1以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/01(土) 23:30:28.04gLjesAt+o (1/33)

 それは、なんでもないようなとある日のこと。


 その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
 時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

 それと同じ日に、宇宙から地球を侵略すべく異星人がやってきました。
 地球を守るべくやってきた宇宙の平和を守る異星人もやってきました。

 異世界から選ばれし戦士を求める使者がやってきました。
 悪のカリスマが世界征服をたくらみました。
 突然超能力に目覚めた人々が現れました。
 未来から過去を変えるためにやってきた戦士がいました。
 他にも隕石が降ってきたり、先祖から伝えられてきた業を目覚めさせた人がいたり。

 それから、それから――
 たくさんのヒーローと侵略者と、それに巻き込まれる人が現れました。

 その日から、ヒーローと侵略者と、正義の味方と悪者と。
 戦ったり、戦わなかったり、協力したり、足を引っ張ったり。

 ヒーローと侵略者がたくさんいる世界が普通になりました。


part1
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371380011/


part2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371988572/


part3
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1372607434/


part4
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373517140/


part5
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1374845516/



part6
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376708094/



part7
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379829326/



part8
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1384767152/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1391265027



2以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/01(土) 23:31:54.38gLjesAt+o (2/33)

・「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドスレです。

  ・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。
  ・一発ネタからシリアス長編までご自由にどうぞ。


・アイドルが宇宙人や人外の設定の場合もありますが、それは作者次第。


・投下したい人は捨てトリップでも構わないのでトリップ推奨。

  ・投下したいアイドルがいる場合、トリップ付きで誰を書くか宣言をしてください。
  ・予約時に @予約 トリップ にすると検索時に分かりやすい。
  ・宣言後、1週間以内に投下推奨。失踪した場合はまたそのアイドルがフリーになります。
  ・投下終了宣言もお忘れなく。途中で切れる時も言ってくれる嬉しいかなーって!
  ・既に書かれているアイドルを書く場合は予約不要。

・他の作者が書いた設定を引き継いで書くことを推奨。

・アイドルの重複はなし、既に書かれた設定で動かす事自体は可。

・次スレは>>980
    
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」まとめ@wiki
www57.atwiki.jp



3以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/01(土) 23:33:09.98gLjesAt+o (3/33)

☆このスレでよく出る共通ワード

『カース』
このスレの共通の雑魚敵。7つの大罪に対応した核を持った不定形の怪物。
自然発生したり、悪魔が使役したりする。

『カースドヒューマン』
カースの核に呪われた人間。対応した大罪によって性格が歪んでいるものもいる。

『七つの大罪』
魔界から脱走してきた悪魔たち。
それぞれ対応する罪と固有能力を持つ。『傲慢』と『怠惰』は退場済み

――――

☆現在進行中のイベント

『憤怒の街』
岡崎泰葉(憤怒のカースドヒューマン)が自身に取りついていた邪龍ティアマットにそそのかされ、とある街をカースによって完全に陸の孤島と化させた!
街の中は恐怖と理不尽な怒りに襲われ、多大な犠牲がでてしまっている。ヒーローたちは乗り込み、泰葉を撃破することができるのだろうか!?
はたして、邪龍ティアマットの真の目的とは!


『秋炎絢爛祭』
読書の秋、食欲の秋、スポーツの秋……秋は実りの季節。
学生たちにとっての実りといえば、そう青春!
街を丸ごと巻き込んだ大規模な学園祭、秋炎絢爛祭が華やかに始まった!
……しかし、その絢爛豪華なお祭り騒ぎの裏では謎の影が……?


モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」まとめ@wiki
http://www57.atwiki.jp/mobamasshare/pages/1.html


4 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:34:17.99gLjesAt+o (4/33)

すみません、残りレス数のこと考えてませんでした。

続きから投下します


5 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:36:16.03gLjesAt+o (5/33)


「……なにみく?こんな寒空の中、私一人買い物に行かせて……貴女はこたつで、安息を楽しむつもりだったのかしら?」

 半ば強引に連れ出されたことに文句を言うみくだったが、それをのあは隣のみくを横目でじろりと見つめる。

「うっ……ぐぬぬ、しょうがないにゃ……」

「わかればいいのよ。まぁでも……晩御飯の献立、貴女に委ねてもいいわ」

「え!ほんとにゃ?じゃ、じゃあハンバーグがいいにゃ!」

 不満の残るみくの表情だったが、のあの一言で引っくり返したかのように笑顔に変わる。
 そんな二人のやり取りが微笑ましくて、アーニャは少し笑った。

 そのアーニャが無意識にしていた、雪のように解けて消えてしまいそうな儚い笑顔をのあは見逃さなかった。

「……では、私は少し、先を急ぐので。ダスヴィダーニヤ……さようなら、また今度です」

 そう言ってアーニャは二人に背を向けて、再び足を進めようとする。

「……待ちなさい」



6 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:36:54.22gLjesAt+o (6/33)


 しかしその歩みはのあに肩を掴まれたことによって遮られる。
 そのまま強引にアーニャを振り向かせて、かわいらしい手袋に包まれたのあの両手によってアーニャの両頬は押さえつけられる。

「な!?なんですか、の……あ」

 のあはアーニャの顔を固定したまま、顔をずいと近づける。
 アーニャの眼前にはのあの顔が間近に迫り、その両目はアーニャの目を覗くようにぶれることはない。

「ど、どうしたのにゃのあチャン!?ひ、人前でそんなダイタンに……って、あれ?」

 みくから見ればのあが突然アーニャを引き止めて振り向きざまにキスしたように見える。
 しかしその顔が寸前で停止して間近で顔を観察していることにみくも気づいた。

「きゅ、急にいったいなんなんだにゃのあチャン?」

「ダー……まったくです。い、いったいどうしたんですか?のあ」

 アーニャに向けられるのあの視線。
 それは内面まで見透かされているようで、アーニャは居心地が悪かった。

「……違うわ。戻った……というより、やはり見えていない……のかしら?」



7 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:37:38.74gLjesAt+o (7/33)


 のあはアーニャの眼前そのままで呟く。

「?……なんのことですか?」

 アーニャにはその言葉の意味がよくわからない。
 のあはアーニャが状況を理解できていないまま、顔を放す。

「……ここでは少し、凍えるわ。どこか……暖かいところに行きましょう」

「で、でも私には、用事が」

 のあは別の場所へアーニャを連れていくことを提案するが、アーニャにはその意図が全く分からない。

「みく……暖かい場所、近くに何かない?」

「え?あ、ああうん……。エトランゼならここから近いにゃ」

 みくも状況についていけてないようだが、とりあえずのあに聞かれたとおり答える。

「じゃあ……そこへ行くわ。ここだとやはり、寒い」

「アドナーカ……、でも……」

「貴女の用事なんて……知らないわ。早く……行かないと」

「い、行かないと?」

「さささ寒くててて、わた私が、機能がががが、ここ凍えててて、動かななな」

「ああ!のあチャンが寒さのあまりに、壊れたテレビのようになってるにゃ!」

「と、とりあえず、エトランゼまで行きましょう!」




8 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:38:28.89gLjesAt+o (8/33)


***

「ただいまもどりましたー」

 ピィは手にコンビニの袋を携えてプロダクションの入り口から入ってくる。

「弁当はあったものを適当に選んできましたけどよかったですかね?」

 袋をプロダクションで待っていた者たちの前において、ピィは尋ねる。

「んー、チョイスはパッとしないけど悪くはないんじゃない?」

 目の前に置かれた袋の中身を周子は覗きながら言う。

「せっかくお前のために買ってきたのになんなんだその言いぐさは……」

「私はみなさんの分のお茶を淹れてきますね」

 周子の言い草にピィが不満を垂れる中、ちひろは立ち上がって給湯室の方へと向かう。

「ところでちひろさん、弁当代は経費で落ちますよね?」

 そんなちひろの背中にピィは声をかける。
 その質問に対してちひろは振り向いて不思議そうな顔をしている。



9 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:39:23.55gLjesAt+o (9/33)


「え?」

「……え?い、いや経費で……」

「落ちると思ってるんですか?」

「そんな殺生な!?」

 弁当代が経費で落ちないので、思わぬ出費に頭を痛める少々薄給のピィ。
 それを気にせず周子と未央は袋から弁当を取り出している。

「私これー♪」

「んじゃああたしはこれ貰っちゃおー」

 ピィの買ってきたコンビニ弁当を我先にと選び、ついてきた割り箸と共に手元に持ってくる。

「ピィさんも出費なんか深く考えないで食べよう!あんまり悩まず楽観的に、ね♪」

「ぐぅ……、まぁいいか」

 ピィも袋から弁当を取り出して、ソファーにこれ以上の人数は手狭なので自分の机へと持っていく。
 そして椅子に座ると、ピィの背後から手が伸びてきてお茶の入った湯飲みが置かれた。



10 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:40:00.73gLjesAt+o (10/33)


「どうも、ちひろさん」

「いえいえ」

 お盆に人数分のお茶を乗せて持ってきたちひろはそのままソファーへと座る。

「そう言えば楓さんは?」

 ピィは先ほどまでソファーで眠っていた楓の所在について聞く。

「ああ、仮眠室に運んでおきました。ここのままだと少し、楓さんにはうるさいかもしれませんからね」

 ちひろは仮眠室の方を指さしながらそう言う。

「そういえば、あの隊長が、というよりもデストロー……だっけ?

それがここに来ることさえできないとか言ってたけどどういうことなんだ?」

 ピィがコンビニに出かける前に未央がふとつぶやいた言葉。
 それを思い出したピィはその意味を尋ねた。

「んーとね、さっき話したけど『デストローは世界に介入できない』って言ったよね。

だったらこのプロダクションにも介入できるはずないじゃん」

 未央は当たり前のように言うが、他の3人はその意味がよくわからず、とりあえず首をかしげ箸を動かす。



11 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:40:54.20gLjesAt+o (11/33)


「ぐ、ぐぬぬ……じゃ、じゃあこの私の名を言ってみろう!」

「ジャ○?」

「違うわ!」

 なんだかよくわからない3人だったがしぶしぶ未央の言う通りにする。

「本田未央ちゃん」

「未央ちゃん」

「午前五時の女王?」

「ちがっ……違わないけどそうじゃないよ!それとピィさんそのメタ発言は屋上モノだよ!」

 未央はそう言って弁当を机の上に置いて立ち上がる。

「こうなったら……ウィング、オープン!」

 そんな掛け声と同時に、未央の背中から6枚の純白の翼が出現する。

「みなさんこれをお忘れかー!この私、可憐な女子高生である本田未央はこの世での姿!

そう、その正体は天使の中の天使、天使オブ天使、熾天使ラファエルとはこの私のことだ―!」

「未央ちゃんちょっと眩しいから羽仕舞ってくれない?」

「ああ、そういえばそんな設定もあったな」

「あ、このから揚げしゅーこがもーらい!」



12 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:41:35.62gLjesAt+o (12/33)


「反応薄くない!?

ピィさん設定とか言わないでよ!

それに周子さんそのから揚げ私のだよ!」

 机の上の弁当を急いで周子の手の届かないところへ移し、背の翼を仕舞う未央。
 そして無事であったご飯を一口口に入れて、咀嚼して飲み込む。

「んぐ……とにかく!私あのラファエルだよ!

世界的ネームバリューだってチョー高いんだからね!」

「まぁ確かにそうだな。それが何か関係があるのか?」

 未央は呼吸を落ち着かせて再びソファーに座りなおす。

「だってさ、この私ラファエルが降臨してるってだけでほとんど歴史的大ニュースのようなもんでしょ。

信心深い信者が知れば、このプロダクション自体潰して、強引にこの場所に教会立てたって普通不思議じゃない。

だから私が入り浸ってるこのプロダクションは、ある意味歴史的に、世界的に重要な場所のようなものだよね。

じゃあ当然、現在進行形で歴史の渦中であるこのプロダクションに、

デストローは壊すことはおろか、ここに訪問することはほぼ不可能ってことだよ」

 未央は箸にポテトサラダをつまんで、口へと運ぶ。



13 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:42:42.63gLjesAt+o (13/33)


「じゃ、じゃあどういうことだってばよ?」

「結局よくわからないってこと。

正直私も本物のデストローなんて見たことないし、今回のことも聞いただけ。

百聞は一見に如かず。

正直私だけで結論を出すのは正直厳しいわけですよ。

でも強いて言うなら、その隊長って人は実はデストローじゃないんじゃないの?」

「いや……あたしにはデストローがどうだこうだってのはわかんないけどさ、

あたしが400年前に出会った槍男は、そのデストローのように常識を無視していたし、世界からも無視されていたよ。

同様に、あの隊長とかいう男も雰囲気だけならよく似ているし、

そして何よりちゃんと常識を破っていたよ」

 未央のいぶかしむような発言に対するように周子は言う。

「あの男は、楓さんの攻撃をただの念動壁、サイコキネシスだけで防いでいた。

それはふつうありえないことだよ。

楓さんのあの能力は風の刃だとかのただの物理的な刃とは違う、次元の一つ上の力。

本来正攻法の防御不可なあれを防ぐいだのは、事実だからね」

 通常防御不可のあの力を、強引に直接的な方法で防いだのは事実。
 そこにルールを無視した痕跡があるのは確かだった。



14 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:43:30.60gLjesAt+o (14/33)


「ていうか、楓さんの能力ってそんなのだったのか?」

 ピィとちひろはこのことについては何も知らされておらず、今の情報は初めて知ったものだった。

「え?知らなかったの?」

「ま、まぁ多分楓さん自身も知らないことだし……。

ピィさん!ちひろさん!これは聞かなかったことで!」

 未央にこのことは口止めされる。

「な、なんでまた?」

「だってこれ以上楓さんに負担欠けるのはよくないでしょ」

「まぁ知らぬが仏ってやつだね。楓さんあの力に怯えてる節もあるから。

日常でちょっとしたことになら使えるけれど、人に向けて使うことを初めのころからかなり恐れてたからさ。

今回の暴走の件と、いくら自衛のためとはいえ能力を人に向けて使ったこと。

このこと覚えていたりすると、後のことが少し不安になるねー……」

 周子は、お茶を啜りながらそう言った。

「わ、わかりました……」

「ああ……わかったよ」

 二人は楓さんがこのプロダクションを訪れた時のことを思い出す。
 あの様子の楓さんを思い出せば、当然その力が思っていた以上に強力なものであるなんてことは言えないだろう。
 よって二人は黙秘することに承諾するしかなかった。



15 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:44:14.17gLjesAt+o (15/33)


「さて、話は戻るけどね。

周子さんの話を聞く限りだと、ちゃんとデストローとしての力は発動していた。

でも普通ならここに来られるはずがない。

この矛盾、どういうことなの?」

 空になった弁当のトレーを机の上に置いて、未央は腕を組んで難しそうな顔をする。

「実際、ここがそこまで歴史的重要な場所じゃない、とか?」

 ピィが根本的な未央の推定を否定してみるが、未央はそれに対して首を横に振る。

「それは、あり得ないよ!

私の存在の世界への影響力は十分だし、それに周子さんだってそれなりに高名な妖怪でしょ?

それでさらにこの場所の運命力の集約はされているはず。

さらに私は意図的にこの場所を非戦地帯にだって働きかけてたんだよ!」

「ん?どういうことですか?非戦地帯って?」

 ちひろが未央の発言に疑問を問いかける。

「さっきの運命力の話の通り、世界には流れがあるの。

だからなるべく私の天聖気とかを使ってこの周辺のちょっとした争いやいざこざを未然に防いでいたわけ。

そうやって小さな『平穏』の流れを作り出して、この場所自体に争いの起きにくい『流れ』を片手間に作ってたんだよ。

デストローも世界に干渉できないうえに、そんな流れも作ってたから手なんか出せないはずなんだけどなぁ……」



16 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:45:22.91gLjesAt+o (16/33)


 原点に返る不可解な点。
 さすがの未央でもこれに関してはさっぱりだった。

「結局あたしたちがあれこれ言おうと意味ないしどうでもいいんじゃない?

あの隊長の相手はアーニャがするんだし、ここに居たってできることなんて何にもないんだからさ」

 そこにこれまでの会話をすべて否定するような周子の言葉。
 周子はソファーに体重を預けて、目を瞑りながら言った。

「それよりも考えるのはこの後のことでしょ。

万が一アーニャが逃げ出したりしたら次狙われるのはあたしたちなんだよ。

今のうちに逃げる算段を考えた方がいいんじゃないの?」

 そっけない周子の言葉。
 ピィはその言い方にさすがに怒りを覚えたのか声を上げて反論する。

「周子!それはさすがに言い過ぎだ」

「でもほんとのところはどうなのさ。

ピィは腕吹っ飛ばされてるんだよ。

内心、あの男への恐怖は強いと思うけど……そこんところ、どうなの?」

 的確な周子の指摘
 それはピィにとっては図星であったし、きっと再び対峙することが有ったらきっと恐怖で体は振るえるだろう。



17 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:47:15.95gLjesAt+o (17/33)


「……たしかにそうかもしれない。

でも、それでも俺は逃げも隠れもするつもりはない。

アーニャを信じてるからな」

「それはアーニャが隊長に、逃げずに殺されに行くってことを?」

「違うよ。アーニャがあの隊長を倒して帰ってくるってことをさ。

昔も今も、俺の信じてるヒーローは、最後には必ず勝つんだからな」

 ピィは迷いなく、そう言う。
 そんなピィを見て、周子はあきれたように溜息を吐く。

「全くよくもそんなことを真顔で言えるね。

じゃあさ、未央とちひろさんはどうするの?」



18 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:47:55.67gLjesAt+o (18/33)


「わ、私はー……一応残るつもりですよ。私はここの事務員ですから、ここに居ることしかできないので」

「私はー……、んと……、さすがの私も、デストローを相手だと勝てないし……、

その上、超能力者だなんてもっと無理。

まだやるべきこといっぱいあるから、死ねないけどさ。

でも……ここで逃げたら女が廃る!ここに居るくらいしかできないけど、本田未央、ここに残留を希望します!」

 二人の意志を確認し、周子は少し笑う。

「全くほんとに、あきれる。

じゃああたしは帰るよ。お腹もいっぱいになったことだしね。ごちそうさま。

美玲と一緒に、暫くどこかに避難でもするよ」

 周子はそう言って、プロダクションの入り口の方へと歩いていく。

「周子」

 そんな周子の背にピィが名前を呼びかける。
 周子はそれでも振り向かない。

「お前はほんとにそれでいいのか?」

「いいわけないじゃん、馬鹿なの?

でもあたしは……振り向かないよ」

 結局本当に振り向かないまま周子は、プロダクションを後にした。



19 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:48:42.97gLjesAt+o (19/33)


***

「私をこの程度の冷気で、動けなくなると思ったの?

……さすがに私もそこまでポンコツではないわ」

 つい先ほどまで唇を蒼くして、口を震わしていたのあだったのだが、エトランゼに着いた途端嘘のようにその表情は元のものへと戻った。

「な……のあ、騙しましたね!私を、ここに連れてくるための演技だったのですか!?」

 みくと二人でのあを連れていかれるエイリアンのごとく引き摺ってエトランゼに連れてきたアーニャだったが、何事もなかったかのようにふるまうのあを見てそれがここに連れてくるための口実であったことにようやく気付く。

(まぁ……あの感じだとホントウに寒くてポンコツ化してた可能性もなくないけどにゃ……)

 みくは内心そんなことをを考えるが、のあが無表情のまま視線を向けてくる。

「みく……今何か失礼なことを考えていなかった?」

「そ、そんなことないにゃあ……」

 まるで心を見透かすような眼で見つめられて視線を逸らすみく。
 結局真相は闇に飲まれてしまった。

「とにかく二人とも座りなさい。

なんでも注文してもいいわ」



20 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:49:27.49gLjesAt+o (20/33)


 のあのその呼びかけにしぶしぶ二人とも、椅子に座る。
 3人が席に着いたのを確認したのか、チーフが近くに来た。

「まったく3人で押しかけてなんだっていうの?

幸い今はご主人様が少ないからよかったものの、ここは避寒地じゃないんだからね。

客としてきたんだから、ちゃんと何か注文してもらうよ」

 チーフは少し厄介者が来たかのような視線をしながら、3人の机の上にメニューを置く。

「……それくらい承知しているわ。

大丈夫、会計は全てみく持ちよ」

「なんでにゃあ!?

さっき『なんでも注文していい』って言ったののあチャンじゃないかにゃ!

なんでみくが払うことになってるにゃ!?」

「ああ、わかったよ。

まぁみく、払えなくてもちゃんとツケといてやるから安心しな」

「チーフも承知するんじゃないにゃ!」

「みく……すこしにゃあにゃあうるさいわ……。

ちゃんと他のお客さんもいるのだから、静かにしなさい」

「ひどくない!?」



21 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:50:16.26gLjesAt+o (21/33)


 ぶさくさ言いながらもみくはメニューを手に取る。
 それに対して、アーニャは席に座ってから一言も話していない。

「アーニャ、何か頼まないの?」

 のあは黙ったままのアーニャに問いかける。

「……のあ、私は食事に来たわけでも、漫才を見に来たわけでもありません。

あなたが、何か話があるらしいから……今はここに留まっているだけです。

嘘をついてまで、ここに私を連れてきたのです。

言いたいことがあるならば……できるだけ、早く頼みます」

 アーニャは表情を変えずに言う。
 無表情同士の視線の交差は、そこだけ室内の気温を氷点下まで下げているようであった。

「……何を焦っているかは知らないわ。

でも、そんな体調では話もままならないわ」

「シトー?……どういうことですか?

話をそらさないで」

 話の本題に入らないのあに少し苛立つように言うアーニャであったが、それを小さな音が遮る。
 それは、アーニャのお腹から響くものであった。

「昼は、食べてないのでしょう?

……食事くらいは、とっておくべきだわ。

あなたの目的である何かのためにも」

 アーニャはお腹を押さえて少し目を伏せる。

「ダー……わかりました」



22 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:51:41.99gLjesAt+o (22/33)


 これから挑む相手ならば万全でなければならない。アーニャは仕方なく自らの空腹に従う。

 その後は、のあとみくはすでに昼食を済ましていたので、ドリンクと軽食を頼んだ。
 そしてアーニャに食後のホットミルクが運ばれてきて、本来の話へと再び戻った。

「さて、空腹も満たされて少しは落ち着いたでしょう?

じゃあ……本来の話に戻りましょう」

「あいにくですが……私からは、話すことはありません。

二人がなにか気を回してくれたのはわかりますし……感謝はします。

……でも私は特には何もないです。

いつもどおりです」

「でも、それって自分で『今自分は何か問題を抱えています』って言ってるようなものにゃ。

みくはアーニャンとは友達だと思っているにゃ。

でもそう言うってことは、友達にも、話せないことなのかにゃ?」

 それに対してアーニャは沈黙。
 これに答えてしまえば、自分が問題を抱えていることを自分から肯定してしまうようなものだからだろう。



23 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:52:28.34gLjesAt+o (23/33)


「……別に話す必要はないわ。

話してくれないことは、友人として一抹の寂しさを感じるけれども、

それも何か意味があってのことだろうから」

 沈黙するアーニャに代わってのあが会話を引き継ぐ。
 のあは相変わらず、その静かな瞳でアーニャの両の眼の奥を覗き込もうとしていた。

「でも、私はさっきあなたに会って、感じたことがある。

これは……私の言葉。あなたが沈黙するというのなら、あなたに私の言葉を遮る権利はないわ」

 まる忠告のように聞こえるその言葉だったが、アーニャはそれにも答えない。

「私は……かつてあなたに『見えていない』と言ったことがある。

それはアーニャにとっての、『目的』というものが見えていなかったからよ。

自らの意志の所在を明らかにしないまま行動するということは……まっとうな人ではありえない。

地に足がついていないようなものよ」

 幼児ですら、自らの行動原理を持っているのにもかかわらず、かつてのアーニャにはそれがなかった。
 それでも、そんなアーニャはその後、自らの意志で『目的』を示すことができた。
 そんな精神的な成長を、アーニャは先のカースとの戦いの中で経験したのだ。



24 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:53:08.85gLjesAt+o (24/33)


「そう、あなたは見えている。

……今のアーニャ自身『目的』は見えているの。

でも、一つを見るというのは他を疎かにするということなのよ」

 のあの抽象的な言葉の意味をアーニャにはよくわからない。
 だがその一つ一つが、心のどこかに引っかかるような、不快感にも近い違和感を覚える。

「シトー……なんなんですか?わかりません、何を言いたいんですかのあは?」

 載積する理解できない言葉は、アーニャの頭をかき乱す。
 まるで図星を突かれるような、自らに突き刺さる言葉を的確に選んでくるのだ。

 まるで間違いを糾弾される子供の様で、それを認めたくなくてだだをこねる。
 そんな感じの苛立ちが目に見え始めても、のあは口を止めない。

「……これができない人は、いくらでもいる。

でもこれができないままというのは……ただ世の中が生き辛くなるだけなのよ。

あなたはここで一つ、理解しなければならない。

優しさの基準は、責任の基準は、あなた一人だけのものではないということを」

 しかし、まるで言葉を遮るように掌で机をたたきながらアーニャは立ち上がる。



25 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:53:43.75gLjesAt+o (25/33)


 その音で、すこしうとうとし始めていたみくはびくりと体を震わせて目を覚ました。

「な、なに?敵襲かにゃ?」

「ヴァズヴラシエーニェエ……帰ります」

 逃げ出すようにアーニャは机の傍らに丸められていた注文票を握りしめて、レジに持っていく。

 チーフがそれを受け取って、レジを打つことによって値段を映し出した。

「いいの?話の途中なのに」

 チーフはアーニャに尋ねるが、ばつの悪そうな顔をしたまま何も言わない。

「まぁ……ゆっくり考えればいいさ。多分、少しデリケートな問題だからね……。はい、アーニャの分は1200円」

 金額を言い、手のひらをアーニャの前に差し出すが、アーニャは動かない。
 少し怪訝な顔をするチーフだったが、アーニャがゆっくりと財布を取り出すと同時に口を開いた。

「……ここのバイト、やめます」

「……は?何言ってんの?」

 チーフのわれ関せずという表情は明確に疑問を抱いた顔に変わる。



26 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:54:13.40gLjesAt+o (26/33)


「……多分、もう帰ってこないかもしれないので」

 そう言って、ちょうど1200円をその掌に乗せて財布を閉じる。

 そして静かに、エトランゼの店の扉に手をかけた。

「ちょっと待て」

 扉を開く前に、少しドスの効いた声がアーニャの背に届く。
 そして肩を掴まれ、振り向かせられるとチーフの拳がアーニャの胸の前にあった。

「手のひら出して」

 アーニャはそれに従って掌をその拳の下で受け止めるように差し出すと、先ほど渡した1200円がアーニャの手の中に降ってきた。

「それは返す。それとみく、のあ、今日はアーニャのおごりだそうだ。よかったわね」

 その言葉にみくはぽかんとした表情を浮かべ、のあは少し笑う。

「チ、チーフ……これはどういう!?」



27 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:54:58.97gLjesAt+o (27/33)


「あいにくだが今日の代金は強制的にツケにしておくよ。

ちゃんと後日、働いて返す。いいね。

それとバイトを辞めるときはひと月前に事前に言っておくこと。

さらにそんな顔しながらこの店やめるなんて言うのはもってのほか。

わかった?」

 そしてアーニャが手にかけていた扉をチーフは開く。
 さらにその背中を蹴って、強引に外へと追い出した。

 アーニャを追い出した後、チーフは近くの椅子に座る。

「まったくあたしには何が何だかよくわかんないよ……。

ところで勝手に追い出しちゃったけど、のあはまだ話の途中だったけどよかったの?」

「……いいのよ。

どうせ私が口で言ったところで、何かが変わるわけではないわ。

アーニャ自身が、実際にそれを理解しない限りね」

 のあはそう言って、手元にあった冷めたコーヒーを啜る。

「とはいっても、なんだかのあチャン回りくどすぎだにゃ」

「あら……、じゃあどういえばよかったのかしら?」



28 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:55:44.86gLjesAt+o (28/33)


「うーんと……素直に『もっと周りを見渡せ』とでもいえばよかったんじゃないかにゃ?

……ふにゃあ」

 みくは一つあくびをして、眠たげな眼をこする。

「ふふ……まったく、自分のことを全く知らない私が人にこんな説教みたいな話をするなんて、

……少し、おかしいわね。

そういえば……私は初対面の人にたまに『ロボットみたいだ』って言われることがあるのだけれど、

……私って、機械なのかしら?」

「それは多分、あり得ないにゃあ。

だってそんなクールな顔して冷静なのに、意外とハートは熱いんだからにゃ」



29 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:56:31.60gLjesAt+o (29/33)


***

 エトランゼから寒空の下に追い出されたアーニャは再びその扉を開くことなく帰路へと向かう。
 正直ばつが悪いのでアーニャ自身もあの場に戻ろうという気は自然とおきなかった。

 相も変わらず、雪はひらひらと降り注ぐ。
 振っている雪の量も大したものではなく、このまま降り続いたとしても積もることはないだろう。

 この儚く、美しくもあるささやかな雪を見上げる人を道中何度かいたがそれもアーニャの視界には入らない。

 そしてアーニャは立ち止まることなく足を進める。
 これまでに嫌というほど雪を経験してきたアーニャにとって、日本では初めての雪でも特に感慨深いものはなかった。

 その後、暫く歩いてエトランゼでの体の熱もかなり冷えたところで、ようやく見慣れた屋根を視界に入れる。
 アーニャの歩幅は自然と広くなり、少し急ぎ足になりながら女子寮へとたどり着いた。

「あら?アーニャちゃんじゃないですか。おかえりなさい♪」

「こんにちは……。アナスタシアさん、お久しぶりですね」

 そんないつか見たことあるような組み合わせ。
 女子寮の階段下には、鷹富士茄子と鷺沢文香がいた。

「プリヴェート……茄子、文香」

 先ほどのあに引き止められたアーニャにとって階段前で立ちふさがるこの二人がとても高い壁に見える。
 アーニャはなるべく心中を悟られぬように、二人の間を抜けようとする。



30 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:57:09.86gLjesAt+o (30/33)


 何か引き止められるかと思っていたのだが、意外にすんなりと階段に足をかけることができた。
 そのままもう片方の足を踏み出し、階段を上がろうとする。

「アーニャちゃん」

 しかしやはり、引き止められる。
 優しい声色で名前を呼んだのは茄子。

 びくりと肩を小さく振るわせ、ゆっくりとアーニャは振り向く。
 そんなアーニャに茄子はにこりと微笑みかけてくる。

「きっとこれはあなたにとって、最大の試練になると思います。

でもね、アーニャちゃんなら大丈夫♪

だから私からはヒントを一つだけ。きっとアーニャちゃんもいろいろ迷っているけど思うけど、迷っているのはアーニャちゃんだけではないんですよ~。

事の真相はそこにあるはずですから、あとはアーニャちゃんの頑張り次第ですね!

では、あなたに幸運があらんことを♪」

 そう言って茄子は小さく手を振る。
 そして背を向けて、そのまま管理人室の方へと行ってしまった。



31 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:57:55.08gLjesAt+o (31/33)


 残ったのは文香とアーニャだけ。
 文香は不思議そうな顔をしたまま茄子が言った方向に視線を追って行っていた。

「茄子さんの……今の言葉、どういうことなんでしょう?」

「……わかりません」

 実際アーニャにもよくわからなかった。
 もともと茄子は明るい人だが、何を考えているかわからない時も多々ある不思議な人だ。

 今の発言も、なぜかアーニャが置かれている状況を知った上での発言だということは理解できる。
 だがその内容はのあが言ったことと似ているようで、まるで違うことを話しているようだった。

 のあが指摘していたのは、アーニャからも自分自身のことだということはなんとなくわかった。
 それに対して茄子の言ったことは、別の誰かのことを言っているような、本当にヒントを言っているようなそんな不思議な感覚だった。

「ところで……初めて会った時のこと、覚えていますか?」

 結局茄子の言葉の意図はわからない。
 文香はここで話題を、数か月前にこの場所で会ったことについてに切り替える。

「ダー……ええ、覚えていますよ」

「シュレディンガーの猫の話をしたのを……覚えていますか?」

「ダー……なんとなく覚えています」

 アーニャはあの日のことを思い出す。
 箱の中の、生きていて死んでいる猫の話だ。



32 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:58:49.31gLjesAt+o (32/33)


「前の時には、話が逸れましたが……あれが量子論を代表する話となっています」

「たしか……そんなことを言っていた気がしますね」

「けれど、実際にはこの箱の中の猫の話は、量子論を批判するためのたとえ話だったんです……。

それがいつの間にか……量子論の代表のように扱われている。

なんというか……皮肉めいてますよね」

 文香は遠くの景色、雪が絶え間なく視線を横切る空をちらりと見て、そして一息吐く。
 白い吐息は空へと昇っていき、すぐに空気と同化した。

「コペンハーゲン解釈によって、重なり合った状態のとある粒子……。

毒ガス発生装置は……この粒子が存在するかしないかによって作動するかしないかが決まります。

そしてこの粒子は……不思議なことに、見るか、見ないかによって、そこにあるか、無いかが決まるんです……」

「有り無しなんて……見ることで変わらないでしょう。

だって、目で見なくともそこにあるものはある……、目で見えなくても存在するものだってあるのですから」



33 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:59:31.74gLjesAt+o (33/33)


「そこが、不思議なんです。

所詮私は……文学部なので詳しいことはわかりません。

簡単に、本に書いてあった受け売りです……。

でも……そこに二つの可能性があって、その自分が望む可能性を、自分の意志で引き寄せる。

あなたは前に……箱の中の猫を救うと、言いました。

そして……それは私にはできないことだと思っていました。

でも、ただ一歩……踏み出せばよかったんです。

ただ自分が望むように、見るだけでその猫を救うことはできたんです。

……そう思えるだけで、箱を開ける戸惑いは……軽くなりました」

 文香は微笑む。
 自分の悩んでいたことは、自分の意志でどうにでもなるということを知ったから。

「だから……これはちょっとした報告というか、意志表明です。

私は……もう少しだけ、前向きに事を、見ようと、考えようとします。

見方や考え方は、自由なのですから……それで世界が変わるなら、少しだけ」

 迷いが完全に消えたわけではない。
 でも、その迷いの先を見据えて、その澄んだ両目は前を向く。



34 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/02(日) 00:00:53.44SoFcRVSKo (1/4)


「それでも……迷ったらどうするのですか?」

 ふと自然と、アーニャはそんなことを尋ねる。
 茄子に言われた『迷い』、のあの『見えている』ということ。

 その迷い猫は、その迷った時にはどこを見ればいいのか。
 それがわからなかった。

「……周囲の人が、何を見ているのかを知ることです。

そしてそれを鵜呑みにするんじゃなくて……そこから自分の見たいものを探すのが、いいんじゃないでしょうか?」

 文香はそう言うが、やはりアーニャにはよくわからなかった。

「では……もともとの用事は済んでいますし、私は帰りますね。

また私のいる古本屋に……遊びに来てください」

 そう言って文香はアーニャに背を向けて女子寮から離れていく。
 去りゆく文香の背中を見ながらアーニャは今日言われたことを反芻する。

 その乱雑な言葉の数々、きっと大切なものだとは思った。
 きっと必要なものだと思った。

 でも、やっぱりまだ理解はできなかった。





 


35 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/02(日) 00:02:08.18SoFcRVSKo (2/4)





 部屋に戻れば、時計の針は午後4時を過ぎていた。
 目的地までは、1時間くらいで着く。

 もう迷うのは止め、思考を切り替える。
 晶葉特製の白い特殊コートの内側には様々なホルダーが付いている。

 そこと、ミリタリーベルトに、軍用ナイフと数発の非殺傷グレネードを装備。
 これで準備は万全とはいいがたいが、万策ではある。

 そしてふと思い返せば、まるで日本に来てからの自分の足跡をたどっていた一日だと気が付いた。
 ならば最後に戻るのは、当然あそこだとアーニャは考える。

「銀色(シェリエーブリェナエ)、

妖精(フィエー)、

雪豹(シニェジュヌィバールス)、

氷河(リエードニク)、

白猫(ビエーリコート)、

私のこれまでの15年……。

最後の清算に……行きましょう」

 その目はかつての軍人としての、殺し屋としての、人殺しとしての彼女であった感情を抑えた目に再び戻る。
 かつての名を背負い、かつての上司を殺すために名もなき少女は外への扉を開いた。




 


36@設定 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/02(日) 00:03:35.81SoFcRVSKo (3/4)



超能力

あの日以前から知られているもっともポピュラーな異能。
物を動かしたり、未来予知したり、透視したりと多岐にわたり、力の根源も様々なものがある。
『あの日』以来、ごく普通の一般人が超能力を使えるようになったという話は、そこまで珍しいものではない。
ただしほとんどの超能力者は大規模なことはできず、サイコキネシスならば人間程度の力しか出せない者がほとんどである。
日常の便利な道具か、忘年会での一発芸くらいにしか使えない者がほとんどである。

天界出版

天界にあるさまざまな宗教の神にも対応している天界大手の出版社。
ごく普通の娯楽本から神罰の指南書まで幅広いジャンルの本を取り扱っている。
ただしたまに眉唾物の情報の書かれた本もあるので注意は必要。
ちなみに最近の売れ行きの本は、『必勝!ドミニオン昇進試験完全攻略マニュアル』である。


37 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/02(日) 00:07:36.83SoFcRVSKo (4/4)

以上です

スレ超えてしまいすみません

ピィ、ちひろさん、楓さん、周子、未央、のあさん、みくにゃん、茄子さん、文香さんお借りしました。

まだもうちょっと続きます


38 ◆llXLnL0MGk2014/02/02(日) 00:16:29.04VSfEW18AO (1/1)

乙ー
こっちもいよいよ大詰めか……

スレまたぎは気にせんで下さいな
多分あの段階で用意しとかなかった自分も悪いので


39 ◆AZRIyTG9aM2014/02/02(日) 00:19:10.06e0YObN9PO (1/1)

乙ー&スレ立て乙

隊長が世界に干渉されないチートとか………それなんて無理ゲ?
果たしてアーニャは勝てるのか?


40 ◆zvY2y1UzWw2014/02/02(日) 00:40:54.15dag4k79K0 (1/1)

乙乙です
隊長強い(確信)
なんか決戦ってかんじですな!アーニャがんばれ!


41以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/02(日) 15:54:22.74ONBr6z6Ro (1/1)

おつー
『ルール破り』は隊長のことだったのか \やべぇ!/


42以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/03(月) 15:36:32.81A62o/6tRo (1/14)

乙ですー
うん隊長やべえわwwwwwwww
勝てるのですかね、これは……続き待ってますー


では節分のお話、投下しますー

新スレなので、一応登場アイドル紹介的な

小日向美穂 … アイドルヒーローを目指す女子高生。持ってる刀を抜くとヒーロー「ひなたん星人」になる。
藤原肇    … 鬼の刀匠の孫娘。おじいちゃんの刀を配る為に人里にやってきた。小日向家に居候中。

では、投下ー


43 ◆6osdZ663So2014/02/03(月) 15:37:07.01A62o/6tRo (2/14)



2月某日


美穂「うぅ……まだ外は寒いね」

肇「ええ、今日は早くお家に帰りましょう」

肇「身体を冷やして風邪をひいてしまってはいけませんから」

美穂「そうだね、プロデューサーくんも待ってるだろうし」

美穂「急いでお家に帰ってお風呂に入って……その後はこたつで温まりながらみかん食べたいな」

肇「ふふっ、美穂さん途中から願望になってますよ」

美穂「えへへっ」


イワッシャー


肇「っ!?!」 バッ

美穂「?」

美穂「どうしたの、肇ちゃん?」

肇「い、いえその……アレが……」

美穂「?」


鰯頭「……イワッシャー」


美穂「えっとイワッシャー…じゃなくって柊鰯かな?」

美穂「そっか。今日は2月3日、節分だから飾ってるお宅もあるんだね」

美穂「あっ……」

肇「……」

美穂(もしかすると……今日は肇ちゃんにとって大変な日なのかも)


44 ◆6osdZ663So2014/02/03(月) 15:38:10.96A62o/6tRo (3/14)




鬼はーそとー! パラパラー

福はーうちー! パラパラー



美穂(節分…)

美穂(一般的には、季節の変わり目に生じる鬼を払うために、)

美穂(炒り豆を撒いたり食べたりする日本特有の行事です)


肇「毎年の事ではあるのですが……」

肇「鬼の血を引く私にとっては、恐ろしい風習ですね」

美穂「肇ちゃんも、やっぱりお豆苦手なのかな?」

肇「普通のお豆ならそんな事はないのですが」

肇「鬼を払うと言う思いの込められた物は……ちょっと痛いですね」

美穂「意外な弱点」

肇「何より心が傷つきます……」 ションボリ

美穂「うん、それは誰だってそうなんだろうけど……(狙って豆を投げつけられたら)」

肇「とにかく今日はいつも以上に、お外では角を隠すよう気をつけないといけませんね」

美穂「あっ、そうだよね」


美穂(……鬼の刀匠の孫娘である肇ちゃんの頭には、小さくて可愛い2本の鬼の角が生えています)

美穂(しかし、本人はそれを親しい人以外にはあまり見せようとしません)

美穂(以前、その理由を聞いてみたことがあります)


45 ◆6osdZ663So2014/02/03(月) 15:39:02.42A62o/6tRo (4/14)


――

――

回想


美穂「そう言えば、肇ちゃん。ほとんどいつも頭に手拭いを巻いてるよね」

肇「はい。……似合いませんか?」

美穂「ううん、似合ってるよ。可愛い花柄だし、肇ちゃんらしくていいと思う」

肇「ふふっ、ありがとうございます」

美穂「でもそれをつけてると、トレードマークの角が見えなくなっちゃわないかなって」

肇「そうですね。ですが、それでいいんです。これは角を隠すために巻いていますから」

肇「人の世に余計な混乱を持ち込まないためにも、”人と違う事をかくすために”です」

美穂「あっ、やっぱりそうだったんだ」

美穂「そうじゃないかなとは、なんとなく思ってたけど……うーん」

肇「……?美穂さん?」

美穂「あっ……えっとね、そこまでして隠さなくても平気じゃないかなって思って…」

美穂「回りを見たら、もっと変わってる…って言っちゃったら失礼だけど」

美穂「ちょっと人とは違った個性を持ってる人達も大勢いるんだし」

美穂「……気を悪くしちゃったらごめんね?」

肇「いえ、構いませんよ。美穂さんが言う事もよくわかりますから」


46 ◆6osdZ663So2014/02/03(月) 15:39:55.40A62o/6tRo (5/14)


肇「”あの日”を境に人の世の中は大きく変わったと聞いています」

肇「”あの日”から世界は、異世の住人が平然と道を歩いていても不思議ではないものになりましたから」

肇「例えば魔法使いさんであったり、カラクリ仕掛けのロボットさんであったり、獣人さんであったり」

肇「ふふっ、今ではちょっと人と違っているくらいは全然当たり前ですね」

美穂「うん。だからきっと肇ちゃんも角を隠したりしなくても大丈夫じゃないかなって、私は思ったんだけど」

肇「ええ、もちろん。美穂さん達のように……私の角の事も受け入れてくれる人達がいるのもよくわかっています」


肇「ですが、それでもやっぱり私は”鬼”なんです」

美穂「……肇ちゃん?」

肇「美穂さんは、私の……”鬼の角”を見てどう思いますか?」

美穂「えっと……可愛いと思うな」

肇「そうです、人は”鬼の角”を見て”怖い”と言うイメージを……」

肇「えっ」

美穂「あれ?えっと、小さくって可愛い角だと私は思うけど」

肇「……あ、あのっ……え、えっとからかわないでください。恥ずかしいです…」

美穂(……どうやら角を褒められるのはウィークポイントのようです)


47 ◆6osdZ663So2014/02/03(月) 15:40:52.36A62o/6tRo (6/14)


肇「と、とにかくですね」

肇「猫の耳や天使の翼なんかとは違って、鬼の角は人によってはあまり良い印象を受けないものなんです」

美穂「うーん……そうなのかな?」

美穂「でも……確かに。ちょっと悲しいけど、一般的には”鬼”と言えば悪さをするってイメージがあるもんね」

美穂「肇ちゃんと出会ってからは、そうじゃないってわかったけれど」

肇「悲しいですが……きっと、そう思われることは仕方ないことなんです」

美穂「……肇ちゃん?」

肇「そうですね……せっかくだから話しておきたいと思います」

肇「”鬼”の事について」


肇「……美穂さん、”妖”と言う存在は人の畏怖から生まれます」

美穂「畏怖から?」

肇「はい。畏怖と言うのは……そうですね、例えるなら”暗闇の夜道が怖い”と言ったような気持ちなどですね」

肇「”暗闇”は怖い。とても人が及ばないもの」

肇「だってそこには、人知を超える”何か”が居る気がするから……」

肇「……そうして畏れる思いは信仰へと繋がって、やがて人々のイメージは形になります」

肇「そして産まれるのが、”妖”なんです」


肇「……人が恐れを抱く対象は様々です」

肇「獣に対してであったり、炎に対してであったり、人形に対してであったり……」

肇「学校の階段に対してであったり、夜道の公衆電話に対してであったり、ビデオテープに対してであったり……」

肇「今も昔も、自然も文明も関わらず人は何にでも恐れを抱きます」

肇「だから、私たちの国には様々の種類の妖が存在しているんです」

美穂「そうだったんだ……なんだか関心しちゃうお話だね」


48 ◆6osdZ663So2014/02/03(月) 15:42:05.27A62o/6tRo (7/14)


美穂「でも、と言うことは……”妖”の一種である”鬼”も何かに対する畏怖から生まれたって事なのかな?」

肇「はい、その通りです。ずばり言ってしまいますと、」

肇「”鬼”は、”人の心、人の精神”に対する畏怖から生まれます」

美穂「……人の心に対する畏怖」

肇「人の思い、人の考え方、人の精神、それらが”とても人とは思えないものだ”と恐れを抱かれたとき、」

肇「そこに”鬼”が生まれるんです」

美穂「えっと……人の思いなのに、それが人とは思えないの?」

肇「そうですね。こう言うと、なんとなく変な話に聞こえるかもしれませんが」

肇「でも世の中では、普通にありえる事なんですよ」

肇「例えば、人を人と思わぬような残酷な行いをする人の事を」

肇「人は恐れて、”鬼畜”と呼んだりしますよね?」

美穂「あっ……そっか、なるほど」

美穂「残酷な事をしちゃうような心も人から生まれたものだけど……」

美穂「みんなそれを怖がるから……そこに鬼が生まれちゃうんだ」

肇「そう言うことです」

肇「もちろん、『残酷さ』ばかりが、恐れられる人の心と言う訳ではないのですけれどね」

肇「例えば、私のおじいちゃんは『刀に対する頑固なまでの情熱』を畏れられて鬼になったと聞いていますから」


49 ◆6osdZ663So2014/02/03(月) 15:43:14.27A62o/6tRo (8/14)


肇「ですが、多くの場合は人に畏れられるほどの思いは負に偏っています」

肇「結局のところ……”鬼”は”人から外れている者”の事ですから」

肇「”人から外れている者”には、人の常識がわかりません」

肇「だから人の常識に反した行いをする、つまり悪さをする……」


肇「こう言う訳ですから……鬼に対して、負のイメージが定着してしまうのも仕方ないことなんです」

美穂「……肇ちゃん」

美穂「ごめんね、えっと……辛い話をさせちゃって」

肇「いえ、美穂さんが謝るようなことではありませんよ」

肇「大切な事ですから、話しておく機会ができてよかったです」

美穂「……あのね、肇ちゃん」

美穂「私は、少なくとも肇ちゃんの事を”怖い”とは思わないからね?」

肇「……ふふっ、ありがとうございます」

肇「私は大丈夫です。美穂さんの様に、受け入れてくれる人もちゃんと居るのがわかっていますから」

美穂「……うんっ」


50 ◆6osdZ663So2014/02/03(月) 15:44:17.39A62o/6tRo (9/14)


――

――


美穂(以上が、回想です)

美穂(人から外れた人の思いから生まれる物、それが鬼)

美穂(獣人や天使が受け入れられる世の中になっても)

美穂(人から外れた存在であるところの鬼の事を、人はなかなか受け入れにくいのかもしれません)

美穂(だから肇ちゃんは、角を隠します)

美穂(……でもそれは寂しいな、せっかく可愛い角なのに)



鬼はーそとー! パラパラー

福はーうちー! パラパラー


肇「……」

美穂(うん……肇ちゃんの立場からしたら、これは堪えるよね……)

美穂(今年は、お家では豆まき無しかな?)

美穂(……)

美穂(でも……本当にそれが一番いいことなのかな……?)


51 ◆6osdZ663So2014/02/03(月) 15:45:04.84A62o/6tRo (10/14)


――


美穂「ただいまー」

肇「ただいま帰りました」

美穂母「おかえりー」

美穂母「早速だけど、美穂。肇ちゃん。」


美穂母「豆まきするわよ!」


肇「……えっ」

美穂「お母さん!?」


52 ◆6osdZ663So2014/02/03(月) 15:45:31.29A62o/6tRo (11/14)


母「大切な行事だから、ちゃんとやっておかないとね!」

母「今年も無病息災、家族の幸せを願ってね♪」

母「ほら、福豆。美穂も肇ちゃんもこれ持って」

母「プロデューサーくんはもう豆を撒く準備できてるわよ」

Pくん「もぐもぐ」

美穂「えっ、もう食べてるみたいだけど……」

美穂「ダメだよ、プロデューサーくん。豆を食べる数は年の数だけ……」

美穂「じゃなくって!お母さん、肇ちゃんは……」

母「肇ちゃんは福豆触れる?無理なら手袋があるけれど」

肇「えっ……えっと触るだけなら問題ありませんが……」

母「そう!じゃあ大丈夫ね!」


母「あ、そうそう。豆を撒くときの掛け声だけど、今年はこう」

母「福は内ー!鬼も内ー!」

美穂「!!」

肇「!!」


53 ◆6osdZ663So2014/02/03(月) 15:46:39.48A62o/6tRo (12/14)


美穂「お母さん……」

母「……うふふっ、私も今年は豆撒きするかどうか迷ったんだけどね」

母「やっぱり毎年の家族の行事を疎かにするわけにもいかないでしょ」

母「今年は家族も増えたんだから」

肇「家族……」

母「預かってる形だけど、この家に居るなら肇ちゃんも家族です」

母「だったら仲間はずれになんて出来ないでしょ?」

母「『福は内、鬼も内』、調べたらこう言う節分の掛け声もあるそうじゃない」

母「これなら、鬼の血を引く肇ちゃんも一緒にできるわよね?」

肇「は、はいっ!そのっ、ありがとうございます!」

美穂(仲間はずれにせず、一緒に……そうですその手がありました)


美穂「ふふっ、肇ちゃんっ!」

肇「美穂さん!豆撒き、一緒にやりましょう!」

美穂「うんっ!やろう、一緒に!」


美穂(人から外れた人の思いから生まれた存在、”鬼”)

美穂(受け入れる事は、なかなか出来ないのかもしれません)

美穂(ですが互いに寄り合う気持ちがあれば、)

美穂(共に大切な日々を過ごす事は、きっと難しい事ではないはずです)


福は内、鬼も内。


おしまい


54 ◆6osdZ663So2014/02/03(月) 15:47:41.62A62o/6tRo (13/14)




美穂「……」

肇「……」

Pくん「……」

美穂「……」 

肇「……」

Pくん「……」 

美穂「……」 もぐもぐ

肇「……」 もぐもぐ

Pくん「……」 もぐもぐ


美穂(ちなみに本日の夕飯は恵方巻でした)

美穂(今年の恵方は東北東よりやや右です)


おしまい


55 ◆6osdZ663So2014/02/03(月) 15:48:10.72A62o/6tRo (14/14)




我が国に昔から語り継がれる、人知を超える異端の者達。
多種居る妖怪の中でも、すこぶる力強く、人型である者が多い。
多くの妖は、天や自然や文明に対する畏怖を根源にするのに対して、
鬼は、人間の思いや精神に対する畏怖がその存在の根幹であると言われる。
そのため、常に人の隣に居て、人を脅かし、人を守ってきた。
人が鬼に変異する例も多く、神になろうとして失敗した者の成れの果てであったり、
多くの民から呪われたために、呪いに身を包まれて変質した人間であったり、
ただ悪事や禁忌とされる行いを働き続けた結果、いつの間にか姿かたちが変質して鬼になったものもいる。
このように畏怖されるほどの人間の感情と言うのは、多くの場合は負の感情であり、
そのため鬼達も負の存在に近く、負の力の扱いに長けている。
神の領域に近づくため、自ら鬼となった変わった者達も居たとか



と言う訳で、節分と鬼のお話でした。
負のエネルギーを扱える鬼は、カースドヒューマンに近い存在であったりするのかなと思います。


56 ◆zvY2y1UzWw2014/02/03(月) 16:17:49.07A0aXZgut0 (1/1)

乙です
そりゃこんな鬼なら内に招くよね

鬼になった人間もいる…ふむふむ


57 ◆AZRIyTG9aM2014/02/03(月) 16:18:44.55bhJamgkYO (1/1)

乙ー

やだ。最後のモグモグカワイイ

角で色々悩んでるのか……


58以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/04(火) 14:00:58.22vintP25bo (1/23)

乙です。やっぱPくんめっちゃ可愛い(確信)

穂乃香の話を投下します。


59 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:02:20.03vintP25bo (2/23)

深い深い樹海の奥にある洞窟。そのなかにはとんでもないお宝が眠っている。しかし、その宝を守る番人が宝を死守しており、だれもお宝の内容を知らない……。

そんな伝説が世に知れ渡り十数年。宝の番人綾瀬穂乃香は洞窟の前で刀を振るっていた。

穂乃香の心中には数日前に来たあの男、そう言えば名前を聞いていなかったな、と思案する。

刀を振りながら物思いに更ける。

(私は、あの男に傷をつけることすら出来なかった……)

男のあの固い鎧を思いだし、倒すことが出来なかった悔しさに歯噛みする。腕には自信があったのだが……。

もしあの男が仲間を引き連れてやって来たら、次は勝てないだろう。


60 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:03:03.99vintP25bo (3/23)

その為に、今は修行中である。

刀を振る腕を止め、息を吸う。そして、刀を構えた。ただし、刃の反対側、峰を向けている。

「綾瀬流剣術………」

これは穂乃香の父が編みだし、そしてもっとも得意とした技であった。

「刀代無双!」

ブオォン!と風を切り降り下ろした刀が大木に直撃する。

大木はミシッと音をたてたが、倒れなかった。

綾瀬流剣術『刀代無双』とは、簡単にいってしまえば「物凄い峰打ち」である。穂乃香の父がかつて戦った相手が、とても強固な盾を持っていたのだが、それを打ち破るために編み出したのがこの『刀代無双』だ。

父曰く、「切れないなら砕いてしまえ」とのこと。それを聞いたまだ幼かった穂乃香は、幾らなんでもむちゃくちゃだろう、と思ったが、今その技の修行をしているのだから笑える話だ。


61 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:03:44.67vintP25bo (4/23)

(くっ……やはり私にはこの技の習得は無理なのか……?)

穂乃香は父と違い、細く、華奢であった。だから、力がない代わりに素早さを重視した戦い方をする。

穂乃香の父は豪腕の持ち主で、だからこそ『刀代無双』を使えたのだが……。

「はぁ……」

思わずため息をついた。頬を汗が伝うが、気にもしなかった。


62 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:04:43.18vintP25bo (5/23)

刀を鞘に納める穂乃香。休憩をしようとした、その瞬間、

「!」

穂乃香の顔めがけてナイフが飛んできた。すぐさま刀を抜き、弾き落とす。

弾き飛ばされたナイフは空中をくるくると回転し、地面に刺さった。

「………」

切り株の側に置いといた二本目の刀を持ち、ナイフが飛んできた方向に目を向ける。

「あちゃ~弾かれちゃったか~。ついてないな~」

妙に間延びした声が聞こえた。声の主はナイフを拾い上げ、穂乃香に目を向ける。

「う~ん、流石、宝の番人さんだ。巷で化け物と呼ばれるだけのことはあるね~」

それは少女だった。年齢は穂乃香と同じか、年下。白いワンピースの上に左肩から右腰にかけて太いベルトが巻き付けられていた。透き通るような銀色の髪をツインテールにしている。右が赤、左が青のオッドアイが穂乃香を見つめる。


63 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:05:24.50vintP25bo (6/23)

「……」

黙ったままの穂乃香に向かって、少女は話しかける。

「あれぇ~?なんで黙ってるの~?」

首をかしげ、左手の人差し指でこめかみを指す。

穂乃香は、少女ののんびりとした雰囲気の裏に隠された強い殺気を感じた。

この少女は、間違いなくただ者ではない。ナイフを投げる距離まで近づいたのなら、穂乃香がその存在に気づかないはずがない。しかし、穂乃香は気づかなかった。


64 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:06:05.95vintP25bo (7/23)

「あなたは、何者ですか?」

刀を下ろすことはせず、少女に問う。

「ん~、宝が隠されてる場所に来たら、やることはひとつだと思うんだけどな~。まぁ、いいや。教えて上げる」

少女は左手の人差し指で、自分を指差し、言った。

「私の名前はシニストラだよ~。よろしくね、番人さん」

そのまま人差し指を穂乃香の背後に向ける。

「で、番人さんの後ろにいるのが、私のお姉ちゃん、デストラだよ~」

穂乃香の体に衝撃が走る。

弾かれたように後ろを振り向くと、そこには先程シニストラと名乗った少女と瓜二つの容姿の少女が、ナイフで穂乃香を向けていた。

大きく跳躍し避ける。

「………おい、シニストラ」

少女が、さっきまで穂乃香に話していた少女、シニストラに話しかける。


65 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:06:57.02vintP25bo (8/23)

少女、デストラはシニストラと同じく銀色の髪をツインテールにしており、白いワンピースを着ていたが、シニストラとは違いベルトを右肩から左腰に掛けて巻き付けていた。左が赤、右が青のオッドアイが、シニストラを睨み付ける。

「貴様が余計なことをするから仕留められなかっただろうが!」

デストラの怒鳴り声に動じることなく、シニストラは飄々とした態度で答えた。

「いいジャ~ン。お姉ちゃん、強いんだし~」

反省する気が0の妹を見て諦めたのか、ため息をつくデストラ。

「……はぁ。貴様のような馬鹿が私の妹……。認めたくない……」

「あはは♪それは残念だね、お姉ちゃん?」


66 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:07:26.91vintP25bo (9/23)

そんな二人のやり取りを、穂乃香は茫然としたようすで見ていた。

穂乃香は信じられなかった。自分の背後に音も気配もなく立った少女の存在が。

しかし、すぐに彼女は正気を取り戻した。

そして、

「綾瀬流剣術」

刀を構え、二人に突進した。先手必勝である。

「疾風怒刀!」


67 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:07:56.01vintP25bo (10/23)

しかし、

「おっと」

「ふん」

瓜二つの姉妹は、穂乃香の不可視の剣技『疾風怒刀』を、いとも簡単に避けた。

「番人さ~ん、私たち今お話ししてたのに~。邪魔するなんて、空気読んでよね?」

「はっ、会話ならこいつを殺した後でいくらでもできる」

「そだね」

左手にナイフを持ったシニストラと、右手にナイフを持ったデストラが、穂乃香に向かって来た。

「!!」

それは信じられないほどのスピードだった。下手すれば穂乃香よりも早い。

二人の猛攻を防ぐのに穂乃香は精一杯だった。

「ほらほらほらほら!」

「はははははははは!!!受けるのが精一杯か!」


68 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:08:29.70vintP25bo (11/23)

刀とナイフがぶつかり合い、火花が飛ぶ。

これは不味いと考えた穂乃香は、自分の早さを最大限に利用し、二人の背後に移動した。

そして、切る標的を失った二人の無防備な背中に『力戦奮刀』を繰り出し、

「っ!また!」

当たらなかった。二人が避けたのである。

「鬼さんこーちら♪」

「手のなる方へ!!」

穂乃香の左右を挟んだ二人の手に握られたナイフが、穂乃香の腕に突き刺さる。

「あぁ!!」

焼けるような痛みに思わず悲鳴を上げる。今までの敵は、殆んどが穂乃香に攻撃を当てることが出来なかった。だから、穂乃香は「傷を受ける」という経験を殆どしなかったのだ。

「あはははははは!!あぁ、だって~!かっこ悪~い」

シニストラの嘲笑が穂乃香の耳に届いた。

「ふふふふふふ、やはり宝の番人も、我らの敵ではなかったか」


69 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:09:11.52vintP25bo (12/23)

顔のすぐ近くでデストラの声が聞こえる。

そのとき穂乃香の髪が引っ張られ無理矢理に顔を上げさせられた。

「さて、こいつの首を切り落とすかな」

その瞳の冷たさにぞくりとした。その一方で、自分もこんな目をしていたのかな、と至極どうでもいい考えが頭を掠めた。

「ねぇねぇ、そんなよわっちいのなんかほっといてさ~、早く宝を取りに行こうよ~」

シニストラの気の抜けた声が穂乃香の耳に突き刺さった。

「自分は強い」という絶対的なプライドを打ち砕かれ、穂乃香の心の底から怒りがわいてきた。

「……ざ……な」

「ん?なんかいったか?雑魚」

「ふざけるなああああ!!!」

刺されて血がだらだらと流れる腕に力を込めて刀をふる。

デストラはそれを避けた。そして冷たい瞳で穂乃香を見つめる。

「ふん、まだ動けるか」

「弱いのに無理しちゃって~。もういいじゃん、番人さんは十分頑張ったよ。もう諦めなよ」


70 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:09:40.94vintP25bo (13/23)

二人の言葉の一つ一つが、穂乃香の心に突き刺さる。二人の持つナイフよりするどく、穂乃香の心に深い傷をつける。

「私が、弱いだと?!宝を取りに行くだと!?私が、今までどんな気持ちで、宝を守ってきたと思っている!?」

血を吐くような叫び声。それは長年穂乃香の心のそこに蓄積していた憤怒の叫びだった。

しかし、デストラもシニストラも、穂乃香の叫びに臆することはなかった。

「知るか」

「そんなこと私たちの知ったことじゃないよ」

この言葉に穂乃香は完全にキレた。いつもの冷静さは影を潜め、二人に突進する。

「……ふん、そのまま抵抗しなければ見逃してやろうとも考えていたのだがな」

「お馬鹿さんだね~♪」

穂乃香の二本の刀と、デストラとシニストラのナイフが交差する。


71 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:10:49.47vintP25bo (14/23)

パキイィン、と音を立てて折れたのは穂乃香の刀だった。

その時、穂乃香は見た。折れた刀の刀身が、やけにゆっくりと地面に落下するのを。

そして悟った。こいつらは私より素早いのではない、私が遅くなっていたのだ、と。

だから私より早く動けるし、『疾風怒刀』もよけれたのだ。

おそらく、どちらかが能力者なのだろう。それで私が二人に追い付けなかったのだ。

そんな穂乃香の思考は、次の瞬間放たれた二人の持つ刃に切られたことで闇に落ちた。


72 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:11:15.45vintP25bo (15/23)


ドサッ、と倒れる血まみれの番人。それを見下ろす二人の少女。

少女たちの体は返り血により真っ赤に染まっていた。

シニストラが、姉のデストラに顔を向ける。

同じくデストラも、妹のシニストラに顔を向けた。

二人は同時に口を開き、そして同時に言葉を発した。

「やったね♪」

「やったな」


73 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:12:30.42vintP25bo (16/23)

しかし、まだ喜んではいられない。洞窟に目を向けた。

「さて、後は宝を奪うだけだな」

その時、二人の脳内に埋め込まれた通信装置を通じて声が聞こえた。

《デストラ?シニストラ?二人とも無事?怪我はない?》

心底心配そうな声が、二人の頭に響く。

《心配ないよ、マーノ姉さん》

安心しろと言わんばかりの調子でデストラ。先程とはまるで違う別人のような優しい声だった。

《怪我はないよ~、マーノ。だから安心してよ》

《よかった、私のために二人が怪我したらどうしようかと……》

《ははは、姉さんは心配性だな。私たち三人でいつも成功してきたじゃないか。今度も大丈夫だよ》

《それにマーノの加護もあったしね♪》

いま彼女たちと会話をしているもう一人の女性は、彼女たちの姉である。名はマーノといった。この洞窟から数メートル離れた場所にある木の影に凭れるようにして立っていた。

デストラとシニストラと同じく銀髪をツインテールにした、鮮やかな紫色の目の持ち主であった。

この三人の見た目がここまでそっくりなのは三人が三つ子の姉妹だからである。そして、フリーの傭兵でもある。

彼女も戦闘はできるが、今回はとある理由から援護に回ってほしいと二人の妹に言われて今回この場所で二人の援護をしていたのだ。そう、体感速度を遅くする能力は、彼女の持つ能力だったのだ。


74 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:12:59.14vintP25bo (17/23)

《じゃ、私たちが宝を持ってくるから、マーノはそこで待っててね~》

《……その、ごめん》

妹たちに押し付けた事に罪悪感を感じ、謝ろうとしたマーノの声を、デストラの声が遮った。

《姉さん、どこに謝る必要がある?》

それに同調するようにシニストラ。

《そうだよ~。マーノと、姉さんの幸せは私の幸せでもあるんだから》

《そうだ。姉さんとシニストラのの幸せは私の幸せ。私とシニストラの幸せは姉さんの幸せでもある。私たち三人は、三人で一人。ずっとそうだったろ?》


75 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:14:12.15vintP25bo (18/23)

三人に親はいない。自分の親がどんな人だったかは覚えていない。親もいなければ家もなかった。毎日毎日、餓えの苦しみに耐えてきた。

しかし寂しくはなかった。いつも姉妹と一緒にいたからだ。苦しみも、喜びも、分かち合って生きてきた。

フリーの傭兵になってからは、報酬で得た金で飢えに苦しむことは無くなった。それなりに幸せな日常を送っていた彼女たちだが、ある日長女のマーノが、依頼を受けて護衛した資産家の息子に求婚されたのだ。

マーノは喜んだ。そして、デストラとシニストラも喜んだ。しかし、マーノは不安でもあった。自分は、仕事とはいえ、人を何人も殺してきた。そして、資産家の息子はそれを知らない。知っているのはフリーの傭兵であるということだけだ。

そしてある日マーノはその事を打ち明けた。資産家の息子はそれを聞いて、嫌がる素振りは見せなかった。それどころか、「それでも愛してる」と、手を握ってくれた。何人も殺めてきた、この人殺しの手を、握って結婚しようといってくれた。


76 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:15:24.03vintP25bo (19/23)

三人は幸せの絶頂に至った。

しかし、すぐにそれは崩れ去った。

資産家の息子が襲われて病院に搬送されたと聞き、三人揃って病院に飛んできたマーノが見たのは、死人のような目で譫言のように「バアル・ペオル」と呟く資産家の息子の姿だった。

マーノは呆然としてて医者の話を聞いていなかったが、あとでデストラから聞いた話によると、資産家の息子は怠惰のカースドヒューマンにされ、このようなことになったこと、そして、彼の体内にある怠惰の核を摘出することは、資産家の全財産をつぎ込んでも難しいと。

しかし後日、医者の話を聞いたところによると、彼の怠惰の核は腎臓に寄生しており、摘出するのはまだ簡単な方であるとのこと。ただ、カースドヒューマンの核の摘出は前代未聞で、未知の領域であり、簡単であるといっても成功する確率は小数点以下である。と、医者はいっていた。


77 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:15:51.62vintP25bo (20/23)

しかし、それで諦める彼女たちではなかった。

その日から、どんな手を使ってても金を集めると決めた。それが今から五年前の一月一日であった。

そして、今日。ここに眠ると言われている宝を持ち帰れば、手術を受けられる。

そのために、彼女たちはここにいた。


78 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:16:56.66vintP25bo (21/23)

そして、場所は洞窟の中。

いままで誰も踏み込むことができなかった前人未到の洞窟のなかを、二人は緊張の面持ちで進む。

この先に、宝がある。私たちは、私は、幸せになれる。これまでずっと幸せになりたいと願ってきた。それを叶えるための第一歩だ。

しばらく進むと、奇妙なものが見えた。

それは薄汚れた黄色い三角錐だった。それが逆さまになって地面に突き刺さっている。

「……これが宝?」

いつもののんびりとした調子はなりをひそめ、シニストラはデストラに聞いた。

「……いや、宝ならもっと奥の方にあるんじゃないか?まだここは洞窟の中腹だ。それにこれはどうみたって宝じゃないだろう」

「……そだね。でも何もなかったらこれもって帰ろう?」

「馬鹿、何を言うか。宝はある、無くては困る」

二人は洞窟の奥に進んだ……。


79 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:17:47.60vintP25bo (22/23)

その頃、洞窟の前に倒れていた穂乃香にはまだ意識があった。

穂乃香は夢を見ていた。それは、走馬灯か、それとも悪夢か。恐らく後者だろう。

今まで自分が守るために殺してきた人々の顔が、浮かんでは消える。

穂乃香は心の奥底で、彼らを羨ましいと感じていた。使命に縛られた自分と違い、自由だった。だから、こんな場所までやって来て宝を奪うなどほざく余裕があるのだ。

命乞いをするのはまだ生きていたいと考えている証だ。穂乃香はもう、よくわからない宝を守ることに疲れていたのだ。

そして、命乞いをする人間を見るたびに、「自分には大切なものがあって、自由なのだ。お前とは違う」と言われてるような気がして、そのたびに怒りに任せて切り殺した。

最早、やってくる敵を殺して「自分は強い、負けない」と考える事が彼女の唯一のいきる意味となっていた。

しかし、それは先程すべて打ち砕かれた。

もう死にたかった。


80 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:18:48.07vintP25bo (23/23)

穂乃香の目に微かに涙が浮かび、流れ落ちた。

そのまま意識を手放そうとした、その時、

「諦めるには、まだ、早いんじゃないかな?」

声が聞こえた。デストラとシニストラの声ではない。まったく別の声だった。男とも女ともつかない奇妙な声が穂乃香の頭上から降ってくる。

「ほら、これを使いなよ」

目の前になにかが落ちた。それは四つのカースの核だった。そして、一つの装置。それはベルトの形状をした装置。

「これはカースドライバー。そして、カースの核だよ。もしあなたに素質があれば、それはあなたの体にぴったり馴染むはずさ」


81 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:21:30.71h/ucGa/yo (1/11)

穂乃香はゆっくりと、核のひとつを手に取った。

ついさっきまで死んでもいいと考えいたくせに、四つの核を見た瞬間、生きたいと強く願った。

核はするりと滑り込むように体に入った。他の三つも手に取る。同じように体に入り、そしてすぐに馴染んだ。

異様なほどに清々しい気分になった。

自分には声を掛けてきた何者かはすでにいなかったが、そんなことは気にしていない。

目の前に落ちている装置を手に取る。操作は聞いていないが、穂乃香にはそれをどう使うか手に取るようにわかった。

するすると腰に巻き付けられるベルト状の装置、カースドライバー。そして、地面に落ちていた四つの長方形のアイテム、カースキーをひとつ、カースドライバーに差し込むと、穂乃香の体は強固な鎧で包まれた。

そして、洞窟のなかに入った。

それを見つめる謎のせいぶつ。それは、緑色の体色をした、地球上に存在するどの生物にもにていない奇妙な生物だった。

その奇妙な生物が言った。

「ふふふ、おめでとう。今日から君はカースドライダー・シュラだ」

その声には喜びが混じっていた。


82 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:22:02.10h/ucGa/yo (2/11)

ざっざっざっざっ……。

足音が洞窟のなかで反響し大きな音をたてた。

「……以外と深い洞窟だね」

「あぁ、そうだな……」

ざっざっざっざっ……ざっざっざっざっ。

《……何かあったらすぐいってね》

マーノの声が響く。

《いいよ、気にしないで。たまには妹孝行させてよ》

いつもふざけているシニストラらしからぬ台詞である。

ざっざっざっざっ、ざっざっざっざっ……。

そのとき、デストラはピタリと足を止めた。明らかに警戒している。

「お姉ちゃん?どうしたの?」

シニストラが口を開くが、デストラは右手の人差し指を唇に当てた。

静かにしていると、シニストラにもデストラが警戒する理由がわかった。

ざっざっざっざっざっざっ…。

足音が、聞こえる。自分達はいま立ち止まっているのに、足音が聞こえるのだ。


83 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:22:31.44h/ucGa/yo (3/11)

「誰だ!」

足音のする方向に向けて声を出す。

そしてついにそれは姿を表した。

「……!」

鬼神のごとき風貌の鎧に声を失うデストラ。

「…………」

鎧は喋らない。

「……誰かはしらないけど、邪魔するなら殺すよ?こちとら割りと真面目なお使いにきてんだよ」

シニストラの声には怒気が含まれていた。

デストラも声を出さずにナイフを構える。


84 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:23:18.88h/ucGa/yo (4/11)

そして、脳内の通信機でマーノに声をかけた。

《マーノ、援護お願い》

《言われなくても》

通信機を通してマーノにも緊張が伝わっている。マーノの声も真剣そのものだった。

そのとき、はじめて鎧が声を出した。

「切れないなら、砕けばいい……」

「その声……!」

「番人か!なぜ生きてる」

しかし、二人の疑問に鎧、穂乃香は答えなかった。というか、返答するのが面倒だったので聞き流した。そして、穂乃香はもはや番人ではなかった。

「砕けないなら……」

その瞬間穂乃香、いや、カースドライダー・シュラの姿は消えた。

そして、シニストラがバラバラに切り刻まれた。血飛沫が、シュラの鎧とデストラの体を濡らす。断末魔すら上げられない、呆気ない最後だった。

数秒遅れて、シニストラが死んだという事実を認識し、

「シニストラアアアアアアアアアアア!!!」

《嫌あああああああああああ!!!》

マーノとデストラの叫び声がこだました。


85 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:23:45.41h/ucGa/yo (5/11)

すぐさまナイフを振るうデストラ。

「貴様あああ!よくもシニストラをおおおお!!」

しかしそこにはすでに穂乃香の姿はない。

背後に回ったシュラの振るう刀が、デストラの右腕を切り落とした。

「ぐ、ぐわあああああああぁ!!」

激痛に悶える。

「ぐ、ぐううぅ」

呻きながら思案した。

なぜだ、なぜマーノの能力が聞いてない……?

それは、カースドライダー・シュラのカースドキー、プライドライオンの特性である。プライドライオンには、自分を対象にした能力者の能力を無効にできるのだ。しかし、それをデストラは知らない。


86 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:24:30.01h/ucGa/yo (6/11)

「ふうぅ……ぐうぅうぅ!!」

シュラを睨み付け、そしてナイフを左手で持つ。

(なんだか知らないが、妹の仇はとらせてもらうぞ!)

そして跳躍し一気に肉薄した。

「死いいいねええええええええええええええええ!!!」

ガキイイン!と音をたてて直撃したナイフは、しかしあっさりと折れてしまった。枯れ葉のような音が洞窟内に響き渡る。

「………!」

そして、デストラは最後にマーノに伝えた。

《逃げろ》

本当はもっと色々と言いたかったのだが、それはシュラが許してくれなかった。

「砕けないなら…殺せばいい」

次の瞬間、シュラの持つ刀がデストラを貫いた。


87 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:25:03.46h/ucGa/yo (7/11)

「うわああああああ!!!」

妹たちの死を知り、マーノは一人絶望していた。

「うっ、うううぅ……」

鮮やかな紫色の瞳から涙がボロボロとこぼれ落ちていた。

「デストラ……シニストラ……。嫌よ、私は、皆で幸せになりたかったのに……これじゃ意味ないじゃない……!」

そして、マーノの声は次第に怒りが混じってきた。

「許せない……あの女!絶対に私の手で殺してやる!殺してやるううううぅ!」

しかし気づかない。彼女のすぐ背後にシュラが立っていたことを。

腰にさしたナイフを抜き取り、そして立ち上がる頃には、既にマーノの上半身と下半身は分断され真っ二つになっていた。

こうして三つ子の傭兵の不幸な人生はあっけなく幕を閉じたのだった。


88 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:25:29.74h/ucGa/yo (8/11)

そして、宝の番人の役目を放棄し、自らの欲望のためだけに生きると決めたカースドライダーシュラ、綾瀬穂乃香は、生い茂る樹海から姿を消した。


89 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:31:12.13h/ucGa/yo (9/11)

カースキー
 大罪と、それらに対応する動物や魔物の力が封じ込められた鍵。
 特殊なカースの核を加工して作られる。
 キーヘッドには様々な動物や魔物のレリーフが彫られている。
 カースキー単体ではただのアンティークキーでしかないが、カースドライバーに差し込むことで
 鍵に込められた呪いのエネルギーが解き放たれる。

カースドライバー
とある機関が発明した変身装置。しかし、その機関は現在存在しない。現在三つのカースドライバーが発明されている。

カースドライダー・シュラ
 穂乃香がカースドライバーで変身した姿。
 所持カースキーはプライドライオンキー、スロースベアーキー、エンヴィースネークキー、ラースドラゴンキー。


90 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:32:12.90h/ucGa/yo (10/11)

ハイブリッドカースドヒューマン

複数の核に寄生されたカースドヒューマン。
本来なら身体が拒絶反応を起こし、ただのカースへと成り果てるのだが…
稀に耐え切るモノがいる。
綾瀬穂乃香の場合は
押し付けられた運命に対する≪憤怒≫
日常や普通の生活へに対する≪嫉妬≫
番人の仕事をしたくないという≪怠惰≫
自身の強さに自信を持つ≪傲慢≫

の4つの核が体を蝕んでいる。

普段は憤怒と嫉妬と傲慢の3つの力を怠惰の力が抑えている。

が、戦闘に入ると感情の一つが解放され、それぞれに切り替えて行く。



91 ◆tsGpSwX8mo2014/02/04(火) 14:34:00.39h/ucGa/yo (11/11)

投下終了です。ハイブリットカースドヒューマンとカースドライダー関連のネタはメタネタスレから拝借しました。ご協力ありがとうございました。

イベント
・穂乃香、番人やめるってよ

お目汚し失礼しました


92 ◆zvY2y1UzWw2014/02/04(火) 14:53:00.505IyDQyXz0 (1/1)

乙です
心が豊かになった結果がこれだよ!
カースドライバーはこれからどうなるのやら
噛ませになった三つ子ェ


93 ◆AZRIyTG9aM2014/02/04(火) 18:19:21.64LPWW8zZOO (1/1)

乙ー

三つ子ーっ!!!!!

よし、魂は影で回収させよう(おいっ

謎の声……いったいなにこりゃ太なんだ?


94 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 19:50:38.801mctWUjo0 (1/24)

学園祭投下、いっきまーす

一応、時系列はこう判断しています

一日目
夕方…カースの雨→アンチメガネカース放流&AMC誕生→白兎vs聖來さん
その後AMCがヒーローにメガネ嫌悪の洗脳をする事案が発生
深夜…奈緒ちゃん帰還

二日目
朝…朝の会議で映像を流す予定だったが、白兎襲撃でそれどころじゃなくなる

これから投下


95 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 19:52:35.461mctWUjo0 (2/24)

アイドルヒーロー同盟トップであるTPとAP、それに秘書が乗る車内は静かだった。

そこに、人工知能であるSPのボイスが、片耳の無線イヤホンから3人に送られてくる。

『TP様、提出された映像データに一度目を通して下さい』

「何の映像だ?」

『新種のカースの映像だそうです。会議の前に提出されましたが…申し訳ありません、それどころではなくなりましたので…』

TPのネクタイピンやAPのチョーカーや秘書の腕時計の中のマイクが音声を拾い、SPはその音声に反応して返答する。

合成音声との会話は滑らかで、まるでそこに居るようだ。

『勝手ながらこちらの映像は上層部メンバー全員に送信させていただきました。次回の会議の際に話し合う事になるかと』

「それは仕方のない事だ…見せなさい」

『かしこまりました』

車内のディスプレイに、AMCがヒーローを襲う映像が流れだした。


96 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 19:54:38.461mctWUjo0 (3/24)

子供の姿をしたカースだ。

黒い服、黒い髪、そして少しだけ黒い肌。

レンズの様な不気味な瞳はにっこりとしていれば見えない。

少年の姿、少女の姿のそれは、ヒーローに襲い掛かっていた。

それは常人ならば少し情に訴えかけてくるものがあった。


97 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 19:56:04.421mctWUjo0 (4/24)

「…子供型カースか…その姿で自爆とはなんとも気分が悪い」

『白に続き黒の核を持つカースです。会議中に襲撃した怪物の仲間と思わしき「黒」という名称と深くかかわっている筈です』

「ふむ…」

『また、これ以外にも目撃情報はあり、周辺の住民にこの子供に擬態したカースに警戒するよう呼びかけるつもりです。洗脳能力も持っているようですので』

「ああ、実行してくれ」

『お任せ下さい。それとTP様、要請が届いています』

「なにかね?」

『パップ様から秋炎絢爛祭にてライブを行うアイドルヒーローの増援要請が。既にクールP様からは二名を向かわせると連絡が入っておりますが…』

「…秋炎絢爛祭で被害が出たことはこちらも把握している。許可しよう。SP、念のため予定が空いている者をリストアップしなさい」

『了解しました』

今度はディスプレイに情報を映し出す。


98 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 19:57:47.971mctWUjo0 (5/24)

「…TP様、予定が空いている者はそれなりに居ますが、ここはやはり実力が信頼できるアイドルヒーローも送りましょう。

RISA含め、彼女達は新人です。学園祭に行く人々の安心を保証するにはやはり有名アイドルヒーローの存在が手っ取り早いかと」

「そうだな、『RISA』のライブゲスト扱いで、更に二名…『ラビッツムーン』『ナチュラルラヴァース』はどうだ?予定は…レッスンか」

秘書の助言を受け、増援兼ゲストとして登場するアイドルを提案する。

『その二人は暫くレッスンでしたが、キャンセル可能。ライブもかなり先ですし疲労しているわけでもありません。データ上は問題ないですね』

「その二人なら緊急ゲストでも十分に観客を満足させることが可能でしょう。RISA達とはタイプも違いますから、彼女を完全に喰う事もないでしょうし」

「よし、873プロダクションに連絡を取って、可能なら行くように言ってくれ。返事がNOだったら別のアイドルを考える」

『お任せ下さい、連絡は子機にやらせておきます』


99 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 19:59:09.801mctWUjo0 (6/24)

『…それともう一つお話が』

「ん?構わないが…」

『…例の海底都市の住人、ライラ様。クールP様のプロデュースによってアイドルヒーローとして所属しましたが…やはり不安要素です』

SPが語り出したのは、クールPにスカウトされた少女。ウェンディ族であるライラの事だった。

「異種族さえもアイドルヒーローとすれば懐の広さを見せることが出来る」などと言われ、上層部は言いくるめられたが、SPは意見があるようだった。

『可能性の話で申し訳ないですが…神の洪水計画を阻止するために海底都市の住人と戦う事になった時、彼女はどう動くのでしょうか。

彼女の技はお爺様直伝だと聞きました。そして彼女は修行の為に地上に来たと言っています。彼女は故郷から逃げて来たわけではありません。

…ライラ様が万が一あちらへ寝返った場合、アイドルヒーローの信用が傷つくだけではなく、その場の士気にも影響が出るでしょう』

「…なるほど、確かに全て筋が通っている…それで、その事について何か対策があるのか?」

『もちろんです』

「…物騒な事ではないだろうな?」

『ご安心を。海底都市からライラ様を寝取るだけです』

『ネトル!ネトル!』

APが抱えていたキンが言葉の意味も知らずに囃し立てる。

「…ねとる?」

「「!?」」

APはともかく、TPと秘書は動揺した。


100 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 19:59:45.011mctWUjo0 (7/24)

――――

海底『ライラ!俺の事が好きじゃなかったのかよ!』

ライラ『…』

地上『無様だなぁ、海底都市サン?ライラちゃんはお前なんかよりこっちが好きなんだってよ!』

海底『ち、違う!!そんな事あるわけが…!』

地上『ほ~らライラちゃーん?アイスだよ~』

ライラ『…』ピクッ

海底『ら、ライラ!それに釣られちゃだめだ!』

地上『他にもたくさん、ライラちゃんが好きな物をあげようかなぁ~?おいしい物いっぱいだよー?』

ライラ『海底都市さん、私はもう…地上さんの事しか考えられないでございますよ…』

海底『な“ん”で“俺”じ“ゃ”ダ“メ”な“ん”だ“よ”ぉ“ぉ”ぉ“!!』

地上『どうだ悔しいかアハハハハハ…』

―――――


101 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 20:00:56.571mctWUjo0 (8/24)

「oh…」

秘書の脳裏に訳の分からない映像が流れてくる。

空気を察したのか、少し気まずそうなSPのボイスが流れてきた。

『…説明しましょう。要約すればAPに彼女の監視をしていただきます。しかし、彼女にはお付きのロボがいる為、自然な形で』

「どういうことだ?」

『友人ですよ、友人。既に友情が芽生えている者もいるようですが、APには監視をするために彼女の友人になってもらいます』

「っ!?」

「…こう言っては何だが…人には適材適所という物があるだろう…?」

「AP様はなんというか…友人関係を構築するのは難しいのでは…」

APは青天の霹靂を受け、TPと秘書は困惑の色を隠せない。


102 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 20:01:57.531mctWUjo0 (9/24)

『APが普段無口なのは改善すべきですから』

「…」

『AP…黙らないでください』

『ナオス!ナオス!』

「…」

APは視線を逸らそうとするがSPはこの場に居ないのでどうやっても視線を逸らせないので俯く。

しかし俯いても抱きかかえているキンが居たのでAPは諦めた。

『便宜上は世間知らずなライラ様の案内役…という形を取らせていただきます。女性同士ですのでライラ様とは比較的会話しやすいかと』

「…」

「そうか…」

『会話の際は自分が音声でサポートいたします。ライラ様には聞こえないでしょうし。そもそもAPがまともな話題を出せるとは思えませんし』

「そ、そうか…」

『もう少しコミュ障を治すというか、無口と威圧感を治すべきだと思うんですよ。TP様のボディガードとしても』

「ああ、私もわかります。AP様はもう少しコミュニケーションを取れるようになるべきです」

『秘書様の同意を得られて嬉しく思います』

「どうも」

『コミュショー!』

「こ、コミュ障………ま、マスター…」

「…確かに、若い女性同士で話せるようになってくれたら、私は嬉しく思う。もちろん戦闘とかそういうのではなく…こう、ヤングな感じの」

「マスター…!?」

APは四方から追い詰められつつあった。


103 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 20:03:29.041mctWUjo0 (10/24)

『スーツじゃなく、もっと女性らしい格好などもすべきかと』

「そうですね、ライラ様と一緒に買い物にでも行かせてはどうでしょうか」

「…そうだな、悪くない」

『オフクー!』

「あ、あの、皆さま、えっとあの…そこまで必要ですか…?」

『もちろん』

「…」

彼女の目からただでさえ少ないハイライトが失せた気がした。

心の底から「監視をするのは賛成だが、そんな風に友人を装う必要はないだろう」と、声に出して言いたかった。

『監視諦めますか?コミュ障止めますか?』

「………」

「…嫌か?」

「わ……わかりました。やります」

『その言葉が聞きたかった。…ライラ様監視を開始するのはクールP様にこの事を伝達した後になります。早くて明日からですね』

「…手早いな」

『この展開を予測していたので』

「あ、貴方って人は…」

『サイテー!クズー!』

『えっ』

こうして、ライラ監視計画兼、APコミュ障改善計画が動き出した。


104 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 20:05:15.201mctWUjo0 (11/24)

安部菜々と相葉夕美が所属する873プロダクションでは、TP直々に出された出動願いの件で二人が呼び出されていた。

「ええっ!同盟のトップから直々に秋炎絢爛祭のRISAちゃんのライブゲスト兼、増援要請ですか!?」

「す、すごい話…」

「ああ、こちらの事がちゃんと評価されているようだ。二人の意思も尊重したいから聞くが…受けるか?」

「もちろんです!学園祭って初めt…あわっ!えっとえっと…ウサミン星には学園祭が無いんですよ!JKなのに!」

「…ナナちゃんが受けるなら、私には断る理由はないかな?」

それぞれの返事を聞いて、満足そうに二人の担当Pは笑った。

「そうか、その返事が聞けて良かったよ。すぐにYESの返事を出そう。二人とも、ライブが始まる数時間前までは自由行動でいいからな」

「本当ですか!?」

「ああ、資料自体は来ているから、しっかり読んでくれ。俺は他の所にも用事があるからもう行くぞ。レッスンのキャンセルは向こうがしてくれるそうだ」

「「はいっ!」」

菜々はどこか嬉しそうだ。それを夕美はちゃんと察している。


105 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 20:06:35.671mctWUjo0 (12/24)

「…夕美ちゃん!」

「どうしたの、ナナちゃん?」

「どうしたもこうしたも!最近オフ少ないですし、オフ替わりみたいなものですよこれ!」

両手で夕美の手をぎゅっと握って、菜々は夕美に微笑んだ。

「楽しみましょうね!ナナ、リンゴ飴食べたいんですよ!思い出になる気がするんです!」

「思い出…そうだね、私も飴食べたいかも。飴細工ってすごいんでしょ?」

「はい!一度見たことありますけど、あれすごいんですよ!学園祭でやってるみたいですし、行ってみましょうよ!」

思い出。その言葉の裏に、夕美は菜々の思いを垣間見ていた。

(…帰っちゃうのかな。ウサミン星に…まだ、決意って程ではないけれど)

いつになるかもわからない。けれど、いつか確実に来るだろう。…菜々が地球を旅立つ日が。そう予感させた。

…嬉しそうなのに、どこか寂しそうだと思ったから。

アイドル活動は忙しくて、楽しい。けれど、こんな『JKらしい』思い出はもうあまり作れないだろうから。

手を握り返して、夕美は菜々と一緒に学園祭へ向かいだした。


106 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 20:07:59.291mctWUjo0 (13/24)

「クラリスお姉ちゃん、お祭り行ってくるー!リサお姉ちゃんのライブ見てくるねー!」

「はい、いってらっしゃい」

クラリスに手を振りながら、子供服とポシェットを付けて、ナニカは教会を飛び出した。

『…で、今日は主にアイドルヒーローのライブ見るのか』

「そうだよ、昨日はやってなかったの」

『ふーん』

今朝ちょっとアイドルヒーロー同盟のビルを襲ってきた白兎は、あまり面白くなさそうだ。

『つまり今日は混みそうダな、昨日みたいにいろいろ起きそうだ』

『いろいろ、か…』

「そんなにいっぱい事件なんてないって」

『人が多ければ動きやすいけど…事件なんてそこらじゅうにある物だぞ』

「そんなわけないってー」

のんきな事を言いながら、ナニカは学園祭に向かっていく。

色々考えない為には、楽しい事をするのが一番だから。


107 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 20:08:40.171mctWUjo0 (14/24)

「涼さん、今日も学園祭のライブやるんだよね?」

「まぁ毎日だな。光栄なことだよ本当に…昨日は大変だったけど」

出かける支度をする涼に、あずきが眠り草を持ちながら近づいてきた。

「…眠り草、今日は涼さんが持ってく?」

「えっ」

『えっ』

あずきの口から眠り草の声が漏れた。涼が驚いた事に眠り草が動揺したらしい。

「…昨日と同じでいいんじゃないか?ていうか妖刀とかマーサが食いつくからできるだけ止めておきたいんだけど」

「うーんと…涼さんが持っていた方がいい気がするの。なんとなく」

「なんとなく、ねぇ…」


108 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 20:09:35.351mctWUjo0 (15/24)

『拙者をつれていくでござるー』

「…」

『ごーざーるー』

「…」

『ミミミン!ミミミン!ウーサミン!』

「…」

『ピカピカ、ピッカ!』

「…」

『ホンキノセイノウハ、ジンルイヲリョウガシマス!』

「あー…!わかった、わかったからちょっと黙ってくれ」

『ハーイ』

「裏声止めろ」


109 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 20:10:19.391mctWUjo0 (16/24)

「あのな…持って行くとしてもな、浮くだろ。あずきが持っていると和服と刀だからコスプレとかなんかだと思ってくれるだろうけどさ…」

「えーでも、最近は刀を持っている女の子のヒーローが…」

『小春bゲフンゲフン…刀持ちの侵略者系乙女ヒーロー、ひなたん星人でござるな!』

「うんうん、そういう子もいるみたいだから大丈夫じゃない?」

眠り草的にはあまり荒事に絡みたくないので、傲慢な刀である小春日和の名前は一応伏せておく。

『(下手に名前出したらフラグ立っちゃうでござる。やばーい☆)』

「ちょっと待て…小春なんちゃらってなんだ」

『それは内緒にすべきだと拙者の勘が』

「つまり知っているのか…」


110 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 20:10:58.281mctWUjo0 (17/24)

「刀友達かな?」

「…どうなんだ?」

『ミンナニハ ナイショダヨ』

「裏声やめてよー!その声を出すことを強いられるアタシの身にもなってよーっ!もう!折るよ!」

『またまたーたとえあずき殿でも名刀である拙者を折る事など…』

「…一つ教えてやるけど、アレ見えるか?壁の傷跡」

台所の方を涼が指で示す。

『ん?あの台所の…天井から床まで伸びている傷跡でござるか?塞がってるでござるが…』

「そうだ。…あれやったの包丁持ったあずきだからな」

『アイエエエエエエ!?アズキ!?アズキナンデ!?』

「い、いえーい…ちなみに貫通したよ」

すこし気まずそうにあずきが続ける。


111 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 20:11:49.191mctWUjo0 (18/24)

「弁償代は…まぁ何とかなったし、直ったし、貫通した先が外でさらに言えば夏だったからまだよかったものの…隣と貫通したらどうしようかと」

「お隣って確か古賀さんだっけ?」

「そうそう」

ちなみにそのさらに隣にはマリナたちが住む部屋がある。

刀の所有者である涼は狙われている立場なのだが…今の所遭遇すらしていない。

『(折られる☆…やばーい☆バキバキすぅ?)』

遭遇していない事に多少は貢献している筈の眠り草は話を聞いていないようだ。おそらく、人間だったら顔面蒼白であろう。


112 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 20:12:24.931mctWUjo0 (19/24)

『涼殿!拙者あずき殿の周りでは暫くふざけないでござるぅ!!だから、今日くらいは連れて行って欲しいでござるー!!』

「お前、そこまで…」

「というか話がグルグルしているだけの様な気がするんだけど…」

『気のせい!』

「眠り草が話を逸らすからでしょーっ!もーっ!」

「…仕方ないな、今日くらい何とか持って行くよ」

『マジでござるか!?ひゃっほーう!』

「あずき、眠り草ってあずきを介さなければ黙ってるよな?」

「そうだね。…涼さんの頭の中に呼びかけてくるかもしれないけど」

「ああ…うるさくしないように命令でもした方がいいか?」

『黙ってる!拙者黙ってるから!なんか敵が来た時以外黙ってるから!』

「敵なんてカース以外居ないから大丈夫だろ…」

彼女は一応一般人だ。犯罪組織を敵にしているわけでもないし、罪を犯したわけでもない。

…ただの妖怪と同棲して、ついでに妖刀の持ち主に選ばれてしまっただけの女子大生だ。


113 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 20:13:56.001mctWUjo0 (20/24)

『(ここで拙者が狙われているとか今更言ったら十中八九折られるでござる…まぁそんな遭遇する事なんてないだろうし、来たら大体わかるし…)』

『(…ん?そもそも拙者折れるのでござろうか。うーん…面倒くさいからどうでもいいやー)』

あずきから手放された眠り草は、どこかどうでもよさげに思考する。

『(拙者は今の生活で満足だし、お祭りって美人多いし…それに金持ちとか偉そうなのって嫌いなんだよねー)』

『(…まあ、なんとかなるでござるね。多分)』


114 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 20:14:59.491mctWUjo0 (21/24)

涼が眠り草を入れた袋と、バッグを持つ。

「じゃあ、先に行ってるからな。仁奈ちゃんと歌鈴に迷惑かけるなよ?」

「わかってるよ!いってらっしゃーい!」

あずきは涼を手を振って見送った。

仁奈と歌鈴が来るまではまだ時間がある。それまで家の掃除でもしようかと、家に入りなおす。

すると入った瞬間、つけっぱなしだったテレビの画面が急に切り替わった。

『番組の途中ですが、ここでアイドルヒーロー同盟から臨時ニュースをお送りします』

「ん?」


115 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 20:16:49.561mctWUjo0 (22/24)

『以下のエリアにて、人間に擬態するカースが目撃されました。近隣の住民は警戒してください』

テロップと共に、画面には目撃情報があった場所周辺の地域の地図が表示されている。

『刺激せず、発見次第連絡をお願いします。また、擬態したカースだと言い張って他人を傷つける人間を発見した場合も通報をお願いします』

『また、表示されているエリア以外にも潜んでいる可能性はあります。どこに住んでいても警戒は怠らず、関わらないようにしてください』

「人間に化けるカースかぁ…それにしても最近は物騒だなー」

掃除を忘れ、戸棚からせんべいを取り出しながら、あずきは数回繰り返されたそのニュースを見ていた。


116 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 20:18:55.011mctWUjo0 (23/24)

以上です
学園祭二日目突☆入!
菜々さんと相葉ちゃんも行くことになりましたよ

イベント情報(二日目)
・安部菜々&相葉夕美も学園祭へ。RISAのライブのゲストとして登場する予定です。
・アイドルヒーロー同盟からAMCへの注意報が放送されました。しかしテレビや街頭モニターを見ていない場合、情報は伝わってない可能性が高いです。
・APとライラさんお友達計画(仮)始動…?
・本日、眠り草は涼さんが持っています


117 ◆Nb6gZWlAdvRp2014/02/06(木) 22:23:32.46rdZIToT6o (1/9)



復帰がてらイベント関係無いG3の話を投下ー
時系列?学祭の後じゃないかな


118 ◆Nb6gZWlAdvRp2014/02/06(木) 22:24:24.02rdZIToT6o (2/9)

その夜は、なぜか眠れなかった。
 目を閉じてもどこからか湧き上がってくる焦りが、あたしを現実につなぎ止める。
 1時間ほどベッドで横になっていたけれど、このままでは朝まで起きていることになりかねないと、諦めて体を起こす。

 台所に降りてホットミルクを飲んだけど、焦りは消えず、むしろ大きくなっていく。
 その感情に耐えられなくなって、あたしはパジャマのまま家から出た。



 家を出たあたしは足の向くままに歩き続け、気が付くとある場所にたどり着いていた。
 ――そこは、あたしたちが『わたし』になった場所だった。
 辺りを見ると二人もここに来ていた。


119 ◆Nb6gZWlAdvRp2014/02/06(木) 22:24:52.22rdZIToT6o (3/9)

「あれ? 二人も来たんだ」

「うん、なんだか眠れなくて」

「あたしも、なんか『行かなきゃ』って感じがして」

『はぁい、お母様方こんばんは』

 二人と会話を始めた直後、頭の中に声が響く。
 聞き覚えのない声だったけど、なぜか自然とこれが『わたし』であることがわかった。

「あー、やっぱりAEがなんかしてたんだ」

『ええ、そろそろ外出しようと思って』

「わざわざ夜中に集めないでよ……」


120 ◆Nb6gZWlAdvRp2014/02/06(木) 22:25:39.37rdZIToT6o (4/9)

 法子が一人で何か納得していたけど、あたしたちには何のことかさっぱり分からない。
 かな子と顔を見合わせ首を傾げたところで……腹痛があたしたちを襲った。

「ひ、ぎぃっ」

 突然のことにお腹を押さえて膝をつく。押さえた手に固くて尖ったものが当たっているのを感じてパジャマを捲ると、何かの――いや、あの日食べたいくつもの破片がお腹を突き破って出ていた。
 いくらかの出血と一緒に地面に落ちた破片から泥が吹き出し、移動していく。
 視線だけでそれを追うと、法子とかな子からも同様に破片が出てきたみたいで、三人分の破片が一ヶ所に集まると、泥の量が一気に増えて人ひとり分くらいの大きさになる。

『かな子お母様』

「うぅ……え、なに?」

『わたしの仔を頂戴』

「え、と……あ、あの核?」

『ええ、その通りよ。あるでしょう?』

 それに向かって、かな子がなぜか持ってきていたあの7色の核を出すと、核はひとりでに浮き上がってそれに飲み込まれていく。
 核を飲み込んだそれは2,3回脈打つと、女の人の姿になった。
 歳は20台半ばくらいかな、スラッと背が高めで、ウェーブのかかった茶髪が腰に届かない程度に伸びている。

 肌が泥だとか、真っ黒なんてこともなくて、整った顔もあってただの美人にしか見えない。
 顔の前で何度か試すように手を握ったり開いたりしたかと思うと、両手の間に白っぽい球体を生み出して……


121 ◆Nb6gZWlAdvRp2014/02/06(木) 22:26:05.76rdZIToT6o (5/9)









――辺りが『清浄な光』に包まれた










122 ◆Nb6gZWlAdvRp2014/02/06(木) 22:26:49.93rdZIToT6o (6/9)


「あづっあ!?」

 全身を弱火で炙られるような感覚にあたしたちは転げまわり、女の人は満足げに頷く。

『贅沢を言うとまだ不満な点はあるけども、まあ及第点ね』

『お母様方、これからわたしは出かけます』

『今しばらくの間はこれまで通りに過ごしても構わないわ』

『でも、いずれわたしのために動いてもらうことになるから覚えておいて』

 言うだけ言うと踵を返して立ち去ろうとしてしまう。

「ちょ、待って説明! 説明が足りない!」

 まだピリピリするのを我慢して、声を張り上げて呼び止める。

『あらみちるお母様、夜中に近所迷惑よ?』

『でも、まあ……確かにお母様方には色々と話しておくべきかしら?』

 そう言うと、お腹に指を沈めて左右に割り開く。
 そんなことしても泥くらいしか無いと思ったんだけど、予想に反してそこには……草原が広がっていた。


123 ◆Nb6gZWlAdvRp2014/02/06(木) 22:27:29.85rdZIToT6o (7/9)

「……はい?」

 それをみたあたしたちは目が点になる。

『原罪の力で楽園……エデンの園を再現したの。わたしはここを命で満たしたいのよ』

『人に限らず、生き物は弱いわ。地上を埋め尽くす命のうち、どれだけが自らの重ねた罪と向き合って、背負っていけるというのかしら』

『だからこの楽園へ連れて行ってあげたいの』

『楽園のために原罪の力はほとんど使ってしまったけど、構わないわ』

『この楽園に行けばあらゆる罪から解放されて、解き放たれた罪をわたしが請け負うことでより大きな力が得られるのだもの』

『わたしはこの楽園で生きとし生けるものを包み込んで、導いて、神様に代わってしまおうと思うの』

 その後もあたしたちを置いてけぼりにして色々喋っていた筈だけど、それらはほとんど頭に入って来なかった。
 たしか最後のほうでやっとAE……Another Edenとか名乗ったっけ。それを聞いて法子が妙な顔をしたけど、なんだったんだろう。

――破片に突き破られたはずのお腹は、いつの間にか塞がっていた。


124設定 ◆Nb6gZWlAdvRp2014/02/06(木) 22:31:59.57rdZIToT6o (8/9)

 全てを喰らう者
 暴食のカース
 能力:天聖気を扱う・天聖気無効・他不明
 All Eater/Another Eden
 法子の中で自我を得た『わたし』の自称
 『わたし』を食べることで始まった三人への侵食は、『わたし』に自我が芽生えることで終わりを迎えた
 割とその場のノリで名乗る名前を変えるが、AEというイニシャルには拘りがあるらしい

 自らの自我と共に生まれた原罪の核を『わたしの仔』と呼ぶ

 原罪を取り込んで体内にエデンの園のレプリカを創り、そこにあらゆる命を取り込んで神になり替わろうとしている。
 彼女にとって食事とは「楽園へ命を導く行為」であるため「生きたまま丸呑み」を好み、暴食でありながら一般的な食事への関心は殆どない。
 偽物とはいえ楽園そのものを内包することで天聖気を扱う能力を得た。また、この能力は原罪由来で得た後天的なものであり、これとは別に先天的な能力を持つ。


G3について備考
・AEの核の破片はまだ一つ二つG3の体内に残ってます
・核がごっそり減ったので侵食は軽減された
・AEから力を貰ってるので天聖気への耐性(ダメージを軽減する程度)を得た


125 ◆Nb6gZWlAdvRp2014/02/06(木) 22:33:13.28rdZIToT6o (9/9)

投下終わり

久々に書くとキャラが動かなくて投げ出したくなる不具合


126 ◆AZRIyTG9aM2014/02/06(木) 22:37:54.52nY8Wsk5jO (1/1)

お二方乙ー

RISAのライブゲストでくるのか!
そして、秘書の妄想にワロタ
そして、涼さんフラグですよ!フラグ!

AEコワイ……
三人は果たしてどうなるのか?


127 ◆zvY2y1UzWw2014/02/06(木) 22:48:33.661mctWUjo0 (24/24)

乙です
AEがダブルネーミングだったとは…
楽園がなんか罠にしかみえない


128 ◆6osdZ663So2014/02/06(木) 23:46:53.17DZPl2Mnfo (1/15)

>>91
穂乃香さん…えげつない子になっちゃいまして…
これからどうなっちゃうのかな

>>116
菜々さんクルー
刀のコミュニティは基本問題児しか居なくてアレである

>>125
お久しぶりでー
また怖そうなのが出てきましたね。どこへお出かけするのだろう


皆さん乙です
ではでは投下しまー


129 ◆6osdZ663So2014/02/06(木) 23:47:30.58DZPl2Mnfo (2/15)



前回までのあらすじ


桃華「それじゃあ、わたくしはフェイフェイさんと出かけてきますので」

扉 ガチャ バタン


UB「やれやれ、お嬢様は本気で君の力を利用するつもりで居るらしい
   しかしそれは私たちにとって僥倖。君の力の有用性は私もよくわかって…

裏切り「今眠いからちょっと黙ってて」

UB「……(´・ω・`)」


桃華と『裏切り』の核
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1384767152/800-


130 ◆6osdZ663So2014/02/06(木) 23:48:07.79DZPl2Mnfo (3/15)



賑わう人々に華やぐ祭典。

その裏側で暗躍する者達がいる。



その内1人は、日の光も届かない真っ暗な影の中にて。



クールP「頼まれていた資料はこれでいいかい?」

チナミ「ええ、一通り目を通したけどなかなかね」

チナミ「流石は、同盟のプロデューサーヒーローと言ったところかしら」


悪業渦巻く魔界において、

さらに策謀の交錯する吸血鬼の大派閥”利用派”に属する二人の男女。

チナミとクールP、彼女達はとある資料の受け渡しをしていた。


131 ◆6osdZ663So2014/02/06(木) 23:49:13.28DZPl2Mnfo (4/15)


チナミ「手間を取らせたわね」

クールP「僕自身が動いたわけではないですから構いませんよ」

チナミ「あら、そうだったの?」

クールP「スカウト活動の一環のためだと言えば、」

クールP「その程度の資料は割と簡単に取り寄せられますから」

チナミ「ふーん」

チナミ「まあ、あなたの手で作られてないって言うのなら逆に信用できそうかしら」

クールP「おっと、随分と辛辣な評価だね。僕はそんなに信頼されてないのかな?」

お互いに言いあって、そしてクツクツと笑い合う。

チナミ「ふふっ、信頼ね」

クールP「ええ、信頼ですよ」

裏切り裏切られが日常茶飯事の魔界の出身。

それもお互いに”利用派”吸血鬼。

チナミ(そんなもの、存在するはずなんてないのにね)

吸血鬼の仲間。”利用派”の仲間。

仲間と言うのは彼女にとって、ただの利害の一致でしかなく、

お互いに利用し利用される関係の事を言う。

だから、彼女は目の前の男の能力は信用していても、

その内面を”信頼”などはしていない。

きっと目の前の男もそうなのだろうと、考えているし。

そもそもこの世界には、真の意味での”信頼関係”などは存在していないのだろうとチナミは考えるのだった。


132 ◆6osdZ663So2014/02/06(木) 23:50:04.38DZPl2Mnfo (5/15)



クールP「とりあえず、その資料の分のお代の請求はそのうちにさせていただきますよ」

チナミ「あら、エージェントと言う部隊の存在と、あの子がエージェントに所属してるって事を教えてあげたじゃない」

チナミ「その分でチャラでしょう?」

クールP「……相変らず図太いね」

チナミ「ふふん、お褒めの言葉ありがとう」

チナミ「だけど、あなたが動いて集めた情報って訳でもないんでしょ?」

チナミ「これで、チャラにしてあげるって言ってるんだから感謝して欲しいわよね」

クールP「……わかりました、ではそれはサービスと言う事にしておきましょう」

チナミ「うふふっ、助かるわ♪」

クールP「『秋炎絢爛祭』に集まる能力者たちの資料。せいぜい有効に使ってください」

チナミ「ええ、私の目的の為に利用させて貰うわよ」

クールP「それでは僕はこれで」

クールP「貴女のように美しい方と一緒に居て、誰かに誤解されてはいけませんから」

チナミ「その口の上手さが人気アイドルヒーローの秘訣なのかしらね。その甘い言葉に何人のファンが騙されたのかしら」

クールP「ふふっ、どうかな。せっかくですから貴女もアイドルはじめてみますか?」

チナミ「輝く舞台に立つのも悪くないかもね」

クールP「その時は、特別に僕がプロデュースしますよ」

チナミ「冗談」

それが最後と、女性が背中を向けると、

クールP「おや、残念」

男性もまた背を向けて、互いに光の射さない影の世界へと消えていくのだった。


133 ◆6osdZ663So2014/02/06(木) 23:51:02.61DZPl2Mnfo (6/15)


――


アイドルヒーロー同盟はいつでも人材を求めている。

その人材とは、侵略者にも打ち勝つ事の出来る強く正しく美しい者。

同盟のプロデューサーたちはそんな人材捜し求めているのだ。

それは当然、たくさんの人々の集まるこの学園祭においても。


チナミ「つまりこのリストに載る人間は、何か特別な力をはっきりと持つ人間」

チナミ「同盟のプロデューサーのお眼鏡にもかなう優れた能力者なんかよね」

チナミ「つまり、私の眷族に新しく迎える優れた人間を探すのにも、」

チナミ「このリストは役立ってくれるということ」

チナミ「そうねぇ、とりあえずこの中で私が今一番気に入ってるのはこの子かしら」


Name: 新田美波
Sex: 女性
Age: 19
Birth: 7月27日
Job: 学生
Height: 165cm
Weight: 45kg
……
……


チナミ「……なんだかやたら詳しいプロフィールね」

チナミ「同盟ってこんな事まで調べてるのかしら……ストーカーじみてるじゃない…こわっ」

チナミ「おほん……ま、そんな事よりもこの子について……」

チナミ「容姿端麗、頭脳明晰、文武両道、温和勤勉」

チナミ「なるほど、アイドルに仕立て上げるにはこれ以上ないってくらい逸材じゃない」

チナミ「ただこの子自身が能力者と言う訳では無いみたい、戦うところを目撃されてる訳でもなし」


134 ◆6osdZ663So2014/02/06(木) 23:52:04.83DZPl2Mnfo (7/15)



チナミ「だけど、そんなことより気になるのは彼女が連れているって言う銀色の蠍」

チナミ「・・・・・・クールの連れてるアラクネ・・・・・・だったかしら」

チナミ「と同じタイプの機械兵器か何かよね」

チナミ「なんだったかしら・・・・・・デウ?エク?」

チナミ「そう!エクス・マキナ!」


チナミが興味を持ったのは、ここ最近急激に増え始めた機械仕掛けの兵器たち。

いつ、だれが、どのような目的で作り出したのかもわかっていない正体不明の機械生命。


チナミ「派閥もサクライも『エクス・マキナ』の詳しい情報をほとんど持っていなかったはず」

チナミ「つまりこの子を操れたなら、彼らとの取引の材料にも使えると言う事」

チナミ「目撃情報から言えばこの子自身は戦いにはなれていない。与するのも容易なはずよね」

チナミ「……ふふふ、まず一人目は決まりね♪」

上機嫌に呟くと、手に持っていた紙束を魔法の炎で燃やし尽くす。

資料の内容はすべて覚えた。情報は頭の中に残っていればそれでいい。


「あっれ~、お姉さん1人ぃ?こんな所でなにしてるの~?」

チナミ「あら?」


135 ◆6osdZ663So2014/02/06(木) 23:52:56.66DZPl2Mnfo (8/15)


丁度その時、数人の奇抜なファッションをした若者達がチナミに声を掛けてきた。

「こんな人通りのない日陰で真っ黒な傘なんか差しちゃってさぁ?かわってるねぇ」

「……よく見たらさぁ、お姉さんすっごく美人じゃん?やっば!激マブっしょ?!」

「ねぇねぇ、良かったら俺らと遊んじゃわない?1人で居るよりきっと楽しいよ?」

どうやら、俗に言うところのナンパのようだ。

チナミ(……それにしたってなんだか時代に取り残されちゃってる感じの子達よね)

チナミ「まあ、丁度良かったわ」

「ん?あれれ?お姉さん意外とノリ気?」

「いいよいいよ!俺たち実はここの学生なんだよねぇ」

「案内なら任せなよ、イイトコ連れっててあげるからサッ」


チナミ「ええ、道案内よろしく頼むわね」

彼女の瞳が妖しく光った。

 


136 ◆6osdZ663So2014/02/06(木) 23:53:50.49DZPl2Mnfo (9/15)


―――

―――

―――


ドンッ

美波「きゃっ」

紗南「あっ、ごめんなさい……前ちゃんと見てなくて」

美波「ううん、いいのよ。そっちこそ怪我はないかな?」

紗南(綺麗な人)

紗南「え、えっと大丈夫です」

美波「そう?良かった!えっと…中学生の子かな?1人?もしかして迷子だったりとか?」

紗南「い、いえ!違います!そ、その……あ、あたしの事はお構いなく!」

美波「あっ、ちょっと」

紗南「ごめんなさいっ」


逃げるように紗南は、その場から足早に離れるのだった。


137 ◆6osdZ663So2014/02/06(木) 23:54:54.83DZPl2Mnfo (10/15)


紗南「……」

紗南「……はぁ」

廊下を歩きながら三好紗南は溜息をつく。


紗南「やっぱり簡単には馴染めないよね……」


教習棟の廊下を歩きながら、紗南は呟く。

紗南のクラスが学園祭で催すヒーローショーまでの僅かな休憩時間。

今頃、クラスメイト達は思い思いに友達と過ごしているのだろう。


一方で、紗南は1人であった。


その原因は、学校のサボりすぎである。

三好紗南には色々な事情があって、学校に登校できなかった期間が長い。

そしてその間に、紗南を置いてクラスのコミュニティは固く結束力のあるものとなっていたらしく……

何事も無かったかのように彼らの絆の間に割り込むことなど、簡単にはできないのだった。


紗南「うわぁ、もう!見事なまでにぼっちだー!」

大きな声で愚痴る少女の姿に奇異の目を向ける者も居たが、一瞬ちらりと目を向けただけでただ通り過ぎていく。

紗南「友達も、勉強も置いてけぼりなんて!それもこれも『怠惰』と『強欲』のせいだっ!くそーっ!」

確かに彼女が学校に通えなかった原因のほとんどは『怠惰』と『強欲』の悪魔のせいだが、

勉強をサボりがちなのは元からである。


138 ◆6osdZ663So2014/02/06(木) 23:55:47.20DZPl2Mnfo (11/15)



紗南「……はぁ」

紗南「……これが学園が舞台のゲームとかだったら」

紗南「クラスのまとめ役ーみたいな子が居て、なんとかしてくれたりするんだろうけど」

紗南のクラスにも、まとめ役と呼べるような、いつもクラスの中心となる人物はいる。

彼女は、まるでゲームに出てくる主人公のような少女。


紗南「南条光ちゃん……」

持ち前の明るさで周囲を照らしだす、光そのもののようなクラスメイト。


紗南「……なんか雰囲気変わってたよね」

紗南「前まであんなに、怖い目をしてたかな?」

紗南「あたし殺されるかと思っちゃったくらい……あはは、なんてね。そんな事あるわけないし」

冗談っぽく言ってみたが、疑念は晴れない。

やはりあの目は……何かが引っ掛かる。

今朝もクラスで顔を付き合わせたときに見せた、彼女の目。

その心の内に何か”よくないもの”を秘めているかのような目。


紗南「……敵意……なのかな」


139 ◆6osdZ663So2014/02/06(木) 23:56:34.74DZPl2Mnfo (12/15)


紗南「……ありえない……って言い切れないところが辛いところなんだよね」

紗南「学園祭、みんな頑張ってるのに1日目はあたし完全にサボっちゃったし」


学園祭1日目。

三好紗南は、サボった。


いや、「サボった」と言ったが、決してそれは『怠惰』の気持ちからではなく、

とある元ヒーローの活動の手伝いをしたかったために、1日目の参加を諦める事に決めたのだが。


紗南「それでも光ちゃんは”正義感”が強いから、やっぱりそう言うの許さない系ヒーローかなぁ」

紗南「まあ、それに関しては自業自得であたしが全面的に悪いんだけどね、うん……」


一応は、昨日の欠席も病欠と言うことになっている。

おかげで本日もまだ調子悪いような演技をする事になってしまい、それはそれで大変なのだが仕方ない。


紗南「だとしてもあんな目ができちゃう光ちゃんじゃなかったと思うけど……」


しかし、やはり引っ掛かる。

どうしても気になって、考え込んでしまうのだった。



ドンッ!

「きゃっ」

紗南「あっ!ごめんなさいっ」

考え事をしていた為に、また誰かにぶつかってしまった。


140 ◆6osdZ663So2014/02/06(木) 23:57:38.40DZPl2Mnfo (13/15)


「もう……」

ぶつかった相手は、紗南よりも小さく、綺麗な金髪で、お人形さんのような服を着ているが、

どこか印象が薄い眼鏡をかけた少女であった。


「……考え事もよろしいですけれど、歩くときはきちんと前を向くことですわ」

紗南「ご、ごめんなさい……」

「うふふっ、わかっていただければ結構ですわよ」

紗南(自分より年の低そうな子に説教されてしまった……)

紗南(て言うか……この声どこかで聞いたことがあるような?)


気のせいだろうか。記憶の片隅にこの少女の姿があるような気がした。


「どうかしましたの?」

紗南「う、ううんっ!なんでも!ほんとごめんね!それじゃあっ!」

なんとなく居たたまれなくなり、急いでその場を立ち去ることにする。


紗南「あ、そうだ。眼鏡はずした方がいいと思うよ」

紗南「ほら、眼鏡ってあまりいい印象無いからね!」

それだけ言い残して、紗南はその場を後にするのだった。


141 ◆6osdZ663So2014/02/06(木) 23:58:29.97DZPl2Mnfo (14/15)


――

――

――


桃華「……」

桃華「……まったく、あの程度の洗脳を受け入れてしまうなんて信じられませんわね」

マジックアイテムである『眼鏡』を掛けた事によって、その存在の印象が薄くなった少女が呟く。

世界に名だたる櫻井財閥のご令嬢にして、『強欲』を司る悪魔マンモンである少女は、

その正体を隠してこの学園祭に紛れていた。


桃華「紗南さんにはわたくしの所有物である自覚が足りないのかしら?」

菲菲「んー、しょうがないんじゃないカナー」

『眼鏡』を掛けた美しいお人形さんのような少女のその傍らには、

同じく『眼鏡』を掛けた中華風衣装に身を包む少女が1人。

傍から見れば、ちぐはぐでへんてこな2人であったが、

しかし幸いと言うべきか通りがかる人々は、彼女達の容姿を気にしない。

マジックアイテムの効果のおかげもあるが、何より学園祭の空気がそれを許している。

多少見てくれが変わっていても、コスプレだと思われる範囲であろう。


142 ◆6osdZ663So2014/02/06(木) 23:59:37.27DZPl2Mnfo (15/15)


菲菲「マンモンちゃんの”所有権の主張”なら、」

菲菲「確かにマンモンちゃんの所有物が、他の誰かの意のままに操られるのを防ぐことができるケド」

菲菲「眼鏡をよくないものと思わせるために蔓延してる風潮は、人から意志を奪うものとはちょっと違うからネー!」

計り知れぬ魔神は、容易く世間に浸透しつつある認識操作の性質を読み取り、

その暗示が三好紗南に通じてしまった訳を、事も無げに語る。

桃華「認識の付加は、意識の所有権云々以前の問題と言う事でしょうね。」

桃華「そんなことより……」

桃華「……」

そこまで言いかけて少女は急に、押し黙る。

桃華『……フェイフェイさん。わたくしの事はその名前で呼ばないでいただけますか』

そして口を開かないままに言葉を続けた。

『強欲の証』を通した、テレパシー。

初代『強欲』の悪魔と当代『強欲』の悪魔の間でのみ通じる脳内会話。


桃華『何度も言うようですけれど……本日はわたくし、お忍びで来てますから』

桃華『目立つような真似はしたくはありませんの』

余計な事は口に出すな。と言う事らしい。

菲菲『?……それじゃあなんて?』

桃華『桃華でよろしいですわ。櫻井桃華の名前も有名ではありますが、』

桃華『ありふれた名前でもありますから、どなたも気にも留めませんわよ』

桃華『少なくとも悪魔としての名前を出されるよりはずっとマシですから』

菲菲「桃華ちゃんだネっ!わかったヨっ!」

その事の重大さなどはどうでもいいのか、魔神はただ無邪気に答えた。


143 ◆6osdZ663So2014/02/07(金) 00:00:29.13+fHfSRVso (1/9)




菲菲「それにしても桃華ちゃんが、外出に付いて来てくれる気になってくれたのは意外だったヨー」

桃華「あら、わたくしだってお散歩は好きですのよ?」


人々が行き交う中、廊下を歩きながら2人の会話は続く。

正体を隠すための『眼鏡』を掛けているおかげで、2人の存在に対して気に留める者はほとんどいない。

時々、”植えつけられた『眼鏡』に対する憎悪”故か、訝しげな視線を向けるものも居たが、

それくらいの注目は、2人にとっては取るに足らないものだ。


菲菲「でも、最近はずっと部屋に籠りきりだったよネ?」

桃華「好きで籠ってるわけではありませんわよ」

桃華『ただ…神の目を避ける為には仕方ないのですわ』

桃華『それに当代大罪の悪魔であるわたくしは、現魔王の定めた制度によって指名手配に近い状態ではありますし……』

桃華「……本当に窮屈なことですわね」

菲菲『それについてはふぇいふぇいも同意するヨー、悪魔なのに悪魔の自由を縛るなんて魔王は変な事考えるネ?』

菲菲「まあ、奪われた自由は勝ち取ればいいんじゃないカナ?」

にやりと魔神は力強く笑う。

桃華「うふふふっ、元よりそのつもりですわ♪」

答えるように、『強欲』なる少女もご機嫌に笑った。


144 ◆6osdZ663So2014/02/07(金) 00:02:38.53+fHfSRVso (2/9)


菲菲「まあ、そんな事より今はお祭りダヨー!!」

菲菲「まずはどこに行こうカナ!どこに行こうカナ!?」

桃華「まったく……はしゃぎ過ぎではありませんの?」

菲菲「そんな事言っちゃってるけど、桃華ちゃんもうずうずしてるヨ?」

桃華「し、してませんわっ!」

菲菲「えぇ?そうカナー?」

桃華「……」

菲菲「?」

桃華(……まあ、久しぶりのお出かけですもの。少しくらい楽しんでも罰は当たりませんわよね?)

菲菲「桃華ちゃん?」

桃華「……うふっ♪フェイフェイさんも楽しむのは結構ですが、」

桃華『ちゃんと人間らしく振舞うのはお忘れなく』

菲菲「もちろん、わかってるヨ!」

桃華『力を行使するのは極力避けるようにするのもお願いしておきますわ』

菲菲「わかってるヨー!」

桃華『あと死神ちゃまも来ているようですから、関わらないようにお気をつけくださいね』

桃華『バレる事もないとは思いますが、その他の魔界関係者の存在にも気を配ってくださいまし』

桃華『それと財閥は敵が多いですから、不用意にお話に出すのも避けていただけるかしら』

桃華『同盟から来たヒーローが多く配置されているようですわね。彼らに怪しまれる行動も慎むよう頼んでおきますわ』

桃華『そうそう、眼鏡が嫌いなカースと言う妙な存在に絡まれることもあると思いますが、お気になさらないように』

桃華『それからそれから……』

菲菲「ちゅ、注文多くないカナ……?なんだかふぇいふぇいも自由を奪われてる気になってきたヨー……」


145 ◆6osdZ663So2014/02/07(金) 00:03:35.44+fHfSRVso (3/9)


――


菲菲「うーん、焼きそば美味いネー!」

桃華「そうやって食べる物なんですの……?でもこれでは下品では……」

菲菲「でも美味しいヨ?何事も挑戦してみるものダヨ!」

菲菲「ただ、ふぇいふぇいならもっと上手く作る自信が……ってアレ?」

菲菲『そう言えば、どうして桃華ちゃんは、死神ちゃんがこの学園祭に来てるってわかったのカナ?』

菲菲『……と言うか、さっき来たばかりなのに学園全体の事を把握しすぎじゃ?』

ベンチに座り、屋台で買った焼きそばを食べながら、

魔神はなんとなく気になったことを、隣で焼きそば相手に悪戦苦闘している相方に尋ねる。

桃華『あら、お忘れですの?』

桃華『わたくしの能力は”所有権の主張”ですわよ』

桃華『道行く方々の”記憶”すらもわたくしの”所有物”ですわ』

『強欲』の悪魔である彼女は、あらゆる物事の”所有権”を主張できる。

命であれ、物であれ、『記憶』であっても全てが彼女の支配下。

桃華『ここに居る方々は、1日目も参加されていた方が多いようですから』

桃華『彼らの記憶が把握する限りの1日目の様子であれば、わたくしもまた知る事ができますのよ』

菲菲「そう言えばそんな能力もあった気がするネ?」

桃華「その忘れっぽい性格はどうにかなりませんの……?」

菲菲「取るに足りない事はあんまり記憶してないヨ!」

桃華「自慢げに言うことではありませんわっ!」

桃華(いえ、仮にも大罪の悪魔の能力を取るに足りない事と言ってしまえるのは自慢になるのでしょうが……)


146 ◆6osdZ663So2014/02/07(金) 00:04:30.12+fHfSRVso (4/9)


――


桃華『記憶の所有権』

菲菲「もぐもぐ」

魔神はたこ焼きを頬張りながら、

隣で同じくたこ焼きを頬張る少女の話に耳を傾ける。

桃華『”他人の”記憶を、”わたくしの”記憶でもあると主張するだけの能力ですわ』

他人の記憶でありながら、それは彼女の記憶。

つまり彼女は好きな相手の記憶を閲覧することができる。

桃華『もちろん、真にわたくしのものとするならば、』

桃華『相手に向けて、”主張する”と言う手順を踏まなければいけませんけれど』

菲菲『”それはわたくしのものデスワ!”って感じダネ!』

桃華『……似てませんわ』

桃華『まあ、その手順も本当に力を持たない相手に対してはとことん省くことができますの』

桃華『それに今回は奪うわけではなく、横から閲覧させて頂いている程度』

桃華『これくらいならば、少し触れ合うだけでも充分に力を発揮できますのよ』

菲菲『そう言えば、さりげなくすれ違い様に通りすがりの人間に触ったりしてた気がするネ?』

桃華『うふ♪袖振り合うも多少の縁と言ったところですわね♪』

菲菲『……でもそれは力を持たない相手に対してだよネ?じゃあ例えばふぇいふぇいに対して力を使おうとしたら手順の省略はできないんダ?』

桃華『あら、フェイフェイさんが相手では、仮にどんな手順を踏んだとしても記憶を横から見させていただく事さえ不可能ですわよ』


147 ◆6osdZ663So2014/02/07(金) 00:05:32.34+fHfSRVso (5/9)


桃華『わたくしの能力は”魂の大きさ”…言わばレベルに左右されるものですから』

桃華『引力に例えるとわかりやすいかもしれませんわ』

桃華『月が地球に引っ張られるように、地球が太陽に引っ張られるように』

桃華『あらゆる所有権は大きいものにこそ追従するもの』

桃華『ですからわたくしは自分より大きいものからは、その所有権を奪えませんの』

菲菲『ふーん、この辺りを歩いてる取るに足りない人間の所有物は簡単に奪えても』

菲菲『悪魔クラスが相手になると難しくなるのカナ?』

桃華『そう言うことですわね、人間の能力者クラスが相手でも』

桃華『今の様にすれ違っただけで、と言う訳にもいきませんわ』


菲菲「なるほどー、弱いものいじめな能力ダネっ!」

桃華「うふふふっ、お褒めの言葉と受け取っておきますわ♪」

彼女の力は弱いもの相手には一方的な蹂躙を可能とする能力。

しかし、裏を返せば強いものに対しては為す術がない。


148 ◆6osdZ663So2014/02/07(金) 00:06:39.90+fHfSRVso (6/9)


――


そして、彼女の能力にはもう一つ弱点がある。


菲菲『それじゃあ、カース相手にはどうなのかな?』

桃華「……」

チュロスを片手に、何気なく尋ねた魔神の言葉、

同じくチュロスを手にもつ桃華の表情が一瞬強張る。

菲菲『やっぱりカースからは何も奪えないんダ?ううん、奪いたくないのカナ?』

桃華『……意外に核心を突きますわね』

桃華『ええ、その通りですわよ』


桃華『だって、”カースの穢れ”が”わたくしの穢れ”になるなんて耐えられませんもの♪』


彼女は、マイナスの所有権は主張しない。


149 ◆6osdZ663So2014/02/07(金) 00:07:15.99+fHfSRVso (7/9)


――

――


桃華「とにかく、今回のわたくしの目的を果たすために、この能力は鍵になりますわ」

先ほど購入したアイスクリームを食べ終えた、悪魔の少女は語る。

菲菲「えっ……?」

桃華「どうしましたの?とぼけた顔をしまして?」

菲菲「ううん、ちゃんと目的があったんダネ?」

桃華「当然ですわ!目的をなくしてわたくしが動くことなんてありえませんのよっ!」

少女は大仰な身振りも合わせて、華麗に言い放つ。

彼女は『強欲』を司る悪魔。ただ遊んでいるような振る舞いは見せつつも、

その心のうちはいつでも欲望に忠実かつ強かである。


桃華『例の失敗作の監視に付けていたエージェントが一人。この学園祭での連絡を最後に居なくなっていますの』

櫻井財閥の当主が飼う”エージェント”と呼ばれる特殊能力者機関の人員が1人、

この学園祭の中で任務遂行中に失踪した。

その任務は、財閥が行った実験で生まれたカースの監視任務であったが、

どうやら彼は、その任務を最後までやり遂げる事はできなかったようだ。

また、監視していたカースも何者かに倒されてしまっている。


菲菲『その失敗作のついでにヒーローに倒されたんじゃないのかな?』

桃華『どなたに負けたとしても……そして死んだにしても』

桃華『エージェントの中でも優秀な方が、ここまで何も無かったかのように消息を絶つなんてありえませんわ…』

桃華『何よりあの方は、戦線からの離脱に特化した能力を持っていましたもの』

桃華『そんな方が跡形も無く消されてしまう?一体どうやって?』

桃華『わたくしは、彼の所有者として、彼の最後を調べなくてはいけませんわ』


150 ◆6osdZ663So2014/02/07(金) 00:08:32.44+fHfSRVso (8/9)



菲菲『なるほど、つまり桃華ちゃんはその人がどこに行ったのかを探りたいんダネ?』

桃華『ええ、彼はともかく消失したカースの方に関しては必ず目撃者が居るはずですもの……』

桃華『今回、わたくしが来た目的はその目撃者達の記憶を探ること』

桃華「わたくしの所有物を奪った方々から……」

桃華「すべてを奪い返すためにですわよっ!」 ズバッ

菲菲「わあ!桃華ちゃんカッコイイヨー!」 パチパチ

桃華「うふっ♪」

桃華「さて、フェイフェイさん」

桃華「目撃者を探すためにも、わたくし達はこの学園をぐるりと回らなくてはいけませんわ」

桃華「こんなところでうかうかしてる場合ではありませんのよっ!」

菲菲「そうダネ!」

桃華「ふふっ、それでは次のお店に急ぎますわよっ!」

菲菲「ん?あれれ?」

桃華「どうしましたの?早くしませんとこの学園を回りきれませんわ」

菲菲(……やっぱり桃華ちゃんはしゃいでないカナ……?)


桃華「次はチョコバナナですのよー!うふふー♪」

菲菲「あ、待ってヨー!」


かくして、櫻井財閥は学園祭の裏側にて暗躍をはじめるのであった。


……暗躍するのだろうか?


おしまい


151 ◆6osdZ663So2014/02/07(金) 00:09:39.21+fHfSRVso (9/9)


◆方針

桃華 … 通りすがる人々の記憶を探りながら学園祭を満喫中
菲菲 … とりあえず学園祭を満喫中
チナミ … 眷族候補探し中
紗南 … 不憫

財閥が学園祭で動き始めたお話
ちゃまは久しぶりの外出で超はしゃいでます
ただ自分の欲望を満たすために一生懸命です


152 ◆AZRIyTG9aM2014/02/07(金) 00:32:17.79Aop/KJR+O (1/1)

乙ー

チャラ男南無……

フェイフェイが他の旧七罪にあったときポロッと名前呼びしそうだなw


153 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 01:54:25.43T03rt9fi0 (1/22)

乙乙ー
悩む肇ちゃんに荒ぶる穂乃香さんに画策する同盟上層部にいつの間にかすげえ危険な涼さん(ご近所さん的な意味で)に
覚醒するAEに結果的に学園に集まりまくる櫻井関係者にワクワクがとまらんぜ!

学園祭二日目で投下します
例によって改訂版アイドル設定もあるよ!


154 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 01:55:23.82T03rt9fi0 (2/22)


クールP「待たせたね」

学園内、アイドルヒーロー同盟の控え室として使われている教室にクールPが戻ってきた。

ライラ「お帰りなさいでございます」

爛「どこ行ってたんだ?」

今教室の中にいるのは、爛とライラ、クールP。

そして、戦闘外殻カンタローとマキナ・アラクネだけである。

クールP「ちょっと、チナミさんに頼まれててね。渡す物があったのさ」

爛「ふーん」

爛は興味無さそうに、机の上に腰を下ろした。


155 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 01:56:32.98T03rt9fi0 (3/22)

クールP「そういえば、シャルクさんとガルブさんは? 姿が見えないけれど」

爛「さっきスタッフに連れてかれてたぞ。会場設営の準備と、整理券の配布だってよ」

クールP「そういう事か。……あの二人、案外早く同盟に馴染んだね」

顔写真入りの社員証を得意げにぶら下げる二人の姿を思い出し、クールPは思わず苦笑する。

クールP「……おや、電話が……はい、クールPです。……はい、はい……」

壁にもたれかかりながら、クールPは電話の応対を続けた。

クールP「……なるほど。了解です。……はい、明日からですね、分かりました、はい。では」

通話を終了させたクールPは、やれやれといった表情でライラ達の方へ歩いてきた。


156 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 01:57:41.16T03rt9fi0 (4/22)

爛「同盟か?」

クールP「うん。明日からライラに案内がつくんだってさ」

ライラ「案内ですか?」

クールP「そう。地上に来て右も左も分からないだろうライラの事を思って……らしいけど」

爛「んなモン、俺たちだけでも出来るだろうに…………アレか、そいつは建前か」

クールP「恐らくはね。未だにウェンディ族への不安要素が拭えなくて、案内という名目で監視を……そんな所じゃないかな」

爛「んだよ、かえって動きづらくなってんじゃねえか」

毒づく爛に、クールPは余裕の態度で返してみせる。

クールP「今は焦って動く時じゃないって事さ。海底都市とケリをつけてから、改めて動けばいい」

爛「それもそうか。何なら、ライラはその時引っ込めとくってのもアリだな」

クールP「そうだね。同郷の士と戦うのは、やっぱり気が引けるんじゃないかい?」

二人の視線と言葉を受け、ライラは難しそうに首を傾げる。

ライラ「うーむむ……でもライラさん、お仕事なら頑張りますですよ」

クールP「……そうかい? まあでも、無理しないでいいからね」

クールPはそう言ってライラの頭をさすさすと撫でてやる。


157 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 02:00:25.48T03rt9fi0 (5/22)

爛「……で、案内には誰が来んだ?」

クールP「APだよ」

爛「ウゲッ……あの番犬女か……」

APの名を聞き、爛が顔を曇らせた。

ライラ「APさんというのは、どういう方でございますか?」

クールP「分かりやすく言えば『同盟トップの忠犬』だね」

ライラ「忠犬ですか?」

爛「ああ。よーするに俺らが一番警戒してる相手だ」

顔をしかめたまま、爛が窓の外に目を向ける。

爛「同盟の敵になるヤツはとにかく叩きのめす、そんな奴だ」


158 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 02:07:18.96T03rt9fi0 (6/22)

クールP「でもまあ、これはある意味チャンスだよ」

爛「チャンスぅ?」

クールP「そう。ライラが彼女と友達になって懐柔すれば、僕らは更に動きやすくなる」

ライラ「よく分かりませんが、ライラさんに全てがかかっていますですか?」

クールP「そういうこと。よろしく頼むよ?」

ライラ「はい、頑張りますです」

ライラに微笑んで見せると、クールPは爛に向き直った。

クールP「さて、爛。ライラは衣装合わせとか色々あるけど、君は自由時間だ」

爛「おっ、気がきいてんな?」


159 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 02:09:48.77T03rt9fi0 (7/22)

クールP「午前のステージはRISAと……ああ、ラビッツムーンとナチュラルラヴァースも来るそうだ」

爛「へーえ、安部先輩と相葉先輩がねえ。ちょっと学園に同盟の戦力割きすぎじゃねえか?」

クールP「初日に結構な騒動があったからね。警戒してるのさ」

爛「ま、そういう事ならしゃあねえか。俺は十二時までに戻ってくりゃあいいな?」

壁の時計をちらりとみやった爛は、傍にあった変装用の帽子とサングラスを装着した。

クールP「うん、楽しんで来るといいよ。菜々君や夕美君にあったらよろしくね」

爛「あいよー」

こちらを向かずに手だけ振りながら、爛は教室を後にした。

クールP「さて、ライラは衣装合わせだよ。いくつか用意したけど、気に入ったのはあるかな?」

ライラ「そうでございますねー」

ライラはしばらく、並べられた衣装とのにらめっこを続けた。

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――――――――
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160 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 02:11:00.86T03rt9fi0 (8/22)

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――――――――――――

エマ「おっちゃーん! コレ一個ちょーだい!」

マルメターノ「まいどあり!」

エマは屋台の男に小銭を手渡し、丸まったソーセージに豪快にかぶり付く。

エマ「うっまー!!」

サヤ「楽しそうねえ、エマったら」

マキノ「ええ、そうね。…………」

サヤへの返事もそこそこに、マキノは先ほどから周囲をせわしなく見回している。

サヤ「……どうかしたの?」


161 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 02:12:51.45T03rt9fi0 (9/22)

マキノ「みりあさん……今日は来ていないのかしら?」

サヤ「みりあ……ああ、昨日言ってた?」

エマ「もご、マリナさんが親代わりしてるって子だっけ?」

ソーセージをほお張ったまま、エマがこちらへ戻ってきた。

マキノ「飲み込みなさい。……ええ、そうよ。まあ、初日にあんな騒動に巻き込まれては……」

もうここには顔を出さないかもしれない。そう続けようとして、口をつぐむ。

彼女――赤城みりあは、脱走した親衛隊員マリナの重要な手掛かり。

それが潰えたなどと、自分から口に出すのは、どうしてもはばかられた。


162 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 02:14:10.99T03rt9fi0 (10/22)

エマ「んー。じゃあさ、あのマスク・ド・メガネってのを探したら?」

サヤ「あっ、そうねぇ。その子だったら来てるかも」

マスク・ド・メガネ――上条春菜。

眼鏡を愛し、眼鏡を護るべく、眼鏡と共に闘う眼鏡ヒーロー。

昨日、マキノはカースドヒューマンに襲撃されたところを、彼女に助けられた。

そしてその時、マキノは春菜に利用価値を見出していた。

マキノ「そうね……春菜さんなら、まだ来ている望みがあるかしら」

今のうちに積極的に接触し、協力的な態度をとっておけば、いずれ来たる時にこちらの要求を呑ませやすくなる。

マキノはそう考え、静かにうなずいた。


163 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 02:16:12.06T03rt9fi0 (11/22)

マキノ「……なら、今のうちに彼女に恩を売っておきましょうか」

サヤ「恩を?」

マキノ「ええ。二人とも、昨日の妙なカースを覚えているかしら」

エマ「ああ、昨日ぶっとばしたアイツらな!」

レンズのような形状の核を持ち、眼鏡への恨み言を口にする奇妙なカース。

眼鏡を恐れるナニカを思った黒兎が産み出した、アンチメガネカースだ。

マキノ「今朝の放送では、どうやら人型に化けた個体も現われたとか」

サヤ「そういえば、そんな臨時ニュースやってたわねえ」

マキノ「眼鏡を嫌うカース……少なからず、春菜さんとは敵対しているはずよ」

エマ「……あ、そっか! じゃあソイツらを倒しておけば……」

マキノ「ええ。多少なり春菜さんに恩を売れるのでは無いかしら」

マキノは微笑んで眼鏡をくい、と上げる。


164 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 02:17:26.75T03rt9fi0 (12/22)

サヤ「んふっ、なら善は急げね。手分けして例のカースを探しましょっか」

エマ「えっ、サヤもう体いいの?」

サヤ「ええ、カース相手なら多分ねぇ」

マキノ「オクトの調子もいい……分担する案に賛成ね。じゃあ、エマには学園内を探してもらおうかしら」

エマ「オッケー!」

マキノ「サヤは空から学園周辺を探索して。私は裏山を中心に学園の外を探すわ」

サヤ「分かったわぁ」

マキノ「13:00に一度中断して正門前で情報を交換しましょう。あと、危険を感じたらすぐに逃げること」

マキノが矢継ぎ早に繰り出す言葉に二人はただうなずく。


165 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 02:18:43.17T03rt9fi0 (13/22)

マキノ「春菜さんに会ったら私の友人だと言っておいて。これが写真よ」

マキノは二人に春菜の顔写真を手渡した。

サヤが地上のヒーロー資料を作る際に出た余りである。

エマ「おっし、やるよ! 行こっか、ルカ!」

『カララ』

地面からひょっこり顔を出すルカのヒレを一撫でし、エマの姿は人込みの中に消えていった。

サヤ「また後でね、マキノ。ペラちゃん、こっちよぉ」

『キリキリ』

サヤもまた、ペラを連れて人気の無い場所へと歩いていく。

マキノ「…………まあ、あと三日あるし、休暇はその時でいいわよね」

誰に向けて言うでもなく、マキノは自分にそう言い聞かせた。

マキノ「私たちも行くわよ、オクト」

『ゴロンゴロン』

光学迷彩を展開するオクトにそう言うと、マキノは裏山へ向けて歩を進めていった。

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166 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 02:19:57.10T03rt9fi0 (14/22)

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京華学院正面。

賑やかな雰囲気に似つかわしくない、黒服とサングラスで身を固めた者達が立っていた。

隊員A「隊長、やっぱり例の小人、この学園周辺に目撃情報が集中してるみたいです」

隊員C「『すずみやさん』……いるんですかね?」

隊長「探してみない事には分からんな。念の為に言っておくが、本来の目的は星花お嬢様だ。忘れるなよ」

隊員D「ええ。『すずみやさん』はあくまでも手掛かりの一つ、ですよね」

彼らは涼宮家総裁の指示で動く涼宮星花捜索隊。

現在は涼宮星花及び、星花に似た姿の小人――仮称『すずみやさん』の行方を追っている。


167 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 02:21:25.27T03rt9fi0 (15/22)

〔メイド喫茶エトランゼ ☆秋炎絢爛祭出張店☆〕

そう書かれた看板であった。

隊長「…………」

隊長はその看板を見つめたまま、しばし固まった。

隊長(……メイド、メイドか…………考えれば、お嬢様は長い家出生活で元の生活が少しだけ恋しくなっているかもしれない)

隊長(そう、多数のメイドや執事に囲まれていたあの日々が……)

隊長(つまり、それを紛らわす為に「もうまがい物のメイドでもいいや」と考えているかもしれん……)

隊長(すなわち……お嬢様がこのメイド喫茶に来ている可能性は決して低くない!)

隊長(そうと決まれば早速エトランゼへ行こう! 断じて私がちょっとお茶したいわけではないがな!)

自分の中で長い長い自分への言い訳を終えた隊長は、足早に歩き出した。


168 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 02:22:58.17T03rt9fi0 (16/22)

が、周りが見えていなかったのか、右から歩いてきた女性とぶつかってしまった。

隊長「おっと……すまない、少し考え事をしていて」

瞳子「いえ、こちらこそごめんなさい」

隊長「すまなかった。では、私は少し急ぐので」

そう言って隊長は早足でその場を後にした。

瞳子「あっ……行っちゃった。……にしても」

瞳子はポケットから学園の地図を取り出して広げ、上下左右にクルクル回しながら眺めた。

瞳子「一学園内なんて限られた範囲じゃあの機械も詳しく表示されないし……困ったわね」

現在瞳子は、櫻井財閥のエージェントとして『鬼神の七振り』を探してこの秋炎絢爛祭を訪れている。

が、京華学院の広さを正直なめていた瞳子は、あっという間に迷ってしまったのだ。

瞳子「……夏美ちゃんや美優やレナも誘えば良かったかしら……」

エージェントの仕事ということを隠していればそれも可能だったか、と瞳子は後悔する。

せめてエージェントの同僚が来てはいないだろうか、とも考える。

実際に紗南やチナミなど、何人かのエージェントは今学園にいるのだが……。

瞳子「そう簡単に会えたら、苦労は無いわよね……」


169 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 02:24:40.12T03rt9fi0 (17/22)

爛「そうだ、アレ知ってるか?」

瞳子「アレって……何を?」

包み紙をクシャクシャにまるめ、ゴミ箱に向けて放り投げてから爛は続けた。

爛「俺の担当プロデューサーから面白い話聞いてな。眼鏡大好きカースと眼鏡大嫌いカースが出てきたらしい」

瞳子「……また奇妙なのが出てきたわね」

爛「サク……あんま大っぴらに言うのはまずいな。アイツ、カースの核集めてたろ?」

瞳子「ええ、私とマリナが七振り探しと並行して集めているけど」

爛「そういう特殊なヤツの核はどうなのかねー、と思ってよ」

瞳子「そういうこと。情報をありがとう、見つけたら回収しておくわね」

爛「おう。…………あっ」


170 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 02:26:26.39T03rt9fi0 (18/22)

ふと視線を瞳子から外した爛が、突然瞳子の陰へと隠れた。

瞳子「……どうしたの?」

爛「…………プリンセスだ」

爛がゆっくりと指差した先に居たのは、幼い少女と少しチャラ着いた印象の少年。

コハル「人がいっぱいですね~、プテ……えっと、翼おにいちゃん」

プテラ「はぐれちゃ駄目だよ、小春」

コハル「は~い。そういえば、何で今日は翼おにいちゃんだけなんですか~?」

プテラ「大牙(ティラノ)はここで今働いてるし、父さん(ブラキオ)は父さんで株? ってのやってるからね。
   よくわかんないけど、ちょっと目を離すだけで大損することもあるんだってさ」

コハル「よくわかんないです~」

プテラ「うん、僕も。あと、ヒョウくんは目立ちすぎちゃうからね」

古の竜のプリンセス・コハル(偽名・古賀小春)と、その従者の一人であるプテラマーシャル(偽名・古賀翼)だ。

瞳子「あの子が、例のプリンセス? ……なんだかそんな感じはしないわね」

爛「人間の姿は見せた事ねえし変装もしてるが……一応離れっか。じゃあな」

瞳子「ええ、またね。…………」

帽子を目深に被り、その場を早足で離れる爛を見送った瞳子。

自分の状況が一切好転していない事に気付くのは、この五秒後の事である。

続く


171@設定 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 02:29:07.46T03rt9fi0 (19/22)

・エマ(地上人名・仙崎恵磨)

職業(種族)
ウェンディ族

属性
装着系変身ヒール

能力
アビスマイル装着による物質潜航能力
優れた身体能力

詳細説明
海皇宮親衛隊の一員。
急逝した母の代わりに親衛隊に入ったので、一部の人間から「七光り」と陰口を叩かれている。
本人もそれを気にはしているものの、大声を張り上げて喋る事であえて考えないようにしている。
しかし、第三者の目が無い時には偶に弱音を吐いたりもする。
相棒のルカを身に纏い「アビスマイル」に変身する。

関連アイドル
ヨリコ(上司)
カイ(同僚)

関連設定
ウェンディ族
海底都市
戦闘外殻

・ルカ
エマの相棒である戦闘外殻。外見はギターを背負った金属製のイルカ。
元々はエマの母親の相棒で、ギターは後からつけられた。
エマの母親にあわせて穏やかな性格になった為、現在エマには少々振り回され気味。

・アビスマイル
エマがルカを身に纏いウェイクアップした姿。
元々は装着者の美しい歌声で周囲の機器や相手の神経を狂わせる戦闘外殻だった。
しかしエマとの相性は最悪で、急遽複数の音波兵器を装着する応急処置を施した。

・サウンドビット
背中に格納した六基のスピーカーユニットを射出し、相手に全方向から音波を浴びせる。

・ブレイクソウル
ギター型音波兵器で相手に音波をストレートにぶつける。

・デストラクションアッパー
ギター型音波兵器で発した音波をスピーカーユニットで増幅し、一気にぶつける大技。


172@設定 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 02:30:35.56T03rt9fi0 (20/22)

・マキノ(地上人名・八神マキノ)

職業(種族)
ウェンディ族

属性
装着変身系ヒール

能力
優れた身体能力

詳細説明
海皇宮親衛隊の一員。
「自分の命より大事なのは海皇だけ」を信条に、危険ならすぐに撤退する。
その為、一部の人間から「臆病者」と陰口を叩かれているが、本人は一切気にしていない。
相棒であるオクトを身に纏い「アビストーカー」に変身する。

関連アイドル
ヨリコ(上司)
カイ(元同僚)

関連設定
ウェンディ族
海底都市
戦闘外殻

・オクト
マキノの相棒である戦闘外殻。姿は巨大な金属製ミズダコ。
普段何を考えているか、相棒のマキノでさえ分からなく不気味。

・アビストーカー
マキノがオクトを身に纏いウェイクアップした姿。
光学明細や煙幕を搭載し、隠密・諜報・暗殺を得意とする。

・アサシンテンタクル
背中から展開した触手に仕込んだ針で相手を刺し殺す。

・ブラックミスト
腹部から黒い煙幕を噴射して敵をかく乱する。

・スーサイドボンバー
ミサイルとして発射も可能な自爆用爆弾。


173@設定 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 02:32:22.38T03rt9fi0 (21/22)

・ハナ
アイが受領した戦闘外殻。姿は大型の金属製モンハナシャコ。
完成したばかりなので自我はまだ完成しきっていない。
ウェイクアップしなくても相当の戦闘力を持つ。

・アビスグラップル
アイがハナを纏いウェイクアップした姿。
身体能力が全体的に底上げされ、特に拳を振るスピードは時として音速を超える。

・ナイフ
以前からアイが愛用していたナイフ。拳のスピードアップで殺傷力がオリハルコンを切り裂けるほどに増した。


・イベント追加情報
爛が変装して出店をまわっています。

○マキノが裏山中心にみりあ、春菜、アンチメガネ
○エマが学園内で春菜、アンチメガネ
○サヤが上空から春菜、アンチメガネ
○捜索隊が学園外で星花、すずみやさん
○捜索隊長がエトランゼ(出張店)へ向かいながら星花、すずみやさん
○瞳子が学園内で鬼神の七振り、メガネ、アンチメガネ
をそれぞれ探しています。

コハルとプテラが学園祭を訪れています。



174 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 02:36:00.69T03rt9fi0 (22/22)

以上です
我ながら色々探しすぎだ今回……

マルメターノ、かわしまさん、何人か名前だけお借りしました


175 ◆AZRIyTG9aM2014/02/13(木) 02:47:13.88AAcbE3vK0 (1/1)

乙ー

みんな暗躍しすぎ!
ところで>>168と>>169の間ぬけてる?


176 ◆llXLnL0MGk2014/02/13(木) 08:56:16.87KMdKvqCR0 (1/1)

やらかした(絶望)
>>168と>>169の間にこれ入ります↓

はあ、とため息をつく瞳子。

爛「……瞳子か?」

瞳子「へっ?」

突然、サングラスをかけた少女のような少年に後ろから話しかけられ、瞳子は思わず変な声を上げた。

瞳子「…………もしかして、ラプ……じゃない、爛?」

爛「当たり。どした、仕事か? 迷子か? 両方か?」

瞳子「……恥ずかしい話だけれど、両方よ」

瞳子は、同僚に会えた安堵と迷っている事を見透かされた羞恥のまじった複雑な表情を浮かべた。

瞳子「それより、爛はどうしてここに?」

爛「仕事だよ、アイドルヒーローの方だけどな。今は休憩中」

爛は言いながら手に持っていた食べかけのフライドチキンを骨ごと噛み千切る。

瞳子「そうだったの」




177 ◆Nb6gZWlAdvRp2014/02/13(木) 16:40:27.565ZSo5F4DO (1/9)

学園祭で短いの投下ー


178 ◆Nb6gZWlAdvRp2014/02/13(木) 16:41:28.335ZSo5F4DO (2/9)

 休憩時間の間にスタンプを埋めてしまおうと決めた美穂と肇の二人は、短時間で9ポイントを稼ぐべく高得点のスタンプを求めて学園内を回っていた。

美穂「たしかこの地区には3ポイントのスタンプを持った人が配置されてるはず……」

肇「あ、あれ……でしょうか」

 肇が指し示す方を確認すると、確かにスタンプカードを手にした人々が大行列を作っている。
 行列の向かう先を見ると休憩用の空きスペースに伸びているため、売店やトイレの行列というわけではないから、やっぱりこれはスタンプ待ちの列なのだろう。

美穂「これは……並んでる間に休憩終わっちゃうよね?」

肇「でしょうね……しかし、どうしてこんな行列ができるほどに賑わっているのでしょうか?」

美穂「確かに気になるかも……えっ」

 二人が列の伸びるその先、休憩所を覗くとそこには……


179 ◆Nb6gZWlAdvRp2014/02/13(木) 16:43:17.995ZSo5F4DO (3/9)

拓海「ラスト行くぞっ」

 カミカゼスーツのヘルメットだけを脱いだ拓海が居た。
 ピン、と拓海の右手から跳ね上げられたコインが失速し、やがて落下していくと……拓海の肩の辺りの高さでコインは忽然と姿を消し、代わりに握った拳が突き出される。

拓海「さあ、どっちだ」

金髪の少女「……ふぇ、フェイフェイさん」

中華服の少女「ンー、左手ダネ?」

拓海「当たりだ。ほら、スタンプ押すからカード出しな」

中華服「おねーさん結構速かったケド、あれじゃまだフェイフェイは騙せないヨー」

金髪「わたくしには全く見切れませんでしたの……」

中華服「桃華はもっと眼を鍛えるべきネー」

金髪「無理を言わないでくださいまし……」


180 ◆Nb6gZWlAdvRp2014/02/13(木) 16:44:17.485ZSo5F4DO (4/9)

 交流の一環で他校の生徒も番人をやるとは聞いていたが……

美穂(まさかアイドルヒーローが番人やってるなんて思わないよ……)

肇(拓海さん……大人の方が高校の出し物に参加してもよいのでしょうか……)

美穂「うう……できればお話とかしたいけど、時間無いし他のスタンプ探そうか」

肇「そうですね……移動しましょうか」

 二人は(特に美穂が)名残惜しそうにその場を後にした。

………………

…………

……


181 ◆Nb6gZWlAdvRp2014/02/13(木) 16:45:36.845ZSo5F4DO (5/9)

拓海「よーし次……お、久しぶりだな、憤怒の街以来か?」

友香「そう、なりますね。お久しぶりです拓海さん」

 行列を捌く拓海の前に現れたのは、以前憤怒の街で出会い、戦い、稽古し……そして共闘した少女だった。
 あの後何度か手合わせのために会おうとしたのだが、互いの都合がつかず今日まで再開が叶わなかった相手だ。
 自然と、拓海の顔に笑みが浮かぶ。

拓海「順番待ちの間で把握してると思うけど、一応ルールの説明するぞ」

拓海「アタシが跳ね上げたコインを左右どっちかの手でキャッチするから、どっちの手でとったか当ててもらう」

拓海「最大で5回やって、3回以上正解すればスタンプ3ポイントだ」

友香「分かりました」


182 ◆Nb6gZWlAdvRp2014/02/13(木) 16:46:24.585ZSo5F4DO (6/9)

拓海「じゃあ早速1回目いくぞ」

 宣言してコインを跳ね上げる。コインはやがて失速して落下を始め……

拓海「んなっ!?」

 目の高さまで落ちてきたところで友香が動いた。

友香「……右手、ですね」

拓海「……ちょっとこりゃズルいんじゃねーか?」

 拓海の左手は、友香が伸ばした右手を押さえており、右手で宙を握っている。
 確かに、この状況なら右手で確実だが……

友香「反則について何も言ってませんでしたよね?」

拓海「ぐっ……あー、くそ。正解でいい」

 苦々しげに右手を開くとコインが現れる。


183 ◆Nb6gZWlAdvRp2014/02/13(木) 16:47:09.925ZSo5F4DO (7/9)

拓海「2回目いくぞ」

友香「どうぞ」

 拓海の手からコインが離れ……直後に消える。

友香「!?」

拓海「『落ちてきたところをキャッチする』とは言ってないよな」

友香「うっ……ひ、左」

拓海「外れだ」

 右手を開いてコインを見せる。

拓海「3回目、いくぞ」

友香「……どうぞ」


184 ◆Nb6gZWlAdvRp2014/02/13(木) 16:47:59.695ZSo5F4DO (8/9)

 宣言はしたものの、一向にコインが浮き上がらない。
 二人は徐々に足を開いて腰を落とし、暫くしてようやくコインを跳ね上げると――




 二人の手が消えた。




 一部始終を見ていた客は後に語る。

「あの日あの時あの場所は、間違いなく戦場だった」

と――

おわり


185 ◆Nb6gZWlAdvRp2014/02/13(木) 16:48:53.075ZSo5F4DO (9/9)

拓海がスタンプの番人になったようです


美穂、肇、ちゃま、フェイフェイ、友香を借りました

本当はあいさんでやりたかったけどタイミング的に海底から引っ張ってくるの無理ゲーなんで友香を代役に立てた


186 ◆AZRIyTG9aM2014/02/13(木) 17:22:58.700EB8jmcPO (1/1)

乙ー

ナニコノムリゲ

というかハンターハンター思い出したwww


187 ◆zvY2y1UzWw2014/02/13(木) 18:06:54.63C01bFyu70 (1/1)

乙です

>>170
いろいろ動き出したみたいでわくわくすっぞ!
アンチメガネカース狙われすぎワロタ

>>185
ムリゲすぎじゃないですかーやだー
というか別ゲーはじまってるじゃないですかー


188 ◆6osdZ663So2014/02/13(木) 18:55:54.60PRah6o3To (1/1)

>>174
大勢集まってきて色んな思惑が交錯してる感がある、わくわく
瞳子さんは相変らず残念気味である、頑張れ瞳子さん

>>185
スタンプラリーにたくみんktkr、美穂組お嬢様組も動いてて歓喜
コインゲームは能力バトルである。VSあいさんとかものすごい事になりそうだ

お二方乙です!


189 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:05:33.20jtdOJliV0 (1/31)

復旧したので避難所投下分いきまー

・◆llXLnL0MGk当人
・◆Mq6wnrJFaM氏(旧・◆Nb6gZWlAdvRp氏)
・◆tsGpSwX8mo氏
以上の三名分でお送りします


190 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:07:00.01jtdOJliV0 (2/31)

・◆llXLnL0MGk当人分

肇「……ふう」

万年桜の下、肇は背負った荷物を下ろす。

肇「結構、減りましたね」

肇の祖父がこしらえた、カースの核を内蔵した妖刀『鬼神の七振り』。

肇の手で、あるいは肇の知らない所で、次々と持ち主が決まっていく。

日本一大食いな刀、『暴食』の「餓王丸」は、京の妖怪退治屋……脇山珠美へ。

日本一横暴な刀、『傲慢』の「小春日和」は、今は肇の友人となっているヒーローの少女……小日向美穂へ。

日本一欲張りな刀、『強欲』の「月灯」は、とある元アイドルヒーロー……水木聖來へ。

日本一自堕落な刀、『怠惰』の「逆刃刀・眠り草」は、付喪神の少女と同居する能力者の女性……松永涼へ。

いずれも、それぞれの持ち主によってその力を遺憾なく発揮している。

え、眠り草? ……うん、多分眠り草は眠り草なりに何かしらを発揮していると思われる。

未だ持ち主の現われない刀もあるが……。

肇「……でも、ようやく折り返し地点ですね」

にこっと微笑んで、肇はその場に腰を下ろした。

今日は勤め先であるメイド喫茶・エトランゼが休みであり、こうして散歩にやってきたわけである。

本当は美穂も誘いたかったのだが、あいにく友人である卯月や茜と予定が入っているという事だった。

それなら仕方ないと、一人で訪れたこの公園。

思えば、美穂と肇が最初に会ったのもこの場所だった。

お互いに初めて相手を見たのが寝顔という、奇妙な出会い方であった。

そんな事を考えていたら、だんだんとまぶたが重くなってくる。

万年桜の力なのか、この公園は一年中春先の昼下がりのような暖かい空気に包まれている。

肇「…………ふわぁ」

こんな絶好のお昼寝シチュエーションに耐えられるわけもなく、肇はあっさりその場で転寝をしてしまった。

その時にポケットから財布が転げ落ちたことなど、気付くはずも無く。

――――――――――――
――――――――
――――


191 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:09:12.94jtdOJliV0 (3/31)

――――
――――――――
――――――――――――

そしてこの公園に、もう一人訪れた者がいた。

アイ「……ここだけ暖かいな…………あの季節外れな桜の力かな?」

地下世界出身の傭兵アイと、彼女が連れる戦闘外殻のハナだ。

彼女がここを訪れた理由、それは……。

アイ「うん、ここなら近隣一帯を見渡せるな。さて…………」

周囲を見渡しながら、小高い丘を上っていくアイ。

平たく言ってしまえば、新居探しである。

アイは地上に活動拠点を持っていない。

今まではホテル暮らしで、カイ抹殺、及び奪還依頼を受けてからはたまに海底都市で寝床を提供されていた。

しかし、先日のタカラダ・トミゾの誘拐依頼。

あの一件で、ハナを常に連れるのはハナ自身にとって非常に危険であると考えた。

かと言って、ハナを預け、引き取りする為だけに海底都市と地上を往復するのも非効率的すぎる。

その為、依頼が無い時などにこうして、『ハナを安心して預けられる活動拠点』となりうる場所を探しているのだ。


192 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:11:41.80jtdOJliV0 (4/31)

アイ(……最初はただの道具としか思っていなかったが……ここまで情がうつるとは、自分でも驚きだね)

苦笑するアイは、やがて丘の頂上……万年桜の根元にたどり着いた。

アイ「おや?」

肇「すぅ……」

少女が一人、根元に座り込んで眠っている。

その足元に、彼女のものらしき財布が転げているのが見えた。

アイ「無用心な……」

アイはその財布を拾い上げ、一応彼女のものか確認する為に起こそうと肩に手を……。

アイ「む?」

その時、彼女の背中の荷物に気付いた。

アイ(模造刀……かな? ちょっと失礼……)

財布を彼女の膝上に置き、何かに促されるように内一本へと手を伸ばす。

手に取った刀の鞘には、茨の蔦が絡みついたような装飾が施されている。

少しだけ鞘から抜いてみると、まるで鋸のようなギザギザの刃が顔を覗かせた。

アイ(刃の色艶といい重量といい……模造刀では無いようだな)


193 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:15:07.72jtdOJliV0 (5/31)

??(そうよ)

アイ「ッ!?」

突然何者かから話しかけられ、アイは反射的に振り向いた。

しかし、そこには誰もいない。視線を落とせばハナがこちらを見上げるだけである。

『ギギン?』

アイ「……?」

怪訝そうに周りを見回し続けるアイ。しかし声の主の姿は見えず、声のみが聞こえてくる。

いや、聞こえるというよりは、脳に直接響いてくるような感じだ。

十代半ば頃の少女、といったような印象を受ける。

??(アタクシは正真正銘の真剣。模造刀なんかと一緒に……って、何をキョロキョロしてるの? ここよ、こ・こ)

この言葉で、アイは気付いた。

アイ(『アタクシは正真正銘の真剣』…………もしや、この刀が喋っているのか?)

??(ええ、そうよ)

アイ(驚いたな、長く傭兵をやってきたが、言葉を話す刀なんて物には初めて会ったよ)

アイは刀と脳内を通じて会話しながら、ゆっくりと刃を鞘に戻した。


194 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:17:34.30jtdOJliV0 (6/31)

茨姫(アタクシは茨姫っていうの。鬼才・藤原一心が魂を込めて作り上げた妖刀『鬼神の七振り』の一本よ)

アイ(鬼神の七振り? 君と似た物があと六本あるのかい?)

茨姫(ええ。アタクシは別名『日本一、嫉妬深い刀』っていうの)

アイ(妖刀……七……嫉妬……ははあ、大体分かった。君達はカースの……いや、呪いの力をその刀身に封じ込めているわけか)

茨姫(驚いた。それだけの情報であっという間に的中させちゃうなんて……アナタ賢いのね)

茨姫(それにすごく強そうだし……うふふ、気に入ったわ)

アイ(気に入った……とは?)

茨姫(アナタ、アタクシの持ち主になってちょうだいな)

アイ(私が……? いやしかし、君は本来彼女の物ではないのかい?)

アイが眠る少女の方をちらと横目で見やる。と、

肇「……あっ」

いつの間にか少女……肇は起きていて、こちらをじっと見つめていた。

肇「……よいしょ」

肇は財布をポケットに仕舞うと立ち上がり、こちらにゆっくり歩み寄ってきた。

アイ「あ、いやすまない。盗もうとしていたんじゃないんだ。ちょっと見せてもらっていただけで……」

アイの言い訳も聞かず、肇はなおもアイとの距離を詰め、茨姫の鞘をぎゅっと握った。


195 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:19:30.54jtdOJliV0 (7/31)

肇(……初めまして、藤原肇と申します)

アイ(えっ……あ、私はアイという。こっちは相棒のハナだ)

アイの脳内に、茨姫とは違う少女の声が響いてくる。

恐らくは、この肇という少女の声なのだろう。

肇(アイさん、ですね。茨姫と話されていたようでしたが……)

アイ(ああ。なんでも、私に持ち主になってほしい、と言うんだが……)

肇(そうなの?)

茨姫(ええ、そうよ。アタクシ、アイの事すごく気に入っちゃったの!)

肇(そう。……アイさん、茨姫の事を貰ってあげてくれませんか?)

アイ(……君は、この刀の製作者の家族なのだよね?)

肇(はい。藤原一心は私の祖父です)

アイ(いいのかい? 私は金で雇われる傭兵だ。依頼によっては、お祖父さんが打った大事な刀で悪事を働くかも……)

肇(大丈夫です。茨姫が気に入ったというのなら……あなたはきっと、根は優しい人なんでしょう)

アイ(…………っ、私が……かい?)

茨姫(ええ、アタクシ感じたの。アイの心の奥の奥、とても暖かかったから)

茨姫(きっと、とてもとても酷い事を頼まれたら、アイは難癖つけて断ると思うわ!)


196 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:20:57.17jtdOJliV0 (8/31)

アイ(…………買いかぶりすぎだよ、私は単なる傭兵。依頼を受ける基準は内容よりも報酬さ)

肇(いえ、そんな事はありません。鬼神の七振りは人間の感情を封じ込めて生まれた刀、人の心には敏感ですよ)

茨姫(眠り草ほどじゃないけど、アタクシも持ち主の心くらい見えるのよ?)

アイ(…………そうまで言うなら、受け取ろう。ただし、後悔する事になっても知らないよ?)

肇「ありがとうございます。ただ、後悔はしないと思います」

いつの間にか茨姫の鞘から手を離していた肇が、アイの前で初めてその口から言葉をつむいだ。

アイ「ふふ、なかなか言うじゃないか、肇君」

アイが微笑んで茨姫を腰のベルト穴に差した。

アイ「……そうだ、肇君。少しいいかな?」

肇「はい、なんでしょうか?」

アイ「この辺りに、その……何だ、セキュリティ的に信頼出来る宿泊所のような物を知らないかな?」

肇「……うーん、一応私のバイト先に、小さいけれど寝泊りするスペースがありますよ」

肇は少し考え込んでから発言した。

アイ「ほう、バイト先とは?」

肇「はい、エトランゼっていうメイド喫茶です」

アイ「め、メイド喫茶……?」

アイの脳裏に、メイド喫茶で働く自分の姿が浮かんだ。


197 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:22:16.44jtdOJliV0 (9/31)

~~

アイ『お帰りなさいませご主人様、ウフフッ☆』キャピッ

~~

アイ『アイぴょんはぁ、アンダーワールドからやってきた永遠の23歳なんでぇす♪』フリフリッ

~~

アイ『オムライスがもーっと美味しくなる魔法、かけちゃまーす(はぁと)』キュンキュンッ

~~

アイ『ハイご主人様、あーんミ★』アーン

~~

アイ『いってらっしゃいませ、アイはいつまでもお帰りをお待ちしておりますわ』メガネクイッ

~~


198 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:24:10.39jtdOJliV0 (10/31)

アイ「……も、申し訳ないが、そこは遠慮しようかな」

茨姫(あら、可愛いじゃない)

自分で言うのもなんだが、似合わなすぎる。

肇「そうですか……」

肇は少ししょんぼりした様子だ。

アイ「どうしたものか……」

二人が悩んでいると、遠くから肇に声をかける者がいた。

??「……ん? あれって…………おーい」

近寄ってきたのは、少し柄の悪そうな男。

アイは反射的に軽く身構えた。

肇「え……あ、あなたはあの時の……」

??「やっぱあん時のバンダナちゃんか。お陰で助かったぜ」

肇「いえ、お礼を言われる程の事はしていません」

П「そういや名前言ってなかったな。俺ぁПだ」

肇「そういえばそうですね。藤原肇です」

アイ「……肇君、彼は……?」

二人があまりにもにこやかに話しているので、アイは警戒を解いて肇に質問した。


199 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:26:03.82jtdOJliV0 (11/31)

肇「ええと、以前暴れていた、人の性格を反転させるカピバラ怪人の事はご存知ですか?」

アイ「ああ、話には聞いた事があるな」

宇宙からの刺客、ヘレンが送り出した二体の獣型怪人の片割れ、ハンテーン。

相棒のアバクーゾと共に好き勝手暴れていたが、最後は美穂――ひなたん星人の手によって討たれた。

その後、AIだけを抽出されて何処ぞの地底人が自動掃除機等に活用していることまでは、ごく一部の者しか知らないが。

肇「その騒ぎの時に、ちょっと縁がありまして」

アイ「そういうことか。私はアイだ、よろしく」

П「おう。改めて、俺はП。『女子寮』の管理人をやってる」

アイ「……女子寮?」

Пという男の言葉に、アイが食いついた。

アイ「質問させてもらうが、その女子寮とやら、セキュリティはいかほどかな?」

П「セキュリティ? ……あー、とりあえず神がいるな」

Пの脳裏に浮かぶのは、何故か自分の部屋で好き勝手しまくっている自称女神、鷹富士茄子の笑顔。

以前はよく怒りに任せて尻を引っ叩いたり抓ったりしていたが、最近は呆れてそんな気も起きない。

自然とため息が出そうになるが、ここは一応こらえる。


200 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:28:34.98jtdOJliV0 (12/31)

アイ「か、神…………まあ、こんな世界だから、そういう事も珍しくは無いか……無いのかな?」

肇「さ、さあ……どうなんでしょう?」

П「まあそんなわけで、セキュリティは万全……多分万全だ」

ほかに貧乏神とかもいたが、説明が面倒なんで省いておく。

アイ「ふむ……今部屋に空きは?」

П「ん、まだまだあるな。なんだ、入寮希望か?」

アイ「そうだね、入寮に制約などが無いのならお願いしたいけれど」

П「いいぜ。いくつか書いてもらうモンがあるから、ちょっと女子寮まで来てくれや」

そう言ってПは頭を掻きながら歩き出した。

アイ「了解した。……では肇君、茨姫をありがたくいただいていくよ」

アイは肇に小さく手を振り、Пの後についていった。

肇「はい。アイさんもお元気で」

肇もそれに手を振り返し、手元の荷物を見る。

また一本減り、更に軽くなった荷物。

それをしげしげと眺めていた肇は、やがてふふっと小さく微笑んだ。

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――――――――
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201 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:30:14.46jtdOJliV0 (13/31)

――――
――――――――
――――――――――――

数日後、とある廃工場。

黒服を着た異形の男達が、慌しく動き回っていた。

彼らは、宇宙の奴隷商人。この廃工場を拠点に、地球人を誘拐し続けていた。

そして、集まった地球人を今日、本星へ向けて出荷しようとしていたのだが……。

奴隷商人「急げ! 早く『商品』を運ぶんだ!」

奴隷商人「駄目だ! でけぇシャコに宇宙船のエンジンをやられた! もう飛べねぇ!!」

奴隷商人「な、何だと!?」

アイ「ふむ、ハナは上手くやったみたいだね」

奴隷商人「……!」

奴隷商人達の前に、茨姫を抜刀したアイが姿を現した。

奴隷商人「て、てめぇ……ヒーローか!?」

アイ「ふふ、ただの傭兵さ。ただとある資産家から『誘拐された娘を救出して欲しい』と頼まれただけの、ね」

アイが茨姫を一振りすると、茨姫の刃に付いていた血が一帯に飛び散った。

奴隷商人「ふ、ふざけやがっ……!?」

奴隷商人達が銃を構えるよりも早く、アイは茨姫を再び振るった。

茨姫の柄から生える蔦が鞭のように振るわれ、奴隷商人達の首を次々斬り落としていく。

特に表情を変える事も無く茨姫を鞘にしまうと柄の蔦が消え、茨姫の声が脳内に響いてきた。

茨姫(ね、ね、アイ。やっぱりアタクシが一番アイの役に立ってるでしょ?)

アイ(ふふ、それはどうかな。ハナもナイフも、私の大切な相棒だからね)

茨姫(もう、いぢわる。だったらアタクシ、もっと頑張ってアイの役に立っちゃうわ!)

アイ(頼りにしているよ、茨姫。さて、攫われたお嬢様を助けに……)

アイが廃工場の奥に歩を進めようとした時、後ろから三人分の足音が近づいてきた。

アイ「……誰かな?」


202 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:31:30.99jtdOJliV0 (14/31)

爛「全く知らねえってこたぁねえだろ? アイドルヒーローのラプターだ」

ライラ「同じくアビスカルでございますよー」

クールP「同じく、プロデューサーヒーローのクルエルハッターだよ」

振り向いたアイの前に立っていたのは、古賀爛――ラプトルバンディットとライラ、クールPだった。

アイ(……戦闘外殻?)

ライラの外見に少し引っかかったが、今はそれを気にしている場合ではない。

アイ「まあ、話には。で、ここに何の用かな? 奴隷商人ならたった今壊滅したよ」

アイはそう言って後方に倒れる首無しの死体達を指し示す。

クールP「なんだ、もう終わっていたのか。せっかくありさ先生にせっつかれて大急ぎで来たっていうのに」

クールPが帽子を目深に被りため息をつく。

ライラ「おお……生死体ははじめてでございます」

爛「そんなまじまじと見るモンでも……あん?」

ライラの頭をぺしぺしと叩いていた爛が、アイの腰に差してある刀を見つけた。

爛(あれは……)


203 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:32:33.30jtdOJliV0 (15/31)

アイ「私は傭兵でね。攫われた人々の解放を依頼されたのさ。まあ、これは同盟の手柄にしておいてあげるよ」

アイはくるりと踵を返し、改めて廃工場の奥へと歩いていった。

クールP「……僕達も行こう。今回の仕事は攫われた人々の解放までだからね」

クールPが早足でそれに続く。

ライラ「あっ、待ってほしいですよー」

ライラが駆け足でそれを追いかけた。

爛「…………」

爛はその場に立ち止まり、一人考えこんでいた。

爛(カースと似た気配の刀……アレがサクライの言ってやがった『鬼神の七振り』か?)

爛(随分ヤバそうなヤツが持ってやがんな……三人がかりでギリ勝てるか勝てねえか、ってトコか)

爛(傭兵ってんなら金を積みゃあ……いや、武器に拘るプロってのもいるしな……)

クールP「……? ラプター、行くよ?」

ライラ「急ぐですよー」

爛「お、おお。悪い悪いクルエル、スカル」

爛は二人に駆け寄りながら、考えに一つのけりをつけた。

爛(ま、七振りは俺の担当じゃねえし。メンドくせえから見つけなかった事にすっか)

続く


204 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:34:59.84jtdOJliV0 (16/31)

・茨姫
鬼神の七振りの一つで、『日本一嫉妬深い刀』
鞘には茨の蔦のような模様があしらわれている。
刀身は鋸のような細かい刃が無数についており、抜いた時だけ柄の先から伸縮自在の蔦が現れる。
自我を持ち、持ち主とのみ脳内を通じて会話出来る。
また自分の持ち主が他に多数の力を持っていると、
刀身の硬度や切れ味、蔦の射程などが上昇していく。
いばらきって言うと怒る。いばらぎって言っても怒る。

・イベント追加情報
アイが茨姫を受け取り、女子寮に入寮しました。

ラプター、クルエルハッター、アビスカルが奴隷商人を壊滅、人々を解放しました。
(表向きはそういう事になっています)


以上です
お借りだけで書くのは何か申し訳なく終了間際にうちのこをねじこむプレイング

肇、アイ、Пその他名前だけお借りしました


205 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:36:29.28jtdOJliV0 (17/31)

・◆Mq6wnrJFaM氏分

 少し離れたところで子供たちがはしゃいでいる。
 久しぶりに与えられた休暇、拓海は何をするでもなく辺りをぶらつき、目についた公園のベンチに腰を降ろしていた。
 いつカースが湧きだすともしれない物騒な世の中になってしまってはいたが、それでも目聡く平和な一時を見つけては遊ぶ子供を見ていると、自然と頬が緩む。

 そうしてしばらくぼうっとしていると、いつの間にやら隣に気配を感じた。

??「隣、いいかな?」

 返事を待たずに座った人物を一瞥すると、途端に拓海の表情は引き締まる。

拓海「げっ……生きてたのかよ、アイ」

アイ「酷い言い草だな、最後に会ってから一年と経ってないだろう」

拓海「てめえの職業考えろっての。で、今日は仕事は?」

アイ「もう少ししたらクライアントとの顔合わせだよ。それまで散策と洒落込んでいたら君を見かけたというわけだ」

拓海「もう普通に暮らしてりゃ一生分の蓄えはあるんじゃねーか? いつまで傭兵なんざ続けるんだよ」

アイ「さあ、どうだろうかな? 残高を気にしたことは無いからね。今の生き方が性に合っているし、五体満足なうちは続けるんじゃないかな」

拓海「アンタなら手足の1、2本くらい義肢にしてでも続けてそうなんだが」

アイ「ははっ、たしかにそうしてでも続けるかもしれないね」

拓海「物好きな奴だな」


206 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:38:05.34jtdOJliV0 (18/31)

アイ「借金してヒーローやってた人間には言われたくない言葉だね。そういう君はいつまで続けるんだい」

拓海「死ぬまで」

アイ「変わらないな」

拓海「変わらねーよ」

アイ「一匹狼はやめたのにかい?」

拓海「いや、それは事情がだな」

アイ「アイドルに怪我させたんだって? 君はそのうちやらかすと思っていたよ」

拓海「うっせ。そういやアンタは最近変わったこととかねーのかよ」

アイ「私かい? うーむ……ああ、そういえば最近ここらで活動する際の拠点を得たよ」

拓海「根無し草やめたのか、なんか意外だな」

アイ「私だって事情や心境が変わったりもするさ。……と、そろそろ頃合いかな、失礼させて貰うよ」

拓海「仕事は選べよ、あんま悪事に肩入れしてっと叩き潰すからな」

アイ「善処しよう、君と戦うのは骨が折れるからね」

拓海「どの口がほざきやがる……と、ちょっと待て」

アイ「ん、何かな?」

 立ち上がったアイを呼びとめ、何かを放る。
 受け取ってみると、それは500円硬貨だった。


207 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:39:36.70jtdOJliV0 (19/31)

拓海「いつかのコーヒー代、利子もつけとく」

アイ「おっと、これは嬉しい誤算というやつかな」

拓海「テメッ」

アイ「おお、こわいこわい。じゃあ、利子のお礼……というと妙な感じだが、一つ伝えておこうかな」

拓海「あん?」

アイ「実は最近海の底で警備の仕事をしていてね」

拓海「思いっきり敵対する気じゃねーか! ホントに骨折るぞ!?」

アイ「勘弁してくれ、仕事に障る」

拓海「ったく、覚悟しとけよ」

アイ「それは君の専売だろうに」

拓海「覚悟に特許なんざねーだろ」

アイ「それもそうだね。さて、今度こそ行かせてもらうよ」

拓海「次会ったら容赦しねーからな」

アイ「辛辣な知人だ」

拓海「悪事やめりゃこんなこといわねーよ」

アイ「無理な相談だな」

拓海「だろうな」

 アイが去っていくのを見届けた後、拓海はベンチにもたれかかる。

拓海「あー……なんか休みって気分じゃなくなっちまったし、帰って自主トレでもすっか」



 終わり


208 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:40:42.67jtdOJliV0 (20/31)

許可おりたら妄想が捗って結局本採用

書きあげてみると想定より仲良さそうな感じになっちゃったよ

というわけでアイさん借りました
アイさん人気だね


209 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:42:46.91jtdOJliV0 (21/31)

・◆tsGpSwX8mo氏分

暗い、暗い海底の底。肉眼で見えるものは何もなく、ただただ静かなこの海底に、いくつかの光が見えた。

それは、チョウチンアンコウを模したロボットから発せられる光だった。ざっと数えて5体はいるであろう。

その5体のロボットは何かを探すように海底をうろうろと動き回っていた。

その時、そのチョウチンアンコウ型ロボット、アングラとは明らかに別の機体が現れた。

刺々しい鎧に尾が生えた、まるで悪魔のような機械である。いや、この機械を、「機械」と呼ぶのは表現的に相応しくない。

これの名は、カースドアビス。海底都市の、新たな兵力である。


210 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:44:05.57jtdOJliV0 (22/31)

カースドアビス1号、アビスイービルは、アングラと同じく何かを探しているようだった。

虚ろな相貌が暗闇をにらむ。

そして、アングラのうち一体が、探し物を見つけ出した。

それを他の4機とアビスイービルにも伝える。

アングラ達の視線の先には、広大な海底遺跡があった。それも、ただの遺跡ではない。そこは、現在の海底都市を彷彿とさせる町のような遺跡だった。

ここはかつてアトランティスと呼ばれていた。今は海に沈んでいるが、昔はとても栄えた都市だったのだ。


211 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:45:38.11jtdOJliV0 (23/31)

アングラ達とアビスイービルは海底遺跡、アトランティスの内部に侵入しようとした。

しかし、突然、海底遺跡の内部から立ち上がる影が現れた。

それは銀色に輝く体を持った、戦闘外殻であった。

その名はアビスプラッシュ。この海底遺跡アトランティスの守護神である。

実のところ彼らの探し物とは、あのアビスプラッシュが守る秘宝なのだが……。

「グラー」

「グラァ!」

二体のアングラがアビスプラッシュに接近する。しかし、

「グ?!」

「グ/ラ/ァ!?」

アビスプラッシュの持つ槍によっていとも簡単に破壊されてしまう。


212 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:47:02.07jtdOJliV0 (24/31)

それを見て、アビスプラッシュに近づこうとするアビスイービル。

しかし、唐突に彼の脳内に埋め込まれた通信機に通信が入った。

撤退せよとのことである。

アビスイービルは残った3体のアングラを連れて、彼らの開発者のいる海底都市へと引き上げていった。


213 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:50:04.37jtdOJliV0 (25/31)

場所は代わり海底都市のドクターPの研究所。

彼は通信室のモニターに写し出された、遺跡とアビスプラッシュを見ていた。

「あら、2体やられちゃったわね」

その後ろで同じくモニターを眺めていた海竜の巫女。

「あぁ。あのロボット一体作るのにも金がかかるのによ。大損害だ、まったく」

ドクターPは吐き捨てるように言った。

しかし、彼はどうしても、あの海底遺跡に隠されている物がほしかったのだ。

「アビスプラッシュが守る秘宝、ヴリル……本当にあるのかしらね」

「なきゃ困るんだよ」

ヴリルとは、かつてアトランティスとして栄えていたあの海底遺跡に隠されていると言われているエネルギー物質のことである。

「あれさえあれば、戦闘外殻の能力を飛躍的に上げられる……」

ドクターPは玩具をねだる子供のような目で、言葉をはいた。

「でも今はアビスプラッシュが守ってて遺跡の中にはとても入れないんでしょう?」

「あぁ、問題はそこだ。……それにしても、アビスプラッシュ……無人で動ける戦闘外殻とは、是非捕獲して調べてみたい」

そう、あの戦闘外殻アビスプラッシュは中に人が入っていないのだ。なぜ無人で動けるのかは不明であるが。

「……そういえば無人の戦闘外殻といえば、アビスエンペラーが無人で動き出したそうじゃねえか、えぇ?」

それを聞くと巫女は苦々しげに顔をしかめてみせた。

「えぇ、そうよ。中には誰もいないはずなのに……おまけにあれは古の龍の魂がなければ動かない……」

ドクターPも顔をしかめた。

いや、ドクターPの場合は自分が興味を抱いていた戦闘外殻に逃げられたことが面白くないのだろう。


214 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:51:12.81jtdOJliV0 (26/31)

「ふん、なんにせよ早く見つけ出さねえとな」

「えぇ……」

海竜の巫女は苛立っていた。ただでさえ計画に狂いが出ているのに、これ以上何かあったら胃に穴が空きそうだ。

それに、この男も油断できない。もしかしたら不足の事態が起きて裏切るかも知れないのだ。

そこで、巫女はこの男の来歴を調べ弱味を握って、ドクターPが裏切らないよう手をうつことにしたのだった。

口を開く海竜の巫女。

「……あぁ、そういえば」

「あん?」


215 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:52:08.14jtdOJliV0 (27/31)

「あなた、エマの母親、ケイの事を知ってる?」

その名を聞いて反応するドクターP。

「あぁ。勿論だ」

「とても美しい歌声の持ち主だったそうね」

海竜の巫女は語り始めた。

「歌声だけじゃなく、人目見れば誰もが振り向くような美貌の持ち主であり、ヨリコ様からの信頼も厚かったとか」

ドクターPは名にも言わない。

「彼女とアビスマイルの相性は抜群であったそうね。親衛隊の中でもとても強い人だったとか」

「……」

やはり、何も言わない。


216 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:53:19.86jtdOJliV0 (28/31)

「でも、死んでしまったのよね」

続けてこういった。

「彼女を知る人から聞いたわ。あんなに元気だったのに突然死んでしまって」

ドクターPは無言である。いつもつけているホッケーマスクのせいで表情もわからない。

「一時期ケイは誰かに殺されたんだと言う噂もたったそうね」

海竜の巫女は言った。

「その噂は本当かもしれないわね。ねぇ、ひょっとして殺したのはあなたなんじゃないの?ドクターP」


217 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:54:22.54jtdOJliV0 (29/31)

「あぁそうだ」

ドクターPは否定しなかった。

「やっぱりね」

まるで世間話のようなやりとりだ。

ドクターPはマスクの下で低く笑った。

「くくくくく……。あいつは知ってしまったんだよ。戦闘外殻ヒュドラに使われている毒の秘密をよ…」

「それで口封じに?」

「あぁ」

そこでドクターPの笑い声は更に大きくなった。

「ふふふふふふふ!ひゃははははははは!!あの女の無様な死に顔!思い出すだけでも笑いが止まらねぇ!ぎゃはははははは!!」

ドクターPの笑い声はいつまでも響いた。

そして、唐突にその笑い声は止まる。

「わかってるだろうが……その事をばらすなよ?面倒なことになる」

海竜の巫女はニヤリと笑った。


218 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:55:28.23jtdOJliV0 (30/31)

アビスプラッシュ

鯨の戦闘外殻。
普通の戦闘外殻に比べ、一回り大きく、その身体は硬く、防御力も高い。
何より、その硬度を利用したタックルは破壊力バツグン。
また、右腕から圧縮された海水を放つことができる。

ヴリル

かつて古代に栄え、神の怒りにより沈められた王国≪アトランティス≫にあったとされるエネルギー物質。

アトランティスにあったとされるオリハルコン製の戦闘機の動力源として使用されていたといわれている。

オリハルコンの力を最大限に引き出し、無限の力を出すといわれている。

もし、これが現在で見つかり、戦闘外殻に使われたらどうなるか……それは誰もわからない。


219 ◆llXLnL0MGk2014/03/02(日) 16:56:52.64jtdOJliV0 (31/31)

ここまでです。

アビスプラッシュとヴリルはメタネタスレからお借りしました。ありがとうございました。

イベント情報
・アビスイービルの試験運用をしています
・エマママことケイを殺したのはドクターPのようです

お目汚し失礼します

#避難所分ここまで


220 ◆Mq6wnrJFaM2014/03/02(日) 18:16:22.95nGTjaAhDO (1/1)

移行乙

ついでに酉チェック


221 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:29:25.82bV/OCKiKo (1/96)

多々買うことができるということはきっと幸せなことなのでしょう。
だから今回のあまりに早い登場も私はうれしいです。

     し あ わ せ


前回までのお話
前編 part8 >>440~>>494
中編 part8 >>972~part9 >>37

後編、つまり完結編です。
一番量が多くなってしまったので投下に少々時間がかかると思います。



222 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:30:07.53bV/OCKiKo (2/96)

「本当に待ちくたびれた。

やっと……来たか」

 灰色の廃墟群はすでに生活感を感じさせない。
 数か月前まで人が住み、生活していた建物はあの日、日常を壊されて以来時を止めたままである。
 憤怒の街はすでに過去のものとなったとしても、復旧の手はまだ完全には届き切らない。

 そんな無機質な情景の中、雪降る白雲の下、一人の男は微動だにせず待ち続けていた。
 無言で待ち続けていた男の胸中はわからない。

 当然、対峙したアナスタシアにもその男が何を考え、ここへ来たのかわかるわけがなかった。

「アビェシヤーニェ……約束通り、来ました」

 アーニャは男を睨み付けるように言う。
 覚悟は万全であり、その手はすでに腰のナイフに掛かっている。

「おいおい、確かに俺は待ちくたびれたとは言ったがな、まだ始めるつもりはない。

まだ17時50分だ。十分前行動は殊勝だが、あいにく約束は18時だ。

約束通り、な」

 男は高級そうなシルバーの腕時計を見ながら言う。

「それとも……待ちくたびれたのは俺だけじゃなくお前もか?

白猫(ビエーリコート)」

 意地悪く口角を上げながら男は笑う。
 しかし男の軽口に対してもアーニャは表情を変えない。



223 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:30:39.21bV/OCKiKo (3/96)


「……ニェート、いえ、私はあなたを、待ってなどいません。

出来ればあなたの顔は、見たくなかった。

ヤー……私は、昔とは違う。でも……過去からは逃げれないのだから」

「よくわかっているじゃないか。

いくら改心して堅気に戻ろうとも、積み上げた過去は決して消えない。

俺がお前を追ってここに来たように、過去はいつまでも追ってくるのさ。

いくら逃げてもいずれは追いつかれ、その業からは逃げられはしないんだよ」

「だから……私は来たのです。

ヴィー……あなたが、私を脅さなかったとしても……あなたが私の前に現れた時点で決まっていたのです。

自分の過去とは、遅かれ早かれ蹴りをつける。

これが……私への罰であり、越えねば前に進めぬ壁なのですから」

 アーニャは腰からナイフを引き抜く。
 そして体の前に突き出し、男の直線上を射抜くように構えた。



224 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:31:22.16bV/OCKiKo (4/96)



「Давайте положить конец.…… Командующий(終わらせましょう……隊長)」


 視線は凶器のごとく鋭く、その男、隊長に突き刺される。
 だが隊長はその視線に動じることなく、相も変わらず意地悪い笑みを浮かべたままである。

「だからまだ気が早いぞ白猫。

臨戦態勢で、その上その眼光で俺に向かってくることは結構なことだがまだ早い。

ミッションスタートは一八○○ジャストだ。

先走りは死を招く。教えたはずだがな」

 隊長はアーニャから視線を外し、周りを見渡す。
 周囲には相変わらず廃墟群しか存在しない。

 アーニャは隊長から目を離さず、隊長の話を聞こうともしない様子だ。
 それを気にせず隊長は喋りだす。

「こんなしけた場所だが、過去にはそれなり賑わいがあった場所だ。

かつては、人が笑い、泣き、生活した場所だった。

そして『憤怒の街』については俺も伝聞でしか知らない。

俺が知っているのは一人の少女の憤怒が、この街を地獄の赤で染め上げたことくらいだ。

お前はこのことを知っているのか?この街で、何が起きていたのかを?」



225 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:32:00.12bV/OCKiKo (5/96)


 隊長はこの街で何があったのかを、アーニャに問いかける。
 しかしアーニャは隊長の言ったことさえ知らなかった。

 結局憤怒の街の根本的な原因については公に語られることはなかった。
 一般に公開された情報によると、現れた巨大なカースが原因だとされており、当然渦中にいなかったアーニャは真実を知ることはない。

 ただし裏では憤怒の街の情報は多くはないが出回っており、それなりの価値で取引もされている。
 この荒廃した街でかつて何があったのかを知りたいと思うものは後を絶たない。

「ここ来る前に、知り合いの情報屋が話していた情報だ。

一人のカースドヒューマンの少女の孤独と悲嘆から生まれた憤怒は、街を包む赤き炎となり、それはこの街の住人を死色の赤で染め上げた。

彼女の悲しみは、結果として多くの人間の悲しみを生んだのさ」

 まるで物語を語るように隊長は話す。
 その瞳の中には、まるでこの街が炎に包まれていたころを映しているかのようである。

「とはいっても、実のところこれは情報屋が気まぐれに語った話だ。

所詮ロハ話、真相はあてにはならん。

まぁこの話をしてお前に反応がないってことは、ガセか、お前が本当に何も知らないってことなんだろうな」

「……それが、どうかしましたか?」

 かつて自分が何もできなかった街の話。
 少し前のアーニャなら気になることではあったが、今のアーニャにとってこんな世間話はどうでもよかった。



226 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:32:40.63bV/OCKiKo (6/96)


「いやなんだ……せっかくこんな名所に来たんだ。

その話くらいしておかないと、ここでおっ死んだ人間どもに申し訳ないだろう?

これからもっと壊すことになるんだからよ」

 隊長は両腕を広げ、周囲をひけらかすようにする。
 周囲は無残な過去の残骸しかない。

 それをさらに壊しつくすことになるのは隊長が一番よくわかっていた。
 そしてそれが楽しみでしょうがないような笑みを、相も変わらず隊長は続けている。

「ん……ふと思ったんだがな」

 しかし隊長は何か一つ思いついたのか、街に向けていた視線をアーニャに戻す。

「この街を無残にしたのは人間の争いだ。

実際したのかカースかもしれないが、それでも引き金を引いたのは一人の少女で、

それに立ち向かったのも、ほとんどはヒーローだ。

カースドヒューマンも、ヒーローも人間なのさ。

街の住人も人間だし、たとえ人間でなくとも、『ヒト』らしい感情は持っているものがほとんどだ」



227 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:33:14.78bV/OCKiKo (7/96)


「ダー……。

たしかにそうです。人同士が争うのは……悲しいですね」

 アーニャはこの街の惨状を思い出して、悲しそうな顔をする。
 それに対して、隊長も悲しそうな形口で続けた。

「そう。人が争うのは悲しい。

話し合う言葉があるのに、伝え合う心があるのに争うのはやはり悲しいだろう。

だが」

 ここで一息、隊長は話を途切れさす。

「俺はあいにく化物だ。

人間の形をしているが、誰もが俺を、『化物』と呼ぶ。

『化物』のように見る。

そして俺は『化物』のように殺すのさ。

そこに言葉は必要ない」



228 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:34:01.48bV/OCKiKo (8/96)


 問いかけるような視線をアーニャに向け、一言。



「じゃあ、俺に育てられてきたお前は『人間』か?

銀色(シェリエーブリェナエ)、

俺はお前に、心など持たせるように育ててきてはいない。

妖精(フィエー)、

俺は、お前を、お前たちを化物のように育ててきた。

雪豹(シニェジュヌィバールス)、

日本には『蛙の子は蛙』という言葉がある。

氷河(リエードニク)、

ならばこの俺(ばけもの)に育てられたお前たちも同様に『化物』ではないかと思うのだが、

白猫(ビエーリコート)、

お前は、それでも『人間』か?」



 


229 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:34:43.89bV/OCKiKo (9/96)


「ヤー……私は……私は……」

 ただでさえ不安定であったアーニャの心をその言葉は再び揺さぶる。

 自分の名前を知ったのは数か月前。
 『アナスタシア』が生まれたのはほんの数か月前だということは、それまでの彼女は何だったのか?

 そもそも、今の彼女もはたして『人間』と言えるのだろうか?

 目の前の敵に集中して強引に精神の安定を図っていたアーニャにとってこの問いかけは弱点のごとく精神にダイレクトに届いた。
 自身の存在を揺らがすこの言葉は、少女に動揺を与える。


「改めて問おう。

お前は『人間』か?それとも『化物』か?」

「ッ……わたしはっ!!」

 隊長の言葉を聞きたくないために、動揺を振り切るためにアーニャは飛び出す。
 構えたナイフを突き立てるべくまっすぐ隊長に突進する。

「迷うか?

だが『人間』ならば迷わんぞ。

ならばここからは『化物』同士の戦いだ。

遠慮も躊躇もいらない。死者への弔問も念仏も必要、無いってことだ!!!」



230 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:35:20.10bV/OCKiKo (10/96)


 ごうと隊長の周囲に吹き荒れる強風。
 念動力によって引き起こされたその風は、周囲の朽ちかけの廃墟を軋ませる。

 アーニャの突進の勢いはその風によって少し緩む。
 だがその程度で足は止まらない。隊長を貫くべくさらに進もうとする。

「!……ぐ、これは」

 しかし足は進まない。

 いや足は動く。だが体は宙に浮き、足は地に着かず地面を蹴ることができなかった。
 そして首が引っ張られるような痛み。

 そう、頭は隊長の『腕』によって掴まれ、宙づりの状態になっていた。

「時刻は一八○○を超えた。

作戦開始だ。白猫」

 そして隊長は開いた掌を、思い切り握りしめる。
 それに連動するように念動力の『手』も空気と一緒にアーニャの頭を握りつぶした。

 頭を失ったアーニャの体は、どさりと地に足を着け倒れ伏せる。
 隊長は窮屈そうに締めていたネクタイを緩め、アーニャに背を向けた。



231 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:36:01.68bV/OCKiKo (11/96)


「全くこの程度か?能力を過信しすぎるな行ったはずだ……が!」

 発言の途中、隊長は気づいたように言葉を止めて、念動力を纏わせた拳を振り向きざまにふるう。

 その拳とナイフはぶつかり合い、金属同士がぶつかり合うような乾いた音が響いた。

「ク サジェリエーニュ……あいにく、能力を過信させていただきました、よ」

 隊長の振り向いた先には、すでに頭部を復活させたアーニャがナイフを突き立てるべくそこにいた。

「やはり……十分お前も『化物』だな!」

 楽しそうな声で隊長は言うと、ナイフとぶつかり合っている拳を、力のままに振り抜こうとする。
 それに気づいたアーニャは、振り抜かれればナイフの方が持たないことがわかっているので、すぐに手を引く。

 隊長は、アーニャがナイフを引いた後でもそのまま腕を振り抜き、空を切る。
 その隙を見逃さずアーニャはナイフでがら空きの胸へ突き立てようとした。

 しかし当然それも隊長のもう片方の腕で弾かれ、さらに蹴りをアーニャに入れようとする。
 アーニャはそれをバックステップで回避、荒れ果てたアスファルトに着地後、勢いのまま数センチ滑り下がる。

「こいつなら……どうだ!」

 隊長も、バックステップ時の無防備な滞空時間を無駄にしようとはしない。
 再び出現させた念動力の『腕』はアーニャを掴もうと正面から迫りくる。
 その『手』は人一人を掴んで、握りつぶすには余裕なほどの大きさである。



232 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:36:40.61bV/OCKiKo (12/96)


「……くっ」

 その『腕』によってせり押された空気は圧力となってアーニャに降りかかる。
 着地後にのんびりとしていればすぐに『手』につかまり、再び体はひき肉と化すだろう。

 いくら回復能力があろうと回数は有限である。
 初めに頭を潰されたのも本来なら手痛いほどの力の消費であり、まだろくに隊長にダメージを与えられていないのにこれ以上大規模な回復を使うのはまずい。
 かといって、ここで下手な回避に出れば攻撃の機会はさらに絶望的なものとなる。

 故にアーニャは右方前に体制を低くしながらタックルするように転がり込む。
 これによって『腕』の範囲から回避しつつ隊長への距離を再び詰めることができた。

 そして隊長の方へと地面を蹴り、右手のナイフを振り下ろす。
 隊長はそれも念動力を纏わせた左腕で防いだ。

 しかしアーニャもそれは予想通りで、さらに左手で腰に携えていたもう一本のナイフを引き抜き、隊長を縦に一閃するように振り上げた。

「ぐっ!?」

 新たな凶刃に隊長はわずかに反応が遅れる。
 急いで空いていた右腕に反発力を纏わせ防御に出るが、腕の力の入れ方が足りず左のナイフの一閃は隊長の右腕を弾いた。



233 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:37:31.30bV/OCKiKo (13/96)


 アーニャはこの千載一遇のチャンスを見逃さない。
 両のナイフを交互に、フェイントを入れつつ何回も振るう。

「УУУрааааааааааааааааааааааааа!!!!!!」

 アーニャの鬼気迫る掛け声とともに、上下に、左右に、千変自在の太刀筋が隊長を襲う。
 隊長も両腕で全て防いではいるが、その場からじりじりと後退させられていた。

 だが隊長は、相も変わらず楽しそうな笑みは変えず、それでいてアーニャの様子を観察するような余裕を見せた目をしていた。

「白猫、覚えているか?

初めてナイフを使っての訓練のことを」

 諭すような口調で隊長は目の前のアーニャに話しかける。
 しかしアーニャはそれを無視して、ナイフを振るい続けた。

「お前が8歳のときの8月のことだ。

CQCの基礎を教え終わり、ナイフを使っての戦闘訓練が始まった。

隊の中でも、お前はもっともナイフの扱いが苦手だった気がするな。

だが最後には、きっちりとそのスキルを完全にものにして、挙句の果てにはCQCではトップクラスの実力を持つようになっていた」

 隊長は懐かしむような眼をして、目の前で必死にナイフを振るうアーニャを見る。
 その姿と、かつてナイフの扱いに四苦八苦していた銀色(シェリエーブリェナエ)の姿が重なっていた。

「そして今、その師である俺の前で、俺の教えた戦い方をしているわけだ」



234 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:38:20.44bV/OCKiKo (14/96)


 ここで懐かしむような隊長の表情は、再び意地の悪い笑みに戻る。


「そう、俺が編み出したロシア式CQCだ!

たしかに実践を経て、ある程度は自己流に改編はされている。

実に百点、いや百二十点の戦闘だ!

だがそれでも、俺のオリジナルは越えられない!

ロシア式CQCは俺が自分のため編み出したCQCを、一般人用にデチューンしたものだ!

真のロシア式CQC、否、『俺式CQC』は俺が使ってこその真価を発揮するのだからなあ!!」


 隊長はアーニャの両方のナイフを、体から外の方向に向けて勢いよく弾く。
 すでに酷使していたナイフの刃はその衝撃で中ほどから折れてしまった。

 一瞬にして2本とも折られてしまったナイフを見てアーニャは驚愕の表情をする。
 隊長はその間にも、腿を上げひび割れたアスファルトに脚を振り下ろした。

 その震脚は、朽ち果てる寸前であった舗装されたアスファルトの息の根を完全に絶つ。
 隊長を中心に地面は蜘蛛の巣上にひび割れ、陥没した。

 地面の陥没により一瞬の浮遊感を感じたアーニャはその間身動きが取れない。
 その隙に隊長は振り下ろした脚を軸として回し蹴りを決める。
 弾丸のごとくの加速の付いた足裏は、アーニャのわき腹に完全に突き刺さり全身の骨を軋ませるほどの衝撃を与えながら吹き飛ばした。

「……かはっ!」

 アーニャは背後のビルに衝突することによってようやく吹き飛ばされた勢いが止まる。
 吹き飛ばされた際に刃のないナイフは手放してしまい、両手は空のままビルの壁にもたれ掛る。



235 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:39:44.50bV/OCKiKo (15/96)


 全身のいたるところの骨が今の一撃で折れており、アーニャは急いでそれを回復させる。
 それでも気を失いそうな激痛はアーニャの体を蝕んでいた。

 だが隊長は休ませてはくれない。
 先ほどの場所から地面を蹴ってアーニャの方へと跳び蹴りをかましてくる。

 かなりの距離が隊長とアーニャの間にあったにもかかわらず、隊長はアーニャのかなり手前で跳んでいた。
 それなのにもかかわらず、念動力の加速によって戦闘機のごとく隊長の体は低空飛行をしながら、両足をそろえてドロップキックの体制へと移行しながら突っ込んでくる。

 その勢いは先ほどの念動力のブーストの無かった回し蹴りとは比べ物にならない。
 直撃すれば新幹線に衝突するのと同じように、体は木っ端みじんに吹き飛ぶだろう。

 ほとんど本能の赴くまま、アーニャは横に飛び退く。
 そしてほぼ間髪入れずに隊長のドロップキックはアーニャを受け止めたビルへ突き刺さりそのビルも波紋状のひびを刻み、粉々に倒壊させた。

「よく避けたな」

 ビルの倒壊による瓦礫が降り注ぐ中、隊長は横に向いた体を念動力で起こし、そのまま宙に浮遊する。
 恐ろしいのはその浮遊が一切テレキネシスを使ったものではなく、サイコキネシスによる力の放出だけによる微妙な力加減で保たれていることだ。

 飛び退いた際に倒れた体をゆっくりと起こし、隊長を見るアーニャ。
 隊長はそんな地面に這いつくばっているアーニャを見下している。

「どうした?これで終わりか、白猫?」

 挑発するようなニュアンスを含め、隊長は言う。



236 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:40:22.52bV/OCKiKo (16/96)


 だがその時、アーニャと隊長を分断するように大きめの瓦礫が落ちてくる。
 それを見たアーニャは全身に天聖気を巡らせて、体を強引に動かす。

 堕ちてくる途中のビル壁は一枚の壁のような形を保っており、それに飛び乗るようにアーニャは跳ぶ。
 隊長は油断していたため、緩慢だった動きから急に素早く動き出したアーニャに反応が遅れた。
 隊長からはアーニャが一瞬落ちゆくビル壁の陰になり見失う。
 そしてアーニャを影に残したビル壁は落下方向を変えて地面と平行に近いように隊長の方へと跳んできた。

 おそらくアーニャがその壁を蹴り、隊長の方へと飛ばしてきたのだろう。
 その証拠にアーニャは壁を飛ばした方向とは逆の、反発した方向にバックステップのように飛んで行っていた。

「小賢しい真似を……」

 つまらなそうに隊長は跳んできたビル壁に拳を一発を叩き込む。
 それだけでビル壁は粉々に砕け、隊長の視界を遮っていた障害は消えた。

 しかしそのビル壁の向こうには予想外のものがあった。

「なに!?」

 すでにピンの抜かれたグレネードがビル壁に隠れて投げこまれていたのだ。
 グレネードは弾けるように視界を潰すほどの光と爆音を発生させる。

「スタン、グレネードか!」



237 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:41:10.56bV/OCKiKo (17/96)


 その目の前にいた隊長はそれの影響が直撃した。
 目をふさぎ、念動力で鼓膜をガードしたが、それでもひと時、完全に視覚と聴覚は奪われる。

 ビルは完全に倒壊し、辺りに砂埃を上げる。
 それが視界の悪さに拍車をかけ、隊長の視野が完全に回復するまでかなりの時間を要してしまった。

「……逃げたか」

 すでに辺りには隊長以外の人影は居ない。
 アーニャはこの場から完全に離脱しており、隊長は目標を見失ったのである。

「全く今度は鬼ごっこか……。

まぁ多分完全には、逃げてはいないだろう。

この街のどこかにいるはず……」

 その時、隊長は言葉を途中で止めて頭を押さえる。
 先ほどまでの余裕そうな表情とは違い、不快感を覚えたような苦々しい表情である。

「くそ……羽虫が邪魔してくるか。

正直、俺の余裕はないんだけどな……」

 周囲に放出していた念動力を解除して浮遊していた状態から地に足を着ける。
 苦虫をかみつぶしたような顔をしながら、隊長は文明の光などない闇に沈みつつある憤怒の街の中を進んだ。




238 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:41:50.08bV/OCKiKo (18/96)







 不快感を露わにしながら歩き出した隊長の一方、アーニャも疲労感を顔に滲ませながら廃墟の中を進む。
 相も変わらず雪は降り続いており、先ほどまで熱を帯びていたアーニャの体をクールダウンさせていた。

「正面から……戦うのは、失敗だったかもしれません……」

 重い足取りでアーニャは歩きながら呟く。
 隊長の強さは自身がよく知っているはずなのに、正直に正面から挑んだのは今思い返せば失敗だっただろう。
 だがその一方で、あの男に不意打ちが通用するとも思えないというのも頭の中に残る。
 
 アーニャは一度立ち止まり、後ろを振り返る。
 ゴーストタウンと化したこの街で、この幅の広い道路を歩くのは今はアーニャだけだった。
 当然振り向いても人影はない。

「とりあえずは……一旦撒けましたか」

 訓練で夜目はそれなりに聞くので、薄暗い街の中でそれなりに遠くまで見渡すことができた。
 とりあえず視界には人影が見えないので、緊張を一度解いて一息吐く。

 とはいってもあの隊長なのでいつ急襲されてもおかしくないことは念頭に置いておく。
 このまま道の真ん中を歩いていては、隊長が本気で追ってこればすぐに見つかってしまう。
 故に近くの比較的崩壊の少ない廃ビルに一度身を隠すことにした。

「おじゃまします……とはいっても誰もいるはずが、ありませんね」

 アーニャはそんなこと独りごちる。
 だが当然返事は帰ってくるわけがないし、それくらいはアーニャもわかっていた。



239 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:42:38.81bV/OCKiKo (19/96)


 入ったビルの中はかつて何かのオフィスだったらしく、かつての面影をそれなりに残していた。
 しかし辺りはほこりにまみれ、小さな瓦礫の破片が散乱していて生活感は皆無である。

 アーニャはそのまま奥へと進み、階段を見つけると上の階へと昇っていく。
 そしてできるだけ上の階を目指すと、最終的に4階まで到達し、それより上は崩落が激しく進むのは危険であった。

「ここに、しましょう」

 アーニャは4階へ入り、先ほど自身が通ってきた道路を見渡せる部屋へと入る。
 中は上の階が崩壊しているおかげで、大きめの瓦礫が散乱しており、ところどころに潰れたデスクが目についた。

 そのまま窓際、とはいってもすでにガラスは全て砕けており窓と言えるのかは定かではないがそこまで近づく。
 そしてその窓の下の壁にもたれかかるように、アーニャは座りこんだ。

「……全く本当に、化物です」

 先ほどのこと思い出して苦々しい表情をするアーニャ。
 自分はほぼすべての力を出し切っていたというのに、隊長はまだ余裕だという感じであった。

 実際隊長は戦闘狂の節もあり、あえて自分が追い込まれる状況に持っていくことがある。
 今回もそう言うようなチャンスがあったにもかかわらず、結局隊長に傷一つ付けることがかなわなかったのだ。

  『勝つ』と覚悟を決めてきたのにこのざまで、アーニャは自分が情けなくなってくる。
 先手はとられまいと構えていたはずなのに、あの隊長の言葉に心をかき乱され、そして無様な醜態をさらした。
 だがまだ諦めるわけではない。



240 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:43:30.41bV/OCKiKo (20/96)


 初手は完全な敗北だが、まだ手がないわけではないのだ。
 今までならば敗色濃い場合引くこともできたが、今回に関しては引くことは絶対にできない。

 『殺す』か『殺されるか』の二択しかない白猫としての最終任務(ラストミッション)。
 あの男との因果はここで幕を引くという意志はアーニャにとっては決して揺るぐことはない。

「そのためには……あと何ができるか」

 アーニャはコートを広げて、残りの装備を確認する。
 一つ一つ取り出して床に置き、数を確かめる。

「ノース……ナイフはあと3本に、スタンは2個、スモークが4個ですか……」

 初めから思ってはいたことだが、隊長を相手にするには心もとない。
 それでもこの状況で取りうる最善をするために、床に並べた装備を再びコートと腰に戻すそうとする。

「あっ……アー」

 しかし最後の一個のスモークグレネードを取ろうとしたが、手からこぼれてしまう。
 そしてかつての惨劇によってこの建物も傾いていたのか、その傾斜に沿って筒状のスモークは転がっていく。

 アーニャはそれを追って行くと、一つの瓦礫の山にぶつかってスモークは動きを止める。
 それを拾おうと、アーニャは瓦礫の前でかがんで手を伸ばした。



241 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:44:15.97bV/OCKiKo (21/96)


「……これは」

 スモークグレネードに手を伸ばしていたのはアーニャだけではなかった。
 もう一つの手がグレネードの手前で止まっている。

「コーシチ……骨、ですか」

 アーニャのものではないもう一つの手は別にアーニャのグレネードに手を伸ばしていたわけではない。
 その手はすでに白骨化しており、もはや動くことはないのだから。

 目の前の瓦礫の下には、一つの白骨死体があった。
 おそらくかつての騒動の際に振ってきた瓦礫の下敷きになりそのまま事切れたのだろう。

 どうにかして這い出ようとしたのだろう。
 カーペット敷きの床にひっかき傷が残っている。
 だが手遅れであったことも伺える。
 カーペットには血痕が残っており、すでに乾いて赤黒くなっている染みがその死体の下に広がっている。

 『憤怒の街』の際にほとんどの死体は回収されたらしいが、それでもカースに取りこまれたりしたことによりすでに死体が存在しない場合もあった。
 故にそう言った者は行方不明者として扱われ、今も見つかっていない犠牲者は少なくないのだ。

 そしてこの死体も、捜索の目から外れてしまい数か月放置されたのだろう。
 今の今まで誰の目に触れることなく、きっと避難した他の会社の人々からも見捨てられ絶望しながら死んでいったのだと想像できた。

 アーニャは無言のままグレネードを拾ってコートの中に仕舞う。
 そして隊長を迎え撃つための準備をしようとして死体に背を向けた。



242 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:45:00.54bV/OCKiKo (22/96)





「……?」




 アーニャは何の疑問も抱かずに、グレネードを懐に入れた。
 そのことに、ふと違和感を覚えてしまったのだ。

「ヤー……私は、いま何を感じたのですか?」

 気が付いてしまっては取り返しがつかない。
 アーニャは死体を見ても『何も感じなかったこと』に気づいてしまったのだ。
 これまでなら微塵もそんなことに違和感を覚えなかっただろう。

 だが普通の暮らしをして、普通の価値観を知ってしまったアーニャはその重大な違和感に気づいてしまった。

「パツィエムー……どうして、私は死体を見ても、何も感じないのですか?」

 アーニャは振り返りその死体を再び見る。
 だが瓦礫の隙間から覗く死体の空っぽの目を見ても何も感じないのだ。

 憐憫も、哀悼も、悲哀も、恐怖も、憤怒も何も感じない。
 そこに人間一人分の骨、カルシウムの塊がある程度の感想しかないのだ。



243 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:45:42.10bV/OCKiKo (23/96)


「……うっ、くうぅぅ……」

 そんな自分に吐き気を覚える。
 ごく一般的な人間が感じる感情が欠落しているということ。

「まるで……『化物』じゃないですか……」

 隊長の言った心をかき乱したあの言葉。
 必死に無視して、気にしなかったのに、自覚してしまえば後には引けない。

 これまでの自分の、アナスタシアとしての自分を自分で否定してしまったようなものだ。
 せっかくまともになれたと思ったのに、結局何も変わらなかったという証拠である。

 アーニャは吐き気で口元を押さえ、ふらふらと瓦礫に背を預ける。
 隣には何も言わない死者。
 先ほどまで何も感じなかったそれが、まるで自分を『化物』だと糾弾してくるようにアーニャは感じてしまう。

「……はぁー……はぁー」

 息を深く吐いて、ざわつく心を落ち着ける。
 それでも吐き気は収まらないし、頭の中はぐらぐらするのだ。
 これまで後回しにしてきたツケだとでもいうのかというほどに、アーニャの精神状態は不安定であった。



244 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:46:25.22bV/OCKiKo (24/96)


「ツケ……といえば」

 ツケと言えば、エトランゼで強引にツケさせられたのを思い出す。
 それと同時にのあの、あの言葉も。

「カヴォータ……誰かに……相談できていたなら、少しは違ったのでしょうか?」

 この孤独な空間でアーニャは寂しさを感じる。
 だが自分一人でケリをつけるを息巻いてきたのに、そんな泣き言は言ってられなかった。

「そうです……。泣き言なんて言えない、悩みなんて悩んで、いられない」

 せめて、今の目的だけは、完遂せねばならない。
 プロダクションのことを思い出しながら、自分のすべきことのためゆっくりと立ち上がった。

 だが結局また後回しにしていることを、アーニャは気づかない。






 


245 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:47:08.17bV/OCKiKo (25/96)







「~♪……~~♪~♪」

 息吹を感じさせない静かな街の中に一つの鼻歌。
 隊長は足取り軽く、アーニャを探しながら歩いていた。

 一旦は見失ったが、少し歩きながら痕跡を探しているとある地点から明確な痕跡を見つけることができた。

「誘っているな」

 アーニャに痕跡を残さない術を教えたのは隊長だ。
 それが途中からあらかさまな痕跡を残し始めているということは、ほぼ確実に罠である。

「なら乗ってやらないと」

 そして隊長がたどり着いたのは、アーニャの入った廃ビルであった。
 比較的きれいに原形を保っているその建物を隊長は見上げる。

「オーケイ、どんな小細工を巡らしてるかは知らないが、ちゃんと正面から行ってやる」

 そのまま隊長はビルの中へ入っていく。

 


246 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:47:48.91bV/OCKiKo (26/96)



 わけがなかった。

「正面からは正面からだが、一階から順番に行くとは言ってねぇよな!

RPGのダンジョンじゃあねぇ。本丸目がけて正面突破だ!」

 隊長は膝を曲げて、跳躍する。
 念動力によって加速され、体は一気に最上階まで跳びあがった。

 最上階であった5階はほぼ崩落しているため、大体4階と5階の間くらいの位置で隊長は拳を振りかぶる。
 そしてその拳の一撃は、原形を保っていたビルの外壁を砕いて大穴を開けた。

 そして悠々と、その大穴からビルの内部へと侵入する。

「さーて、どこだ白猫?鬼ごっこは終わりにしようぜ」

 崩壊するビル壁は粉じんを上げて視界は良好ではない。
 隊長はまたそれが収まるまで待っているつもりだったがなぜか一向に収まる気配が見えなかった。

「これは……スモークか!」

 先ほどの粉じんに乗じてアーニャはスモークを投げ込んでいたのだ。
 埃っぽいコンクリの粉じんに混じって、白煙が隊長の視界を妨げる。



247 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:48:32.68bV/OCKiKo (27/96)


「ああくそ、仕方ない!」

 隊長はいらついた声を上げる。
 それと同時に周囲に発生させた念動力は視界を遮る白煙をすべて吹き飛ばした。

「小賢しい……真似を!」

 隊長の開けた視界が目にしたのは、瓦礫の散乱した薄暗いオフィス。
 その中にはアーニャの姿は見えない。

「どこに……」

 目を凝らして、アーニャの位置を特定しようとする隊長。
 しかしその隊長が捉えたのは、数刻前に目にした放射される光源である。

「またか!」

 それはさらに隊長の苛立ちを逆なでする。
 隊長の前方少し先に置かれたスタングレネードはワイヤーか何かが取り付けられており、遠隔でピンを抜かれたらしい。
 その円筒は閃光を発し、爆音を散乱させる。故に再び隊長は耳と目を保護する体制を取らざるを得ない。

 だが視界を潰された隊長は何かを感じる。
 それはほぼ本能に近いものであったが、躊躇なく念動力を纏わせた右腕を振るう。

 そしてそれは正解であり、その腕には何かを弾く感覚が残った。

「そこかぁああああ!!!」

 右方から接近した凶刃。
 その方向にアーニャがいると確信した隊長は回復しない二感にもかかわらず、攻撃を受けた方向に広げた掌を向ける。
 そして、圧縮。



248 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:49:28.20bV/OCKiKo (28/96)


 それだけで隊長の右手側にあるビル3階から屋上までごっそりと空気が圧縮される。
 同時にその部分のビルも圧縮され、ビルはそぎ落とされたように粉々の瓦礫と共に欠損した。

 結果として、大規模な欠落を起こしたビルは崩壊の音を立て始める。
 まだ五感すべて回復しない隊長だが、ビルが崩壊を起こし始めているのは気が付いた。







 だが、背後に迫るナイフの刃には気づかない。

 一つ下の階に潜んでいたアーニャは手持ちの軍用ワイヤーを使いトラップを作動させていた。
 罠というには稚拙なものではあったが、ビル内という乱雑な環境が不自然さを覆い隠していたのだ。

 とはいっても手持ちのワイヤーの長さでは限界があるため、初めのスモークは下の階から隙を見て投げ込んだもの。
 そしてスタンとナイフについてはワイヤーでピンを抜くだけの簡単な仕組みである。
 ナイフは独自に改造し、スペツナズナイフに近いものになっており、刃の部分が射出される。
 スタングレネードで感覚を奪えば、そのナイフが人が握っているものかどうかをかく乱させられる可能性が高くなる。

 罠は一階と四階にアーニャはしかけた。
 アーニャはもともと四階から入ってくるという予想をしていたのだ。
 そして見事に的中し、油断していた隊長は罠に掛かり隙も見せた。

 千載一遇の機会、アーニャは隊長が突入してくる際にあけた穴を利用して上の階へと上がり、隊長の背後を取る。
 手にはナイフ。それを突き立てればアーニャの勝利である。



249 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:49:58.09bV/OCKiKo (29/96)


(……これで)

 少しあっけなさも感じるほどの終わり。
 自らが望んだ結末であり、ようやく難儀な因果を断ち切ることができる。

(……これで)

 ここで隊長を殺せば万事解決である。
 プロダクションへの脅威はなくなるのだ。

『化物』

 誰かが囁く。

『きっと何も感じず殺せる。化物だから』

 きっとこれは事実だろう。
 今までのように、何事もなく、何も殺せず殺せる。
 アーニャ自身がそれを理解していた。
 だがそれを今までは気にしていなかったのに、気にし始めたからこんな声が聞こえるのだ。

『きっと殺せる。白猫なら殺せる』

 きっとこれは忠告だろうか。
 いや、きっと悲鳴なのだ。



250 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:50:28.60bV/OCKiKo (30/96)


『きっと殺せる。化物なら殺せる』

 日常に身を置き、気づく。
 人の命の重みを。

(……嫌です)

 そして日常との差に気づくのだ。
 人の命を、軽く奪えた自分との差を。
 命に対して感情を持たないというその差こそが、アーニャにとっての『人』と『化物』の差だ。

 アーニャには人の命の重さを度外視した殺ししかできない。
 だがそれは『化物』だ。
 日常の『人』ではない。

(この人は……殺さなくてはならない。でも殺すには……完全に、化物になるしかない)

 脳裏にちらつくのは、荒らされた事務所、傷ついたピィ、気絶した楓。
 そして残虐な笑みをするこの男。

(……やっぱり、殺さないと)

 走馬灯のごとく引き伸ばされていた時間は終わりを告げようとしている。
 アーニャは、グリップを握る手に力を入れる。

(……殺す、殺す殺す殺す殺す!)




251 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:51:11.60bV/OCKiKo (31/96)










 だがナイフは隊長の背の直前で止まった。

「アドナーカ……でも、『化物』は……嫌です」

 ここで自覚してかつてのごとく殺すことは、自分が『化物』であると認めること。
 自分で認めてしまえば、きっと自分は一生『化物』であるという予感がしたのだ。

 そうなったら自分は、この街で、日常で生きてはいけないのだろうとアーニャは考える。
 『人間』に混じって、『化物』は過ごせないから。

 それはアーニャには耐えられなかった。

「どうして、止めた」

 ナイフを握ったまま手を止めているアーニャを、いつの間にか振り返った隊長が見下ろす。

「どうして、止めたあああーーー!!!」

 嫌悪と激情が混じったような表情で隊長は叫ぶ。
 隊長の握った拳は、そのままアーニャの腹へと突き刺さる。


252 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:51:44.57bV/OCKiKo (32/96)

 息がつまり、苦悶の表情を浮かべながらアーニャは拳の勢いで吹き飛ばされる。
 背後にはビルの開いた大穴。

 アーニャはナイフを手放し、四階の高さからまっさかさまに落ち、体は下の道路に叩き付けられる。
 上がる土煙。その中のアーニャの顔は見えない。

「どうして、その手を、止めたんだ……」

 隊長は苦々しそうな、複雑な表情をしながら呟く。

「お前も、俺から、遠ざかるのか……」

 悲しそうな、寂しそうな瞳。
 まるで寂しがりの子供のような表情をしながら、崩れゆくビルから白煙を見下ろす隊長。

 そしてビルは崩れ、上がる土煙の中から隊長は歩いて出てくる。
 先ほどまでアーニャのいた場所には、一つの円筒状のスプレーのようなものだけ。

「スモークグレネード……また、逃げるか」

 隊長は空を見上げる。
 夜の闇の中、幽かに見える雲の動き。
 それと変わらずひらひらと降り続ける雪だけしか見えない。





 


253 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:52:36.66bV/OCKiKo (33/96)








 一つの廃墟の中、膝を抱える少女が一人。
 その影に先ほどまでの覇気は無く、小さく震えている。

「……もう、私は、殺せない」

 『人間』が『殺す』とき。
 それは罪を背負うことだ。
 その重石は一生背負う物であり、背負うには相応の覚悟がいる。

 『化物』が『殺す』とき。
 それは当たり前で、普通のこと。
 そこに責任も、後悔もない。
 死者への念仏も、弔問も必要ない。

 彼女、アナスタシアは『人間』として生まれてしまったのだ。
 もはや『化物』の殺しはできない。

「でも……隊長を、殺さないと、またみんなを、傷つけてしまう」

 今にも泣きだしそうな、かろうじて絞り出した声。
 この状況のアーニャには思いつかない。



254 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:53:07.32bV/OCKiKo (34/96)


「……いや、でも」

 だが一つだけ、手を思い出す。
 結局、隊長の目的はアーニャであることを思い出したからだ。
 そしてこれは初めから考え付いていた手段の一つである。

「ヤー……私が、隊長に、殺されれば……いいんです」

 隊長の目的である裏切り者の始末。
 それさえ完了すれば、きっと表の世界であるプロダクションに隊長は手を出さないであろう。

「これなら……きっと」

 だがそれは、アーニャ自身が犠牲になること。
 それをプロダクションの皆は許さないだろう。

「少なくとも……シューコは別かも、しれませんが……。

そう思うと、シューコには申し訳ないことを、したかもしれませんね……。

あのような、ことを言わせてしまったのですから」

 脳裏に浮かぶ、たった数か月の思い出。
 それは唯一アーニャが『人間』として生きた記憶。



255 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:53:38.37bV/OCKiKo (35/96)


 一抹のさみしさを感じるが、もはやこれ以外に術はないとアーニャは考える。
 殺せない今、自分が死ぬしかないのだから。

「ドー スヴェダーニェ……さよなら、みんな」

 『化物』の自分でも誰かのために死ねるのなら、まだ救われる。
 振るえは止まる。
 これが本当の終わり。今度こそ終止符を打つ。

 アーニャは新たに覚悟して、立ち上がった。







256 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:54:22.89bV/OCKiKo (36/96)





『あーあー……聞こえるかー?アーニャ』





 立ち上がったところで響く、謎の声。
 それはアーニャのすぐ後ろからか、隣からか発せられる。

「シトー?……なんですか、これ?」

 突如聞こえる声にアーニャは困惑する。
 しかもその声が聞いたことのある声ならばなおさらである。

『おお!よかった。ちゃんと聞こえているな』

「なぜ今、晶葉の声が聞こえているのですか……まさか」




257 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:54:55.18bV/OCKiKo (37/96)


 晶葉はふふんと鼻を鳴らしながら自信満々に言う。

『そうだ!実はそのコー「これが、『ソーマトー』と呼ばれるものですね!」

 アーニャは晶葉の言葉を遮り一人で納得する。

「ヤー……私も、ここまで未練があったわけですね……。でも私は、止まりません。イズヴィニーチェ……晶葉」

『待て待て!よくわからんが早まるな!これは走馬灯でも幻聴でもない!』

 アーニャの言葉に応えてきた声でようやく違和感に気づく。

「シトー?……じゃあどういうことですか?晶葉」

『こちらはプロダクションの事務所だ。そのコートに備えられている通信機を通じて今会話をしているのだよ』

 アーニャはその声が本物であると気づき、その言葉の音源である首元辺りを見る。
 そこには小さなスピーカーのようなものがコートに埋め込まれていた。



258 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:55:56.68bV/OCKiKo (38/96)


『前にそのコートは戦闘用の特製コートとして渡したが、意外に街が平和だったせいで機能の説明の機会を失っていたのだ』

 少し残念そうな口調で話す晶葉。だがその裏では話したくて仕方ないような感情が見え隠れしている。

『だがどうやら緊急事態らしいから手短に言わせてもらう。この龍崎博士と共同で作ったこのコートだがな。

形状記憶繊維という特別な素材が使われていて少しくらい傷ついてもしばらくすれば元に戻るのだ。

細胞分裂に似た再生方法だからもしかしたらアーニャの能力で再生が促進されるかもしれない。だから試してみてくれ。

ある程度の防弾性や、運動性は龍崎博士の保証付だ。期待してくれ。

それと私の開発した戦闘支援ブレインが搭載されている。

とはいってもこれはどこまで役に立つかはわからないし、まだ情報不足で機能として稼働するにはもう少しそれを着て動いてみてくれないと無理だろう。

さらにその他もろもろの細かな機能がある。

共同制作だが私の技術の結晶だ!うまく活用してくれたまえ』

 晶葉はひとしきり喋って、一息つく。

『あいにく今の状況はピィから聞いただけだ。どれほどの問題なのかも私にはわからない。

だが私にできることはこれだけだ。だから……。

だから、ちゃんと帰って来たまえ。

そのコートのデータも取りきれてないし、まだまだ試したい実験は残っているのだからな』




259 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:56:41.74bV/OCKiKo (39/96)


 晶葉の声からは自身の無力を嘆く心と、アーニャを信じる心が伝わってくる。
 その『帰ってこい』の言葉はアーニャの決心を揺るがす。

『じゃあ次は……って押すんじゃない!お、おいコラ……愛海どさくさに紛れて!』

 耳元でバタバタとせわしない騒音が聞こえる。
 それに混じって様々な声が聞こえてきた。



『うひひひ……せっかくみんな集まってるんだし、揉んどかないと損ってもんでしょ』
『ちょっと愛海ちゃん、今はそんなこと……。ひゃあ、今度は私!?』
『おい次のマイクはウチがもらうぞ!』
『せんせぇ、かおるも喋ってみてもいい?』
『あっ!アタシだってマイクで何か喋りたいワ!』
『結局今どういう状況なの?』
『まぁ……応援か、何かですかね?』
『聞こえるー?こちら未央ー。アーニャは元気かな?』



 声を聴く限りプロダクションに関わりのある者がほとんど集まっているようである。

「どうして……みんなプロダクションにいるのですか?」



260 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:57:16.10bV/OCKiKo (40/96)


『ああ……なんというかあの後、偶然みんな集まっちゃてな』

 そんなアーニャの疑問に答えるようにピィの声が聞こえてくる。

『事務所が荒れてた事情を話したら話したで、みんなアーニャが帰ってくるまでは帰らないとか、面白そうとか言って帰ってくれないんだよ。

全く……まいったまいった』

「そんな……隊長が怖くないのですか!?

ィエーシリェ……もし、隊長が今プロダクションに向かったら、みんな殺されてしまいます!」

 アーニャは逃げるように言うが、ピィは笑いながら言う。

『まぁ確かにその場合、他のみんなはともかく俺は確実に殺されるだろうな。

でもそんな場合はあり得ないよ』

「……どうして、ですか?」

『アーニャはちゃんと隊長に勝って帰ってくるからさ。

それにアーニャがヒーローやりたいって言い出したんだから、俺がヒーロー信じなくてどうするんだってな』

「そんな……ことで」



261 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:58:19.28bV/OCKiKo (41/96)


『俺はもともと小さい頃、テレビとかでヒーローとか主人公とかに憧れてたけどさ、

結局そう言う柄でもないし、力もないから諦めたんだよ。そして『あの日』以後も変わりなくな。

でもアーニャ、お前は違う。アーニャなら俺のなれなかったヒーローになれるから。

俺の憧れたヒーローなら、俺は絶対信じれるんだよ』

 ピィやちひろたちの全面的な信頼。
 でもさっきアーニャは『帰ってこれない』ことを決心したのだ。
 それはアーニャが皆を裏切ってしまったことになる。

「アドナーカ……でも、私は隊長を殺せない。

じゃあ、私が死ぬしか解決手段はありません……。

だから……帰ってくるなんて」

『アーニャ……別にヒーローは悪を殺すんじゃないんだ。

悪を懲らしめ、時に改心させるんだ。

時に殺すことになるかもしれないけど、それだけじゃない。

俺の知ってるヒーローは、悪に立ち向かい、悪を倒し、そして帰ってくる。

だからあの隊長の強面の顔面に一発拳入れてお帰り願え。

そうすれば万事解決だからさ』

 ピィの独自のヒーロー観と楽観的な考え。
 普通ならばそれで解決するなんて思うのは到底無理だろう。
 でも、



262 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:58:52.77bV/OCKiKo (42/96)


「それで……終わるのですか?」

『ああ、アーニャならできる。

それだけの力を持っているはずだから』

 自分が死ぬしかプロダクションを守るすべがないと思われていた状況の中のこの言葉。
 皆のアーニャの帰りを望む声と合わせると、こんな無謀な解決方法でもどうにかなりそうな気がしてくる。

『だから、帰って来いよ。アーニャ』

 考えは、変わる。

「……ダー、わかりました。

悪に立ち向かい、悪を倒し、帰ってくる。

ヒーローならば、できることですね」

 アーニャは再び前を向く。
 今度こそ、隊長との決着を付けに。



263 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 21:59:31.92bV/OCKiKo (43/96)


『おーい、くれぐれも無茶はするな「ガーガガー……」

あれ「ガー……」しがおかしくなってるな?

こしょ「ガー」か?』

 晶葉の声がノイズと共に聞こえてくる。
 やはり何度も衝撃を受けたせいで、通信機が故障したのだろう。

『まぁ「ピー」いさ。ちゃんと帰ってくるんだぞ「ガガーピーブツンッ」』

 その言葉を最後に通信は切れる。

「……自分の意志だけではだめでも、周りの声は可能性をくれる。

一人で背負わないで、誰かと相談すれば……手段はいくらでもあるのですね。のあ」

 もはやアーニャは一人ではない。
 手持ちの武装はもはや尽きてはいたが、それ以上の武器を手に入れたから。

「イェショー ニェムノーガ……もう少し、もう少しだけがんばりましょう……」







264 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:00:11.53bV/OCKiKo (44/96)








「また小細工でもしてくるのかと思ったが、素直に出てくるとはどういう作戦だ?」

「ニェート……いえ、特に作戦なんてないです」

「これはまた……俺を嘗めているのか?」

「まさか……あいにく私に、そんな余裕はありません。それに嘗めているのは……あなたでしょう?」

「……あいにく俺はいつも全力だ」

「……何を言ってるんですか隊長?あなたは、もっと……型破りで、常識はずれで、、意味不明です。

それだというのに……今日は随分型に収まっている、感じですね」

「ほざけ、それで手も足も出ないのはどっちだ」

「ダー……そうですね。まったく、その通りです」

「ふん……じゃあこれは白旗でも上げに来たってことか?」

「…………ニェート。私は……勝ちに来ました」

「……よくもまぁ、な。勝算は?」

「……勝ちは、勝ち取るものですよ」

「……上等だ!」



265 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:01:14.64bV/OCKiKo (45/96)


 その声を合図に、向かい合った二人は地を蹴り飛び出す。

「УУУУУраааааааааааааааааааааааааァァァァァァアアアア!!!!!!」

「オオオォォオオォォOOOOOOhhhhhhhhhhhRRRaaaaaaaaaaaaaaァァァァァァァアアアアア!!!!!!」

 感情籠った叫びと共に両者ともに突き出した拳は正面から激突し、衝撃で空気はうねる。

 しかし隊長の拳の方が数段威力は上であった。
 耐え切れずアーニャの腕は骨の折れる音を響かせながら後方に吹き飛ぶようにのけぞる。

 だがアーニャは意も介さず、すぐに隊長の懐へと潜り込む。
 空いていた拳をすぐさま隊長の体に打ち込もうとするが、隊長はすぐにそれを腕で防いだ。

 アーニャはそれも気にせず、吹き飛ばされた方の腕をすでに完治させており、それで再び一撃入れる。
 それも防がれてしまうが、気にしない。
 そのままアーニャは隊長の目の前でインファイトをする。

 だがそれをずっと許すほど隊長も甘くはない。
 隊長を中心に嵐のような衝撃波が発生、アーニャはそのまま押し戻される。
 それでもアーニャは止まらない。すぐに接近しようとする。



266 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:01:51.39bV/OCKiKo (46/96)


 隊長は念動力の『手』を出現させてアーニャを捉えようとするが、それも躱される。
 躱した低い体勢から、足払いをアーニャは繰り出すが隊長はその場で飛んで避けた。
 そして隊長は重力に加え、上からかかる力を自身に加えて落下速度を速める。

「……ぐぅ!?」

 それだけでアーニャの足払いしてきた脚に着地し、その脚を粉砕する。
 このままでは移動もままらない上、追撃されると更なる不利になってしまう。
 残った脚と両腕を使い一歩分、その場から飛び退いた。

 だが隊長は『手』を使ってアーニャを追い立てる。

「なっ……」

 このまま一歩だけの飛び退きでは確実に捉えられてしまう
 半ば強引にだが、地面に着いた両の腕をばねにして、着地は全く考慮せずにさらに後方へと跳ぶ。
 それによって、その『手』はぎりぎりアーニャに届くことはなかった。

「もう、一丁!」

 だがその『手』とは別に新たに出現した『手』がアーニャの全身を左方から捉える。
 全身にかかる圧迫感。そして次の瞬間には全身が丸めたチリ紙のごとく圧縮される感覚と共に視界が真っ暗になる。

 それでも悠長にしてはいられない。
 ほぼノータイムで全身を再生させる。
 大幅な力の消費は、アーニャの意識を暗転させようとするが、気合いで耐える。
 脳が揺さぶられるような不快感は残るが、それでも止まれない。



267 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:02:27.02bV/OCKiKo (47/96)


「……まだ、まだ!」

 その後も、何度も隊長に挑んでいく。
 全身を天聖気で強化し、傷ついたのならばすぐに回復。
 それでも、腕は吹き飛ばされ、脚は砕け、内臓さえも何度も潰される。

 そしてそのたび、意識が飛びそうになりながらも体を再生させる。
 頭は吹き飛ばされようとも、全身の半分以上が欠損しようと、いくら即死級の攻撃を受けたとしても。
 治して直して復活(なお)して、そして立ち向かう。

(まだいける……まだいける。

一撃入れるまでは、何度でも、何度でもやって見せる)

 すでにアーニャのこれまで考えられていた限界回復量をゆうに超えていた。
 それでも何度も、体を再生させて、変わらぬ闘志で向っていく。

(どうして、こいつは止まらない?)

 逆にアーニャを殺して壊して吹き飛ばすたびに困惑していくのは隊長であった。
 これまでのアーニャならばこのような不毛なことはしなかった。
 だがこの無意味で、無謀な突撃をアーニャが繰り返すたびに隊長の疑念は膨らんでいくのだ。



268 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:03:07.98bV/OCKiKo (48/96)


「お前は……何がしたい!?

こんなこと俺は教えていないぞ!お前はいったい何を見ている白猫!?」

「私は……あなたに勝って、帰るんです!」

 それでもいずれ限界は来る。
 挑むたびに傷つき、それを回復させるたびに思考にはもやがかかり、脳は熱を帯びていく。
 視界は徐々にぼやけ、平衡感覚さえもおぼつかない。

「ま……だ、まだ……いけ、ます」

 全身の服はボロボロであり、コートの再生に回す力など残っていない。
 それでも立ち上がり、ふらふらと隊長に向かっていく。

「お前は……」

 もはや隊長は力さえ使っていない。
 攻撃しようとするたび、それを避け、軽い蹴りで押し戻すだけだ。

「どうしてそこまで」

「ヒーロー……は、勝たなくちゃ、いけないんです」

 そしてなおも向かってくる。
 隊長はそれに対して『手』で押しつぶす。

 それだけでアーニャの全身の骨を砕き、絶命へと至らせる。
 そしてそれでも、自らの体を回復させる。もはや生き地獄とも言ってもいいほどの苦行を何度も行うのだ。



269 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:04:01.01bV/OCKiKo (49/96)







 もはや限界であった。
 体には痛みはなくとも、疲労感で体は全く動かない。
 力の消耗によって意識さえも手放しそうで、瞳を閉じたら深い眠りについてしまいそうなのを必死にこらえる。

(まだ……もう少し……それでも)

 だが一回、瞬きをしてしまう。
 その瞬きは一気にアーニャをまどろみの中へと引き込んだ。

(駄目……です)








270 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:04:32.78bV/OCKiKo (50/96)







「お疲れ様ね。アーニャ」

 そんなアーニャにふと聞こえてきた一つの声。
 その女性の声は聞いたことがないのに、なんだか懐かしい感じがする。

 そしてその声ではっとなったアーニャは眼を開けるとそこにはさっきまでいた廃墟群の只中ではなかった。
 穏やかな日差しが差し込む林の中であり、眼前には真っ白な教会が存在している。

 そしてその前に立つ女性が一人。
 美しい黒髪を伸ばした女性はアーニャの方を見ながら微笑んでいる。

「……ここは?」

 そんなアーニャの疑問に女性は答える。

「ここは……夢の中、とでも言えばいいかな?」



271 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:05:20.42bV/OCKiKo (51/96)


 その言葉にアーニャの混乱している頭は現在の現実での状況を思い出す。

「そうです!んっ……」

 隊長との戦いの最中であることを口に出そうとするが、いつの間にか目のすぐ前にいる女性の人差指に口を押えられる。

「別に慌てなくていいわ。

少しくらいゆっくりしても、ここでは問題ないのよ」

 女性は優しい口調で言う。
 なぜかアーニャはそれに納得してしまった。

 アーニャは落ち着いてきたのか周りも見渡す。
 自分の夢の中であるはずなのにこの場所に覚えはない。でもなぜか懐かしさは覚えるのだ。
 穏やかな時間が流れており、気を許してしまえばずっとここでのんびりしていても苦でもないような感じである

「じゃあ……何から話そうかな?」

 目の前の女性は人差指を口元に充てて考えるしぐさをする。
 アーニャはそんな女性に質問を投げかけてみた。

「ヴィー……あなたは、なんなんですか?」



272 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:05:56.52bV/OCKiKo (52/96)


「私?えーっと私はなんていうのかしら?

あなたの守護霊とでも言えばいいか……それかあなたの監視とでも言えばいいのかな?

まぁともかく、ずっとアーニャのことを見守ってきたの」

「ヤー……私、を?」

 アーニャのことをずっと見守ってきたということは、これまでのことを知っているということである。
 この女性がどこまで信用できるのかわからないのにアーニャはなぜかすんなりと受け入れることができた。

「そう、ずっと。

監視っていうのは、アーニャに力を与えた人、まぁぶっちゃけちゃえばとある神さまなんだけどね。

その人から頼まれたの。アーニャの監視を。

まぁ私としてもその方が都合がよかったからいいんだけどさ」

「か……かみさま?」

 突然の暴露にアーニャは頭がついていかない。
 それでも女性は気にせず話を続ける。



273 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:06:31.98bV/OCKiKo (53/96)


「ていうか私あの人にアーニャのことを任せたのに何なの?

変な育て方するし、アーニャが家出したかと思えばそれを追ってくるしわけわかんないわまったく……」

 女性はなぜか勝手に誰かにぷりぷり怒っている。

「ああ、ごめんねつい愚痴みたいになっちゃって。

それで今回はね、きっとあなたは私のこと多分はじめましてなんだけど、実は今日でお別れなの」

「ど、どうして……ですか?」

 そして突然の別れの話。
 アーニャの頭はさらに混乱する。

「もうあなたに、監視は必要ないってことよ。

あなたがもう監視なんてしなくても十分やっていけるってことがわかったからね。

だから私は、あなたの力をあなたにすべて渡して、さよならするの」



274 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:07:11.70bV/OCKiKo (54/96)


 アーニャにはその別れの言葉がなぜか悲しい。
 この女性とは初対面なのに、ずいぶん長い付き合いの人との別れのように、なぜか涙が出てきた。

「ルヴァーチ?なんで……涙が?」

 そんな様子を見た女性は腕でアーニャを抱きしめる。

「ごめんね……。私ももっと一緒に居られれば良かったんだけど、私にも行かなくちゃならないところがあるから。

でも大丈夫。あなたにはいっぱいのお友達が、いるでしょう?」

 女性はアーニャの目をまっすぐ見ながら言う。

「あなたのことを応援してくれる人もいるけど、あなたのことを心配する人もいるってことを忘れちゃだめよ。

今日みたいな無茶は、そんな人たちのためにもほどほどにしなさい。わかった?」

 アーニャはその言葉が心にすっと入ってくるのがわかる。
 そして無言で肯いた。



275 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:07:46.43bV/OCKiKo (55/96)


「よしっ!じゃあ行ってきなさい。

最後に、えーっと、ご飯はちゃんと食べるのよ。それから病気には気を付けること。

それからひとさまには迷惑をかけないことと……それからそれから」

「……もう少し、落ち着いて話したらどうですか?」

 何を言おうかあたふたしている女性に対して、苦笑しながらアーニャは言う。

「……そうね。もうあなたは子供じゃないんだからね」

 アーニャのその言葉を聞いて、落ち着いたのか女性は微笑む。

「じゃあ最後に、お使いを一つ。

隊長さんに、『ごめんなさい。あなたの想いには答えられません』って伝えて。

私には愛する夫も、子供もいますから」

 別れの時間が近いのか、周囲の風景が光に溶けていくのがわかる。
 女性は抱いた手をほどいて立ち上がる。
 アーニャもその女性のように立ち上がった。

「ダー……わかりました。伝えます」

 そしてアーニャは女性に背を向ける。

「これで、お別れね。

いってらっしゃい。私の愛しいアナスタシア」

 女性はそう言って手を振る。
 アーニャは振り返り、微笑みながら言う。

「行ってきます。ママ」






276 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:08:26.55bV/OCKiKo (56/96)








 隊長は目を瞑って眠るアーニャを少し離れた位置から見下ろしている。

「俺にはわからない……結局いつまでも、手は届かないのか?」

 ふとつぶやく、そんな言葉。
 隊長にとって、手に届く位置にいるはずのアーニャがなぜか遠い。

「……結局、あなたは、なんなのでしょう?」

 そんな隊長にふと掛かる声。
 その声を聴いた隊長は再び、意地の悪い笑みになる。いや、そんな笑みを取り繕う。

「なんだ。もうギブアップかと思ってたぞ。

まだ俺を楽しませてくれるのか?」

 アーニャはゆっくりと立ち上がって、その言葉に対して首を横にを振る。

「……これで、終わりにしましょう。……あなたも、わたしも」



277 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:09:04.25bV/OCKiKo (57/96)


 アーニャの手の甲から、ポタリポタリと落ちる血液。
 それは地面に落ちて小さな赤い染みを作る。

「終わりだぁ?

終わらねぇよこれは。俺と、お前の関係はな」

「ニェート……もう、終わらせないと、いけないのです」

 アーニャは自身の掌を眼前に持ってくる。
 その掌には、トランプのダイヤのような形の赤く塗りつぶされた傷口。
 それを握りしめ、瞳の矛先を隊長へと向ける。

「Давайте положить конец.…… Командующий(終わらせましょう……隊長)」



278 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:10:28.26bV/OCKiKo (58/96)


 アーニャを中心に、広がる光。
 全身からほとばしる天聖気は可視化できるほどの閃光を生み出す。
 体外へと放出された天聖気は翼のような形を作り、高密度のエネルギーとして天へと延びた。

「特徴的な傷口、そのあふれ出る天聖気……。

まさか聖痕?じゃあお前は聖人ってことか?」

 ここで隊長は初めて合点の合ったような顔をする。



「なるほど、能力の仕組みはそいつか。

”復活”の天聖気、そういうことか。

『復活の少女(アナスタシア)』!!!」



 かつて救世主(メシア)が起こした奇跡の一つ。
 死後の復活。生き返り。その奇跡が彼女の中で”天聖気”として循環している。
 だからこそ、死んでも復活する。死なない、ではなくそのたびに生き返っているのだ。

 かつて隊長は『聖人』を相手に戦ったことがあった。
 だからこそ、このことを知っていたし、『聖人』の『聖痕解放』の弱点も知っている。

「そんなとっておきがあるとは、驚きだ!」



279 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:11:28.83bV/OCKiKo (59/96)


 隊長は両の手に対応した『手』を作り出し、アーニャへと飛ばす。
 だがその『手』はアーニャの手前でバリアに弾かれるように、掻き消える。

「さすがだ!……だが」

「ヴィー……あなたは、いつまで続けるのですか?」

 その言葉を聞いて隊長は攻撃の手を止める。
 そしてふと周りを見渡してみた。

 アーニャの光は夜の闇を照らし、降りゆく粉雪は光を反射させて輝いている。

「これは……」

 まさにそれは地上に振りゆく星屑の様。
 隊長はそれの一つに手を伸ばして、握りしめる。
 その手の中には雪の冷たさだけでなく、なぜか暖かさも感じた。

 これまでどんなに手を伸ばしても届かなかった星々。
 それは自分には絶対に手の届かないもであると思っていた。
 だが今、それはこんなにも近くにある。


「星は……こんなにも近くにあったのか。手を伸ばせば……届くほどに」


 隊長はぽつりと呟く。



280 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:12:25.60bV/OCKiKo (60/96)


「隊長……あなたが、欲しかったものは……」

 アーニャの声を聞いて、隊長は、少しの間目を閉じる。

 そして目を開けてアーニャの方へと向く。
 その瞳に映るのは、アーニャの姿。
 それと、かつて手の届かなかったあの女性の像。

 二つは重なり合って、隊長の前に立っている。

「そうだな……終わらせよう」

 全てを悟ったような、隊長の声。

「お前に、俺はもう必要ない。……いや、お前にとって俺は不要なのだろう」

 この星屑振りゆくゴーストタウンに響く地響き。
 隊長の後方にあった、比較的大きめのビルディングは振動と共に宙へとせり上がっていく。

「だが、ここでお前を素直に帰してやるほど、俺は諦めはよくないんでな!」

 隊長の周囲を渦巻く念動力。
 それは力の行使の余波であり、それが及ぼす対象は別である。
 目視した限りかなりの高さがあったと思われるビルは隊長の頭上を加速しながら天へと昇っていく。



281 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:13:06.39bV/OCKiKo (61/96)


「卒業試験だ、アナスタシア。

今から俺はあのビルを空に打ち上げて、その後加速させながら落とす。

あの質量を相応の速度を持って墜落させれば、さながら大質量の隕石と同等だ。

被害はこの憤怒の街だけでは済まないだろうな」

 挑戦的な口調でつづける隊長。
 アーニャはそれを黙ってみている。

「このどうにかして防ぐことができれば、お前の勝ち。好きにするがいいさ。

だが防げなかったとき、お前はどうする?

お前は死なずとも、無関係の人間は大勢死ぬだろう。

俺はそれに対して心が痛むことはない。俺は化物だからな。

さぁなんとかしてみろヒーロー!俺という障害を、乗り越えて見せろ!

アナスタシア!」

 その言葉と同時に隊長の体はサイコキネシスによって浮かび上がる。
 さらに余波による、念動力の暴風は小さな瓦礫や砂を巻き込んで竜巻のように隊長の周りを回り始めた。



282 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:14:31.38bV/OCKiKo (62/96)


「カニェーシュナ……もちろん、全部守ります。

……あなたを超えて、私は前に進みます!」

 アーニャを包む天聖気はさらに輝きを増す。


「言っておくが、ビルが摩擦によって質量が減衰するなんて期待はするなよ。

俺は、徹底的に、常識を壊してやる」


「なら……私は、徹底的に、常識を、日常を守ります!」


 言葉の明確な対立。
 それを合図に、アーニャは地を蹴り、隊長へと突撃する。



283 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:15:19.00bV/OCKiKo (63/96)


 隊長は、大量の『手』を生み出しあらゆる方向から、アーニャを掴んで圧死させようとする。
 しかし翼のような天聖気の放出はブースターのような役割を果たし、その勢いだけで『手』の弾幕を突破した。

 それに対して隊長も動揺を見せることなく拳に念動力を纏わせてアーニャを迎え撃つ。
 向かい合う両者の拳の応酬はぶつかり合い、衝撃の余波を生む。
 しかしそれでもお互いに決定打は与えられず、拳の弾丸が数秒間行き交う。

「こいつは、どうだ!」

 その膠着状態を裂きに破ったのは隊長であった。
 一歩後ろに下がって、念動力で地面に舗装されていたアスファルトを強引に板のように引きはがす。
 アーニャを挟むように立ちあがった二枚の石版は加速してアーニャを挟み撃ちにする。

 アーニャは両手の平を広げた状態でを板に向けて差し出す。
 高密度の天聖気を纏った両腕は、二枚の石版に圧迫されることなく貫いた。

「囮だ馬鹿め!」

 二枚の石版を貫通した穴から見えたのはさらに巨大な壁。
 隊長は石版によってアーニャの視界をふさいだ後に、二つのビルを念動力で引っこ抜いて石版の陰にしながら、さらに挟み撃ちにするようにしてきたのだ。

「これ、でも、まだ!」

 アーニャはそれも先ほどと同様に防ごうとする。
 しかし今度の質量は先ほどの比ではない。
 アーニャの何千倍もの物量が両側から圧殺しようと迫ってくるのだ。

 いくら『聖痕解放』で大幅な身体上昇と運動量ブーストしようとこれはさすがに無理である。
 アーニャはその両側からの攻撃に耐えきれず、押しつぶされた。



284 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:15:55.70bV/OCKiKo (64/96)


 勢いよく加速してアーニャを潰して衝突したビル同士は、その衝撃で粉々に砕ける。
 だが隊長もこれで終わりだとは思っていない。

 きっとあの瓦礫の雨の中から体をすぐさま再生させてこっちに向かってくるだろう。

 だがここで隊長はほぼ本能で、しゃがみ込む。
 先ほどまで自身の頭のあった場所には人体を一閃せんとローリングソバットが過ぎていく。

「こちら、です!」

 いつの間にか隊長の背後に回っていたアーニャの蹴り。
 この瞬間移動に隊長は疑問で脳を埋め尽くされながらも、すぐさま『手』を出現させる。

 アーニャはそれにすぐに捕まって、圧掌によって潰される。

「いったいどこから?」

 隊長が忌々しげにそう呟いた時、視界の端に動く影。
 それに反応して何とか防御態勢をとるが、念動力を纏うのは間に合わず、腕に強烈な衝撃が走る。

 そこでようやく何が起きていたのははっきりした。
 隊長が振り向いて目にしたのは、体を再生させながら拳を振るうアーニャの姿だったからだ。

「くっ……そうか。周囲には散布した天聖気で充満しているからか……」

 アーニャが放出させている天聖気によって、周囲は”復活”の天聖気で充満していた。
 故に全身が潰されて死んだとしても、その範囲内ならば好きな場所に再び自分を復活できるということだ。



285 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:16:33.96bV/OCKiKo (65/96)


「ふざけて、やがる……」

「……あなたに、言われたくはないです」

「だが……死なせなけりゃ、それは使えない!」

 今度は隊長から接近しインファイトへと持ち込む。

「殺さない程度に、削ればいいだけだ!」

 お互いの正面からの打ち合いの中で、隊長は念動力の刃を発生させる。
 鋭利な刃ほどに念動力を圧縮して精錬すると空間が歪み視覚でとらえやすくなるという弱点はあるがこの際気にしない。
 小さな刃は、アーニャの四肢を切断しようと迫る。

「こん、な、ことで!」

 その不意打ちレベルで織り込んできたその攻撃をぎりぎりアーニャは避ける。
 しかしそれは、隙を生んでしまう。
 避けた際の体の移動によって隊長の拳がアーニャの右肩に直撃した。

「ぐぅう……ああ!」

 その一撃によって肩の骨が砕ける音と共に、後ろへと吹き飛ばされる。

「ようやく、しっかり当たったな」

 拳を振り抜いて、隊長は少し満足そうな顔で吹き飛んでいくアーニャを見ている。
 アーニャは、骨を再生させつつ仰向けで吹き飛んでいる状態から体制を整える。
 そして地に足を着けて、後方に滑りながらブレーキをかけて吹き飛ばされた衝撃を殺した。

「この程度では……終わりません」



286 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:17:33.99bV/OCKiKo (66/96)


「あいにく……時間切れだ、アナスタシア」

 隊長はすぐにも向ってこようとするアーニャを制止して、人差指を上へと向ける。
 それにつられて上を見れば、そこに何があるのか自ずとわかった。

「あれは……」

 雪雲に遮られ全貌はわからないものの、轟音と共に何かが飛来してきている。
 そしてこの状況で落ちてくるものはただ一つ。

「さっき打ち上げたビルはそのまま大気圏を突破した後に、十分な距離を稼いだ後に再び加速しながらこの地球に飛来する。

ごちゃごちゃした細かい理屈は無視させてもらうが、威力を落とすつもりはない。

あれだけの質量を、摩擦で減少させることなく充分な速度を持って衝突させるんだ。

充分、戦術核兵器並の破壊力はでるだろうな」

 接近してくる音は次第に大きくなり、空気は震える。

「もうここまで来てしまえば俺を止めても、あの隕石もどきは止まらない。

地表との衝突を待つだけ。

さぁどうする?アナスタシア。

残された選択肢は、あれをお前が止めるしかないぞ」



287 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:18:07.24bV/OCKiKo (67/96)


 隊長のその声と共に巨大な火球が雪雲を貫いてくる。
 その衝撃によって空を覆っていた雲は吹き飛ばされ霧散した。

「当然……止めます!」

 隊長から視線を外してすぐに近くにあった廃ビルへと走る。
 全身からの天聖気の放出によって加速していき、アーニャはそのビルの壁を垂直に駆け上がった。

 そして屋上までたどり着き、上空を見る。
 保護するための念動力と、摩擦による炎が混じり合うビルは隕石というよりも、もはやミサイルに近い。
 それは目前まで迫っており、もう一刻の猶予もない。

「アプサリユートナ……絶対に、絶対に止めて、みせます!」

 その迫りくる火球に向かい両手を差し出し広げる。
 背の光翼はさらに大きくなり、羽ばたくようにうねる。
 それと同時に両手からは膨大な閃光を生み出しながら天聖気が放出された。

 そして膨大な力同士は衝突して、拮抗する。
 アーニャが足を着けているビルの屋上は、その衝撃に耐えきれず亀裂が走った。

「く……ううう……あああ!!!」

 アーニャはそれでもなお、押され始めていることに気づく。
 もはや自身の限界くらいの天聖気を出力していたが、それでも受け切るには足りないのだ。



288 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:18:53.17bV/OCKiKo (68/96)


 アーニャの手に出ていた『聖痕』は腕全域をすでに侵食し、力を行使するたびに尋常ではない速さで傷は広がっていく。
 『聖痕』が全身に行き渡った時、それが完全な時間切れである。

「まだ……行ける。限界なんて……超える、ものですから!」

 それでも、さらに力を振り絞った。
 全身から放出される光は輝きを増し、夜の闇で包まれる憤怒の街を照らす。

 体の『聖痕』はさらに進み、その傷口はずきずきと痛みを発する。
 体中は痛みでいっぱいで、疲労した精神は警告として頭痛やめまいで現れる。

「アドナーカ……それでも、ここで、ここで守れずに、誰がヒーローですか!」

 これを止めなければ、多くの犠牲者が出るのだ。
 ヒーローとしての矜持としてこれを止めて、隊長に勝ち、アーニャは帰るのだ。
 帰りを待つ皆の元へと。




「うううぅらああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 


289 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:19:29.21bV/OCKiKo (69/96)


 自身の力を出し切るための咆哮。
 巨大な閃光と共に、膨大な天聖気がエネルギーとして隕石と化したビルとぶつかり合う。
 それは墜落の威力を上回り、降りゆくビルは原形を保てず爆発させる。
 その際に太陽のごとくの爆風が憤怒の街の夜空に広がった。

 同時にアーニャの足場にしていたビルも耐えきれず崩壊を始める。
 天聖気の光とビルの爆光が収まるころにはそこら中に瓦礫の雨が降り始めた。

 アーニャの立っていたビルは崩れ去り、土煙を上げ中がどうなっているのかはわからない。

「やはり、防ぎ切ったか」

 隊長はアーニャが埋まっていると思われる土煙が上がるビルの倒壊跡をじっと見ている。
 その瞳の中に覇気はない。

「お前の勝ちだな。アナスタシア。

お前に俺は、必要ない」

 そして背を向けて、その場から去ろうと歩き出した。





 


290 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:19:59.49bV/OCKiKo (70/96)





 だがわずかに風を切る音に隊長はとっさに振り向く。

「これが……最後です!」

 そこには全身に『聖痕』が行き渡り、顔面まで血に濡らし、全身から血をまき散らしながらも、拳を振り上げたアーニャの姿だった。
 本来ならもはや限界。『聖痕』は全身に行き渡った時点で天聖気の供給はなくなり意識も保てるはずがないのだ。

 当然アーニャからは天聖気はほとんど感じられない。
 もはや力は出し切って完全に枯渇しているのが目に見えてわかる。

 それでも、アーニャは立ち上がり拳を振り上げる。

「一撃、入れて、終わり!」

 完全に不意を突かれた隊長は急いで防御態勢を取ろうとした。
 だがなぜか体は動かない。
 そのまま拳は隊長の頬に入り、アーニャはそれを今できる渾身の力で振り抜いた。



291 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:20:44.14bV/OCKiKo (71/96)


「ぐぅ、がはっ!」

 隊長はその衝撃で、叫び声を上げながら受け身も取れずにのけぞる。
 そして大の字の態勢で、空を見上げながらその場に倒れた。

 アーニャはそんな隊長を見下ろしながら、血濡れの顔で静かに言う。

「『ごめんなさい。あなたの想いには答えられません』……あなたへの、伝言です」

 その言葉を最後に、アーニャも糸が切れたようにぱたりと倒れた。
 それなのに隊長は、呆然としたまま空を見上げ続ける。

 空の雪雲はさっきの衝撃で散ってしまい、今見えるのは透き通る星空である。
 この街には今光がないので、街中で見るよりも星がよく見えた。

「まったく、最後に手痛い置き土産してきやがって……」

 隊長は夜空を望みながら呟く。
 脳裏に映るのは、あの女性と共に見たかつての星空。






292 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:21:15.67bV/OCKiKo (72/96)




――――――
――――――――
―――――――――――


 周囲には杉林で覆い尽くされている。
 地面はところどころに落ち葉の茶色が見えるがほとんどは雪によって白く染め上げられており、同様に木々も雪を被っている。

 そんな木々の間をある男は歩いていた。
 歩調は特に速くもなく、まるで当てがないように林の中を進んでいく。

 口から出た息は、外気に触れた瞬間白く染まる。
 それだけでこの場の寒さを物語る。

 男はふと、空を見上げる。
 薄い白い雲に覆われた空からは幽かに太陽が透けて見える。
 薄暗くはないが決して太陽ははっきりとは顔を見せない、そんな天気。
 まるで自らの目的をはっきりと持てない自分のようだと男は思った。

 そして再び歩き出す。
 ふらふらと、さながら幽鬼のように林の中を男は進んだ。



293 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:21:46.82bV/OCKiKo (73/96)


 そんなとき、ふと男の前方に開けた、広場のような場所を見つけた。
 そこにはさほど大きくない、それでも厳かな雰囲気は崩さない教会が見える。

 男はまるで引き寄せられるかのように、教会の方へと歩いていく。
 そして男は、近づいたことによって教会の壁にもたれかかる一つの人影を目にした。

 偶然、空を覆っていた白色の雲の間から太陽が一筋の光を差し込ませる。
 その光はその人影に当たるように差し込んだ。

 その人は光が周囲の雪に反射していたからかもしれないがキラキラと輝いて見える。
 男はその美しさに惹かれるように、ゆっくりと近づいていった。

 しかし、途中で枝を踏んだのかぱきりという音が鳴る。
 その音に気が付いたのかその人影、女性は男の方を向いた。

 女性は驚いた表情をしていたが、その音を鳴らした人物が人であることがわかると安心したかのように男に微笑みかけてくる。

「こんにちは。今日も寒いですね」

 その笑顔は男にとっては眩しくて見ていられないようなものであったのにもかかわらず、目を離すことができなかった。



294 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:22:22.73bV/OCKiKo (74/96)


***

 小さな一軒家の前の通りで男は、一人のコートのフードを深くかぶった別の男とすれ違う。
 そしてフードの男を去っていく。残った男の手のひらの中には一枚のメモ。

「二二○○任務開始……か」

 そこに書かれていたことを男は小さく読み上げる。

「あら、どうしたんです?

寒いのに、わざわざ外に出て。」

 背後の家から一人の女性が出てくる。
 それに気づいた男は慌ててメモをポケットにしまった。

「ああ……いえ、えーと……星を、見ていたんです」

 男は言い訳を適当に見繕って言う。
 少し不自然さが残っていたが、女性は気にしなかったようだ。
 そのまま女性は男の隣まで来る。

「ああ、確かにここら辺は都会に比べて、星がよく見えますからね」



295 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:22:51.64bV/OCKiKo (75/96)


「……ええ、そうですね。

あなたの方は、お子さんはいいのですか?」

「はい、主人が寝かしつけてくれてますので今は大丈夫です。

それにしてもジョンさんも大変ですね。バックパッカーで、北海道のこんな田舎まで来るなんて」

 女性はそう言った自由な旅に憧れているのか、少し目を輝かせながら言う。
 男はそれに苦笑しながら答えた。

「いえ……もう慣れっこなんで。

それにしても助かりましたよ。宿も見つからずに困っていたところに泊めていただけるなんて」

「困ったときはお互い様です。

あなたが作ってくれた料理、おいしかったですよ」

 女性は微笑みながら上目使いに言う。
 純粋な目で見られ男は少したじろぐが、その目を吸い込まれるように見つめる。

「いえ……僕は、まだまだですよ」



296 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:23:19.58bV/OCKiKo (76/96)


「謙遜しないでください。味にうるさい主人が絶賛していたんです。

私が嫉妬しちゃうくらいだわ」

 そんなことを言いながらも楽しそうな表情をする。
 彼女の笑顔を見て、これからすることを思い出して少し、悲しくなった。

「本当に、あなたと出会えてよかったわ。

あなたみたいな、とってもいい人に出会えて」

 女子は屈託のない笑顔を男に向けてくる。

「ええ……僕も、よかったです」

 はたしてその言葉は、会話をつなぐために言ったのか。
 いや、きっと今考えれば、あれは心からの本音だったのだろう。



297 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:24:00.31bV/OCKiKo (77/96)


***

 炎に包まれた教会の中、男と赤子を抱えた女性は向かい合う。
 すでに入り口は焼け落ちた柱によって塞がれていた。

「惜しいな。大したべっぴんさんだが、人妻とは……」

 男はできる限り無感情でそう言おうとする。

「本当に……あんたは、きれいだ」

 そんな男の呟きは燃え盛る炎の音にかき消される。
 女性は、もはや絶体絶命の状況だというのに、男に微笑んでいた。

「あなたの、あなたたちの目的はこの子でしょう?ならば頼みがあります」

 女性は男に依然柔らかい表情で言う。

「俺にそれを頼んで聞くと思っているのか?

お前の夫を殺し、この村さえも滅ぼした俺たちが最後の情けにお前の言うことを聞くとでも?」

 女性は抱いている赤子をぎゅっと抱きしめる。

「確かに、他の人たちは機械のように、冷徹な人ばかり。でもあなたは、きっと本当に優しい人なの」



298 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:24:39.73bV/OCKiKo (78/96)


「目の前で、お前の夫をミンチにした男にそれを言うか?あんたまるで聖女だよ。ほんとに聖女みたいだ。いらいらする」

 そんな男の言葉に対して、女性は微笑む。

「だって、あなたにしか頼めないでしょう?

わたしが望むのはこの子の幸せ。だからこの子を幸せに導いてあげて」

 女性はこんな状況でも静かに眠る赤子の顔を覗き込んだ。

「そしてできるなら、あなたにも幸せを……」

「……ふん、まぁ考えておいてやる」

 ぶっきらぼうに男は言う。だがその表情は炎の逆光によってよく見えない。
 その言葉に満足したのか自らの子を抱く腕を緩める。

「頼みますね。

この子の名は、アナスタシア」

 女性は腕の中の赤子をそっと男に差し出す。
 男は赤子を受け取って、その武骨な腕で抱いた。

「あなたなら大丈夫。

だってあなたは、いい人だもの」

 女性はその言葉を本当に輝くような笑顔で言う。

「俺は……」



299 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:25:12.50bV/OCKiKo (79/96)


 女性のその言葉に応えようと赤子を見ていた顔を上げる。
 だがその目に映るのは、焼け落ちた天井が、女性に今まさに落下せんという時だった。

「ありがとう」

 その言葉を残して、女性は炎に包まれ落ちてきた天井の下敷きになった。
 ずっと無表情だった男はそこで初めて、困惑のような、驚愕のような表情を浮かべた。

「任務……終了」

 男は感情を押し殺したような声で、その言葉を絞り出した。

――――――――――――
――――――――――
――――――――




 


300 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:26:05.14bV/OCKiKo (80/96)





 星空は依然変わりないのに、周囲は随分と変わった。
 結局隊長は、ずっと彼女の影を追い続けていたのだ。

「全く……。

子には振られ、親にも振られ、本当に散々だぜ……。

だが……なんだか、悪くない」

 隊長は星空を見上げながら、優しく微笑んだ。





 


301 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:26:38.33bV/OCKiKo (81/96)



 隊長はアーニャを背負いながら、静かな夜の街を歩く。
 アーニャの全身に回っていた『聖痕』による傷はすでに全て塞がっていた。
 憤怒の街とは違って、街灯に照らされており道は明るい。

「ようやく、終わったね」

 そんな帰り道の途中、一本の街灯の下で塩見周子は待っていた。

「なんだ女狐。こいつの迎えか?」

「まぁ……そんなところかな?」

 周子は耳と尾を出しており、いつでも臨戦態勢に入れることは伺える。
 だが殺気は発しておらず、あっけらかんとした態度であった。

「それにしてもよ、終始頭ン中のトラウマみたいな部分刺激してきたのはお前の仕業か?」

「あれ?気づいてた?

まぁちょっとしたそんな感じの妨害するしかアタシにはできなかったけどね」



302 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:27:21.70bV/OCKiKo (82/96)


 周子は二人が戦闘開始した直後から、遠隔で隊長に妨害を行ってきたのだ。

「全く……、ただでさえ脳内余裕なくて弱体化してたのにあれのせいで余計に脳みそが痛むんだよ……。

そのせいで最後一発貰っちまったしな」

「そう、アーニャの役に立てたのならそれはよかった」

 周子は満足そうにニヤリと笑う。
 それに対して隊長は苦い顔をするだけだった。

「ところであんたはどうして、『プロダクション』にたどり着けたの?

それについての疑問がまだ残ってるんだけど……」

 本来ならば『デストロー』が歴史に介入できないはずなのになぜか隊長は攻め入ることができた。
 それはなぜなのか。



303 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:28:12.83bV/OCKiKo (83/96)


「ああ……さっき言っただろ、脳内余裕ないって。

俺はずっと自分で自分のルールを無視し続けていただけさ。

『歴史に介入できない』っていう『デストロー』のルールをずっと破ってたんだよ。

だがこれは重大なルール違反だからな。まぁ俺そのものがルール違反のくせにそう言うのはおかしなことだが。

そのためにイルカみてーに脳内分割して、処理の半分以上をそれにずっと費やしてたんだよ。

言い訳みたいだがそのせいでめちゃくちゃ脳みそ使ってて本調子の20%も出せなかったのさ。

本来の俺なら日本を地図から消すくらい簡単にできるんだが、さすがに今の状態じゃああんた相手にするのも少し面倒そうだ」

 挑戦的な口調で隊長は言うが、周子はのらりくらりとその言葉をスルーする。

「そりゃ聞く限りほんとに勘弁だよ。

ところでその、『デストローのルール』を破ることっていつでもできるの?」

 ある意味気になるところはそれである。
 これがいつでも使えるならば、結局この男は脅威のままなのだから。



304 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:29:06.31bV/OCKiKo (84/96)


「いや……もう無理だ。

アナスタシアがいたから俺もこんな無茶ができたが、もう吹っ切れちまったしな。

今も、そしてこれからもそれをする意志は起きないだろうし、それを行使することもできないだろうさ。

これは俺のわがままだ。一度限りの表舞台。

あとは俺は裏方に徹するだけだ」

 それを聞いて周子は内心胸をなでおろす。
 本来運命とは巨大なものだ。いかに膨大な力を持っていても個人が簡単に自由にできる物じゃない。
 だからこそ、隊長の言葉は真実であることがわかる。

「それならよかったよ。

でも自覚はあったんだね。自分が『デストロー』だってこと。

『運命力』関連の異能は自覚がないことも多いはずなんだけど」

「ガキの頃からいろいろしてきたからな。

そのくせニュースにもなんないから自覚もするさ」

 やれやれと言ったように隊長は首を振る。



305 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:29:44.98bV/OCKiKo (85/96)


「まぁあれだけ派手に暴れても、周囲の街の人間誰一人気付かないんだから、『デストロー』ってのは大したもんだよ」

「まぁ今日ほどこの力を厄介に思った日はないけどな」

「でもそれだけする価値はあったということね」

「知るか。中途半端に苦労しただけだぜ」

「でもずいぶんと満足そうな顔してるじゃん」

「うるせえ。殺すぞ」

 隊長はじろりと周子をにらみながら背負っていたアーニャを降ろす。
 そのまま塀を背もたれにして眠っているアーニャを座らせた。

「だが多分あの中で俺の能力の恐ろしさについて一番知ってたのはお前じゃねえのか?

多分真っ先に逃げるんじゃないのかと思ったが、どうして残ってるんだよ」

 昼間の時点で周子は美玲と共に避難すると言っていた。
 だが今、周子はここに留まって隊長と向き合って会話しているのはどういうことなのか。



306 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:30:23.70bV/OCKiKo (86/96)


「まぁ避難しようとしたんだけどさ。

娘は『アーニャを置いて逃げるなんてできるか!ウチは残るぞ』って言って聞かないものだからさ。

しょうがないからプロダクションに残していったわけ」

 周子はそう言って笑っているが隊長は疑問に思う。

「お前みたいなやつの性格なら、娘だろうが置いて逃げそうな気がするんだがな?」

 そんな隊長の言葉に周子は目を丸くしてみた後、ため息を吐く。

「あんまり親を嘗めちゃあいけないよ。

娘が残るって言ってるのに、一人逃げられるわけない。

それにせめて娘には少しくらいかっこいいところ見せたいと思うのが親ってもんだよ」

「なるほど、それが……親ってものか」

 妙に納得したような言葉を残して隊長は周子に背を向ける。



307 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:31:16.02bV/OCKiKo (87/96)


「じゃあ俺はここらへんでさよならさせてもらう。

そこで寝てる小娘については、後は任せた」

「そう、これでまたこの街は平和になるね」

「まったくだな」

 憎まれ口を交わしながら、最後に隊長は振り向く。

「あいにく俺は子育て失敗した人間だ。

あんたは俺みたいになるんじゃねえぞ。俺のことは反面教師にでも思っとけ」

「言われなくとも、わかってるさ」

「それと、アナスタシアが起きたらこれを渡しておいてくれ」

 隊長はそう言ってボロボロになったスーツのポケットから一つの小さな記録媒体を取り出す。
 そして周子に向かって投げ、それは放物線を描きながら周子の手の中に納まった。

「これは?」

「15年前の任務資料だ。きっと知っておいた方がいいことが書かれているはずだ」

 それを聞いて周子は驚いたような顔をする。

「意外にあんた、いい人なんだね」

「ああ、よく言われるよ。

じゃあこれで正真正銘さよならだ。

もう二度と会うことは、無いだろうな。アナスタシアにもこれくらいは伝えておいてくれ」

 そして隊長は背後に向かって手を振りながら周子から離れていく。



 


308 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:31:58.26bV/OCKiKo (88/96)






 ふらふらと夜空を見上げながら隊長は歩く。
 周囲は住宅街の真っただ中で、人通りはまるでない。
 そしておもむろに、星空へと手を伸ばす。

「やっぱり手は届かねえな。

でも、ここから見えるだけでも十分か」

 機嫌がよさそうにニヤリと笑い、その大柄の男は一人夜の闇の中へと消えていった。






 


309 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:32:35.79bV/OCKiKo (89/96)


『本日の天気予報です。先日まで日本列島を覆っていた低気圧は北上を続け、全国的に晴れとなるでしょう』

「結局アーニャはすぐ行っちゃったわけですね。

なんだか少し急ぎすぎな気がしますけど」

「まぁ居ても立ってもいられなかったんでしょう。

多分すぐ帰ってくると思いますけどねー」

 プロダクションの中、ピィとちひろは相も変わらず自分のデスクに向かって自分の仕事を勤しんでいる。

「それにしても聞いてくださいよ!

プロダクションの口座にかなりの大金が振り込まれてたんですけど、やっぱりアーニャの隊長さんが振り込んだんですかね?

つ、使っても問題ないですよね。こんな事務所の修理代に使ってもおつりがくるぐらいの大金……。

ふふ、ふふふふ……。返してほしいって言っても、もう返しませんよ……」

「ちひろさん目の中お金のマークになってますよ」

「お、おやこれは失礼」

 ちひろが目をこすっているときに、ピィはふと窓の外を見る。
 空を見上げれば一筋の飛行機雲がかかっている。

 ピィはそれを一瞥し、指を組んで伸びをした。




310 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:33:16.95bV/OCKiKo (90/96)





 周囲には杉林で覆い尽くされている。
 地面は地面の茶色はほとんど見えないほど雪によって白く染め上げられており、同様に木々も雪を被っている。

 そんな木々の間をある少女は歩いていた。
 歩調は特に速くもなく、でもしっかりとした足取りで林の中を進んでいく。

 口から出た息は、外気に触れた瞬間白く染まる。
 それだけでこの場の寒さを物語った。

 少女はふと、空を見上げる。
 空は快晴。先日は雪がかなり降ったというのに今日は一変してすっきりとした空だ。

「……資料通りなら、この先ですね」

 そして再び歩き出す。
 まっすぐ、迷いなく少女は林の中を進んだ。

 そして、少女の前方に開けた、広場のような場所を見つけた。
 そこには忠行が敷き詰められているだけの広場、だがその中心は小さな丘のように盛り上がっているのが見える。

 少女はまるで引き寄せられるかのように、中心へと歩いていく。
 そしてしゃがみこんで、そこの雪を退けた。



311 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:34:00.88bV/OCKiKo (91/96)


「……これは」

 白色は残ってはいるが土によって茶色に汚れたもともと建物であっただろう瓦礫が山となっていた。
 そして少女はその瓦礫を退けていくと、とある錆びた金属が目に入る。

 それを完全に露出させると、それは少女の身の丈近い十字架であった。
 少女はそれを軽く撫で、目を閉じる。

「……ただいま」

 そして小さくつぶやく。

 少女は立ち上がり、満足したような表情で十字架に背を向ける。
 そのまま元来た道を少女はなぞるように歩き出した。

「……せっかく北海道まで、来たんです。

みんなにお土産でも買って、帰りましょう」



 


312@設定 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:34:44.00bV/OCKiKo (92/96)

アナスタシア

職業 元ロシア特殊能力部隊隊員
属性 能力者
能力 ”復活”の天聖気、ロシア式CQC

詳細説明
言葉もしゃべれないほど幼いころからロシアの超能力者機関に拉致にされて育てられ、10歳より特殊能力部隊に入隊し、様々な任務をこなしてきた。
ロシアの孤島の任務の失敗で遠路はるばる日本まで漂流してくる。
いろいろあって特殊能力部隊をクビになったので、現在日本で女子寮に住んでいる。
あらゆる国の言葉をマスターしているが特に覚えが早かったのは日本語である。
しかしそれでもたまにロシア語は出てきてしまう。

『プロダクション』でヒーローをやっているがやはり同盟傘下ではないので知名度は低い。
メイド喫茶『エトランゼ』でバイトもしている。

ロシア式CQC
ロシアで生み出された超次元格闘術。これを編み出したのはアーニャの所属していた特殊能力部隊の隊長。
『P』隊長が自身の戦闘スタイルとして編み出したものを、普通の人間でも使えるように改変を加えたもの。
その強さはアーニャが回復は能力に頼ったもののカースを人間の力のみで倒すほど強力なものである。
おそロシア。

”復活”の天聖気
かつて救世主(メシア)が起こした奇跡の一つである死後の復活。生き返り。その奇跡が彼女の中で”天聖気”として循環している。『復活の少女(アナスタシア)』
かなり強力な力だが、固有能力である”復活”に力の大半が割かれているので天聖気としては基本能力による上昇幅は低い方で、纏うような使い方しかできない。
生き返らすということは死と隣り合わせであり、精神的にかなりの負担をかけるので、天聖気の枯渇以上に精神の消耗が大きい。
これまでの治療は細胞単位での”復活”をしている。
『聖人』として力を与えたのはとある主神である。





313@設定 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:35:29.08bV/OCKiKo (93/96)



『天聖気』
天使や神聖な神さまが使う聖なる力であり、混じりけのない純粋な力。
魔力と根本的には同じだが、清らかな心の持ち主、または魔力濾過ができる場合にそれらをフィルターとして天聖気として蓄積される。
だだしそれとは別にエンジンのような出力機関が無いと、扱うには難度が高い。
・天聖気そのものが意味を持った力であり、その属性は個人によって違う。
・その属性によって、固有の能力を発揮する。
・『気』としての側面もあり、属性によって差はあるものの身体能力を向上できる。
・浄化の力があり、カースの核など魔的要素が強い部分を察知することができる。これも属性によって差がある。
・属性に依存するが、魔術のように『天聖術』を組むことができる。ただし扱うには相当の知識と技術、訓練が必要である。
『聖人』
力を与えた神と深くつながっている者。
基本的には普通の天聖気使いと差はないが、神から力を供給してもらうことができる『聖痕解放』が使える。
『聖痕解放』
力を与えた神と直接パイプをつなぐようなことであり、一時的に膨大な力を得ることができる。
繋がっている証として、個人差はあるが特徴的な傷、つまり『聖痕』が浮かび上がる。
しかし供給される膨大な天聖気は人間の身には余るため、体を崩壊させかねない。
『聖痕』はその目安のようなものでもあり、時間経過や膨大な天聖気を使うことで全身に広がり、回りきった時『聖痕解放』は強制解除される。
その後は気絶し、天聖気は空の状態になる。その際に失血死する可能性があるので注意が必要。
もう一度使うには、天聖気が回復しきった上で充分な休息が必要となる。




314@設定 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:36:04.96bV/OCKiKo (94/96)


『P』隊長

職業 傭兵 元ロシア特殊能力部隊隊長
属性 超能力者
能力 サイコキネシス 『外法者』

詳細説明
傭兵であり、裏の世界で恐れられる舞台裏の征服者。
『外法者(デストロー)』の特性上歴史にならないので、流れる呼び名が定まらない。
例として、『コードネーム”P”』、『ハリケーン』、『局所天災』、『ルール破り』、『沈黙する全滅屋』、『眠らぬ黄昏』、『台無し男』、『盤を引っくり返す者』、『対面致死』、『正面から来る卑怯者』、『チートプレイヤー』、『理不尽傭兵』、『イレーザー』、『外側の殺し屋』、『アンフォーチュネイト』
15年前の任務の際にロシア政府から北海道での任務の依頼を受け、その直後に特殊能力部隊を設立して隊長となった。
隊長となった後もロシア政府だけでなく傭兵として様々な依頼を受けている。
ロシア政府としても飼いならせる存在ではないので内部の人間からも警戒されていた。

もともとロシア政府が拉致したアナスタシアの面倒を見るために部隊を設立。
そしてアナスタシアがいなくなった際に部隊の存在意義は失われたので自らの手で解散させた。
その際にロシア政府と揉めた結果、表立って語られていないが現在ロシア政府の内情はかなり悲惨なことになっている。
趣味は映画観賞。



315@設定 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:36:38.17bV/OCKiKo (95/96)


『超能力』
最もポピュラーとされる異能であり、珍しくない程度の能力。
汎用性に富んでいて、使い方次第では日常生活の役に立つ。
念動力と言われるベクトル的な運動を起こすサイコキネシスと物を動かすテレキネシス、そのほかにも透視、予知、発火など多岐にわたる。

『外法者(Dest Law)』
血統とか、因果とか関係なくごく普通の一般家庭からでも突然生まれたりする怪物。
『運命力』が存在せず因果に縛られない存在で、『ルール』を無視できる。
欠点として世界に縛られない、つまり物語に関わることができない。
世界的に有名であったり、歴史に名を遺していたり、はたまたこれから世界にその存在を轟かせる人や、事柄には介入できない。世界に名を残せなず、強大な力を持っていてもモブにしかなれない。
歴史に介入できないということは無意識の嫌悪や時に強引な因果による妨害によって引き起こされる。
そしてその能力の性質上、自身がそれであると気づくことなく一生を終える場合も多い。

限界のない能力であり、『ルール』、『物理法則』だけでなく『制限』も破ることができる。
それによって自身の能力の限界『制限』を隊長は突破している。
能力の例として
・宇宙空間を装備なしでも自在に動ける。
・防御不能の攻撃でさえも防げる。
・物理的以外で即死する攻撃なども防げる。
・究極として『デストローのルール』そのものさえ破ることができる。



316 ◆EBFgUqOyPQ2014/03/07(金) 22:37:15.33bV/OCKiKo (96/96)



以上で終わりです。
プロダクションのメンバーお借りしました。

とりあえずアーニャ中心のお話はこれでひと段落です。
隊長については話の背景や名前くらいは出てきても表立って話に出ることはもうないでしょう。




317 ◆6osdZ663So2014/03/07(金) 22:52:40.33rcHfb5DTo (1/1)

アーニャぱねええ
戦闘のスケールの大きさに興奮してました
お疲れ様です


318 ◆zvY2y1UzWw2014/03/07(金) 23:26:03.51exQo+N490 (1/18)

乙です
アーニャと隊長さんのバトルが熱くて半端ない
プロダクションの雰囲気も本当にいい感じ
怪物と人間の差異も、ちょっと参考にしたいところ

というわけでこちらも投下
学園祭二日目ですよ


319 ◆zvY2y1UzWw2014/03/07(金) 23:31:51.79exQo+N490 (2/18)

とある場所。資料室の、本棚から、一冊のノートが落ちた。

それは地球の文化をまとめた物らしく、落ちたページには童謡が書かれていた。

『地球の童謡 ・非常に興味深い

男の子はなにで出来ている?
カエルとカタツムリ、そして子犬の尻尾
そんなものでできているのさ

女の子はなにで出来ている?
お砂糖とスパイス、それに素敵な物をたくさん
そんなものでできているのさ

男の人はなにで出来ている?
溜息と流し目、そして嘘の涙
そんなものでできているのさ

女の人はなにで出来ている?
リボンとレース、それに甘い顔
そんなものでできているのさ』

それなりに有名なマザーグースの詞。そこにノートの主は何か書き足していたようだ

『怪物はなにで出来ている?
・・・・・・、・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・』

一部が破けて、そこはもう読み取れない。

厳重に閉ざされた資料室で、落ちたノートはそのページを開いたまま、誰にも触れられないままでいた。


320 ◆zvY2y1UzWw2014/03/07(金) 23:33:32.38exQo+N490 (3/18)

裏山に一人、眼鏡をかけた女性が居た。

『だれかいますかー?いたー!』

その女性に、木の陰からひょこっと顔を出した小さな子供が駆け寄ってきた。

『ハロー?メガネのおねーさん、メガネはずそー?』

「…来たわね」

『?…ハロー?』

「あまり触らないでくれるかしら。オクト、光学迷彩解除」

『ゴロンゴロン』

触れようとしてきた子供の手を振り払い、女性は…マキノは近くで光学迷彩によって隠れていたオクトを呼び出す。

『…?』

「オリハルコン、セパレイション。…アビストーカー、ウェイクアップ」

戦闘外殻を纏ったマキノは、煙幕を噴射した。


321 ◆zvY2y1UzWw2014/03/07(金) 23:35:19.46exQo+N490 (4/18)

『あ、あわ…あ…れ?』

子供の姿をしたカースがそれに怯んだ隙を逃さず、マキノは触手の針を腹部に音も無く突き刺した。

触手の先端に突き刺されたまま、そのカースは悲鳴を上げ始めた。

『おろして!おろして!痛い!痛いよぉ!助けてぇ!!』

「核は…両目ね」

『や、やめて!やめろ!死にたくない!死ぬのは!』

「…カースが何を言っているのかしら」

マキノがその悲鳴を無視して核を破壊しようとした瞬間、周囲から他のアンチメガネカースが集まってきた。

『ヨバレテキマシタゾ、メガネシスベシ!』

『ナカマニナニシテンダ、コノメガネ!』

『同志ー!煙いっぱい、大丈夫?』

通常個体が二体、AMCが一体。裏山にはそれほどの数が居ないのだろうか?

その三体がそれぞれ核からレーザーを放ち、攻撃を始めた。

「なるほど…一撃で仕留めないと面倒ね」

煙幕を撒いて、光学迷彩を使用しても、下手な鉄砲数うちゃ当たるとも言う。

光を放つレーザーだからこそ回避はある程度容易だが、一体を攻撃するたびにこれが繰り返されるのはなかなか危険で面倒だ。


322 ◆zvY2y1UzWw2014/03/07(金) 23:38:13.10exQo+N490 (5/18)

『やだ!離して…あああああ!!』

「…!?」

乱入してきた三体に気を取られたその時、針に突き刺されたままのカースが前触れも無く、ボンッと音を立てて自爆した。

「自爆…」

『同志!メガネにやられた!?』

『メガネッコ、シスベシ!』

『メガネ、ハイジョ!』

その自爆によって、三体の方もヒートアップしているようだ。

「…」

三体が一気に煙幕の中のマキノに接近し、触手で攻撃をする。

…だが

『え?』『グオ…!?』『ガギャ…!?』

「あの程度の爆発で針は傷つかない…それにレーザー攻撃で既に核の場所は把握できていたのよ。隙を見せたわね」

その三体の核…合計四つに、四本の触手の先端の針が見事に突き刺さっていた。

「…まず4体。自爆までしてくるのは予想外ね」

カースが消滅したのを見届け、マキノは裏山を再び歩き始めた。


323 ◆zvY2y1UzWw2014/03/07(金) 23:39:29.12exQo+N490 (6/18)

――

様々な思惑が飛び交う学園祭。小さな怪物、ナニカは学園の中を歩いていた。

そんな中、黒兎と白兎が、ナニカに抱きかかえられながら地味にテレパシーで会話していた。

『っべーわーマジっべーわー』

『…真面目に話せよ、なにがヤバいんだ』

『んー…アンチメガネカースが狩られてるっぽイんだよね、誰かは分からないけど』

『アイドルヒーローかもしれないな』

『あーそうダね、あとフリーのヒーローとかかも。増えている場所も確認できるけど、消えているのはあんまりいい気分じゃないヤ』

黒兎はアンチメガネカース達の行動や状態はある程度認識できる。その力によって、手下がどんどん消えていると分かるのだ。

その原因の一つにマキノ達が居た。マスクドメガネに恩を売る為、彼女達はアンチメガネカース狩りを始めていた。

それによって、黒兎がヤバイと感じ始めていたのだ。


324 ◆zvY2y1UzWw2014/03/07(金) 23:40:54.76exQo+N490 (7/18)

『新作とか言っていたAMCもか?』

『いぇーす、普通の個体よりは被害は少ないけどサ、総数から見ればちょいとアタシの太い眉毛が垂れ下がるね。しょぼーんって』

『増やしすぎた弊害だな』

『返す言葉もナイなぁ、こっちは飛行機ジャックからの海外デビューまで皮算用していたのに…』

『ったく…海外デビューなんて考えていたのかこのバカは』

『あ、そレとAMCには自爆機能もあるからな、それも減ってる理由の一つだ』

『…なんでそんな事をさせるんだ?』

『変態ヲ焼くためだよ。最近物騒だかラね、子供相手に「孕ませたい」だのなんだの言う大人がいる時代だし』

『マジかよ世界終わってるな…って色欲に溺れればそうなるか』

『でもまさか変態以外への攻撃に自爆を使うとは思ってモいなかったよ。我が子が成長するのを見守る母親サンの気分?』


325 ◆zvY2y1UzWw2014/03/07(金) 23:44:10.81exQo+N490 (8/18)

自らが信じる事の為に自爆特攻。それはある意味狂信特有の攻撃でもあった。

黒兎としては、我が子とも言えるアンチメガネカースは存在するだけでいい。人々の意識に刷り込む『風潮』をまき散すことが存在意義なのだ。

人々の意識へ刷り込む力は、本来ならばメガネへの反逆だけに留まる力ではない。それは自らの手を汚さずに社会さえ覆せる力。

黒兎の頭の考える能力がイカレていなければ、恐ろしい事になっていただろう。

狂信の波動にやられ『同志』となった者達は、『同志』であるアンチメガネカースを攻撃できない。

ましてや『始祖』である黒兎に刃向うなど、別の強力な力で守られてなければ不可能だ。

いざとなればアンチメガネカースたちの性質を塗り替え、全て別の狂信のカースへ生まれ変わらせればいい。

そうすれば『アンチメガネ』の風潮は消え、別の風潮が生まれ、改めて人々に染み込み始めるだろう。

その個体の認識とのズレがあればあるほど風潮は染み込みにくい。逆に言えば、無ければ染み込みやすい。

例えばメガネへの嫌悪などは、元から興味が無かったり、メガネよりもコンタクト派であれば染み込みやすい。

個体の認識との『ズレ』が無ければ…常に意識しているような認識でなければ、それが現実とかけ離れていても風潮は生まれるのだ。

そしてその風潮のアンテナとして、狂信のカースは存在している。むしろ存在しているだけでいい。

…だが黒兎の予想以上に、狂信のカースは狂っていたようだ。派手に自爆攻撃まで始めるのは誤算だった。

だがイカレた黒兎はその誤算すら歓迎する。


326 ◆zvY2y1UzWw2014/03/07(金) 23:48:47.30exQo+N490 (9/18)

『止めさセる気なんて存在しない。自爆特攻されるような奴は所詮そういう奴ってこと。クズは制裁しないとね』

『んで、本来は何があったら自爆するのさ?』

『AMCの自爆は自分の意思もあるケド…恐怖を感じたらだ。「人間を模倣した感情」の一つ、恐怖がトリガーの一つだよ』

自爆のトリガーは二つあったのだ。一つは自らの意思、そして『恐怖』。

僅かながら人らしい仕草をするAMCは、恐怖という感情さえ感じる。それによって、恐怖が限界まで達した時、自爆するのだ。

模倣と言う事は、オリジナルが存在する。それは奈緒の記憶の奥底のトラウマだ。…そんな事だれも気付かないだろう。

痛みに泣き叫び、苦しみに怯え、死に恐怖を抱く。それが奥底で根付いている事に。

恐怖は恐ろしいトラウマと結びつき、AMCを発狂させる。…逆に言えば純粋な好意で触れ合えば。そういう事は起こらないのだろう。

その事は、黒兎さえ知らない。


327 ◆zvY2y1UzWw2014/03/07(金) 23:50:14.77exQo+N490 (10/18)

『まぁ、お化け屋敷で一斉爆破とか笑えないからある程度は個体でコントロールできるようにはしてたんだけドね』

『ふーん、なんかに利用しようかと思ったのに』

『…協力するカ?』

『いざという時は頼るかもな、頼るつもりはないけど』

『おっけ、把握した。何してるかはシランけど』

『…言えと?』

『別ニー?言わないと思うし』

『ご名答。言うつもりねぇわ』

『『…』』

呪いとしての『狂信』はその根底に『理想』を秘めている。

呪いとしての『正義』はその言葉に『狂気』を隠している。

お互いにどこか似た性質の呪いは確実な違いを持っていた。

「ふたりとも、どしたの?」

「「んー?」」

若干ピリピリした空気が流れるが、二人をわさわさと振り回すナニカが二人に声をかけたことで終わった。

「黒ちゃん、白ちゃん、あっちのお店みよー?」

「「あいよー」」

ぶらぶらと振り回されながら、二体はまた何か思考する。


328 ◆zvY2y1UzWw2014/03/07(金) 23:50:52.88exQo+N490 (11/18)



だれも見ていない静かな場所。中学生用の控室に一人、光がいた。

…いや、一人ではない。彼女の腕輪が変形し、ライトが姿を現す。

「光、随分と機嫌が悪いじゃないか、どうかしたのかい?」

「…ライト、そう見えた?」

「ああ、駄目じゃないか、正義のヒーローが不機嫌になっちゃ…せめて見ただけではわからないようにすべきだね。で、どうしたんだい?」

内容は分かっているのに、彼は光を煽る為に問う。


329 ◆zvY2y1UzWw2014/03/07(金) 23:52:38.18exQo+N490 (12/18)

「紗南が…えっと、よく病欠で休んでる子なんだけど…」

「その子が病欠と言いながらも実はサボりなんじゃないかって思っているのかい?」

「うん。紗南はゲームをよくやってるし…屋上でゲームばかりして勉強をしていない時もあったらしいんだ!見た人がいる!」

…それは彼女がベルフェゴールに体を奪われていた時の話ではあるが、光の正義感と疑いを加速させる最高で最悪の材料だった。

「なるほど、ゲームが好きすぎて秩序を乱す…悪い子って事だ。しかも前科がある」

「うん、クラスのみんなが迷惑してると思う」

「そうだね、確かに迷惑だ。今のまま放置するわけにはいかないね、秩序を乱しているのだから」

「…秩序」

「そう…紗南って子は『嘘つき』で、『自分勝手』…つまり世界を乱す小さな悪の一人…」

ニタリとライトが口を歪ませても、光は彼をしっかり見ていない。心ここにあらず、と言ったところか。

そもそも彼女の本来の心は既に殆ど正義の呪いによって歪まされてしまっている。


330 ◆zvY2y1UzWw2014/03/07(金) 23:53:47.92exQo+N490 (13/18)

「悪党…」

「そう!小さな悪は小さな英雄が倒さなくてはならない…そうは思わないかい?」

「…で、でも、紗南は…」

呪いに侵されていない理性が、ライトの囁きに逆らう。

(…おどろいた、催眠状態でまだ逆らうのか…強い。だけど…それだけに強い力を秘めている…!)

しかし、ライトはそれを嘲笑う様にその理性を壊しにかかった。

「何を言っているのさ…君は一般人だからって悪を放置するのかい?それとも、能力者じゃないからって理由で?」

「…それは」

「それは差別だよ。悪は全て平等に裁かれなくてはならない。殺人・テロ・窃盗・誘拐・暴力・隠蔽…全ては等しく悪なんだ」

ヒーローに頼る人が、ヒーローを愛する者が居ればいる程、正義の呪いは力を増していく。都合のいい考えの、呪いとしての正義が。

「しかも彼女ほどの小さな悪は、法によって裁かれることは絶対にない」

理想から力を得て、その理想を歪ませる。

呪いとしての正義が残すのは破滅のみ。正義の言葉は都合良く人の心へ入り込んでいく。


331 ◆zvY2y1UzWw2014/03/07(金) 23:55:53.32exQo+N490 (14/18)

「僕らは裁かなくてはならない。今は小さな悪しか裁けなくても、いずれ全てを裁くことが出来る…僕は君を小さな英雄で終わらせない」

ニマァ…と邪悪に微笑みながら、小動物の姿をした呪いの剣は囁く。

「裁き…?」

「そう、そうだ…君は秩序を乱す輩を裁き、世界を安定させる。そんな剣になればいい…」

小さな翼で飛び、光の肩に乗ると、猫のような手が頬を撫でる。赤い瞳を妖しく輝かせながら。

「英雄は、悪を断じる事を戸惑ってはいけない。君が知るヒーロー達だってそうじゃないか」

「あ、アタシは…」


332 ◆zvY2y1UzWw2014/03/07(金) 23:56:19.28exQo+N490 (15/18)

「だから…おや?」

控室に近づいてくる足音が、その言葉を止めた。

(…レイナ、だったっけ。気配は彼女の…なら、ほぼ確実にこの部屋に来るだろう)

足音が知っている人間のものだと判断すると、ライトは姿を腕輪へと変えた。

「…あ、あれ?ライト?どうしたんだ?」

光は途中からの記憶が曖昧になっていた。一種の催眠状態だったことが理由なのだろう。

その様子を全く気にせず、ライトは平気で嘘を吐く。

『ちょっと光はつかれているんじゃないかな?眠そうだったよ?…それに人が来る、僕は隠れなきゃいけないよ』

「そうかな…体力は自信あったんだけd…」

光が言葉を全て発する前に、扉がバンッと勢いよく開かれた。

扉を開いたのは、ライトの感じた通り、麗奈だった。