◆54DIlPdu2E さんの作品一覧
http://s2-d2.com/archives/16805651.html
http://s2-d2.com/archives/16805651.html
356: ◆54DIlPdu2E:2015/04/16(木) 22:12:28.22:legVBBpD0 (5/6)
(魔法使い1「この建物の跡地は、何か住民に役立つ施設として利用してもらえるよう有力者に交渉中です」)
(魔法使い1「とにかく堅牢で見た目も優美ですからね」)
(魔法使い1「これを壊そうって人間は今後少なくとも200年は現れやしませんよ」)
(白髪「では、そろそろ行くぞ。世話になったな、重ね重ね、後を頼む……」)
(魔法使い1「…この言い方が正しいかわかりませんが、お達者で、先生」)
(魔法使い2「190年後の世界がよい世界でありますよう、祈って…いえ、そうなるように、頑張ります……」)
現在。
白髪「……結局、儂は190年に加えて30年…合計220年後の世界で目覚めたわけだが」
白髪「後を託した弟子達も、どういう人生を送ったのだろうな」
白髪「そして、あの娘」
白髪「夫になった男は平民ではあったが貧しくもなく、だったが、あれから幸福な生涯を過ごせたのだろうか……」
(魔法使い1「この建物の跡地は、何か住民に役立つ施設として利用してもらえるよう有力者に交渉中です」)
(魔法使い1「とにかく堅牢で見た目も優美ですからね」)
(魔法使い1「これを壊そうって人間は今後少なくとも200年は現れやしませんよ」)
(白髪「では、そろそろ行くぞ。世話になったな、重ね重ね、後を頼む……」)
(魔法使い1「…この言い方が正しいかわかりませんが、お達者で、先生」)
(魔法使い2「190年後の世界がよい世界でありますよう、祈って…いえ、そうなるように、頑張ります……」)
現在。
白髪「……結局、儂は190年に加えて30年…合計220年後の世界で目覚めたわけだが」
白髪「後を託した弟子達も、どういう人生を送ったのだろうな」
白髪「そして、あの娘」
白髪「夫になった男は平民ではあったが貧しくもなく、だったが、あれから幸福な生涯を過ごせたのだろうか……」
モバP「泰葉からチョコもらった時の話?」
絵里「なんとかストロガノフ!」穂乃果「そう、カレーです」
タマ「ニャー」タラオ「タマ口臭いですぅ!」タマ「!!!!!!!」
玲音「風邪を引いてしまったようだ…」
苗木「霧切さん、この蝶ネクタイつけてみてよ」
357: ◆54DIlPdu2E:2015/04/16(木) 22:16:16.51:legVBBpD0 (6/6)
※短いけど今回はここまで※
>>350-351 本当ありがとう。
>>351 間違っていたら失礼かなあと思いつつ「いつも」と入れてしまいました。ハズカシガラナイデー
※短いけど今回はここまで※
>>350-351 本当ありがとう。
>>351 間違っていたら失礼かなあと思いつつ「いつも」と入れてしまいました。ハズカシガラナイデー
358:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/04/17(金) 03:46:13.29:O6rwsNFAO (1/1)
乙なんだからね!
図書館の子は幸せになったんだな…良かった
乙なんだからね!
図書館の子は幸せになったんだな…良かった
359: ◆54DIlPdu2E:2015/04/17(金) 22:34:34.89:dqzpuB6e0 (1/1)
※今夜の更新はありません。お詫びと言うのもなんですが設定(?)チラ出し※
野獣>>>>>執事>長兄>商人=王子>次姉>>長姉>>次兄>>末妹>>料理長>>>庭師>メイド
メインキャラ(?)の身長対比はおおよそこんな感じ。他のキャラは適宜どこかに位置します
>の数は大雑把なイメージで、1個につき何cmという意味ではありません(獣達の身長は耳の長さ含まず)
※今夜の更新はありません。お詫びと言うのもなんですが設定(?)チラ出し※
野獣>>>>>執事>長兄>商人=王子>次姉>>長姉>>次兄>>末妹>>料理長>>>庭師>メイド
メインキャラ(?)の身長対比はおおよそこんな感じ。他のキャラは適宜どこかに位置します
>の数は大雑把なイメージで、1個につき何cmという意味ではありません(獣達の身長は耳の長さ含まず)
360:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/04/18(土) 03:41:46.29:1PadxkbAO (1/1)
キャラクターの身長一覧のイラストとか眺めるの好き
王子が思ってたより背高いな。大人しいから小柄なイメージだったわ
師匠と幼馴染はどのくらいだろなー
キャラクターの身長一覧のイラストとか眺めるの好き
王子が思ってたより背高いな。大人しいから小柄なイメージだったわ
師匠と幼馴染はどのくらいだろなー
361: ◆54DIlPdu2E:2015/04/18(土) 22:30:28.90:Y8Mmt0id0 (1/8)
南の港町……
次兄「昨日の雨も無事あがり、目の前には市立図書館、うーん、ここに来るのも久しぶりだ」
次兄「そもそも外出じたい滅多にしないからな俺は……」
次兄「200年以上前に当時の技術の粋を集めて建てられた…何かの施設…の再利用らしいが」
次兄「現代の一流建築家さえハンカチ噛んで悔しがるほどの美しさと頑丈さは外観だけでも観光スポットとして名高いとか」
次兄「……おかげで周囲には本も読まないのに人間がやたら多い、これだけが俺には難点だなあ」
次兄「ま、足早にすり抜けて建物に入ってしまえばあとは静謐な空間が待っているのです」サササ
…
白髪「目覚めてここの地下室から出て来たのは早朝で、誰もいなかったから気付かなかったが……」
白髪「地方支部の跡地が図書館になっていたとはな」
(魔法使い1「この建物の跡地は、何か住民に役立つ施設として利用してもらえるよう有力者に交渉中です」)
白髪「……交渉が実を結んだようで、何よりだ」
白髪「儂が眠っていた間はどのような歴史だったのか、ここで調べてみよう……」
南の港町……
次兄「昨日の雨も無事あがり、目の前には市立図書館、うーん、ここに来るのも久しぶりだ」
次兄「そもそも外出じたい滅多にしないからな俺は……」
次兄「200年以上前に当時の技術の粋を集めて建てられた…何かの施設…の再利用らしいが」
次兄「現代の一流建築家さえハンカチ噛んで悔しがるほどの美しさと頑丈さは外観だけでも観光スポットとして名高いとか」
次兄「……おかげで周囲には本も読まないのに人間がやたら多い、これだけが俺には難点だなあ」
次兄「ま、足早にすり抜けて建物に入ってしまえばあとは静謐な空間が待っているのです」サササ
…
白髪「目覚めてここの地下室から出て来たのは早朝で、誰もいなかったから気付かなかったが……」
白髪「地方支部の跡地が図書館になっていたとはな」
(魔法使い1「この建物の跡地は、何か住民に役立つ施設として利用してもらえるよう有力者に交渉中です」)
白髪「……交渉が実を結んだようで、何よりだ」
白髪「儂が眠っていた間はどのような歴史だったのか、ここで調べてみよう……」
362: ◆54DIlPdu2E:2015/04/18(土) 22:31:43.88:Y8Mmt0id0 (2/8)
次兄「……むーん、滅びた小国のことはどの本を読んでも同じような書かれ方」
次兄「昔、あの森を含む一帯を治めていた小国の王家はある日…何年の何月何日かまで明確に、突然滅んだ」
次兄「歴史書では、王と王妃、そして唯一の後継ぎだった王子の3人が流行り病で死亡したため」
次兄「尤も、人々の言い伝えでは呪いとか怨念とかで殺された説が有力」
次兄「例の屋敷の最初の持ち主だった伯爵が屋敷を無理矢理奪った王家を恨んで…と」
次兄「王家が滅びて以降、呪われた地として人々が近づかなくなり、そのまま現在に至る」
次兄「…ここから先はなんの記述も見つからないので、俺の推測」
次兄「王家が滅んでから、いつ頃からかはわからないが空家になった屋敷に野獣様が住み付いた」
次兄「伯爵の呪いとやらは野獣様がなんとか出来る程度のものか、やっぱり最初からなかったか、だろう」
次兄「そもそも…屋敷を明け渡してからの伯爵がどうなったかの記録がない」
次兄「……むーん、滅びた小国のことはどの本を読んでも同じような書かれ方」
次兄「昔、あの森を含む一帯を治めていた小国の王家はある日…何年の何月何日かまで明確に、突然滅んだ」
次兄「歴史書では、王と王妃、そして唯一の後継ぎだった王子の3人が流行り病で死亡したため」
次兄「尤も、人々の言い伝えでは呪いとか怨念とかで殺された説が有力」
次兄「例の屋敷の最初の持ち主だった伯爵が屋敷を無理矢理奪った王家を恨んで…と」
次兄「王家が滅びて以降、呪われた地として人々が近づかなくなり、そのまま現在に至る」
次兄「…ここから先はなんの記述も見つからないので、俺の推測」
次兄「王家が滅んでから、いつ頃からかはわからないが空家になった屋敷に野獣様が住み付いた」
次兄「伯爵の呪いとやらは野獣様がなんとか出来る程度のものか、やっぱり最初からなかったか、だろう」
次兄「そもそも…屋敷を明け渡してからの伯爵がどうなったかの記録がない」
363: ◆54DIlPdu2E:2015/04/18(土) 22:33:06.20:Y8Mmt0id0 (3/8)
次兄「人を直接殺すほどの怨念を持つならよっぽど残忍に殺されたとか、そんな最期なんだろうけど……」
次兄「固い歴史書でも脚色された歴史読み物でも、筆者により伯爵の最期の描写はまちまちなんだよな」
次兄「要するに真相は後世の歴史家にも不明ってことで」
次兄「とりあえず、閲覧した本を書架に戻すか……」ヨイショ
…
白髪「やれやれ、なぜ儂が読もうとした本の場所にはことごとく『閲覧中』の札が置かれているのだ」
白髪「『貸出中』でないだけマシだが……返却を待つしかないな」
白髪「む、ちょうど戻しに来たな」
白髪「見たとこ13かそこらの、しかもとても難しい本など読むようには見えない子供だが」
白髪「はて、あの顔と、ぼやけたような色調の赤毛、どこかで見たような……?」
次兄「……んしょ、っと。ふう。」
次兄「本は重いから、数冊に及ぶと、か弱い俺には重労働」
次兄「人を直接殺すほどの怨念を持つならよっぽど残忍に殺されたとか、そんな最期なんだろうけど……」
次兄「固い歴史書でも脚色された歴史読み物でも、筆者により伯爵の最期の描写はまちまちなんだよな」
次兄「要するに真相は後世の歴史家にも不明ってことで」
次兄「とりあえず、閲覧した本を書架に戻すか……」ヨイショ
…
白髪「やれやれ、なぜ儂が読もうとした本の場所にはことごとく『閲覧中』の札が置かれているのだ」
白髪「『貸出中』でないだけマシだが……返却を待つしかないな」
白髪「む、ちょうど戻しに来たな」
白髪「見たとこ13かそこらの、しかもとても難しい本など読むようには見えない子供だが」
白髪「はて、あの顔と、ぼやけたような色調の赤毛、どこかで見たような……?」
次兄「……んしょ、っと。ふう。」
次兄「本は重いから、数冊に及ぶと、か弱い俺には重労働」
364: ◆54DIlPdu2E:2015/04/18(土) 22:35:06.18:Y8Mmt0id0 (4/8)
白髪「思い出した! あいつが覗いていた家の少年だ」
白髪「散らかった部屋で、昼寝をしながらジタバタしてニヤついていた挙動不審な少年だったな」
白髪「……これも何かの縁だ。声を掛けてみよう」スタスタ
白髪「なあ坊や…そこの少年?」
次兄「うぃ? 俺?」
次兄「……誰、この白髪頭のおっさん?」
次兄「う、よく見ると意外と目が鋭いな。どことなく猛禽類っぽい」
次兄「鳥類は個人的な守備範囲からは外れるが、大型猛禽類にはちょっとだけ興味があるのは秘密です」
白髪「……奇妙な独り言だのう」
次兄「しまった、音量に注意を払っていなかったぞ」
次兄(野獣様の屋敷で独り言をメイドさんに聞かれツッコミ入れられるのがいつの間にかクセになっていたかもしれん)ヤバイヤバイ
白髪「思い出した! あいつが覗いていた家の少年だ」
白髪「散らかった部屋で、昼寝をしながらジタバタしてニヤついていた挙動不審な少年だったな」
白髪「……これも何かの縁だ。声を掛けてみよう」スタスタ
白髪「なあ坊や…そこの少年?」
次兄「うぃ? 俺?」
次兄「……誰、この白髪頭のおっさん?」
次兄「う、よく見ると意外と目が鋭いな。どことなく猛禽類っぽい」
次兄「鳥類は個人的な守備範囲からは外れるが、大型猛禽類にはちょっとだけ興味があるのは秘密です」
白髪「……奇妙な独り言だのう」
次兄「しまった、音量に注意を払っていなかったぞ」
次兄(野獣様の屋敷で独り言をメイドさんに聞かれツッコミ入れられるのがいつの間にかクセになっていたかもしれん)ヤバイヤバイ
365: ◆54DIlPdu2E:2015/04/18(土) 23:03:44.18:Y8Mmt0id0 (5/8)
白髪「この本が戻ってくるのを待っていたんだよ」
次兄「あ……すんません」
白髪「いやいや、謝るような事じゃない。若い者が勉強するのは良いことだ」
白髪「歴史に興味があるのかね? それとも学校の宿題か何かで?」
次兄「前者っす。地域と時代限定ですけどね」
白髪「ほほう。ところで、君はここにはよく来るのか?」
次兄「んー、今日は久しぶりだけど、この後ちょっと通う気はあります」
白髪「ほう。ではまた会うかもしれんな」
次兄(……このおっさん、もしかして、俺のけつを狙う、じゃなかった、俺をつけ狙う…変態!?)オマエガイウナ
白髪「…男の子をどうこうしようと言う趣味は、まっっっっっっったく持ち合わせていないから、安心しろ」
次兄「やべ、聞こえていました?」タラリ
白髪「何を思ったか知らんが、顔に警戒の色を浮かべたからな」
白髪「この本が戻ってくるのを待っていたんだよ」
次兄「あ……すんません」
白髪「いやいや、謝るような事じゃない。若い者が勉強するのは良いことだ」
白髪「歴史に興味があるのかね? それとも学校の宿題か何かで?」
次兄「前者っす。地域と時代限定ですけどね」
白髪「ほほう。ところで、君はここにはよく来るのか?」
次兄「んー、今日は久しぶりだけど、この後ちょっと通う気はあります」
白髪「ほう。ではまた会うかもしれんな」
次兄(……このおっさん、もしかして、俺のけつを狙う、じゃなかった、俺をつけ狙う…変態!?)オマエガイウナ
白髪「…男の子をどうこうしようと言う趣味は、まっっっっっっったく持ち合わせていないから、安心しろ」
次兄「やべ、聞こえていました?」タラリ
白髪「何を思ったか知らんが、顔に警戒の色を浮かべたからな」
366: ◆54DIlPdu2E:2015/04/18(土) 23:38:08.90:Y8Mmt0id0 (6/8)
白髪「ま、気にしないでくれ。儂は本を閲覧することにするよ」
白髪「……私語が過ぎるのも、この場所では好ましくなさそうだしな…それじゃ」スタスタ
警備員「……」ジー
次兄「うむ、警備の人の『静かにしやがれオーラ』が出まくりだな」
次兄「…俺も新しい本を探そう」
次兄「民間伝承の本を、もう少し漁ってみようかな……」テクテク
~
次兄「しかしもう夕刻も近い、手早く本を借りて帰るかな」
次兄「地域別に分類されているのはありがたい」
次兄「…ん? なんだ、ここにある場違いみたいな変なタイトル」
白髪「ま、気にしないでくれ。儂は本を閲覧することにするよ」
白髪「……私語が過ぎるのも、この場所では好ましくなさそうだしな…それじゃ」スタスタ
警備員「……」ジー
次兄「うむ、警備の人の『静かにしやがれオーラ』が出まくりだな」
次兄「…俺も新しい本を探そう」
次兄「民間伝承の本を、もう少し漁ってみようかな……」テクテク
~
次兄「しかしもう夕刻も近い、手早く本を借りて帰るかな」
次兄「地域別に分類されているのはありがたい」
次兄「…ん? なんだ、ここにある場違いみたいな変なタイトル」
367: ◆54DIlPdu2E:2015/04/18(土) 23:52:23.40:Y8Mmt0id0 (7/8)
次兄「背表紙には『今だから話せる!あの真相』……」
次兄「どう見てもゴシップ本です」
次兄「オモテ表紙には副題が。『私は機械仕掛けの屋敷を作った伯爵の子孫だ!』……」
次兄「…………」
次兄「なんですと!???」
次兄「薄いけどまだきれいな本だ、最近入ったのか? …司書さんに聞いてみるか」
~数分後。
次兄「何年か前に、町の本屋から売れない本を買い取った中の一冊だそうだ」
次兄「私家版なので最初から十数冊、あまり大事にもされなかったせいか、現存する物は2~3冊もないらしいが……」
次兄「この本と、もう2~3冊めぼしい本を借りて、家でゆっくり読もう」
次兄「背表紙には『今だから話せる!あの真相』……」
次兄「どう見てもゴシップ本です」
次兄「オモテ表紙には副題が。『私は機械仕掛けの屋敷を作った伯爵の子孫だ!』……」
次兄「…………」
次兄「なんですと!???」
次兄「薄いけどまだきれいな本だ、最近入ったのか? …司書さんに聞いてみるか」
~数分後。
次兄「何年か前に、町の本屋から売れない本を買い取った中の一冊だそうだ」
次兄「私家版なので最初から十数冊、あまり大事にもされなかったせいか、現存する物は2~3冊もないらしいが……」
次兄「この本と、もう2~3冊めぼしい本を借りて、家でゆっくり読もう」
368: ◆54DIlPdu2E:2015/04/18(土) 23:55:15.81:Y8Mmt0id0 (8/8)
※今夜はここまで。次兄がどんどん下品になっていくような※
>>360 長兄は商人より明らかに大きいけど、商人(王子)と次姉の身長は数字にしたら次姉の方が小さいね、程度なので
商人王子次姉の見た目はほとんど同じ身長かな。王子も微妙に商人より小さいので=にしようかどうかは実は迷ったあたり……
白髪のおt…師匠は次姉と長姉の間、男性としては小ぶり、でも魔法使いにしてはガッチリ系のイメージ。
幼馴染男は商人よりやや背が高いが長兄より商人より少しヒョロイい(王子ほどでもない)、ついでに図書館娘は長姉くらいかと
※今夜はここまで。次兄がどんどん下品になっていくような※
>>360 長兄は商人より明らかに大きいけど、商人(王子)と次姉の身長は数字にしたら次姉の方が小さいね、程度なので
商人王子次姉の見た目はほとんど同じ身長かな。王子も微妙に商人より小さいので=にしようかどうかは実は迷ったあたり……
白髪のおt…師匠は次姉と長姉の間、男性としては小ぶり、でも魔法使いにしてはガッチリ系のイメージ。
幼馴染男は商人よりやや背が高いが長兄より商人より少しヒョロイい(王子ほどでもない)、ついでに図書館娘は長姉くらいかと
369:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/04/19(日) 04:39:04.36:xk3ruiJAO (1/1)
>>368
だが次兄のノリを一服の清涼剤に感じるような気がする昨今、だいぶ毒されてきているのかも知れん
おお、詳細にありがとう!
しかしこの二人が出会うとは意外だ…
>>368
だが次兄のノリを一服の清涼剤に感じるような気がする昨今、だいぶ毒されてきているのかも知れん
おお、詳細にありがとう!
しかしこの二人が出会うとは意外だ…
370: ◆54DIlPdu2E:2015/04/19(日) 20:05:29.38:V0rfl3130 (1/10)
商人の家、次兄の部屋。
次兄「編者前書き」ペラリ
次兄「本の編者として名前が出ている人物は『伯爵の子孫』」
次兄「七代前の先祖は例の『小国』の人間だったが、国が滅びる数年前に『西の島国』に移住」
次兄「先祖が小国にいた頃はどういう仕事をしてどんな人物だったかは子孫もよく知らないらしい」
次兄「更に、三代前の女性…曾祖母に当たる人物…が嫁いで来たのが、この国の王都のとある家」
次兄「編者は王都で生まれ育ち、本が書かれた今から数年前の、更にもう少し前のこと」
次兄「曾祖母の遺品を整理中に、七代前の先祖の『手記』を発見」
次兄「それを紐解いて初めて先祖が何者だったかを知り、手記を私家版として出版することを決めた」
次兄「そんな事ができるから、そこそこ裕福ではあるんだろうな、殆ど売れなかったのは痛手には違いないだろうけど」
次兄「というわけで、前書き以外は見つかった伯爵の手記そのままだそうだ」パラリ
商人の家、次兄の部屋。
次兄「編者前書き」ペラリ
次兄「本の編者として名前が出ている人物は『伯爵の子孫』」
次兄「七代前の先祖は例の『小国』の人間だったが、国が滅びる数年前に『西の島国』に移住」
次兄「先祖が小国にいた頃はどういう仕事をしてどんな人物だったかは子孫もよく知らないらしい」
次兄「更に、三代前の女性…曾祖母に当たる人物…が嫁いで来たのが、この国の王都のとある家」
次兄「編者は王都で生まれ育ち、本が書かれた今から数年前の、更にもう少し前のこと」
次兄「曾祖母の遺品を整理中に、七代前の先祖の『手記』を発見」
次兄「それを紐解いて初めて先祖が何者だったかを知り、手記を私家版として出版することを決めた」
次兄「そんな事ができるから、そこそこ裕福ではあるんだろうな、殆ど売れなかったのは痛手には違いないだろうけど」
次兄「というわけで、前書き以外は見つかった伯爵の手記そのままだそうだ」パラリ
371: ◆54DIlPdu2E:2015/04/19(日) 20:07:28.40:V0rfl3130 (2/10)
数時間経過……
次兄「……この本に書かれた内容が事実だとして」
次兄「どの歴史書でも『ひでえ国王』となっていた小国の王はこの本でもひでえおっさん」
次兄「最後に寄越した交渉役に『一週間以内に良い返事がなければ殺す』と言わせ、しかも交渉役は年端も行かぬ王子」
次兄「強面の側近に囲まれて、いかにもやむを得ずこの役を引き受けたその姿は、伯爵さえ同情を禁じ得ず」
次兄「交渉はあくまでも形式上に過ぎず、目的はその脅し文句を伝えるためだと伯爵にもバレバレ」
次兄「そんな王の真意を幼い王子には理解できるはずもなく、『失敗に終わった結果』に青ざめ震えながら城に帰った」
次兄「王の詰めが甘かったのは機械マニアの横の繋がりを舐めていた事」
次兄「伯爵には周辺諸国に機械いじり趣味の仲間がいて、王に目を付けられているのを知った彼等から心配されており」
次兄「さすがに身の危険を感じた伯爵は、早くに親兄弟を亡くし未だ独身だったので身軽だったことも幸いして」
次兄「屋敷を諦め、持てるだけの財産を抱え、協力者達の助けもあって、西の島国の機械仲間の元へ身を寄せた」
数時間経過……
次兄「……この本に書かれた内容が事実だとして」
次兄「どの歴史書でも『ひでえ国王』となっていた小国の王はこの本でもひでえおっさん」
次兄「最後に寄越した交渉役に『一週間以内に良い返事がなければ殺す』と言わせ、しかも交渉役は年端も行かぬ王子」
次兄「強面の側近に囲まれて、いかにもやむを得ずこの役を引き受けたその姿は、伯爵さえ同情を禁じ得ず」
次兄「交渉はあくまでも形式上に過ぎず、目的はその脅し文句を伝えるためだと伯爵にもバレバレ」
次兄「そんな王の真意を幼い王子には理解できるはずもなく、『失敗に終わった結果』に青ざめ震えながら城に帰った」
次兄「王の詰めが甘かったのは機械マニアの横の繋がりを舐めていた事」
次兄「伯爵には周辺諸国に機械いじり趣味の仲間がいて、王に目を付けられているのを知った彼等から心配されており」
次兄「さすがに身の危険を感じた伯爵は、早くに親兄弟を亡くし未だ独身だったので身軽だったことも幸いして」
次兄「屋敷を諦め、持てるだけの財産を抱え、協力者達の助けもあって、西の島国の機械仲間の元へ身を寄せた」
372: ◆54DIlPdu2E:2015/04/19(日) 20:09:23.69:V0rfl3130 (3/10)
次兄「一週間目、王の命を受けた兵隊達が屋敷に踏み込んだ時には誰もいませんでしたとさ」
次兄「王はそれが悔しかったのか、国民達に『伯爵は最後まで抵抗したのでその場で処刑した』と公式発表」
次兄「そして異国の地に骨を埋める決意をした伯爵は」
次兄「身分を隠し、名前を変え、仲間の協力で機械技師の仕事を得」
次兄「結婚もして平穏な生涯を終えて」
次兄「その血筋は現在に至る」
次兄「……」
次兄「王に残忍に殺された伯爵なんかいなかったわけで、つまり王家を恨んだ呪いもなかった事になるんじゃないかな」
次兄「勿論、手記が眉唾物なら話は別だけどさ」
次兄「……」パラ…
次兄「一週間目、王の命を受けた兵隊達が屋敷に踏み込んだ時には誰もいませんでしたとさ」
次兄「王はそれが悔しかったのか、国民達に『伯爵は最後まで抵抗したのでその場で処刑した』と公式発表」
次兄「そして異国の地に骨を埋める決意をした伯爵は」
次兄「身分を隠し、名前を変え、仲間の協力で機械技師の仕事を得」
次兄「結婚もして平穏な生涯を終えて」
次兄「その血筋は現在に至る」
次兄「……」
次兄「王に残忍に殺された伯爵なんかいなかったわけで、つまり王家を恨んだ呪いもなかった事になるんじゃないかな」
次兄「勿論、手記が眉唾物なら話は別だけどさ」
次兄「……」パラ…
373: ◆54DIlPdu2E:2015/04/19(日) 20:11:52.41:V0rfl3130 (4/10)
次兄「小国が滅んだ後」
次兄「伯爵自身も『自分の呪いで王家が滅ぼされた』と言う噂を聞き、後年こんな感想を手記に残した」
『私(伯爵)も名を変え過去を隠し別人として暮らしていたから、今更否定しようとは当時は思わなかったが』
『ただ本当に私が王家を呪ったとしても、哀れな王子を一夜で白骨にするなどという』
『恐ろしい殺し方だけはやらないだろう、これは誓ってもよい』
『あの日、私の前に交渉役として現れた小さな王子は、単に自分の父親である王を恐れていただけには思えず』
『私を死なせずに済む方法を、彼なりに探って、頭を巡らせ心を砕き』
『王の作った台本から外れても、言葉を選んで交渉に臨んでいた……少なくとも私にはそう見えた』
『あれからまた何十年も経って、今まで誰にも語ったことは無いが』
『王子がどこかにひっそり生き延びて、私のように自由になっていれば良いのに、と』
『ある意味、身勝手極まりないかもしれない思いを、私は心の片隅に抱き続けている……』
次兄「小国が滅んだ後」
次兄「伯爵自身も『自分の呪いで王家が滅ぼされた』と言う噂を聞き、後年こんな感想を手記に残した」
『私(伯爵)も名を変え過去を隠し別人として暮らしていたから、今更否定しようとは当時は思わなかったが』
『ただ本当に私が王家を呪ったとしても、哀れな王子を一夜で白骨にするなどという』
『恐ろしい殺し方だけはやらないだろう、これは誓ってもよい』
『あの日、私の前に交渉役として現れた小さな王子は、単に自分の父親である王を恐れていただけには思えず』
『私を死なせずに済む方法を、彼なりに探って、頭を巡らせ心を砕き』
『王の作った台本から外れても、言葉を選んで交渉に臨んでいた……少なくとも私にはそう見えた』
『あれからまた何十年も経って、今まで誰にも語ったことは無いが』
『王子がどこかにひっそり生き延びて、私のように自由になっていれば良いのに、と』
『ある意味、身勝手極まりないかもしれない思いを、私は心の片隅に抱き続けている……』
374: ◆54DIlPdu2E:2015/04/19(日) 21:39:42.86:V0rfl3130 (5/10)
安宿の一室。
白髪「……」
宿の鏡「ソンナニジックリミツメチャイヤ///」
白髪「……お前そのものを見ているわけではないぞ、鏡」
白髪「そもそも野太い声でその台詞はやめんか」
白髪「……魔法で追跡したが、少年の家は港の比較的近くにある雑貨屋なのだな」
白髪「何の本を借りて帰ったのかと思えば、あの屋敷に関する本だとは」
白髪「細部を見るに内容には信憑性がある」
白髪「手記を書いたのは本物の伯爵に違いない、異国で生き延びたのか」
白髪「儂と出会った頃の王子は15歳だったか、既に屋敷は王の手に渡っていて……」
安宿の一室。
白髪「……」
宿の鏡「ソンナニジックリミツメチャイヤ///」
白髪「……お前そのものを見ているわけではないぞ、鏡」
白髪「そもそも野太い声でその台詞はやめんか」
白髪「……魔法で追跡したが、少年の家は港の比較的近くにある雑貨屋なのだな」
白髪「何の本を借りて帰ったのかと思えば、あの屋敷に関する本だとは」
白髪「細部を見るに内容には信憑性がある」
白髪「手記を書いたのは本物の伯爵に違いない、異国で生き延びたのか」
白髪「儂と出会った頃の王子は15歳だったか、既に屋敷は王の手に渡っていて……」
375: ◆54DIlPdu2E:2015/04/19(日) 21:42:29.04:V0rfl3130 (6/10)
(王子「……あの時、交渉を上手にこなしていれば、伯爵は死なずに済んだのです」)
(白髪(まだ髪は白くない)「本気で思っているのか? あの王が、お前の交渉に期待していた、と?」)
(王子「じゃあ、僕が屋敷に行っても行かなくても、結果は同じだったと…あなたは、師匠はそう仰るのですか?」)
(白髪(以下師匠)「ああ、どう考えても、お前を送り込んだのは形だけの交渉の場を設けるためだ」)
(王子「僕のしたことは、無駄だったのですね……」)
(王子「今に始まったことじゃない、物心ついた時から、父の掌で踊らされるだけ」
(王子「いいえ、踊ることもできない、僕はその飾り棚にある陶器の人形と同じ」)
(王子「生まれてから死ぬまで、同じ姿勢、同じ顔で、持ち歩かれて置かれた場所で微動だにしない、あの人形と同じ」)
(師匠「そういじけるな、何しろ伯爵が本当に処刑された証拠は残っていないのだ」)
(王子「生きていれば……魔法で探し出すことはできないのですか?」)
(師匠「ギルドの魔法使いでも(現在では、数百キロに及ぶ追跡の魔法を使えるのは儂だけだが)直接面識がない相手を追跡し」)
(師匠「探し出すことは、不可能なのだよ」)
(王子「……あの時、交渉を上手にこなしていれば、伯爵は死なずに済んだのです」)
(白髪(まだ髪は白くない)「本気で思っているのか? あの王が、お前の交渉に期待していた、と?」)
(王子「じゃあ、僕が屋敷に行っても行かなくても、結果は同じだったと…あなたは、師匠はそう仰るのですか?」)
(白髪(以下師匠)「ああ、どう考えても、お前を送り込んだのは形だけの交渉の場を設けるためだ」)
(王子「僕のしたことは、無駄だったのですね……」)
(王子「今に始まったことじゃない、物心ついた時から、父の掌で踊らされるだけ」
(王子「いいえ、踊ることもできない、僕はその飾り棚にある陶器の人形と同じ」)
(王子「生まれてから死ぬまで、同じ姿勢、同じ顔で、持ち歩かれて置かれた場所で微動だにしない、あの人形と同じ」)
(師匠「そういじけるな、何しろ伯爵が本当に処刑された証拠は残っていないのだ」)
(王子「生きていれば……魔法で探し出すことはできないのですか?」)
(師匠「ギルドの魔法使いでも(現在では、数百キロに及ぶ追跡の魔法を使えるのは儂だけだが)直接面識がない相手を追跡し」)
(師匠「探し出すことは、不可能なのだよ」)
376: ◆54DIlPdu2E:2015/04/19(日) 21:44:35.43:V0rfl3130 (7/10)
(王子「そうだ、それなら僕にその魔法を教えてください、伯爵と面識がある僕ならば」)
(師匠「(お前ならすぐ習得できるだろうが)距離があまりに離れ過ぎていると、面識があっても探し出すのは無理だ」)
(師匠「それでも構わないのなら、教えてやろう」)
(師匠「で……あれからどうだ? 伯爵を探してみたのか?」)
(王子「いいえ、だめでした……見つかりません」ションボリ)
(師匠「まあ、遠くに逃げて生きている可能性もあるからな、そう思って…あまり気に病むな」)
(師匠「伯爵の件は、お前が罪の意識を感じる理由はないのだから」)
(師匠(…と言った所で、はいそうですねと納得するようなこいつではないがな……))
(王子「……」)
師匠「……この少年とあいつに接点があるのかどうかはまだわからん」
師匠「しかし、縁があれば、いつかあいつも伯爵が生き延びたと知る日が来るだろう」
(王子「そうだ、それなら僕にその魔法を教えてください、伯爵と面識がある僕ならば」)
(師匠「(お前ならすぐ習得できるだろうが)距離があまりに離れ過ぎていると、面識があっても探し出すのは無理だ」)
(師匠「それでも構わないのなら、教えてやろう」)
(師匠「で……あれからどうだ? 伯爵を探してみたのか?」)
(王子「いいえ、だめでした……見つかりません」ションボリ)
(師匠「まあ、遠くに逃げて生きている可能性もあるからな、そう思って…あまり気に病むな」)
(師匠「伯爵の件は、お前が罪の意識を感じる理由はないのだから」)
(師匠(…と言った所で、はいそうですねと納得するようなこいつではないがな……))
(王子「……」)
師匠「……この少年とあいつに接点があるのかどうかはまだわからん」
師匠「しかし、縁があれば、いつかあいつも伯爵が生き延びたと知る日が来るだろう」
377: ◆54DIlPdu2E:2015/04/19(日) 22:14:04.81:V0rfl3130 (8/10)
師匠「しかし、本当にあいつは、魔力だけは逸材だった」
師匠「一気に魔力を使うと、体力と精神力も消耗して回復まで時間がかかる欠点があり」
師匠「殺傷能力のある魔法は全く身に付かないという、これまた珍しい素質の持ち主だった」
師匠「何よりもあの弱すぎる心をどうにかしなければ」
師匠「あの国の王子として生まれなくても、本格的な魔法使いになるのは困難だっただろう」
師匠「しかしそのおかげで、父王に、人畜無害な魔法しか覚えられない『無能』な王子と思いこませることもできた」
師匠「王があいつの高い魔力に気づけば、戦闘用の魔法は使えなくとも」
師匠「何らかの形で必ず利用しようと考えただろうからな」
師匠「王だけではない」
師匠「しかし、本当にあいつは、魔力だけは逸材だった」
師匠「一気に魔力を使うと、体力と精神力も消耗して回復まで時間がかかる欠点があり」
師匠「殺傷能力のある魔法は全く身に付かないという、これまた珍しい素質の持ち主だった」
師匠「何よりもあの弱すぎる心をどうにかしなければ」
師匠「あの国の王子として生まれなくても、本格的な魔法使いになるのは困難だっただろう」
師匠「しかしそのおかげで、父王に、人畜無害な魔法しか覚えられない『無能』な王子と思いこませることもできた」
師匠「王があいつの高い魔力に気づけば、戦闘用の魔法は使えなくとも」
師匠「何らかの形で必ず利用しようと考えただろうからな」
師匠「王だけではない」
378: ◆54DIlPdu2E:2015/04/19(日) 22:17:51.82:V0rfl3130 (9/10)
師匠「王家が滅びてまだ間もない頃、恩恵を受けていた一部の貴族の中には」
師匠「王子が生きていると信じて探し出し、担ぎ上げて、王家を復活させようと目論む動きもあった」
師匠「それも数年間のうちに消失したが」
師匠「…………」
師匠「200年間眠らせたのは確かに『罰』」
師匠「同時に、あらゆる物から王子を守るためでもあった」
師匠「あいつが自分の正体やバラの秘密を誰にも語れないのと同じように」
師匠「儂もあいつにそれを伝えるわけには行かない」
師匠「バラの呪縛から完全に解放されるまでは……」
師匠「王家が滅びてまだ間もない頃、恩恵を受けていた一部の貴族の中には」
師匠「王子が生きていると信じて探し出し、担ぎ上げて、王家を復活させようと目論む動きもあった」
師匠「それも数年間のうちに消失したが」
師匠「…………」
師匠「200年間眠らせたのは確かに『罰』」
師匠「同時に、あらゆる物から王子を守るためでもあった」
師匠「あいつが自分の正体やバラの秘密を誰にも語れないのと同じように」
師匠「儂もあいつにそれを伝えるわけには行かない」
師匠「バラの呪縛から完全に解放されるまでは……」
379: ◆54DIlPdu2E:2015/04/19(日) 22:19:08.25:V0rfl3130 (10/10)
※今夜はここまで。華の無さ過ぎるシーンが続いて作者涙目※
※今夜はここまで。華の無さ過ぎるシーンが続いて作者涙目※
380:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/04/20(月) 01:03:34.64:aZePb8yAO (1/1)
いや凄く大事な回だろう
200年後に一人ぼっちなんて残酷だと思っていたけど、そんな理由があったんだな…
いや凄く大事な回だろう
200年後に一人ぼっちなんて残酷だと思っていたけど、そんな理由があったんだな…
381: ◆54DIlPdu2E:2015/04/20(月) 22:09:32.62:eUmZW4uY0 (1/5)
早朝。
雨音:ザーザー……
長姉「…スー…スー…」
(次姉「姉さん、こんな所にいたの? …何泣いてるのよ?」)
(長姉「ぐす……もうだめ。私、ついて行けない……」グシュグシュ)
(長姉「今度の試験、私、ぜったい落第するわ。もう限界……」グシュ)
(次姉「姉さん頑張って来たじゃない、弱気になっちゃ駄目。それに落第したら、私達、クラスが別れるのよ」)
(長姉「そうよ、だから来期からあんたと私は別クラスになるの、寄宿舎の部屋も離れちゃうのよ!」ズビー)
(長姉「だいたい私には無理だったの、あんたほど頭良くないんだから、なのに年々、勉強は難しくなって……」グシ)
(長姉「次姉が休み時間も寄宿舎でも付きっ切りでわからない所を教えてくれたし」)
(長姉「私も『さすがお母様の娘』と言われるのが嬉しくて、あんたについて行こうと頑張ったけど……ここまでよ」ズビビー)
早朝。
雨音:ザーザー……
長姉「…スー…スー…」
(次姉「姉さん、こんな所にいたの? …何泣いてるのよ?」)
(長姉「ぐす……もうだめ。私、ついて行けない……」グシュグシュ)
(長姉「今度の試験、私、ぜったい落第するわ。もう限界……」グシュ)
(次姉「姉さん頑張って来たじゃない、弱気になっちゃ駄目。それに落第したら、私達、クラスが別れるのよ」)
(長姉「そうよ、だから来期からあんたと私は別クラスになるの、寄宿舎の部屋も離れちゃうのよ!」ズビー)
(長姉「だいたい私には無理だったの、あんたほど頭良くないんだから、なのに年々、勉強は難しくなって……」グシ)
(長姉「次姉が休み時間も寄宿舎でも付きっ切りでわからない所を教えてくれたし」)
(長姉「私も『さすがお母様の娘』と言われるのが嬉しくて、あんたについて行こうと頑張ったけど……ここまでよ」ズビビー)
382: ◆54DIlPdu2E:2015/04/20(月) 22:11:32.84:eUmZW4uY0 (2/5)
(次姉「……それなら私も、今度の試験は半分くらい白紙で出すわ。一緒に下位のクラスに行きましょ」)
(長姉「あんたにはお母様の娘ってプライドはないの!!??」キシャー)
(次姉「そりゃ私だってそれが誇らしくて頑張っているけど……じゃあ、どうすりゃいいのよ?」)
(長姉「わかんないっ! それがわかれば苦労しないわよおおお!!」ビャー)
(次姉「全く……」フゥ)
(次姉「……この手は使いたくなかったけど…仕方ない」)
(次姉「私もこのギスギスした寄宿学校で、姉さんと離れるのは嫌だもの」)
(次姉「姉さん、ちょっと危険な方法だけど……聞いて?」ボソボソ)
雨音:ザアアアアアアア
長姉「……あぅ」パチ
長姉「雨の音で、目覚ましより前に目が覚めちゃった……」モゾモゾ
(次姉「……それなら私も、今度の試験は半分くらい白紙で出すわ。一緒に下位のクラスに行きましょ」)
(長姉「あんたにはお母様の娘ってプライドはないの!!??」キシャー)
(次姉「そりゃ私だってそれが誇らしくて頑張っているけど……じゃあ、どうすりゃいいのよ?」)
(長姉「わかんないっ! それがわかれば苦労しないわよおおお!!」ビャー)
(次姉「全く……」フゥ)
(次姉「……この手は使いたくなかったけど…仕方ない」)
(次姉「私もこのギスギスした寄宿学校で、姉さんと離れるのは嫌だもの」)
(次姉「姉さん、ちょっと危険な方法だけど……聞いて?」ボソボソ)
雨音:ザアアアアアアア
長姉「……あぅ」パチ
長姉「雨の音で、目覚ましより前に目が覚めちゃった……」モゾモゾ
383: ◆54DIlPdu2E:2015/04/20(月) 22:14:11.89:eUmZW4uY0 (3/5)
長姉「いつ頃だっけ……入学して3年くらい経ってたかな」
長姉「次姉は1年飛び級にも関わらず、入学以来、不動の学年上位の常連」
長姉「私もそれまではなんとか上位にぶら下がっていたけど、急に授業内容が難しくなって」
長姉「進級試験を目前に、心折れちゃったのよね。そしたら次姉が……」
(次姉『ちょっと危険な方法だけど……聞いて? 試験の時に姉さんに答えを教えてあげる』)
(次姉『念のため、予想問題の解答を仕込んでおく方法も考えてみるけど』)
(次姉『バレるようなヘマはしないわ、まかせて……でも、姉さんは姉さんでしっかり勉強もするのよ?』)
長姉「次姉の提案には驚いたけど、おかげで試験は合格点、進級後のクラスでも……」
長姉「カンニングの方法をあれこれ考えてくれたり、宿題を見つからないように写させてくれたり」
長姉「……あの娘(次姉)は厳しいから、それと並行して授業の予習復習も鬼のようにさせられたけど」
長姉「でもやっぱり私は、あの学校のレベルに合わなかった……」
長姉「最後まで実力は身に付かないまま、インチキで成績上位に残ったまま卒業」
長姉「いつ頃だっけ……入学して3年くらい経ってたかな」
長姉「次姉は1年飛び級にも関わらず、入学以来、不動の学年上位の常連」
長姉「私もそれまではなんとか上位にぶら下がっていたけど、急に授業内容が難しくなって」
長姉「進級試験を目前に、心折れちゃったのよね。そしたら次姉が……」
(次姉『ちょっと危険な方法だけど……聞いて? 試験の時に姉さんに答えを教えてあげる』)
(次姉『念のため、予想問題の解答を仕込んでおく方法も考えてみるけど』)
(次姉『バレるようなヘマはしないわ、まかせて……でも、姉さんは姉さんでしっかり勉強もするのよ?』)
長姉「次姉の提案には驚いたけど、おかげで試験は合格点、進級後のクラスでも……」
長姉「カンニングの方法をあれこれ考えてくれたり、宿題を見つからないように写させてくれたり」
長姉「……あの娘(次姉)は厳しいから、それと並行して授業の予習復習も鬼のようにさせられたけど」
長姉「でもやっぱり私は、あの学校のレベルに合わなかった……」
長姉「最後まで実力は身に付かないまま、インチキで成績上位に残ったまま卒業」
384: ◆54DIlPdu2E:2015/04/20(月) 22:18:35.82:eUmZW4uY0 (4/5)
長姉「これは墓場まで抱えて行く、次姉と二人だけの秘密」
長姉「真面目なお父さん、型物の兄さん、いい子ちゃんの末妹には絶対わかってもらえないもの」
長姉「……あと、人の心の機微が理解できそうにない次兄にも」
雨音:ザアア……
長姉「この雨じゃ今日は出かける気にならないわ」
長姉「……そうよ、次姉とはいつも一緒で、あの娘は誰より私をわかってくれた」
長姉「学校でも、実力で首席になれる頭のあの娘が、根気よくこんな私の勉強に付き合ってくれた」
長姉「なのに…もう何日、次姉と話をしていないんだっけ……?」
長姉「…………」
雨音:ザアアア……
長姉「……何よ」
長姉「私ひとり悪者にして、仲間外れにして、音を上げるのを待つつもりなら、こっちだって意地があるんだから」
長姉「これは墓場まで抱えて行く、次姉と二人だけの秘密」
長姉「真面目なお父さん、型物の兄さん、いい子ちゃんの末妹には絶対わかってもらえないもの」
長姉「……あと、人の心の機微が理解できそうにない次兄にも」
雨音:ザアア……
長姉「この雨じゃ今日は出かける気にならないわ」
長姉「……そうよ、次姉とはいつも一緒で、あの娘は誰より私をわかってくれた」
長姉「学校でも、実力で首席になれる頭のあの娘が、根気よくこんな私の勉強に付き合ってくれた」
長姉「なのに…もう何日、次姉と話をしていないんだっけ……?」
長姉「…………」
雨音:ザアアア……
長姉「……何よ」
長姉「私ひとり悪者にして、仲間外れにして、音を上げるのを待つつもりなら、こっちだって意地があるんだから」
385: ◆54DIlPdu2E:2015/04/20(月) 22:19:21.66:eUmZW4uY0 (5/5)
※今日はこれだけ。平日はペース落ちますわ※
>>380 >凄く大事な回
そう言ってもらえるとありがたいです……
※今日はこれだけ。平日はペース落ちますわ※
>>380 >凄く大事な回
そう言ってもらえるとありがたいです……
386: ◆54DIlPdu2E:2015/04/21(火) 22:06:54.45:4L+pBa600 (1/1)
※今日はちょっと更新無理そうです、すみません…※
せめてもの?おまけコーナー
使用人のアニマル四匹組は人間だったら何歳ぐらいか(物語の時点で)
狼執事=40代後半 穴熊料理長=60歳ぐらい 山猫庭師と穴兎メイド=共に15歳くらい
野獣に出会う前と魔法の力で使用人になってからでは歳の取り方が違ったりする
※今日はちょっと更新無理そうです、すみません…※
せめてもの?おまけコーナー
使用人のアニマル四匹組は人間だったら何歳ぐらいか(物語の時点で)
狼執事=40代後半 穴熊料理長=60歳ぐらい 山猫庭師と穴兎メイド=共に15歳くらい
野獣に出会う前と魔法の力で使用人になってからでは歳の取り方が違ったりする
387:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/04/21(火) 22:59:50.72:vuj0a16AO (1/1)
ええんやで乙
動物のままだと寿命が短そうだもんな
ええんやで乙
動物のままだと寿命が短そうだもんな
388: ◆54DIlPdu2E:2015/04/22(水) 22:29:55.39:dv2Uj+Rj0 (1/5)
野獣の屋敷、野獣の部屋……
オルゴール:~♪~♪~~♪~
執事「ご主人様、料理長が今夜はヤマドリタケのクリーム煮を作るそうですよ、お好きですよね」モリデトレルキノコ
執事「……ご主人様?」
野獣「スースー……」
執事「……読書しながら椅子にもたれて眠ってしまわれたか、本が膝の上に落ちている」ヒョイ
執事「ん? 本と思ったが、『日記帳』?」
執事「いかんいかん、『日記とは見てはいけないもの』だったな、ご主人様からそう教わった」イソイデトジー
執事「このまま起こさずに退室するか」コソーリ
野獣「…スースー」
オルゴール:♪~~♪♪~
……野獣が読んでいた日記のページ
『一週間ぶりに魔法ギルドの図書館に行き、彼女と話をした』
野獣の屋敷、野獣の部屋……
オルゴール:~♪~♪~~♪~
執事「ご主人様、料理長が今夜はヤマドリタケのクリーム煮を作るそうですよ、お好きですよね」モリデトレルキノコ
執事「……ご主人様?」
野獣「スースー……」
執事「……読書しながら椅子にもたれて眠ってしまわれたか、本が膝の上に落ちている」ヒョイ
執事「ん? 本と思ったが、『日記帳』?」
執事「いかんいかん、『日記とは見てはいけないもの』だったな、ご主人様からそう教わった」イソイデトジー
執事「このまま起こさずに退室するか」コソーリ
野獣「…スースー」
オルゴール:♪~~♪♪~
……野獣が読んでいた日記のページ
『一週間ぶりに魔法ギルドの図書館に行き、彼女と話をした』
389: ◆54DIlPdu2E:2015/04/22(水) 22:31:42.75:dv2Uj+Rj0 (2/5)
『彼女が図書館に入り三か月、最初に言葉を交わした日から二か月半』
『今日初めて私がこの国の王子と知ったそうで、物凄く驚いていた』
『もちろん今まで通り接してほしいので、そうお願いした後、彼女の年齢を聞いてみた』
『年齢は十七、私よりひとつ下。年下とは思わなかったと言うと……』
『「そんなに老けて見えますか?」と、どうやら少し機嫌を損ねてしまったようだ』
『彼女はとてもきれいで笑顔もかわいらしいので、老けているとは思わないが』
『本当に親切でしっかりしていて、まるで姉ができたみたいだと思っていたから……』
『思っていた通りを告げてみたところ』
『彼女は一瞬きょとんとして、噴き出して、それからしばらくの間、笑い続けていた』
『それで私の失言はうやむやになってしまったが、彼女の機嫌は治ったと思っていいのかな?』
『彼女が図書館に入り三か月、最初に言葉を交わした日から二か月半』
『今日初めて私がこの国の王子と知ったそうで、物凄く驚いていた』
『もちろん今まで通り接してほしいので、そうお願いした後、彼女の年齢を聞いてみた』
『年齢は十七、私よりひとつ下。年下とは思わなかったと言うと……』
『「そんなに老けて見えますか?」と、どうやら少し機嫌を損ねてしまったようだ』
『彼女はとてもきれいで笑顔もかわいらしいので、老けているとは思わないが』
『本当に親切でしっかりしていて、まるで姉ができたみたいだと思っていたから……』
『思っていた通りを告げてみたところ』
『彼女は一瞬きょとんとして、噴き出して、それからしばらくの間、笑い続けていた』
『それで私の失言はうやむやになってしまったが、彼女の機嫌は治ったと思っていいのかな?』
390: ◆54DIlPdu2E:2015/04/22(水) 22:33:44.31:dv2Uj+Rj0 (3/5)
(……出会ってから永遠に別れたあの日まで、二年足らずの短い月日)
(日記に書き残した彼女とのたわいもない会話、当時の私には本当に楽しく)
(確かに愛らしい顔立ちではあったが、それ以上に笑顔が、人柄が素敵だと思った)
(今もそう思う気持ちに変わりは無い)
(……)
(商人が末妹を語った言葉)
(商人「それもあの子が働き者で人懐っこい、心の優しい、謙虚な娘だからです」)
(商人「…お洒落に目覚める年頃になっても、ドレスや宝石など一度もねだったことのない子」)
(年頃も違うし、商人の身なりからある程度裕福なのはわかったから、育った境遇も違うのは容易に想像できたのに)
(彼のあの言葉で、私は何故か図書館の娘を思い出し、その少女に会ってみたくなったのだ)
(……出会ってから永遠に別れたあの日まで、二年足らずの短い月日)
(日記に書き残した彼女とのたわいもない会話、当時の私には本当に楽しく)
(確かに愛らしい顔立ちではあったが、それ以上に笑顔が、人柄が素敵だと思った)
(今もそう思う気持ちに変わりは無い)
(……)
(商人が末妹を語った言葉)
(商人「それもあの子が働き者で人懐っこい、心の優しい、謙虚な娘だからです」)
(商人「…お洒落に目覚める年頃になっても、ドレスや宝石など一度もねだったことのない子」)
(年頃も違うし、商人の身なりからある程度裕福なのはわかったから、育った境遇も違うのは容易に想像できたのに)
(彼のあの言葉で、私は何故か図書館の娘を思い出し、その少女に会ってみたくなったのだ)
391: ◆54DIlPdu2E:2015/04/22(水) 22:36:16.00:dv2Uj+Rj0 (4/5)
(そうして連れてこられた末妹は)
(あまりに小さくあまりに華奢な体、あどけない容貌、栗色の髪、緑の瞳)
(年齢を聞いて想像した以上に幼い外見、髪と瞳の色も違う)
(そう、図書館の娘とはまるで似ていないのに)
(私はふたりを重ねて見ていた)
(……私は歳を取り過ぎ末妹は若過ぎて、王子が図書館の娘を想うのとは違う想いだとしても)
(だとしても、末妹が傍に居てくれたなら)
(傍にいてくれるのが末妹だったら)
(私はバラの呪縛からも、過去からも、自由になれるのでは、と)
(小さな女の子の形で目の前に現れた『希望』に)
(私は縋ったのだ……)
(そうして連れてこられた末妹は)
(あまりに小さくあまりに華奢な体、あどけない容貌、栗色の髪、緑の瞳)
(年齢を聞いて想像した以上に幼い外見、髪と瞳の色も違う)
(そう、図書館の娘とはまるで似ていないのに)
(私はふたりを重ねて見ていた)
(……私は歳を取り過ぎ末妹は若過ぎて、王子が図書館の娘を想うのとは違う想いだとしても)
(だとしても、末妹が傍に居てくれたなら)
(傍にいてくれるのが末妹だったら)
(私はバラの呪縛からも、過去からも、自由になれるのでは、と)
(小さな女の子の形で目の前に現れた『希望』に)
(私は縋ったのだ……)
392: ◆54DIlPdu2E:2015/04/22(水) 22:37:26.70:dv2Uj+Rj0 (5/5)
※今夜はここまで。読んでくださる皆様(何名様であっても)ありがとうございます※
※今夜はここまで。読んでくださる皆様(何名様であっても)ありがとうございます※
393:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/04/23(木) 02:21:33.38:JDvRHoBAO (1/1)
乙
乙
394:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/04/23(木) 02:24:19.85:1BUyKvgEO (1/1)
乙!
乙!
395: ◆54DIlPdu2E:2015/04/23(木) 21:12:33.54:tRCXadQj0 (1/1)
※更新できません、今回はおまけもなし。すみません……寝ます……※
※更新できません、今回はおまけもなし。すみません……寝ます……※
396:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/04/24(金) 01:47:40.84:5sMTBj/AO (1/1)
>>395
ゆっくり休みなはれ
身体は大事に
>>395
ゆっくり休みなはれ
身体は大事に
397: ◆54DIlPdu2E:2015/04/25(土) 21:04:57.36:g7ezQjp90 (1/1)
※すみません、夜になると電池切れる模様。明日の明るい内に更新します※
>>396ありがとうございます…ホント身体は大事ですわ…
※すみません、夜になると電池切れる模様。明日の明るい内に更新します※
>>396ありがとうございます…ホント身体は大事ですわ…
398: ◆54DIlPdu2E:2015/04/26(日) 19:10:09.70:gG35B+QE0 (1/10)
商人の店。
雨音:サーサー……
次姉「せっかく店を再開したのはいいけれど、こう何日も雨続きじゃお客様の入りはいまいちね」
長兄「この地方は秋が深まる今時期だけ雨が多いから、これで通常運行だけどさ」
長兄「そんな中でも、常連の方が父さんの顔を見に来てくれたのはありがたいよ」
呼び鈴:チリンチリン
長兄「お客様だ、いらっしゃいませ」
次姉「いらっしゃいませ」
師匠「ふむ……様々なものが売っているのだな……お嬢さん、鉛筆はあるかね?」
次姉「そちらの棚の……兄さん、取ってあげて」チカクニイルノデ
師匠(この二人は兄妹だったのか)
長兄「はい、こちらです」
師匠「ありがとう(ふむ、二世紀前の品より随分使いやすそうだ)」
師匠「(これも技術の進歩だな)では、3本もらおうか」
師匠「では代金を(この国の現行貨幣に両替済みなので問題なし)」チャリン
次姉「丁度いただきます」
商人の店。
雨音:サーサー……
次姉「せっかく店を再開したのはいいけれど、こう何日も雨続きじゃお客様の入りはいまいちね」
長兄「この地方は秋が深まる今時期だけ雨が多いから、これで通常運行だけどさ」
長兄「そんな中でも、常連の方が父さんの顔を見に来てくれたのはありがたいよ」
呼び鈴:チリンチリン
長兄「お客様だ、いらっしゃいませ」
次姉「いらっしゃいませ」
師匠「ふむ……様々なものが売っているのだな……お嬢さん、鉛筆はあるかね?」
次姉「そちらの棚の……兄さん、取ってあげて」チカクニイルノデ
師匠(この二人は兄妹だったのか)
長兄「はい、こちらです」
師匠「ありがとう(ふむ、二世紀前の品より随分使いやすそうだ)」
師匠「(これも技術の進歩だな)では、3本もらおうか」
師匠「では代金を(この国の現行貨幣に両替済みなので問題なし)」チャリン
次姉「丁度いただきます」
399: ◆54DIlPdu2E:2015/04/26(日) 19:12:48.89:gG35B+QE0 (2/10)
師匠「なかなかいい店だ。また来よう」チリンチリン
長兄「ありがとうございました」
次姉「……」
長兄「どうした? 次姉」
次姉「何か違和感あると思ったら……今のお客様、少しも雨に濡れていなかったの」
長兄「えっ?」
次姉「店のすぐ前まで馬車で来た様子でもなかったし、あの上に外套を着ていたら、入る時に脱ぐのが見える筈だし」
長兄「店の前の庇に入ってから、傘を扉の外に置いて入って来たんだろう」
次姉「それにしても……」
長兄「今は小降りだし、近くの辻馬車の停留所から傘をさして来たとしたらそんなに濡れないだろ?」
次姉「……そういうものかしら」
雨:サー…ザー…ザーザーザー
師匠「またも雨足が強くなってきたが、雨を弾く呪文は便利だのう」パシパシ
師匠「この呪文、あいつには教えないまま終わってしまったな」
師匠「なかなかいい店だ。また来よう」チリンチリン
長兄「ありがとうございました」
次姉「……」
長兄「どうした? 次姉」
次姉「何か違和感あると思ったら……今のお客様、少しも雨に濡れていなかったの」
長兄「えっ?」
次姉「店のすぐ前まで馬車で来た様子でもなかったし、あの上に外套を着ていたら、入る時に脱ぐのが見える筈だし」
長兄「店の前の庇に入ってから、傘を扉の外に置いて入って来たんだろう」
次姉「それにしても……」
長兄「今は小降りだし、近くの辻馬車の停留所から傘をさして来たとしたらそんなに濡れないだろ?」
次姉「……そういうものかしら」
雨:サー…ザー…ザーザーザー
師匠「またも雨足が強くなってきたが、雨を弾く呪文は便利だのう」パシパシ
師匠「この呪文、あいつには教えないまま終わってしまったな」
400: ◆54DIlPdu2E:2015/04/26(日) 19:15:04.68:gG35B+QE0 (3/10)
??「んほおおお雨やなのおおお雨らめええええええ」バチャバチャバチャバチャ
師匠「ん? 向こうから(奇声を発しつつ)上着を頭から被って走って来る少年は……」
次兄「っと、おっさんじゃないですか」バチャ
師匠「そこの酒場の軒先で雨宿りでもしないかね」
次兄「ん、でも、家まであと少しだから」
師匠「雨雲の様子を見るに、すぐまた小降りになるだろう、それを待った方がましだ」
師匠(この子にも雨を弾く魔法を怪しまれない程度……五割くらいかけてやるか)ポエン
酒場(昼間は閉店中)の軒先。
次兄「やーんジャケットぐっしょり」シボッテジャー
師匠「君の家はこの近くなのか(我ながら白々しいがな)?」
次兄「ええ、ここからも見える、ほら、あの雑貨店っす」
師匠「ほう、儂はさっきあそこで鉛筆を買ったのだよ、偶然だな(これも白々しいが)」
次兄「店番におっかないネーチャンがいたでしょ?」
師匠「ん? 黒髪の背が高い娘か? かなりの美人ではないか」
次兄「え? よその人にはそう見えるんだ」
??「んほおおお雨やなのおおお雨らめええええええ」バチャバチャバチャバチャ
師匠「ん? 向こうから(奇声を発しつつ)上着を頭から被って走って来る少年は……」
次兄「っと、おっさんじゃないですか」バチャ
師匠「そこの酒場の軒先で雨宿りでもしないかね」
次兄「ん、でも、家まであと少しだから」
師匠「雨雲の様子を見るに、すぐまた小降りになるだろう、それを待った方がましだ」
師匠(この子にも雨を弾く魔法を怪しまれない程度……五割くらいかけてやるか)ポエン
酒場(昼間は閉店中)の軒先。
次兄「やーんジャケットぐっしょり」シボッテジャー
師匠「君の家はこの近くなのか(我ながら白々しいがな)?」
次兄「ええ、ここからも見える、ほら、あの雑貨店っす」
師匠「ほう、儂はさっきあそこで鉛筆を買ったのだよ、偶然だな(これも白々しいが)」
次兄「店番におっかないネーチャンがいたでしょ?」
師匠「ん? 黒髪の背が高い娘か? かなりの美人ではないか」
次兄「え? よその人にはそう見えるんだ」
401: ◆54DIlPdu2E:2015/04/26(日) 19:18:36.17:gG35B+QE0 (4/10)
師匠「君の姉なのか? 特に態度も愛想も悪くはなかったぞ、むしろ印象良かった」
次兄「ふーん……俺が思っている以上に(兄さんの贔屓目だけじゃなく)ちゃんと仕事しているんだ」
師匠「君はまた図書館に?」
次兄「ん、そうです。朝はまだ霧雨だったし、戻る時も小降りになったのを見計らって走って来たのにな」
師匠「面倒がらずに傘を持ち歩くことだ」
次兄「むー、おっさんだって手ぶらじゃないですか」
次兄「……その割に、濡れていませんね?」
師匠(おっと、意外になかなか鋭いぞ)
師匠「……このローブは特殊な薬剤を塗布してあってな、雨をはじくのだ」
次兄「マジで? 便利だな、父さんにそんな製品があるのか聞いてみようっと」
師匠(ああしまった、商売人の子供だった!)
師匠「……ここだけの話、まだ開発途中の薬剤で……儂は研究者から高額の報酬で極秘の任務を引き受けておる」ヒソヒソ
師匠「自分が軽率だったとはいえ、口外したことがバレたら儂は無報酬の上に罰金まで払わされるのだ……」ションボリーナ
師匠「誰にも言わず、これ以上詮索しないでくれたら、完成の暁には君の店に安く卸してもらえるよう話をしてみよう」
次兄「……うん、わかった。誰にも言わないよ。しかし、世の中にはまだまだ知らない職業があるんだなあ」
師匠「すまんな、恩に着るよ(咄嗟の出まかせを信じてくれるとは、顔の割に素直な子だ)」
師匠「君の姉なのか? 特に態度も愛想も悪くはなかったぞ、むしろ印象良かった」
次兄「ふーん……俺が思っている以上に(兄さんの贔屓目だけじゃなく)ちゃんと仕事しているんだ」
師匠「君はまた図書館に?」
次兄「ん、そうです。朝はまだ霧雨だったし、戻る時も小降りになったのを見計らって走って来たのにな」
師匠「面倒がらずに傘を持ち歩くことだ」
次兄「むー、おっさんだって手ぶらじゃないですか」
次兄「……その割に、濡れていませんね?」
師匠(おっと、意外になかなか鋭いぞ)
師匠「……このローブは特殊な薬剤を塗布してあってな、雨をはじくのだ」
次兄「マジで? 便利だな、父さんにそんな製品があるのか聞いてみようっと」
師匠(ああしまった、商売人の子供だった!)
師匠「……ここだけの話、まだ開発途中の薬剤で……儂は研究者から高額の報酬で極秘の任務を引き受けておる」ヒソヒソ
師匠「自分が軽率だったとはいえ、口外したことがバレたら儂は無報酬の上に罰金まで払わされるのだ……」ションボリーナ
師匠「誰にも言わず、これ以上詮索しないでくれたら、完成の暁には君の店に安く卸してもらえるよう話をしてみよう」
次兄「……うん、わかった。誰にも言わないよ。しかし、世の中にはまだまだ知らない職業があるんだなあ」
師匠「すまんな、恩に着るよ(咄嗟の出まかせを信じてくれるとは、顔の割に素直な子だ)」
402: ◆54DIlPdu2E:2015/04/26(日) 20:26:53.84:gG35B+QE0 (5/10)
師匠「今日は本を借りてこなかったのか」
次兄「今日は借りた本を返却して、後は閲覧だけです」
次兄「さすがに借りた本が雨に濡れたらえらいこっちゃですし」
師匠「意外と常識があるな。お、雨雲の切れ間に差し掛かった、雨が弱まったぞ」
次兄「ホントだ。じゃ、俺行きますね、また!」バッサ
師匠「ああ、またな」
バッターンチリリン タッダイマー! イラッシャ…ナニアンタミセカラハイッテキテ!! バチコーン
師匠「……ここまで聞こえるぞ」
師匠「……」
師匠「あの少女……少年の妹か、接触できる機会はなさそうだな」
師匠「尤も、女の子に理由なく近付いても家族に怪しまれそうだし」
師匠「いきなりこちらから、あいつやあいつの屋敷の話を振ろうものなら尚更怪しまれるだろう」
師匠「…バラを通じて出会い、あいつを解放してくれる可能性を持つ少女」
師匠「それをなぜ今、手放して家に帰しているかはなんとなく理解できる」
師匠「問題はこの後、あいつは少女をどうするのか、だ」
師匠「今日は本を借りてこなかったのか」
次兄「今日は借りた本を返却して、後は閲覧だけです」
次兄「さすがに借りた本が雨に濡れたらえらいこっちゃですし」
師匠「意外と常識があるな。お、雨雲の切れ間に差し掛かった、雨が弱まったぞ」
次兄「ホントだ。じゃ、俺行きますね、また!」バッサ
師匠「ああ、またな」
バッターンチリリン タッダイマー! イラッシャ…ナニアンタミセカラハイッテキテ!! バチコーン
師匠「……ここまで聞こえるぞ」
師匠「……」
師匠「あの少女……少年の妹か、接触できる機会はなさそうだな」
師匠「尤も、女の子に理由なく近付いても家族に怪しまれそうだし」
師匠「いきなりこちらから、あいつやあいつの屋敷の話を振ろうものなら尚更怪しまれるだろう」
師匠「…バラを通じて出会い、あいつを解放してくれる可能性を持つ少女」
師匠「それをなぜ今、手放して家に帰しているかはなんとなく理解できる」
師匠「問題はこの後、あいつは少女をどうするのか、だ」
403: ◆54DIlPdu2E:2015/04/26(日) 21:07:56.76:gG35B+QE0 (6/10)
師匠「……まあ、どうするのか知ったところで」
師匠「余程他人に危害でも及ばない限り、あくまでも儂の立場は見守るのみ」
師匠「その姿勢は変わらんぞ」
師匠「……腹が空いたな、どこかで飯でも食うか」
師匠「宿屋の従業員のおすすめにでも行ってみるか」
師匠「あの小娘、口は悪いが人柄は悪くない、信用しよう」
雨音:サーサー……
商人の自室。
末妹「雨続きね、お父さん」
商人「天気がよければ友達とでも遊びに行けるのに、私の相手ばかりで退屈だろう?」
末妹「まだお父さんを置いて出かけたりなんてできないわ」
商人「私ならもう大丈夫だよ、雨さえ降っていなければそろそろ外出しようとも思っていたんだ」
商人「取引先のご心配かけた皆さんとかね、この市内だけでも回ろうかと」
師匠「……まあ、どうするのか知ったところで」
師匠「余程他人に危害でも及ばない限り、あくまでも儂の立場は見守るのみ」
師匠「その姿勢は変わらんぞ」
師匠「……腹が空いたな、どこかで飯でも食うか」
師匠「宿屋の従業員のおすすめにでも行ってみるか」
師匠「あの小娘、口は悪いが人柄は悪くない、信用しよう」
雨音:サーサー……
商人の自室。
末妹「雨続きね、お父さん」
商人「天気がよければ友達とでも遊びに行けるのに、私の相手ばかりで退屈だろう?」
末妹「まだお父さんを置いて出かけたりなんてできないわ」
商人「私ならもう大丈夫だよ、雨さえ降っていなければそろそろ外出しようとも思っていたんだ」
商人「取引先のご心配かけた皆さんとかね、この市内だけでも回ろうかと」
404: ◆54DIlPdu2E:2015/04/26(日) 22:01:50.50:gG35B+QE0 (7/10)
末妹「大丈夫なの?」
商人「身体の調子もお前達のお陰ですっかり良くなった、近いうち仕事にも戻りたい」
商人「その前に、最低限でも挨拶回りをしておきたくてね」
商人「私もこれからは気をしっかり持って、皆に今回のような心配を掛けないと約束するよ」
末妹「……」
末妹「お父さん、私ね……」
次兄の声「ぴああああああああああああああああ」
商人「な、何事!?」
末妹「!?」
次兄の声「ほっぺ痛いよおおおおおおおおお」
末妹「お兄ちゃんの声だ。どうしたの?」ドアガチャ
次兄「おう、末妹……姉さんに、次姉ねえさんに引っ叩かれたよお」ヒリヒリジンジン
末妹「うわあ、ほっぺ真っ赤……」
次兄「図書館帰りに雨に降られ、自宅玄関まで回るのが面倒で店舗側に飛び込んだらこのざまです」シクシク
末妹「よく見たらずぶ濡れ……風邪ひいちゃう、早く着替えないと」
次兄「昔と違って、これくらいでは風邪ひかないから大丈夫」ポタポタ
次兄「でもこの格好で家の中うろうろしていたら家政婦さんにも叱られそうだから、着替えてこよう……」
末妹「ほら、このタオル使って」ファサ
次兄「お前だけは俺にいつでも優しい」ウルウル
末妹「大丈夫なの?」
商人「身体の調子もお前達のお陰ですっかり良くなった、近いうち仕事にも戻りたい」
商人「その前に、最低限でも挨拶回りをしておきたくてね」
商人「私もこれからは気をしっかり持って、皆に今回のような心配を掛けないと約束するよ」
末妹「……」
末妹「お父さん、私ね……」
次兄の声「ぴああああああああああああああああ」
商人「な、何事!?」
末妹「!?」
次兄の声「ほっぺ痛いよおおおおおおおおお」
末妹「お兄ちゃんの声だ。どうしたの?」ドアガチャ
次兄「おう、末妹……姉さんに、次姉ねえさんに引っ叩かれたよお」ヒリヒリジンジン
末妹「うわあ、ほっぺ真っ赤……」
次兄「図書館帰りに雨に降られ、自宅玄関まで回るのが面倒で店舗側に飛び込んだらこのざまです」シクシク
末妹「よく見たらずぶ濡れ……風邪ひいちゃう、早く着替えないと」
次兄「昔と違って、これくらいでは風邪ひかないから大丈夫」ポタポタ
次兄「でもこの格好で家の中うろうろしていたら家政婦さんにも叱られそうだから、着替えてこよう……」
末妹「ほら、このタオル使って」ファサ
次兄「お前だけは俺にいつでも優しい」ウルウル
405: ◆54DIlPdu2E:2015/04/26(日) 22:40:37.14:gG35B+QE0 (8/10)
末妹「まあ、廊下にも水滴が点々と……私が拭いておくから、お兄ちゃんはお部屋に行っててね」
次兄「末妹は我が家の天使です」オガミツツタイジョー
末妹「もう、ふざけないで……さてと、雑巾はっと」
商人「……」
商人「そうしていると、お母さん(=商人の妻)みたいだよ」
商人「髪や瞳の色だけじゃない、顔もますますそっくりになって」
末妹「……」
家政婦「あら末妹様、そんなことは私がやりますのに」
末妹「あ、家政婦さん(見つかっちゃった……)」
家政婦「次兄様でしょう? ずぶ濡れで帰って来られたのは存じています」
家政婦「廊下を拭くのは私がします。長兄様達も休憩に入られるそうなので、次兄様のお着替えが済みましたら」
家政婦「旦那様と三人で居間においでください。暖かいココアを用意していますので」
商人「気が利くなあ。ありがとう家政婦さん、次兄も体が冷えているだろうから……」
家政婦「長姉様のお部屋にも運びますから、冷めないうちに召し上がっていただきますわね」キコエルヨウナコエデ
長姉(自室のドアの内側)「まるでドアにへばりついて聞き耳立てているのがバレているかのように」
長姉「……ココアは大好物だからありがたいけど」
長姉「何よ、お父さんたら相変わらず……何が『お母さんそっくり』よ」
末妹「まあ、廊下にも水滴が点々と……私が拭いておくから、お兄ちゃんはお部屋に行っててね」
次兄「末妹は我が家の天使です」オガミツツタイジョー
末妹「もう、ふざけないで……さてと、雑巾はっと」
商人「……」
商人「そうしていると、お母さん(=商人の妻)みたいだよ」
商人「髪や瞳の色だけじゃない、顔もますますそっくりになって」
末妹「……」
家政婦「あら末妹様、そんなことは私がやりますのに」
末妹「あ、家政婦さん(見つかっちゃった……)」
家政婦「次兄様でしょう? ずぶ濡れで帰って来られたのは存じています」
家政婦「廊下を拭くのは私がします。長兄様達も休憩に入られるそうなので、次兄様のお着替えが済みましたら」
家政婦「旦那様と三人で居間においでください。暖かいココアを用意していますので」
商人「気が利くなあ。ありがとう家政婦さん、次兄も体が冷えているだろうから……」
家政婦「長姉様のお部屋にも運びますから、冷めないうちに召し上がっていただきますわね」キコエルヨウナコエデ
長姉(自室のドアの内側)「まるでドアにへばりついて聞き耳立てているのがバレているかのように」
長姉「……ココアは大好物だからありがたいけど」
長姉「何よ、お父さんたら相変わらず……何が『お母さんそっくり』よ」
406: ◆54DIlPdu2E:2015/04/26(日) 22:43:38.62:gG35B+QE0 (9/10)
安宿の一室。
師匠「ただいま」
師匠「……人柄は信用できても」
師匠「味覚は信用ならん、そんな人間もいるのだな」
師匠「残すのは性に合わんので、頑張って平らげたが……」フゥゥゥゥゥゥゥゥ
師匠「それとも、宿の食事が素朴な家庭料理だから気付かなかっただけで」
師匠「儂の味覚が今の時代について行けないだけなのか?」
師匠「……鏡であいつの屋敷でも見てみようかと思ったが、少し休もう」
師匠「おっと、買ってきた鉛筆を鞄から出しておくか」トリダシ
師匠「そう言えば、少年の部屋のあちこちにいくつもいくつも転がっていた指先ほどの木片」
師匠「今思うと、この鉛筆を限界まで使い込んだ成れの果てだな」
師匠「儂が知っている昔の鉛筆とは形状が違うから、最初はわからなかった」
師匠「それにしても読書は好きそうだが、だからってそんな勉強熱心にも見えないが」
師匠「何よりゴミ箱の概念がないのか? あの少年には」
時間は少し前後するが、次兄の部屋。
次兄「うお痛ってえ!?」
次兄「……あーあ、裸足で鉛筆の残骸踏んじゃったよ」アシノウラニクイコミー
次兄「そう言えばここ1年ほど、俺の部屋のゴミ箱を見た覚えがない」
次兄「この部屋のどこかに埋まっているだろうから、暇な時に発掘しよう。それより替えの靴下っと……」ゴソゴソ
安宿の一室。
師匠「ただいま」
師匠「……人柄は信用できても」
師匠「味覚は信用ならん、そんな人間もいるのだな」
師匠「残すのは性に合わんので、頑張って平らげたが……」フゥゥゥゥゥゥゥゥ
師匠「それとも、宿の食事が素朴な家庭料理だから気付かなかっただけで」
師匠「儂の味覚が今の時代について行けないだけなのか?」
師匠「……鏡であいつの屋敷でも見てみようかと思ったが、少し休もう」
師匠「おっと、買ってきた鉛筆を鞄から出しておくか」トリダシ
師匠「そう言えば、少年の部屋のあちこちにいくつもいくつも転がっていた指先ほどの木片」
師匠「今思うと、この鉛筆を限界まで使い込んだ成れの果てだな」
師匠「儂が知っている昔の鉛筆とは形状が違うから、最初はわからなかった」
師匠「それにしても読書は好きそうだが、だからってそんな勉強熱心にも見えないが」
師匠「何よりゴミ箱の概念がないのか? あの少年には」
時間は少し前後するが、次兄の部屋。
次兄「うお痛ってえ!?」
次兄「……あーあ、裸足で鉛筆の残骸踏んじゃったよ」アシノウラニクイコミー
次兄「そう言えばここ1年ほど、俺の部屋のゴミ箱を見た覚えがない」
次兄「この部屋のどこかに埋まっているだろうから、暇な時に発掘しよう。それより替えの靴下っと……」ゴソゴソ
407: ◆54DIlPdu2E:2015/04/26(日) 22:44:32.54:gG35B+QE0 (10/10)
※今夜はここまでです※
※今夜はここまでです※
408:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/04/27(月) 00:41:32.07:zIYsurJAO (1/1)
乙じゃん
割とすぐ手が出る系女子、次姉
乙じゃん
割とすぐ手が出る系女子、次姉
409: ◆54DIlPdu2E:2015/04/27(月) 21:28:28.31:Z9ycdK7q0 (1/1)
※すみません、今日は無理そうです……明日も休みます。次回4/29(時間帯未定)※
※すみません、今日は無理そうです……明日も休みます。次回4/29(時間帯未定)※
410:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/04/28(火) 01:54:45.58:D33BUFLAO (1/1)
エタらなければ万事オーケー
休める時はきちんと休むのも大切だぜ
エタらなければ万事オーケー
休める時はきちんと休むのも大切だぜ
411: ◆54DIlPdu2E:2015/04/29(水) 20:29:52.08:eI4EYdAJ0 (1/5)
居間。
次兄「あーあったまる」ココアズビー
商人「……もう痛くないかい、次兄?」
長兄「確かに俺達、物心ついた頃から『店側から出入りするな』って躾けられていたけどさ」
長兄「だからっていきなり引っ叩くのはどうかと」
次姉「……今後は気を付けるわ。ごめんね」ボソ
次兄(次姉ねえさんも丸くなったというか成長したもんだ)
次兄(口に出すと反対側も引っ叩かれそうだから黙っているけどね)
末妹「……」
末妹(野獣様とのお茶の時間にココアが出た時は)
末妹(うちの味より甘かったなあ)
末妹(メイドちゃんが言うには、野獣様が甘いものお好きだからって)
末妹(明日で一週間、みんな今頃どうしているのかなあ)
窓越しの雨音:サーサー
末妹(あっちも雨が降っているかしら……)
居間。
次兄「あーあったまる」ココアズビー
商人「……もう痛くないかい、次兄?」
長兄「確かに俺達、物心ついた頃から『店側から出入りするな』って躾けられていたけどさ」
長兄「だからっていきなり引っ叩くのはどうかと」
次姉「……今後は気を付けるわ。ごめんね」ボソ
次兄(次姉ねえさんも丸くなったというか成長したもんだ)
次兄(口に出すと反対側も引っ叩かれそうだから黙っているけどね)
末妹「……」
末妹(野獣様とのお茶の時間にココアが出た時は)
末妹(うちの味より甘かったなあ)
末妹(メイドちゃんが言うには、野獣様が甘いものお好きだからって)
末妹(明日で一週間、みんな今頃どうしているのかなあ)
窓越しの雨音:サーサー
末妹(あっちも雨が降っているかしら……)
412: ◆54DIlPdu2E:2015/04/29(水) 20:31:44.56:eI4EYdAJ0 (2/5)
野獣の屋敷。
雨音:サーサー……
執事「ご主人様、何も雨の中にバラの様子を見に行かなくとも」フキフキ
野獣「それくらい好きにさせてくれ。止むのを待っていては、いつ外に出られるかわからないではないか」
執事「それにしても、(特注サイズの)雨傘もささずに……」フキフキ
庭師「ご主人様、僕らみたいに体ブルブルして水払うの苦手ですものねえ」フキフキテツダイ
メイド「あったかいココアですよ、ご主人様。」
野獣「……すまんな」
メイド「雨が冷たくなってきましたね、そろそろお山の上に雪が見られるかもしれません」
メイド「『南の港町』は雪なんてめったに降らないのでしょうね」
野獣「……」
庭師「今度また末妹様が来られる頃には、このへんも初雪かな?」
メイド「やーね、まだ早いわ。あと一週間後の話じゃない」
庭師「それもそうだね」
執事「戻りの魔法が使えるようになっても、すぐに来られるとは限らないぞ?」
執事「お家の都合もあるし、ご家族ともよく話し合われてから、こちらに来る日を決めるだろう」
庭師「うーん、人間というものは色々めんどうですね?」
野獣の屋敷。
雨音:サーサー……
執事「ご主人様、何も雨の中にバラの様子を見に行かなくとも」フキフキ
野獣「それくらい好きにさせてくれ。止むのを待っていては、いつ外に出られるかわからないではないか」
執事「それにしても、(特注サイズの)雨傘もささずに……」フキフキ
庭師「ご主人様、僕らみたいに体ブルブルして水払うの苦手ですものねえ」フキフキテツダイ
メイド「あったかいココアですよ、ご主人様。」
野獣「……すまんな」
メイド「雨が冷たくなってきましたね、そろそろお山の上に雪が見られるかもしれません」
メイド「『南の港町』は雪なんてめったに降らないのでしょうね」
野獣「……」
庭師「今度また末妹様が来られる頃には、このへんも初雪かな?」
メイド「やーね、まだ早いわ。あと一週間後の話じゃない」
庭師「それもそうだね」
執事「戻りの魔法が使えるようになっても、すぐに来られるとは限らないぞ?」
執事「お家の都合もあるし、ご家族ともよく話し合われてから、こちらに来る日を決めるだろう」
庭師「うーん、人間というものは色々めんどうですね?」
413: ◆54DIlPdu2E:2015/04/29(水) 22:25:23.59:eI4EYdAJ0 (3/5)
しばらくのち。野獣の部屋。
野獣「……メイドと庭師」
野獣「やはりまだ子供だ、無邪気に『末妹の戻る日』を楽しみにしている、そして、おそらく末妹と次兄も」
野獣「…期待を持たせているのは私だがな……」
鏡「」シーン
野獣「……何をしているかな」
~
次兄「うーん、もう少しこのへんの毛並みは濃い色合いで」カキカキ
次兄「……うむ、執事さん喜んでくれるかな?」
…
野獣「次兄、執事の絵を描いているのか」
野獣「再びこちらへ来た時の、執事への手土産か……」
野獣「末妹は何をしているだろう」
野獣「……?」
野獣「なんだろう、この動きは」
野獣「一人でダンスの練習……か?」
野獣「足元に開いて置いてある本は…入門書のようだな、図書館からでも借りて来たか」
野獣「……」
野獣「何年か後に役立つだろう」
野獣「彼女に本来そうするべき相手が現れた時に」
しばらくのち。野獣の部屋。
野獣「……メイドと庭師」
野獣「やはりまだ子供だ、無邪気に『末妹の戻る日』を楽しみにしている、そして、おそらく末妹と次兄も」
野獣「…期待を持たせているのは私だがな……」
鏡「」シーン
野獣「……何をしているかな」
~
次兄「うーん、もう少しこのへんの毛並みは濃い色合いで」カキカキ
次兄「……うむ、執事さん喜んでくれるかな?」
…
野獣「次兄、執事の絵を描いているのか」
野獣「再びこちらへ来た時の、執事への手土産か……」
野獣「末妹は何をしているだろう」
野獣「……?」
野獣「なんだろう、この動きは」
野獣「一人でダンスの練習……か?」
野獣「足元に開いて置いてある本は…入門書のようだな、図書館からでも借りて来たか」
野獣「……」
野獣「何年か後に役立つだろう」
野獣「彼女に本来そうするべき相手が現れた時に」
414: ◆54DIlPdu2E:2015/04/29(水) 23:07:39.09:eI4EYdAJ0 (4/5)
商人の家、末妹の部屋。
末妹「……思っていた以上に、一人じゃ練習にならないなあ」フゥ
末妹「次姉おねえさんが『読まなくなった本あげるわ』って、私にくれた中にダンスの入門書があったから」
末妹「思い付きでちょっとやってみようと思ったけど、先は長そうね……」本パタン
末妹「……」
末妹「知識のない私でも、野獣様のダンスがお上手だったのはわかるわ」
(野獣「最後に踊ったのは、とんでもない昔だから、古い時代のステップしか知らないし」)
末妹「つまり、誰かと踊ったことがあるんだ……」
末妹「……当たり前よね、私よりずっと長く生きていらっしゃるんだもの」
(執事「主人はあまり自身のことを語りません、わたくし達相手にも」)
(執事「特にこの屋敷に来る以前のことは、欠片ほども言葉にしたことはありません」)
末妹「……野獣様は、どんな人生(獣生?)を送って来られたのかな」
末妹「生まれた時からずっと一人ぼっちだったわけではないでしょう、きっと」
末妹「お屋敷で一人で暮らす前は、どんな方が野獣様のそばにいたんだろう……」
末妹「いつか、そのこともお話してくださるのかな」
末妹「私も、もっと野獣様に話をしたい、家族のこと、友達のこと、それから」
末妹「……私は14年しか生きていないし、この町以外で暮らしたことはないし、その中で出会った人しか知らないけれど」
末妹「それでも、優しい野獣様なら『つまらない話だ』なんて思わないで、聞いてくださるよね?」
末妹「……」
末妹「その前に、お父さん達とよく話し合わないと」
末妹「あと一週間で戻る魔法が使えると思ったら、気が急いちゃったみたい」
末妹「やっぱりまだまだ子供だわ、私……」
商人の家、末妹の部屋。
末妹「……思っていた以上に、一人じゃ練習にならないなあ」フゥ
末妹「次姉おねえさんが『読まなくなった本あげるわ』って、私にくれた中にダンスの入門書があったから」
末妹「思い付きでちょっとやってみようと思ったけど、先は長そうね……」本パタン
末妹「……」
末妹「知識のない私でも、野獣様のダンスがお上手だったのはわかるわ」
(野獣「最後に踊ったのは、とんでもない昔だから、古い時代のステップしか知らないし」)
末妹「つまり、誰かと踊ったことがあるんだ……」
末妹「……当たり前よね、私よりずっと長く生きていらっしゃるんだもの」
(執事「主人はあまり自身のことを語りません、わたくし達相手にも」)
(執事「特にこの屋敷に来る以前のことは、欠片ほども言葉にしたことはありません」)
末妹「……野獣様は、どんな人生(獣生?)を送って来られたのかな」
末妹「生まれた時からずっと一人ぼっちだったわけではないでしょう、きっと」
末妹「お屋敷で一人で暮らす前は、どんな方が野獣様のそばにいたんだろう……」
末妹「いつか、そのこともお話してくださるのかな」
末妹「私も、もっと野獣様に話をしたい、家族のこと、友達のこと、それから」
末妹「……私は14年しか生きていないし、この町以外で暮らしたことはないし、その中で出会った人しか知らないけれど」
末妹「それでも、優しい野獣様なら『つまらない話だ』なんて思わないで、聞いてくださるよね?」
末妹「……」
末妹「その前に、お父さん達とよく話し合わないと」
末妹「あと一週間で戻る魔法が使えると思ったら、気が急いちゃったみたい」
末妹「やっぱりまだまだ子供だわ、私……」
415: ◆54DIlPdu2E:2015/04/29(水) 23:10:03.79:eI4EYdAJ0 (5/5)
※今日はここまで。できれば明日も少し※
全体の半分以上は来ている筈ですが、気長に付き合っていただけましたらありがたいです
※今日はここまで。できれば明日も少し※
全体の半分以上は来ている筈ですが、気長に付き合っていただけましたらありがたいです
416:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/04/30(木) 00:42:15.50:b/DCSf0AO (1/1)
乙
末妹ちゃんの気持ちも、少しずつ変わってきてるんだなー
乙
末妹ちゃんの気持ちも、少しずつ変わってきてるんだなー
417: ◆54DIlPdu2E:2015/04/30(木) 21:56:48.01:yCbCbh+n0 (1/5)
翌日。
末妹「おはよう、お父さん。久しぶりにいいお天気よ」
商人「おはよう。そうだな、いい天気だ」
商人「朝食が済んだら、出掛けるよ。昨日言ったとおり、ご心配をかけた皆さんに顔見せをしなくちゃ」
長兄「俺も一緒に行くよ、父さん」
次兄「久しぶりの外出だからって、調子に乗って無理して体調でも崩されたら困るから、だよね」
長兄「俺は(さすがにそこまでハッキリとは)言っていない」
商人「……私も長兄が一緒なら心強いが、店はいいのか?」
次姉「私がいるから大丈夫」
末妹「じゃあ、私がお店を手伝う」
末妹「……お姉さんがよければ、だけど……」
次姉「何言ってるの、こっちから頼もうと思っていたくらいよ」
末妹「…!」
次姉「このお天気ならお客様も大勢押し掛けそうだけどね、あんたこそ大丈夫?」
末妹「うん、頑張る!」
次兄「ふむぅ、この二人がまともに姉妹しているのを初めて見たぞ」
翌日。
末妹「おはよう、お父さん。久しぶりにいいお天気よ」
商人「おはよう。そうだな、いい天気だ」
商人「朝食が済んだら、出掛けるよ。昨日言ったとおり、ご心配をかけた皆さんに顔見せをしなくちゃ」
長兄「俺も一緒に行くよ、父さん」
次兄「久しぶりの外出だからって、調子に乗って無理して体調でも崩されたら困るから、だよね」
長兄「俺は(さすがにそこまでハッキリとは)言っていない」
商人「……私も長兄が一緒なら心強いが、店はいいのか?」
次姉「私がいるから大丈夫」
末妹「じゃあ、私がお店を手伝う」
末妹「……お姉さんがよければ、だけど……」
次姉「何言ってるの、こっちから頼もうと思っていたくらいよ」
末妹「…!」
次姉「このお天気ならお客様も大勢押し掛けそうだけどね、あんたこそ大丈夫?」
末妹「うん、頑張る!」
次兄「ふむぅ、この二人がまともに姉妹しているのを初めて見たぞ」
418: ◆54DIlPdu2E:2015/04/30(木) 22:15:05.05:yCbCbh+n0 (2/5)
長兄「馬車は、箱馬車まではいらないよね?」
次兄(荷物も積める、父さんが仕事で遠出したり、俺達が野獣様の家に行った時の馬車だな)
商人「ああ、小さいほうで充分だ」
次兄(二人掛けの座席に幌をかけただけの簡素な軽装馬車)
次兄「どっちも父さんが知り合いから捨てる筈の中古を引き取って修理したもの、父さん手先は器用だもんな」
次兄「人生は何かにつけ不器用だけど」
末妹「お兄ちゃん、独り言がまた大きい声になってる……」ツンツン
次兄「おっとっと」
次兄「いかんな、俺はこんなにも脳と声帯がゆるい男だったか」ジチョウジチョウ
次姉「……ほんと、次兄は無駄に口数が多くなって」
次姉「小さい頃……と言ってもそんなに昔でもないか」
次姉「確か12、3歳まで、不安になるくらい無口だったのが今では信じられないわ」
商人「性格明るくなったのは良いことだよ」
次姉「明るくなったと言うか……」
次姉「やめた。今度は言葉の暴力って言われそう」
次兄「聞かずともだいたい酷い言葉が出かかっていたのは理解できました」
長兄「馬車は、箱馬車まではいらないよね?」
次兄(荷物も積める、父さんが仕事で遠出したり、俺達が野獣様の家に行った時の馬車だな)
商人「ああ、小さいほうで充分だ」
次兄(二人掛けの座席に幌をかけただけの簡素な軽装馬車)
次兄「どっちも父さんが知り合いから捨てる筈の中古を引き取って修理したもの、父さん手先は器用だもんな」
次兄「人生は何かにつけ不器用だけど」
末妹「お兄ちゃん、独り言がまた大きい声になってる……」ツンツン
次兄「おっとっと」
次兄「いかんな、俺はこんなにも脳と声帯がゆるい男だったか」ジチョウジチョウ
次姉「……ほんと、次兄は無駄に口数が多くなって」
次姉「小さい頃……と言ってもそんなに昔でもないか」
次姉「確か12、3歳まで、不安になるくらい無口だったのが今では信じられないわ」
商人「性格明るくなったのは良いことだよ」
次姉「明るくなったと言うか……」
次姉「やめた。今度は言葉の暴力って言われそう」
次兄「聞かずともだいたい酷い言葉が出かかっていたのは理解できました」
419: ◆54DIlPdu2E:2015/04/30(木) 22:35:53.69:yCbCbh+n0 (3/5)
長兄「……次姉も、末妹や次兄に(も一応)優しくなって来たな」
長兄「これで長姉が、せめて会話だけでもしてくれたら……」
商人「長姉……もうずっとまともに姿を見ていない」
商人「やはりここは、私が父親としてあの子に」
長兄「いや、直接のきっかけを作ったのは俺なんだ」
長兄「父さんは心配しないで」
長兄(……かと言って、打開策があるわけでもないが)
長兄(あの娘があんなに意地っ張りだったのはさすがに予想外だったなあ)
そのころ、長姉の部屋。
目覚まし時計:ジリンジリン
長姉「はうあ」パチ
長姉「……久しぶりに雨音の聞こえない朝ね、ふああ……」
長姉「カーテンの向こうはさしずめ陽光が降り注いで、ってところかしら」
長姉「……だからこそ、開けたくない……」モソモソゴロゴロ
長姉「朝ごはん食べ終わるまで、閉めたままにしておこう」ノソリノタリ
長兄「……次姉も、末妹や次兄に(も一応)優しくなって来たな」
長兄「これで長姉が、せめて会話だけでもしてくれたら……」
商人「長姉……もうずっとまともに姿を見ていない」
商人「やはりここは、私が父親としてあの子に」
長兄「いや、直接のきっかけを作ったのは俺なんだ」
長兄「父さんは心配しないで」
長兄(……かと言って、打開策があるわけでもないが)
長兄(あの娘があんなに意地っ張りだったのはさすがに予想外だったなあ)
そのころ、長姉の部屋。
目覚まし時計:ジリンジリン
長姉「はうあ」パチ
長姉「……久しぶりに雨音の聞こえない朝ね、ふああ……」
長姉「カーテンの向こうはさしずめ陽光が降り注いで、ってところかしら」
長姉「……だからこそ、開けたくない……」モソモソゴロゴロ
長姉「朝ごはん食べ終わるまで、閉めたままにしておこう」ノソリノタリ
420: ◆54DIlPdu2E:2015/04/30(木) 22:51:40.09:yCbCbh+n0 (4/5)
長姉「でも、何日かぶりに外で気晴らしが出来るなあ」
長姉「ありがたいことに、雨で暇な時に箪笥をくまなく漁ってみたら、銀貨が何枚か見つかったし」
長姉「ま、大事に使わないとね。まずはご飯ご飯……ドアの外に」ガチャ
朝食のプレート:テテーン
長姉「うん、家政婦さんは時間に正確ね♪」
~
長姉「こっそり洗面所も使った、着替えもした、小銭も持った、さて出掛けますか」
長姉「今日も窓からね」コソコソ
商人の声「じゃあ行ってくるよ」 末妹の声「行ってらっしゃい」
長姉「っと、お父さんお出掛け!?」ピタッ
軽装馬車:カラカラカラ……
長姉「……小さい馬車が出て行くわ、兄さんも一緒ね」
長姉「街なかで出会わなきゃいいけど……」
長姉「髪形変えて、あまり着たことない服を着て行くかな」
長姉「……おさげにして、スカーフ頭に被って、一番地味なブラウス着て……」
長姉「あーあ、せっかくいい気分だったのにケチがついた気分よ」
長姉「……どこ行こうかな、お父さん達に出会いそうにない場所……」
長姉「でも、何日かぶりに外で気晴らしが出来るなあ」
長姉「ありがたいことに、雨で暇な時に箪笥をくまなく漁ってみたら、銀貨が何枚か見つかったし」
長姉「ま、大事に使わないとね。まずはご飯ご飯……ドアの外に」ガチャ
朝食のプレート:テテーン
長姉「うん、家政婦さんは時間に正確ね♪」
~
長姉「こっそり洗面所も使った、着替えもした、小銭も持った、さて出掛けますか」
長姉「今日も窓からね」コソコソ
商人の声「じゃあ行ってくるよ」 末妹の声「行ってらっしゃい」
長姉「っと、お父さんお出掛け!?」ピタッ
軽装馬車:カラカラカラ……
長姉「……小さい馬車が出て行くわ、兄さんも一緒ね」
長姉「街なかで出会わなきゃいいけど……」
長姉「髪形変えて、あまり着たことない服を着て行くかな」
長姉「……おさげにして、スカーフ頭に被って、一番地味なブラウス着て……」
長姉「あーあ、せっかくいい気分だったのにケチがついた気分よ」
長姉「……どこ行こうかな、お父さん達に出会いそうにない場所……」
421: ◆54DIlPdu2E:2015/04/30(木) 22:54:37.96:yCbCbh+n0 (5/5)
※短いけど今日はここまで※
ちょっと眠くて推敲が甘め(今に始まったことではゲフンゲフン)
※短いけど今日はここまで※
ちょっと眠くて推敲が甘め(今に始まったことではゲフンゲフン)
422:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/05/01(金) 02:32:12.77:5cJNGni5O (1/1)
乙 次兄がいいキャラしてるわ
乙 次兄がいいキャラしてるわ
423: ◆54DIlPdu2E:2015/05/01(金) 23:58:38.26:j4RgHdC60 (1/1)
そして、街のちょっとした広場。
長姉「多分お父さんはお得意さん達の家を挨拶回りだから、こんなところには来ないでしょ」
長姉「まだ午前中だから人影もまばらね」
長姉「小さな孫を遊ばせているお年寄り、犬を連れての散歩、ベンチで日向ぼっこする若い男性……」
長姉「日向ぼっこどころかグースカ眠ってるわ、だらしない格好……」
長姉「しかもよく見りゃ幼馴染男じゃない」
長姉「……殴った時の謝罪とか靴を届けてくれたお礼とか色々あるけど」
長姉「今日は関わらないでおこうっと」ススス
長姉「それにしれも、本当に昨日までの雨が嘘みたいな、さわやかな秋晴れ」
長姉「上手く行かないことも面白くないことも忘れて、こう両腕を広げて」
長姉「深呼吸なんかしてみたくなっちゃう♪」スウゥゥゥー……パシュン
長姉「……『ぱしゅん』?」
メロンのような何か×2:コンニチハ
長姉「……ボタン!? ブラウスのボタン! 胸のボタンが弾け飛んだ!? やだ、三つも取れてる!!!!」アセアセ
長姉「とりあえず、しゃがんで胸を隠そう……」
長姉「しゃがんだまま大きな木の陰に移動、っと」カサカサカサカサカサ
長姉「……下着はつけているとは言え、こんな所を人に見られたら」
長姉「学校に行ってた頃のブラウスだから、確かに今の私には胸がきつかったけど、糸も古くなっていたのね」
長姉「頭のスカーフを首に巻けば胸元が隠せるかしら?」
長姉「……いっそ胸丸出しで、誰かわからないように顔のほうを隠す?」
そして、街のちょっとした広場。
長姉「多分お父さんはお得意さん達の家を挨拶回りだから、こんなところには来ないでしょ」
長姉「まだ午前中だから人影もまばらね」
長姉「小さな孫を遊ばせているお年寄り、犬を連れての散歩、ベンチで日向ぼっこする若い男性……」
長姉「日向ぼっこどころかグースカ眠ってるわ、だらしない格好……」
長姉「しかもよく見りゃ幼馴染男じゃない」
長姉「……殴った時の謝罪とか靴を届けてくれたお礼とか色々あるけど」
長姉「今日は関わらないでおこうっと」ススス
長姉「それにしれも、本当に昨日までの雨が嘘みたいな、さわやかな秋晴れ」
長姉「上手く行かないことも面白くないことも忘れて、こう両腕を広げて」
長姉「深呼吸なんかしてみたくなっちゃう♪」スウゥゥゥー……パシュン
長姉「……『ぱしゅん』?」
メロンのような何か×2:コンニチハ
長姉「……ボタン!? ブラウスのボタン! 胸のボタンが弾け飛んだ!? やだ、三つも取れてる!!!!」アセアセ
長姉「とりあえず、しゃがんで胸を隠そう……」
長姉「しゃがんだまま大きな木の陰に移動、っと」カサカサカサカサカサ
長姉「……下着はつけているとは言え、こんな所を人に見られたら」
長姉「学校に行ってた頃のブラウスだから、確かに今の私には胸がきつかったけど、糸も古くなっていたのね」
長姉「頭のスカーフを首に巻けば胸元が隠せるかしら?」
長姉「……いっそ胸丸出しで、誰かわからないように顔のほうを隠す?」
424: ◆54DIlPdu2E:2015/05/02(土) 00:00:49.19:ER4ED++M0 (1/4)
長姉「それはないわ、落ち着くのよ私」
長姉「もっと安心して体を隠せる物は……」キョロキョロ
長姉「あ、上半身カバーできそうな板切れを発見……壊れたベンチの残骸ね」
長姉「どう考えても広場の管理者がずさんだけど、今だけは感謝」ヒョイ
長姉「……」
長姉「この格好、他人から見たら、じゅうぶん変な女ね」ハァ
長姉「これで街を歩いて家まで帰れとか、どんな罰ゲームよ……」
若い男性「あ、あの……」肩トントン
長姉「!?」
長姉「いやあああああああああ!! 痴漢!! 変態いいいいいいいい!!!!」ブンッ!!
板:ズバキャッ
幼馴染男「」
長姉「板が割れちゃった!? って、幼馴染男!!??」
幼馴染男「……お、驚かせて悪かった、でも見ていない、見ていないから……」ユラァ
長姉「こっち向かないでええええええ!!!!」グキッ
幼馴染男「」
長姉「しまった、首、首が!?」アタフタ
幼馴染男「……だ、大丈夫、この程度じゃ死なない、たぶん……」クビダケアサッテノホウヲムイテイマス
幼馴染男「う、上着。上着を貸すよ、これ着て帰りな、長姉……」ヌギヌギ
男物のジャケット:バサァ
長姉「それはないわ、落ち着くのよ私」
長姉「もっと安心して体を隠せる物は……」キョロキョロ
長姉「あ、上半身カバーできそうな板切れを発見……壊れたベンチの残骸ね」
長姉「どう考えても広場の管理者がずさんだけど、今だけは感謝」ヒョイ
長姉「……」
長姉「この格好、他人から見たら、じゅうぶん変な女ね」ハァ
長姉「これで街を歩いて家まで帰れとか、どんな罰ゲームよ……」
若い男性「あ、あの……」肩トントン
長姉「!?」
長姉「いやあああああああああ!! 痴漢!! 変態いいいいいいいい!!!!」ブンッ!!
板:ズバキャッ
幼馴染男「」
長姉「板が割れちゃった!? って、幼馴染男!!??」
幼馴染男「……お、驚かせて悪かった、でも見ていない、見ていないから……」ユラァ
長姉「こっち向かないでええええええ!!!!」グキッ
幼馴染男「」
長姉「しまった、首、首が!?」アタフタ
幼馴染男「……だ、大丈夫、この程度じゃ死なない、たぶん……」クビダケアサッテノホウヲムイテイマス
幼馴染男「う、上着。上着を貸すよ、これ着て帰りな、長姉……」ヌギヌギ
男物のジャケット:バサァ
425: ◆54DIlPdu2E:2015/05/02(土) 00:02:58.49:ER4ED++M0 (2/4)
長姉「血がついてる」
幼馴染男「うん、板でぶん殴られた時に出た鼻血だね……」クビハソノママデス
長姉「……ごめんなさい」
長姉「着たわ。もうこっち向いていいわよ?」
幼馴染男「……わかった。でも首がなんだか動かせないから、体ごと方向転換しないと」ヨタヨタ
長姉(今度は首だけこっち向いて首から下は違う方を向いているわ……)
長姉「首は私にはどうしていいかわからないけど、鼻血だけでも拭いてあげる」フキフキ
幼馴染男「ありがとう……」
長姉「……ねえ、どうしてベンチで眠っていたの?」
幼馴染男「ああ、それは」
幼馴染男「昨夜、久しぶりに雨が上がったからね、先生と二人で久しぶりに星の観測をしたんだ」
幼馴染男「いつも以上に星がきれいに見えて捗った、その記録をまとめたりしているうちに徹夜してしまって」
幼馴染男「先生も今日は休養日にしてくれると言うので、朝の空気を吸いに散歩に出て」
幼馴染男「広場のベンチで一休みと思ったら、いつの間にか眠ってしまったんだ」
長姉「そう、とにかく、あなたがここにいたおかげで助かったわ…………ありがとう」
幼馴染男「うん、君の助けになれて、よかった……」
幼馴染男「……話しているうちに、首も少しずつ動かせるようになってきた。心配いらないよ」
長姉「本当にごめんなさい。あの……この間、ぶん殴っちゃったことも含めて。あと、靴を届けてくれて、ありがとう」
長姉(……言えた)
長姉「血がついてる」
幼馴染男「うん、板でぶん殴られた時に出た鼻血だね……」クビハソノママデス
長姉「……ごめんなさい」
長姉「着たわ。もうこっち向いていいわよ?」
幼馴染男「……わかった。でも首がなんだか動かせないから、体ごと方向転換しないと」ヨタヨタ
長姉(今度は首だけこっち向いて首から下は違う方を向いているわ……)
長姉「首は私にはどうしていいかわからないけど、鼻血だけでも拭いてあげる」フキフキ
幼馴染男「ありがとう……」
長姉「……ねえ、どうしてベンチで眠っていたの?」
幼馴染男「ああ、それは」
幼馴染男「昨夜、久しぶりに雨が上がったからね、先生と二人で久しぶりに星の観測をしたんだ」
幼馴染男「いつも以上に星がきれいに見えて捗った、その記録をまとめたりしているうちに徹夜してしまって」
幼馴染男「先生も今日は休養日にしてくれると言うので、朝の空気を吸いに散歩に出て」
幼馴染男「広場のベンチで一休みと思ったら、いつの間にか眠ってしまったんだ」
長姉「そう、とにかく、あなたがここにいたおかげで助かったわ…………ありがとう」
幼馴染男「うん、君の助けになれて、よかった……」
幼馴染男「……話しているうちに、首も少しずつ動かせるようになってきた。心配いらないよ」
長姉「本当にごめんなさい。あの……この間、ぶん殴っちゃったことも含めて。あと、靴を届けてくれて、ありがとう」
長姉(……言えた)
426: ◆54DIlPdu2E:2015/05/02(土) 00:22:43.71:ER4ED++M0 (3/4)
幼馴染男「……なんだか今日の君は、そのおさげの髪形のせいだけじゃないと思うけど」
幼馴染男「昔の君みたい、あ、殴るなよ??」
長姉「首の角度がまだ半分くらいしか戻っていない人なんか殴れないわよ」
幼馴染男「うん、君ともう少し話をしたいけど、俺はこんなんだし……」
幼馴染男「君も血飛沫のついた男物の服を着たままじゃ落ちつかないだろう」
長姉「そうね(どちらも私のせいだけどね……)」
幼馴染男「今日は帰るよ。君も家に帰って着替えるといい」
長姉「ええ、そうするわ」
幼馴染男「送って行きたいところだけど」
長姉「気にしないで、家までそう遠くもないから」
長姉「じゃあ、またね?」
幼馴染男「ああ、またね……」
幼馴染男「……なんだか今日の君は、そのおさげの髪形のせいだけじゃないと思うけど」
幼馴染男「昔の君みたい、あ、殴るなよ??」
長姉「首の角度がまだ半分くらいしか戻っていない人なんか殴れないわよ」
幼馴染男「うん、君ともう少し話をしたいけど、俺はこんなんだし……」
幼馴染男「君も血飛沫のついた男物の服を着たままじゃ落ちつかないだろう」
長姉「そうね(どちらも私のせいだけどね……)」
幼馴染男「今日は帰るよ。君も家に帰って着替えるといい」
長姉「ええ、そうするわ」
幼馴染男「送って行きたいところだけど」
長姉「気にしないで、家までそう遠くもないから」
長姉「じゃあ、またね?」
幼馴染男「ああ、またね……」
427: ◆54DIlPdu2E:2015/05/02(土) 00:24:23.93:ER4ED++M0 (4/4)
※今回はここまで。次回更新は早くても5/6夜です。※
>>416 >>422 他、読者の皆さん? ありがとう
諸事情でちょっとペースは落ちる予定ですが、完結までよろしくお願いしますです
※今回はここまで。次回更新は早くても5/6夜です。※
>>416 >>422 他、読者の皆さん? ありがとう
諸事情でちょっとペースは落ちる予定ですが、完結までよろしくお願いしますです
428:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/05/02(土) 02:52:37.22:4aksVEmAO (1/1)
乙
テンパると奇行に走るあたり、長姉は次兄に似たとこあるよな
乙
テンパると奇行に走るあたり、長姉は次兄に似たとこあるよな
429: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 18:27:11.28:TPwHPt0/0 (1/22)
商人の店。
客「それじゃ、これ蝋燭の代金ね」
末妹「ありがとうございます」
客「あと、薪はまだないのかい?」
末妹「あ、すみません、薪は10月からなんですよ」
客「だろうね、いやいいんだ、気にしないで。もしかしたら…と聞いてみたが、来週また来るよ、じゃあね」
次姉「そっちの棚は並べ終わった? 次兄」
次兄「……なぜか俺も手伝わされる羽目に」ドウシテコウナッタ
次兄「しかし、薪なんてうちで扱っていたんだな」
末妹「季節商品ね、10月から3月までしか置いてないの」
末妹「町はずれにある…ほら、お父さんのお友達の材木屋さん、知っているでしょ?」
末妹「そこから切れ端とか枝とか、不要になった部分を買い取って、重さで揃えた束にしたものを…」
末妹「薪として、買い取り価格で売っているの」
次兄「…それなら儲けがないじゃん」
次姉「湿気らないように保管して束にする手間を考えたら、儲けがないどころか損だけどね」
末妹「でも、この町は近くに薪を拾えるような森や山がないから」
末妹「まとめ買いを切らした時の間に合わせに丁度いいって、喜ばれているのよ」
次姉「薪をメインで買いに来る人はうちに来ないから、おまけのような物よ、サービスの一環」
次姉「材木屋さんも自分の所で薪として売るより手間は省けるし、入ってくるお金は同じだし、で助かるもんね」
次姉「しかし今から期待しているお客様がいるなら、少し店頭に置いてみようかしら? 今週中に10月になるのだし」
商人の店。
客「それじゃ、これ蝋燭の代金ね」
末妹「ありがとうございます」
客「あと、薪はまだないのかい?」
末妹「あ、すみません、薪は10月からなんですよ」
客「だろうね、いやいいんだ、気にしないで。もしかしたら…と聞いてみたが、来週また来るよ、じゃあね」
次姉「そっちの棚は並べ終わった? 次兄」
次兄「……なぜか俺も手伝わされる羽目に」ドウシテコウナッタ
次兄「しかし、薪なんてうちで扱っていたんだな」
末妹「季節商品ね、10月から3月までしか置いてないの」
末妹「町はずれにある…ほら、お父さんのお友達の材木屋さん、知っているでしょ?」
末妹「そこから切れ端とか枝とか、不要になった部分を買い取って、重さで揃えた束にしたものを…」
末妹「薪として、買い取り価格で売っているの」
次兄「…それなら儲けがないじゃん」
次姉「湿気らないように保管して束にする手間を考えたら、儲けがないどころか損だけどね」
末妹「でも、この町は近くに薪を拾えるような森や山がないから」
末妹「まとめ買いを切らした時の間に合わせに丁度いいって、喜ばれているのよ」
次姉「薪をメインで買いに来る人はうちに来ないから、おまけのような物よ、サービスの一環」
次姉「材木屋さんも自分の所で薪として売るより手間は省けるし、入ってくるお金は同じだし、で助かるもんね」
次姉「しかし今から期待しているお客様がいるなら、少し店頭に置いてみようかしら? 今週中に10月になるのだし」
430: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 18:29:10.47:TPwHPt0/0 (2/22)
次姉「……というわけで倉庫から運ぶわよ、次兄、手伝いなさい」
次兄「うええええ!?」
次姉「……」ギロリ
次兄「手伝います手伝います、お姉さまあ……」トホホ
次姉「末妹、戻るまでこっち頼むわね」
末妹「はい」
~
末妹「おつりです、お確かめください」
女性客「末妹ちゃん、少し見ない間になんだか大人っぽくなったわねえ」
末妹「そ、そうでしょうか?」
~
末妹「遅いな……お兄ちゃんが慣れない力仕事で怪我していないといいけど」
呼び鈴:チリンチリン……
末妹「いらっしゃいま……」
親戚2「おや、末妹じゃないか。お前一人かい?」
親戚3「商人さんはいるかな?」
末妹「…!」
親戚2「5年ぶりだ。覚えているか?」
末妹「……親戚2さんと、親戚3さんですね。お久しぶりです」
次姉「……というわけで倉庫から運ぶわよ、次兄、手伝いなさい」
次兄「うええええ!?」
次姉「……」ギロリ
次兄「手伝います手伝います、お姉さまあ……」トホホ
次姉「末妹、戻るまでこっち頼むわね」
末妹「はい」
~
末妹「おつりです、お確かめください」
女性客「末妹ちゃん、少し見ない間になんだか大人っぽくなったわねえ」
末妹「そ、そうでしょうか?」
~
末妹「遅いな……お兄ちゃんが慣れない力仕事で怪我していないといいけど」
呼び鈴:チリンチリン……
末妹「いらっしゃいま……」
親戚2「おや、末妹じゃないか。お前一人かい?」
親戚3「商人さんはいるかな?」
末妹「…!」
親戚2「5年ぶりだ。覚えているか?」
末妹「……親戚2さんと、親戚3さんですね。お久しぶりです」
431: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 18:33:17.31:TPwHPt0/0 (3/22)
末妹「父は兄…長兄と出掛けています」
親戚2「それでお前ひとりで店番か。不用心だな」
末妹「次姉と次兄も一緒です、今は物を取りに倉庫へ」
親戚2「おお、次姉がいるなら安心だ。ま、弟妹を子守しながらでは大変だがな」
親戚3「姉さんに迷惑をかけるんじゃないぞ?」
末妹「はい」
親戚3「……店番ならもっと愛想よくしなさい、そんな硬い表情では客が逃げるぞ」
親戚2「全く、甘やかされた末っ子はこれだから……」ブツブツ
末妹「……」
親戚2「ところで、末妹、お前はいくつになったっけ?」
末妹「今月、14になりました」
親戚2「相変わらずとてもそうは見えんが、言われてみればあれから14年か、もうすぐ命日だな、親戚3」
親戚3「ああ、彼女が出産で亡くなってからな」
末妹(……お母様)ギュッ
親戚2「……」
親戚2「下唇を噛んで眉間に皺を寄せて、人前でそんな可愛げのない表情をするのは感心しないね」
親戚2「ましてや客商売、お前の父さんはそんなことも教えてくれないのか?」
親戚3「全くだ。お前の母親も姉達も、もっと幼い頃から厳しい寄宿学校で勉強も礼儀も教え込まれていたのだぞ」
親戚2「商人さんは礼儀正しい商売人と評判らしいが、手元に置いた子供の躾は行き届かなかったようだ」
親戚3「……それでも顔立ちはますます母親似になって来た、余計面白くない」ボソ
末妹「父は兄…長兄と出掛けています」
親戚2「それでお前ひとりで店番か。不用心だな」
末妹「次姉と次兄も一緒です、今は物を取りに倉庫へ」
親戚2「おお、次姉がいるなら安心だ。ま、弟妹を子守しながらでは大変だがな」
親戚3「姉さんに迷惑をかけるんじゃないぞ?」
末妹「はい」
親戚3「……店番ならもっと愛想よくしなさい、そんな硬い表情では客が逃げるぞ」
親戚2「全く、甘やかされた末っ子はこれだから……」ブツブツ
末妹「……」
親戚2「ところで、末妹、お前はいくつになったっけ?」
末妹「今月、14になりました」
親戚2「相変わらずとてもそうは見えんが、言われてみればあれから14年か、もうすぐ命日だな、親戚3」
親戚3「ああ、彼女が出産で亡くなってからな」
末妹(……お母様)ギュッ
親戚2「……」
親戚2「下唇を噛んで眉間に皺を寄せて、人前でそんな可愛げのない表情をするのは感心しないね」
親戚2「ましてや客商売、お前の父さんはそんなことも教えてくれないのか?」
親戚3「全くだ。お前の母親も姉達も、もっと幼い頃から厳しい寄宿学校で勉強も礼儀も教え込まれていたのだぞ」
親戚2「商人さんは礼儀正しい商売人と評判らしいが、手元に置いた子供の躾は行き届かなかったようだ」
親戚3「……それでも顔立ちはますます母親似になって来た、余計面白くない」ボソ
432: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 18:40:39.89:TPwHPt0/0 (4/22)
親戚2「ここに来る前、カフェで町の噂を聞いてな」
親戚2「なんでも末妹がどこかへ嫁に出されてまたすぐ戻って来た、とか」
親戚3「何かの間違いだと言う人も多かったが、噂が出るくらいだ、何事もない筈ないだろう?」
末妹「……(だめ、話せない)」
末妹「か、勝手に、父に勝手にその話をしては駄目だと、言われています……」
親戚3「ふん、『赤の他人』には駄目だろうな、だが我々は親戚だ、お前の母親の従兄だよ」
親戚2「それに……知っているとは思うが、商人さんが困っていた時に助けてあげた事もある。いわば恩人だ」
末妹「ごめんなさい、それでも……お話できません」
親戚3「つまり、とても人に話せない真相ってわけか」
親戚2「その歳で、そんな幼いなりをして、知らない所では何をやっているやら……」フフン
末妹「……」
親戚3「……泣きもしないか。5年前と同じだな」
末妹「!」
親戚2「我々だって、9つにもなろうという子供が、本当に『あの話』を少しも理解できないとは思わないさ」
親戚3「あの場で泣き出せば、少しはご機嫌でも取ってやろうと思っていたのに、本当に可愛げのない」
末妹「……」グッ
(野獣「『仕方ない』などと自分を納得させる理由はどこにもないのだぞ」)
末妹(……野獣様、私はこの人達の前では泣きません、頑張ります……)
親戚3「強情だな、はっきり言ってやろうか、お前は」
次姉「待たせたわね末妹! 次兄が手間取っちゃって!」ザッ
次兄(姉さん俺には口を出すなって)ヌッ
親戚2「ここに来る前、カフェで町の噂を聞いてな」
親戚2「なんでも末妹がどこかへ嫁に出されてまたすぐ戻って来た、とか」
親戚3「何かの間違いだと言う人も多かったが、噂が出るくらいだ、何事もない筈ないだろう?」
末妹「……(だめ、話せない)」
末妹「か、勝手に、父に勝手にその話をしては駄目だと、言われています……」
親戚3「ふん、『赤の他人』には駄目だろうな、だが我々は親戚だ、お前の母親の従兄だよ」
親戚2「それに……知っているとは思うが、商人さんが困っていた時に助けてあげた事もある。いわば恩人だ」
末妹「ごめんなさい、それでも……お話できません」
親戚3「つまり、とても人に話せない真相ってわけか」
親戚2「その歳で、そんな幼いなりをして、知らない所では何をやっているやら……」フフン
末妹「……」
親戚3「……泣きもしないか。5年前と同じだな」
末妹「!」
親戚2「我々だって、9つにもなろうという子供が、本当に『あの話』を少しも理解できないとは思わないさ」
親戚3「あの場で泣き出せば、少しはご機嫌でも取ってやろうと思っていたのに、本当に可愛げのない」
末妹「……」グッ
(野獣「『仕方ない』などと自分を納得させる理由はどこにもないのだぞ」)
末妹(……野獣様、私はこの人達の前では泣きません、頑張ります……)
親戚3「強情だな、はっきり言ってやろうか、お前は」
次姉「待たせたわね末妹! 次兄が手間取っちゃって!」ザッ
次兄(姉さん俺には口を出すなって)ヌッ
433: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 18:45:10.58:TPwHPt0/0 (5/22)
親戚2&3「「おお、次姉」」ニパー
次兄(予想に違わず俺のことはガン無視です)
次姉「あらまあ、親戚2と親戚3のおじさま達じゃありませんか、ご無沙汰しておりますわ」ニッコリ
親戚3「すっかり美しくなって、それに声が従妹ちゃん(=商人の妻)そっくりじゃないか」ホクホク
次兄(この声は姉さんの営業用ボイスだが、それはさて置き『従妹ちゃん』呼びですと?)
次姉「お二人には私がお相手を努めさせていただきますわ、次兄、末妹を連れて奥へ」
次姉(早くしなさい)ギラリ
次兄(は、はいっ)コクコク
次兄「行こう、末妹。あとは姉さんに任せて」
次兄「……遅くなってごめん」ボソ
末妹「お兄ちゃ……」ジワ
次兄「もう少し我慢」
末妹「う、うん」ササッ
次姉「……さて、こちら(店舗)からおいでになったと言う事は、何か品物を買っていただけるのでしょうか?」
親戚3「え? あ、なんだ、お小遣いか?? それなら最初から渡すつもりだったよ、いくら欲しいの?」
親戚2&3「「おお、次姉」」ニパー
次兄(予想に違わず俺のことはガン無視です)
次姉「あらまあ、親戚2と親戚3のおじさま達じゃありませんか、ご無沙汰しておりますわ」ニッコリ
親戚3「すっかり美しくなって、それに声が従妹ちゃん(=商人の妻)そっくりじゃないか」ホクホク
次兄(この声は姉さんの営業用ボイスだが、それはさて置き『従妹ちゃん』呼びですと?)
次姉「お二人には私がお相手を努めさせていただきますわ、次兄、末妹を連れて奥へ」
次姉(早くしなさい)ギラリ
次兄(は、はいっ)コクコク
次兄「行こう、末妹。あとは姉さんに任せて」
次兄「……遅くなってごめん」ボソ
末妹「お兄ちゃ……」ジワ
次兄「もう少し我慢」
末妹「う、うん」ササッ
次姉「……さて、こちら(店舗)からおいでになったと言う事は、何か品物を買っていただけるのでしょうか?」
親戚3「え? あ、なんだ、お小遣いか?? それなら最初から渡すつもりだったよ、いくら欲しいの?」
434: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 18:52:10.02:TPwHPt0/0 (6/22)
次姉「あら、買ってくださらないのですか? 置いてある品物はお気に召しませんこと?」
親戚2「いやそうじゃなくてね、店の客として来たんじゃない、商人さんの具合が悪いとかで、お見舞いにね」
親戚3「しかしもう元気になられたようだな、忙しくてなかなか日程が取れなかったんだよ、悪かったねえ」
次姉「……三番街のカフェに入られた時、その少し前に父と兄が立ち寄った、つまり外出中だと知ったそうですね」
親戚3「え?」
次姉「そこでこの5年間で、末妹がうちの看板娘としてちょっと名が知れたことも」
次姉「突然姿が見えなくなったと思ったら一週間前に戻ってきたこと、一部では嫁いだとの噂もあること」
次姉(出どころは私と姉さんで店番をした時の世間話だろうけど)
次姉「それから、寄宿学校から帰ってきた私と姉がここ3、4年ほど遊び歩いていた話と」
次姉「末妹がいなくなった時から、少しはまじめにやっているようだ、って話も」
次姉「お聞きになったそうですね、あのカフェはひときわ常連で賑わうから、この町の噂話が絶えないのですよ」
親戚2「……親戚1に会ったのか」
…………
少し前、住居側の玄関先。
親戚1「……では、親戚2と親戚3はまだ来ていないのですね」
家政婦「ええ、お見えになっておりません」
親戚1「おかしいなあ、先に行っているから後は商人さんの家で、と話していたのに……」
次姉「あら、買ってくださらないのですか? 置いてある品物はお気に召しませんこと?」
親戚2「いやそうじゃなくてね、店の客として来たんじゃない、商人さんの具合が悪いとかで、お見舞いにね」
親戚3「しかしもう元気になられたようだな、忙しくてなかなか日程が取れなかったんだよ、悪かったねえ」
次姉「……三番街のカフェに入られた時、その少し前に父と兄が立ち寄った、つまり外出中だと知ったそうですね」
親戚3「え?」
次姉「そこでこの5年間で、末妹がうちの看板娘としてちょっと名が知れたことも」
次姉「突然姿が見えなくなったと思ったら一週間前に戻ってきたこと、一部では嫁いだとの噂もあること」
次姉(出どころは私と姉さんで店番をした時の世間話だろうけど)
次姉「それから、寄宿学校から帰ってきた私と姉がここ3、4年ほど遊び歩いていた話と」
次姉「末妹がいなくなった時から、少しはまじめにやっているようだ、って話も」
次姉「お聞きになったそうですね、あのカフェはひときわ常連で賑わうから、この町の噂話が絶えないのですよ」
親戚2「……親戚1に会ったのか」
…………
少し前、住居側の玄関先。
親戚1「……では、親戚2と親戚3はまだ来ていないのですね」
家政婦「ええ、お見えになっておりません」
親戚1「おかしいなあ、先に行っているから後は商人さんの家で、と話していたのに……」
435: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 18:58:56.66:TPwHPt0/0 (7/22)
次姉「あら、どなたかと思ったら親戚1のおじさま」庭ヲヨコギリ中
次兄「あ、見覚えあるな。お母さんの従兄さん3人組で、いちばん影の薄い人だ」
次姉「声、声、音量!」ガスッ
次兄「薪の束で豪快にツッコミ入れないで……」イテエヨ
親戚1「次姉と……まさか、次兄なのか?」
次兄「はい、他ならぬ次兄ですけど」
親戚1「(体型は相変わらずだが)ずいぶん顔色もよくなって、見違えるほど健康そうだなあ」
親戚1「我々が来る時は、いつも寝込んでいたのにな」
親戚1「ところで、親戚2と親戚3を近くで見かけなかったかい?」
次兄(なんとなく感じ悪いほうの二人か)
次姉「いいえ、お見かけしておりませんわ、ご一緒でしたの?」
親戚1「うん、商人さんが病気だと聞いたのが何日か前でね」
親戚1「日程の調整がうまく行かず、ようやく今日、3人揃ってこの町に来れたのだが」
親戚1「ここへ来る前に立ち寄った三番街のカフェで色々と…この家の最近の様子を…聞いてね」
次姉「……この家の様子?」
次姉「あら、どなたかと思ったら親戚1のおじさま」庭ヲヨコギリ中
次兄「あ、見覚えあるな。お母さんの従兄さん3人組で、いちばん影の薄い人だ」
次姉「声、声、音量!」ガスッ
次兄「薪の束で豪快にツッコミ入れないで……」イテエヨ
親戚1「次姉と……まさか、次兄なのか?」
次兄「はい、他ならぬ次兄ですけど」
親戚1「(体型は相変わらずだが)ずいぶん顔色もよくなって、見違えるほど健康そうだなあ」
親戚1「我々が来る時は、いつも寝込んでいたのにな」
親戚1「ところで、親戚2と親戚3を近くで見かけなかったかい?」
次兄(なんとなく感じ悪いほうの二人か)
次姉「いいえ、お見かけしておりませんわ、ご一緒でしたの?」
親戚1「うん、商人さんが病気だと聞いたのが何日か前でね」
親戚1「日程の調整がうまく行かず、ようやく今日、3人揃ってこの町に来れたのだが」
親戚1「ここへ来る前に立ち寄った三番街のカフェで色々と…この家の最近の様子を…聞いてね」
次姉「……この家の様子?」
436: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 19:10:32.61:TPwHPt0/0 (8/22)
親戚1「カフェを出るなり私一人が手土産の買い物を任されてね、あとの二人は先に行っているから、と」
次姉「カフェで何がありましたの? どんな話を聞きましたの? 手短に説明お願いしますわ、おじさま」ズンズンズンズン
親戚1「……ちょ、わかった、話すよ」タジタジ
…………
次姉「……5年前あなた方がこの家…この町に来た頃は」
次姉「末妹はただの普通の小さな子供、私と長姉はこの町ではちょっと評判の『名門』女学校での優等生」
次姉「それがあなた方の知らない5年の間に評価は一変」
次姉「町の人には、派手に着飾って遊び歩く私や長姉より、真面目で勤勉な末妹のほうがずっと評判がいい」
次姉「あなた達には面白くないでしょうね、兄や姉、私を、ことさら可愛がってくださいましたもの」
親戚3「次姉は噂を否定しないのかい、お前達がここ何年も、店も手伝わず遊び歩いていたなんて」
次姉「……ろくに花嫁修業もしないくせに、名門女学校とやらの卒業生、店の名前と父の経済力、これだけを武器に」
次姉「財産持ちで家柄のよい結婚相手を求めて、あらゆるパーティーに出ていたのは事実ですもの」
次姉「ま、相手が見つからなかったから、今もこうして家にいるのですけど……」
親戚2「け、結婚相手なら私達が探してあげよう。資産家の知人ならたくさんいるんだ、なあ?」
親戚3「あ、ああ、王都にいる貴族の子息達と知り合うチャンスも作ってあげるよ?」
次姉「せっかくのお申し出ですけど」
次姉「姉はどうかわかりませんが、私は今のところ商売の仕事が楽しくてたまりませんから」
親戚1「カフェを出るなり私一人が手土産の買い物を任されてね、あとの二人は先に行っているから、と」
次姉「カフェで何がありましたの? どんな話を聞きましたの? 手短に説明お願いしますわ、おじさま」ズンズンズンズン
親戚1「……ちょ、わかった、話すよ」タジタジ
…………
次姉「……5年前あなた方がこの家…この町に来た頃は」
次姉「末妹はただの普通の小さな子供、私と長姉はこの町ではちょっと評判の『名門』女学校での優等生」
次姉「それがあなた方の知らない5年の間に評価は一変」
次姉「町の人には、派手に着飾って遊び歩く私や長姉より、真面目で勤勉な末妹のほうがずっと評判がいい」
次姉「あなた達には面白くないでしょうね、兄や姉、私を、ことさら可愛がってくださいましたもの」
親戚3「次姉は噂を否定しないのかい、お前達がここ何年も、店も手伝わず遊び歩いていたなんて」
次姉「……ろくに花嫁修業もしないくせに、名門女学校とやらの卒業生、店の名前と父の経済力、これだけを武器に」
次姉「財産持ちで家柄のよい結婚相手を求めて、あらゆるパーティーに出ていたのは事実ですもの」
次姉「ま、相手が見つからなかったから、今もこうして家にいるのですけど……」
親戚2「け、結婚相手なら私達が探してあげよう。資産家の知人ならたくさんいるんだ、なあ?」
親戚3「あ、ああ、王都にいる貴族の子息達と知り合うチャンスも作ってあげるよ?」
次姉「せっかくのお申し出ですけど」
次姉「姉はどうかわかりませんが、私は今のところ商売の仕事が楽しくてたまりませんから」
437: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 19:21:37.76:TPwHPt0/0 (9/22)
次姉「……ところで、当初の目的は果たせませんでしたが」
次姉「上流階級の方々とわずかばかりの繋がりが出来たおかげで」
次姉「色々と余計な話も耳に入って来ましたのよ、色々とね」
親戚3「余計な話……?」
次姉「母が生まれ育った、つまりあなた方が今も住んでおられる西端都市では」
次姉「母は若い頃、才色兼備と呼ばれ、同年代の殿方の人気者だったそうで」
次姉「年頃になればあちこちの……上流階級の複数の男性からも求婚されたと聞きます」
次姉「しかし母には幼い頃から兄妹のように育った従兄達がいて、彼等のガードはたいそう堅く」
次姉「しかもそのうち二人は兄や従兄としてどころか、異性として一方的に彼女に熱を上げていたとかなんとか」
親戚2&3「「そ、そ、それは」」アワワ
次姉「それ自体は一向に構いませんわ、従兄妹婚だって法的に問題ありませんし、青春の思い出は恥じることでもありません」
次姉「ですが、あなた方の従妹…私達の母は19になって間もなく」
次姉「南の港町では老舗と呼ばれる雑貨店の、跡取り息子の元へ嫁いでしまった」
次姉「ひょんなことで知り合って半年後、確かに短い期間かもしれませんが、地道に交際を続けていた二人」
次姉「とは言えあなた方にしてみれば寝耳に水、どこぞの馬の骨に掻っ攫われた想いでしょう」
次姉「そう思うのも人間の感情です、それが悪いとは誰も言いません」
次姉「……問題は、そのあと」
親戚3「な、なんだね?」
次姉「ここから先は、私達の父から聞いた話です」
次姉「……ところで、当初の目的は果たせませんでしたが」
次姉「上流階級の方々とわずかばかりの繋がりが出来たおかげで」
次姉「色々と余計な話も耳に入って来ましたのよ、色々とね」
親戚3「余計な話……?」
次姉「母が生まれ育った、つまりあなた方が今も住んでおられる西端都市では」
次姉「母は若い頃、才色兼備と呼ばれ、同年代の殿方の人気者だったそうで」
次姉「年頃になればあちこちの……上流階級の複数の男性からも求婚されたと聞きます」
次姉「しかし母には幼い頃から兄妹のように育った従兄達がいて、彼等のガードはたいそう堅く」
次姉「しかもそのうち二人は兄や従兄としてどころか、異性として一方的に彼女に熱を上げていたとかなんとか」
親戚2&3「「そ、そ、それは」」アワワ
次姉「それ自体は一向に構いませんわ、従兄妹婚だって法的に問題ありませんし、青春の思い出は恥じることでもありません」
次姉「ですが、あなた方の従妹…私達の母は19になって間もなく」
次姉「南の港町では老舗と呼ばれる雑貨店の、跡取り息子の元へ嫁いでしまった」
次姉「ひょんなことで知り合って半年後、確かに短い期間かもしれませんが、地道に交際を続けていた二人」
次姉「とは言えあなた方にしてみれば寝耳に水、どこぞの馬の骨に掻っ攫われた想いでしょう」
次姉「そう思うのも人間の感情です、それが悪いとは誰も言いません」
次姉「……問題は、そのあと」
親戚3「な、なんだね?」
次姉「ここから先は、私達の父から聞いた話です」
438: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 19:32:18.05:TPwHPt0/0 (10/22)
次姉「父は祖父母が年老いてからの子、結婚して数年間で祖父母は相次いで亡くなり、店を継ぐことに」
次姉「地方都市ながら、貿易で栄える町でそれなりの歴史を持つ店」
次姉「当時二人はまだ二十代、乳飲み子含む幼い3人の子を抱え、苦労はあって当然でしょう」
次姉「そんな矢先」
次姉「何代も良い関係を保ってきたはずの西端都市の仕入れ先が、先代が亡くなると同時に一斉に手を引いてしまった」
次姉「勿論、全てではなかったとは言え、南の港町ではうちの店でしか手に入らない品物が店頭から消えて」
次姉「おまけに、それに纏わるそれこそ根も葉もない噂まで飛び交い、日ごとに経営は悪化」
次姉「母とばあやも、子供達の世話に追われながらも内職で家計を支え」
次姉「それでも僅かに残ったお得意さんのため、父は何とか自力で店を立て直そうとするも、過労で体を壊し」
次姉「……そこへ噂を聞いて駆け付けたのがあなた達二人と親戚1さん」
次姉「各自の経済力に応じ、具体的にはあなた達が四割ずつ、親戚1さんは二割」
次姉「無担保無期限で、当面の生活費には充分な金額を貸してくださいました」
次姉「その上、件の仕入れ先と親交のあったあなた方は彼らを説得して回り、その甲斐あって取引も元通り復活」
次姉「あなた方三人には、感謝してもし切れない……と、ここまでが父の話」
親戚2「そ、そうだよ。商人さんは借金をすぐに返してくれたし、こちらには最初から恩に着せるつもりもなかったが……」
親戚3「大事な従妹の子供である、可愛いお前達を見捨てておけなかったんだよ」
次姉「で、ここからは、私が某公爵夫人主催のパーティーで聞いた話」
親戚3「」
次姉「父は祖父母が年老いてからの子、結婚して数年間で祖父母は相次いで亡くなり、店を継ぐことに」
次姉「地方都市ながら、貿易で栄える町でそれなりの歴史を持つ店」
次姉「当時二人はまだ二十代、乳飲み子含む幼い3人の子を抱え、苦労はあって当然でしょう」
次姉「そんな矢先」
次姉「何代も良い関係を保ってきたはずの西端都市の仕入れ先が、先代が亡くなると同時に一斉に手を引いてしまった」
次姉「勿論、全てではなかったとは言え、南の港町ではうちの店でしか手に入らない品物が店頭から消えて」
次姉「おまけに、それに纏わるそれこそ根も葉もない噂まで飛び交い、日ごとに経営は悪化」
次姉「母とばあやも、子供達の世話に追われながらも内職で家計を支え」
次姉「それでも僅かに残ったお得意さんのため、父は何とか自力で店を立て直そうとするも、過労で体を壊し」
次姉「……そこへ噂を聞いて駆け付けたのがあなた達二人と親戚1さん」
次姉「各自の経済力に応じ、具体的にはあなた達が四割ずつ、親戚1さんは二割」
次姉「無担保無期限で、当面の生活費には充分な金額を貸してくださいました」
次姉「その上、件の仕入れ先と親交のあったあなた方は彼らを説得して回り、その甲斐あって取引も元通り復活」
次姉「あなた方三人には、感謝してもし切れない……と、ここまでが父の話」
親戚2「そ、そうだよ。商人さんは借金をすぐに返してくれたし、こちらには最初から恩に着せるつもりもなかったが……」
親戚3「大事な従妹の子供である、可愛いお前達を見捨てておけなかったんだよ」
次姉「で、ここからは、私が某公爵夫人主催のパーティーで聞いた話」
親戚3「」
439: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 19:39:53.28:TPwHPt0/0 (11/22)
次姉「父が店を継いだ途端、取引を切った業者で一番影響力のあった経営者は、あなた方と旧知の仲」
次姉「百年以上の関係をひっくり返したと思えば、あなた方の説得であっさりと元鞘」
次姉「誰かさんの台本通りに事が運んだ……そう考える人がいたっておかしくないでしょう?」
親戚2「ちょっ、台本だなんて」
次姉「先代は高齢とは言え突然亡くなったのです、ろくに引き継ぐための整理もできていないまま」
次姉「ですから、もともと店の経営が危うくなる要素はありました」
次姉「『誰かさん』が具体的にどのような手を使ったかは推測の域を出ませんし」
次姉「何よりパーティーの席での噂話です、どこまで根拠があるかは確かめようもありません」
次姉「おじさま達がどのような感想を持つかもおじさま達の自由です」
親戚3「なんだ、そんないいかげんな話か……」ホッ
親戚2「やはり次姉は賢い、噂話を頭から信じ込むような愚かな娘である筈がない」ウムウム
次姉「そして最後に、ここからは、先程そこのドアの背後で私が耳にした話」
親戚2&3「「」」
次姉「今度は説明するまでもありませんね」
次姉「パーティーで聞いた噂の数々より、正直、今日のこちらの方が私には衝撃でしたわ」
次姉「父が店を継いだ途端、取引を切った業者で一番影響力のあった経営者は、あなた方と旧知の仲」
次姉「百年以上の関係をひっくり返したと思えば、あなた方の説得であっさりと元鞘」
次姉「誰かさんの台本通りに事が運んだ……そう考える人がいたっておかしくないでしょう?」
親戚2「ちょっ、台本だなんて」
次姉「先代は高齢とは言え突然亡くなったのです、ろくに引き継ぐための整理もできていないまま」
次姉「ですから、もともと店の経営が危うくなる要素はありました」
次姉「『誰かさん』が具体的にどのような手を使ったかは推測の域を出ませんし」
次姉「何よりパーティーの席での噂話です、どこまで根拠があるかは確かめようもありません」
次姉「おじさま達がどのような感想を持つかもおじさま達の自由です」
親戚3「なんだ、そんないいかげんな話か……」ホッ
親戚2「やはり次姉は賢い、噂話を頭から信じ込むような愚かな娘である筈がない」ウムウム
次姉「そして最後に、ここからは、先程そこのドアの背後で私が耳にした話」
親戚2&3「「」」
次姉「今度は説明するまでもありませんね」
次姉「パーティーで聞いた噂の数々より、正直、今日のこちらの方が私には衝撃でしたわ」
440: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 19:47:00.70:TPwHPt0/0 (12/22)
次姉「とりあえず我が家の名誉のために……末妹が嫁に行った云々の真相ですが」
次姉「こちらにも色々と事情があるのです、家庭の事情というものが」
次姉「あの子の言うとおり、家長である父の許可も得ずに詳細をお話しするわけにはいきません」
次姉「ただひとつ確かなことは」
次姉「おじさま達が期待するような下品で下種で下劣で下卑た裏事情は全くございません、残念ながら」
次姉「そんな噂を立てさせてしまったのは、あくまでも保護者である私達の過ち、お恥ずかしい限りです」
次姉「……で、あの子に『5年前』と仰いましたね、一体なんの話ですの?」
親戚3「さ、さあ、な、な、何の話かな、お前の聞き間違いじゃないのかな……」ハハハ
次姉「……」
次姉「この薪、うちの売り物ですけど」ドン
親戚2「は?」
次姉「見てくださいな。薪と呼ぶには太過ぎませんこと?」
親戚3「??」
次姉「一般家庭のかまどには、ちょっと入りにくいでしょう」
次姉「買ってくださったお客様に手間をかけさせては申し訳ありませんから……」スッ……
親戚2「な、何を」
次姉の右拳:ズダーン!!
親戚2&3「「」」
薪:パカーン
次姉「……まあ、きれいに四つに割れましたわ。この調子で、太い薪を全て割ってしまいましょう♪」ゴクジョウノエガオ
次姉「とりあえず我が家の名誉のために……末妹が嫁に行った云々の真相ですが」
次姉「こちらにも色々と事情があるのです、家庭の事情というものが」
次姉「あの子の言うとおり、家長である父の許可も得ずに詳細をお話しするわけにはいきません」
次姉「ただひとつ確かなことは」
次姉「おじさま達が期待するような下品で下種で下劣で下卑た裏事情は全くございません、残念ながら」
次姉「そんな噂を立てさせてしまったのは、あくまでも保護者である私達の過ち、お恥ずかしい限りです」
次姉「……で、あの子に『5年前』と仰いましたね、一体なんの話ですの?」
親戚3「さ、さあ、な、な、何の話かな、お前の聞き間違いじゃないのかな……」ハハハ
次姉「……」
次姉「この薪、うちの売り物ですけど」ドン
親戚2「は?」
次姉「見てくださいな。薪と呼ぶには太過ぎませんこと?」
親戚3「??」
次姉「一般家庭のかまどには、ちょっと入りにくいでしょう」
次姉「買ってくださったお客様に手間をかけさせては申し訳ありませんから……」スッ……
親戚2「な、何を」
次姉の右拳:ズダーン!!
親戚2&3「「」」
薪:パカーン
次姉「……まあ、きれいに四つに割れましたわ。この調子で、太い薪を全て割ってしまいましょう♪」ゴクジョウノエガオ
441: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 19:53:18.96:TPwHPt0/0 (13/22)
親戚3「わ」
親戚3「わかった、わかったから! 全て話す! 白状する! 懺悔する! そして……」
親戚2「謝るから、我々が悪かった、許してくれ!!!!」
次姉(うまく行った。この薪だけ、あらかじめ細工をしておいたのよね)
親戚3「……子供の頃から仲の良かった従妹が、お前達の父親と結婚したのは、確かに面白くはなかった」
親戚2「親戚1だけは、彼女が選んだ人ならばと祝福していたが」
親戚2「我々二人は子供じみた嫉妬を捨てられず……」
親戚3「しかしやがてお前達という子も生まれ、我々もそれぞれ結婚して家庭を持った」
親戚3「こちらも大人になって普通の親戚付き合いをしていこうと決心した頃だ、商人さんの父上…先代さんが亡くなった」
親戚3「西端都市の商売人の間でも、先代さんの急逝は話題になってな」
親戚2「この店と取引のある我々の知り合い…学生時代の友人だが、酒の席で漏らした」
親戚2「『南の港町の老舗雑貨屋、跡継ぎは少しばかり小心者の坊ちゃん気質と聞くが』」
親戚2「『今後もあの店と取引を続けて大丈夫だろうか、跡継ぎと親戚関係になった君達に相談したい』と」
親戚3「我々は酒に酔って悪乗りを……いや、酒のせいにしては駄目だな、とにかく彼にこう言った」
親戚3「『商人さんはああ見えて女好き、浮気をしては従妹を泣かせていると聞く』」
親戚2「『もちろん従妹はそんなことをおくびにも出さないし、あくまで人伝の噂だ、しかし』」
親戚2「『しかし確かに彼女は結婚してから少しばかり痩せてしまった、これは間違いなく事実だ』…と」
次姉「……」
親戚2「……幼い年子3人抱えている母親は痩せても不思議じゃないのにな」
親戚3「わ」
親戚3「わかった、わかったから! 全て話す! 白状する! 懺悔する! そして……」
親戚2「謝るから、我々が悪かった、許してくれ!!!!」
次姉(うまく行った。この薪だけ、あらかじめ細工をしておいたのよね)
親戚3「……子供の頃から仲の良かった従妹が、お前達の父親と結婚したのは、確かに面白くはなかった」
親戚2「親戚1だけは、彼女が選んだ人ならばと祝福していたが」
親戚2「我々二人は子供じみた嫉妬を捨てられず……」
親戚3「しかしやがてお前達という子も生まれ、我々もそれぞれ結婚して家庭を持った」
親戚3「こちらも大人になって普通の親戚付き合いをしていこうと決心した頃だ、商人さんの父上…先代さんが亡くなった」
親戚3「西端都市の商売人の間でも、先代さんの急逝は話題になってな」
親戚2「この店と取引のある我々の知り合い…学生時代の友人だが、酒の席で漏らした」
親戚2「『南の港町の老舗雑貨屋、跡継ぎは少しばかり小心者の坊ちゃん気質と聞くが』」
親戚2「『今後もあの店と取引を続けて大丈夫だろうか、跡継ぎと親戚関係になった君達に相談したい』と」
親戚3「我々は酒に酔って悪乗りを……いや、酒のせいにしては駄目だな、とにかく彼にこう言った」
親戚3「『商人さんはああ見えて女好き、浮気をしては従妹を泣かせていると聞く』」
親戚2「『もちろん従妹はそんなことをおくびにも出さないし、あくまで人伝の噂だ、しかし』」
親戚2「『しかし確かに彼女は結婚してから少しばかり痩せてしまった、これは間違いなく事実だ』…と」
次姉「……」
親戚2「……幼い年子3人抱えている母親は痩せても不思議じゃないのにな」
442: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 20:00:55.53:TPwHPt0/0 (14/22)
親戚3「抑え込んだはずの嫉妬が根底にあったのは確かだけど」
親戚3「冗談のつもりだった、酒の席での悪ふざけ、軽い気持ちだった、なのに……」
親戚2「気がつけば本当に知人はこの店、商人さんとの取引をやめてしまっていた、他の仲の良い経営者数名と共に」
親戚2「商人さん一家は困るだろう、が、真っ先に我々に助けを求めてくるだろう、そう思っていた」
親戚3「しかし商人さんは誰も頼らず一人で頑張った挙句、とうとう倒れてしまい」
親戚2「このままでは従妹も子供達もどうなるかわからない、ようやく私達は援助を申し出た」
親戚3「親戚1は真相を知らないまま、援助に賛同してくれただけだ」
親戚3「知り合い達の説得には確かに時間も労力もかかったが」
親戚3「結局のところは、商人さんの地道な努力と実直な人柄が関係を回復させたのだ」
親戚2「最終的には、噂に流された自分達が悪かったと、彼等から商人さんのため謝罪の席を設けたくらいだ」
次姉「……それは初めて知りましたわ。父は、全てはあなた方のおかげとしか」
親戚3「そういう人なんだ、わかっている、我々が……敵うわけがない」
次姉「では次に、末妹とあなた方の間に何があったかと言う話……」
次姉「実は、5年前のことは親戚1さんから聞きました、時間がなかったので要点だけですが」
次姉「ご自分の口から出た言葉、5年前とは言え、覚えていらっしゃいますよね?」
親戚2&3「「う」」
次姉「私の口からはとても出せない酷い言葉ですから、ここでは繰り返しません」
親戚2&3「「……」」
親戚3「抑え込んだはずの嫉妬が根底にあったのは確かだけど」
親戚3「冗談のつもりだった、酒の席での悪ふざけ、軽い気持ちだった、なのに……」
親戚2「気がつけば本当に知人はこの店、商人さんとの取引をやめてしまっていた、他の仲の良い経営者数名と共に」
親戚2「商人さん一家は困るだろう、が、真っ先に我々に助けを求めてくるだろう、そう思っていた」
親戚3「しかし商人さんは誰も頼らず一人で頑張った挙句、とうとう倒れてしまい」
親戚2「このままでは従妹も子供達もどうなるかわからない、ようやく私達は援助を申し出た」
親戚3「親戚1は真相を知らないまま、援助に賛同してくれただけだ」
親戚3「知り合い達の説得には確かに時間も労力もかかったが」
親戚3「結局のところは、商人さんの地道な努力と実直な人柄が関係を回復させたのだ」
親戚2「最終的には、噂に流された自分達が悪かったと、彼等から商人さんのため謝罪の席を設けたくらいだ」
次姉「……それは初めて知りましたわ。父は、全てはあなた方のおかげとしか」
親戚3「そういう人なんだ、わかっている、我々が……敵うわけがない」
次姉「では次に、末妹とあなた方の間に何があったかと言う話……」
次姉「実は、5年前のことは親戚1さんから聞きました、時間がなかったので要点だけですが」
次姉「ご自分の口から出た言葉、5年前とは言え、覚えていらっしゃいますよね?」
親戚2&3「「う」」
次姉「私の口からはとても出せない酷い言葉ですから、ここでは繰り返しません」
親戚2&3「「……」」
443: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 20:07:13.70:TPwHPt0/0 (15/22)
親戚2「わ、我々にとって、長兄と長姉とお前は、従妹…お前達母親の思い出を共有できる血の繋がった存在だ」
親戚2「だから正直、下の二人よりずっと可愛かった、しかも幼くして親元を離れて、余計に目をかけてやりたかった」
親戚3「そして母親の記憶が強く残っている、それ故に悲しみが深いお前達が、あまりにも可哀想で」
親戚3「間違っていたかも、いや明らかに間違っていたが、お前達可愛さで出た言葉なんだよ、それは本当だ」
次姉「……人は間違いを犯します」
次姉「私もかつては父の愛情を独占されたという思い込みから、末妹に嫌味な態度を取っていました」
次姉「おじさま達の心の内を責める資格は私にはありません、実際に可愛がってくださった恩もあります」
次姉「が」
親戚2&3「「」」
次姉「心の内に留まらず、態度や言葉で表したのなら、別です」
次姉「人間として情けないとは思わないのですか、大の大人が親子ほど年の離れた、あんな子供に」
親戚3「……と、ところで次姉、声がさっきまでと違うのだが?」
次姉「こちらが私の地声ですのよ」
次姉「……あんな子供が、何年間誰にも、仲の良い次兄にも言わず」
次姉「末妹は私よりもずっと、家族から、周囲の人から愛され、だからもっと堂々としていればいいものを」
次姉「明るく振舞っていてもどことなく自分に自信なさげ、それが余計にイライラさせたけど、やっとわかった」
次姉「あの子はお母様の事で、ずっと『負い目』を感じていたのね」
親戚2&3「「……」」
親戚2「わ、我々にとって、長兄と長姉とお前は、従妹…お前達母親の思い出を共有できる血の繋がった存在だ」
親戚2「だから正直、下の二人よりずっと可愛かった、しかも幼くして親元を離れて、余計に目をかけてやりたかった」
親戚3「そして母親の記憶が強く残っている、それ故に悲しみが深いお前達が、あまりにも可哀想で」
親戚3「間違っていたかも、いや明らかに間違っていたが、お前達可愛さで出た言葉なんだよ、それは本当だ」
次姉「……人は間違いを犯します」
次姉「私もかつては父の愛情を独占されたという思い込みから、末妹に嫌味な態度を取っていました」
次姉「おじさま達の心の内を責める資格は私にはありません、実際に可愛がってくださった恩もあります」
次姉「が」
親戚2&3「「」」
次姉「心の内に留まらず、態度や言葉で表したのなら、別です」
次姉「人間として情けないとは思わないのですか、大の大人が親子ほど年の離れた、あんな子供に」
親戚3「……と、ところで次姉、声がさっきまでと違うのだが?」
次姉「こちらが私の地声ですのよ」
次姉「……あんな子供が、何年間誰にも、仲の良い次兄にも言わず」
次姉「末妹は私よりもずっと、家族から、周囲の人から愛され、だからもっと堂々としていればいいものを」
次姉「明るく振舞っていてもどことなく自分に自信なさげ、それが余計にイライラさせたけど、やっとわかった」
次姉「あの子はお母様の事で、ずっと『負い目』を感じていたのね」
親戚2&3「「……」」
444: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 20:14:39.22:TPwHPt0/0 (16/22)
次姉「私は、寄宿学校で辛いことがあっても常に姉が一緒」
次姉「お互い慰め合い時には八つ当たりし合い、そんな相手がいた」
次姉「あの子は一人で我慢し続けて、なのに家族の誰もそれに気付いてあげられず……」
次姉「そればかりか、私はあの子がいなければいいとさえ思っていたなんて……」
次姉「情けないったらありゃしない!!!!」ズドドドドドドドドド
細工していない薪:パカーンパカーンパカーンパカーン
親戚2&3「「 」」シロメ
次姉「……」ハァハァ……
次姉「……そう、人間ですから、あなた達が末妹を気に入らなくとも、愛せなくとも、それは仕方がないことです」
次姉「たとえ客観的には理不尽極まりない理由であっても」
次姉「ただあの子の、いえ、私達家族のいる場ではそれを表に出さないで欲しいのです」
次姉「一時的に取り繕えばいいだけ、おじさま達はいい大人なのです、それくらいできるでしょう?」
次姉「それともできないほどの愚か者なのですか、お母様の従兄のあなた方は!?」
親戚3「……本当に、本当に、すまなかった。人として最低だった」
親戚2「彼女がいなくなった悲しみ、商人さんへの嫉妬、お前達への同情、全てがごちゃ混ぜの」
親戚2「やり場のない気持ちの矛先を、何の落ち度もない……」
親戚2「わかってはいるんだ、何の落ち度もない末妹へ、ぶつけてしまった」
親戚3「謝って済むことではないが、私達は従妹にも顔向けできない事をしてしまった、恥ずかしい……」
親戚1「……次姉、私からも謝るよ」
次姉「親戚1おじさま」
次姉「私は、寄宿学校で辛いことがあっても常に姉が一緒」
次姉「お互い慰め合い時には八つ当たりし合い、そんな相手がいた」
次姉「あの子は一人で我慢し続けて、なのに家族の誰もそれに気付いてあげられず……」
次姉「そればかりか、私はあの子がいなければいいとさえ思っていたなんて……」
次姉「情けないったらありゃしない!!!!」ズドドドドドドドドド
細工していない薪:パカーンパカーンパカーンパカーン
親戚2&3「「 」」シロメ
次姉「……」ハァハァ……
次姉「……そう、人間ですから、あなた達が末妹を気に入らなくとも、愛せなくとも、それは仕方がないことです」
次姉「たとえ客観的には理不尽極まりない理由であっても」
次姉「ただあの子の、いえ、私達家族のいる場ではそれを表に出さないで欲しいのです」
次姉「一時的に取り繕えばいいだけ、おじさま達はいい大人なのです、それくらいできるでしょう?」
次姉「それともできないほどの愚か者なのですか、お母様の従兄のあなた方は!?」
親戚3「……本当に、本当に、すまなかった。人として最低だった」
親戚2「彼女がいなくなった悲しみ、商人さんへの嫉妬、お前達への同情、全てがごちゃ混ぜの」
親戚2「やり場のない気持ちの矛先を、何の落ち度もない……」
親戚2「わかってはいるんだ、何の落ち度もない末妹へ、ぶつけてしまった」
親戚3「謝って済むことではないが、私達は従妹にも顔向けできない事をしてしまった、恥ずかしい……」
親戚1「……次姉、私からも謝るよ」
次姉「親戚1おじさま」
445: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 20:23:22.36:TPwHPt0/0 (17/22)
親戚1「3人の中では私が一番年長、本来なら諌める役でなければならないし、子供の頃はそうしていたが」
親戚1「いつの間にか、若くして財産を持った彼等と力関係が逆転していた」
親戚1「5年前だって……私はもっと真剣に止めるべきだった、そうすれば末妹に残酷な言葉を聞かせずに済んだのに」
次姉「……」
親戚1「親戚2、親戚3。もう帰ろう」
親戚1「次姉。商人さんへの謝罪の場は、日と場所を改めて、必ず持つよ」
次姉「おじさま……」
親戚1「お前達」
親戚2&3「「は、はい」」
親戚1「今、我々三人にできることはひとつしかない」
親戚1「この子達の心にこれ以上さざ波を立てないよう、一刻も早くこの家を立ち去るだけだ」
親戚1「本来なら三人とも、この子達から『顔も見たくない』と罵られて然るべき存在なんだぞ?」
親戚2&3「「……」」
親戚1「まだ言い足りない事があるなら、見当違いの相手にぶつける前に、私に打ち明けてくれ」
親戚1「子供の時と同じようにじっくりと聞いてやる、兄貴分としてな」
…………
親戚1「3人の中では私が一番年長、本来なら諌める役でなければならないし、子供の頃はそうしていたが」
親戚1「いつの間にか、若くして財産を持った彼等と力関係が逆転していた」
親戚1「5年前だって……私はもっと真剣に止めるべきだった、そうすれば末妹に残酷な言葉を聞かせずに済んだのに」
次姉「……」
親戚1「親戚2、親戚3。もう帰ろう」
親戚1「次姉。商人さんへの謝罪の場は、日と場所を改めて、必ず持つよ」
次姉「おじさま……」
親戚1「お前達」
親戚2&3「「は、はい」」
親戚1「今、我々三人にできることはひとつしかない」
親戚1「この子達の心にこれ以上さざ波を立てないよう、一刻も早くこの家を立ち去るだけだ」
親戚1「本来なら三人とも、この子達から『顔も見たくない』と罵られて然るべき存在なんだぞ?」
親戚2&3「「……」」
親戚1「まだ言い足りない事があるなら、見当違いの相手にぶつける前に、私に打ち明けてくれ」
親戚1「子供の時と同じようにじっくりと聞いてやる、兄貴分としてな」
…………
446: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 20:37:51.38:TPwHPt0/0 (18/22)
その日の夕方。
商人「……私の留守中にそんなことがあったのか」
商人「本当に自分が情けない、5年前のことも……なぜそばにいて気付いてやれなかった、駄目な父親だ……」
長兄「俺も同じだ、あの子がそんなに辛い思いをしていたなんて」
次姉「済んだことはどうにもしようがないわ、それよりこれからの話でしょ」
商人「……末妹への仕打ちは許せないが、本来ならあの二人は私を責めたかったのだろう」
商人「親戚1さんは謝罪の場を持つと言ってくれたそうだが、私もなるべく冷静になって、彼等とよく話し合おうと思う」
商人「もちろん大人同士の問題だ」
商人「お前達は、頼りないとは思うだろうが、ここは父さんを信じて任せておくれ」
次姉「おじさま達に…あの二人にもうへりくだる必要はないわ、百歩譲っても対等の立場なのよお父さんは」
次兄「そうそう。反省の言葉に偽りがないとして、今後はおとなしいだろうけどさ、とにかく父さんは堂々としていなよ」
長兄「で、末妹は大丈夫か? あの子が熱を出すなんて滅多になかったが」
次姉「医者(せんせい)の話では、神経的な疲労が一気に出たのだろうって」
次姉「でも、明日にでも下がる熱だから心配はいらないと」
商人「可哀想に、私のことも含めて、以前から気疲れが溜まっていたのだろう……」
次姉「ちょっと様子を見てくるわ。汗をかいてたら着替えが必要だし」ガタ
その日の夕方。
商人「……私の留守中にそんなことがあったのか」
商人「本当に自分が情けない、5年前のことも……なぜそばにいて気付いてやれなかった、駄目な父親だ……」
長兄「俺も同じだ、あの子がそんなに辛い思いをしていたなんて」
次姉「済んだことはどうにもしようがないわ、それよりこれからの話でしょ」
商人「……末妹への仕打ちは許せないが、本来ならあの二人は私を責めたかったのだろう」
商人「親戚1さんは謝罪の場を持つと言ってくれたそうだが、私もなるべく冷静になって、彼等とよく話し合おうと思う」
商人「もちろん大人同士の問題だ」
商人「お前達は、頼りないとは思うだろうが、ここは父さんを信じて任せておくれ」
次姉「おじさま達に…あの二人にもうへりくだる必要はないわ、百歩譲っても対等の立場なのよお父さんは」
次兄「そうそう。反省の言葉に偽りがないとして、今後はおとなしいだろうけどさ、とにかく父さんは堂々としていなよ」
長兄「で、末妹は大丈夫か? あの子が熱を出すなんて滅多になかったが」
次姉「医者(せんせい)の話では、神経的な疲労が一気に出たのだろうって」
次姉「でも、明日にでも下がる熱だから心配はいらないと」
商人「可哀想に、私のことも含めて、以前から気疲れが溜まっていたのだろう……」
次姉「ちょっと様子を見てくるわ。汗をかいてたら着替えが必要だし」ガタ
447: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 20:47:11.78:TPwHPt0/0 (19/22)
末妹の部屋。
次姉「末妹?」ガチャ
末妹「……お姉さん」ヨイショ
次姉「ああ、起き上がっちゃ駄目、ほら、ちゃんと毛布かけて」バフ
次姉「昼間よりは少し良くなってきたかしら、でもゆっくり休むのよ?」
末妹「ごめんなさい……」
次姉「嫌ね、どうして謝るの?」クス
末妹「お兄ちゃんから、何があったか聞いたわ。かいつまんで、だけど」
次姉「……あいつめ。ま、でも、あの子ならあんたが余分に気を遣うような話し方はしないでしょう」
末妹「あのね、話してくれた最後に」
末妹「『悪いオジサン達は姉さんが成敗したからおとなしくなるでしょう、だから何も心配するなよ』って」
末妹「で、今のお姉さん、右手に湿布している……」ユビサシ
次姉「……成敗……」
次姉「ち、違うの、暴力はふるっていないから! た、薪を割っただけだから!!」
次姉「次兄ったらどこをどうかいつまんだのよ……」
末妹「でも、私のために怒ってくれたのは違わないでしょ?」
次姉「うーん、あんたのためでもあるけど、私のためでもあるからね」
末妹「お姉さんのため……?」
次姉(一緒に過去の悪い私も『成敗』できたからね、これからは本当に前を向けるわ)
末妹の部屋。
次姉「末妹?」ガチャ
末妹「……お姉さん」ヨイショ
次姉「ああ、起き上がっちゃ駄目、ほら、ちゃんと毛布かけて」バフ
次姉「昼間よりは少し良くなってきたかしら、でもゆっくり休むのよ?」
末妹「ごめんなさい……」
次姉「嫌ね、どうして謝るの?」クス
末妹「お兄ちゃんから、何があったか聞いたわ。かいつまんで、だけど」
次姉「……あいつめ。ま、でも、あの子ならあんたが余分に気を遣うような話し方はしないでしょう」
末妹「あのね、話してくれた最後に」
末妹「『悪いオジサン達は姉さんが成敗したからおとなしくなるでしょう、だから何も心配するなよ』って」
末妹「で、今のお姉さん、右手に湿布している……」ユビサシ
次姉「……成敗……」
次姉「ち、違うの、暴力はふるっていないから! た、薪を割っただけだから!!」
次姉「次兄ったらどこをどうかいつまんだのよ……」
末妹「でも、私のために怒ってくれたのは違わないでしょ?」
次姉「うーん、あんたのためでもあるけど、私のためでもあるからね」
末妹「お姉さんのため……?」
次姉(一緒に過去の悪い私も『成敗』できたからね、これからは本当に前を向けるわ)
448: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 20:52:47.18:TPwHPt0/0 (20/22)
次姉「今のは独り言だから聞き流して。それよりも、ね」
末妹「?」
次姉「前から思っていたのだけど、あなた次兄だけは『お兄ちゃん』呼ばわりで」
次姉「兄さんや姉さん、私にはちょっとだけ、他人行儀なのよね?」
次姉「そりゃ私達3人とは、離れて暮らした時間が長かったけど……」
末妹「ご、ごめんなさい」
次姉「だからね、謝ってほしいんじゃなくて、その……」
次姉「そろそろ、呼び方を変えても、ってそう思っただけ」
次姉「順序として次兄の次に年の近い私から、くだけた感じで……どうかしら?」
末妹「くだけた感じ」
末妹「『お姉ちゃん』……とか?」
次姉「」ピクッ
末妹「や、やっぱり駄目だった?」ハラハラ
次姉「……うひ、うひ、うひひひひひひ……」
末妹「お姉さ」
次姉「今のは独り言だから聞き流して。それよりも、ね」
末妹「?」
次姉「前から思っていたのだけど、あなた次兄だけは『お兄ちゃん』呼ばわりで」
次姉「兄さんや姉さん、私にはちょっとだけ、他人行儀なのよね?」
次姉「そりゃ私達3人とは、離れて暮らした時間が長かったけど……」
末妹「ご、ごめんなさい」
次姉「だからね、謝ってほしいんじゃなくて、その……」
次姉「そろそろ、呼び方を変えても、ってそう思っただけ」
次姉「順序として次兄の次に年の近い私から、くだけた感じで……どうかしら?」
末妹「くだけた感じ」
末妹「『お姉ちゃん』……とか?」
次姉「」ピクッ
末妹「や、やっぱり駄目だった?」ハラハラ
次姉「……うひ、うひ、うひひひひひひ……」
末妹「お姉さ」
449: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 20:57:13.94:TPwHPt0/0 (21/22)
次姉「うひひ、うはは、『お姉ちゃん』、くすぐったい、くすぐったいわ、なんなのこれ」ドコドコドコドコドコドコ
末妹「ひ、左手も痛めちゃうわ!?」
次姉「手加減してる、手加減してるから、私の手もあんたの箪笥も壊れやしないわ、うはははは」ドコドコドドドドドドドドドド
末妹(なぜこんなに高速で連打できるのかしら)
次姉「……うん、いきなりはちょっと無理があるわね、私の精神的な問題で」
次姉「思った以上にハードルが高かった」
次姉「当面は二人きりの時だけで、少しずつ慣らして行きましょうか、うん、そうしましょう」ウンウン
末妹「お姉…さんが、それで良ければ」
次姉「だから、私の許可が出ないうちに人前で『お姉ちゃん』と呼んだら……」
末妹「は、はい」ゴクリ
次姉「私、顔から火を噴いて周囲を焼き尽くすからね?」
末妹「…それは困るから気を付けます」シンミョー
末妹「……」
末妹(お話ししたいことが増えました、野獣様……)
次姉「うひひ、うはは、『お姉ちゃん』、くすぐったい、くすぐったいわ、なんなのこれ」ドコドコドコドコドコドコ
末妹「ひ、左手も痛めちゃうわ!?」
次姉「手加減してる、手加減してるから、私の手もあんたの箪笥も壊れやしないわ、うはははは」ドコドコドドドドドドドドドド
末妹(なぜこんなに高速で連打できるのかしら)
次姉「……うん、いきなりはちょっと無理があるわね、私の精神的な問題で」
次姉「思った以上にハードルが高かった」
次姉「当面は二人きりの時だけで、少しずつ慣らして行きましょうか、うん、そうしましょう」ウンウン
末妹「お姉…さんが、それで良ければ」
次姉「だから、私の許可が出ないうちに人前で『お姉ちゃん』と呼んだら……」
末妹「は、はい」ゴクリ
次姉「私、顔から火を噴いて周囲を焼き尽くすからね?」
末妹「…それは困るから気を付けます」シンミョー
末妹「……」
末妹(お話ししたいことが増えました、野獣様……)
450: ◆54DIlPdu2E:2015/05/06(水) 20:58:22.86:TPwHPt0/0 (22/22)
※今回はここまで。次姉主役回でした※
しばらく予告はできません、当面不定期になりそうです……
※今回はここまで。次姉主役回でした※
しばらく予告はできません、当面不定期になりそうです……
451:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/05/06(水) 21:33:35.34:rYIBf+yoO (1/1)
乙 次姉可愛すぎる
乙 次姉可愛すぎる
452:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/05/06(水) 23:09:12.91:MAQKbE1+O (1/1)
すごくいい話
すごくいい話
453:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/05/07(木) 01:35:25.09:dvv8ZG5AO (1/1)
待ち遠しかったんだぜ乙
まさか次姉の剛拳がこう活きるとは…
末妹ちゃんも良く頑張ったな
待ち遠しかったんだぜ乙
まさか次姉の剛拳がこう活きるとは…
末妹ちゃんも良く頑張ったな
454: ◆54DIlPdu2E:2015/05/10(日) 19:01:04.27:wYQp4pPK0 (1/16)
野獣の屋敷……
鏡「……トイウワケデシタ」
メイド「ご主人様、よかったですね! わるもの達は末妹様の姉上様がやっつけてくれましたよ!」ピョンピョン
メイド「あいつら、すっごく嫌あぁな感じで現れたのに、最後はシュンとしちゃって」ビョンビョン
メイド「こういうのが『ざまあ見やがれ』ですよね!?」バッタンバッタン!
庭師「メイドちゃん、テンション高過ぎ……と言うか、跳ね過ぎ」
メイド「庭師君だって、後半はあの二人…ゲスオヤジーズが鏡に映ったら毛を逆立てて威嚇してたくせに」
庭師「勝手にコンビ名つけてるし」
料理長「しかし、末妹様がお部屋でグッタリされているのを見た時はわしも血の気が引いたが……」
料理長「どうにか落ち着かれたようで安心したよ、すぐ元気になるといいな」
執事「あれほどの目に遭えば具合が悪くもなるさ、まったく、あんな優しくて可愛らしいお方を……」
執事「……」チラ
野獣「……」
執事(ご主人様、向こうの家のあらゆる鏡やガラスや金属反射を使って、最後まで様子を見守って)
執事(メイド達と同じように一喜一憂されていたのに、事態が一段落して安心した途端に……)
メイド「ねえご主人様、もっと喜びましょうよ、鏡をご覧になっている間はあんなに興奮されていたのに」
野獣の屋敷……
鏡「……トイウワケデシタ」
メイド「ご主人様、よかったですね! わるもの達は末妹様の姉上様がやっつけてくれましたよ!」ピョンピョン
メイド「あいつら、すっごく嫌あぁな感じで現れたのに、最後はシュンとしちゃって」ビョンビョン
メイド「こういうのが『ざまあ見やがれ』ですよね!?」バッタンバッタン!
庭師「メイドちゃん、テンション高過ぎ……と言うか、跳ね過ぎ」
メイド「庭師君だって、後半はあの二人…ゲスオヤジーズが鏡に映ったら毛を逆立てて威嚇してたくせに」
庭師「勝手にコンビ名つけてるし」
料理長「しかし、末妹様がお部屋でグッタリされているのを見た時はわしも血の気が引いたが……」
料理長「どうにか落ち着かれたようで安心したよ、すぐ元気になるといいな」
執事「あれほどの目に遭えば具合が悪くもなるさ、まったく、あんな優しくて可愛らしいお方を……」
執事「……」チラ
野獣「……」
執事(ご主人様、向こうの家のあらゆる鏡やガラスや金属反射を使って、最後まで様子を見守って)
執事(メイド達と同じように一喜一憂されていたのに、事態が一段落して安心した途端に……)
メイド「ねえご主人様、もっと喜びましょうよ、鏡をご覧になっている間はあんなに興奮されていたのに」
455: ◆54DIlPdu2E:2015/05/10(日) 19:06:01.38:wYQp4pPK0 (2/16)
野獣「……うん? ああ、私も喜んでいるぞ。鏡の向こうの出来事に、こちらは為す術なく歯痒かったが……」
野獣「あの姉があんなに頼もしいとは思わなかった、嬉しい驚きだよ」
メイド「嬉しいって言う割に、今はなんか冷静だしめっちゃ真顔だし……」ムー
執事「メイド、いい加減にしろ。失礼が過ぎるぞ、お調子者め」
メイド「はぁい、ごめんなさい」ショボン
執事(……メイドの言う通りではあるのだがな)
執事(ここ数日のご主人様は、どこかおかしいと言うか…今までとは何かが違う)
執事(鏡で末妹様の様子をご覧になりながら顔をほころばせたり心配したり、それはいいとして)
執事(突然、今のように無表情で心はここにあらず、という様子になられる事もしばしば)
執事(他には…末妹様の赤いドレスと、次兄様が描いてくれたご主人様の肖像画、同じく末妹様(?)の抽象画)
執事(お部屋の壁に並べて掛けたこれらを眺めながらボーッとされていたり、かと思えば)
執事(雨や風の日、真夜中に、黙って外の様子を見に行かれ、邸内に戻られた際に初めて我々も気付く始末)
執事(……単に寂しさだけが原因とは思えない)
執事(そもそも約束の『二週間後』が近付いているのに……)
執事(ご主人が何を考えておられても、言動にどのような意図があっても、わたくしは従うのみ、とは言え)
執事(何故だかはわからないが、何なのだろう、この気持ち、この感覚)
執事(これが人間の言う『胸騒ぎ』なる物かもしれない……)
野獣「……うん? ああ、私も喜んでいるぞ。鏡の向こうの出来事に、こちらは為す術なく歯痒かったが……」
野獣「あの姉があんなに頼もしいとは思わなかった、嬉しい驚きだよ」
メイド「嬉しいって言う割に、今はなんか冷静だしめっちゃ真顔だし……」ムー
執事「メイド、いい加減にしろ。失礼が過ぎるぞ、お調子者め」
メイド「はぁい、ごめんなさい」ショボン
執事(……メイドの言う通りではあるのだがな)
執事(ここ数日のご主人様は、どこかおかしいと言うか…今までとは何かが違う)
執事(鏡で末妹様の様子をご覧になりながら顔をほころばせたり心配したり、それはいいとして)
執事(突然、今のように無表情で心はここにあらず、という様子になられる事もしばしば)
執事(他には…末妹様の赤いドレスと、次兄様が描いてくれたご主人様の肖像画、同じく末妹様(?)の抽象画)
執事(お部屋の壁に並べて掛けたこれらを眺めながらボーッとされていたり、かと思えば)
執事(雨や風の日、真夜中に、黙って外の様子を見に行かれ、邸内に戻られた際に初めて我々も気付く始末)
執事(……単に寂しさだけが原因とは思えない)
執事(そもそも約束の『二週間後』が近付いているのに……)
執事(ご主人が何を考えておられても、言動にどのような意図があっても、わたくしは従うのみ、とは言え)
執事(何故だかはわからないが、何なのだろう、この気持ち、この感覚)
執事(これが人間の言う『胸騒ぎ』なる物かもしれない……)
456: ◆54DIlPdu2E:2015/05/10(日) 19:09:56.07:wYQp4pPK0 (3/16)
翌朝、商人の家、末妹の部屋。
次兄「入るよ、末妹? おはよ。ついでに姉さんも」ニュイ
末妹「お兄ちゃん、おはよう」
次姉「おはよ……もー、お父さんと兄さんとあんたが取っ替え引っ替えで来るんだから、末妹も疲れちゃうわ」
次兄「昨日よりはずっと元気そうだけど、まだ熱あるの?」
末妹「だいぶ引いて微熱程度なの、昨夜は汗かいちゃったけど、そのおかげで」
次姉「そういうわけだから、取り敢えず出てってくれない?」
次姉「寝間着を替えに来たんだけど、さっきからお父さんも兄さんもあんたも、タイミング悪いったらありゃしない」
次兄「おぅふ」
次兄「それは大いにすまなかった、俺は慎み深い紳士なので即座に席を外しましょう」ソソクサ
次兄「末妹、また後で」
末妹「うん、ごめんねお兄ちゃん」
次姉「次兄が紳士ならこの世に変質者は存在しないわ」ボソ
ドア:バタン
翌朝、商人の家、末妹の部屋。
次兄「入るよ、末妹? おはよ。ついでに姉さんも」ニュイ
末妹「お兄ちゃん、おはよう」
次姉「おはよ……もー、お父さんと兄さんとあんたが取っ替え引っ替えで来るんだから、末妹も疲れちゃうわ」
次兄「昨日よりはずっと元気そうだけど、まだ熱あるの?」
末妹「だいぶ引いて微熱程度なの、昨夜は汗かいちゃったけど、そのおかげで」
次姉「そういうわけだから、取り敢えず出てってくれない?」
次姉「寝間着を替えに来たんだけど、さっきからお父さんも兄さんもあんたも、タイミング悪いったらありゃしない」
次兄「おぅふ」
次兄「それは大いにすまなかった、俺は慎み深い紳士なので即座に席を外しましょう」ソソクサ
次兄「末妹、また後で」
末妹「うん、ごめんねお兄ちゃん」
次姉「次兄が紳士ならこの世に変質者は存在しないわ」ボソ
ドア:バタン
457: ◆54DIlPdu2E:2015/05/10(日) 19:13:01.80:wYQp4pPK0 (4/16)
末妹の声「自分でできるわ、お姉…さん」
次兄(『さん』の前の妙な間はなんだろう)
次姉の声「背中の汗を拭かないと、一人じゃ無理」
次兄(おっとこれでは立ち聞き、紳士失格だ、早く離れなくては)ソロリ
次姉の声「……あんたって、本っっっっ当に『ない』のねえ」シミジミ
末妹の声「…!? や、やだぁ!? 次姉お姉さんだって長姉お姉さんと一歳しか違わないのに」アワアワ
次姉の声「これだけあったら充分でしょ、むしろ私のほうが標準、あっちが規格外なの!」
次兄「こ」
次兄「これが世に聞く……女子同士の会話ってやつですかい?」
次兄「やばい俺の危険察知器官(どこにあるのかわからんけど)が警戒音を発している、マジで離れよう」ッピュー
次兄「……」
次兄「なんか昨日を機に距離が一気に縮まったなあ、あの二人」
次兄「あともうひとつわかったこと」
次兄「俺は人体を構成する部位には軒並み興味が希薄だからよくわからんが……」
次兄「……末妹も、一応『気にしていた』のか……な????」ジブンノムネポンポン
末妹の声「自分でできるわ、お姉…さん」
次兄(『さん』の前の妙な間はなんだろう)
次姉の声「背中の汗を拭かないと、一人じゃ無理」
次兄(おっとこれでは立ち聞き、紳士失格だ、早く離れなくては)ソロリ
次姉の声「……あんたって、本っっっっ当に『ない』のねえ」シミジミ
末妹の声「…!? や、やだぁ!? 次姉お姉さんだって長姉お姉さんと一歳しか違わないのに」アワアワ
次姉の声「これだけあったら充分でしょ、むしろ私のほうが標準、あっちが規格外なの!」
次兄「こ」
次兄「これが世に聞く……女子同士の会話ってやつですかい?」
次兄「やばい俺の危険察知器官(どこにあるのかわからんけど)が警戒音を発している、マジで離れよう」ッピュー
次兄「……」
次兄「なんか昨日を機に距離が一気に縮まったなあ、あの二人」
次兄「あともうひとつわかったこと」
次兄「俺は人体を構成する部位には軒並み興味が希薄だからよくわからんが……」
次兄「……末妹も、一応『気にしていた』のか……な????」ジブンノムネポンポン
458: ◆54DIlPdu2E:2015/05/10(日) 19:18:40.54:wYQp4pPK0 (5/16)
……
次姉「これでよし、と。少し眠りなさい、お昼近くにまた来るわ」
末妹「ありがと、あの……お姉ちy」
次姉「ストップ!! 部屋を立ち去る直前は禁止!!」
末妹「(ビクッ)は、はい」
次姉(廊下に出たら誰に顔見られるか、わかったもんじゃないからね)
次姉「……じゃ、また後で」
ドア:パタン
次姉「末妹の着替えた寝間着」テニモッテルヨ
次姉「今日は家政婦さんが午後から来る日だっけ、これくらい私が洗濯しちゃえ」
次姉「……洗濯なんて寄宿舎生活以来だから、うちではやった事ないけど……」
次姉「水と石鹸……とりあえずお風呂場、かしら?」
風呂場へ続くドア:ガチャ
??「ぎゃああああああああああ!!??」
次姉「ひゃあああ!?」
……
次姉「これでよし、と。少し眠りなさい、お昼近くにまた来るわ」
末妹「ありがと、あの……お姉ちy」
次姉「ストップ!! 部屋を立ち去る直前は禁止!!」
末妹「(ビクッ)は、はい」
次姉(廊下に出たら誰に顔見られるか、わかったもんじゃないからね)
次姉「……じゃ、また後で」
ドア:パタン
次姉「末妹の着替えた寝間着」テニモッテルヨ
次姉「今日は家政婦さんが午後から来る日だっけ、これくらい私が洗濯しちゃえ」
次姉「……洗濯なんて寄宿舎生活以来だから、うちではやった事ないけど……」
次姉「水と石鹸……とりあえずお風呂場、かしら?」
風呂場へ続くドア:ガチャ
??「ぎゃああああああああああ!!??」
次姉「ひゃあああ!?」
459: ◆54DIlPdu2E:2015/05/10(日) 19:20:59.08:wYQp4pPK0 (6/16)
次姉「……ね」
次姉「姉さんじゃないの、朝からここで何やっているのよ」
長姉「あと、悲鳴を上げるのは服を脱いでからでも遅くないんじゃないの?」
長姉「じ、次姉……」ドキドキ
長姉(くっ、私とドアの間には次姉、背後はお風呂場で行き止まり……し、進退窮まったわ)
次姉「……そう言えば、家族の誰もお風呂場で姉さんとカチ合った事ないわね」
次姉「姉さんがこんなに何日もお風呂を我慢できそうにも思えないし、いつ入浴していたのかしら」
長姉「……」ムゴン
次姉「ま、家政婦さんでしょ? 家政婦さんがうまいことみんなの入浴時間を調整してくれて」
次姉「姉さんが部屋からお風呂場を往復する間も、誰とも会わないように気を配ってくれたのでしょうね」
長姉(……図星)
次姉「全くもう、みんなに迷惑掛けて、何やってんだか、この頑固者の姉は……」フゥ
長姉「……通して」
次姉「?」
長姉「そこ通して、ここから出たいの」
次姉「……ね」
次姉「姉さんじゃないの、朝からここで何やっているのよ」
長姉「あと、悲鳴を上げるのは服を脱いでからでも遅くないんじゃないの?」
長姉「じ、次姉……」ドキドキ
長姉(くっ、私とドアの間には次姉、背後はお風呂場で行き止まり……し、進退窮まったわ)
次姉「……そう言えば、家族の誰もお風呂場で姉さんとカチ合った事ないわね」
次姉「姉さんがこんなに何日もお風呂を我慢できそうにも思えないし、いつ入浴していたのかしら」
長姉「……」ムゴン
次姉「ま、家政婦さんでしょ? 家政婦さんがうまいことみんなの入浴時間を調整してくれて」
次姉「姉さんが部屋からお風呂場を往復する間も、誰とも会わないように気を配ってくれたのでしょうね」
長姉(……図星)
次姉「全くもう、みんなに迷惑掛けて、何やってんだか、この頑固者の姉は……」フゥ
長姉「……通して」
次姉「?」
長姉「そこ通して、ここから出たいの」
460: ◆54DIlPdu2E:2015/05/10(日) 19:23:13.92:wYQp4pPK0 (7/16)
ミスった。>>459を以下と差し替え
ミスった。>>459を以下と差し替え
461: ◆54DIlPdu2E:2015/05/10(日) 19:24:28.34:wYQp4pPK0 (8/16)
次姉「……ね」
次姉「姉さんじゃないの、朝からここで何やっているのよ」
次姉「あと、悲鳴を上げるのは服を脱いでからでも遅くないんじゃないの?」
長姉「……次姉……」ドキドキ
長姉(くっ、私とドアの間には次姉、背後はお風呂場で行き止まり……し、進退窮まったわ)
次姉「……そう言えば、家族の誰もお風呂場で姉さんとカチ合った事ないわね」
次姉「姉さんがこんなに何日もお風呂を我慢できそうにも思えないし、いつ入浴していたのかしら」
長姉「……」ムゴン
次姉「ま、家政婦さんでしょ? 家政婦さんがうまいことみんなの入浴時間を調整してくれて」
次姉「姉さんが部屋からお風呂場を往復する間も、誰とも会わないように気を配ってくれたのでしょうね」
長姉(……図星)
次姉「全くもう、みんなに迷惑掛けて、何やってんだか、この頑固者の姉は……」フゥ
長姉「……通して」
次姉「?」
長姉「そこ通して、ここから出たいの」
次姉「……ね」
次姉「姉さんじゃないの、朝からここで何やっているのよ」
次姉「あと、悲鳴を上げるのは服を脱いでからでも遅くないんじゃないの?」
長姉「……次姉……」ドキドキ
長姉(くっ、私とドアの間には次姉、背後はお風呂場で行き止まり……し、進退窮まったわ)
次姉「……そう言えば、家族の誰もお風呂場で姉さんとカチ合った事ないわね」
次姉「姉さんがこんなに何日もお風呂を我慢できそうにも思えないし、いつ入浴していたのかしら」
長姉「……」ムゴン
次姉「ま、家政婦さんでしょ? 家政婦さんがうまいことみんなの入浴時間を調整してくれて」
次姉「姉さんが部屋からお風呂場を往復する間も、誰とも会わないように気を配ってくれたのでしょうね」
長姉(……図星)
次姉「全くもう、みんなに迷惑掛けて、何やってんだか、この頑固者の姉は……」フゥ
長姉「……通して」
次姉「?」
長姉「そこ通して、ここから出たいの」
462: ◆54DIlPdu2E:2015/05/10(日) 19:26:46.11:wYQp4pPK0 (9/16)
次姉「まあまあ、ここで私と鉢合わせたのも何かの縁、久しぶりに少しだけ話さない?」
次姉「お父さんや兄さんには黙っておくから、二人とも今日はずっと店舗に出ているし」
長姉「……あんた風呂場に用があったんじゃないの」
次姉「これ洗濯したかっただけだから後でも大丈夫、姉さんこそ」
長姉「……私もこの服を洗いに来ただけよ」
次姉「男物のジャケットじゃない、誰の?」
長姉「誰のでもいいでしょ、あれこれ詮索したいなら何も話したくないわ」プン
次姉「はいはい、わかったわかった。とりあえず、私の部屋にいらっしゃいよ」
次姉「姉さんだって、今日は『聞きたいこと』があるんじゃないの?」
長姉「う」
長姉「……少し、だけよ? あと、話の流れによっては黙秘権を使うからね?」
次姉「はいはい」
……
次姉「まあまあ、ここで私と鉢合わせたのも何かの縁、久しぶりに少しだけ話さない?」
次姉「お父さんや兄さんには黙っておくから、二人とも今日はずっと店舗に出ているし」
長姉「……あんた風呂場に用があったんじゃないの」
次姉「これ洗濯したかっただけだから後でも大丈夫、姉さんこそ」
長姉「……私もこの服を洗いに来ただけよ」
次姉「男物のジャケットじゃない、誰の?」
長姉「誰のでもいいでしょ、あれこれ詮索したいなら何も話したくないわ」プン
次姉「はいはい、わかったわかった。とりあえず、私の部屋にいらっしゃいよ」
次姉「姉さんだって、今日は『聞きたいこと』があるんじゃないの?」
長姉「う」
長姉「……少し、だけよ? あと、話の流れによっては黙秘権を使うからね?」
次姉「はいはい」
……
463: ◆54DIlPdu2E:2015/05/10(日) 20:28:51.22:wYQp4pPK0 (10/16)
次姉の部屋。
次姉「……姉さん知っているんでしょ、きのう西端都市からおじさま達が来ていたの」
長姉「……」
長姉「昨日は図書館に閉館時間までいたのよ、珍しくね」
長姉(幼馴染男は帰宅した方がいいと言ったけど、なんとなくすぐ戻るのは嫌で、図書館に行ったのよね)
長姉(血飛沫を見られないようジャケットは裏返して着たわ)
長姉(それはそれで人から見れば妙な格好だったでしょうね)
長姉「で、夕方に帰って来たら」
次姉「窓から帰って来たのね」
長姉「……なんとなく家の中の雰囲気が変で、家政婦さん捕まえて聞いたら、末妹が熱を出したって」
長姉「あの子は見た目より丈夫だから病気なんて珍しいとはいえ、そんな事だってあるでしょうに」
長姉「またお父さん達は大袈裟に心配するのかしらと思っていたら、家政婦さんが話を続けて」
長姉「おじさま達がいらしていたけど、もう帰られた、って……」
次姉の部屋。
次姉「……姉さん知っているんでしょ、きのう西端都市からおじさま達が来ていたの」
長姉「……」
長姉「昨日は図書館に閉館時間までいたのよ、珍しくね」
長姉(幼馴染男は帰宅した方がいいと言ったけど、なんとなくすぐ戻るのは嫌で、図書館に行ったのよね)
長姉(血飛沫を見られないようジャケットは裏返して着たわ)
長姉(それはそれで人から見れば妙な格好だったでしょうね)
長姉「で、夕方に帰って来たら」
次姉「窓から帰って来たのね」
長姉「……なんとなく家の中の雰囲気が変で、家政婦さん捕まえて聞いたら、末妹が熱を出したって」
長姉「あの子は見た目より丈夫だから病気なんて珍しいとはいえ、そんな事だってあるでしょうに」
長姉「またお父さん達は大袈裟に心配するのかしらと思っていたら、家政婦さんが話を続けて」
長姉「おじさま達がいらしていたけど、もう帰られた、って……」
464: ◆54DIlPdu2E:2015/05/10(日) 20:30:04.13:wYQp4pPK0 (11/16)
次姉「で、家政婦さんからはどこまで聞いているの?」
長姉「……5年ぶりに来たのに、すぐ帰られるなんて」
長姉「何があったのか家政婦さんに尋ねても」
長姉「『詳しいことは存じ上げません、ご家族の方にお聞きになられてはいかがでしょう』…の一点張り」
次姉「そうね、彼女ならそう言うでしょうね」
長姉「……」
次姉「聞きたい?」
長姉「……聞く代わりに、一緒に食事をしたり、兄さんたちと話をしろ、って交換条件なら聞きたくない」
次姉「あっはは、姉さん相手にそんな手段は無意味なことくらい知ってるわ」
次姉「無条件で話すし、姉さんが聞いた後に何をするかもしないかも、好きにしたらいいのよ」
長姉「……」
次姉「で、聞きたい?」
長姉「……聞きたい」ポツリ
次姉「で、家政婦さんからはどこまで聞いているの?」
長姉「……5年ぶりに来たのに、すぐ帰られるなんて」
長姉「何があったのか家政婦さんに尋ねても」
長姉「『詳しいことは存じ上げません、ご家族の方にお聞きになられてはいかがでしょう』…の一点張り」
次姉「そうね、彼女ならそう言うでしょうね」
長姉「……」
次姉「聞きたい?」
長姉「……聞く代わりに、一緒に食事をしたり、兄さんたちと話をしろ、って交換条件なら聞きたくない」
次姉「あっはは、姉さん相手にそんな手段は無意味なことくらい知ってるわ」
次姉「無条件で話すし、姉さんが聞いた後に何をするかもしないかも、好きにしたらいいのよ」
長姉「……」
次姉「で、聞きたい?」
長姉「……聞きたい」ポツリ
465: ◆54DIlPdu2E:2015/05/10(日) 22:42:32.86:wYQp4pPK0 (12/16)
…………
長姉「親戚2おじさまと親戚3おじさまが、お母様を好きだったとは……」
次姉「本人達も認めたも同然ね、あの態度は」
長姉「……お父さんを援助してくれた時も、裏にはそんなことがあったなんて」
長姉「しかもあんた、私達が出席したパーティで聞いたのね、なのに今まで知らなかった話だわ」
次姉「姉さんは会場に入ったらすぐ男の人達に取り囲まれて、そのまま踊りに行っちゃうでしょ」
次姉「私は最初に主催者の奥様や、その取り巻きのご婦人がたのグループに挨拶に行ってたの」
次姉「すべてを鵜呑みにする価値はなくても、選別すれば貴重な情報を収集できる機会だからね」
長姉「だけど、後から私にも教えてくれた話の中には覚えがないわ」
次姉「我が家に関係の深い、しかも良くないほうの話は、姉さんに聞かせたくなかったの」
次姉「鵜呑みにしちゃダメって前置きしても、姉さんの中でふるいに掛けたら、印象の強い部分しか残らないんだもの」
長姉「……」プー
次姉「……ごめん」
長姉「いいの、少なくともあんたよりはずっとバカなのは自覚しているもの」
長姉「しかも……末妹にあの二人が」
長姉「私達は家にいなかったけど、5年前に来た時も、8つか9つのあの子相手に……」
次姉「私達と兄さん、それと次兄と末妹、扱いに違いがあったのは姉さんも気付いていたでしょ?」
次姉「訪ねて来たのは5年ぶりでも、家に帰った私達には手紙をくれて、たまにこっそりお小遣いを忍ばせてある時も……」
長姉「うん、兄さんはお金だけ送り返したらしいけどね、五人に公平でなくちゃ受け取れないって」
長姉「それも私達三人が学校を優秀な成績で卒業した(私は実際はインチキだけど)ご褒美だと思っていたわ」
…………
長姉「親戚2おじさまと親戚3おじさまが、お母様を好きだったとは……」
次姉「本人達も認めたも同然ね、あの態度は」
長姉「……お父さんを援助してくれた時も、裏にはそんなことがあったなんて」
長姉「しかもあんた、私達が出席したパーティで聞いたのね、なのに今まで知らなかった話だわ」
次姉「姉さんは会場に入ったらすぐ男の人達に取り囲まれて、そのまま踊りに行っちゃうでしょ」
次姉「私は最初に主催者の奥様や、その取り巻きのご婦人がたのグループに挨拶に行ってたの」
次姉「すべてを鵜呑みにする価値はなくても、選別すれば貴重な情報を収集できる機会だからね」
長姉「だけど、後から私にも教えてくれた話の中には覚えがないわ」
次姉「我が家に関係の深い、しかも良くないほうの話は、姉さんに聞かせたくなかったの」
次姉「鵜呑みにしちゃダメって前置きしても、姉さんの中でふるいに掛けたら、印象の強い部分しか残らないんだもの」
長姉「……」プー
次姉「……ごめん」
長姉「いいの、少なくともあんたよりはずっとバカなのは自覚しているもの」
長姉「しかも……末妹にあの二人が」
長姉「私達は家にいなかったけど、5年前に来た時も、8つか9つのあの子相手に……」
次姉「私達と兄さん、それと次兄と末妹、扱いに違いがあったのは姉さんも気付いていたでしょ?」
次姉「訪ねて来たのは5年ぶりでも、家に帰った私達には手紙をくれて、たまにこっそりお小遣いを忍ばせてある時も……」
長姉「うん、兄さんはお金だけ送り返したらしいけどね、五人に公平でなくちゃ受け取れないって」
長姉「それも私達三人が学校を優秀な成績で卒業した(私は実際はインチキだけど)ご褒美だと思っていたわ」
466: ◆54DIlPdu2E:2015/05/10(日) 22:44:16.69:wYQp4pPK0 (13/16)
長姉「なんにせよ、『末妹憎し』だったなんて思いもよらなかったわよ」
長姉「だいたい5年前も昨日も、お父さんにバレることは考えていなかったのかしら?」
次姉「……私達が末妹に嫌味を言う時、お父さんに言いつけるかも、なんて考えた?」
長姉「……」
長姉「考えていたら最初から言わないし、あの子は言いつけたりするような性格じゃないし……」
次姉「あの二人もそう思ったのよ」
次姉「まあ言いつけたとて、お父さんの性格と立場なら『恩人』である自分達には強く出ないという自負もあっただろうし」
次姉「更に言うなら、借金を返し終わったお父さんと繋がりが切れたって、彼等にはなんの損もない」
次姉「兄さんと私達、ううん、最悪、私達二人だけでも味方につけていれば、それで構わなかったんでしょうよ」
長姉「……」
次姉「まだ聞きたいことある? なければ、この話はおしまい」
長姉「あんた、今日は」
次姉「?」
長姉「店を手伝うようになったからあんたは変わったけど、今日はひときわ、なんて言うのかな」
長姉「晴れ晴れとした、というか、身軽になった、って表情なのは、そのせいなの?」
長姉「おじさま達をえーと、ドーナツじゃない、ど…ど」
次姉「もしかして『恫喝』?」
長姉「そう、ドウカツした時に、あんたも色々な物が、吹っ切れちゃったの?」
長姉「不満も寂しさも悔しさも……」
次姉「……」
長姉「なんにせよ、『末妹憎し』だったなんて思いもよらなかったわよ」
長姉「だいたい5年前も昨日も、お父さんにバレることは考えていなかったのかしら?」
次姉「……私達が末妹に嫌味を言う時、お父さんに言いつけるかも、なんて考えた?」
長姉「……」
長姉「考えていたら最初から言わないし、あの子は言いつけたりするような性格じゃないし……」
次姉「あの二人もそう思ったのよ」
次姉「まあ言いつけたとて、お父さんの性格と立場なら『恩人』である自分達には強く出ないという自負もあっただろうし」
次姉「更に言うなら、借金を返し終わったお父さんと繋がりが切れたって、彼等にはなんの損もない」
次姉「兄さんと私達、ううん、最悪、私達二人だけでも味方につけていれば、それで構わなかったんでしょうよ」
長姉「……」
次姉「まだ聞きたいことある? なければ、この話はおしまい」
長姉「あんた、今日は」
次姉「?」
長姉「店を手伝うようになったからあんたは変わったけど、今日はひときわ、なんて言うのかな」
長姉「晴れ晴れとした、というか、身軽になった、って表情なのは、そのせいなの?」
長姉「おじさま達をえーと、ドーナツじゃない、ど…ど」
次姉「もしかして『恫喝』?」
長姉「そう、ドウカツした時に、あんたも色々な物が、吹っ切れちゃったの?」
長姉「不満も寂しさも悔しさも……」
次姉「……」
467: ◆54DIlPdu2E:2015/05/10(日) 22:46:17.90:wYQp4pPK0 (14/16)
次姉「私は不満も寂しさも悔しさも、違う物に置き換えることができたわ」
次姉「結果的に、だけどね。気が付いたら、それらのあった場所に違う物が置いてあったの」
次姉「もちろん、小さな不満や寂しさや悔しさは、まだあるわ」
次姉「完全に消えはしない、でもそれは誰だって持っているの、兄さんも次兄も、末妹も、お父さんも」
次姉「それなら、誰でも持っているような物に振り回されて暮らすのは、なんだか……勿体なく思えて」
長姉「勿体ない……?」
次姉「ええ、時間も、私自身も」
長姉「……あんたはいいわよ。才能も生き甲斐もあるもの、それを見つけたんだもの」
長姉「私にはなんの取り柄もない、誰かに必要とされる価値もないもの」
(幼馴染男「君は……」)
(幼馴染男「…美しいことが大切な役目」)
長姉(って、なんで今こんなこと思い出すのよ!?)
次姉「……そうかしら」
次姉「私は姉さんがそばにいただけで、何度も救われたわ、今でも感謝しているのに」
長姉「」
長姉「かかか、感謝しているくらいならなんで……」
長姉「なんで、あんたは私を置き去りにするのよ……」ポロ
次姉「姉さん」
長姉「どうして、私を置いて、どんどん先に行っちゃったのよお……」ボロボロ
次姉「ちょ、泣かないでよ」アタフタ
次姉「私は不満も寂しさも悔しさも、違う物に置き換えることができたわ」
次姉「結果的に、だけどね。気が付いたら、それらのあった場所に違う物が置いてあったの」
次姉「もちろん、小さな不満や寂しさや悔しさは、まだあるわ」
次姉「完全に消えはしない、でもそれは誰だって持っているの、兄さんも次兄も、末妹も、お父さんも」
次姉「それなら、誰でも持っているような物に振り回されて暮らすのは、なんだか……勿体なく思えて」
長姉「勿体ない……?」
次姉「ええ、時間も、私自身も」
長姉「……あんたはいいわよ。才能も生き甲斐もあるもの、それを見つけたんだもの」
長姉「私にはなんの取り柄もない、誰かに必要とされる価値もないもの」
(幼馴染男「君は……」)
(幼馴染男「…美しいことが大切な役目」)
長姉(って、なんで今こんなこと思い出すのよ!?)
次姉「……そうかしら」
次姉「私は姉さんがそばにいただけで、何度も救われたわ、今でも感謝しているのに」
長姉「」
長姉「かかか、感謝しているくらいならなんで……」
長姉「なんで、あんたは私を置き去りにするのよ……」ポロ
次姉「姉さん」
長姉「どうして、私を置いて、どんどん先に行っちゃったのよお……」ボロボロ
次姉「ちょ、泣かないでよ」アタフタ
468: ◆54DIlPdu2E:2015/05/10(日) 22:49:04.24:wYQp4pPK0 (15/16)
長姉「寂しかった、寂しかったの、あんたが私のそばにいてくれない事が、何より寂しかったの……!」グシグシズビー!
次姉「ね、姉さん、ジャケットで鼻かまないの!?」
次姉「しかもさっき洗濯するとか言ってたジャケット……誰のなのよ本当に」
長姉「次姉のバカ、冷血女……嫌いよ、嫌い!」グスグス
次姉「嫌いとか言いながら、なに私にしがみついてんの」ヨシヨシ
長姉「うえっく……ぐす、ぐしゅ……」
次姉「……姉さん?」
次姉「……放ったらかしにして、ごめんね?」
…………
次姉「……落ち着いた?」
長姉「……うん」グスッ
次姉「焦らなくてもいいけど、姉さんがこれから何をしようと、私は味方。約束する」
次姉「あまりにも酷すぎる場合は除くけど、そうなっても私は愛を持って接するからね?」
長姉「……うん、ありがとう」
長姉「あのね、今は…もう少しだけこのまま見守っていて欲しいの」
次姉「ふんふん」
長姉「……私だって、次姉みたいに前を向きたいけど」
長姉「そのために必要な『何か』が、あんたとは違うと思うから」
長姉「だから、それを探すのを邪魔しないで、結論を急がせないで?」
次姉「わかった。もし私にできる事があれば協力するから」
長姉「寂しかった、寂しかったの、あんたが私のそばにいてくれない事が、何より寂しかったの……!」グシグシズビー!
次姉「ね、姉さん、ジャケットで鼻かまないの!?」
次姉「しかもさっき洗濯するとか言ってたジャケット……誰のなのよ本当に」
長姉「次姉のバカ、冷血女……嫌いよ、嫌い!」グスグス
次姉「嫌いとか言いながら、なに私にしがみついてんの」ヨシヨシ
長姉「うえっく……ぐす、ぐしゅ……」
次姉「……姉さん?」
次姉「……放ったらかしにして、ごめんね?」
…………
次姉「……落ち着いた?」
長姉「……うん」グスッ
次姉「焦らなくてもいいけど、姉さんがこれから何をしようと、私は味方。約束する」
次姉「あまりにも酷すぎる場合は除くけど、そうなっても私は愛を持って接するからね?」
長姉「……うん、ありがとう」
長姉「あのね、今は…もう少しだけこのまま見守っていて欲しいの」
次姉「ふんふん」
長姉「……私だって、次姉みたいに前を向きたいけど」
長姉「そのために必要な『何か』が、あんたとは違うと思うから」
長姉「だから、それを探すのを邪魔しないで、結論を急がせないで?」
次姉「わかった。もし私にできる事があれば協力するから」
469: ◆54DIlPdu2E:2015/05/10(日) 22:50:25.10:wYQp4pPK0 (16/16)
※今回は、ここまで。※
>>451-453
ありがとう、励みになります。完結までガンバルヨ
※今回は、ここまで。※
>>451-453
ありがとう、励みになります。完結までガンバルヨ
470:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/05/11(月) 00:59:00.01:SUDT8UFAO (1/1)
乙ですよ
乙ですよ
471: ◆54DIlPdu2E:2015/05/11(月) 23:30:30.36:2W7NvU5o0 (1/6)
その日の午後、商人の家の居間。
商人「……このお金は何だい、次姉?」
次姉「私と姉さんの二人だけが、親戚2おじさまと親戚3おじさまに貰ったお小遣い……と、同額のお金」
次姉「金額はそのつど日記に付けていたのを確認したから、間違いないわ」
長兄「長姉がよくこれだけの金額を出せたな」
次姉「姉さんの分は私が立て替えています」
次姉(姉さんは手持ちのアクセサリーでも売らない限り、現在ほぼ文無しだからね)
次姉「親戚1おじさまが設けてくださる席で、お父さんからお返しして欲しいの」
長兄「二人分ならけっこうな額だと思うが、まだそんなに持っていたのか」
次姉「結果として、私のヘソクリ残額は銀貨3枚になったわ」
商人「……」ウーム
次姉「お父さんの立場を少しでも弱くする要素は、可能な限り排除した方がいいと思うんだけど」
商人「お前達が彼等を信頼して、可愛がってもらったことは、恥じる事ではないと私は思うが……」
次姉「……」
その日の午後、商人の家の居間。
商人「……このお金は何だい、次姉?」
次姉「私と姉さんの二人だけが、親戚2おじさまと親戚3おじさまに貰ったお小遣い……と、同額のお金」
次姉「金額はそのつど日記に付けていたのを確認したから、間違いないわ」
長兄「長姉がよくこれだけの金額を出せたな」
次姉「姉さんの分は私が立て替えています」
次姉(姉さんは手持ちのアクセサリーでも売らない限り、現在ほぼ文無しだからね)
次姉「親戚1おじさまが設けてくださる席で、お父さんからお返しして欲しいの」
長兄「二人分ならけっこうな額だと思うが、まだそんなに持っていたのか」
次姉「結果として、私のヘソクリ残額は銀貨3枚になったわ」
商人「……」ウーム
次姉「お父さんの立場を少しでも弱くする要素は、可能な限り排除した方がいいと思うんだけど」
商人「お前達が彼等を信頼して、可愛がってもらったことは、恥じる事ではないと私は思うが……」
次姉「……」
472: ◆54DIlPdu2E:2015/05/11(月) 23:33:47.75:2W7NvU5o0 (2/6)
次姉「私達可愛さで、と二人が言っていたのは嘘ではないと私も思うし」
次姉「手紙や、掛けてもらった優しい言葉まで、なかった事にするつもりはないわ」
商人「うむ、それでは、こうしよう」
商人「柔らかい物腰だろうと、その場で目に見える形で『突き返す』のは場の雰囲気を荒立てる」
商人「だから、私はお前達の意思だけを伝えようと思う、これだけはお返ししたいと言う、ね」
商人「お金の行き先は、全てを話し合った末に決まるだろう」
商人「彼等と話し合う場には持って行かないが、決まるまでこのまま父さんが預かろう」
次姉「……わかった。お父さんに任せます」
長兄「じゃあ、俺が金庫に入れて来るよ」
商人「ああ、では金庫の鍵を……」ゴソゴソ
長兄「俺も持っているよ、大丈夫」
商人「……私の鍵は、誰が持っていてくれているんだい?」
長兄「……えっ?」
次姉「?」
次姉「私達可愛さで、と二人が言っていたのは嘘ではないと私も思うし」
次姉「手紙や、掛けてもらった優しい言葉まで、なかった事にするつもりはないわ」
商人「うむ、それでは、こうしよう」
商人「柔らかい物腰だろうと、その場で目に見える形で『突き返す』のは場の雰囲気を荒立てる」
商人「だから、私はお前達の意思だけを伝えようと思う、これだけはお返ししたいと言う、ね」
商人「お金の行き先は、全てを話し合った末に決まるだろう」
商人「彼等と話し合う場には持って行かないが、決まるまでこのまま父さんが預かろう」
次姉「……わかった。お父さんに任せます」
長兄「じゃあ、俺が金庫に入れて来るよ」
商人「ああ、では金庫の鍵を……」ゴソゴソ
長兄「俺も持っているよ、大丈夫」
商人「……私の鍵は、誰が持っていてくれているんだい?」
長兄「……えっ?」
次姉「?」
473: ◆54DIlPdu2E:2015/05/11(月) 23:35:38.84:2W7NvU5o0 (3/6)
そのころ、末妹の部屋。
次兄「末妹、入っていい?」コンコン
末妹「うん、どうぞ、お兄ちゃん」
次兄「失礼します」シュルン
次兄(裏声)「さて、お加減いかがでしょうか、末妹様?」
末妹「……メイドちゃんの声真似じょうずね、驚いちゃった」
末妹「お昼過ぎからまた少し眠って、さっき目が覚めたんだけど、もうすっかり良くなったみたい」
末妹「自分ではもう起きてもいいと思うけど、次姉お姉さんもお父さんもまだ駄目だって……」
次兄「俺だって駄目だと言うよ?」
末妹「……そうよね」フゥ
次兄「とは言え回復具合を考えると、そろそろ退屈している頃と思われます」
次兄「少し話をしていい? 疲れない程度で引き揚げるけどね」
末妹「いいわ」コクリ
次兄「んじゃ、あまり時間をかけたくないので手っ取り早くね」
次兄「お前さ、また野獣様の屋敷に行くという意思はある?」
末妹「うん、帰りの魔法が使えるようになったら、すぐにでも!」
次兄(裏声)「即答ですのね」
末妹「だけど、お父さんにはまだ話をしていないの」
末妹「お父さんが元気になったと思ったら、私がこんななっちゃって」
次兄「……そうだな、今日や明日に切り出しても、許可を得られない可能性が高い」
次兄「しかし、ま、末妹の意思が確認できただけでも収穫があった」
そのころ、末妹の部屋。
次兄「末妹、入っていい?」コンコン
末妹「うん、どうぞ、お兄ちゃん」
次兄「失礼します」シュルン
次兄(裏声)「さて、お加減いかがでしょうか、末妹様?」
末妹「……メイドちゃんの声真似じょうずね、驚いちゃった」
末妹「お昼過ぎからまた少し眠って、さっき目が覚めたんだけど、もうすっかり良くなったみたい」
末妹「自分ではもう起きてもいいと思うけど、次姉お姉さんもお父さんもまだ駄目だって……」
次兄「俺だって駄目だと言うよ?」
末妹「……そうよね」フゥ
次兄「とは言え回復具合を考えると、そろそろ退屈している頃と思われます」
次兄「少し話をしていい? 疲れない程度で引き揚げるけどね」
末妹「いいわ」コクリ
次兄「んじゃ、あまり時間をかけたくないので手っ取り早くね」
次兄「お前さ、また野獣様の屋敷に行くという意思はある?」
末妹「うん、帰りの魔法が使えるようになったら、すぐにでも!」
次兄(裏声)「即答ですのね」
末妹「だけど、お父さんにはまだ話をしていないの」
末妹「お父さんが元気になったと思ったら、私がこんななっちゃって」
次兄「……そうだな、今日や明日に切り出しても、許可を得られない可能性が高い」
次兄「しかし、ま、末妹の意思が確認できただけでも収穫があった」
474: ◆54DIlPdu2E:2015/05/11(月) 23:37:30.10:2W7NvU5o0 (4/6)
次兄「お前が父さんに付き添ってた間はそんな話ができなかったからな……」
次兄「次にどうするかは明確になった、お前が全快したら二人で今後の事を相談しよう」
次兄「だから、明日の朝まで充分に静養して回復に努めるがよろし」
末妹「……やっぱりお兄ちゃんがいると心強いな」エヘヘ
次兄「……」
次兄「5年前の事、気付いてあげられなくて、ごめん?」
末妹「え……」
末妹「お兄ちゃんが謝るようなことじゃないわ」
末妹「……私、誰にも知られちゃいけないと思って、隠していたもの」
末妹「悲しかったのと同じくらい、自分が悪い事には違いないって思い込んでいたし……」
次兄「お前が悪いなんて、そんな」
末妹「でも、野獣様は、それは理不尽だって教えてくれたの」
次兄「……野獣様が?」
末妹「踊りながら、お話をした時よ」
次兄「あの舞踏会の夜か」
次兄「お前が父さんに付き添ってた間はそんな話ができなかったからな……」
次兄「次にどうするかは明確になった、お前が全快したら二人で今後の事を相談しよう」
次兄「だから、明日の朝まで充分に静養して回復に努めるがよろし」
末妹「……やっぱりお兄ちゃんがいると心強いな」エヘヘ
次兄「……」
次兄「5年前の事、気付いてあげられなくて、ごめん?」
末妹「え……」
末妹「お兄ちゃんが謝るようなことじゃないわ」
末妹「……私、誰にも知られちゃいけないと思って、隠していたもの」
末妹「悲しかったのと同じくらい、自分が悪い事には違いないって思い込んでいたし……」
次兄「お前が悪いなんて、そんな」
末妹「でも、野獣様は、それは理不尽だって教えてくれたの」
次兄「……野獣様が?」
末妹「踊りながら、お話をした時よ」
次兄「あの舞踏会の夜か」
475: ◆54DIlPdu2E:2015/05/11(月) 23:39:17.03:2W7NvU5o0 (5/6)
末妹「だから、昨日だって頑張れた」
末妹「お母様が守ってくれて、お兄ちゃんもお父さん達も私を理解してくれるって、信じる事ができた」
末妹「お姉さんが来てくれるまで、自分に負けないで頑張れた」
末妹「野獣様がその勇気をくれたの」
末妹「……情けない事に、体のほうが心より先に折れちゃったけどね」
次兄「……」
次兄「そっか」フヘヘヘヘ
次兄「偉いよ末妹、立派だよ。褒めてつかわす」ナデ
ナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデ
末妹「ちょ、お兄ちゃん」
末妹「そんなに頭なでられたら、擦り減ってますます背が縮んじゃう……」
次兄「今のうちに一生分なでておきたいんだ、おとなしく従いなさい」ナデナデナデナデ
末妹「……変なお兄ちゃん」ナデラレナデラレ
次兄「変なのは今に始まった事でしょうか、いや、ない(自覚はあります)」ナデナデナデナデ
次兄(兄が知らない間に妹は大人になって行くんだなあ、嬉しいような寂しいような)ナデナデナデナデ
末妹「だから、昨日だって頑張れた」
末妹「お母様が守ってくれて、お兄ちゃんもお父さん達も私を理解してくれるって、信じる事ができた」
末妹「お姉さんが来てくれるまで、自分に負けないで頑張れた」
末妹「野獣様がその勇気をくれたの」
末妹「……情けない事に、体のほうが心より先に折れちゃったけどね」
次兄「……」
次兄「そっか」フヘヘヘヘ
次兄「偉いよ末妹、立派だよ。褒めてつかわす」ナデ
ナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデ
末妹「ちょ、お兄ちゃん」
末妹「そんなに頭なでられたら、擦り減ってますます背が縮んじゃう……」
次兄「今のうちに一生分なでておきたいんだ、おとなしく従いなさい」ナデナデナデナデ
末妹「……変なお兄ちゃん」ナデラレナデラレ
次兄「変なのは今に始まった事でしょうか、いや、ない(自覚はあります)」ナデナデナデナデ
次兄(兄が知らない間に妹は大人になって行くんだなあ、嬉しいような寂しいような)ナデナデナデナデ
476: ◆54DIlPdu2E:2015/05/11(月) 23:40:13.18:2W7NvU5o0 (6/6)
※ここまで※
※ここまで※
477:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/05/12(火) 00:00:09.72:ivU/btP/O (1/1)
良い家族
良い家族
478:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/05/12(火) 01:00:16.06:QX/ZS4FAO (1/1)
乙
次兄なりに末妹ちゃんを気遣ってるのが伝わって涙が出てしまった
次兄なのに悔しい…!
だからこれは悔し涙
乙
次兄なりに末妹ちゃんを気遣ってるのが伝わって涙が出てしまった
次兄なのに悔しい…!
だからこれは悔し涙
479: ◆54DIlPdu2E:2015/05/16(土) 19:59:36.00:XPlAUfRd0 (1/9)
いっぽう、安宿の一室。
師匠「……鏡の魔法で、あいつの屋敷とこの町の雑貨屋を交互に覗いて来たが」
師匠「あいつ…『野獣』と名乗る『王子のなれの果て』と、図書館で会った少年とその妹に、面識があるのは間違いない」
師匠「肝心のあいつ自身が何を考えているかはいまいちわからんが」
師匠「ウサギのメイドはじめ、あいつに仕える動物達は兄妹との再会を心待ちにしているようだ」
師匠「そしてどうやら兄妹の方も、『野獣』達に再び会う事を望んでいる」
師匠「……言葉を話す『獣』達」
師匠「屋敷で共に暮らす4匹の獣達に使われた魔法」
師匠「呪文を組み合わせて使う方法はひとつではないが、いずれにしても」
師匠「例えば…此方にある物をあちらに移動させるような単純な効果とは、まるで訳が違う」
師匠「物の在りようを変えてしまうのだからからな」
師匠「しかし在りようを変えられた物は元の姿に戻ろうとする、その力は地味なれども強い」
師匠「仮に、意思のある生き物が変化した姿で在り続けることを望んでも、一切お構いなし」
師匠「従って(術者の生存中はともかく)、術者の死後まで効果を維持するには強大な魔力が必要になる」
師匠「我ら魔法ギルドの魔術師集団が、王子とバラと屋敷に掛けた魔法のように……」
師匠「問題は……あいつはそれをどこまで理解しているか、だ」
いっぽう、安宿の一室。
師匠「……鏡の魔法で、あいつの屋敷とこの町の雑貨屋を交互に覗いて来たが」
師匠「あいつ…『野獣』と名乗る『王子のなれの果て』と、図書館で会った少年とその妹に、面識があるのは間違いない」
師匠「肝心のあいつ自身が何を考えているかはいまいちわからんが」
師匠「ウサギのメイドはじめ、あいつに仕える動物達は兄妹との再会を心待ちにしているようだ」
師匠「そしてどうやら兄妹の方も、『野獣』達に再び会う事を望んでいる」
師匠「……言葉を話す『獣』達」
師匠「屋敷で共に暮らす4匹の獣達に使われた魔法」
師匠「呪文を組み合わせて使う方法はひとつではないが、いずれにしても」
師匠「例えば…此方にある物をあちらに移動させるような単純な効果とは、まるで訳が違う」
師匠「物の在りようを変えてしまうのだからからな」
師匠「しかし在りようを変えられた物は元の姿に戻ろうとする、その力は地味なれども強い」
師匠「仮に、意思のある生き物が変化した姿で在り続けることを望んでも、一切お構いなし」
師匠「従って(術者の生存中はともかく)、術者の死後まで効果を維持するには強大な魔力が必要になる」
師匠「我ら魔法ギルドの魔術師集団が、王子とバラと屋敷に掛けた魔法のように……」
師匠「問題は……あいつはそれをどこまで理解しているか、だ」
480: ◆54DIlPdu2E:2015/05/16(土) 20:00:44.22:XPlAUfRd0 (2/9)
師匠「王子の能力が並外れているとは言え、そこまでの力は持ってはいない筈」
師匠「おそらく奴の命が尽きれば、人語を解し二本足で歩き、異種同士が仲良く助け合うあの獣達は」
師匠「魔法を掛けられていた間の事も忘れて、元に戻ってしまうだろう、単なる森の野生動物に」
師匠「……」
師匠「だがな、そうなったとて」
師匠「元々野生だった獣が、飼い主の管理下から再び森に放たれるだけ、それだけだ」
師匠「4匹とも今さら野生に帰って生き延びる事ができるとも思えんが、たかが獣ではないか」
師匠「儂の知った事では……」
師匠「………………」
師匠「……全く無責任な『主人』だな、どこまで情けないのだ我が元弟子は!?」
師匠「ペットであろうと召使であろうと、一旦引き受けたからには相手の一生に責任を持たんか!!」プンスカ
師匠「……」
師匠「この時代に目覚めるまでは想定もしていなかった」
師匠「…何より儂が30年も目覚める時を間違えてしまったのが一番でかいが……」
師匠「王子の能力が並外れているとは言え、そこまでの力は持ってはいない筈」
師匠「おそらく奴の命が尽きれば、人語を解し二本足で歩き、異種同士が仲良く助け合うあの獣達は」
師匠「魔法を掛けられていた間の事も忘れて、元に戻ってしまうだろう、単なる森の野生動物に」
師匠「……」
師匠「だがな、そうなったとて」
師匠「元々野生だった獣が、飼い主の管理下から再び森に放たれるだけ、それだけだ」
師匠「4匹とも今さら野生に帰って生き延びる事ができるとも思えんが、たかが獣ではないか」
師匠「儂の知った事では……」
師匠「………………」
師匠「……全く無責任な『主人』だな、どこまで情けないのだ我が元弟子は!?」
師匠「ペットであろうと召使であろうと、一旦引き受けたからには相手の一生に責任を持たんか!!」プンスカ
師匠「……」
師匠「この時代に目覚めるまでは想定もしていなかった」
師匠「…何より儂が30年も目覚める時を間違えてしまったのが一番でかいが……」
481: ◆54DIlPdu2E:2015/05/16(土) 20:01:54.01:XPlAUfRd0 (3/9)
師匠「その30年間もの長い間、あいつがあの変化した姿で生き続けていたこと」
師匠「そして『あの姿』のあいつを慕う存在が現れたこと」
師匠「召使の動物達と、人間の子供達……雑貨屋の年端も行かぬ末娘と、すぐ上の兄」
師匠「鏡を通して様子を伺うだけではなかなか掴めないが」
師匠「……我々が昔かけた魔法に、なんらかの変化が起きている可能性もなきにしもあらず」
師匠「覗き込むだけではない、違う方法を使えば探りを入れる事もできるのだが」
師匠「あいつに儂の魔力を、儂の存在を覚られないようにするのは、ちょっと困難だろうな……」
師匠「だが、バラの呪縛の件に決着が付けば、儂もあいつにどう関わろうと自由だ」
師匠「獣達の処遇だけではない、今後のあらゆる事をもっと真剣に考えさせねばならん」
師匠「屋敷や森から外の世界へ行き来可能な身になったあいつに、この時代であちこちに迷惑を掛けられてもたまらんからな」
宿の鏡「……」シーン
師匠「……思った以上にもどかしいものよ」
師匠「ギルドの魔術師仲間と『王子には直接関わらない』という契約を交わし、覚悟の上でこの時代に来たとは言え」
師匠「決着が付くまで、見守る事しかできないとは……」
師匠「その30年間もの長い間、あいつがあの変化した姿で生き続けていたこと」
師匠「そして『あの姿』のあいつを慕う存在が現れたこと」
師匠「召使の動物達と、人間の子供達……雑貨屋の年端も行かぬ末娘と、すぐ上の兄」
師匠「鏡を通して様子を伺うだけではなかなか掴めないが」
師匠「……我々が昔かけた魔法に、なんらかの変化が起きている可能性もなきにしもあらず」
師匠「覗き込むだけではない、違う方法を使えば探りを入れる事もできるのだが」
師匠「あいつに儂の魔力を、儂の存在を覚られないようにするのは、ちょっと困難だろうな……」
師匠「だが、バラの呪縛の件に決着が付けば、儂もあいつにどう関わろうと自由だ」
師匠「獣達の処遇だけではない、今後のあらゆる事をもっと真剣に考えさせねばならん」
師匠「屋敷や森から外の世界へ行き来可能な身になったあいつに、この時代であちこちに迷惑を掛けられてもたまらんからな」
宿の鏡「……」シーン
師匠「……思った以上にもどかしいものよ」
師匠「ギルドの魔術師仲間と『王子には直接関わらない』という契約を交わし、覚悟の上でこの時代に来たとは言え」
師匠「決着が付くまで、見守る事しかできないとは……」
482: ◆54DIlPdu2E:2015/05/16(土) 20:28:16.64:XPlAUfRd0 (4/9)
商人の家、居間。
長兄「……と、これが今の状況だ。で、末妹はどうだ?」
次兄「兄さんが見た時とあまり変わらないと思うよ、順調に回復している」
次兄「……それで、父さんがどよーんとしている理由は」
次兄「確認のため繰り返すけど、父さんと兄さんしか持っていない我が家で一番重要な金庫の鍵を紛失した、と」
次兄「肌身離さず持っていた鍵がないことに気付いたのは、ついさっきの話だが」
次兄「てっきり、自分が正気ではない間に、次兄か次姉が鍵を預かってくれていると思い込んでしまった、と」
次兄「で、紛失したことと、今の今までそれに気付かなかったことにショックを受けて」
次兄「更に、これからは家族のために以前以上にしっかりせねばと決意した反動もあって、余計落ち込んでいると」
次兄「……整理すると、こういうことだよね?」
商人「ああああああああああああああああああああああああああ」アタマカカエテミモダエ
次姉「傷口に塩と辛子と胡椒と酢を塗り込んでどうするのよ!?」ゲシッ!
長兄「……父さんが何だかスパイシーなマリネにでもされそうだな」
長兄「次兄はデリカシーに欠ける発言を慎むべきだが、事実は事実、認識した上で対策を講じないと」
長兄「合鍵を作るのは簡単だけど、念のため金庫の錠前ごと交換した方が安全だと思う」
商人「……私も賛成だよ……」フラァ
商人の家、居間。
長兄「……と、これが今の状況だ。で、末妹はどうだ?」
次兄「兄さんが見た時とあまり変わらないと思うよ、順調に回復している」
次兄「……それで、父さんがどよーんとしている理由は」
次兄「確認のため繰り返すけど、父さんと兄さんしか持っていない我が家で一番重要な金庫の鍵を紛失した、と」
次兄「肌身離さず持っていた鍵がないことに気付いたのは、ついさっきの話だが」
次兄「てっきり、自分が正気ではない間に、次兄か次姉が鍵を預かってくれていると思い込んでしまった、と」
次兄「で、紛失したことと、今の今までそれに気付かなかったことにショックを受けて」
次兄「更に、これからは家族のために以前以上にしっかりせねばと決意した反動もあって、余計落ち込んでいると」
次兄「……整理すると、こういうことだよね?」
商人「ああああああああああああああああああああああああああ」アタマカカエテミモダエ
次姉「傷口に塩と辛子と胡椒と酢を塗り込んでどうするのよ!?」ゲシッ!
長兄「……父さんが何だかスパイシーなマリネにでもされそうだな」
長兄「次兄はデリカシーに欠ける発言を慎むべきだが、事実は事実、認識した上で対策を講じないと」
長兄「合鍵を作るのは簡単だけど、念のため金庫の錠前ごと交換した方が安全だと思う」
商人「……私も賛成だよ……」フラァ
483: ◆54DIlPdu2E:2015/05/16(土) 20:52:41.47:XPlAUfRd0 (5/9)
商人「肌身離さず持ち歩くため、靴の内側に専用のポケットを作った」
商人「自分の家以外で靴を脱ぐことはまずないし、逆立ちでもしなければ鍵は落ちない構造になっていて、安全だと思った」
商人「それを失ったということは、恐らく、いや、疑いようもなく、私は港で鍵を紛失したのだと思う」
商人「海に飛び込んだ時にね……」
長兄「……」
商人「そうなると、港の海底の泥に埋まっている可能性が最も高いが、もしも……」
商人「港で救助してくれた人達を疑いたくはないけれど、仮に彼等に悪意はないとしても」
商人「私の手元にない以上、悪意のある人間の手に渡っている可能性がないとも限らない」
商人「その人物がこの家の重要な鍵だと気付かないという保証もない」
商人「……少しでも危険性がある以上、錠前も鍵も取り換えるべきだ」
次姉「でも、うちの金庫の錠前はかなり特殊で複雑な作りをしているんでしょ?」
次姉「この町の錠前屋さんで大丈夫なの?」
長兄「あれを作った時は、父さん馴染みの錠前屋を通して、王都の職人に依頼したんだ」
長兄「今回もその方法になるだろう、いいよね、父さん?」
商人「それしか方法はないからね……日数はかかってしまうが、仕方ない」
長兄「それじゃ、さっそく行ってくるよ」
商人「肌身離さず持ち歩くため、靴の内側に専用のポケットを作った」
商人「自分の家以外で靴を脱ぐことはまずないし、逆立ちでもしなければ鍵は落ちない構造になっていて、安全だと思った」
商人「それを失ったということは、恐らく、いや、疑いようもなく、私は港で鍵を紛失したのだと思う」
商人「海に飛び込んだ時にね……」
長兄「……」
商人「そうなると、港の海底の泥に埋まっている可能性が最も高いが、もしも……」
商人「港で救助してくれた人達を疑いたくはないけれど、仮に彼等に悪意はないとしても」
商人「私の手元にない以上、悪意のある人間の手に渡っている可能性がないとも限らない」
商人「その人物がこの家の重要な鍵だと気付かないという保証もない」
商人「……少しでも危険性がある以上、錠前も鍵も取り換えるべきだ」
次姉「でも、うちの金庫の錠前はかなり特殊で複雑な作りをしているんでしょ?」
次姉「この町の錠前屋さんで大丈夫なの?」
長兄「あれを作った時は、父さん馴染みの錠前屋を通して、王都の職人に依頼したんだ」
長兄「今回もその方法になるだろう、いいよね、父さん?」
商人「それしか方法はないからね……日数はかかってしまうが、仕方ない」
長兄「それじゃ、さっそく行ってくるよ」
484: ◆54DIlPdu2E:2015/05/16(土) 21:11:26.05:XPlAUfRd0 (6/9)
商人「待て、私が行くよ」
商人「錠前屋は…彼は私のここ最近の事情も知っている友人だ、失くした状況も説明した上でお願いをする」
商人「お前達ばかり頼りにしていては申し訳ないし」
商人「頭を抱えて沈み込むのは、さっきまでの30分間でもうやめにした」
商人「それに、せっかく病気が治った末妹に、また暗い顔を見せるわけには行かないだろう?」
長兄「父さん」
商人「ここ一週間ほどで、弱くて情けない駄目な自分と向き合ってきたつもりだったが、まだまだ足りなかったようだ」
商人「この先もまた、今はまだ気が付いていないだけの、向き合う場面に出くわすかもしれないが……」
商人「その度にいちいち落ち込んではいられないからな」
次姉「……お父さん」
次兄「」
商人「……それより、次兄は大丈夫かい? 次姉の足元に突っ伏したまま動かないが」
次姉「ハッ」
長兄「そ、そうだった、おい次兄しっかりしろ!?」
次姉「……だいぶ自制が効くようになったと思っていたけど」
次姉「私も、この反射的に手や足が出る自分ともっと向き合わないと……」
商人「待て、私が行くよ」
商人「錠前屋は…彼は私のここ最近の事情も知っている友人だ、失くした状況も説明した上でお願いをする」
商人「お前達ばかり頼りにしていては申し訳ないし」
商人「頭を抱えて沈み込むのは、さっきまでの30分間でもうやめにした」
商人「それに、せっかく病気が治った末妹に、また暗い顔を見せるわけには行かないだろう?」
長兄「父さん」
商人「ここ一週間ほどで、弱くて情けない駄目な自分と向き合ってきたつもりだったが、まだまだ足りなかったようだ」
商人「この先もまた、今はまだ気が付いていないだけの、向き合う場面に出くわすかもしれないが……」
商人「その度にいちいち落ち込んではいられないからな」
次姉「……お父さん」
次兄「」
商人「……それより、次兄は大丈夫かい? 次姉の足元に突っ伏したまま動かないが」
次姉「ハッ」
長兄「そ、そうだった、おい次兄しっかりしろ!?」
次姉「……だいぶ自制が効くようになったと思っていたけど」
次姉「私も、この反射的に手や足が出る自分ともっと向き合わないと……」
485: ◆54DIlPdu2E:2015/05/16(土) 22:44:08.60:XPlAUfRd0 (7/9)
翌早朝、商人の家の馬小屋……
商人「さて愛馬よ、今日のご機嫌は……」
馬「ひひひんひんひひひ(おはよう旦那様)」
末妹「おはよう、お父さん」
商人「末妹!?」
商人「お前の様子を見に行くにはまだ早すぎる時間と思っていたが……こんなに早起きをして」
商人「しかも病み上がりなのに、外の仕事かい!?」
末妹「私もう大丈夫よ、昨日の午後にはほとんど治っていたもの」
末妹「それに、いっぱい寝すぎて早く目が覚めちゃった」
末妹「外の空気が吸いたくなって、この子(馬)の世話をしに来たのよ」
商人「確かに顔色もいいし元気になったのは認めるが、あとは父さんがするよ、中に戻りなさい」
末妹「でも」
次兄「よう末妹、ここにいたのか。父さんも、おはよう」
翌早朝、商人の家の馬小屋……
商人「さて愛馬よ、今日のご機嫌は……」
馬「ひひひんひんひひひ(おはよう旦那様)」
末妹「おはよう、お父さん」
商人「末妹!?」
商人「お前の様子を見に行くにはまだ早すぎる時間と思っていたが……こんなに早起きをして」
商人「しかも病み上がりなのに、外の仕事かい!?」
末妹「私もう大丈夫よ、昨日の午後にはほとんど治っていたもの」
末妹「それに、いっぱい寝すぎて早く目が覚めちゃった」
末妹「外の空気が吸いたくなって、この子(馬)の世話をしに来たのよ」
商人「確かに顔色もいいし元気になったのは認めるが、あとは父さんがするよ、中に戻りなさい」
末妹「でも」
次兄「よう末妹、ここにいたのか。父さんも、おはよう」
486: ◆54DIlPdu2E:2015/05/16(土) 22:46:18.76:XPlAUfRd0 (8/9)
末妹「お兄ちゃん」
商人「!? い、いったいどうしたんだ、次兄がこんなに朝早く自力で目を覚ましているなんて!?!?」ガクガクブルブル
次兄「天変地異でもあるまいに、そのリアクションは大袈裟だ父さん」
次兄「昨日は気絶から部屋に運ばれてそのまま眠ってしまったらしく、13時間も経てば流石の俺も目が覚める」
末妹「気絶??」
次兄「おっと、なんでもないからね」
次兄(鍵を失くした話は父さん自ら追い追いする予定だし、姉さんに拳骨でぶん殴られた話は騎士の情け(?)で黙っておこう)
商人「……ちょうどよかった、次兄、末妹を連れて家に入っておくれ」
次兄「そうだね、まだ無理はさせられないからね。おいで」
次兄「朝食まで暇だったら、少し『あの話』をしよう」ボソ
末妹「あ……わ、わかったわ」ボソ
末妹「また後でね、お父さん、馬さん」
商人「ああ、朝ごはんの席でね」
馬「ひひんぶるるひん(またねお嬢さん)」
末妹「お兄ちゃん」
商人「!? い、いったいどうしたんだ、次兄がこんなに朝早く自力で目を覚ましているなんて!?!?」ガクガクブルブル
次兄「天変地異でもあるまいに、そのリアクションは大袈裟だ父さん」
次兄「昨日は気絶から部屋に運ばれてそのまま眠ってしまったらしく、13時間も経てば流石の俺も目が覚める」
末妹「気絶??」
次兄「おっと、なんでもないからね」
次兄(鍵を失くした話は父さん自ら追い追いする予定だし、姉さんに拳骨でぶん殴られた話は騎士の情け(?)で黙っておこう)
商人「……ちょうどよかった、次兄、末妹を連れて家に入っておくれ」
次兄「そうだね、まだ無理はさせられないからね。おいで」
次兄「朝食まで暇だったら、少し『あの話』をしよう」ボソ
末妹「あ……わ、わかったわ」ボソ
末妹「また後でね、お父さん、馬さん」
商人「ああ、朝ごはんの席でね」
馬「ひひんぶるるひん(またねお嬢さん)」
487: ◆54DIlPdu2E:2015/05/16(土) 22:46:59.46:XPlAUfRd0 (9/9)
※ここまで。寝落ちます※
>>477-478 ありがとうございます
※ここまで。寝落ちます※
>>477-478 ありがとうございます
488:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/05/17(日) 00:35:43.40:2Dl+lWDAO (1/1)
乙
師匠は野獣に会えないのか
見守るだけはつらいな
乙
師匠は野獣に会えないのか
見守るだけはつらいな
489: ◆54DIlPdu2E:2015/05/18(月) 22:38:38.51:5TPx+DQu0 (1/2)
※たぶん今週あまり更新できません。1回くらいはできそうですが、すみません※
※たぶん今週あまり更新できません。1回くらいはできそうですが、すみません※
490: ◆54DIlPdu2E:2015/05/18(月) 22:40:03.09:5TPx+DQu0 (2/2)
※お知らせのみなのにあげちゃった、ごめんなさい…※
※お知らせのみなのにあげちゃった、ごめんなさい…※
491:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/05/19(火) 01:01:06.27:nCKk31DAO (1/1)
乙、めっちゃ残念だけど我慢して待ってるぜ
無理はいかんものな残念だけど
乙、めっちゃ残念だけど我慢して待ってるぜ
無理はいかんものな残念だけど
492: ◆54DIlPdu2E:2015/05/21(木) 23:51:38.33:atj23C6N0 (1/7)
……回想。
魔術師ギルド幹部…以下「幹部」
(幹部1「結局、王子の扱いについては今の時点では決められないということか」)
(幹部2「暗殺依頼の最低限の成功条件は王と王妃のみ、後は魔術師ギルドの裁量に任せる、との一文もある」)
(幹部3「依頼人達の中にも、王子には同情する意見が少数ながらあったそうだ」)
(幹部3「先の一文は最終的に全員が合意したそうだが」)
(師匠(=幹部4)「……」)
(幹部1「幹部4、正式ではないとは言え自分の弟子も同然だから複雑なのはわかるが、今さら私情は挟むなよ?」)
(幹部3「……やはり君は外れた方がよいのでは?」)
(師匠「いや、暗殺依頼は別にしても、あいつは禁忌を習得した件の責任を負わねばならん」)
(師匠「それに…王が死ねば王族寄りの貴族達は黙ってはいないだろう」)
(師匠「王子だけ生きていると知った時の彼等が、どのように動くかは想像がつく」)
(師匠「王子も公式には『死んで』貰わねばならない事に変わりない」)
(師匠「……あいつが禁忌を実際に使用するか、罪の意識はあるのか、それにも左右されるがな」)
(師匠(いずれにせよ、こうなってしまっては図書館の娘と平穏に暮らせる未来だけは与えてやれそうにない……))
…………
……回想。
魔術師ギルド幹部…以下「幹部」
(幹部1「結局、王子の扱いについては今の時点では決められないということか」)
(幹部2「暗殺依頼の最低限の成功条件は王と王妃のみ、後は魔術師ギルドの裁量に任せる、との一文もある」)
(幹部3「依頼人達の中にも、王子には同情する意見が少数ながらあったそうだ」)
(幹部3「先の一文は最終的に全員が合意したそうだが」)
(師匠(=幹部4)「……」)
(幹部1「幹部4、正式ではないとは言え自分の弟子も同然だから複雑なのはわかるが、今さら私情は挟むなよ?」)
(幹部3「……やはり君は外れた方がよいのでは?」)
(師匠「いや、暗殺依頼は別にしても、あいつは禁忌を習得した件の責任を負わねばならん」)
(師匠「それに…王が死ねば王族寄りの貴族達は黙ってはいないだろう」)
(師匠「王子だけ生きていると知った時の彼等が、どのように動くかは想像がつく」)
(師匠「王子も公式には『死んで』貰わねばならない事に変わりない」)
(師匠「……あいつが禁忌を実際に使用するか、罪の意識はあるのか、それにも左右されるがな」)
(師匠(いずれにせよ、こうなってしまっては図書館の娘と平穏に暮らせる未来だけは与えてやれそうにない……))
…………
493: ◆54DIlPdu2E:2015/05/21(木) 23:53:47.36:atj23C6N0 (2/7)
…………
(師匠「お前を信用して明かすが、王子は、本当は死んではいない。だが、お前とは永遠に会えなくなった」)
(図書館の娘「……!!」)
(師匠「……儂をいくら責めても良い。だが、どうかお前には自分の幸福を掴んで欲しい」)
(師匠「それがあいつの願いでもあるはずだ」)
(図書館の娘「王子様は…遠いところにいらっしゃるのですね。そこで生きて行かれるのですね?」)
(師匠「あ、ああ……そういうことになるな」)
(図書館の娘「そのほうが安全で平穏に暮らせるのならば、私も遠くから王子様の幸せを祈って暮らすことにします」)
(図書館の娘「元々、王子様と私のような卑しい身分の娘では、結ばれるなどとは望む事も許されないこと」)
(師匠「……」)
(師匠(お前のその『物分かりの良さ』に救われたと思っている儂は、つくづく最低だと自分でも思う……))
(図書館の娘「それでも私は」)
(…………)
師匠「『それでも私は』」
師匠「……その後、あの娘はなんと言葉を続けたっけな……」
…………
(師匠「お前を信用して明かすが、王子は、本当は死んではいない。だが、お前とは永遠に会えなくなった」)
(図書館の娘「……!!」)
(師匠「……儂をいくら責めても良い。だが、どうかお前には自分の幸福を掴んで欲しい」)
(師匠「それがあいつの願いでもあるはずだ」)
(図書館の娘「王子様は…遠いところにいらっしゃるのですね。そこで生きて行かれるのですね?」)
(師匠「あ、ああ……そういうことになるな」)
(図書館の娘「そのほうが安全で平穏に暮らせるのならば、私も遠くから王子様の幸せを祈って暮らすことにします」)
(図書館の娘「元々、王子様と私のような卑しい身分の娘では、結ばれるなどとは望む事も許されないこと」)
(師匠「……」)
(師匠(お前のその『物分かりの良さ』に救われたと思っている儂は、つくづく最低だと自分でも思う……))
(図書館の娘「それでも私は」)
(…………)
師匠「『それでも私は』」
師匠「……その後、あの娘はなんと言葉を続けたっけな……」
494: ◆54DIlPdu2E:2015/05/21(木) 23:55:07.70:atj23C6N0 (3/7)
商人の家、末妹の部屋。
次兄「野獣様が俺達を送り出す時に話していた『二週間』まであと五日となったわけだが」
次兄「今日1日くらいは、お屋敷に戻る話を切り出さない方がいいと思うんだ」
末妹「でも、そうなるとお父さん達を短い日にちで説得しないとならなくなるわ」
次兄「まあ……こうなっては五日後にすぐ戻れない覚悟も必要かもしれない」
次兄「俺だって、早く野獣様達に会いたいけどね」
次兄「と同時に、父さん達を納得させる手立ても講じなければならないだろう」
次兄「だから、今度は向こうでの滞在期間を限定して『○日後に家に帰ってくる』と父さんに約束をするんだ」
次兄「家族と約束したと言えば、野獣様も当然、その期日を守ってまた俺達を家に帰してくださるだろう」
末妹「お父さんが信じてくれるかしら……」
次兄「そう、そこで、野獣様がいかにジェントルマンで誠実なお方かをアピールしなくては」
末妹「……私達が行き来するために野獣様に魔法の力を使わせて」
末妹「本当にご迷惑にならないのかな」
次兄「そこをためらうか妹よ!?」ヌババーン
末妹「そ、そうじゃないの、ただ……もっと野獣様に負担をかけずに済む方法があれば、って思っただけ」
商人の家、末妹の部屋。
次兄「野獣様が俺達を送り出す時に話していた『二週間』まであと五日となったわけだが」
次兄「今日1日くらいは、お屋敷に戻る話を切り出さない方がいいと思うんだ」
末妹「でも、そうなるとお父さん達を短い日にちで説得しないとならなくなるわ」
次兄「まあ……こうなっては五日後にすぐ戻れない覚悟も必要かもしれない」
次兄「俺だって、早く野獣様達に会いたいけどね」
次兄「と同時に、父さん達を納得させる手立ても講じなければならないだろう」
次兄「だから、今度は向こうでの滞在期間を限定して『○日後に家に帰ってくる』と父さんに約束をするんだ」
次兄「家族と約束したと言えば、野獣様も当然、その期日を守ってまた俺達を家に帰してくださるだろう」
末妹「お父さんが信じてくれるかしら……」
次兄「そう、そこで、野獣様がいかにジェントルマンで誠実なお方かをアピールしなくては」
末妹「……私達が行き来するために野獣様に魔法の力を使わせて」
末妹「本当にご迷惑にならないのかな」
次兄「そこをためらうか妹よ!?」ヌババーン
末妹「そ、そうじゃないの、ただ……もっと野獣様に負担をかけずに済む方法があれば、って思っただけ」
495: ◆54DIlPdu2E:2015/05/21(木) 23:56:01.32:atj23C6N0 (4/7)
末妹「……あと、お兄ちゃんのその不思議なポーズの意味がわからない」
次兄「……うむ、これは確かに奇抜すぎたか」
次兄「この体勢は見た目以上に本人は苦しいのだ。やっぱり楽な姿勢に戻そう」シュピン
末妹(だからその理由は、って疑問を持っては駄目なのよね、きっと……)フゥ
次兄「とりあえず、既にかけてもらった魔法で屋敷を再び訪れた後は」
次兄「また家に帰るため、最低一回は野獣様に魔法を使っていただかねばならん」
次兄「それはやむを得ない所だが、ここでひとつ兄ちゃんには考えがある」
次兄「帰還するための魔法は、大量の魔力を使い、しかも使用時は集中しなければならないと仰ってた」
次兄「それに比べ、鏡の魔法は……もう少し気軽に使っていたようなフシがないか?」
末妹「そう言えば……」
次兄「んで、一度呪文をかけた鏡は、同じ合言葉を使うだけで双方向にできるとも仰っていた」
次兄「……だから、野獣様に再会した時、俺からある提案を持ちかけようと思う」
次兄「鏡の魔法の合言葉を教えてもらって、自分の家にいながらお互い様子をやり取りできるようにするのだ」
末妹「!」
次兄「初めは野獣様たちと文通ができればと思っていたが……」
末妹「……あと、お兄ちゃんのその不思議なポーズの意味がわからない」
次兄「……うむ、これは確かに奇抜すぎたか」
次兄「この体勢は見た目以上に本人は苦しいのだ。やっぱり楽な姿勢に戻そう」シュピン
末妹(だからその理由は、って疑問を持っては駄目なのよね、きっと……)フゥ
次兄「とりあえず、既にかけてもらった魔法で屋敷を再び訪れた後は」
次兄「また家に帰るため、最低一回は野獣様に魔法を使っていただかねばならん」
次兄「それはやむを得ない所だが、ここでひとつ兄ちゃんには考えがある」
次兄「帰還するための魔法は、大量の魔力を使い、しかも使用時は集中しなければならないと仰ってた」
次兄「それに比べ、鏡の魔法は……もう少し気軽に使っていたようなフシがないか?」
末妹「そう言えば……」
次兄「んで、一度呪文をかけた鏡は、同じ合言葉を使うだけで双方向にできるとも仰っていた」
次兄「……だから、野獣様に再会した時、俺からある提案を持ちかけようと思う」
次兄「鏡の魔法の合言葉を教えてもらって、自分の家にいながらお互い様子をやり取りできるようにするのだ」
末妹「!」
次兄「初めは野獣様たちと文通ができればと思っていたが……」
496: ◆54DIlPdu2E:2015/05/21(木) 23:57:16.63:atj23C6N0 (5/7)
次兄「まともにあの屋敷へ行きつく道もなければそんな場所へ手紙を運んでくれる郵便屋もいそうにない」
次兄「手紙の行き来にも魔法を使うしか手段がなさそうなら、鏡を使っても同じこと」
次兄「おまけにお互いの顔を見ながら会話ができるんだ」
次兄「通信手段として実に斬新」デンワモナイジダイデス
次兄「これならいつでも話せるし、お互いの今の様子を知ることもできる」
次兄「しかも、野獣様の魔力も(たぶん)無駄に大量消費しなくて済む(と思われる)」
次兄「末妹が家を空ける回数や時間が少なくなれば、父さんも安心するよ」
末妹「お兄ちゃんすごい……鏡の魔法を使うなんて考え付きもしなかった」
次兄「もちろん、野獣様がこの提案に賛同してくれるかどうかだけど」
次兄「お互いの良い関係を築くために努力することには、それだけでも意義があると思う」
末妹「……お兄ちゃんが一緒に野獣様のお屋敷にいてくれて、本当によかった」
次兄「ああ、俺達は同志だ。野獣様と友達になりたい同盟の同志だ」
次兄「ともに頑張ろう!!」
末妹「うん!!」
次兄(末妹は純粋に、俺は欲望を過積載という、些細な違いはありますけどね)
次兄「まともにあの屋敷へ行きつく道もなければそんな場所へ手紙を運んでくれる郵便屋もいそうにない」
次兄「手紙の行き来にも魔法を使うしか手段がなさそうなら、鏡を使っても同じこと」
次兄「おまけにお互いの顔を見ながら会話ができるんだ」
次兄「通信手段として実に斬新」デンワモナイジダイデス
次兄「これならいつでも話せるし、お互いの今の様子を知ることもできる」
次兄「しかも、野獣様の魔力も(たぶん)無駄に大量消費しなくて済む(と思われる)」
次兄「末妹が家を空ける回数や時間が少なくなれば、父さんも安心するよ」
末妹「お兄ちゃんすごい……鏡の魔法を使うなんて考え付きもしなかった」
次兄「もちろん、野獣様がこの提案に賛同してくれるかどうかだけど」
次兄「お互いの良い関係を築くために努力することには、それだけでも意義があると思う」
末妹「……お兄ちゃんが一緒に野獣様のお屋敷にいてくれて、本当によかった」
次兄「ああ、俺達は同志だ。野獣様と友達になりたい同盟の同志だ」
次兄「ともに頑張ろう!!」
末妹「うん!!」
次兄(末妹は純粋に、俺は欲望を過積載という、些細な違いはありますけどね)
497: ◆54DIlPdu2E:2015/05/21(木) 23:58:23.37:atj23C6N0 (6/7)
……
…………
誰も覚えていない話。
小国の王の別荘、森の中の、機械仕掛けの屋敷。
師匠「……王子よ。我が弟子よ。お前は既に200年の眠りの中にいるが、この声だけは聞こえるはずだ」
師匠「これから話す内容は、お前が再び目を覚ました時には記憶から消えてしまう」
師匠「そして、お前のバラの呪縛が解ける時に、再び思い出すだろう」
師匠「目覚めたお前は恐らく……まともにヒトの姿はしていないはずだ」
師匠「その姿でお前は呪縛から解放される日まで生きていかねばならないが」
師匠「解放されたお前は人間の姿に戻る」
師匠「と同時に、異形の姿で過ごした日々を失う」
師匠「……正確には、完全に忘れはしないけれど」
師匠「その日々を『自分の実際の体験』とは思わずに、『長い夢を見ていた』と認識するだろう」
師匠「王子ではない姿で過ごした日々が、何年だろうと、何十年だろうとな」
……
…………
誰も覚えていない話。
小国の王の別荘、森の中の、機械仕掛けの屋敷。
師匠「……王子よ。我が弟子よ。お前は既に200年の眠りの中にいるが、この声だけは聞こえるはずだ」
師匠「これから話す内容は、お前が再び目を覚ました時には記憶から消えてしまう」
師匠「そして、お前のバラの呪縛が解ける時に、再び思い出すだろう」
師匠「目覚めたお前は恐らく……まともにヒトの姿はしていないはずだ」
師匠「その姿でお前は呪縛から解放される日まで生きていかねばならないが」
師匠「解放されたお前は人間の姿に戻る」
師匠「と同時に、異形の姿で過ごした日々を失う」
師匠「……正確には、完全に忘れはしないけれど」
師匠「その日々を『自分の実際の体験』とは思わずに、『長い夢を見ていた』と認識するだろう」
師匠「王子ではない姿で過ごした日々が、何年だろうと、何十年だろうとな」
498: ◆54DIlPdu2E:2015/05/21(木) 23:59:53.22:atj23C6N0 (7/7)
師匠「それがお前にとって、その時お前の傍にいる『誰か』にとって」
師匠「喜びとなるか、新たな試練の始まりとなるかは……お前次第だ」
…………
南の港町、いずれ図書館となる魔法ギルド地方支部の地下。
(魔法使い1「……確認ですが、先生はご存知ですよね?」)
(魔法使い1「190年後に目覚めて、王子が生きている時代に一緒に存在するからには」)
(魔法使い1「王子と同様に『あの話』を、先生もお忘れになる、ということを」)
(師匠「ああ、王子が呪縛から解放される時までは、儂も完全に忘れ去っていると、充分にわかっておる」)
(魔法使い2「その時が来れば、場合によっては、先生も辛い思いをされるかもしれませんね……」)
(師匠「儂の精神はそこまでヤワではないわ」)
(師匠「あの愚か者が『自由』と共に何かを得るのか、引き換えに何かを失うのか、全てあいつ次第」)
(師匠「そして、その日が来れば儂がどう関わろうとも、それももう自由だ」)
(師匠「儂はあいつを見守り、場合によっては色々叩き直してやらねばならんかもしれん」)
(師匠「……この会話も、儂は190年後には忘れているのだろうな」)
…………
今は、誰も覚えていない話……
師匠「それがお前にとって、その時お前の傍にいる『誰か』にとって」
師匠「喜びとなるか、新たな試練の始まりとなるかは……お前次第だ」
…………
南の港町、いずれ図書館となる魔法ギルド地方支部の地下。
(魔法使い1「……確認ですが、先生はご存知ですよね?」)
(魔法使い1「190年後に目覚めて、王子が生きている時代に一緒に存在するからには」)
(魔法使い1「王子と同様に『あの話』を、先生もお忘れになる、ということを」)
(師匠「ああ、王子が呪縛から解放される時までは、儂も完全に忘れ去っていると、充分にわかっておる」)
(魔法使い2「その時が来れば、場合によっては、先生も辛い思いをされるかもしれませんね……」)
(師匠「儂の精神はそこまでヤワではないわ」)
(師匠「あの愚か者が『自由』と共に何かを得るのか、引き換えに何かを失うのか、全てあいつ次第」)
(師匠「そして、その日が来れば儂がどう関わろうとも、それももう自由だ」)
(師匠「儂はあいつを見守り、場合によっては色々叩き直してやらねばならんかもしれん」)
(師匠「……この会話も、儂は190年後には忘れているのだろうな」)
…………
今は、誰も覚えていない話……
499: ◆54DIlPdu2E:2015/05/22(金) 00:00:59.66:XJXrErvm0 (1/1)
※おまたせしまし。今夜はここまで※
>>488 >>491 ありがとう&すみません…
※おまたせしまし。今夜はここまで※
>>488 >>491 ありがとう&すみません…
500:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/05/22(金) 02:25:59.55:Icty5G4AO (1/1)
乙
忘れちゃうのか……
乙
忘れちゃうのか……
501: ◆54DIlPdu2E:2015/05/24(日) 21:40:03.15:FmxrVQVg0 (1/4)
次兄の部屋。
鉛筆:カキカキ……
次兄「うむ、お土産にする絵はこんなもんかな」
次兄「束ねて、汚れないように軽く包装して、忘れないうちに鞄に入れておこう」ガサガサ
次兄(……ここから独り言を無音にします)シー
次兄(机の上に残った絵は、お土産用の絵を描く際の余った勢いで内面より湧き出すごとく紙に叩きつけられた……)
次兄(完全なる個人的な趣味の絵です!)デデーン
次兄(今は裏向きに伏せてあるから鏡の魔法でも見つかりません…たぶん)
次兄(こちらは野獣様や執事さん、いや末妹にさえ見られてはならない)
次兄(これ以上人格を疑われては、さすがに……)
次兄(鍵のかかる引き出しにこのまましまっちゃいましょう)ゴソゴソ
次兄(これだって、対象や方向性や発散方法が違うだけで若者にはありがちな現象と言えない事もないと信じたい)ガチャガチャ
次兄「……さて、お昼ごはんの時間だなあ」ノビー
次兄「そして午後からは末妹と交代で店の手伝いだ」
次兄「父さんの心証アップ狙いは否めないが、何より末妹が昨日の今日で俺一人遊んで過ごすわけにも行かないからな」
次兄の部屋。
鉛筆:カキカキ……
次兄「うむ、お土産にする絵はこんなもんかな」
次兄「束ねて、汚れないように軽く包装して、忘れないうちに鞄に入れておこう」ガサガサ
次兄(……ここから独り言を無音にします)シー
次兄(机の上に残った絵は、お土産用の絵を描く際の余った勢いで内面より湧き出すごとく紙に叩きつけられた……)
次兄(完全なる個人的な趣味の絵です!)デデーン
次兄(今は裏向きに伏せてあるから鏡の魔法でも見つかりません…たぶん)
次兄(こちらは野獣様や執事さん、いや末妹にさえ見られてはならない)
次兄(これ以上人格を疑われては、さすがに……)
次兄(鍵のかかる引き出しにこのまましまっちゃいましょう)ゴソゴソ
次兄(これだって、対象や方向性や発散方法が違うだけで若者にはありがちな現象と言えない事もないと信じたい)ガチャガチャ
次兄「……さて、お昼ごはんの時間だなあ」ノビー
次兄「そして午後からは末妹と交代で店の手伝いだ」
次兄「父さんの心証アップ狙いは否めないが、何より末妹が昨日の今日で俺一人遊んで過ごすわけにも行かないからな」
502: ◆54DIlPdu2E:2015/05/24(日) 21:41:42.92:FmxrVQVg0 (2/4)
安宿の一室。
師匠「ふむ、あの少年の鉛筆は絵を描くために使われた物か」
師匠「動物の……あいつの屋敷の動物達と獣の姿をしたあいつの絵ばかり」
師匠「芸術はさっぱりだが、少年にしてはかなりの腕前のようだな」
師匠「……時々、机の下に潜って他にも描いていたらしい様子もあったが」
師匠「妹の方はすっかり元気になったようで、朝から働いている」
師匠「それが嬉しいのか、今朝、黒髪の姉が心底からの良い笑顔で妹の頭を撫でていた」
師匠「……兄弟姉妹とは良いものだな、儂もあいつも一人っ子だが」
師匠「しかし、もう一人の姉はと言えば……」
師匠「ん、ちょうどその姉の部屋に家政婦が昼食を運んできたようだな」
商人の家、長姉の部屋。
部屋のドア:……
長姉「昼食の時間……この足音……家政婦さんね」ドアニヘバリツキー
部屋の外の家政婦(さて、いつも通りお盆をドアの前に置いて、っと)
部屋のドア:バッタン!!
家政婦「」
長姉「び、びっくりさせちゃった?」
安宿の一室。
師匠「ふむ、あの少年の鉛筆は絵を描くために使われた物か」
師匠「動物の……あいつの屋敷の動物達と獣の姿をしたあいつの絵ばかり」
師匠「芸術はさっぱりだが、少年にしてはかなりの腕前のようだな」
師匠「……時々、机の下に潜って他にも描いていたらしい様子もあったが」
師匠「妹の方はすっかり元気になったようで、朝から働いている」
師匠「それが嬉しいのか、今朝、黒髪の姉が心底からの良い笑顔で妹の頭を撫でていた」
師匠「……兄弟姉妹とは良いものだな、儂もあいつも一人っ子だが」
師匠「しかし、もう一人の姉はと言えば……」
師匠「ん、ちょうどその姉の部屋に家政婦が昼食を運んできたようだな」
商人の家、長姉の部屋。
部屋のドア:……
長姉「昼食の時間……この足音……家政婦さんね」ドアニヘバリツキー
部屋の外の家政婦(さて、いつも通りお盆をドアの前に置いて、っと)
部屋のドア:バッタン!!
家政婦「」
長姉「び、びっくりさせちゃった?」
503: ◆54DIlPdu2E:2015/05/24(日) 21:45:24.47:FmxrVQVg0 (3/4)
家政婦「……長姉様」
長姉「あ、あ、あの、家政婦さん、いつもありがとうね!?」
長姉「に、兄さんの言いつけだとわかっているけど、私のために余分な仕事を増やさせて」
長姉「言いつけ以上に気を遣ってくれているのも知ってるわ、だから本当はずっと……かかか、感謝してたのありがとう!」
家政婦「……」
長姉「……でも、もう少しだけ、この生活を続けるから……」
長姉「もうしばらく…迷惑もかけ続けます、ごめんなさい……」
家政婦「……長姉様ったら」
長姉「は、はいっ!?」
家政婦「なんなんですかいきなり、面白いお方ですねえ本当に」クスクスクス
長姉「」
家政婦「お昼ごはんが冷めてしまいます、はい、温かいうちに召し上がってくださいね」テワタシ
長姉「は、はい、いただきます!」ウケトリ
家政婦「では、また後ほど……」
長姉「……」オボンモッタママ
長姉「家政婦さん、笑うんだ……今まで見た事なかった」
家政婦「……長姉様」
長姉「あ、あ、あの、家政婦さん、いつもありがとうね!?」
長姉「に、兄さんの言いつけだとわかっているけど、私のために余分な仕事を増やさせて」
長姉「言いつけ以上に気を遣ってくれているのも知ってるわ、だから本当はずっと……かかか、感謝してたのありがとう!」
家政婦「……」
長姉「……でも、もう少しだけ、この生活を続けるから……」
長姉「もうしばらく…迷惑もかけ続けます、ごめんなさい……」
家政婦「……長姉様ったら」
長姉「は、はいっ!?」
家政婦「なんなんですかいきなり、面白いお方ですねえ本当に」クスクスクス
長姉「」
家政婦「お昼ごはんが冷めてしまいます、はい、温かいうちに召し上がってくださいね」テワタシ
長姉「は、はい、いただきます!」ウケトリ
家政婦「では、また後ほど……」
長姉「……」オボンモッタママ
長姉「家政婦さん、笑うんだ……今まで見た事なかった」
504: ◆54DIlPdu2E:2015/05/24(日) 21:46:08.66:FmxrVQVg0 (4/4)
※読んでくれてありがとうございます。今回はここまで、短くてすみません※
※読んでくれてありがとうございます。今回はここまで、短くてすみません※
505:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/05/25(月) 00:38:30.17:Gf3EaSdAO (1/1)
長姉も変わろうとしてるんだな
しかし次兄のリビドーに満ちた絵とは一体…
見たいような見たくないような……
長姉も変わろうとしてるんだな
しかし次兄のリビドーに満ちた絵とは一体…
見たいような見たくないような……
506: ◆54DIlPdu2E:2015/05/29(金) 01:05:19.10:f76a8VDW0 (1/10)
商人の家、居間。
商人「金庫の新しい錠前と鍵もあと10日ほどで届くだろう」
商人「それまで1本だけの古い鍵は引き続き長兄が持つ」
商人「新しい鍵は私と長兄、そして次姉にも管理してもらうことにした、だから合計3本だ」
商人「次姉ももう一人前だからね」
商人「本人は最初まだ自分には早いと言ってたが、私と長兄と3人で話し合った結果、最後は承諾してくれたよ」
商人「……と、ここまでが今お前に話せることだ」
商人「私が鍵を失くしたと聞いた時は心配しただろう、だが、こうして家族が支えてくれる」
商人「父さんまだまだ頼りないけど、皆のおかげで頑張れる」
商人「お前のためにも、もっと強く前向きな父親にならないとね」
末妹「……」
末妹「よかった、お父さんが(また)気落ちしているんじゃないかって思っていたの」
商人の家、居間。
商人「金庫の新しい錠前と鍵もあと10日ほどで届くだろう」
商人「それまで1本だけの古い鍵は引き続き長兄が持つ」
商人「新しい鍵は私と長兄、そして次姉にも管理してもらうことにした、だから合計3本だ」
商人「次姉ももう一人前だからね」
商人「本人は最初まだ自分には早いと言ってたが、私と長兄と3人で話し合った結果、最後は承諾してくれたよ」
商人「……と、ここまでが今お前に話せることだ」
商人「私が鍵を失くしたと聞いた時は心配しただろう、だが、こうして家族が支えてくれる」
商人「父さんまだまだ頼りないけど、皆のおかげで頑張れる」
商人「お前のためにも、もっと強く前向きな父親にならないとね」
末妹「……」
末妹「よかった、お父さんが(また)気落ちしているんじゃないかって思っていたの」
507: ◆54DIlPdu2E:2015/05/29(金) 01:06:28.15:f76a8VDW0 (2/10)
商人「全く落ち込まないのは無理でも、立ち直るまでの時間は格段に短くなったね」
商人「……って次兄に言われたよ」
末妹(お父さんに面と向かって言うあたりどうかなって思うけど、お兄ちゃんお世辞を言えない人だからきっと本当ね)
末妹「今お父さんが元気なら、私は何も心配しないわ」
商人「お前も顔色がいいし、すっかり体の具合もよくなったようだね。安心したよ」ナデナデ
末妹「……今朝、次姉おねえさんにも同じこと言われてめいっぱい頭なでられたの」
末妹「昨日のお兄ちゃんといい、本当に擦り減っちゃったらどうしよう私……」
商人「はっはっは、父さんは正直、今のままでいて欲しいけど」
商人「何しろ成長期だからな、しっかりごはん食べてよく眠ったらどんどん大きくなるさ」ナデナデ
末妹「だといいけど……」
末妹(早く背が伸びたらいいのにな)
末妹(今のままじゃ、本当に野獣様の半分しかないんだもの……)
……
商人「全く落ち込まないのは無理でも、立ち直るまでの時間は格段に短くなったね」
商人「……って次兄に言われたよ」
末妹(お父さんに面と向かって言うあたりどうかなって思うけど、お兄ちゃんお世辞を言えない人だからきっと本当ね)
末妹「今お父さんが元気なら、私は何も心配しないわ」
商人「お前も顔色がいいし、すっかり体の具合もよくなったようだね。安心したよ」ナデナデ
末妹「……今朝、次姉おねえさんにも同じこと言われてめいっぱい頭なでられたの」
末妹「昨日のお兄ちゃんといい、本当に擦り減っちゃったらどうしよう私……」
商人「はっはっは、父さんは正直、今のままでいて欲しいけど」
商人「何しろ成長期だからな、しっかりごはん食べてよく眠ったらどんどん大きくなるさ」ナデナデ
末妹「だといいけど……」
末妹(早く背が伸びたらいいのにな)
末妹(今のままじゃ、本当に野獣様の半分しかないんだもの……)
……
508: ◆54DIlPdu2E:2015/05/29(金) 01:07:36.65:f76a8VDW0 (3/10)
野獣の屋敷、野獣の部屋。
鏡「デスッテヨ」
野獣「末妹も元気になったな、もう心配なさそうだ、よかった」
野獣「…次にあの顔を曇らせるのは、間違いなく私だが……」
鏡「キョウハオヒトリデスネ」
野獣「?」
鏡「シツジサンタチハイッショニゴランニナラナイノデ?」
野獣「……」
鏡の覆い布:バサリ
鏡「」
野獣「我ながら未練がましいものだ」
野獣「終わりが来るのを知っているのに、いや、私自身の手で終わらせようとしているのに」
野獣「まだ何も知らずに幸せそうな末妹の姿を、少しでも多く記憶に刻みつけておきたいとは……」
野獣の屋敷、野獣の部屋。
鏡「デスッテヨ」
野獣「末妹も元気になったな、もう心配なさそうだ、よかった」
野獣「…次にあの顔を曇らせるのは、間違いなく私だが……」
鏡「キョウハオヒトリデスネ」
野獣「?」
鏡「シツジサンタチハイッショニゴランニナラナイノデ?」
野獣「……」
鏡の覆い布:バサリ
鏡「」
野獣「我ながら未練がましいものだ」
野獣「終わりが来るのを知っているのに、いや、私自身の手で終わらせようとしているのに」
野獣「まだ何も知らずに幸せそうな末妹の姿を、少しでも多く記憶に刻みつけておきたいとは……」
509: ◆54DIlPdu2E:2015/05/29(金) 01:09:53.31:f76a8VDW0 (4/10)
商人の店。
呼び鈴:チリンチリン
次兄「いぃりゃっしゃああせえぇぇい!!」
常連客(ビクッ)
次姉「次兄、変な声出さないの、真面目にやりなさい!!」
次兄「ふざけていません、大真面目ですー!」ナミダメ
次姉「……ええ、そうね、引き籠りで人見知りのあんたに慣れないことをさせるほうが悪いわね」
次姉「お客様のお相手は私がするから、できるだけ口をきかないで、私に言われたことだけやってなさい」
次兄「畏まりましたお姉様……」
常連客「……珍しい組み合わせだねえ、今日は君たち二人かい」
次姉「弟が自分から店を手伝うと言い出したので、姉としては応援したい所ですけどね」
次姉「お客様がいらっしゃる度、第一声で驚かせてしまうので……」
常連客「次兄くんは内気な子だから緊張してしまうんだろう、確かにちょっとびっくりしたが、気にしていないよ」
商人の店。
呼び鈴:チリンチリン
次兄「いぃりゃっしゃああせえぇぇい!!」
常連客(ビクッ)
次姉「次兄、変な声出さないの、真面目にやりなさい!!」
次兄「ふざけていません、大真面目ですー!」ナミダメ
次姉「……ええ、そうね、引き籠りで人見知りのあんたに慣れないことをさせるほうが悪いわね」
次姉「お客様のお相手は私がするから、できるだけ口をきかないで、私に言われたことだけやってなさい」
次兄「畏まりましたお姉様……」
常連客「……珍しい組み合わせだねえ、今日は君たち二人かい」
次姉「弟が自分から店を手伝うと言い出したので、姉としては応援したい所ですけどね」
次姉「お客様がいらっしゃる度、第一声で驚かせてしまうので……」
常連客「次兄くんは内気な子だから緊張してしまうんだろう、確かにちょっとびっくりしたが、気にしていないよ」
510: ◆54DIlPdu2E:2015/05/29(金) 01:11:16.86:f76a8VDW0 (5/10)
常連客「ところで、末妹ちゃんの具合はまだ悪いのかね?」
次姉「いいえ、お陰様ですっかり元気になって、午前中は店にも出ていました」
次姉「大事を取らせて午後から次兄と交代させているだけです、ご心配おかけしました」
常連客「そうか、それなら安心だ」
常連客「さてと、いつもの石鹸を三つと……ランプのホヤを一ついただこうかな」
次姉「ランプのホヤですか、あちらの棚にサイズが三種類ありますが?」
常連客「いちばん大きいやつを」
次姉「次兄、大きいホヤを取って」
次兄「これだね? よっ、と……」
次姉「あああ、あんたは背伸び程度じゃ無理、踏み台があるでしょう!?」
次姉「ちょ、限界まで背伸びするから足が攣ってるじゃないのバカなの!?」
次姉「その棚は割れ物が多いから寄り掛からないでぇ!! あああああ!!」
(数分後)
次姉「……ふうぅ、なんでランプのホヤ一つ割らずに取ってもらうだけで、こんなに疲れなきゃならないの……」
常連客「……なんだか申し訳なかったねえ」
常連客「ところで、末妹ちゃんの具合はまだ悪いのかね?」
次姉「いいえ、お陰様ですっかり元気になって、午前中は店にも出ていました」
次姉「大事を取らせて午後から次兄と交代させているだけです、ご心配おかけしました」
常連客「そうか、それなら安心だ」
常連客「さてと、いつもの石鹸を三つと……ランプのホヤを一ついただこうかな」
次姉「ランプのホヤですか、あちらの棚にサイズが三種類ありますが?」
常連客「いちばん大きいやつを」
次姉「次兄、大きいホヤを取って」
次兄「これだね? よっ、と……」
次姉「あああ、あんたは背伸び程度じゃ無理、踏み台があるでしょう!?」
次姉「ちょ、限界まで背伸びするから足が攣ってるじゃないのバカなの!?」
次姉「その棚は割れ物が多いから寄り掛からないでぇ!! あああああ!!」
(数分後)
次姉「……ふうぅ、なんでランプのホヤ一つ割らずに取ってもらうだけで、こんなに疲れなきゃならないの……」
常連客「……なんだか申し訳なかったねえ」
511: ◆54DIlPdu2E:2015/05/29(金) 01:12:26.40:f76a8VDW0 (6/10)
次姉「いいえ、私の判断ミスでした。私が監督責任者として至らなかったのです、ええ、そうですとも、ええ」
次兄「……ごめんなさい」
常連客「ありがとう、それじゃ帰るよ。商人さんにもよろしく伝えておくれ」チリンチリン…
次兄「まいどありぃ……」ペコリ
次姉「……ったく、結局、品物は無事だったからよかったものを、あんたって子は!!」
次兄「ごめんなさいごめんなさい! 反省してるから殴らないで蹴らないでええ!!」オドオドビクビク
次姉「……」
次姉「殴る蹴るは(一応)封印したから、代わりにほっぺでもつねろうと思っていたけど」
次姉「そこまで怯えられたんじゃね、やめておくわ」
次兄「……おやめになってくださるの?」チラ
次兄(よ、よかった……あの剛腕でつねられた日には頬の肉が回復困難なほど変形しかねん、びろーんって)ホッ
次姉「但し、二度目はないからねっ!!」
次兄「はっはい!」ピシィ
次姉「いいえ、私の判断ミスでした。私が監督責任者として至らなかったのです、ええ、そうですとも、ええ」
次兄「……ごめんなさい」
常連客「ありがとう、それじゃ帰るよ。商人さんにもよろしく伝えておくれ」チリンチリン…
次兄「まいどありぃ……」ペコリ
次姉「……ったく、結局、品物は無事だったからよかったものを、あんたって子は!!」
次兄「ごめんなさいごめんなさい! 反省してるから殴らないで蹴らないでええ!!」オドオドビクビク
次姉「……」
次姉「殴る蹴るは(一応)封印したから、代わりにほっぺでもつねろうと思っていたけど」
次姉「そこまで怯えられたんじゃね、やめておくわ」
次兄「……おやめになってくださるの?」チラ
次兄(よ、よかった……あの剛腕でつねられた日には頬の肉が回復困難なほど変形しかねん、びろーんって)ホッ
次姉「但し、二度目はないからねっ!!」
次兄「はっはい!」ピシィ
512: ◆54DIlPdu2E:2015/05/29(金) 01:13:54.44:f76a8VDW0 (7/10)
そのころ、街のちょっとした広場。
長姉「……」
長姉「一昨日貸してくれた、幼馴染男のジャケット」
長姉「洗ったらどうにか汚れも落ちたし」
長姉「生乾きに家政婦さんから借りたアイロンかけて、乾燥具合やシワ伸ばしもまあまあ及第点よね?」炭火式アイロン
長姉「…使い慣れないからちょっとこのへんが…薄く焦げちゃったけど、目立たないわよね?」
キョロキョロ
長姉「……今日はいないか」
長姉「まあ、ほぼ毎日この辺りをぶらついているようじゃ、逆に不安だわ」
長姉「……」
長姉「たった今、自分の発言が思いっきり自分に刺さったけれどね……」ココロズキズキ
長姉「でも仕事で忙しいならともかく、ひょっとして(私が捻じった)首の具合が悪くて……?」
長姉「あれから寝込んでいるとか、最悪、死……」
長姉「いやいやいや! それはないわ!」
長姉「毎朝じっくり新聞読んでる兄さんが知った名前の死亡記事に気づかないわけないもの!」ブンブンブンブン
そのころ、街のちょっとした広場。
長姉「……」
長姉「一昨日貸してくれた、幼馴染男のジャケット」
長姉「洗ったらどうにか汚れも落ちたし」
長姉「生乾きに家政婦さんから借りたアイロンかけて、乾燥具合やシワ伸ばしもまあまあ及第点よね?」炭火式アイロン
長姉「…使い慣れないからちょっとこのへんが…薄く焦げちゃったけど、目立たないわよね?」
キョロキョロ
長姉「……今日はいないか」
長姉「まあ、ほぼ毎日この辺りをぶらついているようじゃ、逆に不安だわ」
長姉「……」
長姉「たった今、自分の発言が思いっきり自分に刺さったけれどね……」ココロズキズキ
長姉「でも仕事で忙しいならともかく、ひょっとして(私が捻じった)首の具合が悪くて……?」
長姉「あれから寝込んでいるとか、最悪、死……」
長姉「いやいやいや! それはないわ!」
長姉「毎朝じっくり新聞読んでる兄さんが知った名前の死亡記事に気づかないわけないもの!」ブンブンブンブン
513: ◆54DIlPdu2E:2015/05/29(金) 01:15:31.71:f76a8VDW0 (8/10)
長姉「そもそも兄さんと同い年で、次姉も交えて三人で遊んだこともあるけど、いつの頃からか」
長姉「遊びに来る時に、兄さんじゃなくて私を名指ししてくるようになったのよね」
長姉「幼馴染男は男子にしてはおとなしい子だから、単に兄さんと好みの遊びが合わないのかな、と思っていたけれど……」
長姉「……もしかして、私のことが好きだったりしていた…とか?」
(幼馴染男「『新しい星を発見して、長姉の名前を付けるんだ』って」)
(幼馴染男「君の心配や負担が軽くなったのは良い事だ」)
(幼馴染男「輝く星みたいで…大好きだったんだよ?」)
(幼馴染男「うん、君の助けになれて、よかった……」)
長姉「…………」
(幼幼馴染男「ほんとうに? まっててくれる?」)
(幼長姉「うん、10年でも20年でも30年でもまってる! やくそくする!」)
(幼幼馴染男「ぼくもできるだけ早く見つけられるようにがんばるよ!! やくそくする!」)
シュボッ
長姉「あれ全部、本気だったの……?」
長姉「そもそも兄さんと同い年で、次姉も交えて三人で遊んだこともあるけど、いつの頃からか」
長姉「遊びに来る時に、兄さんじゃなくて私を名指ししてくるようになったのよね」
長姉「幼馴染男は男子にしてはおとなしい子だから、単に兄さんと好みの遊びが合わないのかな、と思っていたけれど……」
長姉「……もしかして、私のことが好きだったりしていた…とか?」
(幼馴染男「『新しい星を発見して、長姉の名前を付けるんだ』って」)
(幼馴染男「君の心配や負担が軽くなったのは良い事だ」)
(幼馴染男「輝く星みたいで…大好きだったんだよ?」)
(幼馴染男「うん、君の助けになれて、よかった……」)
長姉「…………」
(幼幼馴染男「ほんとうに? まっててくれる?」)
(幼長姉「うん、10年でも20年でも30年でもまってる! やくそくする!」)
(幼幼馴染男「ぼくもできるだけ早く見つけられるようにがんばるよ!! やくそくする!」)
シュボッ
長姉「あれ全部、本気だったの……?」
514: ◆54DIlPdu2E:2015/05/29(金) 01:18:17.38:f76a8VDW0 (9/10)
長姉「昔なじみのよしみってレベルじゃなくて……小さい頃も、今も……ずっと私のこと……?」カァァァァァァァ
長姉「やだやだ、顔が熱い! 池、池! それとも噴水がいい!?」アタフタ
長姉「いやいやいやいや、何をしようとしているの私!? 落ち着くのよ!!」
長姉「深呼吸深呼吸」スーハー
長姉「……」
長姉「私ったら、今まで彼のこと、何だと思っていたのかしら……」
長姉「……」
長姉「真面目に考えてみようかな」
長姉「ここ最近の私の所業を考えると、まだ間に合うのなら、って気分になってきたけど」
長姉「……今日はこのまま帰りましょう」
長姉「ジャケットもただ返すだけじゃなくて」
長姉「何か気のきいたお礼の品、手作りのクッキーとか添えて?」
長姉「…………クッキーって、小麦粉と砂糖と、あと何で出来ているんだっけ??」
長姉「また家政婦さんの協力を仰ぐか、その前に…次姉にも相談してみようかな……」
長姉「昔なじみのよしみってレベルじゃなくて……小さい頃も、今も……ずっと私のこと……?」カァァァァァァァ
長姉「やだやだ、顔が熱い! 池、池! それとも噴水がいい!?」アタフタ
長姉「いやいやいやいや、何をしようとしているの私!? 落ち着くのよ!!」
長姉「深呼吸深呼吸」スーハー
長姉「……」
長姉「私ったら、今まで彼のこと、何だと思っていたのかしら……」
長姉「……」
長姉「真面目に考えてみようかな」
長姉「ここ最近の私の所業を考えると、まだ間に合うのなら、って気分になってきたけど」
長姉「……今日はこのまま帰りましょう」
長姉「ジャケットもただ返すだけじゃなくて」
長姉「何か気のきいたお礼の品、手作りのクッキーとか添えて?」
長姉「…………クッキーって、小麦粉と砂糖と、あと何で出来ているんだっけ??」
長姉「また家政婦さんの協力を仰ぐか、その前に…次姉にも相談してみようかな……」
515: ◆54DIlPdu2E:2015/05/29(金) 01:19:44.08:f76a8VDW0 (10/10)
※ここまで。更新遅くてすまぬ……週末に少し進めたいけれど次回未定※
余談。野獣の身長は250cmで末妹は133cmってイメージです。数値はともかく見た目的には1/2ですね
※ここまで。更新遅くてすまぬ……週末に少し進めたいけれど次回未定※
余談。野獣の身長は250cmで末妹は133cmってイメージです。数値はともかく見た目的には1/2ですね
516:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/05/29(金) 01:33:54.45:R3sq63WAO (1/1)
今日は更新ないかと思ってたから凄く嬉しい…ありがとう!
でっかい野獣と小さい末妹ちゃん、その体格差さえいとおしい
今日は更新ないかと思ってたから凄く嬉しい…ありがとう!
でっかい野獣と小さい末妹ちゃん、その体格差さえいとおしい
517: ◆54DIlPdu2E:2015/05/31(日) 17:05:33.62:cdfy7Aen0 (1/1)
※週末頑張ろうと思ったら体調崩して寝込む羽目に。必ず戻るけど今はごめん※
※週末頑張ろうと思ったら体調崩して寝込む羽目に。必ず戻るけど今はごめん※
518:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/02(火) 01:57:07.12:GaJVIC4AO (1/1)
519:休養中 ◆54DIlPdu2E:2015/06/02(火) 19:55:21.80:7vh71Oe00 (1/1)
※とりあえず報告※
思ったよりは回復順調で、日常生活はなんとか送れるよーになりました
でも夜しか書けないので、時間的&体力的に再開にはもう暫くかかりそうです、ごめんなさい
>>518 凄く凄く嬉しい! ありがとう、励みになります!
※とりあえず報告※
思ったよりは回復順調で、日常生活はなんとか送れるよーになりました
でも夜しか書けないので、時間的&体力的に再開にはもう暫くかかりそうです、ごめんなさい
>>518 凄く凄く嬉しい! ありがとう、励みになります!
520:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/05(金) 20:56:08.27:nMv/aHbDO (1/1)
おつ 久々に最初から読み直したらやっぱり次兄のキャラが次兄で良いな
おつ 久々に最初から読み直したらやっぱり次兄のキャラが次兄で良いな
521:お知らせ ◆54DIlPdu2E:2015/06/07(日) 20:15:30.49:BBYNk94w0 (1/1)
※早ければ今週のどこかでぼちぼち再開予定(518イラストをデスクトップに置き士気を鼓舞)※
>>520 ここからでも読み直してくれる人がいるんだな…嬉しいです、ありがとう
※早ければ今週のどこかでぼちぼち再開予定(518イラストをデスクトップに置き士気を鼓舞)※
>>520 ここからでも読み直してくれる人がいるんだな…嬉しいです、ありがとう
522:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/08(月) 04:47:11.98:h2p6d5PAO (1/1)
おお、楽しみだ。でも無理するなよー
(しかし勢いで描いちゃったけどめっちゃ恥ずかしいなこれ)
おお、楽しみだ。でも無理するなよー
(しかし勢いで描いちゃったけどめっちゃ恥ずかしいなこれ)
523: ◆54DIlPdu2E:2015/06/11(木) 21:56:52.05:vrHzsV9e0 (1/5)
その夜、長姉の部屋。
次姉「で、相談したいことってなあに?」
長姉「その前に、今日のうちの様子は?」
次姉「そーね、お父さんは金庫の鍵紛失事件から、一応は立ち直ったみたい」
次姉「冬向け商品の仕入れの計画を立てるからって、書斎で帳簿や資料の山を相手にしていたわ」
次姉「兄さんは男子校時代の友達という人がはるばる王都から訪ねて来たので、珍しく私用でお出掛け」
次姉「家政婦さんはいつも通り、今日はお天気がいいからって応接間と客間の窓をピカピカに磨いてくれた」
次姉「私は午前中は末妹と、午後は次兄と二人で店番」
次姉「次兄にだけは、まだまだ一人で店の仕事を任せられないって、改めて思った……」ハァ
長姉「末妹、もう元気になったのね」
長姉「ほんと、あんなちっちゃい割に丈夫なんだから」
次姉「……」ジー
長姉「な、何よ」
長姉「あの子に対する皮肉でも嫌味でもないからね!? そんな棘のある言い方しなかったでしょう!?」
長姉「……しなかったつもり」ボソ
次姉「いきなり全部変われるとは思っていないし」
次姉「末妹関連で姉さんを責める資格はないもの、私には、ね」
その夜、長姉の部屋。
次姉「で、相談したいことってなあに?」
長姉「その前に、今日のうちの様子は?」
次姉「そーね、お父さんは金庫の鍵紛失事件から、一応は立ち直ったみたい」
次姉「冬向け商品の仕入れの計画を立てるからって、書斎で帳簿や資料の山を相手にしていたわ」
次姉「兄さんは男子校時代の友達という人がはるばる王都から訪ねて来たので、珍しく私用でお出掛け」
次姉「家政婦さんはいつも通り、今日はお天気がいいからって応接間と客間の窓をピカピカに磨いてくれた」
次姉「私は午前中は末妹と、午後は次兄と二人で店番」
次姉「次兄にだけは、まだまだ一人で店の仕事を任せられないって、改めて思った……」ハァ
長姉「末妹、もう元気になったのね」
長姉「ほんと、あんなちっちゃい割に丈夫なんだから」
次姉「……」ジー
長姉「な、何よ」
長姉「あの子に対する皮肉でも嫌味でもないからね!? そんな棘のある言い方しなかったでしょう!?」
長姉「……しなかったつもり」ボソ
次姉「いきなり全部変われるとは思っていないし」
次姉「末妹関連で姉さんを責める資格はないもの、私には、ね」
524: ◆54DIlPdu2E:2015/06/11(木) 21:58:32.81:vrHzsV9e0 (2/5)
長姉「私だって……これからは少しでも末妹に、ついでに次兄にも優しくしなきゃ、って思っているもん……」
次姉「うん、だけど、それ『も』焦らなくていい」
長姉「わかってる」
次姉「話を戻しましょ。今日の出来事はこれくらい、で、相談したいことって?」
長姉「……クッキーって、小麦粉と砂糖と、あと何で出来ているの?」
次姉「……………………はあ?」
……
次兄の部屋。
次兄「ふええ、今日は疲れたよお……」ベッドニボフ
次兄「人見知りはほぼ解消されたつもりでいたが、接客と思えばついつい身構えてしまうなあ」
次兄「その上、姉さんがすぐそばで睨み効かせていたら出来る事だって出来なくなっちゃう、そう思わなくて奥様?」
次兄「……今のは言い訳ですけどね」
次兄「しかし、暴力が行使されなかっただけまだマシと言えよう」
次兄「……明日はいよいよ父さんにあの話をするんだ」
次兄「あくまでメインは末妹、俺はフォロー役に徹する予定」
次兄「…俺の場合は徹底した沈黙こそが最大の防御にして最強の攻撃ではなかろうかと思わんでもないが」
次兄「とにかく、明日はもう一度、末妹とリハーサルをしてから臨もう」
長姉「私だって……これからは少しでも末妹に、ついでに次兄にも優しくしなきゃ、って思っているもん……」
次姉「うん、だけど、それ『も』焦らなくていい」
長姉「わかってる」
次姉「話を戻しましょ。今日の出来事はこれくらい、で、相談したいことって?」
長姉「……クッキーって、小麦粉と砂糖と、あと何で出来ているの?」
次姉「……………………はあ?」
……
次兄の部屋。
次兄「ふええ、今日は疲れたよお……」ベッドニボフ
次兄「人見知りはほぼ解消されたつもりでいたが、接客と思えばついつい身構えてしまうなあ」
次兄「その上、姉さんがすぐそばで睨み効かせていたら出来る事だって出来なくなっちゃう、そう思わなくて奥様?」
次兄「……今のは言い訳ですけどね」
次兄「しかし、暴力が行使されなかっただけまだマシと言えよう」
次兄「……明日はいよいよ父さんにあの話をするんだ」
次兄「あくまでメインは末妹、俺はフォロー役に徹する予定」
次兄「…俺の場合は徹底した沈黙こそが最大の防御にして最強の攻撃ではなかろうかと思わんでもないが」
次兄「とにかく、明日はもう一度、末妹とリハーサルをしてから臨もう」
525: ◆54DIlPdu2E:2015/06/11(木) 22:00:23.87:vrHzsV9e0 (3/5)
次兄「……でも今夜は疲れた、もう眠りたい」
次兄「俺の趣味の絵のような(あられもない姿の)野獣様と執事さんが、夢に出てくることを祈りながら……」
次兄「夢の中だけでも、俺とめくるめく…かんのー…の…」ウトウト
次兄「……ぐぅ……」ネオチ
……
再び、長姉の部屋。
次姉「へえー、幼馴染男に。幼馴染男ねえ、ふーん」
長姉「な、何よ」
長姉「お礼と、親切を暴力で返してきたお詫びを兼ねているのよ、手作りのお菓子くらい添えたっていいじゃない」
次姉「そうね、お礼とお詫びは大切だからね、人間関係の基本だものね」ニマニマ
長姉「あーもう感じ悪い! いいから材料さっさと教えなさいよ!!」プンスカ
次姉「説明することはできるけど…まさか姉さん、材料さえ揃えたらできると思っている?」
長姉「え、だって……材料全部混ぜて形を整えてオーブンで焼けばできあがり、でしょ?」
次姉「……なんだか不安になってきた」
次姉「『初めてのお菓子作り』が『初めての消し炭製造』になりかねないわ」
次姉「焦っちゃだめよ、姉さん。材料云々の前に、もう少しきちんと計画を立てるべきよ、ねっ?」
次兄「……でも今夜は疲れた、もう眠りたい」
次兄「俺の趣味の絵のような(あられもない姿の)野獣様と執事さんが、夢に出てくることを祈りながら……」
次兄「夢の中だけでも、俺とめくるめく…かんのー…の…」ウトウト
次兄「……ぐぅ……」ネオチ
……
再び、長姉の部屋。
次姉「へえー、幼馴染男に。幼馴染男ねえ、ふーん」
長姉「な、何よ」
長姉「お礼と、親切を暴力で返してきたお詫びを兼ねているのよ、手作りのお菓子くらい添えたっていいじゃない」
次姉「そうね、お礼とお詫びは大切だからね、人間関係の基本だものね」ニマニマ
長姉「あーもう感じ悪い! いいから材料さっさと教えなさいよ!!」プンスカ
次姉「説明することはできるけど…まさか姉さん、材料さえ揃えたらできると思っている?」
長姉「え、だって……材料全部混ぜて形を整えてオーブンで焼けばできあがり、でしょ?」
次姉「……なんだか不安になってきた」
次姉「『初めてのお菓子作り』が『初めての消し炭製造』になりかねないわ」
次姉「焦っちゃだめよ、姉さん。材料云々の前に、もう少しきちんと計画を立てるべきよ、ねっ?」
526: ◆54DIlPdu2E:2015/06/11(木) 22:02:38.64:vrHzsV9e0 (4/5)
末妹の部屋。
末妹「明日はお父さんにあの話をするのね」
末妹「お兄ちゃんも助けてくれると言ってくれたけど、どうなるのかな……」チラ
一輪差のバラ:「」
末妹「……野獣様のバラ」
末妹「お屋敷にいた時は、このバラを見るたびにお父さん達や家の事を思い出して」
末妹「戻ってからは野獣様やメイドちゃん達、お屋敷の出来事を思い出す」
(メイド「…はい。またお会いできますものね」)
(執事「ですが、今、主人の近くにいる人間である末妹様にはどうか…主人に親しみを持っていただきたい」)
(野獣「今度からは、末妹から裏庭が見たいと言った時に来ような」)
末妹「もっと近くに住んでいたら、お屋敷の皆さんが人間だったら」
末妹「……あんなことが出会うきっかけでなかったら」
末妹「自由に行き来することが、もっとすんなりと許されたのかな?」
末妹「それとも、今頃まだ、ううん、このさき一生、出会うことさえなかったのかな……」
末妹「……」
末妹「どんなきっかけでも、皆さんが人間じゃなくても、出会う前には戻れないもの、それだけは確かなこと」
末妹「わかってもらえるように、頑張らなくちゃ……」
末妹「……ふあ」アクビ
末妹「寝不足じゃ頭も働かないものね、もう寝ようっと……」
……
末妹の部屋。
末妹「明日はお父さんにあの話をするのね」
末妹「お兄ちゃんも助けてくれると言ってくれたけど、どうなるのかな……」チラ
一輪差のバラ:「」
末妹「……野獣様のバラ」
末妹「お屋敷にいた時は、このバラを見るたびにお父さん達や家の事を思い出して」
末妹「戻ってからは野獣様やメイドちゃん達、お屋敷の出来事を思い出す」
(メイド「…はい。またお会いできますものね」)
(執事「ですが、今、主人の近くにいる人間である末妹様にはどうか…主人に親しみを持っていただきたい」)
(野獣「今度からは、末妹から裏庭が見たいと言った時に来ような」)
末妹「もっと近くに住んでいたら、お屋敷の皆さんが人間だったら」
末妹「……あんなことが出会うきっかけでなかったら」
末妹「自由に行き来することが、もっとすんなりと許されたのかな?」
末妹「それとも、今頃まだ、ううん、このさき一生、出会うことさえなかったのかな……」
末妹「……」
末妹「どんなきっかけでも、皆さんが人間じゃなくても、出会う前には戻れないもの、それだけは確かなこと」
末妹「わかってもらえるように、頑張らなくちゃ……」
末妹「……ふあ」アクビ
末妹「寝不足じゃ頭も働かないものね、もう寝ようっと……」
……
527: ◆54DIlPdu2E:2015/06/11(木) 22:05:39.10:vrHzsV9e0 (5/5)
※短いけど今夜はここまで。毎日更新はしばらく無理っぽいですが、ゆるゆる進めます※
余談。休養中にふと思い立って話中の時系列整理などしてみたら結構いいかげんだった件
(9月とかもうすぐ10月になるとか入れなきゃよかったチッ)
「数日後」の一部を「翌日」に置き換えるとギリギリ辻褄合うとか、そんな感じです
>>522 ありがとう(全体的にイメージ通りで髪型はイメージ以上ですた)
※短いけど今夜はここまで。毎日更新はしばらく無理っぽいですが、ゆるゆる進めます※
余談。休養中にふと思い立って話中の時系列整理などしてみたら結構いいかげんだった件
(9月とかもうすぐ10月になるとか入れなきゃよかったチッ)
「数日後」の一部を「翌日」に置き換えるとギリギリ辻褄合うとか、そんな感じです
>>522 ありがとう(全体的にイメージ通りで髪型はイメージ以上ですた)
528:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/12(金) 00:43:22.26:01X9FbTAO (1/1)
ふぇぇ…久しぶりに続きが読めて嬉しいよぉ…乙
拳聖の次姉にも女子らしいところがあるんだな
そして次兄の絵は見ない方が良さそうだ…
ふぇぇ…久しぶりに続きが読めて嬉しいよぉ…乙
拳聖の次姉にも女子らしいところがあるんだな
そして次兄の絵は見ない方が良さそうだ…
529: ◆54DIlPdu2E:2015/06/13(土) 00:04:15.81:jX3XKLMJ0 (1/5)
※前回より短いけど作者的にキリの良い所まで投下※
※前回より短いけど作者的にキリの良い所まで投下※
530: ◆54DIlPdu2E:2015/06/13(土) 00:06:24.87:jX3XKLMJ0 (2/5)
そして長姉の部屋。
次姉「姉さん、このチラシ見て」ピラッ
長姉「なあに……『料理教室』? 『受講生募集』……」
次姉「講師の名前は知ってるでしょ? 市長さんの親戚筋の、西通りの未亡人」
長姉「ああ……その昔、今は亡き旦那様の胃袋を掴んで虜にしたとかで有名な」
次姉「そう、それに姉さんは知らないだろうけど」
次姉「足が少し悪い本人に代わって、娘さんが時々うちの店にタワシや食器の磨き粉をなんかを買いに来るの」
次姉「で、今月から週に2回、自宅で料理教室を開くことにしたそうよ」
次姉「愛妻家の旦那様が料理上手の彼女のために家を大改装して作った、レストラン並みの立派な厨房だとか」
長姉「うん、自宅一階の三分の一を占めるって私も聞いたことあるわ……」
次姉「ほら、ここ、今月の予定が書いてあるけど」
次姉「10月の1回目は『クッキーをはじめとした簡単なお菓子作り』だって」
長姉「……!」
次姉「どう? 習ってみる?」
長姉「で、でも、受講料はどうするの? 私もあんたも、今はほとんど自由になるお金がないじゃない」
次姉「兄さんが月末…と言っても昨日の事だけど、お給料をくれたのよ」
次姉「必要な金額は無期限無担保で貸してあげる、そんなに高い金額じゃないし、ね」
そして長姉の部屋。
次姉「姉さん、このチラシ見て」ピラッ
長姉「なあに……『料理教室』? 『受講生募集』……」
次姉「講師の名前は知ってるでしょ? 市長さんの親戚筋の、西通りの未亡人」
長姉「ああ……その昔、今は亡き旦那様の胃袋を掴んで虜にしたとかで有名な」
次姉「そう、それに姉さんは知らないだろうけど」
次姉「足が少し悪い本人に代わって、娘さんが時々うちの店にタワシや食器の磨き粉をなんかを買いに来るの」
次姉「で、今月から週に2回、自宅で料理教室を開くことにしたそうよ」
次姉「愛妻家の旦那様が料理上手の彼女のために家を大改装して作った、レストラン並みの立派な厨房だとか」
長姉「うん、自宅一階の三分の一を占めるって私も聞いたことあるわ……」
次姉「ほら、ここ、今月の予定が書いてあるけど」
次姉「10月の1回目は『クッキーをはじめとした簡単なお菓子作り』だって」
長姉「……!」
次姉「どう? 習ってみる?」
長姉「で、でも、受講料はどうするの? 私もあんたも、今はほとんど自由になるお金がないじゃない」
次姉「兄さんが月末…と言っても昨日の事だけど、お給料をくれたのよ」
次姉「必要な金額は無期限無担保で貸してあげる、そんなに高い金額じゃないし、ね」
531: ◆54DIlPdu2E:2015/06/13(土) 00:07:36.05:jX3XKLMJ0 (3/5)
長姉「……次姉」ガッシ
次姉「な、何? 私の腕を掴んだりして」
長姉「あんたも一緒に来てよ」
次姉「……」
次姉「だめ、姉さんもう子供じゃないんだから、それに二人分払うには金額的にちょっと心もとないの」
長姉「でも、でも……一人だと恥ずかしい……」
次姉「『超初心者対象』って書いてあるでしょ、ここに来るみんな条件は同じよ」
次姉「それに姉さん意外と器用だもの、手を使う作業は一度やり方を覚えたら、きっと大丈夫」
次姉(カンニングのテクニックも早く身に付いたし)
長姉「わ、わかった……ちょっと不安だけど、頑張ってみる!」
次姉「その意気よ! 応援するからね!」
次姉(……よかった)
次姉(料理については私も知識と理屈ばかりで、実践が伴わないってバレずに済んだわ)ホッ
長姉「で、お菓子作りの回はいつかしら?」
次姉「そう言えば日にちまで確認していなかった。どれどれ……」ピラ…
…
長姉・次姉「「明日!?」」
長姉「……次姉」ガッシ
次姉「な、何? 私の腕を掴んだりして」
長姉「あんたも一緒に来てよ」
次姉「……」
次姉「だめ、姉さんもう子供じゃないんだから、それに二人分払うには金額的にちょっと心もとないの」
長姉「でも、でも……一人だと恥ずかしい……」
次姉「『超初心者対象』って書いてあるでしょ、ここに来るみんな条件は同じよ」
次姉「それに姉さん意外と器用だもの、手を使う作業は一度やり方を覚えたら、きっと大丈夫」
次姉(カンニングのテクニックも早く身に付いたし)
長姉「わ、わかった……ちょっと不安だけど、頑張ってみる!」
次姉「その意気よ! 応援するからね!」
次姉(……よかった)
次姉(料理については私も知識と理屈ばかりで、実践が伴わないってバレずに済んだわ)ホッ
長姉「で、お菓子作りの回はいつかしら?」
次姉「そう言えば日にちまで確認していなかった。どれどれ……」ピラ…
…
長姉・次姉「「明日!?」」
532: ◆54DIlPdu2E:2015/06/13(土) 00:08:46.53:jX3XKLMJ0 (4/5)
翌日、朝食後。末妹の部屋。
次兄「違う! そこはもっと感情を込めて!」
末妹「は、はい!」
末妹「お父さん、お話があります」
次兄「今の表情いいねえ! もう一回その顔で『お父さん』から行ってみよう!」
末妹「……いつになったら肝心な話の内容に入れるの?」
……
同時刻、長姉の部屋。
長姉「お金とエプロン、メモと鉛筆も持ったし、窓を開けて、っと」
次姉「じゃあ頑張ってね、姉さん。窓は私が閉めておくから」
長姉「……ねえ、誰にも言わないでよ?」
次姉「わかっているって。いつも通り、時間つぶしの散歩だとみんな思うわ」
次姉「この先は姉さん次第よ。ご武運を」
長姉「うん、また夕方にね、色々ありがとう」
窓:パタン……
~~~~
西通りの未亡人宅。
長姉「……な」
長姉「なんで……あんたが、ここにいるのよ……!?」
幼馴染男「やあ、長姉」
翌日、朝食後。末妹の部屋。
次兄「違う! そこはもっと感情を込めて!」
末妹「は、はい!」
末妹「お父さん、お話があります」
次兄「今の表情いいねえ! もう一回その顔で『お父さん』から行ってみよう!」
末妹「……いつになったら肝心な話の内容に入れるの?」
……
同時刻、長姉の部屋。
長姉「お金とエプロン、メモと鉛筆も持ったし、窓を開けて、っと」
次姉「じゃあ頑張ってね、姉さん。窓は私が閉めておくから」
長姉「……ねえ、誰にも言わないでよ?」
次姉「わかっているって。いつも通り、時間つぶしの散歩だとみんな思うわ」
次姉「この先は姉さん次第よ。ご武運を」
長姉「うん、また夕方にね、色々ありがとう」
窓:パタン……
~~~~
西通りの未亡人宅。
長姉「……な」
長姉「なんで……あんたが、ここにいるのよ……!?」
幼馴染男「やあ、長姉」
533: ◆54DIlPdu2E:2015/06/13(土) 00:10:28.78:jX3XKLMJ0 (5/5)
※ここまで。次回は土日のどこかで最低1回の予定です※
※ここまで。次回は土日のどこかで最低1回の予定です※
534:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/13(土) 01:15:53.32:TqU6o09AO (1/1)
乙
いじらしいぞ長姉
乙
いじらしいぞ長姉
535: ◆54DIlPdu2E:2015/06/14(日) 00:35:03.51:FMeNJPkh0 (1/7)
長姉「『やあ』じゃないわよ! なんで男のあんたが料理教室にいるのかって聞いてるの!!」
幼馴染男「なんでって、料理を覚えたい以外に理由はないけど、そんなにおかしいかな?」
幼馴染男「実は、先生(天文学者)と奥様がしばらく旅行に行くことになってね」
幼馴染男「東の国境都市に嫁いだ娘さんに赤ちゃんが生まれるので、結婚相手のご両親に招待されたんだって」
幼馴染男「助手として留守番を任されたけど、奥様がその間の食事の心配をしてくださって」
幼馴染男「他の家事は住み込み助手の仕事として分担もするが、食事だけは奥様が一手に引き受けていたから……」
幼馴染男「先生も、いい機会なので僕も料理を少し覚えたらどうか、と仰って」
幼馴染男「こっちも自由時間が多くなる分、遊び歩くより有効に使いたいし……帰る実家もないし、ね」
幼馴染男「そこへこちらのお宅で料理教室が開講になるとの話を聞いて、渡りに船というわけさ」
長姉「ででででで、でも、料理教室に男性が習いに来るなんて、講師だって断るに決まっているわ!!」
幼馴染男「夫人は奥様の古くからのお友達だから…先生の助手ならば大歓迎だってさ」
長姉「」
幼馴染男「……君も料理を習いに来たんだろ? お互い頑張ろう」
長姉「帰る」
幼馴染男「え?」
長姉「家に帰る! 幼馴染男と一緒に料理なんてできるもんですか!! 帰る!!!!」
長姉「『やあ』じゃないわよ! なんで男のあんたが料理教室にいるのかって聞いてるの!!」
幼馴染男「なんでって、料理を覚えたい以外に理由はないけど、そんなにおかしいかな?」
幼馴染男「実は、先生(天文学者)と奥様がしばらく旅行に行くことになってね」
幼馴染男「東の国境都市に嫁いだ娘さんに赤ちゃんが生まれるので、結婚相手のご両親に招待されたんだって」
幼馴染男「助手として留守番を任されたけど、奥様がその間の食事の心配をしてくださって」
幼馴染男「他の家事は住み込み助手の仕事として分担もするが、食事だけは奥様が一手に引き受けていたから……」
幼馴染男「先生も、いい機会なので僕も料理を少し覚えたらどうか、と仰って」
幼馴染男「こっちも自由時間が多くなる分、遊び歩くより有効に使いたいし……帰る実家もないし、ね」
幼馴染男「そこへこちらのお宅で料理教室が開講になるとの話を聞いて、渡りに船というわけさ」
長姉「ででででで、でも、料理教室に男性が習いに来るなんて、講師だって断るに決まっているわ!!」
幼馴染男「夫人は奥様の古くからのお友達だから…先生の助手ならば大歓迎だってさ」
長姉「」
幼馴染男「……君も料理を習いに来たんだろ? お互い頑張ろう」
長姉「帰る」
幼馴染男「え?」
長姉「家に帰る! 幼馴染男と一緒に料理なんてできるもんですか!! 帰る!!!!」
536: ◆54DIlPdu2E:2015/06/14(日) 00:37:48.78:FMeNJPkh0 (2/7)
未亡人「……あら、もしかして商人さんのところの……確か、長姉さん?」
長姉「っ!?」
未亡人「やっぱり! 大きくなったけど、その綺麗な金髪、若葉色のひとみ、可愛らしいお顔…昔の面影があるわ」
長姉「……」
未亡人「あなたは小さかったから覚えていないでしょうけどね、昔は商人さんのお店でよくお買い物したのよ」
未亡人「磨き粉といいタワシといい、質の良い品が揃っているからお気に入りだったの」
未亡人「8年前に足を痛めてからは遠出が辛くなって、娘に買い物は任せていたのだけど……」
長姉「は、はあ……」
未亡人「女学校に行く前のあなたとお話をしたこともあるのよ、本当に可愛らしくて、忘れられなかったわ」
未亡人「…あなた達のお母様、若いのにとてもよく気の付く素敵な方で、本当に親切にしていただいたのよ」シンミリ
長姉「う」
未亡人「あの方の小さな娘さんが美しいお嬢さんになって、うちに料理を習いに来てくれるなんて…本当に嬉しいわ…」ホロリ
長姉「ううううううううう」
長姉(お母様の話を出されると弱いわ……)
未亡人「あらもう10時、開講時間だわ。先に来ていた生徒さん達が待っているわね」
未亡人「さあ長姉さん、それから幼馴染男さん、厨房はこちらよ、どうぞ」
幼馴染男「こっちだって。行こう、長姉」
長姉「……くっ」
長姉「…わかったわよ、こうなったら腹を括る! 料理でも幼馴染男でもなんでも来やがれなのよ!!」ドスドスドスドス
未亡人「……あら、もしかして商人さんのところの……確か、長姉さん?」
長姉「っ!?」
未亡人「やっぱり! 大きくなったけど、その綺麗な金髪、若葉色のひとみ、可愛らしいお顔…昔の面影があるわ」
長姉「……」
未亡人「あなたは小さかったから覚えていないでしょうけどね、昔は商人さんのお店でよくお買い物したのよ」
未亡人「磨き粉といいタワシといい、質の良い品が揃っているからお気に入りだったの」
未亡人「8年前に足を痛めてからは遠出が辛くなって、娘に買い物は任せていたのだけど……」
長姉「は、はあ……」
未亡人「女学校に行く前のあなたとお話をしたこともあるのよ、本当に可愛らしくて、忘れられなかったわ」
未亡人「…あなた達のお母様、若いのにとてもよく気の付く素敵な方で、本当に親切にしていただいたのよ」シンミリ
長姉「う」
未亡人「あの方の小さな娘さんが美しいお嬢さんになって、うちに料理を習いに来てくれるなんて…本当に嬉しいわ…」ホロリ
長姉「ううううううううう」
長姉(お母様の話を出されると弱いわ……)
未亡人「あらもう10時、開講時間だわ。先に来ていた生徒さん達が待っているわね」
未亡人「さあ長姉さん、それから幼馴染男さん、厨房はこちらよ、どうぞ」
幼馴染男「こっちだって。行こう、長姉」
長姉「……くっ」
長姉「…わかったわよ、こうなったら腹を括る! 料理でも幼馴染男でもなんでも来やがれなのよ!!」ドスドスドスドス
537: ◆54DIlPdu2E:2015/06/14(日) 00:42:01.57:FMeNJPkh0 (3/7)
商人の家、末妹の部屋。
次兄「よし、訴えかけのリハーサルはこんなもんでいいだろう」
末妹「……ホッ」
次兄「次は更に詳細なシミュレーションを。俺が父さんの役、熊のぬいぐるみが兄さんで着せ替え人形が次姉ねえさん」
末妹「」
商人の店。
次姉「そろそろ料理教室が始まる時間ね」
次姉「姉さんは一度パニくったらとんでもない方向に飛んで行くけど、今回はそこまでの要素はない……はず……」
長兄「……」ボー
次姉「……兄さん?」
長兄「…っ、はい、何、何ですか?」
次姉「どうしたのよ、兄さんらしくもない。今日は…と言うか、ゆうべ帰宅してから、何かおかしいわ?」
次姉「遅くまでお友達とお酒飲んで来たせいかと思ったけど、今朝になってもこれじゃ」
長兄「……なんでもない」
長兄「ちょっと疲れているだけ」
次姉「体力には自信のある兄さんが? まあ、無理はしないでね」
長兄「うん、本当になんでもないから、心配かけてすまん」
長兄(……)
商人の家、末妹の部屋。
次兄「よし、訴えかけのリハーサルはこんなもんでいいだろう」
末妹「……ホッ」
次兄「次は更に詳細なシミュレーションを。俺が父さんの役、熊のぬいぐるみが兄さんで着せ替え人形が次姉ねえさん」
末妹「」
商人の店。
次姉「そろそろ料理教室が始まる時間ね」
次姉「姉さんは一度パニくったらとんでもない方向に飛んで行くけど、今回はそこまでの要素はない……はず……」
長兄「……」ボー
次姉「……兄さん?」
長兄「…っ、はい、何、何ですか?」
次姉「どうしたのよ、兄さんらしくもない。今日は…と言うか、ゆうべ帰宅してから、何かおかしいわ?」
次姉「遅くまでお友達とお酒飲んで来たせいかと思ったけど、今朝になってもこれじゃ」
長兄「……なんでもない」
長兄「ちょっと疲れているだけ」
次姉「体力には自信のある兄さんが? まあ、無理はしないでね」
長兄「うん、本当になんでもないから、心配かけてすまん」
長兄(……)
538: ◆54DIlPdu2E:2015/06/14(日) 00:46:20.29:FMeNJPkh0 (4/7)
時間は少し戻り、昨日の話。
友男「長兄、以前より更に背が伸びて肩幅も広くなって、しかもますます美形になりやがって、羨ましい限りだぞ!」ワハハ
長兄「何言ってるんだ、友男こそ婚約者がいるんだろ?」
友男「へへ、そのことなんだが……」ニマ
友男「彼女がさあぁ、もう可愛くって可愛くってえええぇ!」デヘヘヘ
長兄「惚気かい」
長兄「で、どんなひとなんだ? この際だから洗いざらい喋っちゃえよ」ツンツン
友男「それはさすがに恥ずかしい、酒の力を借りなきゃ……」テレテレ
長兄「じゃあ酒場が開く時間までおあずけだな」
夜の酒場。
長兄「そう言えばお前と酒を飲むのは初めてだなあ」ホロヨイ
友男「当然だ、学校で一緒だったのは15歳まで、手紙以外で実際に会うのは卒業以来だから……」グビー
友男「……」
友男「長兄。酒の力を借りて言う」キリッ
長兄「?? 友男、素面だった時よりしっかりしてないか?」
友男「俺はどうやら酔うとこうなるタイプらしい、それはさておき」
友男「長兄、すまん!!」
長兄「な、何だ? 何があった??」
時間は少し戻り、昨日の話。
友男「長兄、以前より更に背が伸びて肩幅も広くなって、しかもますます美形になりやがって、羨ましい限りだぞ!」ワハハ
長兄「何言ってるんだ、友男こそ婚約者がいるんだろ?」
友男「へへ、そのことなんだが……」ニマ
友男「彼女がさあぁ、もう可愛くって可愛くってえええぇ!」デヘヘヘ
長兄「惚気かい」
長兄「で、どんなひとなんだ? この際だから洗いざらい喋っちゃえよ」ツンツン
友男「それはさすがに恥ずかしい、酒の力を借りなきゃ……」テレテレ
長兄「じゃあ酒場が開く時間までおあずけだな」
夜の酒場。
長兄「そう言えばお前と酒を飲むのは初めてだなあ」ホロヨイ
友男「当然だ、学校で一緒だったのは15歳まで、手紙以外で実際に会うのは卒業以来だから……」グビー
友男「……」
友男「長兄。酒の力を借りて言う」キリッ
長兄「?? 友男、素面だった時よりしっかりしてないか?」
友男「俺はどうやら酔うとこうなるタイプらしい、それはさておき」
友男「長兄、すまん!!」
長兄「な、何だ? 何があった??」
539: ◆54DIlPdu2E:2015/06/14(日) 00:49:30.49:FMeNJPkh0 (5/7)
友男「婚約者だが、俺達と同い年、5年前は王宮に一番近い立地の女学校の生徒で、父親の職は建築家」
長兄「……?」
友男「心当たりがあるがろう? 彼女はお前も知っている娘、どころか、お前の元カノなんだ!!」
長兄「!?」
友男「しかも…付き合いは俺達があの学校を卒業して間も無く始まった」
友男「交際2年目には、早くも親同士も婚約を勧めてくれるほどの仲に」
友男「……俺と彼女の名誉のために言っておくが」
友男「俺から彼女に告白したのは、お前達が完全に別れた後、お前がこの町に戻ってからだ」
長兄「……そ、そんな、だが、それなら何も……お前が謝る理由なんて……」
友男「だけど、お前が彼女に振られたと聞いて、俺はお前を慰めながら内心ほくそ笑んでしまったのは事実なんだ!」
長兄「友男!?」
友男「ずっと前から好きだったんだ、お前達が付き合い始める前から、彼女が好きだったんだよ!」
長兄「……知らなかったよ」
長兄「卒業と同時に、この町で将来家業を継ぐことを理由に振られた時は悲しかったが、今はわかる」
友男「婚約者だが、俺達と同い年、5年前は王宮に一番近い立地の女学校の生徒で、父親の職は建築家」
長兄「……?」
友男「心当たりがあるがろう? 彼女はお前も知っている娘、どころか、お前の元カノなんだ!!」
長兄「!?」
友男「しかも…付き合いは俺達があの学校を卒業して間も無く始まった」
友男「交際2年目には、早くも親同士も婚約を勧めてくれるほどの仲に」
友男「……俺と彼女の名誉のために言っておくが」
友男「俺から彼女に告白したのは、お前達が完全に別れた後、お前がこの町に戻ってからだ」
長兄「……そ、そんな、だが、それなら何も……お前が謝る理由なんて……」
友男「だけど、お前が彼女に振られたと聞いて、俺はお前を慰めながら内心ほくそ笑んでしまったのは事実なんだ!」
長兄「友男!?」
友男「ずっと前から好きだったんだ、お前達が付き合い始める前から、彼女が好きだったんだよ!」
長兄「……知らなかったよ」
長兄「卒業と同時に、この町で将来家業を継ぐことを理由に振られた時は悲しかったが、今はわかる」
540: ◆54DIlPdu2E:2015/06/14(日) 00:56:40.84:FMeNJPkh0 (6/7)
長兄「付き合っていると言いつつ、キスもしないばかりか肩を抱くこともせず、こっちから告白しといて手を繋ぐまで半年弱」
長兄「そんな俺は、彼女に愛想を尽かされても仕方なかったと、後になってつくづく思った」
長兄(今、次兄の声で 『それは果たして付き合っていたと言えるのでしょうか?』 という幻聴が聞こえたが)
長兄「そんな鈍感な俺だ、お前の秘めた想いにも気づかず、友男を…知らぬ間にずいぶん傷つけてしまったと思うと」
長兄「だから、俺に謝ることなんか何もない、むしろ……礼を言いたいくらいだ」
友男「お前……」
長兄「俺にこんなことを言う資格はないかもしれんが、彼女を幸せにしてやってくれ、いや、二人どうか幸福になってくれ」
友男「長兄、ちくしょう、なんて…なんて良い奴なんだ……」ウルウル
友男「こんなお前に、今現在、結婚の予定どころか彼女すらいないなんて!!」ブワワッ
長兄「」
長兄「……こ、これからも、変わらず友人でいてくれ、なっ?」
友男「長兄ーーーー!!」ガバァ
長兄「ははは、馬鹿だな、泣くなよ友男…」ポンポン
長兄(…泣きたいのは、号泣したいのはこっちですけどねこの野郎)グリグリスルマネ
長兄「……」
長兄(俺は鈍感な上にエエカッコしいだと自覚した、少なくとも友男が言うような良い奴なんかじゃない)
長兄(…こんな俺から妹の……長姉の心が離れていくのも当然だな……)
夜は更けて行く……
長兄「付き合っていると言いつつ、キスもしないばかりか肩を抱くこともせず、こっちから告白しといて手を繋ぐまで半年弱」
長兄「そんな俺は、彼女に愛想を尽かされても仕方なかったと、後になってつくづく思った」
長兄(今、次兄の声で 『それは果たして付き合っていたと言えるのでしょうか?』 という幻聴が聞こえたが)
長兄「そんな鈍感な俺だ、お前の秘めた想いにも気づかず、友男を…知らぬ間にずいぶん傷つけてしまったと思うと」
長兄「だから、俺に謝ることなんか何もない、むしろ……礼を言いたいくらいだ」
友男「お前……」
長兄「俺にこんなことを言う資格はないかもしれんが、彼女を幸せにしてやってくれ、いや、二人どうか幸福になってくれ」
友男「長兄、ちくしょう、なんて…なんて良い奴なんだ……」ウルウル
友男「こんなお前に、今現在、結婚の予定どころか彼女すらいないなんて!!」ブワワッ
長兄「」
長兄「……こ、これからも、変わらず友人でいてくれ、なっ?」
友男「長兄ーーーー!!」ガバァ
長兄「ははは、馬鹿だな、泣くなよ友男…」ポンポン
長兄(…泣きたいのは、号泣したいのはこっちですけどねこの野郎)グリグリスルマネ
長兄「……」
長兄(俺は鈍感な上にエエカッコしいだと自覚した、少なくとも友男が言うような良い奴なんかじゃない)
長兄(…こんな俺から妹の……長姉の心が離れていくのも当然だな……)
夜は更けて行く……
541: ◆54DIlPdu2E:2015/06/14(日) 00:57:23.44:FMeNJPkh0 (7/7)
※眠いのでここまで※
※眠いのでここまで※
542:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/14(日) 01:23:57.11:CLsjUSUAO (1/1)
長兄が掘り下げられる日がくるとは
そんなに気を遣ってばっかだから頭髪が…
でも一番上ってしっかり者で苦労性のくせに、どこか間の抜けたところがあったりするんだよなぁ
長兄が掘り下げられる日がくるとは
そんなに気を遣ってばっかだから頭髪が…
でも一番上ってしっかり者で苦労性のくせに、どこか間の抜けたところがあったりするんだよなぁ
543: ◆54DIlPdu2E:2015/06/16(火) 23:21:20.18:iLJciChX0 (1/10)
商人の書斎……
ドア:コンコン
商人「誰かな?」
次兄「父さん、入っていい?」
商人「次兄か。お入り」
ガチャ
次兄「お邪魔しやす」ニュッ
末妹「私も一緒」ヒョコッ
次兄(この場にいるのは父さん一人、パターンAか、展開によってはBもありだろう)
商人「おやおや、二人揃って、どうしたんだ?」ニコ
次兄(よし、Go!)ビッ
末妹(はい!)
末妹「お父さん、お話があります」
商人「うん? 何だい?」
末妹「…お父さん、今から10日前、私達がどうしてお家に戻って来れたか、その話…覚えている?」
商人「……」
商人「ああ、覚えているよ。野獣が……魔法でうちの様子を見て、私が『死にかけた』と知り」
商人「私の…父親のそばにいろと言って、家に返してくれた……そうだね?」
商人の書斎……
ドア:コンコン
商人「誰かな?」
次兄「父さん、入っていい?」
商人「次兄か。お入り」
ガチャ
次兄「お邪魔しやす」ニュッ
末妹「私も一緒」ヒョコッ
次兄(この場にいるのは父さん一人、パターンAか、展開によってはBもありだろう)
商人「おやおや、二人揃って、どうしたんだ?」ニコ
次兄(よし、Go!)ビッ
末妹(はい!)
末妹「お父さん、お話があります」
商人「うん? 何だい?」
末妹「…お父さん、今から10日前、私達がどうしてお家に戻って来れたか、その話…覚えている?」
商人「……」
商人「ああ、覚えているよ。野獣が……魔法でうちの様子を見て、私が『死にかけた』と知り」
商人「私の…父親のそばにいろと言って、家に返してくれた……そうだね?」
544: ◆54DIlPdu2E:2015/06/16(火) 23:22:42.84:iLJciChX0 (2/10)
末妹「そうよ。お父さんは…そのことを、どう…思っているのかしら……?」
商人「どう、って……」
商人「…」チラ
次兄「……」
次兄(父さんが俺を一瞥したけど、とりあえず今は黙して語らぬ所存です)シーン
商人「…」
商人「そうだな、野獣という人物、正確にはヒトではないかもしれないが、とにかく恐ろしい存在で」
商人「私にとっては愛する我が子を奪った憎い存在でもあり」
商人「……元はと言えば私が罪を犯したためだが、それを頭で理解してはいても」
商人「『たかがバラ一輪、そのために何故、私達家族が離れ離れになって苦しまねばならないのか?』と」
商人「お前達がいない間、自分自身を責め続ける一方で、その感情が湧きあがるのを拭い切れなかった」
末妹「……」
商人「しかし、お前達はこうして無事に帰って来た」
商人「そもそも野獣は、彼は」
商人「森で迷った私を屋敷に招き入れ、温かい食事や寝床を用意して、馬の世話まで」
商人「魔法の地図まで貸してくれ、自分はついに顔を出さないまま立ち去らせようと」
商人「……それを私は一方的に全てぶち壊してしまったのだが」
末妹「お父さん…」
末妹「そうよ。お父さんは…そのことを、どう…思っているのかしら……?」
商人「どう、って……」
商人「…」チラ
次兄「……」
次兄(父さんが俺を一瞥したけど、とりあえず今は黙して語らぬ所存です)シーン
商人「…」
商人「そうだな、野獣という人物、正確にはヒトではないかもしれないが、とにかく恐ろしい存在で」
商人「私にとっては愛する我が子を奪った憎い存在でもあり」
商人「……元はと言えば私が罪を犯したためだが、それを頭で理解してはいても」
商人「『たかがバラ一輪、そのために何故、私達家族が離れ離れになって苦しまねばならないのか?』と」
商人「お前達がいない間、自分自身を責め続ける一方で、その感情が湧きあがるのを拭い切れなかった」
末妹「……」
商人「しかし、お前達はこうして無事に帰って来た」
商人「そもそも野獣は、彼は」
商人「森で迷った私を屋敷に招き入れ、温かい食事や寝床を用意して、馬の世話まで」
商人「魔法の地図まで貸してくれ、自分はついに顔を出さないまま立ち去らせようと」
商人「……それを私は一方的に全てぶち壊してしまったのだが」
末妹「お父さん…」
545: ◆54DIlPdu2E:2015/06/16(火) 23:25:04.92:iLJciChX0 (3/10)
商人「で、帰って来たお前達の元気な様子に安心し、そしてお前達の話を聞いて、考えた」
商人「野獣は……彼は親切な人物には違いあるまい。少なくとも残忍とか凶暴とかそんな表現は似合わない」
商人「ただ、彼の所有するバラが絡むと話は別なのだ、おそらく」
商人「魔法を使う、しかもヒトならざる存在、私には計り知れない理由が何かあるのかも知れん」
商人「非常に重い意味のある大切なものなのだ、代償に私を殺しても、お前を囚われにしても釣り合う程に」
商人「……どうかな? 私の推測は、大きくずれてはいないと思うのだが?」
次兄「……」
末妹「…野獣様も、お屋敷の執事さんも、あのバラが、バラ園がどんなに野獣様にとって大切なものかをお話ししてくれました」
末妹「そして、バラの持つ意味は野獣様自身しかご存じなくて」
末妹「野獣様はバラの秘密を他人に伝えるができない…できない理由も含めて…誰にも語れないとも」
商人「そうか」
商人「彼がお前達を帰してくれたのは慈悲や親切といった心を持つ故だ」
商人「しかし、間違いなく予定外の出来事でもあったはず」
商人「……バラ盗人の『贖罪』は、終わったのだろうか?」
商人「最近はそれが少し気になるよ」
末妹「……」
末妹「野獣様は、私達が家に帰ってから二週間を過ぎた時に」
末妹「私にお屋敷に戻る意思があるのなら、家に帰って来た時と同じように、一瞬で戻れる魔法をかけてくれました」
商人「…」
次兄(…父さんの眉間にちょっと皺が寄った)
商人「で、帰って来たお前達の元気な様子に安心し、そしてお前達の話を聞いて、考えた」
商人「野獣は……彼は親切な人物には違いあるまい。少なくとも残忍とか凶暴とかそんな表現は似合わない」
商人「ただ、彼の所有するバラが絡むと話は別なのだ、おそらく」
商人「魔法を使う、しかもヒトならざる存在、私には計り知れない理由が何かあるのかも知れん」
商人「非常に重い意味のある大切なものなのだ、代償に私を殺しても、お前を囚われにしても釣り合う程に」
商人「……どうかな? 私の推測は、大きくずれてはいないと思うのだが?」
次兄「……」
末妹「…野獣様も、お屋敷の執事さんも、あのバラが、バラ園がどんなに野獣様にとって大切なものかをお話ししてくれました」
末妹「そして、バラの持つ意味は野獣様自身しかご存じなくて」
末妹「野獣様はバラの秘密を他人に伝えるができない…できない理由も含めて…誰にも語れないとも」
商人「そうか」
商人「彼がお前達を帰してくれたのは慈悲や親切といった心を持つ故だ」
商人「しかし、間違いなく予定外の出来事でもあったはず」
商人「……バラ盗人の『贖罪』は、終わったのだろうか?」
商人「最近はそれが少し気になるよ」
末妹「……」
末妹「野獣様は、私達が家に帰ってから二週間を過ぎた時に」
末妹「私にお屋敷に戻る意思があるのなら、家に帰って来た時と同じように、一瞬で戻れる魔法をかけてくれました」
商人「…」
次兄(…父さんの眉間にちょっと皺が寄った)
546: ◆54DIlPdu2E:2015/06/16(火) 23:26:26.19:iLJciChX0 (4/10)
商人「家に残るもあちらに行くのも、お前の選択次第、というわけだね?」
末妹「そうです」
商人「二週間と言うと、あと四日、か」
商人「……末妹はどうするつもり、どうしたいのだい?」
末妹「私は」
末妹「四日後すぐにとは言わないけれど、近いうちに一度、お兄ちゃんと一緒にお屋敷に戻りたいです」
末妹「お父さんが元気になった報告と、お礼を言いたい」
末妹「……野獣様だけでなく、仲良くなったお屋敷のメイドさんにも、戻ると約束をしたので」
商人「……」
末妹「でも、滞在する日数を決めて、お父さんと約束して、その日にちゃんとお家に帰ります」
末妹「……野獣様は、私がそうしたいと言えば聞いてくださると思います」
商人「それは次兄と二人で決めたと解釈していいね?」
末妹「はい」
商人「ふむ……」
商人「……頭ごなしに『行っては駄目だ』とは言わないが、すぐに返事はできないね」
商人「少し、考えさせてくれないか?」
末妹(お兄ちゃん…?)チラ
次兄(よくやった)グッ
末妹「……ありがとう、お父さん」
商人「家に残るもあちらに行くのも、お前の選択次第、というわけだね?」
末妹「そうです」
商人「二週間と言うと、あと四日、か」
商人「……末妹はどうするつもり、どうしたいのだい?」
末妹「私は」
末妹「四日後すぐにとは言わないけれど、近いうちに一度、お兄ちゃんと一緒にお屋敷に戻りたいです」
末妹「お父さんが元気になった報告と、お礼を言いたい」
末妹「……野獣様だけでなく、仲良くなったお屋敷のメイドさんにも、戻ると約束をしたので」
商人「……」
末妹「でも、滞在する日数を決めて、お父さんと約束して、その日にちゃんとお家に帰ります」
末妹「……野獣様は、私がそうしたいと言えば聞いてくださると思います」
商人「それは次兄と二人で決めたと解釈していいね?」
末妹「はい」
商人「ふむ……」
商人「……頭ごなしに『行っては駄目だ』とは言わないが、すぐに返事はできないね」
商人「少し、考えさせてくれないか?」
末妹(お兄ちゃん…?)チラ
次兄(よくやった)グッ
末妹「……ありがとう、お父さん」
547: ◆54DIlPdu2E:2015/06/16(火) 23:27:44.19:iLJciChX0 (5/10)
末妹の部屋。
次兄「それでは反省会を始めます」ドッカリ
末妹「はい」チンマリ
次兄「100点満点の75…いや、80点だな。上出来です」
末妹「そうかしら…」
次兄「何よりも…気付かなかった? 父さん、俺達を子供扱いしていなかった、少なくとも今迄に比べたら」
末妹「え?」
次兄「元凶となった己の行為を責め苛みながら、野獣様への憎しみも拭えなかった、と言ってたよね」
次兄「自分の気持ち…塞ぎ込んでいた間のことも、かなり正直に話してくれた、俺はそう思うけど」
末妹「……」
次兄「有無を言わせぬ(あくまで父さんなりの)高圧的な態度も、子供騙しでお茶を濁す態度も」
次兄「今回は使えない、使うべきではないと思ったんだろうな」
次兄「だから、真剣に考えた上での返事をくれるのは間違いないだろう」
末妹「…お兄ちゃんがいたからよ」
末妹「私だけならやっぱりおチビ扱いだったと思う」
次兄「…そうかなあ??」
末妹の部屋。
次兄「それでは反省会を始めます」ドッカリ
末妹「はい」チンマリ
次兄「100点満点の75…いや、80点だな。上出来です」
末妹「そうかしら…」
次兄「何よりも…気付かなかった? 父さん、俺達を子供扱いしていなかった、少なくとも今迄に比べたら」
末妹「え?」
次兄「元凶となった己の行為を責め苛みながら、野獣様への憎しみも拭えなかった、と言ってたよね」
次兄「自分の気持ち…塞ぎ込んでいた間のことも、かなり正直に話してくれた、俺はそう思うけど」
末妹「……」
次兄「有無を言わせぬ(あくまで父さんなりの)高圧的な態度も、子供騙しでお茶を濁す態度も」
次兄「今回は使えない、使うべきではないと思ったんだろうな」
次兄「だから、真剣に考えた上での返事をくれるのは間違いないだろう」
末妹「…お兄ちゃんがいたからよ」
末妹「私だけならやっぱりおチビ扱いだったと思う」
次兄「…そうかなあ??」
548: ◆54DIlPdu2E:2015/06/16(火) 23:30:15.14:iLJciChX0 (6/10)
次兄「ま、それはさておき、今は父さんの返事を待とうじゃないの」
末妹「そうね…」
末妹「…お兄ちゃんには、いい返事を貰える確信があるのね?」
次兄「確信? ないよ?」
末妹「…………ないの?」
次兄「五分五分…や、6:4ってところかなあ」
次兄「4のほう、『ノー』という返事だった時はまた次の手で行きましょう」
次兄「実は水面下で次の手もあれこれ考えているけど、それはまた後でね」
末妹「……お兄ちゃんやっぱり頭いいのね、次から次へと色々考えて」
次兄「自分では賢いとはこれっぽっちも思わないが、(お前と野獣様と)俺自身の趣味のためなら最善を尽くすよ」キリッ
次兄「……間違えた、お前と野獣様(と俺自身の趣味)のためなら最善を尽くしますから許してください」ヘイシンテイトウ
末妹「……わかっているから、隠さなくていいのよ?」
末妹「…」
末妹「お兄ちゃん、ありがとう。やっぱり頼りになる」
次兄「ま、それはさておき、今は父さんの返事を待とうじゃないの」
末妹「そうね…」
末妹「…お兄ちゃんには、いい返事を貰える確信があるのね?」
次兄「確信? ないよ?」
末妹「…………ないの?」
次兄「五分五分…や、6:4ってところかなあ」
次兄「4のほう、『ノー』という返事だった時はまた次の手で行きましょう」
次兄「実は水面下で次の手もあれこれ考えているけど、それはまた後でね」
末妹「……お兄ちゃんやっぱり頭いいのね、次から次へと色々考えて」
次兄「自分では賢いとはこれっぽっちも思わないが、(お前と野獣様と)俺自身の趣味のためなら最善を尽くすよ」キリッ
次兄「……間違えた、お前と野獣様(と俺自身の趣味)のためなら最善を尽くしますから許してください」ヘイシンテイトウ
末妹「……わかっているから、隠さなくていいのよ?」
末妹「…」
末妹「お兄ちゃん、ありがとう。やっぱり頼りになる」
549: ◆54DIlPdu2E:2015/06/16(火) 23:32:28.18:iLJciChX0 (7/10)
次兄「お礼は不要だよ。言ったろ、お前と俺は同志なんだから」
次兄「それに、お前にはお前にしかできない事がある、その機が巡ってきたら頼むよ」
末妹「……私にしかできない事? それは何?」
次兄「教えてあげない、今はね」
末妹「えー…」ナニソレー
次兄(父さんが疑問を持ったとおり、『償い』は完遂していないはずだ)
次兄(それができるのは、やっぱり末妹しかいないのだろう)
次兄(ここから先は俺の勘と言うか願望も入っているかも知れんが)
次兄(おそらく『それ』は野獣様に関する何かを変える力があると思う)
次兄(そして『それ』が野獣様にとって良い変化であれば、ああなってこうなって更には……)
次兄「芋蔓式に俺との距離も縮まろうってもんですよ」フヒヒ
末妹「……」
末妹(何か聞こえたけど黙っていようっと…)
……
次兄「お礼は不要だよ。言ったろ、お前と俺は同志なんだから」
次兄「それに、お前にはお前にしかできない事がある、その機が巡ってきたら頼むよ」
末妹「……私にしかできない事? それは何?」
次兄「教えてあげない、今はね」
末妹「えー…」ナニソレー
次兄(父さんが疑問を持ったとおり、『償い』は完遂していないはずだ)
次兄(それができるのは、やっぱり末妹しかいないのだろう)
次兄(ここから先は俺の勘と言うか願望も入っているかも知れんが)
次兄(おそらく『それ』は野獣様に関する何かを変える力があると思う)
次兄(そして『それ』が野獣様にとって良い変化であれば、ああなってこうなって更には……)
次兄「芋蔓式に俺との距離も縮まろうってもんですよ」フヒヒ
末妹「……」
末妹(何か聞こえたけど黙っていようっと…)
……
550: ◆54DIlPdu2E:2015/06/16(火) 23:35:10.69:iLJciChX0 (8/10)
西通りの未亡人宅、料理教室会場。
未亡人「……どうですか、お菓子作りはひとつ間違うと台無しになってしまいますが…」
未亡人「逆に、手順が正しければ、このように立派な完成品ができあがるのです」
未亡人「私の料理教室の第一回目にお菓子作りを選んだのは、このため」
未亡人「レシピを守ることの重要性と、出来上がった時の喜び、これらを同時に、そしてわかりやすい形で味わうことができる」
幼馴染男「うんうん」ココロカラノウナズキ
長姉「…」チラリ
幼馴染男のクッキー:キラキラー
長姉のクッキー:モッサリー
長姉「……材料もレシピも同じなのに何が違うのかしら……」
幼馴染男「いやあ、いきなりお菓子作りとか実用的な意味でどうかなと思ったけど、楽しいものだね!」
長姉「ね、ねえ、幼馴染男?」
幼馴染男「何だい?」
長姉「何枚か交換しない? 他の人の作ったものを食べ比べてみたら勉強になると思うの」
幼馴染男「本当!? 嬉しいな、君の手作りを食べる事ができるなんて!」
長姉「くっ…」
長姉「は、初めてにしては、男の人にしては綺麗に美味しそうにできたじゃない? 褒めてあげるわ!」
西通りの未亡人宅、料理教室会場。
未亡人「……どうですか、お菓子作りはひとつ間違うと台無しになってしまいますが…」
未亡人「逆に、手順が正しければ、このように立派な完成品ができあがるのです」
未亡人「私の料理教室の第一回目にお菓子作りを選んだのは、このため」
未亡人「レシピを守ることの重要性と、出来上がった時の喜び、これらを同時に、そしてわかりやすい形で味わうことができる」
幼馴染男「うんうん」ココロカラノウナズキ
長姉「…」チラリ
幼馴染男のクッキー:キラキラー
長姉のクッキー:モッサリー
長姉「……材料もレシピも同じなのに何が違うのかしら……」
幼馴染男「いやあ、いきなりお菓子作りとか実用的な意味でどうかなと思ったけど、楽しいものだね!」
長姉「ね、ねえ、幼馴染男?」
幼馴染男「何だい?」
長姉「何枚か交換しない? 他の人の作ったものを食べ比べてみたら勉強になると思うの」
幼馴染男「本当!? 嬉しいな、君の手作りを食べる事ができるなんて!」
長姉「くっ…」
長姉「は、初めてにしては、男の人にしては綺麗に美味しそうにできたじゃない? 褒めてあげるわ!」
551: ◆54DIlPdu2E:2015/06/16(火) 23:37:45.13:iLJciChX0 (9/10)
幼馴染男「君のも素朴で……このイビツな所が、田舎のおふくろさん風でいいと思うな」
長姉(これで悪気ないのよね、こいつ……)
受講生1「ねえ、あの人…料理教室が始まった時から思っていたけど、ちょっと…よくない?」
受講生2「そうね、男の人なんて珍しいと思ったけど、よく見たら素敵」
長姉「」ピクッ
受講生1「生地を混ぜるときの手つきとか、恰好良かった」
受講生2「ただハンサムなだけじゃないわ、真面目で優しそう……」
長姉(あの娘達、私と同じ年か少し下? よく見たら幼馴染男以外の受講生は若い女の子ばかり……)
幼馴染男「ねえ長姉、俺は今月ずっと通うけど、君は?」
長姉「わ、私は……」
長姉(……当初の目的はお菓子作りのみ、次姉から受講料をもらうのも限りがある……)
受講生2「あの人、彼女とかいるのかしら?」
受講生1「フリーなら、私…ちょっと頑張っちゃおうかな!?」
長姉「」
長姉「もちろんよ! 毎回通うわ!!」
長姉の何かに火がついた……
幼馴染男「君のも素朴で……このイビツな所が、田舎のおふくろさん風でいいと思うな」
長姉(これで悪気ないのよね、こいつ……)
受講生1「ねえ、あの人…料理教室が始まった時から思っていたけど、ちょっと…よくない?」
受講生2「そうね、男の人なんて珍しいと思ったけど、よく見たら素敵」
長姉「」ピクッ
受講生1「生地を混ぜるときの手つきとか、恰好良かった」
受講生2「ただハンサムなだけじゃないわ、真面目で優しそう……」
長姉(あの娘達、私と同じ年か少し下? よく見たら幼馴染男以外の受講生は若い女の子ばかり……)
幼馴染男「ねえ長姉、俺は今月ずっと通うけど、君は?」
長姉「わ、私は……」
長姉(……当初の目的はお菓子作りのみ、次姉から受講料をもらうのも限りがある……)
受講生2「あの人、彼女とかいるのかしら?」
受講生1「フリーなら、私…ちょっと頑張っちゃおうかな!?」
長姉「」
長姉「もちろんよ! 毎回通うわ!!」
長姉の何かに火がついた……
552: ◆54DIlPdu2E:2015/06/16(火) 23:38:34.11:iLJciChX0 (10/10)
※ここまで。そろそろ話を動かしたいがさてどうなるやらです※
※ここまで。そろそろ話を動かしたいがさてどうなるやらです※
553:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/17(水) 00:38:38.89:F/DdrH1AO (1/2)
乙
次兄と末妹ちゃん可愛い
次兄もだなんて僕はどうかしてしまったのかなスカリー
乙
次兄と末妹ちゃん可愛い
次兄もだなんて僕はどうかしてしまったのかなスカリー
554: ◆54DIlPdu2E:2015/06/17(水) 22:25:49.65:9H1/5YcW0 (1/6)
商人の家、長姉の部屋。
次姉「へえー、なかなか上手にできたじゃない。しかも二種類作ったの?」
長姉「……」ダンマリ
次姉「ふーん、こっちの素朴な見た目の田舎風のタイプも、ざっくり感としっとり感が混在した面白い食感で悪くないけど」
次姉「やっぱり女の子が作るならこっちよね。表面のツヤといい、可愛らしい形といい、サクサク軽い口当たりといい」
長姉「…………」プルプル…
次姉「? どうしたの?」
長姉「…と、ところで、次姉。ちょっと客観的な意見を聞かせてくれないかしら?」
次姉「クッキーについてはじゅうぶん客観的に評価したつもりだけど」
長姉「クッキーじゃなくて!」
長姉「……幼馴染男だけど、あんた最後に会ったのはいつだっけ? 子供の時以来?」
次姉「幼馴染男に? そうね、去年の今頃、姉さんと港のお祭りに行った時に偶然会ったでしょ、私はあれ以来よ」
長姉「そうだった、それなら今と見た目は変わらないわね…」
商人の家、長姉の部屋。
次姉「へえー、なかなか上手にできたじゃない。しかも二種類作ったの?」
長姉「……」ダンマリ
次姉「ふーん、こっちの素朴な見た目の田舎風のタイプも、ざっくり感としっとり感が混在した面白い食感で悪くないけど」
次姉「やっぱり女の子が作るならこっちよね。表面のツヤといい、可愛らしい形といい、サクサク軽い口当たりといい」
長姉「…………」プルプル…
次姉「? どうしたの?」
長姉「…と、ところで、次姉。ちょっと客観的な意見を聞かせてくれないかしら?」
次姉「クッキーについてはじゅうぶん客観的に評価したつもりだけど」
長姉「クッキーじゃなくて!」
長姉「……幼馴染男だけど、あんた最後に会ったのはいつだっけ? 子供の時以来?」
次姉「幼馴染男に? そうね、去年の今頃、姉さんと港のお祭りに行った時に偶然会ったでしょ、私はあれ以来よ」
長姉「そうだった、それなら今と見た目は変わらないわね…」
555: ◆54DIlPdu2E:2015/06/17(水) 22:28:33.53:9H1/5YcW0 (2/6)
長姉「でね、幼馴染男はうちの兄さん程には背が高くないし、兄さんよりかなりヒョロいし、兄さん程ハンサムでもないけど」
長姉「世間一般の同年代の男性の中では、どのくらいのレベルだと思う? あくまでもパッと見の印象で!」
次姉「……」
次姉「今更というか、なぜこのタイミングでそれを私に意見を求めるのか理解しかねるけど」
次姉「うーん……そうねえ、お父さんとお母様の結婚式の肖像画、思い出せる?」
長姉「? う、うん。」
次姉「髪の毛ふさふさでお腹が弛んでもいない、あの若いお父さんの礼装じゃない普段着の姿を想像してみて?」
長姉「……してみたわ?」
次姉「それを20代前半の男性の…背格好も平均的で、顔も実に平凡」
次姉「ありふれた、どこにでもいそうな容姿のサンプルにして」
次姉「幼馴染男は、比較すると……どう?」
長姉「……あれ? かなりカッコよく思える……」
次姉「でしょ? 比較の対象が最初から間違っていたのよ」
長姉「でね、幼馴染男はうちの兄さん程には背が高くないし、兄さんよりかなりヒョロいし、兄さん程ハンサムでもないけど」
長姉「世間一般の同年代の男性の中では、どのくらいのレベルだと思う? あくまでもパッと見の印象で!」
次姉「……」
次姉「今更というか、なぜこのタイミングでそれを私に意見を求めるのか理解しかねるけど」
次姉「うーん……そうねえ、お父さんとお母様の結婚式の肖像画、思い出せる?」
長姉「? う、うん。」
次姉「髪の毛ふさふさでお腹が弛んでもいない、あの若いお父さんの礼装じゃない普段着の姿を想像してみて?」
長姉「……してみたわ?」
次姉「それを20代前半の男性の…背格好も平均的で、顔も実に平凡」
次姉「ありふれた、どこにでもいそうな容姿のサンプルにして」
次姉「幼馴染男は、比較すると……どう?」
長姉「……あれ? かなりカッコよく思える……」
次姉「でしょ? 比較の対象が最初から間違っていたのよ」
556: ◆54DIlPdu2E:2015/06/17(水) 22:32:05.67:9H1/5YcW0 (3/6)
次姉「で、何かあったの? あったんでしょ? 幼馴染男の関係で」
長姉「……あんたには隠しても無駄ね。実は」
~かくかくしかじか~
次姉「……料理教室でばったり出会うとはね」
次姉「男性は彼一人なの? そしたら外見以外にも、その場での『希少価値』が付加されるから」
次姉「普段、街で出会う以上に『素敵な男性』に見られちゃうわねえ」
長姉「うううう……」
長姉「……で、ここから先は、言いにくい事なんだけど……」モジモジ
次姉「姉さんの発想なんてわかっている。皆まで言うな」
次姉「次回以降も料理教室に通いたい、でも受講料をどうしよう、でしょ?」
長姉「……そうよ」ボソ
次姉「…」フー
次姉「で、何かあったの? あったんでしょ? 幼馴染男の関係で」
長姉「……あんたには隠しても無駄ね。実は」
~かくかくしかじか~
次姉「……料理教室でばったり出会うとはね」
次姉「男性は彼一人なの? そしたら外見以外にも、その場での『希少価値』が付加されるから」
次姉「普段、街で出会う以上に『素敵な男性』に見られちゃうわねえ」
長姉「うううう……」
長姉「……で、ここから先は、言いにくい事なんだけど……」モジモジ
次姉「姉さんの発想なんてわかっている。皆まで言うな」
次姉「次回以降も料理教室に通いたい、でも受講料をどうしよう、でしょ?」
長姉「……そうよ」ボソ
次姉「…」フー
557: ◆54DIlPdu2E:2015/06/17(水) 22:34:49.24:9H1/5YcW0 (4/6)
次姉「まだ、お父さんや兄さんに頭を下げようって気は起きないんでしょ?」
長姉「うん。兄さんには『まだ』こっちから折れたくはないし」
長姉「お父さんに謝った場合を想像しても、その横で兄さんがドヤ顔している場面まで浮かんで…だから嫌」
次姉「……週2回、次の給料日までにあと7回も開講されるのか……」
次姉「わかった、なんとかしましょう。姉さんの(成長の)ためだもの」
長姉「本当!? 嬉しい、次姉大好き!!」ガバッ
次姉「ちょ、姉さん姉さん」
次姉「単純に喜ぶのは早いわ、まずは発想の転換が必要よ」
長姉「発想の転換……?」
次姉「料理教室のチラシ、裏面にもこんな募集があったの」
長姉「何々…『準備・後片付け・材料購入の助手を募集しています』?」
長姉「『報酬もしくは受講料免除の特典を選択可能』……」
次姉「お菓子作りの一回だけならここまで考える必要はなかったんだけどね」
次姉「まだ、お父さんや兄さんに頭を下げようって気は起きないんでしょ?」
長姉「うん。兄さんには『まだ』こっちから折れたくはないし」
長姉「お父さんに謝った場合を想像しても、その横で兄さんがドヤ顔している場面まで浮かんで…だから嫌」
次姉「……週2回、次の給料日までにあと7回も開講されるのか……」
次姉「わかった、なんとかしましょう。姉さんの(成長の)ためだもの」
長姉「本当!? 嬉しい、次姉大好き!!」ガバッ
次姉「ちょ、姉さん姉さん」
次姉「単純に喜ぶのは早いわ、まずは発想の転換が必要よ」
長姉「発想の転換……?」
次姉「料理教室のチラシ、裏面にもこんな募集があったの」
長姉「何々…『準備・後片付け・材料購入の助手を募集しています』?」
長姉「『報酬もしくは受講料免除の特典を選択可能』……」
次姉「お菓子作りの一回だけならここまで考える必要はなかったんだけどね」
558: ◆54DIlPdu2E:2015/06/17(水) 22:37:57.99:9H1/5YcW0 (5/6)
次姉「姉さん、どうせ自由になる時間は沢山ある(端的に言うと暇だ)し、どうかしら?」
長姉「でも……私、働いた事ないし……」
次姉「他の受講生がいない所で、材料や下準備を覚える事ができるのよ?」
次姉「これ以上の上達の早道は、ないと思うんだけど……?」
長姉「……できるかな、私に」
次姉「できるわ、どんな事だって寄宿学校での日々に比べたらずっとマシよ」
長姉「…うん、まずはやってみる、当たって砕けろって言うくらいだから!」
次姉「できれば砕けないでね」
次姉「……」
次姉(姉さんが前を向くための起爆剤は、恋だったみたい)
次姉(応援はしたいけど、なんとなく寂しいような……)フッ
次姉(…………何これ、まさか親心ってやつ?)
次姉「姉さん、どうせ自由になる時間は沢山ある(端的に言うと暇だ)し、どうかしら?」
長姉「でも……私、働いた事ないし……」
次姉「他の受講生がいない所で、材料や下準備を覚える事ができるのよ?」
次姉「これ以上の上達の早道は、ないと思うんだけど……?」
長姉「……できるかな、私に」
次姉「できるわ、どんな事だって寄宿学校での日々に比べたらずっとマシよ」
長姉「…うん、まずはやってみる、当たって砕けろって言うくらいだから!」
次姉「できれば砕けないでね」
次姉「……」
次姉(姉さんが前を向くための起爆剤は、恋だったみたい)
次姉(応援はしたいけど、なんとなく寂しいような……)フッ
次姉(…………何これ、まさか親心ってやつ?)
559: ◆54DIlPdu2E:2015/06/17(水) 22:38:56.96:9H1/5YcW0 (6/6)
※ここまで。次回は早くても金曜夜かな?※
あなた疲れているのよ>>553…
※ここまで。次回は早くても金曜夜かな?※
あなた疲れているのよ>>553…
560:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/17(水) 23:29:16.66:F/DdrH1AO (2/2)
母の眼差しで脱ニートを見守るんだ次姉
兄弟の中で一番オカン特性高いのはきっと次姉
でも作中トップは家政婦さん
>>559
戸田恵子ボイスでアザーッス
母の眼差しで脱ニートを見守るんだ次姉
兄弟の中で一番オカン特性高いのはきっと次姉
でも作中トップは家政婦さん
>>559
戸田恵子ボイスでアザーッス
561: ◆54DIlPdu2E:2015/06/19(金) 21:20:07.45:T/YKCfqa0 (1/11)
商人の店、閉店直後。
商人「今日もお疲れさん、長兄。今日は仕入れたばかりの毛糸がよく売れたのか」
商人「こんなに暖かい日でも暦はとうに秋、冬を意識する頃だものな」
長兄「……うん」ウワノソラ
商人「…どうしたんだ? お前がそんなにぼーっとしているのは珍しい」
長兄「なんにも……考え事してただけです」
商人「そうかい? お前は意外と抱え込むタイプだからちょっと心配だよ」
商人「それに、あまり思い悩むと頭が」
長兄「!」ビビッ
商人「頭が痛くなるぞ?」
長兄「…………大丈夫。生まれてこのかた、外傷以外の原因で頭痛なんか起こした事がない」
商人「お前は本当に丈夫で、3歳の時のハシカ以外に病気で寝込んだことなんかないものなあ」
商人「しかし、これは体力に限らないが、自分を過信していると痛い目を見るぞ」
長兄「…過信……」
商人の店、閉店直後。
商人「今日もお疲れさん、長兄。今日は仕入れたばかりの毛糸がよく売れたのか」
商人「こんなに暖かい日でも暦はとうに秋、冬を意識する頃だものな」
長兄「……うん」ウワノソラ
商人「…どうしたんだ? お前がそんなにぼーっとしているのは珍しい」
長兄「なんにも……考え事してただけです」
商人「そうかい? お前は意外と抱え込むタイプだからちょっと心配だよ」
商人「それに、あまり思い悩むと頭が」
長兄「!」ビビッ
商人「頭が痛くなるぞ?」
長兄「…………大丈夫。生まれてこのかた、外傷以外の原因で頭痛なんか起こした事がない」
商人「お前は本当に丈夫で、3歳の時のハシカ以外に病気で寝込んだことなんかないものなあ」
商人「しかし、これは体力に限らないが、自分を過信していると痛い目を見るぞ」
長兄「…過信……」
562: ◆54DIlPdu2E:2015/06/19(金) 21:24:12.65:T/YKCfqa0 (2/11)
商人「…なんてな、10日前まで生ける屍さながらだった私が、支えてくれたお前に忠告なんておかしな話だが」
長兄「いや……父さんの言う通り、俺は思い上がっていたのかもしれない」
商人「思い上がり? 長兄が?」
長兄「父さん…俺、男子校に通っていた15歳の時、恋人がいました。過去形です」
商人「……だ、男子校でっ!?」ハワワ
長兄「え? ……っ、いや、そうじゃなくて、同じ王都で女学生だった女の子ですよ!?」
商人「あ、そういう意味か……」ホッ
長兄「話を戻すと……俺の通っていたのは父さんの母校でもあるから、知っているとは思うけど」
長兄「校外奉仕活動のスケジュールがその女学校と重なる時があって、それで知り合ったんです」
長兄「数ヵ月間は奉仕活動の休憩時間に話をしたり、図書館で一緒に勉強をしたり、そんな中で徐々に親しくなって」
長兄「彼女が15歳の誕生日を迎えた日を機に、思い切って告白したんです」
商人「うんうん、私も昔は覚えがあるよ、青春だねえ」
長兄「……彼女はすごく喜んでくれて、だから彼女も前から俺の事が好きで、告白を待っていたんだろうと思っていました」
長兄「だから、俺がどんな事をしても彼女が俺に愛想をつかすことはないだろう、くらいに考えていた」
商人「…なんてな、10日前まで生ける屍さながらだった私が、支えてくれたお前に忠告なんておかしな話だが」
長兄「いや……父さんの言う通り、俺は思い上がっていたのかもしれない」
商人「思い上がり? 長兄が?」
長兄「父さん…俺、男子校に通っていた15歳の時、恋人がいました。過去形です」
商人「……だ、男子校でっ!?」ハワワ
長兄「え? ……っ、いや、そうじゃなくて、同じ王都で女学生だった女の子ですよ!?」
商人「あ、そういう意味か……」ホッ
長兄「話を戻すと……俺の通っていたのは父さんの母校でもあるから、知っているとは思うけど」
長兄「校外奉仕活動のスケジュールがその女学校と重なる時があって、それで知り合ったんです」
長兄「数ヵ月間は奉仕活動の休憩時間に話をしたり、図書館で一緒に勉強をしたり、そんな中で徐々に親しくなって」
長兄「彼女が15歳の誕生日を迎えた日を機に、思い切って告白したんです」
商人「うんうん、私も昔は覚えがあるよ、青春だねえ」
長兄「……彼女はすごく喜んでくれて、だから彼女も前から俺の事が好きで、告白を待っていたんだろうと思っていました」
長兄「だから、俺がどんな事をしても彼女が俺に愛想をつかすことはないだろう、くらいに考えていた」
563: ◆54DIlPdu2E:2015/06/19(金) 21:27:34.32:T/YKCfqa0 (3/11)
商人「……『どんな事をしても』」
商人「も、もしやお前は、その娘さんに対し欲望に任せて非道な行為を働いた、とか!?!?」アババババ
長兄「その逆。結果的には、いわゆる『釣った魚に餌はやらない』というやつでした」
長兄「俺としては、その……」
長兄「…二人で観劇やピクニックに出かけたり、えーと……キスしたり…なんかはまだ先でいいと気長に考えていて」
長兄「いいえ、彼女が求めていたのはきっと、もっとさりげない、小さな、でも明確に好意を現す態度だったのでしょうね」
長兄「俺はそれすらしなかった」
長兄「それどころか、告白後は『好きだ』と言った事さえ」
商人「……」
長兄「更に言うなら、俺は一般的に女の子が向こうから寄ってくるタイプだったらしく」
商人「…うん、私の息子とは思えないほど背も高いし美形だし」
商人「お前達の母方のお祖父様が若い頃にそっくりだけどね」
長兄「他の女の子に頼まれて奉仕活動中の力仕事に手を貸したり、図書館で高い所の本を取ってあげたり」
長兄「……それを恋人として交際を始めた彼女が見ている前で、しかも何度も」
商人「……『どんな事をしても』」
商人「も、もしやお前は、その娘さんに対し欲望に任せて非道な行為を働いた、とか!?!?」アババババ
長兄「その逆。結果的には、いわゆる『釣った魚に餌はやらない』というやつでした」
長兄「俺としては、その……」
長兄「…二人で観劇やピクニックに出かけたり、えーと……キスしたり…なんかはまだ先でいいと気長に考えていて」
長兄「いいえ、彼女が求めていたのはきっと、もっとさりげない、小さな、でも明確に好意を現す態度だったのでしょうね」
長兄「俺はそれすらしなかった」
長兄「それどころか、告白後は『好きだ』と言った事さえ」
商人「……」
長兄「更に言うなら、俺は一般的に女の子が向こうから寄ってくるタイプだったらしく」
商人「…うん、私の息子とは思えないほど背も高いし美形だし」
商人「お前達の母方のお祖父様が若い頃にそっくりだけどね」
長兄「他の女の子に頼まれて奉仕活動中の力仕事に手を貸したり、図書館で高い所の本を取ってあげたり」
長兄「……それを恋人として交際を始めた彼女が見ている前で、しかも何度も」
564: ◆54DIlPdu2E:2015/06/19(金) 21:31:46.98:T/YKCfqa0 (4/11)
長兄「そして俺はその『意味』にも気づいていなかったという」
商人「……ああ」
商人「それは減点が多すぎたよ、長兄……」
長兄「そうです。結論から言うと、交際が始まって7カ月後、お互いが自分の学校の卒業を間近にしたある日」
長兄「彼女の方から別れを切り出してきました……」
商人「そう……」
長兄「向こうから嫌われる事はないだろうと無意識のうちに思い上がっていた、その上、相手の心の変化にも気づかない鈍さ」
長兄「15歳当時ならまだ未熟だった、幼かった、と至らなさの言い訳もできるが」
長兄「……どうやら俺は成長していなかった」
商人「ま、またお付き合いしていた女の子に振られたのかい!?」
長兄「いえ、妹の……長姉のことです」
商人「長姉の……」
長兄「父さん、俺達が小さい頃のこと…男子校に行く前、覚えていますか?」
商人「覚えているよ。長姉も次姉も『お兄ちゃん、お兄ちゃん』と」
商人「長兄の後をついて回って、お前もなんだかんだ言って邪険にはせず、相手をしていたなあ」
長兄「そして俺はその『意味』にも気づいていなかったという」
商人「……ああ」
商人「それは減点が多すぎたよ、長兄……」
長兄「そうです。結論から言うと、交際が始まって7カ月後、お互いが自分の学校の卒業を間近にしたある日」
長兄「彼女の方から別れを切り出してきました……」
商人「そう……」
長兄「向こうから嫌われる事はないだろうと無意識のうちに思い上がっていた、その上、相手の心の変化にも気づかない鈍さ」
長兄「15歳当時ならまだ未熟だった、幼かった、と至らなさの言い訳もできるが」
長兄「……どうやら俺は成長していなかった」
商人「ま、またお付き合いしていた女の子に振られたのかい!?」
長兄「いえ、妹の……長姉のことです」
商人「長姉の……」
長兄「父さん、俺達が小さい頃のこと…男子校に行く前、覚えていますか?」
商人「覚えているよ。長姉も次姉も『お兄ちゃん、お兄ちゃん』と」
商人「長兄の後をついて回って、お前もなんだかんだ言って邪険にはせず、相手をしていたなあ」
565: ◆54DIlPdu2E:2015/06/19(金) 21:35:54.78:T/YKCfqa0 (5/11)
商人「二人より1年早くお前を寄宿学校に送り出してからは、しばらくの間、寂しがって泣いていたな……」
長兄「ええ、だから俺は、妹達はいまだに『お兄ちゃん大好き』なんだと心のどこかで…思い上がって」
長兄「今、不貞腐れて閉じこもっている長姉も、きっと、必ず、向こうから折れて謝ってくれると」
長兄「疑いもせず信じ込んで、知らぬ間に…取り返しのつかないほど長姉の心を傷つけていたんです……」
商人「……」ウーム
商人「私も、長姉と次姉の育て方…自身のあの子達への接し方には思うところがある」
商人「野獣の屋敷と関わってからのここ1カ月で色々あった、その間、私もあれこれ考えたんだ」
商人「次姉はそれでも不甲斐ない父親などあっという間に乗り越えて、立派に成長した」
商人「元々とても賢くて逞しい子だった、だから自分の生き方を自分で見つけ出せたのだ」
商人「……長姉は、本当は人一倍寂しがりで傷つき易く、依存心も強い」
商人「幼いうちに寄宿学校に放りこんで寂しい思いをさせた後ろめたさから」
商人「家に戻ってからはねだるままに金品だけ与えて結局は放置した、それが大きな過ちだった」
商人「もっと目を掛け、話を聞いてやり、心を配ってやらないといけなかった」
商人「末妹をそうして育てたように……」
長兄「……」
商人「二人より1年早くお前を寄宿学校に送り出してからは、しばらくの間、寂しがって泣いていたな……」
長兄「ええ、だから俺は、妹達はいまだに『お兄ちゃん大好き』なんだと心のどこかで…思い上がって」
長兄「今、不貞腐れて閉じこもっている長姉も、きっと、必ず、向こうから折れて謝ってくれると」
長兄「疑いもせず信じ込んで、知らぬ間に…取り返しのつかないほど長姉の心を傷つけていたんです……」
商人「……」ウーム
商人「私も、長姉と次姉の育て方…自身のあの子達への接し方には思うところがある」
商人「野獣の屋敷と関わってからのここ1カ月で色々あった、その間、私もあれこれ考えたんだ」
商人「次姉はそれでも不甲斐ない父親などあっという間に乗り越えて、立派に成長した」
商人「元々とても賢くて逞しい子だった、だから自分の生き方を自分で見つけ出せたのだ」
商人「……長姉は、本当は人一倍寂しがりで傷つき易く、依存心も強い」
商人「幼いうちに寄宿学校に放りこんで寂しい思いをさせた後ろめたさから」
商人「家に戻ってからはねだるままに金品だけ与えて結局は放置した、それが大きな過ちだった」
商人「もっと目を掛け、話を聞いてやり、心を配ってやらないといけなかった」
商人「末妹をそうして育てたように……」
長兄「……」
566: ◆54DIlPdu2E:2015/06/19(金) 21:39:53.96:T/YKCfqa0 (6/11)
商人「しかし、今からでも遅くない……私から長姉に謝って」
長兄「いや、それなら俺が先に。前にも言ったが、こうなった直接の原因は俺にあるから」
商人「とはいえ全ての元凶は私にある。それに女心は私の方がまだ理解できるつもりだ、とにかくここは任せてくれ」
長兄「……どうせ俺は、万が一妹達に聞こえたら思ってぼかした表現するけど、女性とどうにかなった経験もありませんよ!!」
商人「! お、お前、まだそういう経験がないのかい!?」
商人「去年の今頃に港のお祭りで一緒に歩いていたきれいな娘さんは? てっきり今も付き合っていると……」
長兄「父さんに見られていたとは……彼女とだったらお祭りの後の『今夜は帰りたくないの』というセリフに」
長兄「『ご家族と喧嘩したなら仲裁に入ってあげるよ』と本気で返したばかりに」
長兄「『乙女に恥をかかせるなんて!!』と引っ叩かれておしまいですよ!」
長兄「あっ、て言うかそこで自覚ができていれば今頃は!?」
長兄「……とにかく傷口抉らないでよぉ!!」ブワワッ
商人「お、おい、長兄!?」
長兄「うえっぐ……俺なんて、俺なんか……人の気持ちが理解できない顔だけの無神経男と呼ばれて、いずれは」
長兄「年齢とともに外見もどうにかなって身も心も醜い孤独な中年男として朽ちて行くのがお似合いなんだ…うえっぐ」
商人「しかし、今からでも遅くない……私から長姉に謝って」
長兄「いや、それなら俺が先に。前にも言ったが、こうなった直接の原因は俺にあるから」
商人「とはいえ全ての元凶は私にある。それに女心は私の方がまだ理解できるつもりだ、とにかくここは任せてくれ」
長兄「……どうせ俺は、万が一妹達に聞こえたら思ってぼかした表現するけど、女性とどうにかなった経験もありませんよ!!」
商人「! お、お前、まだそういう経験がないのかい!?」
商人「去年の今頃に港のお祭りで一緒に歩いていたきれいな娘さんは? てっきり今も付き合っていると……」
長兄「父さんに見られていたとは……彼女とだったらお祭りの後の『今夜は帰りたくないの』というセリフに」
長兄「『ご家族と喧嘩したなら仲裁に入ってあげるよ』と本気で返したばかりに」
長兄「『乙女に恥をかかせるなんて!!』と引っ叩かれておしまいですよ!」
長兄「あっ、て言うかそこで自覚ができていれば今頃は!?」
長兄「……とにかく傷口抉らないでよぉ!!」ブワワッ
商人「お、おい、長兄!?」
長兄「うえっぐ……俺なんて、俺なんか……人の気持ちが理解できない顔だけの無神経男と呼ばれて、いずれは」
長兄「年齢とともに外見もどうにかなって身も心も醜い孤独な中年男として朽ちて行くのがお似合いなんだ…うえっぐ」
567: ◆54DIlPdu2E:2015/06/19(金) 21:43:25.45:T/YKCfqa0 (7/11)
商人「取り乱しつつも『外見もどうにかなる』というぼかした表現に私への気遣いを感じるよ、どうせ頭髪の話だろう」
商人(……しかし、長兄が泣くのを見るのは妻が亡くなった時以来だな)
商人(思えば、小さな頃から兄だ、長子だ、跡取りだと、何かと重圧を掛けてしまっていたかも……)
商人(末妹達の話を相談しようかと迷っていたが、それは長兄に頼らず私が答えを出すべき問題なのだな)
商人(何より、今はこの子の悩みをこれ以上増やしては……)
商人「……なあ長兄、秋の夜長だ、今夜は二人、男同士で飲まないか?」
長兄「……」グシュ
商人「一人でちびちび楽しんでいた銘酒の味を、そろそろお前にも教えたい」
商人「そして、飲みながら長姉にどう接するか話し合おうじゃないか。大丈夫、あの子についてはまだ間に合う(はず)」
長兄「……」コクリ
商人「よし、弟妹が寝静まった頃に書斎へおいで」
商人「まずは落ち着いて、夕食、いやその前に(涙と鼻水でぐじゃぐじゃの)顔を洗わんとな……」
商人「……長兄は今や私の頼もしい相棒だ、そう思っていることは忘れないでおくれ」
…………
商人「取り乱しつつも『外見もどうにかなる』というぼかした表現に私への気遣いを感じるよ、どうせ頭髪の話だろう」
商人(……しかし、長兄が泣くのを見るのは妻が亡くなった時以来だな)
商人(思えば、小さな頃から兄だ、長子だ、跡取りだと、何かと重圧を掛けてしまっていたかも……)
商人(末妹達の話を相談しようかと迷っていたが、それは長兄に頼らず私が答えを出すべき問題なのだな)
商人(何より、今はこの子の悩みをこれ以上増やしては……)
商人「……なあ長兄、秋の夜長だ、今夜は二人、男同士で飲まないか?」
長兄「……」グシュ
商人「一人でちびちび楽しんでいた銘酒の味を、そろそろお前にも教えたい」
商人「そして、飲みながら長姉にどう接するか話し合おうじゃないか。大丈夫、あの子についてはまだ間に合う(はず)」
長兄「……」コクリ
商人「よし、弟妹が寝静まった頃に書斎へおいで」
商人「まずは落ち着いて、夕食、いやその前に(涙と鼻水でぐじゃぐじゃの)顔を洗わんとな……」
商人「……長兄は今や私の頼もしい相棒だ、そう思っていることは忘れないでおくれ」
…………
568: ◆54DIlPdu2E:2015/06/19(金) 23:25:50.04:T/YKCfqa0 (8/11)
翌日、朝食後。
家政婦「末妹様に、お客様ですよ」
末妹「私に?」
家政婦「末妹様くらいのお歳のお嬢さんで、友1様と友2様、友3様です」
末妹「私の友達だわ!」パァァ
商人「おお、あの子達か。末妹、久しぶりに遊んでおいで」
末妹「でも」
末妹「お店は? お長兄(にい)さんの具合が悪いんでしょ?」
商人「長兄なら心配ない(二日酔いだからね)」
商人「店なら、私も次姉もいるよ。品物の出し入れなら次兄も手伝ってくれる」
商人「元気な顔を見せておいで」
末妹「……」
末妹「ありがとう、お父さん」タタッ
次兄「窓から見える、俺もあの子達の姿は久しぶりに見るな」
次兄「……みんなまた背が伸びて、末妹以外は俺の身長を既に抜いているのではなかろうか」
次兄「しかも3人とも決して大柄な方ではなく、ごく平均的な妹と同年齢の少女の体格と言えよう」
商人「お前もこれからまだまだ伸びるから安心しなさい」
翌日、朝食後。
家政婦「末妹様に、お客様ですよ」
末妹「私に?」
家政婦「末妹様くらいのお歳のお嬢さんで、友1様と友2様、友3様です」
末妹「私の友達だわ!」パァァ
商人「おお、あの子達か。末妹、久しぶりに遊んでおいで」
末妹「でも」
末妹「お店は? お長兄(にい)さんの具合が悪いんでしょ?」
商人「長兄なら心配ない(二日酔いだからね)」
商人「店なら、私も次姉もいるよ。品物の出し入れなら次兄も手伝ってくれる」
商人「元気な顔を見せておいで」
末妹「……」
末妹「ありがとう、お父さん」タタッ
次兄「窓から見える、俺もあの子達の姿は久しぶりに見るな」
次兄「……みんなまた背が伸びて、末妹以外は俺の身長を既に抜いているのではなかろうか」
次兄「しかも3人とも決して大柄な方ではなく、ごく平均的な妹と同年齢の少女の体格と言えよう」
商人「お前もこれからまだまだ伸びるから安心しなさい」
569: ◆54DIlPdu2E:2015/06/19(金) 23:29:44.23:T/YKCfqa0 (9/11)
次兄「俺もうすぐ17だもん、さすがに」
商人「お前の『もうすぐ』ってどれ程なんだ? まだ16歳3カ月、むしろ今の歳に『なったばかり』じゃないか」
次兄「時間の感覚には個人差があるとだけ言っておきましょう、それ以上のコメントは差し控えます」フンス
商人「……」
商人(考えたら、この子は赤ん坊の時は5歳まで生きられないと言われ)
商人(5歳を過ぎれば10まで、10を過ぎれば15まで生きられないと言われて)
商人(その頃から徐々に体力もついて、あまり寝込まなくもなり、やっと丈夫になってきたかと思った矢先)
商人(14の終わり頃に今迄で一番の重病になって、晩冬から初夏まで何カ月も容態は一進一退を繰り返し)
商人(15の誕生日も病床で迎えたのだっけな)
商人(……それから僅か1年で、この間、発熱や腹痛ひとつ起こさず)
商人(人並みとまでは言わないが、依然と比べ物にならないほど活発で健康になったので)
商人(昔をついつい忘れてしまいそうだが、きっと次兄には、年齢を重ねる事は普通以上に深い意味を持つのだろう)
商人(誕生日が来れば、すぐにその次の誕生日が心待ちになったとしても、無理はない……)
商人「……」ポン
次兄「…ふひゅえ!?」
次兄「な、なんすか父さん、俺の頭に手なんか置いて!?」
次兄「俺もうすぐ17だもん、さすがに」
商人「お前の『もうすぐ』ってどれ程なんだ? まだ16歳3カ月、むしろ今の歳に『なったばかり』じゃないか」
次兄「時間の感覚には個人差があるとだけ言っておきましょう、それ以上のコメントは差し控えます」フンス
商人「……」
商人(考えたら、この子は赤ん坊の時は5歳まで生きられないと言われ)
商人(5歳を過ぎれば10まで、10を過ぎれば15まで生きられないと言われて)
商人(その頃から徐々に体力もついて、あまり寝込まなくもなり、やっと丈夫になってきたかと思った矢先)
商人(14の終わり頃に今迄で一番の重病になって、晩冬から初夏まで何カ月も容態は一進一退を繰り返し)
商人(15の誕生日も病床で迎えたのだっけな)
商人(……それから僅か1年で、この間、発熱や腹痛ひとつ起こさず)
商人(人並みとまでは言わないが、依然と比べ物にならないほど活発で健康になったので)
商人(昔をついつい忘れてしまいそうだが、きっと次兄には、年齢を重ねる事は普通以上に深い意味を持つのだろう)
商人(誕生日が来れば、すぐにその次の誕生日が心待ちになったとしても、無理はない……)
商人「……」ポン
次兄「…ふひゅえ!?」
次兄「な、なんすか父さん、俺の頭に手なんか置いて!?」
570: ◆54DIlPdu2E:2015/06/19(金) 23:33:16.37:T/YKCfqa0 (10/11)
次兄「まさか、父さんと色が似ている俺の髪を手から吸引して自分の物にしようとか、そんな黒魔術か何か!?」
商人「違う」
商人「……お前の想像力、妄想力かな、独創的にも程があってそこまで来ると感動さえ覚えるよ」ワシャワシャ
商人「とりあえず、このひどい寝癖をきちんと整えないと女の子にモテないぞ?」ワシャ
次兄「人類の女子にはそそられないので」キッパリ
商人「……わかってはいたが、ううむ」ワシャ…
商人「……西の島国には女性の動物学者兼探検家がいると聞いたなあ」
商人「これからの時代、そんな女性学者も増えてくるかもしれない」
商人「お前が大人になって、そういう人とお近づきになれたら、世界の珍獣との出会いも期待できるかもしれないぞ?」ナデ
次兄「…!?」
商人「しかし、どんな女性に対しても、身だしなみは紳士として最低限のマナーだからね」ナデナデ
次兄「……なるほど、(動物との)出会いのチャンスはいつどこに転がっているかわからないから常に備えよ、という教えか!」
次兄「いいことを聞きました、ありがとう父さん、俺の髪30本くらいなら吸い取っていいよ!!」
商人「……………………だから違うと言ってるだろうがあ」グッシャグッシャグッシャラギリギリギリ
次兄「いて、いてて、やめ、ほんとに抜けちゃうやめてええぇ!?」バタバタ
…………
次兄「まさか、父さんと色が似ている俺の髪を手から吸引して自分の物にしようとか、そんな黒魔術か何か!?」
商人「違う」
商人「……お前の想像力、妄想力かな、独創的にも程があってそこまで来ると感動さえ覚えるよ」ワシャワシャ
商人「とりあえず、このひどい寝癖をきちんと整えないと女の子にモテないぞ?」ワシャ
次兄「人類の女子にはそそられないので」キッパリ
商人「……わかってはいたが、ううむ」ワシャ…
商人「……西の島国には女性の動物学者兼探検家がいると聞いたなあ」
商人「これからの時代、そんな女性学者も増えてくるかもしれない」
商人「お前が大人になって、そういう人とお近づきになれたら、世界の珍獣との出会いも期待できるかもしれないぞ?」ナデ
次兄「…!?」
商人「しかし、どんな女性に対しても、身だしなみは紳士として最低限のマナーだからね」ナデナデ
次兄「……なるほど、(動物との)出会いのチャンスはいつどこに転がっているかわからないから常に備えよ、という教えか!」
次兄「いいことを聞きました、ありがとう父さん、俺の髪30本くらいなら吸い取っていいよ!!」
商人「……………………だから違うと言ってるだろうがあ」グッシャグッシャグッシャラギリギリギリ
次兄「いて、いてて、やめ、ほんとに抜けちゃうやめてええぇ!?」バタバタ
…………
571: ◆54DIlPdu2E:2015/06/19(金) 23:34:29.57:T/YKCfqa0 (11/11)
※ここまで。脱字等は脳内保管プリーズ…次回は日曜日?※
※ここまで。脱字等は脳内保管プリーズ…次回は日曜日?※
572:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/20(土) 03:34:49.00:I3OTv3gAO (1/1)
オトン乙
略して乙トン
オトン乙
略して乙トン
573: ◆54DIlPdu2E:2015/06/21(日) 19:07:52.68:KGMCjyt50 (1/16)
毎度おなじみ、街のちょっとした広場。
末妹「友1ちゃん、友2ちゃん、友3ちゃん……」
末妹「みんな久しぶり、会えてすごく嬉しい」
末妹「……でも、帰って来たのにこちらから連絡しなくてごめん、家も何かと忙しくて」
友1「私達も帰って来たとは聞いていたけど、商人さんの具合が悪いとも聞いていたの」
友1「だから気にしないで、仕方ないもの」
友2「でもよかった、元気そうで」
友3「お手紙もらった後に、何やら変な噂をあれこれ聞いて、皆で心配してたの」
末妹「ありがとう。噂は噂だもの、私はこのとおり何も変わりはないし、こんなに元気よ」
友2「そうよね。で…学校にはいつ来るの?」
友3「もう一カ月も来ていないものね、寂しいな」
末妹「……」
末妹「ごめんね。まだはっきり決まってはいないけれど、私またあちらにしばらく滞在するかもしれない……」
友3「また遠い親戚の人のお家に?」
友2「その人って、どれくらいの『遠い親戚』なの?」
毎度おなじみ、街のちょっとした広場。
末妹「友1ちゃん、友2ちゃん、友3ちゃん……」
末妹「みんな久しぶり、会えてすごく嬉しい」
末妹「……でも、帰って来たのにこちらから連絡しなくてごめん、家も何かと忙しくて」
友1「私達も帰って来たとは聞いていたけど、商人さんの具合が悪いとも聞いていたの」
友1「だから気にしないで、仕方ないもの」
友2「でもよかった、元気そうで」
友3「お手紙もらった後に、何やら変な噂をあれこれ聞いて、皆で心配してたの」
末妹「ありがとう。噂は噂だもの、私はこのとおり何も変わりはないし、こんなに元気よ」
友2「そうよね。で…学校にはいつ来るの?」
友3「もう一カ月も来ていないものね、寂しいな」
末妹「……」
末妹「ごめんね。まだはっきり決まってはいないけれど、私またあちらにしばらく滞在するかもしれない……」
友3「また遠い親戚の人のお家に?」
友2「その人って、どれくらいの『遠い親戚』なの?」
574: ◆54DIlPdu2E:2015/06/21(日) 19:10:30.78:KGMCjyt50 (2/16)
末妹「……」
末妹(ごめんね、皆に心配かけたくないばかりの嘘だったけど……)
末妹(そこまで考えておけばよかったのかしら?)
末妹「わ、私も実はよくわからないんだけど、そのお家のご主人様は」
末妹「お父さんのお祖父様のそのまた従兄のお孫さん」
末妹「……少し間違っているかもしれないけど、だいたいそんな感じだったと思うわ」
末妹(本当はその後に『…の、見ず知らずの赤の他人』と続くのよね…)
友1「じゃあ、商人さんと同じ年代になるのかしら」
末妹「……たぶん、少しは上だと思う、正確には私も知らないの…」
末妹(野獣様っておいくつなのかしら? 人間だとしたら、なんとなくお父さんより年上になりそうだけど)
友3「ふうん、ねえ、それならその人には子供さんとかいないの?」
友2「そうそう、例えば私達と同じくらいの歳の人は、そのお家にいなかったの?」
末妹「……同じくらいの」
末妹「お子さんはいないけど、使用人の、庭師さんとメイドさんが(人間だとしたら)あまり変わらないのかな?」
末妹「……」
末妹(ごめんね、皆に心配かけたくないばかりの嘘だったけど……)
末妹(そこまで考えておけばよかったのかしら?)
末妹「わ、私も実はよくわからないんだけど、そのお家のご主人様は」
末妹「お父さんのお祖父様のそのまた従兄のお孫さん」
末妹「……少し間違っているかもしれないけど、だいたいそんな感じだったと思うわ」
末妹(本当はその後に『…の、見ず知らずの赤の他人』と続くのよね…)
友1「じゃあ、商人さんと同じ年代になるのかしら」
末妹「……たぶん、少しは上だと思う、正確には私も知らないの…」
末妹(野獣様っておいくつなのかしら? 人間だとしたら、なんとなくお父さんより年上になりそうだけど)
友3「ふうん、ねえ、それならその人には子供さんとかいないの?」
友2「そうそう、例えば私達と同じくらいの歳の人は、そのお家にいなかったの?」
末妹「……同じくらいの」
末妹「お子さんはいないけど、使用人の、庭師さんとメイドさんが(人間だとしたら)あまり変わらないのかな?」
575: ◆54DIlPdu2E:2015/06/21(日) 19:12:55.90:KGMCjyt50 (3/16)
友2「へえ……ねえねえ、その庭師さんって男の子? どんな感じ? 顔は?」
末妹「え」
末妹「えーと……男の子、よ。顔は……目がくりっと大きくて、可愛い」
友2「可愛いの!? じゃあ背は高い? 脚は長い!?」ズイ
友3「お話しした? 優しかった!?」ズズイ
末妹(な、なんなの、身を乗り出して?)タジタジ
末妹「……背や脚は(猫としては)普通じゃないかな」
末妹「お話もしたわ。優しいし、毎日忙しく働いて立派だと思う」
友2「いいじゃないいいじゃない!」ワクワク
友3「他に、例えば二十代くらいまでのイケメンな男の人とか……いなかった!?」ワクワク
末妹「(人間だったら)二十代」
末妹「……いないわ。執事さんが四十代くらいで、料理長さんはもっと上」
友2「おじさんばっかりなのね……」ガッカリ
友3「……なーんだ」ガッカリ
末妹(…なんなのこの反応)
友2「へえ……ねえねえ、その庭師さんって男の子? どんな感じ? 顔は?」
末妹「え」
末妹「えーと……男の子、よ。顔は……目がくりっと大きくて、可愛い」
友2「可愛いの!? じゃあ背は高い? 脚は長い!?」ズイ
友3「お話しした? 優しかった!?」ズズイ
末妹(な、なんなの、身を乗り出して?)タジタジ
末妹「……背や脚は(猫としては)普通じゃないかな」
末妹「お話もしたわ。優しいし、毎日忙しく働いて立派だと思う」
友2「いいじゃないいいじゃない!」ワクワク
友3「他に、例えば二十代くらいまでのイケメンな男の人とか……いなかった!?」ワクワク
末妹「(人間だったら)二十代」
末妹「……いないわ。執事さんが四十代くらいで、料理長さんはもっと上」
友2「おじさんばっかりなのね……」ガッカリ
友3「……なーんだ」ガッカリ
末妹(…なんなのこの反応)
576: ◆54DIlPdu2E:2015/06/21(日) 19:15:57.96:KGMCjyt50 (4/16)
友1「二人とも、それぐらいにしたら? 末妹ちゃん呆れているでしょ」
友3「友2ちゃんは彼氏がいるからほどほどにすべきだけど、私は別にいいじゃない」
末妹「カレシ」
友2「やだ、親同士が決めた婚約者だって言ったでしょ!」カァ
友1「あ、末妹ちゃんはまだ知らなかったっけ」
友3「ほら、一昨年に私達の学校を卒業した某先輩さん。私達の三つ上の」
末妹「ああ、友2ちゃんのお隣さんで小さい頃からのお知り合いの?」
友3「友2ちゃん、あの人と先月婚約したんだって」
友2「もー、形式だけだってば。私も彼も全く今までどおり」
友2「勉強を教えてもらったり、お互いの小さい弟妹も交えてみんなで遊びに行ったり…昔も今もそんな感じ」
友3「恋人通り越してもう家族…夫婦みたいなものねー」ニヤニヤ
友2「からかわないでったら!」プンスカ
友3「へへ、真っ赤になってるー」
友1「だーかーら、いい加減にしなさいってば!」
友1「二人とも、それぐらいにしたら? 末妹ちゃん呆れているでしょ」
友3「友2ちゃんは彼氏がいるからほどほどにすべきだけど、私は別にいいじゃない」
末妹「カレシ」
友2「やだ、親同士が決めた婚約者だって言ったでしょ!」カァ
友1「あ、末妹ちゃんはまだ知らなかったっけ」
友3「ほら、一昨年に私達の学校を卒業した某先輩さん。私達の三つ上の」
末妹「ああ、友2ちゃんのお隣さんで小さい頃からのお知り合いの?」
友3「友2ちゃん、あの人と先月婚約したんだって」
友2「もー、形式だけだってば。私も彼も全く今までどおり」
友2「勉強を教えてもらったり、お互いの小さい弟妹も交えてみんなで遊びに行ったり…昔も今もそんな感じ」
友3「恋人通り越してもう家族…夫婦みたいなものねー」ニヤニヤ
友2「からかわないでったら!」プンスカ
友3「へへ、真っ赤になってるー」
友1「だーかーら、いい加減にしなさいってば!」
577: ◆54DIlPdu2E:2015/06/21(日) 19:18:45.67:KGMCjyt50 (5/16)
友1「だいたい、友2ちゃんが恋バナに持っていこうとしたからこうなったんでしょ?」
末妹「」
末妹「……やたら男の人について聞いてくるのは、そーゆー理由だったんだ……」
友2「なんだ、わかっていなかったのか」
友3「やっぱりお子様ねー」
友1「やめなさいってば……友3ちゃんはせめて毎朝自力で起きられるようになってからそのセリフ言いなさい」
末妹「いいの、友1ちゃん」
末妹「恋愛の話題を私に振られたのは初めてだけど」
末妹「みんなの雰囲気は今まで通り変わっていなくて、なんだか嬉しい…」
末妹「……あ、友2ちゃんはちょっと大人になったのかな?」
友2「なっ、末妹ちゃんまで、やーだー」
友1「自業自得でしょ、もう」
末妹「ふふ……」
…………
友1「だいたい、友2ちゃんが恋バナに持っていこうとしたからこうなったんでしょ?」
末妹「」
末妹「……やたら男の人について聞いてくるのは、そーゆー理由だったんだ……」
友2「なんだ、わかっていなかったのか」
友3「やっぱりお子様ねー」
友1「やめなさいってば……友3ちゃんはせめて毎朝自力で起きられるようになってからそのセリフ言いなさい」
末妹「いいの、友1ちゃん」
末妹「恋愛の話題を私に振られたのは初めてだけど」
末妹「みんなの雰囲気は今まで通り変わっていなくて、なんだか嬉しい…」
末妹「……あ、友2ちゃんはちょっと大人になったのかな?」
友2「なっ、末妹ちゃんまで、やーだー」
友1「自業自得でしょ、もう」
末妹「ふふ……」
…………
578: ◆54DIlPdu2E:2015/06/21(日) 19:25:32.43:KGMCjyt50 (6/16)
長兄の部屋。
ドア:ガチャ
商人「……少しはよくなったかい、長兄?」
長兄「……」モゾリ
長兄「…家政婦さんの持ってきてくれた蜂蜜入のハーブティが効いたようで、マシにはなりまひた…」ボヘー
商人「そうか、で、どこまで記憶があるかな……?」
長兄「……」
長兄「父さんがお母さんと知り会う前の彼女と既にどうにかなった経験があったのと」
長兄「お母さんとは結婚するまで清い仲だったと聞いて」
長兄「『なんとなくそれズルいいいいいい!!』と叫んでぶっ倒れた所までは…覚えています……」
商人「…酒に呑まれがちな割に酒席での記憶が飛ばないタイプか、それはそれで難儀な」
長兄の部屋。
ドア:ガチャ
商人「……少しはよくなったかい、長兄?」
長兄「……」モゾリ
長兄「…家政婦さんの持ってきてくれた蜂蜜入のハーブティが効いたようで、マシにはなりまひた…」ボヘー
商人「そうか、で、どこまで記憶があるかな……?」
長兄「……」
長兄「父さんがお母さんと知り会う前の彼女と既にどうにかなった経験があったのと」
長兄「お母さんとは結婚するまで清い仲だったと聞いて」
長兄「『なんとなくそれズルいいいいいい!!』と叫んでぶっ倒れた所までは…覚えています……」
商人「…酒に呑まれがちな割に酒席での記憶が飛ばないタイプか、それはそれで難儀な」
579: ◆54DIlPdu2E:2015/06/21(日) 19:28:40.84:KGMCjyt50 (7/16)
長兄「で、さっきまで眠っていた時の夢に、久しぶりにお母さんが出てきまして」
商人「妻が……」
長兄「記憶を元に俺の脳内で構築された都合のいい『お母さん』なのはわかってはいますが。曰く」
長兄「『お父さんは私と付き合い始めた頃、どのように交際を続けたいか、私をどのように想っているのか』」
長兄「『そして、もうお互い将来を意識する年頃だったから、二人の未来をどう考えているのか……』」
長兄「『きちんとお話してくれたの。だから、ほとんど手紙でしかやり取りできないお付き合いでも、安心していられたのよ』」
長兄「……と、このように」
商人「うむ……お前の脳内産物にしては実際のお母さんにかなり近いね」
長兄「俺に足りなかったのは触れ合いや言葉以前に、もっと根本的な」
長兄「相手への誠実さだと、つくづく痛感しましたよ」
長兄「自分は今まで、どちらかと言えば誠実な人間だと」
長兄「いや、少なくともそうあろうとしている人間だと、自負していたのにこれか、と……」
長兄「で、さっきまで眠っていた時の夢に、久しぶりにお母さんが出てきまして」
商人「妻が……」
長兄「記憶を元に俺の脳内で構築された都合のいい『お母さん』なのはわかってはいますが。曰く」
長兄「『お父さんは私と付き合い始めた頃、どのように交際を続けたいか、私をどのように想っているのか』」
長兄「『そして、もうお互い将来を意識する年頃だったから、二人の未来をどう考えているのか……』」
長兄「『きちんとお話してくれたの。だから、ほとんど手紙でしかやり取りできないお付き合いでも、安心していられたのよ』」
長兄「……と、このように」
商人「うむ……お前の脳内産物にしては実際のお母さんにかなり近いね」
長兄「俺に足りなかったのは触れ合いや言葉以前に、もっと根本的な」
長兄「相手への誠実さだと、つくづく痛感しましたよ」
長兄「自分は今まで、どちらかと言えば誠実な人間だと」
長兄「いや、少なくともそうあろうとしている人間だと、自負していたのにこれか、と……」
580: ◆54DIlPdu2E:2015/06/21(日) 19:30:33.54:KGMCjyt50 (8/16)
商人「恋愛に対してだけ重度の朴念仁なだけだと思うよ?」
長兄「しかし、落ち込むのはもうやめにします」
長兄「幸い、15の時の彼女も、去年別れた彼女も、今は幸せだと聞いているので」
長兄「俺も、もう過去は振り切って前向きに生きて行こう、そして」
長兄「恋愛対象に限らず、今まで以上に他者に誠実であろう、と思います」
商人「相変わらずお固いが、立ち直ってくれて何よりだ」
商人「お前も今からでも、時には私に甘えていい…と言うか、私に色々曝け出してくれて構わんぞ?」
商人「振り返ってみると、妻が亡くなってから、お前だけは殆ど年相応の子供扱いをしてやらなかったものな……」
長兄「……その言葉だけで充分ですよ」
長兄「それで、前向きの第一歩として、まずは長姉の問題を……」
商人「………………そうだったな」フゥ
…………
商人「恋愛に対してだけ重度の朴念仁なだけだと思うよ?」
長兄「しかし、落ち込むのはもうやめにします」
長兄「幸い、15の時の彼女も、去年別れた彼女も、今は幸せだと聞いているので」
長兄「俺も、もう過去は振り切って前向きに生きて行こう、そして」
長兄「恋愛対象に限らず、今まで以上に他者に誠実であろう、と思います」
商人「相変わらずお固いが、立ち直ってくれて何よりだ」
商人「お前も今からでも、時には私に甘えていい…と言うか、私に色々曝け出してくれて構わんぞ?」
商人「振り返ってみると、妻が亡くなってから、お前だけは殆ど年相応の子供扱いをしてやらなかったものな……」
長兄「……その言葉だけで充分ですよ」
長兄「それで、前向きの第一歩として、まずは長姉の問題を……」
商人「………………そうだったな」フゥ
…………
581: ◆54DIlPdu2E:2015/06/21(日) 20:17:21.92:KGMCjyt50 (9/16)
友1「もしも今度、そのお家に行ったら、どれくらいで戻るの?」
末妹「……まだ決まっていないし、お父さんともっとお話しなきゃならないけど」
末妹「きっと、そんなに長くはならないわ」
末妹「前は、戻る予定がはっきりしないまま出掛けたけど……」
末妹「今度は『何日後に戻って来る』とみんなに約束してから行けると思うの」
友3「そうなんだ……また寂しくなるけど、約束があれば安心して待てるわ」
友2「絶対、絶対戻って来てね!?」
友1「まだ決まってないって言ってたでしょ、気が早いなあ」
友1「……」
友1「北の地方だって言ってたね? これから寒くなるから、体に気を付けて……」
末妹「うん……みんな、ありがとう」
友2「友1ちゃんも気が早いじゃない!」
友1「だって、この前はいきなり私達の前からいなくなっちゃったから」
友1「なんだか…不安になってきて……」
末妹「本当にごめんねみんな、でも……大丈夫」
末妹「私、約束を守るから」
友1「…なんだか、末妹ちゃんが私達の中で一番大人っぽく見えるよ」
友2「そうね、どことなく、なんて言うか…強くなった? みたい」
友3「あの末妹ちゃんが、しばらく会わないうちに成長したのね…」シミジミ
友1「だから友3ちゃん、そのセリフはおかしいって」
友1「もしも今度、そのお家に行ったら、どれくらいで戻るの?」
末妹「……まだ決まっていないし、お父さんともっとお話しなきゃならないけど」
末妹「きっと、そんなに長くはならないわ」
末妹「前は、戻る予定がはっきりしないまま出掛けたけど……」
末妹「今度は『何日後に戻って来る』とみんなに約束してから行けると思うの」
友3「そうなんだ……また寂しくなるけど、約束があれば安心して待てるわ」
友2「絶対、絶対戻って来てね!?」
友1「まだ決まってないって言ってたでしょ、気が早いなあ」
友1「……」
友1「北の地方だって言ってたね? これから寒くなるから、体に気を付けて……」
末妹「うん……みんな、ありがとう」
友2「友1ちゃんも気が早いじゃない!」
友1「だって、この前はいきなり私達の前からいなくなっちゃったから」
友1「なんだか…不安になってきて……」
末妹「本当にごめんねみんな、でも……大丈夫」
末妹「私、約束を守るから」
友1「…なんだか、末妹ちゃんが私達の中で一番大人っぽく見えるよ」
友2「そうね、どことなく、なんて言うか…強くなった? みたい」
友3「あの末妹ちゃんが、しばらく会わないうちに成長したのね…」シミジミ
友1「だから友3ちゃん、そのセリフはおかしいって」
582: ◆54DIlPdu2E:2015/06/21(日) 20:20:26.65:KGMCjyt50 (10/16)
末妹「そんなことない、私なんかまだまだ一人じゃ何にもできない子供だもの」
末妹「だけどね、大切に思える人が周りにいるって、私を大切に思ってくれる人が周りにいるって」
末妹「色んなひとに支えられているって」
末妹「前よりも、もっと信じられるように、強く思えるようになったんだ」
末妹「……もし私が成長したように見えるのなら、きっとそういう事かもしれない」
末妹「もちろん、みんなも私の大切な人達に入るからね」
友1「……末妹ちゃん!」ギュー
末妹「わ」
友3「あ、ずるい! 私も!」ギュッ
友2「私もー!」ムキュー
友1「ほんとに、ほんとに、早く、この町に戻って来てね」
末妹「……うん」コク
友2「また学校に来てね、一緒に遊ぼうね」
友3「……また勉強教えてね?」
末妹「ありがとう、みんな……大好き……」キュッ
…………
末妹「そんなことない、私なんかまだまだ一人じゃ何にもできない子供だもの」
末妹「だけどね、大切に思える人が周りにいるって、私を大切に思ってくれる人が周りにいるって」
末妹「色んなひとに支えられているって」
末妹「前よりも、もっと信じられるように、強く思えるようになったんだ」
末妹「……もし私が成長したように見えるのなら、きっとそういう事かもしれない」
末妹「もちろん、みんなも私の大切な人達に入るからね」
友1「……末妹ちゃん!」ギュー
末妹「わ」
友3「あ、ずるい! 私も!」ギュッ
友2「私もー!」ムキュー
友1「ほんとに、ほんとに、早く、この町に戻って来てね」
末妹「……うん」コク
友2「また学校に来てね、一緒に遊ぼうね」
友3「……また勉強教えてね?」
末妹「ありがとう、みんな……大好き……」キュッ
…………
583: ◆54DIlPdu2E:2015/06/21(日) 21:14:07.08:KGMCjyt50 (11/16)
商人「……結局、昨夜は長姉対策までほとんど話ができなかったし」
商人「今も長兄を長姉に見立ててシミュレーションしてみたが、うまく行かないものだなあ……」ハァ
長兄「そりゃ無理があるでしょう、色んな意味で」
長兄「……そうだ。この、メロン大の半球型クッション」
商人「?」
長兄「これをこう、二つ並べて壁にぶら下げたら、長姉のモデルとしてかなりのリアリティが出せるのでは……?」
商人「長兄、長兄!! まだ昨夜の酒が残っているな、酔ってるな!?」ペシペシベシベシベチベチ!!
長兄「あうあう」イタイヨ
数分後…
長兄「……すみません、今度こそしっかり目が覚めました」ヒリヒリ
商人「本当にしっかりしておくれ……」
商人「……結局のところ私達も、一切構えたりせず、長姉に心の内を曝け出す事が必要なのではないだろうか?」
商人「……結局、昨夜は長姉対策までほとんど話ができなかったし」
商人「今も長兄を長姉に見立ててシミュレーションしてみたが、うまく行かないものだなあ……」ハァ
長兄「そりゃ無理があるでしょう、色んな意味で」
長兄「……そうだ。この、メロン大の半球型クッション」
商人「?」
長兄「これをこう、二つ並べて壁にぶら下げたら、長姉のモデルとしてかなりのリアリティが出せるのでは……?」
商人「長兄、長兄!! まだ昨夜の酒が残っているな、酔ってるな!?」ペシペシベシベシベチベチ!!
長兄「あうあう」イタイヨ
数分後…
長兄「……すみません、今度こそしっかり目が覚めました」ヒリヒリ
商人「本当にしっかりしておくれ……」
商人「……結局のところ私達も、一切構えたりせず、長姉に心の内を曝け出す事が必要なのではないだろうか?」
584: ◆54DIlPdu2E:2015/06/21(日) 21:14:49.49:KGMCjyt50 (12/16)
商人「我々側に父親だ、兄だという意識があるうちは、今のあの子は心を開かないと思うんだ」
長兄「曝け出す」
長兄「では、長姉の前で酒を飲んでグダグダな自分を」
商人「違うから」
商人「自分の考えを…長姉に望むことを、きちんとした言葉と態度で包み隠さず伝える、これしかないだろう」
長兄「……それにはまず、長姉が話を聞いてくれるように舞台を整えないと」
商人「それだが、ここで次姉の力を借りてはどうだろうか」
長兄「次姉……」
長兄「長姉は、次姉が店を手伝っていること面白く思っていないのですよ?」
次姉と長姉の和解は、長姉の希望により他の家族には秘密です。
商人「……ううむ…」
商人「強引な方法を使っては、ますます心を閉ざしてしまうだろうし……」
長兄「なんですか、女心はわかっている筈じゃなかったんですか、父さん」
商人「我々側に父親だ、兄だという意識があるうちは、今のあの子は心を開かないと思うんだ」
長兄「曝け出す」
長兄「では、長姉の前で酒を飲んでグダグダな自分を」
商人「違うから」
商人「自分の考えを…長姉に望むことを、きちんとした言葉と態度で包み隠さず伝える、これしかないだろう」
長兄「……それにはまず、長姉が話を聞いてくれるように舞台を整えないと」
商人「それだが、ここで次姉の力を借りてはどうだろうか」
長兄「次姉……」
長兄「長姉は、次姉が店を手伝っていること面白く思っていないのですよ?」
次姉と長姉の和解は、長姉の希望により他の家族には秘密です。
商人「……ううむ…」
商人「強引な方法を使っては、ますます心を閉ざしてしまうだろうし……」
長兄「なんですか、女心はわかっている筈じゃなかったんですか、父さん」
585: ◆54DIlPdu2E:2015/06/21(日) 22:18:26.96:KGMCjyt50 (13/16)
商人「しかしね、次姉も長姉については色々考えていると思うんだ」
商人「とにかく、次姉に相談するだけでもいい手が見つかるかもしれない」
長兄「結局、今の我が家で最も頼りになるのは次姉ですね……」
……
次兄の部屋。
次兄「髪をきつめに引っ張られたけど、あれでも手加減してくれたおかげで無事、これがうちの父さんの優しさである」
次兄「毛根の痛みは一時的なものです」
次兄「さて、末妹は友達と、街の広場へ」
次兄「もしや父さんも『またしばらくの間、友人達とお別れ』を想定していたが故、末妹を送り出した?」
次兄「……いやいや、それはあまりにも我々に都合の良い解釈と言えましょう」フルフル
次兄「『友達』かあ」
次兄「俺にはひとりもおりません」
次兄「長姉と次姉が女学校に旅立った後だな、俺は6歳」
次兄「家庭教師が付いているとはいえ、やはり父さんは俺を」
次兄「せめて体調の良い時だけでも、町の学校に通わせたかったらしく」
商人「しかしね、次姉も長姉については色々考えていると思うんだ」
商人「とにかく、次姉に相談するだけでもいい手が見つかるかもしれない」
長兄「結局、今の我が家で最も頼りになるのは次姉ですね……」
……
次兄の部屋。
次兄「髪をきつめに引っ張られたけど、あれでも手加減してくれたおかげで無事、これがうちの父さんの優しさである」
次兄「毛根の痛みは一時的なものです」
次兄「さて、末妹は友達と、街の広場へ」
次兄「もしや父さんも『またしばらくの間、友人達とお別れ』を想定していたが故、末妹を送り出した?」
次兄「……いやいや、それはあまりにも我々に都合の良い解釈と言えましょう」フルフル
次兄「『友達』かあ」
次兄「俺にはひとりもおりません」
次兄「長姉と次姉が女学校に旅立った後だな、俺は6歳」
次兄「家庭教師が付いているとはいえ、やはり父さんは俺を」
次兄「せめて体調の良い時だけでも、町の学校に通わせたかったらしく」
586: ◆54DIlPdu2E:2015/06/21(日) 22:22:20.77:KGMCjyt50 (14/16)
次兄「かと言って、少し前まで姉達が通っていた、妹もいずれ入るであろう同じ初等学校は恥ずかしい、と俺は拒んで」
次兄「結果、家から離れた…市内では我が家から一番遠くにある初等学校に編入手続きをしてくれた」
次兄「そして初登校日。送ってくれた父さんの馬車が見えなくなると同時に、校地内の噴水に叩き込まれましたよ」
次兄「主犯は四つ上の上級生と聞く」
次兄「『お前は気持ち悪い顔をしているからこうなるんだ』」
次兄「もう相手の顔も忘れたのに、水に落ちる寸前、奴が放った一言は忘れられません」
次兄「……今思うと」
次兄「俺はそこの学校の近所に当然暮らしたこともなければ、立ち入ったこともない」
次兄「しょせんは子供、自分の周辺が世界の全て、見慣れない相手はそれだけの理由で『変』『怖い』『気持ち悪い』…」
次兄「…とレッテルを貼り付けることで排除という名の整頓をして、とりあえずの安心感を得る」
次兄「そこへ奴の取り巻き連中が煽るものだから、集団心理がエスカレートしてああなったと推理」
次兄「……笑顔が爽やかではないとは今でもたまに言われるので、本当に俺の顔は気持ち悪いのかもしれませんが」
次兄「まあとにかく、俺の次の記憶はこの部屋のベッド、そして二度と、父さんはどこの学校に行けとも言わなくなった」
次兄「……そのままなんとなく現在に至る」
次兄「かと言って、少し前まで姉達が通っていた、妹もいずれ入るであろう同じ初等学校は恥ずかしい、と俺は拒んで」
次兄「結果、家から離れた…市内では我が家から一番遠くにある初等学校に編入手続きをしてくれた」
次兄「そして初登校日。送ってくれた父さんの馬車が見えなくなると同時に、校地内の噴水に叩き込まれましたよ」
次兄「主犯は四つ上の上級生と聞く」
次兄「『お前は気持ち悪い顔をしているからこうなるんだ』」
次兄「もう相手の顔も忘れたのに、水に落ちる寸前、奴が放った一言は忘れられません」
次兄「……今思うと」
次兄「俺はそこの学校の近所に当然暮らしたこともなければ、立ち入ったこともない」
次兄「しょせんは子供、自分の周辺が世界の全て、見慣れない相手はそれだけの理由で『変』『怖い』『気持ち悪い』…」
次兄「…とレッテルを貼り付けることで排除という名の整頓をして、とりあえずの安心感を得る」
次兄「そこへ奴の取り巻き連中が煽るものだから、集団心理がエスカレートしてああなったと推理」
次兄「……笑顔が爽やかではないとは今でもたまに言われるので、本当に俺の顔は気持ち悪いのかもしれませんが」
次兄「まあとにかく、俺の次の記憶はこの部屋のベッド、そして二度と、父さんはどこの学校に行けとも言わなくなった」
次兄「……そのままなんとなく現在に至る」
587: ◆54DIlPdu2E:2015/06/21(日) 22:24:41.06:KGMCjyt50 (15/16)
次兄「十年間、別に友達が欲しいとも、自分にいないことの自覚も、ほとんど意識した事さえなかった」
次兄「妹が家の近くの学校に入って、友達ができたと聞いた時は安心したし嬉しかったけど」
次兄「俺は別にこのままでいいのです、何よりも」
次兄「人間の同年代の友人よりも、もっともっと、親密になりたいと切に欲する存在に出会ったから!!」キラキラ
次兄「再開の暁にはまず…俺への態度が軟化してきた野獣様から攻略」
次兄「上手に事が運べば」
次兄「今はツンしかない執事さんも、あの野獣様への忠実さを考えたら、デレるのも時間の問題!!!!」ババーン
次兄「……おっと」
次兄「また独り言の音量がどんどんクレッシェンドして最終的にフォルティシモになっていた……」
次兄「誰かに聞かれていなかったろうな? 店の休憩時間だし、誰かが家の外にいる可能性も」カチャ
次兄「……おや」
次兄「長姉ねえさんが窓から出てくる所だが、窓の内側…長姉ねえさんの部屋に、誰かがいる?」
次兄「窓から手を振って長姉ねえさんを送り出して、長姉ねえさんも笑顔で応えて去って行った……」
次兄「あの服の袖……次姉ねえさんだ」
…………
次兄「十年間、別に友達が欲しいとも、自分にいないことの自覚も、ほとんど意識した事さえなかった」
次兄「妹が家の近くの学校に入って、友達ができたと聞いた時は安心したし嬉しかったけど」
次兄「俺は別にこのままでいいのです、何よりも」
次兄「人間の同年代の友人よりも、もっともっと、親密になりたいと切に欲する存在に出会ったから!!」キラキラ
次兄「再開の暁にはまず…俺への態度が軟化してきた野獣様から攻略」
次兄「上手に事が運べば」
次兄「今はツンしかない執事さんも、あの野獣様への忠実さを考えたら、デレるのも時間の問題!!!!」ババーン
次兄「……おっと」
次兄「また独り言の音量がどんどんクレッシェンドして最終的にフォルティシモになっていた……」
次兄「誰かに聞かれていなかったろうな? 店の休憩時間だし、誰かが家の外にいる可能性も」カチャ
次兄「……おや」
次兄「長姉ねえさんが窓から出てくる所だが、窓の内側…長姉ねえさんの部屋に、誰かがいる?」
次兄「窓から手を振って長姉ねえさんを送り出して、長姉ねえさんも笑顔で応えて去って行った……」
次兄「あの服の袖……次姉ねえさんだ」
…………
588: ◆54DIlPdu2E:2015/06/21(日) 22:26:25.94:KGMCjyt50 (16/16)
※もう少し進めたかったけど眠いのでここまで※
※もう少し進めたかったけど眠いのでここまで※
589:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/22(月) 04:20:53.67:nqWaodDAO (1/1)
次兄は変態だけど気持ち悪くなんかないよ!
あっ、ちょっと待ってやっぱり少しだけ気持ち悪いかも…
でも良いやつだよ!ホントだよ!
次兄は変態だけど気持ち悪くなんかないよ!
あっ、ちょっと待ってやっぱり少しだけ気持ち悪いかも…
でも良いやつだよ!ホントだよ!
590: ◆54DIlPdu2E:2015/06/22(月) 22:54:57.82:jSFdJ8Ua0 (1/6)
昼下がり、商人の店。
長兄「次姉、午前中はお疲れ様」
次姉「あら兄さん、気分は良くなったの?」
長兄「ああ、もう大丈夫。で、このあとの店番は俺が替わろう、いや、替わってくれないか?」
次姉「でも」
商人「次姉、すまんな。私がお前と話しをしたいのでね」
次姉「お父さん?」
……
商人の部屋。
商人「そこの椅子にお掛け」
次姉「……」トン
商人「突然呼び出して悪かった、しかし、どうしても次姉の力が必要だと思ってね」
次姉「私の力を……」
次姉「……予想はつくわ。姉さんのことね」
商人「さすが、お前は察しがいいな」フゥ
商人「だかそれなら話は早い、実は長姉と話し合う場を持ちたいのだが……」
…
昼下がり、商人の店。
長兄「次姉、午前中はお疲れ様」
次姉「あら兄さん、気分は良くなったの?」
長兄「ああ、もう大丈夫。で、このあとの店番は俺が替わろう、いや、替わってくれないか?」
次姉「でも」
商人「次姉、すまんな。私がお前と話しをしたいのでね」
次姉「お父さん?」
……
商人の部屋。
商人「そこの椅子にお掛け」
次姉「……」トン
商人「突然呼び出して悪かった、しかし、どうしても次姉の力が必要だと思ってね」
次姉「私の力を……」
次姉「……予想はつくわ。姉さんのことね」
商人「さすが、お前は察しがいいな」フゥ
商人「だかそれなら話は早い、実は長姉と話し合う場を持ちたいのだが……」
…
591: ◆54DIlPdu2E:2015/06/22(月) 22:57:36.89:jSFdJ8Ua0 (2/6)
しばらくのち。
次姉「要するに、お父さんは長年姉さんに寂しい思いをさせてきた事を」
次姉「兄さんは、姉さんのほうから折れて来るのが当然と思っていた傲慢さを」
次姉「謝らなくては姉さんが心を開いてはくれない、とそう思った…と言うか、思い直したわけね」
商人「ああ、そうだよ」
次姉「……」
次姉「今はまだ詳しくは言えないけれど、姉さんは姉さんで、頑張っている所なの」
次姉「もう少しだけでいいの、もう少し、このままそっとしてあげてくれない?」
商人「しかし、もう何日もあの子の姿をまともに見ていないし、声も聞いていないし、1日でも早く……」
次姉「お父さん」
次姉「末妹と次兄が旅立つ前に、安心させてあげたいんでしょ?」
商人「っ」
商人「あの子達から、聞いたのか……」
次姉「…ううん。私が知ったのは偶然。あの子達は、私が知っている事を知らないはずよ」
次姉(そう、昨日……)
…
しばらくのち。
次姉「要するに、お父さんは長年姉さんに寂しい思いをさせてきた事を」
次姉「兄さんは、姉さんのほうから折れて来るのが当然と思っていた傲慢さを」
次姉「謝らなくては姉さんが心を開いてはくれない、とそう思った…と言うか、思い直したわけね」
商人「ああ、そうだよ」
次姉「……」
次姉「今はまだ詳しくは言えないけれど、姉さんは姉さんで、頑張っている所なの」
次姉「もう少しだけでいいの、もう少し、このままそっとしてあげてくれない?」
商人「しかし、もう何日もあの子の姿をまともに見ていないし、声も聞いていないし、1日でも早く……」
次姉「お父さん」
次姉「末妹と次兄が旅立つ前に、安心させてあげたいんでしょ?」
商人「っ」
商人「あの子達から、聞いたのか……」
次姉「…ううん。私が知ったのは偶然。あの子達は、私が知っている事を知らないはずよ」
次姉(そう、昨日……)
…
592: ◆54DIlPdu2E:2015/06/22(月) 23:00:23.08:jSFdJ8Ua0 (3/6)
時は昨日、所は商人の店。
次姉「兄さん、ほんとにおかしいわ。ケガだけはしないでね?」
長兄「……うん」ウワノソラー
長兄「…いてっ!?」
次姉「兄さん!?」タタッ
次姉「……薪のささくれた棘が手に刺さったのね。いつもの兄さんなら気を付けて手に持つのに」
次姉「大きな棘、けっこう深いわ、血が出てる。手当しないと」
長兄「いいよ、こんなのケガのうちに入らない」
次姉「商品や帳簿に血が付いちゃうでしょ! 今日の兄さんならやりかねないわ!」
次姉「奥から包帯取ってくる。兄さんは傷口を軽く洗って来て」
次姉「そこの水差しの水を……流しかけるのよ、水差しに手を突っ込まない! 店の外に出てから!!」
次姉「……全く、常識までぶっ飛んでしまったのかしら?」
次姉「包帯は居間の戸棚に……」ツカツカ
次姉「……末妹の部屋」ピタ
時は昨日、所は商人の店。
次姉「兄さん、ほんとにおかしいわ。ケガだけはしないでね?」
長兄「……うん」ウワノソラー
長兄「…いてっ!?」
次姉「兄さん!?」タタッ
次姉「……薪のささくれた棘が手に刺さったのね。いつもの兄さんなら気を付けて手に持つのに」
次姉「大きな棘、けっこう深いわ、血が出てる。手当しないと」
長兄「いいよ、こんなのケガのうちに入らない」
次姉「商品や帳簿に血が付いちゃうでしょ! 今日の兄さんならやりかねないわ!」
次姉「奥から包帯取ってくる。兄さんは傷口を軽く洗って来て」
次姉「そこの水差しの水を……流しかけるのよ、水差しに手を突っ込まない! 店の外に出てから!!」
次姉「……全く、常識までぶっ飛んでしまったのかしら?」
次姉「包帯は居間の戸棚に……」ツカツカ
次姉「……末妹の部屋」ピタ
593: ◆54DIlPdu2E:2015/06/22(月) 23:04:10.15:jSFdJ8Ua0 (4/6)
次姉「あの子もすっかり快復したし、今夜あたりから……例の、二人きりの特訓を……」
(脳内次姉「それじゃ、まず朝一番に私と出会った場合を想定して、はいっ!」)
(脳内末妹「お…おはよう、お姉…ちゃん」)
(脳内次姉「『おはよう』まで、つっかえなくていいのに」)
(脳内末妹「だって…『おはよう』と『お姉ちゃん』どっち先にしようか、一瞬迷っちゃったの……」)
(脳内次姉「今の方が『お姉ちゃん』てすんなり言えたじゃない、もーこの子ったら!」
次姉「……」ボー
次姉「ハッ」
次姉「いけないいけない、妄想している場合じゃない、毛皮臭を嗅いでウットリしている次兄でもあるまいし」ブンブン
次姉「……次兄」
次姉「部屋の中から次兄の声がする、しかも……次姉ねえさんとか言ってるわ?」
次姉「二人で何の話を……」キキミミ
次兄の声「……もう一回、今度は兄さんも次姉ねえさんもいない場合」
次兄の声「二人に見立てたぬいぐるみと人形はこっちに寄せて、っと」
次兄の声「父さん一人のパターンで話を切り出してみよう、俺を父さんと思って、はいっ!」
末妹の声「お父さん、お話があります」
次姉「あの子もすっかり快復したし、今夜あたりから……例の、二人きりの特訓を……」
(脳内次姉「それじゃ、まず朝一番に私と出会った場合を想定して、はいっ!」)
(脳内末妹「お…おはよう、お姉…ちゃん」)
(脳内次姉「『おはよう』まで、つっかえなくていいのに」)
(脳内末妹「だって…『おはよう』と『お姉ちゃん』どっち先にしようか、一瞬迷っちゃったの……」)
(脳内次姉「今の方が『お姉ちゃん』てすんなり言えたじゃない、もーこの子ったら!」
次姉「……」ボー
次姉「ハッ」
次姉「いけないいけない、妄想している場合じゃない、毛皮臭を嗅いでウットリしている次兄でもあるまいし」ブンブン
次姉「……次兄」
次姉「部屋の中から次兄の声がする、しかも……次姉ねえさんとか言ってるわ?」
次姉「二人で何の話を……」キキミミ
次兄の声「……もう一回、今度は兄さんも次姉ねえさんもいない場合」
次兄の声「二人に見立てたぬいぐるみと人形はこっちに寄せて、っと」
次兄の声「父さん一人のパターンで話を切り出してみよう、俺を父さんと思って、はいっ!」
末妹の声「お父さん、お話があります」
594: ◆54DIlPdu2E:2015/06/22(月) 23:07:21.20:jSFdJ8Ua0 (5/6)
次姉(……何の練習をしているの?)ピタ
次姉(…………)
次姉(またあの怪物の屋敷に行きたい、って!?)
…
次姉「あらかじめ家に帰る日にちをお父さんと決めて、怪物…野獣にもそれを約束させる」
次姉「野獣が信用に値する存在かどうか、私にはまるでわからないけれど」
次姉「あの子達が野獣を信用しているのには、それだけの理由がちゃんとあるはず」
次姉「……お父さんもそう思って、二人を送り出すことにしたんでしょ?」
商人「……まだ返事はしていないが、ね」
次姉「お父さんの気持ちはわかるけれど……でもね」
次姉「今の姉さんには『末妹のため』このタイミングで仲直りしたがっているとしか取られない」
次姉「そしてそれは一番、思わせちゃいけないことよ」
商人「……」
次姉「姉さんなら大丈夫」
次姉「末妹には私から話すわ、また家に帰ってくる時には、今度は姉さんも二人を出迎えてくれる、って」
商人「……わかった」
商人「次姉を信じて、ここは任せるよ。長姉のことを一番理解できるのは、結局はお前だからな」
次姉(……何の練習をしているの?)ピタ
次姉(…………)
次姉(またあの怪物の屋敷に行きたい、って!?)
…
次姉「あらかじめ家に帰る日にちをお父さんと決めて、怪物…野獣にもそれを約束させる」
次姉「野獣が信用に値する存在かどうか、私にはまるでわからないけれど」
次姉「あの子達が野獣を信用しているのには、それだけの理由がちゃんとあるはず」
次姉「……お父さんもそう思って、二人を送り出すことにしたんでしょ?」
商人「……まだ返事はしていないが、ね」
次姉「お父さんの気持ちはわかるけれど……でもね」
次姉「今の姉さんには『末妹のため』このタイミングで仲直りしたがっているとしか取られない」
次姉「そしてそれは一番、思わせちゃいけないことよ」
商人「……」
次姉「姉さんなら大丈夫」
次姉「末妹には私から話すわ、また家に帰ってくる時には、今度は姉さんも二人を出迎えてくれる、って」
商人「……わかった」
商人「次姉を信じて、ここは任せるよ。長姉のことを一番理解できるのは、結局はお前だからな」
595: ◆54DIlPdu2E:2015/06/22(月) 23:08:12.87:jSFdJ8Ua0 (6/6)
※ここまで。次回は近日中、久し振りに別サイドの話も書きます。たぶん。あとこの話に登場する建物の間取りは全て謎※
>>589 次兄に代わってありがとよ
※ここまで。次回は近日中、久し振りに別サイドの話も書きます。たぶん。あとこの話に登場する建物の間取りは全て謎※
>>589 次兄に代わってありがとよ
596:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/23(火) 03:42:55.32:l3PGr8oAO (1/1)
乙
次姉と次兄は他人の感情の機微に敏感だと密かに思っていたけど、他にも似てるとこあるのな
乙
次姉と次兄は他人の感情の機微に敏感だと密かに思っていたけど、他にも似てるとこあるのな
597: ◆54DIlPdu2E:2015/06/24(水) 22:38:56.72:fRc7bJZo0 (1/13)
商人の家。
末妹「……ただいま。遅くなってごめんなさい」
商人「いいんだよ、末妹。それより、お腹は空いていないか?」
末妹「友2ちゃんがみんなの分のアップルパイを焼いてきて……4人で広場で食べたの」
商人「そうか、それはよかったね」
商人「しかし、家政婦さんがお前の分の昼御飯を取っておいてくれた筈だが、どうしたものか……」
末妹「あ…」
末妹「家政婦さんに謝って来ます」トトト
台所。
家政婦「心配いりませんよ、末妹様」
家政婦「買い置きの食材ですぐ用意するつもりでしたから、無駄にはなりません、ご安心を」
末妹「よかった…」ホッ
家政婦「末妹様も、これからはご家族以外とのお付き合いが増えてくる年頃です」
家政婦「若いかたがお友達と出掛けられたら、外食される可能性も考えて臨機応変に対応しなければ」
末妹「……若いかた」
商人の家。
末妹「……ただいま。遅くなってごめんなさい」
商人「いいんだよ、末妹。それより、お腹は空いていないか?」
末妹「友2ちゃんがみんなの分のアップルパイを焼いてきて……4人で広場で食べたの」
商人「そうか、それはよかったね」
商人「しかし、家政婦さんがお前の分の昼御飯を取っておいてくれた筈だが、どうしたものか……」
末妹「あ…」
末妹「家政婦さんに謝って来ます」トトト
台所。
家政婦「心配いりませんよ、末妹様」
家政婦「買い置きの食材ですぐ用意するつもりでしたから、無駄にはなりません、ご安心を」
末妹「よかった…」ホッ
家政婦「末妹様も、これからはご家族以外とのお付き合いが増えてくる年頃です」
家政婦「若いかたがお友達と出掛けられたら、外食される可能性も考えて臨機応変に対応しなければ」
末妹「……若いかた」
598: ◆54DIlPdu2E:2015/06/24(水) 22:41:31.94:fRc7bJZo0 (2/13)
家政婦「ええ、もう貴女もお姉様達と同じ、立派な淑女ですからね」
末妹「淑女」
末妹「……ピンと来ません……」
家政婦「今はそれで良いのです。周りからそのように扱われることによって、徐々に自覚も作られて来るのです」
家政婦「ここ一カ月ほど、お家から離れておられた時期を挟んで、末妹様はずいぶん大人になられました」
家政婦「少なくとも私はそう感じます。なので、私は貴女を一人前の淑女と思って接することにしました」
末妹「一人前」
家政婦「だからと言って、背伸びをすべきとは思いませんよ。自然な末妹様をご家族の皆様は愛しておられますから」
末妹「家政婦さん…」
家政婦「……あら、私としたことが、お喋りが過ぎましたわ」
家政婦「お願いですから、旦那様達には内緒にしてくださいね?」シー
末妹「くす……ええ、淑女同士の約束ですね?」シー
…………
家政婦「ええ、もう貴女もお姉様達と同じ、立派な淑女ですからね」
末妹「淑女」
末妹「……ピンと来ません……」
家政婦「今はそれで良いのです。周りからそのように扱われることによって、徐々に自覚も作られて来るのです」
家政婦「ここ一カ月ほど、お家から離れておられた時期を挟んで、末妹様はずいぶん大人になられました」
家政婦「少なくとも私はそう感じます。なので、私は貴女を一人前の淑女と思って接することにしました」
末妹「一人前」
家政婦「だからと言って、背伸びをすべきとは思いませんよ。自然な末妹様をご家族の皆様は愛しておられますから」
末妹「家政婦さん…」
家政婦「……あら、私としたことが、お喋りが過ぎましたわ」
家政婦「お願いですから、旦那様達には内緒にしてくださいね?」シー
末妹「くす……ええ、淑女同士の約束ですね?」シー
…………
599: ◆54DIlPdu2E:2015/06/24(水) 22:44:34.31:fRc7bJZo0 (3/13)
商人の店。
次兄「兄さん、頭痛薬持って来たよ」
長兄「…おう……」グンニョリー
次兄「午前中は寝込んでいたんだろ、無理することないのに」
長兄「……ああ、次姉と父さんの話が終わったら、どちらかにやっぱり店番を替わってもらおう……」
次兄(『次兄に任せるよ』とは言わないんだ)
次兄(尤も、本当にそう言われたら速攻でお断りする所存でしたがね)ソウイウヤツデス
次姉「兄さん、話しは終わったわ。もう休んで」
長兄「次姉」
次兄「姉さん」
次姉「次兄に頼まれて頭痛薬を渡したと家政婦さんから聞いたから…やっぱり兄さんだったのね」
長兄「うん、さっきはああ言ったが、今日は休ませてもらうよ……すまん」ガタ
長兄「で、話の方は…」
次姉「それはお父さんから聞いて?」
長兄「…わかった。じゃあな」タイジョウ
次兄「おだいじにー」フリフリ
商人の店。
次兄「兄さん、頭痛薬持って来たよ」
長兄「…おう……」グンニョリー
次兄「午前中は寝込んでいたんだろ、無理することないのに」
長兄「……ああ、次姉と父さんの話が終わったら、どちらかにやっぱり店番を替わってもらおう……」
次兄(『次兄に任せるよ』とは言わないんだ)
次兄(尤も、本当にそう言われたら速攻でお断りする所存でしたがね)ソウイウヤツデス
次姉「兄さん、話しは終わったわ。もう休んで」
長兄「次姉」
次兄「姉さん」
次姉「次兄に頼まれて頭痛薬を渡したと家政婦さんから聞いたから…やっぱり兄さんだったのね」
長兄「うん、さっきはああ言ったが、今日は休ませてもらうよ……すまん」ガタ
長兄「で、話の方は…」
次姉「それはお父さんから聞いて?」
長兄「…わかった。じゃあな」タイジョウ
次兄「おだいじにー」フリフリ
600: ◆54DIlPdu2E:2015/06/24(水) 22:47:23.33:fRc7bJZo0 (4/13)
次姉「……何、次兄、手伝ってくれるの?」
次兄「接客以外ならば」
次姉「ま、ありがたいけどね。じゃあ早速、そこの毛糸玉を並べ直してくれる?」
次兄「ほいきた」サッサ
次兄「……」
次兄(姉さんと姉さん、いつの間に仲直りしたんだろう?)ホイホイ
次兄(たぶん、父さんや兄さんは知らないだろうなあ……)ホイホイ
次姉「……あんたには芸術的センスとかいう物が備わっているのかもしれないけれど」
次姉「同じ色の毛糸は一まとめにしてくれない? 1個だけ買っていくお客様は殆どいないのよ、探しにくいったらないわ」
次兄「あ、そういうものなの? じゃあ直す」ホイホイホイホイ
次姉「…………やればできるじゃないの」
次姉「しかも寒色と暖色で列を分け、濃淡で順に並べて…これならずいぶん探しやすいわ」
次兄「どんなもんですー」ドヤァ
次兄(…よかった。並べ方で遊ぶなとか言われながらビンタが飛んでくるかと、内心ヒヤヒヤしておりましたの)ホッ
次姉「誰にでも一つくらい、いい所があるものねえ。一つくらいは」
次姉「……何、次兄、手伝ってくれるの?」
次兄「接客以外ならば」
次姉「ま、ありがたいけどね。じゃあ早速、そこの毛糸玉を並べ直してくれる?」
次兄「ほいきた」サッサ
次兄「……」
次兄(姉さんと姉さん、いつの間に仲直りしたんだろう?)ホイホイ
次兄(たぶん、父さんや兄さんは知らないだろうなあ……)ホイホイ
次姉「……あんたには芸術的センスとかいう物が備わっているのかもしれないけれど」
次姉「同じ色の毛糸は一まとめにしてくれない? 1個だけ買っていくお客様は殆どいないのよ、探しにくいったらないわ」
次兄「あ、そういうものなの? じゃあ直す」ホイホイホイホイ
次姉「…………やればできるじゃないの」
次姉「しかも寒色と暖色で列を分け、濃淡で順に並べて…これならずいぶん探しやすいわ」
次兄「どんなもんですー」ドヤァ
次兄(…よかった。並べ方で遊ぶなとか言われながらビンタが飛んでくるかと、内心ヒヤヒヤしておりましたの)ホッ
次姉「誰にでも一つくらい、いい所があるものねえ。一つくらいは」
601: ◆54DIlPdu2E:2015/06/24(水) 22:50:30.68:fRc7bJZo0 (5/13)
次兄「そこ強調しなくても……」ショボン
呼び鈴:チリンチリン
次姉「お客様……次兄! あんたは『無言で』お辞儀っ!!」奇声ヲ規制
次兄「はいっ!?」ビビッ
次姉「いらっしゃいませ~」営業用ボイス
次兄「……」ペコリン
師匠「……戸を開けた一瞬、凄まじい緊張感を感じたのだが……?」
次兄「あ、おっさんだ!!」
次姉「次兄っ!?」ビュッ!
師匠「!!」
次姉「 あ あれ? 右腕が突然、異様に重くなって……?」ググッ
次兄「……?」ボウギョシセイ
次兄「……なんだかよくわからないけど、助かった模様…」
次兄「そこ強調しなくても……」ショボン
呼び鈴:チリンチリン
次姉「お客様……次兄! あんたは『無言で』お辞儀っ!!」奇声ヲ規制
次兄「はいっ!?」ビビッ
次姉「いらっしゃいませ~」営業用ボイス
次兄「……」ペコリン
師匠「……戸を開けた一瞬、凄まじい緊張感を感じたのだが……?」
次兄「あ、おっさんだ!!」
次姉「次兄っ!?」ビュッ!
師匠「!!」
次姉「 あ あれ? 右腕が突然、異様に重くなって……?」ググッ
次兄「……?」ボウギョシセイ
次兄「……なんだかよくわからないけど、助かった模様…」
602: ◆54DIlPdu2E:2015/06/24(水) 22:53:32.04:fRc7bJZo0 (6/13)
次姉「……封印したはずなのに、つい手が出そうになっちゃった」
次姉「駄目ね、いくら次兄だって、噛んで含めるように言い聞かせれば理解できないこともないでしょうに」フッ
次兄「俺の理解力はその程度と認識しておられるのですね」
次姉「しかもお客様の前、私が悪かったわ次兄」
次兄「……ううん、姉さんから見たら、お客に無礼を働いたとしか思えないからね」
師匠(……振り上げた右腕だけに、過剰な空気抵抗を掛ける魔法が間に合った)ホー
師匠(幸い、娘の激情も瞬間的なもので、理性で治めてくれたようだ)
次兄「実は、この人、俺の知り合いなんだ」
次姉「ええっ!? お客様、本当ですか!?」
師匠「ああ、お嬢さんも覚えていてくれたかね、あの雨の日に鉛筆をここで買ったのを」
次姉(白髪の小柄な五十過ぎの男)
次姉(穏やかそうな顔立ちに不釣り合いな鋭い目つきといい、このローブ姿といい)
次姉(何よりも雨に濡れていなかった不自然さといい、忘れやしないわ……)
師匠「ここは品揃えが良いので、また買い物に来たよ」
次姉「本日はどのようなものをお探しですか?」
師匠「数日後、少し遠くまで旅に出る予定でね。旅行に便利な物を買いに来たんだ」
次姉「……封印したはずなのに、つい手が出そうになっちゃった」
次姉「駄目ね、いくら次兄だって、噛んで含めるように言い聞かせれば理解できないこともないでしょうに」フッ
次兄「俺の理解力はその程度と認識しておられるのですね」
次姉「しかもお客様の前、私が悪かったわ次兄」
次兄「……ううん、姉さんから見たら、お客に無礼を働いたとしか思えないからね」
師匠(……振り上げた右腕だけに、過剰な空気抵抗を掛ける魔法が間に合った)ホー
師匠(幸い、娘の激情も瞬間的なもので、理性で治めてくれたようだ)
次兄「実は、この人、俺の知り合いなんだ」
次姉「ええっ!? お客様、本当ですか!?」
師匠「ああ、お嬢さんも覚えていてくれたかね、あの雨の日に鉛筆をここで買ったのを」
次姉(白髪の小柄な五十過ぎの男)
次姉(穏やかそうな顔立ちに不釣り合いな鋭い目つきといい、このローブ姿といい)
次姉(何よりも雨に濡れていなかった不自然さといい、忘れやしないわ……)
師匠「ここは品揃えが良いので、また買い物に来たよ」
次姉「本日はどのようなものをお探しですか?」
師匠「数日後、少し遠くまで旅に出る予定でね。旅行に便利な物を買いに来たんだ」
603: ◆54DIlPdu2E:2015/06/24(水) 22:55:25.07:fRc7bJZo0 (7/13)
次姉「あら、そうですの。お仕事か何かで?」ナニゲナイセケンバナシ
次兄「この人の仕事は、新薬の被験者だよ」
次姉「」
師匠「……少年」ギロリ
次兄(やばっ、極秘任務だった!!!!)アワワワワワ
次兄「俺の勘違いでしたー、本当は…よくわからないけどとにかく真っ当なお仕事でーす☆」テヘペロ
次姉(……この雰囲気、堅気の人ではないとは思ったけど、この年齢でそんな怪しい仕事にしか就けないなんて)
次姉(人には色々事情があるのね、でもリピーターになってくださるお客様は良いお客様)
次姉(それに、次兄が懐く(?)なら根はそんなに悪い人間じゃない筈、動物並みにそういう所『だけ』鋭いから)
師匠「さてと、まずは旅行鞄をいただこうかね、お嬢さん」
次姉「あ、はい、こちらの、王都の革細工職人の手によるものが、お薦めですが……」
~
次姉「色々買ってくれたわ。お金持ちなのは間違いなさそう」
次姉「……でも、本当にどこで知り合ったのよ、次兄」
次姉「あら、そうですの。お仕事か何かで?」ナニゲナイセケンバナシ
次兄「この人の仕事は、新薬の被験者だよ」
次姉「」
師匠「……少年」ギロリ
次兄(やばっ、極秘任務だった!!!!)アワワワワワ
次兄「俺の勘違いでしたー、本当は…よくわからないけどとにかく真っ当なお仕事でーす☆」テヘペロ
次姉(……この雰囲気、堅気の人ではないとは思ったけど、この年齢でそんな怪しい仕事にしか就けないなんて)
次姉(人には色々事情があるのね、でもリピーターになってくださるお客様は良いお客様)
次姉(それに、次兄が懐く(?)なら根はそんなに悪い人間じゃない筈、動物並みにそういう所『だけ』鋭いから)
師匠「さてと、まずは旅行鞄をいただこうかね、お嬢さん」
次姉「あ、はい、こちらの、王都の革細工職人の手によるものが、お薦めですが……」
~
次姉「色々買ってくれたわ。お金持ちなのは間違いなさそう」
次姉「……でも、本当にどこで知り合ったのよ、次兄」
604: ◆54DIlPdu2E:2015/06/24(水) 22:58:03.55:fRc7bJZo0 (8/13)
次兄「何日か前、市立図書館で同じ本を探していて、それが話すようになった切っ掛けだよ」
次姉「ふーん……ま、いいけどね」
次姉「しかし、そこで知り合うなら女の子にしておきなさいよ、状況だけなら恋愛小説の出会いの場面の定番よ?」
次兄「余計なお世話ですー、同族の異性との出会いなら姉さんこそ」
次兄「! っ、そっ、たっ、とお! なんでもありません! なんでもありませんからノーモア拳骨ノーモアビンタ!!」プルプルプルプル
次姉「……別に異性に飢えても焦ってもいないから、気にしていないわ」
次兄「……そう? 以前はやたらコシのタマ、じゃなかった、玉の輿、玉の輿! って結婚願望が」
次姉「あれは……以前はこの家へ『不満』があったし、自分の生き方が見つからないのもあって」
次姉「世間的に良い条件の結婚をすることだけが今より幸福になれる方法と信じて…ううん、信じ込もうとしていた…せいよ」
次兄「この家への不満」
次姉「……あんたから見たら、お父さんからお金もドレスも欲しいまま与えられ、好き放題やって暮らしていた私に」
次姉「なんの不満があった、って思うでしょうね」
次兄「好き放題暮らしなら俺もなかなかの物ですから」
次兄「欲しいままの毛皮と画材と書物、日がな毛皮を堪能しつつ自室でゴロゴロ……」
次姉「……言われてみればそうだった……」
次兄「何日か前、市立図書館で同じ本を探していて、それが話すようになった切っ掛けだよ」
次姉「ふーん……ま、いいけどね」
次姉「しかし、そこで知り合うなら女の子にしておきなさいよ、状況だけなら恋愛小説の出会いの場面の定番よ?」
次兄「余計なお世話ですー、同族の異性との出会いなら姉さんこそ」
次兄「! っ、そっ、たっ、とお! なんでもありません! なんでもありませんからノーモア拳骨ノーモアビンタ!!」プルプルプルプル
次姉「……別に異性に飢えても焦ってもいないから、気にしていないわ」
次兄「……そう? 以前はやたらコシのタマ、じゃなかった、玉の輿、玉の輿! って結婚願望が」
次姉「あれは……以前はこの家へ『不満』があったし、自分の生き方が見つからないのもあって」
次姉「世間的に良い条件の結婚をすることだけが今より幸福になれる方法と信じて…ううん、信じ込もうとしていた…せいよ」
次兄「この家への不満」
次姉「……あんたから見たら、お父さんからお金もドレスも欲しいまま与えられ、好き放題やって暮らしていた私に」
次姉「なんの不満があった、って思うでしょうね」
次兄「好き放題暮らしなら俺もなかなかの物ですから」
次兄「欲しいままの毛皮と画材と書物、日がな毛皮を堪能しつつ自室でゴロゴロ……」
次姉「……言われてみればそうだった……」
605: ◆54DIlPdu2E:2015/06/24(水) 23:01:21.89:fRc7bJZo0 (9/13)
次姉「とにかく、家への不満というか、正直…お父さんへの不満だったの」
次姉「今だから言えるけど、ずっとずっと、お父さんの愛情が末妹にばかり注がれていると思い込んで」
次兄「……」
次姉「その間違った虚しさを、更に間違った方法で埋めようとしていたのね」
次姉「今は仕事も楽しいし、まだ見ぬ相手といつか出会いがあったら」
次姉「焦らずにその人とお互い納得できるお付き合いがしたい、そう今は思うわ」
次兄「……」ホヘー
次兄「姉さんホントに大人になったね……」
次姉「あんたがガキなのよ、全く」フフッ
次兄「」
次兄「…ね、姉さんが、俺に微笑みかけただとおぉぉーーーーーーっ!?」ガクガクガクガクガクガクガクガク
次姉「……」
次姉「今までのどんな失言より傷つくんだけど」
次姉(これでも、最近はだいぶ次兄にも優しく接してきた筈なのにな……)フー
…………
次姉「とにかく、家への不満というか、正直…お父さんへの不満だったの」
次姉「今だから言えるけど、ずっとずっと、お父さんの愛情が末妹にばかり注がれていると思い込んで」
次兄「……」
次姉「その間違った虚しさを、更に間違った方法で埋めようとしていたのね」
次姉「今は仕事も楽しいし、まだ見ぬ相手といつか出会いがあったら」
次姉「焦らずにその人とお互い納得できるお付き合いがしたい、そう今は思うわ」
次兄「……」ホヘー
次兄「姉さんホントに大人になったね……」
次姉「あんたがガキなのよ、全く」フフッ
次兄「」
次兄「…ね、姉さんが、俺に微笑みかけただとおぉぉーーーーーーっ!?」ガクガクガクガクガクガクガクガク
次姉「……」
次姉「今までのどんな失言より傷つくんだけど」
次姉(これでも、最近はだいぶ次兄にも優しく接してきた筈なのにな……)フー
…………
606: ◆54DIlPdu2E:2015/06/24(水) 23:04:27.35:fRc7bJZo0 (10/13)
時間は少し前、野獣の屋敷、野獣の部屋。
鏡「……」
野獣「ふむ……次姉と次兄の店番か」
野獣「…ほう、毛糸玉を……面白い並べ方じゃないか、何より美しい」
野獣「やはり次兄は、絵画的な才能に生まれながら恵まれているようだな」
野獣「……あれを生かせる道に進んで欲しいものだが」
野獣「ん、客か」
野獣「喋っている言葉がよく聞こえないので、どういう縁か知らんが、次兄と知り合い?」
野獣「仕立ての良い流行の服、黒々とした髪でまだ30歳くらいの、長身の青年紳士、そんな見た目だな」
野獣「……ん? 向こうの鏡が少し曇ったぞ」
野獣「接客サービス用のお茶の湯気か……」
野獣「この二人はこれくらいにして、末妹の様子を見てみよう」
野獣「台所にいるようだな、家政婦と何かを話している」
野獣「……楽しそうだな」
時間は少し前、野獣の屋敷、野獣の部屋。
鏡「……」
野獣「ふむ……次姉と次兄の店番か」
野獣「…ほう、毛糸玉を……面白い並べ方じゃないか、何より美しい」
野獣「やはり次兄は、絵画的な才能に生まれながら恵まれているようだな」
野獣「……あれを生かせる道に進んで欲しいものだが」
野獣「ん、客か」
野獣「喋っている言葉がよく聞こえないので、どういう縁か知らんが、次兄と知り合い?」
野獣「仕立ての良い流行の服、黒々とした髪でまだ30歳くらいの、長身の青年紳士、そんな見た目だな」
野獣「……ん? 向こうの鏡が少し曇ったぞ」
野獣「接客サービス用のお茶の湯気か……」
野獣「この二人はこれくらいにして、末妹の様子を見てみよう」
野獣「台所にいるようだな、家政婦と何かを話している」
野獣「……楽しそうだな」
607: ◆54DIlPdu2E:2015/06/24(水) 23:07:30.65:fRc7bJZo0 (11/13)
野獣「年代は違っていても女同士、お喋り自体が楽しくもあるのだろう」
野獣「……」
野獣「…本当に、愛らしい笑顔だ」
野獣「この先も、いつまでもこの笑顔を見守っていられるのなら、もう実際に会えなくても構わない程なのに……」
……
野獣の部屋の外。
メイド「……ご主人様ったら」ウロウロ
メイド「末妹様が悪いオヤジに苛められてご病気になって元気になって、でもそれから後は」
メイド「私ばかりか執事様にも魔法の鏡を見せてくれないなんて……」ウロウロ
メイド「それどころか、部屋にも入れてくださらない」
メイド「お食事も摂らず、おそらくは水だけで三日間も過ごしていらっしゃる」ウロ……
メイド「……末妹様も近々ここに来られるでしょうに」ピタ
メイド「ご主人様が何を考えておられるか、何をされたいのか、私はわからなくなってしまいました……」
…………
野獣「年代は違っていても女同士、お喋り自体が楽しくもあるのだろう」
野獣「……」
野獣「…本当に、愛らしい笑顔だ」
野獣「この先も、いつまでもこの笑顔を見守っていられるのなら、もう実際に会えなくても構わない程なのに……」
……
野獣の部屋の外。
メイド「……ご主人様ったら」ウロウロ
メイド「末妹様が悪いオヤジに苛められてご病気になって元気になって、でもそれから後は」
メイド「私ばかりか執事様にも魔法の鏡を見せてくれないなんて……」ウロウロ
メイド「それどころか、部屋にも入れてくださらない」
メイド「お食事も摂らず、おそらくは水だけで三日間も過ごしていらっしゃる」ウロ……
メイド「……末妹様も近々ここに来られるでしょうに」ピタ
メイド「ご主人様が何を考えておられるか、何をされたいのか、私はわからなくなってしまいました……」
…………
608: ◆54DIlPdu2E:2015/06/24(水) 23:12:02.62:fRc7bJZo0 (12/13)
安宿の一室。
師匠「ふむ、見た目以上に収納力が高い鞄だ、確かに価格以上の良品と呼ぶにふさわしい」
師匠「あの商人はなかなかの、いや、相当の目利きと見た」
師匠「……あいつが儂の買い物の様子を鏡で見ていたかどうかはこちらにはわからんが」
師匠「もしもの際の隠蔽工作は完璧なはずだ」
師匠「あいつの見ている鏡に映る儂の像はまるで別人の姿に」
師匠(少しくらい実物より見栄えを良くしても罰は当たらんだろうて)
師匠「儂が魔法を放てば、こちらの近くにある鏡は湯気を当てたように曇る」
師匠「これの方法を編み出すのはなかなか大変だったが、儂が眠っていた地下室に魔導書も保管しておいてよかったわ」
師匠「さて……ここしばらくは兄妹の家をつぶさに長時間、鏡で観察してきたが」
師匠「あの兄妹に屋敷を期限付きで再び訪れたい意思があること、父親もどうやら許そうとしていることがわかった」
師匠「いよいよ『その日』が目の前に迫ってきたようだ」
師匠「……今度は何日かぶりにあいつの屋敷を覗いてみようか」
宿の鏡「ハイハーイ」
…………
安宿の一室。
師匠「ふむ、見た目以上に収納力が高い鞄だ、確かに価格以上の良品と呼ぶにふさわしい」
師匠「あの商人はなかなかの、いや、相当の目利きと見た」
師匠「……あいつが儂の買い物の様子を鏡で見ていたかどうかはこちらにはわからんが」
師匠「もしもの際の隠蔽工作は完璧なはずだ」
師匠「あいつの見ている鏡に映る儂の像はまるで別人の姿に」
師匠(少しくらい実物より見栄えを良くしても罰は当たらんだろうて)
師匠「儂が魔法を放てば、こちらの近くにある鏡は湯気を当てたように曇る」
師匠「これの方法を編み出すのはなかなか大変だったが、儂が眠っていた地下室に魔導書も保管しておいてよかったわ」
師匠「さて……ここしばらくは兄妹の家をつぶさに長時間、鏡で観察してきたが」
師匠「あの兄妹に屋敷を期限付きで再び訪れたい意思があること、父親もどうやら許そうとしていることがわかった」
師匠「いよいよ『その日』が目の前に迫ってきたようだ」
師匠「……今度は何日かぶりにあいつの屋敷を覗いてみようか」
宿の鏡「ハイハーイ」
…………
609: ◆54DIlPdu2E:2015/06/24(水) 23:13:19.70:fRc7bJZo0 (13/13)
※今夜はここまで。思ったより野獣サイド書けなかったので続きます※
※今夜はここまで。思ったより野獣サイド書けなかったので続きます※
610:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/25(木) 00:49:25.63:phwJXVQAO (1/1)
できるオンナ系家政婦さん素敵
師匠は白髪と身長気にしてるんかww渋くて良いのに
できるオンナ系家政婦さん素敵
師匠は白髪と身長気にしてるんかww渋くて良いのに
611: ◆54DIlPdu2E:2015/06/25(木) 23:37:02.47:5L/OVKlZ0 (1/10)
野獣の屋敷。
執事「メイド、そんな所で何をしている」
メイド「あ……」
執事「……お前もご主人様が心配か」
メイド「一昨日、食欲がないから食事はいらないと断って」
メイド「その時は、そんな日もあるでしょう、くらいに思っていたのですが…そのまま昨日も今日もいらないって……」
メイド「ご病気だったらお世話だってするのに、部屋には入るなって」
執事「わたくしも、一昨日の夜を最後に、部屋に入れてもらえないまま」
執事「我々に隠れて何かを食べている様子もなさそうだ」
執事「第一そんな事をする意味もないが」
メイド「今のご主人様は、まるごと全部が意味不明です……」
メイド「弱っているご主人様の姿を見たら、末妹様だってどんなに悲しむか」
執事「……ううむ」
野獣の屋敷。
執事「メイド、そんな所で何をしている」
メイド「あ……」
執事「……お前もご主人様が心配か」
メイド「一昨日、食欲がないから食事はいらないと断って」
メイド「その時は、そんな日もあるでしょう、くらいに思っていたのですが…そのまま昨日も今日もいらないって……」
メイド「ご病気だったらお世話だってするのに、部屋には入るなって」
執事「わたくしも、一昨日の夜を最後に、部屋に入れてもらえないまま」
執事「我々に隠れて何かを食べている様子もなさそうだ」
執事「第一そんな事をする意味もないが」
メイド「今のご主人様は、まるごと全部が意味不明です……」
メイド「弱っているご主人様の姿を見たら、末妹様だってどんなに悲しむか」
執事「……ううむ」
612: ◆54DIlPdu2E:2015/06/25(木) 23:38:26.38:5L/OVKlZ0 (2/10)
執事「聞き耳を立てれば、物音もするし、お一人で何か喋ってもおられるので、まだ動けなくなるほどではなさそうだが」
執事「お命の危機の兆候が見られたら、どんな方法を使っても部屋に押し入らなくてはならないかもしれん」
メイド「そんな事態にならないことを、人間だったら神様あたりにお願いするんですよね?」
執事「そうだな」
メイド「つまり、それ以外のことは何もできないって意味ですよね……」
執事「ご主人様の命令に従うことが我々の『全て』だが、その命令がないというのは辛いものだな」
執事「自分達の存在意義まで見失ってしまいそうだ」
メイド「執事様まで弱音吐かないでくださいよお」クスン
執事「しかし、あと三日もすれば末妹様が来てくれる」
執事「末妹様が会いたいと仰ったら、さすがに顔を見せてくださるだろう」
メイド「……それでもご主人様が『会わない』って仰ったら、その時はどうしたらいいんですか……?」グシュ
執事「……」
執事「考えたくないことを考えさせないでくれ、お前という子は、本当に……」ハァ
……
執事「聞き耳を立てれば、物音もするし、お一人で何か喋ってもおられるので、まだ動けなくなるほどではなさそうだが」
執事「お命の危機の兆候が見られたら、どんな方法を使っても部屋に押し入らなくてはならないかもしれん」
メイド「そんな事態にならないことを、人間だったら神様あたりにお願いするんですよね?」
執事「そうだな」
メイド「つまり、それ以外のことは何もできないって意味ですよね……」
執事「ご主人様の命令に従うことが我々の『全て』だが、その命令がないというのは辛いものだな」
執事「自分達の存在意義まで見失ってしまいそうだ」
メイド「執事様まで弱音吐かないでくださいよお」クスン
執事「しかし、あと三日もすれば末妹様が来てくれる」
執事「末妹様が会いたいと仰ったら、さすがに顔を見せてくださるだろう」
メイド「……それでもご主人様が『会わない』って仰ったら、その時はどうしたらいいんですか……?」グシュ
執事「……」
執事「考えたくないことを考えさせないでくれ、お前という子は、本当に……」ハァ
……
613: ◆54DIlPdu2E:2015/06/25(木) 23:39:43.62:5L/OVKlZ0 (3/10)
安宿の一室。
宿の鏡「コンナヨウスデス」
師匠「何をやっておるのだ、あの馬鹿者は」
師匠「人間よりはいくらか頑丈な肉体とはいえ、このまま水だけで凌いでいては弱るばかり」
師匠「あんなに自分を慕っている使用人達を不安にさせて……」
師匠「数日後にはあの兄妹も訪れるだろうに」
師匠「…………本当に、あの子らを再び来させるつもりがあるのか? あいつには」
師匠「発動まで時間制約をかけているとは言え、鏡越しでなく実際に少女に会えば」
師匠「実際に移動の呪文が掛けられているかどうか儂にはわかるはず」
師匠「今朝、彼女が友人達と広場に出かけたのはチャンスだったのかもしれないが」
師匠「……あの年頃の女の子の集団に、どのように言葉を掛ければ不審に思われないか、いまひとつ自信がなかった……」ハァ
師匠「こんなローブ姿でこの街を歩いている人間も他にいないものな」
師匠「儂のアイデンティティーとして、これを着替える気にはならんが」ガンコモノ
師匠「どうにもタイミングを外してばかりいるが、やはり店番と客という出会い方が最も自然だろう」
師匠「あいつの屋敷も気になるが、ちょっと今まで以上に少女をよく観察して、店に出る時を狙って訪ねてみるか」
…………
安宿の一室。
宿の鏡「コンナヨウスデス」
師匠「何をやっておるのだ、あの馬鹿者は」
師匠「人間よりはいくらか頑丈な肉体とはいえ、このまま水だけで凌いでいては弱るばかり」
師匠「あんなに自分を慕っている使用人達を不安にさせて……」
師匠「数日後にはあの兄妹も訪れるだろうに」
師匠「…………本当に、あの子らを再び来させるつもりがあるのか? あいつには」
師匠「発動まで時間制約をかけているとは言え、鏡越しでなく実際に少女に会えば」
師匠「実際に移動の呪文が掛けられているかどうか儂にはわかるはず」
師匠「今朝、彼女が友人達と広場に出かけたのはチャンスだったのかもしれないが」
師匠「……あの年頃の女の子の集団に、どのように言葉を掛ければ不審に思われないか、いまひとつ自信がなかった……」ハァ
師匠「こんなローブ姿でこの街を歩いている人間も他にいないものな」
師匠「儂のアイデンティティーとして、これを着替える気にはならんが」ガンコモノ
師匠「どうにもタイミングを外してばかりいるが、やはり店番と客という出会い方が最も自然だろう」
師匠「あいつの屋敷も気になるが、ちょっと今まで以上に少女をよく観察して、店に出る時を狙って訪ねてみるか」
…………
614: ◆54DIlPdu2E:2015/06/25(木) 23:41:44.82:5L/OVKlZ0 (4/10)
夕方、商人の家、長姉の部屋。
窓:カタン
次姉「おかえり、姉さん」
長姉「ただいま次姉!」
次姉「嬉しそうね、面接はいい手ごたえだったの?」
長姉「その場で採用よ! 何より、私の字を気に入ってくれて……受講生に配るレシピも書いて欲しいって!」
次姉「姉さん、子供の頃から字は」
次姉「…字『が』きれいだったものねえ。よかったじゃない」
次姉(おかげで、女学校の教師陣からの良い印象を保ち続けられた感はあるのよね)
長姉「明後日、二回目の料理教室があるわ、準備のための仕事は明日からよ、頑張らなくちゃ!」
長姉「これも次姉のおかげよ!! ありがとう!」ギュー
次姉「私も嬉しいわ、頑張って、姉さん」
次姉「……」
次姉(あの子達が早くて三日後に旅立つかもって話は、まだしない方が良いわね)
……
夕方、商人の家、長姉の部屋。
窓:カタン
次姉「おかえり、姉さん」
長姉「ただいま次姉!」
次姉「嬉しそうね、面接はいい手ごたえだったの?」
長姉「その場で採用よ! 何より、私の字を気に入ってくれて……受講生に配るレシピも書いて欲しいって!」
次姉「姉さん、子供の頃から字は」
次姉「…字『が』きれいだったものねえ。よかったじゃない」
次姉(おかげで、女学校の教師陣からの良い印象を保ち続けられた感はあるのよね)
長姉「明後日、二回目の料理教室があるわ、準備のための仕事は明日からよ、頑張らなくちゃ!」
長姉「これも次姉のおかげよ!! ありがとう!」ギュー
次姉「私も嬉しいわ、頑張って、姉さん」
次姉「……」
次姉(あの子達が早くて三日後に旅立つかもって話は、まだしない方が良いわね)
……
615: ◆54DIlPdu2E:2015/06/25(木) 23:43:27.19:5L/OVKlZ0 (5/10)
その夜の夢。
(次姉(9)「何見てるの、姉さん」)
(長姉(10)「次姉…どうしてあの子ばかり、毎月お父さんに来てもらえるの……?」クスン)
(次姉「…私達と同じクラスの、侯爵娘か」)
(次姉「入学と卒業の時のほかには、家と寄宿舎の行き帰り、つまり長期休暇の始めと終わり以外は」)
(次姉「家族は校舎にも寄宿舎にも入ることを許されない、ってきまりだけど」)
(次姉「侯爵娘は例外なのよ、最近ようやくわかってきたわ」)
(長姉「『れいがい』って、また難しい言葉使ってる! イヤな子!」ピー)
(次姉「……特別扱いってことよ。父親の侯爵様はこの学校にすごくたくさんのお金を寄付しているからね」)
(長姉「お金ならうちのお父さんだって持ってる、私達も特別扱いしてもらおうよ!?」)
(次姉「……『お金持ち』のレベルが違いすぎるわ」ハァ)
(次姉(しかも、私、去年の入学年度に見ちゃったのよね))
(次姉(訪問して来た侯爵様が学長にお金を渡して『うちの娘の成績を、これでどうか…』って』))
(次姉(身を潜めてじっくり話を聞いたら、要するに、侯爵様も自分の娘がそこまでバカとは入学させるまでわからなかった、って))
(次姉(同じ最上位クラスに彼女がいる理由に合点が行ったわ、どう考えてもうちの姉さんより遥かにひどいもの))
その夜の夢。
(次姉(9)「何見てるの、姉さん」)
(長姉(10)「次姉…どうしてあの子ばかり、毎月お父さんに来てもらえるの……?」クスン)
(次姉「…私達と同じクラスの、侯爵娘か」)
(次姉「入学と卒業の時のほかには、家と寄宿舎の行き帰り、つまり長期休暇の始めと終わり以外は」)
(次姉「家族は校舎にも寄宿舎にも入ることを許されない、ってきまりだけど」)
(次姉「侯爵娘は例外なのよ、最近ようやくわかってきたわ」)
(長姉「『れいがい』って、また難しい言葉使ってる! イヤな子!」ピー)
(次姉「……特別扱いってことよ。父親の侯爵様はこの学校にすごくたくさんのお金を寄付しているからね」)
(長姉「お金ならうちのお父さんだって持ってる、私達も特別扱いしてもらおうよ!?」)
(次姉「……『お金持ち』のレベルが違いすぎるわ」ハァ)
(次姉(しかも、私、去年の入学年度に見ちゃったのよね))
(次姉(訪問して来た侯爵様が学長にお金を渡して『うちの娘の成績を、これでどうか…』って』))
(次姉(身を潜めてじっくり話を聞いたら、要するに、侯爵様も自分の娘がそこまでバカとは入学させるまでわからなかった、って))
(次姉(同じ最上位クラスに彼女がいる理由に合点が行ったわ、どう考えてもうちの姉さんより遥かにひどいもの))
616: ◆54DIlPdu2E:2015/06/25(木) 23:45:21.54:5L/OVKlZ0 (6/10)
(次姉(私は実力で絶対負けない自信があるけど、姉さんがもし今のクラスから落ちこぼれて、彼女が残っていたりしたら))
(次姉(それはあり得る話だけど、納得できない……))
(次姉(授業と課題だけじゃ不十分、私がついて、姉さんをみっちり勉強させないと))
~
(侯爵娘(11)「次姉、あんたなまいきなのよ」)
(子分8(11)「そーよ、そーよ」)
(子分9(11)「生意気なのよ」)
(次姉(10)「……侯爵娘様、私なんかに、何のご用で?」)
(次姉(学年で一番体格のいい二人を新たに子分に加えたのね、護衛のつもり?))
(侯爵娘「あんただけみんなよりひとつ下、とびきゅーのくせに、へーみんのくせに、どうしてそんなにえらそうなのよ!」)
(次姉「私は自然に振舞っているだけです、成績だって、学長も認めざるを得ない実力ですもの」シレッ)
(侯爵娘「ふん、しまいでひるもよるもがりべんしないと、いいせいせきとれないくせに」)
(侯爵娘「なーーーんにもべんきょうしなくたって、おなじくらいのせいせきのわたしのほうがあなたより上にきまってるわ!」)
(次姉(私は実力で絶対負けない自信があるけど、姉さんがもし今のクラスから落ちこぼれて、彼女が残っていたりしたら))
(次姉(それはあり得る話だけど、納得できない……))
(次姉(授業と課題だけじゃ不十分、私がついて、姉さんをみっちり勉強させないと))
~
(侯爵娘(11)「次姉、あんたなまいきなのよ」)
(子分8(11)「そーよ、そーよ」)
(子分9(11)「生意気なのよ」)
(次姉(10)「……侯爵娘様、私なんかに、何のご用で?」)
(次姉(学年で一番体格のいい二人を新たに子分に加えたのね、護衛のつもり?))
(侯爵娘「あんただけみんなよりひとつ下、とびきゅーのくせに、へーみんのくせに、どうしてそんなにえらそうなのよ!」)
(次姉「私は自然に振舞っているだけです、成績だって、学長も認めざるを得ない実力ですもの」シレッ)
(侯爵娘「ふん、しまいでひるもよるもがりべんしないと、いいせいせきとれないくせに」)
(侯爵娘「なーーーんにもべんきょうしなくたって、おなじくらいのせいせきのわたしのほうがあなたより上にきまってるわ!」)
617: ◆54DIlPdu2E:2015/06/25(木) 23:47:37.54:5L/OVKlZ0 (7/10)
(子分8「そうよ、侯爵娘様は凄いのよ! 宿題忘れても、授業中眠っていても」)
(子分9「進級試験が白紙でも、上位クラスにいるのよ! 凄すぎるわ!」)
(次姉「……」)
(次姉(真正バカと、釈然としないものを感じつつ見返りを求めて離れられない子分、か……)フゥ)
(侯爵娘「ためいきとかますますなまいき、こぶんども、あなたたちのちらかをみせてやりなさい!」
(子分8「とえええい!」)バキッ
(子分9「おりゃああああ!」)グシャッ
(次姉「」)
(侯爵娘「どう、びびってこえもでないでしょ!?」フフン)
(次姉「細工した厚板を真っ二つにし、同じく細工したレンガを握り潰す、か。わかり易過ぎて、呆れた……」)
(侯爵娘「さっき長姉にみせたときも、あのこったらぷるぷるふるえて、けっさくだったわ!!」)
(次姉「…!」)
(侯爵「さあ、こぶんども、いくわよ! おとうさまのおみやげのこうきゅうなおかしで、おちゃにしましょう」)
(子分8「待ってました」)
(子分9「これがなきゃ、従ってなんかいないわ」ボソ)
(子分8「そうよ、侯爵娘様は凄いのよ! 宿題忘れても、授業中眠っていても」)
(子分9「進級試験が白紙でも、上位クラスにいるのよ! 凄すぎるわ!」)
(次姉「……」)
(次姉(真正バカと、釈然としないものを感じつつ見返りを求めて離れられない子分、か……)フゥ)
(侯爵娘「ためいきとかますますなまいき、こぶんども、あなたたちのちらかをみせてやりなさい!」
(子分8「とえええい!」)バキッ
(子分9「おりゃああああ!」)グシャッ
(次姉「」)
(侯爵娘「どう、びびってこえもでないでしょ!?」フフン)
(次姉「細工した厚板を真っ二つにし、同じく細工したレンガを握り潰す、か。わかり易過ぎて、呆れた……」)
(侯爵娘「さっき長姉にみせたときも、あのこったらぷるぷるふるえて、けっさくだったわ!!」)
(次姉「…!」)
(侯爵「さあ、こぶんども、いくわよ! おとうさまのおみやげのこうきゅうなおかしで、おちゃにしましょう」)
(子分8「待ってました」)
(子分9「これがなきゃ、従ってなんかいないわ」ボソ)
618: ◆54DIlPdu2E:2015/06/25(木) 23:49:54.84:5L/OVKlZ0 (8/10)
(次姉「……」)
(次姉「…負けてたまるか」クッ)
…
(長姉「ねえ、次姉。どうして勉強の前後に腕立て伏せなんかしているの?」)
(長姉「何これ、寝る前に腹筋1000回? …あんた何を目指しているの?」)
(長姉「あんた最近、手が空いていればいつも胡桃を片手に二個ずつ握っているわねえ」)
…
(次姉「体を鍛えたら思わぬ効果があったわ。長時間同じ姿勢を保つためにも、筋力が必要だったのね」)
(次姉「おかげで今まで以上に勉強がはかどる、授業に集中もできる!!」)
~
(長姉(12)「もうだめ…もうこのクラスについて行けない、落第するの、次姉とも離れちゃうの……」グシュグシュベソベソ)
(次姉(11)「……この手は使いたくなかったけど…仕方ない」)
(次姉「私もこのギスギスした寄宿学校で、姉さんと離れるのは嫌だもの」)
(次姉「姉さん、ちょっと危険な方法だけど……聞いて?」ボソボソ)
……
(次姉「……」)
(次姉「…負けてたまるか」クッ)
…
(長姉「ねえ、次姉。どうして勉強の前後に腕立て伏せなんかしているの?」)
(長姉「何これ、寝る前に腹筋1000回? …あんた何を目指しているの?」)
(長姉「あんた最近、手が空いていればいつも胡桃を片手に二個ずつ握っているわねえ」)
…
(次姉「体を鍛えたら思わぬ効果があったわ。長時間同じ姿勢を保つためにも、筋力が必要だったのね」)
(次姉「おかげで今まで以上に勉強がはかどる、授業に集中もできる!!」)
~
(長姉(12)「もうだめ…もうこのクラスについて行けない、落第するの、次姉とも離れちゃうの……」グシュグシュベソベソ)
(次姉(11)「……この手は使いたくなかったけど…仕方ない」)
(次姉「私もこのギスギスした寄宿学校で、姉さんと離れるのは嫌だもの」)
(次姉「姉さん、ちょっと危険な方法だけど……聞いて?」ボソボソ)
……
619: ◆54DIlPdu2E:2015/06/25(木) 23:52:39.23:5L/OVKlZ0 (9/10)
真夜中、次姉の部屋。
次姉「……」パチ
次姉「目が覚めちゃった、でも夜明けまではまだまだね」ふあ
次姉「……子供心に、何の勉強もしない侯爵娘が賄賂で上位クラスに残るよりは」
次姉「長姉に人一倍勉強もさせながら試験はカンニングで乗り切らせた方が、それよりもマシだと思ったのよね」
次姉「なんにせよ、不正行為には違いないんだけどさ」
次姉「……私だって、姉さんと離れたくなかった、一緒にいたかっただけ」
次姉「姉さんが頑張ってくれるのも、好きな人が出来たのも、すごく嬉しいけど」
次姉「……寂しい、なんて言っちゃ駄目ね」
次姉「さて、朝まで寝なおすか。……昨夜の夢はよかったなあ、続き見れないかな」
次姉「姉さんと末妹が私を奪い合う嬉し恥かしい夢」キャッ
次姉「……………………あれ?」
次姉「……これって危険な兆候? 私、人として駄目になりかけている??」
次姉「一家に変態は(次兄が)一人いれば多過ぎるくらいと思っていたのに……」
次姉「……前言撤回して、夢も見ないで朝まで眠れますように……」ボフ
……
真夜中、次姉の部屋。
次姉「……」パチ
次姉「目が覚めちゃった、でも夜明けまではまだまだね」ふあ
次姉「……子供心に、何の勉強もしない侯爵娘が賄賂で上位クラスに残るよりは」
次姉「長姉に人一倍勉強もさせながら試験はカンニングで乗り切らせた方が、それよりもマシだと思ったのよね」
次姉「なんにせよ、不正行為には違いないんだけどさ」
次姉「……私だって、姉さんと離れたくなかった、一緒にいたかっただけ」
次姉「姉さんが頑張ってくれるのも、好きな人が出来たのも、すごく嬉しいけど」
次姉「……寂しい、なんて言っちゃ駄目ね」
次姉「さて、朝まで寝なおすか。……昨夜の夢はよかったなあ、続き見れないかな」
次姉「姉さんと末妹が私を奪い合う嬉し恥かしい夢」キャッ
次姉「……………………あれ?」
次姉「……これって危険な兆候? 私、人として駄目になりかけている??」
次姉「一家に変態は(次兄が)一人いれば多過ぎるくらいと思っていたのに……」
次姉「……前言撤回して、夢も見ないで朝まで眠れますように……」ボフ
……
620: ◆54DIlPdu2E:2015/06/25(木) 23:53:39.45:5L/OVKlZ0 (10/10)
※今夜はここまで。気がつけば600超えました…読んでくれてありがとう。今度こそ話を進める予定…※
※今夜はここまで。気がつけば600超えました…読んでくれてありがとう。今度こそ話を進める予定…※
621:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/26(金) 01:32:10.09:SqIFrOCAO (1/2)
乙
今明かされる次姉の強さの秘密…
乙
今明かされる次姉の強さの秘密…
622: ◆54DIlPdu2E:2015/06/26(金) 22:27:02.33:G33yq/jk0 (1/6)
翌日……
商人「長兄、次姉。今日はお前達二人に店を頼みたいのだが、いいかい?」
長兄「構わないよ、父さん(二日酔いも完治したし…)」
次姉「その格好、お出掛け?」
商人「ああ。最後に昼食を食べて戻る予定だから、そんなに遅い時間にもならないけどね」
商人「次兄と末妹と一緒に、港のお祭りに行って来るよ」
……
そんなわけで、港。
人々の賑わい:ザワザワガヤガヤ
末妹「そう言えば、毎年この時期だったわ」
次兄「町の人は『お祭り』と呼んでいるし、港の管理者や市長の許可ももらっているけど」
次兄「船でやってきた異国の商人達が申し合わせて一斉に開いている、単なる催し物の集まりなんだよな」
商人「自国の輸出品の宣伝にはなるからね、この日に合わせて見世物や占いの小屋もやって来るし」
いつぞやの憲兵「やあ、商人さん。これから異国の商人と商談ですかな?」
商人「ははは、この子らと単に遊びに来ただけですよ。見回りお疲れ様」
翌日……
商人「長兄、次姉。今日はお前達二人に店を頼みたいのだが、いいかい?」
長兄「構わないよ、父さん(二日酔いも完治したし…)」
次姉「その格好、お出掛け?」
商人「ああ。最後に昼食を食べて戻る予定だから、そんなに遅い時間にもならないけどね」
商人「次兄と末妹と一緒に、港のお祭りに行って来るよ」
……
そんなわけで、港。
人々の賑わい:ザワザワガヤガヤ
末妹「そう言えば、毎年この時期だったわ」
次兄「町の人は『お祭り』と呼んでいるし、港の管理者や市長の許可ももらっているけど」
次兄「船でやってきた異国の商人達が申し合わせて一斉に開いている、単なる催し物の集まりなんだよな」
商人「自国の輸出品の宣伝にはなるからね、この日に合わせて見世物や占いの小屋もやって来るし」
いつぞやの憲兵「やあ、商人さん。これから異国の商人と商談ですかな?」
商人「ははは、この子らと単に遊びに来ただけですよ。見回りお疲れ様」
623: ◆54DIlPdu2E:2015/06/26(金) 22:28:47.32:G33yq/jk0 (2/6)
次兄「憲兵さんも巡回してはいるけれど、とりあえずは女子供にも危険のない健全な催し物です」ゲンバカラオオクリシマシタ
商人「……子供と言えば、次兄はずいぶん小さい頃、一人でこの祭りへ来たことがあったなあ」
次兄「5歳の時だよ、覚えてるよ」
末妹「私は小さすぎて覚えていないけど、後から話を聞いたわ」
商人「当時の次兄がお手伝いのお駄賃を貯めていたのは知っていたが」
商人「まさかそれを握り締めて、5歳の子供の足で港まで迷わず来るとは思わなかった」
次兄「あの頃にしては珍しく、すこぶる体調が良かったんだ」
次兄「港の方角は何となく知っていたし、お祭りに向かうであろう人々の流れについて行けば間違いないと子供心に思って」
次兄「……で、歩いて空腹になってか、物珍しさに惹かれてか、出店で見たこともない食べ物の匂いについつい釣られて」
商人「今のお前なら絶対やらないだろうが、まだ小さかった、自分で判断なんてできないさ」
商人「その中に、次兄が食べると体調を崩す食材が使われていたのだな」
次兄「味は良かったんだ、いい匂いもしていたから新鮮だったはず」
商人「ああ、私も実は食べたことがある。味付けはこの国にはないものだが、美味には違いない」
次兄「でも結局それで具合が悪くなって、吐きまくった後にひどい寒気はするわ体に力は入らないわで」
次兄「憲兵さんも巡回してはいるけれど、とりあえずは女子供にも危険のない健全な催し物です」ゲンバカラオオクリシマシタ
商人「……子供と言えば、次兄はずいぶん小さい頃、一人でこの祭りへ来たことがあったなあ」
次兄「5歳の時だよ、覚えてるよ」
末妹「私は小さすぎて覚えていないけど、後から話を聞いたわ」
商人「当時の次兄がお手伝いのお駄賃を貯めていたのは知っていたが」
商人「まさかそれを握り締めて、5歳の子供の足で港まで迷わず来るとは思わなかった」
次兄「あの頃にしては珍しく、すこぶる体調が良かったんだ」
次兄「港の方角は何となく知っていたし、お祭りに向かうであろう人々の流れについて行けば間違いないと子供心に思って」
次兄「……で、歩いて空腹になってか、物珍しさに惹かれてか、出店で見たこともない食べ物の匂いについつい釣られて」
商人「今のお前なら絶対やらないだろうが、まだ小さかった、自分で判断なんてできないさ」
商人「その中に、次兄が食べると体調を崩す食材が使われていたのだな」
次兄「味は良かったんだ、いい匂いもしていたから新鮮だったはず」
商人「ああ、私も実は食べたことがある。味付けはこの国にはないものだが、美味には違いない」
次兄「でも結局それで具合が悪くなって、吐きまくった後にひどい寒気はするわ体に力は入らないわで」
624: ◆54DIlPdu2E:2015/06/26(金) 22:30:21.55:G33yq/jk0 (3/6)
次兄「おまけに幼児並の短絡思考で『バレたら叱られる』しか頭になくて」
商人「『並』どころか疑いようもなく『幼児そのもの』だからね?」
次兄「俺は愚かにも自分から人気のない倉庫の裏に隠れて、結局そこで倒れているのを見つけられたらしい」
商人「次兄の姿が見えなくて家中探している時に、知人がぐったりしたお前を家に運んできたから、驚いたのなんの……」
次兄「でも、その頃には具合もある程度落ち着いて、安らかな寝息を立てていたはずだ」
商人「……細かく覚えているね。私もばあやも、あの時は生きた心地がしなかったよ」
商人「目を離した自分が悪かったとばあやは泣いていたが、それは私も同じだ」
次兄「……勝手に出かけて勝手に知らないものを食べた俺が一番悪いんだよ」
商人「とにかく、お前の顔を知っていて家に届けてくれた知人と、お前を見つけてくれた異国人の……」
商人「見世物小屋で働く人だったかな、彼らには本当に感謝だよ」
次兄「見世物小屋の人にもお礼ができたんだっけ?」
商人「ああ、彼はこの国の言葉は話せなかったが、見世物小屋の主人に仲介してもらってね。直接会えてよかった」
次兄(……実は、倉庫の裏で発見されてから父さんの知人に預けられるまで、皆に言ってない話がある)
次兄「おまけに幼児並の短絡思考で『バレたら叱られる』しか頭になくて」
商人「『並』どころか疑いようもなく『幼児そのもの』だからね?」
次兄「俺は愚かにも自分から人気のない倉庫の裏に隠れて、結局そこで倒れているのを見つけられたらしい」
商人「次兄の姿が見えなくて家中探している時に、知人がぐったりしたお前を家に運んできたから、驚いたのなんの……」
次兄「でも、その頃には具合もある程度落ち着いて、安らかな寝息を立てていたはずだ」
商人「……細かく覚えているね。私もばあやも、あの時は生きた心地がしなかったよ」
商人「目を離した自分が悪かったとばあやは泣いていたが、それは私も同じだ」
次兄「……勝手に出かけて勝手に知らないものを食べた俺が一番悪いんだよ」
商人「とにかく、お前の顔を知っていて家に届けてくれた知人と、お前を見つけてくれた異国人の……」
商人「見世物小屋で働く人だったかな、彼らには本当に感謝だよ」
次兄「見世物小屋の人にもお礼ができたんだっけ?」
商人「ああ、彼はこの国の言葉は話せなかったが、見世物小屋の主人に仲介してもらってね。直接会えてよかった」
次兄(……実は、倉庫の裏で発見されてから父さんの知人に預けられるまで、皆に言ってない話がある)
625: ◆54DIlPdu2E:2015/06/26(金) 22:33:41.57:G33yq/jk0 (4/6)
次兄(寒気を感じつつ、意識朦朧とする中、通りかかった異国人の男が俺を抱きかかえ、見世物小屋に運んでくれた)
次兄(そこには見たことない二匹の大きな獣……猫を細長く巨大にしたような、黄色に黒い斑点の脚の長い動物と)
次兄(大きな犬にも見えるが、犬にはありえない縞模様の奇妙な骨太の耳の尖った動物)
次兄(後日、図鑑で調べたところ、南の国にいるチーターとシマハイエナとかいう肉食の猛獣らしいが)
次兄(明らかに異種なのに、仲良く寄り添っていたのを覚えている)
次兄(今思い返せば安全のためか口輪をはめられ鎖に繋がれていたが、それを抜きにしてもおとなしかった)
次兄(二匹とも俺を助けてくれた男をよくよく信頼しているのかもしれないが、それはともかく)
次兄(抱き上げた俺の体がずいぶん冷たいと感じたんだろうな)
次兄(男は俺を、寝そべる二匹の獣の間に挟み込んで、人を呼びに行ったのか、すぐ立ち去った)
次兄(大きな獣の息遣いで微かに動く毛皮に覆われた身体は、獣臭くもあったが、それはそれは暖かく、実に心地よかった)
次兄(体が暖まるにつれ、不安だった心も安らかになって、そのままスヤスヤ眠ってしまった)
次兄(次の記憶は自分の部屋、視界を覆い尽くすばあやのふとましい体と泣き顔…結局誰にも叱られる事もなく)
次兄(……そして、俺が得たのは、知らない料理は自己防衛すべきと言う教訓と)
次兄(動物の、獣の、アニマルの、けだものの、もふもふの…素晴らしさ、奥深さ……)
次兄(ある意味、俺の一生は11年前に決まってしまいました)
次兄(寒気を感じつつ、意識朦朧とする中、通りかかった異国人の男が俺を抱きかかえ、見世物小屋に運んでくれた)
次兄(そこには見たことない二匹の大きな獣……猫を細長く巨大にしたような、黄色に黒い斑点の脚の長い動物と)
次兄(大きな犬にも見えるが、犬にはありえない縞模様の奇妙な骨太の耳の尖った動物)
次兄(後日、図鑑で調べたところ、南の国にいるチーターとシマハイエナとかいう肉食の猛獣らしいが)
次兄(明らかに異種なのに、仲良く寄り添っていたのを覚えている)
次兄(今思い返せば安全のためか口輪をはめられ鎖に繋がれていたが、それを抜きにしてもおとなしかった)
次兄(二匹とも俺を助けてくれた男をよくよく信頼しているのかもしれないが、それはともかく)
次兄(抱き上げた俺の体がずいぶん冷たいと感じたんだろうな)
次兄(男は俺を、寝そべる二匹の獣の間に挟み込んで、人を呼びに行ったのか、すぐ立ち去った)
次兄(大きな獣の息遣いで微かに動く毛皮に覆われた身体は、獣臭くもあったが、それはそれは暖かく、実に心地よかった)
次兄(体が暖まるにつれ、不安だった心も安らかになって、そのままスヤスヤ眠ってしまった)
次兄(次の記憶は自分の部屋、視界を覆い尽くすばあやのふとましい体と泣き顔…結局誰にも叱られる事もなく)
次兄(……そして、俺が得たのは、知らない料理は自己防衛すべきと言う教訓と)
次兄(動物の、獣の、アニマルの、けだものの、もふもふの…素晴らしさ、奥深さ……)
次兄(ある意味、俺の一生は11年前に決まってしまいました)
626: ◆54DIlPdu2E:2015/06/26(金) 22:36:04.71:G33yq/jk0 (5/6)
次兄(あのふっさふさの生命体達と同じこの地球に生まれてきて本当に良かったと心から思ったあの日)
次兄(おかげで俺はいまだに小型獣よりは適度な大型の獣、草食獣よりは肉食獣)
次兄(スベスベではなくもふもふの手触りに惹かれるのでしょう、と自己分析し)
商人「……そんな次兄がこんなに元気で、(それなりに)大きく育って、本当によかった……」
次兄「ハッ」
次兄(……全然聞いていなかったが、父さんの思い出話はまだ継続していたのか)
末妹「体が弱くても生命力の強い人がいるって、前に学校の先生が仰ってた、きっとお兄ちゃんはそういう子だったのね」
次兄(お前も父さんと会話を続けていたのか、まったく気付かなかった……)
商人「……小さくて、か弱くて、ひたすら守るべき存在だとばかり思っていた次兄も16歳、末妹も14歳、早いものだ」
商人「大きくなったお前達が一生懸命考えて、父親に真剣にぶつかって来た、父さんも真剣にその答えを出そうと考えたよ」
次兄(え? え? 何の話? 何の話をしているの????)
商人「……二週間だ。とりあえず、二週間したら父さん達の待つ家に帰ると、必ず約束してほしい」
商人「野獣の元を再び訪れ、彼やお屋敷の皆さんにお礼を言って、色々と楽しいお話をしておいで」
末妹「……お父さん!!」
次兄「 」ボーゼン
…………
次兄(あのふっさふさの生命体達と同じこの地球に生まれてきて本当に良かったと心から思ったあの日)
次兄(おかげで俺はいまだに小型獣よりは適度な大型の獣、草食獣よりは肉食獣)
次兄(スベスベではなくもふもふの手触りに惹かれるのでしょう、と自己分析し)
商人「……そんな次兄がこんなに元気で、(それなりに)大きく育って、本当によかった……」
次兄「ハッ」
次兄(……全然聞いていなかったが、父さんの思い出話はまだ継続していたのか)
末妹「体が弱くても生命力の強い人がいるって、前に学校の先生が仰ってた、きっとお兄ちゃんはそういう子だったのね」
次兄(お前も父さんと会話を続けていたのか、まったく気付かなかった……)
商人「……小さくて、か弱くて、ひたすら守るべき存在だとばかり思っていた次兄も16歳、末妹も14歳、早いものだ」
商人「大きくなったお前達が一生懸命考えて、父親に真剣にぶつかって来た、父さんも真剣にその答えを出そうと考えたよ」
次兄(え? え? 何の話? 何の話をしているの????)
商人「……二週間だ。とりあえず、二週間したら父さん達の待つ家に帰ると、必ず約束してほしい」
商人「野獣の元を再び訪れ、彼やお屋敷の皆さんにお礼を言って、色々と楽しいお話をしておいで」
末妹「……お父さん!!」
次兄「 」ボーゼン
…………
627: ◆54DIlPdu2E:2015/06/26(金) 22:36:52.73:G33yq/jk0 (6/6)
※繋ぎ回なので短いけどここまで。次回は土日に最低でも1回※
学○ひみつシリーズ(嘘)・次兄のひみつ でした
※繋ぎ回なので短いけどここまで。次回は土日に最低でも1回※
学○ひみつシリーズ(嘘)・次兄のひみつ でした
628:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/26(金) 23:07:28.47:SqIFrOCAO (2/2)
すべすべも、ぷにぷにも、ごつごつも、ざらざらも、もふもふも
みんな違って、みんな良い。
すべすべも、ぷにぷにも、ごつごつも、ざらざらも、もふもふも
みんな違って、みんな良い。
629: ◆54DIlPdu2E:2015/06/28(日) 00:00:13.65:IQ6ayheQ0 (1/12)
商人「さて、せっかくお祭りに来たんだ、昼食は3人で一緒に食べるとして」
商人「港のどこからでも見える大時計が正午になったら、『英雄の銅像』前で待ち合わせ」
商人「……それまで、好きなところを見ておいで?」
次兄「わ、わかった。俺、あちこち回ってきますです」シュタッ
次兄(少しの間ひとりになって、頭を冷やしたくもあり……)
末妹「……私はお父さんと見て回りたいな。いいでしょ?」
商人「お前がそうしたいなら、勿論いいよ」
人々の賑わい:ワイワイガヤガヤ
商人「家で待っているみんなへのお土産は、こんな感じかな?」
末妹「そうね。あ……お父さん、あのお店、覗いていい?」
商人「いいよ。どれどれ……」
出店の店員「このスカーフ、珍しい色使いだろう? お嬢ちゃんなら、リボン代わりに髪に結んでもいいね」
末妹「わあ、きれい……」
商人「さて、せっかくお祭りに来たんだ、昼食は3人で一緒に食べるとして」
商人「港のどこからでも見える大時計が正午になったら、『英雄の銅像』前で待ち合わせ」
商人「……それまで、好きなところを見ておいで?」
次兄「わ、わかった。俺、あちこち回ってきますです」シュタッ
次兄(少しの間ひとりになって、頭を冷やしたくもあり……)
末妹「……私はお父さんと見て回りたいな。いいでしょ?」
商人「お前がそうしたいなら、勿論いいよ」
人々の賑わい:ワイワイガヤガヤ
商人「家で待っているみんなへのお土産は、こんな感じかな?」
末妹「そうね。あ……お父さん、あのお店、覗いていい?」
商人「いいよ。どれどれ……」
出店の店員「このスカーフ、珍しい色使いだろう? お嬢ちゃんなら、リボン代わりに髪に結んでもいいね」
末妹「わあ、きれい……」
630: ◆54DIlPdu2E:2015/06/28(日) 00:05:17.56:IQ6ayheQ0 (2/12)
商人「気に入ったかい? では、それをいただこうか」
出店の店員「ありがとうございます♪」
末妹「嬉しい、一目見て気に入ったの……ありがとうお父さん!」
商人(以前、長姉にねだられた同じ一枚のスカーフの価格で、これが50枚は買えるなあ)
商人(これもモノは悪くないがね、織りも染色もなかなか丁寧だ。工房が無名なだけで……)
商人「他にも欲しいものがあったら、なんでも言っていいんだよ?」
末妹「ううん、このスカーフがすごく気に入ったから、満足。あとは見て歩くだけで、じゅうぶん楽しいもの」
末妹「あ、お父さん。『小鳥占い』だって」
商人「ああ、東洋の見世物だよ。小鳥がくじを引いて運勢を占ってくれるんだ。寄って行くかい?」
末妹「うん!」
~
占い師「ハイ、ソレデハ今カラ、コノ可愛ラシイオ客様ノ運勢ヲ占イマース」代金マエバライ
鳥籠の戸:スッ
小鳥「ピピピ……」チョコチョコ
商人「気に入ったかい? では、それをいただこうか」
出店の店員「ありがとうございます♪」
末妹「嬉しい、一目見て気に入ったの……ありがとうお父さん!」
商人(以前、長姉にねだられた同じ一枚のスカーフの価格で、これが50枚は買えるなあ)
商人(これもモノは悪くないがね、織りも染色もなかなか丁寧だ。工房が無名なだけで……)
商人「他にも欲しいものがあったら、なんでも言っていいんだよ?」
末妹「ううん、このスカーフがすごく気に入ったから、満足。あとは見て歩くだけで、じゅうぶん楽しいもの」
末妹「あ、お父さん。『小鳥占い』だって」
商人「ああ、東洋の見世物だよ。小鳥がくじを引いて運勢を占ってくれるんだ。寄って行くかい?」
末妹「うん!」
~
占い師「ハイ、ソレデハ今カラ、コノ可愛ラシイオ客様ノ運勢ヲ占イマース」代金マエバライ
鳥籠の戸:スッ
小鳥「ピピピ……」チョコチョコ
631: ◆54DIlPdu2E:2015/06/28(日) 00:08:41.83:IQ6ayheQ0 (3/12)
末妹「うわあ、可愛い……」
小鳥「ピピ…ピ」ウーム
小鳥「ピ!」コレダ!
占い師「ヨシヨシ、ゴ褒美ダヨー」
小鳥「ピ」ドヤァ
くじ:パラリ
占い師「…健康運・現状維持 美容運・今後上昇 仕事(勉強)運・勤勉ハ尊シ 恋愛ウ…」
商人「」ピクッ
占い師「…………オ嬢サマニハチョト早イカナー?」
商人「……占いは占いだ、続けてください」オトウサンソンナチイサイオトコジャナイヨ
占い師「恋愛運・山アリ谷アリ、最後ニハ幸セニ」
商人「……ありがちかな。ま、大概の人は通る道だよ」ハハハ
末妹「……」
占い師「総合運……今ノ願イ、五割程度ハ確実ニ叶ウ、残リハ努力次第、ト。コンナンデマシタ」
末妹「うわあ、可愛い……」
小鳥「ピピ…ピ」ウーム
小鳥「ピ!」コレダ!
占い師「ヨシヨシ、ゴ褒美ダヨー」
小鳥「ピ」ドヤァ
くじ:パラリ
占い師「…健康運・現状維持 美容運・今後上昇 仕事(勉強)運・勤勉ハ尊シ 恋愛ウ…」
商人「」ピクッ
占い師「…………オ嬢サマニハチョト早イカナー?」
商人「……占いは占いだ、続けてください」オトウサンソンナチイサイオトコジャナイヨ
占い師「恋愛運・山アリ谷アリ、最後ニハ幸セニ」
商人「……ありがちかな。ま、大概の人は通る道だよ」ハハハ
末妹「……」
占い師「総合運……今ノ願イ、五割程度ハ確実ニ叶ウ、残リハ努力次第、ト。コンナンデマシタ」
632: ◆54DIlPdu2E:2015/06/28(日) 00:10:28.37:IQ6ayheQ0 (4/12)
末妹「努力次第……ありがとう、お姉さん、小鳥さん」
占い師「ドイタシマシテ」
小鳥「ピピッピー」バイバーイ
商人「楽しかったかい?」
末妹「うん、小鳥もすごく可愛かったし、占って良かった」
商人(誰に当たっても無難な文言にはなっているのだけどね、こういうのは)
商人(私も珍しいものが見れたし、この子が楽しめたなら良しとしよう)
末妹「……」
末妹(占いは占い、だけど)
末妹(自分の願いを叶えるには努力しないと、ただ待っているだけではダメなのね)
末妹(当たり前の話かもしれないけれど、私、出来ることをがんばろう)
末妹(がんばって、野獣様と本当の友達になるんだ)
…………
末妹「努力次第……ありがとう、お姉さん、小鳥さん」
占い師「ドイタシマシテ」
小鳥「ピピッピー」バイバーイ
商人「楽しかったかい?」
末妹「うん、小鳥もすごく可愛かったし、占って良かった」
商人(誰に当たっても無難な文言にはなっているのだけどね、こういうのは)
商人(私も珍しいものが見れたし、この子が楽しめたなら良しとしよう)
末妹「……」
末妹(占いは占い、だけど)
末妹(自分の願いを叶えるには努力しないと、ただ待っているだけではダメなのね)
末妹(当たり前の話かもしれないけれど、私、出来ることをがんばろう)
末妹(がんばって、野獣様と本当の友達になるんだ)
…………
633: ◆54DIlPdu2E:2015/06/28(日) 00:13:51.05:IQ6ayheQ0 (5/12)
次兄「馬に跨る『英雄の像』」
英雄の像:ムゴーン
次兄「南の港町ではメジャーな待ち合わせスポットで、英雄のモデルとなっているのは……」
次兄「……なっているのは、誰だったかな」
次兄「お、思い出した。200年以上前の王の弟君の、若い頃の姿だ」
次兄「250年前、まだ二十歳そこそこの王子だった頃、無敵を誇る軍を持っていた西の島国との戦いで戦績を上げ」
次兄「しかも双方の犠牲者を最低限に抑える戦術を編み出したとかで、のちに西の島国との和平にも一役買い」
次兄「戦の20年後、即位したばかりの王様……王弟殿下の兄は、例の事件で混乱していた北の小国の民を受け入れ」
次兄「平和的に我が『とある国』の領土にしたのだが、その裏で活躍したのがこの王弟」
次兄「その領土を虎視眈々と狙っていた周辺国の王を説得するなどの努力も惜しまず」
次兄「おかげで小国の土地を巡る周辺国との無駄な争い、流血を避けたという意味でも、我が国の英雄なのだった」
次兄「ちなみに普段は王都ではなく、この南の港町郊外のお城に住んでいたそうで、所縁の地ってわけです」
次兄「馬に跨る『英雄の像』」
英雄の像:ムゴーン
次兄「南の港町ではメジャーな待ち合わせスポットで、英雄のモデルとなっているのは……」
次兄「……なっているのは、誰だったかな」
次兄「お、思い出した。200年以上前の王の弟君の、若い頃の姿だ」
次兄「250年前、まだ二十歳そこそこの王子だった頃、無敵を誇る軍を持っていた西の島国との戦いで戦績を上げ」
次兄「しかも双方の犠牲者を最低限に抑える戦術を編み出したとかで、のちに西の島国との和平にも一役買い」
次兄「戦の20年後、即位したばかりの王様……王弟殿下の兄は、例の事件で混乱していた北の小国の民を受け入れ」
次兄「平和的に我が『とある国』の領土にしたのだが、その裏で活躍したのがこの王弟」
次兄「その領土を虎視眈々と狙っていた周辺国の王を説得するなどの努力も惜しまず」
次兄「おかげで小国の土地を巡る周辺国との無駄な争い、流血を避けたという意味でも、我が国の英雄なのだった」
次兄「ちなみに普段は王都ではなく、この南の港町郊外のお城に住んでいたそうで、所縁の地ってわけです」
634: ◆54DIlPdu2E:2015/06/28(日) 00:16:26.75:IQ6ayheQ0 (6/12)
次兄「……家庭教師からもあらかた習った筈だが、野獣様絡みで図書館で読んだ歴史書には詳しく書いてあったな」
次兄「しかし実物が銅像通りの姿の人物だったとしたら、長身でいい体で知的な男前、いいケツした名馬を乗りこなし……」
次兄「王子様はこーでなきゃ、って人物だね」
次兄「……機械オタク伯爵を説得に来た小国の王子様ってのは、どんな人だったんだろう」
次兄「あの手記によると、実際に伯爵が会った王子はまだ子供だったけど、全体的にも同情的な書かれ方」
次兄「他の歴史書には信憑性ある描写が少なく…要するに、印象の薄いパッとしないショボい貧相で地味な王子だったのか」
次兄「何も功績を残さず、あまりにも早く死んじゃったから、仕方ないのかな」
次兄「そう言えば、親である小国の王や王妃の肖像画も見たことがない」グウ「腹の虫」
次兄「…大時計が11時58分を指している」
次兄「腹が減った、父さん達早く来ないか…お」
商人「おーい、次兄」
末妹「お兄ちゃーん」
…………
次兄「……家庭教師からもあらかた習った筈だが、野獣様絡みで図書館で読んだ歴史書には詳しく書いてあったな」
次兄「しかし実物が銅像通りの姿の人物だったとしたら、長身でいい体で知的な男前、いいケツした名馬を乗りこなし……」
次兄「王子様はこーでなきゃ、って人物だね」
次兄「……機械オタク伯爵を説得に来た小国の王子様ってのは、どんな人だったんだろう」
次兄「あの手記によると、実際に伯爵が会った王子はまだ子供だったけど、全体的にも同情的な書かれ方」
次兄「他の歴史書には信憑性ある描写が少なく…要するに、印象の薄いパッとしないショボい貧相で地味な王子だったのか」
次兄「何も功績を残さず、あまりにも早く死んじゃったから、仕方ないのかな」
次兄「そう言えば、親である小国の王や王妃の肖像画も見たことがない」グウ「腹の虫」
次兄「…大時計が11時58分を指している」
次兄「腹が減った、父さん達早く来ないか…お」
商人「おーい、次兄」
末妹「お兄ちゃーん」
…………
635: ◆54DIlPdu2E:2015/06/28(日) 00:20:18.95:IQ6ayheQ0 (7/12)
野獣の屋敷、その一室。
野獣「……」
野獣「執事達が立ち入れない部屋はいくつかあるが、殆どはその理由を説明してある」
野獣「ただひとつ、この部屋だけは理由もなく立ち入りを禁じていた」
野獣「忠実な執事達は、その疑問を口にしたことはなかったが……」
野獣「天井から床までの外されることのない覆いが掛けられた奥の壁」
野獣「この紐を引くと……」グイ
覆い:サーッ
野獣「……この壁には両親の大きな肖像画が掛っている、ふたりの結婚を記念して描かれたものだ」
野獣「小国には相応しい画家がいないとして、当時のとある国の著名な肖像画家を招いてな」
野獣「王自身に、自分の国の芸術や文化をまともに育てようという気がなかったのだ、当然と言えば当然だ」
野獣「……母は私に、王子に似ている、顔つきも、白い肌も、金灰色の髪も。違うのは瞳の色くらいだ」
野獣「父もかなり肌は白い、生まれついての銀髪、右目は淡い水色、左目は赤」
野獣「瞳の色素が人一倍薄かったのだろう、現れ方は違うが、私に引き継がれたようだ」
野獣「……お互いに、個人としては望まぬ婚姻だったと聞く」
野獣「どうだ、この絵。二人の表情に、それが表れているではないか」
野獣「この画家の腕前…ある意味、恐ろしくさえある」
野獣の屋敷、その一室。
野獣「……」
野獣「執事達が立ち入れない部屋はいくつかあるが、殆どはその理由を説明してある」
野獣「ただひとつ、この部屋だけは理由もなく立ち入りを禁じていた」
野獣「忠実な執事達は、その疑問を口にしたことはなかったが……」
野獣「天井から床までの外されることのない覆いが掛けられた奥の壁」
野獣「この紐を引くと……」グイ
覆い:サーッ
野獣「……この壁には両親の大きな肖像画が掛っている、ふたりの結婚を記念して描かれたものだ」
野獣「小国には相応しい画家がいないとして、当時のとある国の著名な肖像画家を招いてな」
野獣「王自身に、自分の国の芸術や文化をまともに育てようという気がなかったのだ、当然と言えば当然だ」
野獣「……母は私に、王子に似ている、顔つきも、白い肌も、金灰色の髪も。違うのは瞳の色くらいだ」
野獣「父もかなり肌は白い、生まれついての銀髪、右目は淡い水色、左目は赤」
野獣「瞳の色素が人一倍薄かったのだろう、現れ方は違うが、私に引き継がれたようだ」
野獣「……お互いに、個人としては望まぬ婚姻だったと聞く」
野獣「どうだ、この絵。二人の表情に、それが表れているではないか」
野獣「この画家の腕前…ある意味、恐ろしくさえある」
636: ◆54DIlPdu2E:2015/06/28(日) 00:23:01.66:IQ6ayheQ0 (8/12)
野獣「……この時代に目覚めて、200年間の美術史や、画家の自伝を読んだことがある」
野獣「とある国と西の島国が戦をしていた時代に、画家が敵国の貴族を描いた絵すら大切に保管されているのに」
野獣「この絵が存在した記録はどこにもないばかりか、画家自身が小国の王と王妃の肖像画を描いた事に一切触れていない」
野獣「無い事にしたかったのだろう、腕の良いあまり彼等の内面まで描いてしまった、この不幸な結婚の絵を」グイ
覆い:シャッ
野獣「200年の眠りから目覚め、屋敷内を探索し、この部屋で肖像画を見つけた時」
野獣「今後二度とここには立ち入るまいと思って、施錠をした」
野獣「……つくづく臆病者なのだ、私は」
野獣「舞踏会の夜を、ふたりから受けた扱いを、自分がふたりの子である事実を、思い出すのが」
野獣「……ふたりが罪人として死んだのに、自分がまだ死なないでいる現実を思い知らされるのが、恐ろしかった」
野獣「しかし、私ももうすぐ……罪人として死に行く」
野獣「強くなれなかった罪、変われなかった罪、寂しさに負けて森の獣の命を弄んだ罪」
野獣「自分を信じてくれた少女の心を傷付けた罪」
野獣「……師匠、今なら私にチャンスをくださったと理解できます」
野獣「しかし私はやはり、愚かで弱すぎる、駄目な弟子だったのです……」
…………
野獣「……この時代に目覚めて、200年間の美術史や、画家の自伝を読んだことがある」
野獣「とある国と西の島国が戦をしていた時代に、画家が敵国の貴族を描いた絵すら大切に保管されているのに」
野獣「この絵が存在した記録はどこにもないばかりか、画家自身が小国の王と王妃の肖像画を描いた事に一切触れていない」
野獣「無い事にしたかったのだろう、腕の良いあまり彼等の内面まで描いてしまった、この不幸な結婚の絵を」グイ
覆い:シャッ
野獣「200年の眠りから目覚め、屋敷内を探索し、この部屋で肖像画を見つけた時」
野獣「今後二度とここには立ち入るまいと思って、施錠をした」
野獣「……つくづく臆病者なのだ、私は」
野獣「舞踏会の夜を、ふたりから受けた扱いを、自分がふたりの子である事実を、思い出すのが」
野獣「……ふたりが罪人として死んだのに、自分がまだ死なないでいる現実を思い知らされるのが、恐ろしかった」
野獣「しかし、私ももうすぐ……罪人として死に行く」
野獣「強くなれなかった罪、変われなかった罪、寂しさに負けて森の獣の命を弄んだ罪」
野獣「自分を信じてくれた少女の心を傷付けた罪」
野獣「……師匠、今なら私にチャンスをくださったと理解できます」
野獣「しかし私はやはり、愚かで弱すぎる、駄目な弟子だったのです……」
…………
637: ◆54DIlPdu2E:2015/06/28(日) 00:25:03.22:IQ6ayheQ0 (9/12)
その夜、商人の家、長姉の部屋。
長姉「……でね、講師先生が仕上がったレシピを見て、すごく喜んでくれて」
長姉「受講生に配る分だけじゃなく、保存用も書いて欲しいって言ってくれたの」
長姉「誰かに認められるのがこんなに嬉しいなんて!」
次姉「本当によかったわね、姉さん。はい、これ」
長姉「……なあに? 黒真珠のイヤリング……」
次姉「父さんが次兄と末妹を連れて港のお祭りに行ってきたの。これは姉さんへのお土産」
次姉「南国の真珠採りが直接持ってきたから、お店は通していない分、購入価格はすごく安いんだけど」
長姉「……お父さんが選んだなら品質はいいわね」
長姉「ふうん、デザインもいいじゃない、さすがお父さん」
次姉(真珠のアクセサリーにしようと決めたのはお父さんだけど、この品を選んだのは末妹)
次姉(言わないでって頼まれたし、私も言わないほうがいいと思うから、黙っておくけどね)
その夜、商人の家、長姉の部屋。
長姉「……でね、講師先生が仕上がったレシピを見て、すごく喜んでくれて」
長姉「受講生に配る分だけじゃなく、保存用も書いて欲しいって言ってくれたの」
長姉「誰かに認められるのがこんなに嬉しいなんて!」
次姉「本当によかったわね、姉さん。はい、これ」
長姉「……なあに? 黒真珠のイヤリング……」
次姉「父さんが次兄と末妹を連れて港のお祭りに行ってきたの。これは姉さんへのお土産」
次姉「南国の真珠採りが直接持ってきたから、お店は通していない分、購入価格はすごく安いんだけど」
長姉「……お父さんが選んだなら品質はいいわね」
長姉「ふうん、デザインもいいじゃない、さすがお父さん」
次姉(真珠のアクセサリーにしようと決めたのはお父さんだけど、この品を選んだのは末妹)
次姉(言わないでって頼まれたし、私も言わないほうがいいと思うから、黙っておくけどね)
638: ◆54DIlPdu2E:2015/06/28(日) 00:27:47.47:IQ6ayheQ0 (10/12)
長姉「……ねえ、はっきり言ってあんたの真似だけど、これ……」
次姉「ん?」
長姉「兄さんに頼んで、当面の間、金庫にしまって貰ってくれない? これだけじゃなく、私の宝石ぜんぶ」
長姉「あ、これもあんたの真似だけど、普段使いにできそうなものだけは残しておくわ」
長姉「せっかくお金を貰って働くようになったんだもの、自分の財産は自分で稼いだお金だけと思って」
長姉「正直、形から入るつもりなんだけどね。実際、手元にそれしかなかったら、心底そう思えるようになるわ」
長姉「……そう思えるようになったらいいな、と思ったの」
次姉「……姉さん」
長姉「でも本当の理由は言わないで。私への教育的指導として次姉が部屋からこっそり持ち出した、でもいいから」
次姉「わかった。姉さんの本気、受け止めた」
次姉「とりあえず、明日の料理教室(本番)も頑張ってね」
……
長姉「……ねえ、はっきり言ってあんたの真似だけど、これ……」
次姉「ん?」
長姉「兄さんに頼んで、当面の間、金庫にしまって貰ってくれない? これだけじゃなく、私の宝石ぜんぶ」
長姉「あ、これもあんたの真似だけど、普段使いにできそうなものだけは残しておくわ」
長姉「せっかくお金を貰って働くようになったんだもの、自分の財産は自分で稼いだお金だけと思って」
長姉「正直、形から入るつもりなんだけどね。実際、手元にそれしかなかったら、心底そう思えるようになるわ」
長姉「……そう思えるようになったらいいな、と思ったの」
次姉「……姉さん」
長姉「でも本当の理由は言わないで。私への教育的指導として次姉が部屋からこっそり持ち出した、でもいいから」
次姉「わかった。姉さんの本気、受け止めた」
次姉「とりあえず、明日の料理教室(本番)も頑張ってね」
……
639: ◆54DIlPdu2E:2015/06/28(日) 00:29:49.09:IQ6ayheQ0 (11/12)
さらに夜更け、次兄の部屋。
次兄「さすが気配りのできる男・父さんと、思い遣りあふるる末妹」
次兄「兄さん、姉さん達、家政婦さんへ。お祭りで皆のお土産を買うという発想は、俺には欠片もありませんでした」ゴメンネ
次兄「そもそも我が心はあれから浮足立っております」
(商人「野獣の元を再び訪れ、彼やお屋敷の皆さんにお礼を言って、色々と楽しいお話をしておいで」)
次兄「野獣様&執事さんとの再会が、いよいよ現実に目の前に」
次兄「そう思うと、今まで抑え込んでいた諸々が、滾る沸き立つ奮い立つ!!」ドオォォォン
次兄「……焦ってはいけません。まずは当初の計画通り、末妹と野獣様との喜びの再会を温かく見守りましょう」
次兄「新生・芋蔓的ツンデレアニマルパラダイス計画の第一段階です」
次兄「今夜のところは(都合の)良い夢が見られるよう」スッ…
次兄「枕の下へ……俺が描いた野獣様と執事さんの裸身図(想像)を挿入」ポフ
次兄「夢では何をしても自由、夢では何をしても自由、夢では何をしt……」
次兄「……グー」
夜は、更けて行く……
さらに夜更け、次兄の部屋。
次兄「さすが気配りのできる男・父さんと、思い遣りあふるる末妹」
次兄「兄さん、姉さん達、家政婦さんへ。お祭りで皆のお土産を買うという発想は、俺には欠片もありませんでした」ゴメンネ
次兄「そもそも我が心はあれから浮足立っております」
(商人「野獣の元を再び訪れ、彼やお屋敷の皆さんにお礼を言って、色々と楽しいお話をしておいで」)
次兄「野獣様&執事さんとの再会が、いよいよ現実に目の前に」
次兄「そう思うと、今まで抑え込んでいた諸々が、滾る沸き立つ奮い立つ!!」ドオォォォン
次兄「……焦ってはいけません。まずは当初の計画通り、末妹と野獣様との喜びの再会を温かく見守りましょう」
次兄「新生・芋蔓的ツンデレアニマルパラダイス計画の第一段階です」
次兄「今夜のところは(都合の)良い夢が見られるよう」スッ…
次兄「枕の下へ……俺が描いた野獣様と執事さんの裸身図(想像)を挿入」ポフ
次兄「夢では何をしても自由、夢では何をしても自由、夢では何をしt……」
次兄「……グー」
夜は、更けて行く……
640: ◆54DIlPdu2E:2015/06/28(日) 00:30:21.38:IQ6ayheQ0 (12/12)
※今夜はここまで。※
>>628 うむ。
※今夜はここまで。※
>>628 うむ。
641:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/28(日) 00:40:29.77:d23tgJBAO (1/1)
乙
次兄の偏愛…きっかけは純粋なものだったのにどうしてこんなことに……
乙
次兄の偏愛…きっかけは純粋なものだったのにどうしてこんなことに……
642:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/28(日) 02:55:52.83:BUOxtWN90 (1/1)
おっつ乙
やはり次兄が次兄なんだな…
あと長姉と次姉のエピソード、そりゃ次姉強いわけだ
姉は強し
おっつ乙
やはり次兄が次兄なんだな…
あと長姉と次姉のエピソード、そりゃ次姉強いわけだ
姉は強し
643: ◆54DIlPdu2E:2015/06/29(月) 00:03:17.88:JARsVxmZ0 (1/8)
翌日、料理教室……
受講生3「あら、レシピを書く人が変わったのかしら。前より見やすくなったわ」
受講生4「前回のお菓子のレシピも新しく書き直されたそうよ。せっかくだから、帰りにもらって行こうよ」
長姉(ふふふ……言わないけど、それ私が書いたのよ)ニヤニヤ
幼馴染男「どうしたの、長姉。ご機嫌だね」
長姉「えー、理由を聞きたい? どうしても聞きたい? どうしてもおぉぉ?」モジモジ
幼馴染男「へ? …いや、君が話したくないなら無理に聞こうとは」
長姉「そんなに聞きたかったら仕方ないわ、幼馴染男にだけ教えてあげようかなあ~」
受講生1「あ、あの男の人、今日もいるわ」
受講生2「帰りにカフェに誘ってみようか?」
長姉「!!」クワッ!!
受講生1&2「「」」ビクッ
受講生1「……な、なに、あの娘、もしかしてあの人の彼女?」ガクガク
受講生2「凄まじい殺気だわ……取って喰われそう……」ブルブル
……
翌日、料理教室……
受講生3「あら、レシピを書く人が変わったのかしら。前より見やすくなったわ」
受講生4「前回のお菓子のレシピも新しく書き直されたそうよ。せっかくだから、帰りにもらって行こうよ」
長姉(ふふふ……言わないけど、それ私が書いたのよ)ニヤニヤ
幼馴染男「どうしたの、長姉。ご機嫌だね」
長姉「えー、理由を聞きたい? どうしても聞きたい? どうしてもおぉぉ?」モジモジ
幼馴染男「へ? …いや、君が話したくないなら無理に聞こうとは」
長姉「そんなに聞きたかったら仕方ないわ、幼馴染男にだけ教えてあげようかなあ~」
受講生1「あ、あの男の人、今日もいるわ」
受講生2「帰りにカフェに誘ってみようか?」
長姉「!!」クワッ!!
受講生1&2「「」」ビクッ
受講生1「……な、なに、あの娘、もしかしてあの人の彼女?」ガクガク
受講生2「凄まじい殺気だわ……取って喰われそう……」ブルブル
……
644: ◆54DIlPdu2E:2015/06/29(月) 00:07:07.42:JARsVxmZ0 (2/8)
商人の家。
商人「次兄、魔法で野獣の家に行く時、荷物を持っては行けるのかな?」
次兄「うーん(そもそも俺が荷物扱いだから)、行けると思うよ」
商人「それなら、これはほんの少しだが……私から」ドン
商人「あまり多くても持って行けないかもしれないから、とりあえずこれだけを」
次兄「何これ、ジャガイモと岩塩と高級紅茶……?」
商人「現金だったら、ちょっと露骨かなと思ったのと」
商人「相手が森の中の一軒家に暮らす魔獣(?)だから、お金が必要なのかどうかがわからなかったので、現物で」
商人「いつぞやのお詫びと、お前達の宿代がわりと、我が子へより優しくしてほしいという」
商人「……自分のしたことを思えばいくらの足しにもならんかもしれないが、少しでも伝えたいんだ、私の気持ちだ」
次兄「……父さん」
次兄「ありがとう、野獣様も、料理長さんもきっと喜ぶよ」
商人「……屋敷の使用人は何人いるんだい? お前達の話に出てきたのは、メイドと、料理長と」
次兄「執事さんと、庭師くん。全部で4ひk…人。メイドさんと庭師くんは俺達と同年代(人間ならば)」
商人「ふむ、私が迷い込んだ時の料理はてっきり魔法で出したのかと思ったが」
商人「それだけ使用人がいれば、私に気付かれないように準備をしたり運んだりもできなくはない、かな」
次兄(たぶん、小さくてすばしこい庭師くんやメイドさんなら隠密行動も容易くできるかもね)
商人「……すまんな、ちょっとした好奇心で気になっただけだ」
商人「使用人の皆さんもお前や末妹に親切にしてくれたんだろう? よろしく伝えておくれ」
商人の家。
商人「次兄、魔法で野獣の家に行く時、荷物を持っては行けるのかな?」
次兄「うーん(そもそも俺が荷物扱いだから)、行けると思うよ」
商人「それなら、これはほんの少しだが……私から」ドン
商人「あまり多くても持って行けないかもしれないから、とりあえずこれだけを」
次兄「何これ、ジャガイモと岩塩と高級紅茶……?」
商人「現金だったら、ちょっと露骨かなと思ったのと」
商人「相手が森の中の一軒家に暮らす魔獣(?)だから、お金が必要なのかどうかがわからなかったので、現物で」
商人「いつぞやのお詫びと、お前達の宿代がわりと、我が子へより優しくしてほしいという」
商人「……自分のしたことを思えばいくらの足しにもならんかもしれないが、少しでも伝えたいんだ、私の気持ちだ」
次兄「……父さん」
次兄「ありがとう、野獣様も、料理長さんもきっと喜ぶよ」
商人「……屋敷の使用人は何人いるんだい? お前達の話に出てきたのは、メイドと、料理長と」
次兄「執事さんと、庭師くん。全部で4ひk…人。メイドさんと庭師くんは俺達と同年代(人間ならば)」
商人「ふむ、私が迷い込んだ時の料理はてっきり魔法で出したのかと思ったが」
商人「それだけ使用人がいれば、私に気付かれないように準備をしたり運んだりもできなくはない、かな」
次兄(たぶん、小さくてすばしこい庭師くんやメイドさんなら隠密行動も容易くできるかもね)
商人「……すまんな、ちょっとした好奇心で気になっただけだ」
商人「使用人の皆さんもお前や末妹に親切にしてくれたんだろう? よろしく伝えておくれ」
645: ◆54DIlPdu2E:2015/06/29(月) 00:10:25.99:JARsVxmZ0 (3/8)
次姉「お父さん?」
商人「おや、次姉」
次兄「姉さん、お店は?」
次姉「午前中は兄さんと末妹が出てくれるって」
次姉「……でね、ちょっと金庫に入れたい物があるの。鍵は兄さんから預かったけど、お父さん立ち会ってくれる?」
商人「あ、ああ……いいけど」
商人「新しい金庫の錠前が届いたら、お前も鍵を1つ持ち歩くんだ。今から一人で開け閉めしていいんだよ?」
次姉「うん、今回はまだ『練習』。だから一緒に来て?」
商人「わかったよ。で、何をしまいたいんだ?」
次姉「姉さんの宝石箱」
商人「長姉の? なんでまた」
次姉「……ちょっとね。色々考えた結果。これも姉さんのため」
商人「そ、そうか……まあ、これ以上は詮索しないよ」
次兄(……俺が思うに、姉さん達は既に和解が済んでいる)
次兄(きっと長姉ねえさんに了承済み、もしくは長姉ねえさんの意向だろう)
商人「じゃ、ちょっと地下室に行って来るよ次兄」
……
次姉「お父さん?」
商人「おや、次姉」
次兄「姉さん、お店は?」
次姉「午前中は兄さんと末妹が出てくれるって」
次姉「……でね、ちょっと金庫に入れたい物があるの。鍵は兄さんから預かったけど、お父さん立ち会ってくれる?」
商人「あ、ああ……いいけど」
商人「新しい金庫の錠前が届いたら、お前も鍵を1つ持ち歩くんだ。今から一人で開け閉めしていいんだよ?」
次姉「うん、今回はまだ『練習』。だから一緒に来て?」
商人「わかったよ。で、何をしまいたいんだ?」
次姉「姉さんの宝石箱」
商人「長姉の? なんでまた」
次姉「……ちょっとね。色々考えた結果。これも姉さんのため」
商人「そ、そうか……まあ、これ以上は詮索しないよ」
次兄(……俺が思うに、姉さん達は既に和解が済んでいる)
次兄(きっと長姉ねえさんに了承済み、もしくは長姉ねえさんの意向だろう)
商人「じゃ、ちょっと地下室に行って来るよ次兄」
……
646: ◆54DIlPdu2E:2015/06/29(月) 00:14:24.52:JARsVxmZ0 (4/8)
商人の店。
呼び鈴:チリンチリン
末妹「お客様ね。いらっしゃいませ」
長兄「……あ、あなたは」
師匠「やあ、君は先日も店にいたな」
師匠「……そちらのお嬢さんも妹さんかね? はじめまして」
末妹「はじめまして……」
長兄「ええ、一番下の妹です」
長兄「私(営業用一人称)と次姉がいた時が最初、それから一昨日、次姉と次兄が店にいた時も来てくださったそうですね?」
師匠「ああ、三回目だね」
師匠(三回目の来店でようやく、この少女に会う事ができた……)
師匠「今日は旅先への手土産、贈り物によさそうな物を……紅茶の詰め合わせがいいかな」
長兄「末妹、選ぶの手伝ってあげて」
末妹「はい」ガタ
師匠(お、向こうから近付いて来たか。これは僥倖)
商人の店。
呼び鈴:チリンチリン
末妹「お客様ね。いらっしゃいませ」
長兄「……あ、あなたは」
師匠「やあ、君は先日も店にいたな」
師匠「……そちらのお嬢さんも妹さんかね? はじめまして」
末妹「はじめまして……」
長兄「ええ、一番下の妹です」
長兄「私(営業用一人称)と次姉がいた時が最初、それから一昨日、次姉と次兄が店にいた時も来てくださったそうですね?」
師匠「ああ、三回目だね」
師匠(三回目の来店でようやく、この少女に会う事ができた……)
師匠「今日は旅先への手土産、贈り物によさそうな物を……紅茶の詰め合わせがいいかな」
長兄「末妹、選ぶの手伝ってあげて」
末妹「はい」ガタ
師匠(お、向こうから近付いて来たか。これは僥倖)
647: ◆54DIlPdu2E:2015/06/29(月) 00:17:24.26:JARsVxmZ0 (5/8)
末妹「……これが王都で人気の、果物の香り付き茶葉」
末妹「これは、西の島国では有名な銘柄です。純粋な茶葉の香りを楽しむならこちらを」
師匠「ほう……こんなに種類があるのか」
師匠(…………)鑑定中
師匠(……? この娘、今はなんの魔法も掛けられていない?)
師匠(あの阿呆とはいえ、そんな失敗をするとは考えられん)
師匠(ということは……最初から往復の魔法と偽って、片道分しか掛けなかったのだな)
末妹「こちらは、珍しい東洋のお茶が一缶入っている詰め合わせです」
末妹「……お客様?」
師匠「ああ、すまんすまん。ちょっと考え事をしていたよ」
師匠「……そうだな、その…手前にあるやつにしようか。包んでおくれ」
末妹「これですね? ありがとうございます」
師匠(……本当に、あいつは何を考えているのか、この娘は騙されているとも知らずに……)
……
末妹「……これが王都で人気の、果物の香り付き茶葉」
末妹「これは、西の島国では有名な銘柄です。純粋な茶葉の香りを楽しむならこちらを」
師匠「ほう……こんなに種類があるのか」
師匠(…………)鑑定中
師匠(……? この娘、今はなんの魔法も掛けられていない?)
師匠(あの阿呆とはいえ、そんな失敗をするとは考えられん)
師匠(ということは……最初から往復の魔法と偽って、片道分しか掛けなかったのだな)
末妹「こちらは、珍しい東洋のお茶が一缶入っている詰め合わせです」
末妹「……お客様?」
師匠「ああ、すまんすまん。ちょっと考え事をしていたよ」
師匠「……そうだな、その…手前にあるやつにしようか。包んでおくれ」
末妹「これですね? ありがとうございます」
師匠(……本当に、あいつは何を考えているのか、この娘は騙されているとも知らずに……)
……
648: ◆54DIlPdu2E:2015/06/29(月) 00:20:23.45:JARsVxmZ0 (6/8)
料理教室。
幼馴染男「豆のポタージュスープって案外簡単なんだ、事前に豆を水につけておかないと駄目だけど」
幼馴染男「しかし、君が受講の傍ら助手の仕事も始めたなんて、本気で料理を覚えたいんだね」
長姉「ええ、これも自分磨きよ」ホホホ
受講生1&2「「…」」チラッ
幼馴染男「うん? 君達何か用?」
般若面「………………」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
受講生1&2「「……」」サササ……
幼馴染男「…引っ込んじゃった。なんなんだろう?」
長姉「さ、さあ? あなたの服にスープでもこぼれていたんじゃないの?」
幼馴染男「えっ、そりゃ恥ずかしいな、どこ? 拭いてくれる?」
長姉「はいはい……」フキフキ
長姉(……どう? あんた達の付け入る隙なんかないのよ)チラ
受講生2「…ああ、これは彼女確定だわ……」
受講生1「ちょっと残念、でもまあ彼氏探しが目的で来てるんじゃないから諦めよっと……」
長姉(勝った……勝ったわ、勝利したわ次姉!)フフフフフフフフ
幼馴染男「……何笑っているんだい? 本当に今日の君はご機嫌だね、これもいい仕事に就けたお陰かな」
……
料理教室。
幼馴染男「豆のポタージュスープって案外簡単なんだ、事前に豆を水につけておかないと駄目だけど」
幼馴染男「しかし、君が受講の傍ら助手の仕事も始めたなんて、本気で料理を覚えたいんだね」
長姉「ええ、これも自分磨きよ」ホホホ
受講生1&2「「…」」チラッ
幼馴染男「うん? 君達何か用?」
般若面「………………」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
受講生1&2「「……」」サササ……
幼馴染男「…引っ込んじゃった。なんなんだろう?」
長姉「さ、さあ? あなたの服にスープでもこぼれていたんじゃないの?」
幼馴染男「えっ、そりゃ恥ずかしいな、どこ? 拭いてくれる?」
長姉「はいはい……」フキフキ
長姉(……どう? あんた達の付け入る隙なんかないのよ)チラ
受講生2「…ああ、これは彼女確定だわ……」
受講生1「ちょっと残念、でもまあ彼氏探しが目的で来てるんじゃないから諦めよっと……」
長姉(勝った……勝ったわ、勝利したわ次姉!)フフフフフフフフ
幼馴染男「……何笑っているんだい? 本当に今日の君はご機嫌だね、これもいい仕事に就けたお陰かな」
……
649: ◆54DIlPdu2E:2015/06/29(月) 00:22:33.71:JARsVxmZ0 (7/8)
※今夜はここまで。※
おまけ。
兄弟姉妹で一番頭脳明晰なのは次姉。次兄も実は匹敵する頭脳は持っているが、人格その他に諸々の問題を抱えているためご覧のありさま(ついでだが美形兄妹中、唯一父親似の平凡な容姿)。長兄は平均よりは上程度だが更に努力でカバーするタイプ、何かと柔軟性に乏しいのが難点。末妹も平均よりは上で努力型、柔軟性はあれど遠慮がちな性格が難点。長姉も素質は悪くはないが感情的で堪え性もない、しかし支援者と具体的な目的があれば努力もできる。……作者が作中で表現できているかはさて置き
※今夜はここまで。※
おまけ。
兄弟姉妹で一番頭脳明晰なのは次姉。次兄も実は匹敵する頭脳は持っているが、人格その他に諸々の問題を抱えているためご覧のありさま(ついでだが美形兄妹中、唯一父親似の平凡な容姿)。長兄は平均よりは上程度だが更に努力でカバーするタイプ、何かと柔軟性に乏しいのが難点。末妹も平均よりは上で努力型、柔軟性はあれど遠慮がちな性格が難点。長姉も素質は悪くはないが感情的で堪え性もない、しかし支援者と具体的な目的があれば努力もできる。……作者が作中で表現できているかはさて置き
650:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/29(月) 00:55:03.34:effXlFiAO (1/1)
乙
さて師匠はどうする
乙
さて師匠はどうする
651: ◆54DIlPdu2E:2015/06/29(月) 22:52:51.44:JARsVxmZ0 (8/8)
※今日は休みます。火曜か水曜か木曜の夜、今よりもう少し早い時間で(たぶん)※
※今日は休みます。火曜か水曜か木曜の夜、今よりもう少し早い時間で(たぶん)※
652: ◆54DIlPdu2E:2015/06/30(火) 21:45:59.53:5iNfhzkK0 (1/11)
商人の家、居間。
商人「明日で『二週間』になるが、どうするんだいお前と末妹は」
次兄「……正直、すぐにでも行きたいんだけどさ」
次兄「父さんから兄さん達にはもう説明したのかもしれないが、俺や末妹の口からも皆にきちんと話しをしたい」
次兄「そのためとその後にも少しは時間を必要とするから、明日一日はまだ家を出ないよ」
次兄「今度は戻る日を決めた上での旅だけど、俺達と野獣様達はこれから先も交流を続けられるよう…」
次兄「…これから先も交流を続けたいんだ、だから俺達は野獣様にも改めてその気持ちを伝えたいし」
次兄「その前に、兄さん達の弟妹は『ヒトならざる存在』と、人呼んで『怪物』と、友達付き合いを続けるつもりだ……と」
次兄「兄さん達に、俺達自身がきちんと言いたい、言わなくちゃ駄目だ」
次兄「そして、兄さんや姉さんがどう考えるかを自分の耳で聞かなくちゃ、と思うんだ……」
商人「……」
次兄「あの野獣様より、比べ物にならないほど残忍で凶暴で、それ以上に狡猾で」
次兄「狡猾だからこそお日様の下で大手を振るって堂々と暮らしている人間なんて、いくらでもいる」
次兄「……実際には、まだそこまでのひどい人間と俺は出会ったことはないけどさ」
次兄「父さんや俺が暮らすこの世の中は、そういう連中もひっくるめた上での『人間の世の中』だ」
次兄「呪いの言い伝えに守られて、周囲を『人間の世の中』に囲まれた屋敷でひっそり暮らしている野様獣は」
次兄「身体が大きくても、『恐ろしい』外見でも、魔法が使えても、それでも」
次兄「どんなに小さくて孤独で不利な存在なのだろうかと、今では思う」
商人の家、居間。
商人「明日で『二週間』になるが、どうするんだいお前と末妹は」
次兄「……正直、すぐにでも行きたいんだけどさ」
次兄「父さんから兄さん達にはもう説明したのかもしれないが、俺や末妹の口からも皆にきちんと話しをしたい」
次兄「そのためとその後にも少しは時間を必要とするから、明日一日はまだ家を出ないよ」
次兄「今度は戻る日を決めた上での旅だけど、俺達と野獣様達はこれから先も交流を続けられるよう…」
次兄「…これから先も交流を続けたいんだ、だから俺達は野獣様にも改めてその気持ちを伝えたいし」
次兄「その前に、兄さん達の弟妹は『ヒトならざる存在』と、人呼んで『怪物』と、友達付き合いを続けるつもりだ……と」
次兄「兄さん達に、俺達自身がきちんと言いたい、言わなくちゃ駄目だ」
次兄「そして、兄さんや姉さんがどう考えるかを自分の耳で聞かなくちゃ、と思うんだ……」
商人「……」
次兄「あの野獣様より、比べ物にならないほど残忍で凶暴で、それ以上に狡猾で」
次兄「狡猾だからこそお日様の下で大手を振るって堂々と暮らしている人間なんて、いくらでもいる」
次兄「……実際には、まだそこまでのひどい人間と俺は出会ったことはないけどさ」
次兄「父さんや俺が暮らすこの世の中は、そういう連中もひっくるめた上での『人間の世の中』だ」
次兄「呪いの言い伝えに守られて、周囲を『人間の世の中』に囲まれた屋敷でひっそり暮らしている野様獣は」
次兄「身体が大きくても、『恐ろしい』外見でも、魔法が使えても、それでも」
次兄「どんなに小さくて孤独で不利な存在なのだろうかと、今では思う」
653: ◆54DIlPdu2E:2015/06/30(火) 21:48:22.91:5iNfhzkK0 (2/11)
次兄「野獣様には人間の味方が必要なんだ、『人間の世の中で暮らしている人間』の味方が」
商人「次兄、お前……」
次兄「……俺も末妹も、まだまだ父さんに守られている未熟なガキだから」
次兄「敵意のある人間から野獣様を守る、とか、人間社会との架け橋になる、とかご大層なことはできないし言えないけど」
次兄「万が一の際には、うちの地下野菜貯蔵庫に野獣様を匿うくらいはできるはず!」
商人「……そこだけあまりに具体的だから、父さんリアルに想像できちゃったよ」
商人「人間の味方が必要、か……」
次兄「俺の勝手な思いだよ。父さんは、どう思う?」
商人「我が子の友人が危険な事に巻き込まれた時、友を見捨てて自分だけ逃げなさい、などと子に言う親にはなりたくない」
商人「……親としての本音はさて置いて、だけどね」ボソ
次兄「父さん」
商人「うん、不安もあるけど……私は嬉しいんだ。お前が『友達』を欲しいなんて」
次兄「……人間の、同年代の、じゃなくても?」
商人「次兄に同年代の友達を作ってやれなかったのは、配慮が色々と足りなかった父さんの責任だが」
次兄「……」
次兄「野獣様には人間の味方が必要なんだ、『人間の世の中で暮らしている人間』の味方が」
商人「次兄、お前……」
次兄「……俺も末妹も、まだまだ父さんに守られている未熟なガキだから」
次兄「敵意のある人間から野獣様を守る、とか、人間社会との架け橋になる、とかご大層なことはできないし言えないけど」
次兄「万が一の際には、うちの地下野菜貯蔵庫に野獣様を匿うくらいはできるはず!」
商人「……そこだけあまりに具体的だから、父さんリアルに想像できちゃったよ」
商人「人間の味方が必要、か……」
次兄「俺の勝手な思いだよ。父さんは、どう思う?」
商人「我が子の友人が危険な事に巻き込まれた時、友を見捨てて自分だけ逃げなさい、などと子に言う親にはなりたくない」
商人「……親としての本音はさて置いて、だけどね」ボソ
次兄「父さん」
商人「うん、不安もあるけど……私は嬉しいんだ。お前が『友達』を欲しいなんて」
次兄「……人間の、同年代の、じゃなくても?」
商人「次兄に同年代の友達を作ってやれなかったのは、配慮が色々と足りなかった父さんの責任だが」
次兄「……」
654: ◆54DIlPdu2E:2015/06/30(火) 21:50:22.23:5iNfhzkK0 (3/11)
商人「『動物好き』なお前が、小さい頃からペットを飼いたいとねだったことは一度もなかった」
商人「欲しがったものは、毛皮と動物の本」
商人「最初は不思議だったが、やがて理由がなんとなく理解できてきた」
商人「私は子供の頃から馬が好きで、学生の時も乗合馬車の馬小屋でアルバイトをしていたくらいだが」
商人「人慣れた家畜、物言わぬ動物でも、お互い通い合うものがなければ仲良くはなれない、何度も思い知らされた」
商人「……次兄は、生身の動物に対しても、きょうだい以外の同年代の子供達に対しても」
商人「身近にいて欲しいと思った相手に自分の心が通じなかったらどうしよう、受け入れられなかったらどうしよう、と」
商人「それが怖くて踏み出せなかった、そうだろう?」
次兄「…………」
次兄「父さんは俺の過去、俺という人間を、美化しすぎです」
次兄「10年前の初等学校の件、父さんは何も悪くないし、俺には人間の友達は今でも不要だと思っているし」
次兄「好みの獣には一方的でいいから欲望にまかせてスキンシップを図りたくなる、この瞬間でさえ」
商人「たとえそうであっても、今の次兄はあの野獣の『人間の味方』になろうとしている」
商人「私は、それがただただ、嬉しかったんだよ」
次兄「……父さん」
次兄「俺、父さんの子供でよかった。父さんが俺の親でよかった」
商人「おいおい、唐突に何を言い出すんだ次兄」デヘヘ
商人「『動物好き』なお前が、小さい頃からペットを飼いたいとねだったことは一度もなかった」
商人「欲しがったものは、毛皮と動物の本」
商人「最初は不思議だったが、やがて理由がなんとなく理解できてきた」
商人「私は子供の頃から馬が好きで、学生の時も乗合馬車の馬小屋でアルバイトをしていたくらいだが」
商人「人慣れた家畜、物言わぬ動物でも、お互い通い合うものがなければ仲良くはなれない、何度も思い知らされた」
商人「……次兄は、生身の動物に対しても、きょうだい以外の同年代の子供達に対しても」
商人「身近にいて欲しいと思った相手に自分の心が通じなかったらどうしよう、受け入れられなかったらどうしよう、と」
商人「それが怖くて踏み出せなかった、そうだろう?」
次兄「…………」
次兄「父さんは俺の過去、俺という人間を、美化しすぎです」
次兄「10年前の初等学校の件、父さんは何も悪くないし、俺には人間の友達は今でも不要だと思っているし」
次兄「好みの獣には一方的でいいから欲望にまかせてスキンシップを図りたくなる、この瞬間でさえ」
商人「たとえそうであっても、今の次兄はあの野獣の『人間の味方』になろうとしている」
商人「私は、それがただただ、嬉しかったんだよ」
次兄「……父さん」
次兄「俺、父さんの子供でよかった。父さんが俺の親でよかった」
商人「おいおい、唐突に何を言い出すんだ次兄」デヘヘ
655: ◆54DIlPdu2E:2015/06/30(火) 21:52:27.89:5iNfhzkK0 (4/11)
次兄「うちの美形揃いのきょうだいで俺の容貌だけ平凡でぱっとしないのは父さんに似たからで」
次兄「昔は引き締まった体型もあり少しはモテたと聞くが、今やすっかり冴えないおっさん」
次兄「緊張感の欠片もなく重力に囚われた腹肉、胸毛と反比例した頭髪は冬の荒野で靴下臭い」
次兄「いっぽう商人としては誰もが認める誠実さと、商品を見極める目の確かさ妥協の無さ」
次兄「製造主の人柄と職工達の待遇に至るまで、自分で納得できなきゃ取引しない徹底ぶり」
次兄「阿漕には稼げないし、この国が平和で安定しているからこそ成り立つやり方だけど、固定客は離れない」
次兄「でも国が乱れたらうちみたいな店は真っ先に潰れるだろうね」
商人「生活必需品のみに切り替えるとか、こう見えても危機対応については常に考えているが……聞いてないね」
次兄「そして男としては生ぬるく物足りないお人好し、且つお調子者の面もありプライベートでは時として短絡で軽薄浅慮」
商人「……父さん泣いてもいいかい?」
次兄「それでも、才色兼備で人格者のお母さんが好きになった男だから何かしら長所はあったわけで、そうだろ?」
次兄「少なくとも、とうとうこの歳まで再婚しないほどお母さんとラブラブだったのは間違いないし」
商人「らぶらぶ…………」
次兄「……財産があっても食い潰すだけの怠惰な親、逆に親が身を粉にし働いても不幸にして貧しい家」
次兄「そのどちらでも、俺みたいに虚弱な子供がこの歳まで生きていられる筈がない」
次兄「うちの美形揃いのきょうだいで俺の容貌だけ平凡でぱっとしないのは父さんに似たからで」
次兄「昔は引き締まった体型もあり少しはモテたと聞くが、今やすっかり冴えないおっさん」
次兄「緊張感の欠片もなく重力に囚われた腹肉、胸毛と反比例した頭髪は冬の荒野で靴下臭い」
次兄「いっぽう商人としては誰もが認める誠実さと、商品を見極める目の確かさ妥協の無さ」
次兄「製造主の人柄と職工達の待遇に至るまで、自分で納得できなきゃ取引しない徹底ぶり」
次兄「阿漕には稼げないし、この国が平和で安定しているからこそ成り立つやり方だけど、固定客は離れない」
次兄「でも国が乱れたらうちみたいな店は真っ先に潰れるだろうね」
商人「生活必需品のみに切り替えるとか、こう見えても危機対応については常に考えているが……聞いてないね」
次兄「そして男としては生ぬるく物足りないお人好し、且つお調子者の面もありプライベートでは時として短絡で軽薄浅慮」
商人「……父さん泣いてもいいかい?」
次兄「それでも、才色兼備で人格者のお母さんが好きになった男だから何かしら長所はあったわけで、そうだろ?」
次兄「少なくとも、とうとうこの歳まで再婚しないほどお母さんとラブラブだったのは間違いないし」
商人「らぶらぶ…………」
次兄「……財産があっても食い潰すだけの怠惰な親、逆に親が身を粉にし働いても不幸にして貧しい家」
次兄「そのどちらでも、俺みたいに虚弱な子供がこの歳まで生きていられる筈がない」
656: ◆54DIlPdu2E:2015/06/30(火) 21:55:11.79:5iNfhzkK0 (5/11)
次兄「それに…もっと大金持ちで勤勉な父親でも」
次兄「質実剛健を偏重するガチゴチ体育会系の家風だったりしたら」
次兄「俺の居場所は無くて、やっぱり生きては行けなかったと思う」
次兄「病気で何度か死にかけた時はどれほど心配してくれて、手を尽くしてくれたかも知っている」
次兄「次男でしかも第四子のための薬や治療費を出せる経済状況もだけど」
次兄「それ以上に、父さんが父さんみたいな人だったからこそ、俺はこうして居られると」
次兄「改めて実感できたんだ」
商人「……次兄」
商人「私も、お前という子がいてくれてよかった、こうして、元気に…こんなにいい少年に育ってくれて……」
商人「本当に、よかった」ギュウゥゥゥ
次兄「ぷぉ」ムギョ
商人「……末妹を頼んだぞ」
商人「間違いなく、新しい友達のもとへ送り届けて、そばにいて、また連れ帰っておくれ」
次兄「…」
次兄「まかして」
…………
次兄「それに…もっと大金持ちで勤勉な父親でも」
次兄「質実剛健を偏重するガチゴチ体育会系の家風だったりしたら」
次兄「俺の居場所は無くて、やっぱり生きては行けなかったと思う」
次兄「病気で何度か死にかけた時はどれほど心配してくれて、手を尽くしてくれたかも知っている」
次兄「次男でしかも第四子のための薬や治療費を出せる経済状況もだけど」
次兄「それ以上に、父さんが父さんみたいな人だったからこそ、俺はこうして居られると」
次兄「改めて実感できたんだ」
商人「……次兄」
商人「私も、お前という子がいてくれてよかった、こうして、元気に…こんなにいい少年に育ってくれて……」
商人「本当に、よかった」ギュウゥゥゥ
次兄「ぷぉ」ムギョ
商人「……末妹を頼んだぞ」
商人「間違いなく、新しい友達のもとへ送り届けて、そばにいて、また連れ帰っておくれ」
次兄「…」
次兄「まかして」
…………
657: ◆54DIlPdu2E:2015/06/30(火) 21:58:56.71:5iNfhzkK0 (6/11)
長姉の部屋。
長姉「あの子達が、また怪物の家に戻るって!? どれだけ馬鹿なのあの二人は!!」
次姉「姉さん、声が大きい」
長姉「何よりお父さんがそれを許したなんて、ますます意味わかんない……」
次姉「説明するわ、聞いて」
長姉「……いらない」
長姉「私を仲間外れにしている間に話が進んだんでしょ、で、あんたも兄さんも、お父さんに異論はないんでしょ?」
次姉「あー…」
長姉「お父さんも兄さんもあんたも、末妹とのしばしの別れをたっぷり惜しんであげたらいいのよ」
長姉「私の知ったこっちゃないわ」ガタ
次姉「姉さん、帰ってきたばかりなのにまた出かけるの?」
長姉「末妹達が次に家を出るまで、私は家に帰らない。泊まる場所くらいあるんだから!」
次姉「ちょ、幼馴染男? 先生ご夫妻のお宅に住み込みでしょ、旅行に行くのもまだ先でしょ、ご迷惑よ」
次姉「それとも料理教室の、西通りの未亡人宅? なんて説明するのよ」
長姉「…………」ぐぬぬ
長姉の部屋。
長姉「あの子達が、また怪物の家に戻るって!? どれだけ馬鹿なのあの二人は!!」
次姉「姉さん、声が大きい」
長姉「何よりお父さんがそれを許したなんて、ますます意味わかんない……」
次姉「説明するわ、聞いて」
長姉「……いらない」
長姉「私を仲間外れにしている間に話が進んだんでしょ、で、あんたも兄さんも、お父さんに異論はないんでしょ?」
次姉「あー…」
長姉「お父さんも兄さんもあんたも、末妹とのしばしの別れをたっぷり惜しんであげたらいいのよ」
長姉「私の知ったこっちゃないわ」ガタ
次姉「姉さん、帰ってきたばかりなのにまた出かけるの?」
長姉「末妹達が次に家を出るまで、私は家に帰らない。泊まる場所くらいあるんだから!」
次姉「ちょ、幼馴染男? 先生ご夫妻のお宅に住み込みでしょ、旅行に行くのもまだ先でしょ、ご迷惑よ」
次姉「それとも料理教室の、西通りの未亡人宅? なんて説明するのよ」
長姉「…………」ぐぬぬ
658: ◆54DIlPdu2E:2015/06/30(火) 22:01:55.00:5iNfhzkK0 (7/11)
長姉「じゃ、じゃあ、代わりにあんたが部屋から出て」グイ
次姉「ちょ、押さないでよ」
長姉「あんたもお父さん達もいないものと思って暮らすわ、だから視界に入らないで」グイグイベチ
次姉「いないものって、うちのご飯は(ちゃっかり)食べるくせに…ねえ叩かないでよ!」
長姉「嫌ならとっとと出て行けばいいじゃない!!」ベチベチベチベチツッパリツッパリツキダシ
次姉「姉さ」
ドア:バッタン!!
ガチャガチャ…
次姉「鍵かけたわね、姉さん!」
ドア:シーン……
次姉「話すタイミングを読み誤ったか、私としたことが……」ハァ
次姉「……」
次姉「拗ねてるだけよ、頭が冷えたら落ち着くわ」
次姉「……そうよね?」
…………
長姉「じゃ、じゃあ、代わりにあんたが部屋から出て」グイ
次姉「ちょ、押さないでよ」
長姉「あんたもお父さん達もいないものと思って暮らすわ、だから視界に入らないで」グイグイベチ
次姉「いないものって、うちのご飯は(ちゃっかり)食べるくせに…ねえ叩かないでよ!」
長姉「嫌ならとっとと出て行けばいいじゃない!!」ベチベチベチベチツッパリツッパリツキダシ
次姉「姉さ」
ドア:バッタン!!
ガチャガチャ…
次姉「鍵かけたわね、姉さん!」
ドア:シーン……
次姉「話すタイミングを読み誤ったか、私としたことが……」ハァ
次姉「……」
次姉「拗ねてるだけよ、頭が冷えたら落ち着くわ」
次姉「……そうよね?」
…………
659: ◆54DIlPdu2E:2015/06/30(火) 22:04:21.88:5iNfhzkK0 (8/11)
で、同日夜。
長兄「次兄と末妹の口から聞けてよかったよ」
長兄「俺が思っていた以上に、お前達は色んなことを真剣に考えていたんだな……」
次姉「どんな目に遭うかわからない状況から無事に帰って来た上、その相手と友達になろうなんて」
次姉「悪い野獣じゃなくてよかった、なのかもしれないけれど」
次姉「何よりあんた達が強かったおかげだと思うの」
末妹「私達が……?」
次姉「そう、次兄も末妹も強いわ、お父さんより兄さんより私より、ね」
次兄(……次姉ねえさんより強い俺ですと?)ムムム
次兄(……ああ、想像力が燃え尽きて真っ白な灰と水蒸気に……)プシュー
次姉「だから、今度も無事に戻って来ると信じて待てる」
次姉「……信じているからね」
末妹「うん……」
商人「というわけで、三人とも同じ思いでお前達を送り出せるよ。そりゃ、少しの間さみしい思いはするが」
末妹「三人…」ポツ
次姉「…………」
商人「うん、長姉がこの場にいないのは残念だけど……」
で、同日夜。
長兄「次兄と末妹の口から聞けてよかったよ」
長兄「俺が思っていた以上に、お前達は色んなことを真剣に考えていたんだな……」
次姉「どんな目に遭うかわからない状況から無事に帰って来た上、その相手と友達になろうなんて」
次姉「悪い野獣じゃなくてよかった、なのかもしれないけれど」
次姉「何よりあんた達が強かったおかげだと思うの」
末妹「私達が……?」
次姉「そう、次兄も末妹も強いわ、お父さんより兄さんより私より、ね」
次兄(……次姉ねえさんより強い俺ですと?)ムムム
次兄(……ああ、想像力が燃え尽きて真っ白な灰と水蒸気に……)プシュー
次姉「だから、今度も無事に戻って来ると信じて待てる」
次姉「……信じているからね」
末妹「うん……」
商人「というわけで、三人とも同じ思いでお前達を送り出せるよ。そりゃ、少しの間さみしい思いはするが」
末妹「三人…」ポツ
次姉「…………」
商人「うん、長姉がこの場にいないのは残念だけど……」
660: ◆54DIlPdu2E:2015/06/30(火) 22:09:14.27:5iNfhzkK0 (9/11)
商人「あの子だって色々考えた上で行動している、もう大人だ、お前達が必要以上に心配することはない」
商人「大丈夫、次にふたりが帰宅する時は長姉も一緒に皆で出迎えるよ、って…あれ?」
商人「この話をするのは次姉の役目だったか、すまんすまん、ハハハ」
次姉「……」シーン
商人「っ」
商人「……お、怒っているのかい? ごめん、ごめんよ次姉……」ビクビクオドオド
次姉「? う、ううん、違うの。考え事してただけ……」
商人「そ、それならいいが」
商人「家政婦さんは今日はもう帰ってしまったから、明日みえた時に話をしよう」
末妹「私からお話しするわ、お父さん」
商人「そうか、任せたよ」
次兄「明日は1日かけて、しっかり旅支度をしたいと思うんだ」
商人「ああ、それがいい。不備があっては先方に失礼にもなるからな」
末妹「……」
長兄「どうした、末妹。鏡の正面に立ったりして?」
末妹「ひょっとしたら、だけど……野獣様、魔法の鏡でご覧になっていますか?」
末妹「少しだけ…1日だけ余分に、待っていてください。今度は、お土産も持って行きますね」
…………
商人「あの子だって色々考えた上で行動している、もう大人だ、お前達が必要以上に心配することはない」
商人「大丈夫、次にふたりが帰宅する時は長姉も一緒に皆で出迎えるよ、って…あれ?」
商人「この話をするのは次姉の役目だったか、すまんすまん、ハハハ」
次姉「……」シーン
商人「っ」
商人「……お、怒っているのかい? ごめん、ごめんよ次姉……」ビクビクオドオド
次姉「? う、ううん、違うの。考え事してただけ……」
商人「そ、それならいいが」
商人「家政婦さんは今日はもう帰ってしまったから、明日みえた時に話をしよう」
末妹「私からお話しするわ、お父さん」
商人「そうか、任せたよ」
次兄「明日は1日かけて、しっかり旅支度をしたいと思うんだ」
商人「ああ、それがいい。不備があっては先方に失礼にもなるからな」
末妹「……」
長兄「どうした、末妹。鏡の正面に立ったりして?」
末妹「ひょっとしたら、だけど……野獣様、魔法の鏡でご覧になっていますか?」
末妹「少しだけ…1日だけ余分に、待っていてください。今度は、お土産も持って行きますね」
…………
661: ◆54DIlPdu2E:2015/06/30(火) 22:11:22.19:5iNfhzkK0 (10/11)
安宿の一室。
宿の鏡「アラ、カワイイコ。ダンナモオスキデスネー」
師匠「……はぁ」タメイキ
師匠「あの子達に魔法は掛かっていない、儂は今の時点では関われない」
師匠「要するに、何も起こらない、いや」
師匠「騙されたことにあの娘が気付いて、それを嘆いたら」
師匠「あの愚かで阿呆で情けないポンコツな元弟子の命は……」
師匠「あああ、儂にできるのは死者の後始末しかないと!? せっかく誤差含む220年を追いかけて来たのに!!」
隣室とを隔てる壁:ドン!!
師匠「……いかんいかん、隣人か。壁が薄いのについ大声を……」
師匠「このボロ宿も、たまには儂以外の宿泊者がいるのだったな」
師匠「お詫びに今夜は良い夢を見られる魔法をかけてやる、壁越しに」ポヨン
師匠「……明後日か」
師匠「あの兄妹を見守る傍ら、何か打つ手は本当にないか、諦めずに考えてみよう、悪足掻きでも」
師匠「…あの子達の思いが、愚か者の思い込みを上回れば」
師匠「儂は奇跡という言葉は嫌いだし信じてもいないが、変則的な事態が起こり得る可能性ならば、なくはないかもしれん」
師匠「……」
師匠「不確かな要素を当てにするとは、儂も老いぼれたかもな……」ハアァァァ
…………
安宿の一室。
宿の鏡「アラ、カワイイコ。ダンナモオスキデスネー」
師匠「……はぁ」タメイキ
師匠「あの子達に魔法は掛かっていない、儂は今の時点では関われない」
師匠「要するに、何も起こらない、いや」
師匠「騙されたことにあの娘が気付いて、それを嘆いたら」
師匠「あの愚かで阿呆で情けないポンコツな元弟子の命は……」
師匠「あああ、儂にできるのは死者の後始末しかないと!? せっかく誤差含む220年を追いかけて来たのに!!」
隣室とを隔てる壁:ドン!!
師匠「……いかんいかん、隣人か。壁が薄いのについ大声を……」
師匠「このボロ宿も、たまには儂以外の宿泊者がいるのだったな」
師匠「お詫びに今夜は良い夢を見られる魔法をかけてやる、壁越しに」ポヨン
師匠「……明後日か」
師匠「あの兄妹を見守る傍ら、何か打つ手は本当にないか、諦めずに考えてみよう、悪足掻きでも」
師匠「…あの子達の思いが、愚か者の思い込みを上回れば」
師匠「儂は奇跡という言葉は嫌いだし信じてもいないが、変則的な事態が起こり得る可能性ならば、なくはないかもしれん」
師匠「……」
師匠「不確かな要素を当てにするとは、儂も老いぼれたかもな……」ハアァァァ
…………
662: ◆54DIlPdu2E:2015/06/30(火) 22:12:43.58:5iNfhzkK0 (11/11)
※今回はここまで。※
※今回はここまで。※
663:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/07/01(水) 04:42:58.15:seK4CuXAO (1/2)
乙
おい次兄が格好良いなんてどういうことだってばよ!
乙
おい次兄が格好良いなんてどういうことだってばよ!
664: ◆54DIlPdu2E:2015/07/01(水) 23:10:50.59:LW6dKQVe0 (1/8)
翌日……
家政婦「せっかくですから、どうか楽しんで来てくださいな、末妹様」
家政婦「今度はお家のことを心配なさる必要はないのですから」
末妹「ええ、ありがとう、家政婦さん……」
家政婦「それより、お着替えの衣類は足りますか? 他にも必要な物を思い付かれましたら、お知らせくださいませ」
末妹「私は大丈夫だと思うけど……お兄ちゃんはちょっと心配だなあ……」
末妹「ちょっと聞いてきますね」トトト
次兄の部屋……
末妹「あら? ドアに隙間が……」
ドア:キイィ…
末妹「お兄ちゃん?」ヒョコッ
次兄「!!」ビックン!
次兄「ここここここここここここら、末妹!?」
次兄「乙女が思春期真っただ中にある若年紳士の部屋の扉を不用意に開くものではない!!」ジタバタドドドド
末妹「ご、ごめんなさい!?」ビビッ
末妹「ドアがちょっと開いていたものだから……」
次兄「ぬ、ドアが開いて!? くっ……完璧な防御と思っていたのに詰めが甘かったわあああああああ!!」ズガアアアアン
末妹「あ、あの……?」オドオド
翌日……
家政婦「せっかくですから、どうか楽しんで来てくださいな、末妹様」
家政婦「今度はお家のことを心配なさる必要はないのですから」
末妹「ええ、ありがとう、家政婦さん……」
家政婦「それより、お着替えの衣類は足りますか? 他にも必要な物を思い付かれましたら、お知らせくださいませ」
末妹「私は大丈夫だと思うけど……お兄ちゃんはちょっと心配だなあ……」
末妹「ちょっと聞いてきますね」トトト
次兄の部屋……
末妹「あら? ドアに隙間が……」
ドア:キイィ…
末妹「お兄ちゃん?」ヒョコッ
次兄「!!」ビックン!
次兄「ここここここここここここら、末妹!?」
次兄「乙女が思春期真っただ中にある若年紳士の部屋の扉を不用意に開くものではない!!」ジタバタドドドド
末妹「ご、ごめんなさい!?」ビビッ
末妹「ドアがちょっと開いていたものだから……」
次兄「ぬ、ドアが開いて!? くっ……完璧な防御と思っていたのに詰めが甘かったわあああああああ!!」ズガアアアアン
末妹「あ、あの……?」オドオド
665: ◆54DIlPdu2E:2015/07/01(水) 23:13:13.85:LW6dKQVe0 (2/8)
末妹「ちょっとだけだから、隙間がね、指で表すとこれくらい」8ミリテイド
次兄「な、なんだ、その程度か……深呼吸深呼吸」スーハー
次兄「……ふう。いや、なんだ、施錠を忘れたどころかぴっちり閉めなかった俺が悪かったのです」
次兄「声を荒げてすまなんだ、何の用?」シュタッ
末妹「な、なんだったかしら、記憶が飛んじゃって」
末妹「あ、思い出した…あのね、旅の荷物に着替えや必要な物はないかって、家政婦さんが……」
次兄「ああ……それなら心配いらないよ。二週間だろ、パンt…下着は三枚をローテーションすれば十分」
末妹「これからあちらの地方はここよりずっと寒くなるから、洗濯物もきっと乾きにくいわ」
末妹「前の二枚が乾かないうち、最後の一枚も洗うことになるかもよ?」
次兄「え? 一枚を4~5日ほどもたせれば、滞在中に一度も洗う必要は」
末妹「………………」ジー
次兄「」
次兄(自覚があるかどうかは窺い知れないが、末妹が眉間に微かな縦皺を寄せて俺を見つめている……)
次兄「……兄ちゃんが悪かった。あと三枚追加しておきます」
次兄「自分で他の荷物も見直してみるよ、リストアップしておくから後でチェック頼む」
末妹「……自分でできるのね? 大丈夫ね? 本当ね?」
次兄「大丈夫、きちんとしないと野獣様達にも失礼だからね。お前のおかげで改めて意識付けが成された」
末妹「わかったわ、じゃあまた後でね」
次兄「うむ、世話をかけたな」
ドア:パタン…
末妹「ちょっとだけだから、隙間がね、指で表すとこれくらい」8ミリテイド
次兄「な、なんだ、その程度か……深呼吸深呼吸」スーハー
次兄「……ふう。いや、なんだ、施錠を忘れたどころかぴっちり閉めなかった俺が悪かったのです」
次兄「声を荒げてすまなんだ、何の用?」シュタッ
末妹「な、なんだったかしら、記憶が飛んじゃって」
末妹「あ、思い出した…あのね、旅の荷物に着替えや必要な物はないかって、家政婦さんが……」
次兄「ああ……それなら心配いらないよ。二週間だろ、パンt…下着は三枚をローテーションすれば十分」
末妹「これからあちらの地方はここよりずっと寒くなるから、洗濯物もきっと乾きにくいわ」
末妹「前の二枚が乾かないうち、最後の一枚も洗うことになるかもよ?」
次兄「え? 一枚を4~5日ほどもたせれば、滞在中に一度も洗う必要は」
末妹「………………」ジー
次兄「」
次兄(自覚があるかどうかは窺い知れないが、末妹が眉間に微かな縦皺を寄せて俺を見つめている……)
次兄「……兄ちゃんが悪かった。あと三枚追加しておきます」
次兄「自分で他の荷物も見直してみるよ、リストアップしておくから後でチェック頼む」
末妹「……自分でできるのね? 大丈夫ね? 本当ね?」
次兄「大丈夫、きちんとしないと野獣様達にも失礼だからね。お前のおかげで改めて意識付けが成された」
末妹「わかったわ、じゃあまた後でね」
次兄「うむ、世話をかけたな」
ドア:パタン…
666: ◆54DIlPdu2E:2015/07/01(水) 23:15:57.55:LW6dKQVe0 (3/8)
次兄「……ふぅ」
ドアの鍵:ガチャ
次兄「部屋の窓ガラスはカーテンで覆い、鏡は伏せ、金属光沢のあるものは布をかぶせたりベッドに突っ込んだり」
次兄「鏡の魔法対策は万全との油断から、慢心したものと思われます」チラ
机上に伏せた紙の束から発する瘴気:ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
次兄「……父さんに昨日語ったのは、あれもまた俺の偽らざる思い」
次兄「野獣様や執事さん達がこれからも平穏に暮らし続けるための力になりたいのは本心」
次兄「それはそれとして、いよいよ目の前に迫った再会の時」
次兄「顔を見た途端、はじけそうな俺の想いが勢い余って暴発したら…俺自身にも制御できる自信はない」
次兄「不測の事態を予防するために、またも紙に叩きつける形で発散し解消せねばと……」
次兄「朝っぱらから描いて描いて描きまくりました、絵をですよ」
次兄「……結果、今まで以上に誰にも見せられないモノが紙上に降臨」チラ
机上(以下略):ヌオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…
次兄「鏡の魔法対策はぬかりないが、とにかくこれも鍵のかかる引出しに封印しましょう」ガチャガチャ
次兄「……」
次兄「これがある限り、俺はどこに行こうとも、何が何でも生きて再びこの部屋に帰らねばならぬ運命(さだめ)」フッ…
次兄「……さて、パンツの替えを追加せねば」
次兄「末妹だって女の子、怒らせようものならそれなりに恐ろしい相手になり得るのです」イソイソ
…………
次兄「……ふぅ」
ドアの鍵:ガチャ
次兄「部屋の窓ガラスはカーテンで覆い、鏡は伏せ、金属光沢のあるものは布をかぶせたりベッドに突っ込んだり」
次兄「鏡の魔法対策は万全との油断から、慢心したものと思われます」チラ
机上に伏せた紙の束から発する瘴気:ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
次兄「……父さんに昨日語ったのは、あれもまた俺の偽らざる思い」
次兄「野獣様や執事さん達がこれからも平穏に暮らし続けるための力になりたいのは本心」
次兄「それはそれとして、いよいよ目の前に迫った再会の時」
次兄「顔を見た途端、はじけそうな俺の想いが勢い余って暴発したら…俺自身にも制御できる自信はない」
次兄「不測の事態を予防するために、またも紙に叩きつける形で発散し解消せねばと……」
次兄「朝っぱらから描いて描いて描きまくりました、絵をですよ」
次兄「……結果、今まで以上に誰にも見せられないモノが紙上に降臨」チラ
机上(以下略):ヌオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…
次兄「鏡の魔法対策はぬかりないが、とにかくこれも鍵のかかる引出しに封印しましょう」ガチャガチャ
次兄「……」
次兄「これがある限り、俺はどこに行こうとも、何が何でも生きて再びこの部屋に帰らねばならぬ運命(さだめ)」フッ…
次兄「……さて、パンツの替えを追加せねば」
次兄「末妹だって女の子、怒らせようものならそれなりに恐ろしい相手になり得るのです」イソイソ
…………
667: ◆54DIlPdu2E:2015/07/01(水) 23:19:37.53:LW6dKQVe0 (4/8)
野獣の屋敷、野獣の部屋。
野獣「……1日だけ余分に待っていてください、か」
野獣「すまぬ、末妹、次兄」
野獣「……ドレスとオルゴール、せめてこれを末妹のもとに届けたい」
野獣「その後、これをどうするかは彼女の自由だがな」
野獣「金貨と引き替えに無生物を移動させる魔法……」
野獣「いや、それだとあの家の金貨をこちらが貰わねばならないのか」
野獣「例え一枚であっても金の管理があれだけしっかりしている家だ、迷惑を掛ける」
野獣「かと言って、これからやるべきことを考えると、魔力を大量に使う呪文は使えん」
野獣「……ううむ、一定以下の重さならば、生物無生物問わず無条件で送り届けられる魔法もあったな」
野獣「軽い物しか運べない。人間ならばせいぜい赤ん坊が限界だから、実用性は乏しいので忘れていた」
野獣「これと、時間を遅らせて発動させる魔法を組み合わせた魔法陣を……」
野獣「……これでよし。明日、末妹が真相を知る頃に、家に届くだろう」
野獣「あとは……執事達」
野獣「この部屋の、あの魔法陣を見られたくない。居間に皆を召集することにしよう」
野獣「主人としての、最後の務めを果たさねばな……」
野獣の屋敷、野獣の部屋。
野獣「……1日だけ余分に待っていてください、か」
野獣「すまぬ、末妹、次兄」
野獣「……ドレスとオルゴール、せめてこれを末妹のもとに届けたい」
野獣「その後、これをどうするかは彼女の自由だがな」
野獣「金貨と引き替えに無生物を移動させる魔法……」
野獣「いや、それだとあの家の金貨をこちらが貰わねばならないのか」
野獣「例え一枚であっても金の管理があれだけしっかりしている家だ、迷惑を掛ける」
野獣「かと言って、これからやるべきことを考えると、魔力を大量に使う呪文は使えん」
野獣「……ううむ、一定以下の重さならば、生物無生物問わず無条件で送り届けられる魔法もあったな」
野獣「軽い物しか運べない。人間ならばせいぜい赤ん坊が限界だから、実用性は乏しいので忘れていた」
野獣「これと、時間を遅らせて発動させる魔法を組み合わせた魔法陣を……」
野獣「……これでよし。明日、末妹が真相を知る頃に、家に届くだろう」
野獣「あとは……執事達」
野獣「この部屋の、あの魔法陣を見られたくない。居間に皆を召集することにしよう」
野獣「主人としての、最後の務めを果たさねばな……」
668: ◆54DIlPdu2E:2015/07/01(水) 23:21:42.28:LW6dKQVe0 (5/8)
野獣の屋敷、居間。
庭師「メイドちゃん、なんで僕等いきなり呼ばれたんだと思う?」
メイド「さあ……あ、今日明日にも末妹様が来られるから、お出迎えのお仕事のお言いつけかしら!?」
料理長「しっ、静かに。ご主人様だよ」
野獣「集まったか……」
執事(……お窶れになったな)
野獣「……皆、覚えているか。それぞれ、この家に来た時…私と初めて出会った日を」
執事「……」
メイド「何をいきなり仰るのかしら」
執事「ええ、覚えておりますとも。今ここにいるわたくし達の全てが始まった日です」
野獣「……私がお前達にしたこと、その意味が、わかるか? 本当の意味が」
執事「本当の意味……?」
野獣「森の獣だったお前達に、人間の言葉を喋らせて、人間の真似事をさせる」
野獣「お前達が物言わぬままでは、寂しかった、耐えられなかった」
野獣の屋敷、居間。
庭師「メイドちゃん、なんで僕等いきなり呼ばれたんだと思う?」
メイド「さあ……あ、今日明日にも末妹様が来られるから、お出迎えのお仕事のお言いつけかしら!?」
料理長「しっ、静かに。ご主人様だよ」
野獣「集まったか……」
執事(……お窶れになったな)
野獣「……皆、覚えているか。それぞれ、この家に来た時…私と初めて出会った日を」
執事「……」
メイド「何をいきなり仰るのかしら」
執事「ええ、覚えておりますとも。今ここにいるわたくし達の全てが始まった日です」
野獣「……私がお前達にしたこと、その意味が、わかるか? 本当の意味が」
執事「本当の意味……?」
野獣「森の獣だったお前達に、人間の言葉を喋らせて、人間の真似事をさせる」
野獣「お前達が物言わぬままでは、寂しかった、耐えられなかった」
669: ◆54DIlPdu2E:2015/07/01(水) 23:25:54.79:LW6dKQVe0 (6/8)
野獣「……自分の孤独を紛らわせるだけに、お前達を生まれたままとは違う生き物に作り変えてしまった」
野獣(人の心を読む魔法と、どちらが重い罪だろうか?)
執事「……」
野獣「贖罪になるかどうかはわからんが」
野獣「私にできることはお前達を解放して、それから」
野獣「この先、死ぬまで独りきり、ここで暮らすことだ」
メイド「え」
野獣「……というわけで、明日の朝にお前達の魔法を解こう」
野獣「私との生活を全て忘れ、森や草原に戻り、自由に暮らすがいい」
庭師「…ちょ、ちょっと、ご主人様!! ひどいよ!!」
執事「庭師!」
庭師「だって……」
メイド「そ、そうだ、末妹様たちは? もうすぐここに来られるんでしょう?」
野獣「あの二人は、二度とここに来ることはない」
メイド「……え、だって!? またここに来るための魔法をかけたって!」
野獣「あれは、嘘だ。家に帰す分の魔法しかかけていない」
執事「……!」
野獣「……自分の孤独を紛らわせるだけに、お前達を生まれたままとは違う生き物に作り変えてしまった」
野獣(人の心を読む魔法と、どちらが重い罪だろうか?)
執事「……」
野獣「贖罪になるかどうかはわからんが」
野獣「私にできることはお前達を解放して、それから」
野獣「この先、死ぬまで独りきり、ここで暮らすことだ」
メイド「え」
野獣「……というわけで、明日の朝にお前達の魔法を解こう」
野獣「私との生活を全て忘れ、森や草原に戻り、自由に暮らすがいい」
庭師「…ちょ、ちょっと、ご主人様!! ひどいよ!!」
執事「庭師!」
庭師「だって……」
メイド「そ、そうだ、末妹様たちは? もうすぐここに来られるんでしょう?」
野獣「あの二人は、二度とここに来ることはない」
メイド「……え、だって!? またここに来るための魔法をかけたって!」
野獣「あれは、嘘だ。家に帰す分の魔法しかかけていない」
執事「……!」
670: ◆54DIlPdu2E:2015/07/01(水) 23:28:24.31:LW6dKQVe0 (7/8)
メイド「ちょ…え? あの、だって、そんな!? ご主人様が、末妹様を騙したって仰るんですか!?」
野獣「その通りだ」
メイド「……そ……そんな……どうし…て……」グシュ…
料理長「……話し合いにはなりそうにないですな」
料理長「庭師、メイド。今日はご主人様をそっとしといてあげよう、な?」
執事「……我々はこれで失礼致します。明日また改めて、お話をしませんか」
執事「末妹様のことは……お会いできないのは残念ですが、こうなった以上わたくし達にはどうすることもできません」
メイド「ご、ご主人様が会いたいと思ったら、不思議なお力で…お呼びすること……できるでしょ……」グシュ
野獣「……」
執事「今後の事は、そんなに性急に決める事もありますまい」
執事「しかし、どうか忘れないでください」
執事「わたくし達は貴方様のお側にいるためだけに生まれ変わったと言う事を」
野獣「…………」
ドア:パタン…
野獣「……性急に決める事はない、か」
野獣「しかし、もう私に時間はないのだ。お前達の返事を、待つまでもない……」
…………
メイド「ちょ…え? あの、だって、そんな!? ご主人様が、末妹様を騙したって仰るんですか!?」
野獣「その通りだ」
メイド「……そ……そんな……どうし…て……」グシュ…
料理長「……話し合いにはなりそうにないですな」
料理長「庭師、メイド。今日はご主人様をそっとしといてあげよう、な?」
執事「……我々はこれで失礼致します。明日また改めて、お話をしませんか」
執事「末妹様のことは……お会いできないのは残念ですが、こうなった以上わたくし達にはどうすることもできません」
メイド「ご、ご主人様が会いたいと思ったら、不思議なお力で…お呼びすること……できるでしょ……」グシュ
野獣「……」
執事「今後の事は、そんなに性急に決める事もありますまい」
執事「しかし、どうか忘れないでください」
執事「わたくし達は貴方様のお側にいるためだけに生まれ変わったと言う事を」
野獣「…………」
ドア:パタン…
野獣「……性急に決める事はない、か」
野獣「しかし、もう私に時間はないのだ。お前達の返事を、待つまでもない……」
…………
671: ◆54DIlPdu2E:2015/07/01(水) 23:29:13.73:LW6dKQVe0 (8/8)
※今回はここまでです。次回は未定、なるべく早く。※
※今回はここまでです。次回は未定、なるべく早く。※
672:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/07/01(水) 23:34:40.99:seK4CuXAO (2/2)
乙
あっやっぱりいつもの次兄だった
屋敷のみんなはどうするのかな
乙
あっやっぱりいつもの次兄だった
屋敷のみんなはどうするのかな
673:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/07/02(木) 03:00:42.03:Gy82zGl2O (1/1)
おつ ドキドキしてきた
おつ ドキドキしてきた
674: ◆54DIlPdu2E:2015/07/03(金) 20:10:29.39:c6IWhZf90 (1/14)
その夜。商人の家、末妹の部屋。
末妹「私もお兄ちゃんも荷物は万全(たぶん)、明日はいよいよ……」
末妹「……家に帰ってきた時と同じように、今度は『野獣様のお屋敷に行きたい』と願うだけ」
末妹「大丈夫、できる。お兄ちゃんも一緒だし」チラ
机上の一輪差のバラ:アイカワラズキレイ
末妹「……バラには、今回は私が帰るまでお留守番をしてもらおうかな」
末妹「メイドちゃん元気かなあ。きっと元気だよね」
末妹「すっかり冬毛に生え換わって、前よりもっとムクムクコロコロになっているかもしれない」
末妹「他の皆さんも冬毛かな。執事さんも、あの銀色がかった毛並がもっとフサフサになって」
末妹「……お兄ちゃんが大喜びしそう」
末妹「野獣様も、夏場と冬場で毛が生え換わったりするのかなあ?」
末妹「会えばわかるよね……ふぁ」
末妹「……スー…」
……
次兄の部屋。
次兄「ぬあああああああ心がさんざめいて眠れんんんんんんん!!」ジタバタ
以下省略。
…………
その夜。商人の家、末妹の部屋。
末妹「私もお兄ちゃんも荷物は万全(たぶん)、明日はいよいよ……」
末妹「……家に帰ってきた時と同じように、今度は『野獣様のお屋敷に行きたい』と願うだけ」
末妹「大丈夫、できる。お兄ちゃんも一緒だし」チラ
机上の一輪差のバラ:アイカワラズキレイ
末妹「……バラには、今回は私が帰るまでお留守番をしてもらおうかな」
末妹「メイドちゃん元気かなあ。きっと元気だよね」
末妹「すっかり冬毛に生え換わって、前よりもっとムクムクコロコロになっているかもしれない」
末妹「他の皆さんも冬毛かな。執事さんも、あの銀色がかった毛並がもっとフサフサになって」
末妹「……お兄ちゃんが大喜びしそう」
末妹「野獣様も、夏場と冬場で毛が生え換わったりするのかなあ?」
末妹「会えばわかるよね……ふぁ」
末妹「……スー…」
……
次兄の部屋。
次兄「ぬあああああああ心がさんざめいて眠れんんんんんんん!!」ジタバタ
以下省略。
…………
675: ◆54DIlPdu2E:2015/07/03(金) 20:13:16.73:c6IWhZf90 (2/14)
翌朝。野獣の屋敷、野獣の部屋。
野獣「生真面目な末妹だからな、朝食を摂って、身支度を整え、家族に挨拶をしてから……」
野獣「私が教えた通り、次兄と二人で……おそらくは自分の部屋から、こちらへ向かおうと試みるだろう」
野獣「……それにしても、今朝は執事達の姿が見えない。声も聞こえない」
野獣「昨日のことを怒っているのかもしれないが、屋敷の中にはいるはずだ」
野獣「皆を元に戻すにも魔力を大量に使う、魔法を使わずに探し出したいが」
野獣「……さて、規則正しいあの家のことだ、いつもの朝食時間を考えると、そろそろ……」
鏡「ハイハイ」
……
商人の家、末妹の部屋の前の廊下。
末妹「……そろそろ、行ってきますね、お父さん」
商人「うんうん、二人とも風邪などひかないように、それから……」
次姉「お父さん、それ何回目? 皆、目いっぱい別れの挨拶は交わしたじゃない」
次兄「キリがないのでこれくらいで切り上げさせていただきましょう。ささ、末妹……」
商人「あ……」
長兄「父さん、笑って送り出すって言ったじゃないか」
家政婦「行ってらっしゃいませ、次兄様、末妹様……」
家政婦「……」チラ
観葉植物「」
家政婦(……気にはなっておられるんですね、全く)フイッ
観葉植物(……)ドキドキ
翌朝。野獣の屋敷、野獣の部屋。
野獣「生真面目な末妹だからな、朝食を摂って、身支度を整え、家族に挨拶をしてから……」
野獣「私が教えた通り、次兄と二人で……おそらくは自分の部屋から、こちらへ向かおうと試みるだろう」
野獣「……それにしても、今朝は執事達の姿が見えない。声も聞こえない」
野獣「昨日のことを怒っているのかもしれないが、屋敷の中にはいるはずだ」
野獣「皆を元に戻すにも魔力を大量に使う、魔法を使わずに探し出したいが」
野獣「……さて、規則正しいあの家のことだ、いつもの朝食時間を考えると、そろそろ……」
鏡「ハイハイ」
……
商人の家、末妹の部屋の前の廊下。
末妹「……そろそろ、行ってきますね、お父さん」
商人「うんうん、二人とも風邪などひかないように、それから……」
次姉「お父さん、それ何回目? 皆、目いっぱい別れの挨拶は交わしたじゃない」
次兄「キリがないのでこれくらいで切り上げさせていただきましょう。ささ、末妹……」
商人「あ……」
長兄「父さん、笑って送り出すって言ったじゃないか」
家政婦「行ってらっしゃいませ、次兄様、末妹様……」
家政婦「……」チラ
観葉植物「」
家政婦(……気にはなっておられるんですね、全く)フイッ
観葉植物(……)ドキドキ
676: ◆54DIlPdu2E:2015/07/03(金) 20:16:26.16:c6IWhZf90 (3/14)
末妹「心配しないで。ちゃんとお父さんとの約束を守ります」
部屋のドア:ガチャ…
末妹「じゃあ、ね」ニコリ
次兄「ギャラリーの皆様、あらかじめ説明もしましたが、この先はお静かにお願い致します」シー
次姉「ええ、わかってる、だいじょうぶ」
商人「頼んだよ、頼んだよ、次兄……」
ドア:パタム…
末妹の部屋の中。
末妹「お兄ちゃんと手をつないで、あの時と同じように……」
末妹「目を閉じて、心を落ち着けて」
末妹(野獣様のお屋敷に行きたい、野獣様達に会いたい……)
次兄(野獣様…執事さん……)ワクワク
末妹(……………………)
末妹(……あれ?)
……
野獣は。
野獣「……何度試しても無駄だ」
野獣「……」
野獣「まだ、諦めないのか……」
野獣「もうこの部屋の鏡になるものは全て使い切る、末妹の部屋は見えなくなる」
野獣「……」
末妹「心配しないで。ちゃんとお父さんとの約束を守ります」
部屋のドア:ガチャ…
末妹「じゃあ、ね」ニコリ
次兄「ギャラリーの皆様、あらかじめ説明もしましたが、この先はお静かにお願い致します」シー
次姉「ええ、わかってる、だいじょうぶ」
商人「頼んだよ、頼んだよ、次兄……」
ドア:パタム…
末妹の部屋の中。
末妹「お兄ちゃんと手をつないで、あの時と同じように……」
末妹「目を閉じて、心を落ち着けて」
末妹(野獣様のお屋敷に行きたい、野獣様達に会いたい……)
次兄(野獣様…執事さん……)ワクワク
末妹(……………………)
末妹(……あれ?)
……
野獣は。
野獣「……何度試しても無駄だ」
野獣「……」
野獣「まだ、諦めないのか……」
野獣「もうこの部屋の鏡になるものは全て使い切る、末妹の部屋は見えなくなる」
野獣「……」
677: ◆54DIlPdu2E:2015/07/03(金) 20:21:36.90:c6IWhZf90 (4/14)
末妹達は。
末妹「何かの間違い……何かの間違いよ、絶対、野獣様の所へ行くんだから」
次兄「試しに荷物を減らしてはまた繰り返し、とうとうお手持ちは俺だけになったが、それでも……」
次兄「……お前一人ならいけるかもしれないぞ?」
末妹「だめ、二人で会いに行くの!」フルフル
末妹「野獣様はお兄ちゃんの事も待っているから、待って……野獣様が、待っ……」ポロ
次兄「っ」
末妹「野獣様、どうして……どうして? 会いたいのに、約束した、のに……・」ポロポロボロボロボロボロ
次兄「と、とりあえず少し休もう。平常心でなければ成功しないんだ、休んで、心を落ち着けて、また……」
末妹「…野獣様、私、どうしていいかわかりません……どうしたら……」グスン…グシュ
次兄「末妹……」オロオロ
野獣は……
野獣「……」ズキ
野獣「ふ、思っていた以上に身に堪えるな、これは……」
鏡「ジカンギレ」フッ
野獣「……さようなら、末妹、次兄」
鏡の覆い布:ファサ
野獣「お前達ふたりは、本当に優しくて純真だった」
野獣「いい子達だ、それに見合う幸せな人生が待っているだろう」
野獣「……執事?」ユラ
野獣「執事を、料理長を、庭師を、メイドを……探さなくては」
野獣「皆を解放するのだ、自由にしてやらなくては……」
…………
末妹達は。
末妹「何かの間違い……何かの間違いよ、絶対、野獣様の所へ行くんだから」
次兄「試しに荷物を減らしてはまた繰り返し、とうとうお手持ちは俺だけになったが、それでも……」
次兄「……お前一人ならいけるかもしれないぞ?」
末妹「だめ、二人で会いに行くの!」フルフル
末妹「野獣様はお兄ちゃんの事も待っているから、待って……野獣様が、待っ……」ポロ
次兄「っ」
末妹「野獣様、どうして……どうして? 会いたいのに、約束した、のに……・」ポロポロボロボロボロボロ
次兄「と、とりあえず少し休もう。平常心でなければ成功しないんだ、休んで、心を落ち着けて、また……」
末妹「…野獣様、私、どうしていいかわかりません……どうしたら……」グスン…グシュ
次兄「末妹……」オロオロ
野獣は……
野獣「……」ズキ
野獣「ふ、思っていた以上に身に堪えるな、これは……」
鏡「ジカンギレ」フッ
野獣「……さようなら、末妹、次兄」
鏡の覆い布:ファサ
野獣「お前達ふたりは、本当に優しくて純真だった」
野獣「いい子達だ、それに見合う幸せな人生が待っているだろう」
野獣「……執事?」ユラ
野獣「執事を、料理長を、庭師を、メイドを……探さなくては」
野獣「皆を解放するのだ、自由にしてやらなくては……」
…………
678: ◆54DIlPdu2E:2015/07/03(金) 20:27:25.23:c6IWhZf90 (5/14)
野獣の屋敷地下、薬草とスパイスの保管庫。
メイド「ご主人様が朝から私達の魔法を解くため探しているからって、ここにいるけど……」
メイド「……あああああー!鼻がおかしくなるううう!!」ジタバタジタバタ
料理長「……(料理人が鼻をやられては厄介なのでガッチリ鼻栓しております)」イキハクルシイ
庭師「ううううあああ…キャットニップには耐性があるはずなのに…」
庭師「…この多様多彩なアロマの混沌の中に、恐らく似たような作用の薬草があるううう……」
庭師「なぜか両手の肉球がムズムズしてきたよお…なんか開いちゃ駄目っぽい記憶の扉も開きそうだよおおお」
執事「まさか我々が『入るな』と言われているここに籠っているとは、ご主人様も思わないだろう」
執事「皆、(鼻が)苦しいだろうが少しの辛抱だ」
執事「我々がこのご命令だけは聞けないと理解していただかなければ、話も始まらない」
料理長(ストからの交渉に持ち込むわけですな)
庭師「僕の理性、お願いだから崩壊しないれええええええらめえええええ」ビクンビクン
メイド「庭師くんはもう駄目そう……」
執事「……」
野獣の屋敷地下、薬草とスパイスの保管庫。
メイド「ご主人様が朝から私達の魔法を解くため探しているからって、ここにいるけど……」
メイド「……あああああー!鼻がおかしくなるううう!!」ジタバタジタバタ
料理長「……(料理人が鼻をやられては厄介なのでガッチリ鼻栓しております)」イキハクルシイ
庭師「ううううあああ…キャットニップには耐性があるはずなのに…」
庭師「…この多様多彩なアロマの混沌の中に、恐らく似たような作用の薬草があるううう……」
庭師「なぜか両手の肉球がムズムズしてきたよお…なんか開いちゃ駄目っぽい記憶の扉も開きそうだよおおお」
執事「まさか我々が『入るな』と言われているここに籠っているとは、ご主人様も思わないだろう」
執事「皆、(鼻が)苦しいだろうが少しの辛抱だ」
執事「我々がこのご命令だけは聞けないと理解していただかなければ、話も始まらない」
料理長(ストからの交渉に持ち込むわけですな)
庭師「僕の理性、お願いだから崩壊しないれええええええらめえええええ」ビクンビクン
メイド「庭師くんはもう駄目そう……」
執事「……」
679: ◆54DIlPdu2E:2015/07/03(金) 20:33:19.04:c6IWhZf90 (6/14)
執事の回想(昨夜の話)
(料理長「執事さん、わしはご主人様がそうされたいのならば、森に戻ってもいいと思うのですよ」)
(執事「しかし……お前はもう森での暮らしは」)
(料理長「もちろんこの年寄りは何日も生きてはいけないでしょう、しかしわしは充分に生きました」)
(料理長「森の暮らしは殆ど思い出せないが……女房は何年もの間、わしの子を何匹も産んでくれた」)
(料理長「森での生活はきっと『幸せ』だったと思います」)
(料理長「そして女房が死に、わしもすぐに後を……と思っていた矢先、ご主人様に拾われて」)
(料理長「思いがけず今までと全く違う生き方ができて、しかもそれもまた『幸せ』だった」
(料理長「その新しい『幸せ』をくださったご主人様が、この先をお独りで暮らすことをお望みならば」)
(料理長「それに従うことは道理にかなっていると思うのです」)
(執事「……」)
(料理長「……と言うようなことを、さっき庭師とメイドに話したら」)
(料理長「あの子達は怒るんです、『料理長さんがいなければ誰が料理を作るんだ』と」)
(料理長「ご主人様は我々を手放すからその必要はないだろう、と言ったのですが」)
(料理長「『絶対、末妹様はここに戻ってくる』と」)
(料理長「『末妹様は約束を破らない、たとえ時間がかかっても』」
(料理長「『それに末妹様には次兄様がついている、次兄様はそのためにどんな手だって使うはず』」
(料理長「『だから、あのお二人のために美味しい料理を作らなくちゃ駄目だ』と」)
(執事「あの子達が……」)
執事の回想(昨夜の話)
(料理長「執事さん、わしはご主人様がそうされたいのならば、森に戻ってもいいと思うのですよ」)
(執事「しかし……お前はもう森での暮らしは」)
(料理長「もちろんこの年寄りは何日も生きてはいけないでしょう、しかしわしは充分に生きました」)
(料理長「森の暮らしは殆ど思い出せないが……女房は何年もの間、わしの子を何匹も産んでくれた」)
(料理長「森での生活はきっと『幸せ』だったと思います」)
(料理長「そして女房が死に、わしもすぐに後を……と思っていた矢先、ご主人様に拾われて」)
(料理長「思いがけず今までと全く違う生き方ができて、しかもそれもまた『幸せ』だった」
(料理長「その新しい『幸せ』をくださったご主人様が、この先をお独りで暮らすことをお望みならば」)
(料理長「それに従うことは道理にかなっていると思うのです」)
(執事「……」)
(料理長「……と言うようなことを、さっき庭師とメイドに話したら」)
(料理長「あの子達は怒るんです、『料理長さんがいなければ誰が料理を作るんだ』と」)
(料理長「ご主人様は我々を手放すからその必要はないだろう、と言ったのですが」)
(料理長「『絶対、末妹様はここに戻ってくる』と」)
(料理長「『末妹様は約束を破らない、たとえ時間がかかっても』」
(料理長「『それに末妹様には次兄様がついている、次兄様はそのためにどんな手だって使うはず』」
(料理長「『だから、あのお二人のために美味しい料理を作らなくちゃ駄目だ』と」)
(執事「あの子達が……」)
680: ◆54DIlPdu2E:2015/07/03(金) 20:35:32.88:c6IWhZf90 (7/14)
(料理長「それを聞くとね、わしも現金なもので、また会いたくなってしまったんですよ」)
(料理長「あの可愛らしく優しい末妹様に、女房の絵を描いてくれた次兄様に」)
(料理長「ご主人様も一緒にいらっしゃる席でね」)
(執事「……わたくしも、自分一匹なら、ご主人様のご命令であればどんな結果になろうと従っただろう」)
(執事「が、年老いたお前も、野生で生きる術を覚え切らないまま親の庇護を失った庭師とメイドも」
(執事「魔法を解かれ森に放たれても、数日と生きてはいられないだろう」)
(執事「使用人の長として、皆も従わせる事は皆を見殺しにする事に等しいと考える」)
(執事「それに……」)
(執事「ご主人様も心の底では、末妹様達が戻られる事を望んでいるのでは、と思う」)
(執事「いつかまた、お二人をここに招く日のためにも、わたくしはお前達を守らなくてはならないし」)
(執事「もう一度話し合い、お考えを改めていただくように説得することも辞さない」)
(執事「ご主人様が使えるようにしてくださった『言葉』とは、そのためにあるはずだ」)
……
メイド「……執事様?」
庭師「」シロメ
執事「よし、そろそろこの部屋を出て、ご主人様にこちらから会いに行こう」
執事「皆でもう一度、話をしてみるんだ。きっとわかってくださる」
……
(料理長「それを聞くとね、わしも現金なもので、また会いたくなってしまったんですよ」)
(料理長「あの可愛らしく優しい末妹様に、女房の絵を描いてくれた次兄様に」)
(料理長「ご主人様も一緒にいらっしゃる席でね」)
(執事「……わたくしも、自分一匹なら、ご主人様のご命令であればどんな結果になろうと従っただろう」)
(執事「が、年老いたお前も、野生で生きる術を覚え切らないまま親の庇護を失った庭師とメイドも」
(執事「魔法を解かれ森に放たれても、数日と生きてはいられないだろう」)
(執事「使用人の長として、皆も従わせる事は皆を見殺しにする事に等しいと考える」)
(執事「それに……」)
(執事「ご主人様も心の底では、末妹様達が戻られる事を望んでいるのでは、と思う」)
(執事「いつかまた、お二人をここに招く日のためにも、わたくしはお前達を守らなくてはならないし」)
(執事「もう一度話し合い、お考えを改めていただくように説得することも辞さない」)
(執事「ご主人様が使えるようにしてくださった『言葉』とは、そのためにあるはずだ」)
……
メイド「……執事様?」
庭師「」シロメ
執事「よし、そろそろこの部屋を出て、ご主人様にこちらから会いに行こう」
執事「皆でもう一度、話をしてみるんだ。きっとわかってくださる」
……
681: ◆54DIlPdu2E:2015/07/03(金) 20:40:53.08:c6IWhZf90 (8/14)
屋敷の裏庭。
野獣「もうバラ達が……萎れ始めている」
野獣「……皆、どこに隠れている?」
野獣「屋敷の中のめぼしい場所、表庭、探し回ったが誰も会えず…」
野獣「……最後に来た裏庭(ここ)にもいない」
野獣「私は皆ほど耳も鼻も優れていない、人間と同じくらい鈍い……姿かたちはこうでも、ただの人間に過ぎない」
野獣「姿も見せず、返事もしてくれない者は探せないのだ」
野獣「時間が、もう時間がない……」
野獣「時間が……」
野獣「……皆が、元に戻るのを望まないなら、それもよい」
野獣「確かに今更、野生の生活に戻っても生きては行けまい」
野獣「あまりにも無責任な主人に失望して、姿を隠しているのだろう」
野獣「ならばせめて謝りたいが……もう無理だろうな」
野獣「……使用人達と、あの兄妹と、共に過ごした日々は楽しかった、しかし」
屋敷の裏庭。
野獣「もうバラ達が……萎れ始めている」
野獣「……皆、どこに隠れている?」
野獣「屋敷の中のめぼしい場所、表庭、探し回ったが誰も会えず…」
野獣「……最後に来た裏庭(ここ)にもいない」
野獣「私は皆ほど耳も鼻も優れていない、人間と同じくらい鈍い……姿かたちはこうでも、ただの人間に過ぎない」
野獣「姿も見せず、返事もしてくれない者は探せないのだ」
野獣「時間が、もう時間がない……」
野獣「時間が……」
野獣「……皆が、元に戻るのを望まないなら、それもよい」
野獣「確かに今更、野生の生活に戻っても生きては行けまい」
野獣「あまりにも無責任な主人に失望して、姿を隠しているのだろう」
野獣「ならばせめて謝りたいが……もう無理だろうな」
野獣「……使用人達と、あの兄妹と、共に過ごした日々は楽しかった、しかし」
682: ◆54DIlPdu2E:2015/07/03(金) 20:43:52.70:c6IWhZf90 (9/14)
野獣「私のしたことは……執事達を、獣とも人ともつかぬ中途半端な化け物の仲間に引き入れ」
野獣「……一つの人間の一家を、不幸に陥れかけた」
野獣「あの日々は、新たな私の罪と、犠牲の上にあったのだ」
野獣「……謝って済む物なら…何かと引き替えても取り戻せるなら…」
野獣「……」
野獣「……師匠」
野獣「やはり私は、あの日、バラと共に、朽ちて行くべき……でしたね」
野獣「無力で…愚かな……王子として……」ザッ
野獣「…末妹…」
野獣「末妹が…私にとって、何かの意味なんて持たない存在であれば……よかった」ガサ
野獣「心優しい少女と、とんでもない変わり者の少年、屋敷の皆……ここで一緒に過ごせれば……」
野獣「……ただただ…あの日々が少しでも長く、続いて…欲しかった」
野獣「……私が心から望んだのは、それだけ……だったのです」 ド サ ッ
……
屋根の上の庭師「……!!」
庭師「皆に知らせなきゃ、ご主人様がバラ園で倒れてる!」タッ
……
野獣「私のしたことは……執事達を、獣とも人ともつかぬ中途半端な化け物の仲間に引き入れ」
野獣「……一つの人間の一家を、不幸に陥れかけた」
野獣「あの日々は、新たな私の罪と、犠牲の上にあったのだ」
野獣「……謝って済む物なら…何かと引き替えても取り戻せるなら…」
野獣「……」
野獣「……師匠」
野獣「やはり私は、あの日、バラと共に、朽ちて行くべき……でしたね」
野獣「無力で…愚かな……王子として……」ザッ
野獣「…末妹…」
野獣「末妹が…私にとって、何かの意味なんて持たない存在であれば……よかった」ガサ
野獣「心優しい少女と、とんでもない変わり者の少年、屋敷の皆……ここで一緒に過ごせれば……」
野獣「……ただただ…あの日々が少しでも長く、続いて…欲しかった」
野獣「……私が心から望んだのは、それだけ……だったのです」 ド サ ッ
……
屋根の上の庭師「……!!」
庭師「皆に知らせなきゃ、ご主人様がバラ園で倒れてる!」タッ
……
683: ◆54DIlPdu2E:2015/07/03(金) 20:51:28.40:c6IWhZf90 (10/14)
執事「……どうやら息はしておられる。虫の息だが」
メイド「明け方はあんな大きな声で私達を探していたのに……」アタフタ
メイド「きっと末妹様のお父様と同じで、寂し過ぎてご病気になってしまったんだわ……」オロオロ
執事「……ん?」イワカン
執事「バラが……萎れている?」
庭師・料理長「「台車持って来ました」」ゴロゴロ
……
野獣の部屋。
メイド「ご主人様のお部屋が一階でよかったと、今日ほど思ったことはないわ」
庭師「しかし、台車に乗せるのとベッドに上げるのが……」
料理長「執事さん、大丈夫ですかな……? わしら、不甲斐なくて申し訳ない」
執事「…平気だ、力仕事が、できるのは、この中で、わたくししか、いないものな……」ゼェハァ
執事「ご主人様の体重は、ヒグマ並だ……」
メイド(ヒグマ持ち上げた事あるのかしら)
庭師「ねえ執事さん、バラ園が……」
執事「…ああ、お前も気付いていたか」
執事「真冬の雪にも真夏の日照りにも平気な魔法のバラが、こんなことは初めてだ」
執事「……どうやら息はしておられる。虫の息だが」
メイド「明け方はあんな大きな声で私達を探していたのに……」アタフタ
メイド「きっと末妹様のお父様と同じで、寂し過ぎてご病気になってしまったんだわ……」オロオロ
執事「……ん?」イワカン
執事「バラが……萎れている?」
庭師・料理長「「台車持って来ました」」ゴロゴロ
……
野獣の部屋。
メイド「ご主人様のお部屋が一階でよかったと、今日ほど思ったことはないわ」
庭師「しかし、台車に乗せるのとベッドに上げるのが……」
料理長「執事さん、大丈夫ですかな……? わしら、不甲斐なくて申し訳ない」
執事「…平気だ、力仕事が、できるのは、この中で、わたくししか、いないものな……」ゼェハァ
執事「ご主人様の体重は、ヒグマ並だ……」
メイド(ヒグマ持ち上げた事あるのかしら)
庭師「ねえ執事さん、バラ園が……」
執事「…ああ、お前も気付いていたか」
執事「真冬の雪にも真夏の日照りにも平気な魔法のバラが、こんなことは初めてだ」
684: ◆54DIlPdu2E:2015/07/03(金) 20:54:44.59:c6IWhZf90 (11/14)
執事「きっと何か…我々には理解できない何かが、確実に起きているのだろう、ご主人様とバラ園に」
執事「これは推測だが、ご主人様が弱っているせいでバラも萎れているのだと思う」
メイド「そんなことが……」
執事「あと、これも推測…いや、こうあってほしいという願望だが…」
執事「バラが完全に枯れ切るまでは、きっとご主人様も死にはしないと思う」
庭師「ぼ、僕、バラに水をやってみる!」タッ
執事「次の推測はもっと確信に近い」
料理長「……根拠は?」
執事「…これも勘に過ぎないが……」
執事「末妹様がここへ戻って来られたら、きっとご主人様は助かるはずだ」
メイド「……やっぱり私わかりません、ご主人様がなぜ末妹様に嘘をついてまでお会いにならないのか」
執事「料理長、お前にはわかるか?」
料理長「……ええ、わかります。末妹様は、ご家族に大切にされているお子だからです」
料理長「商人様が、我が子を身代りにして平気でいられる親ならば、ご主人様はお二人を帰さなかった筈」
執事「だろうな。だが、末妹様には帰る家がある、身を案じてくれる家族がおられる」
執事「そして、あのかたもご家族も、人間の世の中で暮らす人間だ」
執事「人から見ればご主人様もいわゆる『怪物』と呼べる存在、人語を解する獣であるわたくし達も含めて」
執事「まともな人間の親ならば、我が子が怪物と付き合うことを良しとはしない」
執事「末妹様の、末妹様のご家族の平穏な暮らしを壊さぬよう、ご主人様はお二人と別れることにしたのだ」
執事「きっと何か…我々には理解できない何かが、確実に起きているのだろう、ご主人様とバラ園に」
執事「これは推測だが、ご主人様が弱っているせいでバラも萎れているのだと思う」
メイド「そんなことが……」
執事「あと、これも推測…いや、こうあってほしいという願望だが…」
執事「バラが完全に枯れ切るまでは、きっとご主人様も死にはしないと思う」
庭師「ぼ、僕、バラに水をやってみる!」タッ
執事「次の推測はもっと確信に近い」
料理長「……根拠は?」
執事「…これも勘に過ぎないが……」
執事「末妹様がここへ戻って来られたら、きっとご主人様は助かるはずだ」
メイド「……やっぱり私わかりません、ご主人様がなぜ末妹様に嘘をついてまでお会いにならないのか」
執事「料理長、お前にはわかるか?」
料理長「……ええ、わかります。末妹様は、ご家族に大切にされているお子だからです」
料理長「商人様が、我が子を身代りにして平気でいられる親ならば、ご主人様はお二人を帰さなかった筈」
執事「だろうな。だが、末妹様には帰る家がある、身を案じてくれる家族がおられる」
執事「そして、あのかたもご家族も、人間の世の中で暮らす人間だ」
執事「人から見ればご主人様もいわゆる『怪物』と呼べる存在、人語を解する獣であるわたくし達も含めて」
執事「まともな人間の親ならば、我が子が怪物と付き合うことを良しとはしない」
執事「末妹様の、末妹様のご家族の平穏な暮らしを壊さぬよう、ご主人様はお二人と別れることにしたのだ」
685: ◆54DIlPdu2E:2015/07/03(金) 20:57:40.27:c6IWhZf90 (12/14)
メイド「末妹様たちのために……?」
執事「そしてご主人様は、末妹様と離れた結果、ご自身がこうなることもご存じだったはず」
執事「主を失った我々の行く末を思えば、何もかも忘れ野生に戻った方がましだと思われたのだろう」
メイド「それが私たちのため、ですって……?」
メイド「……ご主人様、私、難しい事はわかりません」
メイド「だって兎ですから、皆の中で一番、のーみそちっちゃいですから……」
メイド「だけどその私よりも、ご主人様、おバカです」ベッドニヨジノボリ
執事「メイド」
メイド「人間の親は子供が怪物と付き合うのを良しとしない、なんて、だからもう来させないって、おかしいです」
メイド「ご自分が怪物と仰るなら、怪物ルール貫きましょうよ」
メイド「商人様を脅して末妹様を無理矢理連れて来させた時のように、人間の常識なんか知るもんかって態度で……」
メイド「これからの事だって、簡単です」
メイド「ご主人様と商人様が寂しくならない間隔で、末妹様に行ったり来たりしてもらえばいいだけじゃないですか」
メイド「それだけの事なんでわからないんですか、ご主人様のバカバカバカバカバカ!」
メイドの前足:カシカシカシカシカシ
執事「ご主人様の顔を引っ掻くんじゃない」ヒョイ
メイド「お言い付けで爪は丸く整えています、こんな剛毛みっしりのお顔がこの程度で傷付くものですか!」バタバタバタ
メイド「……?」
メイド「執事様、あれは何です?」
執事「ん、末妹様のドレスとオルゴールだが」
メイド「そんなことはわかっています! それが置いてある床ですよ!」
メイド「末妹様たちのために……?」
執事「そしてご主人様は、末妹様と離れた結果、ご自身がこうなることもご存じだったはず」
執事「主を失った我々の行く末を思えば、何もかも忘れ野生に戻った方がましだと思われたのだろう」
メイド「それが私たちのため、ですって……?」
メイド「……ご主人様、私、難しい事はわかりません」
メイド「だって兎ですから、皆の中で一番、のーみそちっちゃいですから……」
メイド「だけどその私よりも、ご主人様、おバカです」ベッドニヨジノボリ
執事「メイド」
メイド「人間の親は子供が怪物と付き合うのを良しとしない、なんて、だからもう来させないって、おかしいです」
メイド「ご自分が怪物と仰るなら、怪物ルール貫きましょうよ」
メイド「商人様を脅して末妹様を無理矢理連れて来させた時のように、人間の常識なんか知るもんかって態度で……」
メイド「これからの事だって、簡単です」
メイド「ご主人様と商人様が寂しくならない間隔で、末妹様に行ったり来たりしてもらえばいいだけじゃないですか」
メイド「それだけの事なんでわからないんですか、ご主人様のバカバカバカバカバカ!」
メイドの前足:カシカシカシカシカシ
執事「ご主人様の顔を引っ掻くんじゃない」ヒョイ
メイド「お言い付けで爪は丸く整えています、こんな剛毛みっしりのお顔がこの程度で傷付くものですか!」バタバタバタ
メイド「……?」
メイド「執事様、あれは何です?」
執事「ん、末妹様のドレスとオルゴールだが」
メイド「そんなことはわかっています! それが置いてある床ですよ!」
686: ◆54DIlPdu2E:2015/07/03(金) 21:01:37.37:c6IWhZf90 (13/14)
執事「あれは確か……魔法陣だったか。末妹様達を家に帰す時に使った模様だ。あの時と少し形は違うようだが」
執事「末妹様達を真ん中の円に立たせて、その後に二人の姿が消えた」
メイド「家に帰す……じゃあ、あれはドレスを末妹様の家に送り届けようって意味ですか?」
執事「わたくしには魔法のことはさっぱりわからないが……それは考えられる話だな」
メイド「駄目です、それこそ本当に『もう二度と来るな』って言う、駄目押しじゃないですか!!」ピョーン
執事「メイド!?」
メイド「この円の外に出せばいいんでしょう!?」
メイド「よいしょ、よいしょ……これくらい、私の力でも押し出せます」
魔法陣:フアァァァ…
執事「! 魔法陣が微かに光って、メイド、離れろ!」
メイド「え」
料理長「メイドちゃん!」ダッ
執事「近付くな!」ガシッ!
メイド「」
フッ……
料理長「あ、あああ……」ヘタッ
執事「メイドの姿も、床の魔法陣も消えた……あの時と同じだ」
料理長「ど、どこへ行ってしまったんだろう……」オロオロ
執事「きっと末妹様の家だ、こちらに残ったドレスとオルゴールの代わりに」
執事「……そうだ、この部屋の鏡!」
鏡の覆い布:バサッ
…………
執事「あれは確か……魔法陣だったか。末妹様達を家に帰す時に使った模様だ。あの時と少し形は違うようだが」
執事「末妹様達を真ん中の円に立たせて、その後に二人の姿が消えた」
メイド「家に帰す……じゃあ、あれはドレスを末妹様の家に送り届けようって意味ですか?」
執事「わたくしには魔法のことはさっぱりわからないが……それは考えられる話だな」
メイド「駄目です、それこそ本当に『もう二度と来るな』って言う、駄目押しじゃないですか!!」ピョーン
執事「メイド!?」
メイド「この円の外に出せばいいんでしょう!?」
メイド「よいしょ、よいしょ……これくらい、私の力でも押し出せます」
魔法陣:フアァァァ…
執事「! 魔法陣が微かに光って、メイド、離れろ!」
メイド「え」
料理長「メイドちゃん!」ダッ
執事「近付くな!」ガシッ!
メイド「」
フッ……
料理長「あ、あああ……」ヘタッ
執事「メイドの姿も、床の魔法陣も消えた……あの時と同じだ」
料理長「ど、どこへ行ってしまったんだろう……」オロオロ
執事「きっと末妹様の家だ、こちらに残ったドレスとオルゴールの代わりに」
執事「……そうだ、この部屋の鏡!」
鏡の覆い布:バサッ
…………
687: ◆54DIlPdu2E:2015/07/03(金) 21:02:39.84:c6IWhZf90 (14/14)
※ここまで。続きは土日のどっかで※
※ここまで。続きは土日のどっかで※
688:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/07/03(金) 21:42:59.57:0RmEWOsAO (1/1)
ここで引きとは殺生やでぇ
頼むぞメイド…頼んだぞ……
ここで引きとは殺生やでぇ
頼むぞメイド…頼んだぞ……
689: ◆54DIlPdu2E:2015/07/04(土) 12:37:08.37:pIv/gjTs0 (1/16)
商人の家、居間。
次姉「ひどい、許せない! 人間とか獣とか魔物とかって問題じゃない」
次姉「女心を弄んで期待させて裏切るなんて、男として雄として最低最悪よ!!」ドゴドゴドゴドゴドゴドゴミッシミッシ
長兄「次姉次姉、柱が折れる、家が倒壊する、マジやめて」
末妹「……やっぱり、私なんかが友達になりたいなんて……ご迷惑だったのかな……」スン…
次兄「違う! お前は悪くない、俺のせいだ、『兄妹セットでお買い得』、思えばこの戦略が失敗だった」
次兄「俺が野獣様や執事さんに絶えず送り続けた熱い視線こそが大迷惑であったのだろう……」
次兄「『次兄は着脱自由な完全オプション』として売り込めば末妹までこんな思いをしなくて済んだのに!!」ウオォォ
商人(次兄もフォローしてあげたいが、自己分析が的確すぎて『そうだね』としか言えそうにない)
商人「末妹……」
末妹「…うっ、うっ……」シクシク
商人(なんと言葉をかけてやればいいのか、本当に、何かの間違いなら良いのに……)
家政婦「……こんな時になんですが旦那様、長兄様、お使いのかたがメッセージを持ってこられました」
商人「どなたのお使い? ……この名前、確か長兄が商談をした新しい取引先だな」
長兄「家がこんな状況だが、すっぽかすわけにも行かない相手だ、とにかく行って来るよ」
次姉「仕方ないわ、行ってらっしゃい……」
毛玉のようなもの:ポテッ
次姉「……お父さん? お父さんの足元に突然何かが」
毛玉のようなもの:モゾリ…
商人の家、居間。
次姉「ひどい、許せない! 人間とか獣とか魔物とかって問題じゃない」
次姉「女心を弄んで期待させて裏切るなんて、男として雄として最低最悪よ!!」ドゴドゴドゴドゴドゴドゴミッシミッシ
長兄「次姉次姉、柱が折れる、家が倒壊する、マジやめて」
末妹「……やっぱり、私なんかが友達になりたいなんて……ご迷惑だったのかな……」スン…
次兄「違う! お前は悪くない、俺のせいだ、『兄妹セットでお買い得』、思えばこの戦略が失敗だった」
次兄「俺が野獣様や執事さんに絶えず送り続けた熱い視線こそが大迷惑であったのだろう……」
次兄「『次兄は着脱自由な完全オプション』として売り込めば末妹までこんな思いをしなくて済んだのに!!」ウオォォ
商人(次兄もフォローしてあげたいが、自己分析が的確すぎて『そうだね』としか言えそうにない)
商人「末妹……」
末妹「…うっ、うっ……」シクシク
商人(なんと言葉をかけてやればいいのか、本当に、何かの間違いなら良いのに……)
家政婦「……こんな時になんですが旦那様、長兄様、お使いのかたがメッセージを持ってこられました」
商人「どなたのお使い? ……この名前、確か長兄が商談をした新しい取引先だな」
長兄「家がこんな状況だが、すっぽかすわけにも行かない相手だ、とにかく行って来るよ」
次姉「仕方ないわ、行ってらっしゃい……」
毛玉のようなもの:ポテッ
次姉「……お父さん? お父さんの足元に突然何かが」
毛玉のようなもの:モゾリ…
◆54DIlPdu2E さんの作品一覧
http://s2-d2.com/archives/16805651.html
http://s2-d2.com/archives/16805651.html
コメント 0