1>>12014/04/01(火) 00:16:33fqg2CCZE (1/8)

このSSは>>1がSS速報VIPに書いた 春香「あれ、なんですかこの『弓と矢』?」 というスレの続編です。
「弓と矢」は「THE IDOLM@STER」のキャラクターの名前と「ジョジョの奇妙な冒険」の設定を使った何かです。
過度な期待はしないでください。


2>>12014/04/01(火) 00:22:13fqg2CCZE (2/8)

あれ?速報とここじゃ酉違うのか まぁいいや
速報のテストスレ>>161は>>1です


3『弓と矢』第二部 予告編2014/04/01(火) 00:24:16fqg2CCZE (3/8)

「765プロは、もういらない」

未だかつてない765プロの危機に、アイドル達が立ち上がる!



愛「あれ、なんですかこの『弓と矢』?」

絵理「わからない。いつの間にか…あった?」

アイドル事務所に次々と現れる「弓と矢」!



P「あなたは高木順二朗…社長!」

順一朗「順一朗だ」

小鳥「生きていたんですね、社長!」

順一朗「順一朗だ」

生きていた高木社長!


4『弓と矢』第二部 予告編2014/04/01(火) 00:25:36fqg2CCZE (4/8)

???「疑問に思ったことはありませんか? どうして自分は『スタンド』が使えるのか」

千早「ええ、それは…」

???「教えてあげましょう。1文字300円で」

明かされる謎!



律子「私の『ロット・ア・ロット』が捉えたこの映像…」

伊織「こ…これは…!!」

律子「私達765プロの宿敵…961! そしてやつのこの衣装は!」

律子「このくそったれ社長の首から下は私達の先輩ワンダー・モモの服をのっとったものなのよおおおーおおお!!」

キモい…!


5『弓と矢』第二部 予告編2014/04/01(火) 00:26:57fqg2CCZE (5/8)

やよい「えへへ、千早さんが無事でよかった!」

千早「た…高槻さ…ん…」

BB『さい…己を解き放ちなさい…』

千早(『ブルー・バード』が…私に語りかけてくる…!?)

BB『さぁ…やよいをペロペロするのよ…さぁ…!!』

千早「あ…あああ…!」

千早…暴走!?



FS「萩原雪歩」

雪歩「えっと…なんですか?」

FS「雪歩…ト呼ンデモイイデショウカ」

雪歩「はい?」

禁断の恋!?


6『弓と矢』第二部 予告編2014/04/01(火) 00:28:02fqg2CCZE (6/8)

??「オラァッ!」

あずさ「あ…」

??「やれやれだぜ」

あずさ「あ、あなたは…!!」

亜美「そう、亜美です」

亜美!!!!



春香「私は、765プロを…」

春香「みんなを守る」

ドォーン


7『弓と矢』第二部 予告編2014/04/01(火) 00:28:49fqg2CCZE (7/8)

『弓と矢』第二部



千早「『弓と矢』、再び」



近 日 公 開 ッ ! !


8>>12014/04/01(火) 00:31:29fqg2CCZE (8/8)

嘘です。
ほとんど嘘です。



でも二部は本当。
春香さんの誕生日4/3に1話目を間に合わせたいと思います。


9以下、名無しが深夜にお送りします2014/04/01(火) 04:04:25xG44POzA (1/1)

まさかの深夜で投下…だと…


10以下、名無しが深夜にお送りします2014/04/01(火) 11:49:022KGzTh2o (1/1)

つまんねえからもういいよ


11以下、名無しが深夜にお送りします2014/04/02(水) 00:51:24NSnUh76c (1/1)

前作を初期から追ってたからすごく楽しみ


12>>12014/04/04(金) 00:32:57O.CKnzec (1/32)

始めます。

とはもう言わなくていいんですね…この圧倒的開放感
そして落ちてたせいで春香さんの誕生日に間に合わなかったという圧倒的絶望感


13『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:33:39O.CKnzec (2/32)

「3…2…」

暗闇の中に、炎が揺らめいている。

静まり返った場には、カウントダウンの声だけが響く。

「1…………0」

フッ

カウントがなくなると同時に、炎が消え…

パンッ

辺りに、破裂音が響いた。


14『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:34:16O.CKnzec (3/32)

「「「たんじょ…」」」

愛「おたんじょうび、おめでとうございまーーーーーーす!!!!!!」

キーン…

愛「あれ!!? みなさん、どうしたんですか!!?」

石川「ちょっと、愛…もうちょっと…静かにしてくれないかしら」キーン

千早(ここは、カーテンで閉め切られた一室…)

尾崎「み、耳が…」パチン

千早(尾崎プロデューサーが壁のスイッチを押すと、部屋に照明の光が広がった)

愛「だってだって、今日はめでたい絵理さんの誕生日ですから!!!」

絵理「愛ちゃん、ありがとう」

愛「はいっ!!! 絵理さん、もう一回!! おたんじょ…」

絵理「でも、うるさいから…静かに?」

愛「そんなー!!」


15『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:35:51O.CKnzec (4/32)

やよい「でもでも、愛ちゃんの言う通り今日はとってもおめでたい日ですよっ!」

亜美「うんうん、一年に一度、あるかないかの日だよね!」

真美「………」

千早(今日は、私と高槻さん、亜美と真美…)

伊織「絵理、おめでとう。この伊織ちゃんからのプレゼントよ、ありがたく受け取りなさい!」

絵理「伊織さん、ありがとう」

千早(そして、765プロの中では水谷さんと一番仲のいい水瀬さん)

千早(私達は彼女の誕生会に出席するため、この876プロの新事務所に来ていた)


16『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:36:26O.CKnzec (5/32)

絵理「みんな、今日は、楽しんでいって?」

亜美「うん、もちろんだよ絵理お姉ちゃん!」

千早(水谷絵理さん…765プロと交流のある芸能事務所、876プロのアイドル)

亜美「………」キョロキョロ

絵理「探してるのはこれ? 余ったクラッカー」

亜美「あっ、これこれ! 絵理お姉ちゃん、ありがとー!」

絵理「…どういたしまして」

千早(もの静かだけど、周りの事をよく見ていて…)

絵理「亜美ちゃん、クラッカー何に使うの…? 強盗?」

亜美「ふぁ!? そんなん、どうやってやるのさ!」

千早(そして、独特の感性を持っている…ご、強盗って…くくっ…)


17『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:37:03O.CKnzec (6/32)

尾崎「みなさん、絵理の誕生日に…忙しい中、よく来てくれたわね」

千早(876の尾崎プロデューサー。元々はフリーだったのだけれど、今は876プロで水谷さんの専属プロデューサーをやっているようね)

尾崎「特に如月さん。最近はとても忙しいようだったけど」

千早「プロデューサーに、少しは休めと言われていましたから。ちょうどいい機会でした」

伊織「今年になってみんなスケジュールギチギチなのよね。私達はたまたま空いてたけど…」

やよい「伊織ちゃん、今日には予定を入れないようにって律子さんに頼んでたよね?」

伊織「ちょっ…!?」

絵理「…そうなの?」

伊織「違っ…だ、だから、たまたまって言ってるでしょ!」


18『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:38:08O.CKnzec (7/32)

石川「ま、これでも集まった方よね。うちも、涼が出払ってて誕生会に参加できないし」

千早(876プロの石川社長…弱小の876プロを、それなりに盛り上げて来たやり手ね)

伊織「社長が誕生会に参加してて大丈夫なの、この事務所…」

石川「私だって、人の誕生会にかこつけて騒ぎたいことくらいあるわよ。あなた達のところの社長もそうでしょ?」

千早「え? いえ、高木社長は…」

やよい「涼ちゃん来れないんですか?」

亜美「一日中仕事があるわけじゃないっしょ。夜になれば涼ちんも絵理お姉ちゃんのお祝いに来るって」

絵理「…わたしも夜になったら仕事。誕生日だから、お誕生日企画?」

尾崎「だからこうして、昼に皆さんをお招きしたわけです」

千早「昼から夜まで誕生会だなんて…」

石川「素敵よね。一日中ずっと祝ってもらえるなんて」

千早「大へ…いえ、そうですね。素敵ですよね」


19『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:38:55O.CKnzec (8/32)

愛「ほんとうは、涼さんや夢子さんも、765プロの皆さんとも一緒にお祝いしたかったんですけど…」

愛「でもっ!! あたしがここにいないみなさんの分まで、絵理さんをお祝いしまーす!!!」

絵理「あ、ありがとう…」

千早(そして、日高愛…彼女も、876プロのアイドル。知らない人はいない伝説のアイドル、『日高舞』の娘)

やよい「愛ちゃん、元気いっぱいですね!」

千早(元気一杯なところは高槻さんに似てるわね)

亜美「ね、ね、真美! これでさ…」

真美「ふぇぁー…」クラクラ

亜美「わわっ、愛ぴょんの横にいた真美が目回してる!」

愛「うわっ!!! 真美ちゃん、大丈夫っ!!?」

千早(何より…声が大きい…)キーン

千早(歌手としては、彼女の声量は少し羨ましいけれど…近くで騒がれると、たまったものじゃないわね)


20『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:39:31O.CKnzec (9/32)

真美「はひー…」

絵理「真美ちゃん、真美ちゃん…」ユサユサ

絵理「駄目、返事がない…ただのしかばね…」

伊織「さっきから、妙に静かだと思ったら…」

石川「あっちの部屋にベンチがあるわ。尾崎さん、運んでくれる?」

尾崎「は、はい」ヒョイ

千早(尾崎プロデューサーは、真美の身体を優しく持ち上げ…)

スタスタ…

千早(奥の部屋に歩いて行ってしまった)


21『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:40:55O.CKnzec (10/32)

愛「これって、もしかして…あたしのせい…?」

絵理「そうかも…」

やよい「そ、そんなことないですよ。愛ちゃんは絵理さんのお誕生日を祝ってあげたかっただけなんですよね」

伊織「アンタがもう一回声かければ飛び起きるんじゃないの?」

愛「そ、そうですね!!」

愛「わかりましたっ!! 真美ちゃんにおきろー!! って声かけてきたいと思います!!」

亜美「わわっ、そりゃ逆効果だよー!!」

愛「へ?」

千早(元気一杯には間違いないけど…感情の起伏が激しいわね。嵐のような子だわ)


22『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:41:28O.CKnzec (11/32)

千早(しばらくすると、尾崎プロデューサーが戻って来た)

尾崎「真美ちゃんはロッカー室のベンチに寝かせておいたわ」

亜美「ありがとー、おざりん!」

尾崎「お、おざりん…?」

絵理「伊織さん、律子さんとあずささんがいないってことは…『竜宮小町』、解散しちゃった?」

伊織「解散したと言うか…そういう枠組みが薄れてるのよね。みんなまとめて、765プロのアイドルって感じで」

尾崎「決まったメンバーでなく、色々な組み合わせを試しているというわけね」

亜美「だから、最近は真美と一緒の仕事も増えてきたんだ!」

伊織「ま、今も『竜宮小町』としての活動もしてるわよ」

絵理「そうなんだ…」


23『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:42:04O.CKnzec (12/32)

愛「やよいさん、やよいさん!!」

やよい「どうしたんですか、愛ちゃん?」

愛「歌の事で相談したいんですけど…」

やよい「歌のことなら、千早さんに聞いてみるといいかも」

千早「何? 日高さん」

愛「最近、なんか上手く歌えない気がして。行き詰まってると言うか…」

千早「えーと、そうね…日高さんなら、例えば別ジャンルの曲に挑戦してみるのはどうかしら」

愛「え? でも、歌い方がヘンになったりとかしちゃうんじゃ…」

千早「それは違うわ、日高さん。歌はただ歌詞通りに読み上げるものじゃないでしょう? どこで力を入れるか、どこで息を吸うか…考えて歌うわよね」

愛「はい。そうですね」

千早「異なった視点で見る事が出来れば…同じ曲でも、経験の違いでまた新たな味が出てくるわよ」

愛「なるほど、経験ですね!!」


24『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:42:47O.CKnzec (13/32)

千早「日高さん。こちらからも聞きたい事があるのだけれど、いいかしら?」

愛「はいっ!! どうぞ!!」

千早「876プロの活動は、プロデューサーのいる水谷さん以外は、基本的にセルフプロデュースだったのよね?」

愛「はい!! 」

愛「最初の頃は、あたしにもマネージャーがいたんですけど…」

愛「レッスンの日とか、休んだりとかのスケジュールは、ほとんど自分で決めてました!!」

千早「よければ、だけど…そのことについて詳しく話してくれないかしら」

やよい「あっ、それ、私も聞いておきたいです!」

愛「はい、いいですよ!!」


25『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:43:52O.CKnzec (14/32)

………

……



愛「と、こんな感じです。どうでした?」

やよい「お話、とっても、面白かったです!」

千早「そうね。日高さんの独自のプロデュース法と言うのか…興味深いわ」

やよい「私、やってみたいこと色々あるかも!」

愛「でも、765プロさんってプロデューサーがちゃんといるんですよね? 必要あるのかなぁ?」

千早「プロデューサーがいても、自分の事を他人に丸投げにするというのは…よくないことだと思うの」

千早「私達が自分で調整が出来るようになれば、プロデューサー達の負担も少しは減るはずよ」

やよい「愛ちゃんだったら、プロデューサーに何も言われなくても準備できるし、予定についての話し合いもできるよね?」

愛「あっ…なるほど!!」


26『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:45:30O.CKnzec (15/32)

石川「面白い話をしているわね」

愛「あ、石川社長!!」

石川「アイドルの意識が高いのはいいことだけど、事務所の方もちゃんと活躍できるよう環境も整えなきゃね」

石川「765プロって、プロデューサーやマネージャーはちゃんと足りてるのかしら? うちなんかに比べるとアイドルの数も多いし…」

千早「それ…私達が言ってもいいんですか?」

石川「まぁ、本来はアイドルと話すようなことじゃないと思うけど。今日は誰も来れないみたいだから」

やよい「えっと、新しい人は入ってきたんですけど…」

千早「ちょっと、高槻さん。そんな簡単に…」

やよい「?」

千早(いえ、話してもいいか…876とは姉妹事務所のようなものだから…)


27『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:46:55O.CKnzec (16/32)

千早「まぁ、高槻さんの言う通り、新入社員は雇ってますね。流石に三人でいつまでも回すのは無理があるので」

愛「ちゃんと入ってきてるなら、大丈夫ですね!!」

千早「ですが、人数の問題ではなく…」

石川「?」

千早「社長として…ちゃんと事務所を動かせる人間が必要だと思うんです」

千早(半年前の事件で、高木社長が亡くなって以来…765プロにはちゃんとした経営者がいない)

千早(今は、プロデューサー達が協力しながらやっているけれど…やはり、本職ではない。限界がある…)

千早「けれど、何故か誰もやってくれる人が出て来ない…」

石川「…? どうして?」

千早「どうしてって、私に聞かれても…」

石川「いえ、そうじゃなくて…」


28『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:47:44O.CKnzec (17/32)

バンッ!!

千早(事務所の入り口のドアが勢いよく開き、その音に石川社長の声はかき消された)

彩音「センパーイ! 誕生日、おめで…と…」

シーン…

千早「…どちら様?」

彩音「うわっ…ナンか思ったよりいっぱいいる…!? センパイの誕生日なのに…」

絵理「それ、どういう意味…?」

亜美「あっ、あの時の姉ちゃんだ! おひさ~!」

彩音「あれ? そこのチビっ子、確か…」

亜美「亜美だよ! 絵理お姉ちゃんと一緒に765プロに来た事あるよね!」

伊織「そうなの?」

亜美「えーと、確か…さ、さ…佐藤さん?」

彩音「佐藤ちゃうわ!」

尾崎「そうよね、鈴木さん」

彩音「鈴木ともゆーな! このロン毛!」


29『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:49:03O.CKnzec (18/32)

彩音「って、そんなことよりセンパイの誕生会は…」

絵理「…サイネリア、もうとっくに始まってる?」

彩音「え」

やよい「絵理さん、この人は?」

絵理「サイネリア…本名、鈴木彩音。私のネットアイドル時代の後輩…」

彩音「…ドモ」ペコ

千早「そう言えば…水谷さんは元々ネット上で活動していたらしいわね。よくわからないけれど」

伊織「ああ、思い出した。なんかいつも絵理にくっついてる奴ね」

彩音「は?」

伊織「なによ、間違ってないでしょ? 私が絵理に会いに行くといっつもいるくせに」

絵理「会いに…行く?」

伊織「あっ、違うわよ! たまたま会った時に見かけるのよ!」

絵理「ふふ。わかってるよ、伊織さん」

伊織「何よ、その顔は! 違うって言ってるじゃない!」

彩音「ぐぬぬ…」


30『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:49:37O.CKnzec (19/32)

彩音「このデコ! センパイに近付きすぎ!」

伊織「ちょっ…誰がデコよ! 謝りなさい!」

尾崎「やめなさい、鈴木さん。絵理は今、水瀬さんと話してるんだから」

鈴木「鈴木言うな、ロン毛!」

愛「鈴木さん!! こっちで一緒にお話しましょー!!」

彩音「そこの豆も!」

石川「何を怒っているの鈴木さん」

亜美「そうだよー鈴木さん」

やよい「さい…さう…鈴木さん!」

千早「えーと…鈴木さん?」

彩音「キー!!」


31『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:50:37O.CKnzec (20/32)

千早(鈴木さん…は怒って部屋の隅っこの方に行ってしまった)

絵理「くすっ…サイネリアったら、顔真っ赤にしちゃって…」

伊織「アンタ、いい趣味してるわね…」

絵理「…サイネリア、もっとみんなと仲良くしたらいいのに…」

伊織「そうね。この伊織ちゃんみたいに、どんな奴にだって寛大で平等な精神で接するべきだわ」

絵理「それは…」

伊織「ま、アイツがどうしようと私の知ったこっちゃないけど」ス…

千早(水瀬さんが、テーブルの上のカップに手を伸ばした…)

千早(けど…これは…)

やよい「伊織ちゃん!」

伊織「へ?」コト…


32『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:51:24O.CKnzec (21/32)

彩音「あーっ、ムカツク!」

彩音「特にあのデコ! あいつ、センパイに馴れ馴れしすぎ! 違う事務所のクセに!」

尾崎「鈴木さん」ヌッ

彩音「うわっ、ロン毛! 何よ、つーか鈴木言うな!」

尾崎「水瀬さんのことだけど、こういう時でなければ集まる事も少ないし、今日くらいは大目に見た方がいいと思うわ」

彩音「余裕ねロン毛…」

尾崎「あなたが余裕なさすぎるだけだと思うわよ?」

彩音「アタシがセンパイと一番付き合い長いのに~…」

尾崎「鈴木さん、あなたは絵理がネットアイドルをやっていた頃の知り合いでしょう?」

尾崎「アイドルとしてはあなたよりも水瀬さんの方が付き合いは長いわよ」

彩音「ぬぬぬ…」

尾崎「まぁ、アイドルとして一番付き合いが長いのは絵理をスカウトした担当プロデューサーの私だけど」

彩音「ロン毛のコトなんて知るか!」


33『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:52:06O.CKnzec (22/32)

パリィィィィン!!

尾崎「!?」

彩音「え、何?」クルッ

タッタッタ…

絵理「伊織さん!!」

やよい「伊織ちゃん、大丈夫!?」

伊織「だ…大丈夫よ…」

千早(水瀬さんがカップを落とし、割れた。床には破片が散らばっている)

伊織「痛っ…」ズキッ

愛「ああっ!! 伊織さん、足から血出てる!!」

・ ・ ・

彩音「………」

伊織「うわっ、本当だわ…伊織ちゃんの美しい足が…」タラ…


34『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:52:44O.CKnzec (23/32)

亜美「いおりん、ティッシュ、ティッシュ」

伊織「あ、ちょっと。危ないからこっちに近付かないでよ」

尾崎「絵理、水瀬さん、動かないで。今、片付けるわ」

愛「あたし、救急箱取ってきます!」ダダッ

石川「あ、ちょっと待ちなさい、愛! …待てって言ってるのに」

伊織「救急箱って。そんな大げさにならなくても。やよ…」

やよい「へ?」

伊織「あ、いえ…なんでもないわ」

絵理「?」

伊織(やよいなら治せるけど、急に傷が塞がったら驚くわね…)

伊織(救急箱を取ってくると言っていたから…絆創膏か包帯でも巻いたら治してもらいましょう)


35『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:53:16O.CKnzec (24/32)

愛『うわーっ!!』ガゴーン!!

伊織「って何、今の音…」

絵理「愛ちゃんの声…何かあった?」

石川「だから待てって言ったのに、あの子は…」

千早(石川社長と尾崎プロデューサーはカップを片付けている…水谷さんは動けない)

千早「私、日高さんの様子を見て来ます」

やよい「あっ、それなら私も行きます!」

亜美「亜美も行く! あっちの部屋には真美もいるし」

千早「高槻さんと亜美はここにいて。そう何人も来ると動きづらいわ」

やよい「あ、そうですね。わかりました」

亜美「えー、つまんなーい。ぶーぶー」


36『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:53:48O.CKnzec (25/32)

ガチャン

千早「日高さん?」

愛「あ、千早さん…ててて…」

千早(ロッカールームに行くと、日高さんが仰向けに倒れていた)

愛「うぅ、すみません~、起こしてくださ~い!」

千早(ベンチとロッカーの間に挟まって…)

真美「きゅー…」

千早「………」

千早「日高さん…どうして、そうなったの…?」

愛「急いでたら、ベンチにつまづいちゃって、それで…」

真美「うぁー…」

千早(恐らく、その時に膝でも入ったのね…大丈夫なのかしら…)


37『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:56:15O.CKnzec (26/32)

………

……

愛「ふぅ…助かりました!! ありがとうございます!!」

千早「日高さん、落ち着いて行動しましょう。貴女が怪我をしたらどうするの…」

愛「そうですよね…ごめんなさい」

千早「それで、何しに来たのだったかしら」

愛「あっ、そうだ!! 伊織さんが危ない!!」

千早「そうだったわね。危ないとまではいかないけれど、救急箱は…」

愛「ここです!!」ガチャ

千早「ちょっと待って日高さん、そこは『石川』って…」

千早(って、なんで石川社長のロッカーがこんなところに置いてあるのかしら…)

キラ…

千早「…え?」


38『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:56:56O.CKnzec (27/32)

ゴゴ

愛「あ、間違えちゃった…こっちです!!!」パタン

千早「ちょ、ちょっと待って! 今のは…」

ゴゴゴ

千早(今、一瞬見えたのは…)

愛「?」

ゴゴゴゴ

千早「このロッカーの中に見えたものは…!!」バッ

愛「あ、千早さん!! 駄目ですよ、勝手に開けちゃ!!」

千早(日高さんの静止も聞かず…私は、石川社長のロッカーに手を伸ばし、もう一度その扉を開いた)

ガチャン!


39『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:57:26O.CKnzec (28/32)

・ ・ ・ ・

千早「これは…」

千早(見間違い…じゃあ、ない…)

ゴゴゴゴゴ

千早(私が目にしたのは、ここにはあるはずのないものだった)

千早「どうして…? これは、あの時に壊したはず…」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

千早(忘れるはずもない。あの、事務所を巻き込んだ大事件を引き起こしたきっかけとなった…)

千早(人間の眠っている力、才能を引き出し…『スタンド使い』を生み出す…)

千早「『弓と矢』…!!」

ゴゴゴゴゴゴ


40『弓と矢』、再び2014/04/04(金) 00:58:05O.CKnzec (29/32)

…………

彩音「………」ス…

パーティ会場にいた彩音は、血の付いたティッシュを1枚拾い、それを持ったまま流し台の方に歩いて行く。

彩音「ダレも見てないわよね…」キョロキョロ

流し台に着くと、棚から新しいコップと、冷蔵庫からブラッドオレンジのパックを取り出した。

彩音「………」キラリ

安全ピンを取り出し、左手の人差し指に刺す。

彩音「いてっ…」プク…

傷口から、ぷっくりと赤い玉が膨れ上がっていく。

彩音「はぁ…コレ、もうちょっとなんとかならないもんですかね…メンヘラかっつーの」


41『弓と矢』、再び/おわり2014/04/04(金) 00:59:07O.CKnzec (30/32)

右手に持ったティッシュの端を、中指と親指でつまんだ。

彩音「行け…」

スゥーッ

人差し指に浮かぶ血の球が、まるで磁石に吸い寄せられるかのように動き出す。

彩音「あの伊織とかいう人には、もうちょーっとイタい目にあってもらおうかしら」

親指からティッシュを辿り、血の付いた部分に辿り着くと、下に置いたコップに一滴、赤い雫が落ちた。

ドドドドド ドドド

彩音「アタシの…『ワールド・オブ・ペイン』でね」


42>>12014/04/04(金) 01:06:59O.CKnzec (31/32)

本日分はこれで終了です。

最初に言っておくべきでしたが、二部は一部に比べるとオリジナル要素がさらに増えてくると思います。ご了承ください。
何か質問があればもちろん受け付けます。
HTML化後に第一部を読んでくださった方も、第一部でわからない点がありましたらどうぞご質問ください。

次回は多分4/10に投下します。


43以下、名無しが深夜にお送りします2014/04/04(金) 01:09:16mDkxhVwQ (1/1)

乙ー


44宣伝2014/04/04(金) 01:43:22O.CKnzec (32/32)

時は1987年、日本。
「悪霊に取り憑かれた少年」空条承太郎は、祖父ジョセフ・ジョースターから悪霊の正体…
そして、彼に降り掛かるその血の運命を告げられる。
先祖ジョナサン・ジョースターと共に海に消えた邪悪の化身、DIO!
ジョナサンの身体を乗っ取ったDIOは、100年の時を越え現代に復活していたのだ!
ジョースターの血を絶やさんと、次々と襲いかかるDIOの刺客!
そして承太郎の母ホリィにも、DIOの呪縛が襲いかかる!
承太郎は母を救うため…そして全ての因縁に決着をつけるため、DIOの待つエジプトに旅立った!!
生命のエネルギーが生み出す力、幽波紋(スタンド)…正義と悪、二つのスタンドがぶつかり合う!
ジョースター家とDIOの100年に渡る血塗られた歴史が、再び幕を開けた…!!
TVアニメ『ジョジョの奇妙な冒険第三部 スターダストクルセイダーズ』、本日4/4より各局で放送開始ッ!


45以下、名無しが深夜にお送りします2014/04/05(土) 08:18:13czzk.NeQ (1/1)

>>44
また地方は1週間遅れか
トンキン優遇されすぎ


46>>12014/04/11(金) 00:51:52pkbtxUT2 (1/28)

前回までのあらすじ

伊織「絵理、おめでとう。伊織ちゃんからのプレゼントよ、ありがたく受け取りなさい!」

絵理「伊織さん、ありがとう。開けてもいい?」

伊織「ええ。この場で開けてちょうだい」

バリバリ

伊織「やめて」

絵理「…これって」

伊織「給料三ヶ月分の指輪よ…」

絵理「…!」

伊織「絵理、私と結婚して」

絵理「うれしい…よろこんで」

ちゅっちゅ

HAPPY END


47『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 00:55:52pkbtxUT2 (2/28)

千早(何故…)

ドッ ドッ ドッ ドッ

千早(何故、こんなところにあの『弓と矢』が…?)

キラ…

千早(一目でわかる、これは765プロに持ち込まれたものと、全く『同じ』ものだわ…寸分違わず…)

千早(けれど…あの時、あの『矢』は皆で壊そうと決めた筈…どういうこと?)

愛「………」

千早「ハッ!」

ドドド ドドドド

千早(待って…ここに、『弓と矢』があるということは…)

千早(日高さん…彼女も、もしかしたら…)


48『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 00:57:44pkbtxUT2 (3/28)

愛「あっ!!」ヒョコ

千早「!」バッ

自分の後ろから顔を出した愛の方に振り向き、『矢』を背中に隠すようにして構える。

愛「この『弓と矢』、こんなところにあったんだ!!」

しかし、愛はおかまいなしに、千早の脇からロッカーに手を伸ばした。

千早「ちょっ…動かないで!」

愛「へ?」ピタ

ゴゴゴゴゴ

千早(思い出す…半年前、春香が『弓と矢』を手にしておかしくなってしまった、あの事件を…)

千早(『こんなところにあった』…? 『矢』は隠されていた、何のために?)


49『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 00:59:53pkbtxUT2 (4/28)

愛「千早さん?」

千早(わからない…けれど、誰か個人の手に渡すのはまずい。特に…)

愛「どうしたんですか?」

千早(彼女が…『スタンド使い』であるならば…)

千早「日高さん、貴女…この『弓と矢』を知っているのね?」

愛「知ってますよ!!」

千早「では、この『矢』が一体、何なのかも…」

愛「はい!!」

千早「!」


50『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 01:02:38pkbtxUT2 (5/28)

愛「これ、石川社長が持ってきたんです!!」

千早「え?」

愛「なんか、珍しいものだったから覚えてたんだけど…ロッカーの中にしまってあったんですね!!」

千早「あ、あの…日高さん…」

愛「はい?」

千早「そういうことではなく…貴女も、使えるのよね?」

愛「つかえる…? 何かつっかえてて取れないんですか?」

千早「いえ、だから…貴女も持っているのでしょう?」

愛「………ああ!! 絵理さんが言ってた、『じゃきがん』ってやつですね!!? うっ、右腕が…」グッ

千早「その『じゃきがん』が何なのかは知らないけれど、違うわ…」

千早(しらばっくれているの…? それとも、本当に知らない…?)


51『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 01:04:33pkbtxUT2 (6/28)

千早「………」

ズ…

ズズ…

千早の背後から、千早と同じくらいの身長をした人型の像が現れる。

千早(半年前…私達は、この『弓と矢』によって、ある能力に目覚めた)

千早(傍に立つもの…『スタンド』)

千早(『矢』に貫かれた上で、生き延びた者は、身体に眠る力を引き出され…この精神の力『スタンド』を使える『スタンド使い』となる)

千早(私は、正直この『矢』に貫かれた覚えはないのだけれど…)

千早(765プロのアイドル全員が、この『弓と矢』によって『スタンド使い』となった)

千早(そしてこれが…私の意思で自由に動く、私のスタンド『ブルー・バード・インフェルノ』)


52『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 01:08:29pkbtxUT2 (7/28)

ヒュゥゥゥ…

シュゴーッ

千早のスタンドの両腕についた穴から、『熱』と『冷気』が吹き出ている。

千早(『スタンド』は、スタンドを持ち、それを心の目で見る事が出来る者…『スタンド使い』にしか見えない)

千早(これで…日高さんに攻撃する。もちろん、直前で止めるけれど)

千早(もし、見えるのなら…何らかの反応を示す筈よ)

千早(行きなさい、『インフェルノ』!)ヒュン

愛「千早さん!! その『矢』、あたしにもよく見せてください!!」バッ

千早「!?」ビクッ

千早(こっちの方に突っ込んで来た…!? 『インフェルノ』を止め…)グイッ

ガァン!!

千早「くっ」ガク

千早は殴り掛かったスタンドを止めるが、その反動で背後のロッカーのふちに衝突し、座り込む。


53『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 01:10:18pkbtxUT2 (8/28)

愛「うわっ、どうしたんですか!?」

千早「い、いえ…ちょっとバランスを崩してしまって…」

千早(逃げるばかりか、向かってきた…? 見える人がこんな行動をしてくるの…?)

愛「千早さん、立てますか!? 手、貸しましょうか!?」アタフタ

千早(考えすぎかもしれない…)

千早(日高さんは嘘をつけるような人じゃあない…『スタンド使い』では、ない)

グラ…

ゴォォォォ

千早がロッカーにぶつかった衝撃で、『矢』が愛の方に引っ張られるように倒れ込んで来た。


54『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 01:13:54pkbtxUT2 (9/28)

愛「きゃっ!? 『矢』が…」

鈍く鋭く光る鏃が、愛の皮膚を切り裂く…

パシィ!

愛「あ…」

千早「………」

前に、千早が箆(の)の部分を素手で掴み、止めた。

千早「矢は危険物だから…気をつけて、日高さん。触れては駄目よ」

愛「は、はい!! ありがとうございます、助かりました!!」

千早(今の動き、『矢』が反応した…? ということは、素質はあるのかもしれないけれど…)

千早は、立ち上がって服を払うと、『矢』をロッカーの中に押し込み、『石川』と書かれたドアを閉めた。

千早(知らないのなら、これ以上『スタンド使い』を増やす必要も、巻き込む必要もないわ)


55『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 01:16:11pkbtxUT2 (10/28)

千早「日高さん、この『矢』を最初に見たのはいつ?」

愛「えっと、確か…半年くらい前、だったかなぁ?」

千早(半年前…私達765プロに弓と矢が来た時期と、同じね…)

千早(うちと違って、アイドル全員が『スタンド使い』になったわけでもないようだし、石川社長も亡くなってはいないようだけれど…)

愛「確か、知り合いの人に貰ったんだったかなぁ…ごめんなさい、ちょっとよくわからないです」

千早「わかったわ、ありがとう。この話はこれで終わりにしましょう」

愛「あの、千早さん。千早さんは、その『矢』のこと知ってるんですか?」

千早「いえ、ぜんぜん」

愛「?」

千早「それより、日高さん。私達は救急箱を取りに来たのではないのかしら」

愛「あ、そうだった!!」


56『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 01:19:00pkbtxUT2 (11/28)

………

……

尾崎「ふぅ…これで、片付け終わったかしら」

伊織「ごめんなさい。このカップ、事務所の備品でしょう? 弁償するわ」

石川「いえ、紙コップにしなかったこちらが不用意だったわ。なんとお詫びすればいいのか…」

伊織「い、いいわよそんなの。気にしなくても(どうせ治せるし…)」

ダダダダッ

愛「救急箱取ってきたよー!!」

伊織「あら、随分遅かったわね」

絵理「尾崎さん、伊織さんの手当て、お願い」

尾崎「ええ、わかってるわ」シュッ

伊織「痛っ…」

尾崎「消毒液がしみるかもしれないけど、我慢して。痕が残ったりしたら大変よ」

伊織(尾崎プロデューサーが消毒した傷口の上にガーゼを置き、包帯を巻いてゆく…)


57『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 01:22:08pkbtxUT2 (12/28)

尾崎「これで、よし」

亜美「おざりん、手当て上手だね!」

尾崎「プロデューサーだから。いざと言う時の応急処置くらいは心得てるわ」

亜美「でも、亜美も負けないよ! なんせパパがお医者さんだから!」

尾崎「そ、そう…?」

伊織「ちょっと切ったくらいで包帯巻くなんて、大げさね…」

絵理「伊織さん、自分の身体は大切にしないと」

やよい「そうだよ、伊織ちゃん。ケガしちゃったら、治すのは本当はとっても大変なんだから」

伊織「…そうよね。その通りよね」

伊織(『スタンド』に関わって来たことで、少し、感覚が麻痺していたかもしれない…)

伊織(私達は、『スタンド使い』である前にアイドルなんだから…)


58『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 01:25:18pkbtxUT2 (13/28)

千早「水瀬さん、ちょっといいかしら」

伊織「ん、何? 千早」

千早「さっき、向こうの部屋に…」

彩音「みなさーん!」

千早「!」ビクッ

伊織「千早?」

千早「…後で話すわ」

絵理「サイネリア。まだいたの?」

彩音「ヒドっ!」

石川「どうしたの、鈴木さん?」

彩音「あ、いや。ジュースでもいかがデスか? って」

彩音が手に持っているお盆には、人数分の紙コップが置かれていた。


59『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 01:27:17pkbtxUT2 (14/28)

尾崎「鈴木さん、ジュースってあなた…さっきのを見てなかったの?」

彩音「だからこそ、飲みそびれてるデショ? 紙コップだから大丈夫だって」

伊織「ふーん、まぁ確かに喉は渇いてるけど…」チラ…

伊織「ブラッドオレンジ! もちろん果汁100パーセントよね」

彩音「へ? ま、まぁ多分…」

伊織「なによ、気が利くじゃないの」

亜美「ファントムブラッド? なにそれ」

石川「ブラッドオレンジは、赤い果肉を持ったオレンジよ。ブルーベリー等に含まれるアントシアニンという色素で赤い色を持つの」

亜美「へーっ、よくわかんないけどすごそう!」

愛「鈴木さん、ありがとうございます!!」

絵理「サイネリア、機嫌、直った?」

彩音「エエ、センパイの誕生日ですから! いつまでもブスっとしてちゃ勿体ないですよ!」

やよい「そうですね! みんな仲良しが一番です!」


60『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 01:29:52pkbtxUT2 (15/28)

彩音「よっと…」

彩音はお盆をテーブルの上に置くと、自分の手前の方にあるコップを、真っ先に伊織の前に置いた。

伊織「ん?」

彩音「ハイ、どーぞ…」

亜美「ありがとー! うわ、赤っ!!」

伊織「ちょっと待ちなさい」

彩音「」ギクーッ

彩音「ハ、ハイッ!? 何か…」

伊織「アンタ、このコップ…」

彩音(ま、まさかバレた…? ヤバっ…)


61『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 01:32:35pkbtxUT2 (16/28)

伊織「血がついてるじゃない。ほら、ここ」

彩音「あっ…あーっと、それは多分ブラッドオレンジが…」

伊織「違うわ」

彩音「…!!」

伊織「アンタ、指から血が出てるわよ。これがコップについたのね…どこかに引っ掛けたの?」

彩音「あ、イエ、これは…」サッ

伊織「引っ込めなくてもいいじゃない。ほら、見せなさいよ」

ドドドド ドド

彩音「く…」スッ…

伊織「ほら、やっぱり…」

彩音「………」タラ…

彩音の額に汗が浮かぶ。

伊織「誰か、絆創膏と消毒液取って」

彩音(…アレ?)


62『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 01:34:19pkbtxUT2 (17/28)

やよい「はい、伊織ちゃん」

伊織「ありがと。用意がいいわねやよい」

やよい「たぶん、使うと思ったから」

彩音(バレて…ない?)

伊織「ほら、じっとしてなさい」

彩音「あ…」

伊織は彩音の人差し指に消毒液を吹きかけてから、絆創膏を巻いた。

伊織「ったく、気をつけなさいよ?」

伊織「よくわかんないけど、ネットアイドルだって、アイドルなんでしょ? 自分の身体は大切にしないと」

亜美「いおりん、絵理お姉ちゃんの受け持ちだー」

伊織「うっさい!」

尾崎「受け売りね」


63『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 01:36:54pkbtxUT2 (18/28)

彩音「………」

彩音(考えてみれば…)

彩音(アタシの『ワールド・オブ・ペイン』のことを、アイツらが知ってるワケがなかったわね)チラ…

絆創膏が巻かれた人差し指を見る。

彩音(…アイツら、あのセンパイがあんなに仲良くするんだし、悪いヒトじゃないのかもしれない…)

彩音(でも…ここまで来たらアタシには止められないし。仕方ないわ)

伊織「さてと、こいつを頂こうかしら」スッ

彩音(さぁ、飲め…)

亜美「あーあ。真美も起きてれば、一緒に飲め…」スッ

パァン!!

亜美が持っていたクラッカーをテーブルの上に置こうとした時、それが暴発した。

伊織「ひゃっ!?」ビクッ

伊織はその音に驚いて、コップを宙に放り投げる。


64『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 01:41:25pkbtxUT2 (19/28)

バッシャァァ

千早「………」ポタポタ

そして、コップの中身は…伊織の向かい側にいた、千早の頭の上に降り注いだ。

伊織「あ、あの…千早、大丈夫…?」

千早「ええ、大丈夫…大丈夫よ」ゴクン

千早は頭から滴ってきた液体を、少し飲み込んでしまう。

スルッ!

彩音(! ヤバっ…!)

絵理「目が笑ってない…?」

千早「元々こんな目よ」

やよい「亜美! ダメじゃない、こんな時に鳴らしちゃ!」

亜美「ち、違うよ! なんか勝手に…」

やよい「言いわけしない!」

亜美「うう…」


65『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 01:57:15pkbtxUT2 (20/28)

愛「千早さん、ティッシュ!! ティッシュ!!」

千早「ありがとう…」フキフキ

石川「向こうにシャワールームがあるわ。着替えは涼のものを使ってちょうだい」

千早「そうさせてもら…」スッ

ズ…

千早「…うっ!?」ズキン

ガクッ

千早は立ち上がると同時、強烈な痛みに膝をついた。

亜美「どったの?」

千早「ちょ…ちょっと…お腹が…」

ギリギリギリ

千早「くああああっ!?」ブルッ

伊織「ち、千早!?」


66『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 02:00:20pkbtxUT2 (21/28)

やよい「だ、大丈夫ですか、千早さん!?」

愛「おトイレ行きます!!?」

絵理「アイドルはトイレなんて行かない…?」

伊織「んなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

千早「こ、これはそういうタイプの痛みじゃあないわ…」

千早(何、これは…!? 胃に穴が空いたみたい…)

石川「しょ、消防車を…」

伊織「消火してどうすんのよ!」

彩音「ちょっと!」グイッ

彩音が千早の腕を引っ張る。

尾崎「あっ、鈴木さん! 動かしたら…」

千早(え?)

彩音「腹が痛いのなら、コッチで横になりましょう!」

千早(痛みが…少し、和らいだ…?)

千早がその場を離れる度に、少しずつ痛みがなくなっていく。


67『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 02:09:24pkbtxUT2 (22/28)

彩音「さぁ、ここで横になっててください!」

千早「え、ええ…」

真美「うーん、手が…でっかい手が…」

ロッカー室の、真美の寝ている横にあるベンチに寝かされる。

千早(まだ痛みは残っているけれど、大分楽になったわ…どうして?)

千早(と、言うより…さっきの痛みは、一体…)

千早「申し訳ないわ…事務所を、ジュースで汚してしまって…」

彩音「い、いえ…イイんじゃないですか、緊急事態ですし…」

千早(…? 目が泳いでいる…)

彩音「それじゃ、アタシはこれで。ゼッタイに、動かないでくださいね」

パタン…

千早(鈴木さん…だったかしら。なんだか、怪しいわね…)

千早(けれど、私の腹痛は引いたわけだし…)


68『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 02:18:00pkbtxUT2 (23/28)

ズキン

千早「…!!」

千早(い…『痛い』…! また、お腹の中が…!!)

ギリギリギリ

千早「うっ…あああっ…!」ガバッ

千早(まるで、胃が押し上げられるような…何なの、これは…!)

バンッ

伊織「千早!」

やよい「千早さん!」

千早「た…高槻さん、水瀬さん…」

やよい「お腹、痛いんですよね。私の『ゲンキトリッパー』で治せるかなーって思ったんですけど…」


69『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 02:24:43pkbtxUT2 (24/28)

伊織「ねぇ、千早…おかしいと思わない?」

千早「な、何が…」

伊織「何なのかはわからないけど…さっきからなんか、『奇妙』なのよ…」

千早「み、水瀬さん…そこのロッ…ぐっ!」ズキン

伊織「千早!」タッ

やよい「千早さん! 今、治します!」タタッ

千早(これは…二人が近付いてくるたびに、痛みが強くなる…!?)

千早(上ってくる…『なにか』が、私の腹の中からこみ上げてくる…!)

千早(これ以上、二人を近づけさせてはならない…何故か、そんな気がする…!)

ガリガリガリ

千早「~~~~!!」

千早(痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!)

千早(痛みで体中の筋肉が…喉が凍る! 声が…出せない!)


70『ワールド・オブ・ペイン』その12014/04/11(金) 02:30:38pkbtxUT2 (25/28)

千早(こうなったら、『インフェルノ』で…二人に、どうにかして伝えるしか…)

ズ…

伊織「えっ? 『ブルー・バード・インフェルノ』が…」

やよい「ち、千早さん? どうしたんですか?」

ズキン!

千早「~~~…!!」

千早(ああ、駄目…痛みで集中できない…!)

ズズズズズ

千早(胃から、食道…喉まで…)

千早(『痛み』が…痛みがどんどん…上に昇ってくる…!!)

千早「~~…~~~~…!!」ギリギリギリギリ

プチュ

千早「う」


71『ワールド・オブ・ペイン』その1/おわり2014/04/11(金) 02:32:35pkbtxUT2 (26/28)

タラ…

口から一筋、赤い線が流れた。

伊織「…………え?」

千早「あぅっ」プププッ

ビチャァ!!

千早が口から、血を噴き出した。

伊織「きゃ…きゃああああああああああ!?」

やよい「ち…千早さんッ!!」

伊織「こ、これはまさか…スタンド攻撃ッ!?」


72>>12014/04/11(金) 02:40:00pkbtxUT2 (27/28)

>>72

本日分はこれで終了です。


73以下、名無しが深夜にお送りします2014/04/11(金) 08:04:1213bdjHJo (1/1)

おつ
楽しみにしてる


74以下、名無しが深夜にお送りします2014/04/11(金) 08:46:11bn1v78/I (1/1)

乙乙
深夜だとやっぱ人少ねえな…


75>>12014/04/11(金) 10:44:57pkbtxUT2 (28/28)

忘れてた
特に言及なければ毎週木曜に投下します

スタンド名:「ブルー・バード・インフェルノ」
本体:如月 千早
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:A スピード:A 射程距離:E(2m) 能力射程(能力が続く範囲):D(7m)
持続力:D 精密動作性:B 成長性:C
能力:吹雪のような力強さと、炎のような速さを併せ持つ千早のスタンド。
触れたものの「熱」を「奪う」、あるいは触れたものに「熱」を「与える」能力を持つ。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ


76以下、名無しが深夜にお送りします2014/04/11(金) 11:03:55uhhIJplY (1/1)

深夜に移動したと聞いて
また読めて嬉しい


77>>12014/04/17(木) 23:52:498OLE9cbE (1/3)

前回までのあらすじ

千早「かはっ」

バタン!

伊織「千早!?」

ドクドクドク

伊織「ひっ…!」

やよい「血が…血が、止まりません…!」

ドドドド ドドド

伊織「止まって…お願い、千早…止まって…」

ゴク

伊織「ハッ!? これはブラッドオレンジ!」

こうして、千早の死体は765プロの天井裏に安置されることになった。

765プロはブラッドオレンジのジュースを販売する企業になり、伊織の末代になるまで栄え続けたと言う…


78『ワールド・オブ・ペイン』その22014/04/17(木) 23:55:228OLE9cbE (2/3)

ビチャ ビチャッ

千早「ぅ…か…」

バタン!!

やよい「ち…千早さん!」

伊織(私達の目の前で…)

千早「」ビクッ ビクン

ドクドク

伊織(千早が、血を吐いて倒れた…)

やよい「は、はやく『くっつけ』て治さなきゃ…」タッ

伊織(!)

伊織「待って、やよい!」

やよい「えっ?」ピタッ


79『ワールド・オブ・ペイン』その22014/04/17(木) 23:58:018OLE9cbE (3/3)

伊織「…それ以上近付いちゃ駄目よ」

やよい「で、でも、血が…」

伊織「いきなり血を噴き出すなんて、普通じゃあないわ」

やよい「そうだよ、だから千早さんをこのまま放っといたら…」

伊織「落ち着いて、やよい。『ゲンキトリッパー』は遠隔操作でしょう? 離れたままでも治療はできるわ」

やよい「え? なんで…」

伊織「いいから、やよいはそこから動かないで」

やよい「う、うん。『ゲンキトリッパー』!」

ワラワラ

やよいの背後から小柄なスタンドが姿を現し、指が崩れだす。

そこから生まれた無数の粒の一団が、千早の口の中に飛び込んでいった。

伊織(やよいのスタンド、『ゲンキトリッパー』は米粒みたいな小さな『スタンド』の集合体)

伊織(そして、能力は『くっつける』こと! その力は超強力!)

伊織(細胞のように細かいスタンドは、傷ついた部分も『くっつけ』て埋めてしまい、痕も残らない)


80『ワールド・オブ・ペイン』その22014/04/18(金) 00:01:10ABg6n82E (1/19)

モゾモゾ…

伊織「やよい、何か異常はない?」

やよい「千早さんのお腹の中、引っ掻かれたみたいになってるよ…」

伊織(やよい自身には、何か起こってる様子はないわね)

伊織(『スタンド』と本体は一心同体…『スタンド』が受けたダメージは、本体にも影響を与えるんだけど…)

伊織(『ゲンキトリッパー』は細かい一部分が潰されても大してダメージにはならない。狭い場所を調べるには持ってこいだわ)

伊織(だから、『原因』が千早の体内に残っていれば、何かわかると思ったんだけど…)

やよい「ふぅ…とりあえず、傷は『くっつけ』たよ」

伊織(何かが、おかしい…嫌な予感がする)

千早『…後で話すわ』

伊織(千早は、何かを伝えようとしていた…)

千早『さっき、向こうの部屋に…』

伊織(千早が来たのは、ここよね…何かあるの?)

千早『そこの、ロッ…』

伊織(…ロッカー?)


81『ワールド・オブ・ペイン』その22014/04/18(金) 00:03:30ABg6n82E (2/19)

伊織「………」チラ…

伊織(調べてみるか…)

モクモクモク

伊織の身体から、白い『煙』が上がる。

『煙』はどんどん広がっていき、部屋に置いてあるロッカーを覆った。

伊織(これは…私の『スタンド』、『スモーキー・スリル』)

伊織(『煙』のスタンドは広い範囲のものを掴み、動かすことが出来る)

ガタ ガタッ

伊織の『スモーキー・スリル』が、『ロッカー』の扉を一斉に引っ張る。

バンッ!!

やよい「わっ!?」ビクッ

やよい「何やってるの、伊織…ちゃ…」

・ ・ ・

やよい「こ…これって…」

伊織「悪い予感は…当たるものね…」


82『ワールド・オブ・ペイン』その22014/04/18(金) 00:05:48ABg6n82E (3/19)

キラ…

伊織(『弓と矢』! 千早の話ってのは、これのことだったのね…)

伊織(そして、『弓と矢』がここにあるってことは…千早がやられたのは、やっぱり…)

やよい「もしかして、これって『スタンド使い』のせいかも…」

伊織「ええ、それは確かね」

伊織(でも、それらしき姿は見えないわ…)

伊織(どこの誰がどうやって千早を攻撃したのか、全くわからない…)

ズキン

伊織「!?」

伊織は突然足に、鈍い痛みが走るのを感じた。

伊織「い…『痛い』!」

やよい「伊織ちゃん?」

ドド


83『ワールド・オブ・ペイン』その22014/04/18(金) 00:08:45ABg6n82E (4/19)

伊織「何なの、一体…!?」

ドドド

モゾ

伊織が視線を落とすと、小さな赤黒い塊が、足にくっついていた。

伊織(なに、これ…)

モゾモゾ

伊織(『血』?)

ギッ

伊織「痛っ…!」

やよい「伊織ちゃん!」

伊織(こいつ、締め付けてくると言うか…皮膚を突き破ろうとしている!?)

伊織「ち…通りで見つからないわけだわ、千早の吐いた血と一緒に出てきたのね…」


84『ワールド・オブ・ペイン』その22014/04/18(金) 00:12:02ABg6n82E (5/19)

モクモクモク

伊織は『煙』を近くに集中させ、自分の体を持ち上げる。

伊織「伊織ちゃんのおみ足に…いつまでもくっついてるんじゃあないわ!」ブオンッ

空中で弧を描くように大きく足を払い、遠心力で『血』を剥がした。

ピッ

伊織「!」

ビチャン!!

伊織(く…剥がした時に、ちょっぴり皮を切られた…)タラ…

やよい「伊織ちゃん、今『くっつけ』るね!」

伊織「ええ、ありがとうやよい…」

ツゥーッ

伊織(血の塊が、こっちに近付いてくる…)

伊織「そんなちっぽけな『スタンド』で、私達をどうこうできるとでも思ってるのかしら? やよい!」

やよい「うん、止める! 『ゲンキトリッパー』!」パラパラ


85『ワールド・オブ・ペイン』その22014/04/18(金) 00:14:52ABg6n82E (6/19)

ウー ウッウー

小さなスタンドの粒が、血の球に向かっていく。

伊織(やよいの『ゲンキトリッパー』に捕まったら、動けるスタンドはない!)

スルッ

しかし、『血』は改札を抜けるように平然と、『ゲンキトリッパー』を通り抜けていった。

やよい「えっ!?」

伊織「ちょ、ちょっとやよい!?」

やよい「なんか、ヘンかも…『くっつか』…ない…?」

伊織(『くっつか』ない…? そんな、バカなこと…)

伊織「なら、『スモーキー・スリル』で!」モクモクモク

スルルッ

『煙』で掴もうとするが、逃げるようにすり抜けてしまう。

ツゥゥーッ

伊織「つ…」

伊織「掴めないッ! そうか、『液体』だから…」


86『ワールド・オブ・ペイン』その22014/04/18(金) 00:16:48ABg6n82E (7/19)

ツルルルル…

伊織(『血』のスタンド! どうやって止める…?)

ウッウー ウゥー

伊織「…あら?」

やよいの小さなスタンドが、向こうの部屋からガラスのコップを運んでくる。

やよい「伊織ちゃん、あれを!」

伊織「コップ? …なるほどね!」モクモクモク

『煙』が部屋の入り口の方まで飛んでいき、コップを掴む。

伊織「『スモーキー・スリル』!!」ヒュッ

カコン!!

それを逆さまにして地面に『くっつけ』、『血』を閉じ込めた。

伊織「よし、捕まえたわ!」


87『ワールド・オブ・ペイン』その22014/04/18(金) 00:18:34ABg6n82E (8/19)

やよい「はわっ…!」

伊織「ち…!」

勢いよく飛んで来た破片が、伊織の目の前で止まる。薄い『煙』の膜が、ガラスを掴んでいた。

ガシャ カラァァン

ズルズル

伊織「こいつ、見た目より…『パワー』が強い!」

やよい「伊織ちゃん、もっと離れよう!」

伊織「ち…それしかないか」

サササッ

ス…

伊織(!)

スゥーッ

伊織(追いかけてくる…スピードはあまり速くはないけど…)


88『ワールド・オブ・ペイン』その22014/04/18(金) 00:21:46ABg6n82E (9/19)

伊織(どうする? この部屋にいては、引き離せないわね…)

伊織「やよい…部屋を出るわよ」

やよい「………」キョロキョロ

伊織「やよい? どうしたの?」

やよい「えっと、なんで真っ直ぐこっちに向かって来てるのかなーって」

伊織「え?」

やよい「だって、私の『ゲンキトリッパー』みたいに遠くまで行ける『スタンド』って、ちゃんと見ないとちゃんと動かせないよ?」

伊織「確かに、そうね…」

伊織(『遠隔操作』は遠くに行けば行くほど正確な動きはできなくなるはず…私の『スモーキー・スリル』もそう)モクモクモク

伊織(『煙』のセンサー…この部屋の周りを調べてみたけど、動きは感じられない…)

伊織(本体が近くで見ているわけじゃあ…ない?)


89『ワールド・オブ・ペイン』その22014/04/18(金) 00:23:24ABg6n82E (10/19)

伊織「………」モクモク

カラン

進行方向に、ガラスの破片を置いてみる。

キン!

『血』はそのまま真っ直ぐ進んで、破片を弾き飛ばした。

伊織(こっちに向かってくるだけ…間に何があろうとおかまいなし…か)タタッ

伊織「…もしかして、こいつ『自動操縦型』のスタンドなんじゃあないかしら」

やよい「じどう…そうじ?」

伊織「本体の意思とは無関係に、勝手に動くスタンドよ」

伊織「こいつは真っ直ぐ正確に私達の方に向かって来てる。砂糖に群がろうとするアリのように…」

やよい「うん…勝手に動くけど、動きは決まってるかも」

伊織(『自動操縦』の中でも『自立行動型』…ひとりでに考えて行動するタイプもあるけど…)

伊織(この血の塊に、目や考える頭があるようにも見えないわね)


90『ワールド・オブ・ペイン』その22014/04/18(金) 00:25:59ABg6n82E (11/19)

伊織「そして、『自動操縦』は本体と離れてもパワーが落ちることはない」

やよい「うん、そうかも…『スタンド』が勝手に、向かってくる…伊織ちゃんの言ってるやつで合ってると思うよ」

伊織「自分で考えて行動しているわけでなければ、対処法はいくらでもあるわ」

伊織(ただ…『自動操縦型』は、何か攻撃のスイッチが必要なはず)

伊織(こいつは、何を基準にして攻撃しているの? それがわからない…)

伊織(わからないうちに本体を叩きに行くのは、少なからずリスクがある…)

ズ キ ン

伊織「ぐっ!?」ビクッ

やよい「え、伊織ちゃん!?」

伊織(え…?)

ズキン!!

伊織「うっ!」


91『ワールド・オブ・ペイン』その22014/04/18(金) 00:28:03ABg6n82E (12/19)

伊織(また、『痛み』が…なんで? 原因である『血』は、そこにいるのに…!?)バッ

ギュム…ギュムギュム

伊織「ま…また…足に…『血』がくっついてる…!!」

伊織(いつ、くっついたの…!? こいつは、どこから来た…!?)

伊織「『スモ…」

ズキン!

伊織「うああああああ!?」

伊織(い…『痛い』! 痛覚を直接掴まれたような…ゆっくりと鋭い痛みがッ!!)

ブチュゥッ!!

伊織の足から、血が勢いよく吹き出た。

伊織「あああっ!!」

やよい「伊織ちゃん!」

伊織(私の皮膚を…貫いたッ!!)


92『ワールド・オブ・ペイン』その22014/04/18(金) 00:29:46ABg6n82E (13/19)

ビチャ! ビチャッ

やよい「『ゲンキトリッパー』!!」

ウー ウッウー

やよいのスタンドが、空いたばかりの傷口に入り込んでいくと、すぐに塞がった。

伊織「…! やよい…! 何やってんの…!」

やよい「あ…」

治してから、やよいも気づいた。『血』のスタンドが、伊織の皮膚を突き破ったということは…

伊織(わ、私の体内に『スタンド』が…)

伊織「……………?」

やよい「な…なんとかして、身体から出さないと…!」

伊織「…いえ、その必要は…ない…かも」

やよい「へ?」


93『ワールド・オブ・ペイン』その22014/04/18(金) 00:32:32ABg6n82E (14/19)

伊織「妙な感じが、全然しないわ…『スタンド』が、私の体内で消えてしまった…」

やよい「?」

やよい「…あっ!? 伊織ちゃん!」

伊織「へ?」クル

先程吹き出して地面に落ちた血が、集まって塊となり…

ズル…

ゆっくりと、動き出した…

伊織「嘘でしょ…」

やよい「ど、どうしよう…」

伊織(どういうこと…? 私の血が『スタンド』に…? 私の…)

伊織「…あ、そっか」

やよい「…え?」


94『ワールド・オブ・ペイン』その22014/04/18(金) 00:34:22ABg6n82E (15/19)

伊織「これは『私の血』だッ! さっき傷つけられた皮膚から出た血が、スタンド化していたのよ!」

やよい「伊織ちゃんの血が…?」

伊織「そして…!」スゥ…

クギュュン!!

集中した『煙』が、伊織だけを入り口の方に飛ばす。

スタッ!

ズル…

ズズズズ

伊織が着地すると同時、部屋の中の『血』が、一斉に伊織の方に向かっていく。

伊織「この、追いかけてくる『血』も私のだッ! 私の血が、私の身体の中に戻ろうとしているんだわ…!」

伊織「そして、この『血』は…血に触れることで、同じように『スタンド』にしてしまうのよ!」

伊織「触れる度に、仲間を増やしていく! 屍生人(ゾンビ)のように!」

伊織「これでもう、ぜ~んぶわかったわ! 種は全部割れた」


95『ワールド・オブ・ペイン』その22014/04/18(金) 00:36:04ABg6n82E (16/19)

伊織(でも、そうなると…)

伊織「やよい!」

やよい「えっ、何?」

伊織「この『スタンド』は、私だけを追いかけてくる! やよいは自由に動けるでしょう?」

やよい「う、うん。そうみたい」

伊織「だから…やよい、お願い! 本体をブッ倒してこの攻撃をやめさせて!」

やよい「えっ、でも…本体、誰かわからないかも…」

伊織「そんなもん、どう考えても、あの鈴木とかいうソバカス女に決まってるわ!」

やよい「えっとサイ…サ、サ…鈴木さんが? どうして?」

伊織「どうしてって…」

伊織「ブラッドオレンジなんて用意して…ぶっかけられた千早があんなことになって、無関係とは言わせないわよッ!!」

やよい「あっ!」


96『ワールド・オブ・ペイン』その22014/04/18(金) 00:39:23ABg6n82E (17/19)

やよい「それで…伊織ちゃんはどうするの!?」

伊織「もちろん…逃げるわ」チラ

ツツツーッ

キュッ キューッ

伊織「ったく、『スタンド使い』になってから…どうしてこうも逃げなきゃならない場面が多いのかしら」

ガチャ

伊織「とにかく…頼んだわよ、やよい!」

タタタッ

シーン…

やよい「伊織ちゃん…」

クルッ

やよい「千早さんに、真美…みんなを、こんな目にあわせて…」

やよい「鈴木さんは悪い子です! うぅ~っ、頑張らないと!」グッ!

スタスタ…


97『ワールド・オブ・ペイン』その2/おわり2014/04/18(金) 00:41:20ABg6n82E (18/19)

千早「…う…」

真美「うぅーん…なにそれ、ホトケさん…?」

伊織達が去っていったロッカールーム。

ズ…

先程、吐き出して地面に付着した、千早の血が…

ズズ…

ひとりでに、蠢いていた…


98>>12014/04/18(金) 00:45:37ABg6n82E (19/19)

スタンド名:「スモーキー・スリル」
本体:水瀬 伊織
タイプ:近距離~遠隔操作型・不定形
破壊力:B~D スピード:B~C 射程距離:D(5m)~B(50m) 能力射程:B(50m)
持続力:B 精密動作性:B~D 成長性:D
能力:不定形の「煙」であることから、高い柔軟性と応用性を持つ、伊織のスタンド。
一カ所に集めるか、広げるかによって性能が変化し、近距離から遠距離までを使い分ける事ができる。
「気体」であるがために、直接相手を攻撃することはできないが、相手に殴られることもない。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

スタンド名:「ゲンキトリッパー」
本体:高槻 やよい
タイプ:遠隔操作型・分体
破壊力:E スピード:C 射程距離:B(30m) 能力射程:B(30m)
持続力:A 精密動作性:E~A 成長性:C
能力:物体を「くっつける」ことができるやよいのスタンド。
小さな粒が細胞のように固まっている集合体で、分裂して各々行動することが可能。
「くっつける」能力で傷ついた細胞を埋め、傷を治す事もできる。
小さくなればなるほど動きは正確になり、半年前の戦いの中で細かい動きに特化するようになった。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

導入編なので次でさっさと終わらせます
あと、やっぱり毎週金曜更新にします☆


99以下、名無しが深夜にお送りします2014/04/18(金) 07:42:48wbsmkNRw (1/1)



更新日が決まってるのは嬉しいわ

千早の血は何で伊織に向かったんだろうな


100>>12014/04/26(土) 00:52:15k8dny5EM (1/25)

前回までのあらすじ

ズ キ ン

伊織「ぐっ!?」ビクッ

やよい「え、伊織ちゃん!?」

伊織(え…?)

ズキン!!

伊織「うっ!」

伊織(また、『痛み』が…なんで? 原因である『血』は、そこにいるのに…!?)バッ

P「………」カプ…

伊織「………」

ボギャァァ

P「マジ最高!!」ピクピク


101『ワールド・オブ・ペイン』その32014/04/26(土) 00:54:06k8dny5EM (2/25)

パチ

真美「うーん…?」ムクッ

真美「ありゃ…ここはどこ私は真美…?」

真美「えーと、確か今日は絵理お姉ちゃんの誕生会に来てて…何があったんだっけ?」

フラッ

真美「うひー、頭ガンガンする…」

真美「みんなはどうしてるんだろ? 戻らないと」

ズルッ

真美「わわわっ! っと…」バタバタ

真美「もう、何!? なんで床が濡れて…」

ヌル…

真美「え、なにこれ。…『血』?」

千早「………」

真美「ハッ、千早お姉ちゃん…」


102『ワールド・オブ・ペイン』その32014/04/26(土) 00:55:25k8dny5EM (3/25)

真美「ま、まさかこれは…殺人事件!? 真美が寝てる間に、第一のギセー者が!」

千早「ん…」

真美「って、なんだ。生きてら」

真美「じゃ、これってなんだろ? 千早お姉ちゃんが鼻血ブーでもしたのかな?」

真美「謎はゼッタイ解き明かす! じっちゃん、ばっちゃん、それからりっちゃんの名にかけて!」バンッ

ズ…

真美「ん?」

シーン…

真美「うーん、見間違いかな? なんか今、『血』が動いたような…」


103『ワールド・オブ・ペイン』その32014/04/26(土) 00:57:15k8dny5EM (4/25)

ズズズ…

真美「ありゃ、やっぱ動いてる」

ズオッ!

真美「って、なんで『血』が動いてるの!? まさか、『スタンド』!?」バッ

スル…

真美「あら、スルー? ははーん、真美に恐れをなして逃げ…」

ツィー

千早「………う…」

真美(じゃない! 後ろにいる千早お姉ちゃんの方に向かってるんだ!)

真美「千早お姉ちゃん! 危ないッ!!」

千早「う…ん…?」


104『ワールド・オブ・ペイン』その32014/04/26(土) 00:59:24k8dny5EM (5/25)

………

……



トタトタ

やよい「みんな!」

亜美「あ、やよいっち!」

やよい「亜美、ちょっと今…」

亜美「なんか、いおりんが走って出て行っちゃったけど。どったの?」

やよい「えっと、それは…」

亜美「絵理お姉ちゃんもいおりん追いかけていっちゃうしさー」

愛「絵理さんは主役なんだから、わざわざ行かなくてもよかったのに…」


105『ワールド・オブ・ペイン』その32014/04/26(土) 01:03:14k8dny5EM (6/25)

やよい「それより! 鈴木さんはどこ?」

石川「高槻さんまで、水瀬さんと同じ質問をするのね」

亜美「何かあったの?」

やよい「いいから、教えてください!」

尾崎「鈴木さんなら、お手洗いに行ったわ。すぐ戻ってくると思うけど」

やよい「それって、どこですか?」

尾崎「え? えーと…3Fの、階段上った奥の方にあるわよ。ここは2Fだから、上の方…」

やよい「ありがとうございます!」ガルウィーン

タッ

尾崎「あ、ちょっと!?」

愛「やよいさん、どうしたんだろう?」

亜美「うーん…」


106『ワールド・オブ・ペイン』その32014/04/26(土) 01:04:29k8dny5EM (7/25)

………

コツ コツ

彩音(まさか、こんなことになるなんて…)

彩音(あの『伊織さん』とかいうヤツは下に降りて、外まで出て行ったみたいね)

彩音(私の仕業だってことはバレてないはず…隠れてやり過ごして、こっそり逃げよう…)

ピタ…

彩音「あ、あれ…」

グイッ グッ

彩音「あ、足が動かない!? ホイホイに捕まったゴキブリみたいに…!」

ドドド

彩音「ハッ!?」

やよい「鈴木さん」

ドドドド

彩音「ア…アンタは…」

彩音(あの、『伊織さん』と一緒にいた…)


107『ワールド・オブ・ペイン』その32014/04/26(土) 01:05:14k8dny5EM (8/25)

やよい「伊織ちゃんが、『血』に追いかけられてるんですけど…」

やよい「あれって、鈴木さんの『スタンド』ですよね?」

彩音「」ギクッ

やよい「止めてください」

彩音(な…なんでアタシのだってわかったの…? ど、どうする…?)

やよい「…ダメ、なんですか?」

ゴゴゴゴ

彩音(断ったら、何をされるかワカんない…)

彩音「と…」

彩音「止めろとか言われても、知らナイわ! 『スタンド』なんて知らないわよ!!」

やよい「へ? ほんとに…?」

彩音「本当だっての! いきなりそんなこと言われても、意味わかんないわ!」

やよい「そ、そうなんですか? うぅ、ごめんなさい…」

彩音(なんだ、コイツちょろいわ! 簡単にごまかせた)


108『ワールド・オブ・ペイン』その32014/04/26(土) 01:06:20k8dny5EM (9/25)

やよい「うーん…じゃあ、伊織ちゃんの勘違いなのかなぁ」

彩音「それより、この足どうにかしてよ!」

やよい「あし?」

彩音「しらばっくれないで! アンタのせいでしょ、足が『くっつい』てるのは!」

やよい「…なんで?」

彩音「なんでって、足が『くっつい』て、それからアンタが現れた! そう考えるのが当然デショ!」

やよい「確かに、やったのは私ですけど…どうやって?」

彩音「…へ!?」

やよい「私が、どうやって足を『くっつけ』たと思ったんですか?」

ドドドドド

彩音「ど、どうやってって…あらかじめ、ワナを仕掛けておいたとか…」


109『ワールド・オブ・ペイン』その32014/04/26(土) 01:07:18k8dny5EM (10/25)

やよい「876プロは、最近ここに引っ越ししてきたばかりだって聞きました。私が来たのも、今日がはじめてです」

やよい「それなのに、なんで私がこの上の階に、鈴木さんを捕まえるワナをしかけたと思ったのかなーって」

ドドドド

彩音「そ、それは…」

やよい「それに、そんなことしたらこの階の人の迷惑になっちゃうと思います」

彩音「そ、そう! そうなんだ、じゃあアタシの勘違いだったわ! アンタのせいじゃないのね」

やよい「…やっぱり、なんかヘンかも」

ヌ…

彩音(『スタンド』を出した…)

彩音(見ちゃダメだ、露骨に目を逸らしてもダメ、何もないように扱うのよ)


110『ワールド・オブ・ペイン』その32014/04/26(土) 01:08:22k8dny5EM (11/25)

やよいの『ゲンキトリッパー』の集合体が、ゆっくりと彩音の方へと歩いていく。

彩音(ち…近付いてくる…?)

やよい「あのー…違ってたらごめんなさい」

彩音(まさか、コイツ…)

やよい「伊織ちゃんが、大変なんです」グッ…

『ゲンキトリッパー』が、拳に力を込めた。

彩音「チッ!」カリッ

彩音が左手の親指で、人差し指のかさぶたを引っ掻く。

ブンッ

ポタ

腕を振る。指の傷から『血』が一滴、床に落ちた。


111『ワールド・オブ・ペイン』その32014/04/26(土) 01:10:04k8dny5EM (12/25)

やよい「…?」

ゾゾ

やよい「あっ!」

彩音「『ワールド・オブ・ペイン』ッ!!」

シュパァ!!

落ちた血が『ゲンキトリッパー』に飛びかかり、腕に傷をつけた。

やよい「わっ…!」ブシュ

ポタッ

ダメージがやよいにフィードバックし、血が垂れる。

彩音「アンタ…」

ゴゴゴ

彩音「無害そうな顔して、結構図太い奴ね…」

ゴゴゴゴ


112『ワールド・オブ・ペイン』その32014/04/26(土) 01:14:15k8dny5EM (13/25)

やよい「この、『血』のスタンドは…」

やよい「やっぱり、鈴木さんがやったんですね!」

彩音「ええ、そうよ。これがアタシのスタンド」

やよい「伊織ちゃんを追いかけてるスタンドを、止めてください!」

彩音「止めなかったら…?」

やよい「止めてください」

彩音「ザンネンだけど、もう止まらないわよ」

やよい「え?」

ゾゾゾ

地面に落ちたやよいの血が、やよいに向かって動き出す。

やよい「わっ…『ゲンキトリッパー』!」

彩音「無駄よ。アンタのスタンドじゃあ、アタシの『血』のスタンドをどうこうできないでしょ?」

彩音「できるなら、わざわざアタシのところに来るまでもないカラ」

やよい「うう…!」ブシュ

『血』がやよいの足に食らいつき、新たな傷を作る。


113『ワールド・オブ・ペイン』その32014/04/26(土) 01:21:55k8dny5EM (14/25)

ゾゾゾ…

その傷からから吹き出した『血』が、また、やよいに標的を定めた。

やよい「はわ…」

彩音「『ワールド・オブ・ペイン』が他人の血に触れると、自動でその持ち主を襲い、血の中に戻ろうとする『リビング・デッド』を作り出す」

彩音「そして、『リビング・デッド』はまた新たな『リビング・デッド』を生み出すわよ」

ウー ウッウー

『ゲンキトリッパー』の欠片が、やよいの傷を塞いでいく。

彩音「ありゃ。その『スタンド』、傷を塞げるのね」

彩音「でも、意味ナイわよ。傷は治せても、出てしまった『血』はもう戻せないのだから!」

やよい「うぅ~」

やよいの『ゲンキトリッパー』には、一発で彩音を気絶させられるような『パワー』はない…

色々なものを『くっつけ』重みで潰したり、動けない彩音相手に天井から何かを落として攻撃することは可能だが…

そのためのものを持ってくる前に、『ワールド・オブ・ペイン』の餌食になってしまうだろう。


114『ワールド・オブ・ペイン』その32014/04/26(土) 01:24:49k8dny5EM (15/25)

彩音「アンタ達が悪いのよ…アタシはそこまでする気はなかったのに…」

3つの『血』の塊が、やよいににじり寄ってくる。

彩音「さぁ、食われたくなかったらアンタも逃げた方がイイわ!」

やよい「う…」ズリ…

やよいの足が、一歩後ずさる。

ドン

やよい「わっ!?」

と、背中に何かがぶつかった。

??「やよいっち。こんな奴に逃げる必要なんてないって」

クルッ

やよい「亜美!」

亜美「なーんか、みんな変だったから来てみれば…面白そうなことやってるじゃん?」

彩音「何人増えようが、アタシの『スタンド』の敵じゃあないわ!」

『血』が、やよいの方に向かって真っ直ぐ進んでいく。


115『ワールド・オブ・ペイン』その32014/04/26(土) 01:27:32k8dny5EM (16/25)

亜美「自動で、持ち主を襲うって?」

彩音「あら、聞いてたの?」

亜美「ってことはさ、こいつが襲ってくるのはやよいっちだけなんだよね?」

亜美が、やよいと『リビング・デッド』の間に割って入る。

彩音「『リビング・デッド』は進行上にある障害物を傷つけながら進むわよ!」

彩音「それに、『ワールド・オブ・ペイン』だって残ってる! アンタはネコの目の前にわざわざ出てきたネズミよッ!」

ヒュバッ!

その場にある『血』が、一斉に襲いかかる。

亜美「『スタートスター』」グッ

亜美の正面に、立ちふさがるように人型の『スタンド』が出現し、構える。

彩音「なによそれ…叩き落とすつもり? 腕を怪我するダケよッ!」

亜美「おらおらおらおらおらおらおら!!」ズババババババ

『スタートスター』は滅茶苦茶な腕の動きで、次々と飛びかかってくる『血』に触れていく。


116『ワールド・オブ・ペイン』その32014/04/26(土) 01:29:25k8dny5EM (17/25)

亜美「………」グッ

シン…

彩音「…?」

亜美「どじゃぁぁん」パッ

亜美が手を開くと、そこには何も残っていなかった。

彩音「な!?」

亜美「んっふっふ~、亜美のスタンドはなぁ…触れたものを『消滅』させてしまうのだ! どうだ!」

やよい「そっか、真美のところまで『ワープ』させたんだね!」

亜美「やよいっち! バラしちゃあダメじゃーん!」

彩音「な、何…? 今の『スピード』…滅茶苦茶なヤツ…」

亜美「さぁ、君はもうキョウイさせている! コクフクしたまえ!」

彩音「包囲? 降伏?」

亜美「そうとも言う!」


117『ワールド・オブ・ペイン』その32014/04/26(土) 01:31:05k8dny5EM (18/25)

亜美「………」グッ

シン…

彩音「…?」

亜美「どじゃぁぁん」パッ

亜美が手を開くと、そこには何も残っていなかった。

彩音「な!?」

亜美「んっふっふ~、亜美のスタンドはなぁ…触れたものを『消滅』させてしまうのだ! どうだ!」

やよい「そっか、真美のところまで『ワープ』させたんだね!」

亜美「やよいっち! バラしちゃあダメじゃーん!」

彩音「な、何…? 今の『スピード』…滅茶苦茶なヤツ…」

亜美「さぁ、君はもうキョウイさせている! コクフクしたまえ!」

彩音「包囲? 降伏?」

亜美「そうとも言う!」


118>>12014/04/26(土) 01:32:01k8dny5EM (19/25)

間違えて二回同じ場所やってもうた
>>117はなかったことに


119『ワールド・オブ・ペイン』その32014/04/26(土) 01:33:00k8dny5EM (20/25)

彩音「フン、何を勝ち誇ってんだか…」

亜美「鈴木のお姉ちゃんの『スタンド』は、飛ばしちゃったよ。もうないんだよ?」

彩音「『スタンド』がない? それがカンチガイだって言うのよ!」

亜美「へ?」

彩音「『ワールド・オブ・ペイン』は、アタシの『血』から生み出される『スタンド』…」

彩音「『血』が続く限り、無限に作り出せるッ!」

ビンッ

シーン…

彩音「…アレ?」

バッ

彩音(ゆ…指の傷が…塞がってる!?)

ウッウー ウー

彩音「な、なにコレ!? ア…アタシの指になんか『くっついて』るッ!?」

やよい「指の傷は、『くっつけ』ました。これで、もう『スタンド』は出せないんですよね」


120『ワールド・オブ・ペイン』その32014/04/26(土) 01:34:02k8dny5EM (21/25)

亜美「んっふっふ~、一気に大逆転、だね!」

やよい「さぁ、鈴木さん! 伊織ちゃんを追いかけてる『スタンド』を止めてください!」

彩音「そ…それは…」

亜美「駄目なの? んじゃ、しょうがないね。鈴木のお姉ちゃんには気ぃ失ってもらうよ」

彩音「う…」

やよい「伊織ちゃんが大変なんです。止めてくれないなら…しょうがないかなーって」

彩音「く…」プルプル…

ガリッ!

亜美「!?」

やよい「はわっ!?」

彩音「………」

ポタ…ポタ…

彩音が下唇を噛んだ。


121『ワールド・オブ・ペイン』その3/おわり2014/04/26(土) 01:34:51k8dny5EM (22/25)

やよい「な…何やってるんですかっ!!?」

ポタ…

彩音「これで…また『ワールド・オブ・ペイン』が作り出せる…」

亜美「へ、へんだ! また来ても亜美の『スタートスター』で…」

ズ… ズズズズ…

亜美「って、数多っ!?」

ゾゾゾゾ

ズアッ!

やよい「か、囲まれちゃった…」

彩音「うおおおおおおおおお行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

ギョォン!!

亜美「わーっ!!」

やよい「ううっ!!」

彩音が叫ぶと同時、やよい達の周囲から、『血』の群れが一斉に飛びかかった。


122>>12014/04/26(土) 01:36:38k8dny5EM (23/25)

>導入編なので次でさっさと終わらせます
終わりませんでした☆

スタンド名:「スタートスター」
本体:双海 亜美/双海 真美
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:D スピード:A 射程距離:E(2m) 能力射程:A(500m以上)
持続力:C 精密動作性:D 成長性:A
能力:亜美と真美がそれぞれ1つずつ持っている、2体で1組のスタンド。
触れたものや自分自身を、もう一方の「スタートスター」の射程距離内に「ワープ」させることができる。
片方がスタンドを使える状態になかったり、二人があまりにも離れて能力射程の外に出てしまうと、能力を使う事が出来ない。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

スタンド名:「ワールド・オブ・ペイン」
本体:鈴木 彩音
タイプ:近距離パワー型・同化
破壊力:B スピード:B 射程距離:D(5m) 能力射程:D(5m)
持続力:D 精密動作性:C 成長性:B
能力:サイネリアこと鈴木彩音の「血」から生まれたスタンド。
本体の血をスタンド化させており、血が出る限りはいくつでも生み出せる。
他人の血に触れる事で、自動操縦スタンド「リビング・デッド」を作り出す。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ


123>>12014/04/26(土) 01:39:57k8dny5EM (24/25)

第一部をコミカライズしてもらいました!
コマ割りや演出がいい雰囲気を出しています!
【アイマス】『弓と矢を破壊せよ!』【ジョジョ】
ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&;illust_id=42373730

↓前作、「弓と矢」第一部はこちら
春香「あれ、なんですかこの『弓と矢』?」
ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1342373584/
伊織「スタンド使いを生み出す『弓と矢』…」
ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1352727299/
真「『弓と矢』を…ブッ壊すッ!」
ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1360068979/
やよい「『弓と矢』と765プロ」
ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379527373/


124>>12014/04/26(土) 01:43:16k8dny5EM (25/25)

忘れてた

>>99
千早の血が向かったわけではなく、伊織に向かっていったのは伊織の血です。
伊織の血から作った「リビング・デッド」をブラッドオレンジに仕込み、それを千早が飲んでしまったというわけです。


125以下、名無しが深夜にお送りします2014/04/26(土) 10:59:35Yb3rWXsc (1/1)


更新日が決まってるとわかりやすくていいなぁ


126>>12014/05/02(金) 20:45:31m6X5q7qQ (1/1)

すみません、眠いんで寝ます
明日が終わるまでには投下しますので…


127>>12014/05/03(土) 21:23:35V0oth22k (1/36)

前回までのあらすじ

彩音「『リビング・デッド』は進行上にある障害物を傷つけながら進むわよ!」

彩音「それに、『ワールド・オブ・ペイン』だって残ってる! アンタはネコの目の前にわざわざ出てきたネズミよッ!」

亜美「ウミネコだ」

彩音「ひとりブッ殺すッ!!」


128『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:24:41V0oth22k (2/36)

亜美「ス、『スタートスター』!」

ヒュンヒュン

亜美のスタンドが腕を横に払うと、『血』の雨が消しゴムをかけたように、目の前で消える。

亜美「一度に『ワープ』させるのは、これが限界…」

しかし、消えたのは一部。周囲に散らばった『血』は、まだ半分以上残っている。

彩音「フフ…」

ポタ…ポタ…

さらに、彩音の下唇から滴り落ちる血によって、『ワールド・オブ・ペイン』は次々と生み出されていた。

ヒョォォォォォ

亜美「うわあああ、もうダメだー!!」

やよい「亜美、落ち着いて!」

亜美「でも、こんな量じゃ全部『ワープ』させられないよー!」


129『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:25:24V0oth22k (3/36)

やよい「別に、『血』の方を飛ばさなくてもいいでしょ!」

亜美「あ、そっか! 亜美が『ワープ』すればいいんだ!」

・ ・ ・ ・

亜美「って…今、『ワープ』使っちゃったから無理じゃん!」

やよい「亜美! 何やってるの!?」

亜美「やよいっちがもっと早く言えばよかったんだよ!!」

ギュン ギュギュン

亜美「うあー、やっぱもうダメだー!!」

やよい「………」

亜美「やよいっち! 何、ボーっとしてんのさ!」

『血』が目と鼻の距離まで近付いている。もう、避けることもできない。

亜美「うあああああー!!」

ビチャア!

『血』が、腕に食いついた。


130『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:26:01V0oth22k (4/36)

………

伊織「げ…こっち、行き止まりじゃあないの…」

路地の裏側、ひと気のないビルの壁が、行く手を塞いでいる。

伊織(『血』から逃げているうちに、こんなところに…)

スゥーッ

伊織の血から作られた『リビング・デッド』は、休む事なく追跡を続けている。

伊織(横から抜ける…? いや、あいつは磁石が引かれるかのように、常に最短距離でこっちに向かってくる…)

伊織「やっぱ、こっち行くしかないわよねぇ…」

伊織「やっ!」タッ

ビルの壁に、足から飛びついた。

ガシッ!

モクモク…

ググググ…

伊織は『スモーキー・スリル』で自分の体を押し上げながら、壁をよじ登って行く。


131『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:26:31V0oth22k (5/36)


ツイーッ

ガリガリガリガリ

おかまいなしに、『血』も機械的に平面を登る伊織の後を着いていく…

いや、打ち上げ花火のように高度を上げて行くそれは、壁を削りながらどんどん伊織との距離を縮めて行った。

伊織「壁も、地上と同じ速度で登ってくる…」

スタンドの力を借りなければ登ることすら困難な伊織と、常に同じスピードで追いかける『自動操縦』。縦の動きでは、明らかに『リビング・デッド』に分があった。

伊織「でも、そんなもん最初っから予想してるわ」グ…

タッ!

伊織がビルの壁を蹴った。小柄な体が、背中から宙に放り出される。

伊織「『スモーキー・スリル』」モクモクモク

ボフゥ!!

地面に衝突する前に『煙』が、仰向けになった自分の体を受け止めた。


132『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:27:03V0oth22k (6/36)

伊織「………」タタタ

クク…

ポトッ

伊織が地面に降りて走り出すと、『血』は磁力を失った磁石のように、壁から剥がれ落ちる。

ツイーッ

地面に着くと、再び伊織を追いかけ始めた。

伊織(そう何度もやってられないわね。アレと違って、こっちは体力に限りがある…)

伊織(やよいは、まだ本体を倒せていないの…?)

伊織(『ゲンキトリッパー』は『血』のスタンドを『くっつけ』られない…返り討ちにされたって可能性も…)

伊織(いえ…ありえないわ。やよいが…765プロのアイドルが、コソコソしてるような奴に負けるなんて)

伊織(私に出来ることは、信じて待つことだけ…我ながら、情けないわね…)

ズルル…

伊織(でも…触ることすら出来ないこいつを、一体どうしたらいいわけ…?)


133『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:28:12V0oth22k (7/36)

ス…

伊織「!?」

路地から脱出しようとする伊織の視界の中に、人影が現れた。

絵理「ぜぇ、ぜぇ…」

伊織「絵理…!?」

絵理「伊織さん…こんなところにいた…」

伊織(事務所から、後を着いて来てたのね…ぬかったわ…)

スルル…

伊織(コイツは、絵理の存在なんておかまいなしに追いかけてくるわ…)

絵理「伊織さん…?」

伊織「絵理! そこをどいて、じっとしてて!!」

絵理「その、後ろからついて来てるのって…何?」

伊織「!?」

ズズズ…


134『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:29:00V0oth22k (8/36)

ゴゴゴ ゴゴ

伊織(スタンドが見える…!? まさか、絵理も…?)

絵理「赤い…何? グミとか…『血』みたいに見える」

伊織(いや…スタンド化していると言っても、元々は私の血…『スタンド使い』でなくとも見えるか)

絵理「どうしたの、伊織さん」

伊織「私はあの『血』に追われてるのよ! 何を言ってるのか分からないでしょうけど!」

伊織「アレは自動的に直線距離で私を追いかけてくる! その間にあるものに攻撃しながらッ!! しかも、『血』に触れれば増えて『血』の持ち主を追いかけ始める!」

伊織「絵理、アンタが巻き込まれたらアンタも襲われることになるのよ!!」

絵理「そう、なんだ?」

スッ

伊織「え?」

絵理「………」

伊織「何をやってるの、絵理!? 私の前に飛び出したら…」


135『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:30:23V0oth22k (9/36)

ズァッ

伊織「え…」

絵理「『クロスワード』」

絵理の目の前に、人型の像(ヴィジョン)が立ちふさがる。

伊織(これは…スタ…ンド…?)

絵理のスタンドは、黒を基調とした、角のないシンプルなフォルムをしていた。

絵理「………」ス…

『クロスワード』が左の手のひらを、飛び上がった『血』へと向ける。

手の中には、カメラのレンズのような水晶体がついていた。

パシャ

十の字が描かれたレンズが、その姿を捉える。

伊織(絵理のスタンド…今、何をしたの…?)


136『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:31:40V0oth22k (10/36)

ズズズ

ヒュッ

絵理「!」

ピッ

進行を邪魔された『リビング・デッド』が、飛び上がり、『クロスワード』の腕を切る。

伊織「ちょっ…? 何やってるのよ、絵理!」

絵理「うーん…」

伊織(今のはなんだったの…? 何ともなってないじゃない!)

『血』はそのまま、背後の伊織の方へ飛んでいった。

伊織「ちっ…!」モクモク

絵理「………」

パシャ

ピチャン!

伊織「え? !?」

『クロスワード』の右手からシャッター音が鳴ったと思うと、絵理のいる奥から水滴が落ちる音が聞こえた。


137『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:32:31V0oth22k (11/36)

・ ・ ・ ・

飛び上がった『血』が伊織の目の前で動きを止める。

伊織「こ…」

いや、よく見れば僅かながら動いていた。…空中で、落ちることなく。

スッ

伊織が逆方向へと回り込む。ゆっくりと、伊織の方に進行方向を変えた。

伊織(追いかけてくる…ということはこの目の前の物体は、さっきまでの『血』と『同じ』もの…)

しかし、『血』は無重力の宇宙に放り出されたかのように、宙に浮いていて…

何より、この浮かんでいる物体は『液体』でなく、紛れもない『気体』だった。

伊織「これは…!?」

絵理「『クロスワード』。空気と血の性質を『入れ替え』た」

赤い塊が伊織の肌に触れる。

絵理「『血』は空気のような『気体』に、そして空気は『液体』になる…」

死霊が肌を食い破ろうとしているのだろうが、その感触は僅かなもので、まるで圧力を感じない。


138『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:33:16V0oth22k (12/36)

伊織「ス…『スモーキー・スリル』!」ボフッ

スゥーッ…

同じ『気体』。『煙』のスタンドで赤い塊を包み込み、遠ざけていく。

伊織から離れていくごとに、『血』は少しずつ空気に溶けるように消えていった。

絵理「…大丈夫だった? 伊織さん」

伊織「絵理、アンタ…」

絵理「?」

伊織(今、起きた現象。あの能力は、紛れもなく…)

伊織「アンタも…『スタンド使い』なの…?」

絵理「うん」


139『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:34:57V0oth22k (13/36)

………

ジュゥ!!

白い蒸気が吹き出る。

亜美「…あれ?」

それは、亜美の目の前にいる人物…そのまた前にいる者の腕から出ていた。

彩音「な…」

??「『なんでアンタがここにいる』…」シュゥゥゥ…

彩音「なんでアンタがここにいる…!」

千早「かしら? 鈴木さん…」

パラ…

水分を失い固まった血が、千早の『インフェルノ』の手から剥がれ落ちた。

やよい「千早さん!」

千早「どうやら、危ないところだったみたいね」

千早が、二人の少女を守る騎士のように、そこに立っていた。


140『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:36:54V0oth22k (14/36)

真美「おっ、結構いいタイミングだった?」

亜美「真美真美、ありがとー! どうなるかと思ったよー!」

真美「んっふっふ~、真美に感謝するがいい!」

彩音「アンタの…スタンド能力…なの…?」

真美「その通り! 正解した鈴木のねーちゃんには、はなまるをあげよう!」

彩音「くっ…なんで、こんな三流アニメのご都合展開みたいにちょうどいいタイミングに…」

やよい「私の『ゲンキトリッパー』は、遠くまで行けるスタンドなんです」

彩音「は?」

やよい「それで、バラバラに分かれることが出来るんです」

彩音「一体、何の話…」

やよい「その『血』は、くっつけられないから『ゲンキトリッパー』はあまり役に立たないかも…」

やよい「そう思って、下の階まで、行かせてたんです」

・ ・ ・ ・

千早「まだ、わからないの?」

彩音「…! まさか…」


141『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:37:37V0oth22k (15/36)

………

ゴゴゴゴ ゴゴゴゴゴゴ

誰もいなくなった、876プロのロッカールームの床…

『きて』

やよいの『ゲンキトリッパー』が、文字を作っていた。

………

彩音「メッセージを送っていたなッ! 下の、コイツらのいるところまで…!!」

やよい「えへへ…千早さん達に気づいてもらえてよかったです」

千早「さぁ…観念したらどうかしら? でなければ、痛めつけられた借りは返すけれど」

ポタ…ポタ…

ウッウー

ピョコ ピョコ

彩音「んっ!」ピタァ…

『ゲンキトリッパー』が彩音の足下から這い上がり、唇の傷が塞がれる。

彩音「…チョーシに…乗るな…!」


142『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:38:31V0oth22k (16/36)

彩音「『ワールド・オブ・ペイン』ッ!!」

ズオッ!!

千早「無意味よ」コォォォォ…

ビシュン

飛びかかってきた『ワールド・オブ・ペイン』から、『インフェルノ』が一瞬で熱を奪う。

パキ ピキン!

カランッ

『血』は凍って結晶となり、地面に落ち、割れた。

彩音「は…」

千早「私のスタンド、『ブルー・バード・インフェルノ』は触れたものの『熱』を『奪い』『与える』スタンド」

千早「『液体』は凍り、『個体』に…あるいは蒸発し、『気体』となる」

彩音「ア、アタシの『ワールド・オブ・ペイン』が…」

千早「残念だけれど…」

彩音「う…」

千早「その程度の血では、『地獄の業火(インフェルノ)』は消せないわ」


143『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:39:55V0oth22k (17/36)

千早「………」ザッ ザッ

彩音(に…逃げ、られない…奥は行き止まり…そもそも)

ピタ…

彩音(足が『くっつい』て動かない…!!)

彩音「な、なんなの…アンタらは…」

彩音「一体なんなのよォォォォォォッ!!」

千早「私達は…」スッ

ヒュオン!!

『インフェルノ』が目にも止まらぬ速さで、彩音を殴り飛ばした。

ッギャアアァァーン!

彩音「うぶっ…!」グググッ

バタン!

千早「アイドルよ」


144『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:41:57V0oth22k (18/36)

ジュゥゥッ!!

彩音「うああああ、ひいっ…!! あ、『熱い』…!」ゴロゴロ

やよい「さぁ、伊織ちゃんへの攻撃を止めてもらいます!」

千早「どうしても止めないというのなら、もう一発…」

彩音「ちょ、ちょっと待ちなさい…」

千早「………」スッ

彩音「待ってって! 待ってクダサイ!!」

亜美「なに? 言い残したことがあるなら早く言ってよ」

彩音「アタシを気絶させても無駄ですよ! 『リビング・デッド』は、アタシにも止められないんデス!」

やよい「へ…止められない…?」


145『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:42:32V0oth22k (19/36)

千早「本当かしら…」

彩音「本当ですって! だから、アタシに攻撃しても意味ナンてないんです!」

真美「殴られたくないから、てきとー言ってるんじゃあないの?」

やよい「本当だったら、最初からそう言ってくれればよかったのに」

彩音「だって、話し合いが通じるような雰囲気じゃなかったじゃあないデスか…止められないと言ったらナニされるか」

亜美「とにかく今、いおりんがピンチでパンチなんだよね?」

亜美「だったら、それをどうにかする方法教えてよ」

彩音「…言わなかったら?」

千早「スタンドが『戦闘不能』(リタイア)するまで攻撃するだけよ」

彩音「デスヨネー」


146『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:43:10V0oth22k (20/36)

彩音「『リビング・デッド』を止めるのは、なんとか血をこぼれさせず、本人の血の中に戻すか…」

亜美「血を出さずに戻すのなんて、無理っしょ」

彩音「それか、そこのヒトがやったみたいに蒸発させたり凍らせたりして『液体』じゃなくせばイイです」

千早「そこの人…」

彩音「『血』はあくまでも物質なので…『太陽の光』とか『ライター』なんかでもいいハズ」

やよい「でも、今日は曇り空だし、お日様の光で水がばーってなるのも期待出来ないかも」

千早「なら、私が直接…」

やよい「早く伊織ちゃんを追いかけなきゃ!」

真美「でも、いおりんがどこに行ったかなんてわかんないし、追いつけるかどうか」

やよい「う…」

伊織「…私がどうかした?」ヌッ

千早「へ…? ………」

亜美「い、いおりん!?」


147『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:44:47V0oth22k (21/36)

伊織「って、なによ。もう終わってるじゃない」

やよい「い、伊織ちゃん…『血』は…」

彩音「『リビング・デッド』をなんとかしたんデスか!? 一体、どうやって…」

伊織「あんなもん、この伊織ちゃんには通用しないわよ」

亜美「な、なんだってー!?」

伊織「と、言いたいところなんだけど…」

絵理「…サイネリア?」

彩音「セ、センパイ!」

千早「水瀬さん、何故、水谷さんと…?」

伊織「それは…」

ズ…

亜美「!」

真美「これって…」

絵理「私…『スタンド使い』」


148『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:45:28V0oth22k (22/36)

伊織「まぁ、絵理のスタンドに助けられたのよ」

彩音「セ、センパイが…『スタンド使い』…?」

絵理「あの『血』って、サイネリアのスタンドだったんだ…」

彩音「うっ!」

やよい「鈴木さん…どうして、こんなことしたんですか…?」

亜美「そうだよ! せっかく楽しかったのに、めちゃくちゃになっちゃったじゃん!」

彩音「ほ、本当はこうなるハズじゃなかったんです…」

千早「本当は? はずじゃなかった?」

伊織「よく言うわ、『血』入りのブラッドオレンジなんて用意しちゃって」

彩音「あれは、アンタ…水瀬さんに飲ませるつもりだったんデス」

伊織「は?」

彩音「誤って、そこのヒトが飲んでしまいましたけど」

千早「………」


149『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:46:26V0oth22k (23/36)

伊織「…え、何。私に飲ませて、どうするつもりだったの?」

彩音「『リビング・デッド』には胃の壁を破るほどのパワーはナイんです」

やよい(ガラスのコップは壊してたけど…)

伊織(…固くて薄かったのと、やよいの『ゲンキトリッパー』で固定させてたから負荷が大きすぎたのね。多分)

彩音「胃の皮をちょっぴりだけ切って…すぐ吸収されて血液の中に戻るから、腹痛が起きるだけで終わるハズだったんです。ハイ」

彩音「伊織さんが、センパイとベタベタしてるのが気に入らなくて…つい…」

真美「それが、千早お姉ちゃんが飲んじゃったから変なことになったんだね」

亜美「まぁ、それならちょっとしたイタズラで済むか」

伊織「なんでよ。この伊織ちゃんの胃が破壊されるところだったのよ」

千早「それに、事情がどうあれ、私達が重大な迷惑を被ったのは事実よ」

彩音「そ、ソレは…」

やよい「鈴木さん?」

絵理「サイネリア」

彩音「はい…みなさん、スミマセンデシタ…」ペコリ


150『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:47:21V0oth22k (24/36)

亜美「これで、一軒着陸だね!」

絵理(『うわー! 家が降りてくるぞーっ!』『避難しろーっ!!』)

伊織「せっかくの絵理の誕生日だってのに、どっと疲れた…」

千早「いえ…待って。まだ、全て解決はしていないわ…」

真美「え? まだなんかあるの?」

やよい「あ、もしかして…」

伊織「! そうよ、『弓と矢』…!!」

千早「鈴木さん」

彩音「鈴木って…もういいデスよ。なんですか?」

千早「貴女、876プロの事務所で『矢』に触れたわね?」

彩音「え、ええ…よく、ワカりますね」

伊織「絵理…アンタもよね」

絵理「うん…」


151『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:48:39V0oth22k (25/36)

彩音「そうですよ。アタシは、アノ『矢』に触れてから『ワールド・オブ・ペイン』を使えるようになったんです」

絵理「私も…同じ?」

伊織「『スタンド使い』になってしまったのは、もう仕方がない…」

伊織「でも、あの『矢』は破壊すべきよ。あれは災厄をもたらすものだわ」

やよい「『スタンド使い』が増えたら…また、ヘンなことが起きちゃうかも」

真美「はるるんの時みたいなこともあるかもしれないしね」

千早「幸い、この事務所では日高さんはまだ『スタンド使い』ではないらしいけれど」

絵理「へ?」

千早「部外者の鈴木さんまでが『スタンド使い』になっているということは…放置していては危険ね」

伊織「絵理、どう?」

絵理「あれを持ってきたのは石川社長」

絵理「…だから、社長に聞いて」

伊織「…わかったわ」


152『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:51:16V0oth22k (26/36)

………

……

石川「みんなで戻ってくるなり…何? 『弓と矢』?」

石川「えぇ、確かに私が保管しているけど…あれが、どうかしたの?」

伊織「単刀直入に言うわ。あの『弓と矢』を破壊してちょうだい」

尾崎「は、破壊って…」

石川「えーと…邪魔だし、あなた達がそう言うのなら手放すのは別にいいけど」

石川「結構貴重なものらしいし、骨董品屋にでも売るわけにはいかないのかしら」

亜美「売ったりなんかしたら、もっとメンドーなことになっちゃうよ!」

愛「メンドーなことって?」

石川「あの『矢』に何かあるの? まさか、呪われてるとか…」

千早「呪われてる…ある意味、そうなのかしら」

やよい「あの『矢』には、不思議な力があるんです!」

尾崎「不思議な力って、あなたね…そんな、ファンタジーやメルヘンじゃあないんだから…」


153『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:52:24V0oth22k (27/36)

石川「あなた達…どうしたの? 何か変よ」

亜美「…どうすんの?」

千早「仕方ないわ。『弓と矢』の所有者が石川社長なら、説明して、納得してもらうしか…」

伊織「だったら、私に任せて」

石川「何を話しているの?」

モクモクモク…

『煙』が、石川社長の体を覆う。しかし、彼女の目からは、何も見えていない。

ズズズズ…

石川「へ…は…!? な、なにこれ…!?」スゥ…

愛「わわっ!!? 社長の体が浮いてる!!?」

パッ

石川「うひゃっ…」ドサッ

尾崎「しゃ、社長! 大丈夫ですか!?」


154『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:53:19V0oth22k (28/36)

伊織「見えた? 気づいた? 今のが、『弓と矢』の呪いよ」

石川「な、何…今の…? て、手品…じゃ、ないの…?」

尾崎「手品とかそういうレベルを越えてるような…」

やよい「これは、『スタンド』っていう…えっと、ちょーのーりょくのようなものです」

石川「スタ…ンド…?」

千早「『スタンド』はそれを扱える者…『スタンド使い』ではない一般人には、見ることすらできない」

パリン!!

石川「ひ…! ガラスのコップが、ひとりでに割れた…!?」

千早「『スタンド』によっては、このようにガラスのコップを握り潰す程度簡単にできる」

千早「だから、誰にも気づかれず…犯罪を起こすことすら可能なんです」

石川「…!」

伊織「そして…『矢』は、その『スタンド使い』を生み出すのよ」

石川「ゆ…『弓と矢』…が…?」

伊織「やっぱり、知らなかったのね…やれやれだわ」


155『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:57:04V0oth22k (29/36)

伊織「もしも、たまたま誰かがこの事務所に訪れて『矢』に触れてしまったりしたら」

伊織「スタンドを悪用するようなヤツが『スタンド使い』になったりしたら…大変なことになる」チラ

彩音「こっち見んな! …見ナイでくださいよ!」

伊織「冗談よ…でも、私達も以前、この『弓と矢』によってとんでもないことになった」

千早「私達はこの『弓と矢』により『スタンド使い』になってしまった…」

千早「だからこそ、これらの恐ろしさは、誰よりも知っているつもりです」

石川「あなた達の所にも、この『弓と矢』があるの…?」

伊織「それはこっちも言いたいわ…なんであの『弓と矢』がここにあるの?」

伊織「あの『弓と矢』は一体どこで手に入れたの!?」

石川「え、えーと、あれは…人から貰ったのよ」

千早「貰った? 誰からです?」

石川「誰って…」

石川「…高木社長よ…あなたたちのところの」

伊織「…は?」

ゴゴゴゴ


156『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:57:45V0oth22k (30/36)

伊織「え…ちょっと待って、なんでその名前が出てくるわけ?」

石川「なんでと言われても。あれは高木さんから貰った、それだけのことだけど…」

ゴゴゴ

伊織「ありえない…」

伊織(高木社長があの『弓と矢』を渡せるわけがない)

伊織(だって…高木社長はもう、この世にはいないのだから。私も、葬式に出た…)

伊織(死んだはずの高木社長が、この事務所に『弓と矢』をもたらすなんて、そんなの…)

千早「待って、水瀬さん。ありえないというのは違うと思うわ」

伊織「え?」

千早「日高さんの話によると、この事務所に来たのは半年前くらいだそうよ」

千早「これは、高木社長が存命の頃に渡されたものじゃあないかしら」


157『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 21:59:12V0oth22k (31/36)

伊織「…絵理。この『弓と矢』がいつの日に来たのかって、知ってる?」

絵理「えーと…」

絵理が、壁にかかっているカレンダーをめくる。

絵理「去年の…この日?」ピッ

石川「ああ、そうそう。ちょうどこの頃だったわ」

伊織(765プロに、『弓と矢』が来たよりも前ね…確かに、この時ならまだ高木社長は生きてる)

千早「社長は骨董品屋で、『弓と矢』を見つけ、気に入った…そして、『弓と矢』は複数あった」

千早「だから、知り合いの事務所にも配った。そういうことじゃないかしら」

伊織「確かに…それで、辻褄は合うわね…」

伊織(死んでるとか死んでないとか、どうでもよかった…生きてる間に持ち込まれたもの…なのね…?)

伊織(けど、何かしら。なにかが、引っかかる…)

伊織(いえ…気にしても仕方ないか、それより…この『弓と矢』よ)


158『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 22:00:37V0oth22k (32/36)

千早「この『矢』…破壊してもいいでしょうか?」

石川「まぁ、仕方ないわね…そんな危ないものだったのなら、処分した方がいいわ」

愛「はい、そうですね…あたしも、それがいいと思います」

千早(あら、日高さん…やけに、物わかりがいいわね?)

千早(彼女のことなら『あたしも、「スタンド使い」になりたいです!』とか…言い出すと、思ったのだけれど)

千早(ちゃんと、スタンドが危険なものだと理解しているのね)

尾崎「え、絵理…絵理は大丈夫なの?」

絵理「多分…」

石川「高木さんは、このことを知ってこれを渡してきたのかしら…?」

やよい「知らないと思いますけど」

石川「あら、それはどうして?」

亜美「どっちでも、確かめようはないよね」

真美「うん、そうだね…」

石川「…?」


159『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 22:02:18V0oth22k (33/36)

パラ、パラ…

千早(そして、私達は…『弓と矢』を、コナゴナに破壊した。誰の手にも、渡ることのないよう…)

亜美「よーし、いっちょあがりだねっ!」

やよい「これで、もう大丈夫ですね!」

千早「ええ…これ以上、『スタンド使い』が増えることはないはずよ」

伊織「絵理は誰かに迷惑をかけるような奴じゃあないし、あの鈴木とかいうのも、もうスタンドを悪用はしないでしょう」

真美「めでたしめでたし、だね!」

千早(こうして、876プロの『弓と矢』は破壊され…それで、全て解決した)

千早(と…この時は、そう思っていた)

千早(思えば…前兆は、既にあった)

千早(この日の時点で…876プロに『弓と矢』があるとわかった時点で、私達は、事の異常さに気づくべきだった)

千早(そして、それは…『弓と矢』の存在だけでなく…)


160『ワールド・オブ・ペイン』その42014/05/03(土) 22:05:15V0oth22k (34/36)

彩音「アレ?」

絵理「? どうしたの、サイネリア」

彩音「なんか、センパイの『手』…ちょっと…変、と言いますか…」

・ ・ ・ ・

彩音「…え?」

絵理「………!」サッ!!

ゴゴゴゴ

絵理「あまり…見ないで?」

ゴゴゴゴゴ

彩音(今…)

彩音(センパイの手の傷口が、ちょっと見えた…)

彩音(けど…何? あれは…骨が、見えていた…)

絵理「ねぇ、愛ちゃん」

愛「はい、なんです?」

彩音(いや、そんなことはドーでもいい…そんなに深い傷なのに、血が、全く出ていない…!?)


161『ワールド・オブ・ペイン』その4/おわり2014/05/03(土) 22:06:19V0oth22k (35/36)

絵理「千早さんが『スタンド使い』じゃないとか言ってたけど…『あれ』はどうしたの?」

愛「えへへ、ちょっと秘密にしちゃいました!!!」

彩音「!?」

絵理「それにしても…」クル!

彩音「…!」ゾクッ

絵理「サイネリアも、『スタンド使い』だったんだね」

彩音(この『目』…アタシを見てるけど、アタシを、見ていない…)

絵理「それじゃ、これからも…」

彩音(センパイ…?)

ゴゴゴゴ

絵理「仲良く、しよ?」ニコ

彩音(イヤ…『これ』は、本当に…)

彩音(センパイ、なの…?)

To Be Continued…


162>>12014/05/03(土) 22:08:22V0oth22k (36/36)

スタンド名:「リビング・デッド」
本体:鈴木 彩音
タイプ:自動操縦型・同化
破壊力:C スピード:C 射程距離:A(ほぼ無限) 能力射程:A(ほぼ無限)
持続力:C 精密動作性:E 成長性:なし
能力:「ワールド・オブ・ペイン」が作り出した死霊。
他人の「血」をスタンド化させ、血の持ち主を自動的に追いかけていく。
持ち主のもとに辿り着いた血は、皮膚を突き破って血液の中に戻ろうとする。
本人の血の中に戻るか、血が状態を保てなくなると消滅する。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ


163以下、名無しが深夜にお送りします2014/05/04(日) 12:37:34jj6KEco. (1/1)

おつー


164>>12014/05/10(土) 01:29:06PM8tbh/U (1/29)

前回までのあらすじ

765プロの歌姫、如月千早は色々あってアイドルトーナメントに挑むことを決意した!

初戦の相手は優勝候補の一人、東豪寺プロ所属、魔王エンジェルの東豪寺麗華!

麗華の圧倒的なパフォーマンスに、審査員達の目も釘付け!

ダンスは完敗、胸も完敗! しかし彼女のダンスの中に、プロデューサーの目が何かを捉えた!?

自分のために! 高槻さんのために! あとついでに春香やプロデューサーとかのために!

信じられるのは自分のみ、真っすぐ進め如月千早!

負けたらプロデューサーのセクハラ地獄が待っている!


165『ある日の風景』2014/05/10(土) 01:31:09PM8tbh/U (2/29)

春香「どこまで♪ 堕ちる 堕ちる このまま♪」

春香「ふたりで♪ いける いける 高みに♪」

春香「どれだけ! 燃える! 燃える 一途に!」

春香「求めて! 翔べる! 翔べる! どこまでッ!!」

春香「………」

シン…

一瞬、場内が静まり返る。

春香「………」スッ

ワアアアァァァァァァ!!

春香が観客席に向かって手を振ると、辺りが歓声に包まれた。


166『ある日の風景』2014/05/10(土) 01:34:15PM8tbh/U (3/29)

春香「よしっ、今日も大成功だったね!」

千早「えぇ」

ライブが終わり、舞台裏の集会用テントの下に春香と千早の二人が集まっている。

休日の昼間。765プロの二人は、都心の野外ステージでフェスに参加していた。

千早「凄い人気ね、春香は。まるで相手になっていなかったわ」

春香「えへへ、まぁね」

千早(春香は…)

千早(あの事件以来、いつも『自信』を持って舞台に挑んでいる。目ではっきりとわかるくらいに…)

春香「まだまだ、新人の子達には負けないよ~」

千早(私は…最近、少し伸び悩んでいる気がする)

千早(かつては私も、トップアイドルの一角などと言われたこともあったけれど…)

千早(春香の舞台に比べると、明らかにレベルが落ちている…自分でもわかる)

千早(まぁ、春香は春香、私は私…比べても、仕方のないことだけれど…)


167『ある日の風景』2014/05/10(土) 01:35:43PM8tbh/U (4/29)

??「お疲れ様ですっ!」

二人の下に、眼鏡をかけた、ジャージ姿の女性が走ってくる。

千早「大海さん」

大海「あ、これ。スポーツドリンクですよ!」スッ

春香「ありがとうございます、大海さん」

大海「はい!」

千早(大海さんは、最近うちの事務所に入った新人マネージャー)

千早(よく気がつく…とは言い難いけれど、不器用ながらもいつも明るくて、一生懸命なひとだ)

千早「しかし、何故、ジャージなのですか…? 学校の部活動のマネージャーじゃあないんですから」

大海「裏方ですし、動きやすい服装がいいと思って!」

千早「はぁ」

千早(少し、ズレた部分もあるけれど)


168『ある日の風景』2014/05/10(土) 01:37:07PM8tbh/U (5/29)

大海「ささ、そこのパイプベンチに横になってください! マッサージします!」

春香「えっ、そんなのいいのに」

大海「遠慮しないでください、そのためのジャージです! 私、マッサージは得意なんですよ!」

春香「それじゃ、お言葉に甘えて…肩、お願いします」

大海「はい!」モミモミ

春香「足も」

大海「はい!」ギュッ ギュッ

春香「あぁ…次は…」

千早「春香」トントン

春香「へ…?」

フェスの対戦相手のアイドル達が、春香のことを見ていた。

「流石、現代のアイドルの頂点と言われる天海春香さん…」

「マネージャーを子分扱い…」

春香「はっ!?」


169『ある日の風景』2014/05/10(土) 01:38:45PM8tbh/U (6/29)

春香「うぅ、私のイメージが…」

千早「他のアイドル達からのイメージとは、そう変わらないのではないかしら」

春香「千早ちゃんまで! そんなんじゃないのに~!」

大海「ご、ごめんなさい春香ちゃん! 私、そこまで気が回らなくて…」

春香「い、いえ! こういうイメージも大物っぽくてかっこいいですよ! あはは!」

千早(やる気は充分すぎるくらい…だけど、少し空回りしているわね…)

春香「ところで大海さん、今日この後の予定は?」

千早(ちなみに…事務所のみんなは、誰も彼女のことを『マネージャー』とは呼ばない)

大海「ちょっと待ってくださいね、えーと…」

手帳を取り出し、パラパラとめくる。

大海「今日は…春香ちゃんは18時から番組の収録、千早ちゃんは17時から新曲のレコーディングですね」

春香「夜までは何もないのか…それじゃ、一旦事務所に帰ろうかな?」

千早「そうね」


170『ある日の風景』2014/05/10(土) 01:40:21PM8tbh/U (7/29)

春香「大海さん、タクシー呼んでもらえますか?」

大海「はい、わかりました!」タッ

千早「へ?」

タッタッタ…

千早(大海さんは、走ってタクシーを探しに行ってしまった)

千早「電話で呼べばいいのでは…今タクシーを探しても、フェスの帰りの人で混雑しているでしょうし」

春香「まぁまぁ。のんびり行こうよ」

大海「うわっ!?」

ビターン!!

春香「あ、転んだ」

千早「そうか…」

春香「? どうしたの、千早ちゃん」

千早「大海さん…誰かに似てると思ったら、春香よ。なんだか彼女、昔の春香に似てる気がするわ」

春香「え、私に? そう?」


171『ある日の風景』2014/05/10(土) 01:42:05PM8tbh/U (8/29)

千早「雰囲気もそうだし…見た目も結構似てるんじゃあないかしら」

春香「そうかなぁ? そんなに似てる?」

千早「どうして、今まで気づかなかったのかしら…背丈も同じくらいだし」

千早「年齢の割に若くも見えるし、眼鏡を取ってリボンをつけて髪型を同じにしたら見分けがつかないかも」

春香「あはは。それなら、亜美と真美がやってたように入れ替わったりとかできたりして」

千早「春香、それは…」

春香「なーんて…」

千早「へ?」

春香「うそうそ。自分と似てるだけの誰かに、簡単に取って代わられるような…そんなつもりで、アイドルやってないよ」

千早「…そうね」

春香「ま、大海さんがアイドルになったとして…私の所に来るまでは、10年はかかるね!」

千早「春香…貴女は何年アイドルをやっているのかしら?」

千早(自信に満ちあふれている…と言うか、ちょっと自信過剰すぎやしないかしら? 最近の春香は…)


172『ある日の風景』2014/05/10(土) 01:44:13PM8tbh/U (9/29)

………

……



春香「遅いなぁ…大海さん…」

千早「だから言ったのに…」

大海マネージャーが去ってから結構な時間が経った。

既に二人は私服に着替え、舞台は片付け始められている。

千早「今からでも彼女に連絡を取って、改めてタクシーを呼んだ方が早いんじゃないかしら」

春香「もう観客の人達いなさそうだし、そろそろ捕まえられてもおかしくないと思うんだけど」

春香が舞台裏から、表の様子を見にひょこっと顔を出す。

春香「あれ…」

千早「春香?」


173『ある日の風景』2014/05/10(土) 01:45:13PM8tbh/U (10/29)

春香「………」タッ

千早「ちょっと、どこへ行くの春香? ここで待っていないと…」

クルッ

千早が呼び止めると、春香が立ち止まってから振り返る。

春香「千早ちゃん…あの子、迷子なのかな?」ピッ

春香が指差した先には、女の子が独りぼっちで突っ立っていた。

千早「そう…かもしれないわね。こんなところに一人でいるなんて…」

春香「だよね」タッ

千早「あ、春香!」

春香は少女の近くまで走っていくと、かがみ込んで目線を合わせる。

春香「ねぇ、お嬢ちゃん。どうしたの?」

少女「…だれ?」

春香「へ?」


174『ある日の風景』2014/05/10(土) 01:47:00PM8tbh/U (11/29)

千早「春香、急に走らないでほしいのだけれど…」

少女「あ、ちはやちゃんだ!」

千早「え? ええ、こんにちは」

春香「千早ちゃんのこと知ってるんだ?」

少女「うん!」

春香「…私は知らなかったのに…」

千早「あの…春香? 大丈夫?」

春香「平気平気。お嬢ちゃん、一人で来たの?」

少女「ううん、おとうさんと」

春香「お父さんはどこに行ったのかな?」

少女「わかんない…」

春香「やっぱり、迷子かぁ…」


175『ある日の風景』2014/05/10(土) 01:48:53PM8tbh/U (12/29)

千早「いつ、お父さんとはぐれたのかしら」

春香「お父さんはいついなくなったのか、わかる?」

少女「わかんない。ちはやちゃんのうた、きいてたら…」

春香「あ、聴いてたんだ? 私も歌ってたんだけど」

千早「こんな小さな子供をライブに連れてくる父親がいるのね…」

春香「まぁ、まぁ、いいじゃない。せっかく、千早ちゃんの歌を聴きにきてくれたんだよ?」

春香「それに…それなら、遠くには行ってはなさそうだね」

千早「とりあえず、近くの交番に連れて行った方がいいんじゃないかしら」

春香「そうだね…ねぇ、お嬢ちゃん。お姉ちゃん達に着いてきてくれる?」

少女「えっと…」チラッ

千早「?」

少女「うん!」


176『ある日の風景』2014/05/10(土) 01:50:00PM8tbh/U (13/29)

………

春香「で、交番まで来てみたけど…」

「バッグ、届いてません!? 大切なものが入ってるんです!」

「帰りの電車代がないんスよ! どうにかしてくださいよォーッ」

「あの~役所までの地図書いてもらいたいんですけど~」

「やかましいッ! 順番にしろッ!!」

千早「…どうやら、取り込み中のようね…」

春香「あの中に、お父さんいる?」

少女「………」フルフル

春香「そっか…よし!」

千早「春香?」

春香「ねぇ、千早ちゃん! この子のお父さん、私達で探してあげようよ!」

千早「…本気? アイドルである私達が? こんな小さな子を勝手に連れ回すの?」

春香「え…で、でも…」


177『ある日の風景』2014/05/10(土) 01:52:18PM8tbh/U (14/29)

千早「ふぅ…」

春香「ち…千早ちゃん…」

千早「止めても…放っとけないのでしょう? 貴女は」

春香「あ…! えへへ、ありがと千早ちゃん」

少女「?」

春香「ねぇ、お姉ちゃん達がお父さん探してあげよっか?」

少女「ほんと!? ちはやちゃんも!?」

千早「ええ。私と、このお姉ちゃんよ」

少女「わぁ…ありがとう、ちはやちゃん!」

春香「私は…?」

春香「…まぁ、いっか。それじゃ、行こう」

少女「うん!」

スタスタ…


178『ある日の風景』2014/05/10(土) 01:53:05PM8tbh/U (15/29)

タッタッタ

大海「お待たせ、タクシー呼んできましたよ!」

大海「…あれ? 春香ちゃーん、千早ちゃーん?」キョロキョロ


179『ある日の風景』2014/05/10(土) 01:54:20PM8tbh/U (16/29)

春香「さて、どうしようか…」

千早「無闇に捜しまわるよりも、この子から情報を聞いておいた方がいいんじゃあないかしら」

春香「それもそっか。ねぇ、質問していいかな?」

少女「しつもん?」

春香「えっと…ききたいことがあるんだけど、いい?」

少女「なに?」

春香「お父さんってどんな人?」

少女「アイドルがだいすき!」

春香「へぇ、そうなんだぁ…まぁ、そうだよね…」

春香「じゃないじゃない、えーと…今日はどんな服着てたの?」

少女「あおくて、ひらひらしたふく! とってもかわいかったの!」

春香「え…」

千早「春香、この子が言っているのは今日私が着ていた衣装のことよ」

春香「あっ、そういえば…」


180『ある日の風景』2014/05/10(土) 01:55:57PM8tbh/U (17/29)

春香「えーと…あ、そうだ」

少女「?」

春香「あなたの、おなまえは?」

少女「………」

少女は少し考えてから、千早を指差す。

少女「ちはやちゃん!」

千早「…警察に引き渡しましょう、春香。私達の手には負えないわ」

春香「ひ、引き渡すってそんな犯罪者見たいに…」

千早「話がまともに通じないわ。これでは父親の手がかりすらわからない」

春香「わ、わからなくてもなんとかなるって!」

千早「高槻さんやあずささんならば、こういう小さい子の相手は慣れていたのでしょうけど…」

春香「ちょっと、千早ちゃん! 私だって、765プロのお姉ちゃん役として立派にやってるんだから!」

千早「…え?」


181『ある日の風景』2014/05/10(土) 01:56:58PM8tbh/U (18/29)

春香「そう言えば…千早ちゃんもお姉ちゃんだったんだよね?」

少女「おねえちゃん?」

春香「あっ…ち、千早ちゃん、ごめん!!」

少女「ちはやちゃん、おねえちゃんなの?」

春香「え、えっと…」

千早「いいわ、春香。そんなに気を遣わなくても」

千早(優…交通事故で亡くなった弟のことは、忘れることはないけれど…もう、あまり気にしてはいない)

千早(彼がどうなっていても…きっと私は、歌の道を選んでいたでしょうから)

春香「あ、そうなんだ。あのね、千早ちゃんには優くんっていう弟さんがいてね、それから…」

少女「ふーん…」

千早「春香…」

………

……




182『ある日の風景』2014/05/10(土) 01:58:55PM8tbh/U (19/29)

春香「あの人は?」

春香が、通行人の男性を指差す。

少女「………」フルフル

少女は悲しそうな表情で目を瞑りながら、首を横に振った。

千早「駄目ね…やはり手がかりなしで人を探すなんて、無謀だったわ」

少女「おとうさん、もうかえっちゃったのかな…」

春香「そんなことないよ!」

千早「こうまで捜しても見つからないということは…」

春香「ち、千早ちゃん!」

千早「交番で待っているんじゃないかしら」

春香「へ?」

千早「いくら所内が忙しいと言っても、子供を捜す親にとっては関係のないことでしょう」

春香「あ、そっか…! あはは、なんだ! 私、てっきり…」

千早「てっきり、何かしら…?」

春香「ううん、なんでもない!」


183『ある日の風景』2014/05/10(土) 02:00:18PM8tbh/U (20/29)

少女「おとうさん、こうばんにいるの?」

春香「うん、いるいる! 絶対いる!」

少女「じゃあ、なんでここまできたの? ちかくにこうばんあったのに」

春香「うぐっ!」

千早「ごめんなさい。このお姉ちゃん、ちょっとドジなの」

春香「ち、千早ちゃんっ!?」

少女「へー、はるかちゃん、ドジなんだー」

春香「ああ、私のかっこいいトップアイドルのイメージが…」

千早「え?」

春香「もう、さっきから何、千早ちゃん!」

千早「いえ…行きましょう」


184『ある日の風景』2014/05/10(土) 02:02:33PM8tbh/U (21/29)

少女「あおい~とり~♪」

春香「機嫌良さそうに歌っちゃって…」

千早「お父さんに会えるとわかったからじゃあないかしら」

春香「それもそうだけど…本当に、千早ちゃんの歌が好きなんだね」

千早「ふふ…そうね」

春香「千早ちゃん、嬉しそうだね」

千早「誰かにそう思ってもらえるというのは、素直に嬉しいものよ」

少女「あのそ~らへ~♪ わ~た~しは~とぶ~♪」

少女は踊るようなステップで、横断歩道の白線を進んでいく。

千早「………」チラ…

千早「…!! 止まって!!」

少女「え?」

ゴォォォォォォ

千早が何気なく目を向けた右方向から、大型トラックが突っ込んできていた!


185『ある日の風景』2014/05/10(土) 02:03:56PM8tbh/U (22/29)

春香「きゃああっ!?」

ドライバーから見て、信号はちょうど赤になったところだったが…

「お…やっぱりだ、アイドルの天海春香と如月千早だ。この辺でライブやってたんだっけチクショー」

トラックのドライバーが春香達の存在に気をとられ、信号の変化に気づいていなかったのだ!

春香「お嬢ちゃ…!」

千早「」スッ

飛び出そうとする春香を、千早が手で静止する。

春香「え? 千早ちゃ…」

春香の足が止まる前に、千早は自ら道路へと飛び出した!

春香「ち…千早ちゃん!?」

「ま、まずい! ブレーキを…」

前方に子供がいると気づいた運転手が慌ててブレーキを踏むが、車体は止まらない。


186『ある日の風景』2014/05/10(土) 02:06:04PM8tbh/U (23/29)

少女「ちはやちゃん!」

千早「大丈夫…」ニコッ

ギュッ

千早は微笑んでから、少女を腕の中に抱きしめる。

ズズズ

千早「『ブルー・バード』」

千早の正面に、ちょうど少女と同じくらいの背丈をした、仮面をつけたスタンドが現れる。

千早(私のスタンドは…成長の度合いによって複数の形態を使い分けることが出来る)

千早(これは最初の形態、『ブルー・バード』…能力は『重量』を…『奪い』、『与える』こと)

ビュン

ズダッ!!

『ブルー・バード』がトラックに飛びつき、両手で車体を真っ向から押す。


187『ある日の風景』2014/05/10(土) 02:09:18PM8tbh/U (24/29)

千早「………」ググ

ズリッ

春香「『ブルー・バード』は『重く』なればなるほど『パワー』が上がるスタンド…『重く』して止めるつもりなの…?」

ゴゴゴゴゴ

春香「無茶だよ、千早ちゃん…! そこから『重く』しても、トラックを止めるほどの『パワー』にするには間に合わない! 止められないよ!」

千早「いいえ、春香。私は止めようだなんて、まったくこれっぽっちも考えていないわ」

千早「逆よ。トラックに触れているのは、私達の『重量』を『与える』ため」

ゴゴゴゴゴ

千早「トラックが動けば風が動く…」

フワ…

ビュゥゥゥッ

ビニール袋が風に飛ばされるように、千早と少女の体が飛んでいった。

少女「わ…」

千早「どんな力も、空気を掴むことはできないわ」


188『ある日の風景』2014/05/10(土) 02:15:53PM8tbh/U (25/29)

………

……



春香「ふぅ、あやうく大騒ぎになるところだったね」

千早「無事だったからと、ドライバーは帰したけれど…あれでよかったかしら」

少女「………」

春香(この子、静かになっちゃったね…)

千早(無理もないわ…とても怖い思いをしたでしょうから)

春香「あ…交番が見えてきた」

「!」

中にいた警官が、こちらに気づいて走り寄ってくる。

「もしかして、迷子の子ですか?」

千早「ええ、父親を捜しているのだけれど」

「いやー、タイミングがいいんだか悪いんだか…」

春香「?」


189『ある日の風景』2014/05/10(土) 02:23:22PM8tbh/U (26/29)

「娘を捜してるっていうお父さんが来てまして…ついさっき、捜しに行ってしまったんですよ」

春香「あちゃぁ、入れ違いになっちゃったんですね」

「結構歳いってるオジサンだったんですけど…こんな小さなお子さんだったんですねぇ、意外だなぁ」

少女「おとうさんだ!」

千早「そうなの…? 見たことないから私からはどうとも言えないけれど…」

春香「これで一安心かな…?」

「じゃ、あとは任せておいてください。…ところで、あなた達…どこかで見たような…」

春香「それじゃ、私達はこれで! 失礼します!」

「へ? ああ、はい。ご協力ありがとうございました」

スタスタ

少女「あ、あの…!」

春香「?」クルッ

少女「ありがとう! またね、おねえちゃん!」

千早「!」


190『ある日の風景』2014/05/10(土) 02:26:17PM8tbh/U (27/29)

春香「いやぁ、いいことすると気持ちいいね!」

千早「………」

春香「それにしても、千早ちゃんが道路に飛び出した時にはびっくりしたよ」

千早「………」

少女『またね、おねえちゃん!』

千早(お姉ちゃん、か…)

春香「…千早ちゃん? どうしたの?」

千早「いえ、なんでもないわ」

春香「そう?」

千早(まぁ、春香に言ったのかもしれないけれど。ああ呼ばれるのは…随分と久しぶりだわ)


191『ある日の風景』/おわり2014/05/10(土) 02:27:56PM8tbh/U (28/29)

春香「ねーねー千早ちゃん、帰りにスイーツ食べていかない? ちょっと行ってみたい場所があって」

千早「もう…いいわ、付き合うわよ」

春香「えへへ…やった、千早ちゃん大好き!」

千早「…ところで春香」

春香「ん、なに?」

千早「何か忘れているような気がするのだけれど…心当たりない?」

春香「あ」

千早の言葉に、春香は何かに気づくと、鞄の中から携帯電話を取り出す。

春香「あー…」

画面を見て、頭に手を置いた。

………

大海「………」ポツーン

「なぁ、姉ちゃんよぉ。あんたの言うアイドルの娘達ってのは、いつになったら来るんだい?」

大海「うぅ、春香ちゃーん…千早ちゃーん…」

To Be Continued...


192>>12014/05/10(土) 02:29:06PM8tbh/U (29/29)

スタンド名:「ブルー・バード」
本体:如月 千早
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:E~A スピード:B 射程距離:C(12m) 能力射程:C(12m)
持続力:E 精密動作性:E 成長性:C
能力:「ブルー・バード」のもう一つの姿。千早の身長に対し、非常に小柄な姿をしている。
触れた物体の「重量」を「奪い」、あるいは「与える」ことができる。
「重量」は本体である千早と連動しており、「奪う」ことで物体を軽くすれば、体重は千早に加算される。その逆も可能。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ


193以下、名無しが深夜にお送りします2014/05/10(土) 07:17:569chkTCTw (1/1)

乙!


194以下、名無しが深夜にお送りします2014/05/11(日) 01:08:53lmpO.NWY (1/1)

乙乙!


195>>12014/05/16(金) 23:43:03I0V4Xi3o (1/1)

多分今週無理です
来週に…できれば2週分投下します


196以下、名無しが深夜にお送りします2014/05/17(土) 07:23:282GlhNnXc (1/1)

待ってる


197>>12014/05/23(金) 22:16:00yq16GHdw (1/27)

前回までのあらすじ

大方の予想を覆し、優勝候補、魔王エンジェルの一人・東豪寺麗華(71)を下した765プロの歌姫・如月千早(72)!

敗れていった仲間達のため、共に歩んで来た高槻さんのため、そして、天国の弟に届けるため…千早は、必ず優勝すると、決意を新たにするのだった!

しかし、そんな千早の前に立ちはだかったのはCGプロの刺客、脅威の超大型アイドル及川雫!

千早と同年齢にして、その差なんと33cm! 圧倒的存在感を持つ雫の前に、圧され気味の千早!

しかし負けてはいられない! 天国から弟が見ている! 観客席からも、高槻さんが見ているぞ!

すでに色々負けているような気もするが、それでも頑張れ如月千早! 

負けたらプロデューサーのセクハラ地獄が待っている!


198『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:17:03yq16GHdw (2/27)

千早(876プロで『弓と矢』を発見した、水谷さんの誕生会)

千早(私と春香の、迷子の父親捜し…ちょっとした事件が続いた後)

千早(私達の身の身の回りでは、しばらく何もない…いつも通りの日々が続いていた)

千早(そう、何もない。けれど…それは、私達がそう思っていたというだけで──)

千早(私達が、何も気づいていなかったというだけで)

千早(本当は、もう既に…異変は始まっていた…)


199『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:18:23yq16GHdw (3/27)

~765プロ 二階 事務室~

ガーッ

デスクの引き出しを開ける。

伊織「『弓と矢』事件…」

伊織「高木社長によって765プロに持ち込まれた『弓と矢』を春香が手にし、765プロのアイドルを全員『スタンド使い』にした」

伊織「他のアイドル達は、『スタンド使い』を生み出す『弓と矢』の存在を危険視していた…」

伊織「けれど、春香は自分のスタンド『アイ・ウォント』…そして、『矢』の力でそれを押さえ込もうとした」

伊織「しかし、765プロのみんなで春香に立ち向かい、最終的に『アイ・ウォント』と『弓と矢』は消滅した」

伊織「…この、そもそもの発端…『弓と矢』…」

伊織「それを持ち込んだ、高木社長…『弓と矢』によって死んだということになっているけど…」

ゴソゴソ…

伊織「あったわ。これもそうみたいね」スズッ

誰もいない事務室のデスクの中から二冊ほどのファイルを取り出し、机の上に並べる。


200>>12014/05/23(金) 22:20:18yq16GHdw (4/27)

いきなり変だ…修正

>デスクの引き出しを開ける。
誰もいない事務室に、デスクの引き出しが開く音が響く。

>誰もいない事務室のデスクの中から二冊ほどのファイルを取り出し、机の上に並べる。
デスクの中から二冊ほどのファイルを取り出し、机の上に並べる。


201『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:22:28yq16GHdw (5/27)

伊織「ああ、つっかれた…ったく、伊織ちゃんにこんな苦労かけさせるなんてひどい事務所よね」

伊織「移転前の事務所は社長室があったみたいだから、そこを探せばよかったけど…」

伊織「人もいないくせに、無駄に広いのよねぇこの事務室…」

伊織「机もこんなに並べちゃって。ちょっと探すだけでも、面倒ったらありゃしないわ」

伊織「まぁ、いいわ。これで…高木社長の遺した資料は全部かしら」

机の上に手を伸ばし、一冊のファイルを手に取る。

伊織「と言っても、量はそんなにないわね」パラパラ

伊織「社長の葬式の時に処分されたのと、真が前の事務所をブッ壊した時にほとんどなくなっちゃったみたい」

伊織「っと、前の事務所が壊れた件はこの伊織ちゃんにも、責任がちょっと…ほんの少ーしはあるらしいわね」パサッ

適当に目を通し終わると、ファイルをまとめて一カ所に積み上げる。


202『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:23:35yq16GHdw (6/27)

伊織「中身は、何の変哲もない。アイドルについての資料ばっかり…」

伊織「こんなもの、調べたところでなにかわかるとも思えないけど」スッ

伊織「よいしょっと」ヒョイ

机の上に積み上げられたファイルを、両腕でまとめて持ち上げた。

伊織「まぁ、いいわ。誰か来る前に運んじゃいましょ」

キィ…

スタスタ…

事務室の扉を開き、廊下に出て、資料を運び始める。

ゴゴ…

その後ろから、影が一つ近付いてくる…

ゴゴゴ…

??「伊織」

伊織「ひっ…!?」ビクゥッ

パサ バサッ

背後からの声に驚き、持っていたファイルが、手からこぼれ落ちる。


203『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:24:56yq16GHdw (7/27)

貴音「あ…と、申し訳ありません」

伊織「誰よ…って、なんだ、貴音じゃない。脅かさないでよ…」

貴音「そこまで驚かれるとは、思っておりませんでした…声をかける時には、もう少し気をつけた方がいいようですね」

伊織「まったくよ、もう…」

貴音「して、伊織…」チラッ

貴音が、床に散らばったファイルに目を向ける。

ドドドド

貴音「これは…」

ドドド

伊織「何? どうかしたの?」

貴音「…伊織。貴女は、何をしているのでしょうか?」

伊織「…調べものよ。ちょっと、気になることがあって」


204『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:27:35yq16GHdw (8/27)

貴音「調べもの…ですか」

伊織「そうよ。どうでもいいけど、拾ってくれる、これ?」

貴音「………… …何故、私が?」

伊織「何故って、アンタね…アンタのせいで落としたんだから…」

貴音「………」

伊織「貴音?」

貴音「伊織、昨日は何をしていました?」

伊織「いきなり何よ。昨日?」

貴音「…答えてください」

伊織「昨日は、営業に出かけてたわよ。結果は…あんまり話したくはないわ」

伊織「事務所に帰ってきた後、マネージャーの大海にジュース買って来るよう命令したら、春香と間違えちゃった。まぁ、そのまま買いに行かせたけど」

貴音「なるほど。そのようなことがあったのですか」

伊織「なんだったら、春香に聞いてもいいけど?」


205『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:28:30yq16GHdw (9/27)

貴音「では、先週は?」

伊織「…何? さっきから。ちょっと変よ、アンタ…」

貴音「質問に答えてください」

伊織「答えろったって、一週間前のことなんていちいち覚えてないわよ」

貴音「覚えてない? 本当に、覚えていないのですか?」

伊織「だから、そう言ってるじゃない」

貴音「なるほど、そうですか…覚えていない…ふふ」

伊織「…何なの? マジにおかしいわよ、アンタ…どうしたの?」

伊織「そんなことより、そこの書類拾って…」

貴音「『フラワーガール』」ヒュッ

伊織「は?」

ピッ

指先が、鼻の頭を掠めた。


206『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:29:18yq16GHdw (10/27)

タラ…

薄皮が切り裂かれ、血が滲む。

・ ・ ・ ・

伊織「………え?」

ドドドドド

貴音「………」

ドドド

貴音の身体から、下半身が『花』になったスタンドが出現していた。

伊織「な…貴音、今…何したの、アンタ…」

貴音「『フラワー…」ジリ…

伊織「…!!」バッ

咄嗟に、床に落ちているファイルを一冊拾い上げる。


207『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:30:15yq16GHdw (11/27)

伊織「やっ…!」

バサァ!!

貴音「…!」

貴音の顔に向かって投げつけた。

パサァ…

床に落ちる。

貴音「………」

伊織「」タッタッタ

貴音が怯んだ隙に、全速力でその場から逃げ出していた。

ゴゴ

貴音「…伊織…」

ゴゴゴゴ


208『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:30:49yq16GHdw (12/27)

タッタッタッタッ

伊織「はぁ、はぁ、な…」

伊織「なんで! なんで貴音が私を襲ってくるのよッ!!」ピト

スッ

指を鼻の頭に這わせてから、目の前に持ってくる。

伊織「血が…出ている…程度の問題じゃあないわ、仲間を襲うなんて…もう冗談じゃ済まされないわよッ!」クルッ

振り返って、廊下の奥の方を見た。

貴音「………」ツカツカ

貴音が、ゆっくりと歩いている。

伊織「まだ近い、ヤバい、来る…」

伊織(貴音のスタンド、『フラワーガール』は…)

伊織(強烈な『パワー』、目にも止まらぬ『スピード』、『正確な動き』…そして20m近くまで届く長い射程距離を兼ね揃えたスタンドッ!)

伊織(少なくとも、射程距離の半分…10mは離れないと危険ッ! それでもまだ安全とは言えない!)


209『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:32:00yq16GHdw (13/27)

伊織(けど、弱点はある…)

伊織(『フラワーガール』は強力なスタンドだけど、その代わりに燃費がとても悪い…スタンドを出しているだけでどんどん体力を消費していく)

伊織(なんとか攻撃をやりすごしていれば、勝手に倒れてくれるわ)

伊織「やり過ごす、か…もしも『フラワーガール』がこっちに近付いてきたら…やるしかないか…」

貴音「………」ス…

伊織「ん…?」

伊織(どうしたのかしら? スタンドを仕舞ったわ)

伊織(出しっぱなしだと体力は消費するけど、出さなければ私にスタンドを近づけて攻撃することもできないのに…)

貴音「………」

伊織「まぁ、いいわ。今のうちに離れておき…」

ヒュ

花の部分がドリルのように鋭く尖った『フラワーガール』が、『弓』から放たれた『矢』のように飛んでくる。

伊織「ましょ…!?」


210『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:33:12yq16GHdw (14/27)

ゴォォ

伊織「きゃ!?」バッ

その場に伏せて躱す。

ォォッ

スゥ…

伊織の横を通り過ぎると、『フラワーガール』の体が消えた。

伊織「な、何よ、今の…」

伊織「『フラワーガール』を飛ばしたの? この距離を、スタンドを出してない状態から…」

伊織「飛んでくるまで、何の前触れもなかった! 日本刀の『居合い抜き』のように鋭い一撃…!」

伊織「貴音はあまり目がよくない。この距離じゃあ正確に捉えることはできない…真っ直ぐ飛ばすしかないみたいだけど」

伊織「こんなのが飛んでくるなら射程距離の外…20m以上離れなければ安全じゃあないわ!」

貴音「………」

伊織「考えてる時間は…」

ヒュ

伊織「ないみたいね…!」


211『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:34:27yq16GHdw (15/27)

伊織「」バンッ!

近くにある部屋のドアを開く。

ポンッ

部屋の中から、貴音に向かって何か丸い物体が飛んできた。

貴音「!? 『フラワーガール』」

キキィッ

ガシッ

突っ込む『フラワーガール』にブレーキをかけ、体勢を整えながらその物体を掴む。

貴音「…これは…」

リンゴだ。

伊織「」タッタッタ…

貴音「…はて」ス

貴音はその逃げる後ろ姿を見送りながら、リンゴを一口かじろうとして…

貴音「………」

口元から離した。


212『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:37:23yq16GHdw (16/27)

伊織「はぁ、はぁ…」トットットッ

伊織「誰か…誰かいないの…?」

真「! 伊織?」

階段から降りていると、踊り場に真が立っていた。

伊織「真! はぁ、ちょうどよかったわ…」

真「どうしたのさ、そんなに慌てて」

伊織「貴音がおかしいのよ! 突然、『フラワーガール』で私に襲いかかってきたりして…」

真「スタンドで襲いかかってきただって…? 貴音が? そんな馬鹿な…」

伊織「この伊織ちゃんこんな冗談言うヤツだと思ってんの!?」

真「お、思ってないって。何があったの?」

伊織「私にだってわからないわよ! 私が一週間前何をしていたか答えられなかったら、突然…」

真「それは…奇妙だなぁ。そもそも、何か理由があっても貴音が伊織のことを襲ったりするなんて…」

伊織「奇妙でもなんでも、事実、私は貴音に襲われているのよ…真、なんとかして」

真「…え? 貴音の『フラワーガール』と戦えって…? どっちも、無事じゃあ済まないよ…」


213『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:38:57yq16GHdw (17/27)

伊織「………」

真「…伊織?」

伊織「あのさ、ちょっと気になったんだけど…どうでもいいことかもしれないけど」

伊織「貴音貴音って、貴音のこと『貴音さん』って呼んでなかった? アンタ」

真「え… ………」

ゴゴ ゴゴゴゴ

真「あ…」

真「ああ、そうか。そうだったね…」

グッ

真が、拳を握りしめる。


214『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:40:18yq16GHdw (18/27)

伊織「ま、別になんでもいいけど。それより、貴音はすぐにでも来るわ」

伊織「さっさと準備して、真」

真「…ああ。『ストレイング・マインド』」

ピキ ピキピキ

氷が熱で割れるような音とともに、真の手足の先から黒い結晶が現われ、全身を覆っていく。

伊織(真のスタンドは、全身に纏う黒い『鎧』)

伊織(能力は触れたものを『固く』すること。『固く』なったものはガラスのように割れやすくなる…)

伊織(身に纏うスタンドだから、射程距離はないに等しいけど…『パワー』は765プロの中でも最強、その腕で殴られれば…)

真「オラァッ!!」ゴォッ

伊織(何だろうと、コナゴナに…)

伊織「え…」

バッリィィィィィン!!

伊織の背後の壁に、大きな穴が空いた。


215『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:41:29yq16GHdw (19/27)

真「………」

パラパラ

拳を引っ込めると、破片が真の腕から落ちる。

伊織「じょ…冗談、でしょ…?」

真「………」

伊織「真、アンタも…なの…?」

ザッ

伊織「う…!」

ドドドドドド

貴音「………」

伊織「だ…誰か…」

伊織「誰か…! 助けて…」

真「誰か、だって…? おいおい…」

貴音「これはまた、妙な事を言うものですね」


216『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:42:19yq16GHdw (20/27)

伊織「誰もいないの!? た、助けて…!!」

真「うるさいっ!」

伊織「!!」ビクッ

伊織「ま…真…貴音…冗談でしょ…? まさか、アンタ達…私を…」

貴音「伊織」

伊織「な、何…?」ブルブル

貴音「貴女は、高木社長の資料を調べると言った…先週も、同じ事をしていましたよね」

伊織「え…!?」ギクッ

貴音「…やはり、覚えていないのですね」

伊織「ちょ、ちょっと待って…『先週』? ですって…この伊織ちゃんが…?」

真「ボクが、貴音のことを『貴音さん』と呼んでいたと…そう言ったよね? それは合ってる」

真「でも、この前キミにも話したろう? 『貴音』って呼ぶことにしたって。いつまでも『貴音さん』じゃあ他人行儀だからね。そう呼ぶようになった」

伊織「は…え、あ…」


217『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:43:18yq16GHdw (21/27)

真「単に忘れてしまったのか…あるいは、何者かのスタンド攻撃で記憶が混乱しているのか…」

真「とも思ったけど…まだ、気になることがあるんだよ」

伊織「気になることって…なにが?」

貴音「私達に襲われているという、この状況です」

伊織「そ…そうよ! 『フラワーガール』に『ストレイング・マインド』…そんな強力なスタンドで私をよってたかって…」

伊織「アンタ達、おかしいわよ!」

真「ああ、おかしいね」

真「…それで、どうしてキミはそんなおかしい状況を自分でなんとかしようとしない?」

伊織「え…」

ドドドドド ドドド

貴音「伊織はかつて…疲れ果てていようとも、私が倒れようとも、それでも敵に挑んで行きました」

真「ああ、ボクがまともに戦えない状態にあった時…体もボロボロだってのに、それでも一人でも戦おうとした」

伊織「あ、あの時と今とじゃ、状況が違うわ…」


218『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:44:20yq16GHdw (22/27)

真「そして、これが一番重要なことだ」

伊織「………」

真「キミは、『どうして、「スモーキー・スリル」を出さない』んだ?」

伊織「………………」

真「出せば、ボクの攻撃から身を守るくらいはできるだろう?」

伊織「ア…アンタ達を…傷つけたくなかったから…」

真「『スモーキー・スリル』は『気体』のスタンドだよね?」

真「ボクの『ストレイング・マインド』と違って、間違えて傷つけるなんてことはないと思うけど?」

伊織「それは…違う、えーと…」

真「第一、伊織だったら…ボク達が相手だろうと、間違ったことをやっていれば容赦はしないはずだ」

伊織「だ、だって…」

貴音「先週、私とぶつかってしまった伊織は、同じように資料を床に撒いてしまっていた」

貴音「ですが、私の手など借りず、そちらの方が手っ取り早いからと…自分で拾っていましたよ」

貴音「…『すもぉきぃ・すりる』で」

伊織「………」


219『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:46:00yq16GHdw (23/27)

真「ちょっとした違和感だった。間違っていれば、すぐにでも謝るつもりだった」

真「でも…こうして話しているだけでも、疑惑はどんどん膨らんでいく…」

ドドドド

伊織「………」

真「伊織! 『スモーキー・スリル』を出せ!」

ドドドドド

真「出せば、こんな馬鹿な真似は…ああ、馬鹿な真似だ! すぐにでもやめるさ!」

ドドド

伊織「………」

真「ボク達のスタンドの知識はあるんだろう? 自分のスタンドだけ『忘れている』ってことはないだろう?」

伊織「………」

真「………伊織」


220『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:46:43yq16GHdw (24/27)

貴音「真。もう、いいです」

真「貴音」

貴音「茶番はもう、終わりにしましょう」

貴音「私の『フラワーガール』が見えるということは、貴女は間違いなく『スタンド使い』でしょう」

貴音「ですが…これは、なんしょうか?」スッ

真「貴音、それは…?」

貴音が取り出したのは、先程投げられたリンゴだった。

しかしその皮は緩みきって、剥かれたミカンのように果肉が剥き出しになっていた。

貴音「これは、貴女のスタンドが起こした現象でしょう…『すもぉきぃ・すりる』には、このような能力はない」

貴音「結論を言います。『貴女は、水瀬伊織ではない』」

伊織「………」

貴音「そうですね?」

伊織「………………」


221『或ル日ノ風ケイ』2014/05/23(金) 22:48:20yq16GHdw (25/27)

伊織「」スッ

左手に持っていたうさぎのぬいぐるみを、右手に持ち直す。

伊織「ねぇ、聞いてくれる…? こいつら、さっきから変なことばっか言うのよ…」

そして、無邪気な子供のように遊び始めた。

真「ふざけてるのか、おまえっ!!」

伊織「はぁ…」

真「!」ゾク

突如、伊織と同じ姿をした…彼女の雰囲気が変わった。

ゴゴゴゴゴゴ

伊織「………」

冷たく鋭い視線が、真と貴音を射抜く。

真(これは、『敵意』…?)

真(半年前、『弓と矢』で事務所を支配しようとした春香と同じような…いや、それ以上の純粋な『敵意』…)


222『或ル日ノ風ケイ』/おわり2014/05/23(金) 22:49:15yq16GHdw (26/27)

ゴゴ

真「キミは…」

伊織「………」

真「キミは…誰だ?」

伊織「そんなに…知りたい? 私が何者なのか、そんなに知りたいわけ?」

ゴゴゴ ゴゴゴ

伊織「『リゾラ』」ズ

ズ ズ

伊織と同じくらいの身長をした、サンバイザーをつけた人型のスタンドが姿を現した。

ゴゴゴ

真「やっぱり…『スモーキー・スリル』じゃあ…ない」

他のあらゆるスタンドと同じように透けてはいるが、その身体は『気体』では…『煙』のスタンドでは、ない。

伊織「どいつもこいつも…なんでわざわざ知らなくていいことをわざわざ知りたがるんだか…」

伊織「知ってどうすんのよ? 私に倒されるしかないアンタ達がさァァ~ッ」

ゴゴ ゴゴゴゴゴゴ


223>>12014/05/23(金) 22:51:12yq16GHdw (27/27)

スタンド名:「フラワーガール」
本体:四条 貴音
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:A スピード:A 射程距離:C(19m) 能力射程:C(19m)
持続力:E 精密動作性:A 成長性:完成
能力:高い戦闘能力と、それに見合わぬ非常に広い射程距離を持つ貴音のスタンド。
精神力と共に、貴音自身の体力をスタンドパワーへと変換することができる。
しかし、その消費量は激しく、「フラワーガール」を出しているだけで貴音のエネルギーは著しく消費されていく。
「エネルギー」供給が尽きると花は枯れ、「つぼみ」へと戻ってしまい、また本体である貴音も力を使い果たし倒れてしまう。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

スタンド名:「ストレイング・マインド」
本体:菊地 真
タイプ:近距離パワー型・装着
破壊力:A スピード:A 射程距離:なし 能力射程:D(5m)
持続力:B 精密動作性:D 成長性:D
能力:黒い鎧を身に纏い、全身を守るとともに、高い身体能力をさらに引き出す真のスタンド。
触れたものを「固く」して壊れやすくし、あらゆる物体をその拳で粉砕する。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

2週分は無理でした、ごめんなさい


224以下、名無しが深夜にお送りします2014/05/24(土) 06:54:30X3MnMmDk (1/1)

おつ!


225以下、名無しが深夜にお送りします2014/05/24(土) 22:57:02gJQg8l7c (1/1)

一体どうなってんだよ乙


226>>12014/05/31(土) 00:54:46d52X7c9Y (1/21)

前回までのあらすじ

ついにアイドルトーナメントの第二戦が開幕!

その種目は、最悪の水着対決! 千早と雫の実力差が際立つ!

悲しき対決の火蓋は落とされ、ステージではB105の超大型がばいんばいん揺れる!

千早が取った作戦は…小細工なしの真っ向勝負!? プロデューサーの真意とは…?

心折れても膝折るな、立って戦え如月千早!

負けたらプロデューサーのセクハラ地獄が待っている!


227『リゾラ』その12014/05/31(土) 00:55:56d52X7c9Y (2/21)

伊織「『リゾラ』…」

ドド ドドド

真「どことなく『南国』っぽい感じのスタンドだね…」

貴音「一つはっきりしているのは、このスタンドは『すもぉきぃ・すりる』ではない。つまり…」

真「こいつは、伊織じゃあない…」

伊織「………」

真「おまえは、何者だ!?」

伊織「さっきから、『誰』だの『何者』だの…」

伊織「いいわ。なら教えてあげる、私は…」

真「…!」

伊織「水瀬伊織よ。水瀬財閥の長女」

真「…は?」


228『リゾラ』その12014/05/31(土) 00:57:20d52X7c9Y (3/21)

伊織「両親は健在。兄が二人。お父様もお兄様達も、尊敬はしてるわ」

伊織「好きなものはオレンジジュースかしら…果汁100%のやつね。炭酸はダメ、ピリピリして口に合わないわ」

伊織「他は、旅行。色々な国の景色や文化に触れるのは好きよ。すぐ近所では手に入らないものだから」

伊織「宝物は、このぬいぐるみ…おべっか使う他人と違って、この子は普通に接してくれた。名前は…そう簡単に他人に話したりはしないわ」

伊織「アイドルを始めた理由は…まぁ、この美しさを放っておくのって世の中にとって損じゃない?」

真「なんだ…何をベラベラと…」

伊織「自己紹介だけど? アンタ達が、『誰?』なんて言うから」

真「自己紹介って…お前が言ってるのは…それは、伊織のことだろう!?」

貴音「貴女が水瀬伊織ではないのはとうにわかっています」

真「ボク達が聞いているのは、おまえのことだ! おまえは誰かと聞いているッ!」

伊織「はぁ。だから…」フルフル

首を横に振る。


229『リゾラ』その12014/05/31(土) 00:58:45d52X7c9Y (4/21)

伊織「私は正真正銘、伊織ちゃんだっての」

真「違う、おまえは伊織じゃない」

伊織「いいえ、私は水瀬伊織」

イオリ「…そう。私が本物の、水瀬伊織になる」

・ ・ ・ ・

真「『なる』…? なるって言ったのか、おまえ」

イオリ「確かにアンタ達の言う通り、私は以前この事務所にいた水瀬伊織じゃあないわ」

貴音「これはまた、面妖な表現をするものですね」

イオリ「でも…これからは私が、水瀬伊織として生きる。それだけの話よ」

真「伊織に成り代わる気か…? そんなこと、不可能だ」

イオリ「そう? 結構いけると思うけど」

真「いけるって? どこが。こうして、ボク達にバレてるだろう」

イオリ「はぁ、よく言うわ。この『一週間』…ずっと私のことに気づかなかったってのに」

真「は…」


230『リゾラ』その12014/05/31(土) 01:00:15d52X7c9Y (5/21)

イオリ「何よ、その顔。まさか、私がついさっき、ここに来たばかりだなんて思ってたの?」

ゴゴゴゴゴ

真「なんだって…『一週間』?」

真「おまえは一週間前から、伊織と入れ替わっていたっていうのかッ!?」

イオリ「ええ、そうよ。何も気づかずマヌケ面してるアンタ達と、仲良く仕事してましたァ~」

イオリ「貴音、アンタだってそうよ。さっきまで、私の…水瀬伊織の異変に、全く気づいていなかったんでしょう?」

貴音「それは…」

真「けど! ボク達は気づいた! お前の記憶の綻びから!」

イオリ「ええ、それは失敗だったわね。ちょうど入れ替わった時に、そんな出来事があったなんて知らなかったのよ」

ドドドド

イオリ「それ以前なら、水瀬伊織の記憶は全部ある…ボロを出すことはないわ。そのはずだった」

真「記憶は全部ある…どういうことだ? おまえが伊織の記憶を持っていると?」

貴音「それが本当だとして何故、一週間前の記憶だけがないのです?」

イオリ「アンタ達が知る必要はないわ」


231『リゾラ』その12014/05/31(土) 01:01:24d52X7c9Y (6/21)

イオリ「そう、アンタ達は私の『正体』を知ってしまった」

ゴゴ

イオリ「でも…逆に言えば、真、貴音。アンタ達二人を始末すれば…」

ゴゴゴゴ

イオリ「この事務所に、私のことを知るヤツはいない。そうでしょう?」

ゴゴゴ ゴゴゴゴ

イオリ「元々、そうするつもりだったし」

貴音「…私達も始末し、伊織と同じように偽物に成り代わらせるのでしょうか?」

イオリ「だから、話聞いてんの? それを知ってどうすんのよ、時間のムダだわ」

真「本気で言っているのか?」ググ…

パキ!

右手の人差し指を曲げると、鎧に覆われた指が鳴った。

真「ボクと貴音を始末できるなんて、本気でそう思っているのか?」パキパキパキ

指を手の内側に押し込んで握り込み、拳を作る。


232『リゾラ』その12014/05/31(土) 01:04:20d52X7c9Y (7/21)

イオリ「出来もしないことを…」スッ

イオリのスタンド『リゾラ』が、制止するように手を出す。

真「オラァッ!!」ゴォ

真は構わず、右腕で外側から大きく引っ掛けるように、目の前に立つイオリに殴り掛かった。

イオリ「得意気に言ったりしないわよ、この伊織ちゃんは!」

バンッ!!

真「!?」

突然『ストレイング・マインド』を被っている真の顔付近で、爆発が起こる。

真「な…なんだ、今のは…爆発した!?」

その衝撃に怯んで、真の拳が止まる。左手で頭を押さえた。

イオリ「」カン カン カン

その隙に、イオリが階段を駆け上がっている。

貴音「『フラワーガール』」ヒュオッ

貴音のスタンドが、一瞬にして距離を詰めた。


233『リゾラ』その12014/05/31(土) 01:05:08d52X7c9Y (8/21)

イオリ「うお…」

ヒュバ!!

左手で、イオリの喉元に向かって手刀を繰り出す。

イオリ「リ、『リゾラ』ッ!」バッ

イオリのスタンドがその前に立ちふさがった。

チリッ

ドスゥ

イオリ「ぐえっ!」

『フラワーガール』の一撃は『リゾラ』の手に掠り、その鎖骨あたりに突き刺さった。

真「スタンドへのダメージは、本体へのダメージ…スタンドが殴られれば、本体も同じ衝撃を受ける」

ギャァァン

『リゾラ』が、本体のイオリごと階段の上まで吹っ飛ばされる。


234『リゾラ』その12014/05/31(土) 01:07:16d52X7c9Y (9/21)

ドサァ!!

真「よし! 入った!」

貴音「いえ…」

イオリ「フゥー…」ムクッ

タタッ

イオリは地面に落ちてすぐに立ち上がると、真達から見て左側の廊下へと走り出した。

貴音「浅い…」


235『リゾラ』その12014/05/31(土) 01:08:07d52X7c9Y (10/21)

タタタ

イオリ「あの二人、どちらに気をつけるべきかと言えば貴音の『フラワーガール』ね…」

イオリ「体力を大きく消費するという弱点はあるけど…あのパワー、あのスピードであの射程距離…どうかしてるわね」

イオリ「でも…これで『半分封じた』」

イオリ「そして…」


236『リゾラ』その12014/05/31(土) 01:09:02d52X7c9Y (11/21)

カン!!

真が、階段に足をかける。

真「貴音、追いかけよう! あいつを野放しにするわけにはいかない」

貴音「ええ、わかり…」

トス

・ ・ ・ ・

貴音の身体が、左側にある手すりに寄りかかった。

真「さっきの『爆発』…あれが、あいつのスタンドの能力なのか…?」

真「………」

クルッ

貴音「………」ググッ

真が振り向くと、貴音は右腕で左手を押さえていた。

真「? どうしたの、貴音」


237『リゾラ』その12014/05/31(土) 01:09:43d52X7c9Y (12/21)

ダラン

真「………」

ゴ ゴゴ

貴音「左腕が…動かないのです…」

真「なんだって?」

貴音「腕の筋肉が『弛緩』して元に戻らない。力が…入らない」

真「ど、どうして…」

貴音「先程、『フラワーガール』の左腕があのスタンドの手に触れた…ような気がします」

貴音「恐らく、これがあの者の能力なのでしょう」

真「おいおいおいおい、ちょっと待ってよ」

真「じゃあ、さっきの『爆発』はなんだっていうのさ? 間違いなく、ボクは攻撃を受けた」

貴音「ええ、私も見ました…が、なんらかの方法で私の腕が『弛緩』されているのも事実」

真「スタンドは、一人一能力のはずだろう!? 千早の『ブルー・バード』だって、『奪い』『与える』という同じ能力!」

真「あいつは、二つの能力を使えるのか!?」


238『リゾラ』その12014/05/31(土) 01:10:56d52X7c9Y (13/21)

貴音「同じ能力、かもしれません」

真「同じ能力…どういう能力なら、こんな現象を起こせるんだ…」

貴音「どのような能力を持っていようと…」

貴音「彼女が私達を狙っていること…そして、彼女が765プロにとって『敵』であることに、変わりありません」

真「やるしかない、か…随分離れてしまったけど、伊織と同じくらいの身体能力ならすぐ追いつける」コッ

二人が、階段を上り始める。

真「『リゾラ』だったっけ? あのスタンドの情報が少なすぎる。そして、あいつの言ったことが本当なら…」

貴音「私達の能力は筒抜けでしょうね。二対一でも、有利ということはない…」

ズッ

・ ・ ・ ・

貴音の足下。階段から、二本の手が出現した。

貴音(一つ…わかっていることがあった)

ズオッ

手が、貴音の足を狙って襲いかかる。

貴音(わざわざ私達から離れるということは…『遠隔操作型』のスタンド…!!)


239『リゾラ』その12014/05/31(土) 01:12:34d52X7c9Y (14/21)

貴音「『フラワー…」

ガッ!

貴音「!」

スタンドを出す前に、両足を掴まれる。

真「え?」

貴音「真…」

真「た、貴音…」

貴音「今…攻撃されました。しかし、見ていなければこのような正確な動きはできない…」

貴音「あの者は、すぐそこにいるはず。私には構わず…行ってください」

ガクン!!

貴音の膝が折れる。

ガンッ!

ゴロン ゴロン

ドギャァァァア!!

そのまま力なく崩れ、体を階段に叩き付けながら下まで転がっていった。


240『リゾラ』その12014/05/31(土) 01:13:42d52X7c9Y (15/21)

ドドドドド

真「え…」

貴音「………」

真「」クルッ

真は貴音が転げ落ちる様を見ていたが、すぐに、階段の上に視線を移す。

ドドドド

イオリ「………」

真「お…おまえ… …ッ!!」

階段の上、柱の影に、イオリが立っていた。

イオリ「私のスタンド、『リゾラ』。その能力は『弛緩』…『緩ませる』こと」

イオリ「身体に触れれば、もう力を入れられない。足が『弛緩』すれば、立つことすらできない」

真「何をベラベラと…! 貴音に不意打ちを仕掛けたくせに、これで正々堂々のつもりか!?」

イオリ「別に。貴音の『フラワーガール』さえ潰せれば後はどうだっていいわ」


241『リゾラ』その12014/05/31(土) 01:16:01d52X7c9Y (16/21)

真「おまえを…ブッ倒すッ!」

イオリ「ハッ! そんなこと言う前にさっさとかかってきたら? だからダメなのよアンタは!」

真「」ダッ!!

『ストレイング・マインド』で向上した脚力で思い切り跳躍し、イオリに飛びかかる。

真「オラァッ!!」ドン

空中で真っ直ぐに拳を突き出す。

イオリ「そして、『ブッ倒す』…ね」

イオリ「残念だけど、アンタじゃあ無理よ、真。私の『リゾラ』には絶対に勝てない」スッ

真「!」ブルンッ

最小限の動きで、大振りの攻撃を避け…

イオリ「」サッ!

トン

空振った真の右腕に、『リゾラ』の左手が触れた。


242『リゾラ』その12014/05/31(土) 01:16:56d52X7c9Y (17/21)

真「!」ガクン

右腕が落ちた。

イオリ「スタンドへの攻撃は本体への攻撃! 『鎧』を纏っていようが関係ないわ!」

真「く…」

イオリ「右腕を封じた、こうなったらもうアンタはポンコツよ」

真「駄目だな、これじゃ…冷静になるべきか」パキッ

左手を握り込む。

イオリ「フン…」

イオリ(冷静になったところで…右腕を失えば、あとは左腕しかないでしょう? 片足を封じられたら、もう終わりだから)

イオリ(真のスピードは速い…でも、左腕で来るとわかっていれば充分避けられ…)

真「オラァッ」グオッ

バリィィン!!

真が左腕で、柱を殴った。

イオリ「!」


243『リゾラ』その12014/05/31(土) 01:17:26d52X7c9Y (18/21)

ヒュン ヒュヒュン

『ストレイング・マインド』の能力で『固く』なり、真の拳で砕かれた柱の欠片がイオリに向かって飛ぶ。

イオリ「そうか、『固く』した物体を殴り飛ばす『硬化散弾銃』…」

ゴォォォォ

イオリ「これがあったわね…!」ダッ

ゴロゴロ

横っ飛びして、転がりながら躱す。

真「」タンッ

イオリ「!」ムクッ

イオリが起き上がる前に、真が右足を踏み出している。

真「行くぞ『ストレイング・マインド』ッ!!」グッ

イオリ(左が来る…)


244『リゾラ』その12014/05/31(土) 01:19:06d52X7c9Y (19/21)

グイッ

イオリ「ん?」

真は右足を軸足に、左の腿を振り上げ、右側に身体を捻る。

真「『緩ませる』スタンドだって…?」

ガッ

サイドスローのピッチャーが投球するように、右腕をしならせた。

イオリ「な…『右』!? 遠心力で…!」

真「鎧には緩む筋肉もないだろう! 叩き付けるッ!!」

イオリ「く…」

真「オラァ!!」グイン

イオリ「」ガクッ

イオリ(この立ち上がる体勢がまずい…前か後ろか、倒れ込まないと躱しきれない…)

イオリ(いや、でもそうしたらその隙に左腕を叩き込まれる…)


245『リゾラ』その12014/05/31(土) 01:20:29d52X7c9Y (20/21)

イオリ「だったら…」

スッ

イオリのスタンドが、左手を肩あたり、真の右腕の軌道線上まで上げた。

真「!?」

イオリ「………」

真「受け止める気か…!?」

ゴォォォ

真(ボクの『ストレイング・マインド』は、触れたものを『固く』する…)

真(『固い』ものは割れやすい…その特性上、この拳は何だろうがブッ壊す凶器となる)

真(『リゾラ』の能力があっても、この腕は既に『緩んで』いる…能力で受け止められるわけがない、自殺行為だ!)

真(…けど、こいつは伊織じゃない、それにこの『緩んだ』腕はボクにも止めようがない)

真(構わない、このままブチ抜くッ!!)


246『リゾラ』その1/おわり2014/05/31(土) 01:21:03d52X7c9Y (21/21)

真「オラァァッ!!」

イオリ「『リゾラ』ッ!」

バシィィィィッ!!

真「………」

イオリ「………」

ボロ…

カラン カラ

破片が、崩れ落ちる。

ブシュ

真「バ…」

指先から、血が吹き出す。

真「バカな…」

イオリのスタンドには、傷ひとつ、ついていない。

イオリ「やっぱり、無理ね…アンタには。私を倒すなんて…」


247以下、名無しが深夜にお送りします2014/06/01(日) 20:24:31JixFbf0k (1/1)

乙!

強いスタンドを持ってるやつは活躍できない法則……
貴音の活躍が少なくて寂しい


248>>12014/06/07(土) 00:24:14QUA.v9s6 (1/11)

駄目ですわ、日付が変わるまでには


249以下、名無しが深夜にお送りします2014/06/07(土) 13:26:41ZjICuqAw (1/1)

ゆっくりでも大丈夫ですよ頑張ってくだしぇあ


250>>12014/06/07(土) 22:51:05QUA.v9s6 (2/11)

前回までのあらすじ

審査員が貧乳好きで事無きを得た千早! 見事三回戦へと進んでいく!

しかし、次の相手はなんと…同じ事務所の仲間であり、そしてアイドルトーナメント参加のきっかけであった高槻さん!

彼女は持ち前のガッツで本選を勝ち進んでいたのだ!

「高槻さんのために始めたこと、その高槻さんが勝ち進んでいるのなら…」なんと千早は棄権を決意!

棄権しようが負けは負け、それでいいのか如月千早!

負けたらプロデューサーのセクハラ地獄が待っている!


251『リゾラ』その22014/06/07(土) 22:55:41QUA.v9s6 (3/11)

真「」ズル…

ダラン

勢いを失った真の右腕が、床の方向へ垂れ下がる。

イオリ「やっぱ、『765プロ』の中で相手にするなら… ……」ザッ

真から距離を取った。

イオリ「アンタが一番楽ね。いくら『パワー』があっても、その『身に纏う』スタンドじゃあね…」

真「ぐっ…!」

ポタ ポタ

真(『鎧』が…あいつのスタンドの手に触れた部分が、クッキーみたいにボロボロになっている…)ボロッ

真「『ストレイング・マインド』の指先が…崩れるッ!」パラ パララッ

真「何故だ!? ボクのスタンドの能力は『固く』すること、その能力の中心にあるこの鎧は最強の硬度を持つ…」

真「割れることはあっても、こんな風に崩れるなんて! 一体何をしたッ!? なんなんだ、そのスタンドはッ!」

イオリ「全部言ったわ。私のスタンド、『リゾラ』の能力は『緩める』こと。ただ、それだけよ」

真「それだけ…だって…?」


252『リゾラ』その22014/06/07(土) 22:57:57QUA.v9s6 (4/11)

真「『鎧』には、筋肉のように緩む部分なんてない…」

真「それだけのスタンドが、『ストレイング・マインド』を破壊できるわけがないだろうッ!」

イオリ「この世のあらゆる物質は原子で構成されている」

真「………」

真「なに?」

イオリ「『スタンド』だって、恐らく例外ではないわ。エネルギーが発生している以上はそこにはなんらかの原子があるはず」

イオリ「そして、原子同士は『電磁気力』という力で結びついている。だから物体は形を保ってられるわけ」

イオリ「それを『緩め』たら…」ズゥッ

『リゾラ』が真に近付きながら、右手を伸ばす。

イオリ「どうなると思う?」

真「」ピキャン

左手の指を、壁に突っ込む。

イオリ「!」


253『リゾラ』その22014/06/07(土) 23:03:59QUA.v9s6 (5/11)

ググ…

ギ ピキン

真「オラァッ」

パリィィン

指の力で引っ掻くように、壁を抉り取り、飛ばす。

イオリ「」スッ

『リゾラ』の右腕を上げ、手のひらを飛んでくる破片に向けた。

ヒュォォォ

イオリ「原子が『弛緩』した物体は、非常に不安定な状態になる」

スッ

イオリ「そして、一瞬でも不安定になった物体は、元に戻る際自らの原子同士を結びつける力によって…」

ボロッ…

真「!」

イオリ「鉄だろうがダイヤモンドだろうが、焼き菓子みたいに簡単に崩れる!」

イオリ「触れただけで、どんな物体でも破壊できるのよ! 真、アンタの『ストレイング・マインド』以上にね!」


254『リゾラ』その22014/06/07(土) 23:09:14QUA.v9s6 (6/11)

パラパラ

飛ばした壁の破片が、砂のようになって地面に落ちる。

イオリ「そして、『スタンドはスタンドでしか倒せない』。それがルール」

イオリ「鎧を破壊すれば、アンタの攻撃は『リゾラ』には届かない」

真「原子を『緩める』か…」

真「随分と、スケールが大きい話だね…いや、小さいのか?」

イオリ「スタンドは精神力のエネルギーよ。発想のスケールが小さいヤツじゃあスタンドの能力をフルには引き出せない!」

真「だとすると、ひとつ…妙なことがあるなぁ」パキッ

ダッ

左手を握りしめ、イオリに向かって走り出す。

イオリ「話聞いてたのかしらァ~ッ?」バッ!

イオリのスタンドが、両手を持ち上げた。

真「オラァッ!!」ビュバッ

構わず、左手の拳を突き出した。


255『リゾラ』その22014/06/07(土) 23:22:18QUA.v9s6 (7/11)

イオリ「アンタの攻撃は…」

ゴォォォォォ

イオリ「通用しないって言ったでしょうが!」

ォォォォォォ

真の腕は止まらない。

イオリ「…チッ!」

グアァーッ

『リゾラ』が向かってくる腕の内側に身を捻って、ギリギリで躱す。

イオリ「」バッ

左腕に向かって、手を伸ばす。

真「」ガッ パギィィ!

右足を地面に叩き付け、めり込ませる。

イオリ「!」

真「」ギュルン!!

その足を支点として、身体を回転させた。


256『リゾラ』その22014/06/07(土) 23:29:09QUA.v9s6 (8/11)

イオリ「………」ス…

リゾラが伸ばした腕は空を切り…

真「」グオォォォォッ

遠心力で勢いを持った真の右腕が、イオリに襲いかかる。

イオリ「」パシィ!!

ポロッ パラパラ

・ ・ ・ ・

『リゾラ』の右手で受け止め、『ストレイング・マインド』の鎧を崩壊させる。

ク…グンッ

鎧を破壊された真の右腕が、手をすり抜けた。

グルン

真「オラァッ!」ドン

回った勢いのまま、再び左腕で殴り掛かる。

イオリ「」バッ

後ろに飛んで躱した。


257『リゾラ』その22014/06/07(土) 23:39:49QUA.v9s6 (9/11)

真「うおっ」ブルンッ

ガシャァァァァン!!

思い切り体勢を崩し、地面に叩き付けられる。

真「………」

ドドドドドド

真「…やっぱりな」ムクッ

すぐに立ち上がる。ダメージが入った様子は全くない。

真「どんな物質でも破壊できる…と言ったね」

真「だったら、なぜボクの右腕や貴音の足の原子を『緩めて』破壊しないのか」

イオリ「………」

パキ パキ パキ

黒い鎧が、破壊された部分を埋めるように真の右腕を覆っていく。

真「できないんじゃあないのか? 最初、ボクの右腕に触った時は『鎧』は破壊されなかった」

真「なにか他に『緩む』ものがあれば…より大きな『緩む』ものがあったら…そちらを優先するしかないんじゃあないのか?」

イオリ「フン!」


258『リゾラ』その22014/06/07(土) 23:53:35QUA.v9s6 (10/11)

真「『鎧』には緩む部分がないと言ったけど」

真「逆なんだね。『緩む』部分がないからこそ、原子まで『緩め』させ…『ストレイング・マインド』を破壊できた」

イオリ「ええ、そうね。どの道、腕の筋肉が緩めば終わりだけど」

真「いや、全然違うよ。腕の筋肉が『緩んだ』としても、『ストレイング・マインド』が破壊されなければ…」

ゴゴゴ

真「一発分…キミの腕をフッ飛ばすくらいはできるからね」

ゴゴゴゴゴ

イオリ「………」

真「」ダッ!!

真っ直ぐに、イオリの方に突っ込んでいく。

イオリ「」ズズッ

真「!」

『リゾラ』が、横の部屋の、開いているドアの根元に触れている。


259『リゾラ』その22014/06/07(土) 23:59:15QUA.v9s6 (11/11)

ギュルン

シュパッ シュパン!!

ドアの金具を留めているネジが思い切り『緩み』、真の方に飛び出していく。

真「………」

グラッ

いつの間に触れていたのか、天井にある蛍光灯も『緩み』…

ズオォッ

真の頭上へと落ちていく。

イオリ「『リゾラ』!」

イオリが一緒に、スタンドを突っ込ませた。

真「………」

ガシャァァァン!!

蛍光灯が頭にぶつかって割れる。

ガシャ ガシャン

破片が地面に落ちた。


260『リゾラ』その22014/06/08(日) 00:05:31ggTkoY.g (1/6)

カッ! ガガッ!!

飛んできたネジが、『鎧』に弾かれる。

避けたり、反応したりはしない。

イオリ「」ピタッ

そんな真の様子を見て、『リゾラ』の動きを止めさせた。

真「こんな…」

イオリ「………」

真「こけおどしが通用すると思ったのか」

イオリ「流石に冷静みたいね…肝の据わったヤツ」

真「」パラッ

顎を引き、頭の上に残っていた蛍光灯の破片を落として、左手に乗せる。

パキッ!!

握り潰した。


261『リゾラ』その22014/06/08(日) 00:17:20ggTkoY.g (2/6)

真「オラァッ」

ヒュゥォン!!

手の中でコナゴナになった破片をイオリに投げつける。

タッ!

同時に身をかがめて、長距離ランナーがスパートをかけるように加速した。

イオリ「来た来た来た来た…」

イオリ(破片を避ければその後に攻撃が来る、攻撃を避けるためには破片は受ける覚悟が必要…)

真「」ガッ ガ ガ ガ

イオリ(どっちも避ける…なんて無理ね。このスピードじゃあ、避けて体勢を崩した瞬間ジ・エンド)

イオリ「私が同じことやってもこけおどしにしかならないのに…チッ、パワーもスピードもあっていいわねぇアンタのスタンドは…!」

ゴォォォォォ

イオリ「でも…この伊織ちゃんの美しい顔に傷をつけるなんてできやしない…わッ!」タッ

イオリは左方向…真から見ると、腕が動かない右方向に飛んで躱す。


262『リゾラ』その22014/06/08(日) 00:24:27ggTkoY.g (3/6)

真「」ス…

ガンッ!

ピキ パリ ピキィッ

左腕を下げ、右の膝を腕へと叩き付ける。左腕の鎧にヒビが入った。

イオリ(……… …? 何やってんの? ついに気が触れた?)

真「オラァッ!!」ビュァッ

地面から掬い上げるような拳が、イオリへと襲いかかる。

イオリ「…やっぱり…」

横に飛んだばかりだ。避けることはできない。

イオリ「…無傷で勝とうなんて虫のいい話だったわね」バッ

『リゾラ』の右手で受け止めようと、手を出す。

グシャァァァァ

そのまま、真の拳が右手に入った。


263『リゾラ』その22014/06/08(日) 00:37:56ggTkoY.g (4/6)

イオリ「ただし…」グググ

真「!」

ポタ…ポタ

パラ パラパラ

左手の鎧が崩れている。

『リゾラ』の右手の後ろに、左手が重なっていた。

イオリ「右手だけよ…それ以上は許さない」

ブシュ

右手がコナゴナに破壊され、血が吹き出す。

イオリ「両腕はこれで封じた! アンタもこれで終わりよッ!」

真「これで終わり?」

真「気が早いなぁ。まだ何も終わっちゃいないってのに」

イオリ「ハッ! 手がでなけりゃあ足でも使う?」


264『リゾラ』その22014/06/08(日) 00:47:58ggTkoY.g (5/6)

ピ…

・ ・ ・ ・

イオリ「…その、腕…」

真「スタンドを破壊することで、攻撃は無力化できるみたいだけどさ…受け止めた時の衝撃まで消えるわけじゃあないよね」

ピキ ピシピシ

真「『鎧』の『硬化散弾銃』…」

『ストレイング・マインド』の左腕のヒビが大きくなっていく。

真「この距離なら、まぁ…届くだろ」

パァリリリィィン

左腕の鎧が割れ、その破片が、手の横を抜けイオリの顔面へと飛んでいく。

イオリ「な…何ですってェーッ!!」

真(よし…! これで…)

シュー…

・ ・ ・ ・

真(なんだ、この音は?)


265『リゾラ』その2/おわり2014/06/08(日) 00:56:22ggTkoY.g (6/6)

ドボンッ!!

真「!?」

突如、真のイオリの間に爆発が起こる。

イオリ「きゃぁっ!!」ブアッ

真「ぐっ」ガシャン!

その衝撃で、真とイオリが引きはがされるように吹っ飛んだ。

真「な…なに…!?」

『硬化散弾銃』は命中していない。

真(まただ…なんだ、今の爆発は…)

イオリ「やってくれるわね、真…」

真「く…」

真(左腕も…落とされた、両腕が使えない…)

イオリ「でも、やっぱり…アンタは、もうこれで終わりよ」

真「うおおおおおっ!」


266以下、名無しが深夜にお送りします2014/06/08(日) 03:40:45fP2OzEAA (1/1)

おっつ
ところで>>1はVOODOO Kingdomを知っているだろうか


267以下、名無しが深夜にお送りします2014/06/08(日) 05:19:3672qQJJoU (1/1)

んあー


268以下、名無しが深夜にお送りします2014/06/08(日) 07:00:57j1M7OzP. (1/1)

乙 そーいや亜美真美のスタートスターって何か進化しそうな気がする


269>>12014/06/13(金) 19:25:39s0UDF0os (1/34)

前回までのあらすじ

なんやかんやあって高槻さんと戦うことを決意した千早!

三回戦の種目は、歌! 千早の得意分野!

しかし、高槻さんもめきめきと実力をつけてきた侮れない相手!

千早は、どう立ち向かっていくのか!

誰のためでない、自分のために! 進め、歌姫如月千早!

負けたらプロデューサーのセクハラ地獄が待っている!


270『リゾラ』その32014/06/13(金) 19:28:23s0UDF0os (2/34)

シュゥゥゥゥ…

イオリ「」クイッ

左手で、顔についた焦げ目をなぞる。

ポタ ポタ

イオリ「ああ、痛い…肌に傷がついたし、右手が…人差し指と中指が千切れてるわ…」プルプル

身をかがめて、右手の小指と薬指で落ちた指を拾い上げる。

イオリ「けど…」スッ

顔を上げた。

イオリ「これでアンタを倒せると思ったら…あんまり悪い気はしないわね」

真「はーっ…」

真(両腕の…筋肉が…)

ガクン

真(『緩み』きって…動かせない…!)

プルプル…

真はふらつきながらも、足の力だけでゆっくりと立ち上がった。


271『リゾラ』その32014/06/13(金) 19:29:48s0UDF0os (3/34)

真(体の動きというのは、つまるところ筋肉の収縮作用だ…)

真(『縮む』『緩む』…どちらか片方しかできなくしてしまえば、体は動かなくなる…それはわかる)

シュゥゥゥ…

真(だが…! 今の爆発は…なんだ?)

真(あいつの能力が本当に一つだけなら…これも『緩ませる』能力によるもののはず…)

真(気になるのは、さっきの『シュー』とかいうあの妙な音…あれは、確か…)

ゴゴゴ

ゴゴゴゴゴ

真(あいつの持っているうさぎのぬいぐるみ…)

真(よく見ると、鼻の辺り…なにかおかしいぞ、パイプか…? パイプが伸びている)

真(爆発…パイプ…)

真「………ガス?」

イオリ「あら」

真「その中にガスボンベでも仕込んであるのか」

イオリ「察しがいいわね、そうよ」


272『リゾラ』その32014/06/13(金) 19:31:27s0UDF0os (4/34)

真「『リゾラ』の能力で…可燃性ガスの分子を『緩め』ているのかッ!」

イオリ「ええ。『緩んだ』状態になったガスを空気中に放出しておく…」

イオリ「そして、能力を解除する。すると、元に戻る時に発生するエネルギーで、反応が起こる」

イオリ「一度反応が起こってしまえば、その際に発生するエネルギーで連鎖的に反応を起こし…大きなエネルギーが発生する」

真(そして、爆発する…ってわけか)

イオリ「私の『リゾラ』…能力は申し分ないけど、ちょっと『パワー』が足りなくてねぇ…」グイッ

左腕のぬいぐるみを持ち直す。

イオリ「これで補ってるってわけ」

真「」パキッ

膝が鳴った。

真(両腕が上がらない)

真(…『チアリングレター』を使うか?)

真(いや、『チアリングレター』を使うには『ストレイング・マインド』のガードを下げる必要がある)

真(今は『鎧』に包まれているから無傷だったけど、あの『爆弾』がある以上…規模によっては、ただじゃあ済まないか)


273『リゾラ』その32014/06/13(金) 19:35:00s0UDF0os (5/34)

イオリ「両腕が使えないアンタなんて…」ズッ

イオリは自らのスタンドを、真に近づけていく。

真「…!」

イオリ「羽根を取られたトンボと同じよッ!」

真(向こうから来た…もう、ボク相手に受け身に回る必要なんてないってことか…)

イオリ「」グオッ

『リゾラ』が真に向かって手を伸ばす。

真「オラァ…!」

ブルンッ

真はその腕に向かって、右足を蹴り上げる。

ヒュ

イオリ「………」

ビィィ…ンッ

真「うっ…!」クラッ

しかし、蹴り上げた足は狙いを外して空を切った。体がぐらついてしまう。


274『リゾラ』その32014/06/13(金) 19:40:38s0UDF0os (6/34)

真(駄目だ、両腕の筋肉が緩みまくってるせいで身体のバランスが安定しない!)

真(こんなんじゃあ、腰の入った蹴りも撃てやしない!)

イオリ「右足! 貰ったッ!」ゴォ

真「オラァッ!!」ヒュッ

イオリ「!」サッ

真が上がった足を振り下ろしたのを見て、咄嗟に『リゾラ』の手を引っ込める。

ガギィィン

ヒュン ヒュン

『ストレイング・マインド』の鎧の覆われた踵が床を砕き、破片が飛び散る。

イオリ「『リゾラ』」パシ パシ

ポロ…

スタンドの手で掴み取って、難なく対処する。手の中でボロボロになった破片が、床に落ちた。

イオリ「で、次は?」

真「………」

イオリ「ないわよねぇ。転ばないようにバランスを整えるのが精一杯よ」


275『リゾラ』その32014/06/13(金) 19:53:10s0UDF0os (7/34)

パシィィッ!!

『リゾラ』の左手が、真の右足を引っ叩いた。

真「うおっ…」グラッ

右足が『緩み』、膝をつきそうになるが、片足で踏みとどまる。

イオリ「そんな状態で何ができるんだか…」

イオリ「チェックメイトよ! もうアンタは詰んだ!」

真「く…」フラ…

イオリ「ん?」

ピョコ ピョコッ

真が片足でケンケンしながら、イオリに背を向け動き出す。

イオリ「あら、逃げようっての? もう打つ手がないから、私から逃れようっての?」

ピョコ ピョコン

イオリ「逃がすか、バーカッ! 『リゾラ』!」ズォォッ

イオリのスタンドが回り込み、真の進行方向正面に立ちふさがる。


276『リゾラ』その32014/06/13(金) 19:57:21s0UDF0os (8/34)

真「く…」ギリッ

『鎧』に覆われた中で、歯ぎしりをした。

真「オラァッ」グオン!

イオリ「おっと」サッ

せめてもの抵抗とばかりに前方の『リゾラ』に頭突きをかますが、これも避けられた。

ガシャア!!

頭から地面に叩き付けられる。

真「」ゴロゴロゴロ…

そのまま二、三回前方に回転し…

グバッ カラァァン!

仰向けになって倒れた。

イオリ「無様ねぇ…ええーっ、真!?」コツ コツ

真「気安くボクの名前を呼ぶな…」

イオリがスタンドの後から、ゆっくりと真に近付いていく。


277『リゾラ』その32014/06/13(金) 20:04:10s0UDF0os (9/34)

真「………」モゾモゾ

真は大の字になったまま、体を捻らせている。

イオリ「悪足掻きはもうやめなさいよ。苦しみが長引くだけだわ」スッ

パシッ

『リゾラ』の左腕が真の『ストレイング・マインド』に覆われた左腕に触れると…

ボロッ

真「ぐ…!!」ブシュ

その部分が崩れ、血が噴き出す。

イオリ「ほらほら!」 パシ パシッ

真「うあああっ!!」ブシュゥゥッ

イオリのスタンドが体のあちこちに触れ、真の鎧を破壊していく。

真「………」フッ

真の身に纏っていた『鎧』が、消えた。

イオリ「あら。気絶しちゃった? 『ストレイング・マインド』が解除されたわ」


278『リゾラ』その32014/06/13(金) 20:18:30s0UDF0os (10/34)

イオリ「この状態で何かできるとは思わないけど…」

イオリ「念のため、『リゾラ』の能力を解除しても動けないくらいには痛めつけておくか」コッ コッ

イオリが真の傍に立ち、ぬいぐるみの口を向ける。

イオリ「これで、私の勝ちよ。所詮、『ストレイング・マインド』もこの伊織ちゃんの敵じゃなかったわね」

真「いや、違う。ボク達の勝ちだ」

・ ・ ・ ・

イオリ「なんだ、まだ起きてたの。アンタ」

真「やけに勝負を急いでるね…もっとゆっくり、気をつけながら事を運べばいいのにさ」

イオリ「…?」

真「まぁ、それもそうか。もたもたしてれば騒ぎが大きくなるかもしれない」

真「他の誰かが駆けつけてくるかもしてない。ボクを始末するなら、さっさと決着をつけたいはずだ」

イオリ「…何? アンタ、今の状況わかってんの?」

真「わかってるよ。文字通り、手も足も出ない…」

真「おまえの言う通り、ボクの『ストレイング・マインド』でその『リゾラ』に勝つのは不可能みたいだ」

イオリ「………」


279『リゾラ』その32014/06/13(金) 20:20:47s0UDF0os (11/34)

真「けれど、おまえの言った通り、そのスタンド自体にパワーはほとんどない。攻撃を止めたのだって直接受け止めてるわけじゃあないし」

真「鎧の原子を『緩めて』破壊すればボクにもダメージはあるけど…」

真「『ストレイング・マインド』を解除したボクに決定的なダメージを与えるには、その『爆弾』を使うしかない」

イオリ「それがどうしたってのよ! この死に損ないがッ!」

真「いや…つまり、おまえがボクを倒したかったら、自分自身で近付くしかないってことさ」

イオリ「………」

真「ボクはただ、ここに誘き寄せたかっただけだ」

真「そしておまえは『射程距離内』に…入った」

イオリ「『リゾラ』の能力は解除してないわよ?」

真「まだ、わからないかなぁ」

・ ・ ・ ・

イオリ「…『達』? ………」

ドド

イオリ「アンタ、さっき…『ボク達』って言った…!?」

真「………」


280『リゾラ』その32014/06/13(金) 20:26:29s0UDF0os (12/34)

イオリ「」バッ!

イオリは自分の立っている位置…ちょうど、廊下の突き当たり。そこから右の方…階段の下に、目を向けた。

ドドドドド

貴音「ぐれぇと」

ドドドド

イオリ「貴音…!!」

先程階段から転げ落ちた貴音が、そこに座り込んでいた。

イオリ(私を…見上げているッ…!!)

真「スタンドなら引っ込めればいいけど…自分の体はそうもいかないだろう」

イオリ(真の奴…貴音から私の姿が見えるように、自分を囮にしたッ!)

貴音「『フラワーガール』」キュル

ギュン!!

イオリ「あああああ!!」

貴音のスタンドが、戦闘機のような勢いで突っ込んでくる。


281『リゾラ』その32014/06/13(金) 20:35:36s0UDF0os (13/34)

ドォ

イオリが、スタンドを自分の正面に立たせる。

イオリ(突っ込んでくるなら、私に攻撃が突き刺さる前に…逆に『リゾラ』で…体をフニャフニャのグニャグニャにしてやるッ!)

イオリ(できる! できなかったら…終わるッ!)

イオリ「うおっ、おおお『リゾラ』ッ!」ヒュン

スカッ

左手で手刀を繰り出したが、その腕は空振る。

イオリ「へ…」

『フラワーガール』の軌道がイオリを外れ、背後まで飛んでいったからだ。

クルン

イオリが首だけ振り向くと、フラワーガールの体がこちらに向いて、花弁が花開くように舞っていた。

貴音「感謝いたします」

イオリ「あ…」

貴音「貴女が私を早々に動けなくしてくださったことで…逆に、体力に余裕ができました」


282『リゾラ』その32014/06/13(金) 20:37:05s0UDF0os (14/34)

真「手に触れるだけで攻撃を無力化するスタンド…どうやって倒すべきか?」

真「答えは簡単だ、正面から突っ込まずに回り込めばいい」

真「ボクの『ストレイング・マインド』では少し難しいけど、『フラワーガール』のスピードなら…」

真「楽勝だ」

貴音「ここ…」グッ

イオリ「ひ…」

ヒュオッ

イオリ「うべらっ!!」ゴギッ

『フラワーガール』の右拳が、イオリの右顎に突き刺さる。

グ ギギ

貴音「この角度が、いい」

グギャァ!!

ギュルルルン!

ドグシァァア

その一撃はイオリの頭を揺らしながら、体ごと回転させ、地面に叩き付けた。


283『リゾラ』その32014/06/13(金) 20:43:18s0UDF0os (15/34)

イオリ「う…うが…あ…!!」

真「!」スクッ

貴音「………」スッ

真と貴音が、同時にその場から立ち上がった。

イオリ「あ、ああうううあああああ…がほっ、げほっ…!」

貴音「『緩める』能力が…」カツ カツ

貴音が階段を上がってくる。

真「…解けた。スタンドを保ってられなくなったようだね」クルッ

イオリ「ひ…」

真が、イオリの方を見下ろす。

イオリ「ひいーっ」ズルズル

イオリは体を引きずりながら、廊下の方に逃げようとする。

真「逃がさないよ」スタッ

イオリ「うあ…」

その前に、真が回り込んだ。階段から上がってくる貴音とは、挟み撃ちの形になる。


284『リゾラ』その32014/06/13(金) 20:55:51s0UDF0os (16/34)

真「さて…おまえには聞きたいことが山程ある」

イオリ「はぁーっ、はぁーっ」

イオリ(まだ…まだよ、まだ私は『負けていない』…何か、逆転の手が…)

貴音「真。スタンドを出せぬうちに『固く』して手足を封じてしまいましょう」

真「そうだね。その方がよさそうだ」ス

パキ パキ

真がイオリに右腕を伸ばす。その腕が、『ストレイング・マインド』に覆われていく。

イオリ(手が…!)

???「あっ!?」

真「!?」

貴音「!」

やよい「な…なに、やってるんですか…? みなさん…!」パタパタ

真「やよい」

イオリ「…!」

真の背後、廊下の奥の方からやよいが走ってきた。


285『リゾラ』その32014/06/13(金) 20:59:51s0UDF0os (17/34)

やよい「真さんと貴音さんが、伊織ちゃんを…え?」

イオリ(これよ…誰かが来るのを待っていた!)

貴音「やよい。これは…」

イオリ「助けて、やよいッ!」

やよい「え…」

真「なに?」

イオリ「こいつらがおかしいのよッ! 突然私を襲ってきて…殺されるわッ!!」

やよい「伊織ちゃん…? あ、あの…」

真「な…何を言ってるんだ! おまえはッ!」

イオリ「ほら、このケガ…ひどいでしょう!? こいつらにやられたのよ!」

やよい「え、えっと…治そっか…?」

イオリ「そんなのは、後でいいわ! それより、はやくこいつらを『くっつけ』て止めて!!」

真「…!」


286『リゾラ』その32014/06/13(金) 21:05:12s0UDF0os (18/34)

イオリ(やよいの『ゲンキトリッパー』…『くっつけ』る能力で、真と貴音を足止めしてもらえば…)

イオリ(『アイツ』を連れて来れる…)

イオリ(『アイツ』さえ来てくれれば…真と貴音、そしてやよいを始末すれば…!!)

真「やよい! 言うことを聞いちゃ駄目だ、そいつは伊織じゃあない!」

貴音「やよい。『くっつけ』るのなら、そちらの方です。逃がしてはなりません」

やよい「あう…」

イオリ(やよいは何も知らない! 私が以前の水瀬伊織でないだなんて、わかりっこないわ!)

イオリ(私とあいつらのどっちが正しいのかなんて、咄嗟に判断できるわけがない!)

やよい「…『ゲンキトリッパー』」

ウッウー ウー ウッウー

やよいの体から大量の細かいスタンドが現れ、真達の足下に広がっていく。

ピタッ

貴音「足が…『くっつい』た」

真「や…やよい…!」

イオリ(やったわ!)


287『リゾラ』その32014/06/13(金) 21:08:17s0UDF0os (19/34)

イオリ(さぁ、今のうちに逃げ…)

ピタ

イオリ「え…」

イオリ(足が…動かない)

グ

イオリ「わ…」ググ

イオリ「私も『くっつけ』られている…!?」

やよい「………」

やよい「なんか、伊織ちゃんと真さん達…どっちが正しいのか、よくわかんないから…」

やよい「みんな、『くっつけ』ることにしました」

イオリ「な…何してんのよッ、アンタッ!」

やよい「へ…!? い、伊織ちゃん…?」

真「いや、いいぞやよい! それでいい、そいつを逃がさないで!」

貴音「………」

イオリ(まずい…まずい、まずい!! どうすれば…)


288『リゾラ』その32014/06/13(金) 21:15:21s0UDF0os (20/34)

やよい「とりあえず…伊織ちゃん、そのケガ『くっつけ』て治さないと」ヒョコッ

やよいがイオリのすぐ近くまで歩いていく。

イオリ「…!!」

真「や…やよい! そいつに近付かないでッ!」

やよい「へ?」

イオリ「『リゾラ』ッ!!」グイッ

やよい「はわっ!?」

『リゾラ』の腕が、やよいの首に手を回す。

真「やよいッ!!」

イオリ「アンタ達…よくも…よくもやってくれたわね…」

やよい「あ、あれ…これ、伊織ちゃんのスタンドじゃな…」

イオリ「さぁ、やよい…アンタのかわいい顔に傷をつけたくなかったらこいつらの『くっつけ』る能力を解除するんじゃあないわ」

イオリ「アンタ達も…変な動きを見せたら『リゾラ』の手がこいつの細胞を引き裂くわよ」

貴音「…外道」


289『リゾラ』その32014/06/13(金) 21:25:42s0UDF0os (21/34)

イオリ「こんな足を『くっつけ』たくらい…分子の結合すら『緩め』られる『リゾラ』に、通用はしない」

ス…

やよいを連れたまま、イオリが歩き出す。

イオリ「逃げてやる…逃げ延びて、アンタ達を始末してやるわ…にひひ…!!」

貴音の横を抜け、階段の方にゆっくりと向かっていく。

やよい「………」チラッ

真「……!」

貴音「………」

やよいが、二人に目配せをした。

真「」チラッ

貴音「」コクッ

真と貴音が、目を合わせる。


290『リゾラ』その32014/06/13(金) 21:32:50s0UDF0os (22/34)

真「逃げ切ったとして…」

イオリ「ん?」クルッ

イオリが足を止め、真の方に振り返る。

真「おまえは伊織にはなれないよ。絶対に」

イオリ「フン。負け犬の遠吠えね」

真「負け犬ってのは誰のことかな?」

イオリ「そりゃ、もちろん…」

真「ああ、おまえか」

バキッ!!

イオリ「!?」

貴音「『フラワーガール』」メリメリ

貴音のスタンドが、貴音のすぐ傍でドアの板を持ち浮かんでいる。


291『リゾラ』その32014/06/13(金) 21:37:14s0UDF0os (23/34)

イオリ(足が『緩ん』だりして動かなくなっても、スタンドは感覚で動かすもの…だから関係はない)

イオリ(けれど足を『くっつけ』ていればスタンドの足も『くっつい』ているも同然…その場から動かせなくなるはず…)

イオリ「『ゲンキトリッパー』を解除したなッ、やよい!」

やよい「えへへ…わかってもらえてよかった」

真「」パキ パキ パキ

真の体が再び、『ストレイング・マインド』の黒い鎧に覆われていく。

貴音「………」

イオリ「ハッ…で、そのドアをどうすんの? 『硬化散弾銃』で撃ち出すつもり?」

イオリ「やよいが人質になってんのよッ! まさかやよいごとやるつもりじゃあないでしょうねェ~ッ!?」

真「」パキッ

両手の拳を握りしめる。

貴音「真」ポイッ

タッ

真「オラァッ!!」ドォッ

貴音が投げたドアに向かって、思い切り殴り掛かった。


292『リゾラ』その32014/06/13(金) 21:46:02s0UDF0os (24/34)

バッギャァァァーァン

コナゴナになったドアの破片が、イオリに向かって飛んでいく。

イオリ「しょ…」

やよい「………」

イオリ「正気か、アンタ達はッ!!」

ゴォォォォ

イオリ「だったら…お望み通り、やよいを盾にしてやるわッ!!」バッ

やよい「わっ」

イオリはやよいの体を掴んで前に出し、その陰に隠れた。

ドス ドッ ドグァッ

『硬化散弾銃』が、やよいの身体に突き刺さる。


293『リゾラ』その32014/06/13(金) 21:48:44s0UDF0os (25/34)

真「やよい!」

イオリ「なーにが『やよい!』よッ! こうなることも予想できないの!?」

イオリ「これはアンタ達がやったのよ! アンタ達が悪いのッ!!」

イオリ「アンタ達が…」

モゾモゾ

イオリの腕あたりで、何かが蠢いている。

ウー ウッウー ウー ウー

やよいを掴んでいる腕から、欠片を持った、粒のような『ゲンキトリッパー』が這い上がってきた。

イオリ「…………… な…」

ピタッ ピタ ビタァァ

イオリ「! ………」

『ゲンキトリッパー』は次々とイオリの身体に這い回り、ドアの破片を『くっつけ』ていく。


294『リゾラ』その32014/06/13(金) 21:54:42s0UDF0os (26/34)

真「オラァ!!」パリン

イオリ「う!」

ヒュン

そうしているうちに、次の『硬化散弾銃』が撃ち出される。

イオリ「リ…『リゾラ』!」バッ

ポロ ポロ

破片は『リゾラ』の手に触れ、さらに小さな欠片になって崩れ落ちるが…

ウッウー ウーウー

・ ・ ・ ・

ピタ ピタ

それも『ゲンキトリッパー』が拾い上げ、イオリの体にどんどん『くっつけ』られる。

真「物体を触れただけでバラバラに崩してしまうおまえの『リゾラ』に『硬化散弾銃』は通用しない…」

真「でも、その破片を『くっつけ』てしまえばどうだ?」

貴音「やよいを人質にしている以上…『くっつけ』る能力からは逃れられない」

イオリ「あ…あああ…あ…!!」


295『リゾラ』その32014/06/13(金) 21:59:45s0UDF0os (27/34)

ビタ ビタァ

イオリ(まずい、このままじゃ…落とさなくては…体に『くっつい』た破片を『緩め』て落とさなくては!)

貴音「真!」ヒョイッ

貴音がドアを剥ぎ取って持ってきて…

真「オラァッ!!」バギャィィン

真が殴って撃ち出し…

やよい「『ゲンキトリッパー』」ウッウー

やよいが『くっつけ』る。

ピタッ ピタ

イオリ「うおっ」

イオリ(こ…こいつらのペースの方が圧倒的に早い…全然間に合わない…)

ガチッ ガチ

イオリ(そして…もう腕が曲がらない! ドアの破片がくっついて…)


296『リゾラ』その32014/06/13(金) 22:03:09s0UDF0os (28/34)

イオリ「こ、この…この伊織ちゃんが…こんなヤツらにッ!!」

真「おまえの存在そのものが、伊織に対する侮辱だ。ゲス野郎め」

真「オラオラオラオラオラオラオラオラ」

バギ バギュ バガスッ バギャァァ バギュン

ビタ ビタァ ビタッ ビタァン

イオリ「きゃあああああああああああああ」

ドドドドドド

体がどんどん破片に覆われていく。

イオリ「ま…負ける…私が…『負け』…あああっ」

ドドドドド

イオリ「あああああああああああああああッ!!」

ガァァーン!!!!

そして、イオリはドアに包まれ、団子のようになった。


297『リゾラ』その32014/06/13(金) 22:07:53s0UDF0os (29/34)

貴音「どうやら、これで…もう動けなくなったようですね」

やよい「ふぅ…」ヘタッ

やよいがその場に座り込む。

真「大丈夫だった、やよい?」

やよい「はい~っ、ちょっと怖くてドキドキしちゃったかも」

真「ごめんごめん」

貴音「さて…まだ、これで終わったわけではありません」

真「そうだね」クルッ

イオリ「………」

瓦礫の山に顔を向ける。

真「話してもらおうか、色々」


298『リゾラ』その32014/06/13(金) 22:09:56s0UDF0os (30/34)

真「今から質問をする。ボク達の聞いたことに答えろ」

真「答えるたびに、その瓦礫をどかしてあげるよ」

イオリ「…………」

真「まず…本物の伊織はどこだ?」

イオリ「…………」

貴音「どうやって伊織に化けたのです? 他に、仲間が…顔を変える『スタンド使い』でもいるでしょうか」

イオリ「…………」

やよい「あの、重くないですか…?」

イオリ「………………」

真「返事をするつもりはない、か…」

やよい「このまんまじゃ、苦しくて答えられないのかも…」

真「そうだなぁ…うーん…」

イオリ「」

貴音「…? 待ってください、何かが妙です」


299『リゾラ』その32014/06/13(金) 22:15:35s0UDF0os (31/34)

貴音「やよい、『くっつけ』る能力を解除してくれませんか」

真「え、でも貴音…」

貴音「…中から、息をする音が聞こえないのです」

真「え!」

やよい「そ、それって…まさか…」

貴音「わかりません。ですが………嫌な予感がします」

真(まぁ…何かあっても、貴音の『フラワーガール』がいれば大丈夫か…)

真「わかった。それじゃ、やよい」

やよい「は、はい」

ガラララララ…

『ゲンキトリッパー』の能力が解除され、瓦礫が重力に引っ張られていく。

真「ボクがどかすよ。貴音、見張りをお願い」パキッ

貴音「ええ」

ガラガラ…

真が『ストレイング・マインド』に覆われた腕で、山をかきわけていく。


300『リゾラ』その32014/06/13(金) 22:22:19s0UDF0os (32/34)

真「……………ん?」

ガサッ ガサッ

真のかき分ける手が早くなっていく。

ガシャ! ガシャァッ!

乱暴なまでに激しく割いていく。

真「なんだって…」

やよい「真さん、なにかあったんですか?」

真「…ない」

真「いないんだ、奴が!」

貴音「いない…?」

やよい「たいへん、探さなきゃ!」

真「逃げたのか、この状況から!? どうやって!?」

ガシャ ガシャ

真「くそっ、出てくるのは破片と砂ばかりだ!」

貴音「………」


301『リゾラ』その3/おわり2014/06/13(金) 22:29:47s0UDF0os (33/34)

貴音「逃げた………」

貴音が瓦礫の中に手を入れ、掬い上げた。

貴音「いえ、彼女がこの瓦礫の山からどうにかして逃れたとは考えにくい。逃げたところを誰も見ていないのですから」

貴音「何かのスタンド能力だとしても…体中に『くっつけ』られたこれから人間だけを抜き出すのは不可能かと思われます」

貴音「…と、なると…」サラ…

貴音の指から、砂がこぼれ落ちる。

貴音「何故…扉の欠片の中に、このように大量の砂があるのでしょう」

真「……… まさか…」パサッ

・ ・ ・ ・

真が何の気もなしに払った砂の下から、服が顔を出す。イオリが身につけていたのと同じものだ。

貴音「これが…この砂が、恐らく…先程まで水瀬伊織を名乗っていた者です…」

真「そんな馬鹿な!? 人間が砂になったって言うのか!?」

やよい「うそ…」

真「くそっ! なんだっていうんだ一体!? 何が起こってるんだッ!!」

To Be Continued...


302>>12014/06/13(金) 22:37:22s0UDF0os (34/34)

スタンド名:「リゾラ」
本体:ミナセ イオリ
タイプ:遠隔操作型・標準
破壊力:E スピード:C 射程距離:B(50m程度) 能力射程:B(50m程度)
持続力:B 精密動作性:D 成長性:C
能力:謎のまま消滅した伊織の偽物のスタンド。
触れたものを「弛緩」させる。そこには縮んだもの、くっつけられたもの、固定されたものがなければ始まらない。
それらを「弛緩」させるということは、つまりは緩みっぱなしにしたり、無理矢理引き離したり、不安定な状態にさせたりするということだ。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ


303以下、名無しが深夜にお送りします2014/06/14(土) 01:04:47JDcp1g6k (1/1)

おつー


304>>12014/06/14(土) 09:33:44ylrWYtBs (1/1)

あ…やっちまった、血出ないんだった…
修正

>>206
>タラ…

>薄皮が切り裂かれ、血が滲む。

パクッ

薄皮が切り裂かれ、傷口が開く。

>>263
>ブシュ

>右手がコナゴナに破壊され、血が吹き出す。

ボロッ

右手がコナゴナに破壊され、指が落ちる。

>>270
>ポタ ポタ

ポロ ポロ


305以下、名無しが深夜にお送りします2014/06/15(日) 21:59:48XNigKkiA (1/1)




306>>12014/06/20(金) 23:43:04lp/mkQG6 (1/2)

前回までのあらすじ

アイドルトーナメントに敗退した千早!

プロデューサーのセクハラ地獄が待っている!


307『或ル日ノ風ケイ』その22014/06/20(金) 23:55:40lp/mkQG6 (2/2)

やよい「ふぅ、ちょっと疲れちゃったかも…」

貴音「お疲れ様です、やよい」

ゴゴゴゴゴ

戦闘後の事務所の廊下。

粗方はやよいの『ゲンキトリッパー』の能力で修復が終わり…

ゴゴゴ

真「こいつは…」

そこには、伊織と同じ姿をしていたものであった砂だけが残されていた。

真「一体…なんだったんだ? 人間ではない…とは思うけど」

貴音「しかし、スタンドは精神の力…『スタンド能力』があるということは…精神を持っているということです」

やよい「伊織ちゃんと入れ替わってたんですよね…ぜんぜん気づけませんでした…」

真「こいつが伊織と入れ替わって何をしようとしていたのか、こいつはどこから来たのか、そして本物の伊織がどこに行ってしまったのか」

サラ…

真「聞き出そうにも、これじゃ…くそっ!」


308『或ル日ノ風ケイ』その22014/06/21(土) 00:06:57QLyd0KlA (1/18)

ガサ ガサッ

真とやよいはロッカー室に移動し、バッグをひっくり返していた。

真「あいつが持ってきた荷物の中に、何かないかな…」ゴソゴソ

真「あ、携帯がある。そうだ、伊織の携帯に連絡すれば…」

やよい「真さん、これ、本物の伊織ちゃんのけーたいです」

真「…そっか。そうだよね」スッ

携帯をいじくり回し、中身を調べる。

真「メールアプリとかを一通り調べてみたけど…」

真「不審な点はないみたいだね。何かあってもきっとすぐに消してるんだろう」

やよい「うーっ、他は鏡とかちょっとしたお化粧品とかそういうのばっかりです…」

真「手がかりになるようなものは、何もない…か…」

ガチャ

貴音「お待たせしました」ズズッ

部屋の中に、ファイルを抱えた貴音が入ってきた。


309『或ル日ノ風ケイ』その22014/06/21(土) 00:20:02QLyd0KlA (2/18)

ドサッ

ロッカー室に備え付けられたのベンチソファの上に、ファイルを置く。

やよい「わ、いっぱい」

真「貴音、これは? さっき、何か気になるって言って一緒に来なかったけど」

貴音「これは、あの偽物が持ち出そうとしていた資料」

貴音「私の記憶違いでなければ、先週…伊織が調べていたものと同じものです」

やよい「資料…ですか?」

真「…伊織は何を調べていたの?」

パラッ

貴音はファイルのうち一冊を手に取り、開いてみせる。

貴音「この書類は全部、今は亡き高木社長の資料です」

真「高木社長…」

貴音「なので、それに関係のあるものかと」


310『或ル日ノ風ケイ』その22014/06/21(土) 00:31:42QLyd0KlA (3/18)

真「伊織は、なんで高木社長のことを?」

やよい「あ、もしかしたら…」

真「? 何か知ってるの、やよい」

やよい「えっと、876プロに『弓と矢』があったってこと、この前話しましたよね?」

真「ああ…でも、それは壊したんでしょ?」

やよい「それを持ってきたのが…高木社長だって、876プロの石川社長が」

ゴゴゴ ゴゴ

真「それも聞いた気がするけど…でも、骨董品屋でたまたま数本見つけて、顔見知りに配ったんだとか…」

貴音「そうでなかったとしたら?」

真「え?」

貴音「たまたま見つけた…765プロだけなら、そうと言えるのかもしれません」

貴音「ですが、複数の事務所に『弓と矢』があり…『スタンド使い』を生み出した。これは、本当に偶然なのでしょうか」

真「…何が言いたいのさ」

貴音「『弓と矢』は意図的に、事務所に持ち込まれたのだとしたら?」


311『或ル日ノ風ケイ』その22014/06/21(土) 01:00:20QLyd0KlA (4/18)

ゴゴゴゴゴゴゴ

真「つまり…」

真「高木社長が、何か目的を持って『スタンド使い』を増やしていたと…そういうことか?」

貴音「少なくとも、伊織はそう思ったのでしょう」

真「いや、でも! 高木社長が『弓と矢』を持ち込んだのなら、あんな…」

やよい「そうですよ、高木社長はその『矢』によってケガしちゃって…そのまま…」

真「…!!」

やよい「真さん?」

真「さっきの…伊織の偽物からは…『血』が、出ていなかった」

やよい「…あ………」

真「あの時…高木社長から…『血』は、出ていたか…?」

貴音「半年以上前のことですから…正確に覚えているわけではありませんが」

貴音「服に穴が空いていましたが…血はついてなかったように思います」

ゴゴゴゴ

真「『偽物』…!?」


312『或ル日ノ風ケイ』その22014/06/21(土) 01:13:06QLyd0KlA (5/18)

真「でも…! おかしいよ、伊織の偽物はこうして砂になって」

貴音「そうでしょうか。血が出ないということは、脈がないということです」

真「!」

貴音「ですから、例え本当には死んでいなくとも、『死んでいると思わせる』ことは可能ではないでしょうか」

やよい「あの、貴音さんは…高木社長が犯人だって、そう思ってるんですか?」

貴音「少なくとも…疑いを向けるには充分すぎると思います」

真「…全ての元凶が高木社長だったとして…わからないことが、いくつかある」

真「まず、どうして自分を死んだと見せかけようとしたんだ? わざわざ姿を消す必要なんてない」

真「二つ目は、何の目的があって伊織を偽物と入れ替わらせたんだ?」

真「そして、三つ目…何かの目的があって、伊織を偽物と入れ替わらせたとして…」

真「何のためにボク達を『スタンド使い』にしたんだ!? 今みたいに気づかれれば、障害にしかならないだろう!?」

貴音「…そう、ですね…『高木社長』、『弓と矢』、『偽物』…一見繋がっているようでそうでないのかも…」

貴音「安易に結びつけるのは危険かもしれませんね…」


313>>12014/06/21(土) 01:20:02QLyd0KlA (6/18)

>>312
訂正というか追加
>真「でも…! おかしいよ、伊織の偽物はこうして砂になって」
真「でも…! おかしいよ、伊織の偽物はこうして砂になっているじゃあないか!」

真「社長も、あれが偽物だったとしたら、砂にならないと…」


314『或ル日ノ風ケイ』その22014/06/21(土) 01:21:54QLyd0KlA (7/18)

やよい「でも…高木社長が怪しいんですよね?」

貴音「ええ、ですから…」チラッ

ベンチソファの上に山積みになったファイルに目を向ける。

貴音「これに、何か残されていないかと思いまして。持ってきました」

真「高木社長の資料か…本人に関すること、本人が関わってきたこと、本人がまとめていたファイル…色々あるけど」

貴音「伊織の偽物は、この資料を持ち出そうとしていました」

貴音「…何のために?」

やよい「隠しちゃうため…ですか?」

貴音「ええ。その通りです、やよい」

やよい「弟達が、テストで悪い点取っちゃった時とか…こっそりとどこかにしまっちゃうんです。それと同じかなーって」

真「ふーん、弟が…ね」

やよい「わ…私もたまに隠しちゃったりして…えへへ」

貴音「それはさておき。伊織の偽物はこれを持ち出そうとしていた」

貴音「この資料の中に、何かに繋がることが残されている可能性があります」


315『或ル日ノ風ケイ』その22014/06/21(土) 01:38:12QLyd0KlA (8/18)

真「何か…」

貴音「今はまだ、何もわからない。何か目の前にあることはわかっていても…それもはっきりとしない」

貴音「ですが、何か一つでいい、道標があればそれに真っ直ぐと向かっていけます」

やよい「伊織ちゃん…どこ行ったんだろ…」

真(やよい…)

真(そうだ。今、何が起きているのかはわからない…けど、このまま放っといたら伊織はきっと帰ってはこない…)

真(まずは…この資料を調べる!)

貴音「」パラ

真「」パラパラ

やよい「? ??」パラ…

それぞれ、ファイルを手に取って調べ始める。

パタン!

やよいがバインダーを閉じた。

やよい「ごめんなさいーっ、よくわかんないかも…」

真「…みんなに、全部話そう。これは手分けして探した方がいいな」


316『或ル日ノ風ケイ』その22014/06/21(土) 01:45:37QLyd0KlA (9/18)

本物の伊織はどこに行ってしまったのか?

伊織の偽物は一体どこから来たのか?

高木社長は本当に死んだのか? それとも、偽物だったのか?

時は、一週間前に遡る…

………

……




317『或ル日ノ風ケイ』その22014/06/21(土) 01:52:07QLyd0KlA (10/18)

ドンッ!!

伊織「きゃ…!」

貴音「…!」

パサ バサッ

765プロ事務所の廊下。伊織は貴音とぶつかり、手に持っていたファイルを床に落とす。

伊織「ちょっと、気をつけなさいよ!」

貴音「…申し訳ございません、伊織」

伊織「って、貴音。珍しいわね、アンタとぶつかるなんて」

貴音「運びものでしょうか? 拾いましょう。私のせいですから」

伊織「別にいいわよ、そんなの」

モクモクモク

伊織「『スモーキー・スリル』コイツに拾わせた方が手っ取り早いし」

貴音「そう…ですか」


318『或ル日ノ風ケイ』その22014/06/21(土) 02:01:26QLyd0KlA (11/18)

バサッ バサ

伊織の体から出てきた『煙』が、床に落ちたファイルを拾い集め、伊織の腕の上に積み上げる。

貴音「その資料は…?」

伊織「事務所でスタンバイしてる時間、退屈すぎて死にそうだし…ちょっとした調べものをね」

貴音「調べもの、ですか」

伊織「あ、そうだ貴音」

真「貴音!」タッタッタ

伊織が何か言いかけると同時、真が下の階から、階段を駆け上がってきた。

真「こんなところにいた。そろそろ出発の時間だよ、行こう」

貴音「ええ、わかりました。今参ります」

真「あ、伊織。ごめん、貴音連れてくから」

伊織「…アンタ達、最近仲良さそうね」

真「え? 何のこと?」

伊織「呼び方よ。前は『貴音さん』だったじゃない」

真「ああ」


319『或ル日ノ風ケイ』その22014/06/21(土) 02:05:03QLyd0KlA (12/18)

貴音「私が頼んだのです、いつまでも『貴音さん』では少々距離を感じてしまいますから」

伊織「ふーん、そう。ま、いいんじゃない、そっちの方が」

貴音「ところで、伊織。先程何か言いかけておりましたが」

伊織「これから、仕事なんでしょ? 別にいいわよ。大したことじゃあないし」

貴音「そう、ですか…」

真「ほら、急いで!」

貴音「ええ。伊織、それでは」

パタパタ…

二人は下の階の方に、急ぎ足で去っていった。

伊織(時間あったら、貴音にも手伝ってもらおうと思ったんだけど…仕事じゃあ仕方ないわね)

伊織「………」

伊織(気になるのは、876プロにあった『弓と矢』…)

伊織(あんなものが、どうして何本もある…? 高木社長に貰ったって…本当にそれだけのことなの…?)

伊織(なにか、陰謀めいたものを感じるわ…)


320『或ル日ノ風ケイ』その22014/06/21(土) 02:13:38QLyd0KlA (13/18)

伊織「なーんて…」

伊織「考えすぎかしらね。まぁ、気になるのは確かだし暇潰しにはなってくれるでしょ」ガチャ

二階の待合室に入る。

亜美「あれ? いおりん、お勉強?」

大海「伊織ちゃんは真面目ですね。私、学生時代勉強なんてほとんど…」

伊織(中にいるのは亜美と、大海マネージャーか…)

伊織「別に勉強じゃあないわよ。単なる調べもの」

バサバサ

ドサッ!

テーブルの上にファイルを広げ、ソファに背中から飛び込む。

伊織「あ、そうだ亜美。アンタ、今ヒマ?」

亜美「ちっちっち…いおりん、亜美はね…常に世の中の面白いものを探して…」

伊織「あ、そう。ヒマなのね。なら一緒に手伝いなさい」

亜美「あいあいさー。もう、いおりんは亜美がいないと駄目なんだからさ~」

伊織「はいはい…」


321『或ル日ノ風ケイ』その22014/06/21(土) 02:19:55QLyd0KlA (14/18)

大海「伊織ちゃん、調べものですか? 私も手伝いますよ!」

伊織「えーと…アンタは別にいいわ」

伊織(コイツは『弓と矢』の件に何も関係ないし…巻き込むのもね)

大海「えーっ、そんな! 私だって暇なんですよ!」

伊織「知らないわよ。だったらジュースでも買ってきてちょうだい」

大海「はい、わかりました!」ダッ

伊織「あら。なかなか従順じゃない」

ピタッ

大海「あのー、何を買ってくればいいんですか…?」

伊織(………)

伊織「今の気分だと…フルーツ系ならなんでもいいわ。100%のやつね、炭酸のヤツ買ってきたら承知しないから」

亜美「亜美はスプライトね! 透明だから!」

伊織「流行ってんの、それ…?」

亜美「ほへ?」


322『或ル日ノ風ケイ』その22014/06/21(土) 02:28:18QLyd0KlA (15/18)

大海「フルーツジュースに、スプライトですねっ! わかり…」ガッ

大海マネージャーが再び走り出そうとするが、自分の足に足を引っかけてしまう。

大海「わわわわっ!!」

バガッシャーン

その場で大きく転倒する。

伊織「ちょっ…何やってんのよ、アンタは!」スクッ

亜美「お姉ちゃん、大丈夫?」

伊織がソファから立ち上がった。

大海「いたた…ご、ごめんなさい…」

コッ コッ

伊織「ほら、立てる?」スッ

伊織は大海マネージャーの方に近付いていくと、手を伸ばした。

大海「は、はい。ありがとうございます伊織ちゃん」ギュッ

伊織の手を掴み、立ち上がる。


323『或ル日ノ風ケイ』その22014/06/21(土) 02:35:21QLyd0KlA (16/18)

伊織「どこかケガはない?」

大海「あ、はい。手がちょっと擦れたくらいで」バッ

伊織に手のひらを見せる。

伊織「血は…出てないわね」

伊織は、大海の手と、自分の掴まれた手を一瞥してから言う。

大海「皮膚が厚いんですかね? 血は滅多に出ない体質なんですよ」

伊織「ふーん…」

伊織(ま、春香もあんな転んでても滅多に傷作らないし、そんなものなのかしら)

大海「それより、おニューのスーツが痛んじゃいました…うぅ…」

伊織「そ、そう…」

大海「そうだ。ジュース買ってこなきゃ…」タッ

伊織「あ、ちょっと」

呼び止める前に、大海マネージャーは出て行ってしまった。

伊織「…変なヤツ」

亜美「どっちが年上なのかわかんないねー」


324『或ル日ノ風ケイ』その22014/06/21(土) 02:43:38QLyd0KlA (17/18)

亜美「にしても、いおりんは優しいですな~」

伊織「うっさいわね! いいでしょ別に!」ドサッ

再びソファに腰を掛ける。

伊織「それより、これ! アンタも目通して、何か怪しいところがあったら言って」

亜美「なんなの、これ?」

伊織「876プロに『弓と矢』があったでしょう? あれを持ち込んだのは高木社長だという…何かありそうじゃない?」

亜美「それで、高木社長のこと調べんの? それはちょっと面白そうだけど…このファイル全部? なんか面倒かも…」

伊織「どうせ暇なんでしょ」パラ…

亜美「………」

伊織「亜美?」

・ ・ ・ ・

伊織が顔を上げると、そこには既に亜美の姿はなかった。

伊織「ア… ………」

伊織「アイツはッ! 嫌だからっていきなり『ワープ』で消えたりする!? 普通!」

伊織「いえ、落ち着け私…普通は『ワープ』するヤツなんていないわね」


325『或ル日ノ風ケイ』その2/おわり2014/06/21(土) 03:02:04QLyd0KlA (18/18)

伊織「はぁーっ、仕方ない…」

伊織「一人でも、調べてやるわ、ええ!」

ペラ ペラッ

伊織(何かある、なんて私の勝手な思い込みだけど…何もないとは言い切れないわ)

伊織(もしかしたら…高木社長は何らかの意図があって『弓と矢』を持ち込んだのかもしれない)

伊織(そのせいでうっかり亡くなってしまったけど)

伊織(高木社長について調べて、どこかに『弓と矢』に繋がるような情報があったら…)

「何をしているのかね?」

伊織「調べものよ。もう一人でやることにしたからあっち行ってて」

・ ・ ・ ・

伊織「…………え?」クルッ

「おお、これは失礼した。取り込み中だったかね?」

伊織(………嘘、でしょ? コイツ…いや、この人は)

順二朗「久しぶりだね水瀬君。元気そうで、何よりだ」

伊織「は…はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」


326以下、名無しが深夜にお送りします2014/06/21(土) 15:21:150w1rhsiY (1/1)




327以下、名無しが深夜にお送りします2014/06/21(土) 23:05:44ysQvSOE. (1/1)

おつおつ


328以下、名無しが深夜にお送りします2014/06/22(日) 01:48:20fScxJAds (1/1)




329以下、名無しが深夜にお送りします2014/06/22(日) 23:57:45OQl4O8TI (1/1)

乙!


330>>12014/06/28(土) 01:55:30P3zRIX82 (1/1)

だめだ あした


331以下、名無しが深夜にお送りします2014/06/28(土) 10:50:02.id.CUPY (1/1)

待ってる


332>>12014/06/28(土) 23:46:14b/lrQPRE (1/3)

前回までのあらすじ

あみまみちゃん

亜美「亜美です」

真美「真美です」

プラント「プラント」ビン

ボーンナム「ボーンナム」ビビン

「「「「血管針攻撃!!」」」」」パバァーッ


333『或ル日ノ風ケイ』その32014/06/28(土) 23:48:32b/lrQPRE (2/3)

ゴゴゴゴゴゴゴ

ゴゴゴ

順二朗「移転したという話は聞いていたが…」

順二朗「うんうん、やはり新しい事務所とはいいものだな」スゥーッ

事務所の壁を撫でる。

伊織(高木社長について調べようと思ったら…本人が…出てきた…)

伊織(『これなら手っ取り早いわ、やった! ラッキィ~』)

伊織(なんて、そんな問題じゃあない! こんなことはありえない…)

順二朗「ところで水瀬君」クルッ

伊織「!」

順二朗「何を調べているのかね? なにやら、見覚えがあるファイルだが…」スッ

伊織「私に近付くんじゃあないわッ!!」

順二朗「ム!?」ビクッ


334『或ル日ノ風ケイ』その32014/06/28(土) 23:54:05b/lrQPRE (3/3)

伊織(高木社長は死んだ! 葬式もやった、いなくなった後の事務所も私は見てきた!)

伊織(こんな…何もなかったような顔して出てこられて『はいそうですか』と受け入れられるほど伊織ちゃんの常識は崩壊してないわッ!)

順二朗「あの、水瀬君…私が何かおかしなことでもしたのかね…?」

伊織「何かした…ですって…!?」

順二朗「み、水瀬君…? 怒っていては可愛い顔が台無しだよ、ほらスマイルスマイル」

伊織「アンタが生きてるのがそもそもおかしいのよッ!!」

順二朗「なっ!?」

グラ…

ドン

その言葉にショックを受けたのか、高木社長はふらついて背中を壁につく。

順二朗「それは…1年近くもの間事務所を空けていたのは事実ではあるが…」

順二朗「生きてるのがおかしいなど…そこまで言われれば、私だって傷つく」

伊織「え?」


335『或ル日ノ風ケイ』その32014/06/29(日) 00:05:31OBelxubI (1/16)

伊織「ちょ、ちょっと待って…」

順二朗「水瀬君が私のようなオジサンをいじめるとは…悲しいぞ私は…」

伊織「いえ、そうでなく…『1年近く事務所を空けていた』!?」

順二朗「? うむ、正確には10ヶ月だが…予定よりは早く終わったのだ」

伊織(10ヶ月…ですって? 高木社長の葬式は半年前の事件の始めに起こったことだから、8ヶ月くらい前の話よ…)

伊織「その間…何をやっていたの…?」

順二朗「聞いていないのかね? 私も経営者としてまだまだ未熟だと痛感してね。1年間の海外研修だよ」

順二朗「まぁ、社長という身分で研修に行くというもどうかと思ったが…彼の勧めで、その間のことも…」

伊織(1年間の…海外研修…? 国外にいたってこと…?)

伊織「…その間、事務所に帰ってきたことは…?」

順二朗「ないが…時々様子を見たくなることもあったが、ずっと海外にいたよ。昨日帰ってきて、今日事務所に着いたところだ」

伊織(そもそも…高木社長は、ずっと事務所に『いた』わ…一日だけじゃあない)

伊織(高木社長が本当に海外にいたというのなら、あの頃事務所にいたのは…『誰』だっていうのよ…?)


336『或ル日ノ風ケイ』その32014/06/29(日) 00:25:41OBelxubI (2/16)

伊織「あなたは死んだはずなのよ…」

順二朗「ま、またかね…こうしてピンピンしているのだが…」

伊織「…事実だけを言うわ。私達765プロのみんな、高木社長が死んだと思っている」

順二朗「な、なんだって!? 別に向こうで事件や自己に巻き込まれたとかそういうのはないぞ!?」

伊織「私達の目の前で死んだのよ」

伊織「それも、海外じゃあない…この国、前の事務所で、『弓と矢』によって!!」

順二朗「『弓と…矢』…? ?」

伊織「その『弓と矢』を事務所に持ち込んだのも、高木社長、あなたよ…!」

順二朗「はぁ……? ??」

順二朗「水瀬君は、その…弓道も嗜んでいるのかね?」

伊織「うぐ…!」

伊織(なによ~、そのトンチンカンな会話は…『こいつが何を言っているのかよくわからないけどとりあえず話は合わせておこう』みたいな発言…)

伊織(いえ、実際わからないんだわ…目の前にいるこのオッサンは、何も知らない…自分が事務所にいたことも、『弓と矢』を持ち込んだことも、そして死んだということも…)


337『或ル日ノ風ケイ』その32014/06/29(日) 00:42:45OBelxubI (3/16)

順二朗「な、なぁ、水瀬君…みんな私が死んでいると思っているというのは…?」

伊織「今言った通り、みんな見てるのよ。あなたの死を…」

順二朗「な、なんだね、その不気味な話は…私はそういった冗談はあまり好きでないのだが…」

伊織(冗談なら、どんなによかったことか…)

伊織「他の連中には会ってないの…?」

順二朗「ああ、みんなを驚かせようと思って連絡は入れずに帰ってきてね」

伊織(マジに驚いたわよ…私達は死んだと思っていたんだから…)

順二朗「しかし、下の部屋ではなにやら取り込み中だったので、まずはこの新しい事務所を見て回ろうと思ったのだが…」

順二朗「そんな話があるとは…みんなに確認を取らねば」ダッ

伊織「!」

高木社長が、駆け足で二階の待合室から出て行く。

伊織(あまりのことに頭の中はこんがらがってるけど…)

伊織(今、一番怪しいのはコイツよ…! 目を離すわけにはいかないわ!)


338『或ル日ノ風ケイ』その32014/06/29(日) 00:47:08OBelxubI (4/16)

伊織「『スモーキー・スリル』ッ!!」

スゥーッ

伊織の体から出現した『煙』が高木社長を取り囲み…

ガシッ

順二朗「ン!?」

両手足を押さえつける。

順二朗「な、なんだ…これは…!? 体が…」

伊織(見え… ………)

伊織(て…ない)

順二朗「私の体が引っ張られる! と、透明人間か!?」

伊織(昔から、おべっか使うような連中の顔色を見て来たからわかる…とぼけているわけじゃあ、ない)

伊織(スタンドのことを存在すら知っていない…)

順二朗「み、水瀬君! 助けてくれ! 何者かが私の体を!」


339『或ル日ノ風ケイ』その32014/06/29(日) 00:50:57OBelxubI (5/16)

伊織「………」ス…

『煙』が伊織の下へと戻っていく。

順二朗「お、あ、あれ…」

伊織(『弓と矢』を持ち込んだのは、やはり単なる偶然ってこと…?)

伊織(いや、違うわ…それ以前の問題よ…この高木社長は、『弓と矢』自体を知らない)

順二朗「こ、こほん…いや、なんでもない…なんでもないぞ! はっはっは!」

伊織(少なくとも…これが演技でなければ、目の前の高木社長は、『弓と矢』とは全くの無関係よ…)

伊織「すみません、色々と無礼なことを…」

順二朗「む? あ、ああ…別に構わないが…ん?」

伊織(海外研修をしていたという話…裏を取らないと)

伊織(そして、もしも…この高木社長が本物だったとしたら)

伊織(765プロで高木社長を演じていたのは…事務所に『弓と矢』を持ち込んだのは…一体、誰?)


340『或ル日ノ風ケイ』その32014/06/29(日) 01:01:22OBelxubI (6/16)

順二朗「それにしても、私が死んだなどと…何故そんな話が出てきたのか…」

ドンッ

順二朗「うおっ!?」

「きゃ…!」

階段の前の曲がり角で、高木社長と誰かがぶつかる。

「いたた…」

伊織「大海?」

順二朗「大丈夫か?」

春香「………え?」

伊織「いや、春香か」

春香「あ、あれ…な、なんで…え?」

順二朗「すまない、怪我はなかったかね?」

春香「な…なんで高木社長がここにいるの…?」

順二朗「ぐむっ…!」グサッ


341『或ル日ノ風ケイ』その32014/06/29(日) 01:10:40OBelxubI (7/16)

春香「い、伊織…これって一体どういうこと…?」

伊織「私にもよくわからないけど…これが事実みたいよ」

順二朗「ほ、本当に私は死んだ事になっているのか…? みんなで口裏を合わせているわけではないのか…」

伊織「連絡も入れてなかったんでしょう? いきなりそんなこと無理ですよ」

順二朗「そ、そうなのか…」

春香「連絡を入れてない…?」

伊織「ええ、どうやら1年くらいずっと海外にいたみたいで…昨日戻って来たそうなのよ」

春香「…どういうこと?」

伊織「私も正直よくわかってないわ、ただ一つ言えるのはあの頃事務所にいた死んだ高木社長とは別人ってことよ…」

春香「高木社長、伊織以外に誰かと会った?」

伊織「? いえ、会ってないみたい。今からみんなのところに顔出しに行くつもりらしいわ」

春香「ふーん…」


342『或ル日ノ風ケイ』その32014/06/29(日) 01:17:09OBelxubI (8/16)

ヒュッ

伊織「………」

伊織「ん?」

伊織(視界の隅に何か映った…何?)クルッ

グボァ

順二朗「っぶぅ!?」

・ ・ ・ ・

伊織が振り向くと、人型の像が高木社長の腹に腕をめり込ませていた。

春香「無駄無駄」ヒュン ヒュン

ゴシュ

ズギャァァン

そのまま右腕、左腕のワンツーで高木社長の身体が宙に舞い…

ドシャァ!

落ちた。


343『或ル日ノ風ケイ』その32014/06/29(日) 01:34:18OBelxubI (9/16)

ゴゴゴゴ

伊織「……… ……………」

ゴゴゴ

伊織「何、やってんの…アンタ」

春香「予定より早かったなぁ。そうじゃなきゃこうならずに済んだのに」

伊織(三つ、おかしなことがある)

春香「今帰って来られると、色々と面倒なんだよね…」

伊織(春香は何故高木社長を殴り飛ばした? 何のために)

春香「まぁ、でも…そうなる前に気づいてよかった」

伊織(春香は何故スタンドが使える? 春香の『アイ・ウォント』はあの時消滅したはず)

春香「高木社長は死んだ。帰ってきてもいない」

伊織(そして…春香のこのスタンドは何故…『アイ・ウォント』じゃあ、ないの…?)

春香「あとは…伊織が黙っていればね…」

ゴゴゴゴゴゴ


344『或ル日ノ風ケイ』その32014/06/29(日) 03:31:31OBelxubI (10/16)

伊織「アンタ… ………」

伊織「気でも狂ったの!? 得体が知れないとは言え、社長を…」

伊織(ああ、違う! 何を言ってんのよ私は! そうじゃあないでしょ!?)

春香「だって、高木社長が生きてるとわかったら…調べるでしょう? 『弓と矢』はどこから来たのか」

伊織(こいつは…)

春香「まずいんだよね…あと少しで全部終わるっていうのに、こんなところで邪魔されちゃ」

伊織(こいつは…春香じゃない!!)

ハルカ「だから、社長は始末しなければならない」

伊織「………」

伊織「アンタ…『誰』よ?」

ハルカ「私は天海春香」

伊織「何故、当然のように春香を名乗ってここにいるの」

ハルカ「それは私が天海春香だから」

伊織「ふざけてんの、アンタは…!?」

ハルカ「わかんないかなぁ、別にどうだっていいけど」


345『或ル日ノ風ケイ』その32014/06/29(日) 03:40:24OBelxubI (11/16)

ハルカ「さて、社長が生きていると知った伊織…あなたも始末しなきゃならないわけだけど」

伊織「私を始末…ですって? ハッ、やれるもんならやってみなさいよ!」

伊織(もちろん負けるつもりはないけど…こいつが仮にこの伊織ちゃんを倒したとして)

伊織(私がいなくなればみんな異変に気づくわ! そんなことも考えられないのかしらこのバカは?)

ハルカ「と…その前に」スチャ

トン トン

携帯電話を取り出し、どこかに連絡を始める。

ハルカ「もしもし…私です、春香です」

ハルカ「伊織が一人必要になりました。用意してくれますか?」

・ ・ ・ ・

伊織(え…何?)

ハルカ「これでよし」

伊織(私が一人必要? 『用意』する? 何を言ってるの…?)


346『或ル日ノ風ケイ』その32014/06/29(日) 03:56:06OBelxubI (12/16)

伊織「………」

ハルカ「その顔…もう何がなんだか、わからないって感じだね」

ハルカ「でも、考える必要はないよ。伊織はここで倒されるんだから、考えるだけ無駄」タッ

ボフッ

ハルカ「んっ!」

グググ

『煙』が、ハルカの身体をその場に縛り付ける。

伊織「ええ、その通りね。意味のわからないことの連続でもうさっぱりお手上げだわ」スッ

伊織「けど、アンタは全部知ってるのよね」ポイッ

ボールペンを、ハルカに向かって投げる。

伊織「だったら、アンタをブッ倒して聞くことにするわ。それが一番手っ取り早い」

ギン!

『煙』がボールペンを掴み、先端をハルカに向けた。


347『或ル日ノ風ケイ』その32014/06/29(日) 04:09:00OBelxubI (13/16)

ハルカ「『スモーキー・スリル』…」

ハルカ「実体のない『煙』のスタンド、集中すれば結構なパワーは出る…人間なら身動きできなくなるくらいには」

伊織「知ってるなら話は早いわ。さっさとアンタのスタンドを出したら?」

伊織「このボールペンは肩にブッ刺してやるわッ!」

ハルカ「それは…痛そうだね」

ヒュッ

キン!!

ハルカの身体から出現したスタンドの腕に、煙の中からボールペンだけが弾き飛ばされる。

伊織「!」

ドドドド

ハルカ「『アイ・リスタート』」

ドドドドド

煙の中で、ハルカのスタンドが全身を現す。

伊織「それが、アンタのスタンド? 『スタンド使い』でもない社長に不意打ち喰らわせるヤツにしてはちょっぴりスマートでかっこいい感じじゃない」


348『或ル日ノ風ケイ』その32014/06/29(日) 04:14:37OBelxubI (14/16)

ググググ

伊織(あのスタンドもアイツと一緒に『煙』の中にいる…)

伊織(パワーはどう? 『スモーキー・スリル』を吹き飛ばせるようなら、それに合わせて戦法を考えるわ)

ハルカ「………」

伊織「『スモーキー・スリル』!」

スゥ…

・ ・ ・ ・

伊織「…?」

伊織(触れた感触が…ない?)

ヌ ッ

伊織「………!? は…」

ハルカ「『アイ・リスタート』」

伊織(『煙』の中から、アイツのスタンドがあっさりと抜け出て来た…!? 幽霊が壁をすり抜けるように…!!)


349『或ル日ノ風ケイ』その32014/06/29(日) 04:21:15OBelxubI (15/16)

ドドドド

ハルカの『アイ・リスタート』が、ゆっくりと伊織に向かってくる。

伊織「ス…『スモーキー・スリル』ッ!」モクモクモク

スゥーッ

スルッ スカッ

『スモーキー・スリル』が手前に戻って掴もうとするが、そこに何も存在しないかのように『煙』は空を切る。

伊織「な…触れない…!!」

ハルカ「伊織の『スモーキー・スリル』って、触れないスタンドなんだっけ?」

ハルカ「私のも、そうなんだよ。『アイ・リスタート』は実体のないスタンド」

ハルカ「ただし、攻撃の痛みは…」スッ

伊織「う…」

ハルカ「ちゃんと本物だけどね」

ハルカ「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」ドン ド ドグォ ドグバァ

伊織「うあああああああっ…!」ドグシャッ

『アイ・リスタート』のラッシュが、伊織に叩き込まれた。


350>>12014/06/29(日) 04:23:48OBelxubI (16/16)

おっと本日分はこれで終了です
連投規制ないから半即興でダラダラ書けるけどあんまよくないっすね…


351以下、名無しが深夜にお送りします2014/06/29(日) 09:05:56fVWAfGtw (1/1)


伊織のスタンドは進化するとしたらダイアモンドがつくようになるのかな 真美はジェミーかな ……真美VS伊織もう一回来そうな感じになっちゃった


352以下、名無しが深夜にお送りします2014/06/29(日) 19:28:23fGkxiqzQ (1/1)


アイ・リスタートって何ぞと思ったけどあれか、ジブリか


353以下、名無しが深夜にお送りします2014/06/30(月) 15:58:53idjD6fYU (1/1)


既に春香さんはやられていたのか……


354以下、名無しが深夜にお送りします2014/07/02(水) 01:12:44OarodpEg (1/1)

春香さんはもうスタンド使えないから、既にやられてたとしても仕方ないね


355>>12014/07/04(金) 19:58:59IEd5aojk (1/27)

前回までのあらすじ

美希「デコちゃーん」

伊織「てめー 私の額がどーしたと こら!」


356『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 20:07:55IEd5aojk (2/27)

ハルカ「無駄無駄無駄無駄」ドシュ ドシュッ

ハルカ「無駄ァッ」ドッガァ

伊織「うああ…!」グボォ

ハルカのスタンドの攻撃で、伊織の体が吹き飛ばされる。

モクモクモク

バフッ!!

『煙』を集めてクッションのようにし、背中から突っ込む。

伊織「…く…」

ハルカ「おっと、『スモーキー・スリル』で吹っ飛んだ衝撃を受け止めたのかぁ」

伊織(な、何よ…今のは…本体は『スモーキー・スリル』の『煙』で押さえ込んでいたのに、スタンドがすり抜けてきた…)

伊織(いや、『掴む』ことすらできなかったわ! 実体のないスタンド…ですって!?)

伊織「そんな、バカな…! この殴られた感覚は、確かに現実のものだった!」

伊織「私のスタンドだって、直接殴ることはできない! 実体がないのなら、どうして私に攻撃できるの!?」

ハルカ「それは、『アイ・リスタート』が精神上に存在するスタンドだから」

伊織「!?」


357『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 20:29:42IEd5aojk (3/27)

ハルカ「『アイ・リスタート』は現実に発現しているわけじゃあない。カメラを通してのみ確認できる拡張現実…ARのように」

ハルカ「あるいはホログラム映像のように…人間の精神の中にだけ姿を現す」

伊織「…見せかけだけの紛い物ってこと?」

ハルカ「…まぁ、そうだね。見えるし、聞こえるけど、どんな人物もスタンドでも『アイ・リスタート』に触れることは絶対にできない」

ハルカ「つまり…」ズオッ

伊織「!(また攻撃が来る…)」

モクモクモク

『煙』が、伊織を守るように包み込む。

ハルカ「無駄ァッ!」

ドグォ

『アイ・リスタート』の攻撃は『煙』を抜け、直接伊織の腹に突き刺さる。

伊織「うご…! …っ!」

ググ

身体がくの字に曲がる。

ハルカ「そうやって、守ったりもできない」


358『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 20:38:02IEd5aojk (4/27)

ハルカ「無駄無駄無駄」ドン

伊織「」ボヒュ

『スモーキー・スリル』が伊織の身体を後方に打ち出し、追撃を躱す。

伊織「っふぅ…」

ハルカ「おっと、どんどん廊下の方に戻っちゃってるね」

ハルカ「みんな下の階にいるのに…これじゃ階段を下りて、助けを呼べないんじゃない?」

伊織(まただわ…『スモーキー・スリル』では掴むことすらできないのに、私にはダメージがある…)

伊織「ふ…触れることができないなら、何故そのスタンドの攻撃は私に当たるの…?」

ハルカ「精神上に存在するということは、『アイ・リスタート』は直接精神に攻撃」

伊織「精神を攻撃…ですって? 吹っ飛ばされたのも、身体が折れ曲がったのも肉体的な動きだわ…」

ハルカ「精神と肉体は密接に結びついている」

伊織「…!」

ハルカ「伊織の精神が『殴られた』と認識すれば、それはもう伊織を殴ったのと同じじゃない」

ハルカ「『アイ・リスタート』が精神に与えた影響は、現実のものとなる」


359『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 20:45:47IEd5aojk (5/27)

ハルカ「これが能力…わかった? 私は伊織以上に一方的に攻撃ができる」

ハルカ「どんなに激しい攻撃も、どんなに堅牢な守護も無力。『アイ・リスタート』は無敵」

伊織「攻撃されることもなく、さらに攻撃を防ぐこともできない、か」

伊織「春香の『アイ・ウォント』は…相手の『六感』を支配して狂わせるという滅茶苦茶なスタンドだったけど…」

伊織「アンタのそれも負けず劣らず滅茶苦茶なスタンドね…」

ハルカ「まぁ、私は天海春香だから」

伊織「確かに、そいつは無敵よ。認めるわ」

伊織「けど…打つ手はある」

ハルカ「打つ手? それって?」

伊織「」クルッ

ダッ

伊織は、ハルカに背を向けて走り出した。

ハルカ「あっ!?」


360『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 21:00:35IEd5aojk (6/27)

伊織「」タッタッタ

ゴォッ

伊織のすぐ後ろに、『アイ・リスタート』が迫っている。

伊織「…!」

ハルカ「なーんて、ね。伊織が逃げるなんてわかってたよ。もう、それしかないもんね?」

ハルカ「まぁ…逃がさないけど。他のみんなに私のことを知られたら、そっちもすぐ始末しなきゃあならなくなる」

ハルカ「今日は伊織だし…それは避けておきたいんだよね…」

伊織「………」タッタッタ

ハルカ「『アイ・リスタート』! 伊織を始末しなさい!」グオッ

伊織「…わかってたわ。アンタは私を逃がさないように戦っている、そう簡単に逃げきれるわけはないと」

モクモクモク

伊織「でも、『スモーキー・スリル』は…持つものがないとまともに戦えないのも事実なのよね」

ハルカ「走っていたのは…」

ハルカ「部屋の中から、ものを持ってくるためか」

伊織「この伊織ちゃんが逃げる時、それは敗走じゃあないわ…勝つための第一歩よッ!」


361『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 21:15:41IEd5aojk (7/27)

伊織「喰らえ、『スモーキー・スリル』ッ!!」ドシュ ドヒュゥゥ

『煙』の中から、置き時計とガラスの小物入れを撃ち出す。

スゥ…

『アイ・リスタート』の体をすり抜けた。

ハルカ「無駄無駄…『アイ・リスタート』には当たらない」

伊織「でしょうね。最初からスタンドなんて狙ってないわよ」

ゴォォォオ

伊織「例えスタンドは無敵でも…本体のアンタはそうじゃないでしょう!?」

伊織「そしてそのスタンドが、精神上にのみ存在するっていうのなら! アンタも、私の攻撃から身を守ることはできな…」

クルッ

ハルカ「無駄無駄」

ガン ガシャ

ハルカのスタンドがハルカの方へ振り向き、飛ばされたものを叩き落とす。

伊織「………」

ハルカ「何か言った? 伊織…」


362『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 21:27:42IEd5aojk (8/27)

ハルカ「」ヒョイッ

廊下の隅に落ちているボールペンを拾う。

ハルカ「忘れたの? さっき伊織が刺そうとしてきたボールペン…これは私が叩き落としたんじゃあない」ピンッ

指で弾き、再び床に落とす。

ハルカ「身を守ることはできない? そんなことはないよ」

ハルカ「『アイ・リスタート』が精神に与えた影響は、現実のものとなるって言ったよね」

ハルカ「伊織に影響を与えるなら、『アイ・リスタート』が伊織の『精神』に直接攻撃しなければならない」

ハルカ「けど、精神を持たない物質なら…私の『精神』が物体を叩き落としたと認識した時! それが現実となるッ!」

ハルカ「精神の力が現実を凌駕する、それが『スタンド』だよ!!」

伊織「ふーん」

ハルカ「………」

ハルカ「何、その態度」

伊織「まぁ、そうよね…ボールペンを叩き落とされた時、他に動きは感じなかった。薄々そうなると思ってたわ」

ハルカ「強がりを言っちゃって…わかってる? 伊織には私を倒す手段はないんだよ」


363『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 21:35:09IEd5aojk (9/27)

伊織「アンタこそ、わかってないわね」

ハルカ「…?」

ズル… ズルズル

部屋の中と廊下の先から、ベンチソファや観葉植物がいくつも引きずり出されてくる。

・ ・ ・ ・

ハルカ「は…」

伊織「伊織ちゃんの『スモーキー・スリル』はあんな小物しか持ってこれないような貧弱なスタンドじゃあないっての」

ハルカ「ちょ、ちょっと待ってよ…」

伊織「待たない。私は今からこいつをまとめてアンタにくれてやるわ」

伊織「そして、その前にその無敵の『アイ・リスタート』を私に叩き込めばいい…と、アンタはそう思っている」

ハルカ「………」グッ

伊織「無理ね。アンタのスタンドは確かに無敵かもしれないけど、『パワー』や『スピード』は並よ」


364『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 21:39:58IEd5aojk (10/27)

ハルカ「私の『アイ・リスタート』よりその『煙』のスタンドの方が素早く動けると?」

伊織「ええ。守ってもいいけど…そんな『パワー』ないでしょう」

伊織「玉砕覚悟で来れば相打ちにはできるかもしれないけど」

ハルカ「…どうかな」

ゴゴゴゴゴ

伊織「………」

ハルカ「………」

ゴゴゴ

ハルカ「『アイ・リスタート』ッ!!」ゴッ

ハルカの『アイ・リスタート』が動いたと同時に…

伊織「行けッ、『スモーキー・スリル』ッ!!」

ドッギュゥゥゥゥン

『スモーキー・スリル』が、持っているものを一気に投げつけた。


365『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 21:54:25IEd5aojk (11/27)

ゴォォォォォ

ハルカ「ベンチソファが迫ってくる…」

ハルカ「けど、守っている暇はない…伊織はここで片付けなければならない!」ゴォッ

ものが飛んでくる先に、『アイ・リスタート』がどんどん突き進んで行く。

ハルカ「『スモーキー・スリル』が物体を撃ち出している…その先…」ジッ

ものが飛んでくる間から、伊織の姿を探す。

ギンッ

ハルカ「見えた、そこだッ! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」グォォォ

ブルンッ

ハルカ「!?」

ス…

ハルカ「手応えが…『当たった』という感覚がない!(実体のない『アイ・リスタート』も殴れば感覚は伝わるはず)」

ズズ

ハルカ「これは、『煙』が映し出した虚像…? 伊織はどこに行ったの…!?」


366『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 21:57:44IEd5aojk (12/27)

ドシャ

ハルカ「うばっ」

ハルカの上に、ベンチソファがのしかかる。

グシャ グシャ グシャ

ハルカ「うおっ、うおああああああああっ!!」

メシャァァァッ!!

次から次へと飛んでくるソファや観葉植物の下敷きになった。

スゥ…

伊織「…勝ったわね」ムクリ

伊織「はぁ…緊急事態とは言え、伊織ちゃんが廊下に寝転がるなんて…」パッ パッ

起き上がり、服を払う。

伊織「『スモーキー・スリル』で寝ている私の姿を映したわ。反撃を受けないため…念のためね」


367『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 22:04:36IEd5aojk (13/27)

伊織「さてと」

ゴチャ…

伊織「流石にこれほどぶつけてやれば気絶したでしょうけど…あんまり近付きたくないわね…」

伊織「向こうの階段は遠いし、窓から飛び降りるのが一番手っ取り早いかしら」

伊織「…社長のこと、そしてこの春香の姿をした誰か…みんなに伝えないと」ガラッ

廊下の窓を開き、顔を出す。

コォォォォ…

伊織「う、うーん…半年前の事件とか876プロの時は無我夢中だったけど、結構高いわね…『スモーキー・スリル』でちゃんと受け止められるかしら…」

「無理だよ」

伊織「!?」クルッ

ガシィ!!

伊織「な…」

『アイ・リスタート』が、伊織の足を掴んでいる。


368『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 22:09:32IEd5aojk (14/27)

グイッ

伊織「きゃぁぁぁっ!!」

ダンッ!

足を引っ張られ、背中から地面に叩き付けられる。

伊織「ぐ…」

シャン…

観葉植物の葉が鳴った。

伊織「そんな…嘘でしょ…」

グググ…

ハルカ「あー…」ズイッ

ハルカが、ソファの下から這いずり出てきた。

ハルカ「逃がさないって…伊織に逃げられたら面倒なんだよ…」


369『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 22:16:09IEd5aojk (15/27)

伊織「な、なんで…」

伊織「なんで、ピンピンしてんのよ…! あれだけぶつけてやれば気絶するはず…」

伊織「いえ、そうでなくても! 普通の人間なら、ケガで動けるわけがない!」

ハルカ「それは私が『完全なアイドル』だから…かな」

伊織「は…? 完全な…アイドル…?」

ハルカ「まぁ、私もよくわかってないんだけどね。ただ、私達は『普通の人間』じゃあない…のかな」

ハルカ「だから、この程度じゃあ『負け』を認めるわけにはいかない」

伊織(何を言っている…?)

ハルカ「そんなことより…やってくれたね、伊織」

伊織「…!」

ハルカ「もう、好き勝手はさせない。好き勝手やらせると伊織のスタンドは侮れないとわかったからね」

ハルカ「さっさと始末させてもらうよ」


370『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 22:25:23IEd5aojk (16/27)

伊織「ス… ………」

伊織「『スモーキー・スリル』!」モクモク

ハルカ「『アイ・リスタート』」ヒュッ

ドグォ

伊織「っが…!」

伊織がスタンドを出すが、ハルカはおかまいなしに攻撃する。

ザザッ

ハルカ「気絶…気絶か。うん、それが一番いいね。意識があったら何をするかわかんないから」

ハルカ「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」ドン ドガ ドガァッ グギャ

伊織「ああ、うああ…!!」

バッギャァァーン

ドグシャア

『アイ・リスタート』のラッシュに吹っ飛ばされ、地面に転がる。


371『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 22:27:11IEd5aojk (17/27)

伊織「うぅ…」ズルズル

這ってハルカとは逆方向に動こうとする。

グシャ

伊織「あああっ…!」

ハルカが、伊織の手を足で踏みつけた。

ハルカ「だから、もう好き勝手させないって」

伊織「ぐっ、うう…!」

ハルカ「伊織が残り少ない体力で必死こいて少しでも恐怖から逃れようとしてるだけだとしても」グリグリ

伊織「………」

ハルカ「いや…伊織だったら、そういう時は潔く降参するかな…」

伊織「アンタが…」

ハルカ「ん?」

伊織「アンタが私の何を知ってんのよ…この醜悪な化け物が…!」

ハルカ「ひどいなぁ」


372『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 22:36:44IEd5aojk (18/27)

ドンッ

伊織「ぐ!」

壁に叩き付けられる。

伊織(だ…駄目だわ、コイツには勝てない…このままでは始末されてしまう…)

伊織(伝えなきゃ…)

伊織(今、わかっている『事実』…)

伊織(私だけが知っている『事実』だけを! これだけは…みんなに、伝えなくては)

伊織(そして、これ、を…)

ハルカ「伊織…さっきから、その腕の下で、こそこそ何かやってるよね」

伊織「!」ビクッ

ハルカ「なーにやってんのかなぁ!?」グイッ

伊織「く…!」

ハルカ「血文字? 壁の隅っこに小さな文字で、『ハルカ』…か」

伊織「………」


373『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 22:42:03IEd5aojk (19/27)

ハルカ「甘いなぁ、伊織は。こんなの、今気づかなかったとしても伊織を始末した後にすぐ片付けちゃうのに」

伊織「………」

ハルカ「まぁ、これはカモフラージュで…本命は別にある…でしょう?」

伊織「…!」

ハルカ「そこの部屋の中!」バンッ

伊織「ちょっ…」

モクモクモク

ズルズル

ハルカ「私の携帯電話…いつの間に抜き取ったの? 『スモーキー・スリル』でどこかに隠しておくつもりだったんでしょうけど」ヒョイ

伊織「く…」

ハルカ「メールとかは… ………」ペタペタ

ハルカ「送ってないみたいだね。まぁ、見ている中で流石にそこまではできないだろうけど」

ハルカ「あ、伊織の携帯は鞄の中だよね?」

伊織「………」

ハルカ「まぁ、この携帯が他の人に見つかったらちょっとまずかったかもね」


374『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 22:48:01IEd5aojk (20/27)

ハルカ「誰かに何か、メッセージでも残そうとしたんだろうけど…」

ハルカ「無駄無駄、そういうことはさせない」

伊織「………」

伊織(終わった…)

伊織(もう、私にできることは何もない…)

ハルカ「もう、いいかな。そろそろ、頼んでおいた『伊織』も『できてる』頃だろうし」

ハルカ「伊織が散らかした廊下や高木社長も片付けておかないと」

伊織「………」

ハルカ「じゃあね、伊織」

ドグシャア!!


375『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 23:02:20IEd5aojk (21/27)

………

ガチャ

亜美「いおりーん? もう終わったー?」ヒョコ

大海「亜美ちゃん。どこ行ってたの?」

亜美「ありゃ、お姉ちゃん。戻ってたんだ」トスッ

亜美「わ!? ソファが土で汚れてる!? もう、なにこれ!?」

大海「…さぁ、誰かのイタズラかなぁ」

亜美「ぶー、もう帰ったらママに怒られちゃうよ!」

亜美「まぁ、いいや。それよりお姉ちゃん、いおりん知らない?」

大海「伊織ちゃんなら、さっき会ったよ。今は下にいるんじゃない?」

亜美「え、そうなの?行き遅れになっちゃったかなぁ…」

大海「…もしかして、行き違い?」

亜美「そうそう、それそれ。行き遅れは確か、そう。ピヨちゃんのことだよ」

大海「いやいや小鳥さんもまだまだ若いから…」


376『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 23:09:15IEd5aojk (22/27)

大海「あ、そうだ亜美ちゃん。飲み物買ってきたよ。伊織ちゃんにはもう渡してあって」

亜美「おお! でかしたぞ姉ちゃん!」

大海「時間経ってぬるくなっちゃったけど…」

亜美「えー、そーなの? ま、いいや。氷入れて飲むから」

大海「はい、カフェオレ」

亜美「ゼンゼン違うよ!?」

大海「あれ?」

亜美「亜美が頼んだのはスプライトだよ。もう、しっかりしてよーお姉ちゃん。はるるんの他にドジキャラはいらないよー」

大海「え…? そう…」

亜美「そういやさ、はるるんって仕事行ったの?」

大海「春香ちゃんなら、今日は事務所に来る予定なかったと思うけど」

亜美「へ? でも、なんかさっきいおりんと別れた後、はるるんのこと見たような…」

大海「…あれ? さっきまで事務所にいたんだっけ…」

亜美「まったく、しっかりしたまえよキミー。またりっちゃんに怒られるよー?」

大海「頑張ります…」


377『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 23:14:37IEd5aojk (23/27)

そこから一週間。

765プロの日常は、何もなかったかのように過ぎて行った…

そして、時は再び現在へと戻る…



……

………


378『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 23:25:48IEd5aojk (24/27)

事務所一階の待合室。

千早「………」ペラッ

雪歩「………」ペラッ

響「………」ペラッ

バサッ

響「あーっ、駄目だ! それっぽいことなんて何も残ってないぞ!」

真、貴音、やよいに加え千早、あずさ、雪歩、響の7人が集まってファイルを調べていた。

貴音「響、ちゃんと調べましたか?」

響「自分、本とか読むのは結構自信あるけど、『弓と矢』や『スタンド』に関係することとか、何かおかしいこととか、気になることとかそういうのはなかったよ」

あずさ「えーっと… ……………」

ペラッ

あずさ「うーんと… ……………」

ペラッ

真「あずささん、そんなゆっくり読んでたら日が暮れちゃいますよ!」

あずさ「あっ、ごめんなさいね~。じっくり読んだ方が何かわかると思ったから」


379『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 23:38:24IEd5aojk (25/27)

雪歩「うーん、うーん…」

やよい「雪歩さん、なにかわかりました?」

雪歩「ううん、なんにも…本当に、何かあるのかなぁ…」

千早「高槻さん達に話を聞いたけれど、水瀬さんの偽物は…」

千早「何故、この資料を持ち出そうとしたのかしら」

響「そこだよね。何もないなら、こんなもの放っとくぞ」

貴音「相手が意図していないとはいえ、これから伊織が偽物だとわかったのですから…何かあると思ったのですが」

真「…ボクは、はっきり言って今回の事件…高木社長が怪しいと思っている」

雪歩「え? でも、社長は…」

真「もし、生きていたら? その可能性は結構高いと思う」

やよい「私も、もしかしたら生きてるかもって思います」

あずさ「社長がもしも生きていたら…プロデューサーさんや律子さん達も、ちょっと楽になりますね~」

真「………」


380『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 23:47:32IEd5aojk (26/27)

パタン

雪歩「私の方も何もなかったよ」

やよい「私も、よくわかんないですけど…多分、何もないと思います」

響「やっぱり、真の言う通り高木社長が関わっていて何か証拠を消すため…なのかな」

貴音「そう考えるのはいささか早計に思えますが」

千早「本当にそうなら、わざわざこんな怪しまれることしないと思うけれど」

雪歩「そもそも、その消すべき証拠が見つからないんだよね…」

あずさ「あ!」

コロン

真「? どうしたんですか、あずささん」

あずさ「ごめんなさい、この最後のページに何か挟まってて」

ヒョイ

千早「…これは、ボールペン? かしら」


381『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/04(金) 23:59:01IEd5aojk (27/27)

雪歩「このファイルの端っこ、何かこぼしたんでしょうか? 汚れてます」

真「いや、これは…」

響「血だ。誰かの血がファイルにくっついてる」

雪歩「ひっ…!? ち、血…?」

千早「しかも…何かしら? この血…」

貴音「どうかしたのですか?」

ススーッ

千早がファイルの血の跡をなぞると、指と一緒に移動する。

千早「張り付き方が明らかに緩いわ。乾いてから張り付けられているのよ…妙だわ」

やよい「…あれ?」

あずさ「やよいちゃん? どうしたの?」

やよい「えっと、ここのところなんですけど…」

千早「表紙の裏側の部分ね。血がついているけれど…他に、何か?」

やよい「ちょっと、ひっかいたあとが残ってます。なにか、書いてあるような…」

響「な、なんだって!?」


382『或ル日ノ風ケイ』その32014/07/05(土) 00:07:193LJi76PI (1/5)

真「雪歩! 事務室から紙と鉛筆を持ってきて!」

雪歩「う、うん! ちょっと待ってて…」

千早「…面倒だわ。この資料から一枚貰いましょう」

響「え、それって…いいの?」

あずさ「書くものは、ボールペンでいいかしら?」

千早「ええ。まぁ、大丈夫でしょう」

貴音「そうでしょうか…?」

やよい「なんかちょっと心配かも…」

真「…まぁ、いっか。今は緊急事態だ」

千早「そういうことよ。『インフェルノ』」

千早のスタンドがボールペンを持ち、ファイルの窪みの上に、紙を一枚乗せる。

千早「………」ス

シャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ!

素早い動きでその上を擦っていく。


383『或ル日ノ風ケイ』その3/おわり2014/07/05(土) 00:19:043LJi76PI (2/5)

やよい「紙の上に、文字が浮かび上がってます」

真「これが…ボク達の探していたものなのか…?」

貴音「一体、何が…」

シャシャシャシャシャシャシャ

あずさ「あら~? なんか、いくつか文章が書かれてあるみたいね…」

響「何が書いてあるんだ…?」

雪歩「うぅ、ちょっと怖いですぅ…」

ゴゴゴゴ

ゴゴ

『XXX-XXXX-XXXX』

『”?カニ&ヲ>ケロ』

『タカギしャ$#うハイ#?イる』

ゴゴゴゴゴゴゴ

千早「こ…これは…?」

To Be Continued...


384>>12014/07/05(土) 00:21:073LJi76PI (3/5)

スタンド名:「アイ・リスタート」
本体:アマミ ハルカ
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:C スピード:B 射程距離:D(5m) 能力射程:D(5m)
持続力:C 精密動作性:B 成長性:C
能力:人の精神の中にのみ存在できる、実体のないスタンド。
人から見れば実際にそこにあるのと変わらないように見えるが、触れることはできない。
「アイ・リスタート」の攻撃は人間の精神に作用し、さらには現実にも影響を及ぼす。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ


385>>12014/07/05(土) 00:24:093LJi76PI (4/5)

最後までサブタイトルに気づかないという痛恨のミス
すみません今回のは「その4」です


386以下、名無しが深夜にお送りします2014/07/05(土) 00:36:49JWrkKUaQ (1/1)

6感を遮断してもハルカが「攻撃」したと思えば攻撃が成立するって強すぎませんかね!



387以下、名無しが深夜にお送りします2014/07/05(土) 05:49:31lk8GdVHQ (1/1)

ジブリは幻覚に弱かったりするのかね

乙!


388>>12014/07/05(土) 10:48:103LJi76PI (5/5)

修正

>>358
>ハルカ「精神上に存在するということは、『アイ・リスタート』は直接精神に攻撃」

ハルカ「精神上に存在するということは、『アイ・リスタート』は直接精神に攻撃ができるスタンドということ」


389>>12014/07/12(土) 00:53:26QuenNeIA (1/6)

前回までのあらすじ

やよい「紙の上に、文字が浮かび上がってます」

真「これが…ボク達の探していたものなのか…?」

貴音「一体、何が…」

シャシャシャシャシャシャシャ

あずさ「あら~? なんか、いくつか文章が書かれてあるみたいね…」

響「何が書いてあるんだ…?」

雪歩「うぅ、ちょっと怖いですぅ…」

ゴゴゴゴ

ゴゴ

JOJO♡ERINA

エリナ「まぁ! ジョジョったらいけないひとッ!」


390『フラワー・サークル』その12014/07/12(土) 01:02:14QuenNeIA (2/6)

ゴゴゴゴ

千早「高木社長のファイルから…」

千早「文字が浮かび上がってきたわ…これは一体…」

貴音「まさに、書き殴ってあるという形容が似合う字ですね。相当切羽詰まった状況で書かれたもののようです」

やよい「これ…伊織ちゃんの字に似てるかも」

雪歩「そうかな…? …そうかも。崩れてるけど、これ、伊織ちゃんの文字だよ!」

響「ってことは、これは…」

真「伊織の残したメッセージ…ってことか」

ドドドドド

千早「内容は…」

『XXX-XXXX-XXXX』

千早「数字の羅列ね。どういう意味を持っているのか」

あずさ「えっと、これは…電話番号じゃないかしら?」

真「これは、他の文字と比べて結構正確に書かれてるね。携帯電話の番号かな」

響「でも、自分の携帯にみんなの番号入ってるけど…どれとも違うぞ?」


391『フラワー・サークル』その12014/07/12(土) 01:36:46QuenNeIA (3/6)

貴音「知らない電話番号、ですか…」

雪歩「誰の番号なんでしょう」

やよい「犯人だったりして」

シーン…

千早「…犯人って? 高槻さん」

やよい「偽物の伊織ちゃんを連れてきて、本物の伊織ちゃんをどこかにやっちゃった人です!」

千早「そんな人がいるの…? 単独犯ではないの」

真「いや、でも…結構、ありうるんじゃあないかな…それ」

千早「真?」

真「あの偽物には謎が多すぎる、伊織と同じ姿をしていたけど、人間でもない…」

真「何か、大きなものが動いてる気がしてならないんだ。裏で誰かが手を引いていても不思議じゃあない」

貴音「そして、その誰かは私達全員を、伊織と同じように偽物と入れ替わらせるつもりなのかもしれません」

千早「そう、かしら。私は直接見たわけじゃあないからどうとも言えないけれど…」

真「そういう存在がいて、奴らに指示を与えているのだとしたら…連絡を取る手段が必要なはずだ。つまり…」

雪歩「携帯電話…」


392『フラワー・サークル』その12014/07/12(土) 01:46:10QuenNeIA (4/6)

貴音「伊織が、何らかの手段でこの番号を知ることができたというのなら…」

響「これは、伊織が残した大きな手がかりだ!」

真「ちょっと待って、伊織の携帯にも…」スッ

真「やっぱり! 同じ番号が残ってる! 名前は入ってないけど」

貴音「この電話の主が、全ての元凶である可能性は高いですね」

やよい「それなら、さっそくかけてみましょう!」

真「そうだね、こうしてる間にも伊織はどうなってるかわからないし」

あずさ「うーん…ちょっと、待って」

やよい「あずささん?」

あずさ「これ、かけちゃってもいいのかしら」

響「これが繋がれば、犯人がわかるんだよ!」

千早「繋がれば、わかる…果たして、そうと言えるのかしら」

真「…どういうこと?」


393『フラワー・サークル』その12014/07/12(土) 01:59:15QuenNeIA (5/6)

千早「電話をかけて、元凶が出たとして…その相手が『誰』かわかるものかしら?」

千早「知っている人ならば、声でわかるかもしれないわ。でも、そうでなければ本人を特定するのは不可能よ」

雪歩「もし、その人に気づかれて、別の電話とか使うようになっちゃったら…この番号、意味なくなっちゃうよ」

やよい「あぅ…」

響「そっか…そうかも…」

真「で、でも…これが犯人の正体に繋がるかもしれないのに、使えないなんて…」

雪歩「電話をかけなくても、番号から調べることはできる…と思う」

真「! 確かに…そういう手もあるのか。それなら、相手には気づかれにくいかも」

貴音「…申し訳ございません。私には何が何やら…」

雪歩「あっ、えっと、つまり…」

あずさ「こういうのは、律子さんが詳しそうね。聞いてみましょう~」

響「他に、こういうのを調べられそうな人っていないの?」

千早「いたとしても…スタンドに関わることよ。一般人はあまり巻き込まない方がいいわ」


394>>12014/07/12(土) 02:12:22QuenNeIA (6/6)

すみません、今の状態でこれ以上書き進めるのは無理だと判断しました
続きは明日書きます


395以下、名無しが深夜にお送りします2014/07/12(土) 02:28:46N1E00al2 (1/1)

明日を楽しみに今は乙!


396以下、名無しが深夜にお送りします2014/07/12(土) 11:54:44Se1DYc12 (1/1)

待ってる!頑張って乙!!


397『フラワー・サークル』その12014/07/13(日) 01:28:15ve2s5QgI (1/17)

真「残りのメッセージは…」

『”?カニ&ヲ>ケロ』

『タカギしャ$#うハイ#?イる』

真「上の方は読めないなぁ…蟹? ケロ? どういうことなんだろ」

千早「蟹とカエル…かしら? この二つから連想するものと言えば…」チラッ

やよい「はい?」

響「やよいとは絶対関係ないと思うぞ…」

真「最初の2文字がどうしても読めないな…11? アルファベットのNにも見えるし、ただ擦っただけな気もするし…」

やよい「うぅ~、せっかく伊織ちゃんが書いてくれたのに、読めなきゃイミないかも…」

あずさ「下の方は、『高木社長はい…』うーんと、あとは…よく、わからないわね~」

貴音「高木社長…やはり、今回の件に関係あるのでしょうか」

雪歩「この残されていた電話番号は、高木社長が死ぬ前に使っていた番号とは違うみたいですけど…」

千早「それで正体が分かるようなら、相当間が抜けてるわね」

雪歩「だ、だよね…連絡に同じ携帯を使ってたら、番号だけですぐにバレちゃう」


398『フラワー・サークル』その12014/07/13(日) 01:46:45ve2s5QgI (2/17)

真「わかるのは、切羽詰まった状況の伊織が高木社長についてわざわざ書いたってこと」

千早「恐らく、『高木社長は生きている』ということね」

雪歩「そう言われてみれば、この文字もそう読めるような…」

やよい「高木社長が、犯人なんですか?」

響「自分、やっぱり高木社長が怪しいと思うぞ! 死んだと思わせて、裏で変なことしてるんだよ!」

あずさ「それを決めるには、わかってることがちょっと足りないかもしれないわね」

貴音「とりあえず…今断定できることは、二つ…ですかね」

雪歩「二つって? 四条さん」

貴音「まず、この文字を残したのは間違いなく伊織ということ」

貴音「あの偽物からは血は出ません、伊織もそれをわかっていたのでしょう。この血は伊織のつけた目印です」

真「血は固まれば『固体』になる、そうなれば『スモーキー・スリル』で運べるからね」

千早「………」

貴音「筆跡も、荒れてはいますが伊織と同じものです。他の人物がこのように資料の裏というわかりにくい場所に言葉を用意する理由が何も考えられません」


399『フラワー・サークル』その12014/07/13(日) 02:08:14ve2s5QgI (3/17)

あずさ「二つって言ったけど。もう一つは何かしら?」

貴音「少なくとも、敵は身近にもう一人いるということ…です」

やよい「えっ!?」

真「もう一人、だって? 伊織の偽物だけじゃないのか!? 伊織は、あいつにやられたんじゃ…」

千早「…電話番号ね」

貴音「ええ。偽物の持っていた携帯電話は伊織本人のものです。入れ替わった時に取り上げられたとして…伊織はどこでこの番号を知ったのでしょう」

あずさ「あ、そっか。伊織ちゃんがどこかに行く前には、携帯電話にその番号は入ってないのね」

貴音「つまり、この電話番号を使った人物が、他にいるということです。そして、その者は恐らくあの伊織の偽物と同じように何食わぬ顔で事務所で過ごしている」

雪歩「この番号、伊織ちゃんが個人的に知り合った人の番号って可能性はないの? それなら伊織ちゃんが知ってるのも、携帯電話に履歴があるのも変じゃないよ」

真「伊織の携帯に残っていた同じ番号は、全部1週間以内にかけられている。それより前にはかけた様子はないし、携帯の電話帳にも載ってない」

響「素直に考えれば、入れ替わった後に使い始めた番号ってことだね。やっぱり、この連絡先の奴が犯人なのかな」

真「やっぱり、この番号…調べてみたいなぁ。すぐ目の前に手がかりがあるっていうのに…」

千早「…水瀬さんの命がかかっているかもしれない。不用意な行動は慎むべきよ」

真「………そう…だね。うん、そうだよね…」


400『フラワー・サークル』その12014/07/13(日) 02:18:58ve2s5QgI (4/17)

雪歩「や、やっぱり…事務所にいる誰かが偽物ってことですかぁ…?」

貴音「あるいは、全員…この中にもいるかもしれませんね」

響「じ、自分は本物だよ!」

真「怪しいなぁ。本当かなぁ?」

響「嘘じゃないってばー!」

あずさ「何か、本物と偽物を見分ける方法とか、ないのかしら~?」

やよい「えっと、スタンドを出してみればいいと思います! いつも通りのスタンドなら、本物だってわかります!」

あずさ「確か、偽物の人はスタンドが違うのよね~? なら、『ミスメイカー』」ズッ

響「『トライアル・ダンス』! よし、これでいいよね!」バン

千早「『ブルー・バード・インフェルノ』」ヒュゥゥゥ

雪歩「………」

やよい「あれ? 雪歩さん、どうしたんですか?」

雪歩「あ、あの…私、スタンドの出し方がわからないんだけど、どうすれば…」

響「雪歩のスタンドって、確か…」

真「自我を持って一人歩きするスタンド、『ファースト・ステージ』…雪歩は自分でコントロールできないのか」


401『フラワー・サークル』その12014/07/13(日) 02:26:56ve2s5QgI (5/17)

響「ゆ、雪歩…もしかして…偽物なのか!?」

雪歩「ち、違うよ! うぅ、どうすればいいの…?」

真「見分ける方法はもうひとつあるよ」ヒョイ

真が、伊織のメッセージを写した紙を右手で拾い上げる。

雪歩「へ?」

真「『ストレイング・マインド』」パキパキ

紙を持った手を、手首まで黒い鎧が覆い…

ヒュッ

ピッ

左腕に、紙を振り下ろした。

プツッ

先端が腕を掠め、切り口から血が滲んだ。

雪歩「ひ…! ま、真ちゃん! 何やってるの…!?」

真「血だよ。あいつらは血が出ない、こんな風に切ってみて血が出なかったらそいつは偽物だ」


402『フラワー・サークル』その12014/07/13(日) 02:33:10ve2s5QgI (6/17)

雪歩「て、手当てしなきゃ…アイドルが傷なんて作っちゃ駄目だよ!」

真「目立たないところを切ればいいし…やよい」

やよい「はいっ! 『ゲンキトリッパー』」

ワラワラ…

やよいの細かいスタンドが真の腕の傷口の中に入り込んでいき、切り口を塞いでしまう。

真「ほら、『ゲンキトリッパー』で綺麗に塞げば傷は残らないよ」

雪歩「」クラ…

雪歩の足がふらつく。

雪歩「な、なんか…真ちゃんが大事なものを失っちゃってるような…」

あずさ「気持ちはわかるわ、雪歩ちゃん。でも、『スタンド使い』ならこれくらいは普通なのよ」

雪歩「そ…そうなんですか…?」

貴音「それでは、雪歩が本物かどうか確かめましょうか」

雪歩「え」

真「ほら、動かないで雪歩。痛くしないようにするから」

雪歩「ひ…ひぃっ!」


403『フラワー・サークル』その12014/07/13(日) 02:47:22ve2s5QgI (7/17)

響「雪歩も、本物みたいだね! よかったよかった」

雪歩「うぅぅぅ…」ブルブル

貴音「まず、すべきことは獅子身中の虫を見つけ出すこと…ですね」

真「そして、電話番号を調べる…伊織が残した三つのメッセージからだと、できることはこれくらいかな」

千早「…いえ、メッセージは三つではないわ」

やよい「へ? いち、に、さん…三つですよ?」

あずさ「千早ちゃん…もしかして、疲れているのかしら? ソファに横になる?」

千早「違います!」

響「メッセージが三つじゃないって、どういうこと?」

千早「この『血』も、水瀬さんが残したメッセージだと考えられるわ」

貴音「『血』? それは、単なる目印では?」

千早「問題は、この血が『誰のものか』…ということよ」

真「誰のって、そりゃ伊織のでしょ。わざわざ乾いてから張り付けられてるんだから、うっかりついたとは考えられないよ」

千早「ええ。そう、これは水瀬さんの『血』よ」

千早「だから…『血』に辿らせればいい。そうすれば、水瀬さんの居場所がわかるわ」


404『フラワー・サークル』その12014/07/13(日) 02:55:08ve2s5QgI (8/17)

雪歩「ち、血に辿らせる…って?」

やよい「あ! あの人のスタンドですね!」

響「? どういうこと?」

千早「そういうスタンドがあるのよ。確か、『リビング・デッド』と言ったかしら」

あずさ「ああ、この前話してくれた…876の鈴木ちゃんだったかしら~? その子のスタンドね」

千早「正確に言うと876プロ所属というわけじゃあないそうですけどね」

やよい「『血』をスタンドにして、持ち主のところに勝手に向かっていく…あれなら、伊織ちゃんのいるところ、わかるかも!」

千早「電話番号から調べるのは時間がかかりますし…事務所に潜む偽物を見つけても、根本的な解決にはなりません。これが一番手っ取り早い方法かと」

貴音「少なくとも…伊織を助けることはできるかもしれませんね」

やよい「それじゃ、すぐ鈴木さんに連絡しないと!」

真「…誰か、知ってるの? その人の連絡先」

千早「水谷さんに頼めば呼んでくれると思うわ」


405『フラワー・サークル』その12014/07/13(日) 03:07:13ve2s5QgI (9/17)

やよい「あれ、でも…確かあれって乾いたり凍ったりしてたら動かなくなるんじゃ?」

千早「そんなもの、水で戻せばいいわ」

やよい「そ、それで本当に…大丈夫なんでしょうか…?」

千早「わからない…けれど、試してみる価値はあると思うわ」

千早「水瀬さんが心配だし…早い方がいいわね。それこそ、明日にでも」

響「そうだね! 千早、頼むぞ!」

千早「私? 無理よ、明日はドラマの収録が入っているもの。他の人はできないかしら?」

雪歩「えっと、私達、明日から県外でイベントがあって…泊まりで…」

やよい「あ、私も一緒です…」

あずさ「ごめんなさい~、私も明日は大事なオーディションがあって…」

響「自分達は、明日はレッスンだけだけど…」

貴音「しかし、本番は三日後…」

真「本番前の明後日に休みを入れる分、明日はみっちりやっておきたい」

「……………」

………………………………


406『フラワー・サークル』その12014/07/13(日) 03:15:37ve2s5QgI (10/17)

………

……



律子「…で…」

律子「私が駆り出されるのね…はぁ…」

ブロロロロ…

翌日。律子が、車に乗って876プロに向かっていた。

絵理『サイネリアに、用事?』

絵理『…わかりました。2時くらいに、事務所に来てください』

律子「水谷さんも鈴木さんも、知らない仲じゃないし約束は簡単に取り付けられたけど」

律子「まったく、あいつら私を便利屋かなんかと勘違いしてないかしら? 電話番号のことも、後で調べないとだし…」

美希「すぅ、すぅ…」

車の後部座席では、シートベルトに巻かれた美希が横になっていた。

律子「美希! そろそろ着くわよ、起きなさい!」

美希「むにゃ…着いてから起こしてー」


407『フラワー・サークル』その12014/07/13(日) 03:37:31ve2s5QgI (11/17)

ブルルル…

876プロ事務所の前に、車を停める。

バンッ

後部座席のドアを開いた。

律子「ほら、着いたわ! 起きる起きる!」

美希「律子一人で行ってきてよ。ミキはここで待ってるから…あふぅ」

律子「ワガママ言ってないで降りなさい! それと律子さん!」グイッ

美希を引っ張て無理矢理引きずり下ろす。

美希「用事って、ちょっとしたことでしょ? ミキが来る必要ないって思うな」

律子「…念のためよ」

美希「なんでミキなの? 千早さんとか、真クンとか、テキニン? は他にいるって思うな」

律子「事務所のボードに書いてあったでしょう、他はみんな忙しいの」

美希「フーン。暇なのは律子だけだったんだね」

律子「私だってそんなに暇じゃないわよ、暇なのはあんただけ。用事終わらせて帰ったら、さっさと仕事片付けないと…」


408『フラワー・サークル』その12014/07/13(日) 03:45:00ve2s5QgI (12/17)

ガチャ

ビルの二階にある事務所の扉を開き、中に入る。

律子「おはようございます」

愛「あれ? 律子さん!! おはようございまーす!!」

美希「あ、愛だ。おはようなの」

愛「あっ、美希センパイも!! お久しぶりですっ!! どうしたんですか!?」

律子「今日、水谷さん達と約束をしているんだけど…」

愛「絵理さんなら、さっき外にお菓子を買いに行っちゃいましたよ」

律子「…入れ違いってこと?」

美希「間が悪いの」

律子「………」

愛「今は、私一人でお留守番ですっ!!」


409『フラワー・サークル』その12014/07/13(日) 03:53:07ve2s5QgI (13/17)

律子「一人で、ってことは、他には誰もいないのね?」

愛「そうですね、ちょっと寂しかったけど、お二人が来てくれてよかったです!!」

美希「座っていい?」ドサッ

律子「座ってから言わない」

愛「はいっ、絵理さんが戻ってくるまで待っててください!!」

律子「…それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ」コトッ

律子がテーブルの上に菓子パンほどの大きさをした、透明の円柱状の入れ物を置く。中に、赤い液体が少量入っているのが見える。

美希「それ、なに?」

律子「プラスチックのケースよ。この中に伊織の血が入っている」

律子「この『血』をスタンド化させれば、『コンパス』のように伊織の居場所を指し示すようになるわ」

律子「薄いガラスくらいなら割ってしまうそうだから、強度は結構強めのを選んだのよ」

美希「このテーブルの上に置いてあるケーキ、食べていい?」モグモグ

律子「だから、食べてから… ………」

愛「はいっ、どうぞ!!」


410『フラワー・サークル』その12014/07/13(日) 03:58:22ve2s5QgI (14/17)

愛「………」

ス!

愛が、懐から包丁を取り出す。

ゴゴゴゴゴ

美希「美味しい! いいとこのケーキに違いないの!」

律子「2個はやめておきなさいよ」

愛「………」

ゴゴゴ

美希も律子も、後ろを向いている。

美希「律子のケチー」

律子「ケチとかじゃなくて、甘いものばっかり食べてると…」

愛「………」グ…

手に持っている包丁を、ゆっくりと上げる。


411『フラワー・サークル』その12014/07/13(日) 04:03:21ve2s5QgI (15/17)

愛「とりゃー! くらえーっ!!」グオン

ドシュゥウゥゥゥゥウ

美希に向かって、包丁を投げつけた。

美希「『リレイションズ』」パシッ

後ろを向いたまま、背後にスタンドを出して空中で掴み取る。

ヒュッ

愛「わっ!?」バッ

包丁を投げ返すが、間一髪で避けられた。

ドスゥ

壁に突き刺さる。

愛「な…なんで…」

美希「お客さんに対して、あんまりなサービスじゃないカナ」クル

ソファから立ち上がり、振り向く。

愛「私が攻撃を仕掛けることがわかったんですかっ!!?」

美希「本気で言ってるの、それ?」


412『フラワー・サークル』その12014/07/13(日) 04:12:13ve2s5QgI (16/17)

律子「嘘が上手い下手以前の問題よ、時間を決めて待ち合わせしているのに、直前で買い出し?」

律子「ケーキが置いてあるのに、お菓子を買いにいった? どうかしてるわ」

愛「わわ、全部バレてる…」

律子「それでもって、今のかけ声…馬鹿にしてるの?」

愛「? 何か言いましたっけ、あたし?」

美希「…ほっぺた」

愛「え?」

美希「今ので、ちょっと切れてる」

愛「あ…ほんとだ」スッ

ほっぺたに触る。うっすらと切り傷がついている。

美希「血が出ないってことは…偽物なの」

アイ「…あぁ~」

ゴゴゴゴゴ


413『フラワー・サークル』その1/おわり2014/07/13(日) 04:24:07ve2s5QgI (17/17)

律子「876プロにも『弓と矢』があったと聞いて、こっちもそうなのかと思ったけど…案の定ね。美希を連れてきて正解だったわ」

美希「765プロとはそこまでカンケーないし、ニセモノさん達が何がしたいのかはよくわかんないケド…」

美希「ミキ達を襲ってきたってことは、敵だってことだよね?」

ググ…

律子(? 今…壁に刺さった包丁が、動いた? 刺さり方が不安定なのかしら)

グルン

・ ・ ・ ・

ギュオン!!

包丁はひとりでに壁から抜け、刃先を美希の方に向けると、真っ直ぐに飛んでいく。

美希「へ?」

律子「ロ…『ロット・ア・ロット』!」ヒュン

ガゴッ!!

箱状の人工衛星のようなスタンドが美希の前に現れ、包丁を受け止める。

アイ「もう知られちゃってるんですね、私達のこと…」

アイ「だったら、もうやっつけちゃいますよっ!! 私のスタンド、『フラワー・サークル』でっ!!」


414以下、名無しが深夜にお送りします2014/07/13(日) 09:31:37Y5teiT3U (1/1)


リレイションズに似た能力かな?


415以下、名無しが深夜にお送りします2014/07/13(日) 12:49:20jFgDY9As (1/1)


765プロの面々も「回復能力持ち」の例に漏れず
傷や痛みをを軽んじ始めたか……


416以下、名無しが深夜にお送りします2014/07/13(日) 12:57:004xMj3N9s (1/1)

真は一部の時からそういう部分はあった


417>>12014/07/19(土) 00:52:234c9ZpmRs (1/19)

前回までのあらすじ

響「千早、頼むぞ!」

千早「私? 無理よ、明日はドラマの収録が入っているもの。他の人はできないかしら?」

雪歩「えっと、私達、明日から県外でイベントがあって…泊まりで…」

やよい「あ、私も一緒です…」

あずさ「ごめんなさい~、私も明日は大事なオーディションがあって…」

響「自分達は、明日はレッスンだけだけど…」

貴音「しかし、本番は三日後…」

真「本番前の明後日に休みを入れる分、明日はみっちりやっておきたい」

「……………」

真「伊織のことはいいか…」

貴音「仕方のないことです」

千早「仕事だって、大切だものね」

伊織「おい」


418『フラワー・サークル』その22014/07/19(土) 01:09:494c9ZpmRs (2/19)

キュル キュル

律子「包丁がひとりでに飛んできた…」

律子(スタンド能力…? でも、スタンドのヴィジョンは見えなかったわ…)

美希「危なかったぁ…律子、ナイス!」

アイ「まだ終わってないですよ!!」

ピキッ!!

律子「ん!」

律子(『ロット・ア・ロット』にヒビが入っている…飛んできた勢いは、受け止めた時に止まったはず…)

ミシミシ

律子(この包丁自体が意思を持って動いている!?)

律子「美希! 伏せなさい、突き破ってくるッ!」

バガッ!

律子「!」

受け止められた包丁が、箱を貫通し美希へと襲いかかる。


419『フラワー・サークル』その22014/07/19(土) 01:22:574c9ZpmRs (3/19)

美希「わざわざ伏せるなんてしなくていい」

シュパ!

ガシッ

美希のスタンドが、素早い動きで持ち手の部分を掴んで押さえつける。

ドドドド

美希「目の前から来ても、来るとわかってれば受け止めるのなんてカンタンなの」

アイ「速い…」

グ…ググ

包丁が、手の中で震えている。

律子「み、美希…」

美希「けっこー強いパワーで動いてるの。ミキの『リレイションズ』の方が強いみたいだケド」グ

グニャァ

包丁の刃を先端から渦を巻くように丸めて…

ブチン

根元を捻り切ってしまう。


420『フラワー・サークル』その22014/07/19(土) 01:38:334c9ZpmRs (4/19)

アイ「ああーっ! なんてことしちゃうんですか!」

美希「この包丁を飛ばすのがキミのスタンド能力?」カラン

『リレイションズ』が、アスパラに巻かれたベーコンのように丸まった包丁を地面に放りなげる。

アイ「半分正解で、半分違いますよ美希センパイ」

カタカタカタ…

美希「!」

律子「テーブルの上の食器が震えている…」

アイ「行けっ!!」

美希「『リレイションズ』!」

ボギャァァアア

テーブルを蹴り上げた。

ガシャン ガシャン

その上から食器が落ち、割れる。

律子「え!?」

しかし、テーブルは宙に浮いたまま、そこに留まっていた。


421『フラワー・サークル』その22014/07/19(土) 01:51:054c9ZpmRs (5/19)

アイ「それっ、喰らえーっ!!」

グォォォォ

律子「きゃぁぁ!!」

テーブルが美希と律子に飛びかかってくる。

美希「なのっ!」ヒュン

ボゴン

『リレイションズ』で殴るが、勢いは止まらない。

アイ「壊すにはちょっとパワー不足みたいですね!!」

美希「ちょっとだけね」

<LOCK!

テーブルの、殴った部分に円形の印が浮かぶ。

美希「もう一回!」ヒュッ

バギャァァ

ガンッ!

その印を正確に攻撃すると、綺麗な穴が空き、テーブルは地面に落ちた。


422『フラワー・サークル』その22014/07/19(土) 02:02:384c9ZpmRs (6/19)

アイ「わわっと! そんなっ、あっさり壊されちゃうなんて…」

美希「行けっ!」

ギュン

『リレイションズ』が、アイの方に向かっていく。

アイ「なんちゃって…」

律子(? 動かない?)

ゴォォォォ

アイ「ふふっ、全部わかってますよ! 美希センパイの『リレイションズ』は殴ったものに『ロック』をつける能力」

アイ「『ロック』への攻撃は、同じ物体の『ロック』された部分全体に及ぶ…ダメージが倍、倍に増幅する。だからテーブルくらい簡単に壊せるんですね」

アイ「さらに、そこを目印に自分の攻撃を引っ張らせることができる。スピードも上がるし、自分の体を引っ張って射程距離を縮めることもできます」


423『フラワー・サークル』その22014/07/19(土) 02:06:054c9ZpmRs (7/19)

アイ「でも、攻撃さえ当たらなければ『ロック』されないです! 『リレイションズ』の射程距離はたった1m…」

アイ「あたしとの距離は、2m近くは離れている! 『ロック』されてないあたしに、ミキ先輩の攻撃はここまで届かな…」

ォォォオォォ

ボゴォ

リレイションズの攻撃がアイの顔面に入った。

アイ「ぎゃぁ!?」ギュルン

バッキャァァァ

美希「全く動かないから何かあるのかと思ったら、何にもなかったの…」

アイ「な、なんで…? もしかして、射程距離が伸びてるの…?」

美希「『リレイションズ』を出せるキョリはそんな変わってないって思うケド」

美希「さっきの包丁、かすったよね? 顔に」

アイ「あっ!?」バッ

<LOCK!

美希「そして、これで二つ目」


424『フラワー・サークル』その22014/07/19(土) 02:14:324c9ZpmRs (8/19)

美希「『リレイションズ』が投げたものも、『ロック』に引っ張られる」スッ

ピンッ

ポケットの中からおはじきを出し、『リレイションズ』の指が弾き飛ばす。

アイ「いたっ!!」ピシッ

<LOCK!

美希「そして『ロック』をつけたものをぶつけると、ぶつけた所にまた『ロック』できるの」

アイ「くぅ…」

美希「デコちゃんがいなくなっちゃってさ…」

美希「美希ね、今けっこー怒ってるから」

アイ「………」

美希「同じニセモノ…デコちゃんと何かカンケーあるなら、手加減ナシなの」ザッ

律子「美希、気をつけなさい。まだ相手のスタンドの正体が掴めないわ」

美希「それなら、律子もなんかやってほしいって思うな」

律子「しょ、しょうがないでしょう。私のスタンドはこの距離じゃほとんど役に立たないし…」


425『フラワー・サークル』その22014/07/19(土) 02:26:534c9ZpmRs (9/19)

美希「それに…ここでブチのめせばスタンドなんてどうだっていい」

ゴゴゴ

アイ「………」ジリッ

美希の迫力に、アイの足が少しずつ後ずさっていき…

ドンッ

アイ「あっ!?」

背中が壁にぶつかった。

美希「『リレイションズ』!」

その一瞬の隙を見て、一気にスタンドで距離を詰める。

アイ「うわ…」

ヒュッ

ドゴバァ!!

『リレイションズ』の拳がアイの顔面の位置に突き刺さった。


426『フラワー・サークル』その22014/07/19(土) 02:33:244c9ZpmRs (10/19)

律子「や…」

律子「やったの? あっけなさすぎる気もするけど…」

美希「………」

律子「…美希?」

ゴゴゴゴ

壁「ぷはァ~…ぁぁ~」

ゴゴゴゴゴ

律子「な…!?」

アイの顔面が、壁にめり込んでいる。

と言うより、アイの体が底なし沼に沈み込むように壁の中に入り込んでいた。

美希「なに、これは…」

顔面は完全に壁の中に沈んでおり、『リレイションズ』の拳は壁を殴っていた。

スル スルスルスル

やがて、アイの全身が壁に飲み込まれて消えていった。


427『フラワー・サークル』その22014/07/19(土) 02:49:274c9ZpmRs (11/19)

律子「き…消えた…!」

美希「隣の部屋に行ったみたい」

律子「ヘ?」

美希「『ロック』をつけたら大体の場所はわかるの。他の場所に『ロック』はしてないし」

律子「ちょ、ちょっと待って!」カタカタカタ

ノートパソコンのような端末を出し、キーボードを叩く。

ブオン

端末の画面が、ロッカー室にいるアイの姿を映し出した。

律子「出た…『ロット・ア・ロット』のカメラで見つけたわ。確かに隣の部屋にいるみたいね」

美希「…律子、ついでにスタンドの数増やしといて」

律子「へ…?」

カタ カタカタカタ

美希達の周囲に置いてあるものが、一斉に震えだす。

律子「こ、これはまさか…」

美希「思ってる通りだと思う」


428『フラワー・サークル』その22014/07/19(土) 03:13:214c9ZpmRs (12/19)

ガタ!

流し台の引き出しが勝手に開く。

ピン ピンッ

ポスターの画鋲が壁から抜ける。

バガン

部屋の隅に置いてあった段ボールが開いた。

律子「み、美希…」ビタッ

律子と美希が背中合わせになる。

ギュン! ギュギュン!

食器、文房具、中身入りのペットボトルなど、周囲の物体が二人の方にひとりでに飛びかかってきた。

律子「『ロット・ア・ロット』!」

フォン フォン

ゴガッ! ガゴ

律子は周囲に大量の衛星を出し、飛んでくるものを止める。


429『フラワー・サークル』その22014/07/19(土) 03:20:324c9ZpmRs (13/19)

ミシ ミシ ミシ

律子「ああ…!」

律子(駄目だわ…! 一時的に動きを止めたとしても、すぐに襲いかかってくる! 止まらない!)

ゴォォォォ

律子(それに、引き出しのように箱の大きさを上回るものは『ロット・ア・ロット』には止められない!)

律子「ぐぁ!」

ドス! ドスッ

手足にフォークが突き刺さる。

律子「み…美希ッ!!」

ボトン ボト

・ ・ ・ ・

美希の方に飛んできた物体が次々と、電池の切れたラジコンの飛行機のように地面に落ちていく。

美希「それっ」キュッ

ボトン

『リレイションズ』の手が表面を撫でると、引き出しはあっさりと勢いを失った。


430『フラワー・サークル』その22014/07/19(土) 03:38:334c9ZpmRs (14/19)

律子「…美希?」

美希「あれ、律子。なんか大変そうだね」

美希「ほいっと」ススッ

同じように律子に刺さっていたフォークを撫でる。

ポトッ

抜け落ちた。

律子「………」

美希「こんなものカナ? もう飛んでくるものはないの」

律子「…どういうこと? 糸の切れたマリオネットみたいに止まったわ…」

美希「ああ、これこれ」ヒョイ

地面に落ちた引き出しを拾い上げ、裏面を律子に見せる。

律子「これは…何? ひまわりの花が描いてある?」

美希「ちがうちがう。はなまるなの、『リレイションズ』の指でなぞったからこんななってるケド」

律子「はなまる…」