940◆B2mIQalgXs2016/01/24(日) 23:38:44VkJqzqYA (6/7)

 極限にまで高鳴り、叫び声を上げて突撃する、コニーを筆頭とした高速機動部隊は、鎧袖一触で憲兵や貴族たちをボロ屑へと変えていく。

 踏みつけ、潰し、地ならしのように。

 飛び、滑空し、壁を蹴り、更に速く、速く、速く。

 先頭に立つコニーの背を、誰もが追いかける。

 誰もがコニーのようになりたいと、機動部隊員たちは想い。

 思うだけでは追いつけぬと研鑽を重ねてきた。

 今はまだ届かない。現役の機動部隊でも、コニーの速度は二つの壁を感じるほどに隔絶している。

 いつか絶対に、あの背に追いつくのだと。

 誰もが、それに憧れた。


アルミン「ギギギ、なんであんな馬鹿に人気が集まるんだッ………理解できんッ」


 なおアルミンはコニーの人気にヘイト値をぐんぐん高めている。

 そのあたりがアルミンの限界であろう。


941◆B2mIQalgXs2016/01/24(日) 23:40:00VkJqzqYA (7/7)

※今日は短いごめん
多分来週辺り?


942以下、名無しが深夜にお送りします2016/01/25(月) 00:01:14wk.3NPqg (1/1)


素晴らしい!おつ!コニー抱いて!


943以下、名無しが深夜にお送りします2016/01/25(月) 16:26:089a5Tlmbk (1/1)

アンタにアジられたらもう宇宙だってOKだわ。

泣けるで!


944以下、名無しが深夜にお送りします2016/02/01(月) 01:46:33Bf6jyS1c (1/1)

マダカナーマダカナー?(ワクテカ)


945以下、名無しが深夜にお送りします2016/02/05(金) 22:10:52JN3zLoF2 (1/1)

このスレ一周年過ぎてたw

一周年おめでとうございます!


946以下、名無しが深夜にお送りします2016/02/06(土) 20:07:24KNUNEdUA (1/1)

今週こそは!ほしゅ


947◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 21:34:08SmAxplfI (1/28)


 後背でコニーら高速機動部隊が暴れまくる中、アルミンは串刺し散歩を終えて、外の世界へと繋がる――――先ほどエレンがブッ壊した――――門の前へと立つ。


アルミン「とりあえず塞がないとな、と」パラララッ


 石符が踊る。何千何万という石壁の符が飛び、穴の開いた箇所を補修するように張り付き、


アルミン「――――――よっ」パチン


 指を弾いたとたん、その穴が石壁によって埋まる。

 いささか荒くはあるが、並の巨人では傷一つ付けられないほどには補修が完了する。


アルミン「石壁は生み出されるんじゃなくて、周囲の石を削って作るんだから……だいぶ石畳が薄くなってしまったか。

     ――――全く、符を一枚作る手間も、ハンコとはいえ馬鹿にならないってのに」

エレン「――――俺が此処に来るまでに費やした体力はそれこそバカにならないんだがな」


 アルミンが修復を終えてひとりごちる――――それとほぼ同時に、エレンもまた壁から地に降り立った。


アルミン「あ、あはは………ごめん」


948◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 21:42:28SmAxplfI (2/28)


エレン「いずれその件については話がある。逃げられると思うなよ司令長官」

アルミン「」


 この件が原因で、アルミンは後にものすごく痛い目に遭うが、それはまた別の話である。

 言い訳しようとアルミンが口を開こうとした瞬間、視界に入った「もの」が原因で、口元が引き締まる。


ロッド「や、やめさせろ………!! 今すぐ、あの虐殺をやめさせるんだッ!!」

アルミン「ロッド・レイス……」

エレン「………」


 ここまでいかにして辿り着いたのか、ロッド・レイスが単身、エレンとアルミンの前方10メートルほどの位置に立っていた。

 アルミンとエレンを、呪い殺さんとばかりに睨みつけている。

 対するアルミンは小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべ。

 エレンは無言で懐に手を入れ――――それにロッド・レイスが反応するが――――水晶球を取り出した。

 ロッドは、一瞬だがそれに安堵した。その通信用水晶球の存在は知っている。故に信じてしまったのだ。

 愚かにも、あのエレン・イェーガーが、停戦を打診してくれる可能性が僅かにでも存在する、そんなありえない未来を。


949◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 21:46:05SmAxplfI (3/28)


エレン「通信繋げ。ジャン」


 返答は即だった。


ジャン「エレンか! 見えているぞ! そっちにロッド・レイスが行ったな!?」

エレン「――――そんなことはどうでもいい。戦果は」

憲兵『こ、こッ、降伏する! 撃つな! 撃たないでくれ!!』

ジャン「………聞こえただろう? ひでえもんだ」

エレン「うん? アルミン、何か聞こえたか?」

アルミン「うん? 何のことかな。戦場の声はどうにも聞こえ辛いものでね。まあ――――豚の悲鳴ならばひっきりなしに聞こえているよ?」

ジャン『ッ………!!』

エレン「成程道理でイラつくわけだ。では通信繋げ、弓兵隊、銃士隊、掃滅するまでやれ。撃って、射って、殺し続けろ。耳障りな鳴き声が消えるまでだ」

ジャン『ッ、だろうよ。おまえらならそういうと思ったよ!! むかつくのはそうするのが一番いいってことだよ、クソッタレが!! トヨヒサだったらキレるぞ!?」

エレン「いいや。降り首を討つのは恥だが、追い詰められて初めて尻尾を振り、腹を見せて擦り寄ろうとする獣の命乞いなど言語道断だ。

    まして奴らは民草ではなく、ただの国家反逆者だ。どうせ死ぬのならここでさっくり死なせてやった方が慈悲というものだろう。トヨヒサとて同じことを言うだろうよ」

ジャン(やべえ。言うわアイツなら。ゼッテー言うわ)


950◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 21:53:13SmAxplfI (4/28)


エレン「通信繋げ、サシャ、コニー。鴨撃ちだ。根切りだ。銃弾で蜂の巣だ。刀剣にて撫で斬りだ。死体は便所の土とかき混ぜて火薬にしてやる。奴等には墓も残さん」

サシャ『御意! ゲンジバンザイ!』

コニー『応よ。ダイロクテンマオウバンザイ!』


 そうして通信を切り、エレンは無表情にロッドを見やり、アルミンは心底楽しそうにロッドを睥睨する。

 ――――ロッドは、視線で人が殺せるのなら、二人を八つ裂きにできるほどに怒り狂っていた。


ロッド「こッ、このような無道ッ………民に知れ渡れば民意を失うぞッ!?」


 口角を飛ばしながら喚く。だがアルミンは肩をすくめるばかりだ。


アルミン「無道? 何がだ。我々調査兵団は反乱軍と交戦。捕虜となったものをシーナ地下へと連行し、処刑する。どうなろうと、結局はそういうことになる」

ロッド「な、なに………?」

アルミン「ここのどこに目撃者がいる? ここの住民はシェルターに退避済みだ。中から聞こえる? いいや? あのシェルターは地下で地続きになっていてな。とっくにシガンシナ区民はマリア圏内に避難済みで、いるのは駆逐一家だけだ」

エレン(後で殺す。絶対殺す)


 ナチュラルに死亡フラグを立てていくアルミンであった。


951◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 21:58:52SmAxplfI (5/28)


アルミン「避難した区民たちは口々に言うだろう。憲兵たちが、貴族たちが、そしてかつての王が、自分たちを殺そうとしたと。貴様らが明確に国家に反逆したという事実を知る生き証人たちだ」

ロッド「ッ………!!」

アルミン「そしてここにいるのは我ら調査兵団旗下の兵士と、おまえらだけ。お前らがここで皆殺しに遭おうが十数名程度生き延びようが、どの道死ぬのが遅いか早いかだ」


 何を当然のことを、とでも言いたげに語るアルミンを、ロッド・レイスは唖然と見つめるしかなかった。


アルミン「理解しているのか? 先ほども口上で述べた気がするんだが。貴様らがやったことは、現王政に対する明確な反逆――――国家反逆罪だ。当然死刑だ。裁判など行わない。行う理由がない。言い訳を繕う自由も時間も抗弁の権利も与えない。シーナの市中を引き回しの上、銃殺刑が妥当だ」

ロッド「わ、私はロッド・レイスだ! 正統なる王の直系の一族だ!! 私こそが王だ! それを引き回しにして銃殺だと!? 反逆者はお前たちだ!!」

アルミン「ヒストリアがいる。シナリオとしてはこうだ。かつて貴様は己の王権をヒストリアに継承した。いかに我々という武力を背景に脅されたとはいえ、それは紛れもない事実」

エルヴィン『しかし権力の味を忘れられない前王ロッド・レイスは、ヒストリアに不当に権勢を奪われたことを不当とし憤っていた。しかし既に王権は継承済み。世論も民衆もヒストリアの味方だ。さて、困ったぞ』

ロッド「ッ、この声は、え、エルヴィン・スミスか!? だ、だが、それは、ま、まさか………」

エルヴィン『そこで貴様は現政府に反抗的な貴族たちを集め、再び己の身に王としての権力を取り戻さんとシガンシナを制圧。しかし調査兵団の働きによりシガンシナは瞬く間に奪還され、裸の王様とそれに付き従った馬鹿どもは哀れ地獄行きとなりましたとさ――――私の義息は性格が悪くてね』


 そういうシナリオだ。最初からそういう決定事項だった。それを心底ロッドは思い知らされた。


アルミン「女王陛下とて胸が痛ましい事件だろう。仮にも血縁者、それも父親を処刑せねばならないのだ。なんとおいたわしい。しかし女王の評判はますます上がるだろう。あのようなクズの父親相手にも心を痛めるだなんて、なんとお優しい方なのだろう」

ロッド「ッッ、き、きッ、キッ、キサマッ………」


952◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 22:02:42SmAxplfI (6/28)


アルミン「―――――と、こんなところか。つまりだ。これで貴様らを誰に気遣うこともなく絶滅できるということだ。

     十五年前から煮詰めていた計画だが、十五年前の時点で、私の脳裏にはこの絵がほぼ出来ていた」

ロッド「十五年前………ッ、シガンシナの、イェーガー家の地下かッ!? グリシャ・イェーガーの遺産かッ!!」

エルヴィン『いろんなものが手に入ったよ。偽りの王族、正統なる王族レイス家。そして巨人化薬がわんさかとね』

アルミン「あの時点で根切りにしておきたかったのはやまやまだったんだが、いかな暴虐を働いた貴族たちとはいえ、一方的に虐殺し掃滅しては、民の不安と不信を煽る。

     憲兵から調査兵に変わっただけで、政(まつりごと)は何も変わらないのではないかとな。どうしたところで不穏分子は残るものだ。

     この壁内という限定された土地柄を考慮すれば、どう考えても根切りは悪手だった」


 故に、と前置きし、アルミンはロッド・レイスを指さす。


アルミン「そこで貴様だ。どうしてこの十五年間、貴様のようなものを生かしておいてやったと思っている。分かりやすい神輿があると、人はそれを担ぎたがるだろう?」

ロッド「…………」

アルミン「利権に縋る蠅共を誘導するのは実に容易かったよ。貴様という悪臭放つ糞がいまだ健在となれば、それを盛り立てて正当性を主張するに決まっている。まさに糞にたかる蠅とはこのことだ! はははははははは!!」


 ひとしきり笑ったのち、アルミンはまさしく虫けらを見るような不快気な顔で、ロッドを見下し、


アルミン「さて。では用済みの糞は蠅と共に片づけてしまうとしよう。土間の土と混ぜて火薬にして、有効活用してやる。無道がどうとか行ってたが、安心したまえ。君らを踏みつぶして我らはそれを道とする」


953◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 22:12:45SmAxplfI (7/28)


 もうどっちが悪だか分からない始末である。

 水晶球の向こうで拝聴している隊長クラスたちは、誰もが苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。


エルヴィン(もうやだ。こんな部下嫌だ。使い辛い。うんざりだ。さっさと総統の立場譲って退役したい)

リヴァイ(ますますノブの野郎に似てきやがったあのガキ………邪悪さではそれ以上かもしれん。今のうちに殺っちまうか………いや、だがあの忌々しくも優れた脳味噌は惜しい。糞が、性根が腐ってて有能とは、全く殺しづれぇ野郎だ)チッ

サシャ(私らもいずれハメられて死んじゃったりするのかなーなんて疑いたくなっちゃいますよねー……)

コニー(あー、ひょっとしてオヤカタ様って、こういう部下の不信感を重ねて裏切られたのかな)


 何気にコニーが限りなく正解に近いことを考えていると、

 ――――外門の前に、閃光が迸る。


ジャン「!? 巨人化時の、光!?」

サシャ「ッ、エレン、じゃ、ない………あれは」

コニー「………持ってたのかよ、まだ」


 隠し持っていた巨人化薬を注射した、ロッド・レイスの変貌した姿――――超大型巨人を超える体躯の、巨人が、生まれ出でようとしていた。


954◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 22:19:17SmAxplfI (8/28)


 ロッド・レイスが注射器を取り出した瞬間、エレンは動いていた。

 ロッド・レイスに向かってではなく、逆だ。アルミンの首根っこをひっつかみ、再び壁の上へと立体機動で移動する。

 壁にアンカーが突き刺さり、ガスを蒸かした瞬間に、閃光と爆風が壁内に吹き荒れた。

 ほこりまみれになってむせるアルミンを壁の上に下ろした後、エレンは心底嫌そうな表情で、変身中のロッドを見やり、


エレン「チッ、なんて図体だ。どこかの腰巾着野郎を彷彿とさせやがる」

ミカサ『ここからも見えるわ。同感。心底不快だ』

エレン「ミカサ。聞いてたのか。怪我はしてないか。ちゃんと俺のいない間にメシ食ってたか。貯金はまだ大丈夫か。ガキどもは訓練兵団できちんとやってるか」

ミカサ『全部大丈夫、私はできる嫁』

エレン「流石だミカサ」

ミカサ『うん』

アルミン「冷静に夫婦漫才してる場合かなァ!? ちょっと僕らの故郷が大ピンチなんだけど!?」


 煽りすぎたアルミンのせいじゃないか、とエレンは一瞬考えたが、煽らなくてもどのみちロッドは巨人化薬を使っただろうと当たりを付ける。


955◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 22:26:31SmAxplfI (9/28)


エレン「なんにしても、仕事だな。あのぐらいにデカい首なら、トヨヒサにも自慢できそうだ」バキリ


 不快気な顔を、好戦的な笑みに変え、エレンは両手の骨を鳴らす。

 ロッド・レイスの巨人は変身を終えて、その身をゆっくりと起こそうとしているところだった。


エレン「通信繋げ――――サシャ。あのデカブツの足元に一発見舞ってやれ。そしたら後は俺が仕留める。いつでも構わん」

サシャ『諒解、兵長殿』

コニー『――――しょうがねえ。おまえの故郷だ。手柄は譲ってやるよ』

リヴァイ『兵長はてめえだ。存分にやれ』

エレン「アルミン。トヨヒサがやったっつーアレだ。やるぞ。合図と同時に打ち出せ。丁度頭上に落ちるようにだ。できるな?」

アルミン「ッ、了解だ―――――いつでもいいよ!!」


 石壁の符をエレンの足元へと配置。

 その後、凄まじい勢いで射出された棒火矢が、巨人の足元に炸裂する。

 ロッド・レイスの巨人が体勢を崩し――――うつ伏せに、うなじが丸見えとなる。


エレン「今だ、やれい、アルミン!!」


956◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 22:34:19SmAxplfI (10/28)


アルミン「っつ!!」パチンッ


 石畳がすさまじい勢いで生成。その上に乗るエレンもまた、猛烈な勢いで中空へと躍り出る。


エレン「ッおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」バシュウウウウッ


 すぐさまガスを蒸かし、体勢を整え、眼下を見下ろす。

 自由落下が開始され、エレンは頭から落下していく。


エレン「この一発で、二十年の屈辱はチャラにしてやる――――だから」


 高速で落下する中、エレンは口元に左手を噛みしめる。


957◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 22:40:45SmAxplfI (11/28)



 黄金色の稲光が発せられ――――エレンの右腕から先に、硬質化した巨人の腕が顕現し、



エレン「俺は、外の世界を冒険するんだよ―――――あの世でヒストリアの母親に詫びて来い……!!」



 振り下ろす。小彗星の如き凄まじい一撃は、寸分たがわずロッド・レイスの巨人のうなじを、首ごとすり潰した。 



 

……
………


958◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 22:42:53SmAxplfI (12/28)


………
……



 その後、十数分で戦いは終わった。

 元々趨勢が決していた戦いだ。否、戦いですらない粛清。ごく数名の憲兵が捕えられたものの、その数は十名にも満たない。貴族に至っては全滅している。

 数日後にはアルミンの言葉通り、シーナで銃殺刑が待つだけの身だ。

 しかも厳重に裸に剥かれて鎖でぐるぐる巻きの上、半殺しにされている。巨人化能力者でもない限り、夜に凍死する可能性が高いと思われたが、それならばそれでいいと考えている当たり、調査兵団の兵士たちは未だに怒り心頭であった。

 そんな中、今回は美味しいところだけを持っていきやがったとジャンの怒りの矛先になっている、第一論功のエレンであるが――――。


エレン「しまった。勢いがつき過ぎたな――――――うなじの中の糞袋の胴体がフッ飛んで、失敗したチーハン風味になってしまったぞ。首(てがら)はどこにすっ飛んだ?」キョロキョロ


 クレーターとガレキの山だらけになった外門の入り口で、エレンはあちこちに散らばった石畳やバラバラになった建築材を漁る。

 どこだー、ここかー? と嬉々として瓦礫をひっくり返す男性(30)がいた。

 おっかねえだろ。兵長なんだぜこいつ。


サシャ(ミンチよりひどい)

コニー(即死だな、間違いなく。痛みを感じる暇もなかったろ)


959◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 22:47:08SmAxplfI (13/28)


 そも多くの衆目の中でロッド・レイスの巨人を打ち破ったのだから、首がなくとも問題ないのだが、そんな理屈は駆逐一家の、それも家長には通らない。

 シシ●ミの森のシ●ガミ並に首を追い求める様は、さながら妖怪。


リヴァイ(妖怪首おいてけが増えたか……)

ジャン(もういやだ………疲れた、俺は……)


 ジャンの背中は異様に煤けていた。そこがいい、と恋する乙女の視線を向ける黒髪美少女モブ副官は、きっと目が腐っている。


エレン「!! あった! ロッド・レイスの首、エレン・イェーガーが獲ったぞ!! ヤッター誉れだ! また特別手当と恩賞だ!」

ミカサ「おめでとう、エレン」

カルラ「やったね父さん! 明日はチーハンだ!」


 首を抱えてはしゃぐ子持ち男性(30)に駆け寄り、その労をねぎらうその妻(30)と娘(13)。

 これには同僚や部下達、そして息子(13)も苦笑いのはるか上空をカッ飛んでドン引きであった。


エレン「ええと、腰に髪縛って括り付けて………ってハゲじゃねえか。糞」

ミカサ「エレン。千切れたワイヤーがある。これで括り付けるといい」


960◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 22:49:39SmAxplfI (14/28)


エレン「おお、気が利くな。よーし、口ン中にワイヤー突っ込んで首から出して………よし、これで縛れたぞ。サンキューミカサ!」

ミカサ「ううん。これも妻のナイジョノコウっておトヨさんが言ってた」

カルラ「流石は母さん! 壁内一のNADESHIKO! 私も見習わなくては!」

エレン「はっはっは、ガンバレカルラ。まずは巨人のうなじを一回の遠征で100落とせるようになってからだな!」

ミカサ「肉体のコントロール法も覚えよう。大丈夫、私とエレンの娘ならばできる」

カルラ「はいっ! がんばります!」


グリシャ(だめだこいつら……もうどうにもならない……)


 グリシャは早くもポストジャンになりそうだった。今後の苦労が忍ばれる。


コニー「つーかヒストリアの内心に少し配慮しろ」

エレン「立場を配慮してる。反逆者は反逆者だろう」

コニー「おまえ嫌な意味でスレたよな」


 何にしても怖い家族である。

 この一家が『怪物一家』とか『シガンシナの火薬庫』とか『シガンシナの歩く逆鱗』とか呼ばれ畏れられると同時に尊敬されているのは、当の本人たち以外は誰もが知ってる公然の秘密である。


961◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 22:56:20SmAxplfI (15/28)


アルミン「エレン」


 そんな一家に近づいていったのは、アルミンだった。


エレン「ん………アルミンか」

ミカサ「アルミン、お疲れさま」

アルミン「………」クイクイ

エレン「ん。ミカサ」チョイチョイ

ミカサ「うん。カルラ、グリシャ、ちょっとここで待っていなさい」ギュッ


 アルミンは黙ったまま、指先を動かして壁の上を示す。応じてエレンがミカサを呼び、ミカサがエレンに抱き付く。

 阿吽の呼吸で、三人は連れ立って、壁の上へと立体機動装置で登っていった。


ジャン「」ゴブッゲフゥッ

黒髪美少女モブ「!? ジャ、ジャンさん!!」ダキッ


 そしてその光景を見たジャンの吐血。そして駆け寄る黒髪美少女モブ副官。もう恒例であり、もはや日常だ。彼が吐血しない日はそれだけで非日常となりつつある。


962◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 23:01:23SmAxplfI (16/28)


 三人は壁の縁に座り、外の世界を眺める。

 エレンは楽しげに。

 アルミンは、どこか寂しげに。

 ミカサは、どちらともつかない表情で。

 外の世界に、想いを馳せる。


エレン「いよいよだ。もう待たん。二十年前に始まり、十五年前から待った。十五年ずっとだ。俺は外へ打って出る」


 口火を切ったのはエレンだ。それにアルミンもまた頷く。


アルミン「止めはしない。随分待たせてしまったが、これで壁内の憂いは消えた。後は混乱する民草を慰め、シガンシナ区を復興。そうだな……二月後には、大規模な壁外遠征ができるだろう」

エレン「後二ヶ月、か」

ミカサ「長いと感じる?」

エレン「まさか。永遠と思えるぐらいに永かったこの十五年に比べりゃ、二ヶ月なんてすぐだ」


 エレンが、真っ直ぐに手を伸ばす。地平線に向かって。壁にさえぎられることなく、天と地の交わる場所へ手を伸ばす。


963◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 23:05:40SmAxplfI (17/28)


 その手が、銃口のように象られ、


エレン「―――――あの先へ、行くぞ」

ミカサ「ええ」

アルミン「楽しみだね」


 何が待ち受けているのだろう。

 困難がないとは言えないだろう。少なくとも楽しいだけではないはずだ。

 だが――――三人にとっては、楽しいことの方が多いと、そう思えた。


エレン「まずは海だろう」

ミカサ「私は山。溶岩を見てみたい」

アルミン「熱いのはイヤだね。僕は断然海だ」

エレン「二対一だな、海に決定だ」

ミカサ「む………二人して私を苛めようとするのね」

アルミン「あははっ、しょうがないじゃないか。多数決は重要だもの」


964◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 23:12:56SmAxplfI (18/28)


ミカサ「む……じゃあ、その次は砂の雪原、砂漠に行こう」

アルミン「だから暑いを通り超えた熱いのは嫌いだって。それは最後にして南極に行こうよ」

エレン「南なのに寒いって不思議な感覚だが、寒いのは俺もミカサも嫌いだ。次に行くのは砂漠だな」

ミカサ「二対一だ。氷の大地―――南極に行こう」

アルミン「なっ、二人して結託するなんて卑怯だよ!」

エレン「しょうがねえだろ。多数決は重要らしいしな」


 誰の目にも届かないこの壁上だけで、彼らは幼馴染に戻る。

 まるで子供のように無邪気に笑って、夢を語るのだ。


エレン「ははっ、はははははっ」

アルミン「ふはっ、あははは」

ミカサ「ふふっ、はははっ」


 外の世界を見たいという――――もうすぐ掴めそうな、その夢を。


【ドリフターズ:始】


965◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 23:19:53SmAxplfI (19/28)

【後日談・真】


 壁外への大規模遠征は、二ヶ月後に決定した。

 その間に起こったことは様々だ。

 アルミンとヒストリアの婚約騒動。アルミンが王となり、ヒストリアが懐妊した。

 事実上のアルミン・レイス王政の誕生であり、市民はブーイングと共に―――しかし女王が愛されていたため、形式だけの―――受け入れられたのだ。

 ヒストリアは幸せの絶頂であった。

 ジャンは念願かなって司令官へと出世した。

 そして多くの人を驚かせたのが――――コニー・スプリンガーの降格。

 本来ならば誰もが納得しないそれは、否応なしに納得された。

 降格は一時的なものである。その理由は――――。


コニー「現役復帰だ。しばらくは高速機動部隊に戻るぜ」


 高速機動部隊隊長・コニー・スプリンガーの復活。

 事実上の現役復帰宣言である。これには現役の高速機動部隊から歓迎の声が上がった。

 あの強さ、あの速さ、あの剣技、それを間近で見聞きし、モノにできるチャンス。


966◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 23:24:57SmAxplfI (20/28)


 しかし、何故コニーが復帰しようと思ったのか、その理由を、コニーは多くを語らない。

 ただ、遠くに行きたいと。遠くに行かないと、アイツに合えないのだと、それだけを語った。

 ミカサ・アッカーマンは、未だ現役復帰の宣言をしなかった。

 未だ子供たちは訓練兵であるし、家を早々に開けるわけにもいかない。

 家を守る。トヨヒサの教えだ。それを頑なに守り続けている。


ミカサ「少なくとも、息子と娘が私を越えるまでは、家を守る。その後だ。私が遠くへ行くのは」


 そう、エレンをはじめ、グリシャとカルラに語った。

 これにはカルラはもちろん、グリシャも真剣だった。

 両親が十五年も前から夢見てきたこと。それを息子と娘である自分たちの未熟故に阻まれるなど、あってはならないと。


カルラ「すぐに、強くなります。母さんより。いつかは、父さんより」

グリシャ「精進します。必ずや、強くなってみせます」


 力強い子供たちの言葉に、エレンもミカサも嬉しそうに微笑んだ。


967◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 23:32:11SmAxplfI (21/28)


 サシャはいままでと変わらない。弓の腕に関しては、未だに憧れた源氏の大英雄には届かない。

 彼女にも夢はある。あの弓の頂に追いつくこと。そして、外の世界で美味しいものを食べたいという、俗な夢だ。

 だが、それでいいと、多くの人は思った。サシャ・ブラウスは、弓を引いているときが、最高に格好良くて、綺麗なのだ、と。

 ――――何気に、サシャに好意を抱く男性は多いことに、サシャ自身はまだ気づいていないのが最大のネックではあったが。


 そしてリヴァイ・アッカーマン。彼もまた現役復帰した。

 歳を重ね、体力の衰えは否定できない。だが、技量にかけては壁内随一であり、コニーやエレンも教えを乞う側である。

 しかし兵長の座は、最強の座。それを過去の威光でエレンから捥ぎ取るつもりはない、とリヴァイは言う。

 ただの兵士で構わない、と。

 リヴァイもまた、夢を見ている。遠くの地で戦う友がいる。彼とまた共に戦場を駆け抜けたい。

 そして勝つのだ。勝って、旨い酒を呑む――――その約束は、壁の中で待っていてはいつまでたっても果たせない。

 だから行くのだ。壁の外へ。戦いの最中へ。


リヴァイ「――――勝利の美酒は、命を賭けるに値する旨さだった」


 真顔で言ってのけるリヴァイを笑えるものは、一人もいなかった。


968◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 23:35:06SmAxplfI (22/28)

 いつだって――――遠くへ行きたかった。


 コニー・スプリンガー。


コニー「………ッ、なんだ、これは」


 アルミン・レイス。


アルミン「まさか……いや、そうか」


 リヴァイ・アッカーマン。


リヴァイ「………何者だ、てめえ」


 サシャ・ブラウス。


サシャ「え、ええええええええええええッ!?」


969◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 23:37:29SmAxplfI (23/28)


 だからこそ――――それは必然であったのだろう。


コニー「ッ!?」

アルミン「う、うわっ!?」

リヴァイ「くぅ――――!?」

サシャ「あーーれぇえええええ!?」


 五者五様―――――彼らの前に、扉が現れたのは。



エレン「ッ………!?!」



 彼らの前に、彼が現れることは、必然だったのだろう。



紫「…………」



 紫と言う名の、眼鏡の男。


970◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 23:40:17SmAxplfI (24/28)


 延々と続く廊下のど真ん中に事務机を構えて座る男は、じっとエレンを両の眼で見据えている。


エレン「なん………だ。おい! ここはどこだ!! お前は何者だ!!」

紫「――――――」チラリ


 エレンの覇気をするりと受け流し、手元の書類に目を落とす。


【『魔弾の射手』:サシャ・ブラウス】

【『人類最強』:リヴァイ・アッカーマン】

【『人類最速』:コニー・スプリンガー】

【『死神』:アルミン・A ・スミス】

【『進撃の巨人』:エレン・イェーガー】


 そして、もう一枚。


【『調査兵団』の主力兵士:2000名】


971◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 23:43:14SmAxplfI (25/28)


紫「――――フム」


 紫はペンを取り出し、アルミンの書類を一部訂正―――否、更新する。


【『死神王』:アルミン・レイス】


 そのマイペースでどこ吹く風といった様子に、エレンが更に怒気を込めて吼える。


エレン「野郎ッ………答えろ! どこだここは!! 俺は帰るんだ!! シガンシナにッ!!」

紫「………」


 いつもの紫ならば―――ここで「次」とだけ告げ、彼らを送り込む。それだけだ。しかし。

 いつもの紫では、なかった。


紫「………私は君たちにドリフを『貸した』。借りたものは返してもらう。利子をつけたうえでだ。その『結果』をもって返却とする」


972◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 23:46:33SmAxplfI (26/28)


エレン「何ッ……!? まさか、てめえがノブの言ってた――――!!」

紫「――――次」


 話は終わりとばかりに告げると、エレンの身体が廊下の底抜けに暗い扉の縁へと呑み込まれていく。


エレン「ッ、上等だ………なんだってやってやるから、終わったら俺を、シガンシナに戻せ!! いいなっ、てめえ――――!!」


 最後まで言い切った後、エレンは闇深くへと落ちていった。

 一人きりになった廊下で、紫は語る。


紫「世界を廻せ。ドリフターズ」


 どこか、期待を込めて。


紫「かくして、因果の帳尻は合うのだ」



……
………


973◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 23:47:21SmAxplfI (27/28)

※次回、マジで最終回

 その後番外編。なお番外編の方が先に書き終わっているもよう


974◆B2mIQalgXs2016/02/07(日) 23:54:08SmAxplfI (28/28)

※そろそろアレなんで次スレ立てました

 エレン「ドリフターズ!」 豊久「首三ツ目おいてけ!」
 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1454856759/


975以下、名無しが深夜にお送りします2016/02/08(月) 00:00:449wsOpJrs (1/1)

乙です


976以下、名無しが深夜にお送りします2016/02/08(月) 00:14:17OCJRDE7Y (1/1)

おつおつ
なるほどなぁ


977◆B2mIQalgXs2016/02/08(月) 18:42:24pQXQi9/c (1/1)

※あ、ミス発見。>>964のミカサの台詞修正

×:ミカサ「二対一だ。氷の大地―――南極に行こう」
○:ミカサ「二対一だ。砂の雪原―――砂漠に行こう」


978以下、名無しが深夜にお送りします2016/02/10(水) 20:26:18zK5Yy3nc (1/1)




979以下、名無しが深夜にお送りします2016/02/11(木) 01:02:50XqsfQVSg (1/1)


ライナー達との再戦あるか


980以下、名無しが深夜にお送りします2016/02/14(日) 20:29:15u/fwKn.w (1/1)

今週はくるかなちんこまん。どっちに投下するんだろ?


981◆B2mIQalgXs2016/02/14(日) 22:38:31O62E8jZE (1/1)

※すまんが来週なんだ……毎度のことながらホントごめん

 ところで「どっち」って……>>980ッ! 貴様ッ! 見ているなッ!?


982以下、名無しが深夜にお送りします2016/02/17(水) 21:40:1822/qhvAU (1/1)

こっちも保守しておこう


983以下、名無しが深夜にお送りします2016/02/17(水) 22:14:38jRpBuGHo (1/1)

どっちってどこだよ(哲学


984◆B2mIQalgXs2016/02/21(日) 22:04:30aWe6YtIs (1/1)

※明日投下します
 今度こそ最終回でー


985◆B2mIQalgXs2016/02/22(月) 14:09:49aW43w9KM (1/1)

※ 出 張 再 び 
 仙台まで逝ってきます
 アレだ。きっとこのスレは終わらないんだ
 終わりの無いのがおわr


986以下、名無しが深夜にお送りします2016/02/22(月) 18:02:30czKSC74. (1/1)

仙台なら彦いちという甘味処のずんだ餅がうまかった


987以下、名無しが深夜にお送りします2016/02/22(月) 19:05:268t9IeT7I (1/1)

いってらっさーい
気を付けてね


988以下、名無しが深夜にお送りします2016/02/22(月) 22:42:37DmSzlXF6 (1/1)

喜久水庵のクリーム大福旨いよ


989以下、名無しが深夜にお送りします2016/02/28(日) 15:48:583m3WXDNk (1/2)

仙台土産なら、牛タンの味噌漬けとゴマ蜜団子だなw


990以下、名無しが深夜にお送りします2016/02/28(日) 16:08:11Inkgs6FM (1/2)

仙台駅から少し行ったとこに安くてうまい牛タンの店があるらしいぞ


991以下、名無しが深夜にお送りします2016/02/28(日) 20:39:293m3WXDNk (2/2)

仙台駅周辺牛タン屋飽和状態だぞw


992以下、名無しが深夜にお送りします2016/02/28(日) 20:48:40Inkgs6FM (2/2)

マジかよ友達が教えてくれたんだけどあてになんねえな


993◆B2mIQalgXs2016/02/28(日) 21:43:55bT/dl1t2 (1/2)

※帰宅。

 明日代休なんで明日にでも。

 今日は艦これゴフンゴフン書き溜めやらなきゃ(使命感)


994以下、名無しが深夜にお送りします2016/02/28(日) 21:49:52IiDKBzxw (1/1)

楽しみに待ってるよ


995◆B2mIQalgXs2016/02/28(日) 21:56:22bT/dl1t2 (2/2)

※無事に帰宅できたので※返し

>>986
若干遠くて寄れんかった

>>988
南仙台駅あたりに寄る機会があったので行ってきました。(゚д゚)ウマー

>>989
それ某フィンガーフェチの殺人鬼のいる杜王町が一巡した世界にあるでしょ
ゴマ摺り団子は確か岩手
あれ濃厚でウマいよね

>>990-992
利久行きたかったけど行けんかってん
焼き肉牛魔王ってところで宴会してきた


996◆B2mIQalgXs2016/02/29(月) 21:34:13HvAys3GE (1/1)

※ごめん、書き切れない。想定外すぎるほど長くなっちまった
 度々ホントごめんやけど、週末纏めて行きます
 も、もう出張なんてないんだから!(震え声)


997以下、名無しが深夜にお送りします2016/02/29(月) 21:56:48E8QynTyk (1/1)

待ってる


998以下、名無しが深夜にお送りします2016/03/01(火) 00:52:35eRvZj92c (1/1)

読みごたえあって嬉しいから無問題
絶対エタらないって信頼もしてるしね


999以下、名無しが深夜にお送りします2016/03/01(火) 14:22:12Uvxhj4Bg (1/1)

次スレはちんこまんが立てるのかしら


1000以下、名無しが深夜にお送りします2016/03/01(火) 22:11:19sgYiUvls (1/1)

1000なら今月中にこのSSが終わる&アニメ開始日が公表される