708 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 00:35:14.939SwiL0z50 (4/31)

「一度決めたなら少しでも足掻いて、結果を出す!奈緒…覚悟、決めてるだろ?」

奈緒はすぐに頷く。

「…だけど、これは一種の賭けだ。見回りが多いって事は捕まりやすいって事だからな」

奈緒の異質な強さは夏樹もよく分かっているが、奈緒にも苦手な事はあるし、相手の手の内はまだ分かっていない。

悪魔がどれ程の強さかもわかっていない。奈緒より強い者がいてもおかしくないのだ。

「うん、分かってる」

「せめてアタシも行けるなら楽なんだけどなぁ…とにかく、スニーキング用の装備…あ、これだこれだ」

夏樹が別の穴を展開し、そこから装備と道具を取り出す。

「…とにかく、察してると思うけどLPさんには伝えないからな」

「ああ…LPさんには悪いけど、あたしにも意地があるから…ワガママだと思うけど」

「今の状況を考えて、多少の無茶をしたくなるのはアタシもよく分かる。ワガママだなんて切り捨てないさ」

神の洪水が実際に起きれば地球滅亡の危機なのだ。躊躇していられない。

「LPさんは…まぁなんとかしてみるよ。帰還用の連絡装置もちゃんと持ってるから今晩無事に終われば帰って来れるからなぁ…なんて言おう」

「…なんかそっちの方が不安だな」

「誤魔化したりとかは苦手なんだよ…まぁ、心配するなって。なんとかするから…とにかく…待ってるからさ」

「…おう」

苦笑いしながらLPにどう報告すべきか考えつつ、奈緒の返事を聞くと夏樹は穴を閉じた。


709 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 00:39:26.889SwiL0z50 (5/31)

暗くなった夜、奈緒は行動を開始する。

黒い潜入用のスーツに身を包み、潜入用の道具を装備し、泥をまるで布のように纏って顔を隠している。

獣の姿ばかりだった泥のイメージは増えていた。加蓮と関わってから…いや、憤怒の街で翼を持つ蛇龍に止めを刺したあの時からだ。

繋がって、再び離れて。二人は僅かな時間ではあったが無意識にイメージを共有していた。それが切欠だったのだ。

布のように纏ったり、武器のように構えたり。泥はあまりにも万能で便利で、奈緒はそれをたまに恐ろしく思う。

この泥は肉体でありながら道具である。カースの力だけではありえないこの力を、悪人が手にしたらどうなってしまうのだろうかと。

…元を辿れば彼女と分離した、悪しき『正義』の呪いの事など、全く知らずに。

「さて、行くか…!」


710 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 00:41:06.969SwiL0z50 (6/31)

黒い翼を生やした黒い人影が、都市の連なる屋根を駆ける。

広場の付近であるために屋根が途切れてしまっている場所に来ると、奈緒は黒い翼を広げ、宙を駆けた。

「あれは何だー!」

「何なんだー!」

「やばっ…!」

だが、運が悪い事に飛んだ場所のすぐそばに見回りが居たのだ。

暗い夜と言っても、海底都市では飛行するモノ自体が珍しい為か、その風を切って飛ぶ姿は一瞬だったにしても兵士たちの目についた。

それでも勢いを落とすことなく奈緒は飛んだ。

「飛んでいった方向には…王宮と神殿…。例の侵入者でしょうか」

「…スカルP様!どういたしましょう!」

「うむ、陽動の可能性も考え…奇数部隊のみ王宮と神殿方向へ向かう様に通信をだしてくれ」

「了解しました!」


711 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 00:42:08.999SwiL0z50 (7/31)

(…急がないと不味いな…!)

その騒ぎの気配は奈緒自身にもよく伝わっていた。

光を避け、神殿付近の暗闇に着地する。目標は神殿に決めていた。

神殿の方を選んだのは王宮と比べ見回りも少なく、それでいて重要な情報がありそうという直感に従っての行動だ。

一応夜目が利くほうではあるのだが、片目には管理局開発の小型暗視スコープを装備している。

神殿の入り口に近づくと、二体の見張り役のイワッシャーが居るのが見える。

(…陽動とかが居ると楽なんだけど)

一人ではやはり無謀な気がするが、一度やると決めたからには行くしかない。泥を足に纏い、人の形からその形を変える。

右手にサイレンサー付きの拳銃を構え、息を整える。

利き手は多分虎の手にされた左だったから、右手だけで道具を使うのはあまり得意ではない。

それでも今は止まっている暇はない、泥の一部を腕に変化させ、右腕を支える。

奈緒から見て奥の方のイワッシャーの、レーザーを発射することが出来る頭部に狙いを定め、引き金を引いた。

奈緒以外には拳銃の音は聞こえず、ただ静かにイワッシャーの頭部を銃弾が貫く。

「……シャ?」

頭部を破壊され、撃たれたイワッシャーの機能が停止する。

「シャ!?」

攻撃されなかった方のイワッシャーは、急に倒れたもう一体に戸惑う。

そして奈緒は物陰から一瞬でイワッシャーに距離を詰め、頭部を虎の左手で猫パンチ…ではなく泥を纏った爪でえぐり取るように拳を放つ。

「シャ…」

奈緒は右手も虎の手に変化させると、その爪で倒れた二体の頭部と胴体部を切り離し、神殿の出入り口付近から退かせておく。

まだ周辺に気配がない事を確かめると、長く暗い廊下を静かに走り出した。


712 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 00:43:26.919SwiL0z50 (8/31)

「スカルP様!神殿の見張りのイワッシャーが破壊されています!」

スカルPと第七分隊の兵士たちが王宮と神殿のすぐそばに来ると、奇数隊が通信通りに集まってきた。

「…侵入者は神殿か。そこに何か重要な物はあるのかい?」

第五分隊と共に行動していた傭兵アイが、神殿に視線を向ける。

「神殿には守護神プレシオアミドラルの亡骸が祀ってありますが…」

「…それ以外には?」

「…メンテナンスを終えたヨリコ様のアビスエンペラーが、再び神殿に保管されておるの。それ以外に目ぼしい物はないはずじゃ」

「その他の使用されていない戦闘外殻は研究所にありますし、資料等も殆どが皇宮にあります」

「相手にとって神殿では唯一価値があるとも言えるアビスエンペラーも簡単に動かせる代物ではないからの。侵入者に少し同情するわい」

「…ふむ、なるほどね」

ドクターPによって『メンテナンス』を終えたアビスエンペラーは、現在プレシオアミドラルの亡骸のすぐ近くの部屋で保管されている。

アビスエンペラーはプレシオアミドラルの魂が無くては起動しない。

だから有事の時に海皇が装備し、民を導くアビスエンペラーは、本来はずっと神殿に安置されている筈だったのだ。

そのアビスエンペラーは核を埋め込まれ呪いの力を宿し、プレシオアミドラルの魂は呪詛で少しずつ自由を失いつつある。

「それに神殿の構造は基本的に一本道…袋の鼠じゃの」

「…ただ、この人数だと神殿の中で動きづらい。神殿へ行った事がフェイクの可能性もあるから、人数は分けるべきだね」

アイは聞いた情報から、まだ半分ほど侵入者が神殿に居る事を疑わしく思っていた。

それに屋内に大量に兵士がなだれ込んできても、もし戦闘になった場合に被害が大きくなるだけだろう。

「そうじゃな、ワシの部隊とお前さん達の部隊で行くとしよう。第一、第三分隊は万が一侵入者を見かけたらすぐに連絡をしてくれ!」

「かしこまりました!」

他の部隊に命令を下すと、アイとスカルPを先頭に、兵士達が神殿内部へ向かって行った。


713 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 00:45:39.109SwiL0z50 (9/31)

その頃、プレシオアミドラルの魂が宿る亡骸の前で、海龍の巫女は呪詛を少しづつ強めていた。

魂が壊れてしまっては意味がない、壊さぬように、自我を残さぬように、慎重に。

「…あら」

ふと、深くフードを被った巫女は振り返る。

「侵入者ね、わかるわ」

その声に廊下の闇にまぎれこちらを覗いていた者がビクリと反応する。

「出てきなさい、貴方はこちらへ来た時点でもう終わっているのよ?マヌケな子ね」

巫女は杖を構えるが、その構えた杖を銃弾が弾き飛ばした。

「あら、戦う気?」

観念したのか、暗闇から深い夜の闇の様な人影…奈緒が飛び出す。

巫女はその飛びかかってくる人影を躱すと、弾かれた杖を拾う。

「感情的になっちゃったのかしら?…でもそれももう関係ないわ。さっきも言ったでしょう?」

廊下に足音が響いてくる。たくさんの足音だ。奈緒の顔が青ざめる。

「貴方はもう終わっているのよ?」

その言葉と共に、兵士たちが部屋に入ってきた。

…巫女がニタリと笑った気がした。


714 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 00:46:54.489SwiL0z50 (10/31)

「巫女様!ご無事でしたか!」

「ええ、無事よ…私の事はいいの、まず侵入者を捕えましょう」

「そうじゃな、巫女殿は兵士と一緒に離れていてくれるかの?ここはワシらに任せてくれ」

「わかったわ」

「やれやれ…殺さない程度に痛めつけて捕まえればいいんだろう?」

(ヤバイヤバイヤバイヤバイ絶対ヤバイ!!)

一対多。実力者らしき者は二人。それでも圧倒的に不利だ。奈緒は神殿を選んだ自分の判断を呪うしかなかった。


「ハナ、おいで。オリハルコン、セパレイション」

「では行くかの!オリハルコン、セパレイション!」

「アビスグラップル、ウェイクアップ」

「アビスソルジャー、ウェイクアップ!」

「…あぁっ!畜生、やってやる!」

アイとスカルPは、掛け声とともにオリハルコンの鎧を纏う。

奈緒の攻撃は殆ど意味をなさないだろう、それはなんとなく察していた。

それでも、帰還しなくてはならない。逃げなくてはならない。

脚は異形に、両腕を虎の物にしたまま、四足歩行するように体を低く構えた。


715 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 00:47:40.799SwiL0z50 (11/31)

「秘伝、《六骨》」

「っ!」

スカルPが繰り出す6発のパンチを、その速さに驚きつつも寸でのところで回避する。

アビスソルジャーは量産型故にアビスカルより性能は劣るが、それでもスカルPの身体能力の邪魔をすることはない。

「良く回避したね、だけど無意味だ」

しかし、回避した先を読んだアイが奈緒の横に駆け寄り、ナイフを振り下ろす。

(速っ…!?)

奈緒の左腕から鮮血が舞う。

兵士の一人がそれを見て情けない悲鳴を上げた。

「ひっ!腕が!」

…その言葉通り、時としてオリハルコンすら切断する斬撃は骨を断ち、腕がポロリと落ちていたのだ。

「どうだい、降参するかい?このままだと君は出血多量で死ぬよ?」

「…『それは無理だな』」

奈緒が返事と共に動き、脚と右腕だけで左腕を回収すると、あっという間に腕は再び元通り接合される。

「なるほどね。なら容赦はいらないか」

「…これは骨が折れるのぉ」

それを見てアイとスカルPは回復能力を持っているとすぐに理解する。…スカルPはあまり乗り気ではないようだが。


716 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 00:49:12.009SwiL0z50 (12/31)

「…まだ…!」

奈緒が黒い翼を展開し、スカルPに突っ込む。

「…すまんの、秘伝、《骨挽》」

「ガハッ…!」

スカルPは冷静に、その勢いを利用して裏拳を叩きこむ。

「…グァ、ガアアアア!!」

口から血を吐きながら、奈緒の翼の羽が牙のように変形し、まるでサメの捕食のようにスカルPを挟むように襲い掛かる。

「ぐっ…」

「まだ、まだァ!」

「ぐおっ!」

牙を抑えるスカルPに、奈緒は異形の足で蹴りを叩きこんだ。

脚の爪がオリハルコンに僅かながら傷をつけ、スカルPは吹き飛ばされる。

量産型である為に、アビスカルなどと比べると頑丈さに欠けるアビスソルジャーではダメージを抑えきれなかったようだ。

「スカルP様!!」

殆どの者が吹き飛ばされたスカルPに視線を向ける。

奈緒はその隙に翼を広げ、宙へ逃げようとする。

「一度頭を冷やした方がいい。これは1対1じゃないのだから」

しかしそこに冷ややかな口調と共にアイが下から打ち上げるようなキックを放った。

「グ…ァ…!」

奈緒が高い天井に激突し、そのまま重力に従い落ちていく。

「…秘伝、《崩骨》」

そして落ちてきた奈緒を立ち直ったスカルPの掌底が襲い、壁に叩き付けられた。


717 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 00:50:53.439SwiL0z50 (13/31)

「…やったかの」

「死んでないといいけどね」

スカルPとアイが、壁にもたれて動かなくなった奈緒を少し遠くから見ていた。

グチャグチャグチュグチュと音がするから再生はしているようだが、彼女自身が動かないのだ。

巫女はそんな奈緒を見て、一つだけ思い当たる種族が居た。

(…吸血鬼の類かしら…?…けれどそれでは説明がつかない事が多すぎる。カースの力だとしてもこんな力はあり得ない筈…)

吸血鬼も弱点を除けば不死身の類だ。あの回復力は異常だが、個人差かもしれない。

黒い力から連想したカースの力は殆ど感じず、それではカースドヒューマンだったとしてもあれ程の戦闘能力と再生力を同時に持っているのはおかしい筈。

しかし、それでは異形の方が説明できないのだ。それに彼女が所属している筈の宇宙系組織に、利用派であろうと吸血鬼が所属しているのは不自然だ。

…カースの力をほとんど感じない原因は奈緒に埋め込まれた暴食の核が、小さな欠片だからなのだが。

(…わからないわ)

結局、巫女はまだ判断を下すのは早いと結論付けた。


718 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 00:52:19.369SwiL0z50 (14/31)

奈緒は壁に叩き付けられたまま、意識が朦朧としていた。

彼女自身のとも言えない感情が、内側で渦巻いていく。

―痛い、いたい、イタイ…!

骨が何本も折れている筈だ。内臓だってボロボロになっているだろう。

そんな体が再生をしているのが、感覚でよく分かる。

死ぬことは許されない…でも、血が足りない。ダメージが酷すぎる。

―タリナイ、血ガ、タリナイ

―強サガホシイ、モット、モット

―モット、強イモノ食べナイト…

彼女の中の浄化された筈の小さな暴食の呪いが蠢く。

きらりとそれなりに長い間離れているのも原因なのだろう、呪いの力が奈緒に広がっていく。

鉄の味がしていた筈の、吐いた血まみれの口の中が砂糖のように甘いような…異常な錯覚が襲う。

内側にあるはずの器官が泥のように溶けていく。蛹が内側で溶けて変態して蝶に変わり羽化するように。

―タリナイ、タリナイ、ナニモカモ…タリナイ

―…オナカスイタ


719 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 00:53:43.879SwiL0z50 (15/31)

全く動かなかった奈緒が俯いたまま立ち上がった。

場は再び緊張する。

彼女が吐いた血は、神殿のあちらこちらを真っ赤に染めていた。プレシオアミドラルの亡骸にまで血が付着している。

何名かがその血や返り血を浴びていたようだが、鎧の下には届いていないようだ。

(甘い香りがする。気が狂いそうなほど甘ったるい香りがする)

いや、既に狂っているのかもしれない。

さらにスーツと泥の服で見えないが、奈緒の肌に消えたはずの傷跡が藍色の刺青のように刻まれていく。

捕まっていた時は飢えてはいたが今ほどの強い暴食の感情など無かった。

しかし今、彼女は自ら求める。飢えを満たすような強さを持つ者を。あの時より強い暴食の感情を開放していく。

もはや奈緒自身の意識は薄く、その体を動かしているのは獣としての生存本能の塊だった。

「ッアアアアア!」

奈緒がその感情に振り回されるようにアイに飛び掛かる。

「まだ、これだけ動けるのか…だんだん本性が露わになってきているようだね」

しかしその単純な攻撃は難なく回避されてしまう。

だが奈緒は泥と一体化した髪を硬化させ神殿の床に突き刺し、飛び掛かった勢いを殺さぬままグルリと方向転換して再び襲い掛かる。

「…!」

それすらもアイは回避するが、奈緒も生物の範囲を超えた身体能力で追い詰めていく。

執拗に、逃がさぬように、髪が触手のように伸びてアイの移動範囲を狭めていく。


720 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 00:55:41.589SwiL0z50 (16/31)

「アイ殿…!」

「!」

『アオオオオオオオオン!!』

『シャアアアアア!!』

「なにっ!?」

スカルPがそれを中断させようと横から素早く間合いを詰めようとしたが、奈緒から分離した生命体がそれを妨害する。

そしてついにアイに逃げ場が無くなり、奈緒にのしかかられるようにして捕まってしまった。

その姿は半分以上が藍色の模様が刻まれた黒い異形と化しており、大きな虎の前足が抑えつけて離さない。

虎の最大の武器は牙ではなく発達した前足だ。前足で獲物の体力を削り、そして力尽きた獲物を抑え、捕食する。

「っ!」

「…グルルル」

「このっ…!離せ…!」

どんどん奈緒の背から泥が溢れ、アイにのしかかる重量が増えていく。

さらに噛みついてきているが、オリハルコンの鎧に阻まれてアイ自身はまだ無事ではあった。

それでも鎧の隙間から何かされる可能性も高く、アイは命の危機さえ感じていた。

『アォオオオオオオン!』

『ヒィイイイイイイイイイン!』

「邪魔をする出ないわ!」

兵士やスカルPも、奈緒から溢れるように生まれた黒い生命体に行動を妨害されて近寄れない。

状況はまさに一転し、絶体絶命としか言いようがなかった。

「…これは…暴食?」

巫女は巫女で、今になってやっと暴食の呪いの気配に気づいた。

「わからないわ…これほどのカースドヒューマンなら殆ど隠すこともできない筈、それにまともな自我なんてないはずなのに…」


721 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 00:57:25.709SwiL0z50 (17/31)

(頭がすげぇ痛い…痛い……)

肉体は暴走し、暴食の感情が爆発していた。このままでは目の前の彼女を骨すら残さず喰らい尽くすだろう。

それと同時に、彼女は葛藤する。殺されかけた相手とはいえ目の前の人を喰らおうとする暴食をなんとか抑えようとしている。それが頭痛となって彼女を苦しめる。

「…グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

悲鳴のように、雄たけびのように、奈緒は獣のように咆哮する。

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』

「!?」

そこに居た者達は驚愕した。

その咆哮とシンクロするように、プレシオアミドラルの咆哮が海底都市に響き渡ったのだから。

「…!」

その咆哮と同時に一瞬だけ拘束が緩まった。その隙をアイは見逃さない。手にしたナイフでぎらぎらと光る赤い目を切り裂いた。

「あ…ギャアアアアアアアアああああああああ!!!?グア、あああ、あ、アアア!?」

血が飛びり、目を潰された奈緒がパニックを起こす。そのパニックが原因か、泥は一斉に奈緒の元へ戻り、アイも解放された。

目を抑えて悲鳴を上げていた奈緒は、そのまま疲れ果てたように動かなくなった。

「…今度こそ終わっただろうね?」

「わからん…取りあえずアイ殿は下がっておれ。ワシらに任せておくのじゃ」

「…わかったよ」

しかし、巫女は咆哮の時に説明しがたい、なにか『嫌な予感』を感じた。

「…は、はやくあの侵入者を捕えなさい!今のうちにとにかく早く!」

「わかっておる、あれは何かおかしい!」

兵士達も倒れた奈緒を捕獲すべく、駆ける。

『…寝てたから状況はよくわかんねぇが…大人数で倒れてる女を襲うなんて、テメェら良い根性してやがるな!』

その次の瞬間、謎の声と共に、兵士たちは吹き飛ばされた。


722 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 00:58:35.099SwiL0z50 (18/31)

吹き飛ばしたのは右腕が変形する黄金の鎧。さらには海の色の様なマントまで装備されている。

それは装着者がこの場にいない筈のアビスエンペラーだった。

「う、動いたじゃと!?」

「アビスエンペラーが…わ、わからないわ…」

「…そうか、あれが例のアビスエンペラーか」

兵士たちを吹っ飛ばした攻撃を回避したスカルPは驚愕するしかなかった。海皇であるヨリコ専用の戦闘外殻が、彼女がいないこの状況で動いているのだから。

うごかしている存在に心当たりがある巫女は狼狽える。呪詛がまだ不完全とはいえ、プレシオアミドラルの魂は縛っていた筈だったのだから。

アビスエンペラーの足元でやっと正気に戻った奈緒は、朦朧とした意識の中、無意識にスーツの装備からある物を取り出していた。

「…」

ピンを外し、手放すとコロコロ転がっていく。

「…あれは…!」

アイが反応すると同時に、濃い煙幕がスモークグレネードから噴き出した。

視界が奪われ、皆が思わず目を塞ぐ。

そして煙が晴れた時、そこに奈緒の姿は無かった。

「逃がしたか…!」

アイがいち早くそれに気付き、悔しそうに周囲を見渡す。

「全分隊に連絡!侵入者が逃亡した!神殿周辺に包囲網を敷くのじゃ!黒い格好の女じゃ、逃がすでないぞ!」

スカルPも通信機を取り出し、外の部隊に命令を下す。

「…侵入者を捕えるのが私の依頼内容だ。行かせてもらうよ」

アイも神殿の外へ出ていった。


723 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 01:00:29.779SwiL0z50 (19/31)

『…おいおい、俺を忘れてもらっちゃ困るな』

不満そうな声がアビスエンペラーから聞こえてくる。

「黙った方が身の為じゃぞ。…ヨリコ様のアビスエンペラーをどうやったかは知らんが勝手に使った罪は重いからの」

『…どうやったか?それはそこの怪しい巫女さんが良く知っているだろうよ』

「なに?」

「…っ!」

『ま、お二人でごゆっくり話し合ってればいいさ、俺はもう遠くへ行かせてもらうからよぉ!』

「待たんかーっ!」

「ま、待ちなさい!」

『待つわけないだろうが!!』

右腕を鈍器に変えたまま、アビスエンペラーは神殿の壁を壊し神殿の外へ飛びだしていった。


724 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 01:01:12.169SwiL0z50 (20/31)

「…巫女殿、ワシがこの事をヨリコ様に伝えてこよう。なぁ…聞かせてくれ、あれは一体なんだったんじゃ、何か知っておるのか?」

茫然としつつスカルPが巫女に問う。

「わからない、わからないわ…」

しかし巫女はただそう言う事しか出来なかった。


725 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 01:02:09.409SwiL0z50 (21/31)

アビスエンペラーはその高い機能をフルに活用し、夜の都市を高速で駆ける。

兵士に何度か遭遇し、止めようとして来るが、いとも簡単に吹っ飛んだ。

兵士達が神殿周辺に集まりだしたせいか、その遭遇頻度も下がり、ついには気配すら感じない程の位置に来た。

アビスエンペラー…に憑依したプレシオアミドラルが、周囲に誰もいない事を確認して小声で喋り出す。

『おい、聞こえるか』

「…」

『返事しろっての!』

「…だ…れ?」

虚ろな返事が返ってきた。

『俺はプレシオアミドラル様だ!知ってる筈だろうが!』

「…プレシオ……あ、そうだ…ピー助の知り合い!」

『…フタバイキングだからな、一応言っておくが』

「わかってるよ…うん」

『まぁ…死んでないようでなによりだ』

すぐに意識が戻ってきたことプレシオは安堵した。


726 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 01:04:43.099SwiL0z50 (22/31)

「なぁ…ちょっと待ってくれ、今の状況がよくわからないんだけど…」

そこに奈緒がプレシオに戸惑い気味に質問する。

『覚えてねぇのか?』

「だから聞いてるんだよ…全く分かんねぇんだ。てっきり捕まったのかと思ってた」

『仕方ねぇな…』

どうやら意識が朦朧としていたからか、殆ど覚えていないようだ。プレシオは面倒そうに説明する。

魂であっても真夜中に近いこの時間帯はプレシオは眠っていた。しかし周囲であまりにもうるさかったので起きてみたらあの状況だったのだ。

『…どこから言うべきかね…まぁ捕まりそうになっていたお前を助けたのは紛れも無くこの俺よ!』

「じゃあ…今アタシが鎧の中にいるのはなんでだ?」

『それか?俺は幽霊みてぇなもんだ。巫女の妙な術で動けなかったが…さっき力を振り絞ったらなんか知らんが動けたんで、近くにあった鎧に憑りついたんだよ』

『つまり…俺はこのアビスエンペラーとかいう鎧を体の代わりに動いている訳だ。お前は空っぽの鎧の中に入ってきた…と言う事だな』

煙幕の中、彼女が泥のように溶けて鎧に入って来た時の恐ろしい光景を思い出さないように、説明を手早く済ませる。

あの時の奈緒は、まだ少し暴食の感情が生きていた。強い力を欲し、喰らう事を思考の奥底で欲していた。

そこにアビスエンペラーが現れ、奈緒はその力を欲し、喰らえなかったアイの代わりに捕食しようと泥のように溶けて襲い掛かったのだ。

だが幸運なことにオリハルコン製のアビスエンペラーは食えるモノではなく、中に誰も居なかった。

そして泥の状態のまま、奈緒は暴食の衝動により居もしない中の人を喰らおうとアビスエンペラーの隙間から中に入ってしまい、そのまま現在に至るのである。


727 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 01:06:10.739SwiL0z50 (23/31)

『…要するに、お前の知識で言う、「ニーサン!」とか言っているアレだな』

「…うん、よく分かった。けど、なんか聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど『お前の知識』って…?」

『ああん?俺だって知るかよ、なんか知らんがお前の知識も俺のモノになってやがる』

「え…え、え?マジで?」

『大マジだ。なんなら他の事も言うか?お前の部屋の机の上から二番目の引き出しには…』

「わ、わーっ!わーっ!ほぁーっ!ぬわーっ!バカ、バカ、バカァ!」

『わかった!わかったから少し黙れ!』

プレシオのカミングアウトは奈緒に全力で阻止された。

『…とにかく、お前のおかげで俺はいろいろ分かったし、自由になれたわけだ。俺はお前を捕まえる理由もねえし、逃がしてやるよ』

「あ、ありがとう…で、どうやって脱ぐんだコレ」

奈緒の肉体はもう普段通りの骨も内臓もある普通の体になっている。脱ぎ方が分からないので鎧に閉じ込められているような感じになっているのだ。

『それはだな、こうすればいいんだよ』

アビスエンペラーがプレシオサウルス型の金属生命体の姿に変形し、奈緒と分離する。

「おおー…やっぱりよく分かんねぇけどスゲェ技術だな…」

『俺もこういうのはよく分かんねぇな。まぁ便利だけどよ。さっき壁を壊した時ついた傷も元通りに戻ってるしな』

「金属でも再生するんだな…」

『科学の力ってすげーって奴だろ、俺はそういうの詳しくないんで聞いても適当に言うからな』

「…じゃあ止めておく」


728 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 01:08:03.439SwiL0z50 (24/31)

「…そういえば神の洪水について何か知らないのか?守護神なんだろ?」

『あー…ったく、いろいろ知ったが何が神の洪水だ。俺は守護神として崇められてたが洪水なんて何もしらねーぞ?』

「関係ないのか?」

『ったりめーだ!俺はあの巫女の妙な呪詛で動けなかったんだからよ!まぁ今は自由の身だがな』

「巫女…あのフードの女…だよな?」

『おう、あの巫女にヨリコ…職業で言うと海皇サマは騙されちまってる。アイツはどう考えても黒幕だな。妙な術ばかり使う汚ねぇ奴だ』

「アイツが…」

神殿に居た巫女を思い出す。確かに彼女からは少し不気味な雰囲気を感じた。

『とにかく、ここから逃げるならとっとと逃げな。…飛ぶんじゃねーぞ?ここで飛ぶと目立つからな』

「ああ、そうするけど…お前はどうするんだ?」

『俺か?…一応、あの嬢ちゃんに忠告するつもりだが…あの巫女がどうも不気味でよ…なにかされる気がしてならねぇ』

ヨリコに忠告をしたい気持ちもあるが、あの巫女が何かしらの呪詛でまた縛り付けてくる不安がある。

そしてプレシオは自覚していないが、今アビスエンペラーにはとあるカースの核が埋め込まれている。

勘の様なもので、巫女には近寄らない方がいいとプレシオは判断していた。

『…まぁ俺はここに残って俺がやりたいことをやるだけだ。フタバ達には悪いが、まだ会うのは当分先になるな』

「…そっか、わかった。なんか変な事になったけど、ここまで連れてきてくれてありがとな」

『また追われるんじゃねーぞ?』

「なんだよ、そっちこそ下手な失敗とかするなよ?」

『俺の心配している暇があったらさっさと行きやがれってんだ。「ねばーでぃすぺあ」の仲間がいるんだろ?』

「人の記憶勝手に見るんじゃねえよ…もう見るなよ!あたしもう行くからな!」

『…はいよ』

奈緒は手を振って、夜の都市を急いで駆けだした。


729 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 01:09:58.659SwiL0z50 (25/31)

今の位置は見覚えがある。すぐ近くに隠れ家がある場所だ。

(アイツの心遣いかな…多分)

隠れ家の扉を開き、スーツを脱いで片づけ、急いで最後の帰還準備を済ませる。

箱の中に荷物を詰め込み、来た時と全く同じ部屋に戻ったのを確認する。

隠し戸を開いて、奈緒は外への通路に潜水し、無事に海底都市を脱出した。

隠し通路のハッチを閉めて砂で隠し、暗い夜の海の中、ただひたすら上に向かって泳ぎ続けた。


730 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 01:11:08.339SwiL0z50 (26/31)

暫くして月の光が見えてくる。暗い藍色の夜の海から、一筋の光を目指して奈緒はひたすら泳ぎ続ける。

水面が近づいてきた。

「せーのっ!」

イルカのように水面から飛び出し、翼を広げる。

空中を飛びながら箱の中から通信機を取り出して、スイッチを入れるとすぐに少し上に穴が開かれた。

「奈緒!お帰り!」

「李衣菜…!ただいま!」

穴から伸ばされる李衣菜の手を掴み、釣りあげられるように引き上げられる。

その勢いが着いたまま、計算されていたのか積まれていたタオルにボフッっと突っ込む。

…無事、少々ダイナミックな帰宅をした。


731 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 01:13:38.839SwiL0z50 (27/31)

「奈緒ちゃーん!お帰りなさーい!きらり達ずっとずーっと待ってたにぃ!」

「きらりー!力強いから!強いから!」

「ごめんなさーい、じゃあちょっち弱めのはぐはぐ☆」

きらりがタオルで体をワシャワシャ拭きながらハグをしてくる。

もうかなり遅い時間だが…きらりの言う通り、李衣菜と夏樹もずっと待っていたようだ。

「遅かったから心配したよ!もう、奈緒が遅いから、何かあったのかってなつきちも落ち込んじゃうし…」

「落ち込んだって言うか…アタシの判断ミスのせいで奈緒が帰って来ないって気がしてだな…なぁ奈緒、侵入した時に何かあったのか?」

「うん、あったよ」

奈緒が侵入した時にあったことをできる限り説明できるように話す。

記憶が曖昧な所はできるだけ話さないように…そして心配をかけないように受けたダメージの事は減らして話しているが。

「ねぇ…奈緒はスニーキングできてなかったって事なんじゃないの?」

「あたしもそれは自覚してたから言わないでほしかったなぁ…思い切り見つかっちゃってさぁ…」

「…でも奈緒ちゃんすっごく頑張ったの!お疲れちゃーん!」

そう言って揉みくちゃに拭かれた奈緒をきらりが抱える。

「よーし、奈緒ちゃんスペシャル入浴ターイム☆スペシャルだからきらりも一緒ねーっ!」

「ふ、風呂ぐらい一人で入ってもいいだろ!?はーなーせー!」

「…ちゃんと体が温まるまで入るんだぞー」

「疲れているんだから暴れない方がいいと思うよー?」

「ふ、二人とも止めてくれよぉー!!」

抵抗空しく、奈緒が風呂場へ連れていかれるのを夏樹と李衣菜は見送った。


732 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 01:15:04.819SwiL0z50 (28/31)

「…で、LPさんにはどう報告しようか、真夜中な訳だけど」

「あの人なら多分起きてるだろ。奈緒の帰還連絡と、情報を伝えないと…」

李衣菜が一応と、メモ帳とペンを取り出しつつ、奈緒の話をまとめ上げる。

「呪術使いの巫女が黒幕で、海皇専用の強力な装備であるアビスエンペラーは現在『脱走中』。けど奈緒を倒すくらいの実力者が最低でも二名居る…って?」

「…鎧を装備した相手を倒すのが奈緒は難しい事を考慮しても、やっぱり海底都市の技術は進んでいるみたいだな」

「再生する金属の鎧とかもそうだけど…やっぱりよく分かんない事がまだ多いね。黒幕らしい巫女の実力もまだ分からないし…」

「だな…とにかく、アタシは奈緒の話をありのままに報告するだけだ。奈緒のスニーキングの実力については今後話し合うとしても…黒幕らしき人物の情報をつかめたってのは、大手柄だな」

「だね、何とか平和に終わらせたいものだけど、今は交渉自体難しいからなぁ…海の中に私は絶対入れないし!」

「それは仕方ない事だな…っし、送信完了っと。だりー、きらりと奈緒のパジャマ出しておけよー」

「りょーかーい」

報告を済ませた夏樹の言葉に従って、李衣菜が部屋を出ていく。

暫く直接会えなかった奈緒に、きらりはさぞかしはしゃいでいる事だろう。

少しだけ溜まった疲れが義眼の入っている目の瞼を閉じさせる。

(ああ…思ってたよりアタシは奈緒を心配しすぎたみたいだな…)

そこでようやく疲労している事に気が付いた夏樹は、少しの間だけ視覚ユニットを腕に収納して眠りにつくことにした。

(…無事で、よかったよ。本当に)


733 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 01:16:53.309SwiL0z50 (29/31)

情報
・奈緒が帰還しました。
・海底都市の神殿が血まみれ&壁に大穴があきました。(血は恐らく時間が経って既に『喰らう』力を失っている筈)
・管理局が今回の事を大体把握しました。
・海底都市のあちこちで金色の戦闘外殻、アビスエンペラーが目撃され始めました。


734@設定 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 01:20:25.649SwiL0z50 (30/31)

・グラトニーモード
奈緒の『暴食』が暴走した状態。
瀕死の時に渇望し、飢え、求めることで覚醒する。
獣の生存本能が捕食する方向で暴走し、奈緒の意識は殆ど無い。
とにかく一度決めた相手をとにかく喰らおうと襲い掛かってくる。頑丈な鎧でも装備していない限り、無事では済まないだろう。
瞳はぎらぎら輝き、全身に過去に受けてきた傷の数だけ藍色の刺青が刻まれている。
全身を自在に変形させる事も可能で、圧倒的な強さを誇るが…知能は低下しているようだ。
この姿にいきなりなったのは、恐らくきらりと暫く離れて行動していた影響である可能性が高いようだ。
再生能力がさらに強化されているが、瞳が唯一の弱点であり、そこを襲われると操作していた泥が動きを止め、元に戻ってしまう。

アビスエンペラー(奈緒同化状態)
プレシオアドミラルが憑依して自律行動しているアビスエンペラーの内部に、肉体が泥と化した奈緒が入り込んだ。
内部に泥が満ちていても少々重量が増した程度で活動に支障はなかった。
アビスエンペラーに埋め込まれたカースの核がプレシオの意識街ではあったが奈緒の肉体に反応し、知識と記憶をある程度読み取ったようだ。
プレシオはネバーディスペアのことや奈緒のアニメ関連の知識やちょっした秘密を知ったらしい。


735 ◆zvY2y1UzWw2014/01/14(火) 01:21:45.309SwiL0z50 (31/31)

以上です
サヤの建てたフラグを回収するだけの簡単なお仕事…アイさんとスカルPの二人を一人で相手にするとかムリゲーすぎるじゃないですかー!やだー!
…とか考えていたらこうなっていたんだ…アイさんには非常に申し訳ない事をしたと思ってます(白目)

奈緒ちゃんは可愛いんだ、決して化け物じゃないんだ…


736 ◆AZRIyTG9aM2014/01/14(火) 01:53:21.41V2zlxxrp0 (1/1)

乙ー

kwsmsnの胃痛がもうヤバイwwww
さて…kwsmsnが本腰いれそうだな


737以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/14(火) 20:17:33.533WQv3Mxto (1/1)

乙です。

やめて!もう川島さんの胃はとっくにぼろぼろよ!

海底都市で目撃される黄金の鎧とか完全にホラーじゃないですかやだー!


738 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 22:09:20.07HumleWzDO (1/24)

投下します
実際長くなってしまったので読む前に覚悟がいる


739 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 22:11:27.62HumleWzDO (2/24)


‐プロローグ‐

 十二月も半ば過ぎ去ったその夜もまた、タカラダ・トミゾは孫との団欒を楽しんでいた。

「オジイチャン、ここ、ギアに負荷がかかり過ぎるよ」

「そうか、そこはオジイチャンも気になっておったのだ」

「ここはもう一回り大きいネジを使おう。子供はけっこう乱暴に振り回すんだ」

 孫のトミスケは十歳にもならぬ子供だが、そのアドバイスは的確だ。
 玩具で遊ぶ祖父と孫、傍目にはそう映るだろう。しかしそれだけではない。
 トミゾはネオトーキョーに本社を置く大手玩具メーカー、オタカラダ玩具の社長にして開発チーフである。
 試作品の玩具を持ち帰り、孫と一緒に遊ぶことで子供のリアルな目線からのアドバイスを得るのだ。

「アッ…。…オジイチャン、ちょっとぼくトイレ」

 夢中でLEDカタナを振り回していたトミスケだが、尿意が無視できぬレベルに達したか、慌ててトイレに駆けて行った。
 トミスケの両親……即ちトミゾの息子夫婦は、物心のつかぬ息子を残して反ルナールテロの巻き添えで死んだ。
 妻を病で亡くして久しいトミゾにとって、トミスケは最後の家族だ。
 そしてトミゾは孫の中に非凡な才能を見出だしていた。彼は遠からぬ将来、孫に全てを譲るつもりでいた。

(その日まで、トミスケも会社も、ワシが守らねば…)


740 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 22:14:33.30HumleWzDO (3/24)


 吹き込む冷たい風に、トミゾの思考は中断された。ガラス戸は閉めたはずだが、いよいよボケたか。
 立ち上がり振り向いたトミゾの目に飛び込んだのは、人が通れるほどの大きさに切り抜かれたガラス戸だ。

「バカナ! 金属線入り強化ガラスだぞ!?」

 侵入者か!? トミゾは中腰で身構え、前後左右に油断なく正拳突きを繰り出す。社長たる彼は護身用の武術を修めているのだ。

「出てこい賊めッ! ワシの生活、ワシの宝には指一本アバッ!」

 背後から首筋に手刀の一撃を受け、トミゾは気絶! 賊は彼を手際よく拘束、抱え上げると、ガラス戸を抜けてテラスに出た。
 ネオトーキョー一等地の超高層住宅、地上三百階の上空に、一機の大型ステルスヘリが音もなく待機している。
 賊はトミゾ老を担いだままテラスから跳躍、苦もなくステルスヘリに乗り移った。

「お疲れ様です」

 キャビン内で待機していたサポートメンバーにトミゾ老を預け、彼女は固いシートに腰掛けた。
 通気性の悪いボディスーツの胸元を開け、汗ばんだ素肌を外気に晒す。
 その仕種に下品さは感じられない。一仕事を終えリラックスするプロの姿だ。

「なに、こういうスリリングなミッションもたまには悪くないさ」

 狭苦しい機内で留守番していたハナを優しく撫でながら、傭兵アイは微笑んだ。
 ステルスヘリはネオトーキョーの夜空に溶け込むように姿を消す。
 既に遠くなった超高層住宅の一室から、幼い悲鳴が微かに響いていた。


741 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 22:17:23.39HumleWzDO (4/24)


‐1‐

 『タカラダ社長失踪! テロ可能性重点』『オタカラダ株大暴落、投資家の自殺件数が昨年度から倍増』
 午前九時。朝のワイドショーが、昨夜の事件をセンセーショナルに報道する。
 平常通りカートゥーンが始まった一つを除き、どのチャンネルも同じような緊急特集だ。

「…クリスマス商戦真っ只中だってのに、気の毒な」

 ミルクティー片手に、低俗大衆新聞を読みながら黒衣Pが言った。見飽きたニュースだ。もはや画面を見もしない。

「ところでプロデューサー、オタカラダって?」

 尋ねたのは彼の担当アイドルヒーロー、斉藤洋子だ。上質ソファに体を埋め、ココア豆乳をフウフウと吹いて冷ましている。

「ああ、女の子には馴染みが薄いか? エート、リキチャン人形」

 黒衣Pは説明を続けようとしたが、合点がいったというような洋子の表情に、続く言葉を危うく飲み込んだ。
 オタカラダとダイバンドウの商品展開傾向の相違だの、業績の推移だの、難解な無駄話を聞きたい気分ではあるまい。


742 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 22:20:13.48HumleWzDO (5/24)


「それで、そのタカラダ社長はまだ…」

「そうだな。失踪したのが昨夜のことだし、捜査も始まったばかりだ」

 会話はそのまま途切れた。洋子はココア豆乳を啜り、黒衣Pは猥褻ページのエロチック小説を読み始めた。
 冬の朝の穏やかなひと時。しかし、それはほんの数秒後に呆気なく終わりを迎えた。

「洋子ちゃん、黒衣くん、おはよう!」

 事務所玄関から聞こえた声に、二人は顔を見合わせた。
 一呼吸の後、洋子はトイレに隠れようと試みた黒衣Pの首ねっこを掴み、上質ソファに座らせる。
 来客用スリッパがパタパタと音を立て、訪問者…アイドルヒーロー同盟のヒーロー応援委員、持田亜里沙が姿を現した。

 ~~~~~~~~~~~~~


743 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 22:23:11.74HumleWzDO (6/24)

 ~~~~~~~~~~~~~

「家庭訪問にしては突然過ぎやしませんか、センセイ?」

 亜里沙と向き合って座る黒衣Pの表情はぎこちない。その隣で洋子もまた不動。
 この来訪が意味することを察し、二人には珍しく緊張状態にあるのだ。

「ごめんね、黒衣くん。先生もさっき指示を受けたばかりで、詳しいことは…」

「わざわざセンセイが来た以上、世間話で終わるはずもないんでしょうね。 …繋いでください」

 亜里沙の能力が、洋子と黒衣P、そして二人の直属の上司の間に脳内会話ネットワークを築く。
 “メッセージ”による脳内会話は、電話やメールに比べて遥かに高い秘匿性を誇る。
 どれほど優秀な諜報員とて、“脳内を覗く能力”でも持たない限り脳内会話を傍受することなど不可能だ。
 亜里沙が派遣された意味もそこにあった。電話やメールでは話せぬ内容……重要な仕事の話だ。
 タカラダ社長失踪事件を終息させるためのヒーローミーティングが始まった。


744 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 22:26:10.10HumleWzDO (7/24)


‐2‐

 ネオトーキョー第一産業区。ごく初期に開発され、今では辺境と化した一画に、その施設はひっそりと存在していた。
 地上部分に見えるのは寂れた工場……その正体は、地下十層に及ぶオワン形状の暗黒娯楽施設“女狐の巣”だ。
 これはルナール所有の施設だが、その存在を知るのは社内でも一握りの重役とエージェントだけである。
 ルナール社はこの施設の中で、明るみに出せない顧客と数々の黒い商談を行ってきたのだ。

「…それで、いつまで私をここに閉じ込めておくつもりだ? 私は暇じゃない、年内の仕事がまだ幾つか残っているんだ」

 ここは“女狐の巣”第四層にある貴賓室。室内据え付けの大画面モニタを睨むアイの眼には、明確な怒りが滲む。
 タカラダ・トミゾの身柄を依頼者に引き渡して既に二日、彼女はこの間ずっと貴賓室に留め置かれていた。
 最高級の食事も不足のない娯楽もアイは必要としていない。これがオモテナシの皮を被った軟禁であると気付いているのだ。

「解放する気がないなら、せめてハナを返してもらえないか。あの子がいないとなかなか寝付けない」

『それはできません。あの金属シャコが何らかのハイテック兵器であることを我々は掴んでいる』

 アイは歯噛みした。戦闘外殻さえあればこの状況を打開するのは容易だが、先方もそれは薄々勘付いているようだ。
 これ以上話しても埒が明かぬ。アイは通信を切断、一拍の間を置いて、モニタに報道番組が映った。
 『タカラダ事件解決へ アイドルヒーロー投入』のテロップと、若い女の姿。それは実際アイにとって僥倖であった。
 およそ半日後、傭兵アイは拘束状態を解かれ、再び依頼者の前に姿を現すこととなる。

 ~~~~~~~~~~~~~


745 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 22:29:16.45HumleWzDO (8/24)

 ~~~~~~~~~~~~~

 夜のハイウェイを疾駆する一台の軽バン。側面には朱色ファイアパターンで彩られた『アイドルヒーロー同盟』のステッカーが輝く。
 システムを自動操縦に切り替えた運転席で、エボニーコロモは情報整理に勤しんでいた。
 彼らが“代表”と呼ぶ直属の上司は、配下に数名の情報収集エキスパートを有している。
 今回のヒーローミーティングで得られた情報は、ルナールを内偵している諜報員から得られたものだ。

「つまり、この件はルナール社の内輪揉め…ってことですよね」

 助手席の洋子が言う。勉強は苦手と自認する彼女だが、仕事に関することなら話は別だ。

「そうなるな。オタカラダも…まあ、それなりに良い思いをしてたらしいし、文句を言える立場じゃない」

 ルナール社が現在のような大企業に成長する過程で、規模の大小を問わず数多くの企業が従属を強いられた。
 それに伴う反発や軋轢を和らげるため、ルナールはガス抜きを用意していた。
 ルナールの利益に直接影響しない業種数社には、資金援助を行いながらも経営に干渉しない、極めて寛大な方針を取ったのだ。
 そして、オタカラダ玩具もその“特権企業”の一つであった。

「普通に考えて、ルナール社内の覇権主義者が黙ってるわけなかったんだよな」

「ずっと不満が燻ってて、こんな形で爆発しちゃったんですね」


746 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 22:32:37.26HumleWzDO (9/24)


 結果として今回の事件が起こり、ルナール社の奥ゆかしい配慮は台無しになった。
 では、囚われのタカラダ社長はどこに? 答えは既に出ている。社用軽バンは『第一産業区』の看板が立つ出口を抜けた。
 目指すは地図にも記されていない辺境の暗黒施設。その存在を知るのは、ルナール社でも一部の重役!

「…黒幕、いると思います?」

「いないだろうな。今頃何食わぬ顔で憩ってるんだろう。何にしろ、俺達のやることは変わらない」

「タカラダ社長を救出して、実行犯を捕まえる、ですねっ!」

 エボニーコロモは頷いた。無表情な黒子ヒーローマスクの下で、その表情は険しい。
 二人はかつて、憤怒の街での重要任務を完遂できなかった。上層部の評価は決して芳しくない。
 “代表”は今回の仕事を得点稼ぎと言ったが、果たしてそう気楽にやれるものか。
 強力な能力者である洋子はともかく、非能力者の出戻りヒーローに、居場所は残されるのか……。

(…アー、駄目駄目、シリアス過ぎるのは良くない)

 エボニーコロモはネガティヴ思考を追い払おうと努めた。相棒に不安を悟られれば迷惑を掛けることになる。作戦前には禁忌だ。
 軽バンは寂れた工場の敷地にしめやかに滑り込み、その動きを止めた。
 胡乱な車両の目撃情報から、地下への進入経路は既に割り出されている。
 状況は遥かに良い。作戦開始だ。


747 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 22:35:15.20HumleWzDO (10/24)


‐3‐

「すみませんねミス・トーゴー。本当はもう少し寛いでいただきたかったのですが」

「御託は結構。私は虫の居所が悪い、さっさと報酬と違約金を支払うのが身のためだ」

 アイは現在、“女狐の巣”第九層のコントロールルームにいる。
 室内には彼女の他に男が二人と、特殊合金ワイヤで拘束された巨大金属シャコが一体。
 片方の男の傍にはガイコツめいて不気味なドロイドが控え、その頭から伸びるケーブルは男の操作するコンピュータ機器に繋がる。

「報酬はお支払いできません、すみませんね。貴女のお食事代に充てさせていただきました」

 アイの方を見ようともせず、男はキーボードを叩く。と、機器から一枚の紙が吐き出された。

「クソッ、ハズレです。すみませんついでに、もう一件お仕事を依頼したいのですが」

「ふざけた奴だ。こうも馬鹿にされて、私がハイと答えるとでも?」

 アイは制裁プランを練る。この男達はおそらく素人だ。たとえ銃を持っていても、ナイフの方が速い。
 金属骨格ドロイドの存在は気がかりだ。まずはコイツを先に始末するべきか。
 その時、アイの瞬時の思考を遮るように、壁に背を預けて立つ狐面の男が口を開いた。


748 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 22:38:22.48HumleWzDO (11/24)


「この金属シャコ、アンタにとって余程大切な物だと俺は踏んでるんだが」

 同時にドロイドが動き、ハナの可動部を曲がらない方向に曲げようとする!
 何たる非道! オリハルコン製ボディは強固だが可動部は比較的脆弱! ハナが苦しげな声を漏らす!

「卑怯な…!」

 以前のアイであれば、この下らないパフォーマンスの間に二人の男を始末していたであろう。
 しかし今、アイは迷っていた。ハナとの付き合いはそう長くもないが、情が移ってしまったか。
 ハナのボディから何らかの危険な異音が聞こえる! 迷っている暇はない!

「……依頼を受けよう」

 苦渋の決断! ハナは拘束されたまま無造作に転がされた。駆け寄ろうとするアイの前にドロイドが立ちはだかる。

「そのドロイドはオフィス向け知能重点タイプですが、耐久性テストを依頼します。すみませんね」

 欺瞞! ハリウッドSFの殺戮ロボットを思わせる強靭な合金骨格は無言にして暴力的だ。

「ヨロシク、オネガイシマス」

 ドロイドが、無機質な合成音声を発した。

 ~~~~~~~~~~~~~


749 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 22:41:41.35HumleWzDO (12/24)

 ~~~~~~~~~~~~~

 “女狐の巣”最下層はオワン構造をそのまま活かし、フロア全体が中心に向かって緩やかに傾斜する円形闘技場となっている。
 そして今、闘技場中心で向き合う一人と一体! テストの名を借りた傭兵解体ショーの始まりだ!

『それではテスト開始します。攻撃モーションを確かめるのでしばらくお待ちください』

 ドロイドは中腰で身構え、前後左右に油断なく正拳突きを繰り出す。数日前にも見たその動きをアイは覚えていた。

「…悪趣味な」

 ドロイドから距離をとりつつ、アイは苦々しく呟き……しかし次の瞬間には、その悍ましい事実を頭から追い出した。
 彼女が着用しているボディスーツは防弾・防刃性能を有するが、強靭な合金の腕に殴られれば長くは耐えられまい。
 余計な感傷が命取りになるであろうことを、アイは戦う前から理解していた。……だが、その時!

「マグネモ!」

 正拳突きを繰り出したドロイドの右腕、肘から先が射出! 磁力誘導ナックルだ! 完璧な奇襲!

「なッ!?」

 アイは咄嗟に跳躍、致命的打撃を避け……否、反応が僅かに遅れた! 合金マニピュレータがアイの足首を掴む!

「マグネモ!」


750 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 22:44:47.86HumleWzDO (13/24)


 ドロイドが右腕を振り上げる! 不可視の磁力ワイヤで引っ張られたナックルは一本釣りめいて急上昇する!
 頭に血が上る感覚! 視界が赤く染まる! このまま頭を天井に打ち付けられて死んでしまうのか!?
 せめてものガード体勢をとった直後、天井の一部が円形に赤熱、熔解した! 液化天井を突き破り朱色の人影!

「たあーッ!!」

 その朱色はシャウトと共に空中前転、勢いを乗せた踵落としをナックルに叩き込む!
 極大衝撃にマニピュレータが動作不良を起こし、アイを手放した! 一瞬の浮翌遊感の後アイは落下!
 朱色の踊り子ヒーローが手を伸ばしてアイを引き寄せ、そのまま脇に抱えて着地!

「…君は…そうか、君がタカラダ社長救出作戦の」

「《プリミティヴ》、バーニングダンサーです。参考人として詳しく話を聞きたいところだけど…」

「このドロイドをどうにかするのが先、だろう? だが、私の推測が間違いでなければ社長は…」

 二人と一体は対峙する。仕切り直しだ。天井の照明がバチバチと音を立てて爆ぜ、訪れる暗闇と静寂。
 洋子はアイの言わんとする所を理解した。ドロイドの内奥から、強い無念を感じたのだ。

「でも…それでも、助けます。あの中にタカラダ社長がいるなら!」

「…退くつもりはないようだね。ふむ…さっきの礼というわけでもないが、私も頑張ってみようか」

 非常灯が灯ったその瞬間、二人の能力者は敵に向かって跳躍していた!


751 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 22:47:50.14HumleWzDO (14/24)


‐4‐

 闘技場を見下ろす特別観覧室。ハナを足先で小突きながら、ジュダマツは上機嫌であった。
 オタカラダのヒラ社員に過ぎない彼に“オツカイ”を名乗るルナールエージェントの男が接触したのは一週間前のことだ。
 男はジュダマツにタカラダ社長の略取を持ち掛け、成功の暁には相応の地位も約束した。

(このご時勢にオモチャ屋は落ち目だ。社長が消えてルナールに吸収されれば、給料も上がる!)

 以前からオタカラダの方針に不満を抱いていたジュダマツに、この提案を拒む理由はなかった。
 また、男が社長の生死に言及しなかったことはジュダマツを更なる凶行に駆り立てた。
 旧知の闇医者に頼み、タカラダ社長の生体脳をルナールから提供されたドロイドに移植したのだ。

(社長は老い先短いが、機械の体なら不死身だ。じっくりとアイデアを搾り取って、特許で一生安泰!)

 彼が“ゴールデン・グース”と呼ぶこの計画は、既に最終局面に入った。
 元々使い捨てるつもりだった傭兵と乱入アイドルヒーローの始末も、ドロイド優位の今となっては時間の問題だ。


752 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 22:51:11.71HumleWzDO (15/24)


「オイ、あのアイドルヒーロー妙だ」

 共犯者たるオツカイが口を挟んだ。

「いつも近くにいるはずの黒子野郎、姿が見えねぇ。…迎撃するぜ」

 オツカイは狐面を脱ぎ捨てた。ガイコツめいて不気味な合金頭部が露わになる。この男もまたドロイド戦士!
 オツカイの出撃から三十秒後、特別観覧室の扉が再び開いた。

「早かったですね、何事もありま」

 振り返ったジュダマツは凍り付いた。無表情な黒子ヒーローマスクが彼を見下ろしていた。
 その左手には、破壊されて間もないオツカイの頭部があった。

 ~~~~~~~~~~~~~


753 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 22:56:18.95HumleWzDO (16/24)

 ~~~~~~~~~~~~~

「マグネモ!」

 一瞬の隙を突いてドロイドの両腕が射出、バーニングダンサーを空中で磔めいて拘束する!
 ドロイドの腹部が展開し、何らかの発射口が露出、眩い光を放ち電力を充填!

「シメ・ウチ!」

 巨大プラズマ光弾をバーニングダンサーは避けられない! 凄まじい爆発! 彼女の絶叫も光の奔流に掻き消された!
 視界が晴れた時、そこにあるのは倒れ伏す洋子の姿だ。炎の装束は消え失せ、ピクリとも動かない。
 続いてドロイドは発射口をアイに向ける。その威力は今実証されたばかりだ。

「シメ・ウチ!」

 放たれる巨大プラズマ光弾! さらに磁力誘導ナックルが周囲を高速旋回し、鳥籠めいてアイを逃がさない!
 光弾が凄まじい爆発! アイの姿が光の中に消え……

「オリハルコン、セパレイション」

 涼やかな声が響く。プラズマ光弾が弾け、霧消した。オリハルコン! ……オリハルコン!


754 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 22:58:12.74HumleWzDO (17/24)


「アビスグラップル、ウェイクアップ。…無事で良かった、ハナ」

 アビスグラップル無傷! 拘束を解かれたハナが間に合ったのだ!
 ハナを取り戻した今、アイに枷はない。アビスグラップルは真正面からドロイドとの距離を詰める!

「マグネモ!」

 ドロイドが両肘から先を飛ばす! ダブルナックル! アビスグラップルのナイフがナックルを一刀両断!

「マグネモ!」

 ドロイドが両膝から下を飛ばす! ダブルキック! アビスグラップルのナイフがキックを一刀両断!

「シメ・ウチ!」

 ドロイドの腹部が展開! プラズマ光弾を

「遅い!」

 アビスグラップルの投擲ナイフが磁力浮翌遊するドロイドの腹部を貫通! 発射口が暴発!
 勢いは止まらない! 踏み込みからの左パンチが胸部を打つ! 打つ! さらに打つ!
 CLASH! 絶え間無く打ち込まれる拳に合金胸郭が破砕! 続く渾身の右パンチがドロイドの胸部を貫通した!


755 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 23:01:39.44HumleWzDO (18/24)


「オノレ…ゾクメ…トミスケニハ、トミスケ…ケケニニ…」

 四肢を失いながらも起き上がろうともがく錯乱ドロイドに、アビスグラップルはゆっくりと歩み寄る。

「種をまいた一人である以上、私がケジメを付けなければならない。貴方個人に恨みはないが」

「…恨みがないなら、ちょっと…だけ…待っててもらえませんか…?」

 背後から声。先程バーニングダンサーを名乗ったアイドルヒーローだ。辛うじて意識はあるようだが、足取りは覚束ない。

「おや、大した回復力だが…私が止めを刺すから、安心して休んでいてくれ」

 洋子は歩みを止めない。アイは肩を竦めて道を空けた。ヒーローという人種には、時として何を言っても無駄なのだ。

「洋子、実行犯は確保した。撤収だ」

 エボニーコロモだ。スマキにされたジュダマツを肩に担ぎ、何らかのドロイドの頭部を首刈り族めいて腰からぶら下げている。

「…プロデューサー。タカラダ社長…助けないんですか…?」

「生身の体はもう処分しちまったらしい。そうでなくても、どのみち元には戻れないんだ」


756 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 23:04:14.07HumleWzDO (19/24)


 エボニーコロモの声はそのヒーローマスクと同じく無感情だ。淡々と、自分に言い聞かせているようでもある。

「洋子だって、その重傷じゃ放っとくと死ぬぞ。撤収だ。…俺達が出遅れた、それだけだ。仕方ない」

「仕方なくなんてないですっ!」

 洋子は無意識の内にエボニーコロモを一喝していた。体の奥底に朱色の灼熱を感じる。これは怒りか、それとも……。

「私は諦めたくない! タカラダ社長も! プロデューサーのことも!」

 エボニーコロモは明らかに動揺したようだった。ジュダマツを取り落とし、その場で膝から崩れ落ちた。

「…そのドロイドの中に、タカラダ社長の脳味噌が入ってる。洗脳にハイテック要素は一切無い…だそうだ」

 エボニーコロモはそれ以上何も言えなかった。彼は深々と頭を下げ、洋子は振り向かなかった。
 やがてエボニーコロモが顔を上げた時、その眼前には石造りの祭壇と、煌々と燃える朱色の炎だけがあった。


757 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 23:11:25.00HumleWzDO (20/24)


‐エピローグ‐

 ヨクボはルナールでも五指に入る重役であり、そして今日、オタカラダ玩具の社長補佐に就任する予定であった。
 オタカラダ新社長のタカラダ・トミスケは十歳にもならぬ子供であり、補佐とは名ばかりにヨクボが実権を握るのだ。
 玩具は廃業、生産ラインを全てヨクボの手中に収め、以てルナール内での発言力をさらに高める。
 特権企業を一つ潰すことになるが、それによるデメリットよりメリットの方が遥かに大きい。

「ジュダマツ君、逮捕でなく死んでくれていればもっと良かったが…この際文句は言うまい」

 でっぷりと肥えたヨクボの顔に、邪悪な笑みが浮かんだ。彼こそがタカラダ社長失踪事件の黒幕なのだ。
 ……しかし、ヨクボの企みはルナール上層部に筒抜けであった。
 元より不穏分子として密かに監視されていた彼は、この一件により反逆者と断定されたのだ。
 狐面処刑サイボーグ部隊が迫りつつあることを、そして明日の新聞が彼の自殺を報じることを、ヨクボはまだ知らない。

 ~~~~~~~~~~~~~


758 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 23:15:53.79HumleWzDO (21/24)

 ~~~~~~~~~~~~~

 ネオトーキョー一等地の超高層住宅。斉藤洋子は自身の背丈を遥かに超えるコンテナを背負い、三百階を目指す。

「…はぁっ…はぁっ…よいしょっ…」

 現在二百階。コンテナが重すぎてエレベータを使えなかったのは誤算だった。体の調子も、まだ万全とはいえない。
 それでも洋子は、その荷物を誰でもない自らの手で運びたかった。

「大丈夫 ですか お嬢さん。やはり 私が 自力で …」

 コンテナの中から声。アクセントや繋がりがやや不自然なそれは、タカラダ・トミゾの声をサンプリングした音声プログラムだ。
 洋子の能力により洗脳を解かれた彼は、孫を守るために二度目の生を望んだ。
 破壊されたドロイドの体に、アイドルヒーロー同盟技術者達から新たな手足を与えられたのだ。

「駄目ですっ、トミゾさんが歩いてたら、プレゼントのっ、ワクワクが…っ」

 荒い息をつきながら、洋子は階段を上る。三百階まであと少しだ。

 ~~~~~~~~~~~~~


759 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 23:20:09.94HumleWzDO (22/24)

 ~~~~~~~~~~~~~

 暗い地下駐車場に、一台の軽バンが佇む。黒衣Pは倒した運転席のシートに横たわり、思いを巡らせていた。
 脳裏に浮かぶのは、望まず機械の体を与えられ、二度の死を経験したかつての宿敵だ。
 自我すら失い、ただ破壊を撒き散らす殺戮人形と化した男と、トミゾ老は同じ道を歩むのではないか。黒衣Pは恐れていた。
 それでも彼は、最終的にトミゾ老を信じた。洋子の「大丈夫です」を。

「鍵もかけずに物思いに耽るなんて、聖夜とはいえ緩みすぎだ」

 助手席からの声に、黒衣Pは跳ね起きた。傭兵アイがそこにいた。

「…アンタか。悪いが洋子はいない」

「構わないよ。ついさっき、今年最後の仕事が終わったばかりでね。知った顔が見えたから声をかけただけさ」

「そうか。…いろいろ面倒をかけたみたいで悪かったな。おかげ様で、何とか首は繋がってる」

「何のことかな。まあ、ハナには伝えておくよ」


760 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 23:23:41.92HumleWzDO (23/24)


 黒衣Pが職を失うことはなかった。
 オツカイの頭部に残された記録と差出人不明の記録映像が、タカラダ社長を無事救出することは不可能であったと証明したのだ。

「それで、ヒーローというのは年末もまだ忙しいのかい?」

「他はどうだか知らないが、俺達は今日で仕事納めだ。洋子もまだ本調子じゃないしな」

「噂をすれば、洋子くんだ。…なんだ、意外と元気そうじゃないか。それに…いや、これ以上はよしておこう。じゃあ、良いお年を」

 エレベータの扉が開き、洋子が現れた。黒衣Pが再び助手席を見た時、既にアイはいなかった。
 洋子は軽バンを見つけ、大きく手を振った。それだけで、黒衣Pには充分だった。

【終わり】


761 ◆OJ5hxfM1Hu2U2014/01/15(水) 23:31:58.66HumleWzDO (24/24)

いじょうです
長々とお付き合いいただき申し訳ない
クリスマスにも洋子バースデーにも間に合わないしいつの間にかアイさんメインっぽくなってるし

スペシャルサンクス:
あいさんとありさてんてーに出演していただきました

!ノーティス!
・アイにとって今回の件は小銭稼ぎ程度で済むはずだった。裏切られることなど傭兵の常とはいえ…
・エピローグ時点で12月24日の夜。現状、時系列的には最後か。アイが地上で仕事してても問題はない…はず


762 ◆zvY2y1UzWw2014/01/15(水) 23:43:23.82LtwytiZU0 (1/1)

乙です
エボニーコロモPと洋子さんみたいな関係もなかなか良いものだ
アイさんがハナに愛着が湧いているのにちょっと和んだ
…でも災難に巻き込まれ過ぎじゃないですかね…アイさん幸運値低め?


763 ◆AZRIyTG9aM2014/01/15(水) 23:52:27.99h09Jb4+QO (1/1)

乙ー

アイさん大変そうだな…
洋子さんとエボニーコロモはいい感じの仲だねー


764 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 11:48:20.97mBDesi1u0 (1/32)

お二方乙ー
奈緒ちゃん生還出来たか……
プレシオ様奈緒ちゃんの秘密教えてくださいお願いします

相変わらずエボニーコロモは格好ええのう
アイさんにはもうお疲れ様としか言い様が無いですね(白目)

長くなったけど憤怒の街の太眉堕天使迎撃戦はじまるよー!


765 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 11:50:03.90mBDesi1u0 (2/32)


「それ」を最初に感じ取ったのは、街の郊外にいた魔法少女だった。

カインド「――――!」

グレイス「何よ……この悪寒……!?」

ファイア「今になって……何か厄介なのが来たようね……」

店長「何だって……!?」

少し遅れて、隣に居た見習い魔法使いも身震いする。

裕美「…………また、何か来たの……!?」

深き者と共生する少女は、黙って空を見据えている。

里美「……………………」

琴歌「里美ちゃん……?」

少し離れた場所で。

謎多き二人は、ただ笑っていた。

周子「おー、元気なのが来たみたいだね。どうする?」

志乃「心配いらないわ。彼女たちなら自力で切り抜けられるでしょう」


766 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 11:51:00.34mBDesi1u0 (3/32)

街の内部。

少女を見初めた若き神が、不快そうに空をにらみつけた。

若神P「悪魔……じゃない、堕天使か……こんな時にはた迷惑だな……!」

みりあ「だてん、し……?」

マリナ「天国から地獄に落ちて、悪魔みたいになっちゃった天使の事よね。それが来たっての?」

別の場所で。

未熟な魔法使いの少女がパニックを起こす。

さくら「えっ? えっ? ええっ? な、な、何ですかぁ今のお!?」

芽衣子「お、落ち着いてさくらちゃん! 何があったかは知らないけど、とにかく落ち着いて!」

病院で。

普段飄々としているある魔法使いの表情から、笑顔が消えた。

イヴ「……スゴイ邪気ですね~……」

ネネ「い、イヴさん……?」

ここ『憤怒の街』に居る、魔力と関わる全ての者が、「それ」の到来を感じ取った。

「それ」は、神によって強くされた者。

「それ」は、かつて「傲慢」に唆された元・天使。

「それ」は…………。

――――――――――――
――――――――
――――


767 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 11:52:09.25mBDesi1u0 (4/32)

――――
――――――――
――――――――――――

亜季「……クッ、キリがないでありますな……」

街の上空。

ある学校の敷地内に集まったカースを、亜季は淡々と狙撃していく。

亜季「チッ、これも弾切れ……回収! マイシスター!」

亜季の手から大型のガトリングガンが消え、別のガトリングガンが現われた。

狙撃が長引き、弾切れを起こす武器が増えてきている。

本部からの弾薬データアップデートは先ほど済まされたばかりだ。

向こうにも他の職務がある以上、こちらのワガママを通してもらうわけにもいかない。

亜季「ガトリングの弾をケチる羽目になるとは……。…………ッ、そこぉ!!」

亜季は突然懐からナイフを一本取り出し、背後へ向けて投擲した。

??「あら。……危ない危ない、当たる所だった」

それをいとも容易く回避したのは、黒い翼を生やした少女だった。


768 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 11:53:08.33mBDesi1u0 (5/32)

彼女は亜季を無視し、彼方へ飛んでいくナイフをじっと見つめている。

亜季「何者でありますか、お前は……?」

??「あ、私? ……どうしようかな、黙っててもいいけど……」

少女は亜季から目をそむけ、一人で何か呟いている。

亜季「お喋りがお好きなようですな。嫌な気配を隠しきれていないでありますっ!」

亜季が懐から取り出した拳銃を構え、少女へ向けて三度引き金を引いた。

??「……いけない、また口に出てた。いい加減直さなきゃ。あと、隠す気はないのよね」

少女はそれをひょいと避け、腹が立つほどの澄まし顔を亜季へ向けた。

亜季「もう一度聞きます。お前の名は? 所属と目的は?」

拳銃を構えたまま、亜季は少女に問いかける。

??「……うん、悪いけど、名乗る気は……」


769 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 11:54:00.30mBDesi1u0 (6/32)

「…………アザエル…………!」

どこからか響いてきた、鐘が鳴るような涼しい声で、少女の言葉は遮られた。

千鶴「この声…………参ったな、もう追いついたの?」

松尾千鶴――アザエルは振り向き、また独り言をもらした。

亜季「お前……直す気ないでありましょう。というか、今のは一体……」

アザエルに一言突っ込んでから、亜季も声のした方へ目を向ける。

聖「…………」

グリフォン(雪美)「…………」

そこにいたのは、白い翼を生やした少女、望月聖――ミカエル。

そして、獅子の体躯に鷲の頭と翼を持った幻獣、佐城雪美――グリフォンだった。

千鶴「ミカエル……思ったより早いのね」

腕組みしたアザエルは、聖と雪美に蔑むような、哀れむような目を向けた。


770 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 11:55:08.34mBDesi1u0 (7/32)

聖「あなたの好きには……させない……」

千鶴「追いつくのは結構だけれど、分かっているでしょう? あなた達じゃ私には勝てないって」

聖「…………」

グリフォン(雪美)「…………」

アザエルの言葉に、二人は反論できず押し黙る。

アザエルの能力、すなわち「自分に向けられた術を先読みし、相手より速くそれを返す」能力。

それがある限り、二人に勝ち目は無いだろう。

聖「…………確かに、私たち『だけ』ではあなたに勝てない。でも…………」

聖はそこで言葉を切り、右手の人差し指をすうっとアザエルの後方へ向けた。

亜季「…………へっ? わ、私でありますか?」

急に指差され、亜季は戸惑う。


771 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 11:56:04.76mBDesi1u0 (8/32)

聖「そう、あなた。あなたの助けがあれば、きっと勝てる。ここと似た別世界から来た、羽ばたく機兵……」

亜季「! ……知っているのですか? 平行世界の事も、私の事も……」

聖の言葉に、亜季が食いつく。

聖「知っていたわけじゃない……今、知ったの。お願い、助けて」

亜季はその言葉を受けしばし黙っていたが、やがてアザエルに拳銃を向けた。

千鶴「あら?」

亜季「こんな何を信じればいいか分からない状況ですが……お前のその嫌な気配だけははっきりと信じられるであります!」

聖「……ありがとう。私は、聖。この子は……雪美」

亜季「私は大和亜季であります。行きましょう! 聖殿、雪美殿!」

亜季の言葉の直後、聖は雪美の背に飛び乗った。


772 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 11:57:04.43mBDesi1u0 (9/32)

グリフォン(雪美)「aaaaaaaaaaaaaaa!!!」

咆哮と共に、雪美が鋭い鉤爪をアザエルに突き立てる。しかし、

千鶴「……はぁ、当たるわけないのにね」

アザエルはそれを軽々と回避した。

しかも、ため息と独り言のオマケ付きだ。

亜季「こちらも!」

アザエルの回避地点へ向けて、亜季がガトリングガンを掃射するも、

千鶴「やめておいた方がいいわよ。弾の無駄になるもの」

腕組みしたままのアクロバット飛行で、大道芸のように避けられてしまった。

亜季「くぅっ……速すぎる……! 聖殿、奴に何か弱点は!?」

聖「彼女は……自分を標的とした魔法を先読みして、それを自分の術として撃てるの……相手よりも速く……。
 だから、物理的は攻撃ならダメージは与えられる。だけど……」

千鶴「それすら私には当たらないって、今身をもって理解したと思うけど?」

アザエルが聖の言葉を遮る。


773 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 11:57:59.74mBDesi1u0 (10/32)

聖「ええ……あなたが地上の銃火器の弾よりも速く動けることは、計算外だった……」

亜季「そんな……打つ手無しですか!?」

千鶴「そうなるわね」

アザエルがゆっくりと両腕を広げる。

彼女の両手の平に、大きな黄色い球体が複数出現した。

亜季「カースの核!? しかも、憤怒じゃない……!」

千鶴「そりゃあ、堕天したんだもの。カースくらいは作れるわ」

傲慢を司る黄色い核から黒い泥がみるみる溢れ出し、翼を持った数体のカースになった。

『カァァァァァァァァ!!』

『アオォォォォォォォ!!』

『キィィィィィィィィ!!』

聖「ッ…………」

千鶴「さあ、行きなさ……」


774 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 11:59:15.40mBDesi1u0 (11/32)

ドシャッ

アザエルが号令をかけるよりも速く、二筋の『銀』がアザエルの両脇に羽ばたくカースを貫いた。

『イァァァァァァ?!』

『ジェアァァァァ!?』

千鶴「…………!?」

聖「…………何…………?」

亜季「……人……?」

亜季が辛うじて捉えた『銀』の正体は、二人の女性だった。

片方は、全身を銀の鎧で包み、右手に一振りの剣を持っている。

もう片方はまだ幼さが残る、少女といっていいほどの年齢に見える。

その両足には、不可思議な銀の靴が履かれていた。

一同が呆気に取られていると、鎧の女性は聖達の前にゆっくりと降下し、靴の少女はマイシスターの上にふわりと着地した。


775 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 12:00:16.17mBDesi1u0 (12/32)

??「あなたが堕天使ってやつ? 若神P君の言ってた通り、なんか嫌~な感じねえ」

??「幼き少女に怪物をけしかけるなど……その悪行、断じて許せません!」

千鶴「……何よ、あなたたち?」

突然現われた二人に向けて、聖がゆっくりと口を開く。

聖「……遥かな海の底で自由を求めた翼……。……遥かな星の果てから降り立った鋼の舞姫……」

??「あら? お姉さんの事知ってるのかしら?」

??「ええと……何処かでお会いしましたでしょうか?」

二人は不思議そうな表情を浮かべつつも、そのまま言葉を続けた。

マリナ「知ってるなら隠さなくても良さそうね。あたしはマリナ、しがない海底人よ」

琴歌「西園寺琴歌と申します。義によって、皆様に助太刀いたします!」

亜季「あ、これはどうもご丁寧に。私は大和亜季、こちらは聖殿と雪美殿で…………ん?」


776 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 12:01:31.85mBDesi1u0 (13/32)

二人の自己紹介に返そうとした亜季だったが、ふと「ある事」が引っかかった。

亜季(海底人……? それにあの鎧……まさか)

亜季「ウェンディ族……でありますか?」

マリナ「あら、そっちも知ってたんだ。まあ知ってるなら話は早いわよね。手伝ってあげる!」

言うが早いか、マリナは剣を構えなおし、アザエルに向けて突進していった。

亜季「えっ…………カイを狙っているわけではない……のでしょうか……?」

琴歌「私も! はぁっ!」

思案する亜季をよそに、琴歌もアザエルに向けて飛び掛る。

千鶴「わっと……話が終わったならそう言ってよね、全く……行きなさい」

マリナの剣と琴歌の蹴りを回避した千鶴がカースへ改めて指示を出す。


777 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 12:02:20.87mBDesi1u0 (14/32)

『ギィィィン!!』

グリフォン(雪美)「aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

飛んできたカースの一体に、雪美が喰らいつく。

マリナ「うっひゃあ、ド迫力……っとぉ!」

マリナはカースの突進を回避し、そこへハンドガンを数発撃ち込んだ。

『ギェィィィ!?』

ヴーン ヴーン

『ガオッ! ギッ! ゴアアア!!』

マイシスターが高速で飛びまわり、一体のカースを翻弄する。

琴歌「やああっ!!」

宙を蹴って舞う琴歌の鋭い廻し蹴りが、カース三体の体を纏めて両断する。

『タッ!?』

『トッ!?』

『バァァァッ!?』


778 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 12:03:15.34mBDesi1u0 (15/32)

亜季「マイシスター、回収! ならば私は、これで!」

味方が増えて誤射を警戒した亜季はガトリングガンを回収させ、懐からビームソードを取り出した。

亜季「せぇやああああっ!!」

そのままビームソードをアザエルへ振り下ろす。

千鶴「ッ……今のは少し危なかったか。ハッ!」

間一髪でビームソードを回避したアザエルの手の平から放たれた黒い光弾が、亜季の腹に直撃する。

亜季「ぐぅっ……!?」

マリナ「亜季ちゃん!」

琴歌「亜季さん!」

二人がハンドガンと飛び蹴りで救援に入るも、アザエルはそれすら回避してみせた。

千鶴「頭数が増えても、結局は同じよね。フンッ!!」

アザエルが両腕をバッと広げると、彼女の周囲に無数の黒い光弾が浮かんだ。


779 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 12:04:47.08mBDesi1u0 (16/32)

千鶴「……消えなさい」

アザエルが指をパチンと鳴らすと、その光弾が一斉に弾け、亜季達を襲った。

亜季「っ! マイシスター!!」

亜季の号令で、マイシスターが三枚の大きな鉄板を射出する。

一枚は琴歌へ、一枚は聖と雪美へ、最後の一枚はマリナへ。

射出の直後にマイシスターは琴歌の背後へ回り、亜季もマリナの元へ急ぐ。が、

亜季「うぁあああああっ!?」

マリナ「亜季ちゃん!?」

寸でのところで間に合わず、無数の光弾が亜季を襲った。


780 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 12:05:42.43mBDesi1u0 (17/32)

琴歌「亜季さん! っはぁ!!」

琴歌が鉄板をアザエルへと蹴飛ばす。

千鶴「だから、無駄だって言うのに」

アザエルは最早、避けもしない。

次々と黒い光弾で鉄板を穿ち、ただの鉄屑へと変えた。

亜季「…………クッ……!」

マリナ「……ねえ、誰か魔法の心得とかあったりしない? それなら……」

マリナの言葉に、聖が小さく首を振る。

聖「駄目……彼女は、相手の魔法を先取り出来るの……」

琴歌「そんな……!」


781 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 12:06:29.26mBDesi1u0 (18/32)

千鶴「ええ、そうね。一部魔法の弾速なら私を捉えられるかも知れないけど……」

亜季「魔法は、そのまま奴の攻撃になる……!」

マリナ「ちょっと、これって滅茶苦茶やばくない?」

今まで余裕ぶっていたマリナの顔に、焦りの色が見える。

琴歌はマイシスターの上から、ただアザエルをにらみつけている。

亜季は腹部を押さえながら、なおもビームソードを構えた。

千鶴「……はぁ。そろそろ、お喋りはおしまいにしないかしら?」

大きなため息をついて、アザエルは再び無数の黒い光弾を生み出す。

亜季「ッ! ま、まずい!」

亜季唯一の防御手段、三枚の鉄板は今しがたボロボロに破壊されたばかり。

あの無数の光弾を、防ぐ術は無い。

千鶴「ふふふ…………」

アザエルは嘲り、指を盛大に鳴ら……


782 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 12:07:22.98mBDesi1u0 (19/32)

ズドッ

千鶴「…………え?」

呆然とした表情を浮かべるアザエル。

アザエルの集中が途切れた為か、光弾も次々と消えていく。

千鶴「…………は、はぁぁぁぁっ!?」

自分の体に何が起こったかを大体把握したアザエルは絶叫した。

右の翼に、丸い穴が空いている。それも、比較的大きな。

羽の乱れ方からして、「何か」が飛んできたのはアザエルの真後ろ。

聖「…………清らかなる、一矢…………」

アザエルが振り向くと、遥かな彼方。街の郊外に、「何か」を撃った人物がいた。

――――――――――――
――――――――
――――


783 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 12:08:16.51mBDesi1u0 (20/32)

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――――――――――――

グレイス「……ひゅう」

エンジェリックグレイス――兵藤レナが小さく肩を竦める。

ファイア「カインディングアロー……相変わらずの命中精度ね」

カインド「いえ……本当は、体を狙ったんですけど……僅かに逸れてしまって……」

ベテラン魔法少女、エンジェリックカインドこと三船美優。

彼女の放った光の矢……カインディングアローが、遥か遠方に浮くアザエルの翼を穿ったのだ。

店長「いやいや、当てるだけでも大したものだろう。……そら、敵さんの反撃だ!」

店長――シビルマスクの言葉の直後、無数の黒い光弾がこちらへ向けて飛来してきた。

ファイア「任せて。ファイアズムサイズ、リフレクト!」

前に進み出たエンジェリックファイア――服部瞳子が、手に持った黒い炎の鎌を高速で回転させる。

その鎌が、飛んでくる光弾を次々と弾き飛ばした。

グレイス「んー、パターンが単調ね。頭に血が上ってるのかしら?」

店長「それだったら、あっちの連中も多少は楽になるかな?」

店長はそう言って目を細め、光弾が飛んでくる方向を見据えた。

――――――――――――
――――――――
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784 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 12:09:07.70mBDesi1u0 (21/32)

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千鶴「このっ! このっ! このっ! このぉっ!!」

結論から言えば、グレイスの言葉は当たっていた。

アザエルは目の前の聖達に目もくれず、闇雲に郊外へ向けて光弾を乱射している。

聖「…………分かった。彼女の能力の、弱点」

アザエルに聞こえないよう、聖は小さく口を開いた。

琴歌「弱点……?」

マリナ「今の矢で、分かったっての?」

琴歌とマリナが、それに同じく小声で聞き返した。

聖「今の矢も、魔法と似た性質を持つモノ。だから…………」

亜季「…………そういうわけでありますか」

納得のいった様子で亜季が頷く。

聖「みんなは……彼女の注意を引いて。彼女が、足元を気にする暇が無いくらいに……」


785 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 12:10:18.68mBDesi1u0 (22/32)

亜季「了解しました。琴歌殿、マリナ殿、ごにょごにょごにょごにょ……」

亜季が琴歌とマリナにそっと耳打ちすると、二人は大きく頷いた。

マリナ「ええ、それで行きましょう」

琴歌「当てられないなら……ということですわね」

聖「雪美も……お願いね」

グリフォン(雪美)「a」

雪美の返事を聞いた聖は少し微笑み、雪美の背を降りた。

亜季「行きますよ……すぅっ……マイシスター!!」

亜季の大声に反応してマイシスターが二門のバズーカを射出し、アザエルが振り向く。

千鶴「ッ……、はぁ、また何かする気? 言っておくけど、無駄よ」

亜季「やってみれば分かるでありますよ! ファイアー!!」

亜季は両腕に構えたバズーカの引き金を引き、計六発の弾頭を発射した。しかし、

千鶴「……ねぇ、当てる気あるの?」

アザエルが回避するまでもなく、バズーカの弾は六発とも、まるで見当違いな方向に飛んでいく。


786 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 12:11:34.14mBDesi1u0 (23/32)

しかし亜季は慌てない。それどころか、にぃっと笑みさえ見せた。

亜季「コイツを当てる気なんて、さらさら無いでありますよ! ……今です!!」

亜季の言葉で、琴歌、マリナ、雪美が飛び出した。

千鶴「陽動!? でも避けられない訳じゃ…………えっ?」

咄嗟に回避しようとしたアザエルだったが、誰一人としてアザエルの方へは向かってこない。

琴歌も、マリナも、雪美も。飛んでいくバズーカ弾を追いかけていく。

千鶴「え? な、何? 何なの?」

その光景を唖然としながら見つめるアザエル。

亜季「…………聖殿、今のうちに」

聖「ええ…………」

その隙に、亜季がそっと聖に耳打ちする。

アザエルの足元に、じゃら、と小さく金属音が鳴ったが、当のアザエルはそれに一切気付いていない。


787 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 12:12:49.79mBDesi1u0 (24/32)

やがて、三人がバズーカ弾に追いついた。

琴歌「やあっ!!」

マリナ「それっ!!」

グリフォン(雪美)「aaa!!」

琴歌が足で、マリナが剣の腹で、雪美が爪でバズーカ弾を弾き飛ばした。

弾かれたバズーカ弾六発が、一斉にアザエルへ向けて飛んでくる。

千鶴「……なるほど、陽動に陽動を重ねたってわけ。でも、叩く力が強すぎたんじゃないかしら?」

アザエルは頬を掻きながら、問いかけとも独り言ともつかない言葉を漏らす。

千鶴「あれじゃ私に届く前に爆発するわよ。…………ほら」

アザエルの言葉どおり、バズーカ弾はアザエルに届くより遥かに速く爆発した。

その爆風も、アザエルには微かに届かない。

千鶴「……さて、万策尽き果てたって感……きゃあっ!?」

亜季と聖の方へ向き直ろうとしたアザエルが、突然叫び声をあげた。

アザエルの体は、突如足元から這い上がった金色の鎖で、瞬く間に雁字搦めにされてしまっていたのだ。


788 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 12:13:55.71mBDesi1u0 (25/32)

千鶴「これはっ……大天使の鎖……!?」

亜季「言ったでありましょう、コイツを当てる気はさらさら無いと」

亜季が得意げにビームサーベルを仕舞い、ナイフを取り出す。

聖「あなたは、『陽動に陽動を重ねた』って言ったけど……ちょっと違う……」

突き出した手の平から金の光を放ち続ける聖の下へ、琴歌、マリナ、雪美が戻ってくる。

聖「陽動に陽動を重ねて、そこにもう一つ……陽動を重ねたの」

マリナ「反撃のきっかけは、さっきの聖なる矢の一撃をあなたが喰らった事ね」

琴歌「聖ちゃんはそこから、あなたの能力の弱点を見つけ出したのです」

聖「……あなたは、『自分に向けられている』と認識できた魔法しか、先取ることが出来ない」

千鶴「…………!!」

聖にピタリと言い当てられ、アザエルの顔が青ざめる。

亜季「そこでまず、お前に認識されずに拘束の魔法を撃つ必要があったのであります」

千鶴「その為に……あんなに回りくどい手を……!?」


789 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 12:14:45.35mBDesi1u0 (26/32)

マリナ「まあ、バズーカも当たったら当たったで良かったんだけどね」

琴歌「少し、強く蹴りすぎてしまいました」

グリフォン(雪美)「a」

亜季「いえいえ、お三方ともグッジョブでしたよ」

バツの悪そうに笑う二人と、申し訳無さそうに頭を下げる雪美へ、亜季はグッとサムズアップを送った。

千鶴「クッ……!!」

その光景を、アザエルは恨めしそうににらみつけた。

マリナ「さて、トドメいっちゃいましょうか!」

マリナの鎧の一部が、サーフボード状に変形する。

聖「ええ。…………」

聖の手の平から溢れる光の粒子が、亜季のナイフを、琴歌の脚を、マリナのボードを包んでいった。


790 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 12:16:01.27mBDesi1u0 (27/32)

亜季「これは……」

聖「『魔力を吹き飛ばす魔法』……それとほぼ同じもの。魔法と物理の複合なら……彼女にも届くはず」

琴歌「そういうことでしたら…………はぁっ!!」

マリナ「いやっほう!! スプラァァァッシュ……」

亜季「おおっ!!」

三人が光の粒子を纏ったまま、アザエルを取り囲むように飛び回る。そして、

琴歌「やあああああああっ!!」

マリナ「ストライィィィィクッ!!」

亜季「でぇああああああっ!!」

三つの『魔力を奪う一撃』が、三方向から同時にアザエルに襲い掛かった。

千鶴「きゃああああああああああああああああっ!!?!!?」

爆風と絶叫の中に、アザエルの姿は消えた。


791 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 12:17:04.41mBDesi1u0 (28/32)

マリナ「ふぅー……やったか、でいいのかしら?」

聖の下へ降り立った三人の内、マリナがそう口を開く。

聖「いいえ。まだ死んではいない……けど、あれだけの魔力を一気に失えば……当分は、何も出来ないはず……」

琴歌「残った魔力を振り絞って、ワープ魔法を唱えた……ということでしょうか?」

聖「そのはず……」

琴歌の言葉に、聖がゆっくり頷いた。

亜季「……いやしかし、大変な強敵でしたな。雪美殿も、お疲れ様でありま……あれ?」

雪美「…………」

亜季が隣で羽ばたくグリフォンの方を見やると、グリフォンは小さな少女へとその姿を変えていた。


792 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 12:17:49.82mBDesi1u0 (29/32)

琴歌「これが、雪美ちゃんの本来のお姿……ですか?」

マリナ「あら、可愛い」

雪美「……ひじ、り……」

雪美はふらふらと飛びながら、聖に抱きついた。

聖「……疲れたよね。うん、ゆっくり休んでていいから、ね……」

雪美「…………分かった…………すぅ……」

そのまま雪美は、聖の腕の中ですやすやと寝息を立て始めた。

聖「ふふ…………ぁ」

直後、聖の体が大きくふらつき、慌てたマリナに支えられた。

マリナ「ぉ危なっ! ……あらら、聖ちゃんもお疲れだったみたいね」

マリナの言葉どおり、聖も雪美を抱きしめたまま深い眠りに落ちている。


793 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 12:18:30.45mBDesi1u0 (30/32)

琴歌「どこか、安全な場所へ運んでさしあげましょう」

マリナ「だったら、あそこに病院があったわよ。何人か能力者もいたみたいだし、あたしの家族も今そこにいるの」

マリナが指差した先には、少し遠いが確かに赤い十字の看板が見えた。

琴歌「決まりですわね」

亜季「あー、それではお二人のことはマリナ殿と琴歌殿にお任せしても構いませんか?」

亜季が申し訳無さそうに口を開いた。

亜季「どうも街の中は機械が正常に作動しないらしく、サイボーグである私が街へ降りるのは、少々危険なのです」

マリナ「そういうことなら、任せて」

琴歌「私たちが責任を持って、お二人をお守りします。では」

そう言うとマリナは雪美を、琴歌は聖を抱きかかえ、ゆっくりと病院の方角へと飛んでいった。


794 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 12:19:35.78mBDesi1u0 (31/32)

亜季「お二人とも、お達者で! ……さて、マイシスターもお疲れ様であります」

ヴーン ヴーン

亜季「ん?」

マイシスターからのサインで、亜季はある事に気付いた。

亜季「弾薬がアップデートされている……そ、そんなに長い間戦っていたのでありますか……」

幸か不幸か、アザエルとの戦いが長引いた結果、弾薬データ更新の時間が来ていたのだ。

亜季「……まあ、結果オーライでありましょう。行きましょう、マイシスター!」

亜季はマイシスターから射出されたスナイパーライフルを手に取った。

亜季「ハッ!」

そしてそのまま、校庭で戦う高峯のあの背後に迫るカースを狙撃し、撃破した。

続く


795 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 12:20:55.11mBDesi1u0 (32/32)

・イベント追加情報
アザエルが亜季、聖、雪美、琴歌、マリナ、美優によって撃退されました。

マリナと琴歌が、眠る聖と雪美を連れて病院へ向かっています。

若神Pとみりあが病院に来ています。


以上です
アザエルの能力に個人的解釈に基づく弱点をつけましたが、
こうでもしないと帰ってくれなさそうだったんですこの子(白目)

美優、レナ、瞳子、店長、裕美、里美、琴歌、周子、志乃、さくら、芽衣子、イヴ、ネネ、
千鶴、聖、雪美、名前だけのあお借りしました(登場順)、今更だけど多いなちくしょう


796 ◆llXLnL0MGk2014/01/19(日) 15:47:43.81B8vybvpAO (1/1)

間違えた
瞳子は借りてないわ


797 ◆zvY2y1UzWw2014/01/19(日) 16:00:36.22p85m5LJA0 (1/1)

乙です
アザエル千鶴撃退成功!やっぱ強いわ(確信)
弱点発覚して、なんとか撃退だもんなぁ


798 ◆AZRIyTG9aM2014/01/19(日) 17:07:37.73oHDDOQhkO (1/1)

乙ー

アザエルやっぱり強い(確信

一対多数とはいえ油断してたからなんとか勝てたけど、自分の弱点を理解して最初から本気だしてたらと考えると怖いな…


799 ◆6osdZ663So2014/01/24(金) 10:13:32.31kP76qTo+o (1/19)

皆さん乙デスヨー

奈緒ちゃんの潜入調査がドキドキだったり
アイさん働きまくりマジ有能だったり
さりげなく亜里沙先生に出番があったり
迷子かと思ってたアザエルちゃんマジ強かったり
アイドル達の活躍にうきうきしてる

では投下しますー


800 ◆6osdZ663So2014/01/24(金) 10:14:02.39kP76qTo+o (2/19)


前回までのあらすじ


UB「私ノ名前ハUnlimitedBox」

UB「研究者100人分ノ英知ヲ搭載シタ櫻井財閥製ノ『カースドスーパーコンピューター』ダ」


桃華「やっぱりサクライ!百人乗っても大丈夫ですわっ!」

UB「ちょっ、物理的に乗せようとするのはやめっ!無理!無理だからっ!」


参考
桃華とUnlimitedBox
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379829326/909-


801 ◆6osdZ663So2014/01/24(金) 10:14:39.48kP76qTo+o (3/19)





『このように秋炎絢爛祭は今年も人で賑わっており~』

テレビの中のレポーターは、人ごみに翻弄されながらも、

祭りの様子を視聴者にお届けするため、大きな身振り手振りを交えながら、

懸命にざわめきに負けない様に声を張り上げている。


菲菲「ふんふん」

それを見つめて頷くは1人の魔神。

ソファーにゆったりと身体をあずけ、テレビに映る景色を興味深げに眺めている。


計り知れぬ者アモンこと楊菲菲のために、櫻井財閥が用意した彼女の拠点たる住居のその私室には、

彼女が”人間”として暮らすのに何一つ不自由なく過ごすための生活用品が一通り揃っていた。

おかげで彼女が地上の一般常識を身につけるのに、一切苦労しなかったものだ。

菲菲「その点ではマンモンちゃんに感謝ダヨー」

菲菲「それにしてもみんな楽しそうだネー」

テレビを見ながら魔神は呟く。

魔神は、お祭りが大好きであった。元は人々に祭られる神々の集合であるが故だろうか。

とにかく生まれついての性分のようなもので、人々が騒がしくしているのが彼女は好きなのだった。


菲菲「祟り場の時もなかなかよかったヨー」

菲菲「……そう言えば、あの時はなんだか知り合いを見かけた気もするネ?」

当時は変なテンションになっていたためうろ覚えであったが、

思えば、魔界出身の知り合いと遭遇してたような気がする。

一瞬、思い出そうと試みたが、

菲菲「……ま、いっかー」

すぐに諦めた。

この魔神、適当であった。


802 ◆6osdZ663So2014/01/24(金) 10:15:45.47kP76qTo+o (4/19)


『あっ、あちらには変……独特な格好をされた方もいますねー』

『え?何時間もずっとあの場所に…?か、関わらないほうがよさそうですねぇー」


テレビには一瞬、ベンチに座る奇妙な井出達の男が写ったが、

お茶の間には似つかわしくないと判断したのか、すぐに場面が移り変わるのだった。


菲菲「……」

菲菲「ふぇいふぇいも行こうかなー」

聞く者が聞けば飛び退き驚くような独り言を漏らす魔神。


菲菲「うーん、ふぇいふぇいが出かけたらマンモンちゃんは嫌がるだろうけど……」

自分を利用する気満々の悪魔に気を使う必要などはなくとも、多少の恩はある。

勝手な行動を取るのはほんの少し悪い気もするのだ。

菲菲「……いっそマンモンちゃんも巻き込んじゃおうカナ?」

悪い気なんて言うのは、一瞬しただけであったが。


菲菲「地下施設で神様殺しの武器を作るのに一生懸命みたいだけれど」

菲菲「あんな所に籠ってたら健康にも悪いネ!」

『強欲』の証の所在を通じて、彼女が何処にいるのかは初代『強欲』の悪魔たる魔神にはわかる。

彼女が何をしようとしているのかも、だいたい予想はできていた。

菲菲「よし!」

少女は掛け声をあげて、立ち上がる。


菲菲「そうと決まれば善は急げダヨー!」

かくして魔神は、地下に引きこもる『強欲』の悪魔の元へと向かうのだった。


803 ◆6osdZ663So2014/01/24(金) 10:17:21.12kP76qTo+o (5/19)



――

――

――


UB「――『裏切り』、でゴザイますか?」

抑揚の無い機械音声が室内に響く。

桃華「ええ、その子に相応しい名前ですわね♪」

くつくつと上機嫌に笑いながら『強欲』の悪魔は言葉を紡ぐ。

彼女の目線の先には、透明な筒のような機材の中に満たされた無色の液体の中で、

ぷかぷかと白銀の宝石の様な玉が浮かんでいる。


それの、暫定的な名前は『劣化原罪』。


そして今、新たに名づけられた名前は『裏切り』。


『裏切り』のカースの核。


UB「確カに、相応しクハあるでショウネ」

感情のこもらない声が、桃華の言葉に同意した。

UB「偽造と偽装、そしてアラユル真実ヘノ反逆こそ、ソの呪いの力」

UB「そレユエにお嬢様の”支配能力”さえも拒絶シタ」

UB「首輪をつけるコトサエままならない」

UB「だから『裏切り』……ナノデショウ?」

機材の中で濁った煌きを放つ呪い。

それは、性能を測る実験の最中に、『強欲』の悪魔の力でさえも退けたのだった。


UB「今は負のエネルギーの供給を絶つ事で、ドウニカ抑えてはイマスが……」

UB「再び、エネルギーヲ送り再活動を始メタ場合には、その暴走ハ免れナイでしょう」

到底、制御は不可能。強欲なる英知を搭載したカースドコンピューターが、そう結論をだす。

それはその核の内に眠る力の異質さを意味していた。


804 ◆6osdZ663So2014/01/24(金) 10:18:38.11kP76qTo+o (6/19)


UB「シカシ……改めて名前をツケタと言う事は」

UB「お嬢様はあくまでコレを利用サレルつもりのようだ?」

カースドコンピューター、UBは推測する。

名前を付けたと言う事は、然るに、それに価値を見出したと言う事。

それが彼女にとって必要なものであると言う事。

桃華「ええ、求めていたものよりも劣り、」

桃華「さらにはわたくしの支配さえも跳ね除ける、とんだじゃじゃ馬でしたけれど」

桃華「わたくしの願いを叶えるためには……きっとこの子はとても有益ですわ」

桃華「そう、わたくしの目的は『神様を裏切る』ことに他ならないのですもの」

彼女の魂を捕らえるため、あるいは彼女の野望を阻止するため、

この世界には幾つかの神々が動いている。

そして彼女の願いは、その神々に囚われないこと。

神の力、絶対の法、世界の理から背くことが『強欲』なる悪魔の願いであった。

それは即ち、神への、創造主への裏切りを意味する。

UB「神と呼ばレル者達の支配カラの逸脱コソ、お嬢様の目的」

UB「故に、お嬢様は『原罪』を求めタわけですが」

UB「なるほど、その域まで至っテハおらずとも」

UB「アらゆル力を拒絶スルこれであるならば、確かに求める結果ニ届きうるのかもしれマセン」

異質なる『裏切り』の呪いの力。

彼女の言うとおり、この力であるならば神の造りだした法に抗うことも可能なのかもしれない。


UB「ただし、その手綱をうまく操レルならばデスが」

桃華「問題ありませんわ、なぜなら……うふふっ」

問題はない。UBの指摘に悪魔は不敵に笑って答えたのだった。


805 ◆6osdZ663So2014/01/24(金) 10:20:01.16kP76qTo+o (7/19)


桃華「UBちゃま、そもそも『裏切り』と呼ばれる行為がどのような時におきるのかお分かりになるかしら?」

にこやかな笑みを浮かべたまま桃華はそんな質問を、目の前の機械に投げかける。

UB「……」

口元は笑みを浮かべながらも、

その視線、その目つきは、何かを値踏みしているかのようである。

その問いに対して、それがどのように答えるのか、測っているかのようであった。

UB「……そうデすね」

わずかな思案の後、UBは答える。

UB「『共生することを止める事でメリットを得られる』と判断シタ時デハ?」

桃華「……ウフッ♪」

桃華「UBちゃまは面白い言い方をしますわね」

桃華「ですが、かねがねその通りですわよっ♪」

その答えは、どうやら悪魔にとって満足のいく答えであったようだ。


806 ◆6osdZ663So2014/01/24(金) 10:21:04.95kP76qTo+o (8/19)


桃華「同盟を破棄するのも、約束を破るのも」

桃華「そこにそうするべきメリットがあるからですわね」

それが彼女の問いかけの答え。

メリット、利益の存在こそが人を裏切りと言う行為に走らせると彼女は言う。

桃華「つまり『裏切り』は、”欲望が強まった”時にこそおこるのですわ」

桃華「人は『強欲』に求めるからこそ、他人を『裏切り』ますの」

UB「ふむ……なるほど」

UB「お嬢様の考えデハ、『裏切り』ハ『強欲』カラ生まれる物であルと」

桃華「そうですわ!だからこそわたくしは、『強欲』から生まれたこの子に『裏切り』と名づける事にしましたの♪」

『裏切り』は、人が『強欲』であるが故に生まれるもの。

核の製造にあたって、『強欲』が強すぎた為に『原罪』に至れず偶然出来たそれは、

まさに彼女にとって、『裏切り』の核であったのだろう。


桃華「うふふっ♪わたくしを裏切るほどまでに強い欲望……」

桃華「だからこそ期待もできると言うものですわ」


807 ◆6osdZ663So2014/01/24(金) 10:23:45.93kP76qTo+o (9/19)


UB「っくっく……人は欲望故に裏切るデスか」

UB「ソレハ、マルでお嬢様の配下達の話デもあるようですが?」

ここまで桃華の話を聞いて、UBはさらに指摘した。

その声には相変らず抑揚は無いが、わずかに笑っているかのようにも聞こえる。

桃華「確かに……財閥の内側には……わたくし達の一番の駒である『エージェント』達の中にさえも」

桃華「自分自身の野望の為に、このわたくしを出し抜こうと企んでいる方達も少なくないようですわ……」

櫻井財閥と言う組織の内側に潜む裏切り者の存在。

彼らは今も虎視眈々と、財閥を支配する『強欲』なる親子の隙を伺っている事だろう。


桃華「……うふっ♪」

桃華「ですが、わたくしはそれも結構な事だと考えていますのよ」

桃華「いいえ……きっと、そうでなくては意味がないのですわ」

桃華「…………聖來さん、チナミさん、爛さん」

桃華「皆様、求める物は違えども、その心の内には確かな欲望を宿していますわ」

桃華「そして欲しい物を得る為に必要な力もまた確かに備えていますのよ」

桃華「力は、求める方の手中にこそ収まるものですから」

桃華「うふふっ♪わたくしはそんな『強欲』な方達だからこそ仕えさせるに相応しいと考えていますの♪」


彼女の配下は、それぞれ異なった思惑があって彼女の組織に従っている。

例えば「知らない世界を旅したい」、例えば「みんなに認められる魔法使いになりたい」、

小さな願望があって、大きな野望があって、確かな希望を求め、それを叶える為に己の意志で行動している。

だからこそ、価値がある。

己の『欲望』のために行動できる者達だからこそ仕えさせる意味がある。

たとえ、その『欲望』が強すぎるために『裏切り』の刃を向けるのだとしても、

『強欲』たる悪魔にとって、それも望むところなのだろう。


桃華「人間は『欲望』を得たからこそ、ここまで進化する事ができましたわ……」

桃華「『欲望』に忠実であるからこそ……神の言いつけさえ裏切って、確かな『知恵』を手にする事ができたのですから」


808 ◆6osdZ663So2014/01/24(金) 10:25:49.46kP76qTo+o (10/19)


桃華「まあ、それに……もし彼女達がわたくしを裏切ろうとしても」

桃華「その『欲望』がある限り……彼女達の力はわたくしの手中」

桃華「ふふっ♪」

UB「……『裏切り』から『強欲』から生まれルモノ……であるナラバ、」

UB「お嬢様はそレらをコントロールし管理する事がデキルと言う事デスか」

UB「それが人間でアッタトしても」

UB「そしてカースであったとシテモ」

桃華「うふっ♪ええ、その通り」

桃華「わたくしにとって大事なのはその心の内に宿す欲望、わたくしやPちゃまに対する忠誠心などは二の次でいいのですわ♪」

UB「……」

桃華「『強欲』は望む力にして臨む力」

桃華「何かを手にするために立ち向かえる者だけが、あらゆる結果を手にする権利を得ますの」

過剰すぎるまでの自信は、少女のうちに宿る強大な『欲望』の表れ。

彼女が求める心はきっと誰よりも強い。何故なら、


桃華「わたくしは『強欲』を司る悪魔、ですから世界の全てはわたくしのもの」

桃華「すべての『欲望』そして『裏切り』さえも支配して、必ず神様もわたくしの足元に仕えさせて魅せますわ♪」


誰よりも『強欲』なる悪魔は『裏切り』の核を静かに見つめ、そして優しく微笑んだ。


809 ◆6osdZ663So2014/01/24(金) 10:26:47.52kP76qTo+o (11/19)


桃華「そうそう、UBちゃま」

桃華「当然わたくしはあなたの『欲望』にも期待していますのよ?」

桃華「あなたに搭載した『英知』。使い捨てるつもりはないのですからね?」

『強欲』の悪魔は期待する。

その手で機械の箱の内に閉じ込めた『強欲なる英知』に対しても。

UB「……買いカブリ過ぎでしょう、この箱から出るコトサエ叶わぬ私の事を」

コンピューターからはやはり気持ちの籠らない機械音声が響く。

桃華「そんな事ありませんわよ」

抑揚の無い謙遜の言葉にも、少女はどこか優しく言葉を返した。


桃華「あなたはわたくしの産み出した『強欲』のカース」

桃華「その欲望も必ず、あなたを進化させますわ♪」

桃華「じっくりと……お考えなさいな、その箱から出る方法を」

桃華「その『欲望』が本物ならば、外側から掛けた鍵を内側から開けることも可能かもしれないのですから」

桃華「もちろん、わたくしも簡単には裏切らせるつもりはありませんけれど…うふふっ♪」

UB「……ご期待ニ添えるものカハわかりませんが、セイゼイ足掻いてみましょう」

桃華「ええ、頑張りなさいな」

その激励の言葉をもって、話を区切ると少女は席を立った。


UB「……オヤ?どこに行かレルおツモリです?」


810 ◆6osdZ663So2014/01/24(金) 10:28:06.18kP76qTo+o (12/19)



桃華「フェイフェイさんが、こちらに向かってきていますわ」

『強欲』の証を通じて、初代『強欲』の悪魔である彼女の所在を、桃華は知ることが出来た。

目的はわからないが、どうにもこちらに向かってきているらしい事も。


桃華「この場所は侵入者への対策をそれはもう山のように用意してはいますけれど」

桃華「あの方ならば、真正面から突破してせっかく用意したそれらを破壊しかねませんもの……」

桃華「それに……万一彼女を追跡する者が居て、この場所が外に漏れる事は避けなくてはいけませんし」

初代『強欲』の悪魔である魔神は強大な力を持っている。多少の障害などはまったく問題としない。

それ故に細やかな点で配慮に欠ける。もし追跡者が居たとするならその存在に気づかないか、気づいても放置する可能性が高い。

彼女をここまで辿り着かせるのは、当代『強欲』の悪魔にとっては高いリスクがあった。


桃華「まあ、フェイフェイさんはわたくしにご用があるのでしょうから」

桃華「わたくしの方から外に出て、お迎えにあがることにしますわ」


811 ◆6osdZ663So2014/01/24(金) 10:29:10.31kP76qTo+o (13/19)


UB「外に出られマスカ、それは珍シイ」

UB「リスク回避のタメニハ、ソレも致し方無しなのデショウが」

UB「しかし、この地下から出てシマって神々の目は誤魔化セルノデ?」

『強欲』の悪魔があえて地下に籠り続けている理由。

それは、そこが安全地帯であるからである。

天から見下ろす神の眼を極力避ける為に用意した場所。

当然そこから出てしまっては、彼女の安全は保障されない。

桃華「……それなのですけれど」

桃華「最近になってようやく、あの不快な男と女神の情報源がわかりましたのよ」

UB「ほう?そんな事よく調べる事がデキマしたね」

桃華「言いましたでしょう?欲すればこそ手に届く」

桃華「ふふっ、財閥の人材の力を甘くみてはいけませんわよ♪」


812 ◆6osdZ663So2014/01/24(金) 10:29:49.54kP76qTo+o (14/19)


桃華「……『神様新聞』、それが彼らの情報源」

UB「ほう、新聞デスか」

桃華「そう、新聞ですわ」

UB「なるほど、神の物と言えどソレが新聞でアルト言うならば、」

UB「刊行されてから実際に情報ガ手に届くマデニ、タイムラグがアルのは自明の理」

桃華「何より記事になるほどセンセーショナルな話題でなければ、注目される事さえ無いと言う事」

桃華「つまりは……」

少しだけもったいぶってから、彼女は結論を出す。

桃華「目立たなければいいのですわ♪」

そう言って、彼女は何処からか『眼鏡』を取り出してかけた。

屋外で、神の目を誤魔化すため、

どうやら変装をして、出かけるつもりらしい。


813 ◆6osdZ663So2014/01/24(金) 10:30:23.58kP76qTo+o (15/19)


UB「ナるホど……しかし、危険ニハ変わりません」

UB「消失が確認サレタ失敗作とその監視に付けていたエージェントの死亡」

UB「それらの件カラ、お嬢様に繋ガル情報がお嬢様の敵に漏れテイル可能性もアリマス」

UB「何より……地上をウロツク死神にはご注意のホドを」

彼女の敵は多い。一度外に出れば、狙われる事もあるだろう。


桃華「UBちゃま。確かにわたくしは七罪の悪魔一と言っていいほどにかよわいですけれど」

桃華「この『欲望』は誰にも負けないつもりですのよ」

桃華「財閥の情報……わたくしの自由……」

桃華「どこぞのどなたかに…わたくしのものが奪われてばかりと言うのも、つまらないお話ですわよね?」

桃華「……わたくしは『強欲』を司る悪魔、そして世界の全てはわたくしのもの」

桃華「奪われたものは、当然すべて奪い返しますわっ!」

彼女は力強く宣言した。


桃華「こほん……とは言え」

桃華「さきほども言ったように”今は”目立つつもりはありませんし」

桃華「フェイフェイさんのご用が済んだら、すぐに帰ってくるつもりですから心配の必要はありませんわよ」

桃華「では、行ってきますわね♪」

そう言って、席から離れると

少女はこの部屋に存在する唯一の出口へと向かい、

魔術を用いて、硬く閉ざされた扉を開く。


814 ◆6osdZ663So2014/01/24(金) 10:31:32.40kP76qTo+o (16/19)

 



桃華「ああ、そうですわ」

そして開いた扉の前に立つ少女は思い出したかのように振り向いた。


桃華「わたくしが不在の間、UBちゃまには『裏切り』の核のさらなる製造を頼んでおきますわね」

UB「……」

UB「……失礼なガラ、正気デスカ?」

桃華「ふふっ♪できない事はないでしょう?材料も余っていますし」

桃華「一度作った物ならば、機械を操るあなたに再現は容易なはずですわ」

UB「……もちろん可能ですが、問題は」

桃華「多少のリスクがあったとしても、わたくしの目的を果たすためには少し数が必要になりますのよ」

UB「……」

桃華「心配ありませんわ。きっと何もかも、悪いようにはなりませんから…うふふっ♪」

桃華「それではよろしくお願いしますわね、UBちゃま」

上機嫌に言い残すと、彼女は身支度を整えるため、

地下施設から出て行くのであった。


815 ◆6osdZ663So2014/01/24(金) 10:32:21.73kP76qTo+o (17/19)


――

――


少女が部屋を出ると、扉は大きな音を立てて再び硬く閉ざされる。

扉はハイテクとオカルトを重ねた幾つものロックによって、限られた者にしか開けない仕組みだ。


UB「……やれやれ」

暗い地下室の中、ただ一つの声だけが響く。

呆れたような、面白がるような、そんな思いの籠った声。

UB「お嬢様は本気で君の力を計画に組み込むつもりらしい」

「……」

機械の箱の内側から理知的な声が響く。

しかし『強欲』の少女が外に出てしまい、その声に返事をする者は誰もいない。

UB「しかしそれは私にとって……いや、私達にとって僥倖」

UB「君の力の有用性、お嬢様と同じくして私も正しく理解しているつもりだ」

「……」

声は誰に向けられたものだろうか。

室内に存在する物はと言えば、強欲と英知を抱える呪われたコンピューターとそして……


UB「真実に対する反逆の力、問題を解く鍵はすぐそこに……」

UB「っくっく、君はどうする?」


「……」

『裏切り』と名付けられた呪いは静かに時を待つ。


おしまい


816 ◆6osdZ663So2014/01/24(金) 10:33:33.70kP76qTo+o (18/19)


『《裏切り》の核』

桃華の命令で、”Unlimited Box”が作り出したカースの核。『原罪』に近かったが、至らなかった。『劣化原罪』。
偽造と偽装、そしてあらゆる真実に対する反逆こそがその呪いの力である。


『正体隠しの眼鏡』

マジックアイテム。『正体隠しのサングラス』と効果はほぼ同様。
掛けると、人物としての存在感が消え、他者から顔を認識されづらくなる。
また、自信の持つ力の気配を隠す効果もあり。これによって悪魔だとは一目で見抜かれないが、
しかし、力を行使するたびにこの効果は急激に薄れていく。
櫻井桃華は有名人であるため、これを掛けないと満足に外出もできないご様子。
このアイテムを本人はなかなか気に入っているようです。あら…ポワワ…。


817 ◆6osdZ663So2014/01/24(金) 10:34:38.58kP76qTo+o (19/19)


◆方針

菲菲……学園祭に興味津々
桃華……外に出ます
UB……外に出たいです

ちゃま、再び引きこもり生活を卒業するお話。
今度はどうなってしまうことだろう
学祭にしれっと強欲組が紛れてるかも?


818 ◆AZRIyTG9aM2014/01/24(金) 13:18:30.35EcXoaaLx0 (1/1)

乙ー

ちゃま…メガネ……………あっ!(察し

にしても裏切りとUBがどう動くのかな?


819 ◆zvY2y1UzWw2014/01/24(金) 14:33:10.79azqMnpFS0 (1/1)

乙です
メガネ…フラグですねわかります
裏切りのカースか、嫌な予感しかしないわ
しかも量産体制に入ってらっしゃる


820 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:23:56.23BxJyJNgzo (1/28)

乙です。

裏切りとUBの動向が気になる……。そして学園祭に着々と旧大罪の悪魔が集結してる気がする。

投下します。時系列は学園祭二日目です。学園祭に旧大罪の悪魔が(白目)


821 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:24:29.65BxJyJNgzo (2/28)

多くの人で賑わう秋炎絢爛祭。

その上空を飛ぶ影がひとつ。

茶色がかかった髪をなびかせ、白いコートを羽織った影、バアル・ペオルは、人々の喧騒を空から見下ろしていた。

「…………」

空からは様々なものが見えた。

友人と笑いあう少年少女、子供のてを握って歩く両親、威勢よく声を張り上げる売り子の姿。

そこには笑顔が溢れ、希望に満ちていた。


822 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:25:06.65BxJyJNgzo (3/28)

それらを眺めているバアル・ペオルは、口の端を吊り上げるようにして、にぃ、と笑った。

バアル・ペオルは想像した。

あの笑顔が恐怖に歪む光景を。絶望し逃げ惑う姿を。

「ふふふ、ふふ。ははははは」

そしてバアル・ペオルはとうとう声を出して笑いだした。両手に一つづつ怠惰のカースの核が握られている。

「…いや」

しかし、その核はバアル・ペオルの手から放たれることなく消滅した。

「もう少し人の集まるところでカースを作ろうかしら。そうすればもっと……。ふふふふ、そうときまれば、早速」

バアル・ペオルは元々は怠惰の悪魔である。しかし、自らを満足させるためには努力を惜しまないのだ。どれだけ面倒な作業でも耐えることができる。

そうして、バアル・ペオルは地上へ降りた。


823 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:25:47.15BxJyJNgzo (4/28)

場所はかわり地上。

「………」

一心に人の集まる場所を探すバアル・ペオル。

「お、そこのお姉さん!よってかない?」

髪を染めた男が声をかける。

「ソーセージ安いよ安いよ!買ってきな!」

「わかるわ!わかるわ!」

筋骨粒々の男と小動物が声をかける。

「………」

しかし、それをバアル・ペオルはすべて無視した。

いちいち返答するのが面倒と考えているからである。自分の興味が向いたものにはどこまでも真摯なくせに、こういう些細な行動を面倒くさがるところは怠惰らしい。

(………それにしても)

バアル・ペオルは思案する。

(どこもかしこも、人だらけねぇ)

首を回し辺りを見渡す。

物珍しそうに屋台を覗く女の子、二人組の少女、眼鏡をかけた三人組の女性、本を小脇に抱えた大学生。他にも様々な人間がバアル・ペオルの視界に入った。

(これなら空の上からカースを放って眺めた方が楽だったわね……)

そんなことを考えながら、ふと考えた。

(そうだわ。いいことを思い付いた。この学園全体に結界を張りましょう。そしてその中に大量のカースを放って眺める……)

ふふふ、とバアル・ペオルの口から笑い声がもれた。頭に逃げ惑う人々の姿が浮かぶ。

(結界は簡単に壊れないような丈夫なものを作りましょう。簡単に壊れてしまっては、人間が逃げてしまう。そんなことはさせないわ。この場にいる人間は私を楽しませるための人形。そしてこの学園は人形を閉じ込める為の箱庭……)

バアル・ペオルはこの学園を見渡すための場所を求めて再びあるきだした。


824 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:26:43.12BxJyJNgzo (5/28)

さらに場所はかわり裏山。

そこから京華学院を見下ろす。

(さて、結界を張ろうかしら。大きさは……適当でいいわね)

と、結界を張ろうとしたその瞬間。

「オンナ!オンナ!!ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」

と、どこから沸いて出てきたのか、蠍のような姿の色欲のカースが現れた。

「うわあああああ!!」

そしてそれから逃げる一人の少女。

「オカサセロ,オカサセロ!!!」

「嫌だあ!パパ、ママ!どこぉ?!助けてえええええ!!」

しかし、バアル・ペオルはまったく動じない。正確には聞こえているのだが、面倒なので無視した。

そして同じくバアル・ペオルの姿に気づかない少女とカース。

「オオット!ツカマエタ!!」

「うわあああああ!嫌だあ!」

そしてとうとう捕まってしまった少女。

「ゲヘヘヘヘヘヘヘ。イタダキマース」

色欲のカースが触手を使って少女の体をまさぐる。

「ひぃ?!やだ、やだ!やだぁ!!」

「ギャハハハハ!ナケナケモットナケ!!」

「あああああああ!!」

少女の恐怖が最高潮まで達したそのとき、

(五月蝿いわねぇ……)

とうとうバアル・ペオルがカースの方に向いた。

ゆるりと色欲のカースに近づくと、中指の先に少量の魔力を集める。そして、放出した。

「ギャ」

それだけでカースの体は弾け、核を砕いた。

「はっ!雑魚のゴミムシの癖に私の邪魔をするなんて百兆年早いのよ!」

最早跡形もなくなったカースに向かっていい放つ。



825 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:27:32.77BxJyJNgzo (6/28)

それを見た少女は思う。この人はヒーローだ。私を助けてくれたのだ。

「……あ、ありがとう、ござい、ま、す」

色欲のカースに襲われていた少女が口を開く。いくらバアル・ペオルにその気がなかったからといって、助けられたのだ。お礼を言うのは当たり前である。だが、バアル・ペオルはそんな少女を見下ろすと、

「ん?あら、まだゴミムシがいたのね」

「え?」


826 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:28:19.19BxJyJNgzo (7/28)

「はぁ。五月蝿くてとても集中できないわねぇ」

なんでかは解らないがとにかく怒っているのかと思って、少女は頭を下げる。

「え、あ、ごめんなさ」

「五月蝿い」

そう呟き、先程と同じように指先に魔力を集める。

顔をあげた少女に指を突きつけ、魔力を放とうとした、その時。

「はい。ストーップ」


827 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:29:01.95BxJyJNgzo (8/28)

時子の真後ろから声が聞こえた。

「?」

指を下げてそちらを向く。普段なら無視するだろうが、その時は何となく、そちらを向く気になったのだ。

そこには、スキンヘッドの大男がいた。サングラスをかけ腰には人形が括りつけてある。

「いやぁ、さっきのは凄かったな。あのカースを一撃で葬るなんてな」

にやにやと笑いながら近づく男。

「………何のよう?」

バアル・ペオルが男に向き直ったとき、少女が全力で逃げたが、その時は既に少女に対して興味を失っていたのでほうっておいた。

ちなみに、男が声をかけたのはその女の子を逃がすためでもあったのだが、それをバアル・ペオルは知らない。

変質者のような男はバアル・ペオルに近づき、こう言った。

「ねぇ君、ちょっと話いいかな?」

無言で、問答無用で魔力を込めた指先を向ける。

「あ、ちょ、ちょっと待って!別に怪しいものじゃないから!嘘じゃないから!」


828 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:29:41.21BxJyJNgzo (9/28)

「どう見たって怪しいわよ」

そして魔力を放った。が、

「……!」

息を飲むバアル・ペオル。そこには既に男は存在せず、バアル・ペオルのすぐ右側にいた。

「あ、あぶねぇ。気を付けてくれよ。あんなのくらったら死んじまう」

バアル・ペオルは男を見つめて考えた。

(この男、ただ者じゃない…)

そしてニヤリと笑った。

(こいつの話を聞く方が楽しめそうね)

バアル・ペオルは話を聞く事にした。

かくして、バアル・ペオルの学園祭をめちゃくちゃにする計画は奇しくも男のお陰で阻止されたのだった。


829 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:30:19.18BxJyJNgzo (10/28)

「おお!話を聞いてくれる気になったか!」

「えぇ。でもつまらない話だったら殺すわよ」

「うん、そういう直球なところもいいな!やはり俺の目に狂いはなかった」

一人でうんうんと頷く男。

「……あなた何者なの?」

「あ、俺か?俺は、こう言うものだ」

男は懐から紙を出してバアル・ペオルに手渡した。それは名刺であり、こう書かれていた。

『アイドルヒーロー同盟プロデューサー パップ』

「アイドルヒーロー同盟………?」

バアル・ペオルは目を見開いて名刺を見た。そしてすぐさま名刺を破り捨てた。


830 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:31:05.65BxJyJNgzo (11/28)

「おいおい、替えはいくらでもあるけど破くのはやめてくれよ。勿体ないじゃないか」

「アイドルヒーロー同盟ですって?」

パップの言葉は無視していい放つ。その声には若干怒気が含まれていた。

「あぁ。君は美人だし、おまけに強い。需要は高いと思うんだけどな」

パップはバアル・ペオルが怒っていることに気づいてないのか、それとも気づいててわざと無視してるのかは解らないが、言った。

「だから、アイドルヒーロー、やってみない?」


831 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:32:08.38BxJyJNgzo (12/28)

「………冗談じゃないわ」

「どうして?」

完全にキレたバアル・ペオルはパップに叩きつけるように言葉を放った。

「私は!混沌が好きなのよ!ゴチャゴチャしてて、濁ってて、混ざってて、泥々してる、混沌が何よりも好き!なのに、この私に、秩序を守るためのアイドルヒーローになれですって?ふざけるのも大概にしなさい!!」

憤慨するバアル・ペオルにさすがに気圧されたらしいパップ。だがそれで諦める彼ではない。

「混沌が好き、か。でも、アイドルヒーローにも色々な人種がいてね?その種類の豊富さといったらまさに混沌と呼んでいいくらいさ」

「はっ!アイドルヒーローが、何をやってもこの私に敵うはずがないわ!」

何をいってもアイドルヒーローになるきはないらしいな、とパップは思案する。

「はぁ。やめよ、やめ。こんなの時間の無駄よ。じゃあね、あなたの話はとても退屈だったわ」

バアル・ペオルはパップの前から立ち去ろうとしたとき、パップは名案を思い付いた。

「あ、そうだ!なぁ、俺と戦わないか」


832 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:32:57.24BxJyJNgzo (13/28)

「……戦う?貴方と?」

足を止めパップに顔を向ける。

「あぁ。俺も実は、あんたの好きな混沌をこの身に宿している」

そう言って胸の辺りをさするパップ。

「それで、俺と戦って俺が勝ったら君はアイドルヒーローになる。それでどうだ?」

「……私が勝ったら?」

パップを見つめる。

「…君の願いを何でも聞こう」

それを聞いて、バアル・ペオルは吹き出した。そして、それは徐々に大きくなって大気を震わせる。

「ぷっ、ふふ、ふふふふふふふふふふ!はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

ひとしきり笑った後、バアル・ペオルは向き直った。

「いいわよ。面白い!貴方が負けたらあなたは私の奴隷よ!」

パップを指差し高らかに宣言する。

「はは、俺が負けることが君のなかではもう決定してるんだな。でも俺も負けるわけにはいかないんでね」


833 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:34:00.88BxJyJNgzo (14/28)

「そうこなくてはね!その意気込みに免じて私に触れることが出来たら勝ちにしてあげる」

「そりゃどうも」

そして、パップは自信の混沌を解放させた。腕が虎のような縞模様に、両手が鉄の爪に変異する。

「へぇ。それがあなたの混沌?」

「あぁ。その通りだ」

相手に飛びかかる姿勢で喋るパップ。

「CO……ハングリー・タイガー…」

その姿を見て、

「カースド・オズ……?この感じはもしかして暴食……」

「あぁ、その通りだ!」


834 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:34:48.73BxJyJNgzo (15/28)

その瞬間、バアル・ペオルに飛びかかり、一気に肉薄し、体に触れる。筈だった。

「あらぁ……。変身して思考まで獣みたいになっちゃったのかしらねぇ……」

だがしかしパップの伸ばした腕はバアル・ペオルに届かなかった。

パップの体が天から延びた巨大な腕に取り押さえられたかのように、叩きつけられ地面にめり込んだからである。

「ぐっ!……なんだ、この重さは……!」

地面に這いつくばるパップを見下ろし嗜虐的な笑みを浮かべるバアル・ペオル。

「ふふふ……。あなたの重さを10倍にしてあげたわ。それじゃあ動くこともままならないでしょうねぇ」

「ぐ……くぅ!」

余りの重さに苦悶の表情を浮かべるパップ。

「ま、でもさすがにこれじゃあ勝負にならないわねぇ…」


835 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:35:48.50BxJyJNgzo (16/28)

と、パップを見下ろし近づく。

そしてパップのすぐ近くで腰を下ろし顎を持ち上げ目をあわさせる。

「ねぇあなた。『家畜以下の私の重さを元に戻してください』ってお願いしてごらんなさいよ。そしたら、戻してあげなくもないわ」

余裕の表情を見せた。

「……ぅ」

パップの口から声が漏れた。それを聞いて顔を近づける。

「あらぁ?よく聞こえないわねぇ。ハキハキ喋りなさいよ虫じゃないんだからさぁ!」

さらに顔を近づけ、

「があああああああ!!!」

そしてすぐに後ろに飛び退き距離をとった。

「なっ………!!」

今度はバアル・ペオルが驚愕する番だった。なんとパップは立ち上がったのだ。

「そんな、私の魔術の影響下で立ち上がるなんて……!!」

「魔術…?」

立ち上がり、しかし依然辛そうな表情のパップ。


836 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:36:32.49BxJyJNgzo (17/28)

「へぇ。それが、あんたの、能力、ってわけか……。流石にきついな……」

最初は驚いていたバアル・ペオル。だがしかし、それはすぐに喜びの笑顔になった。

「いいわ、いいわよあなた!最高よ!もっと、もっと私を楽しませなさい!」

指先を向けると今度は炎の槍が飛び出した。

避けることができず、肩と足に直撃する。

「うふふはははははははははははは!!どうしたの?立ち上がれてもその場から動けないのかしらぁ?!」

「ぐっ……。言いたい放題の、やりたい放題だな、あんた……。でも、そういう、ところも、人気出そうだな……」

なんとか立ち続け、思案するパップ。

(しかし厄介だな……。こう自分の体が重いと本当に一歩も動けねぇ……。次に倒れたら間違いなく立ち上がれない……)


837 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:37:11.15BxJyJNgzo (18/28)

「ほら、次よ!」

次は指先から延びる水の鞭だった。

動けないパップを鞭で無茶苦茶に叩く。その度にパップの体には水に叩きつけられたような衝撃が走った。皮膚はさけ、骨は砕ける。

(ぐぅっ!痛ぇ……!ヤバイな、なにか突破口は……)

ヒントはないかとバアル・ペオルや回りを見る。と、あることに気づいた。

(はっ……!よく見たら俺だけじゃなく、草や葉っぱも地面に沈んでめり込んでるじゃねえか!それに……)

パップの耳にミシミシとなにかが沈む音が届いた。

(木も!)

パップは気が地面に沈んでいくのを視認した。

(なら……!)

力を振り絞り両腕を上げる。

「ふふふ、なにする気?そんな距離じゃ私に届かないわよ!」

バアル・ペオルとパップの距離は確かに離れており、目測で十メートルは離れていた。

しかし、

「距離?……関係ない。でも、できれば使いたくなかったよ……」

それをきき、バアル・ペオルは素早く土から壁を作り自分を守った。

その次の瞬間、パップが腕を振るうと、土の壁に大きな爪痕が出来た。あっという間に壁が崩れ落ちる。

「なにっ?貴方なにをした!」

しかし、そこにはもうすでにパップはいなかった。


838 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:37:57.02BxJyJNgzo (19/28)

「いない……逃げたのかしら。いや、違うわね」

よくよく見ると地面には何かを転がしたようなあとがあった。

「動けないから転がって逃げたのね……逃がさないわよ」

跡を追った。


839 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:38:47.48BxJyJNgzo (20/28)

「はぁ、はぁ……」

斜面を転がるパップ。はたからみれば滑稽に見えるかもしれないが、やつの攻撃から逃げるにはこれしか思い付かなかったのだ。

そして、それは正しかった。

「おっ!」

地面を蹴りジャンプして立ち上がるパップ。

「ふぅ~。やっと戻った……」

首をぱきぱきと鳴らす。

「あの魔術は、俺単体にかけるものではなく、あいつの周りにあるものすべてにかかる物だと思ったが、どうやら正解のようだ」

後ろから迫る足音。

「へぇ、よくわかったわね。正解よ」

パップの背に声をかけるバアル・ペオル。

「あぁ。花丸を貰えて嬉しいよ。ついでにもうひとつ。その魔術は使ったあとにクールダウンが必要なんだろ?そうでなきゃ今使ってるよな?」

そこまで推理して見せたパップに向かって笑顔を向けるバアル・ペオル。

「ふふふ、正解よ。大正解!あの魔法を受けた者は大抵私に屈服するか何をされたかわからないまま死ぬのにね。貴方みたいなのは久しぶりよ!」


840 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:39:36.36BxJyJNgzo (21/28)

「そうか。さて、答え合わせもすんだし続きといくか」

「えぇ」

パップは飛びかかる。しかし、一直線にバアル・ペオルに飛びかかるのではなく、バアル・ペオルを撹乱するように飛び回る。

パップが先程使った、CO『ハングリー・タイガー』の持つ空間切断能力は使わなかった。女性で、しかも自分がスカウトする相手を傷つける訳にはいかなかったからだ。先程は、自分が宣言してからならバアル・ペオルは必ず何らかの方法で防ぐと思ったから、流石に命の危険を感じたからやむ無く使用したが。

「鬼さんこちら!手のなる方へ!」

たっぷり撹乱し、そしてバアル・ペオルの体に触れようとする。


841 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:41:09.27BxJyJNgzo (22/28)

「はいタッチ……」

しかし、パップがバアル・ペオルの体に触れることはまたしても失敗した。バアル・ペオルの姿がパップが触れる瞬間に消えたのである。

「あら残念。こっちよ、虎さん」

ギュオオオ!

そして、パップの右側に表れたバアル・ペオルの魔術によって生まれた突風を受けて吹っ飛ぶ。

「うおぉ!」

受け身をとり、うまく着地。すぐさま体制を整える。

「へぇ。こんどは瞬間移動か……」

見ればわかることだった。この手の能力を使う人ならごまんと見た。なのですぐにバアル・ペオルが使ったのが瞬間移動だと解った。

「その通り!あなたは私に触れることは最初から不可能だったのよぉ!」


842 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:41:46.82BxJyJNgzo (23/28)

「いや、俺は必ずあんたに触れて見せる!そしてあんたをアイドルヒーローにする!」

そのときバアル・ペオルは見た。そして、目を見開いた。パップの目に宿る諦めないという強い意思を。

バアル・ペオルは問う。

「貴方……。これだけ力のさを見せつけられて、なぜ諦めない?」

バアル・ペオルはそれが解らなかった。今まで自分を前にした人間は一人残らず絶望し、諦め、死んでいった。

「そこまでして、私にアイドルヒーローになってほしいの?」

勿論バアル・ペオルはパップを殺す気で戦っている。それでも諦めないパップに、バアル・ペオルは疑問に思った。

「何でかって?それは…」

一呼吸おいて。

「それは……?」


843 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:43:02.09BxJyJNgzo (24/28)

「それは!」

「それは……?!」

そしてついにパップはいった。諦めない理由を。

「あんたは美人だ!」

………二人の間に沈黙が流れる。

「……え?」

「そう、あんたは美人だ!おまけに強い!」

さらに語気を強めていった。

「俺はあんたに惚れた!その強気な目線!艶やかな髪!妖艶な雰囲気!全てに惚れた!」

予想を超えたパップの言動に身動きがとれない。

ボロボロに痛め付けられた体で、強く地面を踏みしめみ、バアル・ペオルに近づく。

「だから俺以外の人にも見てほしい、あんたの凄さを、あんたの強さを。みんなに見てもらって認めてほしい。この喜びを、俺だけじゃなく複数の人間と共有したい。だから俺はあんたをアイドルヒーローにしたい」

そして、バアル・ペオルの顔にそっと触れた。

「俺の勝ちだ。なってもらうぞ。アイドルヒーロー」

それをきき、今の自分の状況を認識して、そしてバアル・ペオルは…。


844 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:43:42.17BxJyJNgzo (25/28)

「ふ、ふふふふ…」

笑った。とても楽しそうに。とても嬉しそうに。

「ふふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!」


845 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:44:22.98BxJyJNgzo (26/28)

盛大に笑った。ゲラゲラと、悪魔のように。

「ふふふ、ふふふ…。こんなに笑ったの久しぶりよ、本当に……」

バアル・ペオルは未だに腹を抱えて笑っている。

「ふふふ、いいわよ。面白いじゃない!いいわ、なってあげる!アイドルヒーローに!正義の味方になってあげわるわ!」

こうしてバアル・ペオルはアイドルヒーローになり、自分が殺めた人数と同じくらいの人間を救うが、それはまた別の話……。


846 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:46:58.57BxJyJNgzo (27/28)

C・O(カースドオズ)

的場梨沙の母親が研究所からくすねた金属生命体OZにカースの大罪の核を取り込ませる事により、更なる進化をほどこしたもの。

普通のOZと同じく生物に寄生し、みるみるとその生物のパーツに擬態し、独自に進化をしていき、その生物の身体を金属生命体にあう身体に徐々に侵食させていく。

最初は研究所でもCOの研究をしていた。
ただ、初期段階でその核の大罪にあった感情が倍に膨れ上がり、大抵の生物はそれに耐えられずカースドヒューマンに成り下がり狂い死んでしまう為、OZ適合者より確率が低いと言われている為凍結し終わってしまった。

だが、梨沙の母親は独自にそれを研究し、CO適合者を完成させた。

普段は核の大罪の感情は抑えられてるが、段階を上がるごとに感情も大きくなりCOの強さも大きくあがる。

適合者にはその大罪にあった感情を抑え込む精神力と生への執着が必要とされる。


≪ハングリータイガー≫

パップに移植されたCO。
第一段階を発動すると、両腕が縞模様の獣のようなフォルムてま、5つの鋭い爪のような刃が生えた異形の腕に変化。それは金属でできている。

この姿になると、物資だけではなく、空間を斬る空間切断能力をもっている。その為離れた場所でも目に見える範囲なら斬りつける事はできる。
胸の部分に移植された場所は胸。

第二段階になると、巨大な四足歩行の虎のような異形に変化する。
この状態だと、空間切断能力に加えて、その口から生えた牙で、物資だけではなく空間を食べて、削り取る能力を得る。

暴食の核の力もあわさり、その食欲は無限で食べたものは無限消化機関≪タルタロス≫へといき消滅する。

略称魔術
(スキップ・スペル)
バアル・ペオルの能力。魔術を使うためには詠唱を行うことが必要だが、彼女はこの詠唱なしで魔術を使えるのだ。威力はそのままで、そのうえ出が早いのでバアル・ペオルは重宝している。ちなみに、この能力は魔術の詠唱を面倒くさがったバアル・ペオルがやってみたら一発でできた代物であるとはあまり知られていない。


847 ◆tsGpSwX8mo2014/01/27(月) 23:49:06.25BxJyJNgzo (28/28)

ここまでです。
なんだかパップがかませ犬っぽくなっちゃったかな……。すいません。お目汚し失礼しました。

イベント情報
・時子さまがアイドルヒーローになるよ!やったねパップ!


848 ◆AZRIyTG9aM2014/01/27(月) 23:51:51.144p2vx2NpO (1/1)

乙ー

パップカッコイイ……ありがとうございます!
そして、トキコさまやっぱり強い(確信
面倒くさいから無詠唱やったらできたとか流石、怠惰だ!


849 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 00:04:08.58UNs2DMiR0 (1/22)

乙です
やだ、パップ普通にイケメンじゃないか
アイドルヒーローって確かに混沌だよねー


面倒くさいで無詠唱ができる初代大罪クオリティ
ユズちゃんはその域に行けるのだろうか


850 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:10:01.94gxhOEadA0 (1/33)

乙乙ー
ちゃまもUBも時子様もパップももう怖いの一言に尽きますね!(白目)

憤怒の街最終決戦準備(うちのこ版)投下します
あと、本編投下後に最新版に更新したアイドル設定の一部も投下します


851 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:11:10.72gxhOEadA0 (2/33)


憤怒の街内の病院。

炎P「う、うわあああああ!?」

氷P「なんだコイツ、カースじゃないぞ!?」

ある一室で震える炎P、氷P、電気P、DrPの四人。

??「…………見つかったか」

電気P「何なんだコイツ!?」

??「目撃されたからには……消しておくか」

四人の前に立つのは、漆黒の鎧で全身を固めた謎の人物。

声から男性であることは推測できる。

DrP「ま、まずい、逃げるぞ!」

四人が慌てて部屋を出た。


852 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:12:55.27gxhOEadA0 (3/33)

??「させんよ。プラズマ擬態、展開」

呟いた男の姿が、ジジジというノイズ音と共に背景の中へ溶け込んだ。

電気P「消えた!?」

次の瞬間、消えたはずの男が四人の目の前に姿を現した。

氷P「うわっ!?」

??「お前達に恨みは無いが、ここで死んでもらうぞ」

男の両腕が機械音を上げながら回転し、二振りの刀に変形した。

それぞれ刃に『MURAMASA』『MASAMUNE』と彫られている。

DrP「に、人間じゃない……!?」

炎P「あ、あああ……!」

震える四人へ向けて、男の無慈悲な刃が振り下ろされ……


853 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:13:44.52gxhOEadA0 (4/33)

みりあ「『バン』! 『バン』!」

??「ムッ……?」

……る直前、赤城みりあが指先から放った二筋のビームが刀を弾き飛ばした。

DrP「君達は……さっき来た……」

若神P「Drさん、ここは僕たちがやるんで逃げてください」

若神Pが指先で光輪を弄びながら、眼前の男をじっと見据える。

DrP「わ、分かった。すまない、頼んだぞ」

DrPを先頭に、四人はみりあ達の背後に続く廊下を駆けていった。

??「目撃者が増えたか。ならば全員消すか」

男の両腕が再度回転し、今度は二丁のガトリングガンに変形した。


854 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:14:38.07gxhOEadA0 (5/33)

??「発射」

みりあ「『ガン』!」

男の腕から弾丸の雨が吐き出されると同時に、みりあが両腕を大きく広げてバリアを張った。

無数の弾丸がバリアに衝突し、その場にポトポトと落ちていく。

みりあ「ねえ、若神Pさん。あの人って……」

若神P「うん、やっぱりアンドロイド……ロボットだね。遠慮は要らないよ」

若神Pが光輪を男……アンドロイドに投げつける。

??「回避行動」

アンドロイドは射撃を中断し、バックステップでそれを回避した。


855 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:15:22.63gxhOEadA0 (6/33)

若神P「みりあちゃん、今!」

みりあ「はいっ! 『ジャキン』!!」

みりあが両手を前方へピンと伸ばす。

すると、右手の先に『邪』、左手の先に『禁』と書かれた方陣が出現した。

??「……?」

アンドロイドが首を傾げた直後、方陣から光の刃が飛び出しアンドロイドを襲った。

??「……緊急回避」

咄嗟に回避したアンドロイドだったが間に合わず、左腕が根元から切断された。

みりあ「きゃあっ!?」

ショッキングな光景に、思わずみりあが両手で目を覆う。

若神P「落ち着いて、みりあちゃん。アンドロイドだってば」

みりあ「あ、そ、そっか……ふう」


856 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:16:02.65gxhOEadA0 (7/33)

アンドロイドはしばし左腕を注視していたが、突然しゃがみこんでジジジというノイズ音を上げ始めた。

??「……プラズマ擬態、展開」

みりあ「わっ、き、消えた!?」

若神P「大丈夫大丈夫。みりあちゃん、使えるヤツあるでしょ?」

みりあ「あっ、はい! えっと……『ギン』!」

みりあの右目に、『吟』と書かれた小さな方陣が浮かぶ。

それは、視えないモノを視る力。

隠れていても、消えていても、『吟』を通したみりあの目には、通用しない。

みりあ「見つけた! 『バン』! 『バン』! 『バン』!」

一見何も無い空間を、みりあの『蛮』が撃ち貫く。

ガシャン、という音が響いたかと思うと、地に伏した状態でアンドロイドが姿を現した。

??「……!? 理解不能、理解不能……!」


857 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:16:42.71gxhOEadA0 (8/33)

よろけながらも立ち上がるアンドロイド。

若神P「よし、みりあちゃん!」

みりあ「はいっ! はぁぁぁ……」

みりあがぐっと腰を落とし、拳を引く。

拳の先に、『呑』と書かれた方陣が現われた。

??「まずい……」

アンドロイドはみりあ達に背を向け、一目散に逃げ出した。しかし、

若神P「させないっての」

若神Pの放った光輪に足元を掬われ、一瞬バランスを崩してしまった。

みりあ「『ドン』!!」

突き出されたみりあの正拳から、光の鎖に繋がれた光の球が一直線に伸びていく。

そのまま光の球はアンドロイドの体を押しつぶし、病院の壁へと叩き付けた。

??「?!!??!?!?!??!!?!?!?!?!?!!??!?!?!?!」

光の球が消えてもなお異音を上げ続けていたアンドロイドは、ついに事切れたように動かなくなった。


858 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:18:11.25gxhOEadA0 (9/33)

みりあ「やったあ! ……あれ、若神Pさんどうしたの?」

若神Pは、切り落とされたアンドロイドの左腕を拾い上げ、ジッと見つめている。

若神P「いや、これ……中の部品に文字が書いてある」

みりあ「あ、ほんとだ……えっと……る、る……?」

若神P「ルナール……かな? もしかしたらコイツの製造元かもね」

若神Pが左腕を放ると、数基の光輪がそれを粉微塵に切り刻んだ。

若神P「……ま、考えても仕方ないか。行こうみりあちゃん、Drさん達に終わったって伝えに行かないと」

みりあ「うん!」

若神Pに続いて、みりあはその場を離れた。

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859 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:19:03.92gxhOEadA0 (10/33)

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??「……アンドロイドからの信号が途絶えた……破壊されたか?」

憤怒の街のとある一角で、スーツ姿の男が呟く。

彼は、ネオトーキョーに本社を置く大企業、ルナール・エンタープライズの社員である。

彼の任務は、新たに開発された新型アンドロイドの性能テスト。

特殊な磁場の中でも行動可能な新機能を試す為に、機械が正常に作動しない、ここ憤怒の街を訪れたのだ。

??「…………仕方ない。機能自体は問題無かったわけだし……報告の為に本社に戻るか」

そう言って彼は、近くに停めていた黒塗りの特殊な車に乗り込み、その場を後にした。

…………数分後、その車は赤黒い液体を撒き散らして大きくひしゃげた、変わり果てた姿となっていた。

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860 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:19:45.05gxhOEadA0 (11/33)

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病院のロビー。

若神P「Drさん、侵入者は倒しましたよ」

DrP「ああ、ありがとう若神くん、みりあちゃん。助かったよ」

若神Pとみりあへ向けて、DrPと炎P達が深々と頭を下げる。

DrPの背中で、青い髪の少女が眠っていた。

雪美「…………」

みりあ「その子は誰?」

マリナ「雪美ちゃんよ」

若神P「あ、マリナさん」

DrPの後ろから、マリナが二人へ声をかけた。

金髪で、何だか不思議な雰囲気を纏った少女を抱きかかえている。


861 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:20:26.42gxhOEadA0 (12/33)

マリナ「で、この子が聖ちゃん」

聖「…………」

マリナ「空で堕天使の子を相手する時に助けてもらったのよ」

若神P「そういえば、嫌な気が消えてますね…………ん?」

若神Pが言葉を切り、怪訝そうに聖の顔を覗き込む。

マリナ「どうしたの?」

若神P「……あ、いえ、何でもありません」

若神P(やっぱり熾天使ミカエル……!? なんでこんな所に……)

仮にも神である若神Pは、一目で聖の正体に気付いていた。

しかし、それを口には出さない。

一目で彼女を熾天使と見抜いたなどと言っては、自分も天界の関係者だ、と暴露しているようなものだ。

それをこの場で知られると、大きな騒ぎに発展しないとも限らない。


862 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:22:03.66gxhOEadA0 (13/33)

みりあ「…………そういえば、美世さんは?」

辺りをきょろきょろ見回していたみりあが、バイクの修理を行っていた原田美世がいない事に気付いた。

イヴ「カミカゼの修理が終わったからって、届けに行きましたよ~」

若神P「ええっ、一人で!? 危険じゃ……」

マリナ「ああ、問題無い無い」

若神Pの言葉をマリナが遮り、それに栗原ネネが続いた。

ネネ「マリナさんと一緒に聖ちゃん達を運んでくれた人がいたんですけど、今はその人が美世さんに
  ついていてくれてます」

マリナ「ええ、琴歌ちゃんって言うの」

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863 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:22:38.90gxhOEadA0 (14/33)

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拓海「……なあ星花。ホントに寝てていいんだぞ?」

有香「そうですよ。星花さんこそ体が……」

星花「お気遣い感謝します。ですが、もう大丈夫ですので」

二人の言葉にゆっくり首を振りながら、星花は指先の糸を通じて二人にオーラを流し続けている。

星花「それよりも……あちらの方角で、何か良くない力が肥大しているのを感じます」

星花が示した遥か先から、爆音や怒号が響いてくる。

時折、空からビームのようなものが流れているのも確認できる。

星花「おそらく……時が来たかと」

拓海「……みてぇだな」

有香「はい……」

三人が静かにその方角を見ていた、その時。


864 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:23:26.69gxhOEadA0 (15/33)

美世「拓海ー!」

美世がバイクに乗りながらこちらに接近してきた。

拓海「美世! カミカゼの修理終わったのか!」

美世「バッチリ! もう壊さないでよね!」

拓海「へへっ、ったりめーだ!」

鼻をこすって笑顔で答えてみせる拓海。

美世「有香ちゃん、拓海の事よろしくね」

有香「押忍! お任せください!」

星花「拓海さんのご友人の方ですね? 初めまして、わたくし、涼宮星花と申しま……」

星花が自己紹介をしかけた、ちょうどその時。美世に呼びかける声があった。

琴歌「美世さん、追ってきたカースは全て倒し……」

星花「……えっ……」

銀の靴で軽やかに舞う少女を見て、星花は思わず言葉を失う。

琴歌「……あ……」

それは、琴歌も同様であった。


865 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:24:31.09gxhOEadA0 (16/33)

星花「…………琴歌ちゃん……!?」

琴歌「…………星花さん……!」

星花「ご無事だったのですね……急に連絡が取れなくなるので、心配で心配で……!」

琴歌「それはこちらもです……『涼宮財閥の一人娘が家出したらしい』という噂を聞いて……」

二人の頬をつうっと、一筋の涙が流れた。

拓海「な、なあ、美世。この子誰だ?」

美世「えっと、琴歌ちゃんって言って、さっき知り合ったの。護衛お願いしてて……こっちの子は?」

有香「星花さんといいます。回復みたいな技を使えて、特訓を手伝ってもらってたんです」

拓海「知り合いだったみたいだな……」

少し置いてけぼりを食らった三人が、ひそひそと言葉を交わす。


866 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:25:11.60gxhOEadA0 (17/33)

琴歌「あ、今里美ちゃんもいらしてるんですよ」

星花「里美ちゃんもですか? いつかまた、雪乃さんを交えた四人でお茶をしたいですね……」

琴歌「ふふふ、そうですね」

いつの間にか、星花と琴歌はお嬢様特有のふんわり空間を作り出していた。

拓海「……おーい、二人とも。戻ってこーい」

星花「あっ……も、申し訳ありません。……ともあれ、ご無事なようで何よりですわ」

琴歌「ええ、お互いに、ですね」

拓海の言葉で我に返った二人が、くすっと笑う。

拓海「……さて、ありがとよ美世。んじゃ早速暴れて来るぜ。ほら、有香」

拓海はバイクに跨ってフルフェイスヘルメットを被ると、予備のヘルメットを有香に手渡した。

有香「あ、ありがとうございます」

有香は慣れない手つきでそれを被り、拓海にしがみつくようにバイクの後部に座った。


867 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:25:52.09gxhOEadA0 (18/33)

星花「……では、わたくしも…………ッ……!」

ストラディバリ『レディ』

歩を進めようとした星花だったが、脚の痛みでよろけ、ストラディバリに支えられる。

拓海「無理すんなって言ったろ? 星花はまだ休んでな」

星花「しかし……お二人だけを行かせるわけには…………」

その光景を見ていた琴歌が、ゆっくり口を開いた。

琴歌「……では、私が星花さんの代わりに、お二人に同行させていただきます」

有香「琴歌さん……?」

琴歌「困っている人を捨て置けない、そういう性分ですので」

星花「琴歌、ちゃん…………すみません、お願いできますか?」

琴歌「もちろんです!」

琴歌は星花に振り向き、非常に自信に満ちた笑みを浮かべた。


868 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:26:33.62gxhOEadA0 (19/33)

星花「……ありがとうございます、琴歌ちゃん」

拓海「……よし、なら星花は美世を病院まで送ってくれ」

拓海が振り向き、遠くに見える赤い十字の看板を指差した。

星花「はい、かしこまりました。よろしくお願いしますね、美世さん」

美世「うん、よろしく! ロボット君もよろしくね」

美世がストラディバリの体を一撫でする。

星花「その子は、ストラディバリと申しますの」

美世「そうなんだ。よろしくね、ストラディバリ」

ストラディバリ『レディ』


869 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:27:14.97gxhOEadA0 (20/33)

拓海「……よし、そろそろ行くか」

有香「はい!」

琴歌「準備は万端です」

拓海がバイクのエンジンをかける。

有香がしがみつく腕に力を入れる。

琴歌がトントンと軽く跳ねる。

美世「頑張ってね、拓海、有香ちゃん」

星花「琴歌ちゃん……また会いましょう」

三人はその言葉に振り向かず、ただうなずいてみせた。

そして、


870 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:27:48.96gxhOEadA0 (21/33)

ドゥッ

大きな音を残し、拓海のバイクと琴歌は高速でその場を去った。

星花「…………では、病院へ向かいましょうか。ストラディバリ」

ストラディバリ『レディ』

星花の言葉に答え、ストラディバリはユニコーン形態へとその姿を変化させた。

美世「……よっ……と。お願いね、星花ちゃん」

星花「はい、お任せください」

星花と美世を背に乗せ、ストラディバリは病院へと歩を進めていった。

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871 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:28:28.62gxhOEadA0 (22/33)

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地下、カースプラント。

キバ、カイの二人と、大量のカース、コマンドカース達との戦いは続いていた。

キバ「チィッ、キリが無いな……!」

カイ「さっきからあの繭壊してますけど……すぐ直るんですよアレ!」

現在、プラントにある繭は六つ。

先ほどのカイの攻撃で内二つを破壊したが、気付けば二つとも元通りに修復されていた。

コマンドカース『フハハハハ! ミヨ、コノアットウテキナブツリョウヲォ!!』

コマンドカース『キサマラニカチメハナァイ!!』

コマンドカース『シネェェ!!』

大量のカース弾が二人を襲う。


872 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:29:06.29gxhOEadA0 (23/33)

カイ「ッ、シャーク・インパクトォ!!」

キバ『~~~、~~~』

カイが極太のビームでカース弾をなぎ払い、キバが翼で弾き返す。

キバ「…………チッ!」

キバは焦っていた。

邪龍ティアマット。死んだはずのアイツが生きていた。

恐らくはまた何かよからぬ事を企んでいるんだろう。

早くヤツを止めなくては、何か取り返しのつかないことが起こる。そんな気がするのだ。


873 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:29:56.86gxhOEadA0 (24/33)

カイ「…………キバさん」

キバと背中合わせになった体勢で、カイが口を開いた。

キバ「どうした、カイ君」

カイ「あたしが突破口を開きます。だから、キバさんはヤツを追って下さい」

キバ「……何だと?」

カイ「よく分かりませんけど、キバさんはアイツと因縁があるんですよね? だったら……」

カースの群れを見据えながら、カイは続けた。

キバ「……気持ちは嬉しいが、君一人置いていくのは忍びないね」

カイ「……シャーク……」

カイはキバの言葉に応えず、ガントレットにエネルギーを溜めている。

キバ「……カイ君……!?」

キバが振り向くと同時に、カイはガントレットを天に掲げて叫んだ。


874 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:30:29.02gxhOEadA0 (25/33)

カイ「インパクトォォォォォッ!!!」

真上に向けて放たれたシャーク・インパクトが天井をぶち抜き、空の彼方へ消えた。

そして、天井に穿たれた穴から、雨が地下道へ流れ落ちてくる。

キバ「……雨……?」

その内、一体のカースが雨粒に触れた。と、

『ウウギャアアアアアアアアアア!?』

そのカースが悲鳴を上げながら、シュウシュウと消えていったのだ。

『ナ、ナンダ!?』

『ナニゴトダ!?』

カイ「これって……?」

街の郊外、ナチュルスターが降らせる『浄化の雨』。

カースを弱らせ、弱いカースを浄化する力を持った雨が、今まで届かなかった地下へと落ちていく。


875 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:31:08.27gxhOEadA0 (26/33)

コマンドカース『ア、アノアメニフレルナ! キケンダ!!』

カース達が一目散に駆け出し、カイ達と距離を取る。

キバ「……よく分からんが、これを利用しない手は無いな。……カイ君!」

カイ「はい! シャーク・インパクトォ!!」

キバ『~~、~~~~』

カイがビームで、キバが炎で、プラントの天井を出鱈目に攻撃し始めた。

天井はたちどころに穴だらけになり、流れ込む雨によるカース達の絶叫が響き渡った。

『イギャアアアアアアアア!!』

『シヌゥ! シヌゥゥゥゥゥウゥ!!』

『タスケテェェェェエェェェェエ!!』

阿鼻叫喚、地獄絵図。

カースの立場に立ってみれば、これ以上に相応しい言葉は無いだろう。


876 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:31:45.91gxhOEadA0 (27/33)

カイ「すごい、半分くらいに減りましたよ!」

キバ「ああ。……カイ君。さっきの君の言葉……甘えてしまっていいかな?」

キバが大きく翼を広げ、カイに問いかける。

カイ「……もちろんです!」

キバ「ありがとう。……縁があれば、また会いたいね」

キバはふっと微笑み、翼をはためかせて飛んだ。

そして、天井の近くまで来た時、ある物に気付いた。

キバ「……ん?」

天井の中央で輝く、赤い半球。

カースの核にもよく似ている。

キバ「……さしずめ、『このプラントの核』……といったところかな? ……ふんっ!!」

キバはその核へ一撃、翼を叩き付けた。

軽快な音と共に核が砕け散ったのを確認したキバは、そのまま地上へと飛んでいった。


877 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:32:22.17gxhOEadA0 (28/33)

コマンドカース『アアアア!? ぷらんとノカクガァ!?』

コマンドカース『コレデハサイセイデキヌ!!』

カイ「へー? ……いい事聞いちゃったなあ」

慌てふためくコマンドカース達に、カイが一歩詰め寄る。

カイ「もうこの繭は再生できないんだね? ……だったら!」

ガントレットをソーシャークアームズに変形させ、一つの繭を切り刻んだ。

カイ「ますますもって、あたし一人でもなんとかなるねッ!!」

そのまま別の繭へ向けて駆け出していく。

コマンドカース『イ、イカン! マユヲマモレェ!!』

コマンドカースの指示で、カース達が我先にと繭の前に集まっていく。

カイ「邪魔ァッ!!」

カイは勢いのままカースの群れを切り伏せ、繭へ刃を突き立てた。

続く


878@設定 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:36:28.09gxhOEadA0 (29/33)

・カイ(地上人名・西島櫂)

職業(種族)
ウェンディ族

属性
装着系変身ヒーロー

能力
アビスナイト装着による物質潜航能力
優れた身体能力

詳細説明
海皇ヨリコの命で地上に立った、親衛隊の一員。
しかしその後ヨリコに反旗を翻し、海底都市を裏切る。
地上で会った亜季、星花と共に「フルメタル・トレイターズ」を結成。
現在は三人+αで公園暮らし。
相棒のホージローを身に纏い、「アビスナイト」に変身する。


関連アイドル
・亜季(仲間)
・星花(仲間)
・ヨリコ(上司・幼馴染)
・サヤ(同僚・幼馴染)

関連設定
ウェンディ族
海底都市
戦闘外殻
フルメタル・トレイターズ

・ホージロー
カイの相棒である戦闘外殻。姿は大型の金属製ホオジロザメ。
顔は怖いが非常に人懐っこく、よくカイにじゃれる。
「物質潜航能力」により、土でもコンクリートでも木でも石でも「潜航」が可能。

・アビスナイト
カイがホージローを纏いウェイクアップした姿。
取り立てて目立った能力がある訳でもない、いわゆる万能型・汎用型。
鮫の上顎型ガントレットを変化させることで様々な武装が使用可能。

・シャーク・ストレート
地面に潜って背ヒレだけ出し、背ヒレから放たれるエネルギー波で敵を両断する。

・シャーク・サウザンド
ソーシャーク専用。高速で敵の周囲を動き回りながら斬り続ける。

・シャーク・インパクト
ハンマーヘッド専用。極大のエネルギー弾をビーム状に撃ち出す。

・シャーク・バイト
ノーマル専用。地中から猛烈な加速と共に飛び出し、敵に全身で喰らいつく。


879@設定 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:37:10.56gxhOEadA0 (30/33)

・大和亜季

職業(?)
戦闘サイボーグ

属性
サイボーグヒーロー

能力
多数の火器を使用した複合戦闘術

詳細説明
平行世界の平和を管理する機関から第65535次世界へ転送された戦闘サイボーグ。
複数の躯体を持ち、現在使用している躯体の型式番号は「SC-01」。
到着してほどなく任務がなくなってしまい、トモダチになったカイの手助けをすると決める。
その後星花と会い、三人で「フルメタル・トレイターズ」を結成。
現在は三人+αで公園暮らし。
○亜季の手持ち武器
・「拳銃」二丁 威力「低」連射「中」速度「中」範囲「低」射程「中」

・「アサルトナイフ」二本 威力「低」連射「-」速度「高」範囲「低」射程「-」

・「ビームソード」一本 威力「高」連射「-」速度「高」範囲「低」射程「-」

関連アイドル
・カイ(仲間)
・星花(仲間)

関連設定
マイシスター
フルメタル・トレイターズ

・マイシスター
亜季をアシストする小型のステルス無人輸送飛行機。
亜季の指示に応じて搭載してある火器等を投下、回収する。
普通自動車くらいの大きさで、内部に人間が乗り込むことは不可能。
スパ○ボDのブラン○ュネージュをイメージしてもらうと分かりやすい。
○マイシスターに搭載中の火器等
・「片手持ち大型ガトリング砲」二本 威力「中」連射「高」速度「高」範囲「中」射程「中」

・「片手持ち大型バズーカ」二本 威力「高」連射「低」速度「低」範囲「中」射程「高」

・「ハンドレールガン」二丁 威力「中」連射「中」速度「最高」範囲「低」射程「高」

・「長距離スナイパーライフル」一丁 威力「中」連射「低」速度「高」範囲「低」射程「最高」

・「片手持ち火炎放射器」一基 威力「中」連射「低」速度「低」範囲「高」射程「中」

・「ハンドマシンガン」二丁 威力「低」連射「高」速度「高」範囲「中」射程「中」

・「ミサイルポッド」九発入り 威力「高」連射「低」速度「低」範囲「高」射程「高」

・「二連装超大型ビームキャノン砲」一対 威力「最高」連射「最低」速度「高」範囲「高」射程「高」

・「150cm四方防壁用鉄板」三枚 威力「-」連射「-」速度「-」範囲「-」射程「-」


880@設定 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:37:55.86gxhOEadA0 (31/33)

・涼宮星花

職業
家出少女

属性
お嬢様

能力
オーラ、及びオーラを用いてのストラディバリの操作

詳細説明
大財閥涼宮家の一人娘。人間の生命の力であるオーラを操る能力を持つ。
この能力で人々を救いたいと思うも両親から反対をくらい、ある日ついに家出を決行。
道中助太刀したカイや亜季とチーム「フルメタル・トレイターズ」を結成。
現在は三人+αで公園暮らし。

関連アイドル
カイ(仲間)
亜季(仲間)

関連設定
ストラディバリ
フルメタル・トレイターズ

・ストラディバリ
オーラの力で動く戦闘人形。ある程度は自立行動が可能。
しかし細かい動作や臨機応変な行動となると、星花の指示が必要になる。
また、ユニコーンを模した高速移動形態への変形も可能。
オーラは自動回復するが、あまり短時間に連続使用すると星花がひどい疲労状態に陥ってしまう。

・オーラロケットパンチ
圧縮したオーラで前腕を発射する技。

・オーラストリング
オーラを練った糸で相手の動きを封じる。見た目以上に頑丈。

・オーラバレット
頭部から少量のオーラで出来た弾丸を連射する技。

・オーラボム
展開した胸部から凝縮されたオーラの砲弾を二発放つ技。

・オーラブレード
掌に薄くオーラを纏わせて振るう手刀。

・オーラドリルパンチ
オーラを使って回転させることで破壊力・速度・貫通力を向上させたロケットパンチ。

・ノーヴル・ディアブル
目元を覆い隠す、金属質で黒地にピンクのラインが入ったペルソナ。
製作者は錬金術師の相原雪乃で、知人の涼宮星花に贈られた。
悪魔をイメージさせる衣装が光の粒となって内蔵されていて、装着者の衣服を瞬時に変更させる。
作られた時点では無名で、譲り受けた際に星花が名づけた。
星花はこれを正体隠しに使い、変装時はそのまま「ノーヴル・ディアブル」と名乗る。


881@設定 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:38:53.26gxhOEadA0 (32/33)

・フルメタル・トレイターズ
詳細不明の新鋭ヒーローチーム。
カイ、ホージロー、亜季、マイシスター、星花、ストラディバリの六人(?)を正式メンバーとする。
メインとなる三人が反逆の経験者(裏切り、命令違反、家出)である事と、
鋼のボディを持つパートナーを連れている事から『鋼鉄の反逆者達』を英訳して名前がついた。
「敵が現れたら市民に被害が出る前にさっさと倒す」という信条で行動している。
公園に寝泊りするホームレス系ヒーローでもある。

・イベント追加情報
病院にルナール社のアンドロイドが潜伏していましたが、みりあが撃破しました。

マリナが聖、雪美と共に病院に到着しました。

拓海、有香、琴歌が学校へ向けて移動を開始しました。

星花、美世が病院へ向けて移動を開始しました。

浄化の雨が地下道にもいきわたり始めました。

カースプラントの核が破壊され、自己再生能力がなくなりました。

キバが地上へ出て、ティアマットを追っています。



882 ◆llXLnL0MGk2014/01/28(火) 01:40:21.79gxhOEadA0 (33/33)

以上です
みりあちゃんの新能力については今度の設定更新で

炎P、氷P、電気P、DrP、雪美、聖、イヴ、ネネ、拓海、有香、美世、琴歌、(名前だけ)里美、
キバ、(名前だけ)ティアマット、ルナール社の設定お借りしました


883以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/28(火) 02:26:42.15xjLWi4yNo (1/1)

乙です

ついにプラント撃破ですね


884 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 08:10:29.91z48Ld7kH0 (1/1)

乙です
憤怒の街もそろそろクライマックスかな?
先輩がどうなるやら…


885 ◆AZRIyTG9aM2014/01/28(火) 12:36:20.84nwRu9boD0 (1/1)

おつー

いよいよ終盤だが果たしてどうなることやら


886 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 16:54:29.63UNs2DMiR0 (2/22)

投下します
時系列は奈緒ちゃんが帰還する日の話です


887 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 16:56:51.00UNs2DMiR0 (3/22)

宇宙管理局地球派出所は地下にある。その施設の手術室の入り口には、『手術中』のランプが光っていた。

「ん……ふが?」

明るい殺菌ライトが照らす手術台の上、李衣菜は目を覚ました。

「李衣菜ちゃん、おはよう…っておかしいかしらね、始めたのはお昼で、しかももう夕方だし…」

「あーあーんっんん…あー…」

喉の声帯補助装置を戻し、返事をする。

「…大丈夫ですよ、おはようございまーす。さっそく装置ずれてましたけど」

「ごめんなさいね、やっぱりコレは本人がやらないと」

「むぅ…」

声をかけたのは管理局の女性技師だ。李衣菜は久々の本格的メンテナンス兼、改良手術を受けていた。


888 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 16:57:51.06UNs2DMiR0 (4/22)

「気分はどう?それなりに大きな改良手術だったから不具合がないといいんだけど…」

「えーっと」

それを聞いて李衣菜は手を開いて閉じたり、手足を軽く動かして、違和感がない事を確認する。

「…大丈夫です、今のところは変なところはないですよ」

「それならいいわ、次にこれなんだけど」

技師の女性がある物を冷蔵庫から取り出した。

「………アイスにしか見えないんですけど」

「そりゃアイスだもの。普通のじゃないけどね」

「えー」

見た目はガリガリ君的な棒アイスだ。色も水色で、見た感じは本当に普通のアイスである。


889 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 16:58:49.76UNs2DMiR0 (5/22)

「いい?これは蘇生薬に別の薬を混ぜてアイス状に凍らせたモノで、ちょっとメンテナンスついでにほぼ使用されていなかったパーツを利用して経口摂取という形でその部分から採取するとそのパーツが化学反応を起こして消化反応と同じように…」

早口で次々と説明の言葉が飛び出してくるが、李衣菜にはあまり理解できない。

「あの、ちょっと分かり辛いんで簡潔に言ってください…」

「簡潔に?そうね、回復アイテムよ。自然治癒を促すの。他にも肌とかキレイになるわ。味は…李衣菜ちゃん味覚無いから…ね?」

「は、はぁ…なるほど…?」

「まぁ仕組みなんて理解しなくていいのよ、李衣菜ちゃんは痛覚がない分、ダメージ受ける事多いから…」

強力な再生力を持つ奈緒であっても、痛覚がある為に無駄に攻撃を受けることはしない。

しかし、李衣菜は痛覚がないためか、多少の攻撃ならば回避より攻撃を優先しがちだ。それは強みでもあるが弱みでもあった。

李衣菜の体を流れる蘇生薬が肉体を生きている時のままに保ち続け、その副作用でいろいろと強化されている。

ある程度の攻撃は傷すら負わないが、傷を負ってしまえば治療は必要だった。

「すみません、なんか迷惑かけてばっかりで…」

「気にしないで、取りあえずもう帰っていいわよ。上に夏樹ちゃん達居るから一緒に帰りなさいね」

「はーい」


890 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 17:01:01.02UNs2DMiR0 (6/22)

李衣菜が手術台から降りて着替えを済ませる。

「アイスは後で送るわ。それなりに作れるし、定期的に送るから、過剰にならない程度に食べておいても構わないわよ。むしろ戦闘中には食べれないから…」

「あっ、そんな欠点が…」

「私も李衣菜ちゃん改良後に気づいたわ。『あっコレ戦闘後に一旦帰還してからじゃないと食べれないかも』って」

「…致命的に遅いですね」

「ゴメンね☆」

「もう…」


891 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 17:03:47.77UNs2DMiR0 (7/22)

「とりあえず、今日もありがとうございましたー」

「何か不具合があったらすぐ教えてねー」

「わかりました!じゃあ私はこれで」

頭のボルトごと隠せる、大きめのキャスケットを被る。この位の季節ならこういう帽子は比較的目立たない。

研究室から退室して、廊下をすれ違う人達に挨拶しながら通り過ぎ、一番奥の扉を開き地上への階段を上る。

階段の扉を開けるとそこは小さな倉庫だ。扉をしっかりと閉じ、ロックがかかっている事を確認すると倉庫の外に出た。

倉庫がある場所は都内某所にあるカフェ・マルメターノ。管理局が経営し、隠れ蓑にしているのだ。

一旦倉庫から出て、それなりに客が出入りしている表をちらっと見つつ、表の入り口とは別の従業員用の扉を使う。


892 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 17:04:30.68UNs2DMiR0 (8/22)

休憩室に入ると従業員が一人いた。

「あっ李衣菜さん、いつもお疲れ様です。夏樹さんときらりさん呼んできましょうか?」

「そちらこそお疲れ様です。呼んできてもらって大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよーそろそ休憩終わるので!」

そう言って出ていった、メガネをかけた比較的若い外見の従業員…彼も管理局の一員であり、少なくとも地球人ではないらしい。

客に不審に思われる事がない外見の管理局の者達が、このカフェで働いているのだ。


893 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 17:05:31.97UNs2DMiR0 (9/22)

待つと言う程の時間も経たずに、夏樹ときらりが入ってきた。

管理局の一員である夏樹達も、今日はここで手伝いをしていた。

二人ともカフェの制服であるエプロンとシャツを着て、夕方まで働いていたわけである。

夏樹はそれに加えて義手である肘まで隠す長い手袋をつけ、髪を降ろしている。

「いつみても思うけど意外と似合ってるよねー」

「夏樹ちゃんセクシーよねー☆」

「…あまり嬉しくないからな…こっちは大変だってのに」

「あはは、お疲れ様」

「あ!そういえば今日ね、李衣菜ちゃんのロールケーキすっごく売れたの!」

そういえばと、きらりが思い出したように言ったのは、今日李衣菜が作ったロールケーキの事である。

ちょっとした気まぐれの様なもので、自分だけ働かないのは悪いからと、朝のうちに作っておいたものだ。

「え、それホント?」

「アレ旨いからな、結構人気あったぞ」

「そっか、また作ろうかなぁ…奈緒の分も取ってあるし」

「今日帰ってくるから、きらりとーってもたのしみぃー!」

「楽しみって…一応任務だからな、任務」

「むぇー…わかってるもぉーん!でもさみしーの!」

「まぁ無事に帰って来れるならそれが一番だよ」

「だな、取りあえずさっさと帰るか」


894 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 17:06:26.63UNs2DMiR0 (10/22)

―…ガチャガチャ

「!」

そう言って夏樹が空間転移の穴を開けようとしたが、従業員用の扉のドアノブを回す音にピタリと動作を止める。

極稀に悪戯半分に子供が入ってくることもあるのだ、下手に見られるのは良くない。

「…なんかヘンな感じがすぅ…?ぞわわーって感じ…」

「ぞわわ…?」

「…」

きらりが放ったその言葉で、李衣菜と夏樹が警戒する。

―ガチャ、ガチャガチャ…ギィ…

しばらくガチャガチャ動かされていたが、少ししてやっと開け方を理解したのか、扉が開かれた。


895 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 17:08:19.78UNs2DMiR0 (11/22)

『…イマココニメガネイナカッタカ!?メガネシスベシ!!』

「ヘーイ」

『ヌワーッ』

扉を開けたのはアンチメガネカースだった。

だが入った瞬間に李衣菜が振り下ろした箒に核を破壊され、見事に撃沈した。

「今のって…カース…だよね?」

「…多分カースだと思うにぃ」

「多分って…きらりが多分とか言うの珍しいな」

「うーん…なんかねぇ、いつものカースと違うのー…時々見るメガネがとーっても好きなカースに似ているけどぉ…それともちょっち違うかもー?」

七つの大罪のカースでもない、カース。殺人・原罪…それらは大罪を混ぜ合わせた物。

だが…狂信・正義、そしてメガネ。それらは番外であり例外だ。七つの大罪とは殆ど関係がない。

この宇宙のどこにも、それらは存在しなかった筈のモノだ。


896 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 17:09:33.26UNs2DMiR0 (12/22)

「うーん…確かに『メガネシスベシ』とか言ってたよね」

「メガネ好きなカースとは逆に、メガネ嫌いなカースって事か?嫌いっていうか嫌悪レベルだったと思うけど」

「あれ、メガネってこんな事が起きるようなすごい物だったっけ…きらりは何か感じたりした?」

「えっとねぇ…近くて、遠いの。それでいっぱいゾワゾワーって!」

「…?」

「カースなんだけど、ちょっと違うが感じすぅ…なんなんだろーね?」

「…さぁな、取りあえず…あ、いたいた」

夏樹は会話しながらも扉の外にユニットを飛ばし、付近に仲間がいないかさりげなくチェックしていた。そこで三体がブレーメンのように重なって物陰に隠れていたのを発見する。

『フェェェ…ミツカッタヨォ…シンジャウヨォ…』

『コウイウトキ、ドウイウカオスレバイイノカワカラナイヨォ…』

『ワラエバイイトオモウヨォ…』

「ほいっと」

『フォルテッシモーッ!』

『ワタシガシンデモォー!』

『カワリハイルモノォー!』

視覚ユニットが放つレーザーが付近にいたアンチメガネカースの核を破壊した。

「…もういないよな、今度こそ帰るか」

「「はーい」」

軽く確認を済ませると、扉を閉めて穴を開け、三人は帰宅していった。


897 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 17:10:26.91UNs2DMiR0 (13/22)

だが、扉の外に置いてあったゴミ箱の蓋を開けて、ひょこっと別のアンチメガネカースが顔(?)を覗かせた。

『アア…我ガ同志ガ四体モ…ナゲカワシイ…ナゼ、我ラハ人々ニ受け入レラレナイノダ?』

その個体は他のアンチメガネカースよりも少し知的に喋っていた。

『シリマセン』『カースダカラ?』

その横から、同じくゴミ箱に隠れていた二体のカースがその独り言に答える。

『カースだから…他ノカースガ悪イカラ、我ラモ迫害サレル…ナルホド』

ゴミ箱から降りて、そのカースは不定形な体を変形させていく。

『人々へメガネノ愚カサヲ伝エルニハ、人々ト同ジ姿ヲスレバイイノデハナイダロウカ?』

二本の足で大地に立ち、核を二つに分けて瞳に擬態させる。

『似タ姿ナライロイロと便利デハナイカ?ホラ、ワカルカ?』

『ワカ…ル…ワ?』『ナルホド、ワカラン』

黒く透明な泥は、色の濃度が部分ごとに変わっていく。

暫くすれば、そこにはレンズの様な少し不気味な瞳をした、濃度の違う黒だけで彩られたショートヘアの小さな少女がいた。

『コウスレバ、殺サレナイ筈ダヨ。カワイイッテ皆ガ大好キダカラ。ネー?ミンナデヤロウヨ』

『…イインジャナイカナ』『ホホウ…』

ニコニコしながら、少女に擬態したアンチメガネカースは他のアンチメガネカースを誘う。


898 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 17:11:15.07UNs2DMiR0 (14/22)

『マネシテミヨウ』『ソウシヨウ』

誘われた他の二体がその擬態を真似て、子供の姿に擬態する。

『カワイイカナー?』『ドウカナー?』

『イイヨイイヨーカワイイヨーコレデミンナ攻撃シナイヨー!』

『ホントー!?』『ヤッタネー!』

本当に子供のようにキャッキャッと子供に擬態した三体は笑い合う。

そこに、上空からふわりと黒い影が降り立った。

「いぇい、こンばんは。アタシのカワイイ子ウサギちゃん達。なーんてな」

『『『マイマザー!』』』

キャーキャー言いながら、三体は降りてきた黒兎に群がった。

「…目を離している間に随分とまァ変わって…びっくりしたぞ」

『我々ハネ、メガネの愚カサヲ人々ニ教エナイトイケナイカラ!ガンバッテカンガエタノ!』

「あれ…コんな性格だったっケ…まぁいっか」

カースの攻撃や動きは、外見に影響されることが多い。獣型は爪や牙を使うし、人型は腕や足を使う。若干性格が変わったのも外見に影響を受けているのだろう。

「人に擬態…素晴らしい。こレでまた、同志が増えるだろうな!もっと皆に教えてあげてネ。もっと同志ヲ増やすんだよ?」

『『『ハーイ!』』』

「いい子だね子ウサギちゃん。お前達に特別な名前ヲあげよう。そうだなァ…アンチメガネチルドレンで…AMC!AMCと名乗れ!」

『『『ハーイ!』』』

「もっとAMCが増えたら、アタシとっても嬉しイ!白はまたバカにするんだろうけど、アタシのステキな同志だからな!」

『『『ハーイ!』』』

「はい解散!散れィ!」

『『『アラホラサッサー!』』』

黒兎の号令で、3体は別々の場所へと散って行った。


899 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 17:16:33.71UNs2DMiR0 (15/22)

「いやー、まァまさかああなるとは思わないよなー…仁加と別行動していてよかった、良い物見れた♪予感ってすごいわー」

黒兎は上機嫌だ。

「白もどこかに行っテいたし、アタシだって好きに動く時間があってもいいよねー」

「仁加…寂しがるかな、急に姿消しタし…アタシもさっさと戻りまショっと」

少し気まずくなったか、翼を広げると黒兎はどこかへ飛んでいった。


900 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 17:17:08.82UNs2DMiR0 (16/22)

時の流れと共に、狂信は着々と広まっていく。

『メガネ、だめなんだよー』『なんだよー』『だよー』

『お菓子くれるのー?』『『わー』』

『同志、メガネを許しちゃダメなんだからねー』

AMCは、着々とその数を増やしている。アンチメガネカースからAMCになる個体は全部ではないが、それでも増えていく。


901 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 17:18:14.53UNs2DMiR0 (17/22)

『ギャアアアア!!』『キミヲミウシナウウウウウウウ!!』『メガネイズギルティィィィィ!!』

「どうだ!カースめ!」

アンチメガネカースが、あるフリ―のヒーローの攻撃を受けていた。

大地に立つそのヒーローの袖を、小さな手が引いた。

『ねーねーお兄ちゃん』

「あれ、君いつのまに…」

いつの間にかそばにいた幼い子供に、そのヒーローは拍子抜けする。

『んしょ、んしょ…』

素早く、静かに、その一体のAMCはヒーローの体をよじ登った。

『同志をいじめないで?』

「えっ?」

『ばーん!』

瞳に擬態した核のエネルギーを自ら解放し、そのAMCはボンッと音を立てて自爆した。


902 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 17:18:40.56UNs2DMiR0 (18/22)

「…」

自爆と言っても小さな核のエネルギーは大したことは無く、彼は気絶するだけで済んだ。

だが、そこに他のAMCが群がってくる。

『同志いじめたの?』『メガネだめなの』『メガネだめー』

狂信の波動が、彼の精神にメガネへの嫌悪を植え付ける。

『みんな逃げたかな』『同志が助かってよかったね』『よかったー』

アンチメガネカースは、その隙にヒーローから逃げ出した様子だった。

それを確認するとAMC達は人々に紛れるべく、どこかへと消えていった。


903@設定 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 17:20:13.14UNs2DMiR0 (19/22)

カフェ・マルメターノ
都内某所にあるおしゃれなカフェ。不定期ではあるが夜にはワインバーとして経営される時もある。ソーセージがおいしいらしい。
それなりに安い値段設定の為、学生や女性を中心にひそかに人気がある。
名物のはぴはぴ☆パフェは様々なサイズ(ちっちゃい・ふつう・おっきい・まっくす☆)が揃えられている。
※ちっちゃいサイズで普通サイズです
その正体は地下にある宇宙管理局太陽系支部地球出張所の隠れ蓑であり、店員は関係者のみで構成されている。
店長はLPという事になっている。ネバーディスペアのメンバーも時々手伝いに来ているようだ。


キュアイス
アイスの形をした薬品。管理局が作成した薬に李衣菜の体を流れる蘇生薬を混ぜたもの。色は水色。
非常に味が悪いが普通の人間でも経口摂取のみでしか効果が出ないらしい。
その味の悪さたるや、一時的に味覚が麻痺する程。しかし薬としてはかなり高品質。自然治癒促す等の効果がある。


904@設定 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 17:20:50.97UNs2DMiR0 (20/22)

アンチメガネチルドレン(AMC)
知恵を持ったアンチメガネカースが生存率を上げる為に人間に擬態した姿。それに伴う様に一部のアンチメガネカースもそれを真似た。
知恵を持っているのは確かではあるが、外見に影響されているのか行動は子供っぽく、尚且つ狂信者そのもの。
狂信自体が特殊なせいか知恵を持ったことで生まれた副産物はないが、多数存在する知恵を持つカースであり、基本的にグループで行動する。
どこにでもいる。いつの間にかいる。仲間を攻撃されると近くの仲間を呼びよせる。
見かけた人々を真似て子供サイズで擬態する為、外見は基本的に同じものは少ない。
全体的に黒い幼稚園児~小学校低学年程度の子供の姿をしているが、まるでレンズのような少し不気味な瞳をしている。
核を二つに分け、瞳に擬態させているらしく、目からビームが出るぞ!洗脳もできるぞ!すごいぞー!
知恵を持ち進化した狂信はぶれる事は決して無い。仲間の利益になると判断すれば自爆さえ躊躇しない。
他のカースと比較すると核が露出してさらに薄い為か僅かな衝撃で死ぬことが多い。しかし一撃で葬らないと泣き叫ぶ。


905 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 17:26:07.77UNs2DMiR0 (21/22)

以上です
カフェ・マルメターノなんてネタ、拾わずにはいられないよね!
髪降ろしなつきちが見れるかもしれません、稀に。
李衣菜のロールケーキネタはアンソロネタだったり
AMCは狂信者をマイルドにしようと子供にしたら、さらにえげつなくなった気がするでござるの巻

情報
・AMCが発生しました。基本的に好き勝手に動いています


906 ◆AZRIyTG9aM2014/01/28(火) 18:44:41.21nWxKWak7O (1/14)

乙ー

やだ、AMCコワイ
果たしてコイツらとめられるのか?

久々に投下します。時系列は学園祭一日目の黒い雨降ってる時です


907 ◆AZRIyTG9aM2014/01/28(火) 18:45:20.85nWxKWak7O (2/14)

梨沙「もう!きりがないわよ!」

黒い雨が降り注ぐ中、梨沙は鋭い爪で迫りくるカースを踊るように切り裂き、遠くにいるカースを二つの自立式レーザーユニットが撃ち抜く。

人々は建物の中に避難し、梨沙は外で一人、無数のカースを相手にしていた。

仁加を助け、再びコアさんと学園祭を見て回ってると急に降り出した黒い雨と湧き上がるカース。

梨沙はアイドルヒーローRISAとして、人々を建物に避難させ、自分はコアさんを装着し、ここでカースを食い止めているのだ。


908 ◆AZRIyTG9aM2014/01/28(火) 18:47:00.16nWxKWak7O (3/14)

『ヒャッハー!!!ロリィーダ!!!!』

『ピイポウクンデース!!!!!』

『フンデクダサイッ!!』

梨沙が踊るような攻撃の隙を狙い、背後から数匹のカースが飛びかかってくる。



梨沙「エルファバ!!!」

『ブケラッ!?』

『アベシッ!?』

『アリガトウゴザイマスッ!!!』

梨沙の背後から、全身がエメラルド色に輝く女性が現れ、カースにラッシュを食らわせ吹き飛ばした。

彼女の能力……ゴースト≪エルファバ≫。

それにより自分への隙を無くし、踊るように立ち振る舞うのが彼女の戦闘スタイルだ。


909 ◆AZRIyTG9aM2014/01/28(火) 18:48:43.48nWxKWak7O (4/14)

『マダマダァッ!!!!』

『オレヲマンゾクサセロォォォ!!!』

『ロリハサイコウデスッ!』

だが多勢に無勢。カースの数は減る様子を見せない。

後方にいるカース達が一斉に梨沙に向かい泥の塊が放ち始めた。

梨沙「エルファバ!!!叩き落として!!!」

エルファバを前方に出し、ラッシュを放ち、泥を叩き落とし、自身はダンスの容量で取り残した泥をよけて行く。

梨沙「ぐっ!………このままじゃキツイわね」

だが、何発かは彼女の身体に当たってしまい、ポツリと辛そうに呟く。

彼女のこの戦闘スタイルは主に近接メイン。それも力より身軽さを生かした動き。更に自分をサポートする二つのレーザーユニットとゴースト≪エルファバ≫。

それにより多数の相手の戦闘は得意としてるのだが………

梨沙「いくらなんでも………減りなさいよ!!!!!!」

前方やいるカース達の中へ飛び込み、ブレイクダンスのように回転し、両脚の爪で周りのカースを斬り裂き、その隙を狙った他のカース達をエルファバで殴り飛ばし、遠くのカースの群に向かい牽制するようにレーザーユニットから攻撃を放つ。

それでも、カースの数は減ることはない。寧ろ雨が強くなるたびにカースの数も増えてくる。


910 ◆AZRIyTG9aM2014/01/28(火) 18:49:29.20nWxKWak7O (5/14)

梨沙(本当にどうすればいいのよ…。いっそ空に向かって貯めてたエネルギー使ったほうがいい?けど……)

梨沙はチラッとエルファバの両腕を見る。

両腕には3メモリずつマークがついており、右腕の3メモリ中2メモリ分が光っていて、左腕の3メモリは光ってなかった。

梨沙(エルファバが殴ったカースと泥の分の衝撃、カースの叫び声の音、そして私に当たったカースの攻撃の半分の衝撃。コレで半分も溜まってないのね……空に放って黒い雨を吹き飛ばすのにも、全然足りないわ。それに吹き飛ばしたとしても元凶をなんとかしない限りすぐ復活しそうね)

かといって、今すぐ元凶を探しに行く事もできない。何故なら自分がここを離れたら避難してる人達が危険だ。


911 ◆AZRIyTG9aM2014/01/28(火) 18:51:17.85nWxKWak7O (6/14)

『マダオワランヨ!』

梨沙「終わりなさいよ!」

自身に来たカースをエルファバで殴り飛ばし、距離を取るように後ろに飛ぶ。

梨沙(コアさんのレーザーユニットもエネルギー切れになる……。ああ!ダメ!こんなのパパに見せられないじゃない!)

このままでは、梨沙がやられるのも時間の問題。

梨沙「…………もう!!雨止みなさいよ!!!」

苛立ち気に叫びながら、再びカースの群れに飛び込もうとした。

その時だった。


912 ◆AZRIyTG9aM2014/01/28(火) 18:56:26.46nWxKWak7O (7/14)

梨沙「あっ……」

『ギギ!?』

『アメガァ!?アメガァ!?』

黒い雨が突然と止み始めたのだ。

梨沙は知らない。この時、イルミナPが元凶を倒した事を。

だが………

梨沙「今が一掃チャンスね」

そう言いながら、エルファバでカースを何体が殴り飛ばし、エルファバの右腕のメモリを見れば3メモリとも光っていた。

梨沙「コアさん!!!フルチャージ」

梨沙の言葉に反応するかのように上空へ飛び、二つのレーザーユニットの先をカースの群の後列に向け、赤紫に光り輝き始める。

梨沙「シュトゥルム………」

それと同時にエルファバがカースの群れに向かい、右腕を突き出すようにしながら向け、左腕を後ろに下げ殴る構えを取り始める。右腕の光が徐々に左腕へと移動し緑色に輝き始める。

『オイ!アレヤベェンジャネエノ?』

『コンナバショニイテタマルカ!オレハヘヤニカエル!!』

『アッ……アカンヤツヤ』

カース達も二色の光に身の危険を感じ、我先にと逃げ出そうとする。


913 ◆AZRIyTG9aM2014/01/28(火) 18:56:55.30nWxKWak7O (8/14)











だが、逃がさない!














914 ◆AZRIyTG9aM2014/01/28(火) 18:59:34.08nWxKWak7O (9/14)

梨沙「ヴェアヴォルフゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!」

ズドォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオンッッッッッッッゥゥゥ!!!!!!!!!!!

その叫びと同時に、エルファバが左腕を前へと殴るように突き出した瞬間。

左拳から轟音と共に、エメラルドに輝く光の奔流が砲撃のように放たれ、前方にいるカース達を飲み込んだ。

だがその距離は短く、よけきれたカースも多い。

そのため、同時に上空の二つのレーザーユニットから赤紫に輝く二つの巨大な光の柱が放たれ、とり逃したカース達を焼き払っていった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


915 ◆AZRIyTG9aM2014/01/28(火) 19:00:56.46nWxKWak7O (10/14)

パップ「お疲れ様。梨沙、コアさん。大変だったろ?」

梨沙「疲れたってレベルじゃないわよ……」

『ぶもっ………』

カース達がいなくなり平穏になった場所で、疲れきったように壁にもたれかかってる梨沙とコアさんにパップは労いの言葉をかけていた。

パップ「明日はライブもあるんだ。今日は寮に帰ってゆっくり休んでくれ。後はこっちでやっとくから」

「はーい」と疲れきった返事をしながらトコトコと帰る梨沙達を見送りながら、パップは戦闘で壊れた建物や屋台を見まわす。

どうやったら明日までに修理できるか考えながら修復の専門業者に連絡する手はずを考えていた。

無論、パップも手伝うの確定である。下手したら寝ずに働かないといけないと考えると、苦笑いしてしまう。


916 ◆AZRIyTG9aM2014/01/28(火) 19:06:44.28nWxKWak7O (11/14)

パップ「それにしても一日目でこの惨状か……」

秋炎絢爛祭はまだ初日だ。初日でこの被害ならカースの出現や悪事も増えるのは目に見える。

パップ「こっちに来てくれるアイドルヒーローを増やすよう直談判するしかないか……」

果たして、それでどのくらい来てくれるのかと考えると肩の荷が重く感じる。

パップ「スカウトもなかなか上手くいかないしな…そんなに怪しいか?俺は」

そう溜息をつきながら、彼はケータイを取り出し明日の秋炎絢爛祭が通常通り行えるよう修復業者に連絡するのであった。

明日、自分が運命的な出会いをするのを知るよしもなく。


917 ◆AZRIyTG9aM2014/01/28(火) 19:08:21.48nWxKWak7O (12/14)

加蓮「やっとカースがいなくなった…」

それを同じくして北条加蓮は落ち込んだ様子でトボトボと歩いていた。

自分が色んなお店に目移りしてたせいで、涼のライブは間に合わず。
更に黒い雨によるカース達の出現により、人々を守るために戦っていた。

そのため、涼に会えずじまいで彼女の始めての学園祭は終わりを告げた。

加蓮「?」

フッと自分を呼ぶ声が聞こえたような気がして、彼女は振り返った。

けど、誰もいない。それに聞いたことないはずの声なのに………

加蓮「……………」

探さないといけないような気がした。会わないといけないような気がした。

だけど、今探してもここにはいないのはなんとなくわかる。もしかしたら明日来れば……

加蓮「………ごめん。涼。明日もライブいけないかも」

そう呟くと、彼女は歩き始めた。


918 ◆AZRIyTG9aM2014/01/28(火) 19:09:36.81nWxKWak7O (13/14)

そして、彼女は気づかない。

『それがいいよ≪私≫。あの子を探そう』

彼女の影が揺らめき

『寂しがり屋の女の子を見つけるかくれんぼ。早く見つけてあげな』

動き

『あっ、いい魂がいるね。もーらい』

黒い腕が飛び出し、空中にいる何かを掴み影の中へとりこんだ。

彼女は知らない。自分の影の中にサクライ財閥のエージェントの……………えっと電気の人の魂を取り込んだことを……

さあ、二日目はどうなることやら?


終わり


919 ◆AZRIyTG9aM2014/01/28(火) 19:11:07.65nWxKWak7O (14/14)

以上です

果たして加蓮は会えるのだろうか?

そして、電気の人ごめんなさい

イベント追加情報

・パップがアイドルヒーロー同盟に秋炎絢爛祭に来るアイドルヒーローを増やすよう頼みました

・加蓮が二日目から誰かを探し始めます

・影が電気の人の魂をとりこみました。電気の人ェ………


920 ◆zvY2y1UzWw2014/01/28(火) 19:18:35.80UNs2DMiR0 (22/22)

乙です
で、電気の人ー!!電気の人はぎ取られ過ぎぃ!もう何も残ってないよこれ!
アイドルヒーロー増援要請キタコレ

はてさて加蓮と彼女はどうなることやら


921 ◆tsGpSwX8mo2014/01/28(火) 19:37:42.96nzz667Aoo (1/2)

お二方乙です

AMCこええ!キュアイス……誰かが間違って食べないことを祈ろう

つくづくむしりとられる電気の人ェ……そして梨沙つよい


922 ◆tsGpSwX8mo2014/01/28(火) 20:03:13.56nzz667Aoo (2/2)

ずっと言うの忘れてた…。>>846のCOの設定はメタネタスレの◆AZRIyTG9aM氏の考案した設定です


923 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 09:41:56.54yC0MHpVFo (1/34)

>>847
時子さんが楽しそうで何よりです
そんな時子さんに張り合えるパップ、べぇですね

>>882
ぅゎょぅι゙ょっょぃ。ルナール社員に何があった……
残すは決戦だけかな?

>>905
箒で倒されるカースさん……
白もヤバいけど黒もヤバいですね

>>919
やっぱりょぅι゙ょっょぃんですけど
そして電気のひとぉおお


皆様、乙です
ではでは投下ー


924 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 09:42:51.68yC0MHpVFo (2/34)



前回までのあらすじ


肇「お待たせしました、ご主人様。こちらがオムライスです」

シロクマP「それじゃあ、ケチャップで『氷菓子』って書いてもらっていい?」

肇「……えっ、オムライスなのにですか?」


美穂とシロクマP
>>644-


925 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 09:43:24.70yC0MHpVFo (3/34)




美穂「……」


「それでー、次どこ行く――」

「RISAのライブまでまだ時間あるよね――」

「うまいって噂のソーセージ屋台って何処だ――」

「昨日言ってたアイスクリームのお店なんだけど――」

「すみませーん、落し物ってどこに届ければ――」


美穂「……♪」

本日は学園祭2日目。場所は京華学園・教習棟前。


「もー、この学園広すぎでしょ――」

「この本掘り出し物だよー。古本屋さんで見つけちゃって――」

「なんかこの学園でカースが現れたそうじゃん、ヤバくない?――」

「ヒーロー達も来てるんだし大丈夫だろぉ――」

「アンティークショップってあるみたいだけど何を売ってるのかな――」


美穂「ふん……ふふん♪」

行き交う人々の中、鼻歌なんて歌っちゃいながら私は待ちます。


926 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 09:44:04.44yC0MHpVFo (4/34)


「ねえ、さっき喫茶店でクマ見かけたんだけど――」

「俺はロリコンっぽいハゲ見かけた――」

「私はロリコンっぽい高校生みかけたよ――」

「ちくわ道明寺」

「マジかよ、日本終わったな――」

「誰だ今の」



美穂「……ふふんふーん♪」

タッタッタ

肇「お待たせしました、美穂さん!」

美穂「あっ、ううん。早かったね」

肇「ええ、思っていたよりもお店が落ち着いてきたので」

肇「みくさん達のご好意で、少しだけ早く休憩を取らせてもらう事ができましたから」

美穂「そうだったんだ。えへへ、それじゃあ行こっか、肇ちゃん!」

肇「はいっ!学園のお祭り、さっそく一緒に回りみましょう!」


と言う訳で、本日、わたくし小日向美穂は、

肇ちゃんの休憩時間の間と言う短い時間ではありますが、

2人で一緒に学園祭を楽しみたいと思います!


927 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 09:44:52.91yC0MHpVFo (5/34)



美穂「肇ちゃん、今日はお仕事大丈夫だった?」

肇「ええ、昨日よりもずっとうまくやりきる事ができたと思います」

美穂「ふふっ、そっかうまく出来てるんだ」

昨日の様子から、お仕事今日も大変なのかな?と思ったのですが、

どうやら心配はなかったみたいです。

嬉しそうに報告してくれる肇ちゃんの言葉に、

私もついつい自分の事みたいに嬉しくなってしまいます。


肇「ふふっ、なにしろ今日は”鬼心伝心”を使いましたので」

美穂「……えっ」


『鬼心伝心』。肇ちゃんの使う妖術、鬼のおまじないの一つ。

たしかその効果は……


肇「みくさんの心、技、体の動きを読み取って、私の動きに反映させました」

肇「あの場では、みくさんがもっともプロフェッショナルなメイドさんですから」

肇「ふふっ、みくさんが日本一のネコミミメイドなら、私も日本一のネコミミメイドと言う事ですにゃ」

美穂(……結構ずるい事してた)

ですが、相手の技量をそっくりそのまま自分の技術として扱えてしまう”鬼心伝心”は、

戦ったりするよりも、こう言う場面でこそ活躍するべきなのかもしれません。


928 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 09:45:48.71yC0MHpVFo (6/34)


美穂「でも、そっかぁ……もうお仕事慣れちゃったんだね。まだ日が浅いのに肇ちゃん凄いな」

肇「可愛らしい格好をするのはまだ少し恥ずかしいですけれどね……」

肇「ですが……その……それも憧れていたので、悪い気はしないですね」

美穂「憧れてた?」

肇「はい、ヒーローとして活躍する時の美穂さんのように」

肇「華やかでとても可愛らしい格好で舞台に立つような事もしてみたい、なんて思ったりもしていましたよ」

美穂「あ、あぅ……も、もう!肇ちゃん!」

肇「ふふっ」

ほんの少しからかうように笑う肇ちゃん。

肇ちゃんの話だったはずが、いつの間にかこっちが恥ずかしがる事になっちゃってました。

だけど……私に憧れていてくれたと言う言葉。

それは、ヒーロー”ひなたん星人”にとって一番のファンであると言う事で、

それはそれは嬉しい気持ちにもなってしまいます。

美穂「えへへっ」


929 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 09:46:30.33yC0MHpVFo (7/34)


美穂「でも、それならシロクマさんのお誘い受けちゃっても良かったかもね」

肇「……私がアイドルに……ふふっ、想像してみれば楽しそうです。確かにそれも良かったかもしれませんね」


アイドルヒーロー同盟に所属するプロデューサー、シロクマPさんのお誘い。

お誘いと言うのはアイドルヒーローのスカウトなのですが、

シロクマさんは私だけではなくって、肇ちゃんの事にも興味があったみたいでした。

私もシロクマさんの気持ちがよく分かります。

身内贔屓を差し引いたとしても、肇ちゃんこんなに可愛いのだし意外と強いし……。

うぅ……アイドルヒーローを目指している事を公言しているからには私も負けてはいられないのですが……。


肇「ですが」

美穂「?」

肇「今は使命が。私にはやるべき事がありますから」

美穂「使命……残りの刀の所有者探しだよね?」


肇ちゃんには使命があります。

肇ちゃんのお爺さん、藤原一心さんから託された刀『鬼神の七振り』の所有者探し。


930 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 09:47:19.48yC0MHpVFo (8/34)



肇「もちろん。それもです」

肇「それとお爺ちゃんに託されているのは、もう一つ」

肇「刀の材料探しもですね」

美穂「『原罪』のカースの核だったよね?」


『原罪』のカースの核。肇ちゃんのお爺さんの最高傑作となる刀の材料だそうです。

私には、『原罪』どころかカースの事もよく分かっていないのですが……。


美穂「……」

アホ毛「♪」


私の頭上では何かが蠢いています。

ヒヨちゃんの仕業です。

ヒヨちゃんは、私が腰に携えている刀の中の人格と言うか……もう1人の私と言うか……。

そう言えば、私は……ヒヨちゃんの事もよく分かってないのかなあ……。


ちなみにヒヨちゃんは、時々こうして私の髪の毛を操作して今の気持ちを伝えてきているみたいです。

私には見えない位置なので、彼女の動きは感覚的に理解するしかないのですが。


931 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 09:48:04.29yC0MHpVFo (9/34)


肇「『原罪』については今のところ……少しの手がかりも無いですね」

美穂「そうだよね、私も色んなカースと戦ってきたけど……虹色の核なんて見た事無いから」

美穂「うーん……私よりずっとずっとヒーローとして活躍してるセイラさんもやっぱり知らないみたいだったし」

肇「……」

肇ちゃんは困っている顔をしています。

手がかりが無い以上、まったく先の見えない道を正しいかどうかもわからずに歩むもので、その不安は私にもわかりました。


美穂「シロクマさんを通して、同盟の人たちにも『原罪』を探してもらえるように頼んでみてもよかったかな」

そんな様子を見かねて、何気ない提案。

しかし、これは失言で。

肇「い、いえ!それは!」

美穂「肇ちゃん?」

肇「……あまり……たくさんの人を巻き込んでしまいたくはなくて……」

美穂「あ……ご、ごめんね」

肇「……」

美穂「……」


はい……私が考え足らずでした。

「巻き込みたくはない。」

肇ちゃんがそう思うのも当然の事で、

それは、きっと例の”刀を狙う悪い人たち”のせいなのだと思います。


932 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 09:48:51.46yC0MHpVFo (10/34)


――

――

ここで回想。

時間は、夏休み。

私たちの住む町に妖怪さん達が跋扈した『祟り場』と呼ばれる事件が収束した頃に戻ります。


肇父「父の刀を狙う者達は、昔はそれなりにいてな」

肇父「なにしろ我が父は界隈では、『鬼匠』と名が通っているほどだ」

肇父「天下一を目指す剣士、より強い力を求める妖達、あるいは国の支配を企む妖術師の一派」

肇父「譲り受けに来ようと熱心に父の元を通う者達も多く居たが……」

肇父「中には、力ずくでも、どんな手を使ってでも刀を自分の物としようとする悪しき輩も同じくらい居たものだ」

美穂「……」


肇ちゃんのお父さんのお話を聞いて、思わずごくりと息を飲んでしまいました。

私の頭の中では、聞く限りに恐ろしい人たちがずらりと並び立ちます。


肇父「まあ、そのような者達の大方は、以前に私がフルボッコにした故に」

肇父「未だに父の刀を狙っている悪しき輩はもはやほとんど居ないのだが……」

美穂(フルボッコって……)


933 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 09:50:04.08yC0MHpVFo (11/34)


肇「でも、今回の『祟り場』でお父さんは襲われたんだよね」

肇父「うむ、間違いなく私を狙って……いや、私の持っていた『鬼神の七振り』を狙っていたのであろうな」


肇ちゃんが言ったとおり、

こんな物騒なお話をしているのも、肇ちゃんのお父さんが今回の『祟り場』で何者かに襲われたからなのです。

それも……おそらくは『鬼神の七振り』を狙う人たちに。


肇父「心を読めなかったが故に、襲撃者の正体は私にも掴めなかった」

その人達について分かるのは心が読めない相手であったと言う事くらいです。

例えばロボットの兵隊さんだとしたら、心が無いので心を読む能力は通じないのでしょう。


肇父「とは言え、予想はついているのだ」

肇父「おそらく、此度の襲撃者はあやつらの差し金なのであろう」

美穂「あやつら?」

肇父「……我が父に、『鬼神の七振り』の製作を依頼した依頼主」

美穂「!?」

肇「!」


依頼主、と肇ちゃんのお父さんは言いました。

『鬼神の七振り』の製作は、誰かが肇ちゃんのお爺さんに頼んで作ってもらった刀なのだそうです。

私はその時にその話をはじめて聞いたのですが、

隣で聞いている肇ちゃんも、驚き方からして初耳だったのだと思います。


肇父「そやつらの名は……」


934 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 09:51:17.79yC0MHpVFo (12/34)


――

――



美穂(櫻井財閥……)


櫻井財閥。

それが、あの時教えてもらった『鬼神の七振り』を狙う心当たりのある組織の名前です。


『櫻井財閥』の名前は、もちろん私も聞いた事があります。

間違いなくあの、世界的にも有名な大財閥のことですよね……。


道行く人に声を掛けて、「櫻井財閥って知ってますか?」と聞いたら、

8割の人が、「知ってるよ」と答えると思います。

そのくらい有名です。

残り2割の人は、「櫻井!?知るかっ!!」と何かに怒ったように答えると思います。

そのくらい有名です。


935 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 09:51:47.24yC0MHpVFo (13/34)



ただ、有名は有名ですけれど、

みんな……多くの人は名前を知っていると言うだけで、

その実体……全体像となると、知ってる人はどのくらい居るのでしょうか?


私が櫻井財閥について知っていることと言えば……


例えば、この学園から少し離れた位置にある病院。櫻井財閥が運営しているそうです。

例えば、私がよく卯月ちゃん達と買い物に行くデパート。経営者は櫻井財閥の関係者だそうです。

例えば、クラスで流行っているマスコットキャラクターのグッズ。製作には櫻井財閥に連なるグループの企業が関わっているそうです。


本当にどこでも名前を聞けちゃいますね。

だから……ますます、どんな組織なのかわからなくなった気がします。


名前と、その事業。なんとなく、そして少しだけは知ってはいました。

けれどなんとなくでしか知りません。少しだけしか知りません。

全体の内のほんの一部。私が知っているのはそのくらいです。


世界に名だたる『櫻井財閥』。その実体は、私たち一般人からすればとにかく巨大です。

たとえ身近にある一部からその存在を知っていても、その全体像は大きすぎて見えていないんです。


広い海岸。砂浜で向こうからやってくる波に触れる事はできても、地平線の向こう側は見えない。

怪獣映画に出てくるような怪獣の傍に居て、その足元はよく見えていても、頭は雲の上にあって見えない。

丁度、そんな感覚であると言いますか。


936 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 09:53:04.97yC0MHpVFo (14/34)



気になったので、インターネットでも調べてみました。

後でわかりましたけれど、その時使ったパソコンの生産事業にも、

櫻井財閥が大きく関わっているらしくって、なんだかここまで来ると怖いですね。


それはさておいて、

「櫻井財閥(仮)」で検索、検索ぅ。

出てくるのは良いお話と、まことしやかに囁かれる悪い噂です。


まずは良いお話から、


カースの大量発生によって、私達を恐怖のどん底に陥れたあの『憤怒の街』と呼ばれた災害。

その解決の為に、『櫻井財閥』はヒーロー達と共に初期から動いてくれていたのだそうです。


『憤怒の街』には、『櫻井財閥』に所属する能力者さん達が派遣されていたようです。

彼らは果敢に攻略の足掛りとなる地図を作成し、その後も街の中心地付近で救護活動を行い、

怪我した人たちを財閥の運営する病院に運び込んで、たくさんの人たちを救ったそうです。


驚きなのが、『憤怒の街』での活動に力を入れるように強く進言したのは、

まだ12才のご令嬢であったらしく、その事で彼女をはじめ櫻井財閥に多数の感謝の言葉が寄せられていました。


このお話には、私は素直に感激しちゃいました。

『憤怒の街』での救助活動は、私にはできなかった事なので。

見知らぬ誰かのために、尽くして戦う。まるでヒーローみたいですよね。


937 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 09:54:12.79yC0MHpVFo (15/34)


一方で悪い噂。

検索した限りではこちらの方が多種多様、

都市伝説めいた嘘みたいなお話から、散々な罵詈雑言までエトセトラ。

と言うか悪口満載です。まるで低評価が並ぶカスタマーレビューでした。


その中の幾つかをご紹介。

「櫻井財閥の当主は悪魔と契約している」

「櫻井財閥に関わったジャーナリストが死体で発見される事件が多すぎる」

「死神事件の黒幕は櫻井。魔法使いの活躍に何か不都合があるに違いない」

「『憤怒の街』での救助活動も形だけのパフォーマンス。救助した身寄りの無い人間は人体実験に使っているらしい」

「櫻井財閥に仕事貰いに行った研究員が帰ってこない件について」



……黒いです。すごくブラックです。

ここでは紹介しませんでしたが、もっと危ないお話もあったりして……。

これ全部、本当のお話なんでしょうか……。ネットで真実は語れないと言いますが……。

うーん、嘘みたいだけど、真実味のあるお話もあって怖いなあ。


938 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 09:55:26.03yC0MHpVFo (16/34)



良いお話と悪い噂。


ここまで評価が真っ二つに分かれるのは、

櫻井財閥と言う組織が、本当に2つの顔を持っているからでは無いでしょうか。

ちょうど私と、”ひなたん星人”みたいにです。

それは表と裏の関係。

コインのようにひっくり返る真逆の顔を兼ね備えているのだと思います。


2つの顔と言えば、『綺麗な花には棘がある』って言いますよね。

美しく見える物ほど、その裏には人を傷つけちゃう棘があるのだって。


綺麗な美談で、美しく飾られる『櫻井財閥』にも、

その陰には、たくさんの人を傷つけてしまう棘があるのかもしれません。


善と悪。正しいと間違い。本当と嘘。それらが複雑に絡み合う……


巨大な茨の庭園。


『櫻井財閥』について調べて、私が抱いたのはそんな印象でした。


939 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 09:56:11.44yC0MHpVFo (17/34)




……と、閑話休題です。


とにかく、櫻井財閥が肇ちゃんのお爺さんに『鬼神の七振り』の製作を依頼したのは間違いないようです。

そして刀の完成を目前にして、櫻井財閥はその研究から手を引いた。

いえ、肇ちゃんのお父さんによると、とある事件の影響によって手を引かざるを得なかったそうです。


行き場を失い、お爺さんの手元に残った刀は、孫の肇ちゃんに託されて、人の世に。

と、言うのがこれまでの『鬼神の七振り』に纏わるお話の流れだったみたいですね。


もし櫻井財閥が、『鬼神の七振り』を半ば諦めるように研究を放棄したのだとしたら……。

そしてもし櫻井財閥が、噂どおりのブラックで危ない組織なのだとしたら……。

なるほど確かに、『鬼神の七振り』を狙って肇ちゃんのお父さんを襲った理由になるのかもしれません。


うーん、それでも幾つかの疑問は残っちゃうんですけどね。

「どうして奪おうとしたのか」とか……。

あ、もちろん、「刀が欲しいから」って理由なのはわかります!

でも……「欲しい」だけなら……真っ先に「奪う」って方法を選んだのはちょっと変かなって。

他にもたくさんやり方はあると思うんです。

例えば、肇ちゃんのお爺ちゃんにもう一度頼むとか……。

既に断られちゃったのかもしれませんけどね。


……考えてもよくわかりませんね。襲撃者の正体が本当に彼らとも限りませんし。


とりあえず今の私には、警戒を怠らないようにすることしかできないでしょう。


940 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 09:57:25.49yC0MHpVFo (18/34)



さて、長々と思考しちゃいましたが。


美穂「……」

肇「……」


沈黙が続いちゃってます。ちょっと気まずいです。

そう、私が8レスにも渡って回想を交えつつ現状を省みることができたのは、

この沈黙の長さのせいだったりします。

はい、気まずいです。


美穂「……」

肇「……」


刀を狙う襲撃者の存在。肇ちゃんにもきっと思うところがあるのでしょう。

肇ちゃんは優しいから、

『鬼神の七振り』を託した私たちの事を心配してくれているのかもしれません。


941 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 09:58:15.89yC0MHpVFo (19/34)


でも、日本一、欲張りな刀こと『月灯』を託したセイラさんは元アイドルヒーロー。

そして日本一、大喰らいな刀こと『餓王丸』を託した珠美さんと言う人は、妖怪退治屋さんだそうです。


セイラさんは言うまでも無く、珠美さんも肇ちゃんから聞く限りは、かなりの実力者です。

きっと2人とも私なんかが及ばないくらい強い人達で、だから簡単には負けたりなんかしないはずです。


もう1つ。肇ちゃんの手元を離れた刀。

日本一、自堕落な刀こと『眠り草』。それは危機回避能力に秀でた刀だと聞いています。

だとしたら、まだ出会ったことの無い所有者の人をちゃんと守ってくれているはずです。


美穂「だからね、きっと大丈夫だよ肇ちゃん」

肇「……そうですね。美穂さん、ありがとうございます」

美穂「ううん。それにね」

美穂「私も負けたり……負けないつもりで頑張るから、安心してほしいかな」

ここで負けたりなんてしないと言い切れたらカッコよかったと思うのですが、

自分自身の強さにそこまでの自信は持てないのが私でした。すみません…。


肇「ふふっ、美穂さんは良いアイドルヒーローに絶対なれると私は思いますよ」

どこか自信のない私の言葉に、

肇ちゃんは力強く笑顔で答えてくれるのでした。


942 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 10:00:01.94yC0MHpVFo (20/34)


――


美穂「さてと、それじゃあ何処から見回ろっか?」


難しいお話はここまで。

悩む時間も大切だってシロクマさんは言ってたと思うけれど、

今は時間がありません。


なにしろ京華学園は、私達の学校なんかとは比べ物にならないほどに広大な学園で、

肇ちゃんの休憩時間だけではとても回りきれませんから!


少し落ち込んじゃった気持ちを晴らすためにも、

今は、すぐにでも学園祭を楽しむために行動することが大事なはずです!


肇「そうですね、まずは……」


ぐぅー


肇「……」

美穂「……ふふっ」

美穂「まずはご飯だね?」

肇「す、すみません。妖術の使いすぎで……」


肇ちゃんは妖術を使うと、何故かいつもお腹が減るようです。

今日は朝から『鬼心伝心』を使っていたようなので、今はお腹ぺこぺこな事でしょう。


美穂「うん。食べ物系の出し物は多いから、せっかくだし色んなところ回ろう!」

肇「……はいっ!お供させていただきます」


そうと決まれば、飲食系屋台が多い地上通路。まずはそこから攻めて行きましょう。


943 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 10:00:54.10yC0MHpVFo (21/34)



――


肇「出し物と言えば……」

美穂「?」

ベンチに座り、屋台で買ったクレープを頬張りながら肇ちゃんの言葉に耳を傾けます。


肇「美穂さんは、この学園祭での出し物は何を?」

美穂「あ、そう言えば話してなかったね」

肇「今日は私に付き合ってもらっていますが……美穂さんはお仕事大丈夫でしょうか?」

美穂「うん、持ち回り当番制だから大丈夫」


まあ、何と言うかですね。高校生はみんな遊びたいんです。

何かを提供するのも楽しいのですが、せっかく大きなお祭りなのですから色んな所を見て回りたい。

なので、みんなにできるかぎり自由な時間ができるように、持ち回り制に。


そして、出し物のために役割を果たしているときでも、この学園を見て回れるように……


美穂「私たちはね、これをやってるの」

ポケットから1枚のカードを取り出します。

肇「?」

肇「網目のマスに1から9の番号が…?美穂さん、これは?」

美穂「それはね、スタンプカードだよ」


と言う訳で、私達の出し物はスタンプラリーです。
 


944 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 10:01:34.86yC0MHpVFo (22/34)



肇「……なるほど、スタンプを持っている人を探してこのカードに判を押してもらうと」

美穂「うん、9点分のスタンプを集めれば豪華景品?と交換してもらえるみたい」


私達のことながら、なかなかに遊ぶことしか考えていない出し物だと思います。

何しろスタンプを持っている人は、そうと分かる格好で学園内を好きに歩き回ると言うルールですから。

もちろんある程度は自由に活動していてもいいのですが……本来の役割をサボっている人が居ないとは限りません。

そこはみんなのやる気と情熱を信じるしかないですね。

……まあ、私も今現在サボってるに近い状態ではあるので、あまり人の事を強くは言えないのですが……。


肇「9つのスタンプを集めるのは、とても大変そうですね」

美穂「そうでもないよ、9点分だから2点や3点のスタンプを集めればすぐに埋まるから」

肇「なるほど、得点の高いスタンプがあるんですね」

肇「それなら今からでも……」

美穂「えっ?」

どうやら肇ちゃんはスタンプを集める気のようです。でもとてもじゃないけど休憩時間中には……。

先ほどは簡単そうに「すぐに埋まる」と私も言いましたが、それは時間を使って広い学園を回ることができればの話であって。

肇「えっと……ダメでしょうか?」

美穂「……」

そんな顔でお願いされて断れるでしょうか、いやできまい(反語)

美穂「頑張ってみよっか」

肇「はいっ!」

美穂「……ふふっ」


945 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 10:02:35.03yC0MHpVFo (23/34)


美穂「それなら、まずはこの区画に居る番人を探してみよう」

肇「?……番人と言う呼び方は……何かを守っているみたいですね?」

肇「もしかして?」

美穂「肇ちゃん鋭いね!うんっ、スタンプのために勝負を仕掛けてくることがあるみたい」

もちろん勝負とは言っても、物騒な事は全然なくって

じゃんけんとか駆けっことかボードゲームとか簡単で誰でもできるものです。

勝負が絡むスタンプは、総じて高得点なので短時間クリアを目指すなら是非とも狙っていきたいところです。

肇「では、少し覚悟を決めて挑まなければいけませんね」

美穂「ふふっ、そうだね」

肇ちゃんの心は静かにですが燃えているようです。良い傾向です。


946 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 10:03:14.32yC0MHpVFo (24/34)



美穂「それじゃあ、このクレープを食べ終わったら早速……あれっ?」

肇「美穂さん?」

そこで、私はようやく気づきました。

美穂「私のクレープがない?」

手元にしっかり持っていたはずのクレープがありません。

おかしいです。全部は食べていなかったはずなのですが……


もぐもぐ。むしゃむしゃ。

美穂「?」

ふと、ベンチの後ろから何かを食んでるような音が聞こえます。

振り向けば、背後には……

美穂「誰もいない?」

肇「いえ、何かの気配は確かにあります」

どうやら気のせいではなく、肇ちゃんにも何かが居ることがわかったようです。


947 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 10:03:52.26yC0MHpVFo (25/34)


美穂「もしかして下かな?」

私はベンチの背もたれを乗り越えるようにして下を覗き込みました。

するとそこには、


「もぐもぐ」

美穂「あっ」

居ました。


こぐま「……もぐもぐ」


そこに居たのはこぐまさんです。

2.5頭身程度の、まるでぬいぐるみのような、

白くて可愛いこぐまさんが、クレープを食べていました。


こぐま「マ?」

あ、向こうもこちらに気づいたようですよ。


948 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 10:04:22.61yC0MHpVFo (26/34)


こぐま「……!!」

こぐま「マっ!!マっ?!」

覗かれていることに気づいて驚いたのか、こぐまさんは慌てて逃げ出します。

2つの小さな足でトテトテと、お世辞にも速い速度ではなく。どこか覚束ない足取りです。


こぐま「マっ!?」

あ。

こてん、と転げちゃいました。


美穂「……かわいい」

肇「……?この子は何でしょう?」

美穂「こぐまさん」

肇「い、いえ、それは見れば分かるんですけれどね」


ついボケちゃいましたが、肇ちゃんの言いたい事は分かります。

二足歩行で歩いて、間接部にはどこか光沢のある金属のような部分が見えるくまのぬいぐるみ。

機械?……あ、でもクレープ食べてたし……。

……不思議です。不思議な生き物です。


こぐま「マぁ……」

こぐまさんはふるふると震えながら、すぐそこの木の陰の後ろでこちらの様子を伺っています。

たぶん、隠れてるつもりなんだろうなぁ……。可愛いです。

正面から改めて見てみると、どこかシロクマPさんに似ているかも。


949 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 10:05:17.69yC0MHpVFo (27/34)


美穂「怯えちゃってるのかな?」

肇「人が怖いのかもしれませんね」

美穂「うーん……何か誤解を解くいい手はないかな……」


言いながら、私はごそごそとポケットを探ります。


美穂「あ、これなら」

肇「それは?」

美穂「お菓子。私に『番人』の役割が回ってきたときはこれを配ろうかなって思ってたんだ」

スタンプを配る役は、そうとわかる格好で歩き回らないといけません。

私は魔法使いのコスプレで頑張るつもりでした。

もう過ぎちゃったけど、ハロウィンも近いのでお菓子も一緒に配れば喜んでもらえるかなって。

ちなみに文化祭の季節は秋です。誰がなんと言おうと今は秋です。


私はクッキーを袋から取り出すと半分に砕いて左の手のひらの上に乗せます。

そしてベンチの横にしゃがみ込み、

美穂「おいでー」


こぐまさんに喋りかけます。

クレープを美味しそうに食べていたので、たぶんクッキーも好きだと思います。


こぐま「マ?」


私の予想通り、こぐまさんはこちらに興味を示してくれたみたいです。


950 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 10:06:23.99yC0MHpVFo (28/34)


こぐまさんはトテトテと、おそるおそるこちらに近づいてきます。


こぐま「……マ?」

そして私の前に立つと、小首を傾げました。

……可愛すぎませんか、この子。


美穂「はいっ、あげます!」

こぐま「マっ!」

私が許可を出すと、両手を伸ばしてクッキーを受け取ってくれました。


こぐま「もぐもぐ…」

早速口入れています、既に無警戒です。

信用してくれているのは嬉しいのですが、

こんなに簡単に人の事を信用してしまっていいのでしょうか……?この子が少し心配です。


こぐま「……」

こぐま「マぁあ♪」

美穂「ふふっ」

頬に両手を当てて、感激しているようでした。

喜んでもらえたようでよかったです。


951 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 10:07:05.33yC0MHpVFo (29/34)


こぐま「マっ!」

美穂「あっ」

ぴったりと、こぐまさんは私の足元にくっついています。


美穂「……懐かれちゃった?」

肇「ふふっ、みたいですね」

こぐま「マぁ!」

美穂「えへへ」


甘えん坊のクマさんですね、悪い気はしません。

私はこぐまさんを両手で抱え上げます。

あ、意外と軽いですね。


こぐま「マ♪」

抵抗されることは無く、すっぽりと私の両腕の間に収まるのでした。


952 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 10:07:35.10yC0MHpVFo (30/34)


美穂「さて、この子はどうしようか?」

肇「どうするとは?」

美穂「うーん、親とか居ないのかなぁ。もしかしたら誰かのペットなのかも?」

こぐま「マっ」


こぐまさんは首を振ります。どうやら違うみたいです。

野生の生き物?いえ、触り心地は意外にもふかふかですけど機械みたいな部分も見えてますし……

不思議です。不思議な子です。


こぐま「マっ♪マっ♪」

肇「……とにかく美穂さんに懐いてるみたいなので、一緒に連れて行きませんか?」

美穂「そうだね、この子の事を知ってる人に会えるかもしれないし」

少なくともこんな所に1人(?)にしているよりは、たぶん良いと思います。


953 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 10:08:08.03yC0MHpVFo (31/34)


美穂「シロクマさんに聞けばわからないかなぁ?」

アイドルヒーロー同盟ならこの子のような生き物についても知っていそうです。

こぐま「マぁ?」

それにしても……そっくりだなぁ。白い小熊さんだし。


美穂「ふふっ、とりあえずキミの事はプロデューサーくんと呼ぼうかな♪」

こぐま「マっ!」

プロデューサーをやってるシロクマさんにそっくりなので、『プロデューサーくん』。

我ながら安易な名付けですけれど気に入ってくれたようで何よりです。


美穂「それじゃあ、行こっか」

美穂「肇ちゃん、プロデューサーくん」

肇「はいっ」

Pくん「マっ」


さて、運命的な出会いを果たしたところで文化祭はまだまだこれから。

たくさん楽しんで大切な思い出を増やしたいと思います。


おしまい


954 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 10:08:59.40yC0MHpVFo (32/34)


『プロデューサーくん(マキナ・ウィッチキス)』

小さな白いクマのぬいぐるみの姿をしたエクス・マキナ。
無邪気で人懐っこく、悪戯と甘いお菓子が好き。
ガイスト形態はウィッチハット。一定の条件を満たすと装備者の魔力を増幅させる力を持つ。


『スタンプラリー』

『秋炎絢爛祭』における高校生組の出し物。
『京華学院』の様々な場所に居る高校生達からスタンプを貰って、豪華景品を手に入れよう。
スタンプをくれる『番人』たちは勝負を吹っかけてくることがあるかも?勝てば高得点のチャンス!
スタンプカードと景品の交換は教習棟で受け付けています。
※教育現場では今回の文化祭について、指導の一環としての外部生徒との交流が軸と考えられており、
  高校生組の出し物は一部、他校生と協力して行われているものもあります。
  そのため『スタンプラリー』に置いても美穂の学校以外の生徒が『番人』を勤めている事があるかもしれません。


955 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 10:10:17.86yC0MHpVFo (33/34)


◆方針

美穂……櫻井財閥を警戒中。文化祭を楽しむ。
肇 ……少しの間お仕事休憩中。文化祭を楽しむ。

と言う訳で、みほたんうぃっちフラグを立てるお話。
櫻井財閥に対する美穂の認識はこんな感じ。
肇ちゃんに休憩を取らせて貰ったり、高校生組の出し物を決めてしまったり。
色々と動かさせていただきました。失礼ー。


956 ◆llXLnL0MGk2014/01/30(木) 11:39:25.08ll5EtNql0 (1/13)

おっつおっつばっちし☆

髪下ろしたなつきちの色気はやべえの
しかしAMCえげつねえ……

リスクのでかい大技ってロマンよね、わかるわ
電気の人ェ……とうとう残っていた魂までもが……

>>923
そういや書いてなかった
ルナール社員は普通にカースに叩き潰されてます、説明不足失礼しました

美穂ちゃんは鬼神の七振りだけでなく魔力まで得てしまうのか、強い(確信)

アイドルヒーロー同盟で短く投下しますー
今回も前回同様、最新版に更新したアイドル設定の一部も投下します


957 ◆llXLnL0MGk2014/01/30(木) 11:40:55.39ll5EtNql0 (2/13)


ヒーロー「やっ、やめろぉ! 俺に眼鏡を近づけるなあ!!」

アイドルヒーロー同盟事務所内の一室。

アンチメガネカースと戦っていて気を失ったとあるヒーローが、震えながら暴れていた。

モブP「お、落ち着け!」

ヒーロー「暴れんなってリーダー!」

それを、彼のチームメンバーや担当プロデューサーが必死に抑えている。

クールP「……何の騒ぎですか? 眼鏡がどうとか……」

シロクマP「あ、クールPさん。彼が例の特殊なカースと戦ったらしいんですが……」

シロクマPが、たった今部屋に入ってきたクールPに答える。

シロクマP「どうも、その時に洗脳のようなものを受けたようで、こうして眼鏡への嫌悪を吐き散らして……」

クールP「……不可解ですね、どうせ洗脳するならもっと何かあったでしょうに、何故眼鏡を……」

黒衣P「シロクマP、出たぞ。ああ、クールPもいたのか」

二人の会話を遮り、黒衣Pが部屋に入ってきた。

クールP「黒衣Pさん……出た、とは?」

黒衣P「現場の防犯カメラの映像が出た。犯人が映ってるかも分からん」

シロクマP「それは……是非確認しましょう」

三人は早足で部屋を出て、映像を確認しに向かった。

――――――――――――
――――――――
――――


958 ◆llXLnL0MGk2014/01/30(木) 11:41:37.87ll5EtNql0 (3/13)

――――
――――――――
――――――――――――

『どうだ!カースめ!』

『ねーねーお兄ちゃん』

『あれ、君いつのまに…』

『んしょ、んしょ…』

『同士をいじめないで?』

『えっ?』

『ばーん!』

『…』

『同志いじめたの?』『メガネだめなの』『メガネだめー』

『みんな逃げたかな』『同志が助かってよかったね』『よかったー』

――――――――――――
――――――――
――――


959 ◆llXLnL0MGk2014/01/30(木) 11:42:37.54ll5EtNql0 (4/13)

――――
――――――――
――――――――――――

倒れたヒーローを放って、真っ黒い体の少年少女が散り散りになっていき、映像が止まった。

クールP「…………」

シロクマP「…………」

黒衣P「…………」

スタッフ「……今回の件が映ってるのは、ここまでッス……」

スタッフが映像を巻き戻し、ヒーローがアンチメガネカースと戦う所からまた再生する。

黒衣P「同士、か……。それに、あの姿……」

クールP「上手い事真似てますけど、カースでしょうね」

シロクマP「一体が自爆で気絶させ、その隙に集団で洗脳した、と……」


960 ◆llXLnL0MGk2014/01/30(木) 11:43:23.38ll5EtNql0 (5/13)

黒衣P「眼鏡嫌いのカース、か。確か、眼鏡大好きなカースもいなかったか?」

シロクマP「ええ、どちらも目撃情報が増えています」

クールP「コイツら、別のカースを同種へ変換する能力を持っているんでしたね」

黒衣P「ああ。命題が眼鏡じゃなきゃホラー映画みたいな連中だ。……とにかく」

黒衣Pが立ち上がる。

黒衣P「『子供に擬態したカースにご注意』と、警報を出すべきだろう」

クールP「そうですね。気絶程度とはいえ、明らかに人間に危害を加えている」

シロクマP「ええ。この映像、早速上層部に提出しておいてくれるかな?」

スタッフ「了解ッス」

――――――――――――
――――――――
――――


961 ◆llXLnL0MGk2014/01/30(木) 11:44:09.26ll5EtNql0 (6/13)

――――
――――――――
――――――――――――

パップ「おー、三人とも!」

三人が部屋を出ると、突然野太い声が飛んできた。

黒衣P「パップか。RISAのライブはどうだった?」

パップ「それどこじゃないな。京華学院全体にカースが大量発生でもうてんやわんやだったぞ」

シロクマP「そんなことが?」

パップ「ああ。勢いだけで言えば『フェス』に迫るモノがあったんじゃないか?」

クールP「フェス……そんなにですか?」

不特定多数の要因が絡み合い発生するカースの大規模大量発生、『フェス』。

以前にGDFが強力なGC爆弾で街一つ犠牲にしてそれを焼き払ったのは、記憶に新しい。


962 ◆llXLnL0MGk2014/01/30(木) 11:45:06.06ll5EtNql0 (7/13)

パップ「まあ、ちょい言い過ぎかもな。それで学園祭二日目以降は、学園に向かうアイドルヒーローを
   増員してもらうよう上に掛け合ってきたトコだ」

シロクマP「そういうことでしたか」

パップの言葉に少し考え込んでいたクールPが、おもむろに口を開いた。

クールP「なら、二日目は爛とライラを向かわせますよ」

パップ「おっ、いいのか?」

クールP「ええ。本来はオフなんですが、アイツはオフって言っても寝て食って寝るだけなんで」

クールPは肩をすくめて苦笑する。

クールP「それに、あわよくばライラのデビュー発表も出来ればな、と」

シロクマP「んー、わたしも個人的にちょっと行こうかな。もしかしたらあの子に会えるかも」

パップ「あの子……ああ、『ひなたん星人』か!」

クールP「彼女がアイドルヒーローになってくれれば、心強いですよね」

(目立つヒーローが増えれば、そのまま僕と爛の隠れ蓑になってくれますしね)と、クールPは心の中で続けた。


963 ◆llXLnL0MGk2014/01/30(木) 11:46:44.37ll5EtNql0 (8/13)

シロクマP「そうだね、まあ無理強いは出来ないけども」

黒衣P「なら、俺も洋子のスケジュールを確認しておくか」

パップ「ありがとうなお前ら! そうだ、今日終わったら飲みに行かないか?」

パップが酒をすするようなハンドサインを示す。

クールP「いいですよ、出来ればワインを置いてる店で」

シロクマP「あまり飲めませんけど、それでよければ」

黒衣P「俺も大丈夫だ」

三人の言葉を聞いて、パップはパンと手を打った。

パップ「ようし! そうと決まればチャチャッと仕事済ますか!」

そう言って踵を返していくパップを見送り、シロクマPが口を開いた。

シロクマP「じゃ、わたしもそろそろ行こうかな。お二人とも、また後で」

黒衣P「ああ、また後でな」

シロクマPがこちらに手を振り、階段をゆっくりと下っていった。

クールP「僕も、オフがなくなった事を爛に伝えないと」

黒衣P「噛み付かれたりしてな」

クールP「まさか。こう見えて、僕らお互いに信頼してますんで。じゃ」

黒衣Pにひらひらと手を振って、クールPはエレベーターに乗り込んだ。


964 ◆llXLnL0MGk2014/01/30(木) 11:48:08.82ll5EtNql0 (9/13)



クールP(…………にしても、眼鏡のカースと眼鏡を嫌うカースねえ…………)


クールP(爛に伝えてやれば、サクライさんへの手土産程度にはなるかな?)


扉が閉まって独りになると、クールPは静かにほくそえんだ。



続く


965@設定 ◆llXLnL0MGk2014/01/30(木) 11:49:35.15ll5EtNql0 (10/13)

・ヨリコ(地上人名・古澤頼子)

職業(種族)
ウェンディ族

属性
国家指導者

能力
アビスエンペラー装着による高い戦闘能力
嫉妬の呪いの力

詳細説明
側近の補佐を得ながら政治を行う、史上最年少の海皇。
病を取り払った恩からか、海龍の巫女(≒レヴィアタン)には厚く信頼を寄せている。
また地上の美術品への関心が深く、たまにこっそり収集の為地上に出て来たりもする。
離反したカイに未だ未練があり、どうにか連れ戻そうと画策している。

関連アイドル
カイ(部下・幼馴染)
サヤ(部下・幼馴染)
瑞樹(部下)

関連設定
ウェンディ族
海底都市
戦闘外殻

・アビスエンペラー
ヨリコ専用に開発された、守護神プレシオアドミラルを模した姿の戦闘外殻。
通常の戦闘外殻と違う金色のボディと、海皇の証である青いマントが特徴。
現在は嫉妬の核が埋め込まれており、装着したヨリコの人格を豹変させる。
○ヴァリアブルアームズ
アビスエンペラー唯一にして最大の武器。
各戦闘外殻の性能を参考にした十種の武器へと変形する。

・プレシオの首
基本形態。そのまま振り回して使う事も可能。

・ナイトバッシャー
相手を周囲の空間ごと断裂するほどの切れ味を誇る剣。

・スパイクパニッシャー
かなりの重量と破壊力を誇るトゲ付きハンマー。

・スティングランス
突貫力に優れた槍で、先端から神経毒を注入する事が出来る。

・ストーカーテンタクル
戦闘外殻の修理やコンピュータへのハッキングが可能な触手型アーム。

・スマイルサウンダー
強力な衝撃波で敵を吹き飛ばすスピーカー型衝撃波発生ユニット。

・ストラトスエッジ
斬撃武器としても使える、連射性能に優れた弓型ビームガン。

・スカルディフェンダー
あらゆる衝撃に耐える大型の盾。

・グラップルファング
目に留まらぬ猛スピードのパンチを繰り出すクロー付きナックル。

・エンペラーキャノン
協力無比なビーム砲。必殺技の「ハイパーボルテクスシュート」を放つ。


966@設定 ◆llXLnL0MGk2014/01/30(木) 11:50:46.61ll5EtNql0 (11/13)

・サヤ(地上人名・松原早耶)

職業(種族)
ウェンディ族

属性
装着変身系ヒール

能力
アビスティング装着による飛行能力
優れた身体能力

詳細説明
海皇宮親衛隊の一員。
カイやヨリコとは幼馴染の関係にあり、彼女もカイの帰還を望んでいる。
また同僚であるエマやマキノとも仲が良く、オフは遊びに誘うこともあるとか。
相棒であるペラを身に纏い「アビスティング」に変身する。

関連アイドル
・ヨリコ(上司・幼馴染)
・カイ(同僚・幼馴染)

関連設定
ウェンディ族
海底都市
戦闘外殻

・ペラ
サヤが連れる戦闘外殻。姿は大型の金属製アカエイ。
サヤにぺったりと甘えるが、サヤ以外には決して懐かない。
尾には複数の薬品を封入したカプセルが仕込んである。

・アビスティング
サヤがペラを纏いウェイクアップした姿。
空中を飛び回りながら相手をエストックで突き刺す高機動戦が得意。

・べノムエストック・パライズ(サヤ曰く「ビリビリモード」)
相手の筋肉を痺れさせる薬品を撃ち込む。

・べノムエストック・ポイズン(サヤ曰く「ジワジワモード」)
猛毒の薬品を撃ち込む。

・べノムエストック・チャーム(サヤ曰く「メロメロモード」)
相手の思考・判断力を奪う薬品を撃ち込み、一時的に意のままに操る。強い意思を持つ者には無効。


967@設定 ◆llXLnL0MGk2014/01/30(木) 11:51:28.14ll5EtNql0 (12/13)

・スパイクP

職業(種族)
ウェンディ族

属性
装着変身系ヒール

能力
優れた身体能力

詳細説明
海皇宮親衛隊の一員。
現役の親衛隊では最年長である為か、負担の多い任務を任される事が多い。
相棒であるバイオを身に纏い「アビスパイク」に変身する。
ヨリコには忠誠を誓うが海龍の巫女は何か嫌い。

関連アイドル
カイ(同僚)
ヨリコ(上司)

関連設定
ウェンディ族
海底都市
戦闘外殻

・バイオ
スパイクPが使役する戦闘外殻。姿は巨大な金属製ムラサキウニ。
スパイクPの意向で自我は無く、スパイクPの指示に淡々と従う。
頑丈な体と鋭い棘が最大の武装。

・アビスパイク
スパイクPがバイオを身に纏いウェイクアップした姿。
防御・遠距離戦・拠点防衛に特化している。

・スパイク・ミサイル
棘をミサイルのように高速発射する。

・スパイク・スコール
全ての棘を上空に放ち時間差で広域を攻撃。敵味方識別不能の危険な技。

・スパイク・タップ
右手甲の棘を地面に突き立て、それを軸に高速回転、独楽のような動きで敵に突進する。


968 ◆llXLnL0MGk2014/01/30(木) 11:53:18.00ll5EtNql0 (13/13)

・イベント追加情報
アイドルヒーロー同盟上層部へ、AMCの映像が提出されます。

学園祭二日目、爛とライラ(&クールP、シャルク、ガルブ)が学園祭に向かいます。

以上です
ネームドアイドルが一人も出てこねえ(驚愕)

シロクマP、黒衣P、パップ、(以下名前だけ)梨沙、美穂、洋子お借りしました。
+アビスエンぺラーの説明及びヴァリアブルアームズについては、まとめWikiの没ネタスレから拝借しました


969 ◆zvY2y1UzWw2014/01/30(木) 12:01:14.68xyKrfYXp0 (1/1)

お二人とも乙です
魔女っ子ひなたんフラグきたー!
櫻井財閥(仮)は卑怯だw

学園祭にライラさんか、マキノンとかどうリアクションするのか…w
P同士の話も楽しいなぁ


970 ◆AZRIyTG9aM2014/01/30(木) 12:11:20.72QL9uU/9d0 (1/1)

お二方乙ー

ひなたんウィッチ化するんです?
Pくんカワイイな

学園祭に二人とも来るのか。梨沙のLIVEの後にゲスト出演させる感じかな?
トキコさまに爛とクールPはどんな反応するのか……


971 ◆6osdZ663So2014/01/30(木) 17:38:02.56yC0MHpVFo (34/34)

乙です。
クマと黒子スーツとHAGE
すごい絵である。クールPがまともに見える。


972 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 22:54:44.63gLjesAt+o (1/29)

どうも、ひと月間があいてしまいました。




前回のあらすじ




P隊長「……あと5時間か。寒いなぁ……」
 
 
 
 


973 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 22:55:56.39gLjesAt+o (2/29)

「右腕、よし!」

 神経が通っているのを確かめるように、右手を回して、指を動かすピィ。
 そして腕がちゃんと動くことを確認した後、ポケットから携帯電話を取り出す。

「いったいどこへ電話をかける気?」

 ソファーに座る周子は横目でピィを見ながらそう尋ねる。
 周子の隣には黙ったままのアーニャ。
 向かい側には気絶したままの楓が横になっている。
 少し離れたところでちひろが呼んでしまった救急車をキャンセルするために電話をかけていた。

「どこへって、とりあえずGDFあたりに協力を要請する。あとは社長にも頼んであらゆるコネを使ってできる限りの協力を取り付けてみる」

「それはやめておいた方がいいかな」

 今まさに電話をかけようとしていたピィの出鼻をくじくように、周子はピィの行動を否定する。

「どうしてだ周子!?素人の俺でもわかる。あの男のヤバさは異常だ。

アーニャ一人はおろか並のアイドルヒーローでも歯が立つわけがないぞあれは!

だったら救援を求めるべきだ!

仲間を、一人で、あの男の元へ行かせるなんて自殺行為俺が見逃せるとでも思ってるのか!?」



974 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 22:56:24.71gLjesAt+o (3/29)


 身をもって感じた隊長の危険性からのピィの提案。
 そんなピィに周子は同調することなく、冷静に言い返す。

「素人だからこそ、そう言う風に考える。あの類のには数は意味なんてないのさ」

「ヤー……私も、シューコに賛成です。あの人に数をそろえて挑んでも、いたずらに犠牲者を増やすだけです」

「アーニャ!お前までどうして……」

「ピィさん。あなたは、隊長のことをほとんど知らないから、そう言えるんです。

仮に、GDFやアイドルヒーロー同盟に、協力を求めたとしても」

 アーニャはここで一度言葉を切って、頭を、視線をじろりとピィの方へと向ける。



975 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 22:57:52.60gLjesAt+o (4/29)


「あの人を指す名を出せば、確実に断られます。

『コードネーム”P”』、『ハリケーン』、『局所天災』、『ルール破り』、『沈黙する全滅屋』、『眠らぬ黄昏』、『台無し男』、『盤を引っくり返す者』、『対面致死』、『正面から来る卑怯者』、『チートプレイヤー』、『理不尽傭兵』、『イレーザー』、『外側の殺し屋』、『アンフォーチュネイト』

これ以外にもある、全く定まらない呼び名。
きっと誰かは知っています。

名は定着せずとも、知れ渡っている、恐怖の存在。

それが私の……カマーヌドゥユシェィ、隊長です」

 仰々しくも、誇張ともいえる呼び名を連ねるアーニャに周子はまるで納得した様子である。

「誰もが抱く感想は同じ、ってことだね。こんなやり過ぎともいえる呼び名がしっくりくる。しっくりしてしまうんだからさ」

 妙に納得した様子の周子に対して、ピィはやはりいまいちわかっていないようである。

「たしかに大層な呼び名だが、具体的にどれぐらいやばいのかがわからん。いったいあの隊長はどんな男で、どんな人間なんだ?

多分さっき話していたことは全て嘘っぱちだろうし、あの男が何者なのか余計に分からなくなってきた……」

 そんな風にピィは言って頭を抱える。


976 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 22:59:08.52gLjesAt+o (5/29)


「ツィエースナシチ……正直、正直言うと、私も本当に詳しくは知りません。」

「は?知らないってどういうことだアーニャ?」

「隊長とは……十年以上の付き合いですが、彼の作戦に随伴したことは、一度しかないです。

彼が、どういう人間かはある程度知っていても、彼の力については、その一回の作戦。それだけしか知らないです。

彼の能力はサイコキネシス。物を手で触れずに動かしたりできる、ポピュラーな異能の力。

特殊能力部隊でも、8割を占めるその力。

……それが、隊長の能力です。」

「なるほど。とは言いたいところだけどやっぱりいまいちわからないな……。

サイコキネシス、つまり念動力ってのは確かによく聞くし、『あの日』以前でも最も代表とされるような特殊能力だよなぁ。

まぁ当時ならインチキばっかりだったけど、聞く感じでは隊長は『あの日』以前から、えーっと……サイキッカー?ってことみたいだけど。

いくら間近で見たとしても、あの男の、底の見えないあの力が、そんな単純なものだとはあまり思えないんだが……」

「エータ ヴィエールナ……その通りです。

隊長の力は、他の有象無象のサイキッカーと同等では、全くありません。

……隊内では、あくまで推測ですが、部隊内の訓練を受けた平均的な念動能力者を1とするならば、低く見積もって、隊長は千。

イーミェヌナ……まさに、一騎当千。

部隊内での隊長の推測は、そうでした。

だけど、部隊で任務を全うするようになってからの、数か月後に初めて、だだの一度だけ、いつもは単独で遂行する隊長の任務に、数名の隊員を伴っていくことが命令で下されたんです」

 アーニャはその時の情景を思い出す。
 その瞳に映るのは、体液と業火の赤一色。



977 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 22:59:50.60gLjesAt+o (6/29)


「場所はロシアとカザフスタンの国境近く、トロイツクから北へ数キロメートル。

……その周辺の廃工場に潜伏していた、異能テログループの殲滅でした。

そこで隊長から命じられた命令はただ一つ、『何も手を出さずについてくること』です。

ヴラーク……敵の根城に侵入するときにはまず、他の敵に察知されないように、監視を片付けるのが基本です。

ですが、隊長は正面から、堂々と、隠れる気なく進んでいったんです。

……後は、監視も、戦闘員も関係ありませんでした。

監視役だったであろう男は、隊長を見る間も無く、原形をとどめない肉片となりました。

異常を察知して、隊長に向かってきた戦闘員も、同様に肉片となりました。

正体不明の異能を使ってくる者も、その能力ごとすり潰すように、肉片となりました。

恐怖で逃げ惑う者も例外なく、肉片となりました。

……隊長が歩くだけで、敵は自動的に、人の形を留めない肉片となる。

誰が付けたかわからない炎と、人体から搾りつくした血液によって、視界は赤一色の地獄絵図でした。

ヤー……私たちがこれまでしてきた、命のやり取りとは全く違う。

ただの一方的な殺戮。物を動かすだとか、衝撃波を発生させるだとかとは次元の違うサイコキネシス。

……あの人の前に、人数をそろえたとしても、戦いにすらなりません。

ただ命を消費して、……リェカー クローヴィェ……血の川を作り出すだけです」



978 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:00:45.46gLjesAt+o (7/29)


 アーニャの脳裏に映る残酷な情景。
 ピィは先ほどアーニャの頭が吹き飛ばされたことを思い出す。

 アーニャはたとえ傷ついても、能力の特性なのかまるで体内に血を留めているかの如く出血することはない。
 それに実際に人間をすり潰して、血液が飛び散るなんて普通の日常を生きている限り絶対にお目にかかることはあり得ない。

 だからこれまでに平凡な日常を過ごしてきたピィにはその地獄絵図を完全に想像することはできなかった。
 それでもアーニャの頭をいとも簡単につぶしたように、人間を丸ごとミキサーにかけるように潰すことを隊長が可能であることは想像がついた。

「たしかにあの隊長とかいう男の恐ろしさはわかったんだが、結局サイコキネシスってのはどういうことができるんだ?」

 これまでのピィのイメージとしては、サイコキネシス、念動力と言えば手を触れずに物を動かしたりするイメージがあった。
 しかし人間をミンチにできるというような荒唐無稽な力があることを知って、今までのイメージはほとんど壊れてしまっていた。

「……物を動かす超能力には、サイコキネシスとテレキネシスがあると言われます。

ノ……しかし、私はその知識は必要なかったのでよく覚えていないのです……」

 アーニャは少ししゅんとした表情をする。



979 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:01:27.18gLjesAt+o (8/29)


「……シューコ、わかります?」

「結局あたしを頼るのね……」

 周子はアーニャに対してあきれた表情を向ける。

「しょーがない。知り合いの受け売りだから詳しくはないけど簡単に説明するよ」

 そう言って周子は立ち上がって、壁に沿うように置かれていたホワイトボードを転がして持ってくる。
 先ほどの騒ぎとは少し離れた場所にあったので、このホワイトボードは無事であったのだ。

「まぁざっくーりと説明するとね、てれきねしすーっていうのは物を念じて動かすわけ。

物そのものを動かすから、イメージとしては飛行機とかヘリコプターみたいにその物が動くみたいな感じかな?」

 周子は『てれきねしす』の文字の下にヘリや飛行機の絵や、念じて物を動かしているような簡単な絵を描く。

「それに対して、さいこきねしすってのはさ、物に力を与えて動かすわけ。

物理的なエネルギーを与えてるから、これは物を手で持ち上げたりとか押したりとか、外部から力を与える感じかなー。

もっと単純に言えば、ただの力。エネルギーだよ」

 そして『さいこきねしす』の文字の下には、人が物を持ち上げるような絵を描いた。



980 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:02:19.96gLjesAt+o (9/29)


「まぁ一般的にはこんな感じかな?」

「なるほど。さすが周子先生だなぁ」

「……さすがです。シューコ先生」

「はっはっはー。褒めても何にも出てこないよー」

「亀の甲より年の功だね、せんせぇ(裏声)」





 瞬間、いつの間にか電話を終えていたちひろがピィの背後に立っていた。
 その表情はいつもの優しい笑顔であったが、その目には冷え込むように冷たく影がかかっている。

 そして無言のまま、ピィの首へと手刀を一撃。
 ちひろの一撃は悪ふざけの過ぎたピィを処断する。
 それだけでピィは苦悶の表情を浮かべながらうめき声を上げながらその場に膝をついた。

「今のはさすがに擁護できませんよ」

「同感。今のはさすがに……キモいよ」

「恐ろしく速い手刀……。ヤー……私でなければ見逃してしまいます」

 皆がピィを見る視線は冷ややかでピィの体感温度は一気に下がる。

「す、すんません……。悪ふざけが過ぎました」

 そう言いながらピィは首を押さえながら、よろよろと立ち上がった。



981 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:03:38.97gLjesAt+o (10/29)


「それとさりげなく『亀の甲より年の功』とか言ってたけどあたしに喧嘩売ってるのかな?」

「め、滅相もございません、周子大先生」

 立ち上がりかけていたピィだが、周子のにらみを受けて再び膝をつく。
 そして流れるようなきれいなフォームで、土下座。

「うん、よろしい。ところでちひろさん電話終わったんだ」

「ええ、救急車については、同僚のドッキリで早とちりしてしまったということにしておきました。

全く電話口で、かなり怒られちゃいましたよ……」

「アー……それは、おつかれさまです」

「じゃあ話を戻すけどさ」

 周子はそう言いながらクリーナーでホワイトボードに書かれた絵を消していく。



982 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:04:56.15gLjesAt+o (11/29)


「あくまであたしの言ったのはほとんど一般的な知識レベルってこと。

多分ネットか何かで調べればこれくらいのことは簡単にわかると思うよ。

じゃあ、サイコキネシスは、具体的にどんなことができるのかってことになるけど……」

「周子みたいな妖怪もインターネット使うんだな」

「あたしがまだ山の中とかで生活してると思ってんの?

今時妖怪にだって情報社会の波は押し寄せてきてるよ」

 周子はクリーナーを置いて、手を前に差し出す。
 するとじわりとにじみ出てくるように周子の手の周りに紫がかったオーラ状の何かが纏わられる。

「シューコ……これは?」

「これは妖力だよ。

まぁ今回はあんまり関係ないから説明は省くけど、ポルターガイストの元とかでもあるから一応サイコキネシスと似たようなことができるし、目でも見えるからちょっと再現してみるね。

じゃあここで問題。

ピィ、こういった力を使う上で最も使いやすい方法はなんだと思う?」

 周子は唐突にピィへと質問を振った。
 急に質問を振られたピィは土下座状態から顔を上げて周子の方を見る。



983 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:05:40.83gLjesAt+o (12/29)


「ええ!?えーっと……び、ビームみたいに放出、する?」

「まぁ間違ってはないけど、それは不正解。

それは最も基本的で、簡単だけど応用性が全く効かないからね。

武器を直接投げてるようなもんだよ。そして、あたしが聞きたかったのは武器の使い方ってこと」

 そして周子は目を閉じて少し集中する。

 するとその紫のオーラは形を変えていき、一つの形を作り出した。

「これは……手?」

 ちひろはその手の形をした妖力を見て思わず口に出した。

「そう。手だよ。

こういったある程度自由にできる力は、自分たちが最も扱いやすい手段。

つまりは日常的に、ほぼ毎日使っているといってもいい手の形で使うのが、もっとも使いやすいんだよ」

 周子は、その作り出した手でホワイトボードの縁に置かれたペンを取る。
 これによって手では触れてないのに、『手』で掴みあげて、物を動かしたことになった。



984 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:06:24.89gLjesAt+o (13/29)


「これは超能力者も例に漏れないはず。

きっと、アーニャのいた部隊の隊員もこんなかんじで超能力を使う人が大半だったんじゃないかな?

そして、アーニャを攻撃したのもきっとこの『手』だと思うよ」

「ダー……たしかに、そんな気がします」

 周子はペンを置いて、自身の手を閉じたり開いたりする。
 それに連動するように妖力の手も同じ動きをした。

「ただし、多分普通のサイキッカーなら物を押したり動かしたりするのがやっとだと思う。

あたしもあんまりこうやって妖力使わないから、その程度だし。

だからこれはあたしの予想。

あの規格外の男が、その手を使って人間を潰す方法なんて大概は限られてくるでしょ」

「……そうか。『握る』か」

 ピィが思いついたその答えをそのまま口にする。



985 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:07:15.29gLjesAt+o (14/29)


「そう、並のサイキッカーができなくてあの男にできること。

それは多分、『握りつぶす』ってことだと思うよ。

そこまでしてしまえば、よほどのことがない限り殺し損ねるってことはないだろうしね」

 そして周子はアーニャの方を向き直る。

「アーニャは、これからあの男と、隊長と、戦うんだからこれぐらいのことは知っておくといいよ。

勝つためには、敵を知ること。これは必須だからね。

多分、サイキッカーの相手取り方は、アーニャもよくわかっているはずだから。







さて、あたしの役目はこれで終わり。

後はアーニャしだいだよ」

 少し、突き放すような言い方。
 まるで話はこれっきりのように、周子はホワイトボードを片付けようとする。



「ちょ、ちょっと……待ってくれ。周子は、戦って……いや、協力を、これ以上協力してくれないのか?」



986 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:07:50.01gLjesAt+o (15/29)


 ピィの困惑するような声。
 しかし周子はまるで気に留めない。

「戦う?なんであたしが?」

「いや……だってお前は、あの男をアーニャ一人で戦わせる気なのか?

人数を増やすのがだめなら……少数精鋭で、戦う方がいいだろう……。

戦えない俺が言えることじゃないかもしれない。

だから無責任にも俺は、周子にも戦力として戦ってほしいと、アーニャを助けてやってほしいと言うんだ。

俺は周子があの隊長に負けず劣らずに強いことを知っているし、一緒に戦ってくれるなら百人力だ。

でも、それに対して周子、お前が戦わない、『アーニャを見捨てる』、そう言ってるようにしか見えない。

アーニャが確実に負けるとは……思わないが、実際お前からはそんな雰囲気を、感じるんだ」

 戦えない者が、戦える者に戦ってほしいというのは、無責任であるが自然だろう。
 できる者が、できない者の分までその責任を負うのは、たびたびあることだ。



987 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:08:43.95gLjesAt+o (16/29)


「……ふふっ、あはははは」

 周子の、空っぽのような笑い声。
 到底笑顔とはいいがたい歪んだ笑みを周子は浮かべ、そして笑い声が消え入ると同じように、表情はなくなっていく。

「……全くホント、無責任なことを言うねピィはさ。

でも『あの隊長に負けず劣らず』っていうのは買い被りだよ。

仮にあの男に、化物的なサイコキネシスだけだったのなら、まだ同じあたしが負けず劣らずって表現は正しいよ。

でも所詮、あのサイコキネシスは前座で、表向きの力。あたしじゃああの隊長の根幹に、手も足も出ない。

だからピィの言うとおりだよ。あたしはアーニャを見捨てる。

いや、もしもアーニャが行かないなんて言うのなら、あたしは何をしても、アーニャをあの男に差し出すよ」

 迷いなく、そう言い放つ周子。

 ピィは目を見開き、ちひろは目を伏せる。



988 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:09:40.91gLjesAt+o (17/29)


「……どうして?」

「あの男は、多分ここ『プロダクション』のことを調べてきているはずだよ。

なら、ある程度の人員だって把握してるはず。

当然、美玲のことだって。

そんな男が、『プロダクション』の人間を殺すって言ったんだよ。

なら、あたしはあの子、美玲を守るためなら仲間だって売る」

「……それは」

「それに、あたしはあの子を残してまだ死ぬわけにはいかないからね。

だったら手段は選ばない。

自分の最もかけがえのないものを守るためなら、大切なものを捨てる覚悟なんてのはとうの昔からできてるし、これまでもあたしはそうしてきた。

勘違いしてもらっちゃあ困るんだよ。

あたし、塩見周子は悪意から生まれた、悪の妖怪なんだよ。

間違ってもあたしはヒーローじゃない。すべてを守ることは、あたしには不可能なの」

 物事の優先順位。
 誰よりも長い時を生きてきた妖怪の言葉は、誰よりも重く、絶対的な意志が込められていた。



989 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:10:31.93gLjesAt+o (18/29)


 そんなことを言われたら誰であろうと言い返すことなどはできない。
 周子の言うことはもっともであり、その言葉はごく一般的であり正当性を持ったものである。

「じゃあ……一つ、聞かしてくれ。

充分な強さを持つ周子が戦うことを拒むほどの危惧する敗色というのは何なのか?

あの男を見て、どうして強い周子は勝てないとわかるのか?

周子の言う、隊長の根幹っていったい何なのか?

その理由を、教えてほしい」

 周子は黙ったまま、先ほど座っていたソファーに座る。
 そして少し大きめの息を吐いて、思い出すように語り始めた。

「あの男に、隊長にあたしは勝てないから。

分が悪いとか、勝つ方法がわからないとかそう言うんじゃないんだ。

あたしは、あの男に、絶対に勝てない。強さとか、能力とかそんな問題じゃなくてね。

これは推測ではなく経験だよ。

約400年前から、今もきっと変わらない。

あの類の化物の前に勝ち負けは存在しない。

ただの一方通行の殺戮しか無いってことを、あたしは痛感してるから」

 まるでかつてあの男に会った事があるような言い方を、周子はする。



990 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:11:20.16gLjesAt+o (19/29)


「ああ、いや。あの隊長とは会ったことはない。

今日さっきのが初顔合わせ。はじめましてだよ。

でも隊長と同種の人間には、会ったことがある。

結構昔のことは忘れっぽいあたしだけどさ、これだけはきっとずっと忘れられないと思うよ。

約400年前、ヨーロッパから来た船に乗っていた、堅牢な鎧と、一振りの三叉槍を携えた一人の男が日本にやってきたことを。

ほんの些細な、嫌な昔話だよ」

 周子は生きてきた膨大な記憶を掘り起こして、そのことを思い出す。
 いつも楽天的で、自由で、優しい妖怪はその忌避する記憶を紐解く。

「とはいっても多くを語れることは少ないけどね。

実際、それと会ったのはほんの少しの間だし、あたし自身逃げるので手いっぱいだったからさ。

そいつは当時、狩人(カッチャトーレ)って名乗って、どうやら化物退治を生業としていたらしくてね。

日本を訪れたのもそれが目的だったみたい。

そのときに少しの間狙われただけさ。



991 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:12:18.28gLjesAt+o (20/29)


たった半日くらいの出来事でさ、船から降りてきたそいつを興味本位で話しかけて少し雑談した後には、戦闘開始。

ホントに化物だったよ。ただの、何の能力も持っていない人間のはずなのに、その槍で大地を裂いて、その鎧で空を蹴り、あらゆる常識をあざ笑うかの如くぶっ壊す。

当時でもあたしはそれなりに化物として自信はあったけど、ホントにその時、久しぶりに命の危機を感じたよ。

そして、あたしが命からがら京都に逃げ込んだ。

数日後、うわさで日本の力の弱い妖怪や、有名ではない妖怪は全て、何者かに駆逐されたって話を聞いたよ。

あたしにはそれをしたのがその槍男だってのは確信したけどね。

ある意味誰にも知られぬままに、その槍男は日本妖怪の時代の終演の一端を担ったんだ。

……なんであのとき、気まぐれで話しかけちゃったのかって後悔したよ。

なんてことはない、それだけの話」

 この場にいる者で、その槍男がどれほどの恐怖を周子に与えたのかわかる者は周子だけだ。
 けどその周子の苦々しい表情が、その経験の壮烈さを物語る。



992 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:13:06.14gLjesAt+o (21/29)


「そしてあの隊長とかいう男は、そっくりだったよ。

顔とかじゃなくて、雰囲気がさ、400年前の狩人と全く一緒なんだよ。

さっき言った、根幹が同じ。

きっとあれはそういう存在。きっとどうしようもなくて、どうでもよく常識を覆し、どんなものでも世界から壊しつくす。

勝敗じゃなく、あれにはきっと一方的に壊すことしかできない、そんな存在なんだよ」

 ひとしきり喋った後の、静寂。
 あまりにも抽象的すぎる、ささやかなエピソード。
 それは理解しがたいものだったが、説得力だけは十分に備わっていた。

「ただそれだけ、きっとわかんないだろうけど、だから私は勝てないと思うから、戦わない」

「ダー……。忠告、感謝です」



993 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:13:58.67gLjesAt+o (22/29)


 そんな中で、ずっと沈黙していたアーニャは立ち上がる。
 事の渦中にいる彼女は、迷うことなく事務所の出口へと向かっていく。

「アーニャ……どこへ?」

 それを口にしたきっとピィにもわかっていたし、そこにいて話を聞いていた誰もがわかっていた。
 アーニャのこの後の行動を。アーニャがこの後どうするかを。

「スパシーバ……ピィさん。いろいろと気を回してもらって、私は嬉しいです。

でも……これは私の問題です。

今、プロダクションがこんな状態なのも、ピィさんが傷ついたことも、楓がそこで倒れていることも。

争い(スポール)とか、闘争(バリバー)とは無縁だった、この場所を巻き込んでしまったのは……私の責任です。

ヤー……私、一人の責任です。元から、誰かの手を借りる必要など、なかったのです」

 まるで、飼い猫が自分の死期を悟った時にふらりといなくなるようなそんな感覚。
 前々から、妙に感じていた正体不明の儚さが、今のアーニャからはっきりと見えていた。

「……私は、私と、隊長の因縁を、終わらせに行きます。

私は……私の意志を持って、隊長を倒します。

カージュドィ ツィエラヴィエーク……みなさん、それでは、行ってきます」

 そして、アーニャはプロダクションから出ていった。
 
 なぜかその背中をピィにもちひろにも引き止めることはできなかった。
 多分、アーニャの意志に言葉が届かないと、思ってしまったからだ。

 きっと、あまりに自分は無力で、言葉の力の無さを悟っていたからだろう。



994 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:15:17.91gLjesAt+o (23/29)


***



「多分その隊長ってひとは『外法者(Dest Law)』じゃないかな。

天界にある『危険存在図鑑入門編』の中でも、最重要警戒存在として載っている、存在しているけど確認できないヤッバイ存在!

ぶっちゃけ対処方法は、会ったら逃げる。そんなことしか書いてないんだよねーこれがさ」

 アーニャが出ていった後、次にプロダクションに来たのは未央だった。
 未央は入っくるなり事務所内の惨状を見て、『なんじゃこりゃー!台風でも通過したのかー!?』と驚いていた。

 そして事の顛末を話すと、やれやれというような表情をしながら、

『また解説未央ちゃんかー……。たまにはメイン張りたいよねー……』

 とよくわからないことを言いながらも、一つのことを語り始めた。

「危険な生物だとか、魔獣だとか、悪魔と名を連ねる『デストロー』。

その実態は、凶暴だとか、危険な能力を持っているとかじゃないんだよねー。

『デストロー』は血統とか、因果とか関係なくごく普通の一般家庭から、突然生まれたりするのさ。

さてここで一つ、話は変わるけどね、『運命力』って知ってる?」

 突然の未央の話題転換。
 ピィやちひろには聞きなれない単語だが、周子は知っているらしくそれに反応を示した。



995 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:17:28.92gLjesAt+o (24/29)


「ある意味、能力とか不思議なことじゃないし、いまいちはっきりしないことだからよくわかんないけどさ。

たしかその人の、運命?と言えばいいのか……えーと、周囲の物事の流れ?を左右する力だったっけ?」

「そのとーり!ほぼ模範解答ありがとー周子さん。

この世界には、アカシックレコードだとかパラレルワールドとかいろいろあるけど、世界には川のような流れがあるのだ!

世界そのものを変えるならば、その方向に流れを変えなくちゃならないとかいろいろあるわけなのですよ。

そしてその流れを形作るものの一つとしてあるのが、『運命力』ってわけ。

ちなみに天界出版より『神さま教本デスティニー編』の90から118ページ辺りに詳しく書いてあるから参考にしてみてね!」

「なんだかタイトルが主役交代しそうな教本だな……」

「とにかく、そんな運命力だけどそんな流れを強引に作り出す強力な『運命力』を持つ人もいるの。

たとえば、その人の周りでは平穏が全く無い、いわゆる漫画のようなトラブルメーカーだったりとか。

たとえば、その人の周りでは争いが絶えず、いつも何かしらの闘争が起きているヘルメーカーとか。

たとえば、その人の周りでは平和そのもの、争いも起きない穏やかな日常なピースメーカーとか。

そんな何の能力もないはずなのに、まるで世界がそうなるかのように、時には世界そのものを変えるほどの『運命力』も持つ人もいるわけ。

さてここで話は戻って問題!

『外法者(デストロー)』もある意味運命力に関連してるんだけど、いったいどんな力でしょーか?はいピィくん!」

「え、ええ!?また俺?」

 話を聞いていただけのピィは急に名指しされて慌てる。



996 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:19:16.99gLjesAt+o (25/29)


「えーっと……外法者っていうくらいだから、そいつの周囲で犯罪とかが起きやすくなるのか?」

「ああ……うん、そうだね。じゃあ次ちひろさん!」

「なんか雑じゃない俺の扱い?」

「うーん……逆に運命力がない……とか?」

 自信なさげに応えるちひろだったが、未央はサムズアップをして笑う。

「さすがちひろさん。だいぶ近くなってきたよー。じゃあ最後に周子さん!」

「たぶん、だけどさ、運命力がないどころか、運命というかその世界の流れそのものに乗ってないんじゃないかな?

なんというかさ、同じ世界で勝負していない。

あたしはそんな印象を、どっかで持っていたからね」

「さっすがほぼ正解だよー周子さん!

デストローは世界の流れに乗ってない。

そんな世界の外側から、世界に縛られないで生きてる存在なんだよ。

だから、世界の『ルール』を無視できるんだよ。

法律であろうと、常識であろうと、物理法則であろうと、超常現象的なものだったとしてもそこに明確な『ルール』さえあれば、そこに世界があれば無視できる。

決まっていることを無視できる。無視しようと認識すればなんだって無視できる。

ルールであるならどんなことだって破ることができる。

究極のルールブレイカーにして、異端からも排除された異端なんだよ」



997 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:20:53.35gLjesAt+o (26/29)


 そんな未央の言葉に、ようやく合点がいったような表情をする。

「なるほどね、道理が合ったよ。

そんな根本を覆されてちゃあ、絶対に勝てるわけがないね。

あれだけ意味不明だった理由が、ようやく分かった」

「でもそんな無敵に見えるデストローだけどね、弱点というか、欠点があるのさ」

「欠点?」

 ピィは未央の言ったことを疑問を持つように反復する。

「そう、欠点。

世界に縛られないってことは、逆に世界に介入できないわけなんだよ。

だから、世界的に有名であったり、歴史に名を遺していたり、はたまたこれから世界にその存在を轟かせる人や、事柄には介入できない。

介入しようとしても、世界が拒絶して介入させない。

そんな欠点があるんだよ。

デストロー自身は絶対に世界に名を残せない。

世界には、歴史には、物語には介入できずに、その一生を終える。

ある意味、怒涛で、平凡な人生。デストローは運命に縛られない代わりに、劇的な運命も存在しない。

これが、周子さんの言う400年前の槍男と、その隊長さんの正体だと思うよ」



998 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:22:33.53gLjesAt+o (27/29)


「なるほど、な」

 納得をしたような、それでもまだ理解できないような、そんな表情をする3人。

 だが唯一、このことを話した未央だけは納得がいかないような表情をしていた。

「でも本来ならデストローはこのプロダクションに来ることさえできないと思うんだけどなー……」

「?……どうしてですか?」

 そんなことをぽつりとつぶやく未央だったが、それを疑問を持ってちひろは投げ返す。

「え……ああ、うーんとなんというのか、ね」

 しかし未央の言葉を遮るように一つの低い、お腹の鳴る音。

「お……おなか、すいたーん……」

 少しぐったりした様子で、周子はそうつぶやく。

 時計を確認すれば、12時を過ぎてもはや1時近くだった。

「とりあえず、お昼にしましょうか……」

 ちひろは周子を見ながらそう言った。



999 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:23:36.75gLjesAt+o (28/29)

***

 白色強い灰色の空の下、道行く人々は各々に鎧をまとうかの如く厚着をして自らの道を歩いていく。

 そんななかで、プロダクションを出たアナスタシアはちらほらと雪が舞い落ちる中、女子寮を目指していた。

 アーニャは以前、数回ほど、GDFの簡単な仕事の依頼を受けたことがある。
 その際に、GDFのある程度の装備の使用許可をもらっており、一部の武器を提供してもらっているのだ。

 自宅である女子寮に置いてあるそれらを一度取りに戻るためにアーニャは歩いていた。

 しかし一部の武器とはいっても、ほとんどが非殺傷なのであの隊長にはきっと物足りないだろう。
 それでも無いよりはましである。

 今の状況は束の間の自由の代償ものだ。だからこそ、アーニャは誰かに手を借りくことなくあの隊長と相対しなければならないと考える。
 いかなる形で決着が着こうとも、この因縁を終わらせなければならないと。

「あれ?アーニャンだにゃ!」

 目的地へ向かって歩を進めるアーニャに背後から一つの声がかかる。
 その特徴的な語尾を聞いた時点でその主を判別することができた。

「アー……。プリヴェート、みく。それと、のあも」

「ええ、こんにちは……アーニャ」

 アーニャに声をかけてきたのは、前川みくと高峯のあの二人であった。
 二人とも、この雪降る寒空の中なのであったかそうな格好をしている。



1000 ◆EBFgUqOyPQ2014/02/01(土) 23:24:46.54gLjesAt+o (29/29)


「歩いていたら偶然アーニャンを見かけたから、つい声をかけちゃったにゃ。今からどこかにお出かけ?」

 今のアーニャの状況を知らない二人は、何の遠慮もなしに近づいてきた。
 アーニャとしてはできれば早く自分の部屋に戻りたかったので、ここで引き止められるのは少し困る。

「ダー……。ええ、少し、急ぎの用事があるので……自宅に必要なものを取りに戻る途中だったんです」

 なので、とりあえず急いでいることは明確に伝えつつ、正直に、だが事の本筋を伝えないように言葉を返す。
 きっと今のアーニャの『用事』の内容を伝えればこの二人のことだ。強引にでも協力するとか言い出しかねない。

 それは避けなければならない。先ほど一人ですべてを終わらすと決意したばかりなのだ。
 だから何も二人には教えない。何も言わずにアーニャは去ることを選んだ。

 そんなアーニャの胸中を知りえないみくはいつもと変わらない様子で話す。

「こんな寒い中アーニャンもだいへんだにゃあ……。みくもできればこたつの中でのーんびりしていたかったんだけど……」

 みくは不満そうな顔をしながらため息を吐く。その息は寒さで白く昇っていく。

「のあチャンに買い物行くからって無理やり連れだされたにゃ。みくをこんな雪の日に連れ出すなんてホントにひどいにゃあ……」

「……なにみく?こんな寒空の中、私一人買い物に行かせて……貴女はこたつで、安息を楽しむつもりだったのかしら?」

 半ば強引に連れ出されたことに文句を言うみくだったが、それをのあは隣のみくを横目でじろりと見つめる。