ。ここは腹をくくるか。

八幡「わかった……」

遥香「では先生の『炎舞鳳凰翔』の掛け声に合わせて私たちがスキルを使うということで」

八幡「待て。なんで俺もあの恥ずかしいスキル名を言わなきゃならないんだ」

昴「だってアタシたちがスキルを使うときはスキル名唱えないといけないですし」

みき「それに先生も一回くらい一緒に言いましょうよ!意外と楽しいかもしれないですよ?」

材木座ならともかく、今の俺にそんな中二病抜群のスキル名を意気揚々と唱えられるほどのメンタルは備わっていない。つか、それ以前に俺の必殺技でもないんだよなぁ。今回はただ合図として技名を叫ぶだけ。ダサい事この上ない。

八幡「……楽しいかどうかはともかく、お前らがそう言うなら合図はそれでいこう」

でも、一度くらいは必殺技大声で叫んでみたいよね?だって男はみな、一生少年なのだから!

昴「よし!これでなんとかいけそうだね!」

遥香「絶対4人で学校に帰りましょうね」

みき「さぁ、みんな!頑張ろう!」


393 ◆JZBU1pVAAI2017/07/11(火) 02:38:40.36Rm0mq5+k0 (2/4)

スキル性能が一緒だから名前も一緒だと勝手に思ってましたが、実はスキル名は違ってたんですね。すいません。でも今回の話では3人とも『炎舞鳳凰翔』で統一します。これからはもっとスキルも確認します。


394以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/11(火) 05:14:31.255HaB/ylk0 (1/1)

おつ

細かいところは適当に補完していくからあんま気にしなさんな


395以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/11(火) 06:59:37.15NeBvkbId0 (1/1)


元々クロスオーバーでオリジ要素入ってるし多少はね?


396以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/11(火) 08:18:30.19QnR8H8Jao (1/1)

乙です


397 ◆JZBU1pVAAI2017/07/11(火) 23:24:31.03Rm0mq5+k0 (3/4)

本編4-20


段々爆発が迫って来た。そろそろ作戦開始かな。

八幡「よし。始めるか。星月頼む」

みき「はい!『メガスキルバースト』!」

3人の周りを黄色いオーラが包み込む。例えるならちょっとしたスーパーサイヤ人みたいな感じだ。

八幡「あとはタイミングを合わせてスキルを撃つだけだ」

みき「は、はい!」

遥香「みき緊張してるの?」

みき「う、うん。正直かなり……」

昴「あはは、実はアタシもけっこう緊張してるんだ。でも遥香は大丈夫そうだね?」

遥香「だって、こういう絶体絶命なシチュエーションってよく少年漫画にあるでしょ?それを今実体験してると思うと少しワクワクしてるの」

お前強いなぁ!オラわくわくすっぞ!ってか?心までサイヤ人になっちゃったのかな?

八幡「おい、もう爆発がそこまで来てるぞ。準備しろ」

俺の言葉に3人の雰囲気ががらりと変わる。もうお互いの顔も見ずに、ただ真正面のイロウスにだけ集中している。

八幡「いいか。俺が『炎舞』と叫ぶから、1テンポおいて3人は攻撃してくれ」

みき、遥香。昴「はい!」

俺は3人の背中を順に観察する。星月はソードを、成海はスピアを、若葉はハンマーを構えている。こうして後ろから眺めることは今までなかったが、改めて見てみると、頼もしい背中をしてるんだな。俺を「守」るって意志をひしひしと感じる。

もう爆発が目の前まできている。今まで遠くに見えていたイロウスは爆炎でまったく見えない。だが、至近距離にもイロウスは浮いてるし、それらも爆発しそうに膨張している。

八幡「……いくぞ。『炎舞』!」

みき、昴、遥香「『鳳凰翔』!」

刹那、3方向から凄まじい爆炎が放たれた。ちょうど俺周りで爆炎がぶつかり相殺されているが、周りは360度爆煙で包まれており視界は遮られてしまっている。

八幡「くっ……」

てか爆風がすごすぎて立ってられないんですけど。音もすごいし、本当に星月たちがどうなってるかわからない。

やがて爆煙が薄くなってきた。俺は立ち上がり急いで周りを見渡してみたが、いるはずの人影が見えない。

八幡「嘘だろ……」

最悪のシチュエーションが頭をよぎる。3人は身を挺して爆発から俺を守ったのか?3人が3人とも?はは、まさか。冗談だろ?

八幡「星月……若葉。成海!」

俺はありったけの声を出して叫んでみた。だが返事は聞こえない。

八幡「なんでだよ……」

俺が3人を死なせてしまった。否、殺してしまった。俺だけが犠牲になればこんなことにはならなかったはずだ。なんで俺はあの時、もっと強くあいつらを説得しなかったんだ……

その時、爆煙の下の方に何かの影が見えた。それはゆっくりとこちらへ近づいてくる。あぁ。イロウスの生き残りか。なら、いっそ俺もここで死んでしまうのがいいかもな。俺の死くらいじゃ償いにはならないが、俺にできることはこれくらいだ。

八幡「……殺せ!」

俺はその影に向かって泣き叫んだ。だが影はそこで動きを止める。

「何言ってるんですか先生?」

八幡「え?」

この声は、まさか……

みき「なんとかここまで這って来た私に『殺せ』ってどういうことですか?」

現れたのはぼろぼろの星月だった。

八幡「星月……?お前、なんで這って来たんだよ」

みき「全力でスキルを使ったら、歩く体力もなくなっちゃったんです。なのでこうして這ってきました」

八幡「……ふっ、なんだよ。そういうことかよ。ははっ」

俺は力が抜けて、地面に座り込みながら笑いだしてしまった。そんな俺を不思議そうに星月が眺めてくる。


398 ◆JZBU1pVAAI2017/07/11(火) 23:58:52.53Rm0mq5+k0 (4/4)

本編4-21


やがて成海と若葉も合流した。

昴「先生!無事だったんですね!」

八幡「あぁ。お前らも無事か?ケガはないか?」

遥香「はい。大丈夫です」

みき「ねぇ聞いてよ2人とも!先生ったら、私に向かって最初『殺せ!』って叫んできたんだよ?」

遥香「……どういうことですか?」

八幡「いや、なんか気が動転しててな。自分でもよくわからず口走っちまった」

お前らが死んだと思ってた、なんて口が裂けても言えない。

昴「先生本当に大丈夫ですか?実はどこか爆発に巻き込まれてたりしてませんか?」

八幡「なんともねぇって。強いて言えば疲れだな。ラボから一緒にいて身も心も疲れた」

みき「それって、私たちといると疲れるってことですか!?」

八幡「ま、そうとも言うかもな」

昴「ま、まぁまぁみき。実際、アタシも色々あって今日は疲れちゃったし、大目に見てあげようよ」

遥香「そうね。私もお腹空いたわ。早く何か食べたい」

4人でこんな雑談をしていると、通信機が鳴りだした。

八幡「はい。もしもし」

樹『比企谷くん!?無事ですか?』

八幡「えぇ。星月たちも全員無事です」

俺の返答の後、八雲先生じゃない人たちの歓声が聞こえた。おそらく他の星守たちが後ろの方にいるんだろう。

樹『よかった……』

八雲先生は心の底から安堵したような声を出した。

八幡「あの、周囲にまだイロウスの反応はありますか?」

樹『いえ、レーダーには反応はないわ。完全に消滅しています』

八幡「そうですか、ありがとうございます」

樹『えぇ。じゃあすぐに転送装置を起動させますね。そこで少し待っててください』

八幡「わかりました」

そうして通信は切れた。

遥香「学校からの通信ですか?」

八幡「あぁ。八雲先生からだ。俺たちが無事だって聞いて安心してたよ」

昴「あの、イロウスは?」

八幡「それもこの辺には反応はないそうだ。完全に殲滅できたってよ」

みき「やったー!」

そう言って星月は若葉と成海に抱きつく。

昴「こ、こらみき!いきなり抱きついてきたら危ないって!」

みき「えへへ~」

遥香「もう、しょうがないわね」

3人はそのままお互いに抱き合って笑い合っている。ついさっきまで俺を守るために死ぬ気で奮闘していた星守とは思えないくらい楽し気に。ゆりゆりに。

八幡「ほら、そろそろ離れろ。八雲先生はすぐに転送してくれるって言ってたぞ」

みき「は~い」

しぶしぶ3人は離れる。が、なぜか俺の両腕に絡みついてくる。やめて!柔らかい感触と女の子の香りが凄すぎて頭がクラクラする。

八幡「な、なにしてんだよお前ら」

みき、昴、遥香「先生!これからも私たちのことよろしくお願いします!」


399 ◆JZBU1pVAAI2017/07/12(水) 00:35:36.75krpYwvdr0 (1/3)

本編4-21


ラボでのやりとりと、イロウス殲滅の次の日の放課後。俺は総武高校のジャージを着てグランドにいる。なぜかと言うと。

昴「先生!ほらもっと頑張って!ワンツー!ワンツー!」

八幡「いや、もう、もう無理……」

このようにダンス特訓につき合わされているのだ。だが、なんだってあんな戦闘をした翌日からダンスしなきゃならんのだ。

遥香「ふぅ。そしたら少し休憩しましょうか」

八幡「そ、そうしよう……」

俺たちはグラウンドの木陰で休むことにした。

みき「あ、みんな!私、今日は疲労回復に効果のある料理を作ってきたんだ!」

八幡、昴「え?」

俺と若葉は同時にうめき声のような声を出してしまった。でも、この前みたいな料理だったらまだ食べられるかもしれない。もう絶望する必要なんて、ない!

遥香「何を作ってきたの?」

みき「えへへ~、じゃーん!」

星月が開けたタッパの中には、なにか得体のしれない茶色の物体が得体のしれない紫色の液体の中に沈んでいた。

昴「み、みき?これは、なに?」

みき「え-、見ればわかるじゃん!レモンのはちみつ漬けだよ!私なりに健康に良さそうなものを加えたんだ。疲労回復には効果抜群だよ!」

もうどこにもレモンもはちみつもいない。これを食べたら間違いなく「こうかばつぐん」で倒れてしまう。

だが成海は躊躇なく茶色い物体を口に入れる。

成海「美味しいわみき!この前のスランプは抜け出せたみたいね」

みき「うん!今回は前のサンドイッチのリベンジも兼ねて、いつもよりも気合入れて作ったんだ!ほら、先生と昴ちゃんも食べて食べて!」

八幡「いやあ、実は俺そんなに疲れてなかったな。さ、すぐにでもダンスを再開するか若葉」

昴「そうですね先生!次はf*fのダンス教えますね!」

みき「2人とも、食べてくれないの?」

遥香「こんなに美味しいのにもったいないですよ」

だからこそ危ないんだろうが!と心の中ではツッコめるが、星月の泣きそうな顔を見ると、そんなことは言えるはずもない。助けを乞うように若葉を見るが若葉も同じようにいたたまれない表情をしている。

八幡「……わかった。食べるよ。ほら若葉も食うぞ」

昴「はい……」

俺の言葉に若葉も諦めたように頷く。そして恐る恐るレモンには到底見えない茶色い物体を1つ取り出す。

八幡「……ふぅ。いただきます」

俺はそれを口に入れるが……

ナニコレ!今までの星月の料理の中でも1,2を争うほどヤバい味だ。口の中だけじゃなくて、鼻の中にも危険なにおいが通過するし、物体に触れた唾液までもが食道や胃を破壊していくようだ。若葉に至っては顔色も茶色じみてきている。もはやこれは凶器というより兵器だな。

みき「先生どうですか!?」

八幡「あ、あぁ……少し食べただけでもすごい効くなこれ……」

みき「ほんとですか!?まだまだありますよ?」

八幡「いや……1つで十分だ。ありがとう……」

これ以上食べたら間違いなく病院行きだ。生身のジョーイさんに治療してもらわなくてはならなくなる。

遥香「さ、ではそろそろダンス再開しますか」

昴「待って遥香。アタシもう少し休憩したい……」

八幡「俺も……」

みき「2人とも立って!私、先生を引っ張り出すから、遥香ちゃんは昴ちゃん引っ張って!」

遥香「任せて」

こうして俺と若葉は強引にグランドへ引っ張り出されてしまった。く、このままダンスなんてして大丈夫だろうか?イロウスと戦う時より不安だ……


400 ◆JZBU1pVAAI2017/07/12(水) 00:37:43.91krpYwvdr0 (2/3)

以上で本編4章終了です。>>394,>>395の方々ありがとうございます。他の方も適宜補完してくれていると思いますが、この先もよろしくお願いします。


401以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/12(水) 02:37:10.33XFyX1Mono (1/1)

乙です


402以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/12(水) 11:06:34.95Ws8AlcUOO (1/1)


綺麗にまとまりすぎてて最終回かと心配した
アニメと一緒に楽しみにしてるよ


403 ◆JZBU1pVAAI2017/07/12(水) 22:58:59.63krpYwvdr0 (3/3)

本編5-1

ある日の放課後。俺が職員室で作業をしていると、八雲先生に声をかけられた。

樹「比企谷くん、ちょっとこっちに来てもらえるかしら?」

八幡「はぁ。なんですか?」

促されるままに職員用談話室に移動すると、天野、火向井、常磐がソファに座っていた。

ゆり「先生!」

望「先生が来たってことは、つまりそういうことかな?くるみ?」

くるみ「かもしれないわね」

なんの話だ?3人とも、何かわかったような口ぶりだが。

樹「比企谷くんも座って下さい」

八幡「はぁ」

事情が呑み込めない。3人の雰囲気から想像するに、怒られるわけではなさそうだけど。

樹「みなさん。今日は『修学旅行』について話すことがあります」

八幡「修学旅行?」

俺が不思議そうに聞き返すと常磐が何かに気づいたような声を出す。

くるみ「あ、先生は知らなかったんですね」

ゆり「毎年、星守クラスの高校2年生は普通クラスとは別の修学旅行に行くんです!」

望「まぁ、修学旅行って言っても毎年近場での日帰り旅行なんだけどね……」

八幡「日帰りで修学旅行?」

樹「えぇ。万が一イロウスが現れたときにすぐに対処ができるよう、日帰りにしているの」

旅行っていうか、遠足みたいだな。しかも星守クラスの高2だけというところがまた少し可哀そうではある。

八幡「修学旅行の概要はわかりました。でもなんで俺がここに呼ばれたんですか?」

「その説明は私たちがするわ」

ドアを開けて入ってきたのは、今日は仕事で学校を休んでいた煌上と国枝だった。

樹「えぇ、そうね。じゃあお願いしようかしら」

詩穂「はい。お任せください」

そう言うと2人は少し興奮気味に話し出す。

花音「実は私たちも事務所からお休みをもらえたから、みんなと一緒に修学旅行に行けることになったの」

望「おぉ!やった!」

花音「でも驚くにはまだ早いわ」

詩穂「さらにリフレッシュのために、と事務所負担で一泊二日の沖縄旅行をさせてもらえることになったの」

くるみ「沖縄なんてすごいですね」

詩穂「ふふ。それで私たちが事務所にお願いをして、皆さんも沖縄旅行の人数に入れてもらえたの」

ゆり「と、いうことは?」

花音「私たち星守クラス高校2年生全員で沖縄修学旅行に行けるってことよ!」

望、ゆり、くるみ「おぉ!」

3人のテンションも一気に高まる。まぁ近場での日帰り旅行が沖縄宿泊旅行になったらそりゃ喜ぶわな。しかも費用は向こう持ち。最高かよ。

花音「何1人他人面してんのよ。あんたも行くのよ」

ぼーっとしていた俺に煌上がなんかすごいことを言ってきた。

八幡「は?俺も?なんで?」

花音「なんでって……そんなこともわかんないの?」

詩穂「だって先生も私たちと同じ高校2年生じゃないですか」

八幡「いや、年齢だけ言ったらそうかもしれないけど」


404 ◆JZBU1pVAAI2017/07/14(金) 21:21:01.65qzloTAQI0 (1/1)

本編5-2


樹「さすがに泊まりとなると私も風蘭も都合つかなくて引率できないの。だから比企谷くん引き受けてくれない?」

引率係を同学年のぼっち男子高校生に頼むっておかしくない?と思いつつ煮え切らない態度を取っているとさらなる追撃が四方八方から飛んできた。

ゆり「私も風紀委員長として先生のお手伝いしますから安心してください!」

望「先生もアタシたちと一緒に沖縄行こうよ~!」

くるみ「これを機に先生とゆっくり話してみたいです」

花音「というか今さらキャンセルなんてできないんだけど」

詩穂「先生が来てくれると、とても心強いです」

……こうして6人に言われてしまうと、もう断れないよなぁ。まぁ沖縄にタダで行ける機会なんて滅多にないしな。引率と言っても、こいつらなら別に危ないこともしないだろうし、やることないだろ。

八幡「……わかりました。俺も行きます」

詩穂「うふふ。ありがとうございます。では先生。来週はよろしくお願いしますね」

八幡「そんな直近だと旅程立てられないだろ」

花音「心配ないわ。ホテルの予約とかも含めてスケジュール立てはうちの事務所が全部やってくれるから」

望「おぉ!さすが大手芸能事務所!」

詩穂「実際のところは、私と花音ちゃんが一緒にいると行く先々にご迷惑をかけてしまうからその事前対策のためですけどね」

くるみ「有名人は大変なんですね」

ゆり「でも私たちの修学旅行なのに、全て決められてしまうのも何か違う気が……」

花音「一応、事務所のほうからは行きたいところがあったら教えて欲しいと言われてるわ。一泊二日だからそこまで沢山は無理だけど」

望「はいはい!せっかくの沖縄だし、海行きたい!」

天野がすかさず手を挙げながら大声で発言する。

詩穂「海いいわね。花音ちゃん、新しい水着買いに行きましょうよ」

花音「そうね。修学旅行だし少し奮発してもいいかも」

ゆり「み、水着だなんて破廉恥な!」

くるみ「でも海で普通の服着てるほうが変だと思うけど」

望「ゆり~、もしかして水着になるのが恥ずかしいの~?」

ゆり「そ、そんなことないぞ!私だって着ようと思えば水着くらい余裕だ!」

花音「じゃあ希望は海でいいわね」

煌上の言葉に5人が頷く。ははは。すがすがしいくらいに俺のことは無視ですか、そうですか。ミスディレクションを発動してるつもりはないんだけどなあ。

詩穂「先生の意見は聞かなくていいの花音ちゃん?」

おお。国枝は俺のことを覚えてくれていたらしい。

花音「どうせこいつは『暑いしめんどくさいからホテルから出たくない』って言うにきまってるわ。聞くだけ無駄よ」

煌上は当然のことのように話す。ふふふ。く、悔しいがその通りだから反論できない。

望、ゆり「確かに……」

そこ2人。俺より先に同意しないで。なんか悲しくなるから。

くるみ「本当に先生は行きたいところがないんですか?」

八幡「……まぁ、ないな」

花音「あんた、一応修学旅行なのよ?ちょっとは楽しみなことあるんじゃないの?」

煌上の何気ない一言が、俺のトラウマスイッチを押してしまった。どうやらこいつは修学旅行というものを勘違いしているらしい。一つ、修学旅行の黒い部分を教えなくてはならない。

八幡「修学旅行なんてトラウマが大量生産されるイベントだぞ。クラスで余ったやつ同士で班を組まされ、お通夜なムードの班行動。部屋では邪魔にならないようにおとなしくしてるのに、ネタの標的にされる。挙句の果てには持参した携帯ゲーム機で遊びだす始末だ。俺の修学旅行での役割なんて、観光地で妹と親のためにお土産を買うマシーンと化すくらいなもんだ」

俺の言葉に周りの全員がドン引きした。何人かは引くのを通り越して憐みの目線を送ってくる。

望「うわ。先生の修学旅行つまんなそ~」

詩穂「色々苦労されたんですね先生……」


405 ◆JZBU1pVAAI2017/07/17(月) 18:14:55.06ZlOqQNIU0 (1/1)

本編5-3


八幡「とにかくだ。そういうことだから俺のことは無視して、お前らのやりたい修学旅行を計画してくれ」

俺は半分ヤケになりながらそう呟いた。

ゆり「ですが……」

花音「いいわよゆり。こいつのことは無視して私たちで計画立てましょう」

くるみ「いいんですか?詩穂さん?」

詩穂「先生もあのように言っているし、こうなった花音ちゃんは強情だからなかなか説得するのは難しいわね」

望「もう、先生ったら……」

俺たちのやりとりに一定の成果を見たのか、八雲先生がソファから立ち上がる。

樹「一応、話はついたかしら?あとはみんなで仲良く計画してね。どういう日程になったかの報告だけはしっかりお願い。私はもう行くわ」

「仲良く計画」とか無理難題なんだよなぁ。今まで人と仲良くしたことないし。

5人「はい!」

そんな俺のことは露も考えず、他の5人は元気よく返事をする。その返事を聞いて微笑みながら八雲先生は部屋を出て行った。あれ。てか俺も一緒に出て行けばよくね?うん、出よう。これ以上この空間に俺がいても意味はない。むしろ邪魔まである。

八幡「じゃ俺も行くわ」

俺が立ち上がろうとすると隣に座ってる常磐に腕を掴まれた。

くるみ「どこ行くんですか先生?」

八幡「いや、俺も仕事に戻ろうかなって」

詩穂「先生ももう少し私たちと打ち合わせしましょうよ」

こういう時の打ち合わせって結局雑談になってなに一つ進まなくなるよね。八幡知ってるよ。

望「じゃあ服屋巡りしちゃおうよ!」

ほら。天野がいきなり沖縄とは関係ないこと言い出した。

花音「せめてもう少し沖縄らしいイベント考えなさいよ……」

ゆり「だったら南国の暑い気候の中で特別特訓だ!」

いや、なんで修学旅行先で特訓するんだよ。μ'sでさえ合宿と言いながら海で遊んでるんだぞ。俺たちが特訓なんて出来るはずがない。

花音「修学旅行なんだから特訓はしなくていいんじゃないの?」

くるみ「八重山諸島には珍しい植物がたくさん生えてるのよね。細かく観察したいわ」

離島ですることじゃねぇな。つか離島なんて行けるの?

花音「離島まで行ってみんなで植物観察はちょっと……そもそも本島にしか行けないと思うわ」

詩穂「流れるようにツッコむ花音ちゃんカッコ可愛いわ」

八幡、花音「もうやりたいことでもないじゃない(か)!」

やべ。つい声を出してツッコんでしまった。しかもよりによって煌上とハモっちゃったし。ほら。俺のことすごい睨んできてるよ煌上。その目つきはテレビでやらない方がいいと思うぞ。ごく一部のマニアックな性癖の人は喜びそうだけど。

花音「まさかあんたと同じことを言っちゃうなんて。失態だわ」

八幡「うるせ。つか、お前はどっか行きたいところないのかよ」

花音「私?私は無難に首里城とか見れればいいかしら。遠くに行こうにも時間がかかるし、手軽に電車で行けるところで修学旅行らしい場所ってなると妥当なところじゃない?」

八幡「まぁ確かに」

ゆり「修学旅行ですもんね!その土地の史跡を巡るのも大切です!」

望「でもちょっと普通過ぎない?」

くるみ「海で遊ぶなら、少しくらいは勉強になるところへ行くことも必要だと思う」

詩穂「花音ちゃんが行きたいならどこへでもついていくわ」

八幡「煌上。否定の意見はあまりなさそうだし、首里城も候補に入れといていいんじゃないか」

花音「そうね。案外あっさり決まってよかったわ」

しまった。いつの間にか俺も打ち合わせにがっつり参加しちゃってるじゃん。ほんと場の空気って怖い。……まぁすぐ流される俺も悪いんだが。


406 ◆JZBU1pVAAI2017/07/19(水) 23:28:38.75TCAAurcq0 (1/1)

本編5-4


打ち合わせ、と言えるかどうかわからない何かしらが終わった数日後、俺はいつものごとく職員室で書類整理に追われている。近頃は特に修学旅行関係で学校に提出する書類作成をやらされている。八雲先生に「私は何をするかあまりよく知らないし、比企谷くんが引率するんだから、事務的な資料作成もお願いしたいの」と言われてしまい、しぶしぶ作っているのだが……

いかんせん俺も何をやるのかよくわからない。確かにこの前、いくつか行きたい場所の希望を出しはしたが、それだけだ。実際の旅程がどうなっているのかは何一つ知らない。大丈夫なのこの修学旅行?このまま計画だけで立ち消えとかにならないかな。旅行って計画している時が一番楽しくて、実際始まるとそれほど楽しくない、っていうのをよく聞くけど、今のところ計画してても全く楽しくない。なんならストレスばかり溜まっていく。これで旅行が始まったらストレス過多で倒れるかもしれない。精神的安静のためにも俺は旅行には行くべきではないと思います。

「せーんせ!」

そうやって心の中で文句を言い連ねていると後ろから声をかけられた。振り向くと天野たち高2の5人が立っていた。

望「はいこれ。修学旅行のしおり!」

そう言って渡されたのは女子高生らしい丸っぽい字で「星守クラス修学旅行in沖縄!」と書かれた分厚い冊子だった。一瞬タウンページかと思ったぞ。

八幡「なんでこんな分厚いの?」

ゆり「修学旅行は風紀が緩みがちなので、注意事項をたくさん記しておきました!」

(すごく慎ましい)胸を張りながら、火向井が自慢げに説明する。

八幡「はぁ……」

望「ごめん先生!ゆりがどうしても入れたいって言うから」

ゆり「何言ってるんだ望!修学旅行こそ真面目に取り組まなきゃいけない行事だ!何かあってからでは遅いんだぞ!」

くるみ「この6人でいて、危ない状況になることなんてないと思うけど」

俺は目の前で交わされるやり取りを無視して、しおりをパラパラ見ていった。火向井が作ったであろう細かい文字でびっしり書かれた注意事項のページはもちろん、それ以外のページもけっこう盛り沢山な内容だ。

八幡「これ全部読まなきゃダメか?」

俺の疑問に、煌上はため息をついてゴミを見るような目つきで座っている俺を見下ろしてきた。だから俺にそんな性癖はないってば。

花音「当たり前じゃない。それ一冊でスケジュール確認だけじゃなく、ガイドブックにも使えるように作ったのよ」

詩穂「花音ちゃん、頑張って市販のガイドブックから楽しそうな場所やおいしそうなお店をピックアップしていたものね」

国枝の言葉に煌上の顔がみるみる赤くなる。

花音「し、詩穂!それは言わない約束でしょ!」

くるみ「みんな頑張っていたんですね」

反対に常磐は冊子に目を落としながら他人事のようにつぶやいた。

八幡「常磐は何もしてないのか?」

くるみ「私も手伝おうとしたんですけど、私が近づくとパソコンはもちろん、印刷機も壊れてしまうので、できることがなかったんです」

八幡「なるほど……」

噂には聞いてたが本当だったとは。近づくだけで機械を壊すなんて、この科学の時代でどうやって生きてるの?

望「けどモデルコースの作成とかはすごく手伝ってくれたじゃん!くるみがいなかったらあんないいのできなかったよ!」

ゆり「それに注意事項のアイデアもたくさん出してもらったし、感謝してるぞくるみ!」

くるみ「本当……?ならよかった」

常磐はほっと胸をなでおろし、天野と火向井も安心したように笑顔になる。

八幡「ま、助かるわ。これがないと書類作れなくて困ってたんだ」

詩穂「なんの書類ですか?」

八幡「なんか生徒が修学旅行に行く際には色々提出しなきゃいけない書類があるんだと。それを作らされてるってわけ」

花音「へぇ。意外と真面目に仕事してるのね」

八幡「意外とってなんだよ……俺みたいな組織の底辺にいる人間は雑務であろうと仕事は断れないんだよ」

くるみ「大変そうですね。私もお手伝いします」

そう言って常磐は俺が作業するパソコンに近付いてきた。次の瞬間、パソコンから黒い煙が出てきて、画面が消えた。

八幡「あ」

くるみ「す、すみません……先生の力になりたいと思ってつい……」

八幡「いや、まぁ、まだ全然作業してなかったし、パソコンだって学校の備品だからそんなに問題はねぇよ」

実はそこそこ書類作ってたんだけどね!だけどここで本当のことを言って常磐を傷つけるのは間違っている。これくらいの分量、俺が徹夜で作業して取り返せばいいだけの話だし。


407以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/20(木) 22:36:26.62txL1VeP7o (1/1)

乙です


408 ◆JZBU1pVAAI2017/07/21(金) 01:19:04.136Z6IIi3h0 (1/2)

本編5-5


晩御飯も終わり、普段ならゲームしたりラノベ読んだりアニメ見たりと一段落するところなんだが今日は違う。もう家でも作業をしないと旅行に間に合わない。そうしてとうとう仕事を家に持ち帰る始末……あぁ。また一歩社畜に近付いてしまった……

小町「あ、お兄ちゃんがリビングでパソコンいじってる。ネットサーフィン?」

小町は質問しながら冷蔵庫をごそごそしている。チラッと見たがどうやら風呂上がりの恰好だったから、何か冷たい飲み物を探しているらしい。

八幡「ちげぇよ。仕事だ」

小町「し、仕事?お兄ちゃんが家で仕事?明日は槍でも降るのかな。鎧着なきゃ」

八幡「おい。珍しい光景なのはわかるがそこまでではない。せめて飴が降るとかにしとけ」

小町「そのツッコミ、文字だからこそできるやつだよね。でお兄ちゃん。なんで仕事してるの」

八幡「今度神樹ヶ峰で修学旅行に行くんだが、それまでに提出しなきゃいけない資料を作らされてるの」

小町「へー、どこ行くの?」

八幡「沖縄」

小町「沖縄!?」

小町が沖縄という単語に食いついた。小町は目を輝かせながら、飲み物とアイスを持って俺の隣に座る。

小町「いいなぁ。小町も沖縄行きた~い!あ。これしおり?見てもいい?」

そう言って小町は例の分厚いしおりを手に取ってパラパラ読み始める。

八幡「俺の返事聞けよ。なんで質問したんだよ」

お前は「あー、タバコ吸ってもいい?」って聞いてくる喫煙者か。あいつら、承諾されること前提で聞いてくるからな。それでいて、こっちが拒否したら物凄い嫌そうな顔つきになるんだよなぁ。そしてその後、露骨に雑な対応しかしなくなるまでがお約束。マジであの時の店長許さん。拒否したからってバイトの面接速攻で終わらせて不採用にしやがって。

小町「まぁまぁいいじゃない。減るもんじゃないし」

八幡「まぁそうだけどよ……」

これ以上話してもろくな会話にならないから、俺は作業に戻る。しばらくしおりを読んだ後、小町はメモ用紙を取ってきて何か書きだした。

小町「はい。お兄ちゃん!」

渡されたのはさっき小町が何か書いてたメモ用紙。開いてみると『小町の欲しい沖縄お土産リスト』の文字。

八幡「ナニコレ」

小町「はーい。ではただいまから小町の欲しい沖縄お土産の発表でーす!はい。お兄ちゃん読み上げて」

小町がメモを指さしてくる。いや、もうお前が言えよ。なんで俺が言わなきゃいけないんだよ。

八幡「三位。ちんすこう」

小町「学校の人にも配りたいから多めによろしくです!では次!」

八幡「二位。シーサーの置物」

小町「縁起がいいからね!シーサーの御利益で高校受験でも『ワンチャン』スを掴み取る!」

八幡「すごいわかりにくいし、狛犬とごちゃ混ぜになってるぞ。なんならシーサーは犬ですらない。獅子、ライオンだ」

小町「そ、それくらい知ってるし?ちょっとしたアニマルジョークだよアニマルジョーク。ほら続き続き!」

八幡「……一位は小町直々に発表します」

俺がメモを読み上げると、おほんと小町は一つ咳ばらいをして話し出す。

小町「小町が一番欲しいのは、『お兄ちゃんと星守さんたちとのひと夏のアバンギャルド』だよ!キャー!」

自分で言って自分で照れてれば世話ないわ。もうダメだこの子。受験勉強のしすぎで頭がおかしくなったのかしら。

八幡「小町。正しくはアバンチュールだ。それに俺はひと夏の恋などしない。なんせ俺は引率の教師として行くだけだし」

小町「そんなのわかんないじゃーん。むしろ、先生と生徒の禁断の恋っていうシチュエーションのほうが燃えるかもよ」

八幡「やめろ。中には現役女子高生アイドルもいるんだ。あらぬ疑惑をかけられただけで、俺は燃えるどころか大炎上してしまう」

小町「まぁお兄ちゃんのことだし、そんなことは絶対ないと思うけど、それくらい楽しんできてほしいって小町は思ってるの。あ、今の小町的にポイント高い!」

八幡「はいはい、高い高い。でも小町も俺の心配より自分の心配した方がいいぞ?英語と歴史なんて特に」

小町「そうやって妹の弱点を指摘するの、小町的にポイント低いかも……」

不満を言いつつ、小町はまたしおりをパラパラめくって「いいなぁ」を連呼する。まぁ、待ちぼうけを食らう可愛い妹のために、沖縄では美味しいちんすこうと御利益のあるシーサー探しを頑張りますか。星守たちとは、まぁ、いつも通り接してればいいだろ。多分。


409 ◆JZBU1pVAAI2017/07/21(金) 01:24:52.346Z6IIi3h0 (2/2)

なかなか沖縄行けない……高2組は人数も多く、修学旅行で遊ぶシーンも書きたいんでこれまでの本編より長くなるかもです。
あと、小町が予想外にアホの子になってしまった。ここまでアホにするつもりじゃなかったのに……


410以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/21(金) 15:08:57.38g1xC5UF/o (1/1)

乙です


411以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/21(金) 17:06:56.46W5Q1kzQh0 (1/1)

人数多いしええんとちゃう?
八幡は同年代と喋ってる時が一番生き生きしてると思うよ


412 ◆JZBU1pVAAI2017/07/22(土) 19:37:19.68OoSZuS2Z0 (1/2)

本編5-5

いよいよ修学旅行当日。飛行機に乗るため俺は早朝から羽田空港へ向かう。しかし、羽田空港を東京国際空港と呼ぶのはいいとして、千葉県にある成田空港を新東京国際空港と呼ぶのはどういう理屈なんだろうか。東京ディスティニーランドといい、東京ドイツ村といい、千葉は東京の名を使いすぎじゃない?これはあれだ。もう日本の首都が千葉だというkとの証明なのだ。キャピタルオブジャパンイズチバ。なにこれちょっとカッコいい。

こんなしょうもないことを考えていたら空港に到着した。空港は駅とは勝手が違うらしい(小町談)ので、しおりに書いてある集合時間よりもだいぶ早く着いてしまった。暇だし空港内を少し見て回るか。外を見れば快晴。旅立ちには最高の天気やね!あ、枕忘れた!でも冷静に考えて飛行機には2時間半しか乗らないし、正直普通に邪魔。

そうして1人Wonderful Rush状態で空港をブラブラ歩いていると突然背中に何か細くて硬いものを押し付けられた。

「振り向かないでください。振り向いたら撃ちます。まずは近くの本屋へ行きなさい」

現状に理解が追いつかず、頭が真っ白になる。ここで俺死ぬの?うっすい人生だったなあ……葬式には戸塚来てくれるかなぁ。来てくれなかったら成仏できずに戸塚だけに見える霊「はちま」になる。もしくは胸に孔が開いて虚になる。

「早く歩きなさい」

なんだか聞いたことのある声にせかされ俺は歩き出した。

八幡「……はい」

数分歩いて本屋に着いた。

「では雑誌コーナーにある花音ちゃんが表紙の雑誌を4冊買ってきなさい」

……なんだか命令がおかしい気がする。それに今こいつ「花音ちゃん」って言ったか?

八幡「それらはなんのために使うんだ国枝」

詩穂「もちろん、鑑賞用、保存用、布教用、使う用です」

急にアホらしくなって俺は背中の感触を無視して振り返った。そこには俺の予想通り、ペンを持った国枝が立っていた。

詩穂「あら先生。おはようございます」

八幡「おはようございます、じゃねぇよ。朝から何してんだお前」

詩穂「ちょっとした遊びです。昨日読んだ推理小説の中で、犯人が名探偵を殺そうとして拳銃を背中に突き立てたシーンがあったんです。驚きましたか?」

国枝はイタズラっぽく笑って顔を近づけて来る。やめて。その笑顔はまさしく殺人級だよ。

八幡「別に驚かねぇよ。流石に非現実的すぎる」

詩穂「あら、事実は小説よりも奇なりとも言うじゃないですか。現実では小説以上にいろんなことが起きるものですよ。もしかしたらこの修学旅行の間にも何か起きるかも」

八幡「勘弁してくれ。俺はなんのトラブルもなくこの修学旅行を終えたいんだ。そもそも修学旅行自体が非日常的イベントなんだし、これ以上は俺の手に負えなくなる」

詩穂「うふふ。さあ。そろそろ集合時間ですね。遅刻したら花音ちゃんと火向井さんに怒られちゃいますよ」

八幡「だな。行くか」

---------------------------------

集合場所に行くと、すでに4人が集まって談笑していた。天野がいち早く俺たちに気づき、手を振っている。

望「お。先生!詩穂!おはよ!」

ゆり「みんな時間までに集まったな!」

くるみ「いよいよ出発ね」

詩穂「おはようございますみなさん。花音ちゃん。出発前にあのことを言っといたほうがいいんじゃない?」

花音「そうね。みんなちょっといいかしら」

煌上と国枝が俺たちの前に立つ。煌上はビデオカメラを取り出しながら話し出す。

花音「今、私たちはあるドキュメント番組の密着取材を受けているの。それで今回の修学旅行も取材したいってお願いされたんだけど、流石にプライベートだからって番組の人が同行するのは断ったわ」

詩穂「でも一応この旅行は事務所が私たちのお金も出してくれてるから、完全に断るのは出来なかったの」

花音「そこで私たちが自分たちで映像を撮るってことで妥協したの。だからこの修学旅行中みんなをカメラで撮って、もしかしたらその映像を放送に使うかもしれないけどいいかしら?」

望「もちろん大丈夫!むしろいい映像撮れるように協力するよ!」

くるみ「そうね。せっかくならいい映像撮りたいものね」

ゆり「……間違ってもくるみはビデオカメラには触らない方がいいぞ」

花音「みんなありがとう。じゃ、これよろしく」

そう言って煌上は俺にカメラを渡してきた。

八幡「……もしかしなくても俺が撮影係?」

花音「当然よ。そのためにあんたを呼んだのよ。もしあんたの目が映ったら放送事故扱いで使えなくなるし」

ですよねー。でも俺の目が放送事故レベルに腐ってるのは否定したい。せめてモザイクかければ映れるレベルだと自負してる。そして円盤では無修正でお届け!さらにオーディオコメンタリーも付けちゃう!


413 ◆JZBU1pVAAI2017/07/22(土) 19:39:02.06OoSZuS2Z0 (2/2)

>>412は本編5-6でした。


414 ◆JZBU1pVAAI2017/07/24(月) 22:18:31.07Kc6EheuQO (1/1)

理事長が今日誕生日だというのをさっき知りました。
今日中にSSを投稿するのは厳しいので明日か明後日には投稿します。
ひとまず牡丹理事長。お誕生日おめでとうございます!



415以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/25(火) 07:14:22.24AAob7kZlo (1/1)

乙です


416以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/25(火) 10:39:23.63hniD30GzO (1/1)

何歳になったんですかねぇ…


417以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/25(火) 14:46:42.63q0k1esct0 (1/3)

水着シーンお願いします



418以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/25(火) 14:47:50.50q0k1esct0 (2/3)

水着回お願いします




419 ◆JZBU1pVAAI2017/07/25(火) 14:59:02.58Y6V0l6zS0 (1/11)

番外編「牡丹の誕生日前編」


梅雨が明け、セミの声が響き始めた。今年も暑い夏がやってくる。いっそ夏はさっさと通り過ぎて早く秋になってほしい。暑いの嫌い。でも夏に薄着になる女の子を見るのは嫌いではない、どうも俺です。

そんな夏の厳しい日差しが差し込む放課後。ラボに荷物を運んだ帰り道に校舎の外を歩いていると、1人で神樹の前に佇んでいる理事長を発見した。

独特のオーラというか、雰囲気というか、理事長の存在感は変わった人が多いこの学校内でも際立っている。現に俺がすぐ見つけられるくらいの存在感だし。

背後からの視線に気づいたのか、理事長は振り向いて俺に声をかける。

牡丹「あら比企谷くん。こんにちは」

八幡「どうも。そんなとこで何してるんですか?」

理事長はにっこり笑いながら返答する。

牡丹「神樹の声に耳を傾けていたんです」

八幡「神樹の声?」

理事長も常磐と一緒で植物の声が聞こえる能力者だったのか。あれ、でも同じ能力の実って存在しないはずでは?設定が歪んでますよ尾田先生!

牡丹「私は大地の巫女として神樹を守る役割を務めていて、そのおかげで神樹からの声を聞くことができるんです。くるみのようにすべての植物の声が聞こえるわけではないですけど」

また聞いたことのないような役職が出てきましたねえ。バトルマンガでよくある後付け設定かよ。で、中盤まではこういう後付け設定のバーゲンセールをしておきながら、結局風呂敷を広げたまま連載が終了していく事例が多数。もはやこの展開こそバトルマンガの王道、と言っても過言ではない。

八幡「なんだか大変そうなお仕事ですね」

牡丹「大変とは感じないけれど、特別な力が必要ですからね。その点では一般の人にはできない仕事と言えますね」

そこで理事長は何かを思いついたように手をポンと叩いた。

牡丹「そうだ。外は暑いですし、せっかくなら理事長室で涼んでいきませんか?」

確かにここは結構暑い。だけどわざわざ涼みに行くほどのことでもない。というか早く帰ればいいだけの話だし。

牡丹「それに、作りすぎて余ったおはぎもあるんです。是非比企谷先生にも召し上がってもらいたいんです」

躊躇している俺に対し理事長はさらに畳みかけてくる。……ま、おはぎを少しもらうくらいならいいか。

八幡「では、お言葉に甘えて」

牡丹「ふふっ。では行きましょうか」

俺は理事長に従って歩き出した。

---------------------------------

牡丹「どうぞソファに適当にかけてください。今お茶とおはぎを持ってきますね」

八幡「は、はい。ありがとうございます」

もう何回か訪れてはいるものの、やはりこの部屋には慣れない。居心地が悪いってわけではないが、なんだかこの空間だけ他の場所とは隔絶している印象を受ける。それが部屋の調度品のせいなのか、理事長自身の雰囲気のせいなのかはわからないが。

牡丹「お待たせしました。どうぞ」

そう言って理事長から渡された皿には、どこか高級店の商品だと勘違いしそうなくらい綺麗なおはぎが乗っていた。

八幡「これを理事長が作ったんですか?すごいですね」

牡丹「おはぎを作るのが趣味なんです。味にも自信があるのでどうぞ食べてみてください」

八幡「はい。いただきます」

俺はつぶあんおはぎを1つ口に入れてみる。

うわっ、え。めっちゃうまいんですけど。表面のつぶあんと、なかのもちもちのおもちが絶妙にマッチした食感を与えてくれる。それに甘すぎず、でも薄すぎないちょうどいい味付け。これなら何個でも食べられる気がする。

牡丹「いかがですか?」

八幡「とても美味しいです。正直、今まで食べたおはぎの中で一番おいしいです」

牡丹「あら。そう言ってもらえると作ったかいがありますね。他にも様々な種類のおはぎを作ってるんですが、いかがですか?」

八幡「いただきます」

この味を一度知ったらもう止まることはできない。俺はきな粉、黒ゴマ、抹茶、よもぎ、その他理事長オリジナル、と出されたおはぎを次々に食べてしまった。その光景を理事長はペットがえさを食べているのを眺める飼い主のように微笑みながら眺めている。なんだか餌付けされているようだな。うん。悪くない。

八幡「御馳走様でした。本当にどのおはぎも美味しかったです」

牡丹「あら。そこまで褒めてもらえるなら、理事長を辞めておはぎやさんでも開こうかしら」

理事長はくすくす笑いながらそんな冗談を言う。こんなふうに可愛く笑ってはいるが、この人八雲先生たちよりずっと年上なんだよな。一体何歳なんだ……


420 ◆JZBU1pVAAI2017/07/25(火) 15:00:18.85Y6V0l6zS0 (2/11)

番外編「牡丹の誕生日後編」


牡丹「でも、それよりも私はここでの生活の方が面白いですし、充実していますね」

理事長はすこし遠い目をしながらつぶやいた。

八幡「神樹ヶ峰での生活が、ですか?」

牡丹「ええ。生徒のみんなが日々成長し立派な人間となってこの学校を巣立っていく。もちろん、淋しさもありますけど1人1人の成長を間近で見られるというのはやりがいですよね。特に、星守クラスの子にはどうしても目をかけたくなっちゃいますね」

八幡「まぁ、あいつら目を離すとろくなことしませんからね」

牡丹「それもまた面白いじゃないですか。それに、比企谷先生が来てくださってから、星守クラスの子たちはより充実した学校生活を送れていますし」

八幡「そうですか?別にあいつらなら自分たちだけで楽しくワイワイやれそうですけど」

牡丹「もちろんポテンシャル自体は彼女たちにもともと秘められていたと思います。ただ、それを開花させたのは比企谷先生のお力です」

八幡「そんな、俺は別に、」

牡丹「比企谷先生」

俺の反論を遮り、理事長は強い口調で俺の名前を呼んだ。

牡丹「謙遜は美徳です。でも過ぎればそれは醜いものとなり、周囲からの反発も受けるでしょう。特に比企谷先生はご自身の能力を過小に見ておられます。もっと自分を信じてください」

突然の理事長からの言葉に俺は少しの間、言葉が出なかった。

八幡「……ですけど証拠も何もないまま信じるのはできないですよ」

牡丹「あら。すでに証拠はあるじゃないですか。毎日毎日、比企谷先生に向けられる星守たちの笑顔。あれこそが比企谷先生の能力の高さを示す何よりの証拠ですよ」

俺には理事長の言葉に返す答えを持たない。確かに彼女たちは俺の前でいつも楽し気に会話している。たまにはそれに巻き込まれもする。だけど、それは果たして理事長が言うように俺のおかげなのだろうか。本当に俺は何もしていない。なんなら足を引っ張っている。空腹な人に魚を与えるどころか、魚の獲り方すらまともに教えられないのに。

牡丹「だから私、少し嫉妬しているんです。何年も星守と関わっている私よりも、短時間で容易に彼女たちを笑顔にしていく比企谷先生に」

八幡「理事長……」

牡丹「でも同時に、その何百倍も感謝しているんです。命がけで戦う彼女たちをこれ以上ないくらいの笑顔にしてくれているんですから」

理事長は見た目のかわいらしさからは想像がつかないほどまっすぐに俺を見ながら、真剣な口調で語り続ける。それに気おされてまったく身動き一つとれない。さながら覇王色の覇気を受けているみたいだ。

八幡「……」

牡丹「今日はこのことが言いたくて比企谷先生をお呼びしたんです。比企谷先生の周りには常に星守の誰かがいるのでなかなか言えなかったんですよ。比企谷先生はモテますから」

理事長はそれまでとは打って変わって朗らかな口調になる。そこで俺もようやく口が開くようになった。

八幡「あいつらはただ単純に俺をからかって遊んでるんだけです。むしろ積極的に話しかけてください。そして俺を助けてください」

理事長「あら、なら今度からは私もみんなと一緒に比企谷先生をからかおうかしら」

八幡「ははは。勘弁してください。あいつらがさらにつけあがるだけですから」

理事長「ふふっ。それもそうですね」

俺と理事長はお互いにクスクス笑いあった。

気づけば窓から夕日が差し込んでいる。夏は日が長いから油断しがちだが、けっこうな時間をここで過ごしてしまったのだろう。明日もあるし、そろそろ帰るとしよう。

八幡「すいません、そろそろ俺は帰ります。長い時間ありがとうございました」

牡丹「いえ、私も楽しかったですよ。おかげさまでいい誕生日を過ごさせてもらいました」

八幡「え。理事長今日誕生日だったんですか?」

牡丹「ええ。言ってなかったかしら」

八幡「初耳です……」

なんなら誕生日があることに驚いてる。この人が子どもの時とか想像つかない。いや、けっして見た目が子どもだから、とかではない。理事長ってなんかこの姿のままずっとこの世に存在している感じがする。神ですら神話では両親とか出てくるし、もはや神を超えた存在として俺は理事長を認識していた。

つーかこの人マジで何歳なんだよ。誕生日がくるってことは毎年1つは年を取ってるんだよな。取ってるんだよね?

牡丹「あら、比企谷先生。もしかして私の年齢のこと考えてますか?」

八幡「へ、いえ、別にそんなことはまったくちっともこれっぽっちも考えてないですよ?」

理事長のペガサス並みのマインドスキャンに対し、俺はしどろもどろに返事をしてしまった、助けて、もう一人の僕!

牡丹「そうですか。命を粗末にしない、いい心がけですね」

この世には触れてはいけないものが存在する。その最たるものが何なのか。微笑を浮かべる理事長を見て今日俺は痛切に実感した。


421 ◆JZBU1pVAAI2017/07/25(火) 15:04:04.53Y6V0l6zS0 (3/11)

以上で番外編「牡丹の誕生日」終了です。1日遅れてしまってごめんなさい理事長。


422 ◆JZBU1pVAAI2017/07/25(火) 16:07:24.68Y6V0l6zS0 (4/11)

番外編「総武高校の星守たち①」


放課後、俺は特別棟の四階にある奉仕部の部室を目指していた。本心を言えば1ミリたりとも行きたくはないのだが、行かないと物凄く罵倒してくる雪女のように冷酷な部長だったり、犬のように寂しがる見た目はリア充だが頭はアホな部員だったり、毎度毎度訳のわからん依頼をしてくる生徒会長のあざとい後輩だったりがいるために行かざるを得ない。そういえば最後のは部員でもなんでもないじゃん。まぁ行ったところで大体は本を読むだけの活動しかしないのだが。

八幡「うす」

ドアを開けるといつもの席に3人が座っていた。

結衣「あ、ヒッキー!やっはろー!」

雪乃「こんにちは比企谷くん」

いろは「先輩おっそーい」

八幡「なんで一色いるの」

いろは「なんでって、今日は特訓の日じゃないですか。逆に私いなくていいんですか?」

一色が頬を膨らませながら文句を言う。はいはいあざといあざとい。そしてそんな一色に雪ノ下が本を読みながら話しかける。

雪乃「その男に何を言っても無駄よ一色さん。ろくに人と会話しないから、人の発する周波数を感知できなくなってるのよ。超音波を使わないと」

八幡「俺はイルカか。それなら鴨川シーワールドでショーしないといけなくなっちゃうんだけど」

雪乃「あら。なら比企谷くんはイルカ未満かしら。運動能力もたいしたことないし、それ以前に人を笑顔にする仕事なんて絶対にできないもの」

そう言う雪ノ下は満面の笑みを浮かべて生き生きしてる。それこそ水を得た魚のように。

結衣「まぁまぁゆきのん、そのくらいで……」

雪乃「そうね。そろそろ特訓に行かないと」

静「残念だが、今日は特訓はナシだ」

ドアを勢いよくあけて平塚先生が入ってきた。

雪乃「平塚先生、ですからノックを」

静「悪い悪い。でもイロウスが現れたんだ。もたもたしてる暇はない。お前たち。今すぐ殲滅に行ってこい」

雪乃「わかりました。どこに向かえばいいですか?」

雪ノ下が平塚先生から情報収集をする隣で、由比ヶ浜もふんふんそれを聞いている。

八幡「由比ヶ浜。お前、話聞いてもわからんだろ。じっとしてろ」

俺に注意されたのが不服だったのかぷんすかしながら由比ヶ浜が反論してきた。

結衣「そ、そんなことはないもん!ちょっとくらいはわかるし!よーし。これまでの特訓の成果を発揮してイロウス討伐頑張るぞー!」

いろは「結衣先輩張り切ってますねー。私は正直めんどくさいんですけど」

逆に一色はヤル気なさそうに正直すぎる感想を言う。うん。めんどくさいってとこには俺も共感するぞ一色。

八幡「でもお前そう言いながらいつもけっこう倒してるじゃん」

いろは「え、なんですか急に。はっ、もしかして今口説こうとしてましたかごめんなさい普段から見てもらえてるってわかってちょっと嬉しいですけどもう少し雰囲気のいい時に言ってもらえますかごめんなさい」

毎回よくこんなに一気にまくしたてられるよな。ある意味すごい。もう断られすぎてこんな境地に至ってしまったどうも俺です。

雪乃「何をぐずぐず言ってるの。早く行くわよ」

メモを持った雪ノ下が俺たちに声をかける。

いろは「は、はい!」

結衣「おー!」

八幡「はいはい」

こうして俺たちはイロウスが現れた現場まで急行した。


423 ◆JZBU1pVAAI2017/07/25(火) 16:08:10.15Y6V0l6zS0 (5/11)

番外編「総武高校の星守たち②」


八幡「ここか」

雪乃「えぇ」

着いたのは海岸の工場。いかにもバトルで出てきそうな感じのところ。仮面ライダーとか戦隊シリーズがよく戦うとこ的な。

いろは「この瘴気の色。いつ見ても気味悪いですねー」

結衣「だねー。そういえば瘴気が紫色なのってイロウスがブドウみたいな紫色の食べ物ばかり食べてるからかな?」

由比ヶ浜のアホ全開の発言に雪ノ下が恐る恐る口を開く。

雪乃「由比ヶ浜さん。冗談で言ってるのは百も承知で一応言っておくと、別に食べ物の色と瘴気の色は関係ないと思うわ……」

結衣「わ、わかってるよゆきのん!そんなかわいそうなものを見る目であたしを見ないで~!」

八幡「おいお前ら。来たぞ」

前方の道に小型イロウスの群れが現れ、こっちに向かってきた。

雪乃「由比ヶ浜さん、一色さん。変身よ」

結衣「うん!」

いろは「了解でーす」

雪ノ下の声に合わせ、3人が星衣フローラの姿に変身する。雪ノ下は白を、由比ヶ浜はオレンジを、一色はピンクを基調とした星衣だ。

雪ノ下「2人とも準備はいい?」

結衣「いつでもOK!」

いろは「大丈夫でーす」

雪乃「では突撃開始」

雪ノ下を先頭に3人は一斉にイロウスに向かって突っ込んでいった。

雪乃「はっ」

結衣「やぁー!」

いろは「せい!」

みるみるうちに、道にいた小型イロウスは全滅した。

結衣「ふぅ。とりあえず近くのイロウスは倒せたね!」

いろは「あんまり手ごたえ無かったですねー」

雪乃「2人とも油断しないで。まだどこかに大型イロウスがいるはずよ」

3人が俺のところへ戻ってくる。ここで俺はいつも抱いていた疑問がふっと口から出た。

八幡「なぁ。ずっと思ってたんだけど、星守でもない俺がここに来る意味なくね?」

すると3人の表情が不満げなものに変わった。なんだよ。俺変なこと言ったか?

雪乃「比企谷君、あなたはこの2人の面倒を私1人で見ろとでも言いたいの?さすがの私でも戦いながら2人のフォローをするのはかなり厳しいのだけれど」

結衣「あたしはヒッキーに直接見てもらいながら戦いたいの!」

いろは「先輩がいないと、結衣先輩と雪ノ下先輩だけになっちゃうじゃないですか。そしたら緩衝材が、じゃなかった、場をとりなしてくれる人がいなくなって大変なんですよ~」

3人ともが勝手な言い分を持ち出して俺に反論してきた。こうなったら勝ち目がないので俺はすぐ白旗を挙げる。

八幡「わかったわかった。俺が悪かった。だからこの話はもう終わりにしよう」

雪乃「わかればいいわ」

いろは「ほんと。いきなり何言いだすんですか先輩」

結衣「ヒッキーってそういうとこは鈍感だよね」

八幡「……うっせ。ほら。さっさと大型イロウス探しに行くぞ」


424 ◆JZBU1pVAAI2017/07/25(火) 16:08:49.58Y6V0l6zS0 (6/11)

番外編「総武高校の星守たち③」

結衣「あ!いた!」

探し始めてからほどなくして由比ヶ浜が大型イロウスを発見した。

いろは「あれはクィン種ですね」

雪乃「そうね。由比ヶ浜さん、一色さん。武器をガンに切り替えて」

結衣「あたしガン苦手なんだよねえ。リロードするのにいつも手間取っちゃって」

いろは「ああ。結衣先輩、オートリロードのスキル持ってないですもんね」

結衣「そうなんだよ~。だからずっと撃ち続けられるいろはちゃんが羨ましい!」

雪乃「はぁ。いつも言ってるじゃない由比ヶ浜さん。リロードは緊急回避中に右手でガンを持ち、左手で、」

結衣「う、うぅ……」

八幡「そのへんにしとけ雪ノ下。由比ヶ浜の頭はもうパンク寸前だ。とりあえず目の前のイロウスを倒してからじっくり教えてやれ」

雪乃「そ、そうね。由比ヶ浜さん、一色さん、行くわよ」

ガンガン行こうぜ!という作戦でも設定してるのか、3人ともガンをガンガン打ち続ける。イロウスもガンガン倒れていく。

雪乃「電撃来るわよ。みんな避けて」

雪ノ下の前方のイロウスが攻撃態勢に移ったのか、雪ノ下が俺たちに注意を促す。

結衣「あ。弾切れだ。リロードリロード」

しかし、轟音が響く中、雪ノ下の背中側にいた由比ヶ浜にはその声が通っていないようだ。

八幡「おい由比ヶ浜!イロウスの攻撃が来るぞ!」

結衣「ふえ?」

由比ヶ浜は俺の声には気づいたようだが、イロウスの攻撃には気づいていない。俺は思わず走り出した。

雪乃「比企谷君!由比ヶ浜さん!」

八幡「くそっ!」

俺は由比ヶ浜の身体を抱き、自分もろともたたきつけるように地面に倒した。その直後イロウスの電撃が俺たちの上空を通過した。

結衣「ヒ、ヒッキー。ありがとう……」

由比ヶ浜が顔を赤らめながら小声でつぶやく。

八幡「……もっと周りに気を配っとけ」

結衣「う、うん」

改めて間近で見ると、星衣ってやっぱりエッチだよね。身体のラインがはっきりわかるデザイン。肩とか脇腹とか背中とか際どいを覆ってるのが黒いスケスケの布地。極め付けは短ーいスカトとハイソックスの間に光り輝く絶対領域。星衣作った人って何者?

だけどそれ以上に今は、胸に押しつけられてる2つのあったかくて柔らかな爆弾の感触にドキドキする。やべ。どうしよ。すぐに離せばよかったのに、今は逆にいつ離せばいいのかわからない。

雪乃「周りに気を配るのはあなたもよ比企谷君。いつまで由比ヶ浜さんのことを抱きしめてるのかしら?強制性交等罪で訴えられたいの?」

ぞっとするような冷たい声を頭の上から浴びせられたと思ったら、いつの間にか雪ノ下が俺たちのすぐそばに来ていた。俺は由比ヶ浜から離れて立ち上がりながら反論する。

八幡「どう見ても俺が由比ヶ浜を助けたところだろうが」

雪乃「あら。この前法律が変わって被害者の告訴が無くても訴えを起こすことが可能になったのよ。だから私が証言すれば比企谷君も立派な性犯罪者に、」

いろは「雪ノ下先輩。少し落ち着いてください……」

おお。流石いろはす。氷の女王から俺のことを助けてくれるのか。

いろは「先輩が犯罪者に見えるのはわかりますが、今そんなことをしても私たちに何もメリットがありません。どうせなら私たちにたっぷり慰謝料が入るように工作しましょう」

助けてくれませんでした。なんならもっとひどい提案を出してきやがった。

八幡「いい加減にしろ一色。そして雪ノ下も真剣に悩むな。即刻却下しろ」

雪乃「そう?割といいアイデアだと思わないかしら?刑務所で何年か過ごせば比企谷君の性格も更生できると思うわ」

八幡「そんな更生の仕方は絶対嫌だ……」

結衣「もう。2人ともいつまで話してるの?早くイロウス倒そ!」

雪乃「誰のせいでこうなったと思って……まぁいいわ。行きましょうか」


425 ◆JZBU1pVAAI2017/07/25(火) 16:09:20.69Y6V0l6zS0 (7/11)

番外編「総武高校の星守たち④」


大型のラプター種が5.6匹は飛んでいる。これは倒すの時間かかりそうだな。

八幡「雪ノ下。この数を相手にするなら少し対策を練ったほうがいいんじゃないのか?」

雪乃「そうね。由比ヶ浜さん、一色さん、一旦こっちに、」

結衣「いくぞー!」

いろは「ま、待ってください結衣先輩ー!」

雪ノ下の声は届かず、由比ヶ浜と一色はイロウスの群れに突っ込んでいった。が、イロウスの放つ電撃やら竜巻やらでロクな攻撃もできるはずがなく、すごすごと帰ってきた。

結衣「うぅ、避けるので精一杯だったよお……」

八幡「策もなく突っ込むのが悪い」

いろは「じゃあ先輩たちは何か戦術を考えついたんですか?」

雪乃「もちろん」

一色の発言を挑発だと捉えたのか、雪ノ下はまくしたてるように作戦の概要を伝えだした。

雪乃「まずは一色さんが私と由比ヶ浜さんにスキル強化をかける。次に由比ヶ浜さんがスキルで攻撃する。それでも倒せなかったら私がさらにスキルで攻撃する。こんな感じかしら。」

いろは「成程。わかりました」

結衣「頑張ろうね、ゆきのん!いろはちゃん!」

雪乃「えぇ。ではまず一色さん。お願い」

いろは「はい。『ハートフルガイザー』!」

一色の地中から湧き出た温泉が雪ノ下と由比ヶ浜を包む。

結衣「ありがとういろはちゃん!いくよ!『クリスティ・ナタリス』!」

由比ヶ浜のガンから星型の光が次々に放たれる。イロウスにはかなり効いているようだが、全滅にまでは至らない。

結衣「ゆきのんごめん!倒しきれなかった!」

雪乃「構わないわ。むしろよく倒してくれたほうよ」

雪ノ下が微笑みながら由比ヶ浜を労う。

雪乃「後は任せて。『ピュアハート・ブーケ』!」

雪ノ下の持つガンがブーケに変わる。さらに雪ノ下は素早い動きでイロウスに接近しつつ、上空にブーケを放り投げる。それが落ちてくるにしたがって巨大化し、イロウスに豪快に衝突する。

少しして、爆煙の中から雪ノ下が出てきた。

雪乃「終わったわ」

結衣「お疲れゆきのん!」

由比ヶ浜は雪ノ下に走りより思いっきり抱きつく。

いろは「いつ見てもすごい威力ですね~」

雪乃「由比ヶ浜さん、離れて……ま、まぁ2人のスキルのおかげで威力も向上したし、2人にも感謝してるわ」

必殺技、雪ノ下のデレに由比ヶ浜は一瞬で堕ちたようだ。さらに強く雪ノ下を抱きしめる。

結衣「ゆきのん~」

雪乃「由比ヶ浜さん、痛い……」

これ以上目の前でゆりゆりした光景を見せられても困るし、そろそろ家に帰りたいなあ。それに一色も手持ち無沙汰そうだ。

八幡「そろそろ学校に戻るか」

結衣「うん!あ、そうだゆきのん。戻ったら少し部室でお茶しようよ。いろはちゃんも一緒にどう?」

いろは「はい!ぜひぜひ!」

雪乃「私、戦闘で疲れたのだけれど……」

結衣「なら部室で休憩するってことで!ね?いろはちゃんも来たいって言ってるし」

雪乃「はぁ。わかったわ」

ちょっと雪ノ下さん。相変わらずあなた由比ヶ浜さんに甘すぎますよ。いつもの俺への冷酷さはどこ行っちゃったんですか?


426 ◆JZBU1pVAAI2017/07/25(火) 16:09:56.85Y6V0l6zS0 (8/11)

番外編「総武高校の星守たち⑤」


戦闘終了を平塚先生に報告し、俺たちはまた奉仕部の部室に戻ってきた。雪ノ下は手早く人数分の紅茶とお菓子の準備を終える。

雪乃「さて、では簡単に今日の反省をしましょうか」

いろは「今回はラプター種が多かったですからねー。電撃を避けながら攻撃するのは大変でした」

雪乃「そうね。これからは遠距離攻撃を避けながら反撃する特訓も加えましょうか」

結衣「でもあんなにたくさんのラプンツェル?見たの初めてだった!」

何言ってんだこいつ。塔の上のお姫様が何人もいたらおかしいだろ。

八幡「ラプターな。それと由比ヶ浜はまず自分だけで突っ込むアホさを直すべきだな」

結衣「言い方ひどくない!?ま、まぁ確かにあたしが勝手に行動したのは悪かったと思う。だから、」

しょげながら由比ヶ浜は俺の方に椅子ごと近付いてきて頭を差し出す。

結衣「あ、あたしが次から失敗しないように頭なでて?ヒッキー」

この由比ヶ浜の行動に雪ノ下と一色がすぐさま立ち上がる。

雪乃「待ちなさい由比ヶ浜さん。まずは褒賞として戦果をあげた人からなでられるべきだと思うのだけれど」

いろは「お二人とも。ここは後輩に譲るべきじゃないですか?1人だけ年下っていう環境で私も頑張ってるんですから!」

そう、毎回毎回戦闘後はこうやって『なでなで』の順番で3人は言い争いを始める。由比ヶ浜はともかく雪ノ下や一色が真剣なのは未だ謎だ。俺は頭をなでたくはないと前に拒否したのだが、3人に武器を突き付けられて以来、素直に従うことにしている。

結局じゃんけんをして順番が決まったらしく、小さくガッツポーズをした雪ノ下が俺の近くに座った。

雪乃「さ、早くなでて頂戴」

八幡「はいはい」

俺は雪ノ下の小さな頭をなで始めた。このサラサラツヤツヤな黒髪の感触は何回なでても慣れない。でも、何回でもなでたくなる手触りをしている。

雪乃「ひ、比企谷君。もう少し強くなでてもらってもいいかしら」

八幡「ん」

雪ノ下は両手で強めになでられるのが好みみたいで、よくこういう注文をしてくる。カマクラの腹をワシワシするような感じでなでると、

雪乃「ふふ……」

こうして小さく満足げな声を出す。

結衣「はいゆきのん交代だよ!さ。ヒッキー!お願い」

まだ物足りなさそうな顔の雪ノ下をおしのけ由比ヶ浜が頭を差し出してきた。由比ヶ浜の茶色の髪からはいつもシャンプーのいい匂いが漂ってくる。多分けっこういいの使ってるんだろうな。

八幡「こうか?」

結衣「うん。できればもう少しゆっくりと全体的になでてほしい」

由比ヶ浜は雪ノ下とは対照的にゆっくりとなでられるのがいいらしい。俺は手のひらを大きく開いて、全体で由比ヶ浜の頭頂部だけでなく、後頭部もなでる。

結衣「やっぱりヒッキーは頭なでる才能あるよ!あたしが保証する!」

いろは「なら今度は私がその才能を享受する番ですね!」

今度は一色が由比ヶ浜をどかして俺の目の前の椅子に座る。

いろは「さ、先輩。待たせたぶん、後輩の頭をきちんとなでてくださいね」

八幡「へいへい」

一色は俺の返事を聞くと顔をずいっと近づけてきた。その顔を見ながら俺は頭をなで始める。はじめの頃は一色も頭を差し出していたんだが、最近は俺の顔を見ながらじゃないと嫌だと言うから、俺は一色の顔を間近で見ながら頭をなでる。

いろは「先輩、いつまでたってもなでなでするとき顔赤いですよね。見てて面白いです」

八幡「うるせ。そうそう慣れるもんじゃねえよ」

いろは「でも、だからこそ先輩になでてもらってると安心します」

雪乃「一色さん、そろそろ終わりよ。生徒会長のあなたが下校時間を守らないのはどうかと思うのだけれど」

いろは「あ、なら生徒会長と生徒会長が認めた人は下校時間を無視できる校則を作ります!」

結衣「それって職権乱用じゃない!?」

3人は大声であーだこーだ言い合っている。さっきまでイロウス相手に勇敢に戦っていたやつらとはまるで思えない。ま、これも含めて総武高校の星守の特徴って言えばそれまでなんだけど。


427 ◆JZBU1pVAAI2017/07/25(火) 16:16:31.45Y6V0l6zS0 (9/11)

以上で番外編「総武高校の星守たち」終了です。たまにはゆきのんたちの出番を与えたくて書きました。中の人つながりで、雪乃の星衣はくるみ、結衣の星衣は望、いろはの星衣は昴の色違いくらいに考えてます。
この番外編は本編とは全くつながりのないパラレルワールドです。本編中のゆきのんたちは普通の女子高生です。



428 ◆JZBU1pVAAI2017/07/25(火) 16:22:00.00Y6V0l6zS0 (10/11)

今思うと、雪乃と結衣のなでられ方の好みはキャラ的に逆の方がよかったかも。>


429 ◆JZBU1pVAAI2017/07/25(火) 16:25:12.16Y6V0l6zS0 (11/11)

>>428の続き。
>>1は自分の髪がぼさぼさになるよりも、なでられる嬉しさを実感しているというところに雪乃のかわいらしさが出るかなと思ったんです。みなさんそんなゆきのんを想像して読んでください。


430以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/25(火) 19:21:42.47jDRS2XNY0 (1/1)

乙です

久々に俺ガイルキャラ達の掛け合い見てると奉仕部の面々の掛け合いが楽しいわ
バトガのキャラ達は毒が少し足りなくて物足りなくなるんだよな…


431以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/25(火) 22:55:36.95q0k1esct0 (3/3)

水着回お願いします




432 ◆JZBU1pVAAI2017/07/27(木) 00:07:34.22KQfopEJA0 (1/3)

本編5-7


はいさーい!自分、比企谷八幡だぞ!

来た。来てしまった。これまで本州を出てこなかった俺が、ついにここ常夏の島沖縄に降り立ったのだ。しかも会社の金で。ま、本州どころか家から出るのすら珍しいんだけど。

望「うーん!ここが沖縄かー!あっついねー!」

ゆり「空港からすでに沖縄の雰囲気が漂っているな!」

くるみ「くんくん。南国の匂いがする」

俺と同じく天野、火向井、常磐も沖縄に着いたことで少しテンションが上がってるらしい。

花音「ほらみんな。電車に乗るわよ。こっちに来て」

詩穂「はーい」

対して煌上と国枝は勝手知った風に空港を歩いていく。なんなら教師役の俺より教師っぽい。

花音「何じろじろ見てるのよヘンタイ」

煌上が目を細めつつきつい言葉を浴びせてきた。

八幡「じろじろは見てねえっつうの。その、なんだ。お前ら2人はあっちの3人と違ってあんまりはしゃいでないなって思って」

詩穂「私たちはお仕事で沖縄にはたびたび来ていますからね。空港内の地図は頭に入ってるんです」

トップアイドルともなれば空港の中を覚えるくらい日本全国を飛び回らなきゃいけないのか。アイドルだけにはなりたくない。それ以前に絶対なれないけど。

花音「そういうこと。あと早くあんたはビデオカメラまわしなさいよ。到着したところも撮っておきたいから」

八幡「はいはい」

俺は羽田空港で渡されたビデオカメラのスイッチを入れる。途端に天野がカメラにピースしながら近付いてきた。

望「イェーイ!沖縄到着!」

花音「くるみとゆりも映りましょ。望だけに画を独占されるわけにはいかないわ」

ゆり「うう。でもこれがテレビに流れるかもしれないと考えるとやはり恥ずかしい……」

詩穂「そこまで深刻に考えなくても大丈夫よ。あくまでメインは私たちの舞台裏を特集する番組ですから、火向井さんが映るとしてもごくわずかな時間だと思うわ」

ゆり「そ、そうか?なら気楽に過ごせるな」

くるみ「でも撮るだけ撮ってテレビで流れないのももったいないですね」

花音「それも心配しないで。この修学旅行で撮った映像は後でみんなに思い出として配ろうと思ってるから」

望「なら余計にいっぱい映っとかなきゃ!みんなとの楽しい思い出いっぱい残したいもんね!」

楽しい思い出、ね。確かにこいつら5人は楽しい修学旅行を過ごせるだろうな。仲のいい5人で沖縄で気兼ねなく遊べるんだから。逆に俺は社員旅行の気分。なんならカメラマンをこなさなきゃいけないあたり、出張と呼んでもいいまである。

ゆり「あ。でもそしたらカメラを回している先生は映像に残らないんじゃないんですか?」

八幡「俺は別に映んなくていい。お前らが映っとけば十分だろ」

くるみ「それはダメだと思います。やっぱり全員で楽しまないと」

望「くるみの言う通り!ほら先生カメラ貸して!」

そう言って天野はカメラを強奪する。そして通行人に声をかけカメラを渡した。どうやらその人に撮ってもらおうという魂胆らしい。

望「さ。これでみんなで映れるね!」

八幡「ここまでしなくていいのに……」

花音「ま、少しくらいなら全員で映るのも悪くないかもね」

くるみ「せっかくだから旅の始まりっぽく、みんなで『沖縄修学旅行スタート』って言ってみたい」

詩穂「あっ、それいいわね。記念にもなりそう」

ゆり「よーし、じゃあみんな先生を中心にして集まろう!」

火向井の声掛けでなぜか俺を中心にして5人が左右から押してくる構図になった。痛い暑い苦しい。それに柔らかい感触といい匂いも混ざって頭がクラクラする。

詩穂「じゃあ花音ちゃん。合図お願い」

花音「わかったわ詩穂。いくわよみんな!せーのっ!」

『沖縄修学旅行スタート!』


433 ◆JZBU1pVAAI2017/07/27(木) 23:28:20.11KQfopEJA0 (2/3)

本編5-8


俺たちは空港からゆいレールなる沖縄唯一のモノレールに乗って最初の目的地、首里城に向かう。

電車に揺られること30分ほど、終点の首里駅に着いた。すでに視界には小高い山と、いくつもの首里城への行きかたを示す看板がある。

花音「さ。ここから山の反対側にある入り口まで歩くわよ」

八幡「へいへい」

俺たちは煌上を先頭に歩いていく。しおりによるとここは首里城公園と言って、沖縄の歴史も自然も堪能できる空間になってるらしい。

ゆり「す、すごいな!これが世界遺産の首里城か!」

詩穂「ま、まぁ正確に言えば世界遺産はこの中の一部だけですけどね」

望「公園と言うだけあって、この辺りは自然が豊かだね!」

確かに天野の言う通り、山の上に見える首里城を取り囲むように色々な植物が生えている。そしてこういう自然の多い場所では、必ずあいつがあれをしているはず。

くるみ「え、あの、えーと」

思った通り、常磐はある木に向かって何かしゃべっている。だが何かいつもと違って困惑している。

八幡「おい、どうした」

くるみ「あ、先生。今ここの木さんに話しかけてみたんですが、沖縄の方言を話されてしまって何を言ってるかわからないんです」

その土地によって植物も方言使うのかよ……。まぁ大木ともなれば人間よりも長生きするし、昔ながらの言葉を使うっていう理屈も通らないわけじゃないが、違和感がぬぐえない。そもそも植物が話すってことですら未だに信じられない。

八幡「いや、俺に言われても俺も方言分かんねぇし」

はいさーい!、なんくるないさー!くらいしか知らない。あとラフプレーが多いテニス部がいるんだっけ。俺の沖縄知識の偏りが激しい。

詩穂「この木はなんて言ってるんですか?」

俺たちが悩んでるところに国枝もやって来た。

くるみ「えーと、多分『でーじ、ちゅらかーぎー』と言ってると思う」

詩穂「そう。『にふぇーでーびる』」

国枝は聞いたことが無い言葉、おそらく方言を使って木に向かって話しかけた。男が方言を話してもキモいだけだが、方言を話す女の子ってそれだけで魅力が5割増しになる法則、あると思います。

くるみ「詩穂さん。木さんはなんて言ってたんですか?」

詩穂「『とても美人だね』って言ってたのよ。うふふ。お上手な木さんね」

八幡「てことはさっきの返事も方言か」

詩穂「はい。『ありがとう』と言ったんです」

八幡「つかなんでお前沖縄の方言知ってんの?」

詩穂「それは、秘密です」

国枝は口に人差し指を当てながら答える。くそ。なんだかんだこいつもけっこう言動あざといよな。

望「おーい。みんなー!そろそろ行くよー!」

遠くで天野が俺たちを呼んでいる。早く合流しないとまたグチグチ言われかねない。

声をかけるため俺が振り向くと、常磐と国枝が2人そろって花に向かってしゃがみながら話している。

詩穂「常磐さん、このお花はなんて言ってるの?」

くるみ「このお花さんは『はじみてぃ、やーさい』と言ってますね」

詩穂「それは『はじめまして』って意味ね。なら私たちは『よろしくお願いします』っていう意味の『ゆたしく、うにげーさびら』と返してみましょうか」

くるみ「わかりました」

詩穂、くるみ「『ゆたしく、うにげーさびら』」

2人が花に向かって方言を話す姿はとても絵になるんだが、これ以上ここにいるわけにもいかない。

八幡「2人とも。あっちで天野が呼んでる。行くぞ」

くるみ「わかりました。詩穂さん。沖縄の言葉教えてくれてありがとう」

詩穂「こちらこそ、沖縄の木や花と話すなんて初めてだったから楽しかったわ。ありがとう」

2人はそう言い合うと走って俺に追いついてきた。


434 ◆JZBU1pVAAI2017/07/27(木) 23:31:00.64KQfopEJA0 (3/3)

詩穂が沖縄の方言を知っているのは、中の人の下地さんが沖縄出身というのが理由です。実際に下地さんが方言を話せるかはわからないです。


435以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/28(金) 16:33:00.36Te9fdHsno (1/1)

乙です


436 ◆JZBU1pVAAI2017/07/30(日) 00:06:39.52QS4gFRIP0 (1/2)

本編5-9


6人「おぉー」

俺たちは公園を挟んで駅から反対側にある入り口から順路に沿ってえっちらおっちら歩いて、ようやく頂上の正殿付近までたどり着いた。

しかし、けっこう歩いたな。暑さも加わってかなり疲れた。

くるみ「壁も床も赤いですね」

ゆり「やっぱり赤はいいよなくるみ!」

八幡「これ建てるのにいくらかかったんだろうな」

ゆり「先生。もう少し真面目な感想を言ってください……」

俺のぼそっと言った感想に火向井が食いついてきた。なんでだよ。常磐のと同レベルの感想だったろ。

八幡「うるせ。てかここに来るまでにあった守礼門は二千円札にも描かれてるんだぞ。てことはここでお金の話をしても何ら問題はない。むしろ当たり前のことだ」

花音「沖縄に来てまで屁理屈を言うのはやめなさいよ。みっともない」

八幡「人間そうやすやすと変われねえんだよ。てか、そう簡単に変わってたまるか」

俺の反論に煌上は頭を振る。

花音「……はぁ。アンタと話してると頭痛くなってくるわ」

詩穂「大丈夫花音ちゃん?熱中症?水分補給はしてる?あとすぐ日陰に移動しましょう」

花音「だ、大丈夫よ詩穂。心配しないで」

望「あ。なら正殿の中に入ってみようよ!建物の中なら涼しいだろうし、いろんな展示もあるんだって!」

天野は待ってましたとばかりに大声で提案する。

ゆり「望は着付けがしたいだけなんじゃいのか?」

火向井は入り口でもらったパンフレットにある「正殿で琉球衣装着付け体験!」のページを天野に見せつける。

望「ばれたか……でもこんな経験めったにできないしやろうよ!」

くるみ「私たちでも着れるのは面白そうね」

詩穂「そうね。可愛い琉球衣装を着た花音ちゃん見てみたいし」

花音「ちょ、ちょっとやめてよ詩穂!」

誰も異論を出さない。ならさっさと中に移動したい。正直外の日差しがきついし、下も赤いから余計眩しく感じる。

八幡「んじゃ、行くか」

5人「はーい!」


437 ◆JZBU1pVAAI2017/07/30(日) 00:20:17.54QS4gFRIP0 (2/2)

本編5-10


正殿内部も豪華絢爛な部屋と装飾に溢れている。御差床っていう玉座が特にすごい。柱に金の竜が描かれた赤い小さな鳥居の奥にある一段高くなってるところに赤と金の椅子が置いてある。そしてその両脇には腰くらいの高さの金の竜の柱まで付いてる。

なんか沖縄の王様、赤と金と竜好きすぎない?中二病にでも罹ってたの?

というか。いつの間にか周りに誰もいなくなってるんですけど。俺がゆっくり見すぎてたから先行かれたのかな。ま、順路は1つだし、直に合流するだろ。

ゆり「あ!先生が来た!」

くるみ「ずいぶんゆっくり展示を見てたんですね」

ようやく合流できたようだ。あいつらろくに中見てないな。

八幡「あぁ。なかなか見られるもんじゃないしな。って……」

目の前にいる5人は目にも鮮やかな琉球衣装を着ている。アイドルやってる2人はともかく、他の3人ももとは悪くないから余計目立つ。さながら王国時代の女官と言った感じだ。いたかどうか知らないけど。

望「どうどう先生?アタシたちイケてるでしょ?」

八幡「っ、まぁ確かに不自然さは感じないな。衣装も綺麗だし」

ゆり「じゃあ先生も着替えてきてください!ここでは衣装を着た人に写真撮影をしてくれるサービスもあるんです!先生もこれを着てみんなで記念に写真撮りましょうよ!」

八幡「いや、別に俺は」

係員「それではどうぞこちらへ。今日は特別に琉球王国の王様の衣装をご用意しております!」

火向井の声を聞きつけすぐさま係員が試着室へ誘導してきた。ここまでされたら断れないだろうが。

--------------------------------

着替えを終えた俺は試着室を出てみんなのいるところへ向かう。

八幡「待たせた」

望「お、先生。って、ぷっ」

花音「ふふっ、笑ったらダメよ望。いくら絶望的に似合わないからって、ふふっ、笑ったら失礼よ」

天野と煌上は口とお腹を押さえているが、笑いを堪えきることはできていない。

八幡「お前ら2人とも失礼だからな」

ゆり「そうだぞ!先生は私たちのために恥を忍んで着てくれているんだ!感謝しないと!」

くるみ「ゆりの発言もフォローになってないと思うけど」

詩穂「でもこれでみんなで写真が撮れますね。さ、先生。そこの真ん中の椅子に座ってください」

八幡「え、いや、それは恥ずかしいと言うか」

望「今さら何を恥ずかしがるの!もうすでに、ぷぷぷ」

花音「ふふふ、望の言う通りよ。そんな恰好を見せられておなか痛くなる私たちの気持ちも考えなさいよ。ふふっ」

八幡「お前らマジで覚えとけよ」

仕方なく俺は用意されてある椅子に座った。そんな俺の両脇と後ろを5人が囲む。

くるみ「こうしてるとなんだか家族写真みたい」

ゆり「家族か。そしたら先生が夫で私がその妻に……いや、私は何を考えているのだ……」

詩穂「うふふ。私が結婚したら、先生に毎日手料理を食べてもらえるのかしら」

望「先生の奥さんか。色々大変そうだけど意外と楽しそうかも……」

花音「……あいつは普段頼りないから私がちゃんと引っ張ってあげないと」

くるみ「先生と家族。お花さんと先生と一緒に暮らす……なんだか胸がポカポカする」

5人とも何言ってるんだ。全員小声でつぶやかれると怖いんだけど。

八幡「……お前ら。ブツブツ言ってないで前見ろ。係員の人困ってるぞ」

5人「あ」


438以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/30(日) 15:22:34.51BjgVYN170 (1/1)

観光が普通に面白い


439 ◆JZBU1pVAAI2017/07/31(月) 19:01:36.16aPwtFzI90 (1/1)

本編5-11


首里城周辺を堪能した俺たちは荷物を置くためホテルの前にやって来た。が、

八幡「なぁ、本当にここで合ってるのか?」

花音「えぇ。地図を見ても『ホテルメイプル』って名前からも、ここで間違いないわ。一応……」

望「でもさあ、流石にアタシたちには場違いなホテルじゃない?」

ゆり「一介の高校生が泊っていいホテルではないのは確かだな」

くるみ「もしホテル取れてなかったら私たち野宿?」

こうして俺たちはホテルの中に入ることができていない。理由は簡単だ。ホテルが明らかに高級すぎるのだ。少なくとも修学旅行に使うようなとこではない。大金持ちがバカンスで泊まるような感じ。

詩穂「メイプル、メイプル、あ」

ホテル名を呟いていた国枝が何かに気づいたようだ。

望「どうしたの詩穂?」

詩穂「うふふ。そういうことね」

ゆり「な、何がだ?」

詩穂「先生、みなさん。このホテルで間違いないですよ。さ、行きましょう」

国枝はそう言うとテクテク歩いていってしまった。

花音「ちょ、ちょっと待ってよ詩穂。どういうこと?」

詩穂「入ればわかるわよ花音ちゃん」

くるみ「なんなんでしょう先生?」

八幡「わからん……」

半信半疑、いや零信十疑でホテルの中に入ると、きらびやかで開放的なロビーが広がっていた。天井には大きなシャンデリアが輝いて、置かれているソファやテーブルも明らかに高そうなものばかりである。

そうしてきょろきょろする俺たちのもとへ、すぐにホテルの従業員の人が俺たちの所へやって来た。明らかに不審者を見る目つきだ。

従業員「ご予約されているお客様でしょうか?」

すかさず煌上が俺の脇をつつく。なんだよ。俺が対応しろってか?

八幡「は、はい。『神樹ヶ峰女学園』でしていると思います」

俺が答えると途端に従業員の人の顔から警戒心が解けて歓迎の表情に変わる。

従業員「ああ。神樹ヶ峰女学園の皆さまでしたか。遠路はるばる、ようこそいらっしゃってくださいました。ただいま支配人を呼んでまいりますのでそちらにおかけになってお待ちください」

八幡「は、はい」

言われた通り俺たちは近くのソファに腰かけた。一体何がどうなってるんだ。

数分していかにも支配人って感じのスーツを着たダンディーなおじさんが歩いてきた。なんかめっちゃカッコイイんですけど。

支配人「私が当ホテルの支配人でございます。神樹ヶ峰女学園の皆さまですね。お待ちしておりました。お部屋は最上階のロイヤルスイートルームをご用意しております。どうぞこちらへ。お荷物もこちらでお持ちいたします」

支配人は数人のボーイを呼び、荷物を運ばせる。俺たちも支配人に続いてロビーを歩く。

八幡「あの、失礼なんですけどロイヤルスイートルームって何かの間違いでは?」

支配人「神樹ヶ峰女学園の皆さまには私共、心からのおもてなしをさせていただきたいと思っております故、最高級のお部屋をご用意するのは当然でございます」

八幡「いえ、そのなんで神樹ヶ峰女学園の人にはそんな特別待遇を」

支配人「それは、」

詩穂「ここが千導院家が経営するホテルだからですよね?」

花音「どういうこと?」

詩穂「ホテルの名前にあった『メイプル』は日本語に直すと『楓』になるの。私たちを泊まらせてくれるこんな高級なホテルなんて千導院さん関係以外には考えられないわ」

支配人「その通りでございます。楓お嬢様から直々に連絡がございまして、皆様方に最高級のおもてなしをするよう申し付けられております」

望「なーんだ。そういうことか。なら安心だね」

ゆり「ホッとした……」

くるみ「野宿しなくてよかった」


440以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/02(水) 19:49:06.56o+HIqkZx0 (1/1)

ヤンデレ回お願いします




441 ◆JZBU1pVAAI2017/08/02(水) 23:20:21.175puOrNPU0 (1/1)

本編5-12


支配人「ではこちらが皆さまが宿泊されるロイヤルスイートルームでございます」

支配人がカードキーをかざすとドアが自動で開いた。遠慮がちに中に入るとそこは別世界だった。

ドアのまっすぐ前には大きく開放的な窓。そして何十畳もある塵一つない洋室。その隣には和室とベッドルームがある。まるでどこかの貴族になった気分になってくる。

ゆり「こ、ここを私たちが使っていいんですか?」

支配人「もちろんでございます。もし足りないものがあれば何なりとお申し付けください」

詩穂「ここからは那覇の景色が一望できるのね」

望「先生先生。この部屋こそビデオに残しとくべきなんじゃない?」

八幡「あ、ああ。そうだな」

余りの豪華さに頭が回ってなかった。確かにここの映像は残しておく価値がある。多分、もう一生来れないだろうし。

八幡「で、この部屋は女子が使うとして、俺の部屋はどこなんですか?」

支配人「俺の、とおっしゃいますと?」

花音「だからこいつ用の他の部屋よ」

支配人「ですから、他の部屋と言われましても、このお部屋1つのみしかご用意しておりませんが……」

八幡「いやいや、流石に女子と同じ部屋で寝るのはちょっと……」

支配人「しかしこのお部屋以外は本日満室でして、別のお部屋をご用意するのは無理でございます。あ、私そろそろ他の業務もありますのでここで失礼いたします。また何かありましたらお声かけください。では失礼いたします」

そう言って支配人は部屋から出ていった。ビデオを持つ手もだらりと下がってしまう。

八幡「おい、マジか……」

ラブコメの神様頑張る方向間違えてないですか?こういうのって、教師に見つからないように女子の部屋に忍び込んで、そこでハプニングが起こって女子の布団の中に隠してもらうっていうのがテンプレじゃないの?最初から同じ部屋だったらドキドキもワクワクもあったもんじゃない。まあ、ラブコメ展開なんて求めてもないけど。

くるみ「なんで先生も一緒の部屋だとダメなんですか?」

ゆり「なんでって……高校生が男女同じ部屋で寝るなんて、どう考えても風紀違反だろ!」

詩穂「そうは言っても他のお部屋は空いてないんですよね」

花音「仕方ないわ。今夜は女子がベッドルームで寝て、こいつには仕切りがある和室で寝てもらいましょ。幸いこの部屋にはたくさんの寝具があることだし、私たちが詰め合えばどうにか寝られるでしょ」

八幡「……なんかすまん」

望「べ、別に先生が悪いわけじゃないんだから謝らないでよ!」

詩穂「どうにかなりそうですし、大丈夫ですよ」

花音「じゃあそういうことで一旦荷物を自分の部屋まで運びましょ。あとどのベッドで寝るかも決めなくちゃ」

ゆり「くるみはどこがいいとかあるのか?」

くるみ「私は別にどこでもいいわ」

はしゃぎながらベッドルームに移動する5人を見届け、俺は和室に自分の荷物を運び入れる。

はぁ。なんかとんでもないことになったな。そもそもこの部屋の雰囲気にすら圧倒されているっていうのに、それに加えてあいつらと同室だと?これなんて言うタイトルのラノベですかね。まず間違いなく主人公は青春を間違えずに過ごせているだろうな。そしてヒロインは何人か候補が出てくるが、主人公は最後まで誰とも付き合わない。うわ。主人公爆発しねえかな。

花音「ねえ。まだ?」

八幡「え、おう。今行く」

急いで仕切りを開けると洋室のソファに5人が座っていた。

詩穂「ではこれから夜の行動を決めましょうか」

八幡「まだどっかでかけるのか?もうこのホテルでゆっくり休めばよくね?」

望「せっかく沖縄来たんだから回れるところは回ろうよ!」

ゆり「望の言う通り!明日は明日で忙しいから、今日のうちにお土産も見ておきたいしな」

花音「ならここから歩いてすぐのところに国際通りっていう有名な商店街があるわ。お土産を見つつ、そこで晩御飯を食べましょうよ」

くるみ「いいですね。国際通りには沖縄の特産品の野菜もたくさん売ってるらしいですし」

詩穂「弟や妹たちにたくさんお土産買ってってあげなきゃ」

そういや俺も小町にお土産ねだられてたっけ。ま、小町のために俺も行きますか。うん。


442 ◆JZBU1pVAAI2017/08/05(土) 10:59:19.53sobaTzMs0 (1/1)

本編5-13


夕方にホテルを出た俺たちは煌上の提案に乗り、お土産と晩御飯を食べるために国際通りという商店街にやって来た。

が、5人は商店街に着くや否や、女子高生特有のハイテンションで色々物色し始めたので、俺はそいつらから離れて1人で道をふらついている。

さてどうするか。とりあえずシーサー探すか。ちんすこうは安いのを大量に買えばいいが、シーサーはそうはいかない。なんてたって小町の合格がかかってるわけだし。

と思っていると、少し通りを外れたところにちょうどいい感じのお土産屋さんを発見した。何がちょうどいいって若い店員がいないこと。なんなの表の客引きは。何回も若い兄ちゃんに強引に店内に引き込まれそうになったんだけど。しかも、そういう店に限って品ぞろえ良くないし。客を引き込む努力より、いい商品を置く努力をしろ。じゃないと俺みたいなボッチな客に何も買ってもらえないぞ。

八幡「なんかいいのあるかな」

この店は品そろえもよく、本当に小さなシーサーから、小型犬サイズのまで豊富に取り揃えてある。逆にこれだけ多いと迷うな。小さいと御利益薄そうだし、かといって大きすぎても持って帰れないし。

「ねえねえ。これ可愛くない?」

おいまた客引きかよ。と思って振り向いてみると、そこには白地に変な柄がプリントされたアロハシャツを持った天野がいた。

八幡「何その柄……」

望「ハイビスカスとヤンバルクイナだよ!沖縄って感じがしてよくない?」

八幡「まあ、お前が着るんだったらなんでもいいんじゃないか」

俺が適当に返事をすると、天野がムッとした表情で反論してきた。

望「え、違うよ。先生が着るんだよ」

八幡「は?俺?」

望「そうそう。アタシたちは夏っぽい恰好してるけど先生は普段と何も変わらないじゃん。旅行の間くらい、羽目を外しちゃいなよ!」

八幡「いや、別に俺はいい。そもそもそんなの似合わないだろうし」

望「そんなことないって!ほら、そっちに試着室があるからとりあえず着てみて!」

強引に試着室に押し込まれた俺は渋々アロハシャツに着替える。

八幡「着替え終わったぞ」

そう言って俺は試着室のカーテンを開けた。

望「おお!予想以上に似合ってる!」

天野は目を輝かせてじっとシャツを見てうんうん頷く。

望「先生はスタイルは悪くないからそういう白地のゆったりしたシャツ似合うと思ったんだよね。流石望ちゃん。いいセンスしてる♪」

八幡「調子乗んな」

望「えー、もっと感謝してくれてもいいんだよ?」

八幡「……ま、でもせっかく選んでくれたし、買うわ」

似合ってるって言われたら買わないわけにはいかないですよね。外に着る分には恥ずかしいが、部屋着としてなら意外と悪くない着心地だし。

望「もう。最初から素直にそうやって言えばいいのに……」

八幡「うっせ」

俺は着替え直してから、アロハシャツを買い物かごにいれて、シーサー探しを続行する。が、なぜか天野が俺の後ろにくっついて離れない。

八幡「なあ。お前いつまでそこにいるの?」

望「え、別にいいじゃん。で、先生は何探してるの?」

八幡「……シーサー。妹が欲しがってたからな」

望「あー、そういえば先生妹いたもんね。妹のためにお土産買っていくなんて、ちゃんとお兄ちゃんやってるんだ」

八幡「バカ。お前、千葉の兄は妹の為ならなんだってするんだぞ。それが千葉クオリティだ」

望「なんで千葉限定……。でも、先生がそうするならアタシも妹や弟のために何か買おうかなー」

八幡「え、お前弟、妹いたの?」

望「何そのリアクション。アタシだって家ではちゃんとお姉ちゃんやってるんだから」

天野が姉をやってる姿がまったく想像つかない。かろうじてビーフシチューを振舞ってる姿が思い浮かぶくらい。でも、人は見かけによらないし、俺に似合う服をわざわざ探してきてくれるあたり、面倒見がいいことは否定できない。ただ、こいつの場合、姉属性からではなく、ファッションのために動いてるだけかもしれないけど。

八幡「やっぱり信じられん……」

望「ちょっと酷くない!?」


443 ◆JZBU1pVAAI2017/08/08(火) 00:00:44.14KfSuHYWE0 (1/15)

番外編「八幡の誕生日①」


今日は8月8日。世間では夏休みと呼ばれる時期に当たる。特に学生はこの長い休みを有効利用してゆっくりと休息をとるべきであり、外に出かけるなどもっての他なのである。

そういうことで俺もこの夏休みは家でのんびりゴロゴロすることに決めている。ボク、怠惰デスね。

小町「お兄ちゃん!お誕生日おめでとう!」

そんな夏の朝のリビングに小町の声が反響する。

八幡「お、そうか。今日俺の誕生日か。ありがとよ小町」

すっかり忘れてたぜ。『お誕生日おめでとう!』みたいなメールが誰からも来ないのはもちろん、親からも何も言われていない。小町の誕生日のときは一週間前から親父も母ちゃんもそわそわしているというのに。家族内での格差が激しすぎる。

小町「開口一番でお兄ちゃんの誕生日を祝ってあげるなんて、小町的にポイント高くない?」

八幡「はいはい高い高い」

俺の適当な返事を無視して小町は口を開く。

小町「あ、そうだ。お兄ちゃん。外に出られる服にさっさと着替えてきて。今すぐ」

八幡「何。このクソ暑い中どっか行くのか?なら帰りにアイス買ってきてくれ」

小町「小町は行かないよ。行くのはお兄ちゃんだけ!ほら早く!」

八幡「だからなんで……」

小町と言い争いをしていると玄関のチャイムが鳴った。

小町「ほら。お兄ちゃんがもたもたしてるから来ちゃったじゃん。はーい!今開けまーす!」

来ちゃったって何が、と言おうとした瞬間、いつだかで見たことがある黒スーツの人たちが次々に家の中に入ってきて俺を取り囲んだ。

八幡「……小町。この状況説明して?」

俺の問いかけに小町はにっこり笑って問い直してくる。

小町「お兄ちゃんなら小町が説明しなくてもこの状況を理解できるよね?」

黒スーツ「ということでございます。さぁ比企谷先生。車の方へ」

わかりたくなかったなぁ。こんなことできるのはあいつくらいだろう。ということはあいつら全員何かしら関わってるんだろ?行きたくねえなあ。

なんて希望が通じるわけもなく、俺は車に強引に乗せられた。

しばらく走った後、もうすっかり見慣れた神樹ヶ峰女学園の校門の前に車が止まった。

黒スーツ「到着いたしました比企谷先生。足元に気を付けてお降りください」

そう促され車を降りると、2つの人影がこっちに近付いてきた。

詩穂「おはようございます先生」

花音「ほら。ここは暑いし、みんな待ってるからさっさと行くわよ」

声をかけてきたのは国枝と煌上だった。

八幡「おう。つかなんで俺ここに連れてこられたの?今日は夏休みだよね?」

またなんかめんどくさい仕事でも振られるのか?教師って夏休みも普通に仕事するそうじゃないですか。ソースは平塚先生。つかあの人、夏休みだからって俺に毎日メールしてくるんだよな。しかも長文。ホント誰か結婚してあげて。

詩穂「でも今日は先生の誕生日じゃないですか」

八幡「……だから?」

花音「だから、私たちがアンタの誕生日を祝ってあげるって言ってるの。それくらい察しなさいよ」

八幡「お、俺の誕生日を祝う?お前らが?」

予想外の展開に頭が追いつかず、アホっぽい返事をしてしまう。

詩穂「うふふ。私たち2人だけじゃないですよ。星守クラス全員が集合しています」

花音「そういうことだから合宿所に行くわよ」

八幡「お、おう……」

こうして俺史上初、俺のための誕生日パーティーが幕を開けた。


444 ◆JZBU1pVAAI2017/08/08(火) 00:01:42.07KfSuHYWE0 (2/15)

番外編「八幡の誕生日②」


花音「みんなお待たせ!」

詩穂「本日の主役の到着です!」

2人は合宿所の1階にある大勢が入れるミーティングルームのドアを開けた。

部屋の壁際には簡単なステージが出来ており、そこには『比企谷先生爆誕祭!』と書かれた横断幕が飾ってある。そしてステージの周りには星守たちが拍手をしながら俺たちを出迎える。

ドアを開けた2人はそのままステージに上がり、マイクを持って話し始める。

詩穂「それではお待ちかね。これより『比企谷先生爆誕祭』を始めます!司会進行を務めます、高校2年生国枝詩穂です」

星守たち「イエーイ!」

星守たちは恐ろしいほどに盛り上がっている。なんだなんだ。何が始まるんだ。

花音「同じく司会進行を行う煌上花音よ。あ、アンタはステージの前の椅子に座ってなさい。一応主賓なんだから」

俺の周りにいる何人かが、煌上が指さした椅子に俺を強制的に座らせる。

詩穂「ではまず開会の宣言を楠さん。お願いします」

呼ばれた楠さんが壇上に上がる。

明日葉「えー、まずは先生。お誕生日おめでとうございます。今日は私たち星守クラス全員で心を込めてお祝いするのでどうか楽しんでいってください!みんな!今日一日精一杯先生のことをお祝いするぞ!」

星守たち「おー!」

えー、なんでこんな盛り上がってるの。怖い。あと怖い。


445 ◆JZBU1pVAAI2017/08/08(火) 00:02:16.11KfSuHYWE0 (3/15)

番外編「八幡の誕生日③」


花音「さっそく会の中身に入っていくわよ。まずは桜と遥香による漫才です!どうぞ!」

即座にセンターマイクが準備され、それを挟んで藤宮と成海が壇上に上がった。

遥香「どうも。遥香です」

桜「桜じゃ」

遥香、桜「2人そろって遥香桜です。よろしくお願いします」

遥香「私たちがトップバッターなんて、緊張するわね桜ちゃん」

桜「余計な気を遣っても疲れるだけじゃ。普段通りでおれば大丈夫じゃよ」

遥香「そうね。でも漫才だから何か面白いことを言わなきゃいけないのよね?」

桜「まぁ、それはそうじゃな。一応漫才なんじゃからのお」

遥香「申し訳ないんだけど、私漫才のことよくわからないからこの先の展開は桜ちゃんに任せていいかしら?私はなるべく普段通りでいることを心がけるから」

桜「しょうがないのお。では遥香もやりやすいように『病院の診察室』という設定でやるかのお。わしが医者としてボケるから遥香は患者としてツッコミをしてくれ」

遥香「わかったわ」

桜「では始めるかの」

桜『今日はどうされましたか?』

遥香『2.3日前から咽頭の炎症と後頭部に鈍痛がするんです。多分急性上気道炎だと思うんですが確認してもらってもいいですか?自分で見るぶんには扁桃腺の炎症はなかったのですが』

桜「……待つのじゃ遥香」

遥香「え?」

桜「え、じゃない。そんな医療知識が豊富な患者なんてそうそうおらんわ。やっぱり患者はわしがやるから遥香は医者を演じておくれ」

遥香『今日はどうされましたか?』

桜『あの、数日前から腹痛がひどくてのお』

遥香「桜ちゃん。うちは主に救急外来が盛んなの。よかったらそういう患者を演じてもらえないかしら?具体的にはすごい痛みに悶え苦しんでる感じで」

桜「え、いや、これは漫才じゃから別に現実に即さなくても」

遥香「桜ちゃん。やって」

桜「う、うむ……あー、お腹が痛い痛い。痛いぞお」

遥香『大丈夫ですか!?自分のお名前言えますか!?』

桜『うぅー、痛い痛い』

遥香『これは危険な状態ですね。今すぐオペを始めます!手術室に運んで!ほらそこのあなた!こっちに来て!迅速に患者を手術室まで運ぶわよ!』

桜「……待つのじゃ遥香。わしらはいつから医療ドキュメントを演じておるのだ?」

遥香「え?だって桜ちゃんさっき普段通りにしてろって」

桜「それは心構えの話じゃ。わしらがやるのは漫才じゃ。医療現場の現状を再現してもしょうがないぞ」

遥香「そうなのね。漫才って難しいわ。あ、私久しぶりに大きな声出したらお腹空いちゃった。ご飯にしない?」

桜「ええかげんにせい」

桜、遥香「どうも、ありがとうございました!」


446 ◆JZBU1pVAAI2017/08/08(火) 00:03:34.54KfSuHYWE0 (4/15)

番外編「八幡の誕生日④」


花音「ということで桜と遥香の漫才でしたー!」

詩穂「先生、どうでしたか?」

八幡「え、おう。意外とちゃんとしてて面白かったぞ。うん」

俺の感想に藤宮と成海は嬉しそうに笑う。

遥香「ありがとうございます先生」

桜「喜んでもらえてなによりじゃ」

花音「さ、では次のプログラムに進むわよ」

詩穂「次は校庭でバーベキューをします!」

星守たち「イェーイ!」

花音「ということで移動するわよ」

煌上に付き従って俺たちは合宿所を出て校庭に向かう。そこにはすでにいくつものバーベキューコンロとテーブル、椅子などが準備されていた。

詩穂「ではここからはしばらくの間、みんなでバーベキューを楽しみましょう」

国枝が声をかけるや否や、みんなそれぞれバーベキューを楽しみ始めた。

ひなた「お肉お肉ー!」

くるみ「ひなたさん、お肉だけじゃなくて野菜も食べてくださいね」

ミシェル「むみぃ、煙が目に入ったよ~」

蓮華「大丈夫ミミちゃん?蓮華がやさしく目薬さしてア、ゲ、ル」

ゆり「こ、こんな美味しいお肉食べたことないぞ」

楓「そのお肉はうちのホテルと直接契約している農家から取り寄せたものですもの。美味しくて当然ですわ」

みんな楽しそうにしてるな。さて、俺も食べるか。

みき「先生ー!」

サドネ「おにいちゃーん!」

ん。この展開、なんか覚えがあるぞ?

サドネ「ミキと2人で味付けしたの。食べて!」

星月とサドネが得体の知れないソースがかかった野菜や肉がこんもり盛られてた皿を持ってきた。でもここには2.3種類のソースしかなかったよね?なんでこんな変な色してるの?ここまでくると最早芸術の域に達していると言っていい。

八幡「待て。お前らそれ味見したのか?」

みき「私はしてないですけどサドネちゃんが美味しいって言うから大丈夫です!」

サドネの味覚もあてにはならない気がするが、これ以上時間を引き延ばしても怪しまれるだけだ。少し、ほんの少しだけなら大丈夫か?

八幡「……く。い、いただきます」

俺は一枚の肉を恐る恐る口に入れた。

みき「先生どうですか?」

八幡「…………ああ。なんというか、独特の味だな」

サドネ「もっと食べて!」

八幡「いや、せっかくなら色々な味で食べたいからあとはサドネたちが食べていいぞ」

サドネ「わかった!」

みき「喜んでもらえてよかったねサドネちゃん!」

2人は満足して他の場所へ歩いていった。はあ。正直、舌に肉が触れた瞬間卒倒するかと思った。意地で耐えたぞ。

昴「先生、お疲れ様でした……」

八幡「若葉。もしかして見てたのか?なんで助けてくれないんだよ」

昴「だってアタシまで巻き添え食らいたくなかったですし……」

まああのソースの色を見て避けたくなる気持ちは痛いほどよくわかる。俺だったら確実に退散しているだろうな。


447 ◆JZBU1pVAAI2017/08/08(火) 00:04:05.74KfSuHYWE0 (5/15)

番外編「八幡の誕生日⑤」


しばらくして、用意されていた食材が全て無くなった。俺たちは簡単に片づけをした後、また合宿所に戻ってきた。今度は19人全員で椅子を丸く並べて座る。

花音「バーベキューの後もまだまだ続くわよ」

詩穂「次は外で暑くなった体を冷ますために、粒咲さんと芹沢さんが怪談を披露してくれます」

怪談か。季節的にはぴったりだな。

あんこ「ふふ。ではワタシからいくわ」

粒咲さんが話し出すと、部屋の明かりが消え、粒咲さんの前にあるろうそくが灯り出した。

あんこ「何週間か前のことよ。ワタシはいつものように部活の時間にインターネットゲームを起動しようとしたの。そしたらあるゲームにログインすることができなかったの」

あんこ「いろんなIDやパスワードを試してもダメだった。他のパソコンを使ってもダメだった。ワタシにはもう為す術がなかったわ」

うらら「くるくる先輩がパソコンに触っちゃっただけじゃないの?」

くるみ「違うと思うわ。私、あんこ先輩にパソコン室には入らないよう言われているから」

あんこ「そう、これはくるみのせいじゃない。その後、そのゲームについてスマホで調べてみたら驚愕の事実が判明したわ……」

そう言って粒咲さんは目の前のろうそくを吹き消した。小さな悲鳴があちらこちらから聞こえる。

あんこ「なんとそのゲーム、サービス終了してたのよ。それも事前告知なしに!」

周りからは何の反応も起こらない。だが粒咲さんは頭を抱えながら話し続ける。

あんこ「ワタシがあのゲームにいくら課金したかわかってるのかしら運営は。全国、いや世界でも有数の装備品とプレイスキルで掲示板では『プリンセスANNKO』とも呼ばれていたのに!」

どこのイリュージョニストだよ。てか、これがオチ?

八幡「あの、粒咲さん。その話が怪談ですか?」

あんこ「そうよ。何万、何十万と課金していたゲームが突然サービス終了したのよ?怖すぎるわ。ワタシのこれまでの努力が水の泡よ。せめて事前に予告されていれば色々記録が残せたものを……」

もはや粒咲さんの愚痴大会になってる。それを感じたのか煌上が声をかける。

花音「あー、あんこ先輩。そろそろ終わりにしてもらってもいいですか?次もあるので……」

あんこ「それもそうね。ワタシの怪談でみんなが震えあがってもかわいそうだし」

詩穂「あはは……。では次の怪談は芹沢さんですね」

蓮華「うふふ。今日のためにとっておきの話を用意してきたわよ」

そう言うと今度は芹沢さんの前のろうそくが灯り出す。

蓮華「つい数日前のことよ。暇だったれんげは帰る途中の先生を尾行することにしたの」

え、もうこの時点で怖いんですけど。何してんのこの人。

蓮華「その途中の海浜幕張駅だったかしら。れんげの美少女レーダーが今までにないほど反応したの。その発生源となった子は、先生がたまに着る高校のジャージと同じものを着ていて、テニスバッグを背負っていたわ。華奢で透き通るような白い肌。サラサラのショートカット。大きく純粋な目。もうあれは現世に舞い降りた天使のような子だったわ」

蓮華「その天使に魅せられたれんげは先生のことはほっといて、その子を尾行することにしたの。そしたら驚愕の事実が判明したわ……」

芹沢さんは目の前のろうそくを吹き消す。

蓮華「その子、男子トイレに入っていったの……」

蓮華「れんげの美少女レーダーに反応するような子が、男の子だったのよ。れんげは自分の目論見が外れたことより、その子のかわいらしさにぞっとしたわ」

粒咲さんの時と一緒で他の人はなんの反応もしない。それにしても、千葉で見かけた俺と同じジャージを着てるテニスバッグを背負った天使って、候補は一つしかなくね?

八幡「せ、芹沢さん。その子とはそれっきりですか?」

蓮華「実はね、れんげが尾行してることをその子わかってたみたいで、トイレの前で打ちひしがれてたれんげに声をかけてきたの。で、そのままお茶しちゃった。いい子だったわ。戸塚彩加くん。男の子なのが残念だけど」

おい。嘘だろ。嘘だと言ってくれ。ラブリーマイエンジェル戸塚が、よりによって芹沢さんの毒牙にかかってしまったのか……。なんということだ……。

望「な、なんで先生そんなに落ち込んでるの?」

八幡「落ち込むにきまってるだろ。『戸塚は神聖にして侵すべからず』は全人類の共通認識だろうが。そんな戸塚が、あろうことか芹沢さんに……」

蓮華「さすがのれんげでもあの子には何もしてないわ。というかできないっていうのが正しいかしら。男の子なのもあるけど、たとえ女の子だったとしても、あのかわいらしさの前にはただ立ちつくすのみだわ」

八幡「ですよね。やっぱりとつかわいいな。この世の癒しだ」

詩穂「えーと、これも怪談ってことでよかったのかしら花音ちゃん?」

花音「もう私には理解できないわ……」


448 ◆JZBU1pVAAI2017/08/08(火) 00:04:46.40KfSuHYWE0 (6/15)

番外編「八幡の誕生日⑥」


怪談が終わり、再び煌上と国枝がステージに上がり進行を始める。

詩穂「で、では気を取り直して次の企画でーす!」

花音「次はクイズ『ソラシドドン!』を開催するわ!」

おい。ここはフジテレビか?秀ちゃんに許可取ったのか?

花音「このクイズはある曲のサビ部分を聞いて、その曲の曲名とワンフレーズを歌ってもらう企画です!」

詩穂「では早速出場者を紹介するわ。まずは南さん」

ひなた「ひなた頑張って歌っちゃうよ!」

花音「次は心美!」

心美「じ、自信ないですけど頑張ります」

詩穂「そして蓮見さん」

うらら「音楽クイズなんてうららの十八番よ!すぐ正解してやるんだから!」

花音「さらにゆり!」

ゆり「わ、私が知ってる曲が来るといいんだが……」

詩穂「それでこのクイズには特別に先生にも参加してもらいます」

八幡「え、俺も?」

花音「たまにはいいじゃない。見てるだけじゃつまらないでしょ?ほら。ステージに上がりなさい」

あんまり気が進まないが、今日は俺の誕生日だし少しは付き合わなきゃダメか。仕方なく俺は他の4人と共に壇上に上がった。

詩穂「では詳しいルール説明を花音ちゃんお願い」

花音「ええ。このクイズは勝ち抜け制よ。正解した人から順に抜けていって、最後まで正解できなかった人には罰ゲームが待ってるわ」

八幡「罰ゲームって何やるんだ」

詩穂「それを今言ってしまってはつまらないじゃないですか」

花音「詩穂の言うとおりね。ま、恥ずかしい罰ゲームってことだけは言っておくわ」

ひなた「ひなた罰ゲームはやりたくない!」

うらら「うららも罰ゲームはやりたくないけど、それ以上にここみに負けたくないわ!」

心美「う、うららちゃんならすぐ正解できるよお」

ゆり「みんなの前で辱めは受けたくない……」

正直、俺もあんまり曲は知らないが、火向井や南には負けないだろう。多分。

詩穂「うふふ。みなさんいい感じに緊張感が出てきてますね」

花音「じゃあ早速始めるわよ。第一問!」

花音、詩穂「ソラシドドン!」

『レッツゴー バターとりんご そしてグラニュー糖 ラム酒をふってレモン汁♪』

心美「は、はい」

詩穂「はい!では朝比奈さん前で続きを歌ってください!」

心美『もっと のばすわパイシート 砕いてビスケット 最後にそっと投げキッス♪』

花音「ではこの曲名は?」

心美「ア、『アップルパイ・プリンセス』です」

花音、詩穂「正解!」

心美「や、やった!」

うらら「この曲ここみの得意な曲だもんね」

心美「うん。キーが私にピッタリなんだあ」

予想外の人が一抜けだな。だがまだ慌てるような時間じゃない。


449 ◆JZBU1pVAAI2017/08/08(火) 00:05:23.37KfSuHYWE0 (7/15)

番外編「八幡の誕生日⑦」


詩穂「では第二問です」

花音、詩穂「ソラシドドン!」

『L'inizio! 揺籠ゆらす雷 覚醒に騒ぐ鼓動の Choir♪』

うらら「はいはい!」

俺が手を挙げようとした矢先に蓮見が素早く手を挙げた。

花音「じゃあうらら!前で歌って曲名をどうぞ」

うらら「『悪魔の手招 秘密の嬌声が 頬を染め上げて Violenza♪』曲名は『華蕾夢ミル狂詩曲~魂ノ導~』!」

詩穂「蓮見さん正解です!」

うらら「さっすがうららね!」

ひなた「こんなに難しい歌よく歌えるねうらら先輩」

うらら「ふふん。うららはいろんな曲を練習してるの。その中でもこれは歌いやすかったからよくカラオケでも歌ってるの」

く、今度は蓮見が抜けたか。だがここまでは想定内だ。次正解すればいいだけの話だ。

花音「順調に抜けていってるわね。では第三問!」

花音、詩穂「ソラシドドン!」

『仕事♪』

ひなた「はいはいはい!ひなたわかる!」

南がワンフレーズ聞いただけで手を挙げた。

詩穂「南さん早い!では前にどうぞ」

ひなた『仕事 電車 通勤 ムリムリ 自宅 厳重 警備 フリフリ たまにサボっちゃっても 私責めない♪』

ムリムリ!フリフリ!いいぞー!……は。しまった。つい合いの手を入れてしまった。

花音「ではこの曲の曲名は?」

ひなた「『あんずのうた』!」

花音「正解!」

ゆり「こ、この曲はなんだ?」

ひなた「有名なアイドルの曲なんだよ。ライブでは合いの手が入ってすごい盛り上がるんだって!ひなた、こういう楽しい曲大好きなんだ!」

詩穂「南さんらしいですね。では次が最終問題ですね」

ゆり「く、ここまで全然わからない……先生は今までの曲知ってましたか?」

八幡「ま、まぁ聞いたことがあるやつもあったかな」

嘘です。全部知ってました。なんならコールも入れられるぐらい聞きこんでるプロデューサーです。

しかし、なんかこの曲選おかしくない?みんな346プロダクションの曲じゃん。ん、てことは次も346プロの曲なのか?相手は火向井。てことは、声質が似ているアーニャの曲が来る可能性が高い。そしてアーニャのソロ曲はあれ一つだけだ!


450 ◆JZBU1pVAAI2017/08/08(火) 00:06:17.38KfSuHYWE0 (8/15)

番外編「八幡の誕生日⑧」


花音「最後はイントロクイズで決着をつけるわ。2人とも準備はいいかしら?」

ゆり「こうなったら最後は気合だ!」

八幡「おう」

出題傾向を把握した俺に死角はない。この勝負、もらった!

花音。詩穂「ソラシドドン!」

『♪』

ゆり「Да」

火向井が1秒と経たずよくわからない言葉を発して、そのままマイクの前に立つ。

ゆり『Расцветали яблони и груши,Поплыли туманы над рекойВыходила на берег Катюша,На высокий берег на крутой.』

誰もがぽかんと口を開けている。一番初めに我に返った煌上が火向井に問いかける。

花音「ちょっとゆり?大丈夫?」

ゆり「Выходила, песню заводилаПро степного сизого орла,Про того, которого любила,Про того, чьи письма берегла.」

詩穂「音楽止めてください!」

曲が止まると火向井は正気を取り戻したらしく、マイクの前でうろたえている。

ゆり「は。私は何を……」

八幡「おい、火向井。なんでお前今の歌うたえるんだよ」

ゆり「え?いや、気づいたら勝手に体の中から歌詞が溢れてきたんだ。まるで何かに忠誠を誓うかのようにスラスラ言葉が口から出てきて……」

無意識のうちにカチューシャを崇拝してるのかこいつは。プラウダ行ったら即戦力じゃないのか?つか、最後だけ選曲おかしくない?こんなの火向井以外歌えるわけないじゃん。

詩穂「い、今の歌ですけど火向井さんは歌えていたので勝ち抜けとします」

花音「ということで最後まで残ったのは、このヘンタイ教師よ!」

強引に2人は結果発表を言い終えた。あれ、つか俺負けたの?

詩穂「ということで先生には恥ずかしい罰ゲームを執り行います」

八幡「あの、痛いのとか気持ち悪いのとかは嫌なんだけど……」

花音「そんなんじゃないわよ。それではミュージックスタート!」

『♪』

煌上の声の後にある曲が流れ始めた。ん、これってまさか……。

花音「知らない人もいるだろうからここで曲紹介を行います!」

詩穂「この曲は先生のキャラソン『going going along way!』です。今日は特別にフルコーラスで流しちゃいます!」

『青春の青い感情もー(感情もー)恋愛の甘い体験もーいらないー(ふむ!)』

八幡「やめろー!」

『going going along way! 俺の道を行くぜ♪』


451 ◆JZBU1pVAAI2017/08/08(火) 00:07:19.94KfSuHYWE0 (9/15)

番外編「八幡の誕生日⑨」


俺のキャラソンが流れ終わると今度は俺の前に机と皿、フォーク、ナイフが並べられていく。

花音「気を取り直して次の企画に行きましょう詩穂」

詩穂「そうね。次の企画は誕生日といえばコレ。バースデーケーキコンテスト!」

花音「今回は4人の星守がケーキを作ってきてくれたわ。1人ずつ紹介していくわね。まず最初はミシェル!」

ミシェル「むみぃ!ミミはね、ホットケーキ作ってきたの!先生たくさん食べてね!」

そう言って綿木は俺の前にホットケーキを置く。

八幡「これは俺が食べるのか?」

花音「当たり前じゃない。誕生日の人が食べないで誰が食べるのよ」

詩穂「先生にはケーキの感想をもらいますから、しっかり味わってくださいね」

八幡「お、おう。じゃあ綿木。いただきます」

ミシェル「召し上がれ?!」

メープルシロップがよくかかってる部分を切って食べてみる。

八幡「うまい。特にメープルシロップがいい」

たまに母ちゃんが買ってくる安物のシロップとは違う。なんというか濃厚なんだけど、しつこくない。

ミシェル「やったー!それはね、カナダで取れたすごい珍しいメープルシロップなんだ!パパにおねだりして買ってもらったの!」

綿木は嬉しさのあまりピョンピョン跳ねている。

詩穂「綿木さんのケーキは先生にも好評みたいね」

花音「トップバッターとしてはいい感じなんじゃないかしら。では次の人のケーキに移るわ。2番目は明日葉先輩!」

明日葉「私のケーキは楠流、和風抹茶のロールケーキだ」

出されたケーキは抹茶の緑のスポンジに白いクリームが挟まれた、目にも優しい色のものだ。食べやすいサイズに切られてるのも良い。

明日葉「先生。さ、召し上がってください」

八幡「は、はい。いただきます」

その中の1つを食べてみる。

八幡「美味しいです。これ、クリームにあずきが入ってるんですか?」

明日葉「流石先生ですね。生クリームだけだと少し味気ないので、アクセントとしてあずきを入れてみたんです」

楠さんは丁寧に説明してくれる。

花音「抹茶にあずきね。和って感じで美味しそうだわ」

詩穂「そうね。でもそろそろ次の方のケーキに移ります。3人目は千導院さんです」

楓「ワタクシは先ほどまでの2人と違ってあまり綺麗ではありませんが、頑張って作りました」

千導院のケーキは定番のショートケーキだった。まぁクリームが偏っていたり、形が不揃いだったりしてるが、たいして気にはならない。

八幡「じゃあいただくな」

一口食べただけで違いがわかった。今まで食べたことがあるぶん、ハッキリ実感できた。

八幡「……なぁ千導院。これはもしかして、ものすごく高級な材料を使ってたりするのか?」

楓「はい!先生のために全世界から最高級の食材を取り揃えました!」

やはりか。少し技術的に拙いところは感じられるが、それを補って余りある食材の力。これいったい幾らするんだ……

詩穂「私もこれくらい高級な食材をふんだんに使ってみたいわ」

花音「楓だからこそ作れたケーキって感じね。では最後の人は、え、ウソ……」

煌上の顔が恐怖で引きつっている。……まさか、あいつがエントリーしているのか?


452 ◆JZBU1pVAAI2017/08/08(火) 00:08:04.65KfSuHYWE0 (10/15)

番外編「八幡の誕生日⑩」


八幡「おい煌上。もうやめよう。この3人でお腹いっぱいだ」

みき「待ってください先生!私のケーキも3人に負けないくらいすごいんですから!」

呼ばれてもないのに星月が意気揚々と、どデカイホールケーキを運んできた。

詩穂「えーと、最後の出場者は星月さんです……」

その光景を見て観念したのか国枝が小声で星月を紹介する。

みき「八幡にかけて八種類の果物とクリームを使ったケーキです!どうぞ!」

目の前にあるのはケーキではない。何か禍々しい色をした兵器だ。なんで星月は韻踏んじゃったのかなあ。

本来なら食べたくはない。が、星月は俺のためにわざわざ作ってくれたんだ。それに、今まで3人のケーキを食べてきて、1人だけ食べないと言うのも筋が通らない。

……逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。

八幡「……いただきます」

兵器が口に入った瞬間、俺の世界が反転しそうになった。即死はさせない程度の絶妙にヤバい味。拷問だよ拷問。急いで水で流し込んだが、今度は食道と胃が痛くなってきた。一体、何入れればこんな恐ろしいブツが出来上がるんだ。

みき「先生、どうですか?」

八幡「あ、ああ。少し食べただけで星月の気合が伝わったよ……痛い程な」

みき「やったー!あ、みんなも食べて!沢山作ったから遠慮しないで!」

星月が兵器を拡散する中、流石に俺のことが心配になったのか煌上と国枝が傍によってきた。

花音「ね、ねえ。大丈夫?」

八幡「正直ダメかもわからん……」

詩穂「胃薬飲みますか?」

八幡「ああ。助かる……」

何とか落ち着いたので周りを見渡してみると、俺と同じように兵器の犠牲となったものが何人か見受けられる。が、その中で成海だけは孤独のグルメ並においしそうに兵器を食している。あいつの消化器官はどんな構造してるんだ。金メッキでも施されてるのか?


453 ◆JZBU1pVAAI2017/08/08(火) 00:08:37.12KfSuHYWE0 (11/15)

番外編「八幡の誕生日⑪」


星月の兵器、いやケーキによる混乱が数十分続いた後、なんとか体調が回復した俺たちは会を再開した。

詩穂「で、では次の企画に行きましょうか花音ちゃん」

花音「そうね。次は星守たちによるモノマネよ!」

詩穂「少し準備するので先生は部屋の外で待っててもらってもいいですか?すぐ終わりますから」

八幡「お、おう」

わざわざ俺を退出させるとはけっこう大がかりな装置でも使うのか?そこまでするってことはけっこうクオリティの高いものを期待しちゃうよね。

数分して中から煌上が顔を出して声をかけてきた。

花音「入っていいわよ。で、アンタが入ったらモノマネが始まるから、後は流れでよろしく」

八幡「なんだよ流れって」

花音「いいから。早く入りなさい」

俺は仕方なく部屋に入ってあたりを見渡す。

けど、別に何か大きな仕掛けが施されているとは思えない。ただ総武高校の制服を雪ノ下のように着た常磐が立っているだけだ。ん。総武高校の制服?雪ノ下?

くるみ「こんにちは比企谷くん」

なん……だと……。どういうことだ。なんで常磐は俺を「比企谷くん」と呼んでいるんだ。まるで雪ノ下みたいじゃないか。

くるみ「いつまでそんなところに立ってるの徒長谷くん。早くこっちに来なさい」

八幡「徒長谷ってなんだよ。あれか?俺がひょろっと突っ立ってるのを揶揄してんのか?」

くるみ「別にそんなことは言ってないわ。ただ、もう少し日光に当たった方がいいと思うけど」

八幡「めっちゃ揶揄してるじゃん。しかも俺が普段外に出ないことまで」

は。つい雪ノ下に対する反応をしてしまった。だけど、マジで常磐が雪ノ下にそっくりすぎて怖い。

望「くるみん!ヒッキー!やっはろー!」

まだこの状況を受け入れられていないのに、またしてもなじみ深い声がした。声のした方を振り向くと、総武高校の制服を由比ヶ浜のように着崩した天野がステージに向かって歩いてきていた。

八幡「雪ノ下の次は由比ヶ浜か……」

望「何ヒッキー。あたしがいたら迷惑?」

八幡「いや、そんなことはないけど……」

お前らの声が奉仕部の2人に似すぎててビビってるだけです。

望「そういえばあたしとくるみんでヒッキーへのプレゼント買ったんだ。はいこれ」

話題をぶった切って天野が取り出したのは四つ葉のクローバーの栞だった。

八幡「え、これ俺にくれるの?」

くるみ「はい。幸運が訪れる四つ葉のクローバーを先生が好きな読書時に使えるようにしおりに挟みました」

望「く、くるみ。素に戻ってるよ。モノマネモノマネ」

くるみ「そうだった。えーと、べ、別にあなたのためではないから、勘違いしないでよね」

はは、違うぞ常磐。雪ノ下はそんなあからさまなツンデレはしない。正確には「ゆ、由比ヶ浜さんがどうしても一緒に行くと聞かなくて。だから仕方なく選んだだけよ」だ。

望「と、とにかく大事に使ってよ!」

八幡「はいはい」

でもプレゼントのセンスは悪くない。多分色々考えたんだろうな。

八幡「ありがとな」

俺の言葉に常磐と天野は顔を見合わせた後、笑って俺の方を向く。

くるみ「はい」

望「当然じゃん!」


454 ◆JZBU1pVAAI2017/08/08(火) 00:09:17.61KfSuHYWE0 (12/15)

番外編「八幡の誕生日⑫」



「ちょっと待ってくださいよー!」

プレゼントをもらって終わりかと思ったら、またしても聞きなれたあざとい声が聞こえてきた。

昴「ずるいですよ望先輩、常磐先輩。私だって一緒にプレゼント選んだじゃないですかー」

そう言って壇上に上がってきたのは総武高校の制服に、袖の余ったピンクのカーディガンを着た若葉だった。

望「ご、ごめんね昴ちゃん。ついイイ雰囲気だったから渡しちゃった……」

くるみ「別にそこまでいい雰囲気ではなかったと思うけど……」

昴「ま、いいですけど。どうせ先輩へのプレゼントだったのでそんなに真剣に選んでないですし」

おう。これまたすごい似てる。若葉でもこんなあざとい声出せるんだな。服装も相まっていつものイメージとはかけ離れた印象を受ける。

八幡「お前もこのプレゼント選んだのか?」

昴「え?はい。ていうか栞のアイディアはわたしですし」

やはりいつもの若葉の面影はかけらも感じられない。こういうこともできるのかこいつ。

八幡「意外とセンスいいんだなお前」

俺の言葉にしばらくぽかんとしていた若葉は急に顔が赤くなる。

昴「嘘。先生に褒められちゃった。どうしよ、すっごく嬉しい。でも、今はモノマネしなきゃ……あれ、こういう時どうやるんだっけ。確かまず断って、」

口を押えながら小声でセリフを考える若葉の姿からは先ほどまでのあざとさが一切感じられない。いつもの照れてる若葉だった。むしろ服装はあざとい女の子だから、素のかわいらしさが際立って見える気がする。やっぱり素が一番ですね。

昴「おほん。何ですか口説いてるんですかごめんなさい褒めてもらったのは嬉しいですけどセンス以外にももっとわたしを褒められるようになってから出直してください」

なんとか言い直した若葉だが、相変わらず顔は真っ赤だ。うんうん。頑張ってる姿勢は評価したいぞ。

八幡「そうだな。そうやって頑張って一色のモノマネをする姿勢もいいと思うぞ若葉」

昴「うう、もうアタシには無理だよこの役……」

望「が、頑張って昴ちゃん!あと少しで終わりだから!」

くるみ「大丈夫。ちゃんとできてるわ」

モノマネなのかそうじゃないのかよくわからんが、常磐と天野が必死に若葉を慰める。なんだか変な光景だ。

「おやおやー、お兄ちゃんが女の子たちと楽し気に話してますねー」

その時、今までの人生で一番耳に馴染んでいる声が聞こえた。声がした先には小町の中学の制服と同じものを着たサドネがいた。

八幡「サドネ……」

サドネ「お兄ちゃん今年の誕生日も誰からも祝われないと思ってたけど、くるみさんたちに祝ってもらえてよかったね。今、サドネはすごく感動してるよ」

そう言って壇上に上がるサドネにはいつもの面影はない。本当に小町としか思えない話し方だ。これまでの3人に比べて、そのギャップも相まって衝撃的なモノマネだ。

サドネ「これでお兄ちゃんも立派に社会に羽ばたいていける社会力を身につけたね!」

八幡「何言ってんだ。サドネ。俺は常に専業主夫として家から出ない生活を送ることを夢見ているんだ。だから俺に社会力は必要ない」

サドネ「うーわでたお兄ちゃんの捻くれ。ま、それは置いといて、そろそろサドネたちのモノマネも終わりの時間なんだけど、どうだった?」

俺の捻くれ具合は無視ですかそうですか。というか、反応の仕方までそっくりだ。かなり練習したんだろうな。

八幡「え、いや、正直4人とも似すぎててビビった」

サドネ「へへー。お兄ちゃんのためにサドネたち頑張ったんだよ?あ、今のサドネ的にポイント高い!」

そこまでマネしちゃうのかよ。なんでもありか。

八幡「……ああ。本当に高いよ」