532以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/10/31(水) 18:17:53.77DRMKFrEu0 (3/3)

暗闇に落とされ、音も無く、触るものも無い。

呼吸はできないが苦しさは無く、四肢は動かないが寒さも暑さも無い。


コブラ「………」




コブラは無を漂っていた。

進む事も戻る事も、止まる事も無い処。

それも、前に彼が経験した無とも異なる。

肺はホルンとならず、心臓はドラムを打ち鳴らさず、血潮は踊らない。

エイトビートは沈黙している。ロックは聞こえないのだ。




コブラ「………」





























コブラ「……?」






その終わりさえ無い無の世界に、コブラは一つの小さな輝きを見出した。
視力さえ与えられない世界においては矛盾する現象だが、彼は確かに見ているのである。

青白い輝きは徐々に大きさを増し、輝きが増すごとにコブラの五識は一つ、また一つと回復していく。
回復した五識は思考に作用し、輝きがコブラの眼前に止まる頃には、遂にコブラは温度感覚を除いた心身の機能を完全に取り戻していた。



コブラ「キミは……」



無重力の世界で、巨大な青白い輝きは宇宙を内包し、少女の空気を纏っている。
その空気に右手を伸ばし、コブラが光に触れようとした瞬間…


コブラ「!!」


空気は一変し、輝きは消え、コブラの前には少女ではなく、緑の眼を持つ白き柘榴が現れた。
柘榴は触手を伸ばし、差し出されていたコブラの右手を絡め取ると、無を飛翔し始める。
その無の世界も、コブラが冷たさ無き風を感じる毎に薄れていく。

そして突如、世界は閃光と共に無を失い、真白い光に満たされたのだった。


533以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/10/31(水) 18:34:15.56/Q3jI/AM0 (1/1)

感覚剥奪拷問の時か、懐かしいな


534以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/11/01(木) 01:21:01.67Ze6aFrT80 (1/2)

白い光の世界を突き進む柘榴に牽引されながら、コブラは思考の中で状況を整理する。
アーリマンの闇に取り込まれ、無に放り込まれてどれほどの時が経ったのかは分からない。
四肢の感覚はあり、思考も鮮明だ。
だが踏むべき足場も、見渡す地表も、見上げる空や太陽も無い。


柘榴の触手については、触れているという感覚はあるが、温度を全く感じない。
さらに不可解なのは、柘榴の形状である。
柘榴の体は竜のようであり、天使のようでもあるが、しかし翼も、二股の尾も奇妙な青白い触手で構成されている。



コブラ(不思議だ……こいつはどう見ても、正体の分からない怪物だ)


コブラ(なのに俺は、光に包まれていたとはいえ、コイツを年端も無い女の子だと思い込んだ)


コブラ(何故だ?…何が俺にそうさせたんだ?)



疑問に答える者とも出会うことなく、コブラは光の中を飛び続けた。
時間の感覚は確かにあるが、その感覚はコブラに時が進んでいないと告げている。
しかし、確かに何かへと近づいているという感覚もまた、コブラの中では強まっていた。
そして…



コブラ「!」



柘榴がコブラの手を離し、緩やかに上昇を始めた時…

コブラは、白光の中に更なる光を見た。

光はコブラの顔を、輝く両手でそっと包むと…



















535以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/11/01(木) 04:26:06.63Ze6aFrT80 (2/2)

ビュゴオオオオオオオォォォ!!!


ジークマイヤー「む……なん…なんの音だ?」ガチャッ…


洞穴の中を強い風が吹いているような音に、ジークマイヤーは眼を覚まし、身体を起こそうと両肘を石床に着く。
すると一文字に設けられた兜の視界の端に、ビアトリスの掌が見え、ジークマイヤーは顔を上げた。
ビアトリスは石床に手をつき、へたり込んではいるが、意識は明瞭なようだった。


ジークマイヤー「人が悪いではないか。起こしてくれても……」


と、そこまで言いかけたところで、ジークマイヤーは異変に気付いた。
白い光に照らされたビアトリスが、何かを凝視している。
いや、そもそも光がある事自体がおかしいのだ。
ジークマイヤーは、自身が闇の嵐に飲まれたことを思い出すと同時に、ビアトリスが見つめる光の光源を目で追った。


ジークマイヤー「なっ!?…こ、これはっ!?」


眩い白光に眼を奪われているのは、ビアトリスとジークマイヤーだけではない。


オーンスタイン「グウィンドリン様、この光は……この男に何が…」

グウィンドリン「分からぬ……だが、これは我ら神々の力では無い。このような力は、何者も持ち得ないだろう…」

グウィンドリン「王のソウルを与えられし者でも、このような輝きは……」

レディ「………」


意識を取り戻し、両手に槍持つオーンスタインも。
傷を癒され、ジークマイヤーの手から離れてオーンスタインの横に立つグウィンドリンも。
常に一定の冷静さを保ってきたレディも、皆一様に光の前に立ち竦んでいた。



クリスタルボーイ「バカな…貴様は今…」



コブラ「………」


クリスタルボーイ「今、確かに……俺の前で死んだはず…!!」




クリスタルボーイに見上げられているコブラは仁王の如く立ち、風を巻く轟音を辺りに響かせながら、全身に白金色の輝きを纏っていた。
光は爆発のように揺らめき続け、闇の嵐と対決し、嵐を部屋の四隅に押し詰めている。
更にはクリスタルボーイからアーリマンの影を千切らんばかりに遠ざけ、クリスタルボーイに片膝をつかせていた。
瞳なきコブラの両眼からも刺すような白光が漏れており、その双眸にコブラの意思は介在していない。
意識無いままの剥き出しの闘志と、執念を超えた力そのものとさえ思えるような“何か”が、コブラから噴火しているのだ。


ヒュイイイイイィィィ…


光の奔流の中で、コブラがサイコガンを天井へ向け構えると、サイコガンの銃口から、神秘の音と共に宇宙の輝きが立ち昇る。
深淵の闇に星々の光を湛えたその輝きは、サイコガンを包み、まとまり、サイコガンそのものを一振りの大剣へと昇華させ…


キイイィン!


大剣を流れる星々は終に一つとなり、蒼い月光と化した。
コブラは月光の大剣に右手を添えて、光を一瞬、より強く輝かせると、クリスタルボーイへ向け袈裟懸けに振り下ろした。



ヴァオオォォーーン!!!


クリスタルボーイ「オッオオオーーッ!!」



宇宙の輝きは暗い光波となってクリスタルボーイを呑み、結晶の肉体に無数の亀裂と穴を穿ち、その鉤爪を割った。
光に呑まれた二枚の竜翼は、その流れに千々と引き裂かれて砕け散る。角は熱泥に溶けゆく金のように崩れ、霧散した。
闇の嵐も輝きに打ち消され、女王の間を包む暗黒は晴らされたのだった。


536以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/11/01(木) 07:14:54.71xv/mnH0Oo (1/1)

エーブリエタースたんか!?


537以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/11/01(木) 07:29:09.02QTcSjXXDO (1/1)

え、まさかのブラボ?
コブラサイドは知らないしダクソにそんなの居たかなあと悩んでたら


538以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/11/01(木) 16:36:39.29L1JDyARp0 (1/1)

そういやビルゲンワースの教えっぽい言葉が出てたな


539以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/11/16(金) 04:17:49.51KNjYn5HK0 (1/2)

一際強烈な閃光に、部屋にいた者はコブラを除いて一様に怯み、不死などは背を丸めていた。
そして輝きが収まり、部屋に再び暖かな太陽の光が射し始めた時、早くに怯みから回復したオーンスタインが部屋を見渡した。


オーンスタイン「下郎め、逃げたか!」


部屋の中央には、幾らかの煌びやかな小片が散らばっている。
しかしそれらはクリスタルボーイの全身を構成するには少なく、かの者の黄金色の骨片も含んでいない。


バギッ!! ダダァーーン!


固く閉ざされていたはずの両開きの扉も、スモウの怪力によって引きちぎられ、倒れた。


グウィンドリン「器は持ち去られたか…あの者の気配も無い…」

オーンスタイン「しては、奴はすでにアノール・ロンドの外に?」

グウィンドリン「左様…うっ…」

オーンスタイン「グウィンドリン様!?」

グウィンドリン「いや…大事ない…先の光に傷は癒されている。力を吸われ、ややふらついているのだ」


レディ「コブラッ!」


グウィンドリン「!」


コブラは不死達に囲まれ、レディに抱き上げられているが、呼ぶ声には反応を示さない。
意識を失っているのだ。


ビアトリス「コブラ…今度はどんな無茶を…」

ジークマイヤー「し…死んではおらんのだろう?」

レディ「ええ、生きてはいるわ。でも…今彼に何が起きているのかは…」


グウィンドリン「………」


その昏倒しているコブラを見つめ、グウィンドリンは逡巡し、だが決心した。
護るべきものを奪われ敵を逃したとあれば、今この場で優先されるべき選択はひとつ。
敵を唯一退けた者を護ること。それはいかなる痛みと引き換えにしても余りある行いだった。
黒い外套の男の正体は知らず、しかしその灯火に纏わりつく影が如き執拗さと周到さを知るグウィンドリンは、予見したのだ。
負けるはずのない戦いにおいても、敗北を喫した場合の含み針は決して軽んじはしない。あれはそういう者なのだと。


グウィンドリン「四騎士の長とその従者、処刑者に命ずる」


オーンスタイン「!」

スモウ「!」


グウィンドリン「使命に挑みし者達と我が命を追手より護り、この死地を切り抜けよ」


ジークマイヤー「試練に挑みし…えっ?」

ビアトリス「かっ…神たる皆様方が、我々を護ってくださるのですか!?」

グウィンドリン「そうなるだろう。だが多くを望むな。これは決して我らからの恵みではないということを心せよ」

レディ「………」


グウィンドリン「これよりアノール・ロンドを放棄し、暗月の火防の元へ逐電する。その火の元にコブラを休め、暗黒神へと抗する術を探るのだ」


グウィンドリン「我が月と我が太陽に、そして我らに炎の導きがあらんことを」






540以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/11/16(金) 07:41:25.78KNjYn5HK0 (2/2)

グウィンドリンの号令の下、二体の黄金騎士は行動を開始した。
オーンスタインはグウィンドリンを抱え、スモウは右脇に2人の不死を、左脇に2人の異邦人を抱えて…


ズドドォーーン!!!

ビアトリス「うっ」

ジークマイヤー「うぷ!」


それぞれ二階から一階へと飛び降りた。


レディ「その兜の中で吐いたら地獄よ?」

ジークマイヤー「分かってる…うっぷ」


オーンスタインは主君を背負い直し、右手に槍を持つ。スモウは両脇に抱えた者共を離して、両手に大鎚を持った。
意識の無いコブラはレディに抱えられている。そのレディを皆で守るのだ。


オーンスタイン「スモウ、お前が先頭を行き、道を開け」

ドズン!


オーンスタインの声を聞いたスモウは返事もせずに一団の先頭に立ち、歩を進め始めた。
そのスモウ背中から少し離れた地点に、オーンスタインは槍を構え、彼の背にいるグウィンドリンは杖に魔力を輝かせる。
オーンスタインの背後にはレディが歩き、彼女の周囲を二人の不死が警戒した。
一団はつい先程死闘を演じた大広間を行き、広間の出口まで歩いたが、スモウは突如として脚を止めた。
ローガンの倒れた大広間の中央に立ち、一団に声を投げかけた者がいたからである。



母の仮面「何かと思えば……スモウ、貴様のような愚鈍が先頭では、危機の察知に遅れが出るじゃないか」



レディ「この声…!」

ジークマイヤー「仮面の騎士…やはり戻ってきたか…」

ビアトリス「先生…」



聞き覚えのある声にコブラの仲間達は戦慄したが、オーンスタインは臆せず声を発する。



オーンスタイン「貴様らの主人はすでに逃げたぞ、雇われ。もはや褒美も得られぬ戦いに、褒美のみを求める貴様らが何をこだわる」

母の仮面「ふふふ……褒美など、手渡しで有らずとも得られるではないか。私が仕えている法官が誰で何処にいようが、そんなもの私の知ったことでは無い」

母の仮面「私が主従に想うのは誓約の内容だけだ」

オーンスタイン「!」



母の仮面「倒した者の遺骸を漁り、好きなだけ武具を剥ぎ取れる誓約……まったく素晴らしい。かつて無いほど素晴らしい話ではないか」



オーンスタイン「世迷いごとを言うな。そのような外法な約定を成す神など、アノール・ロンドが建てられて後、今日に至るまで一柱たりとも生じてはおらんわ」

グウィンドリン「………」


仮面の騎士の言葉を否定しつつも、神々は皆確信していた。
だが、法官の正体を知らぬ敵対者を前にして、暗黒神アーリマンなどという名を口に出すわけにはいかなかった。
恐らくは不死人の騎士であろう者に闇の神の存在など、お伽話の一片でさえ匂わせてはならないのだ。


母の仮面「そうか…まぁいい。神だろうが悪魔だろうが、誓約が良ければ仕える者の本性なんぞどうでもいい」

母の仮面「私の目的はコブラから全てを奪うこと…珍妙な赤い服も、小洒落たベルトも、手の中に収めた触媒も全て私の物だ」


オーンスタイン「………」


母の仮面「しかし、流石は四騎士の長。敵対者が一人では無いことを見抜くとは」


541以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/11/20(火) 20:14:12.53ainhJUb20 (1/1)

ササッ…


仮面の悪霊の声に笑みが含まれると、両の足先を青く光らせた者達が、大広間に舞い降りた。

苔むした石の大剣を握り、盗賊装衣に身を包んだ者。
左手にガーゴイルの斧槍を持ち、右手に短刀を持つ重装騎士。
黒い重鎧から生足と細腕を覗かせ、両手にレッサーデーモンの槍を握る者。
身の丈ほどもある大弓を担ぎ、右手に杖を持つ革鎧の軽装騎士。

いずれの者も、密やかながら異様な陽気を放っており、彼らの眼には少年の如き純粋な黒い輝きが灯っている。
恐れるものなど何も無く、広い世界に快楽を求めるその八つの瞳の焦点は、定かではない。


グウィンドリン「我を降ろせ、竜狩り。スモウのみでは手に余る」

オーンスタイン「!…しかしそれでは…」

グウィンドリン「案ずるな。ソウルを吸われたとて、我には暗月の光がある。貴公は力を振るわれよ」

オーンスタイン「………」


命を受けたオーンスタインは音もなくグウィンドリンを降ろすと、スモウの背後から抜け出て…

ジャキィン!

十字槍を中段に、敵対者たちへ向け構えた。



母の仮面「残念だよ。私の友を見抜いたというのに……なんだその諦めの悪い構えは。まるで負ける事など眼中にないようじゃないか」

オーンスタイン「たかが不死などに遅れは取らん」

母の仮面「分かってないな。取ったからこそ私達はここにいるんだ」

オーンスタイン「なに?」


シュゴォーーッ!!


革鎧の軽装騎士の杖から迸り出たソウルの槍は…


シュバァン!!


オーンスタインの槍に斬り弾かれ、二つに別れて空中に消えた。



ジークマイヤー「今の音……」

ビアトリス「ソウルの槍!先生が戻ってきたんだ!」

レディ(でも、彼だとしても一体何に向かって魔法を撃ったの…?)

グウィンドリン「違うな、あれは貴公らの同胞ではない」

ビアトリス「!?」

グウィンドリン「既に我らを知る者に、姿を隠す事も無かろうな」

グウィンドリン「退けよスモウ。皆で戦うべき敵のようだ」


主君に促されたスモウは一歩身を引き、グウィンドリンと不死達、二人の異邦人を敵対者たちの眼に晒す。


ビアトリス「そんな…まさか、さっきのソウルの槍は…」

ジークマイヤー「仮面の悪霊!?やはりまたしても……」

レディ「あれが仮面の騎士……」



母の仮面「なんと…嬉しいぞ…なんて淫麗な全身鎧だ…!」

母の仮面「やはりあの法官の誓約を受けて正解だった……私はこの出会いに感謝する!」



542以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/11/26(月) 01:50:22.771PDF737dO (1/1)

なんて良スレを見つけてしまったんだ……ぐあああ仮面巨人の狙いが気になるウワァァァァ


543以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/12/03(月) 12:36:07.19IXTofyRq0 (1/1)

カッ!

ジークマイヤー「むっ!」

キリキリキリ…


軽装騎士は杖を懐にしまうと、大弓を石床に突き立てて矢をつがい、引き絞る。
不死達は身構え、神々の眼は敵対者たちの気配が一層膨張する瞬間を見た。


バヒュ!!


大矢が放たれると同時に…


ババッ!


仮面の騎士とその仲間たちは駆け出した。
飛翔した矢はやはり十字槍に弾かれたが、矢の主はまるで臆さず、仮面の騎士を先頭に疾走を続ける。
その疾走に向け、ビアトリスとグウィンドリンの杖が光った。


グウィンドリン「五月雨矢だ、魔女よ」サッ

ビアトリス「っ!」サッ

ドヒュヒュヒュゥーッ!!


敵対者たちに対してグウィンドリンが放ったソウルの矢は、ビアトリスの知る魔法の常を大きく外れていた。
花のように開いた蒼色の光は、打ち水の如く空中で弾けて数十もの光弾となり、光の尾を引きながら敵対者に殺到する。
その神の力に一瞬ひるんだビアトリスだったが、すぐさまグウィンドリンの意図を汲み、自らは狙いを澄ましたソウルの太矢を、輝く雨に忍ばせた。


ビュオオオッ!!


風を切って舞い込むソウルの矢を、敵対者たちは人並み外れた身のこなしによりかわす。
ある者は鞠の如く転がり、ある者は己を透過させるが如き最小の挙動で脅威から逃れていた。
だが、そのような者達にも回避のしようがない脅威はある。

重装騎士「!」バスン!

盗賊「ぬっ」バシィン!

動作の終わり際を狙われては、いかに身軽といえど回避のしようもない。
無秩序に殺到する輝きの雨に凶弾が紛れているとあっては、回避どころか見極めすらも困難だった。
だが敵対者達の疾走は止まらない。死すらも彼らの情熱を止めることができないのだ。


オーンスタイン「構えい!」


竜狩りの号と共にスモウは大鎚を構え、ジークマイヤーは盾を背に掛け、特大剣を両手に握る。
しかしレディはフランベルジュは抜くことができない。彼女の胸の内にあるコブラはまだ、深い眠りに落ちている。
そして仮面の騎士の脚が、竜狩りの制空圏へと触れる瞬間…

盗賊「………」ザザッ

盗賊は脚に力を入れて急停止。
両手に持った石の大剣を掲げた。


ヴォン…!


ジークマイヤー「むっ!?」

レディ「えっ!?」

ビアトリス「!」


苔むした石の大剣から発せられた黄緑色の空気の波は、神の身にあらぬ者達の両脚にしがみつき、見えぬ重りを吊るす。
闘いをやめるように懇願し、祈るようなその力はしかし、二人の不死と一人の異邦人から闘いを回避するためにある脚の自由を奪った。


ガキィーーッ!!


オーンスタインの繰り突きを仮面の騎士は結晶に覆われた盾で防いだ。
盾の結晶は槍を覆う雷のほとんどを宙へと散らし、ごく低い電圧を仮面の騎士の鎧に漏らすだけだった。


544以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/12/03(月) 15:26:22.59Ma1tF/S20 (1/1)

ダクソわからんが察するに敵の使ってる武器はどれもこれも強力なボスから毟り取ったチートじみた逸品なのかな


545以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/12/04(火) 23:36:53.175Y3w7RH10 (1/1)

竜狩りと鍔迫る仮面の騎士の鎧には、コブラに刻まれた損壊が無い。
割られた仮面も元に戻っており、それらの防御効果は揺るぎない。


オーンスタイン「結晶とはな……如何にして王の封印も解かずに白竜公の書庫に忍び入った」

母の仮面「あの封印なら何度も解いた。貴様に言っても分からんだろうがな」


ガキィッ!!


オーンスタイン「!」

ジークマイヤー「ぬおおお!!」

ガァン!キィン!


竜狩りと仮面の騎士が短い問答を交わしている間に、仮面の騎士の同業者達は二人の不死と二柱の神々に斬りかかっていた。
ビアトリスとグウィンドリンの展開する弾幕にジークマイヤーとスモウは守られているが、仮面騎士の同業達は野犬の如く二柱と二人に纏わりつき、矛や刃を執拗に振るっている。
その矛も刃も、ジークマイヤーとスモウに切り払われていたが、特大剣と大鎚での剣勢には剣速に限りがある。

ダッ!

オーンスタインは同胞と主君に助太刀すべく踵を返し…

ガヅッ!!

背中にクレイモアの突きを貰った。
クレイモアは剣身に混沌を秘めており、混沌の炎はオーンスタインの背面鎧を赤熱させた。


母の仮面「なに余所見している。まだ私は死んでいないぞ」

オーンスタイン「貴様…」



ジークマイヤー「ええい鬱陶しい!!」ブーン!!

デーモン槍の騎士「クスクスクス…」ササッ

ビアトリス「無闇に振ってもダメだ!こちらは脚を抑えられている!剣筋を読まれて隙を突かれるぞ!」

ジークマイヤー「しかし我慢ならん!堂々と闘わず一太刀振っては逃げ回るの繰り返しなど、騎士の闘いではない!」


軽装騎士「騎士の闘いときたぜ」シュタタタ…

盗賊「くだらんなぁ。勝てばよかろうに」シュタタタ…


グウィンドリン「………」


敵対者達の煮え切らぬ戦運びに不死達が苛立ち始める中、グウィンドリンはソウルの雨を放ちつつ、密かに熟考していた。
一見単調な敵対者達の動きにも理由があるのだ。
苛立ちなどは戦において必ず沸き起こる感情であり、苛立ちが過分な敵意へと変わるのも必然である。
過分な敵意は過分な攻撃性へと繋がり、過分な攻撃性は無謀の起点となる。敵対者達は一人孤立する者が生じる時をひたすら待っているのだ。


グウィンドリン「賢しいな。あくまで誘うというならば見せてやろう」

ビアトリス「えっ?」

シュオオオオォォ…

ビアトリス「え…うそ…」


杖を高く掲げ、蒼い嵐を杖先に巻き起こし始めたグウィンドリンを見て、ビアトリスは驚愕した。
神の大魔法に驚いたというのもあるが、それ以上に驚くべき事態に、彼女は唖然としたのだ。
ジークマイヤーのように戦に様式を求める訳ではないビアトリスは、思慮を重んじ、戦況というものを読むよう努めている。
故に彼女は敵の動きに挑発の意思が含まれれば察知し、決して乗るまいと努めるのだ。
その最大限かつ微々たる努力による戦略構成を、事もあろうに神が御破算にしたのである。


ブオオオォーーッ!!


杖を中心に渦巻くソウルは解放され、ソウルの雲となって大広間の天井を埋め、敵対者達に降りかかった。
文字通り雨の如く降るソウルの矢を避け切る事は不可能であり、敵対者達は皆、一・二発の被弾を許した。
だが、このソウルの雨は決定的な威力に欠けていた。手や足を撃ち、血を流させる事は出来ても、脳や心臓、心を打ち砕くには足りないのだった。


546以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/12/07(金) 20:16:29.45S9m+e/He0 (1/1)

周回勢強いな……SL無視でマッチングするようになったロードランだと考えたら地獄すぎた


547以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/12/10(月) 18:41:34.86cTCnWpQ+0 (1/1)

ジークマイヤー「ふおお…なんと…」

ビアトリス「っ…!」シュイィーッ!


吹き荒れるソウルの雨に敵対者たちの動きが鈍り、ジークマイヤーの注意が散漫になる中、ビアトリスは突如変わった自陣の戦法に対応すべく、ソウルの太矢による狙撃を再度行う。
狙撃はやはり一定の効果があり、敵対者たちは竜狩りと一騎打ちに興じている仮面の騎士を除いて、次々と撃ち抜かれた。
だが敵対者たちはビアトリス同様に不死立っている。エストが彼らの傷を癒す限り、必殺足り得ない加撃をするだけビアトリスの魔法が損耗されるのみ。


ダン!

ビアトリス「やはり…!」


それを知ってか、ソウルの雨から逃げ回りつつ隙を伺うなどというまどろっこしさを捨て、一直線にコブラへ向かって走り出した者がいた。
斧槍を持った重鎧の騎士。彼の眼はフルフェイスの兜に隠され、情熱に燃えていた。
グウィンドリンが広げた雲は徐々に薄くなり、ソウルの雫も数を減らしていく。

シュバン!!

そのフルフェイスの兜をソウルの太矢が撃ち抜く。
兜には踵程の大きさの穴が空き、穴の闇からは脳漿が吹いた。

ガッ!

ビアトリス「なにっ!?」

しかし重装の騎士は倒れず、駆ける脚には淀みすら無い。


ボグシャアアーーッ!!!


スモウの大鎚を上半身に貰い、おびただしい量の血を鎧の隙間から噴き出しても…


ガッ!

ビアトリス「ば、馬鹿な!」

ギャリギャリギャリィ!!


重装騎士は力強く踏み止まり、大鎚側面に身体を擦り付けるようにしてスモウの得物から脱出し、再度コブラの元へ走り始めた。
重装騎士の胆力に敵対者たちは歓喜して、動きを一つに一斉に地を蹴った。
狙いは面倒な砲台。弾幕を展開するだけの能力を持つグウィンドリンである。


ブオオオォーーッ!!


天井の雲から振り続けるソウルの雨に加え、グウィンドリンは右手の杖から新たにソウルの雲を放ち、更なる雨を降らせた。
重装の騎士を除く敵対者たちの脚は再び回避を強制されたが、彼らに焦りはない。
彼らの目的は砲台の無力化にある。左手の盾で矢を受けたならば、右手の剣で敵を突けば良いのだ。


ドガーッ!!

ビアトリス「グッ!」


重装騎士はビアトリスを跳ね飛ばし…


ジークマイヤー「止まれいっ!!」ガコォーン!!


ジークマイヤーの横振り左手で受け…


ジークマイヤー「おおお!?」バギーッ!


左手を振ってジークマイヤーごとツヴァイハンダーを払いのけた。
左手の手甲からは折れた骨が突き出たが、重装騎士の走りは揺るぎない。


レディ「クッ…!」サッ


レディはコブラを片手で支え、余った手でフランベルジュを握った。
しかしフランベルジュは半ばから折れている。とても全身全霊を賭けて振り抜かれるであろう斧槍を受けきれる状態では無い。
だがそれを承知でレディは剣を構えた。その命を捨てることになろうとも、レディはコブラと共に死ねるならばそれも本望に思っていた。


548以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/12/11(火) 01:19:07.96YaGE1yn00 (1/1)

ドスドスドスドスッ!!


重装騎士「!」

レディ「!」

ビアトリス「ああっ!?」



コブラ目掛け振り上げられた斧槍は、振り上げられた頂点で静止した。
月色に輝く4本の矢に正中線を貫かれ、重装の騎士は動きを止めていたのだ。


グウィンドリン「………」


軽装騎士「おお?」

盗賊「その手があったか…」


グウィンドリンのソウルの雨は多くの魔法と同じく、発現してしまえば杖による制御を必要としない。
挑発に掛かる演技でソウルの雨を展開したグウィンドリンは、後は雨を残しつつ一人なり二人なりを誘い寄せ、コブラの元へ招くだけでよかったのだ。
王手を刺さんとする者は舌なめずりをするか、視野を狭めてひたすら剣を振るうだろう。その背中は赤子の背のようにかわいらしいというのに。


重装騎士「!…!…!…」


重装騎士は腸を抜かれ、横隔膜を抜かれ、心臓を抜かれ、中脳を抜かれて尚も倒れず、斧槍を力強く握っている。その手を、レディが指で軽く押すと…


グガシャーッ!

ビアトリス「お…おおおぉ~…」


重装騎士は倒れ、鎧と共に空中に姿を消した。竜狩りと鍔迫り合う仮面の騎士は溜息を吐く。


母の仮面「呆れた…己の戦略に己を掛ける馬鹿がいるか」

オーンスタイン「友に恵まれなかったようだな」

母の仮面「友?やめてくれないか」


ガギッ!ズザザザッ…


竜狩りの腹を蹴り、飛翔した仮面の騎士は転がるように着地。しかし竜狩りは仮面の後を追わない。
深追いの愚を見た後では行く気など起きるはずもなく、そもそもオーンスタインは深追いに用心を加えるを良しとしていた。
仮面の騎士は腹の底で竜狩りの甘さを嘲笑し、結晶の盾を捨てて新たな草紋盾を背負い、クレイモアを両手に持ち直す。



グウィンドリン「闇の子らよ、臆したか。それとも騎士たるを重んじるか」

デーモン槍の騎士「ほほっ…仕返しかい」

盗賊「フン」

軽装騎士「………」


竜狩りの一騎打ちを他所に、グウィンドリンは敵対者たちへ意趣を返す。
かつて神の軍を率いた神国の騎士が、馬の骨如きに引けを取ることはあり得ないという、確固たる信頼がグウィンドリンの心胆を滾らせるのだ。
その堂々たる立ち振る舞いを見て、ビアトリスは一瞬でも彼の神を疑ってしまった己を恥じるとともに、瞳に崇敬の光を灯す。
そしてその崇敬の光を見たのはジークマイヤーも同じだった。彼はグウィンドリンを疑いはしなかったが。


グウィンドリン「貴様らが矛を収めるのならば、我らも槍を退かせ、ここより去ろう」

軽装騎士「去るだと?まだ貴様の僕と仮面の騎士が闘っているだろう」

グウィンドリン「竜狩りは殿を務める。あれも我が騎士だ。我らが去る頃には任を終え、我らの元に帰るだろう。スモウ、鎚を納めよ」

スモウ「………」ズズズ…

軽装騎士「……てめえ」


大弓を背負う騎士は、かつて己が味わった事も無い程の侮辱に、己らが晒されている事を自覚はしていたが、飛び掛かるを望む衝動を抑えた。配下の者に得物を下げさせるのも、歩き去るという意思表示も、全てはハッタリの臭いを漂わせる見え透いた罠である可能性もあるのだ。


549以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/12/11(火) 02:00:57.19KjA/PzlYo (1/1)

殺しても復活しちゃうからなぁ
なんとか半殺しにして拘束出来たらいいが人数多いとそれも厳しい…


550以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/12/17(月) 22:12:24.666KBiMhVu0 (1/1)

母の仮面「だらしのない…やはり信用できんな」


ガキキッ!!


追撃に躊躇する同業者達を横目で見つつ、仮面の騎士は己に向かって振り下ろされた十字槍をかわした。
槍は石床を叩き、細かい石片を散らせる。

ダン!

突如グウィンドリンへ向けて踵を返し、駆け出した仮面の騎士だが、竜狩りの対応に遅れは無かった。
オーンスタインは右手の槍を持ち直しつつ、左手に小さな雷を纏わせると、それを槍状に束ねて放った。
コブラに投げつけた大槍とは違い、その槍は小さく細く、軽い。だが突かれた者はただでは済まない。


バシュン!

オーンスタイン「!」


しかし、仮面の騎士は背後から飛来する槍を一瞥すらせず回避した。
槍は空中を進んで柱に当たって消え、オーンスタインは突進の構えを取る。


ガッ!


仮面の騎士が駆け出した事を好機と捉えた軽装の騎士は、大弓の固定具を石床に突き立てた。
デーモン槍の騎士は緑花草という体力増強効果を持つ野草を口に放り、盗賊服の者は再び大剣に力を込める。
だがグウィンドリンとビアトリスもまた、杖に魔力を光らせていた。


ドヒュン!!


軽装騎士の放った大矢を…


ジークマイヤー「ふん!!」ガキィン!!


カタリナの騎士は特大剣で打ち落とした。
だが特大剣は二の太刀を生みにくく、使い手の隙も潰してはくれない。


デーモン槍の騎士「馬鹿が!」ババッ!

ドカッ!!

ジークマイヤー「ぐはっ!」


デーモン槍による渾身のランスチャージを横っ腹にもらい、ジークマイヤーは大きく体勢を崩した。
だが、その槍が回転してジークマイヤーの腑を裂く前に、ビアトリスの魔法はデーモン槍の騎士に届いていた。


デーモン槍の騎士「グッ!」ドパッ!


ソウルの太矢に吹き飛ばされ、デーモン槍の騎士は槍をそのままにジークマイヤーから離れた。
得物を失った騎士の手には短刀のみが残される。しかしこれで、ビアトリスは数秒ほど無防備になった。


ヴッ!


その隙を活かすべく盗賊は石の大剣を掲げ、刃から平和たるを祈る魔力を放たんと力を込めた。


グオワアアァーーッ!!!


が、その魔力はクリスタルボーイの表皮を焼いた蒼色の爆発に掻き消された。
グウィンドリンが放った圧倒的な破壊力に、粗末な盗賊服が耐えられるはずもなく、盗賊服の男は身体を千々に引き裂かれて塵になってしまった。
貴重な戦力をまたも失った仮面の騎士は、仮面の内でほくそ笑んだ。


ドン!!!


竜狩りの突貫が、仮面の騎士の背中を貫き、帯電した刃先は仮面の騎士の片肺をしぼませる。
仮面からは血が溢れ、槍先を覗かせる右胸から噴き出た血は、グウィンドリンの顔を汚す前に雷に焼かれ、消えた。
仮面の騎士の右手中指には、暗蒼の輝きを放つ指輪がはめられている。だが手甲に隠れたそれを見抜ける者は少数に限られる。
幸いグウィンドリンはその一柱だったが、死にゆく者の手甲の中などには、別段興味があるわけでも無かった。


551以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2018/12/29(土) 05:36:00.45LAqz379u0 (1/1)

暗蒼に輝く一つの指輪。
それはかつて、グウィンドリンがよく知る一柱が身につけ、多くの逸話と名誉をアノール・ロンドにもたらした。
指輪には本来、力は無い。指輪の持ち主である神国の騎士の戦いが、強靭高潔なその魂が、いつしか指輪に力を染み込ませていたのだ。
グウィンドリンには見抜けるはずもない。指輪の主人たる狼の騎士はすでに亡く、指輪は永遠に神代から失われているのだから。


ズルッ

ビアトリス「!?」

グウィンドリン「!」

オーンスタイン「なっ…」


竜狩りが驚愕を声に出した時、十字槍に血と臓腑の一部を残して、仮面の騎士は既に跳躍していた。
指輪が与える強靭なる精神力は、仮面の騎士の脳から春の淡雪の如く痛みを消し去っている。


ガッ!!


仮面の騎士のクレイモアがグウィンドリンの杖に打ち込まれた時…


バキャッ!


グウィンドリンの長杖は砕け折れた。
神代の宝具は暗黒の力をその身に受け、既に限界を迎えていたのだ。
杖を砕いたクレイモアは、グウィンドリンの首筋向け刃を滑らせ…


ズカーッ!!

オーンスタイン「!」



スモウの右掌を貫き、グウィンドリンの細首を斬ることなく、その動きを止めた。



グウィンドリン「スモウ!」

スモウ「………」


スモウは、かつて敵の前でただの一度も大鎚を手放さなかったが、今その両の手の指は、大鎚の握りに置かれていない。
巨大な盾ともなり得る大鎚を投げ捨て、咄嗟に動いたからこそ間に合った右掌からは、ソウルの白光が漏れている。



ドカッ!!


クレイモアの持ち主、仮面の騎士の首がオーンスタインの槍先に跳ね飛ばされた直後…


ドスッ!!

ビアトリス「あっ!」


スモウの脚の腱に軽装騎士の大矢が深々と突き刺さった。
後悔しながらもビアトリスは杖に魔力を込めるが、彼女の悔いは彼女の身に余る。
神がまさに殺されんとした瞬間に、その神から眼を離せるほど、ビアトリスは神秘を否定できる人格を持ち合わせていなかった。


ボォン!!

軽装騎士「ぬぅ!」


ソウルの太矢に肩を撃ち抜かれ、よろける軽装騎士。


バシューーッ!!

軽装騎士「がっ!」


その腹を、竜狩りの十字槍は貫いた。



552以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/05(土) 06:42:06.30zhk6enN+0 (1/1)

オーンスタイン「散華せよ!」

バヂイィィーーン!!!


激しい電撃に内臓から頭髪までを焼かれ、軽装の騎士は火にくべられた油の如く弾け飛び、沸騰した血肉と共に装備を辺りにばら撒いた。
撒かれた血肉は焼け焦げた臭いを放ちつつも、霞のように空気に溶け込み、装備も形を崩していく。


オーンスタイン「お怪我は!?」

グウィンドリン「大事ない。ただ、錫杖が折られてしまった」


竜狩りに応えたグウィンドリンの視線はしかし、折れた長杖に注がれていた。
純白の長杖の断面はひび割れ、所々に雨錆のような黒い染みを浮かび上がらせている。



デーモン槍の騎士「………」



一人残された敵対者は動けずにいた。
槍を失い、短刀を構えてからわずか数秒で、仮面の騎士を含めた全ての同業者達を失ったという事実に心を折られたのだ。
今や騎士の頭の中を巡るのは、コブラの装備の質ではなく、死地からの数多ある脱出法だった。


ジークマイヤー「ふん!ここに来てまさか降参とはなるまい」グビッ

スモウ「………」ズボッ…


その数多の脱出法も、急速に成功の確率を落としていく。
槍を腹から引き抜いたジークマイヤーの負傷は、その手に持ったエストに癒され、スモウの脚からは大矢が抜かれた。
だが、彼らを率いる暗月の君主は、彼らに攻撃命令を下さなかった。


グウィンドリン「やめよ」

スモウ「………」

ジークマイヤー「?…何故でございますか?」

グウィンドリン「短剣のみでは動けぬ者は、殺してはならぬ。殺せば槍もこの者の手に戻り、再び我らに挑むだろう」

ジークマイヤー「では、この槍は…」

グウィンドリン「貴公の物だ。さて敵対者よ」

デーモン槍の騎士「!」


グウィンドリン「この槍を砕かれたく無くば、我らにどう処するべきかも分かっていような」


デーモン槍の騎士「……俺を脅すのか…神が…」

グウィンドリン「ならば試練と取るがいい。神々を見送るだけの、容易い栄誉に浴せよ」



グウィンドリンの言葉に神なりの慈悲があるなどとは、デーモン槍の騎士はもちろん考えていない。
敵対者に残された選択肢は三つ。
帰還の骨片という不死の小骨片の神秘を使い、武器を失い城内の篝火の元へ戻るか。
対多数などには全く使えぬ短刀を頼みに、三柱の神や二人の不死と斬り結ぶか。
槍を諦めて神々を逃し、その場に留まり同業者達の復活と再集結を待つか。
どれを選ぶにせよ槍は諦めなければならない。神の原盤を注いだ槍を失う事に耐えられない敵対者にとって、二つ目ではないのならどちらでもいい。
そして敵対者は、所持品をより消耗しない方を選んだ。


デーモン槍の騎士「………」

グウィンドリン「賢明だ。オーンスタイン、先導を」

オーンスタイン「御意」


槍を立て、オーンスタインは再び一団を率いて歩を進め始める。
スモウは大鎚を拾い上げ、ジークマイヤーとビアトリスは敵対者に警戒の目を向けつつも、敵対者の前を通り過ぎる。
その敵対者の目線はというと、歩き去り行くレディとコブラに向けられていた。

二人を見ながらも、デーモン槍の騎士は考えていた。
敵を殺さずして無力化するというのなら、何故自分は今、武具を剥がれず所持品も奪われないまま、捨て置かれているのだと。
騎士は見抜いていたのだ。暗月の君主には略奪の時間さえも惜しく、それ程までに戦力の疲弊が著しいことを。


553以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/06(日) 00:02:36.71JcSsiuvKO (1/1)

まだやってたか追いかけるは


554以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/10(木) 05:39:47.686CS5iLrL0 (1/1)

そして、その事実を見抜いていたのは、デーモン槍の騎士だけではなかった。


ゴリゴリゴリ…ガキン!

レディ「?…今の音は…」

オーンスタイン「大扉の仕掛けが動いた!スモウ!」バッ!

スモウ「!」ドドッ!!


大広間の隅に設けられた回転式のレバーが、ひとりでに動くと、開かれたままの大扉が閉じ始める。
スモウは大扉へ駆け、オーンスタインは回転式レバーの元へ跳んだ。
レバーには透明な手が掛けられていたが、その手はオーンスタインの接近を感じとり、透明な特大剣を抜き…


ガゴオォーーッ!!

オーンスタイン「しまった!」


オーンスタインの槍が振られる前に、レバーの可動部を叩き斬り、仕掛けを破壊した。
制御機構を失った大扉は動作を止める事なく、ゆっくりと正面入り口を閉ざし始めたが…


ガキッ!!

ジークマイヤー「おおっ!」


張りつめられたスモウの両手が、その動きを阻害した。


スモウ「………」ミシミシ…

グウィンドリン「何事か」

オーンスタイン「失われた濃霧の指輪でございます!構えよ!不死達よ!」バヒュッ!!」


レバーの防衛に失敗したオーンスタインは、グウィンドリンの元へ跳びのき、槍を構えると共に不死達に警戒態勢をとらせた。
グウィンドリンと、コブラを抱えたレディを守るように、二人の不死とオーンスタインは円周防御の陣を組む。


デーモン槍の騎士(濃霧の指輪だって?……じゃあまさか、こいつは…)

オーンスタイン「姿を全く消した敵が、大扉の仕掛けを打ち壊したのです!ご注意をッ!」

ジークマイヤー「敵!? 敵などどこにいるのです!?」

ビアトリス「だから姿を消していると申されているだろっ!浮遊するソウルで探ります!」ヒュイィッ…

グウィンドリン「濃霧の指輪…白猫アルヴィナの封印せし失敗が何故…」

オーンスタイン「掘り出した者がいるのでしょう。不死達よ、この陣のままスモウの元へ」


姿の見えない新たな敵対者を警戒しつつ、二柱と四人はスモウがこじ開けている扉を目指す。
遅々としたその歩みは、欠如なく警戒意識を維持するためのものだが、歩みは事実、謎の敵対者の動きをある程度は封じた。
下手に歩みを速めれば、重装のジークマイヤーか、素早く動けぬビアトリスか、得物を折られたグウィンドリンか、コブラを抱えるレディか、いずれかの脚は必ず乱れる。
敵対者はその乱れを期待し、オーンスタインはその乱れを抑えた。そして観念したのは敵対者の方だった。


シュイイィーッ!!

ビアトリス「!」

ジークマイヤー「えいやぁぁーーっ!!」ブン!


浮遊するソウルは姿なき敵対者を明確に捉え、その者が立つであろう地点へ向け飛んで行った。だがソウルの光球は全て空を抜け、空中で消えた。
ジークマイヤーは特大剣を上段に構えたが、振るべき相手が見えないのでは、構えはむしろ隙となった。


ギンッ!!


しかし、その隙を活かしたのはオーンスタインだった。
味方の隙は敵の隙になり得る。ジークマイヤーの眼前を通り過ぎた十字槍の横一閃は、確かに金属を削り…

ジークマイヤー「お、おお…」


何者も立たぬ空中からは一筋の赤色が流れ、僅かに石床に滴った。


555修正版2019/01/16(水) 07:07:10.18cUl7YnTu0 (1/3)

そして、その事実を見抜いていたのは、デーモン槍の騎士だけではなかった。


ゴリゴリゴリ…ガキン!

レディ「?…今の音は…」

オーンスタイン「大扉の仕掛けが動いた!スモウ!」バッ!

スモウ「!」ドドッ!!


大広間の隅に設けられた回転式のレバーが、ひとりでに動くと、開かれたままの大扉が閉じ始める。
スモウは大扉へ駆け、オーンスタインは回転式レバーの元へ跳んだ。
レバーには透明な手が掛けられていたが、その手はオーンスタインの接近を感じとり、透明な特大剣を抜き…


ガゴオォーーッ!!

オーンスタイン「しまった!」


オーンスタインの槍が振られる前に、レバーの可動部を叩き斬り、仕掛けを破壊した。
制御機構を失った大扉は動作を止める事なく、ゆっくりと正面入り口を閉ざし始めたが…


ガキッ!!

ジークマイヤー「おおっ!」


張りつめられたスモウの両手が、その動きを阻害した。


スモウ「………」ミシミシ…

グウィンドリン「何事か」

オーンスタイン「失われた濃霧の指輪でございます!構えよ!不死達よ!」バヒュッ!!


レバーの防衛に失敗したオーンスタインは、グウィンドリンの元へ跳びのき、槍を構えると共に不死達に警戒態勢をとらせた。
グウィンドリンと、コブラを抱えたレディを守るように、二人の不死とオーンスタインは円周防御の陣を組む。


デーモン槍の騎士(濃霧の指輪だって?……じゃあまさか、こいつは…)

オーンスタイン「姿を全く消した敵が、大扉の仕掛けを打ち壊したのです!ご注意をッ!」

ジークマイヤー「敵!? 敵などどこにいるのです!?」

ビアトリス「だから姿を消していると申されているだろっ!浮遊するソウルで探ります!」ヒュイィッ…

グウィンドリン「濃霧の指輪…白猫アルヴィナの封印せし失敗が何故…」

オーンスタイン「掘り出した者がいるのでしょう。不死達よ、この陣のままスモウの元へ」


姿の見えない新たな敵対者を警戒しつつ、二柱と四人はスモウがこじ開けている扉を目指す。
遅々としたその歩みは、欠如なく警戒意識を維持するためのものだが、歩みは事実、謎の敵対者の動きをある程度は封じた。
下手に歩みを速めれば、重装のジークマイヤーか、素早く動けぬビアトリスか、得物を折られたグウィンドリンか、コブラを抱えるレディか、いずれかの脚は必ず乱れる。
敵対者はその乱れを期待し、オーンスタインはその乱れを抑えた。そして観念したのは敵対者の方だった。


シュイイィーッ!!

ビアトリス「!」

ジークマイヤー「えいやぁぁーーっ!!」ブン!


浮遊するソウルは姿なき敵対者を明確に感知し、敵対者が立つであろう地点へ向け飛んで行った。だがソウルの光球は全て空を抜け、宙空で消えた。
ジークマイヤーは特大剣を上段に構えたが、振るべき相手が見えないのでは、構えはむしろ隙となった。


ギンッ!!


しかし、その隙を活かしたのはオーンスタインだった。
味方の隙は敵の隙になり得る。ジークマイヤーの眼前を通り過ぎた十字槍の横一閃は、確かに金属を削り…

ジークマイヤー「お、おお…」


恐らくは跳び退いたのだろう。何者も立たぬ空中からは一筋の赤色が流れ、僅かに石床に滴った。


556以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/16(水) 07:29:11.35cUl7YnTu0 (2/3)

「勘がいいな…冴えている」


宙に浮かぶ赤い筋が言葉を発した。
だが、その赤い筋も徐々に薄れ、透き通っていく。


「今までの者とは違う。霧は外そう。このままでは事故が起きそうだ」

オーンスタイン「今までの者とは誰だ。先の仮面の騎士の口ぶりといい、我らの同胞といくらか剣を交えたようだが」


透明な者は、オーンスタインの問いかけに答えなかった。
問いによって敵の隙と心を探り、戦意をそらし、友や主を逃すという策など、透明な者は飽きるほど見てきたのだ。


スッ…


透明な者はただ、透き通る右掌に左掌を掛け、指輪を外した。









父の仮面「では、改めて」








完全な透明を解いた新たなる敵対者は、先の仮面騎士と同じく、巨人の黄銅鎧を身に纏っていた。
だが手に持つ剣はクレイモアより重く、大きく、被る真鍮仮面は巻きひげと巻き髪をたくわえている。


ジークマイヤー「仮面の悪霊!?しかし、仮面が…」

ビアトリス「声も男の声だ…まさか組で動いているのか…?」

ズッ…


新たなる仮面騎士が、黒鉄色の特大剣、グレートソードを腰溜めに構える。
しかしジークマイヤーは円盾を構えず、ビアトリスもソウルの矢を発さなかった。
仮面の騎士と一団の間には無意味とも言える『間』が空いている。

その間は槍斧に手応えを与えず、槍に血をつけない程の広さだった。
よほど遠くに跳び退いたのか、ランスチャージさえも可能なほどに彼我の距離を空けて剣を構える敵対者には、オーンスタインにさえも一部の隙を生んだ。
刃先を十倍にでも伸ばさぬ限りは、弾かれる権利さえ持てない剣など、槍を持つ神が受けようはずもないのである。


ブン!!

オーンスタイン「!?」

ガギイイィーーッ!!!

ジークマイヤー「!?」

ビアトリス「えっ!?」


だが仮面の騎士は剣を伸ばしてみせた。
人ならざる一撃を胸に受け、オーンスタインは両脚を浮かせる。
ただし、仮面の騎士とオーンスタインの間を通った鋼鉄の特大剣など、誰の眼にも映ってはいない。


ガシャッ!


オーンスタインが着地すると同時に…


ダダッ!


仮面の騎士は駆けた。
しかしその両足裏は、石床の上をまるで絹のように滑り、一歩たりとも竜狩りとの間を詰めてはいなかった。


557以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/16(水) 08:34:30.87cUl7YnTu0 (3/3)

スッ スッ スッ スッ…


ジークマイヤー「な、なん…?…なんだ?何をしている!?」

ビアトリス「幻影?……虚像なのか…?」

オーンスタイン「…これは…」


石床の上を空振りし続ける両脚など気にも留めていないように、仮面の騎士は、石床を組む一枚の石版の上で駆け続けた。
だが、仮面の騎士の足音は大広間中を駆け回り、一団の周りを取り囲んでいる。


デーモン槍の騎士「はは…はははは!お前らはもうおしまいだ!他の英雄様と同じく、お前らはロードランを彷徨う仮面の悪霊の餌食になるのさ!」

ジークマイヤー「ぬ、ぬかせ!このような幻術、今すぐにでも…」


ドカーーッ!!


ジークマイヤー「!!」

デーモン槍の騎士「ぐはっ…お…お前…」


無力となった敵対者の重鎧の胸から、赤黒く濡れた大刃が突き出た。
オーンスタインが見ると、進まず駆けていたはずの仮面騎士は消え、代わりに敵対者の背後に、かの騎士は仮面を覗かせている。


父の仮面「すまないが、私の狩りに野良犬はいらないんだ」グチュルルルッ

デーモン槍の騎士「………」ゴポ…


片肺を貫通した特大剣を心臓にねじ込まれ、デーモン槍の騎士は瞬時に絶命した。
その骸に向かい、ビアトリスのソウルの矢が飛んだが…


ドシャッ


ソウルの矢は、石床に崩れ折れたデーモン槍の騎士の頭上を通過した。
仮面の騎士の姿は無い。


ビアトリス「なんだ…これ…」

オーンスタイン「グウィンドリン様!私を置いてお逃げください!この者の手、この竜狩りの命捨てずしては阻めません!」

グウィンドリン「何を言う。我は…」


ブワオォン!!


竜狩りを引き止めようとグウィンドリンが伸ばした手を、オーンスタインは振り返りもせず跳躍。
石床に槍を払い、神々にのみ許された力、白霧を放った。
霧は一団と竜狩りの間に壁の如く立ち込め、大広間を二つに区切り、竜狩りと仮面の騎士を正門から切り離した。


グウィンドリン「貴公…!」

レディ「本当に死ぬ気…!?」

ジークマイヤー「いかん!このジークマイヤー、助太刀に馳せ参じまするぞ!」


竜狩りの捨て身の策に、ジークマイヤーは僅かながら助力にならんと霧に突進した。
だが霧は硬く閉ざされており、ジークマイヤーのカタリナ鎧は音もなく霧に受け止められるだけだった。
仮面の騎士はその霧の大広間にあって、グレートソードの切っ先を石床に置き、杖持つ老紳士のように落ち着いていた。


グウィンドリン「何故だ…何故こんな勝手を……我には命じた覚えも、つもりも無いのだぞ!」

ビアトリス「グウィンドリン様!お気を確かに!」



父の仮面「なるほど、神はこうして霧を作り出していたのか。珍しい光景だ」

オーンスタイン「………」

父の仮面「しかし、私は誤った選択肢を選んでしまったようだ。あの騎士は生かしておくべきだった」


558以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/17(木) 02:39:11.90Ujr5meaP0 (1/2)

ガイィーーン!!

オーンスタイン「!」

ガイィーーン!! ガキィーッ!!


仮面の騎士は再び、だが今回は幾度も特大剣を素振りする。振り回されたグレートソードはその度に石床を打ち、けたたましい金属音を響かせた。
その一挙一動を、槍を中段に構えたオーンスタインは注意深く見定めようとしたが、やはり石床を打つのは鍛え抜かれただけの特大剣であり、素早く力強い振りは、魔力の類いを一切帯びてはいなかった。


ドガガガガーッ!!

オーンスタイン「ぐっ…!」


仮面の騎士の素振りが終わった時、オーンスタインの全身を実体無き剣勢が打ちのめした。
竜狩りは膝をつき、仮面の騎士は竜狩りへ向け歩み出すが、その両脚はやはり一歩たりとも進んではいない。


オーンスタイン(ありえぬ……影や風はおろか、刃の煌めきすらも見えぬなど…)

オーンスタイン(虚空だ……虚空が我が鎧を叩いている……)

フッ…

オーンスタイン「!」


不意に、竜狩りの眼前から仮面の騎士の姿が消えた。オーンスタインは咄嗟に振り返り…


ドガガーーッ!!


十字槍の白刃で、グレートソードの一撃を受け止めた。


父の仮面「やはり誤りだったな。貴公に手の内を知られてしまったようだ」

オーンスタイン「然り!」

ガシッ ガアン!!

父の仮面「!」


密着に近い形で鍔迫合った仮面の騎士の首に、オーンスタインは左手を掛け、頭突きを見舞った。
仮面の騎士が両手で握るグレートソードは、竜狩りが右手に持つ十字槍に受け止められているうえに、密着状態が生む閉塞性によって膂力をも失っている。
頭突きを貰った騎士の仮面はひび割れ、欠片を竜狩りの兜に飛ばす。


バジイイィーーン!!!


次にオーンスタインは左掌から雷の槍を放ち、激しい雷光を大広間に轟かせた。
オーンスタインの左手からは掴まれたはずの首が消え、十字槍を押すグレートソードも重みを無くし、竜狩りの視界から消失した。


オーンスタイン「………」


だが、仮面騎士の消失はむしろオーンスタインの心胆を凍えさせ、焦燥を強めさせた。
敵対者の姿は消えたが、ソウルの気配は感じず、吸収の感覚もオーンスタインには無いのだ。
それらが意味するところは敵対者の存命であり…


ガキュッ!!

オーンスタイン「オオオッ!」


己が主君に向く凶刃の存命であり、不意を突かれるという可能性の増大である。
仮面騎士のグレートソードはついにオーンスタインの鎧を破り、オーンスタインは背後から太腿を貫かれた。
傷口から噴出するソウルの輝きは陽光のようであり、輝きの強さは仮面の騎士に確かな充足感を与えた。


ガッ

オーンスタイン「ぐっ……貴様……何を用いた…」

父の仮面「術だよ。神々を追い落とし、闇と火を貪るため、人が生んだ業の威光だ。聞いたところで神には使えんさ」


再び膝をついた竜狩りに、仮面の騎士は両手を広げ、己の技を誇らしく語った。


559以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/17(木) 04:50:16.54w6Aa3xfDO (1/1)

まさかとは思うけどこれは…チーターと同じくらい嫌われるアレなのか


560以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/17(木) 08:13:53.39Ujr5meaP0 (2/2)

竜狩りが窮地に追いやられている頃、グウィンドリンは暗月の君主という名とそれが背負うであろう重責の元、苦渋の選択を迫られていた。
霧の向こうからは、明らかに苦戦を強いられていると推察できるオーンスタインのうめきと、勝ち誇るかのように饒舌を振るう敵の声が漏れる。


グウィンドリン「………」


グウィンドリンは振り返り、これからの長い旅路を共に行くであろう者達を見る。
二人の不死の顔には不安と焦燥が入り混じり、意識を失ったままのコブラを支えるレディは、食い入るように霧を、その向こうに展開される戦いを見つめている。


グウィンドリン「………」


大扉に挟まれ、両門を支え、波打ち際の巌の如く立つスモウの足首には、大きな矢傷が穿たれている。
しかし暗月の力に癒しの力は無い。魔法ではなく、奇跡こそがその傷には必要だった。


グウィンドリン「………スモウ…」


スモウ「………」


グウィンドリン「……我が無力を…許してくれ」


グウィンドリンの沈んだ言葉は、純粋に己の不甲斐無さを謝罪するものだった。
傷を癒せぬことと、敵を打倒できぬこと。忠義の士に犠牲を強いてしまうこと。迷い悩み、策を決めかねていること。
それらをまとめて口に出し、いよいよ選択肢を挙げねばという状況に、己を追い詰めるための言葉でもあった。

だが、鈍ではあるが愚かではないスモウは、主であるグウィンドリン以上に、この闘いに思いを巡らせていたのだ。
過分な重責を負い、しかし戦場に赴いては決してならぬ者には確実に備わらない、戦場の教養。
それがスモウの義心と混ざり、火花を起こしたのだ。


バアン!!

グウィンドリン「!」


正門の大扉をスモウは渾身の力で跳ね上げ、全開させた。
そして鈍い脚を奮い立たせ、大鎚さえも拾わずに…


ドドオォン!!

グウィンドリン「!? 待て!スモウ!」

ジークマイヤー「ふおおお!?」

レディ「みんな伏せて!」サッ

ビアトリス「くっ…!」ササッ


霧に向かって跳躍し、抵抗無く霧に飲まれた。



父の仮面「では、別れの時だオーンスタイン」

オーンスタイン「………」


万事休す。あらゆる打つ手を失い、いよいよ斬り刻まれるのを待つのみと悟ったが、槍は手放さないオーンスタイン。
その竜狩りから四間ほど離れた所に立つ、仮面の騎士の眼に…


ボオォン!

父の仮面「あ」


霧を巻いて打ち破り、竜狩りの遥か頭上を飛び越えて飛来するスモウが映った。


ドグワアアアァーーッ!!!


馬小屋程の大きさもある金属塊の飛び蹴りを喰らい、騎士の仮面は粉砕し、全身を包む巨人鎧は、矢に射抜かれた鳥の羽毛のようにスモウの周りを舞った。
蹴り散らかされた仮面騎士は、鎧を剥がれたボロを着たまま、大広間を飛翔したあと、蹴鞠のように石床を四度跳ね、スモウから十七間は離れた地点に墜落した。
しかし、オーンスタインは勝どきを上げず、スモウを讃えもしなかった。
むしろ竜狩りの背には哀しみさえのしかかっていた。
まるで、避けられぬであろう悲劇を避けるよう努め、しかし敗れたと嘆くかのように。


561以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/18(金) 06:18:40.59HyP25ayL0 (1/1)

オーンスタイン「スモウ…お前はなんということを…」


スモウ「………」


オーンスタインの嘆きを知ってか知らずか、スモウは竜狩りへは振り返らず、大広間の隅まで飛んだ仮面の騎士を一点に見つめている。
竜狩りがスモウに成せる事と言えば、神の奇跡をスモウの足首へ注ぎ、矢傷を癒すことだけだった。


オーンスタイン「貴公に王の導きあれ」

ダガッ!


石床を蹴ったオーンスタインの向かう先は、手負いの仮面騎士ではない。


ブワッ!

レディ「!」

ジークマイヤー「あっ!」

グウィンドリン「まさか…」


霧から飛び出たオーンスタインは十字槍を背負うと…


ガッ

ジークマイヤー「!?」

ビアトリス「わっ!?」


右手にビアトリス掴み、右脇にジークマイヤーを抱え…


ガッ

グウィンドリン「な…なにを…」


左脇にグウィンドリンを抱えた。
そしてオーンスタインは跪き、無言の促しをレディに漂わせた。
レディは一瞬ためらった。誰の眼にも明らかに、一団にとって大きな存在であるはずの者が欠けている。
その事実をどう受け止め、この促しにどう答えるべきかを迷った。


レディ「………分かったわ。行きましょう」


だが、レディはその一瞬で決断した。
レディはオーンスタインの、そしてスモウの意志を汲むことを選んだのだ。
剣を納め、コブラを右手で胸に抱き寄せ、レディは左手でオーンスタインの背中にしがみついた。
彼女の両脚は竜狩りの腰に回された。


グウィンドリン「…やめよオーンスタイン…これでは誓いを違えるではないか…」

オーンスタイン「グウィンドリン様」

グウィンドリン「気迷うな!あのような騎士ごときに、我らが遅れをとるなどあり得ぬ!我を降ろし槍を持…」

オーンスタイン「グウィンドリン様!!」

グウィンドリン「っ…!」

オーンスタイン「今より駆けます。あなた様はどうか、スモウが王の導きに浴せる事をお祈りください」

オーンスタイン「そしてこの亡都より生き延び、暗月の君主を守りし輝ける大鎚の名を、新たな神代にお伝えください」


グウィンドリン「…………」


ドガッ!!



オーンスタインは正門に向かって駆けた。
かつての友を棄て、多くの神話に彩られた大いなる家を飛び出し、黄金の矢のように。
霧からは金属がぶつかる音が響く。それはスモウの鎧が切り裂かれる音だった。


562以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/18(金) 20:59:49.89VVBXT4do0 (1/1)

ついにスモウが


563以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/18(金) 22:43:17.21Z+27kE5do (1/1)

本当に神様なのかってくらいこの人たち弱いな
だから都が滅んじゃったんだろうけど


564以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/18(金) 22:50:25.63WQbxucxSO (1/1)

まぁダクソの神って人間とは違う種族みたいなもんだから


565以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/19(土) 00:52:47.91T+kNmReN0 (1/1)

クソ…泣かせるぜスモウ…


566以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/19(土) 06:53:30.63PkqqzrqU0 (1/2)

大広間の隅に叩き込まれた仮面の騎士は、辛うじて一命を取り留めはしたが、傷は極めて深く、意識を失うのには十秒とかからないはずだった。
だが不死の肉体は強く、仮面の騎士のエストは一滴たりとも失われてはいない。


ダガッ!


あるだけのエストを全て飲み、仮面の騎士が負傷を完治させると同時に、竜狩りは霧を抜け出した。
遠くから響く、石を叩いたような衝撃音を聞いて仮面の騎士は歯噛みしたが、悔しさはすぐに忘れた。
二兎の片方が手に入った。その事実を仮面の騎士はせめてもの幸運に思ったのだ。


父の仮面「大鎚も持たずに飛び込んでくるとは思わなかった。初めての経験だ」


スモウ「………」


バッ!!


仮面の騎士は大仰な独り言を呟くと、スモウに向かって床を蹴った。
その脚は確実に石床を蹴り、正しくスモウへ近づいてはいる。
だがスモウの眼には、現れては消えるを繰り返しつつ接近する、剣すら構えぬ仁王立ちの仮面騎士の姿が映った。


ブオォン!!!


その奇怪な挙動を示す騎士が剣勢域に入った瞬間、スモウは剛拳を騎士の頭に振り抜いた。
だが、仮面の騎士の頭を貫通した拳には、一切の手ごたえが無かった。


ドガッ!! ガキィッ!!


仮面の騎士はスモウの両脚に特大剣を叩き込み、怯ませ、スモウの足捌きを封じた。
巨体を誇る者は、巨体であるが故にそれを支えるものへ頼る。


父の仮面「コブラを逃し、エストも空とは。いい教訓になったよ」


人界の戦における巨躯殺しの鉄則は、神に対しては全く通じないが、それは人界における人のための鉄則である。
決して滅びぬ肉体に、神の聖遺物に鍛えられし武具を備え、尽きることのない暗き欲望を宿した時、人は鉄則を砕き、神同士の戦いの域に踏み入るのだ。


バギィッ!!


竜狩りの槍さえも鍛えたという原盤に力を得たグレートソードが、スモウの胴鎧を食い破り、確かな感触を仮面の騎士の両腕に伝えた。
スモウは両膝をつき、頭を垂れる。その頭を、傷口から溢れる太陽色の輝きが照らした。


ガシッ

父の仮面「……往生際が悪いな」

ゴオッ!!


だが深傷を負ったからと、誓いし使命を棄てるなどという恥を、スモウは認めなかった。
自身に打ち込まれた特大剣を右手で掴み、仮面騎士の胴へ左の拳を見舞う。
だが拳はやはり仮面騎士の胴を透り抜け、風を切った。


父の仮面「………」スッ…


仮面騎士はグレートソードを手放し、背中からクレイモアを抜くと…


バギッ!! ガコッ!! ベキッ!!


大剣を上段に構え、スモウの頭を滅多打ちに斬りつけた。
幾度も幾度も加えられる重打に、スモウの兜はヒビ割れた岩のように歪み…


ゴシャッ!!


脳天に叩きつけられた一撃に遂に敗れ、大きく凹み、太陽色の光を漏らす。
漏れた光はスモウの全身各部位からも漏れ、一つとなり、大きな輝きとなってスモウを包んだ。
そして輝きは弱まり、霧散し、仮面の騎士に吸われると、後には塵のひとつも残しはしなかった。


567以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/19(土) 12:28:19.50PkqqzrqU0 (2/2)

ボファッ!


維持する者がいなくなり、薄れゆく白霧を、仮面の騎士は突き抜けた。
霧の先にはやはりコブラの姿は無く、仮面の騎士の脚は止まらない。


バッ!


仮面の騎士は正門を抜け…



バシイィィーーッ!!



ソウルの槍に背中から射抜かれた。



父の仮面「フ……フフフ…」



正門の扉の陰から、大袈裟に大きい帽子を被った魔術師が姿を現わす。
大帽子の老人はやや息を荒げていたが、杖に込められた魔力は揺るぎない。
仮面騎士はその場に両膝をつき、先に倒した神々の一柱の死に様を思い返した。


父の仮面「やれやれ……お前がずっと隠れていたせいで、神が一人死んだぞ」

父の仮面「かわいそうに……加勢してやれば、助かったかもしれなかったのに」


ローガン「不意打ちでもせぬと、貴公にソウルの槍は当たらんのでな」


ローガン「それにこれでも急いだ方なのだよ。不死とはいえ、老骨というわけだ」

父の仮面「老骨か……フフフ…」


ドシャッ…


ローガン「………」



倒れ、力尽きた仮面の騎士が消えゆく様を見ながら、ローガンはすれ違ったオーンスタインと、竜狩りに抱えられる神を思った。
暗月の君主グウィンドリン。謎多き異形の神。
竜狩りオーンスタイン。古竜を狩り、神代を支えた四騎士の長。
それらが旅の一行に加わり、不死と異邦人を助けた事にも甚だ驚いたが、ローガンの心を掴み離さぬものはまだある。

すれ違う一瞬、ローガンは竜狩りに抱えられたグウィンドリンの声を聞いた。
それは偲びの言葉であり、太陽の光の王の導きに働きかける祝詞だった。


ローガン(忘れられし神はただ何処かへ去ると思っていたが……神々にも死があるとはな…)

ローガン(死に祈りを捧げ、主君に祈りを捧げ、去りゆく死者を偲ぶ……神が最初の死者に祈る…)

ローガン(神が神たる最初の死者に祈るのならば、最初の死者は何者に祈る?)


仮面の騎士の亡骸は、膨大なソウルを残して消滅した。
その騎士がどこの篝火に蘇るかを案じつつ、ローガンは来た道を戻る。
戻りながらも、グウィンドリンの祈りにローガンの心は珍しく動かされていた。

魔道とは、神の恵みの一つたる魔法を、信仰ではなく理知によって探求し、不変の理を見極め、人をより高みへと誘わんとする行いである。
不死立ち、魔道を極めんと神の地に至り、ローガンは改めて智慧を深め、神の持つ智慧ではなく、神の持つ神力と物語に憧憬を馳せる信仰を否定してきた。
だが、探求すべき智慧持つ神々には物語があり、その物語は酷く人間的だったのだ。
神は感情に揺らぎ、不確かで、脆く、しかし輝かしく、圧倒的に大きなうねりを容易く育むのである。
その様はローガン自身を含めた、人と似ていた。


ローガン「美しき暗月よ、泣いているのだろうか」


帰路を歩きつつ、ローガンはらしくなく、恐らくは人生で始めて詩的な『らしきもの』を呟いた。
ある一柱が没し、旅の助けにもなったであろう戦力を喪ったというのに、大魔術師の心は智慧に満ちていた。
その智慧は、聖職者の説く信仰にも似て…


568以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/19(土) 13:02:09.88u9mvtmp/0 (1/1)

またあの野郎は生えてくるとはいえじーちゃんが一矢報いてくれた


569以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/19(土) 18:10:03.21AA/LlWkDO (1/1)

ゲームをやってた頃は単なるボスキャラくらいにしか思わなかったけど凄くいいなあこれは…
クラーグもそうだけどグウィンドリンこれからどう変わっていくのか期待


570以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/20(日) 15:57:30.07yrQ8T9au0 (1/1)

ローガンでさえ不意を突かないと倒せないってやっぱ周回勢ヤバいな
コブラの復活が心から待たれる…


571以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/22(火) 09:52:17.85Y9f1kPfa0 (1/1)

ある篝火に、またも男の意識は目覚めた。
だが意識は酷くおぼろげで、己の目的や、己が何者であるかも、男は既に失っている。
この地が何処であるかも、何故このような苦しみに喘ぐのかも、何故剣を持ち、ろくに見えぬ眼を動かしているのかも。
次に死ねば、苦しみとは何かすらも男は失うだろう。



ガッ!


篝火を守る火防女は、再生途中の盗賊が握る、石の大剣を踏みつけた。


真鍮鎧の騎士「これで二十八回目…」

真鍮鎧の騎士「もう恐れるな。また死ぬ時間が来ただけだ」

シュパン!!


そして蒼紫色の魔力を纏う細剣を振るい、真鍮鎧の騎士は神の敵の首を再び撥ねた。
ローガンから敵対者についての忠告を受け、そして実際に一度、強大な闇の顕現を王城に感じた彼女は、疑わしきを斬り殺す修羅と化している。
不死のために篝火を守る者である前に、暗月の騎士であるがゆえに。


真鍮鎧の騎士「既に半ば灰だな。あと二度ほど斬られれば、貴公も篝火に休めよう」


崩れ去った遺灰を篝火に寄せ、自らも篝火に当たりながら、真鍮鎧の騎士は火を見つめた。
幾年も過ぎ去った日々と変わらずに。



ドガガァーーン!!

真鍮鎧の騎士「!」



その静とした空間に、神と不死と異邦人を抱えたオーンスタインが降り立った。
降り階段を全て飛び越えた跳躍は風を起こし、盗賊の遺灰を散らした。
一団を降ろす竜狩りに、真鍮鎧の火防女は困惑の声を漏らす。


真鍮鎧の騎士「オーンスタイン様……それにグウィンドリン様までも…」

真鍮鎧の騎士「…やはり、闇が現れたのですか?」

オーンスタイン「左様。我らに仕えし法官こそが、深き闇の者だったのだ」

オーンスタイン「その闇はコブラが制したが、闇の手の者に襲われ、スモウが斃れた。継承も許されなかった」

真鍮鎧の騎士「………」


しかし真鍮鎧の火防女は、驚愕を言葉にはしなかった。
グウィンドリンに仕える身として、暗に主を責めるような行いも慎むべきと、心に決めていたからである。
たとえ言葉に込められた思いに、主への疑いや責めなどが、一片たりとも含まれていなかったとしても。


真鍮鎧の騎士(スモウ様のソウルを継承なされなかったとは……さぞ無念でありましょうに…)

オーンスタイン「昇降機は既に破壊し、白霧も張った。彼奴らが試行の果てに断崖を登ろうとも、霧を潜れば我と矛を交える」

オーンスタイン「易々とは通れまい。下賤の輩に、恐れながらも王より賜った王城を貸すなど、癪ではあるが」

真鍮鎧の騎士「それでは、ヨルシカ様とプリシラ様は…」

グウィンドリン「案ずるな。あれらは王より、絵画での隠遁を命ぜられている。忌み者の人形が失われている今、我らよりも安寧にあろう」




572以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/26(土) 10:32:38.17pnV2MKAP0 (1/1)

ビアトリス「………」

ジークマイヤー「………」


熾烈な戦いの連続に、不死たちは言葉も無く篝火にあたっていた。
ジークマイヤーは憔悴と無力感に苛まれ、ビアトリスは神をも凌駕する強大な敵の出現に絶望していた。
コブラを篝火のそばに寝かせ、その手を握るレディに、慰めの言葉をかける余裕も二人には無い。

神代の武具に身を固める敵対者達。おぞましき仮面の者共。
爪を持つ黄金の異形。そして、暗黒神アーリマン。
それらの圧倒的な力に対し、遂に一矢報いる事さえできなかったという認識に、二人は身も心も打ちのめされていた。


ボウッ


音を立て、篝火が前触れも無く強まる。
二人の不死と一人の異邦人は顔を上げ、真鍮鎧の騎士は腰だめに剣を構えたが…


ローガン「ふぅ…帰還の骨片が無ければどうなっていたことか」

ビアトリス「!」


篝火の熱から現れたのは、正気を無くした敵対者ではなく、ローガンだった。


ジークマイヤー「 ローガン老……」

ビアトリス「先生!ご無事でしたか!」

ローガン「一度死んだぐらいでは亡者にはならんさ。人間性もまだいくつかあるのでな」


師の正気を知り、目に見えて気力を戻したビアトリスに笑みを返しつつ、ローガンは一室を見渡した。
目立つのは眠るコブラと、それぞれ篝火にあたる二柱の神々の姿。


ローガン「私が死んでいる間に、予想だに出来ぬ御客神を迎えたようだね、ビアトリス」

ビアトリス「…いえ、迎えたというよりは…この方々はコブラにこそ用がありまして、我々はついでと言いましょうか…」

ローガン「ついでか。ならばそのついでに感謝せねばな」


ローガンは神々に向き直り、大帽子を取り、胸元に抱えた。
白髪頭のローガンの眼は、皺に老け込んだ顔に比べ、若く煌めいている。


ローガン「私、ヴィンハイムのローガンと申します。人の世においてはビッグハットなどと呼ばれておりました。以後、お見知り置きを」


丁寧にローガンが一礼をすると、グウィンドリンも口を開いた。


グィンドリン「名乗られたのなら、応じねばなるまいな」

グィンドリン「我が名はグィンドリン。太陽の光の王の娘にして、陰の太陽の君主。暗月の剣の長なり」

グウィンドリン「そして、この者は竜狩りのオーンスタイン。王の四騎士の長にして、我が命を帯びし神代の守護者なり」

オーンスタイン「………」


主君に名を扱われたオーンスタインは、立ち上がり、槍を正中線に立てて不死達に礼を示したが、心中は重かった。
戦に斃れた同胞を看取れずして、何が守護者か。その言葉は硬い心と鎧に阻まれ、不死達には伝わっていない。
神々が名乗った以上、それに即応しなければと焦燥する不死達に、竜狩りの心痛を汲めるはずも無いのである。


ガタッ

ジークマイヤー「わ…私めはジークマイヤーと申しまする。カタリナという辺境にて、中堅所の騎士なんぞをしておりました」

ビアトリス「私はビアトリスと申します。ヴィンハイムにて魔術を習い、不死立ったのちは、その……不死の使命を探求しております」


神の前というのもあり、ビアトリスはあっさりと師にも明かさぬ本来の目的を口走りそうになったが、どうにか堪えた。
グウィンドリンとローガンは彼女の偽りを既に見抜いたが、グウィンドリンは詮索はせずに頷いた。


ローガン「………」




573以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/26(土) 19:03:22.01FV2QVn7m0 (1/1)

アイサツは大事
じーちゃんいると不死サイドがうまくまとまる安心感


574以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/27(日) 19:29:46.53oVg8pz5N0 (1/1)

騎士の友情がやはりアツい。スモウとオンスタはやっぱ良いなぁ


575以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/28(月) 08:46:11.133NslWmrV0 (1/1)

レディ「私は……そうね…どこから話せばいいのかしら」

ジークマイヤー「“うちゅう”の海賊…で、いいのではないか?」

レディ「そうは思うんだけれど、分かりにくい話だし…」

グウィンドリン「貴公らの世の理など、言わなくともよい。ただ何者かだけを言えばいい」

レディ「あらそう?それなら…そうねー…」

ジークマイヤー(神を前にして、先ほどからなんと不遜な言葉遣いだ…肝が冷えてたまらん…)


レディ「私の名前はレディ。でも、この身体になる前の私は、エメラルダ・サンボーンと呼ばれていたわ。サンボーン公国の王女だった頃は、人間としての身体を持っていたのだけれど、戦争に巻き込まれて一度死にかけた時に、コブラに助けられて、アーマロイドとして生まれ変わったの」


ジークマイヤー「サンボーン公国?……王女?…」

ビアトリス「……あの、それ始めて聞いたんだけど…」

レディ「それはそうよ、今初めて話したんだもの」

レディ「だけど『宇宙海賊の相棒』と言ったところで、結局は色々話すことになったんだし、ものはついでという事ね」

ローガン「どうりで堂々とした立ち振る舞いであったわけだ。王女とくれば、我らより人を知っていよう」

ジークマイヤー「こ…これまでのご無礼、いったいなんとお詫びをすれば…!」

レディ「いいのよ別に気にしなくたって。今の私はレディで、エメラルダはもういないの。それに、貴方は私のナイトじゃないでしょう?」

ジークマイヤー「しかし…まぁ…確かに…」

レディ「そういうことよ」


グウィンドリン「………」


人の語らいを聞き、グウィンドリンはしかし、レディの発した一言を反芻していた。
生まれ変わりとは、遂に人の世で恵まれなかった者達へ、豊穣の女神グウィネヴィアが差し伸べた、せめてもの救いの手である。
異形として生まれ、追われて奪われ、心砕かれた人々。
それらは皆、唯一己を救う奇跡にすがり、人心を神とその住まいへと、火へと馳せたのだ。
その偉大なる奇跡を、殊更に特別視するわけでも無く語るレディを見て、グウィンドリンは諦めとも呆れともつかない、疲れた笑みを口に浮かべた。

日々に奇跡が溢れる世があるのなら、奇跡にまみれた日々に生きるコブラに、神への敬意が芽生えるはずも無い。


グウィンドリン「コブラが不遜であるのも、必然か」

レディ「えっ?」

ジークマイヤー「?」

コブラ「なに、俺がどうかしたって?」

ジークマイヤー「!?」

ビアトリス「コブラっ!?」



コブラ「ふぁ~~…ったく、うるせぇなぁ。人が気持ちよく寝てるってのに~」



グウィンドリンの言葉を聞いたか聞かずか、コブラは身体を起こし、首筋をふた掻きした。
篝火の温もりには神秘が宿る。温もりは不死も神も、異邦人さえも癒すようだった。


ジークマイヤー「おお…いつまでも目覚めぬから、どうなることかと思っていたぞ」

レディ「コブラ…あなたもう起きて大丈夫なの?」

コブラ「大丈夫なもんか。コーヒーは淹れなくってもいいぜ。はぁ~おやすみ~」ゴロリ

グウィンドリン「いいや、起きててもらおう」

コブラ「はぇ?」


グウィンドリン「貴公には、見なければならぬ物がある。世を救い、貴公らを救うを望むのならばな」


コブラ「………」



576以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/28(月) 20:52:12.886I5BJHij0 (1/1)

コブラ再起動キターーーーーーーーーー!!!!


577以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/29(火) 02:14:05.1462kY2Pf8O (1/1)

普通なら死んでる所から不死でもないのに再起動するのはコブラとホワイトグリントの得意技


578以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/01/29(火) 07:15:02.29kYXZ6FAF0 (1/1)

グウィンドリン「コブラ…貴公はソウルを得る時、ソウルの主の記憶を覗き見た覚えはないか?」

コブラ「記憶ね…… そういえば教会でガーゴイルの像を壊した時に、そいつが何処で作られ、何をしていたのかは見たことがあるな」

グウィンドリン「そうか。ならば『物』の記憶を覗き見たことは?」

コブラ「物の記憶?」


グウィンドリン「ロードランも、人界も、この世の全てはソウルが形を成したものなのだ。それは岩や木、剣や盾も例に漏れない」


コブラ「重さのある精神か。ダンカン・マクドゥーガルが踊りだしそうだ」

コブラ「それで、その物の記憶がどうしたんだ?見たことない奴はどうなる?」

グウィンドリン「どうもせぬ。だが、これから私が明かすものを貴公が見るには、物の記憶を覗く素養も求められるのだ」

グウィンドリン「剣を抜け、コブラよ。剣を我が前に」

コブラ「………」


要件をあえて話さないグウィンドリンを疑いつつも、コブラは黒騎士の大剣を暗月の君主の前に差し出した。
疑いを口に出し、問いただしたところで、答えをすんなりと教えてくれる神など、コブラは知らない。
グウィンドリンは黒騎士の大剣を、両の細腕で受け取り、石床に突き立てた。


グウィンドリン「心を鎮め、剣に触れよ。さすれば剣は、貴公に記憶を流すだろう」

コブラ「難しいことを言うなぁ。俺は集中すると煩悩が増すタイプでね」

グウィンドリン「煩悩がもたげるのなら、恐れて想うがいい」


グウィンドリン「死を」


コブラ「!」



グウィンドリンの言葉を聞き、コブラの脳裏に、ある光景が浮かんだ。
追われて彷徨い、夜に弱った身体に振り下ろされる、大きな刃。
斧に左腕を切り落とされる瞬間に、決して濁ることのない恐怖がある。
その恐怖は雑念を喰らう。
恐怖に抗う、密やかな熱い血潮が喰らうのだ。



コブラ「…フフ…流石は神だな。十字架を背負う男への鞭の打ち方が、よく分かってらっしゃる」

グウィンドリン「………」


心を無に沈め、コブラは剣に触れた。


コブラ「!」


その瞬間、知るはずのない思い出が、コブラの中に膨れ上がった。
熱き混沌より生じるデーモンを打ち払う為、鍛えられた大剣。
火に耐える黒き鎧を身に纏う、多くの人ならざる者が、この剣を握り、振るい、消えていった。
そして混沌を制した大剣は、最後の使い手に握られ、使い手は大いなる篝火を目指した。
その目指すところ、大いなる篝火が放った大炎により、使い手は焼き尽くされ、心を喪い彷徨った。

だが、彷徨う者はある時討たれ、剣を奪われ、灰の山となる。
剣を奪った者は…



コブラ「……そうか…見えたぜ!」

コブラ「鍛治の巨人に作られたこの剣が、誰の手を渡り、何を斬ってきたのかが、俺にも見えた!」

コブラ「これが物の記憶か!」

グウィンドリン「拓かれたようだな。その業は、神々の力に揺さぶられた全ての者が持つ」

グウィンドリン「故に神に呪われし不死も、神同様にこれを持ち、神の如く世の由緒を見る」

グウィンドリン「コブラ。貴公にその力を与えたものは、恐らくは貴公の内にある、我らが大王の封印だろう。ならばこそ、暗黒神が器を置かぬ今のうちに、貴公の力を見極めなければならなかったのだ」



579以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/02/01(金) 05:17:46.4106u0vSk90 (1/2)


コブラ「待て、器を置かぬうち?いったい何の話をしてるんだ?」

グウィンドリン「それを説くだけの時間も、もはやあるかも分からぬのだ」

スッ

コブラ「!」


グウィンドリンの両手が、コブラの左腕を取り、包んだ。
その手から伝わるソウルの温もりは、コブラの意識を容易く揺さぶり、輝きを感じさせる。



グウィンドリン「見てもらうぞ、我が記憶を」



グウィンドリンのその言葉を最後に聞き、コブラの意識は、コブラにのみ感じ取れる輝きに飲まれていった。








580以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/02/01(金) 06:42:13.4506u0vSk90 (2/2)




コブラ「はっ!」




コブラの意識は、灰色の空と岩、灰色の大樹と眠り竜が広がる、果てしなき荒野の只中で形を成した。
その隣には、陰の太陽の王冠を被らぬ、グウィンドリンが立つ。
灰色の大樹は葉をつけず、竜達はみな首を垂れ、動かない。



コブラ「ここは……」


グウィンドリン「我が記憶の内。より正しく言うならば、見たものの記憶だ」


コブラ「見たもの、か。光あれと言う前の世界にしちゃ、随分ゴチャッと……ん?おい、あんた…」


グウィンドリン「なんだ?」


コブラ「あんた男だったのか!?」


グウィンドリン「………」



周囲を見渡すついでに、視界の端にグウィンドリンを捉えたコブラは、感じた驚きをそのまま口に出した。
グウィンドリンの胸からは、細やかながらも主張した双丘が消え、頬には少年のそれと同じ、若干の引き締まりが生じている。
小さい喉仏を通して発せられる声の色は変わらないが、それは発声と紛れもなく連動していた。



グウィンドリン「少し歩こう」


コブラ「おぉっと、俺としたことが、つい本音を口に出しちまった。怒らせちゃっ…」

コブラ「!?」


グウィンドリン「心が繋がっているのだ。貴公の思慮も全て露わになる。恥じることでは無い」


コブラ「まいったぜ…罪の告白は苦手なんだ。神が騙し討ちなんてしていいのか?信心が離れるぜ」


グウィンドリン「元からありもしないだろう」



一人と一柱は語らいながら荒野を歩いた。
竜は目覚めることも無く、野を吹く風はコブラの身体を通過し、グウィンドリンの衣服を揺らさない。



グウィンドリン「我が力は月の女神のものであり、我が身体も、月の女神のものではある」

グウィンドリン「だが、心は太陽の光の王のもの。我が有り様もそれ故だ」


コブラ「するってぇと……あんたは心が男だから、この精神世界では少年として存在してるっていうのか?」


グウィンドリン「精神世界とは、面白い名で呼ぶのだな」

グウィンドリン「貴公の読みだが、それは当たっているぞ。我が王、我が兄妹、我が臣下たちは我が心の有り様を憐れに思ったが、こうして生まれたことは我が誇りだ」

グウィンドリン「もっとも、仕草には難があったのだから、憐れみも仕方のない事ではあったが」


コブラ「男勝りのやんちゃな女神か。オシメするのも一苦労だ」

コブラ「しかしだ。周りがあんたを憐れに思った原因ってのは、性別よりもその脚にあると思うぜ」


コブラの先を歩くグウィンドリンの蛇脚は、荒野を滑り、岩肌を抜ける。
グウィンドリンはコブラの言葉に顔を向けず、目的の場所へとコブラを導いた。



581以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/02/03(日) 04:22:32.69JzhD+8380 (1/6)

コブラ「なにっ!?」

グウィンドリン「………」



荒地を歩き、大樹すらも周囲に生えない灰の野に立ったコブラは、目の前に広がるすり鉢状の窪地に、眼を奪われた。



クリスタルボーイ「………」



すり鉢の底に屈み、灰に手を着ける宿敵の姿に、コブラは闘争心を剥き出しにしつつも、グウィンドリンへ対面した。
その気迫は記憶の世界においては如実に現れ、コブラの髪は逆立ち、サイコガンは熱を帯びた。


コブラ「何故だ!何故ヤツがあんたの記憶の中にいる!?あんたはヤツを知らなかったんじゃないのかっ!」

グウィンドリン「静まれ、コブラ。ここは我が記憶の内であると共に、暗黒神の記憶の内でもあるのだ」

コブラ「暗黒神っ…!?」


グウィンドリン「謁見の間にて我らを襲った闇の嵐は、神々のソウルさえも食い尽くすべく、我が心に斬り入った」


グウィンドリン「その試みは貴公の発した神秘により阻まれ、我らは一命を取り留めはした。しかし、暗黒神のソウルの記憶の一部……少なくともロードランにおける彼の邪神の記憶の欠片が、我ら神々の記憶に流入してしまったのだ」


コブラ「それじゃあ、コイツは……あんたの記憶ではなく…」

グウィンドリン「然り。だが、恐らくはそれだけではない」

グウィンドリン「見よ」



グウィンドリンの言葉に促され、冷静さを取り戻したコブラは再び宿敵を見た。
クリスタルボーイは塵に触れた手を地面から離し、立ち上がる。
そして動かぬ口で、ただ一言声を発した。



クリスタルボーイ「現れろ」



一声が小さく響くと、透明な掌が触れていた地点から塵の山が盛り上がり、塵の山は風に吹かれ、形を崩していった。
側面からは白い柔肌が覗き、割れた頂点からは白真珠の如く輝く細髪が露わになる。
肩から垂れ下がり、崩れる事なく残った塵は、乳白色の天衣に姿を変えた。



グウィンドリン「我らが知らぬ何者かに、宇宙より無へと堕とされ、暗黒神はかつての己の器を呼び戻した」

グウィンドリン「だが、それでは力が足りぬ。何よりも暗き力を持つ故に、同様の暗き力、暗き心が、暗黒神の完全なる復活に必要だった」

グウィンドリン「故に、暗黒神は無より生み出でし兵……古竜よりも、光が生む闇を求めた」

グウィンドリン「故に望んだのだ。まずは光あれと」



塵の山から姿を現したのは、慈悲深き女神の姿。
その腹は膨れ、子を宿し、女神の両手は慈しみを込めて、膨れ腹に置かれている。
女神は眠っている。クリスタルボーイはその女神の腹に手をつけ、眩い輝きをひとつ抜き取ると、輝きを頭上へ掲げ、また声を発した。


クリスタルボーイ「散れ。散って俺の糧になるがいい」


声を受けた輝きは弾け、いくつかの光球に分かれると、方々へ飛翔し、広漠たる地平線の彼方へと消えていった。
光球が消えると同時に、女神の顔には苦悶が浮かぶ。
苦しむ女神は屈み込み、クリスタルボーイの足元へ、膨れ腹から蒼白い肉塊を産み落とした。


クリスタルボーイ「お前は全ての母だ。お前は多くを生み、そして滅ぼすだろう」


そう言い残し、クリスタルボーイは闇の霧となって暗い世界に溶け込み、姿を消した。
後に遺された、全ての母と呼ばれた女神は、あてどなく彷徨い始める。
胸に歪な子を抱きながら。



582以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/02/03(日) 07:56:38.34JzhD+8380 (2/6)

コブラ「!」


女神が一人彷徨う荒地が、波に飲まれる砂山のように溶け、姿かたちを変えていく。
そして再び纏まった時、コブラの目の前には女神と、彼女に対面する、冠を被りし白髪白髭の豪奢、偉丈夫の姿が現れた。
偉丈夫の背後には、銀の鎧に身を包む、あまたの兵の姿。
女神の胸に蒼白い肉塊は無く、偉丈夫は女神の手をとり、己の胸の内を吐露した。



冠の偉丈夫「不思議だ……余はそなたを知らぬ……しかし、そなたを我が身、我が心のひとつとしか見定められぬ…」

冠の偉丈夫「そなたは何者であるか…まるで見切れぬというのに…」



女神「わたくしにも分かりませぬ……わたくしが、誰であるのか…」

女神「ですが、あなたをやはり、知らぬわけでは無いのです……まるで永らく離れた、想い人のように…」



手を握り返す女神はそう言うと、偉丈夫の胸に寄り添い、顔を埋めた。
偉丈夫の両手は女神の腰を抱き、女神は偉丈夫の胸から顔を上げ、王冠を被る顔の頬を、そっと撫でた。



冠の偉丈夫「…これは夢か……」


女神「夢ならば、良い夢です」


女神「夢で無いのなら、醒めることもありません」



そして二人は、唇を重ねた。
銀騎士達は一斉に剣を取り、刃先を暗い天に、刃の腹を自身の眼前へと立て、変わらぬ忠誠と繁栄への祈りを示した。
その銀騎士達の隊列を抜け、二つの人影が女神と偉丈夫に近付き、祝言を送る。
祝言の送り主の一人は、偉丈夫に劣らず大きく、豪奢な出で立ちと歳を刻んだ顔をしている。
その隣に立ち、同じく祝言を送る者がいる。暗い外套を纏い、皮膚の下に黄金色の骨と、透明な肉を忍ばせる者が。



グウィンドリン「祝言を受ける方々は、我が父上と母上だ」


コブラ「!?」


グウィンドリン「かの暗黒神に導かれ、母上と父上は出逢い、子を成した。我が兄上も、妹達も、全ては暗黒神の望む通りに」


コブラ「それじゃあ、この王様が太陽の光の王で、こっちの別嬪さんが、月の女神様ってやつなのか?」

グウィンドリン「然り。父上の名はグウィン、母上には、父上が名を授けた。もはや禁じられた名ではあるが」

コブラ「禁じられた?なぜだ?」

グウィンドリン「その顛末は、これから貴公も見るだろう。焦ることは無い」

コブラ「ちぇっ、まーたこれだ。いっつもそうやって焦ら…」


コブラ「ん?……ん~?」


グウィンドリン「?」

コブラ「待った、なんかおかしいぜ。俺はこの結婚に異議を申し立てる」

グウィンドリン「なに?」

コブラ「ひとつ!女神様の抱いていた青っちろいグニャグニャが居なくなっている。神が子を捨てるってのは、イマイチ感心できない」

コブラ「ふたつ!そもそも無の世界なんだろ?暗黒神が作った女神様とドラゴン以外に、なんでこんなに大勢むさいのがいるんだ?ただの幻覚見せて洗脳しようったって、簡単に騙される俺じゃないぜ」

グウィンドリン「幻ではない。父上とその騎士も、暗黒神の被造物だ」

コブラ「な、なんだって!?」

グウィンドリン「母から抜かれ、方々へ散ったソウルが、新たな命として栄え始めたのだ。神々を生み、魔女達を生み、人を生み、ソウルは灰の大樹ではない木々や草花、獣達さえも生んだ」

グウィンドリン「そして生まれし者達は皆、その意識の有無に関わらず、一様に来るべき時を待った。暗黒神さえも求める、あるものの現れを」


583以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/02/03(日) 09:46:59.21JzhD+8380 (3/6)


再び景色は移り変わり、コブラとグウィンドリンは暗い地の底に立っていた。
地の底はやはり暗く、水音さえも響かないが、不思議と完全な闇に埋め尽くされる事はなく、コブラは自身の足元や指先を確認することができた。


コブラ「今度はなんだ?」

グウィンドリン「墓場だ」

コブラ「墓っ?まさか、あんたのファザーとマザーのだったりしないだろうな?そういう深刻な流れは苦手なんだ」

グウィンドリン「ふむ……似てはいるが、違う。ここは我が父上の叔父の墓。神が最初に作りし墓だ」

コブラ「最初の墓とはまた、漁り甲斐のありそうな所だなぁまったく」



グウィンドリンはそう言うと、暗闇を指差した。
指の示す方向にコブラは眼を凝らし、闇に慣れた眼は、それを捉えた。



コブラ「こいつは……骨か?えらい巨人だぜ。しかもいくつか、俺くらいの大きさの人骨が上に折り重なっている」

コブラ「十人…十五人……神の埋葬にしちゃあ、ちと雑すぎるんじゃないの?」


グウィンドリン「太古の我らは、今ほどソウルの働きに乏しくはない。ゆえに死しても肉体が残るのだ」

グウィンドリン「ならばせめてと、神々は最初の死者たる神、ロイドの聖体に死者を祀ったのだ。古竜に脅かされし卑小な存在であろうと、安らぎを得られるように」

グウィンドリン「だが、神々の不遇も終わりを迎える。今、この時に」


コブラ「?……なんだアレは…」



コブラの視界に広がる、全くの静寂たる闇に、か細い光が灯った。
光は巨神の胸骨内部から発せられており、その輝きは輪郭を持ち始め、炎のように揺らぎ始めている。


ガッ!

コブラ「!」



その揺らぎを、胸骨を押し広げて掴んだのは、巨神自身の白骨の左腕だった。



ズワァーーッ


コブラ「オオーッ!」



神々の骨を纏いし巨神の遺骨は、命無きまま超然と起き上がり、左掌に灯された炎の如きソウルを、眼球を失った眼底で見定めた。
もはや身体となった骨の山からは、黒い瘴気が巻き起こり、黒い瘴気から伸びた一本の塊は、巨神の胸骨に潜り込んで一振りの巨剣となった。
そして巨人がその剣を、自身の骨山から抜き取ると、瘴気は再び巨神の身体に満ち溢れ、外套のように巨神を包んだ。




584以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/02/03(日) 14:20:41.72JzhD+8380 (4/6)

×そして巨人がその剣を
◯そして巨神がその剣を


585以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/02/03(日) 18:06:27.42JzhD+8380 (5/6)

「ああ…それが、偉大なるソウルなのですね……」


コブラ「!」


背後からの不意なささやきに、コブラは振り向いた。
振り向いた先には月の女神が立ち、女神の視線は瘴気を纏った巨神に向けられている。


月の女神「無に神が生まれ、無に生が生まれ、神が死に、生が死ぬ時…」

月の女神「生命は定義され、皆の求めしものは来たる」

月の女神「最初の死者よ。偉大なる死よ。そなたは死の護り手であるがゆえ、生をも輝かせるでしょう」

月の女神「すべて、あのお方の予言した通りに」


月の女神「神々に、太陽の時代を」



月の女神の言葉と共に、最初の死者は立ち上がり、鍾乳石が垂れる墓所の天井に触れた。
すると天井は腐り落ち、砕けた岩と泥となって降りかかり、底に触れる前に塵へと姿を変えた。
最初の死者は地上を目指す。己に死を与えた不滅なる者共に、死の安寧を与えるために。



コブラ「思い出したよ……最初の死者……石版にあった最初の死者ニトっていうのは、あいつのことだったのか…」


グウィンドリン「貴公、知っていたのか?」


コブラ「ああ。色々ありすぎて今の今まで忘れていたがね。俺達がここに来る原因になった物に、最初の死者の名前が書いてあったのさ」

コブラ「そうだ…だんだん思い出してきたぜ。なんで今まで忘れていたんだ。グウィンの雷…魔女の炎!誰も知らぬ小人!」

コブラ「グウィンドリン!俺の記憶消失も、王の封印に原因があるのか!?」


グウィンドリン「それも大いにあり得るだろう。王の封印は、闇の者の手から『真に尊きもの』を守るためにある。貴公の心…貴公のソウルを闇から守るために、我が王が封を施したのならばな」

グウィンドリン「だが貴公が望む疑問は、それだけではないだろう?」


コブラ「ああ、まだだ。俺はまだ知らなければならない!」

コブラ「生命が定義された時、現れる答え!」

コブラ「あのお方とやらの予言の中身をな!」



暗い墓所は溶け、コブラとグウィンドリンは転移した。
一人と一柱を新たに包んだのは、闇と静寂ではなく、眩い輝きと暖かい風。
コブラの眼が輝きに慣れ始めると、その瞳には、灰の地平線まで続く灰色の大樹の森と、厚く黒い雲海。
そして、その雲海を所々突き抜け、大樹の森をまだらに照らす、暖かな陽光が映った。
だが、天変を見る者は、グウィンドリンとコブラだけではなかった。



法官「クックックック……」



法官「フフフフ……フハハハハハハ!!」



銀騎士達を従えず、王の側にも付かず、灰の荒野の只中にひとり立ち、輝きに照らされる黒い外套の男。
男は暗黒の化身であるというのに、輝きを見上げ、高らかに笑い声をあげていた。



586以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/02/03(日) 23:23:13.15JzhD+8380 (6/6)


コブラ「クリスタルボーイ…いったいお前は何を企んでいる。空が晴れはじめているのも、お前のせいだったりするのか?」


グウィンドリン「この輝きは、暗黒神の力によるものではない。偉大なるソウルは最初の火に照らされ、現れたとされている。空に登る太陽も、最初の火により生まれたと」

グウィンドリン「だが、この輝きが生じるように画策したのは、他でもない暗黒神だ」


コブラ「画策したにしては、その策とやらを実現できそうな装置が無いぜ。暗黒マジカルパワーを使わずにこんなマネができるとも思えない」


グウィンドリン「その答えは、これから聞けるだろう」



コブラとグウィンドリンが会話を終わらせる頃、黒い外套の男の高笑いと吹き笑いも、沈静していた。
外套の男は黒いフードを取り去り、仮初めの顔を陽光に晒す。
天を仰ぎ、まるで敵を挑発するかのように。




法官「どうだ、この俺が見えるか。見えていて手が出せないのか?それともこの光は本能だ、とでも言い訳をするか?」


法官「お前の力は、生命あるところ全てに行き渡る。悪が生命に巣食うように、お前もまた生命に巣食うのだろう?」


法官「だが、お前も忘れている訳ではあるまい。光あるところには必ず闇が生まれる。そして闇は光に近づくほどに、より濃く、より大きく成長するのだ」


法官「俺は無の世界に追放されたが、そこで生命を作った。老いては傷つき、生まれては死ぬを繰り返す、完全な生命を」


法官「その生命にお前の光が満ちる時、この無の世界は命と光に溢れ、そして闇を孕むだろう」


法官「この世の全てを飲み尽くし、貴様をも滅ぼす、深き暗黒をな」




明確な挑戦の意を向けられた輝きは、揺らぐことも無く法官を照らし続ける。
その揺らがぬ温もりを嫌うように、法官は再びフードを被り、光から背を向け、歩き出した。




グウィンドリン「コブラよ。これが現れし答えだ」


コブラ「……らしいな。まったく、なんともスケールのデカい話さ」


グウィンドリン「最初に火が起こり、それによってあらゆる差異が生まれたわけではない」

グウィンドリン「最初に未完の命が起こり、それが完全なる命となった時……暗黒神を貶めた何者かの力により、あらゆる差異がもたらされたのだ」

グウィンドリン「コブラ…我はこの世の多くを図らずも知る身となったが、暗黒神を貶めた者が何者であるのかは知らぬ」

グウィンドリン「あれほどの闇を無へと落とした神とは、何者なのだ?」


コブラ「アフラ=マズダさ。俺の元いた宇宙では光明神と名乗ってる。彼女が言うには、自分は善と光の神様で、命あるもの全ての守護者なんだと」


グウィンドリン「善と光の女神…アフラ=マズダ、か……」


コブラ「その命の守護者たるお方が、なんとも情けないぜ。まんまとライバルにハメられたあげく、その尻拭いをまた俺にさせるっていうんだからな」


グウィンドリン「またとは……前にも一度、覚えがあるのか?」


コブラ「ああ、バッチリ覚えてるぜ。その時もハズレくじ一枚よこさなかった



587以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/02/05(火) 01:34:07.78e+ev1iY/0 (1/1)

神々の時代を見るとか羨まし過ぎィ!!!俺も立ち合いたかった


588以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/02/05(火) 01:49:56.00IThW/PYjO (1/1)

アーリマンによって古龍の時代が起きて、
差異が生まれて死ぬようになったんじゃなく命がいずれ死ぬまともな命になった事でアフラマズダが引き込まれて偉大なソウルになり
光が生まれた事で闇と分かれ、そうやって産まれた差異が闇を濃くする事でアーリマンを強化、いずれアフラマズダを滅して闇の時代になる、つまり闇のソウルはアーリマン
って事で良いのかな


589以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/02/05(火) 16:45:29.231ynKsyNb0 (1/2)


コブラ「それにこの分じゃ、今度もまたアフラ=マズダのお力添えは期待できそうに無いなぁ」


グウィンドリン「なぜそう言い切れる?」


コブラ「言ったろう、経験済みだからさ。彼女の千里眼はとてつもない。宇宙の端から端までを見渡して、俺に白羽の矢を立てるなんて訳ないくらいにはな」

コブラ「だが、この現象は意図的にアフラ=マズダが恵みをもたらしたというより、蛇口をひねって水を出すように、クリスタルボーイが法則をただ利用しただけに過ぎない」

コブラ「当の女神様は暗黒神の企みはおろか、この世界の存在にすら気づいちゃいないだろう。気付いていたなら、歴史の教鞭はアンタではなく彼女が執っていたはずさ」


コブラ「グウィンドリン、講義は終わりだ。ボーイの計画が闇の成長というのなら、ここで単位をボーナスしてる場合じゃない」


グウィンドリン「闇の増長を止めることを、望むというのだな?」


コブラ「ああ止めるさ。分かったなら早いとこ…」


グウィンドリン「ならん。闇を止めると望むならば、その闇について知らねばならない」


コブラ「おいそりゃどういうことだ?俺を留年させる気か?この先どうなるかなんて俺はもう知ってるんだ」

コブラ「偉大なソウルを手に入れた神々と竜の間で戦争が勃発。神の軍隊はその戦いに勝利して、火の時代だの光の時代だのを作ったが、火が弱まってそれも台無し。人間の世界に朝が来なくなって、代わりに呪いが流行り始めた。だろ?」


グウィンドリン「それは事実ではあろう。だが断片にすぎぬ。神の僕たる人と巨人を、怖れより遠ざける為の気休めだ」


コブラ「気休めだと?」


グウィンドリン「然り。神々の勝利は、差異に生まれた偉大なるソウルにより成された。差異は喜びと繁栄をもたらし…」


グウィンドリン「偽りの安寧と、闇の時代を生んだ」




灰の大樹が溶けはじめ、降り注ぐ陽光が霞み始める。
新たな転移は、コブラとグウィンドリンを灰の荒野より連れ運び、薄暗い夜明けへと立たせた。
竜も、大樹の一本さえも生えない地平線からは、陽光が射し、夜は白み始めている。
だが、大地を薄暗く照らすのは、太陽ではなく、地平線の端まで広がる赤々とした業火だった。


炎に照らされ、炎の生む光以外に何も無い、無の大地。
その大地から立ち上がり、炎に向かって細い身体を、幽鬼の如く揺らす者達が、炎を見つめるコブラの側を通り過ぎた。
通り過ぎ行く者達は小さく、コブラの横腹の高さに亡者の如き頭があり、腹は一切の内臓を欠いているかのように細い。裸体には性器さえも無かった。
一つの頭と、二本の腕と、二本の脚を持つだけの骨と皮。そうと形容する他ない者達が、まばらに地平線の炎へ吸い寄せられている。



コブラ「ここは…また地下か?こいつらはなんなんだ?」


グウィンドリン「これらは、人の祖だ」


コブラ「こいつらがか?確かにロードランで腐るほど見たが、もうちょっと瑞々しくても良いはずだろ。類人猿にも見えないぜ」


グウィンドリン「否、これらは確かに人の祖だ。これから人に成ろうとしている」



炎を目指す者のうち、一人が崩折れ、うずくまった。
誰からも顧みられこと無く、ひび割れた地に顔を擦り付けるその者は、やがて呼吸を止めた。
炎を目指す者達はひとり、またひとりと倒れ、誰一人として炎に辿り着くこと無く、その姿を消す。
そして荒涼とした地と、炎の地平線だけが残った。


だが、うずくまった最初の者はただひとり、上体を起こした。


何者でも無い其の者は、枯れ枝のような両手で土を掬いあげ、幼子を抱くかのように胸元に引き寄せる。
その両掌には炎は無く、光も無い。ただ見えるのは、炎にさえも照らされぬ、ひと握りの陰のみ。
それは炎に照る掌中にできた、ただの影でもあった。
だが、影は炎のように身を焼かず、冷たい安息と、暖かな希望を其の者に与えた。



590以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/02/05(火) 18:52:51.501ynKsyNb0 (2/2)


影をその手に納めた其の者は立ち上がった。
皮膚を通して炎の透ける細脚を張り、曇り空さえ無い漆黒の天に掴んだ影を掲げ、声帯の無い喉を広げ、眼球の無い眼窩から涙を流した。
誕生の喜びに打ち震え、希望の出現に感謝するかのように、其の者は身体を震わせ、声を出せずとも叫び続けた。

すると、かつて倒れた者達も起き上がり、叫ぶ者へ向け歩きはじめた。
そして辿り着いた者から、叫ぶ者の身体にすがりつき、掲げられた手に、細腕を伸ばし始める。
伸ばされる手は増え続け、叫ぶ者にすがる者が五人を超えると、叫ぶ者は重さに倒れた。

倒れようとも、叫ぶ者はなお叫んだ。
欲する者達に皮を喰われ、腕をちぎられ、脚をもがれ、肋骨を抜かれようとも、なお叫んだ。
欲する者達は増え続け、叫ぶ者はついには人山に見えなくなったが、求める者は増え続けた。
そして増え続けた人々が、その動きを止めた時…



コブラ「!」



四つ這いで人を貪る者達の身体に、変化が起き始めた。

細く筋張った四肢は徐々に豊かになり、骨の浮いた背中には肉と体温が生じ始める。
枯れた木ノ実のような頭からはヒビと皺が減り、様々な色の髪の毛が育ってゆく。
その姿は、かつてコブラの見知った『人間』という者達に近くなっていった。



グウィンドリン「火に照らされた人の内に、あるソウルが生じた」

グウィンドリン「そのソウルは、他の偉大なるソウルと異なり、決して輝かず、火の内に生まれぬもの」

グウィンドリン「人の内にのみ生まれるソウルは、人にのみ宿る心を人に与え、人にのみ従う力を人に与えた」

グウィンドリン「故に人は、そのソウルを『人間性』と呼んだ」


コブラ「人間性?……こんな悪趣味な現象で生まれるソウルが、人間性だと?」


グウィンドリン「然り。人間性は決して神に依らず、火に依らぬもの」

グウィンドリン「しかし人間性とは、あらゆる物を求め、飲み尽くすもの。神であろうと、火であろうと、全てを闇に帰せしめるもの」

グウィンドリン「故に、我らが王と、我ら皆は、人間性を恐れた」



グウィンドリン「それを『ダークソウル』と名付け、神に従うよう導いたのだ」



四つ這いで貪る者達の溜まりから、一人立ち上がる者がいた。
立ち上がった者には隆々とした筋骨といきり勃つ男根が備えられ、顔には生気と、力に輝く双眸が現れている。
そして男の皮膚の下には、黒い嵐が巻き上がり、燃え上がっていた。



人間「オオオオオーーッ!!!」



両拳を天に突き上げ、男が全身を震わせ、顔を真っ赤に咆哮をあげると、地平線は炎と共に溶けた。
灰の荒地には大樹が森を作り、まばらに陽光を漏らす灰色の空は、やはり地平線の彼方まで続いているが、彼方からは灰色の塊が迫りつつある。
転移した先を知っていたのは、グウィンドリンだけではなく、コブラの心にも大きな驚きはなかった。



ズガガガーーッ!!!

コブラ「オオッ!?」



だが背後への落雷に、コブラは思わず飛びのいて、音の出所へ顔を向けた。
雷は荒地を撃ったわけではなく、太陽の光の王の右手に集約した時に、轟音を発していた。
太陽そのものとさえ言える輝きを握る王は、右腕を大きく振りかぶり…


バオオオーーッ!!!


輝ける太陽の光の大槍を、地平線を埋め尽くす古竜の群れへ向け、投げ込んだ。




591以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/02/16(土) 12:08:54.56Op2Rf6Pz0 (1/1)

空をゆく大槍は、雲間から漏れる光をも細槍に変えて引き連れ、古竜の群れに殺到する。
大槍は一頭の古竜の頭を撃ち抜き、背後に控える数匹の古竜を砕き、細槍たちは古竜達の翼や鱗を焼いた。


バッ!


太陽の光の王の冠と、瓜二つとも語り得る冠を被ったある偉丈夫は、勢いを削がれた古竜に追撃を加えるべく号令を放った。
天へ向け指された掌を合図に、最前列の騎士隊は雷の槍を、中堅の騎士隊は雷矢を、後衛の騎士隊は竜狩りの大矢を構える。
掲げられた掌は一拍を置いた後、振り下ろされ…


バババババーーッ!!!


光が覗き始めたとはいえ、未だ暗い曇天を、中小様々な雷と大矢が埋め尽くした。
殺到した第二波に飲まれ、古竜の群れはついに荒野へと墜落し、灰色の大樹の森は薙ぎ倒され、巻き上げられた土埃は天を衝く壁のように、神々に迫る。
その壁に向かい、神の軍勢の背後に控える魔女達は、掌に炎を巻き、太陽と見紛うほどに眩い火球の群れを放った。


ドドドドドドドド!!!


荒野を揺さぶる轟音と共に、土埃の壁は、薙ぎ倒された大樹と共に焼き尽くされ、神々の視界は確保された。
墜落した古竜達はしかし、太陽の光の槍による直撃弾を浴びた者達を除き、早くも鱗を生やし直し、翼の穴を塞ぎかけている。



コブラ「古竜との戦争か……俺の目には気休めには映ってないぜ。習った通りの景色だ」


グウィンドリン「………」


コブラ「どうだ?フィールドワークはここまでに…」


「かかれい!!」


回復しかかる古竜達へ向け、コブラの声を遮り、号令が鳴り響いた。
響いた声には聞き覚えがあり、コブラはとっさに声の主の立つ方向に顔を向ける。
コブラの視線の先には、古竜達へ向け槍を掲げるオーンスタインが立っており…


ズアァーーッ!!

コブラ「あっ!?」


オーンスタインの背後から、竜狩りの騎士を飛び越えて黒い塊が古竜へ向かった。
塊は黒い骨を思わせる鎧を纏う騎士達の集まりであり、その跳躍は矢のようだった。
竜狩りは、風を切って古竜へ殺到する闇の騎士達に、槍を用いて指示を送っている。



グウィンドリン「古竜を狩ったのは神々だけではない」

グウィンドリン「人は欲深く、あらゆる物を求める。ならば、無の世界を支えし竜達を逃すはずも無い」

グウィンドリン「人とは無明たる者。ゆえに我ら神々の力さえも求めたが、その欲を我らは助力と救済により満たした」

グウィンドリン「神の支えにより、力を使う方向を定められた人間達は、まさしく無敵だった」


コブラ「…ってことは、今の黒ずくめの連中は…!」


グウィンドリン「貴公も見ただろう。人がダークソウルを得た瞬間を」

グウィンドリン「竜狩りに仕えし者達は、原初の人騎士。神々をも凌駕する暗黒なのだ」



古竜達の元に飛翔した闇の騎士達は、勢いをそのままに古竜達へと斬り込んだ。
黒い炎を纏った特大剣を両手に握る者。黒い炎を輝かせる槍を持つ者。黒い炎を迸らせ、剣身を長く延長する片手剣を振るう者。
それらは一様に肉色のソウルを身に纏い、得物を振るう度に、肉色のソウルも振るった。
人間達の力は圧倒的であり、太陽の光の王の一撃にしてようやく倒れる古竜を、一騎につき三は斬り滅ぼした。
肉色のソウルと暗黒の炎を剣に纏わせ、古竜の正中線を両断したならば、ほんの一瞬、曇天が全くの闇に塗り替わるほどだった。

人間達の奮闘に、太陽の光の王は勝利を確信し、軍を進めた。
接敵した銀騎士達は、人間の巻き起こす破壊の渦を潜り抜け、衰弱した古竜に雷を突き立てる。
その銀騎士達を率いるのは、王の王冠に近しい冠を被る偉丈夫だったが、その偉丈夫だけは人に並び、殺気立つ古龍に雷の杭を叩き込んでいた。
魔女の炎は尚も嵐となって古竜の退路を塞ぎ、最初の死者ニトの放つ死の風は、人と神の手から逃れた古竜を腐らせ、塵へとかえしていった。



592以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/02/17(日) 00:51:56.26DNdEuj+S0 (1/1)

グウィンドリン「人の力を支えとし、神々は勝利を収めた」

グウィンドリン「我らが大王の人に対する心は、神々を凌ぐ人の力を前に決まり、後の世へと伝わっていく」

グウィンドリン「だからこそ、竜との同盟が必要とされたのだ」


コブラ「?…待ちなよ。その竜ならさっき全滅しちまったぜ?」



古竜達は圧倒的な力を前に、しかし強い抵抗を示した。
だがオーンスタインを含めた王の四騎士と、魔女の娘達の参戦を受け、徐々に古竜達の抵抗は弱まり、王が大剣を手に取った最後には、古竜達は敗れて骸の山となった。
大樹は焼き尽くされ、岩は塵となり、竜の流した血は骸の山を降り、荒地に吸い込まれていく。
瞳無き白竜は曇天より舞い降りて、骸の山の頂に座った。



コブラ「!…こいつは、鱗の無い白竜か!」



白竜シース「………」




古竜の骸に立つ白い竜に、岩の如き鱗は無い。
それどころか両目も無く、翼は蜻蛉の羽のようであり、後ろ足の代わりには関節の退化した未熟な蛸足が一対、生えている。
胴体から生える前脚は人の腕のようであり、竜と言うにはあまりに歪なその白竜は、骸の山に右手を突っ込んだ。
そして一枚の鱗を掴み取ると、力を失った竜鱗を握りつぶし、咆哮を上げた。
その様は望む物を無くした子供のようだった。
あるいは、積もる怨みを遂に晴らした快感に、打ちひしがれているようにも。



グウィンドリン「コブラよ、貴公は確か青っちろいグニャグニャと申したな」


コブラ「?」


グウィンドリン「この白竜公こそが、まさにその青白だ」


コブラ「!? こいつがあんたの母親から産まれたっていうのか!?」


グウィンドリン「然り。白竜公は竜の似姿を持つが、その有り様はむしろ神に近しい」

グウィンドリン「白い身に満ちるは純然たる月の魔力であり、朽ちぬ古竜の持つ偽りの炎の力では無い。のちに偉大なるソウルの分け身の器と成れたのも、無からは遠き神たる性質ゆえだろう」


コブラ「そうか……だからシースは古竜を裏切った!いや、裏切らざるおえなかったのか!」


グウィンドリン「左様。白竜公の魔力は我が母上の原始結晶から受け継がれており、魔力を特に濃く受け継いだ公は、蒼き結晶の魔力を秘めるに至った。古竜供にはさぞ異質に見えたことだろう」

グウィンドリン「そして、白竜公に古竜供の有り様は忌まわしかったのだ。寿命と無縁である古竜の命を、神であるが故に、公は得られなかったのだから」


コブラ「おっと待った、さっきのその原始結晶ってのはなんだ?」


グウィンドリン「我らが母上の力を指すものだ。我ら月の兄妹や白竜公を産み落とした揺籠であり、魔力と呼ばれるあらゆるものの祖となった恵みだ」


コブラ「なるほど。神と言えど、母は強しか」



静まり、うなだれるシースを、闇の騎士達は見上げる。
人たる彼らの、その髑髏状の兜の奥に開く双眸は、はたしてシースの肉を捉えているのか、あるいは力を捉えているのか。
それを知る者はおらず、地平を埋める古竜達の骸を踏みつける、第二の冠被りし偉丈夫の眼は、虚空を見つめていた。
戦に勝利した銀騎士達と四騎士は、得物の刃先や先端部を曇天に向け、祈りと忠誠、感謝と弔意を王に示す。
だが太陽の光の王は、大音声に勝鬨を上げることもなく、ただ音も無いまま雲間の陽光へ向けて大剣を掲げた。
そして静かなる終戦と共に、あらゆる景色はまたも溶け消え、コブラとグウィンドリンは転移した。



593以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/02/19(火) 00:15:30.75XPHUwH8Q0 (1/1)

>>572に訂正
グウィンドリンの名前表記が一部「グィンドリン」になってますが、正しくは「グウィンドリン」です。
名乗りのシーンでこれじゃあ格好がつかない。


594以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/03/31(日) 22:51:43.52iDX4c3VCo (1/1)

隻狼にはまってるのかな?


595以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/04/09(火) 02:53:10.16wUOcHHr50 (1/1)

荒廃の風景を抜けたコブラとグウィンドリンを待ち受けていたのは、荒廃などとは程遠いアノール・ロンドの華々しさだった。かつて仮面の騎士と矛を交えた大広間にコブラは立ったが、コブラの眼には殺気立つ者の姿など映らない。
場内を歩く者は、皆一様に人と比べて大きくはあるが、人のそれに似た文化を思わせる出で立ちと、振る舞いをコブラに見せた。
流麗な外套を纏い、そこかしこで声を交えては微笑む者達。書を手に持ち、しかし急がず、怠けもせずに歩き回る小間使い達。簡素ではあるが粗末ではない服を着た巨人と、彼らに何事かを命じる銀鎧の騎士。
どれもがコブラにも受け入れられるほどの人らしさを纏うが、そのどれもが、人の世には決して纏えぬ清らかさと、暖かな安心感を放っていた。


コブラ「アノール・ロンドの隆盛、か……俺の世界の古代芸術史にヴァン・ダイクって画家がいるが、そいつが喜んで描きそうな美人がそこらじゅうにいるぜ」


グウィンドリン「今貴公が見ているものは、かつて在りし平穏。わが故郷のあるべき姿だ」


コブラ「らしいな。貴族趣味の収集家が好みそうな景色だが、これが闇を倒す事とどう関わる?それともただの自慢か?」


グウィンドリン「確かに郷愁の想いもある。だが闇を弑するというのなら、闇の成り立ちも覗かねばならぬだろう」


コブラ「闇の成り立ちとやらはもう見ただろ。人食いの裸踊りはキョーレツだった」


グウィンドリン「子が生まれた事そのものを成り立ちなどとは呼ばぬ。子の成り立ちを語るならば、育ての親の有り方と、子の境遇も語らねばなるまい」

グウィンドリン「焦ることは無い。貴公が見聞きするものは全て記憶の情景だ。現世にある貴公の身には瞬きの瞬間さえも訪れてはおらぬ」


コブラ「なるほどね……いくらか借りを作っちまってるようだし、あんたのその言葉は信用しよう」

コブラ「もう少しだけ付き合ってやる。なるべく退屈しないように頼むぜ」


グウィンドリン「では我が手を取れ。先を見せよう」



コブラがグウィンドリンの手を取ると、城内の景色はコブラの頭上や側面を通り過ぎ、コブラの眼前に柱の森の大広間を引き寄せた。
大広間には、かつてコブラを追い詰めたオーンスタインではなく、謁見を受ける為の第二の玉座に座る、冠の偉丈夫の姿がある。
王の四方には銀鎧の騎士達が立ち、王の右隣では筆記官が書を開き、王の左隣には月の女神が座についていた。
月の女神の身は、控えめながらも美しい細工の施された白灰色のドレスで整えられ、野にいた頃の妖艶な清らかさは、なりを潜めている。


法官「使いを向かわせるには畏れ多き要件が多々あるゆえ、私が直々に馳せ参じた次第にございます」


その二柱の前に跪いていたのは、身を偽るクリスタルボーイだった。長旅をしてきたのか、黒い外套の端には砂埃が付着している。


冠の偉丈夫「要件とは?」

法官「まずはイザリスの魔都を呑みし混沌についてです。我らが第一王子は問題無く混沌をお収めいたしました。黒騎士達の被害も最小にございます」

冠の偉丈夫「よろしい。して、魔女達はどうしたのだ?イザリスは?」

法官「イザリス様は、多くの姉妹達と共に亡くなられました。混沌はイザリス様の術により生じたと、辛うじて生き残った幾人かの魔女たちは申しておりました」

冠の偉丈夫「愚かなことを…火を畏れよと申したあの口は、すでに驕っていたか…」

月の女神「世を照らす火の弱まりに、最初に気付いたのは彼女のはず………やはり火の弱まりを止めようとして…」

法官「いえ、弱まりを止めるというよりは、火が消えた時のための“控え”をこしらえようと画策し、事を仕損じたようです。生み出された炎は歪み、本来産むべき命と温もりの代わりに、デーモンと灼熱を産みました。難を逃れた魔女たちも尽く異形と化し、あるいは本来の魔力を失いました。もはやあの魔都の再建は叶わぬでしょう」

月の女神「………」

冠の偉丈夫「…ならば、太陽の光の王グウィンの名の下に、都に封を施そう」



冠の偉丈夫は、家臣である法官に改めて己の名を告げると、掌に黄金色のソウルを溢れさせ、法官へ向け漂わせる。



コブラ「封……そうか、これが例の王の封印ってやつか」

グウィンドリン「左様。この封印は、多くのものを縛ることになる」



黄金の霧となったソウルは、法官の胸元に吸い込まれ、消えた。


月の女神「…封印するというのですか?」

グウィン「魔都の門へ再び赴き、その封を放て。さすれば混沌の染み出しも防げよう。封を放ったのちは兵を置き、見張らせよ。常に兵を絶やすな」

グウィン「して、その方の言い渋る凶報とは?」


596以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/05/19(日) 23:55:20.92IqlMA4dA0 (1/1)

法官「………」


法官はしばしの間、口を噤んだ。
法官は本来即答も可能な言葉を敢えて溜め、重さを加え、そして語った。


法官「ウーラシールにて地の底より見出された古き人が、闇を放ちました」


グウィン「!…闇とな…」

月の女神「な…ならば都は?ウーラシールはどうしたのですか?」

法官「急報ゆえ、事の全貌はまだ……しかし生じた闇はウーラシールの王廟を覆うほどに大きく、光の者たる我ら神々の力は及ばぬかと…」

グウィン「及ぶか及ばぬかは余が定めること。では、要は何も分からぬと言うのだな」

法官「はっ…」

グウィン「………」



グウィン「よろしい。他に申すべき事はあるか」

法官「ありません」

グウィン「ならば行け。ウーラシールの闇を調べ、暴いたものを余に伝えよ。輪の都と小ロンドに使いを送り、闇の兆候を探らせるのだ」

法官「仰せのままに」


法官は王に礼をし、女王に礼をすると、踵を返して謁見の間から歩き去った。
後に残された太陽の光の王に、その妻が語りかける。
静かで細いその声には、怒気を微かに含んでいる。



月の女神「なぜイザリスをお見捨てになるのですか?ウーラシールのように、闇に蝕まれたわけでは無いのでしょう?」

月の女神「貴方と契りしこの身は、月の女神であると共に、太陽の女神でもあるのです。わたくしの太陽の癒しを以ってすれば…」


グウィン「ならぬ」


月の女神「何故?」


グウィン「我が月…我が太陽よ。そなたの癒しを受け継ぐは、我らが娘がひとつ、グウィネヴィアのみ」

グウィン「他はみな、敵を破る太陽と月。都は守れど、癒す事は出来ぬ。末の娘は闇を封ずる術を持つが、まだ幼く儚い」

グウィン「ゆえにそなたを危地へは向かわせられぬのだ。神を喰らいかねん闇が蔓延る地になど、なおのこと」

グウィン「混沌と闇を打ち破るは、我らの剣と槍。雷と閃光である。そなたの出る幕はない」


月の女神「………」




月の女神は太陽の王から視線を外し、やや俯いて眼を伏せると、意を決したように再び太陽の王の眼を見た。




月の女神「わたくしでは……わたくしの力では闇と混沌を治められぬと言うのであれば、竜の力をお頼りになるべきです」


グウィン「竜の…?」


月の女神「そうです。竜ならば、その身が無であるがゆえ、闇にも容易くは飲まれないでしょう。混沌の熱も、あれが仇なすのは神と人だけ。いずれの炎でもない第三の炎の使い手ならば、混沌にも耐えましょう」




597以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/04(火) 15:36:07.94aP07wPkHO (1/1)

楽しみ


598以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/21(金) 07:55:45.59tY1lRiTlO (1/1)

なんで神は人間のことこんなに信じてないんだろうって思ってたがこういう成り立ちだったのね……嫌悪感隠しながら利用してたくらいの勢いだったのか


599以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/06/25(火) 03:54:27.06aa7490Ni0 (1/1)

グウィン「………」


女王の進言に、王は押し黙った。沈黙は否定や肯定を必ずしも表すものではない。
グウィンドリンがやや俯くと…


コブラ「!」


王と女王の微かな動きも止まり、広間の空気は全く動きを失った。
記憶の世界がグウィンドリンのものであるが故に、記憶の動きもまた、グウィンドリンに従う。



グウィンドリン「我が王は悩み、しかし終に、竜との同盟を結んだ」

グウィンドリン「女王にはかつて、白竜公を神の国の誠なる友とした功がある。そして白竜公の出自を知らぬ王が恐れたのは、何より濁り水の流行りだった」


コブラ「水道代でもケチったのか?」


グウィンドリン「その程度で済めば、憂いも露と消えよう」

グウィンドリン「だが、看過は不可能だった」


ブォン…


静止した時の中、グウィンドリンが虚空に右手を差し伸べると、空中に楕円形の鏡のような物が現れた。
鏡の数は二枚。どちらにも一切の装飾は無く、額縁や鏡台すらも無い。
そして薄氷のような二枚には、それぞれ異なる人物が映っていた。
一枚に映るのは、緑色の瞳と銀の長髪を備え、額に一対の短い角を生やす、色白の女の顔。
もう一枚に映るのは、緑色の瞳と銀の長髪を備え、首に波打つヒダを現し、目元に白鱗を生やす、色白の少女の顔。


ボオォ…


次に、グウィンドリンが虚空に左手を差し出すと、その掌にも同様の鏡が現れる。
鏡の数は先と同様に二枚。一枚には何事かを話し込む、幾人かの神々の姿。
もう一枚には、夕暮れを背に佇み、翼を広げる三つ目の黒竜の姿が映った。
グウィンドリンは両の手を下ろし、四枚の鏡をコブラの周囲に展開させる。


コブラ「濁り水ってのはコレか?確かに何となく陰謀がありそうな組み合わせだ」


グウィンドリン「奸計の類では無い。起きるべくして起きたことだ」

グウィンドリン「二柱の女神は我が姉妹。角を持つ者は姉のプリシラ。目元に白鱗をたたえる者は妹のヨルシカという。いずれも我が母から産まれ、この暗月のグウィンドリンや白竜公と同じく、月と竜の力を持つ」

グウィンドリン「古竜であるシースを許容し、半竜であり王家の血筋たる我らを害するなど、その害の大小を別にしたとて、我が父には許しがたい行いだったのだ。故に父と兄上は、竜を弑した身でありながら竜を受け入れた。総ては父が母を愛したが故」


コブラ「兄…いや、今はいい。続けてくれ」


グウィンドリン「うむ……だが王の懸念する濁りとは、厄事の重なりそのものを指していた」

グウィンドリン「ダークソウルによる、人の国ウーラシールの破壊。その報を受けた王は、闇を孕む人世界に対して警戒を強め、神の世を護るべく、人への不干渉に近い政を執ろうと考えた。だがそれが人の世に知られれば、人は絶望に駆られ、更なる闇を孕む」

グウィンドリン「そのような事態を避けるには、人に大義を示す必要があり、その大義こそが『古竜の残滓を追い立てること』だったのだ。だが、そこに矛盾が生じたのだ」


コブラ「なるほどな…人の闇に対抗するために竜との協力体制を結ぶと、人に示す古竜討伐の大義が崩れて人からの不信を招くし、かといって竜と結ばずに闇を放置すると、闇への対抗手段が無くなっちまって、人間社会がドロドロに腐り落ちるわけか…」


グウィンドリン「左様。そして竜との戦いという大義を保つためには、竜が居なければならない。故にアノール・ロンドは、竜の討伐をあえて怠った。だがその大義も、優れた騎士であるが故に戦の怠りに気付いた『鷹の目のゴー』と『竜狩りオーンスタイン』からの不信により揺らぎ、戦いの戦果を巡る神同士の不和と不信も相まり、遂に限りを迎えつつあった」

グウィンドリン「我ら月と竜の子らを守るため、神の国を護り、人の世を保つため、王が選ぶべき道は一つしか無く、他の道は許されなかった」



止まった時はそのままに、王とその妻は溶け、大広間は崩れ去っていく。
転移にも慣れたコブラの眼前からは、四枚の鏡も消えた。
割れた天井からは晴天が滲み出し、空に輝く太陽に、コブラは思わず顔に手影を作った。


グウィンドリン「王は人からの不信を受け入れる事を選んだ。時が充分にあれば、他の道も模索のしようがあっただろう。しかし母も父も、それが許されない事を知っていた。知っていたからこそ、例え策が不足であろうと、我らが未熟であろうと、発令を急いだのだ」





600以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/07(日) 07:22:11.98j/J4l8yd0 (1/2)

カオルちゃんは夜早く寝かせて朝早く起こしてくれるような存在だった…?


601以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/07(日) 07:23:02.36j/J4l8yd0 (2/2)

うああい誤爆った ごめんなさい


602以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/07/07(日) 21:58:59.56KoztDckNo (1/1)

ストーリーの解釈がホント面白い


603以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/11(日) 00:41:27.48g1U5LN89O (1/1)

待機


604以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/12(月) 07:11:31.66mOGgf22A0 (1/1)

抜けるような晴天と眩い太陽がアノール・ロンドを見下ろす中、王城の正門前では、神々による『儀式』が行われていた。
長い階段の最頂部に、銀騎士の背丈ほどもある大剣を穿いた王が立ち、その両脇には太陽の第一王女と第一王子が立つ。
王の背後には女王が控え、その隣には法官の影が差している。
月の子らの姿はどこにも無く、階段の両脇には黒騎士が層を成して立ち並び、剣を胸元に立てていた。
宙に浮かぶ銀騎士達には神々が混じり、そこにはオーンスタインの姿もあった。


コブラ「流石だな。神話時代の全盛ともなると、空を飛ぶくらいは普通ってわけか」


グウィンドリン「我ら神々が火を受けた時、備わった力だ。アノール・ロンドも飛翔を前提とし、建てられている」

グウィンドリン「だが皮肉と言うべきか、世界の火の弱まりによって最初に失われたのも、この力だった」


コブラ「あんたらの翼も蝋だったわけだ。で、王様は何処に行こうとしてるんだ?剣を持ち出すんなら、バカンスってわけでも無いんだろ?」


グウィンドリン「然り。アノール・ロンドを築く前は、人の闇が強き時であったため、火の弱まりもまた、勢いを早めていた」

グウィンドリン「ゆえに我らが王はこの日に、火継ぎへと向かわれたのだ」


コブラ「火継ぎ?……するってえと、最初の火とやらに薪でも焚べに行くのか?」


コブラ「!!……まさか、あんたが俺を大王グウィンの後継にしようとしたってのは…!」




ゴオンッ!


太陽の第一王子、冠の偉丈夫が、幅広の刃を持つ剣槍を、石畳に突き立てた。
それを合図に銀騎士達は一斉に剣を掲げ、大王は階段を降り始めた。
大王が黒騎士の一柱の前を通り過ぎると、黒騎士は王に続いて段を降り、黒騎士の列は王が歩を進める毎に、王の隊列に加わった。
王の子らは声を上げず、家臣達は顔を上げず、貴民達は音を立てない。




グウィンドリン「貴公の心は今、我が心と繋がっている」

グウィンドリン「言い淀むことは無い。貴公の疑いは既に知っている。貴公の思う通りだ」


コブラ「………」


グウィンドリン「王は薪となり、身に宿るソウルを燃やし、世界を保つ」

グウィンドリン「謁見の間にて我が姉の幻影が語ったのは、その役を貴公に引き継がせるという意」

グウィンドリン「大いなる火の薪となる者。不死の試練とは、その者を選び出すための謀なのだ」



階段を降り終わり、王は地を歩くように、空中を歩いた。
黒騎士達もそれに続き、あるはずのない足場を踏みしめては、鎧を擦らせる音のみを零した。
飛べぬ者のための回転階段は動かない。その先に続く、絵画の館に隠れる者達に、儀式への参加は認められていない。



グウィンドリン「真実を知ったが故の驚き、疑いも、我は全て見渡せる。だが、驚くべきはやはり我が方であろうな」

グウィンドリン「貴公は何故、我を恨まぬのだ?」


コブラ「止むに止まれぬ事情ってヤツには、俺も懐が深くてね」

コブラ「それに俺の世界は、あんたなんか及びもつかないような大悪党ばかりでな。貧乏くじ引かされただけの政治家なんか、数に入らないのさ」


グウィンドリン「貧乏くじ、か…」


コブラ「よしてくれ、今更センチになる歳でも無いだろ?」


グウィンドリン「…いや、消沈しているわけでは無い」

グウィンドリン「ただ、安堵しているのだ。貴公に弑されることも、謀った者の権利と義務であるがゆえに」




605以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/12(月) 13:58:55.36NoT3irZ5O (1/1)

まあそんなこと言われても大人しく火にくべられる男じゃないしなコブラ
しかし世界そのものが詰んでるなここは


606以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/14(水) 03:35:02.12wD4UrRil0 (1/1)


ヴン!!


コブラ「!」



突如、記憶の風景が消滅し、闇がコブラとグウィンドリンを包んだ。
空も地も無く、上下さえも定かではない。



コブラ「停電か?それとも上映終わり?」


グウィンドリン「王が火継ぎに旅立ったのち、我ら月の子らは再びアノール・ロンドの奥へと秘され、政から離された」

グウィンドリン「法官の策も停滞に入り、彼奴の動きにも暫くは目立った所が無い」

グウィンドリン「故に、新王となった我が兄が何を行ったかは、他の法官……クリスタルボウイとは異なる者達の残した書により、切れ切れに知るのみだ」

グウィンドリン「故に、映るものも無い」


コブラ「あらま」


グウィンドリン「グウィン王無き後、新王は人の秘めたるダークソウルへの対抗として、人と共に築いた人の都…輪の都を人知れず封印した」

グウィンドリン「神からの働きかけ無くして、アノール・ロンドに干渉できぬようにとの事だろう」


コブラ「臭いものに蓋したわけだ」


グウィンドリン「蓋というより、遺棄と言うべきだろうな」

グウィンドリン「次に新王は、先王が人を御す方法を試すためにと築いていた別の人国、小ロンド国へ赴いて闇を忌むべきものと定めさせ、新たに王を四人と定めて互いに尊信するようにと命じた。小国は公国となり、四君主を頂点とした民主制を築き、神の庇護を一身に受けた人国となった」

グウィンドリン「小ロンド公国は栄えた。人と神の築く文明国として、理想と言える形を成した」


コブラ「当てようか。……だが、思ったほど長くは続かなかった。だろ?」


グウィンドリン「左様だ」



肯定の言葉とともに、闇は再び色を放ち始めた。
コブラの足元には白い石畳が現れ、周囲の虚無は竜狩りと処刑者がコブラの一行と矛を交えた大広間を浮かび上がらせた。
大広間の最奥、大王の立像の前には玉座が置かれ、そこに座すのは太陽の新王。
その新王の眼には、広間両脇を埋める神々と、己の正面に書を持って立つ、一柱の女神の姿が映っていた。



新王「我を前に、もう一度申してみよ」



低く厳かな声で、新王は事を確かめた。
再び発言するよう求められた黒髪の女神は、臆することなく、国を揺るがすほどに危うい題を告げた。



罪の女神ベルカ「神々の審判者にして、暗月の魔力の信奉者。魔女にして罪の女神たるベルカの名の下に、汝に告げる」


ベルカ「この場を以って名をとこしえに封じ、王の座を捨て、アノール・ロンドより去れ」





607以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2019/08/22(木) 15:52:27.87sLWvM18eO (1/1)

ベルカ!!