1以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/06(金) 03:28:30.CzLdykY (1/15)


「キノの旅」と「今際の国のアリス」のクロスSSです
SSはあまり書き慣れておらず、不自然なところもあるかもしれませんが、興味を持っていただけたら幸いです。


2以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/06(金) 03:29:40.CzLdykY (2/15)

草原の中に、はるか彼方にうっすら見える城壁から続く一本の道がある。その道を、旅荷物を満載した一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す。)が走っていた。運転手は若い精悍な顔の人間だった。十代中頃で、白いシャツに黒いベスト姿。ベストはジャケットの両袖を取ったものだ。右腿のホルスターには大型のハンド・パースエイダー(注・パースエイダーは銃器。この場合は拳銃)をホルスターで吊っている。中には、大口径のリヴォルバーが収まっていた。
腰の後ろにも一丁、細身の自動式ハンド・パースエイダーが横向きにつけられていた。


3以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/06(金) 03:32:28.CzLdykY (3/15)


「あんまり良い国じゃなかった」

運転手が先程出国した国について愚痴をこぼす。

「なんでさ、キノ」

モトラドが聞き返す。

「まず、食べ物があまり美味しくなかった。それにエルメスの燃料が高かった。そして何より、熱いシャワーが浴びれなかった」
「やっぱりそこか!国中燃料不足だから仕方ないよ。それにしても熱いシャワーって旅人にとってそんなに重要かな?」
「少なくともボクにとってはね。次にいく国は食べ物が美味しくて、燃料が安くて、熱いシャワーが浴びれる国だといいな」
「そんなに欲張りだとバチが当たるよ」

そんな会話をしながらキノとエルメスは、日が暮れるまで走り続け、やがて森の中へと入っていった。

「今日はここまでだ」

キノは森の中で野宿することにした。紅茶と粘土のような携帯食料の夕食を取ってキノはテントの中で眠りについた。


4以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/06(金) 03:36:57.CzLdykY (4/15)


真夜中のことだった。
ドォーンという破裂音と「キノ起きて!」というエルメスの声でキノは目を覚ます。

「何の音?」

右手に『カノン』と呼んでいるリヴォルバーを持って、テントから這い出てきたキノの問いにエルメスが答える。

「空、見て」

ヒュルル
ドォーン!
ヒュルル
ドォーン!
ヒュルル
ドォーン!

「花火だ。こんな夜中に誰が?」

キノが空を見上げて不思議そうに言呟く。

「さぁ?あ、次の花火はかなり大きいよ」

ヒュルルルル
ピカッ

キノとエルメスは光りに包まれた。


5以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/06(金) 03:47:50.CzLdykY (5/15)


日の出と共にキノは目を覚ました。
「……!?」
キノはエルメスを叩いて起こした。

「ふぁぁあ。おはよう」

エルメスが寝ぼけた声であいさつをする。

「周りの様子が、おかしい」

キノがまわりを見渡しながら言った。

「確かに。昨日は森の中で寝たはずだけど」
「少し見てくる」

そういうとキノは腿のホルスターに右手を置いたまま辺りの様子を窺った。キノのテントの周りは林だった。林を抜けると芝生が広がり所々にベンチや遊歩道がある。そして遠くにはそびえ立つビル群が見えた。

「どうやら、都会の外れの公園にいるみたいだ」
「森の中にいたのに?夢でも見ているじゃないの、キノ」
「エルメスが叩かれて痛くなかったら夢だと思うんだけど試してみる?」

キノが真顔で尋ねる。

「いや、やめとく。これは夢じゃないね。一体何が起きたんだろう?」
「わからない。夜中に花火が見えて気付いたらこうなってたんだ」


6以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/06(金) 03:51:35.CzLdykY (6/15)

「で、どうするのさキノ」
「取り敢えず街の方に行こう。その前に……」

軽く準備体操を行ってからキノは、40mほど離れた木の枝に鉄板をぶら下げに行った。そして、『カノン』と呼んでいる大型のハンドパースエイダーで、鉄板を的にして射撃の練習をした。

「いつもより念入りだね」
「全く知らない場所にいくからね。用心に越したことはないよ」

その後、『カノン』を分解して掃除し、また組み立てた。『森の人』と呼んでいる腰の後ろの自動式でも、同じように練習と簡単な整備を行った。整備が終ると、紅茶と携帯食料つまり昨日の夕食と同じメニューの朝食を取った。
「お待たせ。行こうかエルメス」
「よっしゃ」
キノとエルメスは街の方へ走って行った。


7以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/06(金) 03:54:34.CzLdykY (7/15)

「あんな卵みたいな形のビルどうやって建てたんだろう」
「キノ見て、あの建物なんか全面ガラス張りだよ。建てるのかなり大変だよ」
「道路もスゴい!雨水が流れるように両側をほんの少しだけ低くして傾斜を付けてる。それに道幅も広い。何車線分あるんだろう」
もっぱらエルメスがはしゃぎながら、キノとエルメスは街中を走っていた。

「かなり進んだ科学技術が有ったみたいだね。ボクも今まで旅をしてきたけど、あんなに高いビルがたくさん並んでいるを見るのは初めてかもしれない」

そう言うキノの周りには、三十階はゆうにありそうなビルが幾つもそびえ立っている。

「それにしても人が見当たらないね」

エルメスが呟く。

「うん、大分走ったけど一人も居ない」
「こんなに立派な国が有るのになんでだろう。建物の傷み具合から、人が居なくなってから十年は経ってないようにみえるけど」
「病気とか戦争だったら死体や埋葬したあとが在ってもいいはずなのにそれも見あたらない。謎だ」

キノとエルメスはその後もしばらく走り続けた。


8以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/06(金) 04:04:57.CzLdykY (8/15)


「本当、人がいないね。この広い国中全部、廃墟なのかな」

エルメスが走りながら言う。

「さぁ?でも、廃墟なら廃墟なりに旅人にとってとても重要なことがある」
「何それ?」
「残された食糧だよ。缶詰めか携帯食料でもあればいいんだけど」
「びんぼーしょー」

キノはやがてレンガを模した壁がある売店を見つけ、エルメスと共に入っていった。

「残念だね、キノ。先に来た旅人が持って行ったのかな」

食料があったであろう棚には、空の箱や腐ったお菓子が散乱しており、食べられそうなものはあまりなかった。

「そうかも。あっ、これは何だろう」

キノは未開封の黄色い箱を手にとり開けてみた。中には金色の袋が二つ入っていたので一つを開けた。

「……携帯食料かな?」
袋の中身の棒状の物を一本取りだすと、キノはそれをしげしげと眺めた。

「食べてみれば」

キノは棒状の物をほんの少しかじり、何回か噛むと目を大きくして驚いた表情を見せた。


9以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/06(金) 04:08:29.CzLdykY (9/15)


「どうしたの、キノ?」
「美味しい。いつも食べている携帯食料よりずっと美味しいよ」
「さいですか」

エルメスが呆れたように言う。キノは食べられそうなものを幾つか持ち出すと売店を出て再び走りだした。

やがて夕方になった。

「おかしいな、城壁も見えない」

キノが呟く。

「そうだね。あっ、なんかあの大きい観覧車ライトアップされてる」
「本当だ。行ってみよう、誰かいるかもしれない」

「はー、こんな大きい観覧車どうやって作ったんだろ」
「こんな大きいの見たのは初めてだ。うん?張り紙がある」

そう言ってキノが見た張り紙には「エントリー数 無制限 景品 なし エントリー締切 18時マデ」と書いてあった。

「何のことだろう?」
「さあ。でも観覧車の中に人がいるみたい。行ってみたら」


10以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/06(金) 04:11:28.CzLdykY (10/15)

キノはエルメスをセンタースタンダードで立たせ、階段を登り、「ゴンドラ乗り場」という看板があるところに向かった。
乗り場に止まっていたゴンドラは扉が開いており、中には日焼けした30半ばの男とキノより10歳位年上に見えるメガネの女がいた。

「今日は、ボクはキノと言います。この国について聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
「あぁん?今日ここに来たばかりなのか。まぁ、命がおしけりゃ、こっちに来い」

ゴンドラの入口に立っているキノに向かって男が言う。キノが警戒して入らずにいると後ろから

「そのおっさんの言う通りにしたほうがいいと思うよ。でなきゃ死ぬよ、アンタ」

と声がした。声の主はキノより少しだけ年上の女だった。その女は左足は義足で、弓矢を持っており、ぼれきれのような服で胸と腰まわりを隠しているかなり変わった風貌である。それでもキノが入らずにいると義足の女は「どきな」と言ってキノを押し退けゴンドラに入り、中の座席にどさりと座った。


11以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/06(金) 04:13:56.CzLdykY (11/15)

「どうすんのよ、もうすぐ時間よ」

少し乱暴な口調で義足の女が言う。

「ボクはこの国について説明してほしいのですが……」
「そんなの後でするから、死にたくなきゃとりあえず乗りな」

義足の女に急かされたキノは仕方なく観覧車に乗り、男の隣の座席に座った。
すると間もなく『只今をもってエントリーを締め切ります』というアナウンスが流れ、ゴンドラの扉がひとりでに閉まりガチャリとロックがかかった。更に観覧車がゆっくりと上昇し始めた。

「それで、ここは一体どこなのですか?」

キノの問いに、義足の女が面倒くさそうに答える。

「ここは今際の国っていうところ。それで、今から始まるのがげぇむよ」
「……げぇむですか」
「そう、但し命懸けのね。みんな緊張してるのはそのせい。だから、アンタ少し黙っててくれない。残りの説明はアンタが生き残れたらするから」
「……はぁ」

上昇するゴンドラの中で、日焼けした男とメガネの女は忙しなく外の様子を見たり窓や天井に何かないか調べているようであった。一方、義足の女は窓枠に肘をつき顎を手に乗せ沈みゆく夕日を眺めていた。


12以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/06(金) 04:15:53.CzLdykY (12/15)

キノ達が乗っているゴンドラが一番高いところまで来ると観覧車は止まった。

「……始まるぞ」

そう男が呟くと、アナウンスが入った。

『ザザッ……げぇむのじかんです』
『今回皆さまに参加していただくげぇむは難易度 すぺぇどの4 「じゃんぐるじむ」です』

「じゃんぐるじむ? 観覧車なのに? 」

メガネが不思議そうに言う。

『るうる、「ゴンドラ乗り場」まで戻ることができればげぇむくりあ。制限時間は40分。尚、制限時間以内に戻れなかった場合は「げぇむおおばぁ」となり、観覧車ごと爆破されます。』
『それでは「げぇむすたぁと」』


13以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/06(金) 04:20:04.CzLdykY (13/15)

アナウンスが終わるとガチャとロックが外れる音がした。しかし、誰も扉を開けようとはしない。少ししてから

「時間が無駄だ、俺から行く」

と言うと男がゴンドラの扉を開けた。およそ120m下の地面を見て一瞬たじろいだものの、男は正面にあるゴンドラを吊り下げている柱に手を伸ばして飛び移り、するする降りて行く。

「アンタらが行かないなら私が行くわ」

義足女も男同様ゴンドラから出ていった。

「こ、こんなのむ、無理よ」

メガネの女が出て行かないのでキノが出ることにした。
ゴンドラの入口に立ち、外を見ると、今日走ってきた街のビル群が夕闇に飲み込まれつつあった。


14以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/06(金) 04:23:25.CzLdykY (14/15)

すぐ下を見ると最初に出て行った男は右隣のゴンドラの真下に、義足女もキノがいるゴンドラから右隣のゴンドラへ向かおうとしているところだった。
「よし」と小さく呟くと、キノは目の前の鉄の柱に手を伸ばして飛び移り下へと降りていき、ゴンドラを吊り下げている柱と観覧車本体のリングがくっついているところまでたどり着いた。この観覧車は中心から放射状に伸びている鉄骨がゴンドラ一台おきにしか付いておらず、キノは両隣どちらかのゴンドラの真下に行かなければならない。少し考えた結果、なにかしら罠があるかもしれないので、キノは男や義足女と同じ方へ向かった。体をリングと水平にして密着させ太股と足をリングに絡ませ、腕の力で進んでいく。義足というハンディのためだろうか、隣のゴンドラの下に着いたときにはキノは義足女に追い付いた。


15以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/06(金) 04:24:25.CzLdykY (15/15)

アンタが先に行きなよ」
「そうします」

義足の女との短いやり取りの後、キノは殆ど垂直な鉄骨を降りて行った。キノがゴンドラと観覧車の中心の中間点にたどり着いたときだった。

「キャッ」

短い悲鳴がしたので上を見るとメガネの女が、キノ達が最初にいたゴンドラとキノの真上にあるゴンドラの丁度真ん中あたりでリングに右手だけで掴まっていた。なんとか左手でリングを掴もうと必死にもがいているが今にも落ちそうである。


16以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/06(金) 18:20:02u.ljXumI (1/1)




17以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/07(土) 02:27:39B9CV9jNU (1/10)

そして、すぐに右手の力が限界にたっしたのだろう

女は観覧車から落下した。

「きゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー」

金切り声をあげながらメガネの女はキノの目の前をかなりのスピードで落ちていった。キノは一瞬その女と目が合った。キノの視線はそのまま落ちていく女を追っていく。すぐに女は地上を覆いはじめた夜の闇に飲み込まれ、

ドシャ

女の身体が猛烈な勢いでコンクリートに叩きつけられる音だけが聞こえた。


18以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/07(土) 02:30:17B9CV9jNU (2/10)

メガネ女の結末を見届けたキノは少しだけ下を見ていたが、すぐに鉄骨下りを再開した。義足女そして大分下にいる男もキノ同様、メガネ女の最期を見届けると何事もなかったかのようにげぇむを再開した。
まもなくしてキノは観覧車の中心にたどり着いた。そこには先にいたはずの男がいた。

「おぉ、あんちゃんこの国にきたばかりなのになかなかの身のこなしだな」

男が親しげにキノへ話し掛ける。


19以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/07(土) 02:34:30B9CV9jNU (3/10)

「いえ、あなた程ではありませんよ」
「そうか、へへ、なんたって俺は元の世界じゃ海難救助隊に所属していたからな。まぁこの歳になるとここに来るまでで腕がパンパンだけどな」
「なるほど、それで休憩してたのですね。でも時間は大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫 」

そう言いながら男は自分の足元を指差した。キノが不思議に思いながら自分達が立っている足場を覗きこむと、

25:33、25:32、25:31……

大きなデシダル時計がカウントダウンをしていた。

「……これは残り時間ですか?」
「おそらくな。まぁ、俺は20分有ればゴンドラ乗り場までは余裕だからあんちゃんが先にいきなよ」

キノは少し考えてから答える。

「……そうします」
「メガネのねーちゃんみたくならないよう、気を付けろよ」
「わかってます」


20以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/07(土) 02:43:43B9CV9jNU (4/10)

そう言うとキノは再び、観覧車の中心から放射状に伸びる鉄骨に捕まり下っていった。少しずつ、慎重に蜘蛛の巣のように張り巡らされている鉄骨を下りていく。キノが中心から3分の1程下ったときだった。何気なく上を見ると先程の男が観覧車の中心から降りようとしていた。次の瞬間、夏特有の生暖かい風が吹き、男は大きなデシダル時計の上でよろけ、落下した。そして、キノの右足首を両手で掴んできた。キノの右脚に男の全体重がかかる。
「あ、あんちゃん、た、助けてくれぇー」

男が情けない声で助けを求める。だが、キノが手を伸ばしても、男の手にはとどきそうにない。


21以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/07(土) 02:48:04B9CV9jNU (5/10)

「すいませんが、離していただけませんか。このままでは、ボクも落ちてしまいます」

キノが普通の表情で言う。

「そんなこと言わずに、お願いだ助けてくれよぉ」

はぁ、と短い溜め息をキノはついた。そして、左手だけでも少しは耐えられることを確認すると、猛烈な速さで右腿のホルスターにおさまっている『カノン』を右手で抜き、引き金を引く。

ドスン

大きな音と共に発射された弾丸が首に命中した男は、心底驚いた表情のまま血を噴き出しながら落ちていった。メガネの女のとき同様、ドシャという音だけが暗闇の中から聞こえた。


22以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/07(土) 02:54:44B9CV9jNU (6/10)

キノは『カノン』をホルスターに収めると再び鉄骨を下り始める。10分程で鉄骨の先端、一番低いところに止まっているゴンドラの上まで降りきった。そして、そこから軽くジャンプするように降り、キノはゴンドラ乗り場にたどり着いた。
目の前のゴンドラ、つまりさっきまでキノが上に乗っていたゴンドラは扉が開かれており、中には

『こんぐらちゅれいしょん「げぇむくりあ」』

と表示するモニターと、カタカタと音を出しながらレシートを排出するレジスターが置いてあった。

「……残り滞在可能日数4日? 」

キノが取ったそのレシートには「びざ」や「残り滞在可能日数」などが書いてあった。同時にレジスターの別口からはスペードの4のトランプカードが出てきた。


23以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/07(土) 03:02:33B9CV9jNU (7/10)

キノがゴンドラの外に居ると、まもなく、義足女がゴンドラ乗り場にたどり着いた。同時に「3:02」と表示していた観覧車中央のデジタル時計の明かりが消えた。
義足女はゴンドラの中からトランプカードだけを取ってきた。

「レシートは取らなくていいのですか」

レシートとトランプカードの両方を持っているキノが尋ねる。

「いいのよ、分かってるから。それよりもアンタ、凄い物持っているじゃない。本当に今日来たばかりなの?」
「そうです。なので、この国について教えてください。」
「そう言えば、約束してたわね。アンタが死ななければ教えるって」

自らヘイヤと名乗ったその女は、ここが「今際の国」と呼ばれる所であること、「今際の国」で生きるためには毎日日没後に様々な場所で行われる「げぇむ」に参加してその難易度に応じて発行される「びざ」を獲得しなければならないこと、難易度はげぇむ開始前にトランプで表示され、すぺぇどは体力型、だいやは知能型、くらぶはその中間で参加者同士が協力できる「げぇむ」が多く、はあとは心理型であり、それぞれ数が大きくなると難しくなることなどを教えてくれた。更には自分が元の世界では、女子高生というものをしていたこと、「今際の国」に来た初日に参加した「かまゆで」という「げぇむ」の内容とそれによって義足になったことも教えてくれた。


24以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/07(土) 03:14:13B9CV9jNU (8/10)

「ボクはこの国から出国したいのですが。出来れば明後日までに」
「無理よ。この国は何故か中心部から離れるほど荒れ地になっていって、県境は人が入れないぐらいのジャングルなのよ」
「……そうですか」
「それよりもさアンタ、私と寝ない?女子高生だって、生きるか死ぬかのこの世界で結構たまってるのよ」
「いえ、遠慮しておきます。色々と教えて下さったのにお役にたてなくてすみません。ボクはこれで失礼します」

そう言うとキノは足早にゴンドラ乗り場を去っていった。直後に

「チッ、玉無し野郎かよ」

という声が聞こえたが無視して、エルメスの元へ向かった。

「びっくりしたよ、人が二人も降ってくるなんて」

そう言うエルメスの近くには、頭が割れた女と、首もとが抉れた男が 血溜まりの中に倒れていた。


25以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/07(土) 03:17:28B9CV9jNU (9/10)

「ついてないね、キノ。観覧車が一番高いところで止まっちゃって」

運転中のキノにエルメスが呑気な声で話し掛ける。

「それもそうなんだけど、もっと大変なことが起きた」

そう言うと、キノはヘイヤから聞いたことを一通り話した。
「へぇー、それは大変だね。、その『びざ』はモトラドにも必要なのかな」

エルメスが先程と変わらぬ口調で尋ねる。

「エルメス、ボクは真面目に話してるつもりなんだけど」
「わりと真面目に尋ねたつもりなんだけど。それでどうするのさ、キノ。どうにかして出国する方法で も探す?それとも、この国を造った悪い奴でも探してやっつける?」
「 休むのにいい場所を探す。お腹もすいたし、ボクはね、難しいことを考えると眠くなるんだ」
「キノ、ふざけてるの?」

そんな会話をしながら街中をしばらく走り続けたキノは、適当なビルを見つけると中に入り、昼間手にいれた缶詰と紅茶の夕食を取った。その後、ビルの中に置いてあったソファーの上で眠りについた。

キノ滞在1日目残り滞在可能日数4日


26以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/07(土) 03:19:06B9CV9jNU (10/10)


ある程度書き溜めたら投稿していく予定です。


27以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/07(土) 05:52:36SZY8d0CI (1/1)

乙、久しぶりにキノ読もうかな


28以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/10(火) 02:17:0738k2HM9s (1/6)

今際の国滞在2日目

翌朝、キノはいつも通り夜明けと共に起きた。まだ薄暗い街中でキノは軽く運動、続いてパースエイダーの抜き打ちの練習をした。その後、パースエイダーの分解と掃除をして、ホルスターに戻した。そして、昨日手にいれた食料の幾つかを朝食として食べ、なかなか起きないエルメスを文字どおり叩き起こすと、取り敢えず東へ向かって走った。

「川だ」

エルメスに跨がったキノが呟く。

「渡れそうにないね」

数分走っただけでキノは川にたどり着いた。川幅は100mは有り、川底は見えない。その上、キノの目の前に有る橋の欄干は錆によって朽ち果て、アスファルトにはトラック一台がまるまる落ちてしまいそうな穴が何ヵ所も空いており、とても渡れそうにない。渡れたとしても、そこはジャングルのように木々が覆い尽くしているだけだ。

「どうする、キノ?」
「どうしようか、エルメス」


29以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/10(火) 02:33:4038k2HM9s (2/6)

キノは少し悩んだんの ち、川に沿って下流へと走った。

「海だ。見るのは久々だよ」
「そうだねー」

すぐに河口に着いた。近くには昨日の観覧車も見える。

「キノ、昼寝でもしたら」
「まだ起きたばかりだよ」

そんなやり取りをした後、キノは引き返して川に沿って上流へと走った。そうしてキノ達はしばらく北へ向かい、途中から川に沿って西へと走った。

「これじゃ、進めないね」

そう言うエルメスの車輪の大半が、アスファルトを突き破って生える雑草に覆われていた。そして、先の道路はキノの行く手を阻むように鬱蒼と木々が茂っていた。

「しょうがない、今日は此所で野宿だ」


30以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/10(火) 02:39:1238k2HM9s (3/6)

今際の国滞在3日目

朝の日課と朝食を済ませたキノは、エルメスを起こすと密林のように茂る木々に沿って南へと走った。
途中、キノはモトラドの燃料が有りそうな店を見つけ、中へと入った。

「色んな燃料があるけど、どれにすればいいの?」
「うーんとね、キノの目の前に有るやつとその右上のやつは使える。左上のもいけるね」

「どうしたの、早く行こうよ」

たった今出てきた店を名残惜しそうに見るキノを、エルメスがせかす。

「燃料、まだ大分残ってるのに」
「いいじゃん、タダで燃料が手に入ったんだから」

当のエルメスのタンクには燃料が満タンに入っており、燃料缶も全て満杯まで入っている。

「残念だ」

そう言うとキノは再び南へと走りだした。数時間走行すると大きな川へと突き当たった。昨日と同様、川は渡れそうにない。
なので、川に沿って東へと向かった。しばらく走ると、
「あ、あれって」
「一昨日の観覧車だね」

昨日、出発した場所の近くへ戻ってきてしまった。


31以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/10(火) 02:41:2638k2HM9s (4/6)

「まさに八方塞がりだね、キノ」
「……珍しい、間違えなかったね」
「シツレイな。モトラドだって同じ国の中を走り続けるのは嫌だからね」
「旅人だって、ずっと同じ国に居るのは嫌だよ」
「ヘイヤっていう人の通りだとしたら、この国からずっと出られないよ。どうするの、キノ?」
「困った。今までで一番困ったよ」

そう言うとキノは遠くを見つめてから、

「 出国する方法を見つけるしかないね。こんな、訳のわからない場所でボクの旅を終わらせるなんて嫌だからね」

と決心するように言った。


32以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/10(火) 02:46:1438k2HM9s (5/6)

その日の夜、珍しく夜更かしをしていたキノは高台に立っていた。

「さん、にい、いち、はい日付が変わりました!」

エルメスがそう言った正にその時だった。真っ暗な空から幾つもの白い光線か降り注いできた。

「綺麗だねー」
「……」

感想を述べるエルメスの脇でキノは、びざ切れの人がたった今何人も死んだであろう街中を暫く見つめていた。

キノ滞在3日目残り滞在可能日数1日


33以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/10(火) 02:49:2638k2HM9s (6/6)

今日はここまで。
次は神様の言うとおりに出てきたあのゲームをやります。


34以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/12(木) 02:13:191oBGkH9I (1/13)


今際の国滞在4日目

夕暮れの住宅街をキノとエルメスは走っていた。

「そう言えばキノ、何ヵ国目?」
「何がだい?エルメス」
「キノが、3日以上滞在した国」
「覚えてないよ。エルメスは?」
「覚えてないね。あっ、100mくらい先の右手側」

エルメスが言ったところでまで進むとキノはブレーキをかけた。そこは公園で、その敷地内にある平屋建ての集会所のような建物がライトアップされていた。

「ここが、今日のげぇむ会場か」

エルメスを人目につかなそうなところに止めた。

「木っ端微塵にならないように気をつけてね」
「分かってるよ」


35以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/12(木) 02:16:561oBGkH9I (2/13)

そう言うとキノはげぇむ会場へ入っていった。明かりが灯っている部屋に入ると、そこは元々会議室として使われていたのだろうか、かなり広かった。そして、部屋の真ん中にはドラム缶の上に板を乗っけたような大きな円卓が置いてあり、その円卓を背もたれのついた6脚の椅子が取り囲んでいた。その椅子の全てに天井から、先が輪になった縄、つまり首がくくれるようになった輪縄が垂れていた。椅子には、白髪交じりの初老の女、1席あけてサラリーマン風の男の計二人座っていた。
キノは、白髪交じりの女とサラリーマン風の男の両方から1席あけた椅子に座った。その時気づいたのだが椅子には何故か黒いアイマスクが置いてあった。キノが不思議に思っていると、
「こんにちは、あなたもげぇむに参加するのですね」

サラリーマン風の男が笑顔で親しげに話し掛けてきた。


36以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/12(木) 02:23:401oBGkH9I (3/13)

「はい、そうです。どんなげぇむなんでしょうかね」

キノが受け答えをする。

「目隠しと円卓それにこのロープだけでは判りませんね。まぁ、私達が協力できるげぇむだと良いですね」
「そうですね」
「ところであなたのお名前は?」

サラリーマン風の男がキノに尋ねる。

「ボクはキノといいます」
「キノさんですか、いい名前ですね。私はアイゼンといいます。キノさんはこの国に来てどのくらいですか?」

キノはアイゼンと暫く話をしたが、彼は終始、笑顔であった。ただ、アイゼンの目尻は下がっているのに口角がほとんど上がっていない、つまり常に作り笑顔であることをキノは不審に思った。


37以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/12(木) 02:30:001oBGkH9I (4/13)

アイゼンとの会話が終ってまもなく、金髪の男が入ってきた。年は20歳前後に見える。彼はアイゼンと白髪交じりの女の間の席に座った。すると、アイゼンがキノのとき同様、親しげに話しかけ、名前を尋ねた。

「俺スかっ、俺はカメダっていいます。仲間からは
カメって呼ばれてるッス。アハハ」

カメダとアイゼンも暫く会話を続けた。二人がクマ牧場の話題で盛り上がっているときだった。
40歳前後の男と、11、2歳に見える短い髪の女の子という親子らしき二人が部屋に入ってきた。キノはその女の子を見て、驚いた。なぜなら、彼女がキノが以前行ったある国で案内をしてくれた旅館の女の子によく似ていたからだ。更に

「うん、なんだいさくら?」

女の子が父親らしき男に何か言って男が聞き返したのだが、その時言った名前までもが旅館の女の子と同じなのだ。キノが女の子に目を奪われていると、

「すいませんが、席を譲って頂けないでしょうか。娘が私の隣りがいいと言うもんでして」

と男が話しかけてきた。

「え、はい、いいですよ」

そう言ってキノはアイゼンの右隣り、父親らしき男はキノがいた席に、女の子はその男と白髪交じりの女間の席に座ったときだった。


38以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/12(木) 02:39:051oBGkH9I (5/13)

『エントリー数に達しましたのでただ今をもってエントリーを締め切ります』

というアナウンスが入り、続いて部屋の角にレジスター共に置いてあるテレビの画面がクラブの6のトランプカードを少しの間だけ写し出した。アナウンスが続く。

『始めに、参加者の皆様は輪縄を首にかけ、ロックをして下さい。ロックは皆様の首がしっかりと締められていることが確認されますと自動的におこなわれます』

全員が輪縄を首にかけ、ロックがかかる。これで誰もげぇむが終わるまでで逃げることはできない。

『今回、皆様に参加していただくげぇむは、難易度くらぶの6「すなとり」です』

そうアナウンスが流れると、円卓の上面が開き、低い音をたてながら、頂上に白旗がささっている砂山がでてきた。大きさは丁度、キノの両腕で囲える程である。


39以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/12(木) 02:42:171oBGkH9I (6/13)

「成る程、そういうことですか」

アイゼンが呟く。

『まず、るうるについてですが、皆様の中から誰か一人が目隠しをし、砂山から砂をとり円卓から落とします。これを10回終えた時点で「げぇむくりあ」となります』

『続いて「げぇむおおばぁあ」になる場合について。1つ目は制限時間30分以内に10回砂を取らなかったとき。この場合、全員が「げぇむおおばぁあ」となります。2つ目は旗が倒れてしまったとき。この場合も、全員が「げぇむおおばぁあ」となります。3つ目は砂の採取量が100グラム未満のとき。この場合、砂を取った回数にカウントはしますが、砂を取った人は「げぇむおおばぁあ」となります。採取量は目隠しを取った時点及び、別の人が砂山に触れた時点で計測されます。また一度、円卓から落とした砂を再び円卓に戻すことはできません』
『尚、一人が連続で砂を取ってもよく、一人当たりの回数の制限もありませんので、皆様でよく話し合って砂を取る人を決めてください。げぇむの説明は以上で終わりましたので、ただ今より「げぇむすたあと」』

アナウンスが終わる。


40以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/12(木) 02:53:44WUT4y7F6 (1/1)

「さて、どうするよ。よく話し合ってとか言ってたけど30分しかないんだぜ」

カメダ が言う。しかし、誰も砂を取ろうとしない。

「こういうのはどうでしょうか」

アイゼンが右手を低く挙げて話す。

「まず、6人全員で順番に砂を取ります。それで、一番100グラムに近かった人に残りの4回をやってもらうのです。そうすれば、大きく取りすぎてしまうこともないと思うのですが」

「わたしは賛成しますわ」

そう言ったのは白髪交じりの女であった。

「けど、順番はどうするのですか? わたしは最初に取るのは嫌です
わ」

女の言葉にすぐにアイゼンが答える。

「もし、私の案に賛成していただけるのなら私からいきますが。順番は私から時計回りでどうでしょう」

そう言い、アイゼンが他の参加者達を見渡す。

「あぁ、それでいいよ」
「私は賛成です」
「ボクもです」


41以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/12(木) 02:59:361oBGkH9I (7/13)

3人の賛同がとれたアイゼンはまだ返事をしてない、正面の女の子を見て、

「お嬢ちゃん、いいかな?」

と尋ねる。

「……はい」

女の子の賛同をとると、アイゼンは

「では、いきますか」

と言って目隠しをし、慎重に砂山に触れた。そして、砂を右手に山盛り取った。手を揺らしながら少しずつ砂の量を減らしたり、砂を取ったりを繰り返し、結局、最初の3分の2程度の量にした。その砂を円卓から落とし、目隠しをおもむろに取った。すると

『一回目の採取量 282.9グラム』

とアナウンスが入った。アイゼンは「はぁ」と息をつくと

「少し取りすぎてしまいましたかね」

と言って、椅子に寄りかかった。


42以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/12(木) 03:03:391oBGkH9I (8/13)

残り時間25分

続いて金髪男、カメダの番だ。
カメダは、

「こんくらいで、いいか」
とか
「これじゃ、少な過ぎないか」

と何度も確認して一人でかなりの時間を消費した。ついには業を煮やした白髪交じりの女が

「ちょっと、あなた、早くしなさいよ」

とせかすと

「ぁんだとババア、なんだったら俺の代わりにオマエがやるか」

とキレた。しかし、アイゼンが

「まぁまぁ、二人とも落ち着いてください。これはくらぶの『げぇむ』なんですからモメてしまっては『くりあ』できませんよ」

となだめると、なんとかカメダは落ち着きを取り戻した。最終的にカメダはアイゼンより僅かに少ない量の砂を落とした。カメダが目隠しを取るとアナウンスが入る。

『二回目の採取量 275.6グラム』


43以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/12(木) 03:07:591oBGkH9I (9/13)


次は父親らしき男の番だ。
男もアイゼン同様、右手で砂を取ると何度か振って量を調節した。そして、アイゼンやカメダよりも大分少ない量の砂を落とすと、目隠しを取った。

『三回目の採取量 172.3グラム』

続いて、女の子、さくらの番だ。
さくらは目隠しをすると、両手で砂山に触れた。しかし、旗を倒してしまうのが怖いからだろうか、砂を取ろうとしない。

「さくら、換わろうか」

父親らしき男がそう言い、目隠しを着けようとした時だった。

「ちょっと、待ってください」

アイゼンが止めた。

「アナウンスでは『別の人が砂山に触れた時点で計測』と言ってましたよね。だとしたら、あなたが砂山に触れたらその子の採取量は0になってしまうのでは」

そう言われて、男は目隠しを持ったまま固まった。


44以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/12(木) 03:11:141oBGkH9I (10/13)

「お父さん……」

さくらは不安そうに言う。

「大丈夫だ。お父さんの言う通りにするんだ」

父親はそう言って、言葉を続ける。

「まず、右手に砂を取ってごらん。ゆっくり、落ち着いて。もうちょっと右の所がいいかな」

さくらが砂を慎重に取る。その時だった。頂上の白旗が少し傾いた。

「ああっ!!何やってだよガキ」

カメダが声をあげる。

「えぇ、どうしよう」

さくらが泣きそうな声で言う。

「大丈夫、落ち着いてやるんだ」

父親がさくらを安心させようと言葉をかける。そして、さくらは砂を取った。

「少し減らそうか。うん、そのくらいでいいよ」


45以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/12(木) 03:14:491oBGkH9I (11/13)

父親はそう言ったが、キノにはアイゼンやカメダとそう変わらない、むしろ多いように見えた。しかし、ここで、口を挟んだらさくらをむしろ不安にしてしまわないだろか。キノは何も言わなかった。

「お父さん、本当にこれで大丈夫?」

「大丈夫だ。お父さんの言うことを信じるんだ」

そして、さくらは砂を落とし、目隠しを取った。

『四回目の採取量 300.2グラム』

そうアナウンスが入ると、

「クソ!」

カメダが言った。恐らく旗を傾けた上に砂の採取量が多すぎるからだろうが、自分の採取量とそう変わらないことに気づいていないのだろう。

「大丈夫か? さくら」

父親が娘に向かって言う。さくらは極度のストレスに晒されたためだろうか、胸に手を当て、ゼエゼエと苦しそうにしていた。


46以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/12(木) 03:19:011oBGkH9I (12/13)

残り時間17分

次は白髪混じりの初老の女の番だ。
目隠しをした女が砂山に触ろうとする。しかし、その両手はわざとやっているのかと思う程大きく震えて、なかなか砂山に触れない。それを見たアイゼンが

「大丈夫ですよ、落ち着いてくださいモトウラさん。まだ、時間はありますからね」

と優しく語りかけるように言った。おそらく、モトウラというのは初老の女の名前であり、アイゼンはキノやカメダにそうしたように「げぇむ」開始前に名前を訊いていたのだろう。

「『げぇむ』のことは一旦忘れて、深呼吸しましょう。はい、吸って。はい、吐いて。吸って。吐いて」

モトウラはアイゼンの言葉通りに深呼吸をする。

「もう大丈夫ですか? 」

とアイゼンが尋ねると

「はい、なんとか」

と返事をしたモトウラは、右手で砂を掴み取った。

「アイゼンさん、このくらいで良いですか」

モトウラはアイゼンに尋ねた。キノには僅かばかり多いように見えたが、アイゼンは

「はい、それで良いと思いますよ」

と言った。そして、モトウラは砂を落とした。

『五回目の採取量 205.0グラム』


47以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/12(木) 03:21:121oBGkH9I (13/13)


今日はここまで。続きは日曜日ごろ。


48以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/14(土) 21:37:13EELOQS9E (1/2)

そしてキノの番がきた。
キノは目隠しをし、砂山に手を延ばす。乾いた砂の感触が伝わってくる。キノは取り敢えず、右手に砂を取ってみた。100グラムとはどのくらいだろうか。確か44口径ホローポイント弾の弾頭重量は約16グラム、22口径LR弾の弾頭重量は約2.6グラムだ。だから『カノン』の弾丸6個と『森の人』の弾丸2個でほぼ100グラムとなるはずである。しかし、弾丸6個分や2個分の砂を目隠した状態で取れるだろうか。そもそも、自分の記憶は間違ってないだろうか。


49以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/14(土) 21:38:57EELOQS9E (2/2)

キノは思考を巡らした結果、『カノン』の弾丸7個分の砂を取ってみることにした。右手で砂を掴み取り、手を揺らして、量を微調整する。そして、自分の感覚で丁度いいと思った量の砂を落とそうとしたときだった。

「それじゃ、少なくないか」

カメダの声がした。キノは迷う。自分の感覚に従うなら、これでいいはずだ。しかし、これはくらぶの「げぇむ」だ。ヘイヤの言う通りなら協力し合うことで「くりあ」しやすくなるだから、カメダのアドバイスを聴くべきであろう。
しキノは結局、量を少し増やして砂を落とした。
そして、目隠しを取る。

『六回目の採取量 130.8グラム』

とアナウンスが入ると、キノは
「ふぅ」と息をついた。


50以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/15(日) 02:24:12iBNWk7k6 (1/7)

「これで、全員取ましたね。それでは、最初に決めた通り、一番100グラムに近かったキノさんに残りの4回をやってもらうということでよろしいですね」

アイゼンがキノの方を向いて言う。

「はい、皆さんがそれでいいなら」

キノは他の参加者を見渡す。皆、同意を示すように頷いた。
キノは目隠しを再び着けた。キノが取り終えた時点で砂山は最初の3分の1程の大きさに、白旗はキノから見て左に20度位傾いている。四回取るには毎回100グラムにかなり近い量にしなければならない。キノは自分から見て右側の砂を右手に取った。そして、先程よりも少しだけ減らした量の砂を落とし、目隠しを取った。

『七回目の採取量 119.0グラム』


51以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/15(日) 02:30:05iBNWk7k6 (2/7)

キノは砂山の状態を見ると、砂の量の感覚を忘れないように直ぐに目隠しを着け、砂山に手を延ばした。
次は手前の砂を取った。七回目よりも少なく、100グラムは下回らない量を取るため、何度か調節した。そして、砂を落とそうとした時だった。

「それでは、少ないと思うのですが」

今度はモトウラの声がした。キノは一瞬動きを止めた。しかし、量を増やさないまま、砂を落とし、目隠しを取った。

『八回目の採取量 108.3グラム』


52以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/15(日) 02:37:17iBNWk7k6 (3/7)

残り時間11分

砂山を見ると、大きさはかなり小さくなっているが、旗の傾きは先程とあまり変わっていない。どうにか、残り二回はいけそうである。何気なく顔を上げて周りを見ると、他の参加者全員がこちらを見いたので、キノは慌て目隠しをした。
キノは自分から見て奥の方に手を延ばした。

「もう少し、右の方がいいですよ」

アイゼンの声がした。キノはそれに従い、少し右から砂を取ろうとする。

「そんなに量は取らないで下さい。足りない分は、左手前から取りましょう」

再びアイゼンの声がする。キノは少し考えたのち、それにも従い、右奥からは少しだけ砂を取った。続いて左手前の砂も取ろうとする。

「ここら辺ですか?」

キノが尋ねる。

「そうです。指先で掬うように、慎重に取っ下さい」

アイゼンが言う。慎重にとは言ったが、時間はあまり無いはずだ。キノは言われたように慎重に砂を掬いあげようとする。


53以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/15(日) 02:40:56iBNWk7k6 (4/7)

「この位、取っても大丈夫でしょうか」

再びキノは尋ねる。

「ええ、大丈夫ですよ」

またアイゼンが答えた。そして、キノが砂を掬い上げたその時だった。

「ああっ!!」
「キャッ」
カメダと女の子が声を上げた。

「どうしましたか」

キノが尋ねる。

「旗が、かなり傾いてしまいました」

アイゼンが言い、

「なにやってだよ、コノ野郎」

カメダが罵声を浴びせる。

「少しでも砂山に触れたら旗が倒れてしまいそうです」

アイゼンがまるで他人事のように状況を伝える。アイゼンの言うように砂を取ったが、それが悪かったのだろうか。キノは取り敢えず、今手に有る砂だけで100グラムに足りるか確めた。


54以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/15(日) 02:44:37iBNWk7k6 (5/7)

キノは暫く悩んでから、そのまま砂を落とし、目隠しを取った。
アナウンスが入るまでの数秒が異様に長く感じられた。

『九回目の採取量 101.1グラム』

キノは「はぁ」と一息つく。しかし、砂山に視線を移つすと、状況は深刻であった。砂は150グラム以上ありそうだが旗が、円卓に対して30度程まで傾いている。正にアイゼンが言う通り、僅かでも砂を取ったら旗が倒れそうだ。

「すみません、ボクのせいで」

キノが申し訳なさそうに言う。

「あーっ、もう、本当どうすんだよ」

カメダが髪をかきむしる。モトウラと親子は今にも死にそうな表情でキノの方を見る。


55以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/15(日) 02:47:13iBNWk7k6 (6/7)

「これは、責任を取っともらうしかないようですね」

ただ一人、余裕そうなアイゼンが言う。

「責任、ですか」

キノが眉をひそめる。

「えぇ、責任です」


56以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/15(日) 02:51:34iBNWk7k6 (7/7)


続きは一週間以内に書きます(多分)


57以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/19(木) 03:50:31n2s3tIog (1/6)



「ただキノさんに取ってもらうなんてできません。何回も100グラムに近い量を取ってくれましたからね」

アイゼンが言葉を続ける。

「一人、いますよね。300グラムも取った人が」

アイゼン、カメダ、モトウラの視線が一斉に、さくらに向かう。キノもつい、さくらの表情を見てしまった。
まだ、十歳程の少女の顔は、いきなり話の当事者になってしまった驚きと、自分がどうなってしまうのかという恐怖を隠せずにいた。


58以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/19(木) 03:54:09n2s3tIog (2/6)

「君のせいで、こんなことになってしまったんだ。ちゃんと、責任、取ってくれるよね」

アイゼンがさくらの顔を見ながら語気を強める。

「……」

さくらは、今にも泣いてしまいそうな表情のまま無言である。

「ちょっ、ちょっと待ってくれ」

さくらの父親が言う。


59以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/19(木) 03:56:19n2s3tIog (3/6)

「お宅ら、皆、娘一人に押し付ける気かよ。確かにキノさんは良くやってくれたけどよ、旗をこんなに傾けたのはキノさんだし。それによ、お宅ら二人は娘と取った砂の量なんてほとんど変わらないじゃないかよ」

後半はカメダとアイゼンを指さして言った。
アイゼンが言葉を返す。

「えぇ、そうです。しかし、最も砂を取ったのはあなたの娘さんです。一番悪いのは誰かと言ったら、最も砂を取った人ではないですか、ねぇ」


60以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/19(木) 03:58:29n2s3tIog (4/6)

最後はカメダの方を向き、同意を求めるように言った。

「まぁ、そうだよな」

カメダが同意する。

「私もそう思います」

モトウラもだ。

「キノさんも、そう思いますよね」

キノはこの時、両手を膝の上に置いていたのたが、アイゼンも同じ姿勢にして、同意を求めた。


61以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/19(木) 04:00:46n2s3tIog (5/6)

残り時間5分

「ボクには分かりません」

そうキノが答えるとアイゼンは、一瞬驚いた表情をしてから

「おや、ではキノさんが責任を取っとくれますか」

と言ってきた。

「……いえ、そういう訳では、ありません」

キノがそう言い終わらないうちに

「もう、時間もありませんしこのままでは、全員が『げぇむおおぁ』になってしまいます」

親子に向かってアイゼンが言った。


62以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/19(木) 04:10:54n2s3tIog (6/6)

「だから何だって言うだよ。ああもう、いい。いっそのことみんな『げぇむおおばあ』になればいいんだ」

父親がヤケになって喚きちらす。

「娘さんの命だけでもたすけようとは思いませんか」

表情を変えないまま、アイゼンが言う。娘の視線は父親へ向けられていた。

カメダ、モトウラの視線も父親の元へ向かう。


63以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/22(日) 02:54:17gNJCZn76 (1/7)

「……分かり……ま……した」

父親が観念したように呟く。

「責任は私が取ります。ただ、一つお願いがあります。誰か、誰か、娘の面倒を見て下さい。お願いします」

誰かとは言っているがキノに対して言っているようであった。しかし

「私が、面倒みます。元の世界じゃ三つ子を育てたので、女の子の一人くらい余裕です」

そう言ってモトウラが立候補した。


64以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/22(日) 02:58:17gNJCZn76 (2/7)

「ありがとうございます。ありがとうございます」

父親は円卓に額を付けて感謝し、

「ちゃんと、面倒みてもらうんだぞ」

とさくらに言うと目隠しを着けた。

「責任に取りかたはわかりますよね」

アイゼンがそう言ったが、父親は返事も何もせずに目隠しを取った。アナウンスが入る。

『十回目の採取量 0グラム
よって、只今砂を取った人は「げぇむおおばぁ」』


65以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/22(日) 03:00:05gNJCZn76 (3/7)

「さくら、生き」

ギシイィィ

最期の言葉を言い終えずに父親は吊り上げられた。

『砂の採取が十回終わったので、現在残っている参加者は全員「げぇむくりあ」』

カチリと縄のロックが外れる音がする。

「あ……お、お父さぁぁぁん」

さくらが泣き叫びながら、振り子の様に揺れる、吊り上げられた父親の足にしがみつく。そして、父親が座っていた椅子に寄りかかって、むせび泣く。
その脇をカメダとアイゼンは、何事もなかったかのように通り過ぎていった。


66以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/22(日) 03:01:18gNJCZn76 (4/7)

二人に続いてモトウラが通り過ぎようすると、さくらは涙でグシャグシャになった顔で、彼女を見つめた。しかしモトウラは

「何見てんのよ。私にアンタの面倒なんかみられるわけ無いでしょ。ガキなんか育てたことないんだから」

と吐き捨てるとさっさと部屋から出ていってしまった。
さくらは最後に残ったキノにしがみついて、

「お姉さん、助けて」

と言ってきた。


67以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/22(日) 03:04:37gNJCZn76 (5/7)

キノは少しだけ悲しげな表情でさくらを見つめると、かがんで、

「ごめんね、ボクはこの国で生きるのに自分だけで精一杯なんだ。だから、君を連れていくことはできない。……どうにかして諦めてくれると嬉しい」

と言い、部屋から出ていった。さくらは砂まみれの床に崩れ落ちて泣き続けた。


68以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/22(日) 03:07:02gNJCZn76 (6/7)


「なにしてるのさ。早く行こうよ」

「げぇむ」会場であった建物を見つめるキノをエルメスが急かす。

「……そうだね」

そう言ってキノはエルメスのエンジンをかけ、走り出した。

「どうしたの、キノ。なんか元気なさそうだけど」

走行中のエルメスが尋ねる。

「別にボクは元気だよ。けど、言葉にできるような気持ちじゃないんだ」

「なにそれ、よくわからないよ」

キノとエルメスは真っ暗な街中へと消えていった。

キノ滞在4日目残り滞在可能日数6日


69以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/22(日) 03:08:13gNJCZn76 (7/7)

今日はここまで。


70以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/25(水) 17:59:05eFyeqvwY (1/9)


今際の国滞在5日目

「どこか良さそうなところはあるかい、エルメス」

「ないね。そんなにベットで眠りたいの、キノ?」

キノは朝から、街中で泊まるのに適当なホテルを探していた。

「あ、次の角に有るのなんていいんじゃないの」

キノはエルメスが言った所まで行き、止まった。

「うん、なかなかいいかも」

そのホテルは二十階はありそうなかなり大きなホテルであった。キノはエルメスから降りて、ホテルへと入った。


71以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/25(水) 18:01:14eFyeqvwY (2/9)

「おじゃまします」
「誰も居ないと思うよ、キノ」
「そうだろうけど、一応ね」

キノはエルメスを転がしながらロビーへと進んだ。

「かなり広いね。こんなホテル、タダじゃなかったら絶対に泊まらないでしょ」
「そうだね。けど、豪華な食事は出なさそうだよ」

ロビーにあるソファーは所々が破け、中のクッションが出ている。更に床には花瓶やらシャンデリアやらの割れた破片が一面に散らばっていた。キノはエルメスをセンタースタンドで止めると、ホテルの一階を散策した。

「どう、キノ」
「一階に客室は無いみたい。二階に行ってみよう」


72以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/25(水) 18:04:35eFyeqvwY (3/9)

「うわぁ、この部屋もきったないね」

エルメスが言う。二階には客室があった。しかし、どの部屋も窓ガラスが割れていたり、壁紙がそこらじゅう破けていたり、椅子やカーテンの残骸が散らかっていて、長い間、人の手が入って無いことが窺える。

「本当にこんな、部屋に泊まるのキノ?」
「外でテントよりはずっと良い」

キノは結局、最も散らかっていない部屋に暫く泊まることにした。

「さぁ、掃除だ」

そう言うとキノは、散らかっている椅子やシーツをかたずけ、何処からか持ってきた箒で部屋中のほこりを払い始めた。


73以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/25(水) 18:14:54eFyeqvwY (4/9)

「ふぅ、やっと終わった」
「お疲れ様」

大分、綺麗になった部屋の中で、リネン室から持ってきたきたシーツを敷いたベットに寝そべるキノに、エルメスが声をかける。日はもう傾きかけており、街中をオレンジ色に染めている。

「そうだ、行きたい所があるんだ」


74以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/25(水) 18:16:03eFyeqvwY (5/9)

「何処に行くの、キノ?」
「ここらへんでいいはずなんだけど」

キノは、夜になりかけたビル街の中を走っていた。

「なんか臭うね、キノ。おならした?」

「してないよ。けど、来て正解だった」

少し走ると、崩壊してバラバラになった、大きな建物であっただろう残骸が見えてきた。

「何、あれ」
「多分、温泉だよ。エルメス」
「温泉?あれが」


75以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/25(水) 18:18:08eFyeqvwY (6/9)

その残骸の真ん前まで来ると、キノはエルメスから降りた。そこは、建物の残骸を堤防として、湖の様に辺り一面お湯が溜まっており、湯気が立ち込めていた。

「ひぇー、すごいね。でも、なんでキノはこんなのがあるって知ってたの?」
「この国に来た日に会った人から『かまゆで』っていうげぇむに参加した、っていう話しを聞いたんだ。それで一応、場所も訊いといたんだ」
「なるほどねー」

エルメスが関心したような、呆れたような声で言う。


76以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/25(水) 18:21:50eFyeqvwY (7/9)

「それで、温度はどうなの」
「うん、大丈夫そう」

キノが右手を少しお湯に入れながらこたえる。

「周りに誰もいないよね」
「人間はいないね」
「『人間は』ってどういうことだい、エルメス」
「キノ、右側を見て。だいぶ離れてるけど」

エルメスの言った方向を見てみると、湯気の間になにやら動物の陰が確認できた。

「シカとかゾウとかキリンとか色々いるね。きっと、動物園から逃げてきたんだ」
「襲ってきそうな動物はいるかな」
「キノを食べそうな動物はいないね」
「ならいいか」


77以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/25(水) 18:24:11eFyeqvwY (8/9)

そう言うとキノは、ブーツを脱ぎ、シャツもズボンも脱いだ。そして、肌着も脱いだ。つまり、一糸纏わぬ姿になり、お湯の中に入った。

「湯加減はどう」

畳まれたシャツやズボンを乗っけられている、エルメスが尋ねる。

「とてもいいよ。本当、来たかいがあったよ」
「良かったね、キノ。美味しい携帯食料も手に入ったし、燃料もタダだった。それに、熱いシャワーじゃないけど温泉に入れたじゃん」
「まぁ、『げぇむ』が無いのが一番いいんだけどね」

満天の星空の下、キノはたっぷり時間を掛けてお湯に浸かった。

キノ滞在5日目残り滞在可能日数5日


78以下、名無しが深夜にお送りします2015/03/25(水) 18:29:06eFyeqvwY (9/9)


次は◇のげぇむをやります。
本編の「はあとのQ」が始まるまでには書く予定。


79◆D0wxzXFezQ2015/03/30(月) 14:57:502fd9Upr6 (1/8)

今更だけど酉つける

今際の国滞在7日目

まもなく日が沈みそうな街中をキノとエルメスは走っていた。

「えっ、キノ、今日も『げぇむ』に参加するの?まだ『びざ』残ってるよね」
「残ってるね。でも、何かで大ケガでもしたら暫く『げぇむ』に参加できないからね。それに、なんと言うか、『げぇむ』に対する感覚を研ぎ澄ませておきたいんだ。2日間ものんびりしてしまったからね」
「うーん、モトラドにはよくわかんないや」


80◆D0wxzXFezQ2015/03/30(月) 14:59:042fd9Upr6 (2/8)

そんな会話をしながら走っていると、ライトアップされた建物が見えてきた。

「今日はここか」

そこは、大きい、平屋建てのスーパーのような建物であった。キノはエルメスを併設されている駐車場に停めると、建物の中へと入った。


81◆D0wxzXFezQ2015/03/30(月) 15:00:462fd9Upr6 (3/8)

中には歯ブラシなどの生活用品や化粧品、薬などが置いてあった。そして、レジスターがいくつかある会計所らしき場所には、モニターと側面に取手が付いた大きな白い箱が乗った机があり、その周りに男が二人いた。

「今日は、あなた達も『げぇむ』の参加者ですか」
「おお、そうだ。お前さんもか」

キノの呼び掛けに反応したのは短髪の男であった。中肉中背で歳は20代半ばに見える。もう一人の男は、メガネを掛けたやせ型で、歳は短髪の男と同じくらい。キノが話し掛ける前まで親しげに話していた様子から、二人は友人であろうか。


82◆D0wxzXFezQ2015/03/30(月) 15:01:552fd9Upr6 (4/8)

「その箱は何でしょうか?」
「さぁな。鍵が掛かっていて開かないんだよな」

短髪の男とキノが会話していると、もう一人男が来た。鍛えられたガッチリとした体格で、身長は190センチ程。左頬に傷が有り、頭頂部にオレンジ色の髪をまとめ上げている。歳は先に居た二人の男と同じか若いくらい。


83◆D0wxzXFezQ2015/03/30(月) 15:03:272fd9Upr6 (5/8)

「なーに見てんだよ」
「べ、別に見てませんよ」

メガネの男を睨み付けて威圧する。
不穏な空気が流れたところにアナウンスが入った。

『時間となりましたので、エントリーを締め切らせていただきます』
『今回、皆様に参加していただくのは難易度「◇5」 げぇむ「どくやく」です』

「毒薬ってなんかヤバそうだな」

短髪の男が呟く。


84◆D0wxzXFezQ2015/03/30(月) 15:07:142fd9Upr6 (6/8)

『まずは、箱をお開けください』

どうやらロックは外れていたらしく、短髪の男が側面の取手に手を掛け持ち上げるようにすると箱は開いた。中には、一つの皿がお盆くらいありそうな大きな天秤と1から13までの番号がふられた小瓶が入っていた。小瓶には白いカプセル錠がぎっしり詰まっている。

『13個の小瓶が有りますが、その内一つの小瓶にはビタミン剤が、残りの小瓶には猛毒入りのカプセル錠が入っております』

『猛毒入りのカプセル錠が入った小瓶は全て重さが同じであり、ビタミン剤が入った小瓶のみ重さが異なります』


85◆D0wxzXFezQ2015/03/30(月) 15:08:042fd9Upr6 (7/8)

『したがって皆様は天秤を使い、ビタミン剤が入った小瓶を見つけてください』
『そして、制限時間25分以内にビタミン剤を飲んだ方のみ「げぇむくりあ」となります。尚、天秤は三回までしか使用できませんので、よく考えてからのご使用をおすすめします。』
『それでは、「げぇむすたあと」』

モニタが25:00、24:59、24:58……とカウントダウンを始める。


86◆D0wxzXFezQ2015/03/30(月) 15:08:472fd9Upr6 (8/8)

続きは夜に


87◆D0wxzXFezQ2015/03/31(火) 02:27:42oUA8rHf. (1/10)

>>85の最後の文はモニタじゃなくてモニターです。森博嗣になっとる

続き

「あー、なんだよこれ、どうすりゃいいんだよ。てか、三回天秤を使うとだけでビタミン剤が入った小瓶なんてかわるのかよ」

短髪の男が頭を抱えながら言う。

「あれ、何だっけこれ。俺、前にこれと同じのどこかで見たことがあるな」
「マジか!で、どうすりゃいいんだよ」


88◆D0wxzXFezQ2015/03/31(火) 02:29:28oUA8rHf. (2/10)

「ちょっと、待って。今、思い出すから。ええと、あれがこうで……、だから……」

メガネの男は小瓶を机に並べながら、友人らしき短髪の男と共に正解を導きだそうとしていた。一方、頬に傷痕のある男は壁に寄りかかりながら腕を組んでその様子を眺めていた。また、キノも考えてみたものの、天秤を三回使うだけでは出来そうで出来ずにいた。


89◆D0wxzXFezQ2015/03/31(火) 02:32:01oUA8rHf. (3/10)

残り時間 17分

「オイ、まだわかんねーのかよ」

頬に傷痕のある男の突然の怒鳴り声に、短髪の男とメガネの男はビクッとする。

「なんだよ、アンタ。さっきから見てるだけで何もしないで。文句だけは言うのか」
「ガキが、誰に向かって口きいてだよ」

頬に傷痕のある男が短髪の男に殴りかかろうとしたところで、

「あ、わかったかも」

とメガネの男が言い、全員が注目した。

「かも、じゃね。もし、違ったらどーしてくれんだよ」

頬に傷痕のある男が今度はメガネの男に対して怒鳴った。


90◆D0wxzXFezQ2015/03/31(火) 02:33:50oUA8rHf. (4/10)

「時間も有りませんし、彼の意見を聞きませんか」

キノがそう言って、ようやく場が鎮まった。

「ええと、まず、13個の小瓶ら1つ取り除いて、残りの12個でそれぞれ3個ずつ4つのグループを作ります。次に ━━」

メガネの男が小瓶を机に並べて説明をする。


91◆D0wxzXFezQ2015/03/31(火) 02:36:30oUA8rHf. (5/10)

残り時間15分

「それで……、あれ?さっきは出来たんだけどな」

メガネの男の説明が途中で止まる。

「ええと、どうするんだったけな」

メガネの男は頭をかきむしり明らかに焦っている様子だ。

「オイ、どうするんだったけな、じゃねーよ。時間がねぇんだぞ」

頬に傷痕のある男がメガネの男のシャツの襟首を掴み、殴りかかろうとする。


92◆D0wxzXFezQ2015/03/31(火) 02:37:21oUA8rHf. (6/10)

「いい加減にしろよアンタ」

そう言い、短髪の男が頬に傷痕のある男の腕を掴むが、睨まれると「す、すいません」と言って引き下がった。

「オマエな、俺達が焦ってるのを見て楽しんでるんだろ。本当は分かっているのに」
「わ、分かりませんて。いや、でも、さっきは出来たんです」
「じゃあ、やってみろよ。さっきは出来たんだろ。同じようにやってみろよ、ほら」
「で、でも」
「いいから、さっさとやれ。時間がねーんだよ」

頬に傷痕のある男がメガネの男を威圧する。


93◆D0wxzXFezQ2015/03/31(火) 02:39:19oUA8rHf. (7/10)

「そんなこと言われても……」

メガネの男は怯えきっている。

「あのー、すいません」

キノが言う。

「アァン、アんだよ。テメェは黙っとけ」

頬に傷痕のある男の言葉を無視してキノは言葉を続ける。

「最初の部分は確実なのですか?3個ずつ4つのグループを作るというのは」
「え、えーと……」

メガネの男がいいよどむ。


94◆D0wxzXFezQ2015/03/31(火) 02:41:03oUA8rHf. (8/10)

「どうなんだよ、はっきりしやがれ」

頬に傷痕のある男が怒鳴る。

「え、えぇ、確実だと思います」
「じゃあ、さっさとやれよ。俺を殺す気かオマエ」

そう言われて、メガネの男は少し悩んだ結果、7と書かれた小瓶を取り除いて、1~3、4~6、8~10、11~13の4つのグループを作った。そして、その内、1~3のグループを天秤の片方の皿に、4~6のグループをもう一方の皿に乗せた。天秤は傾かなかった。次に残りの2つのグループで同じようにしてみたところ、8~10のグループを乗せた皿が下に傾いた。メガネの男の動きはそこで止まった。


95◆D0wxzXFezQ2015/03/31(火) 02:42:28oUA8rHf. (9/10)

「オイ、ここからどーすんだよ」

8~13の小瓶のどれか一つにビタミン剤が入っていることは分かったが、あと一回天秤を使うだけではそれを見つけられそうもない。

「あ、えと、ここからは……あぁ」

メガネの男の脚はガクガクと震えている。

「まさか、分からないとか言わねーだろうな」
「えぇと、6個の中から……」

メガネの男がぼそぼそ言う。

「アァン?なーに言ってるかわからねーよ」
「す、すいません無理で……ガハッ」
頬に傷痕のある男が右の拳でメガネの男の顔面を思いっきりパンチした。


96◆D0wxzXFezQ2015/03/31(火) 02:43:12oUA8rHf. (10/10)

続きは一週間以内に


97◆D0wxzXFezQ2015/04/04(土) 15:58:14r6Kol0KA (1/12)

今日のぶん

残り時間13分

「なーにしてくれちゃてんだよ、ガキがヨォ」
「グフッ」

パンチで倒れたメガネの男に、頬に傷痕のある男が容赦なく蹴りを入れ、両手で首を絞めて持ち上げる。

「なにしてんだよ、やめろよあんた」

短髪の男が頬に傷痕のある男の腕を掴んで、引き離そうとする。しかし、腕を少し振っただけで短髪の男は派手にぶっ飛んだ。頬に傷痕のある男はメガネの男を床に落とすと、頭を右足で踏んづけた。


98◆D0wxzXFezQ2015/04/04(土) 15:59:36r6Kol0KA (2/12)

「そーだ。オマエが飲んで確かめろよ。どれを飲むかはオマエに選ばしてやるからよ」

頬に傷痕のある男はそう言うと、メガネの男の髪を鷲掴みにして、天秤が乗っている机に押し付けた。ぐったりとメガネの男は「すいませんでした」とは言うが、動こうとはしない。
業を煮やした、頬に傷痕のある男はメガネの男の頭を勢いよく机にぶつける。

バコッ

物凄い音がした。メガネの男は鼻と額から出血し、メガネのレンズは両方とも割れしまった。


99◆D0wxzXFezQ2015/04/04(土) 16:02:22r6Kol0KA (3/12)

「テメェ、俺のダチに何してんだよ」

そう言い、短髪の男は飛び蹴りをしようとするが、頬に傷痕のある男は屈んで難なく避けたため、すっ転んだ。そして

「じゃあ、オマエが飲むか。コイツみたいにしてからでもいいんだぜ」

と頬に傷痕のある男にすごまれると、「ヒィ」と情けない声を出してどこかへ行ってしまった。

「ほら、さっさと飲めよ」

そう言って頬に傷痕のある男は、メガネの男の左手の親指を除く四本の指を握り、思いっきり外側へ曲げた。

「イィッ」

と、メガネの男が声をあげる。


100◆D0wxzXFezQ2015/04/04(土) 16:04:28r6Kol0KA (4/12)

「ず、ずいまぜん、あと一回だけ天秤を使っでもいいでずか」
「よし、特別に許してやろう」

頬に傷痕のある男は尊大な態度でそう言った。メガネの男は震える右手で片方の皿に9の小瓶を、一方の皿に12の小瓶を乗せた。ここで天秤がどちらかに傾けば、ビタミン剤を50%の確率で当てられる。しかし、天秤は両方の皿に小瓶を乗せたまま動かなかった。メガネの男はへなへなと床に倒れる。続いて「ビッ」と音がすると同時に天上から降り注いできた白いレーザー光線が天秤を真っ二つに割ってしまった。頬に傷痕のある男は一瞬それに驚いたが、すぐに床に倒れているメガネの男の髪を再び鷲掴みにして、

「オラッ、さっさと飲め」

と怒鳴った。


101◆D0wxzXFezQ2015/04/04(土) 16:05:20r6Kol0KA (5/12)

メガネの男は抵抗するそぶりもなく、震える右手を小瓶へと伸ばした。ビタミン剤が入っているのは8、10、11、13のどれか一つだ。メガネの男は少し迷った挙げ句8の小瓶の蓋を開け、中のカプセルを摘まんだ。
しかし、なかなかそれを飲もうとはしなかった。なので、頬に傷痕のある男はメガネの男の右手を掴むと口の中へと無理矢理捩じ込んだ。メガネの男が「カハッ、カハッ」と変な咳のような音を出すと、頬に傷痕のある男は捩じ込んだ右手を口から出した。その手にはカプセルはなかった。
メガネの男に変化はない。彼自身も安堵の表情をみせる。しかし、次の瞬間、


102◆D0wxzXFezQ2015/04/04(土) 16:10:29r6Kol0KA (6/12)

「オェェェェェェェェェッー」

と人間の喉から出たと思えない異様な声を発すると、右手と折れ曲がった左手で首を押さえ、口からトロッとした粘度の高い唾液と血の泡が混ざったものを大量に吐き出した。メガネの男はその場に倒れると、脚をばたつかせながら転げ回った。そして、特に驚くでもない表情で自分を見下ろしている頬に傷痕のある男の方へ右手を伸ばそうとしたところで、力尽きた。

「キッたねーな。この役立たずが」

頬に傷痕のある男はそう言いながら、唾液と血にまみれたメガネの男の死体を蹴り飛ばした。


103◆D0wxzXFezQ2015/04/04(土) 18:00:33r6Kol0KA (7/12)

残り時間8分

「コノヤロー、よくも、俺のダチを」

短髪の男が叫びながら、どこから持ってきたのか、折り畳まれたパイプ椅子をスイングさせて、背後から頬に傷痕のある男の頭に当てようとした。しかし、頬に傷痕のある男は振り向きもせず右手だけでそれを受け止めた。簡単にパイプ椅子を奪い取る。

「チョーシに乗ってんじゃねーよガキがよォ」

頬に傷痕のある男は声をあらげながら、パイプ椅子を背中を向けて逃げる短髪の男に投げつけた。


104◆D0wxzXFezQ2015/04/04(土) 18:03:51r6Kol0KA (8/12)

それが背中に命中した短髪の男は転んで顔面を床に打ち付けた。そして、起き上がろうとしたところを、頬に傷痕のある男の蹴りをダイレクトに受け、再び倒れた。
頬に傷痕のある男は短髪の男に馬乗りになり、顔面に何度も何度もパイプ椅子を叩きつけた。

「テメェみたいなガキがァ、いっちょ前にオレ様を殺そうとしてるのかアッ!!」

バン、バン

「ずびば……グフッ……でんでひゃふぁ……カハッ」
「身の程っていうもんを、教えなくちゃなアァァ」

バキッ、バキッ

「ゆどぅじで……ゴフ……ぐだざ……ゲホッ」

グチュ、グチュ

「………………」
「よーやく反省したか」


105◆D0wxzXFezQ2015/04/04(土) 18:06:19r6Kol0KA (9/12)

鼻だったところは平たくなり、頬は腫れ上がり、目は潰れ、血みどろになった短髪の男の顔面は原形が判らないほどグチャグチャになっていた。しかし、「ヒュー、ヒュー」と息をする音がすることから、辛うじて生きていることだけはわかる。頬に傷痕のある男は、そんな短髪の男の襟首を掴んで、小瓶のある机まで引きずっていった。

「オラッ、選べ」
「……」
「って、選べる分けねーか」

そう言うと、頬に傷痕のある男は13の小瓶の中にあるカプセルを、ぐったりと倒れている短髪の男の口へと放り込み、頭を振って無理矢理飲み込ませた。


106◆D0wxzXFezQ2015/04/04(土) 18:15:34r6Kol0KA (10/12)

少しすると、短髪の男は

「ウ、ウッ、オェッ」

と声を出すと、メガネの男同様両手で首を押さえた。そして、よたよたと数歩動いたのち倒れこむと右手の指を口に突っ込んで「ゥオェ、ゥオェ」と声を発しながらのたうち回った。そして、すぐにその体勢のまま、眼球が飛び出そうなくらい目を見開いて動かなくなった。


107◆D0wxzXFezQ2015/04/04(土) 18:18:25r6Kol0KA (11/12)

「クソ、コイツも役立たずかよ」
短髪の男の死体を蹴り飛ばした頬に傷痕のある男は、返り血で真っ赤にそまった顔で、キノの方へと振り向く。

「次は、オマエの番だな」

そう言ったところで頬に傷痕のある男の動きが止まった。

「いえ、あなたの番です」

『森の人』のレーザーサイトの赤い光が男の額を照らしていた。


108◆D0wxzXFezQ2015/04/04(土) 18:19:27r6Kol0KA (12/12)

ここまで。


109以下、名無しが深夜にお送りします2015/04/07(火) 11:31:020OF7wfco (1/1)

面白い。期待。


110◆D0wxzXFezQ2015/04/10(金) 12:18:01hSBtBkYY (1/13)

>>109 ありがとうございます!

残り時間3分

「そんなオモチャで俺がビビるとでも思っ」

パン

乾いた音と共に発射された弾丸は、男の両足の間の床にめり込んだ。

「今からボクの言うことに従ってください」
「クソガキ、ぶっ殺して」

パン

今度は男の頭の右側すれすれのところを弾丸が掠め、背後の壁にめり込んだ。


111◆D0wxzXFezQ2015/04/10(金) 12:19:59hSBtBkYY (2/13)

「今度、ボクに対して反抗的な態度をとったら頭を撃ちますから」

そう言ってキノは頬に傷痕のある男に指示を出した。

「小瓶を手にとってください。10か11どちらにするかはあなたに選ばてあげます。……迷わないでさっさと選んでください」

頬に傷痕のある男はキノを睨み付けてから、10の小瓶を手にとった。

「蓋を開けて、はい、カプセルを一錠取ってください。蓋は閉めなくていいので、そこから五歩下がってください」

頬に傷痕のある男は素直に従った。

「そこで、いいです。では、カプセルを飲んでください」

頬に傷痕のある男のカプセルを摘まむ手はかなり震えており、なかなか飲もうとはしなかった。


112◆D0wxzXFezQ2015/04/10(金) 12:23:27hSBtBkYY (3/13)

「ぐずぐずしないで、さっさと飲んでください」

キノが急かす。
頬に傷痕のある男は決心するように一気にカプセルを口に入れ、飲み込んだ。

「ウ、ウッ」

男は苦しそうな声をあげると、両手で首を押さえながら倒れた。そして、呻き声をあげながら転げ回るとやがて、うつ伏せのまま動かなくなった。


113◆D0wxzXFezQ2015/04/10(金) 12:27:58hSBtBkYY (4/13)

少しの間、動かなくなった頬に傷痕のある男を眺めていたキノは男の左耳の横3センチほどの床に照準を合わせ『森の人』の引き金を引いた。

パン

頬に傷痕のある男がうつ伏せのままビクッと動く。

「ふざけないでください」

キノが冷たい声で言う。頬に傷痕のある男はゆっくりと頭を上げ、「ペッ」と口からカプセルを吐き出すとキノを睨む。

「クソッ、なんで騙されねーんだよ」


114◆D0wxzXFezQ2015/04/10(金) 12:29:55hSBtBkYY (5/13)

キノはモニターを一瞥する。モニターは0:57と表示していた。『森の人』の銃口を頬に傷痕のある男に向けながら、キノは10と11の小瓶に入っていたカプセルを一錠ずつ男の目の前に置いた。そして、机の前まで行くと自分の目の前にもカプセルを一錠ずつ置いた。

「何のまねだよ」

頬に傷痕のある男がキノの方を向いて言う。

「その体勢のまま、両手を頭に乗せて動かないでください」

キノは『森の人』の照準を男の頭に合わせる。


115◆D0wxzXFezQ2015/04/10(金) 12:31:46hSBtBkYY (6/13)

残り時間40秒

「何がしたいんだよ、オマエはよぉ」

両手を頭に乗せた、頬に傷痕のある男が言う。

「黙っててください」

照準を男の頭に合わせままキノが言う。

残り時間30秒

「テメェ、オレを道連れにして死ぬ気かよ」
「黙っててくださいと言ったのが聞こえませんでしたか」


116◆D0wxzXFezQ2015/04/10(金) 12:33:08hSBtBkYY (7/13)

残り時間20秒

「アァッ、死にたくねーよぉ」

頬に傷痕のある男が頭に乗せた手や、腕を震わせながら言う。

「黙りなさい!!」

キノが大声で言う。
しかし、頬に傷痕のある男は「クソッォォォ」と言いながら11の小瓶に入っていたカプセルを口に入れ、飲み込んだ。


117◆D0wxzXFezQ2015/04/10(金) 12:34:22hSBtBkYY (8/13)

残り時間10秒
キノは引き金を、引かなかった。

残り時間8秒
頬に傷痕のある男に変化は無い。

残り時間5秒
「クソッ。そういうことかよ」
頬に傷痕のある男が言い放つ。


118◆D0wxzXFezQ2015/04/10(金) 12:35:14hSBtBkYY (9/13)

残り時間3秒
キノは、11の小瓶に入っていたカプセルを飲んだ。

0:02、0:01、0:00……
『こんぐらっちゅれいしょん 「げぇむくりあ」』

「……ふうぅ」
キノが大きく息をつく。


119◆D0wxzXFezQ2015/04/10(金) 12:37:33hSBtBkYY (10/13)

頬に傷痕のある男が起き上がろうとする。

「まだ動いていいとは言ってませんよ。ボクが店を出るまでそのままでいてください」

頬に傷痕のある男に『森の人』の銃口を向けながら、キノはレジスターからびざとトランプカードを取る。頬に傷痕のある男は終始、キノを今にも飛び掛かってきそうな形相で睨んでいた。


120◆D0wxzXFezQ2015/04/10(金) 12:40:34hSBtBkYY (11/13)

「行くよ、エルメス」

足早に店から出ていったキノは、エルメスのエンジンを掛けると直ぐに走り出した。一瞬、振り返ると、店の前で頬に傷痕のある男が仁王立ちでキノを見ていた。

少し走るとキノはエルメスから降りて、帽子を取り、胸に当てて店の方を向いて黙祷を捧げた。

「なにしてるのさ、キノ」
「ボクが生き残るために、二人も犠牲にしてしまったからね」

キノが帽子を被りなおしながら答える。


121◆D0wxzXFezQ2015/04/10(金) 12:41:57hSBtBkYY (12/13)

「へぇー。どんな『げぇむ』だったの」

物凄いエンジン音と共に走り出したキノが「げぇむ」の内容と出来事を話す。

「なるほどねー。キノはパースエイダーで、その男の人は素手で『説得』したわけだ」
「そうだね。ボクも男の人も生き延びるのに必死だったからね」
「まぁ、生きるためにしちゃいけない事なんてないからね」
「少なくともこの国ではそうだね。ところで、エルメス」
「なに? キノ」


122◆D0wxzXFezQ2015/04/10(金) 16:50:20hSBtBkYY (13/13)

「どうやって13個の小瓶からビタミン剤を見つけるのが正解かエルメスは分かる?」
「分かるよ!まずね、13個の中から1つ取り除いて残りの12個で4つずつのグループを3つ作るんだ。それから、……」

キノはエルメスの説明を何回か聞いてようやく理解した。

「ねぇ、キノ。だいやの5程度が分からないならさ、だいやの9とか10に当たったらどうするの?」

説明を終えたエルメスが心配そうに話し掛ける。

「そのときは、そのときさ。当たらないことを祈るしかないよ」
「まぁ、キノは運がいいからね」

キノ今際の国滞在7日目残り滞在可能日数8日


今日はここまで


123以下、名無しが深夜にお送りします2015/04/10(金) 22:15:50R3ybPxuU (1/1)

作者とは別人ですが解答です

まず12個の瓶を4つ一組にして3グループA・B・Cを作ります
一回目にAとBを量ります。
この時どちらかが傾いたらそのグループだけ残して全て破棄、釣り合ったらABを破棄します。

残ったグループの4つを2個ずつに分けて2回目の計量。
ここで注意!
ABで傾いた時にビタミン剤が軽いか重いか判りましが、Cの場合はまだ判りませんのでここで解答方法が二つに分かれます。

ABどちらかの場合。
傾いた側の2個を残して最後の計量。
Cの場合
4つの内12と34で計量し、今度は13と24で計量します。
天秤が逆になったら交換した瓶が正解。動かなかったら交換しなかった瓶が正解になります。

キノだと得意ジャンルなんだろう?
オールラウンダーだから「くらぶ」かな?

次回も待ってます。


124以下、名無しが深夜にお送りします2015/04/10(金) 22:55:30iD5w/2.E (1/1)

AとBで傾いた時にビタミン剤が重いか軽いかはどうやって判別するの?


125◆D0wxzXFezQ2015/04/17(金) 12:37:46aPDqcmi6 (1/3)

>>125少し訂正させていただきます

A(仮に1,2,3,4とする)とB(仮に4,5,6,7とする)で傾いた場合、ABどちらにビタミン剤があるかまだわかりません。
なので、ABともに1つ取り除いて1つ互いに交換します。今回は7,8を取り除いてD(1,2,5)とE(3,4,6)
に分けたとします。


126◆D0wxzXFezQ2015/04/17(金) 12:55:58aPDqcmi6 (2/3)

>>125少し訂正させていただきます

A(仮に1,2,3,4とする)とB(仮に4,5,6,7とする)で傾いた場合、ABどちらにビタミン剤があるかまだわかりません。
なので、ABともに1つ取り除いて1つ互いに交換します。今回は7,8を取り除いてD(1,2,5)とE(3,4,6)
に分けたとします。
DとEを量って釣りあった場合、
7,8どちらかと7,8以外の適当な1つを量れば正解がわかります。(続く)


127◆D0wxzXFezQ2015/04/17(金) 13:09:02aPDqcmi6 (3/3)

色々ミスった>>125じゃなくて>>123です


128◆D0wxzXFezQ2015/04/17(金) 21:44:02JYJqNIT6 (1/6)

(続き)
1回目Aが重く、2回目Dが重ければ1,2どちらかが重いか、6が軽いかのいずれかなので1と2を天秤にかければ正解がわかります。

1回目Aが重く、2回目Eが重けれ
ば3,4どちらかが重いか5が軽いかのいずれかなので3と4を天秤にかければ正解がわかります。

1回目、2回目で重いのが逆でも同様にできます。


129◆D0wxzXFezQ2015/04/17(金) 22:09:38JYJqNIT6 (2/6)

今日の

今際の国滞在9日目

太陽が傾き始めた街中で、雑草が突き破って生えるアスファルトの上にエルメスがセンタースタンドで立っていた。その脇には『フルート』と呼んでいるライフルタイプのパースエイダーを構えたキノが立っている。
キノは真剣な眼差しでスコープを覗いていた。
そして、「すうっ」と短く息を吸うと、引き金を引いた。


130◆D0wxzXFezQ2015/04/17(金) 22:12:15JYJqNIT6 (3/6)

バシュ

サイレンサーによって小さくなった発射音と共に射出された弾丸は、およそ0.3秒かけて標的にたどり着き、その命を奪った。

「よし、行こう」

そう言ってキノは『フルート』を前後に分けてしまうと、エルメスに乗って急いで先程の標的が止まっていた電柱の元へ向かった。

「これは、なんと言う鳥だろう?」

キノが狙撃したのはニワトリより一回り小さい程の鳥だった。顔は赤く、オレンジ色の羽には黒い鱗状の模様があり、長い褐色の尾を持つ。

「ヤマドリだね」


131◆D0wxzXFezQ2015/04/17(金) 22:14:41JYJqNIT6 (4/6)

キノの疑問にエルメスが即答する。

「ヤマドリか。そう言えば前に、ヤマドリは美味しいから猟師が自分達で食べてしまって、市場に出回らないって聞いたことがあるよ」

そう言いながらキノは獲物をエルメスに積むと、常宿としているホテルへと向かった。その道中、

「ねぇ、キノ。今日は『げぇむ』に参加しなくていいの? ほら、『げぇむ』に対する感覚がとか言ってたじゃん」

エルメスが尋ねた。辺りからは「殺さないでくれー」とか「ギャァー、痛いー」という悲鳴や、爆発音が聞こえてくる。

「今日はいいや。だって、もし、『げぇむ』で死んでしまったら美味しいというヤマドリが食べられなくなってしまうからね」
「なるほど、実にキノらしい」


132◆D0wxzXFezQ2015/04/17(金) 22:15:52JYJqNIT6 (5/6)

キノは毛を毟って、血抜きと内臓の処理をしたヤマドリを丸ごと、薄く焦げ目が付いた狐色になるまでじっくりと焼いた。そして、それに塩と胡椒を適当に振って夕食とした。

「あー美味しかった」

そう言いながらベットに寝転ぶキノにエルメスが話しかける。

「キノ、向こうにある20階ぐらいのビル見える?『げぇむ』をやってるみたいなんだけど」

エルメスにそう言われたキノはベットから起き上がると、部屋の大きな窓から外を覗いた。窓からは暗闇に沈む幾つもの建物が見える。

「右側の手前の辺り。一本、高いビルがあるでしょ」

エルメスの言う所を見ると、キノの肉眼でもビルがライトアップされているのがわかった。


133◆D0wxzXFezQ2015/04/17(金) 22:21:22JYJqNIT6 (6/6)

「どんな『げぇむ』だろう」

そう言ってキノは『フルート』の後ろ半分だけを取り出すと、スコープでそのビルを覗いた。

「あれは、リフトに人が乗っているのかな」
「そうだね。さっきから、上がったり下がったりしているみたいだけど」

キノの呟きにエルメスが答えた。ビルの壁面には屋上から窓掃除に使うようなリフトが3台吊り下げられていた。しかし、間隔からしてもう何台かリフトがあったことが想像できた。

「あっ」

スコープを覗くキノが短く声を出した。リフトが1台、落下したからである。そして、その数秒後、ビルの谷間が一瞬明るくなった。おそらく、爆発が起きたのだろう。
その後、暫く「げぇむ」は続いたが、結局2台のリフトが屋上までたどり着いた。「げぇむ」の結末を見届けたキノは、『フルート』の後ろ半分をしまうと、再びベットに横になった。

「どんな『げぇむ』だったんだろうねー」

エルメスが話し掛ける。

「分からない。けど、出来ることならあんな『げぇむ』には参加したくないな」

キノが所々穴が空いた天井を見ながら言う。

「明日に備えてボクは眠るよ。おやすみ、エルメス」
「おやすみ、キノ」

キノ今際の国滞在9日目残り物滞在可能日数6日


134◆D0wxzXFezQ2015/04/21(火) 15:56:36uUiNtjKk (1/6)


今際の国滞在10日目

「キノ、今日じゃなくてもいいんじゃない『びざ』の残りだってまだあるんだし」

夕暮れの街中をキノとエルメスは走っていた。

「でも、一昨日も昨日も『げぇむ』に参加してないから出来れば、今日は『げぇむ』に参加しておきたいんだ」
「そうは言っても、会場が無いなら仕方ないじゃん」
「そうなんだ。なんで今日は会場がこんなにも見つからないんだろう? いままでは、直ぐに見つかったのに」

キノは既に30分以上「げぇむ」の会場を探していたがなかなか見つけられずにいた。


135◆D0wxzXFezQ2015/04/21(火) 15:57:24uUiNtjKk (2/6)

「もうすぐ、日没だし今日は諦めて夜のドライブでもする?」

エルメスが呑気に話す。

「エルメスがどうしてもって言うならいいけど……」
「いいの?でも、『げぇむ』の会場見つけたよ」

キノはエルメスの案内で「げぇむ」会場へ向かった。


136◆D0wxzXFezQ2015/04/21(火) 16:00:15uUiNtjKk (3/6)

「これは、何の建物だろう」

ライトアップされている建物の前で、エルメスを止めたキノが呟く。その視線の先にあるのはL字型の白い、駐車場もある大きな建物であった。周りにある多くの建物が、土地を少しでも有効的に使おうと狭い土地に鉛筆のように縦長なビルを建てているのに対し、その建物は公園のような広い敷地にかなりの土地を空けて2階分しか建てていなかった。

「さぁ? 早くしないと『げぇむ』の時間になっちゃうよ」

太陽はほぼ沈みかけている。エルメスを駐車場の隅に停めて、キノは建物の中に入っていった。


137◆D0wxzXFezQ2015/04/21(火) 16:02:14uUiNtjKk (4/6)

自動ドアの入口から内部へ入ると、ホテルのロビーのような雰囲気の空間に出た。そこは丁度、L字の角の部分らしく、2本の長い廊下がその空間から延びている。しかし、照明が絞られているため、薄暗く、どちらの廊下も先に何があるかよく見えない。
キノは「げぇむ会場はこちら」という案内と共に人差し指で方向を指し示す手のマークがある看板に従って、一本の長い廊下を進んだ。廊下の途中、キノの右手側にはトイレや幾つかの小部屋への入口があり、左手側は全面ガラス張りでエルメスを停めた駐車場が見えた。突き当たりでは白い両開きの扉が開かれていた。

「ねぇ、今から何が始まるのよ。『げぇむ』ってなんなの」

部屋に入ったキノの耳に飛び込んできのは、ヒステリックに叫ぶ声だった。声の主は髪が長く、黒いスーツを着た女であった。歳はキノより10歳くらい上だろうか。


138◆D0wxzXFezQ2015/04/21(火) 16:05:24uUiNtjKk (5/6)

「だから、『げぇむ』と言うのはですね……」

その女に説明しようとしているのは、ショートヘアの女。歳は黒いスーツの女と同じくらいに見える。

「うっせーな。初参加者は黙ってろよ」

腕を組ながら苛ついた口調でそう言うのは体格の良いンクトップの男。歳は40代半ば。
部屋には彼らや他の参加者、キノを含めて10人程がいた。部屋はかなり広く、今の数倍の人数は余裕で入れそうだ。廊下と同様に薄暗いうえ窓は無いが、2階まで吹き抜けとなっており、がらんとした印象の部屋である。また、部屋の入口、白い両開きの扉の近くの机には、レジスターとモニターが置いてあった。ただひとつ異質なのは、部屋の一辺、廊下から入ってきて右手側の壁一面にある鉄でできた両開きの扉である。まるでエレベーターの扉のようであるが、高さが1メートル程しかなく、横にあるパネルにはボタンが2つ程しかない。そのような扉が20個並んでいるのだ。キノがその扉に近づいてよく見てみようとした時だった。


139◆D0wxzXFezQ2015/04/21(火) 16:08:07uUiNtjKk (6/6)

『「げぇむ」の時間です』

アナウンスが入った。同時にモニターが一枚のトランプカードを映し出した。

「……はぁと、だと」
「しかもよりによって8じゃねーかよ」

参加者の誰かが声を洩らした。モニターに映し出されたのは両側に3つその間に2つの赤いハートが並んだカード、つまりハートの8のトランプカードであった。モニターのトランプカードが消え、アナウンスが入る。

『皆様は「コイツなんか要らねーや」とか「こんな人間生きてる意味無いだろ」と思ったことはありませんか?』

『今回、そんな皆様に参加していただく「げぇむ」は難易度はぁとの8
「ふにんきとうひょう」です』

今日はここまで


140◆D0wxzXFezQ2015/04/27(月) 10:04:15exxa1cro (1/12)

※グロ描写あり
今さらですけど

「ねぇ、なんなのよ『はぁとの8』とか『ふにんきとうひょう』って」

先程の黒いスーツの女が不安そうに言うが誰も何も言わない。アナウンスが続く。

『「るうる」について説明します。まず、制限時間20分の内、残り時間が5分になると投票室のロックが解除されまので、参加者の皆様は投票室の中へお入りください。参加者が一人入るとロックは自動的に行われます』

『投票室に入った参加者は中にあるモニターで、生きている価値の無いと思う参加者に投票を行って下さい。尚、自分への投票はできず、投票を行わなかった場合その時点で「げぇむおおばあぁ」となりますので、お気お付けください』

『20分の制限時間が終了した時点で投票数の最も多い参加者全員が「げぇむおおばぁ」となります』

『また、投票数の最も多い参加者全員が投票を行わなかった場合、次に投票数が多い参加者全員が「げぇむおおばぁ」となります』

『このように投票をくり返し、2名以下となった時点で生き残った参加者全員が「げぇむくりあ」となります』

『尚、他の参加者を投票ができない状態にした時点で「げぇむおおばぁ」となりますので、そのようなことはないように心掛けてください』

『それでは「げぇむすたあと」』


141◆D0wxzXFezQ2015/04/27(月) 10:06:07exxa1cro (2/12)

1ターン目

「なんなのよ、「げぇむおおばぁ」って。ねぇ、教えてよあなた」
「すいません、私はちょっとわからないです……」

黒いスーツの女はショートヘアの女に尋ねようとするが、ショートヘアの女は言葉を濁して逃げていく。他の参加者も黒いスーツの女とは目を合わせないように去っていった。そして何人かはキノが入ってきた入口から出ていった。どうやら建物全体が「げぇむ」の会場となっているようだ。

「あぁ、もう何なのよ、ここは。訳わからない」

そう喚く黒いスーツの女を遠くから見ながら、どうしようかと考えていたキノのシャツの腰あたりを、誰かが2回軽く引っ張った。

「キノさん、ですよね」

キノが振り返ると、そこには目の下にくまがあり、痩せこけた頬には泥らしき汚れがついた少女がいた。着ているシャツの袖はボロボロでそこから延びる腕は棒のように細い。更に、ズボンは膝のところに穴があき、そのまわりには血が滲んでいた。


142◆D0wxzXFezQ2015/04/27(月) 10:07:25exxa1cro (3/12)

「……?」

一瞬、キノにはその少女が誰か分からなかった。しかし、すぐに思い出した。

「……さくらちゃん?」

その少女は「すなとり」で父親を亡くしたさくらであった。

「助けてください」

さくらはキノの両目を見上げて言ってきた。キノを見つめるその目には輝きがなく、憔悴しきっていた。

「……わかった、この『げぇむ』では協力し合おう。けど、『げぇむ』が終わったらさよならだ。それで、いいかい?」

一瞬、判断に迷ったキノがそう言うとさくらは、

「はい」

と少し明るくなった表情で言った。


143◆D0wxzXFezQ2015/04/27(月) 10:08:11exxa1cro (4/12)

「こっちにおいで」

キノはさくらを連れて部屋の出口へ向かった。途中、

「私、気付いたら、荒れた街中にいて、それで、人が集まっているここに来たんですけど、もう訳分からなくて。どうしたら戻れるんですか」

と黒いスーツの女が、壁を背もたれにして床に座っている青年に訊ねる声が聞こえた。

「……さあね」

青年は黒いスーツの女を冷たくあしらうと、足早に部屋から出ていった。

「あのー」

黒いスーツの女がキノ達にも話し掛けてきた。

「すみません、分からないです」

キノはそう言ってさくらと共に部屋を出ていった。


144◆D0wxzXFezQ2015/04/27(月) 10:09:53exxa1cro (5/12)

「よし、これでいいかな」

キノは化粧室で、さくらの顔についた泥や汚れをぬぐってあげていた。服はボロボロのままであるが顔が綺麗になった分だけ、「げぇむ」開始時と比べるとマシに見える。
そんなさくらの顔を見て、キノは言う。

「時間になったら、あの黒いスーツの女の人に投票するんだ。きっと他の人達もそうするだろうからね。わかったかい」

「はい」

さくらは返事をした。


145◆D0wxzXFezQ2015/04/27(月) 10:12:39exxa1cro (6/12)

キノとさくらが部屋に戻って間もなく

『残り時間5分となりました。ロックを解除しますので参加者の皆様は投票室の中に入り、投票を行ってください』

とアナウンスが入り、同時に低い機械音を出しながら投票室の鉄製の扉が開いた。

キノが中を覗いて見ると、鉄の壁におおわれた奥行2メートル、高さ1メートル、幅1.5メートル程の小部屋には下に機械が付いた、コンクリートのような素材で出来たベットが一つあり、扉側の縁に「頭を奥にしてお入りください」と書いてあった。更に一番奥、今開いている扉の反対側の壁には縦に一本の線があり、扉になっているようであった。
周りをみると、部屋に戻ってきた他の参加者も中を少し見てから投票室へと入っていた。

「じゃあ、さっき言った通りにするんだよ」

さくらにそう言うと、キノは投票室の中へと入っていった。


146◆D0wxzXFezQ2015/04/27(月) 10:13:58exxa1cro (7/12)

キノが頭を奥にして固いベットの上に寝ると、目の前には小さなモニターがあり、「左手首に腕輪をつけて下さい」と表示していた。丁度、左手首の辺りにベットと短い鎖で繋がれた腕輪があったので、キノはそれを着けた。すると「ガチャ」と腕輪のロックが掛かる音がした。これで、ベットの上から殆ど動くことができなくなった。続いて扉が低い音をたてて締まり、モニターの光を除いては投票室の中は真っ暗となった。
モニターは「投票する人を選んで下さい」と残り時間を表示すると共に、参加者の顔を映し出した。その数、12人。ということはキノを含めれば13人がこの「げぇむ」に参加しており、最低でも11人が死ぬこととなる。
キノはためらうこと無く黒いスーツの女の顔のところをタッチした。女の顔に赤いバツ印が付き、「投票する人を選んで下さい」という表示が「投票ありがとうございました」という表示に変わった。


147◆D0wxzXFezQ2015/04/27(月) 10:15:17exxa1cro (8/12)

残り時間はまだ3分ある。
モニターに映し出された参加者の顔を見ると老若男女幅広くいる。男は、黒いスーツの女を怒鳴っていた40代半ばのタンクトップ、壁を背もたれにして床に座っていた青年、色白の20代後半、縁なしメガネを掛けたインテリ風の30代前半、髪の薄い初老のサラリーマン、サングラスを掛けたドレットヘアー、金髪で長髪のホスト系の計7人。
女は、黒いスーツの女、さくら、黒いスーツの女に説明しようとしていたショートヘア、フードを被ったギャル風の10代後半、
70歳前後のメガネを掛けた品の良さそうな老女に、キノを加え計6人。
間もなくして残り時間の表示が0:00となった。同時に左手首のロックが外れ、焼却炉の扉が開いた。キノが狭い焼却炉の中から這い出ると、そこには隣の焼却炉に入ったさくらが居た。辺りを見渡すと、他の参加者も焼却炉の外に居たり、中から這い出てきたりしていた。しかし、黒いスーツの女だけは見当たらなかった。

そして、すぐにアナウンスが入った。


148◆D0wxzXFezQ2015/04/27(月) 10:18:18exxa1cro (9/12)

『1ターン目の投票の結果、ツツイツネコ様が12票で最多得票数となりました。従って、ツツイツネコ様、「げぇむおおばあ」』

耳障りなハウリングの後、アナウンスの声は若い女のものとなる。

『ザザッ……ちょっと、私が最多得票数ってどういうこと?ガチャカ゛チャ……ねぇ出しなさいよ。……もうなんなよこれ』

少しの間、女が投票室から脱出しようともがく音が続く。

『アァン、もうなんでこれ取れないのよ。ボワッ……アチッ。な、何よこれ。ねぇ、出して、火が、熱い、火がアァァァァァァァァァァッ』

ショートヘアの女が思わず耳を塞ぐ。

『………………………………』

しかし、黒いスーツの女の声は直ぐに聞こえなくなった。

しばらくすると、閉まっていた投票室の扉が独りでに開いた。

「……ウッ」
「なんだよ、これ」
「……」


149◆D0wxzXFezQ2015/04/27(月) 10:19:42exxa1cro (10/12)

中から自動的に出てきたベットの上に載っている、プスプスと焼きたてのパンような音をたてる黒い塊を見て、ある参加者は思わず目を背け、別の参加者は吐き気を催す。それは、数分前まで生きていたはずの女の焼死体だった。身に付けていた黒いスーツは燃え尽きてしまっているが、女性特有の凹凸を残した体は完全には炭化しておらず、皮膚は赤紫やオレンジといった通常の人体にはありえない色に変色しており、直接火で炙られたであろうところはグズグズに崩れ露出した黄色い骨に黒焦げの肉片がこびり付いていた。髪の毛は焼けてチリチリになっているものの、顔面は生きたまま焼かれ、苦しみながら死んでいった壮絶な表情をそのまま保っていた。

キノが今まで見た中でもかなり残酷な死体を目の当たりにしたさくらはキノの後ろに隠れ、シャツ腰の辺りをギュッと掴んできた。


150◆D0wxzXFezQ2015/04/27(月) 10:22:33exxa1cro (11/12)

参加者にこの「げぇむ」で「げぇむおおばあ」になった人間の末路を見せつけた黒い塊は、しばらくすると自動的に投票室の中へ入っていき、投票室はその扉を閉じた。

「焼却炉を使ってこれがやりたいが為に、わざわざ火葬場で『げぇむ』を行うのか。どこまで意地が悪いんだ、この国は」

インテリ風の男が吐き捨てるように言った。

1ターン目終了 生存者12名


151◆D0wxzXFezQ2015/04/27(月) 10:26:53exxa1cro (12/12)

今日はここまで

>>147で焼却炉って言葉を使ってたり、>>149の最後の文は「シャツの腰の辺り」とすべきところを間違ってたりしてすいません


152◆D0wxzXFezQ2015/05/07(木) 09:43:06ExJUe3qw (1/6)

2ターン目

『ただ今から、2ターン目を開始します』

明るい声でそうアナウンスが入ったが、先程のあまりにも惨たらしい光景に圧倒され、誰も動こうとはしない。

「わ、わたし、こんな『げぇむ』無理。あ、あ、あんなふうになるなんて、イヤよ」

泣きそうな声でそう言いってショートヘアの女は座り込む。

「誰か、誰か、誰か、誰か、誰か助けてよぉ。僕、焼け死にたくないよぉ」

色白の二十代後半の男は、歳の割りには幼すぎる言葉使いで喚きながら髪の毛を両手で掴んでぶるぶる震えている。

「チッ、うるせー奴らだな」

タンクトップの男がそう言いながら部屋から出ていった。他の参加者も何人かは部屋から出ていく。キノとさくらもそれに続く。


153◆D0wxzXFezQ2015/05/07(木) 09:44:20ExJUe3qw (2/6)


「次は誰に投票すればいいですか?」

エントランスのソファーに座るさくらが、同じくソファーに座るキノに尋ねる。

「うーん、誰にしようか」

キノは暫く悩んだ結果、70歳前後の老女に投票することにした。

「なんでですか?」

さくらがキノに尋ねる。

「だぶんだけど、他の人達も弱い人から狙っていくと思うんだ」

キノは淡々とそう言うと、さくらを連れて焼却炉がある部屋へ向かった。


154◆D0wxzXFezQ2015/05/07(木) 09:48:08ExJUe3qw (3/6)

『残り時間5分となりました。ロックを解除しますので参加者の皆様は投票室の中に入り、投票を行ってください』

そうアナウンスが入り、キノが投票室に入ろうとしたすると、男の大声が聞こえた。

「ちょっとオマエらに聞いて欲しいことがある」

声の主はタンクトップの男であった。そのタンクトップの男の両脇にはサングラスを掛けたドレッドヘアーの男とホスト系の男がいた。他の参加者の注目を集める中、タンクトップの男が言葉を続ける。

「俺達3人はグループを組んだ。宣言する、俺達は次の投票でオマエに票を入れる」

そう言ってタンクトップの男が指を差したのはショートヘアーの女であった。

「な、なんで、わたしなんですか」

ショートヘアーの女は今にも泣きそうな声で、自分が犠牲にならなくてはならない理由を尋ねる。

「テメェーがうっせえからだ。人が焼け死んだぐらいでギャアーギャアー騒いでよ。他の参加者だってテメェーのことはウゼェと思ってるだろうよ」


155◆D0wxzXFezQ2015/05/07(木) 09:48:57ExJUe3qw (4/6)

タンクトップの男はショートヘアの女に言いはなった。

「お願いします、お願いします。わたし、まだ死にたくないんです。何でもしますから、わたしに投票するのだけはやめてください」

ショートヘアの女は何度も土下座しながら必死に命乞いをした。

「へ、そこまで言うなら仕方ねーな、服を全部脱いで裸になれ。それで、膝まづいて俺達の靴を舐めろ。そうしたら考えてやるよ」

ホスト系の男が明らかにバカにした口調で言う。

「そんなこと、出来るわけないじゃないですか」
「なら諦めるんだな」

ホスト系の男はショートヘアの女を冷たくあしらうと焼却炉の中に入っていった。


156◆D0wxzXFezQ2015/05/07(木) 09:51:18ExJUe3qw (5/6)

「オマエ達もよく考えて投票するんだな」

タンクトップの男は他の参加者にそう言い残して焼却炉の中に入っていき、ドレッドヘアーの男も続いて入っていった。

「ウッ、ウッ、わだじ、まだ死にだぐない。ウッ、お願いします、わだじに投票じないでぐださい」

ショートヘアーの女は他の参加者に泣きながら命乞いをしてきた。

「キノさんは、あの女の人に投票しますか?」

さくらが小さい声で尋ねてきた。

「……うん。仕方ないけど、生き残るためにそうするよ」

焼却炉の中でキノの指はショートヘアーの女に投票する直前、一瞬だけ止まった。しかし、直ぐにその指はモニターに映されたショートヘアーの女に触れた。


157◆D0wxzXFezQ2015/05/07(木) 09:52:39ExJUe3qw (6/6)

投票後、焼却炉から出てきたキノが辺りを見渡すとそこにショートヘアーの女の姿は無かった。そして、アナウンスが入る。

『2ターン目の投票の結果、ドウバサイリ様が7票で最多得票数となりました。従って、ドウバサイリ様、「げぇむおおばあ」』

泣き叫びながらの命乞いも虚しく、ショートヘアーの女は犠牲となった。
1ターン目の演出は参加者にトラウマを植えつけるのが目的だったらしく、焼却炉の中から激しく叩く音が聞こえた気がしたものの、焼け死んでいく参加者の断末魔が実況されることもなければ、焼死体が焼却炉の中から出てくるということもなかった。

2ターン目終了 生存者11名


158◆D0wxzXFezQ2015/05/19(火) 16:17:11Pzg6nE7s (1/3)

3ターン目

「今回俺らが投票するのは、アンタだ」

残り時間が5分になったことを知らせるアナウンスの直後、そう言ってタンクトップの男が指を差したのは初老のサラリーマンだった。

「あっ、え、な、なんで私が。何もしてないじゃないですか」

三人組は初老のサラリーマンの言葉に特に関心を示す様子もなく、投票室の中へ入っていった。他の参加者も唐突に死の宣告を受けうろたえるサラリーマンを一瞥すると、すぐに投票室へ入っていく。そして、


159◆D0wxzXFezQ2015/05/19(火) 16:18:18Pzg6nE7s (2/3)

『3ターン目の投票の結果、ヒガシノリョウスケ様が8票で最多得票数となりました。従って、ヒガシノリョウスケ様、「げぇむおおばあ」』

投票が終わった後、焼却炉の外にサラリーマンの姿はなかった。

3ターン目終了 生存者10名


160◆D0wxzXFezQ2015/05/19(火) 16:19:24Pzg6nE7s (3/3)


4ターン目

「キミ達に相談したいことがあるんだが、ちょっといいかな」

エントランスにいたキノとさくらにインテリ風の男が話し掛ける。男の背後には品の良さそうな老女とギャル風の女が立っている。

「はい、何でしょうか」

キノが返事をする。

「実は、あの三人組を倒す為にメンバーを集めていてね、彼女達は賛同してくれたんだが、男二人には断られてしまったんだ。奴らを倒す為にはどうしてもキミ達の票が必要なんだ。だから、この通りだ。メンバーになってくれないか」

インテリ風の男がキノとさくらに頭を下げて、協力を乞う。


161◆D0wxzXFezQ2015/05/28(木) 19:27:46ZOUIVm2s (1/9)

「頭を上げてください」

そう言われ、深々と下げていた頭を上げた男は真剣な眼差しでキノを見つめてくる。

「話は分かりました、ボクは協力はします。けれども、彼らを倒したら敵同士ですよ。それでもいいのですか」

「ありがとう。敵同士になることは私も分かっている。それよりも、今は人数が少なくなる前に奴らを倒すことが重要なんだ」

男はさくらの方を向いて言葉を続ける。

「どうだろう、キミも協力してくれるかい?」

「私は……」

そう言うとさくらは悩んだような表情のまま黙ってしまった。


162◆D0wxzXFezQ2015/05/28(木) 19:30:12ZOUIVm2s (2/9)

「キミも、あんな奴らに何もせずに殺されるのはイヤだろ。一矢報いたいとは思わないのかい」

男が少し語気を強めて言う。

「……はい、私も協力します」

さくらは男の言葉に半ば脅されようにして、返事をした。

「ありがとう。申し遅れてすまないが、私はトモンという。早速なんだが奴らの内、誰から投票するか決めよう。おそらく奴らは、一人や二人組で最後まで生き残るのが不確実なのよりも、三人で生き残って最後に一人死ななくてはならないときに自分は選ばれない事に賭けてチームを組んだのだろう。だから私は━━」

話し合いの結果、

「では、このターン私達が投票するのはあのタンクトップの男でいいな」

三人組のリーダーらしきタンクトップの男に投票することになった。インテリ風の男が確認を取る。


163◆D0wxzXFezQ2015/05/28(木) 19:30:45ZOUIVm2s (3/9)

「うん、わかった―」
「はい、そうしましょう」

ギャルっぽい若い女と老女が返事をし、

「ボクはいいと思います」
「……わかりました」

キノとさくらも返事をする。

「よし、じゃあそろそろ部屋に戻ろう。もうすぐ投票の時間になるぞ」

三人組にチームを組んだ事を勘づかれないよう、部屋へはバラバラに戻った。しかし、一番後にインテリ風の男が部屋に入ってきた時のことだった。


164◆D0wxzXFezQ2015/05/28(木) 19:31:47ZOUIVm2s (4/9)

「オイ、オマエ、チームを組んだらしいな」

腕を組みながら壁によりかかっているタンクトップの男がインテリ風の男に言った。

「だとしたら何だ」

インテリ風の男がタンクトップの男を方を見ずに言葉だけを返す。

「メンバーは何人だ?男二人には断られたようだからオマエの前に部屋に入ってきた四人がメンバーか。五人いるなら確実に一人は殺せるな」

チームに入らなかった男二人のどちらかが三人組に告げ口したのだろうか。インテリ風の男の表情から僅かに冷静さが消える。


165◆D0wxzXFezQ2015/05/28(木) 19:32:25ZOUIVm2s (5/9)

「ああ、そうだな。今のうちに自分が投票されないように祈っておくんだな」

「それで、どうするんだ。俺らを殺したら次はオマエら五人で殺し合うのか?二人しか生き残れないんだぜ」

「お前達も三人で殺し合う予定なんだろ。それに私達のチームだ、お前に心配されるいわれはない」

「チッ」と舌打ちをするとタンクトップの男が寄りかかっていた壁から離れ、キノやさくら、ギャル風の女の近くまで来ると、

「オマエ達、あのメガネ男の口車にのせられてるんだぞ」

腕を組みながら偉そうに言った。

誰も「どういうことですか」とは訊ねないので、男が一人で言葉を続ける。

「さっきのターンでチームを組んでもよかったはずだ。なのに、アイツはそうしなかった。何故か。それは、わずかでも人数が少なくなった方がチームを組んだ時、票がコントロールしやすくなるからだ。そこまで考える奴がオレらを殺した後どうするか分かるか?」

タンクトップの男が少し間を開ける。三人組の一人、ホスト系の男がキノ達の方をニヤニヤしながら見ている。


166◆D0wxzXFezQ2015/05/28(木) 19:36:13ZOUIVm2s (6/9)

「気付かれないように別のチームを組むんだよ。オマエらを裏切ってな。二人組かもしれないし、三人組を2つ作って互いに殺し合いをさせるかもしれないな。いや、もうチームを組んでるのか。今のチームの中でも、裏でメガネの男と繋がってる奴がいるんじゃないか」

「黙れ。適当な事を言うな」

インテリ風の男が言葉を荒らげる。ここでアナウンスが入る。

『残り時間5分となりました。ロックを解除しますので参加者の皆様は投票室の中に入り、投票を行ってください』

「『適当な事』だと?『本当の事』の間違いじゃないか。まあ、いい。今回、俺達はオマエに投票する」

そう言ってタンクトップの男はインテリ風の男を指差し、言葉を続ける。


167◆D0wxzXFezQ2015/05/28(木) 19:36:57ZOUIVm2s (7/9)

「チームの中に裏切り者がいるかもしれないし、コイツは俺なんかよりもずっと頭が切れそうだ。今の内に殺らないと大変なことになるぞ」

そして、キノとさくらのところまで来てこう言った。

「どうだい、ボウヤ。君がメンバーになった時、先にメンバーになってる人はいなかったかい?いたらそいつは、メガネの男と組んで君を殺すかもしれないぞ」

「……」

キノが無言のままでいると、タンクトップの男は

「ふん、よーく考えて投票するんだな」

と言って焼却炉の中に入っていった。ホスト系の男とドレットヘアーの男もそれに続く。


168◆D0wxzXFezQ2015/05/28(木) 19:37:35ZOUIVm2s (8/9)

「あの男に惑わされるな。作戦通りにするぞ」

三人組が焼却炉の中に入ったことを確認すると、インテリ風の男が呼びかけるように言った。

「……」

「……」

「はい」

「……」

しかし、キノしか返事をしなかった。

「なんだ、キミ達はあの三人組に殺されてもいいのか。あのタンクトップを殺すんじゃなかったのか」

インテリ風の男がだいぶイラついた口調で言う。


169◆D0wxzXFezQ2015/05/28(木) 19:39:56ZOUIVm2s (9/9)

「私はあのタンクトップに投票してもいいけど……」

語尾を曖昧にしたギャル風の女の言葉にインテリ風の男が返す。

「けど、なんだ。もう時間がないんだ。頼む、作戦通りにしてくれ。俺は断じて裏切るようなことはしていない」

「私は作戦通りにしますよ。もう時間がないじゃないですか、投票しましょうよ」

品の良さそうな老女はそう言って焼却炉の中に入っていった。ギャル風の女も続いて入っていく。

「頼む、あの三人組を倒そう」

そう言ってインテリ風も焼却炉の中に入っていった。

「どうしたらいいですか?」

さくらがキノに尋ねる。

「作戦通りにしよう」

そう言ってキノも焼却炉へ入っていく。
そして焼却炉の中でキノは、迷わずタンクトップの男に投票した。


170◆D0wxzXFezQ2015/05/29(金) 02:44:120cquOniE (1/1)

すぐに残り時間の表示が0:00となり、焼却炉の扉が開く。キノが焼却炉から這い出て少しするとタンクトップの男も焼却炉から出てきた。タンクトップの男はキノと目が合うとニヤリと不敵な笑みをうかべた。


171◆D0wxzXFezQ2015/06/04(木) 16:57:595oCCmgig (1/6)

さくらやギャル風の女、ホスト系の男など他の参加者も焼却炉から出てくる。しかし、その中にインテリ風の男の姿は無かった。

『4ターン目の投票の結果、トモンレイ様が5票で最多得票数となりました。従って、トモンレイ様、「げぇむおおばあ」』

4ターン目終了 生存者9名


172◆D0wxzXFezQ2015/06/04(木) 16:59:035oCCmgig (2/6)

5ターン目

「ヒャハハハ、ウケる。なにが『今のうちに自分が投票されないように祈っておくんだな』だよ、自分が地獄に行かないように祈っとくんだったな。バーカ」

ホスト系の男が、「ボォー」と低い音がする焼却炉、つまりインテリ風の男が焼かれつつある焼却炉に向かって悪態をつく。

「残念だったなぁ、オマエ達のリーダーは炭になってしまったようだ」

三人組の一人、ドレットヘアーの男がわざわざキノ達の近くまで来て言う。掛けているサングラスを下にずらし、キノ達を覗きこむように見てくる男の目は、少し笑っているように見えた。


173◆D0wxzXFezQ2015/06/04(木) 17:00:175oCCmgig (3/6)

「俺達に逆らった罪は大きい。いいか、オマエら一人一人確実に、ウザかったあの女みたいに黒焦げにしてってやるよ。炭になる順番でも決めておくか?
……ァンダ、その目付きは。ガキのくせに生意気だな、今ぶっ殺してやってもいいんだぜ」

ドレットヘアーの男が手をパキパキ鳴らせながら、キノを威圧してくる。
怯えたさくらが、キノのシャツをぐっと掴む。

「それくらいにしておけ。彼らの人生はもうすぐ終わってしまうんだ、最期くらい好きにさせておけばいい」


174◆D0wxzXFezQ2015/06/04(木) 17:00:565oCCmgig (4/6)

タンクトップの男が余裕そうな口振りで、ドレットヘアーの男をたしなめる。

「いこう」

キノはそう言うとさくらを連れて部屋から出ていく。

「ア~ア、ビビってどっか行っちまったじゃねーか。ヒャハハハ」

ホスト系の男のバカにした声が部屋中に響いた。


175◆D0wxzXFezQ2015/06/04(木) 17:03:285oCCmgig (5/6)


「何で、メガネの男の人だけが5票で『げぇむおおばあ』になったんだろう」

エントランスのソファーでキノが呟く。

「……どういうことですか?」

さくらがキノに尋ねる。

「おかしいんだ。タンクトップの男の人が5票で『げぇむおおばあ』にならなかったということは、ボク達の中の誰かが作戦を破ったんだ。けど、その人はきっと、タンクトップの男の人に投票しなかった票をメガネの男の人に入れていない」


176◆D0wxzXFezQ2015/06/04(木) 17:04:595oCCmgig (6/6)

「なぜ……ですか?」

「あの三人組は、ボク達がチームを組んだことを知っていたし、それなのに投票前あんなに余裕そうだった。ということは多分、確実に一人は殺せる5票を入れられる自信が有った、つまりボク達のチームに入らなかった男の人二人をチームに引き入れていたんだ。その状況でボク達のチームに裏切り者がいたら、メガネの男の人には6票入るはずだ。でも、実際には5票だった」


177◆D0wxzXFezQ2015/06/05(金) 02:48:27std5d6jc (1/1)

「後から入った男の人2人のどちらか1人が、メガネの人に入れなかったということは……」

「ボクもそれは考えた。けど、そうしたらメガネの男の人には4票しか入らないから、そんな無意味なことはしないと思うんだけどな」

「……そうですね」

「だめだ、わからない。いや、そんなことよりもこのターンをどう生き残るかを考えないと。ボク達は今とても危ない状況にいるんだ」

「……4人じゃ5人組を倒せないからですか?」

さくらが、か細い声でキノに尋ねる。


178◆D0wxzXFezQ2015/06/05(金) 18:35:33k2P9/4ng (1/16)

「うん、5人組に入れてもらおうとも思ったけど、それじゃあきっと他の2人を殺した後、ボク達も殺されてしまう」

「じゃあ、どうしたら……」

さくらがそう言った丁度その時、さっきのターンまでチームを組んでいたギャル風の女がキノ達の所を通りかかった。

「あの、すみません」
「なによ」

キノの呼び掛けに対し、ギャル風の女はぶっきらぼうに返事をする。


179◆D0wxzXFezQ2015/06/05(金) 18:42:34k2P9/4ng (2/16)

「ボク達はこのままでは、なにもできないままあの三人組に殺されてしまいます。一緒のチームだったおばあさんも呼んで、生き残るために作戦会議を、」

「イヤよ。何でなにもできないまま殺されるって言えるの?アンタらあの三人組の誰かと裏で繋がってるからじゃないの。だからアンタらのどっちかが裏切ってタンクトップの男に投票しなかったんでしょ。そもそも5人組なんか組むから目をつけられて殺されるのよ。私は一人で生き残るから。じゃあね」

そうまくし立てると、ギャル風の女は焼却炉がある部屋の方へ行ってしまった。


180◆D0wxzXFezQ2015/06/05(金) 18:43:29k2P9/4ng (3/16)

「……どうしますか?」
「とりあえずおばあさんを探そう」

前回のターンにチームを組んだ品のよさそうな老女は、エントランスから焼却炉のある部屋に向かう長い廊下に佇んでいた。駐車場に面する側一面を覆うガラス越しに、夜の闇に飲み込まれた外の風景を眺めている。

「次はきっと、あの女の子か私の番ですね」


181◆D0wxzXFezQ2015/06/05(金) 18:44:04k2P9/4ng (4/16)

キノ達が近付くと、老女は外を見ながら呟くように言った。それは、ガラスに映るキノとさくらに話しかけているようにも見える。

「なぜ、そう思うのですか」

キノが尋ねる。

「2ターン目と3ターン目がそうだったのですが、彼らはチームを組んでない弱い人から殺しているからです。確実に人数を減らして、自分達がより有利になるための作戦なのでしょう」

「どうにかして生き残りませんか?このままでは、なにもできずに殺されてしまいます」


182◆D0wxzXFezQ2015/06/05(金) 18:44:57k2P9/4ng (5/16)

「何かいい方法でもあるのですか」

「いえ、それを一緒に考えませんか」

「ありませんよ、彼らを倒す方法なんて。私達では3人組いや、恐らく5人組を倒すことは出来ません」

老女は諦めた口調でそう言い、言葉を続ける。

「貴女はなぜ、そこまで生き残りたいのですか」

老女の質問にキノは少し考えてから答える。

「ボクは、世界中を旅をして色々な人や景色を見たり知ったりするのが好きだからです。そして、それをまだやめたくないからです」


183◆D0wxzXFezQ2015/06/05(金) 18:45:35k2P9/4ng (6/16)

「……成る程、貴女は旅人でしたか。そちらのお嬢さんはどうは?なぜ生き残りたいのですか」

「……………死んでしまうのが……怖いから……です」

さくらはだいぶ悩んでから、途切れてしまいそうな声でそう答えた。

「そうですか。お嬢さんくらいの歳では死ぬという事がよく分からなくて、それが怖いのも仕方ないかもしれませんね」

「怖くないのですか……おばあさんは」

今度は逆にさくらが老女に尋ねる。


184◆D0wxzXFezQ2015/06/05(金) 18:46:10k2P9/4ng (7/16)

「私も怖いですよ。でも、もう疲れ過ぎてしまったのです、生き残る為に他人を騙し、蹴落とし、殺さなくてはならないこの国に。もう疲れるくらいなら、死んでこんな汚い国から消えてしまった方がずっとましです。貴女達もそうは思いませんか?」

この時初めて、老女は外から視線を外しキノの方を見てきた。


185◆D0wxzXFezQ2015/06/05(金) 18:47:20k2P9/4ng (8/16)

「ボクはそうは思いません。生きていれば、いつかこの国から出られる日が来るかもしれないですか」

キノの受け答えに老女は目を細め、微笑むような素振りを見せた。

「貴女とは、わかり合えそうにありませんね」

そう言うと老女は歩き出し、一人焼却炉のある部屋に向かって行く。

「待ってください」

キノの呼び掛けにも応じず、老女は部屋に入っていった。


186◆D0wxzXFezQ2015/06/05(金) 18:47:54k2P9/4ng (9/16)

「……どうしますか」

さくらがキノの方を向いてそう訊いてくる。

「ボク達はもう、ダメかもしれない。ごめんね、さくらちゃん。ボクじゃ君を救えなかった」

「……」

「ホントにごめん」

さくらは無言のままである。キノは、老女と同じようにガラス越しに外を眺める。駐車場の片隅にエルメスが停めてあるのが見えた。

「エルメスにさよならを言っておけばよかったかな」

「……えっ?」

さくらがキノを見て首をかしげる。

「ごめん、何でもない。独り言。もうそろそろ時間だ、一応、部屋に行こう」


187◆D0wxzXFezQ2015/06/05(金) 18:48:45k2P9/4ng (10/16)

「お、全員集まったじゃねーか。今回オレ達が投票するのは、だ、れ、に、し、よ、う、か、な、」

「オイ、勝手に決めんなよ」

キノ達が部屋に戻ると、三人組のホスト系の男とドレットヘアーの男が騒いでいた。

「投票するのはさっきオレにケンカ売ってきた、あのガキがいいんじゃないか」

「ヒャハハハ、そりゃーいいな。あの澄ました顔が泣きじゃくってグシャグシャになんのは見物だな」

ホスト系の男とドレットヘアーの男はわざと、キノ達に聞こえるように話している。そこに別の声が響く。

「貴方達、人の命を弄ぶのがそんなに楽しいですか」


188◆D0wxzXFezQ2015/06/05(金) 18:49:24k2P9/4ng (11/16)

声の主は品のよさそうな老女だ。

「ア?ケンカ売ってのか、このクソババア」

ドレットヘアーの男が凄む。しかし、老女は怯む様子がない。

「人を死の恐怖に追いやって、怯える様子を見るのがそんなに楽しいかと訊いているのです。頭の中身が少なそうな貴方達に分かりやすく言ったのですが、どうでしょか」

「アア、もう許さねー。このクソババア。今ブッ殺してやるよ」

そう言ってドレットヘアーの男がポケットから取り出したのは手のひらサイズの鉄の棒のような物であった。男がそれを勢いよく振ると、所々錆びの付いた鋭い刃先が出てきた。


189◆D0wxzXFezQ2015/06/05(金) 18:49:54k2P9/4ng (12/16)

「やめろ」

そう言ったのはタンクトップの男だった。

「忘れたのか。参加者を投票できない状態にしたら『げぇむおおばあ』なんだぞ」

「イヤでも、あのババア、ムカつくんすよ」

「今回、私達はアイツに投票する。それでいいだろ」

タンクトップの男がそう言うと、ドレットヘアーの男は舌打ちをして「しかたねーな」とつまらなさそうに言いながら刃先をしまった。


190◆D0wxzXFezQ2015/06/05(金) 18:50:38k2P9/4ng (13/16)

『残り時間5分となりました。ロックを解除しますので参加者の皆様は投票室の中に入り、投票を行ってください』

「丁度、時間だ。俺達はこのターン、そこの老女に投票する」

タンクトップの男はそう呼び掛けると、焼却炉の中へ入っていった。ホスト系の男も続く。

「オイ、ババア。この国で死んで灰にしてもらえるだけ感謝するんだな」

ドレットヘアーの男はそう言って焼却炉の中へ入っていった。


191◆D0wxzXFezQ2015/06/05(金) 18:51:32k2P9/4ng (14/16)

「言いたいことは言いました。これでいいのです」

老女が誰に言うのでもなく呟く。

色白の二十代後半の男と、彼とチームを組んだらしい青年、そしてギャル風の女も焼却炉へ入っていく。

「キノさんはどうしますか」

さくらが尋ねる。

「ボクは、無意味かもしれないけど、タンクトップの人に投票しようと思う。できれば、さくらちゃんにもタンクトップの人に投票してほしい」

「……わかりました」

そうやり取りをした後、キノは焼却炉の中に入った。
焼却炉の中でキノは迷わずタンクトップの男に投票した。


192◆D0wxzXFezQ2015/06/05(金) 18:56:11k2P9/4ng (15/16)

残り時間の表示が0:00となり、焼却炉の扉が開く。
キノが焼却炉から這い出ると、部屋には既に一人の人物がいた。

「!」

その人物の存在はキノを驚かせた。

「アッ?」

キノに続いて焼却炉から出てきた、ホスト系の男もその人物を見て思わず声を出す。


193◆D0wxzXFezQ2015/06/05(金) 18:56:59k2P9/4ng (16/16)

「オイ、なんでババアが生きてるんだよ」

キノよりも先に焼却炉の外にいたのは、品のよさそうな老女だった。


194◆D0wxzXFezQ2015/06/10(水) 21:38:58MjFMpl2A (1/3)

「貴方のように目上の人に対する口のききかたを知らない人とは、話をしたくはありません」

老女は強い口調でそう言い、言葉を続ける。

「しかし、最期に特別です、貴方の質問にお答えしましょう。なぜ私が生きているか? それは、諦めたからですよ」


195◆D0wxzXFezQ2015/06/10(水) 21:39:50MjFMpl2A (2/3)

「は?」

ホスト系の男が疑問の声を出す。アナウンスが入る。

『5ターン目の投票におきまして、エドガワシズコ様は投票を行いませんでした。従って、エドガワシズコ様「げぇむおおばあ」』

「皆さんをこんな『げぇむ』から救いたかったのですが、それは無理だっ」

ピッ

天井から降り注いだ白い光線が、老女を頭から顎へと貫いた。老女は、頭部に開いた2つの穴から血を滴ながら床にドサリと倒れる。


196◆D0wxzXFezQ2015/06/10(水) 21:40:40MjFMpl2A (3/3)

「キャァ」

焼却炉から出てきたばかりのギャル風の女が小さく悲鳴をあげる。
キノがふと辺りを見渡すと、さくらやドレットヘアーの男、他の参加者も焼却炉から出てきていた。

『5ターン目の投票の結果、エドガワシズコ様が5票で最多得票数となりましたが、エドガワシズコ様は既に「げぇむおおばあ」となっております。従って、2票で2番目に投票数の多かったキシカツシ様「げぇむおおばあ」』

ただ一人、タンクトップの男を除いては。

5ターン目終了 生存者7名


197sss2015/06/11(木) 09:33:49aZ64GtLk (1/4)

向こうのチームをお婆さんが道連れで1人潰せたけど、こちらは3人相手はまだ4人でまだ数の不利の状況でヤバい状況なのは変わっていないよね。


198以下、名無しが深夜にお送りします2015/06/21(日) 04:22:52ldaCXIAI (1/1)

6ターン目

「テ、テメェーら、よくも俺達のリーダーを殺ってくれたな」

ドレットヘアーの男がキノ達を威圧してくる。サングラスをしているため、表情はよくわからないが明らかに様子が変だ。

「テメェーらの誰かが俺達のグループの誰かとつながってんだろ。それで俺を殺そうとしてんのか?……………ウォイ!答えろ!黙ってちゃわかんねーだろうがよ」


199◆D0wxzXFezQ2015/06/21(日) 04:23:11uBxsQTa2 (1/2)

6ターン目

「テ、テメェーら、よくも俺達のリーダーを殺ってくれたな」

ドレットヘアーの男がキノ達を威圧してくる。サングラスをしているため、表情はよくわからないが明らかに様子が変だ。

「テメェーらの誰かが俺達のグループの誰かとつながってんだろ。それで俺を殺そうとしてんのか?……………ウォイ!答えろ!黙ってちゃわかんねーだろうがよ」


200◆D0wxzXFezQ2015/06/21(日) 04:27:09uBxsQTa2 (2/2)

そう怒鳴りながら、ドレットヘアーの男は再びナイフを取り出した。

「ホラ、答えろよ、オイ」

男は右手に握るナイフの刃先をキノ達に向ける。
しかし、キノもさくらもそしてギャル風の女も何も言わない。ドレットヘアーの男だけが一人で騒いでいる。

「俺が答えろつってんのがわかんねーのか、このクソガキ共!!」

「おい、落ち着けって。オマエちょっとおかしいぞ」

ホスト系の男が宥める。

「うるせぇ、テメェーは黙ってろ。……いや、オマエ、オマエあの3人の誰かとつながっていて、俺を、俺を、俺を殺そうとしてるんだろ」


201◆D0wxzXFezQ2015/07/09(木) 17:48:59o8sfIs4g (1/11)

「そんなことしねーよ、それに人数が減ったら逆に俺達が不利になっちまうじゃねーかよ」

「じゃあ、な、何でリーダーが死んだんだよ!」

「それは、あの婆さんが投票しなかったから次に票数が多かったリーダーが死んだんだろ。俺も予想外だったけどよ。……って俺にそれを向けるなよ」

「本当か?嘘ついてないだろうな」

刃先を向ける相手をホスト系の男に変えたドレットヘアーの男は完全に錯乱状態である。キノの手が思わず腰のホルスターへ伸びる。


202◆D0wxzXFezQ2015/07/09(木) 17:50:07o8sfIs4g (2/11)

「死の恐怖に耐えられなくなって、精神異常でも起こしたのかな」

青年がぼそりと呟く。ドレットヘアーの男が青年の方を向く。

「ァンダ?オマエか、オマエがあの3人の誰かとつながってんだろ」

「そんなことしないよ。キミ達のことを信用しているからね」

「じゃあ、オマエか。オマエ、『げぇむ』が始まったときから挙動不審だったよな」

そう言いながら今度は刃先を色白の二十代後半の男に向ける。


203◆D0wxzXFezQ2015/07/09(木) 17:50:46o8sfIs4g (3/11)

「ぼ、ぼくじゃないよぉ。ぼくはいつもこんな感じだよ」

「じゃあ、誰が……いや、テメェーら、テメェーら全員で俺を殺そうとしてんだろ!!!」

ドレットヘアーの男は喚きながら、ナイフを握る右手をつき出す。男の右腕はブルブルと小刻みに震えている。

「……アッ、思い出した」


204◆D0wxzXFezQ2015/07/09(木) 17:52:13o8sfIs4g (4/11)

そう言うとドレットヘアーの男はナイフを握りしめながら、青年の方を向いた。

「俺、見ちまったんだよ。オマエ、俺達のチームに入る前にそこの女と何か話してただろ」

ドレットヘアーの男はギャル風の女を指差した。

「何のことかな?見間違えだと思うよ」

青年は淡々と言う。

「うるせぇッ! 嘘ついてんじゃねーこの、クソが!それによ、さっきのターン、オマエら俺達より後に焼却炉に入ったよな。そこの、そこの女とリーダーをこ、殺す為の話し合いをしたんだろ!」


205◆D0wxzXFezQ2015/07/09(木) 17:52:56o8sfIs4g (5/11)

「さっきも言ったけど、現段階で人数が減って困るのは僕達なんだ。自ら不利になるようなことはしないよ」

「ゴチャゴチャ、ゴチャゴチャうるせぇ! テメェ、リーダーを言いくるめて途中から俺達のチームに入ってきて、チームを崩すのが目的だったんだろ!」

ドレットヘアーの男は「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」と叫びながらナイフを片手に青年に向かって突進していく。


206◆D0wxzXFezQ2015/07/09(木) 17:54:37o8sfIs4g (6/11)

「オイ、止めろって。何やってんだよ」

ホスト系の男がドレットヘアーの男の腕を掴み引き留める。勢い余って前につんのめったドレットヘアーの男が後ろを振り向く。

「そうか、オマエもグルだったのか、このクソ野郎がァァァァァァァァ」

ドレットヘアーの男が奇声をあげながらナイフを振り回す。

「オ、オイちょっと待てって」

驚いたホスト系の男はのけぞってナイフを避ける。
ドレットヘアーの男はデタラメにナイフを振り回しているので、掠めもしない。だが、ホスト系の男がよろめいた次の瞬間、


207◆D0wxzXFezQ2015/07/09(木) 17:55:27o8sfIs4g (7/11)

「キャッ」

キノのそばでさくらが悲鳴をあげた。ナイフがホスト系の男の左耳下から鎖骨の上あたりまでを切り裂いたからだ。

「イッ……オ、オマエ……な……何してくれてんだよ」

そう言いながら、ホスト系の男は首に当てた左手を見て驚きの表情を見せる。とっさに右手で傷口を押さえるものの、その程度では止血になるはずもない。首からは心臓の鼓動に合わせて間欠泉のように血が噴き出し、ホスト系の男の顔は、みるみる青白くなっていく。


208◆D0wxzXFezQ2015/07/09(木) 17:56:08o8sfIs4g (8/11)

「……ァ……ォ……な、何で……オ、オレが……死な……なくちゃ」

ホスト系の男は、辺り一面を赤く染めながらドレットヘアーの男の元へヨタヨタと向かった。そして、左手でドレットヘアーの男の胸ぐらを掴むと、目を見開き自分を死に至らしめた相手を凝視しながら力尽きた。


209◆D0wxzXFezQ2015/07/09(木) 17:56:54o8sfIs4g (9/11)

「ウァ、アァ、アァァァァァァァァァ」

ピッ

ドレットヘアーの男は叫び声をあげながらレーザーに頭部を撃ち抜かれ、ホスト系の男の首から流れ出る血が作った大きな血溜まりの中に倒れた。

「『他の参加者を投票が出来ない状態にしたことによるげぇむおおばあ』……か」

青年が落ち着いた口調で呟く。


210◆D0wxzXFezQ2015/07/09(木) 17:58:39o8sfIs4g (10/11)

「イヤだ、イヤだ、死にたくない、死にたくない、死にたくないよぉ」

「大丈夫、落ちつくんだ。君には僕がいるじゃないか」

頭を抱えながら叫ぶ青年に、色白の男に言葉を掛ける。

「フフ、これでワタシ達が有利になったわね」

ギャル風の女がキノに嬉しそうに話し掛ける。


211◆D0wxzXFezQ2015/07/09(木) 18:26:30o8sfIs4g (11/11)

本編はようやく♡Qに参加する気配が出てきましたが、それ以上に遅筆ですいません。


212sss [aZ64GtLk] 2015/07/09(木) 22:14:34coJhPaQY (1/1)

「ねくすとすてぇじ」はキノの今際の国滞在17日目に開始するみたいで
あと7日ですね。


213以下、名無しが深夜にお送りします2015/07/26(日) 14:17:02yO7ckAgM (1/1)

待ってる


214sss [aZ64GtLk] 2015/07/26(日) 19:24:29cvTDPbAM (1/1)

キノ 今際の国滞在17日目 「ねくすとすてぇじ」一日目開始

「いんたあばる」(この期間は「びざ」の残り日数は減少しない) キノ滞在14日目~滞在16日目

「ふぁあすとすてぇじ」 キノ滞在13日目まで

といった所か。


215以下、名無しが深夜にお送りします2015/08/13(木) 02:42:474dgWETsg (1/11)

1ヶ月もあいてしまいました。
すいません


216◆D0wxzXFezQ2015/08/13(木) 03:03:064dgWETsg (2/11)

「まぁ、そうですね」

「あれーもしかして、ワタシがあの男のどっちかと組んでるんじゃないかって疑ってんのー?」

キノの素っ気ない返事のためか、ギャル風の女は拗ねたような口調だ。

「いえ、そういう分けではありません」

「あそ、まぁいいや。ところでさ提案があるんだけど……」

ギャル風の女は、キノとさくらを部屋の片隅に連れていくと声を潜め、耳打ちするよう話した。


217◆D0wxzXFezQ2015/08/13(木) 03:04:444dgWETsg (3/11)

「次の投票は、あの色白のヒョロい方に票を入れない?」

「なぜですか」

キノが尋ねる。

「だって、どう見てもアブナそうなのはあっちでしょ。『げぇむ』が始まった時から挙動不振だし、さっきもなんか喚いてたしさ。サングラスの人みたいに暴れたら、何するか分かんないじゃん」

キノが色白の男の方を一瞥すると、彼はチームを組んでる青年と何か会話をしており、同意を示すためだろうか子供のように何度も頷いていた。


218◆D0wxzXFezQ2015/08/13(木) 03:11:324dgWETsg (4/11)

「だから色白の方を先に殺っちゃうのがいいと思うんだけど、どうかな?」

キノは無言で何か考えてから返事をした。

「……分かりました。そうしましょう」

「お嬢ちゃんは?」

ギャル風の女がさくらに尋ねる。

「あ……、えと、それでいいと思います」


219◆D0wxzXFezQ2015/08/13(木) 03:13:114dgWETsg (5/11)

『残り時間5分となりました。ロックを解除しますので参加者の皆様は投票室の中に入り、投票を行ってください』

「よし、じゃあ作戦通りにしてね」

先程までの潜めた声とはうって変わって、明るい声でそう言ったギャル風の女からは余裕が感じられた。

色白の男と青年のチームも話し合いを終えたらしく、二人とも焼却炉の中に入っていった。そして、少しすると二つの焼却炉の扉は低い音をたてて閉まっていった。


220◆D0wxzXFezQ2015/08/13(木) 03:22:034dgWETsg (6/11)

「これでさっきのオバサンみたいに逃げられる心配もなし。私達もさっさと投票室に入ろ」

ギャル風の女も焼却炉の中に入っていく。

「さくらちゃん、ボクはあの女の人は男の人のどっちかと組んでるいると思うんだけど、どう思う?」


221◆D0wxzXFezQ2015/08/13(木) 03:22:384dgWETsg (7/11)

二人きりになった部屋の中で、キノがさくらに尋ねる。

「私には……わからないです。でも、……どうせ死んじゃうんだったら……なんというか、騙されたと思って死ぬよりも、信じて死んだほうがいいと思います。だから、その、私はあのお姉さんを信じてみたいです。あぁ、でも、……キノさんはキノさんが思った通りにしたらいいと思います」

今まで口数が少なかったさくらが一気に話したので、キノは少し驚いた表情をみせた。

「……そうか。ボクもあの女の人を信じてみるよ。けど、次の投票でもしボクが死んじゃっても、さくらちゃんは頑張って生き残るんだよ。わかった?」

さくらはコクリと頷いた。


222◆D0wxzXFezQ2015/08/13(木) 03:33:184dgWETsg (8/11)

「それじゃあ、ボク達も投票しよう」

さくらが焼却炉に入る。

キノは焼却炉の扉の前で立ち止まり、部屋に転がる3人の死体を一瞬だけ見つめた。そして、すぐに焼却炉の中に入っていった。


223◆D0wxzXFezQ2015/08/13(木) 03:34:584dgWETsg (9/11)

焼却炉の中の固いベットの上に寝たキノは、ベットと短い鎖で繋がれた腕輪を左手首に嵌める。
この動作も既に6回目だ。腕輪のロックが掛かる扉が閉じ、真っ暗な焼却炉の中で、モニターがキノ以外の生き残っている参加者を表示する。
モニターに映し出される参加者はもう4人しかいない。キノの震える右手の人差し指は、モニター上の色白の男の顔に伸びていた。


224◆D0wxzXFezQ2015/08/13(木) 03:37:274dgWETsg (10/11)

色白の男の顔に触れる直前、人差し指の動きが止まった。
しかし、キノは一度深呼吸をすると、迷うことなく色白の男へ投票した。


225◆D0wxzXFezQ2015/08/13(木) 03:40:284dgWETsg (11/11)




『こんぐらちゅれいしょん「げぇむくりあ』


226以下、名無しが深夜にお送りします2015/08/13(木) 13:00:40QOuCSoK2 (1/1)

来てる!
頑張ってくれー


227sss [aZ64GtLk] 2015/08/14(金) 16:55:00lT.NURw. (1/1)

・・・え、げぇむくりあ?
おかしいなぁ。
この6回目の投票は5人で行うので全部で5票となり自分への投票はできないために1人最大4票が入ることになるわけだけど、
6回目は2票・2票・1票で最大2人が死ぬことになるわけでその場合は残り3人になりまだ2名以下にならないのでげぇむは続行になるはず
・・・・・・なんでこれで終わりなんだろ?


228以下、名無しが深夜にお送りします2015/10/06(火) 03:20:11YCgXLzIo (1/13)

キノが焼却炉から出てくると、すぐ正面にさくらがいた。

「よかった。キノさんは生き残ることができたんですね」

さくらがにこりと微笑む。
キノがさくらの言葉の意味をはかりかねていると、別の焼却炉から一人の参加者が出てきた。

「やっぱり、こうなるよね」

キノとさくらを一瞥し、薄ら笑いにも似た不気味な笑みを浮かべたその人物は、色白の男とチームを組んでいた青年だった。

『6ターン目の投票におきまして、マツオカサクラ様は投票を行いませんでした。従って、様「げぇむおおばあ」』

天井から降り注ぐ白い光線に頭を貫かれたさくらが、キノの目の前でうつ伏せに倒れる。

小さい頭部から溢れ出る鮮血は、キノの足元まで来るとブーツを縁取るように流れ、広がっていった。


229◆hMH7v.dRCk2015/10/06(火) 03:24:10YCgXLzIo (2/13)

『6ターン目の投票の結果、マツオカサクラ様が2票で最多得票数となりましたが、マツオカサクラ様は既に「げぇむおおばあ」となっております。従って、1票で2番目に投票数の多かったノジマジュンペイ様およびミヤベジュンコ様「げぇむおおばあ」』

『今回の投票によって残った参加者が2名以下となりました』

『こんぐらっちれいしょん「げぇむくりあ」こんぐらっちれいしょん「げぇむくりあ」……』

状況が飲み込めないでいるキノの元へ青年が近づいてくる。

「ふふ、あの二人は訳が分からないまま焼け死んでいったみたいだね」

何だか嬉しそうに呟いた青年は、焼却炉の扉が並んでいる壁に寄りかかった。


230◆D0wxzXFezQ2015/10/06(火) 03:26:19YCgXLzIo (3/13)

「……お尋ねしたいことが、あります」

血溜まりに佇むキノが青年に話しかける。

「何かな?」

「『やっぱり、こうなるよね』とはどういう意味ですか」

「簡単に言うとね、君と一緒に行動してた女の子、さくらちゃんって言うのかな、あの子は人を殺すことが出来なかったんだ」

キノが首を傾げる。


231◆D0wxzXFezQ2015/10/06(火) 03:41:49YCgXLzIo (4/13)

「説明すると少し長くなるんだけど、10人生き残ってた4ターン目の投票で、君達は5人チームを組んでたのになぜか君達側のメガネの男だけが5票で死んじゃったよね。この時、僕達5人はメガネの男に投票したから君達側の誰かが作戦通りにしなかったはずだなんだ」

「じゃあ、誰が作戦通りにしなかったか考えてみると、まず、メガネの男と君は排除される。メガネの男が自分のプランを放棄する訳がないし、君からはなんとしても生き残りたいという意志が感じられたからね」

「次にギャル風の子だけど、実は彼女、5ターン目に僕に助けを求めてきたんだ。『自分は作戦通りにしたのにチームの中に裏切り者がいた。怖いからあなた達の仲間にしてください』ってね。だから彼女も排除される。」

「そして、投票せずに死んだあのおばさん。5ターン目のあの行動は死ぬことが怖くなって、半ば自暴自棄で起こした様に僕には思えた。そんなことをする人が自らの首を絞めることなんてしないよね。よって、おばさんも排除される」

「こうして、最後に残ったのが君と組んでた女の子。あの子はきっと、この国に慣れてなくて他人を殺してでも生き残るということが出来なかったんだ。だから、自分の投票によって誰かを殺すことを避けるために、適当な誰かに投票せざるおえなくなってしまったんだ。たとえ、自分が投票しないことで誰かを殺すことになってもね」


232◆D0wxzXFezQ2015/10/06(火) 03:54:56YCgXLzIo (5/13)

「では、なぜ、『げぇむ』で人を殺さなければならないのに、ボクに助けを求めてきたのですか。ボクには人を殺めることを恐れているようには見えませんでした」

淡々とキノが尋ねる。

「それはきっと、あの子はこの国でたった一人で死んでいくのが怖かったからじゃないかな。だから君に嫌われないように、人を殺したくないとは言わないで、最後もわざわざ焼却炉に入るフリをして君の指示に従ったように見せかけたんだと思うよ」

「……それでも、まだ、何故ボクとあなたが生き残ることになったかがわかりません」

青年はキノの言葉を聞くとニヤリと笑って説明を始めた。


233◆D0wxzXFezQ2015/10/06(火) 03:59:37YCgXLzIo (6/13)


「実を言うと、僕とあのタンクトップの男は1ターン目の時点でチームを組んでいたんだ。それで、彼には『チームを組んで確実に生き残って、最後に誰が死ぬかは話し合いで決めよう』という口実で扱いやすそうな二人を誘って、3人組を組むように言った。もちろん、僕とタンクトップの彼が組んでるとは気づかれないようにしてね」

「そして、適当な誰かとチームを組んだ僕がその3人組に合流して、頃合いを見計らって僕とタンクトップの彼以外のメンバーを殺して、二人が生き残るっていう計画だったんだ」

「その作戦……」

「ああ、4ターン目の投票前にタンクトップの彼が言ってたやつだよ。君達のグループを動揺させるためとはいえ、計画を自分から話し出すんだから焦ったよ。5ターン目に彼が死んじゃって失敗するんだけどね。でも、保険を掛けておいたから僕は生き残ることができた」

「保険ですか?」


234◆D0wxzXFezQ2015/10/06(火) 04:13:10YCgXLzIo (7/13)

「さっきも言ったけど、5ターン目の最中、ギャル風の子が助けを求めてきたんだ。だから僕はこう言った『裏切っていることがバレたら僕は殺されてしまうから、今は組むことができないんだ。けど、タンクトップの男が死んだら組んでもいいよ』ってね。
そして、5ターン目の投票でタンクトップの彼が死んでみんなが驚いている間に彼女に、君達とグループを組むふりをして投票でさくらちゃんを殺すように指示をした」

「彼女は君達に6ターン目の投票で自分も投票するからと、僕と組んでいた色白の彼に投票するように言ったはずだ。さっきのアナウンスで分かったんだけど、実際には彼女はさくらちゃんに投票した。彼女は本気で僕とチームを組めたと思ってたようだね」

「けど、さくらちゃんは人を殺すことができないから6ターン目の投票を棄権して、おばあさんみたいに自殺してしまうのでなはないかと僕は予測した。だから、僕自身は色白の彼に投票して、彼にはさくらちゃんに投票するように指示した。これで、2人が僕の指示通りに投票して君が僕と組んでいた色白の彼に投票すれば、僕と君が生き残るという作戦さ。そしてこの通り作戦は成功した。分かってもらえたかな?」


235◆D0wxzXFezQ2015/10/06(火) 04:18:34YCgXLzIo (8/13)

「はい、大体は分かりました。でも、その作戦、確実ではないですよね。ボクが色白の人に投票しないかもしれませんし、さくらちゃんが自殺するとは限りませんよ」

キノが青年に問いかける。その声はいつもより力がないようだった。

「もちろん賭けの部分もあった。けど、さくらちゃんが自殺する確率は高いと思った」

さっきまで向かいの壁の辺りを見ながら話していた青年は 、キノの方を向いて話し始めた。

「5ターン目、おばあさんには5票、タンクトップの男には2票、誰かに1票入っていた。タンクトップの男の2票の内、1票は君のじゃないのかな?」

「そうです」


236◆D0wxzXFezQ2015/10/06(火) 04:25:08YCgXLzIo (9/13)

「そして、もう1票はさくらちゃんが入れたんじゃないかな。おそらく君に『無意味かもしれないけど投票してほしい』とでも言われて、君を出来るだけ裏切りたくなくてね。けど、その結果1票の差でタンクトップの彼は死んでしまい、良心の呵責に耐えられなくて自殺してしまった」

「……」

キノが絶句する。

「ふふ、今まで言ったさくらちゃんに関することは全部僕の推測だよ。実際は人を殺すことに何のためらいも感じないし、6ターン目に投票しなかったのはただ焼け死ぬのが嫌だったからかもしれない。……ところで、僕も君に訊きたいことがあるんだ」

「なんでしょうか」


237◆D0wxzXFezQ2015/10/06(火) 04:28:32YCgXLzIo (10/13)

「君は今まで何人も人を殺してきたんじゃないかな?それも自分でも数えることができないくらい」

やや間があってからキノが答える。

「……そうですが、それが何か?」

青年が寄りかかっていた壁から離れ、笑みを浮かべながらキノの方へと近付いてくる。

「よかった、僕もそうなんだ。僕の名前はバンダスナト。友達にならないかい?」

バンダが右手をさし出す。


238◆D0wxzXFezQ2015/10/06(火) 04:33:50YCgXLzIo (11/13)


「いえ、ボクは一人で大丈夫です。色々教えてくださりありがとうございました」

そう言ってキノは、バンダに背を向けて部屋の出口へ向かう。

だが、次の瞬間、振り返えると同時にホルスターの『カノン』を猛烈な勢いで抜き、それを構えた。

銃口の先には驚いた表情のバンダがいた。その手にはスタンガンが握られている。

訥々とキノが言う。

「ボクは……、今日はもう……、誰も殺したくないんです。だから……、そのままでいてください」

キノは銃口をバンダに向けたまま数歩下がった。
そして、目の前に転がる少女の死体を一瞥すると、11人もの人間が死んだ部屋を足早に後にした。


239◆D0wxzXFezQ2015/10/06(火) 04:43:38YCgXLzIo (12/13)

「随分と長かったね、キノ」

駐車場に停められていたエルメスが、戻ってきたキノに話し掛ける。

「そうだね」

キノはエルメスに跨がって、エンジンをかけた。そしてすぐに走りだし、「げぇむ」会場であった火葬場を去った。

「ねぇ、どんな『げぇむ』だったのさ、キノ」

ヘッドライトを点けて走行するエルメスが尋ねる。

「とても嫌な『げぇむ』だった。二度とあんなのはやりたくないな」

「ふーん、キノがそんなに言うってことは相当ヒドかったんだね」

そう言うとエルメスは黙ってしまった。

「エルメス、何故ボクは『げぇむ』になんか参加しなくちゃいけないんだろう?
そもそも、『今際の国』って一体何なんだろう」

少しして、キノが呟くように言った。

「そんなのモトラドには分からないよ。……そうだ、国って言うくらいなんだから、国民に訊けばいいんじゃない?」

「それは、名案かもしれない。国民がどこにいるか分からないけど」

キノ今際の国滞在10日目
残り滞在可能日数13日


240◆D0wxzXFezQ2015/10/06(火) 05:00:47YCgXLzIo (13/13)

かなり長引いた上に、だいぶ更新が遅くなってしまった……


241sss2015/10/09(金) 12:44:28Tbpj3kiw (1/1)

おそらくアリスを絶望に叩き落した♡7同様にこの♡8も国民な♡Qの彼女が仕組んだげぇむだろうなぁ。
周囲には「げぇむ」の会場がなかったことからびざの日数の余裕がない数多のぷれいやぁを♡8への参加を強制誘導させて大半を死に追いやったといった感じだろうね。


242◆hMH7v.dRCk2015/10/10(土) 20:36:20A6S6wLUg (1/17)

祝!キノの旅ⅩⅨ巻発売

※本日の内容は今際の国のアリス8巻集録31話のネタバレ(という引用)が有ります


243◆D0wxzXFezQ2015/10/10(土) 20:38:08A6S6wLUg (2/17)

キノ今際の国滞在16日目

「ダメだ、ここもだ」

キノの目線の先にあるのは「げぇむ」会場に設置されているモニターであり、そこにはこう表示されていた。

          いんたあばる
  ほんじつをもって「げぇむ」はつぎのすてぇじへいこうします
          ただいまじゅんびちゅう


244◆D0wxzXFezQ2015/10/10(土) 20:40:07A6S6wLUg (3/17)

キノはエルメスの爆音と共に、他の「げぇむ」会場と同じ文面を表示するモニターの前から走り去っていった。

「2日前からどの『げぇむ』会場もずっとこの調子だ。困ったよ、エルメス」

廃墟と化した夕暮れの街中、走行中のキノがエルメスに話しかける。

「困ったよって言われてもねぇ。『たまには休みが必要だ』とか言って何日もサボったキノが悪いんじゃないの」

「……それを言われると言い返せないな。それにしても、このままだと体が鈍る。それに『びざ』が切れるのも心配だ」

「旅にトラブルは付きものってよく言うじゃん。準備中って書いてあるくらいなんだから準備が終わるまで待てばいいんじゃないの」

「まったく。エルメスは『げぇむ』をしなくていいからって、気楽だね」

「シツレイな。こう見えてもキノのこと心配してるんだよ?」

そんな会話をしているうちに、キノが常宿としている、かつてはホテルであっただろう建物に着いた。


245◆D0wxzXFezQ2015/10/10(土) 20:41:02A6S6wLUg (4/17)

それは、夕食を取ったキノが今まさに、眠ろうとした時のことだった。

ヒュルル……
               ドォォン!       
ヒュルル
              ドン!
 ドォォン!

ヒュルル
               ドドォォン!


246◆D0wxzXFezQ2015/10/10(土) 20:42:11A6S6wLUg (5/17)

「何だ?」

ベッドから飛び起きたキノは『カノン』を構え、窓から外を見る。

「花火だね」

エルメスが言うように街のいたるところから打ち上げられた花火が、真っ暗な夜空にカラフルな花を咲かせていた。


247◆D0wxzXFezQ2015/10/10(土) 20:44:41A6S6wLUg (6/17)

「キノ、テレビを見て!」

テレビには既に電源が入っており、横長のテーブルを前にして座るのシルエットが映し出されたていた。

『はい……はいっ、あ、えっ!?』
『マイク入ってるんですか!?』

慌ただしい音声と共にテレビ画面に現れたのは、マイクを持ったアナウンサーらしき女であった。
女は左手で髪をササッと整えるとアナウンスを始める。

『え、え――これより、生中継での緊急会見を放送させていただきます』


248◆D0wxzXFezQ2015/10/10(土) 20:54:13A6S6wLUg (7/17)

『本日は「今際の国」を代表して、こちらの4名にスタジオにお越しいただきました』

テレビ画面は4人のシルエットを映す。

『それではまずはじめに「♢K」さんから、皆様への挨拶がございます』

「♢K」と呼ばれた男性らしきシルエットの背後に♢Kのトランプカードが映し出される。同時にカメラがそのシルエットをアップで映した。


249◆D0wxzXFezQ2015/10/10(土) 20:55:39A6S6wLUg (8/17)


『おめでとう、「ぷれいやぁ」諸君。今回君達は異例の早さで、絵札を除く全ての「げぇむ」を「くりあ」した。よってその功績に賛美と敬意を表し、先ほどの花火と、こうして我々の存在を明かす機会を設けさせていただいた』

『――だがしかし、これまで同様この「今際の国」における「げぇむ」の目的や主旨については、私の口から語ることは一切しない。私にしかるべき義務もなければ、君達にそれを知る権利もない。故に、理解も求めない』

『私からの発言は、以上だ』


250◆D0wxzXFezQ2015/10/10(土) 20:57:59A6S6wLUg (9/17)

『え――続きまして、「♣K」さんです』

「♣K」と呼ばれた人物の背後には♣Kのトランプカードが映し出され、
「♢K」の時と同じ演出がなされる。


『えっとォ、ど、どもっ!「♣K」っス!』

「♣K」も男性のようであるが、「♢K」とは対照的に陽気な感じである。

『えっと、え――っと……あれ?何話しゃいいんだっけ?あははっ!やっぱダメだオレ~!ちゃんとした場所って、どーも緊張しちゃって!あははっ!』

『えーっと、あ、そうだ!! とにかくっ、あれだあれ! 「ぷれいやぁ」と「でぃいらぁ」の対決はこれで終わりだから、勝った君らはいよいよオレ達との決勝戦っ!!お互い悔いのないように頑張ろーぜっ!』

『こんなんでいいのかな?ど、どもっ!「♣K」でしたァ!』


251◆D0wxzXFezQ2015/10/10(土) 21:20:32A6S6wLUg (10/17)

『続きまして「♠K」さん』

「♠K」はマントを羽織っているらしく、画面からはその体型はよく分からなかった。

『これは……未練を絶つ為に必要な救済だ。我利を求め奔走し、煩悶と後悔を生み出し続ける生への未練を―――』

「キノ、この人何言ってんだろ?この国に居すぎて頭がおかしくなっちゃったのかな」

「さぁ?わからない」

エルメスの問いかけにそう答えたキノは、その大きな双眸で真っ暗な部屋のなか煌々と光るテレビ画面を一心に見つめていた。

『――それでは最後に、「♡Q」さん』


252◆D0wxzXFezQ2015/10/10(土) 21:23:32A6S6wLUg (11/17)

「♡Q」と呼ばれた人物のシルエットとQのトランプカードがテレビ画面に映し出される。
「♡Q」は女性らしく、他の3人と比べるとそのシルエットは小柄であった。

『期待した人も多いのではないかしら?もっと肝心な何かを私達から聞けるはずではないかと。何故、こんな「げぇむ」をする必要があるのか?何故、自分達がこんな目に遭わなくてはいけないのか?理由を求める生き方を辞め、災難だったと諦めれば楽になれるというのに……それでも、強いて理由をあげろと言うのならば、』


253◆D0wxzXFezQ2015/10/10(土) 21:25:19A6S6wLUg (12/17)

『――私達が、病気だからよ♥』


254◆D0wxzXFezQ2015/10/10(土) 21:37:45A6S6wLUg (13/17)

『そろそろ「答え」を探すのはやめなさい。文字通りこれはただの「げぇむ」。「げぇむ」は、楽しむものでしょ?どう?今、楽しい?』

♡Qは最後の一言を微笑しながら言った。


255◆D0wxzXFezQ2015/10/10(土) 21:40:08A6S6wLUg (14/17)

カメラは引きになり、テレビ画面は再びマイクを持った女を映し出す。

『最後に今後の日程につきまして。「げぇむ」の「ねくすとすてぇじ」は、明日、正午をもって開催されます。以上、緊急会見を生中継でお送りしました』

アナウンサーらしき女がそう言い終えると同時に画面は砂嵐となり、やがてひとりでにテレビの電源が切れた。




「ねぇ、エルメス。約束してほしいことがあるんだ」

テレビを見つめていた姿勢のまま、キノがエルメスに話しかける。


256◆D0wxzXFezQ2015/10/10(土) 21:41:36A6S6wLUg (15/17)

「な、何さ、キノ。そんなにあらたまって」

「明日の朝はボクが起こさなくてもちゃんと起きて欲しい」

「何だそんなことか。りょーかい、出来る限り努力はするよ」
「頼むよ」

「分かったって。おやすみ、キノ」

「おやすみ、エルメス」

そう言うとキノはベッドに仰向けになり、毛布を自分の身体に掛けた。

「………」

そしてしばらくの間、天井を眺め何かを考えた後、眠りについ


257◆D0wxzXFezQ2015/10/10(土) 21:43:41A6S6wLUg (16/17)

「な、何さ、キノ。そんなにあらたまって」

「明日の朝はボクが起こさなくてもちゃんと起きて欲しい」

「何だそんなことか。りょーかい、出来る限り努力はするよ」

「頼むよ」

「分かったって。おやすみ、キノ」

「おやすみ、エルメス」

そう言うとキノはベッドに仰向けになり、毛布を自分の身体に掛けた。

「………」

そしてしばらくの間、天井を眺め何かを考えた後、眠りについた。





キノ今際の国滞在16日目
残り滞在可能日数?日


258以下、名無しが深夜にお送りします2015/10/10(土) 23:10:38YI8wNM0o (1/1)


ついに「ねくすとすてぇじ」かぁ


259◆D0wxzXFezQ2015/10/10(土) 23:13:39A6S6wLUg (17/17)

ミスが多いな

>>252
テレビ画面に「♡Q」と呼ばれた人物のシルエットと♡Qのトランプカードが映し出される。

それにしても、キノもミラさんもかわいい


260sss2015/10/11(日) 21:16:39TvcC.zgg (1/1)

いんたあばる期間はびざは減らないからキノ今際の国滞在16日目終了時点で残り滞在可能日数10日ということになるな。


261以下、名無しが深夜にお送りします2015/10/15(木) 00:58:516oWxUT7I (1/1)

キノが本編の隙間を縫う形で絵札げぇむに参戦するなら
くりあぷれいやぁが未だ不明な♡K、♠Q、♣Jのどれかかな?
本編キャラと共闘しながら♢Q、♠J、♣Qに挑む展開も楽しいけど


262sss2015/10/15(木) 11:09:48ukdJa646 (1/1)

あらゆる死闘をくぐり抜けた百戦錬磨な者通しで キノ VS ♠K のバトルをちょっと見てみたいなぁ。

またキノがやる絵札のげぇむについてだけど、
心理戦な♡と知能戦な♢はキノには向いていなくて死亡率高いし
というか♡8の時に運良く生き残れたけど一番死ぬギリギリまで追い詰められたし
そう考えると難易度的にも♠Jか♣Jが一番妥当かも


263以下、名無しが深夜にお送りします2015/10/16(金) 00:12:57Xqrt5vXE (1/1)

>>262
>キノ VS ♠K のバトル
キノさんの強さは超人の域に入ってるからあくまで常人の域を出ない天才秀才止まりのシーラビじゃ分が悪い気も
それでも装備の差で互角以上に持ち込むことは不可能でもないかな?
シーラビはヤバいと思ったら即退くスタイルだからニアミス戦闘で収めることはできるな


264以下、名無しが深夜にお送りします2015/10/31(土) 15:44:46TfTGDQyg (1/1)

>>261
誰がくりあしたか不明なげぇむは今後誰がくりあしたのかと一緒に語られる可能性あるから
本編との矛盾バッティングを避けるならすぺえどのじゃっくかだいやのくいいん、くらぶのくいいんかな


265以下、名無しが深夜にお送りします2015/12/31(木) 01:46:148Javxsx2 (1/1)

更新は来るか・・?