1 ◆EHGCl/.tFA2015/10/18(日) 23:14:03.83/w0e+WXt0 (1/8)

このSSは
『THE IDOLM@STER』
       と
『化物語』

のクロスSSです。


 化物語の世界観と、アイマスの世界観が同一であるIFストーリーです。
ベースは物語シリーズ寄りになっておりますのでご了承ください。

時系列は、
アイマスは。スタートからエンディングまでの間のいつか。
物語シリーズは。化物語初日、5月8日から。

です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1445177643



2 ◆EHGCl/.tFA2015/10/18(日) 23:16:14.16/w0e+WXt0 (2/8)

第壹話 『ちはやピジョン』

001

 如月千早は、クラスの中で、一際目立つ存在だった。
否、正確に言うのであれば。学校の中で目立つ存在だった。
これも更に言えば、日本中といっても過言ではないのかもしれない。

何故なら、その理由は。しかし言ってしまえば明瞭で簡潔である。
つまるところ、とどのつまり。それは彼女が。彼女の持つ肩書が、特殊だからである。


 
アイドル。



 漢字で書けば偶像。彼女は、僕たちと同じ学生という立場にありながら。
それとは違う立場の彼女、アイドルという側面を持ち合わせているのだ。


 それ故彼女は、学校では何をしていなくとも目立つ。
雑誌のページに写る彼女が、自分たちと同じように学校へ登校しているのだから、
無理もない話ではあるのだけれど。
だから、というべきではないのかも知れないけれど。しかしここはだからなのだろう。


 彼女は学校で浮いていた。


 友達。と呼べる人間は、正直クラスには見当たらない。
というのも、クラスで彼女と談笑する人を、僕は見たことがないのだ。

いや、僕が見ることのできる彼女は、ガラス越しの向かい側の教室。
その窓際に座る彼女だから、たまに外を見るついでに彼女が見えるだけだ。
だからもしかしたら、僕の見ていない間は誰かと話をしているのかもしれない。
それでもやはり、休憩時間にはCDプレーヤーで音楽をたしなんでいる彼女や、
昼休憩は自分の席で読書を営む彼女を見るに、その可能性も薄いのだろうけれど。





3 ◆EHGCl/.tFA2015/10/18(日) 23:16:50.61/w0e+WXt0 (3/8)

 そしてこれもまた、しかしながら。
無理のない話なのだろう。
彼女は、すなわち彼女のほうから自発的に。人を遠ざけているらしいのだ。


 4月は確かに、お昼時は彼女。
つまり如月千早に、数多の女子生徒が群がっていたそうだ。
アイドルとお昼ご飯を食べる。という言葉を聞けば、それをしたくはないというのは嘘だろう。
同じクラスになった女子生徒のほとんどが、彼女を食事に誘おうと集まった。


僕だって、正直に言えば、興味がないというとウソにはなる。
アイドルという、一見浮世離れとも思える仕事。
そもそも、学生であると同時に社会人である。
そんな彼女の心境を、身辺状況を、聞いてみたいという。興味はある。


 しかし彼女は、その全員を平等に、平たく、公平に。
否定したらしい。
 いえ、一人で食べますので。とたった一言で、わかりやすく拒絶し、否定したようだ。


 そして当たり前だが、その後。
如月千早の周りに群がる女子生徒は、皆別の席でお昼を食べるようになっていった。
勿論、それがいい印象につながるわけもなく。
女子生徒からは、基本的に関わられることはなくなっていく。


 ただ、彼女がディープな意味でもライトな意味でも、迫害されている感じはないという。
無関心。クラスは皆彼女に無関心を決め込んでいた。
別に、最低限の会話。例えばクラスの配布物を集めるための会話などはしているようではあるけど。
彼女がそれを望むのであれば、と。
クラスの皆は彼女に深入りは決してすることはなかった。


 そう、数多いる僕の後輩の一人である彼女は、如月千早は。
アイドルなのだ。
さらに言えば、独りぼっちの、孤独の直江津高校の二年生。



 しかしどうして。



 今。
目の前の状況で、彼女はそこまで無心でいられるのか。
僕は不思議でしょうがなかった。



4 ◆EHGCl/.tFA2015/10/18(日) 23:18:24.06/w0e+WXt0 (4/8)

 002

 5月8日。
珍しく僕は、一人で起きた。


火憐「あ、おはよう兄ちゃん」


月火「珍しいねお兄ちゃん。お兄ちゃんがひとりで起きるなんて」


 洗面所で顔を洗おうと向かう先で、二人の妹が僕に話しかけてきた。
阿良々木月火と、阿良々木火憐だ。
彼女たちは、自分たちの兄であるところの僕を。まるで他人であるかのように一歩身を引いて眺めた。



暦「何を言っているんだよ。僕だって普通に起きるさ」



火憐「よく言うぜー兄ちゃん。いっつも私たちに起こされてるクセによー」


月火「本当だよお兄ちゃん。二度寝が最高とか言って、なかなか起きないし」


暦「確かに過去の僕はそうだったかもしれない。しかし、それは昨日までの兄ちゃんだ。
  時は刻一刻と過ぎ、人間は変わるんだ。僕だって例外ではなく、変化するんだ」


火憐「何難しいこと言ってんのさ兄ちゃん。朝からそういうのは無しにしてよー」


暦「……難しいか?今の言葉」


月火「難しいよ。発言を理解するのが難しいんじゃなくて、お兄ちゃんを理解するのが難しいよ」


暦「おいおい。妹が兄を理解しなくてどうする」


月火「じゃあ、私たちが今から顔を洗おうと洗面所に向かっているのを足止めするお兄ちゃんこそ。
   妹をもっと理解するべきだよ」


暦「あ、ああ。それは悪かった……って、僕も今から顔を洗うつもりなんだぞ?
  それに、お前たちより、洗面所に向かって僕は前にいるわけだろう?じゃあ優先順位は僕にあるはずだ」


火憐「あーもうちっさい男だな兄ちゃんはー。つべこべ言ってる間に洗わせてくれればいいじゃねえか。まだ朝のランニング済んでないしさー」


暦「いや、それこそ先にランニング行って来いよ。それから顔を洗う。さらに言えばシャワーを浴びればいいんじゃないか?」


火憐「寝起きに顔を洗わないと気持ち悪いじゃんかー。なあ、兄ちゃん?」


暦「いや、まあ確かにそうだけど……」


 僕が間違っているのだろうか……?


月火「というわけで、先に洗面所を使うの私たち。いい?お兄ちゃん?」



暦「まあ、いいだろう。僕は先に朝ご飯にするよ。その間に顔を洗って、洗面所を空けてくれ」



 他愛ない、取るに足らない日常の会話をする妹との日常。
別に何か変わったこともなく、昨日と同じ今日が流れている。そう実感する。
ついこの前、僕は人間ではなくなったけれども。だとしても、だからといって生活に変化はない。


 そのまま僕は朝ご飯を終え、洗面所で、乱雑に散らかされた妹たちのパジャマを洗濯機に放り込み。顔を洗った。



5 ◆EHGCl/.tFA2015/10/18(日) 23:19:24.47/w0e+WXt0 (5/8)

暦「いってきます」


 こんな風に、冷静な言葉運びで出発のあいさつをできるのは、確かに久しぶりだ。
いつもなら挨拶すら省略(といっても、妹たちへいってらっしゃいと言うのは必ずだけど)して。学校へ向けて家を飛び出す事のほうが多い。
遅刻常習犯というわけではないけれども、僕は確かに。いつもギリギリに家を出る。


 しかしながら今日は、何故か早く目が覚め、
こうやって自転車で初夏の風を浴びながらゆっくりと登校できている。


 でも、改めて考えてみれば。学校の始業時間が全校生徒で一緒というのは。
なんだか疑問がある。不平等に感じてしまう。
だって、確かに生徒全員は、同じ時間の中で一日を生きている。
だから、例えば8時半という始業時間が設定されている。そこだけ切り取れば平等である。
しかしどうだろう。生徒の登校時間は、生徒によって違う。
極端に言えば、5分の生徒と1時間の生徒が存在する。
その生徒たちは、つまり始業時間から逆算すれば、それぞれ8時25分と7時半が始業時間といっても過言ではない。


 これは平等ではないのではないだろうか。
5分で学校に行ける生徒が寝坊して、8時25分に家を出ても、それは遅刻じゃあないけれど。
1時間かかる生徒がまったく同じように寝坊してしまったら、
平等に8時25分に出発しても、9時25分に到着して遅刻扱いを受ける。


 だからつまり、始業時間を統一するのは、学校への到着時刻ではなく。出発時間にするべきじゃあないんだろうか。
男女平等とか、人類みな兄弟というのであれば。そういうところも平等にする必要があると思う。


 まあ、羽川にこんなことを言ってしまえば、登校開始時間の確認についての信憑性や。
そもそも学校では社会的規則を学ぶ側面もあるという感じで、現実的に論破されそうではあるけれど。


 そんなことを、変化の無い、いつもの通学路を眺めながら考えていると。
急に僕の目の前に不思議な光景が飛び込んだ。
いや、正確には視界の端に映ったものを、僕が首を傾けることで飛び込ませた。


暦「青い……鳩?」


 そう、目の前で飛ぶことをせずピョンピョンと跳ねて歩いてる、鳩が見えた。
青い鳩。
ペンキの中に飛び込んだか、上からペンキが降ってきたかのどっちかくらいに真っ青な鳩。
その珍しい光景に、僕は自転車を止めてじっと見つめた。



「……何かご用ですか?」



暦「え?」



6 ◆EHGCl/.tFA2015/10/18(日) 23:21:14.66/w0e+WXt0 (6/8)

 今思えばもっと言葉があったかもしれない。だが、その時僕はたった一文字の言葉しか出てこなかった。
その青い鳩。奇妙な鳩が歩くさまを追っていると、その傍には、一人の女子学生が立っていた。
そして、その学生は、僕からの一方的であるけど、面識のある人間だった。



暦「あ、えっと……如月……だっけ?」

 如月千早。おおよそ多分、この名前で正解だった気がする。
なぜ僕が、この学生のフルネームを覚えているのかというと、なんてことはない。


有名人だからだ。彼女は学校の中だけでなく、日本中で知る人がいる存在。
スラリとしたきれいなスタイルで、足元の鳩よりも澄んだ青い髪。
その色はどこかアニメや漫画の世界観を匂わせる程(生活指導の教師曰く地毛らしい)だった。


そしてその如月千早は、彼女はつまり。アイドルなのだ。
彼女は僕の後輩で、同じ高校の学生だけども、その傍ら、アイドル活動をしている。


学校の中で、アイドルをしている学生なんてそんな何人もいるわけもなく。
それ故学年が違う僕でさえも、彼女の存在は、彼女の名前は、耳に入ってきていたのだ。

そしてそんな如月千早が、目の前にいる。
いや、彼女からしてみれば。
僕がいきなり彼女の傍に立ち止まり、足元をじろじろ見つめる変質者に見えている。


千早「え、ええ……。あなたは、同じ学校ですか?」


暦「ああ、お前の先輩だ、3年生の阿良々木暦だ。早い登校なんだな」


千早「え、ええ……まあ……」


 と、改めて僕はここで現状を理解することになる。
彼女の最初の言葉はおはようではなかった。挨拶ではない。疑問だった。
何か用ですか?という疑問だった。


 そう、今まさに、僕は変質者の疑いをかけられているのだろうと。
普通の会話を試みた直後に気付く。
僕が今行うべき行為は、普通に挨拶をするでもなく、登校についての議論でもなく。
訂正であるべきだった。


暦「あ、えっと。違うんだ如月。お前を見つけたからこうやって立ち止まったわけじゃないんだ」


千早「はあ……そうですか」


暦「その、お前の足元にいる。青い鳩が気になっちゃったんだ。珍しいだろう?」


7 ◆EHGCl/.tFA2015/10/18(日) 23:21:46.08/w0e+WXt0 (7/8)

 そういって、僕は改めて青い鳩を見る。
その青い鳩は如月のすぐそばで立ち止まっているのを確認して、それを指さし。僕は如月に、ことの顛末の訂正を試みた。


千早「青い鳩……?そんな鳥がどこに?」



暦「いや、お前の足元にいるじゃん。ホラ」


千早「いえ?見当たりませんけど……」


暦「何を言ってるんだ?ホラ、ここに……ってアレ?」


 消えた。
ついさっきまで、確かに青い鳩は。如月の足元で首を揺らしていた。
でも、羽ばたいた様子もないままに、まるで夢から覚めたように一瞬で。消えた。


千早「一体、何が言いたいんですか?」


暦「え?あ、その。
  ごめん。どうやら僕の見間違いだったようだ……」


千早「はあ……そうですか」


 見間違い。という表現は自分の中で納得しかねる。
何故ならさっきまで、確かに足元にはいたはずなのだから。
同じ場所に、普通の鳩や、青いボールでもあれば。見間違いでもあるのだろうけど。
今見返せば、そこには最初から何もなかったように、綺麗に空間だけが存在している。


暦「その、ごめん。
  じゃあ、僕は急ぐから、また学校で」


千早「え、ええ……」



 別段急ぐ理由はなかったけれども。なんていうか、居心地はいいものではなかった。
まるで無理やり会話する理由を探して、嘘までついて如月に話しかけたみたいで。
いや、そもそも変質者みたいな行動の訂正すらできていなかった。


朝早くに登校することで、ちょっと不運な出来事に遭遇した。
三文の徳どころか、一銭にもならない早起きだった。


8 ◆EHGCl/.tFA2015/10/18(日) 23:22:51.15/w0e+WXt0 (8/8)

次回 ニ 續 ▲


9以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/19(月) 01:22:59.73PuAOR/Kco (1/1)

おつ~


10 ◆EHGCl/.tFA2015/10/19(月) 20:01:33.16SSsIPwzK0 (1/6)

003

 放課後。学校の生徒の行動は様々だ。
部活動をする人、帰宅する人、友人たちと街で遊ぶ人、図書館で勉強する人。
しかしそれでも、皆共通して、教室からは去っていった。

 僕と、目の前にいる彼女を除いては。


羽川「で、その中から選んでもらうっていうので、どうかな?」


暦「いいんじゃないのか?一見民主主義っぽくて」


羽川「相変わらず嫌な言い方するよね、阿良々木君は。ひねてるっていうのかな?」


 目の前の彼女。彼女は。
羽川翼。クラスの委員長。規律正しく、折り目正しく、恐ろしく真面目な女子生徒。
まさに、委員長の中の委員長。


 そんな彼女と、副委員長である僕は。今。
たった二人教室に残って、文化祭の計画を練っているわけだ。


暦「そういえばさ、一つ下の学年にさ、如月って奴、いるだろ」


羽川「ん?如月さん……?如月さんがどうかしたの?」


暦「ん?まあ、なんか気になって……。アイツ、仕事してんだよな?だから、文化祭とかには参加できるのかなって」


羽川「うん?」


暦「いや、それに学生のうちから仕事してるなんて、ちょっと興味があるっていうかさ?」


羽川「確か彼女、アイドルなんだよね。最近はたまにテレビとかにも出てるし」


暦「みたいだな。いや、でもそうじゃなくて。
  ホラ、僕は別に、アイドルに興味があるわけじゃなく。仕事をする学生に興味があるんだ」


羽川「うちはバイト禁止ってわけじゃないし、拡大解釈にはなるかもしれないけど。
   別に仕事も学業と両立できるなら禁止はされていないと思うよ?
   それに、家の事情とかで高校生から仕事をする人も、最近では珍しくないよ。
   そもそも高校に行かない人ってのも多いし。社会への入り口の多様性は広がってるよ?」


暦「成程な……。いや、それでもやっぱり変わってると思わないか?アイドルだぜ?」


羽川「まあ、確かに変わってるといえばそうだね。
   でも最近、お仕事うまくいってないみたいだよ?如月さん」


11 ◆EHGCl/.tFA2015/10/19(月) 20:02:03.10SSsIPwzK0 (2/6)

暦「え?そうなのか?」


羽川「うん。私も風の噂程度だけど、声帯を悪くしちゃったみたいで、声が出ないみたい。
   それで、お仕事に影響が出ているらしいんだって」


暦「へえ、それは初耳だよ。お前は何でも知ってるんだな」


羽川「何でもは知らないわよ、知っていることだけ」


 と、今朝であった如月千早について、ちょっと話を持ち掛けてみた。
何故かは分からないけど。僕は多少の違和感を覚えた。

今日、今ここで僕が、『如月千早』という名前を出したことについて、僕は違和感を感じた。
今朝、早く起きたこともそうだ。
 何か拭えない違和感が、心の片隅で鎮座していた。


 いや、まあその違和感は置いておいて。目の前の委員長を改めてみる。
僕の話を返しながらも、彼女のシャープペンシルの芯は減り続けていく。
不規則にカチカチと芯を送り出す音が、なんだか心地よくも思えた。

 ここで、朝僕が考えた、登校時間の話をしてもいいのだけれど。
多分目の前の羽川には、2分と持たない論争になるだろうから、僕はこれも心の片隅に座らせておくことにした。




12 ◆EHGCl/.tFA2015/10/19(月) 20:02:53.90SSsIPwzK0 (3/6)

暦「んーっ」


 背伸びをした。
羽川のシャーペンの流れる音をずっと聞き続けていたせいで、聴き入っていたせいで。
体が固まってしまった。

背伸びというのは、これまたどうして。気持ちのいいものである。
夕日も合わさり、なんとも言えない情緒あふれる光景だ。


羽川「でもさ、珍しいね」


 羽川が不意にそう言った。
シャーペンを止める様子もなく、顔をあげもせず。信頼として、信用として。確認せず。
聞いてくれるだろうという心持ちで、そのままの状態で僕にしゃべりかけた。


羽川「阿良々木君が他人に興味を持つなんて」


暦「いや、そんなんじゃないけどさ」


羽川「アイドルってやっぱ、男子は憧れちゃうよねー。
   もしかして、さっき私が言った如月さんの声について何かしてあげて、
   お近づきになろうかんとか考えてるの?あーヤダヤダ、汚らわしい汚らわしい」


暦「そんなわけないだろ。僕は別にアイドル好きってわけじゃあないし」


 声が出ない……か。
それは病気か何かなのだろうか。アイドルというだけあって、多分歌うことも仕事の大きな部分だろうから。
喉の使い過ぎということは十分に考えられるし、きっとそれが9割以上正解だろうけれど。


 しかし、と。僕は可能性を危惧してしまう。


 今朝の事についてだ。


 今朝、彼女の傍にいたはずの、消えてしまったあの。珍しくも奇妙な青い鳩。
あの青い鳩がもし、本来の生物から離れた存在であるとすれば。


 その可能性を、僕は心当たりがあるだけに。危惧してしまう。




13 ◆EHGCl/.tFA2015/10/19(月) 20:03:38.80SSsIPwzK0 (4/6)

暦「とにかくさ、如月って、どんなやつなんだ?」


羽川「流石に私も、同じクラスでもなければ、学年も違う人の事はあまりよく知らないよ?」


暦「ああ、まあ。そうだよ……な……」


 と、しばし沈黙で時間を過ごしたところで、羽川は顔をあげてペンを置いた。


羽川「うーん……。まあ、成績は悪くないみたいだよ?
   やっぱり仕事している分、成績が悪いと周りの目もあるんだろうし」

暦「まあそうだよな。世間の目ってのは厳しいもんだし」


羽川「それに、友達は少ないみたい。やっぱり、仕事のせいなのかな……。
   性格も結構クールで、口数も少なそうな感じだしね」


暦「へえ、アイドルっていうだけあって、周りからもてはやされていると思っていたけど」


羽川「うーん。どうなんだろうね、彼女……。
   聞く話によれば、如月さん自身から、周りに否定的みたいだし」


暦「へえ、アイドルだから、スキャンダルとかそういうのがあるのかな」


羽川「それはどうかわからないけど……。だから、さっき言った声が出ないってのも。
   聞いたのは如月さんの友人とかじゃなくて、雑誌やニュースからだからね」


暦「成程ね」


 否定的……。孤独……か。



14 ◆EHGCl/.tFA2015/10/19(月) 20:04:24.45SSsIPwzK0 (5/6)

暦「あー。そうだそうだ、思い出した。
  僕、忍野に呼ばれてるんだった」


羽川「忍野さんに?なんで?」


暦「ああ、ちょっと、手伝いを頼まれてて……。
  ごめん。後は任せていいか?」


羽川「埋め合わせをしてくれると約束してくれるなら、今日はもういいわ。
   忍野さんを待たせても悪いしね」


暦「ごめん、羽川」


羽川「忍野さんによろしくね」


 そういって、僕は足早に教室を出た。
忍野と約束なんてなかった。
ただ、どうしても気になってしまったのだ……。


 靴を履き、僕はその足で、忍野の元へ向かおうと決めた。
結果的に忍野の元へ向かうわけだから、僕は別に嘘をついたわけじゃあない。

そうやって、あの真面目な彼女に言い訳を。
心の中でしてしまうあたり、僕は小心者なのかもしれない。
いや、もしかすると既に、見透かされているのかもしれないけれど。


 と、僕がそんな考え事をしながら駐輪場へ向かう途中。



暦「あ……」


 再び。
再び青い鳩に出会った……。


 今朝と同じ、真っ青な鳩。
そして、そのすぐ傍にはやはり。


 彼女もいた。



 如月千早だ。



15 ◆EHGCl/.tFA2015/10/19(月) 20:05:00.67SSsIPwzK0 (6/6)

次回 ニ 續 ▲


16以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/19(月) 23:46:42.30zxpYMXwFo (1/1)

ああ^~短け~


17 ◆EHGCl/.tFA2015/10/20(火) 19:27:36.496iKKCyb30 (1/11)

004

 青い鳩。
やはりあれは見間違いでも幻覚でもない。はっきりと見えている。
如月千早の足元に、青い鳩が。目をこすって確認してみたけど、そこにいる。存在している。

今朝と同じように、如月千早の足元に。


暦「な……なあ」


 だから、それ故に僕は呼び止める。
ただ、訂正したいだけだ。今朝の事について、そこにいる。足元にいる青い鳩。


この鳩に気を取られて立ち止まったのだということを、如月には伝えておきたかっただけだ。



千早「え?……。あ、あなたは今朝の」


暦「3年生の阿良々木だ。阿良々木暦だ。
  いや、今朝は悪かった。登校中に呼び止めてしまったみたいで」


千早「いえ……。それはいいんですけど。何か用ですか?」
  


暦「いや、用ってほどじゃあないんだけど……。
  ホラ、今朝言ったじゃん、鳩がいるって」



千早「あ、えっと……。そうですね、確かに先輩はそんなこと」



暦「多分、信じてないと思って、
  僕がお前と話すために意味不明な嘘をついたと思われているんじゃないかと思ってさ。
  それを訂正したくて」



千早「あ、いえ……大丈夫です。お気になさらず」



 言外に、大事にはしませんから。もう関わらないでくれと言われているようだった。



18 ◆EHGCl/.tFA2015/10/20(火) 19:28:05.816iKKCyb30 (2/11)

暦「いや、まあでもさ。ちょっと見てくれよ。
  やっぱお前の足元にまたいるんだよ、青い鳩、ホラ」


  
 いる。確かにいる。
今度は消えていない。僕の目にはしっかりと映っている。


間違いない。



千早「青い鳩?」


暦「ホラ、足元に」


 そういって指さしをしながら、僕はその青い鳩をじっと見つめる。
それに合わせるように、如月も自分の足元へ目線を落とす。





千早「…………はあ。もういいですか?」


暦「……え?」


 今度は目の前で。
如月が目線を下に向けた瞬間に。


 音もなく、一瞬で。刹那。


 消えた。


暦「……あ、あれ?」


千早「……帰っても、いいですか?」


 消えた。消滅した。滅した。
いなくなった……。


 綺麗さっぱり、如月から隠れているかのように。
青い鳩が今朝と同じように。



 消えた。



19 ◆EHGCl/.tFA2015/10/20(火) 19:28:47.136iKKCyb30 (3/11)

 それから大きく前に頭を下げて、一言謝罪の言葉を添えて。僕は逃げるように自転車置き場へ歩いた。
完全に誤解されているということは、ほぼ確実だ。
しかし。それよりも今は。何よりも今は。


 忍野の元へ行かなくてはならない。


 ぼろぼろの廃墟。塾の跡地、そこに住んでいる。いや、別に住んでいるわけじゃあないのだろうけれど。
そこで寝泊まりをしている男。


忍野メメ。


 怪異の専門家である、忍野メメの元へ。僕は行かなければならない。
何故ならきっと、いや。ほぼ確実といえる。


 あの青い鳩は、消える鳩は、如月の傍に居続ける鳩は。


きっと……。 怪異だからだ。



20 ◆EHGCl/.tFA2015/10/20(火) 19:30:22.576iKKCyb30 (4/11)

005


自転車を強く漕いでたどり着いた先で、僕はさらに階段を上る。
そして、ドアが壊れ、ただの穴になっている入り口を通って。

忍野のいるであろう部屋に入った。



忍野「おやおや、遅かったね阿良々木くん。待ちくたびれたよ」


暦「ああ。いてくれて良かったよ、忍野」


忍野「なんだなんだい?僕にそんなに会いたかったのかい?
   全力で自転車をこいで、それに対して階段はゆっくり上って息を整えて。
   何かいいことあったのかい?」


暦「そうじゃあないけど。いや、ちょっと忍野に聞きたいことがあるんだけど」


忍野「聞きたい事?なんだいそれは」


暦「怪異について、ちょっとさ」


忍野「ほほう?怪異の専門家に、何を聞くってんだい?
   いいよ、聞いてごらん。応えて進ぜよう……あはは」


 忍野メメは、とにもかくにもこういう人間だ。
要領を得ないというか、のらりくらりと会話の本質をずらしてくる。


 しかし、彼の怪異に対する知識は本物だ。
彼のおかげで、僕も、そして羽川も今こうして生きていられるのだから。



だから僕は、そんな忍野に。
あの青い鳩について聞きたい思ったのだ。



21 ◆EHGCl/.tFA2015/10/20(火) 19:33:36.586iKKCyb30 (5/11)

006

 それから僕は、如月の事を。今朝からの一連の流れを。
簡単に、かいつまんで。忍野に話をした。



忍野「ああ、それは九十鳥だね」


暦「くじゅうとり?」


忍野「ああ、九十鳥。数字の9、数字の10、それに鳥で、九十鳥。
   苦渋の選択。の苦渋を、取得の取で、苦渋取りともいわれる怪異だよ。」


暦「九十鳥?あの青い鳩が?」


忍野「鳩だからだよ。
   鳩って九に鳥って書くじゃあないか。だから九+鳥で、+を十って読んで九十鳥だよ」


暦「で?それは、どんな怪異なんだ?」


忍野「鳩って言えば、『幸せを運ぶ青い鳥』の事じゃあないか。
   懇切丁寧にさあ?その鳩も青いんだろう?
   間違いなく、そいつは怪異。
   青い鳩の正体は、九十鳥であり、『幸せを運ぶ青い鳥』だよ」


暦「いや、まあ。幸せを運ぶ青い鳥なら聞いたことがあるよ。
  確か、外国のどこかの童話か何かだっけ?」


忍野「正確には童話劇だね。タイトルはそのまま青い鳥。
   まあ、おおむねその通りではあるんだけど」


暦「いや、青い鳥の鳥の種類が鳩なのは、僕も聞いたことがあるけど。
  それが九十鳥なのか?」


忍野「だから、九十鳥は、九たす鳥って書いて鳩なんだ。
   青い鳩の怪異なんざ、九十鳥以外いないぜ?」


暦「いや、それならなおさらおかしいぜ忍野。
  青い鳥は幸せを運ぶはずの怪異だろ?
  それが如月にとって悪影響を及ぼしてるのは、ちょっとおかしい気もするんだけど。
  それとももしかして、九十鳥と、如月の声が出ないということに関係はないのか?」


忍野「いや、関係ないことはないよ?

   むしろ関係してる。
   だって、その如月ってお嬢ちゃんが見ようとしたら消えちゃうんだろう?
   お嬢ちゃんについていく、その九十鳥が……さ」


暦「ああ、それだから僕は、その青い鳥が怪異なんだと。
  僕だから見えたんじゃあないのかと思って連絡したんだ」


忍野「まあ、そこに関していえば正解だね。阿良々木君。
   君だから確かに、九十鳥を視認できた。
   怪異なんて、普通。関係のない人間には見えないはずだし。
   だから尚更なんだよ。関係のない君に見えているのに……」


暦「関係のある、関係を持つ如月に見えていないことが……か?」



22 ◆EHGCl/.tFA2015/10/20(火) 19:46:36.866iKKCyb30 (6/11)

忍野「その通り。いいかい?九十鳥は、そもそも幸せを運ぶ怪異なんだけどね?
   別に、今回の場合を例にしてもいいんだけど、お嬢ちゃんに運んでいるわけじゃあないんだ。
   むしろ、お嬢ちゃんから運ぼうとしている」


暦「ん?するともしかして。
  如月から幸せを奪って、ほかの他人へ運ぶっていうのか?」


忍野「奪う?あはは、物騒な物言いだね阿良々木君。
   
   違うよ。
   別にお嬢ちゃんから幸せを奪うなんてことはしない。
   お嬢ちゃんから運ぼうとしているのは、つまり。
   取ろうとしているんだ。その名の通り、苦渋をね?」


暦「苦渋取り。だからか?」


忍野「そうだよ。苦渋を取ってあげようとしているんだよ。
   そして、それを運ぶ先は、簡単に言っちまえば、あの世」


暦「あの世って、天国とか地獄とか?」


忍野「それはわかんないけど、死者の元へいくんだ。九十鳥はね。
   つまり、九十鳥ってのは。死者と、この場合はお嬢ちゃんであるところの、生者を。
   しっかりと踏ん切りをつかせてあげるためにいる」

忍野「分かりやすくたとえ話をしよう。
   例えばだよ?、阿良々木君。もしも明日にでも、委員長ちゃんが亡くなってしまえば、君は少なからず悲しむよね?」


暦「当たり前だろう?羽川は大事な恩人なんだ。それにクラスメイトだ。悲しまないわけがない」
 

忍野「素直じゃないねえ、阿良々木君は」



暦「何が言いたいんだ?」

忍野「いやいや、ごめんごめん。話を脱線させちゃったね。
   まあ、そうだろうね。阿良々木君は委員長ちゃんを悲しむ、つまり苦しむ。苦渋だ。
   それと同じようにね?委員長ちゃんもきっとそうなんだよ。
   委員長ちゃんも、自分が死んじゃったら阿良々木君に対して苦しみ悩む。死者が、生者にね?」


暦「死んだ人間が意志を持ってるって事か?」


忍野「まあそこらへんの死者や生者の世界の問題は。
   とりあえず存在するっていう仮定で聞いてくれ。
   いやはや。つまりね?九十鳥ってのは、つまりは死者のための怪異なんだよ。
   死者へ、生者の手向けの花を。苦渋を運んであげて。死者を安心させる怪異」


暦「ってことは、死んだ人間に対して、『幸せを運ぶ』のが九十鳥なのか」


忍野「ご明察。つまりはそういうこと。
   だから多分。そのお嬢ちゃんの周りで関係の深い人が。
   つまり、お嬢ちゃんの事を大事に思っている人が誰か死んでいると思うよ。
   だから、その死者に対して、お嬢ちゃんの事を知らせようと、九十鳥はお嬢ちゃんのそばにいるんじゃあないかな?」


暦「成程な。
  って、いやいや。それでもやっぱり分からないぞ?
  あの青い鳩が九十鳥って怪異なのは分かったし、如月の傍にいる理由も分かった。
  でも、それなら結局。如月が今、声が出なくて悩んでいるのは関係ないって事なのか?」


忍野「いや、だから密接な関係だよ。
   九十鳥がそのお嬢ちゃんの傍にいることと、お嬢ちゃんの声の原因は」


暦「それじゃあ、どうすればいいんだ?」


忍野「どうしてだい?」


暦「え?」


23 ◆EHGCl/.tFA2015/10/20(火) 19:47:25.566iKKCyb30 (7/11)

忍野「どうして知りたいんだい?」


 忍野は、声のトーンを変えず、そう僕に質問した。
今まで僕が質問し続けてきた流れを一瞬で変えて、僕に質問をしてきた。


暦「いや、それは……」


 助けたい。
というのは分不相応であることは重々理解しているつもりだった。
だから、それだから僕は言い淀んでしまう。口を閉じてしまう。
目線を泳がせてしまう。


忍野「君に九十鳥が見えたのは、阿良々木君が特殊だったから。それだけだよ?
   別に君が何かをすべきじゃあないし、結局今回の結末、オチをいうと。それは彼女の問題なんだと思うぜ?」


 そう。
僕は別に救世主じゃあない。もっといえば、怪異の専門家でもない。
ただ、怪異に行き会ったことがあるだけ。怪異の専門家の知り合いがいるだけ。


 しかし、でも。忍野が言うには。
如月が困っていることに、声が出ないということに。怪異の存在が関係している。
それならば。

僕は。


 とどのつまり。僕は知ってしまったのだ。
怪異に近い僕という存在だから、知ってしまっている。
すべきじゃあないが、しなくてもよいのだけど。さらに言えば、すべきじゃないのかもしれないけど。


 ただ一つ。知ってしまったという事実のみで、僕は今。目を背けられないでいた。


暦「途中まで聞いて満足する性格じゃあないよ。そこまで話したんなら、全部教えてくれよ」


忍野「あはは、素直じゃないんだね阿良々木君。
   まあいいさ。別にどうしようと、正直さしたる問題は出てこないからね」



 そういうと忍野は、小さい溜息を一つこぼして。
僕に話を続きを語り始めた。


24 ◆EHGCl/.tFA2015/10/20(火) 19:49:12.606iKKCyb30 (8/11)

忍野「最初に言ったように、そのお嬢ちゃんには怪異が、九十鳥が見えてないんだよね?
   そもそも、それはおかしいんだよ。
   関係があるのなら、見えなきゃおかしいんだ」



忍野「だって、そのお嬢ちゃんを大事に思う死者が、九十鳥をお嬢ちゃんに寄越したんだ。
   お嬢ちゃんから苦渋を運び出すのなら、お嬢ちゃんには見えるはずだ」


暦「如月じゃないって事か?九十鳥が運びだそうとしている人間は」


忍野「いや、そのお嬢ちゃんの傍にいたんだろう?九十鳥は。
   それならお嬢ちゃんで間違いはないよ」


暦「じゃあ、なんで?」


忍野「見えないんじゃないってことだね」


暦「見えるのに嘘をついていたって事か?」


忍野「いやいや、うーん。まあ、阿良々木君がそのお嬢ちゃんに心底嫌われているのなら、その可能性もあるけど……。
   何かした覚えはあるかい?」


暦「いや、ない……。とは思うけど。
  正直なところ、如月とあまり会話もしたことがないし、ただ同じ学校だってだけだから。
  正直分からないな」


忍野「まあ、そうだったらそれで。阿良々木君にバッドエンドな結末だけど。
   そうじゃないとは思うよ。そのお嬢ちゃん、嘘はついていない」


忍野「つまりね?見えてないんだけど、見えないんじゃないんだよ。
   見ようとしていない、見ないふりをしている。目を背けているんだ」


25 ◆EHGCl/.tFA2015/10/20(火) 19:49:49.686iKKCyb30 (9/11)

暦「九十鳥から目を背けている?」


忍野「正確に言えば、九十鳥が運ぼうとしている先。お嬢ちゃんを大事に思う死者をだね。
   一言でいえば。お嬢ちゃんはきっと、死者が死んだことから目を背けているんだよ」


暦「その死者の死を認めていないって事か?
  例えば忍野が死んでしまったのに、僕は毎日ここにきて忍野を呼んでいる。
  みたいな感じか?」


忍野「なんだいその例え?気持ち悪いな阿良々木君。
   さっきみたいに委員長ちゃんの例を流用すればいいじゃない。
   なんでいきなり僕を殺すんだ」


 例え話だとしても、羽川が死ぬということは。ちょっと僕の口からは言いたくはなかった。


忍野「まあいいや。うーん。大方そういう事だよ。
   そういう感じで、お嬢ちゃんは死者の死を認めてない。
   それ故に。お嬢ちゃんに九十鳥が見えない」


忍野「更にそれ故に。   九十鳥は、お嬢ちゃんから苦渋を運んで、死者へ届けることができない。
   更に更にそれ故に。 九十鳥はお嬢ちゃんの傍に居続ける。
   更に更に更に……。

   阿良々木君、どうなると思う?」


暦「ええ?わかんねえよ忍野。九十鳥が如月の傍に居続けると、何かいけないのか?」


忍野「お嬢ちゃんにとってはなにもいけなくはないよ。
   ただ傍にいるだけだからね。でも、死者に対してはどうかな?
   運んでくる九十鳥はいつまでたっても来ない。つまり、死者の苦渋は晴れない。
   未練タラタラのままって事さ」


忍野「そして、苦渋の満ちた死者のとる方法は。結局のところ一つしかない」


暦「なんだよ、その一つって」



忍野「呪いだよ」


26 ◆EHGCl/.tFA2015/10/20(火) 19:50:35.386iKKCyb30 (10/11)

暦「呪いって……。おいおい、それはおかしくないか?
  如月を大事に思う人間なんだろう?その死者は。その死者が如月を呪うなんて」


忍野「可愛さ余って憎さ百倍って言葉もあるくらいに、人間はわかんないもんだぜ?
   いや、そうじゃなくても。呪いってのは何も恨み辛みや妬み嫉みだけじゃあない。
   ある意味でただの我儘であることだって多い」


暦「我儘?」


忍野「ああ、死者がお嬢ちゃんと離れたくないから、傍にいてよって呪ったり。
   死者をお嬢ちゃんが無視するから、気を引こうと思って呪ったり。様々だよ。

   つまり、お嬢ちゃんの声が出ないのは、きっとそのせいなんじゃないかい?」



暦「ってことは、如月は、死者に呪われているってことで、九十鳥は関係ない」


忍野「あくまでも声が出ないという一つの事柄に関していえば、ね?
   その原因は、九十鳥から目を背けていることには変わりないしね」


暦「ってことは、もし如月の声を取り戻そうとするなら。
  如月自身が九十鳥と向き合うしかないって事か」


忍野「その通り。
   いや、まあ。その死者にお願いするって方法もあるにはあるかもしれないけど。
   その死者は別に怪異じゃないからね。僕は専門外だよ?
   霊媒師にでも頼んでみたら?お勧めはしないけど」


暦「分かったよ……。長々とありがとう、忍野」


忍野「だから言ったろう?聞いてどうするんだって。
   前回の委員長ちゃんや、最初の阿良々木君の時みたいに。何かをしてあげることは出来ないケースだ。
   どうしようもないんだよ。本人の問題さ」


暦「ああ、そうだな……うん」


忍野「話はそれだけかい?じゃあそろそろ寝かせてくれないかな。
   ちょっと別件で、僕は疲れているんだよ」


暦「あ、そうだったのか?それなら言ってくれればいいのに。
  いや、本当に悪かった。じゃあ、僕は帰るよ」


忍野「ああ、それじゃ、阿良々木君。おやすみ」



暦「ああ、おやすみ」



27 ◆EHGCl/.tFA2015/10/20(火) 19:51:04.156iKKCyb30 (11/11)

次回 ニ 續 ▲


28以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/21(水) 01:30:50.722UJz4RH9O (1/1)




29以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/28(水) 00:14:09.55l3I3S5e2O (1/1)

次回はあるのかな?


30以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/11/12(木) 01:51:56.57E9HWkSqDO (1/1)

ぱったり止まったな
どうした?


31以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/11/21(土) 21:04:59.86yOlkINHCo (1/1)

あと1月か…よく練られてるから続いて欲しいもんだが


32以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/12/18(金) 15:20:18.49uCKwzykWO (1/1)

待ってる


33以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします2016/01/18(月) 18:46:14.718jW7puG7o (1/1)