1 ◆54DIlPdu2E2015/10/27(火) 21:30:58.33X6dTKHtI0 (1/1)

前スレ

末妹「赤いバラの花が一輪ほしいわ、お父さん」 (旧タイトル【BとYとK】)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1426508868/

……の、続きです。あと少し、もうちょっとだけ、お付き合い願います。

本編投下は次回更新から
 

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1445949058



2以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/27(火) 22:57:12.1661O295tAO (1/1)

立て乙おつ
最後まで応援してるぞ


3 ◆54DIlPdu2E2015/10/28(水) 19:57:50.72V4U2EeR20 (1/1)


※取り合えず連絡のみ。投下は早くても明後日の予定です…すみません※


4以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/31(土) 02:21:24.66XtDHdxPAO (1/1)

後日譚もあるのか
楽しみだー


5 ◆54DIlPdu2E2015/11/01(日) 22:45:12.87Pxy8Pkbc0 (1/3)

久しぶりの、商人の家。

長姉「ただいま……」カチャ

家政婦「お帰りなさいませ、長姉様。今日はお早いのですね」

長姉「ええ、料理教室はお休みで、先生との打ち合わせだけだったから」

長姉「……みんなはお店?」

家政婦「今日は旦那様と次姉様が出ておられます。長兄様は材木屋さんにお出かけですよ」

長姉「そ、ま、普段通りね……」



商人の店。

長姉「ただいま、お父さん、次姉。お疲れ様」

次姉「あら、姉さん」

商人「おや長姉、お帰り……次姉、お客さんの少なくなる時間だから長姉と休憩しておいで」

次姉「いいの? ありがとう、お父さん」

長姉「近くのカフェにでも行く? 私がおごるわ」

次姉「おやおや珍しいこと」




6 ◆54DIlPdu2E2015/11/01(日) 22:47:03.51Pxy8Pkbc0 (2/3)

近所のカフェ。

長姉「あー久しぶり、ここのカフェオレが好きなのよー」

次姉「お父さんがコーヒー苦手だから、うちでは専ら紅茶だものね」

長姉「……お父さん、今日も平常通りよね」

次姉「ん? なんのこと?」

長姉「明日帰ってくるんでしょ、末妹…達。もっとソワソワしているかと思ったわ」

次姉「平常心で迎えるつもりでしょう、あの子達は『友達に会いに行っただけ』だからね」

次姉「どっしり構えた父親を目指すとも言っていたし」

長姉「……」

次姉「……私達に気を遣っている部分がないとは言わないけれど」

次姉「お父さんはお父さんで、変わるべきところは変えようとしているのよね」

次姉「ま、それでも明日になったらさすがにソワソワが隠せないのがうちのお父さんでしょうね」

長姉「……くす」

次姉「ん?」

長姉「お母様がお父さんのどこを好きになったのか、わかるような気がして来たの」

長姉「お父さんって、いい人 よね?」

次姉「ええ、いい人ね」

次姉「お父さんと結婚できたお母様は、きっと幸せだったと思うわ」

長姉「……うん」

長姉「私達のお母様は、幸せに生きたのよね……」

……


7 ◆54DIlPdu2E2015/11/01(日) 22:48:02.26Pxy8Pkbc0 (3/3)


※今回これだけ…※

一週間前から風邪で体調を崩し、予想より回復が遅くて滞っています、すみません…
良くはなってきたので、近いうちに復活します。たぶん…



8以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/11/02(月) 00:21:03.48c/mSKMtAO (1/1)

乙 このお話は家族の物語でもあるんだよな

>>1はとりあえず安静にしてなっせ。のんびり待ってるから


9 ◆54DIlPdu2E2015/11/03(火) 22:53:54.93Oq+YyCeJ0 (1/2)

商人の店。

長兄「ただいま父さん……材料調達は無事にできそうだよ、喜んで話に乗ってくれた」

商人「お帰り長兄、ありがとう」

商人「これで、長姉の嫁入りにはお前がデザインした衣装箱を持たせることができるよ」

長兄「……本当に、俺みたいな素人に作らせていいのかな?」

商人「お前が手掛けるのは装飾部分の彫刻だけ、本体の組み立ては工房に頼むから実用には全く問題ないさ」

商人「何より、長姉自身が望んだんだ」

長兄「……全く、俺だって暇人じゃないのに、本業の傍ら婚礼までに仕上げろなんて」ヤレヤレ

商人「嬉しそうな顔して何を言うか」

長兄「ははは、実は楽しみなんだ、趣味の木彫だけどそんな大物は初めてだし」

長兄「……引き受けると返事した時のあの娘の喜びよう、小さい頃と同じ顔で」

長兄「あいつだって、俺の可愛い妹だよな、って久しぶりに…その気持ちを思い出した」

商人「……」

商人「酒を飲みながら嫁に出したくないと口を滑らせた私の気持ち……少しはわかるかい?」

長兄「……うん」

長兄「同じ町の中で、子供のころから知っている奴の所へ嫁ぐにしても……寂しさは、あるよ」

商人「ああ、長姉と同じ家で過ごせるのもあと1年もないかもしれんが……」

商人「悔いのないように、父として兄としてあの子への務めを果たし、晴れて花嫁として送り出そう」

長兄「ええ、父さん」

長兄「寂しいけれど、長姉と仲直りができて本当によかった、そして長姉が自分の幸せを見つけてくれてよかった」

長兄「早く、次兄と末妹にも話してあげたい」

商人「そうだな……」

商人「明日は皆で、誰一人欠けることなく、あの二人を出迎えよう……」

…………


10 ◆54DIlPdu2E2015/11/03(火) 22:54:30.29Oq+YyCeJ0 (2/2)


※ごめん、これだけ…なかなか体力が戻りませんで…※

とりあえず、帰還前の自宅サイドはここまで。
今後はまた屋敷サイド、そして帰還、ちょこっとエピローグ…
…おおまかに、こんな予定です。



11以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/11/03(火) 23:49:08.20HKN3T21AO (1/1)

本当にあとちょっとなんだな…つらいぜ…
そして>>1は無理ダメ絶対
暖かくしてしっかり休んでくれ


12以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/11/06(金) 04:21:53.73F9VDxIYAO (1/1)

ゆっくり気長に待っとるの
一さん お大事に


13 ◆54DIlPdu2E2015/11/06(金) 22:46:06.91wellT1Sb0 (1/2)

野獣の屋敷、次兄の客間…

末妹「お兄ちゃん、荷物はまとまった?」

次兄「うん、元々たいした物は持ってこなかったから。お前は?」

末妹「ドレスとオルゴールの分、ちょっと荷物が増えたけど、大丈夫」

次兄「荷物が増えると言えば、例の鏡も忘れずに持ち帰らないとね」

末妹「そうね、馬車には割れないように積まなきゃ」

次兄「今夜にでも用意してくれるって、菫花さん言ってたけど……」

メイド「末妹様、こちらにいらしたんですね」ピョッコリ

末妹「メイドちゃん、何かご用?」

メイド「あのですね……末妹様のお家の家政婦様に、これを渡してくださいませんか……」スッ

末妹「封筒? お手紙かしら」

メイド「ええ。でも私、字が書けないので菫花様に代筆していただきました」

メイド「バスケットの事とか…お世話になったお礼です、短いお手紙なのですぐ読み終わると思いますが」

メイド「あと、私が見つけた四つ葉のクローバーを押し葉にしたものを同封しています」

末妹「幸運のお守りね」

メイド「……葉っぱが大きくて形が良くて、それはそれは美味しそうなクローバーでしたが……そこをグッと堪えて……」

次兄「メ、メイドさんが食欲を自制しただと!?」

末妹「メイドちゃんの『本気』が伝わってくる(ような気がする)……」

末妹「よくわかったわ、その真心、間違いなく家政婦さんに伝えるから!!」メイドノマエアシニギニギ

メイド「お願いします、ありがとうございます!」

メイド「……家政婦様が親切なかたで、本当によかった」

メイド「いきなり現れて、おまけに喋るウサギが普通でないことは私にもわかります、それなのに」

末妹「メイドちゃん……」

メイド「きっと、末妹様達を心から信頼されているから、私のこともすぐに受け入れてくれたのだと思いますよ」

次兄(それだけじゃないな、俺の勘では彼女、クールビューティーに見えて意外と可愛いもの好き)

末妹「そうよね……」

末妹「……不思議な体験に理解を示してもらえるって、本当にありがたいことだと今になって思うわ」

末妹「帰ったら、私からも改めてお礼を言おう……」

……


14 ◆54DIlPdu2E2015/11/06(金) 22:47:12.68wellT1Sb0 (2/2)


※>>11-12 ありがとうございます。
お陰様で体調は良くなってきましたが、なかなかペースは戻らず、すみません…※

次回は来週のどこかで、たぶん。


15以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/11/07(土) 01:43:37.81OdlBn8sAO (1/1)


お大事に


16以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/11/08(日) 17:40:33.13bt9RhF1AO (1/1)

超有能家政婦さんをしてもケモナーの目は欺けない
次兄…恐ろしい子…!(白目)


17 ◆54DIlPdu2E2015/11/10(火) 21:33:37.11OSjYUVKD0 (1/1)


※おしらせのみ※

風邪のようなものが9割治ったと思ったら、リアルの事情により週末まで無理そう…ごめんorz

最低でも金曜日まで更新できないです


18以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/11/11(水) 02:27:30.493SSNc+9AO (1/1)

快気祈願に描いてたんだが治ったようで何より
でも病み上がりで無理は禁物
http://m1.gazo.cc/up/24557.jpg

次兄は屋敷でなら寝込むのも悪くないかもとか思ってそう


19以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/11/16(月) 00:33:22.20Wv/mPQZAO (1/1)

ただ忙しいだけで、ぶり返してダウンしてるとかじゃなきゃ良いんだが

病弱な>>1は次兄である可能性が微レ存…?


20 ◆54DIlPdu2E2015/11/16(月) 22:34:57.53SRxT/MKH0 (1/1)

>>18
本当にありがとう、微妙に嬉しそうな表情の次兄がw
周囲で心配している皆も可愛いよぉぉ


体調は9割9分回復したけど、忙しい事情が続いているのでorz
今週、せめて1レスだけでも更新したいぜ…
 


21以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/11/19(木) 00:56:26.854eMX2nPAO (1/1)

>>1が元気ならええんよ
待ち焦がれるのもまた一興

http://m1.gazo.cc/up/24744.jpg


22 ◆54DIlPdu2E2015/11/20(金) 23:04:54.09y7R3pQBL0 (1/1)

今週末はやっぱり無理だった…でも見通しだけは立ちました
来週末~再来週で少し更新します

>>21
ありがとう! 相変わらず細部がなんとも「らしくて」嬉しい


23 ◆54DIlPdu2E2015/11/29(日) 00:01:53.05SV0bJE2A0 (1/4)

野獣の屋敷、師匠の自室。

師匠「ふむ、あの子達に渡す鏡か」

王子「ええ、これです」

師匠「どれ、小さいがいちおう鏡台になっているのだな」

師匠「ガラスの鏡だが、枠も覆いもしっかりした木製だ、これなら馬車の揺れ程度では割れる心配もなかろう」

師匠「それに若い娘の部屋に置いてもさほど違和感のないデザイン」

師匠「お前にしては気が利いている」

王子「……野獣と話をしたくて、お茶会の後にひと眠りしたんですよ」

王子「『いくらでも余っている客間のひとつに据え付けではない小ぶりの鏡台が置いてあるから、それを使え』と」

王子「聞いてよかった、僕ならあの子の部屋との調和も考えずに、こんな鏡を渡す所でした」

王子「これも使わない客間にあったものですが」コトッ

派手な飾り付きの鏡:ゴテゴテギラギラー

師匠「……確かにこれも女性が使う鏡だが、なんというか…少なくとも清楚な少女の部屋には似合わんな」

師匠「いかにもな成金のマダムが使いそうな、と言うべきか」

王子「……やはりセンスが悪いですよね、僕って」ハァ

師匠「お前が図書館の娘に送ったドレスは、なかなか趣味が良かったのにな」

王子「…………あれは、彼女が好きだと言っていた色だけをこちらで指定して…デザインは仕立屋まかせです」

師匠「そうか、しかしあの明るい青は彼女の黒髪によく映えておったぞ」

王子「……そう言えば、師匠」

師匠「うん?」
 


24 ◆54DIlPdu2E2015/11/29(日) 00:03:43.67SV0bJE2A0 (2/4)

王子「彼女には舞踏会の招待状を受け取ってからを夢と思わせたにしても、実物として存在するあのドレスは?」

師匠「うむ……」

師匠「証拠隠滅のために我々が没収する手もあったのだが、それも……どうにも忍びなくてな」

王子「師匠」

師匠「わ、儂ではないぞ!? 魔術師ギルド唯一の女性幹部、面識くらいあっただろ、主に彼女が強く反対して!?」

師匠「……検討の結果な……王子は魔術師ギルドに通うための私服を、自分の小遣いで新調しようとしていた」

師匠「が、そこで王子は何を間違ったのか、仕立屋に女性物のドレスを発注してしまい」

師匠「届いた現物を見て自分のミスを知った王子はさんざ悩んだ挙句、『どうしよう、返品は店に迷惑がかかるし』」

師匠「『それに父上母上にバレたらどうなるやら、頼むから娘さん引き取ってくれ』と」

師匠「必死に頼まれたあの娘は、やむにやまれず……というストーリーの暗示をかけてやった」

王子「」

師匠「他ならぬお前ならばさもありなん、というエピソードだろう?」

王子「……娘さんも、それを信じたのですね……」

師匠「誕生プレゼント、世話になっている感謝のしるし、他にも案は出たが」

師匠「間抜けてほほえましい思い出の方が負担にはならぬと思うのだが?」

王子「間抜け」

王子「……そうですね、本来、死をもって償うほどの過ちを犯した僕です……」

王子「彼女が王子という人間を間抜け程度の認識で済ませてくれるように図ってくださったのは、感謝こそすれ恨むのは筋違い」

師匠「少しは恨んでいるかのような言い草だのう」

師匠「……」

師匠「儂は、あの娘が図書館の仕事を辞めた後」

師匠「結婚して一人目の子供が生まれた頃までを直に見届けた、何度か会って話もした」

師匠「夫となる男の求婚を受け入れてから、あのドレスは処分しようかと思ったそうだが、それを男に止められたそうだ」

王子「……?」
 


25 ◆54DIlPdu2E2015/11/29(日) 00:05:30.46SV0bJE2A0 (3/4)

師匠「不思議に思うか?」

師匠「男は娘にこう言ったそうだ」

師匠「『ドレスに纏わる思い出、生まれて初めて好きになった異性への想い、それもひっくるめて君という人間』」

師匠「『君をまるごと引き受ける覚悟で求婚したのだから、全て抱えて自分の元に来てくれ、捨てるものなど何もない』」

師匠「……こんな台詞、儂などは脇腹が痒くなって来るのだが」ボリボリ

師匠「その言葉があの娘には本当に嬉しかったと……」

師匠「…………何を泣いておるのだ?」

王子「彼女の夫と言う人は、心から彼女を、愛していたのですね……」グシュ

王子「本当によかった……いい人に巡り会えて」グシュグシュ

師匠「ふむ……」ボリ

師匠「あの娘はどうにか幸せな家庭を持てた、お前ももうちょっとまともな生活を送れるようになったら」

師匠「新しい恋でも探してみてはどうだ?」

王子「……」

王子「……彼女は何年もかけて自分を想ってくれる人を受け入れました」

王子「僕の人生の時間はまだ彼女を『失って日も浅い』のですよ?」

師匠「だからそんなこと考えられもしない、か」

師匠(ま、そうだな、いつか)

師匠(あの娘を愛した思い出ごと、お前という人間を引き受けてくれる女性が現れたら……)

師匠「……うむ」

師匠「先の話だな。まだまだ遠い未来の……な」

……
 


26 ◆54DIlPdu2E2015/11/29(日) 00:06:16.07SV0bJE2A0 (4/4)


※お久しぶりでした。日付変わっちゃった…今回はここまで…※



27以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/11/29(日) 01:30:26.32CGg3T53AO (1/1)


なぁに、月曜始まりのカレンダーなら週末だから問題ない


28 ◆54DIlPdu2E2015/12/01(火) 23:10:09.87YIZjN2C+0 (1/1)


※リアルが立て込んでいて…次回は早くて来週月曜日です…ごめんなさい※


29以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/12/03(木) 19:56:41.38XiNozduAO (1/1)

待ってるよ


30 ◆54DIlPdu2E2015/12/07(月) 23:42:53.31srTKJsSq0 (1/3)

夕食後、次兄の客間。

次兄「では、帰宅までのスケジュールを再確認しまーす」

末妹「はーい」

次兄「菫花さんから受け取った鏡はこれです」

末妹「はい、確認しました」

次兄「その他、各自の荷物は夕食前にチェックを済ませたのでヨシとします」

末妹「はい、問題ありません」

次兄「で、入浴と就寝はいつも通り、これもいいですね?」

次兄「次に就寝後ですが」

次兄「野獣様ともしばしのお別れ。どんな形になるかは野獣様次第……」

末妹「……はい」

次兄「……と思ったけど、今夜くらいこちらからお願いをしてみようではありませんか」

末妹「え?」

次兄「まず天井を見上げて…っと」

次兄「野獣様ー、今夜はまず俺達二人いっぺん、それから末妹とじっくりデートしてあげてくれませんかー?」

末妹「デ」

末妹「でででデートって、ううんそれより、お兄ちゃんは私と一緒でいいの!?」アワワ

末妹「お兄ちゃんだって、野獣様にお話ししたい事が……」

次兄「お兄ちゃん『だって』」

次兄「…末妹にはあるんだろ? 野獣様に今夜のうちに話したい事が」

次兄「俺は野獣様に『今回』話をしたい事は全部話せたから……」

次兄「次回ここに来るまでに、また話したい事をいっぱい溜め込んでおきます」

次兄「それに、溜めに溜めた末に一気に放出するのも、それはそれで気持ち良いもの」グフフ

次兄「おっと、一つ間違うと精神衛生上に問題をきたすので、お勧めはしませんよ」チッチッ

末妹(後半は何を言っているのかよくわからないけど)

末妹「……ありがとう、お兄ちゃん」
 


31 ◆54DIlPdu2E2015/12/07(月) 23:44:24.65srTKJsSq0 (2/3)

末妹「今のお願いを聞いてくださったかはわからないし、聞いてくださっても最後に決めるのは野獣様だけど」

末妹「帰る前にもう一度、ふたりだけでお話ししたかったから……お兄ちゃんのその気持ちが嬉しいの……」

次兄「……」ジワ

次兄(っ、やばいやばい、何の涙だこれは!?)ゴシィ

次兄「次、夜が明けたら朝です! 起床は6時半!!」ビシィ

末妹「はっはい!!」シャキーン

次兄「…まあ朝食まではいつも通り…だけど料理長さんのごはんはしばらく食べられないから」

次兄「いつも以上に心して美味しく味わい感謝して、いただきましょう」

末妹「はい」

次兄「食後の歯磨きが終わったら洗面用具も用済み、旅行鞄を完全に閉じたら、本格的な帰り支度」

次兄「…馬のチェックは末妹に任せます」

次兄「俺はその間に荷物を馬車に積み込むから、俺に触られても構わない荷物は廊下に出しておいて」

末妹「え、でも」

末妹(お兄ちゃんに力仕事してもらうのは…なんだか…)

次兄「気が引けるかもしれないけど、お願いだからたまには頼って。兄ちゃんに遠慮しないの」

次兄「大丈夫、無理な事なら最初から言わないからね、俺」

末妹(他の事では何かとお兄ちゃんに頼ってばかりだけどなぁ)

末妹「わかった。お願いします、ありがとう」ニコ

次兄「…うひひ」ニカ

次兄「で、荷物を積んだらいよいよ出発です」

末妹「……はい」

次兄「皆さんで見送ってくれるそうなので、真心はありがたく受け取りましょう」

次兄「お互い笑顔でお別れしよう、ね?」

末妹「うん、また…きっと……ううん絶対、会えるから、会いに来るから……」

…………


32 ◆54DIlPdu2E2015/12/07(月) 23:45:45.69srTKJsSq0 (3/3)


※お久しぶりです、割とまともっぽい次兄でした。とりあえずここまで、次回は近日中(たぶん)※
 


33以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/12/08(火) 00:47:51.55wJFAvFVAO (1/1)

お久しブリッツ
この兄妹の作戦会議は本当にかわいい


34 ◆54DIlPdu2E2015/12/11(金) 00:05:00.22t40CHnQU0 (1/3)

その夜……

(野獣「……次兄……」)

(次兄「…んぇ?」)

(野獣「次兄よ、こんばんは」ニコ)

(次兄「え……?」キョロキョロ)

(次兄「あれ、俺ひとり?」)

(次兄「野獣様、お願いやっぱり聞いてなかったんですね?」)

(次兄「って言うか、一応は最後の夜なんだからもっと末妹に時間を割いてあげてくださいよ」)

(野獣「お前のお願いならちゃんと聞いていたぞ」)

(野獣「その上で、最初にお前一人を呼び出すことにした」)

(野獣「……気になる涙だったからな」)

(次兄「……」)

(次兄「そんなにレアではないと思いますよ、俺の涙」)

(野獣「ああ、まるで冗談のように溢れ出る、ふざけた涙ならば見た事ある」)

(次兄「いつだって割と真剣に生きているのにひどい」ブワァ)

(野獣「ほら、今も」)

(野獣「……あの時は末妹に見つかるまいと慌てて拭っただろう、見ていたぞ?」)

(野獣「なぜ泣いたのだ?」)

(次兄「……野獣様は俺の友達。末妹は俺の妹」)

(野獣「ん?」)

(次兄「ふたりが仲良くしているのは友として兄として喜ばしいことだし」)

(次兄「お屋敷に戻ってからの二週間、俺は何ひとつとして、失ったものはない」)

(次兄「……なのに……野獣様と末妹の間には」)

(次兄「他の誰も、俺でさえ、どうあっても入り込めないふたりの世界が…いつの間にか出来ている……」)

(野獣「次兄……」)
 


35 ◆54DIlPdu2E2015/12/11(金) 00:06:45.29t40CHnQU0 (2/3)

(次兄「……へへ、我ながら何言ってんでしょうね?」)

(次兄「己の夢を叶えるになるため、妹と離れて家を出ると宣言した兄なのに」)

(次兄「妹がどんどん大人になって行くのは寂しいとか」)

(次兄「野獣様にとって俺はどういう存在か、じゅうぶん身に沁みているのに、改めて思い知らされると悲しいとか、身勝手な……」)

(野獣「…………私にとっての『友』という存在では、やはり不服か?」)

(次兄「……」フルフル)

(次兄「人生における初恋の相手が基本的に一人しかいないのなら、初めての友達だって唯一無二の存在」)

(次兄「野獣様が俺にとってのそれであり、俺もまた野獣様のそれであると思ってもらえるのは名誉以外の何物でも……」)

(次兄「……………………」)

(野獣(黙ってしまった、また泣くのではあるまいな??)オロオロ)

(次兄「……うへへ、そう考えたらやっぱり俺は幸せ者ですね」ニパ)

(次兄「俺の涙なんて子供じみた独占欲の現れですよ」)

(次兄「いっぽう野獣様との出会いをきっかけに末妹は少しずつ一人前の淑女へと成長しつつある、今この時も」)

(次兄「俺も大人に、真の意味での紳士にならねば」)

(次兄「頼りないままでは美術学校を父親に認めてもらうのも困難ってものですよ、ねえ?」)

(野獣「……焦って早足で大人にならんでもいいのだぞ、しかし、私に言わせれば、お前は立派な……」)

(野獣「……」)

(次兄「ん? 『立派な』何ですか、野獣様?」)

(野獣「……うむ、立派な、変な奴だ」ニッ)

(次兄「わーい(棒)、なんとなくそんな予感はしていましたー」)

(野獣「ふっ、冗談だ。すまんな、ふふ……」)

(次兄「むー、野獣様ったら、お茶目さんなんだから!」)

(野獣「ははは……」)
 


36 ◆54DIlPdu2E2015/12/11(金) 00:07:44.22t40CHnQU0 (3/3)


※今夜はここまで。イチャイチャ回(違)。うーむ、最近は2レス程度ずつしか投下できません…※
 


37以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/12/11(金) 03:02:49.15pTBoMmNAO (1/1)

乙ー


38 ◆54DIlPdu2E2015/12/13(日) 23:10:34.83ChTzkDMw0 (1/3)

(野獣「さて、末妹も呼ぼうか……」)

(次兄「いつもどうやってこの夢の世界に俺達を呼び出しているんですか?」)

(野獣「ああ、今からやって見せよう。まず、私の指で『仮想の窓』を開く」シュパ)

(次兄「おお、まるであの銀板鏡みたいなものが空中に」)

(野獣「これに、ここへ来て欲しい者の姿を映し出し、呼び掛けるだけだ」)

(野獣「……さあ、おいで、末妹……」)

(次兄「あ、『鏡』が少しずつ薄くなって消えて行く、いや、代わりに目を瞑った末妹の立ち姿に……?」)

(末妹「……」フワーン)

(次兄「末妹が宙に浮いてるうううう!?」)

(野獣「声が大きい、お前も覚えていないだけでいつもこうやって出て来るのだぞ?」)

(末妹「……」ストン)ユルヤカニチャクチ

(末妹「野獣様……?」パチ)

(野獣「こんばんは、末妹」ニコ)

(末妹「野獣様、こんばんは」ニコリ)

(末妹「……そして、お兄ちゃん」)

(次兄「おいっす」)

(野獣「二人とも、帰還のための旅支度は万全なようだな、すっかり旅慣れたものだ」)

(野獣「お前達と知り合ってから一ヶ月と半月以上…二カ月近くが経とうとしているが……色々な事があったな」)

(末妹「……ええ」コクリ)

(次兄「なんか振り返ると、この間に一生分の大冒険をしちゃった気分ですよ」)

(野獣「ふふ、私もだよ」)

(末妹「冒険、確かにそうですね」)

(末妹「私、野獣様と出会う前より…ずいぶん強くなった気がします。冒険物語の主人公のように」)

(次兄「……ま、まさかお前も素手で薪が割れるようになったのかっ!?」アワワワ)

(末妹「そうじゃなくて」)

(末妹「心の話、心の強さの話よ」)

(野獣「……お前は私と知り合う前から強い子だったよ?」)

(野獣「父親の身代わりに自ら怪物の住処に飛び込んでくる女の子など、そうそういない」)
 


39 ◆54DIlPdu2E2015/12/13(日) 23:12:24.35ChTzkDMw0 (2/3)

(末妹「…私、あの頃はきっと何もわかっていなかった、怖いもの知らずの子供なだけだった、と思います」)

(末妹「それに、前より強くなったと言ってもまだまだですよ、私なんて」)

(末妹「もっと……例えば、次姉お姉さんのように強くなりたい」)

(次兄「や、やはり目指すは剛腕系女子なのかっ!?」)

(末妹「お姉さんの強さは…確かにそっちも強いけど…本当は別の所だと思う」)

(末妹「私の事も守ってくれたのもそうだし、部屋に閉じこもった長姉お姉さんの事をずっと支えていたのも」)

(末妹「うまく言えないけど」)

(末妹「……まるで、私の事を命がけで産んでくれたお母様みたいな、そんな強さ……」)

(野獣「末妹……」)

(次兄「でもさ、以前はそんなんじゃなかっただろ?」)

(次兄「派手好きな浪費家で、お前や俺への態度もツンのみで」)

(次兄「姉さんも色々あった中で、変わって行ったんだと思う……今の方が本質なのかもしれないけど……」)

(野獣「以前の次姉とやらは私はよくわからんが、その本質を引き出した……思い出させた、かな」)

(野獣「それは末妹や次兄の存在があってこそだ、いや、お前の家の者、皆がそうかもしれん」)

(野獣「……羨ましいな、家族とは良いものだ」)

(末妹「野獣様だって素敵な家族と一緒ですよ」)

(末妹「執事さんも、料理長さんも、メイドちゃんと庭師くんも……」)

(末妹「お屋敷の皆さんがいたから、野獣様は長年のひとりぼっちから抜け出せた」)

(末妹「皆さんは野獣様を支えて、野獣様は皆さんを守って、このお屋敷で」)

(野獣「家族……」)

(野獣「ああ、そうだな。あの者達は私の大切な家族だ、紛れもなく……」)

(末妹「そして、今は…師匠様と菫花さんも」)

(野獣「……うむ、叱咤激励(時には罵倒)してくれる父親と、成長を見守って行く…なんだろうな、弟のような、息子のような…?」)

(末妹「ですから、家族の皆さんのためにも、野獣様はお元気でいてください」)

(末妹「私達が家に帰っても、寂しさのあまりご病気になったりでもしたら、叱りに来ますからね?」)

(野獣「ふふふ…末妹も言うようになったではないか」ナデナデ)

(末妹「えへへ…」)

(次兄「お、俺もそんなことになったらペロペロしに来ますからねっ!?」)

(野獣「う、うむ、次兄は相変わらずだな」ワシャワシャ)
 


40 ◆54DIlPdu2E2015/12/13(日) 23:13:32.38ChTzkDMw0 (3/3)


※ここまででした。前回の続きと次回も続き、そこそこ長い一夜の話になりそうな、もうちょっとと言いながら…※



41以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/12/14(月) 03:48:54.03H/Nd+YpAO (1/1)

一番芯が強いのは末妹だと思うけどな
次兄は強いんだか弱いんだかよく分からんww


42 ◆54DIlPdu2E2015/12/15(火) 23:07:27.99kqUUF1Lu0 (1/2)

(次兄「必ずまた、会いに来ますよ。父親に将来の話をした結果も、俺自身の口から直接伝えたい」)

(野獣「……うむ、私も次兄自身から聞きたいよ」)

(野獣「頑張るのだぞ、願わくば……お前の夢が、良い形で叶うことを」)

(次兄「ありがと、野獣様」ケヘヘ)

(次兄「……さて、俺は体力もないことだし、明日に備えてもう寝ましょうかね」)

(末妹「もういいの?」)

(末妹(今夜の夢の世界から出てしまったら、野獣様としばらく会えないのに……))

(次兄「うん、寝る前にも話したけど、またの機会に取っておくさ」)

(次兄「おやすみなさい、野獣様。末妹、限られた時間だけど、楽しい思い出を作ってね?」)

(末妹「お兄ちゃん……」)

(次兄「それからね、やっぱり末妹が我が家では誰よりも強い人間だと思う」)

(次兄「次姉ねえさんだって、末妹よりも自分が『強い』なんて思っていないさ」)

(末妹「……次姉おねえさんも、確かにそう話していた事はあるけど……」)

(次兄「自分ではなかなか気が付かないもんだよ」)

(次兄「じゃあ二人とも、今度こそ本当におやすみなさいまし」)

(野獣「明日の道中、末妹の事をしっかり頼むぞ? 頼れる兄としてな」)

(野獣(次兄、お前だって自分では自分の強さに気付いていない))

(野獣(……図太さなら自覚して開き直っているようだがな))

(次兄「では、眠りの呪文いっちょお願いしやす」ペコリ)

(野獣「わかった。 おやすみ、次兄。 またな……」ポワンワ)

(次兄「ほぇぇ、この瞬間がね……きもちぃのぉ……」ホワンワ)

(次兄「……お先に失礼、末妹……」ムニョ)

(末妹「おやすみなさい、お兄ちゃん」)

(末妹「……柔らかい光に包まれて、消えて行く……」)

(末妹「野獣様が私達を見送る時、いつもこう見えているのですね」)

(野獣「ああ、この後は朝までぐっすりと眠っているよ」)

(野獣「さて、末妹。少しの時間だが……」)

(末妹「ええ、ほら、私もう着替えてしまいました、あのドレスに」イッシュンデデキルカラ)

(野獣「おやおや、今夜はお前からダンスに誘ってくれるのかい?」フフ)

(末妹「はい、私と踊っていただけますか、野獣様?」ニコッ)
 


43 ◆54DIlPdu2E2015/12/15(火) 23:08:06.85kqUUF1Lu0 (2/2)


※短いけど今夜はここまで。次兄は強いというより図太いのかもね、です※



44以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/12/16(水) 00:25:24.17fLqbhc/AO (1/1)

乙やで
これが最後のダンスシーンなのかな


45 ◆54DIlPdu2E2015/12/19(土) 23:36:35.45OYvgmtg50 (1/3)

…………

次兄の客間。

次兄「……すやすや」

次兄「んむう…わかりましたぁ、野獣さまあ…むにょ」

次兄「ぱんつ、パンツは毎日取り換えますぅ…だから怒らないでぇ…ぐうぅぅ」

寝言の夜は更けて行く……

…………

(野獣「ふふ、では…私も着替えようか。場所もバラ園に……」ハヤガワリー)

(オルゴール:♪~~♪~♪♪~♪~~)

(野獣「舞台が整った、さあ」)

(末妹「……はい!」ニコッ)

(~♪~♪~)

(野獣「……お茶会の様子、私も見ていたぞ。お前達なら安心して魔法の鏡を預けることができる、師匠も同じ気持ちだ」)

(末妹「何もかも、次兄(あに)の頭の良さと意志の強さです。私は兄について行くだけ」)

(野獣「次兄が強いのは、お前という妹がいてこそだよ」)

(野獣「……何度でも言う、この時代で出会った人間がお前達で、本当によかった」)

(野獣「『友』がいる喜び、使用人達を改めて家族として大事に思う気持ち、それから……全てお前達のお陰で呼び覚まされた」)

(末妹「私も……さっきも話しましたが、色々な事があって、皆さんとの出会いがあって」)

(末妹「……お陰でちょっとだけ変われた…大きくなれたような気がします」)

(末妹「背はちょっとも伸びていませんけど」ボソ)

(野獣(ううむ、気にしているのか……お年頃なのだなあ))
 


46 ◆54DIlPdu2E2015/12/19(土) 23:37:36.83OYvgmtg50 (2/3)

(野獣「そのドレスだが……実は、お前が今より成長しても着られるようになっているのだ。気付いていたか?」)

(末妹「え、これがですか?」)

(野獣「装飾のためにしか見えない折り返しだが、伸ばすことができる。多少の裁縫の技術があれば簡単に直せる」)

(野獣「そうだな、最大で身長150センチの、標準体形までは」)

(末妹「ひゃくごじゅう…………」)

(野獣「ハッ」)

(野獣「い、いや、お前の将来の身長がそこで頭打ちという意味ではないぞ!?」)

(野獣「当初の予定では毎年ドレスを送るつもりだった、成長期なら1年間でどれほど大きくなるかわからんではないか!?」)

(末妹「……私、この先、140センチにもなればいいほうかなって思っていたんです」)

(野獣「……は?」)

(末妹「でも、今のお話を聞いて、150センチまで、今より17センチも大きくなれたらいいなって」)

(末妹「野獣様の仰るように、このドレスの限界まで背が伸びたらいいなって、思ったところ……」クス)

(末妹「でもさすがにそれ以上は伸びないと思いますから、新しいドレスは必要ありませんよ」)

(末妹「だいいち、私にはこれが世界一素敵なドレスですもの、後にも先にも」)

(野獣「毎年新しいドレスというのは、別に体形が変わるからって意味ではないのだが」)

(野獣「お前の姉達も、町のちょっといい家の娘達も、何着でも持っているのではないか?」)

(野獣「……しかし、お前はドレスより宝石より……花一輪が嬉しい娘だったな」)

(末妹「ええ、ですから……またお花の季節にここへ必ず来ます」)

(末妹「前庭で、バラ園で、生まれた場所で瑞々しく咲き誇るお花を、メイドちゃん達や…野獣様と…一緒に見たいのです」)

(野獣「……楽しみにしているぞ。庭師にも、今まで以上に頑張って仕事をしてもらわんとな」)

(~♪~♪~)

 


47 ◆54DIlPdu2E2015/12/19(土) 23:38:11.79OYvgmtg50 (3/3)


※今夜はここまで。読んでくれてありがとうございます※



48以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/12/20(日) 02:38:16.91pm8GNbdAO (1/1)

おっつ
150センチに望みをかける末妹ちゃん可愛い


49以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/12/23(水) 16:46:21.67SydOuZwAO (1/1)

野獣様ちょっと気が利き過ぎて怖いっす!


50 ◆54DIlPdu2E2015/12/23(水) 22:35:12.54pPeh+7SJ0 (1/4)

(~♪~♪~)

(末妹「……ねえ野獣様、次兄(あに)は画家になれると思いますか?」)

(野獣「きっとなれる。信じている。その時が来るのが楽しみだ」)

(末妹「私もです」)

(末妹「そして、将来の夢を見つける事ができた兄が羨ましい……」)

(野獣「お前は店を継がないのか、いや、しかし、そうか、店を継ぐのは上の兄か」)

(野獣「次姉も商売の才能に目覚めているようだし……」)

(末妹「うちの店の手伝いは楽しいです、だけど最近」)

(末妹「もしかしたら他に『これだ!』って思えるような仕事があるかもしれないって…そう考えてしまうのです」)

(野獣「自分の将来をあれこれ考え始める年頃でもあるのだな」)

(野獣「お前もこれから見つける事が出来るだろう、まだ決まっていなくてもおかしくはないさ」)

(末妹「……でも野獣様、私も少しだけ……見えてきました」)

(野獣「うん? 見えてきた?」)

(末妹「ええ、これはまだ誰にも言った事はありませんが」)

(末妹「……私、人を教える仕事ができたらいいなって、思うようになってきました」)

(野獣「ほう、乗馬学校の教官にでもなるのかね?」)

(末妹「ふふ、馬は基礎の基礎がせいいっぱいですよ、しかも私によく慣れたうちの馬(こ)が一緒でなくちゃ」)

(末妹「…でも菫花さんも、きっかけのひとつです」)

(末妹「他には、少しお話しした事がありますが、私の友達……友3ちゃん」)

(野獣「お前が勉強を時々教えてやっている同級生だったな」)
 


51 ◆54DIlPdu2E2015/12/23(水) 22:36:47.10pPeh+7SJ0 (2/4)

(末妹「二人とも頑張る気持ちがあって、私は少しお手伝いをしただけ」)

(末妹「…私なんかよりもっともっと優秀で教えるのが上手な人はたくさんいるのでしょう、それでも」)

(末妹「私の教え方が『合っている』という『生徒』が他にもいるのだとしたら……」)

(末妹「まだ見ぬその子達のお手伝いがいつかできたら素敵かな、って」)

(野獣「……ああ、それは素敵だな」)

(野獣「私がかつて人として生きていた時代は、学問とは限られた者のための厳しく狭い道だったが」)

(野獣「今の時代、そしてこれからは、貧しい者や幼い者にも学ぶ場は必要になって行く」)

(野獣「末妹のような優しく根気強く教えてくれる教師も、今まで以上に必要とされるだろう」)

(末妹「優しいだけじゃ務まらないのも知っていますよ?」)

(野獣「ふふ、お前だったらそれも心配ない」)

(野獣「必要とあらば厳しくなれるさ、今から既に……怒らせたら実におっかないからな?」)

(末妹「おっかないって…やだ、野獣様ったら!」)

(野獣「ほぅら、怖い怖い」クワバラクワバラ)

(末妹「もう、知りません!!」プイッ)

(野獣「おや、本気で怒らせてしまったかな」)

(末妹「……」)

(末妹「…………くす」)

(野獣「お、笑ったな?」)

(末妹「わ、笑ってなんかいません…ふふふ…」)

(野獣「ふ、からかって悪かった、ははは……」)
 


52 ◆54DIlPdu2E2015/12/23(水) 22:40:12.21pPeh+7SJ0 (3/4)

(末妹「笑いながら謝っても許しませんよ、ふふ、あははは……」)

(野獣「おいおい、お前もどう見ても怒っていないではないか…はは」)

(野獣「……やはりお前には笑顔が一番だな、末妹」)

(末妹「誰だって同じですよ、野獣様も」)

(末妹「……初めてお会いした頃は、野獣様の表情が私にはわからなくて」)

(野獣「そりゃ、生まれて初めて見る毛むくじゃらの怪物の表情はわかりにくかろう」)

(末妹「怒っていらっしゃるのかな、もしかしたら今のは笑われたのかしら、とか」)

(末妹「考えないとわからなくて、いえ、考えても的外れだったのかもしれませんが」)

(末妹「いつの間にか……ごく自然に」)

(末妹「野獣様の笑顔がわかるようになっていました」)

(末妹「……そして、野獣様が笑ってくださると、私は嬉しいです」)

(野獣「末妹」)

(末妹「もちろん私だけじゃないですよ、執事さん達だって野獣様の笑顔が好きだと思います、絶対」)

(末妹「……次兄(あに)は『睨まれたい』とかたまに呟いていましたが」ボソ)

(末妹「……」)

(末妹「だから私、今回は泣かずに、笑って野獣様ともお別れします」)

(末妹「野獣様も、笑顔で見送ってくださいね?」)

(野獣「うむ、約束しよう」)

(野獣「だが、そのためにも、もう少しだけこのまま一緒に踊っておくれ?」ニコ)

(末妹「ええ、もちろんです」ニコ)

(~♪♪~♪~~♪)
 


53 ◆54DIlPdu2E2015/12/23(水) 22:42:16.94pPeh+7SJ0 (4/4)


※今回ここまで…細切れ投下だと色々作者の記憶がげふんげふん※

>>49
それだけ末妹を屋敷に迎えるのに気合が入っていたという事ですん


54以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/12/24(木) 04:33:52.48fh8Cd/dAO (1/1)


先生か。ぴったりだな


55以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/12/25(金) 04:50:04.91WsrUwfzAO (1/1)

>>1
めりくりでやんす
前スレのだけどよろしければドゾー

http://m1.gazo.cc/up/25434.jpg

すごく良いシーンだなと思いました(小並感)


56 ◆54DIlPdu2E2015/12/27(日) 02:07:40.45YHo0sFHs0 (1/3)

(野獣「それで……帰ったら父親に、教師になりたいという話をするのかね?」)

(末妹「ええ、私は来年で15歳になるので、今の学校に通えるのはあと1年くらいなのですが」)

(末妹「その後の進路について、卒業までに決めなくてはならないので」)

(末妹「いずれにせよ、そろそろ父とそういう話をしなくてはならない時期なのです」)

(野獣「ふうむ、それならば特に改まる必要もなく、自然に将来の話ができるわけだな」)

(末妹「……同級生の中でも、将来の事をはっきり決めている子達と比べたら、遅いくらいですけどね」)

(末妹「父は以前から『お前が望む道に進めばいい』と言ってくれています」)

(末妹「私達の先生が前にお話ししてくださった事がありますが、先生になる方法はいくつかあって」)

(末妹「方法によっては、きっと父も賛成してくれると思います」)

(野獣「つまり、必ずしも今の家を遠く離れるとは限らない、というわけか」)

(末妹「……やっぱりそれがうちの父にとって重要だって、野獣様にもわかりますか?」)

(野獣「そりゃあな、商人の人柄と言うか、お前への接し方を知れば…」)

(野獣「……」)

(野獣「……今ならば、彼がお前を、親が我が子を慈しむ心がどんなものか」)

(野獣「バラを折った行為を咎めた時とは比べ物にならぬほど、私にも理解できる…少なくともそのつもりでいる」)

(末妹「野獣様」)

(野獣「四週間前に、末妹と次兄とは二度と会わぬつもりで家へ帰した時は、お前たち家族への罪悪感でいっぱいだったが」)

(野獣「今はそれとは別の想いがある」)

(野獣「よくぞ再び、ふたりをこの屋敷へ送り出す事を許してくれたと……」)

(野獣「どれほど感謝しても足りないほど感謝している、お前達の父…お前達の家族に…心から」)

(末妹「ええ、野獣様……」コクリ)
 


57 ◆54DIlPdu2E2015/12/27(日) 02:10:34.46YHo0sFHs0 (2/3)

(末妹「……野獣様、私、『ごめんなさい』って言葉はとても大切だと思っています、でも」)

(末妹「『ありがとう』に言い換える事が出来る『ごめんなさい』なら、そうした方がもっと素敵かな、って…そうも思います」)

(末妹「野獣様が私の家族に向けてくださるお気持ちが、今は罪悪感よりも感謝だ、って」)

(末妹「…そのお言葉がすごく…嬉しいです」ニコ)

(野獣「……そうか」フフ)

(野獣「お前は本当に……私の中のあらゆる『正の感情』を呼び覚ましてくれる」)

(野獣「何度でも言おう、末妹に出会えて、よかった」)

(末妹「私もですよ」)

(野獣「……話は尽きぬ、名残惜しいが夜は無限ではない、夜明けが近付いている」)

(野獣「しかし、また…そう遠くない未来に再会できるのだ」)

(野獣「約束通り、笑顔で今は別れよう」)

(末妹「ええ、必ず会いに来ます、またここへ」)

(野獣「さあ、目を閉じて……」)

(末妹「はい……おやすみなさい、野獣様……」)

(野獣「ああ、おやすみ、末妹。また会う日まで、どうか元気で、そして、お前の夢が叶うように……」)

(末妹「野獣様も……お元気で……」)

(野獣「……よ。……は……私の…………」)

…………



   眠りにおちる直前、それは本当に野獣様から出た言葉だったのでしょうか

   わからないけれど、でも

   目覚めた私の胸には、暖かくて幸せな想いが残っていました……



   『末妹よ。お前は、私の……生涯二度目に恋をした女性だ……』

   『だからこそ、どうか、お前の生きる世界で幸せになってくれ、幸せでいてくれ……』



…………
 


58 ◆54DIlPdu2E2015/12/27(日) 02:11:37.96YHo0sFHs0 (3/3)


※ここまで…野獣の出番、後でもうちょっとあります。主に師匠とですが※


>>55
クリスマスプレゼントありがとうありがとうありがとう、転がりたいほど嬉しいよおおおお
末妹は相変わらず可愛いし次兄の目が開いているし王子まで描いてくれて、たまらんとです
 


59以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/12/27(日) 03:40:13.17IeE1xGOAO (1/1)


末妹ちゃんの感性はとても素敵だ

>>58
次兄の目てww
確かにギャグ顔ばかりだったもんなww


60 ◆54DIlPdu2E2015/12/28(月) 22:07:35.44nEDCdNYl0 (1/1)

※お知らせのみ※

諸事情により、次回更新は年明けになります。トシヲマタグトハオモワナカッタヨ
体調は問題ないのですが色々重なりまして……
というわけで、今年はありがとうございました。皆様どうかよいお年を!!ノシ
 


61以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/12/30(水) 00:54:16.60Ire3joAAO (1/1)

了解
良いお年を~


62以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします2016/01/04(月) 05:57:06.1320PMlkgAO (1/1)

>>1
明けましておめでトーマス
昨年は素敵なSSに出会えて良い一年でした
今年も引き続き応援しております

http://m1.gazo.cc/up/25775.jpg
完結までガンバッテネ


63 ◆54DIlPdu2E2016/01/10(日) 21:31:34.71ikZOb3it0 (1/2)

翌朝、6時20分。次兄の客間。

次兄「……別れの朝、せめてカラッと秋晴れならばよいものを」

空:どんより

次兄「なんだと言うのだ、この曇天と来たら」

次兄「空一面、まるで俺の虹彩のごとき渋い灰色ではありませんか……」ハァ

次兄「…………とか言って」

次兄「わかっております、空の色にかこつけているが、窓の外を見る前から消沈しているのは我が心だ、と」

次兄「末妹に笑顔で別れようねって言ったのはどの口だ、この口かぁ!?」ムニュイイイイイイイ

次兄「……痛ぇ」ヒリヒリ

次兄「うむ、一時のちっぽけな感傷など吹っ飛んでしまうがよろしい」

次兄「最後の一瞬まで執事さんの姿でもこの網膜に焼き付けておく方がよほど有意義というものです」

次兄「さて、元気よく着替えて顔でも洗って来ましょうかね!」

……

末妹の客間。

末妹「……ぐっすり眠れたわ、着替えて顔を洗ったら、ご飯の前に馬さんの顔を見てこようかな?」

末妹「曇っているけど、雨は降っていない、よかった」

末妹「……」

末妹「私達が何をしていても、何を思っていても、こうして朝はやって来る」

末妹「皆さんと笑顔でお別れ、そして笑顔でお父さんの所に帰る……」

末妹「…うん、大丈夫、できる」コクリ

末妹「私は大丈夫です、約束守れます、野獣様」

末妹「野獣様も夢の世界から笑顔で見送ってくださいますよね?」

末妹「さあ、お兄ちゃんに会ったら元気に『おはよう』って言わなくちゃ!」

……



64 ◆54DIlPdu2E2016/01/10(日) 21:32:26.52ikZOb3it0 (2/2)


※ことよろ。またぼちぼち更新再開します、もうちょっとですが。今回はとりあえずこのスレに帰還報告※

>>62
ジャパニーズキモーノ! キュート(&一部変態)な初詣ありがとう!!



65以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします2016/01/12(火) 00:43:18.946GaGPrJAO (1/1)

再開乙
次兄の煩悩は108どころじゃないんだろうなぁ(諦め)


66 ◆54DIlPdu2E2016/01/18(月) 23:17:47.171PVYLXax0 (1/1)


※再開と言いつつ諸々でなかなか腰据えて取り掛かれません、今週どこかで更新します※


67以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします2016/01/19(火) 03:50:03.23CSXTgJSAO (1/1)

お待ちしております


68以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/01/23(土) 23:24:40.46TY9NcW+AO (1/1)

今週が終わりそう


69 ◆54DIlPdu2E2016/01/24(日) 23:06:34.138jRa9Vhj0 (1/3)

馬の繋がれた東屋。

末妹「あ……」

馬「ひん!」

庭師「おはようございます。末妹様!」

王子「おはよう、末妹さん」

末妹「おはようございます、菫花さん、庭師くん」

末妹「……朝のお世話を、すっかりお任せしちゃったみたい」

末妹「もう少し早起きすればよかったかしら……ごめんなさい、ありがとう」

王子「この子、今日はすごく調子良さそうだけど……末妹さんから見てどうかな?」

末妹「ええ、お見立て通りですよ。毛艶も目の輝きも上々です、それにご機嫌で、だけど落ち着いていて」ポンポン

馬「ぶるる♪」

王子「よかった、僕も少しは馬を見る目が養われて来たかな……」

「庭師くーん! こっち手伝ってー!!」

庭師「あれ、メイドちゃんの声だ。どこから呼んでいるんだろ?」

末妹「庭師くん、あの窓」

メイド「あっ、菫花様と末妹様、おはようございます!!」ペコン

メイド「庭師くん、手と足を洗って厨房に来て!!」

庭師「わ、わかったよ! すみませんお二人とも、僕戻りますね!!」シュタタッ

末妹「馬さんのお世話ありがとうね、庭師くん」

王子「また後でね」

馬「ひん」

王子「……」

王子「本当にいい馬だった、この子に会えてよかった」ポン

王子「おかげで自分の馬(と言うか騾馬)を持つ事に自信が持てるようになった」

末妹「菫花さん」
 



70 ◆54DIlPdu2E2016/01/24(日) 23:10:01.868jRa9Vhj0 (2/3)

王子「もちろんどんなに素質の良い馬が来ても、心を開いてくれるかは乗る人間しだい」

王子「お互い感情のある生き物、ましてや僕はこんなに未熟者、だけど」

王子「諦めずに、時間はかかっても、良い関係を作って行きたい」

王子「君も言ってたでしょう?」

王子「『相手に気持ちを伝え、相手を受け入れて、それは時には大変かもしれないけれど、そうして私達はわかり合える』」

王子「馬と付き合う時も同じ……ではないかと」

末妹「ええ、私もそう思います」コク

王子「そう考えるようになれたのも、君のおかげですよ。僕の馬の先生というだけではなく」

王子「末妹さん、そして次兄君、二人にはどれだけ感謝しても足りません」

王子「いえ、二週間前に目覚めてからの全ての出会いにも、だけど」

王子「……君と次兄君がこの屋敷の外から来た人、初めて出会った外の世界の人、そして」

王子「屋敷の皆さんが家族なら、君達は初めての友達」

王子「屋敷の皆さんが僕に我が家をくれたのなら、君達がくれたのは」

王子「『我が家』の外でも頑張れる、まだ見ぬ出会いを恐れない、そのための『勇気』」

末妹「私達が、勇気を……?」

王子「何度でも言います、ありがとう」

末妹「菫花さん」

馬「ひひん!!」カオスリスリー

末妹「きゃ、馬さん」スリヨラレ

末妹「ふふ、構って欲しかったのね」ナデナデ

王子「ごめんね、無視していたわけじゃないんだよ」

末妹「……朝ごはんの後にまた来るわ。いよいよ帰りの旅支度」

末妹「久しぶりに馬車を引いてもらうけど、よろしくお願いね、馬さん」ポン

馬「ひひんひんー」マカシトキー

王子「それじゃあ、道具を片付けて、と……」

師匠「おお、やはりここにいたか」

馬「ぶるる?」

王子「師匠」
 


71 ◆54DIlPdu2E2016/01/24(日) 23:13:00.738jRa9Vhj0 (3/3)

末妹「師匠様、おはようございます。菫花さんにご用ですか?」

師匠「君にも、だよ。二人に、いや、君の兄さんも入れて三人に」

末妹「?」

師匠「執事がな、今朝は朝食の準備に少しばかり時間がかかりそうで、と」

師匠「普段通りにしても早い時間ではあるがな。とにかく」

師匠「馬の世話の道具は片付いたか?」

師匠「よし、手と靴を洗って、と」ポワン

末妹「あ、水が手に、足元にも?」シャワワワ

王子「師匠の魔法ですね、これ」パシャパシャ

末妹「水が動いて、こぼれもせずに手や靴を包み込んでくるくる回ってる……」

師匠「ここから井戸へ行くより手っ取り早いからな」ポヨン

末妹「今度は熱くもないのにみるみる乾いて行く、不思議」シュゥゥ

王子「師匠の魔法は、相変わらずなんでもありですねえ」

師匠「儂には使えても、お前には教えていない魔法なぞいくらでもあるからな」

師匠「さて、屋敷に入ろうか」

末妹「後でね、馬さん……」

馬「ひん」



屋敷の中。

次兄「……で、用ってなんです、おっさん?」

師匠「君の今朝の寝癖は一段と…とんがっているだけならまだしも、捻りが加わって」

師匠「……まあよいわ。昨夜…もう明け方か、とにかく野獣に呼ばれてな、夢の中に」

次兄「野獣様が!?」

末妹(私とお別れした後ね……)

師匠「早い話、ひとつ頼まれた」

王子「頼まれた?」

師匠「皆ついておいで、詳しくはそこで話す」

末妹「……」
 


72 ◆54DIlPdu2E2016/01/25(月) 00:04:21.81bLE3/ISO0 (1/2)

とある部屋の前。

王子「……ここは……!」

次兄「このあいだの菫花さんの試練の部屋じゃないですか」

末妹「……王様と王妃様の、肖像画のお部屋……」

師匠「君達兄妹、この時代に生まれた人間には、単なる芸術作品だ」

師匠「少年」

次兄「お、俺?」

師匠「著名な画家の遺した、200年以上も歴史に埋もれ存在を殆ど忘れ去られた作品を」

師匠「芸術家の卵であるお前に見せたいと、野獣が望んでいると聞けば…どう思う……?」

次兄「……」

師匠「少女よ、君も」

師匠「野獣が菫花と共に乗り越えたものが何であったか、それを知って欲しいと」

師匠「野獣が望んでいるとすれば、どうする……?」

末妹「野獣様が……」

王子「……」

師匠「菫花よ、前にも言ったが、お前はこれからいつでもここに入るか入らないかを自由に選べる」

師匠「……そして、お前が拒むのならば、この子達を入れない事もできる、と」

師匠「これも野獣は言っていた」

王子「……師匠」

王子「拒む理由なんて、ありませんよ」

王子「絵は絵です、僕だってもう普通にこの部屋に入れます、友達と一緒に」

師匠「……ほう」

師匠「お前も一緒に、か。これは儂にも奴にも予想外だったかな」

王子「二人とも、僕からもお願いです、どうか一緒にこの部屋に」

師匠「儂もご一緒していいかね」

次兄(断る理由もないし断っても来るのがおっさんですよねー)

末妹「……お兄ちゃんは……」

次兄「うん、俺は見てみたい、いろんな意味でね」ニヘ

末妹「……じゃあ、私と同じね」ニコ
 


73 ◆54DIlPdu2E2016/01/25(月) 00:04:54.80bLE3/ISO0 (2/2)


※ここまで。遅れてすみません、たいへんお待たせしました…… 来週じゃなくて今週、可能であればあと1回は※



74以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/01/25(月) 00:18:58.60/Iv3xwcAO (1/1)

待ってて良かった乙
ずーっと思ってたけど魔法便利過ぎうらやま
でも頼り過ぎるとダメ人間になっちゃいそう


75 ◆54DIlPdu2E2016/01/30(土) 01:29:50.88bj+dknBb0 (1/5)

朝食準備中の厨房。

庭師「ジャガイモ裏ごしたよ、これどうするの!?」

メイド「それはポタージュにするから、こっちに持って来て!!」

料理長「ふう、朝食にしては品数を増やしたので我ながらどうなるかと思ったが、ふたりのおかげで間に合いそうだ」

料理長「さてと、焼き上がり時間を逆算して……秋野菜と森のキノコのキッシュ、そろそろ、かまどに入れようか」ガチャリ

庭師「料理長さん! 僕が削ったチーズ忘れてる、焼く前にかけなくちゃ!!」シュババッ

執事「……食卓のセッティングは終わった。何か手伝おうか?」ガチャ

メイド「執事様!! 丁度よかったぁ、そこの木べらを取ってください!!」

執事「ああ、これか? 確かにこの高さではお前には届かないな」カチャ

メイド「そっちじゃないです! 右のほう!!」

執事「こっちだって木べらだろう」

メイド「とろみの濃い汁物を混ぜるのには穴あきの木べらが混ぜやすいんです!!」ピョンピョン

執事「そ、そうなのか? 悪かった、ほら、穴あき」スチャ

メイド「もう、執事様のせいでポタージュが焦げ付く寸前でしたよ!!」マゼマゼ

執事「……わたくしのせいなのか??」

庭師「火に掛ける前に用意してなきゃ駄目だよメイドちゃん……僕に言えば棚によじ登って取ったのに」

料理長「メイドちゃんや、張り切るのは良いが、料理はいつも通り落ち着いて取り組まないと」

メイド「むぅ……だって、末妹様に召し上がっていただくお食事は、今回で……」マゼマゼ

執事「気合が入ってしまうのは仕方ない、お前の気持ちもわかる」

メイド「……執事様には失礼な事を言ってしまいました……ごめんなさい」ペコリ

執事「わたくしの事は気にしなくて良い、美味しい料理を仕上げるほうに心を配れ。末妹様達に喜んでもらえるようにな」

メイド「はい!」マゼマゼ

料理長「わしが普段より時間がかかる献立を選んだばかりに、焦らせてしまっているのですよ」

執事「最大で、どれほど遅くなりそうだ? 料理長」

料理長「最大……15分弱といった所でしょうか」

執事「それならば問題ないな、いつもより多少遅くなっても構わないと師匠様も了承済みだ」

執事「師匠様から菫花様と次兄様、末妹様にも説明しておいてくださるとのことで」

執事「朝食待ちの時間を利用してお三方にご用があるとか……」




76 ◆54DIlPdu2E2016/01/30(土) 01:32:08.92bj+dknBb0 (2/5)

肖像画の部屋。

ドア:ガチャ…

次兄「…………暗い」

王子「窓に他の部屋よりも分厚いカーテンがかかっているので」

師匠「手っ取り早く魔法で開くか」指パッチン

カーテン:スルスルスル……

次兄「おお明るくなった、いよいよ名画とのご対め……ん?」

末妹「お部屋の中はよく見えるようになったけど……」

次兄「絵はどこっすか??」

師匠「肖像画が描かれた当時から、埃や日光から守るために覆いがかかっているのだ」

師匠「ほら、そこの壁。覆い布とさほど変わらんサイズの絵がこの下にある」

末妹「これが……だとすればすごく大きな絵が、ここに……」

次兄「さすが王様、巨匠画家においくら積んだのかしら」

王子「……」

王子「…皆さん、もう少し近付いて」

末妹「え、ええ……」

次兄「うーん、これだけでかい絵だと近過ぎるのもな。このくらいがベストポジションか」ビチョウセイ

師匠「妥当だな」

師匠「さて、魔法で御開帳と行くか」

王子「待ってください」

王子「僕が開けます。この紐を引いて」

末妹「菫花さん」

師匠「そうだな、お前が開いてくれ」

師匠「……」

……

師匠の回想、明け方の夢の世界……

(野獣「……師匠」)

(師匠「なんだ、儂を呼び出したりして」)




77 ◆54DIlPdu2E2016/01/30(土) 01:34:17.44bj+dknBb0 (3/5)

(師匠「少女との…兄妹との別れは済んだか?」)

(野獣「ええ」)

(師匠「寂しいだろう?」)

(野獣「……二人とも笑顔でここを発ち、笑顔で家に帰り、そしてまた…笑顔でここに来てくれますよ」)

(野獣「だから私も悲しい顔はしません」ニコ)

(師匠「ふふ、強がりおって」)

(野獣「菫花がずいぶん頑張りましたから、私とは違う数十年をこれから歩き出すために」)

(野獣「だから私だって負けずに頑張り通します」)

(師匠「確かに頑張ったわな、あいつにしては、と前置きが必要だが」)

(野獣「大抵の人にはどうってことない行為が、彼、いえ、彼と私には確かに試練でしたよ。馬に乗る、外の世界に踏み出す」)

(野獣「……両親の肖像画に向き合う」)

(師匠「あいつは『絵は絵』だと、『今度は普通にここへ立ち入れるようになる』と言った」)

(師匠「お前にとっても、そうか? 仮想の窓の術であの部屋を覗けるか?」)

(野獣「……半分は菫花の強がりでしょう」)

(野獣「それでも、次に入る時はもう倒れるほどの圧力を感じる事もないでしょう、その程度には間違いなく強くなった」)

(野獣「しかし私には……未だに……」)

(師匠「ん?」)

(野獣「……件の絵ですが、屋敷に師匠や菫花が暮らしているうちはともかく、数十年後、百年後」)

(野獣「あの絵を後世に残すべきか、世間に忘れ去られたまま静かに葬るべきか」)

(野獣「私は菫花が絵に向き合ったあの日以後、何度かそのことを考えました」)

(野獣「そして描いた画家の意志は、私にはどう考えても……願わくばなかった事にしたかった、としか」)




78 ◆54DIlPdu2E2016/01/30(土) 01:36:31.20bj+dknBb0 (4/5)

(師匠「……現在、この世に残っている過去の人物の肖像画は単なる芸術作品、あるいは単なる歴史的資料だ」)

(師匠「当時関わった人間が何を思っていたか窺い知れるのは、その中でもごく僅か」)

(師匠「ほとんどはわからんと言ってよいくらい」)

(師匠「第一にな、完成させて依頼主に渡した絵は、もう画家の所有物ではなくなっているのだぞ」)

(師匠「しかも絵をなかったことにしたい云々だって、お前の思い込みではないか」)

(野獣「それはそうですが」)

(師匠「後の人間に任せればよいと儂は思う」)

(野獣「……後の人間」)

(野獣「肖像画に描かれた人物を直接知らない、ずっと後に生まれた人々は、あの絵を見て何を思うのでしょう」)

(師匠「いるではないか、『後の世に生まれた人間』ならば」)

(野獣「あ」)

(師匠「あの子達から率直な感想が聞けたならば、お前も」)

(師匠「……両親の影から今度こそ完全に解放される、あの絵もお前から解放され、ただの芸術作品になれる」)

(師匠「儂はそう思うのだがな、どうだ?」)

(野獣「……やはり師匠は私の事を私自身以上におわかりですね」)

(野獣「画家を目指す次兄は、何を思うのか」)

(野獣「私と菫花をあらゆる呪縛からひとつずつ、縫い止める糸を解くように自由にしてくれた末妹は、何を思うのか」)

(野獣「…………師匠にお願いしてよろしいでしょうか?」)

……




79 ◆54DIlPdu2E2016/01/30(土) 01:37:18.76bj+dknBb0 (5/5)


※ここまで。次回は最低でも一週間後に…※



80以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/01/30(土) 02:29:52.583/ZTru3AO (1/1)


みんなで料理してるの可愛いな


81 ◆54DIlPdu2E2016/02/08(月) 23:11:32.53YGk031uu0 (1/1)


※お知らせのみ。次回投下はあと2~3日後の予定です…※


82 ◆54DIlPdu2E2016/02/12(金) 01:25:30.79UiQ0p+yt0 (1/7)

王子「では、覆いを開きます、皆さん……」グッ

末妹「はい……」

次兄「どきどきわくわく」

覆い:サーッ

師匠「……」

師匠(久し振りだな、王よ)

師匠(野獣よ、お前も仮想の窓で見ているのであろうな……)

(野獣「……父上、そして母上……」)

(野獣「菫花がこの部屋に入り、絵と向かい合ったあの日」)

(野獣「菫花はよくやった、頑張ったと私は思った、嬉しかった」)

(野獣「しかし、私自身は……」)

次兄「」

末妹「……っ」

菫花「!」

(野獣「お前達……」)

菫花「……なぜ、泣くのですか……?」

菫花「二人とも……」

末妹「……何故でしょう、この絵は……とても立派で美しいと、芸術の知識がない私にもわかります」グス…

末妹「そして描かれている王様と王妃様……お二人も奇麗なかた、でも、でも」

末妹「……この絵を見たとたん、胸のこのあたりがぎゅっと……苦しくなって、涙が……」グシ

(野獣「末妹」)

(野獣「あの場所は末妹が……『私の欠片』を押し当て、そのまま溶け込んだ場所……」)

次兄「……俺は、これ、あくまで直感なんだけど」グシュ

次兄「俺こええよ、この絵……」

次兄「描かれている対象そのものがじゃなくて、なんというか、その……」ズビー

次兄「依頼をこなすだけ、それだけでよかったんだこの画家は、なのに」

次兄「頼まれていないものまで描いちゃったんだ、そしてそれは描いちゃ駄目なものだった……」

(野獣「次兄、お前にはそれがわかるのか……」)
 


83 ◆54DIlPdu2E2016/02/12(金) 01:27:02.36UiQ0p+yt0 (2/7)

次兄「……なんて、さっきも言ったけどあくまでも直感」

次兄「見たとたん、俺の心にずっしり来たのを言葉にしたら、そんな感じなんだ……」グシュン

菫花「君たち……」

師匠「……」

師匠「君等の家は庶民とは言え裕福ではあるが……ご両親の肖像画は家にあるかね?」

末妹「……あります」コク

末妹「ふたりが結婚した頃に、祖父が王都の画家に依頼したという……」

次兄「今はそこそこ名も売れているけど、20年前はまだまだ新人で」

次兄「じいさんが知人の伝手で紹介してもらったと聞いたけど……」

末妹「勿論こんなに大きくはありません、今は母の部屋に飾ってありますが……」

末妹「………………」

菫花「きっと、幸せそうなお二人…ご両親の姿が描かれているのでしょうね」ニコ

末妹「菫花さん」

師匠「……次兄君、小国の歴史書を何冊か読み漁ったのならば……この王の先王は『何者』か、知っているか?」

次兄「ふぇ?」

次兄「……うん、確か、この王妃様のほうの父親が前の王様だって」

次兄「だから、王子様の……菫花さんの祖父には間違いないけど、王様は前の王様の子供じゃない」

菫花「……その通りだよ」

師匠「ああ、小国では、女性には王位継承権がなかった」

師匠「そして、王妃がまだ王女だった頃、彼女には三人の兄王子がいたので」

師匠「次代の王はその王子達に間違いないと、誰もがそう思っていたが……」

師匠「戦や思いがけぬ事故が原因で、王子達は立て続けに若くして亡くなってしまった」

師匠「王子達に続く王位継承権の高い者も、同じ戦で亡くなったり重い病の床にあったりと……」

師匠「結局は先王の従弟の息子である『この男』に回って来た」

師匠「そして、この王家にはもうひとつしきたりがあった」

師匠「先王の王子は不在だが王女だけは存在している場合、強制的に次の王の妃にならねばならない」

師匠「先王の『直系の血』は残さねばならんのでな」

末妹「……」
 


84 ◆54DIlPdu2E2016/02/12(金) 01:27:43.13UiQ0p+yt0 (3/7)

師匠「儂は『この男』を、そんな立場に立たされる前から知っているが」

師匠「…………彼の人生は彼の思い描いた通りに行かなかった」

師匠「おそらくは、『彼女』も」

次兄(……そうか、このきらびやかな衣装の美形王族カップルが漂わせる暗さは……)

師匠「だからってなあ、国を、民を、我が子を」

師匠「全てを王の名の元に自分の思い通りにしてやろうとはなあ、許された所業ではないぞ、わかっておるのか?」コンコン

次兄「お、おっさん、絵を杖で叩いたら絵具が剥がれるし」アタフタ

師匠「……この男とは少年の頃、机を並べて共に学んだこともあってな」

師匠「ま、それはどうでもいい」

師匠「この画家は間違いなく腕が良かった、天才と言っても良い」

師匠「……しかし既に名声が拡がっていたとは言え若くもあったのだ、思いがけず、彼らの複雑な心境まで筆に込めてしまった」

師匠「王と王妃自身が気付いていたかは今となってはわからんが」

師匠「……彼らの子である王子は、間違いなく敏感にそれを感じ取ったのは間違いない」

菫花「…………」

師匠「そして、赤の他人であるにもかかわらず」

師匠「芸術的センス、若さゆえの感受性の強さ、野獣への想い、他にもあるかもな」

師匠「あらゆる要因が、この絵に向かい合った君達兄妹に涙を流させた」

師匠「……正直、君達がここまでの反応を見せるとは予想外で」

師匠「まだ幼く柔らかな心が傷付いたとすれば、すまないことをしたと儂は思う」

(野獣「……」)

末妹「……(お兄ちゃん)」チラ

次兄「……(うん)」コクリ

末妹「いいえ、師匠様」

末妹「兄も私も、この部屋に入った事を後悔してはいません」

末妹「私の場合は、最初に胸がとても痛く、苦しくなりましたが、その後は次第に落ち着いて」

末妹「……それから、今度は同じ場所がほんのりと……暖かくなったのです」

末妹「野獣様が夢の中で、ご自分の欠片を、泣き続ける私に分けてくださった直後のように」

(野獣「!」)
 


85 ◆54DIlPdu2E2016/02/12(金) 01:29:07.27UiQ0p+yt0 (4/7)

末妹「今は、いつもと同じように何の違和感もありません」

末妹「……野獣様の欠片に野獣様の『心』が残っていたのかもしれません」

末妹「正直に言います、私は……あまりにも、自分の両親の結婚式の絵と、違い過ぎて」

末妹「とても切なくて、悲しくて……恐くって……」

(野獣「末妹……」)

末妹「その時…私自身のその感情と、野獣様の心が重なったような気がして、よけい辛くなって」

次兄「相乗効果で増幅されたのかもしれないな」

末妹「でも、涙と一緒に痛みも外へ流れたのでしょう、きっと」

末妹「だからもう大丈夫、ここにある野獣様の『心』の一部も」

末妹「……菫花さんや野獣様と同じように、絵に向き合う辛さを乗り越えたと思うのです」

菫花「野獣の、心の一部……」

末妹「ええ、こういう言い方はおかしいかもしれませんが、野獣様から切り離されたがために」

末妹「菫花さんと野獣様に置いてきぼりにされてしまったのでしょうね」

末妹「でも、ようやく私の目を通して向き合う事ができました」

末妹「……それを終えて、今度こそ本当に、この欠片は完全に私に溶け込んだ」

末妹「そう思うのです、そんな気がしてならないのです」

末妹「同時に私自身の心も……今は穏やかです」

末妹「この絵を見て、切ない、悲しい、という気持ちはまだ拭えませんが」

末妹「『恐い』という気持ちは、もうありません。何故かはわからないけれど……」

師匠「……一度あいつから切り離され君に吸収された『あれ』に、あいつの要素が残っていたとは到底考えられんのだが」

師匠「が、あいつと君達が関わることで、儂の思いもよらぬ事象が今までも何度も起きた」

師匠「世の人が呼ぶ『奇跡』という事象かもしれんが」

師匠「ま、奇跡などと大袈裟な物ではない、そんな事もアリか、くらいの話だ」

師匠「信じたからと、誰も損はしない」

師匠「……少年…次兄君、君はどう思う?」
 


86 ◆54DIlPdu2E2016/02/12(金) 01:29:52.21UiQ0p+yt0 (5/7)

次兄「うーん、俺の直感は案外当たっていたんでしょうね、おっさんの話によると」

次兄「この画家は天才で、この絵を描いたより後の時代にはもっと活躍した」

次兄「でもやっぱり、この絵はできるだけ忘れていたかったと思う」

次兄「……俺は画家になりたいし、そのために何でも描ける腕が欲しい」

次兄「そして、描いちゃいけないものまで描けるほどの力が欲しい、でも」

次兄「その上で、必要とあらばそれを抑える力も必要だと今は思うし」

次兄「抑える事で、絵としての完成度を上げる事が出来る、そんな力を身につけたい」

次兄「この画家もきっとそうすることで、より素晴らしい絵を残せたんだと思う」

次兄(でも趣味で描く絵はまた別の話)

次兄「だから、俺が最終的にこの絵からもらった物は前向きな気持ち」

次兄「夢を叶える意欲、そんな感じ……かな」ニヘヘ

(野獣「末妹、次兄、お前達は」)

(野獣「……お前達は……どれほど私から『ありがとう』という言葉を引き出したいのか……」)

菫花「……」グス

次兄「お、おいおい、今度はあんたが泣いちゃうのか!?」

師匠「どうしたのだお前は」

末妹「菫花さん!」

菫花「……はは、なんでしょうね、これは」グシュ

菫花「僕は今、ものすごく嬉しいのです……」

菫花「これは身勝手な思い込みですが……」

菫花「君達の涙で、ようやく……僕の両親の魂は……浄化された、救われたんじゃないかな、って」

菫花「君達にそんなつもりは毛頭ないとしても、結果として」

菫花「これでようやく、穏やかに眠りに着けたんじゃないかって」
 


87 ◆54DIlPdu2E2016/02/12(金) 01:30:55.21UiQ0p+yt0 (6/7)

菫花「……そう簡単に許されてはいけない罪を犯したと、わかってはいますがね……」グス

末妹「……救われた……おふたりの魂が……」

師匠「……」

師匠(本当の所はどうか知らんけが)

師匠(なあ、王よ王妃よ、どうだ、お人好しのド間抜けの息子の言う通りに…もう穏やかに眠ってみないか)

師匠(自分の立場を利用して好き勝手に振舞いながら決して幸福ではなかったあんた達だが)

師匠(菫花の言葉で、菫花にこんな友達ができた事で、充分過ぎるほど報われたではないか)

師匠(なあ野獣)

師匠(お前ももう、それでいいよな? 両親の魂は穏やかであれ、と願ってやれるよな……?)

(野獣「……師匠」)

(野獣「ええ、私も末妹と次兄に感謝していますよ……」)

メイドの声「皆さーん、朝食ができましたよー」

末妹「メイドちゃんが呼んでいる」

師匠「おお、思ったより時間を取ってしまったな」

師匠「冷めないうちにいただくとするか、ほら、行くぞ」

次兄「そういえば腹ペコだぁ」グゥ

菫花「ええ、用意してくれた皆を待たせてはいけませんね」

菫花「……」

菫花「父上、母上」

菫花「僕はこれからもこの世界で生きて行きます、皆と一緒に」

菫花「……またここに来る事もあるでしょう、しかし今は……」グイ

覆い:シャッ

菫花「……おやすみなさい、さよなら……」

……



88 ◆54DIlPdu2E2016/02/12(金) 01:32:02.93UiQ0p+yt0 (7/7)


※ここまででした。入れよか外そか迷ったエピソードだったり※



89以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/12(金) 02:58:25.68wlUKLrsAO (1/1)

野獣と王子が両親の絵を恐れていたのはそんな理由もあったんだなぁ
ところで次兄がまともなことしか言ってなくて私心配


90 ◆54DIlPdu2E2016/02/13(土) 20:08:46.043ZDHMJfd0 (1/1)

>>89
すぐいつもの次兄に戻るのでご心配なくw


※お知らせ※
リアルでの事情で最低でも2週間ほど?更新できなさそうです…
しかし必ず完結します

見返すと>>82-87で王子の表記名間違えたよギャーですが次回更新時に差替分も投下する かもしれません
それではまた…
 


91以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/14(日) 01:38:18.96t8FuO4ZAO (1/1)


のんびり待ってる


92 ◆54DIlPdu2E2016/02/28(日) 00:17:41.93dkyA67w70 (1/10)


※お久しぶり※
>>82-87で王子の表記名間違えたので、以下>>93-98に修正して差し替え。
表記名のみの修正なので、>>99まで読み飛ばしても問題ないですよ……
 


93 ◆54DIlPdu2E2016/02/28(日) 00:18:43.86dkyA67w70 (2/10)

王子「では、覆いを開きます、皆さん……」グッ

末妹「はい……」

次兄「どきどきわくわく」

覆い:サーッ

師匠「……」

師匠(久し振りだな、王よ)

師匠(野獣よ、お前も仮想の窓で見ているのであろうな……)

(野獣「……父上、そして母上……」)

(野獣「菫花がこの部屋に入り、絵と向かい合ったあの日」)

(野獣「菫花はよくやった、頑張ったと私は思った、嬉しかった」)

(野獣「しかし、私自身は……」)

次兄「」

末妹「……っ」

王子「!」

(野獣「お前達……」)

王子「……なぜ、泣くのですか……?」

王子「二人とも……」

末妹「……何故でしょう、この絵は……とても立派で美しいと、芸術の知識がない私にもわかります」グス…

末妹「そして描かれている王様と王妃様……お二人も奇麗なかた、でも、でも」

末妹「……この絵を見たとたん、胸のこのあたりがぎゅっと……苦しくなって、涙が……」グシ

(野獣「末妹」)

(野獣「あの場所は末妹が……『私の欠片』を押し当て、そのまま溶け込んだ場所……」)

次兄「……俺は、これ、あくまで直感なんだけど」グシュ

次兄「俺こええよ、この絵……」

次兄「描かれている対象そのものがじゃなくて、なんというか、その……」ズビー

次兄「依頼をこなすだけ、それだけでよかったんだこの画家は、なのに」

次兄「頼まれていないものまで描いちゃったんだ、そしてそれは描いちゃ駄目なものだった……」

(野獣「次兄、お前にはそれがわかるのか……」)
 



94 ◆54DIlPdu2E2016/02/28(日) 00:20:01.81dkyA67w70 (3/10)

次兄「……なんて、さっきも言ったけどあくまでも直感」

次兄「見たとたん、俺の心にずっしり来たのを言葉にしたら、そんな感じなんだ……」グシュン

王子「君たち……」

師匠「……」

師匠「君等の家は庶民とは言え裕福ではあるが……ご両親の肖像画は家にあるかね?」

末妹「……あります」コク

末妹「ふたりが結婚した頃に、祖父が王都の画家に依頼したという……」

次兄「今はそこそこ名も売れているけど、20年前はまだまだ新人で」

次兄「じいさんが知人の伝手で紹介してもらったと聞いたけど……」

末妹「勿論こんなに大きくはありません、今は母の部屋に飾ってありますが……」

末妹「………………」

王子「きっと、幸せそうなお二人…ご両親の姿が描かれているのでしょうね」ニコ

末妹「菫花さん」

師匠「……次兄君、小国の歴史書を何冊か読み漁ったのならば……この王の先王は『何者』か、知っているか?」

次兄「ふぇ?」

次兄「……うん、確か、この王妃様のほうの父親が前の王様だって」

次兄「だから、王子様の……菫花さんの祖父には間違いないけど、王様は前の王様の子供じゃない」

王子「……その通りだよ」

師匠「ああ、小国では、女性には王位継承権がなかった」

師匠「そして、王妃がまだ王女だった頃、彼女には三人の兄王子がいたので」

師匠「次代の王はその王子達に間違いないと、誰もがそう思っていたが……」

師匠「戦や思いがけぬ事故が原因で、王子達は立て続けに若くして亡くなってしまった」

師匠「王子達に続く王位継承権の高い者も、同じ戦で亡くなったり重い病の床にあったりと……」

師匠「結局は先王の従弟の息子である『この男』に回って来た」

師匠「そして、この王家にはもうひとつしきたりがあった」

師匠「先王の王子は不在だが王女だけは存在している場合、強制的に次の王の妃にならねばならない」

師匠「先王の『直系の血』は残さねばならんのでな」

末妹「……」
 


95 ◆54DIlPdu2E2016/02/28(日) 00:20:57.88dkyA67w70 (4/10)

師匠「儂は『この男』を、そんな立場に立たされる前から知っているが」

師匠「…………彼の人生は彼の思い描いた通りに行かなかった」

師匠「おそらくは、『彼女』も」

次兄(……そうか、このきらびやかな衣装の美形王族カップルが漂わせる暗さは……)

師匠「だからってなあ、国を、民を、我が子を」

師匠「全てを王の名の元に自分の思い通りにしてやろうとはなあ、許された所業ではないぞ、わかっておるのか?」コンコン

次兄「お、おっさん、絵を杖で叩いたら絵具が剥がれるし」アタフタ

師匠「……この男とは少年の頃、机を並べて共に学んだこともあってな」

師匠「ま、それはどうでもいい」

師匠「この画家は間違いなく腕が良かった、天才と言っても良い」

師匠「……しかし既に名声が拡がっていたとは言え若くもあったのだ、思いがけず、彼らの複雑な心境まで筆に込めてしまった」

師匠「王と王妃自身が気付いていたかは今となってはわからんが」

師匠「……彼らの子である王子は、間違いなく敏感にそれを感じ取ったのは間違いない」

王子「…………」

師匠「そして、赤の他人であるにもかかわらず」

師匠「芸術的センス、若さゆえの感受性の強さ、野獣への想い、他にもあるかもな」

師匠「あらゆる要因が、この絵に向かい合った君達兄妹に涙を流させた」

師匠「……正直、君達がここまでの反応を見せるとは予想外で」

師匠「まだ幼く柔らかな心が傷付いたとすれば、すまないことをしたと儂は思う」

(野獣「……」)

末妹「……(お兄ちゃん)」チラ

次兄「……(うん)」コクリ

末妹「いいえ、師匠様」

末妹「兄も私も、この部屋に入った事を後悔してはいません」

末妹「私の場合は、最初に胸がとても痛く、苦しくなりましたが、その後は次第に落ち着いて」

末妹「……それから、今度は同じ場所がほんのりと……暖かくなったのです」

末妹「野獣様が夢の中で、ご自分の欠片を、泣き続ける私に分けてくださった直後のように」

(野獣「!」)



96 ◆54DIlPdu2E2016/02/28(日) 00:21:54.50dkyA67w70 (5/10)

末妹「今は、いつもと同じように何の違和感もありません」

末妹「……野獣様の欠片に野獣様の『心』が残っていたのかもしれません」

末妹「正直に言います、私は……あまりにも、自分の両親の結婚式の絵と、違い過ぎて」

末妹「とても切なくて、悲しくて……恐くって……」

(野獣「末妹……」)

末妹「その時…私自身のその感情と、野獣様の心が重なったような気がして、よけい辛くなって」

次兄「相乗効果で増幅されたのかもしれないな」

末妹「でも、涙と一緒に痛みも外へ流れたのでしょう、きっと」

末妹「だからもう大丈夫、ここにある野獣様の『心』の一部も」

末妹「……菫花さんや野獣様と同じように、絵に向き合う辛さを乗り越えたと思うのです」

王子「野獣の、心の一部……」

末妹「ええ、こういう言い方はおかしいかもしれませんが、野獣様から切り離されたがために」

末妹「菫花さんと野獣様に置いてきぼりにされてしまったのでしょうね」

末妹「でも、ようやく私の目を通して向き合う事ができました」

末妹「……それを終えて、今度こそ本当に、この欠片は完全に私に溶け込んだ」

末妹「そう思うのです、そんな気がしてならないのです」

末妹「同時に私自身の心も……今は穏やかです」

末妹「この絵を見て、切ない、悲しい、という気持ちはまだ拭えませんが」

末妹「『恐い』という気持ちは、もうありません。何故かはわからないけれど……」

師匠「……一度あいつから切り離され君に吸収された『あれ』に、あいつの要素が残っていたとは到底考えられんのだが」

師匠「が、あいつと君達が関わることで、儂の思いもよらぬ事象が今までも何度も起きた」

師匠「世の人が呼ぶ『奇跡』という事象かもしれんが」

師匠「ま、奇跡などと大袈裟な物ではない、そんな事もアリか、くらいの話だ」

師匠「信じたからと、誰も損はしない」

師匠「……少年…次兄君、君はどう思う?」
 


97 ◆54DIlPdu2E2016/02/28(日) 00:22:45.23dkyA67w70 (6/10)

次兄「うーん、俺の直感は案外当たっていたんでしょうね、おっさんの話によると」

次兄「この画家は天才で、この絵を描いたより後の時代にはもっと活躍した」

次兄「でもやっぱり、この絵はできるだけ忘れていたかったと思う」

次兄「……俺は画家になりたいし、そのために何でも描ける腕が欲しい」

次兄「そして、描いちゃいけないものまで描けるほどの力が欲しい、でも」

次兄「その上で、必要とあらばそれを抑える力も必要だと今は思うし」

次兄「抑える事で、絵としての完成度を上げる事が出来る、そんな力を身につけたい」

次兄「この画家もきっとそうすることで、より素晴らしい絵を残せたんだと思う」

次兄(でも趣味で描く絵はまた別の話)

次兄「だから、俺が最終的にこの絵からもらった物は前向きな気持ち」

次兄「夢を叶える意欲、そんな感じ……かな」ニヘヘ

(野獣「末妹、次兄、お前達は」)

(野獣「……お前達は……どれほど私から『ありがとう』という言葉を引き出したいのか……」)

王子「……」グス

次兄「お、おいおい、今度はあんたが泣いちゃうのか!?」

師匠「どうしたのだお前は」

末妹「菫花さん!」

王子「……はは、なんでしょうね、これは」グシュ

王子「僕は今、ものすごく嬉しいのです……」

王子「これは身勝手な思い込みですが……」

王子「君達の涙で、ようやく……僕の両親の魂は……浄化された、救われたんじゃないかな、って」

王子「君達にそんなつもりは毛頭ないとしても、結果として」

王子「これでようやく、穏やかに眠りに着けたんじゃないかって」



98 ◆54DIlPdu2E2016/02/28(日) 00:23:50.68dkyA67w70 (7/10)

王子「……そう簡単に許されてはいけない罪を犯したと、わかってはいますがね……」グス

末妹「……救われた……おふたりの魂が……」

師匠「……」

師匠(本当の所はどうか知らんけが)

師匠(なあ、王よ王妃よ、どうだ、お人好しのド間抜けの息子の言う通りに…もう穏やかに眠ってみないか)

師匠(自分の立場を利用して好き勝手に振舞いながら決して幸福ではなかったあんた達だが)

師匠(菫花の言葉で、菫花にこんな友達ができた事で、充分過ぎるほど報われたではないか)

師匠(なあ野獣)

師匠(お前ももう、それでいいよな? 両親の魂は穏やかであれ、と願ってやれるよな……?)

(野獣「……師匠」)

(野獣「ええ、私も末妹と次兄に感謝していますよ……」)

メイドの声「皆さーん、朝食ができましたよー」

末妹「メイドちゃんが呼んでいる」

師匠「おお、思ったより時間を取ってしまったな」

師匠「冷めないうちにいただくとするか、ほら、行くぞ」

次兄「そういえば腹ペコだぁ」グゥ

王子「ええ、用意してくれた皆を待たせてはいけませんね」

王子「……」

王子「父上、母上」

王子「僕はこれからもこの世界で生きて行きます、皆と一緒に」

王子「……またここに来る事もあるでしょう、しかし今は……」グイ

覆い:シャッ

王子「……おやすみなさい、さよなら……」

……



99 ◆54DIlPdu2E2016/02/28(日) 00:25:17.15dkyA67w70 (8/10)

朝の食卓……

師匠「ほう、手の込んだ朝食ではないか」

料理長「こちらは摘みたてのハーブ各種と薄く切った森の林檎、そこに胡桃をトッピングしたサラダです」

庭師「冬場は庭のハーブを鉢植えにして室内に持って来るので、一年中新鮮な物が手に入るのですよ」

料理長「こちらは商人様からおみやげにいただいたジャガイモで作ったポタージュです」

執事「さすがは末妹様のお父様が選んだ物です、味となめらかさ、日持ちも良くて最高級の品質だと料理長が」

次兄「俺の父親でもありますですよ?」

料理長「そして、これが庭で採れた秋野菜と森のキノコのキッシュ……チーズがトロトロのうちに召し上がってください」

メイド「新鮮な卵は、今朝、菫花様が魔法で手に入れてくださいました」

王子「前から思っていましたが師匠、鶏を飼えばもっと楽に卵が手に入るのでは?」

師匠「お前が騾馬も鶏も自分で面倒を見るのなら、考えてみるか」

料理長「あとは、紅茶と……無花果のコンポートです。物足りなければ、昨日のパンですが温めて」

次兄「これだけあれば物足りなくならないってば、昼食も兼ねて充分なくらいだ」

師匠「ふむ、君達がここを発って家に着く時間を考えたら、そのつもりだったのかもしれんな」

末妹「朝からこんなに、大変だったでしょうね……」

料理長「メイドちゃんや庭師くん、それに今朝は執事さんも手伝ってくださいました、そのおかげで」

次兄「執事さんがこの朝食をぉぉぉぉ!?」ババーン

執事「」

料理長「……そのおかげで助かりました、とにかく暖かいうちに、さあ、皆さん」

末妹「ありがとうございます、いただきます」

次兄「いただきますっ! 執事さん、執事さんは主に何を担当されましたかっ!?」

執事「…………主にポタージュでしょうか」

次兄「ポタージュですね!? うおおお、まったりとコクのある中に自然の甘み、これが執事さんの味ぃぃぃぃぃ!!」レロレロ

執事(手伝ったと言っても、メイドに調理器具や調味料を言われるまま取ってあげただけですがね)



100 ◆54DIlPdu2E2016/02/28(日) 00:27:34.39dkyA67w70 (9/10)

師匠「ふむ、野生種の林檎の酸味を敢えて活かす事で、爽やかなサラダに仕上がっているな」

末妹「どれも本当に美味しい……あら、キッシュのチーズは種類を混ぜて使っているのね」

王子「味に深みが出るんですよ、具が野菜中心でも満足感が得られます」

王子「……ずっと前に料理長さんは野獣からそれを教わり、以来、料理に合わせてあれこれ自分で工夫しているそうです」

末妹「……野獣様」

末妹「野獣様はこの席にいなくても、教えを、野獣様の好みをお屋敷の皆さんは守り続けている」

末妹「……『野獣様の欠片』を持っているのは、私だけじゃないのね」

王子「末妹さん?」

末妹「もちろん、菫花さんはいつも共におられるのでしょうけど」

末妹「料理長さん、執事さん、庭師くん、メイドちゃんも」

末妹「野獣様の教え、野獣様の言葉、野獣様の心を受け取って」

末妹「それだって野獣様の一部だもの」

末妹「お兄ちゃんだって同じ」

次兄「はい? 何が?」ポリポリ

メイド「次兄様、サラダから胡桃だけ拾って食べるのはさすがにお行儀が」

次兄「ちゃんと他の物も完食するから安心してよ、でも胡桃のお替わりがあると嬉しいかしら」ポリポリ

料理長「そう思って、持って来ましたよ。はい次兄様」ザラザラザラー

師匠「もうトッピングどころか胡桃がメインだな」

末妹「……お兄ちゃんも、野獣様の欠片を持っている」

末妹「師匠様だって、きっと」

王子「……」

王子「……そうですね、この場に彼の姿を見ることはできなくても」

王子「今もこの先も、ずっと……僕だけじゃない、君とも、皆とも」

王子「野獣はすぐそばにいる、一緒に生きて行く」

王子「お互いを忘れない限り、いつまでもね」

末妹「ええ、いつまでも……」

……



101 ◆54DIlPdu2E2016/02/28(日) 00:28:41.13dkyA67w70 (10/10)


※話の続きが短くてすみません、とりあえず今回はここまで、ネムイ※



102以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/28(日) 03:11:27.22sCcTGgvAO (1/1)

来月まで待つかなーと思っていたから嬉しい
和やかな食事風景に癒されると同時に腹が減るぅう乙ぅ


103以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/03(木) 18:57:02.30/+VKylZ8o (1/1)




104以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/03(木) 19:50:39.84T9eOeMVc0 (1/1)

おつー


105 ◆54DIlPdu2E2016/03/03(木) 22:16:37.64Cq3kjopJ0 (1/1)


※お知らせのみ。明日の夜かそれ以降に更新します。読んでくれてありがとう※


106以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/04(金) 07:51:40.01tqodNt1/o (1/1)

     /⌒ヽ
 (ゝrr<フ::. /⌒
ニ(゚д゚ ニ)ニ::{ 胡桃のお替わりがあると嬉しいかしら
 (つと ヽ::ノ
 ((  ) ノ
 ´^⌒^`


107 ◆54DIlPdu2E2016/03/06(日) 02:31:19.09eEa0kNBX0 (1/5)

再び、東屋。

次兄「よっしゃ、馬車に積む荷物はこれで全部……」

馬「ひん」

次兄「末妹、乗馬服に着替えたんだな。俺はそのまんまだけど」

末妹「師匠様が馬車のチェックをしてくださったの」

次兄「おっさん何でもできるんだな、ありがと」

師匠「車軸の傾きや車輪の減り、ネジの緩み具合等を魔法で鑑定し、必要な部分には微調整を施した程度さ」

師匠「儂には大した労力ではないが、普段から君達の父上の手でしっかり整備されているのがわかったよ、それが何よりだ」

次兄「それじゃ、客間の最終確認をしようか」

末妹「また後で来るね馬さん。その時はいよいよ出発よ、よろしく」

馬「ひひひん!」マカセテ

次兄「忘れ物はないと思うけどね」

師匠(忘れ物より…少年は客間の片付けをしたのか不安だのぅ、自宅の部屋の惨状を見るに……)

……

執事「末妹様、次兄様」

末妹「執事さん」

次兄「執事さーん!」

執事「……荷物運びをお手伝いさせていただくつもりでしたが、その様子では既に終えられたようですね」

次兄「元々そんなに荷物なかったからね」

執事「他にもまだご用はおありですか?」

末妹「客間を確認しに行く所です。その後は、いつでも出発できますよ」

執事「出発の前に少しばかりお時間をいただけますか? おふたりとも」

次兄「うん、いいよね、末妹」ニヘ

末妹「お兄ちゃん」

末妹「ええ、執事さん」ニコ

執事「畏まりました。では、ご用がお済みになられましたら、主人の部屋へおいでください」

……



108 ◆54DIlPdu2E2016/03/06(日) 02:33:41.96eEa0kNBX0 (2/5)

野獣の部屋……

ドア:カチャ……

執事「お待ちしておりました、さ、中へ」

メイド「末妹様ぁー!」ピョン

末妹「メイドちゃん」

王子「次兄君、末妹さん、いよいよお別れですね……」

庭師「へへ、わかってはいても、やっぱり寂しいです……」

料理長「お二人とも、いつも食事を美味しそうに召し上がってくださって、わしは本当に嬉しかった……」

次兄「みんな……」

末妹「お兄ちゃん……笑顔でお別れしようって言ったじゃない」

末妹「皆さんも、しんみりしないで。だって、私達はまた会う約束をしてお別れするのに」

執事「末妹様の仰るとおりですよ」

師匠「交流のための鏡も渡してあるのだ、この部屋の銀板鏡もそいつを使う日を楽しみにしているぞ?」

鏡「ワタシノモウヒトツノ『メ』ヤ『ミミ』トナルカガミデス、イイシゴトシマスヨー」

次兄「……そっか、俺達が預かった鏡台を通して、お前とつながるわけか」

次兄「これからもよろしくな、鏡」

末妹「そうね、これからも。皆さん、これからもよろしくお願いします!」

王子「これからも」

メイド「……これからも、そうですね、次兄様もたまには良いこと仰いますー!」

料理長「そうですな、気を取り直して……お二人に、これを」ヨイショット

末妹「何かしら、大きな蓋付きの缶……」

料理長「以前、貴方様達のために作った、胡桃のサブレと鏡のクッキーです」

執事「今回はご家族の分もあります、お家でお茶の時間に召し上がっていただければ、と」

末妹「家族の分も……嬉しい!! ありがとう!!」

次兄「どれどれ……ぎっしり入っているな、たくさん作ってくれたんだね、ありがとう」

次兄(これだけあるなら胡桃のサブレを数枚ポッケにないないしてもバレますまい)



109 ◆54DIlPdu2E2016/03/06(日) 02:36:32.31eEa0kNBX0 (3/5)

料理長「今回も、メイドちゃんも庭師君も……執事さんも手伝ってくれました」

次兄「!! 執事さんっ、主にどのパートを!?」

執事「……出来上がってから、わたくし一人で缶に詰める作業を。その際に手袋はしましたよ」

師匠「狼の前足に合う特注品の手袋な」

次兄「では、では満遍なく執事さんの味が行き渡っているのですねぇぇぇぇぇ!?」

次兄「ああああ、家族で分け合うのが惜しいぃぃ!!」ジタバタ

末妹「お、お兄ちゃん、私のぶんなら分けてあげるから……ね?」

執事「……」ハァ

執事(改めて、描いてくださった絵のお礼を述べるつもりだったが……その気が失せてきた……)

王子「……えーと、あのですね、僕からも何か……君達に感謝の意味も込めて贈り物ができればと……」スッ

メイド「奇麗なガラス瓶に入っていますねー」

末妹「あら、これは……紅茶?」

王子「ええ、夢の中で野獣と相談しながら、数種類を調合したものです」

王子「料理長さんの焼き菓子に最適なお茶ができれば、と思って」

王子「お気に召してくれたら良いのですが……」

末妹「素敵、きっとこのお菓子に合うわ、ありがとうございます菫花さん!!」

次兄「野獣様のオリジナルレシピによる調合ですと!?」

王子「う、うん、僕の意見も取り入れてくれたけど」

次兄「野獣様の紅茶、執事さんが手をかけたお菓子、これでお茶会をするという事は……つまり」

次兄「つまり、野獣様と執事さんの共同作業の結晶ではありませんか!?」ドドォォォォン

王子「あの」

執事「いや、わたくしは詰めただけで、本当に」

末妹「お兄ちゃん、本当に何を言っているのか私わからない」

次兄「ありがとうありがとう! 心奮い立つ、じゃなかった心温まるお土産に感動しました!!」

庭師「あっ次兄様、鼻血が」

師匠「…………何が何だか」

師匠「とりあえずしんみりした空気は払拭されたから、まあ良し、か……」

……



110 ◆54DIlPdu2E2016/03/06(日) 02:38:37.07eEa0kNBX0 (4/5)

野獣の屋敷、前庭。

庭師「馬さん、元気でね」スリスリ

馬「ぶるる……」マタネ

末妹「……何度も言うけど、またこのお屋敷に二人で来ますから」

メイド「待っていますー」

末妹「鏡でお話しもしましょうね、メイドちゃん。家に着いたら、すぐ家政婦さんにお手紙を渡すわ」

次兄「……」ジー

執事「……何か仰りたい事がおありで? 先程からずっとわたくしを見つめていらっしゃいますが……」ウンザリ

次兄「執事さんの姿を出来る限り鮮明にこの目に焼き付けているだけです、お構いなく」

庭師「魔法の鏡でまた姿を見る事ができるのに」

次兄「本日の執事さんは本日限定だよ、庭師君」キリッ

王子「……僕も何度でも言います、本当に感謝しています、次兄君と末妹さんには……」

王子「それで、あの……これから、君達を友達と思っても……良いでしょうか……?」

末妹「とっくに友達ですよ、これからも」ニコ

王子「あ」

王子「ありがとう」ニコ

末妹「次に来る時は、可愛い騾馬にも会えるのを楽しみにしていますね」

王子「それまでに騾馬と仲良くなれるよう、頑張るよ」

師匠「その前に馬小屋かな、あの東屋を改造してみようか……」

料理長「お父様にジャガイモのお礼をくれぐれもお伝えください」

料理長「一緒に入っていたお茶や岩塩も、質の良いものでした」

師匠「儂も気に入ったよ、今ある分がなくなったらまた欲しいくらいだが」

師匠「今後は父上のお店から、ちゃんと客として買うことにしよう」

次兄「おっさんまた瞬間移動で買いに来るのか。我が父親ながら、父さん商売上手ですなぁ」ジー

執事「他のかたの会話に加わる時くらい、視線はわたくしからお外しになってはいかがでしょう……」ゲンナリ
 


111 ◆54DIlPdu2E2016/03/06(日) 02:39:55.49eEa0kNBX0 (5/5)


※眠いのでここまで。次回は、お別れセレモニーの続き&道中の兄妹(たぶん) です。※

>>106
可愛いAAありがとう、次兄もリスだったらまだ可愛げあるのに



112以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/06(日) 08:11:36.38qsSY6HsAO (1/1)


まさかポケットに直接サブレを入れたりはしないだろうな次兄よ


113 ◆54DIlPdu2E2016/03/06(日) 23:31:07.44SrQI5lXM0 (1/5)

師匠「……で、当面の間は緊急な出来事がない限り、鏡で話をするのは金曜日の夜。この約束で、良かったな?」

末妹「はい」コク

メイド「私、お屋敷中のカレンダーの金曜日に印をつけてしまいそうですー」ピョコピョコ

庭師「この先おいでになる時も、この馬さんと一緒ですか?」

末妹「……できればそうしたいわ、でもこの子は、私にも懐いているけどお父さんの馬だから……」

馬「ひん……」

次兄「こいつは魔法の地図を使った移動にもお屋敷の皆さんにも、すっかり慣れているからね、他の馬ならまた一から」

次兄「……って、あれ? 末妹」

末妹「なあに?」

次兄「この馬、いつのまにか執事さんが平気になっていないか?」

末妹「あ、そう言えば?」

執事「……………………」

馬「ぶるる……♪」ゴキゲン

庭師「へへへ、僕知ってますよ。執事さん、東屋の馬さんからギリギリ見える位置の窓を開けて、顔を出す所から始まって……」

庭師「その翌日は少しだけ近くの窓へ」

庭師「次は外に出て……最初は離れた場所から、少しずつ距離を詰めて来たんですよね?」

末妹「執事さんが……」

執事「うむ、まあ、その……これだけ良い馬であれば、警戒すべき野生の狼とわたくしを区別するくらい容易く……」オホン

メイド「馬さん、庭師君とは仲良くなったし料理長さんの事も最初から怖がっていないし」

メイド「執事様だけ仲間外れが寂しかったんですよねー?」

執事「こらメイド、またお前は、調子に乗って……」メゾピアノ

料理長「はは、いつもほど叱りつける時の迫力がありませんな」

末妹「執事さん……嬉しいです、ありがとう」ニコ

執事「は、はい、恐縮です……」
 


114 ◆54DIlPdu2E2016/03/06(日) 23:32:50.17SrQI5lXM0 (2/5)

次兄「……むむむ」

次兄「執事さんが、うちの馬との親密さを深めようと陰で努力をしていた、ですと……?」

次兄「……こ、これはまさか執事さんの、将を射んと欲すればまず馬を射よ、作戦では!?」

馬(馬)「ひん?」

次兄(将?)「そんな回りくどい事しなくたって、俺はいつでも執事さんを受け入れる準備はできているのに」

次兄「執事さんったら恥ずかしがり屋さんなんだから……もぉ」ポッ

メイド「小声のおつもりでしょうが聞こえていますよー」

執事「と、とにかく、この馬がわたくしの姿に怯える事は今後ありませんから、安心してください」

王子「でも、これなら新しく来る騾馬も執事さんと仲良くなれる希望が持てます」

師匠「賢くて度胸の据わった騾馬を選ばなくてはな、菫花の目利きは少し心配だが」

メイド「今度はいつ、末妹様達がお見えになるかはまだわからないけれど……」

庭師「馬小屋を作って、そして……騾馬さんを迎える準備もしなくちゃね、寂しがってる暇はないかも」

メイド「忙しくなりそうですねー」

末妹「ふふ、そうね、私も……家に帰ったら、学校の勉強を頑張らないと」

次兄(二か月もお休みしちゃったからな)

末妹「ちゃんと来年の秋には、友1ちゃん達と一緒に卒業したいの」

次兄「俺も頑張るよ、まずは父さんと話をする所から」

末妹「二人で頑張ろうね、お兄ちゃん」

末妹(町の学校を卒業してからの、将来の私の夢)

末妹(ゆうべ野獣様にした話を、次に話す人はお兄ちゃんだから)

師匠「若い者には夢があっていいのぅ」

王子「……」



115 ◆54DIlPdu2E2016/03/06(日) 23:34:07.74SrQI5lXM0 (3/5)

王子(末妹さんにも、将来の夢があるのでしょうね)

王子(いつか、ずっと先でもいいから、そのお話も聞かせて欲しいな……)

師匠「お前も頑張れよ菫花!」

王子「は、はいっ!?」ギクッ

師匠「隙あらば過去を振り返っては毛布の塊になりたがるからな、お前は」

王子「も、もうしませんよ、いや、しないように努力します」

末妹「……みんな、自分にできる事を頑張るんです、少しずつでも」

末妹「そんな毎日から、また会う時にお話ししたい事がいっぱい作られて、心の中に溜まって行く……」

末妹「私は、そう思います」

庭師「僕も、来年の春は今年よりもっと庭の花達をきれいに咲かせられるよう、頑張ります」

料理長「わしもこの歳ですが、もっと料理のレパートリーを増やしたいのです、頑張ります」

メイド「私は、えーと、食欲を自制して、もっともっと身軽な兎を目指します!」

次兄「そんなんでいいのメイドさん?」

執事「……わたくしは、皆の頑張りを守り支える執事でありたいですな」

末妹「ふふ……皆さんにまた会える時がますます楽しみです」

師匠「さあ、あまり引き留めては家に着く時間が遅くなってしまう」

師匠「……お父上も、やきもきしている頃ではないかな?」

次兄「うーん、日にちだけじゃなく家に着く時間も決めておけばよかったかなあ」

末妹「お父さん……」

(商人「ふたりで助け合って、そしてどうか笑顔で家に帰って来てくれ」 )

末妹「長兄お兄さん、長姉お姉さん、次姉お姉さん、家政婦さん……」

次兄「今度は、我が家の全員で迎えてくれるさ」

次兄「長姉ねえさんも一緒にね」

末妹「……そうね、きっと」コク



116 ◆54DIlPdu2E2016/03/06(日) 23:39:53.80SrQI5lXM0 (4/5)

執事「さあ、門を開きました」

庭師「木に登って眺めたけど、周囲に危険な存在はなさそうですよ」

師匠(儂の魔法でも安全は確認済み、と)

メイド「次兄様、末妹様をどうか」

次兄「おぅ、みなまで言うな、まかして!!」ニヘ

メイド「……大好きです、末妹様」スリスリ

末妹「私も大好きよメイドちゃん、私の大切な、小さな友達……」モフモフ

次兄「ああ、俺にもいつかは執事さんとあのようなスキンシップを図れる日が来るのでしょうか?」

執事(来ません)

料理長「また会う日まで、すこやかにお過ごしください、おふたりとも……」

王子「次兄君も末妹さんも、魔法の地図を使うとは言え、どうか気を付けて……」

末妹「ええ、ありがとう、皆さんもお元気で……」

末妹(野獣様も……さようなら、またお会いしましょう……)

末妹「馬さん、お願いね」

馬「ひひひひん!」

馬車:ザシュ……ガラガラ

メイド「末妹様ー!!」

庭師「末妹様、次兄様、馬さん……」

王子「………………また会おう、僕の友達」

執事「……ご主人様、ご覧になっておられますよね……」

野獣(……また会おう、末妹、次兄よ)

野獣(二人とも明るい表情で馬車を進めている、嬉しいよ)

野獣(私も笑顔で見送るぞ、約束だからな……)


……………………



117 ◆54DIlPdu2E2016/03/06(日) 23:45:03.95SrQI5lXM0 (5/5)


※ここまで※
予告と違ってすみません、細かい部分を回収しつつキリの良い所までやっぱり投下したかったので……
この後は、道中の兄妹とお屋敷の様子を挟みつつお送りする予定。

余談。この世界のこの国の学校は基本的に秋から新年度で、同年の1~12月に生まれた子は同学年というシステムです

>>112
次兄は帰宅後に実行するポッケないない計画を瞬時に3パターンほど立てた模様
だから準備も綿密であると予測されますです
 


118以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/07(月) 04:36:14.91OAT+lfLAO (1/1)

悲しい別れじゃなくて良かった
少しずつお馬さんを慣らす執事さん可愛い


119 ◆54DIlPdu2E2016/03/12(土) 01:28:25.55NRefISqt0 (1/4)

…………………………………………

……………………

…………

夢の世界。

(師匠「……行ってしまったな」)

(野獣「はい、でも『しばしの別れ』ですから」)

(野獣「と言うか師匠、午前中からお昼寝ですか?」)

(師匠「眠りの魔法をかけてな、わざわざお前に会いに来てやったんだぞ」)

(野獣「それは恐れ入ります」)

(野獣「……魔法の地図の効果であっという間に森を出てしまったので、仮想の窓からも見えなくなってしまいました」)

(師匠「未練たらたらではないか」)

(野獣「そんなんじゃありません、笑顔で見送るという約束を果たしたかったのですよ」)

(野獣「……嘘の約束ではない、本当の約束を」)

(師匠「四週間前にお前があの子らについた嘘も、あの子らは本物に変えてくれたがな」)

(野獣「ええ、あんな素晴らしい兄妹を、もう裏切ることはできませんよ」)

(師匠「あの子らとお前の繋がりは、もう断ち切れないほど強いと思うぞ」)

(師匠「……200年以上の時を経て、形を変えて結ばれた、とでも言えば文学的かな」)

(野獣「……?」)

(野獣「師匠、今のはどういう意味でしょうか?」)

(師匠「図書館の娘の孫という男、5人いる中のひとりだが」)

(師匠「彼は北辺都市に生まれ育ち、そのままそこで嫁をもらい子もできた」)

(師匠「子は男ばかり3人」)

(師匠「うち三男は情熱的でな、親の猛反対を押し切って想い人と駆け落ちして王都へ行ってしまった」)

(野獣「はぁ」)
 


120 ◆54DIlPdu2E2016/03/12(土) 01:30:31.16NRefISqt0 (2/4)

(師匠「三男はそこで名前を変え、周囲とやがて生まれた我が子達には孤児で通し」)

(師匠「職人として弟子入りした先に気に入られ、そこそこの暮らしは出来たらしい」)

(師匠「で、彼の娘だがそれはそれは美しく、仮にAとしようか」)

(師匠「Aは西端都市出身のある若者に気に入られ、彼の故郷で皆に祝福されて結婚し幸福に暮した」)

(師匠「若者はそれなりの家柄だったにもかかわらず、ほんの二代前の先祖がどこの誰かも知らない娘でも一向に構わん、と」)

(師匠「Aは本当に父親より前の先祖を知らなかった、当然、彼女の子や孫も」)

(師匠「だから、Aとその子孫達と、図書館の娘が血縁上は直系である証拠を見つけ出すのは、本当に苦労した」)

(師匠「苦労したが、事実なのは間違いない、と儂の弟子の子孫達が話しておったわ」)

(野獣「……何を仰りたいのかまだわかりませんが」)

(師匠「王家や貴族ならざる庶民が」)

(師匠「自分の数代前の先祖を知らないのは、理由によっては仕方がない、やむを得ない」)

(師匠「必ずしもその者の落ち度や恥ではない」)

(師匠「……そんなわけで、次兄や末妹が図書館の娘の話を聞いてもだ、自分達に繋がりがあるとは気付くはずもない」)

(野獣「……!?」)

(師匠「兄妹の母親……商人の妻は西端都市出身」)

(師匠「西端都市に嫁いで来たAという女性は商人の妻の父方の曾祖母、更に辿れば……」)

(野獣「……な」)

(野獣「なぜもっと早く教えてくれなかったのです!?」)

(師匠「知って、お前はどうした?」)

(野獣「」)

(師匠「商人の妻から生まれた子だけでも5人」)

(師匠「商人の妻には姉2人と弟がいる、それぞれの子供達は合計10人」)



121 ◆54DIlPdu2E2016/03/12(土) 01:33:56.13NRefISqt0 (3/4)

(師匠「商人の妻の父方のいとこ達は、商人の妻と同じだけ曾祖母Aの血を引いている」)

(師匠「……(感じ悪い)親戚2と親戚3、あと(影の薄い)親戚1、その他にも4人くらいいるとか」)

(師匠「末妹達より一代前だから彼等の方が血は濃いわな」)

(師匠「ついでに彼らの子供らは……ああもう全部で何人いたか忘れてしまったぞ」)

(野獣「……」)

(師匠「な、『価値』は『そこ』ではないのだ」)

(師匠「図書館の娘の子孫は、いま生きているだけでも儂の頭脳でさえ覚え切れないほど存在するが」)

(師匠「それより、お前の友達のあの子達がどんな子で、お前とどんな会話をしてどんな思い出を作ったか」)

(師匠「その重さに比べたら、あの子達が図書館の娘と血の繋がりがあった、という事実は『ちょっとしたおまけ』程度なのさ」)

(野獣「ちょっとしたおまけ……」)

(野獣「……ですが、私にはこの上なく嬉しい、素晴らしいおまけですよ?」)

(師匠「とりあえず、お前は菫花には黙っておけよ? 本人にも言ったが、頃合いを見て儂が『会わせて』やる」)

(師匠「あいつには、時間と色々な物がまだまだまだまだ足りていない」)

(師匠「兄妹にもその時に知らせるつもりだ」)

(野獣「承知しました、でも」)

(野獣「……驚くでしょうね、三人とも」)

(師匠「うむ、ま、伝え方はじっくり考えるがな」)

(師匠「……嬉しい、か……」)

(師匠「ふ、ロマンチストのお前ならばそう考えるよな、運命とか奇跡とかそんな言葉を当てはめて」)

(野獣「時を経て形を変えて結ばれた、とかさっき仰っていたのは師匠ですよ?」)

(師匠「……ふふん」)

(師匠「運命や奇跡を当てにするだけの人生は実に阿呆らしいが、彩を添える程度であれば」)

(師匠「たまぁに起きても悪くはない、とはこの儂も思わんでもないのだぞ?」)

(野獣「師匠も丸くなりましたね」)

(師匠「お前達と付き合うからには、こちらも文学的発想に理解を持たないとな」)

……


122 ◆54DIlPdu2E2016/03/12(土) 01:35:11.69NRefISqt0 (4/4)


※ここまで。ドライなおっさんと夢見がちなおっさん、いずれにせよおっさんしかいねえ回でした※

次回は来週のどこかで……3月中に終われるかな……



123以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/12(土) 03:04:20.98rainpuJAO (1/1)


次兄は「野獣様の想い人の血が俺の身体にもぉぉ!」とか狂喜しそうだよネ


124 ◆54DIlPdu2E2016/03/15(火) 23:14:01.47PZ9SW6HQ0 (1/6)

屋敷の廊下、裏庭へ続く扉の近く。

執事「おや菫花様、バラ園へ出られるのですか?」

王子「ええ、冬に向けてバラの雪囲いをどうするか、庭師君と二人で考えようかと」

執事「なるほど、普通のバラになったからには雪の中に放って置くわけにもいかないでしょうね……」

執事「ところで菫花様、師匠様がどちらにいらっしゃるかご存知ですか?」

王子「ああ、師匠なら自室で二度寝してくる……とのことです」

王子「……野獣に『会いに行った』のだろうけど」

執事「……なるほど」

王子「でも、彼も今回は心から笑って見送ったと思いますよ、僕は」ニコ

執事「ええ、わたくしもそう思います」ニッ

王子「執事さん、師匠に用事が?」

執事「実はですね。さきほど玄関にこちらが」ピラ

王子「師匠宛の手紙?」

王子「……呪文か、いにしえの魔法道具を使ったかは、僕には判断できないけれど」

王子「いずれにせよ何らかの魔法で届けられたのでしょうね、ということは師匠のお弟子さんの子孫さんか」

王子(なんの用件だろう……?)

……

ふたたび、夢の世界。

(師匠「儂の弟子の子孫な、早々と、騾馬探しに取り掛かってくれている」)

(野獣「おお、それは楽しみですねえ……!」)

(師匠「早ければ今月中にでも、質の良い騾馬の生産者リストを送ってくれるらしい」)

(師匠「リストに従って、実際に訪れ実物を見て決めると、だいたいこんな予定だ」)

(師匠「確かな生産者を選んでくれるとは思うが」)

(師匠「どんな優れた騾馬でも菫花がうまく扱えるには時間も手間もどれほどかかるのかと、心配でもある」)

(師匠「特別に忍耐強い個体だと有難いものだ」)

(野獣「菫花だってがんばりますよ、そして騾馬相手にもそれは通じるはず」)

(師匠「そうあってほしいな」)



125 ◆54DIlPdu2E2016/03/15(火) 23:15:19.89PZ9SW6HQ0 (2/6)

(師匠「……なんにせよ、乗馬教師のアドバイスも時には必要かな?」)

(野獣「末妹ですね」)

(師匠「鏡越しの会話、か」)

(師匠「それで思い出したが、お前が鏡の魔法で使った合言葉」)

(野獣「え?」)

(師匠「『かぐわしき小さな赤いバラ、陽だまりの庭に踊るそよ風、小雀のさえずりに耳を傾けまどろむひととき』」)

(野獣「だだだだだだ、誰から聞いて」)

(野獣「あ、そう言えば私が鏡を使う様子も……何度もご覧になっておられたのでしたっけ……」)

(師匠「第一印象からお前らしいとは思ったが」)

(師匠「……お前の掌で愛らしくさえずる小さな雀、お前の屋敷の庭に踊る心地よいそよ風」)

(師匠「お前の心に花開いた甘い芳香の小さな赤いバラ」)

(野獣「 」)

(師匠「今になって考えるに……お前にとってのあの少女を文学的というか詩的に形容しt」)

(野獣「わああああああああああああああああ!?!?!?」アセアセ)

(師匠「図星だな」)

(師匠「今さら照れることか」)

(野獣「……だから本当は次兄にも教えたくなかったのですよ……」ボソ)

(師匠「ん、あの子に話したのか。気付かれたか?」)

(野獣「……乙女チックなカフェのメニューみたい、とは言われましたが」)

(師匠「妹への口止めは?」)

(野獣「え? していませんよ、よけい怪しまれるじゃないですか」)

(師匠「ふむ、意外と妙なところでだけ鋭い勘の働く少年だ、少し考えれば正解に辿り着きそうな」)

(野獣「ちょ」)

(野獣「追い討ちかけないでください、ああ、ドキドキしてきた……」)

(師匠「それくらいなんだ、お前の情けない所はすでに散々さらけ出しているではないか」)

(師匠「お前の小心も簡単には治らんようだな……」)

……



126 ◆54DIlPdu2E2016/03/15(火) 23:17:13.11PZ9SW6HQ0 (3/6)

南の港町へ進む馬車、肉眼ではその姿は見えない……

ガラガラガラガラ……

馬「ぶるる……」

次兄「……お前は学校の先生になりたいんだ」

次兄「うん、絶対いい先生になれるよ!」

末妹「ありがとう。そのためにはまず学校に戻って勉強を頑張らないと」

次兄「末妹なら、すぐ遅れを取り戻せるさ」

次兄「それで思い出した、美術学校の受験科目にも一般教養くらいあったはず」

次兄「去年まで家庭教師に習っていた勉強を復習せねば、まずは教科書を部屋の混沌から発掘し」

次兄「……見つかるはず、たぶん、いや、願わくば」ブツブツ

次兄「とにかく兄ちゃん、復習の鬼と化しますよ!!」バァーン

馬「ひん」

末妹「……最後だけよくわかんなかったけど、頑張ろうね、お互いの夢のために」

次兄「頑張ろうな、野獣様が喜んでくれる報告をしたいし!!」

次兄「家に着いて、落ち着いたら父さんとじっくり話を、俺と末妹それぞれの」

次兄「……その前に、魔法の鏡の話をするほうが先、だな」

末妹「ええ、お父さんは私達がお屋敷の皆さんと友達でいたい気持ち、わかってくれたけれど」

末妹「だからと言って……それに甘えて良いお返事を最初から期待しないよう、きちんとお話ししなくちゃね!」キリッ

次兄「」

次兄(……末妹が可愛くお願いしたら父さんはイチコロ、とか甘い作戦を考えていたが)

次兄(もうちょっと真面目な方向へ軌道修正しなくては、うむむ……)



127 ◆54DIlPdu2E2016/03/15(火) 23:19:09.54PZ9SW6HQ0 (4/6)

末妹「ところで、お兄ちゃん」

次兄「はっはい?」

末妹「鏡の合言葉を野獣様から教わるって話、何日か前にしていなかった?」

次兄「確かにしてた、ね。結論から言うと、預かった鏡台に魔法がかかっているから、合言葉は不要になったけど」

次兄「でも、教えてはくれたよ」

末妹「あら、どんな言葉だったの?」

次兄「知りたい? ま、それも当然っちゃ当然か」

次兄「……『かぐわしき小さな赤いバラ、陽だまりの庭に踊るそよ風、小雀のさえずりに耳を傾けまどろむひととき』」)

末妹「……可愛い合言葉ね、優しい野獣様らしいな」フフ

次兄「ああ、実に乙女チックでポエミーでファンシーで野獣様らしいと、俺も思ったが」

次兄「……今にして思えば、これって全部……野獣様目線の、末妹の事じゃないかな?」

末妹「」

馬「ひんっ!?」ザシュ

次兄「ちょ、なんで馬を止める!? ど、何処だよここ!!??」

末妹「はっ……ご、ごめんなさい! 魔法の地図では普通ではありえない場所も通るって」アワアワ

手綱:ピシ!

馬「ひん!」カッ…カッポカッポ…カッカカッカカッ

次兄「……よかった、また周囲の風景が魔法の地図の道になった……」ホッ

末妹「止める気はなかったの、つい手綱を握る手に変な力が入っちゃって……本当にごめんなさい」

次兄(……ものの数秒間だったが、南の港町よりずっとでかい都会のど真ん中だった)

次兄(通行人から見れば、馬車が忽然と街の中に出現したように見えただろう)

次兄(もう少し止まっていたら、向こうにいた兵隊さんだか憲兵さんだかが近寄って来たかもしれないな……)ヒヤアセ



128 ◆54DIlPdu2E2016/03/15(火) 23:21:58.13PZ9SW6HQ0 (5/6)

次兄「俺の方こそごめん、そんなに動揺するとは思わなかったから」

末妹「……そう、それが合言葉……」

次兄「あのね、俺けっこう強引な方法(精神的な意味)で聞き出しちゃったんだ」

次兄「恥ずかしそうにしてたし」

末妹「恥ずかしそう……」

次兄「でも末妹に秘密にしてくれとは言わなかった……」

次兄「……あっ、秘密にしろなんて言ったら、よけい怪しいからかな……?」

末妹「 」

次兄「いや、それでも末妹の事かなー、なんてのは俺の推測に過ぎないから!?」

末妹「……そうよ、野獣様自身が説明されていなかったら、推測しかないもの」

末妹「バラの花、爽やかなそよ風、小さな雀さん」

末妹「野獣様のお好きなものの名前を詰め込んだだけの合言葉よ」

末妹「私の事だなんて、無関係に決まってるわ、からかわないでお兄ちゃんたら」

次兄「……」

次兄(無関係と思うなら何故、棒読み気味で顔を真っ赤にして、こちらを見ようともしないでしょうねぇ)

次兄(うーん、乙女心は難しいっす)

馬「ひひん……」

ガラガラガラガラ……

……

(野獣「まさか、な、次兄……末妹……」)

…………

馬車が南の港町に着くまで、あと少し……

…………



129 ◆54DIlPdu2E2016/03/15(火) 23:22:34.28PZ9SW6HQ0 (6/6)


※今夜はここまで。※



130以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/16(水) 00:24:00.12kNNPHFpAO (1/1)

おつん
動揺する野獣と末妹ちゃんが可愛い
次兄は変なところで勘がいいからなww


131以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/18(金) 05:54:04.272RCqN40mO (1/1)

乙 ほんとこのお話すき
キャラがみんな愛おしいぜ…


132 ◆54DIlPdu2E2016/03/21(月) 02:30:08.45MefZcEaC0 (1/4)

ガラガラガラガラ……

次兄(……そろそろ末妹も平常心かな?)

次兄「……時間的に、もう道中の半分以上は来ているな」

末妹「そうね」

次兄「この先の話より何よりも、お屋敷で起きた事を話すのが先、と言うか」

次兄「父さん達もそれを聞いてくるだろうねえ」

末妹「……そうね」

次兄「正直、どこからどう話そうか俺もわかんなくて……末妹と事前の打ち合わせも持たなかったんだけど」

末妹「うん、私も……いろんな事がありすぎて、どこから話していいかわからないの」

馬「ひひん」

末妹(……でもね、お兄ちゃん)

次兄「でもね末妹、今思うのは」

次兄「どう話すかなんて、あらかじめ決めなくてもいいかな、って」

次兄「魔法絡みの話とか、軽騎兵が押し寄せた話とか、慎重に扱うべき話題もあるけどさ」

次兄「父さん達が聞いてくるのに答える形で、後はそれぞれ心の赴くままに話せばいいような気がするよ?」

末妹「……お兄ちゃん」

次兄「ふぇ?」

末妹「私も、それでいいかなって、お兄ちゃんに提案しようと思ったところなの」ニコ

次兄「そっか、じゃあ決まりだな!」ヘヘ

……………………

…………

南の港町、商人の店の前……

看板:【本日は休業させていただきます】

通行人A「おや、今日は商人さんの店はお休み?」

通行人B「2、3日前にお断りとお詫びのチラシが配られていたよ」

通行人A「予定の用事か、まあ商人さんの病気とか悪い理由じゃなきゃいいよ」

……



133 ◆54DIlPdu2E2016/03/21(月) 02:31:41.89MefZcEaC0 (2/4)

商人の家。居間……

商人「……」ウロウロウロウロウロウロ

次姉「……お父さん、気持ちはわからないでもないけど、じっとしていなさいよ」

次姉(さすがに当日は予想通りになったわ)

長兄「父さんほら、とりあえず椅子に座って落ち着こうよ」

家政婦「皆様、ホットミルクをお持ちしました。旦那様も、どうぞ」

商人「あ、ありがとう……いただくことにするか」ガタ

長兄「家政婦さん、ナイスタイミング」

長姉「家政婦さん、私ホットミルクに蜂蜜入れたい。アカシア蜜がいいわ」

家政婦「はい、お持ちしますね長姉様」ニコ

長兄「全く……お前はマイペースにも程がある」

長姉「いつも通りで別にいいじゃないの。あ、ありがと家政婦さん♪」

長兄「到着時間の目安だけでも決めておけばよかったかな」

次姉「お父さんの話だと、町外れからは魔法関係なく普通に帰って来るんでしょ?」

次姉「それなら明るいうちに家に着くよう、あの子達も逆算して出発するわよ」

商人「明るいうち……か」

商人「ああ、日没までト」

次姉「日没までトイレにも行けやしない、なんて言わないでよお父さん?」

商人「あう」

次姉「落ち着いて笑顔で迎えなくちゃ、あの子達に無駄に気遣いさせるつもり?」

商人「あうう」

次姉の営業用ボイス「しっかりなさい、どっしり構えた父親を目指すのでしょう?」

商人「はい!」シャキーン

長兄「父さん、軽く仕事の話でもしようか。他にする事がないから余計に気を揉むんだよ」

商人「そ、それもそうだね」
 


134 ◆54DIlPdu2E2016/03/21(月) 02:33:32.14MefZcEaC0 (3/4)

商人「あの子達に、あの子達の強さを信じると言ったのは私なんだ……」

商人「私も信じてもらえるに値する父親でいなくては」

長姉「今、落ち着いていてもソワソワしてても、まさにその時が来たらグダグダになっちゃうから同じだわ」

長姉「ま、それでも別にいいと思うけどね……」

長姉「……ホットミルク美味しい」フゥ

長姉「私こそ、こんなに悠然としてあの子達を迎えていいのかしら」

次姉「いいに決まっているじゃない、姉さん。……私にもそれ頂戴?」

長姉「……いいのかな。はい蜂蜜の瓶」

次姉「ありがと」ハチミツトロー

次姉「笑顔の一つでも見せてあげたら、末妹は嬉しいと思う」

次姉「あ、次兄のリアクションは多少むかついても気にしないでサラッと流すように」

長姉「笑顔……」

長姉(そう言えばあの子に、どれだけ前からまともな笑顔を見せていないだろ……)

次姉「それに、姉さんは幸せな報告をしなくちゃね、驚くだろうけど祝福してくれるわ」

長姉「……祝福、してくれるかな……こんな私を」

次姉「しない理由がないじゃない」

次姉「あの子達の普通の姉になる、今日が第一歩なんだから、頑張って踏み出すのよ」

長姉「普通の姉になる」

次姉「自分で言ったんでしょ、お父さんを気の済むまでクッションで叩くのと引き換えに」

長姉「……うん」コクリ

長姉「あんたがそばにいてくれたら、私、できると思う!」

次姉「そうよ、私がついてるからね、姉さん」フフ

…………
 


135 ◆54DIlPdu2E2016/03/21(月) 02:34:29.18MefZcEaC0 (4/4)


※今回ここまで。読んでくれる皆さんありがとう、もう少しです……※



136以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/21(月) 04:41:02.14/6JYJeEAO (1/1)


家族間の空気もすっかり和やかになったなぁ


137 ◆54DIlPdu2E2016/03/23(水) 20:40:34.11J2U2rzNt0 (1/4)

ガラガラガラガラ……

末妹「……ほんとはね、ちょっとだけドキドキしているの」

末妹「お家に帰るだけなのにね」

次兄「ドキドキ?」

末妹「お父さんと、野獣様と、約束した通りに精いっぱい笑うつもりでいるけど……ぎこちない笑顔にならないかな?」

末妹「……皆から聞かれて色んな話をする時に」

末妹「どんな出来事も涙ぐまないで話せるかな?」

末妹「……って」

次兄「…………」

次兄「……いいんじゃないかな、ぎこちなくても涙ぐんでも?」

次兄「逆に、ちゃんと笑えても涙が出なくても、いいんじゃないかなぁ?」

次兄「俺も、父さん達も、メイドちゃん達も、野獣様も」

次兄「末妹のしょっぱい顔よりは笑顔の方がきっと好き、でも」

次兄「俺は何より自然な末妹でいて欲しいし」

次兄「他の皆に聞いても、同じように答えると思う、きっと」

次兄「だからね、笑っても泣いてもそうじゃなくても、どれでも末妹なんだから」

次兄「どの末妹が出てきても、俺含めて皆は受けとめてくれる筈だから」

次兄「お前も、自分の中からどんな末妹が出て来ようとも……」

次兄「…………恐れる事は何もない、のよ?」

末妹「……」

末妹「……お兄ちゃんって、やっぱり凄いのね」

次兄「すごい?」

末妹「今の言葉で、私とっても気が楽になったの……ありがとう」

次兄「むぅ、むふふ……」

次兄「兄ちゃんは立派なこと語ったつもりはありませんが、少しでも末妹の助けになったのなら幸いですわよ」ニヘヘヘヘ

馬「ぶひひん♪」

ガラガラガラガラ……



138 ◆54DIlPdu2E2016/03/23(水) 20:42:36.81J2U2rzNt0 (2/4)

次兄「……あれ? ねえ末妹、前をよく見てごらん?」

末妹「……!」

末妹「景色がはっきり見えて来た……町外れの、糸杉林の丘よ!!」

馬「ひっひーん」パカッパカッ

末妹「一度馬車を止めるわ、ここなら大丈夫」

次兄「おっし、了解」

末妹「馬さん」グイ

馬「ぶるるる……」ザシッ

次兄「……うん、間違いない」

次兄「地形といい、林の佇まいといい、羊の群れといい、南の港町の郊外だ」

羊たち「めへえええ」「むえええええ」「んめえええ」

末妹「……帰って来たのね……」ホッ

次兄「いやいや、一般的には見知った道こそが、気の緩みから来る事故多発危険地帯ですぞ」キリッ

末妹「そうね……街の中を通ることになるし」

末妹「この時間帯で人の少なそうな道を通りましょう? 少し遠回りだけど楽に通れる分、早く着けると思うの」

次兄「任せるよ、俺よりお前の方がその手の判断は正確だ」

末妹「馬さん、こっちへお願い」ピシ

馬「ひん」

カッポカッポ……

……

商人の家。

長兄「……で、来年の春はこれとこれを季節商品の目玉に」

商人「……予感がする」

長兄「父さ」

商人「あと5分もしないうちに、あの子達の馬車が我が家の門を通る!」

長兄「それ何回目だよ、さっきから15分おきのペースで」



139 ◆54DIlPdu2E2016/03/23(水) 20:44:32.69J2U2rzNt0 (3/4)

商人「今度こそ間違いない、五度目の正直だよ!」

長兄「はいはいわかったから父さん、それより……この工房、いつから責任者の名義が変わったの?」

商人「あ、ああ……ここは確か、娘婿さんが引き継いで……」

次姉「やれやれ」フゥ

長姉「おっかしいの、お父さんたら……」フフ

長姉「……」

長姉「お父さんのこんな様子を見ても、嫉妬で腹が立ったりしないで笑っていられる」

次姉「姉さん」

長姉「……次姉、私ちょっとは大人になれたかな?」

次姉「うん、姉さん……」

長姉「えへへ……あんたが認めてくれるのは嬉しい……」

長姉「……?」

長姉「!!」ガタッ

次姉「姉さん?」

長姉「次姉! あんたの後ろの窓、見て!!」

次姉「え?」

長兄「へ?」

商人「!!」

家政婦「門の向こうに、小さな馬車が……!」

商人「末妹!! 次兄!!」

長兄「よし、外に出よう!」

次姉「皆で出迎えるのよ!!」

長姉「ええ、皆で……!」

…………



140 ◆54DIlPdu2E2016/03/23(水) 20:45:19.72J2U2rzNt0 (4/4)


※今回ここまで。次回はおよそ一週間後……※

時節柄、予想より何かと立て込んでなかなか進められません、ごめんなさい……
あと何度「馬」を「梅」と打っては慌てて直したことか
 



141以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/24(木) 00:33:12.90nGCHJCTAO (1/1)

師匠のローブをモッチャモッチャしてた羊さんやんけ!
次も楽しみに待ってんよ


142以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/04/01(金) 23:46:33.04g+HHV34AO (1/1)

完結したら人が来そうなので今のうちに貼るっす

癖の抜けない長姉と次姉
http://m1.gazo.cc/up/27753.jpg

幼馴染男と家政婦さんと旧長姉
http://m1.gazo.cc/up/27754.jpg

酒と涙と商人と長兄
http://m1.gazo.cc/up/27755.jpg

特にネタのない王子と師匠
http://m1.gazo.cc/up/27756.jpg

あとちょっとかな、頑張ってつかぁさい


143 ◆54DIlPdu2E2016/04/02(土) 20:36:21.33a0X3qbh30 (1/1)


※4月に突入するわ前回から一週間どころじゃないわ色々すみません※
※予告。次回のお話は明日更新です※

>>142
ありがとう!! 初見のキャラもいて嬉しい……
特に家政婦さんにめっちゃ感激です!



144 ◆54DIlPdu2E2016/04/03(日) 22:42:41.88Oq2sfte90 (1/3)

手綱:グイッ

末妹「馬さん、止まって……どうどう」

馬「ぶるるる……」ザシュ

末妹「ここからは馬車を降りて、馬を引いて行くわ」スタッ

次兄「おう、俺も降りる」ボテッ

次兄「……帰って来たな」

末妹「うん……」

商人「次兄! 末妹!!」

次兄「父さん!!」

末妹「お父さん!!」

馬「ひんひひひん(旦那様)!!」

長兄「待ってろ、すぐ門を開くよ」ガシャ

次兄「兄さん」

次姉「末妹、おかえり!!」

長姉「……おかえり……」ボソ

末妹「……長姉お姉さん!!」

家政婦「おかえりなさいませ、次兄様、末妹様」ニコ

末妹「家政婦さん、ただいま」ニコ

長兄「末妹、手綱を……馬は俺が繋ぐよ、お前もお疲れ様」ポンポン

馬「ぶるる♪」

商人「ああ末妹、よく帰って来た……」ウルウル

商人「さあ、私の広げた両腕に飛び込ん

次姉「末妹ぉ!!」ガバッ!!

末妹「お、お姉ちゃん!?」ムギュ

商人「 」

商人の広げた両腕「 」



145 ◆54DIlPdu2E2016/04/03(日) 22:44:37.27Oq2sfte90 (2/3)

次姉「ああよかった、元気そうな顔しているじゃない……」ギュー

次姉「……野獣は助かって……生きているのね? あんたを裏切らなかったのね?」

末妹「……」

末妹「……そうよ、野獣様は今も、これからも、お屋敷の皆さんと一緒」

末妹「そして、私と……私とお兄ちゃんの、本当の友達になってくれたの……」

商人「……」

商人の広げた両腕「……」

次兄「……父さん、そのスペースに俺が収まるって案は、やはり却下……ですかね?」

商人「ハッ」

商人「何を言うんだ次兄、お前の帰りだって待ちわびていたんだぞ!?」ガバッ

次兄「むきゅ」

次兄「……ただいま、父さん」

商人「お帰り……お前達は、友達を救えたんだな……?」

次兄「……うん」

次兄「色々あったので結果だけ述べますと、野獣様とは確かな男の友情が芽生えました」

商人「そうか、それはよかった……」ギュ

次兄「……ついでに、俺より少し年上だけど精神年齢は大差ないであろう人間の男子とも、それなりに親しくなりました」

商人「」

商人「お、お前に……人間の友人ができたと言うのか……!?」

次兄「野獣様の関係者で……まあ、世間では友人と呼べる範疇に入るのかな」

次兄「彼はこっちに色々と曝け出してくれたし、なんだかんだで見捨てられないと言うか無下にできないタイプと言うかー」

商人「次兄に人間の友人……」

商人「……奇跡だああああああああああああ!!」ブワァ

次兄「父さん俺の顔の上で泣かないでしょっぱい」ペッペッ



146 ◆54DIlPdu2E2016/04/03(日) 22:45:50.98Oq2sfte90 (3/3)


※今回ここまで、短い上に半端でごめんなさい……今週中に最低もう一回は更新予定※



147以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/04/04(月) 02:52:28.65jLjdJxrAO (1/1)

乙した
まぁ確かに次兄に友達が出来たことが一番驚愕すべきニュースかも知れない


148 ◆54DIlPdu2E2016/04/09(土) 21:51:37.50HZOgSVyC0 (1/1)


※お知らせとお詫び。今週中といいつつ週をまたいでしまいました、ごめんなさい。更新4/10(日)夜です…※




149 ◆54DIlPdu2E2016/04/10(日) 23:59:35.27YTgr5KrH0 (1/1)

次姉「……後からでも、詳しい話を聞かせてもらっていい?」

末妹「うん、お話しするね。私も、聞いて欲しいことがあるの、お姉ちゃ……」

末妹「……!」ハッ

次姉「……!!」

次姉「末妹、さっき私をなんて呼んだっ!?」

末妹「ご、ごめんなさい!! 火を噴かないで!?」

長姉「火噴きドラゴンの妹を持った覚えはないんだけれど?」

次姉「……ごめんね、姉さんには話していなかった……というか誰にも秘密にしていたの」

次姉「末妹と一緒に店番にも出るようになった頃」

次姉「私がこの子に『お姉ちゃん』と呼ばれたいと思うようになって、でも」

次姉「……恥ずかしいから、私の許可もなく勝手に呼ばないように、とも頼んでいたの」

末妹「……私は私で、お屋敷に行っている間に誰もいない所で練習していたの……さっきはつい、思わず口から出ちゃった」

長姉「…………」

長姉「変な妹(こ)達ねぇ、許可だの練習だの」

長姉「私達が女学校に入る前は、末妹は私達二人のこと『お姉ちゃん』って呼んでいたのに」

末妹「」

次姉「え」

長姉「ちょ、小さかった末妹はともかく、頭のいい次姉まで忘れちゃったの!?」

長姉「そりゃ、私だっていつ頃から『お姉さん』呼ばわりに変わったか正確には覚えていないけど……」

末妹「……すっかり忘れていたわ……」

次姉「10年以上前の話だもの、4歳にもなるやならずだったあんたは仕方ないけど」

次姉「……」

次姉「私ったら、末妹への関心が薄れていたのね」

長姉「それは私だって」
 


150以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/04/11(月) 01:16:38.888VnPeuiAO (1/1)

乙?


151 ◆54DIlPdu2E2016/04/11(月) 23:51:31.58PksL/iBd0 (1/4)

長姉「私だって、さっきのあんた達の会話で昔のことを思い出したのよ」

長姉「そう言えば、いつの間にか末妹の私達への呼び方が変わったていたな、って」

長姉「実際にそのことが起きていた間は、気に留めずに流していたのよ」

末妹「……私……私は」

次姉「……末妹はあんまり小さかったからね」

次姉「年に2回の長期休暇にはこの家に帰省していたけれど」

次姉「私達と半年も離れていれば、当時のあんたには何年も離れていたのと変わらないでしょうに」

次姉「でも私も姉さんも、それだけの時間と空間の距離を埋める努力なんかしなかったし、末妹とは」

長姉「……うん」

長姉「お父さんの膝の上やお父さんの隣を争うライバルだったもの」

長姉「……実際のあんたはチビのくせに私達に遠慮して、お父さんから少し離れた場所で遊んでいたのにね、私達のいる場では」

末妹「……お姉さん」

長姉「あんたは心底から優しくて良い子だった、わかってるの、わかってたの」

長姉「今更だけど…………」

末妹「……」

次姉(過去の態度を謝るの? 姉さん……?)

長姉「……私のことも昔のように『お姉ちゃん』って呼んでくれるかしら!?」

次姉「はぃ?」

末妹「 」

長姉「どうなの、ねぇ、やっぱり私は駄目!?」ズイッ

末妹「…………だ、駄目なんかじゃないわ」

末妹「むしろ、私がそう呼んでも……いいの?」

長姉「いいの、色々言いたいことがあったような気がしたけど……それをどう言葉にしたらいいかわからなくて……」

長姉「途中はすっ飛ばして結論から伝えることにしたの」

長姉「それに次姉ばっかりそう呼ばれるのはなんだか悔しいんだもの!!」

次姉「あの、私のことは取っ掛かりにするつもりで、追い追い姉さんのこともそう呼んでもらおうかな、とは思ってたのだけど」

末妹「……」



152 ◆54DIlPdu2E2016/04/11(月) 23:54:28.24PksL/iBd0 (2/4)

末妹「それじゃあ……長姉お姉ちゃん……?」

長姉「」ピクッ

末妹「おね」

長姉「……ちょ、何よ、何よこれ」

長姉「小さい頃はそう呼ばれていたわ、確かに覚えている、なのになぜ」

長姉「ちょっと、やだ、何よ、なんでこんなにくすぐったいのよ!?」ジタバタ

末妹「……えーと」

長姉「次姉、あんたよくこれで平気でいられたわね!?」バシバシバシバシ

次姉「平気じゃなかったわ、だから『火を噴く』なのだけど……」

次姉「……私を叩かないでくれる?」

……

長兄「……馬を小屋につないで休ませて戻ってきたら」

長兄「妹達は3人で何やってんだろ??」

家政婦「ふふ、仲が良さそう……」

家政婦(もうすっかり心配はいらないようですね、長姉様も)

長兄「家政婦さん、馬の世話の手伝いまでさせて申し訳なかったね」

家政婦「あら、お気になさらないでくださいませ」

家政婦「……本当は私、動物は好きなほうですの」

末妹「あ、家政婦さん!」

家政婦「何か私にご用ですか、末妹様?」ニコ

末妹「さっき渡しそびれてしまったのですが、これを」ゴソゴソ

家政婦「お手紙……ですか?」

末妹「メイドちゃんから家政婦さんへ、って」

家政婦「……!!」

末妹「メイドちゃんは字が書けないから、代筆してもらったそうですが」

末妹「手紙と一緒に、メイドちゃんが摘んだ四つ葉のクローバーが」
 


153 ◆54DIlPdu2E2016/04/11(月) 23:56:05.22PksL/iBd0 (3/4)

家政婦「メイドさんが……あの可愛らしいふわふわの小さな手で……」ホワワワ

長兄「家政婦さんの表情がめっちゃゆるいんですがこれは」

家政婦「ありがとうございます、末妹様!!」

長兄「ウサギさんからお手紙着いた」

長兄「冷静に考えたら実に非現実的な状況だけど、嬉しそうだな家政婦さん」

長兄(……このひとも、こんな顔するんだなあ)

商人「末妹!!」

末妹「お父さん」

商人「お帰り、私の可愛い、そして勇敢な娘……!!」ギュ

末妹「お父さん……ただいま……」ギュ

次兄「兄さん」

長兄「お帰り、次兄」ニコ

長兄「……なんだか、少し逞しくなったんじゃないか?」ワシャワシャ

次兄「毎日のように朝食のパンはジャムか蜂蜜つけ放題でお茶会にはたくさんのお菓子」

次兄「多少、太ったのかもしれません」

長兄「いやいや、体型の話じゃなくて」

長兄「なんと言えばいいのか、子供から若者の目になりつつある、と言うか……」

長兄「意志の輝きが見られるとでも言えばいいのか」

次兄「意志……」

次兄「……うん、叶えたい夢ができたせいかもしれない」

次兄「将来の夢ね」

長兄「将来の……?」

次兄「兄さんにも近々話すよ」

長兄「……ああ、聞かせてくれるのを楽しみにしているよ」ワッシャラワッシャラ

次兄「いやん、寝癖が強調されるいじり方はほどほどにしてぇ」
 


154 ◆54DIlPdu2E2016/04/11(月) 23:56:49.62PksL/iBd0 (4/4)


※ここまで。昨夜は寝落ちしてしまいした、すみません!!※
 


155以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/04/12(火) 02:03:53.12R0Gjn1HAO (1/1)

改めて乙
長姉がお姉ちゃんぽいこと言うの珍しいよね(失礼)


156 ◆54DIlPdu2E2016/04/15(金) 21:29:51.89fK3DcANT0 (1/1)


※この週末は所用で身動きとれないため、次回はあと数日?お待ちください…※
※本編はあと2~3回更新分で終わり&あとはちょこちょこ後日譚、の「予定」です※

余談。
お蔵入り設定その1…執事(狼)がメイド(兎)に禁断(?)の片想い(種族&年齢的に)
お蔵入り設定その2…230年後に蘇った王子は女性扱い上手で何かとポンコツじゃない

……リメイク前の序盤あたりはなんとなくこんな想定していました。今になって思えば(以下略



157以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/04/16(土) 00:26:21.20e7GO7GiAO (1/1)

報告乙。無事でなにより

>>156
この王子は末妹&次兄と友達になれるんだろうか…コミュ力はありそうだけど


158 ◆54DIlPdu2E2016/04/24(日) 01:10:55.70cM7V2mMO0 (1/8)

長兄「そう言えば、次兄」

次兄「何?」

長兄「父さんがこのあいだ教会主催の行事に出席したんだけど、そこで図書館長さんに話しかけられて」

長兄「図書館に入ってからこの4年間で二人しか借りていない本を、王都の歴史学者が探していたそうだ」

長兄「なんでも、本屋からちっとも売れない本を買い取った中の一冊で」

長兄「まさかそれが、歴史学者の研究対象になるようなものとは館長さんもまるで予想できなかったらしい」

次兄「……?」ハテ

長兄「それがな、その本を最近……一人目から3年半ぶりらしいが……借りた二人目がお前だって言うので」

長兄「『どんなお子さん』か関心を持ったみたいだ」

長兄「埋もれた歴史に興味があるのなら将来そちらの方面に進んでは?……とか、ね」

長兄「父さんは普段のお前をありのまま話すのもどうかと思って、その場は適度かつ無難に話を合わせておいたようだが」

次兄「お父様の判断は大人として正しくってよ」トホホ

次兄「……うん、その本が何の本かはわかる、覚えている」

次兄「俺が先月借りた中の一冊、図書館が数年前に本屋から買い取るも、殆ど借りる人もおらず新品同様の本」

次兄「230年前に滅びた小国の機械オタ……機械いじりの好きな伯爵の手記、だろ?」

長兄「そうだよ、その学者はあの国の歴史についての通説に疑問を持ったとかで」

長兄「あちこちで資料になるものを探しているらしい」

次兄「……」

次兄(確か……なんちゃって貴族として、菫花さんのなんちゃって父上としておっさんが屋敷に来た次の日)

次兄(俺達に事情を話して謝ってくれた後、だっけ)

……

~~次兄の回想……野獣の屋敷……~~

次兄「……そうか、野獣様は、菫花さんもだけど、自分のせいで機械マニア伯爵が処刑されたと思っていたのか」

末妹「私はその伯爵様のお話、初めて聞いたわ」
 


159おっとage忘れ2016/04/24(日) 01:14:48.57cM7V2mMO0 (2/8)

次兄「このお屋敷が絡む話ではあるけど」

次兄「本で読んだ時はまだ野獣様に直接関わりがあるとは思っていなかったからね」

次兄「野獣様の正体を知るまでは……」

次兄「……夢の世界で会った時にタイミングを見て話そうとは思っていたけど、なんとなく話しそびれて」

次兄「そんなに悩んでいたのなら、早くあの手記の存在を教えてあげればよかった……」

師匠「気にせんでいい、昨夜、儂から夢の中で教えてやったからな」

師匠「あいつとは取り敢えず話しておきたい事が沢山あったので、その話は最後になってしまったが」

師匠「安心しておったわ、あいつの人生では40年近く胸に刺さっていた棘が取れた、とな」

末妹「野獣様は優しいお方、責任を感じておられたのでしょうね……」

次兄「でも……子孫が偶然見つけた手記とやらは、信用に値するとおっさんは思うの?」

師匠「ああ、細部を見るに信憑性は高い」

師匠「小国の当時を生きた者でなければ知り得ない情報が、ごく自然に当り前のように盛り込まれていた」

師匠「学術的には貴重な資料になるだろうが、その価値を理解できる現代の学者も今のところ殆どいなさそうだ」

末妹「菫花様にもそのお話しを?」

師匠「ああ、あいつが目を覚まし、儂とまともに会話できる程度に回復していたら話してやるさ」

次兄「……学術的な価値か」

師匠「正直、一般人には悪い印象しかなく、それ故に経済的には価値のないこの屋敷に」

師匠「そっちの方面では価値を見出す者が、このさき現れないとは言い切れないのだ、そう……明日にでもな」

師匠「学者という人種は物好きだからの」

次兄「そうなったら、ここを直接調べたい人も……」

師匠「ははは、儂の所有物になった時点で、曲がりなりにも戸籍を持った人間が暮らす一般家屋よ」

師匠「見学ぐらいさせてやるわ、但し、住民の生活を脅かさない範囲でな」

次兄「おっさん……」

師匠「……善意の一般人として、学問の発展には可能な範囲で協力もするが」

師匠「守るべきは守らんでどうする、それがこの時代での儂の存在意義と言うに」



160 ◆54DIlPdu2E2016/04/24(日) 02:10:32.11cM7V2mMO0 (3/8)

師匠「……それに、今までは敢えて意図的にそうしていた部分が大きいとは言え」

師匠「あの小国も胡散臭い伝承から解放され、少しは正確な歴史が知れても良いのかもな、もう、な」

次兄「生き証人のおっさんが匿名で論文でも発表すれば、すぐのような気もしますが」

師匠「過去の歴史を掘り起こすのは後世の人間の仕事だ、と儂は思う」

師匠「苦労して掘り起こされ、世に広まった『それ』が」

師匠「どのくらい正確か、どのくらい間違っているか、ニヤニヤしつつこっそり眺めてやるのが過去から来た人間の役目よ」

次兄「あくまでおっさん個人としての役目にしか思えないけど」

師匠「……それを悪用して、この時代を不幸に陥れかねん存在が現れたら、そいつを止める努力はするぞ?」

師匠「ま、実のところ悪用できるほどの何かは出てこないだろうが」

師匠「さっきも言ったが、儂はこの屋敷とここに暮らす者達を守り抜く」

師匠「……そして、ここを訪れる親しき者達も守りたいと今は思う」

末妹「師匠様」

次兄「おっさん、俺達がここに来ることを認めてくれるの?」

師匠「世間的にはともかく、儂はここの番人なのだ、真の主ではない」

師匠「『主人』の友を番人として歓迎するさ」

師匠「あ、ちなみにこの部屋は魔法で遮断しているから、野獣も様子を窺うことはできんからな?」

師匠「君らも今の会話は秘密にしておくように」シー

末妹「どうして秘密に?」

次兄「うーん、弟子に対するお師匠としてのプライドと言うか、野獣様に対するツンとしてのキャラを貫きたいと言うか?」

末妹「…………よくわからないわ、お兄ちゃん」

次兄「うむ、お前はそれで良い」

次兄「とにかく態度や性格はどうあれ、おっさんが野獣様達を守ってくれるのは間違いないよ」

次兄「それどころか現状では世界最強の守護者だ」

末妹「そうね、本当によかった……本当に……」

……



161 ◆54DIlPdu2E2016/04/24(日) 02:14:43.71cM7V2mMO0 (4/8)


※ここまで。次回は次兄の回想が終わった所から。※
読み返して自分ではとっくに入れていたつもりになっていた機械オタク伯爵のフォローがすっぽり抜けていたことに気付き
描写がなかった(作者がいい加減な)だけで、作中人物は忘れていませんでした!

……という事にしておいてください……すみません……



162 ◆54DIlPdu2E2016/04/24(日) 18:26:49.15cM7V2mMO0 (5/8)

…………

長兄「……で、その本は既に図書館じゃなく歴史学者の所有になっただそうだ」

次兄「ハッ」

次兄「ぼーっと回想に浸っていた、いかんいかん」

長兄「館長さんが言うには、またどこかで見つかったら図書館に補充しておくって話だけどな」

次兄「そっか……」

次兄(例えあの場所に興味を持つ学者が出てきても、おっさんがいれば大丈夫だろう)

次兄(それに、もしも『ろくでもない王子』という世間の通説が訂正されるのなら、それは良いことかもしれない)

商人「さてと……いつまでも庭先でこうしているわけにも行かない。家に入ろう、二人ともお腹は空いてないか?」

玄関のドア:ギィ……

家政婦「皆さん、お茶の時間ですよー」

次兄「家政婦さんいつの間に家の中に」

家政婦「サンドイッチと栗のタルトを用意しました、軽いお食事代わりにもなりますよ」

商人「ありがとう」

商人「さ、次兄と末妹は旅装を解いて居間においで?」

末妹「はい!」

末妹(そうだ、近いうちにお土産でいただいた紅茶とお菓子を使ってくれるように、後で家政婦さんにお願いしよう)

末妹(それから……)

末妹(家政婦紹介所の決まりがあるから、我が家の飲食の場には同席はできないって聞いているけど)

末妹(家政婦さんにもあのお菓子を食べて欲しいな、メイドちゃんも一緒になって作ってくれたんだもの……)

次兄「朝食はたっぷり食べたけど、さすがにこの時間になればお腹も空いたかなぁ」

次姉「……どうしたの姉さん、なんかニヤニ……ニコニコしているけど」

長姉「えへへへへへ、家政婦さんには内緒にしてもらっているけど、今日のタルトは私が作ったの」

次姉「あら、いつの間に? うちのキッチンからお菓子を焼く匂いはしていなかったと思うけど」
 


163 ◆54DIlPdu2E2016/04/24(日) 18:29:50.35cM7V2mMO0 (6/8)

長姉「昨日は料理教室がお休みだったから、打ち合わせの後で教室の厨房を貸してもらったの」

長姉「1日置いたほうが、味も馴染んで美味しいお菓子だから」

次姉「さすが姉さん。クッキーも初めてにしては上手だったものね」

長姉「……ま、まあね」

長姉(あれからお菓子だけでもせめて幼馴染男のレベルに追い付くよう、基礎を必死に勉強したし)

長姉(昨日も先生にも付きっきりで指導を受けながら作ったし、大丈夫!! なはず……)

次姉「でも……昨日作ったってことは」

次姉「あの子達に食べさせたくて、って意味よね?」

長姉「」

長姉「な、何よ、それのどこか悪い!?」

次姉「悪いわけないわ、なぁんだ、私が思っていたよりずっと良いお姉さんしてるじゃない♪」

長姉「……」ムー

長姉「……家政婦さんとあんた以外には秘密なんだから」

長姉「味の感想……具体的に客観的に、後で聞かせてよね?」

次姉「はいはい」

……

そんなこんなで帰宅日は過ぎて行き……その夜……

商人「……野獣の正体が、人間だったと」

商人「しかも、230年前に滅んだ小国の王子様だった、とはねぇ……」

長兄「……………………」

次兄「兄さん、大丈夫?」

長兄「……いやもう、もはやどんな話が出て来ても受け入れる以外ないからね、うん……」

次兄「というわけで、お屋敷に住んでいるのは、表向きは師匠のおっさんと菫花さん」

末妹「おふたりには戸籍もある……作った、と言うべきかしら」

次兄「使用人の皆さん4匹は、表向きは普通の動物……お屋敷のペットってことで」
 


164 ◆54DIlPdu2E2016/04/24(日) 19:31:04.84cM7V2mMO0 (7/8)

商人「そうか、あの野獣にはもう会えないのか……」

商人「……なんだか寂しいな、いつか私も、彼とまともにゆっくり話をしてみたかったのに」

末妹「……お父さん」

次兄「でも、野獣様は消えてしまったわけでも死んでしまったわけでもない」

次兄「なあそうだろ、末妹?」

末妹「ええ、これからも野獣様はお屋敷の皆さんを見守っているし」

末妹「お屋敷に泊まれば、野獣様が望む限り、『夢の世界』でお話もできる」

次兄「だからこれからも……野獣様は執事さん達のご主人様であり、末妹と俺の友達なんだよ」

末妹「お父さんが寂しいと思っているって言葉、野獣様に伝えるわ」

末妹「きっと、嬉しいと言ってくださると思う」

次姉「…………」

長姉「ねえ、師匠さんって人がうちの店に来た事のあるお客様でしょ、あともうひとり」

長姉「野獣の正体の王子様……菫花さんって人?」

長姉「あんた達の友達になったのはわかったけど、どんな人なの?」

次兄「どんな人って、身長は父さんや次姉ねえさんと同じくらいでー、性別は男でー、本人の生活年齢は二十歳でー」

長兄「俺と同い年か(生年月日はさておき)」

次兄「うん、でもパッと見はせいぜい17かそこらかなあ、体型とか顔立ちとか」

次兄「兄さんと並んだら10歳差くらいには見えるかも」

長兄「ちょっと待て、それは遠回しに俺が実年齢より老けている、と?」

商人「……」ハッ

商人「次兄の友達……若い男性……末妹とも友達……若い男性……?」

次姉「!!」

次姉「ね、姉さん、そういう細かい話はまたの機会にしない!?」

長姉「で、でも、あんたも気にならない?」

次姉(姉さん、そういう話は私と末妹の三人だけの時にするものなの……)ヒソヒソ
 


165 ◆54DIlPdu2E2016/04/24(日) 19:37:36.47cM7V2mMO0 (8/8)


※ここまで。>>153から本編は二週間近く休むわ、昨夜の更新では唐突に時系列戻るわ、何かと申し訳ありません……※

今後の大雑把な予定。可能ならGW前にもう1回、その次は5/7~8頃です。
今週の更新がなくても4/29~5/6間は更新なしです……ご参考までに……



166以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/04/25(月) 04:11:06.30mp2fUQcAO (1/1)

乙×2
妙齢の美女たる長姉の作ったタルトより、アニマル使用人達が作ったお菓子の方が信頼出来る不思議


167 ◆54DIlPdu2E2016/04/27(水) 22:23:08.24VQU88E8B0 (1/4)

次姉「ねぇ、次兄と末妹は疲ているでしょ? そろそろ休ませてあげましょう、ね、お父さん!!」

商人「え?」

商人「あ、ああ、そうか、そうかな、いや、そうだな、それがいいな、うん」

次姉「お父さんを頼むわ兄さん」

長兄「へ? 頼むって?」

次姉「二人が元気に帰ってきたお祝いとか言って飲みに誘うの、で、早く寝かせてしまいなさい」ヒソヒソ

次兄「まだまだ寝るには早いよ、俺もまったく疲れてな」

次姉「あんたはとっとと寝ちゃいなさい、明日は私と同じくらい早起きしてもらうから……開店準備手伝ってね!」

次兄「うぇえ!?」

次姉「そろそろ朝寝坊の習慣から抜け出さないと将来困るわよ、それに、次兄にももう少し店の仕事覚えてもらわないと」

次兄(ふぇぇ……こうなったら父さんになるべく早くカミングアウトして、進学のための勉強に専念させてもらわねば)

末妹「朝のお手伝いなら私が」

次姉「あんたは学校行かなくちゃ、ま、明日1日くらいお休みしてもいいけどね」

次姉「……で、今からきっかり30分後に私の部屋に来なさい? 寝間着で構わないから」ヒソヒソ

末妹「え??」

次姉「しっ、次兄にも内緒だからね?」コソコソ

次姉「姉さん、いいでしょ? 話の続きを心おきなく、ね」

長姉「う、うん」

長姉「……あんたが仕切る時はとにかく逆らっちゃ駄目な気がする、なんとなく」

長兄「さぁ父さん、二人で軽く飲もうか、明日の仕事に差し支えない程度に」

長兄「今夜はお祝いだ、次兄も末妹も元気に約束通り帰って来て」

長兄「それを我が家の全メンバーで出迎えることができたんだからね!! めでたいよ!」

商人「めでたい……か」

商人(確かにな……再び家族がひとつに、いや、再びどころか、今まで以上に……)

商人「ああ、そうだな。飲もう、長兄」

……


168 ◆54DIlPdu2E2016/04/27(水) 22:25:20.90VQU88E8B0 (2/4)

……30分後、次姉の部屋。

ドア:コンコン……

次姉「末妹? どうぞ」

ドア:カチャ……

末妹「……おじゃまします……」ソローリ

長姉「お先におじゃましてるわよー」

次姉「そんなにおそるおそる入って来なくても大丈夫」クス

長姉「でもさ、ここお父さんの書斎が近いでしょ? 話し声が聞こえちゃわない?」

次姉「二人は兄さんの部屋で飲んでるわ、ここからは少し離れているから大丈夫」

末妹「……なんのお話をするの? お姉……ちゃん」

次姉「何を畏まっているのよ、おいで、一緒にベッドに座ろう?」

末妹「……はい」ポス

次姉「ふふ……私と姉さん、よくこうやって寄宿舎の部屋で、一つのベッドに座って話をしたっけ」

長姉「そうだった、こんなフカフカのベッドじゃなかったけどね」

長姉「部屋で姉妹二人きりになれる時が、唯一の気が楽になれる時間だったわ……」

末妹「……」

次姉「もう、あんたにしんみりして欲しわけじゃないの」

次姉「今宵、ここは殿方禁制の空間……女同士でしかできない話をしましょ?」

末妹「」

末妹「わ、私……女同士でしかできない話って……そんな話題、持っていたかしら??」

次姉「難しく考えなくていいの、お父さんには聞かせにくい話、それならわかりやすいでしょ?」

末妹「」

長姉「あのさ、早速だけど菫花さんってあんたと次兄の『お友達』になった人」

長姉「もう少し詳しく聞いていい?」ワクワク



169 ◆54DIlPdu2E2016/04/27(水) 22:27:00.90VQU88E8B0 (3/4)

末妹(……友2ちゃんと友3ちゃんが、お屋敷の男の人達のことを聞きたがっていたの思い出したわ)

長姉「……あっ、言っておくけどこれは純然たる好奇心だからね?」

長姉「私の心は幼馴染男のものだから、誤解しないでね!!」

末妹「……幼馴染男さん??」

次姉「ちょ、姉さん」

長姉「……!!」ハッ

長姉「ややや、やだ私ったら、まだ末妹達は何も知らないんだった!!」アタフタ

次姉「このさいだから喋っちゃったら? そのほうが末妹も話しやすい雰囲気になるかも」

長姉「…………」

長姉「次は、ね。末妹……」

~かくかくしかじか~

末妹「……婚約……結婚するのね、幼馴染男さんと……」パァァ

末妹「素敵、素敵!! おめでとう!!」

長姉「あ、ありがとう……」

長姉「……なんか照れるわね」ボソ

末妹「明日、お兄ちゃんにも教えていい?」

長姉「いいけど……あのね、私のいない所で教えてね?」

長姉「きっと驚くだろうけど、それは予想の範囲内だけど」

長姉「目の前で奇声を発したりされたら私、あの子(次兄)をぶん殴りそう」

次姉(キョエーとかヒョヘーとかね、想像できるわ……)

末妹「わ、わかった、気をつける」コクコク

長姉「……私が喋ったんだから、今度は末妹の番」

長姉「ずばり聞くけど」

末妹「は、はいっ」



170 ◆54DIlPdu2E2016/04/27(水) 22:28:05.99VQU88E8B0 (4/4)


※ここまで。次回は5/8くらいかと思われます※
姉妹トークの続きの他、父と長兄飲みトークとかマロンタルトの感想とか次兄とか(たぶん)



171以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/04/27(水) 23:10:36.15rZwkNTXAO (1/1)

連休前の更新乙
姉妹三人でガールズトークをする日がくるとはなぁ


172>> 169誤字訂正。 ×長姉「次は、ね。末妹……」  → ○長姉「実は、ね。末妹……」   ◆54DIlPdu2E2016/05/08(日) 20:01:25.87gfPINU0D0 (1/4)

長姉「ずばり聞くけど、その菫花さんって素敵な人なの!?」

末妹「…………」

末妹「……ひとつひとつ努力して、苦手を克服しようとしている人、よ」

末妹「自分が生きてきた時代の、200年も後の世界で生きて行こうって頑張って」

長姉「あー、そうじゃないの、そうじゃなくてねえ……なんと言ったらいいのかしら……」

次姉「そうね、次兄の説明よりもう少し詳しい見た目から話してもらったらいいかな?」

末妹「見た目」

末妹「……うんと、髪の毛は金灰色で、肌はすごく色白で……ひとみの色がね、薄紫……スミレの花のような色」

末妹「お父さんと同じくらいの背丈だけど、細くって……華奢と言えばいいのかな?」

末妹「お兄ちゃんが言うとおり、一見すると私やお兄ちゃんとそんなに離れているとは思えない感じ」

末妹「あ、実年齢とね。見た目年齢はやっぱり離れて見えると思うけど」

次姉「はいはい、そこは言わなくともよろし」

次姉(幼い外見を気にしているのねぇ、この子なりに)

長姉「…………終わり?」

末妹「う、うん」

長姉「……ええい、ド直球で行くわ!!」

長姉「その人、顔はどうなの!? 美形なの平凡なの残念なの!? 個人の感想でいいから!!」ズバーン

末妹「」

末妹「……うん、と……」

末妹「きれいな人、よ。絵本の挿絵から抜け出したみたいな……」

末妹「こんな男の人が本当にいるんだ、って思っちゃった」

末妹「……それくらい、きれいなお顔」

長姉「……そう」

長姉「色白、アッシュブロンド、薄紫のひとみ、どちらかと言えば童顔だけど絵に描いたような美形……と」

長姉「わかった。ありがとう!」スッキリ
 


173 ◆54DIlPdu2E2016/05/08(日) 20:03:56.49gfPINU0D0 (2/4)

末妹「長姉おねえちゃ……」

長姉「個人的な好みのタイプとはちょっとずれているけど、実際にいたら目の保養だわー」

次姉「好奇心が満たされて気が済んだのね、姉さん」

長姉「そ、さっきも言ったけどあくまで好奇心」

長姉「この先、どんなイイオトコが現れても私の愛は幼馴染男のものなんだからねー♪」

末妹「……どんな人が現れても……」ポツリ

次姉「……末妹?」

長姉「しかし、お父さんに知れたらえらいことになりそう」

長姉「そんな美男子が次兄だけじゃなく末妹とも友達なんて、ね」

次姉「お父さんなら顔はどうあれ(男子ってだけで)心配しそうだけど……」

末妹「……本当に『お友達』よ、お父さんが心配するようなことは」

長姉「わかってるって、あんたまだまだお子様だし」

長姉「初恋なんていつになるやら~」ゴロン

末妹「……っ」

長姉「……ちょ、何よ、あんたその思い詰めたような顔は」ガバッ

長姉「悪かった、悪かったわ、からかったりして……ねぇ怒ってる?」アワワ

末妹「……」フルフル

次姉「末妹……泣いているの?」

末妹「……ううん、大丈夫、泣いてない」

末妹「もう……いっぱいいっぱい、泣いたもの……」エヘ

次姉「末妹」

長姉「……どういうこと、何があったの?」

末妹「ええと……あのね、やっぱりお父さんに簡単には話しにくいこと、あった」

末妹「だから……女同士のお話として」

末妹「……お姉ちゃん達に、聞いてほしいな……」

……
 


174 ◆54DIlPdu2E2016/05/08(日) 20:42:37.16gfPINU0D0 (3/4)

次兄の部屋……

次兄「……うーん、眠れん」モゾ

次兄「明日は次姉ねえさんにどえらい早い時間に叩き起こされる予定が組まれてしまったと言うに」

次兄「……姉さんの場合、『叩き起こす』が文字通りなだけに」ガクブル

次兄「……」

次兄「父さんと兄さんはおチャケ飲んでるんだよな」

次兄「父さんの部屋はここから離れ……あれ?」

次兄「……ボソボソした男声が壁の向こう、隣の兄さんの部屋から」

次兄「今夜は兄さんの部屋なのか」

次兄「……お酒ひとくち飲んだらよく眠れるかな?」

次兄「我が国では18歳の誕生日からお酒に関しては大人と同じ扱いで」

次兄「16歳の誕生日から、お酒の種類と量の制限つきで一部解禁なのです」

次兄「というわけで、真面目な父さん兄さんでも強く拒むこともありますまい、合法ですからね」

次兄「美術学校に進学すれば嗜む機会もできるだろうし」ガバ

次兄「大人の階段を昇る一歩として……」

次兄「ここらでデビューしてみようではありませんか」カチャ

次兄「まぁ最初はマジで舐めるだけ、口に合わなければ即効やめるだけのこと」

長兄の部屋のドア:コンコン……

商人「……ん? 誰だい?」

長兄「次兄かな、起しちゃったか、小声で話していたつもりなんだが……」

ドア:カチャ……

次兄「……へへ、父さん、兄さん、こんばんはぁ」ソロリ

長兄「ごめんよ、うるさかったかい?」

次兄「ううん、どうせ眠れなかったから」

商人「よかったらお入り? 大丈夫、私達もそんなに酔っていないよ」ニコ

次兄「ではお言葉に甘えて……」ニュルー

長兄「お前のドアを全開しないで入ってくる癖は抜けないなあ」

……
 


175 ◆54DIlPdu2E2016/05/08(日) 20:44:40.74gfPINU0D0 (4/4)


※お久しぶりでした。今回ここまでです。次回は近いうち。誤字すみません何度も何度も※



176以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/05/08(日) 21:25:42.46zPoARsAAO (1/1)

お待ちしておりましたん
次兄に酒なんて色んな意味で危険
でも俺も末妹ちゃんの気持ちを思うと切なくて呑まずにはいられないぜ


177 ◆54DIlPdu2E2016/05/15(日) 00:44:02.32cQYivfsC0 (1/4)

次兄「ここに座っていい?」カタ

長兄「ああ、どうぞ」

商人「どれ、台所でミルクを温めて来てあげよう。それともココアがいいかい?」ガタ

次兄「いやいや、ホットミルクが欲しくば父さんにそんなお手間は」

次兄「……実はね、へへ、ちょびっとだけお酒をもらえたら、よく眠れるかなー、なんて?」チラッ

長兄「ああ……なるほどね」

商人「お酒」

商人「お、お前がお酒だなんて!?」

長兄「父さん、次兄ももう16歳だよ?」

長兄「俺が16になった時は、ワインを小さなグラスで『お祝いだ』って飲ませてくれたじゃないか」

商人「……」

商人「それもそうか……うむ、どうしても私の中では次兄と末妹はいつまでもおチビさんで」

商人「頭ではとうにわかっているのに、時々こうしてその思いが表れてしまう」

商人「つくづく駄目な父親だよな……」

次兄「まあまあ、父さんは(泥沼になるから)あまり自分を責めないで?」

商人「よし、次兄に友達ができたお祝いだ、男3人で乾杯しよう!!」

長兄「ちょうど甘口のシードルもあるんだ、これなら初心者向けだろう」

コルク栓:ポン

次兄「あ、いい香りがする」クフクフ

商人「最初は少しだけだよ?」

長兄「わかってるって、ほら」シュワワ

次兄「おー、香りもだけどこの色、昔ばあやが作ってくれた林檎ジュースを思い出すなあ」

次兄「もちろん泡立ちはしなかったけど、風邪で喉が痛い時もあれだけはすんなり飲み込めた」

商人「では、我々も次兄と同じこいつで」シュワワワ
 


178 ◆54DIlPdu2E2016/05/15(日) 00:45:34.57cQYivfsC0 (2/4)

商人「……次兄のこれまでの16年間と、これからの長い人生に」

長兄「家族の健康と幸福に」

次兄「えーとえーっと、この世界に満ち溢れるあらゆる生命体達に、っと」

長兄(次兄、大きく出たなあ)

3人「「「かんぱーい!!」」」

次兄「……どきどき」チビリ

次兄「………………」

次兄「……何これ想像と違うじゃん、渋い、からい!!」ウベー

次兄「もっと林檎しぼったままの味かと思ってた、わざわざ手間暇かけて不味くしてんじゃないの!?」

商人「うーん、お酒としてはかなり甘いし、果汁そのものではあるのだが」

長兄「果汁と言ってもそれを発酵させた酒だからね、子供の味覚では不味いとしか感じないだろうな」

次兄「……」ム

商人「はは、やっぱり次兄には少し早かったかな?」ナデナデ

次兄「…………」ムー

次兄「りょ、量が少なすぎて味がわからなかったんだもん!!」クイー

商人「あ、グラスの残りを一気に!?」

長兄「大丈夫、注いだ量は少なかったよ!?」

次兄「 」ゴクリ

次兄「……ぷっはぁ!!」ゲファー

商人「次兄、大丈夫かい、大丈夫か!?」サスサス

次兄「……………………」

次兄「にゃあああああなんだか暑くなってきたあああああああ!!」カァァァ

長兄「回るの早いよ!!」
 


179 ◆54DIlPdu2E2016/05/15(日) 00:47:20.73cQYivfsC0 (3/4)

次兄「脱ぐ、脱ぎます、脱ぐからね!!」ヌギカケ

長兄「ちょ、待て待て、落ち着け!!」

商人「ほら、水、水を飲んで次兄!!」

次兄「俺は落ち着いています、落ち着いていますよ!?」

長兄「顔まっ赤なんだけど」

次兄「その証拠に……今から」

次兄「大事な大事な話をしまああああす!」

次兄「二人ともお席にお戻りくださぁい!!」ビシッ

商人「は、はいっ!?」ガタッ

長兄「どう見ても酔っ払いなんだけど」

次兄「お父さん、お願いがあります!」

商人「お、お願い?」

次兄「18歳になったら……王都の美術学校に、進学させてください!!」

商人「   え」

長兄「 」

……

次姉の部屋。

長姉「……なんか聞こえない?」

次姉「なんとなく兄さんの部屋のあたりが騒がしいような気がするけど、ここからは離れているし」

次姉「ま、気にしないでおきましょ」

末妹「……大丈夫かしら」

次姉「いいからいいから、話を続けて?」

末妹「うん……」

……
 


180 ◆54DIlPdu2E2016/05/15(日) 00:47:54.57cQYivfsC0 (4/4)


※今回はここまで。なかなか進まなくてすみません……※



181以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/05/15(日) 01:39:09.94FOI46l6AO (1/1)


うーんやっぱり酒に飲まれる系か次兄は
素面でも暴走してるのになぁww


182 ◆54DIlPdu2E2016/05/21(土) 19:28:13.32QcUGknkz0 (1/2)

男性陣。

次兄「……以上、題して『芸術と野獣様への熱く滾る我が想い』でした、ご清聴ありがとうござりました」ペコリ

長兄「とりあえず熱弁お疲れさま」パチパチ

商人「……」

商人「野獣の言葉に励まされ、画家を将来の夢にしたくなった……か……」

商人「……我が子の夢を応援したい気持ちはあるが、お前を一人暮らしさせるのは……ううむ……」

次兄「うにょぅ、兄さんなんて9歳から家を出て勉強してたじゃないですかあああ!?」

商人「あの学校には寄宿舎があったから、小さな子供でも任せることができたんだよ……」

商人(正直、年齢だけの問題ではないが)

長兄「それなら賄い付きの下宿はどうかな、父さんの伝手があれば信用のおける家主を紹介してもらえるんじゃ」

商人「おいおい、長兄」

長兄「……父さん、応援したいと言ったよね?」

長兄「それなら俺達は頑張れと送り出してやろう」

長兄「そしていつでも、どんな結果になっても……帰って来れる次兄の『家』、それが俺達の役目じゃないかな?」

商人「……長兄」

商人「私は少し考える時間が欲しい、それだけなんだ」

商人「今すぐの話ではないと言っても、二週間も家を離れていたこの子が今日こうして元気に帰ってきたばかりで……」

商人「何よりも、酔っ払っていない次兄と改めて話をするのが先かと」

長兄「……確かに」

長兄「次兄、父さんの言うとおり今夜は結論を出すには相応しくない、部屋に戻……」

次兄「……むゆー……むゆー……」コレデモイビキ

長兄「……あれ?」

商人「いつから眠っていたんだ」
 


183 ◆54DIlPdu2E2016/05/21(土) 19:29:57.61QcUGknkz0 (2/2)

長兄「仕方ない、このまま部屋に運んで寝かせるよ」ヨイショ

商人「大丈夫かい、私は腰に自信がないから手伝えないが……」スマン

商人「あ、次兄の部屋は足場が悪いから気をつけて?」

長兄「うん知ってる、床を埋め尽くしている有象無象を足で掻き分けて進むしかない」

長兄「一人暮らしさせるならあれは改善させないとね」

長兄「……こいつもそれなりに大きくなったなあ……重いや」ハハ

商人「…………」

ドア:ガチャ…パタン

次兄「むにゃ……ひへへへ、野獣しゃまにお姫様抱っこ……うへへへぇ」

長兄「寝言か……小さすぎてよく聞こえないけど幸せな夢を見てるんだろうな、呑気な奴め」ガチャ

長兄「……ああ、マジでなんつー部屋だ」ゲンナリ

長兄「収納場所を決めて使ったらそこに戻すだけ、それだけなのに何故できないんだろ、理解不能」ガサガサ

長兄「どっこいしょ、ベッドはまあ余計な物が乗ってないだけマシか」

長兄「……次兄だって、あの状況であんな大事な話をするつもりはなかった筈」

長兄「酔っ払いの戯言とは思いたくない、もう一度きちんと話してくれたら俺は改めて応援するよ」

次兄「……んごー、すぴぃぃぃ、ふごー、しゅるるるる……」

長兄「……お前はやっぱり俺にはできないことができる男だ……正直、羨ましい」クス

長兄「さて、今度は当初の予定通り父さんを寝かしつけなくちゃ」

長兄「長姉の結婚が決まって、下の二人も日々成長して次第に親離れ、寂しい気持ちは俺にもわかるが……」ガチャ

商人「……ぐー……ぐー……」

長兄「……テーブルに突っ伏してる」

長兄「さすがに父さんを起こさず部屋まで運ぶのは無理だ、俺のベッドに寝かせるくらいはできるかな?」ウンショ

長兄「ふう、さて……俺も疲れた、床にクッション敷いて寝るか」ゴソゴソ

……



184 ◆54DIlPdu2E2016/05/22(日) 01:51:13.19/pH27Tf10 (1/6)

女性陣……

次姉「……そう、あんたは野獣に自分の想いを伝えることができたんだ」

末妹「うん……」コクリ

末妹「野獣様も、私の想いを受け止めてくれた」

長姉「」

長姉「想いを受け止めてくれたってどういうこ」

次姉「姉さん急かさないの」シー

末妹「……私が前に進めるように」

末妹「幸せを願い続けてくれると」

末妹「私がどこにいても何をしても……」

末妹「私らしく生きて欲しいと願っていると、それを夢の世界から、見守ってくださるって、そして」

末妹「……私に野獣様の一部を分けてくれた」

長姉「」

長姉「ぐ、具体的に説明してくれない!?」

末妹「……うーん、どう言えばいいのかしら、こんな小さくて、透き通ってガラス玉のようで、でも柔らかくて暖かい」

末妹「夢の世界の野獣様の一部……野獣様の心の欠片、かしら」

末妹「私にも実はよくわからないの、でも」

末妹「夢の中なのに、手に取ると野獣様に触れた時と同じ暖かさで」

末妹「こうしてね、胸に押し抱くと……そのまま溶け込んで行って……」

末妹「ああ、野獣様そのものだ……って、それだけはすぐにわかったの」

末妹「……今は、今も、これからも、私と一緒……」ニコ
 


185 ◆54DIlPdu2E2016/05/22(日) 01:52:43.50/pH27Tf10 (2/6)

次姉「末妹……」

長姉「……………………」

次姉「……よかったわね、末妹」キュッ

末妹「お姉ちゃん?」

次姉「素敵な恋だったのよ、あんたの初恋は、ね……」

末妹「……ええ、私は幸せ」

末妹「野獣様と出会えてよかった、野獣様を好きになってよかった……だから……」

次姉「うん、うん」

次姉「あんたはいい子、だから……幸せになれる、ううん、絶対幸せになるのよ……?」ギュー

末妹「……お姉ちゃん」

末妹「ありがとう……」ギュ

次姉「……ふふ」ナデナデ

長姉「……」

……

末妹「……すー……すー……」

次姉「眠っちゃった、さすがに疲れたかな」

長姉「……あのさ、次姉」

次姉「何、姉さん」

長姉「この子はいい初恋したって……あんた本気で?」

次姉「……結ばれないで終わる恋に意味なんかないって、姉さんは思うの?」

長姉「そ、そこまでは思ってないわよ」

長姉「……でも、末妹が自分の恋心に気付いた時には、もう、野獣は……」
 


186 ◆54DIlPdu2E2016/05/22(日) 01:54:14.16/pH27Tf10 (3/6)

次姉「えそうよ、辛かったでしょう、切なかったでしょう、どんなにか」

次姉「……それでも末妹は、後悔していない、幸せだって、笑うのよ」

次姉「だから素敵な恋だったの、違うかしら?」

長姉「……」

長姉「……そういうものかしら」

次姉「大丈夫、この子は強いもの」

次姉「いつかきっと……新しい恋だって見つけられる、何年先かわからないけどね」

長姉「…………人外で独身で優しい紳士でお父さんより年上なんて男(ひと)、また現れると思う?」

次姉「やだ姉さんたら、別に野獣が末妹の好みのタイプって話じゃないでしょ?」

次姉「好きになった相手があの野獣だっただけで、だいたい野獣も中身は人間で」

長姉「でも、初めて好きになった相手は『人外』で親子以上の年上」

長姉「……そんな思い出を聞かされたら、世の男性はだいたいドン引きするんじゃないかしら?」

次姉「……」

次姉「……つまり、それを理解して丸ごと受容してくれる相手でなくちゃ、って言いたいのね?」

長姉「現実問題よ、末妹が次に好きになる相手は、きっと人間だもの」

長姉「人間の女の子が人間の男性に人間の世の中で恋をするんだもの」

次姉「確かに(次兄じゃあるまいし)人間相手よね」

長姉「……私達の世の中は夢の世界みたいに、森の中の忘れられたお城みたいに」

長姉「なんでもありで、なんでも許されたりはしないもの……」

次姉「確かにそう簡単に理解ある男性には巡り逢えないかもしれないけど」

次姉「わかってくれない男なんか、こっちから願い下げよ」シュッ

長姉「」
 


187 ◆54DIlPdu2E2016/05/22(日) 01:55:48.85/pH27Tf10 (4/6)

長姉「今の拳の動き、目にもとまらなかったんだけど……」

次姉「大丈夫、少なくとも世の中には、好きな相手にはいくらでも寛容になれる人間がいるんだもの」

次姉「例えば正面から殴られても、靴を投げつけられても、板で叩かれても、首を捻じ曲げられても、相手が好きな人ならば」

長姉「え」

長姉「ちょ、ちょっと、何言ってるの、誰の話よそれは!?」

次姉「しーーーっ、末妹が起きちゃう」

長姉「あ」

末妹「……んん……すぅ、すー……すー……」

次姉「……大丈夫」

次姉「この子はね、絶対幸せになるんだから……」

長姉「……妹の心配してる場合かしらね」ボソ

次姉「もぉ……私の事はいいの、焦ってないって言ってるでしょ」

次姉「さてと、もう寝ない? 明日も早いからね」

長姉「あんたはここで寝るの? 末妹は?」

次姉「一緒でいいわ、このまま起こしたくないし、小さくて細いからこのベッドでも邪魔にならないもの」

長姉「……私もここで寝る」ボソ

次姉「あら、それなら私が姉さんの部屋で」

長姉「だめ、あんたも一緒」グイ

長姉「小さい頃は、ううん、寄宿舎でも時々こうして二人で同じベッドに潜って眠ったじゃない」

次姉「……でもねえ、さすがに狭くない?」
 


188 ◆54DIlPdu2E2016/05/22(日) 01:57:06.93/pH27Tf10 (5/6)

長姉「私達も今より少し小さかったけど、寄宿舎のベッドはもっともっともーっと狭かったもの、だから」

次姉「わかったわかった、ま、夜中になって冷えて来たし……3人でくっついて眠るのも悪くないかもね」

ムギュムギュ

長姉「……た、確かに、ちょっと……」キュウクツ

末妹「うーん……ん、すやすや……」

長姉「……やっぱり子供ね、一度眠ったらなかなか目が覚めない」

次姉「ふふ……可愛い顔しちゃって」

次姉「末妹とは小さい時も、こんな機会なかったわね」

末妹「……お母様……すー……」

次姉「……お母様の夢、見てるのかな」

長姉「記憶ないのにね……」

次姉「お父さんやばあや、あと兄さんから、話は聞かされているだろうけど」

長姉「……私と次姉しか知らないお母様の話も、教えてあげたいな」ボソ

次姉「ふふ、姉さん、すっかりいいお姉さんじゃないの」

長姉「な、何よ、お父さんとも約束したもの、普通の姉になるって」

長姉「そうよ、普通よ、普通の姉。別に特段いい姉なんて目指してないんだから」

次姉「ええ、普通のいいお姉さん」クスクス

長姉「……」ムー

長姉「もう眠っちゃう、邪魔しないでね」ゴロン

次姉「はいはい……」

次姉「……おやすみなさい、姉さん、末妹……」

末妹「くー……くー……」

…………



189 ◆54DIlPdu2E2016/05/22(日) 01:57:56.46/pH27Tf10 (6/6)


※今回はここまで。本編はあとちょっと(のはず)※



190以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/05/22(日) 02:18:53.87WmqIxtcoO (1/1)


思うことは色々あれど、とりあえず長兄が次兄のヤベエ絵を発見しなくて良かったなって


191 ◆54DIlPdu2E2016/05/22(日) 23:22:03.602lA72EtY0 (1/4)

翌朝……

次姉「え? 次兄を起こさないでやって、って?」

長兄「明け方に様子を見に行ったら、頭が痛いんだと」

次姉「……どうして明け方に次兄の様子なんか見に行ったの?」

長兄「」

長兄(酒飲ませたから心配になって、とか、頭痛も二日酔いとか……とはちょっと言いづらいなあ)

次姉「ま、いいわ。なんだかんだ言って体力ない子だもの、疲れとか風邪気味とか、そんなところでしょ」

次姉「医者(せんせい)呼ぶの?」

長兄「っと……それは様子を見てからにするよ」

商人「……おや次姉、おはよう」フアァ

次姉「お父さん、おはよう……眠そうね、昨夜は遅くまで飲んだの?」

長兄「日付が変わる前に切り上げたけどね」

商人「私はさっき起きたんだ……馬の世話もすっかり末妹に任せてしまったよ」

商人「……そう言えば長兄、次兄は大丈夫かい? 昨夜はあんなになって……」

次姉「昨夜? あんなに?」

長兄「……えーと……実はね」



次姉「なあんだ、そういうこと。忘れがちだけど年齢は合法だし、保護者付きだし」

次姉「シードルそれっぽちで二日酔いねぇ、次兄らしいかも」

次姉「隠すこともなかったのに、兄さん」

長兄「なんとなく後ろめたくて……」

次姉「とにかく、どうやらお酒に弱い事はわかったんだから、ほどほどにするよう二人で言い聞かせてあげて」

商人「ああ、そうするよ」

長兄「本人がもう懲りているかもしれないけどね」

……



192 ◆54DIlPdu2E2016/05/22(日) 23:24:34.152lA72EtY0 (2/4)

次兄の部屋。

次兄「…………」ドロドロ

次兄「……い、いかん……己の原形を保てない気分……」グニョグニョ

次兄「以前、兄さんが珍しく寝込んだのも二日酔いだったんだな……たぶん」

次兄「……似てない兄弟でも体質は似るのかしら……いやそもそも酒の摂取量が、まるで違うのでしょうがね……」

ドア:コンコン……

次兄「ぬ」

末妹の声「……お兄ちゃん?」

次兄「ぬぅお、末妹か……鍵は開いてるにょ……」ズルズル

ソロリ……

末妹「……辛そうね」

次兄「んむ、これは……病気ではないが、一種の中毒症状でな……」

末妹「知ってる。お父さん達から色々聞いたの」

末妹「……あのね、これから……大人になっても、お兄ちゃんはほどほどにした方が、良いと思う……お酒」

次兄「……ううううう、恥ずかしい……」メリメリメリメリ

末妹「お兄ちゃん、枕に顔が埋もれるほど押し付けたら息ができない」アワワ

次兄「……酔っている間、どのような醜態をワタクシは晒したのでしょうか」

次兄「グラスを空にしてからの記憶がね、全く無いのです……父さんと兄さんは何を見たか聞いたかと思うと……」

末妹「」

末妹「覚えていないんだ」

(商人「……末妹……次兄は末妹には話してあると言っていたが、実は……昨夜……」)
 


193 ◆54DIlPdu2E2016/05/22(日) 23:26:51.322lA72EtY0 (3/4)

末妹「……大丈夫、恥ずかしがるような事は何もなかったわ、だってお父さん普通に心配していたもの」

次兄「普通に」

次兄「……そうなの、でもそこはそれ、大人の対応というモノではないのですかねぇ」

末妹「もう、そんなに心配なら後で単刀直入にお父さんやお兄さんに聞けばいいじゃない」フフ

末妹(……お父さん)

(商人「……次兄の口から改めて話を聞くことにするよ、お酒が完全に抜けてからね」)

(商人「返事はそれからだ、しかし……前向きに考えたい気持ちは私にもある」)

(商人「解決すべき現実的な課題は、あの子と一緒になって取り組まなくては」)

(商人「場合によっては、皆に……末妹にも協力してもらうことがあるかも、その時は……」)

末妹「……本当に大丈夫だからね、お兄ちゃん」

末妹(きっと、お父さんもわかってくれる、応援してくれるから大丈夫)

次兄「……うん、お前が大丈夫と言うのなら……」ニヘ

次兄「…………」シーン

末妹「お兄ちゃん?」

次兄「……むゅるるる……むゅるるる……」ヘンナイビキ

末妹「眠っちゃった」

末妹「酔っ払いさんは眠るのが一番で顔は横向けたほうがいいって、お父さんが」ヨイショ

次兄「……むゅるる……もふもふぅ……むゅるる……もふもふ……」

末妹「もふもふ……野獣様かな、執事さんかしら?」

末妹「……本当に、ほどほどにしてね……」クス

……


194 ◆54DIlPdu2E2016/05/22(日) 23:27:33.392lA72EtY0 (4/4)


※今回ここまで。読んでくれてありがとうございます、また次回に……※



195以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/05/23(月) 01:13:07.44SHroONgsO (1/1)


次兄にも恥ずかしいという感情があるのだなぁ(失礼)


196 ◆54DIlPdu2E2016/05/29(日) 02:20:23.62+u0xSqqH0 (1/5)

その日の夕方。

次兄「末妹よ」ヌッ

末妹「お兄ちゃん、起きてて大丈夫?」

次兄「寝て起きて家政婦さんの実家に伝わる秘伝の特濃ハーブティーを飲んでまた寝て起きたらスッキリですわ」

次兄「起き抜けに食事抜きで腹が減ったと言ったら、家政婦さんが昨日のマロンタルトの残りをくれた」

次兄「美味しくいただいたので、たぶん胃も回復です」

末妹「よかった……」ホッ

次兄「というわけで、今夜あたり父さんにあの話をしないか? 魔法の鏡を使ってお屋敷と」

末妹「……別の話はまだしなくていいの? 美術学校を受験したいって」

次兄「ん? 当初の予定通り、そっちはもう少し先で構わんでしょう」

次兄「俺達のお帰りなさいムードが完全に消え失せ、お前が学校に再び通い、完全な日常モードが戻ってからが良い頃合いかと」

末妹「……」

(商人「次兄は昨夜のことを覚えていないのか……それなら、すまんが末妹も黙っていてくれないか?」)

(商人「あの子なりに慎重に考えを巡らせながら機を窺っているはずだ」)

(商人「再び次兄からあの話題を切り出すまではね、お願いだから……」)

末妹「……うん、今日は魔法の鏡の話をしようね」

次兄「そうと決まれば、さっそく事前の打ち合わせをしようぞ!!」シュビシッ

末妹(そのポーズに何の意味があるの? とか聞かない方がいいのねきっと)

……

次姉「次兄、元気になったみたいね。さっき、末妹を連れて庭に出て行ったわ。明日こそは朝から働かせなきゃ」

長姉「しかしあの子達、いくつになっても仲がいいと言うか、いつまでも子供と言うか……」

長姉「あの分じゃ、末妹には次の恋なんてどれだけ先の話か」

次姉「姉さんこそ末妹の心配し過ぎ」

次姉「誰もが自分の速度で大人になって行くんだから」



197 ◆54DIlPdu2E2016/05/29(日) 02:22:10.37+u0xSqqH0 (2/5)

次姉「私達は姉としてほどよく信頼してほどよく心配して……ゆったり見守りましょうよ」

長姉「……次兄のことも?」

次姉「次兄には次兄の世界での幸せがあるんだろうと最近は思うし」

次姉「あとこれはただの勘だけど」

次姉「あの子もなんだかんだ言って、自力で世の中にそれなりに居場所を見つけ出せるような気がする」

長姉「……私はよくわからないけど、最近」

長姉「誰よりひ弱だと思っていた次兄が、ある意味しぶといというか逞しいんじゃないか、とは思うようになったわ」

次姉「そ、だからあんがい大丈夫、あの子達は」

次姉「……それより兄さんの方が、少し心配になってきた……かな?」

長姉「どこが? 将来も安定して……お父さんが店を継いだ時と違って、今から取引先との顔繋ぎも順調ぽいし」

次姉「その安定感と、あれだけの見た目と町のおじさんおばさん連中からの評判の良さと……」

次姉「それでいてあんまりモテないのは逆に心配にならない?」

長姉「……あ」

次姉「私達が知らないだけで、今まで女の子と付き合った経験も皆無だとは思わないけど」

次姉「たぶん、長続きしないし彼女の方から振ってくるパターン……かと」

長姉「一時期、恋愛小説にはまっていただけあるわね、あんた」

長姉「しかし……確かに兄さんには、女心の勉強をもっとしてもらわないと駄目かも……」

……

商人の店。

長兄「……ぶぇっくしょん!?」

商人「おや長兄、風邪かい?」

長兄「……危なかった、帳簿を汚してしまう所だった」ズビー

商人「この季節だ、夕方になると冷え込んでくる」

商人「身体の丈夫なお前だが油断はいかん、上に何か羽織っておいで」

長兄「うん、そうする。部屋から取って来るよ」ガタ



198 ◆54DIlPdu2E2016/05/29(日) 02:23:44.65+u0xSqqH0 (3/5)

……

家政婦「長兄様、ご休憩ですか?」

長兄「あ、家政婦さん。いや、ちょっと肌寒いからこの上着を取りに来ただけさ」

家政婦「あら、でもその上着ボタンが一つ取れかけていますわ」

長兄「ああ、これくらい平気ですよ、外出するわけでもなし」

家政婦「でもお店にはお客様がいらっしゃいますよ?」シュッ

長兄「家政婦さん、針と糸を持ち歩いているの?」

長兄(しかも今、ポケット以外の場所から取り出した? どうなっているんだこの人の服?)

家政婦「失礼致します、お召しになったままで構いませんわ」

長兄「っちょ、家政婦さん!?」

家政婦「動かないでくださいませ、すぐ済みますから……」

長兄(うわあ、近い近い!? 頭が俺の顔の真下に!?)

長兄(……この人の髪、次姉の黒褐色よりもっと黒々して)

長兄(いつも結い上げているからわかりにくいけど……まっすぐで、ツヤツヤなんだなあ)

長兄(あ、睫毛がけっこう長

糸を切る音:プツ

家政婦「終わりましたよ長兄様?」

長兄「 」ハッ

長兄「そ、そうですか、早かったですね、ありがとうございました……」ドキドキ

家政婦「突然で申し訳ありませんでした」

長兄「とんでもない、謝らないでくださいよ」ブンブン



199 ◆54DIlPdu2E2016/05/29(日) 02:25:38.28+u0xSqqH0 (4/5)

長兄「……だいたい、家政婦さんには父が塞ぎ込んだり長姉が閉じこもったりした時期には」

長兄「何かと仕事以上、お給料以上の事をお願いしてしまって……それどころか」

長兄「俺が頼んだ以上に、あれこれ細やかに気を配って動いてくれた」

長兄「特に、長姉は家政婦さんが支えてくださらなかったら……どうなっていたかと……」

家政婦「さすがに買いかぶり過ぎですわ、長姉様を支えたのはご家族の皆様、そして幼馴染男様」

家政婦「……ですが、そう仰っていただけるのは正直……嬉しいですね」

長兄「……家政婦さんの所属する紹介所の契約は1年ごと、年が明けたらどうなるのか最終的には紹介所が決める」

長兄「しかし……ぜひ来年も、我が家との契約を続けてほしい」

長兄「父も弟や妹達も頼りにしているのです、もちろん俺、いや、私も」

家政婦「……」

家政婦「……光栄ですわ長兄様、家政婦として」ニコッ

長兄「あ」

家政婦「ですが今は、お店で商人様がお待ちではありませんか?」

長兄「っぅえ!? 忘れてた!?」

長兄「あ、改めてありがとうございました!! それじゃ!!」バタバタバタ

家政婦「……うふふ……」

家政婦「ばあや様、本当に素敵なご家族ですね、この家の皆様は……」



長兄「……ああ、何やってんだ俺、だいたい俺は年下」

長兄「って、いやいや、そーゆー話じゃないし!?」

長兄「……本当に何やってんだろ、俺……」ハァ

商人(……何をブツブツ言ってるんだろう、あ、溜め息)

商人(この子は一人で抱え込むからなあ……)

…………


200 ◆54DIlPdu2E2016/05/29(日) 02:26:10.96+u0xSqqH0 (5/5)


※ここまででした。続きは近いうち……※



201以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/05/29(日) 06:10:08.259feIS0IKO (1/1)


長兄よ、年上の女房はゴールドのサンダルを履いてでも探せと言ってだな…



202 ◆54DIlPdu2E2016/05/29(日) 22:35:22.20yzLsY11j0 (1/3)

商人の家の庭……

……に置かれたテーブルを挟む兄妹……

次兄「……というわけで、今回はわりと簡単です」

次兄「いち・俺と末妹が魔法の鏡で何をしたいのか」

次兄「に・野獣様やおっさん始め屋敷のみんなと、どんな約束を交わしたか」

次兄「さん・これから父さん達とどんな約束をするのか」

次兄「……こんな感じ、実にシンプルでしょ?」

末妹「うん、でも『二』まではともかく、『三』はどうなるのかな?」

次兄「それは父さんの出方しだい」

次兄「しかし俺と末妹の目的地は明確ゆえに、其処へ至る道も自ずと見えて来ることでしょう!!」ビシィ

末妹(今のはわかりやすいカッコつけのポーズ……)

末妹「そうね、誠心誠意お話しして、わかってもらうことが全てよね」コクン

次兄「そういうこ、ふひぇっくしょんっっ!?」

末妹「だ、大丈夫!?」ガタッ

次兄「……さすがに夕方は冷え込みますわ」ジュル

末妹「もう中に入ろう、風邪ひいちゃう」

次兄「うむ、中であったかいお茶でも……お?」ピタ

末妹「どうしたの?」ピタ

次兄「ほらあの窓越し、兄さんの部屋の前の廊下だけど」

次兄「兄さんに家政婦さんがぴったり寄り添っとる!?」

末妹「えええっ!?」
 


203 ◆54DIlPdu2E2016/05/29(日) 22:36:48.71yzLsY11j0 (2/3)

末妹「……っと……よく見て、家政婦さんの手元」

次兄「お? あの動きは裁縫の……えらい高速ではあるが針と糸を持った手の動きだ」

末妹「ええ、ボタンをつけてあげてるみたい……」

末妹「糸を切って……終わったのかな?」

末妹「……何かお話ししているようね」

次兄「あ、兄さんが踵を返した」

末妹「……慌てた様子で走り去って……家政婦さん……後ろで笑っている」

次兄「…………」

次兄「……俺も、廊下で出くわした家政婦さんにシャツのボタンが取れかけていると指摘されて」

次兄「なんかどこからともなく取り出した針と糸で、着たままつけてもらったことはあります」

次兄「……だから、よくあることだよね?」

末妹「え、ええ……私はないけど……」

次兄「末妹の場合はボタン取れかけを放ったらかしで着ていること自体あり得ない」

末妹「それもそう……ね」

次兄「……よくあることだけど、なんとなく……誰にも黙っておかないか? いま見たことは……」

末妹「う、うん……私もそうした方がいいと思う……なんとなく」

…………


  お兄ちゃんと私が、お屋敷の皆さんとの『これから』を手探りしているのと同じように……

  皆も、誰もが、過ぎて行く日々の中で、自分の……または自分と他の誰かとの『これから』を手探りしているのでしょう。

  ある人は自分の信じる目的地に向かって、ある人は流れに任せて、ある人は自分がどうしたいのかもわからないまま

  ただひとつ言えるのは、誰もが今のままではいられないこと、遅かれ早かれ、多かれ少なかれ……


…………



204 ◆54DIlPdu2E2016/05/29(日) 22:37:23.00yzLsY11j0 (3/3)


※ここまで。そろそろサクサク進ませる予定です……ホントかな……orz※



205以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/05/30(月) 00:50:23.22gShUYcoDO (1/1)


家政婦は見られた!



206 ◆54DIlPdu2E2016/06/04(土) 20:59:38.52k1TrdIsi0 (1/5)

……………………

…………

門扉:カシャン……

家政婦「おやすみなさいませ皆様、また明日……」

家政婦「さて、いつものカフェの前で辻馬車を拾いましょう」コツ

末妹「家政婦さん!!」ピョコ

家政婦「末妹様!?」

家政婦「もう暗いのにお一人で門の外におられるとは、いったいどうなさいました?」

末妹「これ……野獣様のお屋敷のお土産です、焼き菓子と紅茶……」スッ

家政婦「あら、けさ末妹様からお預かりした分は、全てお茶の時間に皆様に召し上がっていただいた筈ですが……?」

末妹「実はあらかじめ取り分けておいたのです、家政婦さんの分」

末妹(それより前にお兄ちゃんが胡桃のサブレだけ何枚か抜き取っているけど……)

末妹「ほんの少しですが、お裾分け」

家政婦「駄目です、受け取れませんわ、紹介所の規則ですから……」

末妹「知っています、だけど……家政婦さんは今日のお仕事の時間を終えて、我が家の門の外にも出ています」

末妹「それなら、プライベートな時間に知人からお菓子と紅茶をもらった」

末妹「……それだったら家政婦さんにご迷惑はかけませんよね?」

家政婦「…………」クス

家政婦「末妹様、本当に貴女には敵いませんわ」クスクス

家政婦「ありがたくいただきます、ね?」ニコッ

末妹「家政婦さん……ありがとう!!」

家政婦「まあ、お礼を言うのは私の方ではないでしょうか?」クスクス

…………

……………………



207 ◆54DIlPdu2E2016/06/04(土) 21:01:32.23k1TrdIsi0 (2/5)

……………………

…………

末妹「短い時間だったけど、お互いの声が思っていたよりはっきり聞こえて、お話ししやすくて助かったわ」

末妹「メイドちゃん、すごく喜んでピョンピョン跳ねていたね」

末妹「菫花さんもお元気そうで……師匠様とお二人で、騾馬の生産者さん達に会いに行く旅の準備ですって」

末妹「料理長さんは冬の間の保存食の準備、庭師君は庭の植物を越冬させる準備……と季節のお仕事が忙しい」

末妹「執事さんは……自分のことは『相変わらずです』とだけ言ってたけれど」

末妹「……鏡越しに執事さんばかり見つめていたお兄ちゃんの事も『相変わらずですね』って……」

次兄「執事さん……相変わらず……」

次兄「そう、執事さんは相変わらず優雅で渋く気高く、内なる勇猛さを秘めてなお美しく……とにかく、よかった……」ウットリ

末妹「……」フゥ

末妹「これも魔法の鏡を使うのを許してもらったおかげ」

末妹「お父さんが私達の気持ちをわかってくれて、信用してくれて、本当によかった」

末妹「……この次は、それぞれの将来の夢の話」

末妹「菫花さんから野獣様の伝言もいただいたよね?」

末妹「『本当に心から望む夢を叶えるためには真の勇気と覚悟が必要だ、頑張れ』って……」

末妹「しっかり自分の気持ち、お父さんに伝えようね、お兄ちゃんも私も」

次兄「野獣様」

次兄「野獣様! 野獣様の激励! 野獣様の鼓舞! 野獣様の期待! そう……俺達には野獣様がついている!!」ドドーン

次兄「…………父さん、俺の口から美術学校に行きたいなんて聞いたらビックリ仰天するだろうなあ……」

末妹「……」

末妹(お酒を飲んだ夜のことは練習、次こそ一回きりの本番よ、頑張ってねお兄ちゃん……)

…………

……………………


208 ◆54DIlPdu2E2016/06/04(土) 22:51:27.45k1TrdIsi0 (3/5)

……………………

…………

末妹の通う、南の港町の学校……

末妹「先生!!」タタタッ

女教師「あら、末妹さん」

女教師「二か月近くお休みして、どうなるかと思ったけれど……今の授業にも問題なくついて来ているようね」

女教師「お友達の皆も安心しているわね」ニコ

女教師「……で、何かご用かしら?」

末妹「あの……先生は、この町のご出身で母校の代用教員からお仕事を始めて」

末妹「隣の市の教員養成学校で集中講義や資格試験を何度も受けて……正規教員になった、と仰っていましたよね?」

女教師「ええ、当時は家庭の事情で長く実家を離れることができなかったので……」

女教師「……楽な道ではないわよ、養成学校に正式に入学し勉強に専念するのと、少なくとも同じくらい大変でしょう」

女教師「尤も、あなたは安易であることを理由に進路を選ぶような子ではないわね」

末妹「」

末妹「どうしてわかったんですか、先生!?」

女教師「おやおや、末妹さんには天職だなあ、とずっと前から思っていたのよ?」

女教師「友3さんにやる気を出させるのなんて、本職より上手なくらいですもの」フフッ

末妹「先生……」

女教師「さて、来年の卒業後の進路相談……で良いのかしら?」

末妹「は、はい、そうです……まだ父には話をしていませんが……」

女教師「それじゃ、取り敢えずはもう少し詳しく話を聞かせてね……相談室にいらっしゃい」

女教師「目標に向かって、これからどのような方法が本当にあなたに向いているのか一緒に考える、今日はその第一歩よ」

末妹「はい、よろしくお願いします!!」

…………

……………………


209 ◆54DIlPdu2E2016/06/04(土) 22:53:46.63k1TrdIsi0 (4/5)

……………………

…………

次兄「父さん……兄さんもいるんだ、それではこの際だから一緒に聞いてもらっちゃいましょう」

次兄「何の話かって? 俺の将来に関する大事な大事な話です!!」バァーンッ

~~~~~~

次兄「えっ知ってた? えっ二人とも? えっお酒飲んだ夜? えっ?? えっ????」

……………………

次兄「なぁ末妹、俺は生涯お酒を飲まないと固く固く心に決めた……」ガックシ

末妹「それで、お父さんのお返事はどうだったの!?」

次兄「ああ、それはね……」

……………………

幼馴染男「やあ、次兄くんじゃないか」

次兄「ふへへ、こんにちはぁ……お義兄(にい)さん予定の幼馴染男さん」

長姉「っちょ、なんで次兄が料理教室にいるのよ!?」

次兄「賄い付きの下宿を探すとはいえ、これを機に料理の基礎だけでも覚えておくといいって、父さんが……」

次兄「俺の場合は食べたらアウトになる食材もあるから、それならなおさら自分で作れる方が、とも言ってた」

次兄「あと兄さんは『外に出て人間と関わる事にも慣れるべき』って」

長姉「…………お父さん達の意向なら仕方ないけど、私に恥かかせるような真似だけはしないでね!? く・れ・ぐ・れ・も!!」

幼馴染男「まあまあ……講師の先生も君の弟なら大歓迎さ」ノホホン

受講生1「……また新しく若い男性が入って来ると聞いたけど、アレの事?」

受講生2「ガキんちょじゃない、しかも将来性も乏しいわぁ(あくまで容姿の面で)」

…………

……………………

そのころ、野獣の屋敷……

……………………


210 ◆54DIlPdu2E2016/06/04(土) 22:54:14.80k1TrdIsi0 (5/5)


※今回はここまで。次回は久しぶりに屋敷サイドを。あと女教師は既婚者※

>>205 あらやだ



211以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/06/05(日) 01:38:40.49vshSBc8dO (1/1)


野獣成分が足りないわぁ(次兄並感)
次兄の良さを分かってくれる淑女がいつか現れたらいいな


212 ◆54DIlPdu2E2016/06/05(日) 22:01:54.376a3lF7RW0 (1/4)

…………

ある朝。

メイド「おはようございます、お庭が真っ白!! 雪ですよ、執事様!」

執事「おはよう。最近ちらつく程度にはあったが、ここまで降ったのは初めてだな」

執事「このまま根雪になるかもしれん」

庭師「通りで冷えると思ったよ、植物たちの冬囲いが終了していてよかった……おはようございまーす」

執事&メイド「「おはよう」」

メイド「そうだ、今日は金曜日ですよね!?」

メイド「今夜はお庭に銀板鏡を持って行って、末妹様達に雪を見ていただくのはいかがでしょう!?」

庭師「えー、この寒いのに外でお話しするのぉ?」

執事「そうだな、窓辺に鏡を持って行くのはどうだろう?」

執事「カーテンを開ければガラス越しに雪が見えるはず」

ドア:カチャ

料理長「メイドちゃん、厨房を手伝ってくれないかね」ノソリ

メイド「はぁい、今行きます!」ピョン

庭師「僕も……寒いけど、バラ達の様子を見て来ようっと」ヒタヒタ

執事「さて、わたくしも師匠様と菫花様がお目覚めになる前にもう一仕事しようか」カチャカチャ

…………

夢の世界。

(野獣「屋敷の庭に雪が積もったか」)

(王子「庭師君と僕の作業が済んだ後でよかったけど……バラ達はあれで本当に冬を越せるのかな……」フアンゲ)

(野獣「もう『魔法の』バラではないからな……」)

(師匠「ふむ」)



213 ◆54DIlPdu2E2016/06/05(日) 22:03:17.576a3lF7RW0 (2/4)

(師匠「昔、魔術師ギルドの花壇に誰も植えた覚えのないバラがあってな」)

(師匠「誰か出入りの者が鉢植えを持て余したかして、人目を忍んでこっそり植え替えて立ち去ったのだろうが」)

(野獣(花泥棒の逆は何と呼ぶのだろうか?))

(師匠「もちろんそんな状態だったから、皆、花壇の世話の際に水をやるくらいはしていたが基本ほったらかしで」)

(師匠「毎年、春先に雪の中からボロボロの茎だけの状態で表れるのに、時季にはしっかり花が咲いていた」)

(師匠「それよりは間違いなく屋敷のバラは手をかけられているのだ、心配するな」)

(王子「……丈夫な種類は本当に丈夫ですからね、でもうちのバラには本来は繊細な種類もあるのです」)

(野獣「それにうちのバラは末妹が楽しみにしているバラですよ、ただ咲けば良いのではなく『美しく』咲かせなくては」)

(師匠「わかったわかった、デリカシーに欠ける発言をして悪かった」)

(師匠「それはそれとしてな、菫花。お前と儂はしばらくこの屋敷を留守にするのだから、心配しても仕方ないのも事実だぞ」)

(師匠「庭師を信用して任せるがいい、野獣だって助言できるのだからな」)

(野獣「そう言えば明日からでしたか、紹介していただいた騾馬の牧場を訪ね歩く旅行は」)

(野獣「……しかし森を出るまで瞬間移動ならば、全部瞬間移動にしてしまえばすぐ済むのでは?」)

(師匠「お前はわかっとらん」)

(師匠「敢えて魔法は使わず普通の人間として旅をすることに意義があるのだ、菫花にとってはな」)

(師匠「この時代で人々がどんな暮らしをし、そして200年以上の間にどれほど人の世が変わったか肉眼で見て手で触れ」)

(師匠「あの兄妹以外の人間と出会うことで得るものも大きいだろう」)

(王子「……君の分まで外の世界を見て来るよ、野獣」)

(王子「僕が一生かかって見る世界の、今回はその第一歩に過ぎないけど」ニコ)

(野獣「……もう、恐れはないのか?」)

(王子「うん、末妹さんと次兄君が勇気をくれたし」)

(王子「……まあ、何よりも師匠が一緒ですから、ね?」)

(師匠「…………」ニヤリ)

(野獣「 」)



214 ◆54DIlPdu2E2016/06/05(日) 22:04:15.566a3lF7RW0 (3/4)

(野獣(企んでいる、絶対何か企んでいる……)ドキドキ)

(王子「どうしたの、野獣?」)

(野獣「い、いや……頑張れよ、何事にも負けるではないぞ?」ポン)

(王子「あ、ありがとう??」??)

(王子「……僕はそろそろ『目覚め』ますね、庭師君がバラ園の様子を見に行ったので、話を聞かないと」)

(師匠「ああ、また朝食の時にな」)

(野獣「また夜に会おう……」)

(野獣「……」)

(野獣「……鍛えるためとか言って、旅先であまり菫花を苛めないでやってくださいよ?」)

(師匠「うん? 何の事かなぁ?」ムフフ)

(野獣「……」フゥ)

(野獣「……少なくとも月末までは戻らないんでしたっけ」)

(師匠「ああ」)

(野獣「師匠達がいないと、使用人達には屋敷を守る以上の仕事がなくなりますね」)

(師匠「うむ、そう思って騾馬小屋の内装の仕事を頼んだ」)

(師匠「器……外観だけは出来上がっているが、今はまだ何もないただの小屋」)

(師匠「必要な材料は調達済みだが、何枚も図面を描いて、この通りに作ってほしいと」)

(野獣「それは……いくら一頭分の小さな飼育小屋とはいえ、あの者たちには荷が重い作業ではありませんか?」)

(師匠「執事は優秀だ、皆も働き者だ」)

(師匠「それに、困った時はお前が助けてやれる」)

(師匠「だいたい我々が旅から帰るまでに完成していなかったとて、彼らを責め立てるつもりは毛頭ない」)

(野獣「……優しいですね、師匠」)

(師匠「ん? 儂が厳しく当たるのはお前と菫花くらいだぞ?」)

(野獣「いや、執事達を叱らないという話ではなく、皆が寂しくならないように仕事を与えてくださったのでしょう?」)
 


215 ◆54DIlPdu2E2016/06/05(日) 22:04:56.076a3lF7RW0 (4/4)


※ごめん、めっちゃ半端だけど眠い。もう少し屋敷サイド続く……※



216以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/06/06(月) 01:16:39.086J8iONPpO (1/1)

おやすみ
師匠が楽しそうで何より


217 ◆54DIlPdu2E2016/06/09(木) 23:07:20.96boZV8Xhq0 (1/4)

(師匠「本来はお前に尽くすことが、今はお前の意思に従って、菫花や儂のため目に見える仕事をすることが」)

(師匠「あの者たちの存在意義だからな」)

(野獣「本当に……師匠には感謝しています、私の使用人達を受け入れ、仕事を与え、守ってくださる」)

(師匠「儂が動物嫌いじゃなくてよかったな?」)

(野獣「全くです」)

(師匠「……お前達に、この屋敷に関与することができず、鏡で見守るしかできなかった頃」)

(師匠「獣の使用人達も、あの兄妹も、実に健気にお前の事を想い続け再会の日を楽しみにしていた」)

(師匠「……彼ら彼女らの存在を知らずにいたままならば、お前や菫花との儂の関わり方も、もしかしたら違ったかもしれん」)

(野獣「師匠」)

(師匠「もしもの話を始めたら果てしが無いわな。重要なのは未来と……現在だ」)

(師匠「さしあたって儂は現在、腹が減ったので目覚める」)

(師匠「で……今日は金曜日だな、末妹や次兄に伝言があれば承るぞ?」)

(野獣「二人も家族も息災ならば言う事はありませんが」)

(野獣「……師匠と菫花の旅の無事を二人にも祈っていてほしいと、それくらいでしょうか」)

(師匠「わはは、わかった、伝えておこう」)

(師匠「では、また今夜に、な」)

(野獣「は、はい。お疲れ様でした……」)

(野獣「……」)

(野獣「師匠と菫花のこの世界での旅……どんなものになるのか、不安要素がないでもないが」)

(野獣(今回の不安とは主に身内にあるわけで))

(野獣「それでも楽しみの方が大きい……菫花よ、私の分まで世界を見て来ると言ったな」)

(野獣「旅から帰った時、お前の目に映ったものを余すことなく私に教えておくれ……」)

……



218 ◆54DIlPdu2E2016/06/09(木) 23:08:02.28boZV8Xhq0 (2/4)

その夜……

末妹「まあ、師匠様と菫花さんが?」

鏡越しのメイド『ええ、あっちこっちの騾馬さんの牧場を巡る旅行ですよ!』

鏡越しの王子『君達ふたりのおかげで、前向きな気持ちで旅立てます』

末妹「きっと素敵な旅になりますよ、それに師匠様がいらっしゃれば怖いものなしですね!」

末妹「野獣様も楽しみにしていらっしゃるでしょうね……」

王子『ええ、野獣も頑張れと応援してくれたし、彼にも良い報告ができる旅にしますよ』

鏡越しの師匠『……』ニヤァ

次兄(……今、執事さんの斜め背後にいたおっさんの口角がイヤな感じで持ち上がったような……?)

鏡越しの執事『おふたりが不在の間に、我々は馬小屋の内装作業を仰せつかりました』

鏡越しの庭師『へへ、お屋敷から渡り廊下でつながっているんですよ!!』

鏡越しの料理長『快適な場所になるよう、わしらも頑張ります』

王子『僕も今から完成が楽しみです』

次兄「……しかし、飼うとしたら若い騾馬でしょ? 執事さんを怖がらないかな」

執事『鏡越しにわたくしを見つめたまま普通に会話に参加されるのはいかがなものでしょう』

王子『執事さんの使い古しの手袋と、換毛期に出た抜け毛を少し、瓶に密封して持って行きます』

次兄「」ピク

王子『道中、執事さんの匂いに慣れさせておけば、家に来てから少しでも早く馴染んでくれるのではと……』

次兄「……その瓶詰め、旅行から戻ったら俺に譲っ、いや売ってくれません!?」

鏡越しの師匠『はいはいそろそろ時間切れだ、君達も儂とこいつの旅の無事を祈っていてくれ』



219 ◆54DIlPdu2E2016/06/09(木) 23:09:11.47boZV8Xhq0 (3/4)

末妹「はい、お元気で……頑張ってくださいね菫花さん」

王子『ありがとう、今度は来月の第一金曜日にお会いしましょう』

メイド『また来週、末妹様ぁ』フリフリ

末妹「メイドちゃん、皆さんも……小屋造り頑張ってね、野獣様によろしく」

次兄「あのー、執事さんの瓶詰めはぁぁぁ」

鏡『ジカンギレデース』フッ

次兄「そんな殺生なぁぁぁぁぁ」

次兄「……くっ、今後も粘り強い交渉が必要だな……まだ諦めてはいけない」ブツブツ

末妹「……本当に、良い旅になりますように……野獣様のためにも……」

末妹「……あちこちって、この国のいろんな地方だっけ」

末妹「うちの馬が生まれたお父さんのお友達の牧場、確か騾馬も育てていたはず……」

末妹「旅の途中で、師匠様がまたうちの店にふらりと紅茶を買いに来たりとか?」

末妹「……なんて、そんなことないか」フフッ

……

師匠「さぁて、路程を確認するぞ菫花」ガサガサ

王子「はい、あれ……地図上のこの印、南の港町の郊外に?」

師匠「おお、ここの牧場も立ち寄るぞ、宿も儂の知っている宿に決めてある」

師匠「ついでに商人の店で買い物もしような」

王子「いいですね、商人さんのお店はいい品揃えだと思っていたんですよ」

師匠「……一人でお使いできるかなぁ?」ククク

王子「え? 何か言いました?」

…………



220 ◆54DIlPdu2E2016/06/09(木) 23:09:52.08boZV8Xhq0 (4/4)


※今夜はここまで。こんどの週末はちょっと多忙なので更新ないと思ってください……※



221以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/06/10(金) 00:44:30.392nMnQtNKO (1/1)


誰にも内緒で(王子にすら)お出かけなんです?


222 ◆54DIlPdu2E2016/06/15(水) 22:48:36.38BspspYZr0 (1/4)

少し時間を遡って数日前、野獣と師匠……

(師匠「お前、魔法を学びに来る時の色眼鏡とか平民らしい服とか……どうやって手に入れた?」)

(野獣「ああ、それは……まず、園丁の作業小屋にお金と欲しい物を書いた手紙を置きます。夜中にこっそりと」)

(師匠「ふむ」)

(野獣「数日くらい後、私が寝床に就く頃、掃除婦が私の部屋を5回ノックしたなら合図です」)

(野獣「園丁の作業小屋に届いている注文の品物を取りに行くのです。夜中にこっそりと」)

(師匠「ちょっと待て」)

(野獣「何か?」)

(師匠「王や王妃が用意した物以外の……」)

(師匠「お前の個人的な所有物は、何もかもその方法で手に入れたのか?」)

(野獣「その園丁はお金さえ払えば両親には秘密に頼まれた通りをこなしてくれる人物でしたから」)

(師匠「品物の代金、園丁自身の手数料、協力する掃除婦……だけではないな、実際に店に向かう者達の交通費と手数料……」)

(師匠「例えばお前がギルドに来る時にいつもかぶっていた帽子、あれにはいくら使った?」)

(師匠「帽子の代金とその他の経費全て込みで」)

(野獣「えーと……あの時は確か、金貨で……●●枚ほど」)

(師匠「…………釣り銭は受け取ったか?」)

(野獣「お釣りをもらったことはありませんが?」)

(野獣「余ったら全て園丁のものにしてくれと、あ、もちろん不足分は間違いなく請求してくれともちゃんと伝えています」)

(野獣「不足があったとは一度も彼は言いませんでしたが」)

(師匠「世間知らずにも程があるわ!!」)

(野獣「」)
 


223 ◆54DIlPdu2E2016/06/15(水) 22:50:22.50BspspYZr0 (2/4)

(師匠「あの安物のペラッペラの帽子のために……金貨●●枚……」トホホ)

(師匠「……しかし、それから一人で外出するようになって理解しただろう? 世の中の、相場というものを」)

(野獣「……個人的な外出は魔法を習いに行く時だけでしたが」)

(師匠「寄り道もせず、城と魔術師ギルドを往復するだけだったのか?」)

(野獣「余計なことをして身分が知られても困りますし」)

(師匠「それはそうだが……」)

(野獣「あ、そう言えば園丁の小屋に取りに行く以外の買い物をした事ならありますよ?」)

(野獣「配達先をこの屋敷……当時の父王の別荘にしてもらったことはあります。バラ園のための肥料」)

(師匠「同じことだバカタレ、と230年前の貴様を今さら叱りつけたとて……」)

(師匠「…………」)

(師匠「今度の旅行で、儂はあいつに社会経験を積ませるつもりだが……」)

(師匠「……………………」)

(師匠(よし、決めた!!))

…………

……………………

旅先の師匠と王子……南の港町のとあるカフェにて

王子「え? 宿に入る前に買い物ですか?」

師匠「おう、主人と従業員二人だけで切り盛りしている宿だが、儂が長期滞在した際に何かと親切にしてくれて、な」

師匠「ちょっとした手土産でも渡して、感謝の気持ちを表したい」

王子「そうですか、では師匠にお供しますよ、お店に向かいましょう」
 


224 ◆54DIlPdu2E2016/06/15(水) 22:52:12.83BspspYZr0 (3/4)

師匠「……話は終わっとらん。ここはぜひ、儂の自慢の息子が選んでくれた品を送りたくてなぁ」

王子「は?」

師匠「予算はこんなものか」チャリンチャリン

師匠「今の時代の貨幣に両替済みだ、商人の店だぞ、このカフェからはほど近い」

王子「商人さんの」

王子「……って、地図はあるんですか!?」

師匠「近いと言っただろう、通行人に聞けばすぐにお前ですらわかる」

王子「そうだ、手鏡に呪文をかけて魔法の鏡に」

師匠「今回の旅で魔法は使わせんと言っただろうが」

師匠「なあに、この町の人間は割と親切だぞ、心配するな」

王子「ぼ、僕のセンスの悪さはご存知でしょう!?」

師匠「店員にお勧めを聞けば良いではないか、予算と目的を伝えれば、いい感じに見繕ってくれる」

王子「いいかんじに」

王子「店員……そうか、末妹さんや次兄君がいるんだ」

王子「それなら安心です、気が楽になりました」ホー

師匠「ああ、頑張って行って来い。期待しているぞ?」

師匠「お前が戻るまでここで時間を潰している、カフェオレが美味い、気に入った」

王子「はい、行って来ます」

師匠「…………」

師匠「少女は学校にいる時間、少年はさきほど図書館へ出かけたばかり」

師匠「鏡の魔法でこっそり確認済み」

師匠「さて、誰が出るかな……」ククク



225 ◆54DIlPdu2E2016/06/15(水) 22:52:41.27BspspYZr0 (4/4)


※今回はここまで。次回、王子に最大の試練が訪れる(のか?)※



226以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/06/16(木) 00:56:07.10VxWS7ViaO (1/1)

はじめてのおつかい!
店番があの人だったら、王子どうなってしまうのん(ワクワク


227 ◆54DIlPdu2E2016/06/19(日) 01:02:21.76HClA/mqo0 (1/5)

師匠「……そう言えば『あの恰好』そのままで行かせてしまったが」

師匠「一人で行動中の姿が『アレ』では不審がられるかもしれん、ま、それも勉強の一環だわな」

師匠「世の中には様々な人間がいると改めて体で学ばせ、そして自分の頭でモノを考えて行動させなくては」

師匠「ああ給仕さん、カフェオレおかわり」

……

王子「……」ウロウロ

王子「あそこにいる男の人に道を聞いてみよう」

王子「あ、あの、すみません……」

中年男性「」ビクッ

中年男性(な、何者だ? 確かに今日は少し寒いがマフラーで口どころか鼻まで完全に覆って)

中年男性(帽子は目深に被って、どころか目元までほぼ隠れているぞ、人相がわからん)

中年男性(怪しい、ま、まさか辻強盗ではあるまいな!?)

中年男性「い、急いでいるので、じゃっ!!」ソソクササササササ

王子「あ、待っ……」

王子「……行ってしまった」

王子「もしかしたら、この恰好がまずかったかな?」

王子「……屋敷を出て、森を抜け、最初の町に着いたらやたらと女性がこっちを見てきたりじわじわ近付いて来たり」

王子「初めは『僕と師匠を』見ているのかなと思って口にしたら」

王子「師匠に馬鹿にされたっけ、『お前しか見とらんわ』って……」

王子「数日間の滞在中、だんだん町の女性達がやたらと親しげに話しかけて来るようになって」

王子「町の男性達は逆になんとなく冷たくなって」

王子「……考えた末、次の町では顔を隠すようにしたら、ぱたりと収まった」
 


228 ◆54DIlPdu2E2016/06/19(日) 01:04:39.96HClA/mqo0 (2/5)

王子「……」

王子「なんというか、女性が230年前に比べたら積極的と言うか」

王子「尤も、昔の僕の立場とか、あの時代の小国の庶民はみんな困窮していたのもあるし」

王子「とりあえず今の自分の気持ちだけで言うと」

王子「率直に、怖い」

王子「…………慣れれば平気になるのかなあ」フゥ

王子「しかし今の僕には優先すべき目的がある」

王子「こんどはあっちの若い男性に尋ねてみよう」トトト

王子「……あの、すみません、(こんな格好ですが)怪しい物ではありません」

幼馴染男「え、僕ですか?」

王子(よかった、警戒している様子はない)

王子「えーと、実は……商人さんのお店に行きたいのですが……」

幼馴染男「ああ、それでしたら……この道をこう行って、緑の屋根の三階建の家の角を左に曲がって……」

王子(わかりやすくて丁寧だ、ありがたいなあ)

幼馴染男「……本来ならご一緒して道案内差し上げたい所ですが」

幼馴染男「これから仕事の関係で、港まで人を出迎える用事があるので、申し訳ありません」

王子「いいえ、非常にわかりやすく教えていただき、これなら辿り着けそうです」

王子「お忙しいところ引きとめて申し訳ありませんでした、ありがとうございます」

幼馴染男「お役に立てたなら光栄ですよ、では」ニコ

王子「……いい青年だな、僕と同い歳くらいに見えたけど……」

王子「さて、方向はこっちだったな。緑の屋根緑の屋根……」

……


229 ◆54DIlPdu2E2016/06/19(日) 01:06:14.16HClA/mqo0 (3/5)

商人の店

次姉「無理して手伝ってくれなくてもよかったのに、私一人で充分よ」

長姉「だって……料理教室がない日、お父さんと兄さんは取り引き先へお出かけ」

長姉「末妹は学校、次兄には図書館へ逃げられた」

長姉「……天文学者先生ご夫婦が旅から戻られて、今日は西の島国から来る研究者さんをお迎えするからって」

長姉「幼馴染男も忙しい」

長姉「暇しているくらいならあんたと二人で店番している方がずーーーっと有意義だわ」

次姉「有意義、ね」

次姉「姉さんからそんな言葉が出てくるなんて、でも素直に嬉しいわ、ありがとう」フフ

呼び鈴:チリリン…

長姉「お客様ね」

次姉「いらっしゃいませ」

王子「」

長姉「」

次姉「……(顔が見えない)」

長姉「ちょ、次姉、お客様とは言えなんなのこの怪しいの!?」ヒソヒソ

次姉「しっ、様子を見て、話が通じそうな相手ならやんわり注意してみる」ヒソヒソ

次姉「とりあえず姉さんは私より後ろにいて?」ヒソヒソ

長姉「乙女だけの店番の日に限って、なんでこんなのが来るのよ……」ボソボソ
 


230 ◆54DIlPdu2E2016/06/19(日) 01:07:52.53HClA/mqo0 (4/5)

王子「…………」

王子(どうしよう……野獣として鏡越しに初めて見た時から)

王子(このお二人はなんか苦手だ)

王子(次兄君と末妹さんのお姉さんだし、最初の頃よりずっとあの子達への態度が柔らかくなったとは言え)

王子(実際にお会いしてわかった、自分でも認めざるを得ない)

王子(単純に僕自身、こういうタイプが怖いのだと……)

次姉(……なんなの、突っ立ったまんま動かないし一言も発しない)

次姉(だからと言って、敵意は全く感じないのだけど、それどころか)

次姉(なんだか……私の暴力を必要以上に恐れている時の次兄のような空気を纏っている……?)

次姉(あと……おそらく男性? で、身長は私と同じくらいだけど、まるで鍛えてはいない、明らかに鍛えた試しはない、と見た)

次姉(よし、変だけど少なくとも危険なお客様ではないと確信したわ!)

次姉「お客様、どのような品をお探しでしょう?」ニコリ

王子「」ビクッ

王子「えええええ、ええと、師しょ、いえ、父からですね、つつつつつ、使いを頼まれまして」カタカタカタカタ

長姉「……何これ?」

次姉「姉さん、声もっと潜めて」ヒソヒソ

次姉(……どうしよう、うちの店はそんなに格式高いつもりはないけれど、やはり顔が全く見えないお客様と言うのは……)

次姉(何か気の毒な深い事情があるのかもしれないから、無理強いはしないけれど)

次姉(一度だけ、注意を促してみようかしら?)
 


231 ◆54DIlPdu2E2016/06/19(日) 01:08:22.59HClA/mqo0 (5/5)


※今回ここまで。王子の受難(?)は現在進行形※



232以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/06/19(日) 01:50:53.54utIjduf2O (1/1)


幼馴染男とかいう誰とでも仲良くなれそうな聖人


233 ◆54DIlPdu2E2016/06/20(月) 00:26:35.93WjQSXcpS0 (1/4)

次姉「あのうお客様、失礼は承知で申し上げますが……」

次姉「店内では……そのマフラーは少々……暑苦しくはありませんでしょうか??」

王子「」ビクッ

王子(そ、そうだよな、こんな異様な風体の客を相手にするのは、しかも女性店員だけで)

王子(ちゃんとここで買い物をしなくては師匠のお使いにならないんだ、ここは……)グッ

次姉「あ、お客様がお困りでなければ」

スルスルスルスル……パサリ

王子「……仰る通りです、こちらこそ失礼致しました」

長姉「ちょ」

長姉「ちょちょちょちょっと、なんなのなんなの、このあり得ないほどの美形!?」ペチペチペチペチ

次姉「姉さん私の背中を連打しない」

次姉「お客様、気になる品物がありましたら、どうぞお手に取ってじっくりご覧くださいませ」エイギョウスマイル

王子「……は、はい」

長姉「あんたなんでそんな冷静でいられるのよ!?」ヒソヒソ

次姉「姉さんこそ何はしゃいでいるのよ、そもそも婚約中の身で」ヒソヒソ

長姉「目の保養よ、目の保養!! 恋愛感情とかテーソーカンネンなんかとは別のもの!!」ヒソヒソ

次姉「調子いいんだから、全く……」ハァ

次姉(……目の保養って言葉で思い出した)

次姉(このお客様、元王子様の菫花さんて人の、末妹が話していた容姿そのまんまな気がするけれど……?)

次姉(……元王子、元とは言え王族……)

王子「……」
 


234 ◆54DIlPdu2E2016/06/20(月) 00:28:08.29WjQSXcpS0 (2/4)

王子(どうしよう、お手に取ってとか言ってくれたけど、そもそもどういう系統の物を買えば良いのかすら……)コンワク

次姉(……普通は若くても威厳とか貫禄とかを、もっと醸し出しているのでは??)

次姉(やっぱり違うのかしらねぇ)

長姉「ちょっとっ、次姉だって見惚れているじゃない!!」ヒソヒソ

次姉「って姉さん、そんなんじゃないわよ」ヒソヒソ

次姉「このお客様、末妹と次兄の友達って人じゃないかしら、って思っていたところ」ヒソヒソ

長姉「!?」

長姉「……た、確かに言われてみれば……」ヒソヒソ

長姉「背丈、体格、髪の色、ひとみの色、肌の白さ、見た目年齢……」ボソボソ

長姉「よーし、ここは長女の役目として可愛い弟妹のお友達を」ズイ

次姉「待って」グワッシィ

長姉「あう」

次姉「まだそうと決まったわけじゃないし、こうやって店に来たからにはお客様よ」グググ

次姉「私の勘ではこの人ちょっとめんどくさいタイプと見た、だから好奇心に任せた余分な行動は慎んで、ね?」ググググググ

長姉「わ、わかったわかった、だから両肩に食い込む指をちょっと緩めて……」

長姉「……あっ、でも、ちょっとツボに入っていい感じかも……」

次姉「確かに肩張っているのね、ついでだからちょっとだけマッサージしたげる」ワッシワッシ

長姉「はうう~」

次姉(やっぱり胸が重いせいかしら)

長姉「……ありがと、なんかおかげで気持ちも落ち着いたわ」ホゥ

次姉「たった5秒のマッサージに思わぬ効果が」

王子(……どうしよう、何を買おう、やはり相談したほうが良いのだろうか……うむむむ……)チギシュンジュン

……
 


235 ◆54DIlPdu2E2016/06/20(月) 00:29:35.14WjQSXcpS0 (3/4)

再びとあるカフェ……

手鏡「……イカガデス?」

師匠「ふむ、次女はともかく、長女が店にいるとは読めなかったのう」

師匠「とは言うものの、菫花が世間に出れば顔で難儀するのはわかっておった」

師匠「女性をほどほどにあしらう技も少しは身につけねば」

師匠「それ以前に、気の強そうな女性はあいつの母親を思い出させて苦手かも知れんが……」

師匠「『気の強い女』で一括りにして逃げ回っていても進歩はないからな」

師匠「馬は乗ってみなければわからんのと同じ、人も接してみなければわからん」

師匠「……まあ、なんにせよ儂は楽しいぞ」グフフ

手鏡「ダンナモワルデスナァ」

師匠「どれ、ちょっと別の場所を」

師匠「……お、だれか住居側の玄関に帰って来たようだな?」

鏡越しの家政婦『……様、お帰りなさいませ……』

……

商人の店……

次姉「……迷っておられるようですねお客様、よろしければ用途を教えていただけますか?」

王子「よ、よーと……?」

次姉「ご自宅でお使いになりますか、ご贈答用ですか?」

王子「あ……」

(師匠「店員にお勧めを聞けば良いではないか、予算と目的を伝えれば、いい感じに見繕ってくれる」)

王子(よし、ここは意を決して……!)キリッ
 


236 ◆54DIlPdu2E2016/06/20(月) 00:30:32.98WjQSXcpS0 (4/4)


※ここまで。お買いもの編、引っ張りすぎてすみません……※

>>232
長姉を子供のころから好きであり続ける男子……と思ったら、おおらかでやや天然系しか思い付かなかった



237以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/06/20(月) 02:21:32.66pHFOF6TIO (1/1)

師匠の楽しい気持ちが解り過ぎて困る
なんだかんだで仲良い長姉と次姉にもホッコリ


238 ◆54DIlPdu2E2016/06/26(日) 20:36:33.74MoorvJR70 (1/8)

…………

家政婦「末妹様、お帰りなさいませ……と、次兄様もお帰りなさいませ」

次兄「ただいま」ニョン

末妹「帰り道でぐうぜん出会って、一緒に帰って来たの」

次兄「さて、俺は早いとこ店に出ねば」

次兄「末妹から聞くまで、兄さんが今日は家にいる日だと思ってたよ」

末妹「お父さん、今朝は冷え込んだせいか腰が痛いって話していたから……心配で一緒に行ったの」

次兄「マジで知らなかったんだよ」

次兄「姉さん達は俺が図書館に逃げて長姉ねえさんに店番を押し付けたと思っているだろうなあ」

次兄「今頃、俺の悪口大会で盛り上がっていると思うと」ガクブル

末妹「考え過ぎよお兄ちゃん、ありのまま話せばふたりとも怒ったりしないわ」

次兄「……末妹を疑うわけじゃないけれど、俺への信用なさはお前の想像を超えている……ん」

次兄「家政婦さん、そこの……籠に盛ったほんのり甘い香りの物体は?」

家政婦「あ、これはご休憩の際にお二人に召し上がっていただこうと用意した焼きメレンゲです」

家政婦「と言ってもお客様の訪れる合間に不定期なお休みしか取れませんから」

家政婦「口に長く残らず軽くつまめるお菓子を、と……」

次兄(……ひらめいた!)ピコーン

次兄(いかにも女子ウケの良いアイテムを携えて登場すれば、どさくさに紛れつつご機嫌取りができるに違いない!!)

次兄「家政婦さん! それ運ばせてください、俺どうせこれから店に出るんだし!!」

末妹「お兄ちゃん?」

…………


239 ◆54DIlPdu2E2016/06/26(日) 20:38:27.40MoorvJR70 (2/8)

次姉「ご自宅でお使いになりますか、ご贈答用ですか?」

王子「あ……」

王子「…………あ、あの……お世話になった方への、お

住居と店舗を繋ぐドア:バーン!!

次兄「美しく働き者の素晴らしいお姉様がた、小休止にしませんこと!?」

末妹「待ってったら、今はお店にお客様が」

次姉「」

長姉「  」

王子「        」

末妹「……!?」

次兄「                    っうぇ??」

次姉「……お客様がいるのに何やってんのよあんたは!?」

末妹「ご、ごめんなさい!!」

次姉「末妹じゃなくて」

長姉「何が素晴らしいお姉様だか、逃げたくせに」

末妹「それは誤解で」

次兄「俺の口からちゃんと説明するよ、ささ、まずは座ってお菓子でも」

次姉「だから、お客様がいるのよ!」

王子「ぼ、僕のことならお構いなく、ご家族の問題を優先してください!!」

次姉「お客様は黙っててっ!!」クワッ

王子「 」



240 ◆54DIlPdu2E2016/06/26(日) 20:40:52.99MoorvJR70 (3/8)

次姉「……じゃなかった!! あわわ、失礼しました!? ……ああもう何がなんなのよ!?」

長姉「あんたのせいよ次兄!!」

末妹「あの……菫花……さん……?」

次兄「……あ、立ったまま気絶してる」

次姉「なんですって!?」

長姉「た、確かにさっきの次姉は怖かったけど」

…………

師匠「……どうしたことだこの混沌は」

師匠「とりあえずもう少し見守るか」

…………

末妹「しっかりしてください、しっかりして、菫花さん」

長姉「ってことはやっぱり、この人あんた達の友達の」

次姉「あああ目は開いているのに意識がないわ」オロオロ

長姉「あれ、元凶(次兄)はどこ行ったの」

次兄「ちょっと皆よけて、これがあれば……」トテテ

毛布:ブワサァ

次姉「ちょ、あんた何を」

スボッ

次姉「お客様!?」

次兄「末妹、完全にくるんであげて」

末妹「う、うん」ゴソゴソ



241 ◆54DIlPdu2E2016/06/26(日) 20:42:52.79MoorvJR70 (4/8)

毛布の塊「……」

末妹「……菫花さん……?」

毛布「…………はい」ボソッ

長姉「喋った」

毛布「……み、皆さんには、みっともない所を……」ボソボソ

次姉「ハッ」

次姉「お、お客様、椅子をお使いください」ズリズリ

末妹「ありがとうお姉ちゃん、ほら菫花さん、このまま座って?」ユウドウ

毛布「……」トン

末妹「……落ち着きました?」

毛布「ええ……お陰様で、ごめんなさい」

次兄「うーん、安定のメレンゲより脆いメンタル」

次姉「誰のせいで……いやそれより」

次姉「お客様、本当に先程は失礼致しました……勢いでつい」

次兄(鬼の形相でした)

毛布「わ、悪いのはこちらです、僕が頓珍漢な事を口走ったばかりに……」

毛布「……そもそも、買い物が目的であっても次兄君と末妹さんのご家族に、最初の挨拶もなしに」

次兄「おっさんは一緒じゃなかったの?」

毛布「僕一人で買い物に行けと……おつかいを頼まれました」

末妹「もしかして、この町の郊外の牧場へ?」

毛布「え、ええ……騾馬の生産もされているとのことで」



242 ◆54DIlPdu2E2016/06/26(日) 20:46:43.51MoorvJR70 (5/8)

毛布「滞在はこの町の宿ですが、以前に師匠が泊まった時にお世話になったとかで」

毛布「ご主人と従業員の方に、手土産を渡したいと、それでおつかいを」

次姉「……先方様について、もう少し詳しく教えていただけますか?」

毛布「あ」

毛布「えーと、確か……北通りに位置する宿で……」

毛布「ご主人は40代半ばの男性、従業員さんは20歳前後の若い女性ひとり、と聞いています」

毛布「あ、あと預かった予算の金額は……」

次姉「……承知いたしました」スッ

次姉「ちょっと手伝って、姉さん」

長姉「私? いいけど」スッ

次姉「末妹と次兄はお客様のそばにいてね」

末妹「は……はい」

次姉「心当たりのある宿屋はあるわ、うちから年一回、宿泊者用の石鹸をまとめて届けている小さな宿よ」

長姉「ん? うちから消耗品を定期的に仕入れている宿は二軒、どっちもそこそこ大きな所じゃなかった?」

次姉「お得意様名簿に載ってはいるけど、正式契約してはしていないの」

次姉「ぶっちゃけた話、消耗品全てをうちから仕入れられるほど儲かっている宿じゃないもの」ヒソヒソ

次姉「それでもご主人のこだわりなのか、せめて石鹸だけでも良い品を使いたいらしく」

次姉「同じ品では微々たる差とは言えうちが一番安く、それ以上に粗悪品が混ざらないって信用もあるから……でしょうね」

次姉「ま、とにかく、予算内でとなると」サッサカ

次姉「姉さんはこっち持ってて」ホイ

長姉「う、うん」



243 ◆54DIlPdu2E2016/06/26(日) 20:50:52.76MoorvJR70 (6/8)

次姉「お客様、こちらの商品はいかがでしょう……っと」

毛布「」

末妹「菫花さん、もう、大丈夫……ですよね?」ソッ

毛布「ハッ」

毛布「す、すみません、いつまでも何やっているのでしょう、僕ときたら本当に……」モゾモゾ

次兄「では御開帳~」ピラッ

毛布:バサリ

王子「……選んでくださったんですね」

次姉「宿のご主人にはこちらのサスペンダー」

次姉「従業員の女性には姉が手にしておりますこちらのスカーフを」

次姉「いずれも最近入った品ですので、お手持ちと被ることもまずないと思われます」

次姉「お値段は……になりますが、よろしいですか?」

王子「……どちらも素敵に見えます(が、僕のセンスでは正直よくわかりません)」

王子「(でも、選んでくださったのだから)きっと気に入ってくれますね(たぶん)」

次姉「ではこちら、お包み致しますね」

長姉「好みもわからない相手に装飾品?」ヒソヒソ

次姉「これなら価格的には普段使いのレベルよ、無難なデザインだし」

次姉「それにね、年一回の石鹸を届ける日がちょうど先月末でね、私が行ってきたの」

次姉「出迎えてくれたけど、革の擦り切れたサスペンダーと色褪せてほつれかけたスカーフで……そういうこと」

長姉「それを早く言ってよ、あんたったら」

次姉「ふふ、ごめん」
 


244 ◆54DIlPdu2E2016/06/26(日) 20:52:22.59MoorvJR70 (7/8)

王子「…………」ボー

末妹「……菫花さん、のど乾いていませんか? はい、お水」ニコ

王子「は、はい、ありがとう……」ゴクゴク

次兄「うちのスタッフの休憩用でよければ、メレンゲの焼き菓子……お好きなフレーバーをお選びくだされ」ニヘヘ

次兄「あ、この薄茶色いのは胡桃が入っているから駄目(俺のもの)ね」

王子「は、はい……じゃあこのピンク色の、木苺味かな……」サクサク

王子「……甘酸っぱくておいしい」サクサク

王子「……ふう、ありがとう、おかげですっかり落ち着いたよ」

末妹「よかった」ホッ

次姉「お客様、緑のリボンが掛かっているのがサスペンダー、赤いリボンの包装がスカーフです」

師匠「これは丁寧な包装だの、ありがとうお嬢さん」ヌッ

次姉「!?」

末妹「師匠様!?」

次兄「おっさんっ!?」

長姉「いつの間に!?」

王子「し、師匠ぉぉ!?」

師匠「お、すまんすまん、驚かせるつもりはなかったのだが……呼び鈴をもっと派手に鳴らすべきだったかな?」

師匠「儂は、実に地味でおとなしくて物静かで目立たなくて控え目な人柄……とよく言われるのでなあ」ハッハッハ

王子(誰に?? 誰に言われるんですか??)

次姉(物音どころか気配すらしなかったけど……)

次兄(魔法だ、ぜったい魔法使って入って来たんだ)
 


245 ◆54DIlPdu2E2016/06/26(日) 20:53:21.53MoorvJR70 (8/8)


※とりあえずはここまで※



246以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/06/27(月) 01:03:37.56cxeHZxJkO (1/1)

毛布ww
王子のヘタレさを嘆くべきか、次姉の恐ろしさに戦くべきか…


247 ◆54DIlPdu2E2016/07/02(土) 00:09:04.72WpDFpOFz0 (1/1)


※土日更新なしです、ごめんなさい…※

余談:留守番アニマルズの食事は王子による食材購入魔法を師匠の力で遠隔操作して解決
夢で毎晩野獣とお話ししています
いずれ閑話休題的に、獣しかいないお屋敷の様子も本当にちょっとだけ書くつもり…


248以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/02(土) 01:05:31.00hosMemWaO (1/1)

oh…残念
でもその設定に癒された


249 ◆54DIlPdu2E2016/07/07(木) 20:24:34.11puF4Wqry0 (1/1)


※お知らせ※
今週入ってから熱出してダウンしていました……回復してきたので近日中に復帰予定です


250以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/08(金) 05:09:42.38MrA8hBVkO (1/1)

なぁに、>>1を病弱な愛されキャラの次兄だと思えば余裕で待てる…のか?



251 ◆54DIlPdu2E2016/07/10(日) 23:39:13.22zMrWG4Rp0 (1/7)

商人の家の中庭……

馬「ぶるる……」

長兄「さてと……今日も馬車を引いてくれてごくろうさん」ポンポン

馬「ひん♪」

商人「長兄もありがとう、馬車の乗り降りに手を貸してくれたおかげで、腰も悪化せずに済んだ」

風:サァッ……

商人「ん、風向きが変わったか」

馬「!?」ピクッ

馬「ひひひんひぶひん、ぶるるひんー(懐かしい匂い、友達ー)!」

長兄「おっ、急にどうした? 落ち着け、どうどう」

商人「何かに怯えたり嫌がったりする時の騒ぎ方ではないが、どうしたんだろうな?」ナデナデ

商人「……落ち着いたか、じゃあ我々も家に入って休もうか」

長兄「うん、末妹も下校している頃だろう、夕食前にみんなで軽くお茶でも」

……

長兄「え、次兄と末妹が帰宅してすぐ店に出て、なのに長姉も次姉も戻って来ないって?」

家政婦「ええ、かなり時間は経っていますが」

商人「うーん、4人で手が離せないほど忙しいのかな……?」

長兄「様子を見てくる」タッ

商人「あ、私も行くよ」

……


252 ◆54DIlPdu2E2016/07/10(日) 23:40:00.70zMrWG4Rp0 (2/7)

……

師匠「さて……お嬢さんがた?」

長姉「わ、私達?」

次姉「そのようね」

師匠「この店を訪れる度、品揃えと接客に気持ち良くさせていただいているが」

次姉「ご贔屓にしてくださって、ありがとうございます……」

師匠「改めて……弟さんと妹さんには、『息子』が非常にお世話になっておりまして、な」

次姉「え、ええ、この子達からその話は」

師匠「だと言うのに、未熟者で世間知らずで小心者で臆病で内向的で卑屈で幼稚なこいつが、こちらで粗相を働いたようで」

末妹「し、師匠様……」オロオロ

王子「」

次兄「ボロクソ」

師匠「保護責任者として心からお詫びを申し上げます……お前も頭を下げい」

王子「は、はい、ごめんなさい!!」

長姉「王子様に頭を下げられるって……複雑」

次姉「そ、そんな、頭を上げてください!!」アワアワ

次兄「お客に頭を下げられるのは商売人の矜持が許さない次姉ねえさんであった」

師匠「その上で図々しいお願いではありますが、どうかこいつが弟さん妹さんの友人でいることを許してほしい」

長姉「許すも何も……ねえ」

次姉「私達こそ……この町でこの店を選んでくださった事、本当に感謝していますのよ?」

次姉「これからもご贔屓にしていただきますよう、お願いしたいのはこちらですわ」

次兄「リピーターのお客は絶対離さない次姉ねえさんでもあった」



253 ◆54DIlPdu2E2016/07/10(日) 23:40:35.73zMrWG4Rp0 (3/7)

師匠「本来ならばお父上にご挨拶をするのが筋でしょうが……お留守のようで」

次姉「申し訳ありません、父は取引先に」

師匠「はは、お忙しいのは繁盛の証拠、結構なことです」

師匠「3~4日この町には滞在する予定なので、日を改めてお伺いしましょう」

師匠「……時に菫花、支払いは済ませたか?」

王子「!? わ、忘れていましたっ!? こ、これ、代金です!!」チャリンチャリン

師匠「儂に払ってどうする阿呆」

末妹「慌てないで菫花さん、落ち着いて……次姉(あね)はこっちですよ」

王子「……は、はい……」チャリン

次姉「確かにいただきました、ありがとうございます」ニコ

王子「……こ、こちらこそ」

師匠「ふむ、生まれて初めての、店での買い物ができたな?」

末妹「生まれて初めて」

長姉「……さすがは王子様」

王子「は、はい…………」

王子「……その後に何が続くんですか師匠?」

師匠「ん?」

王子「例えば『小さな子供でもやってのける事をお前はどれだけ手間をかけて……』くらいは」

次兄(菫花さんマジ卑屈)

師匠「お前がこちらのお嬢さん達に迷惑をかけたことはもう謝った」

師匠「ちゃんと店は代金を受け取って品物は我々の手にある」



254 ◆54DIlPdu2E2016/07/10(日) 23:41:36.14zMrWG4Rp0 (4/7)

師匠「結果で言えば、お前は儂が頼んだおつかいをやってのけた」

師匠「今回に関してはこれ以上何もないわい」

王子「……そ、そうですか……」ホッ

末妹(よかった……)ホッ

師匠「というわけで、今日のところはこれで」

住居と店舗を繋ぐドア:ガチャ…

長兄「次姉、店で何かあったのか?」

商人「何か困った事になったのかい?」

次姉「兄さん」

末妹「お父さん」

王子「あ」

商人「え」

……

応接室……

家政婦「紅茶のおかわりはご遠慮なくお申し付けくださいませ」

師匠「ありがとう。うむ、きれいな色が出ている、それにこの香り……儂の好きな銘柄だな」

王子「……………………」

商人「…………………………………………」

師匠「クッキーにはオレンジの砂糖漬けが入っているのか、甘酸っぱさと渋みが良いアクセントだ」

……


255 ◆54DIlPdu2E2016/07/10(日) 23:42:32.08zMrWG4Rp0 (5/7)

応接室のドアの鍵穴……

誰かの目:ジー……

長姉「ちょっと、そろそろ代わりなさいよ」ヒソヒソ

次姉「代わり映えしないわ、あの二人は黙ったまま、お師匠様とやらはどこ吹く風」ヒソヒソ

長姉「末妹の『男友達』なんて、お父さんも身構えるだろうけど……」ヒソヒソ

次姉「うーん、あのお父さんの様子は……そういう意味なのかしら……?」ヒソヒソ

……

店舗……

末妹「……」

常連客「……末妹ちゃん?」

末妹「……は、はいっ!?」

常連客「びっくりさせちゃったか、ごめんよ」

末妹「い、いいえ、私がぼーっと考え事していたからです……ごめんなさい」

末妹「……こちらのロウソクですね? ……はい、おつりです」

常連客「疲れているのかい、学校終わればお店も手伝って……家でも勉強してるんだろ?」

常連客「立派だけど、無理はするんじゃないよ? ……じゃ、またね」チリンチリン

末妹「あ、ありがとうございました!!」

長兄「毎度ありがとうございます」

次兄「まいど」

長兄「……末妹、常連客さんも言ってたが、無理しなくていいんだぞ?」

長兄「店だったら俺がいるから心配いらないよ」

次兄「俺も頑張るよ(但し接客は除く)」



256 ◆54DIlPdu2E2016/07/10(日) 23:46:29.27zMrWG4Rp0 (6/7)

末妹「二人ともありがとう、でも大丈夫、もうボンヤリ考え事なんかしないから」

長兄「……気になるんだろ?」

長兄「お客さん……師匠さんだっけか、父さんに挨拶をしておきたいなんて言って」

長兄「あの二人と父さんが応接間に通されて話をしている所だからな」

次兄(更に言うなら、俺達と交代して休憩に入った姉さん達が……俺の勘では応接室のドアの前で聞き耳立ててる)

末妹「き、気になるなんて、そんな」フルフル

末妹「お父さんも、師匠様も、菫花さんも大人だもの」

末妹「大人のひと同士がどんなお話をしているかなんて、私があれこれ気にしても仕方ない……でしょう?」

次兄(現状での菫花さんは大人として分類してよいものでしょうか、社会的な意味で)

長兄「そうか、ま、お前が大丈夫だと言うのなら……」

長兄「……二世紀前の時代から来た魔法使いと王子様……動物達がお仕えする屋敷の住人、か」

長兄「お前達から話を聞いて、目の前で不思議な出来事を見て、それでも俺にはいまだにピンと来ないが」

長兄「少し変っちゃいるが、少なくとも悪い人ではないし、お前達のことを良く思って親切にしてくれる」

長兄「弟と妹の友達として、兄から文句をつけるような相手ではないよ」

次兄「兄さん」

末妹「お兄さん……」

長兄「……で、物は相談だが、末妹?」

末妹「なあに?」

長兄「お、俺のことも……『お兄ちゃん』って呼んでみてくれてみようとか物は試しでどうかなあ?」

末妹「 」

次兄「なんと」

……


257 ◆54DIlPdu2E2016/07/10(日) 23:47:20.86zMrWG4Rp0 (7/7)


※長らく休んですみません……今回ここまで。眠い……※



258以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/11(月) 01:15:50.904neKz+FVO (1/1)


病み上がりだしお大事に


259 ◆54DIlPdu2E2016/07/15(金) 00:02:41.43V7A/ANY60 (1/7)

応接室の3人。

師匠「……家政婦さん? ちょっとこちらへ」

家政婦「はい」サッ

師匠「……鍵穴から…………」ヒソヒソボソボソ

家政婦「……畏まりました」コクリ

家政婦「それでは皆様、ごゆっくりお過ごしください」スッ

家政婦「……私にご用がございましたら、こちらの呼び鈴を鳴らしてください」リン♪

ドア:カチャリ……パタン

師匠「さてと……商人さん、でしたな?」

商人「! は、はい!?」

師匠「次兄君と末妹さん、ふたりとも本当によいお子です、お父上の教育が素晴らしかったのでしょうな?」

師匠「あの子達のおかげで、この不出来な息子もようやく真人間になりつつある……どころか」

師匠「あの子達に、生きていることを許されたとさえ思っております」

商人「そ……」

商人「そんな大それたことは、あの子達はただ……友達の力になりたくて、出来ることを頑張っただけです」

商人「出来ることを、皆さんと……貴方と、使用人の皆さんと……野獣と……何より王子さ……息子さん自身と」

商人「力を合わせて頑張った結果、息子さんが救われたと仰るのなら」

商人「……あの子達の親として、これほど嬉しいことはありません……」

……


260 ◆54DIlPdu2E2016/07/15(金) 00:04:31.68V7A/ANY60 (2/7)

廊下の2人→3人。

家政婦「……私にご用がございましたら、こちらの呼び鈴を鳴らしてください」リン♪

長姉「ちょ、家政婦さんが出て来るわ!」アワアワ

次姉「隠れて、姉さん、こっち!」バタバタ

ドア:カチャリ……パタン

家政婦「……」

観葉植物「…………」

家政婦「……隠れたりなさらなくても、旦那様に言いつけたりしませんよ?」クス

次姉「……ごめんなさい」ゴソゴソ

長姉「……家政婦さんの目はごまかせないって、わかっちゃいたけど」ゴソゴソ

長姉「子供っぽいことしたわ、次姉は私が誘ったの」

次姉「私も乗り気だったもの」

家政婦「これは独り言ですが……師匠様は偉大な魔法使いさんなのでしょう?」

家政婦「私が黙っていても、もしかしたら?」チラ

長姉「 」

次姉「た、確かにそうだわ……」

次姉「やっぱり私達、部屋に引っ込んでいましょう姉さん」

家政婦「大丈夫です、お客様達とどのようなやり取りがあったか、きっと旦那様は貴女達にもお話ししてくださいますよ」ニコ

……


261 ◆54DIlPdu2E2016/07/15(金) 00:05:34.76V7A/ANY60 (3/7)

店舗の3人。

末妹「え……と、長兄おにい……ちゃん……?」

長兄「」

長兄「…………ああああ、ごめん、俺が悪かったああああ」モジモジモジモジ

末妹「お兄……」

微振動:カタ……カタカタ……

次兄「兄さん、185cm83kg(推定)の図体でモジモジされたら割れ物の陳列棚が心配だ」

次兄「ちなみに体重の殆どは骨格と筋肉です」

長兄「……」フゥ

末妹「だ……大丈夫……?」オロオロ

長兄「マジで悪かった、ごめん末妹」

長兄「嫌だとか気持ち悪いとかそういう意味ではないが……やはり呼び慣れていないと違和感が……」

長兄「俺を『お兄ちゃん』呼ばわりしていたのは寄宿学校に進む前の長姉と次姉だけ」

長兄「その二人も寄宿学校に入った翌年に帰省の時に顔を合わせれば既に『兄さん』」

次兄「……そう言えば俺と末妹は兄さんに関してはチビの頃から今の呼び方……だったかな?」

次兄「物心つくかつかぬかで大人に教えられた通りの呼び方が定着し、すぐに年に数回しか会わなくなり」

次兄「そこへ来て姉さん達も『兄さん』になれば自然とそれに倣ったのかもしれん」

長兄「そうなんだ、既に人生においては『兄さん』『お兄さん』呼ばわりの方が長い」

長兄「そもそも……長姉達に『兄さん』と呼ばれるようになった時も」

著啓「ああこいつらも寄宿生活で大人びたのか、くらいの感想しか持たなかった……な」

次兄「じゃあ無理にお兄ちゃん呼ばわりさせることもなかったのに」
 


262 ◆54DIlPdu2E2016/07/15(金) 00:06:50.61V7A/ANY60 (4/7)

長兄「……な、仲間外れは……長姉と次姉もすっかり『お姉ちゃん』呼びが定着して……」

次兄「……」ジー

次兄「……誰かに何か言われたんでしょ?」

長兄「 」

長兄「……この間、町の初等学校で同学年だった連中と……幼馴染男の婚約祝いを口実に酒場で飲んだ」

長兄「で、幼馴染男が帰った後の残った奴らと、話の流れで」

次兄「ちょっと待った、主役が帰ったのにまだ飲んでたの?」

長兄「……酒の付き合いにはそんなしょーもない側面もあるんだよ、次兄」

長兄「話を戻すと、話の流れで幼馴染男の相手の長姉の話からうちの他の弟妹の話題になり……」

次兄「わかった。末妹が兄さんだけに他人行儀……ひいてはあまり好かれていないんじゃないか、とか言う人がいたんだろ?」

長兄「ああ、お前の読み通りだ、全員ではないが2~3人ほど」

末妹「そんな」

長兄「もちろん俺自身は末妹に好かれていないなんて思っちゃいないぞ」

長兄「ただ……そういうふうに見る人もいるんだな、とはその時に思った」

長兄「親兄弟はわかっていても、他の人から見れば……と」

次兄「だから、とりあえず形だけでも取り繕えないかと浅薄にも考えた」ズバッ

次兄「己の五感より世間体を優先する兄さんらしい」バッサリ

長兄「……うぐぐ……そこまではっきり言わんでも……」ダメージ大

末妹「お兄ちゃん……」

次兄「安心せい末妹、別に俺は兄さんを苛めたいわけではない」

次兄「兄さんとて酒の席での野郎どもの軽口なぞいちいち気に留めるほど細かい男ではありますまい」
 


263 ◆54DIlPdu2E2016/07/15(金) 00:07:47.29V7A/ANY60 (5/7)

次兄「……でも、もしかしたら『それ以外の誰か』にもそのように見られてるかもしれない」

次兄「そんな疑念が湧いて不安になっちゃったんでしょ?」

末妹「それ以外の誰か……?」

次兄「末妹が兄姉達をなんて呼んでいるか日頃から聞いている人ですよ」

末妹「あ」

長兄「う」

次兄「いい? 兄さん」

次兄「あのひとの、洞察力に優れ細やかな心遣いで我々家族を支えてくれる彼女の目は、しょーもない節穴だと思うのか!?」

長兄「ちょっ」

長兄「ちょっと待て!? 『彼女』って!? 『家族を支えてくれる』って!?」

次兄「しらばっくれてもダメ」チッチッ

次兄「ボタンつけの件は、たまたま目撃してしまった俺と末妹の秘密ですが」

長兄「ボタンつけ……」

長兄「……末妹……ほんとに?」

末妹「……二人で庭にいる時、窓から……見えちゃったの……」

長兄「い、いや、そもそも前提がおかしい、ボタンの取れかけをつけてもらうなんて、次兄だってあっただろ?」

次兄「ボタンつけ云々ではなく今の兄さんの様子のおかしさが何よりの証拠」ビシィ

長兄「おかしい……そうか、俺の様子、おかしいのか……」

次兄「ちょろい兄」グフフ

末妹「……お兄ちゃん」
 


264 ◆54DIlPdu2E2016/07/15(金) 00:08:37.29V7A/ANY60 (6/7)

次兄「ま、今回は家政婦さんの事は置いといて、っと」ゼスチャー

次兄「末妹の『お兄さん』には、愛情と尊敬と信頼が込められている、そうは思わないか兄さん?」

長兄「尊敬……信頼……」

次兄「次姉ねえさんが末妹に『お姉ちゃん』呼びを持ちかけたのにはそれなりに立派な経緯がある」

次兄「今まで冷淡で無関心だった態度を改め、末妹との新しい関係を築こうとする」

次兄「そんな想いが込められた、いわば通過儀礼だったと言えましょう」

次兄「長姉ねえさんの場合は半分くらい便乗ぽいけど、それも置いといて」ゼスチャー

次兄「兄さんと末妹の関係はずっと良好だったじゃないか?」

次兄「末妹とほぼ対等に遊べるし時には逆に諌められる俺とはまた違った関係になるけど」

次兄「兄さんは妹達を……弟も? ……ずっと慈しみ守り続けてきたと俺達は充分承知しているよ」

末妹「そうよ、私だってお兄さんのこと、ずっと頼りにしているし、ずっと大好きよ?」

長兄「大好き」

次兄「ね、兄さん、呼び方なんて兄さんと末妹の間ではどうでもいいじゃない」

次兄「父さんも姉さん達も、それから家政婦さん、遠くで隠遁生活を送るばあや、そして天国のお母さん」

次兄「少なくとも、我が家の皆はわかってくれているはずだよ?」

長兄「次兄……」

長兄「すまん……ありがとう、ありがとう!! 俺もお前達が大好きだぁ!!」ガバッ!!

末妹「きゃ、お兄さん……」クスクス

次兄「脳筋的愛情表現ですなあ」フヘヘ

……


265 ◆54DIlPdu2E2016/07/15(金) 00:09:53.48V7A/ANY60 (7/7)


※今回ここまで。次回は応接室の顛末です(たぶん)※

>>258 ありがとう


266以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/15(金) 00:52:48.69nDRhSK6UO (1/1)

次兄はたまに洞察力がゴイスー

ところで長兄のガタイが想像以上だった件



267 ◆54DIlPdu2E2016/07/16(土) 08:42:02.2904HjTBtt0 (1/1)


※次回はたぶん7/18頃に……※

体重は次兄の推測にすぎないのと着痩せするタイプなので見た目さほどガチムチでもないが
実家に戻る前はあらゆる肉体労働関係からスカウトが来たくらいにはいい体です、長兄


268 ◆54DIlPdu2E2016/07/19(火) 00:07:58.16EIH4rIN30 (1/3)

そして応接室。

商人「……道に迷い、屋敷に導かれた私がバラ一輪を盗むことなく帰宅すれば、あの子達はあなた達と出会うこともなく」

商人「……少なくとも次にバラを誰かが折るまでは、おそらくは野獣も何事もなく……その後もあの屋敷で」

王子「…………」

師匠「そのことは」

師匠「既に、あの子達もそしてこの子も、充分過ぎるほど思いを馳せ、何度も考えました」

商人「ええ、私もわかっているつもりです」

商人「ですから……野獣が私達と同じ世界に暮らせなくなったことを悲しむより、きっかけを作ってしまったことを悔いるより」

商人「いまだ夢を通じて彼の愛するひとびとと繋がっていられることを、素直に良かったと今は思いたい」

商人「と言うか……それを喜ぶあの子達に同意できる自分でありたい」

商人「……ありたいが、その前に」

商人「菫花君、でよかったですか?」

王子「! は、はいっ」

商人「君は、この世界でいま幸せですか?」

王子「はい、幸せです!!」

師匠(即答しおった)

王子「……目が覚めて、この姿だった時」

王子「野獣は僕ではなかった、そして僕が再び存在することで野獣が消えてしまった、と思うと」

王子「混乱して、絶望して、悲しくて、消えてしまいたくて」
 


269 ◆54DIlPdu2E2016/07/19(火) 00:08:55.34EIH4rIN30 (2/3)

王子「……それでも、使用人の皆さん、次兄君と末妹さん」

王子「野獣を好きだったみんなの為には、暫くは死ぬわけにはいかない」

王子「それがとりあえずの生きる理由になり」

王子「……そして、夢の世界で生きている野獣と、そして僕を追いかけてきてくれた師匠と出会い」

王子「みんなと屋敷で過ごす中で僕の考えも変わり」

王子「今ここにこうしていることは、本当に幸せだと思っています」

王子「……まだまだ知らなければならないことも乗り越えなくてはならないこともいっぱいですし」

王子「僕自身が必要以上の臆病者で、しかも簡単には治らないと思い知らされてはまた落ち込みますが」

王子「それでも、です」

商人「……そうか」

商人「それを聞いて、安心して君に頼むことができる」

王子「何を……でしょう」

商人「君から野獣に、私のさっきの言葉を、想いを伝えてほしい」

王子「……僕でいいのですか……?」

商人「ええ、ぜひ君に」

王子「……はい!」

師匠「ふむ」

…………


270 ◆54DIlPdu2E2016/07/19(火) 00:10:24.68EIH4rIN30 (3/3)


※短いけどここまで。次回は近いうちに※



271以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/19(火) 05:06:33.19RB6FuxgSO (1/1)




272 ◆54DIlPdu2E2016/07/22(金) 00:20:56.00VB8G/fvJ0 (1/5)

店舗。

ドア:カチャ……

商人「次兄、末妹」

末妹「お父さん?」

次兄「どしたの?」

商人「お客様達がお帰りになる前にひとことお前達に挨拶したいと……どうぞ」

師匠「やあ、お忙しい所をお邪魔したね、我々はこのへんで失礼するよ」

師匠「今日はこのあと宿でゆっくりして、明日から牧場に行ってみようと思う」

王子「楽しみです、商人さんのお友達の牧場とかで」

末妹「ええ、うちにいるあの子の生まれた牧場です」

末妹「猫さんや犬さんもいるんです、みんな馬さんと仲良しで……素敵な牧場ですよ」

次兄「肉食獣は猫と小型犬と中型犬しかいないのでちょっと俺には物足りないです、まあ行ったことはないんですけど」ボソ

師匠「そんなわけで、この町には2~3日滞在するので……いずれまた君達に会いに来るよ」

師匠「なんだったら……道も覚えただろう、今度はこいつ一人でな」ポン

王子「え、僕ひとりで?」

師匠「『え』はないだろうが……いい歳して、友達に会いに行くのに保護者同伴がいいのか?」

王子「い、いいえ……ただ……そうか、友達に会いに……」

次兄「菫花さんも友達いなかったから、今までそういう発想なかったんだよねー?」

長兄(『も』か……次兄よ……)シンミリ

師匠「ま、とにかく今日はこれで……土産も早く渡したいしな」

王子「ええ、そうですね師匠……それじゃ」
 


273 ◆54DIlPdu2E2016/07/22(金) 00:22:04.27VB8G/fvJ0 (2/5)

商人「またおいで菫花君、この子達に会いに」ニコ

王子「……ありがとうございます!」

末妹「お父さん……!」

次兄「ほう、なんか父さんと菫花さんの間の雰囲気が変わったかも?」

次兄「……おっさん魔法で何かした?」ポツリ

師匠(そんなわけあるか、突っ込まんがな)

……

宿への道……

師匠「手紙で予約は入れてはいるが、チェックインはあまり遅くならん方がいいだろう」

王子「ええ」

通行人達「アノヒトステキー」「ホントダ、カワイイー」

師匠「……そう言えばお前、顔を隠すのはやめたのか?」

王子「はい」

王子「……面識なのない人や親しい人とは違うタイプの人は怖いです、でもそれは……自分にしか目が向いていないから」

王子「落ち着いて周囲を見渡せば……なんのことはない」

王子「…………のかもしれないと、そう思えるような気がしてきたので」

師匠「ふむ……それなりに実りのある訪問だったか?」

王子「はい、野獣に早く伝えたいことができました」

師匠「そうか、まあ……よかったな」フフ

……


274 ◆54DIlPdu2E2016/07/22(金) 00:23:53.44VB8G/fvJ0 (3/5)

安宿のフロント……

主人「ほ、本当にいいんですか、こんな高級品……」ジー

従業員「ほげぇ、綺麗だしすっごく手触りいいスカーフっす!!」スリスリ

師匠(価格帯的にはあくまでも普段使いの範囲で、『そこそこ良い』程度の品物なのだが)

師匠(新品というのはそれだけで価値があるのかな)

主人「こんなに喜んで……俺がいいもの買ってやれないばかりに」

従業員「何を言うんすかおやっさん!! あたしこそもっと亭主の服装を気遣ってあげなきゃならない立場なのに……」

師匠「ん? 亭主?」

主人「ああ、言ってませんでしたっけ」

主人「仕事中は宿の主人と従業員ですが、実はこれ……うちの女房でして」

従業員「えへへ……もちろん最初は従業員と雇い主として知り合ったから、おやっさん呼びの方が慣れてんすけどぉ」ポッ

師匠「……まあ、歳の差の夫婦も珍しくはないわな」

従業員「ははは、うちの亭主老け顔ですけど、こう見えてもまだ30代入ったばかりなんすよ?」

主人「10歳離れているから、そこそこ年齢差はあるのですがね」

従業員「でも老けているのは顔だけで、脱いだらいいカラダしてんす!! 男はやっぱ筋肉、筋肉ですよ!!」

主人「こ、こら、お客様の前で……すみません、こいつ筋肉に目がなくて」

従業員「だってそう思うでしょ、男は筋肉っすよ、あ、もちろん今となっちゃおやっさん以外の筋肉は目に入りませんよ!?」

師匠「…………道理で、菫花が顔を隠さず宿に入っても特に反応しなかったわけだ」

師匠「この宿では平穏に過ごせそうだな、菫花」

王子「……そのようです」

…………


275 ◆54DIlPdu2E2016/07/22(金) 00:25:57.09VB8G/fvJ0 (4/5)

その夜のこと……

(末妹「……あら?」)

(末妹「これは夢ね、野獣様の夢に似ているけど……でも、家にいるのに……?」)

(次兄「……あれ?」)

(末妹「お兄ちゃん!?」)

(次兄「よう、なんかお屋敷にいた時の、野獣様の夢みたいな感覚だよな?」)

(末妹「お兄ちゃんもそう思う?」)

(王子「……」)ポカーン

(末妹「菫花さん!?」)

(次兄「いつの間にそんなところに棒立ちで」)

(王子「……どうして、ふたりとも……僕は宿のベッドで休んでいたはず……」)

(師匠「ふむ、これはさすがに予想外」ヌッ)

(次兄「おっさん!?」)

(王子「師匠!」)

(師匠「気が付いたらここにいたのだ、まあいくつかの推測はできるが……その前に」)

(師匠「……そんな所に隠れて様子を窺っていないで、出て来んか?」)

(バラの茂み「……」)

(末妹「え……まさか……」)

(野獣「……私には何が何だかさっぱりで、執事達と話をした後、今夜はもう休むつもりでいたら……」ノソリ)

(末妹「野獣様!?」)

(王子「……ど、どういうこと?」)

(次兄「           」コキーン)

(師匠「……少年、嬉しさが振り切れて固まっておるわ」)

……


276 ◆54DIlPdu2E2016/07/22(金) 00:27:04.11VB8G/fvJ0 (5/5)


※今夜はここまでです。※



277以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/22(金) 04:57:27.57V6rTZufdO (1/1)


バラの茂みに隠れる師弟


278 ◆54DIlPdu2E2016/07/25(月) 00:45:45.24BiZYJHSM0 (1/4)

何故か、野獣の夢の世界。

(王子「……つまり、みんな気が付いたらここに、『バラ園』にいた……そういうわけですね?」)

(末妹「お兄ちゃん、動けるようになった?」)

(次兄「おっさんの魔法でなんとか」)

(野獣「師匠と菫花が旅立ってから日は浅いが、それでも森の外に出てから昨日まで何泊かしているはずなのに」)

(野獣「なぜ今夜いきなりこんな事が起きたのだろう」)

(師匠「儂等が旅立ってから、今まではなかった、今日が初めての出来事がひとつだけあるぞ?」)

(王子「……?」)

(師匠「商人の家と我々の宿、距離にして……屋敷のある森に当てはめると、どれくらいだ?」)

(王子「距離……そうですね、僕らが歩いた屋敷から北東の『森の出口』までの……半分にも満たないと思いますが」)

(次兄「ピクニックの時か」)

(師匠「それだけの近距離の範囲内に、儂の魔力に」)

(師匠「野獣を強く想っているこの子達、そして魔力を持つと同時に野獣と表裏一体の菫花」)

(野獣「あ」)

(師匠「これだけの条件が揃って……或いは、更にこの条件に引っ張られて、君の」)

(末妹「私?」)

(師匠「そう、君の持っている野獣の欠片が、またも何やらの作用を起こしたかもわからんが」)

(師匠「最低でも菫花と少女と儂が揃っていなければ起きなかったのだろう」)

(次兄「……俺は?」)

(師匠「そうだな……君は言うなれば末妹嬢の『おまけ』かな?」)

(次兄「むうう」プクー)
 


279 ◆54DIlPdu2E2016/07/25(月) 00:46:23.17BiZYJHSM0 (2/4)

(末妹「お兄ちゃんも野獣様を想う気持ちは私と同じよ?」)

(末妹「今夜のことに私が何か関係していると言うのなら、私とお兄ちゃんと2人の……力? ……だと思う」)

(次兄「フォローありがとう末妹はやはり俺の最初にして最後の味方です」ウルウル)

(野獣「……あながち単なる慰めではないかもしれんぞ?」)

(野獣「次兄の私への思い入れと言うか執着と言うか欲望というか……は常軌を逸しているから」)

(野獣「常軌を逸したお前ならば、魔法云々を飛び越えて今回の事態に何らかの影響を及ぼしている可能性は否定できない」)

(次兄「常軌を逸したって2回も言われました」イマサラ)

(師匠「……可能性か、可能性なら儂もゼロとは言い切れんが」)

(師匠「ま、とにかく、君達兄妹と菫花と儂が狭い範囲に集合しているが故に、野獣の夢の世界が屋敷や森の外に現れた」)

(師匠「今のところ、起こっている事実から分析できる答えはこれしかないかな」ヨッコラセ)

(王子「師匠、どこかへ行かれるのですか?」)

(師匠「うむ、この夢の世界でどれくらい『遠く』まで行けるのか、一度試してみたかったのだ」)

(野獣「相変わらず旺盛な探究心ですねえ」)

(師匠「初冬の夜は長い、と同時に、明けない夜はない。限りある時間を有意義に楽しく過ごそうではないか、お互いな」スタスタ)

(王子「……バラ園の向こうまで行っちゃった」)

(末妹「……限りある時間を……」)

(次兄「有意義に楽しく……有意義に楽しく……よし」キリッ)

(次兄「菫花さん!! 有意義におっさんの後を追い魔法使いとして探究心を満たしていらっしゃい、ほれほれほれ!!」シッシッ)

(王子「えっ? ええ?」オロオロ)

(野獣「こ、こら、体良く追い出そうとするんじゃない!」)

(末妹「お兄ちゃんたら、菫花さんを仲間外れにするなんて!」)

(次兄「あう」)



280 ◆54DIlPdu2E2016/07/25(月) 00:47:06.06BiZYJHSM0 (3/4)

(王子「ぼ、僕だって野獣に一刻も早く話をしたいことがあるんだ、そう簡単に追い出されないよ!!」)

(次兄「菫花さんが自己主張をしている!? 自我が芽生えたぁ!!」ショッキング)

(野獣「……次兄はどこまで菫花に失礼なのだ」ハァ)

(野獣「一応こいつは私と別人格でありながら同一人物でもあるのだぞ?」)

(末妹「そうよ、それにお兄ちゃんより年上なのに」)

(次兄「……しゅんまへん」ショボン)

(野獣「まあなんだ、この状況は言わば嬉しい摩訶不思議」)

(野獣「また屋敷に遊びに来た時には次兄と二人きりの時間も取ってやるから」)

(野獣「今夜はあり得ない状況を皆で楽しい物にしよう、な?」)

(次兄「……あい」コクリ)

(野獣「しおらしくしておればお前も少しは可愛げなくもないのに」)

(野獣「さて、菫花よ、私に話をしたいこととは何だ?」)

(王子「あ、えっと……」)

(王子「ぼ、僕より先に末妹さんのお話を……」)

(末妹「え、あの……な、何からお話ししましょうか」)

(野獣「なんでも構わんぞ、まとまっていなくても」ニコ)

(末妹「……そうだ」)

(末妹「ええと、私達がお屋敷から家に戻って、お屋敷の出来事を家族に話した時に……父が」)

(末妹「……父が……野獣様といつかゆっくりお話をしたかった、って、それができないのが寂しい、って……」)

(野獣「商人が」)

(野獣「……そうか、私に対して、彼がそう思ってくれるのか……」フフ……)



281 ◆54DIlPdu2E2016/07/25(月) 00:48:02.26BiZYJHSM0 (4/4)


※このエピソードもうちょっとつづく※



282以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/25(月) 02:06:42.798QlvTxkVO (1/1)

むきになる王子が微笑ましい
もうすっかり好きなキャラクターの一人だ



283 ◆54DIlPdu2E2016/07/27(水) 00:08:03.55uN9Yd4tz0 (1/5)

(末妹(野獣様、優しい笑顔……))

(王子「それでは……僕は、その『続き』を伝えるよ」)

(末妹「続き?」)

(王子「商人さんは、僕から野獣に伝えて欲しい、と……」)

(王子「同じ世界に暮らせなくなったことを悲しみきっかけを作ってしまったことを悔いるよりも、野獣(きみ)が」)

(王子「……『いまだ夢を通じて彼の愛するひとびとと繋がっていられることを、素直に良かったと今は思いたい』って」)

(王子「続けて、『と言うか……それを喜ぶあの子達に同意できる自分でありたい』とも」)

(末妹「……今日、菫花さん達と父とは、そのことをお話ししていたのですね?」)

(王子「うん」)

(王子「それでね……商人さんは僕に、この世界で幸せか、って」)

(末妹「お父さんが」)

(王子「……230年ぶりに目を覚ました僕は、正直言って自分が幸せだとは思えなかった、それは知っているよね……」)

(王子「でも、野獣を大好きな皆のおかげで、野獣が消えずにいてくれたおかげで、今は幸せだと答えた」)

(王子「そしたら、安心して僕から野獣への伝言を頼める、って……」)

(末妹「お父さん……」)

(野獣「……商人がその心境に至るまでは色々と考えただろう、葛藤もあっただろう」)

(野獣「……私だって……しかし……今はただ彼の言葉が、彼の気持ちが嬉しい、心から嬉しい」)

(野獣「商人の言葉を伝えてくれてありがとう、末妹、菫花」)

(次兄「…………」)



284 ◆54DIlPdu2E2016/07/27(水) 00:09:17.30uN9Yd4tz0 (2/5)

(野獣「どうした、いつになくおとなしいではないか次兄?」)

(次兄「この心温まる場面には俺が口もしくはそれ以外の何かを挟める隙がないので」)

(王子「……でも次兄君、今日は機転を利かせて僕を助けてくれた」)

(王子「そうだ、あの時のお礼を言ってなかったね……ありがとう」)

(次兄「助け ?」)

(末妹「そうよ、お兄ちゃん、菫花さんに毛布を持って来てくれたじゃない」)

(末妹「私なら咄嗟に思い付かなかったわ」)

(王子「お陰で緊張がほぐれて、恐怖心も消えて、正気を取り戻せたんだよ」)

(野獣「ちょ、ちょっと待った、今日はどんな物騒な目に遭ったのだ!?」)

(次兄「……あれは、一番手っ取り早いと思ったから」)

(次兄「姉さん達にも、菫花さんは重度のヘタレで引き籠りで小心者で……とか説明するよりも百聞は一見になんちゃらで」)

(野獣「な、何があったのだ、本当に……」)

(王子「買い物……だよ」)

(野獣「……か……」)

(野獣(師匠が企んでいたのはそれか……))

(野獣「では……最初から話しておくれ」)

……………………

(野獣「……なるほどな……」フゥ)

(野獣(菫花の不安と混乱が、手に取るようにわかってしまう……わかりたくないのに))



285 ◆54DIlPdu2E2016/07/27(水) 00:10:46.60uN9Yd4tz0 (3/5)

(王子「でも、次からは大丈夫」)

(王子「……だと思う」ボソ)

(末妹「ええ、きっと大丈夫です」)

(末妹「菫花さんは、今までだって一つずつできなかった事を乗り越えて来たじゃないですか、だからこれからも」)

(王子「……末妹さんが大丈夫と言ってくれるなら今度も本当に大丈夫な気がする、不思議と、いつもそうだ……」)

(末妹「菫花さんの努力のたまものですよ」ニコ)

(野獣「…………」)

(野獣「ああ有言実行だ、今度からは最初から最後まで一人でうまくやれよ菫花、な!?」バンバン)

(王子「あぅ、君の大きな手で背中叩かないで……」ケホケホ)

(次兄「野獣様の言うとおりー、たかが買い物、男だったらドンと行けー」)

(野獣「さて、今度は……末妹、逆に私から聞きたい話はあるかね?」)

(末妹「あ、あります!」)

(末妹「メイドちゃん達の様子を聞きたいです、元気で過ごしているんですよね?」)

(次兄「俺も執事さんの様子聞きたいでっす!!」)

(野獣「うむ、4匹とも騾馬小屋の内装作業を毎日がんばっているぞ」)

(野獣「しかしな……メイドは、自分にできる仕事があまりないとこぼしていた」)

(末妹「メイドちゃんが」)

(野獣「今夜もな、あいつが言うには、菫花も師匠もきれい好きだから留守の部屋掃除はホコリを払うくらい」)

(野獣「二人が留守だから、料理の手伝いもなし」)



286 ◆54DIlPdu2E2016/07/27(水) 00:13:00.14uN9Yd4tz0 (4/5)

(次兄「言われてみれば執事さん達も食材そのままの方がいいから、料理長さんも4匹だけの時はわざわざ料理をしないよなぁ」)

(野獣「騾馬小屋の内装だって重い板を運んだり、高い所に登って釘を打ったり、なんてあいつには無理」)

(野獣「師匠が用意した材木は執事か料理長しか運べない、庭師は力仕事は無理でも高所の細かい作業を一手に」)

(王子「……でも、人間だってそもそも大工仕事は女の子の仕事ではないよね?」)

(野獣「だがな、メイドにとって今は家の中の仕事は無いに等しい」)

(野獣「師匠も菫花も、滞在する客人も……私も……いない状態では」)

(野獣「掃除も料理も、お茶の時間も必要ないのだから」)

(王子「それもそうだね……」)

(野獣「……あと、私の憶測だがな……単に手持無沙汰が不満なだけではあるまい」)

(野獣「屋敷の主の世話が必要なくとも、留守中に言いつけられた仕事を手分けしてこなしている執事、料理長、庭師」)

(野獣「実質それを見ているしかできないあいつは、きっと寂しさを感じている」)

(野獣「師匠もそこまでは読めなかったかもしれないが」)

(野獣「メイドがそのように思っている状況を望んでもいないだろう」)

(末妹「……寂しがっている……メイドちゃん……」)

(野獣「で、私は考えた」)

(野獣「……こういう時、末妹ならば何か考えついてくれないだろうか、と」)

(末妹「え?」)

(王子「確かに、末妹さんには僕らには思いもよらない思い付きがあるかもしれない!」)

(次兄「確かに、乙女心は乙女こそ理解できるかもしれない、少なくともここにいる男子達(自分含む)に比べたらー!」)

(末妹「メイドちゃんの……できること……?」)



287 ◆54DIlPdu2E2016/07/27(水) 00:13:28.56uN9Yd4tz0 (5/5)


※つづく。読んでくれてありがとうございます。あつはなついね※



288以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/27(水) 06:12:18.97tDXugaBEO (1/1)




289 ◆54DIlPdu2E2016/08/01(月) 00:32:28.02Rsjq9VVA0 (1/6)

(末妹「……メイドちゃんがうちの家政婦さんに送ったクローバーの押し葉ですけど」)

(末妹「自分で作った押し花のしおりを、お屋敷で読書している時に使っていたらメイドちゃんが興味を持ったので……」)

(末妹「簡単な押し花の作り方を教えてあげたのです」)

(末妹「だから……メイドちゃんが作った押し花を小さな額に入れて」)

(末妹「騾馬小屋とお屋敷をつなぐ渡り廊下に飾ったら素敵じゃないかな……と」)

(野獣「ほう、渡り廊下をね」)

(王子「確かに師匠も僕も実用的な内装ばかり考えて、装飾までには思い至らなかったな」)

(末妹「あ、でも……今の季節は、もうお花はないですよね」)

(野獣「うむ、現実世界は冬だからな……」)

(次兄「……そうだ末妹、昔ばあやに教わったアレは?」)

(末妹「え?」)

(次兄「小さい頃、裁縫の練習用にばあやが余った端切れをくれたじゃないか、その時に教えてくれただろ?」)

(末妹「ああ、あれなら季節に関係なくできるわ! メイドちゃん器用だし」)

(野獣「ふむ? 何を思い出したのだ?」)

(末妹「色とりどりの布でお花を作るんです、花びらや葉っぱに少しずつの布でいいから、端切れがあれば充分です」)

(王子「なるほど、造花ですか」)

(末妹「本物の花そっくりには作れませんが、あえて布の材質を活かしても可愛らしく仕上がりますよ」)

(野獣「……末妹、お前が作った造花は家のどこかに飾ってあるか?」)

(末妹「私が作った……ですか?」)
 


290 ◆54DIlPdu2E2016/08/01(月) 00:34:52.88Rsjq9VVA0 (2/6)

(末妹「ええと……友達にあげてしまったり、コサージュにして普段は箪笥にしまっていたり……飾ってあるのは……」)

(末妹「あ、2年前に作ったものを、父が書斎の机に飾ってくれています」)

(野獣「商人の書斎だな?」シュパッ)

(王子「あ、仮想の窓」)

(野獣「……ふむ、これか。なるほど、可愛らしいベゴニア……かな?」)

(末妹「……恥ずかしいです、そのつもりで作り始めたのですが、どんどん見たことないお花になってしまって……」)

(野獣「いやいや、きれいに作ってあるし、一株に黄色と白とピンクの花が同居しているのがまた可愛い」フフ)

(末妹「同じ色の布が足りなくて……」)

(野獣「うむ……これならばメイドも楽しく作業ができるだろう、あいつ裁縫は得意だものな」シュン)

(次兄「…………でも、それをメイドさんにどうやって作り方を伝えるの?」)

(次兄「また俺達がお屋敷に行く時より、おっさんや菫花さんが旅から戻る方が先ですよね?」)

(野獣「む、それは……鏡で末妹が造花をメイドに見せてだな」)

(王子「完成品を見せただけで作れというのは……いくらなんでも、ねえ末妹さん?」)

(末妹「ええ、菫花さんの仰る通りです……」)

(野獣「む」)

(王子「末妹さんが鏡の前で作る手順を見せては?」)

(野獣「いやいや待て、週に一回の交流で鏡を使える時間を考えると、完成まで何週間かかるのだ?」)

(野獣「時間を長くしたり、回数を増やすのか? 皆で決めた約束事を破るのもどうかと思うが?」)

(王子「そ、そうだね……でも、メイドさんのことを考えると……」)

(野獣「む、むむむ……」)



291 ◆54DIlPdu2E2016/08/01(月) 00:37:07.20Rsjq9VVA0 (3/6)

(末妹「……そうだ、私が野獣様に作り方を教えて、野獣様からメイドちゃんに教えてくだされば!!」)

(野獣「え」)

(次兄「いいね、仮想の窓だっけ? おっさん達がこの町に滞在中、あの魔法で家の様子が見えるなら……」)

(末妹「……私は野獣様が目の前にいらっしゃるつもりで……初心者向けのお花を、少しずつゆっくり作ればいいのね……うん」)

(野獣「あの」)

(末妹「基礎さえわかれば、色や形を変えたり花びらを増やしたりするのは応用ですもの」)

(野獣「……えーと」)

(末妹「……あ! ごめんなさい野獣様、私ったら勝手に……」)

(次兄「野獣様、この末妹のアイディアは机上の空論の先走りでしょうか……いかがでしょ?」チラッ)

(野獣「むむむむむ……」)

(次兄「そもそも末妹の力を借りたいと仰ったのは……ねえ?」チラチラッ)

(野獣「…………わかった、末妹……明日から、一番簡単な造花を作ってみせろ……」グウノネモデネエ)

(末妹「まあ、野獣様!!」パァァ)

(末妹「ありがとうございます、7歳の時に最初に教わった一番簡単なお花ですから、すぐに覚えられますよ!!」)

(野獣「う、うむ……頑張るぞ、メイドのためだ、頑張るぞ」)

(野獣「7歳児でも作れるならば……私でもなんとか、じゃなかった! 私には造作も無かろう!!」)

(野獣「何より人に教えるのが上手な末妹の事だ、うむ、心配ないぞハハハハ……ハァ」)

…………


292 ◆54DIlPdu2E2016/08/01(月) 00:40:29.73Rsjq9VVA0 (4/6)

(師匠「子供達(菫花含む)はもう眠りについて、この夢の世界にはお前と儂だけ」)

(師匠「……で……明日からお前は手芸の造花を教わるのか」)

(野獣「……メイドのため、そしてメイドのため一生懸命考えてくれた末妹のためですから」)

(師匠「自信ないか、まあ、魔法抜きで裁縫などやったことないものなあ」)

(師匠「魔法なしで出来なくては、メイドに教えることはできんしな、頑張れ」ニヤニヤ)

(野獣「い、一度約束したからには守りますよ、少なくとも努力しますよ!!」)

(野獣「それより師匠、遠くってどこまで行けたのですか!?」)

(師匠「強引に話題を変えおって」)

(師匠「そうだな、お前達にはこちらは見えていなかったようだが、儂からはお前達の様子が見えていたぞ」)

(野獣「……それはどういう仕組みで?」)

(師匠「儂にもよくわからんが、とりあえずお前が見えなくなってしまうほど遠く離れることは無理なようだな」)

(師匠「会話も全て聞こえていた、だからさっきの話も、実はお前から聞くまでもなかったのだ」)

(野獣「不思議ですね、今度いつか、逆に私が師匠のいる場所から離れてみる実験をしてみましょうかね……」)

(野獣「……見えていた、聞こえていた……」)

(師匠「……『末妹さんが大丈夫と言ってくれるなら今度も本当に大丈夫な気がする、不思議と、いつもそうだ』」))

(師匠「『菫花さんの努力のたまものですよ』……だったかな」)

(野獣「ちょ」)

(師匠「激励しつつ、ドサクサでばしばし叩いていたのは嫉妬か?」)

(野獣「ちょっと待ってくださいよおおおおおおおおお」)

(師匠「恥ずかしがらんでも」)



293 ◆54DIlPdu2E2016/08/01(月) 00:41:41.09Rsjq9VVA0 (5/6)

(師匠「前にも言ったろう、お前は生きて心がある限り、生身の存在に嫉妬するのは仕方ない、と」)

(師匠「それでも自分の心を手放したくない、とはっきり儂に告げたではないか?」)

(野獣「確かにそうですけど……」)

(師匠「まあ……今のところあの二人は教師と生徒、きょうだいの上と下、親と子、そんな関係だな」)

(野獣「どっちがどっちの……って、聞くまでもありませんね……」)

(師匠「末妹嬢は菫花相手にすら年長者としての敬意を払っておるが」)

(師匠「無意識の中では『手のかかる次兄が増えた』という認識が一番近いのではないだろうか?」)

(野獣「……彼女にとっての次兄のようなものですか……」フクザツ)

(師匠「今のところと、おそらくこの先しばらくは、な」)

(野獣「……」)

(野獣「……私は、末妹にも、菫花にも次兄にも、幸せな人生を送って欲しいと思っています」)

(師匠「ああ、その言葉に偽りがないのはわかっている」)

(師匠「だからお前は思う存分……泣いて笑って怒って沈んで凹んで萎れて腐って、構わんのだぞ?」)

(野獣「……構わないのですか」)

(師匠「儂はお前の味方だ、お前だけの味方ではないが」)

(野獣「……甘い父上ですね」フフ)

(師匠「甘いとも、出来の悪い『長男』よ」フフ)

……………………


294 ◆54DIlPdu2E2016/08/01(月) 00:42:08.82Rsjq9VVA0 (6/6)


※ここまででした、また次回※



295以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/08/01(月) 02:56:18.65hopBaCqqO (1/1)


野獣が裁縫ww


296 ◆54DIlPdu2E2016/08/05(金) 20:55:55.14QmTXQ2QA0 (1/8)

翌日、末妹の部屋。

末妹「……野獣様と約束した時間になった、と……」

末妹「それでは……手芸教室を始めますよ、野獣様」

次兄「はーい、仮想野獣様の次兄ですー」オテテフリフリ

末妹「……野獣様がご覧になっているのはわかっていても、やっぱり目の前に誰かいた方がやりやすいと思いました……」

末妹「改めて」コホン

末妹「こちら……緑の布を切りぬいた葉っぱと『がく』です」

末妹「これは白い布で作った花びらです、それと……」

末妹「……切り抜いた部品はこうやって、並べておいて」

末妹「同じ物がこっちにあります、お花を作って行くのはこっちを使います」

……

同時刻、野獣。

(野獣「……なるほど、組み立ててしまうと部品の形がわからなくなってしまうから別に用意したのか」)

(野獣「さすが末妹は賢い」)

(野獣「……おっと、それより必要なものを用意せねば」ポワン)

(野獣「針と糸、それから末妹が用意したものと同じ切り抜いた布、と」ポワンポワン)



297 ◆54DIlPdu2E2016/08/05(金) 20:57:10.99QmTXQ2QA0 (2/8)

(野獣「思うだけで服を着替えるのと同じように」)

(野獣「現実世界に実際に存在するものはこっちの世界に出現させることができる」)

(野獣「但しごくありふれた無生物に限る、生き物のように『替えが効かない存在』では不可能だ」)

(野獣「要するに、厳密に言えば寸分たがわぬ作りの別物で」)

(野獣「末妹の部屋に同じ造花の部品が二つあるのと変わらん、私の目の前に三つめがある、こういうことだな」)

(野獣「……さて、針に糸を通す手順からやってくれるのか、いくらなんでもそれくらいの知識はあるぞ」)

(野獣「自分の手元が見えん老眼の爺さんでもないし、まだ、な」)

(糸→針穴)

(野獣「だから、ここまでは簡単……」)

(糸↑針穴:スカッ)

(野獣「……む」)

(糸↓針穴:スカッ)

(野獣「くっ……」ワナワナ)

(野獣「やむを得ん!」ポワン)

(糸→針穴→:シュルッ)

(野獣「い、糸通しの工程くらい魔法を使ってもバチは当たるまい、メイドには容易く出来て当たり前なのだからなっ!!」)

(野獣「……私の太い指にはかなり骨が折れるわ……」フゥ)

……


298 ◆54DIlPdu2E2016/08/05(金) 20:57:51.25QmTXQ2QA0 (3/8)

末妹「……野獣様、いまごろ糸が通せたかしら?」

次兄「野獣様のこと、自分の手のサイズに合わせた針穴のでかい太い針とか用意してんじゃない?」

(野獣「その手があったか……まあ今更変えてもな、布も大きくしなくてはつり合い取れんし……」)

(野獣「ふむ、花びらの部品を大きさの順番に重ねて……ふむふむ」)

……

末妹「……野獣様、お疲れさまでした」

次兄「ほんと初心者向けなんだなあ、もう完成しちゃったよ」

末妹「うん、ばあやに最初に教わったお花だもの……でも……」

……

(野獣「……」ゼェハァ)

(野獣「末妹、私は頑張ったぞ、お前が懇切丁寧に教えてくれたおかげで最後までやり通せたぞ!!」)

(野獣「……」)

(野獣「この世界でも針で指を刺すと痛いものだな……何十回刺した事やら」ハァ)

(野獣「傷も残らんし血も出ないから良いが、物質世界ならば造花が血まみれになっていた所だ……」)

(野獣「だが……初心者にしては、我ながらなかなか良い出来ではないか?」テマエミソ)

(野獣「……メイドに教える前に、『講師』に見てもらわんとな」)

……


299 ◆54DIlPdu2E2016/08/05(金) 20:59:27.66QmTXQ2QA0 (4/8)

……で、その夜。

(野獣「……どうだね末妹、私の初の作品は?」)

(末妹「わあ……初めてでここまでできるなんて、野獣様はお裁縫の才能があります!」)

(野獣「うふふふふ……」ニマニマ)

(師匠「少なくとも7歳児には劣らずに済んだようだな」ニヤニヤ)

(野獣「……なぜ今夜も全員お揃いなのでしょうか」)

(王子「師匠の話では、屋敷にいる時と違って、この世界に入る時だけはコントロールができなくなるらしいよ」)

(次兄「入る時『だけ』?」)

(師匠「ああ、全員が現実世界で眠りにおちた途端に各自の意志とは関係なく、こうなってしまう」)

(師匠「しかし出る時は今までと同じように、この世界で『眠れば』良いのだからな」)

(野獣「今夜は次兄や師匠の相手をする時間はありませんよ」)

(野獣「講師(末妹)にお墨付きをいただいたら、早速メイドに教えないと」)

(末妹「……それでは私も早速」コホン)

(末妹「野獣様おみごとです、免許皆伝ですよ……なぁんて、生意気ですね私ったら」テヘヘ)

(師匠「何、君はこの中では儂のつぎに精神年齢が高いから問題ない」)

(次兄「おっさんが言わんとしているのは……末妹は14歳相応の精神年齢で、野獣様はじめ俺達は……お察しください、だよね」)

(野獣「……師匠も頭の中は相当な悪童ですけどね」ボソ)



300 ◆54DIlPdu2E2016/08/05(金) 21:01:54.03QmTXQ2QA0 (5/8)

(師匠「何か聞こえたがまあよいわ、いずれまたゆっくりじっくりと」)

(師匠「では……我々は立ち去るとしよう、明日も早いからな菫花」)

(王子「はい、それではおやすみなさい、そしてありがとう末妹さん、次兄君……」)

(末妹「おやすみなさい、菫花さん、師匠様」)

(王子「……野獣、メイドさん達によろしくね」)

(野獣「ああ、きっとメイドも元気になるさ」)

(師匠「眠りの魔法……」ポワワン)

(野獣「……さてと」)

(次兄「……とっとと眠ったほうがいいんですよね、はいはい」フテクサレ)

(野獣「執事に伝言があれば聞くぞ、次兄」)

(次兄「!!」)

(次兄「そ、そんな野獣様、(俺をめぐる)恋敵(=執事さん)に塩を送るような真似とか、どういう風の吹きまわしで!?」ゲヘヘヘヘ)

(野獣「……お前のその台詞は理解できない、いや、理解したくもないが」)

(野獣「執事の気分を害するような内容ならば私が握り潰せば良いだけ、とりあえず言ってみろ」)

(次兄「えーとえーと、おっさん達が騾馬を慣らすのに使う執事さんの獣臭セット、あれと同じ物を今度会う時に俺用にひとつ」)

(次兄「使い古しのだけど可能な限りフレッシュな手袋と抜け毛はなるべく毛足の長い冬毛のー」)



301 ◆54DIlPdu2E2016/08/05(金) 23:06:58.21QmTXQ2QA0 (6/8)

(野獣「はい、とっとと眠るがよい」ドカン)

(次兄「きょええ!?」ゴトッ)

(末妹「……一瞬で眠って夢から出て行っちゃった」)

(野獣「特製の……超強力な眠りの魔法だからな」)

(末妹「それじゃ、私もそろそろ」)

(野獣「まあ待て、改めて末妹には礼を言いたい」)

(末妹「そんな……思い付きを採り入れてくださって、私こそ光栄です」)

(野獣「無論、今回のこともだが……それだけではない」)

(野獣「メイドだがな、使用人の中で、いや、屋敷で最初にお前と仲良くなったのはあいつで……」)

(野獣「お前と触れ合う中で、あいつも変わって行った」)

(末妹「メイドちゃんが? 変わった?」)

(野獣「ああ、使用人になった時から、従順で素直なのは変わっていないが……」)

(野獣「自分の頭でいろいろ物を考えたり、言いつけ以上のことをやってみようと工夫したり」)

(野獣「お前と出会ってから、次第にそういう姿が見られるようになって来たのだよ」)

(末妹「……」)

(野獣「あいつなりに、家族と離れて暮らすお前のために心を砕いていたのだろうな」)
 


302 ◆54DIlPdu2E2016/08/05(金) 23:57:30.71QmTXQ2QA0 (7/8)

(末妹「……私が初めてお屋敷に来て、2~3日たった頃」)

(末妹「メイドちゃん、私の押し花のしおりを見て、初めは絵かと思ったそうですけど」)

(末妹「乾燥させた植物の匂いがするから……それは何ですか、って聞いて来たのです」)

(末妹「乾燥させた花をお茶や薬にするのではなく眺めて楽しむ……というのは初めて知ったらしくて……」)

(末妹「不思議がっていましたが、前の季節に咲いたお花を忘れないように……って話したら納得してくれました」)

(野獣「末妹はあいつに新しい世界を見せてくれたのだ」)

(末妹「そんな大げさなものでは」)

(野獣「いやいや、お前はあいつの初めての『女の子の友達』だからな」)

(野獣「お前もメイドを『同年代の少女』として扱ってくれた」)

(野獣「末妹の振る舞いや考え方、女の子の遊び、私や執事達だけと触れ合っていては得られなかったもの」)

(野獣「それらがあいつを成長させ、賢くさせた」)

(野獣「正直言うと……メイドをただの子兎から使用人にする魔法をかけた私自らが……」)

(野獣「あの子が従順で愛らしければ、それ以上は要求も期待もしていなかった、それでいいと思っていた」)

(野獣「なのに、末妹から得たもので私の魔法以上に育ってくれた」)

(野獣「お前が意図していなかったとは言え、それでもお前のおかげなのだ、ありがとう」)

(末妹「野獣様……」)
 


303 ◆54DIlPdu2E2016/08/05(金) 23:58:21.86QmTXQ2QA0 (8/8)


※今夜はここまで。お盆休み?に入ります……8月半ばに再開します、皆様お元気で※

300超えてしまった……500レス以内には終わらせる予定……
 


304以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/08/06(土) 00:24:45.71Hi2GIFdRO (1/1)


末妹ちゃん天使すぎ問題


305 ◆54DIlPdu2E2016/08/14(日) 21:33:38.22DRmNCapN0 (1/9)

(末妹「私も、メイドちゃんのおかげでお屋敷により早く馴染めたと思います」)

(末妹「……野獣様や執事さんは、最初のころはやっぱり……ちょっぴり怖くって……」)

(末妹「でも、小さな兎さんのメイドちゃんが生き生きと明るく働いているのを見ていたら」)

(末妹「ずっと大きな生き物の私が怖がるのもおかしいかな、って」)

(野獣「……確かにメイドより大きな生き物には違いないな」))

(末妹「知れば知るほど皆さんは優しくて……メイドちゃんも野獣様や執事さんを尊敬しているって伝わってきて」)

(末も妹「皆さんと知り合えてよかったって私も思うようになって」)

(末妹「そうなった最初の目を開かせてくれたのは、きっとメイドちゃんです」)

(野獣「……それを聞いたら飛び跳ねて喜ぶぞ」フフ)

(末妹「ええ、ですから早くメイドちゃんに」)

(野獣「そうだな、私だけが末妹に会えたと言ったら、むくれるかもしれんが」)

(末妹「私だって鏡越しじゃなく会いたいから、再会を前よりもっと楽しみにしている、って伝えてください」)

(野獣「わかった……末妹、また明日な」)

(末妹「はい、おやすみなさい野獣様」ニコ)

(野獣「おやすみ……眠りの魔法……」フワッ)

(野獣「……さあ、手順を忘れぬうちにメイドに教えてやらねば」)

…………



306 ◆54DIlPdu2E2016/08/14(日) 21:35:00.38DRmNCapN0 (2/9)

そして、メイドと野獣……

(メイド「……ふぇ、不思議ですねえ」)

(メイド「でもすっごく嬉しいです、末妹様が私のことを想ってくださるのは」)

(メイド「やっぱり末妹様、大好きです!!」ピョーン)

(野獣「……思いがけずとは言え私だけ会えて、なんだか申し訳ない気がするが」)

(メイド「よかったですね、ご主人様」)

(野獣「え?」)

(メイド「末妹様にお会いできて、よかったですね!!」)

(野獣「う、うむ」)

(メイド「だって私達はご主人様と違って短い時間とは言え週一回鏡でお話しできるし」)

(メイド「末妹様と違って毎晩夢でご主人様とお話しできますもの」)

(メイド「だから、お二人がお会いできてよかったです!!」)

(野獣「……そ、そうだな、ありがとう……」)

(野獣(てっきり羨ましがってむくれると思っていたが……))

(野獣「……メイドよ、お前も大人になったなあ」)

(メイド「??」)

…………


307 ◆54DIlPdu2E2016/08/14(日) 21:37:29.52DRmNCapN0 (3/9)

二日後の夜、夢の世界のバラ園。

(師匠「……この町の牧場の騾馬はとてもよかったが、とりあえず予定の牧場は全て回ろうと思う」)

(王子「なので、明日僕等はここを発ちます」)

(次兄「ということは野獣様ともまたお別れええええええ」ミョキャピェー)

(野獣「変な泣き声を上げるんじゃない」)

(末妹「思いがけない再会、嬉しかったです……」)

(野獣「ああ、私もな」)

(次兄「俺も嬉しかったでっすっ!!」ゴリゴリゴリ)

(野獣「わかってるわかってる、顔をごりごり押し付けながら主張せんでも良いわ気色悪い」ムギュ)

(王子(僕と元は同じなのにハッキリ言う時は言うなあ野獣は)) 

(次兄(びゃああ野獣様の大きな手で顔を鷲掴みとか荒々しい御褒美いぃぃぃぃ)モゴモゴ)

(師匠「おいおい、口を塞いでいないか?」)

(野獣「鼻は塞いでいないから呼吸はできますよ」)

(末妹(お兄ちゃんなんだか嬉しそうだから、心配はいらないみたいね……))

(末妹「……良い騾馬って、どんな子がいたんですか菫花さん」)

(王子「うん、まず見た目が僕の理想の毛色をした、きれいな若い騾馬でね……」)
 


308 ◆54DIlPdu2E2016/08/14(日) 21:40:08.20DRmNCapN0 (4/9)

(王子「それに、執事さんのにおいを嗅がせても怯えた様子がなかったんだ」)

(王子「大きな犬が一頭いてね、牧場主さんの話では生後半年なのに他の犬達より大きくて、その騾馬とも仲がいいんだって」)

(末妹「あら、その犬さんの話は知らなかったわ……最近牧場に来た子なのね」)

(師匠「山岳地帯の猟師の家で生まれた子犬を譲り受けたと話していたが、儂の見たところ幾らか狼の血が入っているな」)

(末妹「あ……」)

(野獣「どうした末妹、複雑な顔をして」)

(末妹「……『狼の血を引く大型犬』がわりと近所にいるって、お兄ちゃんに聞かせてよかったのかしら、と思って……」)

(師匠「ああ……少年の好みのタイプと言うやつか」)

(野獣「大丈夫、執事の獣臭セットの話題が出たあたりから指で両耳を塞いでいるので」ガッシリ)

(次兄(みんなの話は聞こえないけど野獣様臭を間近で嗅げるからもう少しこのままでいいや)クンカクンカ)

(師匠「とにかく有力候補として、我々が旅を終えて返事をするまで、他には売らないでくれる約束をしたよ」)

(末妹「そうですか、幸先が良い……と言うのですよね、こういう時は」)

(王子「うん、最初からいい子に出会えて、これから何軒も牧場を回るけどこの先も楽しみだよ」)

(師匠「ま、君達とも野獣ともまたしばらく会えないが……明日この町を発つ前、菫花を君の家に顔出しさせるよ」)

(王子「そう言えば約束していましたね」)

(師匠「商人の家まで送り届けてやろうか? それとも宿屋まで迎えに来てもらおうか?」)
 


309 ◆54DIlPdu2E2016/08/14(日) 21:42:17.64DRmNCapN0 (5/9)

(王子「もう大丈夫ですってば!!」)

(末妹「ふふ……お待ちしております菫花さん」)

(末妹「そうだ野獣様、メイドちゃんすっかり元気になって布の造花を作り始めたそうですけど」)

(末妹「今日の昼間の様子はどうでしたか?」)

(野獣「ああ、私が教えた花はすぐ作れるからと……」)

(野獣「執事から早くも自粛するよう忠告されたそうだ」)

(末妹「ええっ!?」)

(野獣「昨日の朝から今日の昼までかかって、すでに渡り廊下の壁がお花畑になる勢いだとか」)

(野獣「……そんなんだから、応用編として一つ作るのに時間のかかる凝った造りの花を自分で考えることにしたらしい」)

(末妹「自分で……」)

(野獣「料理長が料理をあれこれ自分の考えで工夫するように、自分にも教わった通りから更に工夫できるはずだと」)

(野獣「とにかく、寂しがっている暇はないくらい張り切っているようだ」)

(末妹「よかった、本当によかった……」)

(王子「僕も安心したよ……末妹さんと野獣のおかげだね」)

(野獣「花と言えば……師匠、このバラ園の片隅に、現実世界の屋敷では見たことのない色が一輪咲きましてね」)

(師匠「おお、それなら儂も見つけたぞ、少し珍しい色だなと思ってはいたが」)
 


310 ◆54DIlPdu2E2016/08/14(日) 21:43:46.90DRmNCapN0 (6/9)

(師匠「まさか屋敷のバラ園にない色とまでは思わなんだ」)

(王子「ええっ、不思議ですね」)

(野獣「もしかしたら、来年以降に屋敷で咲くバラかもしれない」)

(師匠「ほう、それについてお前はどう考察しているのだ?」)

(野獣「230年の間に自然交雑が起きて……しかしバラ園には枯れない魔法と同時に新しい芽も出ない呪縛もかかっていた」)

(野獣「魔法が解けて、新しく生えて来るバラが……きっとそれなのですよ」)

(末妹「わあ……どんなお花なのかしら」)

(王子「見てみたいなあ……」)

(師匠「どれ、儂が案内してやろう、二人とも……ついておいで」)

(王子「あっ次兄君も」)

(次兄「……」ウットリ)

(末妹「……この上なく幸せそう」)

(王子「顔の下半分が隠れているにも拘わらずそれがわかるって余程だね……」)

(師匠「邪魔しちゃ可哀想だ、もっと正直に言うと構いたくない、さ、我々だけで見に行こう」)

(王子&末妹「「はい!」」)

(野獣「……」)

(野獣の手:スッ……)
 


311 ◆54DIlPdu2E2016/08/14(日) 21:45:08.33DRmNCapN0 (7/9)

(次兄「はぅん?」ハッ)

(野獣「我に返ったか」)

(次兄「……皆は? なんかあっちの方に行ったみたいですが」)

(野獣「私があっちの方に咲いた珍しいバラの話をしたら、見に行こうとなってな」)

(次兄「……つまり、理由をつけて人払い……」)

(次兄「そんにゃ回りくどい真似をしてまで俺と二人っきりになりたかったなんてえええええええええええ」ガバァァァ)

(野獣「私を押し倒そうとか200年早い!!」ヒョイ)

(次兄「お約束ぅ!!」ビターン)

(野獣「……せっかくお前との時間を取ってやろうと思ったのに、調子に乗ると『また』超強力眠りの魔法をおみまいするぞ?」)

(次兄「そ! それだけはご勘弁を」)

(次兄「末妹には野獣様に余計な気遣いさせたくないからと口止めしていましたが、実は昨日の朝はですね!!」)

(野獣「ん?」)

(次兄「長兄に(扉を)ノックされても次姉に(尻を)キックされても目が覚めないのでお医者が呼ばれたんですよ?」)

(野獣「う、それは済まなかったな、午前10時には自動的に目覚める効果も加味されていたのだが……」)

(次兄「ええ、お医者が部屋に入った途端に何事もなかったように目覚め、おかげで事情を知らない姉達は呆れるわ」)

(次兄「同じく事情を知らない父と兄と家政婦さんはその後も一日じゅう心配するわ」)

(次兄「唯一事情を知る末妹は大ごとになる前に学校行ったから帰宅して話を聞いてびっくりするわ、散々でしたー」)