1 ◆takaJZRsBc2014/06/21(土) 22:12:20.34YhjJL4ED0 (1/3)

★このSSはダンガンロンパとスーパードクターKのクロスSSです。
★クロスSSのため原作との設定違いが多々あります。ネタバレ注意。
★手術シーンや医療知識が時々出てきますが、正確かは保証出来ません。
★原作を知らなくてもなるべくわかるように書きます。


~あらすじ~

超高校級の才能を持つ選ばれた生徒しか入れず、卒業すれば成功を約束されるという希望ヶ峰学園。

苗木誠達15人の超高校級の生徒は、その希望ヶ峰学園に入学すると同時にモノクマという
ぬいぐるみのような物体に学園内へ監禁され、共同生活を強いられることになる。
学園を出るための方法は唯一つ。誰にもバレずに他の誰かを殺し『卒業』すること――

モノクマが残酷なルールを告げた時、その場に乱入する男がいた。世界一の頭脳と肉体を持つ男・ドクターK。
彼は臨時の校医としてこの学園に赴任していたのだ。黒幕の奇襲を生き抜いたKは囚われの生徒達を
救おうとするが、怪我の後遺症で記憶の一部を失い、そこを突いた黒幕により内通者に仕立てあげられる。

なんとか誤解は解けたものの、生徒達に警戒され思うように動けない中、第一の事件が発生した……


次々と発生する事件。止まらない負の連鎖。

生徒達の友情、成長、疑心、思惑、そして裏切り――


果たして、Kは無事生徒達を救い出せるのか?! 今ここに、神技のメスが再び閃く!!




初代スレ:苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1382255538/

二代目スレ:桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1387896354/

前スレ:大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1395580805/


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1403356340



2 ◆takaJZRsBc2014/06/21(土) 22:13:27.83YhjJL4ED0 (2/3)


☆ダンガンロンパ:言わずと知れた大人気推理アドベンチャーゲーム。

 登場人物は公式サイトをチェック!
 …でもアニメ一話がニコニコ動画で無料で見られるためそちらを見た方が早い。
 個性的で魅力的なキャラクター達なので、一話見たら大体覚えられます。


☆スーパードクターK:かつて週刊少年マガジンで1988年から十年間連載していた名作医療漫画。

 KAZUYA:スーパードクターKの主人公。本名は西城カズヤ。このSSでは32歳。2メートル近い長身と
      筋骨隆々とした肉体を持つ最強の男にして世界最高峰の医師。執刀技術は特Aランク。
      鋭い洞察力と分析力で外の状況やこの事件の真相をいち早く見抜くが、現在は大苦戦中。


 ・参考画像(KAZUYA)
http://i.imgur.com/gDxSSF0.jpg
 http://i.imgur.com/t8DhmHa.jpg


 ニコニコ静画でスーパードクターKの1話が丸々立ち読み出来ます。
 http://seiga.nicovideo.jp/book/series/13453




3 ◆takaJZRsBc2014/06/21(土) 22:15:07.82YhjJL4ED0 (3/3)


《自由行動について》

安価でKの行動を決定することが出来る。生徒に会えばその生徒との親密度が上がる。
また場所選択では仲間の生徒の部屋にも行くことが出来、色々と良い事が起こる。
ただし、同じ生徒の部屋に行けるのは一章につき一度のみ。


《仲間システムについて》

一定以上の親密度と特殊イベント発生により生徒がKの仲間になる。
仲間になると生徒が自分からKに会いに来たりイベントを発生させるため
貴重な自由行動を消費しなくても勝手に親密度が上がる。

またKの頼みを積極的に引き受けてくれたり、生徒の特有スキルが事件発生時に
役に立つこともある。より多くの生徒を仲間にすることがグッドエンドへの鍵である。


・現在の親密度(名前は親密度の高い順)

【凄く良い】石丸、桑田

【かなり良い】不二咲、大和田、苗木、舞園

【結構良い】霧切、朝日奈

【そこそこ良い】大神、山田、葉隠

【普通】セレス、腐川

【イマイチ】十神

     ~~~~~

【江ノ島への警戒度】かなり高い




4VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/21(土) 22:32:32.78LKBL5broo (1/1)

立て乙です


5VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/21(土) 22:33:13.27Dd6yHGweO (1/1)

スレ立て乙です


6VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/21(土) 22:42:42.19rmpXlTYTo (1/1)

すげーなー4スレ目かよ

おそらく作者と同世代なんだがこの辺の世代はマジで頭のいい奴多いんだよな


7VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/22(日) 01:22:28.37ObSYW0mfO (1/2)

よし、1000取ったから霧切さんの部屋に行って良い事(意味深)を起こそう


8 ◆takaJZRsBc2014/06/22(日) 01:29:06.99mFClvy8A0 (1/4)


人物紹介(このSSでのネタバレ付き)


・西城 カズヤ : 超国家級の医師(KAZUYA、ドクターK)

 学園長たっての願いで希望ヶ峰学園に短期間赴任しており、この事件に巻き込まれた。
黒幕に殺されかけたものの強靭な生命力で生存するが、その負傷が原因で希望ヶ峰にいた記憶の
大半を失い、内通者の疑惑をかけられる。持ち前の正義感や唯一の大人としての責任感で
少しずつだが生徒達の信頼を得ていっており、舞園、江ノ島、石丸、不二咲を手術で救った。


・苗木 誠 : 超高校級の幸運

 頭脳・容姿・運動神経全てが平均的でとにかく平凡な高校生。希望ヶ峰学園には
超高校級の幸運と呼ばれる、いわゆる抽選枠で選ばれた。自分は平凡だと謙遜するが、
K曰く超高校級のコミュニケーション能力の持ち主で誰とでも仲良くなれる特技がある。
前向きで穏やかなのが長所で、目立った活躍は少ないがKや仲間達からの信頼は厚い。


・桑田 怜恩 : 超高校級の野球選手

 類稀な天才的運動能力の持ち主。野球選手のくせに大の野球嫌いで努力嫌い、女の子が
大好きという超高校級のチャラ男でもあった。……が、舞園に命を狙われたことを契機に
自分が周囲からどう見られていたかを知り、真剣に身の振り方を考え始める。その後、
命の恩人で何かと助けてくれるKにすっかり懐き、今はだいぶ真面目で熱い性格となった。


・舞園 さやか : 超高校級のアイドル

 国民的アイドルグループでセンターマイクを務める美少女。謙虚で誰に対しても儀正しく
非の打ち所のないアイドルだが、今の地位に辿り着くまでに凄まじい努力をしており、芸能界を
軽んじる桑田が嫌いだった。真面目すぎるが故に自分を追い詰める所があり、皮肉にも最初に
事件を起こす。その後も自分を責め続け、とうとう限界を迎えた彼女は舞園さやかという一人の
人間を封印。「脱出のための駒」としての自分を演じることにし、現在は精力的に動いている。


・石丸 清多夏 : 超高校級の風紀委員

 有名進学校出身にして全国模試不動の一位を誇る秀才。真面目だが規律にうるさく融通が効かない。
苗木を除けば唯一才能を持たない凡人である。努力で今の地位を築いたため、努力を軽視する人間を嫌う。
堅すぎる性格故に長年友人がいなかったが、大和田とは兄弟と呼び合う程の深い仲になった。
 自身と生い立ちが似ているKにシンパシーを抱き医者になることを決意したが、大和田の起こした
事件で顔と心に大きな傷を負い、また度重なる重度の心労でとうとう精神が崩壊し、廃人となった。




9 ◆takaJZRsBc2014/06/22(日) 01:30:00.79mFClvy8A0 (2/4)


・大和田 紋土 : 超高校級の暴走族

 日本最大の暴走族の総長。短気ですぐ手が出るが、基本的には男らしく面倒見の良い兄貴分である。
石丸とは最初こそ仲が悪かったが、後に相手の強さをお互いに認め合い義兄弟の契りを交わした。
 実兄を事故で死なせたことを周囲に隠している己の弱さがコンプレックスであり、不二咲の内面の
強さに嫉妬して事件を起こしてしまう。後に自ら秘密を告白し弱さを克服するが、自身のせいで石丸の
顔に傷をつけたこと、第三の事件を起こす切欠となり不二咲を瀕死の状態にしたことを後悔している。


・不二咲 千尋 : 超高校級のプログラマー

 世界的な天才プログラマー。その技術は自身の擬似人格プログラム・アルターエゴを作り出す程である。
小柄で愛らしい容姿をした女性……と思いきや、実は男。男らしくないと言われるのがコンプレックスで
今までずっと女装して逃避していた。秘密暴露を切欠に強くなろうと決意したが、その精神的な強さが
大和田のコンプレックスを刺激し、殺されかける。石丸が自分を庇って怪我を負ったことに責任を感じ、
単独行動を取った結果ジェノサイダー翔に襲われ死にかけるが、友情の力でギリギリ蘇生した。


・朝日奈 葵 : 超高校級のスイマー

 次々と記録を塗り替える期待のアスリート。恵まれた容姿や体型、明るい性格でファンも多い。
食べることが好きで、特にドーナツは大好物である。あまり考えることは得意ではないが、直感は鋭い。
モノクマの内通者発言により仲間達が疑心暗鬼に陥り、空気がギスギスしていることに心を痛めていた。
結果、いつも大親友の大神といるようになるが、それを友情ではなく依存だと指摘され混乱している。


・大神さくら : 超高校級の格闘家

 女性でありながら全米総合格闘技の大会で優勝した猛者。外見は非常に厳つく冷静だが、内面は
女子高生らしい気遣いや繊細さを持っている。由緒正しい道場の跡取り娘であり、地上最強の座を求め
日々鍛錬している……が、実は内通者。モノクマに道場の人間を人質に取られており、指令が下れば
殺人を犯さなければならない立場にある。覚悟を決めているが、同時に割り切れない感情も感じている。


・セレスティア・ルーデンベルク : 超高校級のギャンブラー

 栃木県宇都宮出身、本名・安広多恵子。ゴシックロリータファッションの美少女である。徹底的に
西洋かぶれで自分は白人だと言い張っている。でも餃子好き。脅威の強運の持ち主で、破産させた相手の
数は数え切れない。いつも意味深な微笑みを浮かべ一見優雅な佇まいだが、非常な毒舌家でありキレると
暴言を吐く。穏健派の振りをしているが、実は脱出したくてたまらない。


・山田一二三 : 超高校級の同人作家

 自称・全ての始まりにして終わりなる者。コミケ一の売れっ子作家でオタク界の帝王的存在。その同人誌は
高校の文化祭で一万部売れる程である。普段は明るく気のいいヤツだが、実は臆病でプライドが高い一面もある。
殺人を図ったメンバーとは軋轢が有り、KAZUYA達と十神達のどちらの陣営にも入れず孤独感を感じている。
セレスからは召使い扱いで毎日こき使われているが、本人曰く「ご褒美」だとか。




10 ◆takaJZRsBc2014/06/22(日) 01:32:14.31mFClvy8A0 (3/4)


・十神白夜 : 超高校級の御曹司

 世界を統べる一族・十神家の跡取り。頭脳・容姿・運動神経全てがパーフェクトの超高校級の完璧。
デイトレードで稼いだ四百億の個人資産を持っている。しかし、全てを見下した傲慢な態度で周囲と
何度も衝突を繰り返し、コロシアイをゲームと言い放つなど人間性にはかなり問題がある。初めて
学級裁判が起こった三度目の事件では、自ら事件を撹乱してKAZUYA達に直接攻撃を仕掛けた危険人物。


・腐川冬子 : 超高校級の文学少女

 書いた小説は軒並みヒットして賞も総ナメの超売れっ子女流作家……なのだが、家庭や過去の
人間関係に恵まれず暗い少女時代だったために、すっかり自虐的で卑屈な性格になってしまった。
周囲とは距離を取っているが十神のことが好きで、散々な扱いをされているにも関わらずいつも後を
追いかけ回している。実は二重人格であり、裏の人格は連続猟奇殺人犯「ジェノサイダー翔」。


・江ノ島盾子 : 超高校級のギャル

 大人気モデルで女子高生達のカリスマ……は本物の江ノ島盾子の方で、彼女はその双子の姉である。
本名は戦刃むくろといい、超高校級の軍人だった。天才的戦闘能力を誇るが、頭はあまり回らず全く
気が利かないため残念な姉、残姉と妹からは呼ばれている。この事件の黒幕である妹の指示で、
江ノ島の姿に変装し参加しているもう一人の内通者。ちなみに、KAZUYAからは既に看破されている。


・葉隠康比呂 : 超高校級の占い師

 どんなことも三割の確率でピタリと当ててしまう天才占い師。事情があって三ダブし、高校生にして
既に成人である。飄々として常にマイペース、KAZUYAからは掴み所がないと評されている。普段は割りと
落ち着いている方なのだが、非常に臆病ですぐパニックになる悪癖がある。
また、自分の保身を第一に考える所があり、借金返済のために友人を利用しようとする面も……


・霧切響子 : 超高校級の探偵

 学園長の娘にして、名門探偵一族霧切家の人間。初めは記憶喪失で名前以外何も思い出せなかった。
KAZUYAがたまたま霧切について知っていたため、現在は順調に記憶が回復している。いつも冷静沈着で
洞察力も鋭く、的確な指示をするためKAZUYA派の中では副リーダー兼参謀的役割を担っている。
桑田と舞園が微妙な関係のために、人数の関係で最近は桑田と組むことが多い。


・モノクマ

 コロシアイ学園生活のマスコットにして学園長。苗木達を監禁しコロシアイを強制している
黒幕である。中の人は超高校級の絶望・江ノ島盾子。人の心の弱い部分やコンプレックスを
突くのが得意で、このSSでは幾度も生徒達の心を踏みにじってきた最強のラスボス。




11VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/06/22(日) 01:33:51.79Hrpx/0gw0 (1/1)

乙おつ
スレタイのあの人がそろそろなにかしでかしそうですねw
石丸君はどれくらいで乗り越えることができるのかなー
十神君ってばある意味原作以上に存在感ありませんかこのかませー!主人公みたいなモブー!


12VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/22(日) 01:38:03.14NHgtnn4go (1/1)



霧切さんは反乱の霧切フラグがあるからコミュパートで最低1回、できたら二回取りたいな



13 ◆takaJZRsBc2014/06/22(日) 01:43:55.27mFClvy8A0 (4/4)


テンプレ貼り終わり。前々から>>1に今までのネタバレを載せるのはどうなんだろうと
気になっていたので、今回から形式を変えてみました。

前スレの返レスをして今日は寝ます


>>990
何故ヨダレ?!

>>994
申し訳ありませんが、二章からフラグが非常に複雑化してて一つ説明すると
今後の大きなネタバレになってしまうので説明は出来ません。ご容赦ください

>>997
シロを追い詰めるのはけして無意味ではないですよ。KAZUYA派の主要メンバーである
石丸君を潰せば派閥に大打撃を与えますから。けして個人的に嫌いだからではない……はず

撹乱したせいで発言権がなくなり、投票ミスってたらどうすんだという意味では
まさしく仰る通りと言いますか……原作でもそうなのでなんとも

十神君は自信ありすぎるというか、もうちょっと慎重になった方がいいと思うyo!



14VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/22(日) 02:07:45.48tXNunJc/0 (1/1)

乙です!4スレ目か…これからも楽しみにしてるよ

石丸がついに崩壊したか……フラグは立ちまくってたもんな
果たしてこっから立ち直れるのかね……
本編でも思ったが、石丸は普段が熱血な分、精神崩壊した姿が余計に痛々しく見えるな
後、残姉がいち早く石丸が壊れてしまったのに気付いたあたりもなんか…こう、くるものがある……

十神は…どーすりゃいいんだこりゃ
この状況でよくそこまでヘイト稼ぎまくるなww


15VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/06/22(日) 02:13:24.43w+hYStrK0 (1/1)

ジェノとはうまい飯が食えそうだ


16VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/22(日) 02:17:04.32ObSYW0mfO (2/2)

十神はこの時点ではまだ、まさか感情優先して自身にも害がある方を選ぶ人間がいるとは思ってないからな。


17VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/06/22(日) 02:17:35.254ghLnV4e0 (1/1)

乙乙!
このSSめっちゃ好きで楽しみにしてるけど鬱展開すごくてSAN値ゴリゴリ削られるわ(白目)
その鬱展開とそこからの復活、あと心情描写が魅力なんだけどね。

しかし次章
・裁判での最大の貢献者であり強力な発言権を持つけど交流が薄くてこちらに完全に心を許しているのかイマイチ判らない霧切さん
・効果あるか判らないけど放置してたらヤバそうな石丸と舞園
・石丸の件でダメージ負ってそう&石丸復活の強力なキーになりそうな大和田&ちーたん
・現状大神に依存先傾向がある&大神の抑止力になりそうな朝日奈
・十神の裏切りとオシオキで心身傷ついてる腐川
・確実に自分を守ってくれる味方が居ないので疑心暗鬼MAXで何しでかすか判らないのと利用されそう、あと占いが活用出来そうな葉隠
・引き込んで置かないと十神やセレスに利用されそうな山田

コミュパートでどこから手を付ければ良いのかどこを切り捨てれば良いのかまるで判らない…(絶望)


18VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/22(日) 02:52:37.39DW5xzyvHo (1/1)

前スレ&2章完走乙!

そんでスレ立て乙
なんだか年が明けたような気分
今スレもよろしく


19VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/22(日) 06:24:10.37vZAN/W4u0 (1/1)



>>17
苗木と桑田が大丈夫なだけまだ……


20VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/06/22(日) 07:42:44.85wCzNS5580 (1/1)

乙です、4スレ目突入とは素晴らしい

こりゃ石丸を救うには石田化もやむなしかもな・・・
目覚めたちーたんにこれまでの経緯を一から説明するのも心苦しいな・・・絶対悲しむよあの天使


21VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/22(日) 16:36:49.50DuRXc8qdo (1/1)

今気付いたけど、崩壊した石丸の台詞にさりげなく助けてって入ってるな…


22VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/06/22(日) 19:33:00.39pEnlN+M90 (1/1)

>>17
仲間になったキャラに関しては1章と同じくアイテムゲットの番外編があると思うしその様子で判断出来るんじゃないか?
スレタイも考えて安広さんと葉隠と山田メインで良いと思う


23VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/06/22(日) 19:57:09.083z8NMgBR0 (1/1)

死人は出てないけど心身ともにボロボロの人達が多いな
次の章で動くのは中立派の三名とか不安要素しかない
十神もまた事件を撹乱しそうだし


24VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/22(日) 20:49:04.71iQp0MNOZO (1/1)

安広さんはコマになりそうなの全員仲間にしてから利害の一致的に仲間にした方が良さそう


25VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/22(日) 21:54:28.32vv4mgR76o (1/1)

石丸顔が傷つくわ精神的に追い詰められるわ踏んだり蹴ったりだな
これでもマシ方なのか?全然そう見えないけど…


26VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/22(日) 22:05:40.09/7R2TrjuO (1/1)

石丸が踏んだり蹴ったりなのは本編からしてそうだから間違ってないな、うん

舞園にしろ石丸にしろ、真面目な奴は必要以上に自分を追い詰めすぎるんだよな…
二人ともどうにか救ってやりたい


27VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/22(日) 22:13:25.78S5JrNo3bo (1/1)

>>25
大和田とちーたん生存、大和田とは和解済、K達助けてくれる仲間がいる

原作よりよっぽど恵まれてるぞ


28VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/23(月) 15:15:07.74L5hv+GtKO (1/1)

たえちゃんはここに残る理由を作るとかがいいかもw


・・・誰かに惚れさせる?


29VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/23(月) 18:43:39.802rJIY+lXo (1/1)

前スレで十神の描写で眼鏡が割れている描写があったので素でやべ十神死んだwwと思ってしまったww
ネタスレの見すぎでまともな描写なのに笑ってしまった


30VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/23(月) 19:34:03.66fkcYzzBLO (1/1)

出来たよ! 十神君と眼鏡を入れ替えるスイッチだ!


31VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/23(月) 19:35:10.17TJHt4ESSo (1/1)

>>30
普通じゃね?


32VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/23(月) 19:44:35.970D5P8JTOO (1/1)

十神?ああ、メガネかけのこと?


33VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/06/24(火) 07:27:08.29TJRYClbV0 (1/1)

あれ?十神ってみんなを導いてくれる頼れて動ける[ピザ]っちょじゃなかったっけ?


34VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/24(火) 14:59:57.75RLTaPMqE0 (1/1)

前スレ乙!そして新スレおめ!

死人が出てなくて嬉しいはずなのに素直に喜べない……
大和田とちーたんで石丸なんとか救えんのか…実質二人の命救ったんだからなんとかしてやってくれ
あと選択肢で変わってたっていう石丸の怪我の程度も知りたいです1先生!!


35VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/06/24(火) 15:04:12.82iPLlKiuY0 (1/1)

流れがひでぇwww
ヘイト稼ぐからこうなるんだよ十神www
しかしそれでこそ十神ってかんじですごいなぁ話が。まあそれでも噛ませ臭が拭えないのは、
やっぱ弱い者いじめしちゃう震えるロンリーメガネかけだからかねぇ。


36VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/06/24(火) 19:05:07.89KbjxAdI90 (1/1)

俺ここの十神結構好きだけどな
まぁやらかしてることは擁護できないがなんつーか結構精神的にじわじわ追い詰められつつも自分は持っててプライド高いとことか




37VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/24(火) 19:16:06.27+l9oInIdO (1/1)

正直監禁しておくべきだと思うけどな
常に十神が何かやったんじゃないかと疑わなきゃならんし


38VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/06/25(水) 00:11:12.89ZhHa+gyAO (1/1)

ここの十神、記憶が戻って実はみんなクラスメートだったって知ったらめちゃくちゃ落ち込みそう


39VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/25(水) 00:25:27.73lCTtbOHzo (1/1)

>>37
2だったら監禁されてるだろうな。ただ、十神に何かすればジェノが黙ってないから難しい
それに石丸の件でそれどころじゃなくなるだろうから結局無罪放免になりそう


40VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/25(水) 00:28:52.895kIngJG/o (1/1)

>>39
2人抱き合わせて鎖かなんかで縛って放置すればいいじゃないか。


41VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/25(水) 10:38:44.37rxerfvE6o (1/1)

石丸当人が十神にそこまで悪い印象抱いてなさそうだからあんまり騒いでもね
秘密暴露で一人褒めてたくらいだし


42VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/06/26(木) 03:17:36.55CdE58IjA0 (1/1)

>>28
苗木先生、出番です

今の石丸に駒園さんぶつけたら「新しい自分に生まれ変われば良いんですよ(ニコッ)」とか言って石田爆誕しそうで怖いわー
しかし石丸にばかり目が行くけど腐川も大丈夫なんかね。電流食らうってーと全身火傷状態とか?


43VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/26(木) 03:22:40.89SLDI/Hx+o (1/1)

doctor kすら完読してしまった


44VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/26(木) 09:06:29.82RQ7SJxqxo (1/1)

それにしても、まだ一回も投下来てないのに凄い伸びだな
ハニーポッターみたいに感想スレ立てても埋まりそう


4512014/06/27(金) 13:12:50.48Ei0WG+tDO (1/2)

いつもたくさんの応援・感想レスありがとうございます。モチベに繋がります

そしてすみません…書き溜めは結構たくさんあるのに推敲が全然出来てないから
投下出来ないというていたらく…千本ノック喰らってきます

あと自分でも忘れっぽいとは散々言っていたが、本当にここまで忘れているとは…
舞園さんの右手とKAZUYAの左手の怪我をすっかり忘れていた。危うく矛盾する所だった
というか既に一カ所微妙に矛盾しかけてる。ので、こっそり修正しておく

今後のためにカルテ書いておくか…


>>22
モノクマメダル贈呈。すっかり忘れてました…
でも番外編はキリが悪いので、しばらくは入りそうにない

今日か明日には必ず来ます。それでは



46VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/27(金) 13:20:04.52oKdSfD2GO (1/1)

推敲の方が時間掛かるのか、珍しいタイプやね


4712014/06/27(金) 22:07:41.27Ei0WG+tDO (2/2)

あと、実はとあるスレでうちのスレの話題が上がっておりまして、医療描写の
一部がそれは違うよ!されてしまったのでその訂正と解説と補足説明もしなきゃなぁ…

>>46
推敲と言うか加筆修正ですかね。第一稿が30分だとすると二稿が一時間くらい、三稿四稿と…
医療シーンが入ると調べ事が多いから下手したら推敲だけで数日~一週間以上かかることもザラ

シーンが後から追加で浮かぶのも多いので、本投下までわざと少し寝かせて後から浮かんだシーンを
間に継ぎ接ぎしたりしてます。推敲前と後の違いを見たら結構ビックリするんじゃないかな
シーンや台詞まるごと後付けしてるのもかなりある。直近だとセレスのウィッグ関連と
オシオキ後のエクストリーム~以外のモノクマの台詞は全部後付け

そしてまだ出先。こりゃ明日かな…


48VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/27(金) 23:25:04.33M7gXBdPlO (1/1)

完結まで書いてから公開するやつならそんな感じだけど、こういう形式で珍しいなーと
医療題材だからね……しょうがないね、っていうか自分だったらもっと調べることが多くなるだろうなあ
でも、勢いでいっちゃったのも見たいねww


49 ◆takaJZRsBc2014/06/28(土) 16:29:41.10xo2FS/lH0 (1/19)

何が嬉しいって、もう残りレス数気にしなくていいことだよね
前スレではレスが600超えた辺りからもう嫌な予感がしていて、案の定ギリギリだったし

あと、>>2のKAZUYAの参考画像は地味に毎回変えているのにお気づきだろうか
今回の一枚目はティーゲルの時と並んで三大好きなヤツの一つ。もう一つもそのうち貼る

では投下すっぞ!



50 ◆takaJZRsBc2014/06/28(土) 16:35:02.02xo2FS/lH0 (2/19)


―俺達は誰一人として死者を出さずにあの学級裁判を生き残った。


―俺達は勝ったのだ。





―……。


―勝ったのか?


―……勝ったはずだ。





では、一体何故こんなことになってしまったのだろう――


男は、壊れてしまった教え子の前で絶望した。




51 ◆takaJZRsBc2014/06/28(土) 16:35:33.10xo2FS/lH0 (3/19)






Chapter.3 世紀末医療伝説再び! 医に生きる者よ、メスを執れ!!  (非)日常編







52 ◆takaJZRsBc2014/06/28(土) 16:37:37.45xo2FS/lH0 (4/19)


月日が過ぎるのは早いもので、あの悪夢のような学級裁判から既に一週間が経とうとしていた。

KAZUYAは日課となった石丸のカルテを書いている。未だに正気を取り戻す気配がない石丸の、
どんな些細な変化も漏らさないようにと事細かに記録していく。ついでにその日あったことや
気付いたことなども簡単に記載していたので、半ばKAZUYAの日記のようになっていた。


「……………………」


KAZUYAは書き終わったカルテを無言で整理する。
そして、少しでも手掛かりはないかとまた最初から読み直し始めた。



― コロシアイ学園生活十五日目 石丸の部屋 AM8:54 ―


石丸は生きるのをやめた。則ち、生きるのに必要な生命活動を全てやめてしまった。
ほっといたら睡眠も食事も全く取ろうとしない。そのことに気が付いたKAZUYAは、
夜になったら薬と針麻酔を併用して無理矢理眠らせることにした。漸次的だが、
これで睡眠問題は解決する。次に問題となったのは、当然ながら食事についてだ。


桑田「お、上手く行ってる感じ?」

K「恐らく、な」

苗木「ここにお医者さんがいて本当に良かったよ」

舞園「不幸中の幸いでしたね」

石丸「…………ゴフッ」




53 ◆takaJZRsBc2014/06/28(土) 16:43:05.30xo2FS/lH0 (5/19)


K「ム!」

苗木「あ」


当初、KAZUYAは鼻腔から直接胃にカテーテルを通し流動食を流し込む経鼻栄養法を試みた。
石丸は自分の体に異物を入れているのにも関わらず、一切反応も抵抗もしなかった。
いけるとKAZUYAは思ったのだが、少しして石丸は胃の中の物を吐き出してしまったのである。
何度か試したが、どうやら胃に物が入ると拒否反応を示して吐いてしまうようだった。


「…………」

(不味いな……あまり何度も吐かせるのは誤嚥性肺炎の元だ。口腔や食道にも良くない。
 しかし、胃に物が入れられないとなると胃瘻(いろう)も出来んだろう……)

(どうする? 腸瘻(ちょうろう)ならいけるか? だが、長期間かかると確定しているなら
 考慮すべきかもしれんが、存外早くに戻るかもしれん。そもそも、経腸栄養が可能かも問題だ)


胃瘻:腹壁と胃に穴を開け体外から管を通し、そこから直接栄養や薬品を投与する処置のこと。
    経口摂取が不可能な患者に安定した栄養補給をすることを目的とする。

腸瘻:胃瘻の腸版。直接小腸に穴を空け専用チューブを通し、栄養を流す。胃を通さないため、
    下痢を起こしやすい。胃瘻・腸瘻共に六週間以上使用するかどうかが造成目処の一つ。


(一番の問題はどれぐらいで戻るか皆目見当がつかないことだな。鍵は不二咲だと思うが……)




54 ◆takaJZRsBc2014/06/28(土) 16:52:38.82xo2FS/lH0 (6/19)


流石のKAZUYAも精神の病に関しては専門外であり、まったく当たりがつけられなかった。
やむなく、今回は臨時に点滴をすることにする。だが、通常の点滴では人間の生命を
維持するのに必要な栄養素を取ることが出来ない。どうしたものかと思案していた時だった。

その時、モニターに画面が映りモノクマの放送が入る。


モノクマ『この学園では、裁判を経験するたびに新しい世界が広がります。舞園さんが最初に事件を
      起こした時みたいにね。そうでもしないとオマエラしらけ世代はすーぐしらけちゃうんだから』


桑田「シラけ世代って、オイ……」

苗木「新しい世界?」

舞園「どこかに行けるようになったということでしょうか?」


放送からさして間を置かずに、部屋に霧切がやって来た。


霧切「ドクター! 今の放送聞いたかしら?」

K「ああ。今現在行けないのは上の階のみ。つまり新しい世界とは四階のことだろうな」

桑田「マジかっ?!」

苗木「先生!」

K「石丸は俺が見ている。まずはお前達が行ってきてくれ」

苗木「はい!」

桑田「んじゃ、ちょっくら行ってくるぜ!」




55 ◆takaJZRsBc2014/06/28(土) 16:58:11.57xo2FS/lH0 (7/19)


そう言って四人は四階へと向かった。


K(果たして何があるのか……)


・・・


しばらくして苗木、霧切、桑田だけが部屋に戻って来た。彼等によると四階には二つの
教室と化学室、音楽室、職員室、情報処理室、学園長室があり、そのうち学園長室と
情報処理室には鍵が掛かっていて入れなかったとのことだった。


K「随分たくさん部屋があるのだな。何より学園長室……つまり奴の私室か?」

霧切「……恐らくは」

桑田「くそっ! 一番てがかりがありそうのはあそこなのに中に入れねーとか……」

K「仕方ないさ。……今は正直脱出どころではないしな。それで、情報処理室とは?」

苗木「少し変わった扉でした。なんか他の部屋と雰囲気が違うような。単なる印象だけど」

K「いや、気付いたことがあればどんどん言うべきだ。そこから何かの糸口を掴むこともある」

霧切「扉の上には玄関ホールみたいに機関銃が設置されていたわ。大事な部屋かもしれないわね」

K「フム。学園長室に情報処理室……か」

霧切「とりあえず、入れない部屋については後回しにしましょう。他の部屋については……」


残った部屋でKAZUYAが最も興味を惹かれたのは、当然と言うべきか化学室だった。




56 ◆takaJZRsBc2014/06/28(土) 17:04:23.01xo2FS/lH0 (8/19)


桑田「普通の学校の化学室と変わんねーと思うぜ。なんか変な薬がいっぱいおいてあった」

霧切「薬品棚の一覧表があったから持ってきました」

K「助かる。……ムゥ、これは」


薬品の一覧を見た瞬間、KAZUYAの顔が曇る。


苗木「……やっぱり、毒とかありますか?」

K「まずいな。こんなものをそのまま放置しておけば生徒に凶器を与えるようなものだ」

霧切「そう思って今は大神さんと朝日奈さん、舞園さんの三人に薬品棚を見張って貰っています」

K「手際が良くて助かる。……倉庫に、確か大工道具があったな?」

桑田「あったけど、それをどうすんだ?」

K「大和田は大工を目指しているそうだから、初仕事を頼もう。
  棚の一つに鍵をつけて、そこに危険な薬品類を全て収納する」

苗木「でも、肝心の鍵はどうするんですか?」

K「保健室で薬品の保管に使っていた南京錠があるからそれを流用する。
  どうせ保健室の薬品類は全て撤去して使っていなかったからな」


何故薬品の保管に棚の鍵だけでなく南京錠を併せて使っていたかは思い出せないが、
KAZUYAは誰かから薬品を守ろうとしていた気がする。確か女性だったような……




57 ◆takaJZRsBc2014/06/28(土) 17:08:28.04xo2FS/lH0 (9/19)


だが今重要なのは記憶ではなく、その鍵が役に立ちそうだということだけだ。


霧切「とりあえず、一度ドクターにも四階を見てもらう必要があるわ」

K「そのようだな。俺が戻るまで石丸を任せる」

苗木「はい」

K「霧切、すまないがもう一度俺と回ってもらっていいか? 詳しい説明が聞きたい」

霧切「わかったわ。行きましょう」


倉庫と保健室に寄って色々工作に使えそうな物を見繕うと、KAZUYAと霧切は四階に向かった。
部屋の配置や、使えそうな物を徹底的に頭に叩き込んで行く。それらの作業が終わると、
最後に化学室に向かった。中では、女生徒三人が気まずげな顔で並んで立っている。


朝日奈「あ、先生!」

K「見張りをしてくれたそうだな。助かった」

朝日奈「ううん。……だって、危険な薬がいっぱいあるって言うし……」

大神「薬品は我等ではよくわからぬ。ここは薬品のプロフェッショナルが扱うべきではないかと」


薬品は本来俺の専門ではないのだがな、とKAZUYAは内心で苦笑する。ついでに、薬品のプロという
言葉でとある大学同期の友人を思い出した。最近めっきり会ってなかったが元気にしてるかなと思う。




58 ◆takaJZRsBc2014/06/28(土) 17:14:39.99xo2FS/lH0 (10/19)


K「ここは俺と霧切に任せてほしい。あと、すまないが誰か不二咲の看病を少し
  変わってやってくれないか? 大和田を連れて来てほしいのだ」

朝日奈「わかった。私が交代するよ。大和田にここに来てって言えばいい?」

K「頼む」

舞園「私も行きます」

大神「我も行こう」


三人が部屋を去り、KAZUYAと霧切が薬品を危険度によって棚に振り分けて行く。
さほど待たずに大和田がやって来た。


大和田「俺に用ってなんだ?」

K「初仕事さ」


少し時間は掛かったものの、なんとか劇薬類を隔離することは成功したのだった。


大和田「ハァ……ひっでえもんだ。木の棚ならまだしも鉄の棚に力付くで穴空けて
     ムリヤリ加工したから、見た目がガタガタだぜ……」

K「とりあえずは開かなければ良いのだ。見た目は二の次でいい」

大和田「で、これで危険なモンは全部しまえたんだな?」




59 ◆takaJZRsBc2014/06/28(土) 17:19:28.49xo2FS/lH0 (11/19)


K「一応な。あと、劇薬というほどではないがやや危険で特に使い道のない薬品は
  俺が化学反応で中和させて処分しておくとしよう」

霧切「劇薬にばかり目が行っていたけれど……役に立ちそうな物はあるかしら?」

K「あった。非常に役立つ物がな。むしろなければ困る所だった、が……」


しかし、そう話すKAZUYAの顔はあまり明るいものではなかった。



               ◇     ◇     ◇


午後の、探索も一段落ついて少し落ち着いた時間に、KAZUYAは生徒達を一人ずつ石丸の
部屋に呼んだ。呼びかけてもらい、反応を見たかったのだ。上手くすればそれで戻るかもしれない。


K「頼んだぞ」

葉隠「おう、任せろって」


とりあえず葉隠を呼んでみた。年長だし、職業柄色々な人間と会って話してきた経験がある。
何より占い師としてのインスピレーションに期待していた。部屋に入ってすぐに、葉隠は机に向かう
石丸を見つける。その姿は、昨日見た時とは違い特におかしくない普段通りものに見えた。


葉隠「あれ? 先生、石丸っち勉強してるべ? なんだ、もう元気になったんかいな。
    俺がなんかする必要なんてなーんもなかったな。ハハハッ」

K「……違う。よく見てみろ」

葉隠「ん?」


石丸の横に回りこんで顔を見てみる。その目の焦点は、合ってなかった。手も全く動いていない。




60 ◆takaJZRsBc2014/06/28(土) 17:24:42.54xo2FS/lH0 (12/19)


葉隠「……えーと?」

K「石丸は長年規則正しい生活をしていたせいかな。食事も睡眠も取らないくせに、何故か
  こういった無意味な行動を時々取るんだ。……体に染み付いているのだろうな」


生きるために必要な行動を一切取らずに、勉強もどきや運動まがいの行動は時折取る。
その無機質な姿はまるでプログラムされた機械人形のように見えて、ただただ不気味だった。


K「……何でもいい。話しかけてやってくれんか?」

葉隠「お、おう……」


想像以上に重篤な状態になっていたことを知り、葉隠は半ば青ざめつつも石丸に声をかける。


葉隠「な、なあ。石丸っち? しっかりしろって」

石丸「……すまない。許してくれ」ブツブツ


葉隠が話しかけた途端、それがスイッチになったように石丸はまた止まらない独り言を始めた。


葉隠「別に怒ってないって。もっと前向きになった方が人生楽だべ? 大体石丸っちは
    ちょっとマジメすぎんだ。俺なんて、三ダブの上借金まであんだぞ!」

石丸「御免。ごめん。申し訳ない。すまない……」ブツブツ

葉隠「あのな、昔の偉い人が言ってた話なんだけど~……」


占い師だからか単に好きだからか、葉隠は意外と雑学に詳しくそれをあれやこれやと
述べたりしてみた。他にも適当に周りの状況やとにかく思いついたものを色々話してみた。
……が、何一つ目新しい反応はない。




61 ◆takaJZRsBc2014/06/28(土) 17:34:23.62xo2FS/lH0 (13/19)


葉隠「……ハァ~。さっきからなに言ってもこうだべ。もう帰っていいか?」

K「わざわざすまんな。もう戻ってくれて構わん」


言ってから、ふとKAZUYAは葉隠に問い掛けた。


K「待て。……石丸が治るかどうか占ってもらってもいいか?」

葉隠「あ、それならもうとっくに占ってあるべ。……本当に聞きたいんか?」

K「参考程度に、な」


葉隠は少し考えていたが、結果を教えてくれた。KAZUYAの予想通りではあったが。


葉隠「……治らんかった。で、でも! 俺の占いは三割しか当たらんしな!」

K「…………」

葉隠「えーと、その……」

K「ありがとう。戻っていいぞ」

葉隠「じゃ、じゃあまたな! 石丸っち、また来るべ!」ガチャ、バタン

K「…………」


無言で溜息をつくと、KAZUYAは次の生徒を呼びに行った。


・・・




62 ◆takaJZRsBc2014/06/28(土) 17:43:45.82xo2FS/lH0 (14/19)


その後も、次々と生徒を部屋に連れて話しかけさせる。


山田「石丸清多夏殿? 大丈夫ですか?」

石丸「僕は駄目だ。駄目だ。駄目だ。駄目だ……」

山田「はぁ~。まったく……めんどくさい人ですな」

江ノ島「元気出しなって! たかが一回のミスでなに落ち込んでんの!」

石丸「…………」

江ノ島「この程度のミスで落ち込むならアタシなんて……あ、ヤバ。なんか落ち込んできた」

石丸「すまない、許してくれ」

セレス「許しませんわ」

石丸「僕は駄目だ」

セレス「そうですわね」


しかし、全く改善の兆しが見えない。


セレス「慰めも世間話も言葉責めも全部やってみましたが無駄でしたわ。私もギャンブルで
     自棄を起こした方は何度も見てきましたが、ここまで酷い方は見たことがありません」

セレス「石丸君はダメになってしまったのです。いっそ、諦めた方がよろしいかもしれませんわよ?」

K「……諦められんさ。生きている限り、俺は絶対に諦めない」

セレス「そうですか……では、茨の道を歩いてくださいませ」




63 ◆takaJZRsBc2014/06/28(土) 17:55:14.47xo2FS/lH0 (15/19)


カチャ、パタン。

部屋に取り残されたKAZUYAは、今までに得た情報を何一つ漏らさずカルテに詳細に書いていく。


K「…………」

K(茨の道か。そうだな……それに、問題は石丸だけではない。腐川もだ)


そろそろ目が醒める頃だろうな、とKAZUYAは腐川のことを考えていた。
自分が望んで襲った訳ではないのにオシオキを受ける羽目になってしまったのだ。
その精神ダメージたるや、決して小さくはないだろう。KAZUYAは霧切を呼ぶ。


K「霧切、腐川の部屋に行ってもらっていいか? 俺の見立てではそろそろ目が醒めると
  思うのだが、俺は嫌われているし、第一女生徒の部屋に俺がいては障りがあるだろう」

K「火傷に効く軟膏を渡しておく。寝ている間に処置もしておいてくれ」

霧切「わかりました」



― 腐川の部屋 PM2:41―


全身を駆け抜ける鋭い痛みと共に腐川を目を醒ました。


「う、うう……」

(……痛い。なんなのよ、これは……!)


筋肉を針でつついているような、そんな鋭い痛みを至る所に感じる。
視界に積み上げられた本を見つけ、腐川はここが自室のベッドだと気が付いた。




64 ◆takaJZRsBc2014/06/28(土) 18:03:04.70xo2FS/lH0 (16/19)


「おはよう、腐川さん」

「!」


痛みと現状把握に意識を割いていたため気が付かなかったが、すぐ横に霧切がいた。
椅子に座って静かに本を読んでいる。怜悧な彼女が本を読む姿はまるで一枚の絵画のようだった。


霧切「あなたの本を読ませてもらっていたわ。恋愛小説を読むのは初めてだけど、とても面白いわね」

腐川「あんた……なんでアタシの部屋にいんのよ……痛っ!」

霧切「状況説明をしようと思って。……一応火傷はあなたが寝ている間に薬を塗っておいたわ」

腐川「火傷?! ま、まさかアイツがまたなにか……」

霧切「あなた、学級裁判でクロになってオシオキされたのよ。正確にはジェノサイダー翔だけど」

「!!」


腐川は思い出していた。そうだ。自分は学級裁判に参加していたはずなのだ。
自室にいるということは全て終わったということ。そして――予想通り犯人は自分だった。


腐川「ア、アタシじゃない……アタシがやったんじゃない!」


あの時――腐川は倒れている不二咲と石丸を見て、石丸が犯人だったら良かったのにと思った。




65 ◆takaJZRsBc2014/06/28(土) 18:09:14.79xo2FS/lH0 (17/19)


いや、殺した記憶はないのだ。もしかしたら本当に石丸が犯人で自分はたまたま居合わせた
だけかもしれない。状況から見てそれは限りなく0に近かったが、腐川はそれに縋った。自分が
殺したなどと思いたくなかった。だからより確実に石丸の犯行となるよう、凶器を用意したのだ。


霧切「落ち着いて。みんなわかっているわ」


学級裁判のその後や自分が知らない間に受けた地獄のようなオシオキについて、霧切は淡々と
説明してくれたが、腐川にとってもはやどうでも良いことだった。石丸がおかしくなったことも
四階が解放されたことも、あの十神のことですら今はまるで興味が持てなかった。

終わった。みんなにバレた。ただそれだけが今の彼女の思考を占めていた。


腐川(どどど、どうしよう?! アタシ、これからどうすればいいの?!)


もはや外に出ることが出来たとしても、何ら希望が持てない。十五人もいれば、一人くらいは
自分の秘密を漏らすだろうし、場合によっては口止め料を請求されて一生ユスられるかもしれない。

いや、そもそも無事に外に出れるかも怪しい。ただでさえ恐れられる存在の自分が
実際に人を襲ってしまったのだ。報復としてリンチに遭ってもおかしくなかった。

……特に大和田は、石丸を陥れたことも併せてどうしようもない程に激怒しているだろう。


腐川(こ、こ、殺される……!!)


腐川の全身から血の気が引き、カタカタと体が震え出す。




66VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/28(土) 18:15:53.40y2wInDgOO (1/2)

前のスレで腐川の自業自得とか言ってた人が居たけど、
無実の罪を背負った上で自分から進んで絞首台に足を運ぶのが義務だとでもいうのだろうか…


67 ◆takaJZRsBc2014/06/28(土) 18:17:48.43xo2FS/lH0 (18/19)


霧切「腐川さん?」

腐川「ど、どうして……どうしてアタシばっかり……好きで二重人格なんてなった訳じゃないのに……」

霧切「腐川さん、どうしたの?」


霧切は腐川の異常に気付いて声を掛けるが、逆にそれが彼女の神経を
大いに刺激して、腐川はヒステリックに叫び始めた。


腐川「ア、アタシのせいじゃない! アタシは悪くない!」

霧切「腐川さん、落ち着いて! 誰もあなたを責めてなんていないわ!」

腐川「嘘ばっかり! みんなアタシを殺す気なんでしょ?! 出て行きなさいよっ!」

霧切「腐川さん!」

腐川「出て行って! ここから出て行きなさい!!」


腐川は痛みも気にせず辺りにあるものを手当たり次第に投げ付ける。
これ以上ここで粘るのは危険だと判断した霧切は、仕方なく退散したのだった。


霧切(フゥ。厄介なことになったわね……)


KAZUYAの言ではないが、まさしく脱出所ではなくなってしまったのだった。




68 ◆takaJZRsBc2014/06/28(土) 18:22:57.97xo2FS/lH0 (19/19)


ここまで。



69VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/06/28(土) 18:26:15.13CuYmIxu90 (1/1)

乙です
色々と問題が山積みになってきたなー


それはそうと>>1さん、は・・・早くちーたんの声を聞かせておくれ・・・禁断症状がッ・・・!


70VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/06/28(土) 18:27:04.41Pl1F8Isu0 (1/1)

乙です、リアルタイムで追えて嬉しい!
占いは本編でも結構当たってるから怖いな
そう言えば学級裁判の秘密告白で葉隠は自分の犯罪暴露してたけどその件はKやツッコミ入れてた桑田的にいいのか?


71VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/28(土) 19:01:20.88xT1ogVVho (1/1)

乙です


72VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/28(土) 19:01:34.06y2wInDgOO (2/2)




73VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/28(土) 19:31:59.83N/jjS0cEo (1/1)

よだれが止まりませんなぁ!

葉隠の占いって悪いことはほとんど当たってるんだよなあ……
実際、6割のハズレはみんなが良いことばっか占ってもらうからだったりして


74VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/28(土) 19:51:02.97AYR0DNEWo (1/1)



>>73
残りの1割どこ行った


75VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/06/28(土) 22:33:46.82XoMvIzNW0 (1/1)

石丸は不幸が似合うな


76VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/06/28(土) 22:59:55.93FlKZvIEs0 (1/1)


狂って石田化したのも見ていて辛かったけど、現在の石丸も見てて辛いな
ジェノのことがバレて疑心暗鬼の腐川も何か仕出かしそうで恐い


77VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/28(土) 23:02:49.15MMtVHAqZO (1/1)

おつー
>>66
何が言いたいか知らんが殺人の隠蔽してる時点でクロだぞ


78VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/28(土) 23:31:00.46I8z+a7DDo (1/1)

ジェノが腐川を庇ったという考え方をしてみる


79VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/28(土) 23:31:44.52tKRhp6C7O (1/1)

>>74
1割は普通に外れてるんじゃね?
そもそもピッタリ3割、が定説になってるけど葉隠自身が言ってる率は変わってる


80 ◆takaJZRsBc2014/06/29(日) 00:43:08.92yGihyhQk0 (1/4)

>>70
正直それどころじゃないのでスルーした>葉隠君の犯罪

>>73
そなた、もしや鬱展開好きだな?今後もご期待ください

>>66>>77
今回投下分でも書いていますが、認めたくないんじゃないですかね。状況証拠的には100%自分なんだろうけど、
殺した瞬間の記憶はないし、自分が殺してる瞬間の映像を見せられた訳じゃないし。勿論、人を死なせてる訳だから
本来は警察に行くべきだとは思うけど怖いのでしょう。責任はあるけど自業自得も可哀想かな、という感じですね


カルテ作ったんで貼っときます



81カルテⅠ ◆takaJZRsBc2014/06/29(日) 00:50:21.17yGihyhQk0 (2/4)


カルテNo.1【KAZUYA】その①

頭部に複数の挫傷あり。頭骨に若干のヒビ。右腕に一発、腹部に三発の銃痕。
弾は腹直筋及び外腹斜筋内部で止まり、術式にて全て摘出縫合済。


負傷日:コロシアイ学園生活-三日目。経過日数18日。完治。


カルテNo.2【舞園 さやか】

腹部刺創。胃中心部に貫通創。術式にて縫合止血済み。
縫合した皮膚は完全に癒着していると見られる。12日目に抜糸予定。
通常の運動程度ならば問題ないが激しい運動は創が開く可能性あり。

右手首骨折。レントゲンによる診断が出来ないため、正確な部位と程度はわからず。
触診により手根骨が粉砕骨折をしていると判断し、現在はギプスにて固定。


負傷日:コロシアイ学園生活四日目深夜(五日目)。経過日数10日。要経過観察。右手は絶対安静。


カルテNo.3【江ノ島 盾子】

右膝下4cm、左膝下6cm、左大腿部9cm、左肩5cmの切創。左肩、左大腿部は縫合処置。
左腕に槍状の鉄棒による貫通刺創。橈骨動脈が切断されていたため、吻合。


負傷日:コロシアイ学園生活十日目。経過日数5日。要経過観察。

……だが診断を拒否。抜糸だけはなんとか受けさせたい。


カルテNo.4【石丸 清多夏】その①

・左額から瞼を通り左頬に抜ける12cmの切創Ⅰ。
・切創Ⅰの左、正面から見てやや右の左頬から左顎部に抜ける8cmの切創Ⅱ。
・左頚部に7cmの切創Ⅲの計三つ。

切創Ⅲはトレーニング機材の角にぶつかったことにより外頚静脈を損傷していたので縫合。
創面が粗かったため、デブリードマンを実施の上、創面も縫合。

切創Ⅰ、Ⅱは鏡の破片で切ったものであり創面は特に問題なかったが、極度の興奮が原因か
麻酔効果の減衰が見られたため、真皮縫合は行えず通常縫合での縫合とする。

また、覚醒後暴れたため創が若干開いたが、麻酔が少ないため再縫合は実施せず。
精神面が不安で情緒不安定な面が見受けられるので、泊まりこんで監視を行うこととする。


負傷日:コロシアイ学園生活十日目深夜(十一日目)。経過日数四日。要安静。




82カルテⅡ ◆takaJZRsBc2014/06/29(日) 00:53:37.29yGihyhQk0 (3/4)


カルテNo.5【不二咲 千尋】

縄状のものにより頚部を圧迫され窒息。発見し即座に心肺停止を確認。

胴体部に残存体温が認められたため、心肺停止からあまり時間経過しておらず蘇生の余地ありと
判断しCPRに移行。気管挿管し、バックバルブマスクにて送気しつつ開胸式心臓マッサージを施行。
CPRと同時にエピネフリン1mgを静注。以後、様子を見ながら追加で静注を行った。

午後4時。CPR開始からから2時間15分後。未だ生命兆候現れず、死亡認定。CPRを中止。

……その後、大和田のCPRにより心拍再開を確認。強心剤心注し、自発呼吸を再開した。
蘇生後は、蘇生後脳症を防ぐため低体温療法を実施。ただし、学級裁判により一時看護が
中断するため、シバリングの発生する極低温は避け34~35℃を目処に調整する。

今後は蘇生後処置に移行し、発熱や細菌による合併症に気を付ける。


負傷日:コロシアイ学園生活十四日目。経過日数1日。要絶対安静。


<ここからKAZUYAの個人的コメント>

心臓マッサージの最中に、家族や友人の呼びかけで一時的に心拍が回復することは実はよくある。
死に瀕していても、声や想いは届くのだろう。だが……俺の声ではきっと助からなかったはずだ。
もしや、記憶を失っていたとしても不二咲の脳は二人との友情や思い出を……(この後は消されている)


カルテNo.6【腐川 冬子】

全身にⅠ度の熱傷あり。電極と直接接触していた部分は浅達性と見られるⅡ度熱傷。
変色、水ぶくれも多少見られるが植皮は必要ない程度である。

アズノール軟膏を塗ってガーゼで覆った(症状が軽度だったため処置は霧切に委任)。
また、彼女の場合肉体よりも精神面に深刻な影響が懸念されるため、注意深く観察する必要がある。


負傷日:コロシアイ学園生活十四日目。経過日数1日。要経過観察。


<ここからKAZUYAのコメント>

腹立たしいが、モノクマは確かに約束には厳しいようだ。……しかし、上手い具合に手術が
不要な程度の傷に仕上げてある。こちらとしては有り難い限りだが、もっと重傷な方が奴的には
楽しめるのではないのか? オシオキの存在が犯罪抑止になることを警戒したのか、それとも……




83カルテⅢ ◆takaJZRsBc2014/06/29(日) 01:03:37.22yGihyhQk0 (4/4)


カルテNo.7【KAZUYA】その②

左掌に折れた木刀の木片が三箇所貫通。その他複数の切創。消毒止血済。
手当をするまでにやや時間がかかってしまったので、破傷風に気をつけたい。


負傷日:コロシアイ学園生活十四日目。経過日数1日。要経過観察。


カルテNo.8【石丸】その②

深刻な精神疾患を発症。急激なストレスのせいか髪が脱色現象を起こしている。

自発的な睡眠食事を一切行わず。やむを得ず、睡眠は市井の睡眠薬を使うことにした。
ただし、薬品依存を避けるため針麻酔も並行して使用することとする。

食事は当初経鼻栄養法を試したが、肉体が拒否反応を示し嘔吐を繰り返したため中止。
今後、経腸栄養が可能かどうかを焦点に観察を続け近日中に結論を出すこととする。
しばらくは点滴による末梢静脈栄養法を実施していく。

また、会話が全く成り立たず独り言、強度の他害妄想有り。独り言の内容は謝罪、
自己否定的なものが大半を占め、時々理解不能な内容も含まれる。

< 中略 >

場合によっては抗鬱剤による薬物療法や精神療法を試みた方が良いかもしれないが、
専門外のため悪化の可能性もあり、現段階では安易に手を出すべきではないと判断する。

今後も追って経過を観察し、どんな些細なことも記録することとする。


発症日:コロシアイ学園生活十四日目。経過日数1日。要経過観察(大文字に丸を二重にして囲んでいる)。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

以上。自分のためのメモでした。

ちなみに、このカルテはノリです。再現です。KAZUYAが書いた本物のカルテは
もっと詳細でドイツ語とか専門用語の羅列で一般人は読めないものと思って下さい。

特に薬品関係は繊細ですからね。一応一般的なものを書いたけど、患者の症状や状況によって
種類も量も回数も変わるのが当たり前です。エピネフリンじゃなくてバソプレシンかもしれないし、
アズノールじゃなくてリンデロンかもしれない。雰囲気を楽しんで下さい

ちなみに昨今ではエピネフリンではなくアドレナリンというそうです。Kは昭和生まれだから、ね




84VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/29(日) 09:15:27.0810Qxaczfo (1/1)

乙です


85VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/06/29(日) 15:49:13.45XD2qFNUS0 (1/1)

>>74
当たるのとあたらないのとのハイブリッドだよきっと
怖い系ジョークでよくある
「願いをひとつかなえてやろう」→「俺を大金持ちにしてくれ!」→空から大金が落ちてきて潰されて死ぬ
みたいな願いはかなってるけどそうじゃねえよ!みたいなアレだよ


86VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/29(日) 16:39:14.86/Tf2UNs5o (1/1)

>>85
猿の手効果ってヤツか、納得


87 ◆takaJZRsBc2014/07/01(火) 22:54:42.87nI4D24SX0 (1/13)

ちょっと、どうしても愚痴が言いたくなったので読者の皆様には関係ないけど書く。飛ばして下さい


モノクマ「1がさぁ、たかがSSに背伸びして医療描写とかいれてるのは、別に知識自慢とか俺KAKKEEEを
      したい訳じゃなくて、なるべく原作の空気を再現したり読者のみんなを楽しませたいからな訳よ。
      裁判全カット発言でわかるように、医療描写も当初は全カットか原作流用で済ます予定だったし」

モノクマ「でもさ、たとえ間違いがあっても手術シーンとかあった方がより物語に深く入り込めるでしょ?
      裁判も途中グダってご迷惑をおかけしたりしたけど、やっぱりダンガンロンパって感じしたし、
      ああ、ドクターKってこんな漫画なんだって思ってもらえたらファンとしても凄く嬉しい訳です」

モノクマ「ただどんなに調べても1は所詮底の浅い素人な訳でミスも当然あるし、だからわざわざ1レス使って
      ※注意※医療描写はファンタジーですって何度もいれたし、そもそも>>1にも注意書きがある訳よ」

モノクマ「勿論、間違いはなるべく真摯に受け止めるつもりだけど、ただね……物語に現実と全く同じレベルを
      要求するのはちょっと違うというか……。あと、二次創作だからなるべく原作の描写を大事にしてるけど、
      原作が間違ってたり古い作品だから現在と常識が違うとか結構あって、それを言われても正直困るとしか」


モノクマ「うん……まさかね、注意書きと本文スルーで医療描写だけ流し読みして突っ込んでくる人がいるとは
      思わなかったんだ。これからは何かを解説するたびに、前後に注意書きしなきゃならんのかなぁ……」

モノクマ「以上、くだらない愚痴でした。ごめんね、絶望的につまらない物を視界にいれて。
      お詫びとして1が死ぬまで続き書かせるから許してね。では投下」



88 ◆takaJZRsBc2014/07/01(火) 22:55:57.05nI4D24SX0 (2/13)


               ◇     ◇     ◇


八方塞がりの状況ではあるが、たった一つだけ良いことがあった。

ずっと眠っていた不二咲が目を醒ましたのである。


「ぅん……」

「不二咲?!」


現在、不二咲は大和田の部屋に寝かせられていた。不二咲の部屋は奥にあるため、
石丸の部屋に常駐するKAZUYAがいざという時すぐに駆け込めるようにということと、
大和田が身の回りの面倒を見たいと言ったので、それが一番良いという話になった。


大和田「ふ、不二咲! 俺がわかるか?!」

不二咲「大和田君……どうしたのぉ? 泣いてるよ?」

大和田「バッ、バカ! ちげえよ! これはな……汗だ! 目から汗が出てんだよ!」

不二咲「そうなのぉ?」

桑田「不二咲……不二咲……!」

不二咲「桑田君……」

桑田「不二咲、すまねえ! 俺がお前を置いて部屋を出てったせいで……!」


よく見たら桑田も泣いていた。不二咲はぼんやりしていた意識が
急速に覚醒し、自分の置かれていた状況を思い出す。


不二咲(ああ、そっか。僕、確か腐川さんに……)




89 ◆takaJZRsBc2014/07/01(火) 23:01:27.98nI4D24SX0 (3/13)


何だか様子のおかしい腐川に面白い物を発見したから来てほしいと連れ出されたのだった。
実際は腐川ではなくジェノサイダー翔だったのだが、直前に新発見をして不二咲は非常に
興奮しており、腐川も同じようなものだと思い込んでいた。むしろそのせいで違和感に
気付けなかったと言ってもいい。……まさしく、小さな不運が重なったのだった。


不二咲「みんな……心配かけて、ごめんねぇ……」

K「気にするな。お前が生き返ってくれて何よりだ」

不二咲「西城先生……」

K「お前の止まった心臓を動かすために、胸をメスで開いたのだが痛みはないか?
  痛むのなら、鎮痛剤を出さねばならんが……」

不二咲「大丈夫です。あの……」


部屋にいるのはKAZUYA、大和田、桑田の三人だった。何人か他のメンバーを
呼びに行ったのかもしれない。そう考えているうちに慌ただしく扉が開いた。


苗木「みんな連れて来たよ!」

山田「ち、ちーたんが目を醒ましたというのは本当ですか?!」

江ノ島「おー、良かったじゃん」

葉隠「おめっとさん。お祝いに、今日はタダで占ってやるべ!」

セレス「おめでとうございます」

朝日奈「不二咲ちゃん、もう大丈夫なの?!」

大神「不二咲!」


別に彼一人がいない訳ではない。他にも何人かいないメンバーは居る。しかし、ぞろぞろと
部屋に入って来たメンバーの顔を見ながら、不二咲は嫌な予感めいたものを感じていた。




90 ◆takaJZRsBc2014/07/01(火) 23:06:29.72nI4D24SX0 (4/13)


不二咲「ありがとう、みんな。……それと、あの」

桑田「あ? なんだ?」

不二咲「石丸君はどこにいるの?」

「!!」


全員気まずげに目を逸らす。不二咲は、最初石丸がいないのは他のメンバーを呼びに
行っているからだと思った。何故ならそれはいつも彼の仕事だったから。しかし、実際に
仲間を連れて来たのは苗木で、ほぼ全員揃っているにも関わらず石丸の姿が見えない。

そもそも彼は怪我人のはずだ。KAZUYAが怪我人を走り回らせたりするだろうか。


「…………」


不二咲が目覚める前に、怪我に障ると良くないので石丸についてはしばらく秘密にすると
あらかじめ話がついていた。誰もが黙り込む中、KAZUYAが生徒達に声をかける。


K「すまない、お前達。折角見舞いに来てくれた所を悪いが、不二咲に
  状況説明をしたい。今日はもう戻ってくれないか?」

大神「ウム、そうだな。我等がいたら不二咲は気を遣うだろう」

山田「ムリして体調を崩してしまったら大変ですしな。仕方ありません」

朝日奈「そっか。明日また来てもいい?」

K「ああ」

葉隠「じゃ、また明日な!」

江ノ島「じゃあねー」

不二咲「うん! みんな、またねぇ」


無理矢理笑顔を作って不二咲は手を振る。そして扉が閉まるとすぐにKAZUYAに向き直った。




91VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/01(火) 23:06:38.938xrsjVMso (1/1)

そんなつっこみあったか?


92 ◆takaJZRsBc2014/07/01(火) 23:12:15.20nI4D24SX0 (5/13)


不二咲「それで、先生……石丸君は……?」

K「……石丸は今寝込んでいる」

不二咲「えっ?! 大丈夫なんですか?」

K「命に別条はないが、お前が襲われたことが相当堪えたようでな。
  実はお前が眠っている間に――我々は学級裁判を行ったのだ」

不二咲「えぇっ?!」


学級裁判という単語で思い出されるのは唯一つ――オシオキ。


不二咲「あ、あの……」

K「大丈夫だ。腐川は生きている」

不二咲「……良かった」


不二咲はホッと胸を撫で下ろした。

それからKAZUYAが、自分が倒れてから起こったことを順を追って丁寧に説明していく。
特に衝撃的だったのは、一度KAZUYAが死亡宣告したにも関わらず諦めずに呼びかけ
続けてくれた二人の友と、腐川が二重人格でその正体がジェノサイダー翔だったことだ。


不二咲「腐川さん……そういうことだったんだね。無事みたいで良かった」

桑田「お前……腐川のこと恨んでねえの?」

不二咲「恨む? どうして? 一番苦しんでいるのは腐川さんじゃないかな……」

不二咲「僕もよく知らないけど、多重人格って辛い経験をした人がなる病気なんでしょ? 前に
     周りの人と上手くいってないって言っていたし、きっと一人でずっと悩んでたんだよ」

不二咲「いくら脅されたからって、腐川さんは元々人を殺したりするような人じゃないと思うし」

大和田「…………」




93 ◆takaJZRsBc2014/07/01(火) 23:15:32.26nI4D24SX0 (6/13)


不二咲の言葉に、大和田はグッと拳を握りしめる。不二咲はそう言って自分のことも
庇ってくれたのだろう。だが自分は違った。自分は人を殺してしまうような人間だったのだ。


大和田「不二咲……俺は、オメエに話さなきゃいけないことがある」

K「――席を外した方がいいか?」

大和田「いや、いてくれ。俺が謝るところ、ちゃんと見ててくれねえか?」

K「……わかった」


KAZUYAと桑田が見守る中、大和田は裁判で話したこととほぼ同じことを話した。
自身の秘密、醜い嫉妬、己の弱さ。全てを洗いざらい話して最後に土下座をした。


不二咲「大和田君……」

大和田「俺は! オメエにいくら謝ったって許されねえ人間だってのはわかってる!
     許してもらいたいワケじゃねえんだ。ただ、自分のしたことにケジメをつけてえ!」

大和田「本当にっ! すまなかった!! 一生かけて償わせてくれッ!!」

不二咲「大和田君、やめて……頭を上げて……」

K「大和田、もういいだろう」

大和田「でもよ……」

不二咲「だって、大和田君が諦めなかったお陰で僕は生きてるんでしょ?
     むしろ、僕は大和田君にお礼を言わなきゃいけないよぉ」

大和田「なに言ってやがる。そもそも俺が事件を起こさなきゃこんなことにはならなかったろうが!」

不二咲「そうかもしれないけど……でも……大和田君が話してくれたんだから僕も話さなきゃ……」

大和田「話すってなにをだ?」




94 ◆takaJZRsBc2014/07/01(火) 23:20:43.83nI4D24SX0 (7/13)


不二咲「僕も、僕もね……本当はずっと、大和田君に……嫉妬してたんだ」

大和田「!」

不二咲「僕が持ってないものをみんな持ってて羨ましかった。僕が事件を
     起こさなかったのは、ただ単に僕が弱くて臆病だっただけ……」

不二咲「僕達は友達でしょ? お互いを尊敬するだけじゃなくて、嫉妬したり喧嘩することもあるよ」ニコッ

大和田「不二咲……でもよ、それはお前が今生きてるからだろ? 一歩間違えればお前は死んで……」

不二咲「――死んでいても、僕の考えは変わらないと思うよ」

大和田「…………」

不二咲「むしろ、死んだら幽霊になって大和田君が一人で苦しんでる所を
     ずっと見ることになったかもしれない。……尚更恨めなかったと思うよ」

大和田「不二咲……」


キラリと、大和田の目元が光る。だが、それが目から溢れる前に大和田は乱暴に手で拭った。


大和田「オメエは……オメエは俺なんかよりずっと男らしくてカッコいいヤツだぜ!」

不二咲「本当? 僕男らしい?」

桑田「おう! 今のお前マジでマキシマムかっけーから! 俺だったらそんな悟ったこと言えねーわ」

不二咲「ふふっ。ありがとう、桑田君」

K「優しさと臆病。力と暴力。表裏一体だな。使い時や量を間違えたらどちらも害になる。薬と同じだ」




95 ◆takaJZRsBc2014/07/01(火) 23:25:35.46nI4D24SX0 (8/13)


不二咲「西城先生は優しさと強さ、両方持ってるよね!」

桑田「でも反対にすっげーきつくて厳しくてこえーところもあるぜ!」

K「フッ、お前が怒られるようなことばかりやらかしてるんじゃないのか?」

大和田「ハハッ、ちげえねえな」

不二咲「クスクス、そうかも」

桑田「んだとー!」


問題は山積みではあるが、不二咲が生きていて良かった。
そして生徒達の心の成長を、我が子のように喜ぶKAZUYAであった。



― コロシアイ学園生活十六日目 石丸の部屋 PM10:32 ―


KAZUYAは何とか石丸に正気を取り戻させようと様々なことを試みていた。
まず真っ先に行ったのは、とにかく語りかけることだった。石丸から聞いたこと、友人達のこと、
自分のこと、医学のことから全く関係ないことまで思いつくままに色々と話し続けた。

大和田や他のメンバーと交代しながら終日話しかけ続けたが、どうにも石丸の反応は
要領を得ない。話者や話題によって微妙な反応の差があるのではないかと、KAZUYAは
つぶさに観察して記録して見たが、そこには何の法則性も見出だせなかった。


「駄目だ。僕がここにいては……駄目だ。駄目なんだ……駄目だ……」

「……石丸、そんなことはないぞ」


会話がまるで成り立たないことも問題だったが、KAZUYAが最も問題視したのは
石丸の発言内容だった。ただただ謝り、自分の存在を否定し続けているのである。
石丸が自分を拒み否定するたびに、KAZUYAは優しくそれを打ち消すのだった。

――しかし、それらの言葉はまるで届いていなかったのである。




96 ◆takaJZRsBc2014/07/01(火) 23:30:07.03nI4D24SX0 (9/13)


「許してくれ。許してください。許して欲しい……」

「…………」


夜時間になり、話し疲れた生徒達が部屋に帰った。石丸の呟く謝罪の言葉だけが経文のように
部屋に響いている。KAZUYAも、元々饒舌な人間ではないこともあって若干疲れていた。


(石丸は……聞いていない。いや、音として聞こえてはいるが心に届いていないのだ。
 心が傷付きすぎて、人の言葉を受け入れることが出来なくなってしまったのだろう……)


口でいくら言っても駄目ならと、KAZUYAは試しに直接的な刺激を与えてみることにした。
手始めに、手を掴んで強く握ってやる。が、KAZUYAはその瞬間ギョッとして目を見開いた。

石丸の手は冷えきっていたのだ。標準的な温度よりずっと低い。まるで、彼の心が
冷えきっているのを表しているかの如くであった。思わず強烈な憐憫の情に駆られた
KAZUYAは、雪の日に大人が子供にしてやるように息を吹きかけて温めてやる。


「頼む……俺の目をみてくれ、石丸! 石丸ッ!!」

「すまない。申し訳ない。すみませ……」


その時、独り言が止まった。


(これは……!)


確かな手応えを感じたKAZUYAは、更衣室で慰めた時と同じく父親のように肩を抱いてみた。


「俺のことがわかるか?」

「…………」

「石丸?」


どこか今までと様子の違うものを感じ、KAZUYAは石丸の顔を覗き込んで見る。




97 ◆takaJZRsBc2014/07/01(火) 23:35:42.20nI4D24SX0 (10/13)


「……!」

(泣いているのか……)


石丸は音も立てずに泣いていた。あれだけけたたましかった男が静かに涙を流す様は、
色が抜け落ちてしまった髪と併せて、KAZUYAの胸を強く締め付けた。


「大丈夫だ。俺も、みんなもついているぞ」

「…………」


――それだけだった。

確かに話し掛けている時とは違う反応が見られたものの、石丸が以前の姿を取り戻すことは
なかった。KAZUYAは嘆息をついて席に戻り、今のことをカルテに追記していく。


(まあ、積もりに積もった物が爆発したのだ。一日や二日で治ると思うのは都合が良いか)

(……しかし、果たして一体いつまでかかるのだろう?)


KAZUYAの嫌な予感は三度的中する。



― コロシアイ学園生活十七日目 石丸の部屋 PM4:17 ―


そろそろ、石丸のことだけに構っている訳にはいかなくなってきた。腐川のことは、
生徒達の中で最も会話していただろう苗木に頼んでいたのだが、いくらインターホンを
鳴らしても全く反応しないらしい。何よりも不味いのは、部屋の前に置いておいた食事に
全く手をつけていないそうなのである。緊急に対策を考えねばならない課題だった。


(どうしたものか……)




98VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/01(火) 23:39:55.94QCNHrYyvo (1/1)

>>1よ
君のSSは素晴らしい
しかしこのSSに足りないのは精確な医療描写や裁判描写ではなく恋愛ではないのか?
Kシリーズは一見ハードボイルドの様だがポイントポイントで恋愛描写の布石が打たれていて成り立っている
息抜きにのだめカンタービレを読む事をオヌヌメするぞ
石丸君復活にむくろちゃんとの淡い恋なんてどうだ?

え、エロい濃いでもいいんだぞ…


99 ◆takaJZRsBc2014/07/01(火) 23:40:27.75nI4D24SX0 (11/13)


場合によっては、自分がモノクマと交渉して部屋を開けさせるしかない。
そして、乱暴な方法になるが力づくでも監視下において管理する以外ないだろう。

そんな風に思案していた時だった。慌ただしく部屋にやって来る者がいたのは。


朝日奈「せ、先生!」

K「朝日奈か。どうした?」

朝日奈「大変なの! ジェノサイダーが……!」

K「何?!」

朝日奈「今、食堂にいるんだけど……」


すぐに行こうと考えたKAZUYAだが、ふと朝日奈に石丸を任せて大丈夫かと疑念が湧いた。
今の石丸なら誰だろうと簡単に殺せる。朝日奈を疑いたくはなかったが、状況が状況だけに
安直な行動だけは絶対に取れない。幸い、丁度良いタイミングで再び扉が開く。


苗木「先生! 食堂にジェノサイダーが現れました! 様子もなんだか変で……」

K「わかった。すぐに戻るから“二人で”石丸のことを見ていてくれ!」

朝日奈「……う、うん!」

苗木「はい!」


KAZUYAは部屋から飛び出ると食堂に向かう。幸いすぐ側にあるため、あっという間に着いた。


ジェノ「ギャハハハハ!」

葉隠「ひぃぃぃ!」


食堂では相変わらずハイテンションなジェノサイダーを、生徒達が遠巻きに眺めている。
葉隠が腰を抜かし山田が青ざめ舞園は警戒し、大神と桑田が庇うようにその間に立っていた。




100VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/01(火) 23:45:00.60pEwOyhizO (1/1)

>>98
長い上に自分の欲望を押し付けてるだけで鬱陶しい


101 ◆takaJZRsBc2014/07/01(火) 23:45:42.55nI4D24SX0 (12/13)


桑田「あ、せんせー!」

大神「西城殿、ジェノサイダーが……」


二人を手で制し、KAZUYAはジェノサイダーに近寄った。


K「俺に任せて欲しい。翔! こんな所で何をしているんだ?」

ジェノ「あらー? KAZUYAセンセじゃないのー。元気? なんか顔色悪いけど。ゲラゲラゲラ!」

K「……質問しているのは俺だ」

ジェノ「ちょっと、そんな怖い顔しないでよぉ! 少し部屋から出てきただけじゃなーい」

ジェノ「ここって素敵空間よねー。アタシみたいな殺人鬼が堂々と外を歩けるんだからさ!
     つっても、ここ屋内だけど。アハハハハ♪」

K「…………」

ジェノ「あら、無視?! 無視はしないでって! 今ちゃんと話すからぁ。別に誰かを
     襲いに来たワケじゃなくて単純にお腹減ったからご飯食べにきただけよん」

K「……食事?」


確かに、ジェノサイダーの前には食べ物が載った食器がいくつも置いてある。
周囲の好奇や嫌悪の目などものともせず、平然と飲み食いしていたようだった。


ジェノ「そうそう! どうもあの根暗、みんなの前でオシオキ受けたのがかなり
     ショックらしくて、飲まず食わずで部屋に閉じこもってたっぽいじゃん?」

大神「お主のせいであろう……」

山田「それに、一番の理由はあなたの存在がバレたからだと思いますが……」




102 ◆takaJZRsBc2014/07/01(火) 23:52:42.94nI4D24SX0 (13/13)


二人のツッコミが同時に入るが、ジェノサイダーは聞いていない。


ジェノ「別にアイツが根暗らしく引きこもってんのは全然構わないんだけど、アタシとアイツは
     腹立たしいことに同じ体を共有してるワケだからさー。今のままだと困るワ・ケ」

K「それで食事に来たと?」

ジェノ「そゆこと。おわかり~?」


用件を言うと、ジェノサイダーはもうKAZUYAには目もくれず再び食事を再開する。


K(……防衛本能、か? 乖離性人格障害は、元々は外圧から逃れようと新たな逃避人格を
  生み出す防衛行為が原因だ。ジェノサイダーは無意識に腐川を守ろうとしている……?)


断定は出来ないが、ジェノサイダーが腐川の代わりに飲み食いしてくれるなら願ったり叶ったりだ。
少なくとも、部屋から無理矢理引きずり出してベッドに縛り付ける必要はなくなる。


K「本当に危害を加える気はないのだな?」

ジェノ「今のとこはね。そっちが突っ掛かってきたらわかんないけどさー」

K「…………」

K(こいつは不二咲を殺そうとしたし、何より人を殺すことに全く抵抗がない。
  ……はっきり言って危険人物だ。本来は拘束して監視するのが妥当だろう)




103 ◆takaJZRsBc2014/07/02(水) 00:01:00.26ennctyLj0 (1/4)


K(だが、その場合腐川はどうなる? 自分の預かり知らぬ所で起きた事件の責任を
  取らされた上、拘束されて監視までされたら果たして彼女は耐えられるだろうか?)


KAZUYAの脳裏に浮かんだのは石丸の姿だった。腐川は今酷く傷付いている。もしここで
追い詰めて彼女までおかしくなってしまったら、どうすればいいのか? 折角黒幕への
対抗手段が少しずつ集まって来たと言うのに、廃人が二人もいては脱出など不可能だ。


K「俺と約束してもらいたい。もう誰も傷付けたりしないと。もし約束が
  出来ないのなら、俺は他の生徒を守るためにお前を拘束せねばならん」

ジェノ「約束したら自由に出歩いてい~い?」

K「良い、と言いたい所だがしばらくは無理だな。本当にお前が安全か
  俺は見定める必要があるし、他の生徒達を説得する必要がある」

ジェノ「あ、そう。……ま、いいけど。どうせセンセやオーガちんに力付くで来られたら勝てないし」

K「では約束するんだな?」

ジェノ「はいはい。約束ね、約束」

K(翔は裏表のない奴だ。まだ信用出来ないが、今すぐ何かするつもりがないのは本当だろう)

K「わかった。ならば俺もお前を信じよう」

ジェノ「アハ♪ 相変わらず物分かりがいい~。センセのそーゆートコ好きよ? ま、本命は白夜様だけど!」




104 ◆takaJZRsBc2014/07/02(水) 00:04:55.79ennctyLj0 (2/4)


桑田「ちょ、せんせー! マジでコイツほっとくのかよ?!」

大神「危険では……?!」

K「食べ終わったらすぐに部屋に戻せばいい。大神もいるなら問題ないだろう。
  もしこの中で殺人を犯せばすぐにバレる訳だからな。軽率なことは出来んはずだ」

大神「しかし……」

舞園「大丈夫ですよ。先生がそう言うなら信じましょう」

大神「ウム……」

桑田「まあ、せんせーがそこまで言うなら……」


まだ納得は出来ないものの、KAZUYAに押され桑田と大神は反論を飲み込む。
しかし、例によって葉隠と山田は納得していなかった。


葉隠「じょっ冗談じゃねえ! コイツは殺人鬼だぞ?! 殺人鬼を
    野放しにすんのか?! ふん縛って見張るべきだべ!」

山田「そうですよ! コイツはちーたんを襲った、にっくき殺人鬼! 捕まえるべきです!」

ジェノ「ああ?! ウニとデブが調子乗ってんじゃねーぞ! 切り刻んだろか?!」

葉隠「わあああ! 来んな! こっち来んじゃねえ!」

山田「ひっ! やっぱり!!」

K「よせ!」


ジェノサイダーが鋏を取り出し、構えた!




105VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 00:20:40.25phwTAqTPO (1/1)

>>98
カプ厨くっさ


106 ◆takaJZRsBc2014/07/02(水) 00:23:22.04ennctyLj0 (3/4)


ここまで。


>>91
ここじゃないです。たまたま外部でうちのスレの話が上がっておりまして非常に詳細なツッコミを…ね
ただ、間違えてる所は素直にごめんなさいでいいのですが、話の都合上わざとやってる時や原作リスペクトの
描写もかなり色々突っ込まれてしまって……ちょっと困ったというか

モノクマ「というか! 原作は切断した指が勝手に生えてくる漫画っすよ?! 脂肪腫が膵臓になるんすよ?!
      ブラックジャックだって体から葉っぱが生えてきたりしてましたし、現実的に考えたら腹膜破って
      大惨事ですよ! 少年漫画はどんなにリアルタッチでも基本的に全部ファンタジーなんですって!!」

>>98
一応フラグは存在するんですが、今の所ことごとく外れてますねぇ
ダンガンロンパの女の子はみんな魅力的なので、1ももっと女の子を出したいのですが



107VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 00:39:28.56SIRx1JlcO (1/1)

やり取り見たけど製作者総合でそう言えば良かったのに
わざわざ火種持って来られても反応に困るなあ
イラついてるのはかなり伝わった


108VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 00:43:48.66XVJCenGHo (1/1)

とにかく俺は>>1を応援してるぞ


109 ◆takaJZRsBc2014/07/02(水) 01:09:13.31ennctyLj0 (4/4)

>>107
ただでさえ完全にスレ違いなのにあれ以上向こうに迷惑かける訳には…

>>108
ありがとうございます。その一言で救われます


…最近展開が鬱過ぎて少しナーバスになっているのかもしれません。
本編の感想頂けたら嬉しいです



110VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 01:53:09.65difXIBxVO (1/1)


あっちのスレのことはどうしても言いたいことあるならあっちにちょろっと書いて、そのまま知らんぷりしてた方が良かったね。
いくらモノクマといえどキャラにああいうこと言わせるぐらいなら。


111VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/02(水) 03:06:52.20t9Sa6J1L0 (1/3)

ここの桑田に癒されすぎてゲーム本編やるのがつらくなるレベル
でも石丸はいいぞもっとやれってなってくるからホント罪なSSだぜ


112VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 05:38:42.21tFChhjTk0 (1/1)

1のスレだしどうしても愚痴りたいなら愚痴ってもいいと思うよ
でもここで感想残してってるのは俺も含めて1のSSが好きな奴らばっかりだと思うよ


113VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/02(水) 05:59:45.70CewBfZjt0 (1/1)

乙です
ちーたんの目覚めキタ(゚∀゚)!!!
天使の目覚めで現状への癒し効果が上がってくれることを願う

腐川が風呂入らない分ジェノが入ってるようだし、食事とかに関しては問題ないのかな
十神がいれば他の男子に危害を加えることは多分しないだろうし

>>1さん、気になさらないほうがいいと思いますよ
変に気を使って>>1さんの文章が乱れるのも嫌ですし・・・
自分も応援してます、毎日毎日スレをチェックして、更新されてる時の喜びがマッハな人間がここにいますw



114VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 08:19:49.83oGzfo74Oo (1/1)

乙です


115VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 09:05:20.81zf6EBnqQo (1/2)

あっちに書けと気楽に言うが、万が一あっちのスレ炎上させたり変なのに目をつけられたら
このスレ荒らされて続きどころじゃなくなるってこと忘れてるぞ
延々愚痴られたら困るが一回愚痴って終わりならそれでいいじゃないか

ジェノ無双クルー?


116VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 10:38:58.66gYCj2AYDO (1/1)

完璧にレシピ通り作っても美味しくない料理より、
若干メチャクチャでも美味しい料理の方が好まれる。
SSも然り。細かい指摘は指摘として、軽めに受け止めておけばいいよ。
ここの>>1は凝り性だからちょっと心配…


117VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 12:17:02.017Uf7t9b0o (1/1)

最近ダンロンSSはここ以外でもわざと>>1のやる気削ぐ絶望的な書き込みが目立ってきてるから、各々希望の補給不足には十分気をつけて

>>1の文章運びの力強さが好きだ
ストーリーも魅力的だ


118VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 13:04:03.89IyQW0vC9o (1/2)

まあ医療描写突っ込んでくる人はちょっと人より知識があってリアルさを重視する人なんだろう。
ここのスレに書かれていない以上その人が思ったことをそこで感想として書いてるだけだろうし>>1もこことは違う場所って分かってて見に行ってるならネタとして軽く受け止めるか流すべき。。

言い方は悪いけどこのスレの感想や評価をここじゃなく他で求めるのは間違ってる。

・・・とまあ別に忠告とかしたいわけではなく楽しくSSを書いてくれればそれでいいのよ?
自分が現状面白いと思って見てるSSなんだから自信を持ってほしい(暴論)

とりあえず>>1乙


119VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 14:13:47.13zf6EBnqQo (2/2)

書き方によると思うんだよなぁ。1はかなり丁寧に応答したのに
あんな高圧的な文章しかもクッソ長文でネチネチ書かれたらそりゃあね…

しかも途中から指摘が細かくなりすぎてフィクションになに言ってんだお前って突っ込まれてたし


120VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 14:22:54.40/mgVvIMGO (1/1)

とりあえず、長文に長文で返していい結果になってるのを見たことがない


121VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 14:28:07.95IyQW0vC9o (2/2)

文章は見てないけど結局相手が妥協しなければ終わらないんなら無視の一手だね。
触らぬ塵になんとやら


122VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/02(水) 16:14:24.592OpP9nAV0 (1/1)

読んでいて気になったから指摘ってレベルのツッコミではなかったな
でもあの指摘自体もどこかの聞きかじりの寄せ集めかもしれんし、あまり過敏にならないでもいいような

ところでかの手塚治虫の「ブラックジャック」も、医療の専門家から見たら噴飯モノらしい
なのにブラックジャックに触発されて医者になった…なんて人もいるんだぜ?
物語の一番のキモは、正しい専門的な知識をひけらかすって所じゃないんだよなぁ


123VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 16:36:57.50uY+fZHYTO (1/1)

ブラックジャックの場合は主に、作者もフィクションとして書いてる部分をアスペみたいな仕方して噴飯してるんだけどもね


124VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 18:05:36.71nOLN+FsCO (1/1)

かの手塚治虫は医者にブラックジャックの医療描写を突っ込まれた時、フィクションに何言ってんだバーカ(意訳)と返した


125VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 19:24:21.89NOBaUqC2O (1/1)

リアル路線狙ってるのかトンデモ路線狙ってるのかは、結局は作者にしかわからない。
どんな注意書きがあっても読んだ側の指摘は自由だと思うよ。
それを作者が見て、そっちの描写いただきと思えばお礼言っときゃいいし、いやそこトンデモですからーならそう言うか無視する自由がある。


126VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 20:26:38.07oE11rDrZ0 (1/1)

長文失礼します。

私は、専門的知識をSSの中で学習したいんじゃなくて、別作品の魅力的なキャラクター同士が織りなす人間模様やどうやって黒幕と立ち向かっていくかという先の見えないドキドキ感が好きで拝見しています。

そして、このSSは>>1の力で更に私を魅了させている。
実際、古い(失礼)少年漫画とかどうでもいいわとか思ってたのに、気がついたらニコニコでk2含めて全巻揃えてしまったし。というかスーパードクターKとK2の間のやつどこで売ってますか誰か教えてくださいお願いします。

3行で言うと、
>>1のSS超好きです。
>>1のせいでドクターKハマりました責任とってください。


きっとその指摘してくるやつが、医療知識ある俺KAKKEEEEだったんだろうね。



127VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 20:32:22.23uBGNxPEKO (1/1)

ふと

TETSU「……不二咲千尋か。」

TETSU「どういう体の構造をしてるんだ!?男子高校生なのに!興味があるな!」


とかおもってそう


128VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 20:34:36.53+6u/FmpYO (1/1)

人格攻撃みたいなのが一番いらないんやで
そも他人の感想に対する他人の感想とか不毛すぎる


129VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/02(水) 20:49:45.04nE1vSOLm0 (1/1)

更新乙ですちーたんマジ天使!!!
石丸がんばれ超がんばれと思いつつ葉隠の占い&KAZUYAの悪い予感でフラグがビンビンだし
ジェノの方はジェノの方でいいところで続いてるし本当日々の生活の楽しみになってます

そして今回のラスト見て葉隠山田(あと安広さん)中心に自由行動狙いたいと思いました

>>1さんの負担にならない範囲でがんばってくださいすごく応援しています


130VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 21:11:17.85Ta3zhh9X0 (1/1)

乙ー

ここのSSはどちらの原作に対しても愛が感じられる作品だと思う
もっと自信を持ってもバチは当たらないのでは

>>1の無理のないペースで、書きたいようにやるのが一番いいよ


131VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/02(水) 21:30:46.91t9Sa6J1L0 (2/3)

>>1愛されてるなあ


132VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/02(水) 21:31:25.23t9Sa6J1L0 (3/3)

さげ忘れごめん


133 ◆takaJZRsBc2014/07/02(水) 22:06:14.35a5rmnEFG0 (1/1)

皆様色々なご反応ありがとうございます。他人の指摘なんか黙って流せ、あっちでやれ。ごもっともです。

というか構ってちゃんうぜえ、レス乞食乙なんて1が一番わかっています。本当は上の文章は一度
消したんです。自分の胸にしまうべきだというのはよくわかっていたのですが……筆が止まりまして

わたくしとしてもこんな中途半端な所で止まるのは非常に不本意ですし、だったらスレ汚し覚悟で
さくっと一度だけ愚痴ってまた気分を新たに再開しようと思い、批判覚悟で書き込んだ次第であります

幸い、皆様から頂いた暖かいお言葉と希望のカケラで現在は無事に心身回復し、執筆再開しております
明日か明後日には投下する予定です。騒ぎを起こし、ご迷惑とご心配をおかけしたことを深く謝罪申し上げます


134VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 22:18:23.29mwH8cthto (1/1)

>所詮SS所詮ギャグ漫画
と前置きした上での指摘だからね。向こうは煽りにきてるわけ。
つまりアンチなんだからスルーすべきなのに長文でお返ししたら思うつぼだと思うよ。
ははっマジレスワロタで済む話だから気にしなくていいと思う。


135VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 22:32:37.87IHEamaVZo (1/1)

待ってる…


136VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 23:10:08.23vsjTf3iNo (1/1)

自分の好きな作品の謎本に憤慨しちゃうタイプか?
それとも他人の心が完璧に読めるエスパー様か


137VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/03(木) 04:08:11.26oTzBrtRu0 (1/1)

好きだから読むでなくネガティブなツッコミ入れて来る人間が出て来る位読者が増えたって事だよな。コメも多いし。
好きなSSが人気出るのはめっちゃ嬉しいんだけど反面一抹の寂しさを感じちゃうぜ…

しかし真っ白白で良いヤツな朝日奈を疑わなくちゃいけない状況が悲しい…
葉隠山田(とたえこさん)は勿論なんだけど、十神とモノクマが変なテコ入れして朝日奈鬱化なんて事になる前に親密度もうちょっと上げときたいな


138VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/03(木) 09:08:57.207vnRM8+/o (1/1)

朝日奈は勘がいいから自分が疑われてることに気がついてそうだよね


139VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/03(木) 13:04:03.29J9UYup/Eo (1/1)

葉隠山田セレス朝日奈の親密度上げもだけど
仲間になったキャラにも気にかけなきゃいけないってのがあるから大変だな
霧切も1回ぐらい自由行動で選んでおかないと駒園みたいに厄介なことになりそうだし
まあ今1番気をつけなきゃいけないのは石丸だけど…


140 ◆takaJZRsBc2014/07/03(木) 21:15:32.41kbs8ilsj0 (1/16)


K「駄目だ!」


今にも駆け出さんとするジェノサイダーの肩を慌ててKAZUYAが掴む。
反抗されるかと警戒したが、意外にもジェノサイダーはすんなり引いた。


ジェノ「……チッ、しゃーねーな」

K「頼む。問題を起こさないでくれ。……お前達もだ! 危険だと思うなら
  尚更挑発するような真似はするんじゃない! いいな?」


KAZUYAが警告するが、葉隠と山田は怯えつつも未だジェノサイダーを睨んでいる。


葉隠「納得出来ねえ! なんで人殺しを野放しにすんだ!」

山田「そうですよ! 理不尽だー!」

K「確かに翔は殺人鬼だが腐川は違う。今回の件で腐川が部屋に篭ってしまったのは
  お前達も知っているだろう! これ以上腐川を追い詰めたくないのだ!」

山田「殺人鬼に人権なんかありませんよ!」

葉隠「そうだべ! 二重人格だかなんだか知らねえけど、結局そいつだって
    腐川っちの一部なんだろ? じゃあ同罪じゃねえか!」

ジェノ「ああ?! アタシとアイツは同じであって同じじゃねえって言ってんだろが!」

桑田「せ、せんせー……どうするよ? 確かに今回ばっかりはアイツらの言うこともわかるぜ?」

K「…………」




141 ◆takaJZRsBc2014/07/03(木) 21:24:12.63kbs8ilsj0 (2/16)


KAZUYAは俯いた。……そうだ。危うく不二咲は殺されそうになったのだ。しかも今回に限らず
ジェノサイダーは過去に大勢の人間を殺している。人を救う医者とは真逆の存在だ。

断じて許すべきではない……


K「……そうだな。お前達の言う通りだ」

舞園「西城先生……」

大神「西城殿……」


だが――


K「それでも……俺は腐川を助けたい!」

葉隠「ハァ? 正気かいな? オメーさん、腐川っちにはしょっちゅう嫌み言われてたじゃねえか」

K「関係ないさ。俺は腐川のことをあまり知らん。ほとんど話したこともない。
  むしろ、あの卑屈でネガティブな性格は正直扱いづらくて困るとさえ思っていた」

K「だが、これほど強烈な人格を生み出すということは過去に色々あったはずなのだ!」

山田「そんなの言い訳になるかぁ! 人殺しを庇うなんて見損ないましたよ、西城医師!」

K「俺は弱っている者、苦しんでいる者を見捨てることはどうしても出来ん!
  だから頼む! ここにいる間だけでいいから、翔を見逃してやってくれ」

葉隠「だーからってなぁ……」




142 ◆takaJZRsBc2014/07/03(木) 21:33:43.27kbs8ilsj0 (3/16)


山田「イヤですよ! 殺人鬼と一緒なんて!」

K「俺が頭を下げる。この通りだ!」

桑田「せんせー……」


いつまでも不毛な言い合いが続くかと思われたが、ガタンと椅子を蹴り飛ばす音で中断された。


ジェノ「あー、うっせーうっせー。お食事ーって気分じゃなくなっちゃったじゃないの!」

ジェノ「言われなくたってテメエらの汚ねーツラなんて見たくないから部屋に戻るっつーの」

K「翔?」

舞園「翔さん?」


バタバタと食堂を出て行くジェノサイダーをKAZUYA達は追い掛ける。


ジェノ「…………」

K(もしや、気を遣ってくれたのか?)

K「……すまんな」

ジェノ「べーつにー。つかセンセが謝ることじゃないっしょ。アタシのこともアイツのことも。
     アタシらが自分でやりたいと思ったことやってるだけなんだしさー」




143VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/03(木) 21:35:50.39kylDDj6u0 (1/1)

こりゃ早急に山田と葉隠の好感度上げんとヤバイかもしれんな・・・


144 ◆takaJZRsBc2014/07/03(木) 21:41:20.29kbs8ilsj0 (4/16)


K「……いや、ここにいる限り俺は保護者であり責任者だ。ここであったことは俺が全責任を負う」

ジェノ「あー、なんかカズちんのそーゆー健気でイジらしいトコちょっと萌えるかも」

K「茶化すな」

ジェノ「……あ! そうそう、ちょっと待ってちょ」

「?」


ジェノサイダーはそう言い残すと部屋に入った。一体何の用かとKAZUYA達は顔を見合わせる。


ジェノ「はい、これ。KAZUYAセンセに渡しとくわ」チャリ

K「?! これは……」

大神「部屋の鍵ではないか!」

K「……良いのか?」

ジェノ「センセなら信用出来るしね。もしアタシが外に出れなくて、アイツが
     ここで死にかけたらアタシの代わりに引きずり出して助けといてくんない?」

K「言われなくとも。助かったぞ!」

ジェノ「じゃ、嫌われ者はそろそろ退散することにしまーす。バイバーイ!」


バタン!




145 ◆takaJZRsBc2014/07/03(木) 21:46:36.29kbs8ilsj0 (5/16)


K「……フゥ。とりあえず腐川に関しては最悪の事態だけは避けられそうだ」

舞園「それにしても、翔さん……随分と先生に好意的でしたね?」

大神「ウム。十神に関しては惚れた弱みとも取れるが、西城殿に関しては何故だろうか?」

桑田「そんなの、せんせーの人徳のおかげに決まってんじゃんか。なぁ?」

K「……さあ、どうだろうな」


この件についてKAZUYAは心当たりがあった。だが、残念ながら今は確認している余裕はない。


K「では俺は戻る。後のことは任せた」

舞園「はい。先生も、あまり無理はなさらないでください」

桑田「あ……」


去り際に、桑田が何かを言いかけた。


K「桑田?」

桑田「せんせー、その……」

K「何かあったのか? 俺に遠慮などしなくて良いぞ」

桑田「……いや、やっぱなんでもねーわ」




146 ◆takaJZRsBc2014/07/03(木) 21:54:02.54kbs8ilsj0 (6/16)


K「そうか。お前も無理はするなよ」

桑田「おう……」


表情の優れない桑田の背を軽く叩くと、KAZUYAはまたすぐに石丸の部屋に戻った。



               ◇     ◇     ◇


夜、二人っきりになるとKAZUYAは石丸にその日あったことを話しかけるのが日課となっていた。
KAZUYAは連日石丸の部屋に泊まり込んで、その面倒を一手に引き受けている。大和田から交代の
提案も受けたが、KAZUYAの方がより大柄で力も強いのと、何より緊急時には医者の自分がいた方が
良いからと、今まで通り不二咲の面倒を頼むと言って断った。


K「(ピクッ)……誰だ!」


KAZUYAは何者かが微かに扉を開けたのに気付き、すかさず警戒体勢を取る。


モノクマ「やあ、ボクだよ」

K「!」


相手が誰だかわかると、より警戒を高める。


モノクマ「ちょっとちょっと! なんでそんなに警戒する訳? ただ遊びに来ただけなのにさ」

K「今の石丸には何を言っても無駄だぞ。帰れ!」




147 ◆takaJZRsBc2014/07/03(木) 21:58:33.71kbs8ilsj0 (7/16)


モノクマ「フーン? 本当に無駄なのか試してみようか?」

K「よせ!」

モノクマ「いいじゃん。だってもう来るとこまで来てるんだよ? 先生だって本当はわかってるんでしょ?」

K「そんなことはない! 石丸は必ず元に戻る!」

モノクマ「ま、これ以上悪化なんてしないって! むしろボクの言葉が
      キッカケになって元に戻るかもよ? ボクってば優しい~!」

K「…………」


そう言われると確かにその通りなのだが、KAZUYAは石丸を庇うように立った。
しかし、モノクマは気にせず石丸の視界に入るよう回り込んだ。


モノクマ「ヤッホー! 元気? 絶望してるゥ?」

石丸「…………」

モノクマ「いつまで落ち込んでるの! 君ってば本当に迷惑な奴だね!」

石丸「…………」

モノクマ「あ、そうそう! 不二咲君が目を醒ましたのはもう知ってる?
      君がすやすや寝てたせいで大怪我して死にかけた不二咲君が起きたよ!」

石丸「…………」

モノクマ「なんとか言いなよ……。つまんないじゃん。ほら、モノクマ音頭踊ってあげるからさ!」ア、ソレ

石丸「…………」




148 ◆takaJZRsBc2014/07/03(木) 22:03:57.98kbs8ilsj0 (8/16)


全く反応を示さない石丸に、KAZUYAは安堵なのか落胆なのか自分でもよくわからない溜息をつく。


K「……わかっただろう。貴様が何をしても無駄だ」

モノクマ「ムッカー! こうなったら意地でも反応させてやるぞー!」

K(無駄なことを……簡単に反応するならどんなに楽か)

モノクマ「ねーねー、石丸君! 君にだけこの学園のす~っごい秘密を教えてあげるよ」

モノクマ「なんと! 物理室にあるあの巨大な装置は実は空気清浄機なんかじゃなくてタイムマシンなのだ!」

K(子供騙しな……)


言うに事欠いてそれか、とKAZUYAは冷めた目でモノクマを見るが、石丸に変化が現れた。


石丸「……タイムマシン?」

K「なっ?!」

K(馬鹿な?! 反応しただと!)

石丸「タイムマシンがあれば、僕の過ちを消せる……! 兄弟を止めて不二咲君も救える……!」

モノクマ「あ、言い忘れてたけど戻れるの一分だから」

石丸「い、一分……」


石丸が固まった。文字通り、石像にでもなってしまったかのように固まった。




149 ◆takaJZRsBc2014/07/03(木) 22:11:11.73kbs8ilsj0 (9/16)


K「お、おい! 石丸、しっかりしろ! おい!」

モノクマ「うっぷぷー! 一分じゃ何も出来ないよねー! キャハハハハ!」


KAZUYAはギリッと歯ぎしりをして怒鳴る。


K「出て行けッ!」

モノクマ「まあまあ。ボクはまだ先生とおしゃべりしたいんだよ」

K「俺はしたくない! さあ、出ろっ!」

モノクマ「そんなこと言っちゃってさぁ。ボクは知ってるんだよ?」


何を、とKAZUYAが聞く前にモノクマは怪しげな笑みを浮かべた。








「――この間の裁判の立役者が、実はKAZUYA先生だってこと――」




150 ◆takaJZRsBc2014/07/03(木) 22:23:24.75kbs8ilsj0 (10/16)


K「何のことだ?」


シラを切るKAZUYAに、モノクマはもったいぶったような足取りで近付くと囁いた。


モノクマ「先生……わざと学級裁判を起こしたでしょ?」


モノクマの機械の目が、KAZUYAの瞳を射抜く。


K「言い掛かりはやめろ……」

モノクマ「いやぁ、石丸君がこんな状態で良かったよね? 生徒に聞かれたらやばいもん!」

K「俺は知らんと言っている!」

モノクマ「じゃあボクの勝手な推測ってことでいいからさ。とりあえず黙って聞きなよ」

K「…………」

モノクマ「不二咲君が蘇生した時、先生は内心こう思ってたんでしょ。――不味いなって」

モノクマ「このままでは学級裁判が起こらなくなる。学園長であるボクがお怒りだ。
      最悪、武力で先生を排除する可能性があるし生徒も傷付くかもしれない」

モノクマ「だから、先生はわざと学級裁判が起こるように仕向けた。違う?」

K「こじつけだな」


モノクマの主張をピシャリと切り捨てたKAZUYAだが、実は図星だった。

――その通りだ。あの裁判が起こるように仕向けたのは実はKAZUYAだと言っていい。




151 ◆takaJZRsBc2014/07/03(木) 22:33:45.58kbs8ilsj0 (11/16)


K(本当は……不二咲は一度覚醒しかけていた。あの場で起こして犯人の名を聞くくらいは出来た)


だがKAZUYAはそれをやらなかった。それどころか、周囲に気付かれないよう
処置をしながら、こっそりと不二咲を針麻酔で眠らせたのである。


モノクマ「学級裁判が起こらないことによる不測の事態を恐れた先生は、あえて裁判を
      起こすことにした。ま、一番の目的はボクのガス抜きってトコかな?」

K(その通り。一度でも裁判が起これば黒幕も多少は満足するだろう。怪我人が増えてきた今、
  時間稼ぎが欲しかったし、生徒達が殺し合いに対して消極的になることも期待していた)


そしてKAZUYAはモノクマに交渉を持ち掛ける。勿論、オシオキを軽減する内容だ。
もしこの要求が通らなければ、死人を出す訳にはいかないので薬を使ってでも
不二咲を起こすつもりだった……が、かくしてKAZUYAの要求は受け入れられた。


K(確かに、起こさなくていい裁判を起こしたという意味では、
  俺はモノクマの言う通りあの裁判の立役者なのだろうな)

モノクマ「うぷぷ。先生もなかなかやるよね。目的のためには手段を選ばないんだから?」

モノクマ「気付いた時点で言っても良かったんだけどさぁ、このボクの目を欺いたことに敬意を
      表して、あえてみんなの前では黙っといてあげたワケよ! 感謝してよね?」

モノクマ「ま、先生の狙い通り物の見事にガス抜きされちゃったって言うかー、初めての
      オシオキやみんなの絶望顔に大興奮して忘れてたっていうのも大きいけどさ」

K「たわ言は終わりか? 貴様はどうしても俺を悪人にしたいようだな」

モノクマ「悪人だなんてとんでもない! ボクはヒーローを労いに来てあげたんだよ?」





152 ◆takaJZRsBc2014/07/03(木) 22:43:38.10kbs8ilsj0 (12/16)


モノクマ「ヒーローって大変だよね? 信頼すべき仲間に隠し事はしなくちゃいけないわ、嘘つき
      呼ばわりはされるわ――時には守るべき生徒すら犠牲にしなくちゃいけないんだから」

K「…………」

モノクマ「そんなに辛くて苦しくて散々悩んでるのに、未だ生徒の半分以上は理解してくれないし」

K「一人でも理解してくれる人間がいれば十分だ。……いや、誰にも
  理解されなくたっていい。俺は俺の信念に従って行動するまで!」

モノクマ「……ホント、ヒーローって損な役割だね。ボクはヒーローなんて絶対なりたくないなぁ。
      悪役の方がカッコイイし、好き放題してそれで簡単に人気出るんだから。ボクみたいに」

K「俺はヒーローなんかじゃないさ。しがない医者だ、人を治す」

モノクマ「石丸君の心は治せないみたいだけどね」

K「…………」

モノクマ「ま、今日はこのへんにしといてあげるよ。それにしてもね、ボクは驚いているんだ」

モノクマ「なかなかコロシアイが起こらない、やっと起こったと思ったら先生に妨害される。勢いで
      オシオキを軽減する約束までさせられちゃって、本来ならボクはカンカンな訳だよ」

モノクマ「なのに、ボクは今すごくすごーく楽しいんだ! 自分でも本っ当に驚き。
      人が死ぬだけが絶望じゃないんだね? ボク、絶望については知り尽くしてる
      絶望博士のつもりだったけど、勉強させられたよ。流石先生だ!」


動かない石丸の腕をポンポンと叩きながら、モノクマは子供のように無邪気に喜んでいた。


モノクマ「ねえ、先生。最初から絶望しかないのと、小さな希望を与えてそれを目の前で
      踏みにじるのってどっちが残酷かな? ボクは後者の方が残酷だと思うんだけど」

モノクマ「そういう意味じゃ、先生はみんなの味方のはずなのにまるでボクの手伝いしてるみたいだね?」




153 ◆takaJZRsBc2014/07/03(木) 22:55:21.50kbs8ilsj0 (13/16)


K(もう、やめろ……やめてくれ……やめろ……!)


モノクマの手前強がってはいたが、KAZUYAは心の中で悲鳴を上げていた。KAZUYAとて人間だ。
教え子のおかしくなった姿を前に何日も過ごし、何も感じないはずなどなかった。だが、それを表に
出す訳には行かない。それをしたが最後、モノクマは大喜びでKAZUYAの心を折りに来るだろう。

KAZUYAに出来る唯一のことは、モノクマから目線を逸らしただ黙って耐えることだけであった。
一分一秒でも早くこの厄災が去ることを静かに祈っていた。モノクマは口角だけ上げ、嗤う。


「先生、先生」

「先生はボクのことが嫌いだろうけど、ボクは先生のことが大好きだよ」

「どのくらい好きかって言うと、ゆっくり絶望させてから殺したいくらいにね」

「ボクね、一番期待してるんだ」

「先生の絶望した顔」

「きっと今まで見てきた中でも最高の顔だと思うんだぁ」

「諦めたっていいじゃない」

「今まで散々頑張ってきたんだから」

「もうやめちゃいなよ」

「いつまで無駄なことをすれば気が済むの」

「諦めちゃいなよ」

「楽になれるよ」

「待ってるからね」

「楽しみにしてるからね」

「だから」

「早く」








「絶望してね?」

「ぶっひゃっひゃっひゃっひゃっ、アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」




154 ◆takaJZRsBc2014/07/03(木) 23:03:12.39kbs8ilsj0 (14/16)


モノクマは蔑称し、哄笑し、嘲笑していた。元々モノクマは石丸を弄ぶのが目的で
ここに来た訳ではない。非力で何も出来ないKAZUYAを嘲り、馬鹿にしに来たのだ。
耳を塞いでその場にうずくまりたい気持ちを、KAZUYAはただジッと孤独に堪えていた。


「――石丸君が早く戻るようにボクもお祈りしてるよ。それじゃ、お大事に」


去り際にそう言い残すと、ようやくモノクマは部屋から消えた。


・・・


モノクマが去った後、微動だにしない石丸の前でKAZUYAは数を数えていた。

記憶を失い内通者疑惑をかけられたこと、舞園の様子がおかしいと気付いていたのに
事件を防げなかったこと、一部の生徒としか親しくなれていなかったこと――


(一体、何回だ……)


モノクマが舞園を責めた時に止められなかったこと、すぐに桑田を
他の生徒達と引き離さなかったこと、生徒達の不和を止められなかったこと――


(これだけじゃない……)


腐川の二重人格に気付かなかったこと、大和田の心の弱さに気付けなかったこと、
傷ついていた石丸と不二咲へのフォローが不十分だったこと――




155VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/03(木) 23:14:31.90giUG7qBLo (1/1)

葉隠は別に関西弁キャラじゃないんだがww


156 ◆takaJZRsBc2014/07/03(木) 23:20:47.25kbs8ilsj0 (15/16)


(まだだ! まだ他にも、たくさんあるはずだ! 俺は一体何度間違えた? 俺は一体何が出来た?)


縋るような目で、KAZUYAは石丸を見る。その何も映していない、虚ろな瞳を一心に見つめる。


「石丸……聞こえているか? 聞こえてなくてもいい。ただ聞いていてくれ」

「…………」

「お前は少しも自分を責める必要なんてないんだ。お前の過ちなんて
 俺が今まで犯してきたミスに比べれば、本当に微々たるものなんだよ」

「…………」

「本当に許しを乞わなければならないのは、俺の方なんだ……」

「…………」

「俺はヒーローなんかじゃない。普通の人間だ。人間の医者だ」

「…………」

「傷付いた教え子一人救うことが出来ない、非力で情けない医者なんだ」

「…………」

「……頼む。何でもいい。何か言ってくれ……何でもいいから頼む、石丸――石丸ッ!!」

「…………」


しかし、KAZUYAの悲痛な叫びは虚しく壁に吸い込まれて消えた。石丸は何も応えない。


「…………」

「――助けてやれなくて、すまない」


KAZUYAは許しを請うように空を仰ぐと、全てが見えなくなるよう静かに目を閉じた。




157 ◆takaJZRsBc2014/07/03(木) 23:25:24.88kbs8ilsj0 (16/16)


ここまで。




158VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/03(木) 23:27:41.16xykr5ZWuO (1/1)

gj

もうみんなまとめてグバンッすりゃすっきりするのに


159VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/03(木) 23:32:14.466or8cJQ6O (1/1)


なんだか絶望させる某スレを思い出すような展開ですなあ


160VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/03(木) 23:34:55.08JlysMmD+0 (1/1)

乙です
いつも更新楽しみにしてます


161VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/03(木) 23:35:04.52LhHbhoSjO (1/1)




162VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/03(木) 23:50:38.90hi8UyySK0 (1/1)

乙です

イレギュラーが介入するメリットとデメリットのさじ加減が絶妙だなあ


163VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/04(金) 00:35:51.59DaTWLtfe0 (1/1)

霧切さんとか桑田とかの主力メンツと交流を深めておきたいけど、山田や葉隠もほっとくとまずそうだし、腐川もどうにかしないといけないだろうし、セレスも放置しとくのは怖いし、十神は言うまでもなくアレだし。
安価の選択がマジで悩ましい。
昔の、パラメータ調整とかが本気で難しかった頃のギャルゲーとかってこんなんだったのかね。


164VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/04(金) 08:21:43.53Dq8/DgGgo (1/1)

乙です


165VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/04(金) 11:38:16.279kR/wPgjo (1/1)

てか桑田の反応見て桑田何か抱え込んでる問題があるのかなーと思ったら違うわ。
桑田Kの今の精神状態について知ってたからなんか言おうとしてたんだな。
Kメンバーの中で苗木と桑田くらいしかKの心のケアできないから二人との交流も大事かもしれん。


166VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/04(金) 12:32:54.40bejGsLtCO (1/1)

これはKの絶望落ちエンドの可能性微レ存…?


167VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/04(金) 12:44:42.23Fr1RWITXo (1/1)

い、いやまだだ!まだ超高校級の癒し系ちーたんがいる!…はず


168VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/04(金) 18:24:32.69M9VvUeAS0 (1/1)

ジェノは記憶が残ってるからKに割と好意的なんかな


169VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/06(日) 17:33:26.76MXAuX1NV0 (1/1)

タイムマシンのところはゲームでの個人的胸糞イベントトップ3に入るんだがまさかここで出てくるとは…
モノクマ絶好調すぎてやばい
中の人はこの状況絶望的に楽しんでるんだろうな…

しかしこのギリギリな状況、嫌いじゃない
>>1乙


170VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/06(日) 18:33:30.55inzmcY3NO (1/1)

もっと……もっとだ……!
もっと感想をよこせ……ッ!!


171VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/06(日) 18:54:20.36cvoLTdWB0 (1/1)

いつも楽しく読ませてもらってます

ここの桑田とちーたんがすごい好きだ


172VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/06(日) 21:04:55.12hJgZMEL00 (1/1)

桑田が気遣ってる図がすごい胸熱。
なんかもう全員良いキャラしてて皆助かって欲しい。切実に。

こそっと支援絵置いていきます
二次創作どころか三次創作なので苦手な方は全力でスルーして下さい。

スレタイイメージ→http://i.imgur.com/nkcWnpP.jpg
今気づいたけどひふみんの手3にしてしまった…不覚
きっとchapter3の意です。

廃人石丸→http://i.imgur.com/lCoN23P.jpg
読んでてウワアアアアアと思ったので…
焦点あってないを表現しようとしたら結構なホラーになったでござる。


173VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/06(日) 21:16:06.09UgVTUIgto (1/1)

イイネ!

>>155
葉隠は別に関西弁キャラじゃないけど、
~かいな?とか、~なかったんか?って言い回しなら原作でも普通にしてるぞ


174 ◆takaJZRsBc2014/07/06(日) 21:46:16.39zpeA1Njv0 (1/18)

>>172
ありがとうございます!元気が出ます。スレタイイメージぴったりですね
4スレ目はちょうどChapter3から始まってるので違和感ないですよ


投下



175 ◆takaJZRsBc2014/07/06(日) 21:49:09.15zpeA1Njv0 (2/18)


― モニタールーム PM11:59 ―


「やあやあ。こんな時間に呼び出したりしてすまないねえ」

「…………」

「ほら、今紅茶いれてあげるから遠慮しないで座って座って!」

「…………」キィ、カタン

「山田君みたいに本場英国(笑)のロイヤルミルクティーなんていれられないけど、
 ボクのいれる紅茶は美味しいと思うよ。なんてったってボクがいれるんだからね!」トポトポ


セレスは知らないようだが、ロイヤルミルクティーは日本生まれで英国には存在しない。


「勿論、毒なんて入ってないよ! ま、そんなの君が一番よくわかってるか」

「…………」

「え、それでなんで君を呼んだかって? いや、特に用事はないけど」

「ほら、たまには連絡取るべきなんじゃない。君はボクの“内通者”なんだからさ」

「――ねえ、大神さん?」

「……楽しそうだな、モノクマよ」


突然モノクマに呼び出された大神は、真夜中に黒幕と相対することになった。だが彼女に拒否権はない。
出された紅茶にミルクと砂糖を入れて、口にする。モノクマの言う通り毒など入ってはいなかった。




176 ◆takaJZRsBc2014/07/06(日) 21:57:51.93zpeA1Njv0 (3/18)


「楽しそう? そうかな? そうかも。うぷぷぷ」

「何かあったのか?」

「あったといえば会ったね」

「…………」


モノクマの言う良いことと言えば、彼女にとって悪いことでしかない。


(こんな時間に我を呼び出してお喋りに興じようとするとは……余程機嫌が良いのだな)


いよいよか、と大神は腹を括る。


「我に動け、と言うことだな?」

「いいや。それはまだいいよ」

「……?」


てっきりそのための呼び出しかと思ったのだが、違うらしい。


「本当はさー、バンバン裏切りや死人が出てスリル溢れる学級裁判!ってのを予定してたんだけど、
 とりあえずこの間裁判もオシオキもやったし、今のギスギスした絶望的な雰囲気も悪く無いからね」

「いや、むしろこのどうしようもない閉塞感と崖っぷち感がたまらなかったりして」

「……そうか」

(疑い合い、憎み合い、とうとう廃人まで出した今の状況を心から楽しんでいるのだな。外道め……)


モノクマの酷薄な態度に大神は憎しみを覚えたが、それでも内心安堵している自分がいた。
まだ、殺さなくていい。たとえ確定的な未来だとしても、少しでも先であって欲しい。そう願う。




177 ◆takaJZRsBc2014/07/06(日) 22:03:07.13zpeA1Njv0 (4/18)


「ま、今の雰囲気だとまた第二、第三て事件が続くんじゃない? そうなったら君もお役御免かな?」

「それはどうであろうな……」

「まさか、KAZUYA先生みたいにみんなを信じる!なーんて言わないよね?」

「……わからぬ」


答えられなかった。裏切り者の自分が仲間を信じるなどと言うのは、滑稽でしかないからだ。


「特に用がないなら、もう戻っても良いか?」

「まあまあ、ボクも時には学園長としてでじゃなく気楽にオシャベリしたいなーみたいな?」

「…………」


話しているうちに、大神はあることに気が付いていた。いや、そう思ったのは何も
今回が初めてではないのだが、どうも自分以外にまだ内通者がいるような気がするのだ。


「モノクマよ……16人目の高校生とは何だ?」

「ブフッ! ゲホゲホゲホッ!」


モノクマは飲んでいた紅茶を盛大に吹き出す。今までにモノクマが口を滑らせた様子では、
どうも自分達の中に謎の16人目の生徒が潜んでいて、それが内通者のようであった。

ジェノサイダーの存在が明るみになった時、大神は彼女がもう一人の内通者かと考えたが、
直感的に違うと感じた。何故なら彼女は純粋にゲームをしているようだったからだ。
内通者は言って見ればゲームマスター寄りであり、正確にはゲームの参加者ではない。


「それは言えないなぁ。何せ、ボクの切り札だからね!」

「…………」




178 ◆takaJZRsBc2014/07/06(日) 22:11:12.56zpeA1Njv0 (5/18)


モノクマに切り札、とまで言わせる謎の存在がまだ残っている。
そもそも自分一人でも、他のメンバーにはかなり手に余るはずだった。


(敵は手強いぞ、西城殿――)


結局夜がとっぷりと更けるまで、大神はモノクマの暇つぶしに付き合わされたのだった。



               ◇     ◇     ◇


その晩、桑田は夢を見ていた。

そこは忘れもしない、あの裁判場だ。そして今現在、追及されているのは――


『LEON……桑田君の名前だよね?』

『な……?! なに、言ってんだよ……たまたまだって……』


(な、なんで俺が……誰か、誰か助けてくれ! せんせー!)


そう思って桑田はKAZUYAの方を見るが、そこには誰もいない。
ただ、誰もいない空席がぽつんと一つあるだけだった。


(?! なんでっそんな……?!)


よく周囲を見渡してみると、いくつか以前の裁判と大きな違いがあることに気付く。
まず、不二咲がいた。そして、舞園と江ノ島の席には遺影が置かれている。




179 ◆takaJZRsBc2014/07/06(日) 22:17:16.15zpeA1Njv0 (6/18)


(ああ、そうだった……)


桑田は理解した。これは本来自分が迎えていた未来――結末なのだ。

KAZUYAはたまたま奇跡的に生き残っただけで、元々黒幕に消されていたはずだった。
その場合どうなっていただろうか。舞園は死んでいた。いや、自分が殺したのだ。


(俺が舞園を殺したんだった……)


手に蘇る。舞園を刺した感触や血の温もりが。

瞼に浮かぶ。青ざめた顔の彼女が崩れ落ち、動かなくなった瞬間が。

聞こえた気がする。誰かに向かって言った弱々しいごめんなさいの言葉が。


『んなもん、ただのこじつけじゃねーか!』


だが、夢の中の桑田は力一杯叫んだ。
見苦しいのはわかっていたが、それでも叫ばざるを得なかった。


『反論が……あるかって? あるよ、あるある!! あるに決まってんだろーがッ!!』


だって、認めたくなかった。自分が人殺しだなんて何かの間違いだと思いたかった。




180 ◆takaJZRsBc2014/07/06(日) 22:20:53.69zpeA1Njv0 (7/18)


『証拠がなけりゃ、ただのデッチ上げだ! そんなもん認めねーぞ!』


第一、認めるということは処刑されるということである。死にたくなかった。


『ぜってぇーに認めねーぞッ! アホアホアホアホアホ!!』


だが、感情のままに殺してしまった桑田の犯行などあっという間に暴かれてしまう。
そして遂にやって来た運命の投票で、とうとう自分がクロに選ばれたのだった。


『や、やめてくれッ! 待って! 待ってくれッ!!』

『イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ!!』

『ここから出せッ! 出してくれえええええ! 出せよおおおおおおおおッ!!』


ドンドンと扉を殴り開けようとするが、微動だにしない。
桑田の懇願などまるで聞かず、モノクマは容赦なくオシオキスイッチを押した。


『イヤだああああああああああああああああああああああああ!!』


どこからともなく首輪が飛んできて自分を捕縛すると、そのままどこかへ引きずっていく。

処刑場は涙が出るくらい懐かしいあのグラウンドを模したものだった。

ベルトで全身を拘束され、身じろぎ一つ出来なくなった桑田の前に現れたのは、

兵器のようにそそり立つ巨大な厳ついピッチングマシーン――




181 ◆takaJZRsBc2014/07/06(日) 22:27:34.65zpeA1Njv0 (8/18)


―イヤだ、イヤだ……


―ボールは人に向かって投げるものじゃない……

―誰かを傷付けるためのものじゃない……!


―誰か、誰か助けてくれよ……

―なんでもするから、謝るから、反省するから……だから!!


機械は桑田の体に照準を合わせる。

そして、そして……――



            ― 千本ノック ―



ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!



               ◇     ◇     ◇


「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


絶叫しながら桑田は跳ね起きた。全身から滝のように汗をかいている。


「また、この夢かよ……」




182 ◆takaJZRsBc2014/07/06(日) 22:34:44.68zpeA1Njv0 (9/18)


あの裁判で壮絶にオシオキを受けるジェノサイダーを見て、モノクマから自身が
受けるはずだったオシオキを聞いて、それからだ。桑田は毎晩同じ悪夢にうなされていた。

ふと、自分が泣いていたことに気付く。


(夢で泣くとかクソダセエ……)


乱暴に手で目元を擦りながら心の中で毒づくが、それは強がりだった。
そのくらいリアリティを感じさせる夢だったのだ。

昔読んだ漫画で、パラレルワールドと言う単語を聞いたことがある。
もしあの時こうだったら、と言うIFが描かれた並行世界のことだ。


(……もし、ここにせんせーがいなかったら……俺は間違いなく夢の通りになってた……)


もしかしたら、この夢は本当は夢ではないのかもしれない。
どこか違う次元の、KAZUYAがいない世界の自分なのかもしれない。

だから何もかもあんなにリアルで、辛くて、痛くて、苦しいのかもしれない。


(俺は人殺しだ……!!)


折角少しずつ薄らいでいた舞園に対する恐怖や後悔の念が、再び込み上げてしまった。
桑田は乱暴に毛布を引っつかむと頭まで被る。いつもは、こうして固く目を閉じていれば
いつの間にか眠っているのだが、今日に限っては何故か目が冴えていた。


(眠れねえ……)


昼間、KAZUYAに相談しようかとも思ったのだが、KAZUYAの顔色がなんだか優れない気がして、
つい遠慮して言い出せなかったのだ。しばらくはそうして布団に潜り込んでいたのだが、
ふと時計を見ると時刻はもうすぐ深夜の二時になろうとしている。




183 ◆takaJZRsBc2014/07/06(日) 22:40:49.58zpeA1Njv0 (10/18)


迷惑だと思いながらも、桑田は寄宿舎の廊下に歩み出ていた。


「…………」

(……寝てるに決まってる)


少し躊躇って、ドアの隙間からメモを差し入れる。結局すぐに引き抜いてしまったが。
そのまま戻ろうとして――鍵の解錠される音が聞こえ、ゆっくり扉が開く。


「……こんな時間にどうした?」

「あ、いや、その……わりぃ、まさかまだ起きてるなんて思わなくて……」


気まずい顔をして口ごもる桑田をKAZUYAはまじまじと観察する。
薄暗い照明でもわかるほど、憔悴した顔をしていた。目の下にはクマが出来ている。


「眠れないのか?」

「…………」

「……実は、俺もなんだ。少し話さないか?」

「でも、石丸は……」

「今は俺の針麻酔で寝ている。普段は薬を使っているが、薬品漬けでは体に悪いからな」


結局KAZUYAに押し切られ、桑田は石丸の部屋に入った。


(…………)


その様子を、学校と寄宿舎の境の物陰に立って見ている人物がいた。




184 ◆takaJZRsBc2014/07/06(日) 22:46:22.14zpeA1Njv0 (11/18)


(あれは……桑田だな。それに、話していたのは西城殿か)


気配を殺して潜んでいたのは大神だった。やっとモノクマの長話から開放され戻ってきたのだ。


(見つからなくて幸いだ。もしこんな時間に出歩いている所を見られたら、
 不審がられ色々問いただされるのは避けられなかっただろうからな……)

(しかし、二人共こんな時間まで起きているとは……眠れなかったのか?)


だがよくよく考えれば、別におかしなことでもない。石丸は生徒の中でも特に、
KAZUYAと一緒にいた時間が長かったし、桑田も何度か庇ってもらっていた。
教え子や友人が廃人になって呑気に寝ていられるような人間ではないだけの話だ。


(…………)


そこに思い至ると、裏切りという十字架が心に重くのしかかって来る。
彼らが仲間のためにあれだけやっているのに、自分は一体何をしているというのか。


(いや……我は外にいる仲間を、彼等はここにいる仲間を重んじているだけの差だ)


そう心に言い聞かせる。あまり、彼等に情を抱いてはいけないのだ。
それでも消えないしこりを胸に感じながら、大神は部屋に戻っていった。


・・・


KAZUYAに言われ桑田が中に入ると、確かに石丸は眠っている。自分から睡眠を取らない分、
一度外的要因が入ると死んだように眠るのだとKAZUYAが教えてくれた。

土気色の顔ですっかり痩せこけた石丸は、病人というよりまるで死人だった。




185 ◆takaJZRsBc2014/07/06(日) 22:53:40.10zpeA1Njv0 (12/18)


(石丸……)


やっぱり帰ろう、と桑田は思う。


(俺よりよっぽど苦しんでるこいつやその世話してるせんせーの前で、
 夢が怖くて眠れません、なんてみっともねーこと言えるかよ……)

「こんな時間に来といてなんだけど、俺やっぱ……」

「俺の話は聞いてくれんのか?」

「え? いや、そうじゃねえけど……」

「まあ、座れ。どうせ眠れんのならいっそ起きているのも有りだ」

「…………」


KAZUYAに促され、結局座ってしまった。よく見たら、KAZUYAの顔色も桑田に負けず劣らず酷い。
まあ、当然だろう。教え子がこんな状態になってしまったのだから、と桑田はあっさり納得する。
KAZUYAもKAZUYAで、話があると言いながらもモノクマのことを話す気など更々なかった。


「それで、どうした? 何かあったんだろう?」

「…………」

「気を遣ってくれるのは有り難いが、隠されている方が俺はかえって心配だぞ?」

「……たいしたことじゃねえんだ、本当に」

「それでもいい。話してみろ。話せば楽になるかもしれんぞ」

「実は……」


・・・




186 ◆takaJZRsBc2014/07/06(日) 22:58:15.51zpeA1Njv0 (13/18)


「……そうか」


KAZUYAは表面上はいつも通りの顔だったが、その内心は非常に波立っていた。
モノクマの行ったオシオキがここまで生徒の心に悪影響を与えていたとは……


(桑田だけではない。舞園や大和田も心配だ。……他の生徒とて、放置は出来ん)


心配事は尽きないが、まずは今目の前にいる桑田をなんとかすべきだろう。


「とりあえず、今日はここに泊まっていけ。そこの布団を使っていいから」

「え?! でも……せんせーはどうすんだよ」


石丸の治療は長期的なものになるだろうと、KAZUYAはあらかじめ寝具一式を保健室から
持ち込んでいた。そこで寝ろと言うことだろうが、それではKAZUYAの寝る場所がない。


「俺はまだまだ仕事がある。眠くなったら適当に椅子で仮眠を取るさ」

「いいって! 話したらすっきりしたし、もう大丈夫だからさ!」


子供じゃないんだからと桑田は拒否するが、KAZUYAの顔は真剣だった。


「遠慮するな。頼れるうちは頼っておけ……大和田のようになりたくないだろう?」

「なんでそこで大和田の名前が出るんだよ……」

「大和田は誰にも頼ることが出来ず、何もかも一人で抱え込み過ぎた。――その結果があれだ」

「…………」




187 ◆takaJZRsBc2014/07/06(日) 23:06:20.99zpeA1Njv0 (14/18)


「確かに男なら意地を張らねばならん時もあるが、少なくとも今はまだ違うだろう?
 辛い時は辛いと言っていいし、苦しければ俺や仲間を頼ってもいいんだ」

「……でも、それじゃせんせーは頼られっぱなしじゃねえか」

「何を言っているんだ。俺も随分お前達を頼っているぞ?」

「頼りになるのは霧切とか苗木だろ。俺は運動バカだから見回りくらいしかやってねーよ……」

「この間の裁判では大活躍したじゃないか。もう忘れたのか? お前が秘密の暴露を思いつかなければ、
 俺達は十神に頼らざるを得なかった。アイツの鼻をあかせたのだ。これほど痛快なことはない」

「そう、だけどさ……」


そうだった。確かにあの件がなければジェノサイダーの存在は明らかにならず、
学級裁判はKAZUYA陣営の決定的敗北で終わっていたのだ。だが、未だ自信を持てず
黙り込んでいる桑田の肩を、KAZUYAは軽く叩いて諭すように話しかけた。


「俺はな――お前をうちのチームのエースだと思っているんだ」

「エース? 冗談だろ?」

「野球をやっていたお前ならわかるだろう。チームには様々な役割を持った人間がいる。
 例えば、俺が監督なら霧切はコーチ、苗木はキャプテン、舞園はマネージャーかな」

「野球なら、そりゃあ俺がエースだけどさ……でも……」

「エースの役割はただ強いだけではない。みんなが辛い時に、引っ張って行ったり
 試合で悪い流れになった時に、その流れを切り替えるのもエースの役目だ」

「俺……いつも怒鳴ったり暴れたり、空気悪くしてるだけだと思うけど……」




188 ◆takaJZRsBc2014/07/06(日) 23:18:00.67zpeA1Njv0 (15/18)


「逆に考えれば、お前がいつも感情的に動いてくれるおかげで他のみんなは冷静になれると
 思わないか? お前が汚れ役になってみんなの代わりに意見を代弁しているとも取れるしな」

「……いくらなんでも、都合よすぎじゃね?」

「いけないか?」

「前から思ってたけど……せんせーってさ、変な所で開き直るトコあるよな。ハ、ハハ」


桑田は少し笑った。つられて、KAZUYAも少しだけ笑う。


(エース……エースか)


懐かしい響きだった。すっかり非日常へと変貌してしまったこの空間で、
感覚を日常に引き戻してくれた。自分がエースなら、チームを支えなければならない。


「あと、勘違いしているようだから言っておくが、見回りは最も大事な仕事だぞ」

「俺は今ほとんど外に出られんからな。外の状況は全てお前達が持ってきた情報で
 把握しているし、お前達が俺の目となり足となってくれて本当に助かっている」

「…………」

「今日はしっかり寝て、また明日から頑張ってくれるな?」

「おう、わかった。……じゃ、おやすみ」

「おやすみ」


桑田はもう遠慮しなかった。いそいそと布団に入るとあっという間に寝息を立て始める。
KAZUYAはその様子を安心して眺めていた。死人のような石丸と穏やかな桑田の寝顔を
交互に見比べ、KAZUYAは監視カメラをギロリと睨む。


(見ているか、黒幕よ……俺は絶対に諦めてなどやらんぞ)

(守るものがいる限り、俺は負けんッ!! 絶対にッッ!!!)




189 ◆takaJZRsBc2014/07/06(日) 23:27:58.14zpeA1Njv0 (16/18)


― コロシアイ学園生活十八日目 石丸の部屋AM7:00 ―


『おはようございます! みなさん、朝です。今日も一日ハリキって行きましょー!』


耳障りな起床メッセージと共にKAZUYAは目を覚ます。結局、KAZUYAは固い床に直に
横になってマントを被って眠った。体中あちこち痛いが、これも生徒のためだと我慢する。


(放送は流れたが、朝食会までまだ間があるしギリギリまで寝かせてやろう)


未だ起きる気配のない桑田に気を遣って、KAZUYAはそっと立ち上がる。


「お早うございます、先生」


突然、誰かに話しかけられた。


「石丸ッ?!」


バッと顔を上げると、そこには以前と変わらぬ姿の石丸が立っていた。


「気がついたのか?! 体は、調子の悪いところはないか?!」

「ご心配なく。僕はいつも通りです!」

「本当か……?! 本当に、治ったのだな!」


KAZUYAの大声で目を覚ましたのか、桑田が目をこすりながら起き上がる。




190 ◆takaJZRsBc2014/07/06(日) 23:37:15.47zpeA1Njv0 (17/18)


「ふぁああ。なんだよ、せんせー。朝っぱらからでけえ声出したりして……」

「僕のことより桑田君の方が問題です! 全く、彼の生活態度には問題がある!」

「うるせーな! ……って、石丸?! お前、戻ったのかよ?!」

「桑田! みんなを呼んできてくれ!」

「わかった!」


転がるように桑田は寝間着のまま部屋を飛び出していった。


「石丸、何か食べたいものはあるか? したいことは?」

「学生の本分は勉強です!」

「……あ、ああ! そうか、そうだな! いくらでも俺が教えてやるさ」

「任せて下さい。期末試験に向けて、みんなにきちんと勉強させるつもりです」

「? 期末……試験?」

「この間の中間試験では一部のメンバーが散々でしたからね。……ですが、
 超高校級の風紀委員の名に掛けて、今度はちゃんと全員の成績を上げてみせます!」

「……石丸」

「ところで、このプリントは職員室に持っていきますか?」








「お前……一体、誰と話しているんだ?」




191 ◆takaJZRsBc2014/07/06(日) 23:42:39.26zpeA1Njv0 (18/18)


ここまで。




192VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/06(日) 23:45:21.994k4Z+f810 (1/1)

こういう流れなんかで見たような………あ、
さよならを教えて、てゲームだ



193VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/06(日) 23:49:07.74fOlgG8INO (1/1)


自身の精神だけがタイムスリップするとは皮肉の極みだな…


194VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/06(日) 23:50:40.57/rlWPHDNO (1/1)

一回目の学級裁判で江ノ島が死んでる想像まで出来るってことは、パラレルどころかこれ二周目以降か……?


195VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/06(日) 23:52:03.636FTdu+BJo (1/1)

乙です


196VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/06(日) 23:54:17.17HCjpkUOMo (1/1)


え?これ記憶を奪われる前(エピソード0辺り)まで逆行したってこと?
それとも現状に耐えられなくなって現実逃避してるだけ?


197VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/06(日) 23:59:14.41MToMoA5r0 (1/1)

乙でした

うあ、こう来たかー…
記憶操作の証明に使える可能性もありかしら


198VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/07(月) 00:03:58.504C7TSxg40 (1/1)

おいしいです

おいしいです!!!!


199VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/07(月) 03:24:30.06oxSZXunC0 (1/1)

乙乙。
ここのキャラは桑田筆頭に皆年相応の弱さみたいのがたまに見えて何だか良いな。超高校級と言えど青春まっさかりで思い悩む高校生なんだよなあこいつら……

しかし石田化暴走発狂来るか思ったら、モノクマ余計な事を……
記憶喪失発覚あるかもしれないけど石丸痛々し過ぎて辛いこれ……


200VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/07(月) 14:25:45.41SC/Cjqxn0 (1/1)


石丸は一体どうしてしまったんだ?


201VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/10(木) 18:37:32.33tj0oc00f0 (1/1)

ドクターkの単行本ないかな~と思ってブックオフ行ったら54巻セット売ってたんで買ってきちゃったぜ!
まだ序盤あたりしか読めてないけど、むっちゃ面白い! 時間かけてゆっくり読みたいと思います。
今んとこ高品が一番の萌えキャラw

>>1さん、応援してます。


202VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/11(金) 01:23:40.86rEZTKzCPo (1/1)

今時旧版はほとんど見かけないから裏山
しかし、まさか一度に54冊も持って帰ったのか(驚愕)


203 ◆takaJZRsBc2014/07/11(金) 22:02:24.70Rffcq70f0 (1/15)

>>201
ありがとうございます。KC版だと作者のコメントやおまけイラストとか
合間に入ってたりするのですかね?文庫版はそういうものはほとんどないので
もしそういうのがあるならKC版も集めようかな…


今週は体調崩して遅れてしまいました。すみません。投下



204 ◆takaJZRsBc2014/07/11(金) 22:07:27.11Rffcq70f0 (2/15)


桑田「とりあえず、食堂にいた二人を連れてきたぜ!」

朝日奈「石丸が元に戻ったって本当?!」


扉を乱暴に開けて、桑田、朝日奈、大神の三人が部屋に飛び込んで来た。まだ朝早かったため、
この二人しかいなかったのだ。しかし、部屋に入るとすぐに様子がおかしいことに気付く。


大神「……西城殿? どうかされたのか?」

K「…………」


普段は生徒を心配させまいとなるべく表情を変えないKAZUYAが、珍しく真っ青な顔をしていた。


K「……声を、掛けてみてくれ」

朝日奈「え? ……い、石丸! 元気になったんでしょ? なんか言ってよ!」

石丸「朝日奈君! 君はいつもドーナツの食べ過ぎだ」

朝日奈「あ、本当に戻った?!」

大神「おお、石丸。元に……」

石丸「大神君からも言ってやってくれないか?」

朝日奈「え」

桑田「ハ?」

大神「ヌ!」

K「…………」




205 ◆takaJZRsBc2014/07/11(金) 22:13:27.48Rffcq70f0 (3/15)


石丸が振り返った方向、そこにあったのは壁だけだった。


朝日奈「石丸……さくらちゃん、ここだよ……?」

石丸「ウム、流石大神君は良いことを言う。朝日奈君聞いたかね?」

大神「我は何も言っていないが……」

桑田「お、おい……これってどういうことだよ……」

K「石丸は、重度の意識変容で譫妄(せんもう)を引き起こしている」

朝日奈「え、センモウ?」


譫妄(せんもう):軽度の意識混濁に加え、幻覚、錯覚、不安、興奮、失見当識(時間や方向、場所等が
           わからなくなる)等が見られる状態。認知症に症状が似ている。原因は脳疾患、薬物、
           大手術の影響、アルコール中毒、心理的負荷など幅広く、症状も非常に多岐に渡る。

意識障害:通常人間の意識は清明度、広がり、質的と三つの要素があるとされ、そこに障害が起きることを言う。
      清明度の低下は意識混濁と言い傾眠、昏睡等を、広がりの低下は意識狭窄と言い催眠状態等を指す。
      意識の質に変化がある場合は意識変容と呼び、譫妄、朦朧等が起こっている状態を言う。


K「……幻覚と言えば良いか。夢を見ているのだ。もしここが平和な学園だったならと」

朝日奈「夢……」


勿論、本当は違うことをKAZUYAは知っている。恐らく、石丸が見ている夢は純粋に
彼が生み出した妄想などではなく、全て過去にあったこと。つまり記憶の残滓なのだ。

これで消された記憶がメモリごと消去されたのではなく、一時的にアクセス出来なくなっていた
だけとわかり、本来なら希望に繋がるはずなのだが……今のKAZUYAにそんな余裕はなかった。




206 ◆takaJZRsBc2014/07/11(金) 22:19:18.01Rffcq70f0 (4/15)


K「…………」

桑田「な、なあ、石丸! 俺がわかるか? なあ!」

石丸「桑田君、いくら希望ヶ峰が服装に緩いと言ってもその髪と髭は度が超えている。切りたまえ!」

桑田「もう切っただろ……よく見ろよ! 今の俺を見ろって! おい!」

大神「桑田、落ち着け」


青ざめて黙っているKAZUYAの代わりに大神が桑田を止める。その後、起きだした生徒達を
部屋に呼んで代わる代わる話し掛けさせたが、石丸は一時的に何かを話してまた黙り込むか、
或いは怒鳴られて以前のように謝り出すかのどちらかだった。


・・・


石丸悪化の報が生徒のほとんどに知れ渡った後、KAZUYAは霧切に自分以外の人間をもう一人
部屋に常駐させて欲しいと伝える。今の一人体制だと緊急時に急に呼び出された時困るのと、
今後は図書室へ石丸の治療法を調べに行くなど、不在にする時間が増えると考えたからだった。

朝食会が終わって少し経った頃、早速苗木がやって来てローテーション表を見せてくれる。


(石丸を何とかしたい……譫妄まで現れるとは、場合によっては薬物治療も視野に入れねばならん。
 だが、精神系は俺の専門外だ。とにかく資料を読み込んで、出来るだけ多くの情報を集めねば)

(……いや、その前にまず舞園と大和田のフォローをするべきだな。石丸も大事だが、
 一人に集中して他の生徒の異常を見逃すということだけは絶対にあってはならん……)

(舞園は午後だ。先に大和田の話を聞こう)




207 ◆takaJZRsBc2014/07/11(金) 22:25:45.34Rffcq70f0 (5/15)


「早速だが苗木。少し不二咲の様子を見に行きたいのだが……」

「わかりました。石丸君は僕が見てるので行ってらっしゃい」

「頼んだ」

「……ほら、石丸君。一緒に勉強しようよ」


いつも前向きな苗木が、珍しく暗い顔で石丸に話しかけているのを
横目で見ながらKAZUYAは大和田の部屋へ向かった。



― 大和田の部屋 AM9:12 ―


不二咲「あ、先生!」

大和田「……先公か」


大和田はゲッソリとした顔でKAZUYAを迎えた。焦点が合わず生気を感じられない瞳の石丸に
兄弟と呼ばれ笑いかけられるのは想像以上に辛い出来事だったろう。それも、不二咲には
秘密にしなければならないのだ。大和田の心中を察し、KAZUYAは深い溜息をついた。


K「不二咲、調子はどうだ?」

不二咲「まだちょっと痛いけど、薬が効いてるから大丈夫です」

K「診せてくれ」


KAZUYAは不二咲の怪我の具合を確認し、点滴を替える。




208 ◆takaJZRsBc2014/07/11(金) 22:30:15.86Rffcq70f0 (6/15)


大和田「どうだ?」

K「ウム、順調だ。しかし、元々死にかけた上に胸を開いている。
  抵抗力が落ちているから、しばらくは注意するように」

K「ところで、大和田に話があるんだが」

大和田「……あ? 俺にか?」


石丸のことだと思ったのだろう。口元が大きく引きつった。


K「お前、食事と睡眠はしっかり取れているか?」

大和田「ああ、特に問題ねえけど……顔色でも悪かったか?」

K「いや、この間のお仕置きを見て精神的に来ているのではないかと思ってな」

大和田「…………」


オシオキ、と言う単語を聞いて大和田の顔が更にこわばる。


大和田「キてねえワケじゃねえ。やっぱり最初の晩は悪夢とか見たぜ」

K(やはり……)

大和田が「でも、最初だけだ。今は、いろいろ忙しいからな。兄弟も……寝込んでるし。
      とてもじゃねえが、自分のことで手一杯になんかなってらんねえよ」


意外な答えだった。以前の大和田なら、もっと苦しんでいたはずだ。




209 ◆takaJZRsBc2014/07/11(金) 22:37:22.70Rffcq70f0 (7/15)


K「……強くなったな」

大和田「強くなんかなってねえ。むしろ逆だ、逆」

K「逆?」

大和田「弱くなった。すぐ弱音吐いちまうし、ビビっちまうし……情けねえったらねえ」

不二咲「そんなことないよぉ! 誰だって今の状況は辛いし怖いもん」

大和田「……で、こうしていつも不二咲に励まされる始末だ」

K「ほぅ」


しかし、言葉に反して大和田の顔は今までと比べるとどこか明るかった。


大和田「ただ、なんだろうな……すっげえ、楽になった気はするぜ」

K「楽に?」

大和田「ああ。……ほら、前はよ、俺は強くなきゃならねえ!っていつも力んでたろ? 周りに
     弱みとか見せらんねえし、男らしくとか、とにかくこうでないと!って気ィ張ってた」

大和田「でも今は、あんたや不二咲よりも俺はよええって認めちまったから、ムリする必要が
     なくなった。つれえ時はつれえって言えるし、たまにグチ吐いたり……なんかあったら
     周りに助けてもらってもいいんだって考えたら、すっげえ楽なんだ」

K「…………」

大和田「あ、でもだからって頼りっぱなしにゃならねえぞ! あくまで時々だ、時々!」

K「自分の弱さを認めるのも強さだ。――やはり、お前は強くなったのさ」

大和田「そ、そうかよ……」




210 ◆takaJZRsBc2014/07/11(金) 22:41:37.60Rffcq70f0 (8/15)


少し、照れ笑いをする。が、すぐに大和田は真面目な顔になった。


大和田「他のヤツは大丈夫なのか? 桑田とか舞園とか。特に舞園はヤベエんじゃねえか?」

K「桑田は少し堪えているな。お仕置きの内容を直接聞いてしまったのが悪かったようだ。
  今はなるべく誰かと過ごさせるようにしている。舞園は次のローテーションの時に話す」

不二咲「先生……」

K「何だ?」

不二咲「僕……ただでさえなにも出来ないのに、怪我人だけど……みんなのお話聞いたり、
     励ますことくらいなら出来るから、怪我人だから遠慮しないでって伝えて欲しいの」

K「不二咲……」

不二咲「それに、石丸君が……」

K「(ギクリ)石丸が、どうした?」

不二咲「ベッドから出られないくらい酷いんでしょう? 他のみんなも、きっと心配してると
     思うから、せめて僕だけでも元気な姿を見せてみんなを励ましたいんだ」

不二咲「そ、それにほら! みんなが遊びに来てくれた方が僕も嬉しいし……」

K「わかった。伝えておこう」

不二咲「うん!」

K「じゃあ、俺はもう戻る」

大和田「先公」

K「……ああ」


大和田はKAZUYAを呼んだだけで、その後は何も言わなかった。
だがKAZUYAにはわかっていた。大和田は、石丸を頼むと目で伝えていたのだった。




211 ◆takaJZRsBc2014/07/11(金) 22:46:41.61Rffcq70f0 (9/15)


               ◇     ◇     ◇


午後。決められた時間通り、部屋には舞園がやって来た。


舞園「こんにちは。先生、石丸君」

K「よく来たな」

舞園「何か変化はありましたか?」

K「いや……むしろ、何の反応も見られなくなってしまった」


元々、石丸の行動には三つのパターンがあった。一つは、一日のほとんどがこれに該当するが、
何もしないという状態である。二つ目は、過去の習慣をなぞった行為。そして三つ目が、謝罪や
自己否定の独り言である。そこに今回、新たなパターンとして過去の行動を再現するという物が
加わった。特徴としては、三つ目と四つ目は主に誰かが話しかけると発動しやすい。

だが、未だ確固たる法則のようなものは掴めず、ただひたすら観察するのみであった。
KAZUYAは今も机に向かい、カルテに追記し続けている。


舞園「そうですか……でも、諦めちゃ駄目です! 今日もたくさんおしゃべりしましょうね、石丸君?」

石丸「…………」

K「……その前に、君に一つ聞きたいことがあるのだが」

舞園「何でしょう? 他の皆さんの様子ですか?」

K「いや、君のことだ。この間、いよいよ生徒にお仕置きが執行された訳だが、何か影響はないか?」

舞園「ないですよ」

K「……?」




212 ◆takaJZRsBc2014/07/11(金) 22:53:28.93Rffcq70f0 (10/15)


舞園は表情一つ変えずあっさり言い切った。


K「全くないのか?」

舞園「はい。全然へっちゃらです!」

K「……そうか。なら良いが」


いくら女心に疎いとは言え、流石のKAZUYAも違和感を覚えた。思えば、これが初めてではない。
いつも別の出来事に気を取られていて、舞園の小さな違和感を見逃してきた気がする。


K(本当に、これがあの舞園なのか……?)


何度も自分を責めて、後悔して、耐え切れずにあの日KAZUYAの胸で泣いた彼女なのだろうか。


K(わからない……だが、今の舞園が精神的に安定しているのは確かだ)


薮蛇となるかもしれない。また新たな火種となるかもしれない。


K(今は、舞園を信じるしか……)


あえてKAZUYAは追及しなかった。これ以上の重荷は、如何にKAZUYAが鋼の精神力を
持っているとはいえ、避けたい所であったからだ。一方、舞園は心の中で笑っていた。


舞園(大丈夫、私は大丈夫)クスクス




213 ◆takaJZRsBc2014/07/11(金) 23:02:37.95Rffcq70f0 (11/15)


以前の自分なら、あのオシオキを見て耐えられなくなっていたはずだ。
自分は一体どんな目に遭うのか恐ろしくて恐ろしくて、眠れなくなっていただろう。


舞園(でも、私は舞園さやかじゃないから。私は脱出のための駒で舞園さやかという役だから!)


恐れるのは人としての感情があるからだ。だが自分は人間ではない。だから恐れるという
感情は存在しない。本来なら――それは本当の自分を隠す、偽りの強さだった。

しかし、偽りの強さに縋ったのは大和田と同じはずである。では何故大和田と違い、
舞園は安定しているのか。それは、人間性を捨てているかどうかの違いだ。大和田は秘密を
黙ってさえいれば問題ない、いわば守りの姿勢だった。それに対して、舞園は攻め……

弱い自分に強いと嘘をつくのではなく、弱い自分そのものを捨てて強さを得るかの違いだった。


舞園(私なんかよりも、むしろ先生の方が問題なんじゃないですか?)


朝からずっと顔色が良くならないKAZUYAを見て、舞園は危機感を抱いた。今や、この場の大黒柱は
KAZUYAである。もしKAZUYAに何かあれば、もはや脱出はおろか校内の秩序の維持すら危うくなるだろう。
表向きは普通に振る舞っているが、KAZUYAの心労が少しずつ限界に近付いているのを舞園は見抜いた。


舞園(……ここは私の出番ですかね)

舞園「西城、先生……」


視線を落とし、舞園は雰囲気をガラリと変えた。目に、涙をうっすらと浮かべる。


K「どうした……?!」


先程までケロリとしていた舞園が突然泣き始めたのに仰天し、KAZUYAは慌てて立ち上がる。




214 ◆takaJZRsBc2014/07/11(金) 23:12:32.18Rffcq70f0 (12/15)


舞園「いえ……どうして私がオシオキを見てもなんともないか、わかりますか……?」

K「……わからない」

舞園「確かに、オシオキは怖いです。でも、それ以上に……生きているのが嬉しいんです」

K「……!」

舞園「私、本当はあの時死んでいたんです。もう、笑うことも、歌うことも、みんなと
    遊んだりおしゃべりすることも、何も……何も出来なくなっていたはずなんです」

舞園「生きているのが凄く、凄く嬉しい……」

K「…………」


ポロポロと、溢れる涙を拭いもせずに舞園はKAZUYAを見上げる。更に、顔を少し紅潮させ、
上目遣いになりながら舞園はKAZUYAに近付いた。我ながらなんと計算高い女だろうと内心で
呆れ自嘲しながら、通常の男には必殺となる表情と声で迫る。


舞園「全部、西城先生の……お陰なんです。私、私……」

舞園「先生のこと、本当に大好きです……!!」

K「舞園……!」


普通の男が美少女のこんな艶やかな姿を見せられたら、照れて赤面するか
目線を逸らすのがもっぱらの反応である。……が、KAZUYAは勿論普通ではない。

ガッと舞園の肩を掴むと、KAZUYAは正面から力強く舞園の目を見返す。


K「ありがとう……! 俺も、君やみんなのことが好きだぞ! 君達に会えて本当に良かった!」




215 ◆takaJZRsBc2014/07/11(金) 23:19:46.44Rffcq70f0 (13/15)


その顔に照れなどは一切ない。まさしく真剣そのものである。


舞園(流石西城先生、全くブレませんね……見事なくらい予想通りな反応です。
    まあ、だからこそ信頼できるというか、安心出来るんですけど)


むしろ、こうなることがわかっていたからこそあざといくらいオーバーな演技をしたのだ。
舞園の狙い通り、あからさまな感謝と好意を示されKAZUYAは感極まっていた。


K(俺には理解者がいる。応援してくれる生徒達がいる。悪化がなんだ! 元より、すぐに
  治るようなものではないのだ。絶対に、石丸を元に戻し全員を救い出してみせる!)

舞園「元気になってくれたようで何よりです」


目論見通りに行った舞園がいたずらっぽく微笑むと、KAZUYAもようやく舞園の気持ちに気付く。


K「……心配させてしまったようだな。俺はあまり顔に出していないつもりだったが」

舞園「一人で無理しないでください。私達がついてますから。ね?」


KAZUYAの手を取り、舞園はそっと握った。


K「わかっている。君達の力も借りていくつもりだ。……しかし、ここに来てから
  俺もすっかり心配症になってしまってな。君は本当に大丈夫なんだな?」




216 ◆takaJZRsBc2014/07/11(金) 23:25:23.77Rffcq70f0 (14/15)


舞園「はい。逆に、みんなのために頑張ることが今の私の支えなので、それを奪わないでください」


舞園は大丈夫だ、と思いつつもどうもKAZUYAは彼女の様子が気になって仕方がなかった。
立ち居振る舞いが完璧すぎて、どこか無理をしているように見えたのだ。


K「……わかった。君を信じよう」

舞園「ありがとうございます!」

K「……君には敵わないな」


その晴れやかな笑顔に、やはり芯の部分で女性は強いなとKAZUYAは苦笑し、舞園はほくそ笑むのだった。








「…………」

舞園「あれ?」

K「どうかしたのか?」

舞園「いえ、なんでもないです」

舞園(今、石丸君がこっちを見ていたような……気のせいですかね?)




217 ◆takaJZRsBc2014/07/11(金) 23:29:17.42Rffcq70f0 (15/15)


ここまで。




218VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/11(金) 23:33:50.26EFZd6mfI0 (1/1)

お疲れ様です
どうなっちゃうんだろうこれ…


219VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/11(金) 23:35:12.43Bq2pXqjfo (1/1)

乙です


220VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/11(金) 23:40:50.864MZeoJzAO (1/1)

乙です

いつ駒園さんが爆発するか楽しみです



221VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/12(土) 15:56:31.50OjHXxBe70 (1/1)

舞園は強い衝撃さえ加えなければ何とかなりそうだけど
石丸は自傷行為にはしったり暴走しそうで不安定で怖いな
腐川のリハビリもあるし解決の難しそうな問題がどんどん増えていく…

原作では次の動機は金だけど、さてどうなるのか…


222VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/12(土) 18:01:38.940lcvyrL7O (1/1)

これ、本当に石丸がデバガメったなら誤解しない?
不順異性交友がー!で覚醒すればいいのに。

むしろモノクマがそのシーンを自分の良いように編集してKを貶めようとか考えそう。そうなったら駒園さん超ピンチやん!


223VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/12(土) 23:37:24.27Ta4RnFQxO (1/1)

手握るぐらいふつーふつー
友達の苗木君とだってよくしてるさ!

むしろ舞園さん助ける鍵は石丸じゃねーかな


224VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/12(土) 23:52:53.85nJiE2N2jo (1/1)

Kが全く動じてないから仮にモノクマが編集してMAD作っても
駒園さんなら上手く切り抜けられそう。むしろKみたいにみんな好きです!くらい言いそう

石丸は何に反応したんだろうね。まさか本当にデバガメ?


225VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/13(日) 00:41:42.09LKwLPdbd0 (1/1)

舞園の言った事に反応したんじゃね?
独り言の内容も自己否定ばっからしいし
皆で「石丸のお陰で~」とか「居てくれて良かった」みたいなこと言ったら反応してくれそうな気がするんだけどな…


226VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/14(月) 02:23:22.52zKcBZan+o (1/1)

でもそういうことは壊れる前にKが更衣室で言ってた気がする
もうそれではダメなレベルなのかもしれん


2272012014/07/14(月) 18:33:59.52p/OMv24G0 (1/1)

>>202
スーパードクターK全44巻とドクターK全10巻が一緒になってて、重すぎて
レジへ持っていくのと車に積み込むのは店員さんに手伝ってもらいましたw

>>203
作者コメントやおまけイラストもありますよ!
あと全身絵と共に各キャラクターのプロフィールも載ってます。

乙です
これは舞園さんと石丸、お互いが元通りになるキーパーソンになる可能性が・・・?


228 ◆takaJZRsBc2014/07/16(水) 20:18:29.961KM+W5Hy0 (1/18)

最近更新速度が落ちている気がする。頑張らんと


>>227
貴重な情報ありがとうございます。助かります

そして、プロフィール……だと……?!
まさか各キャラの生年月日身長体重や血液型が?!

ヤバイヤバイヤバイ、早急に集めないと矛盾ががががが
そしてもしKAZUYAの身長載っていたら教えて下さい
あんなバカでかくてさくらちゃんより小さかったらどうしよう……
そこそこ背の高い朝倉とだって身長差あるし大きいと信じたい



229 ◆takaJZRsBc2014/07/16(水) 20:21:38.211KM+W5Hy0 (2/18)


― 図書室 PM3:13 ―


他の生徒が石丸のことを見ていてくれるので、KAZUYAは久しぶりに外出し、図書室に来ていた。
そこはいつもなら、ここの主だとでもいうように十神が一角を占領して本を読んでいるはずだった。

今は誰もいない。寂しい図書室の中を突っ切り、KAZUYAは真っ直ぐ医療系の本棚に向かった。


「…………」


裁判が終わり石丸が壊れ、当然ながら元凶である十神を監禁すべきだと言う意見が出た。積極的に
ゲームに参加する意志を持ち、実際に他の生徒に攻撃を仕掛けた十神はあまりにも危険だった。
珍しく全会一致の意見となった訳だが、ここで問題となったのはどうやって監禁するかだ。

部屋に鍵をかけても中から開けられるので縛って拘束するしかないが、そうなると誰かが身の回りの
世話をしなければならない。全員十神の側にいるのを嫌がったが、最終的にはなんとか了承した。


(しかし、十神を捕まえに大神達が図書室に向かったが……奴はいなかった。それどころかどこにも)


この閉ざされた空間の一体どこに消えたと騒然となったが、何のこともない。自室にいたのだ。
そう、十神白夜は自ら自室に篭ってしまったのである。何故そんなことをしたのかと思ったが、
倉庫を調べた霧切の報告で合点した。倉庫からは水や保存食がごっそりとなくなっていたのである。


(抜け目のない奴だ……)




230 ◆takaJZRsBc2014/07/16(水) 20:27:54.241KM+W5Hy0 (3/18)


要は裁判後、自分が拘束される流れになると予期していた十神は自ら軟禁状態を作り上げたのだった。
あまりのしたたかさと狡賢さにKAZUYAも舌を巻くが、これは完全にしてやられた。部屋に篭られては
こちらからは手を出せない。逆に十神は自由に外に出ることが出来る。行動が全く読めないのだ。
しかも、腹立たしいことに十神は高度な護身術が使えるらしく、一人の時に遭遇するのは危険だった。

KAZUYA達に出来ることと言えば、せいぜい十神が活動すると思われる夜時間の外出禁止を徹底し、
昼間もなるべく単独行動を取らないようにするくらいしか、対抗策を取れないのだった。


(幸い、十神が危険人物だという認識は全員にある。不二咲の時のように、安易に
 近付いていったりはしないだろう。見かけてもすぐに逃げれば問題はない……はずだ)


しかし、それはあくまで生徒の自主判断に任せただけで、実質放置することと同じだった。


(解決しなければならん問題は山積みだというのに……)

「……棚上げしてばかりだな、俺は」ボソ


しかし助けなければならない患者がいる限り、KAZUYAは鋼の精神力を誇った。
どんなに辛くて悔しくて泣き叫びたくても、それでもKAZUYAは堪えた。

今も尚、人知れず苦しんでいる石丸や腐川を救ってやりたかった。


(前から思っていたが、この図書室は医学の専門書――それも精神疾患系の本が充実している)


医学書が多いのは、恐らく自分が用意させたものだろう。KAZUYAはこの学園の
シェルター化計画に協力していたはずだし、医学書はいくらあっても困るものではない。




231 ◆takaJZRsBc2014/07/16(水) 20:35:34.151KM+W5Hy0 (4/18)


(だが、健康な青少年にはあまり縁がないはずの精神疾患の本が多いのは異様だ。恐らく……)


……自分は過去にジェノサイダー翔と会っている。それも、治療目的でだ。


(だとすると、翔がやたら俺に好意的なのも説明がつく。俺が腐川の味方だと
 本能的に察し、腐川を守るために協力してくれているのだろう)


そして、これが本当ならもう一つ重要なピースに繋がる。
場合によっては今の状況を完全にひっくり返すことが出来る痛烈な一打だ。


(翔は俺を覚えている。即ち――過去の記憶を保持している可能性が非常に高い!)


多重人格者の記憶や精神構造はまだ仮説ばかりでハッキリ断言出来ることはほとんどないが、
腐川と翔が記憶を共有していないのは本人の証言で明らかだ。ならば、外力で腐川の人格の方の
記憶が消されたとしても、翔が記憶を保持する、と言ったことも有り得るのかもしれない。


(この仮説がもし真なら……強力な武器となろう。もし彼等が元々クラスメイトで、荒廃した
 外から避難するために自ら閉じこもったと理解すれば、もう殺し合いをする必要性などない!)


殺し合いの必要性がなくなれば、あの十神でさえ協力するだろう。あとは一致団結したメンバーで
内通者の偽江ノ島を締め上げ、可能ならばそのまま黒幕の所に攻め込めばいい。


(……ただ、翔一人だと証拠としてはまだ弱いな)


証拠がジェノサイダーの証言だけだと事前に口裏を合わせたと言われかねない。あと一つ、
生徒達を納得させられる客観的な証拠がいる。そして、KAZUYAはその糸口を既に掴んでいた。




232 ◆takaJZRsBc2014/07/16(水) 20:44:16.981KM+W5Hy0 (5/18)


(アルターエゴ……! 不二咲が作ってくれた“希望”だ)


もしあのPCの中に、一つでもKAZUYAの証言を裏付けるものがあれば、それで終わりだ。
この馬鹿げた学園生活も、疑心暗鬼も、友人同士の憎み合いも……

そうすれば、また帰ってくるはずだ。あのいつも賑やかで楽しそうだった生徒達の姿が。


(いや、今はまだ……駄目だ)


半ば確信した勝利から一転、KAZUYAの心は暗雲に覆われた。

壊れた石丸、傷心の腐川。二人を何とかせずしてあの日々が取り戻せるだろうか。
そう思って、KAZUYAは何か手掛かりはないかと熱心に本の背表紙に視線を走らせていた。

……そしてあることに気付く。ここに置かれている医療書は、難解な専門書だけではなく、
KAZUYAにはまず不要な入門書が多く存在することも。シェルター計画を進めていた時の自分も、
ゆくゆくは生徒達に医療の知識を仕込もうと考えていたのだろうか。初心者用の易しい本も
なかなか充実していて、毎日石丸がそれを手に保健室にやって来たのを思い出した。


「……!!」


一瞬、強烈な感情に囚われKAZUYAは目が回りそうになるが、すぐに踏みとどまる。


(……止そう。感傷的になるにはまだ早い)


KAZUYAは強く頭を横に振り、参考になりそうな本を見繕って図書室を後にした。




233 ◆takaJZRsBc2014/07/16(水) 20:55:13.871KM+W5Hy0 (6/18)


― 娯楽室 PM3:24 ―


葉隠「おりゃっ」


コン。

葉隠は手に持ったキューでボールを突く。ボールは転がり別のボールに当たるが、
穴には入らなかった。ビリヤード台の向こう側では山田がニヤリと笑う。


山田「フフッ、外しましたな」

葉隠「あっちゃー。こりゃ山田っちの勝ちか?」

山田「では、行きますぞ!」


山田は格好をつけてキューを構えると、ボールを突く。

コン! コン、コロコロコロ……カタン。


山田「イエスッ!」

葉隠「フゥゥ~! 山田っち意外と上手いなぁ」パチパチ

山田「運動は苦手ですが手先は器用なので。体を動かさないものはそこそこ出来るのですぞ」フンス!

葉隠「ほえー。なるほどな。でも、山田っちってそんなに運動苦手だったか?」


意外や意外、山田はその大きく膨らんだ体型に反し人並み程度には動ける男だった。
過酷すぎて死人が出かねないことから夏の戦場とも称されるコミケで、軽やかに売り場を
飛び回り目当ての本を仕入れたりしていたので、身軽さとスタミナには自信がある。




234 ◆takaJZRsBc2014/07/16(水) 21:03:06.811KM+W5Hy0 (7/18)


山田「一応動けるデブを自称しているので、デブの中では上位ランカーの自信がありますが、
    なにせここにいる運動系のメンバーは常識を超えていますからねぇ」

葉隠「まあ、確かにそうだな。桑田っちとか練習なしであれとか存在が嫌味だべ」


ガッハッハッと葉隠は笑うが、ふと仲間の顔を思い浮かべながら考えてみた。


葉隠(……あれ? もしかして、俺って下から数えた方が早い?)


男子の中で、確実に勝てそうなのが小柄な苗木と不二咲くらいしかいない。悲しいことに、
身長では葉隠の方が大きいにも関わらず桑田、石丸、山田には勝てそうになかった。

かと言って、女子も大神とジェノサイダーにはまず勝てないだろうし、運動系の朝日奈も
手強そうだ。霧切は護身術の心得があると小耳に挟んだ気がするし、江ノ島はなんか
女子にしては大柄でガッチリしている。舞園は容赦なく刺してきそうな雰囲気がある。


葉隠(…………)

山田「葉隠康比呂殿、どうされました? あなたの番ですよ」

葉隠「(……ま、いっか)おう、今やるべ」


帰ろうかなと一瞬思ったが、娯楽の誘惑には勝てず葉隠は再び山田と勝負を始めた。

娯楽室には現在三人の人間がいる。葉隠、山田、そして……


セレス「…………」




235 ◆takaJZRsBc2014/07/16(水) 21:11:42.881KM+W5Hy0 (8/18)


セレスは不機嫌そうに、山田にいれさせたロイヤルミルクティーを一口飲んだ。
先程から一言も話さないセレスに気を遣って、葉隠が話しかける。


葉隠「いやー、しかし仲の良い山田っちはともかく俺まで誘ってくれるなんてどういう風の
    吹き回しってヤツだべ? ずっと部屋に篭りっきりはキツイから助かったけどな」

セレス「……何となくですわ。あと、別に山田君と仲良くなどないです」

山田「…………」シュン


セレスにギロリと睨まれ、山田は竦み上がった。嫌な雰囲気を感じ取り、葉隠は話を終わらせる。


葉隠「そ、そうだ! ビリヤードも飽きたし、次はダーツやるべ!」

山田「……負けませんよ!」


落ち込んでいた山田だが、葉隠に誘われるとすぐに気を取り直してダーツ台に行く。
そんな二人をチラリと見て、セレスは本日何度目かの溜息をついた。


セレス(まさかこの二人に頼らざるを得ないなんて、我ながらなんと情けないのでしょう)


そう、娯楽室に山田と葉隠を誘ったのは他でもないセレスであった。勿論、天地が
ひっくり返っても一緒に遊びたいなどという理由ではない。そこには逼迫した事情があった。


セレス(……全く十神君には手を患わせられますわ)


十神を警戒していなかった訳ではない。元々危険人物だとわかってはいた。だが、まさか
犯人でもないのに白昼堂々殺人現場の撹乱をするなどと、一体誰が予想出来ようか。




236 ◆takaJZRsBc2014/07/16(水) 21:19:51.661KM+W5Hy0 (9/18)


セレス(今までは、石丸君が筆頭となって何人か腕の立つ方々が校舎の巡回をしておりました。
     わたくしの計画にとっては邪魔でしたが、逆にわたくしの身を守る物でもありました)


今や石丸が廃人となり、KAZUYAと大和田はそれぞれ病人にかかりっきりである。
せいぜい桑田が空いている時間に警邏するくらいだが、明らかに頻度が少ない。

大神も時折見回りの協力をしているが、セレスは大神を信用していなかった。
最も、セレスは大神のみならず女子全員を信用していないのだが。KAZUYAの警戒心が
女心がわからない故のものに対し、セレスはその真逆……女心がよくわかる故の警戒だった。


セレス(わたくしの、女の勘とでもいうべきでしょうか。十神君を除けば、あとは女性陣しか
     脅威はない気がします。……カッとなっての突発的犯行を除けば、ですけれど)


所詮、男は単純なのだ。どんなにポーカーフェイスを形作っても、どんなに表面を
取り繕っても、女の直感や観察力には敵わない。だからこそ厄介と言える時も勿論あるが。

とりあえず、ずっと狭い部屋に閉じこもりっきりなのはもう飽きた。ホームである娯楽室で
のんびり羽根を伸ばしたいが、万が一十神と遭遇すれば確実に自分は殺されるだろう。
そんな時、逃げるための策としてセレスが用意した駒が山田と葉隠だった。


セレス(……まあ、葉隠君には元より全く期待していませんわ。
     間違いなくわたくしを置いてさっさと逃げるでしょうから)


葉隠は単なる時間稼ぎである。葉隠と逆の方向に逃げるか、最悪足を引っ掛けて転ばせる囮だ。
そして、山田はああ見えて意外と紳士というか、女の自分を置いて先に逃げるような真似は
しないだろう。なので、葉隠を囮にしても逃げ切れない時は山田を十神にぶつけ、セレスは
一人まんまと逃げ切るという作戦である。




237 ◆takaJZRsBc2014/07/16(水) 21:22:54.231KM+W5Hy0 (10/18)


セレス(我ながら完璧な作戦ですわ。なんと狡賢い悪女なのでしょう)うっとり


西洋の城の豪奢な一室で、チェスの駒を弄ぶ妄想をしながらセレスは悦に浸る。


セレス(問題は……)チラ

葉隠「今度は俺の勝ちだな!」

山田「たまたまですよ。もう一回!」

葉隠「よっし、次はなんか賭けるべ」

山田「ぐぬぬ、調子に乗ると後悔しますぞ!」


ワハハハハ!


セレス(……うるさいですわね)イラッ


だが、今は仕方ない。KAZUYA達が石丸を諦めて外に出てこない限り、
十神の脅威は続くのだ。セレスは次に直近の障害である十神について考えてみた。


セレス(思っていたよりもずっと恐ろしい方でしたのね……)


あの裁判後、生徒達は部屋に閉じこもった十神とインターホン越しにちょっとした会話をした。
当然、お前のせいで石丸が廃人になったという怨み節も言われたのだが、十神はただ笑った。

その時の様子を思い出す。




238 ◆takaJZRsBc2014/07/16(水) 21:33:00.031KM+W5Hy0 (11/18)


ダンダンダンダン!! ガッガッ、ドガッ!!


大和田『出てこい!! 十神ッ! 十神ィィィッ!!』


鬼のような形相で大和田は十神の部屋の扉を殴り、蹴飛ばしていた。拳が傷つくことも厭わない。
防音のため、その音は内部には聞こえないだろうが扉が震動しているのは目に見えるはずだ。


桑田『クソッ! このビビリ! ヒキョーモン!! 出てこいよッ!』

苗木『二人共、落ち着いて!』

大和田『これが落ち着いていられるかぁ?! 許さねえ! 引きずり出してブッ殺してやる!!』

朝日奈『ど、どうしよう?! 止めるべきなの? でも……』

葉隠『ヤ、ヤバイべ! いよいよ死人が出るべ!』

セレス『少しは落ち着きなさいな。十神君もこうなるとわかっていたから部屋に篭ったのです』

大神『……最悪の場合、我が止めに入ろう』

霧切『十神君、どうせ聞いているんでしょ? 話がしたいのだけど』

江ノ島『あんたのせいで石丸がおかしくなっちゃったんだよ!』


その時、今までずっと沈黙を貫いていた十神がインターホン越しに発言した。


十神『……石丸がおかしくなっただと?』




239 ◆takaJZRsBc2014/07/16(水) 21:40:51.471KM+W5Hy0 (12/18)


大和田『そうだよ! テメエのせいで兄弟の頭がおかしくなっちまった!
     会話もまともにできやしねえ! 責任とりやがれクソがあああああ!!』

十神『クッ……ハハハハハハハハハハッ!』

桑田『テメエ、どこまで人をおちょくってやがる?!』

十神『おちょくる? 敗者の末路だろう? 奴は弱かった。だから精神が耐えられなかった。
    それだけの話だ。人のせいにするなど貴様等も大概だな。ハハハハハハッ!』

大和田『この野郎おおおおおおおおおおお!!』


ダンダンダンダンッ!! ダンダンダンダンダンダンッッ!!


セレス『…………』


その後の大和田の荒れようはとにかく酷かった。巻き添えを恐れて、生徒達が部屋に避難するほどだった。
……だが、セレスにはわかったのである。扉の向こうの十神は、目が笑っていないということを。

石丸のことは確かに嫌いであったようだが、あの男にとってここにいる人間は所詮ゲームの
登場人物程度の重みしかなく、死のうが廃人になろうが結局はどうでもいい存在だ。だから
廃人になろうが笑うほど喜ぶはずがなく、ただ大和田達を煽るためだけに意図的に笑っていたのだ。


セレス(あの方にとって、このコロシアイは本当にゲームなのです)


セレスとて命こそ懸けないが人生がかかるような大金を賭けて大勝負をすることは何度もあった。
だが、彼女は十神程割り切れないし今の状況をゲームなどと生易しく考えられない。

――この差は、どこにあるか。有り体に言えば覚悟だ。

ギャンブルに努力が全くいらないということはないし、セレスとて高度な駆け引き、洞察力、
知識等それなりに磨いてきたつもりである。だがビギナーズラックと言う言葉からわかるように、
ギャンブルで明暗を分けるのは結局の所運であり、セレスはその運を持っていた。




240 ◆takaJZRsBc2014/07/16(水) 21:46:32.501KM+W5Hy0 (13/18)


セレス(生まれながらに勝利をプログラムされたわたくし。生まれながらに巨大財閥の
     御曹司である十神君。似たもの同士だと思っていたのですが……違うようですわね)


当然だ。十神は優れた資質や才覚を持っていたが、同じように優秀な才能と遺伝子を持つ
実の兄姉達と幼いながらに全てを賭けて戦ってきたのだから。多少の負けはあっても最後は
運で勝ってきたセレスと、全てを失うリスクを背負い綱渡りのような勝負をしてきた十神では
勝負に対する考え方も覚悟も格段に違う。この時のセレスには知る由もないことだが。


セレス(……関わらないのがベストなのでしょうね。それをわたくしが選べるかが問題ですが)


セレスは十神の事情を知らない。知らないからこそ恐ろしい。彼女も毒舌でドSを自称しているし、
嫌いな人間ならきっと容赦なく追い詰められるだろう。だが十神のように無感情で、ただ淡々と
決められたノルマをこなすが如く人を陥れ廃人に出来る人間は底が知れなかった。

大胆不敵などと生易しい物ではない。――神をも恐れぬ傲岸不遜だ。


セレス(ライバルくらいに考えていたのに、完全に甘く見ていましたわね。あの十神一族の
     御曹司だということを考えれば、むしろそれが当然なのでしょうが)

セレス(今までは西城先生や霧切さんの対応を最重要に置いていましたが、十神君に切り替えなくては)


また慣れない殺人計画を一から練り直さねばならないのかと、セレスは悩ましげに溜息を吐いた。


・・・




241 ◆takaJZRsBc2014/07/16(水) 21:57:17.361KM+W5Hy0 (14/18)


その溜息を、山田との不仲から来るものだと勘違いした葉隠がセレスに声をかける。


葉隠「な、なあ。もう一人呼んで麻雀でもやらねえか? セレスっちもずっと一人じゃアレだろ?」

セレス「結構ですわ」

葉隠「そっか……」

山田「…………」


チラリと山田を見るとまた落ち込んでいる。今度は葉隠が溜息を吐く番だった。

職業柄人を見る術に長けているのは何もセレスだけではない。客商売をしている葉隠も同様だった。
特に同類だからか、占いにまで頼るような物欲が強い人間には鼻が利く。全員に大なり小なり疑心を
抱いている葉隠だが、要注意のセレスがやや注意な山田を引き連れ部屋に来た時は腰を抜かした。

最初は怯えて誘いを断ったのだが、セレスでは葉隠を殺すのは難しいことと、このコロシアイに
共犯は有り得ないと説明され、いい加減外に出たかった葉隠は気分転換に遊びに出たのだ。

……が、最初は楽しく遊んでいたのだが、どうにも様子がおかしい。


葉隠『なんか、セレスっちがいつも以上に冷てえ気がすんだが、なんかあったべ?』

山田『実は……』




242 ◆takaJZRsBc2014/07/16(水) 22:02:05.391KM+W5Hy0 (15/18)


山田に聞いてみた所、セレスは山田が裁判で無実の自分を犯人扱いしたことをどうやら未だに
根に持っているらしいとのことだった。山田になんとか仲を取り持って欲しいと頼まれたので
安易に引き受けてしまったが、セレスの頑なな態度に葉隠は早くも後悔し始めていた。


葉隠(全く、なに考えてんだかねぇ……)


セレスは葉隠を取るに足らない男だと考えており、葉隠自身自分の頭が
良いとは少しも思っていなかったが、豊富な人生経験のお陰か変な所で頭が回った。


葉隠(山田っちは女子にどうこうするタイプじゃないし、なんだかんだセレスっちに
    あんだけ尽くしてるべ。冷たくするメリットなんてないだろーに)


むしろセレスにとっては数少ない味方なのだから、もっと大事にした方がいいのではと思う。


葉隠(そもそも、なんで俺を誘ったんだろうな。先生達が石丸っちや不二咲っちの
    面倒で忙しいってのはわかるけどよ、江ノ島っちとかいつも暇そうだし)

葉隠(……朝日奈っちなんて最近いつも寂しそうだから、誘えば大喜びで来そうだけどな)


自分で言うのもなんだが、メンバーの中でも特に胡散臭い葉隠を誘う理由が思い付かなかった。




243 ◆takaJZRsBc2014/07/16(水) 22:09:27.741KM+W5Hy0 (16/18)


(もしかすっと……!)


瞬間、葉隠は閃く。


(うちの女子達って、本当はすっごい仲悪いんじゃねえか?!)


これが、肝心な所でいつも抜けている葉隠の限界であった。しかし、葉隠は気付いていないが
女性陣がそれぞれ目に見えない派閥を作り、お互いに牽制しあっているのは事実なのである。

結果だけ見れば満更間違っていないのは占い師故の勘の良さなのか。それは神のみぞ知る所である。








山田「さあ葉隠殿、早くセレス殿を説得してくだされ!」

葉隠「いや、ムリだべ。これ以上は有料だ」

山田「そんな殺生な……」

葉隠「現実はタダでなんでも出来るほど甘くねえんだ!」

山田「ヒ、ヒドス……」(´・ω・`)ショボーン




244 ◆takaJZRsBc2014/07/16(水) 22:13:44.021KM+W5Hy0 (17/18)


ここまで。




245VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/16(水) 22:16:32.82xFG0KRtDO (1/1)



好転しそうで好転しない…


246VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/16(水) 22:19:12.76JGDfbQK7o (1/1)

乙です


247VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/16(水) 22:29:48.00dkhk4pjM0 (1/1)

乙です

十神引きこもっちまったか、このチャプターでの好感度上げは無理っぽいな
セレス達は3人の考えが三者三様で全く噛み合ってないのに和むw

>>228
>>201の者ですが、生年月日、身長、体重、血液型、全部載ってますよ! ただKAZUYAのプロフィールはないですね・・・
高品や軍曹、磨毛や真田といったメインキャラや1話限りのキャラのプロフィールですらあるのに、TETSUや朝倉のもないという・・・
ただ、序盤に度々登場しているバレーの大谷の身長は197cm、漫画見る限りKと大谷はほぼ同じ背丈に見えるので、大体この位の身長なのではないでしょうか


248 ◆takaJZRsBc2014/07/16(水) 22:46:56.121KM+W5Hy0 (18/18)

>>247
ありがとうございます!自分の中では弐大君と同じ198cmで設定していたのでまあセーフかな
真田はあるんですね。すごい興味深い。TETSUはともかく何故朝倉がないのか…謎だ

さて、どこで全巻買えるか調べるか…
というか、出版社としては古本で買われるよりネット販売とかで
買われた方が良い訳で、ちゃんと裏表紙や背表紙とか見開きの作者コメントとか
全部収録してくれてたらケチらずにデータでまとめ買いするのになぁ


249VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/17(木) 00:01:07.1310V/4T6fO (1/1)

あれ、ニコニコ静画のにもプロフのってましたよ。(やっぱりKはいなかったけど)


250 ◆takaJZRsBc2014/07/17(木) 00:15:37.68T1TTpSfM0 (1/1)

>>249
電子書籍だと表紙、中表紙と中身はあるのですが
単行本を開いてすぐ右にある作者コメと裏表紙は確かないはずなんですよ
全部取り扱っている所を知っている方がいたら教えて下さい


251VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/17(木) 08:06:19.53vn63Q9Weo (1/1)

十神www
あんだけ場を荒らしといて自分はちゃっかり逃げるとかw


252VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/17(木) 11:32:38.73feUbF04uO (1/1)

十神がかませじゃない……だと……?


253VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/17(木) 13:10:34.50qGZqynYdo (1/1)

このスレの十神は割りと一貫して強キャラ扱い
でも小ネタやエピ0ではかませオーラ出してたし、後半で壮絶にかませ化することを期待


254VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/18(金) 00:49:03.63BHFJE1k30 (1/1)

そういや原作でもセレスさんの時は割りと有能だったよな、十神クン


255VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/20(日) 21:08:09.37z9QAPV6s0 (1/1)

まだ?


256 ◆takaJZRsBc2014/07/21(月) 21:40:24.74iQk3pP+90 (1/16)


お待たせしました。投下します

今日は久しぶりに安価があります。
最後の方なので一時間後くらいに来て頂ければ



257VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/21(月) 21:42:02.28LPc0isHOO (1/1)

「OK!」ズドン!


258 ◆takaJZRsBc2014/07/21(月) 21:43:08.82iQk3pP+90 (2/16)


― 石丸の部屋 PM4:26 ―


霧切「……と言う訳です」

K「どうなるかはわからないが、今はどんな些細なことでも試してみる価値はあるな」


現在石丸の部屋には苗木、桑田、舞園、霧切、大和田とKAZUYAに協力的で五体満足な
生徒が全員集結していた。不二咲は見舞いに来た朝日奈、大神、山田に任せてある。
ローテーションで空いたメンバーと霧切で協議を重ね、その結果をKAZUYAに伝えていたのだ。


大和田「で、でも本当に大丈夫なのか? 俺達が目を離した隙に不二咲みたいなことになったら……」

霧切「問題ないわ。そのための監視よ。もし急に駆け出したりしても、寄宿舎は二階に行けない。
    学校エリアは二階まで一方通行だから、廊下に二人程配置すればそこで捕まえられるわ」


作戦はある一つの疑問から始まった。今までは必ず石丸の側に誰かがいたが、もし長時間一人にしたら
どんな反応をするかという話になったのだ。……正直、放置して正気に戻るとは到底思えなかったが、
今はどんな些細な情報でもほしいと、思い切って反応を見ることにしたのだ。


K(それに……今以上に症状が悪化することはなかろう。今は藁でも縋るしかない)


霧切「初期配置は、ドクターと私がシャワールームに隠れる。桑田君は寄宿舎奥の廊下、
    大和田君はランドリーに待機。苗木君と舞園さんが学校エリア入り口辺りで待機」

霧切「推測では学校エリアの方に向かうと思われるわ。石丸君が近付いて来たら、苗木君達は一定の
    距離を保ちながら先行して頂戴。桑田君が一番遠いけれど、足が速いから大丈夫よね?」

桑田「任せろよ! ここ最近はいざって時のためにちゃんと走り込んでたからな。
    ずっと寝込んでた石丸なんかに負けるかってんだ!」




259 ◆takaJZRsBc2014/07/21(月) 21:52:49.37iQk3pP+90 (3/16)


霧切「では、異論はないかしら?」


顎に手を当てて考えていたKAZUYAが、口を開いた。


K「……配置を、変更してもいいか?」

大和田「どこを変えんだ?」

K「霧切と舞園をスイッチする」

霧切・舞園「!」

桑田「なんで? 観察力で言えば霧切を近くに置いた方がいいんじゃねーの?」

K「ああ、霧切の観察眼や洞察力は俺も一目置いている。ただ、舞園の対人観察能力も俺は買っているんだ」

苗木「確かに舞園さんの勘の良さは凄いよね。僕なんてしょっちゅう考えてること読まれちゃうし」

K「舞園は表情や細かな仕草、人間心理、そういうのを見抜く能力が非常に高い。どうだ?」

霧切「私は構わないわ。正直、細かい人間心理の観察にはそこまで自信がなかったし、
    私も舞園さんの方が向いていると思います」

K「舞園は?」

舞園「私は……ご期待に添えるかどうかはわかりませんが、やってみます」

K「よし。では各自配置について待機していてくれ」


・・・




260 ◆takaJZRsBc2014/07/21(月) 22:01:44.83iQk3pP+90 (4/16)


石丸「…………」パチッ

石丸「…………」ムクリ

舞園「起きたみたいですよ」

K「ああ」


石丸の部屋のシャワールームの扉を少しだけ開け、そこから手鏡を使って二人は中の様子を伺っていた。


石丸「…………」キョロキョロ

K「何かを探している……?」

舞園「先生のことじゃないですか?」


それはいつもKAZUYAが見てきた反応とは違った。もしかしたら、突破口になるのではと緊張が走る。


石丸「…………」

舞園「部屋の中を行ったり来たりしてますね」

K「そうだな」


小声で話しながら、二人は注意深く石丸の様子を見守っていた。


石丸「…………ない……」




261 ◆takaJZRsBc2014/07/21(月) 22:07:57.50iQk3pP+90 (5/16)


カチャ。


舞園「あ」

K「馬鹿な。部屋を出ただと……?!」


KAZUYAの記憶の中では、石丸は部屋の中をフラフラすることはよくあるものの外にはけして出ようと
しなかったのだ。気分転換に外の空気を吸わせるは無理にしても、せめて広い空間に行けば多少は
気も紛れるのではないかとなんとかKAZUYAは外に出させようとしたが、石丸は頑として動かなかった。


K(……外へ出てどこへ行く?)


真っ先に思い浮かんだのは彼にとって思い出深い場所、保健室やサウナだった。そこならいい。
だが次に浮かんだのは教室だった。石丸にとってはトラウマしかない場所だが……


K(本当に悪化しないだろうか……)

K「追うぞ」

舞園「はい!」


二人は扉を少しだけ開け、石丸の背中を探す。霧切の予想通り、石丸はまずホールに向かった。
振り返る様子はないので、思い切って廊下に出てみる。そこで桑田が合流した。


桑田「どこに向かってんだ?」

K「……わからん」




262 ◆takaJZRsBc2014/07/21(月) 22:16:51.96iQk3pP+90 (6/16)


しかし、予想外のことが起こった。石丸はKAZUYAの予想とは違い、食堂に入ったのだ。
食堂は行き止まりなので、他のメンバーも全員やって来る。


大和田「兄弟……なにしに食堂なんか……」

桑田「ハラが減ったからなにか食いにきたんじゃねえの? あいつ点滴しかしてねえし」

苗木「いや、それはないんじゃないかな……」

霧切「そのくらい図太ければいいのだけど」

舞園「……何か話していませんか?」

石丸「…………」ブツブツ

K「何をやっている……?」

石丸「……ハッハッハッ!」

苗木「わ、笑った……?!」

霧切「きっと、また幻覚を見ているのね」

大和田「……兄弟」


ひとしきり石丸は見えない相手と会話をしていたようだが、ふと唐突に黙り込んだ。


K「何だ?」

苗木「なんか、様子が変ですね」

石丸「……うして…………のだ……」




263 ◆takaJZRsBc2014/07/21(月) 22:28:33.99iQk3pP+90 (7/16)


石丸は何かを独白しているようだった。しかし、声が小さいためよく聞き取れない。


――その時だった。


石丸「あ、あああ……あああああ! わああああああああああああああああああ!!」


石丸は唐突に頭を抱えて泣き叫び始めたのだった。そして、机に思い切り頭を叩きつけ始める。


K「発作か?! いかん!」

大和田「兄弟!」


KAZUYAが駆け寄り後ろから抱きつくように押さえ込み、大和田と桑田がそれぞれ腕を掴む。


石丸「ああああああああ! うわああああああああああ!!」

大和田「落ち着いてくれ、兄弟!」

桑田「しっかりしろよ、バカ!」

石丸「うがああああああああああああああああ!」

霧切「落ち着いて、石丸君! 私達の声を聞いて頂戴!」

K(クッ! 錯乱している! どうすれば石丸を落ち着かせられる……?!)


その時、KAZUYAの脳裏にある光景が閃いた。




264 ◆takaJZRsBc2014/07/21(月) 22:39:46.16iQk3pP+90 (8/16)


K「……そうだ、手だ! 手を握れ!」

大和田「手?! こうか?!」

舞園「石丸君! ……大丈夫、大丈夫ですよ。みんなここにいます」

苗木「そうだよ。怖がらないで、落ち着いて」


KAZUYAに言われた通り大和田と舞園がそれぞれ手を握り、全員で宥めるように
優しく語りかける。それで、やっと少しだけ落ち着いたのだった。

だが酷く何かに怯えているようで、未だ涙は止まらずガクガクと震えている。
引きずるようにして部屋に戻したが、今もベッドの上で頭を抱えてうずくまっていた。


K「悪化させてしまった……」

苗木「し、仕方ないですよ! だって、今はとにかく思いついたことを試すしかないし」

霧切「それに一つわかったこともあるわ」

桑田「なにがわかったんだ?!」

霧切「今の石丸君を一人にすると大変なことになると言うことよ」

大和田「そんなのわかったうちに入るか! 兄弟の状態は悪化しちまったんだぞ?!」

舞園「落ち着いてください、大和田君」

K「そうだ。悪化の可能性があると言うのは事前に話して、それでもやるとみんなで決めただろう?」




265 ◆takaJZRsBc2014/07/21(月) 22:46:11.21iQk3pP+90 (9/16)


未だ震える石丸の背中をさすってやりながらKAZUYAが宥める。苗木と舞園もそれぞれ肩を
さすったり手を握ったりして励まし、それに呼応するように石丸はフゥフゥと荒い息を吐いていた。
頭に巻かれた包帯には赤い血が滲んでいる。その痛々しい姿を見つめ、大和田は冷静になった。


大和田「……わりい。そうだったな。ついカッとなっちまった。すまねえ、霧切」

霧切「気にしてないわ。私も言い方が悪かったし。それに、人がいないのが駄目なら逆に人が
    たくさんいるのは良いことかもしれない。ローテーション制は正解かもしれないわね」

K「今まで通り、諦めずに何度も語りかけることが俺も肝要だと考えている」

苗木「うん、絶対に諦めちゃ駄目だ! 石丸君はまだ生きてここにいるんだから!」

舞園「希望を捨てずに頑張りましょう!」

「おう!」  「ああ!」  「そうね」



― コロシアイ学園生活十九日目 石丸の部屋PM0:20 ―


KAZUYAはローテーションメンバーである霧切と二人で精神疾患系統の専門書を読み漁っていた。
霧切が本を読み終えパタンと閉じると、KAZUYAも顔を上げる。


K「何か、関係のありそうなものは見つけられたか?」

霧切「いいえ」


霧切は暗い表情で首を横に振ると、また別の本を手に取る。
そうやっているとインターホンが鳴って、扉が開いた。




266 ◆takaJZRsBc2014/07/21(月) 22:55:29.75iQk3pP+90 (10/16)


舞園「こんにちは~」

苗木「お疲れ様です」


鼻をつく強烈で香ばしい香りと共に、舞園と苗木が入ってきた。


霧切「あら、この匂いはもしかして……」

K「良い匂いだが、なんだそれは?」

舞園「えへへ~。料理本を見ていたらおいしそうだったから作ってみました。と言っても、
    私はまだ右手を怪我しているので苗木君に手伝ってもらいましたけど。ラザニアです!」

K「らざにあ?」


幼少のみぎりから質素で和風な生活をしてきたKAZUYAは、時折患者や関係者から美食を
振る舞われることはあるものの、根本的にあまり外食をしないので洋食の種類には疎かった。


苗木「えっ?! 先生、ラザニア知らないんですか?」

舞園「そんな……じゃあ今覚えてください。ラザニアとは平たい板状のパスタのことで、それを使った
    料理のことも指します。イタリアの代表的な家庭料理の一つであり、グラタンのマカロニを
    ラザニアにして間にミートソースを挟んだ感じでしょうか。グラタンは流石に知ってますよね?」

K「え? ああ……うん」

霧切「…………」クス


やたら押してくる舞園にKAZUYAは若干引きながら頷く。霧切が珍しく少し笑っていた。




267 ◆takaJZRsBc2014/07/21(月) 23:00:22.80iQk3pP+90 (11/16)


苗木「舞園さん、ラザニアが好きなんだって」

舞園「凄く美味しく出来たから、今日はご機嫌なんですよ~!」


そう言って、舞園は盆に載せたそれを見せてくれる。確かにとても良く出来ていた。
程よく焼けたチーズの匂いと肉汁、そしてトマトの酸味が鼻腔をくすぐる。しかし、KAZUYA達の
昼食にしては何故か一皿しかない。と思っていたら、舞園は石丸の前に盆を持って行った。


K「なんだ。俺達の昼飯じゃないのか?」

舞園「残念! 今回は石丸君のために特別に作ったんです!」


ズイッと舞園は石丸の鼻頭にラザニアを突き出す。


舞園「ほーら、石丸君! ラザニア作ってみました! ラザニアって食べたことありますか?
    とっても美味しいんですよ~。今日は石丸君のために私が腕によりをかけて作ったんです」

苗木「石丸君! アイドルの舞園さんが直々に手料理を振る舞ってくれるなんて、
    こんな機会滅多にないよ! 羨ましいなぁ! ほら、ほら!」

石丸「…………」

舞園「熱々を召し上がれ! チーズが冷めちゃいますよ!」

苗木「わ、わー! すごい良い匂いだ! ヨダレが出てきちゃうなー! 僕もお腹が減ってきたよ!」


二人が何をしに来たか察し、KAZUYAと霧切は黙って石丸の様子を観察する。




268 ◆takaJZRsBc2014/07/21(月) 23:18:03.82iQk3pP+90 (12/16)


石丸「…………すまない」


チラリと視線が動いたような気がしなくもないが、結局いつもと違う反応はしなかった。


舞園「駄目ですか……」

苗木「うーん。石丸君は何も食べていないし、食欲は人間の三大欲求の一つだって聞いたから、
    そこを刺激してみれば何か反応があるんじゃないかと思ったんだけどなぁ……」

K「二人で考えたのか?」

舞園「はい。案を出したのは苗木君です」

苗木「すみません。専門知識とかないし、僕なんかの案じゃ力不足だったな……」

K「そんなことないさ。なかなか良いアプローチだと思ったぞ」


確かに成果は出なかったが、いつもと違うアプローチは病気の治療に不可欠だ。そういう意味では、
ここには個性溢れる生徒達が大勢いるから、自分一人で臨むよりはよっぽど心強かった。


苗木「ありがとうございます。そうですね。諦めたら駄目だ! また別の手を考えよう」

舞園「はい! ……あ、でもこれどうしましょう。もう一つ持って来るので
    お二人で食べてもらっても良いですか? 私達はもう食べたので」

霧切「喜んで頂くわ」

K「有り難く頂戴しよう」


実は、ラザニアから発せられる強烈な匂いのせいで二人ともかなり食欲が湧いていたのだった。




269 ◆takaJZRsBc2014/07/21(月) 23:26:33.25iQk3pP+90 (13/16)


苗木がもう一つラザニアと、ついでに自分達用の茶も持ってきて四人で話し込む。


苗木「何かいい手はないかなぁ」


色々と今後の方向性などを議論するが結論は出ない。ポツリとKAZUYAが漏らす。


K「とにかく、みんなで地道に話しかけて刺激を与えていくしかないと思うのだが……
  如何せんメンバーが固定されてしまっているのがな」

「…………」


最初は他の生徒達も積極的に石丸を訪ねて来てくれたのだが、最近はさっぱりだった。
未だ音沙汰ない十神を恐れて無駄な外出を控えているのもあるだろうが、一番の原因は
間違いなく石丸の奇行だろう。KAZUYAは石丸が過去の夢を見ているのだろうと推測出来たが、
生徒達にとっては意味のわからない不気味な独り言や行動にしか見えない。


K(正直、今ここにいるメンバーでさえ半分は義理で来ているようなものだ。俺だって意味の
  わからない行動をされたら戸惑うし……親しい間柄でなければ疎遠になるかもしれない)


そういう意味では苗木の前向きさやバイタリティは本当に助かった。苗木は何度へこたれても
時間が経てば必ず立ち直ったし、常に仲間を鼓舞してきた。KAZUYA自身励まされたこともある。
舞園がこんなに元気で頼りになったのも、きっと苗木の影響なのではないかと思った。


苗木「僕からも、みんなにお見舞いに来てくれるように頼んでみます!」

K「……頼む」




270 ◆takaJZRsBc2014/07/21(月) 23:34:33.34iQk3pP+90 (14/16)


               ◇     ◇     ◇


ピンポーン。ピンポーン……

また苗木は腐川の部屋のインターホンを鳴らしていた。


苗木「腐川さん……」


いくら鳴らしても反応はない。それでもなんとなく立ち去りがたくて、しばらく立ったまま
扉を凝視していた。よく見たら、ネームプレートに描かれたドット絵の腐川も目を逸らしている。
今後彼女と目を合わせて話す機会があるのかと、苗木は不安に思った。


(本当は、寂しいはずなんだ……)


けして仲良くしていた訳ではないし、特段話していた訳でもない。少し話をしただけだ。
それでも、その少しの会話の中から苗木は腐川の孤独を垣間見たのだった。


(先生に頼まれたからじゃない。僕自身気になってるんだ。腐川さんとは、ちゃんと話さないと駄目だ)

「よーっす、苗木じゃん」

「あ、江ノ島さん」


声を掛けられ振り向くと、そこには江ノ島がいた。


(……マズイ。確か霧切さんによれば江ノ島さんは内通者の疑いがあるんじゃなかった?)




271 ◆takaJZRsBc2014/07/21(月) 23:46:04.05iQk3pP+90 (15/16)


慎重な霧切は遠回しな言い回しをしたが、逆に霧切がそう言うということは
何らかの根拠があるということだ。警戒せねばならないだろう。


(よりによって僕は今一人だ。襲われたら一たまりもないぞ……)

「そんな所でなにしてんの? ……あー、腐川か」

「うん、ちょっとね」

「気になんの?」

「そりゃあ、気になるよ。あんなことになっちゃったけど、腐川さんは悪くないんだし……」


苗木が何気なくそう言った時、江ノ島の視線が急に鋭くなったのを感じた。


「悪くないってなんで言えんの?」

「え?」

「だって、二重人格とか言ってるけど裏人格がジェノサイダー翔だって知ってたんでしょ?
 しかもそれをずっと黙ってたんだよ? もっと早くに事件が起こってもおかしくなかったじゃん」

「そうだけど……言えなかったんじゃないかな。だって、腐川さんは
 いつも一人だったし、家族ですら信頼出来ないみたいな感じだったし……」


腐川が家族のことを語った時の、暗い表情を苗木は思い出す。


「きっと言わなきゃとは思ってたはずなんだ。でも、勇気が出なかっただけなんだよ。
 それって悪いことかな? 弱さって、誰にでもあるものだと思うんだけど」

「……そうかもね。苗木は優しいんだ」




272 ◆takaJZRsBc2014/07/21(月) 23:54:58.35iQk3pP+90 (16/16)


「江ノ島さんにはないの? そういう弱さ」

「え、アタシィ?」


聞いてからまずかったかと苗木は焦る。こういう突っ込んだことはいきなり聞くものじゃないだろう。


「あ、ゴメン! いきなりこんなこと聞いて失礼だったね」

「別にそんなこと……」

「僕、行く所があるから! じゃあ!」


そう言うと、苗木は去って行ってしまった。


(話……聞いてもらいたかったのにな)





― 苗木行動 ―

えー、久々の苗木行動でございます。仲間も選べます。
ちなみに、とあるキャラの絶望度が結構ヤバイ感じになってますので要注意。
相談する時は安価下を使いましょう。

まず一人目(十神、腐川、江ノ島、石丸以外)>>275




273VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/21(月) 23:56:29.62pM1qdHUeO (1/1)

ksk


274VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/21(月) 23:57:14.09jTurw3M5o (1/1)

絶望度?


275VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/22(火) 00:03:14.57cojxgrPpo (1/1)

とりあえず大和田かな


276VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/22(火) 00:03:33.13OgntpmYF0 (1/2)

葉隠


277 ◆takaJZRsBc2014/07/22(火) 00:05:35.04tpZyhE+B0 (1/4)


では、二人目>>280




278VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/22(火) 00:06:26.34YPPKOO9ho (1/1)

朝日奈


279 ◆takaJZRsBc2014/07/22(火) 00:07:12.46tpZyhE+B0 (2/4)

>>274
隠しパラメータのようなものです。高いと精神に問題が起こりやすくなります

ちなみにヒントですが、絶望度が高いキャラは発言や行動に影響が出ます



280VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/22(火) 00:07:16.85xQ6lCT/4O (1/2)




281 ◆takaJZRsBc2014/07/22(火) 00:10:15.47tpZyhE+B0 (3/4)


ラスト>>283




282VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/22(火) 00:11:15.00cMx/MMxHo (1/2)

舞園


283VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/22(火) 00:13:12.85cubPua0pO (1/2)

セレス


284VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/22(火) 00:13:19.45OgntpmYF0 (2/2)

葉隠


285VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/22(火) 00:22:28.83xQ6lCT/4O (2/2)

絶望度というなら、霧切さんなんか結構溜まってたりするんかしら
小説読むとトップクラスに耐性ありそうではあるけど


286 ◆takaJZRsBc2014/07/22(火) 00:23:53.15tpZyhE+B0 (4/4)

大和田、朝日奈、セレスですね。了解しました

今日はここまでです。いつまでも鬱々グダグダしてしまってすみません
もう何回か投下したらまた大きめのイベントが来ると思いますので、
どうか気長にお付き合いくだされば幸いです

あと、ダンガンSSを読んでる人なら多分気付かれたと思いますが、舞園さんのラザニア好きは
ダベミ先生へのオマージュです。1がダンガンSSにハマった切欠は偶然ネットサーフィンで
先生の作品を読んだことなので。今やってる大泉洋クロスとろんぱっちも面白いのでオススメ

それでは。



287VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/22(火) 00:28:44.31pekGo+r4o (1/1)

乙です


288VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/22(火) 00:31:22.22cubPua0pO (2/2)


残姉ちゃんの方がよかったかなと今更後悔


289VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/22(火) 00:46:05.37cMx/MMxHo (2/2)

江ノ島は除外されてる。
セレスとか十神の次ぐらいに絶望度は低そうだけど、まぁ狙い撃ちにしなくてもそれはそれでどうなるかだな。


290VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/22(火) 00:49:30.80RfE5dnRRo (1/1)

山田が少し気になるかな。セレスと揉めてるみたいだし
葉隠はビビってる割にはまだ余裕ある気がする。会話の内容的に


291VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/22(火) 09:59:20.38Fs2yVKqYo (1/1)

全員生存ルートが見えない


292VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/22(火) 16:11:36.52xC/ARJkz0 (1/1)

今更だけどKの身長って195だよ
さくらちゃんいくらだったかな?


293VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/22(火) 17:24:09.394oyaTUmro (1/1)

>>292
どこに載ってた?doctor.K?

さくらちゃんは192か193だからギリギリだったな…


294VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/22(火) 18:17:29.4820OcBQ7pO (1/1)

さくらちゃんだって普通に成長してるんだよ!


295VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/24(木) 18:59:31.77q4SUxBoO0 (1/1)

絶望度と言うと、自分のせいでちーたん殺しかけ&石丸負傷・その流れで事件発生、ちーたん危うく死にかけ・石丸廃人化&腐川も負傷・裁判で一度もBREAK無し・オシオキの実態披露・脱出の糸口も見つからず、憤りを十神にぶつける事も出来ずちーたんに相談する事も出来ず…でどう見ても大和田がトップ独走してそうとは思うのだが…
どっかで他キャラのフラグ見逃してるかもしれないから怖いな


296VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/25(金) 02:06:47.30oGQ2uwP90 (1/1)

ゾノさんはやばいのか放置して平気なのか判断に困る


297 ◆takaJZRsBc2014/07/25(金) 02:43:33.89LIP6rYle0 (1/1)

>>292
本当ですか?結構危ない感じでしたね。出典も教えて頂けると助かります

>>296
一応駒園さんは覚醒イベント扱いなので、基本的には大丈夫です。
……あくまで基本的には、ですが


質問ですが、もしかして最近地の文多すぎて読みづらいとかないでしょうか?
もしくは単純に話が進まなくてつまらない、とか内容が鬱すぎて読むのが苦痛とか

最近○○の出番が少ないから増やして、とかでもいいので要望などは気軽に書いてください
ちなみに、現状はけして明るくありませんがBADエンド確定してる訳ではないです
まだまだ挽回することは不可能ではないので、絶望しないで読んで頂けたら

次の投下は……多分明後日くらい



298VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/25(金) 03:00:44.34hjiHk7OSO (1/1)

むしろこれ、ベストな選択どれだったのか差し支えない範囲で知りたいわww

そしてその場合どうなってたかも


299VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/25(金) 04:59:05.74OljVN42xO (1/1)

かずや選びたい


300VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/25(金) 08:34:02.756pQ9seNao (1/1)

待ってる…


301VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/25(金) 13:08:59.12T3dE1hKwO (1/1)

まだ先の話になるけど、trueとgoodとbadendをエンディング後見たいです。



302VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/25(金) 20:18:26.78PtD4vcsK0 (1/1)

なんの不満もない、すごく面白いです
毎回毎回更新を楽しみにしてます


303VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/25(金) 21:44:29.80S2vD0+0S0 (1/1)

桑田かわいいよ桑田


304VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/25(金) 23:34:44.38WemjyqWB0 (1/1)

毎回毎回とても読みやすいし楽しいですよ!
要望お願い出来るならセットでもバラバラでもタイトルコールの3人が見たいです


305VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/26(土) 23:00:58.46BZY3iS410 (1/1)

ふと思ったが
十神って部屋から出さなくても
部屋のドアの前にバリケードみたいなもの置いたりして
ドアを開けれなくしたりとかすればいいんじゃ?


306 ◆takaJZRsBc2014/07/27(日) 16:13:22.05Mk+ntzl20 (1/20)

>>298
多分この章が終わったら良い方向か悪い方向に突き抜けてキリも良くなるので
解説できるかもしれません。というか、石丸くんの怪我の解説もすっかり忘れてた…

>>301
書きますよー

>>302>>304
ありがとう…感想や面白いというレスをもらえるだけで1はやる気がMAXに

>>305
書き忘れていましたが、実はそういうやりとりはありました
が、当のKAZUYAが反対したんですね。万が一急に体調不良起こしたりした時に
すぐ外に出て助けを求められずに死んだりしたら困るといって。散々迷惑かけられたけど、
やっぱり生徒の体調を第一に考えてしまう所が医者であるKAZUYAの甘さなんですね


今セレっさん編書いてる所。多分夜には来れそう。では



307 ◆takaJZRsBc2014/07/27(日) 17:02:41.81Mk+ntzl20 (2/20)

また書こうとしたこと忘れてしまった…


>>304
1としてもタイトルコールの三人はもっと出したいんですよね。セレスさんは要所要所で出てくるし
結構存在感が強いからいいけど葉隠山田コンビは本当に出番が…全員均等に出して活躍もさせたいのですが
ストーリー上どうしてもKAZUYA派と敵対派閥である十神君あたりの出番が強いのが悩みどころ

1の分析としては朝日奈葉隠山田江ノ島あたりは恐らく出番が少ないから今後テコ入れをしていく予定
苗木君も主人公の割に影が薄いなーと思ってたら偶然にも前回と今回は苗木回になりましたね。頑張れ主人公



308VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/27(日) 18:24:11.78ddKY0ls6o (1/1)

今のところBADEND一直線のような気が…
まあKAZUYA先生ならなんとかしてくれる!


309 ◆takaJZRsBc2014/07/27(日) 21:34:54.03Mk+ntzl20 (3/20)


とりあえず慌てて江ノ島から離れた苗木だったが、
本当は行く当てなどなかったので緊急避難的に脱衣所に飛び込んだ。


「お、苗木か」

「あ、大和田君」


脱衣所には大和田がいた。ちょうど入る所だったらしく、上着を脱いでいる最中である。


「(……危ない。女子でなくて良かった)あれ? 不二咲君は?」

「ああ。もう大分傷も塞がってきて部屋の中程度なら動いていいって言われたし、いくら仲が
 良くても四六時中一緒じゃ気をつかうだろ? だから時々お互いの時間を作ることにしてんだ」

「もちろん、鍵はしっかりかけさせてるし俺か先公以外の人間が来ても絶対開けるなって言ってある」

「そうなんだ」

(確かに、不二咲君が入院してる間はほとんどずっと大和田君がついてたし、そろそろ
 お互いの時間が欲しくなるよね。……特に、大和田君は石丸君の件もあるし)


不二咲はまだ石丸のことを知らない。何も知らない不二咲に対し嘘をつき続けるのは、
不器用な大和田にとってはさぞかし苦行だろう。当の不二咲が苦しげな大和田の表情を察し、
大和田の前で極力石丸の話を出さなかったから今まで保っていたとも言える。


「で、オメエはなんの用でここに来たんだ? 脱がねえってことは風呂以外の用なんだろ?」

「あ、実はね……」


大和田は部屋に引きこもっていた時の情報を知らないので、その件の説明も併せてすることにした。




310 ◆takaJZRsBc2014/07/27(日) 21:38:32.50Mk+ntzl20 (4/20)


「……そうか。女子の何人かが怪しいのか」

「うん。今回の事件で腐川さんも内通者じゃなかったみたいだから、更に狭まるね」

「つーと……セレス、江ノ島、大神、朝日奈か。下手したら全員内通者ってことかよ?」

「あ、でも大神さんと朝日奈さんの両方はないだろうって先生が言ってたよ。だから、人数が最大の
 場合はセレスさん、江ノ島さん、大神さん。もしくは大神さんの代わりに朝日奈さんになるのかな」

「セレスはほぼ確定でいいだろ。あの女、前から胡散臭い感じがしてたんだ。江ノ島は……
 まあ要注意ってとこか? 霧切が頭の回るヤツってのは裁判で散々見せつけられたからな」


大和田は霧切とそこまで会話をしたことがなかったが、今までの行動や言動から
彼女が只者ではない、ということは既に薄々感じ取っていた。


「ハハ……霧切さんが内通者でなくて良かったよ」

「そういや、なんで霧切は内通者じゃねえってわかってるんだ?」

「元々KAZUYA先生の知り合いで身元がしっかりしてるかららしいよ」

「成程な。それにしても……残りは大神と朝日奈か。あいつらが内通者だったら、キツイな……」

「……うん」


あのいつも明るくて元気な朝日奈が内通者だったら、こちらの精神的ダメージが大きい。
大神も何かと味方をしてくれるし、何より戦力的に敵だと考えるだけで血の気が引く。


「セレスと江ノ島……いや、もっと欲を言えばセレス一人ならいいんだが」

「……そうだね」




311 ◆takaJZRsBc2014/07/27(日) 21:47:27.53Mk+ntzl20 (5/20)


しかし、口ではそう言ったがお互い江ノ島に対する疑惑は浅くなかった。特に大和田の表情は鋭い。


(……言われてみりゃ江ノ島のヤツはちょっと怪しいんだよな。こんな状況だってのに、
 他のヤツらとつるんでるところをほとんど見たことがねえ。十神やセレスみたいに一人が
 好きってタイプにゃ見えねえのによ。かと言って葉隠みたいにビビってるワケでもねえし)

「大和田君はこれからお風呂?」

「ああ、最近部屋にこもりっきりだったからな。久しぶりにサウナに入りてえと思ったし……」


そこまで言って、ふと大和田は何かを考えた。


「あー、そうだ……なあ、苗木。一緒にサウナ入らねえか?」

「え?! えーっと、僕は……」

「大丈夫だ。ムリはさせねえよ。すぐに出ても構わねえからさ」

「そう? じゃあ、少しだけなら付き合うけど」


大和田とサウナに入る、ということは苗木にとって非常に覚悟のいる行為であったが、
何だか大和田の表情が優れない気がしたので、苗木も付き合ってやることにした。


「…………」

「うう、やっぱり暑いなぁ。こんな所に長時間いられるなんて、流石大和田君だよね」

「……俺だけじゃねえ。兄弟や先公もだ」

「あっ、ごめん……」

「バカ。変に気ィつかうんじゃねえよ。俺達ゃ仲間だろーが」




312 ◆takaJZRsBc2014/07/27(日) 21:58:09.05Mk+ntzl20 (6/20)


石丸の存在を思い出させたことを苗木は謝ったが、大和田は苗木のそんな気遣いを逆に一蹴した。


「うん、そうだね」

「……つっても、一人でここに来るといろいろ思い出しちまいそうだからオメエを誘ったんだけどな」

「大和田君……」

「…………」


あの裁判で己の弱さを乗り越えた大和田だったが、仲間のこと――それもこと石丸に
関してはまた別の問題だった。ガシガシと頭を乱暴に掻くと、肩を落として大きな溜息をつく。


「ハァ……ダメだなぁ、俺は……」

「駄目じゃないよ。よく頑張ってるよ。昔の君だったら、今頃きっとヤケになってたんじゃないかな」

「そうだな。……今だって、オメエになにがわかるっつって殴りかかってただろうよ」

「……シャレにならないんだけど」


喧嘩を仲裁しようとして何度か殴られかけた身としては、縮こまる思いだ。KAZUYAや石丸が
止めてくれなかったら、自分は何回巻き添えで殴られていたのだろう。そう考えると、
確かに大きな失敗も犯してしまったが、自分達を何度も助けてくれたのもまた石丸だった。


(石丸君……)


サウナで感傷的になるのは何も大和田だけではない。苗木も、特に医療実習関連で
石丸とは一緒にいることが多かったので、他の生徒よりも色々思う所があった。

そうやって男二人は過去に思いを巡らせながらサウナの熱気に身を委ねていたが、そんな時だった。

――大和田が突然妙なことを言い出したのは。




313 ◆takaJZRsBc2014/07/27(日) 22:06:48.44Mk+ntzl20 (7/20)


「ところで苗木よぉ、聞きたいことがあるんだが……」

「何?」

「いや……なんか、変なんだよなぁ。ここに来ると暑くて苦しいはずなのに、カーッと頭が
 熱くなる反面どっか体の芯の部分は冷えるって言うか、なんかを思い出しそうな気がしてよ」

「思い出す?」

「ああ。なんなんだろうな、この消化不良みたいな気持ち悪さは。オメエはこういうことってあるか?」

「うーん。ちょっと僕にはわからないかな」


そうだよなぁ、と呟きながら大和田は不思議そうに首を捻る。


「なにか、すっげぇ大事なことを忘れてる気がして――時々ゾッとすんだ」


そう漏らすと、この暑さにもかかわらず大和田はブルリと大きく震えた。


「大事なこと……」


言われてみて、苗木も何か凄く大切なことを忘れているような気がしてきた。まるで、自分の
人生の一部分がそのまま消されてしまったような……。もしKAZUYAがこの場にいたら、きっと
寂しげな顔をするのだろう。……? 寂しげな顔? 何故先生が寂しげな顔をするんだ?

……と、取り留めもなく苗木の頭の中に違和感や疑問が浮かんで来たが、
あまり深く考えると同じように気分が悪くなりそうなので、無理矢理考えるのをやめた。


「……もしかして、何かいいアイディアが閃きかけてるってことじゃない?」

「そうだといいんだけどな」

「きっとそうだよ」




314 ◆takaJZRsBc2014/07/27(日) 22:13:07.73Mk+ntzl20 (8/20)


その後、二人は久しぶりに他愛のない会話をした。苗木がバイクのパーツ名を間違えても
大和田は笑って許してくれたりして、本当に丸くなったなぁとしみじみ思ったりもした。


「じゃあ、ちょっとクラクラしてきたから僕はそろそろ出るね」

「おう、なんかムリさせちまったみてえで悪いな」

「そんなことないよ。大和田君と久しぶりにゆっくり話せて楽しかったよ」

「……俺もだ。また話そうな!」


大和田はあの二つ目の事件以来、初めて心から笑っていた。
苗木もその顔を見て安心し、その場を後にしたのだった。


・・・


(あぁ~……大和田君には平気だって言ったけどフラフラする。食堂で何か飲もう)

「……あ、苗木だ」

「朝日奈さん」


食堂では、朝日奈が一人で山盛りのドーナツを食べていた。


「大丈夫? なんか顔真っ赤だよ?」

「ハハ……大和田君と一緒にちょっとサウナに入ってて。朝日奈さんはまたドーナツ?」

「うん」

「相変わらず凄い量だね」

「そうでもないよ」




315 ◆takaJZRsBc2014/07/27(日) 22:18:58.67Mk+ntzl20 (9/20)


「大神さんは?」

「多分、体育館で武術の鍛練だと思う」

「そう……(多分、思う……か)」

(朝日奈さん、最近一人でいることが多いな。モノクマに言われたこと気にしてるのかな?)


朝日奈は元々プールや体育館で体を動かしていることが多かったため、苗木の行動範囲とは
あまりかぶらなかった。しかし、最近は手持ち無沙汰に学園内や寄宿舎にポツンといることが多い。

それも、一人でだ。大神と一緒にいる時も勿論あるが、
少なくとも前ほど楽しそうにしている姿は見られなくなった。


(僕的には朝日奈さんは内通者じゃないって信じたいんだよなぁ。それに、
 もし内通者じゃないならあんまり孤立化させておくのはまずいんじゃ……)

「苗木」

「なに?」

「良かったら、一緒に食べない? ……その、イヤでなければ」


そう問い掛ける朝日奈の表情には、かつての明るさなど微塵も感じられなかった。
直感的に、苗木は非常に不味いものを感じ取り、同席することにする。


(うわ……朝日奈さん、精神的にかなり参ってるよ……)

「僕で良ければいくらでも付き合うよ」

「ありがとう」

「…………」

「…………」




316 ◆takaJZRsBc2014/07/27(日) 22:26:17.86Mk+ntzl20 (10/20)


(き、気まずい! そういえば最近はずっと石丸君や腐川さんや不二咲君のことに手一杯で、
 他の人達とコミュニケーションを取ってなかった。朝食会もその話ばっかりだったし)


苗木はどちらかと言うと、あまりグループに囚われず誰とでも仲良く出来るタイプの人間である。
特に、モノクマのせいで生徒達が仲違いを起こしてからは、尚更別け隔てなく接するようにしていた。

が、最近はどうしても解決しなければならない問題がいくつかあったため、仲間内で
相談することが多くなってしまっていた。内通者問題が影を落としていたということもある。
もっと直接的な言い方をすると、内通者候補の人間を無意識に避けてしまっていたのだ。


「……石丸の調子はどう?」


苗木の気まずさを悟ったのか、或いは朝日奈も同じように
気まずいと思っていたのか、先に口を開いたのは朝日奈だった。


「え? えっと、前ほど独り言は言わなくなったけどまだ時々幻覚を見るみたい」

「……そう」

「朝日奈さんにもお見舞い来て欲しいな!」

「うん……ごめんね。あんまり行けてなくて……」

「あ、その、責めてる訳じゃないんだ。行きづらいっていうのは僕もよくわかるし」

「ううん、気にしないで。私もね、行かなきゃとは思ってるんだ……」

「……やっぱり、怖い?」

「うん……」


暫しの沈黙を挟み、朝日奈は話し出した。




317 ◆takaJZRsBc2014/07/27(日) 22:33:29.09Mk+ntzl20 (11/20)


「私の中のあいつってさ、いつもうるさいくらい元気で色々と周りを仕切ってて。
 一見頼りになるかと思えば、とんでもなくズレてたり突然変なこと言いだしたり……」

「ハハ、そんな所あるよね」

「でも、基本的には責任感があって仲間思いのリーダーって感じで……そんなヤツが、
 まさかあんな風になっちゃうなんて……正直私もまだ受け入れられないというか」

「うん、わかるよ……」

「ううん。苗木には、多分わからないと思うよ」

「えっ」


予想外の言葉に苗木は戸惑う。だが、朝日奈の言葉に悪意や敵意のような感情は
感じられなかった。そのまま朝日奈は淡々と続ける。


「KAZUYA先生も苗木も強いよね。先生は仲良くしてた桑田に殺されかかったのに、それをずっと
 黙っててしかも庇ってあげた。苗木は舞園ちゃんに利用されても、すぐ許してあげたし」

「…………」

「私はなんで……あの時庇ってあげなかったんだろう。十神の言うことなんて無視すれば良かったのに」

「朝日奈さん、それは違……」

「違わないよ!! 確かに石丸のやったことはみんなを危険にしたかもしれないけど、
 わざとじゃないんだし、そもそも精神的にかなり疲れてるみたいだった……」


苗木の言葉を遮ると、溜めていたものを吐き出すかのように朝日奈は叫んだ。
次の瞬間にはまた元のように視線と声を落としていたが、その言葉は切々としていた。




318 ◆takaJZRsBc2014/07/27(日) 22:40:30.12Mk+ntzl20 (12/20)


「思えば、いつもみんなのためにってどこかムリしてる感じだったし。
 多分……裁判が始まった時には、もうどこかおかしくなってたんだと思う」

「せめて、あの時みんなで庇ってあげてたらここまで酷いことにはならなかったかもしれないのに」

「…………」

「大人の先生はともかく石丸は私達と同じ高校生なんだから、リーダーだからって
 あれもこれも任せ過ぎちゃダメだったんだよ! もっと色々協力してあげてたら……」

「朝日奈さん!」


苗木の苦しそうな呼び声で、朝日奈は我に返った。


「あ、ごめん……グチばっかり言っちゃって……」

「ううん。愚痴ならいくらでも言っていいんだ。僕は平気だから。……でも、
 もしあの時こうしていればって後悔しても、それは何にもならないよ」

「…………」

「大丈夫。石丸君は少し疲れて休んでるだけ。みんなで話しかければきっと良くなる」

「そうだね……」

「まだ気持ちの整理がつかないなら今は無理しなくていいから。落ち着いた頃においでよ。ね?」

「……うん」

(苗木は、強いな……)


石丸の見舞いには行けなくなった朝日奈だが、不二咲の見舞いには何度も行っていた。
だが、不二咲はいつも石丸は大丈夫だろうか。早く元気になって石丸に会いたいとそればかり
言うので、すっかり朝日奈は気が滅入って最近は不二咲への見舞いすら行けなくなっていた。


(私も、本当はもっとみんなのことを手伝わなきゃいけないのに……)




319 ◆takaJZRsBc2014/07/27(日) 22:55:51.79Mk+ntzl20 (13/20)


折角大神と離れて自由な時間がたくさん出来たのだから、他の生徒と一緒になって
積極的に病人の介護をすべきだと考えてはいたが、いざやろうと思っても出来ないのだ。
そんな自分の弱さを直視し、朝日奈は度々自己嫌悪に陥っていた。

……石丸が元気だったら、そんな彼女に大丈夫かと声をかけてくれただろう。鈍い男ではあったが、
落ち込んでいる人間に気が付かない程ではなかった。何より彼は内通者の存在など信じていなかった。
それが必ずしも良い結果を生み出すとは限らなかったが、彼女に対しては良い方向に作用しただろう。


「今はまだムリだけど、絶対行くから……先生にもそう伝えておいてもらえる?」

「うん、わかった。……でも、あんまりムリはしないでね?」

「……ありがとう」


そして、空いた皿を片付け朝日奈は食堂から去って行った。
一人その場に取り残された苗木は、朝日奈との会話を脳内で反芻する。


(……朝日奈さんは、内通者じゃないんじゃないかな。あんな表情が演技で作れるものだろうか)

(先生じゃないけど、女心って難しいなぁ……)


・・・


そうやって苗木があれこれ考えていると、食堂にある人物がやって来た。


「おや、苗木誠殿。お一人ですか? 珍しい」

「あ。山田君」


そこには盆にティーセットを載せた山田がいた。


「またセレスさんにお茶を淹れてるの?」

「はい。そうです……あ、そうだ! 苗木殿に、折り入ってお願いしたいことがあるのですが」

「?」




320 ◆takaJZRsBc2014/07/27(日) 23:03:19.91Mk+ntzl20 (14/20)


― 娯楽室 PM3:51 ―


苗木が山田と共に娯楽室に入ると、まず真っ先に目に入ったのは中央に陣取るセレスの姿であった。
次に、セレスから鬱陶しそうに睨まれているがそれに全く気付いていない葉隠の頭が目に入る。


セレス「あら、苗木君ではありませんか」

葉隠「お、苗木っちも遊びに来たんかー?」

苗木「やあ、セレスさんに葉隠君」

セレス「娯楽室に苗木君が来るなんて、珍しいこともありますわね」

苗木「まあ、たまにはね」

山田「な、苗木誠殿がどうしても来たいと言ったので、連れてきてしまったのですが……」

セレス「一緒にポーカーでもやりますか?」ニコリ

苗木「う、うん。そうさせてもらおうかな」

山田「…………」


山田に一瞥すらくれないセレスの態度に苗木は聞いていた以上に深刻なものを感じ、
とりあえずセレスの向かいの席に座った。羨ましそうに見つめる山田の視線が刺さって痛い。


葉隠「お、ポーカーすんのか? なら俺も……」

山田「葉隠康比呂殿! 僕はあなたにダーツの一騎打ちを挑みます! ささ、こっちへ……」

葉隠「え、ちょ、引っ張らないでくれって! おいおい!」


山田は無理矢理葉隠を引っ張ると、苗木に熱苦しくアイコンタクトを送る。
苗木はそんな山田に曖昧に頷き返すと、セレスへ向き直った。


苗木(山田君にセレスさんとの仲を取り持ってくれって頼まれたけど……どうしたものかな)




321 ◆takaJZRsBc2014/07/27(日) 23:08:34.61Mk+ntzl20 (15/20)


セレスと山田が揉めているのは朝食会の時の態度などでも明らかだったが、果たしてセレスと
以前のように仲良くなるのが山田にとってプラスなのかマイナスなのか苗木には判断つかなかった。

何故ならセレスは内通者かもしれないのだ。もしかしたら、これを機に彼女と距離を取る方が
山田にとっては結果的に良いのかもしれない。だが、万が一濡れ衣だったらと思うと……


セレス「苗木君、どうかされましたか?」

苗木「あ、ううん! 何でもないよ!」


セレスに話しかけられ、苗木は考えを中断した。なるようになるしかない、と腹を括る。


セレス「うるさいのがあちらへと行きましたし、早速勝負と行きましょうか。何を賭けますか?」

苗木「え?! 何か賭けるの?!」

セレス「当たり前です。わたくしは超高校級のギャンブラーですのよ?
     ノーレートでの勝負など認めません」

苗木「でも、先生はノーレートで勝負したって聞いたけど……」

セレス「流石に教員相手に賭博は認められませんからね」

苗木「そんな、相手によって変える程度の矜持 セレス「お黙りなさい」

苗木「……はい」


セレスに押し切られ、苗木は山田の代わりにロイヤルミルクティーを淹れる権利や
半日パシリ券など適当な物を賭けて勝負をすることになってしまった。


セレス(フフッ、鴨が葱を背負って来るとはこのことですわね)


最悪だ、と内心呟く苗木に対してセレスは上機嫌だった。そう。元々庶民の苗木に対して
セレスは賭ける物など期待していない。そもそもここで金銭を賭けても使う場所がないのだから。




322 ◆takaJZRsBc2014/07/27(日) 23:15:00.34Mk+ntzl20 (16/20)


セレス(苗木君……一度は殺害対象として諦めていましたが、こうして一人でわたくしの所に
     ノコノコ現れるとは、思っていたより警戒心は薄そうですわね)

セレス(まあ、苗木君は見たままの性格でしょうがよく観察する絶好のチャンスですわ。
     ここでパシリの約束をさせておけば、後々役に立つ可能性もありますし)

苗木(セレスさん、笑顔が怖いよ。絶対何か悪だくみしてるよ……)汗


ポーカーフェイスは完璧のはずなのに、既にセレスの考えは苗木に読まれていた。


セレス「では、勝負です」

苗木「うん……(勝てる気がしない……)」


そして一時間後。


苗木「あ、ああ……」

セレス「まさかこれほど弱いとは思いませんでしたわ。本来なら一文無しで身売り確定ですわね」

苗木「う、セレスさん……それはちょっと……」

セレス「どうです? わたくしの執事となって一生わたくしに尽くすというのは?
     大サービスと言いますか、むしろこの上ない最上級の名誉だと思いますが」

苗木「いや、えっと、それは……困るというか……」

苗木「あの、今はやらなくちゃいけない仕事とか当番とかあるから……勘弁してください」

セレス「…………」

苗木(どうしよう……この顔は何か無茶を言ってくる顔だ。
    いや、今の時点でも十分無茶なこと言ってると思うけど……)

セレス「いいでしょう」

苗木「……は?」




323 ◆takaJZRsBc2014/07/27(日) 23:30:40.30Mk+ntzl20 (17/20)


予想外の言葉に苗木は耳を疑う。セレスは特に変わった素振りも見せず紅茶を口に運んだ。


セレス「今日の所は半日パシリ券三枚で勘弁して差し上げると言ったのです」

苗木「ほ、本当?!」

セレス(フフ……ここで恩を売っておけば、苗木君はわたくしに感謝して今後も色々
     尽くしてくれるはず。……そうなれば、殺害のチャンスも自然とやってきますわ)


表面はニコニコと笑いながらも、セレスは未だに殺しの算段をしていたのだった。


セレス「ええ。ただし、その代わりといってはなんですが時々ここに顔を出してくださる?
     いい加減あの二人の声を聞くのは飽き飽きしていましたので」


チラリとセレスが視線をやった方を苗木も見やる。


山田「葉隠殿! ババ抜きに占いを使うなど卑怯ですぞ!」

葉隠「うるせえ! 世の中勝った方が正義なんだべ! どんな手を使っても勝てばいいんだ!」

山田「あんまりです!」

葉隠「とにかく、この水晶ドクロは頂いていくべ! 実は前からずっと狙ってたんだ」

山田「ああー、折角ガチャガチャで出した僕のコレクションがー!!」


ワイワイギャーギャー。


苗木「……………………」

セレス「わたくしの言いたいこと、わかって頂けました?」

苗木「……うん」




324 ◆takaJZRsBc2014/07/27(日) 23:40:54.75Mk+ntzl20 (18/20)


セレス「苗木君は素直でよろしいですわね。もう少しでCランクに昇格出来ますわ」

苗木「Cランク?」

セレス「わたくし、周囲の人間をランクごとに分けるクセがありますの」

苗木(悪趣味なクセだな……)

セレス「平均はDランク。わたくしがなんの興味も抱かないレベルですわ。この学園の大半の方は
     ここに該当します。そして、最低はF。存在も許せないレベルですわね」

苗木「ちなみに、あそこの二人は……?」

セレス「限りなくFに近いEでしょうか。本来Fの人間は機関に頼んで暗殺してもらうのですが、
     あの二人に限ってはここに監禁されていてかえって幸運でしたわね」

苗木(え、冗談だよね? ……冗談であってほしい)


苗木はセレスの言葉の真偽がわからずただただ混乱する。でっち上げだと言い切れればいいが、
この学園に通うような人間だと実際に出来る気がするから困りモノである。


セレス「ちなみに、AはおろかBランクでさえ世界中探してもどこにも存在しません。
     つまり、現段階ではCが最高ランクとなりますわね。頑張ってくださいまし」

苗木「あ、うん(何を頑張ればいいんだろう……)」

セレス「更に」


そこで会話は終わらずに、テレフォンショッピングのようにセレスは畳み掛けた。


セレス「Cランクとなれば、わたくしの下僕である“ナイト”になることも可能です」

苗木「へえ……」

セレス「苗木君なら良いナイトになれると思うのです。オススメしますわ」

苗木「はぁ。……あの、普通の友達じゃ駄目なのかな?」

セレス「わたくしのナイトでは不服と?」




325 ◆takaJZRsBc2014/07/27(日) 23:49:43.53Mk+ntzl20 (19/20)


苗木「いや、そういう訳じゃないけど……」

セレス「……舞園さんのナイトは喜んでやっているみたいですが」

苗木「なんでそこで舞園さんの名前が出るのさ?!」カァァ


舞園の名前を出され思わず苗木は赤面する。その反応を見てセレスはあからさまに顔をしかめた。


セレス「……チッ」

苗木「舌打ちはやめてよ……」


・・・


苗木(ハア、何とか身売りは避けられたけど散々な結果だった。結局セレスさんが内通者なのか
    そうでないかはわからなかったけど、油断が出来ない相手だっていうのはよくわかったよ)

山田「なーえーぎーまーこーとーどーのー!!」

苗木「あ、山田君。どうしたの?」

山田「セレス殿の反応はどうでした? 僕のことは許していただけましたか?!」

苗木「あ……ごめん。勝負でいっぱいっぱいになってて、すっかり忘れてたよ……」

山田「ななな、なんとォッ?!」ガーン!

苗木「あ、えーと……ごめんね?」

山田「ぬおぉ。やはり、拙者はもう二度と許してもらえないのか……(´;ω;`)シクシク」

苗木「本当にごめん。次はちゃんと話しておくから……」

山田「頼みましたぞ……」


山田の恨めしげな目線から逃げるように、苗木は寄宿舎に戻った。




326 ◆takaJZRsBc2014/07/27(日) 23:53:42.99Mk+ntzl20 (20/20)


ここまで。アップダウンの激しい回になってしまった


>>308
安価を、安価の力を信じなさい……




327VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/27(日) 23:57:25.9650uew5Odo (1/1)

乙です


328VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/27(日) 23:58:31.00mn+5s3CmO (1/1)

乙です
安全地帯がないよ…


329VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/28(月) 00:55:24.01vo6kQE9CO (1/1)

最初の頃、KAZUYAがみんなと前から知り合いだったって言ってるのを、みんな聞いてるよね。
信頼関係がある今でたらめだったとも思わないだろうし、そこから糸口掴むやつが出てきてもおかしくなさそうだな。


330VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/28(月) 01:55:58.65N2Sr9zDto (1/1)

あの件は結局勘違いで終わっちゃったからなぁ。Kは頭にダメージ受けてたから尚更そう思われただろうし
そもそも仲間になったキャラは無条件にKのこと信じるから、問題はやっぱり十神の気がする

あと、毎回毎回[ピーーー]気満々過ぎるセレス


331VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/28(月) 13:08:40.658T7JPxhDO (1/1)

朝日奈の絶望度ヤバかったみたいだな。選ばなかったらどうなっていたのか…
あと、大和田と苗木は少し思い出しかけてんのかね?


332VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/28(月) 15:48:30.00UkUOEyLSo (1/1)

てか十神頭は悪くないんだしKAZUYAが疑ってる過去の情報と現在の状況を照らし合わせれば外がどうなってるかくらい予想できると思うんだけどなあ…

大和田と石丸を一緒にサウナに入れれば何とかなるんじゃね?


333VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/28(月) 19:55:28.99MtCBAocg0 (1/1)

十神もセレスも今やってることが黒幕の掌で踊ってると同義って気づけばいいんだけど
こいつら協調性ないからなぁ

つーか苗木くんまたピンチか?


334VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/28(月) 20:05:21.0400YFy9OSo (1/1)

十神は勝つこと、セレスは野望に囚われてるからね
考えを改めないと近い将来破滅する。セレスは実際破滅したけど


335VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/29(火) 18:53:14.29jjw5cHXDO (1/1)

大和田は遠心分離機の記憶でも残ってんのかな?
大神は動くとしたら次だし、この選択がベターだと信じたい
霧切も心配なんだけどね


336 ◆takaJZRsBc2014/08/02(土) 01:29:39.12YN8x2M4Q0 (1/14)


               ◇     ◇     ◇


苗木は娯楽室から寄宿舎に戻ると、もう一度腐川の部屋に寄った。相変わらず反応が
得られなかったので、そのままローテーション通り石丸の部屋へと向かう。


「こんにちは」

「ああ。今日は、何かあったか?」


苗木はいつものようにその日あったことをKAZUYAに話し、KAZUYAは黙って聞いている。


(朝日奈か……難しいな。俺としても、内通者でないなら是非引き込みたい所ではあるが……)


KAZUYAとしては、毎朝朝食会の前に集まって仲良くしていたメンバーは信じたい。
あの楽しかった時間が嘘ではなかったと信じたい。信じたいが、自分の判断ミスで散々生徒を
傷つけることになってしまった手前、どうしても今一歩の所で煮え切ることが出来なかった。


「腐川はどうだった?」

「相変わらず、出てきてくれませんでした」

「そうか……」

「腐川さん、大丈夫かな……」

「ムゥ、翔がこの間食事を摂ってくれたがまた丸一日空いてしまった。
 中で倒れられていたりしたら心配だ。いよいよ鍵を使うしかないな」

「石丸君は僕が見ているので、行ってあげてください」

「わかった。頼む」




337 ◆takaJZRsBc2014/08/02(土) 01:33:37.94YN8x2M4Q0 (2/14)


― 腐川の部屋 PM5:04 ―


KAZUYAは預かった鍵を使い腐川の部屋に侵入した。……ただでさえ密閉されているのに、
空気が澱んでいる。それに、女性の部屋にこんな感想を持つのはどうかと思うが、少し臭った。


「腐川」


腐川はベッドに力無く横たわっていたが、KAZUYAの声を聞き仰天して跳ね起きる。


「な、な、なんであんたがここにっ……?!」

「翔が、俺に鍵をくれた。君にもしものことがあれば助けてほしいと」

「ハァ?! アイツが?!」

「心配していたようだぞ」

「ば、馬鹿らしい! アイツは殺人鬼よ。アタシの身になにかあったら自分が困るからでしょ!」

「本当にそれだけだろうか?」

「……なによ」

「いや、とにかく外に出ないか? みんな心配している」

「嫌よ! 心配? そりゃ監禁されてるうえメンバーに殺人鬼がいれば殺されないか心配よね」

「そうではない! 君の心配だ。ハッキリ言おう。確かにメンバーの中には翔を
 怖がっている者もいる。だが純粋に君のことを心配しているメンバーもいるのだ」

「嘘よ! アタシは不二咲を殺そうとしたのよ?! 人殺しじゃない!!」

「不二咲は怒ってなどいない。それに、他の誰がなんと言おうと俺は君を救いたいのだ!」




338 ◆takaJZRsBc2014/08/02(土) 01:43:30.42YN8x2M4Q0 (3/14)


KAZUYAがそう叫ぶと、腐川は少し俯いた。


「……まるで、小説の主人公がヒロインに言うような台詞ね」

「作り話と言いたいのか? だが、病院で様々なドラマや人間模様を見てきた
 俺だからわかる。現実は時に物語を凌駕するぞ。俺の気持ちに嘘はない」

「ふん、救うってどうやって? 霧切から聞いたわよ。石丸がおかしくなったそうじゃない」

「…………!」


KAZUYAは、自分の顔が引きつったのを他人事のように感じていた。


「あいつ、あんたに憧れて医者になるとか言い出してしょっちゅう保健室に通ってたわよね。
 そんな大事な教え子すら救えないあんたが、一体どうやってアタシを救う訳?」

「…………」


何も言い返せない。ここで言葉を失うのは説得力に欠けるとわかっているのに。
だが、それだけKAZUYAの心の中で石丸のことは大きく占めていたのだ。

KAZUYAが今まで生徒には見せたことのないような哀しげな顔をしたことに、逆に腐川が動揺した。


「ほ、ほら! 今だってアタシみたいなうざい根暗、どうなってもいいって考えたでしょ!」

「わかってんのよ、アタシには全部! アタシみたいな憎たらしい人間が
 誰かから愛される訳ないってことくらい……! はっきり言えば良いじゃない!」

「それは違うぞ! 俺は……」

「出てって! 話はもう済んだでしょ! 出ていきなさいよ!」




339 ◆takaJZRsBc2014/08/02(土) 01:47:59.85YN8x2M4Q0 (4/14)


「落ち着いてくれ! とりあえず食事だけでも摂って欲しい! このままでは死んでしまうぞ」

「望むところよ!」


KAZUYAは暴れる腐川の両腕を掴むが、一度起こったヒステリーは止まりそうにない。


(クッ、やむを得んか)

「すまん、腐川」


仕方なく、KAZUYAは持ち込んでいた胡椒を腐川に振り掛けた。


「ふぇ、ぶぇっくしょぉん!」


女子高生としては少々どうかと思う盛大なクシャミと共に、腐川は一変する。


「どーもー、意外と家庭的な殺人鬼でーす。アレ? KAZUYAセンセじゃないのー?」

「…………」

「どしたん? なんか泣きそうな顔してるけど。だいじょぶー?」

「……いや、大丈夫だ。それより、また腐川の代わりに食事を摂ってくれないか?」

「あー、あのバカまーだ絶賛ハンガーストライキ中ってワケ? どんだけ根暗なんだっつーの」

「俺が悪いのだ。腐川の説得に失敗した」

「別にセンセは悪くないっしょ。あいつのメンタルが豆腐なだけだし。そーやって、なんでも
 かんでも自分のせいにしてると病気になっちまうぜ。これが本当の医者の不養生。なんちって!」

「……騒ぎになるとまずいから、俺が同行する」




340 ◆takaJZRsBc2014/08/02(土) 01:54:29.85YN8x2M4Q0 (5/14)


・・・


幸い、食堂にジェノサイダーを目の仇にする者はなく、ただ大神と朝日奈は無言でその場を離れた。
ガツガツと元気良く食事を楽しむジェノサイダーに、KAZUYAはふと問い掛ける。


「翔よ、一つ聞きたいことがあるのだが」

「なーに?」

「俺のことをどう思っている?」


ジェノサイダーはブフォッ!と盛大に吹き出してむせた。


「ちょ、ちょっとちょっといきなりなにぃ?! まさか愛の告白?! 悪いけど、
 アタシにはもう白夜様って人がいるから愛人くらいならまあ考えてあげても……」

「違う」

「ですよねー。カズちんがそんな大胆なこと出来るワケないもんねー。ゲラゲラゲラ!」

「純粋に俺のことをどう思っているのか聞いてみたかったんだ。好きか、嫌いか」

「そりゃ好きに決まってんじゃーん。ぶっちゃけ一時期命狙ってたことあるし」

「……どうしてだ?」

「どーして、って萌える男を殺すのがアタシのアイデンティティだし、それをどーしてと言われても」

「いや、そうではなくどうして俺のことが好きなんだ?」

「えぇー? 言わせちゃう? それ乙女に言わせちゃう?!」

「俺は真剣に聞いてるんだ……」




341 ◆takaJZRsBc2014/08/02(土) 02:09:40.14YN8x2M4Q0 (6/14)


「今日のセンセ、ノリわるー。そりゃいくら殺人鬼だからって節操なく殺るワケじゃなくて
 アタシは美学を持った真っ当な殺人鬼だからね。敵か味方かくらいは認識出来るわよ」

「俺は味方だから好きなのか?」

「ま、そういうこと。……マジメな話をすっとセンセはアタシのこと理解してくれるし」

「理解?」


すると、珍しくジェノサイダーは神妙な顔をして箸を置き頬杖をついた。


「根暗がここに来てから、アタシは治療っつー目的でいろんなヤツに会わせられたワケ。
 脳科学者、心理学者、カウンセラーに神経学者とか。現役の超高校級もOBも問わずね。
 それこそ、センセと同じ超国家級クラスのお偉方とも何人か会ってきたわよ」

(……やはり、ジェノサイダーは過去の記憶があるのか!)


それに対してはKAZUYAの想像通りでありさして驚きはしなかったものの、
ジェノサイダーがその後にした話は少なからず驚く羽目になった。


「でもさ、治療って目的よりもなんか実験目的みたいな空気をアタシは感じちゃってさぁ。
 センセは病院で人間の表と裏を散々見てるから知ってんだろーけど、どんな聖人だって
 裏側があんだっつーの! 一歩間違えばみんな反動でアタシみたいになるんだっつの!」

「それなのにアタシをまるで頭おかしいサイコ野郎みたいな目で見てよぉ。人を実験動物みたいに
 扱いやがって。明らかに治療と関係ない実験も散々やらされたしさぁ! 多重人格の人間の
 人権は無視かっての! あー思い出したらイライラしてきた。殺っときゃ良かったぜ!」

「それは酷いな……」

(誇張でないならば、希望ヶ峰の関係者が人体実験紛いのことをしていたということか? しかも、
 話を聞く限りではどうも学園側の公認でやっていたように思えるが。一体何の目的で……)




342 ◆takaJZRsBc2014/08/02(土) 02:14:56.38YN8x2M4Q0 (7/14)


KAZUYAは不審に思ったものの、ジェノサイダーの言葉に意識を戻した。


「でさ! どうも根暗の方も同じこと考えてたっぽくて、それでセンセに相談に行ったんじゃーん」

「そうだったのか……すまん。実は、俺は頭部の怪我が原因で記憶の一部がないんだ」

「えぇ?! KAZUYAセンセったら忘れちゃったのーん? アタシとのあのあっつーい日々をさぁ!」

「……すまない」

「ま、いいけど。とにかくセンセは他のヤツらと違って、マジメにアタシらの話を
 ちゃんと聞いてくれたし、専門外にも関わらず治療しようといろいろしてくれたワケ」

「だが、結局治せなかったんだろう?」

「ぶっちゃけなんの役にも立ちませんでしたー!」イェーイ!

「…………」

「あ、まーまー。そんな落ち込まないでって。治されたらアタシ消えちゃうしー、まあそこは
 失敗してくれて良かった的な? それに実験とか抜きで殺人鬼と話したがる物好きなんて
 センセくらいだから、アタシはセンセとのおしゃべり、そんなに嫌いじゃなかったわよ?」

「……そうか。しかし、腐川は俺のことを一体どう思っていたのだろうな」

「さあ? ま、根暗も多分同じじゃないの?」

「腐川も?」

「だって、センセのこと信用してなかったら自分から何度も行かないっしょ」

「…………」




343 ◆takaJZRsBc2014/08/02(土) 02:22:03.93YN8x2M4Q0 (8/14)


「翔、最後にもう一つ聞きたいことがあるのだが」

「なに?」

「腐川は今、俺に……いやここにいる全員に心を閉ざしてしまっている。
 教えて欲しい。一体どうしたら俺は腐川を救えるんだ?」

「別にセンセを嫌ってるワケじゃないと思うけどねぇ」

「腐川が俺を嫌っていないだと? ……まさか」

「乙女心ってのは複雑怪奇! 単なる気まぐれでわがまま言ってるかと思えば、例の女の子の日で
 機嫌悪かったり恋の駆け引きだったりツンデレのツンモードだったりとイロイロあるワケ!」

「はぁ……」

「特にアイツは根性ねじくれてるというか捻くれてるからさぁ。本当は構ってちゃんのくせに
 それを素直に言えないワケよ。むしろ逆のこと言って後で後悔したり……あーメンドくせ」

「記憶を共有していなくてもわかるのか?」

「アタシ達記憶も人格も全くの別人だけど体と心は共有してるからね。アイツの考えくらいお見通しよ」

(……やはり、腐川と翔は一見真逆の存在だが根本的には繋がっているのだな)

「では、俺はどうすればいい?」

「鈍いねー、センセ。嫌われてないなら後はうざいくらいしつこくアタックするだけでしょーが」

「……それでいいのか?」

「むしろそれ待ってんの。自分からは動かないで王子様に助けてほしいタイプだし。あー暗え暗え」

「助けて欲しい、か」

(腐川は、俺を待っていてくれるだろうか……)




344 ◆takaJZRsBc2014/08/02(土) 02:30:25.16YN8x2M4Q0 (9/14)


腐川と繋がっているジェノサイダーが言うならそうなのかもしれない、と少しだけ勇気づけられた。


「ありがとう。諦めずくどいくらい声を掛けてみよう」

「ガンバガンバ。まーったくアイツもあんまりウジウジしてるとカズちんに見放されるっての。
 ってそりゃないか。カズちんって実は相当頑固でしつこい性格してるもんね!」

「ああ。俺は絶対に見捨てたりなどしない」


腐川も石丸も他の生徒達もだ、と心の中で何度目かの決意をすると
ふとKAZUYAは思い付いたことがあった。


「そうだ、翔。石丸のことは腐川から何か聞いているか?」

「あん? きよたんがどーかしたの?」

「……そうか。会ってやってくれないだろうか?」


・・・


ジェノ「イエーイ! 呼ばれて飛び出て邪邪邪ジャーン!! ジェノサイダー翔どぇーす!!」

苗木「な、ジェノサイダー?!」

桑田「おわっ、テメエなにしにきたんだよ?!」

舞園「ジェノサイダーさん……」

霧切「舞園さん、下がって」


突然部屋に現れたジェノサイダーに生徒達は狼狽して警戒する。




345 ◆takaJZRsBc2014/08/02(土) 02:36:10.14YN8x2M4Q0 (10/14)


K「いや、大丈夫だ。俺が連れてきたんだ」

桑田「ハア?! なんで?!」

K「……今は少しでも刺激が欲しい」

ジェノ「イヤン、刺激だなんて~♪ 男と女が密室であんな所やこんな所を触りっこしたりぃ?!」

K・苗木・舞園・霧切「…………」

桑田「前から思ってたけどよ……お前下ネタキャラなワケ?」

ジェノ「なに今更なこと言ってんの。つーかレオちゃんだってそうじゃん」

桑田「俺はキャラチェンしたんだよ! そもそも、いくら前の俺でも女子の前じゃ言ってねーし!」

K「まあ待て。……ほら石丸、風紀が乱れてるぞ。お前の出番じゃないのか?」

石丸「……すみません」

ジェノ「ほらほらぁ、きよたんが止めないならここの男どもと不純異性交遊しちゃうよーん?」

石丸「…………」

ジェノ「あちゃあ。ホントにぶっ壊れたんだ……。まあ、でもこの顔も萌えるっちゃ萌える」


ジェノサイダーが鋏を取り出して構えると、生徒達が動く前に石丸が反応した。


石丸「ジェノサイダー君! 教室でハサミを振り回すのは危険だから
    やめたまえと僕はいつも言ってるだろう! しまいたまえ!」

ジェノ「ここ教室じゃねーし。なに言ってんの? きよたんウケる。ゲラゲラゲラ!」

石丸「元気なのは結構だが、周りに迷惑をかけてはいけないぞ!」

ジェノ「はいはい。メンゴメンゴ」

石丸「ちゃんと反省しているのかね?」


その後も延々続く二人の会話を残りのメンバーは何とも言えない表情で見ていたが、
KAZUYAだけは違うことを考えていた。




346 ◆takaJZRsBc2014/08/02(土) 02:46:57.22YN8x2M4Q0 (11/14)


K(過去の石丸も翔の存在を知っていたのだろうか。現在の記憶と過去の記憶が混ざっているだけか?
  それに、いつもなら一言話して終わりなのに今回は随分長いな。会話の流れも非常に自然だ)

K(もしや、記憶を取り戻しかけている? 記憶が完全に戻れば元にも戻るか?
  ……断言は出来ないが、可能性の一つとして覚えておく必要はあるな)

ジェノ「ギャハハハハ!」

石丸「ハッハッハッ!」

苗木「……石丸君、笑ってるね」

桑田「あいつのせいで、おかしくなったも同然なのによ……」

霧切「でも、いつもと違う刺激は回復に繋がるかもしれないわ」

苗木「うん、そうだよ。僕もそう思う」

桑田「わかってるけどさぁ、なんかシャクだぜ」

舞園「…………」


そうして、一同はしばらく石丸とジェノサイダーの奇妙な会話を見守っていた。


ジェノ「じゃ、久しぶりに楽しくオシャベリしたしアタシはそろそろ帰るわ!」

K「良かったらまた来てくれないか?」

ジェノ「ラジャー! その調子で根暗の方もなんとか頼むわ。じゃーね」


ジェノサイダーを部屋に送り届けると、扉を睨みながらKAZUYAは心の中で呟く。


K(……また来る。それまで我慢していてくれ)




347 ◆takaJZRsBc2014/08/02(土) 02:50:12.12YN8x2M4Q0 (12/14)



               ◇     ◇     ◇


「…………」


腐川はいつもの部屋の中で意識を取り戻した。既にKAZUYAはいない。シャワーを浴びて着替えた形跡が
あったので、ジェノサイダーがシャワーを浴び、湯冷めしてクシャミしたといった所だろうか。


(お腹、空いてない……)


KAZUYAが無理矢理ジェノサイダーに交代させて食事を摂らせたのだと理解出来た。
その後、自分には何も言わずに去って行ってしまったのか。


「あ、当たり前よね……あんなこと言ったんだから……」


―大事な教え子すら救えないあんたが、一体どうやってアタシを救う訳?


絶対に言ってはいけない言葉だった。いつも極めて冷静なKAZUYAが血相を変えていた。
腐川は石丸の現状を直接見てはいないが、おかしくなったとは聞いている。
どのくらいおかしいのかはわからないが、会話が成り立たないレベルらしい。
何よりKAZUYAのあの顔を見れば、かなりの重症だと言うことはわかる。


(やっちゃった。また馬鹿なこと言っちゃった……どうしてアタシはいつもこうなのよ!)


いくら自棄になっているとはいえ、腐川とて死にたい訳ではない。実は、食べようとはしたのだ。
ただ、ストレスで食欲が全くないし、無理に食べようとすると吐いてしまうのである。

腐川は幼い頃から自分を助けてくれる存在を夢想していた。その憧れを書いたのが彼女の小説だ。
彼女がKAZUYAに反発したのは、持ち前の卑屈さもあるが一番の理由は嫉妬だった。何故、舞園や
桑田や大和田は罪を犯す前に止めてもらえたのだろう。何故、あれ程の騒ぎを起こしたのに
庇ってもらえるのだろう。自分の手は血まみれなのに、庇ってくれる人などいないのに。




348 ◆takaJZRsBc2014/08/02(土) 02:58:13.25YN8x2M4Q0 (13/14)


(い、いいのよ……どうせアタシなんて終わりなんだから……!)


逆恨みなのも言い掛かりなのもわかっていた。だが、助けてもらえる彼等が羨ましかったのだ。
それで必要以上に噛み付いてきてしまった。一人死ぬか死なないかで大騒ぎする輩なのだから、
もう何人も死なせた罪深い自分など、救ってもらえる訳がないと勝手に思い込んでいた。

――だが、果たしてKAZUYAはやって来た。腐川の元にも救いの手を差し延べて。


(何もかも、遅すぎたのよ……あれだけ派手に引っ掻き回しておいて、今更どの面下げて
 助けてなんて言える訳? アイツもアイツを慕ってる奴にも散々悪口言ったのに……)

(第一、ア、アタシは不二咲をヤっちゃったのよ?! 許してもらえる訳ないじゃない! 
 義務感から手を差し延べてるだけに決まってるわ。これでアタシが死んだら後味が悪いから!)


そうして、どんどん思考が自虐的な方向に進んで行く。あり余る想像力を誇る作家の
彼女には、物事をシンプルに考えるという本来簡単な作業が逆に難しくなっていたのだった。


(ふ、ふん……愚かな女に罰が当たったのよ……ただそれだけのことじゃない……)

「小説でも定番の展開よね。ただ、それだけの話……」

「う……ううっ……うえぇ……」


これはまだ腐川が小学生だった頃の話だ。彼女が渾身の想いを込めて書いたラブレターを、掲示板に
晒されるという事件があった。ショックを受けた腐川の前に、ある先生がやって来て言った言葉がある。


『素晴らしい、とても心を打つ手紙だったよ。君には文章の才能がある。物語を書いてみなさい』


この言葉がキッカケとなり、腐川は大作家への道を歩んだのだ。そして、外見はちっとも
似てないはずなのに、KAZUYAはどこかその先生に似ている気がした。思えば、恩師とも
呼べる存在なのに、卒業してから一度も会っていない。今、どこで何をしているのだろう。

そんなことを考えながら、誰もいない部屋で一人……腐川は泣いた。




349 ◆takaJZRsBc2014/08/02(土) 03:02:25.83YN8x2M4Q0 (14/14)


ここまで。

何人か言及されていましたが、ジェノは記憶を消されていないのでKAZUYAに対する好感度が
リセットされていません。また、腐川を助けたい発言で好感度が大幅に上がったためかなり好意的




350VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/02(土) 03:25:47.22p1uYUMo7O (1/1)

これ、苗木強化して超高校級の希望になれればKAZUYA陣営に死角なくなるんじゃないか、とふと思った。


351VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/02(土) 09:38:55.89GGOyC+qU0 (1/1)

今更>>292だけど身長は野球の話と20巻より前半あたりに何回か書いてあった


352VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/02(土) 12:10:43.948T4b4wX3o (1/1)

乙です


353VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/02(土) 12:39:48.99ZijCD20mO (1/1)




354VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/02(土) 19:44:29.520CQ/Msg+o (1/1)

腐川がなんか切ないな


355 ◆takaJZRsBc2014/08/02(土) 20:27:02.34TNxiHGIY0 (1/1)

>>351
ありがとうございます。まさか本編に出てきているとは…探してきます
思えば、作中で黒マントって台詞があるのに1スレ目でマントの色は
赤とかとんでもない大嘘言っちゃってたし、作品愛がまだまだ足りませんね

さーて、自分用の身長対比表作ってたけどどうすっかなぁ…あれだ。ダンガンキャラの
身長は靴込み説があるから、KAZUYAはブーツの底込みということにしようそうしよう



356VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/02(土) 22:33:48.69HugIKP/PO (1/1)

乙です

ヤクザの人たちとかアメリカ大統領の援護はないかな……

ドクターK全巻
いまならebookで30%オフだからおすすめ


357 ◆takaJZRsBc2014/08/03(日) 21:57:34.74o0rv4GjU0 (1/13)

誰もいない。絵を落とすなら今のうち

やっと…四スレ目にしてやっと髪切った桑田のイメージが出来たので投下

トレードマークであるアゴヒゲとロン毛とアクセ類もろもろを全部取っ払ってしまったので、
描いた本人でさえ服を着せて色を塗らないと誰かわからないレベルですが……


桑田
http://i.imgur.com/tp96VYJ.jpg
桑田とKAZUYA
http://i.imgur.com/iKDZtO8.jpg


なるべく顔はゲームに似せようとしたつもりだけど画力が足りないので別 人 注 意

……というか桑田は恐らくダンガンロンパで一番描くのムズイ。シャツの模様は省略してます。



358VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/03(日) 22:17:16.04QDxz2ypFo (1/1)

それよりKAZUYAがなんか笑えるww


359VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/03(日) 22:31:26.262/NMEXURo (1/1)

なるほど…


360 ◆takaJZRsBc2014/08/03(日) 22:32:31.03o0rv4GjU0 (2/13)

下手でゴメンネ

ちなみにKAZUYAはドクターKで一番難しいキャラだと思う。何が大変って
コマ毎に毎回髪型が微妙に違うからこれ!っていうキメがない。デッサン力の高い
真船先生ならではだと思う。1はリアルで20回くらい練習したけど未だに上手く描けない

……真船先生、画力を分けてください。真剣に



361 ◆takaJZRsBc2014/08/03(日) 22:58:56.83o0rv4GjU0 (3/13)


― モニタールーム AM0:13 ―


そこにはよく似た顔をした二人の少女が、内緒話をするように額を寄せ合っていた。


「盾子ちゃん」

「何よ」

「楽しい?」

「楽しい楽しい! 見りゃわかんでしょーが!」

「うん、そうだね。すごく楽しそう」

「お姉ちゃんも楽しみなよ。今サイッコーに笑える展開でしょ!」

「そうだね」

「そうそう! 今日のアレ、お姉ちゃんにも見せてあげるわ。クッソ笑ったから」

「…………」


そう言って映像を見せてくれたが、何をしているのか正直わからなかった。ただ、KAZUYA達が
何かを試しそして失敗したのだろうと言うことだけはわかり、妹に合わせて適当に笑った。


「馬鹿だよねー。いくらやっても無駄なのにさ。あいつはもう完全に絶望してるのに」

「そうだね」




362 ◆takaJZRsBc2014/08/03(日) 23:02:28.69o0rv4GjU0 (4/13)


いつもは戦刃のことなど軽くあしらって時には追い返してしまうのに、江ノ島は上機嫌なのか
姉に向かって楽しそうに色々と話す。戦刃もそれに対し相槌を打って一緒に笑った。

ただ、いつもの戦刃なら妹の嬉しそうな顔を見ればそれで満足出来るのだが、
今日に限っては珍しく気が乗らなかった。なので、適当に話を切り上げて退室する。


(なんだろう……なんか、気が重いな……)


帰り道、薄暗い廊下を歩きながら戦刃は考えていた。


(ここ最近みんなの間に絶望的な雰囲気が蔓延してるから、私にもうつっちゃったのかも……)


同志である『超高校級の絶望』と呼ばれる集団からは、戦刃は江ノ島と並び絶望シスターズと
一緒くたにまとめられることが多いが、実は戦刃自身は特に絶望には固執していない。

むしろ、妹に目をつけられた哀れな犠牲者には同情すらしている。だが、そんな彼女が妹の暴走を
止めることは絶対にない。何故なら盲目的に妹に従うことこそが愛だと彼女は考えているからである。

――そう、言うなれば戦刃むくろは超高校級の絶望(的に残念な姉)だった。


「……!」


寄宿舎の廊下を歩いていると、突然扉が開く。




363 ◆takaJZRsBc2014/08/03(日) 23:07:54.65o0rv4GjU0 (5/13)


(まずい! 隠れる所がない!)


仕方がないので、そのまま突っ立って出てきた相手の顔を見た。


「……こんな時間に出歩いている奴がいるとはな」


扉から現れたのは、渦中の人間の一人である十神白夜その人だった。


「なによ、夜時間は外出禁止とでも言うつもり? あんたが一番破ってると思うんだけど」

「そんなつまらんルールについてどうこう言うつもりはない。それで、何をしていた?」

「……ちょっと、ランドリーに忘れ物を取りに行ってただけ」

「ほう」

(――嘘だな)


十神は即座に偽の江ノ島の嘘を見抜いた。


(葉隠なら水晶玉、山田ならリュックの中身など考えられるが、この女は普段から
 小物を持ち歩くタイプではない。ランドリーに忘れるとしたら服だけだ)




364 ◆takaJZRsBc2014/08/03(日) 23:14:40.16o0rv4GjU0 (6/13)


しかし、江ノ島は何も持っていない。そもそも、深夜の誰もいない時間に出歩いて、
危険人物である十神に遭遇したらどうするのか。助けが来る可能性は絶望的である。
余程のものでない限り、次の日の朝に取りに行くのが普通のはずだ。


(この女……前々から少し怪しいと思っていた。内通者か?)

「で、そういうあんたはどこ行くワケ? また図書室?」

「答える必要はない」

「……あっそ」


江ノ島を無視しようとして、ふと十神は止まった。


「そういえば、ここ最近何か動きはあったか?」

「なんにも。石丸は相変わらずおかしくなったままだし、腐川は部屋に閉じこもってるよ」

「フン。予想通り過ぎて少しつまらんな」

「あんたは呑気でいいよね。……今も自由に部屋から出られるのは誰のお陰だと思ってるの?」


江ノ島は思い出していた。十神が自由に部屋から出られないよう、
せめて扉の前にバリケードを作るべきだと言われた時のKAZUYAの言葉を。




365 ◆takaJZRsBc2014/08/03(日) 23:21:36.00o0rv4GjU0 (7/13)


山田『十神白夜殿は危険です! 拘束できないなら、せめて扉の前にバリケードを作るのはどうです?』

朝日奈『そうだよ! それがいいよ! 十神のヤツ、いつも勝手な行動ばかり取ってさ!』

葉隠『そうすりゃあ、もう十神っちに怯えることもないべ!』

K『……それは駄目だ』

桑田『え?! なんでだよ、せんせー!』

大神『西城殿、何故にそのようなことを? 我もあやつの行動は制限した方が良いと思いますが……』

K『俺だってそうしたいが、万が一十神が急病にかかり外に出られず大事となっては不味い』

大和田『ハアァ?! あんなヤツ別にどうなってもいいだろうが! 俺の手でブチ殺したいくらいだ!』

K『そういう訳にもいかん。俺は医者だ。あんなヤツでも、死なせたくない』

山田『納得できませんぞ!!』

K『あいつは頭が回る。殺人が起きれば真っ先に疑われる状況で、無茶な行動を取ったりはしない』

セレス『ですが、それは先生の希望的観測ではありませんの?』

K『否定は出来ん。だが……お願いだ。みんな、頼む』

大和田『なんで……なんであんなクソ野郎のためにあんたがそこまでするんだよ、先公……!』

霧切『……これからは、なるべく単独行動は取らないようにしましょう。そうすれば問題ないはずよ』

江ノ島『…………』




366 ◆takaJZRsBc2014/08/03(日) 23:27:48.68o0rv4GjU0 (8/13)


はっきり言って、江ノ島はKAZUYAのことがあまり好きではなかった。彼女は学園生活での
記憶を消されてはいないが、元々他の生徒達ほどKAZUYAと仲良くしていなかったし、妹から
既にこの計画について聞かされていたため、教員は全て殺害対象としか見ていなかった。

近いうちに殺す相手のことなどどうでも良かったのである。しかも、KAZUYAは自分の
完璧な奇襲を生き抜いた男だ。軍人としてのプライドにも少々傷が付いていた。


(……でも、西城先生って本当に良い人なんだよね。自分がかわいがってる生徒だけ
 じゃなくて、腐川さんや十神君のことも本気で助けようって考えてるみたいだし)


初めは最愛の妹の宿敵としてKAZUYAに厳しく当たり、自身の命を助けられた時ですら
ろくに感謝もしていなかった江ノ島だが、その後のKAZUYAの行動や発言を間近で見続け、
少しずつKAZUYAに対する印象が変わってきていた。感化されたと言ってもいい。


「みんなあんたを閉じ込めろって言ってたのに、西城が反対したんだよ。中で何かあった時、
 外に出られないのはマズイからって。西城のヤツ、あんたなんかのために頭まで下げたよ」


糾弾するような目と声の江ノ島に対し、十神は鼻で笑って返した。


「それがどうかしたのか? くだらんな。だから奴は甘いのだ」

「……アタシ、あんたみたいなヤツ嫌い」


そう言い残し、江ノ島は十神の横を通って部屋に戻った。




367 ◆takaJZRsBc2014/08/03(日) 23:33:33.83o0rv4GjU0 (9/13)


(反対側から回り込めると言うのに、わざわざ俺の横を通るとはな。余程腕に自信があるらしい)


だが、十神は特に追いかけたりはしなかった。いくら護身には自信があるとは言え、素手で人を
殺すのはどう考えても悪手である。どんな反撃を喰らうかわかったものではないし、トリックも
使わず江ノ島を殺せば十中八九犯人は自分になるだろう。ゲームを楽しんでいる身としては、
そんな呆気ない終わり方で満足出来る訳がない。運が良かったなと吐き捨てて十神も去った。


パタン。

ドアを閉め、戦刃はホッと胸を撫で下ろしていた。


(危なかった。十神君は頭がいいから正体がバレるかと思ったよ。上手くごまかせて良かった)


そして、裁判時や今の冷たい目つきを思い出す。


(十神君……入学当初こそ少し冷たかったけど、あそこまでじゃなかったのにな……)


いつも不機嫌そうな顔で嫌みや厳しいことばかり言っていたが、クラスで問題が起こった時は
率先してリーダーシップを発揮し、あの個性的なメンバーを見事にまとめてみせた。石丸のことも
口で言うほど嫌っている訳ではなく、彼が妙なことを言う度に十神が横で修正していたものだった。


(――みんな、変わってしまった)




368 ◆takaJZRsBc2014/08/03(日) 23:37:01.03o0rv4GjU0 (10/13)


良い方向に変わった桑田という例外もいるが、精神が崩壊した石丸、引きこもった腐川、
距離が出来た大神と朝日奈、ギスギスしているセレスと山田など多くの物が失われてしまった。

……それが寂しいという感覚なのだと普通の人間は知っているが、戦場育ちの戦刃はわからなかった。
ただぽっかりと心に大きな穴が空いた気がして、その穴を埋めるためにますます妹に心酔するのだった。

だからお姉ちゃんは残念なんだよ、という妹の言葉の真意もわからずに――



― コロシアイ学園生活二十一日目 大和田の部屋 AM8:22 ―


その日、誰もが緊張していた。KAZUYAが不二咲の外出許可を出すことになっていたからだ。


「わあ、もう外に出てもいいのぉ?」

「ああ」

「運動は駄目だけど、お風呂ならいいんだよね? 僕男友達と一緒にお風呂に入るのが夢だったんだぁ」

「そりゃあ良かったな」

「それに、早く石丸君に会いたい! 僕もお見舞いに行っていいんですよね?」

「不二咲……そのことについて話さなければならないことがある」

「え……?」


KAZUYAは至極真剣な顔をしていた。それだけで、何かあったのだと不二咲が悟ってしまうほどに。




369 ◆takaJZRsBc2014/08/03(日) 23:42:35.27o0rv4GjU0 (11/13)


・・・


タッタッタッ!


不二咲は走った。と言っても、隣の部屋だから、大した距離ではないのだが。
その短くて長い距離を、小さな体を弾ませながら全力で走った。


タッタッタッ、ガチャッ!


「石丸君!」


そして、病み上がりにも関わらず不二咲は石丸の部屋に駆け込んだのだった。


「不二咲君!」

「不二咲!」


部屋にいた苗木達四人を素通りして、不二咲は石丸の側に走り寄る。KAZUYAと大和田も入ってきた。


「ねえ、石丸君! 僕だよ。わかる? ねぇ!」

「……不二咲君?」


石丸が、僅かに顔を上げて不二咲を見た。




370 ◆takaJZRsBc2014/08/03(日) 23:45:41.51o0rv4GjU0 (12/13)


「そうだよぉ。僕、元気になったんだよ!」

「兄弟! 不二咲が来てくれたぜ! だからオメェもいい加減元気になれや!」

「…………すまない」


だが、石丸は例によっていつものように謝るばかりだった。


「謝らないで! 石丸君のおかげで僕は今も生きてるんだよ?」

「申し訳ない。僕のせいで、君をあんな恐ろしい目に遭わせてしまって……」

「違うよぉ! 石丸君は何も悪くなんてない! 何も悪いことなんてしてないよぉ!」

「違うんだ。僕は誤ったんだ。罪を犯してしまった」

「自分が犯人だって誤解したこと? どうしてそれがいけないの? あんな状況で勘違いしても
 仕方がないよぉ! みんなもきっと許してくれるから! 僕も一緒に謝るから! ね?」

「許してくれ……許してくれ、不二咲君。何も出来ない愚かな僕を、どうか……」


石丸は、またはらはらと涙を零した。聞いていた以上の状態に、不二咲は困惑を隠せない。


「僕、怒ってなんかいないよぉ……」

「しっかりしろよ、兄弟! 俺達を見てくれ! 兄弟ッ! 石丸ッ!!」




371 ◆takaJZRsBc2014/08/03(日) 23:53:39.93o0rv4GjU0 (13/13)


二人がいくら縋って叫んでも、それ以上の進展はなかった。

――最後の希望が、ここに潰えてしまったのだ。


(俺達は、心のどこかで期待していた。いや、高をくくっていたと言っていい)


石丸がおかしくなった直接の原因は、不二咲が死にかけたあの事件だ。だから、
不二咲が元気になった姿を見せればそれで治るのではないかと誰もが考えていた。


(……だが、見立てが甘かった。石丸がおかしくなった最初のキッカケはもっと前。
 大和田が不二咲に襲い掛かったあの事件だ。あの時既に石丸は己の非力さを恨み、
 心にヒビが入っていた。石丸は、あれからずっと絶望していたのだ……)


もっと早く気がついていればと後悔してももう遅い。
取り返しのつかない所まで来てしまったのだった。

悲しげに泣き叫ぶ不二咲の声を聞きながら、KAZUYAもまた深く絶望した。


――しかしただ悲しんでいるだけの余裕は彼等にはなく、この日を境に大きな転換を迫られることとなる。






Chapter.3 世紀末医療伝説再び! 医に生きる者よ、メスを執れ!!  (非)日常編




372VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/04(月) 00:05:56.275PBKU/zAO (1/2)

まだなんかあるのか…そろそろKのライフが0になるんじゃ


373 ◆takaJZRsBc2014/08/04(月) 00:14:16.50m/n8HFbN0 (1/3)


― モノクマ劇場 ―


モノクマ「久しぶりのモノクマ劇場~! ヤッホー。元気してるゥ?」

モノクマ「早速だけど、この章(編)が終わる時にはキリが良くなっていると言ったな。すまん! ありゃ嘘だ!」

モノクマ「というか、もうグダグダだよね。KAZUYA先生達がいくら頑張っても状況は一向に改善しないし、
      変わらない、何もない日常という絶望を描いたつもりだったんだけど……流石にやりすぎだろうと」

モノクマ「本編投下しても感想やツッコミがほとんどついてないあたりから、グダグダなのは
      1もなんとなく察していました。やっぱりこのSSはボクがいないとダメだね!」

モノクマ「そういう訳で、物語が全く動かなかった停滞期は終わり! 次編ではいよいよ大きな
      イベントやトラブルがまたやって来ます。まさかあの人があんなことするなんてね!うぷぷ」

モノクマ「でも……あれれ? なんとかなりそうな目処が立った腐川さんはともかく、
      もうどうしようもない石丸君はどうするのかな?」

モノクマ「見捨てて対黒幕に専念しちゃうのかな? それも絶望的な選択でいいよね!」

モノクマ「まあ、なんにしろボク的には美味しい展開になりそうだよ。ぶひゃひゃひゃひゃひゃっ!」

モノクマ「それでは、また次編もお楽しみに! バイバーイ!!」




374 ◆takaJZRsBc2014/08/04(月) 00:32:00.17m/n8HFbN0 (2/3)


ここまで。

無駄に長くグダグダしてしまった日常編にお付き合い頂きありがとうございました。
ここまで読むのをやめずについてきてくれた皆様のためにも、次編も気合の入れた
展開を書いていくことをお約束します。でも、とりあえず次回投下分はまだ平和……かな

あと、鬱はいい加減疲れたという皆様には短編ギャグSSを用意しましたのでそちらも
良かったら口直しにどうぞ。「苗木 マッチョ」で板検索すれば出るはず。本編は終了済み。


>>372
苗木行動の正解と言うか、もし桑田君と舞園さんが覚醒イベントを起こしていなかったら
実は一番マズイのはKAZUYAでした。普通の人が絶望度80くらいで発狂か絶望堕ちするところを、
KAZUYAはキャパシティが大きいので200くらい耐えられます。でも、モノクマと十神君の
執拗な集中攻撃、石丸君崩壊、腐川さんのことなどで心労が溜まりすぎていて180くらいに
なってました。桑田イベントでマイナス20、舞園さん渾身の演技というファインプレーが
マイナス50あったために、現在は100ちょっとくらいに戻っています

それでも一般人は十分おかしくなっているレベルですけどね……




375 ◆takaJZRsBc2014/08/04(月) 00:34:55.28m/n8HFbN0 (3/3)

あ、― 完 ― ていれてなかった。この終わり方じゃ意味不明すぎるだろ。馬鹿だ……



Chapter.3 世紀末医療伝説再び! 医に生きる者よ、メスを執れ!!  (非)日常編 ― 完 ―





376VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/04(月) 00:35:17.97mr9XuEF2o (1/1)

乙です


377VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/04(月) 00:38:52.455PBKU/zAO (2/2)


強い人って耐久力ある分壊れると元に戻らんのよね…


378VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/04(月) 03:50:10.18so2OaMgmo (1/1)

あっ……これ残念過ぎて内通者の容疑晴れるっていう

しかし、やっぱ自由行動で選ばれないと着実に悪い方に行くんやねー
ピンポイントは良くないかもね
もしくは苗木覚醒したら原作並みに全員に希望弾撃ってくれるのかな?


379VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/04(月) 08:13:21.57XiizOOWdo (1/1)

残姉のデレ来ましたわ!

>>378
事件関係者は押さえつつ、上手く回していかないとダメなのかも
とりあえず朝日奈とさくらちゃんは早めに味方にしないと四章で悲惨なことになりそう
あ、でも腐川も放置したらまずいな


380VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/04(月) 08:58:15.12Fm7z847h0 (1/1)

乙です
石丸・・・復活したちーたんをまた泣かせおって・・・
お前が復活するだけでどれだけ場の雰囲気が絶望から解放されるか・・・早く戻ってこい!

>>360
似たような顔つきのキャラがたくさん出てくるのに、混同しないのは流石ですよね
真船先生の画力の高さを思い知らされます


381VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/04(月) 11:59:46.35WY/FSgtXO (1/1)

前スレ80レスぐらい書いてた俺も、シリアスになっていくとまあ、この感想やツッコミは色々終わってから……って思うことがあったりするんだ。
その代わりあっちには結構書いたから! な!

つーかふと思って数えてみたが俺書き込みすぎワロタ


382 ◆takaJZRsBc2014/08/04(月) 20:48:39.42dkf5Ak700 (1/1)

感想はどんなものでも本当に本当に有り難いです。
例えば、今回で言うと>>364の後半から>>366はなんと全部後付けなのですよ。

>>305でバリケードを作ればいいのでは?というツッコミがあり→あー、書き忘れてた。どっかに
挿入しとかないと→(江ノ島編を推敲しながら)ちょうどここに十神君出てくるし入れてもいいんじゃね?
→K一人が反対してもみんな納得しないに違いない。また頭下げて頼みこむんだろうな→それを見たら
残姉もちょっとは見直してくれるんじゃないかな?ついでに昔言われた恩知らずのフォローもいれときたい

って感じで、結構皆様の感想も本編に反映されているのです。つまり本来なら十神君と残姉が
遭遇してメンチ切って終わりという味気ないシーンにデレが加わった訳で、>>305さんGJ


>>381
不二咲「えへへ。たくさん感想くれてありがとう! 381さんは優しいんだねぇ。
     シリアスだからって、遠慮なんてしなくていいよぉ。いつもありがとう」ニコッ



383VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/04(月) 23:45:30.85zpNHqoxC0 (1/1)

>>1先生のすごいところは、ダンロンキャラとkのイメージを保ったまま原作以上の絶望を生み出せること
そのくせギャグやらせると苗木マッチョスレのようなカオスギャグをかける マジすごい


384VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/04(月) 23:56:20.85arzVUG0OO (1/1)

何故不二咲
そんな好きなキャラじゃな……ゲフンゲフン


385VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/05(火) 09:11:58.15lLtQuByv0 (1/1)

>>384
天使が微笑んでくれたんだから喜んどけよクソが、羨ましい


386VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/05(火) 09:34:47.62ZNiYA86AO (1/1)

平気で好きなキャラじゃない、とか言う奴の気がしれないわ
1の好意を無にすんな


387VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/05(火) 11:06:49.92ot+g4ygpo (1/1)

384の家にマッチョスレのちーたんが向かって行ったぞ


388VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/05(火) 13:22:08.80xakZ7zL7o (1/1)

そういうのなんだよなあ……


389VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/05(火) 13:27:55.363is2mqbU0 (1/1)

割とどうでもいい事だけど桑田の顎ピアス取ったら油断すると飲み物とか飛び出そう
逆に洗顔の時とか石鹸が穴から口に入りそうだなと思った


390VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/05(火) 14:00:12.16iBwr4CV4o (1/1)

そんなガバガバじゃないだろw
知り合いがピアスしてない時も透明なキーパーみたいなのしてないと
あっと言う間に塞がるって言ってた


391VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/06(水) 07:29:02.06iAKxEYbp0 (1/1)

>>201だが、やっと全巻読破したぞおおおおお
スゴク面白かった、買って良かった!しかし、後半で急に学園モノが始まった時は「何かのテコ入れだったのかな?」て思ったw
これはK2も読まないとあかんな...
加奈高編読んだ後にこのSS読み返すと、校医としてのKの姿に全く違和感を感じなくなったw
あらためてドクターKに出会わせてくれた>>1さんには感謝です

>>384
そういうのは思っても書き込むなボケ、胸糞悪くなる



392VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/06(水) 12:00:52.17rm0Uu8joo (1/1)

やっぱりSSLって糞だわ


393VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/06(水) 15:58:24.930rE0A6RAO (1/1)

まあ、ちーたんは天使だし原作にも熱狂的なファンがいるし、怒る人がいるのも仕方ないね

ふと、好感度が悪いキャラも大事だけど【かなり良い】キャラを【凄く良い】に上げるのも一つの手なのかな、と思った
あーでも、これまでのチャプターで仲間になったキャラ達は》3に書いてあるイベント発生で勝手に上がる事もあるのか…悩む


394VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/06(水) 19:52:27.58FHZDY+4Yo (1/1)

そもそも親密度トップのはずの石丸が現状ではあれだしな
桑田や舞園のことを考えると、単純な親密度じゃなく発生するイベントが大事な気がする


395VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/07(木) 01:59:26.037pjQU/e/0 (1/1)

kAZUYA危ないところだったんだな
良かった良かった
でも妹様じゃないけどKAZUYAが絶望したらどんな言動するのかちょっと興味あります(絶望)


396VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/07(木) 15:41:29.89ISnJ3e4Zo (1/1)

桑田や舞園さんのおかげでKは踏みとどまれたらしいけど
逆に言うとこの2人に今後何かあったらKも一気に崩壊するんじゃ…


397VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/07(木) 16:58:38.977OsCj8y00 (1/1)

バットエンド一直線じゃないですかやだー!


398 ◆takaJZRsBc2014/08/08(金) 13:02:36.28f1tjN5lO0 (1/17)

>>385
不二咲「(モジモジ)あの、僕なんかで良ければ……いつも読んでくれてありがとう」ニコッ

>>391
読破おめでとうございます。約一ヶ月かかっている時点で54巻分の重みが伝わりますねw


さて本編ですが、あるとんでもないミスに気が付き大幅に時系列を入れ替えてしまったので
次の投下には事件が起こるはずだったのですが……まあ、仕方ない。投下します



399 ◆takaJZRsBc2014/08/08(金) 13:04:23.54f1tjN5lO0 (2/17)






Chapter.3 世紀末医療伝説再び! 医に生きる者よ、メスを執れ!!  医療編







400 ◆takaJZRsBc2014/08/08(金) 13:06:16.57f1tjN5lO0 (3/17)


最後の希望であった不二咲の呼びかけすら何ら効果を出さないという絶望的な
状況だったが、ただ時間を無為に浪費する訳にもいかず、霧切が切り出した。


霧切「……それで、今後はどうするの? ドクターなら、私が言わなくてもわかっているでしょうけど」

K「ああ、俺もずっと考えていたが……今後は重点を石丸の治療から脱出へと移す」

大和田「まさか、兄弟を見捨てんのか?!」

K「違う。知っての通り、俺は外科医だ。人体を切ったり繋げたりするのは得意だが、精神系の
  病の患者は今までほとんど診たことがない。患者の心のケアくらいならよくやっていたが、
  石丸の状態はそんなものとはまるで訳が違う。……正直な話、専門外なのだ」

K「外に出てきちんとした専門医に診せた方が良いに決まっているだろう?」

大和田「……まあ、そりゃあそうだな」


ここから先は言うか言うまいか迷ったが、まだ大和田が納得しきれていないようなのでKAZUYAは続けた。


K「ここでするかわからない回復を期待するより外の刺激を試したい。――家族に会わせるとかな」

苗木・桑田・舞園「……!」

大和田「家族……」

不二咲「……そうだよねぇ。会いたいに決まってるよねぇ」


あまりこの話はしたくなかった。家族の話題を出せば、他の生徒達とて思い出してしまうに
違いなかったからだ。案の定、全員が暗い顔になってしまったが彼等は何も言わなかった。
優しい子達だな、とKAZUYAは内心で彼等に感謝すると同時に申し訳無さを感じていた。




401 ◆takaJZRsBc2014/08/08(金) 13:07:45.98f1tjN5lO0 (4/17)


大和田「わかったぜ。俺も兄弟を家族に会わせてやりてえ。多分、それが今の俺に
     出来る償いだと思うしな。でもそのためにはどうすりゃいいんだ?」

K「実は、まだ形にはなっていないが俺には考えがあるのだ」

桑田「マジかよ! すげーじゃん!」

苗木「本当ですか?!」

K「だが、そのためにはまず生徒全体で結束する必要がある。今の状況では動くに動けん」

舞園「そうですよね。何とか和解出来たらいいんですけど」


そこに霧切が小声で加える。


霧切「……とりあえず、内通者ではないと思われる葉隠君と山田君の確保が最優先事項かしら」

苗木「今までみたいに各自がバラバラに動いてると厳しいかもね」

大和田「つっても、兄弟と不二咲をほっとくワケにはいかねえしなあ」

不二咲「僕は大丈夫だよ。鍵をかけて部屋に閉じこもっていればいいだけだし」

K「もう石丸について隠す必要はないのだ。俺の所にいればいい」

桑田「つーか、今それで思いついたことがあんだけど」

K「何だ?」

桑田「保健室で二人いっぺんに面倒見りゃあ、せんせー以外の手は空くよな? ベッドも三つあるし」

大和田「ハァ? なに言ってんだ、オメェ。個室以外で寝るのは校則違反だろが」

桑田「でも、保健室はせんせーの個室だろ?」

舞園「桑田君、言いたいことはわかりますけどそれは……」


全員が呆れた顔で見るが、桑田の目は至って真剣だった。




402 ◆takaJZRsBc2014/08/08(金) 13:09:58.59f1tjN5lO0 (5/17)


桑田「だって、校則に書いてねーじゃん」

K「校則?」

桑田「もしさぁ、保健室が個室じゃないのにせんせーだけ特別扱いするって言うなら、
    そーゆー風に校則に書かねえとダメじゃね? 校則違反になるじゃん。でも実際は
    なにも書いてねえんだから、実質保健室がせんせーの個室扱いってことじゃねえの?」

「!」


お互いに顔を見合わせる。完全に盲点だった。あの霧切ですら驚いた顔をしていた。
何より、この意見を出したのが桑田だと言うのが一番の衝撃だった。


K「お、お前……よく気が付いたな……」

桑田「あのさぁ、俺だってここ最近はちゃんとマジメに頭使ってるんすけど……」

K「そうだな。すまん」

霧切「今すぐモノクマを呼び出して確認するわ」

モノクマ「その必要はありません!」


話を聞いていたモノクマが堂々と扉を開けて中に入ってきた。


モノクマ「あー気付かれちゃったかー。気付かれちゃいましたかー」

K「つまり、桑田の言った通り保健室は俺の個室扱いで良いと言うことだな?」

モノクマ「校則に追加し忘れたボクのミスだからね。仕方ない。ま、怪我人の面倒でここ最近は
      生徒達まで部屋に篭りっきりで可哀相だったし、そのくらいはいいでしょう」

モノクマ「どうせ脱出なんて出来ないんだし、無駄な努力をして絶望するのもまた一興、みたいな?」

桑田「うるせーバーカ!」

モノクマ「そもそもさぁ、脱出以前に君達は団結すら出来ないってわからない?」




403 ◆takaJZRsBc2014/08/08(金) 13:11:45.72f1tjN5lO0 (6/17)


ニヤニヤ笑いながら話すモノクマに、KAZUYAはまたかと身構える。


不二咲「ど、どうしてぇ?」

モノクマ「だって、ただでさえ先生の派閥は殺人犯が三人もいたのに、今回新たに連続猟奇殺人鬼と
      狂人が加わったんだよ? 既に他の生徒達から避けられまくっているじゃない。壊れて
      おかしくなった石丸君に恐れをなして、とうとうお見舞いもなくなっちゃったし」

「…………」

モノクマ「この状態で結束……だなんて、うっぷぷ。鼻からスパゲティを食べる方がまだ簡単だね!」

モノクマ「つーか、オマエラどんだけカオスなの。先生がわざと犯罪者集めてんじゃないかってくらい
      問題児ばっかり。あ、もしかして先生も裏で色々やってたクチ? 類は友を呼ぶみたいな?」

桑田「ふざけんな!」

大和田「コロがされてえみたいだな!」

K「よせ、お前達」


KAZUYAは桑田と大和田の肩を掴むと代わりに前に出た。


K「俺の生徒に問題児などいない!! みんな自慢の生徒達だ!」

モノクマ「ふーん……十神君も?」

K「そうだ」

「えっ」


生徒達はギョッとした顔をするが、KAZUYAは淀みなく断言した。




404 ◆takaJZRsBc2014/08/08(金) 13:17:40.86f1tjN5lO0 (7/17)


そう、KAZUYAは思い出していたのだ。色々あって苗木のクラスの生徒達と親しくなったKAZUYAは、
十神とも何度か会っていた。一緒に食事をしたこともある。プライドが高く素直でないのは
今と変わらないが、その時の十神は今より遥かに丸く周りからも信頼されていた。


K(記憶を取り戻せば……いや、仮に戻らなくても平和にさえなればまたああなるはずなのだ)

K「俺の悪口ならいくらでも言わせてやる。だが生徒達の悪口は許さん! 出て行け!」

モノクマ「はいはい。わかったよ、もう。じゃあね」


今は分が悪いと判断したのか、珍しくモノクマは素直に去った。


大和田「先公……たとえあんたが許したとしても、俺はあの野郎を……」

K「俺もな、別に十神がやったことを許した訳ではないぞ。ただ、ここは異常空間だ。
  お前達が過ちを犯したように、あいつも一時的におかしくなっているだけだろう」

K「今すぐ許せとは言わん。……だが、人を憎んで得る物などないということは忘れるな」

苗木「そうだよ。ここに来る前からああいうことをしてたならともかく、
    本当は……多分違うよね。十神君も生き残るのに必死なだけなんだ」

大和田「苗木……」

桑田「っかぁー、流石せんせーにマイフレンド苗木だぜ。俺はぜってぇそんな風に考えらんねー」

霧切「別に無理に許してあげる必要はないのではないかしら。私だって
    散々彼に煮え湯を飲まされて、正直に言えばいい加減頭に来ているわ」

桑田「お、いつもクールで鉄仮面な霧切ちゃんが珍しく怒ってるー?」

霧切「……ちゃん付けはやめて頂戴




405 ◆takaJZRsBc2014/08/08(金) 13:19:36.94f1tjN5lO0 (8/17)


舞園「じゃあ、ここから出たらみんなで十神君に報復ドッキリでも仕掛けましょうか?」

不二咲「クス、いいねぇ!」

桑田「寝起きドッキリしてやろうぜ。で、部屋にジェノサイダーぶっこむ!」

大和田「もちろんビデオに録るよな。で、あいつのマヌケ面を全員の前で公開してやるんだ!」

K「フフ、面白そうだな! 普段はそういうことはやらないんだが、俺も一枚噛ませてもらうか」


談笑していると、舞園はあることに気付く。


石丸「…………」

舞園(また、石丸君がこっちを見てる……もしかして、本当は私達の会話が聞こえてるんでしょうか?)


その後、一同は拠点を保健室に移すことにした。石丸が外に出てくれるかが
唯一の不安だったが、不二咲が手を引くとすんなり外に出た。


K「よし。とりあえず、これで石丸と不二咲を一度に看れる。お前達は少し休んでくれ」

大和田「休んでなんかいられねえよ!」

舞園「じゃあ、今後のことをみんなで話し合いましょうか」

霧切「そうね……では今後どうやって葉隠君と山田君をこちらに引き込むかを考えましょう」

桑田「あちゃー。厳しいなぁ、それ」

苗木「でも、時間をかけさえすればきっとなんとかなるよ」

不二咲「ぼ、僕も完全に治ったら手伝うからねぇ」

大和田「おしっ、じゃあ食堂で作戦会議するぞオメーら!」




406 ◆takaJZRsBc2014/08/08(金) 13:20:58.20f1tjN5lO0 (9/17)


               ◇     ◇     ◇


(…………)


珍しく、朝日奈葵は自室に閉じこもっていた。


(今日はお昼までずっと一緒だったから、次は夜ご飯……)


モノクマから大神に依存していると指摘された朝日奈は、以前より大神と距離を
取るようにしていた。そのため、一緒にいるのは一日の半分までと決めている。


(これでいいんだよ……悔しいけどモノクマの言う通り、確かに最近はずっと一緒だったし、
 さくらちゃんだって普通の女の子なんだから……頼られっぱなしはツライはず)

(私が我慢しなきゃ……)


しかし、一人は寂しい。水泳はチームスポーツではないが、常に対戦相手がいる。
ここにも対戦相手足り得る相手はいるはずだが……相手をしてもらえないならいないも同然だ。


(泳ごう。水泳は、結局は自分との戦いなんだから。きっと、今は試練の時なんだ)


そしていつものように朝日奈は水着を手に廊下を歩いていた。

ガヤガヤガヤ……


(なんだろう? なにかあったのかな?)




407 ◆takaJZRsBc2014/08/08(金) 13:23:41.54f1tjN5lO0 (10/17)


最近は十神のせいですっかり学園から生徒の影が消え、たまに見かけても石丸の件があるからか、
学校という場所に似つかわしくないくらい静かであった。こんなに賑やかなのは久しぶりだ。


苗木「あ、朝日奈さん」

朝日奈「みんな……どうしたの、集まって?」

大和田「……見舞いの帰りだ。兄弟と不二咲を保健室に移したからな」

朝日奈「そうなんだ」

朝日奈(お、大和田……)


無意識に、体が強張るのを朝日奈は感じた。大和田が恐ろしかった。

十神と石丸の件については、言っていることの正否は別にして十神のやり過ぎだと思っていた。
そもそも、朝日奈は何かにつけて周囲に悪意を振り撒き揉め事を起こす十神が大嫌いだった。
だから、大和田が十神に怒ったこと自体は妥当だと考えている。しかし……


大和田(ビビられてるみてえだな……まあ、当たり前か。あんな所見られちゃな……)


朝日奈は人より少し元気で運動が好きなだけの、普通の女子高生だ。そんな彼女にとって、人間の
本気の殺意は少々刺激が強すぎた。目を血走らせ、周りに目もくれず怒鳴り続ける大和田の姿が
瞼に焼き付いている。しかも、朝日奈が怯えている理由はそれだけではない。


朝日奈(十神の件は仕方ないにしても、大和田は過去に不二咲ちゃんを襲ってるし……)


大和田が何故そんな蛮行を働いたかは裁判で全て明らかになったが、頭では理解出来ても心では
理解出来なかった。何故なら、彼女はそれだけのプレッシャーも狂気も感じたことがなかったからだ。
想像力が足りない訳ではない。ただ、彼女は今まで普通に平和に生きてきただけなのだ。