888 ◆P2J2qxwRPm2A2016/01/24(日) 22:43:00.12rz7GH9wk0 (12/16)

レオン?『何をゴチャゴチャ話をしているんですか? まあいいです、もうそろそろ扉も限界、開けたらすぐに殺してあげますからねえ』

ツバキ「はは、それは楽しみだねー」

レオン?『その余裕、どこまで続くか――』

レオン「ツバキ!」

ツバキ「!」
 
 カチャ ガチャン

レオン?「えっ?」

レオン「覚悟はいいね?」シュオオオオオオン

 ドゴォン

レオン?「ひええええっ!」
 
 サッ

レオン?「ふぅ、どうにか避けられました。さすがはレオン様の攻撃ですねえ……。!!」

 バチバチバチバチ 

レオン?「魔力の余波を受けて、幻影魔法が……このままでは!?」

 タタタタタタッ

レオン「逃がさないよ」

ツバキ「サクラ様、鍵を閉めて待っててくださいねー」

サクラ「はい。あの、レオンさん」

レオン「なんだい?」

サクラ「カザハナさんと一緒に待ってますから、必ず迎えに来てくださいね」

レオン「うん、必ず迎えにくるよ」

サクラ「は、はい///」

 バタン ガチャンッ 

レオン「行くよ、ツバキ」

ツバキ「わかったよー。それに、俺もあいつを叩きのめさないと気がすまないからね」


889 ◆P2J2qxwRPm2A2016/01/24(日) 22:55:54.83rz7GH9wk0 (13/16)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 タタタタタッ

???「くっ、幻影が維持できな――」

 ボンッ!

???「し、しまった」

レオン「鬼ごっこは終わりだよ」

???「そのようです、レオン様……」クルッ

レオン「まさか……お前だったとはね……」




レオン「ゾーラ」





ゾーラ「くっ、なんですかこれは、なんで私の思ったとおりに進まないのですか? 白夜の捕虜を全員始末してレオン様はかつての冷酷さを取り戻すはずだったのに!」

レオン「お前が裏で暗躍していたのか」

ツバキ「こんなのに惑わされてたとか、カザハナ知ったら傷つくだろうなぁ」

ゾーラ「死ねばいいんですよ、あんな小娘。うまく利用できましたよ。カムイ王女に罪を着せるための情報もペラペラしゃべってくれました。所詮は夢見がちな小娘、『似合って』という言葉で心に隙間ができるとは思いませんでしたからねえ」

レオン「なんども僕に化けて接触していた、そういうことだね……」

ゾーラ「ええ、察しがいいですねえ。ですが流石にカムイ王女には見抜かれかけましたから、一度だけにしましたが」

レオン「……姉さんにも言語チャームを仕掛けたのか!?」

ゾーラ「カムイ王女は隙のない方でしたから、まさか背を指摘されるとは思いませんでしたからねえ。ですから言語チャームなど仕掛ける暇もありませんでしたが、うまく事は運びましたよ。結果は失敗でしたが」

レオン「昨日、僕にも仕掛けてくれたみたいだね。マクベスに扮して話しかけてきた時に『あなた自身のために』っていう言葉でさ」



890 ◆P2J2qxwRPm2A2016/01/24(日) 23:06:09.49rz7GH9wk0 (14/16)

ゾーラ「……すでに解除済みというわけですか、流石はレオン様です」

レオン「嫌な話だけど、お前の仕掛けた言語チャームはマクベスが処分してくれた。僕に下級魔法が掛ってることに気が付いてね。そして、昨日お前がさんざん僕に望んでいたことを思い出した」

ゾーラ「ええ、私はレオン様の心の底に眠っている願望を言葉にして差し上げようとしただけのこと。なにせ、何も工夫をこらしていない下級魔法の言語チャームに掛るような状態でしたからねえ」

レオン「そうだね。そこは僕の落ち度だ」

ゾーラ「………ならお分かりでしょう? このゾーラ、すべてはレオン様のためにやったこと。レオン様を悩ませる毒を取り除いて、昔のレオン様に戻っていただきたいという思いを――」

レオン「……てみろ」

ゾーラ「?」

レオン「もう一度同じことを言ってみろ。生まれてきたことを後悔させてやる」

ゾーラ「レオン様……」

レオン「ゾーラ、僕が管理する捕虜に手を出したこと、そして姉さんを罠に嵌めたこと……。これだけでもお前を死罪にするのは容易い、その罪を理解しているのなら、今すぐにでも自害しろ」

ゾーラ「……なぜ、なぜですか? 私は冷酷で威厳のあるレオン様に戻って頂けたらと……」

レオン「……」

ゾーラ「そうですか…。もうかつてのレオン様はいないということですか。ならもう、仕方ありませんねえ」



891 ◆P2J2qxwRPm2A2016/01/24(日) 23:23:59.25rz7GH9wk0 (15/16)

 パチン

 ……ピチャン

 ………ピチャン

 ガチャ ガチャ 

???「……」チャキッ

???「…」チャキ

レオン「ツバキ」

ツバキ「なにかいるね、すごく気配は感じられる」

ゾーラ「ひょーっほっほっほ!!!! レオン様、あなたの本当の姿はこの私が引き継ぎましょう。お任せください、白夜の捕虜も一緒に送って差し上げますから。私なりの最後の老婆心とでも思ってくださいねえ」

レオン「やれるものならやってみなよ。僕は、お前に負けるつもりなんてさらさらない。もちろん、サクラ王女たちを殺させるつもりもね……」

ゾーラ「さぁ、皆さん切り刻んでしまいなさい!」

???「!!!!」ダッ

ツバキ「レオン王子、指示を。戦う準備は出来てるから」

レオン「ああ、ツバキ、全力で敵を駆逐しろ。手加減は無用だ。思う存分、剣を振え」

ツバキ「了解したよ」

レオン(負けるわけにはいかない。必ず守り通して見せる!)



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◆◆◆◆◆◆
―レオン邸『玄関ホール』―

 ガチャン!

カムイ「これは血の匂い……それに、この倒れている気配は……」

シャーロッテ「使用人みたいだけど……酷えことしやがる」

モズメ「ううっ、滅多刺しにされとる……。こんなんひどいわ」

アクア「一体誰がこんなことを……」

シャーロッテ「……どうやら私たちも同じようにしたいみたい」

 タタタタタッ

???「……」チャキ

???「……」カチャコ

カムイ「!? この敵は……」

シャーロッテ「なにこれ、気配はあるけど姿が見えないじゃないの。卑怯極まりないわね」

モズメ「でも、気配駄々漏れやから問題あらへん、森の獣と変わらんよ。それよりシャーロッテさん、早くサクラ王女とカザハナさん助けへんと」

シャーロッテ「わかってるわよ。か弱い女の子を虐めるような奴ら相手に、手加減はしねえ」

カムイ「さぁ、皆さん武器を構えてください。これより、戦闘に入ります――」

「レオンさん達を、助け出しますよ」


892 ◆P2J2qxwRPm2A2016/01/24(日) 23:31:12.92rz7GH9wk0 (16/16)

今日はここまでで

 ヒノカ番外編はカム子でもスケベになる予定でした。
 カムイに初めての体験を教えるヒノカ姉さん的なの。

 #FEチケットヤッター

 SDカード破損でデータが6つ飛んだ。少しの間、ノスフェラトゥに殴られたリリスみたいになってた気がする。

 そろそろ1000が近いので、この章とギュンターifでこのスレは終わりになると思います。
 
 次の展開を安価で決めたいと思います。参加していただけると幸いです。

◇◆◇◆◇
 次の戦闘における固定チーム
・チームレオン(レオン、ツバキ)
・チーム舞踏女会(シャーロッテ、モズメ)


○カムイが一緒に行動することになるチーム 
・チーム舞踏男会(ハロルド・ラズワルド)
・チーム元祖レオン(オーディン、ゼロ)
・チーム血みどろ+(カミラ、ピエリ、リンカ)
・チーム歌姫(アクア、ギュンター、ニュクス)
・チーム城塞コンビ+(フローラ、ジョーカー、ブノワ)
・チーム移動盾(エリーゼ、エルフィ、フェリシア)
・チーム移動迎撃(ベルカ、ルーナ)
・チーム忍道(アシュラ、スズカゼ)

 今回も多数決で決めたいと思います。最初に3回名前の挙がったチームになりますので、よろしくお願いします。



893以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/01/24(日) 23:36:21.12KvQ5ouSw0 (1/1)

チーム忍道


894以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/01/24(日) 23:40:40.393rj9ZBHw0 (1/1)

ここは元祖レオンで


895以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/01/24(日) 23:40:43.0001L4Gz4w0 (1/1)

乙!

チーム移動盾


896以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/01/24(日) 23:43:31.53lkKdXgbwo (1/1)

さすがマクベスは格が違った

移動迎撃


897以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/01/25(月) 00:05:42.7180tDe3lc0 (1/1)

マクベスがここまで頼もしく思えるなんて…

チーム元祖レオンで


898以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/01/25(月) 00:51:33.35Fyva7jVG0 (1/1)

忍道で


899以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/01/25(月) 00:56:22.4304odqQG00 (1/1)

乙乙 エロ枠と化したヒノカ

透魔兵か…でもアクアたちは前回出たし
ここは覚醒組だな チーム移動迎撃で


900以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/01/25(月) 12:38:06.092nGmFzmn0 (1/1)


元祖レオンチームで


901以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/01/25(月) 13:48:49.65Lm4RjjLf0 (1/1)

乙!
元祖レオン……と言おうかと思ったけどもう決まってたか


902 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/01(月) 21:59:54.80zJb0+Tk/0 (1/9)

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・レオン邸―

???「!」チャキッ ブンッ

 サッ

シャーロッテ「甘いんだよ。おらぁ!!!」ブンッ
 
 ザシュッ

モズメ「いくで!」パシュッ パシュッ

 トススッ 

???「」ドサッ

 シュォオン

シャーロッテ「ありがと、モズメ」

モズメ「気にせんでええよ。それにしても気味悪いわ、当たった手ごたえはあるのに、その場から消えてまうなんて」

カムイ「敵の詮索は後回しです。今はレオンさん達を見つけ出しましょう」

シャーロッテ「で、どうするの?」

カムイ「ゼロさん、それにオーディンさん。レオンさんがサクラさん達を守るためにどこに陣を取るか予想できますか?」

ゼロ「陣取るねえ、なら一番向いてるとすれば……」

オーディン「……レオン様の自室だな。あそこはこの家の中で一番頑丈にできてる」

カムイ「では、そのレオンさんの自室までの案内をお願いできますか?」

ゼロ「ああ、いいぜ」

オーディン「はい、任せてください」

カムイ「……信頼してるんですね。レオンさんのこと」

ゼロ「レオン様がこんなことで死んじまうとは、そもそも思っちゃいないからな」

オーディン「レオン様が倒れるときは、少なくとも俺とゼロが倒れた後のこと。そう黒き風がそう囁いている」


903 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/01(月) 22:19:01.23zJb0+Tk/0 (2/9)

カムイ「ふふっ、では二人ともお願いします。シャーロッテさんとモズメさんは後続から接近する敵の排除を」

シャーロッテ「わかりましたぁ」

モズメ「わかったで」

オーディン「カムイ様、俺が先行します。ゼロ、援護よろしく」

ゼロ「ああ、お前に見惚れる奴を片っ端からイ抜いてやるさ。そういうわけでカムイ様は俺たちより――」

カムイ「ゼロさん、そういうわけにもいきませんよ。あの、オーディンさん――」ピトッ

オーディン「ひええええっ。いきなり触らないでくださいぃ」

ゼロ「何に怯えてんだ、お前は」

カムイ「そんなに怯えないでくださいよ。これじゃ約束の名前決めの時、困りますよ?」

オーディン「今は名前を決める時じゃないんですから」

カムイ「私とオーディンさんで先頭を進みましょうと……、そういう意味で手に触れたのですが」

オーディン「そ、そういうことですか……あの、すみません、いろいろと……」

カムイ「いえ、こちらも色々と考えられることがあったと思いますから。それで、私と一緒に戦ってくれますか?」

オーディン「ふっ、いいだろう、この漆黒のオーディン、カムイ様と敵陣を駆け抜けさせてもらう」

カムイ「はい、頼りにしてますよ、オーディンさん」

オーディン「ああ」

カムイ「他の皆さんは数名を玄関ホールの守備に、残りの方々は館内の敵を殲滅してください。相手は姿が見えません、不意打ちには十分気をつけるようにお願いします」

ゼロ「それじゃあ、行こうか」

カムイ「ええ」


904 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/01(月) 22:32:54.01zJb0+Tk/0 (3/9)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

レオン「はぁ!」

ツバキ「それっ!」

 シュオォォン ザシュ

???「」ドサッ 

レオン「くっ、次から次へと切りがない……ツバキ!」シュオォオン

ツバキ「こっちもなんとかできるけど、これじゃ何時になってもあいつに近づけそうにないね」

ゾーラ「ひょーっほほほほ!!!! どうしたのですか? これではいつまでたってもこの私に手が届きませんよぉ? まったく、そんな白夜の人間など放って私を殺しに来ればいいではないですか。前のレオン様ならすぐにそうしたでしょう」

レオン「お前の指図を受けるつもりはないよ。昔から僕は変わっていない、そしてツバキは僕の仲間だ。お前のような下衆なら切り捨ててもいいが、ツバキはそれに該当しない。これが僕の答えだ」

ゾーラ「そうですか、ならその仲間と一緒に殺されるといいでしょう。これで、どうですかねえ!」シュォオオン

???「」ズビシャ ドサッ

 サッ

ツバキ「よっと、自分の仲間も巻き添えとか、無茶なことするねー」

ゾーラ「関係ありませんからねえ。この者たちが死のうと死ななかろうと、レオン様は元に戻られない。つまり、ここで死んでも何の問題もない、そういうことです」



905 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/01(月) 22:44:43.73zJb0+Tk/0 (4/9)

レオン「仲間を過剰に犠牲にする戦いに何の意味がある?」

ゾーラ「過剰? 過剰とは面白いですねえ。望みが達せられなければ、犠牲は無駄というもの。まさか、レオン様とあろう方がそれを理解していないとは」

レオン「そうだね、お前の言っていることは間違っていない。考え行動した以上結果を出さなければいけないことは、戦う以前にすべての物事の決まりでもある」

ゾーラ「そうでしょう、レオン様」

レオン「……だが、ゾーラ。お前の野望はすでに崩れている。僕はお前の思い通りになるつもりはない。なら、その野望を続ける必要はない、仲間を失った果てが僕の死しかないなら、君は作戦の立案者には向いていないよ」

ゾーラ「レオン様の死が、私をレオン様にしてくださいますから問題はありません。なに、あなたのご家族の方々も見破れないほどに完璧なレオン様として、私が後を引き継がせていただきますので、この犠牲は無駄ではありません。それにこの犠牲の中にちゃんとレオン様も入っておられます。あなたの犠牲があってこそ、私はレオン様になり得るのですからねえ」

ツバキ「聞いてるだけで鳥肌になりそうなんだけど……」

レオン「僕はすでに背筋が凍ってるよ。こんな奴と知り合いだったなんて、本当にゾッとするよ。その不安も今日で終わりにさせてもらうからね」



906 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/01(月) 22:59:31.08zJb0+Tk/0 (5/9)

ゾーラ「言ってくれますねえ、いくら魔法に精通していると言えど、このまま続けば私の勝ちでしょう。物量で押しつぶしてあげます。レオン様の最後にしては美しくはありませんが、これも仕方ないこと。レオン様も白夜の豚もグシャグシャになってしまいなさい」

???「」シュォン

レオン「まだ来るみたいだ」

ツバキ「ボヤいてる暇なんてなさそうだよー」

レオン「ああ……」

ツバキ「レオン王子……」

レオン「なんだい、ツバキ」

ツバキ「もしかして、俺に戦うように言ったこと、後悔してるとか」

レオン「そうだね、正直ここまでのことをゾーラがしてくるとは思っていなかった。間違いなく、敵の力を甘く見過ぎていたんだと思う」

ツバキ「ははっ、なら俺も同じだよ」

レオン「そうかい?」

ツバキ「威勢がいいのは負けの証拠、そう思ってるからねー」

レオン「そんなこと言ったら、ツバキはいつも威勢がいいじゃないか」

ツバキ「あー、そうでしたっけ」

レオン「とぼけるのはよくないね。だけど、僕はツバキのそういうところ嫌いじゃないよ。カザハナと同じで遠慮のないところとかね」

ツバキ「そうですか、よかったー。正直、最初は嫌われても別にいいかなーって思ってたから、そう言われるとなんだか照れちゃうね」

レオン「ははっ。ツバキ、僕と一緒に限界まで戦ってくれるかい」

ツバキ「もちろんだよ、レオン王子」

ゾーラ「さぁ、皆さん行ってきなさい!」
 
 タタタタタタッ

ツバキ・レオン「来い!!!!」

シュオォン

 チャキッ


907 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/01(月) 23:16:46.80zJb0+Tk/0 (6/9)

???「!!!!」ブンッ

 ザッ

レオン「え?」

 タッ シュオォォン

「必殺アウェイキング・ヴァンダーーーー!!!!!」

 バチィン!!!!

「まだ終わりじゃありません。せやああああっ!」ダッ

 ザシュン

「最後に俺がイカせてやるよ」パシュン ドスッ

 ドサッ
 
レオン「な、なんで――」

???「」ザッ チャキン!

ツバキ「レオン王子!」

ツバキ(こ、これじゃ、間に合わない!)
 
 タタタタタッ ダッ

「ぶっ飛ばすぞ、おらぁ!」ドゴンッ

???「」フワッ
 
「跳ねたみたいやな。ほな、これでもくらい!」バシュンッ ドスッ

???「」ドサッ

ツバキ「す、すごい」

「ふぅ、どうにか間に合ったみたいですね」

レオン「ど、どうして姉さんここに?」

カムイ「色々ありましたから。とりあえず、ギリギリ間に合ったので及第点というところでしょうか」

シャーロッテ「援護ありがとうございますぅ、モズメさん」

モズメ「おおきに。シャーロッテさんが走り出したから追いかけたけど正解やね。跳ねた気配を打ったんは初めてや」

ゼロ「しかし、気配だけでもわかるもんだ。どこに当たればイけるのか」

オーディン「だけど俺の姿どうだった。これこそ、真打登場って感じに決まったんじゃないか」

カムイ「ええ、すごかったですよ。オーディンさんのおかげで、私も斬り込むことができました」


908以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/01(月) 23:17:46.37cMniWBrl0 (1/1)

主人公誰だっけ?


909 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/01(月) 23:29:41.52zJb0+Tk/0 (7/9)

ゾーラ「な、か、カムイ様、どうしてここに!?」

カムイ「初めて聞く音色ですね。一体どちら様かは知りませんが……。レオンさん達を襲った方々の来る方角にいると言うことは、敵で間違いなさそうですね」

ゾーラ「くっ。どういうことですか、あなた方はノートルディアへ向かったはず。とてもすぐに戻ってこれる距離ではないと言うのに」

カムイ「ええ、本来なら間に合うこともなかったんでしょう。でも、これではっきりしました。どうやらあなたが私とレオンさんが探していた内通者、その正体なんですね」

ゾーラ「私は宮廷魔術師のゾーラ。まだカムイ様とは正式にお顔合わせはしていませんよ」

カムイ「正式には?」

ゾーラ「教えて差し上げたではありませんか、クリムゾンに疑問を抱いている者たちがいると。あなたは予想通りに動いてくれたのでなによりでしたよ」

カムイ「……あれはレオンさんが私に伝えたこ――まさか、あの時私に会いに来たレオンさんが偽物だったと言うことですか」

ゾーラ「ひょーっほほほほ。しかし世界を気配で認識するあなたには、私の背を見抜かれてしまっていたようですから、あれ以降悪戯ができませんでした、本当に鼻の利く方です。不愉快ですねえ」

カムイ「……私も一枚噛まされていたということですね。ですが、これであなたが私たちの敵であると言うことが、証明されましたね」


910 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/01(月) 23:45:35.49zJb0+Tk/0 (8/9)

ゾーラ「証明など必要ないこと。なぜなら、ここに来てしまった以上、皆さんには死んでもらわなければなりませんからねえ。ご心配なく、カムイ様はノートルディアで死んだと言うことにさせていただきます。後世には役に立たない王女の一人として、名を残していただきますよ。あなたの仲間たち共々ねえ」

カムイ「そうですか、私の仲間にはカミラ姉さんやエリーゼさんも含まれているんですよ」

ゾーラ「私の好きにしてよいと、言われていますからねえ。現場のことは現場が決めることですからねえ。カミラ様もエリーゼ様もカムイ様に誑かされた不幸な御方ですねえ」

レオン「ゾーラ!!!」シュォオオオン!

 ヒュン!

ゾーラ「ひょーっほほほ。カムイ様、あなたはシュヴァリエで死ぬべきだったんですから、私が丁重に送ってあげます。ありがたく思っていただきたいですねえ」

カムイ「……たしかに私はシュヴァリエで死ぬべきだったのでしょう。ですがまだ生きてここにいる以上、その送迎を受け入れるわけにはいきません。だから、あなたに殺されるわけには参りませんよ」

ゾーラ「そうですか。なら力づくでそうさせていただきます。さぁ、皆さん、ここにいる者を全員八つ裂きにするのです!」

 タタタタタタッ

 シュォオン
 
???「」チャキ チャキッ

シャーロッテ「奥に逃げたみたいですよぉ?」

ツバキ「ここに来て奥に逃げるかー」

ゼロ「別にいいだろ。それに追い詰めて追い詰めて、追い詰め切った先の恐怖に震える姿を見るのが楽しみになるからな」

オーディン「そうかもしれないが、結構気配の数が多くなってきたな」

モズメ「せやな。森の中で四方を熊に囲まれた時を思い出すわ」




911 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/01(月) 23:57:12.84zJb0+Tk/0 (9/9)

カムイ「レオンさん、カザハナさんとサクラさんは?」

レオン「ああ、僕の部屋に匿ってある。ゾーラが奥に消えた以上、しばらくは安全なはずだよ」

カムイ「そうですか。すみませんがレオンさん、力を貸していただけますか? ゾーラさんから話を聞かなくてはいけませんから」

レオン「……だ」

カムイ「レオンさん?」

レオン「……逆なんだ、姉さん」

カムイ「何がですか?」

レオン「本当は僕が姉さんに頼むべき立場なんだ……」

カムイ「頼むべき立場というのは、一体」

レオン「カムイ姉さん、サクラ王女たちを助けるために、僕に力を貸してくれ」

カムイ「ど、どうしたんですか。レオンさんらしく――」

レオン「ちがう、ちがうんだ。僕は力を貸してあげるなんて、そんなことを言えるような人間じゃないんだ……」

カムイ「……」

レオン「僕は、姉さんたちの前で、ただ強くあろうとしてた。何でもできるって、出来のいい弟だって……そう思われて、悪い気はしてなかった」

カムイ「…レオンさん」

レオン「でも、実際は違う。僕は、姉さんに支えてもらいたかった、姉さんに甘えたくて、弱い僕を知ってもらいたかった。でも、姉さんに弱い自分を見せたら、拒絶されるんじゃないかって怖かった」

カムイ「……」


912 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/02(火) 00:14:32.34aOI6mm1u0 (1/2)

レオン「姉さんの目がもしも見えていたら、僕は素直になれたんじゃないかって、前まで思ってた。だって、目が見えないこと以外に、姉さんに出来ないことはほとんどなかったから、僕の悩みに気づいてくれるって。僕の悩みに気づいてくれないのは、目が見えないからだって……、そんなことあるわけないんだ。ただ、僕が意固地に弱みを隠し続けてきただけで、それを姉さんの所為にしてただけなんだ」

カムイ「……」

レオン「だから、だから、僕は頼まれる側じゃないんだ。こんな弱い僕は頼む側なんだ。だから、姉さん、僕に力を――」

 ダキッ

カムイ「レオンさん」

レオン「姉……さん」

カムイ「ごめんなさい。私はずっと、あなたを苦しめていたんですね」

レオン「ううっ……」

カムイ「どんなことがあっても、レオンさんなら大丈夫、レオンさんなら心配いらない。私もレオンさんのことを悩みや辛さなどとは無縁な人と、考えてしまっていたのかもしれません。だから、私はあなたの本当の悩みを考えたことがありませんでした。本当に私は、駄目な姉さんですね……」

レオン「謝らないでよ。僕が意固地で素直じゃなかっただけなんだ。そんな意固地な僕に、素直になることを教えてくれた人たちを助けたいんだ」

カムイ「はい、姉さんに任せてください。レオンさんのためにこの力を振います。戦いが終わったら、悩み事も言ってください、私もそうですけど、カミラ姉さんも力になってくれるはずです」

レオン「カミラ姉さんも、力になってくれるのかな」

カムイ「はい、だってレオンさんは私とカミラ姉さんの可愛い弟なんですから」

レオン「……うん、約束だよ」

カムイ「はい」

レオン「……姉さん、僕に力を貸してほしい」

カムイ「ええ、それじゃ行きましょう」チャキンッ

「レオンさんの大切な人たちを助けるために」



913 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/02(火) 00:17:32.74aOI6mm1u0 (2/2)

今日はここまで

 主人公はカムイ……だったはず。

 少しの間、更新できなくてすみませんでした。次かその次で、この章は終わる予定です。


914以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/02(火) 19:27:15.62tprQxEgC0 (1/1)

乙しちゃいましょ


915以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/02(火) 20:09:00.50dYFTdwyDO (1/1)

王族×4に自ら喧嘩を売ったゾーラの勇気



916 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/06(土) 22:07:56.36gAjlaBJv0 (1/10)

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・レオン邸―

???「」チャキ ダッ

ブンッ キィン!

カムイ「今です!」

オーディン「ふっ、俺の黒き闇の力が――」

レオン「わかったよ、姉さん」シュオンッ

 バチィン ドサッ

???「」シュオォン

 サッ

オーディン「ふっ、そんな攻撃でこの漆黒の――」

ツバキ「横から失礼するよー。それっ」ブンッ

シャーロッテ「援護しますよぉ。えいっ!」ブンッ

 ザシュンッ ドサッ

???「」タタタタタッ ダッ

オーディン「ふっ、斬り込みの勢いはいいが、空中では避けられ――」

モズメ「これでもくらい!」パシュッ

ゼロ「一緒にイかせてもらうぜ」パシュッ

 ザシュシュ! ドサッ

カムイ「これで足止めは片づけられたみたいですね」

レオン「姉さん、ありがとう」

カムイ「いいえ、私は攻撃を受けただけです。皆さんが援護に入ってくれなかったとっくにタコ殴りにされてましたから」

ツバキ「少しびっくりしたよー。いきなり前に出るものだから」

シャーロッテ「本当ですよぉ。無理はしないでくださいね?」

カムイ「私の範囲では大丈夫なことしかしてませんよ」

シャーロッテ「えへへ、カムイ様、ちょっと耳貸してくれますか~?」

カムイ「いいですけど、一体なんですか?」

シャーロッテ「そんなこと言ってると、アクア様に恐ろしい無茶したって零すぞ」

カムイ「あはい、すみません」

モズメ「さすがはシャ―ロッテさんや」

ゼロ「ほぉ、あのカムイ様が言うことを聞くとはねえ」

オーディン「……」


917 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/06(土) 22:17:54.38gAjlaBJv0 (2/10)

カムイ「あれ、オーディンさん? どうしたんですか、いつもなら『俺の力の暴走の前には~』とか、言うところじゃないですか」

オーディン「……俺、攻撃避けてるだけだったし」

ツバキ「そうだねー」

シャーロッテ「たしかに」

モズメ「せやな」

ゼロ「たしかにな」

レオン「まったく、何をやってるんだお前は」

オーディン「みんな早すぎるんだよ。もっとこうさ、『錆がまた増えちまう、お前の血でな』とか、『視界に入ったが最後、このサジタリウスの餌食になるがいい』みたいな、そんな口上をさ」

ツバキ「……ええっと」

レオン「ツバキ、すまない。オーディンはこういう奴なんだ。でも実際腕は立つ」

ゼロ「ああ、腕は立つぜ。変なことを零してるが実際実害はないから安心しておけ」

オーディン「実害はないって……、まるでぱっと見たら実害があるみたいな言い方だよな、それ」

カムイ「まぁ、オーディンさんに実害があるかどうかは、今は置いておくとしてですね」

オーディン「母さん、やっぱりめげそうだよ」


918 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/06(土) 22:30:06.73gAjlaBJv0 (3/10)

カムイ「ゾーラさんが逃げた先には何があるんですか?」

レオン「この先には庭園がある。多分奴のことだ、待ち伏せしてるだろうね」

カムイ「出来れば、相手が痺れを切らすまで待ちたいところですが。この気配だけの敵は無限に現れるようですから、罠と承知で進むしかありません」

シャーロッテ「結構危ない作戦ね」

モズメ「せやけど、このまま待っててもジリ貧やし。相手はどこから来るかわからへんから、玄関ホールで待ってる皆もそうやけど――」

ツバキ「なにより、サクラ様とカザハナの安全もあるからね。今はあいつの目的が僕たちを殺すことになってるみたいだから」

レオン「こっちから出向いて、正面から叩こう。回り道をしてる暇はないよ」

カムイ「……。レオンさん、庭園への入口はいくつありますか?」

レオン「庭園へはこの先を二手に分かれた先にそれぞれある形だよ」

カムイ「わかりました。私とゼロさんとオーディンさんは左から向かいますので、レオンさんは残りの方たちと一緒に右からお願いします」

レオン「残りって、何を言ってるんだい姉さん」

カムイ「囮は少ない方がいいです。それにゾーラさんにとっては私たちすべてが敵ですから、すぐに全員を私の方へ差し向けてくるはずです。私達が戦闘を開始して、敵の注意が私達に固まったのを見計らって、レオンさん達は一気に強襲してゾーラさんを仕留めてください。たぶん、この見えない敵もゾーラさんが呼んでいるはずですから」

レオン「……大丈夫なんだよね」


919 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/06(土) 22:42:03.77gAjlaBJv0 (4/10)

カムイ「はい……でも、そうですね。今、私はレオンさんに力を貸している立場ですから――」

レオン「いや、大丈夫だよ。こっちが囮になって姉さんに裏をかいてもらおうかと思ったけど、手前で何かを仕掛けられたら、何もできなくなる。さすがに、ゾーラもそこまで馬鹿じゃないはずだ。だから、僕は姉さんのその作戦で行くことにする。陽動をお願いできるかな?」

カムイ「はい。任せてください」

レオン「うん。ツバキ、モズメ、シャーロッテ。僕のタイミングに合わせてくれるかい?」

シャーロッテ「はぁい、まかせてくださぁい」

モズメ「まかせてな」

ツバキ「わかったよ」

カムイ「それじゃ、行きましょう」

 タタタタタタッ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

オーディン「この先が庭園です、カムイ様」

カムイ「わかりました。オーディンさん、これを。たぶん役に立つはずです」

オーディン「これは……」

カムイ「では……準備はいいですか」チャキンッ

オーディン「リザイア持たせられたって、そういうことだよなぁ」パララララッ

ゼロ「安心しろ、少なからず俺が仕留めてやるさ」カチャッ

カムイ「結構、うるさく行きますよ。陽動しないといけませんから」

オーディン「え、結構うるさくって、どう――」

カムイ「てやぁっ!」ドゴンッ

 ガシャン! ザーーー

オーディン「蹴り開けした、この人蹴り開けしたよ!」

ゼロ「勇ましくていいねえ。股のラインが見えるところとか、特にねぇ」


920 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/06(土) 22:54:13.88gAjlaBJv0 (5/10)

 シュオォォン

カムイ「!」サッ
 
 バチィン!

ゾーラ「ひょーっほほほ。罠ということもわからないとは、つくづくお馬鹿な人ですねえ。レオン様を誑かした最初の毒も、同様に取り除かないといけないと言うことでしょう」

カムイ「レオンさんを誑かす毒ですか、なんだか卑猥な感じがしますね」

ゼロ「ああ、なんだかゾクゾクするフレーズだ」

オーディン「淫靡な毒も使えるってことか、すごく卑猥だな……」

ゾーラ「そんな減らず口も、すぐに言えない体にしてさしあげますよ」シュオオオオオオオン

 ピチャン ピチャン

???「」

ゾーラ「この雨の中で、気配を探れますか?」

カムイ「……やってみなければわかりませんよ」

???「」ダッ ピチャピチャ ブンッ

 キィン

オーディン「カムイ様に手を出すな。くらえ!」

 シュォオン グチャリ

???「」ダッ

ゼロ「余所見はよくないぜ」パシュッ

 ドスッ

???「」ドサッ

 ピチャン ピチャン ピチャン

???「」チャキッ

ゼロ「続々出てきやがったか」

カムイ「それでは行きましょうか、二人とも」ダッ

オーディン「って、カムイ様、俺が前に出ますから――」

???「」ブンッ

 ザシュッ

オーディン「ぐっ、だが、これも想定内だ。くらえ、リザイア!!!」

 バシュンッ

オーディン「ふぅ、どうにかなったな」

???「」フラッ

カムイ「せやぁ!」ザシュッ

???「」ドサッ

ゼロ「おらおら、たった三人に手こずるとはねぇ。歯ごたえの無い奴らだ」パシュパシュパシュ 

 トスッ トトスッ

 ドサリッ


921 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/06(土) 23:04:42.01gAjlaBJv0 (6/10)

ゾーラ「……苛立ちますねえ。ここまでコケにしてくるとは、でもこれだけだとは思わないことですよ。まずはあなた達を」シュオオオンッ

???「」ザザザザッ

ゾーラ「血祭りにして差し上げますからねえ」

カムイ「雨に混じってますが、結構な数がこちらにさし向けられたみたいですね。陽動としては上出来でしょう」

オーディン「あとは、耐えるだけ耐えろってことでいいのか」

カムイ「はい、耐え切って生き残りますよ。オーディンさん、ゼロさん」

ゼロ「当然だ。こんなところで死んだら、面白くないからな」

カムイ(あとは任せましたよ、レオンさん)

~~~~~~~~~~~~~~~

モズメ「……始まったみたいや」

レオン「よし、モズメとシャーロッテは後続が来たら対処してくれ、僕とツバキは突き進む」

シャーロッテ「わかりました~。モズメ、準備はいい?」

モズメ「準備はできとるよ。雨の中やけど、こういう中で弓を扱うのも慣れてるから、安心してや」

ツバキ「頼りになるね。これなら俺たちも安心して進めるよ」

シャーロッテ「でも、この雨の中で戦いとか、正直勘弁してほしいわ」

レオン「文句ならゾーラに言ってやるといい。あいつがそもそもの原因なんだからな」

シャーロッテ「それもそうよね。ふふっ、どうしてやろ?」

モズメ「シャーロッテさん、顔怖くなっとるよ」

ツバキ「ははっ、二人ともじゃれ合いはここまでにしてさ。ね、レオン王子」

レオン「ああ……。それじゃ、行くよ」


922 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/06(土) 23:15:15.12gAjlaBJv0 (7/10)

 ガチャン

 ダッ

 キィン シュオォオン

 ウワアアアア、キズガヒドイコトニナッテキタ。ダレカリザイア、リザイアサセテオクレー

 オーディンサン、マエニデスギデスヨ!

 ユカイソウデナニヨリダナ

シャーロッテ「まだまだ、余裕はありそうね」

モズメ「せやな。でも、次から次へと来られたら、いくらカムイ様達でも……」

レオン「ああ、だからゾーラを止める」

 ピチャン ピチャン

???「」チャキッ

レオン「ツバキ!」

ツバキ「わかったよー。こいつら出てきたばかりじゃ、何もできないみたいだからさ。ご愁傷様」ブンッ
 
 ゴロンゴロン ドサッ

レオン「そうみたいだね。追いかけてくる奴らはいるかい?」

シャーロッテ「少ないけど、こっちの動きに気づいたのが少しだけいるみたいね」

モズメ「まだ対処できるくらいや」パシュッ!

 トスッ ドサッ

レオン「思ったより、気付くのが早いみたいだね」

ツバキ「みたいだねー。でも、ここまで来たらもう突き進むしかないかな」

レオン「ああ、その通りだ。このままゾーラの場所まで押し切る」

???「」サッ

シャーロッテ「レオン様!」ダッ

 ブンッ キィン

???「」バッ ブンッ

 キィン

シャーロッテ「やろぉ、手えだすんじゃねえ!」ブンッ ドゴンッ

???「」ゴロン

シャーロッテ「はぁはぁ、大丈夫でしたかぁ?」

レオン「あ……ああ。大丈夫だ、ありがとう」

シャーロッテ「本当は怖かったんですよぉ。でもレオン様にもしもがあったらって、がんばっちゃいましたぁ」

レオン「へ、へぇ……」

モズメ「レオン様、結構な数が追ってきとるよ」パシュパシュ

レオン「急ぐよ、みんな」

レオン(この先にテラスがある、奴はそこにいるはずだ……)


923 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/06(土) 23:26:27.23gAjlaBJv0 (8/10)

 タタタタタタッ

ツバキ「っと」キィン

レオン「これで!」シュオォン! ザシュッ

 ドサッ

ゾーラ「! な、なぜここにレオン様が!? あいつらの後方にいたのではないのですか!?」

レオン「生憎、お前の考えることなんて予想済みでね。ここまで接近を許すなんて、やっぱりお前にはそういった才能はない。あるのは、下衆の才能だけだ」

ゾーラ「ぐっ……言ってくれますねえ」

レオン「さぁ、大人しく覚悟するんだね」シュオォン

ゾーラ「ひょほ、ひょーっほほほ! 甘いですよお、レオン様!」シュォオオン

 ザザザザッ

 ザザザザッ

ゾーラ「この数をそんな人数でどうにかできると思っているのですかぁ」

ツバキ「レオン王子、どうするー?」

レオン「シャーロッテ、モズメ。この雑魚たち、任せられるかい?」

シャーロッテ「わかりました~」

モズメ「シャーロッテさんと一緒に片づけたる」

ゾーラ「何を言ってるんですかねえ。この私に近づけるわけなんて、無いに決まってるんですよぉ!」

???「」ダダダダダッ 

シャーロッテ「目触りなんだよぉ!」 ブンッ クルクルクルクル ザシュッ!

モズメ「負けてられへんよ!」パシュッ ザシュ!

レオン「行くよ、ツバキ」

ツバキ「はい、レオン王子」ダッ

 シャキンッ バシュッ!

レオン「塵になれ!」シュォオオン ザシュシュシュッ ビチャァ

ゾーラ「レオン様、この私の魔法で、汚れから解放されてくださいねえ!」ボワワッ ヒュンヒュン

レオン「そんなのは、ごめんだよ」サッ


924 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/06(土) 23:38:54.05gAjlaBJv0 (9/10)

???「」サッ ダッ!

 ドゴォン ドサッ

シャーロッテ「レオン様には指一本触れさせねえからな。……モズメ、平気?」

 ピタッ

モズメ「はぁはぁ、んっ、すこし辛くなってきたわ」

シャーロッテ「あと少し頑張るだけなんだから、女の根性見せなさいよ」

モズメ「ふふっ、やっぱりシャ―ロッテさんは頼りになるわ。なんやか、あたいのおっ母となんかそっくりなこと言っとる」

シャーロッテ「ありがと。だけど、まだそんな歳じゃないし、これでもか弱い女の子で通してるんだから」

モズメ「もう、レオン様、そう思ってくれてそうにないで?」

シャーロッテ「……ま、まだ、許容範囲のはず……」

モズメ「せやな、本当はもっと、暴れまわってるはずやし」

シャーロッテ「言ってくれるわね、モズメも」

モズメ「ご、ごめん。でも、そんなシャーロッテさんやから、あたい背中を預けられるんや」

シャーロッテ「私もよ。それじゃ残りをちゃちゃっと、こなすわよ」

モズメ「まかせとき、シャーロッテさん」パシュッ 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ゾーラ「行けええ!」

???「」ダッ

ツバキ「しつこいね、もう負けを認めたらどうかなー?」

ゾーラ「認めるくらいなら、死んだ方がマシというものですねえ」

レオン「なら、さっさと自害したらどうだい。もうお前の負けだ」

ゾーラ「いいえ、私が望む、レオン様に戻られるのなら、死ぬまで戦いをやめたりしませんよお」

レオン(くそっ、あいつの持っているあの本が、こいつ等を呼び寄せている媒体か。あれさえどうにかできれば)


925 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/06(土) 23:50:06.31gAjlaBJv0 (10/10)

ゾーラ「さぁさぁ、まだまだ出して差し上げますよ!」シュオォン

???「」

ツバキ「はぁはぁ…、んっ、レオン王子!」

レオン「ああ、どうにかしてゾーラの懐に飛び込まないといけない。でも、一体どうすれば……」

ツバキ「……一か八かだけど、面白い方法がありますよー」

レオン「どういう方法だい」

ツバキ「えっとですね――」

???「」サッ

 キィン シュオォンッ バシュッ ドサッ

レオン「……なるほどね」

ツバキ「もう、みんなも限界かもしれない。だけど、失敗した時は……」

レオン「だけど、その瞬間をゾーラが見逃すかな?」

ツバキ「それをさせないようにするがの、レオン王子の役目ですよ。俺もこんな案を出したくないよ。ぶつけ本番、俺実はすごい苦手だから」

レオン「そうは思えないけど」

ツバキ「ええ、隠してますから。あまり知られたくないことなんで」

レオン「……そう。なんだか、僕たちは少し似てるね」

ツバキ「そうかもしれませんねー。だから、正直上手く行くかわからないことは、あまり試したくないんだけどね」

レオン「大丈夫だ」パシッ

ツバキ「?」

レオン「僕はツバキの剣の腕と動きを評価している、それだけで僕はお前を信じる理由になる」

ツバキ「ははっ、俺はレオン王子が面と向かって言ってくれたってことだけで、信じる理由になるよー」

レオン「意見は一致したね」

ツバキ「そうみたいだね」

レオン「……やるよ」

 ダッ


926 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/07(日) 00:01:12.31MV5Gykml0 (1/3)

ゾーラ「むっ?」

 タタタタタッ

レオン「はあっ!」

ツバキ「せい!」

???「」ドサッ

ゾーラ「突撃ですか、レオン様らしくもない手ですねぇ。いやいや、カムイ様などのことを気にして、強硬手段に出たということですか。甘い甘いですねえ、自分だけでも生き残れるようにするなら、他は捨てきらないといけませんからねえ!!!!」パララララッ シュオオオオオオンッ

 ピチャン ピチャン ピチャン

???「」ダッ

ツバキ「レオン王子、前に出ます!」

レオン「任せたよ」

レオン(あとはタイミング次第だ。すべてがうまく、タイミングよくかみ合うことを、それだけを……)

ツバキ「くっ、邪魔だああああ!」ザシュッ

ツバキ(一人目、ここから)

レオン(次の攻撃が来る。ツバキ!)

ツバキ「それじゃ、始めるよ。レオン王子!」ダッ

 キィンッ ギギギギギギッ

ツバキ(思ったより難しいね、この攻撃を受け止め続けるのは、だけど、そうしないといけない。あとは……)

ゾーラ「おやおや、疲れているのですか? 受け止めてしまうとは、どうやら死にたいみたいですねえ」シュオオオオンッ

レオン(今だ!)

 ダッ バシュッ

レオン「捉えたぞ、ゾーラ!」シュオオオオンッ

ゾーラ(……なんですかそれは……。レオン様とあろう方が、そんな避けられない空中で私を捉えたなどと……。確かにその白夜の毒を踏み台にして私を狙うと言うのは、いい案ですが……)

ゾーラ「お笑い草ですねえ、レオン様!!!」シュオオオンッ

ツバキ(レオン王子!)

レオン「……」

レオン(捉えられたみたいだね。流石にツバキと僕とでは、ゾーラの考える脅威判定は、僕になるはず。でも、これで――)

レオン「決まりだ」パッ

 ザシュシュシュ!!!


927 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/07(日) 00:15:53.43MV5Gykml0 (2/3)

???「」グチャリッ

ゾーラ「甘いですよお。待機していた者が一人いるのですから、盾にさせていただきました」

レオン「……」

ゾーラ「やはり、あなたは私の知るレオン様ではありません。潔くここで塵になってくださいねえ!!!!」シュオオオオンッ

ゾーラ(これで終わり、レオン様を殺して、私が新しくレオン様として、かつての姿を――)

レオン「やっぱり、僕にだけしか気を配ってない。それがお前の汚点だ、ゾーラ」

ゾーラ「なにを――」

ツバキ「そう、それに感謝しないとね」

ゾーラ「?」

ツバキ「その三人目が邪魔だったんだからさ」ガシッ

ゾーラ「!?」

???「」グググッ

ツバキ「お返しするよ!」ブンッ

???「」

ゾーラ(まさか、この気配だけの奴を投げてきた!? まったく――)

ゾーラ「使えないですねえ!」シュオンッ ボワッ

 グシャ ビチャ!!!!

ゾーラ(し、しまった。もう一度魔法の準備――)

 サッ パララッ

ゾーラ「えっ?」

レオン「……燃えろ」

 ボワワ

ゾーラ「あつっ!!!! あああっ」

 メラメラ シュン パサパサッ

ゾーラ(し、しまった。あの方から頂いた魔術書が……で、ですが、まだ――)

ゾーラ「まだ終わりでは――」バッ

 シュキンッ

レオン「チェックメイトだ、ゾーラ」

 バシュッ ボトリ

ゾーラ「あ、あえ?」
 
 ポタポタポタポタ プシャーーーー

ゾーラ「ひぎゃあああああああああ。腕、私の腕がああああああ」

 ドサッ 

ゾーラ「ひぎいいいああああああ」

レオン「ふぅ……ツバキ」

ツバキ「ははっ、何とかうまくいった。死ぬかと思ったよー」

レオン「本当だよ。……奴らの気配は消えたみたいだね」

ツバキ「そうみたいだ。でも、殺さないの?」

レオン「ああ、こいつにはまだ死んでもらうわけにはいかない。……本当はすぐに殺してやりたいところだけど、聞きたいことがある」

「いろいろとね」


928 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/07(日) 00:18:47.79MV5Gykml0 (3/3)

今日はここまで

 次回で、このスレの本篇は終わりです。
 
 残りはギュンターifです

 まさか3スレ目か……

 スマブラでカムイ配信開始したね。淡々とした拍手顔がやはりやばかった。


929以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/07(日) 00:46:30.94oZy03kMg0 (1/1)

この世界ではお兄様がお姉様になってますね




930以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/07(日) 10:23:30.21/1bqt0eZo (1/1)


オデンが覚醒ソーサラーみたいなことしてて草


931 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/10(水) 23:00:29.89Z7K9Z7PL0 (1/5)

◆◆◆◆◆◆
―レオン邸・庭園―
 
 ガシッ ガンッ

ゾーラ「ぐぐっ、止めを刺さないとはやはり甘くなられましたねえ、レオン様」

レオン「黙れゾーラ。洗い浚いしゃべってもらおうか」

ゾーラ「ひょほほ、殺したくても殺せないというのは、辛いものですねえ。ですが、何も話すつもりはありませんよ、あなたのような軟弱な王子などに」

レオン「……そうかい。じゃあ」ググググッ

ゾーラ「ぐっ、ぐぐぐっ……」

カムイ「レオンさん、こういった形では何も話してくれそうにありませんよ」

レオン「……本当に止めを刺さなかったのは間違えだったよ。使い物にならないね」パッ

 ドサッ

ゾーラ「ごほ、ごほっ。ひょほほほ、カムイ様も残念でしょうがないでしょうねえ。目の前に、あなたの従者が死ぬ原因ともなった人間がいると言うのに、殺せない。本当に同情しますよぉ」

カムイ「……良かったですね、ゾーラさん。ここにピエリさんがいたら、あなたはとっくに血達磨になってたことでしょうから」

ゾーラ「そうですか、それは感謝しないといけません。ありがとうございます、カムイ様。ひょほほほほほ、愉快痛快ですねえ」

カムイ「……あなたの野望を最後の最後でどうにか折ることはできました。でも、私たちはあなたの策に絡めとられていた、敗北と言っていいですね」


932 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/10(水) 23:14:40.12Z7K9Z7PL0 (2/5)

ゾーラ「ええ、ここまでうまく嵌ってしまうとは思いませんでしたよ。最後の最後であなたが邪魔に来なければよかったんですから。ですが、あなたの心にも一筋の傷を与えられたのですから、私としてはとても満足というものです。あなたの従者を、一人殺すことができましたから、もう少し死んでしまえばよかったんですけどねえ。その心が壊れてしまうくらいに」

カムイ「あと一歩でそうなるところでしたよ」

ゾーラ「ひょほほほ、あなたはこの国の王族などにならなければよかったんですよ。そうすれば、私がこのようなことをする必要も、従者が死ぬこともなかった。火を見るよりも明らかな事実ですねえ」

カムイ「なぜ、こんなことをするんですか。誰も得をしない、こんなことを……」

ゾーラ「かつての栄光あるレオン様に戻っていただく、ただそれだけのために行ったまで。これは、あのお方も望まれていたこと。まぁ、シュヴァリエ密告の件は私の独断ですが、本来ならそれが仕上げでしたのでねえ。それにあのお方なら既にこの事は見抜いていたことでしょう、それを黙認したと言うことはわかっていたんですねえ」

レオン「……何をわかっているって言うんだ」

ゾーラ「すでにレオン様が毒に犯され腑抜けになってしまうことを見抜いていたのでしょう。だから、私に任せてくださったのですよ」


933 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/10(水) 23:35:02.56Z7K9Z7PL0 (3/5)

カムイ「……任せたとは一体何をですか?」

ゾーラ「ひょほほほ、レオン様の監視ですよ。白夜の捕虜に誑かされていないか、私も最初はこんなこと必要ないと思っていましたが、日にレオン様が白夜の豚どもに蝕まれているのをひしひし感じました。ですから、化けて探らせていただきましたよ。あのカザハナという小娘はすぐ術に掛ってくれました。色々としゃべってくれましたよ。ですからシュヴァリエ反乱の首謀者の一人として、カムイ様を仕立て上げるのはとても簡単でした」

カムイ「……私が正規軍を率いると言う話を聞いてマクベスさんが悩んでいたことも、すべて理解した上でやったと言うことですね」

ゾーラ「ええ、マクベスがあなたに向けているものがどんなものかは、赤子でも理解できますよ。どちらに転んでもマクベスにとっては痛手にならない、あなたへの不信感ばかりが募るものにできました。本当に見ていてこれほど面白いものはありませんでしたよ。もっとも、あなたがシュヴァリエで死ななかったことは、誤算ですがねえ。あなたが死ねば、レオン様も目が覚めるだろうと思ったのですから。しかし、それはどうやら間違えでした。一番の毒はやはり白夜の豚どもだったと言うこと、その点ではカムイ様には嫌がらせをしただけに過ぎないでしょう。ひょほほほ、愉快ですねえ」

カムイ「それがあなたの理由ですか……」

ゾーラ「私にとっては命を掛けるに値する理由ですよ、ここまでやってきた諜報が実を結んだと思った矢先で、邪魔をしてきた雌豚に言われたくないですねえ。まあ、もっとも私の変装を完璧に見破れなかった時点で無能以外の何物でもありませんねえ!」

カムイ「……」

ゾーラ「本当に、死んでしまったあなたの従者は不幸な方ですよ。主がしっかりしていれば、死ぬこともなかったというのに、こんな主の下で命を掛けていては、いずれそちらの皆さんも犬死することになるでしょうねえ。ひょーほほ―――」

カムイ「!!!」ガッ ドゴンッ


934 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/10(水) 23:48:35.81Z7K9Z7PL0 (4/5)

ゾーラ「がっ、はうっ!!!」

カムイ「……」

ゾーラ「ひょほほほ、殺しますかぁ?」

カムイ「………」

ゾーラ「さぁ、殺してもいいんですよお? もっとも、話は聞けなく――」

カムイ「…………本当に、その通りですね」

ゾーラ「?」

カムイ「あなたの言うように、リリスさんが死んだのは私の未熟さでしょう。あなたの変装に気付けなかったことよりも、その先でリリスさんの言葉に耳を傾けられなかった。あなたに言われなくても、痛感してるんですよ」

ゾーラ「ひょほほほほ。そんなあなたに付いて行くのですから、臣下はみな馬鹿揃いというわけです。これは傑作ですねえ」

カムイ「ですが、一つだけ言わせてもらいます」グッ

ゾーラ「なんですか、言って――」

 ブンッ ドゴンッ

ゾーラ「げぴっ!」
 
 ドサッ

カムイ「私を信じてくれたリリスさんと、今も私に力を貸してくれる皆さんを侮辱することは絶対に許しません。もう、あなたから聞くことは何もなさそうです」

レオン「姉さん、こいつを生かしておく意味は無い、僕が――」

カムイ「いいえ、私がやります。こんな人をレオンさんが斬る必要はありませんから」

 ザッザッザッ チャキッ

ゾーラ「……こんな人ですか。それを斬るカムイ様は一体何なんでしょうねえ?」

カムイ「さぁ、なんでしょうか。どちらにせよ、その答えをあなたに言う必要はありませんね」


 ヒタッ ヒタッ



935 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/10(水) 23:58:55.22Z7K9Z7PL0 (5/5)

ゾーラ「ひょほ、ひょほほほほほほ」

レオン「この土壇場で、怖さに気が狂ったか?」

ゾーラ「壊れた、違いますねえ。壊れるのは皆さんのほうですよお」

レオン「貴様、何をいきなり、言いだす」

ゾーラ「本当に、甘い方ですよ。あなた達は!」

 ザッ ブンッ

 キィン!

カムイ「くっ……一体どこから!?」

 カラカラカラカラカラカラ シュオンッ

カムイ(この音は式神!? どうしてこんなとこ――)

レオン「姉さん!」」

 バチィン

カムイ「きゃああああああっ!!!!」ドサ ドサリッ

レオン「!!! 姉さん、姉さん、しっかり!」

ゾーラ「ひょほほほ、さすがに倒し残りがいるとは思いませんでしたか。やはり無能ですよお、助かりましたよあなた達」

???「」チャキッ

???「」カチャ

レオン「くっ、一体どこにいたっていうんだ」

???「」チャキッ ダッ ブンッ

シャーロッテ「させるかよ!」

 キィン

シャーロッテ「けっ、武器も見えないって意味わかんないんだけど、カムイ様に手を出すんじゃないよ!」ブンッ 

 サッ

???「」クルクルクルクル 

シャーロッテ「決めてくれるじゃねえか」

???「」チャキッ

シャーロッテ(本当にこいつらだけなのか。だとしても、こいつ、さっきの奴らより強い)

???「」カラカラカラカラカラ シュオンッ!

オーディン「ここは俺に任せてもらおうか、この漆黒のオーディンの力、受け止められるか!!」シュォオオオン ボワッ

 ガキィン

???「」クスクスクスクスッ

オーディン「笑うような仕草を取るとか、余裕ってことかよ」

???「」カサリッ

オーディン(……他に気配は感じないが注意しないと)


936 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/11(木) 00:13:07.53b2UZb6i90 (1/7)

カムイ「シャーロッテさん、オーディンさん。くっ……」

カムイ(思った以上に魔法をもろに受けてしまいましたか。すでに戦闘は終わったと油断していたということでしょう)

ゾーラ「ひょほほほ、どうやら一人は殺せそうですねえ。最後の最後でよくやってくれました。さぁ、誰か一人を殺してください、おねがいしますよ」

カムイ(なんでこのタイミングでこの二つの気配は現れたんでしょう。ゾーラさんはあの時、すべての気配に指示を出していたはず。従わなかった者たちがいたと言うことですか。媒体はレオンさんが燃やしたから増援を呼んだわけでもないはずですから。くっ、守り切るには人数が足りません)

???「」

???「」

オーディン「カムイ様には指一本触れさせない」

シャーロッテ「来るなら来いよ!」

カムイ(……くっ、どうにか、どうにかしないといけないのに)

ゾーラ「ひょーっほほほほ。その抗おうとする顔、実に滑稽ですよお。でも、それも終わりですよ」

???「」

 カラカラカラカラカラ

???「」チャキッ
 
カムイ「ぐっ、折れるわけには……いきませんよ」

レオン「姉さん、立っちゃ駄目だ」

ゾーラ「さぁさぁ、抗うように死んでくださいねえ。さあ、やってしまいなさーい!」

 フラッ


937 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/11(木) 00:25:40.35b2UZb6i90 (2/7)



ゾーラ「?」

???「」

ゾーラ「何を、しているのですか。さっさと、や―――」

 ズシャ

 ポタポタポタタタ……

レオン「えっ……」

ゾーラ「ひょ?」

 ポタタタタタッ 

ゾーラ「な、なぜ、私に、え、これは、ど、どういうっ」

???「」 シュオンッ ズビシャ

ゾーラ「あひっ、私の私の、私の胃が、腸が……。もど、もどし――」

???「」ブンッ パシュッ プシャアアアアア

ゾーラ「ヒュー……そ、そんな、ヒュー わ、私は言われた……りに、それをあなたも望まれたはずなのに……」

???「」ガシッ グチャッ

 グッググッグッ ビチャアアアッ 

ゾーラ「…ロ……様……」ドサリッ バシャンッ

レオン「な、何が起こって」

???「」カラカラカラカラッ シュオンッ シュオンッ

オーディン「って、あぶね! 思い出したように攻撃してくるなよな!」

シャーロッテ「ほんとどうなってのよ。あの下衆、裏切られたってこと!?」

レオン「くっ、姉さん」

カムイ「一体、何が、何が起きたと言うんですか、レオンさん」

レオン「わからない、本当にないが起きたんだ?」

 ………

 ピチャン ピチャン……


938 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/11(木) 00:37:26.22b2UZb6i90 (3/7)

シャーロッテ「攻撃はおさまったみたいだけどよお。一体何なんだよ、これ」

カムイ「……て、敵は?」

シャーロッテ「無茶すんじゃねえよ。ほら、肩貸してあげるから」

カムイ「あ、ありがとうございます。シャ―ロッテさん、オーディンさん、敵はどうですか?」

オーディン「気配が全く感じられない。あの短時間で移動したのかもしれないな。ゾーラを殺すのが目的だったと考えれば、もう長居する必要は――」

レオン「……だとしたら、これは不思議なことじゃないか」

カムイ「……レオンさん、どうしたんですか」

レオン「無いんだ」

カムイ「無い?」

レオン「ゾーラの死体だよ」

カムイ「えっ?」

レオン「無いんだ、奴の死体が。確かに致死量の攻撃を受けて死んだはずのあいつの亡骸が、肉の欠片一つもね……」

カムイ「……殺すことも死体を回収することも、含めて彼らの目的だったのかもしれません」

レオン「だとしても――!」

カムイ「そのことは後にしましょう。もう、敵はいなくなってしまいましたから。それに、まずは無事を確認するのが先ですよ」


939 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/11(木) 00:50:40.09b2UZb6i90 (4/7)

レオン「それもそうだったね。かなり待たせちゃった気がするけど」

カムイ「ふふっ、今の言葉はよくないですよ。女の子を待たせるのはいけないことですよ」

シャーロッテ「そうですよぉ。っていうか、カザハナとサクラ様はどこにいるのよ?」

レオン「大丈夫だ、安全な場所にいる。だけど万全ってわけじゃない、だからこそツバキたちをそこに向かわせたんだ」

シャーロッテ「そうだったんですかぁ。さすがはレオン様ですね!」

レオン「ああ……結果的にはあまり良い選択じゃなかったかもしれない、あの現れた気配の目的が僕たちの命だったら、誰か失ってたかもしれない」

カムイ「どうにかなったんですから、今は十分じゃないですか」

レオン「……その、姉さん」

カムイ「なんですか、レオ――あつつつ……」

シャーロッテ「結構深いから気をつけてください。でもこれはアクア様に怒られそう」

カムイ「間違いないですね。それで、どうしました、レオンさん?」

レオン「その、ありがとう。僕に力を貸してくれて……」

カムイ「いいえ。当然のことですよ。でも、これからは私のためにレオンさんの力を貸してくれますか?」

レオン「もちろんだよ、姉さん。」

カムイ「ありがとうございます。それじゃ、行きましょうか……」

レオン「うん」

カムイ「………」

カムイ(賢者様が言っていた『すべての人間を怨むほどの悪意』……。ゾーラさんもそれに絡み取られていたのかもしれませんね。そしてこれも新しい悪意を産むものになっていく……)

カムイ「……すべてが悪意を産んだら、最後には何が生まれ出ると言うんでしょうか……」


940 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/11(木) 01:09:46.36b2UZb6i90 (5/7)

◇◇◇◇◇◇
―ミューズ公国・アミュージア『宿舎feel』―

???「そうか、噂通りにやってきたということか」

白夜兵「はい……ですが。ここまで流れてきた噂の通りというのは……」

???「元々罠であるのは承知の上だ。それに白夜のことを考えれば、もうこの機会しか残されていないと言っていい」

白夜兵「……リョウマ王子は反対していましたね、俺達の作戦には」

???「……そうだな。あの頑固さは、一族を守るために離反したあいつに少し似ていたから、少し臆したが、折れるつもりは毛頭なかった。あそこで折れたら、あいつに笑われる気がしてならなかった」

白夜兵「クマゲラ様は炎の部族の方でしたか」

クマゲラ「ああ……。俺たち一族は頭が固く、すぐに熱くなる。でも、それしか知らん。知らん以上、そこにある機会に賭けるしかないってことだ。それにリョウマ王子は成功する可能性が低いから反対したわけじゃない」

白夜兵「俺達に死んでほしくないと言っていましたね」

クマゲラ「ははっ、すでに死ぬと思われていると言うのも、何とも言えないがな……。リョウマ王子には作戦の確率ではなく、俺たちの命を守ることの方が重要だったのかもしれん」

白夜兵「……俺達がガロンを倒せば、すべてが元通りになるんでしょうか?」

クマゲラ「それはわからん。わからんが、その可能性に賭けてみたからこそ、俺たちはここにいる。違うか?」

白夜兵「……そうですね。すみません、俺……」

クマゲラ「気にするな。それよりも、ガロンが謁見する日取りを探っておけ。暗夜に感づかれないようにな」

白夜兵「はい、任せてください、では失礼します」

 タタタタタタッ



クマゲラ「んっ、グビグビグビ……ぷはぁ、異国で飲もうと酒の味は変わらん。戦争をしていても変わらないものばかりだ」

クマゲラ「……リョウマ王子から話は聞いているが、できればこんな地であいつと再会したくはない。あいつはすでに暗夜の一員とはいえ、一族の繋がりを捨てて一族を救った結果として、同じ一族の者と戦うことがあっていいはずもない」

クマゲラ「……」

クマゲラ「……だが、嫌でも再会するように火が靡くというのなら、その時は力比べでもするとしようか……」

『結局、クマじいには敵わなかったな』

『一族を抜けるからって、手加減をするつもりはない。それに、お前は手加減されるのは死ぬほど嫌いだろ』

『当り前だ。全力を出すのが礼儀に決まってる、私は全力でやったんだ、だから負けても悔いはない。……まぁ、一回くらいはクマじいに勝ちたかったけどな……。残念だけど仕方無いさ』

クマゲラ「あれが最後の力比べなら、俺の連戦連勝で終わりだが……。もしも、あと一回することがあったら、それが最後の真剣勝負、それはそれで楽しみだ。そうだろ―――」




「リンカよ……」



 第十五章 おわり


941 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/11(木) 01:11:18.03b2UZb6i90 (6/7)

○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアB+
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
ギュンターB+
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアC+
(イベントは起きていません)
フローラC
(イベントは起きていません)
リリス(消滅)
(主君を守り通した)

―暗夜第一王子マークス―
マークスC+
(イベントは起きていません)
ラズワルドB
(あなたを守るといわれています)
ピエリC+
(弱点を見つけると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
レオンC+
(イベントは起きていません)
オーディンB→B+
(二人で何かの名前を考えることになってます))
ゼロB→B+
(互いに興味を持てるように頑張っています)

―暗夜第一王女カミラ―
カミラB+
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ルーナB
(目を失ったことに関する話をしています)
ベルカC+
(イベントは起きてません)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼB
(イベントは起きていません)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィC
(イベントは起きていません)

―白夜第二王女サクラ―
サクラB+
(イベントは起きていません)
カザハナC
(イベントは起きていません)
ツバキC
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
サイラスB
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB
(イベントは起きていません)
モズメC+
(イベントは起きていません)
リンカC+
(イベントは起きていません)
ブノワC+
(イベントは起きていません)
シャーロッテB
(返り討ちにあっています)
スズカゼC+
(イベントは起きていません)
アシュラC
(イベントは起きていません)


942 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/11(木) 01:18:04.05b2UZb6i90 (7/7)

今日はここまで

 クマゲラとリンカちゃんって同じ部族で、リンカちゃんはクマじいって呼んでるんじゃないかとか思った。
 本篇は一度ここで終わりです。ギュンターifでこのスレは終わる感じになりますので、よろしくお願いします。

 ピエリリスバレンタイン小話、書かなきゃ(使命感)


943以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/11(木) 01:51:40.22ranxAbmTo (1/1)


魔王オボロ様の悪意がゾーラを絡み取ってしまった


944以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/11(木) 16:15:14.63G5lt7OZh0 (1/1)

タクミが透魔堕ちしたのは臣下のオボロが黒幕だったからなのか…(純真)


945以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/11(木) 19:22:15.71KGcA+R5i0 (1/1)

原作ではまるで存在感がなかった炎の部族にスポットライトが当たったか


946以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/11(木) 21:11:17.71D2UCuYbso (1/1)

氷の部族と炎の部族、どうして差がついたのか
慢心、環境の違い


947以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/11(木) 22:09:00.891SwyJZk6o (1/1)

炎の紋章に何も関係のない孤高の部族さんオッスオッス


948以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/14(日) 11:30:22.07/SmY2gvtO (1/1)

133 茂野球磨 ◆18mUoAOPGY sage 2016/02/14(日) 11:23:30 ID:Rmk2oDIo
おはようございます。
サブロンパの茂野です。

未明に投稿したのですが、時間が時間だったのと眠気が眠気でしたので、
朝起きたら告知しようと思っていたのですが……まさか、もう読んでくださった方がいるとは、感激です。
取り敢えず、朝はカレーでも食べます。

さて、今回更新したのは、chapter1の探索編、前編。
と言っても、探索後編で各部屋に行くことになるので、探索編のさわりとなります。


chapter1 【倒錯する裏切りの絶望ロンド】 -探索前編-
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6396100


地図については、後編と一緒に開示します。
後編も早めに公開できるように頑張っていきますね。


949 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/16(火) 22:35:10.87Lo0qQGmU0 (1/16)

◇◆◇◆◇








・透魔王国if「イントロダクション」


 あの運命の白夜平原。暗夜と白夜、どちらにもつかないことを決めたカムイは自身について来てくれるわずかな者たちと共に旅立った。
 その道中、暗夜からカムイを探しにやってきた城塞の面々と合流する。するも、無限渓谷にてガンズの部隊と交戦、ギュンターは渓谷へと落ちてしまう。 ギュンターの安否がわからないままに孤立状態となったカムイ達の元に、差出人不明の手紙が届く。
 一行はその指定された場所、ミューズ公国周辺へと向かう。そこでアクアと再会し、彼女のペンダントに宿る力の導きにより透魔王国という世界の存在を知る。しかし、到着と共に現れた謎の兵たちと交戦、その多さに圧倒されかけた時、生き残りの透魔の民が現れ、この窮地を脱することに成功する。
 彼らの住まう隠れ砦にたどり着いたカムイ達は、無限渓谷から落ちて行方知れずとなっていたギュンターと再会を果たす。それも束の間、透魔の民の一人、ロンタオからこの透魔王国を長い間見守り、そして狂ってしまったハイドラという竜の話を聞く。
 白夜と暗夜の双方が争うように裏から操っていると聞いたカムイ達は、ハイドラを倒すこと決意。そして仲間を集めるとともに、白夜と暗夜の争いを一つの終わりへと導くために行動を開始した。暗夜と白夜の空が入れ替わる日というタイムリミットまでに、透魔王国に点在する泉を通して各地へと向かい、問題解決と信じ共に闘ってくれる仲間を集めることに翻弄した。
 そして、最後に残ったマクベス軍師率いる好戦派を打倒し、仲間達を連れて透魔王国に戻ったカムイであったが、そこには攻撃を受ける砦の姿があり、変わり果てたロンタオと愉快そうに笑うギュンターの姿があった。
 ギュンターが透魔王の眷属であるという事実に揺れながらも、一度窮地を脱したカムイは、そこで皆との絆を確かめ合い、夜刀神を終夜にまで進化させる。

 そして、ハイドラを倒すために進軍を開始するのだった。



950 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/16(火) 22:40:07.14Lo0qQGmU0 (2/16)

◇◆◇◆◇





 『ギュンターif』


「………仰せの通りにいたしました。透魔王様」

 皺の混じった声が黒い空間に木霊すると、それに対応するように言葉が返る。声はよくやったと労うと同時に命令を下す。
 真っ暗闇の先、姿は見えないが確かにそこに存在する何かの指示は単純明快なものであった。

「奴を器にし、我に差し出せ、呪縛から解き放たれた今、器にすることこそが我の野望を確かなものにする。さすれば、お前の願いも共に成就することだろう。忘れていたお前の願い、今こそ叶える時だ」
「……わかりました」

 静かに頭を下げる彼に対して、複数の影が視線を送る。送るも誰ひとりとして言葉を掛ける者はいない。
 いや、言葉を掛けることをしないのではなく、今は空っぽになっているからこそ、言葉を出すことが出来ないという状態であった。
 命の無い器たちは、透魔王の力によって管理運営されている。その中で自我を持っている彼は、唯一透魔王に意思を持って従った人物ということになる。
 それは確かに、彼の心の中にある確かな言動として、発せられることとなった。

「これより、カムイ一行を殲滅して参ります……」

 その足取りは重くも確かな意思を持つものだった……


951 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/16(火) 22:45:46.40Lo0qQGmU0 (3/16)

◇◆◇◆◇








 
 死体を操る透魔軍の攻撃を退けながら、手薄な場所を攻めて突き進んできたカムイ達は、地下通路を経ての王宮の入口広間へとたどり着いた。王宮の中は手が届いていないようで、埃と蜘蛛の巣が部屋の隅のあちこちに張り巡らされている。それを見た城塞の面々は仕事が出来ていないというように顔をしかめた。
 あのジジイ、人に口酸っぱく掃除について言ってるくせに新しい主の城は汚れてるじゃねえか、そうジョーカーが零せば皆は同意するように頷く。その中にはカムイも含まれていた。

「さすがにこの城を一人で隅々奇麗にするのは酷というものですよ。それに彼らの目的を考えれば、城も将来使わなくなるのでしょうから」

 歩むだけで埃がふわりと動く、そんな広間を進むカムイたちだったが、それはすぐに止まることになった。
 二階へと続く道に影がある。顔をあげればそこにいるのが誰だかすぐにわかった。

「……お待ちしておりましたぞ、カムイ様。いえ、今はカムイと呼ばせていただきましょうか」

 階段を一歩一歩降りてくる、その身には隙はなく、顔に走った傷跡は痛々しさよりも、今は強大な壁のような印象を与える。その壁はカムイと一定の距離を保つように動きを止めた。
 手にした血で黒く染まった槍と朱が彩る鎧、そして邪悪な笑みが張り付いたその顔。記憶の中にある面影とは異なるその人の名を呼ぶ。

「ギュンターさん」

 ギュンターさん、そう呼ばれて彼は楽しそうに唇をさらに吊り上げる。普段の笑みとは違う悪意の微笑は、知る者達から彼が変わってしまったということを突きつける。寡黙で普段は感情をあまり出さない彼が、常に笑っていることさえも、目に見えない歪さを与えてくる。
 自然と各々が己の獲物に手を添え始める。いつ何が起きてもわからないこともそうだが、まるでここに来ることがわかっていたかのように現れたギュンター、そこから考えられるこの状況を察してのことだ。それは、紛れもない事実としてすぐに現れる。
 幾つもの気配が突如としてこの広間に現れ、ギュンターの号令を待つようにただ待ち続けている。


952 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/16(火) 22:51:28.03Lo0qQGmU0 (4/16)

◇◆◇◆◇







「やはり、罠でしたか。すべては私たちを城に入れるための芝居だったと言うことですね」
「罠とわかっていても、お前ならそうすると思っていた。世界を救うというくだらない願いを成し得ようとするお前なら、例え罠だとしても懐に入ることを選ぶと思いましたのでな」
「ええ、と言っても、皆それを承知でついて来てくれました。ここであなたの罠を掻い潜ることができれば、私達が一歩有利になりますからね……」

 夜刀神の輝きはすでに強いものとなっている。ここまで付いて来てくれた双方の兄弟が紡いでくれた輝き、そして仲間たちの輝きはすでに夜刀神を終夜にまで高めている。それは、カムイのために戦うことを決めた皆の心が紡いだ絆の力、その体現の一つでもあった。
 しかし、その輝きを見てもギュンターは動じることもない。むしろ、愉快な催しを見る子供のようだ。違うとすれば、張り付いているのが邪悪に満ち満ちた笑みであることだろう。

「ふっ、そのようなおもちゃでどうにかなるようなものではない、透魔王様の力の前に役に立つものではありませんな」
「それを決めるのはギュンターさんではありません。本人に直接突き刺して、効くか効かないのか確かめさせてもらうつもりです」
「そうですか。しかし残念ですが、透魔王様の前に行くのはお前の死体だけで十分、そう聞かされています。無駄な抵抗はやめてはどうですかな。兵にむざむざ無能なりに考えた命令を出す必要も――」

 黙れこのクソジジイ、その言葉が突如投げられた暗器をギュンターが避けたと同時に放たれる。カムイの後方で少し前まで澄まし顔で待機していた男、ジョーカーは過去稀に見る凶悪な面を携えて暗器を放っていた。
 そこに世話をしてくれた恩師に対する口に出さない尊敬などの面影はなく、ただただその存在を否定したいと言うものだけがあった。

「てめえ、カムイ様が温厚な方だからって言いたい放題言ってくれるじゃねえか」
「ふっ、主の命令もなく噛みつくとは、臣下としては落第点だなジョーカー」
「気安く名前を呼ぶんじゃねえよ。カムイ様を裏切っておきながら、恩師面するんじゃねえ」


953 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/16(火) 22:57:12.06Lo0qQGmU0 (5/16)

◇◆◇◆◇







 立て続けに三本の暗器が空を切る、それぞれカムイの後ろにいる者たちからだ。一つはジョーカーのもの、そして残りは彼の左右から放たれたものだ。それをギュンターは軽々と避け、再び目を向ける。その久しく見ていなかった服装で、誰かはすぐに理解できた。

「ふん、やはり部族は部族か。主の命令を待たずして噛みつくようでは、まだまだ躾が足りなかったように見える」
「私はカムイ様を侮辱した人物と戦場であったのなら、容赦はするなと教えられております」
「カムイ様のことをひどく言うのは許しません。覚悟してくださいギュンターさん」

 カムイを守るようにしてフェリシアとフローラが前に出ると、恩師を前にしてその瞳やか前に揺るぎはない。すでにギュンターを倒すことに迷いがないことを語る。それはカムイの横に寄り添う最後の従者も同じであった。
 手に持った魔法書を開き、いつでも放つ準備を整える。ギュンターはそれに興味深い顔を返した。

「それがお前の答えか」
「カムイ様を守るのが私の使命です。そして何より、ここには同じくらい大切で守りたい人たちがいるんです」

 それがどういうものかをギュンターは知っている。だからこそ、虫唾が走った。

「ほう、では、お前が守りたいものも壊してやろう。壊れていく姿を見ながら涙を流す姿、さぞ愉快なものだろうな」

 その宣言にあるのは殺気と憎悪であったが、それをリリスは真正面から受け止め、静かに本を持つ手に力を込める。

「ふっ、気概はいいが、所詮は烏合の衆、ここで死ぬことから逃れられないというのにな」
「そういうわけにはいきませんよ、ギュンターさん」

 握りしめた夜刀神を構えながらに、カムイはギュンターと目線で対峙する。

「私たちはあなたを倒します。そして、この先で待っているすべての元凶にも負けるつもりはありません。それがここまで戦ってきた私たちが目指す場所なんですから!」

 それは彼女について来た者たちの総意だった。一人一人がその目標を共有している。強き絆が生み出す一体感は、突風にも似た衝撃を感じさせるものだった。
 だからこそ、話は終わりだと誰もが理解する。この先、刃は言葉で止まらない。どちらかが倒れ伏すまで戦いが終わることはない。
 ギュンターの手が静かに上がり始め、その合図は気配達に武器を握る。それに合わせてカムイ達もそれぞれが構えに入った。
 剣を握りしめ、矢を掛け、魔法書めくり、獣人たる者たちは己を獣人たる由縁たる姿へ。ギュンターはその準備が終わるのを待っているようにも見える。それは余裕か、それとも……
 答えを模索する暇だけは与えないと言うように、その手は静かに下ろされた。


954 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/16(火) 23:01:41.69Lo0qQGmU0 (6/16)

◇◆◇◆◇








 敵の装備は統一されたものではない。暗夜の鎧、白夜の甲冑、どれにも属さないゴロツキたちの姿も見てとれ、それはまさにカムイ達と同じ連合軍と言える様相だった。
 しかし、そこに人間的な動きは何もない。死を恐れない相討ちを想定した行動の元、動き続ける透魔兵の攻撃は強烈無比という言葉が似合っている。対人ならば意味を持つフェイントや脅しが全く通用しない。抑えていては一人倒せばまた一人という感覚で現れる増援に対処できなくなる。
 死を受け入れるのではなく、死がそもそも存在しない兵たちである以上、この戦いの終結はギュンターを倒す以外にない。ないと言うのに、カムイ達は最初の場所からさほど動けないでいた。

「ジョーカーさん、ギュンターさんまでの道、確保できそうですか?」

 受け止め敵を薙ぎ払いつつ、カムイは問いかける。帰ってきた返答は難しいであった。
 ギュンターとの距離はそれほど離れていない、距離にして三十メートルかそこらである。しかし、そのギュンターの眼前には未だに彼の呼ぶ増援と、他とは違い特殊な命令を受けているであろう動かぬジェネラルが沈黙を守っている。そしてやっとその先にギュンターがいるのだ。

「クソジジイが、距離を置いて傍観とか腰ぬけにもほどがあるな」

 悪態を吐きながら敵の処理を続ける。ギュンターはその声を聞いたのか、楽しそうな面持ちで彼らの方向をゆったり監視するばかりだった。来れるものなら来てみるがいい、もっとも辿りつけるとは思えないが、そんな余裕と挑発の混じった表情は、まるで宴を楽しむようにすら思える。
 防戦一方となりつつあるカムイ達、しかし留まっていることでわかり始めたこともある。それは増援の出現する大まかな方角で、それらのほとんどは城門の方角から現れていると言うことで、上層階へと続く階段付近から現れている者たちは、ギュンターが召喚しているらしい。その量は決して多くはないし、詠唱することが出来ない状況にすることができれば、増援を断ち切ることができる。


955 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/16(火) 23:05:38.27Lo0qQGmU0 (7/16)

◇◆◇◆◇






 そう考えていたところで、フローラとフェリシアが敵の攻撃を受け切るように間に割って入る。考え事をしていた間に、見逃していた敵を処理した形だ。

「カムイ様、考え事をする時は少しまわりを確認してください」
「すみません、フローラさん。ところで、ここから見えるあの城門、あれはどうやって閉じるものかわかりますか?」

 カムイの質問を踏まえ、フローラは少しばかり離れた視線の先にある城門の形を捉える。その門は鉄扉があり手動開閉式だと言うのがわかるが、その構造には不思議な点があった。それは門の閉めるべき鉄扉が閉じられても、少しばかり奥行きがあるということ。上方に何かしらの仕掛けを施し、それを隠すために作られた石造りの空間があると言うことだった。
 鉄扉を閉じた先の空間に何かがまたあることを表しているようだと考え、フローラはその構造的な形からもう一つの仕掛けを予想して口にした。

「鉄扉は手動ですが、あの外部構造を見る限り、落し格子の類が鉄扉を守るように設置されていると思われます」
「それは、簡単に作動させられますか?」
「……手順通りに作動させるのは難しいかもしれません。ここは管理されなくなって日が長いようですから、こうして城門が通れる状態なのは逆に奇跡的ともいえますね」
「それじゃぁ、どうするんですか、姉さん」

 攻撃を受け止め、すぐさま暗器を持ち替え敵を鮮やかに処理しつつフェリシアが声を上げる。フローラとしては、話の腰を折らないでほしいと内心ため息を漏らしながら、受け止めた攻撃に対して前蹴りと突き刺しという少々野蛮な方法で敵を処理して続きを口にする。それはあまりにも単純なことである、あるが故に今のカムイ達にとっては十分魅力的なことだった。

「というのが私の案になります、カムイ様」
「なるほど~、さすが姉さんですぅ」
「それで行きましょう。今出来る最善策はそれくらいしかありませんから」


956 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/16(火) 23:10:05.25Lo0qQGmU0 (8/16)

◇◆◇◆◇






 その言葉と共に周囲を見回す。すでに仲間たちはそれぞれ近くにいた者たちと共闘し、それぞれが一つの連隊として行動していた。この大きな広間の中、迫りくる刃を受け止めることは一人ではできない、仲間と共にあって初めて均衡に持ち込める。その中でカムイの探す者たちは、すぐに見つかった。
 赤い閃光を放つ剣、低空を維持しながら戦いを続ける竜、そしてそれを弓の驚異から守るように、駆け続ける二つの騎兵の姿。カムイはすぐに声をあげた。

「マークス兄さん! カミラ姉さん!」

 ジークフリートを振いながらも、その声は確かに彼の耳に届く、それは共に同じ場所で戦っている彼女も同じであった。マークスが指示を出す。彼らと共に戦っていた騎兵二人が阿吽の呼吸でカムイまでの道を切り開き、その合間を縫うようにカミラとマークスが通り抜け、その後に続いて騎兵も至った。

「カムイ、何か策があるのか?」
「はい、少しばかり危険ですが、任せたいことがあります。お願いできますか?」
「もちろんよ、カムイのお願いなら何でも聞いてあげる」
「この状況を打破する可能性があるのだろう。大丈夫だ、お前の指示に私も従おう」

 二人がカムイに寄せる信頼の熱さを物語る問答ともいえた。カムイの信じる道、示す道に命を掛けられると言う物の現れであり、それを汲み取ってすぐに彼女は案を出す。

「あの城門の上にあると思われる格子を落としてもらえますか」
「……なるほど、外からの増援を防ぐというわけだな」
「はい、城の主に遠慮することはありません、装置を破壊して二度と開けられないようにしてもらって構いません」
「ふふっ、そうね。これから倒しちゃう人の城に遠慮なんて必要ないもの。わかったわ、任せて頂戴」


957 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/16(火) 23:15:48.75Lo0qQGmU0 (9/16)

◇◆◇◆◇






 カミラとマークスの了承を得たところで、後続の騎兵二人が隣接する。ゾフィーとサイラスだ。その二人して特徴的な髪を揺らしながら、ここまで頑張ってきた愛馬を優しく撫でている。愛馬たちはそれに、まだ戦えると言うように答えるように尻尾を揺らした。

「サイラスさんにゾフィーさん、聞こえていた通りです」
「ああ、わかっている。相変わらず無茶なことを考えるよ、カムイはさ」
「あはは、確かにそうだね。いやー、こんな人の下で働いてるなんて、リリスさんも大変だよね。サイラスさん、なんとか言ってあげないと、男が廃るよ!」
「な、なんでサイラスさんにそんなこと言うんですか、ゾフィーさん!」

 割って入ってきたのはリリス本人であった。その顔は少しだけ朱の色が入っていて、怒っていると言うよりは恥ずかしいと言った感じで、戦場には場違いといえる花があるような感じさえした。
 ゾフィーはそんなリリスを見て、ごめんなさいと悪びれた様子もなく答えながら、サイラスに目線を向けた。

「サイラスさん、奥さんが恥ずかしがってるよ」
「お前が困らせてるんだろう。まったく、調子に乗っていると痛い目を見るぞ」

 そう諭すサイラスの左手薬指には輝きがあり、それはリリスも同じである。二人はすでにそういう仲で、この戦いが終わったらというありがちなテンプレート台詞の交換も済ませていた。その二人の間柄をよく知っていたのは他ならぬゾフィーでもあった。

「えへへ、ごめんなさい。だけど、この戦いが終わらないと二人が結婚式あげられないんだから、あたし頑張るよ」
「ふっ、ゾフィーの言う通りだな。よし、ゾフィーよ。私と一緒に先陣を務めてもらいたい。頼めるか?」
「もちろんっ! あたしとマークス様の力で道を切り開いてみせるからね!」

 自信満々に語るが、ゾフィーはおっちょこちょいである。どれくらいおっちょこちょいかというと、馬小屋から馬を逃がしたり、リリスが植えた花を持ってきてしまったり、敵を攻撃して衣服を剥ぎ取ったり、いろいろな意味でおっちょこちょいだった。
 一度、ゾフィーとリリスの模擬戦闘をサイラスが見たことがあるが、見事にリリスが引ん剥かれて恥ずかしさの余り泣き出すという事態もあり、そのあと無茶苦茶色々あった。
 だが、それを差し引いてもゾフィーの実力は皆からの折り紙つきで、この采配に異を唱える者は誰一人としていなかった。


958 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/16(火) 23:20:30.12Lo0qQGmU0 (10/16)

◇◆◇◆◇







「うふふっ、それじゃサイラス。私たちは仕掛けを二人が破壊してる間の援護に回るけど、ちゃんと付いてこれるかしら?」
「カミラ様、安心してください。それにここで死ぬつもりなんてありませんから」

 そう告げてリリスに目を向ける。リリスといえばモジモジしつつ、赤い顔をそのままに、指をちょんちょんと付けたり放したりしていた。戦闘中であろうとも、未だに意中の人の目線には恥ずかしさを覚える初なところがリリスにはあったのだ。

「リリス、大丈夫だ。必ずゾフィーと一緒に戻ってくる。だから、ここで待っていてくれ」

 愛する者に安心させるように笑みを浮かべる彼を見て、リリスはさらに顔を赤くする。何時ものゆったりとした構えとは違う年相応の乙女らしく、リリスは顔を本に埋めて膝を落とした。
 落して、でも確かにサイラスに聞こえるくらいの声の大きさで、早く迎えに来てくださいね、と甘えるような声を漏らす。周囲に花が咲き乱れるような、ふわっとしたものが広がるようなものを皆が感じた。

「はわわわ~、リリスさんとっても可愛らしいですぅ」

 敵をなぎ倒しながら、フェリシアは率直に。

「本当に可愛いわ。でも、私の婚期はいつになるのかしら」

 敵を刺し殺しながら、フローラは悲観的に。

「リリス、それ以上はやめておいたほうがいいぞ」

 敵の腕を飛ばしながら、ジョーカーは予感的に。

「そうですね、こんな可愛いリリスさんを見続けるためにも、ちゃんと守り切らないといけませんね!」

 敵を突き殺しながら、カムイは使命的に。
 それぞれリリスと過ごしてきた者たちが思い思いに剣を振るう。そのリリスを大切に思ってくれている、それがたまらなくサイラスは嬉しく思う。
 体中に力みなぎるように、その約束を果たすために今すべきことに意識を向け始める。そう、向けるための言葉を添えて。

「ああ、リリスを任せた」

 それが見事に合図となった。先陣を切るマークスとゾフィーの馬が駆け出し始め、リリスは未だに顔を赤に染め上げつつも眼の前に迫りくる敵と向き合い、カミラとサイラスも時を同じくしてマークスとゾフィーを援護するように武器を振っていく。戦いの流れを変えるために、カムイ達の歯車が動き始めた。


959 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/16(火) 23:24:31.02Lo0qQGmU0 (11/16)

◇◆◇◆◇









 城門の落とし格子を作動させる仕掛けがある制御室への入口は城門の近くにぽっかりとあり、そこにマークスとゾフィーが飛び込み、内側に錠を掛ける。中は馬を待機させられるほどの空間であるが、上の機材のある空間からは何者かが下りてくる気配が感じられた。

「ゾフィー、ここからは白兵戦だが。騎馬戦以外の心得はあるか?」
「大丈夫、サイラスさんにみっちりしごかれたから、閉所の戦闘も十分こなせるよ」

 握った槍を片手にそう答える。頼もしい限りだとマークス、すぐさま階段を駆け上がり始める。まずは侵入者に気づいた先兵を倒し、その影から現れたもう一人を、今度はゾフィーが槍で持って叩く。
 華麗な連携を取りつつ上がりながら、マークスはゾフィーに目を向けた。
 ゾフィーはサイラスとリリスの子供ではない。いわゆる戦災孤児にあたる少女である。暗夜領のある村が何者かに襲われていた時、サイラスがそれに気付いて向かった結果として、村の人々が命を掛けて守り通した若人の中にゾフィーはいた。
 当時はまだ今より三歳ほど年下であったゾフィーは当初から、村の人々の仇を討つことを望み、カムイ達の行軍に参加することを望んでいた。その頃のことはマークスも覚えている。覚えているからこそ、今のゾフィーは良い意味で成長したのだと思えた。

「人とは変われるものなのだな」
「えっと、マークス様?」
「いや、初めてお前を見た時、復讐以外のことを知らない、そのような顔をしていたからな。それに取り込まれたお前と、共に戦う日が来るとは思わなかった」
「ひ、ひどい。あたしだって、成長してるのに……」

 怒りながらもちゃんとマークスのサポートに回る限り、彼女の言っていることは本当だと言うことがわかる。そして、こうして彼女から復讐という理由を取り除いたサイラスには一目置ける部分があるのだ。


960 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/16(火) 23:30:01.10Lo0qQGmU0 (12/16)

◇◆◇◆◇








「すまなかった。しかし、よもやサイラスとリリスの件は言われるまで私たちは誰ひとりとして気付かなかったことだった」
「ああー、あたしはてっきりみんな知ってるのかと思ってたんだけど、だって、その……」

 ゾフィーは気まずそうに頬を掻きながら、邪魔というように再び下りてきた敵に蹴りを浴びせて後方へと落し、それにマークスが手早く止めを刺した。
 彼女が気まずそうに告げたことというのは、サイラスとリリスが付き合っているということを単純に知ることになった夜の情事に関することである。夜の情事といえば多くは言わなくてもいい。ゾフィーは度々それを耳にしていたから、ああ、二人はそういう関係なんだなとすぐに察した。
 養子としてサイラスに引き取られた当初は、あまり折り合いが良いと言うわけではなかったが、サイラスもリリスも親身になってゾフィーに接してくれた。現実の世界で一月と少しの出来事だとしても。ゾフィーにとっては三年間の星海生活は、二人との交流がほとんどであった。
 だからかもしれない、少ししてからは悩んだことはサイラスやリリスに聞いてもらった。血は繋がっていなくても、頼りにしてほしいと言うサイラスと、ゾフィーの役に立ちたいというリリス。二人のおかげで、ゾフィーは戦う理由から復讐という感情を取り除くことができた。
 そんな二人が付き合っていて、その頃はまだ互いに指輪も持っていなかったことから、ある日、一度こちらの世界に戻ってきた時だ。
 それで、サイラスさんとリリスさんはいつ式をあげる予定なの?と零したのである。おっちょこちょいなりに考えた気の利いた一言だった。
 途端に集まっていた皆の顔がサイラスを射抜き、リリスはきょとんとして少ししてからその顔を真っ赤に染め上げることになった。


961 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/16(火) 23:39:20.88Lo0qQGmU0 (13/16)

◇◆◇◆◇








「ふっ、あの時のサイラスとリリスの狼狽ぶりもそうだが、告げた後に皆知らなかったの、とお前がきょとんと零したのも面白いものだ」
「だって、いつもサイラスさんとリリスさん、私の様子を見に来てくれてたんだよ。二人一緒に出てるのに、それで気がつかないなんておかしな話だよ」
「いや、星海の管理は主にリリスが行っていた。サイラスがお前のいる星海に行く際に、リリスがその水先案内人を務めている……そう思っていたんだが、よもや、二人が付き合っているとは夢にも思わなかった」

 次第に敵のペースが下がり始めているのを二人は感じ取る。もうそろそろ仕掛けを制御する部屋に達するかもしれないと言えるほどに、天井が迫り始めていた。

「えへへ、でもあたしの発言のおかげで、二人とも指輪の交換できたんだから、結果良ければっていうことで」
「そうかもしれん。この戦いが終わり次第、式をあげると言っている。この戦い、負けるわけにはいかないのでな」

 サイラス、そしてリリスが夫婦として歩み始めてはいるが、それを正式なものとする儀式が控えている。そう考えると、この戦いの負けられない理由が一つ増える。それは重荷ではなく、未来を繋げる強い希望そのものだった。
 だからこそ、話はここで終わるべきだったのだ。

「でも、一つ気になることがあって」
「何がだ?」
「えっと、その、サイラスさんとリリスさんがその、夜、えっと、まぁ、その、あれのことなんだけど」

 マークスは、そのあれをというのを理解した。確かにそういった行為で愛と絆が強まるということもあり得るだろう。愛する者を抱くと言うことはそういうことだ。
 しかし、戦いの最中に自身を育ててくれた義理の親、その二人の情事に何を思うことがあるのか? ゾフィーが一体何を気にしているのか、マークスには点で予想がつかなかった。



962 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/16(火) 23:44:22.67Lo0qQGmU0 (14/16)

◇◆◇◆◇








「どういうことをしているのかわからない、ということか?」
「いや、さすがにあたしだってこの歳だし、えっと、よくわからないけど、何をするかくらいわかってるから」
「では、何を気にしている?」

 マークスは踏み込んだ。正確には踏み込む必要はなかったのに、踏みこんでしまった。
 ここでマークスは流せばよかったのだ。気になるようだが、今は戦闘中だ、その手の話ならば終わった後に他の者に聞くといいだろう、といった言葉を使って終わらせるべきであったのだ。

「その……サイラスさんとリリスさんが疲れ果てて寝てるところを覗いたことがあるんですけど……」

 若いながらの好奇心という奴だが、それがいったいどんな気になることに繋がるのか、それがさっぱりマークスには予想できない。否、予想できないことこそが普通なのだ。
 再び現れた敵をささっと片付け、ゾフィーは仕草を交えて説明を再開する。それはベッドかそれとも布団か、四角い何かを現わしているようだった。

「サイラスさんの隣がすごくこんもりしてて」

 マークスの中にその少しばかりの想像図が浮かび上がる。あの二人が共に寝ていると考えて、ベッドもしくは布団であってもサイズは普通より大きいだろう。しかしこんもりとしていると聞いて、リリスはそれほど大きいわけじゃないとなる。

「……まさか、不倫だと?」
「いやいやいや、サイラスさんまじめな人だからそれはありえないよ。それに、その日はリリスさんとサイラスさんとあたししかいなかったし、それにそのこんもりの正体もわかってるから」
「リリス……だというのか」
「うんそうだよ」

 どうやらリリスのようであった。しかし、こんもりしているという表現から察するに、それはリリスの体格ではないのではないか、でもゾフィーはそれがリリスだったと言う。多分、それがゾフィーの気になっている点というやつだ。

「では、こんもりしているというのは」
「うん、その時もぞもぞってそのこんもりしたのが動いて、顔が出てきたんだけど」

 間を作るように敵が現れ、それをマークスが切り落とす。
 一体何が出てきたのか、雰囲気を乗せたゾフィーは真剣な顔のままに伝える。

「それ、竜状態のリリスさんだったんだ」


963以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/16(火) 23:46:14.16YQ/er3jdo (1/1)

サイラスェ…


964 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/16(火) 23:50:38.16Lo0qQGmU0 (15/16)

◇◆◇◆◇






 竜状態、ああ、竜状態というとあの鰭と尾鰭もあるあの状態か、確かにあの大きさならばこんもりとするのも仕方無い。マークスは納得した。そして同時にゾフィーはなぜリリスが竜の状態で眠っていたのかわからないと言うことなのだろう。そう、この時点でマークスにもわからなかった。
 だが……ここでマークスは思い出す、この話の始まりの位置、つまりこの状況に至る前に二人が何をしていたのかということに関してである。
 夜の営み……疲れ果てた二人……竜状態のリリス。

「うっ……」
「マークス様、大丈夫ですか?」

 思わず立ちくらみが起きた。ゾフィーはその二つから導き出せるものがないようだった。ゾフィーはなんで竜状態になっているのか、人の姿で寝ないのかと首をかしげている。純粋な子だとマークスは素直に思う。
 マークスは先ほどリリスを安心させるためほほ笑んだサイラスを思い出すが、それはすでに邪なものにしか思えなくなっていた。
 サイラス、カムイの親友。そうか、つまり竜属性ということか。意味不明な解釈がマークスの頭を駆け抜ける。そういえば、竜状態のリリスにはあれがあると、ピエリが言っていた気が、まて、つまり、サイラスは……。思い出さなくてもいい情報ばかりが噴火し、恐ろしい結末を引き寄せようというところだった。

「マークス様、仕掛け部屋に着いたみたい!」

 ゾフィーの言葉に今すべきことを思い出す。仕掛け部屋の器具のほとんどは錆付いていて、もうこの状態を維持しているのはある種の奇跡といえる状態になっていた。
 今ここに限って言えば、これがこの状態を維持していたことは幸運であった。もしも綻び落ちていたら、敵はそれを踏まえた作戦で仕掛けて来ていただろうからだ。さすがに、落し格子が落ちるという事態は予想していないはずだ。
 マークスとゾフィーは互いに留め具と思われる場所を確認してそれぞれが左右に展開、武器を構える。力をこめて振り下ろせば、その留め具は容易く壊れることは誰の目にも明らかだった。

「これで落ちるはずだ。準備はいいな、ゾフィー」
「任せて、いっくよ!」

 呼吸を合わせて、武器を振り下ろす。鈍い鉄の音が木霊し、それは次に破壊音を奏で。そして勢いと共に轟く悲鳴のように叫びがあがった。
 重々しい鉄の格子は、まるでギロチンのように下へと落下し、それを確認してマークスはすぐに踵を返す。

「よし、これで大丈夫だろう。すぐにカムイ達の元へ向かうぞ」
「はい……ところで、リリスさんが竜状態だった理由なんだけど……」

 そのゾフィーの無垢な質問に対してマークスは少しだけ思案した。
 思案して真面目な顔のままに、残念だが、私には皆目見当がつかないとお茶を濁し、階段を駆け降りるのだった。


965 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/16(火) 23:54:20.09Lo0qQGmU0 (16/16)

 今日は前半だけでお願いします。後半は今週末くらいに

 #FEのガーネフ強かった。


966以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/17(水) 00:17:20.50UrSSwYA7o (1/1)

復讐鬼ゾフィー「(皮を)剥ぎ取るわよ~」

スターライト以外でも余裕で突破できるマフーなど敵ではない


967以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/17(水) 09:43:27.18MoENwPtXo (1/1)

サイラスやっぱり殺さなきゃ(使命感)


968以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/17(水) 12:10:33.79JOptOMKi0 (1/1)

サイラスの支援Sは相手によって落差が酷いからな…


戦闘後どうするべきだったかリョウマに相談するマークスが見える


969 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/25(木) 22:20:36.65/mUgx/Fs0 (1/20)

◇◆◇◆◇







 格子が落ちた音は、カムイ達に聞こえるほど大きく広場を揺らす。土煙りと埃が舞う城門付近の様子は多くの目に入る。それは時折、向かったサイラスを心配するように様子を眺めていたリリスの瞳にも映った。
 カムイ様と彼女が声を上げる。それは防戦一方の流れを変える合図となり、それを皮切りにカムイの両足に入る力の意味合いが変わり始める。踏ん張り耐え続けた足は、今まさに前線を押し上げるための力へと変わりゆく。受け止め続けた刃の重さ、それを押し返すために体重と勢いをつけて剣を突き上げた。
 その変化は周囲の者たちにすぐに伝わる。言葉に出さずとも、仕えてきた彼らにはそれがすぐにでも理解できた。押し返された敵の懐にジョーカーが入り込み倒せば、その合間を縫うようにフェリシアの暗器が後続の兵に傷を与え、動きの鈍くなったところでフローラが止めを刺す、先ほどとは違ってその場に留まることはない。リリスの魔法によって足止めされた兵に、再びカムイ達が攻撃を仕掛けていく。そうして敵の波に割って入る様を見て、ギュンターは感心した声を漏らした。
「なるほど、ここ数ヵ月でそれなりにできるようにはなった、ということか」
 城門を閉じた格子には頭の空っぽな亡者が次々に押し掛けている。いずれ壊れるかもしれないが、それを期待することはできない。あそこに溢れている雑魚にこの者たちを質で越えるほどの実力はない、いずれ殲滅され鉄扉さえも閉められることだろう。ギュンターの予想通り、格子が落ちたことを皮切りに、防戦から移り変わったカムイの陣営は、城門周りの敵を片付け始めていた。
 戦場の時間はとても早い、気が付いたときには鉄扉は閉じられる。これ以上の援軍に思いを馳せることはない。ギュンターの答えは明確であった。
「では、どこまでできるようになったか試させていただきましょう、カムイ」
 次の合図を出す。残っていた石像のように動かずにいたジェネラルが重い腰を上げ、大槍と大盾を構えて横に並ぶと、カムイ達に向けて前進を始めた。


970 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/25(木) 22:27:21.98/mUgx/Fs0 (2/20)

◇◆◇◆◇







「はわわ、強そうなのがいっぱい来ましたよぉ」

 フェリシアの言葉にカムイの視線が上がる。ギュンターまで残り二十メートルほどの位置、動き始めたジェネラルの軍勢が行く手を遮るようにカムイ達を待ち受けている。ぱっと見たところでも、その盾と鎧には多くの術文字が刻まれており、魔法に対する抑止力、魔法カウンターを手にしていることがわかる。リリスは苦々しく笑った。

「私、攻撃面で役に立てそうにありません」
「逆に気張って倒れたりしたらお人好しがうるさいからな、補助に専念してろ」
「ここは私達に任せてほしいですぅ」

 フェリシアとジョーカーの言葉を言われる前からそのつもりであったが、改めて言われるとなんと物悲しいことか。

「とりあえず、そういうことで行きましょう。ジョーカーさん、対重装甲装備は大丈夫ですか?」
「心得ておりますのでご安心ください」

 そう口にしてジョーカーの手に違う武器が握られる。針手裏剣と呼ばれるそれは鎧の隙間を狙うことに特化した武器であり、鎧の中にある無防備な本体に有効な武器であった。
 迫りくるジェネラルの隊列、しかしジョーカーの視線は彼らを映してはいない。その壁の先、わずかながらに見える影ばかりを睨んでいた。
視線の先、ジェネラルに隠れてはいるがわずかながらに見える影、その存在があったのだ。

(ジジイ、主への忠誠がどうとかビシビシ言いやがったくせに、なんでてめえがそっち側にいるんだ?)

 ギュンターの離反は、思いのほかジョーカーの心に影響を与えていた。ジョーカーにとってギュンターというのは技を授けてくれた恩師であり、同時に目標でもあった。
 手を伸ばしてもそう簡単に届かない頂にいる。そのあり方はジョーカーにとってはいずれ越えてみせるものであった。にもかかわらず、ギュンターはその頂から姿を消して、汚泥にその身を窶している。

(カムイ様を裏切るよりも大事なことなんてあるわけねえ。そう俺に教えたのはジジイ、てめえだろうが……)

 武器を持つ手に自然と力がこもる、だが、頭の中は思った以上に静けさを守っていた。ギュンターの教えは何時でも冷静に、主君のために忠実たれというものである。先ほどギュンターに攻撃を加えた時に血の気をすべて使い果たしたのか、今はカムイの命令を静かに待てるほどになっていた。

「カムイ様、ご命令を」
「はい。私たちは敵の注意を誘いますので、隙を見て倒してください。おねがいしましたよ」

 その言葉と共にカムイが駆けだし、次いでフェリシアとフローラも後を追う。近づく三人の陰にジェネラルの鎧が静かに揺れ、大槍が勢いを持って突きだされる。それを受け流し、カムイが懐に向けて剣による一撃を浴びせるが、丸みを帯びた鎧はそのダメージを半減する。いくら夜刀神といえど剣は剣、その本質のままに大した被害をジェネラルは受けぬままに、その大盾が頭上へと掲げられる。
 少しの間を置いて振り下ろされたそれを寸でのところで彼女がかわせば、後続からフローラとフェリシアの暗器が投げ込まれる。大盾を振り下ろした影響もあり、動きが鈍くなったところでジェネラルの顔が静かに上がる。視界を確保するためのわずかながらの覗き穴、そこからみえる三人の姿。再び、攻撃を加えようと足に力を加えたところである。突如視界が黒く染まり、少しの時間を置いて彼は倒れ伏す。ジョーカーの放った攻撃は、そのわずかな覗き穴を的確に捉えていた。


971 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/25(木) 22:30:57.39/mUgx/Fs0 (3/20)

◇◆◇◆◇







 血の匂いを嗅ぐわせることなく大きな音を立てて倒れ伏す鎧、後続のそれらも同じように次々と処理していく。巧みな連係を前にして、考えることのできない木偶集団は哀れにも壁としての役割を果たしているとは言い難い。殲滅だけを念頭に置いた思考は対処する術を知らない、魔法に対する心得を装備出来ても、戦術に対する心得など使い捨ての駒が教わっているわけもないのだから。だからこそ、敵ジェネラルはただ漠々と戦列を崩さず迫り、そしてその壁を越えてやってくる者たちもまた漠々と相手を切り付けることだけが行動理由であった。
 ジェネラルの陰に隠れて近づいていた者たちが、その壁を飛び越し現れる。無茶苦茶な陣形、ただ一人でも殺せればよいという考えの元に一斉に飛び出してきたそれらであったが、考えられる人間からすれば予想の範囲内であった。

「リリスさん」
「はい、行かせてもらいますね」

 ジェネラルとは違い、何かしらの仕掛けのある装備を持っている節はなかった。その数四、リリスの口元がつり上がる。それは彼女の竜としての一部分、獣の本能が顔をのぞかせた瞬間だった。
 魔法書を開くと同時に、幾つもの魔方陣が地面へと広がり、それぞれ敵が浮かぶ地面の下へと滑りこむ様に飛び立ち、その真下で確かに彼らを捉えた。そんなことを彼らは気にしない、だからこそ容赦ない制裁を浴びせることができるのだ。

「皆さんに手を出さないでください!」

 詠唱を終えるとすぐに真下の魔方陣が淡い光を放つ、それは優しくも思える光であったが、やがてそのその頭上から迫りくる彼らへと放たれる火球を放つ光へと変わる。空中という避けられない空間で迫りくる火球に成す術もないまま、その爆発を持って終わりが訪れ、動かなくなった骸が生々しい音を立てて地面へと落下した。
 すでに壁は崩れ去り、カムイたちの目にはあと少しに迫る老兵の強かな面影が見える。刃を交えることに躊躇はないと、カムイの足は力強く駈け出した。
 無限渓谷から落ちて死んだと思われたギュンターと再会したとき、一番に喜びの声をあげていたのはカムイであった。そして、白夜と暗夜、双方の問題に一つの終わりを迎えた時、共に闘って行きたいと約束さえしていた。
 それを信じて戦ってきたカムイにとって、この現実がどういったものなのか想像に難しくない。誰にでもわかることなのだ。
 すでにギュンターへの道は開かれている。今さらそれを止めることはなく、そもそもここで決意が揺らぐような人ならば、透魔の民が最後の砦としていたあの場所で、裏切られたときにその心は折れてしまっていたはずだからだ。
 でもそこで折れることがなかったのは、支えてくれた兄妹たちがいたからであり、その支えられた分、カムイには支えなければいけない人々がいた。
 ギュンターに近づくにつれて、皆の顔に色々な感情が込み上げて来ているのが見て取れた。
 ここにいる五人にとってギュンターという人物の影響はかなりのものである。城塞で過ごした時間、彼らの中でギュンターというのは生活の中でいなくてはならない人であったのだ。
 カムイにとっては育ての父であり、フェリシアとフローラにとってはフリージアという単語を利用して迫ってくる無頼漢から守ってくれた騎士であり、リリスにとってはカムイと一緒にいさせてくれるために城塞にいることを許してくれた恩人であり、ジョーカーにとっては今の自分を構成するすべて教えてくれた師匠であった。
 全員、ギュンターと出会うことがなければ、悲惨な運命を迎えたことを否定できない者たちばかりだった。


972 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/25(木) 22:43:10.03/mUgx/Fs0 (4/20)

◇◆◇◆◇








 だからこそ、その運命という歯車を入れ替えてくれたギュンターを倒すということが、今になって圧し掛かっていた。これが本当に正しいことなのか、ギュンターを倒さずに元凶だけを倒す方法を考えればいいんじゃないか、そういったことばかりが頭の中に浮かび始めていた。
 実際そんな時間はない、表の世界に対して透魔王は攻撃を開始している。どこからでも現れる兵、それに襲われ続けている白夜と暗夜、それを考えればもう、選択肢などありはしないのだ。
 だからこそ、透魔王はギュンターをカムイ達の前に差し向けてきたのだろう。ギュンターを生かすためにあれこれと考えてもいい、戦い苦悩してもいい、結果的にカムイ達が苦しみ、地団駄を踏ませることができればそれでいい。その間に表の世界を滅ぼせるのなら、それで十分に構わないのだ。
 本当に狡猾だ。人の嫌だと思うことを狙って行い、それによって自分に現実的な利益さえ手にする周到さ、だからこそ、その手際の良さは嫌悪称賛したい。

「本当に嫌になります」
「カムイ様、いきなりどうされましたか?」

 ジョーカーの意識が向くと、ほかの皆も同じようにカムイの言葉に耳を傾けはじめる。攻撃は止まない、止めればギュンターとの距離がこれ以上縮むこともないはずなのに。皆の手は戦いを止めることはなかった。
 だから、カムイも同じように攻撃を続けながら言葉を紡ぐ。

「私もできることなら、ギュンターさんと戦いたくはありません。ギュンターさんを倒すことで私達に得なんて一つもないんですから」

 カムイ達が選んだ道はギュンターを倒して先を進む道、どんな苦難があろうともそこを進みゆくことを決めた以上、その選択の責任は選んだ当事者すべてが忘れずに覚えていかなくてはいけないことだ。そして、その始めの出来事がこうして五人に与えられている。

「私はこの先に得るべき結果があると信じています。ギュンターさんとこうして戦うことになった今でも、その目指す場所は変わっていません。たとえ、そこにギュンターさんがいなかったとしても……」

 目指す場所は変わっていない。争いの終わった平和な世、世界を覆う悪意という闇を光がかき消した光景。ギュンターと約束したその世界、それを目指すことをカムイはあきらめない。だからこそ、ここにいる皆に問わなくてはいけなかった。

「そんな、そんな世界を目指す私と一緒に……歩んでくれますか?」

 彼女の言葉は静かに四人に告げられる。誰もが作業の手をやめることはなく、ただ無言の肯定を返す。その無言は肯定として受け取られ、最後のジェネラルが倒れ伏した。


973 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/25(木) 22:45:43.14/mUgx/Fs0 (5/20)

◇◆◇◆◇








 ギュンターは馬に跨り最後となる魔法書の詠唱を始めていた。馬に取り付けられた盾は長き間使ってきたこともあって無数の傷が走っている。そして、その目にあるのは向かってくるだろう殺すべき対象を刈り取るという信念だけであった。

「ふっ、やはり命令だけに忠実な駒では、お前たちを倒すことはできないということだな」

 手にした槍に力を込め、辿り着いた者たちをその視界に捉える。

「……ギュンターさん」

 その言葉と一緒に四つの足音が追い付く。ギュンターと戦うことを選び、カムイと一緒に目指すことを決めた者たちがそこにいた。それらはギュンターを静かに見つめているだけで、言葉はなかった。 

「そうか、決めてきたということか。しかし、その信念が勝つというわけではないぞ」
「ええ、その通りです。ですが、あなたに殺されるつもりはありません、そして殺させるつもりもありません」
「ふっ、そうか」

 言葉とともに最後の詠唱が終わりを迎え、周囲に最後と思われる透魔兵が姿を現し始める。もう、この先詠唱する時間や隙はない。これがギュンターにとって最後の援軍と言えた。
 だが、その顔に悲観や落胆の色はない。手にあるすべてを使ってギュンターは命令に忠実に従う、ハイドラの課した命令はカムイを器にして差し出すことでしかない。ギュンターにとっていえば周りの者などどうでもよかった。

「覚悟しておけよジジイ」
「ジョーカーか、別に貴様の命などどうでもいい。今この場から去るのなら、その命は助けてやるぞ?」
「寝言は寝て言え、カムイ様を守らずに逃げるくらいなら、自殺してやるよ」
「そうか、なら今すぐ自害すればいい。所詮、お前では守り切れんからな」
「てめ――」
「ジョーカーさんだけじゃありませんよぉ! 私だってカムイ様を守ってみせるんですから!」
「フェリシア、話に割り込んでくんじゃねえ!」
「ふええ、ごめんなさいぃ」

 そのやり取りはどこかギュンターにとって懐かしいとさえ思える。このあと誰が二人の間に入るのかも予想できていた。

「二人とも、無駄話はそこまでよ。準備しなさい」
「姉さん、ごめんなさい」
「言われなくてもわかってる」

 フローラが二人を諭す。そして、カムイの横には最後の一人の姿がある。最後に現れた一人、そして真実を知った今でならわかる。本来ならこちら側にいるべき人物。

「カムイ様」
「わかっていますよ、リリスさん。サポートをお願いしますね」
「はい、任せてください」

 そのすべてが城塞での生活風景で、そこに最後現れるのはいつもギュンターの仕事であった。
 だからこそ、カムイ以外の人間の命になど興味はなかった。

「カムイ、その命を亡くし、ハイドラ様への器とさせていただきますぞ」
「そうはさせません。あなたに私を殺させるわけにはいきませんから」

 カムイの構えに合わせて、皆の準備が整う。カムイ達の増援はいずれ至ることだろうが、ギュンターにそんなことは関係なかった。
 使い終えた魔法書を床へと落とし、自身の使い古してきた大槍に力を込めた。

「では、行くぞ!」

 その言葉を合図に両者の足は確かな力を持って床を蹴った。


974 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/25(木) 22:51:22.81/mUgx/Fs0 (6/20)

◇◆◇◆◇









 力強く蹴りあげた敵に止めを刺して、カムイは一気に反転する。迫りくるギュンターに気付いたからだ。
 一人馬を駆っているが、翻弄するのではなくカムイだけに的を絞った攻撃は、出現させた木偶が倒される合間を縫うように加えられていく。波状攻撃の様相を呈していた。
 火花が散る度に照らされるギュンターの表情は真剣そのものであり、先ほどまでの合間憎悪に滲んでいたものとはまったくの別物だった。

「カムイ様から、離れてください!」
「ふっ、そんな魔法で私を倒せるとでも?」
「関係ありません。カムイ様から引き剥がせるのなら!」

 リリスの魔法により進路変更せざるを得ない状況になっても、その馬術は匠であり木偶の頭上を軽々しく飛んでみせると、そのままの勢いをもった大槍をカムイへと振り下ろす。向かってきた木偶を仕留めるために放とうとした剣先であったが、ギュンターの行動変化を読み取って距離を取ることに切り替える。すると先ほどまでいた場所、ちょうど頭があった部分を大槍が通過した。

「……本当によく動きますね。気づかなければ頭が飛んでましたよ」
「老体と甘く見られては困りますな。これでも若い者に負けるつもりはありませんので」

 着地と同時に振り下ろした大槍を引き寄せつつ、もう一歩前に踏み出せば、またしてもギュンターの攻撃範囲にカムイの体がすっぽりと入る。それを踏まえてカムイは敵の一体を掴み上げ、そのままギュンターに向かって蹴り飛ばし、すかさずその陰に隠れて距離を狭めた。
 無論、ギュンターにとって彼らは木偶である。刺し殺すことも容易いが、そうして槍を振るわせようというカムイの算段には気づいている。となればと、手綱に力をこめて馬へ跳ぶように指示を出せば、馬はカムイの頭上を越えるように高く跳躍し、ちょうど真上に差し掛かるあたりで大槍が真下へと振るわれた。
 隠れていた視界の端に映った影から視線をあげたカムイの目の前を横切る槍先は、寸でのところで足を止めたカムイの眼前を掠め、少しだけ毛先を奪い去っていった。

「やはり、現役の頃のようにはいかないようだ」

 そう零すギュンターの顔には余裕がある。一方のカムイにはその余裕がなかった、さすがに一対一でギュンターに勝てるとは思っていなかったが、その差を思った以上に見せつけられる。こちらの選んだ行動に対して、ギュンターは的確に対処してくる。それに加えて老体とは思えない体力も、その強さに花を添えていた。
 床に足が付いたと同時に馬が反転し、そのままの勢いで振り返ったギュンターの一撃がカムイの背中に向かって差し込まれるが、それをカムイは避けて瞬時に振り替えると、ギュンターの槍が先ほどカムイの前にいた木偶を貫いていた。槍先が死体に納まっている今がチャンスだと、手に持った終夜を握りしめて飛びこもうとした瞬間だった。
 力強い風切りの音と共に脇腹に恐ろしい激痛が走る。死ぬとまではいかないまでも、その突然の攻撃に呼吸が一瞬止まり、両足に入れて蹴り込んだ勢いが真横に向けて放出されるように、彼女の体は床へと叩きつけられる。凄まじい衝撃に止まった呼吸の再開に体が務める反面、何が起きたのかを理解するためにギュンターを見やれば、馬が一回りを終えたところであった。

「ふん、まだまだですな」

 その言葉とともに大槍が振られ、槍先に刺さっていた木偶がズルリと床へと落ちる。その古めかしい大槍の槍先より少し下の腹に真新しい傷があった。空振りの直後にギュンターが馬に指示を出してそのまま槍の腹でカムイを吹っ飛ばした証であった。
 遠心力の加わった一撃はカムイのペースを乱すには十分で、この気を逃さないようにと手綱が音を上げる。死の宣告ともいえるその音と共に馬が駆けだそうとした瞬間に、ギュンターの進行方向に向けて幾つもの火球が花を咲かせた、青き衣がカムイの前に現れた。


975 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/25(木) 22:56:01.47/mUgx/Fs0 (7/20)

◇◆◇◆◇







「カムイ様、ご無事ですか!」
「ぐっ、リリスさん。なんとか、死なずには済みましたけど」
「今すぐ治療します、動かないでください!」

 そうしてリリスは魔法書を閉じる。すでに火球は姿を失い、ギュンターの進行を邪魔するものはいなかった。だと言うのに、リリスはギュンターに背を向けて魔法の杖を取り出し詠唱を始める。それは私を殺しても構わないと宣言するも同じだった。

「ほう、それがお前の忠誠か。無駄な死に方を選ぶ必要はない。今すぐにそこをどけ!」

 ギュンターの持つ大槍が再び構えられる。それにカムイは力を入れようとするが、すぐに治療が終わるわけではないので、剣を杖のようにして立つことしかできない。

「リリスさん、そこを退いてください。ギュンターさんが来ます」
「わかってますよ。もうすぐ終わりますから、安心してください」

 それは嘘だとわかった。かなり時間の掛る治療魔法を施しているのだ。多分、治療が終わるのとギュンターがここに達するのはほぼ同時、だと言うのにリリスは動く気配を見せない。

「くっ、リリスさん。このままではあなたが死んでしまいます。私なら、どうにかもう一度受け切れるはずです。だから……」
「いいえ、受け切ってもその次にやられてしまいます。そこでカムイ様がやられてしまったら、私もやられてしまいます。だから、ここはカムイ様を助けることの方が共倒れにならない選択なんです」
「それは困ります! 私はサイラスさんになんて謝ればいいんですか!」
「大丈夫です。サイラスさんは私のしたことを認めてくれます。だって、サイラスさんはカムイ様に仕える私に恋してくれたんですよ」

 顔を赤くしながらそう答える。そこには死が迫っているというのに、慌てている様子はなかった。
 ギュンターの馬が駆け出す音が響き始める。一刻の猶予もないというのに、カムイの体には未だ力が戻らない。治療魔法の完成はあと少しに迫っていた。

「私はこの戦いが終わるまで、カムイ様のために命を掛けるって決めて、サイラスさんはそれを許してくれました。だから、私はあなたに仕える一人の従者として、今も一緒にいられるんです」

「リリスさん……」

 杖に光が灯っていく、優しく温かみを持った光、やがてそれがカムイの体を包みこむ。その瞬間にギュンターの姿は背中にまで達していた。ほぼ同時にリリスの手が動く、カムイを突き飛ばすように手を前に突き出す。それに合わせてカムイが後ろへと転がると共に、重たい音がリリスの体を揺らした。

「っ!!!!!!!」

 脇腹にめり込む大槍の腹、骨の軋む音が内部からリリスの体に響き渡ると、そのまま体が数回跳ねて床へと倒れる。死にはしなかった、死にはしなかったが、カムイ以上にもろにダメージを受けたためにその体にはまったく力が入らない。

「リリスさん!!!」

 叫びと共に両足に力を込めてギュンターへと肉薄する。肉薄して、そのギュンターの表情に違和感を覚えた。
 一瞬だけ、ギュンターは自分のしたことを理解できていなかったように、その槍を見据えていた。わなわなと手が震えているようにも感じられるその仕草は、どこか信じられないという叫びさえも感じられる。ギュンター自身が行ったことに関して、困惑しているという印象であった。

「な、なぜ、ぐっぐおあああああ」

 突然の叫びにカムイの動きが一瞬だけ止まるが、今がその時だと一気に剣をギュンターに向けて繰り出す。繰り出した剣先は物の数秒でギュンターに肉薄するかもしれないという場所まで向かい。甲高い音でによって弾かれた。

「……ふっ、やはりこの程度か」

 その顔は先ほどまでの真剣なギュンターとはどこか異なっているように感じた。先ほどまでの勝負をするために身を捧げていた姿とは、明らかな異質さがある。そしてその言葉は自分に向けられたものではないと、カムイにはどこか理解できてしまった。

「カムイ、貴様には無力さをくれよう。出来損ないの役割としては丁度いい!」

 大槍の持ち方が変わる。突き刺すことに念頭を置いた構えると、リリスへと向けて進み始めた。


976 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/25(木) 22:59:44.13/mUgx/Fs0 (8/20)

◇◆◇◆◇








「リリスさん!」

 意識はまだはっきりしていた。だから治療すれば死ぬことはないということもぼんやりとだけ理解できる。でも、今のリリスにはそれをするほどの余力がなかった。
 遠くに見えるカムイと止めを刺しに向かってくるギュンターであるが、先にたどり着くのはギュンターだということは彼女にも理解できた。

(ここで終わり、ということでしょうか……。いや、そうですよね……)

 諦めたように観念したように、リリスは指をゆっくりと動かす。血は出ていないけど、内出血と骨の破損で体中がぼろぼろになっていることはわかった。動くことで傷が広がることは間違いなかったし、動いたところで逃げ切れるわけでもないと理解していた。 

(サイラスさん、ゾフィーさん……)

 自分には得られないものだと思っていたからこそ、サイラスから受け取った指輪はとてもうれしいものだった。
 最初はサイラスの馬の世話をしたことからだった。それからカムイに関しての話、そして自分が人間でなく竜であることの方が本質であることを話して、それでもサイラスはリリスを親友として迎えてくれた。
 だから、そこから膨れ上がった思いが恋情になって愛情になって行くのに時間は掛らなかった。
 愛し合って、ゾフィーという血の繋がりはなくても、我が子のように接してあげられる子と出会えた。そう考えれば、リリスの人生は素晴らしいものだといえた。

(最後の最後でドジしちゃったのかな、私……。ドジはフェリシアさんの特権なのに……、あっ、今のフェリシアさんに聞かれた怒られちゃいそうですね)

 だからこそ、最後はカムイのために命を掛けられたことが良かった。ぶれることなく、自分を貫きとおせたことが何よりも誇りの思えた。
 同時に、そんな不器用な自分を愛してくれたサイラスに申し訳がなかったのも事実だった。

「えへへ、ごめんなさい。サイラスさん、ゾフィーさん」

 静かに目を閉じる。もう最後の時を待つのに時間はいらないというように。迫りくる馬の駆け足と床の振動は、さながら処刑の秒読みにも感じられた。だからそれを受け入れるようにリリスは目を閉じ――
 振り下ろされる何かの音を聞いた。
 そして、すぐに火花が散るような甲高い音を聞く。
 それは何かが何かを受け止めた音で、静かに目が開かれると、頭上を何かしらの影が通って行ったのが見て取れた。

「俺の妻に手を出さないでもらえるかな」

 そして次に耳に入ってきた言葉に自然と顔が動く。大槍を正面から剣で受け止める後姿、それが何者なのかを理解してリリスの目からは涙がこぼれ始める。謝ったばっかりだというのに、その人がいることがとてもうれしかったから。

「サイ、ラスさん……」
「リリス、間に合ってよかった……」
「えへへ、私、カムイ様、守れたみたいです」
「ああ、待っててくれ。すぐに治療できるようにする。でやああああっ」

 彼の握る剣に力が生まれて、受け止めていた大槍を押し返すとリリスの頭上を通り過ぎた影の正体が空より飛来し、ギュンターの眼前へとその手に持った斧を振り下ろす。ギュンターはそれに合わせて距離を取って、互いに仕切り直しと言わんばかりに睨み合う形と相成った。
 城門の処理を終え、いち早く駆けつけたサイラスとカミラであった。


977 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/25(木) 23:02:01.25/mUgx/Fs0 (9/20)

◇◆◇◆◇







「間一髪、ってところかしら、判断が遅れていたら間に合わなかったわね」
「カミラありがとう、俺の願いを聞いてくれて」
「別に構わないわ。私もカムイのことが心配だったもの、ゾフィーとマークスお兄様には悪いけど、仕方がないわ。さて、私が牽制してる間に早く済ませちゃいなさい」
「ああ、リリス。もう大丈夫だ」

 サイラスの手が優しく抱き寄せると、寄り添うようにリリスはその体を掴む。心の奥からじわっと広がり始める安心感と幸福感がとてもうれしく感じて、戦いの最中だと言うのにまた顔が火照ってきてしまう。少しだけ、体が昂ぶっているのもわかった。

「さ、サイラスさん」
「大丈夫だ、すぐに治せる。だから、今は――」
「ち、違うんです。その……」

 顔を赤くしてもじもじと体を揺らして、その瞳はどこか熱く揺れている。サイラスも戦いの最中でありながら、すこし顔に明かりが灯っていた。

「そ、その、嫌だったらいいんですけど。その――」

 リリスの繋ごうとした言葉の意味をサイラスは理解する。しかし、今は戦い中だ、そう戦い中、戦い中であるが、やはり愛する者からおねだりされたらそれは仕方の無いことだと、誰に弁解するのかもわからない小言を頭に並べた。
 閉じられた目と突きだされた唇、もしかしたら知らない間にリリスはそれをすることによって、傷を回復す手段を確立したのかも知れない。いや、そんなことあるわけないが、多分そうだろうとサイラスは納得した。
 納得した以上、待たせるわけにもいかない。彼の中の騎士の誓が許さない。騎士の誓と呼ぶには、あまりにもふしだらな気がしなくもないが、ここに限って言えば騎士の誓は額縁に突っ込んで飾っておくくらいにした方がいい。サイラスは思った以上に欲望に素直な男だ。

「リ、リリス……」
「サイラス……さん」

 夫婦らしい掛声、甘ったるい空気、二人の世界はとても甘くて入っていけない。リリスを按じて駆け付けたカムイも、どうにかこうにか敵の処理を終えて駆け付けたジョーカー達も、片手に杖を持っているにもかかわらず近づけないままでいた。
 この二人を知っている誰かじゃなければ入れないと、固唾をのんで見守る四人の前で今まさにラブロマンスが最高潮になろうと言う時だった。

「ちょっとちょっと! 二人ともさすがにそういうのは戦い終わった後にしてよ。みんな対応に困ってるから!」

 駆け付けたゾフィーによって、差し押さえられたのだった。


978 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/25(木) 23:06:41.36/mUgx/Fs0 (10/20)

◇◆◇◆◇







「ふふっ、やっぱり面白い子たちね」

 後ろから聞こえる会話に舌鼓を打ちつつ斧を構えて、間髪入れずに一気にギュンターへ攻撃を開始する。上空を取られているということがどういうことなのか、ギュンターは察している。察しているからこそ、攻撃を受け切ることに専念し始める。カミラの攻撃は勢いを衰えさせることなく続いて行くが、それを見据える目にはおどろおどろしい怨念が立ち込めている気概すらあった。

「ギュンター、あなた王族や貴族が死ぬほど嫌いだったのね」
「ああ、お前たちのように自身の悦楽を優先するような者たちには虫唾が走る。理不尽なことを強要することこそが生きる理由だと思っているようなお前達にはな」
「……わからないわ」
「何がだ」
「いいえ、ギュンターあなたが王族や貴族を嫌うことに関してはわからないわけじゃないの」
「自身は汚れていると認めるというのか?」
「ええ、一度は自分可愛さにカムイを殺そうとした私に清らかな血が流れているわけないもの。だから私にはあの子の姉である資格はないのかもしれないわ。でも、カムイは私を許してくれた、だから私はあの子を守るために戦う」
「ほう、調子のいいことだ」
「ええ、本当にね。だけど、幼い頃からカムイと一緒に過ごしてきたあなたから見れば、城塞で一緒に暮らしてきたあの子たちは、あなたの嫌う貴族や王族の類ではないはずよ」

 カミラの言葉にギュンターは何を言い返すでもなく、大きく槍を振って距離を取ると、先ほどまでまったく命令を理解していなかった透魔兵が集まり始めてくる。それは確実にギュンターを守るようにして集まっている。そしてギュンターに対する違和感は現実的な変化となった。

「ふん、やはり人間とはこのような生物ということか。思いの質が低いから、最初の形を忘れそこに従事ようとする。ことごとく志を持たない生物であるということだな」

 ギュンターの発言にしては、それはいささかおかしなものに感じられた。感じられたからこそカミラはその正体におおよその察しがついた。

「……そう、あなたが元凶さんね。人の体を借りてあいさつに来るなんて、マナーがなってないわ」
「このような先の短い老体を使っているのだ。やはりカムイは我が野望の邪魔にしかならぬ存在、いとも簡単に人を紐解いてしまう。お前のような尻軽ならばいざ知らず、心の淵に眠っていた憎悪を思い出したこの老い耄れさえもな」
「ふふっ、カムイを褒めてもらえてるようで悪い気はしないわ。さっさとギュンターの中から出ていったらどうかしら、挨拶ならもう済んだでしょう?」
「むろんそのつもりだ、憎悪だけを残してギュンターの中から去ってやろう、もはやこの老いぼれに利用価値はない、最後くらいはその本能に準じて死なせてやる。はーっはっはっは」

 ギュンターの声帯から出るとは思えない、おぞましい声が放たれ、ギュンターの体を這いまわるようにして紫の炎が靡き始める。それは憎悪という感情を知覚できるようにしたら、そうなるだろうという色であった。

「そうやって、何人もの人間を憎悪に染めてきたというのね」
『染め上げた? 違うな……解放しているだけだ。抑えなければならない苦しみから――』
「冗談も休み休み言ってください」


979 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/25(木) 23:11:20.99/mUgx/Fs0 (11/20)

◇◆◇◆◇







 ハイドラの言葉へと切り込むようにその影はカミラの横に現れる。手に持った終夜と目に宿る折れない意思、それらを携え彼女は元凶の意思と初めて対峙する。倒すべき敵、ハイドラの意思と。

「カムイ……」
「ありがとうございます、カミラ姉さん。リリスさんを助けてくれて」
「気にしないで、それよりも…」
「ええ、これが私たちの倒すべき相手ということです。思ったとおり人の弱みに付け込む下衆ですね」
『ほう、カムイか。ギュンターのことで細々と考えると思っていたが、いかにも人を携える者だ。簡単に犠牲を容認できるその精神、ほとほと感心する』
「感心される筋合いはありません、それにしても失うものもない戦いはとても楽そうですね」
『はっはっは、お前たち人間が教えてくれたことだ。守ることなど無意味だとな、元から興味など示さぬ方がいい、我を利用するだけ利用した人間たちのようにな』

 ギュンターの体を借り君臨する悪意の塊から滲み出るのは人類という種に対する敵意、体が強張るほどの殺意だった。それを受け続けながらもカムイは目線を逸らさない。逸らすわけにはいかないからだ。

「だから、人々の心に眠る悪意に手を差し伸べ、争わせているというのですか」
『有効的に利用してもらっているだけだ。貴様がどちらかを選べば、もっとことは楽に進んだだろうが、それも今となってはどうでもよいことだ。人間塔のはどんなに高貴に装っても、その下にあるおぞましいまでの欲望をごまかせはしない。それに従わせてやっている我はある意味救いを与えているとはいえないか、カムイ』
「人の心を操り、意図的に誘導しているあなたが救いの使者なら、ガンズさんのような無頼漢は救いの神かもしれませんね」
「カムイ、その例えはどうかと思うわ。ガンズが救いの神なら、エリーゼは救いそのものね」

 苦笑しながらカミラは零した。

「それくらい、ハイドラの言っていることは的外れということですよ。でも、エリーゼさんが救いそのものという意見には個人的に賛成ですよ。それ以外のことで賛成するつもりはありませんよ、ハイドラ」
『そうか、では無駄話は終わりだ。さぁ、ギュンターよ。我の力を少しばかり与える……最後の役目を果たすがいい』
「は……い、透魔……王様」

 憎悪の炎が体を包みこむ。もはやその目に光はなく、ただおぼろげにカミラの横に佇むカムイを眺め、その手に大槍と盾を手にする。よもや、ここに残っている敵の数を見てもギュンター側に勝利の目はない。ないことをわかっていても、その手は槍を降ろさないでいた。
 それに相対するようにカムイも剣を取る。そこに躊躇や迷いはなかった。


980 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/25(木) 23:18:16.10/mUgx/Fs0 (12/20)

◇◆◇◆◇







 ギュンター自身、それが終わりのまどろみであることには気づいていた。
 ぼんやりと槍を構える体は、もはや自身の意思ではどうにもならないことにも気づいていた。体に巻きついた憎悪の感情は、確かにギュンターの持っていたもので、ハイドラはそれを目覚めさせたのだから。
 だからこそ、殺してはならない人々が生まれた。そして、それを傷つけた時に動揺したことでギュンターは察していた。すでに復讐に身を窶すことなど出来ないほどに、その身に怒りなど宿っていなかったのだと。
 槍を掲げると周りに集まっていた透魔兵たちが武器を構え始める。それは選ばなかった先にあったかもしれない光景だった。

『ギュンターよ、先の戦い見事であった』

 頭の中に忌々しい光景が浮かぶ。暗夜王国の玉座に座る男に武勲を認められた。それは騎士として暗夜に仕えてきた者たちが憧れる光景である。王国を支配する権力者から活躍を評価してもらえることは騎士の誉れであり、ギュンターもその一人であった。

『ギュンターよ。お前の力、そしてそのあり方にわしと同じものを感じている。そこでだ、お前にも我が一族に加わることを許そう。この血を飲むがいい』

 それは王直々にギュンターを認めるという意思の表れであった。一族に加わること、それを容認するなら血を飲み、竜の血を得よというものだった。
 それをギュンターは拒んだ。拒んだのは、一族になることよりも彼にとって大切な物があったからだ……。それは彼の妻子だった。
 カムイの進撃に合わせて、ギュンターの指示通りに透魔兵の一団が動き始める。それを牽制するように二騎がカムイの前に現れる。

「カムイ様、前衛は私が引きつけます」
「お願いしますね、リリスさん」
「はい、サイラスさん、お願いできますか」

 リリスはサイラスの背中に問い掛ける。共に闘うパートナーとして、同時に夫婦としての二人の形があった。

「ああ、任せてくれ。俺はリリスを乗せて迎撃に回る、ゾフィーも付いてこれるか?」
「もちろん。サイラスさんとリリスさんは乗馬でも楽しむ気分で、戦ってくれても構わないよ~」

 そして寄り添うようにゾフィーが二人に話しかける。まるで家族のように話し合い、そして互いが互いの絆を信じていることに体の憎悪は膨らんでいく。膨らんでいくのに、心にあるのはとてつもないほどに穏やかな気持ちで、静かに思い出せるのはある日にした他愛もない話だった。

『結婚ですか?』
『あまり、この城塞にいる者たちでそのような話は聞かないのでな』

 本当に平和な昼下がりだった。リリスが厩舎の整理を終えて戻ってきた時にポロッとギュンターが零した質問で、それを聞いたリリスは少しだけ考えに耽ると、すぐに苦笑いを零した。

『考えたこともありませんし、結婚するつもりもないですよ。ずっと、カムイ様のために仕事をしていきたいって思ったからここに来たんですから、誰かに恋をするなんてありえないことです』
『そうか、だがいずれお前にも大切な者が出来るかもしれんからな、少しは考えておくといいだろう』
『ギュンターさん、思ったよりもロマンチストなんですね。もっと寡黙な人かと思っていましたけど』

 リリスはそう言いながら、いろいろと考えるように首をかしげ、そしてやはりアンニュイな顔を再び張り付けて溜息を漏らした。

『やっぱり、私が結婚して誰かと一緒に幸せに暮らしている姿は想像できません。私、ロマンスとか全くわかりませんから』
『そうか。だが、私の見立てではお前は花も恥じらうような乙女のように思えなくもない。カムイ様はあれでどちらかと言えば、男と言える部分が強いのでな』
『……ギュンターさんは冗談がうまいんですね』

 そう言って苦笑いしていた彼女であったが、今視線の先にいる彼女は確かに乙女のように顔を赤らめたり、愛する者と共にあり幸せそうに笑みを浮かべていた。。

(ふっ、あんなに結婚など考えてもいなかったお前が、愛する者に囲まれて幸せそうに笑う日がくるとはな……)

 そこで知ったのだ。もう、体と心は離れてしまっているということ、この体が開かれた悪意に取り込まれてしまったという事実を、ギュンターは人知れずに理解した。
 だから、次に見えた光景さえも、彼は受け止めることができてしまう。自宅で愛する妻子が凶刃に倒れている姿、そして切り捨てた正規兵たちの死様。変わることのないギュンターの暗い過去が静かに清算されていく。


981 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/25(木) 23:23:33.61/mUgx/Fs0 (13/20)

◇◆◇◆◇







 ギュンターの馬が駆け出してカムイへと肉薄していく。手に携えた槍は確かな殺意を持っているが、それはカムイを殺す確かな意思を持っていないと自ずと理解できていた。だからこそ、違う光景が浮かびあがってくる。ギュンターは力強く馬で野を駈けていた。
 どこに向かう道なのかを彼は知っている。妻子を殺した正規兵たちの返り血を落とすこともなく、ギュンターは馬を駆る。王城に向かい、鬼の形相で迫るギュンターはガロン王の行方を訪ねて回り、大臣からその行き先を告げられ、彼は急いでそこに向かった。ギュンターにとっての故郷と呼べる村へ。
 迫るギュンターとカムイの距離。そんなカムイの後続から二つの影が後を追う。手に持った暗器の輝きと伝染する氷の冷たさをもろともせずに、彼女たちはカムイに迫りくるギュンターの馬を見据えた。

「フローラさん、フェリシアさん!」
「はい、カムイ様! フェリシア、準備はいい?」
「任せてください、大丈夫ドジなんてしませんから」
「……ふふっ、戦闘技術はあなたのほうが上なんだから、もっと自信を持ちなさい、フェリシア」
「はい、えへへ、姉さんに褒めてもらえました。行きますよ、ギュンターさん!」

 カムイの後方左右に二人が広がり、その手に持つ獲物を構えて一気に前に出ると、スカート下からさらにもう二本の暗器を取り出し一斉に放出する。幾つもの暗器は黒き線となってギュンターの馬めがけて飛翔する。やがてその大半をギュンターは避けることなく馬に命中し、彼の体は静かに放り出された。

(……あの時も、そうだったな)

 落馬した視線の先、記憶の中の故郷はすでに炎に包まれていた。村人の悲鳴も無く、あるのは平積みにされた遺体とそれを見て笑うガロンの姿だけだった。炎に照らされるガロンは愉悦に満ちた表情で、遅れてやってきたギュンターに対しても機嫌の良い声を出していた。
 そして、それがガロンにギュンターが斬り掛った瞬間だった。妻子と故郷を失ったことでギュンターの精神は崩れ、やがて使い古した大槍はガロンを殺すための凶器となるも、その怒りが成就することはなかった。
 落馬した影響からか、それとも憎悪がそれを見せつけるためにギュンターの体を切り刻むのか、顔の傷が開きギュンターの顔を赤く染める。ガロン王に返り討ちに会い、負うことになった傷跡だ。その傷跡から流れ出た血が右目に混じり始め、視界が染まっていくのを見ながらもギュンターは全く違うことを思い出していた。
 断片的に連なる記憶は、今馬を倒した二人の使用人の記憶だった。

『フリージアから参りました。フローラです』
『あ、あの、おな、同じくフリージアから参りました。フェ、フェリシア、です。そ、その、よろしくおねがいしましゅ』
『フェリシア、噛んでるわよ』
『ご、ごめんなさいぃ』
『……お前たち、一つだけ聞いておきたいことがある』
『はい、なんでしょうか?』
『お前達がここに来たのはそう言われたからか、それとも故郷のためか?』

 初めて二人と出会った時の記憶、二人が城塞にやってきた理由はすぐに理解できた。部族の反乱の話がいくつも上がっていた頃、その抑止力として幾人もの部族の令嬢が召集されていたからだ。
 そして、その中で城塞の任に当てられたのが、氷の部族フリージアの双子の娘たちだった。
 フローラもフェリシアも自分がここにいる意味を少なからず知っていた。そして、この先どうなるかわからないということも、ギュンターの質問にどう答えればいいのか、フローラは考えていたことだろう。

『故郷の皆のためです』

 だからだろう、フェリシアがすぐさま出した答えを聞いてフローラの顔は強張っていた。だけど、フェリシアは言葉を止めなかった。

『私、すごいドジで、村の皆を困らせてばっかりで……。だけど、そんな私でも村のためになることできるってそう思ったから、私はここに来たんです。それに姉さんも一緒だから怖くなんてありません」
『フェリシア……。私も故郷のためにここにいます。誤魔化すつもりはありません。これで満足ですか?』

 二人の目はとても強いものだった。それは覚えている。聞くだけ聞いたのだから、言いたいことがあれば言えばいいとそのフローラの目は語っていた。
 だからこそ、ギュンターは二人の面倒をちゃんと見ることに決めた。この二人に己が味わったような悲劇が訪れないようにと願いながら。
『その気持ち、努々忘れぬことだ。では、来なさい。主であるカムイ様がお待ちだ』
『はい』
『よ、よろしくおおお、おねがいしますー!』

(……フェリシア、フローラ。ふっ、あの頃の固い態度が懐かしいものだ)

 視界の朱色を拭うことなく受け身を取り、すぐさま態勢を立て直したギュンターは、迫りくるカムイに向けて盾と大槍を構える。強烈なシールドバッシュで攻め入るも、それをカムイは避け切り、すぐさまギュンターの背後へと回り、その視線を追い掛けたところで視界の端に影が一つ映った。



982 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/25(木) 23:28:02.75/mUgx/Fs0 (14/20)

◇◆◇◆◇







 それは俊敏に背を低くして間合いを詰め、ギュンターの体がカムイへと向き直ったところで一気に姿を現した。

「ジョーカーさん、今です!」

 カムイの一声に反応して、その手に握られた暗器の一閃がギュンターの握る盾の握り手に差し込まれる。瞬時の出来事に対応することのできないギュンターは、その握り手に差し込まれた暗器を外す瞬間を見失う。それはまさに指の骨を粉砕する勢いをもって押し込まれた。
 激痛に体は悲鳴を上げるが、ギュンターはその手際の良さに内心安堵していた。昔は何をやっても覚えが悪く、掃除すらこなせない木偶の坊だったのに、今ではこうして主の命令通りに物事をこなす仕事人になっているだから。

「ジジイ、見直したか?」

 挑発的な笑みを浮かべて血に濡れたギュンターにジョーカーは囁く。うまくできただろうと見せつける姿はまるで子供のようで、どこか褒めろと言っているようにさえ感じられる。
 この顔は今までよく見てきた。幾度となくできただろうと自慢げに笑う、その度に粗を見つけてやったことを思い出せる。ギュンターにとって言えば、ジョーカーは唯一の弟子と言える存在だった。

『そんなこともできんとはな』
『うるせえ、今までできてなかったことがすぐできるわけねえだろうが』
『口の悪さだけは一級品ではあるがな』
『主だけに尽くせって言ったのはジジイてめえだろうが! ちくしょう、今度こそ……』

 その粗探しはもっと長く続くものかと思っていた。もう少しの間、授ける術がまだあったのかもしれなかった。それは水泡のようにギュンターの手から離れていくというのに、そんな夢を見てしまう。

『……ふっ、このままではお前のことを一人前だと認める日は、永遠に来ないかもしれんな』
『けっ、上から目線でその態度はどうなんだ?』
『お前と同じだ。私もカムイ様だけが主、そしてお前は不出来な男だ、遠慮する必要などありはしない。それとも、優しくしてもらいたいのか?』
『ジジイに優しくされるとか、明日は槍でも降るんじゃねえかと心配になるからやめろ』
『たしかにな。想像して見れば、これは気色悪い以外の何物でもないというものだ』
『ああ、カムイ様が俺を慰めてくれる以上、ジジイから受け取るのは厳しさで十分……だが、もしも俺が見事に事を成し得た時は……いや、なんでもねえ』

 そう言って言葉を濁したジョーカーはどこか恥ずかしそうにしていた。今思えば、そういうことを素直に強請るのも槍が降って来そうな出来事かもしれないと、内心でギュンターは笑った。

(ふっ、わかっているジョーカー。主の命令通りに職をこなしている、よく出来たものだ。しかし、だとしても及第点だがな)

 斬り裂け、骨までもが露出した左手はもはや盾を持ち続けることもできない。大きな音が鳴り響く、だが痛みを理解しない憎悪は槍を振るう。それをジョーカーは軽々と避けた。
 最後の役目が切り替わる。勢いのままに振り返った先、眩い炎のような剣を構え待ち構える最後の一人がいた。


983 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/25(木) 23:33:32.60/mUgx/Fs0 (15/20)

◇◆◇◆◇







 視界にノイズが走る。ザラザラとした意識の中に見えるその姿は、懐かしい記憶にある復讐への心が芽生えた頃にまで遡っていた。
 ガロンの隠し子だという娘の世話係という話が舞い込んできた時、すでにギュンターは抜け殻のような人間だった。拘束されていたことよりも、愛する者を守れなかったこと、その不甲斐無さに押しつぶされていた。
 だから、その子の世話係というのを聞いた時は虫唾が走った。虫唾が走り、同時に心に悪い思考が沸き起こる。ガロンという存在に一矢報いることができるかもしれないと。そんなことを考えた。
 その命令にギュンターはすぐに従った。そして出会ったのが……彼女だった。

「ギュンターさん……」
(カムイ様……)

 初めて会った時の彼女は、ガロンにすべてを奪われた時のギュンターと何も変わらなかった。なんでここにいるのか、どうして生きているのか、それすらも理解できないし、考える気にもなれない、まるで抜け殻のようであった。
 ギュンターはガロンのご機嫌取りと並列するように、しばらくの間は言われたとおりにしてきた。自分の不幸はガロンの所為だと口には言わなかったが、誰の命令で動いているかを仄めかすようなことはしていた。鞭で叩くことは日常的で殴ることさえあった。
 それでもカムイは言うことを聞いたりしなかった。痛がりもしなかった。ギュンターに興味を示すこともなかった。そんな日々が続いたある日、ガロンに鞭を渡された時、ガロンに媚を売ることをやめた。
 それがギュンターにとって復讐する心を薄れさせた最初の出来事だったのかもしれない。鞭を無理やり丸めて作ったボール、それを投げ合う日々。カムイは言葉よりもキャッチボールでの意思疎通が好きで、ギュンターもそれに興じていた。

『………』
『………』

 二人の間をボールが静かに行き来する。カムイもギュンターも声に出さずにいるが、それで意思疎通はできていた。
 元気かと投げれば、元気だよとボールが返ってくる。何かしたいことはないかと投げれば、これだけで十分だよと返ってくる。芯がしっかりしている、子供なのにどこか神聖なものをギュンターは感じていた。
 そして気づけば心のうちにあった復讐を望む心は次第に息を潜める。皮肉なことだった、ギュンターの復讐という願いは、利用しようとしていたカムイによって抑え込まれてしまったのだから、でもそれで別に構わなかったのだ。

(本当にカムイ様は不思議な御方だ……)

 愛する者をすべて失ってもなお、生きる理由を見つけるなら復讐だけしかないと考えていたギュンターにとってカムイとの生活はどこか新鮮だった。互いが何も持っていなかったからかもしれない。でもそれだけじゃなく、心を開き始めたころから甘えてくれるカムイに愛しさに似たものさえ感じていた。
 復讐に身を窶すよりも、その生き方はどこか心地良かった。そして、復讐こそが死んだ者たちへの弔いになると……信じていた自分がいたことを今になって知った。

(……結局、それで満たされるのは私だけだ。死んだ者たちが何を望むのかなど、わかるわけもないことだというのにな)


984 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/25(木) 23:40:07.77/mUgx/Fs0 (16/20)

◇◆◇◆◇







 ここで戦う透魔兵たちのほとんどは意思を持たない。ただ操られている死体であるから、願望を口にしたりはしない、死んでいるからだ。
 そして何よりも、カムイをそれに巻き込んでいることの意味を理解できなかった。するなら一人ですればいい、巻き込む必要などない。カムイに出会う前に、もう一度ガロンを殺すために動けばよかったのにそれをしなかったのは……知っていたからだ。妻子がそんなことを望んでいないということを。
 村の者たちはわからない、大切なものに違いはない。だから、確認のしようなどない。だが、妻子だけは別だった。それほどまでに彼らをギュンターは愛していたのだから、疑う余地もないことだったのだ。
 残った力を振り絞って行われる攻撃をカムイはすべていなしていく、力の差は歴然で距離はどんどん詰まって行く。あと数歩でギュンターの懐にカムイが入り込む距離になった。
 そして、そんな暴力を振るう体に抗うことをギュンターはしなかった。それは眼前に至った少女のことを信じているからだ。

『ギュンターさん』
『どうしましたか、カムイ様?』
『え、えっとですね……。その……』
『おやおや、私に言い辛いこととは、一体なんでしょうかな?』
『茶化さないでください。でも、確かに面と向かって言うのはなんだか恥ずかしいですね。ふふふっ』

 紀億の中のカムイが笑う。そして、それに釣られて記憶の中のギュンターも笑った。
 穏やかだった、幸せだった。

『えっと、その、義父さんって、今日は呼んでもいいですか?』
『……』
『な、なんですか、そんな顔しないでください。は、恥ずかしいじゃないですか』
『いえ、申し訳ありません。何分突然のことでしたので……。しかし、どうしてそのようにお呼びになりたいと?』
『だって、ギュンターさんは私にとって義父さんって呼べる唯一の人だから。その嫌ですか』
 
 そう悲しそうに言うカムイに、その時のギュンターはやんわりと断った。

(……嫌なわけありませんよ、カムイ様。ですが申し訳ありません、やはり恥ずかしいのも確かでしたから、その願いを聞き入れることはできませんでしたな)

 復讐のために近づいた少女にギュンターは救われ、そしてその後に今の皆が集う場所が出来あがった。
 すべてを失いマイナスから始まった第二の人生と考えても、ここまで城塞で過ごしてきた日々たちは手から溢れるほどの幸福だった。
 そして、その幸福を投げ出して再び復讐に身を投じたギュンターに、もうこの先を求めるほどの力は残っていない。夢から覚めたのは、復讐者としてのギュンターなのか、それともカムイと出会った後のギュンターだったのか。考えても、意味の無い問いかけだった。


985 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/25(木) 23:44:38.85/mUgx/Fs0 (17/20)

◇◆◇◆◇







 渾身の力を振り絞って槍が突きだされる。踏み込んだカムイのこめかみめがけて突き進んだそれは、彼女の数本の髪の毛を切断するに至り、その腹から一刀両断される。床に叩きつけられた槍は金属音を響かせ、そのまま終夜の剣先が静かに返される。カムイの構えが終わった。

「はああああああああっ!!!!!!」

 入れ替わるように彼女の足が床を蹴る。渾身の力で踏み込んだ体は全体重をぶち当てるようにして突き進む、時間が静かに流れているとわかった。
 鎧の隙間に剣先が静かに入り込む、感じたのは皮膚に走る冷たさと、引き千切れる肉の音、体重に任せた一撃は老体の体を蝕み、やがて体そのものを貫くにまで至る。滴り始めた血は静かに彼女の姿を濡らし、やがて体を舞う憎悪の炎は役目を終えた灯りのように、ふっと姿を消しさった。

「……見事、……でしたぞ」

 自然と言葉が漏れる。弱弱しく手がカムイの体を抱きとめ、自然と残った右手がカムイの髪を撫でた。
 短く押し殺した嗚咽が聞こえ、見てみれば鎧に数滴の雫が落ちている。その雫はギュンターが仕えてきたことに意味があったことを示すものでもあった。

「……敵将を倒して涙を流すとは、カムイ様らしいですな。本当に優しい方だ」
「敵将じゃありません、私はギュンターさんを、殺してしまったんです。主であるのに、臣下を切り捨ててしまったんです……」
「……こんな私をまだ臣下と呼ぶとは、甘いですぞ」
「甘くて構いません。ギュンターさんから見たら、まだ私たちは手間のかかる子供なんですから……」

 そう言ってカムイは静かにギュンターの胸から顔を放す。その顔は確かに涙を流しているが、どうにか堰き止めようと踏ん張っている。まだ嘆くことはできないと知っているから、まだ彼女たちの戦いは終わっていない。泣くのはすべてが終わってからでいいと、その目は力強く語っていた。

「こんな子供の私たちをここまで育ててくれてありがとうございます。ギュンターさん」

 手をしっかり握りしめられる。とても温かかった、温かくて、同時に静かに眠気がやってくる。もう長くないと悟った。
 なら、もう、留まることはできない。子供たちはもう歩み始めているのだから、しっかりと送り出すのが親の使命だとわかっているから。
 気づけば、城塞の面々がカムイと共にいた。誰もがギュンターを見ている。そしてそれらは悲観的なものではなかった。だから、待たせるわけにもいかない、彼らには未来がある。もう、私の未練と復讐という古い場所に縛り付けるわけにはいかない。押し出すくらいの力は残っている。でも、格好をつけるのは、なんだか恥ずかしかった。いつも通りでいいと、ギュンターは顔を静かに上げる。



986 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/25(木) 23:49:49.69/mUgx/Fs0 (18/20)

◇◆◇◆◇







「後のことは任せるぞ、お前たち」



 何時ものように強い言葉を告げる。告げた口は最後の息を吐き、やがて静かに頭が下りて行く。
 眠気は寒いものではなく、むしろどこか温かい。
 やがて力の抜けた手がカムイの握りしめていた手の内から零れた。


987 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/25(木) 23:51:31.34/mUgx/Fs0 (19/20)

◇◆◇◆◇







 
「………」

 動かなくなったギュンターから手を放す。その顔は既に向かうべき上層を睨みつけていた。

「皆さん、行きましょう」

 短い言葉を紡ぎカムイは静かに駆け出す。それに続いて他の者たちも後を追い上層へと向かう。
 残されたのは折れた槍と壊れた盾、そして子供たちを送り出して安らかに眠る老兵だけだった……





 これは違う世界の話




 復讐に翻弄された男の戦いが終わリを迎えた話




 If(もしも)の一つ
 



【透魔王国ギュンターif おわり】


988 ◆P2J2qxwRPm2A2016/02/25(木) 23:59:04.16/mUgx/Fs0 (20/20)

 今日はここまで。
  
 透魔王国ギュンターifでこのスレでの更新は終わりになります。
 番外が結構長かったかもしれない。しかし、3スレ目とか、信じられんな。
 
 三日前に救急車で病院に運ばれて、いろいろあって後編の更新が遅れて申し訳ない。
 尿管結石で、死ぬかと思った。息できないし、みんなも気をつけるんだ!

 少ししたら次スレを立てようと思います。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございまいました。
 


989以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/26(金) 00:46:27.91Psb/zi4Po (1/1)


悲しい話だなぁやハ糞


990以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/26(金) 23:58:18.183/wIdZCoo (1/1)

乙 ゲームのギュンターもこれくらい強くても良い気がした

この後本編でハイドラはボコボコにされるのか


991以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/28(日) 23:56:51.21JxGVrlF30 (1/1)

それより体に気をつけてな
尿管結石で死んで透魔兵と化すなんてやめたくなりますよ~


992 ◆P2J2qxwRPm2A2016/03/01(火) 22:58:36.68viUAztLD0 (1/1)

 新しいスレを立てました。

【FEif】カムイ「私の……最後の願いを聞いてくれますか?」―3―
 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1456839703/

 2スレ目、呼んでくれた方々、コメントをくれた方々、安価に参加してくれた方々ありがとうございました。
 
 また次のスレでもよろしくお願いいたします。