389 ◆EyREdFoqVQ2017/07/09(日) 23:44:42.26sy4s6MbIo (10/15)


M准将「鎖を引っ張りすぎると電流が流れる仕組みになっている。暴れんほうが身のためだぞ」

利根「……そういうことは、もっと早く言え」ギリッ

M准将「……んん、なかなか反抗的な目だな」ニヤリ

利根「……」

利根(わからん。この男の吾輩を見る目は、まるで吾輩が反抗するさまを楽しんでおるようだぞ?)

利根「お前の目的はなんじゃ」

M准将「……」

利根「お前の秘書艦は吾輩と同じ利根であろう。そのお前がなぜ吾輩にこんな仕打ちをする」

M准将「理由が知りたいのか」

利根「理由も知らずこんなところへ幽閉されるよりはましじゃ」

M准将「絶望するぞ。それでもいいんだな?」

利根「安い脅しを……! くどいぞ!」

M准将「……ふふっ」

利根「何が可笑しい!」

M准将「ああ、利根の激怒した顔はなかなか見られなかったからな。俺に憎悪をぶつけてくることもない……!」

利根「お前は何を言っておる……!?」



390 ◆EyREdFoqVQ2017/07/09(日) 23:46:34.18sy4s6MbIo (11/15)


M准将「なんということはない。俺は、利根のいろんな顔を見たいだけだ」

利根「……」

利根「……」

利根「……は?」

M准将「今の秘書艦である利根に出会ったのは数年前。彼女との出会いは衝撃的だった」

M准将「一目で恋に落ちたよ。俺にとって、彼女のすべてが魅力的だった」

M准将「一緒にいて、励まし合った。泣き言をいって慰められたりもした。些細なことでケンカしたこともあった」

M准将「利根と仲良くなるにつれ、彼女とは笑顔で接する時間が増えた。それはいいことだ」

M准将「だが、俺は物足りなかった。怒ったときの顔や、嘆き悲しんだ時の顔……そんな顔を見ることがなくなってきた」

利根「……そ、そんなもの、少ないほうが良いに決まっておろう!」

M准将「俺は物足りなかった」ジロリ

利根「っ!」ゾクッ

M准将「……それをさておいても、2人目の利根が俺の前に現れた時は驚いた」

M准将「最愛の利根が隣にいる。そうではない、別の利根がまた別にいる」

M准将「……ふと思いついてしまったんだ。『別の利根』なら問題ないんじゃないか、って」

利根「……い、いかん。いかんぞ……」

M准将「わかっている。わかってはいる。だが、我慢できなくてね……」スクッ



391 ◆EyREdFoqVQ2017/07/09(日) 23:50:45.78sy4s6MbIo (12/15)


M准将「お前がここで目を覚ました時、この装置のことを訊いてきたよな?」ニコ

利根「よせ。やめるんじゃ……」ガタガタ

M准将「この装置を使った結末が、このカーテンの向こう側にある。俺が『お前たち』をどうしたのか」グッ

利根「やめよ……やめてくれ!!」

M准将「見ろ」シャァァァッ

 室内灯< パッ

利根「……ひ……!?」

(カーテンを開けると、ガラス張りになった奥の部屋の様子を室内灯が照らしている)

利根「……ひ……あ……!」ガタガタガタ

M准将「……ふふ」

利根「……っ!! ……っっ……!!!」ガクガク

M准将「ふふふ、はははは……!」

利根「なん……なんと、いうことを……!」

M准将「……いいぞ。いい顔だ……いい表情だ」

M准将「俺は、その恐怖におののいた利根の顔が見たかったんだ」

M准将「だが悲しいかな、俺は彼女たちに美しさを感じるが……怖いという感情は全く沸かない」

M准将「お前とは、抱く感情が違うんだ……残念ながらな」



392 ◆EyREdFoqVQ2017/07/09(日) 23:55:16.40sy4s6MbIo (13/15)


利根「お、お前は……そ、そんなことのために『吾輩たち』を、こんな目に遭わせたというのか……!?」カチカチカチ

M准将「最初は、お前たちが怒ったり、泣いたりする顔が見たくて、痛めつけたり詰(なじ)ったりしていた」

M准将「人間というのは欲深いもので、それだけではだんだん飽きてくる」

M准将「そのうち、今度は中身はどうなっているか興味が湧いてきた。どうだ、利根? お前の体の仕組みを見た気分は」

M准将「人間の体だって、縦に割った姿はなかなか見ることができないんだぞ?」

利根「……」ガチガチガチ

M准将「こっちも見ろ。こうしてバラバラにしてみると、それぞれの部位の魅力がよくわかる」

利根「……わかる……ものか……わかるものかあああ!!」

M准将「……そうか。まあ、お前の感想はこの際関係ない」

M准将「ここに飾った利根たちは、特別な処置をして形が変わらないようにしている」

M准将「せっかくここに来てくれたんだ。俺が死ぬまで、ずっと面倒を見てやらないとな」ニコッ

利根「……お……」

利根「お前、は……正気では、ない……!」

利根「……お前は、狂っておる……!! 狂っておるぞ……!!」

M准将「知っているとも」

利根「!?」

M准将「狂っていることくらいわかっている。そんなことは重々理解している」



393 ◆EyREdFoqVQ2017/07/09(日) 23:57:24.29sy4s6MbIo (14/15)


利根「……ならば……」

M准将「やめろと言いたいんだろう? 無理な話だ」

利根「な……!」

M准将「俺は生きている利根も、こんな姿の利根も、全部好きなんだ」

M准将「あの利根が、海で見せている雄姿。攻撃を受けて傷ついた姿。そのすべてが愛おしい」

利根「……違う……それは違うぞ」フルフル

利根「お前のそれは……愛などではない……!」

M准将「そう思うよな。俺はそうじゃない。だから俺は最初からお前に理解を求めてはいない」

利根「……お前は……」

M准将「時間だ。そろそろ利根が戻ってくる」

M准将「次に会うときは、もっといろいろな表情を見せてくれ。楽しみにしているぞ」ニコ

壁に擬装された扉< バゥンッ

利根「……」

利根「……なんと、なんということじゃ……」ポロッ

利根「……ちくま……ちくまぁぁ……!!」ポロポロポロ



394 ◆EyREdFoqVQ2017/07/09(日) 23:59:04.15sy4s6MbIo (15/15)

今回はここまで。


395以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/10(月) 16:25:47.69t+r4R1mbo (1/1)

プラスティネーションでもやってるのか……えぐい



396以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/12(水) 17:04:54.89+U7Txy4E0 (1/1)




397以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/12(水) 17:04:57.40+Ki/AGAs0 (1/1)

やばい


398 ◆EyREdFoqVQ2017/07/16(日) 16:32:47.42SQVW7duYo (1/11)

>>395
そういえばエンバーミングなんて漫画もありましたね……

続きです。


399 ◆EyREdFoqVQ2017/07/16(日) 16:34:02.11SQVW7duYo (2/11)


 * 数週間後 *

利根「……もう、耐えられぬ」

利根「来る日も来る日も、あの男の所業に怯えなければならぬ……」

利根「否……吾輩はここに閉じ込められて、何日経ったのかすらわからぬ……」

利根「……吾輩は……これからどうなるのじゃ……」

利根「……おぬしたちと一緒に、ここに飾られることになるのか……」

利根「……ははは……」

利根「そうじゃな……そうやも知れぬ。すべて諦めれば、これ以上涙することもない」

利根「しかし、いいのか……? せめて一矢報いねば、おぬしたちとて無念であろう?」

利根「……吾輩が傷付く方が堪えられぬ、とな。そのような姿になってまで、他人を思い遣るとは……」

利根「そうじゃったな。吾輩はおぬしたちじゃった」

利根「最早海に出ることも、ここから出ることも叶わぬ……」

利根「ならば何も、考える必要はない、か……そう、だな。うむ……」

利根「……」

利根「心残りは……筑摩に出会えんかったこと、じゃな……」

利根「おぬしたちもそうであろう……?」

利根「じゃが、それでいい……このような場所に筑摩を呼ぶことは許せぬ……」

利根「……」

利根「筑摩の名も、今が呼びおさめじゃな……筑摩……」

利根「……」



400 ◆EyREdFoqVQ2017/07/16(日) 16:35:00.25SQVW7duYo (3/11)


 * * *

M准将「利根? ご飯を食べていないのか?」

利根「……」

M准将「それじゃいかんぞ、ほら、食べなさい」

利根「……」

M准将「ほら、口を開けて。飲み込むんだ」グイ

利根「……」ダラー

M准将「……利根!」

利根「……」

M准将「仕方ないな」スマホトリダシ ピッピッ

利根「……」

 鎖の電流<バリバリバリバリッ!

利根「……!」ガクガクッ

 鎖の電流<フッ

利根「……」シュウウ…

M准将「……利根。……利根!」

M准将「もう壊れてしまったのか。もう少し大事にしたかったんだが……」

利根「……」

M准将「いや、反応がないわけではないからな。利根が意識している様子を見る手立てはあるはず……」

M准将「仕方ない。あれを準備するか」



401 ◆EyREdFoqVQ2017/07/16(日) 16:36:17.51SQVW7duYo (4/11)


 * 同時刻、鎮守府内の廊下 *

利根改二「今日の演習はえらく早く終わってしまったな。相手も潜水艦単艦でどうするつもりだったんじゃ?」

利根改二「せっかく早く終わったというのに、M提督はどこへ行ったのやら……偵察機を飛ばしても見つからぬというのは異常事態じゃぞ」

利根改二「はっ! もしや吾輩に黙って余所の女と逢引きなんぞ……」

利根改二「……」ポクポクポク チーン

利根改二「ありえんな!」ドヤッ

利根改二「……冗談はさておき、あの男は本当にどこへ行ったんじゃ。演習後じゃというのに歩き回ってへとへとだぞ」

利根改二「最近多いのう。席を外しておったかと思えば、いつの間にやら執務室に戻っておるし……」

利根改二「……ん?」

利根改二「なんじゃこの風は? どこから吹いておる?」

艦娘「利根さーん! 提督、見ませんでした?」

利根改二「! おお、おぬしか。いや、吾輩も探しておるんじゃが……」

艦娘「? どうかしたんですか?」

利根改二「うむ、どうもここの壁に隙間ができておるようでの。少し気になったのじゃ」ゴンゴン

艦娘「あれ……?」

利根改二「うむ……」ガンガン

艦娘「利根さん……!」

利根改二「こっちとそっちで音が違うのう。壁が別物なのか?」ゴンゴン

艦娘「多分ですけど、この壁の向こう側は空洞になってませんか?」

利根改二「否、ここはただの壁のはずじゃぞ。しかし確かにこの音は……」

艦娘「利根さん、音が違うのはここまでみたいです!」ゴンゴン

利根改二「この壁の向こうに何があるというんじゃ……?」



402 ◆EyREdFoqVQ2017/07/16(日) 16:37:14.05SQVW7duYo (5/11)


 * 地下室 *

(赤々と燃え盛る炉の中に単装砲の砲身が刺さっている)

M准将「……」グイッ

(厚手の皮手袋を付けたM准将が単装砲を炉から引き抜くと)

(真っ赤に熱せられた砲身の先端の周囲が陽炎のように揺らめいている)

M准将「……」

M准将「綺麗なままにしたかったから、こういうことはしたくなかったんだがな」クルッ

M准将「……利根」ニコ

利根「……!」ビクッ

M准将「これはさすがに無視できないよな?」

利根「……」

M准将「ふふ、震えているようだな。そんなに寒いのなら……ほら」

利根「……!」ズザッ

M准将「逃げなくてもいいだろう。君が連れないからこうなったんだ」ズイ

利根「……あ、ああ」ジリ

M准将「ああ、声が聞けた。いいな、その怯えて掠れた声」ニィ

(M准将が壁にあるレバーを引くと、利根を拘束する鎖が巻き取られる)

利根「!」グイッ



403 ◆EyREdFoqVQ2017/07/16(日) 16:37:55.35SQVW7duYo (6/11)


M准将「ほら、逃げるんじゃない……こっちへおいで」

利根「……っ! っ!!」ブンブンッ

M准将「首を振っても何にもならないぞ? 往生際が悪い……ふふふ」

利根(……)

利根(もはや、何をしても無駄じゃ……吾輩が足掻けば足掻くほど、この男は悦ぶ……!)

利根(もう、嫌じゃ……やめてくれ……いっそ、一思いに……!)

 ジュッ

利根「ぎっ……!!」

M准将「……そうだ。それでいい」

 ジュゥウ…

利根「あ、っが……あああ!!」

M准将「いい調子だぞ……そらっ!」グリッ

 ジュウウウウ!!

利根「ぎ……!!!」

利根「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!」

利根「あ……が……」ガクン ブクブクブク…

M准将「……いい声だ……それに」

M准将「いいにおいだ。どうして今まで気付かなかったんだ……ふふふ」



404 ◆EyREdFoqVQ2017/07/16(日) 16:39:30.86SQVW7duYo (7/11)


 * 廊下 *

利根改二「ふぅむ……よくわからんな」ゴンゴンゴン

艦娘「この鎮守府の間取りはどうなってるんでしょう?」

利根改二「この城砦をM准将が見つけて海軍で買い取った時に手に入れているはずじゃが……」

艦娘「欠陥工事だったらまずいですね」

利根改二「うむ……!?」ピク

艦娘「? どうしました?」

利根改二「……壁の中から悲鳴が聞こえた」

艦娘「誰かいるんですか!?」

利根改二「わからぬ。じゃが、声はずっと下のほうから響いて聞こえてきたぞ」

艦娘「下!?」

利根改二「……この壁……なにかあるのか!」グッ

利根改二「むんっ……!」グググッ

艦娘「!!」

利根改二「……動いたぞ……やはりなにかある!」グググッ

艦娘「利根さん危ないです!」ガシ

利根改二「むう、壁の向こうは落とし穴か!?」

艦娘「この壁、回転扉みたいですね……」

利根改二「穴も深そうじゃの……たしか、倉庫に縄梯子があったはずじゃな」

艦娘「入るんですか!?」

利根改二「悲鳴が聞こえたからには、放っておくわけにもいかん。梯子と探照灯を準備せよ、急げ!」



405 ◆EyREdFoqVQ2017/07/16(日) 16:40:30.60SQVW7duYo (8/11)


 * 地下室 *

 バケツ< バシャァ!

利根「……げほっ……えほ……」

M准将「起きたかな?」

利根「……」ビクッ

M准将「……さ、続きだ」ニタッ

利根「……も……」

利根「もう、嫌じゃ……!!」ポロッ

利根「吾輩は……もう……いい……!!」ポロポロポロ

利根「もう、殺せ! 殺すのじゃ!!」グワッ

利根「これ以上、甚振られるのは……もう……」

M准将「……わかった。そうしよう」

M准将「俺も、お前がどんな味がするのか、気になったんだ」

利根「」ビク

M准将「……お前の肉の焦げるにおいが、俺の理性を奪ったんだ」

M准将「心を失ったふりをし続けたお前が招いた結果だ」

M准将「心配しなくていい。綺麗に食べてやるからな……!」

利根「あ……」

利根「ああああ……!」



406 ◆EyREdFoqVQ2017/07/16(日) 16:41:29.29SQVW7duYo (9/11)


利根「嫌じゃ……嫌じゃああ……来るな、来るなあああああ!!」

M准将「……」ズイ

 ジュゥ…

利根「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 ドゴォォン!!

M准将「!?」

 パラパラパラ…

利根改二「けほっ……なんじゃこの部屋は……」

M准将「利……根……?」

利根改二「……M准将!? おぬし、ここでいったい何をして……お……」

M准将「……」

利根改二「……る……」

M准将「……」ウツムキ

利根改二「……」パクパク

利根改二「……な……」

利根改二「……なんじゃ、ここは……」ワナワナ



407 ◆EyREdFoqVQ2017/07/16(日) 16:42:11.37SQVW7duYo (10/11)


利根改二「これは……なんなのじゃ」

利根改二「……」

M准将「……」

利根改二「……おぬしは……」

利根改二「……おぬしは、誰なのじゃ?」

M准将「……!」

利根改二「答えよ! おぬしは誰じゃ!!」ジャキッ

M准将「……」

利根改二「答えろ!!」ワナワナワナ

M准将「……執務室で、全部話そう」スッ

利根改二「逃げるか! 待て!!」

利根「……あ……」ピクピク

利根改二「!! お、おぬしはまだ生きておるのか!? なんと酷い……」

利根改二「何故じゃ……何故吾輩と同じ艦娘に、こんなことを……!!」

利根改二「何故じゃあ……!!」



408 ◆EyREdFoqVQ2017/07/16(日) 16:43:28.09SQVW7duYo (11/11)

今回はここまで。


409以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/18(火) 09:37:29.82vctAlILh0 (1/1)

ダンスマカブル思い出した

お疲れ様です


410 ◆EyREdFoqVQ2017/08/06(日) 17:57:17.59MzecjWzWo (1/17)

では続きです。


411 ◆EyREdFoqVQ2017/08/06(日) 17:58:04.96MzecjWzWo (2/17)


 * それからしばらくして 執務室前廊下 *

艦娘「利根さん、地下室にいた利根さんは修理ドックに入居させました」

利根改二「うむ。どんな様子であった?」

艦娘「ずっと気を失ったままです……」

利根改二「……そうか」

艦娘「あの、利根さん……あんな酷い火傷、准将がつけたなんて信じられません」グスッ

利根改二「……吾輩もだ。提督は、いつの間にか別人にすり替わっていたのかもしれん」

利根改二「おぬしはここに控えておれ。何かあれば即刻この場から逃げて皆に知らせよ」

艦娘「……はい!」

利根改二「さて……」

 トントントン

M准将「入ってくれ」

利根改二「……」ギィ… バタム

艦娘「利根さん……」



412 ◆EyREdFoqVQ2017/08/06(日) 18:00:40.18MzecjWzWo (3/17)


 * 執務室 *

利根改二「……M提督よ」

M准将「来たか」ニコ

利根改二「今のおぬしはジキルか? それともハイドか?」

M准将「……なるほど、俺を多重人格と疑ってるわけか」

利根改二「……」

M准将「まずはこれを見てくれ。よっ……と」ガチャ

利根改二「本棚の裏に隠し階段じゃと……!」

M准将「さっきの地下室につながっている」

利根改二「……」

M准将「利根。お前は信じたくないだろうが、これから俺はお前に全部話そう」

 * *

利根改二「全部おぬしがやったと認めるのか」

M准将「認める」

利根改二「……」

M准将「……」

利根改二「……吾輩はおぬしを信頼しておったのだぞ」

M准将「……」



413 ◆EyREdFoqVQ2017/08/06(日) 18:04:23.05MzecjWzWo (4/17)


利根改二「何故、こんなことをした」

利根改二「何故……吾輩を裏切った!」

M准将「それは違う。俺はお前を裏切ったつもりはない」

利根改二「どの口が言うか!」

M准将「俺は『お前』を裏切ってはいない。俺は最初からこうだった」

利根改二「……」

M准将「俺は、徹頭徹尾、お前が好きだということは変わっていないし、お前を大事にしたいという気持ちは変わっていない」

利根改二「……」

M准将「俺にとってあの部屋は、ベッドの下に隠したエロ本みたいなもんだ」

利根改二「なにを……詭弁じゃ、そんなものと同列に……!」

M准将「その本の中身が、他人が耐えられる内容かどうか。その程度の違いだよ」

M准将「俺は俺が狂っていることを理解している。だから、大がかりな仕掛けを作って、見つからないようにしていた」

M准将「俺はお前のすべてを知りたかった。お前を見たくてあの部屋を作った。お前の代わりだけを飾るようにした」

M准将「だからお前をあそこに飾るつもりはなかったし、この秘密はお前にだけは知られたくなかった」

M准将「知られればどうなるか理解っていた。絶対に許されるはずがないからな」ウツムキ

利根改二「……何故吾輩は、飾られなかったのじゃ」

M准将「お前は俺の最初の利根だからだ。一目惚れだったからな」



414 ◆EyREdFoqVQ2017/08/06(日) 18:06:30.14MzecjWzWo (5/17)


M准将「それが、二人も三人も現れても見ろ。俺じゃなければ、ハーレムを作るやつだって出てくるはずだ」

利根改二「ならばもし、吾輩が二人目だったとしたら、吾輩もあの部屋に飾られていたのか」

M准将「三人目くらいまでは、余所の鎮守府に送っていたよ。それ以降だったら有り得たかもしれないな」

利根改二「ならば、もし……」

利根改二「もし、利根が吾輩以外にいなければ、吾輩を……切り刻んでいたと思うか?」

M准将「いや。それはしなかっただろう」

M准将「お前は俺が愛情を注ぐべき相手だ。歪んだ欲望をぶちまける相手じゃない」

M准将「お前の、代わりが存在した。それが、俺が一線を越えた理由……なんだろうな」

利根改二「……」

M准将「……利根。すまなかった」

M准将「お前を好いた男が、こんな男で……」

利根改二「……」

M准将「特警を呼んでくれ。始末をつけよう」

 * * *

 * *

 *



415 ◆EyREdFoqVQ2017/08/06(日) 18:08:34.12MzecjWzWo (6/17)


 * 現在 墓場島鎮守府 執務室 *

提督「……」

利根改二「……その後M准将は、地下室の彼女たちを供養するために、特警同伴で溶鉱炉へ彼女たちを運び込んで……」

利根改二「一人投げ込んでは手を合わせるのを繰り返し……最後に自らも溶鉱炉へ飛び込んで命を絶った」

利根改二「今の俺は利根の前に存在して良い人間じゃない、と言い残してな」

提督「……」

利根改二「……それが、吾輩の鎮守府で起こったことの顛末じゃ」

提督「……いろいろ理解できねえよ。自分が殺した相手と心中したってことじゃねえか」

提督「もしかしてあれか? 好きな相手にちょっかい出すタイプの悪質なやつか?」

利根改二「かもしれぬな。吾輩は嫌がらせらしい嫌がらせは一度も受けておらんが……」

提督「とにかくだ。あの利根は、M准将から拷問じみた仕打ちを受けたのはわかった」

提督「お前はあいつにどうなって欲しいんだ」

利根改二「……できれば、立ち直ってもらいたい。でなくば、せめて穏やかな余生を過ごして欲しい」

提督「……」

利根改二「吾輩がやれと言うかもしれぬが、吾輩はあの利根に姿を見せないほうが良いと思っておる」

利根改二「同じ利根とはいえ、司令官の寵愛を一身に受けた身じゃ。彼女にとってはトラウマ以外の何物でもなかろう」

利根改二「吾輩には、彼女をどうこうする資格はない。吾輩がこれ以上彼女の未来に口をはさむこと自体許されまい」

提督「……かもな」



416 ◆EyREdFoqVQ2017/08/06(日) 18:10:28.75MzecjWzWo (7/17)


利根改二「彼女の引き取り先を方々に求めたが、練度も上がっておらぬ彼女を引き取ってもらえる鎮守府はここしかなかった」

利根改二「重ね重ね、どうか彼女をよろしくお願いしたい」ペコリ

提督「……まあ、本人次第だがな」

提督「で、お前はどうすんだ」

利根改二「……まだ、決めておらぬ」

提督「そうか。ま、好きにしな。俺もお前の行先をどうこう言える身分じゃあねえ」

利根改二「……吾輩も、あの男と同じ所へ行くべきなのかのう」

提督「ちっ……だったら好きにしろよ。俺は死にたい奴の面倒は見ねえぞ」ガタッ

利根改二「! どこへ行くんじゃ」

提督「向こうの利根の顔を見に行く」

 トントントン

朝潮「失礼致します! 利根さんをお部屋に案内しました!」ガチャ

提督「おう、ご苦労さん。朝潮、客人の帰りの案内も頼むぜ」

朝潮「は、はい! 承知しまし……ええ!? どうして利根さんがここに!?」ギョッ

利根改二「……」



417 ◆EyREdFoqVQ2017/08/06(日) 18:11:41.88MzecjWzWo (8/17)


 * 利根の部屋 *

車椅子から立ち上がって窓の外を見ている利根「……」

 コンコン

提督「入るぞ」ガチャ

朝潮「ま、まだ返事がありませんよ!?」

提督「んなもん待ってられっか。ん、立って歩けるのか?」

利根「……」

提督「まあいい。俺はこの鎮守府の提督准尉だ」

朝潮「駆逐艦、朝潮です!」ビシッ

利根「……」

朝潮(……なんといいますか……)

朝潮(ここまで生気のない瞳をした人は、見たことがありません……)ゾク

提督「重巡洋艦、利根だな?」

利根「……吾輩に何の用じゃ」ジッ

提督「本日付でお前はこの鎮守府の配属となった」

利根「……」

提督「今後はこの鎮守府のルールに従って生活してもらう。ま、基本、この鎮守府のほかの艦娘の迷惑にならなきゃ、何をしてもいい」

利根「……」



418 ◆EyREdFoqVQ2017/08/06(日) 18:13:01.79MzecjWzWo (9/17)


朝潮「あ、あの、司令官……」

提督「ん?」

朝潮「利根さんは、ちゃんと聞いてくださってるんでしょうか……」

提督「多分な。聞いてねえならもう一回言って聞かせりゃあいい」

利根「……提督よ」

提督「ん? なんだ」

利根「あの利根は……あの秘書艦は、何故吾輩を避けておる」

利根「彼女は吾輩の命の恩人……なのに、何故じゃ?」

提督「……さあな。多分、お前に後ろめたいんだろ」

利根「後ろめたい……?」

提督「お前を酷い目に遭わせた男が好いた相手だ。お前とは話しづらいんだろうよ」

利根「……だが、奴は吾輩のことを好きだと言っておったぞ」

提督「……」

利根「あの利根は、違うのか……?」

提督「……俺に訊くなよ。人の好いた惚れたは俺の知ったこっちゃねえ」

利根「……そうか。おそらく、違うのだろうな」シュル



419 ◆EyREdFoqVQ2017/08/06(日) 18:15:07.20MzecjWzWo (10/17)


利根「でなくば……」パサ

朝潮「と、利根さん!? どうして服を脱……!」

利根「このような傷を付けられたのも吾輩だけなのだろうな」クルッ

朝潮「……っっ!!!」

提督「……!」

朝潮「と、と……利根さん……っ!! そのお怪我は……火傷の傷痕は!」

利根「……あの男に付けられたのじゃ」

朝潮「そんな……そんなっ!!」ワナワナ

利根「……提督よ。なんじゃその顔は。まるで鬼神か夜叉のようだぞ?」

提督「ああ? そんなことができる屑が存在していたと思うと、さっきから怒りしか沸いてこねえんだよ、くそが!」

利根「吾輩を解体せんのか?」

提督「なんでそんなことをしなくちゃいけねえんだ」

利根「……好きにしろと言うのであろう。ならば、吾輩を解体すれば良い」

提督「それなら一つ言い忘れていた。俺は自殺の手伝いはしねえ。死にたきゃ勝手にその辺で自沈しろ」

朝潮「し、司令官!?」

利根「……なんじゃ、吾輩もあの者たちと一緒に行けるかと思っておったのにな……」ウツムキ

朝潮「と、利根さんまで!?」



420 ◆EyREdFoqVQ2017/08/06(日) 18:16:33.75MzecjWzWo (11/17)


提督「なら、これ以上話すことはねえな。あとは勝手にしろ」クルッ スタスタ

朝潮「司令官! 司令官っ!!」オロオロ

利根「……」

朝潮「あ、あの、利根さん! 朝潮は、自沈してはいけないと思います!」

利根「……何故じゃ?」

朝潮「う、うまく言えませんが、今まで不幸せだったとしたら、これから幸せになるかもしれません!」

利根「……」

朝潮「あの、朝潮も、轟沈してこの島に流れ着いてきました!」

朝潮「ここの司令官……提督准尉は、物言いこそ霞と同じくらいきついですが、思いやりのある方です!」

朝潮「少しの間でも良いので、どうか思い留まっていただけないでしょうか……!」

利根「……」

朝潮「お願い致します!」ペコッ

利根「……うむ……」

朝潮「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」

朝潮「で、では朝潮は執務に戻ります! 失礼致します!」ビシッ

朝潮「司令官! お待たせ致しました! しれいかーん!」タタタタッ

利根「……そういう意味での返事ではないんだが」

利根「……」



421 ◆EyREdFoqVQ2017/08/06(日) 18:19:27.78MzecjWzWo (12/17)


 * 夜明け前 鎮守府埠頭 *

 ザザーン

利根「……海、か……」フラフラ


(鎮守府埠頭を見渡せる高台で双眼鏡を構える提督と長門)

長門「大丈夫なのか。一人で海に出して」

提督「さあてな。鎮守府に向かって砲撃するような真似さえしなけりゃ、あとは野となれ山となれだ」

長門「貴様はどこまで人任せなんだ……」

提督「医者も言うだろ。本人が病気を治す気がないなら治るものも治らねえって」

長門「まったく、ああ言えばこう言う……」

提督「見ろ……利根が海に出るぞ」

長門「!」



利根「……」チャプ

利根「……」ザァァ…

利根「これが海か……」



422 ◆EyREdFoqVQ2017/08/06(日) 18:20:14.40MzecjWzWo (13/17)


利根「波は穏やか、風もない」

利根「空には満月……か。これなら偵察機も飛ばせそうじゃな」

 ガシャッ

 ブィー…ン

利根「……」

利根「……」

利根「……」ポロポロッ

利根「吾輩は……」

利根「吾輩は幸せ者じゃの……」

利根「あやつらも、海に出たかっただろうに……」

利根「本当に、たまたまなのじゃな」

利根「たまたま、あの利根が選ばれて……たまたま、そのあとに吾輩たちが着任した」

利根「ははは……なんということじゃ」

利根「さっきまで、あれほど死にたがっていたのに……」

利根「吾輩は、喜んでおる……海に出られることに、幸せを感じておる」

利根「吾輩は、やはり艦娘なのじゃな……」



423 ◆EyREdFoqVQ2017/08/06(日) 18:22:12.60MzecjWzWo (14/17)


利根「ああ……吾輩は、どうしたらよいのじゃ……」

利根「……」

利根「……?」



提督「月夜とはいえ、夜中に艦載機飛ばしてんのか」

長門「おい、利根が何かを見つけたようだぞ」

提督「むこうは……砂浜か。俺たちも行ってみるか」

 タタタッ

朝潮「司令官!」

提督「朝潮? どうしたこんな時間に」

朝潮「砂浜から深海棲艦の微弱な反応がありましたので、ご報告に参りました!」

長門「なに!?」

提督「ったく、次から次と……面倒なことになりそうだ」




424 ◆EyREdFoqVQ2017/08/06(日) 18:23:30.62MzecjWzWo (15/17)


 * 北東の砂浜 *

利根「……なんと……」

(砂浜に数人の艦娘の遺体が流れ着いている)

利根「……この島も地獄であったというのか……」

提督「よう。幻滅したか?」

利根「! 提督か」

提督「この島にはな、こうやって轟沈した艦娘がよく流れ着いてくるんだよ」

利根「……よくあることなのか?」

提督「まあ、少なくはねえな」

利根「……こやつも、その犠牲者なのだな?」

提督「ああ……ん? なんだこいつ? 見たことねえタイプだな?」

長門「! ば、馬鹿! 近づくな!!」グイッ

提督「うお!? な、何しやがる!」

朝潮「司令官、早く避難しましょう! 利根さんも!」

提督「あ? 何言ってんだお前ら……」



425 ◆EyREdFoqVQ2017/08/06(日) 18:23:58.15MzecjWzWo (16/17)


長門「近づくなと言っているだろう! こいつは……」

??「……」

長門「こいつは深海棲艦!」


??「……!」パチリ


長門「戦艦ル級だ!!」



ル級「……」ムクリ





426 ◆EyREdFoqVQ2017/08/06(日) 18:27:15.08MzecjWzWo (17/17)

とりあえず利根の過去についてはここまで。


427以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/06(日) 21:27:01.58wcaOW0kYO (1/1)

おつ 続きまってる


428以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/11(金) 02:57:09.52hqjRngOfo (1/1)

ちゃんと更新があって俺は嬉しいです


429 ◆EyREdFoqVQ2017/08/12(土) 13:58:07.06SOZYcXd+o (1/7)

では続きです。


430 ◆EyREdFoqVQ2017/08/12(土) 13:59:17.04SOZYcXd+o (2/7)


ル級「……」スクッ

長門「提督、朝潮と利根を連れて早く逃げろ! 重巡以上の艦娘を集めてくるんだ!」

朝潮「いけません! 朝潮、この場は長門さんに助太刀します! 利根さんは提督とともに避難を!」

ル級「……」ジッ

利根「……?」

ル級「……」ジッ

長門「む……!」

ル級「……」ジッ

朝潮「……!」

ル級「……」ジッ

提督「……なんだ? 俺たちの顔を見てやがんのか?」

ル級「……(無言で長門を指さし)」スッ

長門「!」

ル級「……(次に海を指さし)」スッ

朝潮「こ、これは……」

長門「私を御指名ということか……面白い」



431 ◆EyREdFoqVQ2017/08/12(土) 14:00:11.34SOZYcXd+o (3/7)


ル級「……」クルッ

 ザァァァ…

朝潮「……深海棲艦が、私たちに背を向けて海へ……!?」

長門「あのル級が何を企んでいるのかはわからんが……この長門との殴り合いを望むと言うのなら、受けて立とう!」ザァッ

朝潮「あ、長門さん!!」

提督「……とりあえず、俺たちはどうすりゃいいんだ?」

利根「……」

朝潮「え、ええと……」



 * 沖合 *

ル級「……」ガシャン

長門「……」ガシャッ


朝潮「長門さんもル級も、艤装を展開して睨み合ったまま動きませんね……」

提督「マジで決闘かよ……おい、朝潮」

朝潮「はい!」

提督「あの2隻の間に一発撃って水柱たててやれ」

朝潮「は、はい!? わ、わかりました!」ジャキッ



432 ◆EyREdFoqVQ2017/08/12(土) 14:01:22.03SOZYcXd+o (4/7)


 ドーン

 ヒューーー

ル級「……」

長門「……」

 ボチャーン

ル級「!」キッ!

長門「!」クワッ!

ル級「……ッ!」ドガガガガン!

長門「てぇぇ!」ズドドドドン!

 ドドドドーン!!

提督「……派手だな」

朝潮「な、なんで二人とも、原速のまま回避しないんですか!?」

提督「……まあ、見ていようぜ」


ル級(中破)「……ッ!」ガンガンガン!

長門(中破)「ハァァ!」ドンドンドン!

 ドカーンボカーン

朝潮「……」アゼン

提督「なかなか壮絶だな」



433 ◆EyREdFoqVQ2017/08/12(土) 14:02:02.73SOZYcXd+o (5/7)


利根「……」

提督「どうした利根。怖いのか」

利根「……否」

提督「なら、お前も戦いたいのか」

利根「……わからぬ」


 シーン


朝潮「砲撃が……やみましたね……」

提督「……」


長門(中破)「……く……」ボロッ

ル級(大破)「……ハァ、ハァ……」ボロッ


提督「こりゃあ、長門の勝ちか?」

朝潮「……はい。おそらくは……」


ル級「……ハ、ハ……フフフ、フハハハハ」

長門「!?」



434 ◆EyREdFoqVQ2017/08/12(土) 14:03:10.43SOZYcXd+o (6/7)


ル級「……ハハハハ、アハハハハハハ!!」

ル級「アッハハハハハ!!」ゲラゲラ


提督「おい朝潮、あの深海棲艦、何で笑ってやがるんだ?」

朝潮「わ、わかりません……!」


長門「……貴様……」

ル級「ハハハハ……ハハ……ッ、ア、アアア……」

ル級「アアア……ウァァ……グスッ、ウウウウ……!!」

長門「!?」

ル級「ウワァァアアアアン!!」ポロポロポロ

長門「……」アッケ


提督「おい朝潮……あの深海棲艦、泣き叫んでねえか?」

朝潮「そ、そうですね……」

提督「なんでだ?」

朝潮「わ、わかりません!」

利根「……なにがあったんじゃ」


ル級「ウワァァァン! グス、ビエエエエエエン!」ナミダジョバーーー

長門「お、おい、貴様!? なんだ! なにがあった!? そ、そんなに痛かったのか!?」オロオロ


提督「わけわかんねえ……朝潮、明石呼んでこい。あとバケツふたつな」

朝潮「は、はい! わかりま……ふたつですか!?」

提督「まあ、敵に塩を送るのも悪くねえだろ」

利根「……やはり吾輩は夢でも見ているのかのう……」

提督「現実逃避すんな」デコピン

利根「あだッ!?」ベシッ

提督「おし、夢じゃねえな。長門、そのル級連れて戻ってこい」

利根「……吾輩で夢かどうかを確かめた……じゃと!?」シロメ



435 ◆EyREdFoqVQ2017/08/12(土) 14:04:23.04SOZYcXd+o (7/7)

今回はここまでー。


436以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/13(日) 12:33:15.33pGPCXHXY0 (1/1)




437以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/14(月) 14:50:02.20j96e4p9Wo (1/1)

ル級が提督にデレるのだな


438 ◆EyREdFoqVQ2017/08/16(水) 14:29:51.06jVtVC/TLo (1/11)

ル級がデレるのはもう少し後かな?

続きです。


439 ◆EyREdFoqVQ2017/08/16(水) 14:31:11.69jVtVC/TLo (2/11)


 * 利根が鎮守府にやってくる少し前 *

 * 某鎮守府 *

「オリョクルはもういやでち!」

「とっとと行って来い」

「オリョクルはもういやでち!!」

「いいから行け」

「オリョクルはもういやでち!!!」

「出撃」ポチッ

「あああああああああああああああああああ!!」

 * 本営 *

「ってことが今朝あってなあ」

「ああ、うちもだ。いい加減聞き飽きたな」

「あいつらは黙ってオリョール回してりゃあいいんだよ。疲れたとか言ってんじゃねえっつうの」

「! お、おい」

「あん?」

伊58(スカート・革靴装備)「……」ジロリ

伊19(制服・スカート・革靴装備)「……」ギロリ



440 ◆EyREdFoqVQ2017/08/16(水) 14:33:51.50jVtVC/TLo (3/11)


「ちっ、どこの鎮守府の潜水艦だよ、紛らわしい恰好しやがって」

「見世物じゃねーぞ。散った散った!」シッシッ

W提督「僕の部下がどうかしましたか?」

「げっ! W提督!? い、いえ、なんでもありません!」

「おい、なんでこんなガキにぺこぺこしてんだよ」

「馬鹿! 大将の甥御さんだ!」

「はぁ!?」

「し、失礼いたしました! ほら、行くぞ!」

「……ちっ」

W提督「……やれやれ」ハァ

伊58「ゴーヤたちをこき使ってるから出撃できてるのに!」

伊19「まったく失礼しちゃうの!」

X提督「ほらほら、二人とも怒らないで。あんまり僕から離れちゃだめだよ?」

伊58&19「「はーい!」なの!」

伊58「でもでも提督? ああいう人たちが艦娘を無下に扱う典型的な例だと思わない?」

X提督「今日の議題の話かい?」

伊19「気に入った艦娘を殺して飾る……まるでセイキマツホラー! 蝋人形の館なのね! 怖いのね!!」



441 ◆EyREdFoqVQ2017/08/16(水) 14:34:59.43jVtVC/TLo (4/11)


X提督「そうだね……悲しい事件だ。まあ、そんなことがあったからこそ、今日呼ばれて啓蒙活動するって話だからね」

W提督「……よう」

X提督「あ、W! 久しぶりだね」

W提督「ああ、飲み会やらなくなって以来だな。Xも元気そうでなによりだ」

球磨「W提督、こっちの子は誰だクマ?」

W提督「ん、俺の同期のW提督だ」

熊野「あら、随分可愛らしい方でいらっしゃいますわね?」

W提督「言ってやるな、こいつ自分の見た目を気にしてんだから。紹介する、俺の部下の軽巡球磨と航巡熊野だ」

球磨「よろしくだクマー」

熊野「ごきげんよう、熊野ですわ」

X提督「うん、よろしく。この二人は僕の部下、伊号潜水艦のゴーヤとイクだよ」

伊58「ゴーヤだよ!」

伊19「イクなのね!」

W提督「おう、よろしくな」

球磨「球磨の知ってる潜水艦と服が違うクマ。駆逐艦みたいな恰好してるクマ-?」

熊野「あの、失礼ですけれど、潜水艦のお二人はそんなお洋服持ってましたかしら?」



442 ◆EyREdFoqVQ2017/08/16(水) 14:36:06.99jVtVC/TLo (5/11)


伊58「あ、この制服のこと? これは提督が準備してくれたの!」

W提督「仮にも本営の集会だからね。靴も履かず水着姿でついてきてもらうのはどうかと思って用意したんだ」

熊野「まあ! X提督は艦娘のことを良くお考えですわ!」

伊19「そうなのね。イクに服を着せるなんて、提督はとんだ変態さんなの」

球磨「いや、その理屈はおかしいクマ」

伊19「いやいや、こんなに表向き紳士な提督は、絶対裏ではとんでもない変態さんなのね……!」ハァハァ

球磨「こじらせすぎクマ! どうしてこんなになるまで放っておいたんだクマ!」

伊19「いひひひ、こんなに破廉恥な格好させられちゃったら、もう提督にはイクのセキニンとってもらうしかないのねぇぇ!」ムッハー

球磨「うるせぇ、爆雷ぶつけんぞクマァ!」

X提督「あはは、もうすっかり打ち解けてるね」

球磨「どうやったらそう見えるクマ!?」

W提督「まあ、そうなるな」

球磨「うちの提督もボケ役クマ!?」

熊野「まあ!? わたくしのどこがトボケてると仰るんですの!?」

球磨「今日のお前が言うな会場はここですかクマァ!!」



443 ◆EyREdFoqVQ2017/08/16(水) 14:37:11.94jVtVC/TLo (6/11)


伊58「イクもあんまりふざけちゃ駄目よ。そもそも提督には剣崎の責任を取ってもらうのが先でち」

伊19「ごめんなのねー」テヘペロー

球磨「……意外なところから助け舟が出たクマ」

伊58「意外でちか!?」ガビーン

W提督「剣崎? ああ、祥鳳のことか。今日は留守番か?」

X提督「うん、今日一日は提督代理さ。Wのところもかい?」

W提督「ああ、伊勢に丸投げだ。まったく、古今東西の提督を集めて会議したところで、時間を浪費するだけだろうに」

X提督「仕方ないよ、テレビ会議だと不在の提督も多いし。たまにみんなの顔が見られると思えば、僕はそこまで悪いとは思わないけどね」

W提督「……遠地勤務のお前はそうかもしれないな」

伊58「提督! そろそろ会議が始まるよ!?」

伊19「荷物持ってあげるから手をつなぐのねー!」ガッシ

伊58「あっ、ずるい! ゴーヤとも手をつなぐでち!」ガッシ

W提督「球磨、熊野、俺たちも行くぞ」

熊野「ああ、お待ちになって! ちゃんとエスコートしてくださいませんこと!?」ギュッ

球磨「なんで腕に抱き着いてるクマ。しかも自分から腕をつかみに行って真っ赤になってるクマ」

W提督「……まあ、熊野は目を離すとすぐ迷子になるしな。仕方ない」

熊野「ひ、ひどいですわ!?」



444 ◆EyREdFoqVQ2017/08/16(水) 14:42:47.04jVtVC/TLo (7/11)


 *

女性提督「ちょっと、見てよあの男の子! すっごい可愛いんだけど!」

千歳「あの方は大将殿の甥っ子さんですね」

女性提督「なにそれ玉の輿!?」ジュルリ

足柄「ちょっと、もう結婚する気でいるの!? っていうか涎拭きなさいよ涎!」

女性提督「隣の男性も結構いい感じだし! 声かけておかないと!」ギラッ

足柄「やめといたほうがいいと思うわよ? あの子、潜水艦の子と手を恋人つなぎしてるし」

千歳「下手に絡んでは、向こうの艦娘に悪印象を与えかねませんよ?」

女性提督「なによぅ! こんなチャンス、滅多にないんだから! すいませ~~ん!!」ダッ

足柄「あっ」

千歳「ちょ」

 ガオーーーー

 キャーーー

 クマァァァァ!!

足柄「あーあ……」



445 ◆EyREdFoqVQ2017/08/16(水) 14:43:19.48jVtVC/TLo (8/11)


 *

女性提督「ぐす、ぐすっ」

足柄「あんな絡み方したら逃げられるに決まってるわよ!」

千歳「にこやかに挨拶するだけで良かったんですよ」

足柄「だいたいがっつきすぎよ! 狼じゃないんだから!」

千歳「酔っ払いよりひどい絡み方してましたよ?」

女性提督「うるさい、うるさーーい!」ウワーン

女性提督「もう頭きた! 帰ったら大型建造しまくってやるんだからー!」

足柄&千歳((完全に八つ当たりだわ))ハァァ


 * 一方その頃 東部オリョール海某所 *

「モウイヤダ!」

「モウ潜水艦ハイヤダ!」

「モウ潜水艦ノ的ニナルノハイヤダ!!」



「マタ、ル級ガ駄々ヲコネテルノカ」

「仕方ナイ。アノ、ル級ガ出撃スルト、相手ハ必ズ潜水艦ダケダカラナ」

「ツイテナイナ」

「付キ合ワサレル連中モ、ソウダナ」

「一緒ジャナクテ良カッタ……」



「モウイヤダァァァァ!!!」

「ア、オイ!? ドコヘ行ク!」

 * * *

 * *

 *



446 ◆EyREdFoqVQ2017/08/16(水) 14:44:49.27jVtVC/TLo (9/11)


 * 現在 夜明け 北東の砂浜 *

ル級「私ハ、来ル日モ来ル日モ潜水艦カラ、チマチマト小サナダメージ受ケ続ケ……」

ル級「ソレガ耐エラレナクナッテ、オリョールカラ出テキタノヨ」メソメソ

長門「なんということだ……」ホロリ

ル級「私ハ、タダノ一度モ反撃スルコトモ、大破スルコトモ、ナカッタ」

ル級「ダカラ、コウヤッテ撃チアエタコトガ、トテモ嬉シカッタンダ……」サメザメ

朝潮「そうだったんですか……!」グスッ

明石「苦労なさったんですねえ……!」エグエグ

提督「お前ら泣きすぎだ」

利根「……そう言うな提督よ。吾輩にもル級の心境は少し理解できるぞ」

利根「吾輩も、ついぞさっき海に出て、わかったことがある。吾輩たちは軍艦なのだ。我らが積んだ艤装も砲もお飾りではない」

利根「海に出て、敵艦隊を見つけ、砲雷撃戦にて邀撃する……軍艦として生まれた我らにとっては、それこそが存在理由そのものなのじゃ」

利根「戦艦でありながら一発も砲を撃ったことがないとなれば、このル級の懊悩も推して知るべきというものだぞ」

ル級「フフ……シカモ、ソノ初戦ノ相手ガ、カノビッグセブン、戦艦長門ダッタトイウノナラ誇ラシクモナル……!」

長門「……ま、まあな」テレテレ

ル級「最後ノ最後ニ艦娘ニ出会イ、憧レノ砲撃戦ガデキタ……私ハ満足ダ」



447 ◆EyREdFoqVQ2017/08/16(水) 14:45:44.01jVtVC/TLo (10/11)


提督「ん? ……なあ、もしかしてお前、艦娘を見たことないのか?」

ル級「ソウダ。私ハ潜水艦娘ノ船影シカ見タコトガナイ」

提督「船影かよ。んじゃ見てねえのと同義だな。お前、こいつら知ってるか?」

ル級「……オ前ハ駆逐艦ダナ?」

朝潮「はい! 朝潮型駆逐艦一番艦、朝潮です!」

ル級「オ前ハ……巡洋艦カ?」

利根「……吾輩は重巡、利根である」

ル級「オ前ハ?」

明石「工作艦、明石です!」

ル級「ソシテオ前ハ……人間カ」

提督「提督だ」

朝潮「提督准尉は、この島にある鎮守府の司令官であらせられます!」

ル級「ココガ、鎮守府……ソウカ。私ハ敵ノ本拠地ニ流サレテキタノカ」

ル級「私モ年貢ノ納メ時、カ……フフ……」

長門「ル級……貴様……」

 ググゥ

ル級「……///」

全員「……」

提督「……朝飯、食いに行くか」



448 ◆EyREdFoqVQ2017/08/16(水) 14:46:12.69jVtVC/TLo (11/11)

今回はここまで。


449以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/16(水) 18:19:33.62hncwhN/H0 (1/1)

おおう……


450以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/19(土) 04:53:56.258DuHlFi6O (1/1)

オリョクルする側はもはや定番だけど、される側とか新しいなっ


451 ◆EyREdFoqVQ2017/08/26(土) 20:37:48.50BpUYPZ8jo (1/8)

それでは続きです。


452 ◆EyREdFoqVQ2017/08/26(土) 20:38:35.20BpUYPZ8jo (2/8)


 * 食堂 *


朧「」ボーゼン


提督「へぇ、一応深海棲艦も飯は食ってんのか」モグモグ

ル級「タマニ魚ヲ捕マエテ食ベルクライハシテルケド、温カイゴハンハ食ベテナイワネ」パク

ル級「……ネエ長門、ソレナアニ?」モギュモギュ

長門「ん? 醤油のことか? これはこの野菜にかけるんだ。おひたしに味はついていないからな」

明石「かけすぎないように注意してくださいね」

ル級「……コノクライ?」チョロッ

長門「そうだな」

ル級「……」パク

ル級「! オイシイ!」パァァ

長門「そうか、それは良かった!」パァァ

明石「良かったですねえ!」パァァ

利根「……」

朝潮「利根さん、どうしました?」



453 ◆EyREdFoqVQ2017/08/26(土) 20:39:33.71BpUYPZ8jo (3/8)


利根「……不思議なものじゃの。敵であるはずの存在と、こうも和気藹々としながら朝餉を取ることになるとは」

朝潮「そう、ですね。朝潮も、こんな日が来るとは思いもしませんでした!」

利根「これがこの島の日常なのじゃな……」

提督「馬ぁ鹿、日常であってたまるかよ。あそこの朧を見てみろ、目え見開いて固まってんじゃねえか」

朧「」コウチョク

利根「違うのか?」

提督「お前は来たばかりだから誤解してるだけだ」

 ゾロゾロ

吹雪「おはようございまーす!」

敷波「ごっはんーごっはんー」

潮「あれ? 朧ちゃん固まってるけど何が……?」

電「なにかあったのです……?」

吹雪「なにって……?」

敷波「え……?」

ル級「ン?」モグモグ

吹雪敷波潮電「「「「はわわわわ!?」」」」ビックゥ!



454 ◆EyREdFoqVQ2017/08/26(土) 20:41:07.07BpUYPZ8jo (4/8)


電「て、て、敵戦艦なのです!?」ステーン

吹雪「し、ししし司令官離れてください危ないです!!」ガタガタガタ

潮「うーん……」フラッ

敷波「ちょっ、潮気絶してる!? しっかりしろってばー!」ユッサユッサ

提督「ほれ見ろ、普通こうなる」

利根「……むう」

提督「俺ですら、まさか深海の連中と飯を囲むなんて想像だにしてなかったしな」

ル級「私ダッテ朝ゴハンマデ御馳走シテモラエルナンテ、思ッテナカッタワ」

利根「提督よ、おぬしは本当に驚いておるのか? 厨房におった比叡はまったく驚いておらんかったではないか」

 *

比叡「え? 深海棲艦? またご冗談を……ひえー、本物ですか!?」

比叡「それでどうして食堂に……一緒に食事を! そうでしたか!」

ル級「……イイノカ?」

比叡「ええ、どうぞどうぞ! お腹がすくのはみんな一緒なんですね!」ニコー

 *

提督「あれの肝っ玉は特別製だ。比較対象にはならねえよ」

明石「ちなみに比叡さんの隣にいた暁ちゃんは絶句してました!」



455 ◆EyREdFoqVQ2017/08/26(土) 20:42:40.40BpUYPZ8jo (5/8)


長門「しかし、現実にこうして交友できているからな。問題なのはこれからだぞ、提督」

提督「ん?」

長門「貴様は、これからル級をどうするつもりだ?」

提督「……どうする、ねえ」

長門「普通、人間なら捕虜として扱うことになるんだが……」

明石「この状況では、拿捕というか鹵獲というか、敵戦艦を捕まえたことになりますからねえ」

ル級「……ソウ、ダナ」

提督「俺は別に捕まえる気はねえよ。好きに出入りしな」

ル級「ハ!?」

提督「お前、これ以上俺たちとやり合う気はあるか? 艦娘と戦う気はあるか? ねえならまた遊びに来いって話だ」

ル級「……」ポカーン

長門「提督よ……普通、こんなことを深海棲艦に言う司令官はいないぞ?」

吹雪「そ、そそそそうですよ司令官!!」

敷波「それ本気で言ってる!?」

潮「お、お、落ち着いて! 落ち着いて深呼吸して!!」ヒッヒッフーーー

明石「潮ちゃんそれ違うよ」

提督「落ち着くのはお前らのほうだろ」



456 ◆EyREdFoqVQ2017/08/26(土) 20:43:36.71BpUYPZ8jo (6/8)


電「さ、さすがにびっくりするのです……大丈夫ですか?」

ル級「……私ハ……」

提督「ま、決められないなら少し考えな。お前の都合もあんだろ?」

ル級「……」

朧「……はっ! い、今、敵戦艦がご飯食べてた気がするんだけど!」

電「朧ちゃん、ちゃんと現実に戻ってくるのです」

提督(思いの外、電が冷静なのは、沈んだ敵も救いたいって考えてたからかねえ)



 * 少しだけ時をさかのぼり 某鎮守府 *

「潜水艦どもが全員へばったって? MVP取った奴は別だろう?」

伊8(オレンジ疲労)「……」

「なるほど、ハチだけ元気なのか。じゃあお前、単艦で行ってこい」

伊8「……!」

「補給はお前の分だけ出してやる。他の潜水艦連中に補給を受けさせたいなら、とっとと行け」

伊8「……はい」



457 ◆EyREdFoqVQ2017/08/26(土) 20:45:48.44BpUYPZ8jo (7/8)


 * そして一方のオリョール *

「ウハwwwル級イネェwww」

「マジデwwwリアルトンズラwww」

「リダ補充ヨロwww」

「軽巡POP」

「エwwwwww」

「誘ッタ」

「ウハwwwオkwww」

「マジデwwwwwwwwwwwwwwwww」

「オイスー^^」

「ポコタンktkrwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


「ル級ガ抜ケテ、アイツラノテンション、オカシクナッテル……」

「大丈夫ナノカ」タラリ




458 ◆EyREdFoqVQ2017/08/26(土) 20:46:22.87BpUYPZ8jo (8/8)

今回はここまでェ。


459以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/27(日) 13:00:16.38nk+8oMiio (1/1)

何この俺たち


460 ◆EyREdFoqVQ2017/09/06(水) 00:57:36.85NmuZX/UBo (1/11)

続きです。


461 ◆EyREdFoqVQ2017/09/06(水) 01:01:16.87NmuZX/UBo (2/11)


 * 墓場島鎮守府 執務室 *

神通「そうですか。戦艦と交流を持てたということですね」

長門「そうだ。捕まえることもせず、ル級は海に帰って行ったが……いいのか?」

提督「いいんだよ。俺にはあいつを拘束する気はねえ」

長門「神通、貴様はどう思う?」

神通「私はル級さんとの交流に賛成です」ニコッ

長門「……!!」

提督「なんだその意外そーな顔は」

長門「す、すまん、そんなにあっさりと賛成すると思わなかったんだ」

提督「神通が以前所属してた鎮守府は、深海棲艦と友好を結ぼうとしていたからな」

長門「それでか。あんまり良い笑顔で言うから面食らってしまった」

神通「あの……そうは言いましたが、私も諸手を挙げて賛成というわけではありません」

神通「疑いたくはありませんが、彼女が私たちを騙している可能性もありますし、それに……」

長門「それに?」

提督「俺が狙われる、ってか?」

神通「……」

長門「狙われる? どういうことだ?」



462 ◆EyREdFoqVQ2017/09/06(水) 01:03:01.93NmuZX/UBo (3/11)


提督「神通の元いた鎮守府の司令官……F提督は、深海棲艦と友好を結ぼうっていう連中で集まってた」

提督「それをうざったく思った別の海軍連中が、F提督たちを謀殺したんだよ。戦争が終わったら困るって理由でな」

長門「!」

提督「その犯人が、少佐じゃねえか、って言われてる」

長門「本当か!?」

提督「言われてる、っつうだけで証拠はねえ。だが、あいつならやりかねねえだろ」

神通「……私は、ル級さんとの交流は賛成です。ですが、それを表沙汰にすることには反対です」

提督「ま、そうならぁな。いいんじゃねえか、それで。上に報告すんのも面倒だし、馬鹿正直に報告しても厄介ごとは増えそうだ」

提督「ル級だって人間全部と仲良くしようって気はねえだろ。俺たちだけの関係ってことにしちまおうぜ」

長門「なるほど……乙女の秘密というやつだな」

神通「……」

提督「……」

長門「な、なんだお前たち、その顔は!?」




463 ◆EyREdFoqVQ2017/09/06(水) 01:04:10.06NmuZX/UBo (4/11)


 * 東部オリョール海 戦闘海域 *

 爆雷<ヒュー…ボボーン

伊8(大破)「くぅ……!」

通信『その海域さえ抜けてしまえば、あとは潜水艦に攻撃できる奴はいない』

通信『そのまま進軍しろ』

伊8「……」

通信『そろそろ次の敵艦隊が見えてくるころだな。適当にやり過ごせ』

伊8「……」

 コーン

伊8「……ソナー音……!?」

ヘ級「……」ニヤリ

伊8「て、敵艦隊に……軽巡洋艦発見……!!」

通信『ああ? その海域に軽巡がいるわけないだろう!』

伊8「で、でも……!!」

 爆雷<ゴポポポ…

伊8「!!」



464 ◆EyREdFoqVQ2017/09/06(水) 01:05:45.78NmuZX/UBo (5/11)


 ボガボガボガーーン

伊8「あ……!!」ゴボッ

通信『なんだ今の爆発音は! ハチ! 応答しろ!』

伊8「……」ゴボゴボゴボ…

通信『応答しろ! おい! ふざけるな! 応答しろっ!!』




祥鳳「……今、先行していったのは潜水艦でしょうか?」

伊勢「みたいだね。単艦で大丈夫なのかな?」

伊19「潜水艦なら、この海域を抜ければ攻撃される心配はないのね!」

熊野「そうなんですの? でも……わたくしの瑞雲から想定外の連絡が来てましてよ?」

球磨「何かあったクマ?」

熊野「……あの船影……間違いありませんわ。あれは軽巡ヘ級ではありませんこと?」

伊58「ええええ!?」

祥鳳「!! 仕方ありません、軽巡洋艦を優先して攻撃します!」




465 ◆EyREdFoqVQ2017/09/06(水) 01:06:33.29NmuZX/UBo (6/11)


 * オリョール近海 *

ル級「……戻ルニシテモ、ドンナ顔ヲシテ戻レバイイノカシラ……ハァ」

ル級「……!」

ル級「……アレハ……」


海中に沈んでいく伊8「」ゴボゴボゴボッ


ル級「……」

ル級「……」

ル級「……」


 ザプン





466 ◆EyREdFoqVQ2017/09/06(水) 01:08:44.87NmuZX/UBo (7/11)


 * 数日後 X提督鎮守府 *

X提督「報告は聞いたよ。オリョールに有り得ないはずの編成の艦隊がいたらしいね?」

通信(W提督)『ああ。伊勢も球磨も目視で確認してる。熊野が瑞雲で映像記録も残してる』

通信『本営に確認したら俺たち以外にもそういう連中と遭遇したって連絡があった。あいつら、気分転換でもしたのか?』

X提督「うちのイクとゴーヤも肝を冷やしたって言っていたよ。祥鳳も真っ先に狙って撃破したって言うし」

通信『……なら、そこで潜水艦娘の船影を確認したこともきいているな?』

通信『熊野が壊れた通信機を見つけてな。調べてみたら、ある鎮守府の潜水艦の持ち物だってことがわかった』

通信『単艦で大破させた艦娘を、進軍させたことは重大な軍規違反だ。二度と艦隊の指揮を執ることはできないだろう』

X提督「その潜水艦娘は……」

通信『残念だが、轟沈したらしい』

X提督「……まだ、艦娘をそんな風に扱うやつらがいるのか……」

通信『戦争だからな。犠牲が出るのは仕方ない』

通信『が、自分の部下を無駄死にさせる無能にだけはなりたくないな』

X提督「……」




467 ◆EyREdFoqVQ2017/09/06(水) 01:10:28.98NmuZX/UBo (8/11)


 * ほぼ同時刻 墓場島 北東の砂浜 *

(伊8が波打ち際で気を失って横たわっている)

如月「この子は潜水艦ね。伊号潜水艦の8さんよ」

ル級「潜水艦!?」

電「わざわざオリョールから、伊8さんを引っ張ってきたのですか?」

ル級「一応、ネ。ココノ鎮守府ノ艦娘ダッタラ、ト思ッタンダケド……」

提督「そうだったか、気を遣わせて悪いな。うちに潜水艦娘はいねえんだ」

提督「つうか、俺も潜水艦娘を見るのは初めてなんだが……」チラ

ル級「?」

電「どうかしたのですか?」

提督「こいつが着てるの、小学校とかで着るような水着だよな……?」

如月「ええ、俗にいうスクール水着よ」

提督「……」

如月「どうしたの司令官?」

提督「えーとなあ……お前らがセーラー服着てるのって、もともとそれが水兵の制服だから、だよな?」

提督「そこまではいいんだが、その延長で潜水艦は学生用の水着がコスチュームってのはどうなんだ?」

如月「え、ええと……」

電「そう言われても……」



468 ◆EyREdFoqVQ2017/09/06(水) 01:13:02.60NmuZX/UBo (9/11)


提督「ま、確かにお前らに言っても仕方ねえな。悪かった、聞かなかったことにしといてくれ」

ル級「トリアエズ、コノ艦娘ハ、アナタタチトハ無関係ッテコトネ?」

提督「ああ、そうだ」

ル級「ナラ、撃ッテモ構ワナイワネ?」ジャキ

如月「ええっ!?」

電「ま、待ってほしいのです!」

ル級「ナゼ待タナイトイケナイ?」

電「そ、それは……!」

提督「そりゃ寝覚めが悪いからだろ。仮にも自分と同じ艦娘が、お前に撃たれるのを見て平然としていられるほど、こいつらも図太くねえ」

電「し、司令官さんはどうなんです!?」

提督「さあて、俺は判断つかねえな。こいつが延々ル級を苦しめていたっていうのなら、ル級の気持ちが優先されてもいいんじゃねえの」

ル級「ソレナラ、遠慮ハイラナイワネ?」

提督「まあな。ただなあ……」

ル級「?」

提督「こいつ、やけに細くねえか? 目の下にくまもできてる。そんな奴がお前を何度も相手するのかね?」

如月「私も体の細さは気になってたわ。明らかにやつれてる感じだもの」

電「そもそも、オリョールで潜水艦が沈む話は聞いたことがないのです。こんなになること自体、ありえないのです!」



469 ◆EyREdFoqVQ2017/09/06(水) 01:13:37.48NmuZX/UBo (10/11)


ル級「沈メテアゲレバ、イイノヨ。ソイツハ、生キルコトヲ苦シガッテルンダカラ」

如月「え……?」

提督「……その根拠は」

ル級「ワカルノヨ。ワタシタチニハ」

提督「へえ……こいつの口から訊いてみたいもんだな、その理由」

提督「ル級、しばらくこいつの身を預かる。また明日ここに来てくれるか」

ル級「……」

提督「心配すんな。逃がしたりしねえよ、約束する」

ル級「……ワカッタ。ダガ、約束ヲ違エルヨウナラ、ワカッテイルナ?」

提督「ああ、好きにしな」



如月「……」

電「如月ちゃん、どうしたのです?」

如月「私、そういえば司令官と約束したことなかったわ……羨ましい」ハイライトオフ

電「!?」ゾクッ

ル級(ナ、ナンダコノ悪寒ハ!?)ゾクゾクゾクッ



470 ◆EyREdFoqVQ2017/09/06(水) 01:14:09.82NmuZX/UBo (11/11)

今回はここまで。


471以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/10/04(水) 12:38:03.81N8uyEFC0O (1/1)

待ってるぞー


472 ◆EyREdFoqVQ2017/10/16(月) 20:36:18.46nQjDGpr8o (1/19)

お待たせしてすみません。続きです。


473 ◆EyREdFoqVQ2017/10/16(月) 20:38:57.23nQjDGpr8o (2/19)


 * 2日後 墓場島鎮守府 入渠ドック *

明石「簡単に言うと、過労ですね」

提督「……艦娘ってのは、そこまで働かせなきゃなんねえもんなのか?」

明石「残念ながら、潜水艦娘の扱いとしてはさほど珍しくないほうですよ。消費資材が少なく、入渠時間も短いからこその運用方法です」

明石「それに、東部オリョール海は資源の宝庫です。資源調達作業ですから、数をこなしてなんぼなんです」

提督「バケツリレーみたいだな」

明石「そんな感じですね。そしてその備蓄は、本営からある一定期間ごとに発令される大規模作戦のために行われることがほとんどです」

明石「そのために、普段から少しでも多くの資源を確保し、大規模作戦の成功のために各鎮守府が躍起になるんですよ」

提督「それを、日頃の深海勢力の討伐もやりながら、か」チラッ


ル級「……」

眠り続ける伊8「」


提督「話は分かった。が、こいつが2日も目を覚まさないのは普通じゃないよな?」

明石「まあ……普通じゃありませんね。体は治りましたけど、それで目を覚ます気配がありませんから、余程のことがあったんだと思います」



474 ◆EyREdFoqVQ2017/10/16(月) 20:39:57.68nQjDGpr8o (3/19)


提督「……おい、ル級」

ル級「ナニ?」

提督「こいつは生きるのが苦しいとか言ってたな?」

ル級「エエ、ソウヨ。今モ目ヲ覚マシタクナイミタイ」

提督「明石、こいつの体のほうはもう大丈夫なんだな?」

明石「は、はい、衰弱はしていますが、治療及び損傷の修理は終わってます」

提督「そうか。じゃあ明石、こいつ借りてくぞ」ヒョイ

明石「え!? ど、どこに連れていくんですか!?」

提督「砂浜だ。行くぞル級、ついてこい」

明石「提督!? 待ってください!!」

ル級「?」



475 ◆EyREdFoqVQ2017/10/16(月) 20:40:39.26nQjDGpr8o (4/19)


 * 北東の砂浜 *

提督「この辺でいいか」

明石「いったい何をしようと言うんですか! 提督!!」

ル級「人ガ集マッテキタワネ」

 ゾロゾロ

古鷹「ほ、本当に敵戦艦と一緒にいるんですね……」

朝雲「明石さん、騒いでるけどなにかあったの?」

由良「あの子、もしかして深海棲艦が連れてきたっていう潜水艦の子?」

利根「……そのようじゃの」


提督「さて、伊8っつったな」

伊8「……」

提督「おい、起きろ」

伊8「……」

提督「起きろよ」ペチペチ

明石「て、提督! 傷病人ですよ!?」



476 ◆EyREdFoqVQ2017/10/16(月) 20:41:36.87nQjDGpr8o (5/19)


提督「いくらなんでも、ここまで起きねえのはおかしいだろ。ほれ、起きろ!」

伊8「……」ユサユサ

提督「……」

伊8「……」

提督「とっとと起きろやおるああああ!」アイアンクロー

伊8「っぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」メギメギメギメギ

明石「提督なにやってんですかああ!?」ガビーン

古鷹「提督やめてあげてー!?」ガビーン

由良「酷い起こし方しないで!」ガビーン

朝雲「……あれがこの鎮守府の普通じゃないからね?」

利根「う、うむ……」

ル級(本当カシラ……)



477 ◆EyREdFoqVQ2017/10/16(月) 20:42:56.28nQjDGpr8o (6/19)


伊8「う、ううう、ここは……」

提督「××国××島鎮守府。墓場島鎮守府、と言ったほうが通じるらしいがな」

伊8「……××国……そんなところまで、流されてきたの……?」ボンヤリ

提督「で、随分寝起きが悪かったようだが、お前はこれからどうするんだ」

伊8「……はっちゃん、怪我してたのに……手当、してくれたの?」

明石「はい! ひどい怪我でしたよ?」

伊8「そう……ありがとう。でも、すぐに行かないと……」

提督「どこへ行く」

伊8「オリョールへ……資材を、集めに……」

提督「……お前、本気で言ってるか?」

伊8「……?」フリムキ

提督「お前、本当に元の鎮守府に戻りたいのか?」

伊8「……」

提督「お前の意思で、鎮守府に戻ると、言うんだな?」

伊8「……」コクン

提督「だったらどうして、お前はそんなに怯えてやがる」

伊8「え……?」

提督「気付いてないのか? 足が震えてるぞ」

伊8「……!」カタカタ



478 ◆EyREdFoqVQ2017/10/16(月) 20:44:01.31nQjDGpr8o (7/19)


提督「どうしてそこまで戻りたがる? そんなにお前の司令官が恋しいのか?」

伊8「……や、やめて……!」ビクビクッ

提督「お前を2日も眠り続けるほどこき使う、お前の司令官はそんなに立派なのか」

伊8「やめて……はっちゃんの提督を、悪く言わないで……!」

提督「……」

伊8「怒られる、から、やめてぇ……」カタカタカタ

提督「……!」

伊8「2日も、休んで……連絡もしないで……」プルプルプル

伊8「……あ、つ、通信機も……ない……ない!」ゴソゴソ

伊8「う、ううう……たくさん、怒られる……!!」ガタガタガタ

伊8「はやく……はやく、もどらないと……ちんじゅふに、もどらないと……っ!!」フラフラ

古鷹「……っ」

朝雲「ね、ねえ、ちょっと、異常じゃない……!?」

明石「行かせちゃ駄目です! 提督、彼女を止めてください!」

提督「……」

伊8「もどらないと……おこられる……!!」



479 ◆EyREdFoqVQ2017/10/16(月) 20:45:44.98nQjDGpr8o (8/19)


提督「……安心しろ。戻る必要はねえ」ガシッ

伊8「!?」エリクビツカマレ

提督「お前は一度、沈んだんだよ。オリョールでな」

伊8「!? うそ……うそっ!」

提督「轟沈したお前の体の傷は、そこにいる明石が直したんだ」

伊8「はなして……はなしてえ……はっちゃんは、ちんじゅふに、もどるの……!!」バタバタ

提督「……」ハァ

 グイッ

伊8「きゃっ!?」ドテッ

提督「おい、ル級」

ル級「ナァニ?」

提督「こいつ撃っていいぞ。好きにしろ」

伊8「!?」

ル級「!」

明石「な、何を言ってるんですか!? 提督!!」

提督「人の話を聞かねえ死にたがりに、手を貸す気はねえ」

提督「こいつは一度沈んでる。戻ったところで解体が関の山だ」

提督「死んだも同然の潜水艦なら、潜水艦に恨みを持ってるル級に撃たせてやったほうがいいじゃねえか」



480 ◆EyREdFoqVQ2017/10/16(月) 20:47:09.57nQjDGpr8o (9/19)


明石「な……正気ですか!!」

古鷹「」

朝雲(古鷹さんが言葉を失ってる……)

由良「せっかく助かったのに、どうしてそんなことを!」

提督「助かるかもしれない道を自分で潰してるんだぞ。なんで手を差し出す必要がある」

伊8「え? え……!?」

明石「だからと言って、曲がりなりにも一鎮守府を預かる司令官が、そんな判断をしますか!?」

提督「俺は自分の意思があるやつを優先する」

ル級「……」

朝雲「ね、ねえ、利根さん!? 利根さんからも何か言ってよ!」

利根「……」

ル級「……提督」

明石「!」ハッ

ル級「本当ニ、イイノネ?」スッ

提督「ああ」

明石「提督!!」

朝雲「駄目よ!!」

由良「やめてえええ!」



481 ◆EyREdFoqVQ2017/10/16(月) 20:48:28.79nQjDGpr8o (10/19)


ル級「サヨナラ」ジャキッ

伊8「……ひ……!?」

 ドドドドドォン

伊8「あ……!」

 ドガドガドガドガァァァン

明石「!! てい……とく……っ!!」ギリッ

古鷹「」

朝雲「ほ、本当に撃たせるなんて……!!」

由良「そんな……」ヘタッ

利根「……」

ル級「……フゥ」

提督「……」

明石「提督!! あなたって人は……!!」

利根「待て」グッ

明石「何をするんですか!!」

利根「提督に食って掛かるより、伊8のもとへ行くべきじゃぞ。まだ間に合うやもしれん」

明石「……っ!」ダッ



482 ◆EyREdFoqVQ2017/10/16(月) 20:50:29.32nQjDGpr8o (11/19)


由良「と、利根さんは、提督に何も感じないんですか!!」

利根「あの伊8は、元いた鎮守府に戻って、またオリョールを巡るだけの存在に戻ろうとしておる。それは伊8にとっての幸せであろうか」

利根「提督のやり方が良いとは思わぬが、伊8のこれからを考えれば、強引ではあるがこの手段もありかもしれぬと吾輩は思ったのじゃ」

朝雲「い、いや、普通ないでしょ!?」

利根「ならば聞くが、普通とはどういったものを言うのだ?」

朝雲「え? え、ええっと……」

利根「吾輩は、前の鎮守府で『もう殺して欲しい』とまで思ったことがある。それこそおぬしの言う『普通』とはかけ離れておろうが……」

利根「ならば、伊8を取り巻く環境が普通であったかどうか? 何を以てそれを確信できようか……!」

由良「利根さん……」

利根「あの伊8は、今の自分が正しいのかを考える力すら奪われている……吾輩にはそんな風にも見える」

利根「生きていれば、幸せを感じる可能性はある。その通りじゃ……吾輩は、今まさにそれを実感している」

利根「ゆえに、吾輩たちがしなければならないのは、伊8の間違った自己犠牲の精神を正してやることではないのかな?」

朝雲「……」


明石「伊8さん! しっかりしてください……あれ?」

伊8「げほ、げほっ、砂が口に……」

利根「む?」



483 ◆EyREdFoqVQ2017/10/16(月) 20:52:18.91nQjDGpr8o (12/19)


朝雲「ど、どうしたの?」

明石「い、いえ、その、全然命中してないといいますか……」

由良「ど、どういうこと?」

利根「ル級、おぬし……」

ル級「借リハ返シタワヨ」ウインクー

明石「!!」

提督「なんだと? ……お前はそれでいいのか?」

ル級「ダッテ私、戦艦ダモノ。潜水艦ヘノ攻撃ハデキナイワ」

提督「本当かよ」

明石「……提督」スッ

提督「ん?」

 バヂン!

提督「!」ヨロッ

明石「ル級さんですらこうなのに……少しは、人の痛みを思い知ってください!」

由良「良い音」ジトメ

朝雲「そりゃ、ビンタされても仕方ないわよ」ハァ

古鷹「……はっ!? って、提督!? は、鼻血が出てます!!」

提督「つ……気にすんな。歯は折れてねえから安心しろ」ポタポタ

古鷹「顔の左半分が真っ青ですよ!?」



484 ◆EyREdFoqVQ2017/10/16(月) 20:54:22.74nQjDGpr8o (13/19)


 ザッザッ

不知火「司令、こちらにいらっしゃいま……どうしたんですかそのお顔は」ヒキッ

提督「いいから気にすんな」

不知火「そうは仰いますが……砲撃音も聞こえました。いったい何があったん……」ピタ

不知火「……」パチクリ

ル級「?」クビカシゲ

不知火「……」メヲコスリコスリ

不知火「……」

不知火「……司令? 視界に深海棲艦の存在を確認できますが?」クビカシゲ

提督「その話はあとだ。それより、先月の轟沈艦リスト、もらってきてるな?」

不知火「……はい。それとその件で個別にご報告があります」

提督「なんだ?」

不知火「先日、東オリョール海域の敵艦隊の編成に変化がありました」

不知火「平時は編成に戦艦ル級がいる艦隊が、先日に限り軽巡ヘ級へと変わっていたそうです」

明石「!」



485 ◆EyREdFoqVQ2017/10/16(月) 20:55:10.25nQjDGpr8o (14/19)


由良「ねえ、それってまさか」チラッ

ル級「……私?」

不知火「……」

提督「不知火、続きを頼む」

不知火「は、はい。その結果、大破した状態で進軍を指示された、某鎮守府の潜水艦娘、伊8が轟沈」

不知火「その艦隊を指揮していた鎮守府の司令官は解任となりました」

朝雲「それ、もしかしなくても、だよね」チラッ

古鷹「そういうことでしたか……」

伊8「?」キョトン

提督「やれやれ……」

不知火「あの、凡その見当は付きますが、不知火にもご説明いただけないでしょうか……」



486 ◆EyREdFoqVQ2017/10/16(月) 20:57:19.78nQjDGpr8o (15/19)


 * 医務室 *

明石「伊8さん、落ち着きました?」

伊8「……はい」

古鷹「提督も動かないでくださいね」クスリヌリヌリ

提督「ん」

利根「薬を塗って終わりですむのか、その怪我は」

古鷹「なにもしないよりは良いと思います!」

由良「まあ、専門医もいないし……やむを得ないわよね。ね?」

朝雲「半分は提督の自業自得なところもあるしね」

不知火「それで、申し上げにくいのですが……伊8さんが沈んだ遠因に、ル級さんの出撃ボイコットがあったということですね?」

明石「間違いないでしょうね。ル級さんがこっちに滞在していた時期にも合致するし」

由良「ル級さんが抜けた代わりに軽巡が入ったから、潜水艦が無傷で突破できる海域じゃなくなった……ってことね」

朝雲「結果的に、意図せずして意趣返しに成功しちゃった感じ?」

ル級「ナンカ、釈然トシナイワ……」ムスー

利根「ふむ……それもあるが、伊8に大破進軍を命じた司令官も問題じゃろう。そもそも伊8の轟沈はそれで免れたはずじゃ」

古鷹「ですが、その人は解任されましたし、同じような目に遭う艦娘はいなくなりますよね!」ガーゼペタペタ

提督「そうなるといいがな」



487 ◆EyREdFoqVQ2017/10/16(月) 20:58:00.65nQjDGpr8o (16/19)


古鷹「あっ、提督動かないでください!」ホータイマキマキ

提督「ん……」

不知火「とりあえず、伊8さんの司令官の解任は決定事項です。新しい司令官が着任予定になっています」

不知火「ただ、その方が前任者同様に潜水艦娘をオリョールへ繰り出すかどうかはわかりません」

古鷹「そうですか……そうでないことを祈るばかりですね」ホータイマキマキ

不知火「あとは、伊8さんの処遇についてですが」

伊8「!」

朝雲「ねえ不知火、さっきの資料見せてもらってもいい?」

不知火「ええ、どうぞ」スッ

朝雲「……由良さんと明石さんは一度轟沈してるんでしたっけ?」

由良「うん」

朝雲「それで鎮守府に引き続き着任できているのは、この島の鎮守府の特例、と」

古鷹「提督はすごい権限をお持ちなんですね!」ホータイマキマキ

提督「ん」

朝雲「じゃあ、もう伊8さんの取るべき針路はもう決まってるじゃない」

由良「そうね、結局そこに行きつくわよね」



488 ◆EyREdFoqVQ2017/10/16(月) 20:59:03.77nQjDGpr8o (17/19)


明石「そういうわけで、伊8さん」

伊8「……」ビク

明石「あなたの鎮守府にいた司令官は馘になりました。彼はもう二度と艦隊の指揮を執ることはありません」

伊8「……! ほん、とう……?」

明石「はい! あなたの鎮守府の潜水艦娘の処遇も変わると思います! 多分!」

伊8「……そう……そう、なんだ……!」

伊8「もう、あのひとに、怯えなくて……いいんだ……!」ポロポロポロ

明石「ただ、あなたは轟沈したことになりました。元の鎮守府には戻れません」

伊8「! じゃ、じゃあ、はっちゃんは……」

由良「大丈夫、この鎮守府には轟沈した艦娘が着任できる特例があるから!」

明石「そういうわけですから提督!」クルッ

提督「……」ホータイグルグルマキー

伊8由良明石「「「!?」」」

明石「……なにやってんですか提督」

由良「……ミイラ男ごっこ?」

利根「さっきから眺めておったが、古鷹が包帯を巻きすぎただけじゃぞ」

提督「ん」



489 ◆EyREdFoqVQ2017/10/16(月) 20:59:53.21nQjDGpr8o (18/19)


明石「と、とりあえず、伊8さんの着任は認めてくださいますよね?」

提督「ん……」

由良「あの、ん、じゃわからないんですけど」

提督「んぐぐ」ミブリテブリー

朝雲「……もしかして」ガシッ

朝雲「古鷹さん! こんなに包帯巻いたら提督の顎が動かないでしょ!?」

古鷹「え? 苦しくない程度に固定したんだけど……」

朝雲「固定してどうするの!? これじゃご飯も食べられないじゃない!」ホータイホドキホドキ

古鷹「……はっ!? そういえば!!」

明石「古鷹さんってこんなに抜けてましたっけ?」

由良「ときどきだけど、とぼけてはいるわよね、ね」

利根「朝雲は苦労性なんじゃな……」

伊8「……」


ル級「……」

不知火「……あなたは、これからどうするおつもりですか」

ル級「……サテ、ネ」

不知火「……」



490 ◆EyREdFoqVQ2017/10/16(月) 21:00:44.16nQjDGpr8o (19/19)

というところで、今回はここまで。


491以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/10/16(月) 21:17:10.390HHBvHQOo (1/1)

乙乙


492以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/10/16(月) 23:33:33.74K6kp7CRe0 (1/1)




493以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/10/17(火) 08:15:23.41fSwobz1S0 (1/1)

更新乙です
まっててよかった


494 ◆EyREdFoqVQ2017/10/25(水) 21:40:31.24hV3dmL76o (1/15)

続きです。


495 ◆EyREdFoqVQ2017/10/25(水) 21:41:39.98hV3dmL76o (2/15)


 * 夜 提督の私室 *

如月「はい、これで大丈夫ですよ」

提督「悪いな。自分の顔の包帯がこんなに巻きづらいとは思わなかった」

如月「うふふ、悪いだなんて……司令官のお世話でしたら、この如月、いつなんどきでも喜んで承ります」

如月「せっかくですからこのまま朝まで……うふふふふー」ニジリヨリ

提督「お前な……」ハァ

 扉<コンコン

利根「利根である。提督よ、夜分にすまないが、いいだろうか」

如月「……いいところだったのに」プクー

提督「いいところじゃねえよ……入っていいぞ」

利根「うむ、失礼する……む? 取り込み中であったか?」

提督「包帯を巻きなおしてもらったとこだ。どうかしたのか」

利根「うむ。ひとつ、確かめておきたいことがあっての……」

如月(利根さん、提督の前まで近づいて行って、何をする気かしら)

利根「……」

提督「?」



496 ◆EyREdFoqVQ2017/10/25(水) 21:44:37.92hV3dmL76o (3/15)


利根「せいっ!」ミギストレート

提督「危ねっ!?」バッ

如月「!?」

利根「む……何故避ける?」クビカシゲ

提督「避けるわ馬鹿たれ! なんでお前に殴られなきゃなんねえんだ!」

如月「と、利根さん!? どうして司令官に殴り掛かるの!?」

利根「……おぬしは、明石にビンタされたときには笑っておったではないか」

如月「」シロメ

提督「よく見てやがったな……それはそういう意味じゃねえよ。あん時は殴られても仕方ねえな、って自嘲してただけだ」

利根「そうなのか?」

提督「俺は殴られて喜ぶ趣味はねえぞ。如月もショック受けてんじゃねえか、ほれ戻ってこい」デコツン

如月「はっ!? し、司令官!? 司令官がドMなんて嘘ですよね!?」

提督「知るか、興味ねえから安心しろ」ハァ

利根「……そうであったか。すまないことをした」ペコリ

如月「もう、利根さんったら駄目ですよ? 司令官が大怪我しても、治療できる人がいないんですから」

利根「うむ……重ね重ね申し訳ない」



497 ◆EyREdFoqVQ2017/10/25(水) 21:45:47.63hV3dmL76o (4/15)


提督「それよりもだ、なんで俺を殴ろうとした?」

利根「……吾輩は、愛情というものがなんなのか、わからんのじゃ」

如月「??」

利根「前にいた鎮守府のM准将は、吾輩が好きだと言っておった。その反面、吾輩を痛めつけることを喜びとしておった」

利根「吾輩にはどうしても理解できなかった。気に入った相手に苦痛を与える理由も、意味も……」

利根「昼間、おぬしは明石に叩かれて笑っておった。叩いて喜ぶ相手なら、叩く側の気持ちもわかるのだろうか、と……」

提督「……叩く側の気持ちを確かめたかった、ってか」

利根「うむ。しかし、吾輩が提督を殴っていたとしたら、吾輩は途方もない後悔に苛まされておったであろうな」

如月「ね、ねえ司令官? 私たち、まだ利根さんのことはあまり詳しく聞いてないんだけど……」

利根「……話していなかったのか?」

提督「ああ、朝潮にも箝口令を敷いてる。お前がここに馴染む気があるかどうかわからなかったからな」

提督「だがまあ、ありもしねえ噂が立つよりかは、事情を話したほうが良さそうだな」

 * *

提督「つうわけで、利根がここに来た理由は以上だ」

利根「……」ウツムキ

如月「……なんてひどい……」グスッ



498 ◆EyREdFoqVQ2017/10/25(水) 21:48:03.69hV3dmL76o (5/15)


提督「事情が事情だからな。俺は正直、利根の過去についてはまだ伏せておきたいと思ってる」

提督「見た感じ、利根もここへ来たときよりはましな顔を見せるようになった。少しは立ち直ったと俺は勝手に思ってるんだが、どうだ?」

利根「……そう、じゃな。地下牢にいたころとは雲泥の差だ」

提督「だが、その頃の話を明け透けに話せるほど、利根の気持ちの整理もできちゃあいないと俺は踏んでる」

利根「うむ……」

提督「この鎮守府の連中は、ほぼ全員腹に一物抱えた奴ばかりだ。不可侵条約的な意味で、暗黙の了解を敷いてるところもあるんだが……」

提督「利根の体の傷だけは隠しようがねえ。利根自身が、その傷を見られても大丈夫なのかどうか……」

提督「そして、その傷を見た連中が変な噂を立てたりしないか。そのふたつが心配で、まだ誰にも話をしてねえんだ」

如月「……確かに、事情を知らなければ勘繰ってしまうかもしれないわね」

提督「出撃すれば絶対に中破しないなんてのも無理だろ。入渠ドックならまだしも、風呂は共同で仕切りもないし」

提督「俺の部屋のシャワーを使わせるような特別扱いをすれば違う意味で怪しいとも思うよな?」

如月「それはそうね」

提督「利根自身が、自分のトラウマに向き合う覚悟もしてないうちに俺が背中を押すわけにはいかねえからな。慎重にもなるさ」

利根「……何故じゃ」

提督「ん?」



499 ◆EyREdFoqVQ2017/10/25(水) 21:48:58.44hV3dmL76o (6/15)


利根「何故、提督は吾輩にそこまでする?」

提督「……まあ、一応はこの鎮守府の責任者だからな。俺もお前らも、楽に過ごせる環境を作りたいだけさ」

利根「……おぬしは、やさしいんじゃな」

提督「さあて、そりゃどうだかね」プイ

如月「素直じゃないんだから」

提督「俺が伊8にやった仕打ちを考えても、そんなこと言えんのか?」

如月「その伊8さんにも、助けてって言われたら助けてあげるんでしょ?」

提督「……そりゃあな」アタマガリガリ

如月「ほんと、素直じゃないんだから。ふふふっ」

利根「……如月は、提督を信頼しておるんじゃな」

如月「ええ、提督の秘書艦ですもの♪」

利根「……おぬしになら、聞いても良いかもしれん」

如月「?」

利根「おぬしの考える、愛情とは、どういうものなのじゃ?」

如月「! そ、そうね……」カァァ

利根「? 恥ずかしくなるようなものなのか?」

提督「俺はよく知らん」



500 ◆EyREdFoqVQ2017/10/25(水) 21:50:09.68hV3dmL76o (7/15)


如月「恥ずかしいっていうか、どきどきはするわね……なんていうか、その人のことを考えると、嬉しくなる、っていうか……」モジモジ

利根「ほう……」

如月「あとは、その人のために何かしてあげたいって思ったり、もっと私を見てもらいたい、って思うようになるわね」キャー

利根「ふぅむ……」

提督「……その話は別に俺の部屋でやらなくてもいいんじゃねえのか」

如月「もう、司令官はここまで言わせておいて白を切るの?」ズイッ

利根「む?」

如月「司令官は、自分のことを過小評価しすぎてるんです」トン

提督「お、おい?」オシタオサレ

如月「そのお顔。本当なら司令官も明石さんもお説教したいところなんですよ? 良い機会ですから言わせていただきますけど」ノシカカリ

如月「司令官? 自分が正しいと思ったことを貫こうとして、危ないとわかりきってる橋を渡るのはやめていただけません?」オオイカブサリ

如月「この際ですから、私が司令官をどのくらい慕っているか、わかってもらわないといけませんね……!」カオチカヅケ

利根「……な、なんじゃ!? 如月、おぬし何をする気じゃ!」ドキドキ

如月「何って……ふふふふっ」

提督「おいきさら……」

如月「司令官は、少し静かにしててくださいね……!」ガシッ

提督「!」



501 ◆EyREdFoqVQ2017/10/25(水) 21:51:55.36hV3dmL76o (8/15)


利根「き、如月! おぬし、まさか……いかんぞ! そんな破廉恥な行為は!!」ドキドキ

如月「止めないで利根さん……私、もう限界なの……!」

利根「そ、そんな大胆な!! ほ、本気で、せ、せ、せっ……」



利根「せっぷんする気か!?」カオマッカ


明石「何言ってるんですか!! もっと先まで行くでしょ!?」ガチャバーーーン!

如月「え」

利根「む?」

提督「おい」

明石「あ」


「……」


如月「明石さん……?」ゴゴゴゴゴゴ

明石「ひぃっ!!」




502 ◆EyREdFoqVQ2017/10/25(水) 21:53:30.28hV3dmL76o (9/15)


 * *

明石「すみませんでした」ドゲザ

如月「もう……せっかく司令官と二人きりになってたのに。どうしてこう邪魔ばかりはいるのかしら」

提督「そう腐るな。明石も俺に用件があったんだろ」

明石「え、ええ。その、手をあげた件の謝罪に……」

提督「そいつは俺が悪いんだから気にすんな。お前を責める気はねえよ」

明石「ですが……」

提督「あの状況を見ててお前を責めた奴がいたか? いなかったんだからお前は悪かねえって話だ」

提督「くそ痛えが、首も歯も折れない程度には手加減してくれただろ。だからもう気にすんな」

明石「は、はあ……」

提督「それより明石、お前いつから立ち聞きしてた?」

明石「え、ええ、それは……利根さんがここへ来たときの話のときから……」

提督「なら話は早え。利根の体の怪我、治す方法を考えてくれねえか」

利根「!」



503 ◆EyREdFoqVQ2017/10/25(水) 21:54:18.98hV3dmL76o (10/15)


提督「勿論、完全に消すのは難しいだろうが、少しでも目立たなくしてやれば、必要以上につつかれることもないだろう」

明石「わかりました。そういうことでしたらこの明石にお任せください!」

利根「……!」

提督「利根、お前はどうする。俺はお前がやりたいことを口に出さない限り、手は貸さねえぞ」

利根「……吾輩は……まだどうしたらよいかわからぬ。じゃが、もっといろいろなことを知りたい、と思った」

利根「海のことや、この鎮守府のこと、皆のこと……」

利根「……ゆえに、もう少し、生きてみようと思う。おぬしに撃たれたくはないからの」ニコ

提督「言ってくれるな……だがまあ、よく言った」クックッ

提督「じゃ、今日のところはこれで解散だな。俺も寝るから部屋に戻りな」

如月「そう? それじゃ私もここで」

提督「戻れ、っつったろ」ジトメ

如月「……っもう、知らないんだから!」プクー

利根「ではの、提督」

明石「おやすみなさい、提督」

提督「ああ」



504 ◆EyREdFoqVQ2017/10/25(水) 21:55:22.83hV3dmL76o (11/15)


 扉<パタム

如月「もうっ、司令官は鈍感なんだからっ」プンプン

明石「……」

利根「……明石? どうかしたのか?」

明石「あ、いえ、なんでもないですよ」



明石「……」

明石(手加減、したつもりなかったんだけどなあ……)




505 ◆EyREdFoqVQ2017/10/25(水) 21:57:39.79hV3dmL76o (12/15)


 * 一方その頃 建造ドック *

建造妖精たち「……こんな夜中にわたしたちに仕事を頼みに来たのかい?」

島に住んでいる妖精A(以下島妖精)「ああ……資材は確保できてる。こいつを見てくれ」

島妖精B「開発資材、100!」

島妖精C「燃料4000!」

島妖精D「弾薬6000!」

島妖精E「鋼材6000!」

島妖精F「ボーキサイト2000!」

建造妖精「すごく……大きいです」ゴクリ

島妖精A「? 多いんじゃないのか」

妖精たち(ネタが通じてない!?)ガーン

島妖精G「こほん。これは、これまでわたしたちがコツコツ集めてきたへそくり資材!」

島妖精B「提督が来てくれたおかげで、大型建造に十分な量まで集められたよ!」

島妖精D「あの人が来てどうなるかと思ってたけど……」

島妖精C「やっぱり話が通じるって重要だねぇ」



506 ◆EyREdFoqVQ2017/10/25(水) 21:58:40.39hV3dmL76o (13/15)


建造妖精「あんな性格でもか?」

島妖精B「……まあ、あの性格はもう少しどうにかならないかって思うけど」

島妖精G「それは……うん。まあ、そうね……」

島妖精F「それにしても、わたしたちも変わったねえ」

島妖精C「もともとは、わたしたち全員が島から出るために新造しようとしてたんだよね」

島妖精B「それが、今は……提督を助けたいなんて思うようになるなんて」

島妖精D「提督も早くみんなに対して素直になっちゃえばいいのに」

島妖精A「……簡単じゃないんだろうな。わたしたちがそうだったように」

島妖精F「これから建造される子が、少しでも提督を楽にしてあげられるといいね」

島妖精G「うん……!」

島妖精A「……よし、やるか」

島妖精全員「やろう!」


島妖精B「資材、セット完了! ヨシ!」ユビサシ

島妖精D「数量 ヨシ!」ユビサシ

島妖精A「建造ボタン動作! ヨシ!」ユビサシ

建造妖精「……こっちも準備完了だ。いつでも行ける!」

島妖精全員「……」コク



507 ◆EyREdFoqVQ2017/10/25(水) 22:00:24.03hV3dmL76o (14/15)


島妖精全員「建造……開始!」ポチーーーーーッ!!

 ガシャン

島妖精E「……始まった……!」

島妖精F「頼むよ……!」

建造妖精たち「「建造はまかせろーー!!」」バリバリー

島妖精たち「「(余計なフラグ立てるの)やめて!」」

島妖精A「?」クビカシゲ

妖精たち((やっぱり一人だけネタがわかってない……!))


 ゴウン…ゴウン…


 [7:59:16]


 ゴウン…ゴウン…




508 ◆EyREdFoqVQ2017/10/25(水) 22:02:16.98hV3dmL76o (15/15)

今回はここまで。


509以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/10/26(木) 10:56:57.12bO6Ctp0g0 (1/1)

4/6/6/2/20だとどっちも出ますなww
確立的には大和の方が出やすいようですが
更新乙です、毎度の更新楽しみにしております


510以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/10/26(木) 18:50:27.99UPOjYiH70 (1/1)




511以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/10/29(日) 23:36:34.81l7OaLhUA0 (1/1)

乙!

少佐と大和とのやり取りが今から楽しみだなぁ~(ゲス顔)


512 ◆EyREdFoqVQ2017/11/07(火) 22:33:56.86W+zyJmJCo (1/17)

では続きです。


513 ◆EyREdFoqVQ2017/11/07(火) 22:35:03.06W+zyJmJCo (2/17)


 * 翌日 朝 廊下 *

明石「提督、おはようございます!」

提督「おう、おはようさん」

明石「あの、お怪我の具合は大丈夫ですか? だいぶ色が……痛そうなんですが」

提督「大丈夫だが……包帯、巻き直さなきゃ駄目かもな。飯食ってからでいいか」

明石「では後程お手伝いします!」

提督「頼む」

明石「はい! あ、それと報告したいことがありまして。今、建造ドックで艦娘の建造が行われているんです」

提督「なに?」

明石「あと10分程度で建造できるようなんですが……提督、建造なんてしました?」

提督「いいや? そもそも建造ドックなんて入った記憶すら……いや、ドックの修理が終わったときだけだな。それっきりだ」

明石「ですよね? 提督は、建造なんかしないってはっきり仰ってましたもんね……だとしたらいったい誰が」

提督「建造には資材が必要なんだろ? 資材は減ってるのか?」

明石「いえ、帳簿の数量とは合致してます」

提督「? じゃあ、誰かが外から資材を持ち込んだのか」

明石「それが、よりにもよって大型建造なんです。ほいほい持ち歩けるような量の資材ではないんですよ」



514 ◆EyREdFoqVQ2017/11/07(火) 22:36:31.67W+zyJmJCo (3/17)


提督「大型? っつっても俺はその辺いまいちわかんねえんだが……じゃああとは、この島の妖精がやったとしか思えねえな」

明石「妖精さんが!?」

提督「砂浜にしょっちゅうガラクタが流れてくるだろ? あれの鉄くずを集めて妖精に渡して、資材の足しにしてんだからな」

明石「そうだったんですか!?」

提督「ほかにも轟沈した艦娘の壊れた艤装や、残ってた燃料とかの処分も妖精に任せてたし……」

提督「仮にあいつらが建造しようとしたとしても、なにかしら意図があってのことだろ。俺からとやかく言うつもりはねえさ」

明石「いいんですか……」

提督「俺より長く島に住んでるからし、俺がこの稼業できてんのも、あいつらのおかげだ。そのくらいのことにケチはつけねえよ」

明石「そうですか……わかりました」

提督「ところで、伊8はどうした」

明石「入渠ドックで念のための精密検査中です」

提督「そうか。とりあえず、艦娘として復帰するかどうか、あいつの口から直接聞いてなかったし、今はリハビリ中って扱いにしたいんだが」

明石「え、ええ……着任させないんですか?」

提督「戦線復帰の前にやってもらいたいことがあってな」

明石「と言いますと?」



515 ◆EyREdFoqVQ2017/11/07(火) 22:37:28.84W+zyJmJCo (4/17)


提督「この島の海岸をぐるっと見てもらいたい。正直、この島の周囲のどこが危険でどこが安全か把握できてねえ。それを調べて欲しい」

提督「艦娘が流れ着いてくる海流がどこから来るか、残存する艦娘の遺体がほかにないかってのも、わかると助かる」

提督「あとはこの海域でとれる海産物。資材も大事だが、食の充実も士気向上に……まあ、単にうまい飯を食いたいだけだが」

明石「それはもちろんです!」

提督「着任の申請は準備しておく。出していいかどうかの判断は、明石の了解を得た上で出したい。いいよな?」

明石「了解しました!」

提督「よし。じゃあ、あとは利根だが……」

明石「昨晩の様子を見る限り、それほど心配はないように思えますね」

提督「そうか? じゃあ、朝飯の前に建造ドックに行くか」




516 ◆EyREdFoqVQ2017/11/07(火) 22:38:05.43W+zyJmJCo (5/17)


 * 建造ドック *

 ゴシュウウウ…

島妖精たち「おお……!」

 ガシャッ

島妖精D「この子は……!」

島妖精B「信じられない……!!」

建造妖精「フ……いい仕事をしたな」ドヤァ

島妖精A「ああ。素晴らしい……」

??「……ここは……」ムクッ

島妖精F「目覚めたよ!」

島妖精E「きみ! 自分の名前はわかる!?」ワクワク

??「私……私の名前は……」スクッ

大和「私は大和。戦艦、大和です!」

島妖精F「立った……!」

島妖精C「立った立った! 大和が立ったー!!」キャッホーイ

島妖精G「クララかよ!」ビシーッ



517 ◆EyREdFoqVQ2017/11/07(火) 22:39:00.97W+zyJmJCo (6/17)


島妖精A「大和がたった?」

島妖精E「死にたい船はどこかしら~?」

島妖精G「それは龍田だよ!」ビシーッ

島妖精A「???」

建造妖精「なあ、Aちゃんてボケ殺し?」

島妖精B「まじめちゃんだからね」

島妖精G「さあさあそんなことより祝杯だよ!」ワンカップダキカカエ

島妖精D「やったあああ! お酒だああああ!」ヒャッハーーー!

島妖精B「鏡割り! 鏡割り!」ワクワク

島妖精F「木槌配るよ!」セッセセッセ

建造妖精たち「わたしたちもいいのか!?」

島妖精C「もちろん! 木槌行き渡ったー!?」

島妖精E「こほん、では皆様ご発声を! 大和の建造を祝して!」

「「ぃよーーぉっ!」」

 ワンカップの蓋< ペキョン

島妖精D「ひゃっはあああ酒だああああ!」ヒシャクブンブン

島妖精F「落ち着けってのー!!」



518 ◆EyREdFoqVQ2017/11/07(火) 22:40:18.44W+zyJmJCo (7/17)


 ワーワーキャーキャー

大和「……あ、あの」

島妖精A「ん?」

大和「ここはどこなんでしょう。日本ではない気がしますが……」

島妖精A「ああ、ここは××国××島にある孤島の鎮守府だ」

大和「……××国……××島ですか!? そ、そんな遠くの地で、私はお役にたてるのでしょうか……」

大和「そ、それで。この鎮守府の責任者は……」

島妖精A「提督准尉だ」

大和「」

島妖精A「……大和?」

大和「……さ、佐官どころか尉官……見習いとも、少尉候補生ともいえる人のもとに、私が……!?」プルプルプル

島妖精A「お、おい、大丈夫か!?」

大和「……ふ」

島妖精A「ふ?」

大和「不幸だわ……」バターン

島妖精C「山城だこれー!?」ガビーン

 ナンダナンダ!?

 ヤマトニナニガアッター!?



519 ◆EyREdFoqVQ2017/11/07(火) 22:41:16.38W+zyJmJCo (8/17)


 * *

島妖精G「あー、それは……うん。まあ、そうね……」

島妖精F「確かにショックは受けるよね。なんたってあの大和だもん」

島妖精B「こんな無人島に配属されたら、普通はそういう反応するよねー」

大和「……その……提督准尉は、どのような方なのでしょうか……」

島妖精A「そうだな……ええっと」

島妖精B「口が悪くてー」

島妖精C「目つきが悪くてー」

島妖精E「愛想も悪くてー」

島妖精F「運も悪いよねー」

島妖精G「四翻で満貫だね」

建造妖精「あと直属の上司にも恵まれてない」

島妖精B「あ、それは二翻役」

島妖精B「三翻役でもよくね?」

島妖精G「わーい跳満だあ」

島妖精C「 御 無 礼 」ドヤァァァ

大和「」シロメ



520 ◆EyREdFoqVQ2017/11/07(火) 22:42:45.82W+zyJmJCo (9/17)


島妖精F「また気絶した!?」

島妖精C「トビで終了ですね」ドヤァァァ

島妖精D「言ってる場合かっ!」ポコーン

島妖精A「大和!? おい! しっかりしろぉぉぉ!!」ペチペチ

大和「……はい、大和は大丈夫です……」ドロリ

島妖精E(これアカンやつや……)タラリ

島妖精F(目から生気が失われてるんですけど……)タラリ

島妖精A「……とにかく、ここに建造されてきたことを今更悔やんでも仕方がない」

島妖精A「大和ほどの艦娘なら、余所の鎮守府からお呼びがかかることも十分ある。だからそれまでの間だけでも……」

大和「……はい、大和は大丈夫です……」ユラリ

島妖精B(これ絶対だめなやつだってばさ……)タラリ

島妖精D「まあね、落胆するのは仕方ない……でも、わたし的には納得できないよ」ヒック

大和「?」

島妖精D「大和が日本海軍の最終兵器だったってことはわかってる。名前からして期待されて建造された艦だってこともさ」トクトクトク

島妖精D「辺境の島で生まれたことを悔やむのも准尉のところに配属されたことを悔やむのもわかるよ……だからってねえ!」グビッ

島妖精D「わたしらだって、なんの希望も持たずに建造ボタン押したつもりはないんだよ!」コップタァン!

島妖精D「たたき上げでもなんでもいい! ここの提督を上に押し上げてやろうって気は起きないのかい!?」

大和「……」



521 ◆EyREdFoqVQ2017/11/07(火) 22:43:26.28W+zyJmJCo (10/17)


島妖精A「……まあ、どうするかは、とりあえず提督に会ってからでもいいんじゃないか」

島妖精G「そういえば、提督の写真、誰か持ってきてなかったっけ?」

建造妖精「なんでそんなもの持ってきたんだ?」

島妖精F「ほら、提督は今、顔を怪我してるじゃない。いきなりそっちの顔で現れたらびっくりすると思って」

建造妖精「ああ……そりゃ確かになあ」

島妖精A「大和、こっち見ろ。こっちの机。提督准尉の写真があるから、とりあえず顔を覚えてくれ」

大和「……」ウツロ

大和「……」

大和「……この方が……」

大和「……提督……准尉……」

 ガション

島妖精E「ん?」

島妖精D「何の音だ?」

 ガション

島妖精F「み、見て、あれ!」



522 ◆EyREdFoqVQ2017/11/07(火) 22:44:29.97W+zyJmJCo (11/17)


大和「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

島妖精B「や、大和が……!」

 ガショガショガッション

島妖精G「なんで大和の主砲が最大仰角になってるの!?」

島妖精A「お、おい、大和……?」

大和「……とくは」

島妖精A「?」

大和「提督はいつこちらにおいでになるんですか!?」キラキラキラキラキラキラッ

妖精たち「「「!?」」」

建造妖精「す、少し前に明石が来て、提督に話をしに行くって言ってたけど……」

大和「そうですか! はっ! 髪の毛とか乱れてないかしら……鏡! 鏡は!」キョロキョロ

島妖精D「ね、ねえ……どゆこと?」

島妖精A「……写真をしばらく凝視してたと思ったら、目が輝き始めて……」

島妖精F「つまり、好みのタイプだったってこと……?」

島妖精G「まじっすか……」

島妖精D(蓼食う虫も好き好きってやつかねえ)グビッ



523 ◆EyREdFoqVQ2017/11/07(火) 22:46:13.48W+zyJmJCo (12/17)


大和「はっ、これも邪魔だわ!」

 ゴソゴソ

 ポイッポイッ

 ガランガラン

島妖精B「……ねえ、今投げ捨てたのって」

島妖精E「徹甲弾の被帽装甲だよね。胸当ての」

島妖精C「まじで何やってんの!?」

大和「だって抱きついたときに痛かったら迷惑です!」

島妖精F「もう抱きつく気満々なんだ……」

 扉< ガチャ

明石「失礼しまーす。建造はもう終わったのかな……って、えええええ?」

妖精たち「「あ」」

大和「……」スッ

明石「ほ、本当ですか……!? まさかこの鎮守府に……!!」

大和「戦艦大和。推して参ります!」ビシッ

島妖精E(うわあ、格好良い……)

島妖精G(さっきまで意気消沈してたのに……)



524 ◆EyREdFoqVQ2017/11/07(火) 22:47:15.98W+zyJmJCo (13/17)


明石「て、提督! 大変です! 大和です、大和ですよ!! 早く!」ピョンピョン

大和「ああ、ていと……」

提督「大和?」(←包帯ぐるぐる巻き)

大和「」

提督「こいつが大和か……」

大和「……イ」

提督「い?」

大和「イヤアアアアアアアアアアアア!!」ビリビリビリ

妖精たち「」キーン

明石「」キーン

提督「」キーン

大和「い、いったいどうなさったんですか、その顔のお怪我は!!」ズイッ

提督「……大したことじゃねえから、少し落ち着け」

大和「は、はい! ですが、あまりに痛々しいので心配になってしまいます……」

大和(ああ、声も素敵……)トロン

提督(こいつ、俺より背丈あんのか……180cmはあるよな)←177cm



525 ◆EyREdFoqVQ2017/11/07(火) 22:48:10.48W+zyJmJCo (14/17)


建造妖精「そういえば、その顔の怪我、明石がやったんだって?」

 ゾワッ

大和「……明石さん? それは本当ですか?」ハイライトオフ

明石「ヒィッ!?」ビクーッ

大和「明石さん、どうして逃げるんです? 提督の後ろに隠れてないで、こちらへどうぞ?」ヌラリ

明石「」ガタガタガタガタ

妖精たち(うわあ……)

建造妖精(ごめん明石……)

提督「そんな顔して主砲向けて何する気だ。明石撃つ気なら容赦しねえぞ」

大和「し、しかし」

提督「この怪我に関して、明石に一切の責任はねえ。これは俺の過失だ、文句あんのか」

大和「!! い、いえ、そういうことでしたら……出過ぎたことをしました、申し訳ありません」ペコリ

明石「て、提督、すみません……」カタカタ

提督「明石は謝るなっつってんだろ。俺は最初から不問にするって言ってただろうが」

大和「あの、明石さん、怖がらせてしまってすみませんでした」フカブカ



526 ◆EyREdFoqVQ2017/11/07(火) 22:49:28.51W+zyJmJCo (15/17)


明石「い、いえ、気にしないでください!」

大和「本当にすみません……」シュン

明石「……大和さん、提督のことを気に入ってるんですね」

大和「え、はい、気に入ってると言うか……」モジモジ

提督「?」

島妖精B(提督もここまでどんくさいと罪だね……)

島妖精F(意図的に他人の好意は遮断してるきらいもあるけどね)

明石「……あ、そうだ。提督、その怪我の包帯の巻き直し、大和さんに代わってもらってもいいですか?」

大和「ええ!? よ、よろしいんですか!?」パァァ

明石「は、はい! いいですよね、提督?」

提督「……まあ、いいけどよ」

大和「こ、光栄です! 全力でお手当させていただきます!」

提督「いや、ゆるくていいぞ?」

明石「とりあえず、朝ごはんを食べに行きましょう! ね?」

大和「はいっ!」



527 ◆EyREdFoqVQ2017/11/07(火) 22:49:58.62W+zyJmJCo (16/17)


提督「……」

提督「なあ妖精?」

妖精「なあに?」ヒョコッ

提督「こいつ本当に大和か?」

妖精「うん。正真正銘、本物だよ」

提督「マジか」

妖精「ただ……」

大和「~♪」ニコニコキラキラ

妖精「建造直後からこんなに好意的な艦娘って普通はいないはずなんだけど」

提督「……どうしてこうなった?」




528 ◆EyREdFoqVQ2017/11/07(火) 22:54:00.12W+zyJmJCo (17/17)

今回はここまで。


ちなみに蛇足ですが、島の妖精さんたちのイメージはこんな感じです。

A:流星改
B:25mm連装機銃
C:彗星
D:20.3cm連装砲
E:15.5cm三連装砲
F:九三式水中聴音機
G:61cm四連装(酸素)魚雷


529以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/11/07(火) 23:54:33.53nKSwD43Oo (1/1)

乙乙


530以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/11/08(水) 11:50:30.20DUGnwxKI0 (1/1)

大和の全力で包帯を巻かれて提督の顔が圧壊する未来が見えた
跳満程度の役ですむのか・・・
更新お疲れ様です


531 ◆EyREdFoqVQ2017/11/10(金) 22:44:48.80pKC4drZ6o (1/11)

続きです。


532 ◆EyREdFoqVQ2017/11/10(金) 22:45:30.47pKC4drZ6o (2/11)


 * 食堂 *

長門「そうか。利根もついに戦う決心がついたか」

利根「うむ。そういうわけだから、これからよろしく頼むぞ」

長門「ああ、だがまだ無理はするなよ?」

利根「承知しておる。それよりもあの男のほうが余程危なっかしいとは思うが、どうなのだ?」

朝雲「そうね。みんなも見たでしょ、あの提督の顔」

霞「まったく、なにやってんのよあのクズは……」

由良「その提督さん、今朝はどうしたの?」

潮「明石さんが用があるって言ってましたけど……」

吹雪「司令官と一緒に建造ドックへ寄ってから来るそうですよ!」

神通「建造ドックへ? ……提督は過去に建造はしないと仰っていたはずでは?」

敷波「なにがあったんだろーね?」

初春「む、提督が来たようじゃ……ぞ……!?」

朝潮「初春さんどうしまし……えええ!?」

(提督の腕にしがみついて食堂に現れる大和)

全員「「「……」」」

全員「「「えええええ~~~!?」」」ドヨッ



533 ◆EyREdFoqVQ2017/11/10(金) 22:47:13.61pKC4drZ6o (3/11)


明石「思った通りの反応ですね……」

明石の肩に乗った島妖精A「まあ、あの大和だからな……」

提督「……大和、そろそろ腕を離せ。自己紹介しろよ」

大和「はいっ! 私は大和型戦艦一番艦、大和! 推して参ります!!」

全員「「「」」」アングリ

提督「……まあ、そうなるよな」クビコキコキ

大和「さあ提督! 朝餉にしましょう!」ダキツキッ

提督「げふあ!? い、いい加減離れろ!」

全員「「「……」」」アゼン


比叡「……ほんとにほんとの大和さんなんですね……あ、これ大和さんの分の朝餉です」

大和「ありがとうございます!」

提督「悪いな比叡。いきなりの増員だが、飯の量は足りるか?」

比叡「はい、今日は提督がおかゆだけで良いと聞きましたから、その分を回してますので大丈夫です!」



534 ◆EyREdFoqVQ2017/11/10(金) 22:47:52.99pKC4drZ6o (4/11)


暁「それよりも、暁は司令官のお顔の怪我のほうが心配よ?」

提督「まあ、こればっかりは医者もいねえし、おとなしくしてるしかねえな」

暁「誰かに頼んでお医者様を呼んだりできないのかしら」ハイオカユ

提督「こんな島に来てくれる医者が、そういるもんかね。それなら俺が行ったほうが早そうだが」オカユウケトリ

暁「だ、大丈夫よ! 一日二日くらいなら、ちゃあんとお留守番できるんだから! まかせてよね!」

明石「頼もしいですねえ! ね、提督!」

提督「……そうだな」ニッ

大和「提督、早く治すためにも、しっかりご飯を食べないといけませんね! さ、早くこちらの席に!」

提督「わかったからせかすなよ……」チャクセキ

提督(ん? なんか嫌な予感がするぞ?)

大和「♪」チャッ

提督「おい大和。それは俺のスプーン……」



535 ◆EyREdFoqVQ2017/11/10(金) 22:48:41.93pKC4drZ6o (5/11)


大和「ふー、ふー……提督、はい、あーん」ニコー

提督(またかよ)

如月「!?」カシャーン(箸を落とした音)

神通「!?」バキィ(箸を圧し折った音)

敷波「んがぐっ!? げほ! げっほ!」ドンドンドン

吹雪「し、敷波ちゃん大丈夫!?」セナカサスリ

不知火「」ブボァ

初春「」ブボァ

利根「」ベチャア

由良「利根さん!? 拭く物拭く物……きゃあ!?」ガシャーン

朧「由良さん!?」

朝潮「……」ポカーン

潮「長門さん、私、この光景に見覚えがあるんですが……」

長門「偶然だな潮、私もだ……なあ、古鷹?」

古鷹「ふえっ!? わ、忘れてください!」カオマッカ

霞「……そんなこともあったわねそういえば」ズツウ

朝雲「……簡単に想像できるけど、古鷹さんなにしてたんですか」ズツウ



536 ◆EyREdFoqVQ2017/11/10(金) 22:49:32.90pKC4drZ6o (6/11)


電「司令官さん……今度は大和さんと何があったのです?」ジトメ

提督「俺は何もしてねえし、むしろ俺が訊きてえよ。様子見に行っただけで、こんなにひっついてくるとか訳がわからねえ」

大淀「大和さん、提督とはなにかあったんですか?」

大和「……運命を、感じたんです」

大淀「……は?」

大和「提督のお写真を拝見したとき、大和の体が熱くなったのを覚えています」

大和「この方をお守りしなければいけない、この方とともに暁の水平線に勝利を刻まなければならないと……」

大和「そんな、使命感にも似た、高揚感を抱いたんです」ポ

提督「……なんで俺なんだよ……」アタマガリガリ

大淀「……初対面、ですよね?」

提督「ああ」

明石「あ、大淀、迂闊なことは言わないほうがいいよ。私、さっき主砲向けられちゃったから」ヒソヒソ

大淀「本当ですか」ヒソヒソ

島妖精A(明石の頭上から)「……もしかしたら、だが」ヒョコ

島妖精A「わたしたちのせいかもしれない……」

明石大淀「「え?」」



537 ◆EyREdFoqVQ2017/11/10(金) 22:50:41.92pKC4drZ6o (7/11)


 * *

明石「つまり、妖精さんが建造ボタンを押して建造したから、妖精さんたちの意思が多めに混ざったんじゃないか、と」

島妖精A「そうだ。今思えば、結果的にとはいえ提督の役に立ちたくてボタンを押したわけだからな」

島妖精A「それに集めた資材も、もとは提督が拾ってきた鉄くずや壊れた艤装、埋葬した艦娘に残ってた燃料……」

島妖精A「役に立つことができなくなった資材をわたしたちが製錬して建造したから、素材が必要以上に恩を感じてる気もするんだ」

大淀「そういった思いをリサイクルしたら、それが艦娘にも反映されるなんて……聞いたことありません」

島妖精A「……それプラス、埋葬された艦娘の思いが、さらに上乗せされたとしたら?」

明石「……」

大淀「……」

島妖精A「可能性の話でしかないけどな」チラッ


大和「……」モグモグ

提督「おし、ごちそーさん。おーい、朝雲! ちょっと時間あるか?」

朝雲「はーい? どうしたの司令官」

提督「飯が終わったら大和に包帯を巻きなおしてもらうんだが、不安でしょうがねえ」

朝雲「!」

提督「察したな? ちょっと付き合え」



538 ◆EyREdFoqVQ2017/11/10(金) 22:52:41.38pKC4drZ6o (8/11)


朝雲「あー……わかったわよ。別にいいけど、霞じゃだめなの?」

提督「大和がやたら俺を気に入っててな、さっき明石に主砲向けたんだよ」ヒソ

朝雲「うわあ……それじゃ霞も危ないってこと? もー、どうしてこう面倒な人ばかり増えるわけ?」

提督「理解が早いと助かる」

朝雲「……それはいいんだけど、その大和さんはなんであんなしかめっ面でご飯食べてんの?」

提督「それはわかんねえな」

大和「……ごちそうさまでした。提督、こちらの朝餉はどなたがお作りになられたんでしょうか」

提督「? 今朝は比叡と暁だったぞ」

大和「そうですか……」スクッ スタスタスタ

長門「お、おい提督、大和は厨房に行って何をする気だ!?」

提督「……」

潮「長門さん、提督のこの顔は……」

長門「ああ……どう見ても『面倒臭えな』って考えてる顔だな……」



539 ◆EyREdFoqVQ2017/11/10(金) 22:53:25.85pKC4drZ6o (9/11)


 * 厨房 *

比叡「さ、遅くなりましたけど、私たちも朝餉にしましょう!」

暁「はーい、いただきまーす!」テアワセー

 厨房の扉<コンコン

大和「失礼します!」チャッ

暁「大和さん!?」

比叡「どうかしたんですか?」

大和「……今朝の朝餉、お二方が作られたと聞きました……!」キリッ

長門「お、おい大和、何をする気だ! 早まるんじゃない!」

潮「な、長門さんも大和さんも落ち着いてください!」

 バッ

大和「比叡さん! 暁さん!」セイザ

比叡「ひえっ!?」

暁「あ、暁さん!?」

長門「!?」

潮「!?」



540 ◆EyREdFoqVQ2017/11/10(金) 22:54:20.45pKC4drZ6o (10/11)


大和「この私にお料理を!」ミツユビソロエテ

大和「教えていただきたく存じます!」オジギ

比叡&暁「「!?」」

長門「あ、あの大和が……!?」

潮「正座して……お願いを!?」

「……」

比叡&暁「「ぴ」」

潮「ぴ?」

比叡&暁「「ピエェェェェェエエエエエ!?」」

長門「なんだその悲鳴は……いや気持ちはわかるが」

提督「……なーにやってんだ……」ハァ

朝雲「なんていうか、すごいもの見ちゃったわ……」アゼン



541 ◆EyREdFoqVQ2017/11/10(金) 22:56:38.37pKC4drZ6o (11/11)

今回はここまでー。

>>530
> 大和の全力で包帯を巻かれて提督の顔が圧壊する未来が見えた
私もそう思ったので、まずいと思って朝雲とのくだりを急遽書き足しました。
この鎮守府の朝雲ちゃんマジ有能。


542以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/11/10(金) 23:36:01.56/AeCcYO0o (1/1)

大和綺麗だよなでも武蔵は俺のものだあっ宮本のほうね私は衆道を極めてる途中だから



543以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/11/12(日) 09:43:13.33cZliVjbQ0 (1/2)

>542
レベルたけぇなおい、男色家かよ・・・
江戸時代の陰間茶屋っていうを武蔵も使っていたという話しは聞いたことあるけど・・・


そういえば武蔵も居たと改めて思い出し
いつも更新を心待ちにしております、更新お疲れ様です


544 ◆EyREdFoqVQ2017/11/12(日) 20:05:59.28hG7T4T1qo (1/11)

なぜか筆が捗りましたので、続きです。


545 ◆EyREdFoqVQ2017/11/12(日) 20:07:34.48hG7T4T1qo (2/11)


 * 執務室 *

如月「……それで、大和さんは比叡さんにお料理を教わることになったんですね」

提督「ああ。だが、今日は比叡の出撃もあるしな。とりあえず大和には島を見回りしろって言って追い出したばっかだ」

如月「それにしても、まさか大和さんが着任するなんて、思いもしなかったわ」

提督「まったくだ……」ハァ

如月「司令官には良いことじゃないんですか? 人気の艦娘にあんなに慕われて、包帯も綺麗に巻きなおしてもらっちゃって」ツーン

提督「この鎮守府にゃあ過ぎたる艦だよ。聞けば消費資材が多すぎて、ほいほい出撃できる艦娘じゃねえし」

提督「それに……でかい声じゃ言えないが、女とはいえ俺よりでかい奴に追っかけられるのが、あんなにビビるもんだとは思わなかった」

提督「敵ならぶちのめして終わりだが……敵意がない分どうするか躊躇っちまうな。逃げるのが遅れる」ハァ

如月「……ってことは、まだ私のほうが有利なのかしら」ボソッ

提督「ん? なんだって?」

如月「なんでもありませんよ?」ニコッ

提督「……そうか?」

不知火「失礼いたします。如月、そろそろ出撃準備をお願いします」

如月「え、もうなの? わかったわ、それじゃ司令官、行ってきます♪」

提督「おう、気を付けてな」

不知火「」ケイレイ

 タッタッタッ…

提督「……さて、大和が戻ってこないうちに、見回りに行ってくるかね」

不知火「はい、ご一緒致します」



546 ◆EyREdFoqVQ2017/11/12(日) 20:08:37.46hG7T4T1qo (3/11)


 * 一方その頃 島の南東部 丘の上 *

神通「……」

神通「!」

大和「あら? おはようございます!」

神通「おはようございます」ペコリ

大和「神通さんはこちらで何をなさってたんですか?」

神通「……今日は、出撃の予定がないので……海を、眺めていました」

大和「海を、ですか……」

神通「……はい」

 ザザーン

大和(……確かに眺めはいいけど、この無数に並んだ艤装は何なんでしょう……)

大和(見ていて落ち着かないというか心がざわめくというか……それなのに、どこか懐かしいような……)

神通「あの……大和さんは、どうしてこちらに?」

大和「え? は、はい! 提督から島を見て回ってこいと言われまして!」

神通「そうでしたか……」

大和「あの、提督准尉は、どんな方なんですか? 妖精さんたちは酷い言いようだったんですが……」

神通「……と、仰いますと」



547 ◆EyREdFoqVQ2017/11/12(日) 20:10:04.57hG7T4T1qo (4/11)


大和「いえ、練度の高いあなたなら、提督のこともよく知っているのではないかと思いまして」

神通「……そういうことでしたら、私もよくわかっていませんよ。それほど長い付き合いというわけでもありませんし」

大和「そ、そうなんですか?」

神通「私は余所から異動してきましたから。彼をよく知っていそうなのは、不知火さんと如月さん……でしょうか」

神通「不知火さんは、今日は提督と一緒の予定です。埠頭で艦隊を見送ってから見回りに行くはずですので、合流してはいかがでしょう」

大和「本当ですか!? ありがとうございます! それではすぐに提督のもとへ向かいます!」

神通「……」

神通「……大和さんは」

大和「はい?」

神通「提督のことが……本当にお好きなんですね」ニコ

大和「……は、はい!」カァ

神通「すみません、引き留めてしまって」

大和「い、いえ! それで行って参ります!」

神通「はい」

 タタタタッ

神通「……」

(海に視線を戻した後、沈痛な面持ちで目を伏せ俯く神通)

神通「……F提督……」



548 ◆EyREdFoqVQ2017/11/12(日) 20:11:46.80hG7T4T1qo (5/11)


 * 島の東側 鎮守府埠頭付近 *

不知火「ときに司令」

提督「なんだ」

不知火「司令は何故、如月たちの好意を受けようとしないのですか」

提督「……受けた後の責任が取れねえからな。こんな島でこうやって毎日ダラダラ過ごせてるのが奇跡みたいなもんだしよ」

不知火「では、司令の立場が変われば、やぶさかではないと」

提督「そんなことありゃしねえよ。それに……」

不知火「それに?」

提督「そもそも俺は誰かとくっつくつもりはねえ。気を持たせてもそいつを不幸にするだけだ、だから最初から切り捨てるようにしてる」

提督「神通んとこのF提督みたいに、俺もいつ消されるかわからねえ身だ。そういう意味でも、関わりは希薄にしたいんだが」

不知火「……」

提督「……なんだ、不服か」

不知火「いえ、司令には司令のお考えがあってのことだと。答えづらい質問に答えてくださり、ありがとうございます」

提督「いいさ。お前なら、茶化さなそうだしな。誰かにべらべら言いふらすこともねえだろうし……」

不知火「……」

提督「俺も、愚痴る相手が欲しい時もある」

不知火「……承ります」

 ドドドドドドド…

大和「提督ーー!!」

提督「……やれやれ、休憩時間は終わりだな。とっとと砂浜に行くか」

不知火「……」コク



549 ◆EyREdFoqVQ2017/11/12(日) 20:12:51.25hG7T4T1qo (6/11)


 * 北東の砂浜 *

大和「わぁ……綺麗な砂浜ですね!」

提督「……まあ、一応な」

不知火「毎日司令が綺麗にしていますから」

大和「そうだったんですか!」

提督「今日は綺麗なほうだよな」

不知火「ええ……」

大和「? なにかあったんです……」


艦娘の腕らしきもの「」ゴロン


大和「」

不知火「司令」

提督「……ああ、今日はいい日かと思ったのにな。残念だ」

大和「……提督。これは……この子は」

不知火「この浜には、大破もしくは轟沈した艦娘が良く流れ着いてくるんです」

不知火「ほとんどの艦娘はこのような姿で……」

大和「……」



550 ◆EyREdFoqVQ2017/11/12(日) 20:14:46.07hG7T4T1qo (7/11)


不知火「この鎮守府で建造された艦娘は大和さんだけです。この島の艦娘は、みんな余所の鎮守府から移ってきました」

不知火「そしてその半分以上は、轟沈してそのままこの島に流れてきた、轟沈経験艦です」

大和「……それでは、あの丘に埋められた艤装は」

提督「見てきたなら話は早いな。あれは、助からなかった奴らの墓標だ」

大和「……そう、だったんですか」

提督「流れ着いた時点でこうだからな。生きてりゃ奇跡、遺言が聞ければ上等だ」

不知火「体も必ず見つかるとは限りません。艤装、装備品、身体的特徴と、各鎮守府の艦娘の轟沈リストを見比べて、誰なのかを判別しています」

提督「先月のはこの前不知火がもらってきたばかりだ、この腕も誰だったかは調べられるだろ」

大和「……」

提督「つうわけでだ。華々しい戦果を挙げることを期待されてるお前には、相応しくない職場だってことは理解できたと思うんだが?」

大和「いえ。戦争には必ず犠牲がつきものです。それが味方であれ敵であれ……目を背けることはできません」

大和「この島で建造されたからには、この島で指揮を執るあなたの右腕になれるように邁進するのが、ここで建造された大和の務めです」

不知火「大和さん……」

提督「……」

大和「とにかく、この子は……この腕はどうするべきでしょうか」

提督「流されない所に置いて一日様子を見る。この腕の持ち主が明日流れ着いてくる可能性もあるし、浜の別のところにいるかもしれないし、な」

不知火「リストとの照合のため、写真だけ撮っておきましょう」テアワセ



551 ◆EyREdFoqVQ2017/11/12(日) 20:16:16.68hG7T4T1qo (8/11)


大和「……綺麗な砂浜なのに……悲しい、場所なのですね」

不知火「提督がこの鎮守府においでになるまでは、目も当てられなかったと聞きます」

提督「まあな……ん?」

不知火「あれは……!」

大和「誰か倒れてます!!」タッ

??「……」

提督「こいつ……吹雪に似てんな」

大和「仰る通り、この子は吹雪型の駆逐艦娘ですね」

??「……」

提督「おい」

??「……ぐー……すー……」

大和「!?」

不知火「!?」

提督「……寝てるだけか?」

不知火「よく見れば、殆ど怪我をしていませんね……」

提督「……おい、お前。起きろ」

??「……ん……むにゃ」

提督「お前は何者だ。なんでここに流れてきた。なんで寝てる」

??「……んうう……? ちょっと、待って……ふああ」ムク

不知火「完全に寝ぼけてますね……」



552 ◆EyREdFoqVQ2017/11/12(日) 20:17:39.78hG7T4T1qo (9/11)


大和「一度にたくさんの質問をしても答えられないのでしょうし……とりあえず、あなた、お名前は?」

??→初雪「……んと……初雪、です……」

提督「……」

初雪「ところで……ここ……どこ……?」キョロ

提督「××国の××島鎮守府だ。墓場島鎮守府とも呼ばれてる」

大和「そんな異名があるんですか!?」

不知火「はい、不本意ながら」

初雪「……はかば、じま?」クビカシゲ

提督「おまえがなんでここに来たのか、覚えてないのか?」

初雪「ここに来たのは……えと、よく、わかんない……です」カクン…カクン…

初雪「それより、寝かせて……おふとん、欲しい……ぐう……」

初雪「……すぴー……」パタッ

提督「……」

大和「……提督?」

不知火「ほぼ無傷で、寝不足で流れ着いてきた艦娘は初めてですよ」

提督「……」

大和「提督? どうなさったんです?」

提督「……いや、こいつをどうしようかって思ってたんだが……この場合、布団だよな。用意するのは」

不知火「……そうですね」

提督「ここまで悲壮感も緊張感もねえ図太い奴は初めてだ……」



553 ◆EyREdFoqVQ2017/11/12(日) 20:18:19.85hG7T4T1qo (10/11)


 * おまけ 大和、初めての夜 *

大和「提督の寝室から追い出されました……」グスングスン

電「そういうときは妖精さんに資材を渡して鍵を開けてもらうのです」

吹雪「司令官は眠りが深いから、就寝の一時間後くらいが狙い目ですよ!」

如月「ちょっと、教えてるの!?」

朝潮「同衾までは了承するのがお約束ですよ!」

如月「わ、わかってるけど……」

利根「なるほど……それはよいことを聞いたぞ」

如月「もう……司令官には秘密ですからね?」


長門「……いつの間にそんな約束ができてたんだ」

初春「毎晩駆逐艦と代わる代わる同衾しておるおぬしがいうのも今更と思うがのう」

長門「そ、それはお前たちの希望じゃないか! 私に原因があるように言うな!」

初春「そういうことじゃから、提督のことにも口出しは無用じゃ。おぬしと同じで、あやつもどうあっても我らに手を出さんからの」

長門「それはまあそうだろうが……信頼の形として、それは良いんだろうか」ウーム

初春(こういうところがマジメなのも提督に似ておるのう)



554 ◆EyREdFoqVQ2017/11/12(日) 20:19:28.67hG7T4T1qo (11/11)

初雪登場といったところで、今回はここまで。

駆逐艦の間では長門の部屋にお泊まりが流行中です。


555以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/11/12(日) 23:44:59.17cZliVjbQ0 (2/2)

もう鍵いらないんじゃない?ww
なんとなく読み直してたら更新来ていた
お疲れ様です


556 ◆EyREdFoqVQ2017/11/19(日) 14:04:49.21tJBPngAeo (1/15)

なにも初雪登場の週に初雪が降らなくてもいいじゃないか……。

続きです。


557 ◆EyREdFoqVQ2017/11/19(日) 14:05:59.56tJBPngAeo (2/15)


 * 翌日 執務室 *

提督「だからお前の所属はどこだった、って聞いてるんだが」

初雪「……それは、言いたくない、です」

提督「言わねーと俺たちが困るんだよ。誘拐犯扱いされたらたまったもんじゃねえ」

初雪「でも、戻りたくないし」

提督「だったらなおのこと、元の鎮守府に三行半叩きつけてやらねーと駄目なんじゃねえのか」

初雪「もう関わりたくない……ぶっちゃけると引きこもりたい」

提督「それはいいにしても、お前がいた鎮守府の名前や特徴がわからねーと、こっちも対策の取りようがねえだろが、ったくよ……」

初雪(いいんだ……)

提督「じゃあ、質問を変えるか。お前、なんで砂浜に流れ着いてた?」

初雪「……正直、あまり覚えてない……です。多分だけど、遠征の途中だった気がする……」

提督「遠征?」

初雪「とにかく、休みたくて休みたくて、ひたすら眠りたかった気がする」

提督「……ってことは、過労か?」

初雪「……かも」

提督「交戦した記憶は?」

初雪「それは、ないです」



558 ◆EyREdFoqVQ2017/11/19(日) 14:07:07.95tJBPngAeo (3/15)


提督「ほかに変わったことは?」

初雪「むー……あ、そういえば」

提督「なんだ」

初雪「声が聞こえなくなった」

提督「声?」

初雪「そう。なんか……いろいろ思い出してきた」

提督「断片でいいから、片っ端から話してみな。整理しようぜ」

 * *

大淀「失礼します」ガチャ

提督「お、いいとこに来たな。初雪の話がだいたい整理できた。お前もちょっと聞いてくれ」

大淀「はい、わかりました」

提督「さて初雪。お前のいた鎮守府には一軍から三軍があって、一軍がメインで動くメンバー、二軍は一軍が動けなくなった時の控え」

提督「一軍と二軍の艦娘にはイヤホンマイクの装備が義務付けられていて、そのイヤホンに指揮官からの指示が飛んでくる」

提督「そして、三軍は入りたての出撃や遠征に行く枠のない、控えの控え」

初雪「……」コク

提督「で、遠征部隊の一軍だったお前は、寝る間もなく遠征に行かされて、疲れがたまって道中でぶっ倒れた」

提督「そのときにイヤホンマイクを紛失したもんで、これまで寝てなかった分の眠気にも襲われた、って感じでいいんだな?」

初雪「……そんな気がする」コクコク



559 ◆EyREdFoqVQ2017/11/19(日) 14:08:07.42tJBPngAeo (4/15)


提督「気がする、って、お前そこまで自信がねえのかよ」

大淀「覚えてないんですか?」

初雪「うん……あのイヤホンを付けたあたりからの記憶が曖昧だし」

初雪「体も、発泡スチロールみたいにふわふわしてた……ような」

提督「完全にそのイヤホンが元凶じゃねえか。大淀、心当たりは」

大淀「ありませんね。本営に情報を求めます」

提督「どうも話を聞く限り、催眠術まがいのこともしてそうだな。もし初雪のイヤホンを見つけても、身に着けないように通達してくれ」

大淀「承知しました」

初雪「……んうう」ミミグリグリ

提督「どうした」

初雪「思い出そうとしてたら、耳の中がかゆくなってきた……」

提督「まだ耳の中に何か残ってんじゃねえだろうな?」

初雪「……あ、そうだ。准尉さん、お願い」キョシュ

提督「ん?」

初雪「耳かき、してほしい……です」

提督「……」

初雪「お願い、します」ペコリ

提督「……しょーがねーな……」

大淀(ちゃんとお願いされると、お願い聞いてくれるんですね……)



560 ◆EyREdFoqVQ2017/11/19(日) 14:09:58.89tJBPngAeo (5/15)


 * *

(ソファで提督が初雪に膝枕中)

提督「……」グリ

初雪「……んふ」ゾク

提督「……」ゾリ

初雪「……ひんっ」ビク

提督「変な声出すな」

初雪「ごめんなさい」

初雪「でも、准尉さん、上手だから……声が出るのは仕方ない」

提督「そんなもんかね」コリ

初雪「うん……すごく、気持ちいい……ふぁんっ」

提督「我慢しろ」チョリチョリ

初雪「こ、これでもかなり我慢してるし」ウットリ

提督「つうか、溜め込みすぎだろ。なんだこの量」モフモフ

提督「よし、こっちは終わりと。ほれ、反対側」

初雪「はい」ムク タタタッ ストン

大淀(初雪さんが素早い……)



561 ◆EyREdFoqVQ2017/11/19(日) 14:11:03.34tJBPngAeo (6/15)


提督「……こっちはこっちで固まってんな。イヤホンつけっぱなしだったからか?」カリ

初雪「んあっ」ゾクゾク

提督「……マジで耳垢がリング状に固まってるぞ……ちょっと力入れるから、痛かったら言えよ」カリカリカリ

初雪「だ、だいじょう……んひっ」ゾクゾクゾク

提督「おぉ……でけえのがごっそり取れてきた」ゾリゾリゾリ

初雪「~~~っ!」ビクビクビクッ

提督「やべ、半分に割れた……が、一応半分はとれたな。つってもでけえぞこれ」

初雪「……は……ふう」ビクン

提督「よし、残り半分、カタマリ取るから動くなよ」ズリズリズリ

初雪「んくぅ……!!」プルプルプル

提督「こっちはカタマリになってたおかげで一網打尽にできたな。残りかす取るから待ってろ」コリコリコリ

初雪「おふぅ……」トローン

大淀(初雪さんの顔が、乙女がしちゃいけない顔になってる……)

提督「……おし、終わったぞ」

初雪「……」ムフー

提督「……おい? いつまで膝枕してりゃいいんだ」ツン

初雪「……ちょっとだけ、名残惜しかった……」ムク



562 ◆EyREdFoqVQ2017/11/19(日) 14:13:30.08tJBPngAeo (7/15)


初雪「あの、ありがとう、ございました」ペコリ

提督「おう。これでお前の所属も話してくれりゃ万々歳なんだがな」

初雪「それは嫌」

提督「……ったく」

初雪「でも」ジッ

提督「?」

初雪「こうやって、直接顔を合わせて、あの人と話したこと……一、二回くらいしかないし」

初雪「耳かきだって、やってもらえると思ってなかったし」

初雪「この鎮守府が、どのくらい忙しいのかわからないけど……ここのほうがいい」ポ

初雪「顔も覚えてない人のところに、戻りたくない……ここに、いたい、です」テレッ

提督「そうか……なら、なんとかしねえとな」

大淀(こういうセリフが来ると、提督も真面目モードになるんですよね。だいぶわかってきました)

初雪「……」カオマッカ

提督「……」



563 ◆EyREdFoqVQ2017/11/19(日) 14:14:12.57tJBPngAeo (8/15)


初雪「……あの。少し、散歩してきます」タッ

 扉<ガチャ パタム

提督「ん? ああ……って早えな」

大淀(初雪さんは恥ずかしさで逃げていきましたか)

提督「……さて、どうしたもんかね」ミミカキクリクリ

大淀「! ……あ、あの、提督?」

提督「ん?」

大淀「その……よろしければ、私が、耳かき、しましょうか」

提督「あー、気にすんな、自分でできる」

大淀「そ、そうですか」シュン

提督「……そうだな、大淀はいいのか? ついでだし、良かったらやるぞ?」

大淀「わ、私ですか!?」

提督「ああ」

大淀「……」

提督「……」

大淀「……お、お願いします……!」ゴクリ



564 ◆EyREdFoqVQ2017/11/19(日) 14:15:16.79tJBPngAeo (9/15)


 * 提督の耳かきには勝てなかったよ *

大淀「」クテェ…

提督「大淀。おい、しっかりしろ。大淀」ユサユサ

大淀「……はうっ」

提督「大丈夫か? もう耳かきは終わったぞ」

大淀「そ、そう、ですか……あ、ありがとうございました……」フラフラ

提督「本当に大丈夫か? 膝が笑ってんぞ……どうしてそうなった」

大淀「お、お前のせいだろが、くそが……」ボソ

提督「?」

大淀「い、いえ、なんでも、ありまひぇん……!」

提督「……こりゃだめだな」グイ

大淀「!?」オヒメサマダッコ

提督「とりあえず部屋まで運ぶから。お前、今日はもう休んどけ」

大淀「て、提督この格好はああああ」カオマッカ

提督「落としたりしねえよ、比叡もこうやって運んだし」



565 ◆EyREdFoqVQ2017/11/19(日) 14:15:53.08tJBPngAeo (10/15)


大淀「」プシュウウウウウ

提督「大淀?」

大淀「」カクン

提督「……疲れがたまってたのか?」



妖精「どこまでわかっててやってんのかな、提督は」

島妖精F「それよりほかの子が耳かきをねだってくる可能性、すごく高くない?」

島妖精C「1時間以内にボーキ100」

島妖精D「3時間以内に修復材1個」

島妖精G「きょう一日は来ないに鋼材300」

島妖精B「大穴狙い!?」

妖精「みんなはどこから湧いて出てきたのさ」




566 ◆EyREdFoqVQ2017/11/19(日) 14:16:38.11tJBPngAeo (11/15)


 * 2日後 墓場島近海 巡視船甲板上 *

N中佐「初雪とはぐれたのはこの近辺か?」

磯波「はい」

N中佐「ただの遠征で艦娘が行方不明になるなんて、とんだポンコツツールだな」

N中佐「メーカーは滅多にない現象とか言いやがったが、こっちは実害が出てるんだ、とっとと対応しろってんだよ」

N中佐「これが通常海域で邂逅できない艦だったら目も当てられねえぞ、ちくしょうめ」

磯波「……」

N中佐「おい磯波、この辺に鎮守府はあんのか」

磯波「このあたりだとトラック泊地が一番近いです」

磯波「それと、近くの無人島……××国の××島にも鎮守府があります」

N中佐「××島に? 聞いたことないな。立ち寄ってみるか?」

磯波「では、針路を××島にとります」

 ザザザァァァ…




567 ◆EyREdFoqVQ2017/11/19(日) 14:17:37.95tJBPngAeo (12/15)


 * 墓場島鎮守府 埠頭 *

N中佐「驚いた。本当に鎮守府があるとはな」ザッ

N中佐「誰か住んでいるような雰囲気ではあるが、人影がないな……ん? あれは……おぉい!」

由良「? あなたは?」

N中佐「艦娘の由良か。俺は大湊のN中佐だ、理由あってこの海域の調査をしている。急で申し訳ないが、ここの責任者と面会を希望したい」

由良「……わかりました、少々お待ちください」

N中佐「ああ、頼む」


 * 執務室 *

提督「N中佐?」

由良「ええ。海域を調査してるんですって」

大淀「提督……」

提督「……ま、おそらく初雪だろうなあ。大淀、初雪は匿っておけ」

大淀「はい、わかりました。明石のところへ連れて行きます」




568 ◆EyREdFoqVQ2017/11/19(日) 14:18:56.02tJBPngAeo (13/15)


 * 埠頭 *

提督「お待たせしました、こんな顔で失礼します」

N中佐「うお!? き、急な話で申し訳ない。私はN中佐だ、あなたがこの鎮守府の責任者ですか」

提督「はい。提督准尉です」

N中佐「准尉? なんだ、准尉か」

提督「……」

N中佐「提督君、この辺で初雪を見なかったか。特型駆逐艦、吹雪型の初雪だ」

提督「……初雪、ですか。轟沈艦ならしょっちゅう流れてきていますが、探しましょうか」

N中佐「轟沈艦? いや、沈んだのなら別に……」

 ザザァァ

吹雪「司令官! ただいま演習から戻りました!」

利根「やはり大和はすごいな。相手も大和の砲撃に右往左往しておったぞ!」

大和「いえ、まだまだです」テレテレ

N中佐「……!」

提督「どうしました」

N中佐「提督君、あの大和はどうした」

提督「どうしたも何も……うちの大和がなにか?」



569 ◆EyREdFoqVQ2017/11/19(日) 14:19:59.38tJBPngAeo (14/15)


N中佐「……」

提督「?」

N中佐「……検査だよ、提督君」

提督「検査?」

N中佐「ああ。この鎮守府の戦績を見せてもらいたい」

提督「どういうことです」

N中佐「これは命令だ。君たちの戦績を見せてもらう」スッ

提督「……」

N中佐(イヤホンの回収のために初雪を探しに来てみれば、思わぬお宝に巡り合えた)

N中佐(准尉などという下っ端に大和を従わせておくなど、なんともったいない。俺の部下にしてやった方が確実に戦果は挙がる)

N中佐(階級をちらつかせて奪っても本営が黙っていないしな。戦績なりなんなり穴を見つけて、適当な理由を見つけねば)

N中佐(それか、大和本人に異動したいと言わせるか……!)

N中佐「失礼するぞ!」ズカズカ


吹雪「し、司令官!? 今の方は……!?」

提督「……面倒臭えのがやって来やがったぞ、くそが」



570 ◆EyREdFoqVQ2017/11/19(日) 14:20:47.11tJBPngAeo (15/15)

今回はここまで。


571以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/11/20(月) 15:40:24.781TGd1Mf20 (1/1)

更新乙様です
めんどくさいなら埋めちまえと思った


572 ◆EyREdFoqVQ2017/11/25(土) 10:11:29.062q9Ypdeno (1/11)

では続きです。


573 ◆EyREdFoqVQ2017/11/25(土) 10:12:20.802q9Ypdeno (2/11)


 * 執務室 *

大淀「て、提督! このN中佐という人が戦績表を見せろと仰ってきているのですが……」

提督「いい。見せてやれ」

大淀「! は、はい……」


N中佐「……なんだこのやる気の見えない成果は」

N中佐「大和やら長門やら、大戦力を率いておいてこの体たらく……情けない!」

N中佐「俺の鎮守府は大和や長門なしでも、ここ半年で多大な戦果を挙げている。大佐への昇格も間近だ」

N中佐「提督准尉。お前にはこの艦隊は荷が重すぎるようだな?」

提督「……」

N中佐「こんな鎮守府に戦艦など不要だろう。この戦績書は預かる、この鎮守府の過剰戦力は必要なところに移動すべきだ」

提督「……というと?」

N中佐「この戦績書を見て、本営はどう思うかな? この戦果しか出せない鎮守府で、戦艦を遊ばせるなど無駄でしかない」

提督「それはあなたが決めることじゃないと思いますが」

N中佐「お前が決める話でもない!」

提督「では決めてもらいましょうか。本営の中将に」

N中佐「!?」



574 ◆EyREdFoqVQ2017/11/25(土) 10:13:21.872q9Ypdeno (3/11)


提督「この鎮守府の運営については、中将に定期的に報告を入れています。中将があなたの判断を良しとするなら、従いましょう?」

N中佐「ちゅ、中将だと!? なぜ貴様にそんな権限がある!」

提督「事情がありますので」

N中佐「……」

提督「……」

N中佐「……私なら、君より良い戦果を期待できる」

提督「は?」

N中佐「10日だ。10日もあれば、君の戦績など余裕で越えて見せられるというのだよ」

N中佐「ふむ……その君の顔の怪我、私の鎮守府で軍医に見てもらえ。10日間、休養を与えよう」

N中佐「その間、この鎮守府の指揮を私が執る。君の戦術がいかに薄っぺらいか、この鎮守府の艦娘に教えてやろうじゃないか」

提督「……」

大淀「提督……」

提督「……承知しました、そういうことであれば、中将にも報告を入れましょう」

N中佐「ああ、賢明な判断だ」ニヤリ

提督「大淀、全員を会議室に集めろ」

大淀「ほ、本気ですか提督!!」

提督「ああ。N中佐、あなたも会議室へどうぞ。私は中将へ報告を行ってから参りましょう」



575 ◆EyREdFoqVQ2017/11/25(土) 10:14:04.012q9Ypdeno (4/11)


提督「大淀、N中佐を会議室へ通せ」

大淀「……わ、わかりました……こちらです」

N中佐「うむ」

 扉<バタン

提督「……さあて、妖精。またお前さんの力を借りたいが、頼まれてくれるか?」

妖精「また? しょうがないなあ」ヒョコ

島妖精たち「今回はどうしようっていうのさ」ズラッ

提督「奴の態度を見たか? 初雪の話のときはさして乗り気でもなかったくせに、大和を見てから目の色変えやがった」

島妖精B「へーえ、大和に目を付けたのか」

島妖精C「いい根性してるねえ」

提督「お前たちに、大和を指揮するのにふさわしい奴かどうか、見てもらいたくてなぁ」

島妖精F「そっかぁ、それならしょうがないね」

島妖精G「しっかり見極めてあげないといけないね」

島妖精E「不合格なら埋めちゃおうか」

提督「いいのか? 俺ならやるが」

島妖精A「さすがにそれはやめておけ」タラリ

島妖精D「なんにしても、人の物を奪おうとする輩にはそれ相応の見返りをしてあげないとねえ」

提督「あの野郎は、ここがどんな場所かよくわかってねえみたいだし……ちゃあんと教えてやろうじゃねえか」ニタリ



576 ◆EyREdFoqVQ2017/11/25(土) 10:15:41.182q9Ypdeno (5/11)


 * 会議室 *

 バタバタバタ

明石「遅くなりましたあぁ!」バーン

N中佐「大淀、明石で最後か」

大淀「……はい……」

 シーン

明石「あれ? なんなのこの雰囲気」キョロキョロ

N中佐「准尉が遅いせいで、ここの艦娘たちが不機嫌になっているだけだ」

大淀(そんなわけないでしょーが)イラッ

神通(まったくです)ウンウン

古鷹(神通さんはなんで頷いてるんでしょう……)

明石「……えっと、大淀? こちらの方は?」

提督「よお、待たせて悪いな」チャッ

大淀「提督!」

長門「提督! これはいったいどういうことだ!」ガタッ

朝潮「提督が解任されるとは本当ですか!!」ガタッ

提督「どこからそんな話になった。いいから座れ。ったく……」



577 ◆EyREdFoqVQ2017/11/25(土) 10:16:29.372q9Ypdeno (6/11)


提督「勘違いもあるようだから簡単に言う。俺の顔の怪我の治療のため、10日ほど島を離れる」

提督「その際、こちらのN中佐に臨時の指揮官として、艦隊の指揮を代わってもらうことになった」

N中佐「うむ、私がN中佐だ。よろしく頼む」ニコー

如月「! か、解任じゃないのね!?」

吹雪「良かったぁ……」ホッ

朧「……」

古鷹「優しそうな方ですね!」

朝雲「そうだといいわね」

朝雲(絶対そんなことなさそうだけど)

霞(ないわね)

長門(ないな)

比叡(提督より優しくなさそうだなー)ムー

暁(なんでかしら、あんまり嬉しくないわ)クビカシゲ

潮(セクハラされないといいなあ……)

敷波(この人も裏がありそうだなー)

神通(古鷹さん以外はみなさん賢明ですね)ウンウン

古鷹(また神通さんが頷いてる……)クビカシゲ



578 ◆EyREdFoqVQ2017/11/25(土) 10:17:54.732q9Ypdeno (7/11)


由良「提督さん。質問、いいでしょうか?」

提督「なんだ?」

由良「N中佐さんがこちらの指揮を執ることが正式に決まったのは、いつでしょうか」

提督「ついさっきだな」

由良「……いいんですか?」

提督「いくつか条件というか取り決めもあるが、それを踏まえて中将に了解を得た」

 ザワ…

由良「そう、ですか。わかりました」

N中佐「なんだ、その条件とかいうのは?」

提督「事情により、この鎮守府では艦娘の建造と解体ができません。建造、解体に関係する任務とその報酬もないことになっています」

N中佐「なに? 戦力は増やせないのか!?」

提督「ドロップ艦と呼ばれる外洋で発見された艦娘を保護するのはありですが、それ以外はできません。なあ、大淀?」チラッ

大淀「はい!」

提督「そして、この鎮守府にいる艦娘は、ここにいる全員です」

提督「駆逐艦は、如月、朧、吹雪、電、敷波、朝潮、霞、暁、初春、潮、朝雲、不知火の12名」

提督「巡洋艦は由良、神通、古鷹、利根の4名。戦艦は長門、比叡、大和の3名」

提督「そして、任務管理担当の大淀、工廠を管理する明石。以上になります」



579 ◆EyREdFoqVQ2017/11/25(土) 10:19:34.422q9Ypdeno (8/11)


N中佐「建造できないと言う制限はどこから来ているんだ? ドックはあるんだろう?」

提督「妖精です。この島の妖精が建造をしたがりません。N中佐は説得できますか?」

N中佐「いや……ならば仕方ない、か」

提督「この鎮守府は、この戦力でやりくりをしております。了解していただけますか」

N中佐「……いや。私ならもっと良い戦果を残せる。君が未熟なだけだ、言い訳とは見苦しいぞ? 提督准尉」フッ

 ザワッ

N中佐「!?」ゾクッ

提督「……お前ら、座ってろ」

N中佐(……なんだ、今の殺気は)ダラダラ

提督「まあ、経緯はさておいても、中将も俺の怪我を心配してくれている」

提督「10日という限られた期間ではあるが、鎮守府を留守にする間、N中佐とこの鎮守府を守って欲しい」

提督「くれぐれも無理はしないようにな。俺からは以上だ」

長門「提督、N中佐が指揮を執るのはいつからになる?」

N中佐「準備が必要だ。今夜荷物を取りに行き、明日の朝0800にこの鎮守府埠頭に到着、0900から執務開始の予定だ」

長門「その時間ならば、N中佐の朝餉の準備も必要だな?」

提督「そうだな……」

N中佐「ああ、気を遣わなくていい。サンドイッチでも持参するさ」

長門「そうですか。承知しました」

N中佐(あの長門が飯の心配をするか。鎮守府のレベルが知れるな)



580 ◆EyREdFoqVQ2017/11/25(土) 10:20:24.872q9Ypdeno (9/11)


 * 鎮守府埠頭 *

N中佐「時は金なり、だ。0830まで滞りなく全員を集めておくように」

提督「承知しました」

N中佐「磯波、この鎮守府の座標の登録は終わったな?」

磯波「はい」

N中佐「よし、では明日朝8時に到着するよう、スケジューラーとナビゲーターをセットしろ」

磯波「……はい、完了しました」

提督「便利な代物ですね」

N中佐「君も私くらい偉くなれば、この程度のものは支給される。もう少し積極的に戦果を挙げる気になればすぐだ」

提督(別にいらねえけどな)

N中佐「世の中は時代とともに進化を遂げている。こんな島にいるからと新しいものに触れないでいては、あらゆる世界から取り残されるぞ?」

提督「……」

N中佐「では、明日からよろしく頼む。行くぞ!」

 小型高速巡視船<ザザァァァァ…

提督「……」

初春「ふむ。行きは良い良い帰りは恐い、と」



581 ◆EyREdFoqVQ2017/11/25(土) 10:21:15.172q9Ypdeno (10/11)


初春「随分ハイカラなカラクリを使いこなしておるのう。じゃが……明朝、無事にここへ着くことができようかの」

提督「伊8にも調べてもらったが、この辺の潮流は迷路みたいになってるんだったな?」

初春「うむ。ある程度決まった位置から進入せんと、潮の流れで砂浜のほうへ押し流されるでのう」

提督「定期便もたまに砂浜に流されてるときがあるしな。明日朝にちゃんと埠頭に辿り着けるか、見ものだぜ」

初春「その言いぐさの割には、なんじゃ? 苦虫を噛み潰したような顔をしおって」

提督「最後の最後にまともなこと言ってくれやがったからな。癪だが正論だ」

提督「たまには外に行って、新しいものを取り入れる必要もあるのかね……あいつの鎮守府で、何が流行ってるかヒアリングでもしてみるか?」

初春「あまり俗な流行物ばかりでも困るがのう」

提督「その辺は艦娘の好みもある。こればっかりは男の俺には判断できねえから、手当たり次第になっちまうな……」

大和「提督!」

提督「ん? どうした大和」

大和「どうしたもこうしたもありません! 提督のもとに着任して、ほんの数日で別の人のもとで働くことになるなんて!」

提督「不満だってか? わがまま言うなよ……対案はあるからそれで我慢しろ」

大和「対案?」

提督「奴の狙いはお前だ。少なくとも、お前を奴の好きにはさせねえよ」

大和「提督……」



582 ◆EyREdFoqVQ2017/11/25(土) 10:21:54.032q9Ypdeno (11/11)

今回はここまで。


583以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/11/25(土) 13:29:15.478dVQGIhd0 (1/1)




584以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/11/25(土) 21:00:14.37rsDFp94O0 (1/1)

乙でございます

イベ中で死滅した毛根への癒し・・・

まぁ、もとから抜ける毛なんぞないんですがね・・・・


585以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/11/26(日) 07:05:09.70/mYT511Do (1/1)

>>584
ハーゲハーゲまるハーゲ


586 ◆EyREdFoqVQ2017/12/03(日) 20:02:08.09d+2wryUoo (1/14)

続きです。


587 ◆EyREdFoqVQ2017/12/03(日) 20:02:47.53d+2wryUoo (2/14)


 * 翌朝 鎮守府埠頭 *

(鎮守府埠頭の沖合で右往左往するN中佐の船を眺める提督たち)

提督「案の定だな」ニヤニヤ

長門「提督の意地の悪さも相変わらずだな」ハァ

不知火「大和さんが見たら幻滅するでしょうね」

長門「いや、わからんぞ。あの大和なら提督が何をしようと全力で肯定しそうな気がする」

提督「マジかよ最低だな」

長門「貴様が言うな!!」

不知火「それより、N中佐の船はこのまま放置でよろしいんですか」

提督「暁と電を迎えに行かせるって言ったのに断ったあいつが悪い」

不知火「……そろそろ本営へ向かう準備がしたいのですが」

提督「なに? もうそんな時間か。仕方ねえな……暁と電、呼んできてくれ」

電「あんまり遅いから見に来たのです」

暁「司令官、あんまり意地悪しちゃだめなんだからね?」

長門「まったく、駆逐艦の二人のほうが余程大人じゃないか」

提督「そこは三人だろ? 不知火も入れてやれよ」

長門「だから貴様が言うな!!」

不知火「長門さん、まともに取り合わないほうがよろしいかと」



588 ◆EyREdFoqVQ2017/12/03(日) 20:03:28.61d+2wryUoo (3/14)


 * 鎮守府 会議室 *

N中佐「あんなに接岸に苦労するなんて聞いてないぞ……」

提督「だから誘導すると言ったではありませんか」

N中佐「くそっ、予定がずれた! せっかく組んだスケジュールを全部見直さねばならん!」

提督(おいおい、どんだけ余裕のないスケジュール組んでんだ?)

N中佐「とにかく全員いるな!? 妙高、あの箱を持ってこい!」

妙高「はい」ドサ

N中佐「全員、これを身につけろ!」

長門「……これは……!」

N中佐「イヤホンマイクだ。俺からはこれを通して全員に指示を出す」

N中佐「貼ってある付箋に名前が書いてあるから、それぞれ自分の名前が書いてあるイヤホンを身に着けるんだ!」

敷波「ふーん……」

利根「なるほどのう……」

朧「……」

明石「私と大淀の分がありませんね?」

N中佐「おまえたちは戦闘要員じゃないだろう。お前たちはお前たちの仕事をすればいい」

N中佐「行き渡ったか? では、全員身に着けて待機するように。指示は追って出すことにする。では、解散!」

 ゾロゾロ ザワザワ



589 ◆EyREdFoqVQ2017/12/03(日) 20:06:23.42d+2wryUoo (4/14)


N中佐「さて、ここから先は俺が全部取り仕切る。准尉、俺の鎮守府へ行く準備は済ませているな?」

提督「それはいいんですが、あなたの鎮守府とこの鎮守府は勝手がだいぶ違う。引継ぎの資料を用意したので……」

N中佐「やることなど変わりないだろう。そんなお膳立てなどしなくてもいい、君は治療に専念しろ」

提督「……左様ですか。ですが念のため、大淀から説明を聞いておいてください」

N中佐「くどいな君も。まあいい、早くその大淀と、神通を呼べ。川内や妙高たちを待たせているんだ、急がせろ」

提督「神通を?」

N中佐「第三艦隊を開放しようというんだ。知り合いの鎮守府に頼んで、川内と那珂、那智、足柄、羽黒をレンタルで連れてきた」

N中佐「第四艦隊を開放するための金剛型までは準備できなかったが、まずは第三艦隊まで開放できれば良かろう」

提督「……」

N中佐「なんだその顔は。お前にとっても悪い話じゃないだろうが」

N中佐「いいか、俺がここから去ってお前が復帰した後も、お前には変わらず戦果を上げてもらわねばならん」

N中佐「少しでも環境は良い方がいい。だから俺は知り合いに頭を下げてあいつらを連れて来たんだ」

N中佐「深海勢力を海から駆逐し、安全な海を取り戻すことが俺たちの使命だ。それを忘れてもらっては困る」

提督「……は。ありがとうございます」


提督「……なんだよ。作りたくもねえ借りができちまったな……面白くねえ」

提督「ま、そいつとこいつは話は別だがな……」



590 ◆EyREdFoqVQ2017/12/03(日) 20:07:40.81d+2wryUoo (5/14)


 * 鎮守府埠頭 *

比叡「司令ー!」

如月「司令官!」

提督「ん、見送りか。悪いが留守は頼んだぞ」

如月「ええ、まかせて! それよりも」

比叡「こちらをどうぞ!」ズイッ

提督「! これは……」

比叡「お弁当です! 気合、入れて! 作りました!!」フンス

如月「私も手伝ったのよ♪」

提督「そうか。ありがとうな……って、これ、やけにでかくねえか?」

比叡「ちょっと気合を入れすぎまして」テヘペロ

如月「良かったら、みんなにお裾分けしてあげて」

提督「いいのか?」



591 ◆EyREdFoqVQ2017/12/03(日) 20:10:07.00d+2wryUoo (6/14)


如月「これで司令官の評価が上がるなら、願ってもないことだわ」

比叡「そうですよ! というより、司令の階級は不当に低いと思うんです!」

比叡「大和さんも来たことですし、どーんと階級が上がってもおかしくないんです!」

提督「はは、そりゃ過大評価しすぎだ。そろそろ行ってくる。じゃ、頼んだぜ」

比叡「行ってらっしゃいませ!」

如月「気を付けて!」

 小型高速巡視船<ザザァァァァ…

如月「行っちゃったわね……司令官」ションボリ

比叡「さ、工廠に急ぎましょう! 妖精さんが待ってます!」

如月「そうね。こんなものをつけさせられてどうなるか、理解ったものじゃないわ……!」




592 ◆EyREdFoqVQ2017/12/03(日) 20:15:49.59d+2wryUoo (7/14)


 * 執務室 *

N中佐「駆逐を遠征に……重巡は……」ブツブツ カタカタ

 扉<コンコン

不知火「N中佐、失礼いたします」

N中佐「……不知火か。何の用だ、忙しいから手短に話せ」

不知火「これより不知火は、大和さん随伴で6日間、本営へ行って参ります」

N中佐「!? な、なんだそれは! 勝手な真似をするな!」

不知火「いえ、勝手ではなく、不知火は本営中将の配下の艦娘です。この鎮守府所属の艦娘ではありません」

N中佐「はああ!? どういうことだ大淀!? 不知火の話は本当か!?」

大淀「本当ですよ。不知火さんは中将配下の艦娘です。月に9日間は本営へ、それ以外の時はこの鎮守府に滞在しています」

大淀「言ってしまえば、本営からのお目付役も兼ねているという感じでしょうか」

N中佐「……准尉はそんなこと言ってなかったはずだぞ!?」

大淀「確かに、申し上げておりませんでしたね。ですが准尉は不知火を部下だとは言っていませんよ?」

N中佐「いや、昨日、この鎮守府の艦娘と言っていなかったか!?」

大淀「先日、提督は『この鎮守府にいる艦娘』とは言いましたが、『この鎮守府に所属する艦娘』とは一言も言ってません」

N中佐「……」

不知火「……あの、続きをよろしいでしょうか」

大淀「はい、どうぞ」

N中佐「……」



593 ◆EyREdFoqVQ2017/12/03(日) 20:18:07.87d+2wryUoo (8/14)


不知火「中将より、先日建造された大和に研修を受けさせたいとの指示がありました。これよりただちに大和さんを本営へ……」

N中佐「ま、待て! 待てっ!! 6日間だと!? いつそんな話があった!」

不知火「昨日の夕方です。司令から本営に連絡ののち、不知火宛てに連絡がありました」

大淀「不知火さん、本来ならば3日間の予定なのでは?」

不知火「はい、3日間が3回なのですが、今月はうち2回を6日間1回に変更することになりました」

N中佐「なんだそれは……不知火の練度が半端に高いのはそのせいか!」

N中佐「待てよ!? 欠員が2名出ると言うことは……せっかく解放した第3艦隊に欠員がでるじゃないか!」

N中佐「ちくしょう、予定を全部組み直しだ! 妙高たちを帰らせなけりゃ良かった!」

大淀「あの、N中佐……先に直近のスケジュールを連絡しておいたほうが」

N中佐「ちょっと待て! もう少し後にしてくれ! ええと……」ブツブツ

大淀(この人、想定外の事態には弱いタイプですね。これじゃこの先、苦労しそう……)

不知火「大淀さん。やはりこの手の連絡不行き届きはまずかったのでは」ヒソッ

大淀「ええ、本当はよくありません。ですが、この人は初雪さんのことをすっかり忘れてます」ヒソヒソ

大淀「このくらいの意地悪はしても罰は当たらないと思いますよ?」

不知火「そう思いたいですね」

大淀「いざとなったら提督のせいにしましょう」

不知火「賛成です」



594 ◆EyREdFoqVQ2017/12/03(日) 20:18:46.15d+2wryUoo (9/14)


 * その頃の巡視船内 *

提督「……くちゅん!」

全員「「!!」」

提督「なんだ? 誰か噂でもしてんのか」ズ

妙高(くしゃみがかわいい……)

那智(かわいいくしゃみだな……)

足柄(かわいい……)

羽黒(かわいい……!)

那珂(那珂ちゃんよりかわいい!?)ガーン

提督「……? な、なんだ? どうかしたか?」

川内「ううん、早く夜戦がしたいなーって」

妙高型&那珂「「!?」」



595 ◆EyREdFoqVQ2017/12/03(日) 20:22:40.10d+2wryUoo (10/14)


 * その後……10時30分 執務室 *

N中佐「……大淀」カリカリ

大淀「はい、なんでしょう?」カリカリ

N中佐「なんというか、静かすぎないか? この鎮守府は」

大淀「全員出払ってますからね。N中佐が全員出撃するよう指示なさったではありませんか」

N中佐「そうじゃない。なんというか、人の気配がまったくないというか……そうだ、たとえば警備員はどうした。憲兵は?」

大淀「いませんよ。警備も憲兵も特警も。今この島にいるのは、N中佐と私と明石、それと妖精さんたちだけです」

N中佐「……は?」

大淀「わかりやすく言いますと、この島で暮らしている人間は提督准尉おひとりです」

N中佐「はあぁ!? なんだそれは!?」

大淀「なんだそれはと言われましても……この島の鎮守府の体制はそうなんです。警備に関しては妖精さんにお願いしているような感じですし」

大淀「憲兵や特警が必要になるような事件も……ありませんし」

N中佐「なんだ今の間は」

大淀「いえ、ときどき事件は起きていますけれど、私たちで解決できている、と思いまして」

N中佐「……」

大淀「そういうわけですので、13時の定期便の荷物の搬入ですとか、16時半の定時連絡なども提督のお仕事になります」



596 ◆EyREdFoqVQ2017/12/03(日) 20:23:32.25d+2wryUoo (11/14)


N中佐「定時連絡……というのはなんだ?」

大淀「私が先程お渡しした日程表にも記載していますが、日次業務として少佐鎮守府への定時連絡が必要です」

N中佐「その少佐というのは誰なんだ」

大淀「本営の中将のご子息です」

N中佐「……あいつか!? あのバカ息子! 准尉は奴の部下なのか!?」

大淀「少佐を御存知なのですか?」

N中佐「ああ、知ってはいる……だが、どうにもいけ好かん。奴はあの深海勢力の跋扈をなんとも思ってもいない……!」

N中佐「それどころか、今日の逼迫した戦況をへらへらしながら眺めている! まるで戦争を楽しむかのようにな!」

N中佐「准尉があいつの部下だと言うのなら、なおのこと早く大和をうちに引き抜かなければ……」ブツブツ

大淀「N中佐?」

N中佐「む!? あ、いや、なんでもない! 執務に集中してくれ」

大淀「それなんですが……」スクッ

N中佐「ん? どこへ行く大淀」

大淀「こちらの書類が終わりましたので、私は畑に行ってきます」

N中佐「はたけ!?」

大淀「はい。こちらも本来は艦娘の回り番なのですが、全員出払ってますので」

N中佐「そ、そうなのか……離島ならではだな」



597 ◆EyREdFoqVQ2017/12/03(日) 20:25:17.20d+2wryUoo (12/14)


N中佐「それと、もう一つ聞きたい。のどが渇いたんだが、ここにポットはないのか」

大淀「お水は食堂へ行かないとありませんね。お茶の道具も食堂にしかありませんし、紅茶やコーヒーも常備しておりません」

大淀「提督はそこにある水筒に氷水を入れて執務してましたので、私たちもそれに倣っていました」

N中佐「……食堂へ行って飲むしかないわけだな。そしてお前は畑仕事か」

大淀「はい。この鎮守府の裏手にビニールハウスがありますので、そちらへ行って参ります」

N中佐「本格的だな……わかった。俺は食堂へ行ってくる。カップは適当に使っていいのか?」

大淀「はい、お昼も適当に済ませていただけると助かります。私の畑仕事もお昼まで終わるかわかりませんので」

N中佐「わかった。ついでに聞くが……酒保でたばこは売ってるか?」

大淀「いいえ、置いていなかったと記憶しています」

N中佐「そうか……たばこもないのか」ガックリ


 * 食堂 *

 ガラーン

N中佐「本当に誰もいないんだな……」

N中佐「……」

N中佐「もしかして間宮と伊良湖もいないのか!? おーい! 間宮!! 伊良湖!!」

 シーン

N中佐「……」

N中佐「なんなんだここは……異質だ、異質すぎる」

N中佐「……カップラーメンとか置いてないだろうか……」ウロウロ



598 ◆EyREdFoqVQ2017/12/03(日) 20:27:34.09d+2wryUoo (13/14)


 * 昼過ぎ 鎮守府の裏手 *

大淀(Tシャツ+ジーンズ+麦わら帽子+長靴)「ふぅ……」

明石「おーよどーー」

伊8「」フリフリ

初雪「」フリフリ

大淀「あら、明石。伊8さんと初雪さんも一緒ですか」

明石「うん、一緒にお昼食べないかって。おにぎり作ってきたよ!」

伊8「はっちゃんも手伝ったよ」

初雪「私も少し……!」

大淀「ありがとうございます。もうそんな時間でしたか」

明石「初雪ちゃんも外に出るって言ってたのは、正直意外だったねぇ」

初雪「たまには……それに、ピクニックみたいだし」

大淀「ああ、確かにそんな感じもしますね。ところでN中佐はどうしました?」

明石「食堂におにぎり作っておいてきたけど、気付いてるかなあ?」

大淀「それなら、私のほうで後程確認しますよ。置きっぱなしなら持っていきますから」

明石「それにしても、提督は大丈夫なのかなぁ」

大淀「……確かに、ちょっと心配ですね。でも、昔に比べたら大分丸くなったと聞いてますし」

大淀「おそらく、必要以上には他の人間と触れあおうとはしないでしょうね」

明石「だといいけど……」






599 ◆EyREdFoqVQ2017/12/03(日) 20:28:49.31d+2wryUoo (14/14)

今回はここまで。

次回はN中佐の鎮守府のお話になります。


600以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/03(日) 20:32:17.339DGYIKoy0 (1/1)




601以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/03(日) 21:29:48.91//cwBQy2o (1/1)


ここの提督は妖精と話せる稀有な能力の持ち主なんだっけか
N中佐鎮守府がどうなるか楽しみ


602以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/04(月) 19:16:53.72vOGnu4AU0 (1/1)

お疲れ様です

比叡は正妻枠かぁー


603 ◆EyREdFoqVQ2017/12/09(土) 13:28:02.98ND/lmMdGo (1/12)

この鎮守府の比叡は肝っ玉母ちゃん枠かと。

続きです。


604 ◆EyREdFoqVQ2017/12/09(土) 13:28:46.20ND/lmMdGo (2/12)


 * 一方、N中佐鎮守府 駆逐艦寮ロビー *

卯月「ううーー……」

弥生「……」

卯月「退屈だっぴょーーん!」

弥生「……おとなしくして」

卯月「そうは言うけど、この鎮守府に配属されてからずーーっとお留守番ぴょん!」

卯月「一度も出撃してないし、暇で暇で仕方がないっぴょん!!」

弥生「……静かにして」

卯月「どうやったらうーちゃんも出撃できるぴょん!? 遠征にすら駆り出されないぴょん!」

卯月「というか出撃チームはいつお休みしてるぴょん! ご飯食べてるとき以外出突っ張りぴょん!?」

卯月「遠征チームも遠征チームで全然お休みもないし、勤務体系が極端すぎるっぴょん!!」

弥生「……文句言わないで」

卯月「弥生はどうしてそこまで我慢できるぴょん。もしや、司令官に弱みでも握られてるぴょん!?」

弥生「卯月が騒ぐから、煙たがられて私たちにお呼びがかからないんだと思う」

卯月「辛辣ぴょん!?」

望月「つーか卯月マジうるさいんだけどー。黙っててくんない?」ヒョコッ

卯月「こっちも辛辣ぴょん!?」



605 ◆EyREdFoqVQ2017/12/09(土) 13:30:39.46ND/lmMdGo (3/12)


望月「そんなに出撃したいんなら遠征部隊に志願してもいいんじゃないの~? 今なら行けるかもよ?」

弥生「もっち……なにかあった?」

望月「あー、や、悪いニュースなんだけどねぇ……遠征部隊の初雪が、行方不明になったってさ」

弥生「行方不明……」

卯月「ぴょん!?」

望月「この前から司令官が出てったのはそういうことらしいよ~?」

望月「その司令官がいないから言うけど、遠征中の艦娘が行方不明になるなんて、普通の鎮守府じゃあ起こりえないし」

望月「ここ一月前から、みんな酷使されてたじゃん? あたしのよく知ってる初雪なら、遠征中に逃げたって可能性もあるかなあ……」

望月「余所の鎮守府に逃げられたとしたら、この鎮守府に本営の査察が入ってもおかしくないよねえ?」

弥生「査察……」

望月「司令官はそれを防ぐために、初雪がいなくなった海域を回ってるんだって話だよ」

卯月「……事件の臭いがする話になってきたぴょん」

望月「ま、そうでなくても、主力艦隊の艦娘のみんなの様子がおかしいのは、前々から噂になってんじゃんか」

弥生「うん……鳳翔さんも、赤城さんたちの様子がおかしいって言ってた」

卯月「異常なほど少食になった、って話ぴょん? それ、赤城さんだけじゃなくて、戦艦の人たちもそうみたいぴょん」

卯月「話しかけても上の空。殲滅できても大破しても、ぜーんぜん感情の起伏なしらしいっぴょん」



606 ◆EyREdFoqVQ2017/12/09(土) 13:31:24.23ND/lmMdGo (4/12)


望月「しかも、主力のひとたちがあんだけ休みなしに働いて、でもご飯はあたしたちと変わらない。どう考えてもおかしいよねえ」

望月「こんな状態で査察が入ったら、どうなんのさ? って話だよ。絶対怪しまれて、何かされるよねえ」

卯月「……」

弥生「卯月?」

卯月「冗談じゃないっぴょん……司令官に一度もいたずらしないまま、鎮守府が解体されるようになったら卯月の名折れっぴょん!!」

望月「いやそれおかしくね?」

卯月「冗談じゃないっぴょん! いたずらしないうーちゃんはうーちゃんじゃないっぴょん!!」

弥生「それ、二回言うの?」

卯月「何度でも言ってやるぴょん! 冗談じゃないっぴょーーーん!!」

卯月「決めたぴょん! 次に司令官に出会ったら問答無用でいたずらしてやるぴょん!!」

望月「ええー……」

弥生「……」

望月「弥生さあ、怒ってもいいんだよ?」

弥生「怒ってなんかないですよ……」ハァァ

望月(これは呆れてるっぽいねえ……)



607 ◆EyREdFoqVQ2017/12/09(土) 13:32:31.46ND/lmMdGo (5/12)


 * N提督鎮守府 ロビー *

卯月「むむっ!? あそこに見えるのは司令官っぴょん!?」


妙高「検査の結果まで時間がありますので、なにかお飲物でも……」

提督「いや、気を使わないでいい」


望月「……確かに制服着てるけど、なんか違くね?」

卯月「妙高さんと話してて隙だらけっぴょん! チャンスは今! 卯月、行っきむぁああす!」ダッ

弥生「あっ」

卯月(くらえ、うーちゃん奥義! スライディーング、ひざかっくんぴょーーん!!)カクーン!

提督「うおっ」グラッ

卯月「ぷっぷくぷぅ~!! いたずら大・成・功・だっぴょーん!」キャッキャッ

妙高「卯月さん!? 何をしているんです!」

弥生「う、卯月……」オロオロ

卯月「成功したなら脱兎のごとく逃げるぴょー……」アタマガシッ

提督「……おい」

卯月「ん……!?」グリッ



608 ◆EyREdFoqVQ2017/12/09(土) 13:33:51.41ND/lmMdGo (6/12)


提督「……」(←注:包帯ぐるぐる巻き)

卯月「ぴょおおおおおおん!?」ビクーッ

卯月「あ、あんた誰っぴょん!? N中佐じゃないぴょん!? ミイラ男だっぴょん!!」ガクガクブルブル

提督「いたずらしたのはお前か」グッ

卯月「い……いぎゃあああああ!?」メキメキメキメキ

弥生「え……」

卯月「痛い痛い痛い痛い痛い!! 痛いぴょん!! 超痛いっぴょおおおおおおん!!!」ジタバタ

望月「うっわあ」

卯月「頭が取れるぴょん! 割れちゃうぴょん! 離して! お願いだから離してっぴょおおん!!」ギリギリギリ

提督「お前、人に謝るときはそうじゃねえだろ?」

卯月「ご、ごめんなさいぴょん!! 許して欲しいっぴょぉおおおおんん!!」ナミダボロボロ

提督「……ったく、まあ良しとするか」パッ

卯月「ううう、なんて馬鹿力だっぴょん……頭が握りつぶされるかと思ったぴょん」サスリサスリ

提督「いきなり背後から不意打ちしかけるお前のせいだろうが」

弥生「卯月が悪いんだから、気にしないで……」



609 ◆EyREdFoqVQ2017/12/09(土) 13:35:27.30ND/lmMdGo (7/12)


望月「っていうか妙高さん、司令官はどうしたの? この人は?」

妙高「N中佐はしばらく出張です。こちらの方は……」

提督「俺は提督准尉、××島鎮守府の指揮官だ。お前らはここの鎮守府の艦娘か」

望月「あーい、望月でーす」

弥生「弥生、です。そして、こっちが……」

卯月「卯月でぇーーっす! うーちゃん、って呼ばれてむぁ~す!」クルリーン

提督「……うぜえ」ギロリ

卯月「!?」


 * 休憩室 *

望月「へー、精密検査ねえ」

妙高「そのために鎮守府を離れる提督准尉の代わりに、N中佐が指揮するんだそうです」

望月「ふーん」チラッ


卯月「検査が終わったんだから、待ち時間あるぴょん? うーちゃんとお話するっぴょん!」

弥生「……卯月、少し静かにして」

卯月「余所の鎮守府のお話なんてそうそう聞けることないっぴょん! うーちゃん、外のお話を聞いてみたいぴょん!」



610 ◆EyREdFoqVQ2017/12/09(土) 13:37:15.47ND/lmMdGo (8/12)


卯月「離島の鎮守府がどんなところか、弥生だって聞いてみたいと思うぴょーん?」

弥生「え……それは、そう、だけど」

卯月「さあさあ准尉さん、観念して洗いざらいうーちゃんに話すぴょん!」

提督「面倒臭え」

卯月「その反応はあんまりぴょん!!」ガビーン

妙高「あの島といえば、准尉? 島の丘に無数の艤装やら単装砲やらが並んでいましたが、あれは一体何でしょう?」

提督「……面白い話じゃあないぞ。それでもいいなら話すが」

妙高「?」

卯月「おお、話す気になったぴょん!? 聞かせて欲しいぴょん!!」ワクワク

望月(なんだか嫌な予感がするんだけどねえ……)

提督「……あれはな……」

 * *

望月(うん、やっぱり聞かなきゃ良かった系の話だった)

弥生「……」ズーン

卯月「ひどい話だぴょん……」ズーン

妙高「あれが全部……お墓だったんですか」



611 ◆EyREdFoqVQ2017/12/09(土) 13:38:50.98ND/lmMdGo (9/12)


提督「うちの島の潮の流れが特殊なせいでな。艦娘の残骸やらなにやらが、海岸によく打ち上げられるんだ」

望月「残骸って……」

提督「ソフトな言い方したって事実は変わらねえよ。まあ、艦娘は水葬が一般的らしいが……」

提督「潮流が強い島の近辺じゃあ水葬は無理だから、土葬してる。野晒しは可哀想だしな」

弥生「……」

卯月「……」

望月(さすがの卯月もおとなしくなってるなあ)

提督「で、運よく生き残って、死にたくないって自分の意思で言えた奴は、うちの鎮守府に着任させてる」

提督「自分の敵を取るために出撃するもよし、今後の生活のために遠征するもよし。そいつらの好きにさせてる」

妙高「提督が指揮をなさっているわけではないんですか?」

提督「俺は書類のハンコを押す係。島に住んでいる艦娘の生活のサポート役でいいのさ。階級も気にしてねえし、俺はなにもしねえ」

提督「……と、思ってだらだらしてたんだが」ハァ

妙高「?」

提督「正直、今の環境でいいのかと思い悩んでもいる」

妙高「と、仰いますと?」

提督「お前らの司令官に『世の中は常々進歩している、こんな島で引き籠ってたら取り残される』なんて言われてな」

妙高「N中佐、新しいもの好きなところがありますから」



612 ◆EyREdFoqVQ2017/12/09(土) 13:40:33.99ND/lmMdGo (10/12)


提督「そう考えると、俺は奴らに古臭い生活を強いているんじゃねえか、って気がしてきてなあ」

提督「そういうわけなんで、適当に流行物の雑誌類を貰ってこうかって考えてたんだが、誰に相談しようか悩んでたところだ」

提督「俗っぽいのは好きじゃねえんだが、娯楽の殆どは俗っぽいからな……俺の意思をはさまないようにしたい」

卯月「雑誌って言っても、いろいろあるぴょん? どんなのがいいぴょん?」

妙高「そうですね……たとえば准尉のご趣味はなんだったんですか?」

提督「俺の趣味か? ストレッチと……読書くらいか。あと人間観察」

望月「読書ぉ!?」

卯月「意外にインドアな趣味ぴょん……」

提督「口喧嘩で負けたくなかったってのが一番だな。文字が読めないと馬鹿にされるのも嫌だった」

提督「自分は頭がいいと思ってる奴らは、俺を馬鹿だと思って見下してきてる。で、俺の知らないだろう言葉を使ってなじってくるわけだ」

卯月「性格悪いっぴょん……」

提督「中学生の喧嘩ならそんなもんだろうよ。それより上でも同じような醜態をさらす奴はいるけどな」

提督「俺がそういう経験をしていて、自分の部下の艦娘に同じ轍を踏ませないような教育をしていないとなれば、俺は馬鹿かという話になる」

提督「俺自身はともかく、あいつらには黒いもん抱えさせたまま生活させたくねえし……そうだな。教養と娯楽は必要だ」

弥生「……」

提督「なんだよ。何か不服か」

弥生「別に、怒ってなんかないです。感心してただけで……すいません、表情かたくて」

提督「ん、ああ、そういうことか。こっちこそ悪かった、人の気持ちを察するのは苦手でな」



613 ◆EyREdFoqVQ2017/12/09(土) 13:41:13.92ND/lmMdGo (11/12)


軍医「提督准尉、検査結果が出ましたので、こちらへどうぞー」

提督「……やっとお呼びがかかったか。ちょっと行ってくる」

妙高「はい。いってらっしゃいませ」

望月「……はーぁ、予想以上に重い話だったねえ……」

卯月「これは由々しき事態っぴょん。向こうの鎮守府には笑顔の元が足りてないっぴょん!」

弥生「……それは、そうかも」

卯月「妙高さん! 准尉の鎮守府に協力してあげるぴょん!」

妙高「そうですね……協力しましょう」

望月「あー、でもいたずらはやめたほうがいいよねえ。また頭を掴まれるかもよー?」

卯月「う゛……だ、大丈夫ぴょん! ばれないようにやるぴょん!」

望月「その前提が駄目なんだって……」

妙高「ところで、みなさんお昼ご飯はどうしました?」

卯月「!? も、もうそんな時間ぴょん!?」

望月「あー、いいっていいって。どーせ普通に行っても、混んでて食べた気しないし」

弥生「今くらいの時間のほうが、ゆっくり食べられる……」

卯月「鳳翔さんの賄い料理を食べられるときもあるぴょん!」

妙高「では、准尉が戻ってきたら一緒に食べに行きましょう」

望月「あーい」

弥生「わかりました……」

卯月「了解っぴょん!!」



614 ◆EyREdFoqVQ2017/12/09(土) 13:42:25.07ND/lmMdGo (12/12)

というわけで、今回はここまで。


615以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/09(土) 16:06:22.740NGYDUzp0 (1/1)




616以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/09(土) 19:55:58.65eJdA2dlH0 (1/1)

更新お疲れ様です

雑誌でイタズラの基本といえばエロ本?

快○天とかコミックL○とか?危険だなー(棒)


617 ◆EyREdFoqVQ2017/12/10(日) 22:57:42.85D4IZxq0io (1/14)

エロ本ではありませんが、裸が多い某漫画。

続きです。


618 ◆EyREdFoqVQ2017/12/10(日) 22:58:34.36D4IZxq0io (2/14)


 * 食堂 *

卯月「というわけでぇ、准尉を連れてきたっぴょん!」

提督「……」(←樹脂製のゴーグル型フェースガード着用)

卯月「ミイラ提督改め、鉄仮面提督だっぴょーん!」

提督「鉄じゃねえよ」

間宮「……サッカー選手にああいうマスク着けてた人がいませんでしたか?」

望月「あ、いたかも。確かその人、鼻の骨を折ってたんじゃない?」

妙高「頬の怪我が完治するまでは、こちらのマスクを着用してくださいとのことです」

提督「ったく、冗談じゃねえな、くそが」

鳳翔「准尉さん、お食事の時間にその言葉遣いはいけませんよ」

提督「ん……ああ、そうだな。これは失礼」

卯月「やーい、怒られたぴょん!」

提督「あ? また掴まれてえか」ワキワキ

卯月「そんな脅しに屈するうーちゃんじゃないっぴょん!?」ササッ

望月(速攻で鳳翔さんの後ろに隠れてるし……)

提督「ったく、愚痴りたくもなるぜ。あの医者の野郎、固いものは食べるな、柔らかくて流し込めるものを食えって言ってきやがったんだぞ」

提督「それでうちの連中が作ってくれた弁当もダメだって言われたんだからな」ゴトン



619 ◆EyREdFoqVQ2017/12/10(日) 22:59:44.09D4IZxq0io (3/14)


妙高「無理もありません。頬の骨にひびが見つかったんですから」

間宮「それにしても、大きなお弁当箱ですね」

提督「如月が『良かったらお裾分けしろ』って言ってきたくらいだ。最初から俺一人で食わせる前提じゃねえな、こりゃ」

提督「そういうわけなんで、良かったらつまんでくれ。それと……鳳翔だったか? おじや作るから、厨房と小さな鍋を借りたいんだが」

鳳翔「それでしたら私が承りますが」

提督「いいや、この程度のことは俺でもできるんで、手を煩わせるつもりはないと思ったんだが。やっぱり余所者を厨房には入れたくないか?」

鳳翔「いえ、無理にとは申しません。老婆心ながら申し上げただけです」

提督「そうか。んじゃあ、とりあえず塩とか醤油がどこにあるか教えてくれると助かる」

提督「ごはんはこっちの弁当のを使わせてもらうから……」ベントウガパッ


ごはんの上の海苔文字「キサラギヨリ アイヲコメテ」+文字を囲む大きなハートマーク


提督「……」

妙高「あらあら、これは……」

弥生「……」ポ

鳳翔「まぁ……」ニコ

間宮「可愛らしいですね」ニコニコ



620 ◆EyREdFoqVQ2017/12/10(日) 23:00:24.99D4IZxq0io (4/14)


望月「こりゃ提督准尉も隅に置けないねえ」ニヤニヤ

卯月「こんなところで見せつけてくれるぴょーん!」プククー

提督「帰ったら如月は尻たたきだな」ピキピキッ

全員「「!?」」

提督「とりあえずおじやでも作るか」ガッガッ

卯月「ハートマークの真ん中から容赦なくしゃもじで割り開いてるぴょん!?」

鳳翔「准尉、落ち着いてください!」


 * 一方の遠征中の如月 *

如月「はくちゅん! はっ! 今、司令官が私のこと噂してる!?」

如月「もう、司令官ったらそんなに喜んでくれるなんて!」モジモジ

如月「帰ってきたらたくさん愛してくれるのかしら! や~ん!」

朝雲「ちょ、止めないの……?」

暁「? いつも通りよ?」

霞「平常運転よね」

朝潮「問題ありません!」

電「なのです!」

朝雲「えええ……」



621 ◆EyREdFoqVQ2017/12/10(日) 23:01:52.27D4IZxq0io (5/14)


 * N提督鎮守府 食堂 *

提督「つうか、3段重ねのお重とか、何考えて作ったんだよ……どう見ても一人前じゃねえぞ」ガパッガパッ

望月「おぉ、いいねえ。定番のから揚げに卵焼き……黒豆も入ってんじゃん」

妙高「ミニハンバーグに煮物まで入ってるなんて、豪華ですね……!」

鳳翔「見た目も素晴らしい……かなりの腕前とお見受けいたします」

卯月「おいしそーなから揚げいただくぴょーーん!!」バッ

弥生「卯月、お行儀悪い……!」

卯月「いっただっきまーす! ぱくっ」

間宮「これも如月ちゃんが作ったんですか?」

提督「いや、これ作ったの比叡だな」

鳳翔間宮妙高「「「比叡さん!?」」」

卯月「もぐもぐ……うっ!」

弥生「卯月……!」

望月「しっかりしろって!」

卯月「う……うううっ!」プルプル

 パァァ…

提督「? なんだこの光」



622 ◆EyREdFoqVQ2017/12/10(日) 23:02:57.27D4IZxq0io (6/14)


卯月(全裸)「うまいぴょぉぉん……!!」ウットリ

全員「「!?」」

弥生「卯月が裸になって浮いてる……!?」

望月「なんで、から揚げ食っただけでこんなことになってんだよぉ!」

卯月(全裸)「お弁当なのに、こんなにおいしいから揚げは初めてぴょん……!」

卯月(全裸)「口の中で食んでいると、おいしいのがじゅわじゅわ溢れてきて、ずーっと口の中に含んでいたいぴょん……!!」ウットリ

望月「……マジか。あたしも食いてぇ」ジュルリ

妙高「望月さん!?」

望月「……」ヒョイパク

 ペカー

望月(全裸)「マジうめぇ」フワァ

全員「「!?」」

望月(全裸)「やべぇコレめっちゃうますぎ。全部にレモンかけて独り占めしてぇ」モッキュモッキュ

弥生「それはダメ……かけるなら小分けにしてから自分のお皿にだけかけて」

間宮「弥生ちゃん冷静ッ!?」



623 ◆EyREdFoqVQ2017/12/10(日) 23:03:59.63D4IZxq0io (7/14)


提督「……なあ、俺の目はおかしくなったのか? こいつら、なんで脱いでんだ?」

妙高「い、いえ、それはなぜかは……」

卯月「もぐもぐ」

望月「もぐもぐ」

全員「「!?」」

提督「服、着てるな……」パチクリ

妙高「ええ……」メヲコスリコスリ

間宮「それにしてもこのお弁当……」マジマジ

鳳翔「ええ、私たち以上かもしれません」マジマジ

妙高「お二人がそこまで仰るなんて、そんなにすごいんですか……」

提督「まあ、うちの比叡は余所とは違うからな……」

鳳翔「……こちらの卵焼き、いただきますね」パク

間宮「私も失礼いたします……」パク

 フワァァ…

鳳翔(全裸)「……これは……!」

間宮(全裸)「……こんなことが……!」

提督妙高弥生「「!?」」



624 ◆EyREdFoqVQ2017/12/10(日) 23:05:02.47D4IZxq0io (8/14)


鳳翔「このおだし。市販品ながら白だしにお醤油を絶妙な割合で合わせてますね……」

間宮「卵の焼き具合も程よく……このやわらかさ、お弁当に入れる前提で考えて焼いてあります」

鳳翔「ええ、それだけではなく……」

間宮「はい、しかも……」

提督「おい妙高。ここの鎮守府の連中は瞬時に脱いだり着たりする特技でもあんのか」セキメン

妙高「そ、そんなことありません!」

弥生「……でも、本当においしそう」オソルオソル

妙高「弥生さん!?」

弥生「黒豆、いただきます」モグ…

妙高「じ、准尉は見てはいけません!」メカクシ

提督「うおっ」

弥生「……!」

弥生「おいしい……!」ホワァァァ

妙高「……あら?」

提督「あぁ、もしかして黒豆は如月が作ったのか」ヒョイパク

提督「……うん、うめえな。これ、砂糖の加減が難しいんだよなぁ……ちょうどいい塩梅じゃねえか」モグモグ



625 ◆EyREdFoqVQ2017/12/10(日) 23:05:52.98D4IZxq0io (9/14)


間宮「弥生ちゃんの目尻があんなに下がったところ、初めて見ましたね」

提督「まあ、つまみ食いはこの辺にして、そろそろ厨房を貸してもらっていいか」

鳳翔「そうですね、私たちもご飯にしましょう。準備しますから待っててくださいね」

提督「妙高は一口食べなくてもいいのか?」

妙高「え……私ですか」

鳳翔「はい。準備しますので、ちょっとお待ちいただくことになります」

妙高「……そ、それでは、こちらのミニハンバーグを……」ソッ

鳳翔「では、准尉はこちらへどうぞ」

提督「はいよ」

間宮「私もご一緒します」パタパタ

妙高「提督は行きましたね……」

妙高「……」ゴクリ

妙高「ん……」パク

妙高「ん……!」モグモグ

妙高「んんんんん……!」ビクッ



626 ◆EyREdFoqVQ2017/12/10(日) 23:07:22.38D4IZxq0io (10/14)


妙高(こ、これは……冷えて固形化した油が、口の中で簡単に溶けていく……)モグモグ

妙高(噛むとハンバーグの中に入っていた薄味のソースが肉の油とブレンドして……)

妙高(口中いっぱいに、ぶわっと旨みが広がっていくのが、とても刺激的……なんて美味しい……!)ゴクン

妙高(全裸)「んんーーー……っ!」ビクビクッ

卯月「!?」

望月「!?」

妙高「……ふぅ」

弥生「おいしかったですか……?」

妙高「ええ、とても」ニコッ

望月(おとなだった)カァ

卯月(おとなだったぴょん)カァ



 * どこかの戦闘海域 *

比叡「ひとくちハンバーグは! 一番気合入れて作りました!」ドカーン

古鷹「誰に向けて言ってるんですかその掛け声!?」




627 ◆EyREdFoqVQ2017/12/10(日) 23:08:33.07D4IZxq0io (11/14)


 * N提督鎮守府 厨房 *

鳳翔「おかゆじゃなくて、おじやにするんですか?」

提督「おかゆにするために米を洗ったら、海苔がはがれちまうのが勿体ないからな。そのまま煮てしまおうと思ったんだ」

間宮「でしたら、厨房に残ってるごはんでも作れますよ」

提督「いや、あの弁当は俺が受け取ったんだから、俺が少しでも食わなきゃ失礼だろ」

提督「ま、おじやに作り変える時点で失礼なんだけどなあ……」

鳳翔「……海苔をそのままにすると言うなら、お茶漬けにするという手もありますね」

提督「!」

鳳翔「お椀を準備しましょうか。わさびもお使いになりますか?」

提督「あ、ああ。助かる」

間宮「そういうことでしたら、お茶の道具を用意しますね」

提督「……」

鳳翔「どうなさいました?」

提督「いや、二人とも手際が良いなと思って、感心していた。俺もそれなりに自炊はしていたんだが、思わず見入ってしまってただけだ」

鳳翔「ふふふ、ほめすぎですよ」

提督「……鳳翔も、本当は全部の鎮守府に一人ずついるはずなのか?」

鳳翔「え? いえ、そうとは限りませんが……間宮さんならそうですけれど」



628 ◆EyREdFoqVQ2017/12/10(日) 23:09:38.08D4IZxq0io (12/14)


提督「そうか……うちにはその間宮はいないんだよ」

鳳翔「え!? じゃ、じゃあ、伊良湖さんは!?」

提督「イラコ?」

間宮「し、知らないんですか……」

提督「ああ。比叡が来るまでは各自自炊してたし、来てからは来てからで艦娘と回り番で飯を作ってたりしてたんだ」

間宮「そんなお話、初めて聞きます」

鳳翔「いくら離島の鎮守府とはいえ、異常事態だと思いますよ」

提督「そうか。まあ、そうなんだろうなあ……ん?」

間宮「?」

提督「なあ……あのバケツ、なんでテーブルの上に置いてあるんだ? 普通床に置くもんだろう?」

鳳翔「これですか? これは高速修復材です」

提督「修復……? ありゃあ入渠ドックで使うもんだよな?」

鳳翔「たまに食べ物に混ぜて欲しいという話もあるんですよ……」

提督「……は? マジか? 食べられるのか、これ」

鳳翔「ええ。患部に塗ったり、口から摂取したり、頭からかぶったりと方法は様々ですが……」

鳳翔「その中身の液体が艦娘の体に触れるなり取り込まれるなりすると、効果を発揮するみたいなんです」

提督「みたい、ねえ……」スンスン



629 ◆EyREdFoqVQ2017/12/10(日) 23:11:19.04D4IZxq0io (13/14)


間宮「私たちも、その中身の液体がどういうものなのか、正直なところよくわかっていないんです」

提督「ふーん……少し見せてもらうか。ちょっとこの小皿とスプーン、借りるぞ」

鳳翔「えっ」

提督「……水飴みたいだな」トローリ

間宮「あ、あの、准尉!?」

提督「……ふむ、無味無臭……」パク

鳳翔「じゅ、准尉!? 何をしているんですか!?」

提督「うお、びっくりした。どうかしたのか?」

鳳翔「い、いえ、まさか修復材を小皿に移して食べてしまうとは思いもよらず……というか、大丈夫なんですか!?」

提督「ああ……水飴みたいな触感なのに、口に入れてると綿飴みたいにすっと溶けて消えるのは面白いが……」

提督「全然味気ねえんだな。黒糖でも混ぜないと食べづらそうだ」

間宮「あの、そういう意味じゃなくて、体調とか、本当に大丈夫なんですか?」

提督「ああ……別に何もおかしくないが……?」

鳳翔「……」

間宮「……」

卯月「鳳翔さーーん! はやくご飯にするぴょーん!」

望月「はらへったー……はやくぅぅぅ……」

鳳翔「! は、はーい!」

間宮「さ、行きましょう准尉さん!」

提督「お、おう」



630 ◆EyREdFoqVQ2017/12/10(日) 23:12:06.89D4IZxq0io (14/14)

今回はここまで。


631以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/11(月) 08:48:54.13XBCV3/Vo0 (1/1)




632以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/11(月) 15:22:23.170B1FC0Jq0 (1/1)

更新お疲れ様です

弁当を食べた時の反応でMr.味っこを思い出してしまった

味王様まんまww

キーボードのコーヒー拭かなきゃ・・・・


633以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/13(水) 00:02:28.70p0NwGaHA0 (1/1)

おつ
よく脱ぐっていうと食戟か


634以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/12/25(月) 07:42:39.42Kifu7Mz3O (1/1)

乙。
待っているぞー。


635 ◆EyREdFoqVQ2018/01/04(木) 18:40:39.86rW2Sb/7eo (1/12)

こちらも続きです。
墓場島鎮守府に戻ってきます。


636 ◆EyREdFoqVQ2018/01/04(木) 18:41:31.52rW2Sb/7eo (2/12)


 * 夕方 墓場島鎮守府 執務室 *

大淀「N中佐、搬入作業お疲れ様でした」

N中佐「ぜぇ、ぜぇ……」

大淀「お水をお持ちしました。大丈夫ですか?」コト

N中佐「……ん……ごく、ごく、ごく……」

大淀(返事をする余裕もないみたいですね)

N中佐「ぷは……っ! はー、はー……」

N中佐「お、大淀。提督准尉は、いつもこんなことしてるのか……」

大淀「運搬は分担していますが、いつも立ち会ってますよ。少佐を信用していないので、数量チェックも欠かさずやってます」

大淀「普段から書類は少ないのですが、力仕事は多いですね。提督も朝のうちに書類仕事はすべて片付けて、日中の大半は外にいますし」

N中佐「……」ゼーゼー

 扉<コンコン

長門「長門だ。海域から帰投した」

大淀「どうぞ」

長門「ああ、失礼する。報告書を持参した、確認を頼む」チャッ



637 ◆EyREdFoqVQ2018/01/04(木) 18:42:44.19rW2Sb/7eo (3/12)


N中佐「……」グッタリ

大淀「報告書、いただきますね」

長門「あ、ああ。なあ、N中佐は大丈夫なのか」

大淀「まあ、ご覧のとおりですね。午後の搬入作業、N中佐にほぼ一人していただきましたから」

長門「一人でだと?」

大淀「正確には明石と私も少し手伝いましたが、私たちの仕事もありましたので、お手伝いできたのは途中までですね」

長門「そうか。それは大変だったな」

N中佐「おい……長門。お前は、こうなることは予見できていたのか……?」

長門「ある程度はな。この鎮守府の艦娘が全員全力で出撃すれば、こういう事態になることは予想できていた」

N中佐「……なぜ何も言わなかった」

長門「提督から『初日はN中佐の指示に全面的に従え、彼の意に背く反論や余計な進言は控えろ』と指示を受けている」

長門「この島の特殊な事情も把握せず、大湊と同じ感覚で指揮しようとした貴様への、提督からのささやかな嫌がらせ、と言ったところか」

N中佐「……っ!」

長門「正直に言えば私も貴様は気に入らん。ろくに我々と話もせずいきなり従えと言われれば、不興を買うのも至極当然の成り行きだろう」

長門「貴様には貴様の正義があるのだろうし、考え方やセオリーもあるのだろうが、現状の把握もせず、提督からの引継ぎもせず」

長門「貴様の考えが通用する土台を作ることを怠って、一足飛びに戦果をあげようなど、見方によっては傲慢と言わざるを得ないやり方だ」

N中佐「……チッ」



638 ◆EyREdFoqVQ2018/01/04(木) 18:45:13.86rW2Sb/7eo (4/12)


長門「それから、貴様が配ったこのイヤホンマイクについてだが」

N中佐「……なんだ」

長門「まったく音が聞こえない。壊れているのか?」コンコン

N中佐「なんだと!?」ガタッ

 扉<コンコン

霞「霞よ、遠征から戻ってきたわ、入っていいかしら」

大淀「どうぞ。お疲れ様でした」

霞「失礼するわ。あら、長門さんもいたのね」チャッ

霞「はい、これ報告書……って、汗くさいわね!? N中佐はなにをしてたのよ」

長門「一人で搬入作業をやっていたそうだ」

霞「……ふーん。その程度でだらしないわね」

霞「で? 次は何をするの? 指示を出してもらわないと私たちも動けないんだけど。あのクズより戦果をあげるんでしょ?」

N中佐「!? 霞のイヤホンにも指示が飛んでいないのか……!?」

霞「何も来てないわよ? それより、その言い方だとイヤホンで全部指揮しようとしてたわけ?」

霞「部下の顔色も見ないでどこ行けなにやれ、命令しようとしてたってこと? あんた、あたしたちのこと舐めてんの!?」

N中佐「……」



639 ◆EyREdFoqVQ2018/01/04(木) 18:46:27.05rW2Sb/7eo (5/12)


霞「まあいいわ……で、どうすんのよ。こんなもの、何も聞こえないんじゃ耳栓と同じよ」イヤホンハズシ

N中佐「……いい。今日はもういい、休め」

霞「そ。じゃ、艤装の整備でもしてくるわ」クルッ

大淀「N中佐。そろそろ定時連絡の時間です」

N中佐「……わかった」

長門「では、私もこれで失礼する」スッ

 扉<パタン

N中佐「……はぁぁぁぁ……」ガックリ



 * 廊下 *

霞「……ちょっと言い過ぎたかしら」

長門「そんなことはない。私の方こそ、少しやりすぎたかもしれないな」

霞「長門さんは何もしてないでしょ」

長門「何もしていないからこそだ。事前にこの鎮守府のことを話しておけば……」

霞「そんなことしなくていいのよ。N中佐、この鎮守府に何の興味も示してなかったじゃない。ほんとに大和さんしか眼中になかったし」

霞「あいつにとっては、私たちにこんなものを渡すくらいには、私たちのことなんてどうでも良かったのよ」

長門「なら、霞がさっき自嘲していたのは何故だ?」

霞「そ、それは、まあ……こっちでイヤホン壊したのに、壊れてるって嘘ついたことに後ろめたさを感じただけ!」



640 ◆EyREdFoqVQ2018/01/04(木) 18:48:00.24rW2Sb/7eo (6/12)


霞「それもこれも全部あのクズが仕組んだことなんだから、あいつが悪いのよ!」

長門「そうだな。提督ならその悪者役も望んで引き受けてくれるだろうな」フフッ

明石「あ、長門さんも戻ってきましたか! おかえりなさい!」

長門「ああ、明石か。ただいま」

明石「長門さんも、イヤホンの音は何も聞こえませんでしたか?」

長門「ああ。おかげさまで、耳が痒いだけで済んだ」イヤホンハズシ

明石「霞ちゃんたちも影響がなかったみたいなので、うまくいったみたいですね!」

霞「やっぱり、あのイヤホンの音ってまずかったの?」

明石「ええ、工廠の妖精さんたちと一緒にあの音の波長を確認したんですが、どうも妖精さんの声の波長と同じようなんです」

明石「それを絶え間なく聞かせることによって、艦娘を半洗脳状態に陥れるという代物ですから、聞き続けていたらどうなってたかわかりません」

明石「特に大和さんのイヤホンからは、N中佐の配下になるよう促すような音声も入ってましたから、危なかったですね」

霞「……思ってた以上にクズね。後ろめたさなんか感じる必要なかったわ」

島妖精G「提督が最初から怪しんでいたからねー」ヒョコッ

島妖精D「今みんながつけてるのも、音が出ないように壊したり、解析のために中身を抜いてガワだけにしたりしてるから、無害なはずだよ」

長門「初雪がつけていたイヤホンもそうだったんだな?」

明石「はい、初雪さんから話を聞いて、その日のうちに砂浜を散策してイヤホンを発見しています」

明石「それの音声データを解析した結果も本営にも送りましたし、これをどうするか、もうすぐ本営の回答も得られるはずです」



641 ◆EyREdFoqVQ2018/01/04(木) 18:50:03.85rW2Sb/7eo (7/12)


長門「なんだかんだで提督の思惑が当たっていたというわけか。恐ろしい話だ」

島妖精A「あとな、今回のイヤホンからは食欲が減衰するような効果のある音も混ざってた」

長門「どんな音だ?」

明石「食事が不快になる音らしいです」

島妖精G「そうだねえ……たとえば、クチャラーって知ってる?」

霞「……最悪じゃない……」

島妖精G「まあ、あれじゃないけど、そういう感じの音らしいよ」

島妖精F「それと、長門のイヤホンからは戦意高揚の効果のある音もあったみたい」

長門「本当か……」

明石「おそらくですが、艦娘を戦闘用、遠征用に最適化しようとしていたんでしょうね」

明石「暗示をかけて疲労や食欲までコントロールしようとしてた可能性もあります」

長門「……私たちを、完全に兵器にしようと言うわけだな」

明石「こうなると提督とは真逆の対応ですからね。みんな気に入らないのは同じだと思いますよ」

霞「ったく、あいつ、早く帰ってきてくれないかしら」

明石「そうですね……すみません、私のせいで」シュン

霞「あっ、べ、別に明石さんが悪いって言ってるわけじゃないから! 勘違いしないで!」オロオロ

長門「……」ナデナデ

霞「って、長門さんなんで私の頭なでるの!?」カァァ

長門「す、すまん! つい!」

霞「つい!?」



642 ◆EyREdFoqVQ2018/01/04(木) 18:51:00.74rW2Sb/7eo (8/12)


 * 一方その頃 執務室 *

N中佐「……で、定時連絡というやつはいったいなにを連絡するんだ」

大淀「実際には、今日何があった、と言う程度の日々の連絡になります。雑談するだけですよ」

大淀「昔は少佐が出る時もありましたが、今は秘書艦の赤城さんに専属で応対していただいてますね」

N中佐「そうか……気楽に構えてていいんだな?」

大淀「はい。受話器をどうぞ、今お繋ぎしますね」ピッピッ

N中佐「う、うむ」

通信『RRRR...RRRR...ガチャッ』

N中佐「……」

通信『はい、少佐鎮守府です』

N中佐「!」

N中佐(なんだ、この冷えた声は……)ゾク

通信『もしもし?』

N中佐「……こちら、××国××島鎮守府、臨時司令官のN中佐だ」

通信『N中佐……提督准尉よりお話は聞いております。墓場島の指揮を一時的に引き受けたそうですね』

N中佐「は、墓場島!?」



643 ◆EyREdFoqVQ2018/01/04(木) 18:52:13.54rW2Sb/7eo (9/12)


通信『……なるほど、その様子では何も聞いていない。准尉が意図的に話さなかったのか、それともあなたが聞く耳を持たなかったのか』

通信『その島がどういう場所なのか、あなたは御存知ない。そういうことですね』

N中佐「ど、どういう意味だ。貴様は何者だ、何を知っている!」

通信『……申し遅れました。私は少佐鎮守府、少佐の秘書艦、赤城です。短い間ですが、よろしくお願い致します』

N中佐(俺の鎮守府にも赤城はいるが、あいつからこんな薄ら寒い……背筋の寒くなるような冷めた声は、聴いたことないぞ……!)

通信『さて、N中佐。どういう意味か、という問いでしたね?』

N中佐「う、うむ……」

通信『提督准尉の報告によれば、その島には轟沈した艦娘がたびたび漂着するそうです』

N中佐「そ、そういうことか。由来だけ聞けば、そう呼ばれるのも仕方ないな」

通信『……その流れ着いた艦娘たちを、提督准尉が埋葬し、墓を作りました』

N中佐「!?」

通信『その墓が並んでいるから、墓場島、と呼ばれるようになったと聞いています』

N中佐「は、墓場……!? お、俺はそんなもの、見ていないぞ」

通信『私も島には行ったことがありませんので、具体的にどんなものかは把握していませんが、そこはそう呼ばれるような場所なのです』

通信『では、その島の鎮守府に所属している艦娘たちの半数以上が、轟沈した艦娘であることも御存知ないのですね?』

N中佐「な!?」



644 ◆EyREdFoqVQ2018/01/04(木) 18:53:31.18rW2Sb/7eo (10/12)


通信『かつて、轟沈した艦娘を招き入れ、その艦娘が深海棲艦化したために鎮守府が壊滅した話……』

通信『あなたも艦娘を率いる立場になったとき、訓話として聞いたことでしょう』

通信『提督准尉は、その訓話に反し……いえ、知ったうえで轟沈した艦娘を保護し、部下として育てているのです』

通信『拠点としての重要性が低く、航路としてもあまり価値のない、離島の鎮守府だからこそ……』

通信『有体に言ってしまえば、提督はその島を、隔離施設として運用しています』

N中佐「ば、馬鹿な! あの話が本当なら、そんなことを海軍上層部が許すのか!? むしろ何故そんなことをしようとする!?」

通信『本営の中将の提案によって特例を得ました。准尉以外の人間が滞在しないことについても、准尉は了承しています』

通信『さて……N中佐? その墓場島鎮守府を守るその役目、果たしてあなたに勤まりますか? 大和さんがお目当てのあなたに……!』

N中佐「っ!」

通信『おそらくは准尉も勘付いていることでしょう。あなたに指揮を任せた意図については、私も理解できかねますが』

通信『ともかく、10日間と仰いましたね。准尉のように覚悟のないあなたがその島で何日もつのか。何日連絡を取り合えるか……』

通信『忠告はさせていただきました。今後、その島であなたがどのような活動を行うかは、あなたの判断に委ねます』

N中佐「……」

通信『今日は初日ですから、この辺に致しましょうか。では、ごきげんよう』

 チン

N中佐「……」



645 ◆EyREdFoqVQ2018/01/04(木) 18:54:42.40rW2Sb/7eo (11/12)


大淀「N中佐、どうしました? 顔色がよろしくないのですが」

N中佐「……大淀。お前も、轟沈艦か」

大淀「いいえ、違います」

N中佐「そうか……赤城に聞いた。この島では轟沈した艦娘を鎮守府においていると。何故この事実を黙っていた!」

大淀「知らないままのほうが指揮しやすいかと思いましたが」

N中佐「ぐ……」

大淀「そうでなければ、大変失礼いたしました」

N中佐「……この島の、墓場というのは、どこにある……」

大淀「島の南東の丘の上です。もうすぐ日が落ちますので、足を運ぶのは明日以降になさったほうがよろしいかと」

N中佐「……わかった」

大淀「それから、敷波さんたち第三艦隊の遠征がもうすぐ終わります。本来の予定ですと、すぐ次の遠征に向かわせる予定でしたが……」

N中佐「中止だ。帰還したなら待機させろ。それから……俺が来る前の日程表があれば、それを見せてくれ」

N中佐「明日は、そのもともとのスケジュールで鎮守府を回す。そのうえで鎮守府を見回りたい」

大淀「! 了解致しました」

N中佐「……はぁ……最初からこうしていれば良かったのか……」

大淀「N中佐?」

N中佐「……なんだ」

大淀「シャワーを浴びてきてはいかがでしょうか? お部屋までご案内しますよ」

N中佐「……ああ。頼む。一度すっきりしたほうが良さそうだ……」



646 ◆EyREdFoqVQ2018/01/04(木) 18:55:42.84rW2Sb/7eo (12/12)

今回はここまで。


647以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/05(金) 14:46:37.51GakJeS+s0 (1/1)

更新乙でございます
続きゆっくりお待ちしているです


648 ◆EyREdFoqVQ2018/01/06(土) 15:32:42.79g1ZzHrFHo (1/12)

落とせるときに落としておこう……。

続きです。


649 ◆EyREdFoqVQ2018/01/06(土) 15:33:48.79g1ZzHrFHo (2/12)


 * N鎮守府 工廠 *

卯月「こっちが工廠ぴょん!」

提督「……さすがにでっけえな」

卯月「でも、明石さんは酒保にいるから留守ぴょん? わかっててこっちに来るなんて、無駄足ぴょーん?」

提督「無駄足じゃねえさ。こっちの明石にも、あとで話を聞きに行くつもりだ」

弥生「あとで……?」

望月「ほかに誰か話ができる人、いたっけ?」

提督「ああ、いっぱいいるじゃねえか。騒々しいくらいだ」キョロキョロ

弥生「?」

望月「……まさか」

提督「そうだな……おい、お前。ちょっと聞いていいか?」

工廠妖精1「え!? わ、わたし!?」オロオロ

提督「ああ、お前だお前。間違ってねえから安心しろ」

 ドヨッ

提督「おぉ……妖精の視線が集まったな。そんなに珍しいのか?」

工廠妖精2「珍しいっていうか初めてだよ!」

工廠妖精3「本当に私たちの声が聞こえるの!?」



650 ◆EyREdFoqVQ2018/01/06(土) 15:34:47.73g1ZzHrFHo (3/12)


提督「ああ、聞こえてる。聞こえてるから一人ずつしゃべっ」

工廠妖精4「えー、すっげえ! マジで!?」

工廠妖精1「わ、わたしが話しかけられたんだから、わたしがお話するのー!」

 キャーノキャーノ ヤイノヤイノ

提督「……」ピキッ

卯月「あっ」

望月「あっ」

弥生「あっ」

提督「 う る せ え 」ゴゴゴゴゴゴ

妖精たち「「ヒィッ!?」」ビクッ

望月「……うん、まー、そーなるよね」

弥生「卯月……どうして私の後ろに隠れるの」

卯月「はっ!? べ、別に隠れてなんかないぴょん!?」

望月(トラウマになってる……)

提督「興味があるのはいいが、楽しい話題じゃあねえぞ?」



651 ◆EyREdFoqVQ2018/01/06(土) 15:35:49.02g1ZzHrFHo (4/12)


提督「先日、うちの鎮守府がある島の砂浜に、この鎮守府の駆逐艦、初雪が漂着した」

 ザワッ

提督「それでその時、初雪がつけていたと思われるのが、このイヤホンなんだが……」スッ

提督「妖精のなかで、これの詳細を知ってる奴はいるか?」

 ザワザワ…

提督「ちなみに持ってきたこのイヤホンは外側だけで、中身の機械はうちの工廠にある」

提督「ある程度はうちの明石に調べてもらってて、これがどういう物かはそれなりにわかってるつもりだ」

卯月「ちょっと待つぴょん……! 准尉がそれを持ってきたってことは、初雪はどうなったぴょん!?」

弥生「……! まさか……」

望月「沈んだとか言うんじゃないだろうね……?」

提督「……」

卯月「准尉!! 答えるぴょん!!」

提督「……どうなったかなんて、言えるわけねえだろうが」

提督(まだ調査中なんだからな。でもまあ、こんな風に思わせ振りなことを言えば……)

弥生「そんな……」

望月「なんていうか……」

卯月「ひどいぴょん……」

提督(……効果ありすぎたか? まあいいや)



652 ◆EyREdFoqVQ2018/01/06(土) 15:37:43.37g1ZzHrFHo (5/12)


提督「とにかくだ。これがどういうものなのか、説明できる奴はいないのか?」

妖精たち「……」

工廠妖精5「あのぉ……わたし、知ってます」

工廠妖精6「お、おい」

工廠妖精5「ただ……お願いですから、N中佐を責めないでもらえますか?」

提督「? ……話次第だな」

 * *

工廠妖精5「と、いうわけでして……」

提督「……事情は分かった。が、N中佐の身の上関係なしに、あまり良い状況じゃねえぞ?」

工廠妖精5「と、仰いますと?」

提督「まず、初雪は無事だ」

 ドヨッ!?

卯月「ちょっ……さっき助からなかったみたいな空気させてなかったぴょん!?」

提督「俺は守秘義務があると思って言わなかっただけだぞ?」ンベー

卯月「うーちゃんを騙すなんて味な真似をしてくれるぴょん!!」プンスカ

弥生「……怒りますよ」

提督「俺よりN中佐に怒って欲しいもんだがな。まあ話は最後まで聞け」



653 ◆EyREdFoqVQ2018/01/06(土) 15:39:32.74g1ZzHrFHo (6/12)


提督「初雪は無事だったが、島に流れ着いてからしばらくの間は眠りっぱなしだった」

提督「休みなく遠征に駆り出され、たまっていた疲労がピークに達したんだろうな。奴は浜でも平気で寝てたぞ」

提督「さらに、イヤホンを付けてた頃の記憶が曖昧ときてる。N中佐の顔すら未だによく思い出せないでいるほどだ」

提督「もし、このままずっとイヤホンを付けたまま活動していたら、初雪はどうなっていたか、想像してみな」

全員「「……」」

提督「そもそも、初雪が沈まなかったのは運が良かっただけだ。遠征とはいえ危険な海でいきなり意識失ったら普通沈むぞ?」

提督「でだ。この鎮守府の初雪が付けてたんだから、ほかにもイヤホン付けた奴はたくさんいるんだよな?」

提督「そいつら、大丈夫なんだろうな? 急にぶっ倒れたりしないだろうな? 取り返しのつかないことになってたりしないだろうな!?」

全員「「……」」

提督「使うのはN中佐の勝手だ。それで艦娘が轟沈すんのも奴が撒いた種だ。俺に止める権限なんてねえ」

提督「だがな、こんな物を俺の部下に使おうとすんなら話は別だ。うちの奴らに何かあったらどうしてくれるつもりだ!? くそが!」

全員「「……」」タラリ

提督「まあ、そういうわけなんでな。俺の鎮守府の艦娘には既に対策を取らせてもらってる」

卯月「ちょっと待つぴょん。准尉はこの鎮守府のみんなには何もしないつもりぴょん?」

提督「何もしねえよ。つうか、危機感持ったんなら、あとはお前らでなんとかしろよ」

提督「そもそもN中佐が指揮権を手放してるわけでもねえし、余所者の俺が勝手なことするわけにもいかねえだろ」



654 ◆EyREdFoqVQ2018/01/06(土) 15:40:24.57g1ZzHrFHo (7/12)


弥生「本音は?」

提督「面倒臭え」

卯月「とんでもない本音が出たぴょん!?」

望月「弥生もなんでそんなこと訊くのさ……」

弥生「言うんじゃないかと思って。准尉の物言い、なんとなく、もっちに似てるし」

望月「いやあ、あたしもそう思ったけどさあ……認めたくねー……」ウヘェ

卯月「……准尉」

提督「なんだ」

卯月「うーちゃんは司令官のやり方、ちょっと間違ってると思うぴょん」

卯月「司令官の思いだって、今さっき妖精さんから聞くまで知らなかったぴょん」

卯月「みんなと、司令官を助ける方法……なにかないぴょん?」

提督「……まあ、なくはねえと思うが、N中佐まで助けるとなると面倒臭えな」

提督「とりあえずだ、艦娘を助けたいんなら、イヤホンの危険性を証明すりゃあいい」

提督「艦隊の主力を数人とっ捕まえて、検査を受けさせろ。体調の異常や判断力の低下、なんでもいいから粗を探せ」

提督「このイヤホンの音が、どのくらい艦娘に有害かを上に訴えろ。艦娘はそれでなんとかなるだろ」

鳳翔「そういうことでしたら……」スッ

提督「!」



655 ◆EyREdFoqVQ2018/01/06(土) 15:42:04.30g1ZzHrFHo (8/12)


鳳翔「今、そのイヤホンをつけている艦娘の精密検査をしていただくよう、私から進言致しましょう」

卯月「鳳翔さん!?」

鳳翔「すみません、気になってお話を聞かせていただきました」

提督「まあ、別にかまわねえけどよ。今の話、あんたに任せていいのか?」

鳳翔「大丈夫ですよ。私もそれなりにこの鎮守府では長いほうですから」ニコ

提督「……そうか。じゃあ頼まれてくれ」

鳳翔「それで……初雪さんは、本当に無事なんですね?」

提督「おう。頭はともかく、体はぴんぴんしてんぞ」

鳳翔「そうですか。良かった……」ウルッ

鳳翔「本当に、良かった……! これ以上、犠牲は出してはいけないと……ううっ」グスッ

弥生「鳳翔さん……!」

提督「……」

工廠妖精5「あ、あの、准尉さん……」

提督「ん? なんだ?」

工廠妖精5「できれば、初雪があなたの島に流れ着いた時の状況を、詳しく教えて欲しいです……」

工廠妖精5「初雪がどんな様子だったか、漂着した原因はなにか……」



656 ◆EyREdFoqVQ2018/01/06(土) 15:42:53.96g1ZzHrFHo (9/12)


工廠妖精5「対症療法になりますが、あなたに初雪の様子を教えてもらって、どんな治療方法を施すべきか考えたいです……」

提督「……わかった。そういう話なら協力する」

工廠妖精5「もちろん、それとは別に、今いる艦娘たちの検査も並行して進めるべきだと思います……」

工廠妖精5「鳳翔さんが後押ししてくださるなら、多分、N中佐も、説得に応じてくれるかも……!」

卯月「鳳翔さん鳳翔さん! うーちゃんには何ができるぴょん?」

鳳翔「卯月さんはまだ何もしなくても良いと思います。ただ、准尉の仰るような症状がみなさんに出た場合……」

鳳翔「そのときに、卯月さんたちの手をお借りできれば、嬉しいですね」

卯月「まっかせるぴょん!」ムネポーン

弥生「私も手伝います……!」

工廠妖精7「……わたしも協力するよ。みんなはどうする?」

 ヤルヨー

 テツダウー

鳳翔「……ありがとう……!」ホロリ

提督「……」

望月「んん? おーい、じゅーんいー? なぁんで不満そうな顔をしてるんだよー」

提督「義を見てせざるは勇無きなり、ってとこか? いいよなあ、綺麗事が通用する世界は」

望月「もしかして拗ねてんの? 鳳翔さんにいいとこ取られたからって」



657 ◆EyREdFoqVQ2018/01/06(土) 15:46:17.93g1ZzHrFHo (10/12)


提督「いいとこなんて俺はいらねえよ。面倒が増えるだけだしな」

提督「それ以上に、協力的なやつが多いと世の中救われるねぇ、って思っただけだ」

望月「言うことがいちいち卑屈っぽくない?」

提督「世の中、理不尽なことのほうが多いだろ。全部丸く収まってたら俺みたいな人間は生まれねーよ」

望月「あーはいはい。准尉も面倒臭い人だねえ」

提督「まあな。あとは、俺より面倒臭いあの野郎をどうしてやろうか、って話だ」

望月「うえぇ……N中佐にも喧嘩売んの?」

提督「俺の身内に手を出したんだ、しっかりけじめつけるためにも、痛い目見てもらわねえとなぁ?」ピキピキ

望月(うっわ、完全に悪役の顔だよ……)

提督「そういうわけだから、お前らは鳳翔のサポートしといてくれ」

望月「はぁ……はいはいっと。あーもーマジ面倒くせー、なんでこんなことになってんだよー、もー」

提督「望月……ずっと気になってたんだがお前、俺の真似すんじゃねえよ。趣味わりぃぞ」

弥生「もっちは普段からそんな感じ……真似じゃないです」

提督「……マジで?」

卯月「マジだぴょん」

提督「……」

望月「うわ、なんでこの世の終わりみたいな顔すんだよぉ。感じわりー」

提督「いや、世も末だろ俺と似た艦娘って……」



658 ◆EyREdFoqVQ2018/01/06(土) 15:46:49.89g1ZzHrFHo (11/12)



提督「あー、それと……鳳翔?」

鳳翔「はい?」

提督「あんたさっき、これ以上、犠牲を出したくないっつったな?」

提督「『これ以上』ってのは、どういう意味だ?」

鳳翔「……」




659 ◆EyREdFoqVQ2018/01/06(土) 15:47:16.08g1ZzHrFHo (12/12)

今回はここまで。


660以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/06(土) 21:02:25.77j06fqDe+0 (1/1)

更新、乙様です
オシオキタイムは間もなくかな?


661 ◆EyREdFoqVQ2018/01/13(土) 15:44:47.01HbYUVG0Ro (1/9)

お仕置きなんて程度のものじゃなくなりそうな……。

続きです。


662 ◆EyREdFoqVQ2018/01/13(土) 15:45:15.60HbYUVG0Ro (2/9)


 * 翌朝 墓場島鎮守府 執務室 *

N中佐「……ごちそうさま」

大淀(お茶くみ中)「はい、お粗末さまでした」コポポポ…

N中佐「……」

大淀「今朝も執務室に朝餉を運ばせていただきましたが、明日からはどうなさいますか?」

N中佐「……」

大淀「どうなさいました?」

N中佐「……い、いや、お前たちはいつもこの朝餉を食べているのか? 昨晩の夕餉も、とてもおいしかった……」

N中佐「厨房には間宮も伊良湖もいないのに、誰が作っているんだ?」

大淀「メインは比叡さんと長門さんが交代で作っていますね。そこに駆逐艦の子たちがお手伝いに入ってます」

N中佐「ひえい……だと?」

大淀「みなさんよく勘違いなさっていますが、仮にも御召艦と言われた艦ですよ?」

大淀「方々の鎮守府の比叡さんはお料理の腕が残念だと言われていますが、ここの比叡さんは違います」

大淀「だいたいはダイナミックすぎるアレンジが悲劇を巻き起こしている原因と聞いていますけど」

N中佐「そうだな……個体差は、確かにあるな。昨日の赤城の声は、別人かと思えるほどだった」

大淀(赤城さん、提督と話しているときは、もう少し口調が柔らかいはずなんですけどね)



663 ◆EyREdFoqVQ2018/01/13(土) 15:46:11.11HbYUVG0Ro (3/9)


N中佐「そういえば、この鎮守府の半数が轟沈艦と言っていたが、残り半分はなんだ? ここで建造された艦娘か?」

大淀「この島のドックで建造された艦娘は大和さんだけですよ」

N中佐「は……?」

大淀「あとは余所の鎮守府から追い出されたり逃げてきたり、押し付けられたりした人たちばかりです」

N中佐「……」

 扉<コンコン

敷波「失礼しまーす」ガチャ

敷波「大淀さん、今日の秘書艦、あたしって本当?」

大淀「ええ、急にお願いしてしまってすみません。N中佐に島を案内して欲しいと思いまして」

敷波「ふーん。まあ、いいけど……ところで、どうしてN中佐は頭を抱えてるの?」

大淀「……さあ?」

敷波「それよりさ、朝餉を食べ終わったんなら、早くお膳を返してこないと!」

敷波「お椀が渇くと糊になって取れにくくなるんだから! ほら、お膳持ってくよー!」

N中佐「あ、ああ、すまない。誰が作ったのかはわからないが、おいしかったと伝えてくれ」

敷波「……そういうのはさ、じかに伝えたほうがいいよ?」ニッ

敷波「じゃ、食堂に置いてくるね!」パタパタパタ



664 ◆EyREdFoqVQ2018/01/13(土) 15:46:52.60HbYUVG0Ro (4/9)


N中佐「いい子だな。彼女はどっちなんだ」

大淀「彼女からなら、直接聞いてみてもいいと思いますよ」

N中佐「……そうか。じゃあ逆に、絶対に聞いてはいけない相手は誰だ」

大淀「そうですね……個人的な観点で言えば、神通さんと利根さんでしょうか。轟沈こそしていませんが、お二人ともつらい過去をお持ちですので」

大淀「それと、暁さんもですね。前にいた鎮守府の記憶を失っています。彼女に昔のことを聞くと、正直どうなるかわかりません」

N中佐「よくもこれだけ問題のある艦娘ばかりを、提督はまとめているものだ……」

大淀「……N中佐。その言い方は誤解を招きますよ」

N中佐「何故だ?」

大淀「その言い方ですと、艦娘側に落ち度があったように聞こえます」

N中佐「違うのか?」

大淀「……っ」



665 ◆EyREdFoqVQ2018/01/13(土) 15:48:21.96HbYUVG0Ro (5/9)


N中佐「追い出されたり押し付けられたりしたというのなら、その艦娘に問題があったんだろう? 逃げ出すにしても敵前逃亡は感心できない」

N中佐「我々海軍は、平和な海を取り戻すために命を懸けているんだ。その足を引っ張るのであっては、左遷もやむなしじゃないのか?」

N中佐「先日も本営で、気に入った艦娘を切り裂いて飾っていた狂人がいたとかいう話もあったんだが……」

N中佐「もし指揮官に問題があれば、その都度こうして憲兵なり特警なりが動いている。そうでなければ艦娘に問題があると見るべきだろう?」

大淀「……」

N中佐「そもそも提督准尉の行為自体が問題だ。どうして轟沈した艦娘をわざわざ運用しようとするんだ? 自殺でもしたいのか?」

 扉<コンコン

敷波「ただいまー」ガチャ

N中佐「ああ、戻ったか。よし、世間話はこのくらいにして執務を始めるとするか。敷波、よろしく頼むぞ」

敷波「それはいいんだけど……今度はどうして大淀さんが頭を抱えてるの?」

N中佐「……さあ?」

大淀「……」





666 ◆EyREdFoqVQ2018/01/13(土) 15:49:13.50HbYUVG0Ro (6/9)


 * 一方のN提督鎮守府 *

 ワーワー ドタバタ

望月「あーもー、マジ面倒臭えええ!!」

弥生「もっち、いいから手伝って」

卯月「鳳翔さんのところに空になったおひつ持ってくぴょん!」

望月「これおひつじゃなくて、たらいじゃね!?」



提督「いきなり騒がしくなったな」

妙高「准尉の昨日のお話が原因ですよ?」

提督「そうなのか?」

妙高「鳳翔さんの提案で、主力の空母たちの検査をしてみたら、軒並み栄養失調気味と診断されまして」

妙高「それでも少量のごはんしか食べようとしないから、無理矢理イヤホンを外してみたら、ドック途中の通路で倒れたんです」

提督「俺も今朝ドックの近くを通ったが、ガンガンゴンゴンってすげえ音が聞こえたな。救急車を通すための改装工事でもしてたのか?」

妙高「あれは赤城さんと加賀さんのお腹の虫の音だそうです」

提督「冗談だろ……!?」

妙高「いえ、本当です」

提督「……」



667 ◆EyREdFoqVQ2018/01/13(土) 15:49:55.37HbYUVG0Ro (7/9)


妙高「今、主力艦隊の人たちにも検査を受けてもらっていますが、みなさん空腹だと言うことで、急遽配給が行われてまして」

提督「配給ってなあ……妙高は手伝わなくていいのか?」

妙高「私は提督准尉の補佐を任されたといいますか……」

提督「ああ、おれのせいか。部外者ほったらかすわけにもいかねえもんな」

妙高「いえ、むしろ准尉がいらっしゃらなければ、この鎮守府の主力は全員倒れていたと思われます」

妙高「警鐘を鳴らしていただいた提督准尉には、感謝こそすれ、蔑ろにしては礼を失してしまいます」

提督「……そうかい」アタマガリガリ

妙高「准尉、そのように頭を乱暴にかいては、お顔の傷に響くのでは?」

提督「それなんだがなあ、今朝朝一番に医者に診てもらったんだよ」パチンパチン

提督「マスクを脱いで包帯を取ると……ここだここ。左の頬を見てくれ」シュルシュルッ

妙高「……見た目、なんともありませんね……?」



668 ◆EyREdFoqVQ2018/01/13(土) 15:51:10.66HbYUVG0Ro (8/9)


提督「この前までこの辺が真っ青だったんだ。全然痛くねえし、もう一回CT取ってもらって、今は結果待ちの状態なんだ」

妙高「そうでしたか……」ジッ

提督「……どうかしたか?」

妙高「す、すみません、准尉の素顔を見るのは初めてだったものですから。失礼しました」ペコリ

提督「確かにミイラ男だったもんな。素顔もそんなに珍しい顔でもねえだろ」

 PPPP... PPPP...

提督「おい、何か鳴ってんぞ」

妙高「私のですね……もしもし? 妙高です」ピッ

妙高「……本営からですか? 准尉にもお客様? はい、はい……ええ、今はロビーに……」

妙高「……わかりました。提督准尉にも同行していただきます。はい、よろしくお願い致します」ピッ

提督「俺に関係あるのか?」

妙高「はい。本日ヒトマルサンマル、本営からの査察が入ると連絡がありました」

妙高「その前段として、お客様がお見えです。提督准尉にもご同席願いたいということです」

提督「面倒臭えなぁ……できれば早く俺の鎮守府に戻りたいんだが」ハァ




669 ◆EyREdFoqVQ2018/01/13(土) 15:51:36.30HbYUVG0Ro (9/9)

短いですが、今回はここまで。


670以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/13(土) 17:57:54.68g/LffYBA0 (1/1)

乙です

海軍入る前はこういう時冤罪を被るのが常だったと思われるが…はてさて、どうなる!次号!


671以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/13(土) 23:00:20.32N0v5FjJv0 (1/1)

更新お疲れ様です
妙高さん、落ちたな
提督は罪作りだなー(棒)


672 ◆EyREdFoqVQ2018/01/14(日) 19:29:50.04Q+XJGwKqo (1/10)

続きです。


673 ◆EyREdFoqVQ2018/01/14(日) 19:30:47.27Q+XJGwKqo (2/10)


 * 墓場島 丘の上 *

 ビュウウウ…

N中佐「……ここに並んでいる艤装が、すべて轟沈した艦娘のものだというのか」

敷波「うん。あたしが流れ着いたころは、この3分の2くらいだったかな?」

N中佐「駆逐艦や軽巡が多いが……大口径主砲や飛行甲板まで見受けられるとは」

敷波「まあ、こればっかりはどうしようもないよね。そういう命令を下す司令官がいる以上はさ」

N中佐「……っ」

敷波「あれ? いつもなら丘にある花壇のところに神通さんがいるんだけど……」キョロキョロ

N中佐(神通……!?)ビクッ

敷波「あ、いたいた。神通さーん!」

神通「! 敷波さん。N中佐も……おはようございます」

N中佐「あ、ああ、おはよう」

敷波「神通さん、ビニールシートなんか持ってきて、どうしたの?」

神通「今日は風が強くなるらしいですから、花壇にシートを張っておこうと思ったんです。杭もいただいてきました」



674 ◆EyREdFoqVQ2018/01/14(日) 19:31:33.84Q+XJGwKqo (3/10)


敷波「あたしも手伝う?」

神通「私だけで大丈夫ですよ。敷波さんは、N中佐を案内してあげてください」

敷波「はーい」

N中佐「……」

神通「N中佐?」

N中佐「!?」ビクッ

神通「? どうなさいました?」

N中佐「い、いや、なんでもない……」

神通「そうですか……? 私にどう話を切り出したらよいか、悩んでおいでのようでしたが」

N中佐「!?」ギクッ

神通「……やはりそうでしたか。大淀さんから何を聞いたのかは凡そ見当は付きますが、あまり緊張なさらないでください」ニコ

N中佐「」

敷波「……あー、神通さんごめんね。あたしたちそろそろ行くね」

神通「はい、気を付けて」

敷波「ほらー、行くよN中佐ー」グイ

N中佐「あ、ああ……」

神通「……」



675 ◆EyREdFoqVQ2018/01/14(日) 19:32:47.94Q+XJGwKqo (4/10)


 *

N中佐「……」ダラダラ

敷波「……ったくもう、何やってんのさ。みっともないよ」

N中佐「し、敷波、あの神通は……」

敷波「んー……『気が利きすぎる』って言えばいい? まあ、ここに来た理由はそれだけじゃないんだけどさ」

N中佐「な、何があったんだ……」

敷波「あたしは言わないよー。知りたいんなら神通さんに直接訊けば?」

N中佐「……お、お前はどうなんだ。なんでこの島に来た?」

敷波「あたし? あたしは……家出みたいな感じかな?」

敷波「前の司令官はさ、上に認めて欲しくて無理な進軍繰り返してて。大破進軍なんかもよくあったんだ」

敷波「それで大事な子も沈めて、見てらんなくて文句言ったら『じゃあ探してこい、見つかるまで戻ってくるな』って言われてさ」

N中佐「それでお前も轟沈したのか」

敷波「ううん、あたしは轟沈してないよ? でも、記録の上では轟沈扱いにされちゃってんの。結局ここのお世話になってるんだよね」

N中佐「なんだ、実際には轟沈していないのか……」



676 ◆EyREdFoqVQ2018/01/14(日) 19:34:46.40Q+XJGwKqo (5/10)


敷波「でも記録上は沈んだことにされちゃってんだよ。あたしはまだ生きてるってのにさ……!」

N中佐「……」

敷波「ねえ、もしかしてだけどさ?」

N中佐「なんだ?」

敷波「N中佐は、あたしみたいに轟沈したことのない艦娘は、雑に扱ってもいい、って思ってない?」

N中佐「っ! そ、そんなことは……」

敷波「轟沈してなくても、みんな余所で酷い目に遭わされた艦娘ばっかりだからね?」

敷波「勿論、轟沈した艦娘だって酷い目に遭ってきたわけだけどさ。捨て艦だったり、無実なのに罪を着せられたり……!」

N中佐「……お、落ち着け。落ち着くんだ」

敷波「あたしは落ち着いてるよ。ちょっとむかむかしただけじゃない」

敷波「それよりほら、天気が悪いんだから、早く行かないと案内できないよ?」

N中佐「あ、ああ」



677 ◆EyREdFoqVQ2018/01/14(日) 19:35:36.44Q+XJGwKqo (6/10)


 * 墓場島 北東の砂浜 *

 ザザーン

敷波「うわ、風が強くなってきた……N中佐、早めに行くよ!」

N中佐「砂浜か? 敷波、ここには何の用があるんだ?」

敷波「ここは、司令官がいつも見回りしてる場所だよ。あたしもここに流れ着いてきたんだ」

N中佐「なに?」

敷波「……あれ? 利根さん?」

利根「む? おお、敷波か! N中佐も一緒であったか」

N中佐「あ、ああ」

敷波「こんなところでなにをしてたの?」

利根「いやさ、砂浜を見回っていたら、また流れ着いた者たちがおってな」

敷波「あー……」

N中佐「流れ着いた……?」チラッ

敷波「あ、見ないほうが……」



N中佐「」ゲロロロロロ…

敷波「あーあ……」

利根「見慣れておらんのだろう。仕方あるまいよ」



678 ◆EyREdFoqVQ2018/01/14(日) 19:37:18.24Q+XJGwKqo (7/10)


利根「ひとまずこの者たちを引き上げたいんじゃが、敷波も手伝ってくれぬか?」

敷波「うーん、可哀想だけど今日はやめたほうがいいんじゃない? 午後から時化が来るっていうし、穴掘りとか無理だと思うよ」

敷波「もし司令官だったら、波が来ないところまで引き上げて避難させるところまではやるかもしれないけど」

利根「うむ、このような姿で波や雨風にさらされるのはあまりに哀れ。せめて岩陰に連れて行ってやるべきだな」



N中佐「……げほ、げほ……うえっ」ヨロッ

N中佐「はぁ、はぁ……なんて場所だ。赤城が言っていたのは、こういうことだったのか……」

N中佐(そうすると、俺が沈めた艦娘も、あんなふうになってこの島に……あの丘の、艤装の中に……)

敷波「ねえ、大丈夫? 顔が青いよ?」

N中佐「だ、大丈夫……大丈夫だ」

敷波「本当?」

N中佐「ああ……」

敷波(この人、自分の鎮守府に帰ったほうがいいと思うんだけどなあ)



679 ◆EyREdFoqVQ2018/01/14(日) 19:37:57.01Q+XJGwKqo (8/10)


利根「……うむ、この場はこれでご容赦願おう」ナムー

利根「N中佐よ、この場は敷波と一緒に引き上げたほうが良いぞ!」

敷波「そだね、顔色も悪いし、休んだほうがいいよ」

N中佐「あ、ああ、わかった。そうさせてもらう」

利根「ふむ……ときにN中佐よ。おぬしに一つ訊いておきたいことがある」

N中佐「な、なんだ」

利根「おぬしは『愛情』をなんと心得る?」

N中佐「愛情……だと?」

利根「うむ」

N中佐(い、いったいどういう意味だ……!?)

N中佐「……て、提督准尉は、なんと言っていた?」

利根「提督にも訊いたが、知らんと言われたのだ」

敷波「あー、言うだろうね、司令官なら」

N中佐「……」

N中佐(なんなんだ? 質問の意図がわからない……!)

N中佐(大淀の警告は、いったい何を意味しているんだ……なんて答えればいい!?)



680 ◆EyREdFoqVQ2018/01/14(日) 19:39:12.46Q+XJGwKqo (9/10)


N中佐「……お、俺も、よく、わからない、な……」

利根「そうか、おぬしもわからんのか」

敷波「……ねえ、本当にわからないの?」

N中佐「あ、ああ」

敷波「じゃあ、なんでN中佐は海軍にいるのさ?」

N中佐「っ!」

敷波「なんで海軍で艦娘の指揮を執って、深海棲艦と戦ってるのさ!?」

N中佐「俺は……」

N中佐「俺には、守らなければならないものがある。だから……深海棲艦の跋扈を許すことはできない」

敷波「それは愛情じゃないんだ?」

N中佐「……っ」

利根「うーむ……やはりよくわからんな」

 ビュオオオォォォ…

利根「むう、風が出てきたな……二人とも、早く引き上げるぞ!」

N中佐「わ、わかった」

敷波「……」



681 ◆EyREdFoqVQ2018/01/14(日) 19:39:56.82Q+XJGwKqo (10/10)

ということでここまで。


682以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/15(月) 10:26:21.74rJj/KGLG0 (1/1)

愛がなんだって?躊躇わない事さ!
察しの良い神通さんに邪な考えをもって近づいて顔を赤くさせて見たい(変態だー!)
更新お疲れ様です


683以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/15(月) 10:34:58.62WKsFCjVbo (1/1)

撃ち殺される未来しか見えない…


684以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/16(火) 09:08:27.93zSSW8wUA0 (1/1)

>>682
もしかして:
→G提督(>>124、>>125)


685 ◆EyREdFoqVQ2018/01/20(土) 20:18:34.44kROe9dGoo (1/12)

神通を恥ずかしがらせる……できるんだろうか。


では続きです。


686 ◆EyREdFoqVQ2018/01/20(土) 20:19:05.35kROe9dGoo (2/12)


 * 一方のN提督鎮守府 *

卯月「疲れたぴょん……」グッタリ

弥生「……」ウトウト

望月「マジ疲れたし……! 寝るよー?」グテー

妙高「みなさんお疲れ様でした」

提督「よお、ご苦労さん」

卯月「!? だ、誰ぴょん!?」

望月「妙高さんが一緒ってことは……もしかして准尉?」

弥生「顔の包帯やマスクはどうしたの……?」

提督「治ったから取った」

望月「治った!?」

妙高「私もレントゲン写真を見せてもらいましたが、昨日の写真にはひびが映ってて、今朝の写真にはそれがないことを確認しました」

望月「マジか……」

卯月「准尉! 治ったんだったら今の今までどこでサボってたぴょん!?」

鳳翔「卯月さん、准尉はこの鎮守府の関係者ではないのですから、無理をお願いしてはいけませんよ」スッ

卯月「うー……」



687 ◆EyREdFoqVQ2018/01/20(土) 20:20:00.13kROe9dGoo (3/12)


提督「よお、鳳翔。ご苦労さん、忙しくさせて悪かったな」

鳳翔「いいえ、これで良かったんです。准尉、ありがとうございます」フカブカ

鳳翔「ところで准尉? お顔のお怪我はもうよろしいんですか?」

提督「ああ。正直、なんでこうなったのか、よくわかんねえ」

妙高「お医者様も狐につままれたような顔をしてましたね」

鳳翔「いったい何が……」

 < 提督ーーーー!!

望月「……んあ?」

卯月「誰ぴょん?」

提督「……この声、まさか」タラリ

妙高「?」

大和「提督ーーーーーーー!!!」ドドドドドド

提督「げぇっ! 大和!!」

大和「提督ーーーー! お会いしとうございましたーー!!!」ダキツキーーッ

提督「げぼあ!?」ドガシーーーッ

卯月弥生望月妙高鳳翔「「「!?」」」



688 ◆EyREdFoqVQ2018/01/20(土) 20:21:08.29kROe9dGoo (4/12)


大和「提督、そのお顔、治ったんですね! 良かった……本当に良かった!」ホオズリホオズリ

提督「放せ! 何やってんだお前は! 抱き着くな! 胸を押し付けんな!」

大和「当ててるんですよ?」ポ

提督「当てんな! いいから早く放せっての!」

大和「そんな……嫌です! この大和、もう二度とあなたを離しません!」ギュウウ

提督「お前は人の話を……」ガシッ

卯月「あっ」

提督「聞けやくそがあああああ!!」アイアンクロー

大和「ひぎいいいいいいい!?」メキメキメキメキ

望月「うっわあ……」

卯月「准尉のアレ、超痛いぴょん……! 大和さん、早くごめんなさいするぴょん!」ガタガタ

弥生(完全にトラウマになってる……)

鳳翔「准尉、そのくらいにしてあげてください。力で抑えつけても、人はついてきてくれませんよ」

提督「ん? お、おう……」パッ



689 ◆EyREdFoqVQ2018/01/20(土) 20:22:39.08kROe9dGoo (5/12)


鳳翔「お礼には及びませんよ。私からも大和さんに言いたいことがありますから」ニコ…

大和「は、はい……?」

鳳翔「まず、好いた殿方がいるとはいえ、鎮守府の廊下を走るなど言語道断です」

大和「は、はい! 申し訳ありません!」

鳳翔「それに提督准尉はれっきとした成年男性です。抱き着くだけにとどまらず頬擦りまでするなんて……」

鳳翔「あなたは准尉を猫か子供と勘違いなさっているのではないですか?」ジッ

大和「い、いえ! 決してそのようなことは!」

鳳翔「それに、当てているとはどういう意味です?」ギンッ

大和「ひぃっ!」

鳳翔「安直な誘惑などせず、礼節を知り、相手に対する敬意をもって接することこそが、尊いと思いませんか?」ゴゴゴゴ

大和「も、申し訳ありません! この大和、未熟な振る舞いが過ぎました!」ペコペコ

提督「おい妙高。鳳翔って何者なんだ?」ヒソヒソ

妙高「なんと言いますか、私たち艦娘の精神的なまとめ役というか、お母さん的な存在です」

妙高「艦だったときも、初期に建造された艦でありながら、終戦まで私たちの戦いを見守ったと聞いています」

提督「いまいちピンとこねえが……とにかく立場が上っぽいんだな?」



690 ◆EyREdFoqVQ2018/01/20(土) 20:23:38.41kROe9dGoo (6/12)


大和「ううう、ごめんなさい、ごべんなざいぃ……」グスグス

鳳翔「そ、そこまで泣かなくても……ほら、小さな子も見てますから。次から改めましょう?」

大和「はいぃ……」グスングスン

望月「……なんていうか、鳳翔さんすげえ……」

卯月「それよりも、准尉の鎮守府に大和さんがいることのほうが驚きぴょん! いったいどうやったぴょん?」

弥生「N中佐……大和をすごく欲しがってた」

提督「そのせいで面倒くせえことに巻き込まれてんだよ、うちの鎮守府は……」

鳳翔「それは……」

不知火「司令」ヌッ

提督「うっお!? し、不知火か!? お前いつの間にいやがった!」

不知火「大和さんが提督にアイアンクローを貰ってたあたりからです」

提督「なんで黙って見てんだよ……」

不知火「申し訳ありません、声をかけるタイミングを考えていました」

提督「……なあ不知火、もしかして、お前らが本営からの客ってやつか?」

不知火「はい、大和さんと一緒に、本件の調査と現状の報告を中将から仰せつかってきました」

提督「そうか。で、そっちは誰だ」

大鳳「初めまして、提督准尉。私は少佐鎮守府所属、装甲空母、大鳳です」

提督「少佐鎮守府、だと?」ジロリ

不知火「詳細をご説明したいので、お時間よろしいでしょうか」



691 ◆EyREdFoqVQ2018/01/20(土) 20:25:17.61kROe9dGoo (7/12)


 * N中佐鎮守府 応接室 *

大淀(N中佐部下)「では、本日中に特警からの調査が入るということですね……?」

大鳳「はい。今回問題になったこのイヤホンですが、海軍の依頼を受けたある開発チームが作成したものです」

大鳳「開発当初は、艦娘の健康管理やスケジュール管理など、艦隊運営の補助ツールとして試験運用されていました」

大鳳「もともとは、指揮官の出張や傷病による長期不在に対応するために開発したと聞いています」

大鳳「それが、開発を進めていくうちに、艦娘の体調のコントロール、リミッターの強制解放……」

大鳳「果ては艦娘への洗脳プログラム……そういったものが開発され、艦娘の人格への侵害が見受けられるようになり……」

大鳳「少佐を含む海軍の有志数名が、このツールの運用を中止させるべく本営に働きかけたのが、数日前」

大鳳「そして、提督准尉からの報告もあり、海軍上層部はこのツールを現実的な脅威として認定、運用と開発の中止を決定しました」

妙高「そんなものがこの鎮守府で運用されていたなんて……」

大鳳「先程報告していただいた、この鎮守府で起こったことを鑑みれば、ツールの運用は危険であると判断して良いでしょう」

不知火「対処法としては、イヤホンを取り外すだけで済みますが、抵抗されて死傷者が出るケースも発生しています」

不知火「取り扱いには細心の注意を払っていただくよう、お願い致します」

大淀「わかりました。すぐに対応します」

鳳翔「……N中佐はどうしてこんなものを……いえ、仕方ないのかもしれませんね」

提督「……」



692 ◆EyREdFoqVQ2018/01/20(土) 20:26:20.81kROe9dGoo (8/12)


大鳳「また、以上の話をN中佐に連絡し、このツールをどこから入手したのか、いつ使い始めたのか、経緯を聞く必要があります」

大鳳「N中佐は現在、提督准尉の鎮守府におられるということですので、私と不知火さん、大和さんはこれからそちらへ向かいます」

大鳳「提督准尉にもご同行をお願いします。よろしいですね?」

提督「ああ」

大鳳「そしてN中佐には、このツールを利用したことによる、しかるべき処分を受けていただくことになります」

大淀「!」

妙高「そう、ですか……」

提督「で、俺たちはすぐ出立すんのか?」

大鳳「いえ、島の周辺海域の天候がよろしくないので、様子を見る必要がありそうです。準備だけは整えておいてください」

大鳳「それと、この鎮守府には、本日ヒトヨンマルマルから特警が医師団を連れて捜索に入ります」

妙高「医師団?」

大鳳「はい、イヤホンを着用した艦娘の体調を調査するためです」

大鳳「今日は調査対象者のなかから、本営での精密検査を受けていただく艦娘を数名選び出す予定です」

大淀「そうですか……わかりました」



693 ◆EyREdFoqVQ2018/01/20(土) 20:29:17.77kROe9dGoo (9/12)


鳳翔「大淀さん、まずは艦隊のみなさんのイヤホンをすべて回収しましょう」

鳳翔「そのうえで別室へ待機していただいて、午後の調査がスムーズに行われるよう、みなさんにも協力を要請しましょう」

大淀「はい!」

提督「……」

大鳳「提督准尉? 先程から怖い顔をなさってますが、何か気に入らないことでも?」

提督「ああ、気に入らないことだらけだな」

提督「例えばツールの使い道、上の連中が一番恐れているのは洗脳プログラムだよな?」

提督「人間や海軍に対して攻撃を仕掛けるよう洗脳することも、そのツールなら可能なんだろ? 簡単にクーデター起こせそうだな」

大鳳「はい、少佐はいち早くそれに気付いています」

提督(……蛇の道は蛇ってか? この件はあいつが黒幕じゃあねえってことか)

提督「そんなことができるんなら、うちの艦娘に俺を裏切れって命令を出すこともできるよな?」

不知火「し、司令! いくらなんでも、N中佐がそこまでするとは……!」

鳳翔「准尉、そのお話……もしかして、先程の大和さんが関係していますか?」

不知火「あ……!」

提督「そうだな。俺には、大和が欲しいがためにツールの洗脳プログラムを使ったとしか思えねえ」

提督「じゃなきゃ、うちの鎮守府の指揮を執りたいなんて言うはずがねえよ。初雪の捜索をおざなりにしたのも、そういうことだろ」

鳳翔「……」



694 ◆EyREdFoqVQ2018/01/20(土) 20:30:16.85kROe9dGoo (10/12)


大鳳「お話を聞く限り余罪があるのかもしれませんが、まずは提督准尉の鎮守府へ急ぎ、N中佐の身柄を確保するのが先決だと思います」

提督「ああ、急ぎたいな。どうせ今から島へ向かっても日が落ちちまうだろうが……」チッ

提督「それと、もう一つ。大鳳は少佐の指示でここへ来たのか?」

大鳳「はい。少佐は今回のツールの運用が危険であることを証明すべく、奔走しておりました」

大鳳「このツールの存在そのものを少佐は酷く憤慨していまして、早急に対応するよう、私も直々に命を受けています」

提督「憤慨!? あれがか?」

大鳳「あ、あの、提督准尉? その、露骨に嫌な顔をなさっているのは何故です?」

不知火「いえ、これは無理からぬことかと……」

提督「大鳳、お前もしかして、少佐鎮守府に来て日が浅いのか?」

大鳳「は、はい」

提督「そうか。それじゃお前に言っても仕方ねえな」

大鳳「わ、私、何か准尉の気に障るようなこと言いました?」アセアセ

不知火「いえ、大丈夫です。司令は誰に対してもこんな感じですから」

大鳳「……赤城さんから聞いていたイメージとだいぶ違います……」タラリ

不知火「司令は少佐が大嫌いなんです。気を悪くなさらないでください」ヒソヒソ



695 ◆EyREdFoqVQ2018/01/20(土) 20:30:52.98kROe9dGoo (11/12)


提督「とにかくやることは決まったな? 俺たちは出立の準備をして、こっちの鎮守府は大淀や鳳翔に任せる、でいいんだな?」

大淀「提督准尉、お願いがあります。島へは鳳翔さんと妙高さんを連れて行っていただけないでしょうか」

鳳翔「大淀さん!?」

妙高「いいんですか!?」

大淀「准尉。このお二方は、N中佐が駆け出しのころ、この艦隊の主力として奮戦しておられました」

大淀「戦艦や正規空母の台頭で主力から離れていましたが、それでイヤホンを付けなかったのは不幸中の幸いだと思います」

大淀「今、N中佐を説得できるのはこのお二人しかおられません……!」

提督「……わかった。一緒に行くか」

鳳翔「はい。よろしくお願いします」

妙高「すぐに準備します!」スクッ



696 ◆EyREdFoqVQ2018/01/20(土) 20:32:06.09kROe9dGoo (12/12)

今回はここまで。


N中佐の話はいわゆるチートやマクロをモデルにしています。


697以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/20(土) 22:57:17.61CFzUvMwi0 (1/1)

更新乙でございます
チーター、マクラーはBANされないといけない(柱提督感)
実際問題ランカーの数字がおかしいのは居るけど全てが弾けるわけでなし
何が楽しくてチートやマクロ使うのかが分からんけどね
作中に大鳳が出てきてほっこりしました、ありがとうございます


698 ◆EyREdFoqVQ2018/01/26(金) 22:05:48.23SkKZSeuWo (1/10)

じわじわと追い詰めます。


続きです。


699 ◆EyREdFoqVQ2018/01/26(金) 22:06:25.17SkKZSeuWo (2/10)


 * 昼過ぎ 墓場島鎮守府 ロビー *

敷波「っていうことがあってさ」

霞「……ふーん」

敷波「司令官は、あたしたちがやりたいことをやらせたい、って考えじゃんか」

朝潮「はい。司令官は、私たちのことを第一に考えてくださっています!」

潮「任務も、やりたくないならやらなくていい、って言うくらいだし……」

朝雲「ちょっと甘すぎる気もするけどね」

敷波「司令官が、それを愛情だって言いたがらないのは、何となくわかるんだけど……」

霞(まあ、なんとなくわかるわね)ウンウン

潮(霞ちゃんが頷いてる……)

朝雲(頷き方がすごく力強いんだけど)

敷波「でもさ、N中佐の言う守りたいものに対する気持ちって、愛情とは別に何かあるのかな?」

潮「愛情じゃないけど、守りたいと思う気持ち……?」

霞「となると、哀れみとか、同情のたぐいかしら」

朝潮「どういう感情なんでしょう……よくわかりませんね」

敷波「あの人、何か隠してるのかな?」



700 ◆EyREdFoqVQ2018/01/26(金) 22:07:10.20SkKZSeuWo (3/10)


 * 墓場島鎮守府 工廠 *

初春「のう明石よ、初雪の処遇は今暫くこのままかえ?」

明石「うーん、そろそろなんとかしたいんだけど……」

初雪「私はこのままでもいい……会ってどうこうするの、もう面倒くさいし」ウツラウツラ

明石「駄目だよー、何事もちゃんとすっきりけじめつけないと」

初春「うむ。今のままではおぬしは幽霊船になってしまうぞ」

初雪「知ってる……成仏できない幽霊は、悪霊になるっていうアレ」

明石「どこで仕入れたんですか、その知識……」

初春「そこまで理解しておるなら、なおのことここで舟を漕いでいる場合でもなかろうに」

初雪「大丈夫……そのときは初春にお祓いしてもらう」

初春「? わらわにか?」

明石「ああ、その髪飾り!」

初春「この紙垂は、そういう使い道のものではない」デコツン

初雪「おっふ」

明石「冗談はさておき、N中佐とどんな話をするか、方針が決まらないとね」

明石「N中佐の鎮守府に戻るのか、ここに残るのか。初雪ちゃんとN中佐双方が納得する答えを出さないと……」



701 ◆EyREdFoqVQ2018/01/26(金) 22:09:28.23SkKZSeuWo (4/10)


初春「ものぐさな初雪には、自給自足が常のこの鎮守府の暮らしは聊か厳しくはないか、ちと心配じゃ」

朧「だからって、アタシは戻った方がいいなんて思わないけど」スッ

明石「!」

朧「もともとあの人は初雪を探しに来たのに、あれから初雪を探すような素振りも言及する様子も見せてない」

朧「そんな相手のところに『戻ったほうがいい』って言える?」

初春「うむ、わらわもそこが気に掛かる。当の指揮官が初雪を気に留めておらんのではのう」

初雪「……私は、別にかまわないけど」

明石「うーん……それじゃ、提督のことはどう思います?」

初雪「……気持ちよかった」ポ

明石「えっ!? なんですかそれ、どういうことですかっ」ズイッ

初春(瞳が必要以上に輝いておるのう)タラリ

初雪「耳かきが気持ちよかった」

明石「なんだ、そういう意味ですか」チェッ

初春「なんだではないぞ。まったく……」

初雪「でも、准尉はちゃんと私の顔を見てくれたし。N中佐より、嫌いじゃない」

明石「……そういうことなら、話は早いんじゃない? ねえ?」

初春「うむ。尊重されるべきは初雪じゃからな」

朧「……」



702 ◆EyREdFoqVQ2018/01/26(金) 22:10:10.52SkKZSeuWo (5/10)


 * 夕方 執務室 *

N中佐「……」カタカタ

長門「失礼する……なんだ、休んでいなかったのか」

N中佐「いろいろと調べたいことがあってな」

長門「そのトランクの機械は通信機か」

N中佐「ああ。場所が場所だからな、衛星通信が可能な機械を持ち込んだんだ」

N中佐「電源だけはここから拝借しなきゃいけないが、その分はしっかり働かせてもらう」

N中佐「で、長門は何の用だ」

長門「休んだと聞いた貴様が寝室にいなかったのでな、様子を見に来た。何を調べている」

N中佐「この島の成り立ちについてだ。お前からも事前調査の不足を指摘されたからな」

N中佐「しかしいくら調べてみても、この島に鎮守府が建てられた経緯や、近海で起きた戦闘やらの情報がなさすぎる」

N中佐「本営のデータベースにアクセスしても、記録がほとんど残っていない……おかしいぞ、これは」

長門「……」

N中佐「長門は、この鎮守府の過去について何か知っていることは?」

長門「提督がこの鎮守府に着任した前後までなら聞きかじっているが、それ以前のこととなると私は知らないな」

N中佐「そうか……」



703 ◆EyREdFoqVQ2018/01/26(金) 22:11:33.48SkKZSeuWo (6/10)


N中佐「ところで長門。お前も轟沈を経験したのか」

長門「いいや。私は逃げてきた」

N中佐「逃げた!?」

長門「ああ。私は、ある鎮守府から逃げてきた。ある艦娘とともにな」

N中佐「お前ともあろう者が、臆病風に吹かれたと言うのか!? なぜだ!」

長門「どうしようもない理由だ」

N中佐「理由にならんぞ! 敵前逃亡など!」

長門「敵から逃げた覚えはない」

N中佐「どういう意味だ」

長門「……いいだろう、覚悟を決めよう。耳を貸せ、絶対に他言するな。約束できるか」

N中佐「む……わかった。約束する」

長門「よし……すう、はあ……」

N中佐「深呼吸するほどのことなのか?」

長門「本来ならば誰にも話したくはないのだ……恥ずかしいからな」スッ

N中佐「恥ずかしい?」



704 ◆EyREdFoqVQ2018/01/26(金) 22:13:04.88SkKZSeuWo (7/10)


長門「では、想像してみろ……貴様がもし艦娘だったら」ヒソッ

長門「自分の小水を直接飲ませろ、と言った男の下で働けるか?」

N中佐「!?!?!?」

長門「それが私たちがその鎮守府から逃げた理由だ。この話は、提督にしか話していない」

N中佐「……嘘だろう?」タラリ

長門「どうせ嘘をつくならもっとましな嘘をつく。なんでこんな恥ずかしい話を作って聞かせなければならないんだ」

N中佐「しかし、そんな変態行為に走る人間自体、例外もいいところじゃないか……」

長門「どうして貴様はそうやって否定から入る? 私は恥を承知で勇気を出してこの話をしたんだぞ、疑うのか!」

N中佐「し、信じられないものは信じられん!」

長門「だが事実だ! 貴様、私たちのことは最初から信じる気がないのか!」

N中佐「……そ、そんなことはない!」

長門「ならばなぜ、貴様と一緒に見回りに行った敷波の表情が晴れないんだ!?」

N中佐「それは話が別だ!」



705 ◆EyREdFoqVQ2018/01/26(金) 22:15:34.34SkKZSeuWo (8/10)


長門「……昼間もそうだ。貴様は大淀に、艦娘を切り裂いて飾った狂人の話をしていたそうだな?」

長門「あれも例外中の例外的事例だとは思う。だが、貴様の不用意な発言で、彼女が傷付く前に言っておく!」

長門「この鎮守府の利根が、その被害者だ」

N中佐「馬鹿な……話が出来過ぎている!」

長門「貴様は今までこの鎮守府の何を見てきた? ここが、貴様の鎮守府とは全く違うことくらい、理解できているはずだ!」

長門「この島は、提督准尉が来るまで無人だったそうだ。その頃からすでに、砂浜には無数の艦娘の遺体が漂着していた」

長門「そんな状況では着任したい人間もいないだろう。私は、海軍の記録が残っていないのはそのせいだと考えている」

N中佐「……」

長門「この島に提督が来たことで、大破して漂着した艦娘の何人かが助かるようになり、鎮守府に着任したと考えれば……」

長門「この鎮守府の艦娘の多くが、何かしらつらい過去を持っていたとしても、なんら不思議ではない」

長門「それでも貴様は、我々の過去など信じる気はないのだろうがな……!」

N中佐「そ、そんなことは……」

長門「まあいい。それで、貴様はまだ調べ物を続けるのか?」

長門「そうでなければ早めに切り上げて部屋に戻るといい。時化の夜は発電機を動かさない方が良いからな」

 扉<パタム

N中佐「……」



706 ◆EyREdFoqVQ2018/01/26(金) 22:16:11.12SkKZSeuWo (9/10)

というわけでここまで。

ずっと前から設定していた、潮の受けていた被害を、
どのタイミングで明かそうか悩んでおりました。
それを踏まえて本編の268を読むと、
「ああ、こいつ変態だ」と思うこと請け合いです。


707 ◆EyREdFoqVQ2018/01/26(金) 22:19:02.69SkKZSeuWo (10/10)

追記、>>688と>>689の間に、この一文を挟むのを忘れていました。

------

大和「ふぁっ!? い、いたたた……鳳翔さん、お気遣いありがとうございます」サスリサスリ

------


今度こそ今回はここまで。


708以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/27(土) 16:09:18.66qE+EAaJ40 (1/1)

スカトロかよ
レベル高けぇ……
更新乙でございます


709以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/01/30(火) 02:31:56.075k9m28XUo (1/1)

小水だからまだマシ……か……


710 ◆EyREdFoqVQ2018/01/31(水) 11:05:02.85dGBNtLH6o (1/7)

では続きです。


711 ◆EyREdFoqVQ2018/01/31(水) 11:05:32.13dGBNtLH6o (2/7)


 * 少し時を遡り、昼前 *

 * N中佐鎮守府 応接室の外 *

卯月「みんなが出てきたぴょん!」

大和「提督! お話はどうなりましたか!?」

提督「とりあえずだが島に戻るぞ。お前も一緒だ、準備しろ」

大和「はいっ!」

卯月「准尉、島へ帰るぴょん?」

弥生「せっかく来たのに……残念」

望月「全然休めてないじゃん。もうちょっとゆっくりしていきゃいいのに」

提督「もともと顔の怪我が治るまでって予定だったからな。島の連中をほったらかしにするわけにもいかねえし」

提督「まあ、暇なら遊びに来い。うちの連中も喜ぶかもしれねえ」

少佐鎮守府の士官(以下「士官O」)「提督准尉。お久しぶりです」

提督「んん……!? あんた、如月の捜索の時に島に来てた、少佐の部下か!?」

士官O「はい。覚えていただいていたみたいで恐縮です」ニコ

提督「あのあと大丈夫だったのか?」

士官O「なんとか、ですね。私は准尉のようにうまく立ち回る自信がなくて、しばらく目立たないように隠れてました」ハハッ



712 ◆EyREdFoqVQ2018/01/31(水) 11:07:09.50dGBNtLH6o (3/7)


提督「あんたがここに来たってことは、今回もあんたが船を用意したのか?」

士官O「はい。準備はできていますよ、あとは天候だけです」

提督「そうか……ところで、今回の件、どこまで知ってる?」ヒソッ

士官O「あまり大きな声では言えませんが……このツールの調査を担当したのは私です」ヒソッ

提督「なに?」

士官O「少し前、少佐宛に余所の鎮守府から、艦娘が指揮官以外の言うことを聞かなくなった、という話が来たんです」

士官O「当初は少佐の全く気が乗らなかったものですから、私に調査しろと丸投げしてきまして。その結果、今回のツールに行きつきました」

提督「あんたもそんなもの押し付けられて、災難だな……」

士官O「ええ、まあ。でもそのおかげで、来月の頭に別の鎮守府に異動して、少尉として艦隊の指揮を執ることが決まりましたので、善し悪しかと」

提督「!」

士官O「実は、少佐が鎮守府を離れている間、少佐の地位回復のためという建前で、混乱に陥った余所の鎮守府の対応をフォローをしていたんです」

士官O「それこそ少佐の名前を使って、欠員が出た鎮守府に補充するための人材を確保したり、問題があった鎮守府の解決に乗り出したり……」

士官O「M准将のところにいた同期の士官に、提督准尉のことを紹介したのも私です」

提督「はあ!? あんたがやったのか!?」

士官O「はい。まあ、少佐が不在なことをいいことに結構好き勝手しましたね。うちの鎮守府の利益にならないことばかり」



713 ◆EyREdFoqVQ2018/01/31(水) 11:08:58.30dGBNtLH6o (4/7)


提督「……あんた、意外と図太いな」

士官O「あなたの影響ですよ」ニコ

士官O「そういうことばかり積み重ねていたら、個人的にそれなりの評価を戴きまして」

士官O「少佐には余計なことをするなと言われましたが、赤城さんから鎮守府の評価も上がっていると報告を戴き、見逃してもらえました」

士官O「今回のツールの調査を押し付けられたのも、そういう実績があっての話なんです」

提督「へえ……それにしてもだ、大鳳はあのツールに少佐が憤慨していたとか言ってたが、本当なのか?」

士官O「憤慨していたかどうかはちょっと。ですが、私が調査結果を報告したときには、予想外に食いついてきましたね」

提督「どういうことだ?」

士官O「私がツールの調査を終えて仕組みを報告したところ、少佐はすぐその危険性に目をつけ、私に再調査を求めました」

士官O「少佐はツールの欠陥を大袈裟に非難し、そのうえで我こそは海軍と艦娘を救った男だとアピールを図ったんです」

提督「……くそだな」

士官O「准尉も御存知だと思いますが、深海棲艦の兵器化の研究をしていたZ提督が逮捕された事件……」

士官O「研究が頓挫したことで、研究の協力者やスポンサーが離れ、代わりに鎮守府を監視する本営の人間が増えました」

士官O「更には、少佐鎮守府の職員十数名も資材の不正流出の件で捕まったこともあって、少佐は名誉挽回に躍起になっているんですよ」

提督「けっ、あれの手柄じゃねえだろうによ」



714 ◆EyREdFoqVQ2018/01/31(水) 11:10:51.95dGBNtLH6o (5/7)


士官O「それと、もしこのツールが海軍のスタンダードになれば、その開発者は本営に招かれ厚遇を受けられます」

士官O「調べていくうちに、かつての研究の協力者が今回のツール開発に携わったこともわかりまして」

提督「逆恨みも入ってるってか」

士官O「今となってはそれが最大の理由になってますね。自分を見限った研究者が成功するのを許せなかったんでしょう」

提督「やれやれ……くそな部分は全然変わってねえんだな」

士官O「今回の調査は赤城さんにもご協力戴いたんですが、その中で鎮守府の聞きたくもない裏事情も耳に入ってきまして」

士官O「少佐から距離を置きたいと思っていた矢先、少佐も私のことがお気に召さなかったようで……」

士官O「図らずも利害一致したものですから、私が栄転という形で鎮守府を出る運びになったんです」

提督「なるほど、ていのいい厄介払いか。だがまあそのほうが安心だな」

士官O「ええ。今後は私の先輩の同期にあたるW大尉のもとに身を寄せる気でいます」

士官O「ただ……あの鎮守府の艦娘たちのことだけが心残りですね」

士官O「それに、あなたを差し置いて私が少尉になると言うのも、申し訳がないと言いますか……」

提督「気にすんなよ。うちは海軍の戦力になってねえし、事情もわかってんだろ?」



715 ◆EyREdFoqVQ2018/01/31(水) 11:11:50.46dGBNtLH6o (6/7)


士官O「ええ、不知火から、如月も元気だと聞いています。他にも助かっている艦娘がいるそうで……本当に良かった」ニコ

提督「そうだな。あの二人だけだったのが……」

提督「……」


提督「……ん?」


提督「……いや、まさか……」


士官O「提督准尉?」

提督「まずいこと思い出したぞ。完っ全に忘れてた……くっそ、俺の記憶違いだといいんだが」

士官O「なにか、あったんですか」

提督「悪い、すぐに船を出してくれ」

提督「うちの艦娘が、N中佐を殺しちまうかもしれねえ」




716 ◆EyREdFoqVQ2018/01/31(水) 11:12:25.22dGBNtLH6o (7/7)

今回はここまで。


さあ修羅場だ!


717以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/02/01(木) 17:34:25.98HLxHE/Uu0 (1/1)

更新お疲れ様です
修羅場が修羅場しないで提督の取り合いになるというほのぼの落ち
なわけない、にしてもここの提督は艦娘の事をきちんと考えてるつんでれやなぁと


718 ◆EyREdFoqVQ2018/02/10(土) 12:07:08.3249K4gyuAo (1/11)

それでは続きです。


719 ◆EyREdFoqVQ2018/02/10(土) 12:07:46.3049K4gyuAo (2/11)


 * 夜 墓場島鎮守府 執務室 *

 ザァァァ…

N中佐「……雨脚が強くなってきたか」

N中佐「……」カタカタ

N中佐「妙だな……俺の鎮守府の艦娘の情報が更新されてない」

N中佐「あいつら、ちゃんと演習なり遠征なりやっているのか?」カタカタ

N中佐「それとも、俺の鎮守府のツールまで壊れたのか?」

 カッ

N中佐「! ……雷か……調べ物もこの辺にしたほうが良さそうだな」パタン

 扉<コンコン

朧「朧です」

N中佐「ん……入れ」

朧「失礼します」チャッ

 ゴロゴロゴロ…



720 ◆EyREdFoqVQ2018/02/10(土) 12:08:40.1449K4gyuAo (3/11)


N中佐「雷が鳴っているからもう寝ろと言う話か? ちょうど仕事も止めたし、そういう話なら問題はない」

N中佐「しかし思うんだが、避雷に備えて自家発電機の稼働を控えようと言うのは、聊か的外れな対応じゃないか?」

朧「……」

N中佐「疑問を持たないか? それでこの鎮守府はよく攻め込まれないでいられるな、と」

N中佐「たとえ夜間でも警戒を怠るべきではないというのに、ろくに見回りもさせていないとは……」

朧「夜中に明かりをともせば的になるだけだ、というのが提督の見解です」

N中佐「そうは言っても無防備がすぎる」

朧「提督は夜間完全消灯します。島に着任してから3か月間そうやって過ごしてきましたが、実害はありませんでした」

N中佐「そうじゃない! 本営に連絡して、警戒態勢を整えさせるのが先だろう!」

N中佐「島にいられるのが提督准尉だけだとしても、この鎮守府を機能させたいのなら設備を拡充させるべきだ!」

朧「……」

N中佐「発想が無茶苦茶だ。提督准尉のやることなすこと、すべてが破天荒すぎる」

N中佐「そんな提督の下で働いていては、お前たちの命がいくつあっても足りないんじゃないのか?」

朧「……」ジロリ

N中佐「なんだ、その目は」



721 ◆EyREdFoqVQ2018/02/10(土) 12:09:32.5549K4gyuAo (4/11)


朧「……N中佐は……」

N中佐「ん?」

朧「どうしてこの島の鎮守府で指揮を執ろうと思ったんですか?」

N中佐「ん……それは……」

朧「……」

N中佐「それは、お前たちの戦い方が未熟だと思ったからだ」

N中佐「この島の事情を知らなかったとはいえ、それを踏まえてもこの鎮守府の戦果はあまりに低すぎる」

N中佐「准尉には追々教育するとして、現場であるお前たちの意識を変えなければならないと思っている」

朧「……」

N中佐「我々は大本営の指示のもと、一致団結して深海棲艦に立ち向かわなければいかん。そのためには……」

朧「演習などによる練度の向上」

N中佐「!」

朧「遠征などによる備蓄の充実、建造や開発による戦力の増強、そして、周辺海域への定期的な出撃による深海勢力の駆逐」

N中佐「!!」



722 ◆EyREdFoqVQ2018/02/10(土) 12:10:40.0549K4gyuAo (5/11)


朧「日頃はそれらの任務に従事し、大本営から一定期間ごとに告知される強大な深海勢力への一斉攻撃に備えるべし」

N中佐「……そうだ。その通りだ、素晴らしい!」

N中佐「この鎮守府には変わり者しかいないのかと諦めかけていたが、お前のような艦娘もいたんだな!」

N中佐「お前のような理解者がいるのなら心強い! ……そうか! こんな時間に来たのも、俺にそのことを伝えたかったからか!」

N中佐「そうとわかれば、朧には明日から秘書艦を頼みたい! 俺と一緒にこの腑抜けた鎮守府を立て直そう!」

朧「……」ツイッ スタスタ…

N中佐「お、おい、どこへ行く?」

 キャビネット<ギィッ

朧「……」スッ

朧「N中佐。これを、見てください」サッ

N中佐「? 何のバインダーだ? これは」

朧「……」

N中佐「このリストは……」ペラッ

朧「……」

N中佐「これは……本営の管理するすべての鎮守府の轟沈艦の記録か……! この鎮守府がこんな資料を取り扱っているとは」ペラッ

朧「……」



723 ◆EyREdFoqVQ2018/02/10(土) 12:11:28.6849K4gyuAo (6/11)


N中佐「朧……この、リストについているバツ印はどういう意味だ」

朧「……」

N中佐「ん……マル印がついているところもあるな。これは……」

朧「バツ印のついている艦娘は、この島に埋葬された艦娘です」

N中佐「……ということは、この島に流れ着いてきた艦娘か」

N中佐「これほど多くの艦娘が……で、マル印はなんだ?」

朧「……」

N中佐「マル印は少ないな……比叡……暁、初春……」ペラッ

N中佐「……」ペラッ

N中佐「……」ペラッ

朧「……」

N中佐「……朧。このマル印は……」

 カッ

朧「……」

N中佐「……」

 ゴロゴロゴロ…



724 ◆EyREdFoqVQ2018/02/10(土) 12:12:39.7449K4gyuAo (7/11)


朧「……わかりませんか」

朧「それとも、わかっていて訊いているんですか」

N中佐「……」ペラ…

朧「……」

N中佐「……」

朧「わからないというのなら、最後のページを見てください」

朧「そのバインダーの、一番古いリストを見てください」

N中佐「……」ペラ…

朧「そこでマル印をつけられた艦娘の名前は、なんて書いてありますか」

N中佐「……」

朧「その艦娘の所属は、なんて書いてありますか」

N中佐「……!」

朧「声に出して、読んでください」

N中佐「……」

朧「……読んでください」

N中佐「……っ!!」ビクッ



725 ◆EyREdFoqVQ2018/02/10(土) 12:14:11.7449K4gyuAo (8/11)


朧「……」

N中佐「……お、お前は、気付いていたのか」

朧「……」

N中佐「なぜ、言わなかった」

朧「……」

N中佐「なぜなんだ、おぼ……」

朧「……」ジャキッ

N中佐「ひっ!」ガタッ

朧「……」

 扉<チャッ

初春「なんとまあ……滑稽じゃのう」スッ

N中佐「は、初春か! た、助けてく」

初春「その前に、おぬしは朧の問いに答えよ。そのリストでマル印をつけられた艦娘はどうなったのじゃ?」

N中佐「……! ま、まさかお前も……!」

初春「気付いたようじゃな? 申してみよ」



726 ◆EyREdFoqVQ2018/02/10(土) 12:15:01.5049K4gyuAo (9/11)


N中佐「この島に漂着した轟沈艦……! その中で准尉の配下になった艦娘……それが、このマル印の艦娘か……!」

初春「うむ、ご名答。して、その中には朧の名前もあったじゃろう? 所属はなんと書いてあった?」

N中佐「……」

初春「答えよ!!」

N中佐「……N提督鎮守府……俺の、鎮守府だ……!」

朧「……」

初春「因果なものよの。江戸の敵を長崎で、とは、よく言ったものじゃ」

N中佐「……俺が、敵だと……敵なものか!」

初春「寝ぼけたことを抜かすでない。主砲を向けた相手が敵でなければなんと心得る」

初春「そもそも、朧がおぬしの鎮守府にいたことを言わなかったのも、おぬしが思い出す猶予を与えていたにすぎぬ」

初春「今し方の問答も、おぬしが朧のことをどう考えていたか、腹を探っておったのじゃ」

初春「戦争に勝つために犠牲になったことを『忘れられた』とあっては、朧も成仏できまいて。のう?」

朧「……」

N中佐「ま、待ってくれ! もう一度、チャンスをくれないか!!」

初春「チャンスとな?」



727 ◆EyREdFoqVQ2018/02/10(土) 12:16:21.7649K4gyuAo (10/11)


N中佐「俺にはやらなければいけないことがある! 今こんなところで死ぬわけにはいかないんだ!」

朧「……」

初春「チャンスなら、すでにくれておったわ」

N中佐「なに?」

初春「入ってくるが良い」

 扉<チャッ

初雪「……」スッ

N中佐「……お前は……!」

初春「さて、少しは思い出したか?」

N中佐「……」

初春「おぬしは本来、何のためにこの島に来たのじゃ?」

初春「よもや、ほかの誰かにかまけて忘れてしまったわけではあるまいな?」

N中佐「……」

初雪「……」

朧「……」



728 ◆EyREdFoqVQ2018/02/10(土) 12:17:31.8649K4gyuAo (11/11)

とりあえず今回はここまで。


729以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/02/10(土) 22:21:54.64pqKV19720 (1/1)

更新乙です
中佐は生きてても牢屋行きだろうしなぁ……
死んでも自業自得の様な?


730 ◆EyREdFoqVQ2018/02/13(火) 00:16:28.66JP32ZbyVo (1/21)

では、続きです。


731 ◆EyREdFoqVQ2018/02/13(火) 00:17:51.31JP32ZbyVo (2/21)


初春「朧は期待しておったのじゃ。おぬしが、いつ初雪のことを聞いて来るかを」

初春「そして初雪に、どのような言葉で詫びを入れるのかを」

初春「しかし、この期に及んでだんまりを決め込むとはのう。期待外れも甚だしい」

N中佐「……そ、それは初春には関係のないことだ! 下がっていろ!」

初春「そうはいかぬ。わらわは結末を見届けたいのじゃ、朧と同じく捨て艦にされた艦娘としてな」

初春「それにな、キスカからの撤退戦で沈んだ駆逐艦朧の最期を看取ったのは、他でもないこの駆逐艦初春じゃ」

初春「その朧が、必死の覚悟で仇を討つと言うのならば、わらわが朧に加勢せぬ理由はない……!」

N中佐「……く……!」

初雪「!」

N中佐「……くそ……くそお!」

N中佐「なんでだ! 俺は……俺は今まで必死にやってきたのに! この仕打ちはなんだ!?」

N中佐「俺は! 深海勢力から海を取り戻すために戦ってきた! 戦果を挙げてきた!」

N中佐「お前らも海軍ならその役目を果たすのが本懐だろう!」

初春「そのためになら艦娘も使い捨てにすると?」

N中佐「そうせざるを得ない時もある! 事実、捨て艦戦法で勝利をあげられた戦いもあったんだ!」

初春「この期に及んで開き直るか。なにを都合の良いことを……!」



732 ◆EyREdFoqVQ2018/02/13(火) 00:18:40.00JP32ZbyVo (3/21)


初雪「……そうしないと、耐えられないんだと思う」

朧「!」

初雪「N中佐……本当は、わかってる」

初雪「自分のやってることが、間違いだって。認めたくないから、私たちのことはなかったことにしようとしてる」

初春「間違いだらけじゃの……この男は!」

N中佐「なにを……間違いなものか!! 何が間違いなんだ! 俺の行動は、全ては海を守るための、国を守るための行為だ!!」

初春「守るため、じゃと?」

初雪「……」

朧「……」

N中佐「奴らに海を奪われればどうなるか、人間は嫌と言うほど思い知らされたはずだ! 悠長なことをしていられないはずだ!」

N中佐「だというのに、当の海軍は内々で足の引っ張り合い……陸の連中も同じだ! 同じ人間同士で蹴落とし合いも茶飯事だ!」

N中佐「今、俺たちに必要なのは圧倒的な力だ! 抵抗する全てを抑え込み、一丸となって敵を殲滅する力だ!!」

N中佐「そのために、たとえ後ろ指を指されても、今の戦況を切り開く方法を取る! そうしなければ、人間はこの戦争に勝てないんだ!」

N中佐「捨て艦戦法をとったのも、深海棲艦の勢力拡大をどうしても防ぎたかったからだ」

N中佐「今回の艦娘制御ツールを採用したのも、一日も早い深海棲艦の撃滅を進めるため……!」

N中佐「どんな手を使おうと、俺はあいつらを、深海の奴らを! この海から駆逐する! そう、誓ったんだ!」



733 ◆EyREdFoqVQ2018/02/13(火) 00:19:44.63JP32ZbyVo (4/21)


初雪「……」

朧「……」

初春「おぬしは……そうまでして深海棲艦を討ちたいのか」

N中佐「俺の故郷は小さな漁村だ。俺の父も漁で生計を立てていた」

N中佐「父の跡を継いで漁師を目指していた俺に、両親は大学を出るよう進言してくれて、今、俺はその海を守る仕事に就くことができた」

N中佐「その漁村の住人は今、深海棲艦の脅威によって疎開を余儀なくされている」

N中佐「このまま深海棲艦を海から掃討することができなければ、父の仕事がなくなってしまう。俺の故郷が消えてしまう……!」

N中佐「そんなことは絶対にさせない!! 俺を育ててくれた両親のためにも……お世話になった故郷の人たちのためにも!」

N中佐「俺たちは海軍だ! 海の平和を取り戻すのが最優先事項だ!」

N中佐「お前たち艦娘も、もともとは軍艦だったんだろう! ならばこの国の、人間のために命をかけることも当たり前だろう!!」

N中佐「そうでないのなら! お前らはいったい何のためにいる!?」

 扉<バンッ

全員「「!!」」

提督「ったく、うるせえな……廊下まで響く大声出しやがって、くそが」ビッショリ

朧「て、提督!?」

N中佐「提督だと!?」



734 ◆EyREdFoqVQ2018/02/13(火) 00:20:33.95JP32ZbyVo (5/21)


提督「おうよ。雨ん中走ってきたもんで、ご覧の通り濡れ鼠だ」

初春「顔の傷はどうしたんじゃ!?」

提督「治った」

初春朧「「治った!?」」

提督「初雪もいるのか。丁度いい、お前にも話がある」

初雪「……!」

提督「が、先にカタをつけなきゃいけねえのは、N中佐。あんたのほうだ」

N中佐「俺だと!?」

提督「ああ」チラッ

 タタタタッ

妙高「准尉!」

鳳翔「准尉、大丈夫ですか……っ!!」

N中佐「妙高……鳳翔……!」

妙高「初雪さん、無事だったんですね……!」

初雪「妙高、さん……!」ダキヨセラレ

妙高「良かった……」ギュッ



735 ◆EyREdFoqVQ2018/02/13(火) 00:21:42.88JP32ZbyVo (6/21)


鳳翔「朧さんも、よく無事で……!」

朧「……来ないでください!」ウツムキ

鳳翔「!」

朧「アタシは、沈んだんです。もう、あなたのところへは……弓道場へは、行けないんです」

朧「あいつの、せいで……アタシは!」キッ

N中佐「!」ビクッ

提督「悪いな朧、ちょっとだけこいつを借りる。後で撃たせてやるから待ってろ」

朧「!」

N中佐「准尉!? 貴様、何を……」

 トタトタトタッ

吹雪「司令官! 大鳳さん連れてきました!」

大鳳「提督准尉!」

提督「おう、ご苦労さん。悪かったな、急で」

吹雪「もう、びっくりしましたよ!? いきなり『誰かいるか!』って司令官の声が聞こえたんですから!」

電「本当なのです。びしょびしょの司令官さんが、傘と雨具を6人分、埠頭の船へ持って行けって……」

如月「いきなりだったから、私たちもちょっぴり濡れちゃったわ」



736 ◆EyREdFoqVQ2018/02/13(火) 00:22:46.19JP32ZbyVo (7/21)


提督「そうか。じゃあシャワー浴びてこい」

由良「提督さんこそシャワーを浴びてきてください! 上着も脱がないと風邪をひきます!」タオルテワタシ

提督「大丈夫だよ。俺は馬鹿だから風邪なんかひかねえよ」タオルウケトリ

初雪「そういう問題じゃないと思う……」タラリ

吹雪「とりあえず、どういうことなのか教えていただきたいんですが……」

提督「朧はN中佐の元部下だ」

全員「!!」

N中佐「……」メソラシ

提督「で、この鳳翔は、着任したばかりの朧が弓道場に来た時に知り合って、それを機に弓を教えようとしてたそうだ」

鳳翔「……かつての駆逐艦の朧さんは、五航戦の護衛任務に着任していました」

鳳翔「私が弓を引く姿を熱心に見ていましたので、彼女たちのことをおぼろげながら思い出していたのではないか、と思ったんです」

提督「朧が捨て艦にされて轟沈したのは、それから間もなくだった」

朧「……」ウツムキ

提督「だから朧は、砂浜で倒れていたときに『まだ』って言っていたわけだ」

提督「まだ、弓を習い終えていない。鳳翔からの手ほどきを終えていない、と」

提督「そんな朧を犠牲にして勝利を得たN中佐が、今度は初雪を見捨てた。うちの大和に懸想して、な」



737 ◆EyREdFoqVQ2018/02/13(火) 00:24:06.23JP32ZbyVo (8/21)


初雪「……」

提督「こんなイヤホンまで用意して……とんだくそ野郎だ」

N中佐「……っ!」

提督「でだ。あっちの鎮守府であんたの昔話を聞かせてもらった。どうしてこのツールを使うに至ったかの話もな」

提督「あとはあんたの口から直接訊くだけだ。本営で、この大鳳へ詳しく話をしてくれよ」

N中佐「本営で、だと? どういうことだ……!」

大鳳「本営は、このツールが危険であるという認識に達しました。運用は許可できません」

大鳳「このツールの仕組みについて、あなたがどのくらい把握しているか、お話を伺いたく……」

大鳳「本営まで出頭命令が出ております。N中佐、私とご同行願います」

N中佐「待て、その間の俺の鎮守府はどうなるんだ……」

大鳳「あなたの代わりの指揮官が配属されます。同時に、あなたからは鎮守府の指揮権が剥奪されます」

N中佐「……何かの間違いだろう!? 俺は、海の平和のために……国民のために必死にやってきたんだぞ!?」

N中佐「提督准尉もわかるだろう! 大事な人を守りたいという気持ちが!」

提督「ふん、お前の大事な人なんか知ったことかよ」

N中佐「な!?」



738 ◆EyREdFoqVQ2018/02/13(火) 00:25:50.62JP32ZbyVo (9/21)


提督「大事な人たちを守りたい? それを言うなら、俺にとって大事なのは、この鎮守府に流れ着いたこいつらだ。この鎮守府にいる艦娘たちだ!」

朧「……てい、とく……」

如月「司令官……!」

吹雪「司令官!!」

提督「大和だってなあ、この鎮守府で暮らしてる妖精たちが、この鎮守府のために建造した唯一の艦娘だ」

提督「大和が妖精たちのために戦う義理はあっても、あんたのために大和を送り出すなんて考えはどこから出てくるんだ!?」

提督「そんなに連れて行きたいんなら、俺を殺して連れて行けよ。捨て艦だってやったんだ、簡単だろ?」

 ゾワッ

N中佐「!?」

鳳翔(足が、すくんで……!)

妙高(な、なんですか、この怖気は……!)

大鳳(なんて重苦しい……!)

朧「……提督」

提督「ん?」

朧「朧、提督のそういう冗談を言うところ、キライです」ジロリ

提督「……」



739 ◆EyREdFoqVQ2018/02/13(火) 00:26:27.04JP32ZbyVo (10/21)


如月「そうね~。司令官のそういうところ、感心できないわぁ」ジロリ

吹雪「本当にそういうことになったら、どうするつもりなんですか」ジロリ

提督「……わかったわかった、お前ら本当に冗談が通じねえな」ハァ

 フッ

妙高(重圧が解けた……!)フラッ

提督「ったくよお、ただの煽り文句をマジにとるなよ……面倒くせえ」アタマガリガリ

電「今の発言、神通さんが聞いたら絶対激怒したと思うのです」ボソ

神通「ええ。ですから今後は控えてくださいね」ニッコリ

電「!?」ギョッ

提督「……お前も来たのかよ」アタマカカエ

神通「はい、ただならぬ気配を感じたものですから。それで……」

提督「今回は神通の手を借りなくても平気だ。それに話もまだ終わってねえ」

神通「と、仰いますと」

提督「本営に大急ぎで確認したぜ。N中佐、あんた、初雪を轟沈扱いにしたんだってな?」

初雪「!!」

N中佐「……」



740 ◆EyREdFoqVQ2018/02/13(火) 00:27:38.71JP32ZbyVo (11/21)


提督「随分と捜索の打ち切り判断が早くねえか? 多分、大和の入手に注力したかったんだろ?」

初春「ということは、初雪は……」

提督「初雪に話したかったのはこのことさ。書類の上であろうと轟沈扱いにされちまったら、うちで引き取るか解体かって話になる」

初雪「……そう……」ハァ

神通「敷波さんと同じケースですね」チラッ

N中佐「!」メソラシ

提督「でだ、初雪。お前、これからどうする?」

初雪「……准尉」クルリ

提督「ん?」

初雪「その……これから、よろしく、お願いします」ペコリ

提督「おう。明日の朝一で手続きしとく」

N中佐「……!」

提督「ふん、初雪にふられて一丁前にショック受けてやがる。コミュニケーションを全部イヤホンから済ませてたくせに」

N中佐「」グサッ



741 ◆EyREdFoqVQ2018/02/13(火) 00:29:16.16JP32ZbyVo (12/21)


初春「顔を見合わせたのも片手で足りる程度と聞いておる。顔を見に来ない相手に気を使う必要などあるまいにのう?」

如月「待って、初雪ちゃんが司令官になびいたことがショックなの? もしかして、あれで可愛がってたつもりでいたのかしら」

由良「っていうか、そもそも初雪ちゃんはN中佐が自分から手放したわけでしょ? ショック受けること自体おかしくない?」

電「N中佐さんは司令官さんから大和さんを奪おうとしていたのです。因果応報なのですから、同情の余地はないのです」

N中佐「」グサグサグサグサッ

鳳翔(N中佐、滅多打ちにされてますね……)

妙高(身から出た錆とはいえ、ご愁傷様です)

吹雪「あ、あの、みなさんそのくらいにしておきませんか」

鳳翔(ああ、さすが吹雪さん、この場を丸く収めようと……)ホッ

吹雪「あの人を泣かすのは朧ちゃんの役目ですから、寸止めでお願いします」

妙高(ただの死刑宣告だった!?)ガビーン

提督「ん、それもそうだな……朧。こいつを使え」ポイッ

朧「……これは」キャッチ

吹雪「輪ゴム、ですか?」



742 ◆EyREdFoqVQ2018/02/13(火) 00:29:58.82JP32ZbyVo (13/21)


提督「ああ、ちょっと大きめのな。使い方は鳳翔に教えてもらったろ? そいつで撃て」ニヤリ

朧「……!」

如月「撃て、って……?」

朧「……」スッ

鳳翔「……!」

朧「……」グイッ ギリギリギリッ

電「輪ゴムでN中佐さんを狙ってるのです……」

由良「まるで弓をひくみたいに……!」

朧「……っ!」シュパッ

 輪ゴム<ピュンッ

N中佐「いてっ!」ベチッ

朧「……」

鳳翔「……朧さん。覚えて、いたんですね」

朧「……」ポロポロ

鳳翔「私が教えた、弓の動作を……射法八節を、ちゃんと覚えていてくれたんですね」ダキヨセ

朧「う、うう……!」ポロポロポロ

鳳翔「……」ギュウ ナデナデ



743 ◆EyREdFoqVQ2018/02/13(火) 00:31:35.46JP32ZbyVo (14/21)


提督「さてと、あとはN中佐を本営へ連れてっておしまいだな。うちの艦隊の指揮権、返してもらうぜ」

N中佐「……提督准尉」

提督「ん?」

N中佐「俺は……間違っていたのか?」

N中佐「強い艦隊を作って戦果を挙げれば、俺たちの正義が証明されると思っていたのに……」

提督「知るか。俺は、あんたが俺の部下に手を出そうとしたことにムカついてんだ」

提督「自分が間違ってねえ自信があるなら、本営の連中に訴えろよ。あんたの境遇や思想に共感した奴がいたら、協力してくれるかもな」

初春「それはどうかのう? ツールを使って艦娘の情を無視した輩が、大事なものを守りたいから手を貸せと情に訴えてきたのじゃぞ?」

初春「わらわはまったくもって気に入らぬ。斯様な御都合主義者の二枚舌に耳を貸したいとは思わんな」ジロリ

提督「俺だって気に入らねえよ。結局は俺と同じで自分の身内が一番大事だって考えてるくせに……」

提督「わざわざ『国民のため』なんて枕詞添えて、さも大層なことやってる風な偉ぶった言い方しやがって。むかつくぜ」

提督「そもそも手段を選ばない道を選んだ時点で、人から恨まれる覚悟をしてねえのがおかしいんだ」

提督「それで誰かに好かれると思ったか? 何考えてんのかわかんねえよ、くそが」

N中佐「……っ」



744 ◆EyREdFoqVQ2018/02/13(火) 00:32:38.56JP32ZbyVo (15/21)


提督「でだ、妙高、大鳳、ちょっと聞け」

妙高「は、はい? なんでしょう」

提督「本営がツールの運用を禁止した理由は、少佐の言うように艦娘を使ってのクーデターを危惧してのことだと思う。だとすれば……」

提督「N中佐がこのツールを、深海棲艦の撃滅のための手段にしか使う意図がなかったことを訴えれば、多少は大目に見てもらえるはずだ」

妙高「え!?」

N中佐「!?」

大鳳「た、確かにそうかもしれませんが……」

提督「というか、そこに付け込むしかねえな。N中佐が海軍には絶対刃向わないことをアピールするくらいしか、罰を軽くする方法が思いつかねえ」

妙高「罪を軽く……しようというのですか!?」

提督「おうよ。とりあえずだ、このツールを使うにあたってどんな人間に関わったかを、N中佐には全部正直に喋らせろ」

提督「わからないならわからないと言えばいい。言いよどんだり押し黙ったりするほうが、よっぽど心証が悪くなる」

提督「どうせ本営もいろいろ調べてるはずだ、N中佐の言うことに齟齬がなけりゃそれでいい」

提督「N中佐がこの仕事を続けたいっつうんなら、本営に使いたい、価値があると思わせなきゃならねえ」

N中佐「……」

妙高「……価値、ですか」

提督「そうだ、価値だ。使えねえ奴が馘になるのはどこも同じだろ?」



745 ◆EyREdFoqVQ2018/02/13(火) 00:33:39.23JP32ZbyVo (16/21)


初春「のう提督よ、おぬし先程から何を言っておる?」

初春「N中佐にはわらわたちも随分引っ掻き回された……その返しにしては、手ぬるいどころか塩を送っているようにしか見えんぞ?」

妙高「ええ……私もそう思います。提督准尉の先程の言動からは真逆のお話です、どうしてそのようなことを?」

提督「あ? 向こうの鎮守府にいた卯月に『鎮守府のみんなとN中佐を助けたい』って言われたんだ、だったら助言するしかねえだろ」

N中佐「……!」

提督「じゃなきゃ俺だって朧に撃てって言ってたぜ。まあ、後々面倒だからこっちのが良かったけどよ」

鳳翔「……面倒、ですか」タラリ

提督「だいたいなあ、ハナっから手前が何をしたいか、艦娘に腹ん中を正直にぶちまけてりゃ良かったんだよ」

提督「やる気ある奴はついて行こうと思うし、間違ってることをしようものなら止めてくれる奴だって現れるだろ」

N中佐「……」ウツムキ

提督「ま、世の中にゃ『罪を憎んで人を憎まず』なーんて都合の良い言葉もある」

提督「本営で説明するときに、大鳳あたりが横からそう言えば、ちったあ効果あるかもな?」

提督「あとは、このツールを開発した連中が、N中佐の境遇を知ってて利用しようとした、とか言う話があるなら擁護も楽なんだが……期待はできねえか」

大鳳「……何と言いますか……」

妙高「……よくそこまで思いつきますね……」



746 ◆EyREdFoqVQ2018/02/13(火) 00:35:09.48JP32ZbyVo (17/21)


初春「提督がN中佐に指揮を任せようとしたのは何故じゃ?」

提督「ええっとなあ……残念ながら断る理由が思いつかなかった、ってのがひとつめ」

初春「ふむ……」

提督「N中佐の鎮守府に行って、いくつか弱みを掴んで強請ってやろうと思ったのがふたつめ」

妙高鳳翔「「はい!?」」シロメ

提督「N中佐が最初からツール頼みの無能なら、妖精に頼んでイヤホン壊してしまえば勝手に自滅すると思ったのがみっつめ」

N中佐「!?」シロメ

提督「自分のやり方が正しいと思い込んでるワンマン指揮官だ、せいぜい苦労しやがれって思ってたぜ。くっくっく」

全員「「……」」

吹雪「あの、司令官……もう少しオブラートに包んだ言い方をしたほうがいいと思います」

電「司令官さんは悪い意味で正直すぎるのです」ハァ

提督「まああとは、この島に流れ着いてくる艦娘たちがいる現実を見せつけたかった、ってところだな」

提督「馬鹿の一つ覚えみたいに戦果戦果うるさくてしょうがねえ。世の中には価値観が違う人間もいることを理解してもらわねーとな」

神通「海軍の中では、提督の思想こそ異端だと思いますけど……」



747 ◆EyREdFoqVQ2018/02/13(火) 00:36:17.60JP32ZbyVo (18/21)


提督「ま、いいや。これ以上の問答は本営に任せるか。いい加減面倒くさくなったし」

初春「……そういうことにしておこうかの」

妙高「……何につけても『面倒くさい』がついて回るんですね」ハァ

吹雪「口癖みたいになっちゃってますから」タハハー

 タタタタッ

大和「提督、すみません遅くなりました!」ビッショリ

不知火「……もうお話は終わったのでしょうか」ビッショリ

提督「なんだお前ら、合羽はどうした?」

士官O「着ていたんですが、ご覧の有様でして」ビッショリ

如月「! あなたは……!」

士官O「お久しぶりです。お元気そうでなにより」ニコ

提督「そんなに船の接岸に手間取ったのか?」

士官O「ええ、大雨のせいで視界が悪くて。誘導してもらったんですが、距離感をつかむのに苦労しました」

提督「なるほど、大和と不知火はそれを手伝っててずぶ濡れになったってわけか」

不知火「はい。今頃になって雨が収まりかけているのが癪ですが、仕方ありません」



748 ◆EyREdFoqVQ2018/02/13(火) 00:37:43.73JP32ZbyVo (19/21)


提督「とりあえずお前らは風呂に行って体を温めてこい。如月、こっちの士官には俺の部屋のシャワーを使わせてやってくれ」

士官O「提督准尉のほうが先では?」

提督「こういうのは客が先だ。如月、頼むぜ」

如月「はい、了解しました。こちらへどうぞ」ニコッ

士官O「すみません、失礼します」

不知火「大和さん、私たちも行きましょう」

提督「あ……ちょっと待て。鳳翔、妙高、ついでに朧も、一緒に行ってさっぱりしてこい」

妙高「よ、よろしいんですか?」

提督「おう。大鳳はどうする」

大鳳「私は、N中佐を見張る必要がありますので、どうぞお構いなく」

提督「そうか。じゃあ後でな」

鳳翔「では提督准尉、お言葉に甘えます。妙高さん、朧さん、行きましょう」

妙高「はい」

朧「……」コク



749 ◆EyREdFoqVQ2018/02/13(火) 00:38:40.16JP32ZbyVo (20/21)


提督「それじゃ、吹雪と神通は鳳翔たちが泊まる部屋の準備を頼む。由良と初春は士官たちに夜食の準備を」

提督「電はそれまでに大鳳に茶を出してやってくれ。俺は外に行って雨具を片付け……」

 ガシッ

提督「ん?」

神通「外は危ないですから、外出しようとしないでください。私がやります」

由良「それと風邪をひく前に、早く上着を脱いでください。洗濯しますから」

提督「……お、おう……」

電「見張り番なら、交代でやったほうがいいのです」

初春「ふむ、まずは起きている手すきの者を呼び出そう。明日に差支えぬよう役割分担せねばな」

吹雪「ベッドメークは古鷹さんにも協力してもらいます! まだ起きてたはずですから!」

由良「提督さんは酒保へ行って、明石ちゃんから士官さんの替えの下着とタオルを貰ってきてください」

神通「如月さんに全部押し付けてはいけませんよ?」

提督「……」

鳳翔「頼もしい子たちですね」ニコ

提督「……まあ、な」



750 ◆EyREdFoqVQ2018/02/13(火) 00:39:32.87JP32ZbyVo (21/21)

普段より長かったけど、今回はここまで!


751以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/02/13(火) 10:40:26.97kcgO1cvu0 (1/1)

まあるく収まった感じですな
更新乙でございます
しずま艦ってスケスケ衣装が多いんだけどやまちゃんが濡れたら……(砲撃音)


752以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/02/14(水) 03:15:46.93lPODHxyzo (1/1)

PADがあr・・・そう言えば速攻外してましたね


753 ◆EyREdFoqVQ2018/03/03(土) 17:56:57.21nFHaTbZTo (1/17)

大和が濡れたら……まあ、ご想像通りでしょうねえ……。
それでもここの提督は意図的に無視すると思います。


続きです。


754 ◆EyREdFoqVQ2018/03/03(土) 17:58:01.54nFHaTbZTo (2/17)


 * その晩 0250 *

 * 提督の寝室 *

提督「」スヤスヤ

 ――……と……

提督「」スヤスヤ

 ――て……と……

提督「……んん……?」

 ――てい……とく……!

提督「なん、だ……?」ムクッ

提督「……」キョロキョロ

提督「誰もいねえ……なんだったんだ?」

 ユラッ

提督「!」

ぼんやりした人影『……てい……とく……!』

提督「な……!?」

ぼんやりした人影『……いそ……いで……!』

 スゥッ…

提督「消えた……!?」

提督「……急げっつったって、どこへ急げばいいんだよ……」



755 ◆EyREdFoqVQ2018/03/03(土) 17:59:52.10nFHaTbZTo (3/17)


 * 同時刻、客室 *

(別々のベッドで眠っている鳳翔と妙高)

鳳翔「……」

妙高「……」

鳳翔「……妙高さん? まだ起きてらっしゃいますか?」

妙高「……はい」

鳳翔「今回の件……やはり私がN中佐を止めていれば良かったんでしょうか」

妙高「いえ、それを仰るなら私も同じです。あの時は誰もN中佐を説得できなかった……みんな、それを悔やんでいるはずです」

妙高「鳳翔さんがひとり責任を感じることはありません」

鳳翔「……それでもやはり、責任を感じてしまいますね……」

妙高「鳳翔さん……」

鳳翔「……」

妙高「……」

鳳翔「……? 何か聞こえませんか?」

妙高「え……いえ、何も」