1 ◆zvY2y1UzWw2014/05/08(木) 23:50:43.47LdFPouvJ0 (1/3)

 それは、なんでもないようなとある日のこと。


 その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
 時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

 それと同じ日に、宇宙から地球を侵略すべく異星人がやってきました。
 地球を守るべくやってきた宇宙の平和を守る異星人もやってきました。

 異世界から選ばれし戦士を求める使者がやってきました。
 悪のカリスマが世界征服をたくらみました。
 突然超能力に目覚めた人々が現れました。
 未来から過去を変えるためにやってきた戦士がいました。
 他にも隕石が降ってきたり、先祖から伝えられてきた業を目覚めさせた人がいたり。

 それから、それから――
 たくさんのヒーローと侵略者と、それに巻き込まれる人が現れました。

 その日から、ヒーローと侵略者と、正義の味方と悪者と。
 戦ったり、戦わなかったり、協力したり、足を引っ張ったり。

 ヒーローと侵略者がたくさんいる世界が普通になりました。

part1
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371380011/


part2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371988572/


part3
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1372607434/


part4
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373517140/


part5
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1374845516/


part6
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376708094/


part7
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379829326/


part8
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1384767152/


paer9
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1391265027/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1399560633



2 ◆zvY2y1UzWw2014/05/08(木) 23:52:26.65LdFPouvJ0 (2/3)

・「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドスレです。

  ・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。
  ・一発ネタからシリアス長編までご自由にどうぞ。


・アイドルが宇宙人や人外の設定の場合もありますが、それは作者次第。


・投下したい人は捨てトリップでも構わないのでトリップ推奨。

  ・投下したいアイドルがいる場合、トリップ付きで誰を書くか宣言をしてください。
  ・予約時に @予約 トリップ にすると検索時に分かりやすい。
  ・宣言後、1週間以内に投下推奨。失踪した場合はまたそのアイドルがフリーになります。
  ・投下終了宣言もお忘れなく。途中で切れる時も言ってくれる嬉しいかなーって!
  ・既に書かれているアイドルを書く場合は予約不要。

・他の作者が書いた設定を引き継いで書くことを推奨。

・アイドルの重複はなし、既に書かれた設定で動かす事自体は可。

・次スレは基本的に>>980
    
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」まとめ@wiki
http://www57.atwiki.jp/mobamasshare/pages/1.html

モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」@wiki掲示板
http://www3.atchs.jp/mobamasshare/


3 ◆zvY2y1UzWw2014/05/08(木) 23:54:48.35LdFPouvJ0 (3/3)

☆このスレでよく出る共通ワード

『カース』
このスレの共通の雑魚敵。7つの大罪に対応した核を持った不定形の怪物。
自然発生したり、悪魔が使役したりする。

『カースドヒューマン』
カースの核に呪われた人間。対応した大罪によって性格が歪んでいるものもいる。

『七つの大罪の悪魔』
魔界から脱走してきた悪魔たち。
それぞれ対応する罪に関連する固有能力を持つ。『怠惰』『傲慢』は狩られ済み。
初代大罪の悪魔も存在し、強力な力を持つ。

――――

☆現在進行中のイベント

『秋炎絢爛祭』
読書の秋、食欲の秋、スポーツの秋……秋は実りの季節。
学生たちにとっての実りといえば、そう青春!
街を丸ごと巻き込んだ大規模な学園祭、秋炎絢爛祭が華やかに始まった!
……しかし、その絢爛豪華なお祭り騒ぎの裏では謎の影が……?

『オールヒーローズフロンティア(AHF)』
賞金一千万円を賭けて、25人のヒーロー達が激突!
宇宙人も恐竜も海底人も悪魔も未来人も魔法少女も大集合!
賞金を勝ち取るのは……誰だ!


4VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/05/09(金) 08:12:13.21n3uaoOPaO (1/1)

立て乙
ついに二桁目突入ですね
おめでとうございます


5 ◆AZRIyTG9aM2014/05/10(土) 00:28:09.91V1EdhFAt0 (1/13)

投下します。

時系列はイルミナティテロです


6 ◆AZRIyTG9aM2014/05/10(土) 00:29:00.61V1EdhFAt0 (2/13)

黒い雨が降りしきる、街の広場。

多数の蜥蜴のカースが現れ、爆発し、人々は逃げ惑いパニックにおちいっていた。

「ひっ!は、離れろ!離れろぉぉぉ!!」

「あ、あいつはもうダメだ!巻き込まれる前に逃げるぞ!」

「巻き込まれる前にスタコラサッサーだぜ!」

そんな中、逃げている人々の中、一人の男性に蜥蜴型カースがくっついた。

周りの人々はまきこまれまいと、男性を見捨てて一目散に逃げ出した。

男性は必死に払おうとするが、蜥蜴型カースは離れず、そのまま閃光を放ち……


7 ◆AZRIyTG9aM2014/05/10(土) 00:30:17.87V1EdhFAt0 (3/13)

『加蓮ちゃん。そっちお願いします~』
??「加蓮ちゃん。お願いします~」

??「こ、今度はこっち!?」

??「加蓮ちゃん。がんばるにゃ!」

爆発する前に、重なるように聞こえる二つの声と慌ててるような声とそれを応援するかのような声が聞こえたかと思うと、黒い何かが横切り、蜥蜴型カースを飲み込んだのだ。

その黒い何ーー黒い泥でできた蛇を辿って見ると一人の少女の腕から伸びているのがわかる。

そう元・嫉妬のカースドヒューマン北条加蓮である。

加蓮「や、やっぱり変な感じ……あっ、そこの人速く逃げて!!」

蜥蜴型カースを蛇が飲み込んだにも関わらず、蛇は爆発されている様子はなかった。その代わり、加蓮は始めて苺パスタを食べた人のような顔をしている。

が、今はそんな場合じゃないと首を振ると、男性に向かい、逃げるように促した。

「あ、ありがとう」

男性はお礼を述べると急いで他の人達と同じように避難して行った。


8 ◆AZRIyTG9aM2014/05/10(土) 00:31:26.93V1EdhFAt0 (4/13)

みく「加蓮ちゃん。大活躍だにゃ。みくだとあの爆発するカースは厄介だったにゃ!」

菜帆「そうですね~。加蓮ちゃんと相性があってよかったです~」

『嫉妬のエネルギーで爆発される前に加蓮ちゃんの蛇に食べさせちゃえばいいですからね~。加蓮ちゃん調子は大丈夫ですか~?』

加蓮「うーん…変な感じはするけど、取り込んだからって核が再発してる様子はないから多分大丈夫!」

そんな彼女の近くに、猫の獣人・前川みくとベルセブブの契約者・海老原菜帆はお喋りをしながら辺りに逃げ遅れた人と爆発する蜥蜴型カースがいないか警戒していた。

……なんか緊張感が感じられないが…


9 ◆AZRIyTG9aM2014/05/10(土) 00:32:28.40V1EdhFAt0 (5/13)

さて…彼女達がここにいるのかというと至って単純な話である。

それはある二人の発言が発端だった。

K歌『私、友達だけで新年会って言うのやってみたかったの♪』

K蓮『新年会?えっ?みんなで楽しくご飯食べてお泊まりするの!?やる!……ねえ、仁加ちゃん…私の妹も連れて行っていい?』

っと、世間知らずなお嬢様と残念になった世間知らずな元病人のWKが言ったことにより、急遽いつもの日菜子の家で食事してる組+他数名で新年会をやることになったのだ。

そのために買い出しに、加蓮、みく、菜帆&ベルちゃんでここに来たのだ。

その時にイルミナティによるテロが起こったのだ。
ついでに言うと、最初の爆発で加蓮は巻き込まれたのは言うまでもない。


10 ◆AZRIyTG9aM2014/05/10(土) 00:33:44.21V1EdhFAt0 (6/13)

みく「それにしても、酷いにゃ!まるで憤怒の街とはいかないけど、酷いありさまにゃ」

加蓮「………多分、カースドヒューマンの仕業かも。なんか同じような感じがするし…なんて言ったらわからないけど…」

菜帆「私達、巻き込まれちゃいましたね~。どうしましょうか?」

みく「決まってるにゃ!元凶を倒して速く新年会を開くにゃ!日菜子ちゃん達には悪いけど、買い出しが遅れちゃうけどしょうがないにゃ!」

加蓮「そうだね。困ってる人達を放っておけないし……この元凶の人を止めてあげないと…これ以上過ちを犯して欲しくないし」

菜帆はのんびりと聞くと、みくは元気良く、加蓮はどこか悲しげに答えた。


11 ◆AZRIyTG9aM2014/05/10(土) 00:35:37.25V1EdhFAt0 (7/13)

『(……情報収集ありがとう)』

一方、菜帆にとりついてるベルセブブは、菜帆の近くにいた一匹の蝿と会話しながら、考えていた。

『(イルミナティ……マズイですね。バアルちゃんには邪魔をしないよう言われてますし~。邪魔したらバアルちゃんに追いかけられますね)』

…そう。ベルセブブはバアルこと唯に協力を求められていたのだが、菜帆を巻き込みたくないために断り、その代わり邪魔はしない事を約束していたのだ。

『(バアルちゃんはどこに逃げても来れますし………だけど、加蓮ちゃんとみくちゃんに何言っても止まらないと思いますし、力づくで止めたら今日の新年会で美味しいご飯が食べられなくなるのも嫌ですね~)』

だから、イルミナティの活動を邪魔はできない。かといって加蓮とみくを止めるとなると、今日の新年会がパァーになってしまう。

『(…菜帆ちゃんを危険な目に合わせたくないですし、ここは…)』

『じゃあ、ここから二手に別れましょ~。加蓮ちゃんとみくちゃんは二人で原因を探ってください。私と菜穂ちゃんは怪我してる人や逃げてる人を安全な場所に避難させますから~』

……そう。別行動をとり、自分がイルミナティの邪魔をしないで、尚且つ新年会にありつけることだ。

『(今回の目的は虐殺じゃなく、宣戦布告。それなら怪我して動けない人や逃げてる人を安全な場所に避難させても、その人達が今回の恐怖や現状を認識してるのなら、それは心に刻まれ、口伝えに広がる。だから、私はバアルちゃんの邪魔はしていないですよね~)』

『(……それに虫たちの情報ですとこちらを観察してる人達がいるみたいですし、イルミナティかはたまた別の方達かわかりませんが私の手の内を見せるわけにいけませんしね~)』

唯との約束を守り、尚且つ加蓮達の邪魔をしないように、更になるべく自分の実力を他者に見せないためにベルセブブは思考する。

実に悪魔とは思えないだろうが、己の利益と欲求に忠実に動くのは実に悪魔らしい。


12 ◆AZRIyTG9aM2014/05/10(土) 00:36:40.24V1EdhFAt0 (8/13)

みく「そうだにゃ!逃げ遅れた人もいると思うし、それは菜穂ちゃんとベルちゃんに任せるにゃ」

加蓮「確かにその方が効率良さそうだし…そうする」

そんなベルちゃんの考えに気づかず、二人はその提案を受け入れた。

菜帆「それじゃあ、そうしましょ~。ベルちゃんお願いします~」

『任せてくださ~い』

のんびりと話していると、菜帆の背中から虫のそれに似た大きな異形の羽が生えてくる。

菜帆「それじゃあ、二人ともお願いしますね~」

『気をつけてくださいね~』

そう言うないなや、異形の羽を振動させ、菜帆の姿はあっという間に消え去った。


13 ◆AZRIyTG9aM2014/05/10(土) 00:37:36.76V1EdhFAt0 (9/13)

みく「さて、みくたちは原因を探して倒して、サッサッと新年会の買い出しを終わらせるにゃ!」

加蓮「そうだね。まずは……」

加蓮が後ろを振り向くと、爆発する蜥蜴型のカースの群れ、そして、黒い雨により産まれた嫉妬のカースの大軍が見える。

加蓮「コイツらを片付けよう」

加蓮の両腕からいつもの槍ではなく、黒い泥の数匹の蛇を腕にまとわせるように作り出す。

みく「わかったにゃ!爆発する蜥蜴は加蓮ちゃんに任せるから、みくは普通のカース達の相手をするにゃ!」

みくは両手から爪を飛ばし、戦闘体制にはいる。

カースの群れと二人が衝突するように同時に動き出す。

だからなのか、この場にいるもの達は気づかなかった。

加蓮の影が陽炎のように動き、何かを掴むような仕草をしているのを……


14 ◆AZRIyTG9aM2014/05/10(土) 00:38:53.82V1EdhFAt0 (10/13)

ーーー----

『うーん…≪私≫ってトラブルに増しこまれる体質でもあるのかな?』

暗い暗い、枯れ果てた場所。

まるで死後の世界のようなその場所で、北条加蓮……いや、その姿をした≪影≫がどことなく悩んだ様子でいた。

『だけど、おかげでここもだいぶ賑やかになってきたね』

よく見れば、淡く光る火の玉のようなモノが沢山動き回っていた。

『それに≪私≫の役に立ちそうなのも手に入ったし』

そう言いながら、蜥蜴のようなモノを手に持ちながら、楽しそうに微笑む。

『さて、もしかしたら少しの間だけ外に出れるかもしれないから、みんな準備しといてね。特に貴重な戦力になりそうなそこの………ごめん。名前わからないや』

そう≪影≫が言う先には、バチバチと音を立てる苦労してそうな火の玉のようなモノがいた。

果たして、コレは加蓮にどう響くのだろうか?



終わり


15 ◆AZRIyTG9aM2014/05/10(土) 00:43:08.74V1EdhFAt0 (11/13)

追加情報

・イルミナティのテロ現場に加蓮、みく、奈帆&ベルが巻き込まれました

・加蓮とみく、奈帆&ベルで別行動とってます。ベルはこのテロがイルミナティの仕業と知りました

・ベルちゃんはイルミナティの邪魔をしないように、逃げ遅れた人や怪我してる人達を助けて今回のテロの生き証人させてます。だから邪魔してないよー

・おや?影の中の様子が…


ついでに前回貼り忘れたモノ

・影に潜むモノ

加蓮の影に住むモノ。一人称はアタシでだるそうな感じの声をしている。
その正体は祟り場で加蓮を追いかけていた影。
本来ならユズにより消滅されたはずなのだが、究極生命体の一部である加蓮に取り憑いてた事により加蓮の身体の一部となってしまった。

その為、加蓮の影は一種の≪冥界≫となってしまいそこには過去に≪影≫の被害にあった大量の魂や妖怪達が住んでいる。

またエンヴィーモードになると影から取り込まれた死者や妖怪達が影から現れ、死者が生者に≪嫉妬≫するように影に引きずり込むこもうとするが、それの権限は影ではなく加蓮が持ってる。

ついでに加蓮に対しては取り込みたいと思ってはいたが、今は自分自身と一体化してしまったために加蓮の魂を回収しても結局加蓮に帰ってループするため諦めてはいるが
ちゃっかり、彷徨ってる魂は回収して加蓮の影を広くしようとしている。


16 ◆AZRIyTG9aM2014/05/10(土) 00:47:12.40V1EdhFAt0 (12/13)

以上です。

加蓮、テロに巻き込まれる前編です。

ベルちゃんは唯ちゃん達の邪魔をしない範囲で動いてます。約束を律儀に守るとは悪魔らしくない気もしますが…


17VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/05/10(土) 00:50:52.63ctj66v7do (1/12)

おつおつ。いちごパスタ加連ぇ
そして電……電設の人。苦労してるなぁ(泣)

約束(契約)を守るのは悪魔っぽい気がします。正確には契約"は"守るのが


18 ◆zvY2y1UzWw2014/05/10(土) 00:54:21.00hd4snF4e0 (1/3)

乙です
泥での捕食を健全者がやった時の例えがイチゴパスタなのか…ww
というかナチュラルにさらっと爆発喰らってる安定の加蓮である
電気の人ー!活躍できるっぽいぞー!死後だけどー!


19 ◆qTYZo4mo6E2014/05/10(土) 01:05:21.95ctj66v7do (2/12)

この勢いなら言える。ルキトレちゃん投下します
戦闘描写って難しいですね


20 ◆qTYZo4mo6E2014/05/10(土) 01:06:41.77ctj66v7do (3/12)

―――
――


『ジャマダ!ジャマダ!』

『ヒヒヒ、ブッコワシテヤル』


先ほどまで平和だった街中に、黒い泥の体を持った怪物――カース――が2体現れる
侵略者が現れるようになったこの世界では、もはや当たり前になってしまった光景である


男「ひ、ひぃぃ」

『ナニミテヤガンダ!』『マズハオマエカラダ』

不幸にも転んでしまい逃げ遅れた男が、犠牲者になろうとしたその時…



21 ◆qTYZo4mo6E2014/05/10(土) 01:08:15.12ctj66v7do (4/12)


青木慶「……セットアップ」
【文書:RTX-001 正常起動】

パンパンと2発の銃声が鳴り響き、2体のカースに赤い華を咲かせた。

『ナンダゴルァァ』『ヤルノカオラァ』

カースたちが振り向いた先、ビルの上にあったのは

太陽を照り返すメタリックアーマー、肩にライトグリーンで書かれた『ROOKIE TRAINER』の文字

そう、この街が誇る我らのヒーロー《ルーキートレーナー》である

ルキトレ「さぁ、始めるよ! 全力でかかってこーいっ」

そう言って、5階建てのビルから飛び降り戦闘が始まった。ちなみに男はカースが振り返った隙に逃げている


22 ◆qTYZo4mo6E2014/05/10(土) 01:09:05.05ctj66v7do (5/12)


『ッザケンナテメェ!』『ナメテンノカオラァ!』ブンッブン

ルキトレ「よっ、とっ。ダメダメだなぁっ!そんなんじゃ当たらないよっ!」ヒョイヒョイ
ルキトレ(2体1だと1回当たっただけでやばいんだけどねっ!)

2体のカースの猛攻を、やけっぱちにも聞こえる発言をしながらバク転やバク宙、側転によって紙一重で避けていくルーキートレーナー。

【文書:目標確認 左胸】
ルキトレ「よし、それなら……」

そして、ルーキートレーナーの視界にカースの核の位置を知らせる文書が表示されたことで動きが変わった
左手にどこからか取り出した剣――トレーナーブレード――、そして右手には小型の機械――トレーナーボム――を持ち近接した



23 ◆qTYZo4mo6E2014/05/10(土) 01:10:10.08ctj66v7do (6/12)


ルキトレ「それっ」ザシュ

『アァ?』

ルーキートレーナーが切りかかったブレードはカースの左肩にわずかに食い込んで止まり

『オラァ!』ブンッ

ルーキートレーナーを狙ったもう片方のカースの攻撃でそこから裂け、わずかに核を露出させ

【文書:設置完了】

露出部分にトレーナーボムを設置された



24 ◆qTYZo4mo6E2014/05/10(土) 01:11:11.85ctj66v7do (7/12)


ルキトレ「さぁ止めっ!かかってこーいっ」

最後に、2体の間に立って挑発すると

『ヤロウブッコロシテヤアラァ!』『キサマヲコロシテヤルァ!』

憤怒のカースらしく、簡単に挑発に乗る


その後に起こったことを説明するのはとても簡単だ

――2体のカースが真ん中にいるルーキートレーナーを殴ろうとした
――ルーキートレーナーは、ボムを仕掛けたカースのこぶしの先にブレードを添えた
――その後2体のカースの腕の間をすり抜けると


――ブレードはカースの拳によって核に深く突き刺さり

――もう1体のカースの拳はボムの起爆スイッチを正確に押していた


ルキトレ「よしっ」

それを確認したルーキートレーナーは、歓声を背に街を跳び回りどこかへ去って行った



25 ◆qTYZo4mo6E2014/05/10(土) 01:11:44.83ctj66v7do (8/12)

―――
――

<人気のない路地裏>

ルキトレ「ふー、これで終わりっ。上手く行ってよかった」

ルキトレ「よし、人もいなさそうだし変身解除――」
【警告:一般人の反応あり 機密保護の為変身解除を中止】

男の子「あーっ、ルキトレさんだー!」

女の子「わーい、見つけたよー」

ゲームを持った女の子「ふー、やっと見つけたっ」

ルキトレ「……見つかっちゃったかー」

男の子「ねえねえ、バク転教えてバク転!」

女の子「鉄棒教えてー!」

ゲームを持った女の子「えっ、何このマゾゲー」

子供に見つかってしまった。どうやら変身解除して家に帰れるのは、まだまだ先になりそうだ



26 ◆qTYZo4mo6E2014/05/10(土) 01:12:33.93ctj66v7do (9/12)

青木慶
人間の大学生、行方不明の姉が3人いる。
筋力はちょっと鍛えた人程度しかないが、予測や認識能力に非常に長けており、動きは非常に効率的
また、子供に教えるのも上手く、変身後も変身前も運動場のヒーローである。
カースに追われ逃げ込んだ山ので謎の穴に落ち、発見した地下施設でパワードスーツ《ルーキートレーナー》を手に入れる
ちなみにそのカースは施設と一緒に地面の底へ埋まっている。
ビルの屋上へはパルクールで駆け上がった

ルーキートレーナー RTX-001
青木慶が使用する全身メタルスーツ。待機時はベルトのバックルになっている
本人は対カース用の特殊兵器だと思っているが、実は名前の通りただの新人用訓練機であり操作性はいいがその他は抑え目。
というかぶっちゃけ装甲と操作性以外は底辺レベル。カースに同士討ちさせたのはそうしないと倒せないから
(白いクウガとか龍騎ブランクとか電王プラットフォームとかをご想像ください
人(人間)前で変身及び変身解除しようとするとセキュリティ警告が出るので、毎回人目につかないところまで移動する必要がある。
【】内は、バイザーに表示される文章。中の人にだけ見える

他の戦闘用パワードスーツはカースと共に地の底に埋まっている。
謎の崩落現場を態々掘り起こして中にあったものをコレクションするような酔狂な人が居ない限り、陽の目を見ることはないだろう

ルーキートレーナーの装備
トレーナーブレード:何の変哲もない金属製ブレード。折れやすいが3分で復活する
トレーナーハンドガン:訓練用のペイント銃。打った対象を補足できるほか、しみこませればカースの核を発見できる。弾の色は赤
トレーナーボム:貼り付け式の指向性爆弾。核に直接張り付けて起爆すれば破壊できる。
   遠隔爆破はできず爆弾についているスイッチで起爆する。3発までストックできる



27 ◆qTYZo4mo6E2014/05/10(土) 01:16:11.94ctj66v7do (10/12)

かなり短くなってしまいましたが、以上です。(ぐぬぬ、難しい。

ルキトレちゃんの戦闘は、TASさんじみた精密操作で成り立っております。ほんとに人間かこの人
戦闘時の動きはみたいな感じです。



28 ◆AZRIyTG9aM2014/05/10(土) 01:20:59.19V1EdhFAt0 (13/13)

乙ー

ルキトレちゃんいいね!

姉三人行方不明って一体何が……


29 ◆qTYZo4mo6E2014/05/10(土) 01:27:58.59ctj66v7do (11/12)

>>28
慶「『慶へ。ちょっと出かけてくる。何かあったら《麗・聖・明のうち2人》に頼ること。《←で書かれてない一人》より』って書置きを3枚残して出かけましたっ」

そして私は何も考えてないです。思いついた方がお願いします(他人任せ


30 ◆zvY2y1UzWw2014/05/10(土) 01:28:56.39hd4snF4e0 (2/3)

乙です
やだルキトレちゃんの動きパナイの
姉さん達どこ行っちゃったんです…?


31 ◆AZRIyTG9aM2014/05/10(土) 11:54:10.87MBe0ex8sO (1/2)

>>16に追加で

みくにゃんお借りしました!


32 ◆qTYZo4mo6E2014/05/10(土) 12:59:38.09ctj66v7do (12/12)

おっとと、ゲームを持った女の子お借りしましたー。
一体誰なんだろうなー(棒)


33 ◆sULNt76UFI2014/05/10(土) 19:13:33.46ceArWc+Lo (1/1)

お二方乙です

>>16
K歌さんに言動にどこか某軽音漫画のK吹さんを思い出すww
K蓮ちゃんは安定して残念ですが影の中はとんでもないことになってるのね

>>32
ルキちゃんすごい(KONAMI)
ゲーム少女はやはりSちゃんか
その子が追ってる理由は果たして


34 ◆BPxI0ldYJ.2014/05/10(土) 23:23:30.10jdICBmJV0 (1/18)

憤怒の街が遂に完結、イルミナティvs櫻井財閥、加蓮の影が密かに蠢き、いろいろ気になる新キャラ登場。
良い傾向です。負けてらんねぇぜ!

そんなわけで飛鳥ちゃん学園祭珍道中その2投下しまー


35 ◆BPxI0ldYJ.2014/05/10(土) 23:26:23.88jdICBmJV0 (2/18)

「そろそろ休憩にしましょう」

 不意に、後ろから投げかけられる言葉。
 それを聞きいた特攻戦士カミカゼ───向井拓海は目の前に並ぶ人々にその旨を伝える。

 ある者は抑えようとして抑えられず、ある者は半ば反射のように、ある者は隠そうともせず、思うところは数あれど、彼女を目当てに来た者は落胆の声を共通して漏らした。
 予め決められていた事とはいえどこか罪悪感を拭いきれず、せめてもと”アイドル”として目一杯の愛想を振り撒く。
 ついでに次に控える仕事の宣伝もしておく。
 取り敢えずは納得して貰えたようで、満足とは足りなくとも騒ぎを起こすようなマネは無くてなにより。

 安堵を胸の奥に仕舞い込み、地を踏む脚に力を込める。
 曲げた膝をバネに大地を蹴り出せば163cmの体は数メートルを跳躍、そのまま人目から消えていった。

 所謂一つのファンサービス。異能の者の退場は普遍であってはならないのだ。


 かくして跳び去ったカミカゼは、数度の跳躍を経て人目の付かない小影に着地する。尋常ならざる衝撃を身に受けるも、尋常ならざる体には何の影響もない。
 まるで階段を少し飛ばしたかのような気楽さで無事着地に成功する。

 首を回すついで、周囲に人が居ないかどうかを確認する。

(誰も居ねぇな……)

 終えると、向井拓海は体を解すように肩を伸ばす。それだけでは足りず、背中を少し反らして全身を伸ばす。

「くぁ……」

 思わず大きな欠伸が出る。
 アイドルとしてもヒーローとしても見栄えの良い行為ではないが、人が居なければ大口を開けてさえ出来るというもの。

 数時間コインを投げて過ごした体は予想以上に固まっており、軽いストレッチを行いたくなる程だ。

 実際した。

「………ふぅ」

 屈伸を終え、準備運動レベルのストレッチを終える。





「転身」

 静かに、敵意を孕んで唱えられる。


36 ◆BPxI0ldYJ.2014/05/10(土) 23:27:23.04jdICBmJV0 (3/18)

「出て来な」

 アイドルとしての向井拓海は既に消えた。
 両の拳は固く握られ、脚は地面を踏み締める。
 その立ち姿に隙は無く、その背中には甘え無し。
 漢が惚れるその尊容、”ヒーロー”特攻戦士カミカゼがそこに居た。


「流石、かな」

 ゆらり、影が揺れる。
 幽鬼の如く掴みようの無く、妖魔の如く障気を散らす。
 黒い闇に包まれたそれは人型であること以上を伺い知ることは出来ず、ともすればカースにも見えるかも知れない。
 しかし黒と言うには暗過ぎる、まるで光を拒絶しているかのようなそれはカースなどと生易しい物には感じられず、やはり何も伺い知ることは出来ない。

「気付くなってのが難しいぜ、人の事ジロジロ眺めやがって、アタシのファンか?」

「そんなに熱っぽかったかな?ボクの視線は」

「………テメェ何モンだ?」

「……通りすがりの悪魔、」

「ケッ、随分とちんちくりんな悪魔も居たモンだなァ?」

 言葉を紡ぐ毎、影は一歩ずつにじり寄る。隙だらけのようで、誘うような足取りはどこか近寄り難い。

 貫くような眼孔が、影の双眸を捉える。真っ黒の人体にふたつだけ灯る瞳はひどく不気味だった。

「…………」

「…………」

 静寂を彩るように、互いの間を風が吹く。


37 ◆BPxI0ldYJ.2014/05/10(土) 23:29:00.32jdICBmJV0 (4/18)

「…………らッ!」

「…………ッ!」

 季節の移りを象徴するそれを合図に、両者は大地を蹴った。
 木の葉が巻き上がり、地が割れ、その者達の膂力を体現する。

 たかが数十メートルという間合い、異能の者には短か過ぎた。猛烈な相対速度の中、一秒と経たず拳の射程に互いを捉える。

 激突。
 残像すら残す速度が殺し合い、伸びきった鋼の腕と影の拳が火花を散らす。凄まじい拳圧が風圧となって駆け抜け、その破壊力を有象無象を伝える。

 殺人的な衝撃により芯が逸れ、ベクトルのズレた拳はけたたましい擦過音を鳴らして交錯する。 
 やがて高度を維持できるだけの速度を失った両者は慣性を残して落下する。地に着いた足が地面を穿ち、その勢いに引っ張られその場から長い爪痕を引いた。

 影が姿勢も整わぬ間に腕を大きく振るい、左足を軸に体勢をぐるりと捻じ曲げる。いち早く回り、残光を描いた瞳がカミカゼを捉えると、空中に遊ぶ右足を無理矢理に振り下ろしそのままの勢いで大地を蹴り出した。

「ふっ………!」

 過剰な脚力を受けた地面にヒビが走り、影は飛ぶように跳び、弾丸の如く間合いを詰める。
 最中視線が衝突し、迎撃の拳がカミカゼより振るわれた。

「しァッ!」

 抉るように、気迫を乗せて打ち込まれるカミカゼの左腕。

「……!」

 対する影は猛烈な勢いで迫るそれを、すり抜けるようにして逃れる。
 耳元を過ぎる破壊力が軌道上の空気を押し退け、圧力となって大気を震わす。甲高い音が風を切り、鼓膜から空気が奪われたような感覚を与える。


38 ◆BPxI0ldYJ.2014/05/10(土) 23:30:34.51jdICBmJV0 (5/18)

 その脅威に戦慄する隙すら許さず、既に追撃の蹴りが放たれている。
 そのプレッシャー故か、振るわれる脚は何倍にも質量を増大させたように映り、ともすれば丸太が迫るかのようにも見えた。
 加速する体を半ば倒れ込むようにして低くとり、すかさず頭上を腕で庇う。直後、影で形取られた手甲に鋼の蹴りが打ちこまれ、派手な音が頭上で響く。
 手甲に対して斜めに命中した蹴撃は、流れに沿って表面を滑る。硬質同士が擦れ合い、不愉快でけたたましい金属音が重い衝撃と共に互いの体を貫いた。

 影は鋸で腕を削られたような感覚を覚えるが、怯むこと無く。

 擦過の余韻が残る腕に鞭を打ち、カミカゼの脚を押し退けるようにして弾き飛ばした。
 大きく振り上げられた右足と、未だ体重を支える左足。攻撃をいなされ、不安定な体勢のまま大きく隙を晒す結果になった。

 マスクの下で芳しくない状況に歯噛みするも、カミカゼも黙ってはいない。有り余る膂力で足に働く慣性を殺し、震脚の要領で地に叩きつける。凄まじい脚力に大気は震え、地面にめり込んだ足から地震のような振動が響き渡っていく。
 強引に姿勢を持ち直したは良いが、しかし状況は好転したとは言えず、隠そうともしない舌打ちをアーマーの中で鳴らした。

 作り出した隙に飛び込み、軽い意趣返しだとでも言うのだろうか、真っ黒い装甲に包まれた脚が鞭のようにしなり、鋭い蹴りを浴びせかける。
 大上段に振るわれたそれを回避する余裕はカミカゼには無く、引き締めた腕でガードの体勢を取るほか無かった。

「ぐ────ッ!!」

 それから攻撃が襲い来るまでに寸秒ほどの間も無く、身を固める腕を相手の蹴りが芯に打ち据え、次いで凄まじい衝撃がカミカゼを襲った。華奢な脚から繰り出された重い破壊力は、幾度目かの金属音と共にヒロイックなアーマーの下、肉で固められた骨の随まで響きじんじんとその余韻を浸透させる。
 堪え、食いしばられた歯の隙間から短く呻き声を漏らし、さしものカミカゼもその上体をぐらつかせた。

「ふっ!」

 効果を確認すれば、相手は息を付く間も与えず次の攻撃に移る。静かな掛け声に確かな闘志を灯し、脚を引いたそのままから反転、左回りの勢いを乗せ、肘鉄がまたも腕に向けて叩き付けられた。
 金鎚もかくやという威力のそれは、先程の蹴りには及ばずとも確かな衝撃をカミカゼに伝える。
 崩された重心に追い討ちを受け、安定を取ろうとした左足は無意識のうちに後退っていた。

 僅かに開いた間合いを詰めるが如く、影は右足を一歩踏み出す。下方から抉り込むように接近し、肌と肌が、装甲と装甲が触れ合うまでに踏み込み、フェイスガードの下、相手の目線の死角───固められた腕の向こうから拳を繰り出した。
 顎を狙い澄ましたアッパーカットは残像を残して接近、その目標を────


39 ◆BPxI0ldYJ.2014/05/10(土) 23:31:54.62jdICBmJV0 (6/18)





「チョーシ、乗ってンじゃねェ……!」



 ─────打ち据えることは、無かった。

 その拳はカミカゼの眼前で止まっていた。

 否、止められていた。

 腕力を受けた腕が小刻みに震え、それをカミカゼの手が押さえつける。襲い来る敵意を捉え、掴み、捕らえ、止め、握り、そのまま潰してしまいそうにすら思える。
 明確の過ぎる危険から逃れようと、力を込めて腕を引く。
 逃げられない。カミカゼの眼孔からは、掌からは、握力からは、敵意からは、恐怖からは、危機からは、怒りからは、覚悟からは。
 逃げられない。逃げられる道理など在る訳が無い。

 みしみしと、不穏な音が腕から響く。それは数秒毎に存在感を増し、迫り来る脅威を嫌と言うほど伝える。

         ステゴロ
「────アタシに素手喧嘩を挑んだ度胸は褒めてやるよ……」

「体捌きにしてもなかなかのモンだが………」


 握る掌に力を込める。


「たが、ちっ──とばかしおイタが過ぎたみてェだなァ?…………」


 ───ばきり。

 おぞましいまでの握力に耐えられず、ついに手甲にヒビが走る。


 ───ばきり。

 めきめき。

 みしみし。

 みきみき。

 べきべき。




「オイ」


 ───ばきり。


「歯ァ」


 ばきり。
 ばきり。ばきり。


 ばきり。ばきり。ばきり。ばきり。ばきり。ばきり。ばきり。ばきり。ばきり。ばきり。ばきり。


40 ◆BPxI0ldYJ.2014/05/10(土) 23:33:04.50jdICBmJV0 (7/18)




「………喰いシばれぇえええエエエエェあああああああああッッッ!!!!!」


 大地を震わす絶叫が腹の底から響き渡り、龍の如く咆哮が森羅万象を伝い天を砕く。
 腕を肩から引く抜かん勢いで掌を振り上げ、技も無く、知恵も無く、ただただ力のみで相手の無防備を晒す。

 右足を上げ、ぐるりと体を回転させて───


 ───ある一点を超えた地点で、猛烈な力が乗せられる。ぶわりと、音が聞こえる程の力が込められる。軌道上の空気までも蹴り飛ばし、突風となって吹き荒ぶ。残像を残すばかりか景色までも歪ませる。

 鋼鉄を灰燼と帰すまでのパワーが、防御の字のない影に迫る。

 防御の字が無ければ、回避の字も無く。

 無防備。無抵抗。残された道はただ一つ


 命中。
 激震。
 破砕。
 粉砕。


 今日という日において最大の威力を持った回し蹴りが、向井拓海の怒号を孕んだ回し蹴りが、有り余る破壊力が空間までもを砕かんばかりの回し蹴りが──

 ──哀れ、無防備な影に叩きつけられる。

 その身に有り余る攻撃翌力は装甲を砕くばかりか、その肢体を遥か上空に砲弾の如く打ち上げる。二度目の突風が吹き荒び、気持ちの良い程かっ飛んで行く。

 悪魔を名乗る影は消え、その場には脚を振り上げ、攻撃の余韻を残すカミカゼが残った。


41 ◆BPxI0ldYJ.2014/05/10(土) 23:34:29.03jdICBmJV0 (8/18)

 蹴りを繰り出した脚を庇うように、ゆっくりと地に着ける。

 敵を打ち砕いた。
 それは紛れもない事実に見える。


 だが、仮面の下、向井拓海の表情は芳しくない。

 瞳に灯る火は未だ消えず、堅く結ばれた口は弛むことがない。

 まるで、まだ闘っているかのように。


「…………」

 耳を澄ませば聞こえてくる。
 空気を裂いて接近する音が。
 数秒毎に勢いを増す音が。
 上空より迫り来る音が。


 まだ生きている奴の影が。


 拳を再び握り締め、地を蹴って後ろ跳びをする。

 直後、カミカゼの居た空間を猛禽の如く振り下ろされた”爪”が切り裂き、その切っ先が地面に三本の傷を抉った。
 おそらくは位置エネルギーも加算されていたのであろうそれは、カミカゼをして、”もしもそこに自分が居たら”と悪い想像を働かせる。
 それほどまでに強烈で、鋭利で、凶悪な一撃であった。

「手応えが無ェと思ったぜ……!」

 吐き捨てるように、誰に言うでもなく呟く。

 視線の先に浮かぶは影。
 腕を振るって土を払い、不敵な瞳を覗かせる影。

 その背中には新たに翼が携えられ、その両手は鉤爪へと変貌している。蝙蝠を思わせるそれは分かりやすいほど禍々しく、人の身に余る大きさのそれは、成る程悪魔を名乗っていても問題はないように見える。

 真っ黒い、表情の読めぬ顔をカミカゼに向けたけり、脱力したように両の爪を提げる。ばさりばさりと羽音鳴らし、ただただその場に浮かび続ける。
 体に合わせてぶらぶら揺れる腕は酷くだらしなく、今すぐにも叩き落とせてしまえそうに思えるが、隠しきれない気迫はそれ以上の物を感じさせ、彼女が実力を出し始めた事を伝えている。
 それについてはカミカゼに於いても同様で、たかが数発の打ち合いなど、ウォーミングアップもいいところだった。

 睨み合う両者。

 羽音だけが時間の経過を感じさせ、耳を塞げば時間が止まっているように思えることだろう。
 そんな事を考えさせる程の静寂。


42 ◆BPxI0ldYJ.2014/05/10(土) 23:35:58.56jdICBmJV0 (9/18)

「はあっ!」

 破ったのは、影の気合いと一際大きい羽音。
 羽が大気を叩きつけ、背後に風圧を推進力の如く打ち出す。漂うのみだった体が不意に弾き出され、蝙蝠の羽根を器用に制御しながら、鋭角的で、曲線的で、直線的で、不気味なほど不規則な機動でカミカゼに襲い掛かる。
 手慣れたようなその機動はさながら水を得た魚のようであり、カミカゼに、なかなかどうしてやり手であると一種の畏怖を抱かせた。

 なればこそカミカゼは動じず、両の足で地面を錨のように噛み締め体をその場に固定させる。腰を落とし両脇を締め、拳を顎の前に置く。
 所謂ファイティングポーズを取り、万全を以て迎え撃った。

 依然として不気味な程不規則に飛ぶ。右に左に上に下に。縦横無尽に、ともすれば嘲るように飛び続ける。

 対するカミカゼは敢えてそれを追わず、対照的に静寂を保つ。静かにその距離だけを測り、攻撃を放つその時を、カウンターを狙う機会を虎視眈々と待った。

「せえっ!」

 塗り潰したように黒い爪を右手より振りかざされる。反応したカミカゼはその眼孔を煌めかせ、満を持して右腕の突きを繰り出す。 
 その拳が影を打ち据えんとしたその時、鉤爪はそのままの勢いで切り裂くかに思われたが、突如としてその慣性をねじ曲げる。

「っ!?」

 暴風をはためかせ、不可視の力に引っぱられる
ように反対側へ飛び去る。右手に気を取られていたカミカゼの反応は遅れ、結果その攻撃は左腕でガードするに留まった。
 嫌な奴。胸中で呟き、アーマーの下で憎々しげに影を睨みつける。

 腕とかち合う力が緩んだかと思えば、矢継ぎ早に次の斬撃が放たれ、すぐさま逆側からの衝撃がカミカゼを襲う。相手を叩き落とさんと右の腕が振るわれるも、先んじてその右爪がカミカゼに迫っていた。

 不意にぞっとした物を感じ、守る左腕を突き出してその右爪の軌道を逸らす。直後三つに割れた切っ先の内二つが両の頬を掠め、フェイスアーマーに一本の傷を引く。
 削られた破片を視界の端に捉え、背筋にひやりと冷たい物が走る。


43 ◆BPxI0ldYJ.2014/05/10(土) 23:37:07.84jdICBmJV0 (10/18)

 ようやく現れた右腕が横殴りの拳を繰り出すも、影はその身を翻し、行き場を失った威力は暴風となって駆け抜けるのみとなった。

 左後方に飛び去った影から放たれる爪を、視線を転じるまでもなく防ぐ。振るわれる毎に空気を切り裂き、接触の度に金音が響いた。
 右足を軸、地面を抉りながら回転し、遅れて無機質な顔を敵意に向ける。
 勢い良く振り下ろされた両爪を身を固めて耐えきると、一際強い衝撃がカミカゼの装甲を貫いた。

 無数に振るわれる爪の数々は、強いと言うよりも先に速いと思わせる。しかし考えなしに受けきれる程虚弱でもなく、ガードの上から走る衝撃は各所に傷を刻んでいき、装甲を伝いじわりじわりと向井拓海の肉体を蝕む。
 気持ちの悪い相手。真っ向からの正面衝突を好むカミカゼからして御し易い相手ではなく、愚であると理解しながらもイライラを募らせていた。

 がりがりと音を鳴らしながら散る火花が目に耳に鬱陶しく、腕を振り回して爪を弾き飛ばす。その衝撃を利用しくるくると回りそのまま視界の外に逃げていく影。視線が半ば反射的に追従し、それに引っ張られるように体が続く。
 その勢いのままに腕を振り回し、刈り取るようにして影を狙う。影はひらりと小さく宙返りをし、またも腕は虚空を抉った。
 体にかかるGにも似た慣性を噛み殺し、間を置かずに左のジャブを打つ。拳が放たれる前に左旋回していた影はそれを逃れ、右斜めから左爪を繰り出す。

「っ!」

「オラァッ!!」

 その時、カミカゼは防御を捨てた。
 影の居る左前方に踏み込み、右腕を振るう。
 ガードを取らない体は爪の衝撃をもろに受け、脳みそをぐらりと揺らす。
 カウンターのように打ち込まれた拳は、影からして予想外であったらしく、僅かに回避の遅れた鎧を拳が掠めその砕けた破片を周囲に散らす。

 仮面の下、向井拓海は唇の端を愉快そうに吊り上げる。


44 ◆BPxI0ldYJ.2014/05/10(土) 23:38:45.47jdICBmJV0 (11/18)

 相手の攻撃は驚異だが、それでも致命傷には成り得ない。対してこちらの攻撃力に対してあちらの鎧は脆く、直撃させられれば破壊は容易。
 相手の攻撃は致命傷にならず、こちらの攻撃は致命傷になる。手数で負けているが、それ以上にパワーで勝っているのだ。
 捉えるのが難しいならば捉えられるまで打ち込むまで。そこに防御は必要無い。
 作戦と言うにはあまりに粗暴で、されど彼女の生き様を体現するかのようなそれは、その場に於いては確かに有効な策であった。

 気合いを盾に爪を耐え、根性を杖に体を支える。その足は踏み出す為に在り、その拳は砕く為に在った。
 攻撃が来れば好機と捉え、後ろに逃げれば食らいつく。精巧な技術に裏打ちされた猪突猛進。

 繰り出し、打ち込み、抉る。
 爪が襲い来ようと揺らぐことなく、破片を散らしながら左腕を大振りに振り回す。

 鎧の下で嫌な汗を滲ませながら、それでも影は空を飛び続ける。巧みな機動でカミカゼを交わしながら、襲い来る敵意をすり抜けながら。
 それは恐ろしく素早く、凄まじく不規則で、憎らしくおぞましい。

 ────だが。

 ここで彼女は気付くべきだった。

 向かい合うカミカゼの拳は。

 歴戦の拳は。

 それ以上に、覆さんばかりに───


 ───鋭い。


45 ◆BPxI0ldYJ.2014/05/10(土) 23:39:53.21jdICBmJV0 (12/18)

 ひらり体を翻し、手足を振り回した慣性で相手に正対する。右前方から対角を突っ切るようにして動いたお陰で、まだ相手の体はこちらを捉えきってはいない。
 瞳はその限りではないが、相手が行動するより先、こちらの翼がはためいている。
 翼で空気を蹴りつけて、後方に風を打ち出し、前方に突風を纏って突撃。耳元を気持ちの良い音が通り抜けていく。
 ぎらつく視線がこちらを見据え、捻りを加えられた裏拳が繰り出される。一種で的確に軸を捉えたそれは、やはり驚嘆すべき物がある。
 命中まで寸秒と無い間、猛烈な勢いのまま頭を垂れる。速度と体重がぐんと下に働き、落ちるように潜り込む。僅かに拳が背中を掠め、金属音が内部を伝播する。しかしこちらの勢いを殺ぐには至らず、僅かに破片を抉るのみ。
 舗装された地面が目前に迫り顔面に不可視の圧力が圧しかける。すかさず反り返る勢いで体を振り上げ、同時に翼で真上への力を発生させる。頭上には青空が広がり、先程の景色と併せ一種の開放感を感じさせた。
 激突してしまいそうな程接近して、上昇の勢いを乗せた爪撃でカミカゼの胴体を切り裂く。腰から右肩にかけて、さながら袈裟斬りのように斜めの傷を刻みつけた。

 反撃の拳が来る前に体を捻らせる。そのまま横ロールをして、その場からの離脱を図る。カミカゼを見やれば、先の攻撃により、ダメージになったとは言えずともその体を仰け反らせている。 

 このまま回り込んで追撃の爪を───



「───────」


「っ!?」


 ぎろり。

 カミカゼの瞳だけが動く。


46 ◆BPxI0ldYJ.2014/05/10(土) 23:40:59.95jdICBmJV0 (13/18)

 その瞬間、カミカゼを中心に突風が吹き荒び、同時に空気がどろりとした粘性に変質する。
 それは悪寒となって体を駆け抜け全身の毛穴を萎縮させ、それは泥のような粘り気を以て肢体を絡め捕り、指の先まで動きを鈍らせる。

 それらは全て錯覚である。

 カミカゼの放つ無言の圧力が不可視の風を起こし、何倍、何十倍にも引き延ばされた時間感覚が空気の泥を作り出したのだ。

 カミカゼの右腕がゆっくりと持ち上げられる。

 かつてない戦慄が襲い来る。

 あれはダメだ。逃げなければ。避けなければならない。一心不乱に唱え、全身に力を込めて逃避を試みる。
 されど体はそれに反応せず、動くにしても鈍すぎる。何故だ、何故動かない。思考だけが先行し、声にならない叫びが胸の内に反響する。泥はクッションのように体を支え、墜落することさえ許されない。
 もし普段の肉体であれば今頃脇は冷や汗でぐしょぐしょだろう。しかし動くのは意識のみで、代謝さえも鈍っている。

 じわりじわり。ゆっくりと。
 しかし、確実に迫ってくる。

 もしも狙いが逸れていれば。ありもしない事を考えるも、その拳は軌道上に置かれるように、おそらくはこちらの動きを読んでいるのだろう。冷酷な程正確にこちらを据えている。

 せめて一瞬の出来事であれば、まだマシだったかも知れない。ゆっくりと確実に驚異を滲ませる拳を視界の端に捉えながらそんなことを考える。

 息を吸えず、視界が拳でいっぱいになる程接近する。殴られる事は確定事項で、既に時間の問題だ。

 ────がちり。

 硬質同士のぶつかり合う音がじっくりと、水中で聞くように低く響き───


47 ◆BPxI0ldYJ.2014/05/10(土) 23:42:16.76jdICBmJV0 (14/18)

「─────ォラあッ!!!」


 直後、影の頬を渾身の右ストレートが貫いた。影で構成された仮面の左半分が砕け散り、真っ黒な中身を露出させる。
 暴力的なベクトルが加わり、離脱のための横ロールは失墜の錐揉み回転へと変貌を遂げた。

 すかさず左の拳をぐっと握り締める。
 追い討ちをかけようと言うのだ。

 右足を大きく踏み出す。後方に振りかぶった左手を前方に引っ張り出す。その勢いで二度目の右ストレートを放つ。


「……ッ!!」

 しかしこの影もカミカゼと渡り合った相手。ただ殴れるだけでは終わらない。凄まじい回転の中、相手の視界を誤魔化しながら反撃の策を練っていた。
 まともに捉えることは出来ないが、既にその手に鉤爪は存在していなかった。──おそらくは彼女のできる最後の抵抗──二つ分の質量を一つに纏めて別の質量とした。
 すらりと伸びる持ち手、極端に肥大した先端。愚鈍なまでの力の象徴、影で出来た鉄槌。

 少し遅れたが、カミカゼはそれを認識する。しかし攻撃のみを考えたそれの体勢は回避を許さない。──よしんば可能だったとして、今度は彼女の矜持が許さないだろう。

 最後まで諦めることを良しとせず、一矢報おうとするその姿は賞賛に値すべきものなのだから。

 その形状と凄まじい回転を攻撃力に転化し、強烈な遠心力を得るに至った鉄槌。

 固く握られ、人知を超えたパワーで放たれる拳。

 縦の回転により叩き下ろされ、勢いのまま一直線に打ち出され────


 ───鉄槌が、先んじてカミカゼを打ち付ける。
 伸びきった左肩に直撃。削られるのみだった装甲を潰し、波紋の如くヒビを、内側からスパークの光を押し広げる。

 次いで、鉄拳が影を貫く。
 腹部に直撃。先の攻撃で勢いが削がれていたとは言え、その鎧を粉砕し踏ん張りの利かない体を吹き飛ばすには十分過ぎる威力があった。

 肩から重い鈍痛が全身に響き渡り、奥歯を噛み締めながらたまらず膝を着いた。

 腹部を鋭い衝撃が貫き、粉塵を巻き上げながら地面を転がっていく。

 カミカゼの耳元でバチバチと火花が爆ぜ、煙の向こうでめきりと鈍い音が鳴った。


48 ◆BPxI0ldYJ.2014/05/10(土) 23:43:36.53jdICBmJV0 (15/18)

「………流石、と言うべきかな」

 晴れ始める煙の中から声が聞こえる。

「ケッ……案外元気そうじゃねぇか」

「いやいや?これでも結構参っているよ」

「そうは見えねぇがな」

 影はその鎧を崩壊させはじめ、砕いた仮面の左半分からは少女の澄まし顔を覗かせている。
 苦痛を訴えているようには見えず、虚勢を張っているのか、それともまだまだ余裕なのか。いまいち推し量れず、勝利したのかすら曖昧になる。

「カワイイ顔してなかなかやりやがる……」

 自分の体を眺めながら忌々しさ半分、賞賛半分に吐き捨てる。
 大きなダメージは肩のみであるが、下手に見せればちょっとした騒ぎになるだろう。

「ふん?…まぁ、容姿に自信が無い訳じゃあ無いけれど、少しこそばゆいかな…」

「そっちじゃねぇよ、テメェアタシを誰だと思ってやがる?」

「知ってるさ。みんなのアイドル、向井拓海だろう?」

 あの質問の後にアイドルかよ、せめてヒーローを付けろよ。先の反応と言い、天然なのか?わざとやってんのか?
 胸中に問うても答が出るはずもなかったが、視線の先に映る頬はほんのり赤みがかっているような気がした。
 何でだよ。

「……で、まだやんのか?」

「遠慮しておくよ。ただでさえアイドルをキズモノにしたんだ、これ以上となるとボクもどうなるか理解らない」

「中身はまだピンピンしてるつもりだがな」


49 ◆BPxI0ldYJ.2014/05/10(土) 23:45:15.47jdICBmJV0 (16/18)

「お互い後が控えているんじゃあないかな?仕掛けておいてなんだけど、大怪我をするのは望むところじゃあ無いだろうし、どちらが勝ったとてどちらも得しないんだ。」

「なら何だって………」

「なあに、ちょっとした悪巧みさ」

 くつくつと喉を鳴らし、口元を悪戯っぽく歪めてみせる。クールそうに見えるが、コロコロと表情が変わってなかなかどうして愉快な奴。

「この事は、同盟に報告させてもらうぜ」

「是非とも」

「………ケッ、読めねぇ奴……」

 その癖妙な態度もとってみせる。何というか底が見えず、当たり体に言ってすごく胡散臭い。

「それじゃあ、ボクはこの辺で失礼するよ」

「次会うときは……そうだね、味方として会いたいな」

 こちらに背を向けて歩き出すと、「また会う日まで」と言い残し、影に飲み込まれるように音も無く消えていった。

 ガチャガチャと音を立ててスーツが形を崩していき、元のバイクの姿となる。

 辺りは嵐の後のように静かで、火照った体を撫でる風が、草木を揺らす音のみが目立つ。

 そこかしこを抉られた地面と、ヒビの走った木の幹、そこに素のままの向井拓海が残された。

 戦闘の残響を全身に感じながら、ふと傍らのバイクを見やる。そこかしこに傷が目立つ。後で労ってやらねばなるまい。

 帰った後のことを考えていると、その表面に相棒の顔が浮かび上がってきた。

 傷は基本的に装甲に留まっているので損傷は見た目ほど酷くはないが、それでも見た目にはかなり痛々しい。


 思う。


 こんなバイクを見せたら、また小言を言われるんだろうな。


50 ◆BPxI0ldYJ.2014/05/10(土) 23:46:39.68jdICBmJV0 (17/18)

※善悪問わず実力者に正体を隠した飛鳥ちゃんが喧嘩を売っています。
 でもカースが居たらそっち優先。


能力詳細:影を司る能力

近くにある影から質量を作り出す→光を反射せずシルエットしか見えません。大きくするほど、堅くするほど大きな影が必要。でも結構脆い。
 相手の足元から針を出すなんて芸当も出来るが、意識をそちらに向ける必要がある。

影と影を移動する→所謂瞬間移動。触れ合っていれば他人も一緒に。でも戦闘中咄嗟に出せるほど便利じゃない。登場、退場にどうぞ。

七罪探知:こちらは能力ではなく技術。強欲Pの思い付きと、飛鳥の努力の結晶。魔術もどき。目がすごい疲れる。
 飛鳥は自身の能力にかけて『心の影を覗く』と呼ぶ。


51 ◆BPxI0ldYJ.2014/05/10(土) 23:51:41.15jdICBmJV0 (18/18)

カミカゼ、向井拓海お借りしました

……大丈夫だよね?どっか矛盾してないよね?


戦闘描写にこだわり始めると本当にキリがない。
結果総文字数は約一万。楽しかった。






52 ◆AZRIyTG9aM2014/05/10(土) 23:52:03.61MBe0ex8sO (2/2)

乙ー

飛鳥なかなか強い!
実力者探しか…晴ちんと戦わせてみようかな?


53 ◆zvY2y1UzWw2014/05/10(土) 23:57:10.81hd4snF4e0 (3/3)

乙です
やだ飛鳥ちゃん強い。そして戦闘描写パナイの


54 ◆6osdZ663So2014/05/11(日) 14:40:03.26dR5qdFxMo (1/1)

>>33で書いたトリが全然違うことに気づく
わたしだー!

>>51乙です
戦闘描写が超濃厚ですごいの(KONAMI)
飛鳥ちゃんの企みはいかに


55 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/05/11(日) 22:46:28.8713mgev/DO (1/13)

憤怒の街最終決戦の時間軸で投下します
今から悪い憤怒Pに罰を与えっからなあ!


56 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/05/11(日) 22:48:30.2513mgev/DO (2/13)


‐1‐

 コツ……コツ……コツ……その闇の中に、一定の間隔で響く足音を除いて生命の気配はない。
 壊れた非常灯が時折思い出したように点滅し、黒い人影を血まみれのコンクリート壁に映し出す。
 足元にも乾いた血溜まり。この非常階段にまで入り込んだカースによる殺戮の痕跡だ。

「上と下を挟まれたなら、どこへ逃げれば生き残れたんだろうな」

 通気性の悪いこの空間には、未だ死の匂いが留まる。どれだけの人間が絶望の中に死んだのか。彼は誰に言うでもなく呟いた。
 返答はない。当然だ。あるいは“彼女”がここにいれば何か気休めでも返してくれただろうか。

「…クソ野郎め、まさか逃げちゃいないだろうが」

 あの不愉快な男は、随分と岡崎泰葉に入れ込んでいるようだった。勝つにしろ負けるにしろ、最後まで見届けるつもりだろう。
 この地獄にあってようやく研ぎ澄まされつつある彼のヒーロー第六感もまた、オロシガネ吊り天井めいた邪悪な存在感を上階に察知している。
 これまでのヒーロー人生の中でも恐らく最強の敵との戦いを前に、不思議と黒衣Pの心は落ち着いていた。

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57 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/05/11(日) 22:52:08.7613mgev/DO (3/13)

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 “憤怒の王”の誕生は最悪の事態であったが、街に残されていた人々にとっては同時に生存のチャンスでもあった。
 市街封鎖カース達が王の下に参じたことでハイ・テック機器が完全復旧し、さらには各勢力の突入も容易となったのだ。
 アイドルヒーロー同盟を始めとする突入勢力はテント村を設営、負傷者の治療や安全地域へのハイペース移送を本格化していた。
 ビルの谷間に見える巨大なドラゴンの姿が、脅威は去っていないと告げる。それでも、人々は希望を取り戻しつつあった。

「なんとか、生きて帰れそうですねっ」

 ストレッチャーに横たわり、洋子が言う。健康的な体も、今はあちこちに包帯が巻かれ痛々しい。

「…いろいろ台無しだけどな」

 傍らのパイプ椅子に座る黒衣Pの声は暗い。洋子が重傷を負う結果となってしまった事実が重苦しくのしかかる。
 アイドルヒーロー同盟のロゴが印刷されたテントの中に彼らは2人きりだ。
 洋子が著しく消耗している今、能力の制御に支障が出るやも知れぬ。周囲に何らかの危害を及ぼす可能性を考慮しての対応だ。

「…プロデューサーは、行かなくて大丈夫なんですか?」

「まだいいだろ。人員は足りてるし、俺はついでだ」

 黒衣Pには他の男性アイドルヒーローと協働でのテント村護衛命令が下っていたが、彼は何とも釈然としないものを感じていた。
 任務が更新された今、命令に従い人命を守るのがヒーローとしては正解なのだろう。だが、それで本当に良いのか?


58 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/05/11(日) 22:56:12.5113mgev/DO (4/13)


 黒衣Pの脳裏に、あの男の邪悪な笑いが反響する。少女の憤怒を煽り殺戮に突き動かした危険存在。決して見逃すわけには……。

「…ふふっ。プロデューサー、怖い顔になってる」

「元からだ。…もう寝ろ、そうしたら俺も仕事に」

「本当は行きたいんですよね? “アイツ”を倒しに」

 不意打ち気味の一言に、黒衣Pの心は揺れた。彼女の能力故か、それとも分かりやすく顔に出ていたか。
 洋子の視線が遠赤外線めいて彼を炙る。やっぱりだ。見透かされている。抵抗は無意味と悟り、黒衣Pは口を開いた。

「……俺はあのクソ野郎をブッ潰したい。アイツをここで見逃せば、またどこかでこの街みたいな地獄を作るだろう」

 重傷の担当アイドルヒーローを置き去りにし、人道ミッション指令に背き、得体の知れぬ邪悪存在に挑む。言うまでもなく愚行だ。
 だが、悪と戦い倒すことは人命救助と並ぶヒーローの存在意義であり、黒衣Pに迷いはない。
 洋子もまた、止めるつもりはなかった。ヒーローの信じるべき正義は、ヒーロー自身の内にしかないのだから。

「止めませんよ、プロデューサー。……でも、生きて帰ってきて」

「当たり前だ、こんなところで死ねるかよ。ヒーローとしてやるべきことは、まだ山ほどあるんだからな」

 洋子は満足げに微笑み、目を閉じた。程無くして、静かな寝息が聞こえてきた。

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59 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/05/11(日) 23:00:27.9613mgev/DO (5/13)

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「オイオイオイ…どうなって…オイ! どういうことだこれはァ!?」

 想定外の事態だ。“憤怒の王”が敗れ、消失した。憤怒Pは転落防止手すりを怒りに任せて殴り、蹴り、引きちぎる。
 “憤怒の王”は彼の最高傑作だった。この街に溢れる憤怒のみならず、彼自身も持てる力を惜しみなく捧げた。
 そして“憤怒の王”はヒーローだの能力者だの、有象無象どもを相手に実際優勢だったのだ。

「……ハァーッ。…アイツだな…“怠惰”のガキ…クソッ、追いかけて確実に殺しとくべきだった」

 爆発的な怒りを短時間に吐き出し、憤怒Pは冷静さを取り戻した。失敗の原因も何となく想像がついた。
 思考を切り替えろ。今重要なのは、これからどうするかだ。
 泰葉は逃亡し、彼の下にはもう戻るまい。“憤怒の王”に捧げた力も戻らなかった。憤怒Pは今や龍の残滓に過ぎない。

(ヒーロー連中がどれだけ入り込んでるか知らねぇが、二軍相手でも囲まれたら現状ヤバイか。まずはどうにかトンズラ)

 BLAM! 重い銃声が響き、大質量の12.7mm重金属弾が憤怒Pの首から上を吹き飛ばした。
 BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM! さらに銃声! 紅白二丁拳銃のフルオート射撃が憤怒Pの体を細切れにする。
 憤怒Pの破片はコンクリート屋上に散らばり、血の代わりに黒い流動体が広がった。

「立て、クソ野郎。楽に死ねると思うなよ」

 ヒーローマスクの内側でくぐもったその声に油断はない。眼前の邪悪存在をこの程度では倒せないと分かっている。


60 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/05/11(日) 23:04:11.8413mgev/DO (6/13)


 ……おお、見よ。黒い流動体が幾分か蒸発しながらも憤怒Pの残骸を中心としてズルズルと集まってゆくではないか。
 黒い流動体は徐々に盛り上がり、龍の頭と尾を備えた、ギーガー・エイリアンめいて異常痩身のシルエットを成した。

「ケケケ、もちろん死ねるなんて思ってねぇさ。ただの人間じゃ、このティアマットは殺せん」

 邪龍ティアマットは嘲笑い、挑発的にシャドーボクシングして見せた。手足が長い。機敏な動きはまさに強者の風格。

「コレは別に最強形態だの最終形態だのってワケじゃねぇんだ。ただ、身の程知らずのテメェを叩きのめすのにちょうどイ」

 BLAMBLAMBLAM! ティアマットの言葉を遮り再度の銃声! だが、ティアマットは銃弾を全て指で摘み取っている!

「…オイオイ、話は最後まで聞くモンだぜ。スゴイ攻略ヒントとか喋るかも知れねぇだろ? ま、喋らないんだけどさ! ヒヒヒャヒャヒャヒャヒャ!」

「知ったことか。1発でも多くブチ込んで、1発でも多く殴るだけだ。…来いよ、トカゲ狂人!」

 エボニーコロモは二丁拳銃の弾倉を交換する。常人では目にも止まらぬ無駄のない動きだ。
 しかし、その僅かな隙さえティアマットには充分! エボニーコロモが銃を構えた時、既にティアマットはその懐に飛び込

「トゥオーッ!」

 鋭いシャウトと同時に繰り出された膝蹴りがティアマットの顎を痛烈に突き上げ、黒い流動体が飛散、不快な臭いと共に蒸発した!


61 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/05/11(日) 23:08:12.2613mgev/DO (7/13)


‐2‐

『ッああああ!!?』

『はぁ……はぁ…あなたは…?』

『………来たんですか、愛梨さん』

『……愛、梨? …あれ…どこかで……?』

(……愛梨。十時愛梨。元トップアイドル。能力者。風。邪悪でない。強力な。管理下にない。要観察)

(…違う。これは重点警戒能力者リストに書いてあった、ただの表面的な事実)

『ハスター』

(…ハスター。知ってる。…ううん、私は知らない。知ってるのは、私の中の…)

『ヨーコっ! スゴイツイてるっ!』

『――触発されて! イア! ハスター! イア! クト――』

『――私たちの神様! ――火力――森とか焼――』

『私が引き出す! ヨーコが使う! …もうちょっとだけ、ガンバロ!』

『――るはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん』

『――いあ! くとぅぐあ!』

『――ッ、危ない!』

 洋子は咄嗟に手を突き出し――同時に、赤と黒の炎が激突した。

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62 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/05/11(日) 23:12:26.7413mgev/DO (8/13)

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 洋子は目を開いた。背中に感じる振動。何らかの車両内だろうか。慌ただしく聞こえる声は3人分。いずれも女性のものだ。
 ゆっくりと頭を動かし、周囲を確認する。壁が近い。無機的だが清潔感がある。
 体に何か重いものが乗っている。あまり肌触りは良くない。防火用の不燃性繊維シートだ。

「姐さん、発火現象、鎮静化しました。心拍数、意識レベル正常です」

「シートそのまま。まだ完治してない以上、再度発火可能性重点」

 洋子は医療スタッフのやり取りを聞き流しながら、思い出したように腹部を手で撫でた。
 包帯はない。眠っている間に焼失したのだろう。そして、黒い炎を纏った拳を受けたそこは、未だ焼け爛れていた。
 普段ならば、この程度のダメージは一眠りもすれば完治しているはずだ。

(ちょっと張り切りすぎちゃったかな…もっと、鍛えないと…)

 あの戦いにおいて、洋子は完膚なきまでに打ちのめされ、ヒノタマの力さえも失われようとしていた。
 だが、ヒノタマとの対話を経て彼女は戦い続ける力を得たのだ。悍ましき黒い炎をも相殺できるほどの力を。鮮血のごとく艶やかな、赤い炎を。
 そのきっかけとなったのが、彼女を救った十時愛梨だった。

(もう一度愛梨ちゃんに会えれば、あの時私の体に何が起こったのか分かるかも。それに、あの赤い炎を自由に操れるようになれば…!)

 新たな決意。しかし、今はその時ではない。洋子は再び目を閉じ、温泉めいた穏やかな眠りに沈んでいった。

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63 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/05/11(日) 23:16:06.0413mgev/DO (9/13)

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「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ! やったな! やりやがったな人間! ヒヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」

 狂笑するティアマット。その体は無惨に損なわれ、頭から胸部、そして右腕が残るのみだ。
 “憤怒の王”に力を捧げて弱体化していなければ、こうなるよりももっと早く、愚かなヒーローをクズ肉に変えていただろう。
 ティアマットは決断的殺意と共に右腕のみで這い進む。曲がりなりにも龍たる彼を追い詰めた存在、今ここで殺さねば。

「…クソッ…アバッ…まだだ畜生」

 血を吐き、呻くエボニーコロモ。ヒーロースーツは著しく破損し、両脚は曲がるはずのない方向へ曲がっている。
 人狼カース戦のダメージがなければ、反撃を受ける前にエボニー・カミナリ・キックがティアマットを破壊し尽くしていただろう。
 エボニーコロモは左腕の力だけで後ずさりながら、右手の銃を発砲する。敵の再生も限界のはずだ。……だが、当たらない。

「おとなしくしてりゃ、カースドヒューマンにしてコキ使ってやってもイイと思ってたが、もうダメだ。やり過ぎたんだ、テメェは」

「生憎、人生夢と希望で満ち溢れててな、そんなのはこっちから願い下げだ。…ヒーロー舐めてんじゃねえぞ」

 発砲。大きく逸れる。狙いが定まらない。ティアマットは前進する。


64 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/05/11(日) 23:20:11.8313mgev/DO (10/13)


 エボニーコロモの背中が何かに当たった。先ほど彼がエントリーした非常口のドアだ。これ以上は下がれぬ。
 発砲……できない。残弾なし。邪龍は勝利を確信し、表情を醜悪に歪めて笑った。

「…ケケケ。夢だの希望だのが潰える瞬間ってのはイイ気分だなぁ?」

 ティアマットは腕を伸ばし、エボニーコロモの喉元を掴む。残る力でへし折ってやれば、終わりだ。
 エボニーコロモは銃を捨て、ティアマットの腕にチョップを打ち込む。キレがない。もはや無駄な抵抗なのか? ……否!

「アッ」

 その悲鳴ですらない声が最後だった。ティアマットの腕が崩れ、次いで胸部、そして頭が形を失った。
 再び黒い流動体と化したティアマットは、シュウシュウと不快な臭いの煙を上げて蒸発してゆく。
 黒衣Pは半壊した黒子ヒーローマスクを脱ぎ捨て、空を見上げた。彼に最後の力を与え、ティアマットを蝕んで劣化させていた雨は、既に止んでいる。

「終わったか……どれだけ死んで、どれだけ助けられたか…数えるのはヒーローの仕事じゃない。それよりも、な」

 夕日を眺めながら勝利を噛み締めるのは正義のヒーローの特権であり、意識を失うまでの数秒間、彼はその特権を誰にも気兼ねなく行使した。



65 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/05/11(日) 23:23:32.3813mgev/DO (11/13)


 ――未だ煙を上げ続ける黒い流動体から、6本足の黒いトカゲめいた小さな物体が這い出した。
 ――それは夕日に焼かれながらも屋上をひた走り、排水パイプに飛び込み、誰に気付かれることもなく姿を消した。

【終わり】


66 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/05/11(日) 23:25:19.5213mgev/DO (12/13)

斉藤洋子(ヒーロー名:バーニングダンサー)

職業
 一般人 → アイドルヒーロー

属性
 等身大変身ヒーロー

能力
 『ヒノタマ』による身体強化および各種ワザの行使

詳細
 朱色の炎が形を成した、踊り子ヒーロー装束を纏うヒーロー。肌色の部分が多く、おまけに変身すると衣服が焼失してしまう。
 パワーは比較的抑えめだが、スピードと精度、そして聖炎の力で戦う短期決戦型特殊アタッカー。
 主なワザは以下の通り。

◆カエン・イリュージョン
 自らの精神を炎の幻覚として対象の精神に直接ぶつけ、焼く。アイドルヒーローとして鍛練を重ねて以降、火力の調整も利く。
 精神を直接ぶつけるためカウンターを受ける危険性もあるが、非常に使い勝手が良い。
 かつて洋子が暗黒ピエロとなった時に発現し、その後ヒノタマの覚醒で変質したもの。

◆カエン索敵
 精神攻撃の前段階から派生したカエン・イリュージョンの亜種。精神空間内で対象を感知する。
 遮蔽物を無視でき、カースなど特定の感情が強い対象はより正確に形状を把握できる。
 人口密集地では精度が落ちるのでフィルタリング重点。

◆バーニングダンス
 聖炎を纏った手足から繰り出す、舞踊めいた格闘術。聖炎を扇や剣の形に変化させることもできる。
 下級カースならば多数相手でも問題にならないが、憤怒の街では怒りに身を任せた泰葉のゴリ押しに破られた。

※UNKNOWN※
 憤怒の街にて、十時愛梨との接触を引き金にヒノタマに何らかの変化があった模様。
 聖炎の色が朱色から赤に変わっているが、真価を発揮するには至っておらず詳細不明。


67 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/05/11(日) 23:29:50.6013mgev/DO (13/13)

以上です
もっと指と頭が早ければいいタイミングで投下できただろうに
そして>>66、@設定付け忘れてる

・愛梨ちゃんと泰葉ちゃん、名前だけ借りました
・一部part7からそのまま流用してます、ごめんなさい
・憤怒P討伐! …ま、そんなワケないよね
・せっかく愛梨ちゃんとの接触があったのでパワーアップフラグ


68 ◆BPxI0ldYJ.2014/05/11(日) 23:36:00.27/zQ6vMPT0 (1/1)

乙。
相変わらずニンジャスレイヤー的アトモスフィアを感じる文章
しかし憤怒P、やはり簡単にはくたばらないか。
次は何をやらかしてくれるんでしょうね(ゲス顔)


69 ◆zvY2y1UzWw2014/05/11(日) 23:50:04.43MR1PijhA0 (1/1)

乙です
ハスター…というよりクトゥルフ関連で炎と言えば…うん、わかるわ(ニャル子くらいしか見てない感)
憤怒Pもやっぱりしぶとい、でも悔しがる姿は見てて楽しいわぁ…愉悦だわぁ…


70 ◆AZRIyTG9aM2014/05/12(月) 00:04:44.017gFwcfqyO (1/2)

乙ー

ヒノタマ……一体どこの森を焼きつくした奴だ?

憤怒Pやっぱりしぶといねー
kwsm「ねえねえ、計画潰された上にボコボコにされてどんな気持ち?どんな気持ち?」(AA略というのが脳裏によぎった


71VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/05/12(月) 00:07:27.91HXUnwbePo (1/1)

おつおつ

憤怒P ●<このままでは済まさん……!
これを想像してしまった


72VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/05/12(月) 11:49:54.7301/McnnAO (1/3)

はじめまして、カキコ失礼します。

私も参加したいのですが、よろしいでしょうか?


このスレは以前から知っていたものの、続いていたこともあって、ヒマな時に一気に読もうとGWから読み始めたのですが…

妄想が捗りすぎて困ってます(笑)
なんとかして下さいお願いします


73 ◆3QM4YFmpGw2014/05/12(月) 11:59:18.43CtGIyQXAO (1/1)

>>72
ええんやで
トリップつけてアイドルを予約するといいよ
空いてるアイドルはまとめWikiのアイドル早見表を参照のことー


74 ◆zvY2y1UzWw2014/05/12(月) 12:20:04.67x9fIzhbZ0 (1/1)

You書いちゃいなyo(参加してくれる方が増えるの大歓迎です!)


75 ◆qTYZo4mo6E2014/05/12(月) 12:30:47.65LUgC641co (1/1)

>>72
ナカーマ(私も10スレ目からの人です




76VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/05/12(月) 12:37:25.91M2jaB1nM0 (1/2)

ゴールデンウィークあたりから人が増えてるな、よいことだ
矛盾とか怖いならなら掲示板のほうで設定見せてもいいしね


77 ◆AZRIyTG9aM2014/05/12(月) 13:10:02.967gFwcfqyO (2/2)

来いよベネット!銃なんか捨ててかかって来い!(訳・ぜひ参加してくださーい)

質問とかあれば雑談所までどうぞー


7872 トリップテスト ◆0lcgcQtP4I2014/05/12(月) 13:38:08.7101/McnnAO (2/3)

我慢できなくてカキコミしたら、もう反応あって嬉しいです!


今のところ予約はしないつもりです。

このスレでの設定が好きな娘やモバマス本家で好きな娘で、出番が少ない娘がいるから、いわゆるテコ入れしたい、みたいな感じなので。

それに、まだ7スレめが終わる辺りまでしか読めてないので、いま考えてる話も使えるかどうか微妙だったり(笑)


79 ◆zvY2y1UzWw2014/05/12(月) 13:46:06.37M2jaB1nM0 (2/2)

なるほどなるほど、そういうのもアリよね!
まぁ不安なら掲示板のスレでどういう話書きたいか書いてみたら親切に対応しますですよ
スレ読むのがんばれ!


80 ◆0lcgcQtP4I2014/05/12(月) 21:24:23.3201/McnnAO (3/3)

とりあえずスレを読み続けながら、書きたい話をまとめていこうと思います。

近いうちに掲示板にもお邪魔しますね。


既にネタが2~3つ使いにくくなってしまいましたけど…


81 ◆0lcgcQtP4I2014/05/13(火) 19:07:25.44oP+IrXBAO (1/1)

書こうとしていた物とは別に、さっき閃いたことへの意見を求める為にwiki内掲示板に書き込みしました。

よろしければ御協力をお願いします。


82@予約 ◆0lcgcQtP4I2014/05/14(水) 02:38:20.20cbo4U+xAO (1/1)

姫川友紀、予約させて頂きます。

「予約はしないといったが、あれは嘘だ!」になってスミマセン。


83 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:09:41.21Jq8DlX090 (1/23)

菜々さんの誕生日だ!投下!
なんかシリアスすぎてお祝いじゃなくなってしまったことを最初から謝罪させていただきます


84 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:10:29.23Jq8DlX090 (2/23)

―――あとどれくらい 切なくなれば…

―――あなたの声が 聞こえるかしら…

暗いドームの中に、一筋の光が降りてきた。

光の中、半透明な空中階段を下ってくる人影。

『碧いうさぎ』を歌いながら、彼女は自らの能力によって作った階段を下る。

それは切ない愛の歌。思いを込めて、彼女は歌う。

一人では死んでしまうくらい寂しいから、愛しのあなたに抱きしめて欲しいと歌う。

階段を下り続け、足元に蒼いサイリウムの海が近づいてくる。

歌い終えると同時にステージに足が触れる。

観客の拍手と歓声に包まれ、幸せそうに菜々は微笑んだ。


85 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:11:41.98Jq8DlX090 (3/23)

菜々「皆さん、今日のライブに来てくれて、ありがとうございます!」

菜々「ナナの誕生日記念ライブ!…あっ、でも18歳じゃないですよ!ナナは永遠の17歳ですから!」

「にじゅ…「「「「菜々さんマジ永遠の17歳!!」」」」

観客が菜々のお決まりネタにそれぞれ反応を見せる。

菜々「…この一年も皆さんの応援のおかげで、アイドルとしても、ヒーローとしても活躍できました」

菜々「そんなアイドルヒーロー、ラビッツムーンとして活動できることがナナの喜びです!では次の曲はナナのデビュー曲!メルヘンデビュー!」

「「「「ウオオオオオオオオオオ!!」」」」

観客席に花が咲き誇る。舞台の影で夕美が手をヒラヒラ振っているのを一瞬だけ菜々はチラリとみると、マイクを強く握った。

菜々「ウサミンパワーでメルヘンチェーンジ!夢と希望を両耳に引っ提げ、ナナ、がんばっちゃいまーす!ぶいっ♪」

明るく電波なミュージックが会場を桃色に染め上げる。

「「「「「「「ミミミン!ミミミン!ウーサミン!」」」」」」」

これが菜々のステージ。多くのファンに愛されながら、コールに包まれる。

あの日からコールの中の故郷の名前に胸を痛めるけれど…彼女は笑顔で歌い続ける。

『ウサミン星人』という名前にのしかかる重圧は、自分の行いで起きた故郷の崩壊を考えてしまう菜々の心にのしかかる。

でも今は忘れないといけない。アイドルは笑顔が一番ステキな職業なのだ。

菜々(今のナナは地球人の菜々…何も知らない普通の菜々…!笑うのが一番幸せなアイドルの菜々!!)

演技ではない。心の底からの笑顔。菜々はしっかりと心の底から笑えていた。


86 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:12:51.76Jq8DlX090 (4/23)

菜々「ウサウサウーサ、ウーサミーン!!」

コールと共に菜々の歌が響く。

コミカルで電波なミュージックが空気を振動させる。

不意に、間奏の中で菜々はすぅ、と息を吸って言葉を放った。

菜々「…ファンの皆は、ナナの事を…ずっと好きでいてくれますか?」

「「「「「「「…ウォォォォォォォォォ!!」」」」」」

これにはファンも一瞬は戸惑ったが、すぐに歓声が返事として帰ってくる。

誕生日ライブ限定の演出だろう。そのくらいの認識だ。

袖の方でプロデューサーが慌てていた気がするが…今は気にしない事にした。

今はこのステージで、この光景の中心に居たいから。

まだライブが終わるまで、ナナは菜々でいたかった。


87 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:15:44.38Jq8DlX090 (5/23)

――

菜々「プロデューサーさん!ライブ、大成功でしたね!」

873P「いやーあのセリフはびっくりしたけど…まぁいいか、ファンにもウケたし」

夕美「うん、ナナちゃん輝いてたよっ!」

菜々「えへへ、ありがとうございます…」

夕美「…ナナちゃん、ちょっといつもより元気ない?」

菜々「そ、そうですかねぇ~…?」

ちょっとだけいつもよりもフラフラとしている。

873P「どうした?疲れているなら休め。…アレだ、体力もつのは一時間なんだろ?」

菜々「い、今はもっと持ちますよ!?…でもお言葉に甘えちゃいます…休みますね…」

873P「…はぁ」

プロデューサーはため息を吐いたが、夕美がそれを菜々の視界に入らないように割り込んだ。

夕美「本当に…大丈夫?」

菜々「…大丈夫ですよ、夕美ちゃん。でも…ちょっと一人にしてもらえますか…?」

夕美「そ、そう…わかった。…無理しないでね」

その背中を名残惜しげに夕美が見送る。この後夕美には撮影の予定があった。


88 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:17:17.79Jq8DlX090 (6/23)

扉が閉じ、廊下を歩く音が聞こえなくなったところで夕美はプロデューサーを叱る。

夕美「…プロデューサーさん!女の子の前で溜息なんて、デリカシーが無いよっ!」

873P「あぁ、すまん…菜々さ…菜々は今日以降暫く実家に帰るみたいでな、同盟に何か言われないか不安で仕方ないんだ」

夕美「!?」

873P「…ん?知らなかったのか?」

夕美「…@■○★×▽▲☆☆▼◎●…!?」

873P「どうした夕美、言語が変だぞ!?」

夕美「あ…ごめんなさい、びっくりしちゃって…!」

873P「何語だったんだ、今の…」

夕美は完全に動揺する。実家とは恐らくウサミン星の事。ショックだった。それと同時に背中に汗が流れ始める。

873P「まぁ菜々さ…菜々は最近どうも調子悪いみたいだし、少しの休みくらいではそう文句は言われないとおもうがなぁ…さて、テレビ局に行くぞ」

夕美「は、はーい!ぱぱっと終わらせます!絶対に!」

873P「お、やる気あるみたいだな!」

夕美「ガンバリマス!」


89 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:18:43.15Jq8DlX090 (7/23)



菜々「…」

夕焼けに染まる道を歩き、考えるのは故郷の事。

アイドル仲間もファンも捨て、故郷に帰っても…故郷を崩壊させた自分に何ができるだろうか。

だがこのまま故郷に帰らず、彼の思いを踏みにじり…故郷への罪を背負って生き続けるのは辛い。

行くも地獄。行かずも地獄。思いは眠るたびに頭の中でグルグル回る。

知らなければ幸せだったと、自分の中の無責任な自分がぼやく。

一晩でグルグル、二晩でグルグルグル、三晩でグルグルグルグル…

時間と共に重圧は増えていく。でも彼女は動けない。人気アイドルヒーローとして、滅多に休日は無い事も関係する。

アイドルヒーローは挫けない。弱音を吐かない。そしていつもみんなを安心させるために笑う。

いつでも絶望しないその強さに人々は安心し、憧れ、夢を見る事が出来る。アイドルもヒーローも夢を見せることが出来る。


90 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:20:24.46Jq8DlX090 (8/23)

だから彼女が悩むのは眠る時と、一人の時。安部菜々でもラビッツムーンでもなく、一人のウサミン星人、ナナとして考える。

…決められないのだ。どちらも菜々のアイデンティティ。どちらも菜々の大切な場所。生まれ育った故郷と、長く住み続けた第二の故郷。

夢だったのだ、みんなを笑顔にするアイドルになる事が。自分の夢に忠実に生きたのは、何年振りの事だっただろう。

諦めていたのだ、アイドルになることを。ナナはアイドルになるにはウサミン星人基準でも歳を重ねすぎたと思っていたから。

バイトの合間に見かけた地方アイドルのステージ。ただのバックダンサーの一人でしかない夕美に、何故か惹かれた。

バックダンサーではあったが、踊る夕美の笑顔は心に響くものがあった。…彼女のように笑って踊りたかった。

その後、偶然が重なり夕美と共闘し、お互いの事を知り…その後スカウトされた。

彼女が居なければ、自分も彼女もアイドルヒーローになることも無く生活していただろう。スカウト云々ではなく、アイドルになろうという意思の時点で。

ずっと菜々は孤独だった。ウサミン星人は不老長寿であるために、何度も各地を転々とし、別れを繰り返した。

うさぎは寂しいと死んでしまうなんて、実は嘘らしいけれど。でも菜々は寂しかったから。

誰かを笑顔にする仕事をしたかった。皆に愛され皆を愛し、笑顔を振りまき笑顔が返ってくる。そんな仕事が。

だから今、大人気アイドルヒーロー・ラビッツムーンとして、大変ではあるが幸せな生活を送っていた。…筈だった。


91 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:22:55.43Jq8DlX090 (9/23)

記憶の中、白黒のテレビに映るアイドル達は…菜々の憧れであり夢であり希望だった。

だからある日思いついたように本星にこの星の娯楽の情報を持ち帰った。

何故今まで思いつかなかったのだろう、とその時は喜びながら思っていた。

今までで一番量の多いデータ。音楽、絵、小説、映画、アニメや漫画…持ち帰れる限り持ち込んだ。

娯楽に秘められていたのは…個性、自由、文化。ウサミン星に今まで無かったもの。

その行動がまさか革命に繋がるなんて思っても居なかったのだ。

菜々(ウサミンPさん…ナナは分からないんです、自分のした事が許されるのか…)

菜々(ファンのみんなが菜々の歌で笑顔になる。街の皆が菜々の活躍で笑顔になる。それが幸せでした。でもナナは、故郷の平和を…)

平和が壊れ、争いを起こすようになった故郷の民。地球に来て犯罪に手を出す者も少なくない。

ナナが奪ったのは故郷の平和だけではない。地球に限らず他の星の人々の未来や希望さえ奪ったはずだ。

管理社会であったが平和だった昔のウサミン星と、自由ではあるが争いが絶えないウサミン星、どちらがよかったのだろう。

結論が出せない。…でも、今日までに結論を出すと決めていた。

あまりにも彼を待たせ続けた。だから、今年に入ってから菜々が初めて地球に来た日付までには決めると決めていた。

菜々「ナナはウサミン星に帰って…許されないなら、罰を…。許されたなら、償いを…」

どちらにしろ…ナナはやはり帰らなくてはならない。地球に帰れなくても。

…いや、帰れる可能性なんて無いに等しいかもしれない。

どちらも取れない二択。でも心はもう限界だった。

何もかも諦めたように夕日を見つめながら、電話…いや、同盟の管理下ではない通信機を手に取った。

菜々「…もしもし、ナナです。突然の連絡ですみません…今から行ってもいいでしょうか」


92 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:25:09.04Jq8DlX090 (10/23)

――

連絡通りの路地裏に来るとテレポーターが起動し、ナナは地上からウサミンPの宇宙船へ再び乗り込んだ。

ウサミンP「…ナナ様、お久しぶりです」

菜々「…お久しぶりです。まずは結論を出すまでにこれほどの時間がかかったことを謝罪させてください」

ナナは深々と頭を下げる。その姿にウサミンPは心を痛めた。

これほど時間がかかる選択肢を提示したのは己なのだから。

ウサミンP「…ナナ様、どうか頭を上げてください。貴方が謝る事は無いのです」

菜々「いえ、ナナのせいでこんなに時間がかかってしまったんです。謝るのは当然です」

菜々の結論に時間がかかったのには彼女の職の都合もあると、ウサミンPは知っている。

だが頭を上げても俯き気味のナナと視線は交わることは無かった。

その後は沈黙。コツコツと、廊下に足音が響く。

ウサミンP「こちらへ…」

一室に案内され、椅子に座る。テーブルを挟んで向かい合った。

…身長146cmと2mの二人のウサミン星人。ナナは擬態を解き、つやつやとして真っ白なその姿を晒した。


93 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:27:46.79Jq8DlX090 (11/23)

菜々「…結論を出しました。ナナは…ウサミン星へ帰ります」

ウサミンP「…ではナナ様は、ウサミン星のグレートマザーに…」

菜々「いえ…ナナは、本当に自分がグレートマザーなんて言われる程の器なのか、わからないんです」

ナナは彼と比較すれば本当に小さなウサミン星人だ。長い耳が少し垂れてる。

自分はただ調査結果を持ち帰っただけであり、称えられる程の事をした実感もない。だから、ナナは怯えている。

だがすぐに耳を立て、その白目が無い瞳を彼に真っ直ぐ向けた。

菜々「だから、ナナがウサミン星に行ってどうするかは…向こうで決めさせてください…それと」

持っていたバッグから、スケジュール帳を取り出した。

菜々「アイドルヒーロー…今日を境にしばらく休養をとることにしました。…あの歌姫の子の予定もあるでしょうし、すぐに行けるとは思っていませんけど…しばらくはこちらで生活させてください」

一か月の休養でもかなり渋られた。帰って来なかったら事務所にきっと迷惑をかけるだろう…考えると胸がズキズキと痛んだ。

ウサミンP「ええ、ナナ様が過ごす生活スペースは用意してあります。…ただ」

菜々「…ただ?」


94 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:29:27.15Jq8DlX090 (12/23)

ウィーン

菜々「あれ、ドアが…?」

『テーンテーン!』

ほうじょーさん「ふふっ♪」ウィィィィィン

自動ドアが開き、ハンテンバに乗ったほうじょーさんが足元を通り過ぎていった。

こにか「おねー!おねー!」シュタタタタタタタ

こにかが全力でほうじょーさんを追いかけ、足元を駆け抜けていく。

かみゃ「んなー!」ダダダダダダ

かみゃがこにかを止めようと追いかけ、また足元を駆け抜ける。

きらきら「にょわー☆」ドドドドドドドド

そしてそれを楽しい鬼ごっこか何かと勘違いしたきらきらが追いかける。

ぐんそー「まいしすたー!」ヒュイーン

そのきらきらをラジコン飛行機のコントローラーを操作しながら乗っているぐんそーが追跡する。

まきのん「…きょーみぶかいな」ジー…

そしてまきのんは初めて見るメスのウサミン星人…ナナを扉の外からじーっと見ていた。

思わず地球人の擬態を再び行うと、驚いた後に眼鏡をクイッとさせて再び「きょーみぶかいな」と呟いた。

菜々「あ、あの…この子達は?」

ウサミンP「…ここに住み着いてる謎の生物です。外に捨てる事も出来ず、ずっとここに…」

シリアスムードを一気に壊したぷちどる。恐らくウサミン星に行く時も連れていくしかないだろう。

菜々「も、もしかしてウサミン星に一緒に行くんですか!?こんな子達が!?」

ウサミンP「そうなってしまいますが…恐らく大丈夫でしょう、結構丈夫なのはいろいろ見て知りましたし…」

菜々「そ、そうですか…」

後ろを見れば何やらお互いにおもちゃを使ったり倒れた子に水をかけたり噛みついたりして遊んで(?)いる。

菜々(…大丈夫なのかな)

菜々は若干ウサミン星に行った後の事が不安になった。


95 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:31:17.89Jq8DlX090 (13/23)

――夜

ウサミンPの宇宙船に、緑色の光が意思を持つように侵入した。

夕美「…」

??「みみみん…!?」

人の姿をとると、腕に抱えていた小さな生物も目を白黒させた状態で出現した。

夕美「あっ…肉体の再構成を利用して移動するのはちょっと怖かったかな?ごめんね?」

??「みーん…」

夕美は仕事を終わらせると、女子寮に植物と自分のエネルギーで影武者を作り菜々を探していた。

ステルスで隠されているこの宇宙船を探すのに何時間もかかってしまったが、ついにたどり着いた。

夕美(ナナちゃんの気配を追ってみたけど…やっぱりここなんだね)

??「うっさみーん!」

夕美「よしよし…ナナミンちゃん、良い子だからちょっとだけ静かにしていてね?」

ナナミン「ぶいっ☆」(小声)

菜々がこの船内に居ることを、瞳を閉じて気配として確認する。

夕美(本当に…帰っちゃうんだ、ウサミン星に)

夕美はここまで来たのにはちゃんと理由がある。一緒に行って、ウサミン星と菜々がどう生きていくのか見届けたいのだ。

夕美(あのウサミン星人も言ってたもんね、だから…最後まで見届けるよっ!)

…恐らく、そこまでしろという意味は全く含まれていない筈だ。


96 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:32:56.63Jq8DlX090 (14/23)

さっそく具体的な位置を割り出そうともう一度瞳を閉じる。

菜々「あれぇ…夕美ちゃん?…夜更かしはだめだよぉ…」スタスタ

夕美「!」ビクッ

ナナミン「みみんっ!?」

だがパジャマを着た菜々が丁度真横から出て来て通り過ぎていった。

菜々「…ん?……あれぇ!?ここ女子寮じゃなかった筈ですよねっ!?」

夕美「ナナちゃん寝ぼけてたの!?」


97 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:34:18.73Jq8DlX090 (15/23)

菜々の住むことになった部屋に入り、二人はソファに腰を掛ける。

菜々「…そうでしたか、ナナの事を気にして…ここまで来ちゃったんですね」

薄れていた記憶の中、真実を告げられたあの時の記憶の断片…意識を失う寸前の記憶に夕美が居たことをはっきり思いだした。

…彼女はいつだって菜々の事を心配しているのだ。依存的ともいえる程に。

夕美「…ナナちゃんを止めようとは思ってないの。ただ…あれが最後の別れだなんて嫌だよっ!私以外の皆にも本当の事を言わなかったでしょ!」

菜々「…すみません。でも引退を宣言するより、行方不明のほうがまだ…同盟からの減点も少ないと思って…」

涙目で抱き着く夕美に、申し訳なさそうに菜々は俯く。

夕美「…ナナちゃん、暗い顔しないでよ…どんな理由でも故郷に戻るんでしょ?それにウサミン星の皆も、絶対ナナちゃんの笑顔を好きになってくれるよ?」


98 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:37:26.38Jq8DlX090 (16/23)

菜々「アイドルと、これからは違うんですよ…ナナは償いをしなきゃいけないんです。そんなナナが笑顔なんて…」

夕美「…ナナちゃんのバカっ!思い詰めすぎちゃダメだよ…!」

菜々「え?」

夕美「ナナちゃんが今までやろうとしたことは…やりたかった事は!みんなを笑顔にする事でしょ!?」

菜々「でも…っ!ナナは…!!」

夕美「私は、ナナちゃんのした事が正しいのかなんて、分からないけど…!ナナちゃんが笑顔になれない世界で、みんなが笑顔になれるわけないよ!」

菜々「…それは、そうかもしれませんけど」

夕美「そんなの嫌だよ…離れ離れになるのが嫌だとか、ナナちゃんが居ない地球なんて滅べばいいとか、ワガママ言わないから…!せめてナナちゃんに幸せになってほしいのっ…!」

菜々「…だって!だって!ナナは、ナナは…っ…!ウサミン星を滅茶苦茶にした犯人で…!ナナのせいでたくさんの人がぁ…!」

菜々も夕美もぼろぼろ涙を流しながら抱きしめ合った。

菜々「ナナが幸せになっていいんですか…!?こんな女が、幸せになっていいんですか…!?」


99 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:39:00.31Jq8DlX090 (17/23)

夕美「違うよ…ナナちゃんが幸せになれないウサミン星なんて…そんなの駄目だよ…」

夕美の声のトーンがだんだん落ちていく。

菜々「はっ!?ス…ストーップ!夕美ちゃんそれ以上は駄目です!!」

ナナミン「ミミーン!ミンミン!」

夕美「…あっ…うん、ごめんね…」

菜々(夕美ちゃんの入っちゃいけないスイッチが入る所でした、危ない危ない…)

菜々「…落ち着きましたか?…なんて、そんな事言ってるナナも泣いちゃいましたけどね」

夕美「うん、私も思い詰めちゃった。おそろいだねっ」

菜々(それはおそろいって喜んでいいんでしょうか)

ナナミン「ぶいっ☆」


100 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:40:39.98Jq8DlX090 (18/23)

菜々「…ところで、さっきから気になってはいたんですけど…この子はなんですか?」

夕美「ナナミンちゃんは、私からの誕生日プレゼントだよ?」

ナナミン「うーさみーん!」

菜々「えっ」

夕美「この子…というかこの種族(?)はね、外見が似てる人と魂の気配がそっくりなんだよ」

菜々「そうなんですか…よくナナには分かりませんけど…」

夕美は優しくナナミンを菜々に抱かせる。

ナナミン「みみみん!」

夕美「だからね、一度見かけた時からずっと探していたんだよ…ナナちゃんそっくりなこの子、ナナちゃんも大事にしてくれると思って」

ナナミン「ななー!」

さっき見かけた小さな子達と同じ種族であろうナナミンという名前の小人は、笑顔でぴょこぴょこと跳ねた。

菜々「そっか…ふふ、ナナミンちゃん…」

夕美「ふふっ、ナナちゃんやっと笑ってくれたねっ!ナナミンちゃんに癒し効果でもあったのかな…?」

菜々の微笑みに夕美も笑顔になる。先程まで泣いていたとは思えない程の、いつもの花のような笑顔だ。


101 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:43:16.40Jq8DlX090 (19/23)

菜々「…ふぅ」

夕美「ナナちゃん?」

菜々「ナナ、ちょっとだけ悲観的になりすぎていたのかもしれません…」

ナナミンの頭を撫でながら、菜々は窓の外を見た。夜の街はまるで地上が星の海のように煌めいている。

菜々「…これから見るウサミン星は、ナナの知っているウサミン星と全く違うウサミン星の筈です。ナナのやった事で、たくさんの人が犠牲になって生まれ変わったウサミン星です」

菜々「きっとウサミン星のみんながナナの事を許しても、ナナは絶対に自分を許せない。…それでも、ナナはこれからを生きる人々を笑顔にしたい」

この景色は、菜々がみんなと共に守ってきたもの。菜々が愛した地球の光景。

菜々「ナナは神様じゃないから、全部を救う事なんて難しいかもしれません。でも…資格が、才能が、ナナにあるかなんて分かりませんけど…ナナはやっぱり笑顔が好きだから…!故郷のみんなにも笑顔になってほしいから…!」

地球の娯楽を持ち帰ったのも、みんなの笑顔が見たかったから。その気持ちはずっと変わっていない。

菜々「…そうですよね、みんなのリーダーになる人が笑えないなんて…寂しすぎますよね。なら、ナナはまたみんなと笑いたい…!」

夕美「うん!それでこそナナちゃんだよ♪」

ナナミン「みみみん♪」


102 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:46:14.68Jq8DlX090 (20/23)

でも菜々はまだ不安だった。一瞬だけ夕美から視線を逸らし、再び真っ直ぐ見つめる。

菜々「あの…夕美ちゃん、ナナのお願いを一個だけ聞いてくれますか?」

夕美「お願い?」

夕美の手を菜々は握る。夕美の好意を知っていて、この言葉を言うのだ。きっと前世は悪女だったのだろうと、心の中で皮肉った。

それは彼女の好意を利用したとも言える、意地悪なお願いなのだから…誰かが知ったら卑怯者と後ろ指をさされるに違いない。

菜々「もしナナがウサミン星から帰って来れなくなっても…ナナの大好きなこの星を…地球のみんなを守ってくれますか…?」

夕美「…ナナちゃん」

夕美の使命や立場を考えれば、この約束はしてはいけないものだ。

いつかこの星が植物を滅ぼしそうになれば、夕美はこの星の文明をリセットさせるという使命があるのだから。

菜々と約束してしまえば、きっと夕美はもう二度とこの星を滅ぼせない。もしかしたら菜々が死んでもこの約束に縛られ続けるかもしれない。

菜々(でも夕美ちゃんは、きっと約束してしまう。…ほら夕美ちゃん、ナナはこ~んなに悪い女なんですよ…?)

夕美「…うん、約束するよ。ナナちゃんが居なくなっても、ナナちゃんの大切なこの星を…絶対に守るよ」

夕美の愛を菜々は知っている。菜々の思いを夕美は愛している。こんな自分の卑怯さを恥じる菜々も、夕美は愛していた。

彼女が愛するこの星を、たくさんの友達がいるこの星を、約束が無くても夕美はもうきっと滅ぼすことは難しいというのに。

菜々「…ありがとう、夕美ちゃん」

夕美「だから私とも約束して?…夢と希望を両耳から無くしちゃダメだよ?」

ナナミン「ミン!」

菜々「…ふふっ、わかってますよ」

菜々(…まだ、都合のいい未来を夢見てもいいですよね?ウサミン星も夕美ちゃんも、ナナも幸せになれる未来を…)

どうかその夢が現実になりますようにと、幼い少女のような心で菜々は祈った。


103 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:47:24.60Jq8DlX090 (21/23)

オマケ・影武者ユミミン

・ヮ・「いべんと、ちゃんとせいこうさせなきゃー」

拓海「お、今日のイベントで一緒の仕事なのか。よろしく頼むぜ」

・ヮ・「たくみちゃん、よろしくねー」

拓海「…ん?」

・ヮ・「どーしたです?」

拓海「い、いや何でもない、気のせいだな!」

・ヮ・「なーんだ、びっくりしちゃったー!」

スタッフ「夕美さんスタンバイお願いしまーす!」

・ヮ・「はーい、いまいきまーす」

拓海(…あそこまで口を開けっ放しにする奴だったか…?)

※イベントは無事に成功したようです


104@設定 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:48:53.36Jq8DlX090 (22/23)

ナナミン
安部菜々によく似たぷちどる。鳴き声は「みみみん!」「ぶいっ」「うっさみーん」「ぴりぴり~ん」等。割と豊富。
みんなを笑顔にすることが大好き。耳が良く、さらに頭のリボンから情報を載せた電波や、電気を発することが出来る。
ちなみに白い体のウサミン星人モードにもなれるらしい。

影武者ユミミン
夕美が毎日世話をしている植物と夕美のエネルギーで作り上げた影武者。致命的な欠陥として基本的に表情が・ヮ・だがそれ以外は大体同じ。
今回のウサミン星突撃の間に身代わりになってもらう事になった。
歌って踊れて変身できて植物も操作できるが飛ぶことだけが出来なくなっている。


105@設定 ◆zvY2y1UzWw2014/05/15(木) 00:51:35.31Jq8DlX090 (23/23)

以上です。ぷちどるの癒しを間に入れないと心が折れる。
イベントの時系列は方舟より前か後かとかウサミンPの宇宙船の他の搭乗者の数とかは一応ぼかしておきました。
菜々さんマジでごめんなさい!こんなの誕生日祝いじゃないわ!ただの誕生日記念よ!
…そして今まで書いてきた話の中で一番濃厚でドロドロな百合を書いた気がする。どうしてこうなっちゃったんだろうねー(棒)

情報
・ウサミン星イベントはシェアワ時系列で5月15日以降一か月以内の話になる模様
・菜々が決断しました。一か月ほどアイドルヒーロー業を休養し、ウサミン星へ帰還します。夕美も同行します。
・夕美は影武者を用意したので恐らくそれなりにはばれない…はず。


106 ◆AZRIyTG9aM2014/05/15(木) 00:58:16.72PogtX7nj0 (1/1)

乙ー

ウサミン星突撃か
果たしてどうなるやら

そして、ウサミンPが胃痛引き起こさないか心配に

ナナミンかわいいな。他のプチ達との絡みもどうなるやら

そして、たくみん気づいてーw


107 ◆BPxI0ldYJ.2014/05/15(木) 01:23:31.31C53O8Kgu0 (1/1)

乙。
遂にか……色々複雑なもんだから、先が凄い気になるぜ


108 ◆3QM4YFmpGw2014/05/18(日) 01:14:31.44/9fLi8ur0 (1/9)

乙乙
色々起こって感想がおっつかないぜ!

投下しますわよー


109 ◆3QM4YFmpGw2014/05/18(日) 01:15:43.47/9fLi8ur0 (2/9)


アイ「やれやれ、手応えのない仕事だった」

ナイフを手慣れた動作でしまいながら、アイは女子寮への帰路に着いていた。

アイ「早く帰らないと、茨姫が拗ねてしまうな」

今回は簡単な依頼だと踏んだアイは、ハナも茨姫も用いずに依頼に臨んだのだった。

部屋でハナに当たり散らす茨姫の姿が、まるで目に浮かぶようだ。

~~

茨姫『あーもう! アイはまだ帰ってこないの!!』

『ギギン、ギギギギン!』

茨姫『うっさいわね! アタクシは寂しいのよ!』

『ギギギン、ギンガギン!!』

茨姫『上っ等じゃない! 表に出なさい、決闘よ!』

~~

アイ「……急ぐか」

まあ、茨姫単独では外に出られないし、ハナの背ではドアノブに届かないのだが。

??「待ちなよ」

ふと、アイを呼び止める声があった。

女性にしては高めな背丈、露出の高い水着のような衣服、外側にくりんと跳ねた茶髪……。


110 ◆3QM4YFmpGw2014/05/18(日) 01:16:43.64/9fLi8ur0 (3/9)

アイ「……何だ、君か」

カイ「やっと見つけたよ、傭兵さん」

海底都市の反逆者にして現在依頼による奪還対象、カイだった。

アイ「何か用かな? もしかして、私に捕まってくれるのかな?」

カイ「冗談言わないで。依頼がしたいの」


アイ「君が……私にかい?」

アイは訝しんだ。

捕えられるリスクを冒してまで、依頼したい事があるというのか?

カイ「報酬ならあるよ、ほら」

カイが取り出したのは、数枚の紙幣。

カイ「大した内容じゃないから、これでいいでしょ?」

アイは紙幣を受け取り枚数を数えると、顔を上げた。

アイ「まあ、内容を聞こうか。話はそれ次第だね」

――――――――――――
――――――――
――――


111 ◆3QM4YFmpGw2014/05/18(日) 01:18:20.98/9fLi8ur0 (4/9)

――――
――――――――
――――――――――――

海底都市、海皇宮。

エマ「ヨリコ様、ハッピーバースデー!!」

エマが盛大にギターを掻き鳴らし、ヨリコの生誕を祝う。

ヨリコ「ふふ。ありがとうございます、エマ」

エマ「はいっ、コレ! 親衛隊一同からのプレゼント!」

エマが、綺麗に包装された小箱をヨリコに手渡す。

ヨリコ「ありがとうございます。……開けてみても良いですか?」

エマ「どうぞどうぞ!」

ヨリコが丁寧な手つきで箱を開けると、箱の中には宝石をあしらった首飾りが入っていた。

ヨリコ「わぁ……」

エマ「ヨリコ様ヨリコ様! 早速つけてみなって!」

エマに促され、ゆっくりと首飾りを身につける。

ヨリコ「に、似合いますか……?」

エマ「……っんもう超バッチリ!! 綺麗!! マジで気品そのもの!!」

ヨリコ「あ、ありがとうございます…………気品、ですか?」

エマの一言に少し引っかかったヨリコは、その言葉をくり返す。

エマ「あ、うん。えっと、それゴシェナイトっていう宝石で、地上でいう石言葉が『気品』なんだってさ。マキノが言ってた!」

ヨリコ「そう、マキノが……ありがとうございますエマ、大切にしますね。マキノ達にもそう伝えて下さい」

エマ「ッザァーッス!!」


112 ◆3QM4YFmpGw2014/05/18(日) 01:19:14.26/9fLi8ur0 (5/9)

エマの威勢のいい返事の直後、部屋の戸が軽くノックされた。

兵士「ヨリコ様、アンダーワールドのアイ様がお越しです」

ヨリコ「はい、お通しして下さい」

兵士「はっ。ではアイ様、こちらへ」

兵士が下がり、代わりにアイが部屋に入って来た。

アイ「お邪魔するよヨリコさん、誕生日おめでとう」

ヨリコ「あ、ありがとうございます……ご存知だったのですか?」

ヨリコは少し驚いた。

彼女には誕生日の事など話していないはず……。

アイ「いやなに、彼女からそう聞いたのさ」

ヨリコ「彼女?」

アイ「私の依頼主様だよ、ほら」

そう言ってアイは小さな袋をヨリコに手渡した。

ヨリコ「これは……?」

アイ「全く、彼女は傭兵を何でも屋か何かと勘違いしているんじゃないかな」


113 ◆3QM4YFmpGw2014/05/18(日) 01:20:03.90/9fLi8ur0 (6/9)

ヨリコが袋から取り出したのは、折り紙で出来たカイの二頭身の人形だった。

エマ「おっ、カイじゃん!」

ヨリコ「手紙も入っています……」

『ヨリコ、誕生日おめでとう。

ごめんね、まだそっちには帰れそうにないかな。

これはその代わりっていうか……そんな感じ。

あはは……やっぱダメかな?

ホントにごめんね、やっぱり今の海底都市には帰れないよ。

でも、またいつかきっと……あの時みたいに、

ヨリコやサヤと3人で笑い合える日が来るって信じてるよ。

じゃあ、また会おうね。

親衛隊のみんなにもよろしく。

カイより』

手紙を読み終えたヨリコは、手紙をたたんでほほ笑んだ。

ヨリコ「……そうですね、また、きっと……」

その目に涙をいっぱいにたたえながら。


114 ◆3QM4YFmpGw2014/05/18(日) 01:21:14.98/9fLi8ur0 (7/9)

アイ「良いご友人を持っているようだね。なるべく早く連れ戻すから、安心して待っていてくれ」

ヨリコ「はい、ありがとうございます」

ヨリコは涙を拭い、アイへ微笑みかけた。

エマ「……あ、そうだ! 今厨房でケーキ作ってんだ、デッカいヤツ! 完成してるか見てくる!」

突然大声を上げたエマが、慌ただしく部屋を出て行った。

アイ「ふふ、彼女はいつも忙しないね」

ヨリコ「賑やかで元気なのが、エマの良い所でもあります。そうだ、良ければアイ様もご一緒にケーキいかがですか?」

アイ「お誘いありがたいけれど、そろそろ気の短い同居人達が暴れ出す頃合でね。今日は失礼させてもらうよ」

アイはヨリコに軽く会釈し、部屋を後にした。

ヨリコ「お気をつけて。…………」

アイを見送ったヨリコは、手に持ったカイの折り紙人形をしげしげと眺める。

ヨリコ「…………ふふっ」

微笑んで頭のアンテナを2度撫でると、絵皿の隣にチョコンと飾った。

――――――――――――
――――――――
――――


115 ◆3QM4YFmpGw2014/05/18(日) 01:22:25.12/9fLi8ur0 (8/9)

――――
――――――――
――――――――――――

一方その頃カイは。

亜季「ガミガミガミガミガミガミガミガミ」

星花「クドクドクドクドクドクドクドクド」

カイ「はい……すいませんでした……」

亜季「ガミガミ」

星花「クドクド」

カイ「はい、海より深く反省してます……………………海底人だけに(ボソッ」

亜季「」ブチィッ

星花「」ビキィッ

カイ「ひぃいっ!? ご、ごめんなさいごめんなさい冗談ですぅ!!」

……チームのお金を勝手に使った事を2人にこっぴどく叱られていた。

ちなみに、この後事情を話して一応は許してもらえたものの、

それでも罰としてしばらくカイだけ三食惣菜パンのみの食事となったのは、また別の話。

おわり


116 ◆3QM4YFmpGw2014/05/18(日) 01:23:50.15/9fLi8ur0 (9/9)

以上です
「しんみりした話を書くとしょうもないオチをつけたくなる奇病」を患った僕だけどヨリコ誕生日おめでとう!

アイをお借りしました


117 ◆AZRIyTG9aM2014/05/18(日) 01:27:42.85xstey2C20 (1/1)

乙ー

ヨリコさまお誕生日おめでとう!
そしてカイェ……


118 ◆zvY2y1UzWw2014/05/18(日) 09:17:20.22Rcv9et0m0 (1/1)

乙です
ヨリコ様おめでとー!
やっぱりカイとは切れない絆があるんだよな…

茨姫とハナ…女子寮の外で決闘…できるのか?
ゴシェナイトググったけど綺麗な宝石だなぁ
カイ、説教中にジョークはアカン


119 ◆zvY2y1UzWw2014/05/20(火) 00:16:11.18TXxZQOIZ0 (1/16)

学園祭、ナニカと加蓮のお話投下


120 ◆zvY2y1UzWw2014/05/20(火) 00:17:26.30TXxZQOIZ0 (2/16)

眠る加蓮を心配そうにナニカ…仁加は見つめていた。

頬に手を伸ばして、その暖かさにほっとする。

仁加「お姉ちゃん…」

腕を掴んで動脈に耳を当て、その流れる血の脈の音を聞く。不思議と心が落ち着いた。

このぬくもり。それが自分の一番欲しかったもの。仁加はずっと求めていた。

心が生まれてからずっと『奈緒』の心の奥底に悪夢と一緒に閉じ込められていたから。

ただの封じられた記憶の中に、心が生まれた事自体が異常で…生まれた瞬間から地獄で。何度も何度も死に続けた。

首も腕も足も分からなってしまいそうな『奈緒』が何度も心を壊されていった地獄。幼い心がその記憶…悪夢に囚われ続けた。


121 ◆zvY2y1UzWw2014/05/20(火) 00:19:45.66TXxZQOIZ0 (3/16)

存在する理由すら分からないまま、ただ辛くて、ただ奈緒が羨ましくて、ひとりぼっちで泣いていた。

…悔しかった。奈緒には『家族』や『友達』が居て、愛されて。でも自分は誰にも見つけられないまま、死の記憶の中で溺れていた。

どうして生まれてしまったんだろう、生まれなければよかった。お願いだから殺さないで。せめて死なせて。

記憶の中の長い耳の人たちが言葉を聞くはずも無く、ただ記憶を再現して殺され続けた。

嘆きの声も悲鳴も、誰の耳に届くことも無い。暗い空間、冷たい床の上でずっと…独りだった。

こんな世界、変わってしまえ、滅んでしまえ…独りよがりに何度も願った。自分しか信じることが出来なかった。

泣き声に何も誰も答えることは無く、自分一人きりの世界で。

神様に願っても、祈っても、死なせてくれない。苦しくて泣き続けた。涙で海ができるなら、溺れてまた死んでしまうくらい。


122 ◆zvY2y1UzWw2014/05/20(火) 00:22:20.06TXxZQOIZ0 (4/16)

『アタシはそんなに悪い子だったの?』なんて言葉に、だれも答えてくれなかった。

幼い心である為に、何も知らない無知ではなくある程度の知識があった為に…やがて心は疲れ、絶望した。

無知であったなら、まっさらな心だったなら…涙を流すことも、絶望することも、無かったのかもしれない。

人の心を僅かに持っていた為に、気が狂った。それでも…憎くて、恨んで、嫉妬して、泣き続けた。

『奈緒がきえちゃえば、アタシがきらりお姉ちゃん達に好きになってもらえるのかな』

『………奈緒なんて、大嫌い…みんな、嫌い』

幼い心は少しずつ崩壊し、化け物のような心を持った。渇望と殺意と嫉妬と欲求と破壊衝動ばかりが思考を埋め尽くしていった。

奈緒の記憶を他人のモノと認識し、自分が『奈緒』である事を否定し続け、心は、『ナニカ』になった。

奈緒は自分から逃げ続けている。自分は彼女が見てはいけないモノだから。夢に介入してもすぐに認識の外へ追い払ってしまう。

悪夢から現実に零れ落ちても誰も見つけてくれなかった。だけど現実の世界を知って、もっと世界を変えたくなった。

現実の世界も、喜びばかりではない。

痛みも苦しみも絶望も無い、誰も誰かを傷つけない、全ての存在が平等な…シアワセな世界を求めた。

誰かがその過程で犠牲になっても…どうでもいい。理想郷を夢見た。今の世界はナニカにぬくもりすらくれない、酷い世界なのだから。

奈緒を殺して、全部奪って、世界を変えよう。そう考えては化け物はキシシと笑った。そうしなければ、自分はシアワセになれないから。


123 ◆zvY2y1UzWw2014/05/20(火) 00:23:58.35TXxZQOIZ0 (5/16)

そう思っていたある日の夢、加蓮が見つけてくれた時は嬉しかった。やっと自分の事を見つけてくれた人が現れたから。優しく声をかけてくれたから。

魂に刻み込まれるほどに彼女に愛される事を求めた。生まれて初めて見つけた、たった一つの希望だったから。

自分の声を聞いてくれる人を、自分を見つけてくれる人を、自分を愛してくれる人をやっと見つけたから。

加蓮の声と姿が忘れられなくて、会うたびに嬉しい気持ちでいっぱいだった。独占欲すら湧く程に、加蓮を愛していた。

彼女とのふれあいの中で、どんどん確立された人格を形成していった。少しづつ、少しづつ、心が悪夢の世界から離れだした。

でも怖かった。また独りになるのが怖かった。拒絶されたら、彼女が壊れたら…自分はまた独りになる。

暗い悪夢の世界で、今度こそ永遠にひとりぼっちになってしまう。


124 ◆zvY2y1UzWw2014/05/20(火) 00:26:17.98TXxZQOIZ0 (6/16)

ひとりぼっちは、さみしいから。…我慢した。愛されたいという欲求を必死で抑えて、起きれば忘れてしまう夢の中の少女でいた。

奈緒と精神の居場所が反転して、偶然会ったときは逃げ出した。奈緒のふりをして誤魔化した。

祟り場でやっと『自分として』会えたけれど、それを夢の事だと思いこませ、記憶を消した。

自分の事を思いだすという事は奈緒に取り込まれてしまったという残酷な真実すら思いだしてしまうだろうから。

きっと壊れてしまう、きっと嫌われてしまう。だって自分は、『自分たち』は化け物だから。

この体は泥でできていて、自分はやっぱり普通の子ではないし、奈緒も加蓮も泥を操る不死で。

実際に自分は暴走しかける事があった。お腹がすいた時は人間でもいいから食べたい衝動に駆られたし、怒った時はその身すら真っ赤に染まる程に怒った。

零れ落ちたのは『正義』『狂信』。自分自身も何か大罪を背負っているのかもしれないけれど、それが何かまでは知らない。

現実の世界は夢や記憶の中よりずっと複雑で、自分から零れ落ちた二つの兎や、色々な人と出会ったけれど…一番なのはやっぱりたった一人で。

この時を一緒に過ごせない事があまりにも辛くて。その事を考えるなと、楽しい事で心を埋めようとしても空しくて。

会いたい気持ちと拒絶される恐怖に心がごちゃまぜになって、混乱して、泣いてしまった。

でも、また見つけてくれた。名前を呼んでくれた。ずっと一緒だと約束してくれた。自分の為に泣いてくれた。

もう、何もいらないくらい幸せだった。


125 ◆zvY2y1UzWw2014/05/20(火) 00:27:44.83TXxZQOIZ0 (7/16)

ちょっと遠慮がちに、眠る加蓮に抱き着く。

仁加「えへへ…お姉ちゃんあったかい……」

生まれて初めて、『少女』として笑うことが出来た。

拒絶しないで、受け入れて、認めて、愛してくれたから。

やっと求めていた『愛』を胸いっぱいに感じたから。


126 ◆zvY2y1UzWw2014/05/20(火) 00:29:59.29TXxZQOIZ0 (8/16)

黒兎『…もうナニカは仁加になっチャったなぁ。うーん…イニカロだな、イニカロ』

仁加「いにかろ?…黒ちゃん何言ってるの?」

黒兎『何でもナイっすよー』

仁加「?…変な黒ちゃん」

黒兎『とりアえず、加蓮が起きるまで待つのか?』

仁加「うん!お姉ちゃんとお祭りまわるのー!」

黒兎『そっかーよかッタな』

仁加「一緒においしいもの食べたりね、あとリサちゃんのライブ見たりしたいの」

黒兎(…なンか壮絶に嫌な予感がスルけど面白そうだからイっか)

仁加「…お姉ちゃん起きないね…」

ベンチで足をぶらぶらさせながら、加蓮が起きるのをずっと待っている。

それを見て黒兎は仁加に提案した。

黒兎『じゃあ加蓮が起きるまで一緒に寝てレば?』

仁加「うーん…うん、そーするぅ…おやすみー…」

黒兎『オう、おやすみ』

ぎゅっと加蓮を抱きしめ、瞳を閉じた仁加の頭に黒兎が登り、テレパシーを開始した。


127 ◆zvY2y1UzWw2014/05/20(火) 00:32:32.65TXxZQOIZ0 (9/16)

黒兎(…さっきから白がこっちを見ているな!っつーことでミラクルテレパシー!…白ぉー聞こえルぅ?)

白兎(ふざけるな、聞こえてるよ。…ものすごくアタシ不機嫌なんだけど)

黒兎(うん、なんとナくわかるわ。…仁加が『人間』になった事ガそんなに嫌?)

白兎(当たり前だ!あの化け物の憎しみが、妬みが、苦しみがあってこそのアタシの計画だったんだぞ!!)

白兎は怒っていた。電話か何かだったら確実に近くのモノをぶん殴る音が聞こえただろう。

白兎(黒!!お前もなんで邪魔をしなかったんだ!!また記憶を消すとかAMCで弱ってる加蓮を殺すとか手段はあっただろうが!!)

黒兎(嫌だね!加蓮と仁加!血のつながらない姉妹ノ感動の再会なんて面白そウな事を邪魔するの、嫌に決まってるダロ常識的に考えて)

白兎(はあああああ!?何!?お前そんな理由で!?ちょ、はあああああああ!?あんたバカァ!?)

黒兎(おこナの!?いいじゃん、仁加みたいな子も人になれる可能性を見つけたんだゾ!?)

テレパシーの中でも耳を思わず塞ぎたくなるほどの絶叫で、黒兎もキレそうになる。


128 ◆zvY2y1UzWw2014/05/20(火) 00:35:04.36TXxZQOIZ0 (10/16)

白兎にとって、記憶操作をした加蓮がここまで思いだすことはあまりにも計算外だった。これでは、計画は成立しない。

白兎(ぜー…ぜー…畜生、なんか腹が痛い…チッ、仕方ない。プランAが駄目になっただけだ。プランBを実行するまで…)キリキリ

黒兎(何ソレ初めて聞いた)

白兎(だって今思いついた)

白黒兎(HAHAHAHA…)ドッ

黒兎(…マジでぇ?)

白兎(割り切るしかないだろ。時間は永遠にあるんだ…ゆっくり次の準備をすればいい。それに、能力者という奴は取り込めば取り込むほど得っぽいし)

白兎(さらに言えば正義の剣の計画はどう転んでも次につながるはず…プランA以外の実行方法なんていくらでもある。プランにしていなかっただけだ)

黒兎(そっか…一応確認だけど白の計画にアタシは必要ダヨね?)

白兎(…特にこれからは…不本意ながらな。量で攻めるのはお前が得意だろ。アタシはもう嫌だね、なんか八つ当たりしたい気分だ)

自身の行動プランをへし折られて、白兎は相当腹が立っていた。ものすごく苛々している。

でも黒兎はそれを全く気にしない。

黒兎(そっかそっか、白はやっぱアタシがいないと駄目ダねー)

白兎(お前の価値観で判断するんじゃねぇよ。…まったく、どうしてやろうか。まだ、その時じゃないのは分かるけどさ)

黒兎(力、血から得ればバいいんじゃない?我ながらナイスじょーくだね、キシシ)

白兎(なるほどね、血か。…確かに生体情報は得ることが出来るだろう。多くて損は無い。…だが、後天的な能力は手に入らないだろうな)

黒兎(あーそうなルか…。ちかたない、待つしかないね。確かに時間は永遠にあるわけだし。…それに、方舟ぶっ潰したいし)

白兎(ああ。神が作って神が洪水を起こすとかいうアレ?くだらない、この世界はアタシが作り変えるべき世界だ。全生命を幸福にできない神に任せられるかよ)

黒兎(だね、それでこソ白だ。アタシの欲しい世界を一緒に語れる白はこうでなくちゃ、とーってもツマラナイ!)

白兎(この世界を支配すべきは、神でも天使でも悪魔でも、ましてや人でもない!!この哀れな世界の為に生まれたアタシこそが…!キシャシャシャ!)

黒兎(そレ、ちょっと痛いヤツっぽいヨね)

白兎(…アァン?)

黒兎(げっ…じゃねバイ!)

―ブツリ

白兎が切れるより早く、テレパシーを切断した。


129 ◆zvY2y1UzWw2014/05/20(火) 00:36:43.82TXxZQOIZ0 (11/16)

黒兎『…さてト』

ぺちぺちと加蓮の頬を軽くたたく。

黒兎『おきろーオきろよー』

ぺちぺちぺちぺちぺち…

加蓮「…zzz」

黒兎『…なんだコレ、やばい楽しい…♪』

ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ…

黒兎はテンションが上がり、加蓮の頬をひたすらやわらかいぬいぐるみの腕で叩き続けた。


130 ◆zvY2y1UzWw2014/05/20(火) 00:40:20.07TXxZQOIZ0 (12/16)

――

加蓮の意識は記憶の海の中にいた。

と言っても半分以上は無意識のまま。引っかかりを見つけた思い出を遡っていた。

思いだしていたのは浄化されてすぐ、管理局で奈緒に能力の制御方法を教えてもらう直前の事。

管理局が初めて確認したカースドヒューマンという事もあり、少なくない検査も受けたが、捕まるという事は無かった。

だけど浄化前は容易く扱えていた力が上手く使えなくなって…自衛の為にと、似た能力を持つ奈緒に指導を受けることになって…。

練習の為に管理局の施設の中のトレーニングルームに向かう途中で、すれ違ったきらりが言っていた言葉が、今思いだされた。

『加蓮ちゃん、奈緒ちゃんをよろしくねー?』

その後すぐに、奈緒に『いや逆だろ!?』と突っ込まれていたけれど…。

今、思い返せば…もしかしたらきらりは知っていたのかもしれない。

奈緒に既に取り込まれ、永遠の命を得た事を。…きっと、いつかきらりも命の終わりがくるから。

…きらりは真実を見る事が出来ると聞いた。知っていてもおかしくはない。

それを言わないのは、彼女なりの思いがあるのだろう。

そして、奈緒。自分と他のネバーディスペアのメンバーより深く関わった記憶喪失の少女。

(奈緒は、何も知らない。仁加ちゃんの事も夢の中のあの子達の事も…私が奈緒の一部だって事も)

奈緒と暫く一緒に過ごしたこと、そして夢の中で見た残酷な光景が脳裏を過る。

(…奈緒は、知ったらどうなっちゃうんだろう)

記憶を無くしたのは、きっと浄化のせいじゃない。心を守る為。

不意に、妙な感覚がやってきた。きっともうすぐ目を覚ますのだと、心のどこかが悟った。

目覚めた時、この事を憶えているのだろうか…それがわからないまま、意識は浮上した。

――


131 ◆zvY2y1UzWw2014/05/20(火) 00:41:30.38TXxZQOIZ0 (13/16)

ぺぺぺぺぺぺぺぺ…

加蓮「…うう…ん?」

黒兎『』ピタァッ

加蓮「…?…何かほっぺに当たっていたような…あっ、仁加ちゃん…そっか、さっき気を失って…」

自分が気を失って、その後どうやって場所を移動したのかはよく分からないが、とにかく仁加は自分から離れることは無かったことを理解する。

そして加蓮が目を覚ましたのを感じ取ったように、仁加も目を覚ました。

仁加「…おねえちゃん…?…!加蓮お姉ちゃん!」

加蓮「ごめんね、心配かけちゃって…」

ぎゅっと抱き着いて離さない仁加の頭を、加蓮は優しく撫でた。仁加の頬が赤く染まる。

仁加「…ねぇお姉ちゃん、約束、ホント?ホントに見つけてくれる?ずーっと一緒に居てくれるの?」

瞳を潤ませ、顔を埋めながら加蓮に尋ねる。『少女』は今が幸せだからこそ不安で仕方なかった。

またいつか、悪夢に溺れる日が来たら…幸せな今から転落したら、今度こそ自分は壊れてしまいそうで。

加蓮「うん、約束するよ。仁加ちゃんをもうひとりぼっちにしないって…そうだ」

加蓮は抱き着く心配性の仁加の腕を優しく解き、横に座らせた。

仁加「?」

加蓮「指切りしようよ、ほら…」

小指を立てた右手を仁加に見せ、微笑んだ。

仁加「う、うん。わかった…」

加蓮が恐る恐る差し出された仁加の小指と小指を絡め、二人で歌った。

「「ゆーびきーりげーんまーん、うそつーいたらはりせんぼんのーます♪指切った!」」

加蓮「よし、これなら絶対に約束を守れるよ、仁加ちゃん!」

仁加「…うん!」

加蓮の笑顔を見て、仁加は不安になることを止めた。


132 ◆zvY2y1UzWw2014/05/20(火) 00:44:20.29TXxZQOIZ0 (14/16)

仁加(お姉ちゃんがアタシを幸せにしてくれたから…今度はアタシもお姉ちゃんを幸せにしよう。お姉ちゃんが笑ってくれるようにがんばろう)

仁加(…だから、奈緒をちょっとだけ許してみよう。まだアタシは奈緒に会っちゃダメだと思うけど。…そもそも見えないかな)

加蓮「じゃあ、一緒にお祭りまわろっか?仁加ちゃんは行きたいところある?」

加蓮は仁加の手をしっかり握って、立ち上がった。

仁加「えっとね、アタシは…」

一緒に歩き出そうとした時、ポロポロと仁加の瞳から涙がこぼれた。

思わず手を離して、涙を抑えようとしてしまう。

加蓮「仁加ちゃん…?」

仁加「…あれ?あれ?なんで…」

ずっと悲しい時や苦しい時に泣いていたから、どうして涙が溢れて止まらないのかわからなくて、ひたすら困惑した。

仁加「ど、どうしようお姉ちゃん…悲しくないのに、寂しくないのに、止まんない…」

オロオロする仁加の涙を、加蓮がハンカチを取り出して拭った。

加蓮「大丈夫だよ、これは嬉しいから流れる涙なんだから」

仁加「嬉しい…から?…そっか、嬉しいから…えへへ」

やっと涙が止まると、仁加は今度こそ加蓮の手を離さないようにしっかりと握った。

嬉しいのは、やっとその手を握ることができたから。

仁加(もっと楽しいこと、お姉ちゃんと一緒に…)

だから…この嬉しさと幸せが、終わらないなら。きっと世界を好きになれると思った。


133 ◆zvY2y1UzWw2014/05/20(火) 00:46:15.39TXxZQOIZ0 (15/16)

情報
・ナニカは『仁加』としての人格をほぼ確立しました
・お姉ちゃんと一緒にお祭りだよ
・白兎がナニカを利用した計画を断念、次のプランを計画中。でもストレスが溜まっている模様


134 ◆zvY2y1UzWw2014/05/20(火) 00:47:32.37TXxZQOIZ0 (16/16)

以上、究極生命体は愛を得て心が人間になるという話(仮)とちょっとだけ語ってない部分の過去を振り返ったり。
それとシルフとかの精霊とかも人に愛されることで不滅の魂を得るとかなんとか

それと、仁加視点で書くと冗談抜きで加蓮が女神すぎるの
ナニカは当初はただの奈緒暴走イベントの為だけの怪物だったはずなんですが…こうなるとは当初は全く予定して無かった
やっぱりシェアワってすごいなぁと思いました(小並感)

白「プランAが出来なくなった…」キリキリ
黒「じゃあプランBでいこう、プランBはナに?」
白「あ?ねぇよそんなもん」(白目)


135 ◆AZRIyTG9aM2014/05/20(火) 01:15:03.57MZKMdND9O (1/1)

乙ー

やだ…加蓮マジ女神…実の姉妹みたいでホッコリする

そして、黒ちゃんwww
白ちゃんの計画も加蓮が無意識に潰すとは…

パップの胃痛のカウントダウン始まったな


136 ◆3QM4YFmpGw2014/05/21(水) 00:07:47.2305qgQJtF0 (1/8)

乙ぅ
加蓮おねえちゃん超絶女神! 女神!!

投下しまう


137 ◆3QM4YFmpGw2014/05/21(水) 00:08:37.6305qgQJtF0 (2/8)


ライラ『みなさーん、今日はライラさんのバースデーライブにお越しいただいて、とてもありがとうございますですよー』

観客「ライラさーん!!」

ライラが客席に手を振ると、大歓声がホール中に響き渡る。

ライラ『次の曲はクールP殿に作詞してもらったわたくしのデビュー曲「アイスクリーム・クライシス」ですよー』

観客「うおおおおおおお!!」

ライラ『合いの手をよろしくお願いしますです。あ、わーんつーすりーふぉー……』

ライラの合図でバックバンドがイントロの演奏を始める。

会場の熱は増すばかりだ。

ライラ『ラ・ラ・ラ・ラ・ラ……♪』

ライラが歌い始めれば、もうボルテージは最高潮。

観客「わぁぁー!!」

そんな光景を、彼女の担当プロデューサーがステージ脇から眺めていた。

クールP「…………」

――――――――――――
――――――――
――――


138 ◆3QM4YFmpGw2014/05/21(水) 00:10:09.2405qgQJtF0 (3/8)

――――
――――――――
――――――――――――

ライラの楽屋。

ライラ「ふう、おしまいでございます」

シャルク『おつかれさまです、ライラさま。ドリンクがひやしてあります』

ガルブ『ファンからプレゼントがとどいています。もちろん、なかみはスキャンずみです』

シャルクがクーラーボックス、ガルブがいくつかの小箱を抱えながらライラに近寄る。

ライラ「ありがとうですよ。んぐんぐ……ぷはっ。ところでクールP殿はどちらですか?」

ライラが周囲を見回すが、そこにクールPの姿はない。

シャルク『すこしようがあるといって、せきをはずされました』

ガルブ『もどりがおそいようなら、ライラさまのそうげいをまかせる、ともいわれております』

ライラ「……シャルクとガルブがでございますか?」

ライラは二人へきょとんとした表情を向けた。


139 ◆3QM4YFmpGw2014/05/21(水) 00:10:49.3205qgQJtF0 (4/8)

ガルブ『しんぱいごむようです。クールピーさまよりこれをあずかっております』

ガルブが自慢げに取り出したのは、一冊の手帳。

表紙にはクールPの丁寧な字で『プロデューサーのいろは』と書かれている。

シャルク『こんごは、クールピーさまもおひとりでふたりのアイドルをどうじにアシストすることはむずかしいだろうと……』

ガルブ『われわれが、プロデューサーみならいとしてライラさまにおつきします』

ライラ「それは頼もしいですねー。では、わたくしの次のご予定は何でしょうか?」

ライラに尋ねられ、シャルクはスケジュール帳をパラパラとめくって答えた。

シャルク『つぎはぼうきょくでバラエティばんぐみのしゅうろくです。からだをつかったゲームでしかいチームとたいけつするものですね』

ガルブ『ライラさまはゲストのアイドルチームとして、ようこさまとしのぶさまときょうえんとなっております』

それを聞いたライラは少し考えてから口を開いた。

ライラ「うーん……たしかシノブさんとご一緒のお仕事は初めてでございますね。楽しみです」

んっ、と軽く伸びをして、ライラは椅子から跳ね起きた。

そして率先して楽屋のドアを開けようとした瞬間、ドアの向こうからノックの音が響いてきた。

ライラ「はい、どうぞです」


140 ◆3QM4YFmpGw2014/05/21(水) 00:11:35.3605qgQJtF0 (5/8)

ドアを開けて入ってきたのはクールPだった。

クールP「やあライラ。もう出発かな?」

ライラ「はいです。クールP殿が送ってくれますですか?」

クールP「いや、悪いけど別の用が入ってしまってね。送迎はシャルクさんとガルブさんにお任せするよ」

ライラ「そうでございますか」

クールP「……ライラ、最近はアイドルヒーローがだいぶ板についてきたね」

クールPがライラの頭を撫でながら微笑んだ。

秋炎絢爛祭でのデビュー発表以降、ライラは大小様々な仕事をこなしてきた。

監視役・APと友達になる懐柔策、先輩アイドルのバックダンサー、奴隷商人に攫われた人々の救出、オールヒーローズフロンティア……。

その下積みがあったからこそ、今日という日にバースデーソロライブを開けるまでに至ったのだ。

ライラ「はい。ライラさん頑張りました」

クールP「うん。これからも頑張ってほしいな」

ライラ「はい。でも……」

クールP「でも?」

クールPの、ライラの頭を撫でる手が止まる。


141 ◆3QM4YFmpGw2014/05/21(水) 00:12:09.6405qgQJtF0 (6/8)

ライラ「アイドルヒーローだけでなく、ライラさんはお二人の『計画』ももっとお手伝いしたいですよ」

クールP「…………!」

ライラの言葉に、クールPは思わず絶句した。

ライラ「……クールP殿?」

クールP「…………あ、いや、何でもないよ。そうだね……とりあえず今はまだ、APの監視を一身に受けていてほしいかな」

少しだけ慌てた様子で、クールPは口を開いた。

クールP「ほら、それよりも。そろそろ移動しないと間に合わないんじゃないかな?」

シャルク『そうですね。いそぎましょうライラさま』

ライラ「あ、そうでございますね。ではクールP殿、また事務所でですよ」

ガルブ『わたしがくるまをだしましょう』

ライラ「ガルブ、運転免許を持っていたですか?」

ガルブ『ふっ、ライラさま。きかいがきかいをうごかすのに、とくべつなしかくはひつようありませんよ』


142 ◆3QM4YFmpGw2014/05/21(水) 00:13:05.4405qgQJtF0 (7/8)

三人が慌ただしく出ていった楽屋の中で、クールPは一人立ち尽くす。

クールP「……………………ハハハッ、これは傑作だ。もう笑うしかない…………」

僕がライラを見つけ拾った時、ただ利用するだけの存在としてしか見ていなかった。

それは当然のこと、何故なら僕は立場のみとはいえ『利用派』に属する吸血鬼だからだ。

帝王や御大将だって利用しているに過ぎない、全ては僕が吸血鬼の王となる為に。

だが……彼はライラの言葉で気づかされた。

クールP「彼女に言われるまで……僕は『彼女達を利用している』ということをすっかり忘れていた…………アハハハッ」

担当プロデューサーか、はたまた兄か父親か。

とにかく、そういう目線でライラを見続けていたことに、気づかされたのだ。

いつ頃からそうなったのか、全く覚えがない。

このまま彼女を抱えていては、また同じことが起こるかもしれない。

捨てるか? とも考えるが、すぐに首を横に振る。

クールP「いま彼女を手放せば上層部やAPの疑念はすぐに僕たちへ向かう……それだけは避けないと……」

やがて、クールPは小さく息を吐いてからどこかへ電話を掛けた。

クールP「……ああ、もしもしチナミさん。……いや何、ちょっと声が聴きたくなって…………はは、これは手厳しい」

電話口から飛び出すチナミの嫌味に苦笑しながら、クールPは近くの椅子に掛けた。

クールP「実は偶然この後仕事が空いていてね、良かったら夕飯でもどうかと…………」

気分のリフレッシュ、仄かな恋の攻略、今後の為の情報収集。

三つの目的を同時に進行させようとするクールPの顔は、少しだけ気分よさげに微笑んでいた。

続く


143 ◆3QM4YFmpGw2014/05/21(水) 00:15:31.7005qgQJtF0 (8/8)


以上、ライラ誕生日&クールP心境の変化
え? 最初が菜々さんとダダ被りだって? しょうがねえだろアイドルヒーローだぜ!?(逆切れ)

名前だけ洋子、忍お借りしました


144 ◆AZRIyTG9aM2014/05/21(水) 01:34:35.502MgbAOXB0 (1/1)

乙ー

ライラさん誕生日おめでとう!
クールPはどうするのかね?今後が楽しみ


145 ◆zvY2y1UzWw2014/05/21(水) 07:51:38.95As04sEZQ0 (1/1)

乙です
ライラさん誕生日おめなのですよー

ちゃんとアイドルやってるなぁと改めて実感。…機械が機械を動かすのにたしかに免許はいらないな、うん
クールPもちょっと複雑な心境になってきた?これからが楽しみだネ


146 ◆zvY2y1UzWw2014/05/25(日) 22:25:11.23qLytG6T/0 (1/21)

テロ時系列で投下します


147 ◆zvY2y1UzWw2014/05/25(日) 22:26:21.17qLytG6T/0 (2/21)

サクライとエージェントが眼下のテロを見下ろすビルの屋上。

大蜥蜴を消滅させた後は同じような脅威に襲われることも無く、何事も無いのではないかと思われていた。

…そう、思われていたのだ。それは油断ではない。本当にカースも殆ど襲ってこない状況だったのだ。

だか確かに異変は起こっていた。

『もし私から♪』『動くのならば♪』『すべて変えるのなら♪』『黒にする!』

黒い人の様なモノが蜥蜴型カースを捕え、嫉妬のエネルギーを暴走させることなく飲み込み、生まれ変わらせる。

自爆能力を持つ狂信のカースが同じく自爆能力を持つ嫉妬のカースの核を黒く染め上げ、変形させる。

『メガネ、メガネハアカン…』『メガネナンテキエチャエ!』

燃え上がるのは狂信の炎。AMCの体内で命を落とし、生まれ変わった蜥蜴型カースが口々にメガネへの嫌悪の言葉を吐いていた。

紗南「…あれ、嫉妬じゃない属性のカースが湧いてきてる?」

ふと調べた個体の属性の表記が『狂信・AM(アンチメガネ)』となっているカースがいるのを紗南は見つけてしまった。

紗南(狂信…どうしてここに?)

サクライ達にこの事を報告しようとした矢先に、周囲の状況を知らせる画面に異変が起きた。


148 ◆zvY2y1UzWw2014/05/25(日) 22:27:21.48qLytG6T/0 (3/21)

紗南「…!サクライさん、何か来てる!」

画面に表示されたアイコンは、高速でこちらへ向かってきていた。

サクライP「情報は?」

紗南「ちょっと待って、今調べ…」

コマンドを入力しようとして悪寒が走った。調べてはいけない…きっとこの感覚は…

紗南「っ…!!」

ブツリと、思い切りゲームの電源を落とした。

サクライP「ん?」

さくら「あれ、電源を切ったら調べられないんじゃ…」

さくらの言葉が終わるよりも早く、紗南のポケットの通信機から白い泥が溢れ出す。その通信機を投げ捨て、全力で距離を取った。

紗南「やっぱり…!」

屋上の端まで投げ捨てられた通信機から溢れる白い泥は、球体の形をとりながらどんどん溢れてくる。

さくら「えっ?えっ?な、なんですかぁ!?」

紗南の悪寒は、あの秋に出会ったあの白い怪物とのファーストコンタクトの時のデジャヴのような物だった。

情報を調べようとすれば、また暫く使用不能になっていただろう。通信機から出て来る可能性も考えていたので対処も早めにできた。

竜面「『愚かなる汝の影は、大いなる我が力に従い暗黒の呪縛へと縛られん…シャドウバインド!』」

白い泥を見てすぐに異常事態と判断した竜面の男が束縛式を放つ。

ドロドロと溢れ続ける白い泥の足元から黒い腕が溢れ、溢れないように、動かないように…その白い泥を拘束した。


149 ◆zvY2y1UzWw2014/05/25(日) 22:27:59.59qLytG6T/0 (4/21)

竜面「…これは、カース…なのか?」

紗南「わかんない、前に調べようとしたら能力が使えなくなっちゃったから…」

さくら「つ、通信機からお出ましなんて…まるで貞子ですねぇ!」

サクライ(…情報獲得能力が使えなくなるほどの力を…?それにしてはやけに容易に拘束された…)

その白い泥を見つめる4人の後ろで、声が響く。

『メガネナシ!問題無シ!』『メガネ進化ハ許センゾキサマ!』

『メガネは居ないけどメガネを売ってる人はいるよね』『ジャアおしおきしなきゃねー』『メガネ無き世界のためー!』

竜面「…なるほど、囮か」

AMC…アンチメガネカース人間模倣体。嫉妬の蜥蜴が変化したメガネ嫌いの蜥蜴を引きつれて、音も無く屋上に現れていた。

『メガネぶっコロなんだ!』『メガネある世界に幸福ない!』

しかもAMCは全員どこか不気味な白い剣を装備し、赤い目をしていた。今までの目撃情報にこの状態になった個体は居ない。

それは狂信が正義の呪いによってより過激な思想を持つように進化したAMCだった。


150 ◆zvY2y1UzWw2014/05/25(日) 22:29:31.87qLytG6T/0 (5/21)

『さっくらい!』『パッってはじけて!』『裸眼世界にこーせー!』『こーせー☆』

赤い目をぎらぎらさせながら、剣を持ったAMCとメガネ嫌いの蜥蜴がじりじりと近づいてくる。

竜面「…今、自分は拘束しいている。攻撃はさくらがやるんだ。良いな」

さくら「ええっ!?はい…」

サクライP「そうだな、そうするしかない」

少なくとも現在の数では先程の大蜥蜴程の脅威にはならないだろう。さくらが詠唱を始めようとしたまさにその瞬間、声が響いた。

「止まれ」

ピタリと、その声の通りにAMCは動きを止める。

「久しぶりが1人、初めましてが3人か。まったく…面倒だな」

その声の持ち主は、黒い腕に拘束された白い泥。

「これが魔術による拘束か、拘束は結構慣れたつもりだったけどこういうのは初めてだな…結構ヘンな感じ。これが魔術なのか?」

そう言い終わるや否や泥が急激に膨張し、拘束の腕が千切れて消滅した。

飛び散った白い泥が紗南の足元に渦巻き巨大な触手となって足を捕まえ、宙吊りにする。

紗南「!?」

サクライP「この触手は…」

竜面「間違いなくイカだろう」

さくら「イカでもタコでもどっちでもいいですよぉ!!」

そして本体と思わしき白い泥が渦巻き、やがて首の無い白い男の姿になった。

その顔の部分に一匹の黒い蜥蜴がサクライ達の足元を潜り抜けて乗り、黒いミミズクの姿になる。その姿はまるでミミズク頭の男のようだった。


151 ◆zvY2y1UzWw2014/05/25(日) 22:31:11.00qLytG6T/0 (6/21)

その男…白兎が宙吊りになった紗南を真横に持ってくると、頬を思い切り抓った。

白兎「キシャシャ、紗南…また会う事になるなんてな。しかも学習していて驚いたよ。ちょっとだけ感心してやってもいいかな」

紗南「お前なんかに感心されても嬉しくないし!」

正直震えが止まらない。紗南は目の前の存在が聖來を追い詰めた事を知っている。そして奴が少しずつ近づいて来た時の恐怖も覚えている。

だが、だからこそ自分が奴に屈することを許せなかった。

白兎「無駄な強がりを言って…。はぁ、聖來は居ないのか。…どこにいるか知ってるよなぁ?」

複数の触手がヌチャヌチャと音を立てて絡みつき、紗南に恐怖を与える。さらに鋭い爪が紗南の首筋に傷をつけ、指に付いたはずの血は飲み込まれるように消えた。

痛みと濡れた服が不快になるが、それを表情に出さないように紗南は必死になる。

紗南「い…言う訳ないじゃん!」

白兎「チッ…まぁ今回の目的は別だし、無理には聞かないでおいてやるよ。エージェントで最初に殺すか服従させるのはなるべく聖來が良いし」

紗南の頬から手を離し、サクライに向き合う。首の上の真っ赤なミミズクの瞳が見つめていた。


152 ◆zvY2y1UzWw2014/05/25(日) 22:33:26.16qLytG6T/0 (7/21)

白兎「やぁやぁ、櫻井財閥のお偉いさんがこんなところで何しているのかなぁ?物騒な現場にわざわざ来るとは御苦労な事で。理由があるんだろ?」

サクライP「話す必要は無い…君の事を話せば考えてもいいけれどね」

白兎「お生憎様、その『おう、考えておいてやるよ』っていうのは信じない主義なんで。…何が知りたいか程度なら聞いてやってもいいが」

サクライP「…その姿、見覚えがあってね」

白兎「そうそう、アンタの部下だった奴らしいな?不用心な事に首なしで放置されてたから貰っちゃったんだけどさ!」

腹の探り合いだ。だが、そういうのはきっとサクライの方が上手だと悟った白兎は中断した。

白兎「まあ、来た目的ぐらい言わなきゃ意味ないな。…えーっとなんだっけ。あ、そうそう『イロカニ』の命令でここまで来たんだけどさ…」

命令で動くのが相当不本意なのか、不機嫌そうに白兎は地面を蹴った。ぴちゃぴちゃと水が跳ねる。

『イロカニ』は単純に仁加という漢字を分解し並び替えた言葉だ。仁加という名前も珍しいと言う訳ではないし、ただ単に錯乱目的でこの名前を言った。

…その言葉から適当な組織の一員だとでも思ってくれれば万々歳と言う訳である。もちろんそんな事期待していないが。

実の所は加蓮の友人宅にいる仁加に、買い出し組の加蓮を見守っておいてと指示され、不満はあったが仕方なく追跡してこのテロに遭遇したのだ。

白兎はそのこと自体はどうでもよかったが、加蓮が戦っている近くにサクライ達が居る事が動く原因だった。

湧き上がったのは紗南に久々に顔を見せておこうという好奇心と、サクライや他のエージェントの実力を見ておこうという余裕。

まだ、白兎は弱い。だからこそ様々な人間の戦闘技術をラーニングしようとしている。

サクライのエージェントに売られたケンカだ、またいつ何度でも買ってもいいだろう。身勝手にそう思っている。

ついでに加蓮の泥の蛇での捕食行為が目立つ事が、自分たちといつか繋がり不都合になる可能性も考えてはいるが…基本的に自分の為だ。


153 ◆zvY2y1UzWw2014/05/25(日) 22:35:40.86qLytG6T/0 (8/21)

竜面(イロカニ…何者なんだ…)

白兎「まぁ、ちょっとした監視命令って奴?つまりさぁ…ちょっとここから消えてくれない?ここが結構見晴らしが良い場所だしさ」

ここからサクライ達を追い払えば加蓮を見守ることも楽になるし、戦う理由になる。白兎は存在しない顔で笑っていた。

サクライP「…後から来ておいてその言いぐさは無礼にも程があるんじゃないかな?」

さくら「そうですよぉ!私達が頑張って守った場所でもあるんですよぉ!!」

白兎「ふーん…身の程知らずの人間共はそうするよなぁ。じゃあ当初の予定通り、無理やりにでもここから退いてもらおう」

『ヒャアッッハアアアアアア!』

腕を高く掲げれば、動きを止めていたAMCはその剣で、蜥蜴はその狂信の炎で…4人を追い詰めようと動き出した。

白兎は背中に白い翼を生み出し、空から適当に観戦しようという態度だ。

サクライP「…なら、こちらも武力交渉となるのかな」

そう言って彼は剣を取り出す。

サクライP「水よ、僕に従え」

足元で輝く鎮火の祝福を受けた水が剣に纏われ、輝く。

白兎「ふぅん、そういうことが出来るんだ」

水を纏った神秘の剣が、紗南を宙吊りにしていた巨大なイカの触手を破壊した。


154 ◆zvY2y1UzWw2014/05/25(日) 22:36:46.30qLytG6T/0 (9/21)

そこまで高く吊られていなかった事も幸いし、紗南は何とか無傷で着地する。

紗南「と、とりあえず助かったぁ…」

サクライP「紗南君、君は先に逃げておいた方がいい」

紗南「うん…でもサクライさん達を置いてなんて…」

サクライP「ふっ、僕を誰だと思ってる。簡単に負けたりはしないさ。それにその靴なら大体の相手には逃げ切れるだろう」

紗南「あっ、そういえばそうだった」

紗南は自分の装備しているエアロシューズの存在を思いだした。

憤怒の街でもカースから逃げる時に使った靴だ、その速度は身をもって知っている。地上に降りて一般人のフリをして保護してもらうのもありだろう。

サクライP「なあに、無理をするつもりはないよ。だから安心してくれ、君の元へカースは行かせないつもりだ」

紗南「わ、わかった!」

情報獲得は使えない。使った瞬間に画面から白兎が出てくるのは間違いない事だからだ。

ただでさえ非戦闘要員であるのに、唯一の能力も封じられてはただの一般人に過ぎない。だから紗南は…逃げ出した。

白兎「生意気な、アタシから逃げる気か…」

竜面「…さくら!」

さくら「はぁい!」

紗南「ごめんなさいっ!あとはお願い!」

足元の水がカッターのようになってカースを切り裂いたのを確認するが、散っても散っても次の援軍が湧いてくる。

なるべく邪魔にならないように、紗南は屋上の階段を駆け下りて逃げ出した。


155 ◆zvY2y1UzWw2014/05/25(日) 22:38:37.56qLytG6T/0 (10/21)

白兎「…追え」

『天元突破ラガンラガン!!』『マジラガン1000パーセント!!』

『まってまって!』『ゲームのアバターにサングラスつかってそうだなぁ!!』『きゃはー!』

階段へ向かって黒いカース達が殺到する。

サクライP「行かせないと言ったはずだ」

『『あ…?』』

追いかけようと動いた蜥蜴やAMCを、サクライは再び剣に鎮火の水を纏わせ、容易に切り裂いた。

『レェェェェザァァァァァッ!』『ビビビビィムッ!』

サクライP「隙だらけだ」

『ウォ…』『ヅギィ…』

他の個体が放ったレーザーも軽く躱し、逆にその個体に接近して瞳を真っ二つにした。


156 ◆zvY2y1UzWw2014/05/25(日) 22:40:56.83qLytG6T/0 (11/21)

サクライP「幼い子供の姿をしたカース…趣味が悪いと思うよ?」

白兎「そんなに躊躇なく斬っておいてよく言うよ。…それにしても面白い剣だな」

サクライP「欲しくなってもどうせ手に入らないさ」

白兎「奪ってしまえばいい。お前の腕を切り裂いて、お前の腕ごとな。まぁそこまでアタシもオッサンのお古なんて欲しいわけじゃないけど」

サクライP「オッサン…」

「ホー!」

バカにするように首の上のミミズクが大きく翼を広げた。

白兎「…とりあえず、そろそろ自分も戦おうかな?やっぱり見てるだけってのはどうも性に合わない。オッサン、相手してよ」

そう言って着地すると同時に白兎は自身の右手を切り落とした。呪いと生命の生への執着の象徴である血液が、屋上を流れる水を汚してしまう。

切り落とした右手を右腕の切断面から伸びた触手が回収するが、何故かその手をくっつけようとしなかった。

白兎「これでいいか…さてさて、遊ぼうか」


157 ◆zvY2y1UzWw2014/05/25(日) 22:42:28.64qLytG6T/0 (12/21)

左腕が白い剣…正義の剣に変化し、サクライの剣と正義の剣がぶつかり合う。

サクライP「剣の技術は無いようだね…!」

白兎「ああ、無いさ!でもお前もさっきより攻撃力大幅にダウンしてるなぁ…?大蜥蜴の時よりも!」

サクライP「…見ていたのか」

白兎「見ていたよ、だからお前たちは面白いと確信したね!あの女が所属してるだけの事はある…!」

彼の剣『セイヴザプリンセス』は、英雄的行為によって力を発揮する。

誰か…女の子を守る時、相手が己より強い時、相手が人類の敵の時…

だが大蜥蜴の時よりも、今の状況は英雄的とは言えない。

確かに強いが、今の白兎はサクライだけを狙っているのだから。今の彼は誰も守っていないのだ。

そして鎮火の水も汚されて使えなくなり、白兎の正体は知らずとも、確かに先程よりも苦戦する状況なのはサクライもよく知っていた。

バチバチと正義の剣が電気を纏う。そんな状況にあるにも関わらず、サクライはにやりと笑っていた。


158 ◆zvY2y1UzWw2014/05/25(日) 22:44:26.61qLytG6T/0 (13/21)

白兎の振り下ろした剣を躱し、電流が流れバチバチと音を出す水たまりから飛び上がる。

技術の差は覆せない。あまりにも適当な攻撃なのだ、容易く避けることが出来る。そして彼は迷いなくその肉体に剣を突き刺そうと構えた。

だが白兎の足元から泥が溢れ…地面を這う泥から大量の正義の剣が生まれ、それが柵のようになって彼を妨害してしまう。

白兎「危ない危ない、やっぱりオッサンは剣の扱いの技術あるんだな。これが慣れって奴か」

サクライP「オッサンと言っている君も首から下は成人男性じゃないか」

白兎「これは仕方なくだからな。心は乙女だったりするのよぉ❤…なんてな。あー気持ち悪い」

サクライP「確かに…とても気色悪い」

白兎から放たれた電撃を神秘の剣が受け流し、サクライの剣を白兎がステップのように躱す。

そして回避した白兎の足を、サクライは着地と同時に足払いした。

白兎「……!」

サクライP「消えてしまえ」

頭部のミミズクが飛び上がるが…転んでバランスを崩した白兎を、神秘の剣が真っ二つにしてしまった。


159 ◆zvY2y1UzWw2014/05/25(日) 22:46:49.65qLytG6T/0 (14/21)

神秘の剣がその体を崩壊させ…いや、崩壊と同時に泥のようなその肉体が動き出した。

どんな神秘でも、どんな法則でも、どんな力でも、それを殺すことはできない。

サクライP「…神秘の剣でも死なない…不死の怪物か」

ぐちゃぐちゃと足元に滴る血を白い泥が回収しながらその怪物は復活する。

白兎「痛ぇな畜生…はぁ、やっぱり技術の差があるとこうなっちゃうか。あとで真似するか…あ、そっちも構ってやるよ」

そして思いだしたように切り落とした右手を思い切りさくらと竜面の男へと投げつけた。

さくら「ひぇぇ!?」

竜面「さくら!前を見ろ!」

さくら「えっ?」

しゃがんで腕を回避した次の瞬間、目の前にさっきまで首の上に居たミミズクが目の前まで迫っていた。

ミミズクは泥のように溶けて黒い人型に変形し、さくらを押し倒すとその首筋に吸血鬼の牙が傷をつけた。

その傷を舌で舐め、味わう様にその血を吸う。頭の中に訳の分からない感覚が叩き付けられさくらは混乱した。

サクライP「さくら君!」

竜面「さくらぁ!!」

さくら「あっ…血…血が…!やだっ…!」

白兎「キシシシシシシ!今のうちに追え、狂信兵!」

『ラガン!』『ラガン!』『ゲーム娘は将来的にメガネ娘になる可能性が高い!』

その隙に狂信兵と呼ばれたAMC数体が、屋上から飛び降りて紗南を追った。


160 ◆zvY2y1UzWw2014/05/25(日) 22:48:11.58qLytG6T/0 (15/21)

さくら「たすけ、ひぃっ…!」

竜面「…」

「あら、オ怒りのようで」

竜面の男が何か呪文を唱えようとしたのを察すると、すぐにその泥はさくらから離れた。

「甘くておいしいO型の血をありがとネ、サクラちゃん?ずっと黙ってた甲斐があったヨ」

血を吸った目の前の人型がニタァと口が裂けるように笑うと、明確な人の姿に変形する。

真っ赤なリボン、黒い魔女の様な服を着て、黒い肌に真っ赤な瞳。そんなさくらの姿になった。

サクライ「…コピーしたのか」

さくら「わ、わたし…?」

黒兎「キシシ、どう?どう?」

白兎「性能が良ければ見た目はどうでもいい」

黒いさくらが白い首なしの男にニコニコ笑うが軽くスルーされてしまう。

黒兎「…はいはい。じゃあ、やルことやっちゃおっか♪」


161 ◆zvY2y1UzWw2014/05/25(日) 22:50:06.52qLytG6T/0 (16/21)

ちょっとしょんぼりしつつ黒いさくらの格好のまま泥から取り出した巨大な骨の様な杖を持つと、足元から大量の泥が溢れ出す。

泥は無数の口の形となって、彼女の背後に大量に生み出される。

異形の者だからできる事。それは体のパーツをいくらでも生み出せる事。

その瞳を赤く輝かせながら、楽しげにステップをしながら無数の口達と共に詠唱を始めた。

「「「「大いなる我が力を用いて、星空・宇宙の理を読み解き、星々の輝きよ我が敵を貫け!スターライトスピアー!」」」」

無数の口が一斉に一つの呪文を唱え、口の数だけ現れた輝く光の矢が現れた。


162 ◆zvY2y1UzWw2014/05/25(日) 22:50:41.55qLytG6T/0 (17/21)

その呪文はたった一つだけ知っている、死神が邪悪な影を討ち取った時の呪文をラーニングしたもの。

黒兎はたった一人で何人もの魔術師が唱えたような状況を引き起こしたのだ。

さくら「ええええええ!?こんなのありですかぁ!?」

竜面「これは…!不味い、『我が影よ!大いなる我が力に従い、光すら防ぐ暗黒の盾となれ…シャドウシールド!』」

竜面の男の足元から拘束式を応用した大量の黒い腕が出現し、今度はその腕は無数の光の矢から3人を守る為に動き出す。

黒兎「いっケえ!」

放たれた矢は黒い腕に食い込み、今にも千切れそうになる。

竜面「…『より固く』『破られるな』!」

だがさらに詠唱を加えたことにより、光の矢は突き刺さるが貫けずに終わってしまう。

竜面「この程度か…どうやら碌に魔術を使用した経験は無いようだな。量で何とかできると思ったのか…!」

黒兎「むえー、頑張ったのに防がれタ!まだまだレベルは低イっぽいよ白ぉ!」


163 ◆zvY2y1UzWw2014/05/25(日) 22:52:51.31qLytG6T/0 (18/21)

だが、その空気を無視した音が響く。コインが空高く弾かれた音だった。

白兎「仕方ない奴…手伝ってやる、ありがたく思え」

黒兎「あ、イケる?じゃあ頑張る」

白兎「…殺すなよ」

黒兎「あイあいサー」

白兎が左腕に電撃を纏わせ、黒兎も無数の口を竜の口へと変形させる。

白兎「残念ながら『参考にした記憶』程の威力にはならないんだがなぁ…」

白兎が落ちてきたコインに電撃を纏わせ弾けば、それが弾丸のように黒い腕の防壁を打ち砕いた。

竜面「なんだと…!」

サクライ(疑似レールガン…のようなものか)

そして先程投げた右手が動き出し、背後から白兎に引き寄せられる途中で殴りつけ、竜面の男の詠唱を邪魔する。

竜面「ぐ…っ」

さくら「師匠!」

腕が元通りになると同時に足元の血で汚れた水を残さないように完全に吸収してしまう。

白兎「慣れればインパクトと火力はあるから結構好きだな。ほら、片付けもしたしさっさと終わらせてしまえ」

小さな白い兎の姿になり、黒いさくらの腕の中に納まった。

黒兎「あいよー!発動、ドラゴンマジック!オラァ、ぶっ飛びなァッ!!」

『『『『『~~~~~!!』』』』』

サクライP「…っ!」

竜面「これは竜族の…!さくら、離れるな!」

白兎「やっぱりテメェら人間共のそういう顔は良いなぁ!!ゾクゾクする…最高の気分だ…!」

その言葉と同時に、ビルの屋上に恐ろしい衝撃が襲い掛かった。


164 ◆zvY2y1UzWw2014/05/25(日) 22:55:23.41qLytG6T/0 (19/21)

計り知れないほどの暴風が何重にもなって襲い掛かり、黒兎自身も吹き飛ばされそうになるがスカートの裾をいくつもの角に変化させ突き刺し耐える。

風が止み、黒兎は生物の広範囲の生命の気配を探る。何度確かめても屋上にいたのは二つの狂気だけだった。

白兎「どうだ?…死んでないよな?」

さくらに化けた黒兎の腕から飛び出た白兎が、紗南の姿に化けて着地する。

白い髪に赤い瞳の紗南が、サクライ達が吹き飛ばされたであろう、駅とは逆の方向を見つめた。

黒兎「この程度で死んでたら、とっくに殺されてると思ウよ?キシシ♪」

白兎「それもそうか…キシッ、キシシ…」

「「キシシ、キシャシャシャシャシャシャ…!!!」」

白兎「よくやった黒、褒めてやるよ」

黒兎「その上から目線をやめて欲しいんダけど…とりあえずここを陣取っておこうか。ここからはいろいろとよく見えるし」

白兎「だな。紗南は狂信兵が追いかけているし、運が良ければ聖來が見つかるかもなぁ?」

黒兎「ナんとも執念深い…まぁ、防戦くらい一人で出来るモン。安心していいよ、入口は部下に守らせて、上からぶっ飛ばすだけのお仕事だし?」

白兎「そういえば、結構このテロで血も肉体もゲットできたんじゃないか?配下も増えただろ」

黒兎「だね、狂信は乗っ取ルことでしか生まレないから。食べた人間は…能力者はさすがに居ナかったけど、魔力の最大値もどんどんおっきくなってルぞ」

そこまで言うと思いだしたように腕を組みながら黒兎は少し困った顔をした。

黒兎「あ、でも問題は魔術の呪文が殆どわからないわ…ってコトだね。魔法やドラゴンマジックは割とノリで使えるけど」

テロに紛れて黒兎は蜥蜴の姿で血を吸い、裏では焼けた死体を喰らっていた。究極生命体は血を吸えば姿を手に入れ、死にたての肉は喰らえば血と共にその者の力を得る。

かつて喰らった吸血鬼の魔眼の力も使って逃げ惑う人間を操って案内させてしまえば、容易に死体を集めて喰らうことが出来た。

死体を喰らう事に躊躇いはない。むしろそれが当然であると二つの狂気は考える。そして、魂の無い死体は白兎にとっても都合が良い。

…自分たち以外の魂は取り込んでも悪影響を与えるだけだと、加蓮の件で身をもって知ったのだから。

白兎「呪文か…そこは後々考える。今のアタシは電子の海さえ庭のようなものだし、そこからどうにかなるかもな」

黒兎(やっぱり白って時々イタイ子…『正義』は『傲慢』と違って妙なところが純粋だから…そういうトコがこういうコトなのかナ?)

白兎「なーに考えてやがる…碌な事じゃないな」

黒兎「碌な事じゃなくてゴメんね!」

白兎はお気楽そうに笑う黒兎を思い切り殴った後に溜息を吐き、その後は静かに事が起きることを待った。


165@設定 ◆zvY2y1UzWw2014/05/25(日) 22:58:06.79qLytG6T/0 (20/21)

・狂信兵
AMCに正義の剣を装備させた状態。
装備時間が長くなれば長くなるほど正義の力が強まり、白い泥の鎧を纏う様な姿になっていく。救世兵とは違い物理耐性は無い。
目が赤く、身体能力も上昇し過激で暴力的になっている。
この状態だと白兎、黒兎両方の命令を聞くようになる。

・『ラーニング』
究極生命体が周囲に適応したり、敵を凌駕し頂点に立ちそして生き続ける為の力。
周囲の言動や映像の内容を僅かな時間で把握・記憶・学習し、自身に応用することが出来る…後天的な才能のようなモノ。
奈緒は浄化され記憶を失った後、この能力を周囲の環境に適応する為に無意識に使っており、一年未満の期間で現在の人格と言葉遣いと知能を得ている。
白兎と黒兎は主に戦闘能力にこの能力を活用しており、戦闘経験を積めば積むほど強くなっていく。
ちなみに白兎黒兎のアニメ等の知識が多すぎるのは主人格の影響が大きい。

また、白兎・黒兎が姿などを擬態・模写できるものは『肉を喰らった生物』『血を吸った生物』『封印されたモノを含む、奈緒の記憶の中の強いイメージ』となっている。
擬態しても色は模写できない。


166 ◆zvY2y1UzWw2014/05/25(日) 22:59:43.52qLytG6T/0 (21/21)

以上です
サクライ達を追い払っていいと聞いて書いてしまった話。サクライP書くの難しい…
プランAが潰れた白兎はプランB(未完成)の為に経験値を貯める方向性で行く模様。
掲示板の雑談スレpart6から一部サクライPのセリフお借りしました

ちなみに超電磁砲やっておいてとあるシリーズはあまり詳しくなかったりする(小声)

情報
・紗南が狂信兵からエアロシューズで逃走中。
・サクライP・竜面の男・さくらが吹き飛ばされました。十中八九無事。
・黒兎(さくら擬態)&白兎(紗南擬態)が屋上を占拠して観戦中。(追い払ってもいいのよ)


167 ◆AZRIyTG9aM2014/05/25(日) 23:10:46.97FwcwDAE/O (1/1)

乙ー

やだ…二人とも強い
そして、少し面白いこと思いついた
書き途中の加蓮vsインちゃんにつけくわえよう


168 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:12:30.48buOmktNUo (1/29)

しばらく感想書いてなかったので溜まりすぎなの

>>67
エボニーコロモVSティアマットは正直スカッとしました
逃げられはしましたけど、それでもよくやってくれたと称賛したい

>>105
・ヮ・ ようせいさんなのです?ユミミンかわいい
菜々さん旅立つ決意はちょっと意外でした果たしてどうなる

>>116
カイさん、それはいけませんよ……
海底組は最終的にハッピーな結末となって欲しいものです

>>134
白ちゃん、ねえねえどんな気持ちー?(AA略)
加蓮と仁加は一先ず安心でしょうか、今後楽しそうな2人を見れればいいと思うー

>>143
ライラさんええ子やで……
クールPもなんだかんだ良い奴だと思ってます
真面目にプロデューサーやってるし、このままやっていければいいのにねえ

>>166
おお、サクライよ。ふきとばされるとはなさけない。
残念ながらぐうの音も出ないほどオッサンだしロリコンだよね。仕方ない
兎さん達は怖いですねえ、この因縁が後にどんな風になって行くかな


皆さん乙乙したー



169 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:13:45.65buOmktNUo (2/29)


さて、投下しまー



前回のあらすじ


チナミ「それにしたって、アイドルヒーロー同盟の資料はどうしてこんなに一般人の個人プロフィールにも詳しいのかしらね」

チナミ「身長や体重はともかく3サイズまで分かるものなのかしら……」

クールP「別に不思議でもないんじゃないかな?」

クールP「世の中には一目見ただけで、女の子の3サイズが分かる子が居るとも聞くし」

チナミ「へえ、能力者かしら?」

クールP「いや、素らしいよ」

チナミ「なにそれこわい」


櫻井財閥と学園祭
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1391265027/129-




170 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:16:35.66buOmktNUo (3/29)





爛「『エージェント・バックメンバー』だぁ?」

目の前に座る女の口から出た聞きなれない言葉。

爛は眉を寄せて、聞き返す。


チナミ「そ。 とっておきの情報(おはなし)よ。もちろん買うわよね?」

向かいに座る女は、肘を突いて膝を組み、まるで当然のようにそんな事を言い出すのだった。




171 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:17:05.93buOmktNUo (4/29)


爛「……」

爛「つーかよぉ、そんな話をこんな時にこんな場所ですんのかよ」


こんな時のこんな場所。すなわち、学園祭真っ最中の京華学院。

教習棟内に設置された休憩スペースの一角である。


爛「……」

ちらちらと爛は周囲に目を配った。

学園内で休憩するならば、例えば喫茶店のような出し物は棟内には多くあるし、

無料で使える休憩スペースにしたって他にたくさんあり、

棟内の一番端にあるこの教室まで、わざわざ足を運ぶ人間は少ない。

ぶっちゃけここは人気のない休憩スペースであった。


とは言え、まったく人が居ないわけではなく。

爛達以外にも、少人数ではあるが雑談している者達が何組か存在している。


爛「あんま大っぴらに話せるコトじゃねーだろ?」

『エージェント』とは、櫻井財閥と言う巨大な組織に存在する裏の機関。

公に開かされてはならない仕事を担当する財閥の影。

それに関わる話を、目の前の女はこの場でしようとしているらしい。


チナミ「問題ないわよ」

しかし女は、平然と答えた。


172 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:17:54.02buOmktNUo (5/29)



チナミ「この部屋に居る人間は誰も私たちの話なんて聞いてないわ」

チナミ「いえ、”意識できない”とでも言い換えた方がいいかしら」

爛「……暗示か」

チナミ「まあ、そんなところね♪」

くすくすと、魔性の存在たる吸血鬼はおかしそうに笑う。

簡易的にではあるが”おはなし”とやらをする場は既に作っていたらしい。


爛「……」

爛「……おい、そこの[ピザ]。ちょっと俺の話聞け」

でぶ「ここでしばらく休憩したら次は早食い勝負に挑戦するぶー!」

傍の席にいた、デ……少しふくよかでぽっちゃりした方に話しかけてみたが無視される。

どうやら、本当にこちらの言葉は周りの奴らには聞こえていないようであった。


爛「本当みてえだな」

チナミ「あなた、試し方が酷いんじゃない?」


173 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:18:52.31buOmktNUo (6/29)


爛「で、わざわざ休憩中のアイドル呼び出して商売の話かよ」


教習棟の廊下で瞳子と別れてからすぐに、爛はチナミと出会う事となった。

随分短時間の間に、『エージェント』の同僚と二度も遭遇するとは奇妙な事だが、

ただ、こちらは瞳子の時と違い偶然ではなく、

連れ込まれた休憩スペースの人間達に掛けられていた暗示から考えても、

どうやら、爛が居る事をわかっていて待ち受けていたらしい。


チナミ「休憩中に、急に連れ出して悪かったけれど」

チナミ「こう言う好機はあまりないもの。有意義に利用しなきゃね」

爛「好機?」

チナミ「あら?もしかして……爛は気づいてないの?」

爛「……チッ」

どこか小ばかにされているような態度。やりにくい女である。

相方であるクールPはこいつと好んでつるんでいるが、これの何がいいのかは爛にはさっぱりであった。

爛「わかりやすく説明しろよ」


174 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:19:38.54buOmktNUo (7/29)


チナミ「それじゃあ、今が好機である理由を順を追って説明するけれど……」

チナミ「まず1つ、『エージェント』のメンバーが消息不明になってるのよ」

爛「知ってる。電気能力使ってたアイツだろ?たしか名前は……ま、どうでもいっか」

電気を操る能力を持つ『エージェント』が、消息不明になった事件。

その事は、聖來からの連絡で他の『エージェント』達に速やかに伝わった。

恐らくは、彼が死亡してしまっている事もである。


チナミ「それも2人」

爛「は?」

チナミ「消息不明になった『エージェント』は”2人”よ」

チナミ「もう1人の方は、つい今朝に発覚した事なんだけどね」

爛「……」

新情報であった。『エージェント』内にもう1人、行方不明者が居るとは初耳である。

チナミ「他の『エージェント』達からは『鏡(ミラー)』って呼ばれてた奴よ。知らないかもしれないけれど」

チナミ「そいつも”財閥から放流されたカース”の一匹を追ってる最中に、それごと消息不明になったらしいの」

チナミ「まあ、たぶん『電気(エレクトロン)』を消した奴と同一犯の仕業なんでしょうね」

淡々と、その話の流れをチナミは推測を交えて語った。

チナミ「あ、この情報についてはタダでいいわよ」

爛「当たり前だろ、待ってれば俺にも普通に伝わる話じゃねえか」

チナミ「ええ、でしょうね」


175 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:20:52.94buOmktNUo (8/29)


爛「おい……その今朝ってよ。何時くらいの話だ?」

チナミ「具体的な時間は知らないけど……早朝も早朝よ。日が昇るか昇らないくらいの」

爛「……そうか」

爛(…………ならどうして”今になるまで”俺に伝ってなかった)

爛は考え込む。『エージェント』の2人目の消息不明について。

それは今朝に、発覚した事だとチナミは言った。

昨日の『エージェント』の死亡は、比較的速やかに『エージェント』に属する人間に伝わったのだから、

この件に関しても、既に爛の耳に入っていてもおかしくない話である。

しかし、実際には今チナミの口から聞かされるまで、爛にはそれらに関する情報が伝わってはいなかった。

爛「今の話、嘘じゃねえだろうな?」

チナミ「もちろん。後で確認してもらってもいいわよ」

爛(……ま、すぐバレる嘘付く意味とかねえよな)

爛(しっかし、嘘じゃねえとしたら……ちょっと情報が伝わるのに時間が掛かりすぎじゃねえか…?)

いや、そもそも”チナミから新情報を聞かされる”と言う状況からして何か引っ掛かる。

爛(俺の気にしすぎ……か?)



176 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:21:49.28buOmktNUo (9/29)


爛「……」

爛「セイラは何してるんだよ」


『エージェント』をまとめて取り仕切る事の多い、水木聖來の様子を尋ねてみた。

チナミは彼女ともよくつるんでいるのだから、彼女の仕事の状況なども把握しているだろう。


『エージェント』に関わる連絡はサクライPでなければ、聖來から入ってくる事が割とある。

事実、昨日の連絡は彼女からであったし、ならば今日の情報も彼女から入ってくるのが自然であろう。

少なくとも、情報の伝達ラインにチナミが間に割り込んでるよりは不自然ではない。


チナミ「聖來は寝込んでるわ」

爛「……寝込んでる?なんだ、病気かよ」

チナミ「似たようなところね、昨日、正体不明の白いカースと交戦した影響で体調不良みたいよ」

爛「……白いカースねえ」


そう言えば、つい先ほどにクールPを通して伝わったアイドルヒーロー同盟からの情報の中にも、

『白いカース』についての話があったような気がする。

恐らくは昨日、聖來が交戦したと言う『白いカース』とも関係があるのだろう。

まあ今はそこはどうでもいいのだが。


チナミ「さて、かわいくてかしこい爛ちゃんの事だからそろそろわかったんじゃないかしら?」

爛「うっせえよ」

茶化すチナミに、爛は適当に言い返す。



177 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:22:50.17buOmktNUo (10/29)


爛(1.『エージェント』2人が行方不明)

爛(2.まとめ役の聖來は寝込んでて)

爛(3.俺に情報が伝わったのはチナミから)

爛(つまり……)


爛「『エージェント』内部の伝達系統が微妙に混乱してやがるってところか」

チナミ「正解よ」

チナミ「しかもおまけに、今現在サクライには連絡が繋がらないわ」

爛「は?こんな時にかよ……微妙にどころか、ガッタガタじゃねえか」


組織の指揮権を持つ男と、それに順ずるリーダーの不在。

さらには、メンバー2人が突然脱落したこの状況。

『エージェント』にとってそれは組織が回らなくなるほどの不具合ではなかったが、

しかし、どうあっても内部の情報伝達網は、多少なり混乱するだろう。


チナミ「今は臨時で、あの辛気臭い竜のお面被った男が指揮してるみたいだけど」

チナミ「それでも情報が伝わるのはちょっと遅れるわよね」

チナミ「だって『エージェント』の全メンバーを把握しているのはサクライだけなんだもの」

爛「なるほどな、”好機”って言うのはそう言う事かよ」

チナミ「ええ、今なら私たちがこんな風に会ってても、サクライに何か勘付かれる心配はまったくないってわけ」

チナミ「とは言え、この状況も今日中には回復するだろうし……」

チナミ「その前に爛ちゃんに大切な事を話しておいてあげようと思ってね」

爛「……つか、さっきから”ちゃん付け”で呼んでるんじゃねえよ」



178 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:23:54.82buOmktNUo (11/29)


爛「んで、何なんだ。その『バックメンバー』って言うのはよ」


話は戻る。

チナミが先ほど言葉に出した『エージェント・バックメンバー』と言う存在について。


チナミ「その前に、わかってるわよね?」

爛「……」


含みのある遠まわしな言い方であるが、

詰まる所、『教えて欲しかったら、対価を寄越せ。』と言う事らしい。


爛「……本当に価値のある情報なんだろうな」

チナミ「少なくとも私たちにとってはね」

爛「……幾らだよ」

チナミ「お金は要らないわよ、アイツからは妙に高い給料貰ってるもの」

爛「まあ、だろうな……(つかアイツは何処からあれだけの資金調達してんだ……)」



179 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:24:46.48buOmktNUo (12/29)


爛「……で、金じゃなかったら何だよ。何が目的だ」

チナミ「協力してほしいのよ、今じゃなくていいわ」

チナミ「でもいつか、私が必要な時に、私の為に動いてくれるって約束してくれれば」

チナミ「それでいいの」

爛「…………らしくねーな。そんなもんいくらでも反故にできるだろ」

具体的な対価をすぐには要求せず、しかも後払いでいいとは、

どこか”利用派吸血鬼”らしからない。

チナミ「その時はその時よ」

チナミ「私の目的はただ単に、『これからはより仲良くしましょう』って……それだけなのよ」

チナミ「お互いがお互いに損しないように、お互いの行動がお互いの利益になるように」

爛「……」

爛(つまりは同盟みたいなもんか……?)


別に悪い話ではない。

チナミとの関係は元から利害関係の一致で時々情報の交換をする程度であったが、

これからはもう少し頻繁に情報交換をし、そしてもう少し踏み込んだ協力関係を築きたいと言う事だろう。

爛もチナミもお互い、サクライの犬たる『エージェント』に身を置いてこそいるが、

その実、お互いにサクライの駒で居続けるつもりはさらさら無い事を知っているのだから、

そう言う意味では仲間と言ってもいいし、協力できるのであればしてやってもいいとは思う。

ただ問題があるとするならば、

目の前の女が信用に足るかどうかだ。


爛「……」

チナミ「やっぱり、”利用派吸血鬼”なんて信用できないかしら?」


その思いを見透かしたように女は言った。



180 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:25:49.68buOmktNUo (13/29)


爛「はっ!”利用派が”つーか、”テメェが”だけどな!」

チナミ「……」


可愛らしい顔立ちにまるで似合わないほどに、爛は凄んでみせる。

小さな口を獰猛に開き、恐竜のような牙を見せ、

ギラギラと瞳を光らせて、目の前に佇む女を睨んだ。


爛「俺も、アイツ(クールP)もよ、腹に一物抱えてる同士だ」

爛「お互いの事を、心の底から信用してるなんて言葉はまあ口が裂けても言えねーけどよぉ」

爛「でも、ま、同じニオイがする者同士割と仲良くやっていけてると思ってるぜ」

爛「けど、テメェは違うな。俺たちと同じ様に見えてニオイが全然ちげぇ!」

爛「仲良くしてくれぇ?」

爛「とてもじゃねえけど、『はい、こちらこそ^^』なんて言えそうにはねえな!」

やはりどこか信用ならない。

クールPに感じる同族の様な意識を、彼女にも向けることは爛にはできなかった。


チナミ「……」

チナミ「ま、当然よね」

チナミ「私だって実のところ、誰も”信頼”はしていないもの」

爛「おいおい、なんだよ。そっちから話を持ちかけておいて即交渉決裂か?」

牙を剥いた口を閉じ、呆気に取られたように、爛はリアクションする。

チナミ「”信頼”はしていないけれど…」

チナミ「でも私、あなたの事”信用”はしているのよ」

爛「アぁ?」

よく分からないチナミの言葉に、再び爛は眉を顰めた。



181 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:26:57.46buOmktNUo (14/29)


チナミ「ええ、あなたの内面はともかく、その能力は信用しているわ」

爛「そう言うことかよ、別に、評価されてても嬉しくはねえけどな」

チナミ「同じ様に……私の事も内面じゃなくって、私の能力を信用して欲しいのよ」

チナミ「つまり利用価値の提供ね。どうせお互い信頼なんて出来ないんだから。」

チナミ「都合よく利用して利用されあう関係。お互い切ろうと思えばいつでも手を切れる」

チナミ「それでいいでしょ?」

爛「……まあ、それが一番わかりやすくていいわな」

結局はそこに落ち着く。

少しだけ踏み込んだ協力関係を築いてもいいが、あくまで少し。

お互いに踏み込みすぎはしない。爛としても信頼できない奴との一蓮托生は御免被る。

チナミ「で、私の能力を信用して欲しいから話すのよ。とっておきの情報を」

つまり彼女は、自分の情報獲得能力を売り込みに来たわけである。

爛「なら、それを聞いてから決めるとするか。テメェとの関係をこれからどうするかは」

チナミ「ふふっ、それでいいわ」

爛の答えを聞いて、彼女は僅かに微笑んだ。


爛「聞かせろよ、そのとっておきの話」

爛「『エージェント・バックメンバー』について」



182 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:27:46.03buOmktNUo (15/29)


チナミ「あなたも知っての通りだけど、『エージェント』はサクライの犬」

チナミ「あの男が揃えた財閥の影の仕事を担当する能力者集団なわけだけど…」

チナミ「それには実は2種類居るのよ」

チナミ「それが『エージェント・フロントメンバー』と『エージェント・バックメンバー』」

爛「……初耳だぞ」

チナミ「そりゃあそうよ、私たち『フロントメンバー』には知らされていない事だもの」

女はそんな事をケロリと言う。

爛「私たち?」

爛「俺が『フロント』ってのはなんとなくわかるけどよ。テメェも『フロント』って奴なのかよ」

チナミ「ええ、そう。『フロント』、つまり”表側”」

チナミ「『エージェント』って言う影の組織に所属しながら”表”にも立つ必要のある人材のこと」

チナミ「だから『フロントメンバー』の『エージェント』は、全員表向きの肩書きを持ってるの」

チナミ「例えば、『アイドルヒーロー』だとか財閥に所属する企業の会社員だとか」

チナミ「一応、私もルナール社員としての名義をまだ持ってるから……『フロントメンバー』になるわね」

爛(……って事は俺の知ってる奴は全員『フロントメンバー』か)

彼が知る限りの『エージェント』には全員表向きの立場がある。

『フリーのヒーロー』だとか、『櫻井財閥に所属する救護班』だとか。

爛「んで、そうなると『バックメンバー』って奴らは表向きの肩書きさえ持ってねえってことか」

チナミ「そうね、財閥の影の組織『エージェント』のさらに裏側。裏の裏を担当する能力者部隊」

チナミ「それが『エージェント・バックメンバー』よ」



183 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:28:49.63buOmktNUo (16/29)


チナミ「彼らは表の立場を持たない。」

チナミ「表の名前を持たない。」

チナミ「表の顔を持たない。」

チナミ「表に立つことは決してない。」

チナミ「正真正銘の暗部って訳ね」

爛「文字通り、『バックメンバー』ってことか」

チナミ「それで、ここからが大事なんだけど…」

チナミ「そんな部隊が必要になる機会って、あなたにもわかるでしょ?」

爛「人知れず何か消したい時だろ」

爛「例えば粛清とかな」

チナミ「そう言う事」

爛「なるほど、テメェが大事な話って言った理由はわかった」

爛「つまりアレだろ?”もしも”、”万が一””仮定の話で””ありえねえ話だけど”」

爛「俺やお前がサクライを裏切ったりすれば、”そいつら”から狙われるって事だ」

チナミ「私に感謝しなさいよ?爛ちゃんの身を案じて、教えてあげたんだから」

爛「ケッ!心遣い痛み入るな!」


184 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:29:30.56buOmktNUo (17/29)


チナミ「今のところ、『バックメンバー』について教えられるのはこんな所ね」

チナミ「顔を持たない部隊のことを、これ以上調べて教えろだなんて無茶は言わないでね」

チナミ「だからここまで。何か質問はあるかしら」

爛「……」

爛(……んで、今の話は本当なのかねっと)

少々疑り深いかもしれないが、”利用派吸血鬼”を相手にするのであれば、このくらいは警戒しなければなるまい。

とは言え……チナミが話を持ってきたタイミングや、理由を察すれば、偽りの情報と言う事はおそらくないだろう。

”粛清される可能性”を考え『バックメンバー』とやらを警戒するのはチナミも一緒で、

それを知ったからこそ、今になって爛との協力関係を強めたいなどと言い出したのだろうから。

だが、信じきるには後一歩足りないと言ったところか。


爛「おい、信用してほしいって言うなら1つだけ教えろ」

だから、後一歩のために爛は聞く。


185 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:30:13.83buOmktNUo (18/29)


爛「そんな情報どうやって調べやがった?」

爛「『フロントメンバー』には一切知らされてないんだろ?」

知らされていないと言う事は、決して知られないようにもされているはずだ。

彼女も『フロントメンバー』であるなら、その話を知る機会などなかっただろう。

隠された情報を暴き奪うため、一体どんな手を彼女は使ったと言うのか。


チナミ「……それは」



『私が調べたのよ』


爛「……は?」

目の前の女からではなく、爛の耳元から声が聞こえた。

横を見てやれば、

チナミ(小)『あらっ、気づかれちゃった?』

爛「んなっ!?」

いつの間にか彼の肩に、掌サイズほどの小さいチナミが乗っていた。

爛「なんだこいつ!なんだこいつっ!?!」

チナミ「紹介するわね、その子はブラッド・ドッペルゲンガー」

チナミ「私自身にして、私の使い魔みたいなものよ」

チナミ(小)『よろしくね』

爛の肩に乗るチナミは、そう言ってウィンクしたのだった。


186 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:30:59.41buOmktNUo (19/29)


ブラッド・ドッペルゲンガー

一部の吸血鬼が使役する、吸血鬼の血液と魔力から造られる分身体の如き使い魔。

小さな身体と影に溶け込める性質を活かして、本体をサポートするメッセンジャーとして活動する。


チナミ「その子を使って、色々と調べまわって貰ってたの」

チナミ「吸血鬼の使い魔は、影に潜り込むのは大の得意よ」

チナミ「実はこの部屋に入ってきたときから、あなたの傍に居たんだけど全然気づかなかったでしょ?」

チナミ(小)『爛ったらおかしいわね。そんなに驚くなんて』

爛「……チッ!」

気を抜いていたつもりはなかったが、確かにまったく気づいていなかった。

古の竜たる爛の持ち合わせる高い精度を誇る五感と、野生的な直感さえも欺く、恐ろしく高度なステルス能力。

なるほど。これをスパイとして使ったならば、隠された情報を知ることもできるのだろう。


チナミ「どうかしら?私の能力、少しは信用できた?」

爛「んな能力、却って警戒するっつの」

チナミ「ふふ、『評価されてる』と受け取るわよ」

爛「……」

チラリと再び、爛は自身の肩に目を移す。

そこには先ほどまで座っていた使い魔の姿はなかった。

爛(……一度認識した後でも気配を消せるのかよ……末恐ろしいな)

何気に凄まじい能力である。

彼女を侮っていた訳では無いが、その認識を少しだけ上方修正する必要はあるようだ。


187 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:32:06.45buOmktNUo (20/29)


チナミ「さて、これから贔屓してくれるなら」

チナミ「”私”の集めて来た情報の一部をあなたにも提供してもいいと考えてるのよ」

チナミ「どう?」

爛「……別に情報収集の分野でこっちが困ってるってほどでもねえけどな」

爛「クールPの奴も居るしよ」

爛の相方たるクールPは、アイドルヒーロー同盟のプロデューサーにして利用派吸血鬼。

チナミと同じ事ができるかは知らないが、少なくとも情報収集能力が劣っているとは思わない。

チナミ「でも立場が違えば、集めてこれる情報も違う。そうでしょ?」

アイドルヒーロー同盟に所属するクールPだからこそ集められる情報もあれば、

彼女だからこそ集められる情報ももちろんあるのだろう。

爛「……」

爛「はあ」

頬杖をついて、溜息。

爛「わかったよ」

そして、了解の返事を返した。

爛「どうせ切れる手なら、損が無い限り使ってて問題ねえしな」

チナミが先にクールPの奴に話を通してるのかはわからないが、アイツのことだから断らないだろうと爛は考える。

爛「何かあったら協力してやる。ただてめえの望み通り、利用するだけ利用してやるから覚悟しとけよ」

チナミ「ふふ、それでいいわ。イイ関係を築きましょうね、お互いに」

かくして2人の『エージェント』は、手を結ぶのであった。



188 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:33:22.74buOmktNUo (21/29)


チナミ「それじゃあ早速だけど、少し協力して貰っていいかしら」

爛「あ?」

爛「おい、さっきお前”今じゃなくて”とか言ってなかったか」

チナミ「ええ、確かに」

チナミ「”いつか私が必要なときに”って言ったわね。それが”その時の今じゃない数分後の未来”だとは教えてなかったけど」

爛「……屁理屈かよ」

大方、今すぐ協力して欲しいなどと言えば、交渉の弱みになるとでも考えたのだろう。

しかし一度協力する事を了承をしてしまった後ならば、弱みにはならず、爛としても断りづらい。

と言う心理を利用したかったのだろうが……別に爛には断るに足る理由は充分にあった。

爛「言質とってから協力仰ぐとか、わざわざ姑息な真似して貰ったところ悪いけどよ」

爛「俺この後アイドルの仕事だから、あんまり時間ねえんだよ」

爛「流石に今は、そっち優先な」

至極、単純で真っ当な理由である。


チナミ「大丈夫よ、すぐに済むし迷惑だってかけないから」

爛「?」




189 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:34:18.20buOmktNUo (22/29)


――


チナミ「はい、チーズ」

爛「……」(むすっ)


カシャ


190 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:34:46.02buOmktNUo (23/29)


――


チナミ「もう…せっかくなんだから、少しでも可愛く写りなさいよ」

携帯電話の画面に映る写真を見ながらチナミはぼやく。

爛「ちっ……なんだってそんな写真……」

チナミ「ちょっと、アイドルヒーローの写真が欲しかったのよ」

爛「……プライベートのをか?」

チナミ「ええ、プライベートの」

爛「……まあ別に、手に入れようと思ったら簡単に手に入るもんだからいいけどよ。俺の写真くらい普通に売ってるしな」

とは言え、プライベートの写真となると、ファン垂涎ものなのだろうが。

チナミ「まあ、これは使わないかもしれないけど、使うかもしれないから一応ね」

爛「???」

チナミ「これで準備はだいたい整ってきたかしら。後は……」


「チナミっさぁ~ん」

爛「あん?」

チナミ「丁度いい時に来たわね」

爛とチナミが、声の方向に目をやれば、そこには奇抜な格好をした若者が1人。

爛「誰だそいつ」

チナミ「この学園祭でさっき会った子達の1人よ、私の事案内してくれるんですって」

爛「なんで普通にナンパに引っ掛かってんだよ、お前は」



191 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:35:35.07buOmktNUo (24/29)


「チナミさんが探してた新田っすけど、見つけてきたっすよー。相変らずエロかったっす」

若者は2人の座る席まで、足早に近づくと、大仰な身振りを交えて何やら報告を始めだした。

チナミ「後ろの部分の報告はいいから、状況は?」

「今、仲間の一人が追跡してるっすー」

チナミ「そ。それじゃあ案内してもらうとしましょうか」

「任せてくださいよ!」

爛(あん?…………ただナンパに引っ掛かた訳じゃなくて良い様に使ってんのか……?)

爛(つか……この様子だと軽い暗示かけられてるなコイツも)

爛が訝しげに睨めば、若者はきょとんとした顔で見返してくる。

恐らく彼は自分の意思で行動してるつもりで、実際はそこに吸血鬼に操られているのだろう。

「……そっちの子も可愛いっすね、チナミさんの知り合いッすか」

爛をアイドルヒーローだとは気付かなかったようだが、可愛い容姿をしている事には目ざとく勘付いたらしい。

「ねえ君、どう?この後俺と一緒にお茶とかさー?」

爛(殴りてえ)

チナミ「残念だけど、彼女は今忙しいみたいよ」

「あっちゃあー……そっすかー……残念ッ!」

爛「おい、誰が彼女だ、誰が」


192 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:36:33.45buOmktNUo (25/29)



チナミ「じゃあ、私はそろそろ行くけど」

チナミ「最後に1つ、いい事教えておいてあげる」

爛「いいこと?」

チナミ「サクライの現在の居所よ」

爛「……それも知ってんのか」

チナミ「いいえ、でも今回の事で予想はついたわ」

チナミ「エージェント2人の行方不明に加えて、まとめ役の体調不良」

チナミ「これだけの事が起きてるのに、向こうからも連絡が無い」

改めて言われれば、爛も気付く。

爛「あー、わざと連絡切ってたり、連絡してこないんじゃなくって」

爛「連絡できねー場所に居るってことか」

例えば、異世界とか、異世界に順ずる土地に赴いてると言う事だろう。

チナミ「そこまでわかれば、何処に行ったのかもだいたい予想もできそうよ」

爛「ま、その条件でアイツが行きそうな場所っつーと限られてくるな」

最後の情報提供を終えると、チナミは席を立った。


193 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:37:27.03buOmktNUo (26/29)


チナミ「それじゃあまたね、爛」

チナミ「直接会える機会が、次にあるのかはわからないけれど」

チナミ「何か伝えたい事があれば、”使い魔の私”を送るから」

チナミは、まだ席に座る爛の横を通り過ぎ、部屋の入り口へと向かう。


爛「さっきのか」

爛「ま、あんま期待はしてねーけど」

爛「協力し合うって言った限りはせいぜい使える情報集めて来いよ」

爛は顔の向きを変えずに、返事だけを返した。


チナミ「そこは信用して貰っていいわ」

チナミ「その代わり、そっちも私の期待に答えなさいよ」

爛「おう、考えておいてやるよ」

互いに背中合わせ、向かい合わずに言葉を交し合う。


チナミ「じゃあね」

爛「じゃあな」

そして顔を合わせないままに、

チナミは部屋を出て、爛はそれを見送った。






194 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:38:20.50buOmktNUo (27/29)


――


「新田も、この教習棟にいるみたいっすね」

「ビラ配りしてたんすよ。チラシ渡す時にちょっと前に屈むんだけどさ。それがグッと来るんすわ」

チナミ「だから、後ろの報告はいらないから」

ツカツカと、若者を従者のように侍らせて、女吸血鬼は学院の廊下を歩く。

「言われたとおりに、新田の休憩時間も新田の友達に聞いて確認してっすから」

「アイツが暇になるのはもう少し後みたいっすよ」

チナミ「それじゃあ、今のうち衣装合わせを済ませておきましょうか」

「コスプレの貸し出しなら1階にあったはずっス」

チナミ「ええ、それじゃあ行きましょう」

彼女は無駄な事は嫌う。いつだって目的に向けて一直線に、邁進するのみ。


チナミ(待ってなさい、新田美波)

チナミ(これから、私が迎えに行ってあげるから)


かくして準備万端。満を持して、吸血鬼チナミによる新田美波攻略が始まる。

何も知らぬ少女に潜み寄る魔性の企み。

チナミ「ふふ…楽しみね」

チナミは毒牙を剥いて、まだ見ぬ少女の純潔なる血の味に思いを馳せるのであった。




……しかし、この後彼女は、

”物事はすべてが思い通りには動かないものだ”と痛感させられる事となるのである。


おしまい




195 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:39:25.64buOmktNUo (28/29)


『暗示魔法』

吸血鬼チナミが習得している魔法。対象の物事の認識をほんの少しだけ弄くれる。
術者であるチナミへの警戒心の高さがレジスト判定に用いられるため、
警戒心の無い一般人にはよく効くものの、爛のように少しでもチナミを警戒してる者には全然効かない。
その点では、有無を言わさず見つめた相手を操れる『吸血鬼の魔眼』より劣るが、
効果時間の長さや適用範囲の使いやすさ、操られてる事に対する気付かれにくさなど、こちらの方が勝る点もあり、使い分けが大事。


『チナミ(小)/ブラッド・ドッペルゲンガー』

吸血鬼チナミの血液と魔力から作られた使い魔の一種。分身であるため、ほぼ本人そのもの。
掌サイズであるため戦闘力はないが、吸血鬼と同じく影に溶け込みこっそり活動するのは得意。
人に見つかりにくい性質を活かし、メッセンジャーあるいはスパイとして使われる。
身体が小さいので物陰に隠れやすく、そのため本人ほど日光に気をつけなくていいので日中の活動も多い。
チナミのヘルパーとしての役割を持たされて作られたためか、どうにも興味本位でお節介を焼く性格になったらしい。
暇な時は自由気ままに過ごし、恋に悩む女の子を見つけてはこっそり耳打ちして行動を煽っ……手助けしたりしているとか。


『エージェント・バックメンバー』

櫻井財閥の暗部を担当する『エージェント』の、さらに裏側。
裏の裏、影の影たる詳細不明の特殊能力部隊。
彼らは表舞台に立つ名前や顔、立場さえ持たず、
ただ財閥と言う組織の敵対者を始末するためだけに動くと言う。
『バックメンバー』に対して、表でも活動する必要のある『エージェント』は『フロントメンバー』とされるが、
『フロントメンバー』には、基本的に『バックメンバー』の存在は明かされていない。


『鏡(ミラー)』

『エージェント』の1人。鏡に関わる能力を持っていたが、消息不明となった。



196 ◆6osdZ663So2014/05/26(月) 00:41:39.02buOmktNUo (29/29)

性懲りも無くべたべた伏線を貼っていくスタイル
無事回収できるかは知らない(投げっぱなしジャーマン)
が、頑張ります!

バックメンバーってどんな奴らかって?
私も知りません(ほぼ何も決めてない奴)

爛ちゃんお借りしましたー



197 ◆AZRIyTG9aM2014/05/26(月) 01:28:15.27ytAvJpBl0 (1/1)

乙ー

バックメンバー…そんなのもいるのか
そして、新田ちゃんの運命は!?


198 ◆zvY2y1UzWw2014/05/26(月) 07:25:16.50y/2zeQvF0 (1/1)

乙です
フロントとバック、なるほど面白くモバマスネタ使えるなぁ
ちっちゃいチナミさんかわいい
美波ちゃんを襲う前に失敗が確定してるチナミさんェ


199 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 00:47:28.90C603DOHD0 (1/23)

乙乙ぅ
サクライは本当に底が知れないのう

学園祭二日目投下すっとよー


200 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 00:48:14.54C603DOHD0 (2/23)


秋炎絢爛祭で開催されている、スタンプラリー。

その番人の一人、特攻戦士カミカゼこと向井拓海の前に、新たな挑戦者が現われていた。

拓海「おし、それじゃラスト…………よっと」

コインが宙に舞い、眼前の男女ペアの前に拓海の両拳が突き出された。

拓海「さあ、どっちだ?」

カイ「…………ねえ古賀、分かった?」

ティラノ「ああ、左だろ?」

男が拓海の左手を指差す。

拓海「……正解」

拓海が左手を開くと、打ち上げられたコインが顔を見せた。

拓海「ほら、カード出しな」

――――――――――――
――――――――
――――


201 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 00:49:07.57C603DOHD0 (3/23)

――――
――――――――
――――――――――――

カイ「順調にたまってきてるね、スタンプ♪」

ティラノ「ああ。まあ、まだまだ先は長いけどな」

ウェンディ族・カイと古の竜・ティラノシーザー。

二人は今それぞれ西島櫂、古賀大牙として学園祭中の会場設営等で働いている。

ティラノ「にしても、働いてるトコをゆっくり見てまわれるとはな」

カイ「監督達に感謝しなきゃね」

事の起こりは今朝、二人がいつものように出勤した時のことだった。

~~

現場監督『ああ、古賀と西島。今日は暇だからお前ら祭り見てていいぞ』

~~

……というわけで、二人は今学園祭を満喫しているのである。

ティラノ「…………史上最短の回想だな」

カイ「だね……」

ティラノ「まあいいか。よし、次はどこいく?」

カイ「あ、ここ!」

カイが広げたパンフレットの一部を指差す。

そこに書いてあったのは、『メイド喫茶エトランゼ☆秋炎絢爛祭出張店☆』の文字。

ティラノ「メイド喫茶……お前そういう趣味か?」

カイ「違う違う。友達が働いてるからさ、ちょっとからかいに、ね」

そう言ってカイは爽やかににかっと笑った。

ティラノ「悪趣味だなお前。ま、ちょうど腹も減ってきたし、そこにすっか」

カイ「おーっ♪」


202 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 00:49:40.69C603DOHD0 (4/23)

二人がエトランゼへと歩き出した、そのすぐ後ろで。

クォーツ『ふむ……やはりここだな』

むつみ「どうかしたんですか、クォーツ?」

一人の少女が、首に提げたペンダントへ語りかけていた。

傍から見れば、少々不可解な光景であろう。

クォーツ『喜べむつみ。今この辺りから、《ステージ衣装》の気配を感じた。それも一つや二つではないな』

むつみ「すっ、『ステージ衣装』の!?」

クォーツ『そう、言ってみればここはボーナスステージだな。早速探しに行こう、むつみ』

むつみ「は、はいっ!」

ペンダントをぎゅっと握り締め、少女は駆け出した。

――――――――――――
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203 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 00:50:34.21C603DOHD0 (5/23)

――――
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――――――――――――

そして。

亜季「……何で来るのでありますかぁ……」

カイ「来ちゃった☆」

亜季は今にもぐずりだしそうな、紅潮しきった顔でカイとティラノを出迎えた。

ティラノ「あー……西島が世話になってるな。同僚の古賀だ」

ティラノはどうしていいか分からず、とりあえず自己紹介する。

亜季「あっ、はい。こちらこそカイがお世話になっているであります、大和亜季と申します」

それに対応して亜季は即座に態度を切り替え、ティラノへ自己紹介を返した。

亜季「ええと……申し訳ありません、今ちょっとばかり混んでいて……相席でも構わないでしょうか?」

カイ「いいよ。ね?」

ティラノ「ああ。別に」

亜季「了解しました。……申し訳ありませんお嬢様、相席とさせていただいてもよろしいでしょうか?」

近くのテーブルに座っているスーツ姿の女性に亜季が尋ねる。

隊長「ん。ああ、構わない」


204 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 00:51:25.32C603DOHD0 (6/23)

亜季「ありがとうございます。……では、こちらへ。まるでお似合いのカップルですなぁ?」

亜季は二人を席に通しながら、意地の悪い笑みを浮かべた。

それは自分をからかいに来たカイへの、ささやかな反撃のつもりだった。

~~

カイ「かっ、カップルって……バ、バカ亜季! 何言ってんのもう///」

~~

などと、自分と同等かそれ以上に恥ずかしい思いをさせたかった。

カイ「カップルだって」

ティラノ「ふーん?」

しかし、その反撃は完全な不発に終わってしまった。

亜季「」

呆然と立ち尽くす亜季に、後ろからアーニャが声をかけた。

アーニャ「アキ、交代です」

亜季「へっ? あ、ああ、はい。……アーニャ殿、何やら嬉しそうですな」

アーニャ「ダー……良い強敵に出会いました。強敵と書いて、とも、です」

亜季「それは何よりです。では、お先に休憩いただくであります」

アーニャと入れ替わりで、亜季が後ろへ引っ込んでいった。

――――――――――――
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205 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 00:52:43.20C603DOHD0 (7/23)

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――――――――――――

亜季「ふう……」

缶コーヒーを飲み干し、亜季は一息つく。

と同時に、腕時計型の端末に司令室から通信が入った。

亜季「こちらSC-01、大和亜季。司令室、どうしました?」

司令室『そっちの第65535次世界に、不認可での世界間渡航者が複数人いるようなんだ』

亜季「なんと。世界間渡航には我々を始めとした、特定の機関からの認可が必要だったハズですが……」

司令室『まあ、事故に巻き込まれた可能性もあるな。それで、お前が今いる地域の近辺に一人いるんだ』

亜季「ほう」

司令室『データベースに該当したデータを参照すると、《道明寺歌鈴》という名だ』

亜季「道明寺歌鈴、ですな?」

司令室『そうだ。時間がある時でいい、彼女に接触し、意図した不正渡航なら強制送還してくれ』

亜季「了解しました。彼女の人相や現在地点などのデータは?」

司令室『ああ、それは追って送信する。悪いな、なにぶんこっちも人手不足で』

亜季「了解しました、こちらで探しておきます」

司令室『助かる。じゃあな、亜季。カイさんと星花さんにもよろしくな』


206 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 00:53:46.96C603DOHD0 (8/23)

通信を終了した亜季は、送られてきたデータに目を通す。

不正渡航者リストNo.0101805783
Name:道明寺 歌鈴
Age :17
Sex :♀
From:第15543次世界
Job :巫女、妖怪退治屋
備考:彼女自身は極めて温厚な性格であり、転移の術を操る妖怪との交戦経験も多い。
   よって断定は出来ないが、現時点では事故による渡航の可能性が高い。
また彼女の能力は対妖怪に特化しており、万一戦闘に陥っても危険性は低いと推測される。

亜季「……まあ、だからといって油断は大敵ですな……」

ふむ、と顎に手を当て、画面を切り替える。

亜季「! 現在地が随分近い……これは、学園内にいるのでしょうか……」

むつみ「あ、あのう……」

亜季「はい?」

呼びかけられた亜季が顔を上げると、そこには少し気弱そうな少女が立っていた。

むつみ「…………あ、あのクォーツ。本当にこの人であってるんですか?」

かと思えば、少女はペンダントをギュッと握り締めてヒソヒソと話し始めた。

クォーツ『間違いない。彼女こそかつての勇者達の意志を継ぐ一人だろう』

亜季「…………?」

小首を傾げる亜季をよそに、むつみはなおもクォーツとヒソヒソ話を続ける。

クォーツ『しかし、また若い女か……どうせならガチムチの成人男性から力を授かりたいものだ』

むつみ「クォーツ……その発言は結構危ないですよ……」


207 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 00:54:32.26C603DOHD0 (9/23)

亜季「どうかしたのでありますか?」

いきなり話しかけてきたと思ったら、突然ペンダントに喋り始める。

流石に不可解に思い、亜季の方から呼びかけた。

むつみ「ひゃいっ!? え、えと、その……」

むつみがたじろいでいると、胸のペンダントが発光してすーっと浮き上がった。

クォーツ『単刀直入に言おう。君の《衣装》をいただきたい』

…………

亜季「…………」

むつみ「…………」

クォーツ『…………』

…………

しばしの沈黙の後、亜季が突然宙に浮くペンダントをギュッと握りしめた。

亜季「女性の衣服を欲しがるとは、とんだ変態ペンダントでありますな……」

握る手にギリギリと力がこもる。

クォーツ『ぬおおっ!? や、やめたまえ誤解だ! 放せ、割れる! 割れてしまうっ!!』

むつみ「あ、あの、すいません! その人……いや、その石、悪気があるわけじゃないので……」

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208 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 00:55:25.54C603DOHD0 (10/23)

――――
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――――――――――――

亜季「ふむ……『勇者の力』と『ステージ衣装』ですか……」

クォーツは亜季へ事情を説明した。

太古から未来に至るまでの勇者が纏った戦装束『ステージ衣装』の事。

クォーツがむつみの助けを借りて『ステージ衣装』を集めている事。

そして、亜季から『ステージ衣装』の一つの気配を感じた事。

クォーツ『うむ。どうだろう、君のステージ衣装を譲ってはくれないか』

亜季「生憎ですが……そのような物は持っていないであります。勘違いでは?」

むつみ「そんな!?」

亜季の言葉を聞いて、むつみが露骨に肩を落とす。

しかしクォーツは強気だ。

クォーツ『そんな事は無い。君は確かにステージ衣装を持っているはずだ』

亜季「そう言われましても……無いものは無……」

「きゃああああああああ!!」

亜季「!?」

亜季の言葉を遮って、どこからか悲鳴が響く。

むつみ「今のは……」

亜季「くっ!」

むつみを置き去りに、亜季は声がする方へと走った。

クォーツ『いかん! むつみ、追うんだ!』

むつみ「は、はいっ!」

クォーツに急かされ、むつみも亜季を追って駆け出した。

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209 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 00:56:22.68C603DOHD0 (11/23)

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――――――――――――

AMC「お姉さーん、メガネはダメダメよー?」

AMC「それ、はっずーせ♪ はっずーせ♪」

女性「ひっ、いや……来ないで……」

ある女性が、複数体のAMCに囲まれていた。

AMC「怖くない怖くなーい」

AMC「一気♪ 一気♪」

AMC「お姉さんの、ちょっといいトコ見てみた……うぅあっ!?」

突然、一体のカースに銃弾が撃ち込まれた。

AMC「な、なんだ?」

AMC「なにごと!?」

AMC「あそこ! あそこから誰かが撃った!」

AMC達が視線を向けた先に、拳銃を構えた亜季が立っていた。

亜季「見たところ、カースの亜種のようですな……そこの方、今のうちに逃げてください!」

女性「は、はい! ありがとうございます!」

女性は大慌てでその場から逃げ出した。

AMC「ああっ、逃げた!」

AMC「許さないよそこのお姉さーん」

AMC「やっちゃうよー? ガーンいっちゃうよー?」

AMC達がじりじりと亜季に近寄る。


210 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 00:57:02.52C603DOHD0 (12/23)

むつみ「や、やっと追いついた……って、何アレ!?」

クォーツ『恐らくカースの亜種だろう。彼女に攻撃するようだ』

むつみ「あんなに大勢!? 亜季さん、早く逃げて下さい!」

むつみが後ろから亜季に叫んだ。

しかし、亜季が動じずに鼻を鳴らす。

亜季「フン、出来るものならやってみるがいいであります! SC-01、バトルターン!!」

次の瞬間、メイド・大和亜季の姿は、ヒーロー・SC-01へと変化した。

むつみ「わあ……」

クォーツ『おお、もしやあれこそが……』

AMC「いけえ!」

AMC「それえ!」

数体のAMCが目からビームを放つ。

亜季「遅いっ!」

しかし、空を華麗に舞う亜季にそれを当てることは出来なかった。

AMC「わあ、高ーい」

AMC「速ーい」

AMC「ぜかましー」

亜季「呑気に見上げて、核が丸出しであります!!」

上空から拳銃の引き金を四回引くと、その弾丸が二体のAMCの核を正確に撃ち抜いた。


211 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 00:57:46.00C603DOHD0 (13/23)

AMC「うぎゃっ!」

AMC「ひああ!?」

AMC「同志ー! ……ん?」

むつみ「すごい……あっ」

むつみがふと視線を下すと、一体のAMCと目が合った。

AMC「お前あいつの仲間だなー!」

AMC「やっつけるぞー!」

むつみ「ええええ!?」

クォーツ『やれやれ、仕方ない。むつみ』

むつみ「は、はい! 衣装チェンジ、エピックパイレーツ!」

海賊風の衣装に身を包んだむつみが、レイピアを片手にAMCの群れに突撃していった。

クォーツ『な、なにっ!? ま、待てむつみ!』


212 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 00:58:40.51C603DOHD0 (14/23)

むつみ「やあ! ていっ!」

AMC「うわあ! やったなあ!」

AMC「すけだちだ、同志!」

AMC「同志を助けるぞー!」

一体のAMCにダメージを与えたむつみだが、直後に他のAMCに囲まれてしまった。

容赦ないビームの雨がむつみを襲う。

むつみ「きゃああっ!?」

クォーツ『むつみ、前にも話したがエピックパイレーツは1対1の戦いを得意とするステージ衣装だ。今のままでは不利だ』

むつみ「そ、そんなあ……」

困惑するむつみをよそに、AMC達はじりじりと距離を詰めていく。

AMC「さあ覚悟しろー!」

AMC「お前にもアンチメガネを植え付けてやるー!」

むつみ「ひぃっ……」

むつみが怯えながら退く。


213 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 00:59:19.03C603DOHD0 (15/23)

AMC「ふがっ!?」

AMC「うぎゃあ!?」

直後、二体のAMCの頭がパァンと吹き飛んだ。

亜季「むつみ殿、ご無事ですか!」

拳銃を構えたまま、亜季が空中からむつみの隣へ降り立つ。

むつみ「あ、亜季さん……ありがとうございます!」

亜季「無理はなさらず、むつみ殿は下がっていて下さい」

亜季は拳銃を格納してビームソードを構え、むつみの方を見ないままそう言った。

むつみ「で、でも……」

クォーツ『いや、ここは彼女に任せるべきだ。エピックパイレーツでは多数に対して不利だ』

むつみ「そ、そんな! クォーツが言うから変身したんじゃないですか!」

クォーツ『私はあくまでこの場を凌ぐために変身を提案した。まさか真っ向から突っ込むとは……』

クォーツから溜息に似た音が聞こえてくる。

そうしている間にも、AMC達は2人との距離を詰めて行く。

むつみ「そ、それでも……」

むつみはレイピアを力強く握りしめ、AMC達をキッと見据えた。

むつみ「一度首を突っ込んだ以上、他人任せは嫌なんです!!」


214 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 01:00:07.21C603DOHD0 (16/23)

亜季「むつみ殿……分かりました!」

亜季がむつみの隣に並ぶ。

亜季「共に行きましょう、むつみ殿!」

むつみ「……はいっ!」

亜季の差し伸べた手を、むつみがしっかりてて握り返す。

むつみ「……あっ……?」

すると、亜季の手を通じてむつみの頭の中に、何かが流れ込んでくるような感覚が起こった。

亜季「む、むつみ殿……?」

むつみ「見える……火器を操る、歴戦の兵士のイメージ……」

クォーツ『……そういうことか』

何かに納得した様子で、クォーツが語り始めた。

クォーツ『確かに君はステージ衣装を持っていた。ただし、その自覚は無かった』

クォーツ『そしてステージ衣装は、むつみと持ち主の間に絆が繋がれた時、初めて手に出来るものだったのだ』

亜季「なんと……」

クォーツ『むつみ、今こそ呼ぶんだ、その衣装の名を!』

むつみ「はいっ!」

むつみ(イメージして……鋼鉄の機兵……深緑の軍服……)


215 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 01:00:53.84C603DOHD0 (17/23)

むつみ「衣装チェンジ! セクシーカモフラージュ!!」

叫びと共に、光に包まれたむつみの姿が変化する。

迷彩柄でビキニスタイルの上着にホットパンツという、少々露出の高めな衣装……。

SC-01を展開した亜季によく似たこの姿こそ、ステージ衣装の一つ『セクシーカモフラージュ』だ。

むつみ「こ、これは……ちょっ、肌出過ぎじゃないですか……?」

亜季「私に言われても……」

クォーツ『お喋りは後だ、来るぞ』

二人がクォーツの言葉でハッと顔を上げると、今まさにAMC達のビームが迫ってくる瞬間であった。

亜季「っく!」

むつみ「きゃあっ!?」

亜季はギリギリで回避したが、むつみは避けきれずに数発食らってしまった。


216 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 01:01:40.07C603DOHD0 (18/23)

亜季「むつみ殿!?」

AMC「やったー!」

AMC「やったかー?」

しかし、直後に亜季やAMC達が目にしたのは、無傷でそこに立つむつみの姿だった。

AMC「な、なんだとー!?」

AMC「やったか、すなわちやってない!」

むつみ「すごい……直撃したのに……」

クォーツ『なるほど、この防御力がセクシーカモフラージュの特性の一つか』

むつみが感嘆の声をあげ、クォーツが冷静に分析する。

むつみ「次は、こっちの番です!」

むつみが手のひらを前方にかざすと、光と共に大型のライフル銃が出現した。

むつみ「それっ!」

引き金を引くと轟音と共に弾丸が飛び出し、一体のAMCの頭部を吹き飛ばした。

AMC「あばばーっ!?」


217 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 01:02:21.31C603DOHD0 (19/23)

むつみ「次!」

続いてむつみの手に現れたのはハンドレールガン。

亜季「ならば私も! マイシスター!」

亜季もマイシスターに指示を出し、ハンドレールガンを投下させる。

AMC「まずいぞまずいぞ!」

AMC「早くやっつけなきゃ!」

焦ったAMC達が二人へビームを乱射する。

むつみ「よく狙って……」

亜季「そこです!」

そのビームの雨を亜季は避け、むつみは正面から受け止めつつハンドレールガンを発射した。

数体のAMCの頭部が、軽快な音と共に弾け飛ぶ。


218 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 01:02:57.93C603DOHD0 (20/23)

AMC「ひいい!?」

亜季「むっ、どうやら奴が最後の一体のようですな!」

逃げ出した一体のAMCを、亜季が目ざとく見つけた。

むつみ「だったら、私が!」

むつみの手に、大型のバズーカが現れた。

むつみ「よく狙って…………発射ぁ!」

煙をあげて飛ぶバズーカの砲弾が、逃げ続けるAMCの背を追う。

AMC「ひえっ、ひっ、ぴぇええっ!」

そして、着弾。

AMC「あああああああっ!!」

爆風で核を焼かれたAMCは、その場に崩れ去った。

むつみ「……これが、セクシーカモフラージュの力……」

光に包まれたむつみの姿が、セクシーカモフラージュから元の姿へと戻った。


219 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 01:03:32.85C603DOHD0 (21/23)

クォーツ『ついにステージ衣装の一つを手に入れたな、むつみ』

むつみ「はいっ!」

嬉しそうな顔を浮かべるむつみの肩に、亜季がポンと手を置く。

亜季「外様が勝手ながら、おめでとうと言わせていただくでありますよ、むつみ殿」

むつみ「あ、ありがとうございます亜季さん」

クォーツ『さて、こうしてはいられないな。急ごうむつみ、次のステージ衣装を探すんだ』

むつみの胸元からクォーツが浮かび上がり、むつみの体を引っ張るように浮遊していく。

むつみ「あっ、ちょ、ちょっと! 待って下さいよクォーツ! ご、ごめんなさい亜季さん! さようなら!」

そしてクォーツに引っ張られながら、むつみはヨタヨタとその場を去った。

亜季「……健闘を祈ります、むつみ殿」

むつみが去った方向へピッと敬礼した亜季は、ふと時計に目をやる。

亜季「まだ休憩時間は余っていますな……折角です、件の歌鈴殿を探すとしましょうか」

亜季は端末に道明寺歌鈴のデータを表示させ、そのまま歩き出した。

……メイド服のままな事を忘れて。

続く


220 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 01:04:52.96C603DOHD0 (22/23)

・セクシーカモフラージュ
むつみが亜季と絆を築く事により得たステージ衣装の一つ。
ライフルやバズーカ等の銃火器召喚能力の他、防御力も向上している。

・イベント追加情報
カイとティラノが学園祭をまわっています。

むつみがステージ衣装『セクシーカモフラージュ』を獲得しました。

むつみは他のステージ衣装も探すようです。

亜季が「不正渡航疑惑者」として歌鈴を探しています。
不穏な事態になる予定は一切ございません。重点。


221 ◆3QM4YFmpGw2014/05/29(木) 01:05:27.63C603DOHD0 (23/23)

以上です
むつみちゃんに力を与えて解き放つの巻
拓海、クォーツ、むつみ、アーニャ、名前だけ歌鈴お借りしました


222 ◆zvY2y1UzWw2014/05/29(木) 07:20:51.816t/TAl2S0 (1/1)

乙です
カイとティラノ…まぁ友人どまりだよな(ピピンさんを思いだしつつ)
歌鈴はまぁそうなってもおかしくないよねーって
むつみちゃん新衣装おめ!確かにアレは露出多いわ


223 ◆AZRIyTG9aM2014/05/29(木) 12:47:46.68dY8F0BZAO (1/1)

乙ー

よし、カイとティラノが仲良く歩いてる映像を誰かヨリコに見せるんだ

むつみはこの後どう強化されていくのか


224@予約  ◆BPxI0ldYJ.2014/05/30(金) 23:59:38.17QVsgV1ec0 (1/1)

五十嵐響子、有浦柑奈、矢口美羽で予約しまー
明日中には投稿したいかな…


225 ◆BPxI0ldYJ.2014/06/01(日) 01:45:00.797gDjGsfu0 (1/21)

 五十嵐響子、有浦柑奈、矢口美羽で投下しまー




 ある駅前通り。
 普段は道行く人々に溢れかえり、急ぐ者、並ぶ者、彷徨く者、ありとあらゆる雑踏が支配するその通り。

 しかし現在に於いて雑踏と呼ぶべき者は存在せず、数分前までの華やかさは何処へやら、まるでゴーストタウンのような様相を呈していた。

 靴音や話し声に変わって響くのは銃声と怒号。
 そこにあるほぼ全てのシャッターが閉鎖され、人々が簡易シェルターに消え失せた街並みで、幾重にも重なる銃声と荒々しい怒号が飛び交っていた。


「ネタマシイ!!ネタマシイ!!」

「ヨコセヨコセヨコセヨコセ!」


 不定形の泥の、どこからか発せられる声。醜く、怨唆の如き叫びが、いつもより広く感じられる大通りにこだまする。
 怪音とも感じられる響きは酷く頭に響き、相対する者には不快感を、身を縮ませる人々には恐怖を植え付けた。

 カース。

 この世界に於いて最もポピュラーとも言うべき災害が、源たる負の感情を周囲に撒き散らしている。


226VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/01(日) 01:46:35.167gDjGsfu0 (2/21)

 憤怒のカースが、大きな破壊力を持つその腕を振り上げる。
 直下に存在するのはシャッター──ではなく、隔壁とも呼ぶべき物々しい扉。数十もの人間が一時避難をしている簡易シェルターの一つ、その隔壁であった。
 中の人々は外の状況を知る術を持たず、そこに突然の衝撃──それも、外とを隔てる壁から走ったとなればその恐怖は相当の物であろう。

 それを知ってか知らずか、憤怒をカースは泥で固められた巨碗を振り下ろす。

 と、不意にその腕を横殴りの衝撃が襲った。

 弧を描いて放たれたグレネード弾がカースの腕を直撃、内蔵された爆薬が炸裂し、火薬の臭いを散らしながらその腕を半ばからもぎ取った。
 腕は攻撃力を発揮することなく地に落ち、鈍い水音を跳ねさせる。

 カースからして知覚外からの攻撃は、単調な判断を一瞬だけ鈍らせた。

 そしてその一瞬は、カース達を相手取る彼等──戦闘のエキスパートたるGDF軍陸戦歩兵部隊にとっては十分すぎる隙であった。


227 ◆BPxI0ldYJ.2014/06/01(日) 01:54:58.347gDjGsfu0 (3/21)

「ナンダテメエ───」

 その名の通り憤怒を露わにし、衝撃が襲った方向に体を正対させるカース。同時に放たれた怒声を遮ったのは、一発の強い銃声だった。

 重い銃声が空に響き、三十メートル後方より放たれた12.7mmウサミン弾が回転しながら飛来した。異星よりもたらされた技術で精製された弾丸は、その特性を遺憾なく発揮。
 スナイパーライフルの性能、そして何より射手の練度による正確性でカースの急所たる核を撃ち貫く。
 断末魔を上げる間さえ無く消えてゆくカース。

 スコープの先に崩れゆく泥を確認し、獲物を狩ったハンター──クール?3?2の名を与えられた彼は余韻に浸るべくもなく次の得物へ視線を移らせた。
 耳元でボルトアクションの奏でる音が子気味よく鳴り、熱っぽい空薬莢が銃身より吐き出される。
 そしてハンターが次なる獲物を猛禽の如き瞳に見定めたのは、空薬莢がコンクリートに落ち、甲高い音を弾けさせるより先だった。


 時にピンホール・ショットとも渾名される核への狙撃の連続は射手に絶大な集中力を要求する。故に銃爪を握る指は手汗に濡れ、眉間に畳まれた皺には焦りが刻まれる。

 雑念の一切を排した事で研ぎ澄まされる感覚。ノイズを片隅に追いやった思考。押し殺した息に代わって聞こえる自らの鼓動を耳に聞きながら、銃爪を引き絞り次射を放った。
 薬莢に秘められた火薬が爆ぜ、慣れた爆音と共にふざけたネーミングの弾丸を飛翔させる。
 ブレが最小限に抑えられた銃口から空を切って一直線に進んだ弾丸は、泥を掻き進んで今度は強欲のカース核を貫いた。


228 ◆BPxI0ldYJ.2014/06/01(日) 01:57:40.407gDjGsfu0 (4/21)

「感謝する!!」

 強欲のカースの足元で手に持った軽機関銃を乱射していた一人の隊員───特殊アーマースーツの色からしてパッションチームの一員であろう───は、弾丸の飛来した後方に感謝の言葉を投げかける。

 しかしその言葉は狙撃手には届かなかった。

 そんな余裕など無かったと形容すべきだろう。
 急ぐコッキングの一秒の間に戦場を俯瞰した狙撃手は、半無意識下で固く結ばれた唇から呻き声を漏らした。

「どれだけ湧いてきやがる……!」

 見て取れるだけで後七体ほど、先の二体を撃破するまでにもう三発のウサミン弾 (12.7mmウサミン弾は、異星よりもたらされた技術の産物であること、素材の入手が手間であること、精製自体が専用の生産ラインを必要としたこと、主にこの三点により通常の弾丸をあざ笑うかのような生産コストを持っていた。故に生産量も限られており、一歩兵の携行弾数に制限がかかることは自明の理であったと言えよう) を無駄にした。

 彼は狙撃という行為に──スポーツマンがそうであるように、また職人と呼ばれる者達がそうであるように──一種の誇りを持っていた。傲慢かも知れないその誇りは自信に直結し悠々とした独自のスナイピイング・スタイルを確立した。

 だが、今の彼を見て、『悠々とした』などと形容する者は居ないだろう。
 前線の悲鳴と木霊する雑音は、彼に中てることよりも撃つことを優先させた。そんな狙撃は彼の美学に反するところであるが、そうしなければならなかった。

 それほどまでに危険な状況なのである。

 狙撃を知り尽くしたからこそ、自分の誇りを貫くことが出来ない。どうしようもない現状に対して彼ができることは、ただ銃爪を引くことと、憎々しげに奥歯を歯噛みすることだけだった。


229 ◆BPxI0ldYJ.2014/06/01(日) 02:00:51.757gDjGsfu0 (5/21)

「うおおおおっ!!」

 前線に展開するパッションチームの一人が雄叫びを上げながら軽機関銃を乱射した。
 鼓膜を叩く発射音と共に毎秒15発で放たれる鉄の嵐が、マズルフラッシュに照らされた黒い泥に殺到する。
 猛烈な反動を筋肉で抑えつけられた銃身から空薬莢が雨霰と吐き出され、泥と地面との接地面───辛うじて足と呼べるような───を引き裂かれたカースが不定形の巨体を地面に倒れ込ませた。  

「装填する!援護しろ!!」

「「了解!!」」

 空になったマガジンを交換しながら放たれたパッション?2の隊長たる彼の一声で、前方に突出した二人の隊員が突撃しながら銃爪を引く。
 訓練された動作で構えられたニ挺の銃身が倒れ込んだカースに二人分の火力が集中させる。
 隊員のバイザーに表示された核の位置に鉄の雨が投下され、火力の集中により泥を掻き出し内部の核を破砕すると言う───ウサミン弾の登場以前から使用されてきた戦術により、歪な球体の核が紫色の輝きを飛散させた。

「一つやったぞお!!」

 粘性を失い始めた泥を踏み、戦域に響き渡るようにして声が飛ぶ。
 撃破報告を部下に任せたパッション?2隊長は、片手で器用にマガジンを装填しながら左肩の無線機を取り出した。


「パッション?2?1より本部!!このままでは隊に犠牲が出る!!後退射撃戦術の使用許可を!!」


230 ◆BPxI0ldYJ.2014/06/01(日) 02:03:18.827gDjGsfu0 (6/21)

 後退射撃戦術───

 その内容は名前がほぼ説明してくれている。
 主に短絡的な思考パターン───近くにいる人間に襲いかかるという───を持つカースに対し使用される戦術である。
 後退を続ける事で敵の圧力を軽減し、突出した個体に火力を集中させることで各個撃破を狙う。じっくりと削り合うという側面では慚減作戦にも似た特性を持つ、対カースにおける有効な戦術の一つである。
 俗に”引き撃ち”とも呼ばれるこの戦術は、しかし様々なデメリット───無用な戦域の拡大、逃避を続けることによる、また否応無く引き延ばされる戦闘時間による隊員の損耗、そして能動的な殲滅による被害の抑制という大前提を投げ出す等の───により、対カース戦初期はいざ知らず、現在においてはしかるべき立場の人間の許可無くしては使用する事のできない戦術であった。

 つまりパッション2隊長が無線機に叩き付けた内容は、『人的被害を防ぐため、諸々のデメリットを許容してほしい』という内容であった。


 ──しかし。

「作戦司令本部よりパッション2ー1、後退は許可できない。そのまま戦線を維持せよ」

 しかるべき立場の人間の返答は、ひどく冷徹なものだった。
 事務的な返答に眉がぴくりと跳ね、隊長は腹の底からふつふつと黒い物が沸き上がってくるのを感じる。

 椅子に座ってる温室育ちが、現状を解っているのか?

 熱となって脳天まで突き抜けたそれは、そのまま喉を通り怒号となって吐き出される。

「ふざけるな!!部下を見捨てろとでも────
「たが安心しろ、現在輸送ヘリでそちらに増援が向かっている」

 歴戦の怒声を遮り、明朗とした声が無線より響く。


231 ◆BPxI0ldYJ.2014/06/01(日) 02:04:54.587gDjGsfu0 (7/21)

 虚を突かれ、隊長が次の言葉を探り当てる前に、無線機より何かを押し殺した声が吐き出された。

「……三十秒だ、三十秒だけ持ちこたえろ」

「……輸送ヘリ……?三十秒……増援……?」

 一拍遅れて、一つずつ確認するように呟く。
 普通に考えて、不自然の過ぎる文面だった。

 先ず輸送ヘリ。普通増援をこんな町中に空輸するものだろうか。生身の隊員が投下されたとて、パラシュートを展開した兵士がこのピンポイントな戦場に辿り着けるものだろうか。
 増援を送るのなら兵員輸送車あたりが妥当なはずだ。

 もしや機甲兵器でも持ち出そうというのか、こんな町中でか?
 ……いや、前指令ならいざ知らず、現司令に限ってそんな判断を承認するものか。彼は被害の拡大を極端に嫌う。

 三十秒と言うのもだ、兵員を送るにしても機甲兵器を送るにしても不自然だ。

 こんな条件に当てはまる増援など心当たりが──


「──……まさか」


 あった。ひとつだけ。
 はっとして、誰に向けるでもない声が口から漏れた。

「──そのまさかだ」


 短く返された、血の通った返答を聞くと、こみ上げてきた黒い熱が不適な笑みへと変換されるのを感じた。



「…お前らぁ!!三十秒持ちこたえろ!!そうしたら───」


「────勝利の女神を拝めるぞ!!」


 勝てる。

 無線機をしまい、周囲に叫び散らすその声音は確信に満ち溢れていた。



─────………

──────────…………………


232 ◆BPxI0ldYJ.2014/06/01(日) 02:06:16.677gDjGsfu0 (8/21)




 パッションー2ー1が本部に無線を繋ぐ数分前。

 某都上空にて、四枚羽のローターを二つ装備した輸送ヘリが上空を飛行していた。
 普段多量の物資などを輸送するそれは一般からして物珍しい存在であり、その大きな機体により異様な存在感を上空に放ち続けた。
 身ごもった魚の卵にも例えられる輸送コンテナには、地球を象った蒼いエンブレム───G.D.Fのスペルが刻まれている。この世界に於いて圧倒的な普遍性を誇るそのエンブレム。

 しかしその傍らにある、部隊の所属を示すエンブレムは、大多数の人間───それこそ、GDF内部においても───見慣れぬものであった。

 『C.G』と刻まれたそれは、この世界に於いては唯一無二のエンブレムである。

 テールローターを除いた八本の風切り羽から、『オクトパス』の渾名を頂戴する輸送ヘリは普段よりも軽快に空を駆けた。

 輸送ヘリ『オクトパス』。
 時に補給物資、時に戦車をも運び得る空の運び屋。
 GDF陸戦部隊の遊撃性をさらなる物とするために新規設計された機体。圧倒的なキャパシィを誇るでっぷりとした腹部は、現在その内包量を持て余していた。

 積み込まれているのは多数の電子機器と、慌ただしく作業を続ける作業員。

 そして三体の───”三人”の少女達である。


233 ◆BPxI0ldYJ.2014/06/01(日) 02:08:59.047gDjGsfu0 (9/21)

「A.Cリキッド、純度問題無し。」

「擬似神経ファイバー、伝達テスト完了。問題無し」

「透過スキャン完了。問題は見当たりません」

 無数に鳴るタイプ音と、技術者達の平坦な声。
 特殊な防音加工が施されたコンテナ内部は、聴覚を妨げるローター音の中にあってもコミュニケーションに問題が無いよう配慮がなされていた。

 技術者達がにらめっこをするコンピューターからは無数のコードが伸び、その多くが物々しい機械に留められた少女達に繋がっている。

「A.Cジェネレータ起動問題無し。後は彼女等次第です」

「よろしい」

 長身の女性が最後に聞こえた男の声を飲み込み、男が目を擦っているのを確認すると、無言で休憩を促す。
 周囲の技術者達もそれに倣い、それぞれが凝った肩を解しながら思い思いの場所へ散っていった。

「………ん゛っ……」

 目を閉じて鎮座する少女達に正対し、一つ咳払いをする。
 同時に手元に持ったコンソール画面操作すると、少女達を固定していた金具が金音を鳴らしながら順に外されていった。

 最後に赤いランプが青にその色を転じさせると、閉じられていた少女達の目が開かれる。



 ………一人を除いて。



「………美羽?」

「はっ!?寝てません!!」

 美羽と呼ばれた彼女は、体を跳ねさせつつ反射的な弁明を口にした。……無駄に伸ばされた背筋と、バツが悪そうに逸らされた視線。

 説得力は皆無。

「…本当のことを「寝てました!!」

 長身の女性の目がすっと細められた瞬間、電撃的に動いた体が腰を九十度ぴったりに曲げさせ──所謂謝罪のポーズを取った。

「………はぁ………」

 ……これもある意味たくましさか。
 暫しその姿を見下したが、彼女は溜め息を漏らす以外その胸に湧き上がる感情を処理する術を知らなかった。


234 ◆BPxI0ldYJ.2014/06/01(日) 02:11:54.197gDjGsfu0 (10/21)

「……いいわ、頭を上げて」

「はいっ」

 なぜだかこちらが悪者のように思えて、早々にこの話題を終えることにする。

 それに、本来ならばまだ十四の少女。耳を撫でる話し声や子気味良いタイピングが子守歌代わりにでもなったのだろう。これぐらい愛嬌として見てやるのがいい大人というものだ。

 そんな理屈で自分を取り敢えず納得させるも、ショートカットの頭を抱える左手がどこか拭えないしこりを謙虚に表していた。

「そんな顔は止めて、セイピース♪」

 そう言いながら満面の笑みとピースサインを向けてきた少女は、名を有浦柑奈と言う。ラブとピースと形見のギターをこよなく愛する少女だ。

「大丈夫よ、ちょっと呆れちゃっただけだから」

「あ、キレられたわけじゃないんですね!」

「でも寝ちゃうのはダメだよ美羽ちゃん」

「あ、いや、あの……」

 眩いピースサインに申し訳程度の笑みを返しながら、寒い駄洒落を聞かなかった事にする。どこか牧歌的な雰囲気は、これから命を張りに行く集団のそれとは思えない。



「……さ、そろそろ切り替えなさい」

 いち早くそれに気付いたショートカットの彼女は、微笑みを打ち消して冷淡な顔を作り、射止めるような声音で三人の少女達にその旨を伝えた。
 一つ手を叩けば即座に緊張の糸がピンと張られ、三人分の靴音と共に凛とした顔を眼前に並ばさせた。

「では、ミッションプランの再確認を行うわ」

 踵を揃えたまっすぐな瞳を一人ずつ見据えてから、抑揚の押さえられた声で淡々と説明を始めた。

「今現在クール3、パッション2、キュート5が十体前後のカースと戦闘中、敵の数は多く決して良い状況とは言えないわ」

「作戦エリアは都市化が著しく進んでおり、交通、スペースの観点から装甲車による兵員の輸送では迅速な援護は望めない」

「バイクによる突入も実行されたのだけど…嫌に高慢な宇宙人が立ちはだかったとかで、対応が遅れているわ」

「そこで、この『オクトパス』により上空から作戦エリアに侵入、そのままあなた達を直接投下して対象の援護を行う……これが作戦の概要よ」

 口外に「ひどく乱暴な計画である」と付け加えてから、単純明快な内容の説明を締めくくった。


235 ◆BPxI0ldYJ.2014/06/01(日) 02:14:04.397gDjGsfu0 (11/21)

「何か質問は」

「……何故、私達なんでしょうか?」

 一瞬視線を伏せてから口を開いたのは、明るめの茶髪をサイドで纏めた少女──五十嵐響子。
 目上の者に質問をするという事に後ろめたさを感じているのか、その口調はどこか控えめな物に感じられた。

「……そうね、さっき都市化が進んでいると言ったわね?」

「周囲には高層ビルが乱立していて、ビル風が強いの。…だから一般の兵員によるパラシュート降下では危険が伴うわ」

「その点、あなた達なら……そうね、ざっと百メートル位ならパラシュートなしでも無傷で着地できるだろう…っていうのが上層部の判断ね」

 言葉を終える一瞬、響子の体を構成する鋼鉄を一瞥する。照明を照り返す銀のメタリックボディが、あどけない顔にアンバランスな異様を湛えていた。


 ──いつ見ても慣れるものではない。
 恐るべき強靭性を誇る鋼の肉体は、傍目から見ればただただ痛々しいばかりであった。

「了解しました」

「よろしい。じゃあ───」
『報告。間もなく作戦エリアへ到着。降下準備をされたし』

 紡ぎかけた言葉を遮ったのは、パイロットから伝えられた機内通信であった。

 一瞬天井を仰ぎ、「予想よりも早い」とひとりごちてから、再び少女達と凛とした顔を突き合わせる。



 決意の固められた表情は、おおよそ十代半ばの娘達がしていて良いものなのだろうか。

 ふと、そんな事を考えてしまう。

 しかし、同情的に胸を痛める事は独り善がりな事で、彼女達の前にあっては罪なことのようにも感じられた。

 ──この自問自答に、きっと答えは存在しない。
 結論付けた彼女は、兎に角それを表情に出さないように努めた。

「…聞いたわね?」

「「「はいっ!」」」

 頭を突き抜けるように明瞭な声が、ぴったりと揃えられて返された。こちらを見据える瞳と同じく、まっすぐなそれには迷いが感じられない。

 信念に迷いで応えてはいけない。

 なれば、彼女にできることと言えば一つしかない。


「では……『シンデレラー1』総員!!降下に備えよ!」


 一つ目を閉じた後、一際強い声でそう告げた。

「「「了解!!」」」


236 ◆BPxI0ldYJ.2014/06/01(日) 02:15:59.627gDjGsfu0 (12/21)

『輸送コンテナ、後部ハッチ開放まで間もなく。』

『繰り返す、後部ハッチ開放まで間もなく!』

 力強い返事に次いで、けたたましい警報とパイロットの声が響く。赤い警告ランプが瞬けば、隅に座していた技術者達が蜘蛛の子を散らすように動き始め、様々な機材の回収を慌ただしく始めた。

『作戦エリア直上に到達。後部ハッチ開放まで三十!』

 一通りの準備を終えた技術者達はエレベーターによりコンテナからの避難を開始している。
 残っているのは『シンデレラ1』の識別を与えられた少女達とひとりの女性だけだ。

 エレベーターから顔を覗かせた禿頭の男より、少女達を見据える女性に声が投げかけられる。

「作戦参謀も!早く!!」

 作戦参謀。
 それが彼女のこの場における肩書きであった。

「心配ないわ!足腰には自信があるの!…少なくともあなた達よりはね!!」

 警告にかき消されてしまわぬよう、声を張り上げて。

「…っ!……知りませんからね!!」

 吐き付けられた呆れ声は、エレベーターの扉に遮られ消えていった。
 機内放送から流れるカウントダウンは0を目前に控え、───

 ───遂に、その時を迎えた。



 ごうん、というような音と共にハッチを固定する金具が外れ、ゆっくりと開く扉から照明ではない太陽光が差し込み始めた。

 次いで襲い来るのは風。
 隙間が空くやいなや猛烈な空気の瀑布が雪崩れ込む。初めは脚を掬い、次の瞬間には凄まじい圧力が体を吹き飛ばさんと圧しかけた。

「くっ……ぅ……!」

 腕で顔を庇い、奥歯を噛み締め、大股に開いた脚で踏ん張りをかける。風とローターとが暴力的な音圧を放ち、苦しげな呻き声をも掻き消していった。

 それでもめげずに姿勢を保ち、苦しげに歪められた顔を正面に向ける。この風の影響下で瞼を開くことは、冬の寒い夜遅く、暖かい布団にくるまった際のそれに匹敵した。

 それでもめげずに、やっとの思いで薄目を開ける。

 太陽光の逆光の中に、三つの影を捉えた。

 その三つの影は、猛烈な空気の瀑布の中でも身じろぎ一つさえしていなかった。顔を庇うこともせず、音に耳を塞ぎもしなかった。


237 ◆BPxI0ldYJ.2014/06/01(日) 02:18:14.117gDjGsfu0 (13/21)





 当然だ。

 何故なら。

 彼女等はGDF陸軍特設遊撃部隊『シンデレラ1』。


 鋼の肉体と電子の神経。
 化学薬品を血潮と流す機械の戦士。



 ───『サイボーグ』であるのだから。




 髪を短く切り揃えた長身の女性が、有りっ丈の息を腹に溜め込む。


 そして叫ぶ。


「『シンデレラ1』ッ!!」



「状況を開始せよッ!!」


 その指令は、彼女等に届いたか、風音に掻き消されたかは定かではない。


 だが───彼女等が空に飛び降りる寸前に見せたサムズアップと、ピースサインと、振りかぶられた手は、鮮明に脳裏に焼き付いていた。




────────………………

────…………


238 ◆BPxI0ldYJ.2014/06/01(日) 02:19:21.397gDjGsfu0 (14/21)


















 ──GDF陸軍特設遊撃部隊『シンデレラ1』

 その誕生の経緯についてここに記す。





239 ◆BPxI0ldYJ.2014/06/01(日) 02:20:22.337gDjGsfu0 (15/21)

 その誕生を語るには、GDFという組織について語る必要がある。

 過剰な少数精鋭を誇るこの部隊。
 そもそも、GDFと言う組織の体系からして誕生したこと自体が異常と言える部隊である。


 現代戦──銃爪を引くだけで少年が大男を殺せるようになった時代───に於いてのパワーとは、即ち数そのものであった。

 それは『あの日』以来においても、辛うじてその形を留め続けていた。──つまり、”能力者という圧倒的な個”が存在していようと─……圧倒的な能力が個に委ねられるからこそ、パワーに対抗するパワー。

 もっと言えば常識を覆すパワーに対抗し得る常識的で制御が容易なパワーは重宝され続けた───




 ──いや、”そうでなくてはならなかった”。

 数が個に圧倒されるという事実は、力を持たぬ大多数にとって混沌の象徴であり───そういった意味では”ヒーロー”という存在は忌むべき物であったかも知れない。

 事実、現在にもたらせれる災禍の影には必ずと言っていいほど能力者の姿が在った。


「個がよからぬ事を考える時、罰するのは数であるべきだ」

「個が混沌であるのならば、数は秩序であるべきだ」

 数において最強を誇る軍隊であるのGDF上層部。 権力という力を持っただけの数である彼等にそのような思想が根付くのは当然であり、それまでにはそう時間はかからなかった。

 故に彼等は数を誇ったのだ。
 力であり続けた。
 力であろうとした。






240 ◆BPxI0ldYJ.2014/06/01(日) 02:21:27.707gDjGsfu0 (16/21)







 ───時に、12.7mmウサミン弾という装備が存在する。


 GDFに配備されるこの弾丸はある側面から見た場合、”数こそが力”という理念に生まれ始めた綻びを、雄弁に語っているのかも知れなかった──────






241 ◆BPxI0ldYJ.2014/06/01(日) 02:22:40.237gDjGsfu0 (17/21)

 以下設定

 ・『シンデレラ1』

 通常の部隊では対応が困難な状態に対処する少数精鋭の特殊部隊。唯一の戦力は三体のサイボーグであり、それ以外の人員はそのバックアップに当たる。
 基本的には本部の直轄で行動するが、独自の命令系統を保有し特殊な装備の使用権限をも保有する。
 言わばGDF軍におけるヒーローのような存在であり、通常の部隊の援護から単身での任務遂行まで多岐に渡る任務をこなす便利屋でもある。
 ただし、GDF軍の所属である彼女等の真価はやはり集団戦である。様々な戦術を駆使、他の部隊との連携を行った際の戦闘力は筆舌に尽くしがたい。

 奈緒、人道的観点から公には彼女等がサイボーグであるという事実は伏せられており、一部の人間以外にはパワード・スーツを装着した兵士であると公表されている。

 ・『オクトパス』

 GDFの保有する輸送ヘリ。
 ニ対のメインローターの羽が計八枚であることからこの名が付けられた。
 今作戦においてのシンデレラ1はコンテナに機材を積み込むことによってサイボーグの簡易ドッグとして運用した。


242 ◆BPxI0ldYJ.2014/06/01(日) 02:24:09.857gDjGsfu0 (18/21)

 矢口美羽

 職業:GDF軍所属サイボーグ兵士
 属性:サイボーグ
 能力:精神攻撃耐性、瞬間的な加速、高い身体能力

 詳細設定:
 GDF陸軍特設遊撃部隊シンデレラ1の一員。
 コードネームはシンデレラ1?3。
 特殊な戦闘訓練を受けたサイボーグであり、鋼の肉体のスピード、タフネス、パワーはそれ単体で身体強化系の能力者に匹敵、時に超越するスペックを誇る。
 それらは主に胸部に埋め込まれた『A.Cジェネレータ』の恩恵であり、その他の技術は特段珍しい物ではない。
 金属で構成されるのは全身のおよそ40パーセント程であるが、それ以外の部位も殆どが人工物に置き換えられており、事実上85パーセントはサイボーグ化が完了している。

 彼女の戦闘スタイルは、四肢に装備された『フレキシブル・リボルバー・ロケット』による瞬間的な加速、それを利用した格闘戦である。
 上記装備は、可動式のノズルから爆発にも似たエネルギーを瞬間的に放出、推進力を発生させるというもの。
 汎用性が非常に高く、単純な加速から急制動による回避行動、限定的な空中戦闘までもをこなし、攻撃面に於いては打撃の威力を高めるだけでなく、直接噴射する事により対象を焼く事まで可能である。
 加速はレンコン状の回転弾倉にストックされたエネルギーを消費して行う。一機毎に六回の使用が可能で、それ以上の使用は一発あたり七秒のリロードを待つ必要がある。

 弱点としては、使用エネルギーの融通が利かないことが挙げられる。つまりどんな使い方をしようと一発は一発であり、常に一定、瞬間的なエネルギーしか放出できない。

 奈緒、精神攻撃耐性は『シンデレラ1』の中でも彼女だけが持つ特性である。


 有浦柑奈

 職業:GDF軍所属サイボーグ兵士
 属性:サイボーグ
 能力:バリア発生装置、高い身体能力

 詳細設定:
 コードネームはシンデレラ1?2。
 基礎的な情報は上記に準ずる。

 彼女の戦闘スタイルは、掌に装備された『フォース・フィールド・ジェネレータ』による防御支援である。
 上記装備は空間上に有色半透明の壁を形成すると言うもの。
 この壁───正確には可視化された『斥力』そのものと言うべき存在であるが───は物理エネルギーに対し極めて高い遮断性を誇り、盾として使用した場合その突破は非常に困難である。
 また、圧縮して鋭利性を持たせることにより武器としての使用も可能である。

 弱点としては、精々四方七メートル程度の展開が限度であること、エネルギーの消耗が激しいことが挙げられる。

 千奈美に、彼女等サイボーグ兵士にとって上司に当たる人間の命令は絶対であり、どのような物であっても逆らうことは勿論疑念を抱くことも無い。


243 ◆BPxI0ldYJ.2014/06/01(日) 02:31:16.597gDjGsfu0 (19/21)

 五十嵐響子

 職業:GDF軍所属サイボーグ兵士
 属性:サイボーグ
 能力:高度な情報処理能力、高い身体能力

 詳細設定:
 コードネームはシンデレラ1?1
 基礎的な情報は上記に準ずる。

 彼女の戦闘スタイルは、高度な情報処理能力を駆使した各種重火器による火力支援である。
 他の二名と違い特殊装備を持たないためパワーに余裕があり、それを利用することで本来銃座に固定して運用するような重機関銃を両手に携えて使用したり、アンチマテリアルライフルを通常のスナイパーライフルの感覚で使用したり、果ては攻撃機に搭載されるような回転式機関砲を個人で運用したりとダイナミックな戦闘を展開する。

 弱点としては、どうしても重量が嵩むため機動力が低下しがちな事が挙げられる。

 千奈美に、彼女等は戦闘向きの思考調整が行われており、人格の大きな変貌こそ無かったがどことなく戦闘行動に対し前向きな傾向が見られる。


 作戦参謀

 職業:シンデレラ1作戦参謀
 属性:
 能力:特になし

 詳細設定:
 シンデレラ1の作戦参謀としてサイボーグ隊に指示を与える立場。
 仕事と割り切っているつもりだが、自分よりも年下の少女達を戦地に送ることに少なからず疑念を抱いている


 シンデレラ1司令

 職業:シンデレラ1司令
 属性:未登場
 能力:特になし

 詳細設定:
 シンデレラ1という部隊において一番偉い人。
 存在だけ知っといてください。


244 ◆BPxI0ldYJ.2014/06/01(日) 02:32:56.217gDjGsfu0 (20/21)

設定以外中途半端な終わり方で悪いな!!

色々ブラックな設定が付いてるけど、鬱展開とか胸糞は無いはずだから安心してちょ


245 ◆ul9SIs8lw.2014/06/01(日) 02:36:15.85mBO5dAyM0 (1/2)

乙ー

テロ現場にきたかー
果たしてどうなることやら?

…………あれ?何故だろう。下手したら加蓮誤射されるフラグが見えた


246 ◆BPxI0ldYJ.2014/06/01(日) 02:45:38.747gDjGsfu0 (21/21)

シチュエーションが似ちゃったけどテロ現場じゃないで……

って思ったが、そっちでも面白いか(適当)


247 ◆ul9SIs8lw.2014/06/01(日) 02:55:36.39mBO5dAyM0 (2/2)

あっ…(勘違いに気づく音

駅前の広場っていうからてっきりテロ現場かと……勘違いすみません……

よく考えたら憤怒や強欲がいるはずないな…


248 ◆zvY2y1UzWw2014/06/01(日) 09:03:46.96SVzGYBRy0 (1/1)

乙です
だりなつと絡ませたいですなー
説明にいきなり出てくる奈緒ちゃんと千奈美さんに少しワロタ

…加蓮誤射…大丈夫なのかそれは(色々な意味で)


249 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:32:10.24Pbo6hGJyo (1/34)

>>220
カイとティラノはこれ以上発展しないんだろうなあ……
むつみとクォーツのコンビは何気に気になっていたコンビでした
衣装は絡みやすい設定だと思うのでそのうちなんかで絡んだりしたいなあ

>>244
千奈美さんが登場してるー!(違う)
新戦力の登場はいつもわくわくします、
サイボーグ3人のお話はどんな風に広がっていくかなー


乙乙でしたー

そいでは
ギリギリですが投下しまー


250 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:32:40.22Pbo6hGJyo (2/34)



――

――


251 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:33:14.43Pbo6hGJyo (3/34)






「君は欲が深い」


テーブルを挟んで対面に座るその男が、彼女に言った。




252 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:33:44.07Pbo6hGJyo (4/34)



「今持ってる物では満足できず、常に今以上のものを求めているのだろう?」

「世界に新しい刺激を求め続ける。そのスタンスに僕は共感したのさ」

男の持つ深緑の瞳が、彼女を真っ直ぐと見つめる。

まるで彼女の心のうちを見透かすように、その男は語る。


「あなたなんかと、一緒にしないで欲しかったわ。」

男の言葉に、彼女は即座に言い返す。

初対面から図々しい要求をしてきた男に、自身の心の内を見抜いたような言葉を吐かれて不快であったからだ。


「……けれど、まあ。このまま元の生活に戻るのも確かにつまらないことだわ。」

不快ではあったが、

しかしそれ故に……彼女は男がもたらすかもしれない新たな刺激に興味を持った。

「だから、”条件”付で、あなたに協力してあげてもいいわよ。」

興味本位。この男の企みに付き合うのも、退屈な今よりは少しはマシかもしれない。

「そうか、では、”条件”を聞こうか。」


253 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:34:35.94Pbo6hGJyo (5/34)





「私を退屈させないで」

それだけ。

それだけが、彼女が”今”ここに居る理由。




254 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:35:08.88Pbo6hGJyo (6/34)



――


さくら「ぱんぱかぱーんっ!」

芽衣子「っと言う訳でっ!!」


さくら・芽衣子「お誕生日おめでとうっ!!チナミさんっ(ちゃんっ)!」


チナミ「……」

さくら・芽衣子「……」

チナミ「……」

さくら・芽衣子「……」

チナミ「……えっ?」

さくら・芽衣子「えっ?」


さくら(め、芽衣子さん!チナミさん何故か困惑してますよぉっ!) ヒソヒソ

芽衣子(ど、どうしようっ!この反応は流石に予想外っ!!) ヒソヒソ

さくら(はっ!!もしかして誕生日間違えてましたかっ!?!」

芽衣子「えっ、それは不味いよさくらちゃん!」


チナミ「思いっきり聞こえてるわよ……て言うか最後まで声潜めなさいよ」



255 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:35:40.70Pbo6hGJyo (7/34)


チナミ「そんな事より、どうしてあなた達が私の誕生日を知ってるのかしら?」

芽衣子「どうしてって」

さくら「サクライさんから教えてもらえましたよぉ?」

チナミ(くっ……あの男、どうやって調べたのよっ)


――


サクライP「どうやって調べたって……普通に回収した履歴書(チナミがルナールに提出した物)に書いてあったよ」

桃華「Pちゃま、誰に向けて喋ってますの」


――



芽衣子「だから、お誕生日祝い!」

さくら「プレゼントもありますよぉっ!」

チナミ「……」

チナミ「誕生日祝いねぇ……」


256 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:36:34.10Pbo6hGJyo (8/34)



チナミ「……ま、そうね。せっかくだし…頂くわ」

さくら・芽衣子「!」

さくら「普通に貰っちゃうんですかぁっ?!」

芽衣子「ちょっと意外だったかも…!」

チナミ「……あなた達、さっきから私にどんな反応を期待してるのよ」

芽衣子「いえ、チナミちゃんの事だからもしかしたら『いらない』って無下にされるかもと」

さくら「私も思ってました」

チナミ「あなた達ねえっ……!」


チナミ「はあ……別に、貰えるものならありがたくいただくわよ」

チナミ「それに一応は同僚なんだから、円滑な関係を築くためにも好意は断らないわ」

チナミ「もっとも、だからって私からの見返りは期待しない事ね」


さくら「芽衣子さん、アレがツンデレですね」

芽衣子「うんうん、ツンデレだね」


チナミ「だからせめて声を潜めなさいよっ!!」

さくら「まあまあまあまあ」

芽衣子「受け取ってもらえるなら何でもいいのでどうぞどうぞー」

チナミ「ああー……もう……調子狂うわー」



257 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:37:47.55Pbo6hGJyo (9/34)



さくら「チナミさんも芽衣子さんと同じで1箇所に留まらないと思うのでぇ」

さくら「同じく持ち運びやすいものを選びましたよぉ!」(えっへん)

芽衣子「たまたまだけど今日は拠点に居てくれて良かったよ」

チナミ「そうね、こんな事があるって分かってたら居なかったかもしれないし」

芽衣子「ツンデレ」

さくら「ツンデレ」

チナミ「違うっ!」

チナミ「……と言うかめげないわね……あなた達。よくそんな都合よく解釈できるものだわ…」

芽衣子「まあまあまあまあ」

さくら「はいっ!プレゼントですっ!」

チナミ「ったく…………あら、アクセサリーなのね」


芽衣子「結局、エージェント全員誕生日プレゼントがアクセサリーになっちゃってる気がするね」

さくら「そう言えばそうですねぇ、他には思いつかなかったんでしょうか…?」

チナミ「ねえ、それちょっとメタい話になっていないかしら?」


258 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:38:53.23Pbo6hGJyo (10/34)



チナミ「……黒い宝石のブローチ……へえ、これは……パールかしら?」

チナミ「なかなかいいじゃない」

芽衣子「気に入ってもらえたようで何よりっ」

さくら「ちなみにそれは、バロックパールって言うそうですよぉ!」(カンペ)

チナミ「バロックパール?」

芽衣子「できる過程で、真円にはならなかった歪んだ真珠の事だよ」

芽衣子「昔は粗悪品って言われてた時代もあったそうだけど」

芽衣子「今は養殖技術で簡単に真円が出来ちゃうから、歪なものも却って評価されてるみたい」

芽衣子「自然の中で偶然出来る、この世に2つとない形ってね!」

芽衣子「だからなのかな、宝石言葉は『芸術性』なんだって」

チナミ「へえ」

さくら「ちなみに、人間界では6月9日の誕生石がバロックパールなんですよぉ」



259 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:39:40.22Pbo6hGJyo (11/34)


チナミ「なるほど、だからこれをね……」

さくら「ちなみに、それはお守りとしても効果を発揮しますよぉ」

さくら「私が魔力を込めておきましたからっ!」(えっへん)

チナミ「ふーん……ところでさっきからあなた、わざと「ちなみに」って使ってるわよね?」

チナミ「怒るわよ」

さくら「えっ……えっへっへー!」

チナミ「私は笑って誤魔化されないわよ」

さくら「ごめんなさい」


チナミ「まあ……邪魔にはならないものみたいだし、ありがたく受け取っておくわ」

芽衣子「……やっぱり」

さくら「……ツンデ」

チナミ「違うって言ってるでしょうっ!もうっ!」

チナミ「くだらない事言ってると受け取らないわよっ!!」

さくら「えぇっ!あ、謝りますから、そう言わずにぃ!」

芽衣子「あはは、ごめんね」

チナミ「まったくもう……」

芽衣子(と言いつつちゃんと懐に仕舞ってくれるチナミちゃんかわいい)



260 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:40:19.46Pbo6hGJyo (12/34)



芽衣子「それじゃあプレゼントも渡したところで」

さくら「いつものですねぇ」

チナミ「……?いつもの?」

芽衣子「うずうず」

さくら「うずうず」

チナミ「……???」

芽衣子「……そわそわ」

さくら「……そわそわ」

チナミ「一体何を待ってるのよ……」


芽衣子「何かって、それはもちろん」

さくら「回想ですよっ!回想っ!」

チナミ「はっ?」

芽衣子「私の時もさくらちゃんの時もこのタイミングで回想が入ったから…」

さくら「チナミさんももちろん回想しますよねぇ?」

チナミ「だからっ!!話がメタいのよっ!!!!」


261 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:41:22.28Pbo6hGJyo (13/34)



芽衣子「あれれ?じゃあ、もしかして回想しないつもりなのかな?」

さくら「ええーっ!私聞きたいですよぉ!チナミさんのカコバナ!」

チナミ「カコバナってなによそれは……」

チナミ「……」

チナミ「……回想って言ってもね」


――――


帝王「ははははは!」

御大将「わはははは!」

サクライP「あはははは!」


――――


チナミ「はあ……やめやめ、なしなし」

チナミ「昔の事なんて思い出しても、不快な顔しか浮かばないわ」

芽衣子「たぶんだけど、すごくあっさりと上司を馬鹿にしたでしょ?」




262 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:42:34.02Pbo6hGJyo (14/34)



チナミ「昔の事を振り返る必要なんてないのよ」

チナミ「だって昔は昔。今は今でしょ」

チナミ「過去に置き去りにして後悔したものなんてないし」

チナミ「必要なものは未来にしかないんだから」

チナミ「後ろ向きに歩く意味なんてないじゃない」

チナミ「私はいつだって前しか見てないわ」

芽衣子「……」

さくら「……」

チナミ「何よ、その狐につままれたような顔は」

芽衣子「いえ、ただただ感心しちゃって」

さくら「チナミさんちょーカッコイイですよぉっ!!」

チナミ「……当たり前の事を言ったつもりだけど……調子狂うわね」

チナミ「……」


チナミ「…………」


そう、過去に置き去りにして後悔したものなんてない。

選択を誤ったつもりもないし、間違った道を歩んでいるつもりもない。

だから、前を向いて、未来に向かって突き進むのみ。

目標に向かって邁進するのみだ。


263 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:43:21.69Pbo6hGJyo (15/34)



――

――


『目標?あなたの目標って何なのかしら?』

チナミ「……っ」


何処からか声が聞こえた。

彼女の周りに広がる深い霧の中から?

その声の発生源は特定できそうにもない。


声。誰かの声。

聞いたことある声。

それは誰の声だったか。


『あなたの目標って何?』

『あなたは何に向かって邁進していると言うの?』

チナミ「……」



264 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:44:00.12Pbo6hGJyo (16/34)




 『 Q.あなたの目標はなんですか? 』


芽衣子『……え?私?』

芽衣子『目標かぁ。そうだなぁ……』

芽衣子『昔は世界中、色んな場所を旅行する事!』

芽衣子『だったんだけど、能力を手に入れてからは現在進行形で叶っちゃってるから』

芽衣子『今は能力で行けない場所に行くことかな?』

芽衣子『宇宙旅行もいいよね、地球の蒼さを実際にこの目で見てみたいし』

芽衣子『獣人さん達みたいに、私たちとは違う住民が暮らしてる異世界にも行ってみたいかな』

芽衣子『後はなんと言ってもタイムトラベルっ!こんな時代だし、不可能じゃないと思うんだよね』

芽衣子『とにかくっ、これまで見たこともない景色を見る為にっ!並木芽衣子は日々前進中だよ!』


チナミ「……」


265 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:44:41.64Pbo6hGJyo (17/34)




 『 Q.あなたの目標はなんですか? 』



さくら『目標ですかぁ…?』

さくら『可愛くてかっこいいヒロインみたいな魔法使いになることでぇすっ!えっへっへー!』

さくら『魔法使いはですねぇ!ちょーすごいんですよぉ!素敵な事がたくさんできちゃうんだからっ!』

さくら『でもどうしてか、魔法使いを認めてくれない人たちが居るみたいで……』

さくら『それって悲しいことですよねぇ、私は嫌ですよぉ』

さくら『でもでもいつか、みんなに魔法が認められたらいいなぁって思いまぁす!』

さくら『なので私は、みんなに認められる魔法使いになりたいなあって思っててぇ』

さくら『サクライさんも、お師匠さんも、聖來さんも、芽衣子さんも、たぶんチナミさんも……みんな私の実力認めてくれてますし』

さくら『この調子でみんなに認められるちょーすごい魔法使いになっちゃいますよぉ!えへへー!』


チナミ「……」


266 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:45:17.50Pbo6hGJyo (18/34)



チナミ「あなた達は2人とも、その意思を貫き通すに足りる目標を持ってるのよね」

チナミ「……私は」


私は、無駄で無意味な事が嫌いだ。

”目的”を果たすためには、常に最良の選択をする事を心がけて生きてきた。


チナミ「私の目的、それは」

チナミ「サクライを……そして一派を出し抜いて、最後に全てを手に入れること」

『それは一体何の為に?』

チナミ「……」


そもそも私は、何かに従わされることが嫌いだ。

『利用派』吸血鬼と呼ばれる一派に所属し、櫻井財閥の『エージェント』に所属しているが。

その実、どちらの組織にも心から従うつもりはまるっきりない。


だから”何のため”の行動なのか、”誰のため”の意思表示なのか。

問われれば『自分自身のため』だと答えるしかない。


チナミ「もちろん私自身のため……だけれど」

『チナミと言う存在のために、全てを手に入れる?』

チナミ「……」


仮に全てを手に入れたとして、それが私の何になるのだろう。




267 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:46:42.50Pbo6hGJyo (19/34)



全てが欲しいのか。と問われたならば、どうだろう。

例えば、今、自分の目の前に神様が居たとして、


「こう見えて私は神でしてー、そなたに世界の全てを差し上げましょうー」

などと言ったとしよう。

私は……何と答えるだろうか?



チナミ「……」

チナミ「愚問よね。そんなのいらないわ……」


世界の全てなど、本当は求めていない。

そんな重荷を背負わされるのは、まっぴらだ。

全てを手に入れる事を目的と言ったが、

そんな”価値の無い物”を得ようなどとは、微塵もこれっぽちも思ってはいなかった。


チナミ「……」


では、何の為に私は行動しているのだろう。

私は別に、”この世に全て”に価値など見出してはいない。

にも関わらず、『他人を出し抜いて、全てを手にしようとする』


その行いに意味はあるのだろうか。



268 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:47:25.78Pbo6hGJyo (20/34)



チナミ「……」


爛『はっ!出ないんだろ、その答えがよ!』

爛『それがテメェと俺らの違いだ』

チナミ「……そんな事言われなくてもわかってるわよ」


それが違い。

”彼ら”とチナミの違い。

目的の為に、他者を利用することを、何の迷いもなくできたとして、

他人を蹴落とすことを、躊躇無くできたとして、

その先が決定的に違う。

行き着く先がまるで違う。


チナミ「あなた達が求めてる物は、きっと確かにあるんでしょ」

チナミ「あなた達にはちゃんと見えてるのでしょうから」

チナミ「進むべき道の先に……価値のある何かが見えているのでしょうから」


目の前に広がるのは深い霧。


そこに私の進むべき道は……見えていなかった。


269 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:48:01.24Pbo6hGJyo (21/34)




クールP『なら、チナミさんは何処へ向かってるのかな?』

クールP『目的や目標は道しるべになる。導も無く宛も無くただ邁進するだけじゃあ……どこに行っても迷うだけだよ』

チナミ「……」

チナミ「わかってるわよ、そんな事」


チナミ「でも仕方ないじゃないの」

チナミ「一派に従って、魔界から地上に出てきて」

チナミ「サクライに従って、『エージェント』として活動して」

チナミ「そうして最後に私が何かを手にしようとしている理由なんて……」


チナミ「退屈しのぎ以外に思いつかないんだから」



270 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:48:38.19Pbo6hGJyo (22/34)



退屈しのぎ。

凌ぐ。すなわち誤魔化すこと。

持て余した時間を紛らわして、すり潰して浪費すること。


チナミは無駄を嫌う。無意味を嫌う。

浪費するしかない時間は無駄であり、つまらない時間は無意味である。

しかし、世界はどうしてもつまらない。

どうしてだろう、ただ見ている限り……あまりに退屈なのだ。


だから誤魔化す。

退屈である事を誤魔化す。

「一派に従い、地上支配の為に地上に出て櫻井財閥について調べあげる」

「財閥を調べる為に、サクライに従い、彼が手にしようとする物を見つけだす」

「しかし、最後には彼らから全てを横から掠め取る」


退屈をしのぐため、それらしい目的を作り上げた。

らしいと言うだけで、本当は伽藍堂。

それに追い求める価値を見出してなどいないのに。


チナミ(それはなんて、つまらないことなのかしら)



 『 Q.あなたの目標はなんですか? 』


チナミ「……」




271 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:49:22.51Pbo6hGJyo (23/34)



――

――


芽衣子「チナミさん?」

チナミ「……」

さくら「どうしましたぁ?ちょっと顔色悪いみたいですけど……」


チナミ「……いえ、ちょっと考え事をね」

芽衣子「あ、回想してたのかな?」

さくら「やっぱりチナミさんもするんじゃないですかぁ」

チナミ「だからメタいのよっ!」

チナミ「……別に過去を思い返していたわけじゃないわよ」

チナミ「ただ……そうね、感傷に浸っていただけよ」


そう、これはただの感傷なのだろう。

気紛れにも似た、一時の気分の迷い。

そう決め付けて、霧の中へと誤魔化す。




272 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:49:58.48Pbo6hGJyo (24/34)



さくら「うーん、そうですねぇ」

さくら「気分が悪いときはやっぱりてらぴーですよぉ!てらぴー!」

芽衣子「アロマテラピーとか?」

さくら「それですっ!」

チナミ「別にそう言うのは求めてないのだけれどね」

芽衣子「まあまあ、丁度財閥から送られきた花束もあるし」

芽衣子「眺めてると、案外癒されるかもしれないよ?」

芽衣子「はい、どうぞ」

チナミ「……」

チナミ「……ふーん」

チナミ「まあ……花も意外と悪くないかもしれないわね」


さくら「ちなみに、それはサクライさんからのメッセージ付きの贈り物です!」

チナミ「……どうして気分が悪くなる情報を付け加えるのかしら」

チナミ「悪くないと思った気持ちを返しなさいよ」



273 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:50:36.15Pbo6hGJyo (25/34)



チナミ「メッセージカードねえ」

チナミ「切り刻んで燃やしちゃってもいいのかしら」

芽衣子「あはは……一応、本人は誕生日祝いのつもりのはずだから見てあげてよ。たぶん悪意はないはずだし」

チナミ「あの男もその辺りよく分からないわよね」

チナミ「妙なところでまめって言うか」

チナミ「……ま、どんな事書いてるのか気にならなくもないし」

チナミ「ちょっとでもイラッとしたら破り捨てるつもりで読んであげるとしましょうか」

さくら「……ツンデ」

チナミ「それだけは絶対に違うわよ、アイツにはデレるくらいなら私は死を選ぶわ」

芽衣子(真顔で言った……サクライさん、嫌われてるなぁ)


チナミ「えーっと……」

チナミ「『まずは破り捨てなかったことを感謝するよ、チナミくん』」

チナミ「……早速イラッとしたのだけれど」

芽衣子「まあまあまあまあ」

さくら「どうどうどうどう」


274 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:51:21.49Pbo6hGJyo (26/34)



チナミ「……」

チナミ「『誕生日おめでとう、君がここまで付いて来てくれた事に僕は礼を言いたい』」

チナミ(……まあ、あなたに追従していた覚えはないけどね)

チナミ「『君との……」

チナミ「……っ」

さくら「?」

芽衣子「チナミちゃん?」

チナミ「……ふふっ」


びりっ


さくら、芽衣子「あっ」

チナミ「やっぱり読まないほうが良かったわね、まったく」

さくら(……結局破っちゃいましたね……)

芽衣子(どんな空気読めないこと書いちゃってたのかな……)


チナミ「……」


275 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:51:56.87Pbo6hGJyo (27/34)



――

――


『君との約束の事を、僕は忘れたつもりはない』


チナミ「……」


サクライP『あの時君が出した条件……君を退屈させない事が、僕が君の助力を得る条件だった』

サクライP『だから、申し訳なく思うよ』

サクライP『君がどうやら……まだ退屈を持て余していることにね』

チナミ「どうだかね」

チナミ「あなたが申し訳ないだなんて心にも思っていないのはもちろんだけど、」

チナミ「そもそもあんな口約束、とっくに忘れてるものだと思ってたわ」

チナミ「……まあお互い様じゃないかしら、私もあなたを助けていたつもりは少しも無いもの」


サクライP『……』

サクライP『君の退屈を満たすために、僕はこれまで多くの物を提供してきたつもりだが……』

サクライP『しかし……やはりと言うか、その中にも君を満足させる物はなかったようだね』

サクライP『それだけ君は、欲が深いようだ』

チナミ「……」

チナミ「……どこがよ」

チナミ「浅いでしょ、ただ退屈を凌ぎたいなんて望みは」


私は、退屈を凌いでいたい。

なんて浅くて、つまらない望みなのだろう。



276 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:52:55.66Pbo6hGJyo (28/34)



サクライP『……そうだね。ただ退屈を誤魔化すためだけに、新しい刺激を求めていると言うのならそうだろう』

チナミ「……」

サクライP『退屈から目を背けられるなら物ならなんだっていい、と言うのなら確かにそれは浅い』

サクライP『けどね、君は違うはずだ』

チナミ「違う……ですって?」


サクライP『君は退屈を凌ごうとしている』

サクライP『凌ぐとは耐えることだ。つまり耐えた先に何かがあると信じて、それを求めている』

サクライP『そして君が求めているのは、』

サクライP『”全てを投げ打ってでも手に入れたい価値のあるもの”なのだろう?』

チナミ「……」

サクライP『ならば、君の求める物は、何でも良いはずがない』

サクライP『例えそれが霧中にあり、今はまだ見えなかったのだとしても……手にする事を諦めるつもりはないんじゃないかい?』

サクライP『見つかるまで捜し求め続けることができるのなら、それは決して浅くはない』

サクライP『君の望みはどこまでも深いところにあるのだろうさ』

サクライP『深いからこそ手に入れ難く、手に入れ難いからこそ確かに価値がある』

チナミ「……」


277 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:53:43.61Pbo6hGJyo (29/34)



チナミ「……あなた、本当にムカつくわ」

チナミ「文面からでも伝わるのよ、何でもお見通しって顔がね」

サクライP『何でもは見通せない、ただ君とは少しだけ気が合うと言うだけさ』

チナミ「……ふんっ、私はそうは思わないけど」

サクライP『ははっ、そうかもしれないね……現に、君の求める理想を僕が見通すことはできない』

サクライP『それを見つけることができるのは、やはり君自身だけなのだろうからね』

チナミ「……」

サクライP『だから、せめて僕は祈っているよ』

サクライP『君が邁進し彷徨う霧の先に、君を満たすことの出来る答えがあることをね』

チナミ「……」


チナミ「……ふっ、ふふっ」

チナミ「あははははっ!」

チナミ「祈るだなんて、おかしい事言うわね!」

チナミ「何に祈るって言うのよ。第一、そんな殊勝なキャラじゃないでしょ、あなたは」

サクライP『ふっ、違いない』

サクライP『確かに僕は祈ったことなんてなかった』

サクライP『決して希うことは無く、いつだって自身の手を延ばした先に望む物を掴み取ってきたまで』


サクライP『そして』


サクライP『君だってそうなんだろう?チナミくん』




278 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:55:16.40Pbo6hGJyo (30/34)



――

――


チナミ「はあ……まったく……あんな奴に良い様に言われてるようじゃあ、私もまだまだかしらね」

さくら「?」

芽衣子「?」


さくら「……どうしたんですかぁ?チナミさん?」

芽衣子「んー……心なしかすっきりした顔してる?」

チナミ「別に」

チナミ「やっぱり私は前を向くしかないって再確認しただけよ」

チナミ「過去に置き去りにしたものは、やっぱりないし」

チナミ「必要なものは未来に…きっと必ずあるんでしょうから」

さくら「えっとぉ、よく分かりませんけど前向きなのは良い事ですよねぇ!」

芽衣子「うんうん、何にしても気分が良くなったみたいで良かったよ」



279 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:56:15.76Pbo6hGJyo (31/34)



チナミ「そうねえ……2人とも」

チナミ「気分転換にどこか遊びに行かない?」

さくら、芽衣子「……えっ」

チナミ「せっかく誕生日なんだし利用させてもらうわ、ちょっと接待しなさいよ」

芽衣子「いえいえ、それは全然構わないんだけど」

さくら「チナミさんからお誘いなんて珍しいなぁって」

チナミ「そう?……まあそうだったかもね」


芽衣子「ふふっ、それじゃあどこ行こっか?」

さくら「はいはーい!ケーキ行きましょうよぉ!ケーキ!」

チナミ「それもいいけど、久しぶりにダーツとかしたいわね」

芽衣子「へえ、チナミちゃんダーツ好きなんだ?」

チナミ「ええ、好きよ。狙った的に向かって真っ直ぐ飛ぶところとか」

さくら「それじゃあダーツバーとかですかねえ?」

芽衣子「うん、さくらちゃんそこ入れないからね」

チナミ「あら残念……今度、瞳子達でも誘って行こうかしら」



280 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:57:09.19Pbo6hGJyo (32/34)



――

――


認めましょう。

これからも後ろ向きなんかにならず、邁進し続けるために。

退屈を凌いで、価値のある未来を勝ち取るためにも。

”目標”なんて今はない事を認めるわ。


だからって歩みを止めたりなんかはしないわよ。

無意味な事は嫌いだもの。


例え、この霧の中道が見えていなかったのだとしても、

それでも私は私の道を言い張ることにするわ。



 『 Q.あなたの目標はなんですか? 』

チナミ「私が目指すに足りる確かな目標を手にする事よ」



おしまい



281 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:57:50.68Pbo6hGJyo (33/34)



『パーシービューティー』

チナミにプレゼントされたバロックパールのペンダント。
歪な形の真珠。歪んだ真円、けれど歪であるからこその価値がある。
それはこの世に同じ形は2つとないまさに自然の芸術。
このお守りは『守護』『肯定』『唯一の価値』などの属性を持つ。


『精神世界』

精神世界には誰もが切欠次第で入り込んでしまうことがある。
基本的には本人の精神模様でその形は多用に変化する。
チナミの精神世界の景色は深い霧の中。
なお、内面世界でありながらチナミの知らない情報が紛れ込むのはご愛嬌。
ここで行うのは自己問答。問うのは自身。答えるのも自身。
自分自身を見つめることは精神の特訓となるとか。



282 ◆6osdZ663So2014/06/09(月) 23:58:58.64Pbo6hGJyo (34/34)



と言う訳でチナミさん誕生日のお話でしたー
爛ちゃんとクールPお借りしましたー。なおチナミさんの心の中での登場のため本人の言では無い模様。

予定ではもっと茶化すはずだったのに思いのほか真面目に……
チナミさんは、このスレではその立場とかもあってグレ気味だった模様。ツングレ。
サクライ相手にデレることはないよ間違いなく。

一方、モバマス内では千奈美さん割と素直にデレデレでした。かわいい。
千奈美さん誕生日おめでとー



283 ◆zvY2y1UzWw2014/06/10(火) 00:08:38.990EMRytVr0 (1/2)

乙なのでしてー

メタな発言に溢れる中でのツンデレなチナミさんの目標の話、いいなぁ
霧の中の自問自答というのが神秘的である(小並感)

精神世界、いろんなキャラで個性がありそうで楽しそうだな…(何か思いついた音)


284 ◆zvY2y1UzWw2014/06/10(火) 00:09:14.730EMRytVr0 (2/2)

おっと言い忘れてた、お誕生日おめでとうなのでしてー(日付変わってる)


285 ◆ul9SIs8lw.2014/06/10(火) 01:08:41.99a24hGqs+0 (1/1)

乙ー

チナミさん誕生日おめでとー

メタ発言wwwというか芽衣子さんとさくらちゃんwww

霧に覆われてるでペルソナ4を思い出すなー


286VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/11(水) 08:13:45.83OEWRIt7xO (1/1)

>>帝王「ははははは!」
>>
>>御大将「わはははは!」
>>
>>サクライP「あはははは!」



やはり子安だな(確信)

チナミさんそいつ吸血鬼にしてみましょう!きっと全身蛍光色になりますよ


287 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:02:47.77FRVOrVQHo (1/60)

トウカサセテイタダキマスー


288 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:03:14.19FRVOrVQHo (2/60)



6月14日(土)

◇某高校◇


美穂「うーん……」


卯月「美穂ちゃんがすっごく悩んでます、どうしたのかな……」

茜「やっぱりさっきの授業難しかったからかな?」

卯月「あ、それは違いますよ、茜ちゃん」

卯月「美穂ちゃんはさっきの授業ぐっすり寝てましたからっ!」

美穂「ふぇっ!?!う、卯月ちゃん、み、見てたのっ!?」

卯月「はいっ、ばっちり!とっても気持ち良さそうでしたよ!」

美穂「うぅう……は、恥ずかしい……」

茜「でも気持ちはわかりますっ!教室の窓から差し込む午後の日差しは、とっても気持ちいいものですからねっ!!」

美穂「分かってくれるんですね!茜ちゃんっ!」 ギュッ

茜「ええ!もちろん!だって私たちは親友ですからね!美穂ちゃん!!」 グッ

卯月「えっ、何だろうこのノリ。わ、私も分かるって言っておいたほうがいいのかなぁ…?」



289 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:03:43.16FRVOrVQHo (3/60)



卯月「ところで、美穂ちゃんは何を悩んでたの?」

茜「悩み事があるなら友人として放っては置けませんっ!もし辛いことあるなら相談にのりますよっ!!!」

美穂「えっ?えっと……辛いことで悩んでた訳じゃなくって、その…プレゼントで悩んでて」

卯月、茜「ぷれぜんと?」

美穂「うんっ!お誕生日プレゼントですっ、肇ちゃんへの!」


美穂(6月15日は肇ちゃんのお誕生日です!)

美穂(以前、肇ちゃんには私の誕生日を…とってもとーっても素敵な形でお祝いして貰ったから)

美穂(私も何か素敵な形でお祝いを返したいけど……)


卯月「なるほど、居候の女の子へのプレゼント」

茜「ううーん……それは難題ですね!!!」

美穂「そうなんだ…なかなか素敵なものが思いつかなくって……」

美穂「うぅ……お誕生日はもう明日なのになぁ……」



290 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:04:22.28FRVOrVQHo (4/60)



美穂「うーん……うーん……」

美穂「あーでもない……こーでもない……」

卯月「……ふふっ」

茜「?」

茜「卯月ちゃん、どうかしましたか?」

卯月「いえ、美穂ちゃん悩んでるけど……それも結構楽しそうですから」

茜「……ですね!!」

茜「その人が喜んでくれる姿を思えば……プレゼント選びはとってもウキウキするものですっ!!」

茜「ならばこうしてはいられません!!美穂ちゃん!私も一緒に悩みますっ!!!」

美穂「えっ」

茜「考える人が2人居ればさらにいい考えが浮かぶはずです!!」

美穂「茜ちゃん……」

卯月「そうですね、1人じゃ思いつかなくても、私達も考えればいい物が思いつくかもしれません」

卯月「三人寄ればかしましいです!」

美穂「卯月ちゃん……」

美穂「たぶん、この場面に適切なのは三人寄れば文殊の知恵じゃないかな?」

卯月「えっ……へ、へごった訳じゃないですからねっ!」

美穂(へご…?)

美穂「ふふっ……でも一緒に考えてくれるって言ってくれて嬉しいな、2人ともありがとうございます!」

卯月「いえいえー」

茜「えへへっ」


――

――


291 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:05:12.01FRVOrVQHo (5/60)



――

――


美穂「……はい、けど結局何も思いつかないままに学校からの帰り道です」

美穂「色々と案は出してもらえたけれど……なかなかしっくり来なくて……」

美穂「うぅ、2人には申し訳ない……」

美穂「……」

美穂「肇ちゃんの事だからきっとどんな物でも喜んでくれるんだろうけれど……」


肇『美穂さん、私にこんな素敵な贈り物。ありがとうございます』 ニコリ


美穂「……かわいい」

美穂「じゃなくって、真面目に考えなきゃ」

美穂「プレゼントも用意しなきゃだけど……やっぱり演出には拘ったほうがいいのかなあ……」

美穂「となるとサプライズがいいのかな?……私のときはすっごく驚かされたし……」

美穂「うーん……でも上手く出来る気がしない……」

美穂「私がする隠し事って肇ちゃんにはすぐバレちゃいそうだし……」

美穂「うううーーん……悩みどころです」


美穂「……と、そんなこんなで悩んでいたらもうお家です」

美穂「ってあれ?」

美穂「誰か来てるみたい?」



292 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:05:50.13FRVOrVQHo (6/60)



◇小日向家◇


美穂「ただいまー」

肇「おかえりなさい、美穂さん……」

美穂「……?」

美穂「肇ちゃんどうしたの?なんだかげっそりしてるみたいだけど……」

肇「いえ……少し……ほんの少しですけど、疲れることがあって……」

肇「あ、心配には及びませんよ!すぐに!本当すぐに帰らせますから!」

美穂「帰らせる……?」


「おやおや、帰ってきたようであるな、美穂さん」

肇「あっ」

美穂「……」

美穂(奥の方から、スラリと長身で和服を着た男の人が現れました)

美穂(……もちろん知ってる人なので、今更その人の外見の特徴を描写する必要はないのですが)

美穂(今回はあえてやらせて貰います)

美穂「あの、肇ちゃんのお父さん……突っ込んだほうがいいですか?」

藤原父「ん?何かおかしいかな?」

美穂「なんですか、その頭の……?」

美穂(その男の人の頭の上には……)


美穂(三角錐の形をした背の高いやけにキラキラとした飾りのついてる帽子が乗っていました)



293 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:06:33.63FRVOrVQHo (7/60)



藤原父「ふむ、やはり美穂さんは良い所に気がつく!」

藤原父「この帽子は、『ぱーてぃーはっと』と呼ばれる物であるそうでな」

藤原父「世間で祝い事があるときは、これを被るのが慣わしなのだろう?」

美穂「……た、確かにそう言う三角錐の帽子を被る事もあるかもしれませんけれど……」

藤原父「いやはや、この帽子は便利でな!」

藤原父「私の頭に生える鬼の角もすっぽりと、それとなく隠せるのだ」

藤原父「おかげで今日、この家をお邪魔するために人里を歩く際も一目を引かずに済んだ」

藤原父「はっはっは!」

美穂(……流石は……鬼の里出身の半妖と言ったところなのかな……)

美穂(疎いっ!!肇ちゃん以上に世間に疎いっ!!!)

美穂(しかも、それを頭に被って外の道を歩いてたなんて……)

美穂(そりゃあ通行人も目を背けますよっ!?)

肇「すみません……なんかもう本当すみません」



294 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:07:15.55FRVOrVQHo (8/60)



肇「お父さん……私の誕生日の事で…ちょっとはしゃいじゃってるみたいで……」

美穂(ちょっとはしゃいでるで済むのかなぁ……)

美穂「あれ……?と言うか……肇ちゃんの誕生日って15日……つまり明日だったよね?」

藤原父「うむ、そうなのだ。肇の誕生日は明日であった!」

藤原父「どうやら私は一日も早く来すぎてしまったらしい!はっはっは!」

美穂「ねえ、肇ちゃん……もしかしてだけど」

肇「はい、美穂さんが考えてる通りだと思いますが……」

肇「お酒入ってます」

美穂「やっぱり……」

美穂(このめんどくさい感じはそうだよね)

美穂(お酒が入るとめんどくさくなるのは、私のお父さんも一緒だからわかります)

藤原父「ああ、以前知人から大量に頂いた酒が随分と余っていたのでな」

藤原父「小日向殿の家に尋ねる際の手土産にしようと思っていたのだが……」

藤原父「持ってくる前に味見をさせて貰っていたら……いやはや、あまりの旨さに口が進んでな!」

藤原父「気付けばこの通りだ!はっはっは!」

美穂「陽気に笑ってるけど……」

肇「もう……お父さん、一口でも飲んだら妖術が使えなくなるくらいお酒弱いのに……」

美穂(あ、そう言えばこの人普段(素面)なら心を読めるんだったよね……今更だけどかなり失礼な事思ってたかも)



295 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:08:10.16FRVOrVQHo (9/60)



美穂「とりあえず……肇ちゃんの誕生日のお祝いのために来てくれたんですよね?」

藤原父「その通りだ。肇の様子見もかねてな!」

藤原父「本当は父も来たがっていたのだが……」

肇「流石にお爺ちゃんまで来てたら私も怒るよ」

藤原父「はっはっは!そう睨むな、ちゃんとわかっている!」

藤原父「いくら酔っているとはいえ、そのくらいの分別はあるとも」

藤原父「父の様な大妖怪がその辺をうろうろしていれば、悪戯に人の世を乱すだけであるしな!」

肇「分別ついてるって言うならお酒飲んでから来ないでよ……」


美穂「でも、それなら帰ってもらうのも悪いよ。肇ちゃんのために来てくれたみたいだし」

肇「ですが……」

美穂母「そうよ、肇ちゃん。そんなに気を使わなくたっていいんだから」

美穂「あ、お母さん。ただいま」

美穂母「おかえり、美穂」


296 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:08:50.19FRVOrVQHo (10/60)



美穂母「藤原さん、客間にお布団敷きましたから、よければ酔いが醒めるまでどうぞ横になっててください」

藤原父「いやいや、そこまでしていただかなくとも、このくらいならば問題は……」

美穂母「いえいえ、お気になさらずどうぞ」

藤原父「心配にはおよば……」

美穂母「お 気 に な さ ら ず ど う ぞ」

藤原父「……」

藤原父「では、お言葉に甘えさせていただくとしよう」

藤原父「この様な酔っ払いに、ここまで気を回していただきかたじけない」

肇「もう、本当だよ」

藤原父「客間は…こちらだったかな?」

肇「お父さん、そっちはトイレだから。……平気そうな顔してるけど足元もフラついてるよ」

肇「ほら、私が支えるから……」

藤原父「ふふっ、済まぬな」

肇「美穂さんのお母さん、私の父の為にわざわざすみません」

美穂母「肇ちゃんのせいじゃないから、気を使わなくってもいいのよ」

肇「……父には言い聞かせておきます」

肇「美穂さんもすみません、父は私がお部屋まで連れて行きますから」

美穂「ううん、私の事は気にしないで」

肇「ありがとうございます。ほら、お父さんこっちだよ」

藤原父「はっはっは、委細承知した!」

肇「もう、どうして楽しそうなの」


297 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:09:41.69FRVOrVQHo (11/60)



美穂「……」

美穂(肇ちゃんのお父さんが来てるなら、どっちにしてもサプライズでは祝えなかったかな?)

美穂母「……不器用よねえ」

美穂「えっ?」

美穂母「藤原さんの気持ちも分かるけど、あれじゃあ年頃の娘の印象はよくないかな」

美穂「……わかっちゃうんだ……あんな風になっちゃう気持ち」

美穂母「そりゃあ分かるわよ、親だもの」

美穂母「子供が遠く離れちゃって、見えないところに居ると、どうしても心配しちゃうものよ」

美穂「……」

美穂母「でも子供の方は案外平気だったりして……」

美穂母「それが寂しくて、余計に構いたくなっちゃったり、逆に構って欲しくなちゃったりね」

美穂母「ふふっ、意外と親離れよりも子離れの方が難しいのよね」

美穂「……お母さん達も?」

美穂母「ええ、もちろんでしょ」

美穂母「まさか美穂がヒーローだなんて、今でも心配に決まってるじゃない」

美穂「……」

美穂母「でもそれがあなたの決めた道なら、私は見送る覚悟はできてるから」

美穂母「これからも美穂は好きにやっちゃいなさい」

美穂「……うんっ!お母さんありがとう」

美穂母「お礼はいらないわよ、美穂を味方するのは親として当たり前の事だから」



298 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:10:23.75FRVOrVQHo (12/60)



美穂母「でもそうねえ……代わりってわけじゃないけど、子供としての義務も果たして貰いたいかな?」

美穂「えっ?ぎ、義務?」

美穂母「言っておくけど、あなたのお父さんだって藤原さんに負けず劣らず心配性よ」

美穂「ううっ……想像できちゃうなあ……」

美穂母「だから、ほんのすこしだけでいいから労ってあげてほしいのよ」

美穂「労い?」

美穂母「これよこれ」

美穂「チラシ?……あ、近くの大型デパートの」

美穂「……『父の日感謝祭 大バーゲンセール』」

美穂母「今年は6月15日が父の日なのよ」

美穂「あ、そう言えば……」

美穂母「美穂は肇ちゃんの誕生日のことで頭が一杯で忘れてたんじゃないかしら?」

美穂「え、えっと……うん……完全に忘れてたかも」

美穂母「泣くわよ、お父さん」


299 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:11:19.84FRVOrVQHo (13/60)



美穂母「まあそう言うわけで、お金は渡すから何かあの人に買ってあげてきてほしいのよ」

美穂「何かって、私が選ぶの?」

美穂母「もちろんよ。あなたが選ぶから意味があるでしょ?」

美穂「……」

美穂母「美穂?」

美穂「うん、わかったお母さん。お父さんへのプレゼントも私に任せて!」

美穂母「ええ、頼んでおくわね」

美穂「それに……サプライズも出来そうになかったから丁度良かったかも」

美穂母「?」


300 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:11:58.98FRVOrVQHo (14/60)



――


美穂「と言う訳で、肇ちゃん」

美穂「明日なんだけど、一緒にデパートに行かないかな?」

肇「……でぱーとですか?」

美穂「あ、鬼の里にはなかっただろうし……知らないかな?」

肇「いえ、どのような施設かは把握していますよ」

肇「たくさんのお店が入ってる大規模な販売施設のことですよね」

美穂「うん!色んなお店があるから友達と一緒に見て回るだけでも結構楽しいんだよ」

美穂「明日は肇ちゃんのお誕生日だけど、父の日でもあるから」

美穂「お父さん達への贈り物を買いにね」

美穂「肇ちゃんのお父さんも今日は家に泊まって、明日の夜まで居るみたいだし、丁度いいかなって」

肇「お父さんへの贈り物ですか……なるほど、いいですね」


301 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:12:38.34FRVOrVQHo (15/60)



美穂「それとね、肇ちゃんへのお誕生日プレゼントも一緒に買っちゃおうっ」

肇「えっ?」

美穂「ごめんね、色々考えたんだけど今日までずっとしっくり来るプレゼントが思いつかなくって」

肇「いえ、そんな事…全然構いませんよ。私自身も美穂さんの時は同じく当日まで悩みましたし」

肇(と言うか、その時はお誕生日である事を当日に知ったのですが……)

美穂「それで、せっかくデパートに行くなら……」

美穂「肇ちゃんへのプレゼントも…一緒にお店を見て回って……一緒に決められたらいいんじゃないかなって」

美穂「……どうかな?」

肇「ふふっ、なるほど合理的で良い案だと思います」

肇「是非っ、お供させてください」

美穂「うん!ありがとう!肇ちゃんっ!」

肇「お礼を言うのはこちらですよ」

肇「美穂さん、私へのプレゼントの為に色々と頭を悩ませてもらい本当にありがとうございます」


肇「ふふっ、明日は素敵な日になりそうです」

美穂(うん、絶対肇ちゃんが素敵だったって喜んでくれる日にしなきゃ!)



302 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:13:39.96FRVOrVQHo (16/60)




――翌日


――6月15日(日)ー


◇ 駅前 櫻屋百貨店前 ◇


肇「で……デカいです」

美穂「こうして外からじっくり見ると……本当にデカいね」

肇「これがデパートですか……もしかすると鬼の城よりも大きいかもしれません」

美穂「冬休みに一緒に行った鬼の里のお城だよね、確かに良い勝負しそうかも」

美穂(ある意味、デパートもダンジョンって言えるかもしれないし)

ガヤガヤ ガヤガヤ

肇「すごいですね……人通りもとても多くて…目を回してしまいそうです」

美穂「今日は日曜日だし、『父の日感謝祭』って事で大バーゲンをやってるみたいだから」

肇「なるほど……だから皆さんこぞってお買い物に来ているわけですね」


美穂(けれど……どうして『父の日感謝祭』をこんなに盛大にやってるんだろう?)

美穂(……櫻屋百貨店は……たしか前に調べた時、櫻井財閥が関わってるらしいって知ったけど……)

美穂(櫻井財閥と父の日が関係あるのかな……?)


303 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:14:28.71FRVOrVQHo (17/60)



◇1F 集合販売店 ぬいぐるみ店◇


美穂「はぁあ……おっきなクマさんです……ぎゅうう」

肇「ふふっ」

美穂「はっ……ご、ごめんね!肇ちゃんやお父さんのためのお買い物の日なのに真っ先にここに来ちゃって!」

肇「いえ、構いませんよ。ふふっ、それにしても美穂さん本当に熊さんが好きなんですね」

美穂「うんっ!抱いているとなんだか安心しちゃうからっ!えへへっ」

肇「それは買っちゃいますか?」

美穂「うーん、この大きさと抱き心地はとっても捨て難いけれど……」

美穂「家にはプロデューサーくんが居ますからっ」

肇「そうですね。でももし、プロデューサーくんは仲間が増えたら喜ぶのでしょうか?それとも嫉妬しちゃったりするのかな?」

美穂「ふふっ、どっちにしても可愛い姿が目に浮かぶけれどね」


「もふもふ」

美穂「あ、こっちにもおっきなクマさんがっ。ぎゅっ」

仁奈「ふふふ、抱きつかれるクマの気持ちになるですよ!」

美穂「えっ」



304 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:15:06.56FRVOrVQHo (18/60)



仁奈「好きなだけもふもふするでごぜーます」

美穂「わわっ!き、着ぐるみでした!?ご、ごめんなさいっ」

仁奈「?…もうもふもふはでもうしねーですか?」

美穂「え、えっと…は、はい、満足しました」

仁奈「それなら良かったですよ」

ニナチャーン

仁奈「! お連れが呼んでるので、さらばでごぜーます」

トテ トテ トテ


美穂「……びっくりしちゃったなあ」

肇「あの子は……」

美穂「? どうしたの、肇ちゃん?」

肇「……ふふっ、いえなんでも」

肇「もしかしたら美穂さん、今日は良い事があるかもしれませんよ」

美穂「?」


305 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:15:35.88FRVOrVQHo (19/60)



◇エスカレーター◇


肇 ソワソワ

美穂「肇ちゃん?」

肇「い、いえ……その……階段が動くのがなんだか落ち着かなくって」

美穂「あ、そうだよね。鬼の里にエスカレーターはなかったし……」

肇「足元が昇っていく感覚はなんだか変な感じです」

肇 ソワソワ

美穂「ふふっ」

肇「あ、も、もう!わ、笑わないでください!」

美穂「ごめんね、ふふふっ」

肇「むぅ……」


306 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:16:15.03FRVOrVQHo (20/60)



◇2F 婦人服売り場◇


美穂「やっぱり女の子としてはオシャレにも気を使いたいです」

美穂「だから買うお金がなくても、ついつい服を見に来ちゃったりして……」

肇「でも難しいですね……」

肇「世間で今風のファッションと言うと……私は全然からっきしですし」

美穂「うっ……実は私も得意じゃないかな……」

美穂「今日は一応お出かけだから可愛い服を着てきたつもりなんだけど……」

美穂「肇ちゃん、私の着てるこれってどうかな?」

肇「……」

美穂「……」



通りすがりの少女「……あの、やっぱりこんな所にステージ衣装があるなんて安直すぎるんじゃあ……」 スタスタ

通りすがりの水晶『この星には灯台下暗しと言う言葉があるだろう。何事も決め付けてかかるのはよくないぞ」

通りすがりの水晶『それに気配は確かにこの近くに……』

通りすがりの少女『はあ……』 スタスタスタ



肇「……」

美穂「……」

肇「美穂さんらしい可愛い服だと思いますよ」 ニコリ

美穂「……あ、ありがとう」(今の間の意味って一体……)



307 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:17:43.59FRVOrVQHo (21/60)



◇3F 紳士服売り場◇


肇「見たところ、このフロアは男性用の衣服売り場のようですが?」

美穂「うん、お父さんへのプレゼントは身に付けられる物がいいかなって思って」

美穂「ネクタイとか喜ぶと思うんだ」

肇「なるほど、日常的に使う物ですから、大切な人から貰えたら嬉しいと思いますよ」

美穂「……肇ちゃんも身に付けられる物がいいかな?」

肇「私は、美穂さんが選んでくれるならどんなものでも嬉しいです」

美穂「そ、そう言う事を面と向かって真顔で言われると……な、なんだか恥ずかしいな」

美穂「……あれ?あそこに居るのは…?」


黒衣P「やはりプロデューサーたるものフォーマルな衣装には気を使わなければな」

黒衣P「さて……これと……これと……これ辺りを試着してみるか」


美穂(やっぱりプロデューサーヒーローの……?)

美穂(と言うか黒子衣装にフォーマルなとかあるんだ……)


308 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:18:31.75FRVOrVQHo (22/60)




◇エレベーター◇

ウィィィン……


肇「……」

美穂「……」

肇「高い……ですね」

美穂「うん、外を見渡せていい景色だね」

肇「はい、きっとこのエレベーターを考えた人はロマンチストだったんでしょうね」

美穂「ふふっ、そうかもしれないね」

肇「ええ、これでもし……」

ギュウギュウ

赤い髪の少女「せ、狭いのう……」

幸薄げな少女「辛いです……」 

くるくる髪の少女「もう帰りたいんですけれど……」

ギュウギュウ

肇「これでもし、ぎゅうぎゅう詰めの箱の中で無ければ、本当に素敵だったとおもうのですが……うぅ…」

美穂「大バーゲンで利用するお客さん多いからね……ちょっと苦しいよね…」



309 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:19:02.97FRVOrVQHo (23/60)



◇9F 催し物フロア 『日本文化展』◇


肇 マジマジ…

肇「……なるほど、いい器ですね」

美穂「わかる?」

肇「はい、刀匠見習いとして詳しいのは刀ですが」

肇「他にも古くからの伝統的な文化と言うのは、鬼の里にもしっかり伝わってますからね」

肇「ふふっ、特に備前の焼き物は、どこか故郷の香りがしますから。私は好きですよ」

美穂「そっか……うん、それならこう言うの買っちゃう?」

肇「えっ…展示品なのでは?」

美穂「展示物もあるけど、買っちゃえるものも幾つかあるみたい」

肇「そうなんですか……では、この辺りでも何か良さそうな物を探してみましょうか」

美穂「うんっ!」


美穂「えーっと……あ、刀も飾ってあるみたいだよ。肇ちゃん」

肇「おや、忍者刀ですね」

美穂「忍者刀……忍者が使う刀って事だよね」

肇「ええ、隠密活動に活かせる様調整された刀です」

肇「具体的には…」

あやめ「ニンッ!普通の刀よりも短く手に馴染みやすい刀でございます!」

美穂「わわっ!?」


310 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:19:45.13FRVOrVQHo (24/60)



あやめ「短い為に、取り出しや持ち出しはしやすいのですが、切れ味自体は落ちてしまうのです」

あやめ「しかしこれは真っ向勝負するための刀ではありませんが故にそれでも良かったのですね!」

あやめ「忍者は影にて忍ぶ者ですからね。その代わりに刀には色んな仕掛けが仕込まれていますよ!」

あやめ「忍刀の多くは、刃の反りは少なく鍔は大きく頑丈に作られています」

あやめ「これは塀を越えたり屋根を昇る際に、刀を足場代わりに使えるように工夫された作りになっていまして!」

あやめ「他にも鞘は先端まで穴が貫通していて、水中に隠れる際に息を吸うために活用できます」

あやめ「刀を分解して懐に隠せるようになっていたり、取り外した部分に火薬や毒薬を収納して持ち運んだりもできるんですよ!」

美穂「な、なるほど……」

肇「詳しいですね」

あやめ「ええ!忍者ですからね!ニンニン!」

美穂「……」

肇「……」

あやめ「あっ……い、いえ!!違います!!ワタシ忍者ジャアリマセーン!」

美穂「えっ!?ど、どうして急にカタコト!?」

あやめ「さ、さらばです!ドロンッ!!」 タッタッタッタ…


美穂「……急に現れて素早く去っていく様は、確かに忍者っぽかったけど」

肇「忍ぶ者にしては忍び方が甘かったですね……」

美穂「うん……」


311 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:20:16.50FRVOrVQHo (25/60)



◇11F レストラン街◇


美穂「うーん、これだけお店があるとやっぱり目移りしちゃうよね」

肇「お昼は、おうどんにしましょう」

美穂「え、どうして?」

肇「いえ、器をずっと見ていたからなんとなく食べたくなりまして……」

美穂「じゃあそうしよっか」

肇「はいっ、丁度そこにおうどん屋さんが……」

肇「あっ」

美穂「あっ」


菜帆「あらら~?」

『おやおや~』


美穂「菜帆ちゃんも来てたんだ」

菜帆「ええ、もちろんですよ~。女子としてバーゲンは見逃せませんからね~」

『デパ地下はもう行きましたか~?美味しいものたくさんありましたよ~』



312 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:20:50.37FRVOrVQHo (26/60)



肇「こちらに並んでいると言う事は、菜帆さんもお昼はおうどん屋さんですか?」

菜帆「そうですね~、と言うより~」

『フロアの端から1件1件回ってる途中ですね~』

肇「……そ、そうですか」

美穂(1件1件って……)

『本当はお友達と一緒に来てたんですけど……』

菜帆「1フロア回るって言ったらどこか行っちゃいましたね~」

美穂「…………うん」(それはそうなるよね……)


菜帆「ところで、肇ちゃん。知ってますか~?」

肇「?」

『ここのうどん屋さんの、蒸篭うどんはですね~』

『30枚以上食べる事ができたら、お食事代がタダになって』

『しかもこのデパートで使える金券まで付いてくるんですよ~』

肇「!!」


肇「……」

肇「なるほど、理解しました……」

肇「つまり、あの時のリベンジマッチですねっ!!」 ゴゴゴ

菜帆「あ、そう捉えますか~?」 ゴゴゴ

『ふふふー、受けて立ちますよ~』 ゴゴゴ


美穂(……おうどん屋さんご愁傷様です………)



313 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:21:33.38FRVOrVQHo (27/60)



◇B1F 地下食料品売り場◇


肇「菜帆さんは本当に凄いですね」

肇「お腹の限界なんて言葉は、きっと菜帆さんには無縁でしょう。そんな風に思える食べっぷりでした」

美穂「あれだけ食べて、このデパ地下を一通り回った後だって言うんだから」

美穂「すごいを通り越して……なんだかもう言葉では表現できないけれど」

肇「リベンジマッチも負けてしまいましたが、」

肇「それでも、菜帆さんが居てくれたおかげで、私達も金券を手に入れましたから」

肇「これを使って、家族へのお土産を買って帰りましょう」

美穂(うどん屋さんには少し悪いことをしちゃった気もするけれど)

美穂「でもせっかく貰えた物だし、使っちゃおうか」

美穂「何を買っていこう?」

肇「試食もできるみたいですから、実際にいただいてみて選んでもいいかもしれません」

美穂「そうだね、えっと……」

美穂「……あ、あれって」


314 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:22:19.94FRVOrVQHo (28/60)



櫂「すみません、これ試食させてもらってもいいですか?」

店員「ええ、どうぞ!是非お試しください!」

櫂「やったっ……じゃなくって…それじゃ、いただきます」

星花「私もいただきますわ。もぐっ……まあ、とても美味しいですわね」

店員「ありがとうございます!」

星花「でも今日はもう持ち合わせがなくて……」

星花「また今度来たときには、購入させて頂きますわ」

店員「いつでもお待ちしております!」


櫂「すみませーん、これ試食させてもらっても――――」

星花「まあ、とても美味しそうですわ、でも――――」



美穂「……」

肇「……」




美穂「肇ちゃん、金券あげちゃって良かったの?」

肇「もちろんですよ。フルメタルの亜季さんにはエトランゼではとてもお世話になってますから」


315 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:22:51.66FRVOrVQHo (29/60)



◇連接施設 シネマ◇


美穂(デパートからすぐに来れる映画館にもやってきました)

美穂(せっかく肇ちゃんとのお出かけなので、色々な事をしておきたいと思って)

美穂(だけど……)


『―――!――!』

『――!』


美穂(うーん……あんまり面白くないかな?)

美穂(いわゆる、外れ映画だったのかもしれません)

美穂 チラリ

肇「……」

美穂(……肇ちゃんは面白いと思ってくれてるかなあ……?)

肇「……」 マジマジ

美穂「……」

美穂(ん……なんだか眠くなってきちゃったかも……)

美穂「…………スー……スー」




316 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:23:40.29FRVOrVQHo (30/60)




肇「?」

美穂「……スヤスヤ」

肇「美穂さん寝ちゃってますね」

肇「今日は上へ下へ忙しかったですから、疲れていたのかもしれませんね」

美穂「ムニャ……」

肇「……ふふっ、美穂さん。今日は私に付き合ってもらって本当にありがとうございます」


奏「それにしても眠たくなるくらい退屈な映画よね」

肇「!」

奏「いかにも面白そうな広告を出しておいて、中身がこれなんて正直がっかり」

奏「そっちの子はすっかり寝ちゃってるみたいだけど、あなたもそう思わない?」

肇「えっと……?」

肇(……隣の席に座る方に声を掛けられちゃった)



317 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:24:08.11FRVOrVQHo (31/60)



奏「ふふっ、そんなに警戒しなくてもいいのよ」

奏「ただ見に来た映画がつまらないから、少し世間話がしたくなっただけで」

奏「何も採って食べようって訳じゃないわ」

奏「あ、それとも食べられたいのかしら?」

肇「……世間話ですか?」

奏「そう、ただの世間話。世間のお話」

奏「ふふっ、私は勝手に喋ってるから貴女は聞いてくれてるだけでもいいわ」

肇「……は、はあ」

奏「今日はとっても素敵な日よね。父の日、大切な家族の1人に贈り物をする日」

奏「恋人達のための日ほどじゃないけれど、それでもこう言う記念日って結構好きなのよ」

肇「……そうですね、素敵な日だと私も思います」

奏「ねえ、人はどうして贈り物をするための日をわざわざたくさん作ると思う?」

奏「バレンタイン、ホワイトデー、母の日、父の日、クリスマス……」



318 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:24:45.31FRVOrVQHo (32/60)



奏「そして、誕生日」

奏「他にもたくさん、贈り物のための日を作っているわよね」


肇「そうですね……」

肇「贈り物は……感謝の気持ちを伝えることのできる方法の1つです」

肇「大切な人に大切である事を伝えたい」

肇「そして、出来ればその事をちゃんと伝えたおきたいと思う気持ちは皆さん一緒であるはずです」

肇「だから、このような日がたくさんあっても別段不思議ではありませんよ」


奏「そうよね。そうなのかも」

奏「でもそれって、まるで……その絆が本当にそこに存在しているか。疑っているみたいじゃない?」


肇「えっ?」


奏「目に映らないそれが、”嘘”じゃない事を確かめているみたいよ」


肇「……」



319 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:25:24.85FRVOrVQHo (33/60)




奏「絆は普通は目には見えないもの、とても繊細で不確かなもの」

奏「不確かだから、そこに裏打ちがなければ信じきれないだけなのかも?」


肇「……」


奏「繋がりが無ければ人は生きてはいけないわ」

奏「ううん。人に限らずこの世界に息づくモノはみんなそうなのよね」

奏「だから絆の存在を証明したい。繋がって居る事を確認しておきたい」

奏「そうなんでしょう?だから求めるのよね?」

奏「贈り物と言う形があれば、とりあえずは安心できるもの」

奏「でも、それだって”本当”だって言いきれる?」

奏「例えば、この映画みたいに外側だけ取りつくろって、中身を良い様に見せているだけなのかも」

奏「ソンナモノを貰っただけで、満足してもいいものかしら?」


肇「……」


320 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:26:01.69FRVOrVQHo (34/60)



肇「……確かに、あなたの言う通りかもしれません」

肇「贈り物を渡したい気持ち……贈り物を貰いたい気持ち……」

肇「それは……おそらく綺麗なだけな物ではないのでしょう」


肇「”本当に”大切にしているのか、”本当に”大切にされているのか」

肇「それは”嘘”ではないか」

肇「確認する為に……確かな形のある物や、それ以上の物を求めてしまうのは、」

肇「もしかすると、相手の事を疑っているからなのかもしれませんが……」

肇「だけど、疑ってしまうのは、やっぱり信じていたい気持ちが強いからなのだとも思います」


肇「私は、傍に居る大切な人たちの事を信じていたいです」

肇「そして……いただいた贈り物から、私が感じたこの心の温もりは確かに本物です」

肇「……物と言う形があるから、疑わずに済むのではなく、」

肇「心に温もりがあるから……相手を信じられるのだと私は思います」

肇「贈り物の中身は……綺麗なだけではないのかもしれませんけれど、」

肇「ふふっ、でも、きっと悪いものではありませんよ」


奏「ふーん」

奏「いいわね♪やっぱりあなた達も面白そうよ」

肇「……?」

奏「とても純粋に相手を信じていて、それでもなお欲していて」

肇「…………貴女は……一体?」

奏「だからとっても」


321 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:26:43.77FRVOrVQHo (35/60)



奏「めちゃくちゃにしがいがありそう」

肇「っ!」

奏「フフフっ」

肇「美穂さんっ!」

美穂「むにゃ……ふぇっ!?あ、あの!ね、寝てませんっ!」

肇「すぐにここを出ましょう」

美穂「えっ?あれ……?えっ?ちょ、ちょっと……肇ちゃん?」



奏「……」

奏「あら、残念。逃げられちゃった」

奏「あの業突く張りが狙ってるって聞く子達みたいだったから、ほんの少し突いてみるつもりだったけど」

奏「思いのほか、楽しそうな玩具ね」

奏「力強くも繊細で、繋がってるようで綻びの見える糸」

奏「もし手を出しちゃったら、私が『強欲』に目を付けられるのかしら」

奏「それは嫌だけど、でも勿体無いわよね……ふふっ、ほんと悩ましいわ」

奏「……」

奏「……ところでベルの1フロア巡りはそろそろ終わったかしら」


322 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:27:24.02FRVOrVQHo (36/60)



◇屋上庭園◇


美穂「肇ちゃん、大丈夫?」

肇「……ふぅ」

肇「ええ、ご心配には及びません。もう大丈夫ですから」

美穂「そっか、気分がよくなったみたいで良かったよ」

肇(しかし結局……あの人はいったい何だったんでしょう……?)

肇「あっ。映画……途中で抜け出す事になってしまい、すみません」

美穂「ううん。気にする事はないよ。と言うか……私も途中で寝ちゃってたし……」

肇「……ぐっすりでしたね?」

美穂「め、面目アリマセン……」

美穂(うぅ……やっぱり映画館に寄ったのは失敗だったかも)

肇「ふふっ」


肇「ところで、どうしてデパートの屋上に?」

美穂「えっと、今日は用事はもう済ませちゃったけれど」

美穂「せっかくだし、帰る前にここから見渡せる景色を肇ちゃんにも見てもらいたくて」

肇「……」

肇「……なるほど。確かに……良い眺めですね」

美穂「うん。風もとても気持ちいいから、ここに寄った時はよく来るんだ」

肇「夕刻。まるで空の色の青と赤の境が見えるようです」

肇「寂しさと温かさ。相反する二色が混じりあい、世界の色を変えていくようで……とても綺麗ですね」

美穂「ふふっ、そうだね。綺麗な空です」


323 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:28:07.95FRVOrVQHo (37/60)



肇「……」

美穂「……」

肇「……」

美穂「……」

肇「あの、美穂さん」
美穂「ねえ、肇ちゃん」

肇「……」(被った)

美穂「……」(このタイミングで被った)

肇「……」(どうしよう)

美穂「……」(ちょっと気まずい)

肇「美穂さんの方からお先にどうぞ」

美穂「ええっと…それじゃあそうさせて貰うね?」


324 ◆6osdZ663So2014/06/15(日) 18:28:40.70FRVOrVQHo (38/60)



美穂「肇ちゃんへの誕生日プレゼント、本当にそれでよかったのかな?」

肇「はいっ、もちろんです」

美穂「特別に高いものでもなかったけれど……」

肇「ええ、日常的に使うものですよ」

美穂「それに……故郷の香りのする備前の焼き物でもないし」

肇「そうですね。でも、私はこれがいいのです」

美穂「そっか……まあ、私はそれに書かれたイラスト好きだから」

美穂「肇ちゃんに気に入ってもらえるなら、とても嬉しいな」

肇「このクマのマグカップは、大切に使わせていただきますよ。美穂さん」

美穂「うん、えへへ」


325 ◆rXUHEibmO22014/06/15(日) 18:28:59.76Fwz9f18ZO (1/1)

フルメタルの三人ェ…