354 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:36:37.97ToiP/4130 (2/32)




千棘「……」


千棘「ポーラ」


ポーラ「はっ」


千棘「……何が望みなの?」


千棘「温室暮らしの憎たらしいお嬢様に、現実を思い知らせてやりたい、って言うだけの話にしては」


千棘「……アンタ、辛そうな顔してるわよ」


ポーラ「……」


ポーラ「……黒虎に、言われました」


ポーラ「自分の果たせなかった幸せを、他人に投影して叶えるような真似は、やめろと」


千棘「……」


ポーラ「ですが、違うのです」


ポーラ「私は」


ポーラ「……私、は」


千棘「……」





355 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:37:19.45ToiP/4130 (3/32)




ポーラ「……好きなんです」


ポーラ「ずっと憧れだった黒虎も、千棘お嬢様も、一条楽も、学校の皆も」


ポーラ「例え、いつか手放さなければいけないものだとしても」


ポーラ「私は、この生温い世界が、大好きなんです」


ポーラ「……私は、殺し屋としての生き方を、変えたくありませんし、変えられません」


ポーラ「だけど、黒虎はそうじゃなかった」


ポーラ「黒虎は」


ポーラ「暗くて汚い、ドブ川の底みたいな殺し屋の世界に生きて、生き続けてなお」




    ―― 「……アンタ、何とも思わないの?」


    ―― 「こんな日に、こんな……」


    ―― 「……いや、別に何も」


    ―― 「……あっ、そ」





356 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:38:00.02ToiP/4130 (4/32)



ポーラ「ドブの底で野垂れ死ぬ野良猫みたいな運命を、受け入れて、それでも」



    ―― 「……自分でも、よくわからない」


    ―― 「どのみち、形になる事のない想いだからな、辛く思う時もあるけれど」


    ―― 「ふとしたことで暖かい、優しい気持ちになれるコトも、いっぱいあるんだ」



ポーラ「誰かを愛して、誰かに愛されて、そんな生き方がっ、まだっ、だからっ!!!」



    ―― 『お嬢の仕事は』


    ―― 『……疲れた家族の為に、不恰好なパンプキン・パイを焼いてやる事だ』


    ―― 『キッチンシンクの下に何匹ネズミがいて、飼い猫が何匹殺したかなど、知る必要は一生ない』




ポーラ「……知ってあげて、ほしいんです」


ポーラ「そしてっ……」





357 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:38:34.47ToiP/4130 (5/32)




千棘「……もういいわ、ポーラ」


ポーラ「お嬢様ッ!!」


千棘「私は”もういい”と言っているの」


ポーラ「……はっ」


千棘「……」


千棘「……ポーラ」グイッ


ポーラ「……お、お嬢様、」


千棘「……貴女の望み、叶えてあげるわ」


千棘「だから、私だけに忠誠を誓いなさい」


千棘「ビーハイブじゃなくて、ただ私自身に、命を賭けて仕える事をここで誓いなさい」


ポーラ「……どうする、おつもりで」


千棘「……決まってんでしょ」


千棘「あんたの願いを、叶えてやるのよ」


千棘「私なりの、やり方でね……!!」





358 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:39:12.03ToiP/4130 (6/32)




~ 現在 神粍町 ”テンパンチ・プロジェクト”総本部 2階西館”フェザー”室内 ~ 



るり「……それで、集英組の人達も巻き込んで、私達の事を連れ戻しに……?」


千棘「うん、そーゆーコト。怖い思いさせちゃって、ごめんね」


るり「いいえ。来てくれて、嬉しかったわ。本当に」


るり「……だけど、大丈夫なの? ビーハイブは組織として、私達への関与を認めなかったんじゃ」


千棘「……パパと直接話して、我侭、聞いてもらったの」


るり「……」


千棘「めんど臭い話を始めたトコで、2,3発ブン殴ったら、今動けるビーハイブの人間、全員任せてくれたわ……」


るり「……そ、そう……」


千棘「本当はもっともっとこっちに向かってるんだけど、みんなで移動するのって結構大変なのね」


千棘「改めて、パパやクロードを見直しちゃったわ」ハァ


るり「……?」




359 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:39:49.44ToiP/4130 (7/32)




~ 同時刻 神粍IC付近 飲酒検問(正式名:「暴力団関係者多数接近に対する緊急検問警戒 ポイント6」) ~ 



  ブオンブオン   パーパー     プアー


       ドルン ドルルルルン    ギャー ワーワー



警官1「……それで、この重いダンボールは」


インテリ風ヤクザ「ですから、真空パックされた備長炭ですよ。使うまで湿気ないように封をしてあるんです」


警官1「では中身を」


コワモテヤクザ「お巡りよォ、テメエ話聞いてねぇのかよおぉオオ!?」


コワモテ2「湿気っちまうっつってんだろうがよオラァ!! テメェが明日朝炭に火が一個一個付くまで世話してくれんのかよあぁ!?」


警官1「それは……しかしですね」


コワモテ3「しかしもカカシもないわなァ!! ええわ開けてやるわ、そん代わりテメエ非番でワシらのバーベキュー場来るんやぞ」


警官2「いえっ、止めてください、それは」


コワモテ4「ガタガタガタガタ煩いヤツじゃのォ!!! テメエが開けろ言うたんちゃうんかオラア!!!」


コワモテ2「開けないで居ても進ませない! 開けようとすりゃあ文句垂れて止める!! これ不当拘留じゃぞお巡りさんよォ」


コワモテ3「令状も無しになァ!! なぁどういう法的根拠でワシらの足止めしてるんじゃ!! 出るトコ出てもええんやぞ今から」


警官2「まあまあまあまあ……」


警官1「……」



  ブオンブオン   オラオラー     プアー

   ビーハイブノアニキカオイロワルイッスヨ         

             ワタシノコトハ ホッテオケ

       ドルン ドルルルルン    ギャー ワーワー

 ハヨセイヤー      イテコマスゾー      ボッチャーン



警官1(……どこまで続くんだ、この車列はよォ……)





360 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:40:46.40ToiP/4130 (8/32)



~ 神粍町 ”テンパンチ・プロジェクト”総本部 2階西館”フェザー”室内 ~


親父「……」


楽「……」


親父「……”こんなことなら、最初っから組の人間を頼ればよかった”」


親父「なんて、下らねぇ後悔してんじゃねェだろうな」


楽「……悪いかよ」ゴヅッ


楽「っ痛ってェ……!!」


親父「男がテメェの決断を、軽々しく引っくり返すんじゃねェや」


楽「……俺の名誉なんざ、どーでも良いんだ」


楽「俺が下らねェ意地さえ張らなけりゃ、誰も危険にさらす事なんて、なかったハズだっつーのに……!!」ギリリッ


親父「……」


親父「ガキが生意気言いやがる」


楽「……放っとけよ」


親父「……」


親父「気に食わねえってんなら」


親父「テメェで、力付けろや」


楽「……」


楽「おう」





361 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:41:21.23ToiP/4130 (9/32)



~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 


楽「……それで、小野寺は」


チンピラ1「……すんません、坊っちゃん。突入のドサクサで見失って、それっきりで……」


るり「……仕方ないわよ、一条君」


るり「テンパンチの信者達を建物の外に出したりしたら、警察が来て厄介な事になるわ」


るり「外を固めながら、慎重に探していかないと……」


チンピラ1「あ、いや。そっちの方はある程度大丈夫でして」


るり「……え?」


チンピラ1「何と言うか、そのぉ……」チラッ





362 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:42:00.33ToiP/4130 (10/32)


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 


信者A「お姉様」ハハーッ


信者B「お姉様の誕生だ」ハハーッ


信者C「お姉様、お姉様!!」ハハーッ


千棘「ちょ、ちょ、ちょっと何なのよアンタ達」


信者D「ご謙遜なさらないでください、お姉様」


信者E「我らが父と崇めていた男、お父様を一撃の下に粉砕した御力、御見事にございました」


信者F「その上、かのような荒くれ者どもを指先一つで操られるその深遠なるカリスマ」


信者G「我々は感服し、思い知りました」


信者H「”この御方こそが、我等を真に導く救世の使者である”と!!」


信者I「お姉様に感謝を!!」


信者達『感謝を!!』ウ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ !!


千棘「……」


千棘「……ポーラ」


ポーラ「……意のままに動く手駒は、多いに越した事はないかと」ニコ


千棘「……」


千棘「……我ガ言ノ葉ハ救世ノ導キ也」


信者達『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!』


千棘「……」




363 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:42:50.30ToiP/4130 (11/32)


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 


楽「……」ボーゼン


るり「……馬鹿らしいわ、ホント……」ハァ


チンピラ1「そんな訳で、この部屋の信者はどうにかなっとるんですが」


チンピラ1「一応外部の警戒もせにゃなりませんし、この建物、半ば迷路みたいな構造になっとって、捜索に時間がかかっとるんですわ」


チンピラ1「まだ頭数も十分に揃っとりゃしませんし、今から山狩りを始めるのは……」


つぐみ「……私が行く」スクッ


楽「……いや、つぐみはここで待っててくれよ。俺が、」


るり「……止めたほうがいいわ、一条君」


楽「どうして」


るり「あの時の小咲は、一条君の事を前にしても、まったく動揺してなかった」


るり「つまり、一条君が小咲を見つけたとしても、一条君に小咲を止められるアドバンテージは無い」


るり「……引き金より早く動く自信はある?」


楽「……」


るり「それに、この事態を知らない信者にあなたが襲われたりしたら、事態がまたややこしくなるわ」


るり「ここはつぐみさんや、ポーラさん達に任せましょう」




364 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:43:35.02ToiP/4130 (12/32)



るり「……そうすべきよね、桐崎さん?」


千棘「……そ、そうね……」ゼェゼェ


ポーラ「適切な判断です、お嬢様」


ポーラ「この状況で一条楽が小野寺小咲を救い出せば、ほぼ間違いなく恋愛関係が成立します。つぐみを行かせ妨害を図れば」シュッ ババッ


千棘「……次は当てるわよ」ゴゴゴゴ


ポーラ「……差出がましい真似を。失礼しまし」 バゴッ


ポーラ「……っ痛たぁ……何すんのっ」


つぐみ「……ポーラ」ゴゴゴゴゴゴゴ


ポーラ「申し訳ありませんでした」


つぐみ「……」ハァ







365 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:44:08.53ToiP/4130 (13/32)




千棘「……つぐみ」


つぐみ「……はい」


千棘「ニセコイの事、知っちゃったんだ」


つぐみ「……はい」


千棘「……で、私の気持ち、ダーリ……楽に、バラしちゃったってホント?」


つぐみ「……はい」


千棘「その勢いで、楽に告白したって言うのは」


つぐみ「……全て、本当の事です」


つぐみ「罰は、如何様にも……」


千棘「……やめよう、そういうの」


千棘「ビーハイブ、もう抜けちゃったんでしょ」


千棘「私につぐみを罰する資格なんて、もう無いよ」


千棘「それに私も、同じくらい貴女を傷つけてきたから……おあいこ」


つぐみ「……」


つぐみ「……お嬢、私は」


千棘「……”お嬢”も、もう止めて」


つぐみ「……」





366 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:44:46.42ToiP/4130 (14/32)



千棘「……」


千棘「……ねえ、つぐみ」


つぐみ「……はい」


千棘「私、ずっと悩んでいたの」


千棘「万里花や小咲ちゃんと遊びに行った、あの日から」


千棘「ううん、つぐみが鍵の本当の持ち主かもしれない、なんて話が出た時から」


千棘「……あるいは、もっともっと前から気づいていたのに、目を逸らしてただけなのかもしれない」


千棘「つぐみの事を大切な友達だって言いながら、いろんな隠し事をしたり」


千棘「つぐみの幸せを願いながら、従者として仕えさせている現実」


千棘「口では甘い事を言いながら、結局つぐみに色んな事を我慢させてる矛盾を、私はずっと考えずにいた」


つぐみ「……私は、そんなっ」


千棘「わだしはッ!!!」グスッ


千棘「……私は、色んな物に、ずーっと、ずーっと、守られてきたの」


千棘「お父様に、クロードに、つぐみに、ポーラに、ビーハイブのみんなに、守られてきたの」


千棘「だけど、それはもうおしまい」


千棘「……私が、そう決めたの」


つぐみ「……」





367 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:45:33.84ToiP/4130 (15/32)




千棘「……」


千棘「……ねえ」クルッ


千棘「誰か、タバコ吸う人居る? ライター貸して欲しいんだけど」


親父「……ほらよ」スッ


千棘「……ありがとうございます」スッ


つぐみ「……お嬢、そのリボンは、私の!!」


千棘「……」シュボッ


つぐみ「あ……っ」


メラメラメラ


メラメラ


ポトッ


つぐみ「……そん、な………」


千棘「……」


千棘「……ね、つぐみ」


つぐみ「……はい」


千棘「今まで、ごめんなさい」ドゲザ


つぐみ「お……っ、千棘様ッ!?」ダダダッ


千棘「……お願いだから、このまま、話を聞いて」


つぐみ「しかしっ、私はこんな事っ!!」


千棘「……分かってる」


千棘「分かってるから」


千棘「私が、こうしなくちゃいけないの」


つぐみ「……」




368 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:46:16.74ToiP/4130 (16/32)




千棘「……あのね、つぐみ」


千棘「私は、一条楽が好き。大好き」


千棘「だけどね」


千棘「……貴女の事も、ほんとうに、大好きなの」


つぐみ「……私だって……っ!!」ガシッ


つぐみ「お嬢の、千棘様の事が、好きに決まっています」


つぐみ「従者とか、ボディガードとか、そんな事を抜きにしたって、だからッ!!」


千棘「……」


千棘「だから、私に遠慮するんでしょう?」


千棘「遠慮して、耐え切れなくなって、私から、離れて行ってしまうんでしょう?」


つぐみ「それはっ……」


千棘「私は、そんなのイヤ」


つぐみ「……」





369 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:47:07.12ToiP/4130 (17/32)



千棘「……だから、ね」


千棘「……お願い、つぐみ」


千棘「貴女がもし、もし許してくれるなら」


千棘「今度こそ、本当に」


千棘「対等で、何でも話せる」


千棘「一番の友達に、なって欲しいの」


つぐみ「……」


つぐみ「……あ、あの……」チラ


楽「……」ソワソワ


るり「……」ボーゼン


ポーラ「……」ヤレヤレ


つぐみ「……」







千棘「……」


つぐみ「……」フゥ







つぐみ「……私でよければ、喜んで」ニコ









370 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:47:53.09ToiP/4130 (18/32)



千棘「ふんじばってでも連れてくるんだからね、分かった!?」


つぐみ「お任せくださ……」


千棘「」ギロッ


つぐみ「……任せておけ、ち、とげ………………さま」


千棘「むう」


千棘「これからはコイのライバルになるって言うのに、そんな及び腰で大丈夫なの?」ムスッ


るり「……」


楽「……えーと、あの、俺の意思って」


親父「……楽」


楽「……あんだよ」


親父「……諦めは、逃げじゃねえぞ」


楽「……」




371 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:48:33.41ToiP/4130 (19/32)



つぐみ「……一条、楽」


楽「……ああ、悪ぃ、水差しちまったな」


楽「小野寺の事、よろしく頼む」


楽「全て任せる以上……どんな結果になったって、俺は、受け入れるつもりだから」


千棘「……」


つぐみ「……ああ」


つぐみ「上手く出来るかは、わからないが」


つぐみ「私なりの、方法で……」


るり「……それって、どういう」


ポーラ「……」グイッ


るり「むぐ……」


つぐみ「……それでは、皆さんこの部屋に固まっていてください。決してポーラの傍を離れないように」


ポーラ「こっちは任せときなさいな。下手打つんじゃないわよ」


楽「……」コクッ


るり「~~~」ムームー




372 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:49:34.04ToiP/4130 (20/32)



千棘「……」


千棘「……つぐみ」


つぐみ「……はい」


千棘「これ、あげるわ」



              チャリッ チャリン



つぐみ「……どうして」


千棘「リボン燃やしちゃったからね。その代わりと」


千棘「……その」


つぐみ「……?」


千棘「……~~~ッ!!」


千棘「ハンデみたいなもんよッ!」クルッ


千棘「私はそんなちゃっちぃ鍵が無くったって、正々堂々アンタや小咲ちゃん達と戦って」


千棘「クソもやし野郎の心ぐらい、掴み取って見せるんだから」


千棘「だから……」


千棘「……だから」


千棘「ちゃんと、帰って来なさいよ」


つぐみ「……」


つぐみ「……ああ」


つぐみ「約束するよ」






つぐみ「千棘」








373 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:50:15.33ToiP/4130 (21/32)






 シュタタタタ タタタ タタタッ  スタタタッ    ターン


狂信者「ぐぶっ」ドサッ


つぐみ「……」


タタタタタタッ


つぐみ(……)


つぐみ(……すまない、千棘)


つぐみ(……すまない、一条楽)



つぐみ(私は、私の信じたやり方で)


つぐみ(小野寺小咲を)










つぐみ(殺す)









374 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:53:12.24ToiP/4130 (22/32)



~ AM1:00 神粍町 ”テンパンチ・プロジェクト”総本部 屋上 ~


トボ トボ トボ


???「……」


ガチャッ


???「!?」


つぐみ「建物外周はビーハイブと集英組が固めていて、敷地の外には出られない」


つぐみ「ほとんどの信者とは昨日今日が初対面、誰を信じられるわけでもない」


つぐみ「隠し部屋やトイレに一人、閉じこもるような勇気もない」


つぐみ「逃げて、逃げて、ただ逃げるばかり。それが貴様の本性だ」


つぐみ「それさえ理解していれば、貴様の逃げた先を推測する事など、造作もない……」


小野寺「……!!」カチ


              タンッ


小野寺「……ぐっ」カチャーン


小野寺「ああああああああああああああ痛い痛い痛い痛いああああああああああっ!!!」ジタバタ


つぐみ「勘違いしているな、小野寺小咲」


つぐみ「私は、お前が引き金を引くより先に”動けない”ワケではない」


つぐみ「宮本様や、一条楽が目の前に居なければ」


つぐみ「言い換えれば」


つぐみ「”貴様を傷つけることさえできるならば”」


つぐみ「貴様の動きを封じて、自殺させない事など、たやすい」


つぐみ「動くな。次は二の腕を撃ち抜く」





375 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:53:44.73ToiP/4130 (23/32)



小野寺「ひっ、あひっ、ひいっ」ズルズル



               タァン!!



小野寺「ぎゃああああっ!?」ドサッ


つぐみ「動くなと言ったぞ」ツカ ツカ


つぐみ「傷を増やすと言い訳が面倒だ。弾が尽きる前に言う事を聞け」


小野寺「うっ、ううっ、ううううっ」


つぐみ「……そうだ、貴様は知らなかったようだが」


ガボッ


つぐみ「拳銃で自殺するときにはなァ、こうやって銃身を咥え込まなきゃ、頭蓋骨で弾が逃げるんだ」グリグリ


小野寺「ぐっ、ごっ、ごぼっ、おえっ」ジタバタ


つぐみ「……或いは、そんなに死にたいなら、このまま撃ってやろうか?」


つぐみ「千棘や一条楽には、見つけた時には死んでいたと、尻でもつねりながら報告してやるさ……」


小野寺「ぐっ、ぐ、ううっ……」カタカタ


小野寺「……」ダラン




376 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:54:24.57ToiP/4130 (24/32)




つぐみ「……」


つぐみ「……なァ、小野寺小咲」


つぐみ「いつまでその猿芝居を続けるつもりなんだ」








つぐみ「貴様、本当は洗脳など、されてはいないのだろう?」








小野寺「……」


つぐみ「何とか……言えよッ!!!」ゲシッ


小野寺「ばぶっ……ぐっ、げほ、げほげほげほっ!!」





377 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:55:14.25ToiP/4130 (25/32)




つぐみ「……」


小野寺「……」ズル ズル ズル カチャ


つぐみ「……」


つぐみ「……そうかい」ザッ ザッ


つぐみ「そこまで意地を張るというなら」グイッ


小野寺「ぅぐっ!!」ビィーン







つぐみ「こんな玩具みたいな鍵、もう要らないよなァ!!!」ブチイッ!!







小野寺「やめてええええええええええっ!!!!」バッ グイッ!!








378 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:55:44.56ToiP/4130 (26/32)



つぐみ「っ!!」ババッ


小野寺「……ふう、ふうっ、ふっ、ふーっ、ふーっ……」ギュッ ガタガタガタ


つぐみ「……ようやく猿芝居を止める気になったか」チッ


小野寺「……ふーっ、ふーっ」フイ


つぐみ「……何を考えて、あのような真似をした」


小野寺「っ、ふーっ……」


小野寺「……つぐ、つぐみちゃんには、分からないよっ」


小野寺「ケンカも強くて、しっかりしていて、自分の進む道を自分で決められるつぐみちゃんには」


小野寺「弱くてみみっちい私の考え方なんて、絶対に、わかんない」




379 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:56:17.07ToiP/4130 (27/32)



~ 二日前 夜 神粍町 ”テンパンチ・プロジェクト”本館四階 ”父の間” ~


お父様「……それでは君は、弱い自分を友達に見せたくなくて、逃げてしまったと言うのだね」


小野寺「……そう、です」


お父様「月並みなアドバイスで悪いが、気に病むことはないよ。誰しも、失敗をせずに生きてきた奴などいないさ」


お父様「もちろん、この私も含めてね」ニコ


小野寺「……お父様」


お父様「”テンパンチ”を立ち上げるまでに、私は色々な失敗をしてきたし、沢山の人を泣かせてきた」


お父様「後悔して泣き崩れるのは容易い」


お父様「しかし、我々の人生は、そこで終わりじゃない。どんな最悪の失敗をした後も、当たり前のように続いていくんだ」


お父様「その全てを後悔で埋めるような事は、絶対にしたくない」


お父様「……そう思って僕は、”テンパンチ・プロジェクト”を立ち上げたんだ」


お父様「全ての過去に、さよならを告げて、ね」


小野寺「……無理です、私には……」




380 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:56:43.06ToiP/4130 (28/32)



お父様「……過去と決別する事は、罪ではないよ、小野寺小咲君」


小野寺「えっ」ドキッ


お父様「君が過去と向き合い続けている間、過去もまた、君の事を見つめ続けている」


お父様「心配を、かけているんじゃないかな」


小野寺「……」


小野寺「……過去と、決別」


小野寺「……一条君達に、嫌われるようなことをすれば、もうこれ以上、迷惑をかけずに済む……?」


お父様「一つの考え方かもしれないね」ニコ


お父様「なに、いつまでも嫌われたままでいることもないさ」


お父様「君が”テンパンチ”で新たな人間のステージに昇華され自立した後で、再び手を取り合えばいいじゃないか」


お父様「君の友達もきっと、喜んでくれるはずだよ」


小野寺「……」


お父様「さあ、ゆっくりと聞かせておくれ」


お父様「君と、君の友達の、長い長いお話を……」




381 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:57:23.27ToiP/4130 (29/32)


~ 現在 神粍町 ”テンパンチ・プロジェクト”総本部 屋上 ~


小野寺「……お父様の話は、変だと思ったよ」フーッ フーッ


小野寺「飲まされた飲み物も変な味がしたし、気持ち悪いとも思った」


小野寺「だけど、身を任せると、とっても楽になれるの」


小野寺「こんな私でも、許されているような気分になって、お父様の言う事が、実は正しかったような気がしてっ」


小野寺「……馬鹿だよね、情けないよね」


小野寺「こんな事したってっ!! 一条君は、私の事見捨てるはずないのにっ!!」


小野寺「そういう人だからこそ、私、苦しかったはずなのに」


小野寺「そんな人、だからっ……」グスッ


小野寺「……好ぎになった、はず、なのにっ……」ボロ ポロポロ


つぐみ「……」


つぐみ「……小野寺小咲、聞け」


小野寺「……」


つぐみ「……小野寺小咲」


つぐみ「私は、貴様が思うような、強い人間ではない」


小野寺「そんなのッ!!」





382 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:58:19.15ToiP/4130 (30/32)



つぐみ「……私は」


つぐみ「私は、一条楽の事を愛している」


小野寺「……」


小野寺「……えっ?」


つぐみ「笑える話だろう? 命を賭して敬愛している主のコイビトに、懸想する殺し屋などと」


つぐみ「私自身、認めるつもりはなかった。自分自身を、誤魔化していたと言ってもいい」


つぐみ「……逃げていたんだ、私も」


小野寺「……」


つぐみ「組織の人間としては、正しい、当たり前の行動だ、しかし」


つぐみ「私は逃げていた」


つぐみ「自分の本当の気持ちから」


つぐみ「それより、なによりも」


つぐみ「……お嬢と向き合う事から、逃げていた」


つぐみ「友達と言うなら、信頼し合っている関係だと言うならば」


つぐみ「……この胸の内、欠片でも、明かすべきだったはずなのに……」


小野寺「……」




383 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:59:15.34ToiP/4130 (31/32)



つぐみ「……そして、私は逃げた」


つぐみ「自分は殺し屋で、組織のコマなのだから」


つぐみ「こんな気持ちを抱くのは、最初から間違いだったのだと」


つぐみ「人に恋心を抱くなど、自分には許されない、分不相応な夢だったのだと」


つぐみ「そんな風に言い聞かせて、自分を誤魔化した」


つぐみ「人を愛するとか、人を信じるとか、そんなキラキラした感情を抱く事は」


つぐみ「貴様や千棘、一条楽のような」


つぐみ「穢れた世界や、醜い争いとは無縁な、キラキラした世界に生きる者にしか、許されないコトなのだと」


つぐみ「私のように、両手全身を血に染めた、争い戦う事しか知らぬ生き物には、必要ないコトなのだと」


つぐみ「そう思い込んで、逃げ出したんだよ、私は!」


小野寺「……」




384 ◆LeBgafvn/62015/10/11(日) 23:59:42.16ToiP/4130 (32/32)



つぐみ「……」


つぐみ「……けれど」


つぐみ「違ったんだ」


つぐみ「コイの幸せを」


つぐみ「キラキラした感情を」


つぐみ「自分が、本当に望む未来を」


つぐみ「手にするために、必要なコトは」


つぐみ「優しさなんかじゃない」


つぐみ「諦めなんかじゃない」


つぐみ「……お前達の見せてくれた、平和な日常なんかでもない!!」




385 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:00:09.03SJdQJekm0 (1/65)













つぐみ「戦いなんだよ、小野寺小咲ッ!!!」












386 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:00:39.18SJdQJekm0 (2/65)



小野寺「……」


つぐみ「本当に欲しい”何か”に手を伸ばすためには」


つぐみ「戦わなくては、いけないんだ」


つぐみ「今まで愛したもの、大事なものを踏みつけて、牙を剥いて刃を突きつけてなお、躊躇することなく」


つぐみ「戦って、奪い取らなければ、ならないんだ……」


小野寺「……」


小野寺「……つぐみちゃんの言ってる事」


小野寺「わけ、わかんないよ」


小野寺「そんなに一条君のことが欲しいなら、一条君の事だけ追いかけていれば良いじゃない」


小野寺「私の事なんて、放っておいたっていいじゃない」


小野寺「わけわかんないよ!!」


小野寺「わたしは! 誰にも迷惑かけたくなくって!! ひたすら一人で、誰にも迷惑かかんないとこに逃げたかっただけなのにッ!!!」


小野寺「何で私が、勝手に追っかけてきたつぐみちゃんに撃たれて、怒鳴られなくちゃいけないの!?」


小野寺「私の事なんてもう放っておいて!! つぐみちゃんだって戦う相手が減るならその方がいいんじゃないの!?」


小野寺「帰ってよっ!! そして、私の知らないところで、皆で勝手に幸せにでもなんでもなってればいいじゃないッ!!!」




387 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:01:11.64SJdQJekm0 (3/65)



つぐみ「……それは無理な話だ、小野寺小咲」


つぐみ「私は貴様と、戦わなくてはならない」


つぐみ「私は貴様や一条楽、千棘達と過ごす、当たり前で、それでいて尊い日常の中で」


つぐみ「貴様と正々堂々戦って、完膚なきまでに叩き潰して」


つぐみ「一条楽の心に巣食う貴様を粉々に粉砕して、貴様から一条楽を奪い取らなくてはならない」


つぐみ「……わからんだろうが、小野寺小咲」



     ―― 「人同士の関係性というものは、約束事や結論だけを元に出来上がるのではないと、改めて気づかされたよ」


     ―― 「その合間にある、お嬢や小野寺様、そしてお前達と過ごす、日常の尊さのようなものを」


     ―― 「全く理解しないまま、その秘密だけ暴き出そうと言うのは、少しばかり破廉恥だった」



つぐみ「私の求める”日常”の中には、貴様もまた、必要な存在なんだ」


つぐみ「だから、貴様を舞台から降ろすわけにはいかない」


つぐみ「小野寺小咲」


つぐみ「戻って来い」


つぐみ「そして、無様に私に敗北しろ」


つぐみ「その為に、私は貴様を連れ戻す」


つぐみ「どんな手段を使っても……!!」




388 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:01:50.16SJdQJekm0 (4/65)



小野寺「……は、はは、なるほどね」


小野寺「つぐみちゃん、一条君の前でいいカッコしたいから、私を連れ戻したいって、そういうこと、なのかな」


つぐみ「……」


小野寺「でも、馬鹿にしないで。私だって、お父様から、いっぱい教えてもらってるんだもん」


小野寺「逆洗脳、って言うんでしょ?」


小野寺「ショッキングな出来事で頭の中身を一旦ぐちゃぐちゃにしてから、新しい情報を流し込んで考え方を操っちゃうって」


小野寺「拳銃で私を撃ったら、私がパニックを起こして、いいように操れるようになるとでもっ、思っているんでしょっ!!」


小野寺「甘いよッ!! 私はつぐみちゃんなんかに騙されたりしないっ!」


小野寺「つぐみちゃんがそういうつもりなら、私はっ」


小野寺「つぐみちゃんをっ、こっ、こっ、殺してっ、私はここから出て行くっ」


小野寺「もう、きっ、決めたんだからっ」


小野寺「ふーっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ!!!」カチャ ガタガタガタガタ


つぐみ「……」ズイ ズイ スッ


小野寺「こ、来な、ッ」






         ダンッ!!!






小野寺「……」


小野寺「……っ、う、あ……?」





389 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:02:33.32SJdQJekm0 (5/65)




つぐみ「……づっ……」 シュウウウ


小野寺「……つ」


小野寺「つぐみちゃん」


小野寺「なんで……!?」


つぐみ「なんで、は、無いだろう、小野寺小咲」


つぐみ「貴様の銃を持つ手が、みっともないほどに震えていたから」


つぐみ「手本を示してやったまでのこと」


小野寺「だ、だからって、なんで」


小野寺「自分で自分を撃つのよ……!!」


つぐみ「……脚の一本撃ったくらいで、何をそんなにビクついているんだ、っ」


つぐみ「貴様が狙おうとしているのは、ココ、だろうがっ……!!」グイッ


小野寺「ひゃああああっ!?」


つぐみ「きちんと狙え、小野寺小咲!!」グイッ


小野寺「ひ、ひ、ひっ」カタカタ


つぐみ「……そうだ、そこが私の心臓だ。僅かに左に寄ってはいるが、その実ほぼ体幹の中心部にあるのが特徴だな」


つぐみ「女の場合乳房で、男の場合胸筋によって弾が食い込みづらい恐れがある。下乳か鳩尾の辺りに銃口を当てれば失敗が少ない」


つぐみ「そら、後は引き金を引くだけだ。簡単だろう?」





390 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:03:27.57SJdQJekm0 (6/65)



小野寺「……っ、ううっ、うううっ」


小野寺「……」


小野寺「……つぐみ、ちゃん」


小野寺「つぐみちゃん、頭、おかしいよ……」


つぐみ「……」


小野寺「私もたいがい、おかしくなっちゃったと思っていたけど」


小野寺「あなたは本当に狂ってる」


小野寺「たかだか高校生同士の、ひとつのコイのやりとりのために、どうしてここまでするの?」


小野寺「……私には、理解できない」


つぐみ「……そのたかだか高校生のコイ一つのために、自爆テロ紛いの奇行に走った貴様に、説教をされたくはないな」


小野寺「……」


つぐみ「……なぁ、小野寺小咲」


つぐみ「貴様も、戦え」


つぐみ「逃げ出したいなら、ここで私を殺して、どこへでも去ればいい」


つぐみ「その度胸がないのなら、私に隷属しろ」


つぐみ「後ろめたさとみっともなさを背負って、無様に足掻きながら、私達の居る日常に戻って来い」





391 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:03:59.05SJdQJekm0 (7/65)



小野寺「……やだ」


小野寺「どっちも、嫌だよ、わたし……」


つぐみ「貴様を想い、皆が苦しんでいるんだ」


つぐみ「……逃げ道など、とうに無い」


つぐみ「代償を払わずに、楽になれると思うな……!!」


小野寺「……」


小野寺「……」


小野寺「……ぅ」


小野寺「う、う、うぅ、う」





392 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:04:27.04SJdQJekm0 (8/65)



小野寺「うわあああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!」









       ダンッ













                         ドサッ







393 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:04:57.47SJdQJekm0 (9/65)

























394 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:05:40.42SJdQJekm0 (10/65)



~ 数年後 ~




ガタタン ガタタン タタン


『……つぎはぁ、ぼんやり、凡矢理……』


集「……」


集「……ん」


集「……次、か……」







395 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:06:43.84SJdQJekm0 (11/65)



集(……あの日)


集(羽先生に話を聞かされた、あの日から)


集(俺はずっと、ずっと悩んでた)


集(……もちろん、楽との付き合いをどうするべきか、なんて、つまんない話についてじゃない)


集(だって、考えるまでもない話だ。俺は絶対にアイツの味方で、アイツはきっと、ずっと俺の味方だから)


集(ポッと出の可愛い先生にちょっといじめられた位で、俺の気持ちは微塵も揺るがなかった)


集(……だけど)


集(あの日から、アイツと、アイツの周りの世界が、ほんの少しだけ歪んでしまったように見えて)


集(……どうしていいか、わからなくなって)


集(そして、ある日の朝、いつも通り教室に顔を出したら)


集(誰も、居なくなってた)


集(万里花ちゃんも、羽先生も)


集(るりちゃんも、小野寺も)


集(千棘ちゃんも、誠士郎ちゃんも)


集(……そして、楽も)




396 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:07:43.47SJdQJekm0 (12/65)




集(……周りから色んなコトを聞かれたような気もするし)


集(今考えれば、春ちゃんやポーラちゃんのところに行って、話を聞く事もできたと思うけど)


集(あの日の俺は、そのまままっすぐ家に帰って)





集(学校を辞めた)





集(……何日か部屋の中で、ぼーっと引きこもった後)


集(親に我侭を言って、今まで名前も聞いた事のなかったような遠い遠い町に、一人で引っ越して)


集(馬鹿みたいに勉強して、大検を取って、結構いい大学に入った)


集(元々勉強は苦手じゃなかったし、とにかく何も考えたくて、必死に勉強したから、特に苦労したような覚えは無くて)


集(そのまま俺は、俺の事を誰も知らないところで、まあまあ楽しい生活を送った)


集(新しい友達もできたし、サークル活動も充実してた。色んなアルバイトをやって、恋人もできたし、失恋もした)


集(出会いがあって別れがあって、笑ったり泣いたりして、平凡だけどあったかい、楽しい時間を過ごして)


集(瞬く間に時が過ぎて、俺も大人になって)


集(うっすらと、これからの俺の人生とか、やりたい事について、ふと考えてみたとき)


集(俺は)











集(皆の事を、ちっとも忘れられてない自分に、気がついた)











397 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:08:28.78SJdQJekm0 (13/65)




パン ポーン


集「……うん、今改札出たトコ。夜には帰るよ」


集「……うん、久しぶりに、友達と。うん、そう、うん……」


集「……心配ないって。何年も帰ってなかったのは悪かったけどさ、大丈夫……」





集(……できる限り、色んな所を探して回った)


集(さすがにビーハイブのあるアメリカや、焼豚会のある中国のスラム街までは、行けなかったけど)


集(日本国内、北から南まで、あるいはインターネット、新聞、警察の行方不明者情報なんかも調べて)


集(フリーライターの真似事みたいなこともして、それでも、皆の足取りは、全く掴めなくて)


集(……)


集(できれば、凡矢理には、帰りたくなかったけど)


集(今、こうしている間にも、胸が締め付けられるようで、たまらないけど)


集(……もう一度だけでいい)


集(……もう一度だけ)


集(会って、伝えなきゃ)


集(そうしなきゃ、俺は……)


集(……)





398 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:09:42.06SJdQJekm0 (14/65)









集「……俺」


集「何、やってんだろうな……」











399 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:10:23.05SJdQJekm0 (15/65)




~ 凡矢理駅前 本海苔商店街 ~


  トボ トボ


集(……)


集(携帯も繋がらないし、家の電話番号なんて、実家の住所録でも調べないとわかんないよな)


集(いきなり組の事務所を訪ねるのも気が引けるし、まずは……)


集(……?)

  

    ギャーギャー      アンタネェー


       オチツイテクダサイ      オキャクサマ


   ザケンジャナイワヨ     ワーワー



集(……騒ぎ声……って、あそこは、確か)


集(……小野寺の……!!)





400 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:11:02.29SJdQJekm0 (16/65)



~ 凡矢理駅前 本海苔商店街 和菓子処「おのでら」 店内 ~


集(……)ソーッ


クレーマー「だぁぁぁぁかぁぁぁらぁぁぁ!!!!! アンタんとこで買ったおはぎに、これが入ってたっつってんのよ!!!」


集(何だありゃ……でかい……ゴ、ゴキブリ?!)


クレーマー「うちの旦那半分以上口に入れちゃったんだからね?! ぴー・てぃー・えす・でぃーで寝込んで仕事にも行けないっつーのよ!!!」


クレーマー「どうしてくれんのよ私達が飢え死にしたらアンタのせいですからね!? 責任取れんの!? あぁ!?!?!?!」


女店主「……」


集(……あれ、小野寺のお母さんじゃないよな、でも……)


集(……何でもいいや、とりあえず仲裁に)


女店主「少し、静かにしていただけませんか」


女店主「クソババア」ボソッ


集(……)


集(……ん?)


クレーマー「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? アンタ今なんてッ」


女店主「申し訳ございません。他のお客様のご迷惑になりますので、店先でそのようなお話は困ります」


クレーマー「あぁぁなぁぁぁたぁぁあねええええ!!!!!!!」


女店主「……あの、お静かに願います。レシートか何か……」


クレーマー「無かったらどうだっつぅのよ!!! 入っていたのよ!!! ゴキブリがあああぁ!!!!」ギャンギャン



401 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:12:01.31SJdQJekm0 (17/65)


女店主「……」


女店主「分かりました。ではそちらにお掛け下さい」


クレーマー「はぁぁあ嗚呼あああああ!?!?!?!? そちらってアンタ床じゃないの馬鹿にしてんのッ」


女店主「さっさと座れや」ギロッ


クレーマー「ひッ……」


女店主「……」ドスン


女店主「ここで膝突き合わせて、じっくり話し合いましょうよ」


女店主「和菓子屋におはぎで喧嘩売りに来てるんですから、それなりの準備と覚悟はお持ちですよね?」


クレーマー「……なっ、何がよ、悪いのはアンタの店じゃっ……」


女店主「……」


女店主「は?」ギロッ


クレーマー「……こ、こここ、この会話はっ、録音してるんですからねッ!!!」


クレーマー「ご、ご近所と警察に、ばらまいてやるんだから……こんな店ッ、ぶっ潰してッ……」


女店主「……試してみますか?」


クレーマー「っ」ビクッ




402 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:12:45.79SJdQJekm0 (18/65)



女店主「私もね、命の獲り合いに覚えが無いわけじゃないんです。これはその時の傷ですね」メクリッ


女店主「そうそう、こっちもその時の」ヌギッ


クレーマー「……な、あ」


クレーマー「アンタ、何なのよッ……」


女店主「ちなみに、そのとき、私」







女店主「ひとり、殺してるんですよねぇ……」ニマァァァ








403 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:13:19.73SJdQJekm0 (19/65)



クレーマー「……」ガタガタガタガタ


女店主「……ねえ、自称お客様のクソババアさん」


女店主「うちの店と、アンタのず太い神経」


女店主「どっちが長く持ちますかねぇ……」ズイ ズイ ズイ


クレーマー「……ひ」


クレーマー「ひっ」


クレーマー「ひいいいいいいいッ!!!!」ダダダダダッ


ガタン ドンッ


集「うおっ」ヨロッ


バタン!! ガン!!!!!


クレーマー「ひいいい……わぶっ」ボフッ


ヤクザ風の男「……何や、ワレ」


クレーマー「あ、あの、すみませ、あの、あ」





404 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:13:58.35SJdQJekm0 (20/65)



ヤクザ風の男「……こいつや。オイ」


手下風の男「へい」ガチャ ボスッ


クレーマー「ぎゃっ」ドスッ バターン


ヤクザ風の男「行くぞ」ガチャ バタン


手下風の男「へい」ガチャ バタン



ブロン ブロン ブオオオオーン……




集「……」


カチャ キィィ


女店主「……あ、いらっしゃいませ」ニコッ


集「……」


集「……あ、あの……」


女店主「和菓子をお買い求めですか? 宜しければご案内を……って」


女店主「なんだ、舞子君じゃない。久しぶり」ニコニコ


集「……やっぱりか」


集「できれば、間違いであって欲しかったんだけど……」





集「……久しぶり、小野寺」ビクビク






405 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:14:42.48SJdQJekm0 (21/65)


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 


小野寺「……そんなワケで、何とかお菓子も作れるようになってね。今は修行も兼ねて、店主の真似事してるってワケ」


集「……さっきの啖呵は」


小野寺「……色々、あったんだよ」


小野寺「ほら、自営業って苦労が多いから。自然とこう、ね?」


集(納得いかない)


小野寺「って言うか、おはぎの作業工程で、丸のままのゴキブリが紛れ込むはずないなんて、小学生でも分かるハナシでさ」


小野寺「ほんと、世間様の風当たりって、冗談抜きに強くて冷たいんだよぉ」ケラケラ


集「……そ、っか」


小野寺「……うん」


小野寺「後は……学生時代の、ちょっとショッキングな体験のおかげでね」


小野寺「他人よりちょっとだけ強く、生きてみようと思うようになったから」


集「……ひとり、殺したって話?」


小野寺「……やだなぁ、全部見られちゃってたんだ」テヘ


集「……」




406 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:15:40.17SJdQJekm0 (22/65)



小野寺「……あのね、そんなに重い話じゃないんだ」


集「本当に殺したわけじゃないってコト?」


小野寺「うーん……舞子君が考えてるような事件じゃないから、とりあえず安心して」


集「……りょーかい」フゥ


小野寺「……私が殺したのは、あの日までの、私自身」


小野寺「死んだ気になって立ち向かえば、どんな重荷を背負ってたって、怖いことがあったって、逃げ出さなくても済むんだって」


小野寺「ある人に教えてもらったから、それまでの私に、さよならしたんだ」


集「……立派な奴もいたもんだな」


小野寺「うん、私の恩人で、今でも一番の友達だよ」


小野寺「……あの時殺しとけばよかった、って、時々思ったりもするけど」エヘヘ


集「また、そんな冗談……」


小野寺「……」


集「……」


小野寺「……」


集「……で、で、でも正直ほんとにびっくりしたよ!! 小野寺、昔とだいぶイメージ変わったよなっ!!!」


小野寺「ふふ、ありがと。舞子君も、ちょっと大人っぽくなって、ステキになったよ」ニコ


集「」ドキッ


小野寺「わ、赤くなって。うぶなんだー」ツンツン


集(何か悔しい)





407 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:16:39.02SJdQJekm0 (23/65)



小野寺「……それで、今日はどうしたの?」


小野寺「何の目的もなく、わざわざ帰郷してきた、ってワケじゃあないんでしょ?」


集「……」


集「俺は、あの時の皆を……」


小野寺「……」ジッ


集「……」


集「……やっぱ、わかる?」


小野寺「……うん」


小野寺「ちゃんと、お話しして?」ニコッ


集「……」


集「……俺は」


集「楽を、捜してる」


小野寺「そうなんだ」


小野寺「惜しかったねー。30分くらい前に来てたよ」


集「」ブッ


集「……なんで?」


小野寺「なんでって……常連だから」


集「」ブフウッ




408 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:17:39.66SJdQJekm0 (24/65)



集「だ、だってアイツ、この街から出て行ったんじゃ」


小野寺「何ぁに言ってんの」ケラケラ


小野寺「凡矢理市随一の指定暴力団”集英組”の若き組長、実力派の先代を後見人に持ち」


小野寺「海外の組織にもぶっといパイプを張ってる極道界隈の超大型ルーキー」


小野寺「一条楽の名前ぐらい、凡矢理市民なら幼稚園児でも知ってるよ?」


小野寺「舞子君も、その筋から情報辿ってたら、すぐにでも見つけられただろうにね。残念残念」


集「……なんで、そんな」


集「だって、アイツは……」


小野寺「……言ったでしょ。色々あったの」


小野寺「私にも、一条君にも、みんなにも、ね」


集「……」


小野寺「見てたんでしょ、さっきのクソババアの末路」


集「……まさか、あれって」


小野寺「そ。集英組の人達だよ」


小野寺「警察じゃ捕まえてくれないような悪い人を、この街から締め出すために、色々やってくれているの」


小野寺「……”色々”の内容は、私にもよく、わからないんだけどね?」




409 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:18:56.86SJdQJekm0 (25/65)


集「……大丈夫なのかよ、それ」


小野寺「私には、わからないよ」


小野寺「だってあの人達は、”お店とは関係ない人達”だから」


集「……小野寺、お前」


小野寺「……分かるかな、舞子君」


小野寺「今の一条君は、そういうお仕事をする組織の、一番偉い人になってるの」


小野寺「私はそんな一条君を受け入れて、同じ目線の世界に落ちたから、今でも一条君と仲良くしてる」


小野寺「……つまんない感傷で、もう一度会いたい、なんて思ってるだけなら、このまま帰ったほうがいいと思うよ?」ニコニコ


集「……」


集「……俺は」


小野寺「……うん」


集「……それでも、楽に」


集「楽に、会わなきゃいけないんだ」


集「謝らなきゃ……俺っ……!!」


小野寺「……」ハァ




410 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:19:49.30SJdQJekm0 (26/65)



小野寺「……この時間なら、組の奥の間にいると思うよ」


小野寺「手土産に、うちのおはぎでもどう? 大丈夫、ゴキブリなんて入ってないから」ニコッ


集「……頼むよ」


小野寺「まいどありぃ♪」


集「……」ハァ


集「……あれ、そういえば小野寺」


小野寺「ふんふ~ん♪ ……なあに?」


集「……例の鍵」


集「首に提げるの、やめたんだな」


小野寺「……舞子君、デリカシーないなぁ」ブゥ


集「え……? だって小野寺、今でも楽と」


小野寺「……一条君に会えば、全部わかるよ」


小野寺「きっと……ね」




411 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:20:29.53SJdQJekm0 (27/65)



~ 集英組 奥の間 ~


集「……」


集(この奥に、楽が……)


チンピラ1「……楽様がお許しになったからご案内しやしたが」


チンピラ1「楽様の一のご学友でありながら、楽様が一番辛い時に手を差し伸べなかったアンタに、腹ぁ立てとる旧い衆も居やす」


チンピラ1「……あるいは、楽様も、同じ思いかも知れやせん」


集「……分かっている、つもりです」


チンピラ1「でしょうな……そうでもなけりゃ今更、のうのうとこんな所に顔出そうたぁ思わんでしょう」


チンピラ1「俺ぁアンタの男気、買いやすよ。……せいぜい、お気をつけて」


集「……はい」


ガラガラガラ


チンピラ1「……お連れしやした」


楽「おう、入りなよ」


集「……」





412 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:21:10.43SJdQJekm0 (28/65)


集「あ……」


集「ああ……」


楽「久しぶりだな、集」


集「……っ、うう」


楽「……どうした?」


集「……っ」


集「楽ッ!!」ダダダッ


楽「あっ、おい止せ待てッ!!」



       ダダダダダッ バッ シュタッ ズダーン!!



集「げふっ!?」


???「……動くな」


楽「……あーもー」


楽「筋モンの家ん中、しかも奥の間に来て急に走るなよ……撃たれても文句言えねーぞ……」


集「がっ、ふっ、痛いっ、いっ、痛たたたたたたっ!!」


楽「……つぐみも、もう離してやれよ。動きと持ちモンで、害意なんざ無ぇって分かってたんだろ?」


つぐみ「……」ギュウウウウウ


集「あででででででででッ!!」




413 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:22:12.00SJdQJekm0 (29/65)



楽「……つぐみ!!」


つぐみ「……わかった」パッ


集「づうっ……ふう、ふうっ……」


楽「何もそんな、意地悪してやらんでもいいだろうに」


つぐみ「……楽は、脇と性根が甘すぎるんだ」フキフキ


つぐみ「私が過敏に反応するくらいでなくては、バランスが取れん」フキフキ


楽「……そっか。ありがとな」


楽「でも俺は、ほんとに集の事なんて、恨んじゃ……わぶっ」ムギュ


集「……ッ」ギュッ


つぐみ「……やれやれ」ムスッ


楽「ちょ、おい、集っ……」


集「……楽」


集「楽っ……」


集「ごめん」グスッ


集「今まで、ごべんなっ……!!」


楽「……」


楽「……いいってことよ」ポン ポン





414 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:23:02.08SJdQJekm0 (30/65)


~ 集英組 応接室 ~


チンピラ1「……舞子様がお持ちくださった、”おのでら”のおはぎです」スッ


楽「おう、サンキュな」


つぐみ「……”Dear 一条君 いっぱい食べてね♪”とか彫りこまれた、ハート型のおはぎは混じっていなかったか」


集「」ブフォ


楽「……やんわり文句言っといたから大丈夫だよ。家庭が荒れるから勘弁してくれとも」


つぐみ「どうだか……」


楽「……いや、本当に荒れるだろ」


つぐみ「……」


楽「……お前が一番だよ、つぐみ」


つぐみ「……」カァァァ


集「……どういう経緯を辿れば、こんな結末に辿り着くんだよ……」


楽「……まあ、その、色々あってな」ハハ


楽「つぐみはビーハイブを足抜けして、今は俺の嫁、兼ボディーガード、ってトコなんだ」


集「……そっか、ビーハイブを足抜けして……」


集「……え?」





415 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:23:59.18SJdQJekm0 (31/65)


つぐみ「……何だ」ギロッ


集「ひっ」ビクッ


楽「どうどう、どうどう」ナデナデ


つぐみ「……」ギュッ


集「……は、ははは……」


楽「……色々あって、小野寺とつぐみが……」


つぐみ「……」シュン


楽「……つぐみと小野寺が」


つぐみ「……」カァァァ


集「……」


楽「……つぐみと小野寺が、俺の事を奪い合うみたいな話になっちまってな」


楽「つぐみはすっかりデレデレだし、小野寺は結婚式にも来てくれたのに、未だに時々俺の貞操狙ってるし」


楽「ホント、参っちまうよ」ハハハ


集「……そんな楽しそうな顔で、言うセリフじゃないだろ」フフ


楽「……そうかもな」フフ



416 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:25:05.70SJdQJekm0 (32/65)



つぐみ「……そうだ、楽。せっかくだから千棘にも連絡してやろう」


集「」


楽「おう、そうだな。今は日本に戻ってるんだっけ?」


つぐみ「ああ。今朝方、例の総本部に着いたとメールが来ていた。良ければこのまま繋ぐが?」


楽「ああ。プロジェクターに回してくれ」


つぐみ「分かった」ピピッ


集「……えっ、と?」


楽「……つぐみがビーハイブを抜けて、二人はようやく対等の友達になれた、んだと」


楽「お互い仕事があるから、なかなか会う事はできねーけど、時々テレビ電話とかで連絡取り合ってんだ」


集「……へえ……」



  プププッ プププッ プッ



つぐみ「……繋がったぞ」


楽「おう、サンキュ。久しぶりだな、千棘」


千棘『よっすー。あっ、ほんとだ舞子君じゃない!! ねえねえ、ポーラ、るり、こっち来なさいよ!!』


集「」


ポーラ『御意』シュタッ


るり『少々お待ちを……あ、舞子君。お久しぶり』ヒラヒラ




417 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:26:16.88SJdQJekm0 (33/65)



集「……」アゼン


つぐみ「……アホ面を晒してばかりだな。大丈夫か」


集「……ん、まあ、一応……」


楽「……つぐみが抜けた後、千棘の護衛にはポーラが付く事になった」


楽「るりちゃんは、とある事件がきっかけで、この世界に足を踏み入れることになってさ。ビーハイブで翻訳と、経理の仕事やってる」


楽「俺が集英組を継ぐって決めたのも、そん時の話で」


集「……うん」


楽「……同じ時に、とある新興宗教を暴力で乗っ取った千棘は、今は教祖様兼ビーハイブのボスやってる」


集「……あっ、そう……」


千棘『教祖役、未だに慣れないのよね……アメリカでドンパチやってる方がよっぽど気楽だわ……』


ポーラ『”テン・パンチ”傘下の孤児院を慰問されているときの千棘様は、とても良い顔をなさっています』


ポーラ『自身の優しさ、柔らかさを悪し様に否定して見せる癖は、なかなか改善なされませんようでっ』ヒュンッ


千棘『……アンタの余計なクチを聞くクセも、なかなか直んないみたいだけどね……』イライラ


ポーラ『これは差出がましい真似を。失礼致しました……』シュッ シュタッ


千棘『このっ、このっ』ブオン フォン


るり『……旦那様、旦那様ー。千棘様がまた暴走を……』




418 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:27:19.90SJdQJekm0 (34/65)



集「……旦那様、って、桐崎の親父さん?」


楽「……いや」


???『お止めなさい、ハニー。ポーラには特殊な訓練をさせてはいるが、私より丈夫だと思わないほうがいい』


千棘『……分かってるわよ、ダーリン。ちゃんと加減して鎖骨折る』


クロード『ああ。それでこそ私のハニーだ』チュッ


千棘『ありがと、ダーリン』チュッ


集「」


つぐみ「……本当に大丈夫か?」


集「……自信無くなってきた」


楽「……千棘は事件の後少しして、クロードと付き合い出して、結婚したんだ」


楽「お互いの組織にニセコイの話はバレてたし、それでも俺と千棘は良い友達でいたから、大した問題も起きなかったんだよな」


楽「だから、つぐみをすんなり集英組に招き入れることもできたし、こうして結ばれることもできた」


つぐみ「……」


クロード『ごきげんよう、楽殿、つぐみ様』


つぐみ「……ごきげんよう、千棘、クロード様……」


楽「……」


クロード『……』




419 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:28:02.93SJdQJekm0 (35/65)



千棘『……ダーリン、いい加減その芝居やめなさいよ』


千棘『アンタだって本当は、つぐみともっと話したいんでしょ?』


クロード『ははっ、他所の奥方と話したいなどと、無粋な趣味は私にないよハニー。第一私は集英組と』


千棘『マジ殴るわよ』


クロード『……』


つぐみ「……クロード、様」


クロード『……楽殿』


楽「……どうぞ」


つぐみ「……」


クロード『……』スウッ


クロード『……せ』


クロード『……いや、つぐみ』


つぐみ「……はい」


クロード『……その』


クロード『……幸せそうで、何よりだ』フイ


つぐみ「っ……!!」


つぐみ「……ありがとう、ございますっ……!!」ウルッ


千棘『……』ヤレヤレ


ポーラ『……』ニヤニヤ


るり『……』ニコニコ




420 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:29:03.98SJdQJekm0 (36/65)



クロード『……部屋に戻る。失礼するよ、ハニー』ズイズイズイズイ


千棘『あっ、ちょっと、待ちなさいよ、ダーリンっ……!!』ダダダダッ


ポーラ『……あーあー』ニヤニヤ


るり『……ごめんね、一条君、うちのボスがあんな感じだから、また掛け直すわ』


楽「いや、大丈夫だよ。また今度、落ち着いたらでいいさ」


るり『うん。小咲は元気?』


楽「……相変わらずだよ」


るり『……なら、安心ね』


楽「ああ……でも、アメリカ戻る前に、こっち寄るんだろ?」


るり『多分ね。千棘様も、楽しみにしてるみたいだし』


楽「了解。待ってるよ」


るり『ええ、それじゃあ、ね』  プツッ


楽「ふぅ……」


集「……皆、変わったな」


楽「……そうでもあるし、そうでもない、かな」


楽「俺も、千棘も、結局のところ、社会に弓引く厄介者、って事実自体は、なんにも変わっちゃいないんだ」


楽「……小野寺のトコに寄ったなら、あのオバサンがさらわれてくトコも、見てたんじゃねーのか?」


集「……ああ。あの人って……」


楽「……」


集「……いや、やっぱいい」


楽「ん。そうしとけ」




421 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:29:38.61SJdQJekm0 (37/65)


集「……」


楽「お前がどう思うかは知らないし、世間様に言わせれば、とんでもない悪党集団、ってトコなんだろうが」


楽「俺はこの道に入ったこと、後悔してないし、これからも突き進んでいくつもりだ」


楽「……あれだけヤクザの仕事と生まれを否定してた俺が、そんな風になっちまったんだ。笑えるだろ?」


楽「おかしいと思うだろ?」


楽「変わっちまったと、思うだろ?」


楽「……それでも俺が、俺達が、あの頃と同じように、笑い合えてるように見える、って言うなら」


楽「それはきっと、俺の周りのみんなが、そうあるように力を尽くしてくれているってだけだよ」


楽「……だから集、お前は……」


集「……今更寒いこと、言わせんなよ」


集「俺は」


集「どんな事があったって、ずっとずっと」


集「絶対に、お前の味方だよ」








楽「……ありがとな、集」






422 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:30:35.55SJdQJekm0 (38/65)



~ 元”テンパンチ・プロジェクト”総本山 本館四階”姉の間”前廊下 ~


ズイ ズイ ズイ ズイ


千棘「はっ、はっ、はっ……もう、ダーリン、そんなに恥ずかしがらなくってもいいじゃない」


クロード「……ああ言う事は、困ります。またポーラが調子付く……」


千棘「あー、まあ、うーん……」


千棘「でもあの子だって、ダーリンにとっては可愛い娘でしょ? ちょっとは可愛がってあげなさいよ」


クロード「……甘やかさない愛と言うのもあるのですよ、ハニー」


千棘「私はそういうの、きらーい。いっぱい甘やかしてよね、ダーリン♪」ムギュ


クロード「……」


クロード「……未練ですか、ハニー」


千棘「……」


千棘「……そんなんじゃ、ない、けど……」


千棘「……」


クロード「……」


千棘「……今日はいっぱい、優しくして……?」


クロード「……ええ、喜んで」ギュッ




423 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:31:24.41SJdQJekm0 (39/65)



~ 夕刻 集英組 裏口 ~


楽「夕飯くらい、食って行ってくれてもいいのに。つぐみの飯、美味いんだぜ?」


集「今日は遠慮しとくよ。この何年か、実家にも顔見せてないからさ」


楽「親孝行か。俺もちっとは考えないとな」ハハハ


集「……」


集「……そう言えば、羽先生は?」


楽「……俺も、あの頃から会ってない」


楽「焼豚会自体は元気に活動してるみたいだし、時々ビーハイブやウチを助けてくれたりもするけど、本人とは話もしてないよ」


楽「……羽姉なりの、ケジメなんだと思ってる」


集「……」


楽「……」


集「……あの、さ」


楽「……おう」




424 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:32:17.29SJdQJekm0 (40/65)








集「俺」







集「お前に、伝えなきゃいけない事があるんだ」









425 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:32:57.46SJdQJekm0 (41/65)



~ 深夜 集英組 一条楽 寝室  ~



楽「……起きてるか?」


つぐみ「……寝ていたとしても」


つぐみ「お前に名前を呼ばれれば、すぐに覚めてしまうよ」ムギュ


楽「ばっ、かでー」ツン


つぐみ「……私は、本気だ」プイ


楽「……知ってるよ」


つぐみ「……ばか」


楽「?」


つぐみ「何でもない!」






426 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:33:31.53SJdQJekm0 (42/65)




楽「……友達ってのは、いいモンだな」


つぐみ「舞子集の事か?」


つぐみ「……あいつは、特別だぞ」


楽「……分かってるよ」


楽「小野寺も、宮本も、お前にとってのポーラも、きっと」


楽「世界に二人といない、得難い友達だよ」


つぐみ「……私は?」ブゥ


楽「最愛の人」


つぐみ「~~~♪」





427 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:34:35.71SJdQJekm0 (43/65)



楽「……初めての夜の事、覚えてるか?」


つぐみ「もう忘れろ」


楽「鬼気迫る表情の、裸のつぐみに抱きつかれて、丸々一晩拘束された状態で朝を迎えたっけな」


つぐみ「思い出すんじゃない」


楽「その後こっそり小野寺んトコ行って、二人で雑誌読みながら手技手管を練習したとか」


つぐみ「貴様それをどこから!!」


楽「小野寺にこっそり怒られた。ちゃんとリードしてあげなさいってさ」


つぐみ「……~~~~~~~~ッ!!!!!!」ジタバタジタバタ


楽「……その頃じゃなかったっけか」


楽「お前が、小野寺の鍵を持ち歩くようになったのって」


つぐみ「……そうだよ」


   ガサガサ

              チャリッ


つぐみ「……内緒話の記念品として、奴が私にくれたんだ」


つぐみ「”これでコンプリートだね、つぐみちゃん!!”だと。……そういうゲームの類だったか? この鍵は……」


楽「……いや、多分違うと思うんだが」ポリポリ


つぐみ「だよな」ハハハ


つぐみ「……話はこれで終わりだ」


つぐみ「もう二度と、私の前であの時の話をするんじゃない」


楽「……俺にとっては、大事な思い出なんだけどな」


つぐみ「……」


つぐみ「……いい」


楽「……?」


つぐみ「……たまになら、いい!!」プイ


楽「……はは、は……」





428 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:36:06.13SJdQJekm0 (44/65)




つぐみ「……楽」


楽「……おう」


つぐみ「言いづらい事があるんだろう」


楽「……お見通しか」ポリポリ


つぐみ「わかるよ」フフ


楽「……」


楽「つぐみ」


つぐみ「……はい」


楽「明日、ちょっと、付き合ってくれないか」


つぐみ「……もちろん、構わんが……?」


楽「……」ゴロン


つぐみ「……?」


楽「……俺も」


楽「ちゃんとケジメ、つけようと思ってさ」


つぐみ「……」





429 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:36:53.74SJdQJekm0 (45/65)



~ 翌日 九州地方 某県某所 小高い丘の近く ~


楽「……」ザッ ザッ ザッ


つぐみ「……」ザッ ザッ ザッ


楽「……」ザッ ザッ ザッ


つぐみ「……」ザッ ザッ ザッ



楽「……」ザッ ザッ ザッ


つぐみ「……」ザッ ザッ ザッ




  ザッ ザッ ザッ    ザッ





???「……」ギロッ





430 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:38:50.50SJdQJekm0 (46/65)




楽「……お久しぶりです」


???「おおちゃっか口、聞きようてからに……ッ!!!」ブオン ガスッ


楽「ぐ……ッ」ヨロッ


つぐみ「楽っ!」ダダダッ


楽「止めろッ!!!」


つぐみ「!!」


???「……がめんちょろが」


???「泣き言吐いて、女にねんかかる位しちょうば、余程可愛げもあるけんに」


楽「……俺も、いつまでもガキじゃいられないんです」


楽「いつまでも、だらしない姿は、晒しちゃいられないんですよ……」ヨロッ


楽「橘の、親父さん……!!」


つぐみ「……」


万里花の父「……ちっ」


万里花の父「付いて来い」クルッ ズイ ズイ


楽「……もう、いいんですか」


万里花の父「オレも歳を取ったからな。殴りすぎると、こっちが疲れる」ヒラヒラ


万里花の父「それに、渡世の義理は一発限り」


万里花の父「これ以上殴ったら、君の嫁に殺されてしまうよ」


楽「……ありがとう、ございます」


万里花の父「……分かったなら、来い」ズイ ズイ


つぐみ「……」





つぐみ(橘、万里花……)






431 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:40:07.18SJdQJekm0 (47/65)




~ 某県某市 丘の上緑地霊園 橘家墓前 ~






       『橘家之墓』







万里花の父「……」ボシュッ スッ


楽「……」


つぐみ「……」


万里花の父「……君も、供えてやってくれ」スッ


楽「……いいんですか、俺」


万里花の父「マリーは、喜ぶ」グイッ


楽「……ありがとう、ございます」







 ボシュッ      スッ






432 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:41:03.03SJdQJekm0 (48/65)




万里花の父「……最期まで、健気な子だったよ」


万里花の父「何度君を呼びつけて、励ましてやろうと思ったことか」


楽「……」


万里花の父「だが」


万里花の父「マリー自身が、それを許さなかった」


万里花の父「”楽様の重荷になりたくなくて、嘘までついてお別れしたんです”」


万里花の父「”お願いします、お願いだから、楽様にだけは、報せないで下さい……”」


万里花の父「……そればっかりでね」


楽「……すみません、本当に」


万里花の父「……いいんだ。分かっている」


万里花の父「……マリーがいかに君を愛したとして、君にそれに応える義務はないし」


万里花の父「君がマリーの死を背負って、これからの人生を、暗く沈んだ思いで生きる義務もない」


楽「……」


万里花の父「……やけん」


万里花の父「……マリーの父親としち」


万里花の父「きさんば、許せん、一条の……っ!!」


楽「……」


楽「……すみません」


万里花の父「ぐっ、うっ、うううッ………!!!!」


万里花の父「マリー……」


万里花の父「……マリーっ……!!」





433 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:43:03.77SJdQJekm0 (49/65)



万里花の父「……取り乱して、済まなかった」


楽「……大丈夫、です」


つぐみ「……」


万里花の父「……鶫誠士郎さん、だね」


つぐみ「……今は、一条つぐみと名乗っております」


つぐみ「当時は、ビーハイブの一人娘の護衛を兼ね、クラスメイトとして同じ学校に通っていました」


つぐみ「万里花さんとも……仲良くさせて、いただいていました」


万里花の父「……マリーから、君の話もよく聞いたよ」


つぐみ「私の……?」


万里花の父「大切なものを君に託したと、楽しそうに話していたよ」


万里花の父「君に後を任せたから、安心して逝けると」


つぐみ「……」


万里花の父「……他の女を連れてきていたら、殺してやろうと思っていたんだがね」


万里花の父「君と結ばれたと言うならば、マリーも喜んでくれることだろう」


万里花の父「……どれ、君も……」


つぐみ「……私は、こちらを供えさせてください」






            カチャン  チャリン





楽「……」





434 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:44:01.33SJdQJekm0 (50/65)



万里花の父「……その鍵は」


つぐみ「全部で4つあります」


つぐみ「もう私には、必要のないものですから」


つぐみ「……本当に似合う持ち主に、お返しします」


万里花の父「……好きに供えてくれ」


つぐみ「ありがとうございます。それと……これを」ゴソゴソ


万里花の父「……これは……」


つぐみ「このようなモノ、不謹慎かとも思うのですが……」


万里花の父「……構わんよ」


万里花の父「その代わり、と言っては何だが、できればオレにも、一枚くれないか」


万里花の父「マリーたっての希望でな。マリーに関する写真や思い出の品は、全部燃やしてしまったんだ」


つぐみ「……喜んで、お譲りします」


万里花の父「……ありがとう」







  ペタ  ペタ


楽「……それ、何時の間に」


つぐみ「……そう言えば、話した事がなかったか」


つぐみ「これはな……」






435 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:45:13.10SJdQJekm0 (51/65)



~ 数年前 駅前デパート 9階 アミューズメントフロア プリクラ筐体 書き込み用スペース内 ~



千棘「ふんぎぎぎぎぎ……」グイグイグイグイ


万里花「くぬぬぬぬぬぬ……」グリグリグリグリ


小野寺「ああ、もう、もー!!」オタオタワタワタ


つぐみ「……」


つぐみ「……」





つぐみ「……」カキカキ





千棘「……っぶ、あっ、つぐみ、ちょっとあんた勝手に何書いて、っ……」


小野寺「……なんだか、しんみりしちゃうね、こういうの」


つぐみ「い……っ、けませんでしたかっ! すみませんすみませんっ」


つぐみ「ただその、十年前に出会った我々が、こうしてまた集まって得られた日常の尊さと言うかですね、そのっ……」


つぐみ「……すみません……」





436 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:46:16.35SJdQJekm0 (52/65)



万里花「……良いんじゃありませんの、こういうのも」


千棘「……そう、ね。まあ、これなら許す、かな?」


小野寺「うふふ、私もいいと思うよ。流石だね、つぐみちゃん♪」


つぐみ「あっ、その、えーと……」テレテレ


千棘「……と言うワケで、あと35秒、私の筆が光って唸るわよッ!!」ガリガリガリガリ


万里花「また貴女はそうやって!! 今度こそこの地上から消し去りますわよ」ケシケシケシケシ


小野寺「もうっ、せっかくいい話で終わりそうだったのに、二人ともッ!!」


二人『黙れよ花びらライン』


小野寺「んもーっ!!!」


つぐみ「……」


つぐみ「……」ニコ




437 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:46:52.40SJdQJekm0 (53/65)









    


             『十年後も、きっと一緒に』











438 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:47:31.47SJdQJekm0 (54/65)



~ 現在 某県某市 丘の上緑地霊園 出口 ~


楽「……」


つぐみ「……」


楽「……橘の事、知ってたのか?」


つぐみ「……薄々な」


つぐみ「そうでなければあの鍵を他人に、ましてや私になど渡そうとは、思わんだろうよ」


楽「……そう、か」


つぐみ「ああ」


楽「……」


つぐみ「……」


つぐみ「……お前はどうなんだ、楽」


楽「……」


楽「……確信は無かったよ」


つぐみ「……」




439 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:48:30.21SJdQJekm0 (55/65)



楽「橘が無尽蔵に、俺の事をずっと好きって、愛してるって、叫び続けてくれていたから」


楽「きっとこいつは永遠に、俺の事を好きでいてくれるんだろうな、なんて想像して、嬉しさと恐ろしさを同時に感じたこともあって」


楽「橘の事を一方的に突き放して、その結果、橘がいなくなった事に、安心感を感じてみたり、喪失感を感じてみたり」


楽「……勝手な話だよな、ホント」


楽「……だけど」


楽「そのおかげで、分かった事もあって」


楽「……俺は結局、鍵の約束をした女の子に憧れていて、それでも当時は小野寺の事が大好きで」


楽「だけどニセの恋人ができて、ニセの婚約者ができて、年上の同居人ができて、とか」


楽「周りに振り回されるばっかりで、自分から本当のコイに向かって、踏み出そうとしてなかった」


楽「……もっと早く気づいてれば、橘にコイをして、結ばれる未来もあったかも知れないのに」


つぐみ「……後悔、しているのか?」


楽「……かもな」


つぐみ「……」




440 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:49:04.22SJdQJekm0 (56/65)




楽「だけど」ギュッ


つぐみ「!」


楽「……今、ここでお前とこうしている未来は、間違いなく俺自身で選んだモンだ」


楽「お前と向き合って、共に歩める幸せを捨てて、後戻りしたいなんて絶対に思えない」


つぐみ「……楽」


楽「……愛してるよ、つぐみ」


楽「まだまだ未熟で、優柔不断な俺だけど」


楽「これからの未来を、横で一緒に選び続けてくれれば、嬉しい」





441 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:49:36.66SJdQJekm0 (57/65)



つぐみ「……馬鹿なことを」プイッ


楽「……つぐみ」


つぐみ「私は、鈍感ではあるが、馬鹿じゃあないんだ」


つぐみ「……貴様が行き場をなくした私を案じて、わざわざ集英組を継いだことも」


つぐみ「殺し屋としての私を否定しないように、わざわざ悪ぶって組に汚い仕事をさせてみたり」


つぐみ「私が橘万里花に罪悪感を抱かないように、下手な気を回して歯の浮くようなセリフを並べ立ててみたりしていることも、分かっている」


つぐみ「それで横に並べだと? 一緒に選び続けろ、だと!?」


つぐみ「そんな関係の、どこが対等だ」


つぐみ「……私が結局、お前に、支えられ続けている、だけじゃないかっ……」


楽「……つぐみ、俺は」


つぐみ「……知らん」


楽「つぐみ!!」





442 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:51:02.53SJdQJekm0 (58/65)



つぐみ「……」


楽「……つぐみ、俺は」


つぐみ「……ごたくはいい。今ここで約束しろ、楽」














つぐみ「二人のニセコイ」





つぐみ「今日この場で、終わらせることを」











443 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:52:08.38SJdQJekm0 (59/65)




楽「……」


つぐみ「私を本当のパートナーにしたいなら、もっと本音をぶつけて来い」


つぐみ「でなければ本当の意味で、私はお前を、お前は私を、愛せない……」ギュッ


楽「……つぐみ」ムギュ


つぐみ「……顔は見ずにおいてやる」


つぐみ「……他の女の事を想っても、今だけは許してやる」


楽「……」


つぐみ「……橘万里花のために、泣いてやれ」


楽「……」


楽「……ぐっ」


楽「ううっ、うっ、ううっ」


楽「……うわああああああっ…………!!」


つぐみ「……」ナデナデ





444 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:53:09.71SJdQJekm0 (60/65)


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 


つぐみ「……そうだ、楽」


楽「うん?」


つぐみ「例のペンダントはどうした」


楽「……一応、今もぶら下げてるけど。捨てたほうがいいか」


つぐみ「馬鹿を言え。それもまた、私達の大事な思い出の品だろうが」


楽「そりゃ……でも、鍵は全部、橘にやっちまったし、今更思い出の女の子が分かったって……」


つぐみ「……その事なんだが、一つ閃いたことがあってな」


つぐみ「そのペンダント、貸してくれないか」


楽「いいけど……」スッ


つぐみ「……あと、お前がいつも付けてる、そのクロスヘアピンも」


楽「……?」ゴソゴソ


楽「ほい。……で、どうすんだ?」


つぐみ「まあ、見ていろ」



445 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:53:54.37SJdQJekm0 (61/65)




   カチャ カチャカチャ  カチャ



      クイッ   カチャカチャ



          カチン



つぐみ「……よし」


楽「……なるほど」


つぐみ「……そう言う事だ」


つぐみ「当時の私にも、この程度の鍵開けは造作も無くできた」


つぐみ「つまりは、私そのものが一つの鍵。最初から、私に鍵は、必要なかったんだ」


楽「……で、他の4本の鍵で、ペンダントが開けられなかったってことは……」


つぐみ「……さすがに、そこまで決め付けられはしないだろうが」


つぐみ「予期しない故障のせい、鍵の取り違えなども、あったかも知れないし、な」




446 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:54:38.52SJdQJekm0 (62/65)




楽「……開いてるのか、これ」


つぐみ「手応えはあった。もしかしたら、開くかもしれない」


楽「……」


つぐみ「……開けずに、しまっておくか?」


楽「……いや、開けてみよう」


楽「中から何が出てきたとしても」


楽「俺は、今の選択を、後悔したりはしないから」


つぐみ「……そう、か」


楽「……つぐみ」


つぐみ「……言うな」


つぐみ「……分かってるから」カァァ


楽「……」フフ





447 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:55:15.63SJdQJekm0 (63/65)










つぐみ「それじゃ、開けるぞ……」











448 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 00:55:42.03SJdQJekm0 (64/65)











              ~ おしまい ~










449 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 01:14:28.04SJdQJekm0 (65/65)


書き直し、方針転換、内容の増加、私事多忙等あり、3ヶ月もかかってしまいました。
毎回待っていただいていた方には、お詫び申し上げるほかありません。
そして、本当にありがとうございます。

今後の予定ですが……
容量の問題があるので、このまま続けるか、別のスレに移すかは分かりませんが
近いうちに本編の別視点的な話を一つ書いて、完結とする予定です。
本編の矛盾点や謎がいくつかスッキリするはずなのですが、全体的に閲覧注意の内容となるため
そして本編自体がクソ長いため、ここまでで読み終えて頂くのもアリかと思います。

ここまでの間、お付き合いいただき、ありがとうございました。




450以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/12(月) 06:00:41.80p+uM2ufgo (1/1)


別視点も楽しみにしてる


451 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 07:54:23.03qaT4Rdla0 (1/1)

検討した結果、別スレを立てる事にしましたので、このスレは一旦締めさせて頂きます。

>>450
ありがとうございます。
本編開始前の万里花からを軸に、さまざまな視点から今回の結末まで進む予定です。


いくつか突っ込まれそうな所にも触れておきます。

>>万里花
自分も辛かったですが、つぐみと楽の話を書く中で、他にやり方を思いつきませんでした。
万里花にとって、楽が生きる全てである以上
楽と結ばれない万里花は、死ぬしかないと思います。

>>竜、本田さん、右助ほか脇役について
名前のあるキャラを出せば出しただけ、その人についての描写が増えてしまうのと
ニセコイ自体をあまり知らない方がワケわからん状態になってしまうので
特に必要のある場合を除いて、わざと居ないことにして話を進めています。
合わせて、名前の分かっているキャラでも
分かりやすいように役割で(アーデルト=千棘の父、等)表記することがあります。
ご了承下さい。

その他細かいことは、全て書き終わった後でお話ししようと思います。


452 ◆LeBgafvn/62015/10/12(月) 07:56:43.29CCBbzVRY0 (1/1)

最後に改めて、他作品について紹介させて下さい。
お時間のあるときにでも、ご覧になって頂ければ幸いです。


万里花「所詮はニセコイ」・
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1402231432/


オリジナル

男「俺のT○SOウッディ28Bキャップを挿入してやるぜ」・
http://morikinoko.com/archives/51954659.html
男「ここがカーテンチ○ポレールバトルロワイヤル世界大会会場か」・
http://morikinoko.com/archives/51964318.html


それでは、一旦失礼致します。



453以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/12(月) 11:57:39.24d7svH0ECo (1/1)




454以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/11/16(月) 02:18:21.036p0sdn5AO (1/1)