356以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/07/03(金) 23:51:42.29hV+1f+SUO (1/1)

まだでちか?


357以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/07/25(土) 19:35:31.79cPvBzLBYo (1/1)

更新ないなぁ


358 ◆oUFoaE/FvU2015/08/05(水) 02:35:06.56Pa0jCIyL0 (1/23)

>>355 様
しゅ

>>356 様
まだ大丈夫でち

>>357 様
お待たせ致しました。
今後ともよろしくご愛読のほどお願い申し上げます。

投下再開します。


359以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 02:37:48.47Pa0jCIyL0 (2/23)



朝潮 (戦闘前に荒潮の損傷を確認した時は間違いなく中破だった筈)

朝潮 (けど、今は・・・)


 朝潮は昨日のことを思い出していた。

 大破し意識を失った荒潮に肩を貸し指揮作戦艇へ運んだことを。


朝潮 (あの時みたいに大破から時間が経って同調が切れかけてる?)

朝潮 (荒潮・・・)


 朝潮は砲艤装を持つ右手を固く握り構える。

 加賀の通信で、飛び出す寸前だった朝潮はその場に踏みとどまっていた。

 提督は予期した朝潮の暴走が止まったことに疑問を感じるのもつかの間、

 加賀が勝手に動き出したことに気付いた。


提督 「どうなってる!?」

朝潮 「加賀が・・・荒潮が異常だから援護に行くと」

提督 「ぁあ!?どういうことだ!!」

朝潮 「荒潮に一番近い加賀が荒潮を救出、即時反転撤退します」

提督 「加賀自身でか!?」




360以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 02:42:06.819OfjiKAAo (1/2)

間に合ったか良かった
ここの掲示板は作者の書き込みが二ヶ月無い時点で落とされるから気をつけろよ
投下する文章が書き上がってなくても定期的に生存報告を書き込む事を推奨する


361以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 02:42:16.22Pa0jCIyL0 (3/23)


 勝手に動いているのは加賀だけではない。

 加賀は可能全艦に提督の命令を無視しヲ級の集中攻撃を命じていた。


 加えて艦隊運動においても、艦隊の前進を止め陣形の変更を指示。

 複縦陣の右列(先頭から荒潮・朝潮・羽黒)の前方、

 敵との間に割り込むように加賀を除く左列(先頭から加賀・ビスマルク・プリンツ)の前進を指示していた。

 命令に基づき、ビスマルク・プリンツが速やかに砲を旗艦のヲ級に向け斉射しつつ前進する。


 ここに荒潮救出作戦が始まった。


 呼応するように敵艦隊も前進を止め、

 荒潮への攻撃しかしていなかったタ級が初めて動き、艦娘達とヲ級の間に立ちふさがる。


 お互いの艦隊は陣形を変えつつ危険な距離を保って静止した。

 艦娘達の顔には緊張がみなぎっている。

 対するタ級の顔に動揺は一切感じられない。

 他の同個体のような無表情でない意味不明な微笑を保ったままであった。


提督 「この作戦が成功すると思っているのか?」

提督 「止めるよう加賀を説得しろ、朝潮」

朝潮 「荒潮を見捨てろと言うんですか?」

提督 「馬鹿馬鹿しい」

提督 「荒潮は沈まん」

朝潮 「???」

朝潮 (何を・・・)


 提督は戦場で根拠のないことを言わない人間だった。


朝潮 (止めさせるための嘘か・・・)


 朝潮の脳はその時そう処理していた。




362以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 02:44:30.08Pa0jCIyL0 (4/23)


 はっとして、加賀に視線を戻し対空戦闘の準備にもどる。

 加賀の援護が、それだけがこの場の朝潮にできることだった。


 加賀は機関銃のように目にも取らぬ速度で矢を放っていた。

 そこに弓道の型は存在しない。

 艦娘たる人外の能力を遺憾なく発揮した連射が行われる。

 弦に弾き出された矢が加速し切った瞬間に輝き、艦載機を具現化し次々と飛んでゆく。

 最後に加賀は矢筒の淵をなで矢がないことを確認し、荒潮に向け飛び出した。


 タ級の砲が狙うのは走る加賀か沈みかける荒潮か。

 艦娘からの砲撃に晒されているのにも関わらず、

 タ級は子供がお菓子を選ぶ時のように上気した顔で加賀と荒潮の間で砲を揺らしていた。

 時間は刻々と進む。


提督 「今ならまだ遅くない、戻るように言え」

朝潮 「もう止められません」

朝潮 「それに司令官は沈まないと言いますけど、荒潮の様子が見えないんですか?!」


 あれからタ級の砲撃が止んでいるにも拘らず、

 波濤に上下する荒潮の四つん這いに突っ張った手足は刻一刻と海に取り込まれていた。




363以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 02:48:05.66Pa0jCIyL0 (5/23)


提督 「轟沈はしない」

提督 「荒潮には轟沈の兆候がない」

朝潮 「兆候?」

提督 「今は説明する暇がない」

提督 「そもそも救出作戦自体が無茶だと言っている」

提督 「艦隊全員が危険に晒されるぞ」

朝潮 「どういうことですか?」

提督 「すぐわかる」


 タ級はその標的を加賀としたようだ。

 走る加賀をタ級の大口径砲が襲う。


提督 「忠告も・・・もう手遅れか」


 提督は舌打ちをする。


提督 「すぐだ、すぐ後悔することになる」


 朝潮は提督の言葉を無視し、

 加賀の進路を邪魔する敵艦載機に艤装による対空射撃を加える。




364以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 02:50:26.79Pa0jCIyL0 (6/23)


 ビスマルク・プリンツ・羽黒は集中砲火を続けていた。

 砲弾達がホースでまかれた水のようにヲ級とタ級に襲い掛かり、

 その周囲に水柱が数え切れないほどそそり立つ。

 砲に掻き混ぜられたヲ級とタ級の周囲の海面だけが、

 他の波打つ海面と全く別の生き物のようにうごめいていた。


 ヲ級とタ級はその不安定な足場で、

 踊るように艦娘の砲撃をあるいは避けあるいは防御壁で弾きつつ加賀を攻撃していた。

 堅牢なタ級の防御壁の側面は、弾かれた艦娘の砲弾が走り綺麗な火花をいくつも散らしていた。


朝潮 「何でこれだけの攻撃を・・・」


 歯軋りする朝潮へ戦況を覚めた目で見ていた提督が言葉を発す。


提督 「おれたちの砲はここまでの砲撃で加熱され精度が落ちてる」

提督 「あちらは二隻になり、艦隊という己を守るだけでなく縛っていた鎖が解かれた」

提督 「そうやってただでさえ当たらないのにあれだけの防御壁」

提督 「砲弾が芯から当たっても抜くことができるか」

提督 「まぁ、当たっていないのは加賀も同じか」


 敵の砲撃と艦攻の雷撃による線、艦爆による点の飽和攻撃を、

 加賀はほぼ最短距離を最小の挙動で避けながら進んでいた。

 敵の攻撃がぬるい訳ではない。

 水柱の高さは艦娘による砲撃のそれ以上の高さで上っており、

 全ての攻撃が致命傷を狙って加賀予想進路の正中線に正確にばらまかれていた。




365以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 02:53:00.52Pa0jCIyL0 (7/23)


朝潮 「凄い・・・どうやって」

提督 「敵の位置、砲や艦載機の向きや動き、視線や構えからの情報」

提督 「それだけでなく、戦艦空母は偵察機や艦載機の視界も二次視覚的に把握できる」

提督 「ここまでは常識だし、朝潮も知っているだろ」

朝潮 「はい」

提督 「加賀はそれに加えて深海棲艦の同調状態がわかる」

朝潮 「同調がわかる?」

提督 「敵の艤装による行動の予兆を掴む事ができるという意味だ」

提督 「加賀が逃げに専念すれば、そう当たらん」

朝潮 「そうなんですか」

提督 「攻撃に使えば相手の進路を先読みすること」

提督 「戦闘中で一番隙ができる相手の攻撃に合わせてこちらが仕掛けることも可能だ」

提督 「これが加賀の能力だ」

提督 「驚いたか?」


 提督は戦いを忘れたかのように満足した顔で語る。

 実際、演習に飽き足らず自鎮守府の艦娘同士を戦わせる提督から言わせても、加賀は異質の存在だった。

 一般的に強いと言われる艦娘よりも頭一つ以上飛びぬけて強かった。

 何より、この異能を持っているのが、

 提督の広く知っている艦娘たちの中で加賀のみだったことが大きい。

 だからこそ次に朝潮から出る言葉は提督を驚かせた。




366以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 02:56:36.71Pa0jCIyL0 (8/23)


朝潮 「私も集中すれば少し感じることがありますけど、避けられるまでは・・・」

提督 「何?」


 提督の間の抜けた言葉に、朝潮は対空射撃をしつつ横目で提督を見る。

 提督はいぶかしむような目で朝潮を見ていた。


朝潮 「いえ、今の敵みたいな強い深海棲艦の攻撃だけなら・・・ですけど」

朝潮 「艦隊同士が接近しているからかもしれません」

提督 「・・・敵の艦載機の攻撃に合わせて対空射撃を加えてみろ」

朝潮 「はい?」

提督 「やってみろ」

朝潮 「いえ、だから私は集中しないと難しいので、時間がかかります」

朝潮 「それより多く撃って敵を牽制する方が・・・」

提督 「かすりもしない対空射撃に牽制の意味があるのか?」


 事実、朝潮はヲ級の艦載機の動きに翻弄され有効な射撃が一回もできていなかった。


提督 「やらないなら、これから一切の対空射撃は加賀の進路に合わせようとするな」

朝潮 「何故ですか?」

提督 「当たらないまま撃ち続ければ、加賀の進路情報を相手に与えるだけだ」

朝潮 「それは・・・」


 ビスマルクの砲撃が軽々避け続けられていた情景が朝潮の脳裏に浮かぶ。

 あの時、確かにヲ級はビスマルクからの何らかの情報を持って避けていた。

 運よく全弾避けることなどできないのだから。

 提督の言うことは正しい。




367以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 02:58:40.49Pa0jCIyL0 (9/23)


提督 「おれの言ってることに間違いがあるか?」

提督 「どうせ負ける戦闘だ・・・が」

提督 「当たらないなら当たらないなりに悪あがきしてみろ」

提督 「一発だ・・・敵艦載機の攻撃に合わせて撃て」

朝潮 「・・・はい」


 対潜装備しか積んでいない朝潮は、原寸に近い巨大な砲を具現化できない。

 腕に付いた貧相な艤装の攻撃では、残った戦艦タ級と空母ヲ級にダメージは期待できなかった。


 それでも、艦載機なら。

 しかし、ヲ級に巧みに操られる奇形の艦載機にはこれまでかすってもいない。


朝潮 (どうせ当たらないなら・・・か)


 今も提督がこの作戦に賛同しているとは思っていない。

 それでも、荒潮を助けるためなら何でもできたし、提督の指揮に置ける有能さだけは信じることができた。


 ヲ級とタ級の攻撃は、加賀を殺すだけでなく荒潮に近付かせないようにばら撒かれていた。

 朝潮の対空射撃が当たっていれば、もう加賀は荒潮に手が届いていたかもしれない。


朝潮 (当てる、荒潮のために・・・)




368以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 03:02:53.66Pa0jCIyL0 (10/23)


 攻撃軌道はどのような艦載機も一定の軌道をたどる。

 艦爆なら急降下、艦攻なら低空侵攻、と、

 艦載機自体や武装の特性から攻撃軌道が制限されるからだ。


朝潮 (狙うなら機種は比較的攻撃軌道が読み易い艦攻、けど・・・)


 深海棲艦は異様な形だけでなくかなりの速度で動き回っており、

 それら敵艦載機ををはっきり判別するのは難しかった。


朝潮 (時間がない、敵艦載機の中でも機数の多い機種に絞って攻撃軌道を覚えるしかない)

朝潮 (そうすれば狙える目標も増える)


 朝潮のこの判断が功を奏す。

 今、ヲ級が加賀を攻撃するのに一番多く用いているのは、幸運にも艦上攻撃機であった。


 これは手堅い戦略を取るヲ級が、

 全力で制空権争いをしていた先ほどまで、艦上爆撃機を中心とした編成で攻撃を行い、

 正に今まで攻撃軌道が読みやすく落とされやすい艦攻を温存していたためであった。


 狙った一機の攻撃までの飛行ルートを、全力で朝潮は目に焼き付ける。

 敵艦載機は水面すれすれを低空侵攻した。


朝潮 (よし!!!艦攻!!!)




369以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 03:04:56.06Pa0jCIyL0 (11/23)


 すぐさま朝潮は同じ機種を目標として狙いを定め、右手の艤装に力を込める。


朝潮 「落ちてッ!!!」


 敵が攻撃する寸前の気配を頼りに裂帛の気合と共に砲撃を行う。

 気紛れな風と大口径主砲の轟音渦巻く戦場に小さい発砲音はかき消される。


 小さな砲弾は誰にも注目されず静かに飛翔した。

 その砲弾の進路に敵艦載機は吸い込まれるように飛び込む。

 敵艦載機はガンと高い音を立てると上下に回転しながら爆弾を抱いたまま炸裂した。

 空中で不自然に赤々と爆発した敵艦載機は戦場で一際目立った。

 加賀の瞳が燃え熱風が脇をすり抜ける。


朝潮 「やった・・・やりました司令官!!!」

提督 「見ればわかる、喋る暇があれば牽制を混ぜながら続けろ」


 ヲ級が朝潮を細目で見つめていた。

 同じように提督も朝潮を見ていた。


提督 「続けながら聞け」

朝潮 「はい?」

提督 「朝潮、お前、荒潮の同調状態がわかるか?」



―――――
―――




370以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 03:08:44.45Pa0jCIyL0 (12/23)



加賀 「立ちなさいっ」


 加賀がうつ伏せで沈みかける荒潮の片手を乱暴に掴み引き上げる。

 だらんとした荒潮の体を血と汗と海水が伝った。


 朝潮の援護もあって、加賀は攻撃を避けつつ遠回りしながら荒潮の元にたどり着いていた。


 その時、加賀の死角からタ級の砲弾が二人を襲う。

 加賀は荒潮をかき寄せ、素早く後方へ飛びそれを何とかかわす。


加賀 (荒潮はさながら目標ブイか)

荒潮 「なんで??」

加賀 「危ないなら私の後ろに来なさいと言ったわよね」

荒潮 「すいま・・せん」


 荒潮は加賀の中で両手を握り静かに震えている。

 傷が治癒せず血が流れ続けたせいか健康的だった肌は青白く。

 精神的にも、長く恐怖に晒された影響か、意識を保つのさえぎりぎりな様子が見て取れた。

 声に力はなく、目がにごっている。


加賀 「頑張ったわね」

荒潮 「はい・・・」

加賀 「逃げるわよ」


 加賀は撤退するタイミングを見計らう。

 ヲ級とタ級は、その様子を静観しながら何か話すような素振りをしている。




371以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 03:11:42.37Pa0jCIyL0 (13/23)


提督 「終わりだ」


 提督が煙草に火を付け呟く。


朝潮 「もう撤退するだけではないでしょうか?」


 あれから朝潮は数機の敵艦載機を落としていた。


提督 「時間がかかり過ぎたんだよ」

朝潮 「後は先ほどのように加賀が荒潮を抱えて避けながら逃げるだけですよね?」

提督 「空を見ろ」


 提督が指差す空は先ほどより不気味に静かになっていた。


朝潮 「あ・・・」

提督 「今、最後の一機が落ちた」


 一本の矢がくるくるときりもみしながら静かに水面に着水した。

 大気には敵艦載機の唸り声だけが舞っていた。




372以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 03:15:34.89Pa0jCIyL0 (14/23)


提督 「具現化した矢は一定時間しか飛べない」

提督 「それが切れればあぁなる」

朝潮 「え・・・」

提督 「加賀には弓を構え矢を番える余裕も着艦させる余裕もなかった」

提督 「あれだけの攻撃を避けながら全速で移動していればできるわけがない」

提督 「こうなるのはわかっていた」

朝潮 「それでも・・・艦載機の二次視覚がなくなっても加賀なら・・・」

提督 「現実を見ろ」

朝潮 「・・・」

提督 「お前は敵の艦載機を見るので精一杯だったようだがなぁ」

提督 「加賀は避けながら自分の戦闘機で命中ルートの敵艦載機だけは落としていた」

朝潮 「では・・・」

提督 「これからは敵の攻撃が当たる、それも加賀にだけじゃない」

提督 「我が物顔に飛び交う敵艦載機に四方八方から蹂躙される」

提督 「当然こちらの攻撃は観測機を落とされ命中しない」

提督 「ふふ、いつも深海棲艦に沈み方を教えてやれと激励する側がこうなるとはな」

朝潮 「・・・」

提督 「笑えよ、お前が招いた事態だ」


 提督は涼しい顔で話す。

 それは諦めか、何なのか。




373以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 03:18:42.43Pa0jCIyL0 (15/23)


朝潮 「どうすれば・・・」

提督 「それをおれに聞くのかぁ?」

提督 「ヲ級とタ級に命乞いでもしたらどうだ」クク

朝潮 「っ・・・」


 苦笑した顔から一変、表情を冷たくした提督は、

 もう何度もしてきたかのように機械的な言葉で言い放つ。


提督 「幕を引くのだけは手伝ってやる」

提督 「逃げる準備をしろ」

提督 「それと・・・ないと思うが荒潮が万が一の時の覚悟をしておけ」

提督 「轟沈したくなかったらな」

朝潮 「・・・」


 朝潮は提督の言っている意味がわかった。

 仲間の轟沈で同調を崩せばお前も死ぬぞ、と言っているということが。




374以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 03:21:06.18Pa0jCIyL0 (16/23)


 朝潮の前方で加賀は深海棲艦最後の猛攻に備え身構えていた。

 頼れるのは自身の感覚のみになった今、

 攻撃寸前の深海棲艦特有のどす黒い同調の高まりを逃さないよう集中し神経を張り詰める。

 周囲をハゲワシのように旋回する敵艦載機の一機一機の動きを加賀は掴んでいた。

 加賀は諦めていない。


加賀 (どう来る?!)

荒潮 「無理なら私を・・・」

加賀 「轟沈するのは許さないわ」

荒潮 「提督が指示したんですか」

加賀 「・・・えぇ、朝潮が頼み込んでね」

荒潮 「朝潮ちゃん・・・」


 友人の名前を聞き目に涙をためる荒潮は年相応の少女でしかなかった。

 加賀は未だ震えが止まらない小さい荒潮を強く抱きしめた。


加賀 「一緒に逃げるの」

加賀 「朝潮が待ってるから絶対に諦めないで、同調を保ちなさい」

荒潮 「はい・・・」


 加賀の初めて聞く優しい声と体温に慰められ、荒潮は顔を加賀に押し付け涙を隠す。




375以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 03:22:29.69Pa0jCIyL0 (17/23)


 加賀はその時、水柱の林にいるタ級の砲撃を見逃していた。

 油断していたからではない。

 過剰な砲撃でできた水柱により、見えた者は艦隊にもいなかった。

 ただ、その瞬間にあの加賀が何ゆえ気付かなかったのか。


加賀 「!!」


 直後、加賀は背後で敵艦載機の攻撃の予兆を捉え、後ろを向く。

 視界に入った敵艦載機は朝潮の対空射撃を避けながら抱えている魚雷を投下した。

 魚雷進路を見極めようと着水する魚雷を注視する。


加賀 (何で一発、しかも十分に避けられる遠い位置に・・・)


 その時、加賀の背中を不意に鈍い痛みが襲った。


ドン


加賀 「くぅっ・・・(どこから?!)」

荒潮 「きゃっ」


 衝撃に加賀が荒潮を抱えたまま水面を勢いよく転がる。

 タ級の砲弾は加賀の防御壁でかなり威力が弱められていた。

 それでも、加賀の背中に直撃したそれには加賀を弾き飛ばすくらいの威力は残っていた。




376以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 03:27:57.28Pa0jCIyL0 (18/23)


 加賀が海面を転がるのを何とか踏みとどまろうとするも、

 折からの高波に体が跳ねすぐ止まることができない。

 踏み止まり体を起こせた時には敵艦載機の魚雷は直前まで来ていた。

 雷跡の先端にある魚雷から出る異様な気配に加賀の感覚は明らかな危険信号を発していた。


加賀 (当たったら不味い)


 瞬間、加賀は荒潮を突き飛ばした。


加賀 (荒潮だけでもっ)

加賀 「離れてなさい!!」

荒潮 「きゃっ」


 大破で同調が切れかけた荒潮は加賀と違い水面に半ば沈みながら転がった。

 そのため、波に捕まった荒潮は殆ど加賀から離れられずに止まる。


加賀 (しまっ・・・


 ヲ級の雷撃は加賀に直撃した。

 爆発が荒潮をも襲う。


朝潮 「荒潮ー!!!!!」


 強烈な爆発音が海上にこだました。



―――――
―――





377以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 03:31:24.37Pa0jCIyL0 (19/23)




 爆発により生じた熱線が距離のある朝潮の皮膚をヒリヒリと焼いた。

 黒煙の渦巻く爆心地から加賀が弾き飛ばされ出てくる。


朝潮 「加賀、大破!荒潮は・・・?」


 荒潮は未だ爆煙に包まれたまま確認できない。

 黒煙は根元である海面付近がゆらゆらと輝いている。

 その輝きから新たな煙をぼこぼこと沸き立たせながら、黒煙は風をものともせず灰色の空に聳え立つ。


提督 「・・・荒潮は爆発に弾き飛ばされなかったな?」

朝潮 「今も・・・煙の中です」

提督 「同調が残っていれば防御壁があるなら、攻撃を受ければ弾き飛ばされる」

朝潮 「何が言いたいんですか?!」

朝潮 「荒潮は轟沈しないんじゃなかったんですか?!」

提督 「・・・」


 朝潮は提督のいる指揮作戦艇に詰め寄る。

 睨みつけた提督の冷たい目は朝潮の視線を跳ね返した。

 朝潮に焦燥感だけが募っていく。




378以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 03:34:50.38Pa0jCIyL0 (20/23)


 その時、一陣の強風が朝潮達の海域を吹き抜け、朝潮の長い黒髪をなびかせた。

 上空の敵艦載機と指揮作戦艇を中心に旋回していたかもめ達がふわりと上下し揺れる。

 荒潮を包んでいた黒煙が吹き散り、そこに皆の視線が集まった。

 戦場が静止した。


提督 「戦争とはよく言ったものだ」

提督 「交戦規定も何もないこの深海棲艦との闘争を」

提督 「降伏も許されず・・簡単に死ぬことも許されない」


 冷静に語る提督をよそに朝潮は声が出ない。


 石に潰された蛙のように艤装に潰され荒潮はうつ伏せにされ、

 その背中でぼろぼろの艤装が重油の血を流し黒煙を噴き燃えている。

 火の海に浮かぶ荒潮のほぼ焼け落ちた制服は体中に刻まれた無残な傷をあらわにさせていた。

 そこから覗く皮膚は炎に炙られ火傷でぷつぷつと泡立って爆ぜ黒ずんで行っていた。

 荒潮は残る力を振り絞り立とうとしていた。

 海面に突いた手は海面を突き抜け、それでも何度も何度も手で燃える海面をかき荒潮はあがいていた。




379以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 03:36:55.83Pa0jCIyL0 (21/23)


 提督がぼそりと呟く。


提督 「沈ませてやれ、お前が」


 荒潮の生存への喜びが希望が、荒潮の痛み苦しみへの同情が、

 朝潮の中でどろどろに混ざり合い、抱いていた熱い焦燥感は押し潰され冷たい絶望に変わる。


 朝潮を除く艦隊の全員がその惨状から目を逸らし、敵を恨めしそうに睨んでいた。

 その視線誘導を待っていたかのように、タ級は戦場を見渡すと悠々と砲身を荒潮に向けた。

 朝潮はどす黒い同調の高まりを感じ、追ってタ級に視線を投げる。


朝潮 「止めて・・・お願い・・・まだ」


 タ級の砲身が禍々しい光を放ち砲弾が発射されていた。


―――――
―――




380 ◆oUFoaE/FvU2015/08/05(水) 03:37:44.46Pa0jCIyL0 (22/23)

今回分投下終了です。
ご読了ありがとうございました。


381 ◆oUFoaE/FvU2015/08/05(水) 03:42:48.95Pa0jCIyL0 (23/23)

>>360 様
お気遣いありがとうございます。
生存報告了解です、そしてそれしなくていいようにせっせと書きます。


何かご指摘ご質問ありましたら、できる範囲で全て答えます。

話が変わりますが、
朧でSS一本書くほど好きなんで今回の水着グラ最高で涙出そうになりました。


382以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 03:43:54.649OfjiKAAo (2/2)




383以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 03:44:18.973zxnGx8Fo (1/1)

おつおつ


384以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 03:48:00.16YbP2gIvjO (1/1)




385以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/05(水) 23:50:28.22ioaqoFmW0 (1/1)




386以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/25(火) 15:07:53.99YnXSJsYpO (1/1)




387以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/09/08(火) 00:24:43.54hLs9mR4XO (1/1)




388以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/09/22(火) 01:10:26.790xDNlIbQO (1/1)




389以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/09/22(火) 23:12:23.05w5oCl6ZGO (1/1)

んあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、ウッ、続きが、ミタイ


390以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/09/22(火) 23:15:36.1202khbfrao (1/1)

2 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/22(火) 23:04:50.34 ID:w5oCl6ZGO
んあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙あああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、ウッ、続きが見たい

お前他のスレもageてた奴じゃん
新手のage荒らしか?


391 ◆oUFoaE/FvU2015/09/30(水) 01:59:32.12iaDCSrUE0 (1/1)

大変申し訳ございません。生存報告します。
ほの人だけかもしれませんが、ご期待に添えられるよう頑張ります。


392以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/09/30(水) 13:59:31.381XpyC4wuo (1/1)

期待してるよ


393以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/05(月) 02:24:19.65YJz4TCQzO (1/1)

まってるよー


394以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/06(火) 18:40:18.00YEeR2V7lo (1/1)

待ってる


395以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/26(月) 13:12:29.20pwDlUMJhO (1/1)




396 ◆oUFoaE/FvU2015/10/30(金) 16:19:43.93K/bR7wz90 (1/24)

こんな時間ですが再開します。
くたびれた方たちにとって一抹の清涼剤にでもなりましたら幸いです。


397以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 16:22:40.32K/bR7wz90 (2/24)

―――――
―――



 あれほど痛かったのに、もう痛覚はない。

 体の震えも止まっていた。


荒潮 (もう・・・・・・疲れたわ・・・)


 頬を火が舐めるに任せる。

 体どころか顔を上げる力さえ込められなくなっていた

 視界は赤から真っ白に霞み音はもうしない。

 細胞が静止してゆく。


 感覚が閉じて行く中で、荒潮は自分の精神の中へ落ちてゆく。

 恐怖で摩耗しきった精神も、安息を求め深海に沈むんでゆくように暗く冷たく静かになってきていた。


荒潮 (あれほど生きたいと願っていたのに)

荒潮 (もう開放されたい・・・)


 遠くから朝潮の声が聞こえたような気がした。



―――――
―――


398以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 16:25:20.15K/bR7wz90 (3/24)




 タ級の砲撃がなされたと同時に朝潮は指揮作戦艇を離れ荒潮へ向けて走り出していた。

 正面からは殺意の塊が迫っている。


 提督は朝潮を止めなかった。

 一寸一秒も無駄にできないのは朝潮だけではない。

 圧倒的優位にある敵から、どう損耗せずに撤退するか。

 次の戦いは始まり、艦隊の命運は提督の采配にかかっていた。

 指揮作戦艇に付いた拡声器で艦隊をまくしたてる。


提督 「羽黒は全速前進して一時旗艦となって指揮作戦艇に付け」

提督 「ビスマルク・プリンツは砲撃と合わせて雷撃をばらまいて敵を近づけさせるな」

提督 「同時に砲弾を撃ち切って体を少しでも軽くして指揮作戦艇へ後退を始めろ!」

提督 「加賀ァ!!!」


 加賀は弦の切れた弓を支えに海面に何とか立っていた。

 大破の影響で今も肩で息をしている。


提督 「ビスマルク!命令を追加だ、隙を見て加賀を拾え!!!」


 了解の合図に手を挙げるビスマルクのすぐ横を、タ級の砲弾が通過する。

 飛翔する敵砲弾をビスマルクは自身の防御壁で弾こうとも防ごうこともしない。

 それが荒潮への優しさだとビスマルクは思っていた。

 風圧で飛びそうになった帽子を目深に押さえビスマルクは手で十字を切った。


 朝潮は走っていた。

 走っても間に合わないのは明確だった。

 砲弾が荒潮に接近するほど不思議に朝潮の集中は増し時が遅くなるように感じた。


朝潮 (荒潮の死を遠ざけるため?)


 走る朝潮の目から涙がこぼれた。

 にじむ視界の中で砲弾は荒潮に着弾した。


朝潮 「荒潮!!!!!!!」



―――――
―――



399以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 16:28:31.91K/bR7wz90 (4/24)




 砲弾は防御壁を貫き四つん這いで伏せる荒潮の背部艤装に直撃。

 聞きなれた重い着弾音とほぼ同時に、

 命中した荒潮の艤装はアルミ缶を一瞬で潰したような甲高い金属音の悲鳴を発して歪んだ。

 次の瞬間、砲弾が炸裂し光と衝撃を放つ。

 朝潮は反射的に両手をかざし耐ショック姿勢をとり目をきつく閉じた。

 閉じた視界が真っ白に焼き付く。

 衝撃波で朝潮の体はほぼ水平に数メートルずれた。

 飛びそうになる意識を衝撃波につづいて巻き起こった熱風が引き戻す。

 かざした両腕の艤装が甲高く連続して鳴り、

 朝潮の皮膚がやすりをかけられたように熱く痛む。

 四散した艤装の鉄片が衝撃波に混ざり凶悪に吹き荒んでいた。

 爆音でほぼ失われた聴覚に機関銃弾が掠めたような音がする。

 暴風の弱まりにかざした両手の隙間から着弾地点を伺う。

 砲弾の衝撃で海面が異様に大きくおわん状にへこんでおり、荒潮は見えなかった。


朝潮 (荒潮はどこ・・・


 爆発に押し付けられ圧縮していた海面が元にもどろうと膨張を開始していた。

 朝潮は耐ショック姿勢をとり、その目は再び闇を迎える。


 水柱が空中を駆け上る。

 同時に質量を持った水の塊が横なぶりに朝潮を襲った。


 つむった目、爆発で一時的に失っている聴力でも、違和感はしていた。

 肌を伝う海水の温度や粘度。

 どれもいつも浴びる海水のものと違った。

 朝潮は色も音もない静止した世界から、固く閉じた瞼を開き外界を見た。

 腕、いや全身が、視界が全て真っ赤に染まっていた。



―――――
―――



400以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 16:30:28.58K/bR7wz90 (5/24)




 朝潮にとってコマ送りのように起こった一連の出来事は、

 艦隊の他の人間からは一瞬に起きた出来事に過ぎなかった。


羽黒 「ひっ・・・」


 既に旗艦代理として指揮作戦艇に付いていた羽黒が悲鳴を小さく上げる。

 しかし、それ以上の悲鳴を飲み込み羽黒は震えながら砲を再び構え直した。

 荒潮を喪った悲しさより、死に対する恐怖が勝っていた。

 その恐怖が羽黒を素早く現実に引き戻した。


 悲しむ暇などない戦場だった。

 頭上では我が物顔で敵艦載機が飛び交い、殺気を含んだ重圧を振りまいている。


提督 (いつでも殺せるとでも言いたいのか)

提督 (いや・・・なら、何故攻撃を始めない?)

羽黒 「ど、どうしました?」

提督 「敵艦載機・・・」

羽黒 「え!?敵艦載機が来てますか?!」ビクビク

提督 (気のせいか?)


 赤い水柱がその形を崩そうとしていた。



―――――
―――



401以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 16:32:45.72K/bR7wz90 (6/24)




 海水と混ざり生臭く生暖かい粘度を持った赤い液体が体にまとわりつく。

 朝潮の顔や体に粘り付き酸鼻な臭いが鼻の奥の奥を刺激する。

 朝潮は突きつけられた現実に押し潰されるように、

 両膝から四つん這いになるように海面に崩れ落ちた。


朝潮 (荒潮が死んだ・・・)


 支えにした両手からは気味の悪い感触が返ってきていた。

 手の周り、目の前の海面はじんわりと赤く染まり、

 爆発に押し付けられ沈んでいた艤装の破片と肉片が浮いてきていた。

 手のひらに温度の残る肉片が触る。

 吐き気がした。


朝潮 「・は・・・あ・・」


 髪が付いた皮膚、腕、どこかの内臓のような奇怪な肉片、

 白い骨が覗く大きな肉、紐状の筋張った肉片、艤装の破片、肉片肉片肉片、、、

 凄惨な光景に現実感を失ったまま、朝潮はそれらが浮沈し漂うのを眺めていた。


 目の前で高く聳え立つ水柱が崩壊を始め生暖かい赤い雨が降り注いだ。

 艤装や肉片交じりのそれはべちゃべちゃと不快な音をたてて落下し、更に朝潮を赤く染めた。


朝潮 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛


 朝潮は四つん這いから上体を起こし虚空へ叫ぶ。

 どうにかなりそうだった。

 上空へ避難していたウミネコたちが鳴きながら海上に漂う肉片めがけて一斉に舞い降りてきていた。




402以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 16:36:49.59K/bR7wz90 (7/24)


羽黒 「・・・うぷ、おぇぇぇぇ」

提督 「・・・」


 提督は吐く羽黒に何も言わないで上空を眺めていた。


提督 「やはり・・・敵の艦載機が撤退を始めている・・・」


 ヲ級は、艦娘達に警戒もせず艦載機の収納を始めていた。


提督 「全艦に通達、攻撃を止めさせろ」

羽黒 「え?」

提督 「敵が見逃してくれるそうだ・・・攻撃を止めて撤退させろ」

羽黒 「はっはい」

提督 「敵が心変わりせんとも限らん、警戒は解かせるな」

羽黒 「はい」


 じきに、悔しそうなビスマルク、焦った表情のプリンツ、暗い表情の加賀、

 三者三様の表情で指揮作戦挺に足早に集まってくる。

 指揮作戦艇への集合は、撤退の完了と同義であった。

 高速で移動可能な指揮作戦艇上で、

 集まった艦娘が協力して防御壁を張ることで、

 深海棲艦から安全に逃げることができた。




403以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 16:39:34.07K/bR7wz90 (8/24)



提督 「朝潮は何をしている」

ビス 「まだ震えているわ」

提督 「・・・呼び続けろ、長くいれば相手の気が変わらんとも限らん」


 ビスマルクが提督に詰め寄る。


ビス 「仲間を殺されて何もしないどころか敵に情けを受けるなんて、恥を知りなさい」

提督 「情けで逃されたと思っているのか?」

提督 「そういう判断しかできないからお前は・・・」

ビス 「なんですって?!」

提督 「瀕死の獣ほど危ないものはない」

提督 「石橋を叩いて渡る慎重な敵だ」

提督 「これ以上追撃する危険が成果に見合わないと冷静に判断した、それだけだ」

提督 「それもわからないから、敵に砲撃を当てられないし、命令違反したことにも気付かない」

ビス 「はぁ!?」

プリ 「姉様!!」

提督 「その様子だとプリンツは気付いていたようだな」

提督 「今日の旗艦は朝潮だ、加賀の命令を何で聞いた?」

提督 「命令違反で更迭されたくないなら今日は視界に入るな、屑が」

ビス 「・・・」ギリ

プリ 「姉様、命令違反は最悪反乱罪として死刑にもなりますから・・・」

ビス 「提督!!精々加賀と一緒にいるようにすることね・・・死にたくないのならね」

提督 「止めてくれ、貴様ごときに忠告をもらうと惨めになる」フフ

ビス 「なんですってぇ・・・」イラ


 プリンツがビスマルクの艤装を引っ張って、提督から遠ざけようとする。

 朝潮は一人呆けたようにその場で座り込んでいた。



―――――
―――



404以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 16:43:35.87K/bR7wz90 (9/24)




羽黒 「撤退してくださいー」


 羽黒の艤装無線が朝潮の脳内に響く。

 荒潮の轟沈でざわついていた海面は、いつもの脈動を取り戻していた。

 朝潮などお構いなしに高い波と風が吹き付ける。

 海面の漂流物や朝潮の小さい体を伝っていた血は、殆ど消えていた。

 半身を開いて正座するような姿勢の朝潮の周りで、

 僅かに残ったものをウミネコ同士が取り合いギャアギャアやかましい。


朝潮 (救えなかった)


 今日の夢が、これまで失くしたものたちがよぎる。


朝潮 (今度からあの夢に荒潮も・・・)


 変な笑いが出た。

 荒潮との楽しい思い出がぐるぐるとまわり、

 続いて荒潮と一緒にいたらこれから起こったであろう楽しい日常が浮かぶ。

 荒潮と楽しく普通の日常を過ごし荒潮の結婚式に参加して子供を見せてもらって、

 空想の中でいくら時間がたっても荒潮は今死んだ姿のままであった。

 矛盾と悲しみで脳裏の景色が歪んだ時、

 失くすのに慣れている積もりだった朝潮の頬を再び涙が伝う。


朝潮 (荒潮、荒潮を守ろうと思った、だから提督と・・・)

朝潮 (なんで・・・なんでなんでなんで・・・)




405以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 16:44:52.29K/bR7wz90 (10/24)



 悲しみで萎縮した感情が変質し膨張し始めていた。

 心臓に針で縫われるような鈍痛を感じる。

 あの夜、提督に感じたような怒りが、怨みが、

 心臓を叩き溶岩のように熱い血液を体中へ送り出していた。


朝潮 (深海棲艦の攻撃を、恐怖を、精一杯耐えていた荒潮を・・・)

朝潮 (いたぶって、おもちゃのように弄んで、恐怖させて、轟沈させた)

朝潮 (タ級!!!!)


 これまで朝潮は奪われてきた。母を姉を自身の貞潔を、そして今は荒潮を。

 片時も忘れたことはない。

 その時の情景が夜ごと朝潮を苦しめ、

 心の傷は時間が経っても膿むばかりで治らなかった。


 奪われたことも、奪う人間も許せなかった。

 誰にもこんな思いをさせたくない。

 子供ごころに純真で凶暴な正義感を抱いていた少女は艦娘になり力を手に入れていた。


朝潮 (許さない・・・)




406以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 16:46:27.84K/bR7wz90 (11/24)



 この時、タ級の砲弾にあてられていた朝潮を不思議な感覚が襲っていた。

 海面に座り虚空の一点しか眺めていない筈の朝潮に、

 タ級やヲ級、果てはヲ級の艦載機の位置や動きまでが、

 戦闘海域を俯瞰しているかのようにわかった。


 その感覚の正確さは、虚空の一点を眺めていた視線を流すことで確認できた。

 ヲ級艦載機の動向を読んだ時のように、

 それぞれの深海棲艦が発する波長を今の朝潮は感じていた。


朝潮 (加賀にはこれが見えていたの?・・・)


 初めての知覚は、高揚感を与えることなく朝潮を冷静にさせた。

 日本刀が火と水で鍛えるように、

 朝潮は復讐に燃える心を感覚で鍛え研ぎ澄ましていた。


 タ級の薄ら笑いと息の根を止めろと朝潮の全細胞が叫んでいた。

 ふつふつと煮えたぎる感情を、抑えこみ敵をどう殺すか考える。


 朝潮から貞潔を奪った提督は、朝潮に狡猾さを。

 朝潮から復讐の機会を奪った加賀は、この新知覚の利用法を。

 それぞれ朝潮に与えてくれていた。




407以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 16:47:47.89K/bR7wz90 (12/24)



朝潮 (私の体は殆ど無傷、対する敵も小破前後)

朝潮 (有効な攻撃を加えられそうなのは、具現化できる対潜装備の爆雷・・・)

朝潮 (敵には私が加賀のような知覚を使って動けることは知られていない)

朝潮 (けど、加賀の避けられない攻撃を私が爆雷を抱えて避けて接近?・・・無理か)

朝潮 (この知覚を中途半端に発揮するなら、隠した方が・・・)

朝潮 (もっと、もっと敵が嫌がり苦しむような物理精神両面の死角を突くような)


 考えこむ朝潮の足を何かが撫でる。

 見ると具現化が剥がれ墜落した加賀の矢の一つが波に乗って朝潮の足に当たったようで、

 何食わぬ顔で正面プロペラをくるくるさせながら波間を揺れていた。

 お腹には可愛い魚雷が付いている。


朝潮 (艦攻の矢・・・)


 朝潮の思案顔が一瞬緩む。

 それを周囲に気付かれないように、矢をゆっくりと水面下に押し付けると折って沈めた。

 悪意を撒き散らす提督のような歪んだ笑顔を、朝潮は心の中で存分にしていた。


朝潮 (表情のある深海棲艦で良かった)


 空中を飛ぶヲ級の艦載機はあと僅かとなっていた。



―――――
―――



408以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 16:50:16.67K/bR7wz90 (13/24)




 ヲ級の艦攻が、

 下手な動きをすれば殺すとでも言うかのように、

 飛行音を指揮作戦艇の上空で撒き散らしていた。


提督 「朝潮に意識はあるのか?」

加賀 「少し動いているからあるんでしょう」

提督 「羽黒、確かに艤装無線は通じているな?」

羽黒 「はぃ・・・」

加賀 「私にも羽黒の艤装無線は聞こえているし間違いないわ」ゲホ

提督 「なら何故指揮作戦艇に戻らない?」


 提督たちの注目が朝潮に集まっている時、

 座っていた朝潮がおもむろに前かがみになると思いっきり水面を両手で叩いた。


提督 「あぁ?!」


 小さい波が起こり、驚いた周囲のウミネコが風に流されながら慌ただしく一斉に飛び立つ。

 ぎゃあぎゃあと羽を散らしながらウミネコが飛び立つ中で、

 朝潮は糸に吊られるかのように肩からうつむきがちのまま立ち上がる。

 立って顔を上げると同時に朝潮は右手の砲艤装を左腕で支え、

 タ級とヲ級に狙いをつけて砲艤装を乱射し始めた。




409以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 16:54:08.97K/bR7wz90 (14/24)



 戦艦や重巡より連射の効く小口径砲が、

 これまでの騒音に比べればおもちゃのような軽い発射音を鳴らしている。


提督 「はぁ!!?」

提督 「狂ったか?」

加賀 「何であんなこと・・・」

羽黒 「ひぃぃ、どうしますかぁ?司令官」


 海域の敵味方が呆気にとらわれていた。

 匕首を喉元に突きつけられている指揮作戦艇の面々は、

 戦々恐々としつつも何もせず見守る他なかった。


提督 「浮足立つな、このままの距離で様子を見る」

提督 「変に動いて敵を刺激するな」

提督 (朝潮を置いて逃げるのならいつでもできる)

提督 「このまま上空の敵艦載機から目を離さず警戒を保て」

羽黒 「わ・・・わかりましたぁ」


 飛び立ちかけたウミネコが大混乱を起こし、

 押し合い圧し合い数匹が朝潮の射線に入り赤い花を咲かせた。

 朝潮は構わず指揮作戦艇に背中を向けたまま、

 その場を動かず反動に上半身だけ揺らしながら滅茶苦茶に連射し続ける。


提督 「タ級とヲ級に動きは?!」

加賀 「ないわ」

加賀 「タ級はこちらを向いたまま」




410以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 16:55:27.82K/bR7wz90 (15/24)



 朝潮の右腕砲艤装は12.7連装砲。

 お世辞にも強いと言えるような武装ではない。


 艦娘本来の具現化を伴った攻撃は、

 砲艤装と具現化砲の砲撃のタイミングを合わせ

 艤装の砲弾を具現化した砲弾の寄り代とすることで行われる。


 しかし、その本来の攻撃を12.7連装砲が行えたとしても、

 戦艦や正規空母にかすり傷さえ負わせられる能力はなかった。

 ウミネコをミンチにできても、それだけだ。


 実際、乱射されてばらまかれた砲弾の内、

 辛うじて当たった数発もタ級の防御壁に弾かれて乱れ飛ぶだけだ。

 そもそも、集中を欠き一発ごとの砲弾に威力はなく、

 反動を抑えられないような連射で精度さえ失っていた。

 武器に関わらず、脅威となる攻撃と思えなかった。




411以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 16:59:49.14K/bR7wz90 (16/24)



 自然、タ級とヲ級がそれを気にすることなどない。

 ヲ級は、朝潮の砲撃を一切意に介さず、そのまま撤退の用意を進めていた。

 タ級は、元いる位置を動かず、指揮作戦艇に向いたまま、朝潮を一瞥もしない。

 たまに当たる砲弾がタ級の防御壁に弾かれる度に弱々しい音を発する以外、静かなものだった。


提督 「相手にさえされてないな」

提督 「ビスマルク!朝潮を回収する準備をしろ」

ビス 「ふん・・・」

提督 「しかし・・・何の積もりだ」

提督 「今のあいつに何ができる」


 指揮作戦艇からは、一言も発せず表情も見ることができない朝潮は不気味の一言に尽きた。

 そして、その不気味の感は、艦娘側より深海棲艦側の方が強かった。


 強力な敵として相対していた艦娘側からの、

 突然の非力で意味のない挑発的攻撃に深海棲艦の二人は少なからず動揺していた。

 タ級とヲ級はそれをおくびにも出さず、

 朝潮を無視し指揮作戦艇を向き睨んでいた。


提督 「朝潮の攻撃を扇動や囮と決めつけたようだな、隙がない」

提督 「羽黒、手でも振るか?」

羽黒 「結構です!!」

提督 「・・・朝潮の砲で敵を粉砕することは可能か?加賀」


 加賀は普通に話せる程度には回復していた。

 しかし、制服と艤装の破損は直らない。

 戦闘に再度参加するのは難しい。


加賀 「無理です」

加賀 「そもそもかすり傷さえ付けられないでしょう」

加賀 「防御壁でも一番外側の強度が低い部分はビスマルクたちが既に砲撃で破壊しています」

加賀 「朝潮がいくら撃っても、残った堅牢な防御壁に阻まれて弾かれるだけです」

提督 「死にたいだけか」

加賀 「それは・・・」




412以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 17:02:28.24K/bR7wz90 (17/24)



 悩む提督の横で加賀には思い当たる節があった。

 提督に伝えていないあの夜、朝潮は感情のまま暴走していた。


加賀 「提と・・・

プリ 「提督ぅ、朝潮は左腕の魚雷艤装は破損してました?」

提督 「いや、破損してない筈だ」

提督 「海面を叩く時に見えた限り目立った破損はなかった」

提督 「荒潮へタ級の砲弾が着弾した時、防御に使っていたから内部は壊れてるかもしれんがな」

プリ 「ん~???」

ビス 「どうしたの?プリンツ」

プリ 「いえ、立ち上がる時にちらりと見えた左腕の魚雷艤装が壊れていたような」

羽黒 「あ、私もそう見えました、壊れて魚雷が全部なくなってたました」

提督 「そういうこと・・・か」

提督 「しかし、それでタ級が殺れるか」ブツブツ

プリ 「どういうことです??」

提督 「・・・それはな」


 加賀だけが、提督が察したことを解していた。


加賀 (それでも足りない・・・あの夜の狂気にはまだ)


 朝潮の狂気に触れた加賀だけが、あの夜より静かな朝潮に違和感を覚えていた。


提督 「というわけだ」

ビス 「ふん、私はわかっていたわ」

プリ 「さすがお姉様!!」

提督 「・・・」


 朝潮は指揮作戦艇に背中を向けたまま、無意味な連射を続けていた。



―――――
―――



413以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 17:04:50.36K/bR7wz90 (18/24)




朝潮 (くそっ、こんなに・・・)


 指揮作戦艇から見えない左腕の魚雷艤装の破損は、朝潮の肉をもえぐっていた。

 削れて覗く肉から血が流れる。

 これは誤算だった。


 朝潮は提督の想像通り左腕の魚雷艤装から魚雷を放っていた。

 深海棲艦に気付かれないように細心の注意を払い、

 砲艤装乱射の寸前、海面を叩いた時に、水面下で。


 魚雷は普通ならば投射機から炸薬で押し出され、

 着水してからは自身の推進力で目標まで進む。

 この炸薬が問題だった。

 水中は空中より衝撃が伝わる。

 有名な言葉通り、魚雷を押し出す炸薬の爆発は、

 通常より強い衝撃を投射機に伝え、投射機は耐えられず破裂した。


朝潮 (魚雷が誘爆しなかったからいい・・・けど)


 タ級は、艦載機を収納するヲ級を朝潮から庇う位置から動かず、

 相変わらず、朝潮でなく指揮作戦艇を向いて警戒していた。




414以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 17:06:20.36K/bR7wz90 (19/24)



朝潮 (荒潮の血が付いていると錯覚してくれることを祈るしか・・・)

朝潮 (それでも、この血の量・・・いや、タ級ならいずれ気付く)


 確信に近かった。


朝潮 (どうする・・・何か・・・)


 朝潮は、弾けた左腕の痛みをこらえ、苦しい表情を押し隠す。


朝潮 (荒潮はもっと痛かったはず)


 タ級の気を海面から散らせるために、タ級の防御壁でも上部を狙って乱射する。

 砲撃の反動を制御する余裕がないという演技でもあった。


朝潮 (あと少し、あと少しで)


 高い波がただでさえ見分け難い四本の酸素魚雷の雷跡を隠した。

 その時、朝潮から漏れた殺気を感知したかのように、タ級の視線がぎょろりと朝潮をとらえた。

 動揺した朝潮の演技が崩れ一瞬乱射を止めてしまう。


朝潮 「うっ・・・」

朝潮 (気付かれた!?)


 タ級は、この狂ったように攻撃をしてくる小さい者が、

 宿敵とする自身の視線に歓喜せず焦りを見せた様子にすぐ何かを察した。

 タ級は膝をつき、その手を海面に当てた。




415以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 17:09:18.14K/bR7wz90 (20/24)



提督 「海中の音速は空中の4倍。ばれたな」

羽黒 「司令官さん。どちらにしても魚雷が当たったとして倒せるんですか?」

提督 「お前らの方がわかってるだろ?」

プリ 「最大限同調を高めて集中して撃ったら、手傷くらいは」

提督 「その程度だろうな」

羽黒 「それだけ・・・なんですかね?」

提督 「?」


 タ級はすぐ体を上げると、ヲ級に何か指示を出す。

 タ級は体がやっと朝潮を向いた。しかし、その位置を動くことはない。

 ヲ級は、朝潮に対してよりタ級の影に入るように、少し動く。ただ、それだけだった。


 朝潮は諦めたように乱射を止め、赤く爛れた砲身を海中に突き刺した。

 海水が泡を吹きながら蒸発する。

 
プリ 「何で敵は魚雷がくるのをわかっているようなのに動かないんでしょう??」

提督 「今日は波も海流も強くて魚雷がよく曲がる」

提督 「変に動くと、元々いた位置を狙った魚雷が曲がって、タ級の後ろのヲ級に当たる可能性もあるからな」

提督 「元いた位置から動かないのが安全を考えれば正解だ」

提督 「大したダメージにもならないとは言え、今のヲ級は艦載機を殆ど収納して火薬庫に近いからな」

プリ 「ほぇー」

提督 「ビスマルク、朝潮を拾いに行け。遊びは終わりだ」




416以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 17:14:42.75K/bR7wz90 (21/24)



 朝潮の乱射も終わり、全員の視線が海面に向いていた。

 波に隠れて見えない魚雷はどこまで進んだのか。

 いくら良く見ても、海面には艦載機の飛行音と波の音だけがこだまし、何の動きもない。


 タ級が身構えると、それを待っていたかのように爆発音と伴に水柱が上がる。

 水柱はタ級を綺麗に挟むような位置で四本、

 非具現化の魚雷としてはできすぎな位に高く上がった。

 タ級はその時、水柱と水柱の間に朝潮のまだ死んでない瞳を捉えていた。


 朝潮は、静かに海中に刺した砲身を引き抜き。

 また宙空へ乱射し始める、ように見えた。


 またかという弛緩した空気が戦場を支配していた中で、

 タ級だけが緊張を取り戻し、身構えた姿勢を解かない。


 朝潮は皆が想像するより、ゆっくりと構えると呼吸を整えて数発速射した。

 海上に響いた朝潮の砲撃音は相変わらず悲しいほど軽い。

 その音に異音が混ざった。


 ガン


 聞き覚えのある音だった。

 海面を見ていた全員が朝潮の砲撃した先を見る。

 深海棲艦の操っていた艦攻が制御を失い、

 火を吹きながら上空からタ級とヲ級に向けて墜落していた。



―――――
―――



417以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 17:18:45.41K/bR7wz90 (22/24)




朝潮 (やった・・・)


 朝潮は全身が泡立つのを感じる。


朝潮 (死ね・・・焼かれて死ね)


 深海棲艦の艦攻は、錐揉みして燃料を撒き散らしながら墜落。

 タ級の防御壁にぶち当たり、戦闘開始に見た強烈な爆発をタ級の至近で起こしていた。

 タ級とヲ級の周囲海面が、火と黒煙にあっという間に包まれる。

 見えない黒煙の先で、爆発が勃勃と起こり黒煙がもこもこと生き物のように形を変えながら立ち上った。


 砲艤装の乱射、乱射した砲弾の跳弾、魚雷、魚雷の水柱、全て朝潮の計算尽くだった。


 ヲ級が、こちらへの警戒のため、いつでも殺せるという示威のため、

 艦攻数機を指揮作戦艇上空に最後まで待機させていたのは、手に入れた知覚で掴んでいた。


 残り少なくなった艦攻たちの限られたヲ級への着艦侵入ルートを、

 乱射と跳弾で誘導し、それに気付かれぬよう魚雷で海面へ注目させる。

 最後に魚雷の水柱で侵入ルートを更に追い込み、そこを砲艤装で狙い撃った。


 四方八方から加賀を攻撃した艦載機を狙うより、

 方向の限られる着艦しようとする艦載機を狙う方が遥かに容易だった。

 波長に対する知覚が研ぎ澄まされたのも、狙い撃ちするのを助けた。

 朝潮には数秒先の艦載機の動きを読むことができていた。

 
 火と黒煙に包まれる寸前、最後に見えたタ級の表情は笑っていたようにも見えた。

 黒煙の中から遠ざかるタ級とヲ級の波長を感じる。


朝潮 (けど、無事じゃいられない)


 朝潮は確かに手応えを感じていた。

 敵へのダメージでなく、自分の才気と知覚に。


朝潮 (荒潮・・・)


 天高く濛々と湧き上がる黒煙を見上げながら、朝潮は荒潮にさよならを言う。

 そして、もう目の前で仲間を失わないことを強く誓った。



―――――
―――



418 ◆oUFoaE/FvU2015/10/30(金) 17:23:12.65K/bR7wz90 (23/24)

本日更新分終了です
ご読了ありがとうございました。

期間が空いたことをお詫びします。
夏イベを全甲クリアしたり、厄年的なことも続き、公私多忙に付き遅れました。

何か、ご質問ご指摘ありましたら、お願い申し上げます。
物語の先に触れないものなら何でもお答えします。


419以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 17:23:37.84wzPgVTpBo (1/1)




420以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 17:32:40.12jj/p5Y9hO (1/1)

おつおつ


421以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 18:07:03.42NWXXmqQ/O (1/1)




422 ◆oUFoaE/FvU2015/10/30(金) 20:34:19.57K/bR7wz90 (24/24)

>>382-385 様
>>419-421 様
乙お米ありがとうございます。

>>386-388 様
>>395 様
保守ありがとうございます。

>>392-394 様
ご期待ありがとうございます。

まとめての返信で恐縮です。
恐らく残り半分となります。
最後までおつきいただければ恐悦至極でございます。


423以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/30(金) 20:46:24.88hWczQL37O (1/1)

これからも頑張ってください


424 ◆oUFoaE/FvU2015/10/31(土) 12:01:10.421MB6/tqq0 (1/1)

>>423 様
激励ありがとうございます。
皆様のお米を糧に書いています。
書きたいだけなら便所紙の裏に書けばいいですからね。
お米はホントにありがたいものです。


425以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/31(土) 20:50:05.33X22/TmiN0 (1/1)

待ってた


426以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/31(土) 20:51:52.64ggZm1I84O (1/1)

sageろや


427以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/10/31(土) 22:44:45.06Z7QuIFfB0 (1/1)

とりあえず「制裁」の意味がしりたい
それまではエタるな


428 ◆oUFoaE/FvU2015/11/01(日) 02:23:38.41i+/MuE610 (1/1)

>>425 様
お米ありがとうございます。
期間が空いたことで慌てて、私も色々文中に思い残すことがあったりします。

ここで書いた後、渋かどこかに加筆修正したものを載せたいと思うことがあります。
私のレベルで書いて許されるところがありましたら、どなたか教えてもらえれば幸いです。
これだけは言いたいのですが、
訂正したいと言っても結果的に思い残すことがあっただけで、
ここのものに手を抜く気はないのでご安心ください。

>>427 様
お米ありがとうございます。
一番最初に投下した付近の見通しとして、
私自身の米で「二週間で書き切ります」と書いておきながら、
もう一年を迎えてしまいそうになっている現状を改めてお詫び申し上げます。
これまでも申し上げている単純な遅筆に加え、
書いてる途中で加えたいこともできたりで、時間がかかってしまっています。


429以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/11/01(日) 02:45:53.53n/ZLRekyO (1/1)

このレベルなら渋でもハーメルンでもアルカディアでも何処だって通用するんじゃないの?
どれだけ長引いてもいいからきちんと満足行くものを書き上げてくださいな


430以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/11/01(日) 03:24:27.79vy+DlSlKo (1/1)

乙です
こういう頭脳プレイは幾らご都合主義だとしても、展開がアツくて勢いで読みきれるからいいよね
ゾクゾクする感じを味わえて良かった


431以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/11/02(月) 00:51:16.01yRBoj9Wso (1/1)

おっつがんばがんば


432以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/11/19(木) 02:32:25.23hL0kvdLBO (1/1)

保守


433以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/11/27(金) 10:50:24.37NF6s1ni2O (1/1)




434以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/12/01(火) 23:51:49.26s4UWjFCfO (1/1)




435以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/12/15(火) 00:06:56.96IpZIwdkyO (1/1)

保守


436以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/12/28(月) 08:09:10.98D6mxgQmwO (1/1)




437以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします2016/01/01(金) 16:54:10.08d0ZFDLHmO (1/1)




438 ◆oUFoaE/FvU2016/01/13(水) 01:47:13.46JeEYbqIA0 (1/1)

保守とお米ありがとうございます。
近く投下できると思うものの二ヶ月過ぎていたので生存報告です。

>>429 様
お褒めに預かり光栄です。書き終わったら始めようと思います。

>>430 様
ある程度地の文多めで書いた文章を、
読みやすさと戦闘のテンポを考えて削りまくるという作り方をしました。
そのため、削りすぎてしまい意味不明にならないかと不安なところがありました。
そこに問題なく戦闘の熱さを感じて頂けたなら感謝の極みです。


439以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします2016/01/14(木) 09:34:43.78yUts5BwiO (1/1)

生きてたか良かった良かった
次の投下も期待してる


440以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします2016/01/14(木) 20:57:16.93tQUbnfCeO (1/1)

待ってた


441以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします2016/01/19(火) 00:07:59.34SmYOu5MGO (1/1)

まだか


442以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします2016/01/19(火) 00:32:51.79nxDXmWZMO (1/1)

急かすな落ち着け
いつまでも待ってるぞ


443以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/01/26(火) 20:28:29.51KjeDtbduO (1/1)




444 ◆oUFoaE/FvU2016/02/20(土) 02:46:20.58G6MEXvOk0 (1/48)

保守お米ありがとうございます
投下再開します


445以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 02:49:23.24G6MEXvOk0 (2/48)




~指揮作戦艇内作戦室~


 指揮作戦艇は一人減った艦娘たちと提督を乗せて鎮守府へ走る。

 帰途、甲板に集められた彼女たちを船内の一室に一人ずつ提督が呼び出した。


 それぞれの艦娘が話した内容は朝潮にはわからない。

 朝潮が呼ばれたのは一番最後だった。


 短い階段を降り向かう窓のない船内の一室。

 光源は電子機器の棘々とした明かりのみで薄暗い。

 暖気された生ぬるい空気が中破で風通りの良くなった制服から染み入る。

 繰り返すエンジン音と揺れが暗い室内と相まって朝潮を何かの体内にいるような気分にさせた。


 作戦の説明用に海図を映し出すモニターがはめ込まれた机を挟んで提督と対面する。

 朝潮と提督が話したのは、最終戦の内容・荒潮の損傷度、そして・・・。


提督 「最終戦闘での命令違反・・・二回」

提督 「荒潮轟沈前の暴走未遂、轟沈後の単独攻撃」

提督 「・・・どういう処罰が下るかわかっているな」

朝潮 「反乱予備罪で死刑もしくはそれに準ずる重刑、ですか」

提督 「知っていてやるか?普通」ハァ

朝潮 「申し訳ありません」

提督 「・・・なんでそうなっているかわかるか?」

朝潮 「艦娘は鎮守府と提督の厳格な統制下に置かれなければならない」

朝潮 「この軍規を破ったからですか」

提督 「40点だ、まぬけ」



446以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 02:51:16.56G6MEXvOk0 (3/48)


提督 「一から教えてやる」

提督 「お前は艦娘が人間の瞳にどう映るか、考えたことがあるか?」

朝潮 「人間にですか?」

朝潮 「・・・深海棲艦に有効打を与え得る唯一の戦力にして人類の希望ですか」

提督 「訓練学校ではそうやって煽てられたか?」クク

提督 「現実を見ろ」

提督 「艤装という装備を持つだけで人のサイズで深海棲艦並の戦闘力」

提督 「その力の根源である艤装自体にはまだ謎が多い」

提督 「人間ってものは強力なものに畏怖し、わからないものには不安になるものだ」

朝潮 「艦娘を・・・恐れているとでも言うのですか」

提督 「そうだ」

提督 「人間と艦娘を分かつものは力だ」

提督 「そして、力を持たないということは、力を持つものに屈するしかないということだ」

提督 「深海棲艦に蹂躙され放題だった苦い経験を持つ今の人間なら誰でも知ってる」

提督 「お前も力に屈し、過去に姉、今日は荒潮の命を奪われた」

提督 「違うか?」

朝潮 「それは間違いありません、しかし

提督 「あの災厄を経験した人間は誰しもパワーバランスに敏感だ」

提督 「艦娘が反乱を起こしたら、艤装が暴走し深海棲艦化したら・・・」

朝潮 「馬鹿げてる・・・」

提督 「人間は日々お前ら艦娘の攻撃の矛先が自身に向かないか怯えている」

朝潮 「私達は、艦娘は、人間が安全に暮らせるよう深海棲艦から命懸けで守っています」

朝潮 「それなのに・・・そんなこと!!」



447以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 02:53:46.10G6MEXvOk0 (4/48)


提督 「何度も言わせるな」

提督 「お前の内心がどうかは関係ない、今は現実的にどう見えるかの話をしている」

提督 「まだわからないようだから、わかりやすく言ってやろうか」

提督 「人間が核爆弾や兵器を愛し感謝すると思うのか?」

朝潮 「それは・・・」

提督 「そんな危ないもん、できるだけ手にしたくないのが心情ってもんだ」

朝潮 「艦娘を兵器だと仰るのですか?」

提督 「同じ力の塊だ、何が違う?」

朝潮 「っ・・・」

提督 「ここまで聞いて、艦娘の編成権・作戦指揮権が全て提督のものである理由がわかるか?」

朝潮 「艦娘を・・・縛るためですか」

提督 「わかってきたようだな」

提督 「提督は人間側の代表として、艦娘を束ね監視し従える」

提督 「だから提督の意思に沿わない艦娘には、人間への反逆として重刑が課されるわけだ」

提督 「それが今の人と艦娘の関係だ、朝潮型一番艦朝潮」

提督 「お前らはもう人間ではない、強力な兵器の一つだ」

提督 「意思に反して動く積もりなら、処理するしかない」

提督 「そう、不発弾のようにな・・・」

朝潮 「私達だって人間です、そして人間のために戦っています」

提督 「人間が深海棲艦と戦えるか?あほう」

提督 「本当に人間のためと思うならおれに絶対服従しろ」

提督 「おれが進軍しろと言えば進軍しろ、死ねと言えば死ね、命令を下されたら完遂しろ!」


 提督が机を思い切り叩く。




448以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 02:58:39.35G6MEXvOk0 (5/48)


朝潮 「・・・」

提督 「だんまりか、いい度胸だな」

提督 「これからも人間へ安心じゃなく恐怖を振りまく積もりか?、その力で」

提督 「深海棲艦と変わらんなぁお前は」


 権力という名の力で、恐怖を振りまいてきたのは誰か。


提督 「これまで言った軍規的建前を抜きにしても、だ」

提督 「戦場において指揮官と兵卒を分けるのは太古の戦争から存在する合理的な仕組みだ」

提督 「その合理性を否定し、タ級の挑発に乗ってお前が暴走しかけてどうなった?」

朝潮 「・・・」

提督 「言えよ、お前が暴走しかけた結果を」

朝潮 「しかし・・・荒潮は」

提督 「日本語がわからないのか?口答えなんて聞いてない」

提督 「結果を言ってやろうか・・・」

提督 「お前が暴走しなければ、制空優勢のまま荒潮を囮に攻撃を続けて勝てたんだ」

提督 「お前が・・・命令無視をして、荒潮を殺し、加賀をも殺しかけた」

朝潮 「しかし!荒潮の同調は!!!」

提督 「昨日大破して時間が経った轟沈前の同調と同じ?」

提督 「そんなの関係あるか」

提督 「この海域はどんな海域だ、言ってみろ」

朝潮 「深海棲艦との戦争の最前線にして、小中破から轟沈する危険海域ですか」

提督 「そうだ」

提督 「轟沈が度々あるこの海域で、轟沈前の乱れた同調?」

提督 「そんなもん掃いて捨てるほど今までもあっただろうよ」

提督 「ごく普通なことだ」



449以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:01:15.23G6MEXvOk0 (6/48)


朝潮 「それは・・・」

提督 「あのまま苦戦に耐え攻撃を続ければ荒潮が生きる目があった」

提督 「制空優勢を落とし確実な敗北へ舵を切ったのはお前だ」

提督 「荒潮を殺したのは朝潮、お前なんだよ」

朝潮 「私が・・・」

提督 「認めろ!!!!!」


 提督がその握りこぶしを朝潮の頬に当てつつ横薙ぎに振りぬいた。

 朝潮はその場から微動だにしない。

 口の中で鉄の味がする。


提督 「おれが許せないのはお前が荒潮を轟沈させたことだけじゃない」

提督 「辛うじて加賀が荒潮救出に行くと言いお前が暴走を思い止まったな?」

提督 「しかし、お前自身が荒潮救出に向かっていればどうなっていたかわかるか!?」

提督 「防御に隙ができた指揮作戦艇を見逃すヲ級とタ級じゃない」

提督 「奴らの攻撃で指揮作戦挺と言う足を潰されれば、撤退できなくなった艦隊全員はどうなった?!」

提督 「荒潮同様・・・いや、それ以上に一人ずつじわじわと嬲り殺しにされただろうよ」

提督 「お前は艦隊全員を殺しかけたんだ」

朝潮 「私が・・・艦隊を・・・」

提督 「これだけのことを起こせば死刑は確定だ」

提督 「奇しくも荒潮の元に行けるわけだ、良かったな」

朝潮 (殺しかけた・・・荒潮を守ろうとして)



450以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:02:55.21G6MEXvOk0 (7/48)



 机にはめ込まれたモニターから漏れる青白い光を受けて尚、提督の顔の紅潮がわかる。

 朝潮は艇内の揺れを酷く大きく感じ、足が震える。

 自分の犯したことの重みに朝潮はふらつく。


朝潮 「艦隊を危険に晒したこと・・・反省しています」

提督 「当たり前だ」

朝潮 「何とか・・・なりませんでしょうか」

提督 「何とかぁ?情状酌量を得られるように嘘の報告でもしろと言うのかッ?!」

朝潮 「すいませんっ・・・」


 提督の怒りの声は、朝潮を脊髄反射的に萎縮させた。

 その時、朝潮が最終戦で見せた華々しい戦果で付けた自信は元より、

 その戦果により提督が懲罰を多少加減してくれるかもしれないという甘い考えは一瞬で溶けてなくなっていた。


朝潮 (なんで、けど、死にたくない・・・)


 提督の視線に耐え切れず朝潮は俯く。

 すると薄暗く殆ど見えない筈の足元が絞首刑台のように開きそうな錯覚に襲われる。


朝潮 (あのタ級とヲ級、深海棲艦に一矢報いることもなくこのまま陸で・・・死ぬ?)


 死ぬこと自体はどうでも良かった。

 自身にこれから訪れるであろう刑死が勇敢に戦った荒潮の死を無駄にさせることが虚しかった。


朝潮 「すいません・・・どうにか・・・・」


 語尾は自然と震えた。



―――――
―――




451以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:06:08.41G6MEXvOk0 (8/48)




 責任に押しつぶされそうな朝潮を見ながら提督が長い息を吐く。


提督 「ふー・・・」

提督 「十分反省しているようだし・・・・今回は許してやる」

朝潮 「は?え?ゆるす?」


 頭が付いて行かない朝潮は上げた顔で提督を見る。


提督 「最終戦の行動は全部おれが指示したことにしてやる」

提督 「荒潮救出作戦も、お前の単独攻撃も全てだ」

提督 「これで命令違反はなくなる」

朝潮 「・・・」

提督 「お前が艦隊全員を殺しかけたことは当然おれの胸にしまっておく」

朝潮 「はぁ・・・????」

提督 「つまり・・・だ」

提督 「今日からお前は荒潮の仇討ちにヲ級とタ級を駆逐艦ながら倒した英雄となるわけだ」

提督 「不足はないだろ」

朝潮 「えっと・・・・あっありがとうございます」


 朝潮は笑顔で応えていた。

 喜びでなく安堵で生み出された卑屈な笑顔の下にはいびつな首輪が付けられていた。




452以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:08:42.85G6MEXvOk0 (9/48)



提督 「後なぁ、タ級とヲ級は撃沈したことにする」

朝潮 「はい?」

提督 「・・・」

朝潮 「既に申し上げました通りっ」


 朝潮は自身の知覚を信じ、煙の向こうで撤退しているヲ級とタ級のことは既に報告していた。


朝潮 「私の感覚が正しければヲ級とタ級は撤退しているはずです」

朝潮 「それに

提督 「黙れ」


 空気が凍った。


提督 「朝潮」

朝潮 「・・・はい」

提督 「今回は特別に許すと言った」

提督 「初めての轟沈、しかも親友だ、動揺もする」

提督 「だが、次は・・・ない」

提督 「命令違反にも今のような考えなしの口答えにもな」

提督 「もし、そんなことがあれば・・・そうだな」

提督 「お前が命令違反を脅迫してもみ消したと、熨斗を付けて上に報告してやる」

朝潮 「申し訳ありません」


 提督の言いたいことが朝潮にはよくわかった。

 昨日まで脅す材料だった荒潮の命が朝潮自身の命になっただけだった。




453以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:10:24.88G6MEXvOk0 (10/48)



提督 「・・・お前の代わりはいくらでもいる」

提督 「それなのにお前を救ってやる意味を・・・恩を忘れるな」

提督 「いいな?」

朝潮 「はい・・・」

提督 「話を戻す、おれの決定に問題でもあるか?」

朝潮 「っ・・・ありません」

提督 「遠慮するな、言おうとしたことを言ってみろ」

朝潮 「強力な深海棲艦の生存は・・・」

朝潮 「周知されないと他鎮守府の艦隊や民間船舶が危険ではないかと・・・思っただけです」

提督 「問題ない」

提督 「本出撃の海域は荒潮がそうであるように小中破轟沈がある危険海域だ」

提督 「お前には言ってなかったかも知れんが、当海域に挑むのは我々の鎮守府だけだ」

提督 「よって、我々が内々に処理をして注意をすればいい話だ」

提督 「そうだな?」

朝潮 「・・・はい」

提督 「それにお前も荒潮の最終評価が良い方がいいだろう?」


 最終戦闘の内容、突き詰めれば轟沈時の働き如何で、死後の昇進や遺族への保障が変わった。




454以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:11:20.10G6MEXvOk0 (11/48)



朝潮 (荒潮・・・)


 荒潮の家族を考えれば迷う余地もなかった。

 しかし、朝潮にとって戦果を水増しするという不正行為に未だ抵抗感があった。


提督 「何を迷う」

提督 「既に命令違反の隠蔽と虚偽報告、二つの罪に加担してるだろうが・・・」


 提督が急かすようにモニターを指で叩く。

 その目は、穴を覗き込むような暗い瞳をしていた。


朝潮 (違う!!私は!!!)

朝潮 「・・・」

提督 「そもそも・・・だ」

提督 「お前の知覚とやらは正確なのか?」

朝潮 「提督も見ていらっしゃいましたよね?」

朝潮 「私は敵の動きを掴んで攻撃ができていました!!!」

朝潮 「私の知覚は・・・正確です」

朝潮 (そう荒潮の時も・・・)


 朝潮の語気が荒くなる。

 それを気にも留めずに提督は子供をあやすようにゆっくり言葉をつなげる。




455以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:12:56.06G6MEXvOk0 (12/48)



提督 「たまたま運良く予想が当たっただけじゃないのか?」

提督 「一戦だけだぞ?それだけの成功で何でそんなに自信が持てる?」

朝潮 「そ、それは・・・」

提督 「朝潮、戦果の誤認が第二次大戦で日常茶飯事だったのは知ってるか?」

朝潮 「よくあることだから問題ないと仰りたいのですか?」

提督 「違う」

提督 「誤認したのは熟練した兵士が多かったんだ」

提督 「戦場で興奮状態、加えてその作戦で命を落とした仲間もいる」

提督 「歴戦の経験があった彼らが目で耳で直に確認できていても」

提督 「冷静な確認や判断ができなくなる」

提督 「お前は経験がないどころか実際に見たわけでもないのだろう?」

提督 「知覚というあやふやなもので感じただけに過ぎない」

提督 「それなのにヲ級とタ級が撃沈できていないと何で断言できる?」

朝潮 「断言は・・・」


 苛立たしさを感じる。

 朝潮の新知覚への自信が提督の言葉に溶かされる。

 確信や自信を持つには朝潮の経験は浅く、

 この新しい知覚のことは朝潮が拠り所とする教科書に書かれていない。




456以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:14:13.58G6MEXvOk0 (13/48)



朝潮 (本当に私はヲ級やタ級を捉えられていたの)

朝潮 (集中力が高まって時間を遅く感じたのは荒潮の死の直前から)

朝潮 (あの時の現実逃避が続いて都合のいい幻影を見続けていただけ?)


 既に提督からの圧力で潰されそうな朝潮の自我が、唯一縋っていた知覚への信頼が揺らぐ。


朝潮 (司令官の前だと、私が壊されてゆく)


提督 「お前も火が収まったあの場所に大量に落ちていた深海棲艦の艤装片を見ただろ?」

朝潮 「見ました」

提督 「そういうことだ」

朝潮 「しかし、コアが・・・」

提督 「戦果の確認まで時間を明ければコアが見つからないこともある」

提督 「ヲ級とタ級の撃沈は・・・戦果の虚偽報告ではない、客観的事実だ」

提督 「そうだな?」

朝潮 「・・・はい」

提督 「安心しろ」

提督 「事実はどうあれ、虚偽報告をしてもばれるどころか疑われすらしない」

提督 「命懸けで戦う者を疑うのは卑しい・・・美しい日本の美徳だな」

朝潮 「はい・・・」

提督 「もういい、下がれ」

朝潮 「了解・・・しました」




457以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:15:15.63G6MEXvOk0 (14/48)



 ドアノブに手をかける朝潮の背中に提督が更に言葉を投げる。


提督 「待て」

朝潮 「何でしょう?」

提督 「それとな」

提督 「お前が最終戦闘で得たという新しい能力」

提督 「その知覚に付いては許すまで今後一切口に出すな」

提督 「おれが言った通り運がいいだけという可能性も残ってる」

提督 「また何かあれば・・・おれにだけ報告しろ」

朝潮 「はい・・・」

提督 「そうだ、今日からお前は英雄だったな」

提督 「亡き親友の仇、ヲ級とタ級を勇敢に討ち果たした・・・な」

提督 「命令違反がばれたくなければ胸をはれ、辛気臭い顔は止めろ」

朝潮 「・・・はい」

提督 「これも命令だ」

朝潮 「はい・・・失礼します」ガチャ


 朝潮は敬礼して退室した。

 ドアを閉める音が静かな室内に響く。




458以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:18:09.63G6MEXvOk0 (15/48)



提督 「・・・加賀、どう思った?」


 無言で横に立っていた加賀が口を開く。


加賀 「命乞いなんて可愛いところもあるのね」

提督 「・・・違う、朝潮の知覚のことだ」

加賀 「そちらね・・・はっきりとは言えないけれど」

加賀 「以前話した私の能力と同質のものかと」

提督 「そうか、今はそれだけわかればいい」

加賀 「それだけ・・・ですか」

提督 「当然まだ聞きたいことはある・・・が後は鎮守府で聞こう」

加賀 「そうですか」


 提督が立ち上がり加賀に目をやると、

 損傷で破れ煤けた衣服の隙間から美しい白い肌が全身にちらちらと見える。

 提督の手が吸い寄せられるように、加賀のはだけた首元に触れる。

 左の肩は、肩紐以外の衣服ははだけ肌が完全に露出していた。


提督 「もう傷は治っているのか?」


 首元から左の肩に向けて提督のごつごつした手がなでる。

 加賀の白磁のように白くきめ細かい肌は程よい弾力で提督の手を押し返し、

 その手を女性らしい丸みを帯びた肩の稜線にそいって首元鎖骨肩先へ氷上にあるかのように滑らせる。


加賀 「えぇ」

加賀 「体の傷だけは・・・殆ど治っています」

加賀 「同調は艤装を直さないとどうにもならないから大破した今、戦闘は無理ね」

提督 「そうか」




459以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:19:33.71G6MEXvOk0 (16/48)



 提督がなでたことで袖を絞る肩紐が少しずれ、

 そこに白い皮膚に真っ直ぐ薄紅を引いたような跡をのぞかせた。

 死にかけた故の生殖本能か、加賀の艶めかしい色気か、

 湧き上がる情欲に提督は体の芯に熱を感じていた。


 視線を感じた加賀が肩紐を直し、知ってか知らずか提督から離れ部屋の出口に向かう。


加賀 「鎮守府が見える前に口裏合わせが必要でしょう?」

提督 「ふ・・・そうだな」


 加賀が開けたドアを出て提督は甲板に上がる。

 そこで以下二つの指示が提督から艦隊全員に下された。


 ・最終戦闘は全て提督の指揮で行われたことにする

 ・現場海域の漂流物からフラグシップタ級とフラグシップヲ級は撃沈したこととする


 敵艦隊全滅で戦闘評価が通常Sのところ、荒潮轟沈による減点でBとなることも告げられた。



―――――
―――




460以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:21:39.97G6MEXvOk0 (17/48)




 指揮作戦艇が鎮守府の港に着岸するときには、

 鎮守府所属艦娘全員が荒潮の沈没した海域に向けて整列していた。

 作戦に参加していた朝潮たち第一艦隊所属の艦娘たちもすぐ列に加わる。

 簡単な葬儀が行われた。

 提督の弔辞、全員による黙祷が捧げられ、大和の弔砲が澄んだ空を震わせた。

 何かぎこちなさを朝潮は感じた。


 最後に提督から荒潮の勇敢な死と深海棲艦を許さないとの演説がされた。

 場にあった死の悲しみは、朝潮がそうであったように恨みや戦意へと容易に転換したようだった。
 
 ぶつけどころのない悲しみよりそうした方が救われることを鎮守府全員が知っていた。


 解散の号令で散っていく艦娘たちをかきわけ朝潮は加賀の元に向かっていた。


朝潮 (私の知覚は本当に正しかったの?)


 知っているのは加賀だけだった。


朝潮 (知りたい・・・)

朝潮 「加賀さ

大和 「加賀さん」


 朝潮より先に大和が加賀に話しかけていた。

 朝潮の声は風音とともに掻き消された。

 加賀の肩に大和が背後から手をかける。




461以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:23:07.32G6MEXvOk0 (18/48)



大和 「あなたが付いていながら荒潮が轟沈するとはどういうことですか?」

加賀 「どうもこうも駆逐艦が一人轟沈しただけじゃない?」

朝潮 「・・・」ズキ


 加賀が振り返りながら大和の手を払う。


大和 「良くもそんな不謹慎なことが言えますね」

加賀 「事実でしょう?」

加賀 「それに大和さん・・・」

加賀 「あなたが秘書艦をしていた時は轟沈が私の時より遥かに多かったわよね」

加賀 「慣れてるんでしょ?私より・・・轟沈に」フフ

大和 「発言を撤回してください!!」


 大和の艤装砲塔が静かに揺れる。


大和 「確かに大和が秘書艦をしていた時はあの海域の敵艦隊群と接触したばかりでしたし」

大和 「轟沈が多かったのは認めます!!」

大和 「けれど、一つ一つの轟沈の悲しみと経験を糧に轟沈を減らしていったんです」

大和 「轟沈を気にもかけない、あなたとは違うんです」

加賀 「違う?秘書艦が私に変わっても轟沈数の減少は変わらず続いているじゃない?」

加賀 「悲しみを糧にしてやっと私と同等なの?」

加賀 「・・・笑わせるわ」

大和 「大和が今も秘書艦ならあなたよりもっと轟沈を減らせています!」

大和 「惰性で減ってるに過ぎない現状に満足しているあなたに言われたくありません!!」

加賀 「言われたくない?あなたがふっかけてきたんでしょう」


 加賀が特大のため息をつく。




462以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:25:26.79G6MEXvOk0 (19/48)



大和 「加賀さん、今日は随分ご機嫌が優れないようですね」


 大和が加賀の損傷を服から艤装、上から下まで眺める。


大和 「珍しく被弾なさったみたいですね」

大和 「そのせいですか?」

大和 「慣れてないんでしょうけど・・・」

大和 「艦娘が大破如きで動揺するなんで敵の攻撃に当たらな過ぎるのも考えものですね」

大和 「ふふ・・・」

加賀 「・・・」

大和 「ご自慢の回避能力は?僚艦が庇ってくれなかったんですか?」

大和 「あっ、そうだ」

大和 「今日は旗艦じゃないんでしたね」

大和 「庇ってくれる僚艦がいないと加賀さんもこんなものなんですね」フフフ

加賀 「大和さん、嬉しそうね」

加賀 「一対一僚艦なしの模擬演習で私に手も足も出なかったからって」

加賀 「深海棲艦の活躍を喜ぶなんて轟沈した仲間達もさぞ浮かばれるでしょうね」

加賀 「今度爪の垢でも貰いに行ったらどうかしら」

大和 「・・・」



463 ◆oUFoaE/FvU2016/02/20(土) 03:26:57.53G6MEXvOk0 (20/48)

>>462
誤字訂正次レス


464以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:27:54.80G6MEXvOk0 (21/48)



大和 「加賀さん、今日は随分ご機嫌が優れないようですね」


 大和が加賀の損傷を服から艤装、上から下まで眺める。


大和 「珍しく随分被弾なさったみたいですね」

大和 「そのせいですか?」

大和 「慣れてないんでしょうけど・・・」

大和 「艦娘が大破如きで動揺するなんて敵の攻撃に当たらな過ぎるのも考えものですね」

大和 「ふふ・・・」

加賀 「・・・」

大和 「ご自慢の回避能力は?僚艦が庇ってくれなかったんですか?」

大和 「あっ、そうだ」

大和 「今日は旗艦じゃないんでしたね」

大和 「庇ってくれる僚艦がいないと加賀さんもこんなものなんですね」フフフ

加賀 「大和さん、嬉しそうね」

加賀 「一対一の模擬演習で私に手も足も出なかったからって」

加賀 「深海棲艦の活躍を喜ぶなんて轟沈した仲間達もさぞ浮かばれるでしょうね」

加賀 「今度爪の垢でも貰いに行ったらどうかしら」

大和 「・・・」



465以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:29:21.18G6MEXvOk0 (22/48)


長門 「止めないか、お前たち」


  長門と陸奥が歩み寄る。


長門 「鎮守府の多くが聞いてるぞ」


 朝潮が振り返ると朝潮から更に遠巻きに、

 解散したと思っていた艦娘たちがぞろぞろと集まり加賀と大和を見つめていた。


長門 「加賀、大和の方が鎮守府では古株なんだから立てたらどうなんだ?」

加賀 「今の秘書艦は私よ」

陸奥 「まぁまぁ~」

陸奥 「もう寒いし解散しましょ、ね?」


 誰ともなく大和からその場を離れ他の艦娘たちも散った。

 朝潮の前を加賀が通り過ぎる。

 その時には加賀への失望で話しかける気は消えていた。



―――――
―――




466以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:31:17.27G6MEXvOk0 (23/48)




 艤装を入渠させ、新しい制服を大和に支給してもらい、お風呂に入る。

 今日の新しい制服は普通にノリの臭いがした。

 清潔な体で新しい制服に袖を通す。


 自室まで色々な艦娘に賞賛や慰めの言葉をかけられた。

 言葉少なに応じても荒潮の轟沈に気を落としていると思われるのか

 提督が心配したように命令違反を疑われることはない。


 自室に入りベッドへ手に持っていた畳まれたダンボールを投げる。

 大和から新しい制服と一緒に支給されていた。


 椅子へ座りため息を吐く。


コンコン


朝潮 「はい」

霞 「入るわよ」

朝潮 「どうぞ」

大潮 「朝潮ちゃん?」

朝潮 「いらっしゃい」


 霞と大潮の大きい目は赤くなっていた。




467以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:33:03.33G6MEXvOk0 (24/48)



霞 「もうダンボールがあるなら話は早いわね」

霞 「手伝うわ」

大潮 「いつまでなんですー?」

朝潮 「できればと言われてるけど」

朝潮 「大和さんに夕方の周回トラックに載せるよう言われているわ」

霞 「早いわね、ならとっとと始めましょう」


 言葉少なに作業が始められる。

 荒潮のような轟沈した艦娘の私物は遺族へ送られる。

 当然その作業は同室の朝潮に命令されていた。


霞 「まず、荒潮の私物を全て並べてからね」

霞 「種類を分けて綺麗にダンボールに入れるわよ」

霞 「その方が隙間が減って物同士で傷付け合うことないし」

霞 「それに、一つの箱に沢山入って節約にもなるわ」

大潮 「おー」


 霞が朝潮を気遣って陣頭指揮を執る。

 荒潮の私物は少なく、並べるのはすぐ終わった。


朝潮 「これ・・・全部どうするのかしら」


 荒潮らしい少し大人びて落ち着いた私物が多かった。

 文具や本、日用品や私服は持ち主を喪ったせいか、どこか寂しげに並んでいる。


霞 「孤児院で他の子に使うか・・・」

霞 「艦娘の適正は遺伝みたいなところもあるって言うから」

霞 「荒潮の妹に適正があればそのまま使うんじゃないの」

大潮 「妹ちゃんたちはなりたいと思いますかね?」

霞・朝潮 「・・・」

霞 「ばっかねぇ、なりたいって思うわよ」

大潮 「そうですよね」

朝潮 「・・・」

朝潮 (荒潮は勇敢だったとだけ伝えられる)

朝潮 (けど、その活躍のために乗り越えてきたものは伝えられない)




468以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:34:33.92G6MEXvOk0 (25/48)



 並べられた私物に目を落とす。

 朝潮の目にふと一つのノートが飛び込む。


朝潮 「このノート・・・」

霞 「あっ!」


 ノートはキャラクターものや可愛い動物のシールが貼られた実に少女趣味なものだった。

 ただ、荒潮の私物たちからは浮いていた。


大潮 「満潮ちゃんのノート・・・」

霞 「とってたのね・・・」

朝潮 「満潮?・・・以前轟沈した満潮?」

大潮 「そうです・・・」

霞 「・・・」

朝潮 「これが?・・・荒潮が昨日お風呂で言ってた満潮の日記?」

大潮 「朝潮ちゃんに話してたんですね」

霞 「知ってるなら、止めないけど・・・読む気?」

朝潮 「うん、読んでおきたい」


 朝潮はノートを開く。

 ノートの前半は荒潮が昨日風呂で語っていた満潮の日記となっていた。

 パラパラめくると日々の思いや出撃の苦悩がそれに合わない可愛い字で綴られている。

 内容は荒潮が話した通りだった。




469以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:36:57.20G6MEXvOk0 (26/48)



朝潮 「あれ・・・日記の後半から文字が変わってる?」

朝潮 「これ、荒潮の字だ・・・」

霞 「えっほんと?!」ズイ

大潮 「見せてくださいー」ヒョコ

霞 「文字が変わってる日、満潮が轟沈した日付と同じ・・・」

大潮 「満潮ちゃんの日記の後ろに荒潮ちゃんの日記が続いてますね」


 朝潮は日記を三人の真ん中に広げ読み進める。


大潮 「凄く・・・報告書に似てますね」

朝潮 「あぁ・・・」

霞 「そうね・・・」


 日記にしては病的なほど思いも感情もない報告書のような文体は、

 満潮のそれと対照的で自身の感情を殺そうとする荒潮の苦悩が感じられた。


霞 「「~だと思いました」「頑張ります」を連発する大潮の報告書よりよっぽどしっかりしてるわ」

霞 「本当に日記なの?これ」

大潮 「さり気なくバカにされた気がします」


 客観的過ぎる荒潮の日記は一見わかりくいものだった。

 しかし、一緒に出撃していた朝潮にとってその全てが目新しいものではなかった。


朝潮 「間違いなく荒潮の日記よ・・・一緒に出撃してたからわかる」

大潮 「そうですかー」


 しかし、一部わからないものがあった。




470以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:38:59.95G6MEXvOk0 (27/48)



朝潮 「これ・・・霞交換、大潮交換って何かわかる?」


 最後数日の日記末尾に付く、暗号のような文字。

 ページを見せながら霞と大潮に尋ねる。


大潮 「んー・・・」

霞 「あ・・・知らないわね」

朝潮 「?」

大潮 「あっ思い出したそれ、制服交換 モガモガ

霞 「もうっ!!・・・」

朝潮 「制服交換?」


 霞がためいきを吐きながら、大潮の口から手を外す。


霞 「はー・・・そうよ」

朝潮 「荒潮と?」

大潮 「そうです!」

霞 「もう・・・」

朝潮 「???」

霞 「この前、遠征艦隊だと制服の交換が基本的に認められないって話したでしょ?」

朝潮 「あぁ・・・あの話」


 少し前の食堂で、荒潮を含めた四人で話していた時の話題だ。

 あの時、霞が古い制服を着続るのは辛いと愚痴っていたのを朝潮は思い出す。




471以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:40:14.30G6MEXvOk0 (28/48)



朝潮 「そういえば、あの時は霞と大潮の制服によれと汚れがあったけど・・・」

朝潮 「今はなくなってるわね」

朝潮 「荒潮と交換してもらってたのね」

霞 「余り驚かないのね」

朝潮 「荒潮だから」

大潮 「・・・」

朝潮 「私も言ってくれたら交換したのに・・・」

霞 「あきれた、ばれたら懲罰ものよ」

朝潮 「けど、ばれないでしょ?」

朝潮 「廃棄される制服はぼろぼろでチェックされないじゃない?」

霞 「確かに足はつかないかもしれないけど、イコールばれないじゃないのよ?」

大潮 「そうです、朝潮ちゃんみたいに制服の変化に気付く人もいるかもしれませんし」

朝潮 「それはそうかもしれないけど・・・」

朝潮 「言ってくれたら何時でも交換するわよ」

大潮 「大潮はもう交換しなくて大丈夫ですー」

大潮 「余り綺麗な制服を遠征艦隊で着てるとばれないかと気が気じゃないですし!」

霞 「私もパス」

霞 「孤児院出身なんて、ものは壊れてからが本番でしょ?」

霞 「新品の制服なんて着慣れてないからむず痒くなっちゃうわ」

霞 「それに、荒潮もあなたを巻き込みたくなくて言わなかったんじゃないの?」

朝潮 (荒潮・・・)


 目を落とすと一番新しいと思われる交換のしるしが目に入った。




472以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:44:09.90G6MEXvOk0 (29/48)



朝潮 「最後のしるしは・・・一昨日で霞が交換でいいの?」

霞 「そうよ」

朝潮 「一昨日はあの危険海域でなく通常海域への出撃だったわね」

朝潮 「私と荒潮二人で小破したの、覚えているわ」

霞 「その時支給されたピッカピカの制服を荒潮と交換したのよ」

霞 「交換?って言うより追い剥ぎされたというか」

朝潮 「?」

大潮 「あー・・・」

霞 「一昨日急に荒潮が部屋に入ってきてね」

大潮 「ありましたねー」

霞 「新品の制服を着てきて「交換しましょ」って言ってきたのよ」

朝潮 「じゃあ、霞は一昨日に荒潮が手に入れた新しい制服を着てるのね」

霞 「そうなるわね、私最初は断ったんだけど・・・」

霞 「荒潮は妹や弟いるじゃない?」

霞 「それで慣れてるせいか良いように脱がされちゃって・・・」

大潮 「騙されてばんざいして一瞬でしたねー」

霞 「何すんのよって言って取り返そうとすると既に私の制服を奪って着た荒潮がね」

霞 「「脱がす気?!やだ~ウフフ」って茶化してきてね」

大潮 「あの時の霞ちゃん可愛かったですねー」

霞 「・・・何言ってんのよ、そんなことないわよ」

朝潮 「そうよ、霞は何時も可愛いじゃない」

霞 「あのねー・・・」


 朝潮は霞の視線を躱し最後の数ページへ進む。



―――――
―――




473以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:46:34.84G6MEXvOk0 (30/48)




朝潮 「『朝潮が執務室に呼ばれたまま、戻らない』」

朝潮 (昨日の日記・・・)


 荒潮の第一艦隊所属を止めてもらうよう提督に身を捧げ交渉していた、昨日。

 朝潮には力がなく、そうすることでしか荒潮を守ることができないと思った。

 同じ決意で挑んだ今日の戦闘で荒潮を喪い艦隊を危険に晒した。


朝潮 (もっと早く知覚を手に入れてれば・・・)

朝潮 (いや、知覚を知っている提督の発言、加賀の無言)

朝潮 (私の知覚は本物?)


大潮 「この時、朝潮ちゃんは執務室で何してたんですー?」

霞 「今日は朝潮が旗艦で活躍したって提督が言ってたでしょ?」

大潮 「凄いですよねー」


朝潮 (最終戦闘・・・)

朝潮 (覚醒する前の弱い知覚で戦闘中に荒潮の同調の大きな変化は感じなかった)

朝潮 (だから最後の砲撃まで全くと言っていいほど荒潮に被弾はなかったと思う)

朝潮 (同調は変わらないまま、気付いた時には轟沈前の弱い同調だった)


霞 「だから、旗艦として執務室であのクズと作戦とか打ち合わせしてたんでしょ?ね?朝潮」

朝潮 「あぁ・・・うん」

大潮 「打ち合わせって何するんです?」

大潮 「・・・朝潮ちゃん?」




474以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:47:43.45G6MEXvOk0 (31/48)



朝潮 (最終戦闘の最初から・・・最初から荒潮は・・・大破してた?)


大潮 「朝潮ちゃん?」オズ

朝潮 「ん!何?!」

霞 「あんた大丈夫?」

朝潮 「あっごめん!・・・執務室のことね」

朝潮 「今日から制服の損耗判定を提督だけでなく旗艦もすることになってね」

朝潮 「その打ち合わせと他の第一艦隊の先輩たちの損耗表を覚えるのが長引いちゃって・・・」

大潮 「あー、だぶるチェック?ってやつですか」

霞 「あのクズも必死よねー」


朝潮 (そうだ、私だけじゃない・・・提督も制服の損耗判定をしたんだ)

朝潮 (大破進軍なんてあるわけない)

朝潮 (なら、私の知覚がやっぱり間違ってたの?・・・)


大潮 「慎重なのは良いことだって龍田さんいつも言ってます!」

霞 「まぁ、そうよ」

霞 「特に轟沈の危険がある第一艦隊にはね」


朝潮 (確かなのは荒潮が轟沈したことと艦隊を危険に晒してしまったことだけ・・・)


 許されることではなかった。

 その責任を差し置いて知覚について思い悩むことが、

 生真面目な朝潮にとって責任から逃げているように感じられ、知覚への思考を鈍らせた。




475以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:49:54.51G6MEXvOk0 (32/48)



霞 「ね、朝潮!・・・朝潮?」

霞 「あんたさっきから顔色悪いわよ・・・大丈夫?」

大潮 「後は大潮たちに任せて休んでもいいですよ?」

朝潮 「いや、大丈夫。ごめん、心配かけて・・・」

霞 「馬鹿ねぇ、気にせず頼りなさいよ、仲間でしょ?」

大潮 「何かあったら大潮も力になります!」

朝潮 「ありがとう」


 止まっていた手でページをめくる。


朝潮 「『朝潮の代わりに自分と朝潮の艤装を入渠ドッグに取りに行く』」

朝潮 「『入渠ドッグに着いた時、艤装の入渠はバケツが使われたのか両方終わっていた』」

朝潮 「『艤装倉庫に二つとも収める』」

朝潮 「あぁ、そうか」

朝潮 「昨日は艤装を入渠ドッグへ引き取りに行けなかったんだ」

霞 「そうそう、あんた執務から部屋帰ったらすぐ寝て今日の出撃まで起きなかったんでしょ」

霞 「修復液まみれの艤装は流石にこの時期つらいわよ」

朝潮 「そうね、荒潮にはお世話になりっぱなし・・・」

朝潮 「それにしても入渠時間の短い駆逐艦に高速修復材を使うものかしら?」

朝潮 「大破の荒潮はまだしも私は中破よ」

霞 「昨日はあの後も出撃繰り返していたでしょ」

霞 「そういう時は状況が変わって途中から高速修復材なんてザラよザラ」

霞 「別に珍しいことじゃないわ」

朝潮 「そうなんだ」



476以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:52:45.01G6MEXvOk0 (33/48)


朝潮 (中破と大破・・・)


 昨日の中破で帰港した時を思い出そうにも、虚ろだったことで記憶や感覚がはっきりしない。


朝潮 (虚ろだった?虚ろだったのは・・・?)


 考えがまとまらない。



―――――
―――



 固まった朝潮を置いて、大潮が荒潮の最後の日記を読み上げる。


大潮 「『朝潮が深夜まで帰ってこない』」

霞 「あんたが執務室に殴り込みした日と同じで荒潮心配してたわよ」

大潮 「私は部屋で待機してました」

霞 「一応また探したのよ」

朝潮 「また夜遅くまで探してくれてたんだ」

朝潮 「ごめん・・・」


 朝潮の脳裏に今朝の体調が悪そうな荒潮の顔が浮かぶ。


霞 「気にすることないわ」

霞 「悪いのはあの海域よ」

霞 「朝潮は悪くない」


 知らず朝潮の顔に浮かんでいた苦悩の表情に霞が慰めの言葉をかける。



477以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:54:51.02G6MEXvOk0 (34/48)



 大潮も朝潮の気分を転換させるため、頭を捻って話題を絞り出す。


大潮 「そう言えば、葬儀がされたのは荒潮が初めてですね」

霞 「そうね、荒潮はあれで寂しがりやだったから良かったじゃない」

朝潮 「初めて?」

大潮 「いつもは葬儀しないんです」

朝潮 「あ」


 荒潮が昨日お風呂で話していたことを思い出す。


霞 「いつもは葬儀しないどころか、轟沈を報告するだけで次の部隊で出撃してるのよね」

霞 「あいつ艦娘を何だと思ってるのかしら」

大潮 「深海棲艦がいる限り戦争が続いて轟沈がなくならないなら、大潮は仕方ない気もします」

霞 「まぁね、出撃するしかないのもわかるけど・・・」

大潮 「その御蔭か、あの海域の轟沈って減ってたんですね!」

大潮 「大和さんと加賀さんの話を聞いて初めて知りました」

朝潮 「私も・・・」

霞 「はぁ・・・それくらい知っておきなさいよ」

大潮 「霞ちゃんは

霞 「物知りさんですー?」

霞 「大潮、あんた私を褒めとけば便利とか黒いこと考えてないでしょうね?」

大潮 「黒い?」

霞 「まぁいいわ」



478以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 03:59:44.20G6MEXvOk0 (35/48)


霞 「あの海域の轟沈は減ってるのよ」

霞 「本当に少しずつだけどね」

朝潮 「ふーん」

大潮 「いつか轟沈はなくなるんですかねー」

霞 「このペースだと十数年かかりそうよ」

大潮 「うえぇぇ」

大潮 「そんな少しの減少で大きい小さいって加賀さんと大和さんはやってたんですかー」

霞 「あんた言い難いこと割と容赦なく言うのここだけにしなさいね」

朝潮 「轟沈の話もそうだけど、加賀さんと大和さんは仲が良くないの?」

霞 「見てたらわかるでしょ?」

霞 「険悪ってレベルじゃないわよ」

朝潮 「何かあるの?」

大潮 「あります、恋のライバルです!」

霞 「そんな綺麗事じゃなくてもっと根深いわよ!」

朝潮 「そうなの?」

霞 「あの危険海域って元々出撃禁止が検討されてたの知ってる?」

朝潮 「え?!」



479以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 04:01:45.72G6MEXvOk0 (36/48)


霞 「少中破からの轟沈が多発するんで異常だって、当然よね」

霞 「それで何度も大本営から査察、不正を疑われて憲兵から臨検とか色々あったらしいわ」

霞 「そういう面倒事や疑惑を晴らして、あの海域攻略のレールを引いたのが大和さんなのよ」

霞 「それをぽっと出の加賀さんにとられたようなもんだから・・・誰だって面白くないでしょ?」

朝潮 「とられた?」

大潮 「加賀さんが大和さんから秘書艦をとった話ですー?」

霞 「そう、それ」

霞 「正確には大和さんが秘書艦としてさっき言ったレールを引き終わった後ね」

霞 「加賀さんが配属になってすぐ模擬演習で大和さんを倒して提督のお気に入り」

霞 「で、すぐ大和さんに代わって新しい秘書艦になったってわけ」

朝潮 「あの司令官ならやりそうね」

霞 「まぁ、そういうわけよ」

大潮 「大潮は大和さんは秘書艦とあの危険海域に思い入れがあるって聞いてますねー」

霞 「ふーん」

朝潮 「思い入れって・・・あの海域攻略のレールを引いた以外に?」

大潮 「ですですー」

霞 「何それ話してみなさいよ」

大潮 「大和さんは加賀さんと違って、前任の秘書艦が轟沈して秘書艦になったらしいんです」

霞 「あー聞いたことあった」

大潮 「大和さんが継いだ・・・轟沈した前任の秘書艦が仲の良かった武蔵さんで」

大潮 「その武蔵さんが轟沈したのがあの海域らしいですー」



480以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 04:03:15.12G6MEXvOk0 (37/48)


霞 「そりゃ、あの危険海域で秘書艦として暴れて敵討ちしたいでしょうね」

朝潮 「え?!武蔵があの海域で轟沈してるの?!」

大潮 「そうです、間違いなく大和型二番艦の武蔵さんですよ」

霞 「別に驚くことじゃないわ」

霞 「殆どの艦種で轟沈は起こってるし、戦艦が例外ってこともないわ」

朝潮 「殆ど?」

霞 「って、こんなんじゃ作業終わらないじゃない」


 時計を見上げれば、周回トラックの来る刻限が迫っていた。

 霞の号令の元、三人でダンボールに荒潮の私物を積めて行く。


 荒潮が朝潮に言った通り、轟沈した荒潮の体は骨も何も一切残らなかった。

 その荒潮の全てとなった私物が一つずつ、ダンボールに埋葬される。

 それぞれの私物に三人それぞれ荒潮との思い出が詰まっていた。


 大潮がまん丸い目玉に今にも溢れんばかりに水を貯める。霞も上を向く。

 この時、朝潮は気付く、霞と大潮は涙が枯れたのでなく朝潮の前で泣かまいとしていることに。

 それが優しさからの心遣いだと思うと朝潮は素直に泣けなかった。


 無理やり涙を止めすぎて大潮は涙を止めたまま引きつけを起こしたかのように震えた。

 霞はぼそぼそと馬鹿とつぶやきながら作業を続ける。

 積め終わる頃には三人の目から涙が止めどなく溢れ声を出して泣いていた。



―――――
―――




481以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 04:04:20.42G6MEXvOk0 (38/48)




 加賀が執務室をノックすると、入れ違いで大和が出てくる。


大和 「・・・」キッ

加賀 「・・・こんにちは」


 大和はひと睨みすると挨拶もせず廊下へ消えた。

 加賀は執務室に入る。


提督 「遅かったな」

加賀 「そういう割にはぎりぎりまで大和さんとよろしくやっていたようね」

提督 「離してくれなくてな」

加賀 「座っても?」

提督 「許可する」


 加賀は秘書艦用の机に着く。

 執務室は何時もより煙たい。

 提督の机の灰皿は一杯になろうとしていた。




482以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 04:05:18.71G6MEXvOk0 (39/48)



提督 「さてと・・・どこから話してもらおうか」スパー

提督 「まずは荒潮の救助作戦だ」

提督 「何故おれの命令を無視して荒潮を助けようとした?」

加賀 「提督が朝潮に言っていた通り・・・提督の安全のためよ」

提督 「・・・他に方法はなかったのか?」

加賀 「朝潮と旗艦を交代するとか他にも方法はあったでしょうね」

加賀 「けれど、どの方法も朝潮の暴走の可能性を考えると・・・無理ね」

加賀 「指揮作戦艇の防御に隙を生まないためにはあの方法しかなかった、断言できるわ」

提督 「そうか」

提督 「しかし、制空圏を抑えなければいずれ負けることもわかっていただろ?」

加賀 「あの時、私が何より優先したのは朝潮を指揮作戦艇の側にいさせることよ」

加賀 「負けることや、それで荒潮が轟沈しようがどうでも良かったわ」

提督 「その割には荒潮を守るのに必死だったように見えたが」

加賀 「必死?」

加賀 「本気で言ってるの?」

提督 「・・・」



483以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 04:06:26.53G6MEXvOk0 (40/48)


加賀 「いつもなら・・・いつもなら荒潮が轟沈しようがどうでも良かった、けれどね」

加賀 「新地方本部長官の選考中で轟沈を控えるように言われて出撃を止めていた危険海域」

加賀 「そこへの出撃を再開した途端に轟沈となれば・・・どうなると思う?」

加賀 「当て付けと思われるか、能力不足と思われるか」

加賀 「どちらにしろ上の心証は最悪よ」

提督 「それでお前らしくもなく駆逐艦如きを命懸けで守りました、と」

加賀 「茶化さないで」

加賀 「私の進退にも関わるのよ、本気にもなるわ」

提督 「ふふ、悪いな」

加賀 「聞いていい?」

提督 「何だ?」

加賀 「何でいまさら小規模とは言え荒潮の葬儀をしようと思ったの?」

加賀 「それに何時もなら轟沈に構わず連続出撃してたわよね?」

提督 「お前にくらい話しておくか」

提督 「出撃再開してすぐの轟沈、おれも目が付けられるとわかってる」

提督 「だから、反省している振りをするためというのが一つ」

提督 「後は単純に出撃頻度を減らして轟沈数を減らしたいという理由からだ」

加賀 「本当に新地方長官になるつもり?」

提督 「・・・」

加賀 「なら何で荒潮を殺したの?」



―――――
―――




484以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 04:07:32.98G6MEXvOk0 (41/48)




提督 「ごほっごほっっ・・・・はぁ?!」


 むせた提督が灰皿の残った狭いスペースに煙草を押し付け加賀を睨む。


提督 「冗談がきついぞ」

加賀 「私の知覚が確かなら、荒潮は最終戦闘開始時には大破していたわ」

提督 「なんだと?!」

加賀 「昨日荒潮が大破したばかりで、その同調の乱れを私が覚えていたこと」

加賀 「最終戦の前に陣形を乱した荒潮が同調を感じられる距離まで私に近づいてきたこと」

加賀 「この2つでおぼろげながら知覚することができたの」

提督 「なら何で進言しなかった」

加賀 「おぼろげながらと言ったでしょ」

加賀 「この知覚について他言無用と言った時に・・・言ったはずよね」

提督 「不安定で実戦の勘も絡むから精度は低いというやつか?」

加賀 「そうよ、不正確なことはわざわざ進言できないわ」

加賀 「それに、さっきも言ったけどこの時期に轟沈があると思わないでしょ?」

提督 「はぁ?!」

提督 「何でおれの都合が悪い時に轟沈が起こらないと思っているんだ?」

加賀 「どう取ってくれても結構よ」

加賀 「けどね」

加賀 「これまでの轟沈では、沈む娘を、囮にしたり、煙幕代わりにして奇襲したり」

加賀 「轟沈がわかっていたかのようにそれを利用して勝利してきたわよね?」

提督 「今日は敗走しようとしてただろ」

加賀 「何かイレギュラーなことが起こったんじゃないの?違う?」


 提督は新たな煙草に火を付け吸って吐くという作業を繰り返すだけだ。




485以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 04:08:37.62G6MEXvOk0 (42/48)



加賀 「まぁ、いいわ」

加賀 「私だって深く知りたくない」

提督 「なぁ」

加賀 「何かしら?」

提督 「お前らの知覚はそうポンポン手に入るものなのか?」

加賀 「ないわ、地方本部に一人いるかいないかじゃないかしら?」

提督 「この鎮守府に二人いるぞ」

加賀 「今まで見たことある?」

提督 「ない」


 色々な鎮守府と交流する提督の立場から聞いたことさえない能力だった。


提督 「できることは、損傷度の把握・敵の行動の予知、の2つだけか」

加賀 「多分・・・」

提督 「多分?」

加賀 「私も我流でやっているのよ」

加賀 「提督が言った2つだけと断言はできないということよ」

提督 「ほぅ」



486以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 04:11:34.30G6MEXvOk0 (43/48)


加賀 「それに朝潮・・・」

提督 「朝潮がどうした?」

加賀 「蝙蝠は人間より広い可聴域によって耳を音を聞くだけでなくレーダー代わりに使っているわ」

提督 「お前より知覚が優れているから使い方も増えるということか」

加賀 「可能性の話よ」

提督 「朝潮はその可能性を加賀に感じさせるほどには優れているわけだ」

加賀 「・・・」

提督 「言うほど朝潮は優れているのか、信じられんな」

加賀 「私が覚醒したのは朝潮よりもっと後よ」

加賀 「加えて、荒潮の損傷度に対する感度ね」

加賀 「私は近距離でやっとわかるのに、朝潮は集中すれば距離があっても問題なかった」

提督 「加賀がべた褒めか、これなら明日からの出撃が楽しみだ」

加賀 「果たしてそう上手く行くからしらね・・・」

提督 「問題でもあるのか?」

加賀 「明日、朝潮は満足に動けないまますぐ大破すると思うわよ」

提督 「今日の最終戦闘ではそのような素振りはなかったが・・・」

加賀 「朝潮に対してヲ級とタ級からの攻撃はあった?」

提督 「・・・」

加賀 「なかったでしょ?」

加賀 「知覚に慣れるまでは、新たな感覚に脳みそをかき回されてる状態よ」

加賀 「避けるとか、撹乱するとか、動きが伴うとボロが出るわよ」



487以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 04:17:06.14G6MEXvOk0 (44/48)


提督 「慣れるまでどれくらいかかる?」

加賀 「さぁ?不確定要素が多過ぎるわ」

加賀 「このまま駄目になる可能性もあるわ」

加賀 「確かなのは、朝潮の知覚を提督が否定したから慣れるまでの期間が延びてるだろうことだけよ」

提督 「嫌味か?」

加賀 「・・・」

提督 「まぁ、いい」

提督 「一応、明日の出撃は朝潮を旗艦に据え、挙動が怪しければすぐ撤退するよう配慮しよう」

加賀 「お優しいことね」

提督 「貴重な能力だからな」

提督 「ところで、この能力は大和みたいな強力な艦娘なら習得できたりしないのか」

加賀 「不可能ね」

提督 「お前に艦種の相性で負けても大和が弱いわけではないだろう」

提督 「あいつに何が足りない?」

加賀 「砲艦はこの知覚に対して適正がないのよ」

提督 「どういうことだ」

加賀 「この知覚というのは、端的に言えば同調に対する感覚よ」

加賀 「必要なのは、繊細な同調といかなる時も冷静でいられる心の強さ」

提督 「同調ねぇ・・・」



488以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 04:20:09.70G6MEXvOk0 (45/48)


加賀 「艤装だけでなく艦載機とも繊細な同調を求められる空母はまだしも砲艦にはとても無理よ」

提督 「そこまで違うのか」

加賀 「砲艦は・・・感情の爆発を同調に乗せることで砲撃の威力を出すのでしょ?」

提督 「同調に感情という異物が入るというのか」

加賀 「どちらかと言うと、感情を出すから冷静でいられないことが問題ね」

提督 「大和も、轟沈した金剛も、戦艦で強いのは確かに直情的かもな」

提督 「だからこそ強かったとも見ることができるが・・・」

提督 「それに比べて確かに空母には冷静な落ち着いた奴が多いな」

加賀 「五航戦のような例外もいるけどね」

提督 「余りいじめるなよ」

加賀 「ふん」

提督 「だから、加賀の艤装に適性のある朝潮が覚醒できたのか」

提督 「そうなると・・・益々大和の考えがわからんな」

加賀 「どうしたの?」

提督 「お前と模擬演習をさせてくれとさっきまでゴネられててな」

加賀 「ふーん・・・」

提督 「あれだけ加賀に惨敗して挑むには勝算があってだろ」

加賀 「ふふ、どんな奥の手を用意しているのかしらね」

提督 「挑むだけなら可愛い、けどなぁ秘書艦を賭けろと言うんだ」

加賀 「じゃあ、明日の舟遊びの同伴も」

提督 「当然そうだ」

提督 「大和に損はなく加賀に何の利益もない」

提督 「だから、加賀の回答次第だと言ってあ

加賀 「良いわよ、大和と遊んであげても」


 提督は、驚きを隠さず加賀を見つめる。



―――――
―――




489以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 04:21:19.40G6MEXvOk0 (46/48)




提督 「お前に何の意味がある?」

加賀 「意味?格の違いを教えてあげるくらいかしら」

提督 「・・・大和に同情するよ」

加賀 「さて、そうなるかしらね」

提督 「ん?」

提督 「まぁ、大和に知らせておくか」


 提督は電話へ手を伸ばし、受話器を取り内戦のボタンを押す。

 瞬間、電話がけたたましく鳴り提督の手が止まる。


加賀 「外線よ」

提督 「わかってる」


 受話器を耳にかけたまま、フックを押す。


提督 「はい、こちら鎮守・・・これは地方長官」

提督 「お孫さんが生まれまし・・・はぁ・・・え?・・・存じ上げませんが」

提督 「はい・・・・いえ、全く身に覚えが・・・・・・・・はい、その通りです」

提督 「いえ・・・そうです、はぁ・・・承知しました」

提督 「恐らく、新地方長官レースの対抗馬からでしょう・・・・そうです・・・デマですよデマ」

提督 「・・・はい、勿論です」

提督 「ありがとうございます・・・では失礼します」


 提督は受話器を置きため息を付く。




490以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 04:28:22.44G6MEXvOk0 (47/48)



加賀 「どうしたの?」

提督 「今日の命令違反をチクったのがいる」

加賀 「はぁ?!」

加賀 「ありえない・・・」

加賀 「命令違反を密告させないように艦隊全員に対して朝潮同様きつく脅しをかけたじゃない?!」

加賀 「本当なの?」

提督 「・・・憲兵隊から地方長官に、おれの身元について照会があったらしい」

提督 「反乱、命令違反の疑いがあるから戦績や人柄などの情報を出すよう言われたそうだ」

加賀 「チっ・・・」ギリ

提督 「犯人探しはいい」

加賀 「しかし・・・」

提督 「リンチでもする気か?それをすれば本当に問題になるぞ」

加賀 「はぁ・・・そうね」

加賀 「けど、安全を考えて明日の舟遊びはなしね」

提督 「ふふ・・・」

加賀 「何が可笑しいの?」

提督 「この件のもみ消しでもっと金がいる・・・舟遊びはやる」

提督 「楽しみだな、そうだろ?」

加賀 「・・・」


 舟遊びという名のコアの密売への同行へ加賀は不安な表情を見せる。


提督 「不安か?」

加賀 「普通はそうよ・・・」


 提督からは髪に隠れて見えない加賀の右耳にはめられた受信機が微音を発していた。


受信機 「ガガ・・・ガチャ・・・朝潮・さん」



―――――
―――




491 ◆oUFoaE/FvU2016/02/20(土) 04:31:26.08G6MEXvOk0 (48/48)

本日投下分はこれまで。
ご読了まことにありがとうございます。
恐らく後二回前後の投下で終わる見込みです。
何卒最後までお付き合いをよろしくお願い申し上げます。


492以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 09:12:40.01K8QirrXWO (1/1)




493以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 12:01:37.34Vdp/3fUF0 (1/1)

おつ


494以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/20(土) 12:12:56.59tfUEtnIEO (1/1)


生きてて良かった


495 ◆oUFoaE/FvU2016/02/21(日) 22:35:39.29lL/VzVf70 (1/1)

>>492様 >>493様 >>494様
乙お米ありがとうございます
これからも頑張って生き残りSS書きます


496以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/02/23(火) 17:29:19.87Q1eGb5kX0 (1/1)


おかえり!


497 ◆oUFoaE/FvU2016/03/09(水) 02:12:10.13l87Lyojv0 (1/22)

>496 様
ただいまです。お米ありがとうございます。
後投下は二回前後と書いたものの、いまさら二桁回かかりそうな気もしてきました。
気長にお付き合いいただければ幸いです。


498 ◆oUFoaE/FvU2016/03/09(水) 02:13:21.97l87Lyojv0 (2/22)

投下再開します


499以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 02:16:55.07l87Lyojv0 (3/22)




加賀 「提督、間違いがないように第一艦隊の所在を確認だけしてくるわ」ガタ

提督 「他の人間に気取られんよう慎重に行え」

提督 「おれの名前を使ってもいい」

加賀 「提督も密告した犯人が第一艦隊なら、もう鎮守府にいないと思う?」

提督 「思う」

提督 「証人保護プログラムで身をくらましてるだろ」

加賀 「そうね」

提督 「いない奴がいれば、そいつが嘘を言ってるように口裏合わせ」

提督 「もし、全員残っていれば、口が軽いのから聞いた第三者だ」

提督 「その時は第一艦隊に口止めを徹底すれば事足りる」

加賀 「同感ね」

加賀 「あ、そうそう」

提督 「何だ?」

加賀 「大和さんと話したのは模擬演習のことだけ?」

提督 「?そうだが・・・」

提督 「大和とすれ違った時に煙草以外の臭いでもしたか?」

加賀 「いえ、戦果が悪い時の癖でも出たのかと思ったけど違うのね」

提督 「ふっ・・・」

提督 「いる間は始終、模擬演習に出せ出せだったよ」

加賀 「残念そうね」

提督 「言わせるな」

提督 「代わりにお前が付き合うか?夜にどうだ?」


 加賀は思案顔をしつつ椅子を机に収めると後ろ手を振りながら口を開く。


加賀 「今日の夜は明日の模擬演習に向けて集中したいから・・・」

加賀 「それに提督とは明日できるでしょ?」

提督 「そうか、しょうがないな」

加賀 「もう行っていい?」

提督 「あぁ、問題があればすぐ言え」

加賀 「わかったわ」


 提督の振る手を見て加賀は執務室を出た。


 結果として出撃した第一艦隊のメンバーは全員鎮守府にいた。

 提督と加賀はこれ以上動揺させないよう軽い口止めを行うに留めた。



―――――
―――




500以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 02:21:24.18l87Lyojv0 (4/22)




~訓練所~


 月はなく星だけが照らす暗い夜。

 倉庫街の間を艤装を装備して歩く朝潮。


朝潮 「はぁ・・・」

朝潮 (荒潮の私物が詰まったダンボールを送り出し・・・)

朝潮 (戦闘後の会議が終わったと思ったら、その後に加賀さんに集められて口止め)

朝潮 (やっと開放されたかと思ったら・・・)

朝潮 (荒潮のことを忘れたかのように加賀さんと大和さんの模擬演習で食堂の話題は持ち切り)

朝潮 (明日も出撃があるのに悲しむ暇さえ・・・)


 目的地のすぐ側にいくつかの倉庫をぶちぬいて作られた射撃訓練所があった。

 朝潮が中を覗くとレーンは全て第一艦隊所属の艦娘で埋め尽くされていた。

 あるレーンでロープに足を吊られた羽黒が射撃訓練をしている。

 その羽黒を吊るロープを那智が竹刀で不規則に叩き揺らしていた。


羽黒 「ひいいいいいい」

那智 「馬鹿者ォ!!!荒れた海上はこんな揺れでは済まんぞ!!!」

羽黒 「はっはい」

那智 「言われんでも、もっと・・・腰を、入れんかああ!!!」

羽黒 「ひゃいいいい!」


 羽黒のレーンに限らず訓練場は戦闘前の指揮作戦艇のように殺気に満ちていた。

 全員が何かを拒絶し振り払うかのように訓練に打ち込んでいる。


朝潮 (みんな恐いんだ・・・)


 朝潮は静かに訓練所を出て、指定された場所に歩を進める。

 波の音が大きくなり訓練場から連発する発砲音と競り合うように響く。

 指定された訓練所すぐ裏の埠頭で海に向かい、朝潮に背を向けてある艦娘が立っていた。


朝潮 「先にいらっしゃってたんですね」

朝潮 「遅れて申し訳ありません・・・・・・大和さん」



―――――
―――




501以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 02:24:26.83l87Lyojv0 (5/22)




大和 「大和も今来たところです」

朝潮 「何を見てらっしゃるんですか?」

大和 「そうですね・・・朝潮さんは知ってますか?」

朝潮 「え?・・・何をですか?」

大和 「海の向こうでは日本と違って深海棲艦に脅かされない広大な内陸があるそうですよ」

朝潮 「陸が・・・見えるのですか?」


 訓練所の砲撃音に負けないようお互い大きめの声で応酬する。

 大和と朝潮の視界の先には飲み込まれそうに暗く海が広がるだけだった。

 大和が海から背後の朝潮へ振り返る。

 夜の帳に包まれ大和の表情が朝潮にははっきりとわからない。

 顔と艤装の輪郭だけが、弱い星明かりに照らし出されている。


大和 「荒潮さん、残念でしたね」

朝潮 「・・・」

大和 「大和も親しかった武蔵が轟沈したから気持ちがわかります」

大和 「仲・・・良かったんですよね?」

朝潮 「・・・はい」

大和 「・・・聞くまでもないですよね、ごめんなさい」

朝潮 「いいえ、それより・・・」

朝潮 「私の部屋で仰っていた、ここでしか話せないこととは何でしょうか?」


 湿気を孕んだ冷たい風が二人を削るように吹く。

 ビリビリと体を揺するほど砲撃音がする訓練所のすぐ近くとは言え、

 季節的に長居するような場所でもなく、この時間に人が来ることのない場所だった。




502以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 02:26:21.00l87Lyojv0 (6/22)



大和 「命令違反の件、全て提督に聞きました」


 大和の言葉が朝潮の心臓を鷲掴みにする。


朝潮 「!・・・」

朝潮 (脅すつもりなの・・・?)


 朝潮は身構える。

 朝潮は大和との接点が少ない。

 荒潮の第一艦隊除隊のお願いで助太刀してくれたこと以外にはほぼなかった。

 辛うじて大和に付いて知っていることは、

 霞と大潮から聞いた大和と加賀が提督を取り合っているということだけだった。


朝潮 (この人は提督側の・・・)

朝潮 (知っていてもおかしくない・・・)


 吐き出すように真意を尋ねる。


朝潮 「仰りたいのはっ・・・命令違反に付いてでしょうか?」

大和 「落ち着いて・・・朝潮さん」

大和 「命令違反を咎めるためとかで呼んだ訳ではないの」


 心なしか強めの発言となってしまった朝潮に対し、

 大和は優しい言葉使いと両手を振ることで害意がないと伝える。

 朝潮はそれを理解し、提督にするように大和へ警戒を抱いていたことを恥じた。




503以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 02:27:59.99l87Lyojv0 (7/22)



朝潮 「すいません、作戦の責任で猛省するべきなのは私なのに・・・」

朝潮 「こんな失礼な言い方を・・・」

大和 「気にしないでください」

大和 「朝潮さんが不安なのも痛いほどわかりますから・・・」

大和 「いつ命令違反が露呈するか心配なのでしょう?」

朝潮 「・・・」

大和 「ごめんなさい、言えないですよね」

大和 「怖がらせたくて言ったんじゃないんです、それに安心して下さい」

大和 「提督が告発することはありえませんから」

朝潮 「?」

大和 「信じられないってリアクションですね」

朝潮 「はい・・・」

大和 「命令違反が露呈したら提督にとって損なんです」

大和 「命令違反を部下に当たる艦娘が起こすなんて・・・」

大和 「上に向かって私は指揮能力がありませんと大声で言うようなものなんですから」

大和 「あのプライドの高い提督がわざわざ自身が不利になる告発なんてすると思いますか?」

朝潮 「・・・思いません」

大和 「そうでしょ?」

大和 「少しは安心できましたか?」

朝潮 「はい・・・ありがとうございます」


 闇の向こうで優しく微笑んでいるであろう大和に朝潮は心を開きかける。

 荒潮の死は慰められても、命令違反の責任を慰めてくれる人はいなかった。

 自身の責任なので慰められるものでないと心で分かっていても、

 朝潮は一人で抱えていた心の傷が少し軽くなるのを感じていた。




504以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 02:30:04.58l87Lyojv0 (8/22)



朝潮 「このことで私を・・・?」

大和 「それもあります、けど・・・」

朝潮 「けど?」

大和 「本題は別です」

朝潮 「ここ・・・でないと言い難いことなのでしょうか?」

大和 「寮の一室ですと誰に聞かれているかわかりません」

大和 「万が一朝潮さんがそれで困るようなことがあれば大和も悲しいです」

朝潮 「ありがとうございます」

朝潮 「・・・では、お話しになりたいこととは一体?」

大和 「最終戦闘の終盤・・・」

大和 「加賀さんが制空権を放棄して、荒潮さんを助けに行ったそうですね」

大和 「そして・・・荒潮さんはタ級に殺された」

朝潮 「はい・・・」


 フラッシュバックのような一瞬のものではない、

 隙があれば壊れたビデオデッキのようにあのシーンが朝潮の脳内で繰り返し再生されていた。

 悲しみや怒りの感情だけじゃない、浴びた血の感触まで鮮明に思い出せた。


朝潮 「戦闘報告書は鎮守府の全員に公開されています」

朝潮 「御存知の通り、報告書の命令系統は虚偽のものです」

朝潮 「しかし、戦闘行動は間違いなく全て本当です」

朝潮 「確認すべきようなおかしい点でもあるのでしょうか」

大和 「・・・あります」

大和 「今日はそのことで呼んだんです」

朝潮 「はぁ・・・」

大和 「落ち着いて聞いて下さい」

大和 「荒潮さんを殺したのは・・・タ級ではなく加賀さんです」

朝潮 「はい?」


 訳がわからない。




505以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 02:33:14.53l87Lyojv0 (9/22)



大和 「訳がわかりませんか?」


 頭から血がスッと引いていく感じがする。


大和 「正確には加賀さんが・・・荒潮さんを意図的に見殺しにしたということです」

朝潮 「確かに荒潮は最終戦闘のタ級から最後の砲撃を受ける前に・・・」

朝潮 (轟沈寸前だったけれど)


 知覚のことを話すなと言う提督の言葉が頭をよぎり、朝潮は言葉を引っ込める。


大和 「朝潮さん?」

朝潮 「すいません。何でもありません」

大和 「朝潮さん・・・大和が聞いたのは命令違反だけではありません」

大和 「当然・・・知覚のことも提督から聞いています」

大和 「今、言いかけたのはそのことではありませんか?」

朝潮 「え・・・」

大和 「図星のようですね」

大和 「もしかして、あなたも薄っすらと・・・」

大和 「荒潮さんが最終戦闘開始時点で大破していたのに気付いていたのではないですか?」

朝潮 「?!!」

大和 「その反応ですと・・・心当たりはあるようですね?」

大和 「覚醒前で荒潮さんの大破に確信まで持てなかったのでしょう?」

大和 「なので朝潮さんは仕方ないでしょう」

大和 「けれど・・・加賀さんはどうかしらね?」



506以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 02:34:50.43l87Lyojv0 (10/22)


朝潮 「加賀さん?」

大和 「そう・・・あなたより早く知覚に覚醒して使いこなしている加賀さん」

朝潮 「加賀さん?・・・・」

朝潮 「え・・・まさか・・・」

大和 「想像の通りよ」

朝潮 「加賀さんは気付いていた?!荒潮の大破に????」

大和 「当然ですよねぇ」

大和 「覚醒前の朝潮さんでも薄っすら気付くのに加賀さんが気付かない訳がないですよね」

朝潮 「な、何で・・・」

朝潮 「加賀さんが大破進軍を?意図的に?」

朝潮 「ありえません・・・加賀さんは命懸けで荒潮を守っていました」

大和 「加賀さんは提督と艦隊を守るために演技をしただけですよ」

大和 「あなたに指揮作戦艇を守らせるためにそうしたに過ぎません」

朝潮 「確かに・・・それは提督にも同じことを言われました」

大和 「そうでしょう? その目的のために命懸けの振りをしただけです」

大和 「そして怪我をしない内に切り上げようとした」

朝潮 「あれが・・・演技?」

大和 「まんまと騙されていたようですね・・・」



507以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 02:37:40.23l87Lyojv0 (11/22)


大和 「考えてもみて下さい」

大和 「加賀さんの大破要因は何でしたか?」

朝潮 「タ級の砲撃に当たり、体勢を崩されてヲ級の攻撃を

大和 「不自然とは思いませんでしたか!?」

大和 「報告書の通りなら、かすっただけで四肢を吹き飛ばすような猛火の中で・・・」

大和 「それまで全弾避けられていたのに急に被弾したことに!!!」

大和 「しかも!!被弾した攻撃では体勢を崩しただけです」

大和 「まるで・・・」

大和 「タ級の弱い砲弾を選んでわざと当たりに行ったかのようだとは思いませんか?」

朝潮 「荒潮を守る演技を切り上げるために、意図的に被弾した?」

大和 「そうです」

朝潮 「荒潮が大破しているのがわかっていて?」

大和 「そうです」


 頭がくらくらする。息苦しい。

 底なし沼に体を保ったままずぶずぶと沈んでいくような感覚。

 大和の背後に暗闇は果てしなく続いている。


朝潮 「冗談なら・・・止めて下さい・・・」

大和 「・・・」

朝潮 「そうだ・・・私の知覚は提督に否定されているんです」

朝潮 「だから、私が戦闘開始から荒潮が大破していたかもと思うのは間違っていたんです」

大和 「あなたの知覚は・・・紛れも無く本物です」


 朝潮の頭はあれほど信じたかった知覚の存在を拒否している。

 何か触れてはならないものに触れてしまう、全身が最終戦闘の時と違うアラームを発していた。




508以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 02:39:37.77l87Lyojv0 (12/22)



朝潮 「そんなわけない!!!提督が!!」

大和 「その提督が否定したのも・・・加賀さんの差し金だとしたら?」

朝潮 「!!!」

朝潮 「・・・加賀さんにそれをする意味があると思えません」

大和 「大破進軍をするとどういうメリットがあるか朝潮さんはご存知ですか?」

朝潮 「大破進軍???」

大和 「そうです、答えて下さい」

大和 「加賀さんの意図的な大破進軍、この真相を知るのに重要な質問です」

朝潮 「海域突破率やボス到達率の上昇・・・ですか」

大和 「その通り、秘書艦として戦果を稼ぎ出世するには重要です」

朝潮 「まさか・・・」

大和 「加賀さんは戦闘マシーンと言われるほど職務に真面目です」

大和 「それは私も認めていますけど、この頃は行き過ぎなんです」

大和 「朝潮さんが言ったようなメリットを求めて大破進軍をするようになってしまいました」

大和 「戦闘マシーンだからこそ・・・弱いものを省みることができないからかもしれません」

大和 「加賀さんには朝潮さんや荒潮さんのような大破し易い駆逐艦は・・・」

大和 「足手まといでしかないんでしょうね、悲しいことに」

朝潮 「加賀さんがそういうことを考えていも、不可能です」

朝潮 「提督も・・・私も・・・荒潮の制服の損傷は確認したんです」

朝潮 「間違いなく中破でした」

大和 「制服の損傷はそうでしょうね・・・」

朝潮 (制服の損傷は?・・・)



509以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 02:41:50.43l87Lyojv0 (13/22)


大和 「信じられない、信じたくない気持ちはわかります」

大和 「ですけど、中破と誤認させる方法なんていくらでもありますよ」

朝潮 「はぁ?!」

大和 「あなたは深夜に立ち入り禁止の執務室にいる加賀に会ったことがありますね」

朝潮 「何で知っているんですか?!」

大和 「それは今どうでもいいことです」

大和 「あの時、加賀さんは大破進軍する準備をしていたんですよ」

大和 「そう、入れ替えていたんですよ」

大和 「損傷表の写真をね」

朝潮 「!!!!!」


 激高した朝潮が殴り込み逆に叩きのめされた執務室。

 加賀が書類を漁っていたのを朝潮は見ていた。


朝潮 「加賀さんが?・・・本当に?」

朝潮 「そんな・・・」


 緊張による発汗が顔を叩く海風で更に冷やされちりちりと顔が痛い。

 風の圧力が、痛みが、加賀に床へ叩き伏せられたあの日の絶望的な感覚を蘇らせる。




510以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 02:49:31.45l87Lyojv0 (14/22)



大和 「今なら朝潮さんの知覚を加賀さんが提督に否定させた理由がわかるでしょう?」

朝潮 「損傷度を隠すためですか・・・」

大和 「そうです」

大和 「加賀さんは損傷度が制服以外でわかると都合が悪いんです」

大和 「提督が損傷確認に利用する損傷表に記録される写真は大破直前のみ」

大和 「だから大破進軍を防ぐことができます・・・普通なら」

大和 「その写真を入れ替えているんですからね」

大和 「大破でも轟沈寸前の酷い損傷度の写真のものと」

朝潮 「そんな損傷表で確認を行えば・・・」

大和 「提督でも誰でも大破していないと誤認して進軍をしてしまうでしょうね」

朝潮 「では、加賀さんが否定させるということは、私の知覚は・・・」

大和 「本物です」

大和 「思えば加賀さんは朝潮さんが覚醒することもわかっていたんじゃないでしょうか」

大和 「加賀の艤装と同調させることで朝潮さん自身の艤装との同調を下げる」

大和 「証拠を残さず殺すためとは言え、こんな危険なこと普通ならさせません」

朝潮 (あの強力な加賀が殺そうとしていた?私を?)


 大和が軽く話すほど事態は甘くないと朝潮が一番わかっていた。

 朝潮と加賀はあの夜に格付けが済んでいる。

 寒さからでない震えがした。


朝潮 (この会話が加賀に知られたらただで済むわけがないっ・・・)


 周囲を見渡して確認し、大和に少し近付き声を落とす。




511以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 02:51:51.71l87Lyojv0 (15/22)



朝潮 「・・・大和さん!!!」

朝潮 「もう憲兵か海軍上部に通報はしているんですか?!」

大和 「していません」

朝潮 「何でですか?!」

大和 「残念ながら加賀さんを通報するには証拠が足りないんです」

朝潮 「荒潮を殺したんですよ?」

大和 「加賀さんが知覚に付いてしらばっくれれば終わりですよ」

大和 「通報しても証拠不十分で不起訴か・・・」

大和 「下手をすれば無実の提督や他の艦娘になすりつけてくる可能性さえあります」

朝潮 「どうすればいいんですか・・・」

大和 「いい案があるんです」

大和 「加賀さんを・・・こらしめる」

朝潮 「本当ですか?!」

大和 「模擬演習のことはご存知ですか」




512以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 02:55:14.35l87Lyojv0 (16/22)


朝潮 「聞いています、明日大和さんと加賀さんが行うと・・・」

大和 「知っているのなら話が早いです」

大和 「第一艦隊の朝潮さんは一番近い指揮作戦艇から見学ができるはずです」

朝潮 「それも聞いています」

大和 「大和の攻撃に合わせて朝潮さん・・・加賀さんの艤装との同調に干渉してください」

朝潮 「干渉?どうしてですか?」

大和 「ピンと来ませんでしたか」

大和 「同じ艦の艤装が一つの艦隊に入ることができない理由は知っていますね」

朝潮 「あ・・・」


 同じ艦の同調はお互いに干渉してしまうため、

 一つの艦隊にいれば二人共艤装と同調できなくなる。

 なので、例えば加賀と加賀を同じ艦隊に組むようなことはできなかった。


朝潮 「加賀さんの同調に干渉して艤装との同調を妨害するんですか?」

大和 「そういうことです」

大和 「加賀さんはあなたを殺すために自身の艤装に朝潮さんを同調させたんでしょうけど」

大和 「自身がそれで危機に陥るなんてとんだ誤算でしょうね」フフ

大和 「明日の加賀さんの反応が楽しみです」



513以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 02:57:27.40l87Lyojv0 (17/22)


朝潮 「殺す・・・ことになりませんか?」

大和 「殺すなんて野蛮なことをする積もりはありません」

大和 「傷めつけるだけでいいんです、後はもうしないように脅すだけです」

朝潮 「しかし、加賀さんの同調が下がるどころかなくなれば・・・」

大和 「死ぬことだってありますね」

大和 「けれど、仕方ないと思いませんか?」

大和 「加賀さんは荒潮さんを殺したんですよ?」

大和 「それに、加賀さんはあなたをも殺そうとしていたのですよ?」

朝潮 「そっ・・・それは」

大和 「それに何よりこれは朝潮さんのために言っているんです」

大和 「・・・知覚が覚醒した今、もっと露骨に加賀さんは朝潮さんを殺そうとしてくるでしょう」

大和 「止めるにはこうするしかないと思いませんか?」

大和 「当然やってくれますよね?」

朝潮 (加賀さんを殺す???)

朝潮 「・・・」

大和 「朝潮さんどうするんですか?」


 パチ・・・パチパチ・・・パチパチパチ


 朝潮の背後の暗闇から拍手が聞こえてきた。



―――――
―――




514以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 03:01:58.65l87Lyojv0 (18/22)


大和 「誰!?」


 朝潮も振り返るが訓練所までの暗闇に潜んでいるであろう存在が掴めない。

 暗闇から拍手だけが続く。


大和 「朝潮さん、誰かわかりますか?」

朝潮 「えっ・・・何で私に聞くんでしょうか?」

大和 「わからないんですか?!」

朝潮 「はいっ」

大和 「提督ですか!!」


 訓練所の砲撃音を背に暗闇から人型が現れた。

 ただ存在だけわかる程度にそこにあり、未だ暗闇に溶けている。


加賀 「名演技だったわよ、大和さん」パチパチパチ

加賀 「艦娘を止めても食べていけそうなくらいにはね」パチパチ

朝潮 「加賀ッ・・・!」


 声のする方へ振り向いた朝潮の艤装を大和ががっしりと掴む。

 背負い紐はがっちりと固定され身構えて前傾姿勢になろうとした朝潮を抑えた。

 朝潮は不満を表すかのように大和へ振り向く。




515以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 03:03:49.01l87Lyojv0 (19/22)


大和 「待ちなさい」

朝潮 「どうしてですか?!」

加賀 「何にでもキャンキャン吠えて・・・まるで臆病な小型犬のようね」

加賀 「強がるならその震えを止めてからにしたら?」

朝潮 「五月蝿いっ!!!荒潮を返して!!!」

加賀 「ふふ、飼い犬はしっかりと躾をしてくれる?大和さん」

朝潮 「大和さんっ!!!離してっ!!!」

加賀 「そりゃ止めるわよねぇ」

朝潮 「今なら!!」

加賀 「朝潮に同調を干渉させないと私に勝てる道理がないものね」

加賀 「前回の模擬演習で手も足も出ず大破轟沈判定を出されたんですから・・・」

加賀 「今朝潮を失えば致命的よね」

加賀 「命綱は離しちゃ駄目よねぇ」フフ

朝潮 「・・・」

加賀 「それにしても、あれだけこてんぱんにしたのに模擬演習をしたいと言うから」

加賀 「どんな奥の手があるのかと思ったら・・・ふッふふふ」

加賀 「他力本願とはね、演技もそうだけど芸人の素質もあるわね」



516以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 03:05:12.68l87Lyojv0 (20/22)


大和 ギリッ「・・・どういうつもりですか?」

加賀 「どういうつもり?」

加賀 「そうね・・・大和さん、あなたと二人だけで話をしたいの」

加賀 「まずは朝潮を下げなさい」

大和 「命綱を離せ・・・と?」

加賀 「朝潮が感知しなかったことでわかるでしょう?」

加賀 「私は今艤装と同調していないの」

朝潮 (そういうこと・・・)


 大和が朝潮に拍手した存在の名前を聞いた理由に気付く。

 そして、加賀が朝潮の知覚を認めていることも。


大和 「それでも、艤装を持っていないとは限らないですよね」

加賀 「隠しても仕方がないから言うけど艤装は持っているわ」

加賀 「けれど・・・ご存知の通り空母は夜間戦闘能力が乏しいの」

加賀 「弓で射抜くことはできるけど、それなら砲撃できるあなたと対等でしょう?」

大和 「・・・」

加賀 「改めて言うわ」

加賀 「朝潮を下げて・・・・対等に二人だけで話がしたいわ」

大和 「朝潮さん下がってくれますか?」

朝潮 「しかし、今なら!!」

大和 「下がってください」

朝潮 「っ・・・」




517以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 03:07:30.51l87Lyojv0 (21/22)



 気圧される。

 鎮守府トップ2が殺気をぶつけ合う狭間で

 朝潮は自身の存在がちっぽけなのを否応なく痛感させられていた。

 朝潮の足は手で抑えても小刻みに震えていた。


朝潮 「わかり・・・ました」

大和 「ごめんなさいね」

大和 「しっかり加賀さんとは話をつけますから」


 大和が朝潮の艤装を離す。

 朝潮はぎこちない足取りでゆっくり歩を寮の方へ進める。

 暗闇から加賀に言葉をぶつけられる。


加賀 「上官の命令はすぐ聞きなさい」


 怯える体と怒る心で朝潮は壊れそうになっていた。

 朝潮の足音が遠ざかるのを確認して加賀が大和へ口を開いた。



―――――
―――




518 ◆oUFoaE/FvU2016/03/09(水) 03:09:06.85l87Lyojv0 (22/22)

本日分投下終了です。
ご読了ありがとうございました。


519以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 08:25:32.81z7y5221aO (1/1)

乙です


520以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 08:45:13.46iyETpHuSO (1/1)




521以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/09(水) 13:38:58.50uqnTBAv90 (1/1)




522以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/03/21(月) 23:35:38.10Z+64e0QVO (1/1)




523以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/04/11(月) 23:01:05.64GG1S0AoRO (1/1)




524以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/04/25(月) 20:29:33.34/G6AzW5HO (1/1)




525以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/05/08(日) 14:50:26.60NyiGy7D2O (1/1)

明日で2ヶ月か
大丈夫かな?


526以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/05/08(日) 21:48:02.10vUy8oJxmO (1/1)

てs


527 ◆oUFoaE/FvU2016/05/10(火) 00:32:25.20tbswnEyS0 (1/1)

お待たせして申し訳ありません。
私的な色々に加えこの度のイベントが重なり遅筆に拍車をかけてしまっている次第です。
恐らく現在の進みだと次回投下が6月末辺りになりそうな具合でございます。


528以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/05/10(火) 00:49:32.73WnGs7wF0O (1/1)

良かった生きてたか


529以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/05/10(火) 17:16:47.57CLDSRbebo (1/1)

わたし待つわ


530以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/05/10(火) 18:01:52.03xLKqe6kwo (1/1)

いつまでも待つわ


531以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/05/10(火) 18:58:44.41CiUYkhSa0 (1/1)

age


532以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/05/10(火) 18:59:46.91JV6jdB4zO (1/1)

待ってる


533以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/05/12(木) 17:44:56.26BudAKIzC0 (1/1)

6月の始め頃にも生存報告よろ


534以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/05/14(土) 03:11:45.42dhoWX2cU0 (1/1)

基地航空隊の札を待機にして待ってる


535以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/05/25(水) 23:47:45.83oezBY4bZO (1/1)




536 ◆oUFoaE/FvU2016/06/06(月) 00:14:17.875WIUZ19u0 (1/1)

お米ありがとうございます。
当SSがテンポが大事なストーリーものに関わらず我ながら情けない更新ペースですので、
完全終了を待つ方がいらっしゃっても、都度の更新を心待ちにしてくださる方たちがこんなに……と喜ぶとともに驚いています。
前回米からイベントを満喫してしまい、当初の見込み通り次回投下は6月下旬までにできる見込みです。
現在中旬投下を目指しせっせと書いているので実際の投下は少し早くなりそうです。
何卒引き続きよろしくお願い致します。


537以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/06/06(月) 01:45:43.26xrZqZl20O (1/1)

期待してる


538以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/06/06(月) 05:47:39.14XJ4uB+CRO (1/1)

了解
待ってる


539以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/06/08(水) 23:43:48.45HZFhB8QM0 (1/1)

朝潮改二とともに待ってる


540以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/06/18(土) 17:10:59.05pnK94EDZO (1/1)




541以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/06/26(日) 19:49:26.34lOgR6NYe0 (1/1)

そろそろかな?


542以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/17(日) 13:22:06.25JvOQZJaDo (1/1)

待機


543 ◆oUFoaE/FvU2016/07/23(土) 04:49:55.37RF41QQe60 (1/2)

予告の期日よりずれ込み大変申し訳ありません。続きを本日中に投下します。

後、本SSについてお願いがあります。
もし、ご覧になってるまとめ関係の方がいらっしゃれば、
投下単位いくつかをまとめて、まとめサイトに掲載してもらえると幸いです。
まだ完結してない上での厚かましいお願いになるので、難しいことは重々承知ですのでご無理は禁物です。
理由は、上中下ドーンと一気にまとめサイトに出ると少し読む気力が減退するという利己的なものです。

朝潮改二可愛すぎませんかね。


544以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/23(土) 21:49:43.91VSj54Gd7O (1/1)

朝潮ちゃああああああああああん


545以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/23(土) 23:08:50.836PCJ1mC10 (1/1)

まだかなまだかな?


546 ◆oUFoaE/FvU2016/07/23(土) 23:40:59.66RF41QQe60 (2/2)

申し訳ありません。
ミスがあり後半部分に大幅な書き直しを行っています。投下は明日中になりそうです。
尚、万が一明日中に後半の書き直しが間に合わないことがありましても、
テンポを考えて投下を止めている完成した前半部分は確実に投下します。
何卒今少しお待ちいただければと存じます。


547以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/23(土) 23:58:40.72kTEvRPOgO (1/1)

了解です


548以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/28(木) 22:51:49.52DYpf5ET+0 (1/1)

sage


549 ◆oUFoaE/FvU2016/07/29(金) 01:28:13.68Ve+vF1j60 (1/19)

お待たせし申し訳ありません
投下再開します


550以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/29(金) 01:30:41.05Ve+vF1j60 (2/19)




加賀 「話をつける・・・ね」


 深夜に向け気温は落ちる。

 僅かな星明かりも薄まり、加賀の人型は再びすっかり闇に溶け込んでいた。


大和 「単刀直入に言いましょう」

大和 「明日の模擬演習、負けてください」

加賀 「言うことを聞かなければ?」

大和 「聞こえていたんでしょう?」

大和 「・・・不幸な事故が起きるだけですよ」

加賀 「私を殺すんでしたっけ?」

大和 「・・・そうなるかもしれません」

加賀 「負けたら事故が起こらない保証は?」

大和 「信じてもらうしかありません」

加賀 「ふっ・・・何それ、信じられると思うの?」

大和 「加賀さんに決定権はないんですよ」

加賀 「そうかもしれないわね」

加賀 「でも・・・負けるだけで良いの?」

加賀 「違うわよね」

大和 「・・・」

加賀 「正義として、フフ・・・私をこらしめる?裁く?・・・積もりなんでしょ」

加賀 「どうせなら今から私に説教してみる?」

大和 「何のことか・・・大和はただ勝ちたいだけですよ」

加賀 「なーんで、とぼけるのかしらね・・・」

加賀 「聞かれたら不味いことでも、朝潮に話していたのかしら?」




551以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/29(金) 01:32:25.33Ve+vF1j60 (3/19)



大和 「・・・」ハァ

大和 「・・・どこから聞いてらしたんですか?」

加賀 「・・・全部、ね」

大和 「全部?」

加賀 「あなたが朝潮の部屋へ、彼女を呼びに行ったところから」

大和 「はぁ?」

加賀 「ここにあなたと朝潮の会話の全てを録音したデータもあるわ」

大和 「・・・」

加賀 「不味いことがわかっているから・・・朝潮に話していた内容を私に伏せていたのでしょう?」

大和 「何を仰ってるのかわかりませんね・・・」

加賀 「私でも気付いたのよ」

加賀 「録音データを提督に聞かせたらどうなるかしらね・・・」

大和 「加賀さんが悪趣味な盗聴女ということがわかるだけではないですか?」

加賀 「・・・お互い様よねぇ」

加賀 「私は朝潮に・・・けど、大和さんは執務室に盗聴器をしかけているんでしょう?」

大和 「いい加減なことを言わないでもらえますか?」

大和 「執務室を盗聴なんて、加賀さんの命令違反ほどじゃなくても軍事裁判ものですよ」

加賀 「明らかなことをとぼけてもね、追求する相手を逆なでするだけよ」

大和 「証拠がないのに明らか?・・・加賀さん日本語は大丈夫ですか?」

加賀 「大和さん、まだ・・・「朝潮を呼ぶ時まだ加賀は提督と話していたのに不可能よ」・・・とか」

加賀 「そう思ってる?」

大和 「・・・」




552以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/29(金) 01:34:30.58Ve+vF1j60 (4/19)



加賀 「朝潮が提督を殺そうと執務室に乗り込んだ夜・・・」

加賀 「あの夜から朝潮を監視する必要を感じていたわ」

大和 「はぁ?」

加賀 「私の提督のために・・・」

大和 「・・・」ギリ

加賀 「朝潮に、脱走されたり、レイプされたと通報されれば、証拠はなくても提督の評判が落ちるもの」

加賀 「だから内線をかければ良い呼び出し如きで朝潮と荒潮の部屋を尋ね・・・」

加賀 「その時、勧められた椅子に盗聴器を仕掛けていたのよ」

加賀 「まさかそれが、こんな場面で役に立つなんて私も驚いているのよ」フフ

大和 「心底気味の悪い自白ですね」

大和 「大和でなく憲兵にでもしてもらえませんか」

加賀 「提督には、”朝潮が暴走しないよう手を打つ”と執務室で言ったのだけど・・・」

大和 「先ほどから大和が知っている前提でお話ししているようですけど・・・」

大和 「何度も言ってます通り、執務室の盗聴なんてしていませんので何もわかりませんよ」

加賀 「なら、朝潮に話した話していた内容は?」

加賀 「提督と私しか知らない会話の内容をどうやって知ったというの?」

大和 「提督に聞いたとか、色々方法はあるでしょう・・・」

加賀 「それは不可能ね、命令違反の密告者探しで提督も私も忙しかったから」

大和 「・・・今回はたまたま提督と加賀さんが執務室で話しているのを、ドア越しに聞いただけです」

大和 「加賀さんが、暗闇から大和と朝潮さんの会話を盗み聞きしたように、です」

加賀 「執務室のドアは艤装を付けたまま入れるように大きいけどね」

加賀 「防諜のために一般的なドアより数倍厚くて多少の音は通さないわ」

加賀 「ドアのノックや提督が致す時のように大きな振動や大声なら話は別だけどね」

加賀 「ドア越しに会話を聞いた?・・・普通の会話の盗み聞きなんてまず不可能よ」

加賀 「これからも嘘を付いて行く積もりなら最低限できるかを試した方がいいわよ」




553以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/29(金) 01:36:50.28Ve+vF1j60 (5/19)



大和 「・・・何時からですか」

加賀 「はぁ?」

大和 「何時から執務室の盗聴に気付いていたんですか」

加賀 「随分と素直ね」

大和 「・・・」

加賀 「私が気付いたのは、朝潮が荒潮の第一艦隊除隊を頼んできた時に都合よくあなたが現れた時からかしら」

大和 「・・・そうですか」

大和 「でしたら、大和や朝潮さんを殺すよう提督に提案していたのは、大和を釣るためだったんですか?」

加賀 「・・・さぁ?」

大和 「はぁ?」

加賀 「そんなことどうでもいいけれど、役に立ったでしょ?」

大和 「・・・随分急ごしらえに感じますけど、本当に録音できているんですか?」

加賀 「ご心配どうも」

加賀 「朝潮の部屋に仕掛けた盗聴器と同じものを、入渠していた朝潮の艤装に仕掛けるだけ」

加賀 「砲撃音に負けないように馬鹿みたいに大声で話していたから、音質も問題ないわ」

加賀 「ところで大和さん、自身がどういう状況にいるかわかっているの?」

加賀 「余裕そうだけど」

大和 「当然でしょう?、未だ大和の方が有利なのですから」

加賀 「有利・・・有利ねぇ・・・」

大和 「おわかりでないんですか?」

大和 「大和が執務室を盗聴していたことを自白した意味を・・・」

大和 「こちらにも加賀さんが命令違反をした確たる証拠があるということです」

大和 「命令違反という重罪を犯した加賀さん・・・それに対し執務室の盗聴をした大和」

大和 「罪の重さも交渉の材料においても大和が勝っていることは、火を見るより明らかです」

加賀 「ふふ、交渉に置いて、要求や条件を出せるのは、有利な立場にある者だけど、まぁ・・・」

加賀 「大和さんにも、交渉しているという意識はあったのね、驚いたわ」




554以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/29(金) 01:39:11.29Ve+vF1j60 (6/19)



大和 「どういう意味ですか」

加賀 「大和さんはご自慢の証拠に価値があると本当に思っているの?」

加賀 「私と艦隊の命令違反を上や憲兵に訴えたとして提督が認めると?」

加賀 「大和さんが朝潮に言っていたのと同様に、提督が保身のため揉み消すのがオチだとわからないの?」

大和 「もう揚げ足を取ることしかできませんか?」

大和 「それにもみ消しは加賀さんの盗聴についても言えますよね」

加賀 「そうね」

大和 「なら・・・

加賀 「出撃が減って、頭でも錆びついているの?」

加賀 「私が言いたいのは、お互いの情報自体には価値がないということよ」

大和 「はぁ?・・・交渉だなんだと偉そうに仰っておいて何が仰りたいんですか」

加賀 「わかりやすく説明してあげるわ」

加賀 「私の情報は、提督に聞かせて、初めて価値が出るということよ」

大和 「最初に加賀さんが「録音を聞いて提督が気付くことがある」と言っていたことですか?」

大和 「そんなの恥ずかしながら、大和が嫉妬で盗聴していたと思われておしまいですよ」

加賀 「恐竜並の脳みそしかないと思っていたけど、記憶力だけは良いのね」

大和 「加賀さん、立場を弁えずに吠えても痛々しいだけですよ」

加賀 「そういえば、今日の命令違反を密告した人間がいることはご存知よね?」




555以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/29(金) 01:42:31.47Ve+vF1j60 (7/19)



大和 「・・・」

加賀 「今更隠す必要もないじゃない?」

加賀 「提督と私で密告者を探そうとしていたことまでは知っているわね?」

加賀 「結果として、密告者は出撃艦隊の艦娘にはいなかった」

大和 「どうしてそう判断したんですか」

加賀 「本当に命令違反を密告していた艦娘がいたら、すぐに鎮守府から逃走しているもの」

加賀 「提督と私で探したと言っても、彼女たちを呼んで所在を確認するだけの簡単な作業だったわ」

大和 「何で密告していたら鎮守府にいないと言い切れるんですか」

加賀 「密告した裏切り者がいるとわかれば、出撃艦隊の他の娘が放っておくと思う?」

加賀 「自身の命が懸かっているのよ・・・聖人君子だって、その手を汚すわ」

加賀 「こういう時、口止めに艤装で木っ端微塵にして海に流すくらいはよくある話よ」

加賀 「だから密告者は安全のため、鎮守府から身を隠すよう憲兵から指導されたり、保護される筈なのよ」

加賀 「それもなかった」

加賀 「出撃艦隊に犯人がいないことを示す、これ以上に有用な証拠があるかしら」

大和 「ないかもしれませんね」

加賀 「さて・・・じゃあ、出撃艦隊以外の誰が密告したのかしらねぇ?」

大和 「・・・さぁ、大和にわかるわけないじゃないですか」

加賀 「わからない?嘘も大概にして欲しいものね」

加賀 「出撃艦隊以外の艦娘で、命令違反を唯一知っているのは、執務室を盗聴していた大和さんだけなのよ」

大和 「・・・」

加賀 「あなただったのね・・・密告した裏切り者は・・・」



―――――
―――




556以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/29(金) 01:48:47.38Ve+vF1j60 (8/19)




大和 「断定的な物言いですね、証拠もないのに」

加賀 「証拠なんていると思っているの?」

加賀 「お利口にも、軍法・軍規違反を交渉材料として用意したあなたを見てて思っていたけど・・・」

加賀 「ほんっと・・・ずれてるわね、大和さん」

大和 「軍の統制を軽視した危険思想ですよ、訂正してください」

加賀 「別に良い子ぶることないでしょう、ここには私とあなたしかいないのだから」

加賀 「あなたも軍法や証拠なんかに意味がないことはわかっている筈よ、この鎮守府において」

大和 「・・・」

加賀 「この鎮守府唯一にして絶対の権力は、大本営とか軍上層部とか憲兵とか軍法とか・・・そんなものじゃないでしょ」

大和 「提督ですか・・・」

加賀 「そう、提督が全てよ」

加賀 「提督を動かせない交渉材料しか用意できない時点で、大和さんは負けていたのよ」

加賀 「さて・・・私の録音データを聞いた提督は大和さんをどうするかしらねぇ・・・」

大和 「提督に渡す積もりですか・・・」

加賀 「止めて欲しい?」

大和 「・・・」

加賀 「外に出してない積もりでしょうけど動揺しているようね」

加賀 「艤装との同調が不安定になってるわよ」

加賀 「ほら・・・」

大和 「?」




557以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/29(金) 01:53:39.40Ve+vF1j60 (9/19)



 ビンッと聞き慣れない音に続いてめりと肉が軋む音が、訓練所の砲声の中で微かに響いた。


大和 「あ゛」


 大和の制服から露出した太ももを、細い線が貫いている。


加賀 「ただの矢が簡単に刺さる」

大和 「あ゛、あ゛あ゛あ゛っ」

加賀 「体は正直ね」

大和 「いたぁっ・・・」

加賀 「一々五月蝿いわね、返しもない弓道用の普通の矢よ」

大和 「ふ、普通の矢??そんな・・・」


 大和は自身に刺さった矢を手で抑えつつかがみ、闇を上目で睨む。


加賀 「感情が同調に出やすい砲艦というのが災いしたわね」

加賀 「防御壁が一瞬途切れていたわよ?」

大和 「な・・・」

加賀 「あなたが密告者ということは、今ので確信に変わったわ」

大和 「ぅ・・・確認のためだけに矢を?」


 大和は、矢に手をかける。


加賀 「あぁ、抜かないで」

加賀 「抜こうとしたら、また射るわよ」

大和 「はぁ?!」

加賀 「この暗闇で制服と急所を避けて撃つのは難しいから大人しくして欲しいわね」

大和 「痛ぅっ、加賀さんっ、あなた頭がおかしいんじゃないですか・・・」

加賀 「私を殺そうとしていたあなたがそれを言うの?」フフ

大和 「っ・・・」

加賀 「それに、吹けば飛ぶような命の軽い鎮守府で、足の一本二本が何よ」

加賀 「艦娘だから、傷はすぐ癒えるし、痛みもそこまで感じないでしょう」




558以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/29(金) 01:57:12.77Ve+vF1j60 (10/19)



大和 「・・・一体何が目的ですか?」

加賀 「いくつかの質問に答えてほしいのよ」

加賀 「肉が締まって艦娘でも悶絶するほど矢を抜くのが痛くなる前にね」

大和 「っ・・・拷問のつもりですか」

加賀 「あなたが答えないと言ったら、そうなるわね」

大和 「何が・・・聞きたいんですか?」

加賀 「何で密告なんてしたの?」

大和 「明日の舟遊びを、中止してもらう・・・ためにです」

加賀 「ふーん」

加賀 「憲兵の調査が入れば中止せざるを得ないし、そうでなくても提督が止めると思った?」

大和 「そうです」

加賀 「あなたなりに提督を動かそうとしたようね」

加賀 「けど、残念ね」

加賀 「憲兵にはいたずらと思われたんでしょうね」

加賀 「上官に問い合わせるだけの杜撰な捜査、いえ確認だけで片付けられてるわよ」

加賀 「提督もそれがわかってるから、明日の舟遊びはやると言ってるわ」

加賀 「私は念を入れてやらないよう進言したのだけど」

大和 「あなたが秘書艦に代わるまで、何でも・・・提督のためにしてあげていたんです」

大和 「それなのにないがしろにされて・・・大和と提督の最後の繋がりである舟遊びまで奪われたら」

加賀 「何でもしてた・・・ねぇ」

大和 「大和の燃費が悪いから、そう多く出撃できないのはわかります」

大和 「けれど、艦隊最強で提督の最愛は大和であるべきなんです」

大和 「大和に相性が良くて勝ったくらいで尊大な加賀さんが嫌いでした」




559以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/29(金) 01:59:09.25Ve+vF1j60 (11/19)



加賀 「私が好かれたいとか考えているように見える」

大和 「・・・どうでもいいんでしょうね」

大和 「そういう人を見下した態度も全部・・・」

大和 「あなたでは提督は幸せにできません」

大和 「加賀さんが好きなのは地方長官候補というブランドや、提督の地位や名声でしょう?」

加賀 「正解・・・」

大和 「そうですよね」

大和 「大和なら関係ありません!!提督を、提督の全てを愛することができます」

加賀 「馬鹿ねぇ・・・」

加賀 「私がそうであるように・・・提督も同じように地位と名声を欲していた」

加賀 「結果として、強い私を選んだだけ・・・提督に近いのは大和さんより私だったということよ」

加賀 「それにしても、私をハメようと思ったのでしょうけど、とんだ墓穴を掘ったものね」

加賀 「地位と名声を求める提督が、密告の犯人を許さないことは大和さんにもわかっていたでしょう?」

大和 「っ・・・」

加賀 「あなたの愛は実際のところ、自分に都合の良い自分だけの提督が欲しいだけ・・・」

大和 「ちがっ・・・」

加賀 「想像以上に初心ね、提督が初めてだったの?」

大和 「・・・違います!!!」

加賀 「まぁ、どうでもいいわ・・・」

加賀 「次の質問、大和さんがしてた執務室盗聴の目的は何?」

加賀 「提督か私の弱みを握るために?・・・それとも、提督に処分されるのを恐れたの?」

大和 「処分?・・・大和を提督が?、ありえません」

加賀 「・・・」

大和 「あなたの弱みを握るためです」

大和 「わかりきっていますよね、大和と朝潮さんとの会話で」

加賀 「・・・そう」




560以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/29(金) 02:13:05.72Ve+vF1j60 (12/19)



加賀 「次、全ての轟沈は、私が大破進軍をさせたせいだ・・・と、本当に思ってる?」

大和 「・・・」

加賀 「答えなさい!」


 弓を張る音と弾く音と矢が走る音が混ざり異様な音を一瞬に立る。

 闇から伸び出た矢は大和に避ける暇を与えず飛び、一本目と違う大和の足がまためりと悲鳴を上げる。

 大和は刺さった矢が体内で動く痛みを抑えるのに、立った姿勢を崩さず顔を伏せた。


加賀 「さすが”元”筆頭秘書艦・・・二本目は情けない声を上げないのね」

大和 「あなた・・・本当に・・・」


 その時、大和は矢の飛んできた方向、加賀のいる方向におもむろに手をあげる。

 闇を背景に蠢く大和の艤装主砲達が、その手の動きに確かに連動していた。

 吹き上げるような戦艦特有の同調の高まりが、質量を持っているかのように加賀を押した。


加賀 「!」


 その時、闇を介し睨み合う二人と離れた場所から、ガンと無機物がぶつかる音が響く。


大和 「誰ですか!!!」


 声は闇に吸われて消える。

 大和も加賀も音の発生源へ視線が吸い寄せられる。


加賀 「同調も感じないし、風でゴミが転がっただけでしょう」

大和 「そうですか・・・」


 加賀が気付いた時には、大和の同調の高まりは嘘のように消えていた。

 加賀は闇の中で位置を変えた。足音は砲声が消す。

 お互いの声は砲声に潰され平面的に聞こえ、その位置を正確には捉えることができなかった。


加賀 「怯えすぎて神経過敏なんじゃない?」

大和 「・・・そうかもしれません」




561以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/29(金) 02:20:10.28Ve+vF1j60 (13/19)



加賀 「私の知覚で周囲の艦娘の位置はわかるのよ、安心するといいわ」

加賀 「そんなことより答えなさい・・・全ての轟沈が私のせいだと思っているの?」

大和 「全ての轟沈までは・・・わかりません」

加賀 「歯切れが悪いわね、はっきり答えてくれない?」

大和 「轟沈は、海域の強力な深海棲艦によるものが殆どかと」

加賀 「はっきりと答えなさいと言ったわよね?」

大和 「轟沈したのが加賀さんのせいだと思ったのは、荒潮さんの轟沈した今日の出撃においてのみです」

大和 「他はわかりません」

大和 「これでいいですか」

加賀 「今日の出撃のみねぇ・・・」

加賀 「傍から聞いていたら、全ての轟沈が私のせいみたいな言い方になってたわよ」

加賀 「大和さんも酷なことをするのね」

加賀 「正義感の強い朝潮なら、なりふり構わず動くと思ったんでしょ」

大和 「違います」

大和 「轟沈自体は、大和が秘書艦の時から、加賀さんの赴任前からあるのですから・・・」

大和 「そんな勘違いを朝潮さんがするとは思えません」

加賀 「轟沈の話が基本タブーな鎮守府で、朝潮が、知ってると思った?」

加賀 「引っかかるけど、まぁ・・・いいわ」

加賀 「次・・・」

加賀 「私が損傷表を入れ替えたと本当に思うなら・・・」

加賀 「何で大和さんは損傷表を証拠として密告しなかったの?」

大和 「今の質問で確信に変わりました」

大和 「既に損傷表を、偽物から本物へ入れ替えているんでしょう?」

大和 「それに加賀さんがした証拠がないと、損傷表を管理する提督にも疑惑がかかって迷惑が・・・」

加賀 「私でなく提督が損傷表を入れ替えた可能性はないの?」

大和 「大和が秘書艦をしていた時に、提督はそんなことしていませんでしたから・・・」

加賀 「ふーん、そう」




562以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/29(金) 02:24:04.97Ve+vF1j60 (14/19)



加賀 「そういえば、損傷を誤認させる方法はいくらでもあると朝潮に言ってたわよね」

加賀 「例えば、制服に細工するという方法もあるわよね?」

大和 「制服の損傷を都合よく誤認させる方法があるとでも?」

加賀 「可能性の話よ」

大和 「・・・制服を管理する私を疑っているんですか?」

加賀 「さぁ・・・提督にも言ったけどね、今はどうでもいいのよ」

加賀 「話のついでに聞いただけ・・・」

加賀 「聞きたいことはもうないわ、矢を抜いても構わないわよ」

加賀 「見る限り肉が締まり切っちゃってるけど」

大和 「・・・」


 大和は両手を添えると少しためらった後に、緊張で震える手に力を加える。

 自身の体を傷付けないよう、体外へ真っ直ぐにゆっくりと引く。

 眉根に皺を寄せ呼気を荒げ白い息を吐き呻きながら、大和は矢を体から少しずつ抜いてゆく。

 体外へ出てゆく矢の表面は血で赤く染まり鈍く煌めく、最後に体外へ出た先端の鏃は血の糸を引いた。

 艦娘の治癒力で締まり切ってしまった肉にも関わらず、加賀の宣言通り出血は少なく、

 唯一の出血は、矢の刺さっていた傷から一条の涙のように皮膚を伝い黒いストッキングの縁を黒く染めるだけだった。

 大和は抜いた矢を折り海へ落とし、二本目へ移る。




563以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/29(金) 02:29:10.05Ve+vF1j60 (15/19)



大和 「はぁ・・・・はぁ・・・」

加賀 「喘いでいるようで絵になるわ」

大和 「人の苦しむ様を見てそんなに楽しいですか」

加賀 「愉快ねぇ、それが自分の嫌いな相手なら尚更・・・」

大和 「っ・・・」イラ

加賀 「私のいない方向に睨んでいる姿が実に滑稽ね」フフ

加賀 「最後に質問でなく、命令があるわ」

加賀 「これを守れば、暫くは録音データを提督に渡さないようにするわ」

大和 「・・・今後、大和が加賀さんの意に沿わないことをすれば、暴露するお積もりですか」

加賀 「言うまでもないことね、精々私を満足させるように踊ってね」

加賀 「そうそう、話を戻すけど・・・大和さん、明日の模擬演習を辞退してもらえる?」

大和 「・・・」

加賀 「・・・」

大和 「・・・訓練所の砲声で、少し聞こえませんでした」

大和 「できればでいいですけど・・・加賀さん、もう少し近付いてもらえませんか?」

加賀 「は?」

大和 「・・・両足が痺れて大和はまだ動けないんです」

加賀 「ふーん・・・無理ね」

大和 「・・・近付いた加賀さんを大和が攻撃するとでも?」

加賀 「するわね」

加賀 「あなたが本気で艤装を使って砲撃すれば、どうなるか・・・」

加賀 「艤装と同調していない私なんて塵一つも残さず消滅して、大和さんの秘密は守られる」

加賀 「多少残った悪い風評は、私を消した後に力で正当化していけば良い話よね」

加賀 「提督は私がいなくなれば、また大和さんを重用するのは明らかなんだから」




564以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/29(金) 02:32:51.39Ve+vF1j60 (16/19)



大和 「ご冗談を・・・そんなことをするわけありません」

加賀 「本当かしら?」

加賀 「提督のためなら、何でもてきるんでしょう?」

大和 「それは・・・そうですけど」

加賀 「二本目の矢が大和さんに刺さった時、私の位置を確かめるためわざと同調を解いたわよね?」

大和 「違います」

加賀 「そもそも密会場所を訓練所の裏にしたのも、砲声に紛れて攻撃ができるし、艤装を持っていても怪しまれないからでしょう?」

加賀 「やる気満々ね、邪魔者がいれば消すつもりだったんじゃないかしら?」

大和 「違います!!もっと常識的に考えてください」

大和 「加賀さんの後ろの訓練所に大穴があけば、訓練所にいる艦娘たちが押し寄せるんですよ?」

大和 「悔しいですけど、前回の模擬演習では大和が大敗してるんです」

大和 「"明日の模擬演習でも勝てないと思った大和が、加賀さんを闇討ちした"」

大和 「なんて駆けつけた艦娘たちに思われれば、大和の強者としてのブランドはお終いですよ」

加賀 「そうね・・・訓練所を背にする限り私は安全ね」

加賀 「なら朝潮は?」

加賀 「会話で最初に「海の向こうには~」なんてとぼけたことを言って海岸に誘導していたわね」

加賀 「もし、朝潮があなたを拒否したら・・・木っ端微塵にして海にまいて、処理する積もりだったんじゃないの?」

大和 「ありえません、妄想が過ぎるんじゃないですか?」

大和 「ご自身で知覚の精度は良くないと仰ってましたよね?・・・執務室で、提督に」

加賀 「そうね・・・けど、このままの距離で話をさせてもらうわ」

加賀 「慣れ合う関係でもないでしょ」

大和 「お好きになさってください・・・そこまで怪しまれるのは大和も気分が悪いですし」

加賀 「元々決定権は大和さんにないのよ」

大和 「・・・そうでしたね」

大和 「それだけ録音データで大和が言いなりになる自信がおありなら、負けろと言えば良いじゃないですか?」

大和 「何故はっきりとさせずに、大和に模擬演習を辞退させるのですか」




565以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/29(金) 02:38:19.13Ve+vF1j60 (17/19)



加賀 「何が聞こえにくいよ」

加賀 「聞こえてるじゃない?模擬演習を辞退するようにって私の言葉が」

大和 「明瞭に聞こえなかっただけですから・・・勘違いさせていましたか?」

加賀 「食えない女・・・」ボソ

大和 「何ですか?」

加賀 「何でもないわ、辞退してもらうのはあくまで念のためよ」

大和 「はぁ・・・わかりました」

大和 「他に命令はないんですか?」

加賀 「やけに従順ね、何が言いたいの?」

大和 「朝潮さんが勝手に暴れて、大和のせいにされて提督に秘密を暴露されても困るんで」

加賀 「大和さんが、朝潮に「加賀が荒潮さんを殺してなかった」と言ってくれるの?」

大和 「そうです」

加賀 「・・・好きにしたら?」

大和 「はぁ?」

加賀 「あなたの大破進軍の推理材料にした、私と提督の会話は本物よ」

加賀 「だから、私が荒潮を意図的に殺したというのは、実に筋が通ってるわ」

加賀 「今更否定したら逆に怪しい位にね」

加賀 「けど、私と同じ能力者の朝潮だけが気付くことがある」

大和 「?・・・どういうことですか」

加賀 「あなたにはわからないことでしょうね」

加賀 「そして、教える義理もないわ」

大和 「そうですか・・・」

加賀 「もう、何もなければ解散しましょう・・・じゃあね」


 加賀が気配を消した。

 大和も頭を整理するためか、少し海を眺めた後に時間を置いて歩き出した。

 最後に暗闇でごとりと音を立て、朝潮が艤装を持ち上げた。


 朝潮は、暗闇からこの会話を全て聞いていた。

 艤装を下ろし、同調を消し、完璧な・・・筈だった。

 大和の同調に当てられ、音を立ててしまうその時までは。

 静かにその場を去る朝潮の心は、破裂寸前の風船のように混乱で一杯になっていた。



―――――
―――





566 ◆oUFoaE/FvU2016/07/29(金) 02:39:38.96Ve+vF1j60 (18/19)

本日分投下終了です。
ご読了有難うございました。


567 ◆oUFoaE/FvU2016/07/29(金) 02:45:37.05Ve+vF1j60 (19/19)

重ね重ねとなりますが、予告を違え申し訳ありません。
書き直しに書き直しを重ねていたところ、際限がなくなり時間がかかっていました。
次はお盆前に一本投下できればと思っています。何卒今後とも宜しくお願い申し上げます。


568以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/29(金) 02:46:15.955IwRgbRAO (1/1)

このSSは俺にとっては設定も展開も悪趣味で好きになる要素など一つもない
だのに続きが気になって更新の度に見に来てしまうから困る(´・ω・`)


569以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/29(金) 02:58:47.02vB3qUe6Uo (1/1)

いいね、面白い


570以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/29(金) 04:00:58.928kkzO3xS0 (1/1)


待っててよかった


571以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/29(金) 08:55:01.11GNqKjb8YO (1/1)


朝潮ちゃああああああああああん


572以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/29(金) 20:35:48.802Pg02aX+O (1/1)




573以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/07/30(土) 00:56:52.07a94ne2Ebo (1/1)

あと38年くらい見といたら確実に完結するかな


574 ◆oUFoaE/FvU2016/07/30(土) 02:34:04.56tL0mbxFs0 (1/1)

遅ればせながら保守お米の皆様有難うございます。

>>568 様
読んで頂けるだけで大感謝です。
お上品な文章を書けるよう精進してまいります。

>>569 様 >>570 様 >>572 様
お米励みになります、有難うございます。

>>571 様
朝潮ちゃああああああああん
エタってらっしゃいますね。私とどちらが先に終わりますかね。

>>573 様
お米有難うございます。今後も頑張ります。

最後に以前作った作品の宣伝を。
両方ラブストーリーで、片方は夏にぴったりなものなので。
今作と違い、今作の投下一回分8000文字前後の文量でさっくり読むことができるものとなっています。
尚、作品ごとの全て(鎮守府・提督・艦娘・世界観等)が全く別物となっていますので、ご注意を。

時雨 「西村艦隊はむらむら」
http://elephant.2chblog.jp/archives/52106640.html

提督「朧駕籠」
http://elephant.2chblog.jp/archives/52110528.html



575 ◆oUFoaE/FvU2016/08/10(水) 13:41:07.28SpMIzKFy0 (1/1)

・本SSは後2-3回の投下で終わります。
・終わりまでの進捗率は50%で、8月中には終了する予定です。
お盆までに、終わらせるか一回投下して、楽しんでもらおうと思っていました。
しかし、間に合わなそうなのでご報告です。とんでもなく暑いので皆様ご自愛ください。


576以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/08/11(木) 15:14:45.884cC2O9mcO (1/1)

了解です


577以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/09/03(土) 20:49:41.16+jylYusbO (1/1)

ほっしゅ


578以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/09/16(金) 00:01:05.344HnP5Wa5O (1/1)




579以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/10/02(日) 21:09:58.74jWNu3PpS0 (1/1)

ほしゅ


580以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/10/22(土) 23:53:36.46ht9whAjRO (1/1)




581以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/11/10(木) 22:09:06.54fyzx0S+y0 (1/1)

ほ?


582以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/12/03(土) 14:05:01.64ALKRKhFvo (1/1)

ほし


583以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/12/22(木) 21:54:30.05prNfKKJYO (1/1)




584以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016/12/26(月) 21:55:11.032q2Lj09co (1/1)




585以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/09(月) 12:26:53.99uS+HeBoCO (1/1)




586 ◆oUFoaE/FvU2017/01/10(火) 01:16:43.39vyNtEHEa0 (1/1)

謹賀新春です。保守の人ありがとうございます。
以前もあった推敲している内に殆ど書き直したくなるという症状が出て、時間をかけていました。申し訳ありません。
ひとまず、次回分の投下が今週中できそうで、最終分の投下を1/24までにできるようせっせと書いています。
なにとぞ宜しくお願い申し上げます。


587以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/10(火) 01:38:59.72UjoxqQGq0 (1/2)

??????
??????????I


588以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/10(火) 01:42:22.55UjoxqQGq0 (2/2)

待ってた
デモフブキチャンガ!
( >>587 の文字化けごめんなさい)


589以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/10(火) 07:22:23.47V7i1QlZOO (1/1)

待ってたよ


590 ◆oUFoaE/FvU2017/01/15(日) 03:11:04.253KTl2DBd0 (1/28)

投下再開します


591以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 03:15:39.723KTl2DBd0 (2/28)




 息の白さがはっきりわかる外灯の元でようやく人心地がつく。


 噴き出すような大和の同調の高鳴りに四肢を吹き飛ばされたような錯覚が全身に残る。

 朝潮は自身の両手両足をさするようにあらためた。


朝潮 (良かった・・・)


 艤装との同調を解除していた小さい体は冷え切っていた。

 かじかむ手をニギニギしつつ、深呼吸をすると朝潮は艤装と同調する。


 暗闇で背負い直したためか、艤装の肩紐は変によれていた。

 肩紐と制服の間に小さい親指をすべらせ、それを正しつつ考える。


朝潮 (艤装に付いた盗聴器で、私が盗み聞きしてたのはばれるかもしれない)

朝潮 (どうしよう・・・)

朝潮 (いっそ今、艤装に付いた盗聴器を壊す?・・・・・・)

朝潮 (そんなこと・・・盗み聞きしてたのを自白するようなものよね)ハァ


 闇に吸い込まれるように、ため息が風に流され消えていく。

 白い息を照らす外灯は、訓練所のものだった。


朝潮 (訓練所・・・)

朝潮 (さっきの埠頭と殆ど同じ音のする訓練所にいたということにすれば・・・)


 誤魔化せるかもしれない、淡い期待で朝潮は訓練所に入る。

 ドアを開けると、室内に充満した熱気と火薬の匂いが朝潮を出迎える。

 間近に感じる砲声による振動が、冷やした肌に心地いい。

 戦場にいるという異常な感覚は、今の朝潮を逆に冷静にさせた。


 朝潮は壁際に並べられた待機用の椅子に腰をおろす。

 吹き荒れる混乱は、朝潮の心の風車を音が鳴るほどかき回す。


朝潮 (・・・どうなっているの?)

朝潮 (味方だと思っていた大和さんは、提督を好きで・・・命令違反を密告してた)




592以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 03:18:26.663KTl2DBd0 (3/28)



 提督に裏切られた時の怒りや絶望がごちゃ混ぜになった感覚が朝潮に蘇る。

 命令違反をした艦娘の末路・・・、提督に言われた「死刑は確実だ」という言葉が頭で響く。

 朝潮は体を震わせる。


朝潮 (あんな親身になってくれていた人が密告して、私を・・・殺そうと・・・・・・)

朝潮 (いえ・・・命令違反未遂は事実。大和さんだって好きで通報したわけじゃ・・・)

朝潮 (いや、大和さんの行動は・・・いや、そんなわけ・・・)


 信じたくない気持ちから、朝潮は自身の善良な心根を大和へも投影していた。

 それが提督に裏切られていたにも関わらず。


朝潮 (そんなことより、荒潮の轟沈に真実はあるの・・・)

朝潮 (大和さんが私に話した情報は、執務室を盗聴して得たもので正しいのよね?)

朝潮 (加賀も、大和さんの推理材料を事実だと言ってたもの)

朝潮 (なら、加賀が私を殺そうとしたことも、私の能力を認めていることも・・・事実)

朝潮 (加賀は否定しなかった)

朝潮 (けど、加賀が荒潮を殺した犯人というのは本当だったのかしら?)

朝潮 (否定はしていないけど、肯定もしてない)

朝潮 (寧ろ…荒潮の轟沈に関して私が知覚で気付くこと、これで何かわかるっていうの?)

朝潮 (完全にわからないこともある)

朝潮 (舟遊び?損傷度を誤認させる方法?過去の轟沈?・・・)

朝潮 (いえ、わからないことがあっても問題ないわ)

朝潮 (私の知覚が、確かであるとわかったのだから・・・それで、きっと十分・・・)


 危険を冒してまで盗み聞きして良かったと思えた。

 決意を固めるように、右腕の砲塔艤装を強く握る。




593以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 03:19:57.693KTl2DBd0 (4/28)



朝潮 (この力で・・・


瑞鶴 「朝潮、大丈夫?」

朝潮 「・・・え?」


 瑞鶴と翔鶴が並んで朝潮の前に立っていた。

 戦場にそぐわない美しさを感じた。


朝潮 「大丈夫?・・・ですけど」

翔鶴 「思い詰めた顔をしていたから・・・」

瑞鶴 「悩み事があるんなら聞くわよ、色々あったでしょ?今日」

朝潮 「あ、はい・・・ご心配ありがとうございます」

朝潮 「けど・・・大丈夫です」

翔鶴 「?」

瑞鶴 「なら、いいけど・・・」

瑞鶴 「そうだ、朝潮の前を空母の人が通らなかった?」

朝潮 「すいません、考えこんでたので・・・」

瑞鶴 「そうかー」ガックリ

朝潮 「どうされたんですか?」

翔鶴 「実は訓練用の矢が所定の数から減ってて探してるの」


 訓練所では、専用の模擬弾や訓練用の矢が使われた。

 専用弾は、弾頭や炸薬量が違うという物理的な違い以外に、

 海上より狭い射撃場で同調が互いに干渉しないよう、同調を必要としない作りになっていた。




594以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 03:21:59.423KTl2DBd0 (5/28)



朝潮 「どなたかが、間違えて持ち帰ったかもしれないんですか?」

翔鶴 「訓練場を一通り探してなかったから、そうだと思うんだけど・・・」

翔鶴 「こうなると、訓練所にいた空母の人たち全員に聞くしかないわね」

瑞鶴 「あーもう最悪・・・全員に聞けば流石にばれるわよね、大目玉だわ」

翔鶴 「困ったわね」

朝潮 「ばれるって誰にですか?」

瑞鶴 「決まってるじゃない、加賀さんよ」

朝潮 「・・・加賀・・・さん」

瑞鶴 「空母のトップなのはわかるけど、ことある毎にうるさいったらないわ」

瑞鶴 「ほんと、あおっちろい顔のまま無表情で怒るから不気味だし怖いのよねぇ」

翔鶴 「瑞鶴、陰口はお止めなさい」

瑞鶴 「別にいいじゃない、加賀さんの前でも言うんだし」

翔鶴 「あのねぇ・・・」

瑞鶴 「翔鶴姉は加賀さんの肩を持ち過ぎじゃないの?」

翔鶴 「加賀さんがいて上手く回ってる部分もあるのよ」

瑞鶴 「上手くって空母に轟沈がないこと?」

朝潮 「?」

瑞鶴 「だったら、赤城さんが仕切ってた時からでしょ」

朝潮 「空母に轟沈がない?」

瑞鶴 「知らなかったの?」

朝潮 (自身の仕切ってる空母艦娘に轟沈がない?)

朝潮 「はい・・・、え、じゃあ空母の人で轟沈した人はいないんですか」

瑞鶴 「そういうことになるけど」

朝潮 「これまでずっとですか?」

翔鶴 「ずっとね、鎮守府が始まって以来じゃないかしら」

朝潮 「凄い・・・」




595以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 03:25:09.363KTl2DBd0 (6/28)



瑞鶴 「そんなに凄いことじゃないのよ」

朝潮 「どういうことですか?」

瑞鶴 「提督が原因なの、空母を旗艦に編成することが多いのよ」

瑞鶴 「別に空母が特別強いからとかじゃないわ」

朝潮 「旗艦は、陣形の中心にいるから比較的安全とは聞きますけど・・・」

瑞鶴 「よく知ってるわね、その通り」

瑞鶴 「射線が通らなくて元々狙われにくいし、攻撃されても庇われることが多いの」

瑞鶴 「だから、この鎮守府は元々空母が轟沈しにくいってわけ」

朝潮 「ほぉ・・・何か、加賀さんが特別にやっていることはないんですか?」

瑞鶴 「何か?空母が轟沈しないために?」

朝潮 「はい」

瑞鶴 「訓練訓練訓練、訓練くらいよ・・・」

翔鶴 「訓練ね」

朝潮 「ただの訓練ですか」

瑞鶴 「文字通りただの訓練よ、それも実戦を離れた基礎的な内容ばかりよ」

瑞鶴 「何の意味があるんだか」ハァ

瑞鶴 「普通の訓練で轟沈しない同じ成果を出してた赤城さんの方が、よっぽど優秀だったわよ」

朝潮 「そうなんですか・・・」

翔鶴 「余り言いすぎては駄目よ、瑞鶴」

翔鶴 「空母だって重点育成艦娘がいる時は旗艦を外れるのだから、轟沈する危険はあるわ」

翔鶴 「それに、訓練で私達空母の攻撃力が増せば、それだけ他艦の轟沈を防ぐことに繋がる」

瑞鶴 「あの基礎的な訓練で?!」

翔鶴 「基礎が一番大切って言うでしょう?」

翔鶴 「それを別にしても、轟沈がないせいで空母に対して他艦の子から風当たりが強かったわ」

翔鶴 「あの時の、お互いにぎすぎすしてた空気を瑞鶴は覚えてるでしょ?」

瑞鶴 「まぁね・・・」

翔鶴 「轟沈しないのは空母が卑怯だからとか、轟沈は空母のせいじゃないかとか・・・」

翔鶴 「言われてたわよね?」

瑞鶴 「・・・」

翔鶴 「加賀さんが猛特訓を始めたお陰で、あの空気がなくなったのも事実じゃないかしら」

瑞鶴 「加賀さんの訓練が厳しすぎて他のみんながドン引きしただけでしょ?」

翔鶴 「それもあるでしょうけど、結果は結果よ」

翔鶴 「基礎的な訓練も何か深い目的があってのことと思うわ」

瑞鶴 「うーん・・・」

瑞鶴 「私達への嫌がらせじゃない?」

翔鶴 「もう・・・」




596以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 03:27:02.783KTl2DBd0 (7/28)



朝潮 「具体的にどんな訓練をするんですか?」

瑞鶴 「艤装との同調・解除を100セットとか」

朝潮 「え、えぇ・・・」

瑞鶴 「ほら、朝潮も引いてるじゃない?翔鶴姉」

翔鶴 「はぁ・・・そうね」

瑞鶴 「朝潮も似たようなもんでしょ、戦闘の合間に加賀の艤装と同調させられてるんでしょ?」

翔鶴 「朝潮さんの同調は、他艦種艤装への同調で私達と比べられるものじゃないわ」

瑞鶴 「まぁね」

瑞鶴 「なんであんな危険なことさせるのかしら。いつも考えてることわからないわ、あの人」

翔鶴 「上には上の考え方があるのだし、余り考えすぎても混乱するだけよ」

瑞鶴 「その考え方が私達下々のもののためでもあってほしいわねー」

朝潮 「あの・・・」

瑞鶴 「ん?」


 朝潮は喉から出掛かった加賀のことを聞きたい、知りたいという気持ちを抑える。

 まだ艤装には盗聴器が付いているはずで、怪しい動きはできなかった。


朝潮 「・・・訓練用の矢を探すの手伝いましょうか?」




597以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 03:29:35.013KTl2DBd0 (8/28)



瑞鶴 「ありがとう、けどさっき言った通り訓練所は一通り探したのよ」

翔鶴 「もう覚悟するしかないわね」

翔鶴 「訓練用とは言え備品を失くすのは不味いものね」

瑞鶴 「訓練用の矢なんて弓道に使われるような普通の矢だから殺傷力は低いけど・・・」

瑞鶴 「そういう問題じゃないもんね・・・」ハァ

朝潮 「弓道・・・訓練用の矢・・・」


 大和の足に刺さった矢が、折られて海に投げられたのを思い出す。

 あの矢は訓練用の矢と、加賀が言っていた筈だった。


朝潮 「矢なら加賀さんが・・・も・・・」

瑞鶴 「加賀さん?」

朝潮 「!」


 朝潮は背後から急に現れた同調に、振り返る。


朝潮 「加賀っ・・・さん」

瑞鶴 「げぇっ!!」

翔鶴 「すいません!!訓練用の矢を紛しっ

加賀 「朝潮・・・何で矢のことを知っているのかしら?」

朝潮 「!!!」


 朝潮は弾かれたように飛び出した、加賀の脇を縫って出口へ。

 朝潮が加賀の脇を抜けようかという瞬間に、加賀は艤装をがっちりと掴み引き戻す。


朝潮 (くっ・・・・・・)


 慣性で突き進む体に肩紐が大和の時より深くめり込み、朝潮の小さい心臓だけが前に飛び出しそうになる。

 少し漏れたような気がした。



―――――
―――





598以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 03:33:11.583KTl2DBd0 (9/28)




 朝潮は、自身の艤装を武器庫に収めるために暗い廊下を歩いていた。

 非番の時、警戒要員以外の艤装は、武器庫に保管することになっている。


朝潮 (加賀の言葉)


 あの後、加賀は一言耳打ちすると、朝潮をすぐ解放した。


加賀 「死にたくなかったら・・・明日の出撃で、全ての攻撃を避けなさい」


朝潮 (どういうこと?)

朝潮 (加賀には、会話を盗み聞きしていたのはばれてる、それは間違いない)

朝潮 (あそこで殺すことができなくても、私を捕まえて連れ出すなり出来たはず)

朝潮 (そんな素振りもなかった)

朝潮 (だったら、加賀にとってあの会話は聞かれても問題ないということ???)

朝潮 (それより・・・言葉の意味は?)

朝潮 (加賀の言った”荒潮の死に付いて私が能力で気付くこと”・・・)

朝潮 (それが、明日の全ての攻撃を知覚で避ければ、わかるってこと?)


 考え込みながらも体はいつもの通り動き、武器庫に着いていた。

 朝潮は定形の挨拶をして、自身の艤装を担当の陸奥に差し出す。


朝潮 「艤装をよろしくお願いします」

陸奥 「はーい、お疲れ様」

朝潮 「陸奥さんもお疲れ様です。では、失礼します」

陸奥 「あ、朝潮ちゃん、ちょっと待って」

朝潮 「はい?」

陸奥 「大和さんが朝潮ちゃんが来たら衣料室に呼ぶようにと言ってたから」

朝潮 「そうですか・・・」

陸奥 「制服に何かあったの?」

朝潮 「あっ・・・っはい、そうなんです」

陸奥 「?」

朝潮 「・・改めて失礼します!」ササッ

陸奥 「行ってらっしゃ~い、若いんだから早く寝なさいよ~」ヒラヒラ

朝潮 (大和さんと加賀の会話で呼ばれるのはわかってたけど)トコトコ

朝潮 「早すぎる・・・」ボソ


 加賀に盗み聞きが露呈したことへの動揺がぶり返す。

 大和にも盗み聞きがばれるのではないかという不安が、朝潮の頭をかすめた。


朝潮 (ありえない・・・わよね?)




599以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 03:35:42.453KTl2DBd0 (10/28)



 歩く朝潮の横で海風に吹かれ窓がカタカタと鳴っていた。

 朝潮は立ち止まり、窓に映る自分の顔を見る。

 疲れて血色が悪くハリのない顔が、廊下の切れかけた蛍光灯に照らされていた。

 それを拭うように首を振る、意味がないのはわかっていた。

 悶々としたまま衣料室に着く。部屋の前で大和が待っていた。


大和 「顔色が優れませんけど、大丈夫ですか」

朝潮 「いえ、頭を整理しようと訓練所にいたら加賀が来て・・・逃げてきました」

朝潮 (本当のことだ、これなら・・・動揺していてもおかしくない)

大和 「そうですか、何もなかったんですか?」

朝潮 「はい、すぐ逃げたので」

大和 「本当ですか?」

朝潮 「え・・・本当です」


 大和が朝潮を覗き込むように見ている。

 緊張から来る汗が朝潮の皮膚を這う。


朝潮 (話を変えないと・・・)

朝潮 「そうです!何で私を呼んだんですか?」

大和 「ここからは・・・衣料室の中で話しましょうか」

朝潮 「はい」

大和 「どうぞ」


 大和の手に導かれて入室する。

 武器庫からそう遠くない白い一室。

 窓口が付いており、ここで朝潮は何度も新しい制服を支給してもらっていた。

 しかし、中に入るのは初めてだった。


朝潮 「失礼します」


 中は窓口近くに机と椅子が二つずつある以外、棚が壁に沿って所狭しと並んでいる。

 朝潮は純粋な興味のまま、並んだ棚を眺める。




600以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 03:40:56.653KTl2DBd0 (11/28)



朝潮 「この棚は・・・制服を収める棚ですか?」

大和 「そうです」

朝潮 「これ、全部が・・・」

大和 「ふふっ、中を見るのは初めてですか」

朝潮 「はい」

大和 「この鎮守府も300人を超える大所帯ですから」

大和 「種類だけでなく皆さんが安心して戦えるようにそれぞれの在庫の量も多くなってます」

朝潮 「なるほど・・・、棚の中を見てもいいですか?」

大和 「どうぞ」


 棚の側面には艦種・艦型のタグが貼り付けられていた。

 朝潮は一通り棚の側面を歩きながら眺めると、「朝潮型」のタグが付いた列に入る。

 自身や同じ朝潮型の制服が、綺麗に積み重ねられていた。


朝潮 (霞、大潮・・・荒潮・・・朝潮、これが)コ


 朝潮がちらりと横目で見ると、大和は窓口にカーテンを引いている。

 朝潮は、それを確認すると梱包された自身の制服に無言で手を伸ばす。


朝潮 (この制服が・・・原因かもしれない)ゴクリ


 鼓動は速く、手は慣れないことに戸惑い止まりかけのオルゴールのように小刻みに震えた。


朝潮 (盗る?盗ってもどうやって隠して持ち出すの?)


大和 「初めてで興味深く気になってしまうのはわかります」

朝潮 「っ」ビクッ

大和 「しかし、制服も燃料弾薬のように重要な戦略物資です」

大和 「触るだけにして、間違いのないよう元に戻してくださいね」

朝潮 「はっはいっ」パッ


 朝潮は、反射的に手を引っ込める。

 声の方を見ると、大和は朝潮が入った棚と棚の入り口にもたれかかって朝潮を見ていた。

 棚は部屋の壁面に垂直に並べられており、朝潮から見て大和の反対側には壁しかない。

 息苦しさを感じ、引っ込めた手を再び伸ばし自身の制服を手に取り、食い入るように見る。

 梱包する半透明の袋が、パリパリとその場の空気にそぐわない軽快な音を発している。

 その奥の制服は、何時も支給されている何の変哲もない制服でしかなかった。




601以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 03:46:11.593KTl2DBd0 (12/28)



朝潮 「何時もの制服ですね」シゲシゲ

大和 「それはそうですよ」

大和 「梱包で密封されて、空調の利いたこの部屋で数量を含めしっかり管理されています」

大和 「轟沈を防ぐためのものですから、当然ですけどね」

朝潮 「なるほど・・・」

朝潮 (無理・・・か)


 手に取った自身の制服を元あった場所に置く。

 大和の方を向くと、大和が悲しそうな顔で口を開いた。


大和 「朝潮さん、重要な話があります」

大和 「大和は明日の模擬演習を辞退します」

朝潮 「え??・・・何でですか!?」


 衣料保管のためか、空調のきいた室内は清浄で乾燥していた。舌が乾く。


朝潮 「説明してもらえますか?」

大和 「申し訳ありませんが、理由は言えません」

朝潮 「加賀が・・・犯人ではなかったんですか?」

大和 「何で、そう思ったんですか?」

朝潮 「あ、いえ・・・止めるということはそういうことかと」

大和 「・・・加賀さんとは決着をつけます」

大和 「後日、改めて、模擬演習を挑んで」

朝潮 「加賀が受ける保証はあるんですか?」

大和 「受けざるを得なくします」

大和 「けれど、加賀さんが懲らしめられる姿は、朝潮さんは見られないかも知れません」ニコ


 質問を許さない大和自信満々の笑顔。


朝潮 (加賀がやられる姿を私が見られない???・・・)

朝潮 (再戦を加賀に約束させるために邪魔な私を・・・)


 制服は密封されており、少々の血が付いても簡単に処理できるだろう。

 この密室は、朝潮を縊り殺すのにちょうどよく思えた。


朝潮 (まさか・・・)ハハ




602以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 03:49:08.123KTl2DBd0 (13/28)



朝潮 「何で見られないんでしょうか?」

大和 「私達の会話は全て聞かれていましたから」

朝潮 「えっ・・・」

朝潮 (ばれたの?!)

大和 「そんなに驚かなくても・・・」

大和 「会話を聞かれていたのは、加賀さんの口振りから想像がつくかと思いましたけど」

朝潮 (・・・大和さんと加賀のじゃなく、大和さんと私の会話か)

朝潮 「すいません・・・全てということは、作戦の方も?」

大和 「勿論です」

大和 「なので、加賀さんに再戦してもらうため、朝潮さんに新たな協力をしてもらいたいんです」

朝潮 「出撃中に加賀の同調に私が介入する、とかですか?」

大和 「作戦は聞かれていたんです」

大和 「あの抜け目ない加賀さんなら何か対策をするでしょうし、同じ手は通じないでしょう」

大和 「そもそも、その方法では同調の解ける朝潮さんが実戦だと非常に危険です」

大和 「それに、同調が解けていれば犯人というのも周囲に丸わかりです」

朝潮 「確かに…」

朝潮 (そうか、同調を解けば沈むわよね・・・)

大和 「なので、朝潮さんに同調へ介入してもらうのは止めるということです」

大和 「ただし、大和が模擬演習を加賀さんに改めて申し込む日に・・・・」

大和 「大和が提督にお願いして、朝潮さんには遠征などで鎮守府を離れてもらうことになります」

朝潮 「私がいなければ、公正な模擬演習として加賀も受けざるを得ないということですか…」

大和 「その通りです、今日も一度は受けたんです」

大和 「改めて申し込んでも、プライドの高い加賀さんなら絶対に受けるでしょう」

朝潮 「わかりました」

大和 「ありがとうございます」

大和 「協力して頂けると思っていました」ニコ




603以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 03:51:59.643KTl2DBd0 (14/28)



 言い終えるか、大和が朝潮に近付いた。

 抜き身の刃物のような威圧感が、朝潮のほぼ直上から叩きつけられる。

 朝潮は直前の様子から想像できない事態に、後ずさる。


大和 「ところで・・・」

朝潮 「?」

大和 「何を聞いたんですか?」

朝潮 「っ!!!!!!」

朝潮 (今度こそ埠頭での盗み聞き?!ばれっ?!!何で!!!)


 想定した問答を終え、朝潮は油断していたのもある。

 後退する朝潮の体を、大和がしっかりと両腕で捉えた。




604以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 03:57:50.343KTl2DBd0 (15/28)



朝潮 「なっ、何のことですかっ?」

大和 「朝潮さんはわかりやすいですね」

大和 「何か隠していることはわかっていました、最初から」

大和 「大和と話していた時に比べて、加賀さんに対し攻撃的でなくなっていませんか?」

大和 「大和と話していた時のままなら、訓練場で一悶着ある方が自然というものです」

朝潮 「・・・」

大和 「訓練所で加賀さんに何かされたか・・・吹き込まれたんじゃないですか?」

大和 「その動揺が証左です、素直に教えてくれませんか?」

朝潮 (埠頭の盗み聞きは、ばれてない!??)


 ほっと吐きたい息を飲み込み、俯き動揺したふりをしたまま答える。


朝潮 「ここで言わなくても良いようなことでしたので・・・」

大和 「というのは?」

朝潮 「”明日の出撃で全ての攻撃を避けなさい”、と」

大和 「・・・」

朝潮 「どういう意味なんでしょう?」

朝潮 「あんな危険海域で、わざと攻撃に当たることなんてありえないのに・・・」


 頭に突き刺すような大和からの視線を感じる。




605以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 03:59:07.093KTl2DBd0 (16/28)



大和 「そうですか・・・」ジッ

大和 「本当のようですね」パッ

大和 「しかし、それは・・・大和にも意味がわかりませんね」トコトコ

大和 「気負わせて朝潮さんにプレッシャーをかける積もりではないですか?」

大和 「現に朝潮さんは動揺していらっしゃるわけですから」

朝潮 「なるほど・・・」

大和 「しかし、朝潮さん、安心なさってください」

大和 「提督が朝潮さんを気遣って、明日出撃させる際は旗艦にして様子を見ると仰っていました」

朝潮 「そうなんですか・・・」

朝潮 (執務室盗聴で得た情報?)

大和 「正直に話してくれてありがとうございます」

大和 「また何か加賀さんに言われたり、されたら、大和に話して下さいね」

大和 「出来る限りお力になりますから」

朝潮 「はい」

大和 「さ、話はお終いです。夜も遅いですし解散しましょう」

大和 「これから大和は提督に明日の模擬演習辞退を伝えないといけないんです」

大和 「おやすみなさい、朝潮さん」

朝潮 「はい、おやすみなさい、大和さん」


 追い立てられるように朝潮は衣料室を出される。

 時間を置いて、大和も衣料室を出て鍵をかける。

 提督のもとへ向かう大和の手元の紙袋から、パリパリと音がなっていた。



―――――
―――





606以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 04:02:35.713KTl2DBd0 (17/28)



 朝潮は、鎮守府から寮への廊下を歩く。

 消灯時間の過ぎた寮は非常灯以外の照明が切れ暗く、闇が住人に代わり息づいている。


朝潮 (大和さんに会っても、わからないことが多過ぎる)

朝潮 (もう、私がどうするかを考えるしかない)

朝潮 (次の轟沈が出る前に、轟沈が人の手によるものか・・・私が判明させる)

朝潮 (でも・・・できるの?未だに何をすればいいのかもわからないのに・・・)


 思い出したように、歩く足が震えていた。


朝潮 (情けない・・・)

朝潮 (そもそも犯人がいたとして、こんな私に何ができるのかしら・・・)


 悪い考えは蓋を外すと一斉に溢れ出しそうになる。

 それでも両足に力を込めて進む。


朝潮 (わかること、できることからやっていくしかないわよね)

朝潮 (まず、加賀の言うように知覚で逃げ回って何が・・・)


加賀 「死にたくなかったら・・・明日の出撃で、全ての攻撃を避けなさい」


朝潮 (死にたくなかったら・・・死にたくない、ん?)

朝潮 (この意味って・・・被弾したら危ない、ということじゃ・・・ない!??)

朝潮 (明日の出撃で私が被弾すると、加賀に不都合だから許さない殺すって意味にも・・・)

朝潮 (だとしたら・・・)

朝潮 (損傷度の確認で、加賀に不都合な事実があるってこと??)


 制服を触ったり引っ張ったりしてみる。いつもの制服だ。




607以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 04:05:14.843KTl2DBd0 (18/28)



朝潮 (大和さんの言葉を信じるなら、明日は私が旗艦)

朝潮 (まず轟沈しないのも、この予感を裏付ける・・・)

朝潮 (私が確かめるしかない・・・被弾してでも)

朝潮 (もし、本当に被弾が危険でも、私なら損傷度が知覚でわかる)

朝潮 (私にしかできない!!)

朝潮 (けど・・・私が損傷度や制服におかしい点がある、と出撃中に報告しても・・・)

朝潮 (提督は進撃を止める?)

朝潮 (止めなければ・・・その時は、同調が落ちていようが、知覚で避けるしかない)

朝潮 (同調が、落ちていようが?・・・無理よね、昨日は中破でさえ・・・あれ・・・)

朝潮 (昨日の荒潮大破と私の中破・・・違和感・・・荒潮の日記・・・一昨日の制服交換)


 記憶が手品師の口から出る万国旗のようにハタハタと繋がり飛び出してくる。

 朝潮は自身の部屋の前で踵を返し、霞と大潮の部屋へ歩き出した。


朝潮 「・・・」コンコン

大潮 「は~い」

霞 「誰よ、こんな時間に」ガチャ

大潮 「朝潮ちゃん?」

霞 「はぁ・・・寂しいの?しょうがないわね!一緒に寝てあげてもいいわよ」

大潮 「お泊りですか?!」

朝潮 「霞・・・」

霞 「?・・・何よ?じろじろ見て」

朝潮 「服、脱いで」

霞 「はぁ?!///////////」



―――――
―――





608以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 04:09:25.783KTl2DBd0 (19/28)




~翌日 深夜 洋上~


 指揮作戦艇は照明も付けず、自動操縦である地点に向かって闇の中を走っている。

 艇内、朝潮を絞った部屋に提督と加賀はいた。


加賀 「二日連続で出撃が少なかったわね」

提督 「そんなこともある」

加賀 「朝潮のせいよね?」

提督 「お前の言った通り・・・混乱した朝潮が、戦闘中やけに被弾してな」

加賀 「報告書を見たけど、旗艦の朝潮を狙った攻撃には殆ど当たっていたようね」

提督 「そうだ・・・で、加賀に聞こうと思っていた」

提督 「何で朝潮がこうなったかわかるか?」

加賀 「元々不安定な能力なのよ」

加賀 「友人の死、能力の否定、不幸が重なったとしか言えないわね」

提督 「そんなことくらいで満足に能力も発揮できないのか」

加賀 「これまでも言ってきた筈よ」

提督 「それにしても、一戦目二戦目・・・雑魚ばかりの海域で満足に動けんとは」

加賀 「ふーん・・・」

提督 「おい、まさか・・・、知覚は強い敵の動きしか察知できないとは言わんよな?」

加賀 「半分正解ね」

加賀 「光に例えるとわかりやすいわ」

加賀 「強力な深海棲艦ほど同調の高まりは大きい、言い換えれば強い光だと思えばいいわ」

加賀 「その中で、弱い深海棲艦の攻撃、つまり弱い光を捉えるのは、慣れや経験がいるわ」

提督 「知覚に開眼したばかりの朝潮は、文字通り目の開いたばかりの赤子と同じということか」

提督 「だから、昨日”朝潮が混乱の末に大破する”と言ってたのか」




609以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 04:11:24.933KTl2DBd0 (20/28)



加賀 「そうよ」

提督 「見えてきたぞ」

提督 「昨日の戦闘で、加賀が弱い攻撃にわざと当たって、荒潮を見捨てたように見えたのも」

加賀 「ご名答、タ級は弱い攻撃で意図的に私の体勢を崩しに来ていたわ」

提督 「矢張り・・・」

提督 「敵はお前の能力に気付いていたのか?」

加賀 「さぁ・・・、タイミングやタ級の戦闘能力を考えれば限りなく黒でしょうね」

加賀 「こちらからも質問いいかしら?」

提督 「ん?」

加賀 「被弾が多かったとは言え、報告書で朝潮は中破となっているわよね」

加賀 「何で大破もしていないのに撤退したの?」

提督 「被弾を怖がってな・・・」

加賀 「ふーん」

提督 「何だ」

加賀 「てっきり・・・制服が中破なのに大破してる気がする、と朝潮が言い出したのかと思ったわ」

提督 「やけに具体的だな」

加賀 「違うの?」

提督 「間違ってない、これも朝潮の不安定な知覚のせいか」

加賀 「かもしれないわね」

加賀 「それにしても・・・出撃後、あなたが私でなく大和さんを執務室に呼んでいたけど」

加賀 「あなたも大和さんと朝潮が仲がいいのを知っていたのね」

提督 「・・・あぁ、大和には朝潮の精神的フォローを頼んだ」

提督 「PTSDだったら、除隊させることも考える」

加賀 「ありえないわね」

提督 「PTSDがか?」

加賀 「そう」

提督 「だろうな」クク

提督 「朝潮はもう壊れてるよ」




610以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 04:14:05.003KTl2DBd0 (21/28)



加賀 「?」

提督 「加賀は艦娘が人を殴る時に、何%の力が出るかわかるか?」

加賀 「身体を壊さないよう脳がストッパーをかけて、人間は10%前後しか力が出せないって話?」

加賀 「そうなら、艦娘はそのストッパーを外すから、100%じゃないかしら?」

提督 「次第点の回答だな、実際は50%かそこいらだろ」

提督 「人を殴るのに脳内でかかるストッパーは、自身の保護だけじゃない」

提督 「一人の人間を終わらせることへの躊躇い、いわゆる精神的なストッパーも働く」

提督 「非力な女に多いと思われてる滅多刺しな、確実に殺すために何度も刺すことだが」

提督 「余り知られていないが男も多い、無意識に加減して男でも人一人簡単に殺せやしない」

加賀 「それと朝潮に何か」

提督 「朝潮はな、荒潮が轟沈した戦闘で、タ級へ攻撃した時、躊躇いが一つもなかった」

加賀 「はい?人間の話から何で対象が深海棲艦の話になるの?」

提督 「深海棲艦は強いものほど、人型に近付き知識を持ち人語を解し感情を持つ」

提督 「言ってしまえば、人間臭くなる」

加賀 「そこに躊躇いが生まれる・・・」

提督 「そうだ、お前のように生粋の職業軍人のように処理できる者は少ない」

提督 「が、朝潮にもその資質がある」

提督 「おれがそうした」

加賀 「それを壊れてるというなら、この鎮守府は崩壊しているも同然ね」

加賀 「これだけ沢山深海棲艦を殺し、轟沈で味方に死人を出し、戦意が落ちないのだから」

提督 「理想の鎮守府だ」

加賀 「偉くなったら離れることになるわよ、この海とも」

提督 「そうだな」

加賀 「あなたはどうする積もりなの?偉くなって」




611以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 04:17:12.973KTl2DBd0 (22/28)



提督 「おれは何も変わらない、これまで通り力を求めるだけだよ」

加賀 「力? 私や大和さんじゃ足りないの?」

提督 「あぁ、足りんな」

提督 「それに、そもそも力として質が違う」

加賀 「質が?」

提督 「お前は力を何だと思ってる?」

加賀 「敵を打ち倒す能力じゃないの?」

提督 「実にお前らしいな、間違ってない」

提督 「力とは、目的を実現する能力だ」

提督 「その目的が、お前は敵を打ち倒す能力だったということだ」

加賀 「だとしたら、あなたの目的は?」

提督 「おれの戦術・思想で結果を出し、軍をおれ色に染めることだ」

加賀 「本気?」

提督 「人間どこかで欲望の限界を知る」

提督 「法、社会、道徳、能力、どこかでな・・・おれは未だ折れたことはない、が」

提督 「おれの目的を、我を通すのに、いつしかおれじゃなく周囲を折れば良いと気付いたんだよ」

加賀 「回りくどいことをしないで、政府でも転覆させれば?」

提督 「できると思うか?」

加賀 「・・・」

提督 「艦娘が兵器として優れていることは論を俟たないが、所詮生身の小娘よ」

提督 「補給がなければ戦闘継続は困難、毒でも盛られれば一瞬で終わるだろうな」

提督 「それに艦娘としての弱点もある」

加賀 「海から離れるほど艤装能力が発揮できなくなること?」

提督 「それも一つだ」

提督 「入居ドックと開発工廠の技術を一部の国が握り込んで離さないのも大きい」

提督 「だから、商売になる訳でもあるが・・・」

加賀 「取引のこと?」

提督 「それはいいとして、今はこんなものもあるしな」


 提督が鉄の塊を加賀に投げてよこす。

 加賀はそれを受け取ると、手で回しながら見る。




612以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 04:19:39.523KTl2DBd0 (23/28)



加賀 「ただの自動拳銃じゃ・・・ないわね」

提督 「お前ならすぐ気付くと思ったよ」

提督 「横のマガジンリリースボタン、そうだ、その出っ張りを押してマガジンを見てみろ」

加賀 「これ・・・まさか」

提督 「そのまさかだ」

提督 「この拳銃弾は、深海棲艦のコアを削り化学処理をかけて作られた特殊弾頭になってる」

加賀 「地上軍が、対深海棲艦用に火砲弾として使ってるとは聞いていたけど・・・」

提督 「拳銃弾まで小型化されてるのは極秘だ、これは一部提督にしか配られていない」

加賀 「轟沈などが多くて、艦娘に寝首をかかれそうな提督かしら?」

提督 「そうだ」クク

加賀 「つまり、これなら艦娘も・・・」

提督 「防御壁を中和して貫通し殺せる、ということだ」

提督 「今や、人間にとって艦娘はそこまで脅威でないということだな」


 一頻り眺めた加賀は、マガジンを拳銃に収めると、提督に手渡す。




613以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 04:21:49.893KTl2DBd0 (24/28)



提督 「ところで、女には男の権力・身分・地位と結婚する人種がいる」

加賀 「は?」

提督 「そういう女にお前を見習わせたいよ」

加賀 「いきなり何?」

提督 「月が綺麗ですね、という言葉を知ってるか」

加賀 「文豪が英語の愛してるを翻訳したという話かしら」

提督 「そうだ」

提督 「愛とは、究極なところ価値観や思想の同化もしくは共有とは思わんか?」

加賀 「セックスしてお互い気持ち良ければ愛なのかしら?随分チープね」

提督 「確かにそれも一つの愛だ」クク

提督 「おれはこの鎮守府を愛し、おれ色に染めた」

提督 「死と戦闘への恐怖は練度に、怒りは戦意に」

加賀 「次は地方本部を愛して、血みどろの戦場に変えるの?」

提督 「おかしいのは制服の損傷度でほぼ安全に戦える今と思ったことはないか?」

提督 「剣、弓、鉄砲、大砲、空爆、ミサイル、ドローン、兵器だけじゃない」

提督 「命令系統も、上に上にと、上意下達の絶対服従、殺し殺される対象は今や国が決めてる」

提督 「戦争の歴史は、殺し殺される感覚・意識からどれだけ兵士を遠ざけるかという歴史と言っていい」

加賀 「士官学校の復習は結構なのだけど」

提督 「まぁ、聞け」

提督 「それで強い兵士ができると思うか? Noだ」

提督 「空爆やドローン、地上戦ではNVゴーグルで一方的な戦闘を展開してる某軍隊が」

提督 「年々排出するPTSD患者がどれだけいると思う? 大戦時より多いぞ 」

提督 「人間は弱くなったんだよ、戦争が安全に清潔になってな」

提督 「おれはその戦場に牙を取り戻そうというんだ」


 その時、提督はモニターに現れた輝点を認める。




614以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 04:27:53.163KTl2DBd0 (25/28)



提督 「時間だ、上がるぞ」

加賀 「本当に私は何もしなくていいの?」

提督 「あぁ」

提督 「この紙袋と相手のブツを交換したら、下部扉を解放してコアを流しながら当海域を離脱するだけだ」

提督 「取引はスマートにしないとな」

加賀 「そう」


 歩く提督が揺らす紙袋からパリパリと音が漏れる。

 天気は曇り、甲板からは宇宙を臨むような暗黒が広がっていた。

 提督は甲板に上がるとライトを振る。

 すると、暗闇からエンジン音とともに外国語で識別記号の書かれた船体が滑り出してきた。

 同時に、指揮作戦艇と取引相手の正体不明の船体が、カッと照らされる。


?? 「そこの所属不明艦二隻、臨検を行うので直ちに停止しなさい」

提督 「はぁ?!・・・甲板から身を隠せ!!!」

加賀 「はいっ!」


 二隻の船上でカンカンと、騒がしく人間が蠢く音が交差し、ほぼ同時に逆方向に発進した。


提督 「ははははは、憲兵か」

加賀 「そのようね、どうするの?」

提督 「鎮守府に戻る」

加賀 「正気?」

提督 「あぁ」

提督 「少ししたら、加賀は甲板に上がって憲兵が追ってくるか確認しろ」

提督 「もし、追いつきそうなら・・・そうだな」

提督 「向こうが証拠と誤認しそうな艇内の備品をばらまけ、追撃の手も鈍る」

加賀 「わかったわ」


 重い沈黙が、艇内を包む。

 それでも提督に悲壮感はなく、寧ろ胸が踊っていそうなほどにこやかだった。


―――――
―――





615以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 04:44:18.103KTl2DBd0 (26/28)



 提督の指示で加賀は甲板に立ち、後方を警戒している。

 あれから暫く、提督は指揮作戦艇を蛇行させ続けていた。

 加賀が、追手が確認しないのを待って鎮守府へ戻る算段だ。

 加賀の後ろで足音がする。


提督 「追手は来ているか?」カツカツ

加賀 「いえ、今のところは」

提督 「そうか」

加賀 「無事で良かったわね」

提督 「ハッ、憲兵も流石にいきなり撃ってくることはないだろ?」

加賀 「そちらじゃないわ、取引相手よ」

加賀 「こちらを沈まない程度に攻撃すれば、指揮作戦艇が沈まないように憲兵隊を一隻・・・」

加賀 「こちらが重傷を負えば、軍病院への搬送でもう一隻、足を止められたわ」

提督 「なるほど」

加賀 「殺されるかもしれなかったのよ?!」

提督 「心配してくれて嬉しいよ」

提督 「けど、お別れだ」ゴリ


 冷たい鉄の感覚が加賀の頭に押し付けられる。

 さっき触った対艦娘用自動拳銃が、自身に突きつけられていることに加賀は気付く。




616以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 04:45:59.113KTl2DBd0 (27/28)



加賀 「どういうことかしら」

提督 「シナリオはこうだ」

提督 「お前に脅迫され、嫌々取引に参加していたおれが、隙を突きお前を殺す」

提督 「鎮守府の再評価には時間がかかるが、仕方ないだろう」

加賀 「あなたに情はないの?」

提督 「残念だと思ってるよ」

提督 「できれば、追ってくる憲兵にお前が証拠品を投棄する姿を見せ、主犯と思わせてから殺したかったんだがな」

加賀 「人でなし!!」

加賀 「私の能力がなくて、やっていける積もり?!」

提督 「問題ない、知覚のある朝潮をおれ色に染めて使うことにした」

加賀 「っ・・・!!!!」

提督 「せめてもの情けで楽に殺してやる」


 引き金は軽かった。

 パンパンパン、三発の乾いた銃声が海上に響き、すぐ波音に消えた。



―――――
―――





617 ◆oUFoaE/FvU2017/01/15(日) 04:48:07.703KTl2DBd0 (28/28)

本日分投下終了です。
ご読了有難うございました。
次回、最終投下予定です。最後まで宜しくお願い申し上げます。


618以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 11:00:49.83hoNAola4O (1/1)


面白くなってきたな


619以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 11:11:29.43pbl2FvVRO (1/1)

おつおつ
加賀さんが死んでこれは大和さん大勝利ですわ


620以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/15(日) 15:55:42.69UDCaDj3n0 (1/1)


続きがめっちゃ気になってきたので、ラスト楽しみ

ところで霞ちゃんを脱がすシーンの回想はまだですか?


621以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/16(月) 00:41:05.86fyN3IFBl0 (1/1)

エタったかとおもってた
続きが読めて嬉しいゾ


622以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/19(木) 06:42:26.83B+T50EHLo (1/1)

続きあく頼む


623以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/01/25(水) 00:28:16.5926UqdTCTo (1/1)

これは最終回詐欺の予感……!


624以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/02/13(月) 07:48:01.44DLmHF/HBO (1/1)




625以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/02/14(火) 10:00:43.43AUTOLIbq0 (1/1)




626以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/02/27(月) 11:12:05.44bG0qADiAO (1/1)




627以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/03/11(土) 00:19:42.36Gl6quoDeO (1/1)




628以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/03/24(金) 09:49:50.58gmB0g8C4O (1/1)




629以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/04/13(木) 23:33:09.20IcSaExDCO (1/1)




630以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/04/29(土) 23:17:05.33thYXRPiqO (1/1)




631以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/05/17(水) 20:20:21.10QkG1v+4LO (1/1)

ほっしゅ


632以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/02(金) 23:50:56.90bikLIdNeO (1/1)




633 ◆oUFoaE/FvU2017/06/17(土) 04:09:41.20rrPIBLhv0 (1/1)

お待たせし申し訳ありません。生存報告です。


634以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/17(土) 06:41:10.90DmEDgDBXO (1/1)

良かった生きてたか


635以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/17(土) 23:40:32.56ZZwDViBAo (1/1)

 


636以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/19(月) 17:42:01.11krQUfC+G0 (1/1)






637以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/24(土) 20:53:21.04dguoe2yCo (1/1)




638以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/06/25(日) 12:23:01.79WCMyY0aU0 (1/1)




639以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/12(水) 07:19:30.66VD/0SoBaO (1/1)




640 ◆oUFoaE/FvU2017/07/15(土) 00:27:59.93AV7gH2v10 (1/2)

誤字修正
>>611
を、次のレスと入れ替えお願いします。


641以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/15(土) 00:28:45.03AV7gH2v10 (2/2)


提督 「おれは何も変わらない、これまで通り力を求めるだけだよ」

加賀 「力? 私や大和さんじゃ足りないの?」

提督 「あぁ、足りんな」

提督 「それに、そもそも力として質が違う」

加賀 「質が?」

提督 「お前は力を何だと思ってる?」

加賀 「敵を打ち倒す能力じゃないの?」

提督 「実にお前らしいな、間違ってない」

提督 「力とは、目的を実現する能力だ」

提督 「その目的が、お前は敵を打ち倒す能力だったということだ」

加賀 「だとしたら、あなたの目的は?」

提督 「おれの戦術・思想で結果を出し、軍をおれ色に染めることだ」

加賀 「本気?」

提督 「人間どこかで欲望の限界を知る」

提督 「法、社会、道徳、能力、どこかでな・・・おれは未だ折れたことはない、が」

提督 「おれの目的を、我を通すのに、いつしかおれじゃなく周囲を折れば良いと気付いたんだよ」

加賀 「回りくどいことをしないで、政府でも転覆させれば?」

提督 「できると思うか?」

加賀 「・・・」

提督 「艦娘が兵器として優れていることは論を俟たないが、所詮生身の小娘よ」

提督 「補給がなければ戦闘継続は困難、毒でも盛られれば一瞬で終わるだろうな」

提督 「それに艦娘としての弱点もある」

加賀 「海から離れるほど艤装能力が発揮できなくなること?」

提督 「それも一つだ」

提督 「入渠ドックと開発工廠の技術を一部の国が握り込んで離さないのも大きい」

提督 「だから、商売になる訳でもあるが・・・」

加賀 「取引のこと?」

提督 「それはいいとして、今はこんなものもあるしな」


 提督が鉄の塊を加賀に投げてよこす。

 加賀はそれを受け取ると、手で回しながら見る。




642以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/07/15(土) 14:59:48.55ZpGWGg8eO (1/1)

ktkr


643以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/03(木) 12:14:14.61nU9VEFNgO (1/1)




644 ◆oUFoaE/FvU2017/08/07(月) 02:44:56.38k1kaA+zU0 (1/32)

投下再開します。
投下の遅れに加え、レスにて指摘のあった最終回詐欺を強行することをご容赦願いたく。


645以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 02:47:05.42k1kaA+zU0 (2/32)




 ~少し前 鎮守府~


 カーテンの隙間から差し込む夜の暗い光が、机の上のきれいに畳んだ制服に当たる。

 朝潮はベッドに体を倒し、布団を被り暗闇を睨んでいた。


朝潮 (今日の出撃も・・・私は絶対に大破してた)

朝潮 (それは間違いないけど・・・)


 連日の事件で朝潮は心も体も擦り減っていた。

 しかし、掴み取った事実は、モルヒネを打ったように朝潮の意識を覚醒させていた。

 その時、窓から入る複数のエンジン音に気付く。


朝潮 (司令官に来客?・・・それにしては少し時間が遅いような)


 ベッドから身を起こし、窓のカーテンを開ける。

 艦娘寮からは鎮守府の建物に遮られて、姿形は確認できない。

 しかし、動く照明と駆動音から、数台の車が鎮守府正面に乗り付けたのがわかった。

 続いて、暗闇に砂利を踏む音が大量に聞こえ、最低限の明かりを残し消灯されていた鎮守府が全灯される。


朝潮 「何?・・・」


 明るくなった鎮守府の廊下を、見慣れない制服を着た人間が列を成し進んでいる。

 統率のとれた集団は、執務室と提督の自室に綺麗に吸い込まれていった。


朝潮 「・・・!」


 朝潮が部屋から出ると、同じように異変を察知した艦娘が薄暗い廊下のそこかしこで塊を作っていた。

 その塊を縫いながら寮と鎮守府を繋ぐ連絡通路へ歩き出す。

 そこでは、先程の制服を着た男が二人、集まった艦娘たちを押し留めていた。

 前列で年長者である戦艦や空母の艦娘が、その男たちと押し問答をしている。


憲兵 「この鎮守府の提督に、軍を脱走した嫌疑がかかっている」

憲兵 「証拠品の押収に、鎮守府は一時閉鎖する」

憲兵 「寮も一部艦娘の部屋には、証拠品の押収に立ち入る予定だ」

艦娘達 「ざわざわ」


 男の背後に見える鎮守府の廊下では、同じ制服の男たちがダンボールをせわしなくピストン輸送している。




646以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 02:48:02.488suOUahN0 (1/1)

ktkr


647以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 02:49:39.45k1kaA+zU0 (3/32)




長門 「深海棲艦が強襲してきたらどうする積もりだ!」

憲兵 「鎮守府にいた当直の艦娘たちには、そのまま部屋で待機してもらっている」

憲兵 「代わりに指揮できる者、代理の提督と指揮作戦艇も用意してある」

憲兵 「安心して部屋で休むといい」

長門 「そうは行くか!!提督がいなくなったらこの鎮守府はどうなる!?」

憲兵 「それを決めるのは我々ではない」

長門 「明日からの出撃は?代理提督がずっと指揮をするのか???」

憲兵 「明日と言わず沙汰が下りるまで、緊急事態を除き出撃はありえない」

憲兵 「それだけでなく、鎮守府と寮からは出ないでもらうことになる」

長門 「軟禁か?!私達も疑っているということか!」

憲兵 「変に抵抗をすれば、その嫌疑も濃くなるだろうな」

長門 「ぐぅ・・・」

赤城 「すいません」オズ

憲兵 「何だ?」

赤城 「加賀さんがいないのですけど・・・」

憲兵 「その者は、提督と一緒に脱走した疑いがある」

赤城 「え?!」

憲兵 「代わりの加賀の艤装は既に武器庫に収めてある」

憲兵 「後、大和は臨時秘書艦としての引き継ぎと事情聴取のため、鎮守府にいる」

憲兵 「もし、他に寮にいない艦娘がいるようだったら、可及速やかに申し出るように」

憲兵 「以上だ、これ以上話すことはない」


艦娘達 「ざわざわざわざわざわ」


 その後、男たちは寮の加賀の部屋にも立ち入り、全ての荷物を運び出し、深夜には消えていた。

 空のダンボールが転がされた執務室にいる代理提督は、外出禁止を命じる以外は何も知らないと言う。

 残された艦娘たちの喧騒は行き場をなくし、やがて静かになる。

 静寂の中でゆったりと夜が更け、提督がいないことは実感に変わり、

 残された艦娘の殆どが、鎮守府の、地獄の終わりを受け入れ始めていた。

 しかし、朝潮は違った。


朝潮 (何も終わってない・・・何も・・・)


 部屋に戻った朝潮は、机に向かいボタンのようなものを手で転がしている。

 その時、部屋のドアノブが回った。



―――――
―――




648以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 02:51:46.06k1kaA+zU0 (4/32)




ドア 「ガチャ」

提督 「っ・・・」ビクッ


 ドアの音に覚醒した提督は、起き抜けには眩しい光に目を細める。

 その目は、何かを察したように正面のドアに向けられ動かない。

 ドアから顔の白い女が入ってくる。

 その存在は白い部屋の壁に相まって虚ろに感じられた。


提督 「どこだ、ここは」

?? 「さぁ・・・」

提督 「天国か?」

?? 「面白い冗談ね」


 提督がポケットを探ると煙草だけで、ライターはなくなっていた。

 凝り固まった首を鳴らしながら回す。

 腰に手を当てるとベルトは抜き取られ、椅子を触っても一切動く気配がない。


提督 (溶接されて動かない椅子、机もか)グルリ

提督 (右手の壁面には大きな鏡・・・いや、マジックミラーか)コキコキ


 椅子に座ったまま部屋を見渡し、腕を回し体の各所をひねってほぐす。


提督 「俗に言う・・・取調室か」

?? 「ほぼ正解」

提督 「ほぼ・・・ね」


 目の前の女は、持ってきた書類・電気じかけの四角い箱を机に置き、そのまま座った。


提督 「しかし、いつも見られているような気はしていたが、まさかお前がな・・・」

提督 「てっきり好意からのものだと思っていたが」クク

??「・・・」ガサリ

ビニール袋 「ゴトン」


 女が最後に懐から何かを取り出し机に置く。

 ビニールに包まれたひしゃげた黒い鉄塊に、提督は見覚えがあった。



―――――
―――




649以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 02:57:10.06k1kaA+zU0 (5/32)




 ~数時間前 海上~


提督 「せめてもの情けで楽に殺してやる」


 加賀の後頭部に突き付けた拳銃の引き金を絞る。

 薄明りの中、加賀が両手を挙げようとしているのを提督は辛うじて確認していた。


提督 (超常の力を持つ艦娘でもここからの脱出はできまい)

提督 (だからといって、命乞いか? つまらん・・・)


 哀れみの表情を浮かべる提督の前で、

 上げられかけた加賀の左手は腰に付けられた矢筒の底に到達していた。

 加賀はその左手の掌底で、矢筒の端を思い切り叩き回転させる。

 矢筒は繋がれた腰紐を中心に戦闘機のプロペラのように回転し、

 後頭部に突き付けられていた提督の拳銃を弾いた。

 勢いで飛び出した矢が矢筒から船上に散らばりバラバラと音を立てる。


提督 「くっ」


 提督は飛ばされそうになった拳銃を握りしめると、再度狙いを定めようとする。

 しかし、次に提督の視界が捉えたのは自身に対し正面を向いた加賀であった。

 加賀は矢筒を押すと同時に、体を捻り提督の正面に向きを変えていた。

 提督は本能的に加賀と距離を取るために後ずさろうとする。

 しかし、自動拳銃がぴくりとも動かず、その行動は中止された。

 視線を落とすと銃身がガッチリと加賀に握られている。




650以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 02:58:26.17k1kaA+zU0 (6/32)



 ~現在 白い部屋~


提督 (あの時、おれは即座に引き金を引いていた)

提督 (スライドの抽挿で加賀の手が離れると思ったからだ)

提督 (甘かった・・・三発目の発砲でスライドは後退したまま動かなくなった)

提督 (拳銃が軋む音がした時には、天地がひっくり返っていた・・・)

提督 (強かに投げられ、堅い甲板に叩きつけられたところから今まで記憶がない)

提督 (それより、どれだけ経ってる!?)


 腕時計を見ると、正午を回っていた。

 提督は薄ら笑いを浮かべる。


提督 「で、この取調室ではVIPをどうもてなしてくれるんだ・・・加賀」

?? 「もう私はあなたの加賀じゃないの・・・加賀は死んだわ」

提督 「なら、お前をどう呼べばいい?」

?? 「今の制服でわかるでしょう?」


提督 「加賀・・・いや、あきつ丸、煙草を吸うから火をよこせ」

あきつ丸 「・・・」

提督 「だんまりか」フー


 あきつ丸は表情を変えずに提督を見つめる。

 一方で提督はマジックミラーに向かい、髪を整えていた。



―――――
―――





651以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:01:29.33k1kaA+zU0 (7/32)




提督 「あの馬鹿みたいな陸軍言葉で話さなくていいのか?ん?」

あきつ丸 「陸軍言葉?・・・あきつ丸のかしら」

あきつ丸 「あれは敢えてあの特徴的な言葉遣いをしているだけよ・・・憲兵隊所属のあきつ丸は、ね」

提督 「敢えて・・・か」

あきつ丸 「他艦娘として内偵をする、もしくは内偵任務から戻る時に口調を間違えないようにね」

提督 「ハハハ、廓言葉みたいなものか」

あきつ丸 「・・・」

提督 「今思えば、その強さで前いた鎮守府が手放したこと、出撃したことが殆どないのかというほど青白い肌・・・」

提督 「不審感を持つべき点はいくらでもあったな」フフ

提督 「気付かなかったおれも悪いが、お前も悪いぞ」

あきつ丸 「何が?」

提督 「周囲に溶け込めないばかりか、突出して戦果を上げて目立つ・・・スパイとしてどうなんだ?え?」クク

あきつ丸 「今回は慣れないことをしたと思ってるわ」

あきつ丸 「確かに内偵のために、あなたの鎮守府にいた」

あきつ丸 「けれど、本来私は内偵要員ではないのよ」

提督 「内偵要員でないなら憲兵隊でのお前の役目は何なんだ?」

あきつ丸 「憲兵隊付きの機動部隊よ、抵抗する艦娘の鎮圧が主なお仕事」

提督 「ほぉ、なるほど」



652以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:02:36.89k1kaA+zU0 (8/32)


提督 「加賀の艤装は、鎮圧任務に使っていたから同調できたわけだ」

あきつ丸 「いいえ、任務中はあきつ丸の艤装を装備しているわ」

提督 「はぁ??あきつ丸の艤装じゃまるゆ位としかまともに戦えないだろう?」

提督 「改造されたらすぐ放逐されるからまるゆに不満分子が多いのは有名だが・・・」

提督 「お前、まるゆ専用の鎮圧部隊か?」ハハハ

あきつ丸 「・・・」

提督 「それにしても、機動部隊のお前に内偵をさせるほど人員不足なのか、憲兵は」

あきつ丸 「違うわね」

あきつ丸 「轟沈が多発するような鎮守府に、貴重な内偵要員を潜らせるのは博打過ぎるというだけよ」

提督 「だから戦闘能力の高いお前が抜擢された・・・」

あきつ丸 「その通りよ・・・結果としてあなたも気付かなかったし、正解じゃないかしら?」

提督 「尤もだ」クク

提督 「で、そんなにペラペラ内情を喋ってもいいのか?」

あきつ丸 「わかっているでしょう?」

あきつ丸 「あなたには、外患通謀・殺人・殺人未遂・贈賄・横領・強姦・偽造その他の嫌疑がかかってる」

あきつ丸 「あなたが日の当たる場所に出ることはもうない」

提督 「なら、そのまま軍法会議にぶち込めば良い」フ

提督 「できないから、おれを取調室に呼んだんだろう?違うか?」

あきつ丸 「・・・」



―――――
―――





653以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:04:44.50k1kaA+zU0 (9/32)




提督 「で・・・何時からおれを疑っていた?」

あきつ丸 「ここ数日ね」

提督 「ん?・・・随分と最近だな」

提督 「危険海域への出撃を再開した辺りか」

あきつ丸 「それまでは特に何の疑問も抱いてなかったわ」

提督 「疑問も抱かない?あれだけ轟沈があって?」

提督 「内偵で潜り込んだんじゃなかったのか?」

あきつ丸 「轟沈多発に対しての内偵ではないわ、地方長官に足るかという内偵だったのよ」

あきつ丸 「それに着任前に一通り資料に目を通して、轟沈が多いことは知っていたわ」

提督 「ふん・・・道理でな、着任当初に動揺も怪しさのかけらもなかった訳だ」

提督 「ここ最近の不穏さは大和との痴話喧嘩の延長かとすっかり騙された」

提督 「で、危険海域へのどの出撃で気付いた?」

あきつ丸 「朝潮」

提督 「朝潮?」

あきつ丸 「大破進軍の可能性に気付いたのは三日前、荒潮が轟沈する前日・・・」

あきつ丸 「初戦にて、荒潮が大破・朝潮が中破した出撃があったわよね?」

提督 「あったな」

提督 「編成は、加賀・日向・利根・筑摩・朝潮・荒潮」

提督 「結果は、荒潮の大破で道中撤退」

あきつ丸 「よく覚えているわね」

提督 「当然だろう?」

提督 「お前が自身で第一艦隊入りを推した朝潮の危険海域への初出撃だったというのに・・・」

提督 「中破した朝潮を殴るわ、帰投中に殺せと言い出すわ・・・お前が情緒不安定過ぎてな」

提督 「・・・朝潮よりお前を心配した記憶がある」クク

あきつ丸 「艦娘を心配する良心が残っていたのね」

提督 「艦娘を・・・か」フ



654以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:09:02.31k1kaA+zU0 (10/32)


提督 「そういえば、知覚についてお前がおれに話したのもこの出撃の帰投中だったな」

あきつ丸 「そうね」

あきつ丸 「あの説明の時、他人の同調から損傷度を計るのは難しいと言ったわよね?」

提督 「近くないとできない上に精度が低い、というやつだな」

提督 「ん、近くないとできない?・・・まさか・・・だから朝潮を殴ったのか」

あきつ丸 「そうよ、だから殴ったの・・・朝潮の損傷度を正確に調べるために」

あきつ丸 「・・・そしてあの時・・・朝潮の同調は弱く、間違いなく大破していた」

あきつ丸 「制服の損傷は中破だったのに、よ」

提督 「ふむ・・・」

あきつ丸 「わかっていたことでしょう?」

あきつ丸 「大破していても、外見は中破のままの艦娘を進撃させて轟沈しようが戦果を稼ぐ」

あきつ丸 「そうしてきたんでしょう?」

提督 「どうだったかな」フ

あきつ丸 「私は急がないといけなかった」

あきつ丸 「この時点で私はあなたが大破進軍させる方法さえわからなかった」

あきつ丸 「制服への細工か、損傷表の改竄か、他の方法か」

あきつ丸 「調べようにも元々私の任務はあなたの身元調査、大破進軍の捜査までは許可が下りてなかった」

提督 「許可を取ればいい」

あきつ丸 「もし私がのんびり正式に許可を取っていたら、十数人は追加で轟沈していたでしょうね」

あきつ丸 「だから、私で勝手に捜査を進めた」

あきつ丸 「中破した朝潮の制服、その切れ端を伝手のある科学捜査員に渡し・・・」

あきつ丸 「本来なら上から取り寄せるだけで済む損傷表を、あなたのいない執務室にもぐりこんで逐一確認した」

提督 「執務室に侵入していたのは大和から聞いていたよ」

あきつ丸 「大和さんから?」

提督 「おれのいない間に朝潮と喧嘩までしていたそうじゃないか・・・見損ねてがっかりだ」



655以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:10:54.91k1kaA+zU0 (11/32)


提督 「にしても、何であの出撃の帰投中あのタイミングで知覚について説明したのかとは思っていたが」

提督 「時間稼ぎだったとはな・・・」

あきつ丸 「知覚を知れば、慎重なあなたなら大破進軍を止めると思ったいたわ」

提督 「そんな仏心を見せながら、同じ帰投中に朝潮を殺そうと提案したのか」フフ

提督 「おれが朝潮を轟沈させれば、轟沈の真相がわかると思ったのか?」

あきつ丸 「そうね」

提督 「加賀の艤装と同調させたり、てっきり本気で朝潮を殺そうとしてるのかと思ってたがな」ハハハ

提督 「なるほど・・・これもか」

あきつ丸 「恐らく想像の通り、朝潮に触れて損傷度を確認する機会を作るためよ」

あきつ丸 「一番新しく入隊して未熟な朝潮が狙われ易いと思ったから」

提督 「酷なことをするなぁ、お前も」

提督 「生贄にしたのか、入隊して間もない朝潮を・・・」フ

あきつ丸 「あなたほどじゃないわ、それに私は朝潮を買っていたのよ」

あきつ丸 「加賀の艤装へ同調させたのは、私が抜けた後に加賀の艤装を任せたかったから」

提督 「朝潮の上昇志向なら、それを受け入れていたかもな」

提督 「それにしても・・・完全に騙されていたのか、おれは」

提督 「知覚の説明でお前が心を開いたのかと油断して、取引にまで連れて行って・・・」ククク

あきつ丸 「そうでもないわよ」

あきつ丸 「私の目論見は殆どが外れた」



656以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:11:44.30k1kaA+zU0 (12/32)


提督 「・・・」

あきつ丸 「あなたは私を朝潮殺しに巻き込まなかった」

あきつ丸 「それに、私の警告を無視して二日前に荒潮を殺し、昨日また朝潮を偽物の制服で出撃させてる」

あきつ丸 「あなたの嗅覚には驚かされるわ」

提督 「”偽物の制服”か・・・どこまで知っている?」



―――――
―――




657以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:14:32.10k1kaA+zU0 (13/32)




あきつ丸 「大和さんが知ってる範囲で素直に話してくれたわ」

あきつ丸 「取引で、あの国に本物の制服とコアを流して、見返りに金銭と偽物の制服を受け取る」

あきつ丸 「偽物の制服は大和さんに保管させ、秘書艦と出撃部隊を決めた後、制服の交換を大和さんに指示する」

あきつ丸 「偽物の制服で出撃した娘は、実際は大破していても制服は小破から中破の損傷しかしない」

あきつ丸 「当然そのまま進撃すれば・・・轟沈する」

提督 「なんだ、そんなことまで喋ったのか」

あきつ丸 「実に協力的だったわ」

あきつ丸 「あの子が好きだったのは、あなたでなく・・・あなたの地位や名声だったみたいね」

提督 「違いない」クク

あきつ丸 「艦娘の技術は、当時艦艇を持っていた国の半独占状態」

あきつ丸 「あの国も沿岸の国防は、日本から支給されるコアと制服に頼っている状態」

あきつ丸 「あなたの流したコアと制服は、あの国の予備戦力としてだけでなく・・・」

あきつ丸 「制服量産とコア精製の技術研究に、さぞ役立ったでしょうね」

あきつ丸 「あなたはあなたで、見返りの金銭を上官にばらまいて買収・・・」

あきつ丸 「偽物の制服で大破進軍を繰り返し、戦果を上げ昇進を重ねる」

あきつ丸 「ここまで何か違うところはある?」

提督 「実に面白い作り話だ」パチパチ

提督 「そんな極悪人がこの世にいると思うと肝が冷える」

あきつ丸 「大和さんが、本物と偽物の制服交換記録まで素直に提出してくれたわよ」

あきつ丸 「大和さんはよく知らないで記録を取っていたと言っていたけど」

あきつ丸 「無理もないわよね」

あきつ丸 「大した縫製技術よ、外見は完全に同じで容易に判別が付かないような仕上がりだもの」



658以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:15:56.25k1kaA+zU0 (14/32)


提督 「・・・もう鎮守府には踏み込んだのか?」

あきつ丸 「数時間前に」

提督 「それでも・・・さっき言ったように軍法会議に持ち込めない」ククク

あきつ丸 「・・・」

提督 「理由を当ててやろうか?」

提督 「おれを犯人と示す直接的な証拠が見つかってない、違うか?」

あきつ丸 「・・・」

提督 「国として外交衝突は避けたい、軍は腐敗を隠したい」

提督 「関係者の証言や状況証拠だけでは重い腰を上げないだろうな」

提督 「同情するよ」

あきつ丸 「同情するなら、証拠の在り処を教えてくれない?」

提督 「・・・」フ

あきつ丸 「ここに呼んだ目的はそれだけじゃないわ」

あきつ丸 「共犯者の有無・海外との繋ぎをどう作ったのか・・・それに、あなたのその余裕がどこからくるのか」

あきつ丸 「いくらでも聞きたいことはあるわ」

提督 「おれは最初から無実だと言っている」

提督 「なら、そんなこと知るわけがないし、焦る必要だったてないだろう?」

あきつ丸 「話す積もりはないのね、その方が燃えるからいいけれど」

提督 「ははは」

提督 「しかし、犯人がおれとしても証拠がない可能性もあるんじゃないか」

あきつ丸 「贈賄していた金額と期間から考えても、取引の記録がないと管理は不可能よ」

提督 「ほう」

あきつ丸 「それに、偽物を使うよう大和さんに何度も命令しているのだから、いくらか証拠として残っているのが自然でしょう?」

提督 「・・・それをおれが白状すると思うか?」ニヤ



659以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:18:16.45k1kaA+zU0 (15/32)


あきつ丸 「観念してこちらに協力した方が身のためよ」

提督 「”協力した方が身のため”というのは、極刑にホイップクリームか何かオプションでも付けてくれるのか?」

提督 「犯人と確定すれば、極刑未満はあり得ないのに自白する・・・と本当に思うか?」

あきつ丸 「どれだけ殺したと思ってるの?・・・あなたはそれだけのことをした」

あきつ丸 「いずれ死ぬなら教えてくれてもいいんじゃないの」

提督 「どれだけ殺した?・・・語弊があるな、あきつ丸」

提督 「おれは、艦娘をふるいにかけただけだ」

提督 「自然が弱肉強食であるように、この社会が無能を弾き出すように、な」

あきつ丸 「そうね・・・そして、おめでとう」

あきつ丸 「あなたも弾き出される無能の仲間入りじゃない」

あきつ丸 「時計はもう見たのかしら?」

提督 「はぁ?」

あきつ丸 「あなたに余裕があるのは、何か助け舟を期待してでしょう?」

あきつ丸 「来るのなら遅すぎるんじゃないの?もうお昼よ」

提督 「時計ねぇ・・・この時間が進められた腕時計のことか?」コツコツ

あきつ丸 「・・・」

提督 「何故わかったのかという顔だな・・・腹具合だよ」

提督 「・・・というのは冗談だが、細工されてることくらいわかる」

提督 「何故なら、本当にこの時間なら、おれはもうここにいないからな」

あきつ丸 「いない?・・・逃げられるとでも思っているの?」

提督 「なんだ、外交ルートでお前の上に話が行ってないのか?」

提督 「てっきり、それを知ってて、おれを焦らせるために腕時計の時間を進めたのかと思っていたが」

あきつ丸 「どういうことか説明してもらえる?」

提督 「じきに向こうの国の大使館から、おれの書いた亡命申請書とあちらの認定書類一式を持った外交官が来る」

あきつ丸 「まさか・・・」

提督 「その”まさか”だ」

提督 「そしたら、おれはあちらの国へ亡命、この国ともおさらばだ」

あきつ丸 「取引先の国にコアや制服だけじゃなく、自分も売っていたとはね」

提督 「お前はおれが轟沈させた数が気になるようだが、同時にどれだけの深海棲艦を屠ったと思ってる?」

提督 「おれの能力・経験・実績を欲しがる国はいくらでもいるということだ」

提督 「この問題を公にしたくないこの国も軍も、あちらの国も、全てそう望んでいる」

あきつ丸 「公にしないと思う?」

提督 「できるか?・・・偽物の制服が出回ってるなんて情報」

提督 「全鎮守府の士気を下げ、提督と艦娘の不和を招くだけじゃない」

提督 「おれの鎮守府精鋭数百の艦娘が憲兵庁舎に殺到するぞ・・・おれを殺しにな」

提督 「お前らに止められるかな?」

あきつ丸 「・・・」



―――――
―――





660以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:22:16.95k1kaA+zU0 (16/32)




提督 「折角だから教えてやろう」

提督 「この国や軍より、あの国はおれをずっと高く買ってくれてるよ」

提督 「おれは、あちらで高い地位を得て、今より遥かに大きい権力を扱うことになる」

あきつ丸 「あれだけ殺して、のうのうと自分は国外に脱出するつもり?」

提督 「素直に捕まるなんて、力のない屑だけだ・・・おれにはある」

あきつ丸 「・・・」

提督 「そう睨むな」

提督 「おれだって一応死んだものには感謝してる・・・ありがとう死んだ艦娘、ありがとう死んだ深海棲艦」

提督 「お陰様で、おれは向こうの国で鎮守府の運用を教えながら贅沢三昧・・・」

提督 「国内が沿岸だらけで深海棲艦の侵攻に心休まることのない日本とあの国は違う」

提督 「死にものぐるいで足掻くこの国を肴に内陸で安穏な隠居暮らしも良い、今からでも楽しみだ」

あきつ丸 「・・・ふざけてる」

提督 「おれを殺すべきだったなぁ」ハハハハハハ

提督 「取引の直前に臨検に入ったのは、万が一向こうが証拠隠滅におれを殺すのを防ぐためだろう?」

提督 「おれに銃を突き付けられたのをいなした時も事故を装って殺せたよな?」

提督 「お前と出撃した回数を加えれば、いくらでも殺す機会はあった」

提督 「悔しいか?殺したいか?」

あきつ丸 「・・・」

提督 「もう加賀の演技をする必要はない、感情を出しても問題ないだろう?」

あきつ丸 「隠された証拠、亡命の準備・・・」

あきつ丸 「危ない橋を渡るには渡るなりの準備をしていた・・・別にそれだけよね」

提督 「犯罪者にありがちだ、怒るまでもない・・・とでも言いたいのか?」

提督 「はぁ・・・あきつ丸、お前にはつくづく落胆させられる」

あきつ丸 「煙草を吸えないのをまだ根に持ってるの?」

提督 「違う・・・」

提督 「お前の正義や、その取り澄ました態度に・・・だ」

あきつ丸 「自分のやることを粛々とこなしているだけよ」



661以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:24:19.23k1kaA+zU0 (17/32)


提督 「あきつ丸・・・おれは、欲望を実現する能力が力だと言ったな?」

あきつ丸 「それがどうしたの?」

提督 「・・・もっと欲望を、感情を、開放しろ」

提督 「お前の力はそのためにある」

あきつ丸 「人間は社会的な動物よ、我儘ばかりで生きてはいけるほど甘くない」

提督 「我儘を通さないで何の生きる意味がある?」

あきつ丸 「これでも楽しく生きている積もりよ」

提督 「お前には力がある、もっとそれを使えと言っている」

あきつ丸 「・・・」

提督 「力は行使せずに飾っておくものじゃない、使ってこそ意味がある」

提督 「強烈な自我が形成した欲望や激情にのせて力が行使され、より自我は強烈さを増し輝きを放つ」

提督 「おれはそこに美しささえ感じる」

あきつ丸 「・・・」

提督 「欲を言えば、その力は圧倒的で、無秩序で、大多数の人間を虐げる性質のものであれば・・・尚、素晴らしい」

提督 「この世界は力のあるもののためにあると教えてくれる」

あきつ丸 「まるで戦争や災害ね」

提督 「だから、鎮守府を戦場に変えた」

あきつ丸 「で、私にも感情的になれと?・・・あなた私に殺されたいの?」

提督 「できるならな・・・しかし、お前にはできない」

提督 「お前が弱いからだ」

あきつ丸 「力があるのに弱い?」

あきつ丸 「あなたにとって弱者って何なの?」

提督 「弱者?・・・自身の実現できない欲望から目を反らしている屑だ」

提督 「挑戦せず責任を負う気もない癖に、家族・友人・仲間・国・正義のためと大義に寄りかかり、ちっぽけな自我を保つ」

提督 「いただろう?おれの鎮守府にいくらでも、そして死んだ」

あきつ丸 「それを煽っていたのはあなたでしょう?」

提督 「そう、屑どもが踊りやすいように大義を用意してやった、このおれが」

あきつ丸 「・・・・」

提督 「あいつらが死に物狂いで踊る様は、まだ見てて楽しかったよ」

提督 「それに対しお前は何だ」



662以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:25:32.49kZd3IEN20 (1/7)

最近、思うんだけどさ。
HACHIMANとかいうタグ付ける奴うざくね?
八幡tueee!が嫌いとか言ってる奴、多すぎ。
「キリトの活躍奪うんじゃねえ!」
「ハチアスとかやめて!」
「上条さんの役割奪うなよ!」
「デレマスのヒロインNTRさせんな!」
これ、マジでキモいからね。
いやさ、お前らの気持ちも分かるよ?
何でも出来て、最強の八幡に嫉妬してるんだよね。お前らは葉山みたいな性格だもんね。
でも、落ち着いて考えてみろよ。
お前らが何と言おうと八幡が最強なのは誰の眼に見ても明らかんだから仕方ないじゃん。
ヒロインを奪われる~とかさ、クソみたいなキリト、上条辺りに救われるよりも八幡に救われる方が幸せに決まってるよね。
まずは誰よりも八幡が強い事実から目をそらすなよ。それは誰の目にも明らかだろ?
それを劣っている立場の奴等が「俺達の役割を奪うなよ」っていうのは成り立たないでしょ。
いやね、作品を汚すなってのは分かるよ?
例えばキリトが総武高校に転校してきてヒロインNTRしたなら、俺もキレて潰しにかかるわww
でもさ、八幡なんだから仕方ないじゃん。
もうワガママ言うのやめろよな。
八幡が主人公なら皆が救われるんだって。
キリトも上条も士道も必要ないからね?
あんなん好きな奴等はガイジだからね?
もうさ、他作品をsageするなとかいうガイジの話なんか聞くのも飽々してるんだわ。
あのね、sageしてるんじゃないの。
八幡が最強だから、周りが雑魚に見えてしまうのは仕方ない事なんだよ。
八幡が最強なのが気持ち悪いとか言うけど、実際にその世界に八幡がいれば最強なのは間違いないんだから当たり前だよね。
ゴミみたいな作品なんて八幡に蹂躙されて然るべきなんだよ。それによって俺達の目に触れる機会も増えるんだから感謝しろよ。
以上、クソアンチ共を完全論破。全員、速やかに砕け散れよ。


663以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:26:58.53k1kaA+zU0 (18/32)


提督 「力があるのに体制に用意された正義なんかに従って・・・」

提督 「お前の正義では、許可が下り諸々の手続きが終わるまで、おれに何の裁きも与えられまい」

提督 「そんなことだから証拠を逃す」

あきつ丸 「・・・」

提督 「おれにはな、力を持っているくせに正義の奴隷になってるお前のことが、屑どもよりよっぽど窮屈に見えるよ」

提督 「こんな国で燻るくらいなら、あきつ丸・・・お前もおれと一緒に来い」

提督 「国を変え欲望の果てで自分の正義を探せばいい、楽しいぞ」

あきつ丸 「お断りよ・・・窮屈かどうか決めるのはあなたでないわ、私自身よ」

提督 「ふ、間違いではないな」

提督 「それにしても、頑固だな・・・朝潮もそうだった、才能があるのにがっかりさせてくれた」

提督 「おれを殺そうと朝潮が暴れたのを、執務室に忍び込んでたお前がなだめたらしいな」



664以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:27:12.86kZd3IEN20 (2/7)

最近、思うんだけどさ。
HACHIMANとかいうタグ付ける奴うざくね?
八幡tueee!が嫌いとか言ってる奴、多すぎ。
「キリトの活躍奪うんじゃねえ!」
「ハチアスとかやめて!」
「上条さんの役割奪うなよ!」
「デレマスのヒロインNTRさせんな!」
これ、マジでキモいからね。
いやさ、お前らの気持ちも分かるよ?
何でも出来て、最強の八幡に嫉妬してるんだよね。お前らは葉山みたいな性格だもんね。
でも、落ち着いて考えてみろよ。
お前らが何と言おうと八幡が最強なのは誰の眼に見ても明らかんだから仕方ないじゃん。
ヒロインを奪われる~とかさ、クソみたいなキリト、上条辺りに救われるよりも八幡に救われる方が幸せに決まってるよね。
まずは誰よりも八幡が強い事実から目をそらすなよ。それは誰の目にも明らかだろ?
それを劣っている立場の奴等が「俺達の役割を奪うなよ」っていうのは成り立たないでしょ。
いやね、作品を汚すなってのは分かるよ?
例えばキリトが総武高校に転校してきてヒロインNTRしたなら、俺もキレて潰しにかかるわww
でもさ、八幡なんだから仕方ないじゃん。
もうワガママ言うのやめろよな。
八幡が主人公なら皆が救われるんだって。
キリトも上条も士道も必要ないからね?
あんなん好きな奴等はガイジだからね?
もうさ、他作品をsageするなとかいうガイジの話なんか聞くのも飽々してるんだわ。
あのね、sageしてるんじゃないの。
八幡が最強だから、周りが雑魚に見えてしまうのは仕方ない事なんだよ。
八幡が最強なのが気持ち悪いとか言うけど、実際にその世界に八幡がいれば最強なのは間違いないんだから当たり前だよね。
ゴミみたいな作品なんて八幡に蹂躙されて然るべきなんだよ。それによって俺達の目に触れる機会も増えるんだから感謝しろよ。
以上、クソアンチ共を完全論破。全員、速やかに砕け散れよ。


665以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:29:14.47k1kaA+zU0 (19/32)


あきつ丸 「?・・・あぁ、大和さんからそこまで聞いていたのね」

提督 「おれを殺すより、家族を優先したんだってな」

あきつ丸 「そう説得したわ、姉のため止めるよう私が言った」

提督 「そんなことだから本来の目的を、欲望を見失う」

あきつ丸 「本来の目的?」

提督 「欲望は自分を写す鏡だ」

提督 「あいつの本来の目的は、欲望は何だ?」

提督 「姉のような悲劇を起こさないことが大事なんだろう?」

提督 「なら、朝潮はおれを排除すべきだった何が何でも、な」

提督 「くだらん秩序や情にほだされ、自分を折った」

あきつ丸 「戦争開始の混乱期を朝潮は経験しているのよ、秩序に縋るのも仕方ないでしょう」

提督 「そういう自分以外に責任を押し付けるのは弱者がすることだと言った筈だ」

あきつ丸 「・・・」

提督 「その点、荒潮轟沈時の朝潮はぞくぞくさせてくれた」

提督 「おれを見捨ててタ級の殲滅を優先しやがった、終わった後の怯えはあっても朝潮は自分を通した、立派だよ」

提督 「これからのあいつが楽しみだった・・・それだけが、唯一この国での心残りだ」

あきつ丸 「それだけ・・・ね」

提督 「無論、お前と話すのも最後と思うと寂しいよ」

あきつ丸 「良く舌が回るわね」

提督 「ものわかりの悪い人間相手だとな」

提督 「さて、どうしようもないことが理解できたら、いい加減たばこの火をくれないか?」

あきつ丸 「わかったのは、あなたが轟沈させた艦娘に対する謝罪の念が一片もないことよ」

あきつ丸 「それに、あなたが自白する気がないこともね」

提督 「わかったらどうする?」

あきつ丸 「・・・一番効果のある拷問って何かわかる?」



―――――
―――





666以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:30:53.38kZd3IEN20 (3/7)

最近、思うんだけどさ。
HACHIMANとかいうタグ付ける奴うざくね?
八幡tueee!が嫌いとか言ってる奴、多すぎ。
「キリトの活躍奪うんじゃねえ!」
「ハチアスとかやめて!」
「上条さんの役割奪うなよ!」
「デレマスのヒロインNTRさせんな!」
これ、マジでキモいからね。
いやさ、お前らの気持ちも分かるよ?
何でも出来て、最強の八幡に嫉妬してるんだよね。お前らは葉山みたいな性格だもんね。
でも、落ち着いて考えてみろよ。
お前らが何と言おうと八幡が最強なのは誰の眼に見ても明らかんだから仕方ないじゃん。
ヒロインを奪われる~とかさ、クソみたいなキリト、上条辺りに救われるよりも八幡に救われる方が幸せに決まってるよね。
まずは誰よりも八幡が強い事実から目をそらすなよ。それは誰の目にも明らかだろ?
それを劣っている立場の奴等が「俺達の役割を奪うなよ」っていうのは成り立たないでしょ。
いやね、作品を汚すなってのは分かるよ?
例えばキリトが総武高校に転校してきてヒロインNTRしたなら、俺もキレて潰しにかかるわww
でもさ、八幡なんだから仕方ないじゃん。
もうワガママ言うのやめろよな。
八幡が主人公なら皆が救われるんだって。
キリトも上条も士道も必要ないからね?
あんなん好きな奴等はガイジだからね?
もうさ、他作品をsageするなとかいうガイジの話なんか聞くのも飽々してるんだわ。
あのね、sageしてるんじゃないの。
八幡が最強だから、周りが雑魚に見えてしまうのは仕方ない事なんだよ。
八幡が最強なのが気持ち悪いとか言うけど、実際にその世界に八幡がいれば最強なのは間違いないんだから当たり前だよね。
ゴミみたいな作品なんて八幡に蹂躙されて然るべきなんだよ。それによって俺達の目に触れる機会も増えるんだから感謝しろよ。
以上、クソアンチ共を完全論破。全員、速やかに砕け散れよ。


667以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:31:43.85k1kaA+zU0 (20/32)




提督 「はぁ?」

あきつ丸 「答えてみて」

提督 「爪を剥がしたり、局部を爪切りで切ったり、口にドリル突っ込だり、とかしか知らないが・・・」

あきつ丸 「神経が多く通う部位、人体の急所、後遺症を残すような方法・・・」

あきつ丸 「実に創作物が好みそうな説得力だけはある拷問の数々ね」

提督 「無茶を言うな、専門家じゃあるまいし3つも挙げられただけでも褒めてもらいたいね」

提督 「そうだ、ヒントをくれ」

あきつ丸 「そうね・・・」

あきつ丸 「殺すのも目的ならまだしも、余り酷い外傷を与えるのは合理的じゃないわね」

提督 「熱したコテを当てるのも・・・火傷の処理が面倒か」

提督 「そうだな・・・水だ、水攻めは?」

あきつ丸 「落ち(気絶)グセが付いたら終わりね」

提督 「なら、自白剤か?」

あきつ丸 「虚ろにさせたり、不安定にさせたり、広義では麻薬中毒にするのも自白剤の一種ね」

あきつ丸 「ただ、そう都合の良い物ではないわ」

あきつ丸 「時間がかかるし、効果の有無が明確にわからないという致命的な問題がある」

あきつ丸 「不正解よ」

提督 「もう降参だ、わからん」


 あきつ丸はスッと立ち上がる。

 そして、提督に背を向けた機械仕掛けの箱の後ろから伸びるプラグを持ち上げる。

 そのプラグを壁に向かいコンセントへ差し込んだ。

 あきつ丸は席に戻ると箱の頭をなでる。




668以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:33:24.00k1kaA+zU0 (21/32)



提督 「・・・その箱が関係あるのか?」

あきつ丸 「さぁ・・・」

提督 「・・・電気ショックか」

あきつ丸 「正解よ、これなら軽い火傷で延々痛みを与えられる」

あきつ丸 「しかも、その痛みも外傷と違い神経に直接働きかけるから、慣れることがないそうよ」

提督 「ということは、その箱は電気ショックを与える装置か」

あきつ丸 「・・・」


 あきつ丸は、機械仕掛けの箱の両脇を持ち笑う。


あきつ丸 「冗談よ・・・お腹すいてない?」フフ


 あきつ丸の方向に向いていた機械仕掛けの箱を滑らせて回転させ、提督の方向に向ける。

 それはありふれた電子レンジだった。

 中は見えない。


提督 「・・・さっき腹具合とは言ったが、腹はすいてない」

あきつ丸 「遠慮しなくていいわよ」

あきつ丸 「それに、VIPに食事も出さなかったと後で言われては敵わないわ」

提督 「メニューは何だ? カツどんでも食べさせてくれるのか」

あきつ丸 「肉なのは正解よ」

あきつ丸 「加熱してすぐ、熱々のまま食べてもらいたくて」

提督 「サービスがいいな」

あきつ丸 「自分で押して貰える?」

提督 「こった演出だ」フ


 今や提督の方に向いた電子レンジを提督自身が押すことに何の違和感もなかった。

 提督が温めのボタンを押し込む。


 すると、ブーンと言う駆動音と重なって微かに肉が焼ける音と連続した破裂音が静かな室内に響いた。


電子レンジ 「プシュー」


 暫くすると、電子レンジ内に煙が充満し一部が扉の隙間から湧き出る。




669以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:33:33.81kZd3IEN20 (4/7)

最近、思うんだけどさ。
HACHIMANとかいうタグ付ける奴うざくね?
八幡tueee!が嫌いとか言ってる奴、多すぎ。
「キリトの活躍奪うんじゃねえ!」
「ハチアスとかやめて!」
「上条さんの役割奪うなよ!」
「デレマスのヒロインNTRさせんな!」
これ、マジでキモいからね。
いやさ、お前らの気持ちも分かるよ?
何でも出来て、最強の八幡に嫉妬してるんだよね。お前らは葉山みたいな性格だもんね。
でも、落ち着いて考えてみろよ。
お前らが何と言おうと八幡が最強なのは誰の眼に見ても明らかんだから仕方ないじゃん。
ヒロインを奪われる~とかさ、クソみたいなキリト、上条辺りに救われるよりも八幡に救われる方が幸せに決まってるよね。
まずは誰よりも八幡が強い事実から目をそらすなよ。それは誰の目にも明らかだろ?
それを劣っている立場の奴等が「俺達の役割を奪うなよ」っていうのは成り立たないでしょ。
いやね、作品を汚すなってのは分かるよ?
例えばキリトが総武高校に転校してきてヒロインNTRしたなら、俺もキレて潰しにかかるわww
でもさ、八幡なんだから仕方ないじゃん。
もうワガママ言うのやめろよな。
八幡が主人公なら皆が救われるんだって。
キリトも上条も士道も必要ないからね?
あんなん好きな奴等はガイジだからね?
もうさ、他作品をsageするなとかいうガイジの話なんか聞くのも飽々してるんだわ。
あのね、sageしてるんじゃないの。
八幡が最強だから、周りが雑魚に見えてしまうのは仕方ない事なんだよ。
八幡が最強なのが気持ち悪いとか言うけど、実際にその世界に八幡がいれば最強なのは間違いないんだから当たり前だよね。
ゴミみたいな作品なんて八幡に蹂躙されて然るべきなんだよ。それによって俺達の目に触れる機会も増えるんだから感謝しろよ。
以上、クソアンチ共を完全論破。全員、速やかに砕け散れよ。


670以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:34:48.64kZd3IEN20 (5/7)

最近、思うんだけどさ。
HACHIMANとかいうタグ付ける奴うざくね?
八幡tueee!が嫌いとか言ってる奴、多すぎ。
「キリトの活躍奪うんじゃねえ!」
「ハチアスとかやめて!」
「上条さんの役割奪うなよ!」
「デレマスのヒロインNTRさせんな!」
これ、マジでキモいからね。
いやさ、お前らの気持ちも分かるよ?
何でも出来て、最強の八幡に嫉妬してるんだよね。お前らは葉山みたいな性格だもんね。
でも、落ち着いて考えてみろよ。
お前らが何と言おうと八幡が最強なのは誰の眼に見ても明らかんだから仕方ないじゃん。
ヒロインを奪われる~とかさ、クソみたいなキリト、上条辺りに救われるよりも八幡に救われる方が幸せに決まってるよね。
まずは誰よりも八幡が強い事実から目をそらすなよ。それは誰の目にも明らかだろ?
それを劣っている立場の奴等が「俺達の役割を奪うなよ」っていうのは成り立たないでしょ。
いやね、作品を汚すなってのは分かるよ?
例えばキリトが総武高校に転校してきてヒロインNTRしたなら、俺もキレて潰しにかかるわww
でもさ、八幡なんだから仕方ないじゃん。
もうワガママ言うのやめろよな。
八幡が主人公なら皆が救われるんだって。
キリトも上条も士道も必要ないからね?
あんなん好きな奴等はガイジだからね?
もうさ、他作品をsageするなとかいうガイジの話なんか聞くのも飽々してるんだわ。
あのね、sageしてるんじゃないの。
八幡が最強だから、周りが雑魚に見えてしまうのは仕方ない事なんだよ。
八幡が最強なのが気持ち悪いとか言うけど、実際にその世界に八幡がいれば最強なのは間違いないんだから当たり前だよね。
ゴミみたいな作品なんて八幡に蹂躙されて然るべきなんだよ。それによって俺達の目に触れる機会も増えるんだから感謝しろよ。
以上、クソアンチ共を完全論破。全員、速やかに砕け散れよ。


671以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:35:32.10k1kaA+zU0 (22/32)



提督 (なんだ、この鼻の奥を突き刺すような臭いは・・・)

提督 「大丈夫か?、これ・・・」

あきつ 「大丈夫」

電子レンジ 「電子音」


 加賀が電子レンジの扉をあけると、閉じ込められていた黒煙が机を床を這って逃げ出した。

 同時にこれまで以上の臭気が提督を襲い、提督は鼻呼吸を止め口呼吸へ反射的に移行していた。


提督 「カッハ・・・」

提督 (この臭い・・・酷い赤潮で鎮守府周辺に魚の死骸が大量に打ち上げられた時と同じ)

提督 (・・・死の臭いだ)


 口をぱくぱくさせる提督の前で、煙のベールを脱いだそれが現れた。


提督 「おい、モルモットか?これ」

あきつ丸 「そうよ」

提督 「そうよって、パット見じゃわからんぞ」

あきつ丸 「白色と茶色と黒色の三色が可愛いでしょ?・・・今は四色だけど」

提督 「何のモルモットだ?食用な訳ないよな?」

あきつ丸 「自白剤の治験用モルモット」

あきつ丸 「奇しくも名前はあなたが殺した一人、武蔵と同じよ」

あきつ丸 「色が似ているでしょう?」


 一目ではモルモットとはわからないほど変形したものが白い皿の上に横たわっていた。

 皿の上に鎮座したそれは、嗅覚的にも視覚的にも提督の吐き気を誘った。


 毛はちぢれて焦げ、所々の毛の間からぶつぶつと肉がめくれて飛び出し、

 まるで黒い蛆虫がモルモットの全身を今なお這っているかのような、そんな絶望的な汚さがあった。

 今なお泡と一緒にジュクジュク音を発しながら噴き出ている赤い体液は、モルモットの下の皿にべっとりとした沼を作っている。




672以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:37:40.38k1kaA+zU0 (23/32)



提督 「・・・」


 黙った提督を見据えながら、あきつ丸は立ち上がる。

 そして、ゆっくりと提督の周りを歩き出す。


あきつ 「どうぞ、遠慮しなくていいわよ」テクテク


あきつ 「おいしそうでしょ?」テクテク


 提督は直視に耐えないそれから目をそらし、あきつ丸を苦い目で追っていた。

 あきつ丸が視界内にいればそれを、いなければマジックミラー越しに。


あきつ丸 「私に何か付いてる?」

提督 「どういうつもりだ、やはりここは

あきつ丸 「拷問室よ」

提督 「おれに何かして無事に済むと思っているのか、記録はとっているんだろう?」

あきつ丸 「よく知っているわね」


 あきつ丸が懐のスイッチを押すと、マジックミラーの向こう側が照らし出され見えるようになる。

 そこにはテレビのミキサー室のように幾つもの機材とモニター、それにPCが並んでいた。

 しかし、全ての機器が電源の赤ランプさえ消え沈黙している。


あきつ丸 「カメラ、心音・呼吸・瞬きのセンサー類、サーモグラフィー、瞳・体表面上の水分計、声紋採取機、他色々」

あきつ丸 「便利な時代よね、拷問する相手にパットをベタベタ貼らなくてもわかるって」

提督 「全て止まっているようだが」

あきつ丸 「私とあなただけにするようお願いしたの」

あきつ丸 「だからここは記録も一切されない本当の密室よ」

提督 「・・・なんのためだ、亡命する気にでもなったのか?」


 あきつ丸は、未だゆっくりと提督の周囲を歩いていた。

 その歩みを提督の背後で止めると、自身のポケットから白い手袋を出し両手に嵌める。

 マジックミラーを失い背後を確認できない提督は、気付かないまま機器類を眺めている。

 あきつ丸は提督の背後に静かに近づくと、顔を提督の耳に近づけ囁いた。


あきつ丸 「拷問しても、記録に残らないようにするためよ」ボソリ

提督 「なっ




673以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:40:08.51k1kaA+zU0 (24/32)



 あきつ丸は提督の片腕を後ろ手に捻り上げて極める。

 もう一方の手でモルモットののった皿を提督の顔の前にずいと突き出した。

 提督は自由なもう一方の手で暴れたものの、船上の一件もありすぐ諦めた。


あきつ丸 「口と目が見える?」

提督 「んんんん」


 提督が何とか顔を背けようとすると、あきつ丸は皿を少しずつ提督の口に近づける。


提督 「見える!止めろ!」

あきつ丸 「どうなってる?」


 提督はせめてと背けていた目をモルモットだったものに向ける。

 あきつ丸が止めていた皿をまた口に近づけようとした。


提督 「言えば良いんだろう!!目は赤く窪んでる!!」

あきつ丸 「もっと詳しく」

提督 「目から・・・目には赤い血と違う赤黒い液体?がたまってる」


 あきつ丸は更に皿を口に近づけ、傾斜させる。

 皿の底に溜まっていた液体がどろどろと少しずつ提督の方へ、そしてポタポタと降下を始めた。

 提督の顔と制服に赤い斑点が付く。


提督 「お、おい、言っただろ、止めろおおお」

あきつ丸 「口は?」

提督 「ッ・・・目と同じ?あ、赤黒い粘液、いやワタみたいなものが出てる」

あきつ丸 「そうね」


 あきつ丸の満足した声に安堵し気を緩めた提督の口からは

 堰を切ったように吐瀉物が噴射され机と自分の制服を吐瀉物まみれにする。


提督 「うおぉああああぁぇ」

あきつ丸 「服に付いた吐瀉物がよだれかけみたいね、赤い斑点の付いた」

提督 「うおあぇ」

あきつ丸 「ふふ」

あきつ丸 「どう?吐いた気分は?証拠のある場所も吐く気になった?」

提督 「・・・誰が」

あきつ丸 「じゃあ、食べましょうか」


 あきつ丸は、モルモットだったものごと皿を提督の口にあてがいねじる。




674以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:42:47.02k1kaA+zU0 (25/32)



提督 「んん、んんんんんんn」

あきつ丸 「ふふ、ふふふふふ」


 押し付けてねじられたため、モルモットだったものはぼろぼろとこぼれ落ちる。

 あきつ丸が押し付けた皿を離すと、そこには毛と肉片が混ざりあった粘液がこびり付いた提督の顔があった。


提督 「酷い臭いだ、お前こんなことして・・・おえぅぺっぺっ」

あきつ丸 「どうなるのかしら、残るような傷はないようだけど」ニコニコ

提督 「モルモットの自白剤で吐かせる気か?」

あきつ丸 「自白剤は麻酔より投与量が繊細なの、わかる?」

あきつ丸 「こんないい加減な量を摂取させても吐かせるなんて、到底不可能」

あきつ丸 「安心していいわよ」

提督 「どうだかな」ッペ

あきつ丸 「そもそも、あなたのように意思が強く、頭の回る人間に拷問は無意味なのよ」

あきつ丸 「適当なこと・裏付けの取りにくいことを延々と話して捜査を混乱させるだけでしょうね」

あきつ丸 「だから、上に言って治験までしてた自白剤を止めさせた」

あきつ丸 「そして、あなたと二人だけになった」

提督 「憂さ晴らしにおれへ嫌がらせするためか・・・」

提督 「人間らしいところもあるじゃないか、お前が今更ながら好きになれそうだよ」ッペ

あきつ丸 「私は嫌いよ・・・殺したい位に」ニコリ

提督 (背後のあきつ丸の顔は見えないが・・・間違いなく笑ってやがる)ゾッ

提督 「・・・気が済んだら離せ」ググ

あきつ丸 「始まったばかりじゃない?」グイ

提督 「!?」


 そう言うと、あきつ丸は提督の腕を決めていない方の手で、提督の襟後ろを掴んだ。

 そして、少しずつ提督にお辞儀をさせるように下へ向けてゆっくりと押した。




675以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:45:06.55k1kaA+zU0 (26/32)



提督 「おいッ、これ以上ッッ何を!?」

あきつ丸 「さっきのモルモット・・・目と口と鼻から赤い血と違う赤黒いワタが出てたわよね」

提督 「?」

あきつ丸 「あれ、なんだと思う?」グググ

提督 「知るか!おい、何をする気だ?止めろ!」

あきつ丸 「正解なら止めるわよ」グググ

提督 「血だ!静脈血が熱で固まったとかか?!」

あきつ丸 「不正解なので20度ダウン」グググググ

提督 「もう20度・・・どころか・・・机が目の前だぞ、なんで頭を下げさせるッ?」

あきつ丸 「こうするためよ」ガッ


 言うが早いか提督の頭が鐘付き棒のように衝撃音を発しながら、電子レンジに対し真っ直ぐ突き刺さる。

 3重構造の扉が割れ、すっぽりはまった扉の隙間から提督の呻き声が聞こえる。

 提督が電子レンジに食われているかのような異様な光景が机の上に広がった。


あきつ丸 「提督、どうかしら?真っ暗?」

提督 「っ痛ぅー・・・お前とうとうおれに怪我をさせたな」

あきつ丸 「先ほどの正解だけど、あのワタ

提督 「どうでもいい!!!すぐに出せ!!」ガンガン

あきつ丸 「あー、もう暴れないでくれない? 反響してご自身も五月蝿いでしょう」

あきつ丸 「それに、割ったガラスの扉が鋭い刃物となって提督の首を囲んでるのよ、危ないわよ」

提督 「ぐっ・・・」ピタ



676以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:46:10.09kZd3IEN20 (6/7)

最近、思うんだけどさ。
HACHIMANとかいうタグ付ける奴うざくね?
八幡tueee!が嫌いとか言ってる奴、多すぎ。
「キリトの活躍奪うんじゃねえ!」
「ハチアスとかやめて!」
「上条さんの役割奪うなよ!」
「デレマスのヒロインNTRさせんな!」
これ、マジでキモいからね。
いやさ、お前らの気持ちも分かるよ?
何でも出来て、最強の八幡に嫉妬してるんだよね。お前らは葉山みたいな性格だもんね。
でも、落ち着いて考えてみろよ。
お前らが何と言おうと八幡が最強なのは誰の眼に見ても明らかんだから仕方ないじゃん。
ヒロインを奪われる~とかさ、クソみたいなキリト、上条辺りに救われるよりも八幡に救われる方が幸せに決まってるよね。
まずは誰よりも八幡が強い事実から目をそらすなよ。それは誰の目にも明らかだろ?
それを劣っている立場の奴等が「俺達の役割を奪うなよ」っていうのは成り立たないでしょ。
いやね、作品を汚すなってのは分かるよ?
例えばキリトが総武高校に転校してきてヒロインNTRしたなら、俺もキレて潰しにかかるわww
でもさ、八幡なんだから仕方ないじゃん。
もうワガママ言うのやめろよな。
八幡が主人公なら皆が救われるんだって。
キリトも上条も士道も必要ないからね?
あんなん好きな奴等はガイジだからね?
もうさ、他作品をsageするなとかいうガイジの話なんか聞くのも飽々してるんだわ。
あのね、sageしてるんじゃないの。
八幡が最強だから、周りが雑魚に見えてしまうのは仕方ない事なんだよ。
八幡が最強なのが気持ち悪いとか言うけど、実際にその世界に八幡がいれば最強なのは間違いないんだから当たり前だよね。
ゴミみたいな作品なんて八幡に蹂躙されて然るべきなんだよ。それによって俺達の目に触れる機会も増えるんだから感謝しろよ。
以上、クソアンチ共を完全論破。全員、速やかに砕け散れよ。


677以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:47:04.40k1kaA+zU0 (27/32)


あきつ丸 「赤黒いワタの話にもどるけれどね」

あきつ丸 「説明のために、この中に入ったモルモット武蔵ちゃんの話をしましょうか」

あきつ丸 「電子レンジは液体を振動させて加熱する偉大なる発明というのはご存知?」

提督 「知るかッ、お前は早くおれを出せば良い、丁寧になッ」

あきつ丸 「この電子レンジに生き物を入れるとどうなるか?」

あきつ丸 「肉体を構成する蛋白質は加熱で硬化するのに、体の60パーセント超を構成する水分が膨張する」

あきつ丸 「これは大変なことよ」

提督 「既に大変なことになってるぞ、この馬鹿」

あきつ丸 「体のいたるところで熱膨張と破裂が起こるわけだから」

あきつ丸 「まず最初に体液でも水分の多い血液が気化するわ」

あきつ丸 「血管は破れ、血の集まる心臓は膨張に耐えきれず爆発」

あきつ丸 「次に体液の多い順に体の各内蔵が変形もしくは破裂していく」

提督 「その説明に何の意味がある??」ッペ

あきつ丸 「頭部も例に漏れずよ、特に脳や眼は80パーセント超と水分が多い」

あきつ丸 「眼球は膨張して眼窩に収まり切らなくなり、飛び出しやがて破裂する、あなたが見た通りね」

あきつ丸 「では、脳はどうなるかしら?」

提督 「脳だぁ?」



678以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:47:08.18kZd3IEN20 (7/7)

最近、思うんだけどさ。
HACHIMANとかいうタグ付ける奴うざくね?
八幡tueee!が嫌いとか言ってる奴、多すぎ。
「キリトの活躍奪うんじゃねえ!」
「ハチアスとかやめて!」
「上条さんの役割奪うなよ!」
「デレマスのヒロインNTRさせんな!」
これ、マジでキモいからね。
いやさ、お前らの気持ちも分かるよ?
何でも出来て、最強の八幡に嫉妬してるんだよね。お前らは葉山みたいな性格だもんね。
でも、落ち着いて考えてみろよ。
お前らが何と言おうと八幡が最強なのは誰の眼に見ても明らかんだから仕方ないじゃん。
ヒロインを奪われる~とかさ、クソみたいなキリト、上条辺りに救われるよりも八幡に救われる方が幸せに決まってるよね。
まずは誰よりも八幡が強い事実から目をそらすなよ。それは誰の目にも明らかだろ?
それを劣っている立場の奴等が「俺達の役割を奪うなよ」っていうのは成り立たないでしょ。
いやね、作品を汚すなってのは分かるよ?
例えばキリトが総武高校に転校してきてヒロインNTRしたなら、俺もキレて潰しにかかるわww
でもさ、八幡なんだから仕方ないじゃん。
もうワガママ言うのやめろよな。
八幡が主人公なら皆が救われるんだって。
キリトも上条も士道も必要ないからね?
あんなん好きな奴等はガイジだからね?
もうさ、他作品をsageするなとかいうガイジの話なんか聞くのも飽々してるんだわ。
あのね、sageしてるんじゃないの。
八幡が最強だから、周りが雑魚に見えてしまうのは仕方ない事なんだよ。
八幡が最強なのが気持ち悪いとか言うけど、実際にその世界に八幡がいれば最強なのは間違いないんだから当たり前だよね。
ゴミみたいな作品なんて八幡に蹂躙されて然るべきなんだよ。それによって俺達の目に触れる機会も増えるんだから感謝しろよ。
以上、クソアンチ共を完全論破。全員、速やかに砕け散れよ。


679以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:50:16.73k1kaA+zU0 (28/32)


あきつ丸 「頭蓋骨って意外に固いのよ」

あきつ丸 「膨張する脳、堅い頭蓋骨、上がる圧力・・・電子レンジに入れた卵を想像するとわかりやすいかしら」

提督 「爆発するってことか」

あきつ丸 「その通り」

あきつ丸 「熱膨張で脳内の圧力が高まり、沸点が上昇、限界まで温度が上がり熱膨張が進む」

あきつ丸 「限界を迎えた圧力は、眼窩や鼻骨といった脳に面する比較的柔らかい骨を破壊し噴出する」

あきつ丸 「それがあの赤黒いワタの正体・・・脳よ」

あきつ丸 「実際に昔のエジプトでミイラ加工をするのに脳を取り出す時も、骨が柔らかい鼻や目から掻き出したそうよ」

あきつ丸 「実に合理的だったようね」

提督 「だから何だ、何でそんな説明がいる?」

あきつ丸 「わからない?今あなたがいる場所で」

提督 「気は確かか?」

あきつ丸 「いたいけな少女たちを殺すほど狂ってはいない積もりよ」

提督 「お前もおれも立派な狂人だと思うがな」

提督 「それにしても、ボートで深海棲艦のいる海域に放置とか、もっと皮肉に富んだ拷問の方法はなかったのか」

あきつ丸 「贅沢ね」

あきつ丸 「今・・・真っ暗でしょう?」

提督 「見たらわかるだろう」

あきつ丸 「人間は、暗闇とか未知のものに対して遺伝子レベルで恐怖を感じるようになっているそうよ」

あきつ丸 「だから、視覚や聴覚を奪って拷問すると、その拷問を普通にするより効果的なの」

あきつ丸 「ところで、暗闇でいつ何の拷問をされるかわからないあなたの状況、似てると思わない?」

提督 「・・・鎮守府か」

あきつ丸 「鎮守府の少女達も、原因のわからない轟沈の恐怖と戦いながら出撃してた」

提督 「だから、おれも恐怖と戦ってみろと?」

提督 「ここまでお膳立てされて未知の恐怖も糞もあるか」



680以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 03:52:59.80k1kaA+zU0 (29/32)


あきつ丸 「そうかしら?」

あきつ丸 「さっき一番効果的な拷問は電気ショックと言ったわよね」

提督 「だから何だ」

あきつ丸 「電気ショック以外の拷問で感じる苦痛は、経験や経験からの延長で想像ができる」

あきつ丸 「想像ができるから、覚悟もできるし我慢もできる」

あきつ丸 「けれど、電気ショックの苦痛は未知の苦痛なのよ」

あきつ丸 「想像ができないから、頭の中で恐怖は際限なく高まって行き簡単に精神が壊れるの」

あきつ丸 「未知の苦痛と言えば、提督殿は電子レンジでチンされた経験は?」

提督 「あったら生きてないだろうな」

提督 「そろそろ猿芝居を止めて諦めたらどうだ? おれはいくら脅しても証拠の場所も何も吐かん」

あきつ丸 「諦める?それはあなたの願望でしょう?」

提督 「国賓を殺すのか?」

あきつ丸 「国賓?えらく大きく出たわね」

あきつ丸 「私は外交官じゃないから、知るわけないじゃない」

提督 「それで済むと

あきつ丸 「そもそも外交問題にならないわよ」

あきつ丸 「軍法会議にかけられそうになった提督が自殺しようとした、それだけよ」

提督 「はぁ??・・・」

提督 「まさか、電子レンジのボタンを押させたのはッ

あきつ丸 「そう、あなたの指紋だけがボタンに残ってくれないと、自殺にでっち上げられないから」


 あきつ丸は襟後ろを抑えていた手を離し、

 その手で提督の首を手袋の感触を確かめさせるようにゆっくりなでる。




681以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 04:00:41.94k1kaA+zU0 (30/32)



あきつ丸 「最後に一応聞くけれど、証拠の場所を話す気になった?」

提督 「ふぅ・・・黙ってとっとと押せッ」

提督 「力を信奉するおれが力に殺される・・・悪くない結末だ」

あきつ丸 「望んだ結末とでも言いたいの? 殺さないわよ?・・・あなたを壊すだけ」

提督 「はぁ???」

あきつ丸 「電子レンジにかけたあなたの脳は外側の大脳から加熱され固まっていく、そこで止める」

提督 「??」

あきつ丸 「小脳はレアで残すということよ」

提督 「殺すことに変わりはないだろう?」

あきつ丸 「わからないという反応ね・・・私は壊すと言ったのよ」

あきつ丸 「脳は、外側の大脳が思考や記憶を、内側の小脳が生命維持機能を司っているの」

あきつ丸 「そして、私はその大脳だけ焼いて、小脳だけ残すと言った」

あきつ丸 「小脳があればね、人間って生命維持だけは可能なのよ」

提督 「何も考えられない、生命維持機能だけ残った廃人を

あきつ丸 「廃人とは実に他人行儀ね、すぐそうなるのに」

あきつ丸 「そうなったら、向こうの国は外交衝突の危険を冒してまで、回復も怪しい廃人を亡命させようと動くかしらね?」

提督 「・・・」

あきつ丸 「見捨てられたあなたは、証拠のある犯罪だけで軍刑務所送り」

あきつ丸 「今、軍刑務所にいる男の何%が罪のりんごに手を付けた性豪か知ってる?」

あきつ丸 「女のいない生活・・・抵抗しないあなたは、良い慰み者になるでしょうね」

提督 「しょ、正気か・・・」

あきつ丸 「さっきまでの威勢はどうしたの?」

あきつ丸 「力のある人間に滅茶苦茶にされたいんでしょう?」

あきつ丸 「だから、力を奪ってあげる・・・出来る限り惨めに死ぬように」

提督 「ぐ・・・」




682以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 04:04:33.67k1kaA+zU0 (31/32)


あきつ丸 「どう言葉で取り繕おうが、あなたは自分の過ぎた欲望の代償に少女の命を捧げ、それを楽しんでた屑よ」

あきつ丸 「けど、私は優しいから苦しくないようにして壊してあげる」

あきつ丸 「すぐ視界を失い意識レベルが下がって行きどうでもよくなるから安心するといいわ」

あきつ丸 「けれど・・・心配だわ、私も人間を電子レンジにかけるのは初めてだから・・・」

提督 「・・・」

あきつ丸 「あなたが刑務所でこれまで見下していた力のない屑に犯され続けてる間・・・あなたはしっかり意識や思考を失えているかしら」

提督 「・・・」ゾゾゾ

あきつ丸 「どの加熱方法にしようかしら」ピッピッピッピ

提督 「・・・・は、話す」

あきつ丸 「聞こえないわね」

提督 「話す!!!!」

あきつ丸 「言い終わったら止めるか考えてあげる」ポチッ

電子レンジ 「ぶぶぶうううううううううんんん」

提督 「加賀あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛」



―――――
―――





683 ◆oUFoaE/FvU2017/08/07(月) 04:06:37.80k1kaA+zU0 (32/32)

投下終了です。
文量が想定より多くなり、最終投下予定分をニつに分けました。その前半が今回投下分です。


684以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 08:21:37.71FiUVZJJSO (1/1)

陸軍こわい


685以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 09:23:16.87zDTImqElO (1/1)

乙です


686以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 15:40:20.98oNs9IOr60 (1/1)

廃人にするのまで許可されてたら諦めるしかないわな(´・ω・`)


687以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/07(月) 21:07:02.83VAN3IJ1/O (1/1)

そもそも人間みたいな個が弱い個体で、大量に敵を作る時点で論外なのだよ。


688以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/10(木) 11:41:10.05jm/neEN30 (1/1)

ホモのオモチャを生産する陸軍もホモ、はっきりわかんだね


689 ◆oUFoaE/FvU2017/08/11(金) 09:30:59.318ccAsPym0 (1/1)

ご読了お米ありがとうございます。
いつもお米に全レスとお客様臭いことをしていたのを止めているのは、
万が一展開に関し私が漏らして皆様の興を削ぐのは不本意なためとなっています。
近く投下できる最終回投下の後にお返しできればと考えています。
最後までよろしくお願いします。


690以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/11(金) 23:47:57.84uGqC0g31O (1/1)

最終回期待してる


691以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/08/24(木) 18:14:49.87vjIbhY8Q0 (1/1)

このマッポーめいた様…ブッダは寝ているのだろうか?
あるいはゲイのサディストだからか


692以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/09/21(木) 11:42:45.63K85m77MxO (1/1)




693以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/10/12(木) 03:59:23.62XGI0HEqpO (1/1)




694以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/11/02(木) 00:05:07.19CcKyWzCuO (1/1)




695 ◆oUFoaE/FvU2017/11/23(木) 01:33:14.73+67uiGai0 (1/17)

投下再開します。
再三の詐欺をお詫び申し上げます。


696以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/11/23(木) 01:36:33.64+67uiGai0 (2/17)




~ ほぼ同時刻の早朝 鎮守府 埠頭 ~


 埠頭の岸壁と指揮作戦艇の舷側の間で、波が遊びぺちゃぺちゃと軽い音を立てている。

 その上では、船の低い駆動音と甲板を叩く金属音が踊っていた。

 風はなく、それらの音は早朝の冷たい空気によく響いた。

 海鳥が風に乗れず窒息寸前のように翼を忙しくばたつかせている。


 指揮作戦艇すぐ横の岸から船に向かい朝潮は声をかける。

 その背に艤装はない。


朝潮 「外出禁止令が出ているのに、外で何をやってるんですか」


 甲板に並ぶ幌布の山脈から大和とその巨大な艤装がひょっこり姿を現す。


大和 「朝潮さんですか」


 大和は驚くでもなく、甲板からタラップを伝い岸にいる朝潮の前までやってきた。

 その手は綺麗だった。




697以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2017/11/23(木) 01:39:05.72+67uiGai0 (3/17)



大和 「同じ型とは言え、違う指揮作戦艇です」

大和 「念のため、エンジンや燃料の点検をしています」

大和 「出撃になって困るのは私達ですから」

大和 「・・・聞きたいことはそれだけですか?」

朝潮 「・・・」

大和 「でしたら・・・見逃してあげます」

大和 「軟禁されてますから、気晴らしに外に出たくなるのもわかります」

大和 「ですけど、代理の提督に見つかって外出を怒られる前に寮へ戻りなさい」


 大和が優しく微笑む。


朝潮 「・・・見つかる?」

朝潮 「艤装の代わりに武器庫に閉じ込めた代理の司令官に、ですか?」

朝潮 「できますかね?」

大和 「待って下さい・・・艤装の代わりに?」

朝潮 「その甲板の幌布の下・・・主力艦娘達の艤装ですよね?」

朝潮 「それを持ってどこへ行く積もりですか?」

大和 「・・・」

大和 「朝潮さんは・・・何のためにここへ来たんですか」ニコリ

朝潮 「大和さんに罪を償ってもらうためです」

大和 「・・・朝潮さん」ハァ

大和 「まさか私が、艤装を指揮作戦艇で持ち出そうとしている、だなんて思っています?」

大和 「でしたら、それは朝潮さんの勘違いですよ」

朝潮 「今はそのことについて議論する気はありません」

朝潮 「私が言っているのは別の罪です」

大和 「別のですか?」