1以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/04/04(土) 01:03:36.02zZ70eiqY0 (1/3)

 それは、なんでもないようなとある日のこと。


 その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
 時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

 それと同じ日に、宇宙から地球を侵略すべく異星人がやってきました。
 地球を守るべくやってきた宇宙の平和を守る異星人もやってきました。

 異世界から選ばれし戦士を求める使者がやってきました。
 悪のカリスマが世界征服をたくらみました。
 突然超能力に目覚めた人々が現れました。
 未来から過去を変えるためにやってきた戦士がいました。
 他にも隕石が降ってきたり、先祖から伝えられてきた業を目覚めさせた人がいたり。

 それから、それから――
  たくさんのヒーローと侵略者と、それに巻き込まれる人が現れました。

 その日から、ヒーローと侵略者と、正義の味方と悪者と。
 戦ったり、戦わなかったり、協力したり、足を引っ張ったり。

 ヒーローと侵略者がたくさんいる世界が普通になりました。

part1
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371380011/


part2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371988572/


part3
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1372607434/


part4
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373517140/


part5
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1374845516/


part6
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376708094/


part7
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379829326/


part8
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1384767152/


paer9
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1391265027/


part10
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1399560633/

paet11
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1408673581/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1428077015



2以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/04/04(土) 01:05:01.52zZ70eiqY0 (2/3)

・「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドスレです。

  ・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。
  ・一発ネタからシリアス長編までご自由にどうぞ。


・アイドルが宇宙人や人外の設定の場合もありますが、それは作者次第。


・投下したい人は捨てトリップでも構わないのでトリップ推奨。

  ・投下したいアイドルがいる場合、トリップ付きで誰を書くか宣言をしてください。
  ・予約時に @予約 トリップ にすると検索時に分かりやすい。
  ・宣言後、1週間以内に投下推奨。失踪した場合はまたそのアイドルがフリーになります。
  ・投下終了宣言もお忘れなく。途中で切れる時も言ってくれる嬉しいかなーって!
  ・既に書かれているアイドルを書く場合は予約不要。

・他の作者が書いた設定を引き継いで書くことを推奨。

・アイドルの重複はなし、既に書かれた設定で動かす事自体は可。

・次スレは基本的に>>980
    
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」まとめ@wiki
http://www57.atwiki.jp/mobamasshare/pages/1.html

モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」@wiki掲示板
http://www3.atchs.jp/mobamasshare/


3以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/04/04(土) 01:07:04.20zZ70eiqY0 (3/3)

☆このスレでよく出る共通ワード

『カース』
このスレの共通の雑魚敵。7つの大罪に対応した核を持った不定形の怪物。
自然発生したり、悪魔が使役したりする。

『カースドヒューマン』
カースの核に呪われた人間。対応した大罪によって性格が歪んでいるものもいる。

『七つの大罪の悪魔』
魔界から脱走してきた悪魔たち。
それぞれ対応する罪に関連する固有能力を持つ。『怠惰』『傲慢』は狩られ済み。
初代大罪の悪魔も存在し、強力な力を持つ。


――――

☆現在進行中のイベント

『秋炎絢爛祭』
読書の秋、食欲の秋、スポーツの秋……秋は実りの季節。
学生たちにとっての実りといえば、そう青春!
街を丸ごと巻き込んだ大規模な学園祭、秋炎絢爛祭が華やかに始まった!
……しかし、その絢爛豪華なお祭り騒ぎの裏では謎の影が……?

『オールヒーローズフロンティア(AHF)』
賞金一千万円を賭けて、25人のヒーロー達が激突!
宇宙人も恐竜も海底人も悪魔も未来人も魔法少女も大集合!
賞金を勝ち取るのは……誰だ!


4 ◆cKpnvJgP322015/04/04(土) 15:24:57.22IEMbCevbo (1/1)

>>1おつー

そういえばここも今年で2周年目になるんだよなぁ……(遠い目)


5 ◆q2aLTbrFLA2015/04/10(金) 16:33:07.59adZce2Hz0 (1/1)

>>1おっつおっつ

学園祭も3日目突入かー


6 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 01:40:05.90HEFpIzrTo (1/54)

お久しぶりです。

周子一位おめでとう!
やっぱり白肌美少女は最高です。

さて投下するのですが、今回の話は少しはっちゃけすぎたせいかグロ成分が少し多めだったり、胸糞成分があったり、挙句の果てに少しアイドルに優しくない描写が含まれます。

けっしてアイドルをいじめるのは私の趣味ではないことをここで声を大にして示しておきますが、そんなわけもあり不快に思われる方もいるかもしれません。
そんな方はスクロールバーを一番下まで下げるのをお勧めします。




7 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 01:41:27.93HEFpIzrTo (2/54)

『Девушка Интересно действительно счастлив?』

(少女は果たして、幸せなのだろうか?)

『В судьбе останков смывается』

(流されるままの運命の中で)

『Она также может быть освобожден от рельса, который определяется она』

(彼女が決められたレールから解放されても)

『Его суждено продолжать борьбу до сих пор ли счастливы действительно?』

(未だ戦い続けるその運命が果たして幸せなのか?)

『Это то, что она решила.』

(これは彼女が決めたこと。)

『Я не знаю никого, это то, что право.』

(何が正しいのかは誰にもわからないのだ。)

『При выборе бесконечное Ведь где в конечном итоге просто одной.』

(結局のところ無限の選択肢の中で、たどり着く場所はただ一つ)

『Она сделала бесконечно』

(無限に彼女は―――――――)



 


8 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 01:43:07.69HEFpIzrTo (3/54)



 敵は攻撃の狙いが定まらないように路地裏のビルの壁面を縦横無尽に駆け回る。

 さすがに彼女にはそれを真似できるような身体能力は持ち合わせていないため、敵を視界から逃さぬよう地に足を着け追いかける。

 しかし敵は黒い泥をまき散らしながら急に方向転換。
 泥で形成された鋭い爪状の凶器を振りかざして、少女の方へと向かってきた。

「くっ!」

 間一髪手元のナイフでそれをいなした彼女は半歩後ろに下がり、すぐさま反撃に転ずる。
 だが少女は視界の端に映した脇の路地に潜む黒い泥の姿を捉え、考えを変えた。

「ぐぅ……う!!」

 その黒い泥の塊から射出された硬質化した黒い槍を、彼女は攻撃しようとしていたナイフで強引に上へと逸らした。

 いっぱいいっぱいのその動きは当然隙を生み出す。
 その隙を当然敵は逃さず、先にいなされた黒い爪を次は横に振りないだ。

「ううう……らぁ!!!」

 その横薙ぎに対し少女は宙返りするように足を振り上げる。



9 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 01:43:59.60HEFpIzrTo (4/54)


 その横薙ぎに対し少女は宙返りするように足を振り上げる。

「なっ!?」

 その足は敵の二の腕を捉え、少女を引き裂こうとした爪は見当違いの方向へと逸れてしまった。

 完全に敵の胴はがら空きとなり、着地した少女はその隙だらけの心臓へと、ナイフを突き立てんとする。

「調子に……乗るなよ!」

 だがガチリという衝突音。
 少女の攻撃はその間に乱入してきた泥の槍に防がれてしまった。

 少女は視線をそちらへとちらりと向ければそこには新たな黒い泥の塊。
 しかもそれと同じ塊がこの狭い路地裏の壁面のいたるところにへばりついていた。

「くたばれ!」

 敵の合図とともに、散らばった黒泥から少女を貫かんとすべく一斉に黒い槍が射出される。

「くぅっ……!」

 少女はそれらをよけるべく、地面を蹴り後ろへと飛びのいた。
 だが敵がその様子を不敵に笑っているのを見て、少女は自身の回避が悪手であることに気が付いた。
 下がりゆく身体、その刹那の中で少女はその体勢の中かろうじて首を後ろに向ければ、そこにはひときわ大きい黒い泥の塊が少女に向かってくるのが見える。



10 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 01:44:44.65HEFpIzrTo (5/54)


 気が付いた時にはもう遅い。
 緊急回避であった少女は方向転換することはできない。
 その泥は剣山のごとくの針山を出現させ、少女は慣性に従いその渦中に突っ込んだ。

「ぐ……がぁ!」

 体全体を貫かれ、少女は呻く。
 肺も貫かれているので呼吸すらままならない様子である。

「はっ、手こずらせやがって……。

どこのヒーローだか知らねぇが俺に楯突こうとするからこうなるんだよ」

 敵は勝利を確信したのか、串刺しになった少女に近づいてくる。
 その後を追うように、周囲にいた黒い泥たちも付いてきたようだ。

「まったく正義の味方さまが逆にやられてちゃあざまぁねえぜ。

はっはっは」

 敵は余裕の表情を浮かべながら、憐れなものを見るように少女を笑う。
 その敵の笑いにつられるように周囲の泥たちもクスクスと小さく少女を嘲り笑っていた。



11 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 01:45:23.78HEFpIzrTo (6/54)


「うぐ……ああ!!!」

 だがすでに事切れていたかに見えていた少女は敵の方を睨み付ける。
 そしてその棘の一本を手に取って背負い投げの要領で引っくり返した。

『グエエエッ!!!』

 投げられた黒い泥はうめき声を上げながら、地面にたたきつけられた衝撃によって硬質化した棘が維持できなくなる。
 その隙に自由となった少女は、胴体に穴が開いていることなど構わずに先ほど足元に落としたナイフを拾い上げて、投げた黒い泥を一閃。

 その一振りで核を両断し、黒い泥は塵へと還っていく。

「てめぇ……。

まだくたばってなかったのか」

 もはや勝利を確信していた敵にとって、致命傷を与えたはずの少女が動き出すことは予想外であり、驚きが隠し得ない様子である。
 だがその隙にも周囲の泥たちに能力による指示を出し再び臨戦体制に移行している。

「まだ……死にません。

私、絶対に[ピーーー]ないので」

 少女は不敵に笑い、ナイフを逆手に持ち替え構える。
 先ほど与えた傷もすでに塞がっているようだが、息は先ほど以上に上がっていた。



12>>11saga版 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 01:46:26.38HEFpIzrTo (7/54)


「うぐ……ああ!!!」

 だがすでに事切れていたかに見えていた少女は敵の方を睨み付ける。
 そしてその棘の一本を手に取って背負い投げの要領で引っくり返した。

『グエエエッ!!!』

 投げられた黒い泥はうめき声を上げながら、地面にたたきつけられた衝撃によって硬質化した棘が維持できなくなる。
 その隙に自由となった少女は、胴体に穴が開いていることなど構わずに先ほど足元に落としたナイフを拾い上げて、投げた黒い泥を一閃。

 その一振りで核を両断し、黒い泥は塵へと還っていく。

「てめぇ……。

まだくたばってなかったのか」

 もはや勝利を確信していた敵にとって、致命傷を与えたはずの少女が動き出すことは予想外であり、驚きが隠し得ない様子である。
 だがその隙にも周囲の泥たちに能力による指示を出し再び臨戦体制に移行している。

「まだ……死にません。

私、絶対に死ねないので」

 少女は不敵に笑い、ナイフを逆手に持ち替え構える。
 先ほど与えた傷もすでに塞がっているようだが、息は先ほど以上に上がっていた。



13>>11saga版 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 01:47:34.73HEFpIzrTo (8/54)


「怠惰のカースドヒューマンか?

……いや、同類には見えないな。別の能力か。

……全く生命力がゴキブリみたいだな!!!」

 敵は忌々しそうに叫びながら司令を出すように腕を前に降り出す。
 それを合図に周囲の泥たちが一斉に少女に跳びかかった。

「……ううう、らああああ!!!!!」

 だが少女も泥たちの動きを完全に予測し、ナイフを振るう。
 核を裂き、泥を削り、むき出しとなった核を踏み潰す。

 一瞬のうちにそれを繰り出し、数体の泥たちを刹那のうちに駆逐した。

「行け、ヘルハウンズ!!!」

 だが休む間もなく敵はさらなる配下の泥を繰り出す。
 その姿が鏡写しのような2体の黒い犬は、狭い路地を利用しながら少女へと接近する。

 ビルの壁面を利用し、上下左右三次元的な動きをしながら、すれ違うように少女に攻撃を仕掛けていく。
 猟犬が獲物を追い詰めるがごとくのその動きは、常人では追えぬほどに素早く、鋭い。

『ガアア!!!』



14 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 01:48:30.78HEFpIzrTo (9/54)


「くっ……これは、すこし」

『グオオオオ!!!!』

 その激しい攻撃に少女も防戦一方である。
 動きをどうにか目で追い、攻撃をかろうじてナイフでいなしているようである。
 しかしかなり消耗しているらしく肩で息をしており、限界が近いのが見て取れる。

「どうしたヒーロー少女!?

死ねないとか言っていたが、ずいぶんと苦しそうだな。

だが今楽にしてやるから安心しろ!!!」

 敵は2頭の猟犬によって動けない少女に向けて手を突き立てるように向ける。
 その手に泥がまとわりつき獣の爪に、そしてさらに形を変える。

「これでも死なないなら、次からさらに休む間もなく殺してやるよ」

 腕にまとわりついた黒い泥は一本の鋭い槍となる。
 それはまるで極太の攻城槍であり、それで貫かれればいくら傷を治せる少女でも体組織の大半は吹き飛び、生きてはいられないだろう。



15 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 01:50:51.04HEFpIzrTo (10/54)


「さっさとくたばれやあああああ!!!!」

 その叫びと共に、敵の手から黒い槍が射出される。
 猟犬たちはそれを察知し、少女の周囲から飛び退いた。
 それは一直線に少女の下へと向かっていき、渦巻く黒槍は殺意をもって少女を狙う。
 黒槍の速度はすでに疲弊しきった少女では回避するのは不可能であった。

「そう……ですね」

 だが少女はそれに対するように手のひらを槍に向けて差し出す。
 まるでそれをその手で受け止めようかのごとくだ。

「『聖痕(スティグマ)』解放(ヴィープスカ)」

 敵は眼を疑った。
 先ほどまで肩で息をし、自身の力に及びもしなかった少女が、自身の渾身の力で放った攻撃、それを上回る力によって一瞬でかき消してしまったことを。

 そして瞬時に理解した。
 この力は自身を、カースドヒューマンを、カースを滅ぼす力であることを。



16 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 01:51:46.65HEFpIzrTo (11/54)


 少女から放出されるエネルギーの余波は、この場に滞留していたカースの元となる負の感情エネルギーは離散してしまった。
 濃度の薄いカースであったならばこの余波だけで蒸発していただろう。

『『聖痕』確認。累計予想最大持続時間約3分28秒コンマ33、残り時間に気を付けて戦闘してください』

 無機質な音声が少女の耳に届く。
 少女の来ているコートの襟もとから出ているその無機質な声は特殊な装置によって少女にのみ情報を伝える。

「ハウンズ!!!」

 敵は少女の回復能力の印象さえ忘れてしまうほどの衝撃を受けたが、この場を切り抜けるために意識を強引に切り替える。
 2匹の猟犬を指示を出し、挟撃を命じる。

『グオオオアアア!!!!』

 挟み撃ちで少女を狙う黒い犬。
 だが少女は慌てることなく、ナイフを投擲。

 高濃度の天聖気を含んだナイフは、まるでバターに刺さるように黒犬の片割れの空いた口から突き刺さり、核も一緒に胴体を貫いた。
 その隙に背後からのもう一体が、少女の喉元に食らいつかんとばかりにすぐ後ろまで迫る。

 だが少女は後ろ回し蹴りを犬の横っ面に叩き込み、ビル壁に叩き付けた。



17 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 01:52:43.86HEFpIzrTo (12/54)


『キャイン!!!』

 獰猛な猟犬に似つかないか細い声で鳴きながら、地面にずり落ちる。
 少女は地に伏した猟犬を天聖気を込めた足で容赦なく踏みつけた。

『グ、グガアアア……』

 猟犬を構成していた泥は蒸発していき、跡形もなく消滅した。
 猟犬のいた足元から視線を敵に移し、少女は睨み付ける。

「あとは……あなただけ」

「クソ、ッタレが!!」

 もはや外部からカースを生成することはできない。
 敵に残った手段は自身の中に残ったエネルギーでどうにかこの場を乗り切るだけであった。

 敵は残っている力を放出して、一瞬にして再び大量のカースを生成する。
 さらに腕に泥の爪を出現させ、周囲のカースは自身の体を変形させた槍を一斉に伸ばした。

 少女はビルの壁面を駆けながら、それらを避けていく。
 敵もさらに爪を伸ばして、少女を追い詰めようとするがその機敏な動きを捉えることはできない。

「ウウウウウウウウウウ!!!!!」

 少女は懐から新たなナイフを取り出し、すれ違いざまの一瞬のうちに、カースを、それも核を的確に両断していく。



18 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 01:53:33.25HEFpIzrTo (13/54)


「この……クソ、ガキが!!!」

 敵は爪を振り上げ、目の前まで迫る少女を襲い掛かる。

「ラアアアアアアアアア!!!!!」

 だが少女はその爪が届く前に、敵の腕を切り落とす。
 そして懐まで詰め寄って、その胴体にナイフを深く突き立てた。

「グ……はぁ……」

 突き立てられたナイフは腑を突き、敵は苦悶の吐息を吐く。
 傷口からは血だけではなく、泥たちを構成する負のエネルギーが漏れ出していた。

「あああああああ…………クソ、クソ、クソが……。

こんなところで、俺が終わるのかよ……」

 敵は恨み言でも吐くかのように小さくつぶやく。
 これまで欲望の赴くままに能力を使い悪行を繰り返してきた敵にとっては自らの命が終わろうとしているこの瞬間は信じがたいものであった。



19 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 01:54:29.88HEFpIzrTo (14/54)


 だがふと敵は恨み節をやめニヤリと笑い、少女の瞳を覗き込んだ。

「ほら、俺の核はここ、喉にある。

殺せ、ヒーロー」

 あごを上げて、喉をむき出しに。
 そこには体と一体化した怪しく光るカースの核があった。

「殺さないとか、まだ敵でも死んでいい命なんてないとか甘っちょろい事だけは言うなよ。

地獄でてめえに呪い吐きながら待っててやるんだから、さっさと殺せよ」

 せめて死ぬ間際に、一泡吹かせてやる。
 殺しの世界とは縁遠い日の光だけを浴びてきたであろう少女のヒーローに嫌がらせのように自らの命の重さを背負わせてやるのだと。



20 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 01:55:17.47HEFpIzrTo (15/54)


 だが少女は静かに敵の体からナイフを引き抜く。

「もう、迷いません。あなたのこと……覚えておきます」

 そして敵の喉を横に一閃。核ごと薙ぐ。

 その迷いのない一太刀に敵は眼を見開くも、すぐにあきらめたかのような表情に変わる。

「チッ、そりゃあ……光栄だぜ」

 そして敵は、そのまま塵となって風に吹かれていった。

『『聖痕』修復確認。解除確認しました』

 少女の耳元で事務的な音声は、少女の心情を察することなく響く。
 肉を裂く嫌な感触が残るナイフを2,3回振るって、コートの懐にしまい込んだ。

「ダー……そうですね。

これが、ヒーローとして、私のした覚悟。

最低限の殺しのため、かろうじてできる覚悟です。隊長」

 そして少女、アナスタシアはゆっくりと息を吐いて疲労感に満ちた足取りでその裏路地を後にした。



21 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 01:56:30.92HEFpIzrTo (16/54)



***




「あああ……はあ……はあ……」

 よどんだ空気渦巻く密閉された薄暗い建物の中、一人の男が地に伏せ苦しそうにうめき声を上げている。
 額からは脂汗が滲み、その表情は苦痛に耐えるように歪んでいた。

「苦しそうね。熱いのかしら?

確かにここは閉めきってあるから熱が籠りやすいわね」

 地に伏す男の前で、一人の女がのんきにそんなことを言う。
 優しげな言葉使いだが、そんな女の言葉に男は憎悪の視線を向けるだけであった。

「うるせえ……お前が……お前がああ……。

みんな殺しやがって……こんなことをして俺たちの組が黙っちゃいないぞ……」

 地に伏す男はありったけの憎悪を込めた視線で女を睨み付ける。
 人を殺せそうなほどに感情を込め腹から吐き出した呪詛を女の方は気にした様子ではなかったが。



22 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 01:57:36.69HEFpIzrTo (17/54)


 周囲を見渡せば、その惨状は一瞬で理解できる。
 一面中隅々まで塗り残しなく赤いペンキのように塗りたくられ、その赤色がそこら中に散らばる破片から何であるかが察することが容易であった。

 そう、あちらこちらに人間だったものが横たわっており、中には原形さえとどめていない物も多くあったのだ。

 地に伏せている男も、今かろうじて生きているような状況で、出血多量に加えすでに片足がない。
 男にとって最も熱を持っているのは片足の切断面であり、熱せられた鉄板を押し付けられるような痛みが常に走っていた。

「うふふ……バカね、そいつら来たところでアタシの前じゃゴミとおんなじ。

つまりあんたらが何人いようが何一つ変わりないってことだから遠慮なく来なさい。

みんなもれなくハンバーグに加工してあげるから」

 女は人が変わったように男を見下すような笑顔で、にやにやとしながら言い捨てる。
 その下品な笑みは見る者すべてに嫌悪感と拒否感を植え付ける。

「ああでも生意気な口アタシに聞いたからもう一本もらうわね」

 そして男の片腕を右手で持って、女は左手で手刀の形を作る。

「や、やめろ!頼む!それだけは!それだけは勘弁」

「ほらスパッと」



23 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 01:58:42.20HEFpIzrTo (18/54)


 女は男の制止の声に全く耳を傾けす、左手の手刀で男の腕の付け根を一閃。
 鋭利でも何でもない手刀は、傍から見れば全く力が入ってなかったにもかかわらずただそれだけの動作で腕の付け根から綺麗に輪切りにした。
 切断面からは血が吹き出し、酸化の始まった血の匂いの充満するこの場に新鮮な血液の匂いが新たに満ちて行く。

「ああああああああああああああ!!!!!!

があああ、ぐう、あああ、あああああ……」

 男は悲痛な叫びを上げながら、体内から流れ出る血を止めんと残った片手で切断面を抑えるが、まるで意味はなく男の顔色はさらに青白く悪くなる。
 そんな地面でのたうち回りながら苦悶の叫びを上げる男の様子を女は心底楽しそうに見下ろしていた。

「ほら頑張って。

まだ死ねないわよね。ここに居る仲間の仇も取らなくちゃいけないしねぇ」

 女は再び優しい声色で、あたかも挑発するように男に声をかける。
 にやにやと芋虫のように這いつくばる男を見て女は心底楽しそうである。
 それに対し男はやはり憎悪の視線でその敵の対象である女を見上げることしかできなかった。

「だいたいまだ片手と片足でしょう?

それだけあればまだまだ余裕よ。アタシもこの通り両手ないし」

 女は両手を広げて、それを見せびらかす。その無機質な黒い両の義手を。
 女が指を動かすたびにカチャカチャと音が鳴り、その腕に血が通っていないことを主張する。



24 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 01:59:43.83HEFpIzrTo (19/54)


 男はその両腕を見せびらかされた途端憎しみの視線から一転、怯えたような表情になる。

「怖い?そうよねぇこれでみんな殺したんだから、怖いのは当然よねぇ。

うんうん、それでいいのよそれで」

 男の脳裏に映るのは虐殺の情景。
 その両の義手のみで、武装したマフィアである自分たちを、さらに用心棒として連れてきていたサイボーグの傭兵でさえも一瞬のうちに皆殺しにしたのだ。
 男にとってはすでにその義手がいかなる凶器よりも恐ろしいものに見えてしまう。

「だいたい……どうして俺たちを襲った?

今回の取引はアンタに関係ないだろ」

 男は痛みや恐怖から意識を逸らすため、根本的な疑問を女に問う。
 もともと今こんな状況になっている理由さえも男にとってはわかっていなかったのだ。

「ところがどっこいそうでもないのよね。

もしもアタシがキミのところの組と敵対関係にある組織から派遣されているとしたら、ただの嫌がらせにも理にかなった道理が付くでしょ?」

「だが……そんなことをすれば抗争になる。

ぐ……今回のアンタの襲撃はあまりにも不自然だ」



25 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:00:46.93HEFpIzrTo (20/54)


 脳内で敵対する組織を思いつくだけ考えてみるが、こんな強引な行動を起こすような組織は男の脳裏には思い浮かばない。
 男は血の回らない頭で必死に考えているが、女の方はそんな話題にはあまり興味がなさそうであり、自身の義手をいじくっている。

「そんなことどうでもいいでしょう?

そんなことよりも、今回の取引の情報の洩れどころ聞きたくないかしら?」

「な……どういう、ことだ?」

 当然ここで行うはずだった取引はこの女の襲撃で台無しになったわけだが、この義手の女は取引のことを知っていたはずである。
 ならばその情報を誰かが漏らしたことは明らかであったのだ。

 女は男のその『裏切り者』の情報を知りたそうな顔を見て下卑た笑みを浮かべる。
 その表情を男は見た時点で嫌な予感はしたのだが、女は男の顎を掴んで引き寄せ、耳元でささやくのだ。



「あなたが一昨日の夜に酒場で上機嫌に話していたのを、アタシは知ってわ。

泥酔しながら上機嫌にべらべら喋ってるなんてよほどいい事でもあったのかしら?

とにかくお手柄よ。だからそのお礼に今あなただけは殺さないでおいてあげてるの。

素晴らしいわ。みんなの命を犠牲にしたおかげで今君は命拾いをしてるんだから。

本当にありがとう、『裏切り者』さん」

 ねっとりと、耳元で脳内に浸みこむように囁くような女。
 その言葉を聞いて男は、体温が一気に下がるような感覚と、絶望的な表情をした。



26 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:01:40.63HEFpIzrTo (21/54)


 確かに男は一昨日の晩酒におぼれ、記憶があいまいであった。
 だがその間にそんな重要なことを漏らしていただなんて思いもしなかったのだ。

「あなたの仲間が死んだのは、あなたのせいなのよ。

あなたのその紙のように軽い口ののせいで、取引は失敗し、仲間を死なせたのよ。やったわねぇ」

「ぐ……うう……ああああああああああああああああ」

 男はもはや泣くしかなかった。今の現状を引き起こしたのは自分だということを自覚した時点で、それしか逃げ道は残されていなかったのだ。
 あと男に残されたのは仲間への贖罪のために死ぬくらいであった。

「ころし……殺してくれぇ……」

「まぁ慌てないでお兄さん。まだお楽しみはあるんだよねぇ」

 女は泣きじゃくる男を尻目に立ち上がってこの場に元々あった青いビニールシートのかぶせられた資材らしきものへと近づいていく。
 男はぼやける視界でそれをただ見ているだけであったが、女がビニールシートを取り去った途端その表情は、さらに複雑に歪んだ。

「なんで……なんで彼女までも巻き込んだ!?」



27 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:02:54.86HEFpIzrTo (22/54)


 男は怒りをあらわにしてそう叫ぶ。あまりに感情の起伏が激しすぎて男の表情はもはや感情が読み取れないほどにぐちゃぐちゃに歪んでいる。
 ビニールシートの中には一人の女性が椅子に縛られ、目隠し、猿轡、耳栓のためのヘッドフォンと完全に情報を遮断された状態で捕えられていた。

「はーい、あなたの愛しの彼女マキちゃん。

本日の特別ゲストよ」

 義手の女はそう言いながら、縛られた女性の猿轡を解き、ヘッドフォンを外す。
 封じられていた感覚が解放された縛られている女性は表情を不安と恐怖に歪ませながら周囲を見回す。
 どうにか拘束から抜け出そうとするその動きは縛られている椅子をぎしぎしと軋ませている。

「タクくん?助けて!急に私つかまって、お願い私を放してよぉ!!!」

 そして視界の先に見知った男の顔を見つけた瞬間、弾けるように助けを乞う声を上げる女性。
 本来ならばこの倉庫の惨状や男の切断された四肢を見て叫び声などを上げてもおかしくないのだが、錯乱しているのか女性にはそれらが見えていないようである。

「どうかしら?感動のご対面。

いいわね、アタシ泣けてきちゃう」

 そう言いながらも義手の女は口角を吊り上げ下卑た笑みを男に向ける。

「なんでなんでなんで……なんで彼女まで……。

俺だけでいいだろうに!!!!!」



28 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:03:43.49HEFpIzrTo (23/54)


 男は怒りを言葉にして口から吐き出す。
 もはや堰さえ無い感情そのままの言葉であったが、まるで義手の女には馬耳東風であった。

「では、タク君、だったかしら?

彼女が殺されるのか、キミが殺されるのどっちがいい?」

「だから……俺だけ殺せばいいだろ……。

これ以上……俺に何をしろっていうんだよ……

彼女を、解放してくれよぉ……」

「タク……くん……」

 声さえ枯れ始めた男の悲痛な言葉。
 義手の女はそれをにやにやと心底楽しそうにみていた。

「うん、いいわ。その恋人を思う気持ちにアタシはもう感動。

じゃあ君の言う通り殺してあげるわね」



29 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:04:40.19HEFpIzrTo (24/54)


 パキパキと義手を鳴らし、男のすぐ隣へと義手の女は向かう。
 そして男の隣で笑いながらぼそりと呟くのだ。

「キミの彼女を殺してからね」

 ずぶりと肉を貫く音が響く。

「あ……あれ?」

 男は眼を見開いて彼女である女性の方を見ている。
 椅子に縛られた女性の目隠しは、はらりと落ちていき今の彼女自身の状況を認識した。

「なんで……どうして、私を?」

 女性の腹から肉を裂いて女の腕の物とは違う、新たな義手が貫通していた。

「どうして、どうして私なのよ!?

が……ちゃんと情報だって渡したし、言うこと聞けば殺さないって……どうしてその男じゃなくて私をおおおお!!!!」

 まるで状況が理解できていないかのように取り乱す女性。
 義手の女はそんな女性を虫を残酷につぶす子供のような瞳で見るように見下し、笑いながら言う。

「簡単に人は信用しちゃだめよ、甘ちゃんで平和ボケしたお嬢さん?」



30 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:05:29.41HEFpIzrTo (25/54)


「約束……したのにぃ!この嘘つき!!!!」

「じゃあね♪」

 その合図とともに、女性の体から新たに義手が2本突き出てくる。
 義手は女性の体を掻き毟るように引き裂き、血と臓物は混じり合うように飛び散る。

「ゴホッ……ゲ……ゴ……」

 逆流する血液によって、まるでおぼれているかのような表情をしたまま。
 そして強引に突き破ってきた義手によって、肉片は飛び散り女性は完全に絶命した。

「というわけで見せたかったのはこれ。

全部嘘なの。あなたは別に悪くなかったのよ。あなたたちを売ったのはぜーんぶあの女。

よかったわね、これはあなたのせいの惨状じゃないわ。

金と自分の命のおしさに目がくらんだ、あなたの馬鹿なガールフレンドのせいだったのよ♪」



31 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:06:10.38HEFpIzrTo (26/54)


「あ……あ……」

 もはや男の目に光はない。
 自分のせいではなかったという安心感と、すでに死んだ彼女への不信感。
 そして彼女の死への悲壮感、自分を裏切ったものが無残に死んだ陶酔感、そんな感情を抱く自分への嫌悪感。
 相反する感情が濁流のように男の脳内を駆け巡り脳が焼き切れそうな痛みを上げる。
 何が真実なのか情報が交錯し、男はすでに廃人一歩手前まで来ていた。

「ぐ、ぎ、ギャハハハハハハーーーーヒヒヒ!!!!!

もう……傑作ね!!!前もって準備してただけあったわ!!!

もう最高、これ見るために生きてたってもんよアタシぃいいい!!!!」

 ついにこらえられなくなったのか義手の女は下品に笑いだす。
 これまでの面の皮が剥がれ落ち、性根の腐ったどす黒い本性が露わになった瞬間であった。

「最後はァ!!!

幸せなキスして終了ってのが相場だよねええええ!!!」

 そう言って義手の女はすでに死体となった女性の体を縛られている椅子から強引に引きはがす。
 その際に千切れかけていた体の一部が完全にちぎれてしまったが、義手の女は気にせず女性の頭を持ちながら男の目の前まで引き摺っていく。



32 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:06:59.11HEFpIzrTo (27/54)


「オラ愛しの彼女だよ!!!

幸せ噛みしめて濃厚なキスして見せろよ!!!

アタシってばマジ優しいいいい!!!カップルの最後には一緒に殺してあげなくちゃねえええ!!!!」

「が……ふぐう……」

 義手の女は死んだ女性の顔を強引に男の顔に押し当てる。
 ぐりぐりと、叩き付けるように何度も何度も。

 だが男の方はもはや抵抗する気力さえ無くしたのか、苦しそうにうめくだけで無反応であった。

「つまんねーなぁ!!!

おい舌入れろよ愛し合えよ!!!!

それともやっぱり憎いのかぁ!?

だったらその歯でこの女ぐちゃぐちゃにしろよ憎いんだろうよなあああ!!!

あひゃ、あひゃひゃははははははーーーーーーー!!!!!」

 義手の女は眼を血走らせ狂ったように笑う。
 すでに男の方も事切れていたが、義手の女は構わず両者の顔面の形が原形をとどめなくなるまで何度も叩き付けながら笑っていた。



33 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:07:54.17HEFpIzrTo (28/54)


「はーーーーーーはっはっは……はぁ……はぁ。

あー楽し。仕事の合間にゴミで遊ぶのだけはやめられないわぁ……。

まぁほんとのこと言うと、別にその女大したこと知ってなかったから自分ですべて調べたんだけどね。

全て過失100パーでアタシのせいでしたってこと。まぁもう死んでるか」

 ひとしきり笑った後、落ち着いた義手の女は、物言わぬ死体に向けて静かに言う。
 そして立ち上がって、両手を組んで伸びをした。

「さーてと……遊んだあとはお片付けね。めんどくさいわ」

 義手の女はゆっくりとあくびをしながら、この血だまりの屋内の処理の算段を考え始めた。




***

 


34 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:08:46.81HEFpIzrTo (29/54)


 事の発端はアーニャは『プロダクション』へと向かう道中に、カースの襲撃に遭遇したことであった。
 ただしそこには別のヒーローが駆け付けた後であり、事態は収束に向かっていた。
 すでにアーニャの出る幕ではなかったので、このまま周囲に被害が出ないように警戒するだけにしようとしていた時のことだ。

 そんなカースの襲撃の様子を怪しげな視線で見つめる男をアーニャは発見。
 アーニャは男の後を着けていくと、多くのカースと共に居るその男の姿を見たのだ。

 そしてその男がカースドヒューマンであり、先ほどの首謀者であると確信したアーニャはその男に攻撃を仕掛け、結果として戦闘になった。

 先の戦闘の通りカースドヒューマンを倒したアーニャは、自分がいつの間にか路地裏深くまで来ていることに気づき、今の居場所がわからなくなっていた。
 しかたがないのでアーニャは当てもなく歩いて、そしてようやく見覚えのあるものを発見できたのだった。

「アー……ここは」

 アーニャの目の前に広がるのは、青い海。
 いつの日だったかアーニャが流れ着いた港であった。

 ここ最近の悪天候によって海はあまり穏やかではなく、同時に空は曇っているためあまり景色がいいとは言えない。



35 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:09:56.33HEFpIzrTo (30/54)


「さすがに、さっき少し、疲れました」

 ここからならば『プロダクション』に向かう道はわかる。
 だがアーニャは戦闘後の疲労感が残っていることと、見覚えのある場所にようやくたどり着いた安心感もあり、しばらくここで休憩することにした。

 海沿いぎりぎりのコンクリートで舗装された場所にアーニャは座る。
 脚をぶらぶらさせながら、アーニャは遠い海の向こうを見ながらこれまでのことを思い返していた。

「……隊のみんな、どうしたんでしょう?」

 アーニャが流された時、作戦終了間近であったのであれ以上の死人は出てはいないだろう。
 だがその後、彼らがどうなったのかはアーニャも知りえない。

「カマーヌドゥユシェィ……隊長は、みんなバラバラになったと言ってましたが」

 彼女にとって部隊は居場所ではあったものの、元々生き死にの多い仕事であったので隊員同士の仲間意識は低かった。
 だがそれでも、一応は顔見知りではあるのでその後どうなったのかは少しだけアーニャは気になる。

「……みんなやはり、今もどこかで戦っているのでしょうか?」



36 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:11:17.53HEFpIzrTo (31/54)


 隊長の話では部隊は解散になったと聞いたが、それでも戦闘員の個々の戦力は平均して高いのでどこの戦場でも重宝されるような人材であろう。
 多分存外に世話焼きな隊長に聞けば知っているのだろうけど、今ではアーニャが彼に連絡する手段を持ち合わせていなかった。

「みんなもう少し、穏やかな暮らし、しているといいですね」

 できることならば、アーニャと同様に戦いしか知らない他の隊員たちにもそれ以外の安寧とした人生が送ることができればいいのにと。
 アーニャはこの比較的平和な町に身を置いてそんなことを思った。




 アーニャは薫る潮風の中に身を任せる。
 戦闘の疲労は精神的な高ぶりも落ち着いてきたことと同時にそれなりに回復してきていた。

 今回はかなりの強敵であり、『聖痕』を使わなければ勝てない相手であったので普通よりも消耗していたが、この調子ならば明日以降の体調に影響はしないだろうとアーニャは思う。
 さらにカースの親玉であるカースドヒューマンを倒したことによって新たな別の脅威でもない限りは、暫くこの付近もおとなしくなるであろう。

 事実、最近のカースの出現は同盟が警戒するほどに頻発しており、アーニャもたびたびカースの討伐をしていたからだ。
 それらがあのカースドヒューマンによるものであるならば、原因を取り除いたことになり街の人々も安心して外を出歩けるだろう。

「そうなると……一応報告、しておいた方がいいですね。

……ん?」



37 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:12:06.37HEFpIzrTo (32/54)


 なんてことをアーニャは考えていると、鼻孔に幽かな違和感を感じる。
 気のせいかとアーニャは潮風を念入りに嗅いでみると、やはり気が付いてしまえば意識的にはっきりとしてくる。

 やはり気のせいではない。その中に混じる明らかに異物の臭い。
 そう、記憶になじみのある何度も嗅いだことのある嫌な臭いだった。
 ほとんどが潮の香りだったのだが、その中にでもはっきりと主張するアーニャにとって最近めっきり嗅ぐことのなくなった臭気。
 ただの一般人、とくに嗅いだことのないものには気づかないであろう独特の臭いだ。
 アーニャはゆっくりと立ち上がって、その微かな臭いをたどる。

「なんで……こんなところで、血の臭いが?」

 戦場でならばごく当たり前の血の臭い。
 アーニャにとっては不本意にも少しだけ懐かしさのおぼえるその臭いは、この街でほとんど嗅ぐことなどないだろうとアーニャは高をくくっていたのに。

 アーニャは歩くたびに、その臭いがきつくなっていく。
 内臓をぶちまけたような悪臭は、アーニャを不快にさせるが当然放っておくことはできない。

 一歩、一歩アーニャは歩いて、そして一つの倉庫にたどり着いた。
 見た目は他の倉庫と何も変わらない没個性の倉庫なのだが、まるでその先の血の池があるかのような隠しきれない強烈な死臭。
 どんな殺し方をすればここまでの悪臭をぶちまけられるのかという疑問と共に、得体のしれない不気味な恐怖さえアーニャは感じた。

「シトー……なんで、しょう?この中でいったい?」



38 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:13:07.41HEFpIzrTo (33/54)


 アーニャはその倉庫の扉に手をかける。
 その重量感のある扉は、さながら地獄の門とさえ感じるがそれでも彼女この場からは引くことはできない。

 もしかしたらこの中は食肉の倉庫であり、それが腐っただけなのかもしれない。
 そんな可能性も信じたかったが、やはりアーニャはヒーローとして立ち止まることはできなかった。

「スー……ハァ……」

 一呼吸、吸い込んでいったん精神を落ち着ける。
 そして意を決し、アーニャはその横開きの鉄の扉をゆっくりと開け放った。




 その倉庫内はまるでこの潮風に当てられて錆びついたかのように赤黒かった。
 本当にただの錆であったのならそれでよかったのだが。

 当然それは錆びた鉄の鉄分ではなく、血中の鉄分である。
 ペンキをぶちまけたなんて生易しいものではなく、倉庫の内装を塗り替えたと錯覚するほどに濃淡ムラだらけの赤で彩られていた。



39 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:14:02.86HEFpIzrTo (34/54)


「……うっ」

 久しぶりであった事にも起因しているだろうが、死体を見慣れていると自覚していたアーニャでさえ思わず吐き気を催す。
 昇ってくる胃酸をどうにか押しとどめて、倉庫内を見渡せばあちらこちらに血液の色材の元となった人間の肉片が目についた。
 そのパーツは極小の断片程度の物から、腕など判別の着くものまでさまざまである。

 それだけでここで犠牲となった人間の人数がアーニャの見当の付かない数に上るということのみ理解できた。

「あら?……ここは立ち入り禁止よお嬢さん?」

 どうにか現場を冷静に分析しようとしたアーニャに突如問いかけてくるねっとりとした声。

「なっ!?」

 アーニャとしても倉庫に入ってから一度も警戒を絶っていなかったにもかかわらず突如として聞こえてきた出所の不明な声。
 そしてさらに気配を探ってもその出所を察知することさえできないアーニャは周囲を見渡すしかできない。

「……いったい、だれですか?あなたは……」

 アーニャはその声の主に問いかける。
 それに答えるように、倉庫の奥の暗闇から一つの人影がゆっくりと現れる。

「全く私有地なのに勝手に入っちゃだめじゃない。今ここでは大事なお仕事の最中なのに」



40 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:14:53.63HEFpIzrTo (35/54)


 その人影はこの血濡れの倉庫に驚くほど馴染んでいて、それでいて外とは血濡れの倉庫以上に異質な容貌であった。
 背はアーニャより少し大きめの背。褐色がかった皮膚はインド圏の人種の女性であり、すらりとしたその姿とは対照的に両手が甲冑のような黒い装甲で覆われているのがわかる。
 何よりも目を引くのはまるで血雨を浴びたかのように全身が赤黒い血液に覆われており、その手には小さな肉片の付いたままの背骨らしきものを持ち、ぐるぐると振り回している。
 当然、体中にこびり付いた血液が、その女の物ではないことはほぼ確定的である。
 そんな異質な姿をしているにもかかわらず、その女の表情は友達にでも会うかのようににこやかであった。

 さすがにその猟奇的な容貌にアーニャは少したじろぐ。
 いや、その姿にアーニャはひるんだのではなかった。

(この人……一体なんですか?……この人が、怖い?)

 アーニャの脳内では本能が警鐘を鳴らしていた。
 この血染めの女が、絶対的に危険であると。

(下手をしたら、周子や……隊長よりも危険?)

 そんな考えが一瞬アーニャの脳をよぎるが、それはありえないと否定する。
 それに、ヒーローとしてもここで引くことはできない。
 こんな白昼に、これだけの殺戮をしたであろう人間を野放しにしておくなどアーニャには絶対に無理であった。



41 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:15:50.88HEFpIzrTo (36/54)


「ああ、これ?ごめんね散らかってて。今映画の撮影中でね。

驚かせちゃったかしら?」

 女はこの惨状の訳を説明するが、アーニャにはそんなこと嘘であることなどはっきりとわかる。
 いや、こんな雑な嘘アーニャでなくただの一般人でも容易に判別できるだろう。

「ロウス……嘘、ですね。……あなた、隠す気、あるのですか?」

 当然のように嘘を見破ったことを指摘したアーニャに対し、女はわざとらしく目を丸くする。

「え?何言ってるのよ。大体こんな血糊の量、常識的に考えて本物なわけないでしょう?」

「……全部、本物ですね。そこら中散らばる破片から、あなたの手に持ってるそれ、まで」

 アーニャは静かに女の持つ骨を指さす。
 女は手に持った骨に視線を向け、小さくため息を吐いた。



「……あーあ、めんどくさ。

そのまま信じるか、空気読んで帰ろうとしてくれたらもっと楽だったのに」

 女はそう小さくつぶやくと、手に持った骨を適当な方向へと投げ捨てる。
 ぐるぐると回りながら捨てられた背骨は、血濡れのコンクリに叩き付けられると同時に、細かな関節がバラバラに砕け散った。



42 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:17:08.93HEFpIzrTo (37/54)


「……でもまぁ、こういうのもちょっといいかも♪」

 女がゆっくり拳を握ると、カチリカチリと音が鳴る。
 金属製と思われる義手の指関節の駆動音であろうが、その無機質な音はアーニャの鼓膜にするりと入り込んできて心をざわつかせる。

「じゃあ本日の任務の、延長戦と行きましょうか」

 静寂。まるでアーニャの高鳴っていた心臓はいきなり静まった。
 それほどまでに、女は自然にアーニャへ向かって一歩を踏み出した。殺気も敵意もなく一歩、そして。

 もう一歩。
 アーニャがその一瞬まばたきをした瞬間に、女は目の前まで接近していた。 

 そして爆発するかの如くの殺気。アーニャは完全に反応が遅れてはいたが、反射的に両腕を前に構えて防御の姿勢を取った。
 女は右の義手を真横に薙ぐ。刃物を使うでもなくただそれだけの動作であった。

(……あれ?)

 その動作だけで、アーニャの両腕は肘から切り落とされ、目の前で重力に従って落ちていった。
 それにアーニャはまるで反応できていない。一瞬で接近されたことでさえ、まだ理解しきれていないほどである。

「あっけな……」

 女の退屈じみた呟きと共に、アーニャの両腕はぽとりと地面のコンクリに落ちる。



43 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:18:12.03HEFpIzrTo (38/54)


「!?」

 アーニャはようやく状況を理解して、女から距離を取る。
 その過程で腕は一瞬であるべき姿に戻った。

 そうしてアーニャはようやくすべてを理解して、一呼吸、吐く。
 反応できなかった、という部分もあった。だがアーニャ自身認めたくはないが、女の動きに『見とれてしまった』という部分もあったのだ。

「おや?腕が治ってる。たしかに落としたはずなんだけど?」

 女は元通りに再生したアーニャの腕を興味深そうに見ている。
 アーニャはそんな女の視線を無視して女に問いかける。

「今の……ダガーニス、ですか?」

 ダガーニスは東南アジア発祥の殺人術であった。
 『手甲の刃(ダガーニス)』の名の通り、徒手空拳でありながら素手を刃物のごとくの切れ味を持たせるという魔技である。
 習得があまりにも難しく、その危険すぎる技術故に、時代の流れとともに習得法が廃れてしまった技術である。



44 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:19:10.67HEFpIzrTo (39/54)


 アーニャはそれを何度か見たことがあった。ただし偽物であるが。
 隊長がそれを改変した技術として、念動力を腕に纏わせ、疑似的なダガーニスを実現させたのだ。
 最低限の念動力で、十分な殺傷力を生み出す技として、部隊内での超能力者にとっては必須技術だったのだ。

「あら?よくもまぁそんな化石みたいな名称覚えてるわね。これ使うのはアタシくらいだと思ったんだけど」

 だがこの女は念動力を全く使っていなかった。
 それどころか一瞬で接近したのも、アーニャが反応できないように呼吸を合わせたのにも全く『異能』を使っていなかったのだ。
 全て人間の技術。『特別』と言われるような力を全く用いない技。
 純粋なる鍛え抜かれた『技』であり、今の一瞬の動きでさえ芸術とまで呼ばれていいほどに昇華された技だった。

「ヴィー……あなたは、いったい?」

 その狂気の所業とは裏腹に見せる、精錬された戦闘技術。
 自身の数段上の技術を持つこの女が何者なのかアーニャは気になってしまった。

「誰でもいいでしょう。そんなことよりも……」

 女はアーニャの問いを一蹴して唇をぺろりと一舐めする。
 両腕を大きく広げ、獲物を定めたような目つきでアーニャを見つめ、ニヤリと笑う。



「あなたはどれだけ、そして何をすれば、泣いて許しを請いながら絶望してくれるのかしら?」



45 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:19:58.26HEFpIzrTo (40/54)


 シャーデンフロイデという言葉がある。
 それは他者の不幸や悲しみ、苦しみに対して喜びや心地よさを感じるという感情である。
 『他人の不幸は蜜の味』。この女を表すならば、ただその感情を具現化させたような存在。

 人間の皮を被った悪意。そんな言葉がしっくりきた。

 ぞくりと感じる寒気。
 周子のように味方ではない。隊長のように手加減して戦っているわけではない。
 真に純粋な、格上の相手が殺意をもって正面から相対するのはアーニャにとっては実のところ初めてであったのだ。
 全身が逆立つような感覚。一瞬でも気を抜けば先のように腕2本程度では済まないだろう。

 アーニャは先の戦闘で消耗したために現在の手持ちのナイフはたった2本。
 その両方を両手にそれぞれ持つ。そうしなければあの女の両腕から繰り出されるであろう双刃に対応できない。

「その玩具で、いつまで持つのかしら!?」

 アーニャが臨戦態勢に入ったことを義手の女は確認したのか、両手を構えたまま距離を詰めてくる。
 そのままアーニャを挟み込むように両腕を振りぬく。



46 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:20:47.34HEFpIzrTo (41/54)


 アーニャはそれをその場でしゃがんで回避。
 そのままがら空きである女の懐に向けて、右手のナイフを突き立てる。
 だがそれは振り上げられた女の膝によって方向をそらされた。そしてそのそらした腕にむけて女は手刀を繰り出す。
 それをまともに受ければ確実にアーニャの右腕は引き裂かれるであろう。
 アーニャはそれを阻止すべく、左手のナイフで女の手刀を防いだ。

 義手とナイフがぶつかり合うことによって、真剣が打ち合ったかのような鋭い音が周囲に響く。
 両者の腕はブルブルと振るえながらも拮抗する。だが。

(天聖気で補強していても……押し切れない)

 実のところアーニャの天聖気による身体能力の上昇効果はあまり高くない。
 天聖気の種類によっては人外に匹敵する力も出せるのだが、アーニャのでは素の筋力をある程度補強する程度の物である。
 だがそれでも生身の人間を相手ならば十分通用する力は出るのだ。

 だがそれでもこの女の膂力を押し切ることができない。
 それどころか、女にはまだ余裕があるとでも言いたげな表情をしている。

「次は、どーする?」

 そして女は空いていた右手で手刀を作り、アーニャに向けて振り下ろす。



47 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:21:41.97HEFpIzrTo (42/54)


「くっ!」

 アーニャはそれを右腕のナイフで防ぐが、膝で弾かれた際のしびれが残っていた。
 じりじりとアーニャの両手のナイフは女に押し負けていく。

「うぅ……ラァ!!!」

 だがアーニャは押し切られる前に、ナイフを義手に滑らせるように動かし女の隣に身体ごと抜ける。
 その際に腕が女の手刀によって少し切れてしまったが気にするほどのものではない。

 アーニャはそのまま女の後頭部向けてナイフを振り下ろす。
 だが女もそれにすぐ反応し、義手で弾く。
 アーニャは続けざまにもう一方のナイフで、死角となる真下からナイフを振り上げるがまるで来るのを予測していたかのごとくそれも弾かれてしまった。

 それでも攻撃の手はやめない。
 この攻勢で手を止めれば、アーニャは再び後手に回るしかない。それだけは避けなければならなかった。

 アーニャはナイフを何度も繰り出す。上、左右、時に正面から、限りなく相手に手を読ませないように変幻自在にナイフを繰り出す。
 だがすべて紙一重で防がれる。まるでアーニャの攻撃をすべて予測しているかのごとくだ。

(でも……これで!)

 アーニャは女の喉元向けてナイフを繰り出す。
 当然のようにそれを防がれるが、これはアーニャにも想定済み。
 狙いはそれを防いだ義手の付け根。女には自身の腕が邪魔となってもう片方の腕ではその位置を防ぐことはできない。
 アーニャはその付け根である肩を目がけて、もう一本のナイフを振り下ろす。



48 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:22:21.36HEFpIzrTo (43/54)


「……残、ネン!」

 だがそのナイフは女が先ほど防いだ腕の肘を上げることによって、ナイフは肘をギャリリという金属音を立てながらあらぬ方向へと逸れてしまった。

「そう、です、ね!」

 アーニャはその肘を振り上げる動作を狙っていたのだ。
 肘を上げることによってその下方は自身の腕によって塞がれ、死角となる。

 そこに向けてアーニャはすでに横蹴りを繰り出していた。
 その蹴りは、女のわき腹に刺さり内臓へと確実にダメージを与える。





「やっすい、わね」

 はずだった。
 女は、足をするりと振り上げる。

 そう、アーニャの繰り出した蹴りの、腿をなぞるように。



49 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:23:10.98HEFpIzrTo (44/54)


「あ……れ?」

 蹴りによる遠心力の中心となるべき体を失った片足は女の後方へと勝手に飛んでいく。
 アーニャが視線を下げれば、先ほど繰り出した蹴りである脚は存在しない。
 先ほどの腿をなぞる所作。ただそれだけでアーニャの片足は切断されたのだ。

 ぐらりとバランスを崩したアーニャはその場に倒れる。
 その際にもなるべく距離を取るために、後ろ向きに反動を付けながら倒れ込むがあまり意味はないだろう。

「脚で……ダガーニスを?」

 ダガーニスは殺人術と言っても起源としては暗殺術に近い。
 その腕一本で、人を死に至らしめるために誕生した技術であった。
 そのために武術とは違い繊細で、精密な動きが必要となるのだ。

 当然、脚で行う技ではない。
 それを可能にしてしまえばもはや腕を刃にするだけの暗殺術などではなく、全身を刃物で武装した兵器そのものとなってしまうのだ。
 人一人を殺すだけにはあまりに過剰だったのだ。

「そりゃあ、腕で出来るんだから、足でも出来るでしょう?」

 それは一人の人間が持つには、あまりにも過剰な技術であった。



50 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:24:07.80HEFpIzrTo (45/54)


「そんなことよりもさあ、もう脚生えてるのねぇ」

 アーニャの驚愕など気にもせず、女の興味はやはりアーニャの再生能力であった。

「あと腕を何本?あと脚を何十本?どれだけやればいい?

泣いて叫んで呻いて苦しんで発狂してその体を地に這いつくばりながら私に助けを請い始めるのは、いつ……いいい……。

ヒヒ……ギャハハ……いいいい、いつなのかしらぁ?」

 倒れ込み、座っていたアーニャに女はじりじりと近づいていく。
 両手で義手の付け根の辺りをがりがりと引っ掻きながら、もう我慢できないと言いたげに充血した目でアーニャを見下ろす。

「ひっ……」

 思わず喉から小さな悲鳴を絞り出してしまうアーニャ。
 これまで能力の特性から命の危機とは縁遠い人生であったが、今はじめて経験する。
 からからと喉が渇き、全身の筋肉が硬直し、早まっていく心臓の音だけが聞こえる。

 これが命の危機か?これが死への恐怖というのか?
 もはやこれ以上あの女を近づけてはならないと、アーニャの脳は警鐘を鳴らす。

(ああ……この人は、危険だ)



51 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:25:05.15HEFpIzrTo (46/54)


 この女をはじめに見た時の危機感。周子以上に、隊長以上に危険だと感じたのは、まさにこの女の狂気と、これまで向けられたことのなかった絶対強者の殺意からであった。

 隊長と戦っていた時アーニャは気づいていなかったが、隊長はアーニャに明確な殺意は向けていなかった。
 故にアーニャにとって、真に感じる『命の危機』とはこの瞬間が初めてであった。



「……『聖痕』解放!」
『『聖痕』確認。統計より予測継続時間を算出。約163秒です』



 もはやなりふり構ってなどいられない。
 本日二度目になるが温存しておく余裕など微塵も残されていなかった。

 腕から開いた聖痕による傷口は特徴的な模様も形作りながら徐々に全身へと広がっていこうとする。
 それと同時に、全身から天聖気が立ち上り、背からは翼のように放出される。

「速攻で……終わらせます!」

 両腕を振り上げ、脚に力を込めてアーニャは女へと跳びかかる。
 脳天から勢いよく振り下ろされたナイフは、そのまま女を真っ二つにしかねないというほどの勢いである。

 女は両腕の義手で縦のように構えて、アーニャのナイフを防いだ。
 その瞬間密閉された倉庫内に響く轟音。ダンプカーの衝突音にも近いその音だけで衝撃のすさまじさがよくわかる。



52 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:25:58.99HEFpIzrTo (47/54)


 義手の女はかろうじてアーニャの攻撃を防いでいるようだが、義手の方がミシミシと音を立てており、このまま攻撃を受け止め続けるのは義手が持たないだろう。
 アーニャは受け止められたナイフをすぐに手元に戻して次の攻撃に移る。

 上段、下段、時に蹴りを混ぜ女に隙を与えないように攻撃を繰り返す。
 その猛攻に女はなすすべなく防戦一方。本来ならばまともに受け切れるはずのない攻撃をうまくすべてをさばいているものの、じりじりと後ろへと後退していく。

「УУУрааааааааааааааааааааааааа!!!!!!」

 アーニャは攻撃を続ける中思い出す。
 かつて憤怒の街で隊長と戦った時も、こうやって攻撃の隙を与えないようにナイフを振り回していたことを。
 その時は隊長にあっさりと形勢を逆転されてしまったが、今度はそうはいくまいと。

 攻撃を繰り出す中でも相手の動きを観察し、絶対に反撃の隙を作らせない。
 そしてこの猛攻の中に。

(ここで!)

 攻めの中で構築した、完全な隙。そこに打ち込む高速のナイフ突き。
 いかなる達人と言えどこれを防ぐのは至難の技である。



53 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:26:49.18HEFpIzrTo (48/54)


(……!?)

 だが、その一撃は金属が滑るような音と共に、ナイフは義手を滑り、逸らされる
 義手の女はまるで動きを読んでいたかのように女は巧みに防いで見せたのだ。
 アーニャの突きの流れを逸らし、完全に力の方向を受け流すように。

「それ、でも!」

 アーニャはそれでも体を動かすことをやめない。
 渾身の一撃ではあったが、アーニャはこの女の強さを理解していた。
 ゆえに防がれるその可能性も捨てず、防がれても動揺せずに攻撃を続けることができた。

(でも……この違和感は?)

 先ほどの突きから、脳裏に浮かび上がる一抹の違和感。
 聖痕を開放する前までに感じていた、ピリピリとした恐怖や危機感があまりにも感じられないのだ。

(……聖痕を、発動したから?)

 聖痕に精神を安定させる効果がある可能性は拭えない。
 それにしては心臓の鼓動の音がやけに大きく聞こえる。
 この死線の中での妙な平常心が逆に違和感となってねっとりと脳の一部にこびり付く。



54 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:27:30.83HEFpIzrTo (49/54)


 だがアーニャにはそれを気にしている余裕はない。
 ただ攻める。反撃を与えないように、執拗に、そして渾身の一撃を織り交ぜながら。

 その猛攻はさながら暴風の刃である。今の聖痕状態のアーニャの攻撃はただの人間ならば、掠るだけで人体が欠損するほどのものである。
 確実に仕留めようとする渾身の一撃ならば、体ごとバラバラに吹き飛ぶであろう。

 女はそれをただ逸らし、力を苦し、巧みに避ける。
 暴風の中、一度でも当たれば即死という綱渡りの中で、まるで踊るように軽やかに。

 微塵の迷いさえない動きはあまりに流麗、あまりに精錬。
 最もアーニャにはそれをじっくりとみている余裕はなく、ただ仕留めるために猛攻を繰り返す。
 ただそれも女の舞踏を引き立てる物にしかなっていなかった。

 焦っていたとも、いや心のどこかでアーニャも女の動きに見とれていた部分があったのかもしれない。
 そう、気づけなかったのだ。
 アーニャは女の表情を。
 退屈じみたその表情を。すでに結末を知っている映画を見ているかのようなその表情に全く気が付くことができなかった。



55 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:28:08.08HEFpIzrTo (50/54)


「……そろそろね」

 そして静かに女が呟く。
 アーニャにはそれが何なのか理解はできなかったが、その刹那に知ることになる。

「あ……あれ?」

 がくりと力が抜ける膝。
 顔面から受け身も取れずにアーニャは倒れ込み、コンクリの窪みにたまった血だまりに顔面から突っ込んだ。

 アーニャは自身に何が起こったのか瞬時に理解することができない。
 ただ全身に力が入らず、全身に鈍痛と大量の重しでも背負ったかのような倦怠感を感じるだけである。

 もちろんこんなことは今までに一度たりともなかった。
 いや、それどころかまともな『痛み』なんて感覚さえもほぼ初めてであった。



56 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:28:47.86HEFpIzrTo (51/54)


「呼吸からの疲労感とか、身体に微かに着いた血の香りからすでに一度戦闘後であるなど推測して、『それ』の終了時間を予想してみたけどピッタリみたい」

 アーニャのぼやけた視界からはよくは見えない。
 だがその声はアーニャに向かって近づいてきていることだけわかる。

「まぁ攻撃も単調だし、結局のところ当たらなければ意味ないのよね。

答えの知ってる問題なんてものは退屈だったけれども、後のことを考えれば『手間が省けた』とでも考えておくべきかしら?

さて」

 倒れ伏したアーニャの頭上から聞こえてくる女の声。
 それが言い終わると同時に、アーニャの頭にガツンと衝撃が走り圧迫感と一瞬の痛みを生じさせる。
 微かに鼻孔に土の臭いがすることから、頭を踏まれていることがぼやけた視界のアーニャからでもわかった。



57 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:29:22.79HEFpIzrTo (52/54)


「ねぇ?今どんな気持ちかしら?

自分の切り札をいとも簡単に攻略されて、血だらけになりながらこうして屈辱的に地面に這いつくばってる気分は?

ギャヒ……ヒヒ、大体同じ技を前にも見たことあるのよねぇ……。

どっかの宗教のお偉いさんの暗殺計画だったんだけど、その時にさ、アンタとほぼ同じ技使ってきたやつがいたの。

とりあえず防御してその場凌いでたらさ、ギヒ、ヒヒヒそいつ勝手に自滅してんのよ。

それと同じ。あんた同じアホやったのよ。ギャハ、グフフ……」

 こぼれ出そうな感情を押し殺しながら喋っているような女の声。
 その間もアーニャは全身が痛みながらふわふわとした脳でその声をただ聞いていた。

「ギャ、ぎゃはははははははははああああーーーーーははっはあはははっはははは!!!!!

ヒヒヒ……ギャハハハハヒーーーヒヒヒヒヒヒイイイイ!!!!

もう傑作!!!自信満々でぇ!!『速攻で終わらせる』とか腹が痛くて……ククク。

ギャハハハハハ!!!!

もう全部タネは割れてるっていうのに、自信満々でさぁ、そんなのでほんとにあたしを殺せると思ってたのかしらぁ!!!

ほんとアホみたいねぇ!!!悔しい!?こんなに笑われて悔しいよねええええ!!!!!

どうなのか言ってみろよこのくそザコちゃあああーーーーんんん!!!??」



58 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:30:03.49HEFpIzrTo (53/54)


 女の下品な笑い声とぐりぐりと頭を踏みにじる際の耳元での摩擦音。

『聖痕予測終了時間、残り10秒』

 そんな今更聞こえてくる無機質な電子音声と共にアーニャは自身が完全に敗北したのだと悟った。
 だがその敗北による悔しさも、女のひどい罵声もなぜか大してアーニャには気にならなかった。

「……クラースヌィ」

(ああ……血が、赤い)

 今まで怪我をしても一瞬で消えていた傷口。そこから流れ出す血液も一瞬で消滅してしまっていた。
 だからこそ、今目の前を真っ赤に染める自身の流血が、自身の赤色があまりにも新鮮だったのだ。

 そんな的外れな思考をしながらアーニャの思考はまどろんでいく。
 義手の女の下品な声など気にもせず、力尽きたかのように眠りに入る。

 『聖痕』で開いた傷は、再び蓄積されゆく天聖気によって徐々に塞がりを見せていた。
 だが流れ出した血だけはこれまでとは違い、消えることはなかった。




 


59 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/22(水) 02:30:49.14HEFpIzrTo (54/54)




 とりあえず以上です。
 長めになったのと区切りを付けたかったので前後編にしましたが後編の方もほぼ書き上がっているので近々上げる予定です。

 せっかくの選挙発表日だっていうのにまた陰気で趣味全開の話で申し訳ありませんでした(土下寝)。


60以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/04/23(木) 12:53:04.56K3cIVbMu0 (1/1)

乙ですー
とりあえず理解が追い付かないがなんかヤバイ(こなみかん)


61 ◆cKpnvJgP322015/04/23(木) 16:36:36.15Tlj1fI0Po (1/1)

>>59
おつー
……アッ、アーニャーーッッ!!

なんかまたヤバそうな奴が出てきましたな
この煽りスキル……、憤怒Pの親戚か何かで?


62 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:18:15.27NGKYIe+ko (1/83)

こんばんは

では後編投下していきたいと思います。
前編ほどキツイ表現はないとは思いますが一応諸々注意です。


63 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:18:56.38NGKYIe+ko (2/83)

 アーニャが目を覚ませば、何度か見覚えのある天井が目に映る。
 寝転がっていたソファから状態を起こし、周りを見渡してみれば見慣れた間取り。

 ここが『プロダクション』であることが判別できる。

「……寝て、しまったのでしょうか?」

 ふらふらとおぼつかない足取りでソファから立ち上がったアーニャは壁に掛けられた時計を確認する。
 だが時計は全ての針が外れており、それらは重力に従って文字盤の6の字の下で積みあがっていた。

「ニェエスプラーヴナシチ……故障、してるんでしょうか?」

 アーニャは壁に掛けられた時計を手に取って軽く振ってみるが、時計の針がシェイクされる乾いた音が響くだけであった。

「これでは、時間がわかりません……」

 これはもはや一度分解でもしない限り、直すことはできないであろう。
 諦めてアーニャは時計を元の場所に戻す。

 ここでアーニャは背後の窓へと振り返る。
 灰色のビルと、灰色の雲が窓からは映し出されており、この明るさから最低限日中であることは伺えた。
 アーニャはゆっくりと窓へと近づき、外と隔絶するその透明の壁に手を触れた。

 ひんやりとした窓は、ただでさえ体温が高いとは言えないアーニャの白い肌から熱を奪っていく。



64 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:19:33.98NGKYIe+ko (3/83)


「スニェーク……」

 色の奪われた外界はよく見れば、空からゆっくりと小さな雪粒を断続的に降らせている。
 あまりにもささやかな白色はアーニャでさえも窓に近づいて目を凝らさなければ見えなかった。

「夢というのはだな」

 急に背後から聞こえてくる声。
 アーニャはその声に反応して、慌てて振り向く。

 その姿は、ツインテールに白衣、そしてピンクの角縁眼鏡。
 池袋晶葉は音もなく、あまりにも自然にこの部屋の真ん中に現れた。

 電気も付いていないこの部屋内は、外の曇り空も相まってあまりにも薄暗い。
 アーニャの立ち位置だと、眼鏡が光を反射し晶葉の視線がわからない。

「レム睡眠、体が眠っているのにもかかわらず脳が活動をしているという状態であるときに出現すると言われる現象なのだ」

 行儀悪く机の上に座りながら、晶葉はアーニャの驚愕を気にしない様子で一方的にしゃべりだす。
 その口調はいつものような自信に満ち溢れたものではなく、単調で淡々としたものであった。

「大脳皮質や近縁系の活動が覚醒状態に近い水準であるときに、脳の過去映像から記憶の像が再生されつつ、その映像に合致するストーリーを自ら構築していくと言われている」

 あまりにも普選なこの状況だが、アーニャは黙って晶葉の話を聞く。
 そう、この晶葉の言葉は聞き覚えのあるものであった。



65 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:20:20.23NGKYIe+ko (4/83)


 前に夢見装置を晶葉が完成させたときに、自慢げに語っていた理屈であった。
 当然アーニャにはさっぱり理解できなかったが、晶葉が楽しそうであったことは印象に残っていた。
 だが今目の前にいる晶葉には表情がなく、だからこそ違和感だらけの存在であった。

「夢というのは結局のところ、想像された映像だ。

過去の記憶をもとに、それらをつぎはぎ足していき、一つの『夢』を作り上げる。

自らが想像したものであるにもかかわらず、新たなものは一つもない。

パッチワークなのだよ。結局のところ経験がなければ、絶対的に夢で未経験を作り出すことはできないのだ」

 そう言って晶葉は傍らに置かれた、小さなブラウン管、彼女自身が開発した夢見装置を撫でる。
 その画面内には、荒い映像ではあったが一つの映像を映し出していた。

 アーニャはその小さな画面を、多少離れた場所から目を凝らして見る。

「ヤー……私?」

 そこに映し出されているのはアーニャ自身であった。
 しかも今の自分の、今いる場所を、まるで窓の外から覗き込むような映像が。

 アーニャはとっさに振り返る。
 だが窓の外には誰もおらず、カメラなんて存在しない。ただ雪が降っているだけである。



66 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:21:00.04NGKYIe+ko (5/83)


 そして視点を元に戻せば、そこには晶葉は居らず、代わりに尾を呑む白蛇が一匹アーニャを睨み付けていた。

「キミはいったい何を夢見る?アーニャ」

 その晶葉の声がする方は、この『プロダクション』からの出口の扉。
 開かれた扉の先で晶葉は背を向けて、淡々とアーニャにそう問いかけた。

 そしてバタンと勢いよく閉じる扉。
 再びこの部屋はアーニャ一人だけとなった。

「私は、夢見るのは……」

 アーニャはゆっくりと出口につながる扉へと歩いていく。
 靴が床を鳴らす音だけがこの室内で響いている。
 白蛇の傍らの夢見装置の画面はすでに何も映していない。

 そしてアーニャは無言のまま、先ほど晶葉の消えた出口へと通じる扉を開けた。






 


67 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:21:37.74NGKYIe+ko (6/83)





 扉を開けば、純白。
 足元に積もった雪は体重によって靴の半分くらいを沈める。
 視界に映る葉を落とした木々は黒色に近く、視界はまるでモノクロだ。

「あ……れ?」

 アーニャは振り返ってみるが、そこには自分は来たはずの扉は存在しない。
 同じようなモノクロの景色が広がっているだけで、目の届く範囲には人工物すら見当たらない。

「ここは……」

 隊長の件のあとに一度アーニャは自分の生まれた北海道の集落跡に行った。
 ここはその近くの景色である。その時には雪は積もっていなかったが。

 こんな現実感のない場所移動をしたにもかかわらず、アーニャは特に疑問に思うこともなく歩き始めた。
 その姿は傍から見れば幽鬼のように、ふらふらと誘われるように。

「この先……には」

 アーニャはこの景色を知っていた。
 前に行った時とは違い雪が積もっているが、この歩く先に何があるのかアーニャは知っている。



68 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:22:13.49NGKYIe+ko (7/83)


 雪を踏みしめる音は、壊れたラジオのノイズのように単調に、一定のリズムで鼓膜に刻まれる。
 視界に映る粉雪も、まるでリピート再生するように単調で冷たさなんて感じない。
 それでもアーニャは何の疑問も思わずに歩き続ける。

 そして歩き続けた先には、木の生えていない小さな広場。
 林の中でぽっかりと空いた広場は、空から降る雪をより多く吸い込んでいるようである。

 その中心には、厚手のコートを着た男が一人アーニャに背を向けて立っている。
 男は色のない景色の中で、武骨でデザイン性の欠片もない灰色のコートを着て佇んでいた。
 体には雪を微塵も被っておらず、景色から浮き出ており男だけ別の空間にいるようである。

「……隊長」

 アーニャが小さく呟く男をさす名称。
 男の本名さえ知らない彼女だが、その姿だけは決して忘れることはない。

 アーニャの人生に最も影響与えた人物であり、最もアーニャとの付き合いの長い人物。
 そんな男は、アーニャの小さな呟きに反応したかは定かではないが、ゆっくりとアーニャの方を振り向く。



69 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:23:00.45NGKYIe+ko (8/83)


 その途端に雪は激しさを増す。
 暴風にも近いその降雪に思わずアーニャは腕を視界の盾にして目を細めた。
 その姿は隊長であるはずなのに、この雪のせいで表情までははっきりとつかめない。

「夢ってのは結局記憶の継ぎはぎだ」

 雪の流れに乗ってアーニャに届いてくる隊長の声。
 本来ならば雪の降る音でかき消されてもおかしくない声量だったが、その声はダイレクトにアーニャに届く。
 いや、届くのは当然であった。
 こんなにも激しい雪であるはずなのに、雪の降る音など全くしていないのだから。

「当然誰かの記憶を夢で見るなんてことはない。

それはただの妄想だ。そうだったらいいな、こういう感じだったのかなと自分勝手に捏造したに過ぎない」

 猛雪の先、隊長の姿の背後には、燃え盛る教会。
 いつの日かに夢に見た情景のまま、雪なんて全く気にしないようにあの時のまま燃え盛っていた。




「あの中には、きっとお前がいるんだろう。お前にとってはな。

だがよく見てみろ。あの教会は、お前の生まれた街の教会か?」



70 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:23:44.34NGKYIe+ko (9/83)


 その言葉と同時に、雪混じりの風は何か小さなものをアーニャの足元に運んできた。
 それは小さな写真立て。中には都会の街並みの中でよく目立つありふれた様式の教会。

「これは……近所の教会?」

 アーニャの記憶の中にあるこの教会は、女子寮から『プロダクション』までの道中にある小さな教会であった。
 目立つ建物なので、アーニャの記憶によく残っている。

 アーニャはその写真立てから顔を上げれば、相も変わらず燃え盛る教会。
 だがその教会は、写真立てに写るものと同一であることにアーニャは気づいた。

「そう……あれはお前の両親の思い出の教会じゃあない」

 隊長のその言葉の瞬間、教会を侵食していた業火は一瞬で消え去る。
 先ほどまで燃え盛っていた教会には焦げ目ひとつない。その教会はやはりアーニャにとってよく見る、『プロダクション』への道中の教会であったのだ。

「いつだったかお前は、俺とお前の母親の夢を見たはずだ。

それにしたって、お前の赤ん坊のころの記憶だ。

母親の胎内の記憶を3歳ぐらいまで覚えているなんてよく聞く話だろう。

時間と共に思い出せなくなったとしても、それは確実に記憶に蓄積されている」



71 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:24:25.93NGKYIe+ko (10/83)


 そう言って隊長は再びアーニャに背を向ける。
 身動きさえ取ることが困難な豪雪にもかかわらず、隊長はそれをまるで意に介さないかのようだ。

「言ってしまえば夢なんてものは記憶の断片を再生しているようなものだ。

それに価値なんてないし、意味なんてものはもっとない。

誰かと夢で繋がってるとか、夢の中で誰かの声を聴いたとかなんてのは全て自分の想像だ。

自分の願った結果であり、ただの願望。それを持ってる記憶で再現したにすぎない。

お前は今、何を願っている?アナスタシア」

 そしてゆっくり歩きはじめ、隊長は教会の扉を開く。
 その先は真っ暗闇で何も見えない。

 隊長はアーニャに向けて小さく手を振りながら、教会の扉をくぐる。
 そのまま隊長の姿は闇に溶けていくように見えなくなった。
 それを見計らったかのように教会の扉は勢いよく音を立てて閉まり、アーニャのゆく手を遮っていた豪雪さえもピタリと止んでしまった。

 アーニャは写真立てのあるはずの足元をちらりと見る。
 代わりにそこにはアーニャを見上げる小さな蛇が一匹。そのとぐろを巻く尾の先は自らの口の中に納まっている。

 それを一瞥した後に、アーニャはゆっくりと歩き出して、教会の扉に手をかける。
 上を見上げれば雪は止んだものの、依然真っ白い雲に空は覆われていた。
 そしてアーニャは誘われるがまま、その教会の扉を開いた。





 


72 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:25:16.21NGKYIe+ko (11/83)





 扉の先はアーニャのよく知る場所であった。
 ふり返ってみると、そこは街中の教会であり、いつもの立地の『プロダクション』への道にある教会。
 内装はよく見るような、長椅子の敷き詰められた普通の教会である。

 アーニャは扉をゆっくりと閉めた後に、目の前の道路まで出る。
 教会の反対側には、ファミリーレストランが見える。
 全国チェーン展開されているポピュラーなファミレス。

 気が付くとアーニャはその目の前まで歩いてきており、自然と店内を窓から覗き込んでしまった。
 店内の中には一つのテーブルを除いて客は居ない。

 その四人がけのテーブルに座っているのは、みくと、のあと、アナスタシア

「やめ、やめるにゃあ!それを近づけるにゃあ!」

「大丈夫、あなたの大好きなハンバーグよ。たーんとお食べなさい」

「ラーナ……私がリーダーを抑えている間に、早く」

「ええ、さぁ口を大きく開けて。決して熱くないから」

 ワイワイと騒ぐ3人。
 賑やかな様子だが、客観的にみていると周囲の静けさも相まってなんだか無機質にも見えて来るようにアーニャは感じる。



73 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:25:48.29NGKYIe+ko (12/83)


「こんな夢も……見たような気がします」

 アーニャは3人の様子を客観的に見ながら、その様子がなんだかおかしくてクスリと笑ってしまう。
 こんなやり取りを実際にしたことはないのに、まるで何度も交わした言葉のような親しみさえ感じた。

 アーニャはそんな3人のいる店内へと、ファミレスの扉を開けてゆっくりと入っていく。
 その足取りは自然に店内の奥の方、3人のテーブルを目指して進んでいた。

 そしてそこまでたどり着く。
 それだというのに目の前の3人はやってきたアーニャを気にせず話を続けていた。
 いや、まるで外から入ってきたアーニャのことが見えていないかのようであった。

 アーニャは少し笑ったまま3人の様子を間近で見る。
 やはり鼓膜に響くのは目の前の3人の会話のみで、周囲が一切の無音であることに変わりはなかった。

 だがその沈黙を破る、アーニャにとっては聞きなれた音が響く。

「…………」



74 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:26:40.95NGKYIe+ko (13/83)


 肉を引き裂く鋭い音と同時に響くビチャビチャという粘性を少し持った水の音。
 同時に眼前に流血が迸る。
 頸動脈を一瞬のうちに掻き切られたみくとのあは、赤い噴水をスプリンクラーのように周囲に塗り付けながらその場に崩れ落ちた。

 アーニャにとって見慣れた光景。
 自分を含めた3人での会話以上に、慣れ親しんだ赤色。
 網膜に焼き付いている赤色は、何度も見てきた断末魔の色彩。

 アーニャの右手にはナイフが握られている。
 慣れ親しんだ得物には真新しい赤色が滴る。
 そして体は自然な動きで、一番奥に座っているアーニャからマウントポジションを取り眼前にナイフを突きつけた。

 そして向かい合うアーニャとアーニャ。
 目があった瞬間、その何も映さぬ瞳を見た途端にアーニャは我に返る。

「ダー……私は、何を?」

 見下ろすは自分と全く同じ顔をした人間。
 依然ナイフは突きつけたまま。いや、今のアーニャには我に返っても体を動かすことがなぜかできない。

 自分自身と同じ姿をした者の瞳からアーニャはなぜか逃れられなかった。
 まるで鏡を前にしているかのようで、あまりにも見慣れている自身の姿は他人として実体を持つと極端に不気味に見える。

「殺さないのですか?」



75 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:27:20.62NGKYIe+ko (14/83)


 目の前のアーニャが口元を小さく上げながら言う。
 だがその瞳はどこを見ているのかも不確かで、透き通る瞳は虚空を映している。

「なんで殺したのですか?」

 今度は糾弾するような言葉。
 しかしやはり、今度も表情は変わらない。

「……だってそうですね。私(あなた)にはそれしかないのですから」

 手元がぶれ、持つナイフの先が揺れる。
 その言葉を否定する感情がこみ上げてくるが、一方で納得してしまう。

「あんな風に、他愛のない会話も、他愛もない話の話題も、私(あなた)にはない。

口(ロート)を開いて出てくるのは、殺していた人間のことと、死んでいった仲間のこと。

あとはせいぜい戦闘技術くらい。貴女(わたし)にはそれしかないのです」

「……それはっ!!!」

 かろうじて喉から搾り出た言葉。
 目の前の自分の言葉を否定するために紡ぎだした言葉だというのに、その先が続かない。
 そんなことはないと、たとえこれまではそうだとしても、今の自分にはそれだけじゃないと。



76 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:28:08.04NGKYIe+ko (15/83)


 だが記憶の中には、結局カースとの戦闘や、悪を働く者たちとの戦いの記憶しか浮かばない。
 これまで培った技術を駆使して、それらと戦ってきたこの数か月。
 それ以外にもあるはずなのに、語ろうとするにはあまりに貧困であった。

「ヤー……я……わ、わたしは……」

 ナイフはこちらが付きつけているはずなのに、アーニャは逆に喉元に鋭い刃を当てられる気分になる。
 わからない。
 なんで二人を殺した?まるで当たり前であるように。
 なんで自分を殺そうとしている?まるでそうしてきたかのように。
 なんで自分は……。

「Я……борюсь(私は……戦っている)?」

 気が付けば、アーニャの目の前に突き付けられたナイフがあった。
 背中にはファミレスの冷たいソファの感触。
 そしてナイフの向こうには、やはりアーニャ自身。

「貴女(わたし)はどうして、ここで死にかけている?」

 そんなナイフを突き立てるアーニャからの問い。
 ナイフの先から血が一滴ポタリとアーニャの刃先に落ちた。
 さっきまで自分がナイフを突き立てていたというのに、いつの間にか逆転しているという状況。
 いや、アーニャにはわからない。初めからナイフを突き立てていたのが自分だったのか、目の前にいるアナスタシアだったのか。



77 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:29:14.56NGKYIe+ko (16/83)


 アーニャの目が泳ぐ。ずっと目の前の自分の目を見ていると、蛇に睨まれたように体が硬直してしまうように感じたから。



「私(あなた)の願いは、いったいなんですか?」



 何度も問われたその問い。
 そしてふと、脳裏によぎる人たちの顔。

 『プロダクション』のみんなや、『エトランゼ』のみんな、それ以外にも自分とかかわりを持った人々。
 そう、その人々を守るために戦っていたのではないのか?




「そう……私は、みんなを守ることが、願いだったはず」

 そして思い出す直前の記憶。
 義手の女に敗れ、踏みにじられ、這いつくばった後のまどろみの中でこの夢を見ていることを。

「こんな場所で、寝ている場合では……ない」

 覆いかぶさる自らの像をアーニャはそのまま押し返し、再び押し倒す。
 そしてその手から素早くナイフを奪い、自らの手に押し当てる。

「悪い夢から、覚めましょう」

 思い返すは、先ほどの痛み。
 夢の中で相応の痛みを感じれば、目は覚めるだろう。
 そう思ったアーニャは手に押し当てたナイフを横に引いて手を切ろうとした。



78 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:30:01.99NGKYIe+ko (17/83)


「……クス」

 しかし前に小さな笑い声が聞こえ、アーニャは思わずその手を止めてしまった。
 その声の主は下にいる再び押し倒されたもう一人のアナスタシア。
 アーニャは訝しげにそのもう一人の自分を見た。

「フフフ……まだ、そんなことを言ってるんですね」

 アーニャにはその言葉がまるで理解できない。
 これはアーニャの夢であるはずなのに、その夢の中の人物であるはずのもう一人の自分が全く理解できなかった。
 その姿は、自身と全く同じであるはずなのに、その妖艶に見える表情は、それでいて無邪気に見える笑みは自分自身のものだとは到底思えない。
 アーニャ自身そんな表情したことなかったし、そんな顔はしようとしても作れない。

「そんなことだってただの言い訳、貴女自身を正当化(アプラヴダーニェ)しようとしているだけ……なのに」

 目の前のアナスタシアは軽く笑いながらただじっと見ているだけなのに、アーニャは再び体が硬直する。
 ナイフを握った手は力が抜け、ナイフはするりと床へと落下する。

「……シトー?、何ですか……。

……ここは、私の夢でしょう?

ヴィー……あなたは、いったい、何ですか?」

 自身の夢の中だというのに、得体のしれない存在に怯えを隠せないアーニャ。
 だが目の前の鏡写しの存在は、当たり前だと言わんばかりに言う。



79 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:30:59.54NGKYIe+ko (18/83)


「はじめから言っていましたよ。

貴女(わたし)は、私(あなた)だと。

なんで自分に怯えてるんですか、貴女(わたし)?」

 ちろりと唇を一舐めし、その奥を覗き込むようにじっと見つめてくるアナスタシア。
 その瞳は、見慣れた自身のブルーの瞳ではなく、その中に縦に細長い瞳孔があった。

「ッ!!??」

 その瞳に思わず怯むアーニャ。


 さらにその怯んだ一瞬のまばたきで景色は一変する。
 さっきまでのファミレスは一瞬で消え失せ一色の黒に包まれ、目の前のアナスタシアは小さな赤子に変わっている。

「時間があまりないので、さっさと進めましょうか」

 この暗闇全体に響く声。
 先ほどのアナスタシアの声がまるで全方向から響いてくるようである。

「……いったい?いったいどんな、意味なの!?」

「その紛い物の願いでも、憑代となりうるかもしれないですからね」

 困惑の声しか上げることのできないアーニャに対し、淡々と話を進めていく声。



80 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:32:33.17NGKYIe+ko (19/83)


「どうせ目が覚めたところで、あの人に勝つなんて到底無理でしょうから……少し力(シイーラ)を貸しますよ。

そしてこれが……私からの最後のチャンスですから」

 その声の後に赤子の瞳がゆっくり開く。
 その瞳は、ブルーの瞳に縦に細長い瞳孔。先ほどの鏡写しのアナスタシアの瞳。

 瞬間に暗闇は晴れ、周囲は逆転するように一面の白。
 急に反転した色彩は、アーニャの瞳に急激な刺激を与えるが、それを感じている余裕などなかった。

「ひっ!?」

 その白色は、すべて白蛇。
 その白蛇たちはアーニャの体を這い上がっていく。
 いや、逆であった。
 白蛇たちの海ははじりじりとアーニャをそこへと沈み込んでいく。

 まとわりつくように、引き摺りこむように。

「い、いやぁ!!!いや、です!!!」

 体を蛇が這う生理的嫌悪感が全身に走り、悲鳴を上げるアーニャ。
 思わず手を上へと伸ばすが、向けた天井も同様に真っ白である。

「う……嘘……でしょう?」

 目を凝らせば、天井の白色でさえすべて白蛇。
 重力に逆らうように天井を埋め尽くしながら、絡み合い這っている。

「……そんな」

 体はそのまま沈んでいく。
 白蛇の海に沈み切ったアーニャは視界を埋め尽くす白色に精神が摩耗していく。

「いや……いやです……。

こんな……失うのは、いや。

失わないためには……戦わないと……」

 そのまま夢は覚めぬまま、意識は沈んでいく。
 その歪な願いを白蛇たちに乗せたまま。

―――――――――――――――――――――――
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―――――――――――――――




81 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:33:12.88NGKYIe+ko (20/83)




「ヒャーーーハハハハハ…………はぁ」

 ひとしきり息を吐きつくしたのか、義手の女は呼吸を整える。
 それでも足をアーニャの頭からは退かさず、ぐりぐりを小刻みに動かしているのだが。

「ついでにこいつ持ち帰ろうかしら?

壊れにくい玩具ってのなら、ストレス発散にも丁度好さそう、だし!」

 そう言って、アーニャの頭を思い切り蹴りぬく。
 その衝撃によって、アーニャの体は義手の女の数歩程度先まで吹き飛んだ。

 それでも依然アーニャは動かない。
 まるで息絶えたかのように、静かに血を纏いながら横になっている。

「ん?……まさか死んじゃいないわよね?」

 さすがにあまりに微動だにしないので、やり過ぎてしまったのかと義手の女も少し心配になってきた。
 まだまだ楽しめそうな余地があったのにもかかわらず、殺してしまっていたら彼女的には損である。

「とは言っても仮に死んでても構わないのだけれど」



82 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:33:56.13NGKYIe+ko (21/83)


 そんな気楽な気持ちで、とりあえずアーニャに近づいて生死を確認しようとする義手の女。


パキッ


 だがアーニャに近づこうと歩を進めた義手の女はこの場に不釣り合いな何かが割れたような音に足元を見る。

「なに、これ?」

 そこにはすでにこの場にお馴染みである血だまりであった。
 しかしそれを踏んで水が跳ねるような音ならばともかく、氷が割れるような音がするのは明らかにおかしい。

「氷が、張ってる?」

 その血だまりの表面は赤色で分かりにくいが、薄い氷のようなものが張っていた。
 それは義手の女が踏んだことによって、蜘蛛の巣状にひび割れその存在がより鮮明になっている。

 そしてそれはあまりにもこの場に似つかないものであった。
 血液は空気に触れれば比較的早くに凝固する。
 氷のように水たまりの表面だけが凍ることなんてない。本来傷口をふさぐために血小板が凝縮する作用が一般的だ。
 だがこの血液は、瞬間的に冷気を浴びせたかのように表面だけが結晶化している。無論周囲はそんな気温ではないし、液体窒素か何かを誰かがこぼしたなんてこともない。

 義手の女はその場に片膝を着いて、その血液の結晶らしきものを手に取る。



83 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:34:43.20NGKYIe+ko (22/83)


「血かと思ったら……これガラスかしら?」

 義手の女はガラスと表現したが、それは石英に近いものであった。
 血に濡れて赤くなっているが、それを拭えば透明の結晶が姿を現す。

 義手の女は血だまりの中にガラスが紛れただけかと思い、再びアーニャの方を向き直る。

「は?……いったい何が起きてるのよ?」

 これまで終始余裕の表情であった義手の女も困惑の顔は隠せない。
 そこにはアーニャを中心として周囲の血液がじわじわと蒸発していた。

 いや、蒸発していたのではない。

「血が……結晶化してる?」

 赤色の血が次々と透明の結晶へと姿を変えていく。
 ところどころでは、六角の水晶体のような鉱物らしい結晶が血液の床から生えてきている。

 その結晶化は義手の女の足元まで広がっていき、足を着けていた血だまりは完全に高純度の結晶に姿を変えた。

「さすがにこれは……見たことないわね」



84 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:35:27.51NGKYIe+ko (23/83)


 そう言いながらも義手の女は両腕の義手のセーフティを外す。
 視線は一切アーニャからそらさず、意識を一点に集中する。

 そんな中で、アーニャがゆっくりと立ち上がり始めた。
 何かをぶつぶつと呟きながら、顔を下に向けたまま。

「あー……これは、『暴走』かしら?」

 途端に苦虫を潰したような表情になる義手の女。
 彼女にとって、敵が死に際に『覚醒』して新たな力を得ることはたびたびあることであった。
 それさえも踏みにじって、完全に相手を屈服させ相手の顔を絶望に染め上げることこそ彼女の愉しみでったのだ。

 だが『暴走』となれば話は別だ。
 感情さえ無くしただの獣と化した敵はその時点で表情には絶望も苦悶さえも浮かばない。
 彼女の道楽の対象外になってしまうからである。

 彼女にとって『暴走』した相手はただ面倒くさいだけでしかなく、見返りのないモチベーションの上がらない敵となってしまうのだ。

「こうなったらしょうがない。

少し様子見て、面倒なら撤退するのが賢明ね」

 義手の女はアーニャを注視したまま、両腕を構える。
 実のところ彼女にとっては『殴った』方が強いのだが、こういった得体のしれない相手には距離のとれる攻撃の方が様子見という面でも有効である。



85 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:36:23.84NGKYIe+ko (24/83)


「タタカワ……なければ、イキノコレナイ……タタカワナイト……マモレナ、い……でも、コロスノハ……。

だけ、ド……マモルタメ、なら、殺すのモ、シカタナいいい……。

ヤー、アー、ヴィー……アー…………」

 垂れた頭がゆっくりと上がり、その影から鋭く光る眼光が見える。
 獣と言うにはあまりにも無機でいて、兵器と言うには純粋な眼。
 その視線は、義手の女をまっすぐ射抜く。


「アー……ア、аааааааааааааааааааааа!!!!!!!!!!」


 アーニャを中心として吹き荒れる暴風。
 口を点に向け大きく開き、言語とも取れぬ方向が狭い倉庫内を反響する。
 周囲の壁はそれだけでびりびりと震え、結晶化した血液はその衝撃で多くにヒビが入る。

 そしてアーニャの背から放出される光の翼。それは『聖痕』の時以上に大きく、揺らめいている。
 さらにその翼は根元の部分から徐々に結晶化していき、芸術品のように荘厳な輝きさえ見せる一対の結晶の翼となった。

「ふーん……なるほどねぇ……」

 その様子を見て、義手の女は認識を改める。



86 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:37:25.69NGKYIe+ko (25/83)


「てっきりそれは天使の翼かと思ってたのだけれど……竜の翼だったのねぇ」

 アーニャの背から生える水晶の翼には、羽毛のような柔らかさは一切ない。
 細やかな結晶細工の翼は竜燐の一片一片さえも形作り、武骨さと同時に空気さえ凍り付かせるような輝きを放っていた。

「なんて……どうでもいいのだけれども」

 芸術や風景に何の感傷もない義手の女にとってクリスタルの竜翼などさして気になる存在ではない。
 問答無用で量の義手の指先からマシンガンの弾を打ち出し、咆哮するアーニャを蜂の巣にする。

 それだけであっけなくアーニャは肉が飛び散り、血が散乱する。
 通常ならばそれだけで十分であるが、義手の女はなおも容赦はしない。
 両の手首が逆方向に折れ、開いた手首から覗くのはグレネードランチャーの銃口。

 ポンと気の抜けるようなランチャー特有の音と共にアーニャの体にそれは着弾。
 轟音と爆炎が巻き上がり、一瞬のうちにアーニャのいた場所は焦土と化した。

 義手の女は肘を曲げて腕を軽く振る。
 すると肘の切れ目からばらばらと先ほど撃ったマシンガンの空の薬莢が落ちていく。

「様子見としては、こんなものかしら?」



87 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:38:18.92NGKYIe+ko (26/83)


 そう言いつつも警戒は怠っていない。
 爆風によって塵が巻き上げられたおかげで視界が悪く、アーニャを完全に倒したか判断できないからだ。
 義手の女は目を凝らし、粉じんの中からアーニャの姿を探す。

 そして発見したのは怪しげな光。

「嘘でしょう……」

 粉じんが巻き上がって視界が悪い中、アーニャは口を大きく空けて義手の女の方を確実に見ていた。
 両手を地につけ、翼は衝撃を吸収する落下傘のように広がり、口の前に集光するエネルギー球は、禍々しい色彩で輝いている。
 そして義手の女が気付いた時にはもう遅かった。

「グウウ……アアアаааааааааааааааааааааа!!!!」

 集積したエネルギーは解放されたように轟音と共に一直線に義手の女へと向かっていく。
 それはアーニャの制御を離れるにつれて大きさを増し、義手の女の元に辿りつ頃にはエネルギー砲の径が彼女を飲み込むほどまでに巨大化していた。

「クううううううぅぅソがぁ!!!!!」

 義手の女は額に青筋を立てながら、両の義手を構えそれが着弾する寸前に。



88 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:39:09.78NGKYIe+ko (27/83)



 竜の咆哮たるエネルギー砲を机でも引っくり返すかの要領で、上方へと逸らした。



 明後日の方向に反らされたエネルギー砲はそのまま倉庫の天井を貫く。
 天井は揺れ、さらに埃が落ちてくる。

 そして再び向かい合うアーニャと義手の女。
 アーニャの口からは先ほどの残滓とみられる光がビリビリと小さく走っている。
 それに対し義手の女の両手の義手は、両方とも手首より先の部分が蒸発してなくなっていた。

「さすがに、これは予想外だったわ」

 義手の女がそう言うと、両の義手が付け根の肩の部分から外れてゴトリと質量を感じさせるような音を立てながら地面に落ちる。
 それと同時にどこからともなく新たな義手が、ジェットエンジンで女の元に飛んできて再び両の腕として納まった。

 だがアーニャもそんなことは関係ないように、翼をはばたいて宙に浮く。
 その理性を感じさせない視線は義手の女のみに向けられている。

「……まだ、マダ……コロセテナイ」

 そんなアーニャの呟きと共に鳴り始めるメキメキと言う音。
 結晶がアーニャの背骨に沿うように後方に向かって堆積していく。
 それは巨大な竜の尾のように、長く荒々しい形を象った。

 その結晶の尾は、鉱物であることを感じさせないようにしなやかに動き、その動きに呼応するように鱗がギラギラと輝く。



89 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:39:52.44NGKYIe+ko (28/83)


「マ、ダアアアаааааааааааа!!」

 アーニャのその叫び呼応するように、翼と尾が激しく動く。
 そして目では追えぬほどの高速で、その場で一回転。

 普通の人間ならば回転したのかさえ判別できないであったにもかかわらず、義手の女は初動の時点でそれを判断した。
 その場に伏せるように膝をつき、上目でアーニャの姿を捉える。

 その姿はまるで余韻のように、翼を大きく広げ、長大な尾を揺らめかせる。
 義手の女がその姿を視界に移したと同時に、時が動き出したように音が鳴り始めた。

 地響きに似た音。それと共に初めは薄暗かった倉庫内の壁に切れ込みを入れたように細長い光が差す。
 そしてひときわ大きい『ビシリ』と言う音が合図に、倉庫の天井が自由落下を始めた。

 先ほどのアーニャの一回転。ただそれだけの動きで周囲3棟ぐらいを含めた倉庫群が一斉に輪切りにされていた。
 その長大な竜の尾はただ軽く一回転するだけで、衝撃波を含めた破壊力で半径数十メートルの範囲すべてを刈り取ったのだ。

「УУУрааааааааааааааааааааааааа!!!!」

 落下してきた倉庫の屋根を、翼で防ぐアーニャ。
 そして屋根の重量が完全に翼に乗った途端に、大きく翼をはばたかせ穴をあけて脱出した。
 随分と長く暗い倉庫の中にいたが、空は相変わらず曇り空である。



90 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:40:33.78NGKYIe+ko (29/83)


 アーニャの視界に映る範囲は全て崩れ去った倉庫の残骸だ。
 その残骸を見下ろし、いまだ生きているであろう義手の女を探す。
 だが見当たらない。当然本能で仕留め切れていないことを知っているアーニャは無差別に攻撃を開始する。

 両手に結晶が収束していく。虚空から生み出された結晶はある形を形成した。
 片手に一つずつ、細腕では支えきれないほどの大きさのアサルトマシンガン。
 結晶でできたそれは繊細な美しさと共に武器としての狂気を孕む。

 アーニャはそれを先ほど義手の女がいた方向へ向けて、迷いなく乱射する。
 銃身と同様に結晶で生成された銃弾は、瓦礫の山など構うことなくすべてを貫通していく。

「……チッ」

 舌打ちと共に掃射される瓦礫の山から滑り出てくる義手の女。
 アーニャはそれを待っていたかのように、尾を槍のように高速で射出する。
 鋭利に尖る尾の先は、繊細に見える結晶細工であっても圧倒的な殺傷能力を誇ることは先の倉庫を両断した件ですでに判明していた。

 義手の女は自らを貫かんとする殺意の槍に対してもアーニャを目指しまっすぐ進む。
 そして尾が彼女を貫く寸前に右手を目の前の尾に添え当てる。



91 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:41:09.38NGKYIe+ko (30/83)


 一瞬の鋭い金属音と共にわずかに逸れるアーニャの竜の尾。
 義手の女はそれに加えて尾の逸れる逆方向に十数センチわずかに体を動かす。

 そのほんのわずかの動きだけで全く進行速度を落とさずに攻撃を回避した義手の女。
 それに驚いたようにわずかに目を見開いたアーニャであったが、すぐに両手に構えたマシンガンを女に向ける。

 義手の女は機関銃を向けられた瞬間に射線から飛び退き一回側転する。
 それに遅れるように機関銃の弾は義手の女の元居た場所を通り過ぎていた。
 アーニャは追うように機関銃の銃口を義手の女の回避した方向にスライドしていくが、義手の女はアーニャを中心に円を描くように移動しながらすべて弾を回避していく。

 だが義手の女の進む先には、今度はフリーとなった竜の尾が迫ってきた。
 下がれば銃弾によって蜂の巣、進めば尾に割かれ真っ二つ。
 進むも引くもできない状態の女であったが、それにさえ全く動揺せず尾に向かって走る。

「邪魔よ」



92 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:42:02.54NGKYIe+ko (31/83)


 淡々と一言、義手の女は愚痴でも言うように口にする。
 高速で振り上げられた左の腕は、同様に高速で迫りくる竜の尾を一瞬撫でる。竜の尾の先はその動作によって切断される。
 切断されても残った尾は勢いは落ちず女に迫り来ていたが、その残った尾を女は右手で掴んだ。

 そして義手の女は鉄棒で前周りをするかのごとく、尾を支えとして一回転。
 完全に肉体にかかる勢いをその回転で殺し、義手の女は高速で動く尾と一体となった。

 アーニャの高速化された思考の中でも、ほんの一瞬のうちに行われた刹那の妙技。
 あまりに荒唐無稽な技を繰り出した義手の女に驚愕し、アーニャは一瞬対応が遅れる。

「『光行(コウギャ)』」

 そう、その一瞬。まばたき一回する程度の時間であった。
 気が付けば義手の女はアーニャ自身の尾のほぼ根元、目の前で直立して立っていた。

 当然先ほど尾を振り回した慣性力は残っており、それに直立するなどマッハを超える戦闘機の上に直立しているようなものである。

「『クエロ・ヒール』」

 引き伸ばされたスローの意識の中で、まるで義手の女だけ通常の時間のように動く。
 女の放った後ろ回し蹴りは腹部を捉え、内臓全体に響くような激痛と共に胃酸と血液が逆流してくる。

「『アグ・ドグ・ブリグ』」

 すくい上げるように4本の指が顎の下を捉えて、肉を貫通して口内へ侵入してくる。
 そして口内を掻き毟るように、舌と歯茎を根こそぎ剥ぎ取った。



93 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:42:45.53NGKYIe+ko (32/83)


「マーシャルアーツ改式『クレイジー・ドーター』」

 トドメと言わんばかりにアーニャに跳びかかる義手の女。
 ふくらはぎでアーニャの頭をがっちりホールドした後に、空中で一回転。
 いや、2回転、3回転、4回転、5回転。

 すべて頭から地面さえ削り取る勢いで叩き付けを一瞬で5回転。
 5回転目にホールドした頭部を踏み台にして一際のジャンプのあとに。

 脚でのホールドを解除して、地面に叩き付けた。



「ガ、ガは……」

 ほんの一瞬のうちにアーニャを襲った、殺人術。
 人一人を殺すためにはあまりに過剰な魔技の応酬。

 一瞬で怪我が回復するアーニャでさえその一瞬の激痛に意識をが混濁している。
 暴走状態であっても脳は生物のものである。負傷していなくとも痛みと回転によって脳はまともな命令を肉体に出すことさえ不可能になっていた。



94 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:43:32.27NGKYIe+ko (33/83)


 それでもなお本能で立ち上がろうとするアーニャ。
 もはや三半規管さえ麻痺しているにもかかわらず、ただ目の前の敵を殺すために立ち上がろうとする。

「フフン」

 よろめきながらも立ち上がろうとするアーニャに対して、鼻歌混じりの義手の女は駄目押しと言わんばかりにつま先を腹に叩き込む。
 サッカーボールでも蹴ったかのように数回バウンドしながらアーニャは瓦礫の山に埋もれるように突っ込んだ。

「やっぱり持って帰るのもアリね。でも手土産に持って帰ろうにも、どうやって捕獲しようかしら?」

 すでに勝敗は決したと言わんばかりに、唇に指先を当てながらそんなことを言う義手の女。

「あの自己再生を一時的にでも封じ込めれば楽に運搬できそうなのだけれど……」

 買い与えられたおもちゃを持って帰る子供のような無邪気な笑みを浮かべる。
 事実彼女は運搬方法以上に、持って帰った後のことに思考の比重が傾いていた。

「ガアアアаааааааааааааааааааа!!」

 そんなことを考えているうちにアーニャを飲み込んだ瓦礫の山が、翼によって跳ね除けられる。
 四つ這いになり獣のように女の方を睨み付けるアーニャの姿は、すでに完全に回復したのか外傷は存在しない。



95 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:44:28.72NGKYIe+ko (34/83)


 だがそんなアーニャを義手の女は横目に見つつ、すでに予期していたかのようにいつの間にか持っていた石つぶてを投擲していた。
 外傷はないアーニャであるが脳の状態は万全ではない。瓦礫を跳ね除けた時点ですでに目の前まで迫り来ていた高速の石つぶてを見てから回避することなどできなかった。

 尖った石つぶてはアーニャの眼球を貫通し、後方に着弾する。
 目から吹き出す血液に再びアーニャは声にならない絶叫を上げながら、目を押さえ跪いた。

 義手の女は間髪入れずに指先から弾丸をアーニャに打ち込み蜂の巣にする。
 それさえも一瞬で回復してしまうアーニャであったが、すでにその負傷量が脳が処理できる量を大きく超えていた。

「アア、аа、アアアアアаааааааааааааааааааа!!」

 だからこそさらに獣のように咆哮する。
 痛みを感じる精神は摩耗するが、それでも肉体は動く。
 わずかに残った人としての願望さえも、噛み砕いて力にする。

 貫通した眼球の部分を結晶が覆っていく。いや、それどころか全身にあった銃創を中心としても結晶は広がっていく。
 全身を覆うように結晶はアーニャの体を覆っていき、それは竜の鱗のように形作る。
 さらに目を覆っていた結晶の一部がパラパラと落ち、その中から鈍く光る赤い竜の瞳と露わとなった。

「フッー……ハァー……аааа……」



96 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:45:43.76NGKYIe+ko (35/83)


 もはや言語の体さえ成していない声で低く唸り、アーニャは周囲の様子を伺うように周りを見渡した。
 そして未だ崩れていない残った倉庫へ向けて口を開き、再び光が収束していく。

「ガアアアアアアアааааааааааааааааа!!」

 口から伸びる一筋の熱線。解放されたエネルギーは再び射線上の物体を蒸発させながら破壊の限りを尽くす。
 アーニャはその光線を放出したまま、首を動かした。
 アーニャを中心角とした扇状を描くように光線は正面上をすべて焼き尽くす。





 そのエネルギーを吐きつくした後に残るのは港の残骸。
 アーニャが初めてたどり着いた地である面影はすでにない。
 そんな港の倉庫の残骸である瓦礫の隙間、義手の女は息をひそめながら思う。

(もうこれは駄目ね。生け捕りっていうか、持ち帰るのは不可能よ)

 いくら傷を負わせても再生するというのがアーニャを捕獲したい理由の一番の理由であったのだが、それは逆に捕獲することにおいては難点となる。
 元々戦闘用の道具しか持ち合わせていないため、即席で捕獲しようにも手段がないのだ。
 初めの段階での少し強い程度の少女であれば捕縛は容易なのだが、今義手の女の目の前にいるのは眼に映るもの見境なく破壊しつくす化物だ。

 回避や対処はできても捕縛するという場合に至ってはどうしようもないのが現状であった。

「帰りましょう」



97 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:46:24.90NGKYIe+ko (36/83)


 そうと決めれば話は早い。任務はすでに終えているのでこの場から離脱して帰還するだけであった。
 義手の女は腰の裏。軍事用のカーゴパンツとセットとなる小さなポーチからあるものを取り出そうとする。



(ん?)

 だがその手は止まる。
 それと同時に感じるピリピリとした感覚。焦燥感にも似た感覚は背中の表面を滑る。

「何か、来る?」

 数々の戦場を渡ってきた彼女にとって敵意を察知することなど自然に身に付いたことであった。
 故にものすごい速度で敵意が接近してくるのが彼女にはわかる。

 義手の女は掴みかかっていたものから手を放し、別の物を握り取り出す。
 それは試験管のような筒の中に、黒く濁ったビー玉がいくつか収められていた。
 両手に持って合計8本、1本につき5つのビー玉が入っている。
 女は試験管を砕いて、そのビー玉をすべて地面へと転がした。

 そして義手の女は自身を覆う瓦礫の山思い切り蹴り飛ばす。
 分厚い瓦礫はその一撃で宙を舞いながら砕け散った。
 女はその蹴りの勢いを利用して跳びあがり宙返りをしながら着地。それと同時に舞い上がった瓦礫は小さな粒となり女の上に雹のように降り注ぐ。



98 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:47:22.61NGKYIe+ko (37/83)


「フッー……カアアаааа……」

 義手の女が瓦礫から飛び出てきた音に当然のように気付いたアーニャはその方向を向く。
 口から吐く吐息は人間の呼吸ではない荒々しさを纏い、向けられた眼光からは破壊衝動ともいうべき暴力的な赤色が視線の尾を引く。

 その姿は身体の半分くらいが結晶の鱗で覆われ、竜としての姿に近いものとなっていた。
 透色の翼は2対に増え、大きさも先ほどの比ではない。手足の先には透き通るように鋭利な竜の爪が備わり、ナイフなどなくとも十分な殺傷力が備わっているのことを察することができる。

「ガアアааааааааа!!!」

 理性どころか意志さえも完全に失ったアーニャは、再び現れた標的を目がけてその美しい竜皮に包まれた脚で地面を蹴る。
 猛スピードで義手の女に接近するアーニャ。だが義手の女はそれを気にせずに曇り空の彼方を見つめる。
 いや、女には見えていた。

 ヒュンと高速で空気を貫く音の後に地面を穿つ轟音。
 どこからともなく飛来した垂直に曲がった金属の和釘は、義手の女を引き裂かんと振り上げたアーニャの手の甲に鱗を貫通して突き刺さりそのまま地面に張り付けた。

 突如として受けた部外者からの攻撃にアーニャはその釘を一瞥する。
 そこに巻きつけられるように張り付けられていたのは墨で奇怪な文字の書かれた符。
 それが飛来した方角は直上。そこをアーニャは向けば飛来する影と共に鈍い反射光を煌めかせる飛行物が複数。



99 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:48:13.50NGKYIe+ko (38/83)


「!?」

 それを回避しようとその場から移動しようとしたアーニャであったが、まるで体が縛り付けられたかのように動けない。
 この異変に再び視線を戻せば目に映るのは自らの手を地面に縛り付ける和釘。だがその効力に気づいた時点ですでにアーニャには手遅れであった。

 グサリグサリと肉を貫く音。動揺の和釘が初めに振ってきた1本目に続くように計五本アーニャに突き刺さる。
 それらは的確に両手、両脚を地面に縫い付けた後に首裏に駄目押しと言わんばかりに突き刺さった。

「ガ、ァ……」

 地面に縫い付けられたアーニャはそれを振りほどこうともがいてみるが釘はその上に巨大な岩が乗っているかのように動かない。
 それでもかろうじて、はじめに刺さった釘が力を込めるたびにじわりと抜けていく。
 だが。








「『赤鬼』はん」

 そんなつぶやきと共に頭上から降り下ろされた巨大な拳がアーニャの右腕を粉砕する勢いで封じ込めた。

「『青鬼』はん、よろしゅうな」



100 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:49:26.01NGKYIe+ko (39/83)


 そう言いながらふわりと降り立った青肌の鬼の掌から降りる少女。
 小早川紗枝は異形と化したアーニャを見下ろした。

「こんにちわ」

 アーニャと周子は『プロダクション』で何度も顔を合わしているが、紗枝とアーニャが対面したことはほとんどなかった。
 とはいっても今のアーニャには理性どころか意志さえ存在しないので『会っている』と言うことにはならないのだが。

「ほな、とっとと始めましょか」

 紗枝は穏やかな表情でそう言いながら。

 着物の袖から身の丈を超えるような巨大な太刀を取り出して、アーニャを背中から腹にかけて貫通させるように突き刺した。

「ア……ааааааааアアアアアアアアァァァアアアаааааааа!!!」

 その途端に今までとは比べ物にならない咆哮を、いや『悲鳴』を上げた。
 紗枝はその様子を気にすることなくすぐに別の符を取り出す。

「これはさすがにちとしんどそうやなぁ……『黒鬼』はん」



101 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:50:32.87NGKYIe+ko (40/83)


 新たに紗枝の取り出した符からずるりと這い出てくる一体の鬼。
 神主のような装束をしたその姿は『青鬼』よりも一回り小さい。黒い肌、と言うより混じりけのない黒色がそのまま肌になっているかのような皮膚。
 それと同様に顔には表情と確認できるパーツはなくのっぺらぼうのよう。

 両手に金づちと杭、胸に突き刺さっているように生えた銀の角。
 『式』というにはあまりに禍々しい黒い鬼はのっそりとアーニャに近づく。

「『龍脈封印』でええん?ほんまに……」

 誰に聞くでもなくそう呟いた紗枝は手に印を結ぶと呪文のようなものを唱え始めた。
 黒鬼はそれに合わせるようにアーニャの体から和釘を抜き、その上に上書きするように新たにその手に持つ杭を打ち付ける。

 そのたびに響くアーニャの悲鳴。崩壊した港のど真ん中行われるその儀式は真昼間であるのにもかかわらず不気味な雰囲気を醸し出していた。






「キヒッ」

 そんな呪文の中に混じるノイズのような引きつる笑い声。
 邪悪な笑みを浮かべながら紗枝に向かって跳びかかった義手の女はそのまま義手を振り下ろす。
 無防備な状態な紗枝がそれを食らえば、少女の柔肌ならば真っ二つに割けてしまうだろう。



102 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:51:17.84NGKYIe+ko (41/83)


「がぐぇ!?」

 だがその凶手が届く前に、何者かに横やりを入れられたかのように真横に吹っ飛ばされる義手の女。
 突如と受けたその衝撃に、思わず呻く義手の女。
 義手の女はそのまま瓦礫の中に体が突っ込むかと思われたが、空中で回転しながら地面に手を付けバランスを整えながら着地する。

「これね」

 ぺろりと口周りを人舐めする義手の女。付着した瓦礫の粉じんが口内に入り異物の苦味を感じるがそれさえも美味に感じる。
 殺気の出どころさえ直前まで察知させなかった存在がいることに、義手の女は紗枝が降り立つ以前に気づいていた。




「さすがにさ、これはやり過ぎだと思うよ。ねぇ」

 少しいらいらした口調で言う声。
 義手の女がその声の方を向けば、かろうじて残った倉庫の基礎の折れた柱の中腹、そこに座る少女。
 その姿こそ、すれ違えば思わず振り向くような真っ白い美しさであったがその背後からは禍々しい瘴気がにじみ出る。
 9本の毛並と異形の耳がその者がただの少女でないことを物語っていた。

「あげくに紗枝ちゃんにまで手を出そうとしてさ、さすがの周子さんもこれには激おこだよ」

 軽やかに話すが、顔は全く笑っていない。
 九尾の妖狐、塩見周子は義手の女をありったけの殺意と敵意を持って見下ろした。



103 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:52:06.91NGKYIe+ko (42/83)


「きっと首を突っ込んだのはアーニャだと思うけどね、ああなるまで追い詰めるなんてさすがに笑って見逃せないよね。

いったい何をしたの?」

 有無を言わさぬようなプレッシャーが義手の女にのしかかる。
 常人であれば身体は麻痺し、意識さえ手放しかねない威圧感。

 だが義手の女はそれを物ともせずに周子の方を見上げる。

「あら心外ね。

たしかに首を突っ込んできたのはあの子だわ。

アタシの仕事の邪魔しようとするから、軽く相手してあげたのよ。

とは言ってもアタシ的には少し物足りないって手ごたえだったのだけれど」

 律儀に答える義手の女だが、そう言っている間にも常に隙を窺っていた。
 目の前の少女の姿をした『化物』の細首をへし折らんと機を逃さず、所作をひた隠しにしながら。

「あんな姿になってるのも、あんたのせい?」

 周子は横目で儀式を続けている紗枝たちの方向を見る。
 視線の先は、全身に竜の装甲を纏いながら依然咆哮するアーニャの姿。



104 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:52:46.73NGKYIe+ko (43/83)



 当然義手の女は周子が視線を逸らしたその一瞬を逃さない。地を蹴りあげ周子に急速で接近、空中で肉を引き裂く右腕を振るう。


 だがその右腕を周子は片手で止めた。
 義手の女は止められた右腕にさらに力を込めて反動を利用して空中で体を逆回転させる。
 そのまま右脚を伸ばして周子を真っ二つにしようと鋭い脚先の形を作った。

「……ッ」

 だが義手の女はその脚が周子に到達する前に、周子が座る柱の残骸に目標を変える。
 義手の女は周子ではなく柱を蹴りつけて、その反動で周子から距離を取った。

 衝撃によって周子の座る柱は崩れる。周子はそれを気にせずひょいと崩れゆく柱の前の地面に着地した。

「さすがに脚を持ってかれるのは御免だわ」

 義手の女はやれやれとでもいうように息を吐く。
 今のまま周子に蹴りをくらわせようとしていたら、義手の女は右脚の膝下を失っていたと言う予感があった。



105 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:53:59.31NGKYIe+ko (44/83)


「慌てないでよ。ああなったのはあんたのせいなのかってあたしは聞いてるんだけどね。

あんたがあたしに問答無用で攻撃してきたところであんたがどんな人間なのかは大方見当はついてるんだけどさー。

ねぇ、あんたがうちのアーニャをあんな風にしたってことでいいのかな?」

 最終通告とでも言わんばかりに周子は不機嫌そうに義手の女を見る。
 表情こそ先に比べかわいげのあるものであったが、発する雰囲気だけは先ほどと同様、いやそれ以上に黒く殺伐としたものとなっていた。

「知らないわよそんなこと。

勝手にあんな風になっただけだし、攻撃の規模だけ無駄に大きくなって面倒ったらないわ。

まぁああなる前に少し嬲(なぶ)ったから、それを原因って言っていいならアタシなのだけれど……」

 義手の女は大して興味のなさそうに足元の小石を蹴りながら周子の疑問に答えた。
 蹴り上げた小石はアーチを描きながら周子の元へと飛んでいく。



「そっか。ならよかったよ」

 女の言葉を聞いた周子の雰囲気は、殺伐としたものからいつもの周子の物に戻った。
 だがそれは嵐の前に、空の様子が一度静かになるのと同様である。



106 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:54:33.84NGKYIe+ko (45/83)




「あんたを殺して、間違いじゃないんだから」



 周子のすぐ眼前に小石が落ちる。
 それを合図に瓦礫を蹴りあげ再び接近しようとした義手の女であったが、その脚は動かない。

 それどころか、腕も、首も、あらゆる関節が動くことを拒否するように硬直している。
 自分の体をねっとりと縛り付けている。

 義手の女が視線を周子の方に向ければそれは納得する。
 周子から地獄の窯を開けたように恐怖そのものともいうべき人間が忌避するものが滲み出していた。
 それは決して実態があるわけでも特別な力でも何でもない。

 動物が火を恐れるように、生存本能は恐怖と言う形で生物に備わる。
 長きにわたり妖の頂点として君臨してきた周子の殺気は、それだけで生物としての格の差を見せつけ絶望させ、『恐怖』を刻み付ける。
 もはやその殺気そのものが周子の武器として昇華され、人心の洗脳に近い事まで可能であった。

 感情エネルギーであるカースでさえその一睨みで蒸発させるほどのプレッシャーは、並の人間ならば容易に精神崩壊さえ引き起こすほどのもの。
 故に人格破綻者である義手の女でさえも、本能的に体が硬直し動かなくなるのは当然であった。



107 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:55:11.00NGKYIe+ko (46/83)


「『中花』」

 周子がかざした手のひらから現れる小さな狐火。
 それは急速に膨れ上がり、周子の身の丈さえ容易に超える太陽のような炎球となった。

「燃えろ人間」

 心が氷点下まで下がるような声で周子は、その炎球を義手の女に向かって放つ。
 いまだに硬直したままの義手の女は自らを食らおうとする巨大な炎球をただ見つめたまま。

 炎球が爆ぜる爆風の中に消えていった。









108 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:55:59.19NGKYIe+ko (47/83)




 口から唱えられる経のような呪文を絶やさないまま紗枝は周子の様子を横目に見ていた。
 本来今している儀式は数十人単位で行うものである。
 しかもその対象であるアーニャの抵抗が思いのほか激しいため普通ならば少しでも気を抜けば儀式自体が失敗しかねない状況であった。

 その状況の中で複数の式を同時に扱い、高度な呪言を詠唱し続ける中で周子たちに意識を割くことができる紗枝はやはり天才であるのだろう。

 そんな紗枝は様子を見ながらいくつかの思案を巡らせる。

(あんな周子はん初めて見たわ)

 周子とは数年にも及ぶ付き合いとなっているが、いつも二人は付きっきりと言うわけではない。
 基本的に京都からほとんど離れなれない紗枝は周子と顔を合わせていないことも多い。
 故にこれまで周子が紗枝の前で本気で怒っている姿を見せたことがなかったのだ。

 それは同時に周子が本気で戦っているところを見たことがないことと同義であり、紗枝が周子の一側面しか見たことがない事であった。

(うちもそれなりに修行もしてきて、周子はんにそれなりに追いつけたと思っていたんけどなぁ)

 離れていても伝わってくるピリピリとしたプレッシャー。
 当代一とうたわれた紗枝でさえこの周子を相手取ったのならば無事でいられるかはわからない。
 そんな漠然とした予感が数多の妖怪を相手にしてきた紗枝にはあった。



109 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:56:47.64NGKYIe+ko (48/83)



(もしもうちに何かあった時は、周子はんはうちのために怒ってくれるんやろか?)


 そして目の前の杭に打ち付けられた白銀の少女を見ながら抱く一つの感情。
 紗枝にとっての想い人である周子ははたして自分のためにここまで怒ってくれるだろうかと言うささやかな不安。
 齢15の少女のささやかな感情は決して表に出ることはなかった。

(そんなたられば考えたって仕方ないわぁ……。

ともかくこれであの気味の悪い女の人は終わりやなぁ)

 周子から離れていても肌に突き刺さる畏怖の圧力。
 それを真正面で、しかも直接受けた後に周子の高密度の妖力で作られた炎をまともに受けたのだ。
 ただの人間どころか京都の名だたる大妖怪でさえまともに食らえば無事で済む攻撃でない。

 紗枝は背後から襲ってきたあの義手の女について不気味な何かを感じ取ってはいたがさほどの脅威だとは思わなかった。
 修行によって相手の妖力を感じ取ったりする術を持っている紗枝は妖力以外、魔力や天聖気などの異能の力であれば何かしら感じ取ることができたのだ。

 だからこそあの女にはそう言った異能の力の類は一切感じ取れなかった。
 相当の実力者であることはわかるのだが、ただそれだけで大妖怪、塩見周子を肉迫できるとは思わない。



110 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:57:48.26NGKYIe+ko (49/83)


(あとはうちが仕事を終えればいいだけやなぁ)

 せっかく少しの間出来た暇で周子に東京案内をしてもらっていたのだが、とんだ休暇となってしまった。
 そんなことを思いながら再び目の前の封印に集中しようとする紗枝。





(……え!?)

 だが視界の端に捉えた光景に、おもわず紗枝は呪言を止めてしまいそうになった。
 実際周子の放った火球が破裂してからコンマ数秒しか経過しておらず、瞬き一回と言うほどではないが本当に一瞬の間である。
 周子の顔を照らす火炎はその場に残ったままであり、義手の女の姿はその炎の中であるはずだ。

 故に周子の背後の瓦礫から這い出てきた複数の黒鉄の義手はあまりにも唐突であった。
 それらは周子の背後を空中で停滞したまま指先を周子へと向ける。
 二の腕の部分から小型のミサイルが露出する。さらに腕からは小型の機銃が出現し、手のひらには何かしらの銃口らしき孔が開く。

 それらの銃口、すべての義手を合わせれば50はくだらない砲口はすべて周子の背に向かっている。
 紗枝はその様子をすべてスローモーションのように見ていたが、儀式の最中であるがゆえに周子に声をかけることが出来ない。



111 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:58:26.39NGKYIe+ko (50/83)


 紗枝は、このまま儀式を中断しても周子に声をかけるべきか、それとも周子を信じてただ見ているだけか思考を巡らせる。
 だが迷っている間にも、義手の砲塔は待ってはくれない。
 それらは無機質な発砲音を立てながら、すべての銃弾を周子の背を目がけて射出した。

「『雲平』」

 だが周子は銃弾迫る背後を見ないまま小さく呟くと、大きめの狐火が周子の背後に出現。
 その狐火は周子を守るように周子の背に幕のように広がる。

 それに着弾した弾丸はその高温に一瞬で蒸発しミサイルは周子に届く前に爆発する。

「『葛桜』」

 さらに周子の身を守った狐火は分裂し、いまだ宙を漂う義手目がけて突き進む。
 義手はそれを回避しようとジェット噴射で周囲を縦横無尽に駆け巡るがそれに狐火も追随する。

 そして一つ、二つと義手に追いついた狐火は義手を飲み込みその義手内部の火薬と反応して爆発した。
 残った義手は手のひらからグレネード弾を狐火に向けて射出。それを食らった狐火は義手を道連れにすることなく爆発する。
 だが周子の背後を取っていた義手は散り散りとなった。
 そして義手は周子から距離を取りながらある地点に集まっていく。



112 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 01:59:06.11NGKYIe+ko (51/83)


「正直言って、何で生きてるのさ?」

 周子の目の前の燃やし尽くした火炎の先、開けた視界の向こうには服をいくらか焦げつかせながらも、依然健在な義手の女が姿勢を低くしながら周子の方を見ていた。
 空中の義手たちは周子を迂回するように、義手の女の背後に着く。

「さすがに死ぬかと思ったわよ。

あんな初見殺しの技、どうやったって避けようがないじゃない」

 義手の女はそう言う口ぶりの割にはあまり切羽詰まった様子ではない。

「じゃあいったいどうやって避けたっていうの?」

 対して興味なさそうに周子は尋ねる。
 その間に周子の背後にぽつぽつと狐火が出現する。

「こう、少し腕を振っただけよ。

真空作ればいくら化物の火でも燃えないでしょう?」

 そう言いながら義手の女は両腕を軽く振るう。
 問題腕の振りだけで真空を作り出すことは出来るはずがない。

 音速にも匹敵する腕の振りと、特殊な習練によって体得できる動作によってのみ実現させうることができるかもしれない、そんな技。
 それによって真空の壁を作り出した義手の女は周子の炎球を防いで見せたのだ。



113>>112修正『問題』→『実際問題』 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:03:13.23NGKYIe+ko (52/83)


「正直言って、何で生きてるのさ?」

 周子の目の前の燃やし尽くした火炎の先、開けた視界の向こうには服をいくらか焦げつかせながらも、依然健在な義手の女が姿勢を低くしながら周子の方を見ていた。
 空中の義手たちは周子を迂回するように、義手の女の背後に着く。

「さすがに死ぬかと思ったわよ。

あんな初見殺しの技、どうやったって避けようがないじゃない」

 義手の女はそう言う口ぶりの割にはあまり切羽詰まった様子ではない。

「じゃあいったいどうやって避けたっていうの?」

 対して興味なさそうに周子は尋ねる。
 その間に周子の背後にぽつぽつと狐火が出現する。

「こう、少し腕を振っただけよ。

真空作ればいくら化物の火でも燃えないでしょう?」

 そう言いながら義手の女は両腕を軽く振るう。
 実際問題腕の振りだけで真空を作り出すことは出来るはずがない。

 音速にも匹敵する腕の振りと、特殊な習練によって体得できる動作によってのみ実現させうることができるかもしれない、そんな技。
 それによって真空の壁を作り出した義手の女は周子の炎球を防いで見せたのだ。



114>>112修正『問題』→『実際問題』 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:04:45.58NGKYIe+ko (53/83)


「しかし本当に今日は妙な日ね。

こんな怪獣大戦争みたいなことはあんまりないわ」

 義手の女は腰のポーチに手を突っ込んで何かを取り出す。
 指の間に納まっているのは小さなガラス玉。それは黒いような茶色いような形容しがたい色で濁っている。

 それを周囲にばらまくと、ガラス玉は地面に落ちず義手の女の周囲に漂う。
 そしてそのガラス球の中から這い出てくるように、中に納まるはずのない大きさの黒鉄の義手が生えてきた。

「だから面倒ではあるけど、出し惜しみは無しよ。怪物」

 周囲に数十もの義手を携えて、義手の女はクラウチングスタートのような体勢を取る。



「正直さ」

 周子は依然殺気を発し続け、義手の女に浴び続けさせている。
 だが義手の女は初めの時点で一瞬硬直しただけであり、すでに常人ならば発狂するようなプレッシャーの中で平常心を保ち続けていた。

「あたしのことを『怪物』って呼ぶけど、あんたのほうがよっぽど怪物じみてるよ。技術も、精神も」

 千年以上の長きにわたり妖怪の王として君臨し続けた周子に対して、凡人では一生かけても体得できない技術と、それを可能にする精神性で追随する義手の女。
 もはや周子にとっても義手の女はただの人間、いや一方的に殺す対象ではなく、余すところなく殺さねばならない相手として認識していた。



115 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:05:46.83NGKYIe+ko (54/83)


 故に周子も、数十にも及ぶ狐火を背に従え、白き多尾を凛と靡(なび)かせる。
 化生としての姿を隠すことなく、その耳も、その尾も、その獣爪もむき出しで義手の女に構える。

「狐火『金平灯』」

 数十の狐火たちの周囲はさらに数個の火球を携える。すべてあわせて百をゆうに超える火球はゆらゆらと星図のように周子の背後に漂う。

「行って」

 周子の合図とともに義手の女へ向け一斉に飛んでいく火球群。
 鉛玉さえ溶かす流星は全てを焼き尽くさんと放たれた。

「発射(ランチ)!!!」

 上機嫌に声を張り上げ、義手の女は地を蹴り迫りくる火球群に向け飛び出す。
 それと同時に女の背に漂う黒鉄の義手たちの砲門がガシャガシャとすべて開く。
 むせ返る火薬と硝煙の臭いが空間に充満し、義手から弾丸が一斉に発射された。

 爆炎、重なり合う轟音。
 銃弾と火球はぶつかり合い、周子と義手の女の間で爆発する。



116 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:06:22.38NGKYIe+ko (55/83)


 義手の女は眼前に爆風が立ちふさがるが何も気にせずに突っ込む。
 それに合わせるように周子は爪を振り上げ目の前に振り下ろす。

 爆風から飛び出てきた義手の女と腕と、周子の振り上げた爪がぶつかり合い、鋭い金属音と爆風さえ跳ね除ける衝撃が生み出される。
 両者の腕は一瞬の間に何度もぶつかり合い、高い衝突音をそのたびに奏でた。

 義手の女は半歩下がり両掌を周子に向かって突き出す。
 手のひらに空いた孔からグレネード弾が射出されその2発の弾はまっすぐ周子に向かう。
 だが周子は腕を振り上げて爪によって迫りくるグレネード弾を寸断した。

 その弾丸を両断した事によって内部の火薬が引火し、再び爆風が周子と女の間に壁を作る。
 今度は距離は開いておらず、ほぼ直前での爆炎。
 その閃光は普通ならば人の目に焼き付いて離れないが二人にとってはまるで意味がない。
 ましては身を焦がす熱量は、二人にとっては真夏の日差しにも及ばぬようである。

 義手の女は眼前に広がっていた爆炎をかき分けるように前傾姿勢で出現し、振り上げたままの周子の両腕に向けてサマーソルトからの蹴りを入れる。

「『ペイン・バッター』」

 その脚は相手の腕を挟み込み、はさみで切るように腕を引きちぎる殺人技術。
 アメリカのストリートで生まれたこの暴力が周子の腕を狙う。



117 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:07:02.26NGKYIe+ko (56/83)


「甘い、ね」

 だが周子は振り上げた腕を裏返し、義手の女の足を掴む。
 義手の女は脚を掴まれた途端に力の入れ方を変えて状態を起こし、周子の手を蹴ってその頭上へ跳んだ。

「『翁飴』」

 周子と女の間に何層もの炎の壁が生成され、その壁は一枚ずつ落下する義手の女に食らいかかる。
 女は空中で前回り一回転した後逆さまの状態で、炎の壁に手を突っ込む。

「『カトラ・フェダハ』」

 その義手はまるで炎を掴むようにしてこじ開ける。
 まるで焦げ付いていない義手は、こじ開け両腕を広げるだけでその炎の壁を霧散させた。

 さらに義手の女は空中でもう一回転、流れで降り下ろされた踵はまっすぐ周子の脳天目がけて落ちていく。
 周子はその前に頭頂で両腕を構え防御の姿勢を取った。
 それを両腕で防いだ周子は、ミシミシと言う腕の軋む音と同時に義手の女の重みをそのまま押し返す。



118 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:07:55.15NGKYIe+ko (57/83)


 周子の数歩前に着地した女は、その際に曲げていた膝のばねを思い切り解放し、再び周子に一直線に進む。
 鋭く形作られた貫手は周子に向けられ、迫りくる。

「『火ノ狐』」

 だが周子は爪を振り下ろすと、その軌跡に炎の流れが生じる。
 それは周子と女を遮り、炎の衝撃波のように女に対するように迫り来た。
 義手の女は貫手の先、指先の銃口から銃弾を数発その炎の波に打ち込む。
 だが銃弾は炎に触れた瞬間蒸発し、炎の勢いを全く削ぐことはできなかった。

「チッ……」

 小さく舌打ちをした義手の女は前に踏み出していた右脚で、急きょバックする方向に地面を蹴る。
 その蹴りは地面の瓦礫ともどもコンクリートを破壊して半分地面に埋まった右脚はブレーキとして進みつつある女の体を止める。

 だが左半身は未だ前へと進もうとしており、右半身とのバランスが崩れつつあった。
 義手の女はそれを立て直すことなく右脚を軸として左半身は進む。つまり体は時計回りをする。

「冥新流『神空断』」

 その回転によって薙いだ左足の蹴りは、真空を作り出しその炎の爪蹟を両断する。
 そして再び両者眼前にまで戻ってきた状態になり、爪と義手は金属音を響かせながら再び何度も打ち合う。



119 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:08:44.37NGKYIe+ko (58/83)


 依然義手の銃弾と火球の弾幕は二人を中心として飛び交っており、二人の戦闘のすぐ隣でミサイルと火球が爆発していた。
 されど二人の動きは止まらず、いまだ両者致命傷ともいうべき傷を一切負っていない。

 絶えず義手から放出される弾丸と、狐火から生み出される火球は二人の周囲で飛び交い嵐のように熱風が吹き荒れる。
 火球を生み出せなくなった狐火や弾薬の切れた義手自体が直接ミサイルのように飛んでいき衝突した後爆炎を散らす。

 幾度となく打ち合い、その刃を交えた二人は同じことを考えた。
 このままでは勝てないと。


((もう一段、手を使わないと))


 戦闘において本気を出し切らずに敗北するというのは愚の骨頂だが、かといって初めから全力を出すのは愚かなことだ。
 実力が測れない相手に対して、自らの『底』が露呈してしまうということはこれ以上の手がないことを明かしているも同然である。

 故に両者ともに、相手を屠り得る実力は出しているものの、自らの能力のすべてを出し切っているわけではなかった。
 そしてこれまでの火薬と拳のぶつかり合いでは決着が着かないと二人も感じ取った。
 周子としてはこのまま三日三晩戦い続けることもできるが、仮に目の前の義手の女がそれ以上戦い続けることができる可能性も捨てきれない。
 ならばこのまま自らの『とっておき』を一つ披露し、この戦いに早急な決着をつける方が賢明であると考えた。

 そしてそれは義手の女にとってもおおむね同じであり、このまま拮抗し続けるというのも彼女にとって癪であったのだ。



120 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:10:23.13NGKYIe+ko (59/83)


 両者は右腕の爪と義手が一度打ち合った後、同時に半歩足を下げる。
 その瞬間に周子の両腕が、赤い炎で包まれたのちにじりじりと色を変え、青色の炎へと変化する。
 両腕にまとった陽炎は、これまでの『現象』としての炎とは違う底知れぬ脅威を纏っていた。

 そして義手の女も再び腰のポーチに手を伸ばし、何かを取り出そうとする。

 二人の次の一手を繰り出すその予備動作。その頭上で義手と狐火がぶつかり合って一際派手な音を響かせた。





 その瞬間ピクリと義手の女の雰囲気が変わる。
 少し目を見開いたと同時に殺意と悪意に満ちたその表情は、まるで興が削がれた様に表情から気が抜ける。

(ん?どういう……)

 そんな女の様子に一瞬疑問を抱く周子であったが、それでもポーチから新たな何かを取り出そうとしていることには変わりがない。
 燃え盛る両腕を女に向かって突き出し、小さく呟く。

「九尾焔技『せん……」



121 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:10:52.77NGKYIe+ko (60/83)


 だが女が両手の握りこぶし一杯に持ち出したのは、先ほども見た大量のガラス玉。
 それをすべて周子に向け、投げつける。

 その過程でガラス球から這い出てきた大量の義手はジェット推進によって一斉に周子の元へと迫りくる。

「な!?」

 その物量と女の『決め手』ではない不可解な行動に周子は一瞬面食らうが、それでも慌てず両腕の炎を盾のように展開。
 数十にも及ぶ義手に内蔵された火薬量は百キロを優に超える。

 それらに引火することによって、周子の視界さえも遮る火柱が鼓膜つんざく轟音と共に立ち上った。

「くっ!」

 その衝撃に思わず視界を腕で防ぐ周子。
 未だ火薬が断続的に暴発し、灼熱地獄を化しているこの状況で周子はすぐに女の気配を探る。



122 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:12:29.20NGKYIe+ko (61/83)


 その位置は周子から距離を取った直線上20数メートル先の辺り。
 そして爆音と火柱が晴れれば、探った通りその辺りに義手の女は立っていた。

「今日は時間も押しているし、ここらへんでお開きにしましょう」

 そう言う義手の女の手には、棒のような機械的な装置が握られている。
 装置は青白い電撃をバチバチと帯びており、何かしらの動作中であることは明白であった。

「お開きって……あんたから仕掛けてきたのにそりゃあ無いんじゃないの?」

 虫の居所の納まらない周子としては、このまま義手の女が何かしらの手段を用いて逃走することを許そうとは微塵も思っていない。
 だが女の持っているその装置が、彼女にとっての逃走手段であることは周子は理解していた。

 これだけの距離を詰めるのは周子にとって造作もないが、装置が発動するまで周子の攻撃を回避し続けることも義手の女には容易い。
 そして姿をさらしている以上、装置が発動するまでの間時間稼ぎをすれば逃走が完了する類の装置であることも大方の予想がついた。

「まあそう言わなくてもいいでしょう狐さん。

また機会があれば相手してあげるわよ」

 上辺だけ見れば優しげな笑みを浮かべながら義手の女は言う。
 だがその異次元的に捻じ曲がった心は今更その表情では隠しきれなかった。



123 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:13:08.38NGKYIe+ko (62/83)


「もし次会うときがあれば、もっと素敵なおもてなしをしてあげるわ。

あなたのより大切な何かといっしょにね。……ギャハハ」

 そんな笑い声を言い切った直後に、義手の女の背後の瓦礫から吹き出てきた狐火。
 背後から強襲する狐火は女の喉に食らいつこうと目がけて進む。

 だが義手の女はまるで気にしていないように空いた左手を振るえば、火の粉を散らすように狐火はかき消されてしまった。
 そうなることは周子にはある程度予想はついていたが、やはり忌々しげな表情をする。



「では、『さようなら(アルヴィダー)』。狐さん。

迦利(カーリー)の言葉を、忘れないでくれるとうれしいわ」



 装置がバチバチといっそう紫電を立ち上らせたのと同時に、義手の女の足元に魔方陣が刻まれる。
 その直後、いっそうの青白い閃光が周子の視界を一瞬奪い、その後には義手の女の姿は残っておらず瓦礫が散乱しているだけだった。



124 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:14:01.88NGKYIe+ko (63/83)


「……はぁ」

 周子は敵のいなくなったこの場で、小さくため息をつく。
 数年ぶりの強敵、そして数世紀は見たことない狂気が姿を消した今、周子の肩の力がようやく抜けた。
 いまだ行き場のない怒りが多少燻っているが、どうしようもないので放置しておく。

「とりあえずは、いっか」

 視線を移せば、すでに儀式を終えて瓦礫の上に伏せるアーニャを見下ろす紗枝の背中。
 とりあえずの問題がいったん終息したことを確認した周子は、ゆっくりと紗枝のいる方向へと脚を進めた。

「おーい、紗枝ちゃーん」


****************




125 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:14:42.99NGKYIe+ko (64/83)



 時は少し戻り、周子と義手の女の戦闘が激化した頃合い。
 紗枝が周子の背後に漂う義手に気づいた少し後のことだ。

 この場から動くことも出来ない紗枝はそれをただじっくりと見守ることもできない。
 今の彼女は、想い人の友人であるこの少女を暴走させる『何か』を封印するだけであった。

(これしか、周子はんのためにできることはないしなぁ……)

 今すぐに周子に加勢したい気持ちもあるが、もしもこの少女、アーニャを放置してそれを行った場合次に周子の怒りを買うのは紗枝かもしれない。
 仮にそんなことになり、周子に嫌われてしまった場合紗枝にとってはこの世の終わりに等しい。

 だからこそ今は自分のできる限りで目の前の少女の中の『何か』を封印するしかなかった。
 それにだ。

(なんとなくやけど……この子をこのままにしたら、取り返しがつかなくなる……気がするわぁ)

 ただの直感に過ぎない思考であったが、占術的技能も備えた紗枝の直感はただの予感以上に『予期』に近い。



126 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:15:31.04NGKYIe+ko (65/83)


「ウオオオオオォォォォオオオオ!!!!!!!!」

 少女の四肢に一つ一つゆっくりと杭を打ち付けていた黒鬼は打つべき最後の1本を禍々しい咆哮と共に打ち終わる。
 四肢に打ち込まれた杭と、胴体に深々と突き刺さった大太刀はアーニャの動きを物理的に完全に封じ込めた。

「аааааааааааааааааааааааааааааааа」

 もはや人の物ではない叫び声と、畏怖さえ感じる赤い眼を動かすことくらいしかアーニャにはできない。
 それでもその地に這いつくばったその姿でさえ、他に与える『威厳』にも近い何かを周囲に発していた。

(これで……終わり!)

 呪文の前段階は終わり、龍脈封印の儀式は始める。
 アーニャの下に青白い光と共に、五行を表す五芒星が浮かび上がりそこからスパークにも似た何かが明滅する。

「ア……アアアアааа……あああああああああああ!!!!!!」

 その途端に抵抗するような咆哮を上げていたアーニャの叫びに苦悶が混じり始めた。
 全身を覆っていた結晶の鱗はパラパラと剥がれ落ちていき、少女としての姿を取り戻していく。

 紗枝が呪文を唱えるたびに、アーニャの体を覆う結晶は剥がれ消滅していく。
 紗枝自身、周子に指示されるがまま行った儀式であったがここまで効果があるとは思っていなかった。

「ああ……ぐぅ……あああ……」

 呪文も終盤に差しかかり、苦悶の声もかなり人間らしいものへと戻っていた。
 その様子に紗枝は自分の行った儀式が完全に成功したことを確信し、内心安堵する。



127 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:16:19.79NGKYIe+ko (66/83)








「あ………………」

 だが突然その苦悶の声はピタリと止んだ。
 紗枝にはあまりにも唐突に起きたアーニャの変化に、緩んだ気を締め上げられるような感覚に陥る。

 耳に聞こえてくるはずの自身が唱える呪文は、なぜかひどく遠い。
 聴覚は麻痺したように静寂を鼓膜に届ける。

「クス……クスクス……」

 本来龍脈封印は人間に行うものではない。
 それに人間を巻き込んだ場合、人体を消滅させかねないエネルギーの奔流と共に激痛が走るはずである。
 いまだそんな儀式の最中なのに、苦悶の表情を一変させたアーニャはニヤリと小さく嘲り笑う。

「今日は……こんなものね……」

 流ちょうな日本語と共に紗枝に向けられる視線。
 その眼は依然すべてを飲み込むような赤色であったが、その瞳孔に刻まれているのは『∞(無限)』の意味を表す記号。
 それに見つめられた途端紗枝は素肌に氷を当てられたような感覚と共に、これまでの人生が走馬灯のように脳裏を廻る。

 過去から現在に至るまでを何順もするように悠久にも等しい螺旋が紗枝の脳内を一瞬で駆け走った。



128 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:16:57.54NGKYIe+ko (67/83)


「あ……え?」

 続けていた呪文もその衝撃によって中断してしまう。
 脳裏を駆け巡った膨大な情報は、いまだ未成熟な少女である紗枝の思考を混乱させるのは容易であった。

 だがそんな紗枝の様子を気にせず、その氷点下の寒気さえする笑みを浮かべたアーニャは顔だけを紗枝の方に向けて目を細めながら言う。

「気にしなくて、いいよ……あなたには関係ないもの。

でも……もし機会が廻(めぐ)れば、また会いましょう。紗枝」

 フッと目を閉じたアーニャからは、氷のような雰囲気は一瞬で消える。
 全身を縫い着けていた杭と大太刀は、いつの間にか眠りにつくアーニャのそばに落ちていた。



「はっ……はっ……」

 心臓を掴まれたような一瞬の感覚から解放された紗枝は、呼吸を荒くしながらも自身の状況を冷静に分析する。
 儀式は中断したはずだったのに、目の前のアーニャは完全に沈黙しており落ち着いている。



129 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:17:37.28NGKYIe+ko (68/83)


 これまで出していた式もいつの間にか手元の式符に戻っており、まるですべての作業をいつの間にか終わらせていたかのような状況であった。

「うちは……ちゃんとできたんか?」

 状況だけ見れば龍脈封印の儀式は完遂しているように見える。
 実際なぜか紗枝にもちゃんと終えた気がするし、アーニャだって暴走している様子は微塵もない。

 だが先ほど駆け巡った意識と、脳裏に焼き付いたあの瞳は何だったのか?
 緊張が作り出した幻影か、はたまた実際に紗枝自身がアーニャに何かされたのか?
 結局それを確かめる術は紗枝にはない。

(とりあえず……考えない方がええんかなぁ……?)

 紗枝は一抹の不安にも似たものを心に残したままであったが、とりあえず終わったのだと、思うことにした。

「おーい、紗枝ちゃーん」

 その呼び声と共に紗枝は振り向けば、ゆっくりとこちらに歩いてくる周子の姿を視界にとらえた。
 周子の姿を見ただけで、不安を残していた紗枝の心は安心感で満たされる。



130 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:18:24.01NGKYIe+ko (69/83)


「あ、周子はん。いつの間に終わったんどすか?」

 想い人が無事であることを確認できた紗枝は、周子に先の戦いについて尋ねた。
 だが周子は苦々しい笑みを浮かべ、すこし罰が悪そうである。

「いやー……それが逃がしちゃってさ。

ごめんね。せっかく紗枝ちゃんは頑張ってくれたのに」

 ちゃんと周子が頼んだ通りに、アーニャの暴走を止めてくれたと思っている周子は、敵を逃がしてしまったという事実に少し申し訳なさそうであった。
 紗枝にとっては周子さえ無事ならばそれでいいのでそんなことは気にしないのだが。

「ええんどす。結局周子はんが無事ならあの女の人のことなんてどうでもええんやからなぁ」

「そう……。紗枝ちゃんは怖くなかった?」

 周子にとって自らをここまでさらけ出して戦ったのは久しぶりであったと同時に、殺気をむき出しにしているところを見られたのだ。
 その姿は、いくら凄腕の退魔士であっても、十代の少女である紗枝にはトラウマになりかねないものである。
 いつか抱いた懸念は周子の心に一抹の不安として引っかかる。



131 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:19:00.53NGKYIe+ko (70/83)




「なんのことや?周子はんがちゃんと守ってくれはったから、何も怖くはなかったんどすけどなぁ」

 だが紗枝の方はそんな周子の不安をまるで気にもせず、信頼の言葉を周子に掛けた。
 特に変わらない紗枝の様子に少し安堵するとともに、何も変わらず接してくれる紗枝に周子は感謝する。
 周子はまだすべてを出し切ったわけではなく、『妖怪』としての本質をすべて出し切った時どうなるかの不安は周子にはまだあったのだが、それでも。

「そっか……ありがとー、紗枝ちゃん」

 そう言って紗枝に優しくハグをする周子。
 唐突にされた抱擁に紗枝は表情はみるみる赤くなっていく。

「な、なにしてはるんや周子はん!そ……そんな急に」

「いやーせっかくのお休みだったのにわざわざ頑張ってくれたからさ。周子ちゃんからのささやかなご褒美だよー。

なに?やっぱりこれじゃ足りない?」

「……いや、本当に充分やわぁ、周子はん。ありがとうな」



132 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:19:45.97NGKYIe+ko (71/83)


 本当は跳びあがるほどに嬉しかった紗枝なのだが、果たして自分は本当に周子に頼まれたことを完遂できたのか定かでないのに、こんなご褒美をもらっていいのかという後ろめたさがあった。
 だがやはりそれを確かめる術を持たない紗枝は、そのことを黙っていることにした。

 それでも一つだけ、気になることが紗枝にはあった。

「ところで、どうして龍脈封印なんやぁ?憑き物の類なら、他にも手段はいくらでもあるはずやのに……」

 なぜ周子は、アーニャの異変に対して限定的な封印術である『龍脈封印』が効果的であることを知っていたのかという疑問があった。
 長きにわたり生きてきた妖怪としての知識と言ってしまえばそれまでだが、そのちぐはぐな対処法が紗枝にとってはあまりにも大きな違和感であったからだ。

「うーんと……経験則?」

 だが尋ねられた周子も首をかしげながら疑問形で返事をする。

「?……どういうことどす?」

「記憶にはないんだけどさ、何かそうすればどうにかなるっていうのかな?それがなぜか確信が持てたんだよね……。

なんでだろうかな?」



133 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:20:28.59NGKYIe+ko (72/83)


 周子は、その事実をあまり気にはしていないようであったが紗枝にとってはさらに謎は増すばかりであった。
 あまりにも、あらゆることが不可解すぎる。
 すべての問題は終わったはずなのに、喉に引っかかった小骨のような些末な疑問が紗枝には残っていた。

「とりあえず……アーニャを連れて『プロダクション』に戻ろっか。

せっかくの東京見物だったけど、機会があれば埋め合わせはするからさ」

 そう言いながら、いまだに瓦礫の上で眠り続けるアーニャを周子は背負った。

「別にうちはかまへんよぉ。

すこし、ゆっくりしたいとも思っとったところやしなぁ」

「じゃあ、さっさと退散しようか。

こうも派手に壊してたら、そろそろ野次馬も集まってくる頃だろうし」

 周子と紗枝は気絶したままのアーニャを負ぶったまま、この破壊しつくされた倉庫群を後にする。
 その際に、アーニャの足首に付着していた小さな結晶片がはらりと落ちた。

 それは地面に着地する前に、気化して消えてしまったが。




134@設定 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:21:25.27NGKYIe+ko (73/83)



 黒鬼(こくき)
 別名『刻鬼』であり、狂気に走った宮大工のその意思が鬼となったものを由来とする。
 物を『縛り付ける』ことに特化しており、神霊級の存在であったとしても物理的に動きを封じることができる。
 ただし小早川家に受け継がれてきた特別危険な式の一体であり、半端な実力の者が扱えば暴走し杭で穿たれた死体が大量に生み出されることとなる。

 狐火
 周子が使役する妖力で作られた狐の形をした炎。
 その炎は金属さえも溶かす高温であり、周子の最も得意とする直接的な攻撃手法。
『中花』 狐火が巨大化し敵を丸呑みした後に爆発する。
『雲平』 帯状に広がった狐火が周子の身を守るように展開する。
『葛桜』 すでに発生している炎から狐火を生成し、敵を追尾していく。
『金平灯』 大量に発生させた狐火を端末として、さらに小型の火球を生成する。
『翁飴』 何層にも及ぶ炎の壁を出し、その一枚一枚が敵に向かって食らいついていく。
『孤ノ火』 爪の軌跡に炎を生み出し、炎の傷跡を刻み付ける。

 狐火・九尾焔技
 周子の奥の手の一つであり、周子の狐火と、能力にまで昇華させた他へ与える『恐怖』を掛け合わせた九つの技。
 九つの尾に対応するように編み出されたそれらは、炎の物理的法則を変えるだけに至らず深層心理さえ侵食する妖炎を生み出す。


135 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:22:28.78NGKYIe+ko (74/83)











 雑踏からは程遠い、薄暗い路地。
 真昼であるのにビルに阻まれ光さえ届かないこの道は、曇り空も相まって漆黒で塗りつぶされている。

 当然人の気配は皆無であり、そこに息づくのは人の残飯を漁る鼠くらいであった。

 だからこそ、その場に突如発生した閃光は影の住人である鼠の濁った眼でさえ焦がす。
 蜘蛛の子を散らすように鼠の会議は離散し、暗闇の中に蠢く濁流が流れていく。

 その虚空から突如発生した閃光は、その中に一人の人影を映し出し、電流のような線を刻みながら実体化していく。
 そして完全に質量を持ったその『人物』は、ふわりと暗闇の地面に着地する。

『ヂュイ!!!』

 だがその人物のつま先は何かやわらかいものを踏むと同時に、悲痛な小動物の悲鳴が鼓膜を揺らす。

「……あちゃあ」

 その人物は禍々しい手甲、いや義手で頭を抱え失敗したような口ぶりで呟いた。
 何かを踏んだ足を退かし、それを躊躇なく拾い上げる。



136 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:23:12.99NGKYIe+ko (75/83)


 それはこの路地の住人である小動物の一匹であり、すでに内臓が飛び出て絶命している。
 ただでさえ嫌悪感を抱く見た目をしている鼠が、臓物を露出させている時点で普通ならば顔を歪ませるほどの嫌悪感を抱かずにはいられない。
 だがその人物は特に何かを感じるわけではない、平常とした表情をしながらそれを



 口に入れた。



 そして複数回咀嚼し、ごくりと飲み込む。
 さらに口内を緻密に動かし、吐き出す。
 吐き出したのは鼠の骨であり、肉片は余すところなく削がれていた。

「やっぱり……まずい」

 その人物は少しだけ表情を歪め、胃に入れたものの感想を言う。
 ドブネズミはその体に多くの雑菌を飼っており、引っ掻かれたり触れたりするだけで鼠咬症やサルモネラ症など命に係わる病気を発症したりする。
 だがその人物はそれをまるで気にしないかのように、生の何の処理もしていないドブネズミを食したのだ。

 そしてその暗闇から数多の視線が鼠を食した彼女へと突き刺さる。
 漆黒に光る膨大な瞳は全てこの路地の鼠の物であった。
 本来人間に対して逃げるしかない小さな隣人である鼠であるが、仲間が殺されれば別である。



137 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:23:49.60NGKYIe+ko (76/83)


 この路地で独自に進化したドブネズミの知性は高く、特に群れに危害を加える者に対しては容赦はしない。
 ただ一匹では一般人を殺す力さえ持たないが、それが数百、数千ともなれば話は別である。
 恐るべき数の暴力によって、標的となった者はそのまま鼠たちの晩餐と化すだろう。

「さすがに畜生繋がりでも、余韻には物足りないだろうけど……」

 特に慌てた様子もなく、鼠たちに狙われる女は退屈じみたため息を吐く。
 それを合図に一斉に鼠たちの行軍は開始した。







 ビル壁に備え付けられた室外機はすでに機能を果たしていないのか錆びついている。
 重みがかかれば落ちてしまいそうなその小さな錆びた箱の上、一人の少女が漆黒の路地を見下ろしていた。

「確かに呼んだのはこっちだけどさぁ……」



138 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:24:37.29NGKYIe+ko (77/83)


 少女のその口調からは呆れた様子がにじみ出ている。
 眼下には足の踏み場もないほどの鼠の死骸が、絨毯のように敷き詰められておりそれらが纏っていた生ごみの臭いと相まってひどい悪臭を放っていた。
 少女は軽く鼻をつまむと小さな魔方陣が指先で点滅する。
 鼻孔を別空間とつなぐことによって、とりあえずの悪臭を防ぐことにしたのだ。

「ちょっちこれ、やり過ぎじゃねカレーちゃん」

 鼠の骸の平原の中心、一か所だけ唯一残されたコンクリートの地面の露出部分。
 そこには死に包まれたこの場で唯一生きている存在が室外機の上の少女の方を見ている。

「その呼び方アタシはあまり好きじゃないわ。

あんなスパイスまみれで味を誤魔化した料理なんてここの鼠の味にも劣るわよ」

「食べたの!?」

「喧嘩売るために一匹だけよ。

まぁ何匹も食べるとさすがにお腹壊すからしないけど、貧困下なら悪くない栄養元ね」

「や、ヤバーイ……」



139 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:25:12.18NGKYIe+ko (78/83)


 様々な事柄に寛容な少女であったが、さすがにその女の発言にはさすがに引き気味であった。
 この場に漂う悪臭を嗅いだ時点で、それを口に含もうなど毛頭思わない。

「で、なんで鼠に喧嘩なんて売ったのカレーちゃん?

今日は妙に手こずってたみたいだけどそれが原因?」

「まあそんなところかしら。

アタシの道楽の延長線上だからあなたは特に気にしなくていいわ。実際あのまま続けるのもいろいろもったいなかったし」

 そんな女の発言に目を丸くする少女。
 この女を相手にして生き残り、その上でひどく浪費家の彼女に『もったいない』と言わせる相手はほとんど思いつきはしないからだ。

「そんな相手なんて、少し気になっちゃうなー♪」

「あいにく教えないわよ。

それと仕事がひと段落したら休暇をもらうわ。そいつの相手をしなくちゃならないし」

 その表情に映るは、意地悪く、悪魔のごとくの邪悪さを秘めた笑顔。



140 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:25:53.93NGKYIe+ko (79/83)


「カレーちゃんってさ、なんか悪魔よりも悪魔っぽいよねー」

 悪魔であるがゆえに感じる、心からの言葉。
 この世に善と悪と言う言葉が定義されている上で、こうも邪悪を体現する人間は他にはいないと少女は考える。

「買いかぶらないで。アタシは所詮ただの人間よ。

ただ趣味が少し特殊な、どこまで行ってもただの人間。そうじゃないと、あたしは楽しくないわ」

(そんなところが、カレーちゃんの『悪い』ところなんだけどね)

 あくまでただの人間、それが他人を傷つけ、踏みにじり、尊厳さえも破壊しつくすことを趣味としている。
 さらにそのためだけに、人間の限界としての能力を駆使し、奇跡とも呼べる技を会得し、挙句の果てに限界さえも踏みにじる。

 自らの望む終末を実現するために、狂気とも呼べる精神性と人を踏みにじる手段を手に入れたこの女こそ真の意味で『悪人』なのだ。

「あの狐さんをもっとリサーチして、今度は大切なものから台無しにしましょう。

人質、拷問、殺人、嘘、挑発、次には力だけじゃないあらゆるものを駆使してあの小奇麗な顔をこの世の終わりに染め上げてあげるわ」

 他人の人生を、尊厳を、歴史を踏みにじることを趣味とした女は嗤う。
 周子と死闘を繰り広げた義手の女は、脳内で周子に対しどんな極悪を行うのか思想を巡らした。



141 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:26:55.05NGKYIe+ko (80/83)


 そしてその様子を見る少女にとっても、義手の女の表情に嫌悪感を抱かずにはいられない。
 そうだ、親しげに話すこの少女でさえも、この女とは決して友人関係にはなれないと理解していた。

「でもカレーちゃん、ゆいに休暇欲しいって言われてもムリムリ。

それはイルミナPちゃんか、えいびっちに頼んでね」

 少女、大槻唯は義手の女を見下ろしながら言った。

「あのろくでなし二人ね……。

あの二人は殺し甲斐がないから嫌いだわ。まぁいつも殺したいと思ってるのだけど」

 女は義手で頭を抱え、二人の姿を浮かべる。
 脳裏に浮かぶは、アニメTシャツを着ただらしない男と、半裸で床を滑るナルシスト男。

「それとその『カレーちゃん』っての嫌いって言ったはずよ。唯」

「えー、良くない?『カレーちゃん』

たしかカレーちゃんはそんな感じの通り名で有名なんでしょ?」

「あいにくアタシの通り名は『迦利(カーリー)』よ。

他の呼び名はロクなものじゃないし」



142 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:27:50.87NGKYIe+ko (81/83)


 悪逆非道の傭兵として、世界中の戦場から侮蔑を込めた名で呼ばれる女。
 『ジェノサイダー』『デスビッチ』『ドブゲス女』など聞くに堪えない蔑称は、彼女にとっては気にはならないがさすがに自称するのは気が引ける。
 自身の生まれた地、インドの神であり血と殺戮を示すその名は、自らの名前さえ忘れてしまった彼女にとっても自身を表す名となっていた。

「それとも、傭兵社としてのコードネームの『ジャイロ・アーム』のほうが良かったかしら?」

「正直ゆい的にはー、どっちもダサくない?」

「唯、あんたアタシに喧嘩を売っているのかしら?」

「カレーちゃん、こっわーい」

 けらけらと笑う唯に、いつものことなのだろうか諦めたように溜息。
 唯はひょいと室外機から降りて、鼠だらけの地面に着地する前に現れた魔方陣が唯の足場となる。



「じゃ、次の仕事があるってイルミナPちゃんも言ってたから帰ろっか。

騎士兵団6位『ジャイロ・アーム』ちゃん♪」

 まるで茶化すように唯は、カーリーのことをそう呼んだ。



143@設定 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:28:50.10NGKYIe+ko (82/83)


 迦利(カーリー) / 騎士兵団6位『ジャイロ・アーム』
 災禍の中で踊る女。両腕義手のインド・アーリア人系。
 傭兵出身であり純粋な白兵戦のみならば序列内で1位に次ぐ。
 だが性格は序列内でも最悪であり、裏切り、不意打ち、だましうち、人質などあらゆる卑怯な行為でも空気を吸うように行い、相手を絶望させるための労力を惜しまない。
 世界中で身に着けた人間の限界に匹敵する技の数々でさえ、自らの欲求を満たすためだけに習得したものである。
 『ドブゲス女』、『デスビッチ』『迦利(カーリー)』など様々な蔑称で呼ばれ、世界中の傭兵から兵士に恐れられている。

 量産型戦闘義手『ジャイロ・アーム』
 イルミナPが自身の『マジックハンド』をベースとして、魔導装置の代わりに現代兵器を多く搭載し量産化をした義手。
 だがその性能と重量によって汎用的に使える物ではなく、カーリーのみが使用する物として設計された。
 腕に装着されてない義手であってもカーリーの思考で並列コントロールすることが可能。
 また泥を完全に抜き取ったカースの核の内部保存領域を拡張して利用することによって、カースの核内部に義手を封じ込めて持ち運ぶことができる。
 カーリーが唯一行使する異能の力を有しているものである。

 テレポーターロッド
 唯の『個人空間』を参考に作られた簡易転送装置。
 特定の座標に向け一瞬でテレポートすることができる。
 だが誰にでも使える反面、記録した座標にしか移動できない、あまり距離が離れていると使えない(約2県くらいの距離が限度)、充電に膨大なエネルギーが必要なうえ、充電してから一度しか使えないなどのデメリットもある。
 基本イルミナティ騎士兵団内でも上位の人間が特定の任務でのみ携行が許される装備。



144 ◆EBFgUqOyPQ2015/04/24(金) 02:30:04.72NGKYIe+ko (83/83)




以上です。
これだけ長々やったのに謎増やしただけ。
果たして収拾着くのでしょうか……。
一応次の話でほとんど回収する予定ですがいつになることやら。

ちなみに周子の使っていた技は漢字を変えたりもしてますが全て和菓子の名前で統一してあります。



145 ◆cKpnvJgP322015/04/24(金) 03:41:07.51lWghYgyho (1/1)

>>144
おつー

前編の時点で『こいつヤベェ……』感ハンパなかったのに
後編で更にヤバさが加速した新キャラのカレー……、カーリーさん
実力の伯仲する彼女に目をつけられた周子の今後や如何に

そしてまさかの紗枝はん登場に「おおっ!」となり
しかしそれ以上にアーニャの謎が深まり「おお……?」となるのであった


146 ◆zvY2y1UzWw2015/04/24(金) 07:34:10.46EaY1ZDdTO (1/1)

乙です
まさかのさえしゅーにびっくり
そして謎が謎と殺戮を生む展開っすねー…
というかそのコードネーム…まさか…て、テノヒラクルー!?


147 ◆q2aLTbrFLA2015/04/24(金) 16:42:35.52k9o3TyPf0 (1/1)

乙、カレー

つまり、今回の話はしゅーこちゃん争奪戦にまた一人参戦したって事なんだな!(思考停止)
頭撃っても死ぬかわからない人がこの先何をしでかすか、恐れながら楽しみにしたいっす


148 ◆3QM4YFmpGw2015/04/27(月) 20:23:20.0788jNd8ai0 (1/17)

乙にゃーん
なんだこれ……なんだこれやべえ!
色々と理解がおいつかねえけどイルミナティがマジヤベエってのは分かった(CONAMI)

投下しまーす


149 ◆3QM4YFmpGw2015/04/27(月) 20:24:30.3788jNd8ai0 (2/17)


将軍が逮捕された日の夕方、学園付近にて。

カイ「……じゃあね、サヤ。ヨリコやマキノにもよろしく」

サヤ「ええ。と言っても、サヤはスパイクPさんを海底都市に送り返したらまた来るんだけどねぇ」

スパイクPを引きずりながらサヤは微笑んだ。

サヤ「あ、それから。エマを見かけたら、先にホテルに戻ってるって伝えておいてねぇ」

カイ「うん、オッケー」

サヤ「まったくもう、エマったらどこに行っちゃったのかしら」

カイ「親譲りなんじゃない? 自由奔放っぷりが、さ」

サヤ「うふふっ、そうかもねぇ」

カイの言葉に微笑んだサヤだったが、不意に表情を引き締めた。

サヤ「……カイ。あの女……海竜の巫女に気をつけて」

カイ「海竜の巫女……あの人が、どうかしたの?」

サヤ「まだ確証は無いけれど……多分、ヨリコは巫女に操られてるの」

カイ「えっ……そんな!?」

サヤ「今は海底都市に留まってるけど……地上にも何か仕掛けてくるかも知れないわ」

カイ「……アイツが……分かった、ありがとうサヤ」

サヤ「ええ。じゃ、サヤは帰るわねぇ」

サヤはスパイクPを引きずってその場を後にした。


150 ◆3QM4YFmpGw2015/04/27(月) 20:25:41.0188jNd8ai0 (3/17)

カイ「じゃあねー。…………海竜の巫女……」

真の黒幕は奴か、そう考えるカイの背中に、聞きなれた声が投げかけられた。

亜季「おや、カイ」

カイ「あ、亜季。良かった、無事だったんだね」

亜季「それはこちらの台詞でありますよ。星花は一緒ではないでありますか?」

カイ「ううん、あたしもさっき学園を出た所だから……」

所在が知れない仲間に、二人は思わず表情を曇らせる。

と、そこに。

瞳子「あら、カイちゃんに亜季ちゃん」

アヤ「ん、知り合いか?」

瞳子「ええ、まあね」

同じく学園から出てきた瞳子とアヤが通りがかった。

亜季「おや、瞳子殿。瞳子殿もいらしていたのですな」

カイ「こんにちはっ。……そっちの人は、お友達ですか?」

瞳子「アヤちゃんって言ってね、さっき知り合ったのよ」

さっちゃん「フフーン!」

アヤ「お、おいコラ! 頭ペシペシすんな!」

頭上で得意げな表情を見せるぷちどるを、アヤは少し慌てて頭から取り上げた。

カイ「ず、随分可愛いの連れてるね」

アヤ「お、アンタこいつの可愛さが分かるか! 人間にしちゃあ話が分かるじゃねえか!」

カイ「人間にしちゃあ?」

アヤ「あっ、いやいや何でもない!」

自らの失言を、アヤは目を逸らして誤魔化す。


151 ◆3QM4YFmpGw2015/04/27(月) 20:26:24.0688jNd8ai0 (4/17)

カイ(まあ、あたし厳密には人間じゃないけどね。ん、あれ? ウェンディ族って人間なのかな? 亜人ってヤツ? あれ? あれ?)

目を逸らすアヤと頭がショートしはじめたカイを置いて、瞳子が思い出したように亜季に話しかけた。

瞳子「そういえば、お昼くらいに星花ちゃんを見かけたわ」

亜季「ほ、本当でありますか!?」

瞳子「ええ。あの銀の馬に乗って大急ぎで学園から出て行くのを」

亜季「良かった、どうやら無事そうですな」

瞳子「ただ……その時後ろにスーツ姿の女の人が乗っていたのよね」

亜季「スーツ姿の……? 一体何者でしょうか……」

亜季は顎に手をあて考え始めたが、それをすぐに中断した。

亜季「いえ、今考えても仕方ない事でありますな。ともかく公園へ行きましょう、星花が戻っているかも」

そう言って亜季はくるりと踵を返したが、思い直して再び瞳子に向き直る。


152 ◆3QM4YFmpGw2015/04/27(月) 20:27:22.9588jNd8ai0 (5/17)

亜季「瞳子殿、情報の提供に感謝するであります」

瞳子「ええ、お役に立ててよかったわ」

亜季「では、失礼いたします。行きますよ、カイ」

カイ「えっ? あ、うん。瞳子さん、ありがとうございました!」

亜季の言葉で我に帰ったカイは瞳子に頭を下げ、急いで亜季の後ろについて行く。

『キンキキン』

ヴ-ン ヴヴ-ン

そして、その後ろをホージローとマイシスターがついていった。

瞳子「……さて、アヤちゃん。せっかく助けてもらったんだから、何かお礼がしたいわ」

アヤ「あ? いーよ別に気にしなくて……」

瞳子「そうもいかないわ。お夕飯くらいおごらせてくれないかしら」

アヤ「…………」

本来、アンドロイドであるアヤに食事などは必要無い。だが……

アヤ(申し出を受ける理由はねえけど、断る理由もねえか……)

アヤ「……ま、そこまで言うんなら。ご馳走になろうかね」

瞳子「そう来なくちゃね。ええと、確かこの先に……」

瞳子はアヤの手を取り、少し嬉しそうに目当ての店へ向かって歩き始めた。

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153 ◆3QM4YFmpGw2015/04/27(月) 20:28:32.2088jNd8ai0 (6/17)

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カイ達フルメタル・トレイターズが活動拠点としている公園。

カイ「……あ、いたいた。亜季、星花いるよ」

公園隅のベンチに、星花の姿はあった。

傍には、ユニコーン形態のストラディバリの姿もある。

そしてその反対側には、瞳子の言っていたスーツ姿の女性が座っている。

亜季「……確かに、隣に誰か座っていますな」

カイ「あれ? あの人……」

二人が疑問に思って近寄ると、星花と女性がそれに気付いた。

星花「あっ……カイさん、亜季さん……」

??「君達は……確か、メイド喫茶で」

カイ「あっ、やっぱり。エトランゼで相席だった人だ」

亜季「あの時のお嬢様……? 何故ここに?」

昼にメイド喫茶エトランゼで女性と面識があった二人は、思わぬ再開に戸惑ってしまう。


154 ◆3QM4YFmpGw2015/04/27(月) 20:29:42.8288jNd8ai0 (7/17)


星花「お二人に、ご紹介いたしますわ……」

星花は弱々しく、申し訳なさそうにそう言うと、すっと立ち上がって彼女を紹介した。

星花「こちらの方は涼宮月葉。わたくしの遠縁の従姉にあたりまして……お父様より遣わされた、涼宮星花捜索隊の隊長です」

月葉「月葉だ、よろしく」

星花に紹介された月葉は立ち上がり、二人に軽く頭を下げた。

カイ「捜索隊って……まさか、星花を連れ戻しに来たの!?」

亜季「そんな……」

それを聞いた二人は、大きなショックを受けた。

彼女の来訪は、星花の強制送還、ひいてはフルメタル・トレイターズの解散を意味している。

短い間とはいえ、苦楽を共にした仲間との突然の別れに、二人は動揺を隠せないでいた。

月葉「その事だがな、少し星花と二人きりで話したい」

月葉は一度そこで言葉を切り、カイ達が入ってきたのと反対側の出口を指で示した。

月葉「そこの出口に部下達が待機している。悪いがそこで少し待っていてくれ」

カイ「えっ……」

亜季「……り、了解しました……」

釈然としないながらも、カイと亜季はそれぞれ相棒を連れて、出口は歩いていった。

星花「…………」

月葉「悪いが、お前もだ。少しだけでいい」

ストラディバリ『……レディ』

月葉に促され、ストラディバリも体を起こして出口へ向かった。

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155 ◆3QM4YFmpGw2015/04/27(月) 20:30:53.6488jNd8ai0 (8/17)

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隊員A「……あ、ども」

カイ「こ、こんにちは」

隊員B「え、と……お嬢様のお仲間の方で?」

亜季「は、はい。……そういうあなた方は、月葉殿の部下の方々でしょうか」

隊員C「そうです。ここで待ってろ、って言われましたけど……」

カイ「…………星花、連れてかれちゃうんですか……?」

隊員D「本来ならそれが任務なんですけど……隊長がその前に少し話させろって」

亜季「……星花……」

『キンキン……』

ヴ-ン ヴ-ン

『レディ……』

六人と三体は、茂みから二人の様子をこっそりと伺っていた。

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156 ◆3QM4YFmpGw2015/04/27(月) 20:31:54.0388jNd8ai0 (9/17)

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月葉「星花……ここでの暮らしはどうだ?」

星花「はい……時々辛い事もありますが……カイさんや亜季さんにはよくしていただいています」

月葉「そうか。……なあ星花」

星花「何でしょうか?」

月葉「お前は……何故戦っている?」

星花「え……」

月葉「今は、あの仲間達を守る為かも知れない。私が聞きたいのは、彼女達と会う前、お前が家を飛び出した時の事だ」

星花「……」

月葉「あの時のお前には、護るべきモノも倒すべき宿敵も存在しなかった。戦う義務は無かったはずだ。それなのに、何故だ?」

星花「…………」

星花から、答えは無い。

ただ俯き、押し黙っている。

月葉「……答えられないか? なら……」


157 ◆3QM4YFmpGw2015/04/27(月) 20:33:55.2688jNd8ai0 (10/17)

星花「……確かに、あの時のわたくしには……護るモノも、倒す敵もありませんでした」

月葉の言葉を、星花が唐突に遮る。

星花「…………しかし……『力』は、ありました」

月葉「……!」

星花「オーラを操る力……それも、膨大な量のオーラを、です」

星花「それほどのオーラを操る力は……他に二つと無い、わたくしだけに与えられた力です」

月葉「…………」

星花「……『権力、武力、知力、財力、魅力。いずれであろうと、大きな力を持つ者は、それと同時にそれを世の為に、力を持たぬ者の為に振るう義務をも持つ』……お父様が、昔よく仰っていた言葉です」

月葉「……叔父様の言う、ノーヴレス・オブリージュ、か……」

星花「ええ。力を持つ者は義務を持つ。なのでわたくしには、世の悪と戦う義務を持っています」

星花はキッと引き締まった表情で、まっすぐ月葉を見つめている。

星花「先程申し上げた通り、護るモノも倒す敵もいませんでしたが、戦う義務なら……家を飛び出した時既に、持っていました。だから、わたくしは戦うのです」


158 ◆3QM4YFmpGw2015/04/27(月) 20:34:46.6288jNd8ai0 (11/17)

月葉「…………なるほど。しばらく見ない内に、随分言うようになったじゃないか」

月葉はそれを聞いてフフッと笑うと、おもむろに立ち上がり出口に声を掛けた。

月葉「全員集合!」

その言葉を聞いた隊員達が、月葉の元へ駆け足で向かっていく。

カイ「な、なになに!?」

亜季「……我々も行きましょう!」

ストラディバリ『レディ』

カイ達二人と三体も、それに続いた。

月葉「よし、全員揃ったな」

隊員A「はい!」

隊員D「隊長、指示を!」

月葉「ああ」

整列した四人の隊員達へ、月葉が指示を下す。


159 ◆3QM4YFmpGw2015/04/27(月) 20:35:47.2188jNd8ai0 (12/17)

月葉「今日、お嬢様を見つけた事は総裁には誤魔化せ。帰還するぞ」

隊員C「は……?」

隊員B「えっ……?」

カイ「今、何て……?」

亜季「誤魔化せ、と言ったのでありますか……?」

隊員達はもちろん、カイと亜季も、その言葉に呆気にとられた。

月葉「聞こえなかったか? 帰還するぞと言ったんだ」

星花「あ、あのっ、月葉姉様……?」

慌てて立ち上がる星花を、月葉がそっと手で制した。

月葉「どうやら、お前は私が思っていた以上に成長していたようだ」

フッと笑い、星花の頭を軽く撫でる。

星花「んっ……?」

月葉「そんなお前を、信じてみたくなった」

星花「……姉様……」

カイ「じゃっ、じゃあ、あたし達今のまま活動出来るんですか!?」

月葉「ああ。当分は私達以外の追っ手は来ないだろう、安心していい」

亜季「……感謝いたします、月葉殿!」

カイ「ありがとうございます!」

二人が月葉へ頭を下げる。


160 ◆3QM4YFmpGw2015/04/27(月) 20:36:51.5288jNd8ai0 (13/17)

月葉「ああ。では、私達は帰還するが……星花」

星花「はい」

月葉「……頑張れよ」

星花「……はいっ!」

その返事を聞き届けた月葉は満足そうに頷き、部下達へ向き直った。

月葉「よし、撤収!」

部下A「はっ!」

月葉を筆頭に、捜索隊が公園から引き上げていく。

星花「……姉様……星花は、頑張ります……」

その背中を、見えなくなるまでじっと見据える星花。

カイ「……良かったね」

亜季「ですな。お祝いに、今夜は少し奮発しますか」

そして、その星花の背中を眺めながら、二人はそっと微笑むのだった。

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161 ◆3QM4YFmpGw2015/04/27(月) 20:38:05.3688jNd8ai0 (14/17)

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海底都市。

マキノ「あら、サヤ。あなたも戻って来ていたのね」

サヤ「ええ。スパイクPさんが動けなくなったから、運んできたとこなのぉ」

海皇宮の廊下で、マキノとサヤが鉢合わせした。

サヤ「……っていうか、どうかしたの? なんだか騒がしいけれどぉ……?」

マキノ「なんという事は無いわ。ちょっとした暴動の鎮圧みたいなものよ」

サヤ「ああ……例の?」

マキノ「そう、例の。まあ侵入者そのものには逃げられたようだけれど……それとは別に、大きな収穫があったのよ」

マキノが眼鏡を指で軽く持ち上げ、不敵に微笑む。

サヤ「へえ……そういえば将軍のおじさんはどうなったのかしら?」

マキノ「地上の電波放送を傍受したわ。それによると、日没前に逮捕されたそうよ」

サヤ「あら、あっけないのねぇ」


162 ◆3QM4YFmpGw2015/04/27(月) 20:38:48.3088jNd8ai0 (15/17)

マキノ「……エマはいないのね。ホテル?」

サヤ「多分ねぇ。サヤも途中から姿を見てないの」

サヤが少しおどけた様子で肩をすくめてみせると、マキノは軽く溜息をついた。

マキノ「はあ……まあ、エマの事だから無事だとは思うけれど」

サヤ「地上に戻ったらまた探すわぁ」

マキノ「頼むわね。私は少し休んでから地上へ向かうわ」

サヤ「りょうか~い。じゃ、お疲れぇ」

マキノ「ええ、お疲れ」

労いの言葉を交わし、すれ違う二人。

マキノ(…………にしても)

マキノの脳裏に浮かぶのは、海皇宮の普段使われない区画で見かけた、海竜の巫女の言動。

巫女『……殺せるなら……しかし……せめて封印……チッ……』

マキノ(遠巻きで声はよく聞こえなかったけれど……あんな区画に何の用だったのかしら……?)

疑問を抱きつつ、マキノは自室へ向けて歩を進めていった。

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163 ◆3QM4YFmpGw2015/04/27(月) 20:39:27.7888jNd8ai0 (16/17)

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ちなみにその頃エマは。

エマ「うっめー! 巴巴、これおかわり!」

巴「おう、ドンドン食え! 海底人にも話せるやつはおるんじゃのう、あはははっ!」

雪菜「楽しそうね、巴ちゃん」

イヴ「裕美ちゃん、次はアレ取って下さい~」

裕美「あっ、はい。……って、イヴさん充分取れる位置だったじゃないですか!」

乃々「……すごいです」

ほたる「うん……海底都市の人と、こうして仲良くご飯が食べられるなんてね」

エマ「ほらほら乃々、ほたる! お前らも食わないと無くなっちゃうぞー!」

乃々「わわっ、エマさん速いです……」

ほたる「もう半分しか残ってない……」

イヴ非日常相談所で夕飯をご馳走になっていた。

続く


164 ◆3QM4YFmpGw2015/04/27(月) 20:40:53.5788jNd8ai0 (17/17)

・イベント追加情報
月葉隊長の協力で、星花が実家からの追手から遠ざかりました

サヤに教えられ、カイが巫女を警戒しはじめました

アビスエンペラー(プレシオ)がマキノの手であっさり捕縛されました

以上です
三日目が始まる前にやっておきたかった二日目夜ネタ
この出来事がまさかあんな事態に発展するなんてね(不穏)

アヤ、さっちゃん、巫女、巴、雪菜、イヴ、裕美、乃々、ほたるお借りしました


165 ◆cKpnvJgP322015/04/28(火) 01:45:01.12w3WJ++t5o (1/1)

>>164
おつー

幕間の静かな一時って感じですなぁ
これが嵐の前の――と、ならなければ良いけれど……

しかし月葉さんが話のわかる人で良かったよ
星花さんの強い意志も確認できたし、ひとまずは一件落着かな


166 ◆zvY2y1UzWw2015/04/28(火) 22:53:11.22bTqxNLwf0 (1/1)

乙ですー
平和に見えるけどやっぱり着々と話は進んでいく…
星花さんのお話もおちつい…てないんだったなぁ(白目)

…あっさり捕まったプレシオェ


167@予約 ◆3QM4YFmpGw2015/05/07(木) 14:57:44.22TJ6ro1lOO (1/1)

超☆唐突に依田芳乃を予約します
実は既に結構書き進めてるので明日か明後日には投下できるかも?


168 ◆3QM4YFmpGw2015/05/07(木) 23:56:13.07/fiYMtsW0 (1/5)

思ったより早く書きあがったので投下ー


169 ◆3QM4YFmpGw2015/05/07(木) 23:57:02.44/fiYMtsW0 (2/5)


涼が、初めてこのアパートに来た時。

涼『あれ? 管理人さん……の、娘さんか? 親御さん留守か?』

涼『……え、ええっ!? アンタが管理人!?』

――――――――

マリナ達が、初めてこのアパートに来た時。

マリナ『あ、あなたが管理人さん……!?』

みりあ『よろしくね! ……って、ええええ!? と、年上なの!?』

若神P(…………って、何やってんの『先代』さん……)

――――――――

コハル達が、初めてこのアパートに来た時。

コハル『お世話になります~』

ティラノ(…………なあ、この匂い……)

ブラキオ(魔界の地の匂いだな……しかも、我らの時代とそう遠くなさそうだ……)

――――――――

里奈が、初めてこのアパートに来た時。

里奈『…………まぢ?』

里奈『うへー、ちっちゃー! きゃわわー!』

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170 ◆3QM4YFmpGw2015/05/07(木) 23:57:55.10/fiYMtsW0 (3/5)

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若神P「……はぁー。どこ行ったのかなー」

愚痴をこぼしながら、若神Pは住まいであるアパートの前に着いた。

若神P「あんにゃろ、さっさと見つけて……ん? あれは……」

アパートの一室……『管理人室』と札の提げられた部屋から、一人の少女が姿を現した。

着物に身を包んだ、小柄な少女。

??「おやおや、若神殿ー。今お帰りでしてー?」

若神P「まあね。管理人さんはこれからおでかけ?」

彼女は依田芳乃。

16歳という若さながら、この「アパート◯◯(あぱーとふたつわ)」の管理人を務めている。

芳乃「ええー。何かありましたら、ご一報くださいませー」

柔和な笑顔で、芳乃は懐からスマートフォンを取り出してみせた。

若神P「……ほんとミスマッチだよね。管理人さんがスマートフォンとか」

芳乃「今時はこういったものは必需品なのでしてー、持ち歩くのが当然かとー」

スマートフォンをしまい、芳乃はテクテクと歩き出す。

芳乃「ではー、いってまいりますゆえー」

若神P「はーい。いってらっしゃい」

軽く手を振って見送る若神P。

その姿が曲がり角に消えた頃、彼はふぅとため息をついた。

若神P「……なんというか。相変わらず威圧感がにじみ出てるよね、あの『先代』さん……」

彼は苦笑して階段を上がり、自分の部屋へ帰っていった。

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171 ◆3QM4YFmpGw2015/05/07(木) 23:58:46.34/fiYMtsW0 (4/5)

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「毎度ありがとうございましたー」

買い物袋を提げ、いきつけの和菓子屋を出る芳乃。

芳乃「お買物はー、これで全てでしてー」

帰路に着こうとしたところ、後ろから声が聞こえた。

??「げっ……『ご先代』」

芳乃「? ……おやー、これはこれはお久しぶりでしてー、アスモデウス」

奏「あんまりその呼び方やめてくれない? 今は速水奏よ」

色欲の悪魔アスモデウス……もとい、速水奏だ。

芳乃「ほほー。ではわたくしもー、依田は芳乃とお呼びくださいませー」

奏「この辺りに住んでいたのね……ここ最近?」

芳乃「いえいえー、もうしばらくになりましてー。今まで出会わざるはー、神の悪戯かとー」

奏「神って……よりによってあなたがその冗談言う? もういいわ、私急ぐから……」

そう言って奏は和菓子屋に入ろうとした。

芳乃「そちらに御用でしてー?」

奏「私が食べるわけじゃないわ。ベルの所に行くから、手土産に」

芳乃の方を向かずにそう言うと、奏は和菓子屋の中へと姿を消した。

芳乃「ほー。……さてさて、それでは帰りま……」

「うわああああああ!?」

「きゃああああああ!?」

芳乃のつぶやきを、爆音と悲鳴が遮る。

芳乃「……はてー?」

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172 ◆3QM4YFmpGw2015/05/07(木) 23:59:29.49/fiYMtsW0 (5/5)

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少し離れた場所まで芳乃が歩いて行くと、ほどなく騒動の原因が見つかった。

『バアル・ペオル! バアル・ペオル!』

『バアル・ペオル! バアル・ペオル!』

『バアル・ペオル! バアル・ペオル!』

怠惰のカースが多数、騎士の様な風貌をもって街を行進していく。

「アイドルヒーロー同盟はまだなのか!?」

「こっちだ、逃げろ!」

芳乃「おやおやー、これでは帰れませぬー」

そう、カースの行進は、ちょうどアパート◯◯と和菓子屋の間を進み、まるで運河のように芳乃の行く手を阻んでいた。

??(……しかし、目立つのも良くない。討つなら物陰から)

芳乃の脳内に「芳乃でないもの」の声が響く。

芳乃「わかっておりましてー」

その声にふっと微笑んだ芳乃は、群衆に紛れて裏路地へと姿を消した。

芳乃「ここなれば、人目にもつかぬでしょうー」

ポリバケツの陰からひょこっと顔を出し、カース達の様子を見る。

『バアル・ペオル! バアル・ペオル!』

今のところ、こちらに気付く様子は無い。

芳乃「ではー、手早く済ませましてー」

芳乃は着物の裾をふわりと広げ、右の手のひらをカース達へ向けた。


173 ◆3QM4YFmpGw2015/05/08(金) 00:00:13.71KR1PhdtB0 (1/10)




紅よー、

渦を描きてー、

龍と成りー、

荒ぶり狂えー、

日の落つるまでー…………





174 ◆3QM4YFmpGw2015/05/08(金) 00:00:59.92KR1PhdtB0 (2/10)



ドゥッ

芳乃が意味深な言葉を唱えた次の瞬間、周囲はひどい熱気に包まれた。

「な、何だぁ!?」

「お、おいアレ!」

人々が視線を上げると、そこには龍がいた。

それもただの龍ではなく、炎で出来た体をくねらせる巨大な龍だ。

そして炎の龍は急降下し、カース達を根こそぎ喰らい尽くしていく。

『グアアアアアア!?』

『ギエエエエエエエ!?』

ほどなくカースは平らげられ、炎の龍も掻き消えるように姿を消した。

芳乃「では、仕上げでしてー」

右手をそっと挙げた芳乃が、また言葉を唱える。


175 ◆3QM4YFmpGw2015/05/08(金) 00:01:45.59KR1PhdtB0 (3/10)




細雪ー、

涼風に解けー、

舞い降りてー、

熱き大地をー、

鎮め候へー…………





176 ◆3QM4YFmpGw2015/05/08(金) 00:02:29.93KR1PhdtB0 (4/10)

するとあたり一帯に、季節違いなほどに冷たい風が吹いた。

「うわっ、寒!」

「さっきまで龍の熱で暑かったのに……」

芳乃の吹かせた風が、龍の炎で熱された周囲の空気を冷やしていく。

「変な天気だな、今日は」

「だな。カースが増えないうちに帰ろうぜ」

人々は足早にその場を去っていった。

芳乃「……ではー、我々も帰りましょうー」

(しかしながら、少し目立ち過ぎたな)

芳乃「……むうー」

脳内の声からの忠告に、芳乃は不機嫌そうに頬を膨らませて抗議する。

芳乃「それはそなたの力が強すぎるだけでしてー」

(……すまない。私もだいぶ衰えたと思ったのだが)

芳乃「しかしー、実際に術を行使する様は見られておりませんのでー、問題は無いかとー」

(それもそうか。では帰ろう、住人達が待っているだろう)

芳乃「ええー、そのようにー」

芳乃は脳内の声に微笑み、裏路地からこっそり抜け出してアパート◯◯へと帰っていった。

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177 ◆3QM4YFmpGw2015/05/08(金) 00:03:15.40KR1PhdtB0 (5/10)

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時子「…………チッ!」

現場に駆けつけた財前時子……いや、初代・怠惰の悪魔、バアル・ペオルは憤慨していた。

元々あのカースは時子自身がばら撒いたもの。

秘密裏にカースをばら撒き、アイドルヒーローレポ・クラリアとしてそれを狩る。

有り体に言ってしまえばマッチポンプと言える作戦を実行した。

だが、ばら撒いたカースは既に何者かに全て始末されていた。

時子「…………しかも」

その『何者か』に、時子は心当たりがあった。

いや、心当たりというよりは、完全な確信だったが。

現場に残された、魔力の残滓。

その残滓から発せられる力が、その『何者か』の存在を物語っていた。

時子「全く……厄介な奴が近くにいたものね……」


178 ◆3QM4YFmpGw2015/05/08(金) 00:03:52.76KR1PhdtB0 (6/10)




時子「初代・憤怒の悪魔…………シャイターン……!」



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179 ◆3QM4YFmpGw2015/05/08(金) 00:04:33.14KR1PhdtB0 (7/10)

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芳乃「ただいま戻りましてー」

里奈「あっ、よしのんお帰りちゃーん♪」

帰ってきた芳乃を、里奈を筆頭にして住人達が出迎える。

涼「おっ、管理人さんお帰り。何買ってきたんだ?」

芳乃「行きつけのお店でー、お菓子を買って参りましてー。宜しければ皆で食べましょうー」

あずき「えっ、いいの!?」

みりあ「やったー!」

マリナ「ありがとね、管理人ちゃん」


180 ◆3QM4YFmpGw2015/05/08(金) 00:05:09.33KR1PhdtB0 (8/10)

芳乃「ではー、皆様支度をすませましたらー、管理人室へお集まりくだされー」

コハル「は~い」

ティラノ「小春、夕飯が入る程度にな」

ブラキオ「今晩は翼が当番だったな。夕飯はなんだ?」

プテラ「カップ麺だよ」

若神P「……小春ちゃん育ち盛りだよね? もっと考えてやったら?」

芳乃「……ふふ」

住人達のやり取りを眺めて、小さく微笑む芳乃。

(楽しそうであるな)

芳乃「ええー、それはもうー」

脳内の声にも上機嫌で答え、和菓子の袋を抱え管理人室へと歩いていった。

続く


181 ◆3QM4YFmpGw2015/05/08(金) 00:06:11.49KR1PhdtB0 (9/10)

依田芳乃/シャイターン

職業

アパート管理人

属性

ほぼ人間/ちょっぴり悪魔

能力

三十一文字魔法の行使

詳細設定
「アパート◯◯(ふたつわ)」の管理人を祖父から引き継いだ少女。
学校には通っておらず独学。たまに涼など住人に教えてもらう事もある。
シャイターンの精神と共生している為、魔界・天界の関係者は彼女を見ただけでもシャイターンであると認識できる。
シャイターンの協力あってとはいえ三十一文字魔法を編み出すあたり、魔術の素質もあるようである。
現在は管理人としてのんびり過ごしながら、シャイターンの永い「余生」に付き合っている。

・シャイターン
初代・憤怒の悪魔。
かつてサタンより前の代に魔界を統治しており、
『魔界東部の海を一晩で干上がらせそこに三日で都市を創った』『魔界に現れた異世界の侵略者十数万人を一人で蹴散らした』など数多くの伝説を持つが、
加齢とともに力の衰えを感じてサタンに代を譲り、精神体となって地上へ降りた。
その時芳乃と精神の波長が一致し、彼女と共生する。
他の初代・大罪の悪魔からは主に『シャイターン』、それ以外の悪魔や天界関係者からは『先代』『ご先代』『先代様』などと呼ばれている。
余談だが人間でいう所の性別は女性である。

・三十一文字魔法
シャイターンの協力を得て芳乃が編み出した独自の魔法。
通常の詠唱の代わりに三十一字の「短歌」のような呪文を唱える。
本来の威力は普通の魔法よりやや高い程度だが、シャイターンの絶大な魔力を使うため結果的にとんでもない威力を発揮する。
ちなみに同じような魔法を使う場合でも芳乃は気分で呪文の内容を少し変えたりする。

関連アイドル
・涼、あずき(住人)
・マリナ、みりあ、若神P(住人)
・コハル、ティラノ、ブラキオ、プテラ(住人)
・里奈(住人)

関連設定
初代・大罪の悪魔
アパート◯◯

・アパート◯◯
市内に建つ小さなアパート。「アパートふたつわ」と読む。
二階建て八部屋(管理人室除く)でトイレは一階に二つ、風呂は無いが向かいに銭湯あり。
家賃はやや安めと、住人及び管理人の戦闘力以外は極めて普通のアパート。

関連アイドル
・芳乃(管理人)
・涼、あずき(住人)
・マリナ、みりあ、若神P(住人)
・コハル、ティラノ、ブラキオ、プテラ(住人)
・里奈(住人)


182 ◆3QM4YFmpGw2015/05/08(金) 00:06:51.76KR1PhdtB0 (10/10)

以上です
やはりよしのんには最強枠が似合いましてー
一応今回のお話は里奈登場以降だけどよしのんはいつ時系列で出てきても大丈夫かとー
涼、奏、時子、あずき、名前だけ菜帆お借りしまして―


183 ◆cKpnvJgP322015/05/08(金) 01:04:53.707nT8m0M3o (1/1)

>>182
乙でしてー

よしのんがアパートの管理人さんとな……?
それは良いな……、何だかすごく惹かれる……
そしてお強い
色んな人から一目置かれているのも強者感ありますね


184以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/05/08(金) 15:42:16.00Qsy84VarO (1/1)

乙でしてー
まさかの初代憤怒…つよい…
三十一魔法もキャラにあってるし面白いし強いしですごいっすわぁ…
そして考えるほどあのアパートの戦力がやばくて笑うしかない


185 ◆6J9WcYpFe22015/05/21(木) 02:22:23.20RBrD/abz0 (1/1)

SS速報VIPから偶然ここを見つけて、面白そうだから参加してみたくなった。
SSはおろか、2chで書き込みするのも初めてなんだが、大丈夫なんだろうか?

もしそうなら、@乙倉悠貴ちゃんと佐藤心さんでなんかやってみたいなぁ
案はあるけど、うまくかけるかわからないので、音沙汰ないまま一週間たったらごめんなさい
案の内容的にはは未来世界からのタイムスリップ物で、能力を求めて過去にやってきたという感じで。

あと、ドリップこれでいいんだろうか?


186 ◆zvY2y1UzWw2015/05/21(木) 16:39:44.64gRfhHhLG0 (1/1)

予約確認しましたー
何か相談が有りましたら>>2の掲示板の雑談スレへどうぞ


187 ◆3QM4YFmpGw2015/05/21(木) 16:42:50.15j/DjlfyyO (1/1)

>>185
おう、やったれやったれい
正直今頃新人さんが来るとは思ってなかったから嬉しい誤算よ
あ、まだテンプレ更新されてないけと予約から投下の期限はもう二週間で大丈夫のはずだよー

ついでにドリップじゃなくてトリップ、トリップはそれで問題無いべ


188 ◆q2aLTbrFLA2015/05/21(木) 23:45:33.91xv+5mtF80 (1/1)

おおー、新人さんだ!
自分もここが初めてでした!一緒に頑張りましょう!


189 ◆3QM4YFmpGw2015/05/22(金) 23:57:23.161Zew3Ep70 (1/3)

新人さんをwktk待ちながらも投下ー


190 ◆3QM4YFmpGw2015/05/22(金) 23:58:11.371Zew3Ep70 (2/3)


ファイア「ファイアズムサイズ、フレアッ!」

地面に突き立てられた鎌を中心にして、地面から黒い炎が次々と立ち上る。

東郷「広範囲に広がる技か……だが遅いね」

そして、マーセナリー東郷はそれよりも速く駆け、エンジェリックファイアとの距離を詰めた。

ファイア「ファイアズムサイズ……ブーメラン!」

新たに精製した鎌を二振りマーセナリー東郷へと投げつけ、更にもう一振り手元に生み出す。

東郷「ふむ、その手数の多さは少々厄介だね」

ブーメランのように飛んでくる鎌を難なくかわし、マーセナリー東郷は一度エンジェリックファイアと距離をとった。

東郷「……本来は使わない予定だったけれど、仕方ないかな?」

マーセナリー東郷は口元を軽く歪めた。

東郷「おいで、ハナ。オリハルコン、セパ……」

カレンヴィー「ストップストーップ!」

聖來「二人とも、そんな事してる場合じゃないですよ!」

しかし、それをカレンヴィーと水木聖來の二人が遮った。

ファイア「聖來ちゃん……?」

東郷「……一体何だと言うんだい?」

少し不機嫌そうにお互い矛を収め、聖來とカレンヴィーに近寄る。

聖來「さっき、01ちゃんが言ってたの。アタリのチケットが三枚しか無いって!」

東郷「何……?」

ファイア「何ですって……!?」

――――――――――――
――――――――
――――


191 ◆3QM4YFmpGw2015/05/22(金) 23:59:18.191Zew3Ep70 (3/3)

――――
――――――――
――――――――――――

会場中央、最初に選手たちが集められた場所に、再び選手たちが集まっていた。

聖來、エンジェリックファイア、マーセナリー東郷、カレンヴィーの四人を除いて。

ナイト「ねえ、それホントなの?」

01「間違いないであります。上空へ上ってからずっと見ていましたから」

アビスナイトの問いかけにSC-01が即答する。

スカイ「ハズレを引いたのが私、ナイトさん、アースちゃん、スカルちゃん、オーフィスさん、01さん……」

カミカゼ「で、アタリがアタシとRISAと東郷……か」

ナイト(…………あれ? 九枚?)

アース「おい! どういうコトじゃ! キッチリ説明せんかい!」

ガルブ『みなさまおあつまりののち、せつめいさせていただきます』

ナチュルアースが苛立った様子でガルブに詰め寄るが、冷たくあしらわれてしまった。

アース「ぬぅ……」

ナイト(……気のせいかな。みんな気にしてないし)

乙「……主催側のミスか?」

アーニャ「……ニェート。それなら、もっと慌ただしく動きがあっても良さそうです」

ひなたん「じゃあ、ハズレのどれかが実はアタリかも知れないナリ! 熱したら赤く変色するとか……」

聖來「すいませーん! 遅くなりましたー!」

皆が口々に推理しあう中、聖來とカレンヴィー、そしてエンジェリックファイアとマーセナリー東郷が合流した。


192 ◆3QM4YFmpGw2015/05/23(土) 00:00:35.09I5SaAVfE0 (1/14)

ガルブ『みなさま、おあつまりですね。では、あらためてごせつめいいたします』

ガルブの言葉に、選手たちが一斉に向き直る。

ガルブ『けつろんからもうしますと、これはふぐあいやミスのたぐいではありません。よって、これよりはいしゃふっかつをさいかいします』

甲「はっ……?」

その言葉は、ひどくあっさりしたものだった。

オーフィス「ちょっと待ってよ。いくらなんでも説明不足が過ぎ……」

α「まだ探してない場所があるって事にゃ」

そこへオーフィスの言葉を遮り、番人達が次々集まってきた。

β「みんなどこかを見落としてるんだよね」

δ「誰かがまだ隠し持っているか、はたまた……」

γ「どこかに隠されてるか、どうだかな?」

Ω「まーどっちにしろ、この会場内にあるのは間違いないぜ?」

Σ「時間制限があるわけでもないし、ゆっくりじっくり探して下さいね」

θ「もちろん、他の人に先を越されない程度にですね!」

ν「えーっと……以上!」

番人達は口々に述べて、ガルブの両脇に並ぶ。


193 ◆3QM4YFmpGw2015/05/23(土) 00:01:23.44I5SaAVfE0 (2/14)

カミカゼ(あれ? アイツ……里奈か? いやでも引っ越したよな……)

カミカゼ「まあいい。そういうコトならアタシが最後のアタリチケット見つけ出して、九人目の番人になってやるぜ!」

両腕を打ち付けて息を巻くカミカゼは、そのまま瓦礫の奥へと姿を消していった。

東郷「九人目の番人か……面白い試みだね、ふふ」

RISA「そうね、せっかくだから楽しませてもらうわ!」

カミカゼ同様すでに復活が決まっている二人も、その言葉を受けて駆け出す。

オーフィス(ファインドで調べれば一発だけど……)

オーフィスは左腕の『ワード』をそれとなく隠しつつ、チラリとアヤに目をやる。

γ「なあ、アタイもう一回行っちゃダメか?」

ガルブ『ごしんぼうください』

こちらに関心はないようである。

オーフィス(……あの人からなるべく離れてから使おう)

オーフィスはこっそりと一団を抜け出した。


194 ◆3QM4YFmpGw2015/05/23(土) 00:02:13.77I5SaAVfE0 (3/14)

ナイト「こうなりゃしらみつぶしだ! ライラちゃん、あたしに続けー!」

スカル「おー、でございます」

ひなたん「うーん、何か引っかかるひなた……?」

アーニャ「番人が持っていないなら……この中に、ウラギリモノが?」

カレンヴィー「ぅえっ!? あ、ああ、あたしじゃないよ!?」

ファイア「そもそもいると思えないけれど……」

アース「そうじゃな。参加者が未だに隠し持っとってもメリットがないじゃろ」

甲「……そういや、南側の赤いビル! 不自然にタンスが散乱してたぜ!」

乙「ナイスだリーダー! まずはそこから行くぞ!」

聖來「うーん……特にアテも無いし、ヤイバーズにくっついてこうかな」

01「……もう一度上空から探索しましょう」

スカイ「あっ、わ、私も……」

こうして、選手たちは再び会場内に散り散りになっていった。

――――――――――――
――――――――
――――


195 ◆3QM4YFmpGw2015/05/23(土) 00:03:03.30I5SaAVfE0 (4/14)

――――
――――――――
――――――――――――

一方、とある物陰。

φ(あ……あっれえ……? おかしいなあ……?)

朋が再び”隠者”で身を隠しながら頭を抱えていた。

φ(あたし『隠れた九人目の番人』じゃなかったの? スタッフさんからはそう説明受けたんだけど……)

φ(隠れた九人目とか、普通アタリ持たせるでしょ……)

φ(01って人にも申し訳無かったなあ……てっきりあたしアタリだと思ってたもの……)

φ(…………)

φ(タイクツね。占いでもしようかしら)

パラパラとその場にタロットカードを広げ出す。

φ(何を占おう…………よし! この大会が成功するか、これでいこう)

φ(……んで、こうして……こう……)

手順に従いカードを並べていく朋。

φ(で、最後に……これ!)

最後に、裏返ったカードを一枚ひっくり返した。

φ「……げっ」

思わずそんな言葉が口を突いて出る。

現れたカードは”死神”、それも正位置だ。

φ(……縁起でもない。やり直しやり直し!)

朋は頭をフルフルと振って、もう一度大会の行く末を占い始めた。

――――――――――――
――――――――
――――


196 ◆3QM4YFmpGw2015/05/23(土) 00:04:19.14I5SaAVfE0 (5/14)

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――――――――――――

オーフィス「……そろそろいいかな。Ctrl、F。ファインド」

アヤからだいぶ距離をとったオーフィスは、あらためて『ワード』の機能でアタリのチケットを検索した。

アーニャ「あ、オーフィス」

カレンヴィー「座り込んでどうしたの? 疲れちゃった?」

と、そこにアーニャとカレンヴィーが通りがかる。

オーフィス「ん、ちょっとね。……あれ?」

検索の結果が表示される。

アーニャ「……もしかして、アタリの場所を?」

オーフィス「まあね。あんまり人前では使えないけど。……特にあの人の前だと」

アーニャ「あの人……?」

カレンヴィー「ねえ、それより……」

カレンヴィーが表示されたポイントを指差した。

カレンヴィー「ここってさ、さっき集まった場所じゃない?」

オーフィス「うん、会場のほぼ中央部だね」

アーニャ「では、やはり番人の誰かが二枚持っていたと……?」

オーフィス「うーん……?」

オーフィスは顎に手を当て少し考え込んで、やがて立ち上がった。


197 ◆3QM4YFmpGw2015/05/23(土) 00:05:02.45I5SaAVfE0 (6/14)

オーフィス「ともかく、場所は分かったから探しにいかないとね」

そして数歩歩いたところで、くるりと振り向いた。

オーフィス「ね、二人にも手伝ってもらいたいんだけど」

カレンヴィー「手伝う?」

オーフィス「うん。本当に番人の中に二枚目を持ってる人がいるとしたら、それを守ろうと番人全員と戦うことになるかも知れないから」

アーニャ「なるほど……。なら、他にも協力者が必要かも知れません。あっ」

ふと空を見上げたアーニャが、ナチュルスカイの姿を目撃する。

アーニャ「まずは、ナチュルスカイに頼みましょう」

カレンヴィー「そうだね。あたし、呼んでくる!」

背中から黒い翼を大きく広げ、カレンヴィーはナチュルスカイへ向けて飛んだ。

オーフィス「……でも」

アーニャ「どうしました?」

オーフィス「誰かが持ってるにしては、位置が微動だにしないのは気になるかな」

ごちん。

アーニャ「アー……そうですね。少しくらい動き回ってもよさそうです」

二人がモニターを覗き込んで難しい顔をしているその頃、

カレンヴィー「あぁ~~……」

スカイ「うぅ……」

カレンヴィーとナチュルスカイは運悪く正面衝突を起こし、上空から仲良くキリモミ回転で落下してきていた。

――――――――――――
――――――――
――――


198 ◆3QM4YFmpGw2015/05/23(土) 00:05:54.19I5SaAVfE0 (7/14)

――――
――――――――
――――――――――――

ひなたん「うーん……」

瓦礫の中を、ひなたん星人は首を捻りながら歩いていた。

ひなたん「誰かが持ってるナリ……?」

手頃な瓦礫に腰掛け、これまでの会話にヒントが無いか思い返した。

《Ω「まーどっちにしろ、この会場内にあるのは間違いないぜ?」》

《β「みんなどこかを見落としてるんだよね」》

《ガルブ『けつろんからもうしますと、これはふぐあいやミスのたぐいではありません』》

《ガルブ『チケットはこのようなふくろにはいっています』》

《ガルブ『ただし、ほんもののチケットはこのなかによんまいだけです』》

《ガルブ『かれらは、ほんせんしゅつじょうのチケットをまもるばんにんです』》

ひなたん「…………あっ!」

何かに気づいたひなたん星人は跳ね上がる。

ひなたん「繋がった……脳細胞が、トップデコポンひなっ!」

そして、最後の一枚を目指して駆け出した。

ナイト「うわっ!? あれ、ひなたんちゃん?」

スカル「大急ぎでございますねー」

その途中、アビスナイトとアビスカルの前を横切ったが、ひなたん星人当人は気づいていないようだ。

ナイト「もしかして……アタリチケットの場所が分かったのかな? 追いかけよう!」

スカル「ラジャーです」

二人はひなたん星人の後を全速力でつけていった。

――――――――――――
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――――


199 ◆3QM4YFmpGw2015/05/23(土) 00:07:26.86I5SaAVfE0 (8/14)

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――――――――――――

会場中央。

α「……やっぱりイジワルだと思うにゃ」

不意にみくが口を開く。

ν「何が?」

α「最後のアタリチケットの場所の事にゃ。いくらなんでも難関すぎるにゃあ」

Σ「うーん……それは確かに、私もそう思うかな?」

その言葉に、慶も同調する。

γ「っつってもなあ、ちゃんとヒントっつうか……まあヒントか。それはあっただろ?」

δ「そこを見抜く術も試している、と。そういうわけですね」

φ「って、ちょっと待って!」

番人達の会話に、やってきた朋が割り込んだ。

θ「おや、九人目殿」

φ「みんな最後のアタリ知ってたの?」

呆然とした表情で問いかける。

Ω「え? ああ、直前に説明されたし」

φ「えっ……あ、あたし聞いてないんだけど……?」

β「……ガルブさん」

α「まさかの不具合かにゃ……?」

番人達がガルブを横目でジトっと見やる。

ガルブ『もうしわけありません、ともさま。どうやらでんたつミスのようですね。ではあらためて……』

そう言ってガルブが懐からチケット入りの袋を一枚取り出した、その時。


200 ◆3QM4YFmpGw2015/05/23(土) 00:08:24.56I5SaAVfE0 (9/14)

ひなたん「ラブリージャスティスひなたんロケットぉー!!」

一団に飛び込んできたひなたん星人がガルブの手から袋を奪い取り、勢いでそのままゴロゴロと数メートル転がった。

ν「わっ!?」

β「な、何々?」

番人達が慌てふためく。

ガルブ『…………』

ひなたん「やっぱり! 最後のチケットはガルブさんが持ってたナリ!」

スカル「ガルブが……?」

ナイト「隠し持ってた、ってこと? それ反則じゃないの!?」

遅れて到着したアビスナイトが異議を唱える。

ひなたん「隠し持ってなんかないナリ。ガルブさんがこれを持ってる事は、参加者みーんな知ってたひなた」

ナイト「え? ど、どういうこ……」

オーフィス「……もしかして、開始時に見せた!?」

アーニャ「……しかし、あれは見本では?」

そこに、ナチュルスカイとカレンヴィーを背負ったオーフィスとアーニャも加わった。

ひなたん「そう。でもガルブさんは『これは見本だ』なんて一言も言ってないナリ。つまり、これは見本じゃなくてぇっ!!」

袋を宙に放り投げ、小春日和を縦一文字に振り下ろした。

ひなたん「……本物だってコトひなっ☆」

きれいに両断された袋の口から、赤いチケットが顔を覗かせている。

ν「ひゅう……」

φ「そ、そこにあったんだ……」

ガルブ『……おみごとです、ひなたんせいじんさま』

ガルブはゆっくりとひなたん星人に歩み寄り、カンカンと鋼鉄の両手で拍手を送った。

ガルブ『はいしゃふっかつせん、さいごのひとわくは……あなたのものです』

――――――――――――
――――――――
――――


201 ◆3QM4YFmpGw2015/05/23(土) 00:09:24.38I5SaAVfE0 (10/14)

――――
――――――――
――――――――――――

本戦会場。

J『ついに来たぞぉー!! 敗者復活はマーセナリー・東郷、RISA、カミカゼ、ひなたん星人の四人だぁぁあーー!!』

ウォォォォォォォォォォォォ...

実況Jのアナウンスに、観客席が沸き立つ。

亜里沙『ではでは、ここで既に本戦出場が決まっている八人の選手にお話を伺いましょう』

亜里沙がウサコにマイクを持たせ、選手達に近づいた。

亜里沙『まずはノーヴル・ディアブルちゃん。お友達二人が来られなくて残念だったわね』

ディアブル『ええ。でも、お二人のぶんまでわたくしが頑張りますわ』

ウサコ『気合入ってるウサー』

亜里沙『ナチュルマリンちゃんはどうかしら?』

マリン『……最初は、ずっと帰りたかったですけど……』

ウサコ『けど?』

マリン『ここまで来ちゃいましたし……ナチュルスターを代表して、もう優勝目指しちゃいますし……』

亜里沙『うん、頑張ってね』


202 ◆3QM4YFmpGw2015/05/23(土) 00:10:08.02I5SaAVfE0 (11/14)

ウサコ『お次はラプターウサ。けっ』

ラプター『おいウサ公。……まあいい、誰が戻ってこようと、優勝は俺のモンだからな。誰にも渡しゃしねえ』

亜里沙『自信満々ね。次は中野有香ちゃん』

有香『押忍! 今回はカミカゼさんと戦いたくて参加したので、今から楽しみです!』

ウサコ『あ、熱いウサ……パーボ・レアルの方へ避難するウサ!』

レアル『ん、アタシの番か。まあ、管理局の看板に泥を塗るような真似だけはしないつもりだな』

亜里沙『責任重大、ね。続いて桜餡ちゃん』

桜餡『…………』

ウサコ『ウサ?』

桜餡『い、今になって緊張してきちゃって……あわわわ…………』

亜里沙『アガっちゃってるわね……次、ナチュラルラヴァースちゃん』

ナチュラル『あっ、はい』

ウサコ『勝ち進むとラビッツムーンとも戦うかも知れないけど、大丈夫ウサー?』

ナチュラル『うーん……そういえば、二人本気でぶつかったコトは無かったなあ……ちょっと楽しみかも?』

亜里沙『意外とノリノリみたいね』

ウサコ『あんなコト言ってるけど、ラビッツムーンはどうウサ?』

ラビッツ『そうですね、ナナも少し楽しみです! 何よりナナ、連覇かかってますから! 気合は充分ですよ!!』

亜里沙『おおっ、こっちも熱いわね!』


203 ◆3QM4YFmpGw2015/05/23(土) 00:11:24.92I5SaAVfE0 (12/14)

J『では! 早速ですがトーナメント表の発表です! コンピューター抽選に敗者復活枠をシードで組み込み……こうなります!!』

Jが大仰な仕草でモニターを示すとモニターにトーナメント表が表示された。

ラビッツムーンvsノーヴル・ディアブル
→( )vsRISA

ナチュラルラヴァースvsラプター
→( )vsマーセナリー東郷

パーボ・レアルvs桜餡
→( )vsひなたん星人

ナチュルマリンvs中野有香
→( )vsカミカゼ

オオオォォォォォ...

表示されたトーナメント表に、会場が再び沸いた。

J『このようになりましたが、亜里沙先生。注目のカードはどちらでしょう?』

亜里沙『そうね……やっぱり前回王者のラビッツムーンちゃんに、初参戦のノーヴル・ディアブルちゃんがどう立ち向かうか、かしら?』

ウサコ『ウサコはナチュルマリンと有香の魔法少女vs空手家が気になるウサ!』

J『では、早速ですが選手の皆さんは控え室へ! 休憩を挟んだ後、一回戦を行います!!』

――――――――――――
――――――――
――――


204 ◆3QM4YFmpGw2015/05/23(土) 00:12:04.95I5SaAVfE0 (13/14)

――――
――――――――
――――――――――――

会場の片隅。

??『……めがねが、いっぱいー……』

??『おだやかじゃないですねー』

??『もうすぐ、おおきな同士くるよー』

??『これ終わる時は、ヒーローたちいっぱい疲れてるよねー』

??『じゃあ、それまでまとー』

小さな黒い人影が、ひっそりと蠢いていた。

続く


205 ◆3QM4YFmpGw2015/05/23(土) 00:12:47.82I5SaAVfE0 (14/14)

イベント追加情報
・AHF、本選出場者12人決定!
・警備員仕事しろ

以上です
やっと予選書き終えたーん
学園祭三日目始まるまではこっちに専念しますう


206 ◆q2aLTbrFLA2015/05/23(土) 00:28:47.278IarMM/o0 (1/1)

乙ー
ついにガチンコ対決が始まるんですね!いったい誰が優勝するのやら
そしてヤバい、眼鏡を守らなきゃ



207 ◆zvY2y1UzWw2015/05/23(土) 17:29:27.703ZdYetJtO (1/1)

乙ですー
あー!ってリアルでなりましたわ、盲点
予選乙ですよ、敗退しちゃった子達も頑張ったし
そして忍び寄る……いったい何カースなんだ…


208 ◆cKpnvJgP322015/05/23(土) 19:14:35.24GnqxDUN+o (1/1)

>>205
おつー

これにて予選終了
いよいよトーナメント本戦が始まるということで
これからの展開に今まで以上にワクワクが高まりますな


209 ◆6J9WcYpFe22015/05/27(水) 01:33:43.86n0yFMG/N0 (1/13)

乙倉悠希と佐藤心投下しまーす。
GDFの設定お借りします。

書き溜めてた設定をいろいろ継ぎはぎにして一度作った設定を崩してまた作り直したから、ちょっといろいろと修正漏れがあるかもしれない。
あと、シュガハさんをうまく表現できなかったかもorz


210 ◆6J9WcYpFe22015/05/27(水) 01:38:37.30n0yFMG/N0 (2/13)

人通りの家が立ち並ぶ道を、一人の女性が走る。
いや、正確には逃げていると言った方がいいのだろう。
その後ろには、藍色の宝石に黒い泥のような体をした生物……通称、カースが追いかけていた。

『グルァァァ!!』

「はぁとは、おいしくなんか、はぁっ、ありませぇーん☆」

既に何キロ走ったかなど、彼女の頭の中にはない。ただ、人からなるべく遠ざけるように走り続けていた。

(くそっ、なんたってこんな町中に……っ! とにかくこいつらを引きはがさねぇと……っ!)

だが目の前に新たなカースが立ちふさがり、彼女……佐藤心の足を止めようとしていた。

『ネタマシイ……ネタマシイィィィ!!』

心「うぇえ、行き止まり!?はぁと、大ピーンチ☆って、ふざけてる場合じゃねぇ! どうするはぁと?このピンチを、切り抜けるにはぁ……」

そういうと心は、まるで右手に何かを持っていて、立ちふさがったカースを叩き斬るかのようなポーズをする。すると、その右手の中から剣の柄らしき物がでてきた。

心「必殺☆はぁと、スラーッシュ☆」

その柄をしっかり握ると、その右手を横一文字に振りぬく。

右手の柄の先には刀身が現れる、刀のようにも見える刀身は、前方に立ちふさがったカースを横に薙ぎ払う。といっても本物の刀ではなく、一般的にそれは模造刀と呼ばれる代物であったが、それでも前をどかすには十分だった。

『グギャアアアア!!』

斬りつけられたカースは不意の一撃をもらい、叫びをあげた。

最も、核に傷を付けられなかったため、怯むだけではあったが、怯んでいるすきにその脇を通って通り抜けることには成功した。

だが、通り抜けた先で――

心「ぬあっ!?」

心はつまづいて転んでしまった。

心「いつつ………」

そして立ち直ろうとして振り返ると、心の周りには先ほど追いかけてきたカースが取り囲んでいた。一体は獣型。もう一体は、先ほど斬りつけた人型。
その2体が、じりじりと心へと徐々に寄ってくる。

『……グルァァァ!!』

『ネタマシイ……ネタマシイィィィ!!』

心(こりゃ、やべえな……)

獣型のカースが駆け出し、その口を大きく開け、捕食しようとしたそのとき――

「……ぅゎぁぁぁあああああああ!!」

突如、空から何かが降ってきた。そして獣型のカースを上から見事に踏みつけるように着地した。
そして上から降ってきた何かは獣型のカースを踏みつけた後、地面を転がっていった。

心「………えっ?」

やがて電柱にぶつかって止まると、その何か……いや、少女は立ち上がった。

少女「ふぅ……グラップラーさんが言う受け身というのをやってみましたがっ……何か踏んづけちゃったのかうまくいきませんでしたっ……」

そういって、あたりを見回すと、その目線の先に心を見つける。

少女「あ、第一過去人?発見ですっ!こんにちはっ!!ユウキ・オトクラって言いますっ!」

心「………」

心は起こった状況について行けない。襲われて喰われると思った次の瞬間には、上から少女が降ってきて、獣型のカースを踏みつぶした。
既に獣型のカースは核をつぶされたのか、あるいは先ほどの衝撃で消し飛んだのか、付近に散らばった泥となっていた。

そして今はその少女に挨拶されている。
だが、徐々に頭の中で整理していって、その中でようやく絞り出された。

心「………は、はろ~☆」

………絞り出された言葉がこれである。



211 ◆6J9WcYpFe22015/05/27(水) 01:43:02.11n0yFMG/N0 (3/13)

ユウキ「あれっ、シュガーハートさんっ!?」

心「!?」

そして帰ってきた答えに、心は驚愕した。

シュガーハートは佐藤心がGDFに所属していた時に使っていたコードネームである。市街地に爆弾が落とされて壊滅した事件をきっかけに抜けたが、それを知っているということは―――

心「あんた、GDF所属か?」

ユウキ「GDF?」

ユウキは首をかしげる。

ユウキ「GDFっていうのは……なんでしょうかっ?」

心「あー、そっちの方じゃなかったか☆ じゃあ、どこの――」

『オレヲムシスンジャネェ!!』

心「っと、その話は後だ。まずはここを離れようぜ☆」

ユウキ「ええっとっ、あの人は誰なんでしょうかっ!?」

心「あれは人じゃねぇ、カースだ」

ユウキ「カースっ?」

心「知らねぇのかよっ☆」

『クソガァァァ!!』

耐えかねたカースがユウキ達に襲い掛かる。

ユウキ「はいっ、知りませんけどっ――」

ユウキは腰につけていたハンドガンらしきものを取り出し、

ユウキ「危険だっていうのはわかりましたっ!!」

銃口をカースに向け、引き金を引き絞った。

銃口から1本の青い雷光が迸る。それがカースに当たると、その体に電流が流れ、核を砕いた。

心「お、おおぉ……」

ユウキ「あ、あれっ?加減を間違えましたっ!?」

心「いや、それで大丈夫だ」

核を砕かれたカースは泥となって消滅し、悠貴と心の二人だけになった。

心「助かった。 礼を言うぜ♪」

ユウキ「いえいえっ、それほどでもっ!」

心「しかし、こんな少女がなんでそんなものを……あ、いや、話は後だ。今はこの場を離れよう☆」



212 ◆6J9WcYpFe22015/05/27(水) 01:44:21.74n0yFMG/N0 (4/13)

――とある喫茶店にて

心「やっと落ち着いて話せるぜ……よっこらせ☆」

心が席に座るのを見て悠貴も座り……

ユウキ「ええっとっ、メニューはっ……」

心「早速食べる気満々かよ☆」

ユウキ「私の友達が言ってましたっ。腹が減っては戦はできませんってっ!!」

心「いや、ちょっとは遠慮しろよ☆」

とはいえ……と、心は前置きして問う。

心「まあ、さっき助けてもらってなんだが、お前は何者だ?」

ユウキ「私ですかっ? 私はユウキ・オトクラって言いますっ!」

心「いや、名前はさっき聞いたから☆」

ユウキ「あ、そうでしたっ!」

心「それじゃあ、どこから来たんだ?」

ユウキ「ええっとっ、空から落ちてきましたっ」

心「いや、なんで空から落ちてきたんだよ☆」

ユウキ「わかりませんっ。過去にタイムスリップしたら、いきなり空でしたっ!!」

心「お、おう……って、タイムスリップ?」

ユウキ「はいっ。私はこの世界の未来からやってきましたっ!!」

心「ってことは、未来人ってやつなのか?」

ユウキ「そうなりますねっ。 詳しいことはこのカードに書かれていますっ。」

ユウキはたすきがけのバッグから、一枚のカードを取り出す。

心「なになに……」

カードには左側に写真が貼ってあり、右側にはこう書かれていた。


Name:ユウキ・オトクラ
Tribe:人型自律ロボット
CLASS:メッセンジャー
ギャラクシアンメイルサービス地球支部所属



213 ◆6J9WcYpFe22015/05/27(水) 01:45:50.41n0yFMG/N0 (5/13)

心「……こんな少女がロボット?」

ユウキ「はいっ。私は手紙配達用に生み出された、自立行動型の有機ロボットですっ!」

心「……ちょっと触ってみてもいいか?」

ユウキが肯定すると、心はユウキの手を触る。

心「……ロボットにしちゃ感触もやわらかいし、温かみもあるな」

ユウキ「はいっ。なんでも優しい人間らしさを演出するためらしいですっ!」

「ユウキ・オトクラっていう名前も、人間らしさを演出するための、いわば愛称っていうものですっていってましたっ!」

……未来の技術って、すごいなと心は感心する。

ここまで精巧に人間を真似られると、もはや人間とロボットの区別がつかない。

心「それじゃあ、今までの行動も、その『っ』が多いのも、その演出っていうやつなのか?」

ユウキ「いえっ、これは何といいますかっ……」

「普通の有機ロボットは擬似的な感情を持ってはいてもっ、それはあくまでも演出なんですっ」

「たとえばさっき、座った後に早速メニューを広げようとしましたけどっ」

「普通は遠慮しますっ。お金も持っていませんしっ。」

心「そうなのか……って、てめぇ分かってて勝手に奢らせようとしてたな☆」

ユウキ「てへっ」

心「てへっ、じゃねーよ☆
まあ、ユウキの素性はわかったが、なんで未来からこんな時代に来たんだ?」

ユウキ「それは勿論っ、配達の仕事があったからですっ! えっと、この手紙ですね。」

ユウキはそういうと、バッグから青色の1枚の手紙を出した。

ユウキ「差出人はシュガーハートさん。宛先はユウキ・オトクラ……私ですねっ」

心「えっ、未来にもあたしがいるのか?」

ユウキ「えっ?」

心「えっ?」

ユウキ「えっと、シュガーハートさん、じゃないのですか?」

心「……あー、なんだ? たぶんあたしはユウキが知っているシュガーハートっていう人じゃねぇ☆」

ユウキ「ええっとっ、それじゃあ誰なんでしょうかっ?」

心「佐藤心。それがあたしの名前だぜ☆
とはいえ、佐藤は普通すぎて嫌だし、心(しん)は男の名前っぽく聞こえるから、はぁとってよんでね☆」

ユウキ「えっ、それはなんか名前かぶっちゃって――」

心「呼べっ☆」

ユウキ「は、はいっ」


214 ◆6J9WcYpFe22015/05/27(水) 01:47:29.29n0yFMG/N0 (6/13)

店員「ご注文繰り返しまーす。桃色ハピハピジュースと100%野菜ジュース。以上でよろしいでしょうか?」

心「はい。よろしくお願いします☆」

店員「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」

店員は注文を取ると、カウンターの奥へ行く。

心「それでさっきの手紙についてなんだが、その手紙の内容をあたしが知るってことは無理なのか?」

ユウキ「プライベートなものなので、宛先人の許しがない限りは見ちゃいけませんっ」

心「えーっとじゃあ、ユウキちゃんの許しをもらえば見てもいいのか?見せろ☆」

ユウキ「はいっ。 あっ、でも往復手紙なので汚さないでくださいねっ?」

心はユウキから手紙を受け取る。その内容を読もうとするが……

心「……読めん☆」

ユウキ「あっ、じゃあ読みますよっ?」

かなり長ったらしく書いてあったが、そこに書いてあった内容を要約するとこうだ。


・未来において、何らかの驚異が迫っているということ。
・それは未来世界の技術では対抗できないということ。
・過去の世界(つまり現在)には、強力な能力が多くあったということ。
・そこで、『ラーニング』という能力を持ったユウキを過去に送り出したこと。
・『ラーニング』の能力でもって、能力の補完をおこなって未来に戻ることが、ユウキに課せられた第一の任務であること。


心(能力持ち、か。『ラーニング』っていうことは、戦闘に直接関わる能力とは思えねぇが……。)

店員「お待たせしました。こちら桃色ハピハピジュースと100%野菜ジュースになります。」

ユウキ「ありがとうございますっ!」

店員「ごゆっくりどうぞ!」

心(……しかし、未来か。 正直、今が一番大変だと思うんだけどな。
どう転ぶかわかんねぇから、あんまり間に受けない方がいいかもしれねぇな。)

心「……2つ、質問いいか?」

ユウキ「はいっ、なんでしょうっ?」

心「まずその『ラーニング』っていうのはなんだ?」

ユウキ「そうですねっ。心さんは何か能力を持ってますかっ?」

心「……そうだな。あんまり見せびらかしたくなかったんだが……。」

心はそういって手のひらを見せると、急に手のひらから、先端がハートの形をした杖が飛び出した。

ユウキ「わっ!いきなり出てきましたっ!」

心「それだけじゃないんだぜ☆」

そういって手のひらを閉じると、出した杖が姿を消す。

心「これがあたしの能力、『アイテムボックス』だぜ☆」


215 ◆6J9WcYpFe22015/05/27(水) 01:49:30.76n0yFMG/N0 (7/13)

心はGDFに所属していた。

GDFというのは『能力持ち』の力を借りずに対抗するための組織だ。

それ故に、本来は能力を持った人は所属していないはずだった。

だが、彼女は親しい友人をカースに殺され、それに復讐したくて入隊した。

しかし、入隊して兵士として活動している最中に、『アイテムボックス』の能力に目覚めてしまった。

当然、能力を隠し切ることはできず、何人かの隊員にはばれてしまった。

幸い、現場においては能力持ちだとかどうとかは関係なかった。

『アイテムボックス』という便利な能力を持った彼女は、現場の隊員には歓迎された。

それも、今となっては昔の話であるが。


ユウキ「すごいですっ!アイテムも何もなしでできるなんてっ!」

心「慣れれば、こういうこともできるぜ☆」

そういって立ち上がると、心が来ていた服が光る。そして形状が変化し、光が消えると先ほどとは違ってとてもフリフリな衣装が現れた。

ユウキ「ふっ、服が変化しましたっ!?」

心「まあ、能力で服を着替えるのは調節が難しいから、あんまりしたくねぇけどな☆」

心はそういうと、能力で元の服に着替える。

ユウキ「あっ、でもっ、今のでどういう能力か『覚えました』!」

心「えっ?」

ユウキはおもむろにおいてあった野菜ジュースが入ったコップを手に取る。そして、

ユウキ「『アイテムボックス』っ!」

ユウキがそう叫ぶと、手に持ったコップが中身の野菜ジュースごと消えた。


216 ◆6J9WcYpFe22015/05/27(水) 01:50:49.23n0yFMG/N0 (8/13)

心「なっ!?」

ユウキ「『アイテムボックス』っ!」

そして再びその能力の名前を叫ぶと、先ほど消えた野菜ジュース入りのコップが現れた。

ユウキ「私は相手の能力を『覚えられる』んですっ!」

ユウキの能力は『見た相手の能力を覚え、それを自分の能力として使える』能力であった。
その能力を覚える、あるいは使うのに何らかの制約はあるかもしれないが。

心「……すげぇな。」

この能力、どのようにも変化してしまう。
間違った使い方をすれば、ともすれば世界の脅威にもなり得る能力である。
……誰かがユウキを正しく導くよう、見守る必要があるだろう。
まったく未来の人々も、厄介なものを過去に、しかも一人で飛ばしたものだ。と心は思う。

ユウキ「?? どうしましたかっ?」

心「いや、この能力はあたしだけしか使えなかったのに、もう一人現れたって思うと……な」

ユウキ「!? ご、ごめんなさいっ!!」

心「いや、大丈夫だぜ☆ どうせ大した能力でもねーしなっ☆だが、人前でそんなの見せるのはよしておいた方がいい。悪いやつらがお前を狙ってくるぞ♪」

ユウキ「は、はいっ。わかりましたっ!」

心「ところでもう一つなんだが、このギルドカード?っていうのに乗ってる『メッセンジャー』っていうのはなんだ?」

ユウキ「それが私の職業なんですっ! 私は元々手紙を届けるロボットだったんですっ!」

心「ああ、だから手紙がどうとか言ってたのか。」

ユウキ「はいっ。それが私の職業ですのでっ!」

要は、肩書みたいなものだろうか?
にしては、ずいぶんと大事にしているような……ワーカーホリックだろうか?

心「まあ、要は未来の世界でメッセンジャーという職業で働いていたけども、『ラーニング』っていう能力を得て、そのうえでこの世界の能力が必要になったっていう訳か……ん?」

その時、心にある考えが浮かんだ。

心「……ユウキちゃん?」

ユウキ「はいっ、なんでしょうかっ?」

心「ユウキちゃんはここに来たばっかだよな? でもって、未来では手紙を配達していたと……。」

先ほども言ったが、心はGDFに所属していた。
しかし、現在はそのGDFからは脱退している。
つまり、現在の彼女は……

心「じゃあ、あたしと一緒に手紙の配達やらないか?ってか、やろう☆」

食い扶持を探していた。



217 ◆6J9WcYpFe22015/05/27(水) 01:54:17.47n0yFMG/N0 (9/13)

それから何日か経ったある日。

ユウキ「ただいま戻りましたっ!」

心「お帰り~。報酬はもらってきたか?」

ユウキ「はいっ!今日はこのぐらいですっ!」

心「どれどれ……。」

心とユウキはどんな場所でも配達できるという触れ込みで『ハートメールサービス』というのを始めた。
最初は『どんな場所でも』という触れ込みにするつもりはなかったのだが、ユウキ自身が
「私はたとえ洪水が起こって水没しそうな街であっても配達できますっ!」
と言ったので、どこでも配達できるという触れ込みにした。

心(それ以上にユウキちゃん、今日も配達するのが速いわ……。隣街への往復なのに1時間くらいしか経ってねぇ。)

ユウキにはまだ、隠された能力というものがあるのかもしれない。
ともあれ、目下心配すべき点はそんなところではなく……

心「……まあ、こんなもんか。 GDFにいたころの給料と比べちゃいけねぇわな☆」

仕事として数をこなそうとも、まったく入ってこない収入であった。

ユウキ「私の世界ではメッセンジャーはほとんど慈善事業でしたしねっ」

心「よくよく考えれば、手紙を渡すぐらいでお金になるとは思えないぜ☆」

今のところはユウキは手紙の配達に専念しているが、心は会計などをしつつ、副業でアルバイトなどをしている有様だ。

心「っと、ほいっ☆先ほど受け取った次の配達先だぜ♪」

ユウキ「うむっ、緊急連絡ですねっ!」

心「今度の配達先は能力者だ。それなりに信頼できるやつだから、頼み込んで『ラーニング』してきたらいいんじゃないか?」

ユウキ「そうですねっ、頼んでみますっ! ではっ、いってきますっ!!」

そういって、玄関のドアを開けるユウキ。

ふと、こちらにタイムスリップしてきたときに、最後に交わした言葉を思い出す。

『……もし、過去の世界が好きになったのなら、戻ってこなくてもいいんだぞ。
別にお前は野菜ジュースだけでも生きられる体だし、……戻ってもそのあとは辛いだけなのかもしれないからな。』

そしてユウキに背を向け、こうつぶやいた。

『ユウキが最後に見るのは、世界の再誕かそれとも破滅か……
いずれにしても、こんな小さな背中にこの世界の未来を任せざるを得ないとは……。』

これはどういう意味なのだろうかと、彼女は考え――


!CAUTION:DEVIANCE PLEDGE!
この思考は職業(クラス)『メッセンジャー』の行動規範を逸脱する可能性があります。
直ちに話題の切り替えを提案いたします。


ユウキ(――そうですねっ。難しいことはよくわかりませんっ!)

深く考えようとしなかった。

ユウキは今日も手紙の配達をしながら、能力者を探している。


218 ◆6J9WcYpFe22015/05/27(水) 01:56:47.31n0yFMG/N0 (10/13)

<おまけ>

ユウキ「そういえばはぁとさんっ、あの早着替えを私もやってみたいですっ!」

心「ん、ちょうど手紙配達用の衣装も完成したし、やってみようか♪」

そういってユウキに差し出した衣装は、赤を基調として可愛らしく仕上がっていた。
赤いキャスケット帽、襟のついた服、チェック柄のスカートからブーツまでは黒タイツ。
赤もきつい赤ではなく、橙にちょっと寄った感じの色。
露出が少なく、清楚な感じを受けながらも、元気があり可愛らしい感じに仕上がっていた。

ユウキ「わぁっ、ありがとうございますっ!早速やってみますっ!」

そういってユウキは『アイテムボックス』の中に貰った服をしまう。

ユウキ「いきますっ!『アイテムボックス』っ!!」

そういって、ユウキの服が光りだす。
ここで、本当であればさっきしまった服に変わるはずだったが……。

心「……ぉぅ☆」

ユウキ「あっ、あれっ!? ひゃあああああっ!?」

ユウキは一糸纏わぬ姿となっていた。

心「いやぁ、まさかユウキにそんな趣味があっただなんて☆」

ユウキ「そんな趣味はありませんからっ!!うむっ、緊急事態ですよっ、これはっ!!」

心「しかしまあ、まじまじとみると、本当に人間の少女みたいだな☆」

ユウキ「観察してないでっ、早く何とかしてくださーいっ!」

心「そっか♪ユウキちゃん、もう一回アイテムボックスって唱えて服を着てみ?」

ユウキ「あ、あっ、『アイテムボックス』っ!!」

今度はユウキの体の周りに光が灯り、さっき貰った服が現れた。

心「うーん、どうやらユウキちゃんのアイテムボックスは一々言わないと発動しないから、早着替えは無理だぜ☆」

ユウキ「そ、そうなのですかっ……って、なんで下着まで脱げたのでしょうっ!?」

心「さあ、それはわからないんだぜ♪」



219 ◆6J9WcYpFe22015/05/27(水) 01:59:44.59n0yFMG/N0 (11/13)

ユウキ・オトクラ

職業
 メッセンジャー

属性(ヒーローor悪役など)
 人型自律ロボット(感情持ち)

能力

『ラーニング』
相手の能力を自分の能力として習得することが出来る。
ただし相手の能力の名前と効果について理解していなければならず、その効果を一度見たり、体感したりする必要がある。
効果は体感頼りのために、時には何か足りなかったり、間違った認識で能力を覚えることがある。
ラーニングできる数に制限はないため、実質彼女が記憶している限りには使用可能。
ただし、使用する際は能力の名前を叫ぶ必要がある。
能力を使う際には、その能力をイメージできるアイテムが必要になる場合もある。
覚えた能力を使いこなすには相応の熟練が必要となる。
一度ラーニングした能力を何らかの原因で失くしてしまった場合、二度と取り戻すことが出来ない。

●現在持っている能力
・アイテムボックス
佐藤心の能力。空間を召喚しアイテムを収納、およびアイテムを取り出すことができる。空間を召喚できる範囲は自分の体が触れられる範囲までとなる。
彼女の認識では部屋一つ分くらいは入るという認識でいる。
大きいものや、大量のものを出し入れするのには時間がかかる。
収納、取出の動作で能力名を叫ばないといけないので、早着替えなどはできない。


詳細説明
空から突然やってきた女の子。
この世界の未来のロボットと自称しており、未来の世界を救うためにやってきたと言う。
元の世界でもやっていた郵便配達をしながら、『ラーニング』で能力を覚えるべく活動をする。
戦闘時には、アイテムボックスの中にある支給された装備と『ラーニング』で覚えた能力を使う。

元々は郵便配達専用の人型自立ロボットとして開発されており、主に辺境地での手紙の配達を行っていた。
だが、そうした活動をしていくうちに『感情』というものが芽生え、それに伴って何故か『能力』も得た。
その『能力』でもって、この世界ユニークな能力を集め、自分の世界に持ち帰るのが彼女の目的。

もっとも、感情を得たはいいが、未来世界の住民は誰も彼も変人揃いであるようで……。

関連アイドル
* 佐藤 心(ハートメールサービスの事務担当。未来世界で同じ姿の人間がいる?)


220 ◆6J9WcYpFe22015/05/27(水) 02:01:40.08n0yFMG/N0 (12/13)

佐藤 心

職業
 元GDF隊員

属性(ヒーローor悪役など)
 人間

能力
『アイテムボックス』
佐藤心の能力。空間を召喚し、物を出し入れすることが出来る。空間を出せる範囲は自身の手が届く範囲のみ。
入れるときは空間を呼び出してアイテムを入れることで収納でき、取り出すときは頭で何を出すかをイメージして取り出す。
そのため、何を入れてたかを忘れると、そのアイテムがずっと取り出せないままになる。
また、中は真空に等しいため、人間などの生物を入れるのには向かない。

詳細説明
元GDFの隊員で、パッションチームの後方支援を担当していた。
実は入隊してから能力に目覚めたが、それを隠していた。
現場の人には度々バレてはいたが、能力が便利だったため歓迎された。
その際、現場の人の協力により、能力の隠蔽工作を手伝ってもらっている。
また、彼女自身もそれなりに貢献をしている。

市街地空爆の件でGDFをやめた後は、アルバイトをしている。
その後、ユウキ・オトクラと出会い、共同でハートメールサービスを運営している。
衣装を作るのが趣味で、GDF時代には作った衣装でドレスアップして隊員を盛り上げたり、ユウキ・オトクラに衣装を作ってあげたりしている。
元GDF時代の名残か、街中でカースなどを見かけたときは、市民の安全を守ろうと敵を誘導していたりしていた。
冒頭で走って逃げていた原因はこれである。

関連アイドル

・ユウキ・オトクラ(ハートメールサービスの実務担当)

関連設定

・GDF(元隊員)



221 ◆6J9WcYpFe22015/05/27(水) 02:13:03.23n0yFMG/N0 (13/13)

以上、投下終了です。こ、こんなのでどうでしょうか!?
使ってくれればありがたいかなぁって思います。

一応、未来世界とか書いてありますが、現状の延長線上でたどり着く可能性の一つって感じなので、実質別世界って言った方がいいのかも。
あと、未来の世界は何かが一周まわってファンタジー世界になっていますので、もはや別世界なのかも。(平行世界っていうのとはちょっと違うけども。)

一応、設定やおまけその2とかはあるけども、これはどこで出そうかなぁ……。

あと、キャラとしては登場してはいるけど、最近登場してなかったり、あんまり活躍できないキャラとかどこかにいないかなー
能力を授けに夢の中に現れたりっていうのも考えたりしたので(最近のをまだ読めてないからわからないけど、千枝ちゃんとかどうなってます?)


222以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/05/27(水) 11:33:07.59On0Z5selo (1/1)

乙乙。悠貴ちゃんポストガールなのか


223 ◆zvY2y1UzWw2015/05/27(水) 16:21:54.54Ze1CP4EJ0 (1/1)

おつです!コンゴトモヨロシク
未来世界はいくつあってもおかしくないしね、ラーニングもいろいろ楽しそう

相談事は作者用掲示板にして頂いてもよろしいのですぞー


224 ◆cKpnvJgP322015/05/27(水) 18:53:54.02SzlCF6fDo (1/1)

>>221
おつー
ありそうで無かったラーニング能力!
使い勝手が良さそうで妄想の幅が広がる


>あと、シュガハさんをうまく表現できなかったかもorz

確かに口調に違和感があったような……
と言っても、俺もあまりしゅがはさんの事は知らないんだけどね☆
多分だけど「だぜ」口調は使わないんじゃないかなぁ、なんて


>千枝ちゃんとかどうなってます?

とりあえず『プロダクション』に居る感じかな
ちなみに今後どうこうする予定とかは個人的には無いです


225 ◆3QM4YFmpGw2015/05/27(水) 19:10:33.52QwguSgyT0 (1/1)

乙乙ー
また興味深い人達がやってきたもんだ、期待

口調?
自分もよしのんやふじりなの口調を完全に把握してるわけじゃないしへーきへーき(目逸らし)


226 ◆C/mAAfbFZM2015/06/03(水) 13:10:44.10N6VQhNoAO (1/2)

すみませんwiki内の掲示板がどうやらサービスが終了したみたいで現在繋がっておりません……
どなたか新しい掲示板をレンタルしてくださるとよろしいのですが……
……いなかったら自分がレンタルした方がいいかな?


227 ◆zvY2y1UzWw2015/06/03(水) 16:15:32.26Xf47ofR50 (1/2)

あれサービス終了だったのか…いつか直る系のものだとばかり…そうすると過去のボツネタとか惜しい物をなくした感が(´・ω・`)
レンタルに関してはお願いしたいトコロ


228 ◆3QM4YFmpGw2015/06/03(水) 16:32:11.99yI3dpqwFO (1/1)

なん…だと…
自分もてっきり不具合の類かと…
レンタルに関しては仕様が分からないので同じく分かる方にお願いしたいです


229 ◆6J9WcYpFe22015/06/03(水) 16:58:20.49C/Wy97r80 (1/1)

ああ、なるほど。サービス終了しちゃったんですか。
自分が設定したキャラに関しての相談しようと思ってたら、つながらなくて困ってましたw
(特に確認不足のための驚きの設定かぶりとか。これは未来がヤバいw)

レンタルは私もわかりませんので、誰かよろしくお願いします。


230 ◆q2aLTbrFLA2015/06/03(水) 17:47:42.05lHOp4Nsu0 (1/1)

過去のネタとかサルベージできればいいですね・・・

自分も無理っす。お願いしたいっす。


231 ◆cKpnvJgP322015/06/03(水) 18:40:01.209HmjksPko (1/3)

これは……面倒なことになった……

とりあえず立候補がいないようなので、俺が適当に建ててきますよー
……レンタルに関しては、同じくあまり詳しくないので不備があったらごめんね☆

あと過去ログは全部取ってあるので、datファイルで公開とかならできるかも


232 ◆cKpnvJgP322015/06/03(水) 18:51:44.349HmjksPko (2/3)

建てたよー

【避難所】 モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/17188/


233 ◆cKpnvJgP322015/06/03(水) 19:20:14.499HmjksPko (3/3)

主要なスレも建てておきました
しかし管理人って色々な事ができるのねぇ
何か要望とかがあれば、応えられる範囲で善処しますぞー

編集相談・要望スレ (実質)その2
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17188/1433326025/

書き手用・雑談スレ (実質)Part9
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17188/1433325695/

メタネタ・没ネタ 投下用スレ (実質)その7
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17188/1433325235/


234 ◆C/mAAfbFZM2015/06/03(水) 19:54:57.84N6VQhNoAO (2/2)

>>232
乙!
掲示板新設ありがとうございます
……最近顔見せなくてすみませんね……


235 ◆zvY2y1UzWw2015/06/03(水) 20:54:16.85Xf47ofR50 (2/2)

乙です!
過去ログ保管とかも…つよい…あこがれる…


236 ◆3QM4YFmpGw2015/06/04(木) 02:08:52.83LdGO+dmM0 (1/1)

>>232
乙したー
ありがたやありがたや


237 ◆6J9WcYpFe22015/06/05(金) 19:31:46.65j2HcKIIs0 (1/1)

ええっと、桐生つかささんを予約します。
次話では名前しか出てきませんが、その次で出てきますので。
@2くらい予約するかも。


238 ◆R/5y8AboOk2015/06/05(金) 20:03:08.02zJMRp7WH0 (1/1)

む、桐生チャンだって?
まあ早い者勝ちか(シナリオ修正を始める音)


239 ◆6J9WcYpFe22015/06/06(土) 09:58:04.67zNNpI8gJ0 (1/2)

あ、先に何か考えてあるのであれば、そちらを優先して構わないです。
次出すのはあくまでも名前だけなので、こちらで考えてる設定まだ何にもないんです。


240 ◆6J9WcYpFe22015/06/06(土) 18:20:16.10zNNpI8gJ0 (2/2)

すいません。修正始めちゃったところ悪いのですが、桐生つかささんの予約を取り消します。
書いた話を見直したいと思ったので……。
◆R/5y8AboOkさん、申し訳ないです。


241 ◆6osdZ663So2015/06/13(土) 20:25:23.76NMfMXiSKo (1/1)

トリ検索したところなんとpart12に書き込むのは自分初めてのようで…いかんよこれは……
話を書けて無くても、せめて感想のほどをと


>>144
おおおう……(リアルにこんな声出た)
いきなりヤバい人が登場してるじゃないですか
こんなの飼ってるイルミナティマジヤバ組織ですね、えげつねえです
アーニャちゃんの中にもなんだかよくわからないのがいるみたいですし…
シェアワ名物、不穏の嵐ですね

>>164
隊長が思ってたより物分りのいい人で安心した
エマのおかげで海底人との和解も早そうだし
着々と平和に近づいてるようで何よりです(最後の(不穏)から目を反らしつつ)

>>182
大物ポジながらどこか良い意味で凄みを感じさせない安心感がありましてー
隠居した悪魔とのんびりしたよしのんのお姿は和みを感じさせますね

>>205
ぃやったぁあああああああ!!!!!(大喜び)

……こほん、ひなたん星人滑り込みですね
ああ、なるほど最後のはそこにあったのか
しかし……集まってるヒーローの戦力的にいくら疲労してても…
侵入者達がどうにかできるビジョンが見えぬ……逃げよう、謎のカース達

>>221
新人さんおいでませー
オトクラちゃんはシェアワでも素直良い子可愛くて、見ていてついニコニコしてしまう、うふふ
心さんの口調は確かにちょっと違和感あったけど、
ノリもやり取りも楽しく、能力も面白いのでこれからも書いてくれると嬉しいです
あまり出てきてない子達が活躍できるならより一層と嬉しく

>>232
向こうでも言いましたが、こちらでも新設乙です


皆様乙でしてー


242 ◆6J9WcYpFe22015/06/14(日) 19:58:26.247LfOJCc80 (1/8)

今更だけど、返しです。

>>222
そうです。ポストガールですよー。

>>223
相談は大事ですよね……
ええ、ちょっと痛感しましたorz

>>224
実は後でチェックしたら、同じような能力ありましたorz
ただ、これはこれで面白そうなので、あえてこのままでw

>>225
ソ、ソウデスヨネーアハハー(目そらし


で、連投になってしまうのですが、投下します。
千枝ちゃんお借りしますー(先週だけど誕生日おめでとー。)
あと、プロダクションとピィさんを名前だけですけどお借りします。

時系列とかは深く考えてはないですorz


243 ◆6J9WcYpFe22015/06/14(日) 20:02:20.017LfOJCc80 (2/8)

ユウキ「ありがとうございましたっ!今後ともハートメールサービスをよろしくお願いしますっ!」

そういって、私は今回の配達を終わらせました。

しかし、私は不満でした。

ユウキ「うーん……なんだか手紙はおまけで、荷物を渡すことが多くなってる気がっ……」

それもそのはず。

この世界において、手紙という連絡手段はもはや電子メールといったものに取って代わられているようです。それもずいぶん前に。

今はSNSというサービスなどで連絡を取り合うことも流行っているらしいです。

今更、手紙を書いて送ろうという人など、正月などの特別な行事でもなければ、ただの物好きがやることのようでした。


私がいた未来では、手紙は人々の癒しみたいなものでした。

未来にも、今の時代での電子メールのような通信手段はありました。

しかし、度重なる星間戦争もあり、高度に発達した技術による弊害もありで、人々はいつしかコミュニケーションに餓えていたようです。

そこに目を付けた、当時、行政機関をも務めるコングロマリットとなった会社が、自社で開発した旧技術である建築用ナノマシンを発展させて生体を作り、

人型自律機動が可能な人型生体ロボットとして様々なサービスを始めたところ、いつしか全宇宙に広まるほどの人気になったそうです。

私が行っていた郵便事業もその一環であり、私もその事業を遂行するために作られました。


そんな背景があれど、過去のこの世界においては古臭い事業であるようです。

実際、体裁として手紙を渡しているが大抵が納品書であり、荷物を送ることがメインとなっていました。

アイテムボックスの能力がなければ仕事なんて来なかっただろうと思います。

なぜか……悲しくなってきましたっ……

これが、時代の流れというものでしょうか。

……本来、この言葉は何か使い方が間違っている思うのですがっ!


244 ◆6J9WcYpFe22015/06/14(日) 20:03:53.277LfOJCc80 (3/8)

現在、昼の12:00くらい。手持ちの手紙はもうありません。

さと……はぁとさんはバイト中ですから、家に帰っても誰もいません。

私は途方に暮れていました。

ユウキ「はぁ……生き辛い世の中ですね……」

いえ、別に生き辛くなんかはありません。

私の能力でコピーしたアイテムボックスは、能力名をいわないと発動しないものの、持ち運べる物の大きさや重さに関係なく運べます。

さらに言えば、能力以外にも私のメッセンジャーとしての役割<ロール>を使えば……

いえ、これは大事にしましょう。今はポイントを貯めなおすのが難しいです。

つまるところ、変なこだわりを捨てればこの世の中でも食いつなぐことはできます。


しかし、それでは私が納得しません……。

私は手紙を渡すために作られました、大きな荷物を運ぶために作られたのではありません。

思わずため息も出ます。立ってるのも辛いので、公園のベンチに座ります。

ユウキ・少女「「はぁ……」」

ユウキ・少女「「……あれ?」」

今気づきましたが、隣に誰か座ってました。

ユウキ「ええっと……こんにちは?」

少女「あ、はい……こんにちは。」

ユウキ「あなたも何かお悩みですか?」

少女「はい……」

ユウキ「一緒ですね……私もお悩みです……」

ユウキ・少女「「はぁ……」」

こんな小さな子でも悩みがあるんですね。人生ままなりませんねっ。

でも、それなら――

少女「………」

ユウキ「……あのっ」

少女「はい?」

ユウキ「よろしければ、お互いの悩みをここで相談しあいませんか?」

少女「……(こくり」


245 ◆6J9WcYpFe22015/06/14(日) 20:05:54.727LfOJCc80 (4/8)

こうして、お互いの悩みを打ち明けることにしました。

少女の名は佐々木千枝。この近所に住む少女だそうです。

ユウキ「で、なんで千枝ちゃんはここで悩んでいたのでしょうかっ?」

千枝「……実は、好きな人がいるんです」

ユウキ「好きな人、ですかっ」

千枝「はい……なんか、目が輝いていませんか?」

それはまあ、私も恋バナ好きですし……という言葉はぐっと抑えて……

ユウキ「き、気のせいですよっ」

千枝「は、はぁ。 それで、その人に私の想いを伝えようとは思っているのですけど、なかなか伝えられなくて……」

なるほど……想いを伝えるのって大変ですからね。

私がいた未来でもなかなか自分が想っていたことを伝えられないまま、別れてしまった人もいました。

それにいつまでも伝えられない想いほど、辛いものはありません。


ここは……メッセンジャーとして、何かアドバイスしてあげないとっ

ユウキ「なるほどっ。 うーん……根本的な解決になるかはわかりませんが、一度その想いを手紙にしてみればどうでしょうか?」

千枝「手紙……ですか?」

ユウキ「はいっ。 書いてみることで、気持ちの整理もつくかもしれませんっ」

ユウキ「ここに紙と鉛筆がありますので、ここは一つ書いてみませんか?」

千枝「な、なるほど……書いてみます」

そういって、千枝ちゃんは手紙を書き始めました。

最初はかなり悩んでいましたが、ちょっと書き始めるとすらすらと書いていきました。

が、最後の方になっていくにつれて顔がしだいに赤くなっていきました。

でも、頑張って最後まで書き終えたようです。

千枝「で、できました!!」

ユウキ「できましたねっ!すっきりしましたか?」

千枝「はい! なんだかすがすがしい気分です!」

ユウキ「ちなみにどんなこと書きましたかっ!?」

千枝「ええっ!? えっと……それは……」

ユウキ「ああいえっ、無理して答えなくてもいいですよっ!?」

千枝「い、いえ、ここで答えなかったらおにいさんの前でも言えないと思うから……読みますっ!!」

千枝ちゃんは顔を真っ赤にしながらも、勇気を振り絞って読み始めました。


246 ◆6J9WcYpFe22015/06/14(日) 20:07:24.287LfOJCc80 (5/8)

ピィおにいさんへ

お元気ですか?
かぜを引いたりはしていませんか?無理はしていませんか?
いつもプロダクションのみんなのためにお仕事がんばっていると、ちひろさんから聞きます。
みんなのためにがんばっているおにいさんが、私は大好きです。
またプロダクションのみんなと遊びたいです。

思えば、おにいさんは昔からよく遊びに来てくれました。
いっしょにごはん食べたりもしました。
私がプレゼントをもらって喜んだときは、おにいさんは微笑んでいました。
友達とけんかしちゃったときは、いっしょに怒ってくれました。
千枝が泣いたときは、泣き止むまでいっしょにいてくれました。
おにいさんといっしょに遊園地にいったときは、とても楽しかったです。

そんなおにいさんが私は大好きです。
プロダクションのみんなも、そんなピィさんが大好きなのだと思います。

今まで、おにいさんからは私のことを妹のように接してもらえました。
それはうれしいことでもあり、仕方のないことでもあります。
私は子供で、おにいさんは大人だから。
でも、たった一日でも、わがままを言ってもいいのなら――


千枝「わたっ私をっ……千枝をっ……千枝をっ……」プシュー

ユウキ「が、頑張ってっ! 千枝ちゃんっ!!」

千枝ちゃん、顔真っ赤にしながらも頑張って読んでいます。

がんばれっ、千枝ちゃんっ!!

千枝「……う、」

ユウキ「う?」

千枝「わぁぁあああっ!!」クシャッ

ユウキ「あぁーっ!?」

なんということでしょう。 千枝ちゃんは自分で書いた手紙をくしゃくしゃにしてしまいました……

千枝「うう……こんなのじゃ、本番でうまくいくかわかりません……」

ユウキ「大丈夫ですよっ!練習すればきっとうまくいきますっ!!」

千枝「そ、そうですか……?」

ユウキ「はいっ! おにいさんが好きだっていう気持ち、私にも伝わってきましたからっ!」

千枝「そうですか……千枝、が、がんばりますっ!」

ユウキ「その意気ですっ!」

私はそんな千枝ちゃんを応援したいと思っていますっ。


247 ◆6J9WcYpFe22015/06/14(日) 20:08:30.747LfOJCc80 (6/8)

千枝「ところで、ユウキさんの悩みってなんですか?」

ユウキ「私は……手紙を送るっていう人が見当たらなくて……」

ユウキ「でも、荷物を送りたいっていう人はいっぱいいて……」

ユウキ「そのせいで、なんだか最近は『メッセンジャー』っていうよりも『ポーター』と言った方がいい気がしてきました……」

千枝「そ、そうなんですか……あっ、それなら私が手紙を送りたいです!」

ユウキ「ほ、本当ですかっ!?」

千枝「ええっと、でも、送りたい相手の名前とか住所とかわからなくて……」

ユウキ「いえいえっ、ちょっと時間がかかりますが、探せばいいんですっ!」

千枝「それどころか、なんだか記憶がふわふわしてて……」

ユウキ「そうですね……もし、特徴とかあったら教えていただけますか?」

千枝「ええっと……すっごく大きくて……かわいい衣装を着てて……自分のことをきらりって言っていたような気がします……」

私はすかさず、そのキーワードを書き残します。

ユウキ「ふむふむなるほどっ わかりましたっ!」

ユウキ「いつ届けられるかはわかりませんけど、必ず届けますからねっ!」

千枝「はい、お願いします。 それじゃあ急いで書きます。」

ユウキ「わかりましたっ」


この後、千枝ちゃんといろんな話をしました。

千枝ちゃんは千枝ちゃんのおにいさんのこと、そして千枝ちゃんの思い出話を話してくれました。

私も未来でメッセンジャーとして働いていた頃の話をしてあげました。

特に遠距離恋愛のことについては、食い入るように聞いていたようでした。


そうこうしているうちに既に夕暮れ時……

千枝「ユウキお姉さん! またこの場所で会いましょう!」

ユウキ「またね、千枝ちゃんっ!」

こうして、私と千枝ちゃんはそれぞれの家に帰ることとなりました。


これが、この時代に来て最初の、小さなお客さん。

そして、私の旅、そして未来を救うための旅は始まっている……


248 ◆6J9WcYpFe22015/06/14(日) 20:09:50.567LfOJCc80 (7/8)

<おまけ take1>

ユウキ「なかなか本人の前じゃ恥ずかしいのであれば、遠回しに言ってみるというのも手かもしれませんねっ」

千枝「遠回しに……ですか?」

ユウキ「たとえば、ポエム調にして言ってみるとか……」

ユウキ「ほら、ここの『私は子供で、おにいさんは大人だから。』っていうあたりを変えてみると……」


――私は空も飛べない小さな雛鳥。だけどあなたはまるで大空をはばたく大きな鳥のよう。
けれど、私の内に眠るこの想いをあなたがついばんで拾ってくれるのなら――


ユウキ「っていう風になって、」

千枝「すいません。そっちの方が恥ずかしいです」


<おまけ take2>

ユウキ「なら、一言で自分の気持ちを出し切るのはどうでしょうかっ?」

千枝「一言で、ですか? でも一言でうまくいくのですか?」

ユウキ「結構侮れないものだって聞きました。あと、こういうのはシチュエーションが大事だって聞きました」

千枝「シチュエーション、ですか……」(ポワワ……


た、たとえば、千枝とおにいさんのデートのとき……

私が勇気を振り絞って、おにいさんに告白しました

「私はおに……ピィさんのことが大好きです! ピィさんはどうですか!?」

すると、ピィさんが近づいてきて、私の頭をそっと撫でてくれた後、耳元でそっと一言――

「俺も愛してるぜ、ベイベー」


千枝「っ!!」(ボンッ

ユウキ「あ、あのっ。逆です、逆っ。 千枝ちゃんが言うんですよっ?」


249 ◆6J9WcYpFe22015/06/14(日) 20:24:05.107LfOJCc80 (8/8)

以上です。 短いですけども、どうだったでしょうか?
あと、さっきも言ったけど千枝ちゃん誕生日おめでとう!
次は誰にしようかなぁー

あと、最初の方で忘れてた設定をペタリ

『ハートメールサービス』
『この近辺であれば、どんな場所でも届けます!』という触れ込みで、心とユウキが始めた事業。
その内容は手紙もしくは荷物を届け、時には読み聞かせやなどをおこなったりしている。
ほとんどボランティア活動に近くなっているため、心がアルバイトで資金繰りをするほか、現在寄付金とこっそりお手伝いさんとスポンサーを募集中である。

『ギルドカード』
悠貴の世界においての身分証明書ともなる、自分の職業などが記されたカード。
自分が所持している装備や『スキル』なども表示されるが、本人の希望で非表示にすることもできる。
表面にはその持ち主の写真とともに、名前、職業、種族、所属が書かれている。
裏面には現在保有しているポイントを数字として表している。
未来の技術で作られたものの一つ。

『自衛用の銃』
ユウキの自衛用装備。タイムスリップする際に自衛のために持たされた装備。自衛のための装備であるため、最悪でも気絶させる程度。
……のはずが、誰かが魔改造でもしたのか、チャージすることであたり一面を停電させたりするほどの大出力を有するなど、チャージの調整が難しい、扱いづらいが強力な装備となっている。
なお、最初に見せた電流を流す以外にも違ったモードもある。

なお、人型自立ロボットは基本的に人を傷つけないようにプログラムされているが、
【プログラムが判断しうる範囲】において、自身に危害が及ぶ、およびユウキがいた未来の人々にとって不都合になりうる要素と判断した場合には――


250 ◆zvY2y1UzWw2015/06/15(月) 02:51:18.37YYC8XI3q0 (1/1)

乙ですー
未来の設定がなんだか良いな、未来で逆に手紙が発展してるというのはなんとなくロマンを感じる
そんでもって千枝ちゃんとユウキちゃんの癒し空間がすごい…む、きらりとのフラグがたちましたなー…?


251 ◆cKpnvJgP322015/06/15(月) 04:12:05.14m5iEIW1zo (1/1)

>>249
おつー
ほのぼのしててなんだか和みますなぁ
こんなにも良い子な千枝ちゃんにここまで想われてるピィとかいう男は爆発すればいいのに

>「俺も愛してるぜ、ベイベー」
ギャグ状態であればアイツの場合マジで言いかねないな……、とか思ってしまった


252 ◆q2aLTbrFLA2015/06/15(月) 14:10:07.40SrtX85dH0 (1/1)

おつおつー
やっぱり平和っていいな~


253 ◆6osdZ663So2015/06/15(月) 22:41:31.98uslEbRUEo (1/1)

乙倉さまですっ
浄化されてしまいそうな清さ
なるほど、これが手紙の癒しか


254 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:27:02.31/Ug4Fbsgo (1/25)

久しぶりに投下しますー
なんと3ヶ月ぶりである、なんてこったい

時系列は曖昧な感じで


255 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:30:28.10/Ug4Fbsgo (2/25)




それは、桜の舞う麗らかな公園で、

いつものひなたぼっこの最中のことでした。


美穂「………ん」


気持ちのよい日差しと、午後のまどろみの中に居た私が、


美穂「ふわぁ……」


ふと。目を覚ますと。


ユウキ「おはようございますっ!ハートメールサービスですっ!」

美穂「……ふぇっ?」


そこにはニコニコ笑顔の女の子が居て、

とても元気のよい挨拶をくれたのでした。


256 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:31:09.32/Ug4Fbsgo (3/25)


美穂「んー??……はーとめーる・さーびすさん?……外国の人??」


私は目を擦りながら、女の子に聞きます。

……

あぅ……その……

い、いかにも頭の動いていないっぽい感じの返事なんですけどね……

うぅ、この時は、本当に寝ぼけてたんです……許してください。


ユウキ「あっ、いえっ!今のは私の名前ではなく……えっと、私の名前はユウキ・オトクラですっ!

     ハートメールサービスと言うのは俗に言うところのお仕事の名前でっ!」

美穂「あぁ……なるほど……うん、なるほど……」


う、うわぁ……ダメだ、寝ぼけてる時の私全然ダメだ……

変なことを聞いちゃったせいで、変なこと説明させちゃってるし……

思い返せば、この時はずっと隙だらけで、恥ずかしいところを見せっぱなしだったと思います……


257 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:32:11.76/Ug4Fbsgo (4/25)



……

……


美穂「そっか、この辺りでお届け物の配達をしてるんですね」


ようやく私の頭がちゃんと動いてくれるようになったのは、

その女の子、ユウキちゃんのお仕事の事をすっかりと聞き終えた後のことでした。


ユウキ「はいっ!そうなんですっ!」

それはとても嬉しそうな晴れやかな笑顔でした。

なんだか、その顔を見ているだけですっかりと彼女の楽しい気持ちが伝わってきちゃいそうです。


美穂「ふふっ、お仕事楽しそうですねっ」

ユウキ「!」

ユウキ「そ、そう見えますかっ!?」

美穂「…?」

ん?なんだろう、そう言われる事がちょっと意外そう?

……照れ隠しでしょうか?


美穂「はい、そう見えますよ。とっても」

ユウキ「むむむ…」


私がそう言うと、ユウキちゃんはなんだか難しそうに考え込み始めてしまいました。


258 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:33:13.25/Ug4Fbsgo (5/25)



なので、しばらく様子を伺っていると……


ユウキ「……はっ」

私がじっと見ていることに気づいたようです。


ユウキ「いえっ!もちろんやりがいは感じてるんですっ!!」

彼女は両手のこぶしを胸の前で握り、力強く、私の視線に答えます。

その様子は可愛らしい顔と仕草ながらに、なかなか迫力がありました。

背の高い子だからかもしれません。


ユウキ「荷物を運搬するのも大事なことですしっ!運んだ先でお礼を言われることもありますっ!」

ユウキ「うぅ……だけど、ちょっと複雑でっ……」

美穂「複雑?」

ユウキ「はい、私は『メッセンジャー』ですからっ!」

ユウキ「でもっ……運んでいるのは荷物ばかりで、手紙を送りたいって人が少なくってっ……」

美穂「……なるほど」

ユウキ「あっ!もちろんっ、居ないわけじゃないんですよっ」

ユウキ「この前も小さな女の子が手紙を送りたいって言ってくれて……」


楽しそうに見えた彼女にも、悩みがないわけではなかったようです。


259 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:34:15.22/Ug4Fbsgo (6/25)




うーん、悩みがありながらもきちんとお仕事をこなす。

それはとても立派なことではないかと思います。

……だけど、出来れば悩まずにいれた方がいいですよね。


ユウキ「出来れば……もう少し、手紙を届けたい人が居てくれたらっ……」

美穂「手紙かー……」


うーん、そう言われてみれば確かに、手紙を書いて送る機会ってあんまり無いのかも?

他に、伝達手段はたくさんありますから……

携帯メールとか……SNSとか……

あ、私の場合、一番多いのは電話だったりするんですけれどね。相手はもちろん卯月ちゃんですっ。

それらに比べれば……手紙を送る頻度はずっと少ないですよね。毎日とはいかないと思います。


だけど…


260 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:35:20.87/Ug4Fbsgo (7/25)



この時代にも、心の篭った手紙が、きっとあるはずです。


美穂「手紙といえば……」


そう、例えば”あの時の手紙”。


この時私は、ごく最近書いたある一通の手紙の事を思い返していました。

あ、最近と言っても、ヒヨちゃんや、肇ちゃんに出会うよりも前の事ですよ。


…………あの手紙は……”あの人”にちゃんと届いたのでしょうか。


きっと、”あの人”にとってそれは、他の誰かからも同じように貰った、たくさんのうちのたった一通の手紙。

だけど、それは確かに私が”あの人”に向けて……

少し恥ずかしいけれど……この胸の内の思いが届くように……思いを込めて書いた一通で。

えへへ……なんだか思い出すだけでも照れくさいですね。



えっと、その宛先はですねぇ――


261 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:36:25.44/Ug4Fbsgo (8/25)

――


――


――



テレビ「 ナ ッ ナ で ー す !! キャハッ!!」

テレビ「……って、あ、あれ?も、もしかして…みなさん引いちゃってませんか!?」


美穂「あはは、菜々ちゃんってば」


テレビの中を所狭しと活躍するのは、

この時代の華!アイドルヒーロー!

その名も『ラビッツムーン』!


……とは言え、この日の彼女の姿は悪と戦うヒーローとしてのそれではなく……


テレビに映るステージの上で、精一杯に輝いている彼女の姿は!

紛れもなくっ!歌って踊れる”アイドル”っ!!

そうっ!夢と希望を両耳に引っさげた『安部菜々』ちゃんですっ!!


テレビ「 聞いてくださいっ! メルヘンデビューっ!! 」

「「「「「「「ミミミン!ミミミン!ウーサミン!」」」」」」」


美穂「……わぁっ!」


262 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:37:22.89/Ug4Fbsgo (9/25)


……


光り輝くステージは本当に瞬く間……。

部屋の時計を見ると結構時間経っちゃってるんですけれど、全然そんな気がしなくって。

楽しい時間は、本当にすぐ過ぎ去っちゃうんですね。

……あーあ、こんなに楽しいのなら私も現地に行ってみたかったけど、

菜々ちゃんも立つステージのチケットはそれはもう大人気で……手に入れられず……悔やまれます……。


テレビ「ゼェ……ゼェ……お、応援……あ、ありがとうございますっ!!」


……?菜々ちゃん、心なしか息切れしてるように見えましたけど……

きっと気のせいですよねっ!


テレビ「……み、みなさんっ!」

テレビ「た、楽しんでっ……ゼェ……くれましたかぁっ!!」


「「「「「 ウォォオオオオオオ!!! 」」」」」」


物凄い歓声。会場、すごく盛り上がってます。


美穂「……!」 ブンブン


私もテンションが上がっちゃってたので、負けじとテレビの前で手を振り上げました。

ご近所に迷惑ですから大きな声は出しませんでしたが……。


263 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:38:24.12/Ug4Fbsgo (10/25)


テレビ「あ、あははっ!す、すごい歓声ですねぇっ…!」

テレビ「……菜々にも……こんなにもたくさんのファンがっ…いてくれて……ぐずっ」


感極まって……でしょう、菜々ちゃん泣いちゃいました。

テレビの前の私も思わず貰い泣きしてしまったりして……ぐすんっ。


テレビ「すぅー……はぁー…」

テレビ「すぅっ……!」

テレビ「会場のみんなっ!!……それにっテレビの前のみんなの声もっ!ちゃんと聞こえてますからねーっ!!」


「「「「「 FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!! 」」」」」」


怒号のような喝采!盛り上がってます!盛り上がっています!


美穂「……」

テレビの前のみんなの声……これ生中継だけれど……届くものかな?

……ううん!届いてる!確かにこの思いは届いてるはずです!


美穂「ふ、ふうぅぅ……!!」


あくまで小さくですが……私も歓声をあげました!


テレビ「みんなぁっ!!ありがとぉおっ!!」


264 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:39:11.04/Ug4Fbsgo (11/25)



……


さて、ステージに立ったアイドルヒーロー達の挨拶をもって

ステージ中継が終わると、菜々ちゃんの所属してる873プロ、

そしてアイドルヒーロー同盟からのお知らせがテレビに表示されます。

グッズの通信販売だったりとか、次回以降に予定しているライブステージ中継の日程だとかですね。

他には……


美穂「……あ」


表示されたのは、こんなテロップ


”アイドルヒーローにファンレターを送ろう!”


”宛先は――同盟事務所の――” 


”アイドル名を忘れずに――”



美穂「…………よしっ」


思い立ったら早いもの。

この後私は、自室に戻るとすぐに引き出しから可愛い熊のキャラクターが描かれた便箋を取り出しました。

机に向き合い筆箱からペンを選び取ると、興奮の勢いのままに、筆を進めます。


届けたいこの気持ちを、メッセージに乗せて――


265 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:40:12.25/Ug4Fbsgo (12/25)


――

――

――


ユウキ「……あの?」

美穂「……はっ」


ユウキちゃんの一声で、思い耽っていた私は我に帰ります。

……思えば、あの時の手紙、

大興奮の勢いのまま書いたせいで凄い恥ずかしいことばかり書いてた気がする……


ユウキ「顔真っ赤ですよっ?」

美穂「……ちょ、ちょっと思い出し恥ずかしで……」

ユウキ「思い出し恥ずかし……?……そ、それって思い出し笑いみたいな感じですかっ!?」


はい。これが自室のベッドの中なら足を振り回して悶絶しているところです……。


266 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:40:59.28/Ug4Fbsgo (13/25)



美穂「……あ、えっと手紙でしたよね」


こほん、私の恥ずかしいエピソードはさておいてです。

今はユウキちゃんの悩みでしたよね。

……ええ、露骨に話題を変えてしまいますよ。


美穂「……せっかくだから」


ユウキちゃんのお仕事、『ハートメールサービス』でしたよね

先ほど聞いたお話だと、この辺りであればどんな場所でも届けてくれるそうです。

とは言え、今この場でパッと思いついた送り先はないのですが……

それでも、悩んでいるユウキちゃんの力に、少しでもなれるなら……


美穂「……私も誰かに手紙を書いて、ユウキちゃんに送ってもらおうかな」

ユウキ「!!」

ユウキ「本当ですかっ!?」


267 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:41:38.91/Ug4Fbsgo (14/25)


ユウキ「わぁっ!!嬉しいですっ!!」

美穂「ふふっ」


やはり晴れやかな笑顔。でも心なしか先ほどよりも明るい。そんな気がします。


……さて、手紙は宛先は……肇ちゃんかなぁ?

一番近くに居るけれど、あえて手紙と言うのもなかなか風情がありそうで


ユウキ「あっ、でもその前にっ」

美穂「?」


ユウキ「手紙があるんですっ!」

美穂「えっ?」


268 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:42:29.65/Ug4Fbsgo (15/25)


ユウキ「差出人は小さな男の子でしたっ!」

ユウキ「その子から特徴を聞いていたので、あなた宛で間違いないかとっ!」


……あ、なるほど。

ユウキちゃんが私に声をかけてきたのは、私宛のお手紙があったからみたいです。

でも男の子?……知り合いに思い当たるところはないのですが……


ユウキ「間違いないとは思いますけど、名前だけ確認させてくださいねっ」

美穂「えっと、はい」


そう言えば、ユウキちゃんの名前を聞いておきながら、

私、名乗っていませんでしたね……。

寝ぼけたまま失礼なことをしてしまいました……反省です。



ユウキ「えっと……」


ユウキちゃんは1通の手紙を取り出すと、そこに書かれた宛名を読み上げます。


269 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:43:20.44/Ug4Fbsgo (16/25)



ユウキ「”ひなたん星人”さんっ、ですよねっ!」

美穂「えっ……は、はい……?」


ん?ひ、ひなたん星人宛……?

それってどういう……?


ユウキ「お手紙ですっ!どうぞっ!!」

美穂「……」


……少し疑問に思いながらも、受け取った手紙をおそるおそる開きました。

知り合いに思いあたらない小さな男の子からの手紙……宛名は”ひなたん星人”……

ううーん……検討がつきません……一体何が書かれているのでしょう……?


気になる内容に目を通します。



美穂「……」


美穂「……」


美穂「……」


美穂「え…………」


美穂「こ、これ……」


美穂「ふぁ………っ」


270 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:45:33.08/Ug4Fbsgo (17/25)





美穂「ふぁぁぁあああああっ!?!??!!!!」







…………後の事は記憶が抜けているのであまりよくは覚えていないのですが、

どうやら私は、まるで、その場から逃げ出すように走り去ったようなのでした。




ユウキ「……???」

ユウキ「い、行ってしまいましたっ?」

ユウキ「……」

ユウキ「…………あ、でも」

ユウキ「あれほど大事に抱えているなら、良い手紙だったんですよねっ?」

ユウキ「えへへっ」


271 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:46:12.31/Ug4Fbsgo (18/25)



小日向家


ガチャ  ドタドタドタドタ


肇「あ、お帰りなさい。美穂さん、今日は早か……」


美穂「――――っ!!!!」  ゴロゴロゴロゴロ


肇「!?」

母「美穂ー、部屋に戻る前にちゃんと手洗いなさいよー」

肇「……あ、あの……美穂さん凄い勢いで自室に転がっていきましたけど……」

母「うん?ああ、そうね」

母「あれは……発作みたいなものかな」

母「許容容量超えるくらい恥ずかしくなっちゃうと、よくあんな感じになっちゃって」

肇「なるほど………って、えっ?よくあるんですか?」


ドンガラガッシャーン!!


肇「……美穂さんの部屋の方からすごい音が鳴りましたけど……?」

母「演出効果音だから平気よ」

肇「ほ、本当に大丈夫でしょうか?」


272 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:46:54.65/Ug4Fbsgo (19/25)


ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ…


肇「……あの、今度は何か凄い勢いで転がってる音が……」

母「ベッドの上で転がりまわってる音ね」

母「うーん……これはたぶん嬉し恥ずかしいってところかな」

母「とっても恥ずかしいけど、とーっても嬉しい……そんな気持ちが爆発してるところね」

肇「おや……美穂さん、外で何か良い事があったのでしょうか?」


マー!!マーー!!


肇「……大変です、プロデューサーくんが悲鳴をあげてます」

母「美穂ー!恥ずかしがるのはいいけど、プロデューサーくん抱きしめて転げまわったら可哀想よー!」


ドタバタバタバタドタ…


肇「……あ、こちらの部屋に戻ってきてますね」

母「……なんだか今日は特に慌しいわね」


273 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:47:39.04/Ug4Fbsgo (20/25)


ズザザザザ

美穂「どどどどどどどどどどどうし、どうしっ、よよっ!!!!」

肇「美穂さん、落ち着いてください。何を言っているのかさっぱりです」


美穂「こ、ここここれっ!!これ、も、もも、もらっちゃって!!」

肇「それは……お手紙、ですか?」

母「あら、ラブレターでも貰ったの?」

肇「えっ!?そ、そそうなんですか?!お、お相手はっ!?」

美穂「ちちちち、ちがっ!ちがうっ!」


美穂「そうじゃないっ!!そうじゃないけどっこれっ!!」

肇「そうじゃないとしたら……」

母「……果たし状?」

肇「あ、川原で待つと言った感じの…?」

美穂「もっとちがうっ!!」


美穂「そうじゃなくってっ!!私っ!!ふぁっ…!ふぁあっ!」

美穂「ふぁ、ファンレターっ!!貰っちゃったみたいっっ!!」


274 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:48:29.28/Ug4Fbsgo (21/25)


……


母「あららー、可愛らしい字ねー」

肇「”ひなたんせーじんありがとー”……

  なるほど。どうやら以前に、どこかで助けたことがある子みたいですね」

母「考えてみれば、美穂もヒーローとしての活動、それなりに長いんだし……

  ファンレターの1枚や2枚は貰っても不思議じゃあないわよね」

肇「そうですね。……今まで届いてなかったのはきっと、宛先がわからなかったからなのでしょう」

母「そうねぇ、アイドルヒーローならアイドルヒーロー同盟に送りつければいいのだろうけれど、

  フリーのヒーローだと……確かにそう言うものをどこに送ればいいか困りそうねえ

  まさかうちの住所を公開するわけにもいかないし」



美穂「あうあうぅあうぅう」 プスプスプスプス


肇「……美穂さんが赤面しすぎて発火しそうになってます」

母「ひなたん星人としての活動のおかげで、度胸もついたと思ってたけれど……

  ふふっ、こう言う嬉しいサプライズにはまだ慣れてないみたいね」


275 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:49:34.22/Ug4Fbsgo (22/25)



……その時の私の気持ちを言い表すとしたら……なんて言えばいいんでしょう?

本当に、嬉しすぎて、

嬉しすぎて、

嬉しすぎて、

それ以外に言葉が思い当たらなかったと言うか。

だって、ファンレターですよ、ファンレター!!!


私は両手で顔を押さえつけていました。全力でです。

そうしないと、ニヤケ面が張り付いて元に戻らなくなっちゃいそうでしたから。

押さえつけた手から感じる自分の顔の温度は、

おそらく、小日向美穂史上でも最高温度に達していたとさえ思います。


276 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:51:27.39/Ug4Fbsgo (23/25)



美穂「…………お母さん」

母「ん?」

美穂「額縁……額縁って家にあるかな?」

母「えっ、まさか……これ、そんな大げさに飾るつもりなの?」

肇「……美穂さん、落ち着いてください」

母「そうよ、肇ちゃん言ってあげて」

肇「まずは、念入りにラミネート加工からするべきだと思います」

母「おっとぉ」

美穂「!!」

美穂「それだよ肇ちゃんっ!!」

肇「ふふ、エトランゼ勤務で習得した私のラミ技術、実はなかなかのものなんです」

肇「またとない機会なので、ご覧に入れますよ」 ワキワキ

母「ま、まさかのボケ被せね……」


母「……」

母(……ま、それだけ嬉しかったのよね)


277 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:53:09.06/Ug4Fbsgo (24/25)


母(美穂はもちろん……肇ちゃんだって、美穂の事一番近くで見てくれてた一番のファンなんだもの)

母(だから自分の事のように喜んでくれて……)

母(……それにしてもファンレター……そっか、そうなのよね……美穂にもファンがいて……)


母「……」

美穂「? お母さん?」

母「ぐすっ」

美穂、肇「!!」

肇「ど、どうしました?!」

母「ううん、ちょっとね……私も嬉しくなりすぎちゃったかな……ふふっ」

美穂「……お母さん」

母「よしっ!今日はもう盛大にお祝いしちゃいましょうか!ちょっと張り切ってご馳走つくっちゃうわよ♪」

肇「あ、それなら私もお手伝いします。私も美穂さんのためにすごくお祝いしたい気持ちなので」

美穂「お母さん、肇ちゃん……」

美穂「えへへ……ありがとうっ!」


たった1枚の手紙で、なんだか大げさなことになっちゃいましたね。

けど、そのたった1枚が私にとっては本当に、本当に素敵なことでしたから。


美穂「……ヒーロー、続けてて良かったな」


今日の出会いは、心から、そう思えるような出来事なのでした。


おしまい


278 ◆6osdZ663So2015/07/07(火) 20:56:42.52/Ug4Fbsgo (25/25)



と言うわけで小日向ちゃんにファンレターが届くお話。
乙倉ちゃん、菜々さんお借りしましたー

手紙と言えばやはりファンレターですよ
アニメでもキーファクターでしたね
そしてアイドルにはもちろんヒーローにだってファンは付き物。
とはいえ、フリーのヒーロー宛てのファンレターはどこに送ればよいのだぜ?と思い、
この度は、乙倉ちゃんに来てもらおうと言う事になりました

いやーそれにしてもライブステージの様子を普通に生中継できるなんて、
アイドルヒーロー同盟の力はすごいですね!(すっとぼけ)
……この世界ではアイドルヒーローの影響力はこれくらいは普通にあると思ってますまる


279 ◆6J9WcYpFe22015/07/07(火) 22:52:58.61Npdy+zG30 (1/1)

>>278
おつかれさまですっ!
なんと微笑ましい話だぁ……私も頑張らなくては

>>……この世界ではアイドルヒーローの影響力はこれくらいは普通にあると思ってますまる
??「なんてったって、アイドル(ヒーロー)ですから!」


280 ◆zvY2y1UzWw2015/07/07(火) 23:17:51.39trl9WpBH0 (1/1)

乙ですー
やっぱり乙倉ちゃんが出る話はお仕事の性質も会ってほのぼのしてていい…
フリーのヒーローにも頑張ってお手紙届けちゃうのは素敵すぎる
菜々さんはホント体力もつの一時間だからねー歌でそう言ってるしねー(棒)


281 ◆cKpnvJgP322015/07/08(水) 00:01:02.34n49OK/3Do (1/1)

>>278
はばかりさんどすー
ほのぼのしてはってよろしおすなぁ、なんや見ていてほっこりするわぁ
あない照れはって、美穂はんはほんまかいらしいなぁ(謎の紗枝感)

しかしこの男の子といい千枝ちゃんといい
かなりアバウトな宛先でもちゃんと届けてくれるのは乙倉ちゃん優秀ですね


282 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:04:03.02j2VnBMgZ0 (1/46)

オツカレサマドスエ!
乙倉ちゃん大活躍ですね、便乗してえ

ではでは、AHFの本戦を投下しまー


283 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:07:07.67j2VnBMgZ0 (2/46)


J『さあ、いよいよオールヒーローズフロンティア本戦が開始します! ルールをご説明しましょう!』

Jの熱いアナウンスが会場全体に響き渡る。

J『リングはこちら、直径15メートルの円形! フェンス、ロープございません!』

J『リングと観客席の間には幅4メートル深さ2メートルの溝!』

J『勘がよい方はもうお分かりでしょう! リングからこの溝に落ちれば敗退です!』

J『また、気絶及びギブアップも敗退となります!』

J『そして相手を死なせてしまった場合も敗退! ヒーローとしてあるまじき行為ですから当然でしょう!』

J『勝負はいずれも時間無制限一本勝負! 勝利の栄光を掴むのは一体誰なのか!!』


284 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:07:51.62j2VnBMgZ0 (3/46)

J『では早速、1回戦第一試合を行います!! 選手入場!!』

真っ白いスチームと共にリング端の扉が開き、両選手がリングに姿を現す。

J『みんなのアイドル、永遠の17歳!』

J『両耳に架けるは、夢と希望!』

J『大会史上初の二連覇なるか!』

J『ラビッツ、ムゥゥゥーンッ!!』

ウォオオオオオオオオ...

J『妖しさと優雅さを備えた、黒き悪魔!』

J『その悪魔を守護する、鋼鉄の騎士!』

J『その信念の拳は、月へと届くのか!』

J『ノォォーヴル、ディアブゥゥールッ!!』

ウォオオオオオオオオ...


285 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:10:11.68j2VnBMgZ0 (4/46)

ディアブル「…………」

ラビッツ「言っておきますけど」

ディアブル「!」

リング上、ラビッツムーンが口を開いた。

ラビッツ「相手が新人さんだからって、ナナは手加減しませんよ!」

ディアブル「……望むところですわ。わたくしも、全力でお相手させていただきます!」

お互いに笑みをこぼすラビッツムーンとノーヴル・ディアブル。

J『さあ、それでは……!」

Jのアナウンスに2人が即座に反応した。

ラビッツムーンはその耳を振りかぶるようなファイティングポーズを取り、ノーヴル・ディアブルはバイオリンを肩に構える。

J『試合……開始ぃっ!!』


286 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:11:11.52j2VnBMgZ0 (5/46)


ラビッツ「ウサミンカッタァー!!」

J『おおっと、先手を取ったのはラビッツムーンだぁ!!』

三日月型の鋭いカッターがノーヴル・ディアブルに迫る。

ディアブル「……オーラブレード!」

『レディ』

しかし、ノーヴル・ディアブルの指示を受けたストラディバリがこれを難なくはたき落とす。

J『お見事っ! っと、これはぁ!?』



287 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:11:54.93j2VnBMgZ0 (6/46)


ラビッツ「ウサミンッ、ラァーンス!!』

ディアブル「きゃああっ!?」

J『これは素早い! 一瞬で死角に飛び込んでからの痛烈な一撃だぁー!!』

亜里沙『ちゃんと石突の部分を突き出してるあたり、流石はベテランのアイドルヒーローね』

ウサミンランスの石突で突かれたノーヴル・ディアブルの体は、一気にリング端まで吹き飛ばされた。

ディアブル「うっ……く……オーラバレット!」

『レディ』

ストラディバリの頭部から放たれるオーラの弾丸に、ラビッツムーンは反射的に飛び退く。

ラビッツ「おっとと……牽制ですか」

J『これは迂闊に近寄れない! どうするラビッツムーン!』

亜里沙『ノーヴル・ディアブルちゃんはこの間に体勢を立て直しているわね』



288 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:12:46.70j2VnBMgZ0 (7/46)


ラビッツ「…………ふふ」

不意に、リングの端でラビッツムーンが足を止める。

ディアブル「……?」

ラビッツ「流石に逃げ疲れましたね〜、ナナあんまり逃げるの好きじゃないですし……」

J『おおっとぉ、あの構えはぁ!?』

ラビッツ「まずはその騎士さんをリングアウトです! ウサミンンン……ビィィィームッッ!!」

構えたラビッツムーンから放たれた極大のビームが、ストラディバリに直撃した。

『……ッ!!』



289 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:13:21.93j2VnBMgZ0 (8/46)


ディアブル「ストッ……いけない!」

ストラディバリの巨体が宙に放り出された瞬間、ノーヴル・ディアブルはラビッツムーンを見据えてバイオリンを構えた。

ディアブル「一か八か……オーラロケットパンチ!!」

『……レディ』

溝に落ちる寸前の土壇場、どうにかロケットパンチを発射したが……

J『ああーっ、ダメだぁ!! 苦し紛れのロケットパンチはラビッツムーンの左右目掛けて一直線! あれでは当たらない!!』

ロケットパンチが自分に飛んでこない事を確認したラビッツムーンは、軽く咳払いした。

ラビッツ「んっんんっ。焦っちゃダメですよ、ディアブルちゃん。ヒーローたるもの窮地の時こそ落ち着いて……」



290 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:14:14.68j2VnBMgZ0 (9/46)


ディアブル「オーラストリング!!」

ラビッツ「へ? ふげっ!?」

J『お、おおっとぉ!? どうしたことだ!ロケットパンチがラビッツムーンの左右を通り過ぎる瞬間……』

ウサコ『ラビッツムーンの体が、それに引っ張られるみたいに吹っ飛んだウサ!?』

亜里沙『……あれね。ロケットパンチの間に糸が張ってあるわ』

そう、ノーヴル・ディアブルはロケットパンチがラビッツムーンの左右をすり抜ける寸前に、ロケットパンチの間にオーラストリングを展開したのだ。

J『なるほど! ラビッツムーン一瞬の油断が死を招いたー!!』

ウサコ『今のラビッツムーンは壁に縫い付けられた、さながら昆虫標本ウサー』



291 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:15:12.72j2VnBMgZ0 (10/46)


ディアブル「…………ふぅ」

ラビッツ「あべっ」

ノーヴル・ディアブルが軽く息を吐くと、オーラストリングが消え、ラビッツムーンの体は溝の底にベタッと落下した。

J『……なんと言う番狂わせ! 新人ノーヴル・ディアブルが、前回王者ラビッツムーンを破って1回戦突破だぁぁーっ!!』

ウォオオオオオオオオオオ...

ラビッツ「あたたたた……完敗ですよ、ディアブルちゃん」

リング上に戻ってきたラビッツムーンが、ヨタヨタとノーヴル・ディアブルに歩み寄る。

ディアブル「ありがとうございます」

ラビッツ「ナナのぶんまで、頑張って下さいね!」

ディアブル「もちろんです!」

2人が堅い握手を交わすと、会場は更なる歓声に包まれた。

J『いやあ、一瞬も見逃せない熱い試合でしたね! では、この熱気が冷めやらぬ内に第二試合のスタンバイに入りましょう!!』

――――――――――――
――――――――
――――


292 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:16:00.17j2VnBMgZ0 (11/46)

――――
――――――――
――――――――――――

敗者復活参加者を本戦会場へ運ぶバスの中。

ナイト「やったやった! 01、ディアブルが勝ったよ!」

01「ええ! めでたいですな!」

バス内部のモニターで、彼女らも試合の様子を観ていた。

RISA「アイツの次の相手はアタシね。やってやろうじゃない!」

カミカゼ「しかし、菜々が負けるのは少し意外だったな」

疲労や傷がひどい者は、ここで応急の処置を受けている。

スカイ「相手はベテランなのに……ディアブルさん、すごいですね」

オーフィス「でも一瞬の隙を突けただけ。試合全体を見るとやっぱりラビッツムーンが押してたね」

スカル「……あ、ランさんでございますです」

聖來「現役アイドルヒーロー同士の対決か……どうなるかな?」

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293 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:16:46.79j2VnBMgZ0 (12/46)

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――――――――――――

J『木々の、草花の声援を受けし歌姫!』

J『大自然の使者、癒しの権化!』

J『無念敗れた友の仇は取れるのか!』

J『ナチュラァール、ラヴァァアースッ!!』

ウォオオオオオオオオ...

J『あどけなき表情に隠しきれぬ、野獣の眼光!』

J『二面性の獣が今、牙を剥く!』

J『その爪で花を切り裂いてしまうのか!』

J『ラァァープタァァー!!』

ウォオオオオオオオオ...


294 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:17:39.15j2VnBMgZ0 (13/46)

ラプター「そういや、相葉先輩とはあんま一緒になんねえな」

思い出したようにラプターが口を開く。

ナチュラル「そうだね、私基本的にナナちゃんとペアだし」

ラプター「ま、んな事ぁどーだっていいか。俺ぁあのマーセナリー東郷ってヤツとやりあいてえんだ」

ナチュラル「こっちもね、ナナちゃんに勝ったノーヴル・ディアブルと戦ってみたいなって思ってるんだ」

ラプター「へっ……」

ナチュラル「ふふっ」

J『お互いやる気は充分のようですね! では……試合開始ぃっ!!』


295 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:18:35.79j2VnBMgZ0 (14/46)


ラプター「はっ!!」

J『先に動いたのはラプター! その爪を大きく振りかざす!!』

ナチュラル「やあっ!!」

ナチュラルラヴァースが両手を交差させると、目の前に巨大な葉が出現した。

ラプター「んなっ!?」

J『ラプターの爪は、葉の表面に傷を付けるに留まったぁー!』

ラプター「何で出来てんだよその葉ぁ!」

ナチュラル「ふふっ、内緒!」

ナチュラルラヴァースは続けてその葉をラプターへブーメランのように投げつける。



296 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:19:21.85j2VnBMgZ0 (15/46)


ラプター「チッ!」

J『しかしラプターそれをバク宙で回避ー!!』

着地したラプターはそのままナチュラルラヴァースへ向けて駆け出した。

ナチュラル「もう一枚!」

J『ナチュラルラヴァース再び葉の盾を構え……っとぉお!?』

ナチュラル「う、嘘っ!?」

水平に突き出されたラプターの爪は、ナチュラルラヴァースの盾を貫いた。

亜里沙『同じ力でも、働く面積が狭いほど強い力を発揮するわ』

ウサコ『爪全体で斬るより、爪の先端だけで突いた方が強いって事ウサ』

ラプター「へへっ!」

ラプターはそのままナチュラルラヴァースから盾を奪い取り右へ避けた。



297 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:20:15.26j2VnBMgZ0 (16/46)


その背後には、

ナチュラル「きゃああっ!?」

弧を描いて戻ってきた最初の盾が、ナチュラルラヴァースの体に激突した。

ナチュラル「……やるね。なら、これならどうかなっ!」

ナチュラルラヴァースがリングへ力を送る。

J『うおおおっ、こ、これはぁ!?』

亜里沙『巨大な……植物のツタね』

ツタは伸びながら絡まり合い、5メートルほどの高さの塔になった。

その中腹に立つナチュラルラヴァース。



298 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:21:00.21j2VnBMgZ0 (17/46)


ラプター「空中戦でもしようってか? 面白ぇ!」

枝のように別れたツタを足場に、ラプターが塔を駆け上がる。

ラプター「どぅおりゃああっ!!」

ナチュラル「とうっ!」

J『ラプターの爪による斬撃を、三度葉の盾で受け止めたぁ!』

ラプター「チッ!」

盾を蹴った反動でラプターは飛び退き、背後の枝に着地した。

ナチュラル「うわっと……」

蹴りで飛ばされたナチュラルラヴァースも同様、着地して体勢を整える。



299 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:21:33.53j2VnBMgZ0 (18/46)


ラプター(……もう一発いけるか?)

ナチュラルラヴァースを睨んだまま、ラプターが思考する。

ラプター(相葉先輩は飛行出来っからな……単純にリングアウトは狙えねえ)

ナチュラル「…………」

J『お互い動きが止まった! 隙を伺っているのでしょうか!?』

今のナチュラルラヴァースの背後には、枝はない。



300 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:22:22.13j2VnBMgZ0 (19/46)


ラプター(飛び掛ってしがみ付いて二人仲良く落下……これなら相葉先輩が先に下に着くな)

ラプター(避けられたら……枝に爪引っ掛けりゃまだ復帰出来る。よし!)

ラプター「はぁっ!!」

J『ラプターが仕掛けたぁ!!』

ナチュラル「ふっ!」

そしてラプターの予想通り、ナチュラルラヴァースは蝶の羽を広げて飛び上がった。

ラプター「はっ、やっぱそう来るか!」

ラプターはそのまま、ナチュラルラヴァースが足場にしていた枝に爪を突き立て……



301 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:22:57.99j2VnBMgZ0 (20/46)


ナチュラル「えいっ」

ラプター「は?」

られなかった。

J『え、枝がラプターの爪を避けたぁ!? ラプタークルクル回転しながら落下していくー!!』

ラプター「はぁぁぁぁーーーーー!?」

ナチュラル「それっ」

ラプターの落下地点に巨大な花が咲き、彼の体をやんわりと受け止める。

ラプター「……嘘だろオイ」

そのままラプターの体は、花弁からズルリと溝へずり落ちた。



302 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:23:40.94j2VnBMgZ0 (21/46)


J『……えー、ラプターのリングアウトにより、勝者はナチュラルラヴァースーッ!!』

ウォオオオオオオオオオオ...

ラプター「……おい相葉先輩! 汚ねえぞ! 何だよ今のは!?」

リング上に戻ってきたラプターがナチュラルラヴァースに詰め寄る。

ナチュラル「……って言われてもなー。敵が用意した足場を全面的に信用しちゃうのもどうかと思うな」

ラプター「んぐっ……!」

ナチュラル「カースが作った足場に乗ったりしたら最期、パクッと食べられちゃうかもよ?」

ラプター「…………やっぱ俺、アンタ嫌いだわ」

ナチュラル「そう? 私は爛ちゃん意外と好きだよ?」

ラプター「ホザけ」

吐き捨てるようにそう言うと、ラプターは早足で会場を出て行った。

ナチュラル「……ちょっとイジワルしすぎちゃったかな?」

その様子を眺めていたナチュラルラヴァースは、軽く肩をすくめてみせた。

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――――


303 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:24:24.00j2VnBMgZ0 (22/46)

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――――――――――――

スタッフルーム。

シロクマP「あらら、爛くん負けちゃったね」

同盟のプロデューサー達もモニターで試合を見守っていた。

クールP「ええ、流石に少し残念です」

パップ「今のトコ勝ち上がってるアイドルヒーローは夕美、梨沙、拓海か。アイドルヒーロー同士がぶつかったのは痛いな」

873P「ですよねえ……この大会は、同盟の力を示す意図も込められてますから」

黒衣P「勝ち上がる現役アイドルヒーローが少なければ、上層部もあまりいい気分ではないだろうな」

クールP「次は管理局の代表の方でしたか……彼女が勝ち上がってくれれば」

パップ「で、アイドルヒーローの誰かがそれに勝てば、多少はマシかもな」

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304 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:25:01.90j2VnBMgZ0 (23/46)

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J『360°死角無し! 地平線まで射程距離!』

J『管理局のテクノロジーここに極まれり!』

J『その瞳は、既に勝利を見据えているのか!』

J『パァァーボ! レアルゥゥー!!』

ウォオオオオオオオオオオ...

J『世界よ! これが日本のオカルトだ!』

J『彼女こそは、日本が産んだラストヨーカイ!!』

J『オカルトが科学を叩き潰すのか!』

J『桜ぁぁぁぁー餡んんー!!』

ウォオオオオオオオオオオ...


305 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:25:39.67j2VnBMgZ0 (24/46)

桜餡「ラストヨーカイ……ま、まさか正体がバレてる……!?」

レアル「いや、ラストサムライとかラストニンジャと似たようなノリで言ってるだけだと思うけどな」

桜餡「そ、そうかな……? と、ともかくよろしくお願いします!」

レアル「ああ、こっちこそよろしく」

J『ではでは参りましょう! 試合っ、開始ぃ!!』


306 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:26:18.34j2VnBMgZ0 (25/46)


レアル(まずは様子見に…)

パーボ・レアルが目玉型ユニットの一基からレーザーを放つ。

桜餡「うわわわわっ!?」

J『桜餡ド派手なヘッドスライディングでこれを回避ー!』

レアル「…………」

J『パーボ・レアル追撃! 桜餡は猛ダッシュで回避している!!』



307 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:27:06.05j2VnBMgZ0 (26/46)


レアル(……正直)

攻撃を続けながら、パーボ・レアルは思案する。

レアル(勝つだけなら、簡単なんだよな)

そう、『穴』を空けて桜餡の体を溝へ落としてしまえば、それでもうパーボ・レアルの勝利だ。

だが……。

レアル(流石にそれは、まずいよな……)

パーボ・レアル本人が卑怯じみた勝ち方を嫌ううえ、そんな呆気ない勝利は、番組としても盛り上がりに欠けるだろう。

そして、何より。

レアル(今は、管理局の代表だもんな……)

自分が卑怯な勝ち方をすれば、管理局の名に泥を塗る結果になるかもしれない。

その為、あくまでも正攻法での勝ちに拘るのだ。



308 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:27:56.04j2VnBMgZ0 (27/46)


桜餡「うううっ、反撃しないと……」

J『おおっと、桜餡が足を止めた! 一体どうするつもりなのか!?』

桜餡「んんんん~……はぁー!!」

レアル「なっ……!?」

桜餡の頭上に現れた、巨大な手。

それが握り拳を作り、パーボ・レアルへ向けられる。



309 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:29:11.28j2VnBMgZ0 (28/46)


桜餡「やあっ!!」

レアル「ぬあっ……!?」

J『パーボ・レアル間一髪回避ー!』

しかし、そこへ桜餡が追撃を仕掛けた。

桜餡「それそれそれー!!」

J『何処から取り出したか桜餡、巨大な裁ちバサミを閉じたまま振り回す! パーボ・レアルは回避で精一杯だ!!』

レアル「やべっ……なら!」



310 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:30:15.38j2VnBMgZ0 (29/46)


パーボ・レアルは脚にグッと力を込め、跳んだ。

桜餡「わあっ!?」

J『おお! パーボ・レアル、脚のジェットを活かした大ジャンプだ!!』

レアル「これでどうだっ!」

空中で更にレーザーを乱射するパーボ・レアル。

桜餡「えーいっ!!」

J『おお! 桜餡の巨大な両手が盾となってパーボ・レアルのレーザーを防いだ!!』



311 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:30:59.25j2VnBMgZ0 (30/46)


桜餡「そのままそれぇっ!!」

巨大な両手が張り手の形のままパーボ・レアルへ迫る。

レアル「いぃっ!? くっ!!」

J『パーボ・レアル再度ジェットで逃走を図る!!』

レアル「これならっ!」

二基のユニットからレーザーを放ち、桜餡を狙う。

桜餡「なんのっ!」

しかし、桜餡はそれを素早い横跳びで避け……



312 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:31:56.43j2VnBMgZ0 (31/46)


レアル「今だっ!!」

桜餡「ぎゃんっ!?」

J『おおーっと、これはぁ!? 桜餡が着地する瞬間を狙い、別のユニットが足元を掬ったー!!』

亜里沙『なるほど、自分が高く飛び上がった事で、桜餡の視線を上に移し……』

ウサコ『その隙に不注意な足元へユニットを忍ばせたウサ!』

レアル「よっし!」

バランスを崩した桜餡は、溝へと落ちていく……。

桜餡「……なんてねっ!」

落下する桜餡の体が途中で止まり、ふわっと浮かんだのだ。

桜餡「さあ、勝負はまだまだこれか……」



313 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:32:48.75j2VnBMgZ0 (32/46)


レアル「ホールドアップ」

桜餡「…………へ?」

桜餡の目の前に、レーザーユニットが一基。

桜餡「…………えっ? えっ?」

右に一基、左に一基。

桜餡「…………ええっ、え、えっ?」

おまけに、後ろにも一基。

桜餡「…………ええええええええっ!?」

J『パーボ・レアル驚きの早業! 桜餡が溝へ落下した一瞬で、レーザーユニットを浮上地点の周囲へ配置していたー!!』

亜里沙『一体どこから計算してたのかしら』



314 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:33:25.20j2VnBMgZ0 (33/46)


レアル「……さ、どうする?」

パーボ・レアルに詰め寄られ、桜餡は弱々しく両手を挙げた。

桜餡「……まいりましたぁ」

J『……っと、さあ! というわけで勝者はパーボ・レアルだぁー!!』

ウォオオオオオオオオオオ...

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315 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:34:26.78j2VnBMgZ0 (34/46)

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アパート○○。

涼「あずきのやつ、勝手に何やってんだ……? 変装してるつもりだろうけど結構バレバレだぞ」

涼はテレビを観ながら呆れていた。

眠り草『しかも一回戦敗けでござるな』

涼「お前は黙ってろ」

眠り草『ぶーぶー』

芳乃「涼殿ー、残念でしてー」

涼「ん、まあな。それよりほら、そこの問3」

芳乃「むむー……難問でしてー……」

芳乃は鉛筆片手に数学の問題を睨み付け、再び唸り声をあげた。

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316 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:35:43.25j2VnBMgZ0 (35/46)

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J『もう逃げない! 逃げられない!』

J『大海の妖精はただ、前を見続ける!』

J『友の無念を果たす事は出来るのか!』

J『ナチュウウウウル、マリィィィィィン!!』

ウォオオオオオオオオオオ...

J『この拳が全てを打ち砕く!』

J『憧れの人と拳を交える、その時を夢見て!』

J『大海原を吹き飛ばす一撃を魅せるのか!』

J『中野ぉぉぉー、有香ぁぁぁあー!!』

ウォオオオオオオオオオオ...


317 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:37:03.71j2VnBMgZ0 (36/46)

マリン「…………ふぅ」

有香「すぅー…………」

J『お互いに言葉は無い! 最早拳を交えるのみなのか!!』

J『それでは早速参りましょう! 試合……開始ぃっ!!』

マリン「水よ、力を貸して!」

J『先手はナチュルマリン! 掌からの水流で有香を狙う!!』



318 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:39:20.37j2VnBMgZ0 (37/46)


有香「ふっ、りゃぁあっ!」

マリン「うぇっ!?」

J『な、なんとぉ!? 有香の手刀で水流が真っ二つに割れたぁ!!』

亜里沙『人間離れした切れ味ね……』

マリン「みっ、水よ、力を貸して!」

有香「でぇぇぇあぁぁぁぁぁっ!!」

J『ナチュルマリンすかさず追撃! しかし水流はことごとく手刀の餌食だー!!」



319 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:40:53.33j2VnBMgZ0 (38/46)


有香「はぁっ!!」

マリン「ひっ!?」

一瞬の隙を突いて、有香がナチュルマリンの懐に踏み込んだ。

有香「でぇいっ!!」

そして力を込めて、ナチュルマリンの体を『押した』。

予選などでの様子を見て、有香は解っていた。

この少女を自分が本気で殴ればどうなるかを。

魔法のような力を持っていても、本来は華奢な少女。

有香の拳をまともにくらえば、最悪の場合命まで失いかねない。

だから、押した。

ナチュルマリンをリングアウトさせる為に。



320 ◆3QM4YFmpGw2015/07/09(木) 00:42:14.91j2VnBMgZ0 (39/46)


しかし。

マリン「……海よっ!」

溝の底に着くより速く、ナチュルマリンが動いた。

マリン「力を貸してっ!!」

有香「っ!?」

J『こっ、これは! 予選でも見せた水流のジェット噴射だぁー!!』

有香「くっ……ぅあっ!?」

後ろに跳んで距離を取ろうとした有香だが、突然足を滑らせ転んでしまう。

J『おおーっと転倒ー!? どうしたことだー!?』