1VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/22(日) 14:55:26.52jNkzR4MZ0 (1/3)

 それは、なんでもないようなとある日のこと。


 その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
 時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

 それと同じ日に、宇宙から地球を侵略すべく異星人がやってきました。
 地球を守るべくやってきた宇宙の平和を守る異星人もやってきました。

 異世界から選ばれし戦士を求める使者がやってきました。
 悪のカリスマが世界征服をたくらみました。
 突然超能力に目覚めた人々が現れました。
 未来から過去を変えるためにやってきた戦士がいました。
 他にも隕石が降ってきたり、先祖から伝えられてきた業を目覚めさせた人がいたり。

 それから、それから――
 たくさんのヒーローと侵略者と、それに巻き込まれる人が現れました。

 その日から、ヒーローと侵略者と、正義の味方と悪者と。
 戦ったり、戦わなかったり、協力したり、足を引っ張ったり。

 ヒーローと侵略者がたくさんいる世界が普通になりました。

part1
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371380011/

part2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371988572/

part3
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1372607434/

part4
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373517140/

part5
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1374845516/

part6
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376708094/


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1379829326



2VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/22(日) 14:57:20.16jNkzR4MZ0 (2/3)

・「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドスレです。

  ・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。
  ・一発ネタからシリアス長編までご自由にどうぞ。


・アイドルが宇宙人や人外の設定の場合もありますが、それは作者次第。


・投下したい人は捨てトリップでも構わないのでトリップ推奨。

  ・投下したいアイドルがいる場合、トリップ付きで誰を書くか宣言をしてください。
  ・予約時に @予約 トリップ にすると検索時に分かりやすい。
  ・宣言後、1週間以内に投下推奨。失踪した場合はまたそのアイドルがフリーになります。
  ・投下終了宣言もお忘れなく。途中で切れる時も言ってくれる嬉しいかなーって!
  ・既に書かれているアイドルを書く場合は予約不要。

・他の作者が書いた設定を引き継いで書くことを推奨。

・アイドルの重複はなし、既に書かれた設定で動かす事自体は可。

・次スレは>>950
    
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」まとめ@wiki
http://www57.atwiki.jp/mobamasshare/pages/1.html?pc_mode=1



3VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/22(日) 14:57:56.20jNkzR4MZ0 (3/3)

☆このスレでよく出る共通ワード

『カース』
このスレの共通の雑魚敵。7つの大罪に対応した核を持った不定形の怪物。
自然発生したり、悪魔が使役したりする。

『カースドヒューマン』
カースの核に呪われた人間。対応した大罪によって性格が歪んでいるものもいる。

『七つの大罪』
魔界から脱走してきた悪魔たち。
それぞれ対応する罪と固有能力を持つ。『傲慢』と『怠惰』は退場済み

――――

☆現在進行中のイベント

『憤怒の街』
岡崎泰葉(憤怒のカースドヒューマン)が自身に取りついていた邪龍ティアマットにそそのかされ、とある街をカースによって完全に陸の孤島と化させた!
街の中は恐怖と理不尽な怒りに襲われ、多大な犠牲がでてしまっている。ヒーローたちは乗り込み、泰葉を撃破することができるのだろうか!?
はたして、邪龍ティアマットの真の目的とは!


『真夏の肝試し大作戦!』
妖力と厄の祟り場となった街で妖怪達がお祭り騒ぎ。
悪霊を狩る為死神達が徘徊したり、魔族・精霊系がハイになったり、機械系はダウンしたりともうてんやわんや。
猫も杓子もヒーローも、騒ぐ阿呆に見る阿呆、同じアホなら騒がにゃ損損!



4VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/23(月) 11:57:40.34r3wwE6rTo (1/1)

スレたて乙


5 ◆llXLnL0MGk2013/09/24(火) 08:41:14.29hI8+kErr0 (1/18)

スレ立て乙です

前スレに入りきりそうにないので一足先にこちらへ投下します
アイドルが「洗脳・流血・貫通・電流」を受けるえぐい描写有注意です


6 ◆llXLnL0MGk2013/09/24(火) 08:42:52.34hI8+kErr0 (2/18)


海皇とその親衛隊が住まう、海皇宮。

その自室で、サヤは考えていた。

サヤ(最近、ヨリコの様子が変……)

前に、突然『昔の口調』で話しかけられた事を思い出す。

あれ以降も、ヨリコは『昔の口調』を頻発するようになっていた。

サヤ(以前のヨリコなら、あんなに頻繁じゃなかった……)

考えられる原因は、

サヤ(カイか……そうじゃなきゃ、もしかして海龍の巫女……?)

突如として現われ、あっという間にヨリコの信頼を得た海龍の巫女。疑うなという方が無茶だろう。

サヤ(海龍の巫女が来てから、『神の洪水計画』は進み始めた……つまり……)

サヤ(ヨリコは……あの巫女に操られてる……ってこと……!?)

サヤは一つの結論に至った。

そうでなければ、温厚なヨリコが地上侵攻など考えるはずが無い、と。

同時に、自分に苛立った。

こんな簡単な結論に、何故今まで辿り着けなかったのか。



7 ◆llXLnL0MGk2013/09/24(火) 08:43:39.40hI8+kErr0 (3/18)

しかし、いくら自分に腹を立てても巫女はヨリコを手放さないだろう。

サヤ(どうにかして…………そうだ)

進行中の『神の洪水計画』。これを阻止するという案が浮かんだ。

サヤ(でも、ダメね……ヨリコに話しても信じないだろうし)

最悪、自らの手で巫女を討とうか。しかし、それも出来ない。

サヤ(そんなことをすれば、サヤは反逆者。ヨリコを守る事も出来なくなる……)

幼い頃の約束を違えることになる。そんなことはしたくない。

サヤ(……………………それなら、巫女が入り込む隙を無くせば…………)

巫女の力を使わずに計画を遂行する。そうすれば、巫女とヨリコに距離を作れるかもしれない。

サヤ(……その為には……)

サヤは立ち上がり、眠るペラを置いて部屋を出た。

――――――――――――
――――――――
――――


8 ◆llXLnL0MGk2013/09/24(火) 08:44:40.74hI8+kErr0 (4/18)

――――
――――――――
――――――――――――

サヤが訪れたのは海皇宮内部の資料室。

司書「おや、サヤ殿。本日は何用で」

サヤ「前にサヤが纏めた、例の資料を見せてほしいんだけど」

司書「ああ、あれですね。こちらへ」

司書の老人がサヤを資料室の奥へと案内していく。

司書「ああ、ありました。こちらでございます」

サヤ「ありがとう。下がって結構よ」

司書は頭を下げて今来た通路を戻っていく。

サヤが司書から受け取った分厚いファイル。

開くと、様々な装いの少女たちが勇ましく戦う写真が大量に収められていた。

その横には、名前、簡単なスペック等も記載されている。

『ブライトヒカル』『ナチュラル・ラヴァース』『魔法少女エンジェリックカインド』『マスク・ド・メガネ』……。

そう、これは地上で戦うヒーロー達の情報を集めた資料なのだ。

サヤが以前各組織への交渉(という名の牽制)を行った際、それと並行してこの資料の作成も行われていた。

サヤ「確か、海の力を使うヒーローが…………」

パラパラとページをめくるサヤ。その度、紙面にはヒーロー達の名が踊る。

『ひなたん星人』『アヤカゲ』『特攻戦士カミカゼ』『ラビッツムーン』……

そして、あるページでサヤの手がぴたりと止まった。

サヤ「……いた。ふふふ……この子を『操れば』……待っててヨリコ……絶対助けるからね……」

サヤはそのページを開いたまま、しばらく一人で笑っていた。そのページに載っていたヒーローの名は……

『ナチュルマリン』

――――――――――――
――――――――
――――


9 ◆llXLnL0MGk2013/09/24(火) 08:46:12.35hI8+kErr0 (5/18)

――――
――――――――
――――――――――――

地上、ある昼下がり。

誰もがなんとなく気を緩めてのんびりしてしまう、そんな時間。

「ッシャー!」「シャシャワシャー!」「イイッシャー!」

その時間を、海底都市の尖兵、イワッシャーの群れが打ち砕いた。

「ワーッシャー!」「シャーイッシャー!」「イーイッシャー!」

拳で、脚で、ビームで、好き勝手に街を破壊していく。

そして、それをビルの屋上から見下ろすサヤとペラ。

サヤ「さて……ナチュルマリンちゃんは上手く釣られてくれるかしらぁ?」

そう、このイワッシャー達は、サヤがナチュルマリンをおびき出すためだけに街へ放たれたのだ。

サヤ「他のヒーローが来たら、場所を変え……あら?」

『キリキリ?』

サヤ「あんな所に女の子……? 避難勧告は出てるはずだけど……」

サヤの視線の先に、二人の少女がいる。

片方は燃えるような赤髪で、もう片方は薄い金髪。どちらも十代前半といったところだろうか。

巴「あいつら……最近よう出とる鰯のロボットじゃな。やるぞ乃々!」

乃々「はっ、はい……早く済ませて帰りたいですけど……」

サヤ(あれは……まさか)


10 ◆llXLnL0MGk2013/09/24(火) 08:47:19.86hI8+kErr0 (6/18)

巴「地よ!」

乃々「空よ!」

巴「悪しき心を持つ邪悪な意志に立ち向かう!」

乃々「自然を愛する優しき乙女に力を!」

二人が天に掌を掲げて叫ぶと、二人の姿が光に包まれた。

巴「全てを支え、豊かを与える地! ナチュルアース!!」

乃々「全てを包み込み、安らぎを与える海! ナチュルマリン!!」

巴・乃々「「人々を守り、自然を守る戦士!! ナチュルスター!!」」

サヤ「! 来た!」

『お目当て』の登場に、サヤは思わず身を乗り出した。

サヤ(よく来てくれたわぁ、ナチュルマリン! もう一人いるようだけど……)

不確定要素にサヤの顔は少し曇るが、すぐに笑顔が戻った。

サヤ(まあ、『仲間から襲われたら』一たまりも無いわよねぇ……)

それは、ナチュルスターへ向けた残虐な笑みと、ヨリコへ向けた優しい笑み。

その二つが混ざり合った、非常に複雑な笑顔だった。

サヤ「行きましょ、ペラちゃん」

『キリキリキリ』

サヤ「オリハルコン、セパレイション」

ペラの体がいくつかのパーツに分解され、サヤの体に張り付いていく。

サヤ「アビスティング、ウェイクアップ。……さあ、覚悟してちょうだいねぇ……」


11 ◆llXLnL0MGk2013/09/24(火) 08:48:30.19hI8+kErr0 (7/18)

巴「地よっ! 力を貸せぇ!」

乃々「波よっ! 力を貸して!」

ナチュルスターの生み出した地割れと波が、イワッシャーを飲み込んでいく。

「シャー!?」「ワシャー!?」「ワイシャー!?」

巴「今ので全部じゃな。意外とあっけなかったのう」

乃々「うぅ……終わったなら早く帰りたいんですけど……」

手をパンパンと払う巴と、突っ立ったままだるーっとうなだれる乃々。

すっかり油断しきった二人の背後に、ふっと影が舞い降りた。

サヤ「べノムエストック……メロメロモードォ!」

声と共に、鋭いエストックが乃々へ向けて突き出された。

巴「っ!?」

乃々「ひぃっ!?」

慌てて回避するが、運悪く右肩を掠めてしまった。

乃々「っ痛……!」

巴「乃々、平気か!? ……ワレェ、何モンじゃ!」

いきなり仲間を傷つけた人物へ向けて、巴はキッと眼光を飛ばす。

サヤ「サヤの事よりもぉ、お友達の心配したらどぉ?」

サヤはそう言って、エストックを指揮棒の様に構えクイと振る。

巴「何を……うぐぅっ!?」

突然、巴の背中に鈍い衝撃が走った。

乃々「え……えっ、えぇっ……!?」

乃々の動揺する声に振り向いた巴は、眼前の光景に乃々以上に動揺した。


12 ◆llXLnL0MGk2013/09/24(火) 08:50:25.55hI8+kErr0 (8/18)

巴「の、乃々……!? 一体何を……!?」

乃々は、巴へ向けて右拳を突き出した体勢のまま止まっていた。

乃々「し、知りません……! も、もりくぼは殴ろうなんて思ってないんですけど……!」

サヤ「うふふふふ……」

巴「おい! 乃々に何した! 言わんか!!」

巴はサヤへ向けて激昂する。

しかし、サヤは余裕を崩さない。

サヤ「口で言うより、実際に見たほうが速いわよぉ?」

そう言って、サヤは再びエストックを構え、口を開いた。

サヤ『アナタはもう……サヤのと・り・こ……♪』

乃々「!!』

サヤの言葉を聴いた乃々の体が、大きくビクン、と脈打った。

巴「乃々!?」

乃々『…………』

ゆっくりと顔を上げる乃々。

その瞳には、ピンク色の光が妖しく揺らいでいた。

巴「の、乃々……?」

乃々『……』

サヤ「乃々ちゃんって言うのねぇ、んふっ。……乃ー々ちゃん。その子、倒しちゃって」

乃々『……やれっていうならやりますけど……水よ』

乃々の両手から放たれた水流が、巴をビルの壁面へ叩きつけた。

巴「ぐぁっ……!? の、乃々! 何しとる、目を覚ませ!!」

乃々『……水よ』

今度は水を弾丸状にまとめて巴へ向けて連射する。


13 ◆llXLnL0MGk2013/09/24(火) 08:52:21.96hI8+kErr0 (9/18)

巴「ぐっ、うぅぅ……地よっ! 力を貸せぇ!!」

地面がせり上がって壁を作り、乃々の弾を防いだ。

乃々『水よ。水よ。水よ。水よ。水よ』

しかし、その壁も絶え間ない水弾で少しずつ削られていく。

そして壁は完全に崩れ去り、いくつもの水弾が巴に襲い掛かる。

巴「ぐあああっ……!」

サヤ「乃々ちゃん、その辺でいいわよぉ」

乃々『はい』

サヤの指示で、乃々が攻撃の手を止める。

巴「……返せ……乃々を……返せ……!!」

口元から血を垂らし、なおも巴は立ち上がる。

サヤ「んー、殺すつもりは無いけどぉ……」

言いながらサヤはエストックの柄をカチリと回し、その先を巴に向けた。

サヤ「邪魔されるのは……困るのよねぇ」

こつ、こつ……と、一歩一歩巴に近寄る。そして、

サヤ「べノムエストック、ビリビリモード」

エストックの先端が、巴の脇腹に突き刺さる。

同時に、そこから何かが体内に流れ込んでくる感覚が走った。

巴「うぐっ……! こ、これしきでウチがひるむと…………ッ!?」

一歩踏み出そうとした巴は、そのまま地面に倒れこんでしまった。

巴(か、体が動かん……!? 口も……!)

サヤ「よぉくキクでしょ、サヤの麻痺毒。少なくとも一時間はそのままよぉ」

巴(麻痺毒じゃと!? コイツ、さっきから搦め手ばっかりで……気に食わん……!)

サヤ「じゃ、お邪魔もいないことだし、早速始めましょうか、乃々ちゃん」

乃々『はい』

サヤの指示に従い、乃々は両手を大きく天に掲げた。

サヤ「まずはこの街から……沈めちゃって」

巴(や、やめろぉっ!!)

乃々『……波よ』


14 ◆llXLnL0MGk2013/09/24(火) 08:54:36.84hI8+kErr0 (10/18)






??「雷よ! 力を貸して!!」



突然、乃々へ向かって青白い閃光が走った。

乃々『あっ……』

閃光が直撃した乃々は、その場にパタリと倒れこんでしまった。

巴(今の声は……)

サヤ「これは…………誰!?」

サヤは、閃光が走ってきた方向をにらみつける。

そこに立っていたのは、二人の少女と一人の女性。

少女の一人は、乃々や巴と同じような服装をしている。

ほたる「あ、あの、イヴさん……乃々ちゃん、大丈夫なんでしょうか……?」

イヴ「大丈夫ですよ~、気を失っただけですから~」

裕美「巴ちゃん、大丈夫!?」

二人の仲間、ナチュルスカイ=白菊ほたると、その協力者、イヴ・サンタクロースと関裕美だった。



15 ◆llXLnL0MGk2013/09/24(火) 08:56:02.16hI8+kErr0 (11/18)

サヤ「何なのよ……アンタ達」

イヴ「ほたるちゃん、裕美ちゃん、二人をお願いしますね~」

サヤの問いには答えず、イヴは二人に指示を出した。

裕美「は、はい!」

ほたる「分かりました!」

二人は巴と乃々へ向けて駆け出した。

サヤ「行かせないわよ!」

乃々へ駆け寄るほたるへ、サヤがエストックを突き出す。

ほたる「!!」

イヴ「氷よ! 寄り集まりて塊になれぇ~♪ そぉれっ」

イヴは魔法で氷塊を生み出し、それを箒でこちらへ打ち込んで来た。

サヤ「! 邪魔を……!」

サヤはエストックで氷塊を切り払い、そのままイヴへ突進する。

サヤ「このっ! このっ! このぉっ!!」

イヴ「闇雲に攻撃しても当たりませんよ~? はいっ」

サヤの攻撃を全て容易く避け、イヴは持っていた箒をサヤの脇腹へ叩き込んだ。

サヤ「ぅぐっ……!?」

ミシッ、という音が、骨を伝ってサヤの耳に届く。

慌ててイヴと距離をとるサヤ。


16 ◆llXLnL0MGk2013/09/24(火) 08:57:17.60hI8+kErr0 (12/18)

サヤ(まずい……この女、間違いなくサヤより遥かに格上。……いいえ、そんな生易しい物じゃない……
  住む次元が違いすぎる……! あの短時間で、それをまざまざと見せ付けられた……)

気付けば、サヤの両脚は恐怖でガタガタと震えている。

イヴ「降参しますか~?」

サヤ(まともにやれば、命は無い……あの女にかかれば、サヤを殺すのに一分も要らないでしょう……)

エストックを握る手にも力が入らない。

どうする? 相手の言うとおり、ここで降参するか?

しかし、サヤの脳裏に、一人の少女の笑顔が浮かんだ。

サヤ(……ふふっ、何をバカな事を考えているの、サヤ? そもそもこの出撃は、ヨリコを守るためのもの……)

脚の震えが止まる。

サヤ(その為に、どうしてもナチュルマリンが必要……)

エストックを力強く握りなおす。

サヤ(その障害は、例え化け物級の相手でも……)

にぃ、と笑顔が戻る。

サヤ(叩き潰す!!)

直後、サヤは爆発的な加速でイヴに突進した。

サヤ「はあああああああっ!!」

イヴ「あっ」

一瞬、反応が遅れた。

気付いた時には、イブの左肩をサヤのエストックが貫通していた。

イヴ「……!」

裕美「い、イヴさん!」

サヤ(よし、勝った!後は引き抜き様に麻痺毒を注入して……)

ガッ


17 ◆llXLnL0MGk2013/09/24(火) 08:58:42.96hI8+kErr0 (13/18)

サヤ「……えっ?」

エストックが引き抜けない。

よく見ると、肩に刺さったエストックをイヴが掴んで固定している。

イヴ「ちょーっとだけ、油断しちゃいました~。信じられない加速でしたね~。何がそうさせたのかは、
  私には分かりませんけど」

サヤ「……ッ!!」

まずい。

早くエストックを引き抜かないと、何をされるか分からない。

サヤ(抜けろ……抜けてっ……!)

イヴ「大事な弟子を傷つけられて、私、今日は珍しく怒ってるんですよ~」

口調はともかく、イヴの目は一切笑っていなかった。

イヴ「だから、お仕置きですよ~……」

サヤ「や、やめっ……」

イヴ「付与。雷の加護よ」

イヴの手から雷が迸り、それはエストックを伝ってサヤの体中を駆け巡った。

サヤ「あっ……あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!?!?」

突然激しい電流に襲われ、サヤは思わず体をのけぞらせる。

熱さと痛さが交互に延々と襲ってくる、そんな感覚だった。

雷がサヤの体を蹂躙した時間はせいぜい五秒程度だったが、サヤには一時間以上の様に感じられた。


18 ◆llXLnL0MGk2013/09/24(火) 09:00:26.15hI8+kErr0 (14/18)

イヴ「……よっと」

イヴは肩からエストックをゆっくり抜くと、サヤをその場にペタリと座らせた。

サヤ「あ……ああ……」

『キ、キリリ……』

限界が来たのか、ペラがサヤの体から離れ、同様に地面にへたりこむ。

裕美「イヴさん! 肩大丈夫ですか!?」

心配そうに駆け寄る裕美。背には巴をおぶっている。

イヴ「大丈夫ですよ~。何日かゆっくり寝ればなんとかなりますから~」

まだ血が流れ出る肩を右手で抑えながら、イヴは裕美に笑顔で答えた。

ほたる「あの……その人は……?」

乃々を背負ったほたるも会話に加わる。

イヴ「今からお話を聞くところですよ~。……あなた、お名前と所属と目的を教えてくれませんか~?」

サヤ「…………ふん」

答える気は無い。そう答える代わりに態度で示して見せた。

イヴ「そうですか~。……それじゃあ~」

そう言ってイヴは抑えられた左腕で起用に箒を構えた。

サヤ(……死んだ、わねぇ。ごめんなさいヨリコ、カイを連れ戻す事も、あなたを守ることも出来なかった…………ッ!)

死を覚悟したサヤにこのとき、一つの案が浮かんだ。

一か八かの賭けだが、いずれヨリコを巫女から救うには、今はこれしかない。


19 ◆llXLnL0MGk2013/09/24(火) 09:02:22.67hI8+kErr0 (15/18)

サヤ「……海底都市、ウェンディ族。最高指導者海皇ヨリコが親衛隊第四席、サヤ」

イヴ「あら?」

サヤ「目的は、『神の洪水計画』の補佐・予備として、ナチュルマリンを捕獲する事」

サヤは自分の所属、名前、目的を全て話した。

ほたる「神の……洪水計画?」

裕美「それって、何なの……?」

サヤ「有り体に言ってしまえば、ウェンディ族が住めるよう、地上を海に沈める計画よ」

ほたる・裕美「「ッ!?」」

そして、『神の洪水計画』の概要までも。

イヴ「そんな大事な事を……何故急にペラペラ話し始めたんですか~?」

サヤ「……他のヒーローに伝えて。そして、計画を止めて」


20 ◆llXLnL0MGk2013/09/24(火) 09:03:34.95hI8+kErr0 (16/18)

自室で考え、すぐに却下した『神の洪水計画を阻止してヨリコを守る』案。

これを自分ではなく、地上のヒーローにやらせよう、というのがサヤの策だった。

敵の言うことを素直に信じるのは難しいだろう、しかし、作戦の規模は決して無視できるものではないはず。

イヴ「自分たちの計画を、何故止めさせたいんですか~?」

サヤ「……うふふっ、あなた達には関係無いでしょお?」

余力を振り絞り相手を嘲笑したサヤは、突如現われた水柱の中へ倒れこむように姿を消した。

裕美「神の洪水計画……そんな物が……」

見れば、裕美の体は細かく震えている。

ほたる「あ、あの、それよりも……事務所に戻りましょう。乃々ちゃん達が……」

乃々は意識こそ失っているが大きな外傷は無い。せいぜい右肩にエストックが掠った傷がある程度だ。

しかし、巴は水弾でやられたのか口から地を垂らし、麻痺毒の影響で体がまだ痙攣している。

巴「ぅ……くっ……」

イヴ「そうですね~。二人を看病するために、急いで事務所に戻りましょ~」

裕美「って、イヴさんもですからね! まだ血が止まってないじゃないですか! ……ああっ! 地面も直さないと……」

続く


21 ◆llXLnL0MGk2013/09/24(火) 09:04:09.40hI8+kErr0 (17/18)

・イベント追加情報
サヤがほたる達に『神の洪水計画』の概要を打ち明けました。

以下の負傷者が出ました。
○乃々……洗脳による精神疲弊で約一日安静。
○巴………戦闘による傷及び麻痺毒の治療で約三日安静。
○イヴ……左肩貫通の大怪我で「最低」三日安静。
○サヤ……骨へのヒビ、高圧電流により海底都市特別医療施設で「最低」六日安静。


22 ◆llXLnL0MGk2013/09/24(火) 09:06:46.90hI8+kErr0 (18/18)

以上です
新スレ一発目からえぐいの失礼しました

ナチュルスター、イヴ、裕美、(以下名前だけ)光、夕美、美優、春菜、美穂、あやめ、拓海、菜々をお借りしました。


23VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/24(火) 10:55:03.79G6B+z6k2o (1/1)

乙乙

神の洪水イベントも準備が進んでる感あるなぁ
阻止できるか私、気になります!


24 ◆hCBYv06tno2013/09/24(火) 10:58:00.66rzHJTMP+0 (1/1)

乙ー

サヤさんコワイ……けど、イヴさんももっとコワイ……


25VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/24(火) 12:31:37.04oczvxV3J0 (1/1)

乙です
…こええ…いろいろとこええ…
しかしイヴさんの「最低」が怖いな今後古傷になりそう


26VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/24(火) 15:17:49.16F3iG/zyNo (1/1)

新スレ乙にゃん!

古傷って大抵治癒の効果外なんだよなぁ……師匠ポジとあわせてとても不吉


27 ◆yIMyWm13ls2013/09/24(火) 16:12:01.51IWV0JI0Oo (1/8)

新スレ乙乙!
さて、連絡回を投下。


28 ◆yIMyWm13ls2013/09/24(火) 16:12:58.58IWV0JI0Oo (2/8)

「…ど、どうしよう…」

状況で言えば大分宜しくない…。
私は事務所のソファーに深く腰掛けたまま考え込んでいた。

今回の戦闘による被害はかなり大きい。

乃々ちゃんは巴ちゃんを攻撃してしまったことによるメンタル面。
巴ちゃんは単純な傷となによりなにかしらの毒で動けないみたい…。

そして師匠だ、傷自体が大きくて暫く動けそうにない。

それだけダメージが深いのは間違いない…。


ソファーが少し揺れたのに気づく。いつの間にか隣にほたるちゃんが座っていた。

「ほたるちゃん、お疲れ様、三人の様子はどう?」

「あの…乃々ちゃんなんですけど起き上がって…巴ちゃんとイヴさんに海の癒やしを…」

「巴ちゃんは傷自体は大丈夫なんですけど痺れが取れなくて…
イヴさんは傷痕は残らないみたいですけど暫くは動けそうにないです…」


29 ◆yIMyWm13ls2013/09/24(火) 16:13:49.44IWV0JI0Oo (3/8)

「そっか、でも乃々ちゃんに無理しないように言っておかなきゃ…」

「そうですね、雪菜さんも見てくれてますから大丈夫だとは思うんですけど…」

乃々ちゃん自身の疲労もあるし、イヴさんに至っては念に念を入れて休んで貰わなきゃ…。

「それにしても、『神の洪水計画』かぁ…」

「…どうしましょう…?」

「うん、とりあえず『アイドルヒーロー同盟』、『プロダクション』に連絡かなぁ…
後は『アイドルヒーロー同盟』の方から情報が広まれば大丈夫…かな?」

これだけでかなりの数のヒーローに連絡が行き渡ることになる。
あまりにも規模が大きすぎる。
どちらにせよ私たちだけでは対処出来ない。


30 ◆yIMyWm13ls2013/09/24(火) 16:15:15.13IWV0JI0Oo (4/8)

避けなくちゃいけないのはナチュルマリン、乃々ちゃんを奪われること。
親衛隊第四席サヤと彼女は言っていた。
イヴさんの反撃で彼女自体は暫く動けなくなっているだろうが、他のメンバーが動くかもしれない。

「今はイヴさんが動けないから私が頑張らなくちゃ…」

乃々ちゃんの治療があっても傷が完全に塞がるのに二、三日で済むとは思えない。
それだけの傷だし…その間は私がしっかりしなきゃ…!

「あの…私もお手伝いします…!」

「ありがとう、ほたるちゃん…」

三人のお世話で雪菜さんは動けないし…。

「それじゃ、先に連絡だけしなきゃ…」

私がそう言って立ち上がった時だった。


『裕美、居る?』

ドア越しの少しくぐもった声が聞こえたのは。


31 ◆yIMyWm13ls2013/09/24(火) 16:15:57.85IWV0JI0Oo (5/8)



「『神の洪水計画』かぁ…」

目の前の人、私のボールペン型杖の製作者、リンさんは顎に手を当てて考えこむ。

「申し訳ないけど私に心あたりはないかな?
そもそも今日は魔法のビー玉を貰いに来たのとお土産を渡しに来ただけだしね」

「お土産?」

「うん、これこれ…」

リンさんはポケットの中から装飾の一切無い銀色の指輪を取り出し、机の上に置く。

「これ、貰っていいの?」

「まぁ、ビー玉と引き換えだと思って遠慮なく貰ってくれると嬉しいかな?」

「ありがとう!わぁ、チェーン通してネックレスにしてみようかなこれ…」


32 ◆yIMyWm13ls2013/09/24(火) 16:16:30.71IWV0JI0Oo (6/8)

「裕美はそういうの好きだよね」

「あはは…趣味だから……」

「杖の方も特に異常はないでしょ?」

「うん、無いかな?」

「それにしても、神の洪水とやらに私の研究が呑まれるのも勘弁して欲しいかな…
仕方ない…バックアップをウサミミの所に……」

「ウサミミ?」

「あ、ごめん、こっちの話、まぁ頑張ってね。私はまぁ…手伝ってくれそうな人見つけたら
情報流すくらいだけどね、地上にある研究が流されたら困るし」

「…それだけでも大分助かるかな…?」

「さて、私はそろそろ帰るよ」

ヒョイとビー玉の補充された巾着を掴んでリンさんはドアに向かって歩いていく。

「イヴさんに宜しくね」

そう言い残してリンさんは帰っていった。


END


33 ◆yIMyWm13ls2013/09/24(火) 16:18:11.87IWV0JI0Oo (7/8)

イベント情報

・『アイドルヒーロー同盟』『プロダクション』へ裕美が情報を流しました。
・リンが協力してくれそうな人には情報を流すようです。
・イヴさんは傷が深いので暫く動けません。


『錬金術師の指輪(魔力)』

着用者の長所とも呼べる力を伸ばしてくれる不思議な指輪。


現在の治癒状況

乃々:二人の治療後、休息中。メンタルに不安が残る。
巴:傷は塞がったが毒が抜けきっていない。
イヴ:乃々の治療によって傷は深いが多分後遺症は残らない。雪菜と裕美の監視によって過度なくらい休まされる。


現状
裕美『師匠が休んでる間は私が頑張るよ!』
雪菜『皆さん、休まないと駄目ですよ?』
ほたる『乃々ちゃんが気に病まなければいいんですけど…』


34 ◆yIMyWm13ls2013/09/24(火) 16:20:40.81IWV0JI0Oo (8/8)

以上です。
他陣営はリンちゃんからガシガシ情報拾っていくのもアリだと思う。うん。


35 ◆hCBYv06tno2013/09/24(火) 16:36:44.26V0arZtqRO (1/1)

乙ー

乃々が机の下に引きこもりなって、ほたるが美玲のカウンセリング所まで連れてきそうだな。
なお、巴は動けるようになったら特訓しにいきそうかな?

ただ、裕美の負担が大きいだろうが頑張れッ!


36VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/24(火) 16:38:59.39GlYfE+jqo (1/1)

おつー

リンちゃんはフリーだから割とどこへでもいけるしね
準備段階ってたのしいわ


37 ◆zvY2y1UzWw2013/09/24(火) 16:41:27.70iC2ClqUU0 (1/1)

乙です
イヴさん古傷にならいみたいで安心…
…森久保のメンタルが不安です


38@予約 ◆EBFgUqOyPQ2013/09/25(水) 01:28:15.20uEA7BAQSo (1/1)

今井加奈ちゃん予約します


39 ◆bbfMMkzB/g2013/09/25(水) 07:31:32.33Q3vAudjgO (1/1)

有村柑奈予約します


40VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/25(水) 13:17:56.46/bcyiUwAO (1/1)

>>39
有浦やで


41 ◆IRWVB8Juyg2013/09/25(水) 17:25:34.34Ui4Yzw5Ko (1/20)

『憤怒の街』裏
ナチュルスター防衛戦線、最終章前編投下します


ここまでのあらすじ

『憤怒の街』は怒りに沈み、呪いの連鎖を生みつつあった。それをナチュルスターが癒しの雨を降らし瘴気を打ち消していく。
(4スレ目21-25)ttp://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1373/13735/1373517140.html#a21

しかし、怒りは怒りを生み続ける。雨を止めさせるわけにはいかないナチュルスターは半ば装置と化し、雨を降らすことに集中した。
意識すら手放し無防備なナチュルスターを襲うことで雨を止めさせようとするカースの群れが迫る!

そこへ駆けつけたのは機械生命体OZを足に宿す西園寺琴歌だった。
彼女たちを守るため、柊志乃が仲間を呼んでいたのだ。
(5スレ目150-157)http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1374/13748/1374845516.html#a150

次々に駆けつけるヒーローたち。守るための戦いは続くが、カースは無限に湧き続けていた。
※魔法少女(5スレ目166-172)http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1374/13748/1374845516.html#a166
※ネバーディスペア(5スレ目360-368)http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1374/13748/1374845516.html#a360

だが、ついにカースを生み出していた元は発見され、破壊される!
(5スレ目340-351)http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1374/13748/1374845516.html#a340

ところが、そこへ『嫉妬の蛇龍』と呼ばれる生物が現れ再び窮地に立たされる。
それを阻止したのは邪神と共にある少女、榊原里美だった。
(6スレ目306-320)http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376708094/306-320


一方、憤怒の街では『憤怒の翼竜』と呼ばれる巨大な龍型のカースが暴れまわっていた。
(4スレ目327-331他)http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1373/13735/1373517140.html#a331
ttp://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1374/13748/1374845516.html#a63 など

多数のヒーローが戦い、ついに魔法使い関裕美が倒すことに成功する!
(5スレ目300-307)http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1374/13748/1374845516.html#a300

しかし、完全に消滅していなかった翼竜は復讐の怒りを胸にまた飛び立たんとしていた。
弱った翼竜を完全に消滅させたのはヒーローではなく、『嫉妬の蛇龍』と、七つの大罪『嫉妬』を司るレヴィアタンの策略だった。
(6スレ目195-207)http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376708094/306-320

『絶望』の翼蛇龍と名付けられたソレを倒そうとするヒーローも現れる中
『憤怒の街』の中心人物である憤怒のカースドヒューマン岡崎泰葉の友人、双葉杏はその裏に秘められた意味を聞いてしまう。
(6スレ目214-223)http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376708094/214-223

友人を助けるために街の外へと追いやり倒すため、利用できるものは利用すると決めて杏は翼蛇龍を街郊外へと追いやることへ成功した。
(6スレ目328-336)ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376708094/328-336


→ここから


42 ◆IRWVB8Juyg2013/09/25(水) 17:26:18.47Ui4Yzw5Ko (2/20)

 ナチュルスターへと狙いをさだめた嫉妬の蛇龍が際限なく地面から湧き出る。
 それを叩き、撃ちぬき、潰し、切り裂き、倒す。この状況になってから、戦いは激化し続けていた。


琴歌「たあっ!」

奈緒「無理すんな……よっ!」

琴歌「えぇ、ありがとうございます!」

美優「まだまだ……!」


 形を変えて攻撃を避け、ズルズルと這い回る蛇龍を琴歌が追いかけ蹴り上げる。
 周りの空気ごと巻き込み、空へ浮かんだところを奈緒が切り裂き美優が矢を撃ちこんだ。

 一進一退が続いている中、確実にお互いの動きを支え合い即興とは思えないほどのコンビネーションを結ぶヒーローたち。
 疲労は溜まり、動きは鈍る。それでもすこしずつ、確実に蛇龍を押していた。


店長「しかし本当……年は取りたくないな。こういう時は流石にキツい……!」

里美「がんばってください~。きっと、もうちょっとでどうにかなりますから~」

夏樹「ははっ、頼もしいね……ったく。メンテ明けでまだ助かったほうか」


 軽口を叩きながらも、手を休めることはなくそれぞれが動く。
 里美はこのあたりに先に来ているらしいの友人がいるのを感覚で知り、そう周りを励ます。

 こちらに手が回っているということは、きっと本体の守りはおろそかになっているだろう、と。
 ……そこまで考えているかを察することはできないが、いつもの調子でゆらり、ふわりと躱し、水の槍たちで蛇龍を撃ち続ける。


43 ◆IRWVB8Juyg2013/09/25(水) 17:27:19.04Ui4Yzw5Ko (3/20)

 ――かといって、あながちのんきなだけの発言とも言えないというのはその場の誰もが感じていた。
 蛇龍は数を減らし、湧き出る速度も遅くなっている。もはや全滅しつつあるのではないかと思わせるほどに余裕がでてきている。


李衣菜「……楽になってきたのはいいけど、なんか変じゃない?」


 だがそれに対して疑問の声が上がる。
 空気はまだ澱み、嫌な気配は消えていない。この場から遠ざかっているようではあるが、倒せたわけではない。

 ――死の臭いは消えていない。


レナ「そうね。なんだか……ここじゃないところに意識が向いているような……」

きらり「にょ……? なんかむずむずすぅ……」

里美「……くとさん? あっちのほうでなにか……」


 ふ、と。きらりが遠くの方へと違和感を覚え視線をやった。
 里美も肩に乗るくとさんの動きが妙なことに気が付き動きを止める。


奈緒「おい、あぶな………は? どういうことだ、これ」


 そんな無防備な2人を庇おうと近くに降りた奈緒は唖然とした。
 次々に襲い掛かり続けていたはずの蛇龍が一斉に止まったかと思うと地面へと溶け、消えていくのだ。

 恨みがましく、嫉妬をこめての視線だけを残していく蛇龍たち。地面からの奇襲を考え構えるも、いっこうにその気配はない。
 一旦の平穏を得て、ナチュルスター防衛戦は勝利で幕を閉じた。


44 ◆IRWVB8Juyg2013/09/25(水) 17:27:48.84Ui4Yzw5Ko (4/20)

琴歌「えっと……終わったのでしょうか?」

夏樹「なんか消化不良な感じだな……周りからは完全にいなくなってるみたいだ」

奈緒「ってことは……あいつらの本体を誰かが倒してくれたってことか? あー、よかった……」


 夏樹がユニットで周囲の確認をするが、一切反応はない。
 あれだけの力を持つ分身をいくつも生み出せるということは、本体もそう離れた場所にいたわけではないだろう、と彼女は推理する。
 狡猾な蛇は弱点になる本体をこの場へ晒すことはとうとうなかったが、おそらく街の中へいたのだろうと考えた。

 ――ひょっとしたら、この戦線の打破を諦めそそくさと逃げ出しただけかもしれない。

 その場合はまたいつかどこかでカチあう可能性もあるが、それはそれだ。
 どうあれ、彼女たちは勝利を確信した。


李衣菜「うーん……どうも納得いかないけど、そうなのかな。逃げてたりとかしたらイヤだね」

レナ「それなら、次はできればもう少し余裕がある時にしてくれると助かるわね。ろくな歓迎もできないわ」

美優「一応、そのあたりについては注意を呼び掛けておいた方がいいかもしれませんね……」

夏樹「あっ、それは助かる。アタシ達だとたぶんいろいろとアレだからできれば頼んでいいかな?」


 倒せていない可能性については、付近のGDFやアイドルヒーロー同盟のメンバーに呼びかければ注意してもらえるはずだ。
 何度も湧き出す分身体は厄介だ。きちんと連携して本体を叩き、倒さないといけないといけないということを周知しておけばヒーローたちも戦いやすくなるはずだと美優はいう。

 なるほどと納得し、その件を任せることにした夏樹は少し外れたところで立ち尽くすきらりと里美、そのそばに座り込んだ店長のほうが気になりそちらへ視界を移した。


店長「ふぅ……よかった。まだ何か現れるかもしれないし気は抜けないが……どうしたんだ?」

きらり「んー……あのね……なんだかとってもモヤモヤーってすぅの……ドキドキじゃなくて、ぞわぞわーって……」

里美「よくないものが……生まれそうかもしれないです~」

店長「よくないもの?」


45 ◆IRWVB8Juyg2013/09/25(水) 17:28:35.65Ui4Yzw5Ko (5/20)

 里美のつぶやきに店長が疑問符を浮かべる。
 きらりは自身の中にある感覚をうまく言語化できないようで、じだんだを踏んで唸っていた。


里美「どういうものかはわからないけれど、よくないものだっていうのはわかるんです~」

きらり「そうなの! あのね、すごく……むむむーってすぅ……」

店長「……よくわからないけれど、気は抜かないほうがいいってことか。2人ともありがとう」


 どうあれ、必死で伝えようとする姿勢から冗談ではないということを店長も察する。
 ならばもうひと踏ん張りする必要があるだろうと、座り込んでしまった身体を起き上がらせた。

 ――その時。ゴゥン、と。遠くから、何かが崩れ砕ける音が全員の耳に届く。

 これまでも街のほうからは破砕音は確かに何度も響いてきていたが、それとは比べ物にならないような大きな音。
 まるで絶望の鐘の音のような、低く恐ろしい音。思わずそちらへと全員の視線が向く。


琴歌「今のは……なんでしょう……?」

レナ「……あまりいい予感はしないわね。街に突入ってわけにもいかないけど大丈夫かしら」

奈緒「とりあえず、中のことはそっちのヒーローを信じるしかないだろ。あたし達はいけないし」


 虎の姿から普段の人間へと身体を戻した奈緒が呟く。
 奈緒はともかく、きらりは汚染されきった瘴気に長く触れれば身体へ異常をきたしかねない。
 精密機械が働かなくなっている街の中では李衣菜と夏樹は正常に動作できそうにもない。

 それがわかっているからこそ、外部での遊撃手をしていたのだ。
 友人も戦っているのを知っていたから、彼女たちは信じてサポートとして動いていられる。
 あとのことはそちらへ任せるべきだと、自分を納得させるためにも奈緒は状況を整理した。


46 ◆IRWVB8Juyg2013/09/25(水) 17:29:06.59Ui4Yzw5Ko (6/20)

美優「そうですね……うん。また現れないとは限らないですから」

夏樹「そうだね。アタシたちなりに――っ!」


 言葉の途中で夏樹が振り返る。
 響く轟音と、尋常ではない気配に他のメンバーもそちらへ目をやった。

 そこに浮かんでいたのは巨大な蛇龍。先ほどまで相手をしていたのとはくらべものにならないスケールで、こちらへ向かってきている。
 先ほどまでと違うのはその大きさだけではない。背中にはGDFの射撃兵器で羽ばたきを殺され堕ちた巨大な翼竜の羽によく似た翼を生やし『飛んで』いた。


奈緒「フラグ回収には早いんじゃねぇかな、ったく……!」

里美「ほぇぇ……大きいです~……」

レナ「一難去ってまた一難ね……少しだけでも休憩できただけマシかしら?」


 口々に気合いを入れなおして迎撃態勢をそれぞれがとるが、どうも動きがおかしい。
 翼の生えた蛇龍――翼蛇龍は、ナチュルスターを襲撃するためというよりもなにかから逃げているような動きで、まるでこちらに追い立てられているように見えた。


李衣菜「あれは……どうあれ、覚悟決めたほうがよさそうだね」

店長「鬼が出るか蛇が出るか……もう蛇は来てるんだ。鬼まで湧くのは勘弁してほしいな」


 あれほどの巨大な怪物を追い立てるほどの力を持ったものが追撃してくるのならばかなり厄介なことになるだろうと誰もが感じている。
 わざとこちらに追いやるからには、ナチュルスターへの妨害を含めた悪意あるものである可能性が高いということにも気付いている。

 だから、彼女たちは構えた。巨大な敵と、その先に現れるはずさらに強大な敵に対して。


47 ◆IRWVB8Juyg2013/09/25(水) 17:29:34.93Ui4Yzw5Ko (7/20)

 ――その時、なにかから逃げるように飛んでいたはずの翼蛇龍がその動きを変えた。
 すぐ後ろにいた自分を追い立てていたものに対して、恨みを晴らさんとするがごとく反転し、牙を剥く。

 「何かしらの悪意を持ったものがナチュルスターを倒すため、巨大な蛇翼竜を誘導している」と考えて待ち構えていた者たちは戸惑った。
 振り向こうとした翼蛇龍は巨大な水流に押し流されて地面にたたきつけられ、唸り声をあげている。

 状況を把握しようと視界ユニットを操作し、翼蛇龍の向こうを確認した夏樹はさらに想定外のものを見て驚きの声をあげる。


夏樹「ちょっと待ってくれ、あれは……人?」

奈緒「人って……どうことだよ。っていうかそいつは敵じゃないのか?」

夏樹「……確認してくる。待っててくれ!」


 そういうと夏樹は『穴』を生み出し、飛び込んだ。
 カースドヒューマンである可能性等もないわけではなかったが、追い立てるのに使っていたのは少なくとも泥ではない。
 翼蛇龍に狙われかけたことから命令権のあるわけでもなく、恐ろしい相手ではないと判断したからだ。

 とはいえ――


夏樹「……は?」

ぷちユズ「みー……」

裕美「ぷちユズちゃん、ありがとう……でも、もう魔力が……って、えっ!?」


 消えかけている謎の小動物と、弱音を吐いている明らかに『人間』の少女。
 『変身』も『武装』も、莫大なエネルギーを纏っているわけでもない。そんな想定外を目の前にして夏樹は言葉を失ってしまったが。


48 ◆IRWVB8Juyg2013/09/25(水) 17:30:16.84Ui4Yzw5Ko (8/20)

夏樹「アンタがアイツを誘導してたのか……? どうしてそんなことしたんだ?」

裕美「えっと、それは……」


 夏樹はネバーディスペアのメンバーとして、イレギュラーな戦いを幾度となく経験してきている。
 カースはもちろん、犯罪を行った『怪人』であったり凶悪な『魔術師』などを見たことも当然ある。
 だが目の前の少女にその雰囲気はない。あまりにも無力に見えたのだ。

 ――悪意を持って翼蛇龍を街の外へと誘導する理由など、明らかにない。

 その件について問うてみれば、言いづらそうに背中を見た。
 小柄な少女がしがみついていた手をだるそうに外し、夏樹に向き合う。
 ただそれだけのことでも面倒だ、と言わんばかりに眠そうな目をこすって夏樹へと言葉を投げ始めた。


杏「私がそうしろって言ったんだ。あいつを街の外へ追い出してってね」

夏樹「そうかい。じゃあ、なんでだ? こっちとしては寄ってこられるとまずいんだけど」

杏「そっちの事情は知らない。でもヒーローが集まってそうだったし、実際そうでしょ?」


 あっけらかんと悪びれもせず言いのける姿に夏樹の語調も強まる。
 それでも杏は調子を変えずに言葉を続けていく。背負った状態で話を続けられる裕美は若干うろたえている。


夏樹「あのなぁ、こっちは人の命がかかってるんだ! あの街全体に対する浄化の雨の要になってるやつがいるんだぞ!?」

杏「浄化……そっか、ごめん。でもあいつは街の中で倒すわけにはいかなかったんだ。わかってほしい」

夏樹「倒すわけにはいかなかった? それって―― チッ、来るか!」


 意外にもあっさりと謝罪をする杏に夏樹もひるむ。こちらも悪意があるようには見えず、事態の把握もできていない。
 街の中で倒すわけにはいかないという言葉には、何か一種の祈りすら込められているようにさえ感じられて責める言葉を継ぐことはできなかった。

 そこで一旦話は打ち切られ、体勢を崩していた翼蛇龍が再び浮き上がって杏と裕美をにらみつける。
 魔力の切れた裕美はほとんど打つ手はなく、だが心は折れず戦いの意思を持って目はそらさない。
 夏樹はこの二人が敵ではないとその場で判断し、その体を掴んで穴へと潜った。


49 ◆IRWVB8Juyg2013/09/25(水) 17:30:53.76Ui4Yzw5Ko (9/20)

裕美「きゃっ!?」

夏樹「舌噛むぞ、捕まってろ!」


 穴を生み出し、飛び込む。決して視界から完全に消えず、なおかつ追撃が来ても避けられる位置へと転移する。
 その動きを繰り返し、翼蛇龍をナチュルスターから引きはがしつつ夏樹は叫んだ。


夏樹「――ってことらしい、どう思う! あんまり話し込まれるとヤバいから早めに頼む!」

裕美「え、あの……」


 突然のことに裕美が驚き、何をしようとしているのか聞く前に夏樹の顔のそばにある穴から声が響く。


奈緒『――どっちにしろ、倒すしかないだろ! 誘導任せた!』

夏樹「了解! ――ってことらしいからアイツの気をひきながら撤退する。結構荒っぽいから気を付けてくれ……よっ!」

裕美「わ、わわっ……!? わ、わかった、けどっ……!」


 翼蛇龍の攻撃を避け、誘導し、次の転移先を決め、穴をあける。
 抱えている2人分の重量も相まりかなりの負荷がかかっているが夏樹はそれを微塵も感じさせない動きで撤退していく。

 ナチュルスターが癒しの雨を降らすために意識を失い、半ばオブジェと化している地点から離れるように。
 すこしずつ、不自然にならない程度に距離を調節しつつ逃げていく。


50 ◆IRWVB8Juyg2013/09/25(水) 17:31:27.37Ui4Yzw5Ko (10/20)

 翼蛇龍は恐ろしい唸り声をあげつつ夏樹を追い詰める。
 捕らえたと思えば消え、次の場所へと転移する獲物を仕留めようと執拗に、執念深く。

 その距離は徐々に縮まっていく。


 ――10メートル――5メートル。

 ――目の前――そう、次で確実に――


 ――捕らえた。確実に口内へと獲物を包んだと確信した翼蛇龍がすりつぶし、味わうため口を閉じようとしたその時。
 高らかな祈りを込めた声が響く。


『聖なる絆よ、悪を清める力となれ! エンジェル・ハウリング!』

『――ハウリング・アロー!』


 確かに獲物を捕らえ、飲み込むだけだったはずの無防備な口内へと巨大な光の矢が吸い込まれる。
 逃げ出す余力もないはずだった獲物――夏樹はケガひとつなく別の場所へと転移していた。

 飲み込んだ矢の威力に首の後ろへと風穴が開き、たたらを踏んで後ずさりをする。
 周囲を見れば、そこへは何人もの人間が立っていた。翼蛇龍を倒すべく、夏樹が誘導した箇所で迎撃準備をしていたヒーローたちだ。

 翼蛇龍は状況を理解できない。だが、喉の奥まで貫かれたダメージに混乱するのではなく――


翼蛇龍「――オオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!」


 『憤怒』を露わにし、新しく増えた獲物たちを喰らうべくその瞳を向けた。


51 ◆IRWVB8Juyg2013/09/25(水) 17:32:05.42Ui4Yzw5Ko (11/20)

レナ「一撃じゃ倒せないかも、とは思ってたけど……硬すぎない?」

美優「エンジェルハウリングでも……やはり、核にあたる繭を探さないと……」


 信じられないものを見たような表情で二人が呟く。
 間違いなく必殺の一撃だ。並の怪物ならば丸ごと消滅させて余りあるほどのエネルギー。
 それを喰らったうえで、ひるむことなく吠えた翼蛇龍の強さに覚悟を改める。


奈緒「どっちにしろやるしかないんだ! 削ってくぞ!」

里美「水場も近いですし、がんばりますよ~!」


 気合いをこめなおしたメンバーが次々に飛びかかり、注意をそらしていく。
 踏みつけるためにあげた足をすくい、吐き出すカースの弾を砕き、少しずつでもダメージを蓄積させようと戦っている。

 その中で夏樹は邪魔にならないようにもう一度転移をして戦闘に巻き込まれない位置へと移動する。
 ギリギリで避け、ここまで誘導してきたせいもあり、疲労困憊といった様子でこれ以上の連続戦闘は流石に無理そうだ。
 もはや意識を失いかけているような状態で、待っていた李衣菜の腕の中へと倒れこんだ。


李衣菜「なつきち、大丈夫?」

夏樹「……あぁ、大丈夫。……だけどごめん、ちょっとだけ、休憩させてくれ……」

裕美「ありがとう、ございます……えっと」


 想像以上に疲弊させてしまったことに驚き、裕美が気まずそうに声をかける。
 マスクをつけた成人男性がその様子に気づき答えた。


店長「あぁ。君たちは大丈夫か? ……確かにでかいな。アイツを倒すのは骨が折れそうだ」

裕美「え? あぁ、はい……その、確かに倒したはずだったのに、私……とどめを確認しなかったから……」


 裕美が気まずそうに呟く。憤怒の翼竜は確かに裕美の決死の攻撃とで撃破された『はず』だったのだ。
 嫉妬深い蛇龍が、その力を飲み込み翼蛇龍へと生まれ変わってしまったのはいくつも不運が重なったせいである。

 翼竜がタフであったことと、蛇龍が本能でより強いものを飲み込み、強化されること。
 条件が重なってしまったからこそ翼竜は生き残り、蛇龍はそれを喰らって翼蛇龍となった。
 その『絶望』は、目の前で猛威を振るっている。


52 ◆IRWVB8Juyg2013/09/25(水) 17:32:37.59Ui4Yzw5Ko (12/20)

店長「とどめ……ってことは君も戦えるのか? すごいな……」

裕美「えっと、魔法が少し……でももう、魔力がなくて……」


 裕美がうつむく。責任感と、戦う力がもう残っていない絶望に歯噛みする。
 強く握りしめられた拳には、戦う意思が残っていることをうかがわせた。
 店長はどう声をかけるか悩んで、そして――


杏「――その件はいいよ。むしろあいつが街の中で倒れなかったのはラッキーなのかもしれないんだ」


 もう一人の乱入者がその沈黙を破った。


李衣菜「……ラッキーってどういう意味? さっきのは聞こえてたけど、倒すわけにはいかなかった理由は聞かせてもらえるよね」

杏「言う意味がない。でも嘘はついてないよ……そんなことよりアイツをどう倒すか考えたほうがいいんじゃない?」

李衣菜「意味がないってなに? 倒せなかった理由がわからないんじゃ、ここで倒していい理由もわからないよ」


 李衣菜がひどく冷たい目で杏を見つめ、言葉を放つ。
 今の彼女はとても冷静で、状況を把握することに努めているため声のトーンも低い。

 威圧するような調子のその言葉に、しかしひるむことなく杏は応えた。


杏「……信じて欲しい。アイツを街の中で倒すとまずいことが起きるっていうのは間違いないんだ」

李衣菜「悪いけど、そんな――」

きらり「ふぎゅっ! いったーい……」


 険悪なムードにどう言葉を挟むか困っていた店長を踏みつけるように、翼蛇龍の攻撃で吹き飛ばされたきらりが2人の間へ転がり込む。
 思わず言葉は止まり、きらりのことを李衣菜が心配しだした。


53 ◆IRWVB8Juyg2013/09/25(水) 17:33:06.73Ui4Yzw5Ko (13/20)

李衣菜「だ、大丈夫?」

きらり「うん! まだまだだいじょーぶっ!」


 きらりは即座に跳ね起きると、再び翼蛇龍へと向かおうとし――


きらり「……にょ? どうしたの?」


 途中で足を止め、杏に向き合った。


杏「……それ、私に聞いてるの?」

きらり「うん、なんだかすごーくこまってゆーって感じがすぅの……」


 不思議なほど穏やかなトーンで言葉を続ける。
 真実だけを見抜く瞳。きらきらと輝くその目はこんな状況でも光をたたえている。

 場違いなその雰囲気に、その声に。


 ――それでも、杏はどこか恐ろしさを覚えた。


54 ◆IRWVB8Juyg2013/09/25(水) 17:33:42.34Ui4Yzw5Ko (14/20)

杏「なんでもないよ。ちょっと責任感じてるだけだから」


 ――もちろん、嘘だ。

 柔らかな声と瞳から逃れるために杏が視線をそらす。
 たまらなく『怖い』のだ。正体を、自分のしたいことを見抜かれているようなその目が。

 心が安らぎ、助けを求めそうになる自分の心が怖くて目を合わせられない。
 そんなことをお構いなしにきらりが回り込み、話しかけた。


きらり「そーお? だいじょーぶ! みんなでがんばればやっつけれるにぃ☆」

杏「……どうしてさ? 私が、あいつをわざと誘導してきた悪いやつかもって思わないの?」


 明るいテンションに、希望そのもののような声に。思わず口にしてしまった言葉を杏は後悔する。

 実際、今言った言葉は決して嘘ではないからだ。
 自分は『怠惰』のカースドヒューマンで、翼蛇龍を誘導してきたのはあの街を絶望に落とした『憤怒』のカースドヒューマンを助けるため。
 けっしてヒーローたちのことを思っての行為ではない。気に食わないあの男の鼻を明かしてやろうという気はあるけれど、正義感なんてものじゃない。

 ――だから、ごまかしていたのに。


55 ◆IRWVB8Juyg2013/09/25(水) 17:34:27.97Ui4Yzw5Ko (15/20)

 きっと自分を疑いの目で見ているだろう、と杏は思った。
 顔をあげずに、今の失言をどう弁明したものか、それとも誤魔化すかを思案する。

 しかし自分の中へと再び感情を戻そうとした杏に、きらりはそれでも明るく声をかけた。


きらり「でもでも、きっと……だーいじなことがあるんでしょー? だからだいじょーぶっ! みんなでがんばゆから!」


 ――何も知らないくせに。

 どうして信じられるというのかが理解できず、杏は思わず顔をあげてしまう。
 きらりと輝く瞳に曇りは一点もない。疑うという言葉すら知らないのではないか、と彼女は思った。


杏「……どうして?」


 こんな怪しい状況だ。
 口先三寸だけでごまかせないのならば面倒は押し付けて多少の強引な突破を杏が考えていたというのも、事実だ。

 それでも少しの疑いも持たず、信じると断言する目の前の存在が。
 そんな少女に文句も言わずつきそう仲間が、不思議でならなかった。


きらり「困ってる人は、助けなきゃ! どんな人でも、しょんぼりしてたら、むぇーってなっちゃうにぃ?」


 質問に対して、こともなげにきらりが答える。
 それが当たり前のことなのだと、疑いもせずに――


 ――否――


 ――『人間ではないのだろう』と見抜いたうえで助けると。


56 ◆IRWVB8Juyg2013/09/25(水) 17:35:51.66Ui4Yzw5Ko (16/20)

 言外の意味をくみ取り、杏は戦慄した。
 決して上から目線の、横暴で横柄な、自己満足の行為の発言ではないことを理解してしまったから。

 心の底から相手を思い続け、純粋な好意で助けようとする。
 今の杏自身が、珍しく『やる気を出した』のと同じ理屈を、まったく見ず知らずの自分へ対して行おうとしているのだと理解してしまったから。


 だから、気丈で居続けるはずの。ごまかしていたはずの。
 杏の中の感情が爆発し、あふれ出した。


杏「……あの街に……友達が、いるんだ」

きらり「おともだち?」

杏「うん。めんどくさいのは嫌いだけど、いっしょにいてもめんどくさくなくて……いないとなんだか、だらだらしがいもなくなるような、友達」

きらり「そっか! とってもステキだにぃ?」

杏「……そんな友達がさ、悪いやつに利用されてた。それが許せなくて、ここにいるヒーローを利用して助けようとした」


 杏の告白に同じく聞いていた店長や裕美も驚く。
 しかし、きらりは何も言わずただ黙ってうなずいた。

 その表情は真剣で、けれど穏やかで、全てを受け入れるような暖かさを感じさせる。
 杏はそこで一拍おいてから言葉をさらに続けた。


杏「勝手だってわかってる。褒められたことじゃないって思ってる。でも、でもさ――」


 両目からは涙があふれ、声も震えている。
 言わなくてもいいはずの、誤魔化せるはずの言葉を。杏はきらりへと投げた。


杏「助けて、欲しいんだ……だいじな、ともだち……だから……あんずも、がんばるから……!」


57 ◆IRWVB8Juyg2013/09/25(水) 17:36:34.31Ui4Yzw5Ko (17/20)

 力強く、胸を叩いてきらりは答える。
 少しの迷いもなく。当たり前のことのように。


きらり「うん、りょーかいっ! まかせて!」


 ――救われた。

 状況は何も変わっていない。絶望的なまでの力を持った翼蛇龍に対して決定打は与えられていない。
 街の中での戦いも続いている。あのスーツの男の企みだって、二重三重とあるだろう。

 それでも杏は「救われた」と感じた。
 大切な友人を救うための力が心の底から湧き上がって来る。

 とても面倒なことを、やらかすための力が。
 何もかもを投げ出す『怠惰』を動かす、激情ではなく静かな気情を身に纏う。


杏「……ありがと。じゃあ、杏も――やること、やってくるから」


 翼蛇龍をこの場のヒーローに『任せる』判断をして杏は動き出す。
 友人を助けるためにはまだまだ面倒なことをしなければいけないから。

 ついでに、あいつの鼻を明かしてやろう。
 あの街が憤怒に飲まれてしまうのも止めて、ハッピーエンドへひっくり返してやろう。

 この怠けたい気持ちをそのまま力へ。
 動きたくないから、動く。働きたくないから、働く。

 ――助けたいから、助ける。

 そう決めた杏の目にはもう迷いはなかった。


58 ◆IRWVB8Juyg2013/09/25(水) 17:37:07.16Ui4Yzw5Ko (18/20)

 話を聞き終わったきらりの身体に再び力が湧き上がる。
 戦いが続き、疲労していたメンバーたちは決め手もなく押されている。

 その分まで、絶望へ立ち向かうために。

 ―― Never Despair ――『絶望することなかれ』。

 希望を再び身に纏ったきらりは『絶望』へと飛びかかった。


きらり「にょっわぁぁあああっ! きらりんビームっ!」


 幾筋もの光線がヒーローたちを飲み込まんと迫るカースの弾丸を消滅させていく。
 本体である翼蛇龍の身体も光線がつつむが、消滅した次の瞬間には体表に新たな鱗として硬化したカースが纏われ決め手にならない。

 翼蛇龍は自身の中の『嫉妬』により潰された『憤怒』の核が起こすエネルギーによって際限なく進化し続けていた。

 嫉妬に食われた翼竜が憤怒し、憤怒の強化に蛇龍が嫉妬する。
 まるで自身を喰らい続けるウロボロスのように、その円環は強く、激しく。

 自身の中の矛盾をエネルギーとし、消滅させないことで絞り出す。
 翼蛇龍は憤怒と嫉妬に加えて知恵を持ち、怒りに狂いながらも冷たく恐ろしく執念深く狩りを続けようとしている。

 進化は止まらない。表皮は硬く、鋼のように強靭で砕くのすら難しい。
 それでも戦うヒーローたちは絶望していない。諦めようとはしていない。

 絶望と戦う希望は、決して潰えない。


59 ◆IRWVB8Juyg2013/09/25(水) 17:41:21.00Ui4Yzw5Ko (19/20)

!双葉杏が『やる気』を出しました。
  ――憤怒の街をひっくり返して泰葉を救うために自分もリスクを背負う覚悟を決めたようです。

!絶望の翼蛇龍と防衛戦線組が接触、戦闘が開始されました。
  ――翼蛇龍が文字通り『絶望』的な戦力を持っているようです。


→続く


60 ◆IRWVB8Juyg2013/09/25(水) 17:43:45.23Ui4Yzw5Ko (20/20)

琴歌、ネバーディスペア、里美、杏、裕美他たくさんお借りしました

次で決着つけられるよう頑張ります!頑張ります!!頑張ります!!!


61 ◆zvY2y1UzWw2013/09/25(水) 17:53:31.158nKd6D4b0 (1/1)

乙です!!

それぞれの特徴とか本当に上手く書けてらっしゃる…

がんばれ、いや…頑張ってください!


62 ◆hCBYv06tno2013/09/25(水) 17:58:05.01T5FeY90vO (1/1)

乙ー

凄い……凄くってもうこの一言しかでない…

頑張ってください!


63 ◆6osdZ663So2013/09/25(水) 18:28:28.22Y2cyaPLio (1/1)

おっつおっつ
すごくクライマックス感、いいねえ
杏ちゃん頑張って


64VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/25(水) 21:16:34.858zYMNWzto (1/1)

おつー

きらりんやっぱり幸福の象徴だな
あらすじ見て憤怒の街がそんなに続いてるのかと驚いた。なげえな


65 ◆zvY2y1UzWw2013/09/26(木) 17:00:08.889SG9DvP60 (1/12)

投下します


66 ◆zvY2y1UzWw2013/09/26(木) 17:00:37.349SG9DvP60 (2/12)

今日、ユズはとある目的の為にイヴの事務所へ訪れていた。

「こんにちはー!イヴさん、今大丈夫かな?」

「あ、すみません…今イヴさんはちょっと…あれ?」

扉を開けると出てきたのはイヴではなかった。その少女はユズの顔を見ると何かに気付く。

(…ぷちちゃんにそっくり…って事はまさか!?)

「ま、魔術管理人ユズさん!?」

「そ、そうだけど…?あれ、イヴさんはどうしたの?」

…少し驚きがあったが、取りあえず中の応接間に通された。

裕美と名乗ったイヴの一番弟子と、ルシファーに取りつかれていた少女、雪菜がソファに座り、ユズも向かい合う様に座る。

「死神さん…いえユズさん…直接話すのは初めてですねぇ…本当に、なんてお礼を言ったらいいか…」

「私も、憤怒の街でぷちちゃん達に助けられました。今、お礼を言わせてください…ありがとうございました…!」

「ど、どういたしまして…あはは、照れくさいや…」

イヴとは友人と言ってもいい関係で、さらに雪菜を救い、裕美に使い魔を貸して…

…思ったより人間と関わったものだとユズは再認識した。


67 ◆zvY2y1UzWw2013/09/26(木) 17:02:58.459SG9DvP60 (3/12)

「それで、魔力の波長は感じるけど中に入っても出てこないって事は…イヴさん、何かあった?」

「…そうですね、隠さずに話します。実は…」

そして伝えられたのは海底都市から来た、サヤという女性との戦闘でイヴが傷を負ったという話…そして「神の洪水計画」だ。

それを聞いたユズは真剣な目つきになる。

「『神の洪水』…陸を海沈める計画かぁ…かなり厄介な事になったね。」

「何か知っているんですかぁ…?」

雪菜が問う。そもそもどんな手段で行うかはわからないのだ。

「知っているというか…言い伝えレベルかな。神様が作った『ノアの箱舟』。それが洪水のキーアイテムだって聞いたことはあるよ。」

「ノアの箱舟…ですか?」

そういえば歴史の教科書に神話として載っていた気がする。まさか実在するとは思っていなかったが…。

「でも神様は封印したはず…つまりその封印を解くのも目的なんだろうとは思うけど…あまりそこは詳しくないんだよね…」

少しでも情報をひねり出そうと頭をかくが、それ以上の事は覚えていないようだ。

「まぁ取り合えず…自衛しないとね。話を聞く限りまたその弟子の子が狙われる可能性もあるんでしょ?少なくとも親衛隊って4人はいるわけで…」

「そうなんですよねぇ…」

狙われているのがナチュルマリンであることは本人に許可を取ってないので一応伏せたが、また狙う可能性をユズも危険視した。

なにせイヴが傷を負っているのだ。警戒するに越したことはない。

第4席。つまり4人目。四天王なら最初の一人…そう考えると不安になる。


68 ◆zvY2y1UzWw2013/09/26(木) 17:04:31.269SG9DvP60 (4/12)

「うーん、こんな空気で出すはずじゃなかったんだけど…まぁいっか。ちょっと準備するね。『カモン・ぷちユズメイド!』」

「みー?」

ユズが少し思案して、いつもと違うぷちユズを召喚する。

「例の術の準備!」

「みぃ」

メイド服を着たぷちユズが、ぺこりと頭を下げると召喚の魔法陣を行き来しながら何やら準備を始めた。

ちゃんと準備しだしたのを確認すると、ふと提案するように二人に言う。

「…ところでさ、あたし敬語で話されるのより普通に話してもらって方がやりやすいかなーって思うんだ。年齢的にもね?」

「それなら…そうするね?」

「そういうことならぁ…」

「うん、コッチのほうが楽だね!」

…ユズは敬語を使われると何故か疲れてしまうようだった。

「みーみー」

そこにぷちユズが声をかけた。革袋やら何かの本やら…それがユズの隣に置かれた。

「ご苦労様!帰っていいよ!」

「みぃ!」

「お人形みたいで可愛いですねぇ♪」

「み、みみぃー!」

照れたようにぺこりと頭を下げるとぷちユズは行ってしまった。

(かわいいなぁ…)


69 ◆zvY2y1UzWw2013/09/26(木) 17:06:34.609SG9DvP60 (5/12)

「で、この袋の中身なんだけど…」

革袋を開けると、そこには透明なクリスタルが詰め込まれていた。

「これ、すごい魔力を感じるね…」

「まぁ、これは魔力そのものだからね。まずは…雪菜さんが触ってみて。」

「じゃあ遠慮なく…あら?」

手渡されたクリスタルは、雪菜の手に触れた瞬間…消えてしまった。

「驚かせたらごめんねー?これ…普通ならあたし以外が触れれば霧散しちゃうんだ。でも…はい、裕美ちゃん。」

「わわっ!?…あれ?」

裕美に手渡されたクリスタルは、雪菜の時とは違い…その手の中に残り続けていた。

「ぷちユズの核はそのクリスタルにちょっと手を加えた物。そのぷちユズの主に一度なってしまうと触れるみたいなんだよね。」

立ち上がり、一度伸びをすると言葉をつづける。

「そこで、ちょっと手伝ってほしいんだけど…クリスタルを持ったまま魔法を1つ、イメージしてみて。あたしがいいって言うまで!」

「魔法を…?こう、かな?」

裕美が魔法のイメージを浮かべると、クリスタルがぼんやりとした光を放ち始めた。

光は光の粒になって、クリスタルの内側で螺旋を描く様に並び始める。

裕美は意識を集中しているのか、瞳を閉じている。

ユズは光の動きを見逃すことがないように凝視し、雪菜は単純に光に見とれていた。



70 ◆zvY2y1UzWw2013/09/26(木) 17:07:22.489SG9DvP60 (6/12)

「…よし、もういいよー」

光の螺旋が上から下まで伸びたのを確認すると、ユズはストップをかけた。

「テーブルの上に置いて。ちょっと離れてね?」

「はーい。少しワクワクしてきちゃった♪」

「うん…上手くできたのかな…?」

裕美が少し不安そうに、そして慎重にクリスタルを置く。

ユズは二人が少し離れたのを見て、杖を取り出し構えた。

『管理者の名のもとに、使い魔の肉体を生成する。生まれよ、新たな偽りの命よ…!』

杖の先端の水晶から一筋の光が走り、クリスタルに直撃する。

光にクリスタルが包まれ…光が消えるとそこには一体の使い魔が生まれていた。

「?」

起き上り、キョロキョロと不安そうに周囲を見る。その姿は…

「え…私…?」

裕美にそっくりだった。


71 ◆zvY2y1UzWw2013/09/26(木) 17:09:03.389SG9DvP60 (7/12)

「成功だねっ!」

「今度はちっちゃい裕美ちゃん…かわいい♪」

「ど、どうして!?」

「…?」

いつの間にかユズの背中をぷちひろみがよじ登り、頭の上で小首をかしげている。

「そりゃ、君の魔力をもとに作ったからねー魔力の持ち主に似ちゃうんだよ。」

「あ、そっかだからユズちゃんのはユズちゃんみたいな見た目なんだ…」

「…まさかナルシスト疑惑があったのカナ…いやそんなはずは…」

小声で青ざめるユズをよそに、トテトテとぷちひろみがいつの間にか頭の上を降りて歩いている。

「それで、この子もぷちユズちゃんみたいに魔術を使うの?」

「!」

「あまりウロウロしない方がいいですよぉー♪うふふ、かわいいー!」

雪菜に回収されだっこされているぷちひろみにちらりと視線を送りつつ、裕美が聞く。

「うん、クリスタルに記憶された魔法や魔術を使えるよ!しかも、まだ一個しか覚えてないから自動学習機能であとは記憶領域がある限り、見たり読んだりした物を勝手に覚えてくれるのっ!どう育つか、ちょっと期待しちゃったり!」

「じゃあ最初の魔法が修復魔法かぁ…」

「?」

自分がイメージした魔法がそれで、自分にそっくりのぷちひろみの最初の魔法が修復魔法…なぜか運命…いや宿命的な何かを感じる。


72 ◆zvY2y1UzWw2013/09/26(木) 17:12:24.859SG9DvP60 (8/12)

「あ、でも魔力切れで消えちゃうから適度に休ませてね?その子今の所唯一のぷちひろみなんだし…」

「ぷちユズちゃんはいっぱいいるの?」

「うん、記憶は共有させてるから知能も少しづつは上がってると思うんだ。でもぷちひろみはまだ試作品で、しかも生まれたてだからね。鳴き声も出さないし。」

「そういえばさっきから喋ってないなーと思ったら、そういう事だったんだぁ。よしよーし♪」

「…♪」

雪菜に撫でられているぷちひろみ。少し戸惑っているが、嬉しそうだ。

「まあ成長すれば鳴き声も出すんじゃないカナ…?まだ試作段階だから何も言えないや…まあ引き取ってもらえると嬉しいな!」

そう言ってぷちひろみに視線を向ける。

「メイクしてみる?」

「♪」

「…すでに雪菜さんに懐き始めてるネ…すごいや」


73 ◆zvY2y1UzWw2013/09/26(木) 17:14:10.829SG9DvP60 (9/12)

一応襲撃に備えて、ぷちユズの契約書は再び3枚、渡しておいた。

海に住んでいるということで、水はあまり効かないと考え…火・風・雷のぷちユズだ。使わない事を祈っているが。

塔に帰り、大量のクリスタルの欠片…ぷちユズやぷち裕美のモノよりは小さなそれを前にユズは思考する。

「さて…」

ユズはどうして新たな使い魔制作を行っているのか。それには理由があった。

そもそもの目的は新魔術の作成だ。誰よりも強くなる為に必要な一歩だから。

それに伴い、研究を重ねていたが…それに限界が近づいてきていた。

一人では不可能な領域へ行かなくてはならない。誰も巻き込まずに。

『親』が違う人形型使い魔を生み出し、自ら学習させ…その学習の過程で何かが起こると期待しているのだ。

今はクリスタルに触れられる者のみだ。だが、次のステップへ行けば…様々な人たちの魔力または魂の波長を記憶し、クリスタルになじませれば…!

夜の街の上空で、様々な人間の魂の波長をランダムに拾った。それを破片に記憶させる。…一応女性に絞ったが。

とにかくこれで新たな使い魔・ぷちドール…『ぷちどる』が生まれるはず。今回のぷちひろみで確信した。

その調子で深夜まで作業を続け、今ユズのテンションはおかしなことになっている。


74 ◆zvY2y1UzWw2013/09/26(木) 17:15:21.339SG9DvP60 (10/12)

「いける!ユズは今凄い事してるよ!あははは!」

…その使い魔達を、自動思考人形型使い魔を、神崎家周辺に解き放つ。

調査の為に解き放つのだから罪にはならない筈だ。それ以前に手段は選べない。新魔術、そして自らの技術の強化。それが必要だ。

調査するのは大罪の悪魔ではない。そのぷちどる個人が好奇心で動き、ぷちどるが思考する。その結果生まれるモノを調査する。

戦闘のための力でなくてもいい。とにかく…ぷちどるが『経験』し、『思考』し、『学習』する。その結果を欲しているのだ。

ぷちどる量産計画。悪い結果にはならない筈。

…これが深夜のテンションで練った、カオスな思考の産物である。後先のことを考えているようで考えてない。

大量のぷちどる達を、管理塔から転送魔術で笑顔で街に解き放った。

「行ってこーい!!」


…ユズは翌日、管理塔のベッドで世界の狭間しか見えない窓の外を隈の残るどこか遠い目をしながら見つめていた。

「やらかしたかも…」

(とにかくユズはやってない。よし、この路線で行こう。ユズはぷちどるとは無関係なんだからねっ!)

半分現実逃避しながら、ユズは今日の仕事の為に起き上った。


75@設定 ◆zvY2y1UzWw2013/09/26(木) 17:16:54.339SG9DvP60 (11/12)

自動思考人形型使い魔ぷちドール=ぷちどる
ユズが新魔術会得に行き詰まり、考えを巡らせた結果作り上げた使い魔。別名・過労神の深夜テンションの産物。
魔術を使わせるのではなく、自分で思考し、勝手に生きる。それを目的に作られた。
それによってなにかアイデアが浮かぶと思ったようだが…?
いつか消滅する際に記録が管理塔へ送られるらしいが、滅多な事では死なないぷちどるばかりである。
上空から無差別に選ばれた魂の波長を刻み込んだクリスタルの小さな破片を制作の際に使われており、魂の波長の元の人と見た目や能力、思考が似るようだ。
しかし核になっているわけではないので、基本的に魔法は使えないし、砕けば消える部分はないし、魔力が尽きたからと言って消えない。
結果として謎生物が街をうろつくことになった。

ぷちひろみ
クリスタルに裕美の魔力を記憶させ生まれた使い魔。
自ら学習し、魔法や魔術を記憶するという、ぷちドールの原型と言ってもいい能力を持つ。現在は修復魔法のみ記憶している。
性格もまだ真っ白な状態。これからの環境で人格が形成されていくのだろう。
試作品の為、まだ鳴き声はない。成長すれば鳴くかもしれないとのこと。
ぷちドールではなく、ぷちユズ寄りの性能をしている為、魔力が尽きれば消えてしまう。
休んでいれば人間と同じように回復するのでちゃんと休ませてあげよう。

ぷちユズメイド
ぷちドール試作品の一体。自立思考可能で、なによりもユズの手伝いを優先する。
使える魔術は食べ物の幻を触感と味を伴って再現する幻術のみ。腹は満たされない。
いちいちペコリと頭を下げる妙な癖がある。
おら!イチゴパスタ食えよ!味は保証しないけどね!


76 ◆zvY2y1UzWw2013/09/26(木) 17:20:38.249SG9DvP60 (12/12)

以上です
ぷちどるをもっと見たいんだよ!そんな欲求の結果かもしれない

情報
・ユズに神の洪水計画が伝わりました。一応警戒を強める模様
・ぷちどるが街に現れ始めました
・契約書を一応渡しました。火・風・雷の3枚がイヴの事務所に置いてあります。


77 ◆hCBYv06tno2013/09/26(木) 17:25:37.67i56jCCVDO (1/13)

乙ー

ユズちゃん!やらかしちゃってますよ!!
コレがのちにあんな事につながるなんて、ユズはまだ知らない(意味深


78 ◆yIMyWm13ls2013/09/26(木) 17:36:46.22faqHiWFHo (1/2)

乙乙!
ぷちひろみで妄想が捗る。
とうとう本当に宇宙船が侵略されてしまうのか…頑張れウサミンP


79VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/26(木) 19:21:17.93Vhjx2pTjo (1/1)

乙乙ー

あぁ、深夜テンションでやらかした後は数日に渡ってぶり返すんだな……
ユズちゃん苦労人だから疲れてたんだね


80 ◆hCBYv06tno2013/09/26(木) 20:11:21.53i56jCCVDO (2/13)

投下します

一応前半です


81 ◆hCBYv06tno2013/09/26(木) 20:11:58.29i56jCCVDO (3/13)

海皇宮

巫女「ヨリコさま。今回のサヤの独断は許すのね。わかるわ」

ヨリコ「はい。あの子も何か考えがあってのことでしょう。サヤの容体はどうですか?」

巫女「役一週間すれば治ると思うわ。」

そのとある場所で海皇ヨリコと海竜の巫女が話をしていた。

今回のサヤの独断についてだ。

もちろん。ヨリコはその事を咎める所かサヤの心配をしていた。

そして、サヤの無事を聞いてそっと胸を撫で下ろした。


82 ◆hCBYv06tno2013/09/26(木) 20:16:51.45i56jCCVDO (4/13)

巫女「ところで、どうやら地上の一部の者達に≪神の洪水計画≫の情報が漏れているわ。」

ヨリコ「……えっ?」

巫女「一体誰が漏らしたのかしらね?カイは≪神の洪水計画≫については知らない筈よ。」

ヨリコ「まさか、サヤが……」

ヨリコの不安げな表情に、巫女は安心させるように優しく微笑んだ。

巫女「それはわからないわ。けど、計画には問題はないわ。それにサヤがヨリコさまを≪裏切る≫ことなんてないわ。わかるわね」

ヨリコ「そ、そうですね……」

巫女の言葉にヨリコは安心するようにするが、巫女はヨリコの不安を見逃さなかった。

巫女(リヴァイアサンの魂のカケラがもうすぐなじみ出すわね。わかるわ)

……サヤもヨリコも知らないだろう。

巫女はヨリコの病を治した際に、既に≪何か≫をヨリコにしていることを。

それは、もうすぐヨリコの魂と同化することを……

そう。それは初代レヴィアタンと呼ばれた神様に振り回され、最終的に魂をバラバラにわけ体と切り離し、各地に封印された哀れな生物。その封印されてた魂のカケラの一つ。


83 ◆hCBYv06tno2013/09/26(木) 20:18:19.39i56jCCVDO (5/13)

ヨリコ「……巫女さん。少し一人にさせてください。」

巫女「わかりました。では、私は失礼するわ。」

そう言って、巫女は部屋から出て行った。

ヨリコ「サヤちゃん……速く治ってよ…サヤちゃんまでいなくなったら……それにサヤちゃんが情報をもらすはずないもんね。……カイちゃん……カイちゃん……戻ってきてよ……なんで帰ってきてくれないの?……そんなに地上がいいの?地上はどうして私から大切なものを奪うの?……ズルいよ…」

部屋に嫉妬のこもった苦しみの声が響きわたった。

もし、洗脳が解けた時、弱り切った心で、仕掛けがほどこされたアビスエンペラーを起動したら……

果たして彼女はどうなるか……

それは巫女しか知らない。


84 ◆hCBYv06tno2013/09/26(木) 20:19:57.38i56jCCVDO (6/13)

ーーーーーーーーーーーーーー

瑞樹「予想通りだけど予想外だったわね。」

特殊な結界がはってある部屋にて、レヴィアタンは椅子に座りながら溜息をついた。

瑞樹「サヤがノアの方舟を使わないで『神の洪水計画』を実行させようとするなんて。計算外だったわ。」

ノアの方舟を使わず海の力を持つナチュルマリンを操り計画を実行させようとしたことだ。

確かにナチュルマリンの能力を使えば地上を海に沈めることができたであろう。

しかし、≪レヴィアタンの計画≫はただ地上を海に沈めることではないのだ。

その為に≪ノアの方舟≫で神の洪水を起こさせるしかないのだ。

瑞樹「ノアの方舟じゃなきゃダメなのよ…≪世界をリセット≫させるには……」

自分の計画を進めるには≪ノアの方舟≫じゃなければ……


85 ◆hCBYv06tno2013/09/26(木) 20:22:53.88i56jCCVDO (7/13)

瑞樹「だけど、恐らくヒーロー達はナチュルマリンが狙われないよう警戒するわ。けどノアの方舟には目をいかない……天使と魔族を除いてわね。」

神の洪水というワードを聞けば勘のいい天使や魔族は気づいてしまうだろう。

だが多くのヒーローはナチュルマリンが狙われないよう警戒するはず。

ノアの方舟に気づいても封印されてる場所まではわからないはず……

それに、自分にたどり着くことは恐らくない。

ただ………


86 ◆hCBYv06tno2013/09/26(木) 20:24:32.63i56jCCVDO (8/13)

瑞樹「問題はまだあるわね。」

そう言って脳内に巡るは3つのイレギュラー

瑞樹「まずはあの古龍の魂……呪詛で縛ってるのにまだ何かしそうね…わかるわ。」

瑞樹「地底人の女性は……依頼以外の事はしない仕事重視。問題はないはずだわ……なのにこの嫌な感じ、わからないわ。」

瑞樹「そして、問題はこの男ね。」

真剣な表情で、海底都市にはびこらせてる使い魔から送られてきた映像を空間に映し出しみていた。

その映像には………


87 ◆hCBYv06tno2013/09/26(木) 20:27:55.24i56jCCVDO (9/13)








いい笑顔でサムズアップしているマルメターノおじさんが映っていた。











88 ◆hCBYv06tno2013/09/26(木) 20:29:39.59i56jCCVDO (10/13)

瑞樹「……隙がなくって、偽ベルフェゴールの情報収集でもソーセージ売ってる事しかわからない。それに海底都市にはった結界もすり抜けてきた……その力妬ましいわ。」

目の前に映る異質な光景に、レヴィアタンは強く唇を噛み締めた。

まるで挑発をしているのかと思う程の笑顔に憎しみが湧き上がる。

瑞樹「……何であろうと構わないわ。邪魔になるなら排除するしかないわね。」

だが、すぐに冷静さを取り戻し、映像を消すと、対策や次なる策略に向けて思考を切り替える。


89 ◆hCBYv06tno2013/09/26(木) 20:32:45.88i56jCCVDO (11/13)

瑞樹「怠惰の人形師はうまくやっているかしら?」

怠惰の人形師に頼んだ≪本物の川島瑞樹≫の捕獲。

あれが唯一、自分につながる手がかりだ。もしヒーローに、あの死神に保護されたらマズイ。

カースドヴァンパイアがやられてはしまったが、操れる駒は用意してある。

問題はないだろう……そう思ってたレヴィアタンだが、数分後に怠惰の人形師から受けた報告に苛立つのであった。

彼女が注意していた謎の男

死神が思いつきでやった実験。

その二つが……いや、これは次のお話で話そう。

嫉妬の悪魔の計画に僅かなひびがはいっていく。


続く


90@ ◆hCBYv06tno2013/09/26(木) 20:34:21.81i56jCCVDO (12/13)

イベント情報追加

・ヨリコの不安が煽られてるよ!SUN値がヤバイよ!

・ヨリコの魂にリヴァイアサンの魂のカケラが混じってるよ!

・マルメターノおじさんは海底都市にはってある結界を潜り抜けて来たらしい。


91 ◆hCBYv06tno2013/09/26(木) 20:36:36.14i56jCCVDO (13/13)

以上です。

マルメターノおじさんvs偽ベルフェゴールは長くなりそうな気がしたので前半と後半にわけました。

後半はマルメターノおじさんvs偽ベルフェゴールにしようかな?と考えてます

ヨリコさんお借りしました。


92 ◆yIMyWm13ls2013/09/26(木) 20:41:55.61faqHiWFHo (2/2)

乙乙!
結界抜けて来たとかマルメターノおじさん想像以上にヤバい。
そりゃ川島さんもビビるわ。


93 ◆zvY2y1UzWw2013/09/26(木) 20:46:23.56Q4l3gY7D0 (1/1)

乙です
……川島さんが怖いわ

マルメターノおじさん強いな!
…え、ぷちどるなんかやっちゃうんです?


94 ◆UCaKi7reYU2013/09/26(木) 23:41:27.15F21egecy0 (1/1)

皆様乙です!

ナチュルスター防衛組のラストスパートだったり川島さん策略だったりやっぱり目が離せない展開がいっぱいで今後も気になりますね!


95 ◆UCaKi7reYU2013/09/27(金) 00:41:50.73tp3U7s7l0 (1/1)

皆様乙です!

ナチュルスター防衛組のラストスパートだったり川島さん策略だったりやっぱり目が離せない展開がいっぱいで今後も気になりますね!


96VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/27(金) 08:39:16.72HyNW0HVUo (1/1)

おつー

おじさんは何者なの……?


97 ◆llXLnL0MGk2013/09/28(土) 10:59:32.749mLAN/1f0 (1/10)

乙乙乙ー
こ、これは乙じゃなくてアイスラッガーなん(ry
ネバーディスペアかっこいいし柚ぽんの深夜テンション楽しいしマルメターノおじさん未知数だし!!

実はpart5最序盤以来の出番となるスパイクP投下します
え? 櫂の誕生日? ナンノコトヤラサッパリデスナ


98 ◆llXLnL0MGk2013/09/28(土) 11:00:38.759mLAN/1f0 (2/10)

どこぞの山の麓に広がる樹海。

その中を、巨大な鉄のウニを引き連れ歩く男がいた。

スパイクP「三つ目の封印は……この先か」

男の名はスパイクP、連れるウニはバイオ。

海底都市、海皇親衛隊である彼は現在、『神の洪水計画』の前準備をしていた。

『ノアの方舟』を封印する四つの点の破壊してまわる、これが彼の任務だ。

既に封印は二つ破壊し、現在向かっているのは三つ目。

スパイクP「……面倒くせえ。ヨリコ様ならともかく、何であんな女の指示で動かなきゃいけねえんだ」

海皇ヨリコの側近、海龍の巫女。スパイクPは彼女に良い印象を抱いていなかった。

スパイクP「とっとと済ませて部屋でゆっくり……お?」

歩くうち、スパイクPは少し開けた場所に出た。


99 ◆llXLnL0MGk2013/09/28(土) 11:01:48.039mLAN/1f0 (3/10)

目の前には洞窟、その手前には切り株、そしてその上には一人の少女の姿があった。

切り株に腰掛け、静かに目を閉じていた少女は、やがてスパイクPの気配に気付いたか、ゆっくりと目を開く。

穂乃香「……あなたも宝を求めてやってきたのですか?」

スパイクP「宝ぁ? そんなモンは知らねえ。俺は方舟の封印を探してるんだ」

穂乃香「方舟……聞いた事もない物です」

スパイクP「その洞窟がどうにもくせえな。ちょっと調べさせろ」

その言葉を聴いて、穂乃香はふう、とため息をついた。

穂乃香「虚言を弄して宝を奪おうとする……あなたのようなタイプも腐るほどいましたよ」

スパイクP「あぁん?」

穂乃香が立ち上がり、腰に携えた二本の刀を構える。

スパイクP「……やる気か?」

穂乃香「あなたが大人しく帰ってくれれば、刃は納めますが」

スパイクP「そいつはできねえ相談だな…………バイオ!」

『カチッカチッ』

スパイクPの号令でバイオが一歩前へ出る。


100 ◆llXLnL0MGk2013/09/28(土) 11:02:42.179mLAN/1f0 (4/10)

スパイクP「オリハルコン、セパレイション!」

穂乃香「何をするかは知りませんが……させません」

穂乃香はスパイクPの懐に飛び込もうと深く腰を落とし……、

穂乃香「ッ……!」

後ろへ大きく飛び退いた。

直後、穂乃香が立っていた位置にビームが着弾した。

「ッシャ!」

木の裏からイワッシャーが姿を現した。

穂乃香「伏兵ですか……」

スパイクP「アビスパイク、ウェイクアップ。悪く思うなよ、スパイク・ミサイル!」

バイオを纏いアビスパイクとなったスパイクPが、その棘を一本穂乃香へ撃ち出す。


101 ◆llXLnL0MGk2013/09/28(土) 11:03:34.249mLAN/1f0 (5/10)

穂乃香「どこへ撃っているのですか?」

スパイクP「!?」

突然背後から声をかけられ、スパイクPは振り向く。

そこにいたのは、無傷の穂乃香。

そして、バラバラに切り刻まれ、首だけの姿になったイワッシャーだった。

スパイクP(何なんだこいつ……速すぎる……!)

穂乃香「あまりいたぶるのも可哀想ですし、一瞬で決めてさしあげます」

そう言って穂乃香はイワッシャーの首を放り捨て、再度刀を構えた。

スパイクP(来る!)

穂乃香「綾瀬流『疾風怒刀』」

スパイクPが身構えるよりも速く、穂乃香が振るう無数の斬撃がスパイクPを襲った。

穂乃香「……ふう」

勝負あり、と感じた穂乃香は、ゆっくりと刀を鞘に戻し、クルリと踵を返した。


102 ◆llXLnL0MGk2013/09/28(土) 11:04:11.719mLAN/1f0 (6/10)

しかし、

スパイクP「スパイク・ミサイル!」

穂乃香「!?」

背後からの攻撃を察し、穂乃香は大きくジャンプしてそれを回避した。

穂乃香「……仕損じた……?」

目の前に立っているスパイクPは、先ほどの攻撃がまるで無かったかのように無傷だった。

スパイクP「ったく、今のは効いたぜ。……アビスパイクじゃなきゃ今頃お陀仏だ」

よく見れば、彼の鎧には細かい傷が無数についている。

しかし、それも時間と共にじわじわと消えていく。

穂乃香(固い装甲に自己修復……一筋縄ではいきませんか)

穂乃香の頬を汗が一筋伝う。

スパイクP(向こうはこっちに致命傷を与えられねえ……こっちは向こうを捉えきれねえ……こりゃ泥試合か?)

スパイクPが額の汗を拭う。


103 ◆llXLnL0MGk2013/09/28(土) 11:05:07.829mLAN/1f0 (7/10)

穂乃香(なら、この一撃で……!)

穂乃香は片方の刀をスラリと引き抜く。

スパイクP(だったら、追いつくまでだ……!)

スパイクPは右手の棘を地面に突き立てる。

穂乃香「綾瀬流……」

グッと刀を構える。

スパイクP「おぉぉ……!」

右手の棘を軸に、まるで独楽のように回転を始める。

穂乃香「『力戦奮刀』!」

スパイクP「スパイク・タップ!!」

突き出された刀が、高速回転する体が、真正面からぶつかる。

その結果は、

穂乃香「……くっ!」

スパイクP「……チッ!」

またしても互角。

これ以上ぶつけあっても無駄と判断した二人は、互いに距離をとった。


104 ◆llXLnL0MGk2013/09/28(土) 11:05:43.749mLAN/1f0 (8/10)

穂乃香「…………」

スパイクP「…………やめだ、やめやめ!」

スパイクPは変身を解除し、頭を掻き毟った。

スパイクP「これ以上やっても時間の無駄だ。出直すぜ」

穂乃香「出直す……ですか。恐らくは何度来ても同じですよ」

スパイクP「ケッ、どうだかな。いくぜ、バイオ」

『カチッカチッ』

スパイクPはバイオを引きつれ洞窟を離れた。

スパイクP「……あれは後回しだな。マキノ辺りを応援に呼んだ方が良さそうだ」

懐から取り出した海水の小瓶で体を潤し、スパイクPは不満げに鼻を鳴らした。

スパイクP「先に四つ目を破壊するか。えーなになに……」

海龍の巫女から受け取った地図と地上で入手した地図を見比べ、スパイクPは次の目的地を定めた。

スパイクP「四つ目の封印は……ネオトーキョー……か」

続く


105 ◆llXLnL0MGk2013/09/28(土) 11:06:18.439mLAN/1f0 (9/10)

・スパイク・タップ
スパイクP/アビスパイクの新技。
右手甲の棘を地面に突き立て、それを軸に高速回転、独楽のような動きで敵に突進する。
攻撃力、防御力にくわえ、申し訳程度の機動力まで備えた素敵技。

・イベント追加情報
「方舟の封印」の所在地
三つ目……穂乃香が守る洞窟の中(綾瀬一族が守る「宝」とは別物の模様)
四つ目……ネオトーキョーの何処か

スパイクPがネオトーキョーへ向かいました。


106 ◆llXLnL0MGk2013/09/28(土) 11:07:35.709mLAN/1f0 (10/10)

以上です
ホントスパイクP久々すぎて口調忘れてるっぽい

穂乃香さんお借りしました


107 ◆hCBYv06tno2013/09/28(土) 11:14:52.94SMr3ftiK0 (1/1)

乙ー

スパイクPがんばれ!
怒りに反応してバイオの中の憤怒の核が暴走しそうやな



108VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/28(土) 11:28:58.47IU1aiNwao (1/1)

おつー

ネオトーキョーには魔物がおるぜ……
きっと苦労する。俺の占いは当たる


109 ◆tsGpSwX8mo2013/09/28(土) 13:21:45.498k8mtnNio (1/1)

乙です。キャラ使ってもらえてすごい嬉しい。ありがたや、ありがたや……


110VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/28(土) 14:29:31.23JOPK+7WtO (1/1)

黒川さん涙拭けよ

きっと出番来るって


111 ◆kaGYBvZifE2013/09/28(土) 17:13:43.30VqcwV8vR0 (1/2)

辛いです。黒川さんが好きだから……

黒川さんがおこぷんする前に出番作ってあげたいなぁ


112 ◆llXLnL0MGk2013/09/28(土) 23:40:04.49c6L1NLaAO (1/2)

一つ相談を。
以前「もうアイドル予約しません」宣言を出しましたが、
あと一人だけ予約しても構いませんでしょうか?


113VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/28(土) 23:46:35.73CwA0OfyA0 (1/1)

いいよいいよーだっていっぱいいて欲しいじゃない!


114 ◆kaGYBvZifE2013/09/28(土) 23:53:42.75VqcwV8vR0 (2/2)

>>112
憤怒P「みくにゃんが自分を曲げたら大問題だが、俺らなら別に問題ないよなぁ?(ゲス顔)
    だがまあ、俺はみくにゃんが自分を曲げたところでファンをやめたりしねぇ」

みく「にゃにゃっ! 誰かは知らないけどありがとうにゃ! でもみくは自分を」

憤怒P「何故なら元からファンでも何でもねぇんだからなぁ!
    みくにゃん? 誰それ、ボーカロイドか何かかぁ? ウッヒャハハハハハハハハ!!」

みく「ふにゃあああああ!!」


115 ◆llXLnL0MGk2013/09/28(土) 23:59:59.45c6L1NLaAO (2/2)

>>113>>114
ありがとうございます…

では正真正銘最後の予約
ライラを予約します


116 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 01:48:17.13Ba5bNvc4o (1/37)

乙ですー

スパイクPは結構好き。戦えるPポジって少ないよね
その内誰かと戦わせて見たいなぁ


高校の友人関係で美穂ちゃんのお話投下しまー


117 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 01:48:52.63Ba5bNvc4o (2/37)



”これは、今まで普通だったことが『普通』ではなくなっていた話”


 


118 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 01:49:18.23Ba5bNvc4o (3/37)

――

美穂「おはよう・・・・・・・。」

母「おはよう、美穂」

肇「おはようございます、美穂さん。」

ある日の小日向家の朝。

美穂が憂鬱な気分で、茶の間に起きてくると、

母と同居人は既に起きており、朝食の準備もすっかり出来ていた。


肇「・・・・・・おや?美穂さん、今日は元気が無いですね?」

美穂「うん・・・・・・。」

軽く頭を抱えながら、食卓の席についた美穂。

そんな彼女の様子をみて、同居人から心配の声が掛かる。

母「学校が始まるからでしょ。」

美穂「うん・・・・・・・・・・・・。」


そう、本日は夏休みが明けて、初めて学校に行く日。

つまり始業式の日だった。


119 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 01:49:49.48Ba5bNvc4o (4/37)


この夏は、美穂にとって大変忙しい夏だった。

カースと戦ったり、

カピバラ怪人を追い掛け回して真っ二つにしたり、

カースと戦ったり、

憧れの元ヒーローと出会ったり、

カースと戦ったり、

肇と妖怪祭りに出かけたり、

あとは、カースと戦ったりもした。


美穂「・・・・・・ほとんどヒヨちゃんに振り回される毎日だった気がする。」

美穂の頭の上で、照れたようにその身をくねらせるアホ毛。

褒めてはいないが。

美穂(だけど充実してた・・・・・・のかな?)

真っ当な少女の過ごす夏休みとはかけ離れた日常だったが、

まあ、それでも美穂はかねがね満足していた。

美穂(ちょっとずつだけど、夢にも近づいてる気がするから。)

憧れのアイドルヒーローになる。

ヒヨちゃんや、肇ちゃんや、セイラさんと出会ったことで、

夢が叶う兆しが見えてきた。


ただ、それに伴う問題点も少なからずある。


例えば、以前、カピバラ怪人を燃やし斬った際に、

ヒーローとして地方新聞に載ってしまったことだ。


120 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 01:50:41.55Ba5bNvc4o (5/37)


肇「美穂さん、パンが焼けましたのでどうぞ。」

美穂「ありがとう、肇ちゃん。」

トースターでこんがり焼いた食パンに、

食卓の上に置いてある、マーガリンを適量塗りたくり、齧る。

時々、母が焼いたであろうハムエッグと、それに添えられたサニーレタスにも手をつけつつ、

朝の栄養補給を続ける。

あの日の朝も、そう言えば食パンを齧っていた事を思い出す。


小日向美穂は、あの朝、新聞に載ってしまっていた意味を考える。

美穂(・・・・・・今更、恥ずかしがってちゃダメなんだろうけど)

美穂(そ、それでも卯月ちゃんや茜ちゃんに私のヒーロー活動のこと知られてると思うと・・・・・・)

地方新聞に載る、

それはクラスメイトに小日向美穂のヒーロー活動を知られると言う事。

すなわち、


「あ~はっはっはっはっは!」

と人目も憚らず高いところで高笑いとかしながら、

「愛と正義のはにかみ侵略者!ひなたん星人ナリ!」(笑)

とか電波な言葉を飛ばしつつ、

「このまるごとぜ~んぶ私のもの、ひなたっ☆」

とかカワイイポーズを決めて、刀をぶん回してる事を知られているのだ。


美穂「う、うわぁあああああああ!!」

肇、母「!?」

美穂「冷静に考えるとやっぱりダメだっ!!ダメッ!死ぬっ!恥ずかしさで死んじゃうっ!熊本に帰るっ!!」

肇「急に元気になりました?」

母「情緒不安定ねえ、まあこのくらいの年のころは私も色々あったわ。」


果たして、美穂の恥ずかしがりやな性格が悪いのか、

ひなたん星人の豪放かつ電波な性格が悪いのか。


美穂(・・・・・・いや、ヒヨちゃんが悪いわけじゃないけれど)

実際、小春日和のおかげで、

最初にカースと出会ったときも対応できたし、街の平和を守ることが出来ている。

恨めるはずはない。恨めるはずはないが、


美穂(私、クラスでも目立つ方じゃなかったから、)

美穂(いきなりひなたん星人とか言っても、みんなドン引きに決まってるよ・・・・・うぅ・・・・・・。)


この夏、小日向美穂は大切な物を手に入れたが、大切な物を失った気がする。


121 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 01:52:05.63Ba5bNvc4o (6/37)


現在、あの記事に関する、

つまりニューヒーロー「ひなたん星人」として小日向美穂が活動していることに関する、

学校の友達の反応は保留と言う事になっている。


美穂(あの日から、卯月ちゃんや茜ちゃんと出会う機会もなかったからなあ・・・・・・。)

カピバラ怪人の件で、ひなたん星人が新聞に載ったのは夏休み中の事。

そして、新聞に載ってからの夏休みの残りの期間の間、

ヒーロー活動や、祟り場などの発生のため、奔走していた美穂は忙しく、

学校の友達と遊ぶ機会がまったく無かった。


さらに言えば連絡も、全然とってはいなかった。


美穂(あれ・・・・・・?)


何気ない、小さな違和感。


美穂(・・・・・・忙しかった私からはともかく。)

美穂(卯月ちゃんからも連絡が無い?)


122 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 01:52:50.10Ba5bNvc4o (7/37)


美穂(・・・・・・あ、卯月ちゃんが暇人ってことじゃなくって)


島村卯月のパーソナル。

なかなかパッとは思いつかない彼女の個性だが、

その一つに『長電話』と言う物がある。

「趣味は長電話ですっ!」とでも言ってのけてしまいそうな程に、

彼女はよく、友達に電話をかける。

メールでもツ○ッターでもなく、電話がいいのだそうだ。

文字ではなく、相手の声を聞かないと落ち着かないらしい。

美穂も何度かそれに付き合わされたことがあるが。

徹夜するまで付き合わされてしまうのは、きっと後にも先のも彼女との電話だけだろう。


そんな三度の飯よりも、寝る時間よりも、長電話が好きな彼女が、

この夏、

いや、夏休み当初は何度か掛かってきたのだが、

しかし、夏休み後半。美穂が新聞の載ったあの日を含めての、しばらくの期間、

まったく電話をかけてこなかった。と言う事実が、意外と言えば意外であった。


123 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 01:53:37.46Ba5bNvc4o (8/37)

――

朝食を食べ終え、学校に行く仕度を済ませる。

久しく着る制服は、クリニーング仕立てで着心地が良い。


美穂「着信履歴は、っと。」

ふと先ほど気になった疑問を解消するため、

携帯電話のデータを確認する。

島村卯月に限って言えば、

発信履歴ではなく、着信履歴を確認した方が早いと確実に言えるのは、

彼女の確固たる個性を示してる気がした。


美穂「卯月ちゃん・・・・・・卯月ちゃん・・・・・・。」

スマホを画面を上方向にフリックして、

着信履歴のリストをスクロールさせる。

そうやって目的の名前を探す。

美穂「?」

美穂「あれ?おかしいなぁ・・・・・・。」

美穂「着信履歴なんて消さないはず・・・・・・だと思うけど。」


もちろん、携帯を機種変更や修理に出した覚えも無い。

普段触らない履歴に関するデータが消えるような事はなかったはず。

しかし、美穂の携帯の中には、


『卯月ちゃん』からの着信履歴が、一件も存在してはいなかった。


124 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 01:54:38.62Ba5bNvc4o (9/37)


美穂「『お母さん』や『肇ちゃん』の名前はあるから、履歴を消した訳じゃないよね?」

美穂「うーん??」

疑問に思うが、考えてもこの現象の謎は解けず、

美穂「意外と、いつも私の方から電話してたのかな?」

そう言って、クスリと笑う。

『長電話』が好きと言うイメージから、いつも向こうから掛けてくるイメージに繋がっていたのだろうか。

美穂「私って、寂しがり屋なのかも?」

今まで意識してなかったことだったが、

毎回、自分から友達に電話を掛けていたのだと思うと、ほんのちょっと恥ずかしかった。


母「美穂ー、学校遅れるわよー。」

美穂「わっ!もうこんな時間!今出るからー!」

携帯電話をポケットに仕舞って、

『小春日和』を入れた袋を背負い、カバンを左手に持つ。

肇「美穂さん、いってらっしゃい。」

美穂「いってきます、肇ちゃん!」

慌しく、美穂は家を飛び出て、登校することとした。



この時、もし発信履歴の方も確認していれば、

あるいは、アドレス帳を確認していれば、

携帯電話から”友達の名前が完全に消えている”と言う異常に気づけたのかもしれないが、

それは何らかの事態に巻き込まれている、と気づくことが少し早まるだけの事で、

この後の展開については、きっと何も変わらなかっただろう。


この時点で、とっくの昔に、

小日向美穂にとっての『普通』は、普通ではなくなっていたのだから。


125 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 01:55:31.49Ba5bNvc4o (10/37)

――


通学路。

久しく歩く、その道は、以前よりもずっと、歩きにくかった。

何故ならば、

美穂(し、視線が気になって・・・・・・。)


「あれ?あの子、もしかして”ひなたん星人”じゃない?」

美穂(う、噂されてるっ!?)

「あっ、本当だ。ヒーローって本当に居るんだ。おーい」

美穂(手振られたっ?!)


まったく知らないOLに手を振られ、小さく手を振り返す。


「きゃああっ、手振り替えされちゃった!可愛い!」

美穂「う、うぅ~。」

集まる視線に、カバンで顔を隠してしまう。

美穂(は、恥ずかしい・・・・・・。)

恥ずかしがってばかりだが、しかし、それも仕方ない。

人に注目されていると自覚するのはやはり、どうしたって恥ずかしい。

それは、”たくさんの妖怪の目があった舞台に立つ”と言う経験をしたとしても、なかなか慣れはせず。

と、言うよりも

緊張感のある舞台の上で多くの目で見られるより、

何気なく油断して過ごしている日常を見られていることの方が、案外ずっと恥ずかしいのかもしれない。

美穂(けれど、嬉しいかな。)

注目されていると言うのは、認められていると言う事。

小日向美穂がヒーローとして認められていると言う事だ。

それは、彼女にとってはとっても嬉しいこと。


そうは思ってもずっと視線に晒されるのは、なかなかに居心地がよろしくは無い。

嬉しいのに居心地が悪いとは複雑な心境なのだが、

とにかく、この場は逃れてしまおうと歩みを急がせ、そそくさと立ち去るのだった。


126 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 01:56:22.79Ba5bNvc4o (11/37)

――


人目を避けるために、

少しだけ早足で通学路を歩いていると。


卯月「それでね・・・・・・だったから・・・・・・。」

茜「へぇ・・・・・・・・うん・・・・・・・・そうなんだ。」


美穂「あっ。」

前方に、よく見知った2人が並んで歩いているのを発見する。

横断歩道を渡りながら、何か話し込んでいるようだった。

追いつこうとして、小走りになる。


しかし、

美穂「あれっ。」

たまたま、彼女達が横断歩道を渡りきったところで、

まるで美穂の歩みだけを遮るように、信号が赤に変わってしまった。

それならば、

美穂「茜ちゃん!卯月ちゃんっ!」

と、横断歩道の手前から声を掛けて、先に行く2人を止めようとしたが

ブロロンっ!!

美穂「わわっ!」

大きな音をたてて美穂の前をトラックが通過した。

美穂の声は、その音に掻き消され、届かなかったようだ。

トラックが通り過ぎれば、2人は既にずっと先の方へ行ってしまっていた。


美穂「タイミング、悪いなぁ・・・・・・。」


この時点では、

異変は、ごく自然で、『普通』に起こりうることで、

静かに美穂を巻き込んでいたために、彼女はそれに気づくことはなかった。


しかし、この先にて。

つまり学校にたどり着いた時点で、


小日向美穂は、やっと今回の『普通』ではない異常事態に気づくのだ。


127 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 01:57:19.67Ba5bNvc4o (12/37)

――


学校にたどり着いた。

そこまでは、何も問題なかった。

2年の教室が並ぶ階にたどり着く。

そこまでは、変わったところは無かった。


いつもの教室の前に立つ。

2年1組。

夏休み前まで、ずっと普通に通っていた教室。

美穂の学校では、学期毎のクラス替えなどは行われないために、

継続して、この教室を使うことになる。


はずが、


「あれ、小日向さん。どうして1組に入ろうとしてるの?」

美穂「えっ?」

「小日向さんは私達と同じ2組じゃない。」

美穂「えっ、あの?」

「ほらほら、みんなヒーローを待ってるんだからさ。」

美穂「わわっ?!」


あまり話したことも無い、違うクラスの女子に手を引かれ、

隣の教室、2年2組に連れて行かれる。


128 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 01:57:56.93Ba5bNvc4o (13/37)


「待ってました!ヒーロー!」

「新聞見たよー!小日向さんかっこよかったー!」

「うちの家族も小日向さんに助けられたって言ってたよ!ありがとうねっ!」


美穂「えっ!?えっ!?!」


こうやって騒がれる事には覚悟してきたつもりだったが、

恥ずかしいとか思う以前に、美穂の頭を支配していたのは混乱であった。

美穂(ど、どう言う事?!)

美穂「ど、ドッキリ??」

「あはは、確かに驚いちゃうよね。こんな風に騒がれちゃったら。」

美穂「えっと、いやあのそれ以前に、私・・・・・・隣のクラスで・・・・・・」

「? 何言ってるの?」

「夏休み明けで混乱してるんじゃない?」

「あー、あるある。長いこと学校休んでると、あれ、自分の教室ってどこだっけーってど忘れしちゃうことあるよね。」

「確かにあるかも。まあでもクラスのみんなの顔を見たら思い出すでしょ。」


「小日向さんは”2組の仲間”なんだから。」

美穂(・・・・・・何これ・・・・・どう言う事?)


彼女達がふざけてこんな事をしていたのならばよかった。

しかし、それは違う。

結論から言えば、彼女達の言っている事の方が正しく、

彼女達のとった行動は、まったくもって『普通』。

普通に、”クラスメイトの女子”が取り得る行動だった。


小日向美穂は”2年2組”の生徒と言う事になっていた。


129 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 01:58:45.78Ba5bNvc4o (14/37)

――

時は飛んでお昼。

何時の間にか始業式は終わっていて、既に生徒達は帰る準備を始めている。

始業式が終われば、学校での時間は終わり。授業は明日から。

つまり本日は半ドンと言う訳で、生徒達は思い思いにこれからの予定を話し合っている。


「今日どこか寄るー?」

「あたしドリンク無料件あるけど。」

「マルメターノおじさんの店のソーセージ食べたいなー」

「出た、都市伝説(笑)。謎のおじさんのソーセージ店(笑)。」

「本当にあるの?そんなお店。」

「本当にあるし!美味しいんだよっ!たまにしか見かけないだけで!」


美穂「・・・・・・。」

周囲で2組の人たちが何か話しているが、

美穂の頭の中に、その会話の内容は全く入ってこなかった。


美穂(勘違いとかじゃないよね、私はたしかに1組の生徒だった・・・・・・。)

夏休み前までは2年1組の生徒として『普通』に過ごしていたはずなのに、

それが『普通』ではなくなっていた。


では何が今の『普通』なのかと言えば、

小日向美穂の所属するクラスは2年2組。

2組の担任がクラスで出席を取った時も、しっかり名前を呼ばれた。

名簿にさえ『小日向 美穂』の名前が存在していたらしい。

始業式のときも2組の列に並ばされた。

その事にすら、誰も違和感を覚えなかったようだ。

教師も生徒も、誰一人、疑問を挟むことは無かった。

2年1組の列には卯月ちゃんや茜ちゃんが並んでいたが、

1組の列に美穂が居らず、2組の列に美穂が居ることに

まったく思うところは無く、むしろ変だと気づいてすらいなかったようだった。


美穂(おかしいのは私・・・・・・?)

自分の中にある常識を疑ってしまう。

世界はこんなにも不確かだっただろうか。


130 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 01:59:48.55Ba5bNvc4o (15/37)


「小日向さんも、良かったら一緒に行かない?」

美穂「ふぇっ!?」

「これから、ご飯食べて、適当にどこかぶらつくつもりなんだけどさ。」

「ソーセージを食べられるかは、場合によります。」

「まだ言ってるし。」

”2組のクラスメイト”からのお誘い。

はっきり言えば、そう言う気分では無かったのだけど。

「でもさ、私らも一緒に遊ぶの久しぶりだよなー。」

「夏休みもたまに遊んだじゃん。」

「学校帰りは久々って事。学校帰りっていつも何してたっけなぁ、休み長かったからノリわかんない。」

「まあ、適当に話してたら何か思い出すでしょ。」

美穂(適当に話してたら・・・・・・!)

美穂(そうだ!卯月ちゃん達と話せれば、何か分かるかもしれない!)


そう思って携帯を取り出す。

ここで彼女はアドレス帳を開いて、

今朝気づけなかった驚愕の事実に気づくのだった。

美穂「えっ?」

アドレス帳には卯月ちゃんの、

いや、それどころか1組の友人の名前が一件も無かった。

背筋が凍る。


131 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 02:00:31.66Ba5bNvc4o (16/37)


美穂(う、嘘・・・・・・。)

美穂(2組になったから、携帯からも1組の友達の連絡先が消えた??)

例えば2組の出席簿に『小日向美穂』の名前が存在したように、

1組には、『小日向美穂』の所属していた形跡が抹消されているとでも言うのだろうか。

そしてまさか、

まさか、同じ様にこれまでの友人達との関係もリセットされたとでも言うのだろうか。

あり得ない。

あり得ない。

あり得なさ過ぎて、何が起きているのか見当も付かない。


「それで、小日向さんどうする?」

美穂「ご、ごめん!私、ちょっと今日寄る所があるから!」

こうなったら直接、彼女達と会って話すしかないだろう。

「そう?ちょっと残念かな。」

「また今度、一緒に遊ぼうねー」

美穂「う、うん!また今度!」

立ち上がって、帰り支度を手早く済ませる。

1組はもう解散してしまっただろうか。急がないと2人は帰ってしまってるかもしれない。


132 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 02:01:08.43Ba5bNvc4o (17/37)


急いで教室を出て、すぐ隣の教室を伺う。

美穂「うぅ、やっぱり居ない・・・・・・。」

1組もやはり既に解散しており、教室にはまばらに生徒が残っていたものの、

そこには、よく見知った友人達の姿は無かった。

「あら?小日向さん、何かうちのクラスに用事かな?」

1組の女子に声を掛けられた。

美穂「ちょ、ちょっとね。あ、あの卯月ちゃんたちは?」

「卯月ちゃん?もう帰ったけれど?・・・・・・小日向さんって卯月ちゃんと親し」

美穂「ご、ごめん!もう、帰るね!」

「あ、ちょっと・・・・・?」

逃げるように、その場を立ち去った。


彼女と話していると、嫌でも自覚してしまいそうだったからだ。

それなりに親しかったはずのクラスメイトから「美穂ちゃん」ではなく、「小日向さん」と呼ばれた事だとか。

美穂が「卯月ちゃん」の事を気に掛けた事に、疑問を挟まれそうになった事だとか。

そんな事から、


美穂「嘘だよね、こんなの・・・・・・。」


「友達」が「友達」でなくなっていると言う事実を、自覚させられてしまいそうだったからだ。


133 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 02:01:54.01Ba5bNvc4o (18/37)


だけど、まだ彼女達と直接話してはいない。

美穂「・・・・・・すぐ追いかければ、まだ間に合うかも。」

まだ希望は残っているはずだ。


生徒達が解散してから、それほど時間は経っていない。

まだ通学路の途中に居るかもしれない。


走って追いかければ、きっと、追いつけるだろう。

そうと決まれば、と美穂は急ぐ。


「こらっ!!廊下を走るなっ!」

美穂「ご、ごめんなさいっ!」


通りがかった教師に怒鳴られてしまった。

焦る気持ちをグッと堪えて、廊下は早足で歩いて靴箱へと向かい、

外靴に履きかえると、茜ちゃんにも負けない気持ちでダッシュを始めた。


134 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 02:02:21.76Ba5bNvc4o (19/37)

――

美穂「最近、何か悪いことしたっけ・・・・・・。」

学校を出ると、

まるで急ぐ美穂の足取りを止めるために立ち塞がるように、

幾つも災難が待ち構えていた。

たまたま目の前で、道路の補修工事が始まったり、

たまたま狭い道の前方から相撲取りの行軍がやってきたり、

中でも、たまたま老人が大荷物を持って横を通りがかったのは焦った。


工事はヒヨちゃんが壁を走り、

相撲取りはヒヨちゃんがジャンプで跳び越え、

老人はヒヨちゃんが急いで老人ごと目的地まで運んで戻ってきた。


美穂「見えざる宇宙の意思でも働いてるのかなぁ・・・・・・。」


当らざるとも遠からず。

見えざる何らかの力が、ここまでの難関を引き起こしているのは確かで、

さらに言えば、美穂を巻き込んでいる異常事態の原因もまた、”その力”であったが、

それを知るのはずっと後のこと。


135 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 02:03:05.40Ba5bNvc4o (20/37)



卯月「・・・・・・だったんだよぉ!」

茜「・・・・・ですか。・・・・・・・だよ!」

卯月「なんか・・・・・・・・すごいよね・・・・・・・・!」


美穂「居たっ!!」

ヒヨちゃんが頑張ってくれたおかげで、2人に追いつくことが出来た。

それにしても何の偶然か、2人を見つけたのは、

行きの道の時と同じく、彼女達が横断歩道を渡っている時で、

今度こそは逃さないと、必死に足を動かす。


しかし無常にも信号はまたしても、2人が渡りきったところで赤に変わる。

美穂「うぅっ、見えざる宇宙の意思っ!?」

完全にデジャヴだった。

きっと2人を声で止めようとすれば、またトラックが通りがかって、

美穂の声を掻き消してしまうのだろう。

いっそヒヨちゃんを呼んで、道路を飛び越えてしまえば・・・・・・


と気持ちが焦っていたせいか、

走る勢いが余って道路に飛び出してしまう。

「危ないよッ!!」

美穂「うわっ!」

手を力強く捕まれ、後ろに引っ張られた。

ブロロンッ!

案の定、トラックが目の前を通り過ぎる。


美穂(あ、危なかったかも・・・・・・)

そして、やはりと言うべきか。

トラックが通り過ぎた後には、2人の姿はとっくに見えなくなっていた。


136 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 02:03:44.37Ba5bNvc4o (21/37)


とは言え、それほど距離が大きく離された訳ではないのだろう。

今からもまた急げば、『普通』であれば追いつける距離だ。


けれど美穂が続けて追いかける気になれなかったのは、

流石にこの事態が『普通』ではない、『異常』である事に気づいていたからだ。


美穂(斥力・・・・・・。)

なんとなく、そんな言葉が浮かんだ。

理科の授業で習った覚えがある言葉。

物体同士が互いに引き合う力である『引力』の反対。

物体同士が互いに斥け合う力。それが『斥力』。

例えば磁石のN極にN極を近づけるように、あるいはS極にS極を近づけるように、

追いかけても追いかけても引き離される。


美穂(何かが私から2人を遠ざけようとしているような・・・・・・そんな感じが・・・・・・。)

美穂(でも・・・・・・どうして?)

「大丈夫?」

美穂「あ、す、すみませんっ!」

そう言えば、と。トラックに轢かれそうなところを助けられていたことを思い出す。

美穂を助けた、その人物は、

茶色の長い髪を、後ろで結った。所謂ポニーテールが目立つ女の人だった。


137 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 02:04:26.43Ba5bNvc4o (22/37)


「気をつけなよ?」

その人は美穂と同じ制服を着ていた。

つまりは、美穂と同じ学校に通う女子高生と言う訳で。

美穂「は、はい。ごめんなさい・・・・・・ありがとうございましたっ。」

「いいって、気にしなくても。美穂ちゃん。」

美穂「?」

美穂「あの、どうして私の名前を?」

クラスも違うし、おそらく学年も違うその人に名前を知られていると言う疑問。

「そりゃァ、美穂ちゃんは、既に学校だとちょっとした有名人だからかな。」

美穂「・・・・・・・あっ!そっか!」

ハンテーン騒動で広まった「ひなたん星人」の名前。

本名ではないが、けれど美穂の通う校内であれば、実名は簡単に知れる。

「小日向美穂」の名前も自然と噂になっているのだろう。

美穂(・・・・・・改めて思えば、すごく有名人になってるよね。)

普段なら恥ずかしさで卒倒しそうな事実だが、

現在、巻き込まれている事態が事態なので、冷静に受け止めることが出来た。


「私は愛野渚、3年生!バスケ部キャプテンだよッ、よろしくッ!」

美穂「えっと知ってるみたいですけれど、小日向美穂、2年生です。よろしくお願いします。」


138 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 02:05:03.34Ba5bNvc4o (23/37)


渚「それにしても随分と深刻な顔してたけどさァ。悩み事?だからって道路に飛び出すのはよくないんじゃない。」

美穂「いえ、悩みがあるから道路に飛び出したわけでは無くて・・・・・・。」

美穂「あれ?いや、やっぱりそう言う感じなのかも・・・・・・?」

渚「?」

渚「うーん、私にはよく分からないけど、悩みがあるなら相談になら乗ろうかァ?」

美穂「・・・・・・。」

ありがたい申し出だった。

今起きている事態は、少女が一人で抱えるには少々大きすぎる悩みだったからだ。

美穂「えっと、私自身どうしてこうなってしまったのかとか全然理解が追いついてなくて。」

渚「?」

美穂「もしかしたら、悩みなんて本当は無くて、私の勝手な思い込みなのかもしれなくて。」

渚「??」

美穂「本当に、荒唐無稽で突飛すぎて、訳分からないと思われても仕方ないくらい変な事言うかもですけど。」

渚「???」

美穂「私の悩み、聞いてもらえますか?」

渚「お、おう。」


傍から見れば電波にしか聞こえない発現の数々だったが、本人は至って真剣である。

とは言え、普通なら引いてしまっていてもおかしくない。

愛野渚が面倒見の良い性格であって良かったと、後から美穂は思い返すのだった。


139 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 02:06:00.00Ba5bNvc4o (24/37)

――

渚「えっと、話をまとめると。」

渚「夏休みが明けたら、自分一人だけクラスが変わってて、」

美穂「はい。」

渚「友達が友達じゃなくなってて」

美穂「はい。」

渚「友達に近づこうとすれば、何かが邪魔するように立ち塞がって近づけない。って事でいいかな?」

美穂「はい。」


渚「うん・・・・・・本当に突飛だったなァ。」

美穂「ですよね?」

あまりに『普通』じゃない話に、渚は戸惑う。

当然の反応だろう。『普通』なら起こるはずが無いあまりに信じがたい話で、

しかも美穂自身ですら自分の『普通』の方を疑ってしまうほどに確証がない。

渚「けれど、まァ、信じるよ。」

美穂「えっ。」

だから信じると言って貰えたことが、信じられないほどだった。

美穂「ど、どうしてですか?」

渚「更衣室に入ったら宇宙人がいるくらいには起きうる事なのかもって思うから、かなァ。ハハッ」

冗談めかして彼女は言った。

美穂「・・・・・・・う、うぐっ」

渚「えっ?」

美穂「うわぁぁぁん!」

泣いてしまった。それはもう大泣きだった。

渚「わわっ!ふ、ふざけて言った訳じゃなくってさ!ちゃんと信じてるッ!信じてるからさッ!!」

美穂「そうじゃなぐって・・・・・・ぐすんっ」

心細かった。

友達が友達じゃなくなってしまった事が、すごく心細かったから。

だから、

美穂「すごくこわかったけど、信じてもらえたのがうれしくっで、ありがとうございます・・・・・・。」

渚「お、大げさだなァ・・・・・。」


140 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 02:07:03.03Ba5bNvc4o (25/37)

――

渚「落ち着いた?」

美穂「はい、どうにか・・・・・・。」

大泣きしたおかげで、精神的にはかなり落ち着かせることが出来た。

美穂「渚さん、泣いてる間、傍にいてくれてありがとうございます。」

渚「イイって、イイって。今日は部活も無くて暇だったからね。」

渚「さて、それじゃあ美穂ちゃんを悩ませる事態を解決しよッか。」

美穂「え、えと・・・・・・そこまで付き合ってもらうと悪い気がします。」

面倒見の良い彼女は、事態の解決まで手伝おうとしてくれているらしいのだが、

この事態は美穂とその周囲にのみ降りかかった異常であり、きっと渚には関係ない事態なのだ。

巻き込んでしまう事には少なからず、罪悪感がある。

渚「ドンマイッ。気にしないッ!一人じゃ解決できない事なんでしょォ」

美穂「それは・・・・・・たぶんそうなんですけど。」

渚「一人だけで超えられるラインなんてさァ、本当はなかなか無いんだ。」

渚「だから頼れる時は、周りに頼るッ!それがチームワークッ!ってね。」

そう言って、胸を叩くようにジェスチャーをした。

困った時は頼ってくれていいと言う事なのだろう。

美穂「・・・・・・ふふっ。」

渚「おっ、笑ったね。」

美穂「す、すみませんっ!おかしかった訳じゃないんですっ!」

美穂「ただ本当にキャプテンって感じで、頼り甲斐がある仕種だったのでつい・・・・・・。」

渚「いや、良い顔だったよォ?やっぱり笑顔が一番だねッ!」

そう言って、彼女も爽やかに笑ったのだった。

彼女のこう言うところに、バスケ部の後輩達は付いて行こうとするのだろう。

美穂「あの・・・・・・渚さん、本当に頼っちゃってもいいですか?」

渚「もちろんサッ、街のヒーローに頼られるなんて光栄だよッ。」

美穂「ご迷惑お掛けしますけどよろしくお願いしますっ!」

渚「オーケーッ!任されたッ!」


141 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 02:08:11.36Ba5bNvc4o (26/37)


渚「・・・・・・とは、言ったものの。私にも何か良いアイデアがある訳じゃないんだよね。」

美穂「そうですよね。こんな事、解決するって言っても、どうすればいいかもわからないですし・・・・・・。」

友人が友人じゃなくなっていると言う事態。

あまりに普通ではなく、そもそも原因すらわからない。

けれど、一緒に考えてくれる人が居ると言うのはすごくありがたい事だった。

渚「さっきも言ったけどさァ。困った時は誰かに頼ればいいと思うんだ。」

渚「一人で突っ走ってるだけで、ゴールに辿り付けるとも限らないしね。」

渚「他にもパスを回せる相手が居るなら、そっちに回してみてもいいんじゃない?」

美穂「・・・・・・他に相談できる相手が居ればって事ですね。」

渚「そう言う事ッ!」

美穂「うーん。」

真っ先に思い浮かべたのは鬼の少女。

例えば今回の事態が妖怪によるもの、だとすれば彼女の知識は頼りになるだろう。

けれど、なんとなく今回の事態は、肇に頼れる事では無い気がした。

美穂(肇ちゃん、ほんの少しだけど人里の事情に疎いところあるから・・・・・・。)

今回の事は、美穂の学校での友人関係に密接に関わっていること。

そして、学校とは人間社会そのものだ。

となると鬼の少女にはやや専門外の事情が関わっている気がした。

肇に助けを呼ぶのならば、少なくとも妖怪の類が関わっていると確定してからの方が良いだろう。


後は、頼れる人と言えば。


142 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 02:09:01.38Ba5bNvc4o (27/37)

――


聖來『それで、アタシに電話してきたんだね。』

美穂「はい、セイラさん。何か分かりませんか?」

元アイドルヒーロー、水木聖來。

ヒーローとして活躍してきた彼女なら、

こう言う事態に対する策もあるかもしれない。

聖來『何時の間にか、友達が友達じゃなくなってるか。』

聖來『本当だとしたら、すごく怖いことだね。』

美穂「えっと、信じられない事かもしれないですけど、でも本当の事なんです。」

聖來『大丈夫、信じるよ。美穂ちゃんが嘘付くとは思えないからね。安心して。』

美穂「セイラさん・・・・・・ありがとうございますっ!」

「信じる」と即答してくれるような、頼れる人が増えて、心強かった。

聖來『けれど、今の世の中には不思議な事が山ほどあるからね。』

聖來『だから、原因の特定は難しいかもしれない。』

美穂「確かに・・・・・・。」

宇宙人の実験しれないし、未来人の陰謀かもしれないし、超能力者の仕業かもしれない。

今の時代、そのどれが原因だとしても不思議ではないのだ。

聖來(紗南ちゃんを借りれたら一発なんだけど・・・・・・。)

聖來(特に理由もなく連れて行けないからなぁ・・・・・・。)


143 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 02:09:45.70Ba5bNvc4o (28/37)


聖來『まあ、少しずつでも手がかりを探ってみようか。』

美穂「えっと、お願いします。」

原因の特定が難しいのならば、地道に検証を続けるしかないだろう。

聖來『まず、美穂ちゃんの身に何が起きているのか。』

聖來『1つ目。美穂ちゃんが所属していたはずのクラスが、違うクラスになっている。』

聖來『2つ目。美穂ちゃんが友達と思っていた子が、友達じゃなくなってる。』

聖來『この2つは、美穂ちゃんと周囲の間で認識の齟齬があるって事だね。』

美穂「・・・・・・はい。」

その認識の違い故に、

もしかしたら本当は周囲は元からこう言う形で、

自分だけが異常なのかと、そう美穂に思わせるまでに至った。

聖來『それはないね。』

美穂「えっ?」

聖來『認識を弄られているのだとしたら、美穂ちゃんじゃなくって周囲の方だよ。』

美穂「ど、どうしてそう言い切れるんですか?」

流石にそこまで言いきってしまえるのは、不思議だった。

聖來『もちろん適当に言ってるわけじゃなくって、確証はあるよ。』

聖來『鬼神の七振り、日本一、横暴な刀『小春日和』って言うね。』

美穂「・・・・・・・あっ。」

聖來『『小春日和』は最も我の強い刀。どんな洗脳からも所有者を守ってくれる。』

聖來『そう言う風に肇ちゃんから聞いてるよ。』

『小春日和』の所有者である美穂は、刀を抜いている間はあらゆる精神操作を受け付けない。

そして、「ひなたん星人」と記憶を共有している美穂は、刀を納めている間もその認識を誤解することはあり得ないのだ。

聖來『だから、むしろ。こう考えるべきじゃないかな。』

聖來『何らかの現象の作用によって、美穂ちゃんも含めて周囲の意識と状況は改変されるはずだったけれど。』

聖來『『小春日和』のおかげで美穂ちゃんだけ、意識の操作を免れた。ってね。』

美穂「・・・・・・。」

恐ろしいことだった。何だか気分が悪くなる。

ヒヨちゃんが居なければ、この異常事態に気づくことすら出来なかったのだろうか。


144 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 02:11:00.05Ba5bNvc4o (29/37)


聖來『そして、3つ目。友達に近づこうとしたら何らかの邪魔が入って、近づくことが出来ない。』

聖來『この事がそもそもの原因に関わってそうだね。』

聖來『たぶんだけど、美穂ちゃんのクラスが変わったのも、友達であるはずの子が友達でなくなっているのも』

聖來『その近づけない2人の友達から美穂ちゃんを引き離そうとした結果なんじゃないかな。』

美穂「でも、どうしてそんな・・・・・・。」

もし、そうなのだとして。

どうして彼女を、島村卯月、日野茜の両名から引き離す力が作用しているのだろう。

聖來『それは・・・・・・。』

美穂「・・・・・・。」

聖來『ちょっとわからないんだけどね。』

美穂「うっ・・・・・・うぅ。」

意気消沈。元アイドルヒーローでもはっきりした原因は特定できないようであった。

聖來『ごめんね。』

美穂「あっ、いえ!セイラさんが謝ることなんて全然ないですっ!」

美穂「セイラさんのおかげで、ちょっと原因に近づけた気もしますしっ!」

聖來『・・・・・・。』

美穂「セイラさん?」


145 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 02:11:40.39Ba5bNvc4o (30/37)


聖來『今回はアタシ、そっちに行けそうに無いんだ。』

聖來『今はちょっと立て込んでてさ。』

美穂「そ、そうなんですか?あっ!ごめんなさいっ!忙しい時に電話しちゃって・・・・・・。」

聖來『あっ、ううん。それはいいんだけどね。』

聖來『ヒーローが助けを求められてるのに、行けないのは情けないな。って思ってね。』

聖來『だから、ごめんね。』

美穂「セイラさん・・・・・・。」

美穂「ううん。こうやって電話で話を聞いてもらえただけでも、私凄く助かってます!」

聖來『・・・・・・ありがと、美穂ちゃん。』


聖來『アタシは行けないけれど、誰か代わりに行ってもらえないか。知り合いに当ってみるよ。』

美穂「セイラさんの知り合いの人ですか?」

聖來『うん。あっ、もちろん悪い人じゃないよ。』

美穂(セイラさんに悪い知り合いとか居るのかな?)

とりあえず彼女の知り合いならば、きっと頼りになる人なのだろう。

聖來『それまで待っててもらえるかな?』

美穂「はいっ!セイラさん、お願いします!」

聖來『うん、それじゃあまた後で連絡するから。』

そうして、元アイドルヒーローとの連絡を終える。

相変らず、この事態の原因は特定できなかったが、

それでも、味方が増えて、解決に動いてくれているのだと思えば、安心できた。


146 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 02:12:47.80Ba5bNvc4o (31/37)


渚「ん?電話、終わったかな?」

美穂「はい。セイラさんの知り合いの人が来てくれるみたいです。」

渚「そっかァ、なら少し安心だねッ!」

美穂「はいっ!」

渚「にしても、美穂ちゃんは元アイドルヒーローと知り合いかァ。何だか凄い交友関係だね。」

美穂「う、うん。改めて考えるとすごい事ですよね。」

渚「来てくれるって言う知り合いの人もヒーローなのかな?」

美穂「それは、わからないです。どんな人が来てくれるのもまだわからなくって・・・・・・。」

渚「どんな人が来るかわからないか。」

渚「じゃあさ、こっちも事態の解決のために少しでも動いておいた方がいいよね。」

渚「その知り合いの人が来るまで、まだ時間あるのかなァ?」

美穂「えっと、はい。たぶん、まだ時間は掛かると思います。」

渚「さっき思い出したんだけどさァ。私の後輩に占いとか好きな子が居て。」

渚「何でも、この辺に百発百中の占い師が居るそうなんだよね。」

渚「詐欺とか思い込みとかじゃなくって、本当に百発百中らしいよォ。」

美穂「百発百中の占い師・・・・・・。」

渚「原因を特定するならさ、占いに頼ってみるのもアリじゃない?」

美穂「なるほど。」

手がかりが少ないこの状況。

闇雲に考えても真相まではなかなか辿りつけなさそうだ。

それならいっそ、一か八か、占いに頼ってみるのもいいかもしれない。

美穂「渚さん、お店の場所はわかりますか?」

渚「もちろんッ!そう言うと思って、ちゃんと聞いておいたよ。」

手の中の携帯電話をヒラヒラと見せる。

どうやら美穂が電話している間に、彼女は後輩の子に、その店の場所を聞いていてくれたらしい。

美穂「ありがとうございますっ!渚さん、案内よろしくお願いします!」

渚「オーケーッ!それじゃァ、行ってみよっかァ!」


美穂は事態の解決のため、まずは占い師に会ってみる事にした。

これから美穂の取るべき行動の指針にはなるかも知れない。

果たして、吉が出るのか、凶が出るのかはわからないけれど、

もう一度、友達と「普通」に過ごせる事をただ祈る。


おしまい


147 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 02:13:43.49Ba5bNvc4o (32/37)


はい、と言う訳で「普通力」を思いっきり拡大解釈した結果。とんでもない事になったお話。
”ヒーローと友達”は「普通力」さん的にやっぱりアウト判定だろうと思い、こんな話になった模様。
小日向ちゃんがアイドルヒーロー目指すなら、超自然的に回りを「普通」にする島村さんはちょっとした大ボスになり得る。

そして申し訳ないですが、続きます。

学祭が始まるまでに、お話を書ききれなかったけど、
時系列的には、学祭までに問題なく1組に戻って、島村さんたちとも友達に戻ってるはずなので・・・・・・ご安心を(?)。

と言う訳でキャプテンお借りしましたー
後編でも引き続きお借りすることになると思います


148 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 02:14:52.42Ba5bNvc4o (33/37)

おっと、島村さんと茜ちゃんもお借りしてましたー


149 ◆hCBYv06tno2013/09/29(日) 02:15:34.04sIYt99n50 (1/1)

乙ー

普通ってなんだっけ?(震え声

世界を改変するレベルだな…恐るべき島村さん


150VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/29(日) 02:16:24.82XdnkedZuo (1/1)

おつ……おぉう、卯月ぱねぇの

世界改変って割と本当にラスボス級能力だよね


151 ◆zvY2y1UzWw2013/09/29(日) 08:35:38.48PdbdJ5cY0 (1/1)

乙です

…なんだこの世にも奇妙な物語はー!?
普通って怖い


152VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/29(日) 10:41:42.60TyTWNx8XO (1/1)



渚を出してもらえて嬉しい

朋ちゃんも出そうですごく嬉しい


153VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/29(日) 12:22:46.50KsgwvOmlo (1/1)

乙乙

普通力すげぇ。無自覚改変ってある意味ハルヒみたいだなぁ
まったく逆なんだけど


154 ◆UCaKi7reYU2013/09/29(日) 21:33:43.461rKQFK7V0 (1/14)

皆様どうも、久しぶりの方はお久しぶりです。

挨拶もそこそこに新イベントを始めます!


155 ◆UCaKi7reYU2013/09/29(日) 21:34:45.931rKQFK7V0 (2/14)

幾度かの事件を経て、今年も季節は巡りに巡って秋。

人によっては食欲の秋だとか、スポーツの秋だとか、読書の秋だとか色々言うけれど。

ある地域に住んでいる学生一同に関して言えば、また別の言い方もある。

即ち……祭りの秋………「学園祭」である。

ただし、ここで言うところの学園祭は少し意味が異なる。

通常、学園祭や文化祭というのはその学校の生徒一同が四苦八苦しながら出し物を用意したりするものであるのだが……

ここで言う学園祭とは周辺の小中高更には大学まで巻き込み、その上一般からも参加可能というイロモノ行事。



―――いつの日からか「秋炎絢爛祭」等と呼ばれるようになった、超大型行事が間近に迫っていた。




156 ◆UCaKi7reYU2013/09/29(日) 21:35:30.831rKQFK7V0 (3/14)

―――アンティークショップ「ヘルメス」

「……まぁ、これでいいでしょう」

店の奥、錬金術の工房に閉じこもっていた雪乃は深く息を吐くとゆっくりと体を伸ばす。

その彼女の周りには作成されたばかりの魔道具―――とは言っても主に一般生活向けに作られた物だが―――が所狭しと並べてあった。

「簡単なものとは言え、さすがにこの量は疲れますわね…あら、いつの間にか切らしてしまいましたか」

喉を潤そうとそばに置いてあったティーポットを手に取るが軽く、中を見てみればなみなみと入っていた紅茶が底をついていた。

「…仕方ありませんか、朝からずっと作り続けていましたものね」

窓から差し込む光はオレンジ色で、時刻が夕方であると雄弁に語っていた。

そもそも、なぜ彼女がそこまでして大量に一般向けの魔道具……言い換えるなら魔導雑貨を量産しているのか。

その答えは、今回の秋炎絢爛祭……正確にはその開催地にあった。

「ふふ、学院からの頼みとは言え少し気合を入れすぎましたわね」

―――『京華学院』

それが、今回の祭りのメイン会場であり、同時に雪乃の大学時代の母校でもあり、さらに言えば国内最大規模の教育機関でもある。

その学院から直々に、今回の絢爛祭で店を出してみる気はないかと誘われたのだった。

そしてその誘いを二つ返事で受けたからこそ、雪乃は今現在工房に引きこもる生活をしているのであった。

「ふふ、私もまだまだですわね…この季節になるといつも胸が高鳴ってしまいます」

そうして、もはや板に付いてきた経営者としての顔と錬金術師としての顔、その両方を満遍なく出すために雪乃は紅茶を飲みに行くのであった。




157 ◆UCaKi7reYU2013/09/29(日) 21:36:09.641rKQFK7V0 (4/14)

―――同時刻、榊原邸、さとみんルーム。

「ほえぇ……疲れましたぁ…」

『!』

上品な、それでいて可愛らしくまとまった自室のベッドで寝転んでいるのは榊原里美。

その横に備え付けられている机で伸びているのはくとさん。

一人と一匹はそれぞれくてーっと力を抜いてリラックスしていた。

『てけり、り!』

「あー!隊長さんありがと~です~」

と、そこに黒いタール的な物体が奇怪な声を上げながら入ってきた。

その上には紅茶セット一式、ご丁寧な事にくとさん用のカップまであった。

『てけりてけり!』

『てけりー!』

『てけりりり』

「あ、しょーさんとごーくんとすーちゃんも一緒ですね~」

さらに続いて、同じような物体で緑っぽいのと青っぽいのと赤っぽいのがわいわいと部屋に詰めかけてくる。



158 ◆UCaKi7reYU2013/09/29(日) 21:37:02.621rKQFK7V0 (5/14)

―――なぜ名家たる榊原家の邸内にこんな奇怪な生物がいるのかは、実は里美のちょっとした探検と勘違いの結果であるのだがそれはまた別の話である。


と、それぞれがそれぞれ自らの体の上にスコーンやらパンケーキやらを乗せて詰めかけてくるため、夕食前に軽く食べることになった。

「ほえぇ……それにしても……やっぱり見つかりませんねぇ…」

と、ここで里美が困ったように呟く。

『×』

くとさんもその呟きを聞き逃さずに反応し、若干うなだれてしまう。

今現在、彼女たちが抱える問題がひとつあるのだった。

それは、出来ることならとにかく早く解決したい事でもあり、






「……どこに消えてしまったんでしょうかぁ………『屍食教典儀』…」

旧き魔道書の中でも数多くの血塗られた経緯を持つ、一冊の魔道書の行方についてであった…





『てけり、り!』
(約:そんなことより里美様のペットに、いやむしろベッドになりたい)

『!!?』

「ほぇ?くとさんどうかしましたかぁ?」

………ただし、本人達はイマイチどの位重要なことか分かっているのか不明なのだが。



159 ◆UCaKi7reYU2013/09/29(日) 21:38:31.011rKQFK7V0 (6/14)

―――さらに同じ頃、某中学校。

「……ここに来るのも久しぶりに感じますねぇ」

中学の制服に身を包み、小道具や台本とメモにライトノベル等などが雑多に散らばった大きな机の隅に座って足をぶらぶらさせているのは日菜子であった。

「あ…これは去年のコンクールでやった台本じゃないですかぁ……むふふ、あの時は大変でしたよ?」

そばにあった台本をひとつ手に取り、パラパラと流し読みにする。

注釈や修正、動きのメモに時には落書きまで書き込まれている台本は所々が切れていたり皺皺になっていたりしているが、懐かしむように日菜子は読み進める。

「……むふふ、わかりましたぁ?これ、結構弄ってますけど元々は「白雪姫」なんですよぉ♪」

夕日が差し込む「演劇部」の部室の中で、確かに一人しか居ないはずなのに相変わらず誰かと話している様子の日菜子。

「……それにしても、困りましたねぇ」

パタンと台本を畳んで横に置き、彼女にしては珍しく少し困った表情を浮かべる。

「…まさか、少しいないうちに皆いなくなってしまうとは思いませんでしたぁ…」

一人、部室でポツリと呟く。


160 ◆UCaKi7reYU2013/09/29(日) 21:39:26.011rKQFK7V0 (7/14)












―――そう、「一人」なのだ。

他の部活が活動真っ只中の時間帯で、一人。








―――つまり、演劇部の部員は、日菜子ただ一人という事である。

………その日菜子にしても、実は手芸部と二足の草鞋を履いているのだが気にしてはいけない。








161 ◆UCaKi7reYU2013/09/29(日) 21:40:56.511rKQFK7V0 (8/14)

「どうしましょうかぁ……」

病欠+夏休みを終えて久しぶりに登校してきたらこれである。

「まぁ、今年になってから殆ど活動してなかったのが原因だとは思いますけど……ちょっと先輩方には申し訳ないですねぇ」

日菜子自身としては、演劇部はそこそこ気に入っていた。

それに、部の先輩方には良くしてもらっていたのでなんとか再興したいとも思う。

となると、やることは……

「部員集め、ですよねぇ……王子様、何か良い案ないですかぁ?」

「………あぁ、やっぱり、こればっかりは地道に探すしかないですよねぇ…とりあえず、元居た人たちには声をかけてみましょうかぁ………それと」

「募集のポスターと……ゲストの募集ですねぇ。この際他の学校の人でも探してみましょうかぁ?」

先ほど作ったばかりの手作りポスターを眺めながら、日菜子はゆったりとひとり時間を過ごしていた。

「……ただ、今回も騒がしくなりそうですねぇ……むふふ♪」

そう、結局彼女はこんな状況でも楽しんでいるのであった……


162 ◆UCaKi7reYU2013/09/29(日) 21:41:48.581rKQFK7V0 (9/14)









―――良しも、悪しも、聖なる者も、魔たる者も、人ならざる存在も問わずに、今年も祭りが始まろうとしていた。

街は活気にあふれ、同時に様々な噂が流れ始める。








163 ◆UCaKi7reYU2013/09/29(日) 21:42:24.481rKQFK7V0 (10/14)




―――曰く、この街には亡霊が現れる。

―――曰く、最近昆虫や動物に似た機械生命体が現れるようになった。

―――曰く、夜な夜な恐竜のような影が現れる。

―――曰く、ルナール社が密かに追っている物がある。

―――曰く、森と化した街の跡地から時折人影が見える。

―――曰く、塩水を浴びる人がいるらしい。

―――曰く、京華学院には『魔獣』が住んでいる。

―――曰く、最近小さくて珍妙な生物を見かけるようになった。






―――曰く、今年の祭りも、騒がしくなりそうだ。



164 ◆UCaKi7reYU2013/09/29(日) 21:44:00.061rKQFK7V0 (11/14)

イベント情報
・イベント「秋炎絢爛祭」が開始されました!
・現在は「祭りの準備期間」となっております。
・それに合わせて街中・市内中が騒がしくなるとともに様々な噂が飛び交い始めました!
・日菜子が部員募集中です。他校の生徒でも大丈夫なようで、街中の掲示板に張り紙を貼っています。


165 ◆UCaKi7reYU2013/09/29(日) 21:45:11.761rKQFK7V0 (12/14)


投下終了、あんまり書いてもアレなのでさっくり開始してみました!
とうとう始まる学園祭、どうなることやら……伏線も散りばめてしまったという。

という訳で、相変わらずの駄文&いつもながらのおめ汚し失礼しました!



166@設定 ◆UCaKi7reYU2013/09/29(日) 21:48:35.121rKQFK7V0 (13/14)

『秋炎絢爛祭』
複数の小・中・高に果ては大学まで一斉に文化祭・学園祭を始める某市の大型行事。
元々はそれぞれの学校が単独で学園祭や文化祭をしていたが、ある時災害により人口が激減。
同時に学生の数も減ったが、とある市役員の提案により地域再興の目的も兼ねて各学校の生徒を集めてイベントを始めたのがきっかけ。
それ以来、年を追うごとに規模が大きくなり完全に再興を果たした現在でも続いている。
開催地は地域内、ひいては国内でも最大規模を誇る「京華学院」。
他校の生徒同士が交流できる機会である他に、地域交流の目的のために一般の出店も許可されている。
五日間という他に類を見ない開催日数もあり、準備期間も含め期間中は市内のあらゆる場所が慌ただしくなる。

『京華学院』
某市内に存在する国内最大規模の大学院。
五年制の大学院コースはもちろん、四年制の一般大学コース、二年制の短大コース等がある。
更にはその中でも受けれる授業は更に豊富であり、古代エジプトの研究から超高層ビルの設計方法まで学べるとまで噂されている。
また、最近では続々と現れる能力者や歴史の裏に隠れていた種族に関する研究、果ては魔法に関する事まで学べると密かに話題になっている。
余談ではあるが、これに際してアメリカに存在する、主に超常現象に特化したとある大学の協力を取り付けたらしい。
敷地面積に関しては東京ドーム4個分(仮)、裏山まで存在する。

「屍食教典儀」
旧き魔道書の一冊であり、闇に生きる者達が行った背徳的行為に関する記述を残す書物。
その内容は、正常な感性を持つ人間にとっては到底受け入れられるものではなく、まさしく邪悪の一端である。
主に記されている系統は、深淵・瀑布・地殻。



167@設定 ◆UCaKi7reYU2013/09/29(日) 21:49:21.091rKQFK7V0 (14/14)

『秋炎絢爛祭』
複数の小・中・高に果ては大学まで一斉に文化祭・学園祭を始める某市の大型行事。
元々はそれぞれの学校が単独で学園祭や文化祭をしていたが、ある時災害により人口が激減。
同時に学生の数も減ったが、とある市役員の提案により地域再興の目的も兼ねて各学校の生徒を集めてイベントを始めたのがきっかけ。
それ以来、年を追うごとに規模が大きくなり完全に再興を果たした現在でも続いている。
開催地は地域内、ひいては国内でも最大規模を誇る「京華学院」。
他校の生徒同士が交流できる機会である他に、地域交流の目的のために一般の出店も許可されている。
五日間という他に類を見ない開催日数もあり、準備期間も含め期間中は市内のあらゆる場所が慌ただしくなる。

『京華学院』
某市内に存在する国内最大規模の大学院。
五年制の大学院コースはもちろん、四年制の一般大学コース、二年制の短大コース等がある。
更にはその中でも受けれる授業は更に豊富であり、古代エジプトの研究から超高層ビルの設計方法まで学べるとまで噂されている。
また、最近では続々と現れる能力者や歴史の裏に隠れていた種族に関する研究、果ては魔法に関する事まで学べると密かに話題になっている。
余談ではあるが、これに際してアメリカに存在する、主に超常現象に特化したとある大学の協力を取り付けたらしい。
敷地面積に関しては東京ドーム4個分(仮)、裏山まで存在する。

「屍食教典儀」
旧き魔道書の一冊であり、闇に生きる者達が行った背徳的行為に関する記述を残す書物。
その内容は、正常な感性を持つ人間にとっては到底受け入れられるものではなく、まさしく邪悪の一端である。
主に記されている系統は、深淵・瀑布・地殻。



168VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/29(日) 22:00:56.00DgXdED3q0 (1/9)

乙です
学園祭イベントキター!
噂がなんだかワクワクするね!!


169VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/29(日) 22:08:38.98sbEoghgl0 (1/1)

どうもネクロノミコン=サン(類推)

噂が現実に…?ペルソナ?なんのこったよ(すっとぼけ)


170 ◆hCBYv06tno2013/09/29(日) 22:30:51.73mBMauxauO (1/2)

乙ー

演劇か……よし!加蓮だそう(学生ですらない)

あとショゴスw


171 ◆zvY2y1UzWw2013/09/29(日) 23:14:16.85DgXdED3q0 (2/9)

サリナさんとプロダクションの話投下するヨー


172 ◆zvY2y1UzWw2013/09/29(日) 23:17:06.44DgXdED3q0 (3/9)

サリナとメアリーは祟り場の宴が収束した後、やっと例の奇妙な竜族の調査を始めることにした。

翼がなく、二本の足で立つ竜だとか、頭がやけに固い竜だとか、首の長い竜だとか…魔界で得ていた目撃情報を追う。

海に出たらしい、街に出たらしい、歌を歌う竜がいるらしい…様々な情報を追うが、未だに尻尾はつかめない。腹が立つ。

そして意外なところから意外な情報を得る。宴の時に酒を飲んだ仲である、周子という名の妖怪が少し話がしたいと二人を誘ったのだ。

宴会の場でも少し話した、メアリーが竜族である事と、奇妙な竜族の話を聞いて少し思うところがあったようだ。

ちょっと小洒落たカフェ、そこでいきなり本題を話してきた。

「探しているって言う例の竜族の話とは関係ない話なんだけど、子供の竜なら知り合いにいるんだよねー。興味ない?」

「え、人間界に竜族の子?…シューコ、本当なの?」

「確かに聞いたことないねー…擬態能力持ちだったり?」

竜帝の子…薫の存在はサタンとキバ、その報告者であるユズ、そしてレヴィアタンのみが知っている。二人が首を傾げるのも無理はない。

それに竜族の擬態能力持ちは魔族に比べると少ないのだ。どのように人間界に溶け込んでいるのか興味もあった。

「いるんだなーこれが。目の前で竜の時の姿も見たから間違いないよ?」

「人間界に…うん、ちょっと会ってみたいかも。メアリーの友達にもなれそうだし。」

メアリー以外の竜族と、メアリーは戦争以降会っていない。同世代なら尚更会うのは難しい。

「お、興味持ったね?その子は龍崎博士っていう人と一緒に結構な頻度で『プロダクション』に来るよ。今日は確か来るはずだったし、よければ案内しようか?」

実に楽しそうに笑みを浮かべる。悪意からくるものでは無く、本当に…ただこれからの事に期待している笑み。

そしてサリナはその笑みの真意を察し、似た笑みで返した。

「じゃあお願いしちゃおうかな?」


173 ◆zvY2y1UzWw2013/09/29(日) 23:18:43.15DgXdED3q0 (4/9)

「お邪魔するよー♪」

「ふぅん、ここが…」

「…普通ネ」

プロダクションに一歩踏み入れて最初に思ったのは、実に「『普通』の事務所」と言ったところだろうか。

ちなみにメアリーは周子のように強い能力者で溢れるような禍々しいのを想像していた。

能力者の悩みを聞いたり、援助したりもするのだからきっと普通の方がいいのだろうと納得する。

ざっと入り口周辺を見渡していると書類に何やら書いたりしている男性がこちらに気付く。

「…周子、その人達は?」

「おっすピィさん、二人はねー…ちょっと前に仲良くなった『お友達』だよ。…薫ちゃんと博士いる?」

「ああ、向こうにいるが…その二人に用事か?」

「そういう事。じゃあ会ってくるねー」

実に普通の人間男性…と言ったところか。見た感じ能力者ではないようだ。

彼の横を通り抜け、二人がいるという部屋に向かった。


174 ◆zvY2y1UzWw2013/09/29(日) 23:20:20.62DgXdED3q0 (5/9)

プロダクションのとある部屋の中、博士は最近のカースの進化についてまとめ、薫は本を読んでいた。

プロダクションから一人ヒーローが出るということで、少し情報を纏めるべきと思っていたのだ。それにここに来ると少し気分転換になる。

そこへ扉をノックする音。扉を開けると、周子と知らない女性と少女がいた。

真っ先に目についたのは金髪の少女だ。薫よりは年上だろう。博士の後ろでまだ本を読んでいる薫に視線を向けている。

もう一人は…美女、と言うべきだろう。そんな雰囲気を纏った女性だ。彼女は博士を少し見て、薫を示して問いかけた。

「…いきなりで悪いけど、あの子が竜族の子なの?」

「…!き、君たちは一体…?」

「この子…メアリーも竜族の子でね、しばらく他の竜族に会ったことないから…ちょっとね。」

「何っ!?…この子が…そうか、この子も竜族なのか…」

メアリーと呼ばれた少女、彼女も竜族…魔界の住人。そして薫と同じように見た目はどう見ても人間だ。

「…ちょっと話さない?」

この女性はきっとただ者ではないだろう。…しかし、敵意を持っているようには見えない。

「せんせぇ、どうしたの?」

「ああ、この子…メアリーちゃんと暫く遊んでいなさい。…少しお話ししてくるよ。」

「はーい!」

「じゃあメアリー…怪我がないようにね?」

「大丈夫よ!」

サリナにメアリーが笑い、薫に手を引かれる。

「えっと、かおるだよー!よろしくねー!」

「メアリーよ。それでカオル、なにするの?」

「それじゃあねー…」

二人が遊び始め、それを確認すると扉を閉めて応接間へ向かった。


175 ◆zvY2y1UzWw2013/09/29(日) 23:22:36.28DgXdED3q0 (6/9)

応接間に入り、周子が答えが分かっているように笑みを隠しつつ一応質問する。

「あたしはいない方がいいかな?」

「…そうだな、二人きりでも大丈夫だろう。君が連れてきたのならね。」

「…あたしも信頼された物ですなー。じゃあ引っ込んでるねー」

ふりふりと手を振って出て行く。そしてソファに座ると博士が口を開いた。

「龍崎だ。…薫の親のようなものをしている。」

「アタシはサリナ。メアリーの親代わりをしているよ。」

「…なんと言えばいいのか…君も苦労しているのか?」

「そうだね、自分でも親なんてするとは…はぁ。…まぁ友達ができるなら何よりだよ。」

溜息を吐いて…それでも少しほっとしたような表情を浮かべる。

「あの子はどこで?竜族は人間界に滅多に出てこないと思うんだけど…」

「ああ、あの子は…拾ったんだ。魔界の戦争から逃げるために送られてきたと考えている。そしてその言い方…君は魔界の者なのか?」

「うん。魔界から…魔族かどうかは微妙なラインだけどね。竜族を嫌ってるって事はないから安心して。」

「そうか。…では話そう。薫は記憶を失っている…戦争の事も、自分の事も…何一つ覚えてはいない。」

「…」

「それでも、あの子…メアリーちゃんと友人になってもらえるなら嬉しい。…薫は力が強すぎる。いつか力に飲まれそうで…怖いんだ。
…勝手な願望だが同じ竜族の子と一緒にいれば…竜の力に慣れれば…力も制御できるのではないかと微かに期待もしている。」

「…確かに、竜の力は強いもんね。…髪飾りで抑えているみたいだけど、いつか限界が来てもおかしくないよ。」

真剣な眼差しでサリナは語る。これでも戦争で竜の力は思い知らされている。子供なら成長もするだろう…ただの人間には手に負えない程に。

「そうだな…ある魔族の少女にも言われた、いつか薫の力に身を焼かれると。それほど強い力を秘めていると。」

俯きつつ言う博士を見て、サリナは思考する。竜の子の様子やこれまでの会話からわかる。この男はきっと善人だ。

そして一つの提案をした。

「…そうだ、メアリーもまだ力使いこなせてないし…一緒に手伝ってあげるよ。まぁ調査する事もあるから頻度は低いと思うけど…
メアリーも薫ちゃんも、一緒にやれば学ぶことも増えると思うんだよねっ!」

「いいのかね?…君は大丈夫なのか?」

「舐めないでよ~?ウフフ、これでもアタシ、結構強いn「あああぁ!!!!」

ニヤリとサリナが笑い、自信満々に言葉を紡ごうとした瞬間、背後から声が響いた。


176 ◆zvY2y1UzWw2013/09/29(日) 23:25:11.71DgXdED3q0 (7/9)

「誰よ全く…常識ってものが…え?…え?」

少しイラッとしながら振り返って目を丸くする。二度見する程に驚いた。

「…アs…むぐぐ…!」

驚愕の理由…名前を呼ぼうとした本田未央・ラファエルの口を全力で駆けよって塞ぐ。

「今呼ぼうとした名前で呼ばないでよ…その名前で呼ばれたら迷惑なのっ!」

色欲の悪魔の名。それは人間界の信用問題において大変邪魔なものだ。

「…じゃあなんて呼べばいいのさー?」

「サリナよサリナ!そっちは!?」

「本田未央、高校一年生ですっ!!」

ぶい!っとピースをする未央…それに何故か頭痛が起こり頭を押さえる。

「…なんでここにいるの?」

「それはこっちのセリフだよ!…しっかし、あの時の事で殴られるかと思ったら丸くなったねー?ラファエルちゃんびっくり!」

「昔の事はいいでしょ…」

「あはは、じゃあ止めておくね!…そういえばまだ天界に戸籍あるけど帰る気は?」

むふふと悪戯っぽい笑みで問う。

「ない。魔界の方が楽しいもの!」

「ですよねー!そう答えると思った。そこはブレてないね。」

「…二人は知り合いだったのか。」

先程の会話はあまり聞こえていなかったようだが、様子から知り合いと分かった博士が呟く。

「あ!博士、いきなり来てゴメンね!ちょっとお客さんの顔見たくってさー!」

「ああ、大丈夫だよ。もう話は大体終わっているから…では、薫の事…よろしくお願いします。」

「…まかせて。失敗はしないように頑張るから。」

サリナに深々と頭を下げて博士は部屋を出ていった。未央はそれを見てうんうんと頷きながら言う。

「うーん、サリっぺは変わったようで変わってないねーいや、変わったかな?」

「…あんたは変わったわ…心の底からそう思う。あとサリっぺって何…?」

「そりゃ、今の私は本田家の女!パッション全開な未央ちゃんだからねっ!!ニックネームの一つや二つ、簡単に思いつくよー」

「あ、そういう意味ね。」

「サリぽん?サリっち?サリサリ?サリリン?どれがいいかね~?」

「どれでもいいわよ…」

なんとなく事情を察した。以前から人間好きなのはわかっていたがまさかここまでするほど好きとは…。

『前の会社の上司が何故かしばらく会わないうちに女子高生になっていた』サリナの心境はこんな感じである。


177 ◆zvY2y1UzWw2013/09/29(日) 23:27:02.06DgXdED3q0 (8/9)

応接間から出ると、周子がするりと近づいてきた。

メアリーと薫も一緒にいて、どうやら一緒に遊んでいたらしいく、ゲームをしている。入るときは見かけなかったフードを被った少女もいた。

「あ、お疲れー。そうそう、話に聞いてた変な竜の話、ちょっとみんなに話したら恐竜に似てるんじゃないかって結論になってさ。どう思う?」

「ん?キョーリュー?どういう竜?」

「人間が生まれる前に地球で生きていた生物だよ。んーっと…ピィさんちょっとパソコンで画像見せてー」

「あー…まあいいか。」

カタカタとすぐに検索結果が出る。出るわ出るわ恐竜の画像。

「…情報の話ど真ん中だね本当に。」

「噂にもなってるんだよ。恐竜が夜な夜な現れるってさ。」

「なるほど…この恐竜が蘇っているのか、それとも似た別物なのか…それは分からないけど…これで完全に分かったよ。」

「?」

「その『奇妙な竜族』は完全にアタシ達…魔界の住民が知ってる竜族とは別物だってね。」

腕を組んでさりげないアピールをしつつ、結論を出す。ピィは目をそらした。

…さて、これからどうしようか。それを考えつつ…

(ウフフ、これからよろしくってねっ!)

この男、からかいがいがありそうだ。色欲に溺れさせるつもりはないが…楽しませてくれそうだ。

そう予感して、クスリと笑いながら…サリナは目線をそらしたピィにウィンクした。


178 ◆zvY2y1UzWw2013/09/29(日) 23:31:04.19DgXdED3q0 (9/9)

以上です
プロダクションにサリナとメアリーが時折来るようになりました。薫とメアリーで色々特訓し、それを手伝うつもり。
『奇妙な竜族』こと古の竜族の情報も探しているようです

…あとピィに色仕掛けするつもり。こういう人からかいたい年頃なのよねー


179 ◆hCBYv06tno2013/09/29(日) 23:35:29.51mBMauxauO (2/2)

乙ー

ラファエルは世代交代してないのかー
あれ?そうなるとミカエルはそのままなのか?けどミカエルは今のルシファーと因縁はあるけど、姉妹関係なのはルシフェルで………
それともミカエルは世代交代したのかな?

そして、ピィは爆発しろ!!


180VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/29(日) 23:42:51.55+ysnhxz+0 (1/1)


ついにプロダクションに堕天使が!
ピィはもげろ

>>179
初代の堕天使達が結構長生きしてるし偉い天使は世代交代してなさそうなイメージ…
あとひじりんにもチエリエルの催眠がかかっている可能性が高いんじゃないかな


181 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 23:56:18.57Ba5bNvc4o (34/37)

乙乙

学祭はどうなるのかなー
参加するためにも早く島村さんとの決着つけないと・・・・・

プロダクションがまた賑やかになったか
堕天使と竜の2体目って結構な戦力集まってますよね


すげえ短い話投下しまー


182 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 23:56:44.63Ba5bNvc4o (35/37)



菲菲「と言う訳で、今日はフェイフェイの誕生日ダヨー!!」


菲菲「マンモンちゃん、祝ってイイヨ!」

桃華「・・・・・・・。」

桃華「急にわたくしの元に直接訪ねてきて、」

桃華「何が、”と言う訳で”なのか全く理解できませんわね。」

菲菲「人間界では誕生日はお祝いするものって聞いたヨー!」

桃華「フェイフェイさん。あなた大昔の生まれで、その上にずっと寝ていらしたのに。」

桃華「産まれた日なんて覚えてますの?」

菲菲「ぶっちゃけ覚えてないネ!」

菲菲「そもそもたくさんの神々を食べて吸収してる内に、最初にアモンとして産まれ落ちた記憶とかほとんど忘れちゃったヨ!」

菲菲「とりあえず今の自意識が芽生えたのがこのくらいの時期だったから今日が誕生日でイイと思ったネ!」

桃華「・・・・・・よくそんな適当なことで、よりにもよって『強欲』の悪魔であるこのわたくしに誕生日祝いをねだれた物ですわね。」

桃華「流石は、初代『強欲』の悪魔と言うべき・・・・ですの?」


桃華「・・・・・・・ですが、まあ」

桃華「丁度わたくしも休憩に入るところでしたし。」

桃華「ついでにですけれど、お茶くらいなら淹れて差し上げますわ。」

菲菲「!」

菲菲「すごく珍しいものが見れた気がするヨ!」

桃華「ええ、本当に。わたくしが直々に淹れるお茶なんて、Pちゃまでも滅多に飲めませんのよ。」

桃華「誕生日祝いと言うなら、これ以上はあり得ませんわね。」


183 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 23:58:01.74Ba5bNvc4o (36/37)


桃華「ところで、フェイフェイさんは今ままで何をしてましたの?」

菲菲「お祭りの会場でチャーハン作ってたヨ!」

桃華「・・・・・・・。」

桃華「まあ、何でもいいですけれど・・・・・・。」


菲菲「マンモンちゃんの方は、神を殺す武器は完成させたのカナ?」

桃華「・・・・・・あら?」

桃華「ウフッ♪もしかしてフェイフェイさん、警戒してますの?」

菲菲「当然ダヨッ!対神特化兵器なんて真っ先にふぇいふぇいが殺されそうダヨ!」

桃華「フェイフェイさんは数多の神を束ねた魔神ですものね。」

桃華「神を殺す力は、効き目抜群すぎるはずですわ。」

菲菲「本当ダヨッ!そんなの出来たらすごく困るヨ!」

桃華「あまり困ってるようには見えませんわね♪」


桃華「お茶入りましたわよ。どうぞお召上がりに。」

菲菲「くんくん。いい香りダネ!それじゃあいただきますネ!」


184 ◆6osdZ663So2013/09/29(日) 23:59:31.39Ba5bNvc4o (37/37)


菲菲「ごくごく、ぷはーっ」

桃華「・・・・・・もっと味わって飲むとかありませんの?」

菲菲「美味しかったヨー!」

桃華「まあ、当然ですわ。」


桃華「・・・・・ご心配なさらなくても、『原罪』はまだ完成していませんし、」

桃華「ふぇいふぇいさんはわたくし達の協力者。完成しても刃を向けたりはしませんわ。」

菲菲「本当カナー?」

桃華「ええ、神に誓いますわ。」

菲菲「すごく嘘くさいヨ!!?」

桃華「ウフッ、冗談ですわ♪」


桃華「ですが、フェイフェイさん。わたくしは、あなたにもこれから産まれるモノを祝福して欲しいと思ってますのよ。」

桃華「ですから、それに立ち会って頂くまで、わたくしにあなたを殺すような事はできませんわ。」

菲菲「悲しいほどに打算的だからこそ信用できちゃうヨ。」

菲菲「けれど、マンモンちゃんにふぇいふぇいが上手く利用できるカナ?」

桃華「うふ・・・・・ご期待に添えるように、懸命に踊って見せますわ。」

桃華(・・・・・・歴然たる力の差故の余裕。)

桃華(フェイフェイさん。きっとその隙が命取りになりますわよ。)

桃華(・・・・・・とは言え、おそらくそれはずっと先の事。)

桃華(とにかく、今は『原罪』の完成を急ぐくらいしか出来ませんわね。)


おしまい。


185 ◆6osdZ663So2013/09/30(月) 00:00:32.20eHNcsCXno (1/1)


すんごく短いけど、
誕生日祝いくらいしてもいいんじゃないとサラッと
(魔神に誕生日とかないんじゃね?、とか思いつつも)

フェイフェイおめでとうダヨー


186 ◆zvY2y1UzWw2013/09/30(月) 00:16:15.40DWfm9uhe0 (1/1)

おつ
フェイフェイおめでとー!
…ちゃまは悪人ダナー


187 ◆hCBYv06tno2013/09/30(月) 00:39:03.55rj0LN7NWO (1/1)

乙ー

フェイフェイ誕生日おめでとうだよー


188VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/30(月) 03:49:29.35ZQjCrPiWo (1/1)

オツダヨー

色欲さんは誘惑がすごいからね
でもピィは少なくともアーニャにはラブっぽい感情向けられてるよね
楓さんとかもきっと良好だし美人さんばっかりでいいよね
なにがいいたいかっていうともげろ

 
フェイフェイは天使食いダカラネー
ハッピーだよー


189VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/30(月) 19:37:25.77z5eyuvV6o (1/3)

皆おつー

>>165
>ここで言う学園祭とは周辺の小中高更には大学まで巻き込み、その上一般からも参加可能というイロモノ行事。
そうそう、これこれ
ベタだけどこういう設定、好き

>>178
ああ、『プロダクション』が賑やかになるな……

ラファエルのことを調べると、この天使アスモデウスやアザエルをやっつけてるんだよね
紗理奈や千鶴、もしかしたら奏とも因縁のありそうなちゃんみおェ……

>>185
フェイフェイ誕生日おめでとう!
マンモン同士の腹のさぐり合いイイヨー


190 ◆cKpnvJgP322013/09/30(月) 19:38:21.50z5eyuvV6o (2/3)

皆おつー

>>165
>ここで言う学園祭とは周辺の小中高更には大学まで巻き込み、その上一般からも参加可能というイロモノ行事。
そうそう、これこれ
ベタだけどこういう設定、好き

>>178
ああ、『プロダクション』が賑やかになるな……

ラファエルのことを調べると、この天使アスモデウスやアザエルをやっつけてるんだよね
紗理奈や千鶴、もしかしたら奏とも因縁のありそうなちゃんみおェ……

>>185
フェイフェイ誕生日おめでとう!
マンモン同士の腹のさぐり合いイイヨー


191 ◆cKpnvJgP322013/09/30(月) 19:38:47.75z5eyuvV6o (3/3)

二重投稿になってもた……


192VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/30(月) 19:41:04.98keZdadUoo (1/1)

それもこれもサクライPってやつの仕業なんだ……


193 ◆zvY2y1UzWw2013/10/01(火) 00:52:12.44niySqRwm0 (1/6)

涼さん誕生日だからちょっと投下するヨー


194 ◆zvY2y1UzWw2013/10/01(火) 00:53:28.74niySqRwm0 (2/6)

本日は松永涼の誕生日である。

涼は今日は大学に行った後、バンドの練習をしてそのままバンドメンバーによる小さなバースデーパーティに行く。その為今日は帰宅が遅い。

だから―

「…今日涼さんのお誕生日なの?」

『えー知らなかったのカヨー』

『あずきは新入りだからナー仕方ないネ』

「ううー!みんなが冷たい!」ジタバタ

あずきは涼の部屋の物達と会話していた。

なお、付喪神だから話せるので、普通の人から見れば盛大な独り言である。

「知らなかったよー!だって今日涼さん帰り遅いって事しか言わなかったし!!」ジッタバッタ

『帰ってきたら祝えばええやないカ』

「だがしかし!あずきには今お金がないの!」

『あずきにお金があった時期が果たしてあっただろうカ…』

『やーいニートー』

「うるさいよ!あたしは涼さんにご飯作るお仕事してるの!…掃除とか涼さんが皆に命令してやってるからできないんだもん!!」ジタバタ

『涼はお前が来る前から…こうして自室を出かけている間に掃除終わらせてるからナー』

「…涼さんの能力絶対弱くないよね…?」

『あずき、仕事さがぞうゼ?』

「むー!あずきは和服だから着られるのが仕事なの!」

『…涼は着てないよナ』

「だって涼さん『意思もった和服着たら憑かれそうだから却下』ってー!」ジタバタ

『で、実際どうなのヨ』

「…どうなるか?…わかんないよ?」キョトン

『着なくて正解だわコリャ…』

「あーん、何かないかなー!『誰か』使われてない子いなかったっけー?」

裁縫箱を弄りながら、あずきはちょっと必死にいろいろ探し始めた。


195 ◆zvY2y1UzWw2013/10/01(火) 00:55:09.39niySqRwm0 (3/6)

「涼!誕生日おめでとー!」

「おめでとう!」

「めでたいねー」

「はは、ありがとなー」

放課後、涼はバンドのメンバーとともにカラオケ店へ来ていた。

「そしてそして~もうすぐよ!例の学園祭!!気合い入れていかないとね!!」

ベーシストがぐわっと宣言するように言う。

秋炎絢爛祭。京華学院にて行われる大型行事。そこのライブステージに、彼女達のバンドが参加できたのだった。

国内最大規模の学園祭。観客も大量にいるだろう。緊張もあるがそれ以上に彼女達が今までやってきたライブでも最大規模だ。ワクワクが止まらない。

「どどど、どうしよう…意識したら今から緊張する~!」

「アンタはホントに…」

「まぁ、ステージに立てば吹っ切れるからいいでしょ。」

ギタリストの少女が少し青ざめるのをベーシストの少女とドラマーの少女がなだめる。

こんな子だがステージに立てば本当に吹っ切れて人が変わるから大したものだと思う。


196 ◆zvY2y1UzWw2013/10/01(火) 00:57:10.88niySqRwm0 (4/6)

カラオケで思い切り歌い、別の店で夕飯を食べ…夜になってしまった。

帰宅し、ドアをあける。

「ただいまー」

返事は帰って来ない。もうすでに寝てしまったのだろうか。

「むにゃ…りょーさん…zzz」

部屋に入り明かりをつけると、机に伏してあずきが寝ていた。

「…待ってたのか?」

少し申し訳なくなり頭を撫で…机の上のあるものに気付いた。

…黒い布に花の柄のシュシュだ。…非常に見覚えがある。机の上には裁ち鋏や糸や針。

「…一応、貰っておくか…」

布団まで連れて行って毛布をかける。彼女の誕生日は実にいつも通りに始まり、少しいつもと違う様に幕を閉じた。


197@設定 ◆zvY2y1UzWw2013/10/01(火) 00:58:52.02niySqRwm0 (5/6)

和柄シュシュ
あずきが身を削る思い(物理)で作ったシュシュ。人間だったらホラーだった。僅かながら人体に影響が出ない程度の妖力を秘めている。
本人曰く「着物は大体大きめに作られてるし、あずきは強いから大丈夫だよー」との事。

・イベント情報
涼さんの所属する4人組ガールズバンドが学園祭に出演します


198 ◆hCBYv06tno2013/10/01(火) 00:59:41.08hT0IlEEd0 (1/1)

乙ー

涼さん誕生日おめでとー


199 ◆zvY2y1UzWw2013/10/01(火) 00:59:57.99niySqRwm0 (6/6)

以上です
涼さんはかっこいいしかわいい
ヘアバンドとシュシュのどちらを取るかでしばらく悩んだのは内緒


200 ◆yIMyWm13ls2013/10/01(火) 01:06:30.45zeW3XRJdo (1/1)

乙乙!
涼さんの誕生日だ、めでてぇ!


201VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/01(火) 08:39:49.55vHT/0WoKo (1/1)

おつー
学園祭だぁ!ひゃっはぁ!!


202 ◆llXLnL0MGk2013/10/01(火) 16:47:37.24H4/+PBM20 (1/19)

乙乙ですー
ふぇいふぇいも涼さんもおめでとー!
学園祭もわくてかだぜぇー

ライラさんで投下しますですよー


203 ◆llXLnL0MGk2013/10/01(火) 16:49:01.22H4/+PBM20 (2/19)


海皇宮、海皇の間。

玉座に腰掛けるヨリコと、傍らに立つ海龍の巫女。

そしてその前に跪く一人の老人。

ヨリコ「ゆっくり休めましたか、スカルP?」

スカルP「うむ、お陰でゴルフの腕も上達したわい、がっはっは!」

スカルPと呼ばれた老人は顎鬚を撫でながら豪快に笑う。

ヨリコ「ゴルフ……確か、地上のスポーツですね」

スカルP「おお、通いつめてとうとうスコアが90を切ってのぉ……」

巫女「ちょっと、ヨリコ様」

海龍の巫女が会話に割って入る。

ヨリコ「どうしました、巫女さん?」

巫女「あの、こちらのご老人はどなたなのかしら? わからないわ」

いきなり海皇と親しげに話す謎の老人。

巫女にとっては何が何だか分からなかった。

ヨリコ「ああ、すみません。巫女さんは初めてお会いするんでしたね」

ヨリコは巫女に軽く頭を下げた。

ヨリコ「彼は海皇親衛隊隊長のスカルPです。しばらく休暇で地上にいたんですよ」

そしてヨリコは正面に向き直り、巫女を示して続けた。


204 ◆llXLnL0MGk2013/10/01(火) 16:49:56.29H4/+PBM20 (3/19)

ヨリコ「スカルP、彼女は海龍の巫女。今は私の側近として働いてもらっています」

スカルP「ほほぉ、そうじゃったか。…………」

スカルPが皺の奥の目を巫女に向ける。

巫女「……何か?」

スカルP「……いや、何でも。よろしく頼むぞ、巫女殿」

巫女「ええ、こちらこそ」

スカルPと巫女は互いに軽く頭を下げた。

巫女(彼にはまだ呪詛が完全には効いていないようね……まあ時間の問題でしょうけど)

スカルP「そういえば、マリナはまだ戻っておらんようじゃな」

ヨリコ「ええ、地上に捜索隊を派遣してはいるのですが……足取りすら掴めない状況です」

マリナ。先代海皇に仕えた親衛隊の一人で、「空」に憧れて脱走した人物である。

スカルP「まあ、あやつは親衛隊でもとりわけ自由なヤツじゃったからの、がっはっは!」

巫女「笑い事では無いわ。計画の為に今は一人でも戦力が欲しいもの」

笑い飛ばすスカルPに、巫女が苦言を呈した。

スカルP「おっと、失礼失礼。しかし、地上侵攻にカイの離反にサヤの負傷……
    しばらく離れた内にこうまで状況が変わるとは、まるで浦島太郎じゃな」

ヨリコ「うらしまたろう……?」

巫女「地上の童話ね、わかるわ。……ところで、スカルP。あなた、戦闘外殻は連れていないの?」

巫女はスカルPに質問を投げかけた。

ヨリコ「そういえば……スカルP、アビスカルはどうしたのですか?」


205 ◆llXLnL0MGk2013/10/01(火) 16:50:58.07H4/+PBM20 (4/19)

それを聞き、スカルPはきょとんとした様子で答えた。

スカルP「ああ、カンタローじゃな。うん、ワシの孫は知っとるじゃろ?」

ヨリコ「ライラちゃんですね。確か地上へ武者修行に連れて行ったとか……」

スカルP「そうじゃ。その一環としてライラに預けてきた。心配いらん、地上の金も持たせてあるわい」

ヨリコ・巫女「「えっ」」

スカルPの発言に、ヨリコと巫女は思わず間抜けな声をあげた。

スカルP「ライラは天賦の才能を持っておる。きっとワシ以上にアビスカルをつかいこなせるようになるわい」

ヨリコ「……あの、ライラちゃんには護衛のカスタムイワッシャーが二体ついていたはずですが……」

スカルP「がっはっは、これは異な事を仰るヨリコ様! それだけではライラの修行にならんじゃろう」

ヨリコのおそるおそるながらの確認を、スカルPは豪快な笑いで一蹴した。

ヨリコ「あ、はい…………では、スカルPには以前通り、皆の訓練のコーチを行っていただきます」

スカルP「うむ、任されよ!」

巫女「……わからないわ……」

ヨリコ「? ……巫女さん、何か仰いましたか?」

巫女「え? い、いえいえ何も?」

巫女は頭を抱えた。

戦闘外殻が更に一体地上にいる。また一つ不安定要素が生まれてしまったのだ。

――――――――――――
――――――――
――――


206 ◆llXLnL0MGk2013/10/01(火) 16:51:46.46H4/+PBM20 (5/19)

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――――――――――――

地上、とあるコンビニ。

昼間だというのに客はほとんどおらず、店員も隅で震えていた。

店の中には、褐色の肌を持つ少女が一人。

そしてその両脇に、近頃街を荒らしまわる鰯型ロボット……の色違いロボットが二体。

赤い体に二本角が生えているのと、青い体に一本角が生えているの。

彼らが入ってくるなり、元いた客はみな一目散に逃げ出してしまった。

店員(やべえ……やべえよ……誰かヒーロー呼んでねえのかよオイ……)

やがて、ロボットの内片方……青い一本角の方がレジのほうへ歩いてくる。

店員「ヒッ!?」

カシャン、カシャンと歩み寄るロボット。

店員の震えは止まらない。

店員(こ、ここここ殺される……)

やがてレジの目前で停止したロボットは、店員へ右手を突き出した。

店員「ひいいいっ!! …………ん?」


207 ◆llXLnL0MGk2013/10/01(火) 16:52:38.05H4/+PBM20 (6/19)

殴られる、と思った店員に突き出されたのは、拳ではなくアイスだった。

坊主頭で大きな口の少年がパッケージの、ガリガリとした食感がウリのアイス。

青ロボット「おいくらですか?」

店員「……へ?」

ロボットからの予想外の言葉に、店員の思考はフリーズした。

青ロボット「おいくらですか?」

店員「…………あ、え、えっと……百円です」

とりあえずマニュアルどおりの対応に移る。

赤ロボット「おひとつください」

今度はいつの間にか近づいていた赤い二本角のロボットが百円玉をレジの前にチョンと置いた。

店員「あ、はい……百円ちょうどちょうだいします」

レジ袋を取り出そうとした店員に、青いロボットが平手をピッと突き出した。

店員「ひっ!?」

青ロボット「シールでけっこうです」

店員「は、はい……失礼しました……」

言われた通りにシールを貼り、青いロボットに手渡す。

青ロボット「ありがとうございます」

赤ロボット「ありがとうございます。ライラさま、いきましょう」

ペコリとお辞儀したロボット達は、ライラと呼ばれた少女の手を取り店を出た。

店員「……あ、あざっしたー……」

余談だがこのコンビニ、後に「鰯のロボットが律儀に買い物したコンビニ」として、いくらか盛況したという。

――――――――――――
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208 ◆llXLnL0MGk2013/10/01(火) 16:53:33.49H4/+PBM20 (7/19)

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青ロボット「ライラさま、アイスをどうぞ」

青いロボットが袋を破り、ライラにアイスを手渡す。

ライラ「ありがとうですよー、シャルク。ガルブ、袋をお願いしますです」

ライラは青いロボット――シャルクに例を言い、シャルクは赤いロボット――ガルブに袋を手渡した。

ガルブ「はい。しょうきゃくします」

ガルブは受け取った袋を空へポイと放り投げ、目から一発ビームを撃ってそれを蒸発させた。

ライラ「ん、おいしいでございます」

ライラはアイスをほお張りながら顔を少し綻ばせる。

シャルク「それはなによりです。ライラさま、ほんじつのしゅぎょうですが」

シャルクはそこで一度言葉を切り、軽く周囲を見渡す。

シャルク「あいにく、ちかくにカースがみあたりません。いかがしましょうか?」

ライラ「おー、それは困りましたですねー」

ガルブ「われわれがライラさまのあいてをすると、われわれがスクラップになってしまうおそれがあります」

ガルブが自らのボディを叩きながら言う。


209 ◆llXLnL0MGk2013/10/01(火) 16:54:55.37H4/+PBM20 (8/19)

ライラ「けぷ。では、仕方が無いので本日の修行はお休みにしましょうです」

アイスを食べ終えたライラが残った棒をくるくると指で回す。

シャルク「そうですね。ではほんじつのおやどのてはいを……」

「カースだー!!」「逃げろー!!」

シャルクの言葉を遮り、何人もの人々の悲鳴が聞こえてきた。

ガルブ「……おや?」

ライラ「修行ができそうでございますねー、カンタロー」

『ゴトンゴトン』

ライラの声に応え、地面から大きな金属のシーラカンスが姿を現した。

シャルク「もし、そこのかた。カースはどこですか?」

市民「ひぃっ!? こ、こっちにも鰯ロボ!?」

ガルブ「カースはどこですか?」

シャルクとガルブが逃げてきた市民に詰め寄る。

市民「ひっ……あ、あっちです……!」

シャルク「あちらですね。ありがとうございます」

ガルブ「ありがとうございます」

ライラ「ありがとうですよー」

『ゴトン』

四人……いや、一人と三体は代わる代わる礼を述べ、市民が指差した方角へ向かった。

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210 ◆llXLnL0MGk2013/10/01(火) 16:55:58.84H4/+PBM20 (9/19)

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『ヤクソクスル! オレガオマエラノサイゴノゼツボウダァァ!!』

『クワセロ! クワセロ! クワセロォォォ!!』

街に現われたカースは二体。それぞれ傲慢と暴食。

そして、

Cイワッシャー「アー、ヤルキデネェ。ドッカニカッショクキンパツロリデモオチテネーカナー」

気だるげにビームを放つカースドイワッシャー。属性は怠惰……いや、色欲。

Cイワッシャー「アー、チョットオレロリサガシテクルワ。オマエラテキトーニヨロー」

そう言ってCイワッシャーはその場を後にしようとした。その時、

ライラ「……イワッシャーでございますねー」

シャルク「カースといっしょにいます」

ガルブ「そういえば、さきほどのひとは『またいわしのロボット』といっていましたな」

現場にライラ達が到着した。

Cイワッシャー「……マジカヨ。ジョウダンデイッタノニマジデカッショクキンパツロリキチャッタヨオイ!!」

ライラの姿を見たCイワッシャーが、即座にやる気を取り戻した。

シャルク「あれはライラさまをねらうようです」

ライラ「そうですかー、ならわたくしがおあいてしますですよー」

ガルブ「あのカースはわれわれにおまかせを」

そう言ってシャルクとガルブはカースに飛び掛った。


211 ◆llXLnL0MGk2013/10/01(火) 16:57:00.96H4/+PBM20 (10/19)

ライラ「では、いきますですよーカンタロー」

『ゴトン』

ライラ「オリハルコン、セパレイショーン」

ライラの掛け声でカンタローが分解され、ライラに装着されていく。

ライラ「アビスカル、ウェイクアップですよー」

戦闘外殻『アビスカル』を纏ったライラが少し気の抜けた決めポーズをとる。

Cイワッシャー「ヨ、ヨロイロリ……ウン、コレハコレデ……」

Cイワッシャーはそんなライラの姿をまじまじとみつめている。

ライラ「隙だらけでございますよー。……グランパ直伝、《六骨》」

ライラはトン、と地面を蹴ると、Cイワッシャーの懐へ一瞬で踏み込んできた。そして、

Cイワッシャー「アギギギギギギッ!?」

腹部に鈍い衝撃が『瞬く間に六回』走った。

Cイワッシャー「イッデェェェ!! コノヤロォ!!」

Cイワッシャーが反撃の拳を振るう。

ライラ「無駄が多いですねー」

ライラはその拳を掌でスッと受け止め、自らの体を回転させてそれを受け流した。

ライラ「グランパが見たら怒りますですよー。……グランパ直伝、《骨挽》」

そして回転の勢いをつけ、Cイワッシャーの顔面に裏拳を叩き込んだ。

Cイワッシャー「グボッ!? ワ、ワレワレノギョウカイデモチトキツイゼ……!」


212 ◆llXLnL0MGk2013/10/01(火) 16:57:51.97H4/+PBM20 (11/19)

『サカナ! サカナ! クワセロォォォ!!』

暴食のカースが大口を開けてシャルクに迫る。

シャルク「おことわりします」

シャルクは素早いバックステップでそれを回避した。

シャルク「すきあり」

そして、背中から取り出した刀でカースの体を切り裂いた。

『ギェッ!? サ、サシミニサレルゥ!?』

『ミナマデイウナ! オレガコロシテヤル!!』

傲慢のカースがその拳を何度も何度もガルブに叩きつける。

ガルブ「そんなものはききませんよ」

ガルブが両腕を重ねて作り出した巨大なシールドは、その拳を全て受けきった。

ガルブ「こちらのばんです」

ガルブのシールドに無数についている突起から、細いビームが何本も飛び出し、カースの体を焼く。

『グオッ!? オ、オマエハオレニコロサレルシカクヲエタァ!!』


213 ◆llXLnL0MGk2013/10/01(火) 16:58:52.95H4/+PBM20 (12/19)

Cイワッシャー「エエイ、チッタァオトナシクシロォ!!」

ライラ「おっとと、ちょっとあぶないでしたです」

Cイワッシャーのビームを、ライラは身軽な動きで回避する。

ライラ「グランパ直伝、《崩骨》」

ライラの掌底がCイワッシャーの腹部にめり込む。

Cイワッシャー「グッ!?」

ライラ「グランパ直伝、《剣鋼骨》」

掌底で入ったヒビに、今度はライラの手刀が深々と突き刺さる。

Cイワッシャー「グオォ!?」

ライラ「グランパ直伝、《頭鎧骨》」

更に腹部目掛けてヘッドバット。

耐えかねたCイワッシャーはとうとうその場に倒れこんでしまった。


214 ◆llXLnL0MGk2013/10/01(火) 16:59:53.12H4/+PBM20 (13/19)

シャルク「かくのいちはわりだせました。つぎできめます」

暴食のカースの執拗な捕食攻撃を避けながら、シャルクは刀をもう一本取り出した。

『クワセロクワセロクワセロクワセロォォォォォ!!』

カースが渾身の勢いでシャルクに迫る。

シャルク「いまです」

シャルクは大きく踏み込み、カースの下顎にある核を十字に切り裂いた。

『オッ、オボロロロロロロロロ!?』

『スペシャル! ブリザード! サンダー! グラヴィティ! サイコォー!!』

傲慢のカースはいつの間にか腕を四本に増やし、なおもガルブを殴り続ける。

ガルブ「……エネルギーチャージがかんりょうしました」

ガルブは一旦カースと距離を取り、腕を組み替えた。

ガルブ「はっしゃします」

腕先から先ほどより太いビームが一本走り、カースの核を貫いた。

『ヒィィ! ヒィィ! ヒィヒィヒィィ!?』


215 ◆llXLnL0MGk2013/10/01(火) 17:00:53.60H4/+PBM20 (14/19)

Cイワッシャー「クゥ……ロリ、ツエエ……ンォ? ヤツハドコイキヤガッタ!?」

起き上がったCイワッシャーは慌てて周囲を見渡すが、ライラの姿は無い。

Cイワッシャー「…………?」

その時Cイワッシャーは、足元のアスファルトに広がる波紋に気付いていなかった。

ライラ「グランパ直伝、《詐骨》」

Cイワッシャー「ウゲェッ!?」

突如地面から飛び出してきたライラの、背中への強烈な肘鉄。

たまらず体勢を崩すCイワッシャー。

ライラ「まだですよー。……グランパ直伝、《内耐骨》」

ライラの鋭い廻し蹴りが、Cイワッシャーを空へと打ち上げた。

Cイワッシャー「グホァッ!?」

ライラ「とーっ」

直後にライラは大ジャンプし、自らが打ち上げたCイワッシャーに追いつく。

ライラ「トドメをしますですよー」

そう言ってライラはCイワッシャーにがっしりとしがみつく。

Cイワッシャー「エッ、チョッ、トドメッテマサカ……セイテキナイmウォオオオオオオ!?」

言葉の途中でCイワッシャーとライラは急降下を始めた。

ライラがしがみつき、重心がずれたためだ。

Cイワッシャー「ヒイイイイイイイイイイイイ!?」

ライラ「……グランパ直伝、《堰終》」

自由落下の勢いとライラの腕力が合わさり、Cイワッシャーの体は、猛烈な勢いでアスファルトへ叩きつけられた。

その時に、ボディと同時に核まで砕けたのは言うまでも無いだろう。

――――――――――――
――――――――
――――


216 ◆llXLnL0MGk2013/10/01(火) 17:01:40.35H4/+PBM20 (15/19)

――――
――――――――
――――――――――――

ライラ「終わりましたですよー」

『ゴトンゴトン』

まだ残骸などが残る中、ライラはぐっと伸びをした。

シャルク「おつかれさまです、ライラさま。しゅぎょうとしてももうしぶんありませんでしたね」

ライラ「グランパに褒めてもらえるでございますねー」

シャルクが頭を撫でてやると、ライラは少し得意げに胸を張った。

すると、少し離れた位置で状況整理していたガルブが駆け寄ってきた。

ガルブ「ライラさま、シャルク。しきゅうこのばをはなれましょう」

シャルク「ガルブ、どうしたのです?」

ガルブ「ジーディーエフのきどうたいがせっきんちゅうです。このままでは」

ライラ「このままでは?」

シャルク「カースがいないいま、まちをはかいしたはんにんとまちがわれるかもしれませんね」

ライラ「むー、それは困りますです。急いでどこかへ逃げましょうでございます」

GDFに見つからないよう、ライラ達は駆け足でその場を後にした。

続く


217 ◆llXLnL0MGk2013/10/01(火) 17:02:38.98H4/+PBM20 (16/19)

・スカルP

職業(種族)
ウェンディ族

属性
装着系変身ヒール(?)

能力
アビスカル装着による固体への潜水能力
優れた身体能力

詳細説明
海皇親衛隊の隊長。
明るく豪快で細かい事は気にしない。
ある時期から休暇を取り地上でバカンスを楽しんでいた。
本人いわくまだまだ現役らしいが、現在は主に訓練のコーチをしている。

関連アイドル(?)
カンタロー(相棒)
ライラ(孫)
ヨリコ(上司)

関連設定
ウェンディ族
海底都市
戦闘外殻

・カンタロー
スカルP、ライラの相棒である戦闘外殻。姿は巨大な金属製シーラカンス。
厳格で生真面目、必要以上のことは口に出さない。
ホージロー等同様に「固体への潜水能力」を持つ。


218 ◆llXLnL0MGk2013/10/01(火) 17:03:30.23H4/+PBM20 (17/19)

・ライラ

職業(種族)
ウェンディ族

属性
装着変身系ヒーロー(?)

能力
アビスカル装着による固体への潜水能力
優れた身体能力

詳細説明
スカルPの孫娘。親衛隊には入っていない。
祖父のバカンスについていき、武者修行としてカンタローと地上の金を持って地上に残される。
以降はシャルク・ガルブと共に地上で主にカースを相手に修行している。
好物は地上に来て初めて食べたアイス。

関連アイドル(?)
カンタロー(相棒)
スカルP(祖父)
シャルク(部下?)
ガルブ(部下?)

関連設定
ウェンディ族
海底都市
戦闘外殻

・アビスカル
ライラがカンタローを身に纏いウェイクアップした姿。
戦闘外殻としては初期型で、「固体への潜水」以外には堅牢な装甲くらいしか特徴が無い。
良くも悪くも装着者のセンスが活きる戦闘外郭である。
・グランパ直伝技……ライラがスカルPから修行を受け学んだ技の数々。
六骨《ろっこつ》……瞬時に六発のパンチを叩き込む。
骨挽《こつばん》……相手の攻撃の勢いを利用したカウンター。
崩骨《ほうぼね》……掌底を叩き込む。
剣鋼骨《けんこうこつ》……斬って良し突いて良しの手刀。
頭鎧骨《ずがいこつ》……ヘッドバット。ちなみにスカルP一番のお気に入り技。
詐骨《さこつ》……死角に回っての不意打ち。
内耐骨《だいたいこつ》……廻し蹴り。
堰終《せきつい》……上空へ放り上げた相手を地面に叩きつける大技。ライラのお気に入り技。


219 ◆llXLnL0MGk2013/10/01(火) 17:07:03.90H4/+PBM20 (18/19)

・カスタムイワッシャー
要人護衛の目的で数体試作されたイワッシャーの改良機。
コスト面などの問題で、結局ロールアウトされたのは二機のみ。
簡単な言語回路を持ち、自然発生型のカース程度なら単体でどうにか出来る戦闘力を持つ。

・シャルク
ライラに付き従うカスタムイワッシャーの片割れ。
青いボディと頭部の一本角が特徴。
近接・高機動戦を得意とし、戦闘時は二本の刀を使う。
この刀は連結させてナギナタやブーメランにも出来る。

・ガルブ
ライラに付き従うカスタムイワッシャーの片割れ。
赤いボディと頭部の二本角が特徴。
遠距離・防御戦を得意とし、戦闘時は両腕の半円型盾を使う。
この盾は合体させて巨大な円盾になる他、いくつものビーム砲を内蔵している。

・イベント追加情報
「謎の赤と青の鰯ロボ」の噂が流れはじめました。


220 ◆llXLnL0MGk2013/10/01(火) 17:08:27.78H4/+PBM20 (19/19)

以上です
ライラさん可愛い


221 ◆hCBYv06tno2013/10/01(火) 17:15:46.153WVapQzeO (1/1)

乙ー

ライラさんカワイイ
そしてkwsmsnの想定外の事ばかりで胃痛まったなし


222 ◆zvY2y1UzWw2013/10/01(火) 17:27:29.87bgtkS+Sn0 (1/1)

乙です
ライラさん強い(確信)
赤と青のイワッシャーの噂w
…安全って噂だといいね


223 ◆yIMyWm13ls2013/10/01(火) 18:16:42.73r/cbtqNRo (1/1)

乙乙!
>>Cイワッシャー「アー、ヤルキデネェ。ドッカニカッショクキンパツロリデモオチテネーカナー」
CイワッシャーのCはcherry tree…つまり櫻井のことだったんだよ!(暴論)


224VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/02(水) 02:06:36.14N8vqt2ito (1/1)

おつー

あたい知ってるよ。これって誰かと拳で語り合って善人って発覚するやつでしょ?
カミカゼか押忍にゃんが有力かな。見たい


225VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/02(水) 15:42:36.94x3mtx37L0 (1/1)

今井ちゃん有浦ちゃんの予約切れたね


226VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/02(水) 15:44:38.202a9a4eLOo (1/1)

まぁ、今すぐ書きたいって人がいないなら待っててもいいんじゃないかなーって
前みたいに一週間で埋まるスレじゃないし


227VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/03(木) 04:39:00.39HqVc16Olo (1/2)

久々に見たら7スレ目までいってただと…
大罪の悪魔やら憤怒の街って今どうなってるのかしら


228VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/03(木) 05:40:25.16eEHmLqb9o (1/1)

大罪の悪魔

ベルフェゴール 本体・より代・配下含めて扱き使われてる
ルシファー   とりついてた子がボケキャラになって久しい
レヴィアタン  海底の住人を使って胃を痛めながら頑張ってる
マモン      チェーンソーを作ろうとしてる
アスモデウス  トナカイとよろしくやってるおじさんをロリコンって罵倒してた
ベルゼブブ   公園で飯作ってた

こんな感じ


229VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/03(木) 06:39:22.33HqVc16Olo (2/2)

>>228
全滅はしてないのか
でもこれだけ見たらアスモさんとか何してるんすか


230VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/03(木) 08:21:22.09GhVyMTSlo (1/1)

アスモデウスさんの語弊がすごい
確かにそれ以来出番ないけどさwwww


七つの大罪系は「初代」が出てきてるよ

ルシフェル→幽霊におっかけられて怖がってた
リヴァイアサン→強制ひきこもり状態
アモン→チャーハン作ってる
バアル→DTからかって遊んでる
アスモダイ→金髪ロリの義理の娘自慢してまわってる


231VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/03(木) 10:10:05.32AhEKpoQFo (1/1)

おかしい、大罪の悪魔のカリスマ性が行方不明


232VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/03(木) 10:26:04.50qBwIEp9Po (1/1)

3スレ目ぐらいぶりに見たとするなら宇宙レベルのヘレン爆誕とかひなたん星人オンステージとか星がいくつか消滅しそうな戦力のパーティーは読んでないのか
ちゃまは盛大に死亡フラグたてた直後にドタバタあって帰って来てからサクライPがロリコンって風潮におされて平和だよ


233VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/03(木) 14:11:11.84o9pZzIFto (1/1)

レヴィアタンは退場しそうなふいんきだし
最後に残るのはちゃまかキス魔か


234VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/03(木) 14:27:38.09jDS+UcOi0 (1/1)

マンモンちゃまは…部下いっぱいいるしなぁ
でも次表に出たらそれが最後な気がする
…桃華ちゃまがサクライPとどうなってしまうのかも疑問になるけど

キス魔さんは…以外としぶとそうなんだよなぁ


235VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/03(木) 18:57:12.169J7USOQNo (1/1)

キス魔さんは大がかりなことをやらかすタイプじゃないっぽいしねぇ
だから逆にどっかの宇宙船やら地下やら海底やらにいってのんびり楽しんでても違和感ない


236 ◆yIMyWm13ls2013/10/04(金) 15:07:34.24sAmCN9eVo (1/12)

日常ネタを投下


237 ◆yIMyWm13ls2013/10/04(金) 15:08:01.39sAmCN9eVo (2/12)

ここはウサミンPの宇宙船の一室。
リンがウサミンPから無断占拠した一室である。
周囲には見るからに怪しい機械がずらずらと並んでいる。

――ひなたん星人お手柄!カピバラ怪人を真っ二つ!

「…どこから撮ってたんだろ?」

リンの手元の地方新聞にはそんな見出しと共に
真っ二つにハンテーンを切り裂く一人の少女がでかでかと写っていた。

「…ハンテーン、どう思う?」

ウィィィ、と駆動音を立ててお掃除ロボットがリンの元に近づく。
お掃除ロボットの上部に付いたパネルから文字が流れてくる。

『テーン!テーン!』(その時、死にかけてたのにんなこと気にする余裕あるか!)

ごもっともである。



238 ◆yIMyWm13ls2013/10/04(金) 15:08:46.09sAmCN9eVo (3/12)

「…だよね、…あれ…?」

機械の影からヒュっと何かが飛び出してくる。
反射的にハンテーンとリンクされたお掃除ロボット、『ハンテンバ』を摘み上げる。
勢いそのままに飛びつく先にあったハンテンバを見失った影は派手にスライディングをかます。

派手にスライディングをかました影はムクリと起き上がるとメガネをクイッと上げて調整し出す。

『…どしがたいな』

「…何これ?」

リンの目の前んはメガネを掛けたまるで小人のような体躯の謎の生き物。

『きょーみぶかいな』

小人はリンが持ち上げたハンテンバに向かって手を伸ばす。

「…なるほど興味深いんだ」

気が合う、私もあなたに興味深々だ。
そっとハンテンバを降ろす。



239 ◆yIMyWm13ls2013/10/04(金) 15:09:26.29sAmCN9eVo (4/12)

『きょーみぶかいな』

小人はハンテンバのモニターをベタベタ触り、あげくひょいと持ち上げる。

「力持ちだね」

小人はしげしげとハンテンバを眺めて一言。

『ろんりてき』

どうやら褒められているらしい。
小人はハンテンバを床に降ろす。

『テーン!』(なんだよこいつ!)

パネルにそんな文字が流れたかと思えば、ハンテンバが猛スピードで逃げだす。

『どしがたいな』

「うん、確かに度し難い」

小人と目が合う。

『ふむ』

「ふむ」

なんだか、仲良く出来そうだ。


240 ◆yIMyWm13ls2013/10/04(金) 15:10:22.05sAmCN9eVo (5/12)

「名前はあるの?」

『どしがたいな』

「…ふむ」

『…ふむ』

小人は仁王立ちをしたまま、部屋の片隅に設置されたPCを指さす。

「…なるほど」

電源ボタンに指を掛け、押し込み、スリーブ状態からPCを起こす。
立ち上がったのを確認した後、メモ帳を開く。

「どうぞ?」

そう言ってリンは立ち上がり、椅子を小人に譲る。

『ろんりてき』

「うん、論理的」

友情とは割りとどうでもいいことで感じたりするものである。



241 ◆yIMyWm13ls2013/10/04(金) 15:10:54.63sAmCN9eVo (6/12)

ヒョイと地味にとんでもないジャンプを見せ、軽快にキーボードを叩き出す。
打ち出された文字を見て、リンは呟く。

「まきのんか…」

「…興味深いね」

『どしがたいな』

「…そう?」

『そうていがい』

「…何が?」

すると小人、改め、まきのんは部屋の隅を指さす。


242 ◆yIMyWm13ls2013/10/04(金) 15:11:29.76sAmCN9eVo (7/12)

リンは立ち上がり、まきのんの指さした場所を調べてみたが何も見つからない。

「…何にもないけど…?」

『…どしがたいな』

そう言うとまきのんはどこからともなく飛行機のラジコンを取り出す。

「どこから出したのそれ」

…よく考えたらこの言葉、ブーメランかもしれない。

『ろんりてき』

まきのんは飛行機本体を指さし、今度は再び部屋の隅を指さす。

「置いてこいってこと?」

こくりと頷くまきのん。


243 ◆yIMyWm13ls2013/10/04(金) 15:11:57.64sAmCN9eVo (8/12)

「…よく分からないけど、置いたよ」

とりあえずリンはまきのんに従うことにした。

『ろんりてき』

まきのんはそう言いながら、メガネをくいっと持ち上げ、リモコンを弄り始める。
ゆっくり、ゆっくりとラジコンは上昇を始めようとする。

飛行機が今にも地面から離れるか離れないかの状態になった時だった。

『まいしすたー!』

またしても物陰から小さな影が飛び出して、飛行機にしがみつく。

『…ろんりてき』

「…なるほど、おびき出したんだね」

確かに論理的。



244 ◆yIMyWm13ls2013/10/04(金) 15:12:39.04sAmCN9eVo (9/12)

しがみついて完全に墜落させた飛行機を頭に抱えて小人がリンの方に歩いてくる。

『あります!』

「…何が?」

リンはもはや片手で飛行機を持ち上げながら敬礼をかます小人に突っ込む気にもなれなかった。

『どしがたいな』

「度し難いね」

全く同感であった。

「この子の名前は?」

リンがまきのんに聞くとまきのんはくるりと回って軽快にキーボードを叩き出す。

「…なるほど、ぐんそー」

『あります!』


245 ◆yIMyWm13ls2013/10/04(金) 15:14:00.95sAmCN9eVo (10/12)



「と、いうことで飼ってもいい?」

二匹の謎生物の首を摘んで現れたリンにウサミンPは呆然とする。

「リン、私はどこからツッコミを入れればいいのか分からない」

『どしがたいな』

「度し難いね」

『まいしすたー!』

「まずその生命体はどんな種族なのかとか少なくとも私は見たことが無いとか…」

「クッキー食べる?」

『あります!』

ぐんそーは摘まれたままビシッと敬礼。
どうやら食べるらしい。


246 ◆yIMyWm13ls2013/10/04(金) 15:14:39.10sAmCN9eVo (11/12)

「……はぁ…」

ウサミンPは疲れた顔で地球での冷蔵庫の役割を持つ機器に手を掛け、開く。

『おいでませぇ~♪』

何か居る。
具体的にはサンタ服着た白髪の小人が。

「ふぅ、君、何か取ってくれないか?」

『何がいいですかぁ~?』

「水で構わないよ」

『どうぞ~♪』

「済まないね」

小人からペットボトルを受取り、冷蔵庫を閉める。
ペットボトルのフタを捻るとパキャっと心地いい音がした。

「リン」

「何?」

ウサミンPが呼びかけるとリンが振り返る。

「きちんと世話するんだぞ」

もう一度冷蔵庫を開けると既に小人が消えていたのを確認して、ウサミンPは諦めた。


END



247 ◆yIMyWm13ls2013/10/04(金) 15:15:05.05sAmCN9eVo (12/12)

以上です。
二人ほどメタスレからお借りしました。


まきのん
マキノに似たぷちどる。鳴き声は主に「どしがたいな」「ろんりてき」「そうていがい」
人前にはあまり姿を現さず、影でこそこそしている。かしこい。
気に入ったものを「きょーみぶかいな」と持ち去ろうとする習性がある。
その時だけ何故かアリ並み(倍率的に)の力が出せる。

ぐんそー
大和亜季に似たぷちどる。鳴き声は「あります!」
まるで軍人のようにキビキビした動きで、時としてそれを周囲にも強いる。
飛行機のラジコンがお気に入りで、よく「まいしすたー!」と鳴きながらしがみつく。
本家と違って匍匐前進は大得意。

イヴさん
イヴ・サンタクロースに似たぷちどる。割りとなんでも喋る。
世界中の冷蔵庫から現れたり、消えたり。
取って欲しい物を言えばきちんと取ってくれる。

『ハンテンバ』

最近お掃除ロボットが流行ってると聞きつけたリン。
せっかくだから手作りしてみた。
しかしながらボディが完成しAIを作ってる最中に飽きたのでPC内のハンテーンとリンクさせてみた。
上部に付いたパネルで会話が出来る。口うるさいが仕事はする。
目下の悩みはまきのんに拉致られそうになったりぐんそーに乗られること。


248 ◆zvY2y1UzWw2013/10/04(金) 15:41:43.80qzq72XOP0 (1/1)

乙です
ぷちどるのウサミンPの宇宙船への侵略が始まったか…(違)


249 ◆hCBYv06tno2013/10/04(金) 16:10:25.46WUvcPIlN0 (1/1)

乙ー!

冷蔵庫の中から現れるとは……


250VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/04(金) 16:14:19.98hQ2KNiMAo (1/1)

乙ー

ハンテーンも割と充実した生活をしてるようでなによりだ
……イヴさんはぷちどるでいいの? なんかもうおふざけで混ざってるだけでも違和感ないよ?


251 ◆6osdZ663So2013/10/04(金) 17:57:15.96F5HWuKrko (1/1)

乙です

本当にどこから、って言うかどうやって撮ったんでしょうねぇ(頭を抱えながら)
宇宙船が賑やかになるな


252VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/04(金) 18:00:40.83R4DjDBhQ0 (1/1)

念写系能力者が新聞会社にいた可能性が微レ存?


253VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/04(金) 18:01:39.44tGOLwKxaO (1/1)

最速の烏天狗と張り合わせよう


254 ◆llXLnL0MGk2013/10/05(土) 12:08:57.15bad5Q0hQ0 (1/11)

激乙ぷんぷん丸
ぐんそー一匹下さい

投下しまー


255 ◆llXLnL0MGk2013/10/05(土) 12:10:24.05bad5Q0hQ0 (2/11)


とあるアパートの一室。

ここには憤怒の街を抜け出したマリナとみりあ、そして若神Pが暮らしていた。

マリナ「ねえ若神P君、秋炎絢爛祭って知ってるかな?」

マリナが煎餅をかじりながら若神Pに問いかける。

若神P「しゅ、しゅうえん……何ですかそれ?」

マリナ「あー、やっぱ知らなかったわね。この辺一帯を巻き込んだ大きなお祭りらしいのよ」

若神P「お祭りですか。それが、どうかしました?」

若神Pも煎餅に手を伸ばす。

マリナ「そのお祭りにねー、みりあちゃんを連れてってやってほしいわけ」

若神P「みりあちゃんをですか?」

マリナ「ほら、あの子こっちに来て新しい学校に転校したばっかりじゃない?」

若神P「そうですね、あの街も復旧にはまだまだかかりそうですし」


256 ◆llXLnL0MGk2013/10/05(土) 12:11:24.68bad5Q0hQ0 (3/11)

若神Pはふと憤怒の街の光景を思い出す。

……なかなかに胸糞悪くなる光景だった。思い出さなければ良かったと後悔する。

マリナ「みりあちゃんがお祭り行きたいって言ってたんだけど、それだけに心配でねー。
   若神P君に保護者やってもらいたいのよ」

はふぅ、とため息をつくと、マリナは煎餅の欠片を口の中に放り込んだ。

若神P「……って、そんなに心配ならマリナさんがついていけば……」

マリナ「そうしたいのはやまやまだけどねー、あいにく長期で仕事入ってるのよ。それも朝から晩まで」

若神P「ああ、なら仕方ないですね。分かりました、僕でよければ」

若神Pも煎餅の最後の一欠片を口に入れた。

マリナ「助かるわー、よろしくね、若神P君」

若神P「任せて下さい。……そういえばマリナさん、最近塩水浴びませんね」

マリナ「ん? ああ、まーね。ちょっとイイ物が手に入ったから。っと、そろそろ時間だわ。
   あたしちょーっと出かけるからさ、留守番よろしく」

言うが早いか、マリナは置いてあったバッグを抱えてそそくさと出て行ってしまった。

若神P「いってらっしゃーい。…………みりあちゃんが帰ってくるまでヒマだなあ」

若神Pは光輪を生み出し、それを指先でクルクルと弄んだ。

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257 ◆llXLnL0MGk2013/10/05(土) 12:12:59.78bad5Q0hQ0 (4/11)

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マリナ「さーて、集合場所はー……」

??「あれ、沢田さん」

突然隣から声を掛けられた。

マリナ「ああ、大牙君。大牙君も今おでかけ?」

大牙「ええ、今日は昼からのバイトなんで。沢田さんもですか?」

声を掛けてきたのは、隣の部屋に住む古賀大牙という青年。

母は既に他界し、父と弟、妹とペットのイグアナの五人(?)家族だという。

マリナ「ん、まあねー」

彼らを始め近隣の人間には、マリナ達の事は「事故死した親戚の子を預かる姉弟」ということにしている。

マリナ(まあ、弟以外はおおむね間違って無いしねー)

大牙「お互い大変ですねー」

マリナ「そうね。んじゃあ、あたし急ぐから」

マリナは会話をそこそこに切り上げ、階段を早足で下っていった。

大牙「はい、また後でー。…………ふう」

この古賀大牙という青年、これは本名ではない。

大牙→ティラノ「近所付き合いってのも大変だな……」

本当の名はティラノシーザー。古の竜の一族だ。

人間社会に潜むに当たって、仮に名乗る名が大牙だ。

ちなみにブラキオは陸、プテラは翼と名乗っている。

ティラノ「……っと、いっけね、俺もバイトバイト……」

ティラノは慌ててバイト先へと向かった。

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258 ◆llXLnL0MGk2013/10/05(土) 12:14:15.16bad5Q0hQ0 (5/11)

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――――――――――――

マリナ「うーんと、この辺りよね。トビー、おいで」

『シャンシャン』

人通りの無い裏路地で、マリナの呼びかけに応えて金属のトビウオ、トビーが現われた。

マリナ「さーて、トビーが目印になるって言ってたっけ……」

??「マリナ、もう来ていたの?」

突然、背後から声をかけられた。

マリナ「あ、瞳子」

瞳子と呼ばれた女性はマリナに軽く頭を下げた。

瞳子「芽衣子はまだのようね」

マリナ「みたいね。そういや、『この仕事』に就いてからは初出勤じゃない? お互いに」

瞳子「……それは正確じゃないわね。勧誘される時に、一度『彼』に会っているもの」

マリナ「あー、それもそうね」

二人はしばし他愛も無い会話を続けた。やがて、

??「あー、いたいた。すいません、瞳子さんマリナさん。お待たせしました」

二人の元へ駆け寄ってくる女性が一人。

マリナ「あら、芽衣子ちゃんおひさー」

瞳子「心配しなくても、そこまで待っていないわ」

女性の名は、並木芽衣子といった。

芽衣子「そう言ってもらえると嬉しいですよ。じゃ、早速ですけどご案内しまーす」

――――――――――――
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259 ◆llXLnL0MGk2013/10/05(土) 12:15:00.54bad5Q0hQ0 (6/11)

――――
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――――――――――――

次の瞬間三人(とトビー)は、テーブルとソファがあるだけの小さな部屋に立っていた。

ソファには、一人の男が腰掛けている。

瞳子「……未だに慣れないわね、この感覚」

マリナ「そうねー、……で、『長期のお仕事』の内容をまだ聞いてないんだけど、サクライさん?」

男の名は、サクライP。かの櫻井財閥の党首だ。

サクライP「ああ、まずはこの映像を見てもらいたい」

サクライPはプロジェクターを取り出し、壁面に映像を投影した。

――臙脂色の作務衣を来た少女が、炎を纏う刀でカースを両断する映像。

――小柄な剣士の少女が、翼を生やし、妖怪の巨体を断つ映像。

――戌頭の異形を連れた女性が、自らの刀を七変化させる映像。

――「あ~っはっはっはっはっは!!」




260 ◆llXLnL0MGk2013/10/05(土) 12:16:36.85bad5Q0hQ0 (7/11)

瞳子「…………これは?」

サクライP「『鬼神の七振り』。カースの核を内蔵した妖刀さ」

マリナ「聞くからにヤバそうな代物ねー……で、これを?」

サクライPはプロジェクターを止め、二人に向き直った。

サクライP「ああ。回収して欲しい。ちなみに三つ目の映像は君たちと同じエージェントで、
    彼女は現在四つ目の映像に映っていた少女に接触中だ」

瞳子「なら、私たちは一つ目と二つ目を?」

サクライP「現在所在が確認できているのが、『暴食』『強欲』『傲慢』だ。
     君たちには残りの『憤怒』『怠惰』『嫉妬』『色欲』を探してもらいたい」

マリナ「ふーん。……って、最初の女の子が七本持ってなかった?」

芽衣子「それがですねー、どうやら今はその子の手元に無いらしいんですよ」

横から芽衣子が口を挟む。

サクライP「『暴食』の方にも、いずれはエージェントを派遣する予定だ。ああ、そうそう」

サクライPが思い出したように付け足す。

サクライP「道中でカースに遭遇したら、その核を破壊せずに回収してもらえるかな」

瞳子「カースの核を……? 『鬼神の七振り』の量産でもするつもりかしら?」

サクライP「はは、ご想像にお任せするよ」


261 ◆llXLnL0MGk2013/10/05(土) 12:17:36.01bad5Q0hQ0 (8/11)

マリナ「……ま、いいけどね。こんないい物貰っちゃ断るに断れないし」

マリナはそう言ってバッグから何かの錠剤が入った瓶を取り出した。

サクライP「一粒で24時間、体内を海水と同じ成分で潤す錠剤。……ウェンディ族である君には必携の品だろう?」

マリナ「まーね。あむっ……どこからそんな情報得たんだか」

少し渋い顔をしながらも、マリナは錠剤を一粒口に放り込む。

瞳子「……そうね、私も……」

そう言って瞳子が取り出したのは、小さな機械。

漫画コミックほどの大きさで、液晶ディスプレイと電源ボタンがついているだけのシンプルなものだ。

瞳子「これを貰ってから、道に迷う頻度もかなり減ったもの」

サクライP「では、引き受けてもらえるかな?」

瞳子「ええ」

マリナ「お任せ」

サクライ「ありがとう。詳細が分かればこちらからも連絡しよう。芽衣子くん」

芽衣子「はいはーい、ご案内しまーす♪」

――――――――――――
――――――――
――――


262 ◆llXLnL0MGk2013/10/05(土) 12:18:51.34bad5Q0hQ0 (9/11)

――――
――――――――
――――――――――――

芽衣子「じゃ、私はこれで」

言い残して芽衣子は消えた。

マリナ「さーて、これもみりあちゃんの学費のためだし、頑張らなきゃねー」

瞳子「…………」

大きく伸びをしたマリナとは対照的に、瞳子は俯いている。

マリナ「……瞳子、どうかしたの?」

瞳子「え? い、いえ、何でもないわ」

瞳子は慌てて取り繕うが、「何かを思いつめている」のが明らかに見て取れる。

マリナ「……一応言っとくけど、あんまり溜め込むのは良くないわよ?」

瞳子「分かってるわ、子供じゃあるまいし」

マリナ「ならいいけど。じゃ、またねー」

『シャッシャシャン』

マリナはトビーを連れてその場を去った。

瞳子「…………はぁ」

一人になった瞳子は、ため息をついた。

瞳子「食うに困って怪しげな財閥の犬……こんな私を、夏美ちゃんが見たら……」

瞳子の脳裏に描かれたのは、共に戦った親友の顔。

瞳子「……幻滅、されるかしらね……」

誰に言うでもなく、瞳子は『鬼神の七振り』の手掛かりを求めて歩き始めた。

続く


263 ◆llXLnL0MGk2013/10/05(土) 12:20:03.50bad5Q0hQ0 (10/11)

設定更新

・マリナ(地上人名・沢田麻理菜)

職業(種族)
サクライのエージェント(ウェンディ族)

属性
装着変身系ヒーロー

能力
アビストラトス装着による高速飛行
優れた身体能力

詳細説明
先代海皇に仕えていた親衛隊の一員。
「ホンモノの空」を見るために戦闘外殻諸共海底都市を飛び出し、紆余曲折の末にみりあを預かる。
彼女が急に飛び出したため親衛隊の6席は未だ空席のままである。
海皇がヨリコになる前に飛び出したので、海龍の巫女の呪縛は受けていない。
親バカの気がある。

関連アイドル(?)
みりあ(愛娘同然)
トビー(相棒)
瞳子(エージェントの同僚)

・服部瞳子/エンジェリックファイア

職業
サクライのエージェント

属性
魔法少女

能力
魔法少女への変身及び魔法の行使

詳細説明
かつて三船美優/エンジェリックカインドと共に戦った魔法少女たちの一人。
最初は「悪者やっつけるためならちょっとくらい街壊れてもいいよねっ」という思想を持ち、
美優達とはどちらかといえば対立し、単独で敵と戦うことも多かった。
やがて戦いを重ねるうちにお互いの心を通わせ、真の仲間となった。
いわゆる追加戦士枠で、彼女だけ使う力が光でなく炎だったり、変身掛け声が違うのもお約束。

関連アイドル
美優(仲間)
レナ(仲間)
夏美(仲間・親友)
マリナ(エージェントの同僚)

・海水剤(仮)
サクライがマリナを勧誘する際に渡したもの。
一粒飲めば24時間、体中が海水と同じ成分で潤されるというウェンディ族垂涎の一品。

・簡易GPS(仮)
サクライが瞳子を勧誘する際に渡したもの。
電源を入れると現在地と周辺100m~10km範囲の地図が映し出されるという迷子垂涎の一品。


264 ◆llXLnL0MGk2013/10/05(土) 12:22:58.35bad5Q0hQ0 (11/11)

・イベント追加情報
マリナと瞳子がエージェントとして『鬼神の七振り』捜索を開始しました。
「カースの核回収」も並行するようです。

以上です
サクライのこまいとこ間違って無いかと戦々恐々
え? なんでたたり場の映像があるかって?
エージェントに「触れた機械が必ず正常に作動する能力者」とかいたんじゃない?(適当)

サクライPと芽衣子さんお借りしました


265VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/05(土) 13:08:51.12v0kzkNRTo (1/2)

乙ー

……いや、待て
瞳子さんはそれでいいの……?
シリアスだから病気の弟がどうとかそういう設定が来るかと思ったがそんなことはなかったよ……


266 ◆hCBYv06tno2013/10/05(土) 13:20:39.916QC03TrPO (1/19)

おつー

瞳子さんェ……どんどん残念大人に…


267VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/05(土) 13:52:17.71T0qyW5VDo (1/1)

おつおつー

服部さんの残念美人が加速している…
どうしてこんなになるまでほうっておいたんだ!


268@予約 ◆EBFgUqOyPQ2013/10/05(土) 17:14:35.534Rv2IESLo (1/1)

申し訳ないですが思うようにいかないので今井加奈ちゃんの予約をキャンセルします。

すでに予約期限が切れてる上にこの体たらく
なんと無様な


269 ◆zvY2y1UzWw2013/10/05(土) 18:32:05.406mQ1NhVF0 (1/11)

サクライ、核集めて何をするのやら…

鏡像戦、投下します


270 ◆zvY2y1UzWw2013/10/05(土) 18:32:33.696mQ1NhVF0 (2/11)

コツコツと、ハイヒールが夜の空気を震わせる。

深夜、人気の全くない郊外をキヨラは歩いていた。

バッグには二体のぬいぐるみ。熊のぬいぐるみはピコピコとゲーム機を操作している。

「…ねぇ、この辺りはどう?暴れても大丈夫そうよ?人払いの魔法もベルフェゴールちゃんがかけてくれたし。」

立ち止まり、笑顔で振り向く。

「あら…気遣いのつもり?」

そこにいたのは傲慢の鏡像…ぬいぐるみに魂を詰められたルシファーの気配を感じて後をつけていたのだ。

レヴィアタンとの口約束なんて最初から守る気はない。さっさと自分が本当に本物になる為に行動していたのだった。

「傲慢の鏡像…ルシファーの傲慢のカースからレヴィアタンが呪詛で作り上げた偽物だね。呪いの力で普通のカースより強いよ。変身もできるみたい。…です。」

ベルフェゴールが画面を見つつキヨラに報告する。レベルダウンしても情報は余裕で拾える。レベルに左右されるような能力ではない。

「レヴィアタンが…そう、変な事ばっかりするわねぇあのオバサン。こっちが迷惑する呪術なんて…害悪激悪嫉妬おばさんじゃなぁい?」

「言えてるねー」

ルシファーが面倒臭そうに鏡像を見る。自分の偽物が本物になろうとするなんて滑稽すぎる。傲慢故にそう確信し、相手にしていない。

「キヨラさん、さっさと片付けちゃってくださいよーもう遅いし早く寝たいんだよねアタシ。」

「そうよねぇ…夜更かしはお肌に悪いものぉ♪」


271 ◆zvY2y1UzWw2013/10/05(土) 18:33:57.456mQ1NhVF0 (3/11)

「…バカにしてる?そんなちっぽけな体でよく本物を名乗れるわね…♪」

鏡像は自分を相手にしていない二人に苛立つ。傲慢故に自分を弱く見られるのを嫌う。…自分の力を思い知らせてやる。

呟くのは呪詛。魔法・魔術とは違う相手を蝕む術。魔術同様に詠唱を必要とするが…それが本物との相違点であり勝る所だ。

『汝、我が魔の力を受け、呪われよ。その呪いの名は【五感剥奪】!右も左も上も下も
関係ない哀れな木偶の坊と化せ!』

黒い光がキヨラに向かって飛ぶ。

キヨラは真横に走り出し、それを回避。しかし鏡像は一度唱えたその呪いの光を両手に構えていた。

呪詛そのものを宿している鏡像は一度の詠唱で何度も発動させることが出来た。何発も何発も黒い光が飛び、キヨラを追い詰めてゆく。

「ほらほらほら~逃げてるだけなんて退屈ですよ~?」

地を呪う為の呪詛ではないので大地が汚染されることは無い。だが光には魔術のような威力を持たせ、それはまるでレーザーだ。

光が大地にぶつかるたびに地が削れていく。その音が非常に騒がしく、人払いの魔法に感謝した。

「っ!」

そしてついに、回避を続けていたキヨラが削れた地面のせいでバランスを崩す。そこを容赦の欠片もなく呪いの光が襲い掛かった。

ルシファーとベルフェゴールは投げ出され、キヨラがその場に倒れこんでいる。

「その呪いは恐ろしいのよ?どんどん五感が無くなっていくんだから…聞こえてないと思うけど♪きゃははっ!」

空中から高らかに笑う鏡像。実に気分がいい。


272 ◆zvY2y1UzWw2013/10/05(土) 18:34:41.326mQ1NhVF0 (4/11)

「ちょっと、キヨラさん!?」

「…る、ルシファーちゃん…きて…」

「…はぁーい」

キヨラにはもう何も聞こえない。少しずつ触覚も消えかけているのが分かる。せめて視覚が無くなる前に、やるべきことを行う。

唇をパクパク動かしながらも、不安定な体のバランス耐えながらも…彼女は勝つことを考える。

『……』

バッグからいつもの物よりかなり小さな、普通の医療用サイズの注射器を取り出した。自らの左腕に突き立て、レベルドレインを発動させる。

「…勝つのは貴方よ。」

その吸い上げた自分の力をルシファーに注ぎ込む。背中を注射器を持っていない方の手でポンと押して、完全に地に伏せた。

「! これはっ…何を考えて…!」

「やばいよやばいよ!パーティの最強メンバーが行動不能とか死ぬしかないじゃん!!こっちレベル1なんだけど!!」

「…違うわ」

「え?」

慌てるベルフェゴールにルシファーが姿を変えつつ微笑む。

「…私がいるのよぉ?本物が偽物に負けるはずないわぁ…不本意ながら協力してもらったし…。これなら、勝てる。」

「で、でもっ!」

その会話に痺れを切らした鏡像が割り込んだ。

「うるさいわね…私はそっちにしか興味無いし…貴方は狙わないであげるから、黙っててくれない?」

「あっ、はい。」

ベルフェゴールは倒れているキヨラを押しつつ、距離を取った。面倒事に巻き込まれたくはない。

「…それで、自称・本物さんは…本当に勝てるのかしらね?」

「偽物こそ、土下座してでも帰るべきじゃなぁい?」

「うふ、お断りよ♪」


273 ◆zvY2y1UzWw2013/10/05(土) 18:36:07.526mQ1NhVF0 (5/11)

お互いに別の姿に変わる。ルシファーはユズ、鏡像はレヴィアタンに。

『雷よ、大いなる我が力に従い、その闇を切り裂く身で我が敵の心の音を止めろ!サンダーボール!』

『――――!』

初撃、雷のエネルギー弾が放電しながら襲い掛かる。しかしそれを鏡像は竜の鱗の盾で防いでしまった。

『付与、雷の加護よ~♪』

『氷よ、寄り集まりて塊となれぇ~♪』

次にルシファーはイヴに化け、雷を纏った箒を棒術のように使い襲い掛かるも、同じようにイヴに化けた鏡像の氷に阻まれる。

「なかなかやるじゃなぁい?レヴィアタン…本当に趣味が悪いわぁ…!」

以前のルシファーと同レベルの戦闘能力を持つ鏡像。返してもらった力では足りない。少し荒れる息を誤魔化すように言葉を紡ぐ。

「…あら、余計なお喋りは…『時間稼ぎ』かしらぁ?」

ニヤリと鏡像が邪悪な笑顔を見せる。

『汝、我が魔の力を受け、呪われよ。その呪いの名は【魔力枯渇】!満たされぬ器に嘆き、苦しみ、絶望せよ!』

「キヨラさんっ!」

「……」

ベルフェゴールが悲鳴を上げた通り、その呪いは身構えたルシファーには向かわず、一直線にキヨラに向かい、魔力を少しづつ奪い始める。

当たっていたのがベルフェゴールならば相手の魔力が回復するだけだが…これでキヨラは完全に使い物にならなくなった。

「何のつもりぃ?私を狙わないなんてぇ…!」

それよりも完全に自分を無視した攻撃にルシファーは怒る。明らかに自分を脅威と見ていないのだ。

「回復に特化した魔術師なんでしょ?呪いも使うらしいし…解呪なんてされたら嫌だもの…わかるわよね?」

キヨラばかりを脅威と見ている。…最高に腹が立つ。


274 ◆zvY2y1UzWw2013/10/05(土) 18:37:05.946mQ1NhVF0 (6/11)

「…aaaaaaaaa!!」

「無駄だよ!」

グリフォンに化けて飛び掛かるも、今度はユズに化けた虚像の鎌で切り裂かれた。

「…っ」

腕に深い傷を負い、まともに動かせないのか、ぶらりとしている。

「あはは!マヌケだね!次はそのご自慢の顔を傷物にしてあげるよっ!!」

鏡像はユズ本人はきっとしないような邪悪な笑みを見せながら、鎌をもう一度構える。

『冷気よ、大いなる…「遅いよ」

詠唱の途中に飛び込むように鎌で斬りかかる。

何とか真っ二つになることはなかったが、右半身に縦に大きな傷が生まれた。

真っ赤な液体が服を、全身を濡らす。

「…」

俯き、ふらつくルシファーに、鏡像は指をさして笑う。

「ざまぁ見ろだね!気分いいよ…本っ当に!弱い者いじめってやっぱり強者の特権だよねっ!」

上空に浮かび、勝利を確信しつつ…真上から呪文を放った。

『暴風よ!大いなる我が力に従い、全てを薙ぎ払う驚異で、死神の鎌の如く我が敵を斬り裂け!サイクロンスライサー!』

鎌鼬のような暴風が、ルシファーに襲い掛かる。

ルシファーから飛び出した赤が風の中を舞う。鏡像は完全に勝利を確信した。

「これで…私が…本物の傲慢の悪魔!うふっ、うふふふっ!!」


275 ◆zvY2y1UzWw2013/10/05(土) 18:37:44.036mQ1NhVF0 (7/11)


『雷よ、大いなる我が力に従い、その音を置き去りにして走るその身をもって我が敵の生命に終止符を打て!サンダーボルト!』



276 ◆zvY2y1UzWw2013/10/05(土) 18:39:20.316mQ1NhVF0 (8/11)

「…え?」

風が止み、砂埃の中から雷が走り…鏡像を貫いた。

「なん…で…!」

地に落ち、呻きながら鏡像が疑問を口にする。それに砂埃の中から現れたルシファーが背中を思い切りハイヒールで踏みつけながら笑顔で言った。

「ねぇあなた…特殊メイクって知ってるぅ?」

鏡像は今まで自分と同じようなカースから生み出された偽物としか戦ったことがなかった。

…だから、気付かなかった。

吸血鬼…いや、戦闘に慣れている者ならば感づくこともできただろう。

…彼女から『血の臭いがあまりしない』事に。『あまりにも血が鮮やか』な事に。

「気に食わないけど…あなたの攻撃、確かに痛かったわ…でもまるで効かなかったの…この意味が分かるかしらぁ?」

「…」

答えは簡単。キヨラが唇をパクパク動かしたのは、五感を失いつつあったからではなかった。ルシファーの背を押した瞬間、彼女に呪いをかけたのだ。

…『死の癒し』。性質は『反転』。毒は薬に、薬は毒に。攻撃は痛みさえあるものの、傷は作れない。本来は拷問などに使われるそれを、戦闘に使用したのだ。

余りにも力の差があれば、痛みで気絶ぐらいはしただろう。だが、キヨラに注いでもらった力のおかげか、そんな事はなかった。

傲慢であるルシファーはそれが気に入らなかったが…それよりも自らの偽物に敗北する方が屈辱的であると判断した。

「ふぅ、話が長いとあなたの二の舞になりそうだし…じゃあね。もう二度と生まれない事を願っておくわぁ…」

死神の鎌が鏡像を切り裂く。

露出した核を足で踏みつけ粉々にする。苛々をぶつけるように。何度も何度も何度も何度も…


277 ◆zvY2y1UzWw2013/10/05(土) 18:42:09.176mQ1NhVF0 (9/11)

「…全く呆れる…死神との時の自分とそっくりなんだものぉ…こっちは成長しているのに…ねぇ?」

「そうだね…」

ベルフェゴールの返答に満足そうに頷き、ルシファーは歩み寄る。

「さて、ちょっと下剋上しちゃおうかしらぁ?」

「…あら、それは誰に?」

「!」

首筋に注射針を打ち込まれる。そしてレベルドレインが発動したのを感じた。

「お疲れ様。よくあそこまで…頑張ったわね。」

「…呪いが解けるのが早すぎないかしらぁ?」

「ただでさえ貴重な回復専門の魔術師が解呪を使えなくてどうするの?…さすがにサタン様の呪いほど複雑で発動に時間がかかったらしいものは難しいけど…」

ライオンのぬいぐるみに戻ったルシファーを回収しつつ、キヨラは答える。

「…まぁ、ベルフェゴールちゃんの情報によると、あれもかなり複雑な工程の末に生まれたものらしいじゃない?時間かかっちゃったわ。」

「そうそう、虫のアレみたいにやっていたみたい。あれは執念がすごいと思う。…です。」

何時の間に見ていたのだろうか。いつから五感の呪いは解けていたのか…あまり考えない方がよさそうだ。

「…とにかく。嫉妬の大罪の悪魔…レヴィアタンが他の悪魔のカースを利用しているのはかなり危険視した方がいいわね。怠惰も怪しいもの。」

「あたしのカース、数少ないし働くのか不安なんですがそれは…」

「…とにかく、私達にはやるべきことがあるわ」

「なんです?」

「まずは周辺の地理情報の完全把握。それに伴う人間の時間帯ごとの密集度。もし災厄が訪れた時の為に知っておくべき。それと…」

「…人間界の住居確保及び信頼関係の構築。魔界の住人が魔界の住人を人間界で倒すなら、人間の知り合いがいて困る事は無いもの。」

「あ…死神にしろキヨラさんにしろ、契約者いないから法を考えるなら人間に倒させた方がいいのか。」

「考えたことも無かったわねぇ。力を一人に試しに与えてみたことはあるけど…」

元無法者二人組がいろいろと納得している。

「それにやっぱり…ユズちゃんや姫様に接触もした方がいいかしら。自宅情報までベルフェゴールちゃんが持っているのは意外だったわ。」

「だって自分でも全部見てないし…把握するのめんどくさいですし…」

「…本当に危ない能力よねぇ。敵にいたら厄介すぎるもの。」

「会っただけで自宅割り出せるなんて…しかも現在地まで…。本当に犯罪者向けの力よね。」

「酷い!」

「でも問題のレヴィアタンの現在地は把握できないんでしょう?探すなんて面倒ねぇ…役立たず。」

「さらに酷い!」

今後の方針を考えつつ、3人の姿は闇に溶けるように消えていった。


278 ◆zvY2y1UzWw2013/10/05(土) 18:44:28.046mQ1NhVF0 (10/11)

以上です。鏡像の強さを上手くかけたか心配。
ベルフェゴールの情報収集能力って思ったよりすごいよね…強い(確信)
キヨラさん?あの人回復魔法と解呪と死の呪いと医療器具を使った戦闘しか出来ないよ?(すっとぼけ)

情報
・キヨラさんがレヴィアタンに警戒態勢をとるようです。魔界・天界関係者には話す可能性高し。
・ちなみにデータ収集の為に街を歩いていることが多いです。


279 ◆6osdZ663So2013/10/05(土) 19:00:18.71Zv6lDtyzo (1/1)

乙おっつー

>>264
ロリコ・・・・・・サクライはそんな感じで問題ないと思いますぜ、ワクワクしてきた
七振りの行き先はどうなったかな

>>278
情報収集はマジヤバイ(断言)キヨラさんも強いマジヤバイ(超断言)
嫉妬おばさんの胃が心配です


280 ◆yIMyWm13ls2013/10/05(土) 19:02:59.36diZiPbT2o (1/1)

乙乙!
流石大罪悪魔二人従えてるだけある…!
川島さん言うこと素直に聞いてくれる人少すぎて胃痛がヤバい


281VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/05(土) 20:09:50.94v0kzkNRTo (2/2)

乙ー

……レヴィさんのカリスマ性はいつ失われたのか
大人は苦労するものなのね、わかるわ……


282 ◆hCBYv06tno2013/10/05(土) 22:11:44.646QC03TrPO (2/19)

乙ー

レヴィアタンの胃がマッハでやばい!

そして、今から更に理由がある胃痛がレヴィアタンを襲う!

投下します!


283 ◆hCBYv06tno2013/10/05(土) 22:12:38.676QC03TrPO (3/19)

それはユズがぷちドールをばら撒いた後のお話。

街中を走り回る1人の少女。

その少女は身体が透けていて、中心に綺麗に輝く宝石が浮いている。

「…はぁ…はぁ……」

その少女の顔は、ある中学校に通う生徒や教師なら見覚えがあるかもしれない。

レヴィアタンに身体を奪われた本物の川島瑞樹の魂。その若返ってる姿だ。

祟り場が治まった後も、その身体は消える事なく、さまよい逃げ続けていた。

そして、その背後から何かが追いかけてくるような大きな足音が聞こえていた。


284 ◆hCBYv06tno2013/10/05(土) 22:14:13.346QC03TrPO (4/19)

ーーーーーーーー

「逃げても無駄だと思うんだけどね」

その様子をゲーム機を通して見ている者が遠く離れたビルの屋上に一人。
その姿はベルフェゴールにとりつかれていた三好紗南そっくりのカース≪怠惰の人形師≫だ。

「けど、こういうゲームも悪くはないかな」

彼女がそう言ってゲーム機をいじりながら不敵に笑った。

「カースドヴァンパイアはよくわからないのにやられちゃったけど、コレはそう簡単にはやられないよっ!」

「それに人払いの結界もはったし、邪魔する人は来ない!サッサッと終わらせちゃうからね」

何かフラグらしきものを建てたような気がするが、それに気づかず怠惰の人形師は勝ち誇ったように笑った。


285 ◆hCBYv06tno2013/10/05(土) 22:15:50.046QC03TrPO (5/19)

場所は戻り、川島瑞樹の魂は走るのをやめ立ち止まっていた。

何故か?

答えは簡単だ。目の前が行き止まりだからだ。

「はぁ……はぁ……しまった……」

息を切らしながら、慌てて、別の道を探そうとする。

『追いかけっこはもう終わりかな?やっぱりヌルゲーだね』

だが、遅かった。声の方を振り向くと、全身が機械のパーツやイワッシャーの残骸、はてはオリハルコンなどの金属類でできたクマのような姿をしたモノがいた。
僅かな隙間から黒い泥が出てるところから、それがカースだとわかるだろう。

そして、そのカースの発する声は遠くから操作する怠惰の人形師のものなのだが、瑞樹は知らない。


286 ◆hCBYv06tno2013/10/05(土) 22:17:43.736QC03TrPO (6/19)

『大人しくレヴィアタンの元に戻らない?これ以上抵抗しても無駄だと思うんだけどな』

呑気そうな声を出しながら、最終通告をだす。

だが、対する瑞樹はまだ諦めてないようで、敵対者を睨んでいた。

「私の答えは言わなくっても……わかるわね?」

『はぁ……理解できないね』

その拒絶の言葉を聞き、溜息をもらす。

カースの体からミサイルの発射口やらレーザー兵器などの様々な種類の射撃パーツが出てくる。

『言っとくけど時間稼ぎは無駄だよ?ここら辺に人払いの結界はったから誰も来れないよ?』

「っ!!……」

図星をつかれ、若干顔を引きつらせる瑞樹。

そうしている間にカースは全ての銃口が瑞樹に標準を合わせる。

『じゃあ、これでゲームオーバーだね。魂だけの状態なら殺しても魔界へ行かないで消滅しちゃうからレヴィアタンに繋がる手掛かりは消えちゃうから安心して消えてもらうよ』

「くっ…諦めないわ」

瑞樹はなんとかこの場をきりぬけようと必死に考えるが、無情にもカースの複数の銃口から無慈悲な暴力が……


287 ◆hCBYv06tno2013/10/05(土) 22:18:35.136QC03TrPO (7/19)







「わかるわ」








288 ◆hCBYv06tno2013/10/05(土) 22:20:50.076QC03TrPO (8/19)

………………………

「………………えっ?」

『えっ……あれ?なんで!?バグ!?』

……襲ってこなかった。

遠く離れて操作してる怠惰の人形師は慌てた声を出し、向こう側で必死に動かそうとしているのが伝わってくる。

一方の瑞樹も状況が上手く飲み込めずキョトンとしていた。

何故動かなくなったのか……答えはカースを見るとわかった。

カースの身体中に沢山の梵字のようなモノがまるで蛇のように蠢き、カースの身体中にまとわりついているのだ。

『これって……呪詛!?』

驚きの声を出すのも無理はない。何故ならこの呪詛を使える人物を怠惰の人形師は知っている。

だが、その人物は川島瑞樹の魂を消すように命令したレヴィアタン。自分の邪魔をするなんてありえない。

そう思考してると、誰も来れない筈の結界内で、何か小さな生き物がトテトテとカースと瑞樹の間に現れた。


289 ◆hCBYv06tno2013/10/05(土) 22:22:01.156QC03TrPO (9/19)

??「わかるわ!」

それは川島瑞樹に似た小さな生き物---ぷちどる≪かわしまさん≫だった。

瑞樹「えっ!?な、なにこの子?」

『レ、レヴィアタン!?じゃない!?なにこれ!?』

そのぷちどるの登場に二人は混乱する。

瑞樹は自分に似たその姿に、怠惰の人形師はその使った呪詛に。

二人は知らない。これが死神ユズが深夜テンションによりやらかしてしまった実験によってばら撒いたモノだと。

そして、それは川島瑞樹という魂の波長を刻みこみ、できたのがぷちどる≪かわしまさん≫だ。

では、なぜ≪かわしまさん≫がレヴィアタンの呪詛を使えるのか?
それは川島瑞樹の魂がレヴィアタンから逃げ出すまで、ずっとレヴィアタンの近くにいため川島瑞樹の魂には多少なりと呪詛の影響をうけていたのだ。

それをぷちどるが魂の波長を刻み込んだ際に呪詛の能力も少しだけ刻み込んだのだ。


290 ◆hCBYv06tno2013/10/05(土) 22:24:17.856QC03TrPO (10/19)

かわしまさん「わかるわ」クイクイ

かわしまさんが呆然としている瑞樹の裾を引っ張りながら、首をクイッと曲げカースの横の道をさす。

どうやら今の内にっと合図をしてるようだ。

瑞樹「い、今のうちね。わかるわ」

かわしまさん「わかるわ!」

イレギュラーの登場で、呆然としていたが、我に帰ると、かわしまさんを抱き上げ、急いで走り出しカースの横の空いてる道に向かい走り出した。

『しまった!?』

それに一つ遅れてカースも気づいた。まとわりついていた呪詛もいつの間にか消えていて、後ろへすり抜けた二人(?)を追おうと、振り向いた……


291 ◆hCBYv06tno2013/10/05(土) 22:25:31.266QC03TrPO (11/19)







???「そうはいかないぜ?」







292 ◆hCBYv06tno2013/10/05(土) 22:27:11.186QC03TrPO (12/19)

突然、カースの巨大な体は後ろへと大きく吹き飛ばされ、行き止まりの壁へと激突した。

『えっ!?今度は何!?』

突然の衝撃に慌てながらカースは、続いてのイレギュラーがいるであろう方へ首を向けた。

マルメターノ「悪いな。あの小ちゃい子に頼まれてな。それに、子供が襲われてるのを黙って見過ごすなんてできなくってね」

ソーセージの移動屋台をひいた筋骨粒々の男ーーーマルメターノがいた。

『げっ!?海底都市にいたイレギュラー!?どうしてここに!?』

相手が海底都市に出没し、自分の情報収集能力で見ようとしたら、プロテクトがかけられ、読み取れた情報が名前とソーセージを売っているとしかわからなかった要注意人物だと気づき、つい叫んでしまった。

その言葉にマルメターノおじさんの顔は真剣なものに変わり、鋭い眼光でカースを見据える。

マルメターノ「なんで、お前は俺が海底都市に行ってる事を知ってるんだ?ここの結界といい、海底都市に急に貼られた結界……関係あるのか?」

『あっ……』

自分の思わず言った発言の事の重大さに気づき、遠くで操作している怠惰の人形師はやってしまった…と顔色を曇らせた。

レヴィアタンの雷が落ちるのが目に見える。

『(マズイよ……あたし口すべらしみゃった。それに結界をどんな方法かは知らないけど、抜けてきた相手……)』

冷や汗を流しながら、必死に思考する。


293 ◆hCBYv06tno2013/10/05(土) 22:28:31.466QC03TrPO (13/19)

マルメターノ「どうやら、喋る気はないようだな。なら、お前を倒してあの子達に事情を聴くとしよう」

『ば、馬鹿にしないでほしいかな?このカースの体は海底都市のオリハルコンを含めた様々な金属を身に纏ってるんだよ?そう簡単にはやられないよ!あんたを倒せばレヴィアタンに怒られずにすむし!』

そう言うとカースは臨戦に態勢にはいる。

ーーーそうだ。状況は不利だろうが、ここでこの男を倒せば何も問題ない!

そう思考する怠惰の人形師だが、彼女は気づかない。再び自分が失言をてしまった事に。


294 ◆hCBYv06tno2013/10/05(土) 22:29:30.846QC03TrPO (14/19)

マルメターノ「≪このカース≫……≪レヴィアタン≫か…」

マルメターノは思考する。

このカースとまるで他人のように言うカース。恐らく、このカースとは別に操ってるモノがいると。

それに「レヴィアタンに怒られずにすむ」。つまり、こいつの裏にレヴィアタンっていうのが潜んでるのか?

マルメターノ「どちらにしても、早めに終わらせるか。≪回転≫……いや≪螺旋≫でいいだろう」

そういってマルメターノが構えると、右手首から渦を描くように小さく右腕を回し始める。

それに反応するかのように謎のエネルギーが発生し、螺旋状にマルメターノの右腕にまとわりつく。


295 ◆hCBYv06tno2013/10/05(土) 22:30:29.186QC03TrPO (15/19)

『な、なにあれ?』

魔力で天使達が使う天聖気や人間達が作る科学のエネルギーとも違うエネルギーに戸惑う。

『先手必勝!!』

だから、怠惰の人形師は焦った。相手は自分が考えてるほどの規格外存在。

カースが出していた複数の銃口からレーザーや銃弾を放とうとする。

マルメターノ「遅いっ!!」

だが、それより速くマルメターノはエネルギーを纏った右腕で正拳突きをカースの方向に放った。

ギュルルルルルルルルルルルッッッ!!!!!!!!!!

右腕から≪螺旋≫のエネルギーが放たれ、それはドリルのようにカースの金属の体にぶつかり…

ギュゥゥイイイイイイイイインッッッッッッ!!!!!

火花を巻き上げ……

その金属の体を貫き、大きな穴をあけた。


296 ◆hCBYv06tno2013/10/05(土) 22:31:37.316QC03TrPO (16/19)

『…………はっ?……うs』

ドッガッシャン!!!!

カースの口から、驚愕の声が漏れ、言葉を最後まで言う前にその身体は鉄屑となり崩れさった。

どうやら核も一緒に貫いたようだ。

マルメターノ「……確かに硬かったな。だが、それだけだ」

築かれた鉄屑の山に向かい、そう呟くマルメターノ。

そして、ソーセージの屋台から何か端末を取り出す。

マルメターノ「…………LPか?俺だ」

マルメターノ「そんな硬く言うなよ?俺は今は地球でソーセージを売るただのおじさんだ」

マルメターノ「それより頼みたい事がある………」

マルメターノ「海底都市、レヴィアタン、それと最近噂にある地上で暴れる鰯のロボ。それの関係を調べてくれないか?」

しばらくして会話が終わると、端末をしまう。

マルメターノ「さて、あの子達に事情を聞くか。あの子達はあそこの教会に預ければ大丈夫だろうし」

マルメターノ「海底都市の海達も心配だし、祭の準備もしないといけないし……忙しくなりそうだな…」

そう言うと彼は、屋台を引っ張り、二人に合流しにいった。

だが、巻き込みたくないのか一向に話さない瑞樹に、やむなく教会に預けるのだった。

なお、かわしまさんはどちらについて行くのかはわからないわ。


終わり


297@設定 ◆hCBYv06tno2013/10/05(土) 22:33:32.656QC03TrPO (17/19)

・スクラップでできた熊型カース

怠惰のカースに、レヴィアタンの呪詛により強化され、スクラップになった機械の山を身にまとった獣型カース。

本来なら動かず、金属のの体を駆使して遠くから攻撃するカースだが、怠惰の人形師により意志と自由を奪われてる。

オリハルコンなどの金属ので構成された身体は、最大の防御力をほこる………筈だが、カマセにおわった。

きっと、また出番があるかも?


・かわしまさん

川島瑞樹そっくりのぷちどる。鳴き声は『わかるわ』
優しい性格で、面倒見がよく、たまにマイクをもってアナウンサーみたいなことをする。
たまにアンチエイジングをしている。若い人を見ると羨ましそうに見てる時がある。

呪詛がつかえる。が、呪文を唱えられないため「わかるわ」で済まされている。わかるわね?
けど、効果は短いため足止めくらいの程度である。


298@設定 ◆hCBYv06tno2013/10/05(土) 22:35:17.516QC03TrPO (18/19)

イベント情報追加
・マルメターノがLPに海底都市、レヴィアタン、鰯のロボの噂について調べてもらうようだ

・ロリ島さんは教会に預けられました。

・マルメターノおじさんはお祭りの準備をしてる最中のようだ。

・かわしまさんはどちらについていくか不明。

・マルメターノおじさん何者?

・レヴィアタンの胃がヤバイ


299 ◆zvY2y1UzWw2013/10/05(土) 22:38:33.226mQ1NhVF0 (11/11)

乙です
かわしまさんかわいいわ
そしてマルメターノおじさん強いわ(確信)


300 ◆hCBYv06tno2013/10/05(土) 22:39:28.056QC03TrPO (19/19)

以上です。

思ってたような文が書けず、駄文になってしまいましたorz
本当はカース活躍させたかったけど、俺の実力じゃ無理でした……

ロリ島さんから情報を聞くには信頼度をあげないと的な?

そして、かわしまさんはマルメターノおじさんの屋台を手伝わせても、教会のマスコットにしても大丈夫です。


そして、レヴィアタンの胃に穴が空くレベルである意味ピンチw


301VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/05(土) 23:55:29.62edSNqTE10 (1/1)

乙ー
マルメターノおじさん強い!おじさんすごい!
レヴィアタンの胃に穴が開いたら川島さんが困るわ


302VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/06(日) 00:36:35.83nn7x2wrko (1/1)

乙です
おじさん強い、なぜソーセージ屋をやってるのか
巫女さんが頭抱えそうで心配です



303@謝罪 ◆rXUHEibmO22013/10/06(日) 00:56:36.00w7gsU+uLO (1/1)

申し訳ないですが思うようにいかないので有浦柑奈さんの予約をキャンセルします。

すでに予約期限が切れてる上にこの体たらく
なんと無様な

まことに申し訳ないと思っています


304 ◆IRWVB8Juyg2013/10/06(日) 01:42:52.75WcMWkiI+o (1/20)

乙ー

流石マルメターノおじさんだ、問題ないぜ
戦えるぷちどるもいるのか……どしがたいなー?


『憤怒の街・裏』
ナチュルスター防衛戦線、最終章後編投下します

ここまでのあらすじは>>41-58参照


305 ◆IRWVB8Juyg2013/10/06(日) 01:43:20.21WcMWkiI+o (2/20)

 きらりが光を放ち、里美が水をレンズのように変形させて集束させ一点を焼き尽くす。
 強烈なエネルギーが翼蛇龍を貫き引き倒すとそこへ魔法少女たちのハウリングアローが撃ちこまれ、琴歌が蹴りで穴を穿つ。

 奈緒がその穴へと手を突っ込み、乱暴に引き裂くと翼蛇龍は苦悶の声をあげ暴れ出した。
 傷穴からはいくつもの蛇が奈緒を喰らいつくそうと襲い掛かかり、思わず背後へ飛んで躱す。
 追いすがって飛び出した蛇たちはきらりが改めて放った光線に飲まれて消えた。


奈緒「ちっ、繭が見えそうだったってのに……!」

美優「無理はしないで……あの体は丸ごとカースの塊みたいだし、切り裂くだけでもまたカースが……」


 連携して攻撃を続けていても、致命傷を与えることができない。
 翼蛇龍は進化を止めず、装甲はさらに強くなっていく。

 切り裂いた傷口はすぐにふさがり、繭を破壊するにはその肉は堅く厚すぎる。
 きらりのビームを集束させれば貫くことは可能だが、それでは破壊しきることもできない。

 尻尾の一振りで破壊の風をまき散らし、羽搏きの一翼で絶望の泥へと沈ませる圧倒的な暴力。
 各々が連携することでなんとか防げているような状況で倒すための強烈なチャンスを作る機会はそれほどない。

 連続でのワープで疲労した夏樹と、魔力の切れて戦えない裕美をかばうように店長と李衣菜が立っているがそちらの負担も非常に大きい。
 気を引くように他のメンバーが戦っていても、流れ弾の処理だけで手一杯だ。


306 ◆IRWVB8Juyg2013/10/06(日) 01:43:46.81WcMWkiI+o (3/20)

レナ「ふう……オネストがいたら少しは楽だったかしら?」


 レナのつぶやきに、手をつないだ美優が答える。


美優「会えてないのは……仕方ないもの。隙を見てもう一度――!」

レナ「……そうね、ないものねだりはしても仕方ない、かっ!」


 レナがソードを振るい、美優が飛んでアローを射る。
 2人は単体では火力の足りない分をフォローする形で隙を潰していた。

 泥の塊は際限なく降り注ぎ続ける。地に落ちてからも意思を持ち、彼女たちに喰らいつかんと襲い掛かった。
 
 キリのない戦いに疲労の色は隠せないが、絶望に立ち向かう心は折れていない。
 決定打となる一撃をこの場の誰もが放てない以上、隙を見て弱点を探しだす必要があるのだ。

 次々と押し寄せる黒波と暴力を躱し、いなし、本体の身体を穿つ。
 それに合わせて他のメンバーも攻撃を撃ちこんで抉るも厚い装甲を抜けることはできずにまた防戦になる。

 長く続けばいつかは破綻するが、だからといって無理に攻めればそこを突かれて敗北してしまう。
 的確な指示の出せる夏樹がダウンしているのも合わせて進化する翼蛇龍との対決は厳しいものになっていた。

 らちのあかない状況に、奈緒が自身の不死性を活かして一歩を踏み込もうとして、違和感を覚えて空をあえぐ。


奈緒「こうなったら多少無理してでもあたしが――上っ!?」


 ――均衡を崩したのは空から降り注いだ黒い鎌と槍の雨だった。


307 ◆IRWVB8Juyg2013/10/06(日) 01:45:06.22WcMWkiI+o (4/20)

 這い回る蛇を縫い付けた槍が、蛇たちと共に溶けて地へと広がる。
 さらに、鎌からは地を覆う泥を焼き尽くす黒い炎が立ちのぼった。


レナ「……炎の、鎌……!」

美優「これって……まさか」

奈緒「泥の槍……っ、なんで!」


 それに見覚えのあるメンバーは空を仰ぐ。


加蓮「……やった!」

瞳子「ファイアズムサイズ……フレア。うまくいったわね」


 得意げに腕を組んだエンジェリックファイア――服部瞳子が北条加蓮に抱えられ空を飛んでいた。
 懐かしい顔に――あるいは、見知った顔に戸惑いを隠せないメンバーが言葉を失う中、榊原里美だけは――


里美「ほわぁ……お姫様だっこですね~」


 ――などと、少しズレた様子で驚きを表現した。


308 ◆IRWVB8Juyg2013/10/06(日) 01:45:39.09WcMWkiI+o (5/20)

瞳子「どうやら間に合ったようね……」

奈緒「……いやいや、待て。ホントなんでだよ!」


 地面に降り立った2人に奈緒がツッコミをいれる。
 加蓮と奈緒たちは友人関係にある。彼女の命を救ったのはネバーディスペアの面々だ。

 だからこそ解せないと、彼女はいう。
 なぜここにいるのか。もう一般人としての生活は取り戻したはずだ。
 戦う必要はない。命を削るような危険な真似はしてほしくない。その願いだってわかっているはずだと。


加蓮「うん。でも……私も、戦える。困ってる人は助けたい……放ってなんておけないよ」

奈緒「それは……そうだろうけど、でもっ!」

加蓮「っ……危ない!」


 会話の最中も降り注ぐ泥を奈緒が打ち払う。加蓮に向かって地から迫るモノたちを吹き飛ばす。
 隙をついて加蓮の後ろから飛びかかった蛇の首は加蓮の手に握られた槍で貫かれ溶けた。


奈緒「……本気、なんだな」

加蓮「うん。それに……あれは、アタシが生んじゃったものでもあるから」


 加蓮と奈緒が翼蛇龍に向かっていく。
 加蓮の手には泥の槍と盾。背には翼を生やし飛び上がる。
 奈緒の手は虎の爪。普段は使わない泥を活用してでも、と脚も異形と化している。


309 ◆IRWVB8Juyg2013/10/06(日) 01:46:09.14WcMWkiI+o (6/20)

奈緒「はぁぁぁっ!」

加蓮「そこっ!」


 どちらが言葉をかけるわけでもなく同時に動く。
 他のメンバーの援護射撃をうけて雑魚を散らし、危険な攻撃を避けて迫っていく。


奈緒「まだまだ!」

加蓮「たぁぁぁぁっ!」


 飛び込み、いなし、叩きつける。息のあったコンビネーションで翼蛇龍の翼を同時に切りつけた。
 しかし、それでも翼蛇龍は落ちない。表皮の蛇たちはそのまま意思を持ち反撃をする。
 加蓮がとっさに手を伸ばし、奈緒を抱いて距離をとった。


奈緒「加蓮、お前……」

加蓮「……大丈夫、って言ったでしょ? でもアレ、どうしよう……」


 想像以上の硬さに加蓮が悩む。
 同じ泥でも質が違いすぎてまったく刃が通らない。

 上空に浮き上がって槍を放っても焼け石に水程度の効果すら疑わしいほどだ。
 なおかつ、進化を続けている絶望から生み出される配下はだんだんと強力になっていっている。


310 ◆IRWVB8Juyg2013/10/06(日) 01:46:45.48WcMWkiI+o (7/20)

 ――同じくして、美優とレナに再会した瞳子も激しい戦闘の中2人と会話をしていた。

 蛇を切り裂き泥を射ち、呪いを焼いて隙を作る。
 加蓮と奈緒がそこへ走り込み、切りかかろうと飛び、跳ぶ。
 撃ちもらしは水槍が貫くと直後に光線が浄化した。


レナ「久しぶりね、ちょっと忙しいから再会の喜びを表現ってわけにもいかなくて悪い、わっ!」

瞳子「お互い様よ。どうやら2人は変わってないみたいね!」


 光の剣と炎の鎌が白と黒の軌跡を描いて翼蛇龍へと切りかかるも弾かれる。
 地から滲み出す蛇に気づいた美優が矢を射って足止めし、瞳子が地面ごと焼いた。


美優「瞳子ちゃんも……元気だったなら、よかった。でもこのままじゃ……」

瞳子「エンジェルハウリングじゃ突破できないの?」

レナ「あいにく、ね。しかもどんどん強くなってるっていうんだから……これじゃ舞台にもあがれないわ」


 レナがやれやれとかぶりを振る。それを見て瞳子はニヤリと笑った。
 二人のつないだ手に、自分の手を重ねてみせる。


瞳子「なら、『アレ』をしましょうか……かなり久しぶりだけどっ!」

美優「……えぇ。レナ!」

レナ「……そうね。分の悪い賭けも嫌いじゃないわよ!」


311 ◆IRWVB8Juyg2013/10/06(日) 01:47:18.49WcMWkiI+o (8/20)


『――聖なる絆よ、清らかなる祈りよ! 廻りて悪を浄める力となれ!』


 弾かれ続けても攻め手を緩めない面々の耳に強い心の込められた声が響く。
 見ればそこには加蓮が連れてきた女――瞳子と、レナ、美優の3人が繋いだ手を突き出す姿があった。

 心も声もひとつに合わせ、大きな力を生み出していく。


『エンジェルハウリング・トリオ!』


 彼女たちの周囲を包む力が安定しすべてひとつになる。
 14年ぶりの再会でもなお、問題なくその動きは曇らない。

 そのまま飛び上がると天に向けて腕を掲げ、叫ぶ。


『ハウリングソードッ!』


 空中に巨大な光の剣が現れると動きにあわせて振りおろされ、ついに翼蛇龍の翼を切り落とすことに成功した。
 蛇龍はしかし憤怒の色を色褪せさせることなく睨み付け、落ちた翼もまた戻らんと姿を形成し始める。


レナ「追撃いくわよっ!」

瞳子「遅れるんじゃないわっ!」


 繋いだままの手が横向きに流され、再びエネルギーが集束していく。
 白と黒のツートンカラーの巨大な鎌が生まれ、浮き上がっていた翼を切り裂くと同時に焼き尽くした。


『ハウリングサイズッ!』


312 ◆IRWVB8Juyg2013/10/06(日) 01:47:45.21WcMWkiI+o (9/20)

レナ「よしっ! もう片方も――きゃっ!?」

琴歌「危ないっ!」


 光の鎌が残った翼を切り裂こうと追撃を狙うも羽搏きによって吹き飛ばされ姿勢を崩してしまう。
 琴歌が3人を受け止めて着地するが、そこを狙って翼蛇龍が飛び込もうとしていた。


里美「無限に広がる海の牢獄よ、繋がり捕らえる檻となれ!≪囚縛のアレスト≫」

きらり「きらりんビームれぼりゅーしょーんっ!」


 しかし里美の操る水が網のように形を変え突進を阻止すると、そのまま絡みついて束縛する。
 暴れる翼蛇龍にきらりが拡散ビームを撃ちこみ表面を溶かすがまた表皮に無数のカースを生み出して防がれた。

 網に捕らわれた翼蛇龍は一瞬身体を小さく縮こまらせたあと力を解放して無理やり抜け出すと里美ときらりを憎々しげに睨む。
 嫉妬と憤怒に彩られた絶望は今の攻撃によってさらに暗く強く牙を突き立てようとしていた。

 きらりの光線による効果もだんだんと無くなってきている。表皮に滲み出すカースも強く大きくなっている。
 しかし翼をすぐに再生することはかなわないのか、残った羽は恨めしそうに小さく揺れた。

 再び羽搏けば、振りまく呪いの量はさらに激しくなるだろう。
 阻止するためにも追撃の手を休めずそれぞれが連携していくが、翼蛇龍は一度受けた攻撃の危険度を理解し、避けていく。
 傷つけられた憤怒によって凶暴さは増し、嫉妬深さによって狡猾さが増す。

 撃破を狙って翼蛇龍は知恵を練る。
 それは激情をもって、狡猾に。邪知深く、凶暴に。


313 ◆IRWVB8Juyg2013/10/06(日) 01:48:15.49WcMWkiI+o (10/20)

 決定的な一撃を与えることができない状況に歯噛みする奈緒は、自身の不死性を使って体内へと踏み込む手を考えていた。


奈緒「こうなったら……あいつの身体の中に突っ込んででも……!」

加蓮「……奈緒、何考えてるかはわかんないけどそれはダメだよ」

奈緒「いや、あたしは平気だ。このままじゃラチが明かない!」


 加蓮を振り切って飛び込もうとした奈緒だが、なぜかその手を振り払えず足が止まってしまう。

 ――今更不死性を隠す必要もない。ケガをすることになっても大丈夫だ。
 そう思っているはずなのに、いつの間にか繋いでいた手を放すことができない。

 思いとどまったのだと判断した加蓮が奈緒に向けて話を始める。
 奈緒はただそれを聞かなければならないような気がして、蛇を散らして場を開けた。


加蓮「突っ込むなら私も連れて行って欲しい。繭の位置も……感じられる、と思う」

奈緒「そんな無茶させられるかよ! あたしは多少無理したって平気だけど加蓮は!」

加蓮「平気なんてこと、ない!」


 奈緒の言葉を遮るように加蓮が言う。
 地に這う蛇を加蓮の泥が逆に喰らい、妨害を蹴った。


加蓮「戦うのは怖いし、辛いよ。でも、そうしないことでもっとたくさんの人が傷ついたりするのはずっとずっと嫌」

奈緒「なら、あたし達に任せとけ……アイツだってすぐに倒せる。ちょっとの無理ぐらいしなきゃいけないときなんだよ」

加蓮「その『無理』を抱え込んじゃったら。一番、辛いよ。友達が無理してるの見るのはやだ」


 荒れ狂う暴風の中を縫うように槍が飛び、邪魔をする泥を爪が切り裂く。
 口調も強く、お互いを止めようとしつつもフォローをやめようとはしない。


314 ◆IRWVB8Juyg2013/10/06(日) 01:48:51.96WcMWkiI+o (11/20)

 一歩も引かない加蓮に奈緒が業を煮やし、叫ぶように言う。
 加蓮も答えるように、さらに大きな声で叫んだ。


奈緒「あたしだっていやだって言ってるんだ!」

加蓮「だったらっ!」


 2人がつないだ手を突き出すと、奈緒と加蓮の身体から出た泥が巨大な槍を生み出して翼蛇龍の身体へ穴をあけた。
 ひるんだ翼蛇龍が下がったところを琴歌が何度も蹴りつけて鱗を剥がし、光と炎の矢が撃ちぬく。

 翼蛇龍の翼は折れ、地へと倒れ伏した。


加蓮「いっしょに戦ってよ。――お願い、見てるだけでいいなんて言わないで」


 加蓮の声が震えている。見ると、その目には涙が浮かんでいた。

 手の届かなかった世界へ飛び出した理由。加蓮が今でも形を変えて求め続けているもの。
 それは『持っていなかった』ものたちへの羨望。羨ましいと、繋がっていたいと思うもの。

 ――それは、彼女が世界を呪った理由。


奈緒「……わかった。今の、もう一回いけるか? 身体の中心を撃ちぬけば――」

加蓮「――うん、大丈夫。いけるよ」


 2人の身体を包むように泥が現れ渦を巻き始める。
 強く大きく、激しく鋭く――轟々と荒々しく。

 這いつくばった翼蛇龍は逃れるべく地へ染み込もうとする。


315 ◆IRWVB8Juyg2013/10/06(日) 01:49:30.37WcMWkiI+o (12/20)

琴歌「させませんっ!」


 しかし琴歌が地を蹴りあげ巻き上げる。
 突風と共に上空へと打ち上げられた翼蛇龍は無防備なまま光と炎の矢に何度も射抜かれ宙を舞った。


瞳子「燃えなさいっ!」


 瞳子がパチンと指を鳴らすと着弾した部分がはじけて装甲が剥がれていく。
 落ちる翼蛇龍を受け止めるかのように巨大な渦が地面から生まれたかと思うと、激しい水の竜巻となってその体をとらえた。


里美「逃れることのできぬ運命の渦よ、飲み込み彼方へと誘え!≪禍海のメイルシュトロム≫」

きらり「がんばってぇぇぇえええええ!!」


 きらりが幾筋もの光を生み出すと、暴れていた翼蛇龍の動きが鈍くなる。
 その光の中を奈緒と加蓮の生み出した巨大な槍が突き進み――


「さよなら……エンヴィー。私はもう、絶望しないから」


 ――『絶望』を貫いた。


316 ◆IRWVB8Juyg2013/10/06(日) 01:50:26.19WcMWkiI+o (13/20)

 貫くためにすべての力を使い果たした加蓮の翼が消え、奈緒ともども地面へと落ちていく。
 その中で加蓮は溶けて消えていく翼蛇龍の姿を見ていた。

 ――寂しさに狂った自分の象徴。羨ましさに怒った自分の表象。
 それとの別れと決着を見届け、今の自分の手に繋がる温かさを感じながら加蓮は意識を手放した。


李衣菜「おぉっと……まったく、無茶しすぎだよ」

店長「ケガは……ない、みたいだな。よかった」


 落ちて来る二人を李衣菜がキャッチすると安堵のため息をつく。
 裕美と夏樹をかばっていた二人も、多少の負傷と疲労はあれど無事戦い抜いていた。


里美「ほわぁ……よかったです~。みなさん頑張りましたもんね~」

琴歌「えぇ、本当に……よかったですわ……!」

瞳子「助けになれたみたいでなによりよ」


 お互いの無事を喜び抱きしめあう。
 そんな中――李衣菜が、倒れた。


317 ◆IRWVB8Juyg2013/10/06(日) 01:51:10.35WcMWkiI+o (14/20)

美優「り、李衣菜ちゃんっ!?」

李衣菜「あ……」


 言葉を繋ぐことすらできず李衣菜が動かなくなる。
 周りが慌ててどうしたのかと心配する中、ゆっくりと夏樹が起き上がるとその頭を撫でた。


夏樹「……だりーも、無茶してたからな。安心してくれ……ただのバッテリー切れだ」

レナ「バッテリー……?」

夏樹「あぁ、結構暴れてたせいでね……助かった。ありがとう」

店長「いや、俺もフォローしてもらってて……無理をさせてしまったみたいだ。こちらこそありがとう」


 互いに礼を言い合うと、さてと夏樹が顎に手をやる。
 きらりは頬に指をあててかしげると困った様子を表現した。


きらり「でもでも、どーしよー……? お帰りがたいへんかもー?」


 夏樹は疲労で穴を開けられる状態ではない。
 奈緒も先ほどの一撃に全てをかけたせいか眠ったまま目覚めていない

 きらりも戦闘でかなりエネルギーを消耗しているため2人を担ぐのは楽ではない。
 一旦整備も挟みたいが、動けない状態のままでは帰るに帰れない。


318 ◆IRWVB8Juyg2013/10/06(日) 01:51:39.51WcMWkiI+o (15/20)

店長「バッテリーか……電力。この角でならと思ったが出力調整がうまくいかなくてな……」

夏樹「あー、あんまり一気にやるとまた面倒なことになるかもしれないしなぁ……しょうがない、もう少し休んだら穴開けるよ」

裕美「あの、それなら……力になれる、かも」


 ため息をつく夏樹に、おずおずと裕美が手をあげる。
 師匠の使い魔――ペットというべきか、なんというか。少なくとも角の扱いならばわかっている、と。


琴歌「まぁ……! トナカイさんは電気が角からでるんですね!」

里美「ほぇぇ……トナカイさんですか~。見てみたいです~」

くとさん『○』

裕美「いや、その……ブリッツェンはトナカイじゃなくて……」

店長「……じゃあアイツはなんなんだ……?」

美優「知らなくて使ってたんですか……?」

瞳子「問題なく動くのなら仕組みがわからなくてもいいんじゃない? たどり着けるのなら、道は関係ないのよ……たぶん」


 天然気味のお嬢様2人は興味津々と言った様子で話を聞きたがる。
 店長のつぶやきに美優がつっこみ、瞳子が自分に言い聞かせるようにフォローをいれた。


319 ◆IRWVB8Juyg2013/10/06(日) 01:52:59.82WcMWkiI+o (16/20)

 倒れているメンバーの回復と、これ以上何かがくる可能性も含めてこの場は離れるわけにもいかない。
 裕美は角を受け取ると李衣菜の充電用コードを巻き付け残った魔力を練り上げる。


裕美「あの、あと……この角についてるクセのぶんだけ誘導がしやすくなりそうなので、手を貸してください」

店長「手を……あぁ、こうかな?」

裕美「はい。えっと……少しずつ、少しずつ……!」


 出力を抑えるブレーカーの役割をはたしてブリッツェンの角から電気を流していく。
 李衣菜が暴走しないようにコントロールしつつ、少しずつ。

 手ぶらの仲間は周囲の警戒を続けているが、どうやら追手は来ないらしい。
 しばらくの時間が立ち、そして――


李衣菜「……う、ん……?」

裕美「よかった……目が、覚めたみたいで。大丈夫かな?」

きらり「うきゃー! すっごーい! 裕美ちゃんありがとーっ☆」


 李衣菜が目覚めた喜びにきらりが裕美に抱きついた。
 急な接触にあわてたあと、気まずそうにそれに返事をする。


320 ◆IRWVB8Juyg2013/10/06(日) 01:53:35.34WcMWkiI+o (17/20)

裕美「……あ、あの。私……結局戦えなくて……」

レナ「そんなことないわ。アレは強かったもの……ここまで誘導してくるのだって楽じゃなかったはず」

裕美「……それで迷惑かけちゃって」


 言いかけた裕美のおでこをレナが軽くはたいてみせる。


レナ「子供は迷惑かけたりかけられたりが仕事じゃない。いいのよ、あなたがここに連れてきたのは間違いじゃなかったんだから」

店長「街の中で倒していたら問題だったらしいしな……結果論でも、なんでもいい。おかげで助かる人が出るならさ」

夏樹「まさか加蓮が来るとは思わなかったけどなぁ……不思議なもんだよ、縁ってやつ? 街の中で戦ってたら知らないまんまだったぜ」

裕美「……うん。ありがとうございます」

きらり「それにそれに! 李衣菜ちゃんが元気になれたのも裕美ちゃんのおかげだにぃー? うぇへへー、はぴはぴ?」

裕美「は、はぴはぴ? って、きゃぁぁぁっ!?」


 再びきらりが抱きつくと喜びを全身で表現する。
 高い高いで他界他界寸前高度まで飛び上がる。先ほどまでの疲労もどこへやらといった様子だ。

 巻き込まれる裕美も驚き、周りの面々も思わず止める。
 里美と琴歌は「次は自分もやられてみたい」とつぶやくが夏樹がそれを制した。


321 ◆IRWVB8Juyg2013/10/06(日) 01:54:13.91WcMWkiI+o (18/20)

 ――こうして、憤怒の街郊外での一連の戦いには幕が下ろされた。

 もちろん、まだ街の中では戦いが続いている。癒しの雨を止めさせないためにナチュルスターを防衛し続ける必要はある。
 だが、戦力も絆も十二分に満たされたこの場はもはや問題ないだろう。

 和やかな空気の流れる中、眠ったままの加蓮と奈緒が手を繋いだまま少しだけ笑った。



裕美「よかった……のかな。うん、

李衣菜「……」

裕美「あ、動いても平気で……すか……?」

李衣菜「……にょわー?」

裕美「ひっ!?」

李衣菜「はぴはぴろっけんろー! いぇー!」

夏樹「ちょっ、だりー!? どうしたいろいろと変だぞ!」

店長「やっぱりこの電気、普通じゃなかったのか……停電の時には使えないな……」

美優「いってる場合ですかっ!?」

きらり「にょわーっ! みんなではぴはぴーっ!」



 幸福と謎のエネルギーにあてられた李衣菜ときらりに、その場の全員がひとしきり神輿のように担がれたのはまた別の話。


322 ◆IRWVB8Juyg2013/10/06(日) 01:58:05.48WcMWkiI+o (19/20)


!憤怒の街郊外にて『絶望の翼蛇龍』を撃破しました
 ――それぞれのメンバーはナチュルスター防衛を続けるものや街に戻るものなどもいるようです


323 ◆IRWVB8Juyg2013/10/06(日) 02:00:33.03WcMWkiI+o (20/20)

前編に引き続きレナ、ネバーディスペア、裕美、里美、琴歌
および瞳子、加蓮をお借りしました

憤怒の街郊外戦は(たぶん)これで終了
瞳子さんがお姫様抱っこされた状態で登場したのは私の責任です……私が弱いから……未熟だから……
このブリッツェンの角はお返しします……


324 ◆zvY2y1UzWw2013/10/06(日) 02:16:17.33PI6aBihD0 (1/1)

乙です!乙です!マジ乙です!

熱くて素晴らしいバトルでした
奈緒と加蓮の友情の合体技が本当によかった…
他にも色々言いたいのにまとめられないでござる
とにかくオチも含めてよかったです!

…深夜にこんなにテンションあがっちゃったよ



325 ◆hCBYv06tno2013/10/06(日) 02:36:17.66Nj7SSlnl0 (1/1)

乙ー

どのキャラもちゃんと立ち回ってて凄い

加蓮と奈緒の合体技もかっこよかった!

そして、お姫様抱っこされてる瞳子さんwww


326 ◆llXLnL0MGk2013/10/06(日) 07:15:43.53XTzo7EnAO (1/1)

乙乙

ついに翼蛇龍が『外で』倒れたか……憤怒Pはどう動く?

良かった……登場は少しシュールだけど瞳子さん活躍出来て良かった……!


327VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/06(日) 09:32:52.08LHzIrdBbo (1/1)

おつおつー

おじさんは強キャラだったのか・・・
かわしまさんはかわいいわ。アンチエイジングしても胃痛はとまらないわ
巫女さん心折ろう

そして憤怒の街でのナチュルスター防衛、完結か
服部さん残念が板についてきちゃってる気がするが活躍してなにより
奈緒加蓮の友情いいな。ナニカも協力してたりしたのかな?


328 ◆hCBYv06tno2013/10/07(月) 22:44:58.44qwDlER1tO (1/11)

投下します


329 ◆hCBYv06tno2013/10/07(月) 22:45:53.49qwDlER1tO (2/11)

イヴ非日常相談事務所

そこの机の下で森久保乃々は一人で引きこもっていた

乃々「………」

いつもの青ざめてる顔を更に青ざめさせ、怯えるようにけ震え、身を小さくさせるように体操座りをしている。

それは、彼女に一つのトラウマが植え付けられてしまったからだ。

自分の意思ではないとはいえ、仲間を傷つけた。

自分の意思ではないとはいえ、仲間を苦しめてしまった。

自分のせいで、大切な尊敬する人ーーイヴさんを怪我させてしまった。


330 ◆hCBYv06tno2013/10/07(月) 22:47:05.22qwDlER1tO (3/11)

怖かった。自分のせいで仲間を失ってしまいそうで……

怖かった。また自分の力で仲間を危険な目にあわせそうで……

怖かった。仲間が…友達が…大切な人達がいなくなってしまうんじゃないか……

臆病で、失敗するのを恐れ、逃げ出す自分を受け止めてくれ、信じてくれた尊敬する憧れの人。

どんな不幸な目にあっても前を向き、自分なんかよりも強く、輝いていて、どこか危なかっしく放っとけない友達。

曲がった事が嫌いで、真っ直ぐつき進み、怖いけど優しい、支えてくれる友達。

みんなに振り回されて、よく自分達の後始末をしてくれるけど、文句一つも言わない、優しい友達。

優しくって、暖かく、どこか天然な気がする姉のような人。

みんな、みんな、見捨てないで、一緒にいてくれる。

だから怖い。失うのが!傷つくのが!消えるのが!自分のせいで!!自分のせいで!!!自分のせいで!!!!!!!


331 ◆hCBYv06tno2013/10/07(月) 22:48:06.01qwDlER1tO (4/11)







怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。コワイ。コワイ。コワイ。コワイ。コワイ。コワイ。コワイ。コワイ。コワイ。コワイ。コワイ。コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ







332 ◆hCBYv06tno2013/10/07(月) 22:49:38.65qwDlER1tO (5/11)

乃々「もりくぼはどうしたらいいんですか?……」

震えながら、一人呟く。

けど、答えはわからない。

乃々の心は恐怖に埋れている。

乃々「………」

フラリと机の下から出てくると、乃々は事務所の外を出た。

わからない。だから外へ出てみよう。

もしかしたら、答えが出るかもしれない。

それに事務所の中でずっと怯えてるとみんな心配してしまう。だから≪逃げよう≫。

だが、乃々は気づかない。自分が少し成長してることに。

普段の乃々なら嫌な事があれば隠れて逃げてるのに、それをなんとかしようと足掻いてるのに……。

それを≪逃げる≫という事だと思い。


333 ◆hCBYv06tno2013/10/07(月) 22:51:00.24qwDlER1tO (6/11)

ーーーーーーーーー

ほたる「乃々ちゃん……」

その様子をこっそりと見ながら、ばれないようにと乃々の後をついていく。

実は最初からいたのだが、どうも乃々に話しかける雰囲気ではなかった。

今の乃々に話しかけても逃げ出してしまうからだ。

かといって、心に傷を負った乃々をどうにかしたいと、ほたるは思う。

仲間として、友達として、なんとかしたいと。


334 ◆hCBYv06tno2013/10/07(月) 22:52:10.98qwDlER1tO (7/11)

ほたる「そういえば、もうすぐ秋炎絢爛祭だよね」

もうこんな季節だな…っとほたるは考えて閃いた。

ほたる「秋炎絢爛祭に乃々ちゃんと一緒にまわれば、気分転換になるかな?」

本当は志乃さんとまわる予定だったけど……ヒーロー活動の事を言わないで事情を説明すれば大丈夫だよね?と思いながらほたるは決意する。

ほたる「それに巴ちゃんも…」


335 ◆hCBYv06tno2013/10/07(月) 22:53:03.13qwDlER1tO (8/11)

ーーーー回想ーーーー

ほたる「巴ちゃん!?治ったばっかりなんだからまだ動いちゃダメだよ!?」

巴「わかってるけぇ。しばらくは安静するから安心せえ。それより乃々の事頼む」

ほたる「……うん」

巴「それに秋炎絢爛祭が近いうちにあるけえ。うちも準備しないといけんしのう。始まったら遊びにきい」

ほたる「うん。何やる予定なの?」

巴「お好み焼きじゃ!本場のお好み焼きみせたるけえのう!!」

ーーーー終了ーーーー


336 ◆hCBYv06tno2013/10/07(月) 22:54:20.27qwDlER1tO (9/11)

ほたる「凄くはりきってたし、今の乃々ちゃんをなんとかするにはやっぱり気分転換が一番なのかな?」

そう「乃々ちゃん元気になれ作戦」を思案していながら、乃々の後をこそこそついていった。

友達を≪不幸≫にさせないために。


終わり


337 ◆hCBYv06tno2013/10/07(月) 22:57:39.12qwDlER1tO (10/11)

情報追加

・乃々の心は恐怖でいっぱいです!トラウマだね!

・巴は文化祭のクラスの出し物でお好み焼き作るよ!凄いやる気満々だよ!

・志乃さん自棄酒コース!


338 ◆hCBYv06tno2013/10/07(月) 22:59:03.27qwDlER1tO (11/11)

以上です

ナチュルスターの文化祭の動き的なものを

そして、乃々書いててどうしてこうなった……お客様の中で藍子さんかきらりんさんはいませんかー!!!


339 ◆zvY2y1UzWw2013/10/07(月) 23:52:28.908zzFlq9V0 (1/1)

乙です
森久保…トラウマできちゃったか…
お嬢のお好み焼き楽しみです。黒服がお客に大量にいそう

志乃さんは自棄酒w我慢してくださいw


340 ◆zvY2y1UzWw2013/10/08(火) 00:03:04.217FxjE8880 (1/23)

投下します


341 ◆zvY2y1UzWw2013/10/08(火) 00:04:40.687FxjE8880 (2/23)

「『海底都市』『レヴィアタン』『イワシ型のロボット』そして…『神の洪水計画』ですか。」

「ああ。君を見込んで、この…本来なら機密事項である言葉を伝えている。」

LPは安斎探偵事務所を自ら訪れていた。助手である二人は今、買い出しに行っている。

マルメターノから伝えられた言葉、そして夏樹が友人…アイドルヒーロー同盟のカミカゼから聞いたという、海底都市の神の洪水計画。

今、この星は滅亡の危機にある。きらりを除くメンバー3人は地球人だ。彼女達の故郷、この星を失うわけにはいかない。

LPもきらりも…母星を失っている。だからこそ、彼女達はこの星にいて欲しいのだ。

「そして、レヴィアタンと言う名は…地球の悪魔と言われる者の『大罪の1つ、嫉妬を司る悪魔』らしいが…これで足りるだろうか?」

「…お任せ下さい。『調べて』みます。」

何も書かれていない、真っ白な本を開き、都の能力が発動する。

「『海底都市』……『レヴィアタン』……『イワシ型のロボット』……『神の洪水計画』……『嫉妬の悪魔』……」

パタンと本を閉じ、都は顔を上げる。

…心なしか青ざめているが、プロである彼女はそれを抑え込む。

「…神の洪水計画を企てているのは悪魔。レヴィアタン。間違いないです。東の海の底の海底都市で暗躍しています。例のイワシ型ロボットも海底都市の物。」

「神の洪水は…封印されているノアの方舟を使う事で発生。既に封印は4つのうち2つは解かれています。そして発動すれば本当に世界は海に沈む。」

「何!?残りの封印の場所は!?」

「…申し訳ありません!手がかりが!手がかりが足りません!!」

心の底から叫ぶように都は叫ぶ。自分がそれを把握できれば、封印の破壊を阻止できるのに。発動すれば世界が滅びるのに。

「…そうか。…君が責任を感じることはない。我々の持ってきた情報が足りなかっただけだ。むしろここまで調べてくれたことに礼を言おう。こちらで何とか頑張らせてもらうよ。」

「…はい。」

自分は完全に真実を見抜けなかった。俯き、扉が閉まるのを確認すると、一筋の涙を流した。

「…探偵は、真実を探すべき…ならば、こちらでも調べましょう。それが一番です。」

自分に言い聞かせるように、都は調べ物を始めた。


342 ◆zvY2y1UzWw2013/10/08(火) 00:07:09.077FxjE8880 (3/23)

もうシーズンも終わり、人気のないとある海岸、穴から奈緒が飛び出してきた。

「じゃあ、行って来る!」

穴の向こうのメンバーに軽く手を振り、穴が閉じたのを見届けると、紐のついた金属製の頑丈な小箱をリュックサックのように背負い、水着に黒い泥を纏って海水に足をつけた。

「…」

全身に何とも言えない感覚が駆ける。

脇腹に鰓、踝にはヒレ。虎耳も変化して髪で隠せるレベルの大きさのヒレ耳に変わる。

それはまるで退化する前のウェンディ族だった。

究極生命体の力。周囲の環境へ適応する力。水の中を行くのなら、この姿になるのだ。

唯一左手だけは呪いのように虎の手のままだが、泥を纏い、両腕を大きなヒレへと変えれば泳ぐ時は問題ない。

何か別の用事があるらしいマルメターノの代わりに海底都市へ向かい、潜伏し、何か異常を見つける為。

要するに宇宙管理局太陽系支部地球出張所所長LP直々の特殊部隊・ネバーディスペアの一員としての潜伏任務と言う訳だ。

あわよくば神殿や宮殿へ潜入したいが…そこまでうまくはいかないだろう。

さらに言えば…誰かが『狂行』を行う時、それに巻き込まれる一般人を一人でも救う為に。

彼女が一人で行く理由。それはもちろん潜水艦で向かい、イシュトレーの撃墜映像のような結果を防ぐため。

これから暫く拝めないであろう空を仰ぎ、深呼吸をする。

そして彼女は海へ飛び込んだ。


343 ◆zvY2y1UzWw2013/10/08(火) 00:08:29.037FxjE8880 (4/23)

無数の本能の内のいくつかが泳ぎ方を理解している。そして理性でそれを模倣する。

深く、深く…奈緒を避けて泳ぐ魚の流れを横目で見つつ、彼女はマルメターノに伝えられたポイントまで向かってゆく。

「おい、ちょっと止まれ!」

「!?」

そこへ、何か大きな影が現れた。戦闘準備に入り、相手を認識する。

亀のような巨大生物。大量のアンモナイト。そして…

(あ、ピー助だこれ)

某猫型ロボットが出るアニメの映画に出た恐竜を思い出し、少し警戒が解けた。

喋ったのはどうやら亀の様だが…奈緒が驚いたのは喋った事もあるが近づいてきた事もだ。

「お前…ただ者じゃない気配がするが…ウェンディ族ってやつだろ?フタバを見て崇めたりしねーのか?まぁいいけどよ。」

「おそれ、ひれふし、あがめたてまつれ」

ちゃんと会話できる知能もあるようだ。

「…あたしに何の用だ?いきなり失礼じゃないか?」

「おう、すまん。俺はアーケローグ! アーケロン一族の戦士だ。こっちはフタバイキング。要件ってのは海底都市の場所を聞きたいだけだ。知ってるだろ?」

「知ってるけど…知ってどうする?」

「俺たちのボスがそこの神殿にいるらしいからな。会いにいくんだよ。」

「おれたちうそつかない」

「ボス?」

「プレシオアドミラルだよ!知ってるだろ!」

「はくじょうしろ」

「…あー」

マルメターノからの情報で、確かにそんな名前の守護神を信仰しているとあった。

ウェンディ族なら確かに常識の範囲内なのだろう。…なら、その神の知り合いにどう対応すべきか…


344 ◆zvY2y1UzWw2013/10/08(火) 00:09:36.637FxjE8880 (5/23)

「…あたし、そこに住んでいないけど、今から行くんだ。…でも、あんた達はいけないと思う。」

「なんでだよ?」

「最近、内部からそこがまるで山に見えるように結界が貼られているって聞いた。あたしは知り合いが作ってくれた隠し通路使うけど…」

「あー…俺らがデカすぎるのか…。」

「サイズミス」

「…あたしはその内部の原因を探りに行く。結界の周辺までは一緒に来れると思うけど…どうだ?」

彼らが悪い生物には見えない。一応場所を教えておけば、結界が解けたら会いに行けるだろう。

仲間に会いたいと言う彼らを、突き放すことは奈緒にはできなかった。

「…そうだなぁ、取りあえずちゃんとした位置把握ぐらいはしておくべきか」

「もくてきちしゅうへん」


345 ◆zvY2y1UzWw2013/10/08(火) 00:10:41.897FxjE8880 (6/23)

奈緒が先行し、さらに深く潜る。大きな海底山が見えてきた。

「ここが海底都市…らしい」

「…本当か?」

「知り合いから伝えられたポイントはここなんだよ。あの岩…顔っぽく見える奴が目印とかなんとか…」

「暫く海底都市に入れねぇなら仕方ねぇ。…まぁ報告はしておくべきだな。場所は大体覚えたしよ」

「まちぶせせんぽう」

「覚えたならよかった。じゃああたし行かないと…」

「おう、ありがとよ!」

ヒレを振る巨大な亀に腕を振って、奈緒はさらに詳細なポイントへ向かった。


346 ◆zvY2y1UzWw2013/10/08(火) 00:11:45.927FxjE8880 (7/23)

「…えっと…この顔っぽい岩の顔部分を背にして…前に二歩、右に三歩、左に四歩、そこからまた前に五歩…ここか…ここだよな?」

足元の地面は周囲と変わりない地面だ。

「…とにかくやるしかないか。」

ヒレ型の泥を硬質化させ地面に突き立てる。少し深い位置で金属音が響いた。

「っし…ビンゴ!」

周囲の土と砂を取り除くと、金属でできたマンホールのようなものが露出する。

マルメターノが結界を突破する為に使った地下通路への入り口だ。敵に見つかった時の為に整備してあったのだろう。

…どうやって彼がこんな海中を移動しているのかは知らない。

(…まぁマルメターノおじさん、何やってもおかしくないしなぁ)

昔いろいろお世話になり、彼の事はある程度知っている奈緒でもこう思うほど、彼は未知数なのである。

「パスワードは…」

彼から伝えてもらっていたパスワードを入れる。緑色の小さなランプが点滅し、自動ドアのように開いた。

入る前に取り除いておいた土や砂等を穴の周囲にまとめる。そして奈緒が入ると入り口は完全に閉まり、ロックがかかった。

表側では渦を巻くようなエネルギーが発生し、舞い上がった土と砂を被って再び扉は隠された。

中は狭い。荷物を抱えつつ、明かりは完備されているその通路を泳いでいく。


347 ◆zvY2y1UzWw2013/10/08(火) 00:13:12.887FxjE8880 (8/23)

「ふぅ…着いた…」」

やっと通路から脱出し、建物の中に出る。ここはマルメターノが海底都市で数日にわたってソーセージ売りをする時に使う住居。小さいが彼の土地だ。

マルメターノはここの部屋の隅から外までの通路を掘っていた。どれほどの期間で出来た物なのだろうか…彼はやっぱり未知数だと思った。

奈緒は暫くここで過ごすことになる。一通りの必要な物はあるし、人通りの少ない安い土地なのもあり潜伏には都合がいい。

置いてあったタオルで体をふき、金属の箱から着替えや睡眠用のアイマスクや機械…重要なものをいろいろ取り出す。

着替えを済ませると報告書を取り出し、海中での出来事…恐竜のような知的生命体。それの目撃情報の報告を書き記す。

それを終えるとある機械のスイッチを入れる。座標測定器…精密な座標位置を割り出し夏樹の元へ送る機械。

管理局が正確に座標把握できているのは基本的に地上だ。下手に海の中に繋げると水が穴から溢れてヤバイ。

故に海の座標データは無く、こうして測定器を持ってきていた。

マルメターノから聞く手もあったが、今は忙しいらしいし、元々座標データに頼るような男ではない。


348 ◆zvY2y1UzWw2013/10/08(火) 00:15:17.207FxjE8880 (9/23)

少し間をおいて、部屋に小さな穴が現れた。夏樹が向こう側から話しかけてくる。

「奈緒、お疲れ。ちゃんと正確な座標データ入手できたからな。」

「問題なさそうか?」

「ああ。でも距離のせいであまり大きな穴は無理だな…。いざという時駆けつけられない」

確かに人が通るのは無理そうだ。こればっかりは仕方ない。

「そうか…まぁ、ちょっとした物は送れるし、無線とかは感づかれる可能性あるし…十分だって」

「まさか奈緒に慰めて貰えるとはなぁ…」

「さりげなく酷いな…」

「はは、冗談だよ。…とにかく、無茶はするなよ?」

「…ああ、いざとなったら全力で逃げる。捕まるのだけは避けるよ。なんとしても…」

「…みんな、待ってるからな。」

「おう。」

報告書を手渡すと穴が消え、非常にシンプルな部屋に静寂が戻った。

ギプスとヘッドホンをつけ、都市に出る準備をする。やはり現地の本やら新聞やらなにやらはあって損はないだろう。

窓の外を見ると、非常に綺麗な街並み。水路にはバスのような船が浮かび、少し遠くに公園が見えた。海底都市はやはり地上とそこまで文化に差がないようだ。

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

「うおっ!」

そこに、突如竜の咆哮が響き渡った。

「すげぇな…街の人皆平然としてる…」

話しには聞いていた、ウェンディ族を守護する海神の雄叫びであるというそれ。いちいちビビってたら怪しまれるだろうか…

(まぁ慣れるしかないか。…というか、気のせいか?あの声…)

奈緒は何か感じていた。あれは見守ってる証の様には聞こえなかったのだ。

苦しんでいるような、誰かを呼んでいるような…

とにかく、情報を少しでも手に入れる為、奈緒は街へ踏み出した。

悪魔が彼女を見つけても…死ぬことはない。だから彼女は積極的に動き、調べ出す。

一種の無茶を、無意識に行っていた。


349 ◆zvY2y1UzWw2013/10/08(火) 00:16:11.007FxjE8880 (10/23)

「…ねぇ、なんかあのおじさんの代わりに別の奴…女の子が侵入していたんだけど…例の如く結界突破されてるし。」

怠惰の人形師がゲーム画面を見てげんなりしながら報告する。

「またイレギュラー…わからないわ…その娘の情報は調べられないの?」

「えーじゃあダメ元でやってみる…」

コマンドを入れ、彼女のデータを閲覧しようとする。

無数の赤い目玉が画面に表示された。

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!なにこれ!?なにこれ!?」

怠惰の人形師は、悲鳴を上げてゲームを手放してしまう。壊れてはいないようだが、あまりにも異常な反応にレヴィアタンは困惑した。

「…何が書いてあったのかしら…」

そのゲームを拾い、画面をのぞき込む。


350 ◆zvY2y1UzWw2013/10/08(火) 00:16:41.997FxjE8880 (11/23)

すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ


351 ◆zvY2y1UzWw2013/10/08(火) 00:17:26.047FxjE8880 (12/23)

「!?」

ソーセージ売りの男の時とはまた違った…バグのような現象。慌てて電源を切った。

「…わからないわ…排除すべきか放置しておくべきか…あら?」

使い魔から送られてきた映像を見てレヴィアタンは気付いた。彼女に見覚えがあったのだ。

…北条加蓮。驚異的な進化を見せてくれた嫉妬の蛇龍の生みの親。…彼女を救出したメンバーの一人だったはずだ。

「…邪魔ね。それだけはわかるわ」

だからわかる。彼女がある程度の力を持つことが。背景組織がそれなりに大きいことが。

「どう言って排除してもらおうかしら…流石に海皇親衛隊相手には苦戦するはず…でもあの男の仲間なら生半可なやり方では…傭兵を使う手もあるわね」

これ以上のイレギュラーを許しては置けない。しかし、下手に手を出し、戦力を削られてしまうのは最悪だ。

獲物を見つけた彼女は、獲物の狩り方を思案する。攻撃的な笑みを見せながら。

はてさて、その獲物は羊なのか、羊の皮を被った狼なのか…はたまた狼の皮を被った…

誰にもわからない。その獲物自身にさえ。


352@設定 ◆zvY2y1UzWw2013/10/08(火) 00:19:07.847FxjE8880 (13/23)

奈緒・ウェンディモード
水中に適応した姿。現在のウェンディ族よりも鰓やヒレが少し発達している。
海底都市で潜入する為にこの姿を保っており、そのために定期的に海水を浴びる必要がある。

イベント情報
・奈緒が潜伏を始めました
・管理局がいろいろと情報を入手しました


353 ◆zvY2y1UzWw2013/10/08(火) 00:20:25.177FxjE8880 (14/23)

以上です
…やっとちゃんと特殊部隊らしいことした気がする
奈緒ちゃんは一体どうなってしまうのか、わからないわ


354 ◆hCBYv06tno2013/10/08(火) 00:22:26.89AED2yMWDO (1/3)

乙ー

マルメターノおじさん……わからないわ
奈緒が果たしてどう動くのかwktk

そしてレヴィアタンの胃痛は収まるのか?それとも胃痛は加速するのか?


355 ◆llXLnL0MGk2013/10/08(火) 00:27:02.16gmpdvpYK0 (1/13)

乙乙
森久保ぉ……頑張れ、この後覚醒が待ってる(多分)
海底都市にヤバイのが上陸(?)してきたぁー!?

学園祭のマキノ&トレイターズ投下します


356 ◆llXLnL0MGk2013/10/08(火) 00:28:29.08gmpdvpYK0 (2/13)


海皇宮、ヨリコの自室。

ヨリコと海龍の巫女の前に、マキノが立っていた。

マキノ「急なお呼び出しですね、ヨリコ様」

ヨリコ「ええ、どうしてもあなたに伝えなければならない事があります」

ヨリコは神妙な面持ちで、ある書類をマキノに手渡した。

マキノは受け取った書類……いや、チラシにさっと目を通し、その目を丸くした。

マキノ「秋炎絢爛祭……地上の祭典ですか?」

ヨリコ「はい。……単刀直入に言いましょう。マキノ、あなたに休暇を言い渡します」

マキノ「…………はい?」

マキノは目が点になった。

巫女「ヨリコ様はね、あなたが最近働きすぎだと仰るのよ」


357 ◆llXLnL0MGk2013/10/08(火) 00:30:04.27gmpdvpYK0 (3/13)

マキノ「…………」

マキノはここ最近の自分の行動を振り返ってみた。

体調が悪いと言っていた兵士と夜間巡回を代わり、不在のスカルPに代わり親衛隊のトレーニングメニューを考え、

各部署の勤務態度をアビストーカーで秘密裏に調査し、各戦闘外殻の補修・調整の指揮を執り、

食堂の新メニュー候補(数十品)の試食を依頼され、

挙句にオフは専らオクトとの意思疎通を図ることに費やしていた。

思えば、休みらしい休みなど、ここ数週間ろくにとっていなかった。

マキノ「……しかし、全ては海底都市、ひいてはヨリコ様の為に……」

ヨリコ「しかし、それでマキノに倒れられては私が困るのです」

マキノ「…………そこまで仰るのでしたら、謹んで休暇をとらせていただきます」

ヨリコ「楽しんできてくださいね。ああ、そうそう」

そう言ってヨリコは小箱を二つ取り出した。


358 ◆llXLnL0MGk2013/10/08(火) 00:31:24.39gmpdvpYK0 (4/13)

マキノ「……片方は地上の通貨に換金する大真珠でしょうが、もう片方は?」

巫女「アビスドライバー。科学班の薬学チームと工学チームが共同で開発した試作品よ」

箱を開けると、中には少しゴテゴテしたバックルのベルトが入っていた。

マキノ「科学班が……これはどういう物なのですか?」

巫女「詳しい原理は省くけれど、装着者の皮膚の乾燥を感知すると、周辺の大気を電気により分解して……」

マキノ「……なるほど。無理矢理海水に近い物を生み出して装着者に注入する、と」

巫女の言葉を遮ってマキノは理解した。

巫女「察しがいいわね。地上に計画がもれている以上、無闇にウェンディ族であることが露見するのは望ましくないわ」

そのためにも、『海水を頭から被る』などという行為は避けたほうがいい。

そういった発想から、急遽科学班が開発したのがこのアビスドライバーだ。

ヨリコ「それはあくまでも試作品です。異常が起こったら、無理せず戻ってきて下さいね」

マキノ「分かりました。…………興味深いな……」

マキノはしばし、アビスドライバーを前から後ろから、右から左から上から下から眺めていた。

マキノ「……では、失礼します」

マキノは小箱とアビスドライバーを持って一礼し、部屋を後にした。


359 ◆llXLnL0MGk2013/10/08(火) 00:32:22.84gmpdvpYK0 (5/13)

巫女「……ヨリコ様。部下を大事にするのはわかるわ。でもこんな時に……」

巫女がヨリコに苦言を呈す。

『神の洪水計画』の準備が進行中のこの時、ただでさえ少なくなっている親衛隊を休暇に出すなど……。

ヨリコ「こんな時、だからこそです。確かに、民や兵士、親衛隊を酷使すれば計画は早急に進むでしょう。
   しかし、それは指導者たりえぬ愚かな指導者がなすことです。いずれ不満が爆発し、反乱、暴動を呼びます」

巫女「まあ、それはそうね」

ヨリコ「それに、先ほども言った通り。マキノは休まなさすぎるのです。見ていて怖いのです。
   あのまま働き続けるマキノが、いつか壊れてしまうのではないかと……」

見ればヨリコは俯き、肩も微かに震えている。

巫女(そういう夢でも見たのかしら……?)

ヨリコ「……それから、巫女さんもですよ」

巫女「……私が?」

急に名を挙げられて、巫女は思わず抜けた声を上げてしまった。

ヨリコ「はい、何か最近お疲れのようですけど……」


360 ◆llXLnL0MGk2013/10/08(火) 00:33:35.35gmpdvpYK0 (6/13)

巫女「……え、ええ、そうね、まあ、色々と……」

本当に色々ありすぎる。

二人の脱走者、武者修行に出た親衛隊の孫娘、周辺を嗅ぎ回る古の竜、地底出身の傭兵、例のソーセージ売り、

そして、怠惰の人形師をパニックにさせたイレギュラー……。

考えただけで少し胃が痛くなってくる。

ヨリコ「……こちらにお掛けください」

ヨリコは部屋の隅から椅子を引きずってきた。

巫女「…………?」

続いてテーブルの上にはクッキーと紅茶が並べられた。

ヨリコ「私はまだまだ未熟なので、巫女さんの心労を察す事は出来ません。ですが……」

巫女の前にも同じものが並べられる。

ヨリコ「せめて今くらいは、一緒に一息入れませんか?」

ヨリコは、笑顔を作って巫女へ椅子を差し出した。

巫女「…………ええ、いただくわ。ありがとう、ヨリコ様」

巫女もそれに微笑みを返し、椅子に掛けた。

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361 ◆llXLnL0MGk2013/10/08(火) 00:35:39.19gmpdvpYK0 (7/13)

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夜、地上。マキノは町の中心から少し離れた、人気の少ないところにいた。

マキノ「……オクト、あなたは光学迷彩を常時発動させておくこと。いいわね」

『ゴロンゴロロン』

マキノの指示に従い、金属のミズダコ『オクト』の姿がゆっくりと消える。

休暇とはいえ、その間にカースにでも襲われたらたまったものではない。

そう考えたマキノは、一応パートナーの戦闘外殻だけ連れて地上に旅立ったのだ。

マキノ(しかし……賑わっているわね)

町の中心部に目をやれば、秋炎絢爛祭の準備か、先ほどから多くの人々が荷物を持って行きかっている。

マキノ(……とりあえず宿を確保ね)

マキノは目に付いたビジネスホテルに向けて歩き出した。

……この時、マキノは気付いていなかった。

自らの頭上を、フードを被った少女が飛んでいった事を。

そして、素通りした公園で、反逆者カイ擁するフルメタル・トレイターズが熟睡していた事を。

ただ、仮に見つけていても素通りしただろう。

『休暇をとれ』これが、ヨリコからマキノに下された命令だったのだから。

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362 ◆llXLnL0MGk2013/10/08(火) 00:36:40.77gmpdvpYK0 (8/13)

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数時間前。フルメタル・トレイターズの拠点と化している公園。

カイ「…………やばいね」

亜季「やばい…………ですな」

星花「全くもって…………やばいですわね」

輪を作る三人の視線の先には、ほんの少しの硬貨と紙幣。

亜季「私が現地で活動する為と渡された資金……」

星花「わたくしが家出する時にちょっと掴んできたお金……」

カイ「それが……三人の食費、プラスあたしの塩水で……」

ようするに、フルメタル・トレイターズは現在経済的な危機に陥っていた。

星花「しかし、希望はあります。近々開催の、秋炎絢爛祭……」

亜季「どこそこの店が出張店舗を出し、人手が足りなくなる……」

カイ「オブジェ立てたりアーチ立てたり、作業員も大勢必要……」

亜季「現に! こうして日雇いバイト募集が既に多数出ているであります!」

亜季が得意げに求人広告を取り出す。

カイ「よし! 秋炎絢爛祭を利用して、この危機を脱出しよう!」

星花「はい! それでは……解散!」

留守番のホージロー、マイシスター、ストラディバリを残し、三人は公園を後にした。


363 ◆llXLnL0MGk2013/10/08(火) 00:37:55.41gmpdvpYK0 (9/13)

~カイサイド~

カイ「あ、ここだここだ」

カイはある空き地に来ていた。

秋炎絢爛祭本番、ここに多数の出店がひしめき合う事になっている。

現場監督「古賀ー、その木材こっちなー!」

大牙「うーっす!」

既に多数の作業員が作業を始めている。

カイは少し離れた所のプレハブ小屋の中に入っていった。

カイ「すいませーん」

作業員「ん、どちらさん?」

カイ「はい、日雇いの募集見てきた西島といいます」

カイ(久々に使ったな、この偽名……)


~亜季サイド~

亜季「おや、これは……」

亜季の目に留まったのは、メイド喫茶『エトランゼ』。

亜季「テーマ喫茶ですか……」

亜季が眺めていると、裏口から従業員らしき女性が飛び出してきた。

亜季「っ!? …………あ、あの……?」

肩で息をするその女性は、興奮した様子で亜季をじっと見ている。

チーフ「あなた!」

亜季「はいっ!?」

チーフ「…………ティンと来た! ちょっと手伝って!」

女性は亜季の腕をガッシリ掴むと、店の中へ引きずっていった。

亜季「えっ、ちょっ、待っ、うひゃああああああ!?」