112013/09/01(日) 04:37:55.84ECufGEjL0 (1/25)

※注意事項は、必ずお読み頂くようお願いします。(特に、◎の箇所は強くお願いします)

◎本作品は、百合がメインではありません。
 きんいろモザイクに、百合以外何も求めないという方は、読まないほうが良いかと思われます。

◎本作品は、きんいろモザイクの、とある最初期設定を草案としています。
 そのため、いわゆる「TSモノ」が苦手な方も、このSSは読んでいられないかもしれません。

・作者は、アニメは観ていますが、漫画はまだ読んでいません。
 所々でキャラの口調や呼称がおかしい点があるかと思いますが、その場合はご指摘頂けると幸いです。

・所々で地の文が挟まれたり、話がコミカルになったりシリアスになったりするかと思われます。


以上、4点が大丈夫という方のみ、お読み頂けると幸いです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1377977875



212013/09/01(日) 04:39:08.49ECufGEjL0 (2/25)

「ハロー!」

「コニーチハー!」


「ハロー!!」

「コニーチハー!!」


 この日、イギリスのとある場所で現出した光景は、見た人の胸を打ったという。
 異なった言語を、お互いが送り合い、別れを告げる――
 言語の壁を飛び越えて、彼女たちは互いの心に、確かに近づいたのだ。


「……シノ」

 去っていく車を熱い視線をもって見送りながら、少女は静かに決意する。


「――いつか、私も」


312013/09/01(日) 04:39:41.09ECufGEjL0 (3/25)

――二年後


母「忍、忘れ物は大丈夫?」

忍「はい、大丈夫ですっ!」ニコッ

母「……行ってらっしゃい」

忍「はい、行ってきます!」ガチャッ


バタン・・・


母「……うーん」

勇「どうしたのお母さん?」

母「ああ、勇。いや……なんというか」


勇(なるほどね……)

勇「――シノなら、大丈夫でしょ」

母「ええ、そうなんだけど、そうなんだけど……!」

母「色々と惜しいな、って……」

勇(――それは、ちょっと同感かも)


――集合場所


忍「……はぁはぁ」

忍「ま、まだ誰も来てないみたいですね」

陽子「遅いぞ、シノー!」ガシッ

忍「ひゃぁっ!?」ビクッ


忍「よ、陽子ちゃん」

陽子「うーん……なんというか、あれだ」

陽子「――やっぱり、そのカッコなんだな」

忍「……はい」

忍「ま、まぁ……わ、私たちの通う高校は、校則ゆるいことで有名ですし」

陽子「……『私』?」ピクッ

忍「さ、さすがに高校生ですし!」

陽子「――おおう」クラッ

陽子(シノの高校生活は……もしかして、私たちにかかっているのか!?)アセアセ


綾「なに中途半端に重い表情してるのよ」

陽子「うわっ、あ、綾!?」ビクッ

忍「おはようございます、綾ちゃん」

綾「……お、おはようシノ」

綾「――ええと、その」

綾「に、似合ってる、わね」

忍「本当ですか! ありがとうございます!」


412013/09/01(日) 04:40:24.93ECufGEjL0 (4/25)

(↓小声)

陽子「……いいか、綾?」

綾「な、なによ?」

陽子「もしかしたら、私たちは、結構な責任を背負っているのかもしれない……」

綾「――わ、分かってるわよ」

陽子「まず、だ。シノの服装でおかしな所はないか?」

綾「……大丈夫じゃない。その――む、胸も」

陽子「ああ――中学の頃より、明らかにスキルアップしてるな……」

陽子「と、ともかく、何としてでもフォローするぞ! 友達として!」グッ

綾「ええっ!」グッ

(↑小声)


忍「もう、二人で何を内緒話してるんですか?」

陽子「い、いや、その」

綾「……シノ」ガシッ

忍「なんですか、綾ちゃん?」

綾「わ、私たちも頑張るから!」

綾「シ、シノも頑張るのよ!」

忍「……ああ」

忍「はい。大丈夫ですよ、綾ちゃん」

綾「……ふぅ」

陽子「――ありがとな、綾」

綾「べ、別に陽子のためじゃっ……!」

忍「二人とも、仲良しさんですねぇ」

綾「シ、シノまで!」



――高校


綾「……とりあえず」

陽子「三人とも、同じクラスだっていうのは救いだな」

綾「ええ」

綾「最初の1年間の振る舞いが問われている、と言っても過言ではないんだから……!」ゴゴゴゴ

陽子「――そう、だな」

忍「……ふふっ」ニコニコ


忍(私は、本当にいいお友達に囲まれてます)

忍(陽子ちゃんと綾ちゃん。この二人と、同じ高校で、同じ時を過ごせるなんて――)

忍(それに……)

忍「今日は、私のホームステイ先の子もやって来るそうですし」

陽子「……は?」ピタッ

忍「楽しくなりますねー……ふふっ」

綾「……はい?」ピタッ


512013/09/01(日) 04:41:03.23ECufGEjL0 (5/25)

陽子「ちょ、ちょっと待った!」

忍「? どうしたんです、陽子ちゃん?」

綾「ど、どうしたもこうしたもないわよっ!」

忍「あ、綾ちゃんまで……」

陽子「なんで、私たちに知らせてくれなかったんだ!」

忍「え……昨日、メールで送っておいたはずですけど――あっ」

忍「――ごめんなさい、送信失敗したまま寝てしまったみたいです」

綾「……あ、あはは」

綾「もう、シノらしいわねー」クスクス

陽子「おい、綾!? なんだその、この場にそぐわない菩薩顔は!?」

綾「あら、陽子? もう、そんなに騒いでもしょうがないじゃない……うふふ」ニコニコ

陽子「あ、綾が壊れた……!」


烏丸「皆さん、そろそろ教室に入ってくださーい」

陽子「あ、す、すみません」

綾「もう、忍ったら、おバカさん」コツン

忍「えへへ、綾ちゃん、つつかないで下さいよー」

陽子「二人とも、現実は待ってはくれないんだぞ……!」



――教室


(↓ヒソヒソ話)

綾(ど、どどどうするの陽子!? こ、このままじゃ――!)アセアセ

陽子(現実に戻ったら戻ったで、分かりやすいな綾は……)アキレ

綾(なんで陽子はそんなに落ち着いてるのよ!?)

陽子(そのセリフ、そっくりそのまま、さっきの綾に返すぞ!?)


烏丸「二人共ー? 初日から仲良いのはいいけど、話は聴いてくれると嬉しいな」

陽子「あ、す、すみません」

綾「ご、ごめんなさい」


(↓さらにトーン下げる)

陽子(ああ……忍から聞いた感じ、ホームステイ先の子は忍の『あれ』を知らないままだろう)

綾(それは、私も同感だわ)

陽子(そして、そのままここにやって来るということは……だ)

綾(――ゴクリ)


612013/09/01(日) 04:41:34.40ECufGEjL0 (6/25)

烏丸「さて、初日からですがっ!」

烏丸「今日は皆さんに、重大な発表がありますっ!」

女子「そ、それは?」

烏丸「な、なんとっ!」


烏丸「イギリスからはるばる、このクラスに転入生がやって来ましたー!」

全員「……え、えええええ!?」ザワッ


男子A「な、なぁ、フツー新学期初日から転入生来るか?」

男子B「……ま、まぁ、この学校ユルいからね」

男子A「――そ、それもそうか」

男子B「それでいいのかな……?」


陽子「くっ、この学校の風紀の緩さがここに来て仇となるとは……」

綾「と、ともあれ、もうこうなったら……覚悟を決めるしか!」



烏丸「それでは! カータレットさーん?」

アリス「ハイッ!」

全員「……おお!」



烏丸「それでは、自己紹介をお願いします!」

アリス「えと――は、初めまして! アリス・カータレットといいます!」

全員(……か、可愛い!)


アリス「イギリスからやって来ました! み、皆さん、よろしくお願いします!」

全員(……日本語うまっ!)



アリス「――あっ!」

陽子「!」

綾「!」

忍「……!」

アリス「シ……シノー!」ダッ

忍「――ア、アリス!」ダッ

全員(え、えええっ!?)


アリス「ずっと――ずっと、会いたかったよー!」ダキッ

忍「アリス……私も、会いたかったです」ダキッ

アリス「シノー!」クルクル

忍「アリスー!」クルクル


712013/09/01(日) 04:42:27.54ECufGEjL0 (7/25)

陽子「……だ、大丈夫、か?」

綾「と、とりあえず」

陽子「まぁ、クラス内はざわついているけど、それはいいとして」

綾「――あの子の様子、大丈夫よね?」






「……あれ?」


 その時、少女にとある疑念が芽生えた。
 おかしい。何かヘンだ。

 抱きついた時の感覚。
 ずっと会いたかったはずの人に会えたことは、何とも素晴らしい。
 しかし……しかしだ。

 少女は、目の前の光景を見た。
 2年前には平坦とも言えた「そこ」は、歳相応の成長を遂げていた(「自分と比べて、なんて大きい……」という感情は、今は措く)

 やはりヘンだ。
 この「部位」の感覚は……?

「ねぇ、シノ……?」
「なんですか、アリス?」


「――こ、この辺りの感触がなんか」






陽子「せ、先生!」ガタッ

烏丸「ひゃっ!?」

綾「も、もうそろそろ、HRも終わりの時間です!」ガタッ

綾「そ、そろそろ、号令をとった方がよろしいのでは?」

烏丸「……そ、それも、そうですねぇ」

烏丸「そ、それでは皆さん、き、起立!」




――休み時間


陽子「……や、やぁ、シノ!」

綾「へ、ヘロー、カータレットさん!」

陽子(綾……焦りのせいか、初対面の人ともこんなにあっさりと――)


忍「あ、陽子ちゃん、綾ちゃん!」

アリス「……ヨーコ? アヤ?」

陽子「あ、ああ。ええと……な、ないすとぅーみーとぅ?」

アリス「――Hello! Nice to meet you!」

陽子「うお!? 完璧な発音!」ビックリ


812013/09/01(日) 04:43:01.31ECufGEjL0 (8/25)

綾「と、ところで、シノ?」

忍「なんですか、綾ちゃん?」

綾「――こ、このカータレットさんが」

忍「はい。ホームステイ先の子です!」

アリス「シノー!」ダキッ

忍「アリス~!」ダキッ

綾(――まずい!)

陽子(抱きついた!)


アリス「……」

アリス「えへへ」

忍「?」

アリス「シノ、やっぱり温かいや」

忍「……アリスも、お日様みたいに温かいです」

アリス「シノ――」

忍「アリス――」


綾「……だ、大丈夫みたいね?」ホッ

陽子「で、でも、さっきのは?」

アリス「……ねぇ、シノ?」

忍「はい、アリス?」


アリス「今日、シノのお家、行ってもダイジョウブ?」

陽子「!」

綾「!」

忍「……今日、来るんでしたね」

忍「ええ。ダイジョウブですよ!」

アリス「やったー!」

忍「わー!」


陽子「……急展開、ってやつ?」

綾「ええ――それも、限りなく危ない、わね」

二人「…………」


912013/09/01(日) 04:43:30.50ECufGEjL0 (9/25)

――すっとばして下校時刻


アリス「シノのお家は、どんな所なんだろうなー」

忍「アリスが気に入ってくれるといいですけど……」

アリス「ダイジョウブ! シノの所なら、どこだって幸せだよ!」

忍「ア、アリス~!」ダキッ

アリス「シノ~!」ダキッ


陽子(――通算・10回目くらいのやり取り)

綾(なし崩し的に、私たちも上がらせてもらうことにはなったけど)

陽子(状況、依然として悪し)

綾(一刻の予断も許さないわね……)



――大宮家

勇「あら、いらっしゃい」

陽子「勇姉!」

勇「あら、陽子ちゃん。こんにちは」

綾「……こ、こんにちは」

勇「あら、こちらは――」

陽子「ああ、綾だよ。私たちの友達の」

勇「あらあら……初めまして」

綾「は、初めまして!」


綾(す、凄まじい美人――!)

綾(だ、ダメよ綾! こ、ここで押し負けちゃ――!)

綾(し、忍のピンチを救うためにも!)

綾(……よ、陽子も見てるし!)ジーッ

陽子(何故、こっちに熱視線を送る、綾……)ビクッ


1012013/09/01(日) 04:44:02.55ECufGEjL0 (10/25)

アリス「わー、シノのお家、広いねー」

忍「ふふっ、アリスのお家の方が大きいですよ」

アリス「もー、シノってば……」


陽子(って、おーい!)

綾「シ、シノ! な、なんで、アリスまで!」

勇「あら? もう挨拶済ませて、入ったわよ?」

陽子「い、勇姉……アバウトすぎだよ」


勇「お母さん出かけてるから」

勇「みんな、とりあえずリビングでお茶にでもする?」

陽子「そ、それいいな!」

綾「さ、賛成です!」

アリス「日本のお茶……飲みたいっ!」ワクワク

忍「……」


忍「あの、私ちょっと、部屋で支度してから行きますね」

陽子「!?」

綾「!?」

勇「……あら、そう」

勇「それじゃ、また後でね」

忍「はいっ」


陽子「」

綾「」

勇「……」

勇「――それじゃ、私たちはお茶にしましょうか」

アリス「お茶!」

陽子「……」

綾「……」

二人(な、なんてことに……!)



――大宮家・リビングルーム


勇「どう? 美味しい?」

アリス「うん、とっても!」

アリス「イサミ、すごく上手!」

勇「ふふ、ありがと」

陽子「……お、美味しいなー」

綾「そ、そうねー、このお茶菓子もまた」

アリス「……二人共、声震えてない?」

二人「そ、そんなことは!」


1112013/09/01(日) 04:44:28.78ECufGEjL0 (11/25)

勇「……あ、そうだ」

勇「アリス。トイレはそこの突き当りだから」

勇「お茶飲むと、トイレ近くなっちゃうだろうから……気をつけてね?」

アリス「――あ」

アリス「うん。ありがとう」

陽子「……!」ハッ

アリス「じゃあ私、ちょっと行ってくるね」ガチャッ

勇「行ってらっしゃい」ヒラヒラ


綾「――ああ」

綾(こ、このままじゃ、もしかしたら――!)

陽子「……なぁ、勇姉?」

勇「ん? どうしたの、陽子ちゃん?」

陽子「もしかして、だけど」


陽子「アリスに、きっかけ作ったりした?」


綾「!」ハッ

勇「……」

勇「鋭いわね、陽子ちゃんは」

陽子「――勇姉、やっぱり」

勇「ねぇ、二人共? 綾ちゃんも」

綾「は、はいっ」

勇「……二人が、シノのために凄く頑張ってくれてるのは、よく知ってる」

二人「……」

勇「でも――」


勇「きっと、どこかで……歯車は回らないといけないと思うの」

陽子「……勇姉」

綾「――陽子」


1212013/09/01(日) 04:45:11.84ECufGEjL0 (12/25)



 
 ――私は、一つの「禁」を破ってしまった。
 それは、「日本に来たら、決して嘘はつかない」ということ。

 日本人は、嘘が嫌いだ。
 だから、私はその「禁」を作った、のに――


「……シノ」


 吸い寄せられるように、脚は階段を昇る。
 一歩、一歩。
 トイレの場所を教えてもらいながら、私がやっていることは――


「シノ……」

 大好きな人の名前。
 それを何度も何度も紡ぎ出しながら、私は一つの扉の前に立つ。

 疑念は晴れてくれなかった。
 いや、むしろシノが好きだからこそ、その疑念は大きくなっていった。
 教室で、抱きついた時のシノ。
 その時の――感触は。

「――シノ?」

 コンコン、とノックする。
 本当は、ノックすらしたくなかった。
 すぐに入って……確かめたかった。
 それでも、私の中の理性はそれを押しとどめてくれた。

「……アリス」

 中から、シノの声がした。

「――いいですよ。入って、下さい」

 いつもと何ら変わらない、シノの口調。
 シノはどんな表情をしているのだろう……?
 心拍数が上がって仕方がない。


1312013/09/01(日) 04:46:02.96ECufGEjL0 (13/25)




「……シノ!」

 バタン、と。
 大きな音を立てて、ドアは開いて、


 そして。


 目の前には、ベッド。
 その上にいる、大好きな人。
 会いたくて会いたくて、仕方がなかった人。

 その人は今、私の前で、私と真っ向から視線を交わす。

「……私、謝らないといけませんね」

 シノは、ちょっと照れくさそうに、そう言った。
 その顔も、愛しかった。

「――シノ」

 ベッドの上に転がっているのは、何だろう?
 おそらく――「詰め物」だろう。
 それは、多分、きっと……

「……ね、アリス?」

 さっきからシノは、脱いだ服を上半身に当てている。
 思考が暴走しているせいか、私はそんなことも考えられなかった。
 裸のシノが、目の前にいる。

 それ、なのに――


「――私のこと、嫌いになっちゃいましたか?」


 ハラリ、と。
 そんな音を立てて、服は静かにベッドの下に落ちる。
 つまり、私の目の前には、上半身裸のシノがいる――


1412013/09/01(日) 04:46:59.49ECufGEjL0 (14/25)




「……シノ」

 
 目の前の光景に、必死に目の焦点を合わせる。
 春の陽光に照らし出され、シノの身体はとても綺麗だった。
 純白の肌は、陽子や綾と比べても遜色ないくらい……「女の子」らしかった。
 でも、ただ一点。


 胸部の膨らみは、そうそれこそ……
 私よりも、無かった――



「陽子ちゃんや綾ちゃんは、私のことをすごく頑張ってフォローしてくれました……でも」


 そこで、一呼吸置いて、


「『ボク』は、アリスに隠し事、したくなかったんです」


 そう言い切った目の前のシノは、どこか儚げで……とても綺麗で。


「……シノ」




 4月某日。日本でのホームステイ初日。
 天気は晴れ。部屋にはシノと私の二人きり。
 そんな、場所で。
 
 私は、大切な人のことを、知った――


1512013/09/01(日) 04:51:06.36ECufGEjL0 (15/25)

ここまでになります。
SS速報では、これがきんいろモザイクの初SSになるんでしょうか?(違ったらごめんなさい……)

所々、設定が都合よく改変されてます。
始業式での再会とか、アリスからの手紙を読む下りのカットとか。あと、どこかコミュニケーションに積極的な綾とか。

きんいろモザイクの初期設定案を見ていたら、創作意欲が湧いてしまい、つい書いてしまった次第です。
百合が好きというファンの方、ごめんなさい……ただ、綾だけは平常運転(?)だったような。

それでは、この辺で。
続きをどう書くか、今思案中です……。


16VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/01(日) 05:44:48.49+dR500OAO (1/1)

>>15
きんモザの初SSの「忍「私たちの願い事」」はここで書かれたよ。
昨日も陽綾のSSが完結したし、今もカレン×久世橋先生のスレがある。


1712013/09/01(日) 16:59:40.47ECufGEjL0 (16/25)

――二人が出会って別れるまでに、抱いた想いに嘘はない。

 初めてアリス・カータレットが「少女」と接触した時、アリスはとても臆病だった。
 それが、異国の地で生活する「少女」に、どれだけ不安を与えただろうか。

 しかし、「少女」はそんなアリスの態度に気を害した風もなく、いやむしろ――

「――アリス! ハロー!」
「……コ、コニチハ!」

 ホームステイに来た「少女」のその柔らかな物腰に、アリスは心から安心し、大いに交流を楽しんだ。
 それが、アリスの心に、一つの「想い」を生ませる契機となった。


 そして、今。
 アリスは自身の頭の中で、その時の光景がクルクルと回っているような感覚に囚われていた。
 映画フィルムのごとく高スピードで回る、あのイギリスでの日々。

 何故、気付かなかったんだろう。
 あれからたった2年経っただけで、おおよその日本語は修得できたのに。
 そのフィルムの一部だけ、どうして今まで注目しなかったんだろう……?


「……アリス、イギリスはいい国ですね」

「――イ、イエス?」

「はい。『イエス』です!」



「いつか、アリスも日本に来てくれると、凄く嬉しいです」

「――ニポン?」

「……ええ、その時は」


「その時は、『ボク』がアリスと一緒にいますから……」



 改めて、思い出す。
 この1ページを、自分は都合よく記憶から排除してしまっていたのか……?

 そうだ、今なら分かるはずだ。
 少なくとも一般的な日本人なら、自分のことを「ウチ」とか「私」とか「あたし」とか言うはずなのに――

 「少女」は、「ボク」と呼んだではないか。

 ホームステイで触れ合った時間の中で、アリスが「少女」の一人称を聞いたのは、ほぼ全くなかった。
 触れ合っていく中で「少女」は、少し油断してしまったのかもしれない。
 そう言った後で、ハッと「少女」が口元を抑える光景も、脳内で鮮やかに蘇ったから――

 自分の親はどうだろうか? 父も母も、「少女」のことを知っていたのだろうか?
 今、それを確かめる術はない。
 だから――


1812013/09/01(日) 17:00:46.24ECufGEjL0 (17/25)

アリス「……勇! お茶!」

勇「えー、また飲むの?」

勇「アリス、今夜はトイレで寝ることになっちゃうかもよー?」コポコポ

アリス「そ、そんなことはっ!」アセアセ

アリス「……ああ、日本茶美味しいですねー」ズズーッ

勇「あはは、アリスったら……」


勇(――ヤケ飲みにしても、どこかで区切りつけなさいね?)ヒソヒソ

アリス(……わ、分かってるもん!)ヒソヒソ


忍「ふふ、アリスはお茶が大好きですねぇ」

忍「私も、本場イギリスの紅茶が飲みたくなっちゃいました……」

アリス「――シノ」キュッ

アリス「そ、それなら、たしかお土産があったから!」

アリス「ね? あ、後で淹れてあげる!」

忍「わぁ、ありがとうございます」

忍「アリス~!」ダキツキ

アリス「……あ」

アリス「――ご、ごめんなさい。わ、私、ちょっとトイレに!」ガタッ

忍「――あ」スカッ



勇「……ふむ」

勇「やっぱり、アリスも――『女の子』ねぇ」

忍「――『女の子』ですね」ハァ

勇「シノも、心は『女の子』なのにねぇ」

忍「……でも」

忍「やっぱり、壁ありますよね……」

勇「それはまぁ、しょうがないわね」

忍「――はぁぁ」タメイキ


1912013/09/01(日) 17:01:37.95ECufGEjL0 (18/25)


――廊下


アリス「……」

アリス(――さっき)

アリス(私、シノの抱きつきから逃げちゃった)

アリス(……シノは、シノは)



――『ボク』はアリスに、隠し事、したくなかったんです。


アリス(……!)カァァ

アリス(あ、あの時のシノが綺麗だったとか、む、胸を除けば完全に『女の子』だったとか!)

アリス(そ、そういうことは、今はいいのっ!)ブンブン


母「あら、アリスちゃん? どうしたの?」

アリス「――わわっ!?」

母「随分と大きく身体を動かしてたような……」

アリス「ぜ、全然、なんでもないよ!」

母「そう……?」

母「――まぁ、『シノ、シノ』って声はちょっと漏れちゃってたから」

アリス「」

母「ありがとね、随分とあの子のことを慕ってくれてるみたいで」ニコニコ

アリス「……だって」

アリス「シノは、私の大切な――」

アリス「大切な、人だもん!」


母「……そうね」

母「ところで、アリスちゃん?」

アリス「な、なに?」

母「……今日から、家に来てくれるのは大歓迎なんだけど」

アリス「う、うん」


母「――寝床、どうする?」

アリス「……あ」



――夜も更けて


勇「……これでよし、と」バサッ

勇「こんな感じでいい?」トントン

アリス「う、うん」

アリス「――あ、あの」

アリス「に、日本のお布団、好きだから!」

勇「そうなの! それは良かった」

アリス「――ふふっ」


2012013/09/01(日) 17:03:11.62ECufGEjL0 (19/25)

忍「お姉ちゃん、ちょっといいですか?」コンコン

勇「あ、シノ。どうぞ」

忍「はい……」ガチャッ

忍「――あ」

アリス「シ、シノ」

忍「……アリス」


忍「お姉ちゃんと一緒に寝るなんて、羨ましいです……」

アリス「……え?」

忍「私も昔は、よく一緒に寝てましたけど」

忍「お姉ちゃん、優しいから。きっと、アリスもよくしてもらえますよ」

アリス「シ、シノ……」

忍「ああ、そうだ。お姉ちゃん、ちょっと本を借りてもいいですか?」

勇「ええ。大丈夫よ」

忍「ありがとうございます!」

忍「それじゃ、また」ガチャッ

忍「――楽しんで下さいね、アリス」パタン


アリス「……」

勇「さて、シノとの挨拶も済んだところで」

勇「私たちも寝ましょうか、アリス?」

アリス「――」

勇「……」


勇「――シノ、全然胸ないでしょう?」

アリス「!?」ハッ

勇「パジャマ姿になっても、一見、女の子と変わりないのに」

勇「シノったら……」

アリス「……勇」


勇「ねぇ、アリス?」

アリス「……」

勇「たしかに私は、正真正銘の『女の子』よ」

アリス「……」

勇「胸だってちゃんとあるし、髪だって普通に長くしちゃう」

勇「たしかに、一緒の部屋で寝るのなら、普通は同性同士で寝るわね」

勇「――普通は」

アリス「……勇」


2112013/09/01(日) 17:03:52.80ECufGEjL0 (20/25)

勇「アリス――私は大歓迎よ。あなたがこの家に来てくれたこと、シノとまた会って嬉しがってくれること」

勇「そして、この部屋で寝ることだって」

アリス「……」

勇「――でも」


勇「敢えて、訊くわ」

勇「本当に、それでいいの?」

アリス「……!」







 ――どうやら、私はアリスに距離を置かれてしまったらしいです。

「……ふぅ」

 ベッドに寝転がり天井を見つめて、私は今日のことを思い出します。
 高校生活が始まったこと、クラス分けで陽子ちゃんと綾ちゃんと一緒になったこと。
 そして――


 ――シノ~!


 アリスと、再会したこと。

「そろそろ、寝ましょうか」

 そう独りごちて、私は置きあがりました。
 部屋のドアの近くにある電灯のスイッチを切るために。


「……アリス」

 それなのに、何故でしょうか。
 ベッドからドアまでのほんの僅かな距離が、酷く遠く感じてしまうのは。
 こんなに、足取りが重いのは。

「……はぁ」

 おかしいですね。
 「こういう風」になってから、大抵のことは解決してきました。
 それも、大体は陽子ちゃんと綾ちゃんという心強い友達のおかげで。

 ああ、それなのに。

「――解決、出来るかなぁ」

 この、チクリとする胸の痛みは……。


 さて、ようやくスイッチに辿り着きました。
 これを押して、後はベッドに戻るだけ。
 眠りに入るのが早い私は、明日までの数時間を、そこで過ごします。

 当然、一人で。
 そう、いつも通りです。
 お姉ちゃんと寝ていた頃ならいざ知らず、私だってもう――「お姉さん」です。
 だから……だから。


2212013/09/01(日) 17:04:57.47ECufGEjL0 (21/25)

「シノ!」

「――アリス?」

 私は、目をパチクリとさせてしまいました。
 スイッチに指をかけた私は、その姿勢のまま、突然の「闖入者」に呆然の体です。
 そこには、金髪少女がいました。
 もちろん、雑誌の切り抜きの金髪少女とは、一味も二味も違います。

 だって、アリスは――

「……シノ!」
「へ?」

 ついついそんな感慨に耽っていると、アリスは私にズイッと近づいてきました。
 すぐ近くに、アリスの顔があります。
 その目はどこか、潤んでいるようにも見えて――

「――泣いてた、の?」
「アリス?」

 いやいや、むしろ泣いていたのはアリスでは、と返そうとしたところで気づいてしまいます。
 アリスの目が潤んでいるように見えたのは、もしかすると……

「……ちょっと、目にゴミが入っただけですよ」
「嘘。それ、よくある言い訳だって、勉強したもん」

 アリスには、全くごまかしがききません。
 自分の手で目に触れてみれば――ははあ、なるほど。

「ちょっと、塩辛そうな水ですね」
「――シノ!」

 私が手で目を擦り、顔を上げると――






 ……私は、何をしているんだろう?
 気づいたら、シノに深く抱きついていた。

 どこか冷静な私の頭は、顔が触れている箇所の平坦っぷりに気づいてしまう。
 そうだ、胸板こそ柔らかいけれど――シノは。

「ア、アリス……?」

 その声に、ハッとする。
 顔を上げれば、そこにはシノの顔があった。
 2年前より、ちょっとだけ伸びた髪。
 大きな目も優しそうな顔つきも、あの時と全く変わらない。

「――わ、私は」

 再び抱きつく時、少しためらった。
 そして、そんな自分がちょっと嫌いになりそうになる。

 けれど、今は――


 シノが、泣いてる。


「……シノと、一緒に、いたい」

 再び抱きついた私は、一つ一つ区切るように、言葉を重ねる。

「でも、でもですよ」

 するとシノは、いつものほんわかとした口調を少し崩しながら、私に言葉を返す。

「私、は……私は」


「――本当の『女の子』じゃ、ありません」


 知っていた。
 そんなことは承知の上で、私はこうしてシノに抱きついている。


2312013/09/01(日) 17:05:29.31ECufGEjL0 (22/25)


「だから……アリスが嫌、なら」
「私は、何も――」

 なのに、どうして――
 どうしてシノは、そんなに気を遣うの……!

 大きく息を吸って、私は言う。

「……勇! 布団、持ってきて!」






勇「はいはーい」

忍「……お、お姉ちゃん!?」

勇「よっ、と――とりあえず、ここに敷いておくわねー」トントン

アリス「ありがとう、勇」

忍「ちょ、ちょっと、お姉ちゃん!?」アセアセ

勇「――お母さんにも、一応言ってきたわ」

忍「……!」ハッ

勇「忍、さっき言ってたよね? 『私はもう、お姉さんだから』って」

忍「――」

勇「だったら」


勇「――ここで一緒に寝て、『何か』起こさないという意志が必要になるの」


忍「……」

忍「起こす、わけ」

忍「ないですっ」

勇「――ふむ、よろしい」


勇「それじゃ、そろそろ私は行くから」

アリス「あ、あの、勇……」

勇「――アリス」

勇「おやすみなさい」ガチャッ

アリス「――あ」

アリス「お、おやすみなさい!」

勇「ふふ、じゃあねー」パタン


2412013/09/01(日) 17:06:18.68ECufGEjL0 (23/25)

――その後

忍「そ、それじゃ」

忍「電気、消しますね」

アリス「う、うん」

忍「……それじゃ」カチッ

忍「おやすみなさい」トコトコ

アリス「――お、おやすみシノ」


アリス「……」

忍「……」

アリス「……」

忍「……」


アリス「――シノ、起きてる?」パチッ

忍「――私、すぐ寝ちゃうはずなんですけどねぇ」パチッ

アリス「……眠れそう?」

忍「大丈夫ですよー」ニコニコ

忍「ただ、今日はちょっと――」


忍「アリスが来てくれて、嬉しくなりすぎちゃったみたいです」エヘヘ


アリス「……」

アリス「それじゃ、私もシノと一緒にいられて、舞い上がっちゃってるみたい」

忍「ふふ、私たちお揃いですね」ニコッ

アリス「うん、お揃い」ニコッ


2512013/09/01(日) 17:09:05.22ECufGEjL0 (24/25)

忍「……」

アリス「……」

忍「――アリス?」

アリス「な、なぁに?」ピクッ

忍「明日、着替える時は、言って下さいね」

アリス「……!」ハッ

忍「私、その時は廊下に出ますから」

忍「――もう、アリスも私も、『お姉さん』ですからね」

アリス「……」

アリス「本当に」

アリス「そう、だね」キュッ

忍「はい」

アリス「……シノ、さっきはごめんなさい」

忍「へ?」

アリス「その――リビングで、かわしちゃって」

忍「……ああ」

忍「大丈夫ですよ、特に怪我とかはありませんでしたし」

アリス「そ、そういう問題じゃなくて!」ブンブン

忍「――それに」


忍「さっき、アリスは来てくれました」


アリス「……」

忍「それでもう、大満足です」

アリス「――シノ」

忍「さぁ、そろそろ寝ましょう」

忍「――遅刻したら、叱られちゃいますから」

アリス「……うん」


アリス「おやすみ、シノ」ニコッ

忍「おやすみなさい、アリス」ニコッ



 ――こうして、大宮家の夜は更けてゆく。
 秘密を知った少女と、自らそれを明かした「少女」。
 そんな「少女」の家族や友人等を巻き込んで――


 明日から、学校生活の幕が上がる。



――同時刻

「……」

「――えと、初めましてデス!」

「……ふぅ」


「ニホンゴ、難しいネー」


2612013/09/01(日) 17:13:07.42ECufGEjL0 (25/25)

ここまでになります。

陽子や綾の出番は、次に譲るとして、忍とアリスに焦点を当てた話です。
最後に現れたキャラは果たして……いやもう、隠すつもりは全くありませんが。
ちなみに、彼女は勉強をしていると思って下さい(描写を入れ忘れました)。

きんいろモザイクらしからぬ特殊なSSですが、どうぞよろしくおねがいします。



>>16
調査不足でした……ご指摘、ありがとうございます。


2712013/09/02(月) 00:03:52.45tRznb54J0 (1/4)

 ~幕間~


 ――帰り道。


 大宮家にて、アリス・カータレットと大宮忍が決定的な状況に直面している時。
 猪熊陽子と小路綾は、帰途についていた。

 二人も残っていたい気持ちはやまやまではあったが、忍の姉である大宮勇に押し切られた格好だ。
 いつものように二人で道を歩きながら、陽子はどこか拍子抜けといった表情を、綾は見るからに焦りの表情を
 それぞれ浮かべていた――



綾「――ね、ねぇ、シノ大丈夫かしら?」アセアセ

陽子「……」

綾「わ、私たちが最初に思い描いてた大まかな計画が」

綾「なんだか、最初から無かったことになっちゃいそう……」

陽子「――綾」


陽子「気づいてないのか知らないけど、さっきからその話題ループしてるぞ?」アキレ

綾「……え?」

陽子「まったく」

陽子「綾は、本当にシノが心配なんだな」

綾「――だって」

綾「中学の頃、初めて声をかけてくれた相手だし……」

綾「それに、今は友達じゃない。助けるのは当たり前よ」

陽子「――へぇ」

綾(初めて声をかけてくれたのは……今、目の前にいるのもそうなんだけどね)ジーッ

陽子(おおう、綾の視線がまた――)ビクッ


綾「――結局」

綾「体よく、追い出されちゃったみたいな感じね」

陽子「ああ、そうだな……」


勇『――だから』

勇『今日のところは、もう二人だけにしておいてあげたいんだけど……』

勇『二人共、それでいいかな?』



陽子「――勇姉の考え」

陽子「間違えて、ないのかな?」

綾「……そもそも、私たちが慎重すぎるのかもしれないって思ってきたわ」

綾「高校に上がったからって、気合を入れすぎるのも良くないかもしれないし……」

陽子「ああ――」


2812013/09/02(月) 00:04:40.50tRznb54J0 (2/4)

陽子「……ところで、綾?」

綾「なによ?」

陽子「偶然に乗っかって、私たちにも出来ることがありそうだぞ」

綾「……どういうこと?」

陽子「――カラスちゃん!」


烏丸「あら……うちのクラスの、ええと」

陽子「猪熊です」

綾「こ、小路です」ペコリ

烏丸「こんにちは、二人共」

烏丸「今、帰りなの?」

陽子「ん……」

綾「――先生、ちょっといいですか?」

烏丸「……?」


陽子「――単刀直入にいくけど」

綾「先生……シノ――大宮さんのこと、ご存知ですか?」

烏丸「――大宮忍さんね」

二人「……」

烏丸「知っているわ、あの子のことは」

烏丸「正直、なかなか信じられないけれど……」

陽子「だよねぇ……」

綾「あれで、『女子』じゃないとか……」

烏丸「――まぁ、色んな子がいるからね」

二人(……なんて理解者!)ジーン


烏丸「でも、ちょっとした悩みはあるの」

綾「と、いうと?」

烏丸「二人は、大宮さんと同じ中学だったのね?」

陽子「それは、まぁ……」

烏丸「――直接的な言い方になっちゃうんだけど」

烏丸「ほら、体育とかトイレとか、水泳とか……」

二人「」


烏丸「大宮さんは、どうやってきたのかなー、なんて……」

烏丸「ば、場合によっては、個人的に彼j……大宮さんとお話しすることも考えてるんだけど」


2912013/09/02(月) 00:05:16.41tRznb54J0 (3/4)

綾「――よ、陽子、お願い」グイグイ

陽子「い、いや、正直、私だって恥ずかしいよ」グイグイ

綾「私は、もっと恥ずかしいわ! だって、じょ、女子だし……」カァァ

陽子「こ、こんな時だけ女らしさを武器にすんな!」カァァ

綾「陽子、適任」グイッ

陽子「綾、逃げんな」グイッ

綾「というより、初めからこういう話をするために先生を呼び止めたんでしょ?」

陽子「――いやぁ、いざ話すとなると照れちゃってさぁ」エヘヘ

綾「ヘタレね」ジトッ

陽子「綾には言われたくないぞ……?」ジトッ



烏丸(……二人共、仲良しねぇ)クスッ


烏丸「まぁ、なんにせよ」

烏丸「――ほら、意外とこういうのって、上手くいくと思いますし」

陽子「どういうこと?」

綾「で、でも、楽観的にすぎるのは危険じゃあ……?」

烏丸「――たしかにそうかもしれないけれど」


烏丸「あまり気を張りすぎると、逆に大宮さんのためにならないかもしれないな、って」

二人「……!」


陽子(――もしかして、勇姉は)

綾(遠回しに、ちょっと私たちを諌めていた……?)

烏丸「でも、安心しました」

烏丸「大宮さんに、こんないいお友達がいるのなら」

烏丸「――間違いなく、大丈夫だって確信できるから」

陽子「カ、カラスちゃん……」ジーン

綾「せ、先生……」ジーン






――その頃


「……」

「――ここが」

「明日から通う、学校デスカー」

「……」


「いいコト、いっぱいあるといいですネー」


3012013/09/02(月) 00:06:40.41tRznb54J0 (4/4)

その頃の綾と陽子と、烏丸先生の話でした。

さて、三人の信頼関係が着実に築かれていく一方、校舎の前に佇む少女はどう動くか――
全く考えていないので、これからじっくり模索していきたいと思います。

それでは。
ようやく復活したので、投下させて頂きました。


31以下、新鯖からお送りいたします2013/09/02(月) 08:14:37.50WlSr9aw8o (1/1)

おつー
金モザはアニメしかしらないんだけど、没案なんてあったのね
このシノはGIDなのかな?
原作没案でも性同一性障害なのか単なる男の娘なのか


3212013/09/03(火) 03:47:55.54BWQtBJ+K0 (1/5)

>>31
いわゆる、「男の娘」って感じです。
ちょっと描写にムラがあるせいで、どうにもシリアスに寄りすぎるきらいがありますが、GIDのような問題を扱う話ではありません。というか、それじゃ重すぎて書いてる方も気が滅入ってしまいそうですし……。







――ほら、またこの光景。

 視界いっぱいに広がる、草木の緑。
 ドアの近くに佇み優しい表情を浮かべる、大好きな父と母。
 草原を走り回る愛犬と、それを追う――私たち。


「……アリスは、お人形さんみたいですね」

 そう、ここでシノがこう言うんだ。
 木陰に背を預けながら、二人で話す一時に。
 包み込むような優しい笑顔で、私に語りかけてくる。

「ふふ、お人形さんみたいで、とても可愛いです」
「――シ、シノだって可愛いよっ!」

 シノが私を褒めてくれればくれるほど、私の顔の赤みも増していく。
 だから、私はいつも照れ隠しをするんだ。

「シノみたいな女の子、なかなかいないよ……」
「――女の子、ですか」

 何故かここで、シノはいつもどこか複雑そうな表情をする。
 当時の私は、そんなシノはどこか儚げで、より魅力を感じたから気に留めなかったけれど。

「……わ、私っ!」

 そんなシノを見ていると辛抱たまらなくなって、私は更に言葉を続ける。

「シノに、また――会いたいからっ!」

 もうすぐ、日本に帰ってしまう、私の大好きなシノに。
 一気に、言葉を畳み掛ける。


「いつか、日本で――シノと、一緒に……!」



 そこで、記憶は途切れる。
 その時、私はどんな言葉を続けたのか。
 そして、シノは――どんな……


3312013/09/03(火) 03:48:39.86BWQtBJ+K0 (2/5)

 ――朝

忍「――ん」パチッ

忍「……」ノビー

忍「朝、ですかぁ……」ファァ


忍「――はぁ」

忍「あ、そうだ」

忍「早くしないと、陽子ちゃんたちとの待ち合わせが……」

忍「準備しなくちゃ、ですねぇ……」プチプチ

忍「……」ゴソゴソ


アリス(シノ……シノ)

アリス(日本に来て、シノと会えて)

アリス(それなのに……それなのに)

アリス(何か、忘れてるような、気がするんだよ……)


アリス「――シノっ!」ガバッ

アリス「……あ」

アリス(そうか、私、シノのお部屋で……)チラッ

アリス(――シノ、まだ寝てるのか、な……!!?)ビクッ





 左方向を見て、アリスは瞠目した。
 そこにあったのは、自分の声に驚いてか、少し目をパチパチとさせるシノの姿。
 差し込んでくる朝の光は、そんなシノの肌の白さを一層際立たせる。

 ――不覚にも、アリスは見とれてしまった。
 上半身裸のシノは、まるで和風少女の完成形みたいで。
 ベッドの上に散らばっている様々な「グッズ」も、視界に入りながらアリスはシノの美しさに見惚れてしまっていた。

 そう、だから……シノの姿の「意味」に気づいた時、アリスは余計に恥ずかしさを覚えることになる。





アリス「……」

アリス「あわ、あわわ……」

アリス(シノが、シノが……は、裸で……!)カァァァ

忍「あ、アリスー。おはようございますー」ヒラヒラ

アリス(シ、シノ、まさか寝ぼけてる?)

忍「もぅ、アリス遅起きさんですねぇ」

忍「私、先に着替えちゃいますよー……」スッ

アリス(シ、シノが、ズボンに手を――!?」


3412013/09/03(火) 03:49:46.42BWQtBJ+K0 (3/5)

アリス「ひっ……」

アリス「きゃぁぁぁぁ!」ドタタタッ

忍「……!」ハッ

忍「ア、アリス!? ど、どうしたんですか!?」アセアセ

アリス「シノの、バカ! バカ!」

忍「アリス、一体どうし――あっ」

忍「……ま、まさか」


アリス「もういい! わ、私! 廊下で着替えるからぁ!」ガチャッ

忍「ちょ、ちょっと! ろ、廊下って、それじゃあ!」バタン

忍「――行っちゃいました」ハァ


勇『ちょ、ちょっと、アリス!? な、なにしてるの!』

アリス『だって、だってシノがぁ……』グスッ

勇『シノが……』

勇『――なるほど、なんとなく把握したわ』

勇『とりあえず、廊下じゃマズいから、私の部屋に来なさい』

アリス『――うう、勇ぃ』

勇『シノ。ちょっと後で、お話しね』


忍「あわわ……」

忍「――お姉ちゃんと『お話』することに、なっちゃいました」

忍「ともあれ」ゴソッ

忍「まずは、今日どういう準備をしましょうか……これはここに詰めて、そして――」ブツブツ



――集合場所


忍「……二人共、おはようございますー」フラフラ

陽子「お、おお、シノ……」

綾「な、なんだか、随分やつれてない?」

忍「あ、あはは……」

アリス「……」ツーン

陽子「そして、アリスは」

綾「『ツーン』って感じね……」


陽子「――え、昨日」

綾「同じ部屋で、寝たの……?」キョトン

忍「はい」

忍「いや、最初はちょっと……ということで、お姉ちゃんの部屋の予定でした」

陽子「まぁ、勇姉が適任だよなぁ」

綾「――でも、アリスが選んだのよね?」

アリス「わ、私は、シノと一緒にいたかったわけじゃ――」アセアセ

アリス「……あることにはあるけど」プイッ


3512013/09/03(火) 03:50:35.74BWQtBJ+K0 (4/5)

陽子「おいおい……」

綾「アリスったら、さっきからどこか素直じゃないわねぇ」

アリス「だ、だってだって!」

アリス「シ、シノが『約束』破るからぁ」カァァ

忍「うう……か、勝手に着替えたのは謝ったじゃないですかぁ」

陽子「……へ?」

綾「――ん?」


アリス「で、でもでも!」

アリス「シノの裸のせいで、私は朝から大迷惑だよ!」

忍「え……私の裸、ダメでしたか?」

アリス「そ、そういう表情しないでっ!」アセアセ

アリス「――だって」

アリス「シノの裸、綺麗すぎて……頭から」

アリス「じゃなくてっ! わ、私の居る所で着替えないって、シノから言ったんじゃない!」

忍「うう……それは謝ります」

忍「というわけで、今度からアリスの居る所では裸にならないようにします!」

アリス「そ、それは当たり前だよお!」ガーン


陽子「……なんていうか、なぁ」

綾「アリスは怒ってるようでいて、顔は別の意味で真っ赤だし」

陽子「シノも謝ってるようで、アリスの反応を楽しんでそうで」

二人(いいコンビ、なのかなぁ(なのかしら)?)




綾「しかし、実際の所、二人一緒の部屋でなんて大丈夫なのかしら?」

陽子「そりゃまぁ――普通は、ないだろうけど」

綾「まぁ『普通』は、ね」

綾「――それじゃ、私と陽子が一緒に寝るのは、普通よね?」チラッ

陽子「ん? そりゃまぁ、そうなんじゃないのか?」

綾「……」



――よ、陽子の身体が綺麗過ぎるのが悪いっ!


――分かった分かった! これから、綾の前じゃ裸にならないようにするよっ!



綾「――!」カァァァ

陽子「おーい、綾ー? 顔、真っ赤だぞー?」

綾「べ、別に、陽子の裸なんてどうでもいいわよ!」

陽子「いや、なんだよいきなり!? ていうか、恥ずかしいよ!」ビクッ


3612013/09/03(火) 03:52:25.90BWQtBJ+K0 (5/5)

ここまでです。

今回も彼女の登場にはなりませんでしたが、次回辺りには登場するかと。
もうすぐきんいろモザイクの放送も終わりますね。
最後まで、楽しみたいものです。

今後、色々と不自然な展開になりそうですが、それでも付き合っていただければ、と。

それでは。


37以下、新鯖からお送りいたします2013/09/03(火) 04:28:04.23TKNXqgX+o (1/1)

おつー、半裸のシノに慌てるアリスかわいい

確かにGIDを題材に扱うのはちょっと重いかww
ややシリアスな雰囲気を感じたからそうなのかなーとちょっと思っただけです
真剣に自分の性と向き合うような真面目な話にもちょっと期待してたけど、気楽なイチャラブも好きなので問題なし!


3812013/09/06(金) 03:26:02.27vI+XRiGI0 (1/7)

 ――幼い頃に交わした、「約束」。

 それを守るために、私ははるばるこの地に来た。
 元々、パパが日本人だったため、日本へ来る度にどこか懐かしさを覚えたものだ。

 今、私はそんな「第二の故郷」で、とある人物を待ちぶせしている。
 もうそろそろ、見えてくる、はず。

「……あ」

 来た。
 三人の女子に囲まれ、私の大切な幼なじみが。

 昔、私よりも高かった身長は、今では10㎝超の差がついている。
 ついでに胸も……うーん、あの子の姿はどう見ても「エレメンタリースクール」にピッタリなのに……。

 さて、行こう。
 声をかけて、驚かせてやるんだ。

 と、息を巻いて向かった矢先――


「そういえば、この辺りで金髪少女見たなぁ……」


39 ◆OtZIp/YaIxCt2013/09/06(金) 03:26:54.78vI+XRiGI0 (2/7)

――朝・いつもの駅前


 忍「そ、それは本当ですか、陽子ちゃん!?」ズイッ

 陽子「シ、シノ、顔近いって……」

 綾「こ、こらシノ! よ、陽子が困ってるでしょ!」アセアセ

 忍「あ、す、すみません……えへへ」

 陽子「ふぅ――全く、シノは金髪少女の話題になると、眼の色が変わるんだから」アキレ

 綾(……陽子の顔、ちょっと照れてる?)チラッ

 綾「よ、陽子のエッチ……」プイッ

 陽子「は?」キョトン


 アリス「金髪少女――」

 アリス(ってことは、私と同じ……)チラッ

 忍「?」キョトン

 アリス(――シノ)

 
 アリス(大宮家のお世話になるようになって、早数日)

 アリス(初日といい初夜といい、とんでもなく驚いたし、正直、まだ戸惑っちゃうけど……)

 アリス(――それでも)


 アリス「シノには、私がいるからね……!」グッ

 忍「ええ、アリスッ!」グッ

 陽子(な、なにやら熱い雰囲気だ……)

 綾(いや、熱いのはアリス一人だけだと思うけどね……)


 陽子「ああ、そうそう。そういえば」

 陽子「この前見た金髪少女も、こんな感じだったなぁ」ポンッ

 陽子「ほら、さらさらした長いロングヘアーに、ユニオンジャックのパーカー!」

 陽子「そして――」

 綾「って、陽子!? いきなり女の子と、ふ、不純よ!」

 忍「陽子ちゃん、知らない女の子捕まえて……」

 陽子「え……い、意外と堪える反応するな、君たち」


 アリス「……あれ、カレン?」

 少女「――あっ!」ピクッ

 カレン「アリスー!!」

 アリス「カレン!」

 忍「わぁ、よく見たら、すっごく可愛いです!」

 綾「え、英国少女、よね? そのパーカー的に」

 陽子「……はは、不審者か」ズーン

 綾「陽子――そろそろ立ち直って」


40以下、新鯖からお送りいたします2013/09/06(金) 03:27:07.22+4y6TVIbo (1/1)

ktkr


41 ◆OtZIp/YaIxCt2013/09/06(金) 03:27:42.60vI+XRiGI0 (3/7)

 忍「き、金髪……!」

 忍(アリスとはまた違った感じの……)

 忍(タレ目なアリスと、ツリ目なカレン……あぁ、どっちも捨てがたい……!)ハァハァ

 綾「ね、ねぇ、シノの顔が凄いことに……」

 陽子「ああ――まさに、シノにとっての『ハーレム』なんだろうさ」


 カレン「改めまして! 九条カレンと申すデス!」

 陽子「え、『九条』?」

 綾「ってことは――日本人とのハーフ、かしら?」

 カレン「ハイッ!」

 カレン「遠くイギリスから、アリスを追ってやって来マシタッ!」

 陽子「おお、アリスモテモテだな!」

 忍「き、金髪ぅ……」エヘヘ

 陽子(モ、モテすぎるのも、心配だな……)ハハハ


 陽子「――あれ、その制服?」

 綾「うちの、よね?」

 カレン「ハイ! 今日から、転校シマスッ!」

 二人「えええっ!?」

 綾「ああ……金髪が二人……アリスとカレン」

 アリス「……」

 カレン「――アリス、どーしたデスカ?」

 アリス「べ、別になんでも」

 カレン「フーン……」


 カレン「アリスー!」ダキッ

 アリス「ひゃっ!? カ、カレン!?」

 カレン「フフッ、相変わらずちっこいデース!」

 アリス「む、昔は私のが大きかったよっ!」

 カレン「昔は昔、今は今、デス!」

 アリス「むー……」


 陽子「おお、あれが……」

 綾「英国流の挨拶、かしら?」

 綾「……」

 綾(ということは、国が違ったら――)


 ――陽子、久々のハグ!

 ――おお、綾。久しぶりだなぁ


 綾(なんて、ことにも……)チラチラ

 陽子(最近、綾の様子がおかしいと思うのは、気のせいじゃあるまい――)


42 ◆OtZIp/YaIxCt2013/09/06(金) 03:28:42.33vI+XRiGI0 (4/7)

カレン「あっ!」

 忍「ああ、カレン……金髪……」

 カレン「――シノ!」

 忍「え?」

 忍「わ、私の名前、知ってるんですか?」

 カレン「ハイ!」

 カレン「アリスがよく、話してマシタ!」

 忍「わぁ……!」

 カレン「シノー!」ダキッ

 忍「カレンー!」ダキッ


 陽子「!」

 綾「!」

 アリス「……あ!!」








 ……ん?

 この感じは、なんだろう?
 何かがおかしい。

 改めて、シノの胸の中で、彼女の佇まいを思い起こしてみる。
 うん、どこからどうみても女子。そして、和服が似合いそうな、和風美少女。
 ……だったら、なおさら。

 「――シ、シノ?」


43 ◆OtZIp/YaIxCt2013/09/06(金) 03:29:09.46vI+XRiGI0 (5/7)

 陽子「さ、さぁさぁ二人とも!」

 カレン「!」

 綾「そ、そろそろ学校に行かなきゃ!」

 綾「ち、遅刻しちゃうわよ……!」

 カレン「……」

 カレン「そ、そーデスネッ!」

 カレン「い、いきマショ!」

 アリス「……カレン」


 忍「――やっぱり、ですか」

 アリス「し、シノ?」

 忍「うーん……どうなりますかねぇ?」

 アリス「……」

 アリス(シノ――さっきの緩みきった顔つきとは、全く違う)

 アリス(そういう表情をする必要が……シノにはあったんだろうね)

 アリス(私と、再会したときも――)キュッ


44 ◆OtZIp/YaIxCt2013/09/06(金) 03:29:45.55vI+XRiGI0 (6/7)

――通学路


 カレン「……」

 カレン(何かがおかしいデス)

 カレン(そう、さっきシノとハグしたトキ)

 カレン(――何かが、足りない、ようナ)

 カレン(それこそ、ペッタンコなアリスはおイトイテモ)

 カレン(それとはまた違う、ナニか……)


 陽子「カ、カレンがさっきから考えこんでるな」

 綾「危ない兆候のような気もするけど……」

 陽子「まぁ、綾。勇姉もああ言ってたことだし――」

 綾「ええ……気を張りすぎることはない、わね」


 忍「……」テクテク

 アリス「……」トコトコ

 アリス(さっきから、心なし)

 アリス(シノの表情がシリアスだよぉ……)

 アリス(――カレン、「気づいちゃった」かなぁ?)アセアセ

 忍「……」ジッ


 カレン「……マサカ」

 カレン(まさか、ネ……)

 カレン(――そう、だとシタラ)


 カレン「……なんだか、恥ずかしいデース」

 忍「せ、赤面する金髪少女……!」ハァハァ

 アリス(あ、いつものシノだ……)ホッ


45 ◆OtZIp/YaIxCt2013/09/06(金) 03:31:24.28vI+XRiGI0 (7/7)

今回は、ここまで。

最後のアリスは安心してるけどそれでいいんでしょうかね……?
今回はカレンとの出会いのお話でした。さて、カレンは果たして……?

それでは。
読んでくださる方に心からの感謝を。


46以下、新鯖からお送りいたします2013/09/06(金) 09:34:47.90mmUUkNMSo (1/1)

そんな、まさか……乙!

しかし金髪フェチな女装男と文字で表すとなかなかに危ない人に見えてしまうな


472013/09/09(月) 00:17:14.88xsNE2Y0O0 (1/7)

――廊下

「……」

うん、やっぱりおかしい。
さっきの感触は、なんといっても。
私自身、胸にパッドを当てることに抵抗がないおかげか、さっきのシノとの抱擁には――

 大いに疑問を抱いた、と言わざるをえマセン……!

「ムゥ……」

 しかも、あの大きさ。
 シノの体格からしたら、もう少し小さくたって――!
 これじゃ、私の自信が、ちょっとなくなりマース……。

「お、おい、転校生が自分の胸をツツいて物憂げ顔だぞ……?」
「うーん――何か、彼女にも思う所があるんじゃないかな?」
「……はぁ。アンタたち、鼻の下伸ばしすぎ」


「――あ、着きましたネ」



――忍のクラス



カレン「タノモー!」ガラッ

陽子「おう、カレン」

綾「どうしたの、私たちのクラスに用事?」

カレン「ハイ!」トコトコ

カレン「ヨーコやアヤヤもいますし!」

綾「だ、だから、私は『アヤ』!」

陽子「いーじゃん、アヤヤ可愛いし」

綾「……」ハッ

綾「陽子が、そう言うなら」プイッ

陽子「?」


カレン「トコロデ」

カレン「シノは、どこにいますカ?」

綾「――アヤヤ、か……うふふ」ニコニコ

カレン「アヤヤ?」

綾「――!」ハッ

陽子「シノなら、そこの前の方の席にいるんじゃないかなぁ……あ、いたっ」

カレン「ヨーコ、ありがとデスー!」


綾「……」ズーン

陽子「――おい、『アヤヤ』?」

綾「も、もう……」ガタッ

綾「『アヤヤ』禁止ー!」ダダダッ

陽子「ええ……」


482013/09/09(月) 00:18:13.77xsNE2Y0O0 (2/7)

カレン「シノ、こんにちはデス!」

忍「――あ、カレン」ニコッ

アリス「カレン!」

カレン「アリスも、デスー!」ダキッ

アリス「ひゃぁ!? か、カレン、くすぐったいよぉ」

カレン「……」

アリス「?」

カレン「――やっぱり」フニフニ

アリス「え、え?」

アリス(な、なんで私の胸の方に視線が……?)

アリス(あ、あと、なんだかほんのちょっとだけ鼻で笑われた、ような……?)ハッ

カレン「ところで、シノ?」

アリス(しかもスルー!?)ガーン



カレン「……」ジーッ

忍「? どうしました、カレン?」

アリス(ああ、今度はシノの胸を――!)

アリス(カ、カレン! そ、そこは、私の場所――じゃなくてっ!)カァァ


カレン「――うん、やっぱり」

カレン「シノ!」ズイッ

忍「ひゃっ!? な、なんですか、カレン?」ビクッ

カレン「……」

忍「?」


カレン(どこからどう見ても、可愛い女の子デス……)

カレン(こけしのような黒髪も似あってますし、落ち着きもアル)

カレン(――じゃあ、さっきのは?)


陽子「よ、よう、カレン」

カレン「――あ、ヨーコ」

綾「そ、そろそろ授業始まっちゃうわよ?」

綾「自分のクラス、戻ったほうがいいんじゃない?」

カレン「……」

カレン「わかりマシタ。ソレデハッ!」ダダダッ

陽子「――アリスに続き」

綾「――二人目、ね」

忍「……カレン、可愛かったですー」エヘヘ

アリス「……シノ」ムッ


492013/09/09(月) 00:18:41.91xsNE2Y0O0 (3/7)

カレン「シノ、こんにちはデス!」

忍「――あ、カレン」ニコッ

アリス「カレン!」

カレン「アリスも、デスー!」ダキッ

アリス「ひゃぁ!? か、カレン、くすぐったいよぉ」

カレン「……」

アリス「?」

カレン「――やっぱり」フニフニ

アリス「え、え?」

アリス(な、なんで私の胸の方に視線が……?)

アリス(あ、あと、なんだかほんのちょっとだけ鼻で笑われた、ような……?)ハッ

カレン「ところで、シノ?」

アリス(しかもスルー!?)ガーン



カレン「……」ジーッ

忍「? どうしました、カレン?」

アリス(ああ、今度はシノの胸を――!)

アリス(カ、カレン! そ、そこは、私の場所――じゃなくてっ!)カァァ


カレン「――うん、やっぱり」

カレン「シノ!」ズイッ

忍「ひゃっ!? な、なんですか、カレン?」ビクッ

カレン「……」

忍「?」


カレン(どこからどう見ても、可愛い女の子デス……)

カレン(こけしのような黒髪も似あってますし、落ち着きもアル)

カレン(――じゃあ、さっきのは?)


陽子「よ、よう、カレン」

カレン「――あ、ヨーコ」

綾「そ、そろそろ授業始まっちゃうわよ?」

綾「自分のクラス、戻ったほうがいいんじゃない?」

カレン「……」

カレン「わかりマシタ。ソレデハッ!」ダダダッ

陽子「――アリスに続き」

綾「――二人目、ね」

忍「……カレン、可愛かったですー」エヘヘ

アリス「……シノ」ムッ


502013/09/09(月) 00:20:00.14xsNE2Y0O0 (4/7)

>>48 >>49 内容重複。ごめんなさい。

――次の休み時間


アリス「……カ、カレン」

カレン「OH?」

カレン「アリス……どうしたデス?」

アリス「そ、その」

アリス「――カレンに、お話ししたいことが、あって」

カレン「……」

カレン「実は、私も――」

アリス「カレン――!」

カレン「そこで、なんデスガ……」


――大宮家


勇「――はい、カレンちゃん」

カレン「おおー、ジャパニーズ・ワガシッ!」

勇「ふふ、お口に合うといいんだけど……」

カレン「とってもおいしいデース! Delicious!」グッ

勇「良かったよかった」

忍「……」

アリス「シ、シノ?」

忍「――アリス」

忍「カレンだけ、私の家に誘った、ということは」

アリス「……う、うん」

アリス「ま、前に陽子から聞いたんだけど、シノ――まだ、クラスの人たちには」

忍「ええ……『中学の頃のような』ことは、まだしていません、ね」

アリス「――カレンには、早い所」

忍「明らかにしておいたほうがいい、ですよねぇ……」

カレン「二人トモー? 何をコソコソ話してるデスカー?」

アリス「カ、カレンッ!」

忍「――あの、カレン」

カレン「ンー?」

忍「……後で、私の部屋に来て頂けますか?」

カレン「……」

カレン「Yes,Of Course!」グッ

アリス「――シノ、いいんだね?」

忍「……何度やっても、慣れませんけど、ね」

アリス(――シノ、顔赤くしちゃって)

アリス(わ、私が精一杯フォローしないと、だね!)

勇「……ふふ」

勇(うーん、私の出番は必要なし、かな?)


512013/09/09(月) 00:20:52.51xsNE2Y0O0 (5/7)



――忍の部屋


カレン「おじゃまシマース!」ガチャッ

カレン「へぇ、ここがシノの部屋ですカー」ジーッ

アリス「も、もう、カレン! そんなにジロジロ見ちゃダメだよ!」

忍「あはは、いいですよ、アリス」

忍「――カレン」プチプチ

カレン「?」

カレン「……シノ、どーして服を脱いでるですカ?」

忍「――私とカレンが」プチプチ

カレン「……!」

忍「本当の、『お友達』になれるようにする、ためにです」スルッ

カレン「シ、シノ……! ま、まさか、それは――」


ストン・・・


カレン「……」

忍「……」

カレン(きれいな肌、デース)

カレン(なんというか、人形以上に人形らしいというか……それくらいにきめ細やかな肌デス)

カレン(――しかシ)

カレン(……ベッドの横に積まれた『モノ』は、一体)

アリス「ふぁぁ……」クラッ

アリス(シノ――相変わらず、綺麗だよぉ)カァァ

アリス(でも、でも……『女の子』じゃない、なんてぇ……!)ブンブン


カレン(このアリスの反応)

カレン(……シノ、やはり)


忍「――カレン?」

カレン「――シノ。おっぱい、ないんデス?」

忍「あはは」ニコニコ

忍「昔、小学生の頃は、陽子ちゃんと一緒だと思ってたんですよ?」

忍「でも陽子ちゃんったら、今はあんなにおっきくなっちゃって――」

カレン「……そう、なんですカー」


522013/09/09(月) 00:21:20.07xsNE2Y0O0 (6/7)

カレン「なんと! 大宮忍は――『男の子』だった、トハッ!」

忍「……ごめんなさい、カレン」

カレン「な、なんのことですカ?」アセアセ

忍「私、さっきカレンに抱きついちゃってもらいました」

忍「その時、凄く嬉しかったです。ただ――」

忍「……私が、『女の子』じゃないって、知らなかった、ですよね?」

カレン「そ、それは、マァ」

カレン「正直、そこらの女の子より『女の子』らしいモン」

忍「――だから」

カレン「あ、謝らなくて大丈夫デス!」

忍「……あ」

カレン「わ、私も、嫌じゃ全然なかったデスッ!」

カレン「た、ただ……!」

カレン「――パパ以外の男の人とハグするのなんて、初めてだった、カラ……」カァァ

忍「カ、カレン……」


忍「カレンー!」ダキッ

カレン「キャッ!?」ビクッ

カレン「シ、シノ! わ、私、心の準備というモノ、できてナイ、デスッ!」

忍「……嫌、ですか?」

カレン「そ、そうじゃなくテー……あぁ、モォ」カァァ

アリス「……」

アリス(シノが! アリスに! 抱きついた!)アセアセ

アリス(……ううう)

アリス(次は、私が……!)ズイッ

アリス(でも)


アリス「そういえば、私もパパ以外の男の人とハグしたこと、なかったよぉ……」カァァ



――廊下



勇「……」

勇「――恋敵登場、かしらね?」

勇「しかしまぁ、この子たちがフツーのラブコメみたいな展開になるとは、到底思えないけれど」


勇「まったく、可愛い子たちなんだから……」クスッ


532013/09/09(月) 00:22:20.01xsNE2Y0O0 (7/7)

今回はここまでです。

さて、カレンに身バレし、次なるシノたちの進む道は――
しかし、シノが服を脱ぐシーンは、書いててちょっとクルものがあることを認めざるを得ない……!

それでは。


54以下、新鯖からお送りいたします2013/09/09(月) 07:57:04.993Swivtn8o (1/1)


細かいけどもカレンに!じゃね?


55以下、新鯖からお送りいたします2013/09/18(水) 08:22:54.538KZPzFoxo (1/1)

続きはまだかね


5612013/09/18(水) 12:47:53.31uKAPD8KP0 (1/8)

ごめんなさい、遅れてます。
今夜、投下予定です。
もし立て込んだりして出来なかったら、申し訳ありません。


5712013/09/18(水) 12:48:20.10uKAPD8KP0 (2/8)

>>54
ご指摘、ありがとうございます。


58以下、新鯖からお送りいたします2013/09/18(水) 21:22:06.90A4N7Mrd4o (1/1)

期待


59以下、新鯖からお送りいたします2013/09/18(水) 22:11:04.66DoFE31LLo (1/1)

頑張れ~


60 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/09/18(水) 23:23:28.22uKAPD8KP0 (3/8)

 ――ちょっと昔の話をしてみよう。

 そういえば、あの姉妹――おっと――「姉弟」とは、随分と長い付き合いになる。
 小学1年生の頃に初めてその子と会った時、まだ小さかった私は目をパチパチとさせたっけ。

「陽子ちゃん、よろしくお願いしますね」
「おう、シノ! よろしくな!」

 でも、その時はまだ「ちょっとした」違和感に気付かなくて。
 だから、シノと触れ合っていく中で――

 まさか、「そういうこと」だとは思わなかったわけで――


 きっかけは、渡り廊下。
 たしか、4月の中頃だったような気がする。
 シノと出会ってから、日がまだまだ浅い頃だ。

「――あれ、陽子ちゃん?」
「よう、シノ」
「どうしたんですか? ここは、お兄さんやお姉さん達のクラスしかありませんよ?」

 つまり、上級生のフロアだと言いたいんだろう。

「あー、いやまぁ……なんとなく?」

 まあ私は、本当に理由もなくただぶらついていただけ。
 だから、寧ろシノがなんでここにいるのか気になった。

「そーいうシノは、どうしてここにいるのさー」
「あ、それは……」


「シノ!」

 交わされる会話は、突如途切れる。
 シノが、誰かに抱きつかれたせいだ。
 その人は、当時は小学3年生だったはずだけど……もうすでに、どこか上級生っぽくもある人だった。
 何より、凄く綺麗だった。

「……あれ?」

 つい、見惚れてしまっていた。
 おっと、油断した。
 近くには、そんな美人の顔がある。


61 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/09/18(水) 23:24:03.39uKAPD8KP0 (4/8)

「こ、こんにちは」
「あら、こんにちは――ねぇ、シノ?」
「なんですか、『お姉ちゃん』?」

 なるほど、この人はシノのお姉さんだったのか。
 合点した私は、「似てるようで似てない――『姉妹』だなぁ」と心のなかで思う。
 ……うん、この頃までは知らなかったんだな。

「この子……シノのお友達?」

 そんな、美人さんの問いかけに、


「はい! 陽子ちゃんは『ボク』のお友達です!」


 世界が、揺れた。
 まだまだ小さかった当時の私も、なんだか急に立っている場所がわからなくなった記憶がある。

 目の前にいるシノは、短めのおかっぱ頭に、大きな目(ただ、お姉さんと違ってタレ目)。
 どこから、どう見ても――


「な、なぁ、シノ?」
「――あっ!」
「あーあ、もしかして……今、バレちゃったの、シノ?」
「……うう」


 4月の中頃。
 私たちはそうして、後に公然となる秘密の共有者となった――



「……ってわけなんだ」
「なんだか、妙に勇さんに対する評価が高いわね……」
「どうした、綾?」
「な、なんでもないわよっ!」

 時は移って、現在。
 私と綾は帰り道で、そんな話をしていた。
 今頃、シノの家にはカレンが行って――

「それで、どうしてこの話を?」
「いや……たしかまだ、綾に言ってなかったよね、って思って」
「――まぁ、たしかに初耳かもだけど」

 そう言うと、綾は居住まいを正して、

「どうして、今?」
「……分かるだろ、綾?」

 私は一呼吸置いて、

「アリスに続き、カレンにもシノの『秘密』は明かされるはず」
「それはもう、確定事項でしょうね」
「……だったら、尚更」


「私が、一番信頼する『友達』に、全てを打ち明けときたいって思うじゃん」


「……は、はぁ!?」

 そんな風に言うと、何故か目の前の綾が爆発しそうな表情をとる。
 爆発しそうな……うん、つまり、とっても赤い顔になる。


62 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/09/18(水) 23:24:37.80uKAPD8KP0 (5/8)

「な、何をいきなり……」
「いや、たしかにこの話をしても、今更大した変化もないだろうけど」

 私は、そこでしっかりと綾を見つめる。

「――それでも」
「まったく、陽子ったら」

 少し赤みが引いた顔を、いたずらっぽく緩めて、言う。


「今更私が、あなたやシノから離れるとでも?」
「……まるで、綾に付き合ってきたのが私やシノみたいな言い草だなぁ」
「むっ……」

 そうそう、そんな感じがいい。
 ちょっと雰囲気が堅くなってきた感じもあったし、少し綾をからかうことで立て直し。
 まぁ、そこが私のダメな所でもあるんだろうけれど……ともあれ。

 明日から、どうなることやら――










 ――翌日・集合場所

忍「……おはようございます!」

陽子「おっす、シノ」

綾「お、おはよう、シノ」

綾「そ、それで昨日は……」

アリス「あ、綾! わ、私たち、別に何にもなかったよ!」ブンブン

綾「――え? いや、カレンのことなんだけど……」

アリス「」


陽子「……アリス、何を早とちりしてそうなったんだ?」

アリス「き、聞かないでよぉ」カァァ

忍「はい。アリスは昨日も今日も可愛いですよ」

アリス「……シ、シノー」キラキラ

陽子「――まぁ、この二人はもういいか」

綾「というより」

綾(アリス……実際、シノの「性」について、どう思ってるのかしら?)

綾(――まぁ)


アリス「シノに会えて良かったよー!」ダキッ

忍「アリスー!」ダキッ

綾(……なんともなさそう?)


63 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/09/18(水) 23:25:04.92uKAPD8KP0 (6/8)

陽子(いや、よく見ろ綾)

綾(な、なによ?)

陽子(――アリスの、手)

綾(……!)

陽子(シノの腰回りに、ちゃんと付いてない)

綾(……あぁ、やっぱりまだ)


カレン「お、オハヨーゴザイマス……!」ハァハァ

綾「あ、カレン」

陽子「おっす」

カレン「……」ドキドキ

陽子「? どした?」


忍「カレンー!」

アリス「シ、シノ!?」ガーン

カレン「……シ、シノ」ビクッ

忍「昨日は、ぐっすり眠れましたか?」

忍「日本の生活に、早く慣れるといいですねー」

アリス「シノ……それ私には、言わなかった台詞」ウルッ

陽子(うわぁ……あれは)

綾(アリス――疲れちゃいそうな性格してるわねぇ)


カレン「……ア、アノ」

忍「さぁ、学校生活二日目です!」

忍「カレンのクラスにも、遊びに行きたいですねぇ」

カレン「シ、シノ……ええと」モジモジ

忍「はい?」

カレン「……」


カレン「い、一回ダケ」

カレン「――ギュッと、シテ?」ポッ

アリス「……!!?」

陽子(うおおお!?)

綾(え、なにこの展開は……!)


64 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/09/18(水) 23:25:31.53uKAPD8KP0 (7/8)

忍「……」

忍「はい、わかりました」

カレン「……」ドキドキ

忍「――カレン」ギュッ

カレン「!」ビクッ

忍「……さらさらの、金髪」

忍「綺麗ですねぇ……」

カレン「……」


カレン「も、もう、イイ!」バッ

忍「え?」

カレン「……」

カレン「わ、私! さ、先に行きマス!」

忍「ちょ、ちょっとカレン!?」

アリス「……」

アリス(カレンが、シノに……ギュッと)

アリス(シノが、カレンを……ギュッと)

陽子「……なぁ、私はカレンよりむしろ」

綾「アリス――健気な子」

陽子(健気、というより、なんだかなぁ……)




――ちょっと離れて




カレン「……」ハァハァ

カレン「――ド、ドキドキ、しまシタ」

カレン(ま、まさか、異を決してやってみたことがこんなニモ)

カレン(……シノに、抱かれたダケで)

カレン(身体が、ギュンと、火照ッテ)

カレン(――あれで、どうシテ)


カレン「……『Man』なんですカァ」カァァ


65 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/09/18(水) 23:27:03.60uKAPD8KP0 (8/8)

ここまでです。
トリップつけました。

互いに気持ちを結び合う陽子と綾。
気持ちを結ぼうとして引いたカレン。
さて、二人の英国少女はいかに和風少女と気持ちを結ぶのか……。

というまとめっぽいことを書いても、結果的には赤面するカレンちゃんが書きたかっただけかもしれません。
楽しかったです。

それでは。


66以下、新鯖からお送りいたします2013/09/19(木) 00:06:23.32biS4mguro (1/1)

続きはいつ頃?


67 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/09/19(木) 00:18:59.73FT9VxJ1h0 (1/1)

>>66
実生活が色々と立て込んできたので……少し、遅れるかもしれません。


68以下、新鯖からお送りいたします2013/09/19(木) 03:23:33.12hNZ0VpW4o (1/1)

この雰囲気、いいね!


69以下、新鯖からお送りいたします2013/09/20(金) 01:04:41.785ZuumXnmo (1/1)

続きが早くみたいな


70 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/02(水) 01:39:42.88bmlU0LP20 (1/7)

 ――4月下旬。

 大宮忍たちが高校に入学して、早1ヶ月が過ぎようとしている。
 この間に、アリス・カータレットが忍に会うためにイギリスから来日したり、九条カレンがそんなアリスを追って忍たちと知り合ったり……
 と、過ぎた時間の短さに比して、非常に濃い日々を送っていた。

 さて、そんな面々の調子はどうだろうか。

 大宮忍は、そんな2人の英国少女に会えたことで、頬を緩めることがとても多く非常に満足な毎日である。
 アリス・カータレットは、そんな忍と会えてとても嬉しく思う一方で……一抹の想いもまた、抱えていた。
 九条カレンは、アリスと同じような想いの感じ方に、彼女よりも敏感であった。

 猪熊陽子は、そんな3人(主に忍だが)を心配しつつ、楽しみながら見守っている。
 小路綾は、陽子と同様ではあるが、心配の比重が多いように見受けられる。


 さて、このようにそれぞれ捉え方は違えど、概ね満足な日常を送っている中で――


「……なぁ、今のって」
「うーん……」


 ちょっとした、「予兆」も表れてきていた。


71 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/02(水) 01:40:17.67bmlU0LP20 (2/7)

 ――廊下



 男子A「……最近は、転校生ブームなのか?」

 男子B「なんだ、いきなり。何かの漫画の影響か?」

 男子A「何言ってんだ。うちの学校のことに決まってるだろ」

 男子B「――あぁ、なるほど」


 男子B「うちには、アリス――さん?――がいて」

 男子A「別のクラスには、九条さんという人も来たらしい」

 男子B「……ああ、時々うちのクラスに来てる」

 男子A「そう、あのユニオンジャックのパーカーの――」

 男子B「え、あれユニオンジャックとかいうかっこいい名前だったのか?」

 男子A「……ほんのちょっとでもいいから、イギリスのことは知っておくべきだろ」

 男子B「??」


 男子A「でも、こんなにイギリスから転校生が来てると――」

 男子B「いいじゃん、外国人と仲良くなれるし」

 男子A「単純なヤツだな……まぁ、それでいいんだろうけど――わっ!?」

 忍「ひゃっ!?」



 ドンッ!



 男子A「だ、大丈夫か?」

 忍「は、はい。ご、ごめんなさい」アセアセ

 男子B「――あぁ、大宮さんか」

 忍「えへへ、慌てちゃってました」

 男子A「そか。俺は大丈夫だから」

 忍「良かったです」

 忍「それでは、また」ペコリ

 男子B「じゃーなー」


72 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/02(水) 01:40:42.31bmlU0LP20 (3/7)

 男子A「ああ、ビックリした」

 男子B「意外と慌てることもあるんだな、あいつ」

 男子A「そう……だ、な」ピクッ

 男子B「どうした?」

 男子A「――俺達って今」

 男子B「トイレに行く途中だろ?」

 男子A「……大宮さんは、今」

 男子B「え、あいつなら教室に戻る途中だろ?」

 男子A「――気付かないのか?」チラッ

 男子B「えっ……」チラッ

 男子B「あっ!」ハッ



『男子トイレ』



 二人「」

 男子A「ま、まさか、なぁ」

 男子B「な、なぁ?」

 二人「……」



 ――教室



 陽子「……と、いうわけで」

 綾「何が、『と、いうわけで』なのよ」

 陽子「わ、分かってるだろ?」

 綾「それは、まぁ」

 忍「え、お二人とも、どうかしたんですか?」

 アリス「ふ、二人とも、ちょっと顔が真剣だよ……」

 陽子「――シノ」

 忍「は、はい」

 綾「中学生の頃のこと、覚えてるわよね?」

 忍「……中学生、ですか」

 忍「あぁ、アリスの所へ行きましたねぇ」キラキラ

 アリス「私が、シノと会った時……!」キラキラ

 陽子「じゃ、なくてだな……」ハァ


73 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/02(水) 01:41:24.93bmlU0LP20 (4/7)

 陽子「その――シノの、あの」

 綾「身体のこと、でしょ?」

 忍「え、私、健康ですよ?」キョトン

 アリス「シノ……綾が言いたいのは、そういうことじゃないと思うよ?」

 忍「――冗談です」


 忍「ええ、覚えてますよ」

 陽子「……」

 忍「でも、皆さんとても優しかったですし」

 忍「いい人たちでしたねぇ……」

 綾「シノ……」


 陽子「――傍から聞くに」

 陽子「シノは、『どっち』なんだと」

 綾「そう、言われてることもあるらしいのよ」

 忍「そうですかー」

 綾「って、随分と軽いのね……」

 忍「ええ、だって……」

 忍「安心してますから」ニコッ

 陽子「安心……?」

 アリス「シノ……?」



ガラッ



 男子AB「――あ」

 忍「あっ!」ガタッ

 忍「お二人とも、先程はごめんなさいでした」ペコリ

 男子A「い、いや、別になんともなかったし」

 男子B「む、むしろ……いや、なんでもない」

 忍「それは良かったです!」

 男子A「――大宮、さん」

 忍「はい?」キョトン

 男子B「――応援、するよ」

 忍「……!」

 忍「ありがとうございます!」ニコッ


74 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/02(水) 01:41:53.46bmlU0LP20 (5/7)

陽子「……おお」

 綾「よ、よくあんな普通に男子と話せるわね」

 陽子「いや、そこじゃないよ!」

 アリス「シ、シノが……男の子と……」アワワ

 陽子「いや、そっちでもないよ!」

 忍「ただいまです」

 陽子「なんというか」

 綾「心配、するまでもなかった、ってことかしら?」

 アリス「わ、私は心配だよぉ」ウルッ

 陽子「アリス、それは違うんだよ」


 陽子「ともあれ、シノ」

 陽子「――さっき、トイレに行くと席を立った時、あの二人とすれ違ったんだな?」

 忍「はい」

 忍「私、慌ててたのでぶつかってしまって……」

 陽子「そうか……それで、あの二人は」

 綾「『察した』のかしら」

 アリス「シノが――その――」

 アリス「……私たちと『同じ』じゃない、ことに?」

 陽子「――かもな」


 忍「それでも」

 忍「あのお二人は、分かってくれたようですし」

 忍「――大丈夫ですよ、アリス!」ニコニコ

 アリス「シ、シノぉ……」ウルウル


75 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/02(水) 01:42:20.67bmlU0LP20 (6/7)


 綾「……ま、大丈夫みたいね」

 陽子「まぁ、なんだかんだで中学の時も――」



『いやまぁ、なんというか……面白いこともあるよね』

『いいじゃん、そういうのも!』

『大宮さん、それなのに髪サラサラなんだ……羨ましー』



 陽子「――私たちはホント、周りの人に恵まれてるなぁ」

 綾「感謝しないとね」

 忍「はいっ!」

 アリス「……」

 アリス(そうだよね――シノは、『違う』んだよね)

 アリス(最初、私がシノに会いたかった理由は……)

 アリス(今と、なっては――)キュッ




 男子A「――あれで、あの容姿で……」

 男子B「あの可愛さで、か――凄いな」

 男子A「……だよな、うん」


76 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/02(水) 01:44:02.01bmlU0LP20 (7/7)

ここまでです。

今回はカレンちゃん登場なしでした。次回、出る予定です。

きんモザの世界観なら、優しさで解決することも多いんだろうなー、と。
実際、原先生が最初期案で描いたらどうなっていたのか、非常に気になります。

次回は、赤面率が上昇する……かも。
それでは。


77VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/02(水) 03:43:27.12x7VE4nLko (1/1)

この男子…素質があるな…


78VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/02(水) 07:37:05.58aT62C/CCo (1/1)




79 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/03(木) 09:50:52.07CWy0c2Sh0 (1/6)

 ――最近、うちの高校にも「ブーム」が来ているらしい。

 さっき、廊下ですれ違った二人の男子も、そんなことを言っていた。
 なるほど、彼らのクラスにもまた、イギリスからの転校生がいるらしい。
 そして……

「ハァ……」

 さっきから、私の近くで溜息を漏らす子も、イギリスからの転校生。
 そんな彼女は、どうも朝から様子がおかしい。

「あ、あの……?」
「――」

 ムクリ。
 あ、身体を起こした。
 しかし、こうして改めて見ると、やっぱり日本人とは違う。
 サラサラの金髪も、パーカーの着こなし方も……といっても、ハーフらしいけれど。

「お尋ねしても、よろしいデスカ……?」
「はい?」
「May I ask you a question……?」
「うわ、やっぱり英語上手いね」

 さて、そんな彼女の「お尋ねしたいこと」とは何なのだろう。
 これまでの様子を勘案して、思い浮かぶことといえば――

「……まさか、とは思うんだけど」
「ハイ」
「――『恋煩い』じゃあないよね?」
「!」

 まぁ、冗談のつもり。
 フツーに考えれば、転校して間もないこの時期に誰かに一目惚れって――どんな漫画やアニメなんだか。
 ……冗談、だよ?


「……」
「恋煩い……」
「Love sickness……?」
(聞いたことのない英語だ……)


 私がこう言うと目の前の彼女は、先ほどとはまた違った意味でおかしくなった。
 さっきまでが「静」な不調といえば、今は「動」の不調。
 いきなり顔を赤らめて、オロオロするばかりなのだった。


「……あー、なんというか、藪蛇?」

 この場合、使い方が正しいのか知らないけど。

「そ、そんなことありまセン!」

 あ、いきなりムキになった。

「と、とにかく! た、確かめに行ってきマス!」

 と同時に、バタバタと教室を出て行ってしまう始末。
 廊下に消えゆく彼女を見て、私も溜息を一つ。

「……ありゃ、重症ね」


80 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/03(木) 09:51:24.70CWy0c2Sh0 (2/6)

 

――教室


忍「はぁ……陽に照らされる金髪少女も素敵です」ウットリ

アリス「シ、シノ? 目がちょっと怖いよ?」ビクッ

忍「いえいえー」

アリス「……もぅ」クスッ


陽子「――相変わらずの光景だなぁ」

綾「もう慣れたものね……今までシノは雑誌の女の子に対して呟いてたけど」

陽子「もう直接の対象が近くにいるからな……道理で、蕩け度が増してるわけだ……」



ガラッ



カレン「……」

陽子「あ、カレンだ」

綾「な、何だか、ちょっと様子がおかしいわね」

陽子「……言われてみれば」

カレン「――ヘイ、ヨーコ、アヤヤ!」ニコッ

陽子「あ、笑った」

綾「だから、私は『アヤ』なのに……」


陽子「どうしたんだ?」

カレン「What? なんデスカ?」キョトン

陽子「いや、その――」

綾「さっき、ちょっと表情が硬かったように見えて……」

カレン「心配いりマセン! ダイジョブデス!」エヘヘ

綾「そ、そう?」

陽子「……そ、そっか」

カレン「――ところで」チラッ


忍「この髪も、サラサラですねぇ……」ナデナデ

アリス「く、くすぐったいよぉ……」

忍「アリスは、本当に可愛いです……」

アリス「――シノは、ズルいよ」カァァ


カレン「……」

陽子(あ、表情が)

綾(少しずつ、さっきみたいに……)


81 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/03(木) 09:51:56.88CWy0c2Sh0 (3/6)

カレン「ヘイ、二人とも」

忍「あ、カレン!」

アリス「カレン、どうしたの?」

カレン「――その」

カレン「私も、髪には自身あるデス」エヘン

アリス「……!」


カレン「シノ、触ってもいいデスよ?」チラチラ

アリス「だ、ダm」

忍「はい! ありがとうございます!」ナデナデ

アリス「」


忍「いやー」

忍「カレンの髪も、サラサラで綺麗ですねぇ……」ウットリ

カレン「……」

カレン(うん、大丈夫デス)

カレン(顔が赤くなってる感じもなく、胸が高鳴ってるわけでもナイ)

カレン(――やっぱり、LoveSicknessなんてありえまセン!)

カレン(そ、そもそも、シノは……私たちとは、ちがッテ)


忍「……んー」ポフッ

カレン「!?」

アリス「!!?」

カレン「……シノ、なにしてるデスカ?」

忍「カレンの髪……香りもいいですねぇ」

アリス「シ、シノが……!」

陽子「髪に顔を埋めて――!」

綾「……」



陽子『綾の髪、なっがいなー、サラサラしてる』

綾『あ、もう、陽子ったら!』



綾「……」ジーッ

陽子「――なにか?」

綾「な、なんでもないわよ!」プイッ

陽子(慣れたとはいえ、時々綾が怖いよ……)



82 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/03(木) 09:52:23.95CWy0c2Sh0 (4/6)

カレン「シ、シノ……あの、デスね」

忍「……」

カレン「く、くすぐったい、デスし、そ、それに……」

カレン「――うう」

アリス(カレン……顔が真っ赤だ)

アリス(――シノもシノで、いつまでカレンの髪に顔を)

アリス(むぅ……)


忍「――ふぅ、満足です」

忍「ありがとうございます、カレン」

カレン「よ、You are welcome……どういたしまして、デス」

忍「わ、カレン……英語、上手ですねぇ」ニコニコ

カレン「……そ、そんな、コトは」アセアセ

陽子(慣れないことされたせいか、カレンの反応が敏感だな……)

綾(そして、それを見るアリスの健気でいじましい瞳ときたら……)


カレン「……」

カレン「シノ」

忍「はい?」

カレン「――」

カレン「やっぱり、なんでもないデス」

忍「そうですか」

忍「いつでもなんでも、言ってくださいね」

カレン「……」

カレン「そういうとこ、ズルいと思いマス」カァァ

忍「??」

アリス(――カレン)

アリス(まさか……まさか、だよね?)

カレン「――そろそろ、戻りマス」

忍「あ、そうですか。それではまた後で会いましょう!」

カレン「……ハイ」



ガラッ



アリス「……」

アリス(カレンが――カレンが)

アリス(おかしいよぉ……!)ガーン


陽子「――ありゃ、かなり」

綾「ええ、何だかすごかったわね」


83 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/03(木) 09:52:54.18CWy0c2Sh0 (5/6)


 
――あ、帰ってきた。

 教室に脚を踏み入れた彼女は、なるほどどこか様子がおかしい。
 具体的には、さっきよりも顔の赤みは増し、足取りもおぼつかなく、なにより――


「お帰り……ところで、どうしたのその髪?」

 彼女の自慢であろう髪の形が、崩れていた。
 何故だろう、手入れを欠かすことなどなかっただろうに。

「――このままで、いいデス」
「そう?」

 やっぱりよくわからない。


 ただ、言えることはありそう。

「どう、九条さん?」
「――何が、デス?」


「Love sickness」
「!」
「実際には、どうだったのかなー、って」
「……」

 彼女が教室を去ってから電子辞書で調べた言葉。
 それを投げたら、彼女は押し黙ってしまった。

 下を見る彼女は、何を思っているんだろう。
 私は、追及しないことに決めた。


 しかし、まぁ。

(最近の、イギリス人は進んでるのかなぁ……?)


 日本では『草食系』なんてのも現れてるのに、彼女ときたら――


(……そういうのじゃ、ありまセン)

(私が、シノに感じてるのは――もっと、そう、もっと別ノ)

(……何か、なんデスが)


84 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/03(木) 09:54:45.66CWy0c2Sh0 (6/6)

ここまでです。

予告通り、赤面率高めでした。
果たして、カレンがシノに思う所はなんなのでしょうか……自分で書いていても、どう表現すればいいのやら。

読んでくださる方、ありがとうございます。
それでは。


あ、ちなみに、カレンと話している女子生徒は、ほのかちゃん(?)とは別と考えていただいて構いません。


85VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/03(木) 20:00:26.47MEFF3Bv6o (1/1)




86VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/08(火) 02:46:34.61mtQCrED/o (1/1)

乙です


87 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/09(水) 02:28:53.62HJLwRldP0 (1/9)

つらつらと書いていたら、とても長くなってしまいました。
ゆっくりと投下していきます。





 ――人の想いに関わらず、時は過ぎゆく。

 いつしかカラッとした陽気はどこかへ行ってしまい、蒸し暑い時期がやって来た。
 湿気は多く、紫陽花こそ綺麗であるものの、人々の気分は一様に重くなる――梅雨の到来だ。
 とりわけ、梅雨の時期の6月というものは、例外なく学生が最も気落ちする月でもある。

 すなわち――


「……あれ、おかしいな。何度見ても、カレンダーに『赤』がないぞ?」
「陽子――いくら見ても『赤』は浮かんでこないわよ……」


 こんな時期。



――朝・大宮家



忍「それじゃ、行ってきます!」ガチャッ

アリス「いってきまーす!」

母「はいはい、行ってらっしゃい」



バタン・・・



母「……」

母「二ヶ月、か――」

勇「どうしたの、遠い目しちゃって?」

母「勇……」


母「ううん、ちょっと考えただけ」

母「あの子――忍は、高校生活を充実させられてるのね、って」

勇「それは、まぁ」

勇「――この前、クラスの男の子と何かあったみたいだけど」

母「……え?」ピクッ

勇「もしかして、ね……」

母「……」


88 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/09(水) 02:29:24.04HJLwRldP0 (2/9)

母「――勇。あの子は、おとk」

勇「ああ、そういえばね。アメリカで同性婚が出来るようになったとか」

勇「今朝、ニュースでやってたよ」

母「……」

母「――ああ」フラッ

母「それは……あの子も幸せになれるのね」

勇「ごめん、ちょっと冗談が過ぎたかも」


母「え?」

勇「ホントは、ただ男の子に……その」

勇「まぁ、そりゃそうなるよね……」

母「――感付かれた、とか?」

勇「という話を、この前シノが楽しそうにしてくれたわ」

母「そう……」ハァ


母「――あの子は、そうね」

母「心配することなんて、ないのね……」

勇「そうそう」

母「……ところで、勇?」

勇「なぁに?」

母「あなた、学校は?」

勇「……」


勇「私、今日は撮影だったような、そんな気がするんだ……」エヘヘ

母「さぁ、早く制服に着替えなさい」



――通学路



忍「……今日も、凄い雨ですねぇ」トコトコ

アリス「そうだねー」トコトコ

アリス「こういう天気だと、髪のお手入れが大変だよ」

忍「アリスはいつも鏡とにらめっこしてますからね」

アリス「……」

アリス(そういえば、シノがそういうことしてるの見たことないような……)

アリス(――あれ? それなのに、シノってこんなに綺麗な髪なの?)

アリス(それに――なにより、シノは)


忍「? どうしたんですか、アリス?」

アリス「……女であることに、自信を無くしちゃいそうだよ」ズーン

忍「??」キョトン


89 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/09(水) 02:30:04.14HJLwRldP0 (3/9)




――集合場所



綾「おはよう、シノ、アリス」

忍「あっ、綾ちゃん! おはようございます!」

アリス「……おはよう」ズーン

陽子「……おう、おはよー」ズーン

綾「――アリス、随分とブルーね」

忍「陽子ちゃんもです……」


綾「ははぁ、髪の手入れ、と」

アリス「うう……」ハァ

綾「それは、まぁ」

忍「はい?」

綾「――いい、アリス? シノはね、色々と『特別』なの」

綾「いちいち比べると、かなり胸がズシッとなっちゃうわよ……はぁ」タメイキ

アリス「……綾、ありがとう」

忍「私、『特別』なんかじゃないですよー」


綾「でも、まぁ……」

陽子「……な、なんだよ?」

綾「アリスの落ち込みの理由に比べて、陽子ったら子供っぽいのね」クスッ

陽子「う、うっさいなぁ! 私みたいに思ってる、全国の高校生に謝れ!」

綾「開き直り方もまた、なんというか……」

陽子「うう……」

陽子「ど、どうせ、私は手入れなんて殆どしてないよ!」

綾「……」



――もう、陽子ったら、ドライヤーかけて寝ないとダメでしょ?――

――いいって、だって毎朝こうして綾がセットしてくれるし――



綾「――アリね」グッ

陽子「多分、ナシだ」アキレ



忍「そういえば、カレンはまだ――」

カレン「ここにいるデス!」ダキッ

忍「わっ!?」

カレン「シノ、グッドモーニング!」

忍「ぬ、濡れちゃいます……カレン」

アリス「――む」


90 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/09(水) 02:30:38.74HJLwRldP0 (4/9)

綾「……アリスも気が気じゃないわね」

陽子「はぁ――こんな雨じゃジョギングも出来ない……そして、毎日学校……」ズーン

綾「別の意味で、気もそぞろね……」

陽子「――しかし、カレンも慣れたよなぁ」

綾「? あぁ、シノのこと?」


カレン「シノは本当に髪が綺麗デス……」ナデナデ

忍「さ、触ったらくすぐったいです……」

アリス「もう、カレン! シノの髪が崩れちゃうでしょ!」


陽子「ほら、もう――普通の付き合いだ」

綾「『女子』同士の?」

陽子「……そ、そこは、まぁ」

陽子「ほ、ほら。10人に訊いたら10人が『女の子』って応えると思うぞ?」

綾「……それは、そうだけど」

綾「本当に、慣れたのかしら?」

陽子「? どうして?」

綾「いや、なんとなく……だけど」




――高校付近の道




カレン「ところで、アリス? 髪のセットには何分ホド?」

アリス「カ、カレンこそ」

カレン「――ノーコメントデス」

アリス「ち、ちなみに、シノは今朝は0分だったよ!」

カレン「……Really?」ピクッ

アリス「ホントにホント」

忍「ああ――雨の中に、二人の金髪少女が……」エヘヘ


陽子「なぜ、シノを出して張り合うんだアリス……」

綾「まぁ、言いたくないこともあるわよねー……って」

綾「危ない、みんな!」

全員「!?」



キキーッ

バシャッ!



綾「……あぁ」

陽子「な、なんとか、避けられたな……」

カレン「スピード、出しすぎデス!」

アリス「もう、こんな雨の日なのに……」


91 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/09(水) 02:31:13.10HJLwRldP0 (5/9)

アリス「シノは大丈……夫……」

アリス「」

陽子「あっ」

綾「あら……」

カレン「……Oh」


忍「――ちょっと、遅かったみたいですね」ポタポタ

忍「あぁ、反射神経が足りませんでした……」ハァ

アリス「シ、シノが……」

陽子「うひゃー、こりゃずぶ濡れだ」

綾「……だ、大丈夫、シノ?」

忍「はい、ちょっと寒いだけです」

忍「でも、服は随分と濡れちゃいましたね……」

アリス「……あ」

アリス(シ、シノ……なんだか)

陽子「色々と、マズい格好だな……」

綾「特に、『女子』にとっては、その」

綾「――透けるっていうことは、なかなかの」

陽子「ああ……薄着の時期ってのが、災いしたな」


アリス(――ま、まともにシノを見れないよぉ)アセアセ

忍「アリスは、大丈夫でしたか?」

アリス「ひゃっ!?」ビクッ

アリス「わ、私は大丈夫だから! シ、シノ、今はダメ!」カァァ

忍「……?」


陽子「――そういえば」

綾「カレンは、どこに……?」

カレン「」

陽子「あ、固まってる」

綾「道理で、さっきから声がなかったわけね……」

カレン「――シ、シノが」

カレン「うう……」カァァ

陽子(さ、さっきまでの積極的なカレンはどこに……?)

綾(ほら、やっぱり慣れたわけじゃなさそう……)



――教室



忍「おはようございます」

女子「あぁ、おはよ……う……」

女子「」


92 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/09(水) 02:31:41.82HJLwRldP0 (6/9)

陽子「シ、シノ! 呑気に教室に入ってる場合じゃないって!」

綾「と、とにかく! その濡れたのを何とかしないと……」

忍「――あ」

忍「すみません、ちょっとボーッとしちゃってました」ペコッ

陽子「シノ、大丈夫なのか……?」

綾(まさか、さっきので風邪になったんじゃないでしょうね……)


アリス「あ、いた! 先生!」

カレン「……」

アリス「カレン! 固まってないで!」

カレン「――やっぱり、恥ずかしいデス」カァァ

アリス「もう!」


烏丸「あら、どうしたんですか……って!」

烏丸「大変! 大宮さん、その格好は……?」

忍「あ、先生。おはよう、ございます」

烏丸「――しかも、体調まで」

陽子「ああ、カラスちゃん。実は、さっきね……」

烏丸「そう、だったの――」

烏丸「いずれにしてもその格好じゃ危ないわ……とりあえず、更衣室、に」

忍「……?」キョトン

烏丸「――わ、私が見張っておくから、『女性用』の教員の更衣室を使って」


陽子(さすがカラスちゃん、話が分かる)グッ

綾(――けれど)

綾(今更ながら、シノって本当に『女の子』ね……透け具合といい、見えてるものまで)

カレン「あ、あぁ……もう見れまセン!」ブンブン

アリス「カ、カレン! 恥ずかしいのは私も一緒だよ!」アセアセ

綾(――あの二人が慌てるわけね)

陽子(付き合いが長い分、こういうことにも「慣れ」てしまったような気がするのがちょっと怖い……)ハァ



――その頃、教室



女子A「大宮さん、大丈夫かな……」

女子B「相当酷く濡れてたよね……」

女子A「――恥ずかしいだろうな」

女子B「――まったく」

男子A「……それは」

男子B「うーん……どう、なんだろうな?」


93 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/09(水) 02:32:16.48HJLwRldP0 (7/9)

女子A「? 何いってんの、二人とも?」

女子B「『女の子』は複雑なんだよ?」ジトッ

男子A「わ、悪い。なんでもない」

男子B「……ただ、大宮さんは」

男子AB「……」

女子AB「??」



――保健室



陽子(こうして、なんとかシノの着替えも終わり)

陽子(念の為に熱を測ったら、案の定……)

綾「――シノ、大丈夫?」

忍「うう……いきなりの風邪は、ちょっとキツいかもしれません」ケホケホ

アリス「シ、シノが……」


養護教諭「みんな、もう少しでHRよ?」

陽子「あ、そ、そういえば……そっか」



カレン「――わ、私、残るデス」

綾「カレン?」

陽子「おいおい、授業始まるんだぞ?」

アリス「じゅ、授業には出ないとだよ!」

カレン「……さっき、チラッと教室を覗いタラ」

カレン「一時間目は自習、って黒板二」

陽子「そ、そうなのか」

綾「それなら……」

アリス「……」

アリス「わ、私もっ!」

陽子「アリス、残念だけど私たちは授業!」

綾「それに、今日の宿題、アリス当てられてるでしょ?」

アリス「……うう、そうだったよ」


カレン「先生!」

養護教諭「……しょうがないわねぇ」

養護教諭「でも、我慢して?」

カレン「……!」


94 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/09(水) 02:32:56.04HJLwRldP0 (8/9)

養護教諭「いい? 大宮さんは風邪なの」

養護教諭「だから、うつっちゃう可能性だってあるのよ?」

カレン「で、でモ……!」

養護教諭「――大宮さん、もしも誰かにうつしたら、悲しむんじゃない?」

カレン「!」

養護教諭「――さ、教室に戻りなさい」

養護教諭「ごめんなさい、なんとかしてあげられたらとは思うのだけど……」

カレン「わかり、マシタ」


アリス「うう、シノー……」

陽子「さ、行くぞアリス」

カレン「……」

綾「失礼します」ペコリ

養護教諭「はい、またね」



――廊下



アリス「……シノ、心配だよぉ」

陽子「大丈夫だって、アリス」

綾「そうよ。シノ、ああ見えて頑丈なんだから」

カレン「……」

陽子「――カレン」

カレン「ハイ?」キョトン

陽子「どうして、残りたいって言ったんだ?」

カレン「……」


カレン「――シノが、心配だったからデス」

綾「……そうよね」

陽子「そう、だよね」

アリス「――カレン」

カレン「さ、帰って自習しないとデス!」

カレン「それでは、お先二!」ダッ

陽子「お、おい!?」


陽子「……一体、なんでいきなり」

綾「――もしかして、ね」

綾(なんとなく、カレンの横顔に理由はあるような気はする)

綾(恥ずかしさの中に、優しさがあるような――うん、まるで)


綾(……まさか、ね)



アリス「……シノ」キュッ


95 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/09(水) 02:34:52.17HJLwRldP0 (9/9)

ここまでになります。

冒頭に書いたように、とても長くなってしまい、冗長だったかもしれません……。
楽しんでいただけたら幸いです。
カレンの想いは、果たして……?

それでは。
暑かったり寒かったり安定しませんが、体調にお気をつけて。


96VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/09(水) 09:46:37.85BkoyfOcro (1/1)

おつ!
こういう雰囲気のきんモザもいい感じ


97VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/09(水) 20:33:24.65hmSQ3UvGo (1/1)

待ってました


98VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/09(水) 20:52:21.815tTW3N5bO (1/1)

続き楽しみにしてます


99VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/10(木) 00:45:05.75rnUvGxdEo (1/1)




100 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/12(土) 02:02:45.40h1keRCWz0 (1/5)

今回はちょっと短めで。
アリスとシノのお話です。



――二ヶ月。

 この期間を長いとみるか短いとみるかは、人それぞれだろう。
 しかし今、ここで眠る英国少女にしてみたら、それは長いものだった。

 慣れない異国での生活は、本人の考える以上に心理的な負担がかかるものだ。
 幸い彼女の場合は、近くに頼れる和風少女が居るから、そうした負担も軽減されているが……。



 果たして、彼女が目を覚ます――











――大宮家・忍の部屋


アリス「……ふぁぁ」

アリス(朝、かぁ)

アリス(さ、顔を洗いに――あっ、そうそう)ピタッ

アリス(シノはちゃんと起きてるかなー、っと……)チラッ


101 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/12(土) 02:03:14.04h1keRCWz0 (2/5)

忍「――あ」


アリス「」


 ――差し込んだ陽に照らされる、白い肌。
 胸部は全く平らだけれど、それが逆に綺麗さを際立たせている。

 上半身裸の同居人は、その手をパジャマズボンに伸ばしていた。
 そんな隙間から、妙にお洒落な――


アリス(じゃ、なくてっ!)ブンブン


アリス「な、なに、を……」

忍「え、ええと……」

忍「お、おはようございます、アリス」

アリス「――な、何やってるの、シノ!」アセアセ


アリス「あ、朝は私が顔を洗いに行ってる間に着替える、って約束でしょ!?」

忍「……」

忍「ごめんなさい、寝ぼけちゃってたみたいです」

アリス「い、いいから、早く何か着てよぉ……」カァァ

忍「――ところで、アリス」

忍「今日は、こっちがいいですか? それとも……」スッ

アリス(寝ぼけ眼でシノは、私の前に二つの「モノ」を出した)

アリス(それぞれ、セットになっていて、どっちも膨らんでいる)

アリス(それは、多分……)


アリス「――な、何見せてるのぉ!?」ビクッ

忍「――あ」

忍「ご、ごめんなさい」ペコリ

忍「えへへ……」ニコニコ

アリス(だ、ダメ……寝ぼけてるんだ……!)ガーン


アリス「と、とにかく! 私、外に出るから!」

アリス「その間に着替えておくこと! いい!?」

忍「はぁい……」

アリス「――」バタン


102 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/12(土) 02:03:50.99h1keRCWz0 (3/5)




――廊下



アリス「……はぁぁ」タメイキ

アリス(あ、朝から目に毒だよ……)

アリス(相変わらず、何であんな真っ白で綺麗な肌で――)

アリス(下着もお洒落で……!?)


アリス「じゃ、じゃなくてっ!」ブンブン

アリス「……うう」

勇「朝から何事、アリス?」ガチャッ

アリス「ひゃっ!?」ビクンッ

アリス「あ、い、勇。おはよう」

勇「おはよ。でも、まぁ」

勇「随分と大きな声出してたわねぇ」クスッ

アリス「――ごめんなさい、起こしちゃった?」

勇「ううん、いいのよ」


勇「……やっぱり」

勇「一緒の部屋、大変?」

アリス「そ、それは、その……」

アリス「――今日は、シノが着替えちゃってて」

勇「ほほう……」


勇「で、アリスはシノの裸見ちゃったわけだ」ニヤニヤ

アリス「い、勇! 直接的すぎるよぉ……」

勇「――あの子の肌、凄い綺麗よねぇ」

アリス「……う」

勇「ホント、ヘタすると私より――」

アリス「……私は、シノを見る度に、女としての自信を無くしそうだよぉ」

勇「あら? アリスだって、十分に女よ?」

アリス「そ、そうかなぁ……」

勇「だって、『可愛い』じゃない」

アリス「……」

アリス「――それ、女らしさ?」ジーッ

勇「さ、そろそろご飯食べないと」

アリス「勇……」


勇「あ、そうそう」

勇「シノの下着も見ちゃったんだろうけど……」

勇「あの子のアレ、『女子用』だからね?」

アリス「……」


103 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/12(土) 02:04:27.55h1keRCWz0 (4/5)

勇「それじゃ、また後でねー」

アリス「……し」

アリス(知ってたよ……)

アリス(だ、だから、こんなに自信を失くしてるわけで……)

アリス(だって、あ、あんなによく似合うものを探すのが難しいのは、なにより「女」である私が――!)


忍「……アリスー?」

アリス「ひゃぁっ!?」ビクンッ

忍「お顔、洗いに行ったのでは?」

アリス「……い、勇に会って」

忍「お姉ちゃん、もう起きてるんですか!」パァァ

忍「それじゃ、朝ごはんです! さ、アリスも行きましょう!」

アリス「う、うん……」

アリス「……」


アリス(胸、どっちを詰めたんだろ?)

アリス(そ、それに、さっきの下着を付けて学校に行く、んだよね?)

アリス(――うう、頭がパンクしそうだよぉ)カァァ

忍「アリス? どうかしましたか?」キョトン

アリス「――シノのせいで」

アリス「身体が妙に熱いよ……」ハァ

忍「もしかして熱ですか!? それは大変です!」

忍「い、今、体温計を……」

アリス「だ、大丈夫だから!」

アリス(というより、シノを見るとどうしてもさっきの姿が思い浮かんで――)


アリス(あぁ、これじゃまるで、私が変態さんみたいじゃない!)アセアセ

忍「……ちょっと、ズレちゃいましたね」

アリス(そ、そういうこともしないでぇ……!)カァァ


104 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/12(土) 02:06:28.81h1keRCWz0 (5/5)

ここまで。

最近、カレンちゃんに色々な意味で振り回されているアリス中心の話でした。
実際、同性同士の共同生活だけでも大変なのに、それがこうもなってしまえば……
アリスの赤面率は増すばかりですね……。

それでは。
アニメが終わっても、こうしてSSを見てくださる皆様に感謝します。


105VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/12(土) 02:26:44.16nZPcvGWdo (1/1)

このSS本当好き


106 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/13(日) 02:40:47.48Woe7yKGf0 (1/9)

 ――梅雨が明けて、少し経つ。

 どんよりとした曇り空が、カラッとした晴天に変わった。
 学生たちにとって、梅雨明けというものは二重の意味で嬉しいものだ。

 一つは、なによりどんよりとした気分が晴れること。
 人によっては校庭で遊んだり、中庭で青春を謳歌することだろう。

 二つは――


「やっほー! ようやくカレンダーに、『赤』が蘇ったぞー!」
「……陽子、そればっかりね」


 と、猪熊陽子が代弁してくれている通りなので、割愛。


「とはいえ、気は抜けないんじゃない?」
「へ? なんのことだ?」

 この世の春とばかりにステップを踏む陽子の一方で、綾の声音は冷静だ。
 コホンと一息つくと、彼女は陽子の目をしっかりと見つめ、


「――期末試験、近づいてきたわよ……」
「私の春を返せぇー!」
「よ、陽子! い、いきなり近づかないで!」


 綾のすぐ近くまで、にじり寄る陽子。後退りしながら、顔を赤らめる綾。
 そんな二人の胸中に、芽生えた想いは一つ。


「「勉強、しなきゃ(しましょう)!」」




――昼休み・教室


忍「勉強会、ですか……」

綾「そう」

陽子「さすがに、ちょっと頑張らないとなー」

アリス「……陽子、成績良くなかったの?」

陽子「――ちゅ、中間のことは無かったことに……」

綾「現実から目を逸しちゃ、ダメよ?」

陽子「ぐっ……あ、綾、シビアなやつめ」



忍「わぁ、楽しそうですねぇ」ニコニコ

綾「――た、楽しそう?」

陽子「あー、シノは私以上に、真剣味が足りませんなぁ」

綾「……寧ろ、私はあの点数でここまでのほほんとしていられるシノが、羨ましくすらあるわ」ハァ

忍「?」キョトン


アリス「シ、シノはやれば出来るよっ!」アセアセ

陽子「え? アリスはシノのそんな姿を知ってるのか?」

アリス「……」

アリス「わ、私の『第六感』がそう言ってるの!」キリッ

綾(何故、スピリチュアルに……)

陽子(要は、「シノのことは私が誰よりも知ってる」と……やれやれ)


107 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/13(日) 02:43:29.06Woe7yKGf0 (2/9)

カレン「アリスッ!」ダキッ

アリス「わっ、カレン!」

カレン「んー、相変わらずちっこいデスねー」

アリス「……カ、カレンは大きくなりすぎ」

カレン「え、それはどーいう意味で、デスか?」

アリス「――い、言いたくないもん」

カレン「height or bust?」

アリス「……No Comment!」カァァ


陽子「いやー、さすが本場の英語は一味違うなぁ……」

綾「聞き取れなかったけど、アリスの表情からなんとなく分かるわね……」

忍「金髪少女の英語……なんて素敵な……!」パァァ

綾「あぁ、シノはどうあっても幸せなのね……」タメイキ


カレン「勉強会、デスか……」

綾「ええ、そうよ」

陽子「そういや、カレンの成績はどうなんだ?」

カレン「私ノ?」

カレン「ウーン……『ソゥソゥ』デスね」

綾「――あぁ、『So So』」

陽子「なんて意味だっけ……」

綾「陽子――あなた、本当に」ハァ

忍「うーん、カレンは『想像』以上に可愛いですねぇ……」

綾(すでにこの子は、一つ突き抜けているわ……!)ビクッ


カレン「私も参加してもいいデスか?」

陽子「勿論!」

綾「Of Course、よ」

アリス「カレンも……」

カレン「? アリス、どうしまシタ?」

アリス「う、ううん、なんでも……」

カレン「シノも来ますよネ?」

アリス「!」ハッ


忍「ええ、勿論です!」

忍「みんなで楽しく勉強しましょう!」

カレン「イエース!」

アリス「……」


108 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/13(日) 02:44:06.40Woe7yKGf0 (3/9)

陽子(なんだかなぁ……)

綾(傍から見てる分だと、どこか切なくなってくるわね……)

綾(でも、まぁ――)

アリス「もう、カレン! あまりシノに触っちゃダメだよ!」

カレン「アリスも触ればいいんデスよー」

忍「えへへー……」ポワポワ

アリス「……」

アリス「――わ、私は、カレンと違って大人だもん!」

カレン「……その、『大きさ』デ?」

アリス「」

アリス「どこが、かな?」ジッ

カレン「ご想像にお任せしマス!」

アリス「……むぅ」プクッ


陽子(触ってる、と言っても)

綾(カレンはシノの髪ばかりで)

綾(……身体と身体のスキンシップでわけじゃ、ないわね)

陽子(この前の雨の日のこと、まだ引きずってそうだなぁ……)


アリス「わ、私だって、いつか大きく……!」

忍「アリスはそのままで、十分すぎるほど可愛いですよー」

アリス「……」

アリス「シ、シノ……!」ダキッ

忍「アリス!」ダキッ


陽子(と、そんな考えも)

綾(この二人を見るだけで、消えちゃうわね……)




――後日・大宮家


綾「結局」

陽子「みんなの意見をつき合わせた結果」

カレン「シノの家になりマシタね……」


綾「ところで」

綾「私たち、もう少し待たないといけないのかしら?」

陽子「そうだなぁ……」

陽子「『色々』と、大変だろうし――」

カレン「何が、色々なんデス?」

綾「そ、それは……」カァァ

陽子「……」プイッ

カレン「??」


109 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/13(日) 02:44:53.28Woe7yKGf0 (4/9)

陽子「――なぁ、カレン」

カレン「ハイ?」

陽子「シノの部屋、あまり物色しないでおいた方がいいぞ?」

カレン「物色、デスか」

カレン「ハイ! 大丈夫デス!」

陽子「――それこそ、妙な『詰め物』とか、妙な『下着』とかが……」

カレン「」

綾「ちょ、ちょっと陽子! 言い過ぎよ!」

陽子「綾……カレンにこそ言っておくべきことだろ?」

綾「……そ、それは、そうだけど」


カレン「――ツメモノ」

カレン「――シタギ」

カレン「……」カァァァ

綾(ほら、言わんこっちゃない)

陽子(カレンは一旦スイッチ点くと、長いからなぁ……)


忍「みなさん、お待たせしましたー」

アリス「さ、どうぞ」

陽子「おう、オツカレさん!」

綾「お邪魔します」

カレン「……アリス?」

アリス「? どうしたの、カレン?」

カレン「――部屋の整理、付き合ってたデス?」

アリス「ちょ、ちょっとだけ、ね」

アリス(ちょっと、「踏み込んだ所」はシノ一人に任せちゃったけど……)

カレン「そう、デスか……」

カレン「……」タメイキ

忍「? カレン、どうかしました?」

カレン「――な、なんでもないデス!」ブンブン

カレン「……」カァァ

忍「??」キョトン

アリス「……カレン」



――大宮家・忍の部屋


陽子「さ、バンバン解こう!」

綾「へぇ、やる気満々なのね」

陽子「……今回のテストで成績落としたら」

陽子「なんだか、嫌な予感がして……」

綾「――まぁ、『追試』は嫌よねぇ」

陽子「ぐ、具体的に言わないでくれぇ……」ヘナヘナ


110 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/13(日) 02:45:48.15Woe7yKGf0 (5/9)

アリス「さ、シノはまず数学だね」

忍「はい」

カレン「いやいや、英語じゃないデス?」

忍「あ、そっちも……」

アリス「カ、カレン! シノは数学の方が悪いんだから、まずは――」

カレン「英語なら、私も教えられるデス。シノの味方になれマス」

忍「あぁ……それは」


アリス「数学!」

カレン「英語デス!」

二人「……」ムーッ

忍「あぁ……見つめ合う二人も可愛いですねぇ……」


陽子「いやぁ、モテるって大変なんだなぁ……」

綾「――」




――たしかに、私は女子からモテるけど――

――モテたって、私にとっては綾だけが!――




綾「なんて、ね」ハァ

陽子「……意味深な溜息つくの、やめようよ」ハァ



忍「……」カキカキ

カレン「シノ。そこは、形容詞だから名詞の前デス」

忍「――あ」

忍「ありがとうございます、カレン」ゴシゴシ

カレン「エヘヘ……」


アリス「――シ、シノ! そこスペルミスだよ!」

忍「あぁ、本当」

忍「ありがとうございます、アリス」

アリス「え、えへへ……」


111 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/13(日) 02:46:13.67Woe7yKGf0 (6/9)

カレン「――アリス、やりますネ」

アリス「カレンこそ」

アリス「――というより、カレンは別の科目、大丈夫なの?」

カレン「私デスか?」

カレン「今日は、シノのお手伝いに専念しマス!」

アリス「……そっか」


カレン「でも、ちょっと疲れたデス」

アリス「え、ええ!?」

カレン「シノ、ベッド借りてもいいデスか?」

忍「はい、どうぞカレン」

カレン「よっこらせ、ット」ポフッ

カレン「……寝心地いいデス」ウットリ

忍「ありがとうございます」


アリス「じゃ、じゃあ、続きやらないとだね!」

忍「そう、ですねぇ……」

忍「――私も、休みたくなっちゃいました、けど」

アリス「シノ! 集中だよ、集中!」

忍「うう……アリス先生は手厳しいですねぇ」


カレン「……」

カレン(気持ちいいデス……)

カレン(こうして転がってると、疲れが吹き飛んでいっちゃいマス)

カレン(――あ)

カレン(これって……)


カレン「シノの、匂い……?」ピクッ


カレン(……)アセアセ

カレン(――何を動揺してるのデスか)

カレン(友達のベッドなんて、誰でも借りマス)

カレン(あぁ、気持ちいいデス……いい匂いデス……)

カレン(――アレ?)


112 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/13(日) 02:46:51.78Woe7yKGf0 (7/9)




カレン(どうして、身体が火照ってるデスか……!?)カァァ



陽子「お、おい? なんかこの部屋、ちょっと暑くないか?」

綾「言われてみれば……」

綾「――なんとなく、原因はわかったような気もするけどね」

陽子「ん……ああ、そういう」

カレン(こ、これはただ休んでるダケ)

カレン(そう、だから、こうして熱くなるのはおかしくて、シノがいい匂いだからッテ、それは変わらなくて……)

陽子「シノー、クーラーの温度下げても大丈夫かー?」

忍「はい! 大丈夫ですよ」

綾「カレン……身体中、真赤ね」




――後日・試験返却日



忍「……あ」

アリス「凄いよ、シノ!」

アリス「英語も数学も、中間よりよくなってる!」

忍「ふふ、アリスたちのおかげです!」

アリス「良かったよぉ……」

忍「アリス!」ダキッ

アリス「シノ!」ダキッ



男子A(今までなら、女子同士のスキンシップだからってことで軽く見てたけど)

男子B(今となっては、なぁ……)

女子A「もう、鼻の下伸ばしちゃって……」

女子B「なんか複雑そうな顔してるよね……」


113 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/13(日) 02:47:17.90Woe7yKGf0 (8/9)

陽子「見ろ、綾!」

綾「あら、結構良くなってるわね……」

陽子「これで――これで、夏は自由だ!」

綾「そうね、これで夏休みが無事にやってくることになるわね」

綾「――カレンは、どうだったのかしら?」

陽子「ん、カレンか……」

陽子「――なんとなく、予想付くような気がするのは私だけかな?」

綾「安心して、陽子。多分、私も同じ――」




――別クラス



カレン「……」ズーン

女子A「あ、ねぇ九条さん」

カレン「……」

女子A「ちょっと見せっこしない?」

カレン「――ン」

カレン「いいデスよ」

女子A「わーい……って」

女子A「ご、ごめんなさい」

カレン「イエ……」


女子A(九条さん……道理で、沈んちゃってるわけだ)

女子A(うう、うかつだったなぁ……バカ、私のバカ!)



カレン「……」

カレン(誰にも、言えマセン)

カレン(それこそ、アリスにダッテ)

カレン(……)


カレン(テストの間ずっと、シノの匂いが忘れられなかった、なんて)

カレン(そんな「匂い」が、やっぱりアリスのものとはチガって、余計に強く記憶に残っちゃった、ナンテ)

カレン(……テストの結果は、どうでもイイデスが)


カレン「……シノ」ボソッ

カレン(忘れられマセン……!)カァァ


114 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/13(日) 02:49:11.67Woe7yKGf0 (9/9)

ここまでになります。

今回はカレンちゃんメイン? でしたでしょうか。
本SSに限り、カレンちゃんの赤面率の高さはメーターを振り切れてると思います。

しかし書いてると、どうもパターンが固定化されてきた感があります。
このままマンネリ一直線にならなようにしないとですね。

それでは。
いつもありがとうございます。



115VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/13(日) 05:09:40.23D2AtKWFVo (1/1)

やっぱいいねこれ


116 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/20(日) 01:59:16.16p7aBFeQ/0 (1/9)

お待たせしました。投下します。
今回は、本編の前座に当たります。



117 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/20(日) 01:59:57.40p7aBFeQ/0 (2/9)



 ――鐘の音が鳴り響く。


 はたと気が付き、早乙女教師は一旦、話を区切った。
 眼前に座る生徒たちの瞳が、鮮やかな光を灯したことをありありと感じ取ったからだ。

 コホンと、一息。
 そして、生徒たちの方へ、自分も満面の笑みを浮かべながら、告げる。


「……皆さん! 夏休みの始まりです!」
「うおおお!」


 その瞬間、教室は確かに揺れた。
 夏休み。この言葉を聞いて、浮足立たない生徒はいない。

「羽目を外しすぎないよう、楽しんで下さいね」

 と言い、一礼の後、早乙女教師は教室を静かに出て行った。


 ――テクテク。

 廊下を歩きながら、可愛い教え子たちの嬉しそうな表情を思い出し、笑みが漏れた。
 と、同時に。

「……私も、昔はあんな感じだったなぁ」

 愛しくもあり、切なくもあり――


118 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/20(日) 02:01:54.61p7aBFeQ/0 (3/9)




――未だざわめく教室



陽子「よっしゃ! 夏休みだ!」ガッツポーズ

綾「ある意味、一番ノリがいいのは早乙女先生だったわね……」

忍「ふふ、烏丸先生は可愛いですから」ニコニコ

アリス「――夏休み、かぁ」


カレン「Hey!」ガラッ

陽子「おっ、カレン!」

綾「なんとまあ、分かりやすいテンションの高さね」

忍「カレンー」ホワホワ

アリス「……あれ? カレン、その手に持ってるのって」

カレン「ハイ!」スッ


陽子「おお……これは」

綾「海、かしら?」

カレン「そうデス!」

カレン「この前、ハワイへ行った時、撮ってきた写真デス」フンス

アリス「うわあ、カレン楽しそう……」

忍「――金髪少女の、水着姿」パァァ

アリス「……むぅ」


アリス(よくよく見てみると)

アリス(カレンのスタイルは、いい)

アリス(ちゃんと胸もあるし、もちろん腰回りだって細い)

アリス(――シノは、「どっち」なんだろう?)チラッ


アリス「ねぇ、シノ? 私が水着を着たら……」

忍「アリスの水着、ですか?」

忍「――すごく、可愛いと思います!」ニコニコ

アリス「そうじゃなくてぇ……」

アリス(でも、何だか恥ずかしい質問だから、置いとこうかな……)


119 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/20(日) 02:04:02.21p7aBFeQ/0 (4/9)

カレン「シノは、大きいのと小さいの、どっちが好きデス?」

アリス(って、カレンー!?)アセアセ

忍「私、ですか……」

忍「――そうですね」

忍「どっちにも、どっちの良さがある、と思います!」ニコニコ

カレン「シノは優しいデス!」ニコニコ

忍(正直な話、金髪少女の水着姿というだけで、胸が高鳴ってしょうがありません……!)ハァハァ


カレン「……」ジーッ

アリス「……カレン、どうして私をそんなに見てるの?」

カレン「これからデース!」グッ

アリス「むぅ……」


陽子「はは、あの3人も相変わらずだなぁ……」

陽子「カレンもかなり慣れてきたみたいだし――って、おい? 綾?」

綾「……」

綾「私、カレンより高いわよね?」

陽子「身長? そりゃ、そうだろ」

綾「……ない、これはないわ」ワナワナ

陽子「あ、綾?」


綾「――はぁ」タメイキ

カレン「どうしたデスか、アヤヤ?」

綾「……」ジーッ

カレン「Oh?」


綾「――はぁ」

カレン「……アァ」ポンッ

カレン「アヤヤ! バストを気にすることありまセン!」グッ

綾「……とは、言ってもねぇ」チラッ

陽子「ん?」ピクッ

綾「――近くでいつも見せつけられてれば、嫌にもなってくるわね」

陽子「わ、私のせいなのか!?」ガーン


120 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/20(日) 02:05:38.26p7aBFeQ/0 (5/9)

カレン「と、いうワケデ」

カレン「今年の夏休みは、海へ行きまセンカ?」

陽子「海、海か……いいなぁ!」

忍「気持よさそうですねぇ……」パァァ


アリス「海……」ズーン

綾「海……」ズーン


カレン「――なにやら、二人は行きたくなさそうデス?」

陽子「ああ、理由は多分……」

忍「二人とも! 気にしなくても、楽しいですよ!」

二人「フォローになってない(よぉ)!」ガバッ



カレン「海がイヤなら……ホット・スプリング!」

アリス「温泉……?」

綾「また、妙な所をついてきたわね……」

陽子「温泉か――夏の温泉もいいかもなぁ」

忍「――温泉、ですか」


カレン「日本の温泉は、かなりイイと聞きマス!」

カレン「そこに行くことは、とても魅力あるデス!」キラキラ

綾「温泉、ねぇ……」

陽子「たしかに『いい』とはいえ、なぁ……」

アリス「温泉、良さそうだけど……二人とも、なんだか煮え切らないね?」

二人「いや、なんて言ったって……」チラッ

アリス「――!」ハッ


121 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/20(日) 02:07:48.84p7aBFeQ/0 (6/9)

忍「皆さんが温泉に行くのなら」

忍「私は、温泉の外でお待ちしてますね」

忍「ご一緒できないのが残念ですが……」


アリス「ご、ごめん、シノー!」ダキッ

忍「ア、アリス?」パチクリ

アリス「気づけなかったよ……」グスッ

アリス「うう、一番近くにいたのに……」

忍「――いいんですよ、アリス」ギュッ

アリス「シノぉ……」ギュッ


陽子「――アリスも、まだ甘いな」

綾「まぁ、シノも楽しそうだし――カレン?」

カレン「……」

カレン「――配慮が足りなかったデス」ズーン

陽子「ま、まぁまぁ、そう気にしないでって」

綾「シノなら大丈夫よ。あの子、昔からああいう優しい子だから」

カレン「――デモ」


カレン(アリスをからかってる時とは、チガウ)

カレン(シノがちょっとでも落ち込んだと思ったら、感じてしまうこのカンカク……)

カレン(――ムゥ)キュッ



忍「それなら!」ポンッ

忍「お泊り会はどうでしょう?」

アリス「お泊り会……?」

陽子「あぁ、休みの定番だな!」

綾「でも、誰の家に……?」


カレン「ウーン……私の家は厳しいかもしれまセン」

陽子「そっか」

カレン「ハイ」

カレン「7月から8月には、パパと仕事の付き合いがある人とのパーティーがありマス」

カレン「その準備も大変だから、私の家は無理みたいデス……」

綾「そ、そう、なの……」

陽子(なんて、お嬢様だ……!)


122 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/20(日) 02:08:59.77p7aBFeQ/0 (7/9)

綾「陽子は?」

陽子「あぁ、うちは――弟や妹がうるさいだろうし」

陽子「ちょっと厳しいかもだな……綾は?」

綾「わ、私は、その……」

綾「へ、部屋の整理が大変だから――」アセアセ

陽子「へぇ、意外だな。綾って、整理好きだと思ってた」

綾「ま、まぁ、ちょっとね……」

綾(家に沢山の人を呼ぶことが恥ずかしい、だなんて言えないわよね……)ハァ



陽子「と、なると」

綾「流れ的に……」

忍「私の家なら大歓迎です!」ニコニコ

アリス「いいの? イサミやママに許可をとらなくて……?」

忍「二人ならすぐに納得してくれます!」

アリス「シノがそう言うなら……」


陽子「それじゃ、シノの家で!」

綾「お泊り会か……なんか新鮮でいいわね」

カレン「……シノの家、デスカ」ボソッ

綾「カレン?」

カレン「い、いや! なんでもないデス!」ビクッ

カレン「楽しみデス」ニコニコ

綾「……」


123 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/20(日) 02:10:04.35p7aBFeQ/0 (8/9)

綾(カレン、大丈夫かしら……?)

陽子(確実に慣れてきたとはいえ、時々シノがからむと、一気に変わるからなぁ……)

綾(まぁ、カレンにとっても大きな一歩になるでしょ……)

陽子(そうだな――大丈夫だよな、うん)コクコク


アリス「……シノの家で、お泊り会」

アリス(シノの家に、人が沢山来る……)

アリス(なんだろう――ちょっと、胸がチクリとするよ)キュッ

アリス(……なんでだろ?)キョトン

忍「? どうしました、アリス?」

アリス「!」ビクッ

アリス「な、なんでもないよぉ!」カァァ

忍「??」


カレン「……」

カレン「楽しみ、デス」ボソッ

カレン「――」キュッ


124 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/20(日) 02:12:22.79p7aBFeQ/0 (9/9)

ここまでになります。

お泊り会という本編の前座でした。

さて、それぞれがそれぞれの想いを抱えて、いざ大宮家へ。
次回の構想はある程度できていますので、早めに投下できるかと。
ただ、予期せぬ仕事がある可能性もありますが……

それでは。
読んでて楽しい、という反応は非常に励みになります。自分も書いてて楽しいので。
ありがとうございます。


125VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/20(日) 02:13:39.87rR1+m8+Co (1/1)


雰囲気好きよー


126VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/20(日) 04:09:55.43djHGA43qo (1/1)

キャラの個性が出てていい感じ


127VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/20(日) 21:12:12.33zT2wNpmuo (1/1)

まともなきんモザSSは非常にレア



128 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/10/24(木) 00:46:59.38e87dEvRw0 (1/1)

ごめんなさい……ミスでした。

☓早乙女→○烏丸

誰だ、早乙女さんとやらは……

投下まで、もうしばらくお待ちください。


129VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/24(木) 11:21:51.946013g+HGo (1/1)

私待つわ


130VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/28(月) 15:11:40.16CJ0CmO9q0 (1/1)

週末更新なかったか…期待してまーつーわ


131 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/01(金) 01:29:20.54g6trURcC0 (1/13)

――シノの家に、泊マル。

 イギリスにいた頃、私とアリスは姉妹のようなものでシタ。
 同じ本を読み、同じ遊びをして、同じベッドで寝ることモ……。

 そうデス、考えてみれば当然デス。
 私たちは、「友達」だったのですカラ。

 だから、今回だって同じことデス。
 ハイスクールで出来た友達の家に、泊マル。
 それだけのコト――

「……なのに、どうシテ」

 私は、こんなにも落ち着かないのデショウ?

 ケータイを開いて確認してみれば、日付は夏休みに入ったばかりということを示してマス。
 そして、明日ハ――


「――モヤモヤしマス」




 ――と。

 そんな一人の英国少女を例外として、他の面々は特に変わりなく明日を楽しみにしていた。

「いやー、シノの家に泊まるの久しぶりだなー!」

 と、ある少女は浮き足立っており、

「……お泊り、か。なんだか、『友達』って感じ」

 と、友達の大切さを噛み締めている少女もいて――


「シノの家で、お泊り会……」

 おっと、この英国少女もまた例外のようで――







 ――当日・大宮家前





 陽子「……なんだか、久しぶりに来たような」

 綾「まあ、4月の頃は、主にシノ関係でゴタゴタがあったしね……」

 カレン「……ゴタゴタ」ハッ

 陽子「ん? どした、カレン?」

 カレン「あ、ああ、いや、ソノ!」アセアセ

 カレン「……No Problem、デス」カァァ

 綾(いや、その頬の赤みは『問題なし』じゃないわ……)



132 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/01(金) 01:31:24.40g6trURcC0 (2/13)

カレン「思エバ」

 カレン「あの時、シノの部屋に正体サレテ」

 カレン「……それ、カラ」

 カレン「……」カァァ

 綾「もう。陽子がおかしなこと言うから、カレンがおかしくなっちゃったじゃない」

 陽子「私のせいじゃないよな!? さっきまでの会話見なおしてみろ!」

 綾「……」



 ――陽子との会話といえば、初めて会った時のことは未だに……――


 綾「陽子が悪い」プイッ

 陽子「どうして、頬を染めるんだろうな……?」



 忍「皆さん、おまたせしました」ガチャッ

 アリス「……」カァァ

 陽子「おおー、お疲れさん!」

 綾(アリスのあの顔――整理、手伝わされたのね)

 カレン「? アリス、顔が『茹でダコ』みたいデス?」

 綾(こっちの英国少女は、日本文化にちゃっかり馴染んできてるし……)


 アリス「……そ、それは、その」

 忍「アリスは、私の部屋の整理をしてくれてたんです」

 忍「あと、洗濯なども――」

 アリス「も、もうその話は止めてぇ……」ブンブン

 忍「どうしてですか、アリス?」

 アリス「……」カァァ



 アリス(言えっこない)

 アリス(洗濯を畳んでいる時に、シノの下着と私の下着を比べて)

 アリス(溜息をついていた所を、ニヤニヤしたイサミに見られたことなんてぇ……!)

 勇「いやー、アリスのもアリスので、味があると思うよ?」

 アリス「そうは言っても、シノのアレはどう考えてもその辺の女子のレベルを超え……て?」

 アリス「」


 忍「あ、お姉ちゃん」

 勇「やっほー、みんな」

 陽子「イサ姉!」

 綾「お、お邪魔します!」

 カレン「……イサミ」


133 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/01(金) 01:32:07.89g6trURcC0 (3/13)

 アリス「……」

 勇「さ、みんな入って入って」

 勇「いやー、この子たちったら昨日から張り切っちゃって」

 勇「シノが服の整理する横で、アリスったらもう――」

 アリス「イ、イサミ!」アセアセ


 陽子(――相変わらず、イサ姉には誰も敵いそうにないな)

 綾(アリス……姉妹二人に弄られてれば、あんなに敏感な反応になるわけね……)


 カレン「……」カァァ

 カレン「アリス? 顔、赤いデスよ?」キョトン

 アリス「あ、カレン……もう、困っちゃうよ」

 アリス「全く、シノもイサミも、まった、く……」

 アリス「――あ」


 カレン「どうしたデス?」

 アリス「う、ううん、なんでもないよ」

 カレン「そうデスか?」

 カレン「とにかく、あまり顔を赤くするのは身体によくないデス! 注意しまショウ!」

 アリス「……カレン」


 アリス「――行っちゃった」

 アリス「……」

 アリス(まさか、気づいてない?)

 アリス(カレンの顔――ううん、あれはきっと暑さのせいだ)

 アリス(そうでないと、あの、カレンが――)


 アリス(あんな、どこまでも女の子らしい表情をするわけが、ないもん)キュッ



 ――忍の部屋


 忍「さ、どうぞ皆さん」

 陽子「うわっ、整った部屋だなぁ……」

 綾「陽子の部屋は――」

 陽子「うー……お、弟とか妹とかがだな」

 綾「なんだ、言い訳ね……」

 陽子「ドライな反応!」


 カレン「ヘェ……」

 カレン「私の部屋もこれくらい整えたいものデス」

 アリス「カレンって、そんなに散らかすタイプだっけ?」

 カレン「――最近は、チョット」

 アリス「?」


134 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/01(金) 01:32:46.89g6trURcC0 (4/13)

忍「でも、ほとんどはアリスのおかげでもあるんですよ」

 忍「顔を赤くしながら掃除をしてくれる金髪少女……」パァァ

 陽子(うーん……やっぱり、安定のシノだな)

 綾(というより、当然のようにアリスが『顔を赤くしたワケ』とかはスルーされるのね……)


 アリス「シノがどうかした?」

 カレン「!」

 カレン「い、いや、なんでもないデス!」

 アリス「そう……?」


 カレン(――どうして、私はこうなのでショウカ?)

 カレン(どうも、昨日からおかしいデス……)

 カレン(シノが気になる、のはたしかとはイエ)

 カレン(だからといって、部屋の掃除を疎かにする、ナンテ……)


 アリス(カレンはこう見えて、意外としっかりする所はしっかりしてる)

 アリス(そんなカレンが、部屋を散らかしちゃう、なんて……?)

 アリス(それに、さっきの視線――あれは、シノに向けられていた、よね?)

 アリス(……どういう、ことなんだろ?)


 陽子「……おい、シノ。非常に言い難いんだけど」

 忍「え? どうかしましたか、陽子ちゃん?」

 陽子「――これ」スッ

 忍「あっ……」


 綾「も、もう、シノ! なんでこういうモノを出したままにしちゃうのっ!」

 忍「ご、ごめんなさい!」

 忍「――ちょっと、最近フィット感が薄くなってきて」

 綾「か、解説しなくていいからっ!」カァァ


 陽子「うーむ……」ジーッ

 陽子(こうして見てみると、シノは本当にバランス考えるんだな……)

 陽子(特に、こう――自分の身体つきと胸のバランス、みたいなものを……)

 綾「って、なに陽子も真面目に見てるのよ!」

 陽子「……いやー、つい興味本位で」

 綾「もうっ……」プイッ


135 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/01(金) 01:33:34.71g6trURcC0 (5/13)

 アリス「――あぁ」

 アリス(何度間近で見ても、やっぱり慣れないよぉ……)

 カレン「……シノ、の、モノ」

 アリス(カレン……)

 カレン「――アリス、顔真赤デース」

 アリス「……カレン」

 カレン「わ、私! ちょっとお手洗い借りたいデス!」」

 忍「はい、どうぞカレン」

 カレン「サンクス!」


 アリス「……」

 アリス(言えそうにない)

 アリス(「それは、今のカレンにだけは言われたくないよ」なんて……)





 ――大宮家・リビング



 それから、しばらく時間が経った。
 その間も、主にシノの「道具」に関わるすったもんだがあったり、それに伴って各人の表情も変化した。

 とりわけ、二人の英国少女。
 彼女らは、その変化に何を感じただろうか――



 アリス「……ふぅ」

 忍「お腹いっぱいですねぇ……」

 陽子「美味しかったな、シノのお母さんの料理」

 綾「……陽子は、あれじゃ足りなかったんじゃない?」クスッ

 陽子「なっ、綾! 私はそんな大食いキャラじゃあ――」

 忍母「あらあら、陽子ちゃんはよく食べる子よ?」

 陽子「」

 陽子「お、おばさん……もう」カァァ

 勇「もう、お母さんったら。陽子ちゃんの赤面はレアなのよ?」

 忍母「あらあら、ごめんなさい」


 綾「……」

 綾(陽子って、あんな風に顔を赤らめるんだ……)

 綾(――ちょっと、得しちゃった)

 陽子「……おい、なんだ綾? その目は?」

 綾「なーんでも?」ニコニコ

 陽子「……」ハァ


136 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/01(金) 01:34:14.31g6trURcC0 (6/13)

 カレン「……I'm Full! 満腹デース」

 アリス「カレン、よく食べてたね」

 カレン「アリスももっと食べないと、色々大きくなれマセンヨ?」

 アリス「……『色々』って?」

 カレン「想像次第、デース!」

 アリス「――昔は、私のほうがお姉さんだったんだよ?」ジトッ

 カレン「それで、今ハ?」

 アリス「……カレンの、いじわる」プイッ

 カレン「アリス、可愛いデス」ナデナデ

 カレン「……」





 ――夕食が終わり

 しばらく、談笑の時間があった。

 テレビを点けて、適当にチャンネルを切り替えていたら
 高校生の女子グループが音楽をやっているアニメに遭遇し、ついつい見入ってしまったり。

 話し合いの結果、シノが一番先に入浴すると決まると、二人の英国少女が揃って顔を赤らめたり。


 そんな、楽しい時間はあっという間に過ぎてゆき――


 
 忍「それじゃ、そろそろ寝ましょうか?」

 陽子「えー、まだ早くないか?」

 綾「陽子はだらしないわね……早寝早起きは生活の基本よ?」

 陽子「うーん……たしかに、『寝る子は育つ』って言うしなぁ」

 綾「……」ジッ


 綾(寝る子は育つ、ね)

 綾(それじゃ夜が遅い陽子の、色々な所のその『成長』は)

 綾(なんなのかしらね……)

 陽子(綾の視線が重い、重いぞ……!)



 カレン「……そう、いえバ」

 カレン「寝る場所は、決めたデス?」

 忍「あっ、そういえば……」

 忍「アリスは、いつも通りで大丈夫でしょうけど……」
 
 陽子「それじゃ、私は一階に布団でも敷いて……」


137 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/01(金) 01:35:26.92g6trURcC0 (7/13)

 綾「――」

 綾「そ、それじゃあ私も、陽子と一緒に……」

 勇「ちょっといい、二人とも?」

 陽子「わっ、イサ姉!?」ビクッ

 綾「ど、どうしました?」ビクッ

 勇「――うちの部屋、空いてるわよ?」

 綾「……!」

 陽子「おー、いいなぁ、イサ姉の部屋!」

 陽子「それじゃ、行こうか!」

 勇「陽子ちゃんははっきりしてて良いわね……」

 綾「……あ、あの」

 綾「その……」モジモジ

 勇「――綾ちゃんも大歓迎よ?」

 綾「――あ」

 綾「ありがとう、ござい、ます……」

 勇「ふふっ」ニコッ


 陽子(あちゃー……綾は相変わらずだなぁ)

 陽子(まぁ、慣れない相手とは会話が成立しなかった頃に比べたら、ずっと進歩してるか……)

 綾「――陽子」キュッ

 陽子「うわっ!?」

 綾「一緒に、行くわよ……?」モジモジ

 陽子「あ、当たり前だろ!」

 陽子(こりゃ、守ってやらないとだなぁ……)


 忍「それじゃあ、私の部屋にはアリスと――」

 カレン「……」モジモジ

 忍「カレンも、どうぞ!」ニコニコ

 カレン「――私、モ」

 カレン「シノの、部屋二……?」

 忍「はいっ! 是非!」

 アリス「カレン、スペースは大丈夫だよ」

 カレン「……」


 カレン(落ち着くデス、私)

 カレン(何もおかしいことはありマセン。ただ、友達の部屋にお泊りするだけデス)

 カレン(アリスだっているじゃないデスカ)

 カレン(――シノ)

 忍「どうかしましたか、カレン?」

 カレン「い、いえ! なんでもない、デス……」

 カレン「……」

 アリス(――カレン)


138 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/01(金) 01:36:03.49g6trURcC0 (8/13)

 

 ――勇の部屋


 勇「よいしょ、っと」

 勇「二人の布団、この辺でいいかしら?」

 陽子「ありがと、イサ姉!」

 勇「ふふ、ありがとう陽子ちゃん」

 綾「……」

 綾「あ、ありがとう、ございます……」

 勇「……」

 勇「それじゃ、綾ちゃんがここで、陽子ちゃんがあっちで」

 陽子「うん、分かった!」

 綾「え……え?」アセアセ

 勇「綾ちゃん、モテモテね? 私と陽子ちゃんに挟まれるなんて」

 綾「は、挟まれるなんて……そんなっ!」

 陽子「おー、綾がハーレム? シノとアリスたちみたいな?」

 綾「よ、陽子もおかしなこと言わないでぇ!」カァァ

 勇「ふふっ……」



 ――忍の部屋


 忍「……それじゃ、カレンはこっちで」

 カレン「ハ、ハイッ!」

 アリス「……」

 アリス「シノ、カレンはここじゃちょっとシノから遠いんじゃないかな?」

 カレン「……!」

 アリス「た、ただでさえ、シノの部屋には、その――いろんな『モノ』があるわけだし」

 忍「それもそうですね……」


 忍「それじゃ、カレンはここで!」

 カレン「――ハ、ハイ……」

 カレン(ここ――シノが近いデス)

 カレン(アア……)

 アリス(――カレン)

 アリス(モヤモヤしてるなら、ちょっとくらいはっきりさせたほうがいいかもね)


139 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/01(金) 01:37:46.94g6trURcC0 (9/13)

 




 それから、時間が経って――



 ――勇の部屋


 陽子「……」スースー

 勇「あら、陽子ちゃん。意外と早く寝ちゃったわね」

 綾「……」

 綾「よ、陽子は、ちょっと疲れてたみたいです」

 綾「あ、朝に、ランニングしてきた、って言ってましたし」

 勇「ふーん……」ニコニコ

 綾「……」



 綾(陽子のバカバカ!)

 綾(い、勇さんと二人きりでどんなことを話せばいいのかわからないじゃない!)

 勇「……綾ちゃん」

 綾「は、はいっ!?」

 勇「髪下ろすと印象変わるのねぇ……可愛いわ、そっちも」

 綾「あ、ありがとう、ございます……」


 勇「――ね?」

 綾「はい……?」

 勇「陽子ちゃんとは、どうなの?」
 
 綾「」


 綾(お、落ち着きなさい小路綾)

 綾(何を言われたの、今? 陽子と私が、どうって……?)カァァ

 綾「わ、私と陽子は、ですね! べ、別に、その――」

 綾「お、おかしなことはなく、いえ、むしろ、普通過ぎるくらいといいますか……うう」

 勇「――いい友達なのねぇ」

 綾「そう、それです!」コクコクッ

 勇「ふふっ……」

 勇(物凄く顔が赤くなってることは言わないでおきましょうか)


 勇「陽子ちゃんはね」

 綾「……?」

 勇「とても、可愛い子よ」

 綾「はい?」

 勇「小さい頃からよく一緒にいてね」

 勇「シノともよく遊んでくれて……」

 綾「……」


140 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/01(金) 01:38:42.15g6trURcC0 (10/13)

 勇「だから」

 勇「――綾ちゃんも、そんな風に思ってくれてたら」

 勇「私も、きっと陽子ちゃんも嬉しいだろうなぁって」

 勇「なんて、ね」

 綾「……」


 綾「あ、当たり前、です」

 綾「よ、陽子は――色々と困ったところもあるけど」

 綾「……いい、友達です」

 勇「ありがとうね、綾ちゃん」


 勇「――さて、それじゃそろそろ寝ましょうか?」

 綾「――あ」

 綾「は、はい」

 綾「お、おやすみ、なさい……」

 勇「はい、おやすみ」


 綾「……」スースー

 勇(――まったく)

 勇(どうして、シノの周りにはこんな可愛い子ばかり集まるのかしらねぇ……)クスクス

 勇(――さてさて、シノの部屋はどうなってることでしょう)



 ――忍の部屋


 忍「……」

 忍「――ん」モゾッ

 カレン「……」

 カレン(眠れマセン……!)アセアセ

 カレン(すぐ近くで、シノが寝息を立てている、それだけナノ二!)

 カレン(うう……)カァァ


 
 アリス「――カレン?」

 カレン「!」

 カレン「ア、アリス……?」

 アリス「大丈夫? さっきからうんうん唸ってるけど?」

 カレン「だ、大丈夫デス!」

 カレン「け、決して、シノの寝息ガ――」

 アリス「シノの……なに?」

 カレン「――あ」

 カレン「な、なんでもありマセン!」

 アリス「……」


141 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/01(金) 01:39:20.69g6trURcC0 (11/13)

 アリス「――カレンは」

 カレン「?」

 アリス「シノのこと、『好き』なんだね」

 カレン「……」

 カレン「――ハイ、そうなのかもしれマセン」

 アリス「そう、だよね……」


 アリス「――シノ、可愛いもんね」

 カレン「ハイ……」

 カレン「正直、高校のどんな女子よりも可愛いデス」

 アリス「同意するよ……同時に、何故か虚しくもなるけど」ハァ

 カレン「ハイ……」ハァ


 アリス「――カレン」

 カレン「……アリス?」

 アリス「私も――」

 アリス「シノが、『好き』だよ」

 カレン「……」

 カレン「分かってマス」


 カレン「――アリスは可愛いカラ」

 カレン「きっと、もっと好かれるデス」

 アリス「カレンだって、すごく可愛いよ」

 アリス「――今だって」

 カレン「……見ないで下サイ」カァァ

 アリス「せっかく可愛いのに……」


142 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/01(金) 01:40:10.07g6trURcC0 (12/13)

 カレン「――アリス」

 アリス「なぁに?」

 カレン「私、日本に来て良かったデス」

 カレン「アリスに会えて、シノとも出会えて……陽子やアヤヤみたいないい子にも会えテ」

 アリス「カレン……」

 カレン「なんだか――」


 カレン「毎日がキラキラ、輝いてるみたいデス……」



 ――そう言うと、満足したようにカレンは寝息を立て始めた。

 私はそのあまりの寝付きの良さに驚きながら、布団に潜り込んだ。
 
 こうして、カレンと話しあえて良かった、と素直にそう思う。


 「――温かい」

 たしかに、カレンがシノに『好き』といったのは、ちょっと動揺した。
 何故かわからないけど、たしかに。

 けれど。

 それを上回るくらいに、嬉しかった。
 カレンは、日本での生活を心から楽しんでることが、恥ずかしそうな声音からひしひしと伝わってきたから――


 「さぁ」


 寝よう。

 そして、また明日も――「おはよう」って言おう。

 何もない毎日が、こんなに楽しくなるなんて、思わなかった、なぁ――










 忍「……」パチッ

 忍「――『好き』?」キョトン

 忍「私は、二人とも好きですよー……」エヘヘ

 忍「……」スースー


143 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/01(金) 01:44:06.98g6trURcC0 (13/13)

>>132
☓正体→○招待でした。

ここまでになります。
とても長くなってしまいましたね……

英国少女二人の会話により、ついに核心に迫ったか……と言いながら、次回からまたいつも通りの日常が始まる予定です。
好き、と「好き」は、何か違うと思うタイプらしいですね(意味不明)

色々と情報を入れ過ぎたので、読みにくかったかもしれません。
楽しんでいただけたら、非常に嬉しいです。

それでは。
もう放送が終わってから1ヶ月ほど経つんですね……。


144sage2013/11/01(金) 02:15:33.29qqA2TQpx0 (1/1)

続きキマシタワーお疲れ様です。
読みながらニヨニヨしてしまう…次回も期待してまーす


145VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/01(金) 07:29:48.43Slgl14SCo (1/1)


待っててよかった…


146VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/01(金) 12:35:21.710rQGtXelO (1/1)

もう1ヶ月なのか...
ともあれ、乙


147VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/01(金) 21:46:48.18h1JyrG2fo (1/1)




148VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/01(金) 22:53:09.72xHAMSD5/o (1/1)

まだかなまだかな


149 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/03(日) 01:34:22.03Q794O+aP0 (1/8)

 ――ここは、どこでしょう?
 
 私は、草原に佇んでいます。
 綺麗な草木が辺り一面を覆うこの場所は――


「……あれ、は」

 目を凝らすと、二つの人影が見えました。
 二人は、私の方へ向かって走っているようです。
 揺らめく二つの金色は、私の目も、心も捉えて離しません。

 
「……!」
「――!」

 二人は、何かを叫んでいるようですが、残念なことにその声は私には届きません。
 とても可愛らしい声なだけに、意味がわからないことがとても残念です。
 それにしても……ああ、なんて綺麗な金髪――


 気がつくと、目の前の光景がちょっとだけ変わっていました。
 私は、草原に寝かされています。
 というより、押し倒されている、という方が正しいでしょうか。

 上にいるのは――なんということでしょう。

「……シノ!」
「――シノ!」

 ここが、天国なのでしょうか。
 私の上にいるのは、なんと先ほどの二人の金髪少女。
 吹き抜ける風が二人の綺麗な髪をはためかせ、幻想的な一瞬を見せつけます。

「……ああ、そうですか」

 つい、独りごちてしまいます。
 私は、この二人が――



「好き、なんですね……」
「――シ、シノ?」


150 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/03(日) 01:35:06.33Q794O+aP0 (2/8)




――大宮家・忍の部屋


忍「……あ」

カレン「ど、どうした、デスカ……?」アセアセ

カレン「顔、真っ赤デス」

忍「――あれ?」キョトン

忍「草木は? 風は……どこに?」

カレン「何、言ってるデス?」

忍「――あ、でも」


ギュッ!


カレン「」

カレン「シ、シノ……い、一体、ナニを?」

忍「えへへー」スリスリ

忍「金色は、ここにありました……」

カレン「シノ、くすぐったいデス……あの、ソノ」

カレン(あ、朝から一体、ナニがどうなってるデスカ!?)アセアセ


カレン「シ、シノ……!」

忍「――あ、そうでした」

忍「着替え、なくてはいけませんね……」

カレン「!?」

忍「……よいしょ、っと」プチッ

カレン(シ、シノ……む、胸元が、見えちゃってマス……!)

カレン(――以前、一度見たことありますが、本当に平らデス――)

カレン(じゃ、なくテ! こ、このままじゃ……このまま、ジャ)ブンブン


アリス「……うーん」

アリス「――ふぅ、今日もいい天気」

アリス「さて、二人、は……」チラッ

アリス「」


カレン「ア、アリス! た、助けるデス!」アセアセ

アリス「……シノが、カレンの、上に、乗って」ブツブツ

カレン「は、早くシテ!」カァァ

アリス「そっか、シノはそういう――」ハッ

アリス「ご、ごめんカレン! シノ、また寝ぼけてるでしょ!」グイッ

忍「……あ」


151 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/03(日) 01:35:37.63Q794O+aP0 (3/8)

忍「えへへ、ごめんなさい」ニコニコ

アリス「――はぁ」

アリス(……って、また胸元はだけてる!?)

アリス「と、とにかく! ちょっと廊下に出て、着替えて!」カァァ

忍「ええー……」

忍「――私、もっと二人と一緒に」キュッ

二人「……え(ハイ)?」

忍「でも、まずは着替えないとですよね」

忍「また、後で……ふふふ」ガチャッ



バタン・・・



カレン「……」

アリス「――カレン?」

カレン「ア、アリス? ちょっと目が怖いデス……」

アリス「シノと、何があったの?」ジーッ


カレン「……朝、起きたら、デスネ」

アリス「うん」

カレン「シノが、私に抱きついてきたデス」

アリス「うん……」

アリス「え?」ピクッ

カレン「何かうわ言のようなことを言いナガラ」

カレン「私に頬を、すり寄せテ……そ、それ、デ」カァァ

アリス「……」

カレン「『金色』がどうとか、草木とか風だとか……アリス?」

アリス「……」


アリス(実は、昨日私がカレンと話して、さぁ寝ようと思った時)

アリス(シノの所から何か聞こえた、気がしたんだ)

アリス(……好き)

アリス(そんな言葉だった、ような気がして……それで)


カレン「あぁ、どうしまショウ……?」

カレン(赤みがとれてくれマセン!)カァァ

アリス「……カレン」

カレン「アリス……」


152 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/03(日) 01:36:10.82Q794O+aP0 (4/8)

カレン「シノは、どうしちゃったデスカ……?」

アリス「――多分、なんだけど」

カレン「ハイ」

アリス「シノは、シノは……」


アリス「私とカレンのことが好きになっちゃったんだと、思うの――」カァァ



――数分後


忍「……」ガチャッ

カレン「あ、シノ。お帰りデス」

アリス「もう、シノってば……反省してる?」

忍「――」


忍「ご、ごめんなさい!」カァァ

カレン「わっ、シノ!?」ビクッ

アリス「……もう、寝ぼけた後はいつもこうなんだから」

アリス(――でも)

アリス(今日は、いつもよりずっと――)


忍「……カレン」

カレン「は、ハイ!」

忍「私のこと――嫌いになっちゃいましたか?」ウルウル

カレン「……ハイ?」


アリス(破壊力が、ありすぎだよっ!)カァァ


忍「私――昨日、気づいちゃったんです」

カレン「そ、それは、どういう……?」

アリス「――シノ」

忍「……」


忍「二人のことが、好き、だってことに」


カレン「……」

アリス「……」


153 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/03(日) 01:36:36.58Q794O+aP0 (5/8)

カレン「――シノ」

忍「は、はい!」

カレン「――私たちも」

アリス「シノのこと、『好き』だよ……」

忍「……」

忍「二人ともっ!」ダキッ

二人「わっ!?」


忍「えへへ……金髪少女、温かいです」スリスリ

カレン「い、いきなり抱きつかれたら……こ、困りマス……」

アリス「――シノも温かいよ」

忍「アリス、ありがとうございます……」

忍「えへへ……」

二人「……」



アリス(うーん……)

アリス(シノの好き、と、私たちの『好き』)

アリス(きっと、同じようで、ちょっと違う――いや、好きだってことに変わりはないし)グルグル


忍「アリスー……」

アリス「きゃっ!」


アリス(シノにこうやって抱きつかれると、凄く気持ちいいし……)


カレン(シノ……いきなり、どうしたデス?)

カレン(いつもこうしてスキンシップとることはありますが――今日はちょっと、情熱的というカ)

カレン(一体、どうしテ?)


忍「カレンの髪、サラサラですねぇ……」

カレン「シ、シノ! そ、そこ、くすぐったいデス……」ピクッ


カレン(デモ)

カレン(――今は、このままでも)ギュッ


154 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/03(日) 01:37:29.27Q794O+aP0 (6/8)

カレン「――シノ」

忍「は、はい!」

カレン「――私たちも」

アリス「シノのこと、『好き』だよ……」

忍「……」

忍「二人ともっ!」ダキッ

二人「わっ!?」


忍「えへへ……金髪少女、温かいです」スリスリ

カレン「い、いきなり抱きつかれたら……こ、困りマス……」

アリス「――シノも温かいよ」

忍「アリス、ありがとうございます……」

忍「えへへ……」

二人「……」



アリス(うーん……)

アリス(シノの好き、と、私たちの『好き』)

アリス(きっと、同じようで、ちょっと違う――いや、好きだってことに変わりはないし)グルグル


忍「アリスー……」

アリス「きゃっ!」


アリス(シノにこうやって抱きつかれると、凄く気持ちいいし……)


カレン(シノ……いきなり、どうしたデス?)

カレン(いつもこうしてスキンシップとることはありますが――今日はちょっと、情熱的というカ)

カレン(一体、どうしテ?)


忍「カレンの髪、サラサラですねぇ……」

カレン「シ、シノ! そ、そこ、くすぐったいデス……」ピクッ


カレン(デモ)

カレン(――今は、このままでも)ギュッ


155 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/03(日) 01:38:13.40Q794O+aP0 (7/8)

>>153>>154 
連投してしまいました。






――大宮家・廊下


>シノモアリスモ、ダイスキデス!

>チョッ、シノ! ソコハ・・・

>モウ、カレンバッカリ! シノ、コッチモ・・・



勇「……」

勇「――まったく、もう」タメイキ

勇(なんというか……来るべき時が来た、というか)

勇(……シノは、ねぇ)


勇「好きと『好き』……つまり」

勇(それが恋愛感情なのか、純粋な好きという感覚なのか――それが、分かってないのよね……)


156 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/03(日) 01:40:33.86Q794O+aP0 (8/8)

ここまでになります。

次回からいつも通りになると書きましたが、実際には普段通りの日常が少し変わってしまいましたね……
当初の予定から、かなり外れてしまいましたが、書いてみたくなったもので。
果たして、受け入れられるのやら……

今後、こうして恋愛色強めになる、ということはないですが
シノの二人に対する想いははっきりさせておきたかったので、今回はこうした話になりました。
楽しんでいただけれたら、幸いです。

それでは。
のんのんびよりが、今期の癒やし枠ですね……。


157VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/03(日) 07:45:31.09XRnBeU7lo (1/1)




158VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/03(日) 08:40:17.104RYbCtbro (1/1)

お主も難民の一人か•••乙


159 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/07(木) 02:37:10.093TNGlILN0 (1/6)

――大宮勇が自分の部屋から出て目にした光景は、半ば予想していたとはいえ、なかなかにショッキングなものだった。


忍「……お二人とも」

忍「ずっと、一緒にいましょうね……」ギュッ

アリス「も、勿論だよ、シノ!」コクコクッ

カレン「……シノが、こんな近く二」アセアセ


勇(……さて)

勇(とても微笑ましい光景ではあるけど――考えていかないといけないわね)


勇(今後、シノがどうやって過ごしていくか……ほんの少しでも)



と、実姉がいもう……『弟』のためを思って考えていた頃。



――勇の部屋


陽子「……」スースー

綾「――ん」

綾「朝……あれ、勇さんは?」

綾「ま、いっか――」フニッ

綾「……なに、今のは」


陽子「――んん」ピクン


綾「」

綾「……」フニフニ

陽子「ん――ぁ」ピクピク

綾「――!」ハッ


綾(落ち着きなさい、小路綾)

綾(状況を冷静に確認するのよ……さて、私の布団に陽子が寝ている理由は――)

綾(――冷静に考えられるわけ、ないじゃない!)カァァ


綾(ってことは、さっきの感触は――!)

綾(……凄く、柔らかかったわね)シミジミ

綾(じゃ、なくて! ああ、もうっ……)ブンブン


160 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/07(木) 02:37:47.083TNGlILN0 (2/6)

陽子「……ん、綾?」

綾「ひゃぁっ!?」ビクッ

陽子「な、なんだよ――朝から」

綾「あ、朝から、積極的なのはどっちよ!?」アセアセ

陽子「……あ」

陽子「悪い、寝ぼけて綾の布団に入り込んじゃってたんだな」

綾「も、もうっ……!」プイッ


陽子「ところで」

綾「な、なに?」

陽子「積極的って、どういう意味で?」

綾「……」

綾「――知らないわよ! 陽子のバカ!」カァァ

陽子「え、ええ……?」


綾(――良かった)

綾(いや、私の今の体温からすれば、一概に良いとも言えないけど)

綾(……どうやら、気付かれていないみたいね)


陽子「あ、そういえばさ、綾?」

綾「なに、陽子?」

陽子「――何か、朝から違和感があって」

綾「……どこに?」

陽子「いや――何だか、胸の辺りg」

綾「き、気のせいよ! そうに決まってるわ!」ズイッ

陽子「そ、そっかぁ……?」

陽子「いや――やっぱり、下着付けて寝るべきだったかなぁ、と」

綾「……」


綾(そうね、そうよね)

綾(大きい人って、そうする傾向あるものね)

綾(良かった、陽子は私がしたことに――)ペタペタ

綾(……おかしい、なんで悲しくなってくるんだろう?)ウルッ


陽子「ところで、綾?」

綾「なに?」

陽子「――イサ姉、どこ行ったんだろう?」

綾「……さっき、考えてたわ」

綾(陽子のせいで、完全に吹き飛んでしまっていたけど)


161 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/07(木) 02:38:21.593TNGlILN0 (3/6)



――廊下


陽子「とりあえず、廊下に出れば」

綾「何かは見つかるでしょうね――って、陽子! ズボン!」

陽子「なんだよ、ズボンって……あっ」

陽子「……」ゴソゴソ

陽子「――サンキュ」カァァ

綾(あぁ、もう! どうしてそこで顔を赤らめるのよ!)

綾(別に、「ズボンから下着がちょっとだけはみ出て、柄まで見えそうになってた」なんて言ってないのに!)カァァ

陽子(……気をつけないと、なぁ)タメイキ



――忍の部屋前


陽子「なんだかんだで、シノの部屋」

綾「――シノ?」コンコン

勇「はーい?」

綾「……シノ、随分と大人びた声になったわね?」

陽子「綾――ボケなのか? ボケなんだよな?」アキレ


勇「はい、どうぞ。二人とも」

綾「あ、ありがとうございま……す……」

陽子「――綾? どうした……ん……だ」



忍「――んー」

忍「お二人とも、いい匂いです」スーッ

アリス「だ、だから――シノ、恥ずかしいし」

カレン「くすぐったいデス……」カァァ


忍「もう」

忍「――三人で、お風呂入れたら、ですね」

アリス「な、何言ってるの!?」ハッ

カレン「そ、それは無理デス! impossible!」ブンブン

忍「……はぁ」

忍「こういう時だけ、『身体』がちょっとだけ憎らしいです……」キュッ

アリス(シノ――なんて表情を)

カレン(……起きてから、体温がおかしいデス!)カァァ


162 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/07(木) 02:38:58.583TNGlILN0 (4/6)

忍「……ええと?」

陽子「イサ姉――あれは?」

勇「それが、ねぇ」

勇「私が入ってきたことにも気付かないで、さっきからずーっとああしてるのよ」

陽子「おお……もう」


綾「――で、でも、それって」

勇「なぁに、綾ちゃん?」

綾「シ、シノが、その」

綾「……二人のことを、『好き』になってしまった、とか?」

勇「――多分、ね」


陽子「シノ……」

陽子(いつかこうなる時が来るとは思っていた……!)

陽子(幸い、色恋沙汰でシノがおかしなことに巻き込まれたりはしなかったけど――まさか)


忍「うーん……二人とも、微妙に髪質が違うんですねぇ……」ナデナデ

アリス「だ、だから、くすぐったいよぉ……」カァァ

カレン「――シ、シノ、そこ、はァ」ピクッ


陽子(――英国少女が、その鍵を握っていたとは、なぁ)



――その後。

状況が落ち着いた辺りで、シノのお母さんの振る舞った手料理をご馳走になり、お泊り会は解散の運びとなった。

私と陽子の間で色々なことが――じゃなくて!
シノとアリスとカレンという三人少女の関係が、大きく発展を遂げた、そんなお泊り会だった。

……その発展が、おかしな事態を招かなければいいのだけど。


163 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/07(木) 02:39:39.453TNGlILN0 (5/6)

忍「……えへへ」ニコニコ

アリス「シノ、凄く嬉しそうだね……」

忍「だって!」

忍「私がいて、アリスがいて、カレンがいて――」

忍「……考えるだけで、ドキドキしてしまうんです!」エヘヘ

アリス「そ、そっか。良かったね」

アリス(嬉しがってるシノを見るのは、凄く嬉しい……んだけど)


忍「アリスはいつも会えますから、それはとても歓迎すべきことなのですが」

忍「カレンも、いつでも会えたらいいですねぇ……」シミジミ


アリス(――ちょっとだけ、複雑だよ、シノ)キュッ



――帰り道



カレン「……」トコトコ

カレン「――I miss you」ボソッ

カレン「また、すぐに会えますよネ……シノ?」


164 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/07(木) 02:41:08.143TNGlILN0 (6/6)

お泊り会編、これにておしまい。

シノが何かと暴走してばかりいたように思いますが……結局、シノとアリスとカレンの三人はどうなっていくのでしょうか?
自分も今後、どう書いていけばいいのか、迷うばかりです。

それでは。


165VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/07(木) 07:46:53.73X0nIzb8Po (1/1)




166VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/07(木) 16:31:46.19aUNh/W8yo (1/1)

おもしろいなあ


167 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/11(月) 01:52:35.90S2zVCSa60 (1/7)

投下します。

今回、全体が地の文なので、読みにくいかもしれません。ご容赦下さい。


168 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/11(月) 01:53:44.85S2zVCSa60 (2/7)

 大宮家での「お泊り会」が終わり、五人の少女はそれぞれの生活に戻っていった。

 帰途につく中で、小路綾は猪熊陽子に顔を赤らめることが多かった。
 恐らく、その日の朝の一件が尾を引いていたのだろう。
 そんな綾に、陽子は呆れながらも優しく接していたのはいつもの通り。

 九条カレンは、どこか足運びが覚束なかった。
 途中でピタッと止まったかと思うと、次の瞬間にはテクテクと歩き出し、また止まる。
 そして、止まるとすぐにカァッと顔を赤らめる。その繰り返し。
 彼女にとっても、大宮忍の部屋での出来事が影響していることは疑いない。

 そして――


「……シノは、ずるいよ」
「アリス? どうしたんですか?」


 客人が帰り、大宮家にもまた、いつもの風景が見られるようになった。
 忍は、居候の少女の言葉を聞き、キョトンとした表情を浮かべてみせる。
 見れば、アリスは忍のベッドで枕を抱え、そこに顔の一部をうずめていた。
 「なんて可愛らしい」と、忍は心の中で思う。

「だって……だって」


 アリスは、何かを言おうと身体を振ってみせるが、何も言葉が見つからない。
 何かを訴えたい。けれど、その「何か」を、どう言葉に乗せるか。


169 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/11(月) 01:55:06.25S2zVCSa60 (3/7)

「――いきなり、あんな」


 大胆なこと、と言い終わる前に、近くに体温を感じた。


「落ち着いて下さい、アリス」
「……シノのせいで、全く落ち着けないよ」


 今朝方と同じように抱きしめられ、アリスは顔を赤らめながら訴えた。
 そんな彼女を、忍は愛おしそうに撫でた。


「私、アリスと会えて、本当に良かったです」
「わ、私も、だけど……」


 アリスはふと、今朝の風景を思い返してしまった。
 あの時の、大宮勇の言葉。


 ――少し、考えないといけないわね――


 こう呟いた勇は、どこか困ったように、それでいてとても愛しそうだった。


「――シノは」
「はい?」
「シノは……本当に」


 アリスはそこで、ギュッと抱きしめ返しながら、


「女の子じゃ、ないんだよね……?」


 おかしなことを言ってしまった、と思う。
 今まで、何度も見てきたではないか。
 平坦な胸、そこへの詰め物、そしてそして――

 数え上げればキリがないそんな確かな根拠を
 しかしアリスはどこかで認めるのを拒んでしまっていたように思う。

 だって――
 今、自分を撫で回す手のひらは、こんなに綺麗で、男性特有の無骨さなど全くない。
 その端正さは、女性の自分から見ても嫉妬しまうほどに完成されている。

 それに、髪だってそうだ。
 忍はよく、自分の髪を撫でては称賛する。
 けれど、忍自身の髪も、女性が自信を無くしてしまうくらい整っていることも、アリスはよく知っていた。


 アリスは――おそらく、カレンも――恐れていた。

 大宮忍は、男性である。
 
 この確かな事実を認めることを、自分はどこかで拒んでいる。


170 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/11(月) 01:56:07.94S2zVCSa60 (4/7)

「――アリスは、おかしな事を言いますね」


 忍は、アリスの発言を意に介した風もなく、一旦アリスから腕を離した。
 そして、アリスの前に周りこんで、座り込む。


「そうですよ、確かに私は――」


 そこで、一旦区切り、


「『ボク』は、男です」


 それはいつか、アリスの故郷で言った一人称。
 あの時、忍はハッとして口を塞いでしまった。
 けれど、今はもう――


「……そうですね、たしかにアリスと会う時までは」


 忍は、どこか懐かしそうに、言葉を紡いでいく。
 その仕草もまた、どこまでも女性らしい。


「こうして、自分のことで悩むことだって――あったかも、しれません」


 似合いませんよね、と忍はアリスに微笑んでみせた。


「その度に、陽子ちゃんや綾ちゃんに心配してもらって」


 楽しそうに言葉を続ける忍の表情からは、いつかの憂いなど窺えなかった。


「――アリスと、こうしてまた会えて」


 再び、忍は静かにアリスを抱き寄せる。


「それだけで、なんて嬉しいか……」
「……もう、シノってば」


 アリスは、顔を赤らめながら、笑った。
 何だか、迷っている自分が恥ずかしくなってしまう。


 ここにいる忍は、たしかに――



 ――ハロー!――

 ――コニーチハー!――


 心を触れ合わせた、大切な相手なのだから。

 性別がどちらであろうと、それはたしかに――



「シノは、シノだもんね」


 それだけで、十分ではないか――


171 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/11(月) 01:58:12.28S2zVCSa60 (5/7)

「――もう、二人ともお熱いんだから」

 廊下にて、私――大宮勇は呟く。
 扉を開けると、シノとアリスが抱き合っていた。
 まるで、世界に二人だけしかいないような、おとぎ話のごとき空間。
 声をかけようとしたけれど、つい扉を閉めてしまうほどには、触れてはいけないオーラが漂っていた。


「はぁ……これからのことで、ちょっと話したかったんだけどなぁ」


 私は、溜息をつく。
 シノが、アリスやカレンちゃんとの親交を重ねることに、私は全く異存はない。
 というよりも、いも――『きょうだい』の幸せを祈ることは、当然だし。


「けれど――」


 どう、伝えるべきなのだろう?
 それとも、私が心配しすぎなのだろうか。

 社会的に見たら、男性が女性二人と過度なスキンシップを重ねているようだし。
 いや、シノのことがより明るみに出ると……

 こんな、あの子たちの幸せな関係に、障害が現れたら――


「……なんて、杞憂に終わるだろうけれど」


 こんな、愚にもつかない思考をグルグルとさせて、良いことなんてないだろう。
「悩みの9割は、現実には起きない」と、偉い人も言ってたような気がするし。



「――ま、いっか」


 いずれ、軽いノリで持ちかけてみよう。
 こんなに改まって、話しても、


「なんといっても、楽しくない」


 それが、何よりも大切だろうし――


172 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/11(月) 01:59:04.70S2zVCSa60 (6/7)


 ――その夜。


「ハァ……」


 リビングで、私は溜息をついてしまいマシタ。
 ケータイの画面を見ながら、私は今日のことを思い返しては、熱くなりマス。


「――風邪、じゃないノニ」


 夏風邪はタチが悪いと聞きますが、それ以上に今の私はおかしい、ようナ……


「カレン、どうしたんだい?」
「あ……パパ」


 そんなことをしていると、後ろからパパに声をかけられマシタ。
 私はチラッとケータイを見て、


「――私、なんだかおかしい気がシテ」
「どうしたんだろう……もしかして、その携帯電話に、なにか?」


 さすが、パパ。私のちょっとした挙動に、敏感に反応しマシタ。


「少し、見せてもらっても、いいかな?」
「ハイ――」


 私は、ケータイをパパに渡しマス。
 さっきから見ていた画像は、そのままにシテ――


「……これは、集合写真かな?」


 その通りデス。
 シノのお家で撮った、みんな揃っての集合写真。
 私やアリス、アヤヤといった面々は顔を赤らめているのが見て取れマス。


「ほほう、仲良いことは良きこと、か、な――?」


 パパは、画面を食い入るように見つめマシタ。
 何かに、気付いたのでショウカ……?」


「――失礼かもしれないんだが、カレン?」


 パパは、目をパチパチとさせナガラ――


「……この子は、もしかして」


 気づいて、しまったようデス。
 いや――もしかしたら、どこかで私はそれを望んでいたのかもしれマセン。


「まさか――」


 ああ、パパが……

 言って、しまいそうデス――
 

「シノ――」


 私は、今ここにはいない「友人」の顔を思い出し、胸がキュッとなってしまったのデシタ。


173 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/11(月) 02:01:14.86S2zVCSa60 (7/7)

ここまでです。

たしか、カレンは自分のマンションを所有してそこに住んでいたような気がしますが、このSSでは同居している設定と
思って下さい。それとも勘違いだったかな……。

前回で「お泊り会」が事実上終わりましたが、今回はそのまとめとも言える回だったと思います。
心情描写に文章を割きたかったのは、そのためです。

さて、九条家に何やら動きがありそうですが……それはまた、次回以降に。


それでは。
読んでくださる人に、感謝です。


174VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/11(月) 02:07:06.47ll8ld6kN0 (1/1)

うおお…いいところで止まった…!
更新乙ですーカレン可愛すぎてもう…続きも楽しみデス…


175VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/11(月) 02:36:27.93RCa4D7zko (1/1)

家族でマンションに住んでるんじゃないの?



176VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/12(火) 13:54:07.66xGZ9c/j3o (1/1)

まあ、カレンが独り暮らしとか考えられないし


177 ◆OtZIp/YaIxCt2013/11/14(木) 01:44:51.92t9zNEIK+0 (1/5)

投下します。ただ、今回もまた地の文で、かなり幕間的な要素が強いので、楽しんで頂けるかどうか――





 ――聞いたことが、ある。


 私は、「あの時」のことを思い返していた。
 あの日……カータレット氏はえらくご機嫌で、私はそんな彼女に尋ねた。


「どうしたんだい、えらく機嫌がいいけれど」
「えぇ、実はね……」


 聞けば、今日は日本からホームステイに来る子がいるそうな。
 なるほど、そういうイベントがあれば心も躍るわけだ。
 

「へぇ、それはいいねぇ」
「でしょう? けれど――」


 どうやら、娘――アリスちゃんは乗り気じゃないとか。
 私は頭のなかで、まだ小さな彼女の姿を思い浮かべた。
 ……たしかに、飼い犬に寄り添い、縮こまっている姿が絵になりそうだ。


「まあ、アリスちゃんも変わると思うよ?」
「まぁ、どうして」
「だって――カータレットさんが呼ぶ人が、悪い人なわけがないからね」
「もう……」


 少し照れた彼女を見て私は、よりその考えを強めたものだ。




 ――数日後



「やぁ、カータレットさん」
「……あ、こんにちは


 暇が出来たので、カータレット家を訪れた私に
 いつものようにカータレット夫人が挨拶をしてくれた。
 しかし、どこか様子がおかしい……ような。


「何かあった?」
「ええ――まぁ、ね」


 彼女は意味深な言葉を紡ぎ、ぼんやりと外を見つめた。


「そういえば、ホームステイに来た子は?」
「今は、アリスと街に出てるわ。帰りは遅くなりそうね……」


 遠い目をしたままの彼女を見て、一つの考えが浮かんだ。
 ――あまり、想像したくはないものではあったけれど。


「もしかして……ホームステイに来た子が、問題を?」
「――そういう、わけじゃ」


 そう言って、スッと目を伏せる彼女を見て、私は何かを感じ取った。
 ホームステイに来た子は、いわゆる問題児的な子じゃない。
 だと、したら……


178 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/14(木) 01:46:22.45t9zNEIK+0 (2/5)

トリップをちょっとまちがえてました。






「その子が、なにか」
「――そうね」

 すると、カータレット夫人は立ち上がり、やおら引き出しを開けたかと思うと
 何かを取り出し、テーブルに戻ってきた。
 見るに、写真だと推察する。

「九条さんなら、いいわ」
「……そう、言ってもらえるなら」

 見れば――予想通りと言うべきか――そこには、アリスともう一人が写っていた。
 顔立ちから見て、東洋人だろう。
 自らも日本人である私は、写真の中の人物を日本人と推測した。

「ほぉ、可愛い子だね……少し経てば、正統派の大和撫子にでもなりそうだ」
「ナデシコ……? どういう意味なのかはよくわからないけれど」

 コホンと一息つき、カータレット夫人は写真の中の日本人少女を指さす。

「貴方は、この子をどう思う?」
「さっき言った通り、大和撫子……つまり、日本的美人になりそうだ、と」
「――そう、そうよね」

 そう、彼女は意味深な表情を浮かべてみせた。
 どういうことなのか、私にはなおも分からない。

「……見ちゃった、の」
「見ちゃった? 一体何を?」

 単刀直入な私の質問に、カータレット夫人は一度目を瞑り
 覚悟をしたかのように見開いて、言った。


「間違いで、その子と脱衣所で遭遇しちゃって」
「うん」
「――その」


「胸がね、全く平坦で……」




 ――九条さんは、帰っていった。
 とても複雑そうな難しい表情を浮かべながら。
 無理もない、と思う。
 私にとっても、また……


179 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/14(木) 01:47:46.69t9zNEIK+0 (3/5)

「――ママ?」


 ハッとする。
 見れば、そこにはアリスとシノがいた。
 二人ともキョトンとした表情で、私を見ている。


「おかえりなさい、二人とも」


 笑顔を浮かべて、私は二人を頭を撫でる。
 そうされながら、笑顔を見せる二人は――


「……さ、もうそろそろ夕食ね」


 とても、愛しい。
 それは、本当だ。
 アリスは言うに及ばず――もちろん。


「シノ。イギリスの街は、どうだった?」
「はい! 凄く楽しかったです」


 皆さん優しくて、後、アリスが色々と案内してくれて……あと、後は――!

 一生懸命に、とても楽しそうに話すシノ。
 その姿を見て、「愛しい」という感情を持たないわけがない。
 ……ただ。


「そう、それは良かったわね」


 シノ。
 日本から来た、可愛いホームステイのお客さん。
 娘のアリスと仲良く、とても楽しそうにしてくれて――


「いっぱい、イギリスを味わってね」


 そんな、シノは……


「はい! ぜひとも!」


 ……「どっち」なんて。

 些細なことのように思える、けれど――


(とりあえず、アリスには言わないでおきましょう……)


180 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/14(木) 01:48:44.83t9zNEIK+0 (4/5)

(とりあえず、カレンには教えないでおこう……)


 車を走らせながら、私は決めた。
 カレンはホームステイ先の子と会ったことはないはずだ。
 今は――「こういうこと」は言わないでおいたほうが良いだろう、と感じたのだ。


(――アリスちゃん)


 写真のアリスちゃんは、どこか照れたような表情を浮かべていて――
 その対象が果たして、「同姓」か「異性」かで、意味合いも変わってくる、だろう。


(いつか――)


 向き合う時が来るのかもしれない、と私は予感した。






 ――それから、少し経って。


「お、おじさん!」

 我が家に、アリスちゃんがやって来た。
 真剣な表情で、私に近寄ってきたと思うと――


「私に、日本語を教えて下さい!」


 これが、一つの転機。
 この時私は、「予感」が「確信」に変わったことを、実感した――


181 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/14(木) 01:50:44.14t9zNEIK+0 (5/5)

一旦、ここまでにします。
前述したように「幕間」という感じの話なので、楽しんで頂けたかどうか……

ここで書きたかったのは、アリスのお母さんは決してシノのことを色眼鏡で見たりはしなかった、ということ。
そして、カレンのお父さんは、前々からこうなることを予感していたということ。
以上、2点でした。

こんなお話だったので、次回は早めに投下する予定です。
それでは。


182VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/16(土) 08:39:12.48wAesu+B0o (1/1)

乙です


183 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/17(日) 01:40:45.435cAWbn0F0 (1/15)




――その日



忍「あれ……?」キョトン

アリス「どうしたの、シノ?」

忍「ああ、アリス――今日も可愛いですねぇ」ダキッ

アリス「も、もう、シノ!」

アリス「だ、抱きつくのは後にして、質問に応えて!」アセアセ

忍「うう……最近、アリスがつれません」

アリス「……」


アリス(そう何度も抱きつかれて)

アリス(甘い声出されながら頭を撫でられるのなんて――)

アリス(……中毒になっちゃったら、困るじゃない)カァァ

忍(まぁ、このアリスの恥ずかしそうな表情だけで大満足ですけどねぇ……)エヘヘ


忍「ええ、実は……」スッ

アリス「――メール?」

忍「はい」

忍「えと……アリスの所にも来てないですか?」

アリス「私――あっ」ポチポチ

アリス「来てる、一通」

忍「そうですか……それで、送り主は?」

アリス「――カレン」

忍「私も、です」


アリス「でも、どうして突然?」

忍「さぁ――それはよく、分かりませんが」

忍「中身を見る限り、何かの遊びのお誘いみたいですね」

アリス「あ、ホントだ――なになに」



『山、行きマショウ! 海がダメなら、山デス!』



アリス「……山、行きたいんだね、カレン」

忍「まぁ――海となると、色々と残念ですからね」

アリス「……」

アリス(そっか、シノは――)

アリス(そ、それに正直――私も、多分、アヤも)ペタペタ

忍「……どうしたんです、アリス? ちょっと悲しそうです」

アリス「――シノは、気にしなくていいんだもんね」ズーン


184 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/17(日) 01:41:43.705cAWbn0F0 (2/15)

忍「――あぁ」

忍「私は、アリスのような小さいのも好きですよ?」

アリス「……!?」カァァ

アリス「シ、シノは直接的すぎっ!」

忍「うーん……本音なんですけどねぇ」

アリス(も、もう……!)プイッ




――同時刻



陽子「あ、メールだ」

綾「私にも」

陽子「……カレンから?」

綾「――ええと」

綾「『山へいきましょう』ってことで、いいのかしら?」

陽子「そう、なるな」


陽子「そういえば、夏休みに入る前」

陽子「『海はヤダ!』って声が、かなり大きかったよな?」ジッ

綾「……陽子、その視線はなに?」ジトッ

陽子「気にするもんでもないのに、なぁ」

綾「――陽子には、わからないわよ」プイッ

陽子「そっかぁ?」

陽子「私は、綾の胸、可愛いと思うけどなぁ……」

綾「な、なな……!」カァァ

綾「よ、陽子のエッチ! 変態!」プイッ

陽子「うわぁ――ムキになっちゃったよ」

綾(バカ、バカ……!)




――同時刻




カレン「……それじゃ」

カレン「パパ、お願いしマス」

カレン父「うん、分かった」

カレン父「山までの足は、任せてくれ」

カレン「心強いデス……」


185 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/17(日) 01:42:23.825cAWbn0F0 (3/15)

カレン父「それで、カレン?」

カレン「ハ、ハイ?」

カレン父「――『あの子』も、来るんだよね?」

カレン「……Of Course」

カレン父「うん、分かった」


カレン「あ、あの……パパ?」

カレン父「なに、心配することじゃないって」

カレン父「……」

カレン父(ただ、カレンが「その子」に対して)

カレン父(何か、特別な感情をもってそうなことは否めない……)

カレン父(――親として、私はどう思ってるんだろう?)




そんなこんなで日は流れ。
各人の予定のすり合わせが行われた結果――


「その日」は、意外と早く訪れることとなった。




――待ち合わせ場所



忍「おまたせしましたー!」

アリス「お、おまたせー!」

陽子「よっ、二人とも!」

綾「もう、ちょっと遅れ、て――」

綾「……シノ、あなたそのカッコは」

陽子「――うひゃぁ」

忍「そ、そんなに見られると照れちゃいます」テレテレ

アリス「シノ……二人は、そういう目で見てるんじゃないと思うよ?」


陽子「なぁ、綾? 今って夏だよな」

綾「それは、夏よ。ただ――」

陽子「……目の前にいるシノは、どこの季節に?」

綾「それ以前に、ここは日本よね……?」


忍「うう……陽子ちゃんと綾ちゃんがいじめますー」グスッ

アリス「だ、大丈夫だよシノ! 私はシノの味方だからね!」

忍「……アリス」

忍「アリスは、似合ってると思いますか?」


186 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/17(日) 01:43:11.885cAWbn0F0 (4/15)

アリス「……」

アリス「に、似合ってるに決まってるよぉ」

忍(ちょっと目を逸らしましたね……)ハァ


綾「そういえば、今日の主催者は……」

陽子「カレンか。そういえば、ちょっとおそ――」

陽子「……」

綾「どうしたの?」

陽子「いや、あれ――」

綾「……あっ!」


カレン「みなサーン!」

アリス「カ、カレン!?」ビクッ

忍「す、凄く大きな車ですね……」

カレン「パパが頑張ったデス!」

綾「す、凄いわね……」

陽子「なんというか――お嬢様だったんだなぁ」





 ――着いた。


 運転席から、私はカレンの友達を見下ろした。
 皆、歳相応に可愛らしい子たちだった。なにより、良い子そうだ。
 私は、胸を撫で下ろす。
 父親たるもの、娘が心配なのは古今東西変わらない。

 ……ただ。


「わぁ、凄いです!」
「シノー!」


 窓からカレンは、「その子」に向かって手を振った。
 なるほど、たしかに可愛らしい。
 イギリスに来た頃から数年経ち、より「女の子」らしさに磨きをかけている……。


「……パパ?」


 ハッとした。
 見れば、カレンは少し不安げな表情を浮かべている。
 恐らく、私から「彼」への視線を感じ取ったのだろう。


「大丈夫だよ、カレン」


 私は娘に微笑みながら、


「――ちょっと、気になっただけだから」


 車を、停めた。


187 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/17(日) 01:43:54.405cAWbn0F0 (5/15)




――数分後


陽子「いやー、改めて凄いなこの車……」ジーッ

綾「陽子。あんまりジロジロしちゃ――」

陽子「うわっ、こんなところに引き出しが!」パカッ

綾「ああもう、言ったそばから!」


アリス「ふふっ、陽子は元気だねぇ」

忍「そうですねぇ……」

カレン「……」

忍「? カレン、どうかしましたか?」

カレン「な、なんでもないデス」

カレン「今日は、楽しみまショウ!」

忍「はいっ!」


アリス「……」

アリス(そういえば)

アリス(さっき車に乗る時、カレンのお父さん――)

アリス(少し、複雑そうな表情をしてた、ような……)




――さらに数分後



カレン「着いたデース!」

陽子「おおっ、これは……!」

綾「綺麗な所ねぇ」

忍「ふふ、車じゃないと、こういった所までは来られませんからね」

アリス「川、かぁ……」


アリス(意外と、水着で泳いでも楽しそう……)

アリス(――ダメダメ! 水着のことを考えただけで、悲しい気分になるのは)

カレン「アリス、大丈夫デス!」

アリス「カ、カレン!?」ビクッ

カレン「――アリスのママが、『アレ』ナラ」

カレン「娘のアリスにだって受け継がれるはずデス!」


188 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/17(日) 01:44:29.085cAWbn0F0 (6/15)

アリス「……カレン、どういう意味かな?」ジトッ

カレン「タダ」

カレン「ちょっと時期は、もうオソ――」

アリス「カレンッ!」プンスカ


忍「ふふ、仲良しさんですねぇ……」

忍(金髪少女と綺麗な川、という光景もいいですね――)エヘヘ

カレン父「……」

忍「あ、カレンのお父さん」

カレン父「――今日は、楽しんでほしいな」

忍「はい! ありがとうございます!」ニコッ

カレン父「……」


カレン「――」

アリス「カレン?」

カレン「――シノッ!」ダキッ

忍「ひゃっ!?」

カレン父「!」


カレン「ふふ、シノー? 油断大敵、デス!」

忍「ちょ、カ、カレン……くすぐったいですってばー」

カレン「相変わらず、綺麗な肌デス……」ナデナデ

カレン「嫉妬しマス」

忍「カ、カレンだって、お人形さんのように綺麗じゃないですかー」

カレン「……」

カレン「も、もう、シノ!」カァァ



アリス「……ああ」

アリス(「お人形さんのように」って、その言葉は私に言ってくれてたのに……)

アリス(カレンに取られちゃったよぉ……)

アリス(――あれ?)

カレン父「……」

アリス「あ、あの……おじさん?」


189 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/17(日) 01:45:09.425cAWbn0F0 (7/15)

カレン父「!?」ハッ

カレン父「あ、ああ、ごめんアリスちゃん」

アリス「どうしたの……あっ」

アリス「シノが気になるの?」

カレン父「……」

カレン父「ま、まぁね」

アリス「……?」




 ――少なからず、動揺した。

 カレンが、私の目の前で抱きついた時。
 私は、たしかに心が揺れるのを感じた。

 しかし――実際に間近で見れば見るほど信じられない。


「もう、カレン……くすぐったいですよぉ」
「ふふっ、シノは可愛いデス……」


 娘のスキンシップを受け、浮かべる表情といい仕草といい。
 完璧に、女性のそれではないか。


「――カータレットさん」

 呟いたのは、彼女の名前。
 遠い異国の友人と、私は芯から心を通わせたように思う。
 自分の娘と「あの子」のふれあいを見れば、それは混乱するだろう――






――それから




綾「ちょ、ちょっと陽子、危ないってば……」

陽子「大丈夫だって――よっ、と!」

陽子「ほら、綾もおいでよ」

綾「こ、怖いわよ……」

陽子「大丈夫だって」

陽子「私がいるんだから、こんな石ころへっちゃらだよ」

綾「……」


綾(――私がいるんだから、か)

綾(こんな岩場を、よくもまぁ)

綾(こういうことを、無意識に言ってるんだから……)

綾「何だろう、癪だわ」

陽子「癪なのはいいけど、転ぶなよー?」

綾「わ、分かってるわよ!」


190 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/17(日) 01:45:52.285cAWbn0F0 (8/15)

綾「――きゃっ!?」

陽子「よ、っと」

陽子「大丈夫か?」

綾「え、ええ――」

綾「!」ハッ

陽子「?」


綾(よ、陽子の腕に抱えられてる……!?)

綾(ち、近い! 陽子、近いってば!)

陽子「なんだ、どうかしたか?」

綾「バ、バカぁ……」

陽子(いやー、今日の暑さは酷いんだなぁ……)

陽子(なにせ、綾がこんなに顔を真っ赤にしてるし――)

綾(陽子の、バカ……)モジモジ



――その一方


アリス「待っててシノ! 今、自分で捕るから!」

忍「ええっ、アリス!?」

忍「あ、危ないですよ」

アリス「いいの!」

カレン「……釣れまくりデース!」

アリス「――カレンに、負けたくないもん!」

忍「ア、アリス! そ、そんな所まで!」

カレン「あっ、シノ!?」





 ――二人の子が向こうに探検に出かけて。


 こちらには、私と娘、それからもう二人が残った。
 その場にいれば、なるほどこの三人はとても仲が良いんだな、と実感する。
 カレンも、良い友達を持ってくれた――。


「アリス……そこは危ないですってば」
「いいの、シノ! 止めないで!」


 ――昔からかもしれないけれど。
 アリスちゃんはカレンとの勝負事になると、ムキになりがちだ。
 そういう所は微笑ましい……いや、待った!


「ふ、二人とも! さすがにそこは危ない――」


 ドボン!


「――よ?」


 何とも、間の抜けた音がした。
 視界には、アリスちゃんしか入らない――ということは、だ。


191 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/17(日) 01:46:21.795cAWbn0F0 (9/15)

「シ、シノー!?」


 カレンも、私と共に水に分け入った。
 アリスちゃんは慌てて、救出を試み始めていた。


 ――ザブン。


「え、へへ……」


 私たちが辿り着くとほぼ同時に、「彼女」は浮かんできた。


「ちょ、ちょっと無理しすぎちゃいました……」
「も、もう、シノったら」


 そんな「彼女」を、アリスちゃんは抱き上げる。
 しかし、小柄な彼女の手には余るようで、すぐさまカレンが補助に回った。


「カ、カレン。私一人で大丈夫だよぉ」
「アリス。その台詞は、145センチほどになってから言うべきデス」
「そ、そんなぁ!?」


 カレンのからかいに、アリスちゃんは涙目になってしまった。
 相変わらず、微笑ましい光景だ。
 ――しかし。


「……これ、は」


 私は、瞠目してしまった。


「――ちょっと、冷たいですね」
「シ、シノッ! 早く向こう、に……」
「アリス、どうした、デス……カ」


 娘たちも、ピタリと動きを止めてしまった。
 知らぬは当人ばかり。
 「彼女」は、キョトンとした表情を浮かべている。


 濡れた服から、彼女の「下」が透けてしまっていた。
 いくら西洋風に着飾ったとはいえ、夏ということもあり、生地は薄手だ。
 そのため、透けた部分がより一層目立ってしまっている。


 胸元から、薄い桃色の下着が浮き出ていた。
 身体のラインも明瞭に表れ、「女性」らしさが如実に出ている。
下手をすれば、下半身まで見えてしまう。

 ――なるほど。
 透けたレベルでこれなのだから、脱衣所で遭遇したカータレットさんの驚愕ぶりが目に見えるようだ。


「パ、パパは見ちゃダメデス!」
「うわっ!?」


 いけない、ついついぼんやりとしていた。
 気づけば、顔を真っ赤にした娘が私の袖をギュッと掴んで、抗議していた。


192 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/17(日) 01:46:53.745cAWbn0F0 (10/15)

「――エッチ、デス」


 カレンは、ジトッとした目で、私を捉えている。
 その仕草は、何とも女性らしく、密かに娘の成長具合に驚いてしまう。


「そ、そういうつもりじゃ……」


 いや、そもそもカレン、「あの子」は私と同じ――
 なんて言葉がちょっとでもよぎったのが恥ずかしいほどだ。
 そんな差異は――


「……ちょっと、濡れちゃいましたねぇ」


 あそこで、どこか色っぽさすら出ている「彼女」にとって、何の意味もないことだろう。


「あ、ああ……」

 
 赤く染め上げ、茫然自失の体といったアリスちゃん。
 そんな彼女と、私の娘が立ち直るのには時間がかかりそうだ――


「いや、私も、か」


 囚われてしまった、気がする。
 なるほど、これは――






 ――それから。


「あ、ありがとうございます」
「いや、いいんだ。風邪でもひいたらことだからね」


 私は「彼女」を連れて、車に戻っていた。
 カレンたちも付いてきたいと言っていたが、敢えて拒んだ。
 二人で待っていて、と言った時のカレンの淡い表情が印象深い。

 娘に、すまないと感じるのは親心だろうか。
 ……それでもやはり。


「重く、ないですか?」
「――いや、全く」


 少し、恥ずかしそうな口調で訊いてくる。
 きっと、背中では赤く切なそうな……「女の子」の顔が見られることだろう。
 そうした事もまた、私の認識を崩しそうで――


 だから――


193 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/17(日) 01:47:24.725cAWbn0F0 (11/15)

 私は、足を止めて、


「『女の子』みたいに、軽いよ――」


 瞬間。
 時間が止まった、ように感じた。
 私の肩にかかった手がピクッと動き、止まる。
 少し重みが増したのは、緊張のせいだろうか。


 時間にすればわずか数秒だったろう。
 しかし私には、10分以上にも感じられるほどだった。


「……気付いたんですか?」


 ポツリ、と。
 そんな消え入りそうな声で、後ろの「彼女」が言う。
 

「いや――カータレットさんから聞いていたんだ」
「アリスの……そう、だったんですか」


 言いながら、再び歩き始める。
 あまり止まってもいられない。風邪をひかれては困る。


「――あ、あの」
「ん?」


 消え入りそうな声は、先ほど私に感謝をしてくれた時とは別人のようで。
 チクリと胸が痛んだ。


「……どう、ですか?」
「どう、って?」
「あ、あの、その――」


 モジモジとしている様子が、よく分かった。
 背中越しの会話をしながら、私の足は目的地へと向かう。


「……だ、だから、その」
「もし君が、『気持ち悪いですか?』というようなことを言うのなら」


 ハッとした様子が、背中から感じられる。
 私は言葉を紡ぐのを止めない。


「それは、Noだ」
「で、でも……カレン、と触れ合っていたのは、その」


 男なんですよ、と。
 「彼女」は、言った。


194 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/17(日) 01:48:10.845cAWbn0F0 (12/15)

 恐らく、今日のような特殊な状況が、彼女をしおらしくさせていたのだろうと思う。
「父親」の目の前で、「娘」と――「男子」がスキンシップをとる。
 その光景を見て、何も感じなかったかといえば……


「――そうだね、確かに複雑な気分にはなったよ」
「……!」
「でもね」


 私は、歩みを止めない。
 目的地は、すぐそこだった。


「――そんな気分よりも、何よりも」


 
 そこで私は、「彼女」をゆっくりと降ろした。
 そして、しっかりと向き合う。

 「彼女」は顔を赤らめながら、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
 どこからどう見ても「少女」そのもので――


「カレンが、あんなに嬉しそうだったから」
「……!」
「それでいいんじゃないかな、と」


 そうだ、それでいいのだ。
 なんとなく、私は納得していた。
 よくわからないモヤモヤとした感覚は、面と向かってこう言ったことで霧消したように思える。


「――で、でも」
「いいんだよ」


 それは確かに、親の目の前で娘と異性が抱き付き合っていれば、感じることがないわけではない。
 けれど、それ以上に――


「……『二人』も、そう思っているんだろう?」
「えっ!?」


 慌てて、「彼女」は振り向いた。
 物陰から、ガサガサと音がして、


「……見つかっちゃいマシタ」
「ご、ごめんなさい」


 可愛らしい金髪少女が現れた――


195 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/17(日) 01:48:38.105cAWbn0F0 (13/15)

 


――帰り道


綾「……」スースー

陽子「……」ムニャムニャ

カレン「二人とも、よく寝てるデス」

アリス「何だか、凄く満足そうだよね」

忍「お二人とも、本当に仲良しですから」


カレン父「……」

カレン父「三人とも、ちょっといいかな?」

カレン「?」

アリス「は、はい」

忍「な、なんでしょう、か?」

カレン父「……」


カレン父「――これからも、普通にしてて大丈夫だから」

忍「……!」ハッ

カレン父「さっき、私が『忍ちゃん』にした質問も」

カレン父「全部、気にしないでいい」

忍「――で、でもっ!」

カレン父「……むしろ」

カレン父「気にして、カレンとギクシャクすることの方がずっとイヤだから」

カレン「……パパ」


アリス「……」

アリス(ママ――)

アリス(ママも、気づいてたんだね……)

アリス(それじゃあ……)


アリス(私はシノと、『仲良く』してて、いいのかな――?)キュッ


196 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/17(日) 01:49:30.905cAWbn0F0 (14/15)



――大宮家


忍「……ふぅ」

忍「楽しかった、ですね――」ニコニコ

アリス「う、うん」

アリス「……」

忍「? どうしました?」

アリス「――シノ」

アリス「……私たち」

アリス「大丈夫、なのかな?」

忍「……」

忍「はい?」キョトン

アリス「……」


忍「――アリス」ダキッ

アリス「わっ!?」

忍「大丈夫ですよ」

忍「こうして抱きしめているだけで、安心です」

アリス「そ、それは!」

忍「無敵です」フンス

アリス「――もう、シノったら」

アリス(ああ、なんだか)

アリス(……シノが「無敵」なんて言うんなら、大丈夫かな、って思っちゃうよ)

忍「……」


――九条家


カレン「あ、あの……パパ?」

カレン父「――カレン?」

カレン「……こ、これから、モ」モジモジ

カレン「仲良く、してて――?」

カレン父「……」

カレン父「カレン」

カレン「ハ、ハイッ!」

カレン父「……娘の幸せを願わない父親なんて、いないよ」

カレン「……!」

カレン「――パ、パパッ!」

カレン父「よしよし……」


カレン父(――しかし)

カレン父(あれで、「男の子」)

カレン父(……カータレットさん、世界は広いですね)トオイメ


197 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/17(日) 01:51:51.845cAWbn0F0 (15/15)

ここまでになります。
……正直、ここまで長くなるとは全く思ってませんでした。
いざ川遊び編を書いてみようと思い立ち、気づけばメモ帳に溢れかえらんばかりの文章が……
こんなに長くして、読んでくださる人には感謝ばかりです。

さて、こうして夏休み編は終わり――おっと、お祭りという大事なイベントが。
次回がどうなるかは未定ですが、「お祭り」になるかもしれません。
……もしかしたら、二学期入ってしまうかもしれませんけれど(小声)

それでは。
こんなに長くても書いてしまうということで、改めてこのSSが好きだということを実感しました。


198VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/17(日) 02:03:47.32+ycH8ms80 (1/1)




199VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/17(日) 02:12:52.08FvPqmfqGo (1/1)

乙!


200VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/18(月) 21:43:37.80Irg3suaho (1/1)

二人無敵♪乙


201 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/30(土) 00:23:45.89QIqS//bp0 (1/10)



『看病』


アリス「……はい、タオル替えるね」

忍「アリス、ありがとう、ございます」ケホケホ

アリス「無理して喋ったらダメだよ」

忍「――は、はい」

アリス「……」


アリス(夏風邪)

アリス(先日の川遊びで、盛大に転んで水浸しになったことが原因なのかな)

アリス(顔の酷い赤みは取れたものの、シノは相変わらず咳が酷い……)


忍「……アリス?」

アリス「なぁに、シノ?」キョトン

忍「体温、計って頂けますか?」

アリス「――ああ」

アリス「体温計だね。持ってきた、から……」スッ

アリス「これ、脇に挟むタイプ?」

忍「はい」

アリス「……」チラッ


アリス「ねぇ、シノ?」

忍「なんですか?」

アリス「自分で、挟めない、かな……?」アセアセ

忍「――うーん」

忍「少し、厳しいかもしれませんね」ケホケホ

アリス「そ、そう?」


アリス「……」

アリス「――じゃ、じゃあ」

アリス「ボ、ボタン、開けるね」

忍「お願いします」

アリス「……」


202 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/30(土) 00:24:23.59QIqS//bp0 (2/10)

アリス(――どうしよう)

アリス(手が震えて、上手く外せない)

アリス(一つ、外せば)

アリス(それだけで、シノの肌が――)

アリス(……うう)


忍「――アリス」

アリス「!?」ビクッ

忍「大丈夫、ですよ」

忍「私は、その――」

忍「……気にしません、から」カァァ

アリス(そ、そこで顔を赤らめないでぇ……)


アリス「……」

忍「アリス」

忍「いいんですよ……」

アリス「――」

アリス「シ、シノ、やっp「私がやってあげるわ」


アリス「」

忍「あっ……」

勇「まぁ、アリス。顔が真っ赤」

勇「シノの風邪が伝染ったかもしれないわね……さ、休んで休んで」

アリス「イ、イサミ……?」

勇「私の部屋のベッド、使っていいから」

アリス「……」

アリス「わ、分かったよ」

アリス「――シノ、また、ね」



パタン



忍「……」チラッ

勇「――ねぇ、シノ?」

忍「なんですか、お姉ちゃん?」ケホケホ

勇「ずいぶんと、思い出したように咳をするのね?」

忍「……」

勇「それに、昨日は酷かった鼻水も」

勇「真っ赤だった顔色も」

勇「どこに行ったのかしら?」

忍「――」


203 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/30(土) 00:24:55.55QIqS//bp0 (3/10)

勇「……やっぱり」ピピピ


『37.2』


勇「……」ジーッ

忍「え、えへへ」

勇「――もう」

勇「アリスをからかったら、可哀想じゃない」

勇「腹黒いシノと違って、アリスは純粋なのよ?」

忍「……そう、ですよね」タメイキ

忍「ただ」

勇「?」


忍「目の前で、アリスが顔を赤らめながら」

忍「ボタンを外していく様子を見てたら」

忍「――つい、魔が差して」ニコニコ

勇「……」チラッ

勇「こんな平坦な胸を見て、何が楽しいのか……」ハァ

忍「あ、酷いです、お姉ちゃん!」ガーン


勇「とにかく」

勇「あまり、アリスを困らせないこと」

勇「――そりゃ、まぁ」

忍「かわいいですよねぇ……」ポワポワ

勇(同意せざるを得ないのが、悲しいところよね……)


勇「さ、次は身体を拭きましょう」

忍「あ、そ、それは大丈夫です」

勇「ううん、一応ね」

忍「一応、って?」キョトン

勇「――後で、『また』魔が差して、なんてことがあったら」

勇「アリスが可哀想だから」

忍「……」

忍「――きょうだいの心配は?」ジーッ

勇「その、腹の黒さがちょっと、ね」

忍「うう……」


204 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/30(土) 00:25:41.29QIqS//bp0 (4/10)

勇「こうして身体を拭いてると」

勇「ついこの前まで、一緒にお風呂に入ってたことを思い出すわね……」

勇(風呂場では、尚更この子の性別を意識せざるを得なかった、ってことも――)

忍「――お風呂、ですか」

忍「アリスやカレンと、入れたら」

勇「――いい、シノ?」

勇「偉い人も言ってたわ。『越えちゃいけないラインを考えろ』って」

勇「世の中には、『超えられない壁』というものも存在するし……」

忍「お、お姉ちゃんの方が、ずっと腹黒いです……」ウルウル

勇「はいはい」


勇「さ、もういいわ」

忍「ありがとうございました」

勇「うん」

勇「さ、上着を着t」



アリス「シノ! 私、飲み物を注いできた、よ……」ガチャッ

アリス「」

勇「……」アレ?

忍「あっ」


アリス「い、いや、え、ええと……」アセアセ

アリス「――」カァァ

勇「……アリス」

アリス「は、はいっ!」

勇「部屋に入る時は、ノックをしないと、ね?」

アリス「そ、そうだったね! たしかに!」

勇「さ、ここにいたら風邪が伝染っちゃうわ」

忍「……アリス」ニッコリ

勇(こ、この子……凄く喜んでる)


アリス「……」

アリス(上半身裸)

アリス(シノ 笑顔 イサミ 飲み物)グルグル

忍「混乱してるアリスも可愛いです……」

勇「――しょうがない。連れ出しましょう」

勇(アリスの手、熱い……)


アリス(カレン ごめん 私 シノ)トコトコ

勇「この子も、大変ねぇ……」ハァ

忍「えへへ」ニコニコ


205 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/30(土) 00:28:06.80QIqS//bp0 (5/10)

こうして、アリスの混乱は続く――

表題を付けたように、ちょっとした短編をいくつか投下しようと思いましたが、思ったより長くなってしまったので
また後ほど別のものを投下します。

それでは。


206 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/30(土) 00:49:29.15QIqS//bp0 (6/10)

後ほどと書きましたが、今しばらくは無理そうですね……ごめんなさい。


忍「……はぁ」

アリス「……」

アリス(シノの憂い顔――)

アリス(何を、考えてるんだろう……私にできることって、あるのかな?)

アリス(――シノ、心配だよ)

忍(アリスとカレンに囲まれて、ゆっくり眠りたいですねぇ……)


207 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/30(土) 01:18:29.78QIqS//bp0 (7/10)

『写真と娘と……』


カレン「……」

カレン「――ハァ」

カレン(こうして、過ごしてるト)

カレン(夏休みって、長いデス……)

カレン(――アリスたちといた時は、ずっと短く感じたノニ」

カレン(……シノ)

カレン(どうして、ここで変な気分になるんでしょうカ……)


カレン父「……」

カレン父(――カレン)

カレン父(どうして、そんな赤い顔をしているのか。風邪でもひいたのか)

カレン父(……そんなことを、普通の父親なら思うんだろうな)スッ


カレン父(――あの時の、写真)

カレン父(皆で撮ったものの中に……同じような娘が写っている)

カレン父(――『彼女』の隣で、アリスちゃんと共に顔を赤らめている、カレン)

カレン父「……はぁ」タメイキ

カレン父(あの時は、格好つけてしまったものの――)

カレン父(実際は、かなり戸惑っているんだな、私も)


カレン「……パパ?」

カレン父「!?」ビクッ

カレン「何を見てるデス?」ズイッ

カレン父「……カレン」

カレン「――あ」

カレン「あの日の写真、デス……」

カレン父「……」


カレン父「なぁ、カレン」

カレン「パパも、シノのことが気になりマスカ……?」

カレン父「あの時ああ言ったが、私h」

カレン父「……なんだって?」

カレン「あぁ」

カレン「パパも、シノのことガ……」カァァ

カレン父「いや、カレン。落ち着きなさい。君は正常な判断が――」

カレン「必死になる所が怪しいデス」ジーッ

カレン父「」


208 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/30(土) 01:18:56.91QIqS//bp0 (8/10)

カレン父「いいかい、カレン」

カレン「……シノが好きでも、私ハ」

カレン父「私は、男だ」

カレン「……知ってマス」プイッ

カレン父「――忍ちゃんは」

カレン「言わないでくだサイ……」

カレン父「……」


カレン「――そうデス」

カレン「私は、おかしくなってるんデス」

カレン父「……カレン」

カレン「――シノが、シノが」

カレン父(……娘なりに、事実と向きあおうとしてるんだな)

カレン父(いや、心配したよりも、進んd)

カレン「私に、ハダカを見せて、くれたノニ」

カレン父「……」



カレン父「え?」ピクッ


209 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/30(土) 01:19:41.20QIqS//bp0 (9/10)

カレン「あの時」

カレン「私、二――」

カレン父「カ、カレン、お、おお、落ち着きなさい」アセアセ

カレン「パパの方が、ずっとガタガタしてマス……」

カレン父「は、は、ハダカ、を?」

カレン「――シノが」

カレン父「……」

カレン父「――そ、それは、まさか!」

カレン父「風呂に入ったとか、そういう……?」

カレン「……?」キョトン

カレン「!」ハッ

カレン「ち、ちがいマス!」ブンブン

カレン「パパのエッチ!」カァァ

カレン父「ぐっ……!」

カレン父(な、なかなか、ダメージが大きい)


カレン「……私」

カレン「上半身裸のシノを、見たんデス」

カレン父「……そう、か」

カレン父(そういうことなら、まぁ……)

カレン父(――あれ、いいのか?)ピクッ


カレン「シノは、顔を赤くシテ」

カレン父(いやいや)

カレン「私も顔を、真っ赤二――」

カレン父(え、ええー……)


カレン父(なんというか、その)

カレン「あぁ、どうすれば……こんな風に、赤くなるのを止められるデスカ?」カァァ

カレン父(――日本って凄いんだぞ、カータレットさん)


210 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/11/30(土) 01:22:04.58QIqS//bp0 (10/10)

つらつらと書いてたら、もう一編書けていましたので投下します。

今後、原作のイメージを壊さない程度で、物語が少しずつ変節するかもしれません。
それでも、よろしいでしょうか? 不安ですが……。

それでは。
今日はもう、寝ます。


211VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/30(土) 12:25:33.21xYMkUTcjo (1/1)


いいと思うよ!


212VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/30(土) 18:05:26.69WkKZrrz/0 (1/1)

シノさん策士やなww


213VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/08(日) 16:08:41.53bpJPGi8AO (1/1)

ところで性描写とかはあったりする…?(あったとしてもソフトな物だろうけど)

きらら繋がり(キャラットの方だけど)のひだまりスケッチのヒロさんも最初は男(男の娘みたいな)の設定だった


214 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/08(日) 19:54:59.010tOJwtuK0 (1/1)

感想ありがとうございます。

>>213
性描写ですか……それは考えてませんね。
今後も普段の感じで、ちょくちょく少年誌的なお色気(?)が挟まれるような感じです。
シノと、アリスやカレンが「そういう」風になることはない、と思います。
そうか、ひだまりもそういう設定だったのか……。

しかし、今後どうやって物語を回したものか……。
読んで下さっている方にはとても申し訳ないですが、今後はなかなか煮え切らないノリになるかもしれません。


次の投下まで、もう少々お待ちいただければ。


215 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/10(火) 00:19:07.63bZBTqQiJ0 (1/10)

というわけで、お待たせしました。
投下です……が。


今回は、アリスやカレンは出てきません。
また、全てが地の文で、非常に長ったらしく感じると思います。
それでも楽しんで頂ければ、とても嬉しいです。


それでは。


216 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/10(火) 00:19:44.02bZBTqQiJ0 (2/10)

『いつかのあの日』


 ――陽子ちゃんは……

 あれ? なんだ、これ?

 
 ――ボク、は……

 おおう、よくわからないけど、何かシリアスっぽい雰囲気?
 って、何か見たことある顔なのに、随分と髪が短い……って。


 ――ボクも……

 ああ、なんだ。
 そっか、妙にしっくり来たぞ。

 これは、あの時の……



『はーい、笑って! 3、2、1……』


217 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/10(火) 00:21:10.21bZBTqQiJ0 (3/10)

「――」
「……ねぇ――こ」


 身体が揺さぶられるような感覚がして、ぼんやりとした視界がくっきりと映し出される。
 今度は……さっきより、ずっと髪が長い顔見知りがすぐ近くにいた。


「……なんだ、綾か」
「『なんだ』って……あなたねぇ」


 ハァ、と溜息を一つ。
 目の前の友人は、怒ったような呆れたような目で、私を見つめる。


「――宿題、手伝ってくれって言うから来たのに」
「そう、だったっけ……ごめん」


 私が返すと「まったく、もう」と、綾は横を向いてしまった。
 綾の良い所は、何だかんだ言いつつも根に持たない所だ。
 そんな綾に、私は甘えることも多い。


「ああ、ノートがグシャグシャじゃない……」
「そりゃまぁ、突っ伏して寝ちゃってたし?」
「『何が問題なの?』みたいな顔しないでよ……」


 ハァ、と再び溜息を一つ。本日、二つ目?
 とはいえ、綾の憂い顔の理由も分かる。


 8月31日。
 この日付に何を感じるか。
 私に言わせれば、この3つの数字ほど心を惑わせ、痺れさせるものはないんだけど。

 貴方は、どうだろう?
 その感じ方によって、普段の行いが見えてくる――


「……また、ロクでもないこと、考えてるでしょ?」
「きっと、綾は『恐怖』なんて感じないんだろうなぁ」
「何言ってるのよ……」


 ハァ、と溜息を――しつこいか。
 さて、気を取り直して、と。


「ちょっと、休憩しよう」
「どうしてそうなるのよ!」


 綾は、溜息に飽きたのか、今度はツッコミに切り替えてきた。
 いやー、普段なら私がツッコミで綾が天然ボケって感じなんだけど、私の起き抜けは立場逆転するんだよねぇ……。



「まったくもう、陽子ったら……」
「とか言いつつ、ノリノリじゃないか」


 私のベッドに座り、足をパタパタとさせる綾を見るに、言葉とは裏腹にどこか楽しそうだった。
 座布団に座りながらそのことを指摘すると、綾の頬に何故か少し赤みが差す。


「気、気のせい、でしょ」
「そうか……」


 こういう時に、深入りすると思わぬ事態を生みかねない。
 だからいつもこの辺りで引くんだけど、そうするとこれまた何故か、綾の表情は少し不機嫌そうになる。
 中学以来の付き合いだけど、こういう所はちょっぴり慣れなかったり。


218 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/10(火) 00:21:51.71bZBTqQiJ0 (4/10)

(そういえば……)


 中学以来、か。
 そんなフレーズに気を取られながら、本棚を見上げてみた。

 そのためか、すんなりと「それ」は視界に入り込んできた。


「……」
「陽子?」


 誘われるように、私は本棚に向かう。
 「それ」を取り、再び座布団に戻ると、


「……『〇〇小学校 卒業アルバム?』」


 綾が、そこに書かれた文字を読み上げた。
 そう。いかにもこれは、卒業アルバム。
 それもまだ――


「――何か、さっき居眠りしてる時にさ、ちょっと昔のことを」


 思い出しちゃってね、と我ながら照れくさそうに言った。
 綾は、足を止め、少しばかり真剣そうな表情になる。


「……もしかして」
「そっ。その『もしや』」


 おどけた口調で、私は勉強机にアルバムを開く。
 綾もベッドから下りて、私の近くに腰を下ろした。
 長い髪が私の頬をくすぐり、またさっきの「光景」を意識する。


「――これって」


 綾が目に留めた写真には、白色が目立つ。
 体操着服姿の私たちが、そこにはいた。

 男子たちに混ざって我ながら元気よくピースサインをする私。
 そして、そんな私にピタッとくっついているのが――



「そ、昔の……」


 ページを繰って、私は、


「――私と、シノ」


 あの日に、帰る――


219 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/10(火) 00:23:25.76bZBTqQiJ0 (5/10)


 

 ――考えてみれば、あの日も夏だったっけ。

 

「ホント、大宮は猪熊と仲良いよなー」


 写真は、卒業アルバムに載せられるらしい。
 そんな話を適当に聞き流していると、後ろからそんな声がした。


「だよな。ずっと昔から、仲良いんだ」


 重なるようにして、もう一つ。
 チラッと、隣を見る。
 予想通りというべきか、笑顔の私の友人が――


「はいっ! 仲良しです!」


 後ろの男子に、元気良く応える。
 そして、さっきまで引っ付いていた私から離れると、


「でも、二人も仲良しですよね?」
「いやまぁ、そうだけど……お前と猪熊って」
「そうだな、仲良しだな」


 そんな風にして、三人で笑う。
 私は、そんなシノを見る度に、何だか複雑な気持ちになっちゃってたっけ。




 ――帰り道



 当然のように、私とシノは一緒に帰っていた。
 イサ姉に、「シノをよろしく」と言われていたこともあったけど、何よりも――


「今日も、楽しかったですねぇ……」


 正直、一緒にいて落ち着いたんだな、これが。
 エヘヘと笑いながら楽しそうに話すシノを見てると、どうにも放っておけない。

 元々私は、男勝りな性格だってことは自覚していたから、男子といることもあった。
 勿論、女子とだって一緒にいられた。

 けれど、なんというか、色々と――


「……ねぇ、陽子ちゃん」


 シノは、特別だった。


「ん? どした?」


 私はシノを振り向いて、「あれ?」と思った。
 シノの目は、私の目に向けられてはいない。
 それは――


「――陽子ちゃんは、大きくなるんですね」


220 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/10(火) 00:24:25.91bZBTqQiJ0 (6/10)

 向けられた目線と、その言葉の意味するもの。
 「男子」にそんなことをされたら、普通なら顔を赤くして、少し嫌な気分になるだろう。
 嫌な思い出として、記憶のくず箱にでも放り込んでしまうはずだ。


 けれど私は、その時のシノの表情を忘れられそうにない。


「そうだな、きっとまだまだ――」


 当時、何の恥じらいも躊躇もなく、大真面目にそんなことを言えていた。
 シノ相手だと、普通の男子や女子相手とは、全く違う会話になるから。


「……ボクとは、違うんですね」


 自分の目線を下に向けて、シノは呟いた。
 「違う」。そうだ。私とシノは、違う。

 

 胸に付けるための、女子特有の「アレ」を、親と連れ立って買いに行ったのはいつだっけ。
 さっぱり記憶に無いけれど、初めて「それ」を付けて学校に行った時のシノの表情だけは、とてもよく覚えていた。


 残念そうでいて、何だか嬉しそうな、本当に複雑そうな表情。
 それを見て、私は「どうしてだろう?」と、純粋に疑問に思った。
 どうしてシノは、「違う」のだろう、と。


 髪は短かったものの、正直な話、他の誰よりもシノは女の子らしかった。
 見た目からしても、初めて会った時に感じた「可愛い子」そのもので。
 今日の授業みたいにシノが男子と話すことがあっても、やっぱりそんな男子とはどうも違う。

 
「陽子ちゃん……」


 だから。
 そんな上目遣いで、頼るような声を出されると、返答に困った。
 いも……弟をこよなく愛するイサ姉の気持ちが、凄くよく分かる気がした。


 そんなポーズのまま発せられた言葉は、声も含めて、今でも私の脳裏に焼き付いている。


「――ボクも、大きくなれない、でしょうか?」


221 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/10(火) 00:25:22.14bZBTqQiJ0 (7/10)






「――それで、陽子は何て応えたの?」


 何となく、そんな昔話をしてしまっていた。
 いやまぁ、休憩時間だしね。


 とはいえ、この質問……なんて答えたものか。
 

「いやまぁ……なんというか、その」


 ついつい照れてしまう。
 思えば、あの日の私も、なんて若かったことか。


「ほら、私たちは、普通に大きくなるだろ……」
「――『普通に』、ね」


 あれ? なんで綾は、凄く悲しそうな表情をしているんだ?
 まぁいいや。話を続けよう。


「で、シノは、普通には大きくならない。当たり前だ」
「まぁ、ね」


 綾の表情はいちいち気にかかったけれど、それはそれとして。
 コホンと一息。


「で、だから私は言ったんだ」
「ええ」



「だったら、何か詰めちゃえば、って」


「……」

「え?」




「ほら、シノは私みたいには、その……ならないから」


 その時、私は大真面目にシノと話し合っていた。
 帰りの通学路で、大真面目に見つめ合う、二人の小学生。
 傍から見たら、おかしな光景に映ったことだと思う。


 でも。
 その時の私は、心からシノの力になりたかった。


 さっきの体育の授業の時、男子にからかわれた(?)とき。
 シノが一瞬見せた、なんとも言えない表情が、ずっと忘れられなくて。


「――大きくすれば、いいんだ」


222 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/10(火) 00:27:55.06bZBTqQiJ0 (8/10)

 



 その翌日――



 シノは放課後、私を人気のない校舎裏に連れて行った。
 そこでいきなり服を脱ぎ始めるものだから、私はとても焦ったっけ。


「ちょ、ちょっと、シノ!?」
「し、静かに、陽子ちゃん」


 と言われても、恥ずかしそうに頬を染めながら、上半身裸になられても困るんだけど……!
 そんなあれこれを飲み込んで、せめて私は視線を逸らす。
 視界の隅っこで、本当に「男子」とは思えないほど白い肌が見え隠れした。正直、すっごく困った。


「……もう、いいですよ」
「う、うん……?」


 シノに促され、再びシノと視線を合わせた私が見たものは――





「――陽子が、今のシノの」
「そう。そういえば、綾には言ってなかったっけ?」


 中学時代は、色々とそれ以外にすることあったからなぁ。
 最終的に、何ともあっさりと受け入れられた、「大宮忍カミングアウト作戦」。
 綾にも手伝ってもらったっけ。

 あぁ、だから今まで話すことなかったんだ。タイミング外しちゃってたんだな。


「……ということは」
「シノは勉強とかはダメダメな割に、メチャクチャ器用でね。凄くその出来は良かった。
 で、その時も、シノの胸はもう、フツーに膨らんでるように見えた」


 あの時は、本当にビックリした。
 目の前に、いきなり正真正銘の女子が現れたんだから。


 とはいえ、それからシノの、その、女装能力にはますます磨きがかかっていった。
 今となっては、どこからどう見てもごくごくフツーの女子高生になり
 毎度のようにアリスやカレンを騒がせているのは周知の通りってわけだ。


223 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/10(火) 00:31:38.29bZBTqQiJ0 (9/10)






「ふーん……」


 さて、話を終えると少し疲れた。
 麦茶でも飲もうか、と下に取りに行こうと立ち上がると、


「――陽子とシノって、本当に仲良かったのね」


 綾がそんな事をいうので、少しキョトンとしてしまった。


「何言ってんだ、当たり前だろ。シノは私にとって、特別なんだから」


 さて、麦茶麦茶、っと。
 ちょっと行ってくる、と綾に言って、私は下に降りていく――





「……」
「『特別』ねぇ……」
「――」


 陽子がいなくなり、私は彼女のベッドに寝転んだ。
 ぼんやりと白い天井を見つめていると、そこに昔の「二人」の姿が見えるような気さえした。

 それくらいに、陽子の話はシノへの愛情でいっぱいだった。


「シノ」

 
 つぶやきは、止まらない。
 枕に突っ伏しながら、私は今のシノのことを思い浮かべる。


「アリスやカレンは言うに及ばず」


 金髪少女二人を骨抜きにして。



「……陽子までって」


 さっきの話をしている時の陽子は、まるで。
 保護者のような、姉のような……そして、また。


 ゴロゴロと寝返りを打ちながら、私は普段なら決して言わないことまでつぶやいてしまう。




「あなた、本当に罪な『女』よ……」


224 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/10(火) 00:34:55.06bZBTqQiJ0 (10/10)

ここまでになりますが、何とも長いですね……。

地の文でいっぱいにするのは、なかなか厳しかったです。
でも、何だかとても楽しかったです。


そんなこんなで、アリスやカレンからシノへ向いていた矢印に、新たな(というより元からあった?)矢印が現れました。
こりゃ、綾の立場が危ういですね……。
とはいえ、今後はまた金髪少女と和風少女の絡みという、主流に戻っていくと思います。


それでは。
いつもありがとうございます。


225VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/10(火) 01:18:11.104fRYYbgKo (1/1)

乙!


226VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/10(火) 12:28:27.82nLAheMhq0 (1/1)

キタ━━━(゚∀゚)━━━━!!!!


227VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/12(木) 20:33:25.73G9u/WjyXo (1/1)

乙!!


228 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/13(金) 00:12:34.99XcFYQHc30 (1/10)

投下です。

――とはいえ、今後は――

なんて書いたくせして、随分とおかしなことになりました。
この次の展開は、しばらく考えることになりそうです。


229 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/13(金) 00:13:40.60XcFYQHc30 (2/10)

 ――あっ。


「……」

 朝。
 私はいつものように、目を覚ましました。

 横を見遣れば、布団で寝息を立てる、可愛らしい英国少女の姿が。
 その姿に笑みを隠せなくなってしまいます。ここまではいつも通り。


(――さっきのは)


 目の前にいたのは、活発で優しい女の子。
 その子に、私はお世話になりっぱなしで――


(……なんだ)


 答えは明らかです。
 あの子に、決まっているじゃないですか。


「……」


 いつもと違うのは、そんな所でしょうか。
 さて――
 時計が指す日付は、9月1日。

 今日から、学校が始まります。







「……」
「ねぇ、シノ」


 あっ。
 隣を見ると、アリスが少し不安そうな表情を浮かべていました。
 いけない、何か聞き漏らしてしまったのでしょうか。


「――何か、あったの?」


 鋭い。
 日本人に比べて外国人はストレートという話は、本当だったのでしょうか。
 それはともかく、私はアリスに心配をかけてしまったようです。


「い、いえ、なんでも――」


 ――シノは、ずっと私の――


「――なんでも、ないです」
「……?」


 うーん、困りました。
 何だか、よく分かりません。


230 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/13(金) 00:15:06.70XcFYQHc30 (3/10)

――集合場所


陽子「……」

陽子「あれ?」

陽子(私が一番?)

陽子(へぇ、珍しいこともあるもんだ)

陽子(……)


陽子(あっ、来た来た)

陽子(――シノと、アリスか)

陽子(シノか……)


アリス「ヨウコッ!」

忍「……」

陽子「よっ、アリス」

陽子「……シノも、おはよ――?」

忍「――」


忍「……あっ」

忍「陽子ちゃん、おはようございます」

陽子「……?」


 ――なんだ?


 シノの調子が、おかしい。
 夏休み明けだからか?
 いや、でも……うーん。


「……」


 そういえば、こんなことが昔もあったっけ。
 で、私は、そんなシノに――


「……」
「あっ――」
「!!?」
「あっ、おはようござい……マ、ス?」

 額と額を合わせてみる。
 シノは――うん、熱はなさそうだ。
 ということは、風邪とかじゃないってことか。一安心一安心。


「ん、良かった。熱はないみたいだね」


 とりあえず、「診断結果」をシノに笑いながら伝える。
 問題はなさそうで、なによりだ。


 ……ん?


「……ヨウコ?」
「えっ、ええ?」


 戸惑う金髪少女が二人。
 あっ、カレンも来てたのか。


231 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/13(金) 00:16:17.10XcFYQHc30 (4/10)

「おはよ、カレン」
「は、はい、おはようござい、マス」
「……?」


 ん? 様子がおかしい?
 アリスもカレンも、何やら酷く戸惑ってるみたい、だけど……。


「……あ、ありがとうございます、陽子ちゃん」


 って、どうしてシノも変な顔してんのさ。
 え、なにこの状況? もしかして、私が変なコトした、みたいな……?


「――おはよう、みんな」


 首をひねっていると、聞き慣れた声が聞こえた。綾だ。


「あぁ、綾。おはよ」
「……いや、なんというか、その」


 綾に挨拶したらしたで、何故か綾は視線を逸らした。


「いやまぁいいわ。行きましょう」
「ん、そうだな」


 ほらみんな、行くぞ、と三人に声をかけ、私は歩き出した。



「……」


 歩きながら、私はさっきの光景を思い返していた。
 カレンに声をかけようとしたら、見えてしまった「それ」に心を奪われてしまった。


 シノと陽子の付き合いの長さを鑑みれば、ごくごく普通の光景だったかもしれない。
 ただ――私には、どうしても昨日のことが気になっていた。



「でさー、またうちの弟と妹が――」
「ふふ、陽子ちゃんのお家はいつも賑やかですねぇ」


 笑い合う二人は、どこまでもいつも通り。
 シノの表情も、いつものおっとりとした可愛い笑顔。

 ……だからこそ尚更、さっきの表情が気になった。


(――やれやれ)


 心のなかで嘆息してしまう。
 だって、目の前の二人の金髪少女だって――


 二人の「顔」を、見たんだから。


232 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/13(金) 00:17:04.47XcFYQHc30 (5/10)



 ――さっきの、アレは。


 結局、学校に着いても、離れてくれまセン。


 シノとヨウコの付き合いは、私とアリスと同じくらいカモ。
 そう考えれば、さっきのもごくごく当たり前のスキンシップ――


「……んん?」


 ナニかがひっかかりマス。
 それは、一体――?


「あっ」


 そうだ、わかりマシタ。
 恐らく――


 ――ん、良かった――

 ――……――


 陽子に額を当てられていた、シノの表情が。
 何故か、本当に「何故か」。


 ほんのりと赤くなっていたから、デス――











――教室


忍「……」

陽子「――昨日、昔のアルバムを見てたらさ」

忍「……」

陽子「シノ?」

忍「!」


忍「あ、ご、ごめんなさい……」

忍「――その」

陽子「ん、大丈夫」

陽子「……どしたの? 風邪じゃなさそうだけど、体調悪い?」

忍「……」


忍「思い、出しちゃった、みたいで」

陽子「……え?」


233 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/13(金) 00:17:50.17XcFYQHc30 (6/10)





――廊下



アリス「……はぁ」

アリス(一体、さっきのは、なんだったんだろ?)

アリス(陽子と、シノが――)

アリス(……こんなに気にするのは、おかしいよね)

アリス(――だって、あの二人は、ずっと)


アリス「シノ、陽子、ただいm」

忍「陽子ちゃんに、私のはだk」

陽子「ハイ、ストップ」

アリス「」


忍「……」

陽子「ごめん、シノ。その話は、ナシで」

忍「――」

陽子「よし」

忍「……ふぅ」


忍「酷いです、陽子ちゃん。いきなり口押さえるなんて」

陽子「い、いやまぁ、その……」

陽子「――さすがに、なぁ」

忍「……?」


アリス「……」

アリス「――二人とも! もうすぐHR始まるよ」

陽子「あ、あぁ、アリス。分かった、サンキュ」

忍「アリス、ありがとうございます」

アリス「ふふっ、どういたし、まして……」

アリス「……??」


234 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/13(金) 00:18:44.66XcFYQHc30 (7/10)


 

 ――さっきのは、一体?


 私の頭で、さっきの二人がグルグル回る。
 「はだ――」なに?
 それに、あの時の二人――


(どっちも、顔が真っ赤で)


 シノも陽子も、おかしい。
 夏休み明けで、陽子もシノも体調を崩したとか?
 それなら、顔の赤みも納得が――


(いかないよ……)


 目の前で、烏丸先生が何かを話している。
 私は、それが全く聞こえなかった。
 耳に言葉が入るのに、それはすぐに抜けていって――


(シノ……ヨウコ)


 結局、二人の姿だけが脳裏に焼き付いたままだった。


235 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/13(金) 00:20:01.20XcFYQHc30 (8/10)



 ――焦った。


 さっき、シノにあんなことを言われた時。
 咄嗟に、シノの口を塞いでしまった。


 でも、どうだろう?
 いつもの私なら、あんなことしたか?
 どうして反射的に、あんな行動を……?


(わかんないなぁ……)


 カラスちゃんが何かを話している。
 それはともかく、さっきの行動がさっぱり分からない。
 我ながら、どうかしてる、ような……。


(――でも)


 原因というかキッカケというか、それは分かる。
 ――昨日、部屋で綾と見た、「アレ」のせいだ。








 ――朝。


 起きたばかりの頭に、昔の陽子ちゃんの姿がありました。
 陽子ちゃんは、凄く恥ずかしそうに目を逸らしていました。


 ……あの時のことは。
 私もよく、覚えています。
 どうして、あんな行動に出たのか。
 小学生の頃とはいえ、上半身裸の姿なんて、それこそ家族とアリスやカレンにしか――


(――あっ)


 思い出して、しまいました。
 あの時交わした、会話を……。




 ――ボクは、陽子ちゃんを『特別』だと思ってます――

 ――……私だって、シノは『特別』だよ――



(……ああ)


 どうしてか、私は、非常に居たたまれない気分になってしまいました。
 これは……。


236 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/13(金) 00:22:46.77XcFYQHc30 (9/10)






 ――二学期が始まった。


 烏丸先生の話を耳に挟みながら、私は4人の大切な友人のことを考え続けていた。


 シノとアリスとカレン。
 やっぱり、この3人の組み合わせが、一番目立っていた。
 けれど。


(……どうなるの、かしら?)


 これからのこと。
 シノ。陽子。アリス。カレン。
 そして――私。


 私たちは、これから……












(そりゃまぁ、シノは私にとって『特別』だ)

(陽子ちゃんは、私にとって『特別』です。そんなこと、当たり前です)

(シノにとっての、アリスやカレンへの『特別』とは、違う)

(アリスやカレンと、ずっと一緒にいる。私は、そう二人に言いました。その『特別』とは、陽子ちゃんは違います)



(そうだ、シノと私は長い付き合いじゃないか)

(アリスやカレンと同じ、そんな付き合いだったじゃないですか)



(――だから)

(――そうです)



((別に、おかしなことじゃないんだ(です)――))


237 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/13(金) 00:24:53.55XcFYQHc30 (10/10)

どうしてこうなった。

今後の展開を漠然と考えていたら、こんなことになってしまいました。
果たして、陽子とシノは……そして、他の3人は。
それは、今後の思いつき次第になりそうです。


それでは。
いつもありがとうございます。


238VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/13(金) 14:29:17.51gBVfOUrs0 (1/1)

アヤヤー…


239VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/13(金) 17:10:19.02WiluaEpcO (1/1)

あやや死亡……


240VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/13(金) 18:16:52.39bY3nHxGHo (1/1)




241 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/14(土) 17:44:41.38Kls8wf240 (1/8)

 ――大宮と猪熊って、仲良いよなぁ――

 ――昔からずっと、一緒だもんねー――



(……いやいや、ちょっと待て)


 どうしてこのタイミングで、こんな記憶が浮かんでくるんだ。
 そりゃまぁ、イサ姉に頼まれたこともあって、私とシノは一緒にいることが多かった。
 だから、私にとっては、当たり前で……。



「……」
「――陽子」
「あ」


 隣を見ると、綾が心配そうな表情をしている。
 いけない、帰り道でぼんやりとするなんて。


 結局、5人で帰っている間、私はずっとおかしかったと思う。
 シノも、何だか様子が変だったし。
 ……なんだか、アリスやカレンには悪いことをしたような気がしてならない。
 あの二人が、シノを『特別』と思っていることは――


「ごめん、綾」
「……」
「な、なんか、寝付けなくってさー。それで、カラスちゃんの間延びした声で話されると眠くてしょうがなくて――」


「陽子、ちょっといい?」


 やれやれ。
 誤魔化しなんて、綾に通用するわけがないんだよね。
 この友人の鋭さは、私にだってそれなりに分かっているつもりだった。


「……なに?」
「その――はっきりさせたほうがいいんじゃない?」
「……」


 どういうこと、なんて突っ込むのは野暮か。
 私とシノと、付き合ってきてくれたんだから、そりゃ察するはずだ。


「――そう、なのかな」


 思い返す。
 抜けるように白い、およそ男とは思えない肌のシノ。
 男子に何か言われても、嫌な顔一つせずに話しに行くシノ。

 ……私のためにも、シノのためにも。



「ありがとな、綾」


 肩をポンと叩き、私は彼女に礼を言う。
 そして、すぐさま行き先を変えて、駆け出した。
 どこに行くかなんて、決まっている。


 と、後ろから、綾の声がした。


「あ、あなたがおかしいと、私たちも困るんだから……」


 その言葉に、私は何だかとても嬉しくなる。
 でも、敢えて振り向かずに、そのまま走っていく――


242 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/14(土) 17:45:47.02Kls8wf240 (2/8)

「……まったく」

 陽子が走り去っていくのを見て、私は溜息をついた。
 これで、良かったんだろう、多分。
 陽子と「あの子」がはっきりしないと、どうにも私やアリス、カレンも落ち着かないし。

 ……うん、それだけ。

「――陽子、シノ」


 それだけ、なんだ、きっと。
 だから、今締め付けられるようなこの胸の感覚も、気のせいで――


「……はぁ」


 帰ろう。
 そして、後でやって来るはずの連絡を待とう。


 ――ベッドにでも寝転べば、こんな感情は飛んでいってしまうだろうから。


「……」


 ケータイを閉じると、私は支度をします。
 制服のままだったので、私服に着替え、鏡の前で確認。
 ……普段なら、確認なんてしないのですが。


 階段を降りて靴を履き、ドアに手をかけたところで、


「シノ……?」


 後ろから、声がしました。
 その愛しい声に、私はピタッと止まります。


「アリス――」


 振り向けば、そこには不安そうな表情を浮かべる大切な女の子の姿。
 彼女は、胸の辺りでギュッと握りしめ、何やら耐えているように見えました。
 ……何に耐えているのか、何となく分かることに、罪悪感を覚えます。

「ちょっと、陽子ちゃんと会ってきます」


 そう言うと、彼女はハッと顔を上げました。
 その表情に、心が揺れるのを、確かに感じました。


「……それでは」
「シノ」


 ピクッと止まり、私は再びアリスの方を振り向きます。
 彼女は、目を彷徨わせた後で、


「――な、なんでも、ない、よ」


 何かを言わんとしているのは、私がどんなに鈍くても分かりました。
 ただ、敢えて追及はしません。


「大丈夫ですよ、アリス」


 ガチャッとドアを開け、私はもう振り向かずに、ゆっくりと、

「……アリスはずっと、『特別』ですから」

 ドアを、閉めました。


243 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/14(土) 17:46:21.70Kls8wf240 (3/8)



――公園


陽子「……」

陽子(ここの公園――)

陽子(それこそ昔、シノやイサ姉と一緒に、遊んだっけ)

陽子(今はもう、小学生とかいないんだ……時の流れを感じるなぁ)

陽子(――あの頃からもう、髪こそ短かったものの、シノは)

陽子「……」


忍「……陽子ちゃん」

陽子「……よっ、シノ」

忍「ごめんなさい、待ちました?」

陽子「いやいや、私も今来た所だし」

忍「それは、良かったです」

陽子「……」


陽子「――ちょっと、さ」

忍「?」

陽子「ブランコ、乗らないか?」




――ブランコを漕ぎながら


陽子「……」

忍「……なんだか」

忍「懐かしい、ですね」

陽子「そうだなー」

陽子「シノ、立ち漕ぎ出来なかったよなぁ」

忍「あっ、陽子ちゃん酷いです」

忍「い、今なら、出来ます……!」プルプル

陽子「こらこら、震えてるからやめなさい」


忍「……」

忍「――あの」

陽子「ん?」キョトン

忍「何だか、懐かしい、ですね……」

陽子「そう、だな……」

二人「……」


244 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/14(土) 17:47:09.06Kls8wf240 (4/8)



 ――二人でブランコを漕いでいる間、私はというと、昔のことが頭に浮かんでは消えていくばかりだった。


 私とシノは、イサ姉の言葉があったからこそ、一緒にいた――なんて。
 やっぱり、自分は騙せない。
 帰り道で思っていた「言い訳」めいたことは、この時間で全て吹っ飛んでしまっていた。


 隣で楽しそうに、ブランコを漕ぐシノ。
 そんな友人の笑顔を見てれば、「言い訳」なんて勝手に崩れてしまうのに。


「……陽子ちゃん」


 ぼんやりとシノを見ていると、シノが声をかけてきた。
 シノがブランコを漕ぐのをやめ、身体ごと私に向ける。


「呼び出したのは、何でですか?」


 その口調は思ったより真剣だったので、私もブランコを止めて、シノと向きあった。

 元々、呼んだ理由なんて、なかったも同然だった。
 ただこうして、高校生になってから二人だけで過ごしたことが無かったことを思い出しただけで。


「――シノと、話したくって」
「お話、ですか……?」


 私はシノに、何を話したかったんだろう。
 そんなもの、大して考えてない。
 だから、この会話だって、行き当たりばったりだろう。上等だ。


「……私は、さ」


 ブランコから降りて、私はシノの前に移動する。
 シノは、ブランコに腰掛けながら、私の顔をジッと見つめる。
 ……よくもまぁ、整った顔立ちをしているものだ。


「シノが、『特別』で――」
「……」
「好き、だよ」


 あ、意外とあっさり言えた。
 こんな言葉を言うだけでも、かなりまごつくと思ったんだけどな。

 で、シノはというと――


「私も、陽子ちゃんのことは、好きですよ」


 意外とあっけらかんと、シノも同じことを言ってくれた。
 お互い、ちょっと顔に赤みが差していただろうけれど、戸惑うことなしに。


245 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/14(土) 17:47:39.44Kls8wf240 (5/8)


 ……あ、そっか。


 なんだか、さっきまでの私がバカみたいに思えてきた。
 「はっきりさせたら?」という友人の言葉が、とても有りがたく思えてくる。


 なんだ、全く普通だ。
 当たり前のことを、当たり前だって確認しただけ。
 だから、私とシノは、殆ど様子をおかしくしていないんだ。


「……いやー、なんだかなぁ」
「照れますねぇ」


 お互い、笑い合う。
 シノの冗談めかした言葉も、何だかストンと胸に落ちた感触がして、気分がいい。
 ……だから。


「――ねぇ、シノ?」
「はい?」
「これから、街にでも行ってみよっか」
「……ぜひ!」


 さて、久々に「デート」とでもしゃれ込もうか。
 シノの手を引いて、私たちは笑いながら駆け出す。


 ……何だか、昔に戻ってきたみたいだ。







――翌日


カレン「……あっ」ピタッ

陽子「よ、おはよ、カレン」

カレン「――おはよ、ございマス」

陽子「どうした?」

カレン「い、イエ」

カレン「……もう、調子が良くなったみたいで、なによりデス」

陽子「ありがと」


陽子「――あ、そうそう」

カレン「……?」

陽子「私、シノのこと好きだよ」

カレン「」


カレン「そ、それは一体、ど、どうイウ……?」アセアセ

陽子「日本語ってややこしいけどさ」

陽子「――『Like』ってこと」

カレン「――あ」ハッ


246 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/14(土) 17:48:05.95Kls8wf240 (6/8)

陽子「悪かったね、カレン。はっきりさせないから、不安になっちゃっただろ?」

カレン「そ、そういうコトハ――」

陽子「いいっていいって」

カレン「……」


カレン(陽子が妙にテンション高いデス)

カレン(――なんだか、安心しマシタ)エヘヘ



忍「陽子ちゃん! カレン!」

陽子「おお、シノ! アリスもおはよ!」

アリス「……おはよう、陽子」


忍「……」

陽子「?」

忍「――よいしょっと」ピトッ

陽子「……?」ピクッ

アリス「!!」

カレン「!?」



忍「……うん」

忍「熱はないみたいですね、陽子ちゃん?」ニコッ

陽子「……お返しのやり方が、単純だなシノめ」

忍「ふふっ」



綾「……」

綾(はぁ)タメイキ

綾「おはよ、みんな」

陽子「よっ、綾」

忍「おはようございます」


247 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/14(土) 17:50:08.97Kls8wf240 (7/8)

アリス「」

カレン「……え、エエ?」

綾「相変わらず、こっちは二人とも呆けてるわね……」

綾「それよりも、陽子、シノ。昨日から言いたかったんだけど……」

陽子「?」

忍「?」


綾「……公衆の面前で、ああいうことは」

陽子「そうだなぁ……」

忍「綾ちゃんの言うとおりですねぇ……」

二人「……」ニコニコ

綾「――」














 そんな感じに、二人のちょっとした問題は決着がついた、みたい。
 何の戸惑いもなく笑い合う二人を見て、私は安心したような、まだ不安なような……複雑な気持ちだ。


 まあ、これで良かったんだろう。
 はっきりしてもらわないと、私(たち)は居心地が悪いし。
 ……ただ


「……シ、シノと陽子が」「『Like』、デスカ……」


 この二人は、慣れるのに時間がかかりそう。


 ……私?
 そうね、私は――


「私も、陽子ちゃんみたいに大きくなりたいですねぇ……」
「――シノ。そういう話はもう」
「え、身長の話ですよ?」
「……!!」


「こ、このっ!」
「陽子ちゃん、顔真っ赤です」


 
 ……私『も』、この二人に慣れることから始めないと、いけないかもしれないなぁ。


248 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/14(土) 17:52:51.43Kls8wf240 (8/8)

陽子とシノのお話は、これにて一旦おしまい、と。

え、綾のこれから?
大丈夫大丈夫。
……ちょっと、道が険しくなっただけかもしれないから。


結局、陽子とシノの関係は、友人としての「好き」の範疇だったんだな、とお互いに確認し合うという話でした。
最後のシーンだけ見ていると、本当にそれだけなのか? という疑問を感じる方もいると思いますが……。
今後、どうしましょうか。


それでは。


249VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/14(土) 23:44:32.84zX3Y4HK+o (1/1)




250VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/15(日) 02:01:15.8897f71UHP0 (1/1)

キタ━━━(゚∀゚)━━━━!!!!


251VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/15(日) 23:23:55.85s2oqR3rMo (1/1)


楽しみにして気長に待ってるよ


252 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/16(月) 17:49:57.32wwKpbdsW0 (1/8)

「……」


 移動教室中のことだった。
 私たちが「それ」を見たとき、一瞬、世界が凍りついたような気がした。



「あの――!」
「……!?」



 視界の中で躍る金髪。
 止まった時間。
 息を呑んでしまう、私たち。


 あの光景が、離れてくれそうにない――





 その時は校舎を跨いでの移動で、私たちは昇降口で靴を履きかえていた。
 お昼休みの終わりのことで、慌ただしく生徒が出たり入ったりしていた。


「……ん?」


 いの一番に反応したのは、陽子だった。
 なにやら神妙な顔つきになったかと思うと、キョロキョロと辺りを見回し始める。


「どうしたのよ、いきなり」
「……綾。聞こえないか?」
「どうしたんですか?」
「ヨウコ?」


 シノとアリスもやってきて、陽子を囲む格好となった。
 そろそろ教室に移動しないと、先生に怒られちゃうわよ――
 と、そんなことを言いかけた私は、


「カレンと、誰かの声だ」


 その言葉に、言葉をなくしてしまった。




「――!」
「……?」


 陽子が先導して、私たちを連れて行く。
 ここは、校舎裏。
 普通、学校関係者はなかなか使うことのない場所だった。


「――やっぱり」
「ね、ねぇ、陽子……やっぱり、覗き見なんて」


 彼女の袖を引っ張りながらそんなことを言うものの、


253 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/16(月) 17:50:48.44wwKpbdsW0 (2/8)

「あっ、やっぱりカレン――と」
「……どちらさま、でしょう?」


 まったく、アリスとシノまで陽子に巻き込まれてるんだから。
 そう、だからしょうがない。
 3対1じゃ、勝ち目がないのだから――


「なんだ、綾も結構やるな……」
「ち、違うわよ!」


 声を押し殺しながら、私は視界の中の二人を見つめる。


 改めて状況を見てみると、一方がカレンなのは確実だった。
 あの特徴的な金髪とパーカーで、彼女でないわけがない。


 そして、もう一方は――


「……誰?」
「うーん、見たことのない……」


 男子用の制服を着ていることくらいか。
 なるほど、男子生徒とカレンか。
 ふーん……
 ……。


「――つ、つつ、つまり?」
「綾、落ち着け」


 れ、冷静になれるわけがないじゃないっ!
 つまり、その……「そういう」こと、よね?


 人気のない場所。
 男子と女子。
 見つめあったまま動かない、二人の姿。



「……カレン」


 私が必死に落ち着こうとしていると、すぐ近くから声がした。
 見れば、アリスは胸の辺りで手を握り締めている。
 ……やっぱり、英国少女にもわかるのね。


 そして――


「――」


 シノは、静かに、二人を見ていた。
 その瞳は透き通っているように見えるほどきれいだった。
 けれど、普段浮かべている笑んだ表情は、窺えなかった。


 アリスはなんとなく心中がわかる気もするけれど、こういうときのシノは本当にわからない。
 彼女が真剣になることなんて、滅多にない。
 こんな、心から神妙な顔つきをすることなんて、それこそ――


「……あっ」


 陽子の声で、我に返る。
 再び二人を見れば、男子生徒の方が頭を勢いよく下げていた。
 対するカレンの表情は――ここからでは、よく見えない。


254 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/16(月) 17:51:35.77wwKpbdsW0 (3/8)

「カレン、焦ってる……」


 ただ、アリスにはわかったらしい。
 付き合いの長さがそうさせるのか、感覚で掴んだのかもしれない。


「――」


 一言も漏らさずに、じっと見つめるシノの姿もとても印象的で。
 私は、移動教室のこともすっかり忘れてしまっていたような気がする。


「……」


 一瞬の間を置いて、


「……」


 カレンが、ペコリと頭を下げた。


 対する男子生徒は、頭を掻くと、手を振って駆け出した。
 昇降口の方向だろう。
 ……つまりそういうこと、なのかな?


「――いやー、カレンもやるねぇ」


 いつもなら調子のいい陽子の声も、なんだか震えてるように感じた。


「はぁ……カレンが遠くに行っちゃったような気がするよ」


 ため息をつくアリスも、今の光景に心奪われているようだった。
 まあ、無理もない。


 一緒にいると忘れてしまいがちだけれど、カレンはとびきり可愛い。
 けどまぁ、今日みたいなことは経験したことはなかったのかもしれない。
 顔を上げても、ずっとその場から動かないのだから……。


「――青春だねえ」


 陽子は、無理して声を出さなくてもいいと思う。
 あなた少し、恥ずかしそうよ?


「……シノ」
「……」
「シノ!」
「――あ」


 私はというと、もう一人の友人が気がかりだった。
 ぼーっとした表情を浮かべるシノは、まるで……本当に、こけしのように動かなかった。


「ごめんなさい、綾ちゃん」
「……大丈夫?」
「はい」


 私に向かって笑顔を作ってみせると、再びカレンを見つめ直した。
 ……全く、大丈夫じゃなさそうだった。

 その笑顔が作り物だってことくらい、私にだってわかる。


255 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/16(月) 17:52:23.27wwKpbdsW0 (4/8)

――放課後


忍「……」

アリス「シノ……」

陽子「どうしたんだろうな? さっきからずっと、こんな感じだけど……」

綾「……」


綾「シノ」

忍「――あ」ハッ

綾「今日は、五時間授業」

綾「帰りましょう?」

忍「……」

綾「カレンももうじき、やってくるでしょうし」

忍「――カレン」ピクッ



カレン「みなサーン!」ガラッ

陽子「あ、来た来た」

アリス「……」

綾「ほら、来たわよ?」

忍「……」コクッ

カレン「――?」


カレン「シノとアリスの調子がおかしいデス?」

陽子「ま、まぁなー」

綾「ちょ、ちょっと、ボーっとしてるみたいね」

カレン「Hnn……」


アリス「……」

アリス「ねぇ、カレン?」

カレン「What?」

アリス「……」

アリス「やっぱり、いいや」

カレン「……」キョトン


忍「――カレン」スクッ

カレン「なんデスカ、シノ?」

忍「……」


ダキッ


カレン「……!!?」

アリス「!?」

綾「あ」

陽子「!」


256 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/16(月) 17:52:53.74wwKpbdsW0 (5/8)

忍「……」ギュッ

カレン「シ、シノ……」

カレン「が、学校で抱き着くのは、チョット――恥ずかしいデス」

カレン「そ、そういうのは、家デ」カァァ

アリス「カ、カレン、何言ってるの!」アセアセ

忍「……」


忍「――カレンは」

忍「私を、置いていっちゃいますか……?」

カレン「……」


カレン「もしかシテ」

カレン「……見ちゃった、デス?」

忍「……」

カレン「――みんな?」チラッ

陽子「い、いやぁ、その……」

綾「ごめんなさい、見ちゃったの」

アリス「カレン――あれってやっぱり」

カレン「……」


カレン「ハイ」コクッ

カレン「同じクラスの人デス」

陽子「ああ……」

綾「つまり――」

カレン「――『I got asked out.』」

アリス「……告白、されたんだ」

カレン「YES」



忍「……」ピクッ

カレン「シノ――どうしたデスカ?」

忍「――カレンは」

忍「その方と、お付き合いするんですか?」

カレン「……」


257 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/16(月) 17:53:27.43wwKpbdsW0 (6/8)

カレン「気持ちはたしかに嬉しかったデス」

カレン「デモ……」

カレン「私ハ……」

カレン「――」カァァ



綾(……)

綾(「どう伝えればいいのかわからない」って感じね、あの顔の赤さは)


陽子「……」

陽子(ちょっとシノ、抱き着きすぎじゃあ……)アセアセ

陽子(――なんて、別に思わないけどさ)

陽子(ちょっと、胸をよぎっただけで……)ハァ

陽子(やれやれ……)タメイキ


アリス「……」

アリス「ふ、二人とも!」

忍「?」

カレン「――アリス?」

アリス「あ、あんまり、抱き着いてると、その……」

アリス「誰かに見られちゃうよ?」

カレン「……」

カレン「――!」


カレン「し、シノ! そ、そろそろ……!」

忍「ダメです」

カレン「え?」

忍「カレンを、離したくないです」ギュッ

カレン「……」

アリス「シ、シノが……」

陽子(意外と、「重い」タイプだったのか、シノ……)

綾(――これって、傍から見たら女の子同士の抱き着きあいにしか見えないわよね)

綾(……)チラッ


陽子「……そ、そこまでにしといた方が」

忍「陽子ちゃんの頼みでもダメです」

陽子「い、いや、そのー……」

忍「――陽子ちゃんも大事ですから」

陽子「……」ハッ

陽子「そういう問題じゃなくて!」カァァ

綾(とか言いながら、顔を赤らめるのね……)ハァ

アリス(――カレンもヨウコも)

アイス(ずるいよぉ……)


258 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/16(月) 17:53:59.98wwKpbdsW0 (7/8)

 ――結局。


 シノが解放してくれるまで、何分かかったことヤラ。
 ベッドに寝転びながら、今日のことを思い返してみレバ――


『九条さん……その――』

『……』

『I'm sorry……いえ』

『ごめんなサイ、デス……』


 告白されるって、意外と照れマス。
 確かに、気持ちは嬉しかったデス、ガ……


『カレンは……』

『カレンは、離れませんか?』


 シノの表情といい、口調といい……抱き着きの強さとイイ。


「ちょっと怖いデス……シノ」


 でも。


 嬉しかったこともまた、事実だから仕方ありマセン……。





――忍の部屋


忍「……アリス」

アリス「なぁに?」

忍「どうしたんですか、今日は」

忍「アリスの方から、私の膝に乗ってくる、なんて」

アリス「……」


アリス「だって」

アリス「いきなり抱き着かれると、ビックリしちゃうから」

忍「そう、ですか」

忍「――アリスは、可愛いですねぇ」

アリス「……」


アリス(本当は違うんだよ、シノ)

アリス(あの時――カレンに抱き着いたときの、シノが、その)


忍「……えへへ」ギュッ


アリス(カレンに持ってかれちゃうんじゃないかって)

アリス(……心配になった、だけで、だから、これは)

忍「……」ニコニコ

アリス(私の、わがままなんだ――)


259 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/16(月) 17:57:00.91wwKpbdsW0 (8/8)

>>257
×アイス→○アリス
誰だ、これ……。


こういう状態になった以上、陽子はシノにどう接していくのか……
あと、結局綾はどうなっていくのか――。

行き当たりばったりの、カレン告白騒動でした。


意外と早く投下できましたが、もう少し煮詰めた方がよかったかなー、とも思います。
それでは。


いつもありがとうございます。


260VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/16(月) 18:32:15.43uugrSEKt0 (1/1)

アイス「ずるいよぉ…」
ワロタ


261VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/16(月) 23:20:35.69U9xzFmhNo (1/1)




262 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/31(火) 02:21:21.000p57gJ060 (1/8)

 ――秋。

 夏休みも終わり、蝉の声にも懐かしさを覚えるようになる時期。
 そんな蝉に変わって現れる鈴虫の声は、私たちを落ち着かせてくれる。


「……秋といえば?」


 私が窓の外を見つめながら、そんな感慨に浸っていると、すぐ近くの友人がそんな問いかけをしていた。
 顔を向けてみれば、そのお相手は、金髪少女と和風少女(……「一応」、嘘はついてないわよ?)
 いの一番に声を上げたのは、金髪少女の一人だった。


「はい! 『読書の秋』!」


 満足した笑みを浮かべる少女――アリスは、見ているこっちからしてもとても微笑ましく感じられた。
 

「正解! はい、次!」
「ハイ!」


 次もまた、金髪少女……ん?


「『運動の秋』、デス!」


 そんな風にエヘンとしてみせる少女――カレンは、その仕草がとても似合っていた。


「はい、正解! 最後は……」


 陽子は、まだ発言していない和風少女に照準を合わせる。
 和風少女――シノは、逡巡した挙句、


「……『金髪少女の秋』!」
「なわけあるか!」


 私の友人の二人は、すぐさまボケとツッコミを見せてくれた。
 うん、いつも通り安心できる光景だ。

 というより、シノ……まさか。


「ねぇ、シノ? あなたもしかして……知らない?」


 心配しながら問うた私に、シノはキョトンとしてみせた。


「……ええと、分かりません!」


 そんな自信たっぷりに言われてもなぁ……。


263 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/31(火) 02:21:47.860p57gJ060 (2/8)

「――まさか、とは思うけど」
「シノ……あなた」


 陽子も私も、少し呆れてしまった。
 そりゃ、シノがその容姿らしい知見を持っているとは言いがたかったけれど……まさか、ここまでとは。


「えへへ……やっぱり、どうしても金髪少女が好きで」
「ごめん、全く言い訳になってないぞ」


 陽子の指摘ももっともだ。
 しかし、日本で15年以上生活してきたシノが、二人の金髪少女に日本語的知識で負けている……。


「……私ですら、当たり前と思ってしってることを」
「陽子……あなた、意外と客観的に自分を見れたのね」
「あっ、綾! バカにしてるだろぉ!」


 さて、陽子をからかうのは後回し。
 ともあれ――何だか、シノがこのまま知らないことだらけっていうのもなんだし。


「……ねぇ、みんな?」


 私は、一つの提案をしてみることにした。
 「なんだなんだ?」と、私を見つめる8つの瞳。
 それらに向かって、


「今日、ちょっと図書館に寄って行かない?」


264 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/31(火) 02:22:25.160p57gJ060 (3/8)

――放課後・学校図書館


忍「……わぁ」

アリス「本が、いっぱい」キョロキョロ

カレン「面白そうデス!」ニコニコ

綾「もう、カレン。ダメよ?」

綾「ここでは静かにするのがマナー、なんだから……」

カレン「ハーイ!」

陽子「……」ジーッ


忍「……あ、これって!」

アリス「どうしたの、シノ?」キョトン

忍「えへへ」ニコニコ

忍「世界の美女名鑑、ってあります」ペラペラ

アリス「表紙は……」

カレン「OH! ビューティフルデス!」

忍「金髪、っていいですよねぇ……」パァァ

カレン「……シノは、こーいう人が好きなんデスカ?」ジーッ

アリス「……」ジーッ

忍「――あ」

忍「もう、お二人のことが一番! ですよ」ダキツキ

二人「……あ」

忍「二人とも、特別です」ナデナデ

アリス「……シノ」

カレン「く、くすぐったいデス――」


アリス(……二人とも、特別)

カレン(どっちも、一番……)

二人(最近は、なんだか複雑(デス)……)ハァ



綾「はぁ、まったく……」

綾「シノったら、相変わらず趣味にばっかり走るんだから……」ペラペラ

陽子「……」

陽子「なぁ、綾? ちょっといいか?」

綾「? どうしたの、陽子?」キョトン

陽子「――いや」

陽子「珍しいな、って思ってさ」

綾「……珍しい?」

陽子「いや、だって――」

陽子「あの、人見知りの綾が」

陽子「自分から提案して、みんなを集めてるんだ」

綾「よ、陽子……私、そんな情けなく見えてたの?」


265 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/31(火) 02:22:56.220p57gJ060 (4/8)

陽子「……」

綾「目を逸らした!?」ガーン

陽子「そりゃ……中学生の頃のお前を知ってれb」

綾「や、やめてぇ……」アセアセ


綾「――ええ、そうよ」

綾「どーせ私は、人見知りの恥ずかしがりやよ」ハァ

陽子「いや、そこまで言ってないんだけどな……」

綾「……」

綾「あの子たちを、見てたら」ジーッ

陽子「……?」チラッ


忍「わっ、この方、凄い髪型です」

アリス「あっちじゃ結構一般的だけどね」

カレン「家の近くで見たことありマス!」

忍「……ふふ、幸せです」

アリス「……ところで、シノ?」

忍「はい?」キョトン

アリス「――ごめん、なんでもない」

忍「??」


カレン(……アリスは、言いませんデシタガ)

カレン(3つの椅子の中央に座っているシノが、私たち二人にくっつきすぎなような気がしマス……)

カレン(い、いや! だからって、その、シノのSmellがGoodだとか、そうイウ……!)アセアセ

カレン(――ハァ)カァァ

アリス(……カレン、顔真っ赤)

アリス(わ、私は普段一緒の部屋で寝てるから慣れてるけれど)

アリス(……シノって、いい匂いするんだよね)

アリス(意識したら、何だかヘンな気分になっちゃったよ……)カァァ



綾「……ほら」

綾「なんだか、放っておけないでしょ?」

陽子「あー……」

陽子「なんというか、その」

陽子「可愛い? な、たしかに」

綾「ね?」


266 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/31(火) 02:23:24.630p57gJ060 (5/8)

綾「だから」

綾「私も、ちょっとあの子たちを見ていたら」

綾「……少し、リードしてあげないと、というか」

陽子「……綾も、変わったんだな」

綾「そ、そんなことはっ」アセアセ

陽子「いやいや」ナデナデ

陽子「――かっこよく、なった」ニコッ

綾「――!」


綾(そ、その表情でそんなこと言うのはズルい!)

綾(なにより、かっこいいのはいつだって……陽子だったじゃない!)

綾(と、いうより! なに、ドサクサに紛れて、ああ、頭を撫でるのよ!)


綾(ああ、もう! 考えがまとまらない!)

綾(わ、私は、ただ……)

綾「陽子に、憧れて」ボソボソ

陽子「ん?」

綾「――!」カァァ

綾「も、もう知らない!」プイッ

陽子「えぇー……聞かせてよ~」

綾「絶対、ダメ!」

陽子「ちぇー、じゃあいいや」

陽子「それじゃ、私もシノたちのトコ、行ってこよーっと」テクテク

綾「……え?」


陽子「おーい、何見てんのー?」

忍「あ、陽子ちゃん!」

忍「これです、これ!」ズイッ

陽子「おー……金髪少女だー」

陽子「って、シノ! ここに来たのは、日本のことわざとか調べるためだろ?」

忍「……あ」

忍「ごめんなさい、ついつい」エヘヘ

陽子「ついつい、って……全くもう」

アリス「よ、ヨウコ! シノをイジメないで!」

カレン「そうデス! 私たちがシノに教えられマス!」

陽子「……金髪少女に日本のことを教わる、日本の和風少女」

陽子「なんだかなぁ……」タメイキ


267 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/31(火) 02:23:55.450p57gJ060 (6/8)

忍「ありがとうございます、お二人とも」

忍「でも……陽子ちゃんの言う通りだとも、思うんです」

忍「陽子ちゃんは――いつだって、私には正しいことしか、言いませんから」

陽子「……シノ」

陽子「全く、照れるって」エヘヘ

忍「ふふっ、可愛いですよ、陽子ちゃん」

陽子「――!」カァァ


アリス「」

カレン「」

アリス「……カレン」ツンツン

カレン「なんデス、アリス?」

アリス「なんだか」

アリス「二学期が始まってから」

アリス「ヨウコとシノが、すっごく仲良さそうだよぉ……」

カレン「……そう、デスネ」


カレン「でも、元々」

カレン「私たちと過ごした時間よりも、ヨウコとの時間の方ガ」

カレン「……シノにとってBigなのは、当然デス」

アリス「そう、だよね……」

アリス「……はぁ」

カレン「……ハァ」



綾「……」

綾(私は、そうして「かっこいい」あなただからこそ)

綾(――どこかで、近づけないと、思ってしまうのかしら?)

綾(よくわからないけれど……)


綾(なんだか、モヤモヤするわね……)ハァ



陽子「綾もこっちおいでよー!」

忍「綾ちゃーん!」

綾「……はーい」パタン

綾(でも、今は)

綾(こうして、一緒にみんなといられるだけで幸せ)

綾(それでいいのかも、ね)テクテク


268 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/31(火) 02:26:51.390p57gJ060 (7/8)






――その周辺



男子1「おい、あの3人」

男子2「ん? なんだよ?」キョトン

男子1「すっごく、引っ付いてるけど……」

男子2「ホントだ――うわっ、あれもう……」

男子2「ほとんど顔と顔が触れてんじゃん」アセアセ


男子1「……もし、かして」

男子2「もしかすると」

2人「あいつらってレz「それはないって」


2人「!」

男子A「ありゃ、うちのクラスのヤツだ」

男子B「まぁでも……見たら、なんだか勘違いするのも、無理ないかも」

男子1「ど、どういうことだよ」

男子2「ど、どう見たって、その……さ、3人の女子が」

男子B「……」

男子A「――大宮さんのこと、か」

男子1「そ、そう! あの、黒髪のこけしみたいな――」

男子A「いいか」

男子B「……ショック、かもね」

2人「……え?」



男子A「――あいつは」

男子B「――大宮さんは」





 ――その日。


 忍たちの通う高校内の図書館に、ほんの小さな悲鳴が起こったらしい。
 すぐに消え失せてしまうような儚い声だったものの、当人たちのショックは大きかったそうな。


 そんな二人の反応を見ながら、男子Aは考えていた。


 (――どっかの高校の文化祭で、女装コンテストとかやってたっけ)

 (優勝者の画像を見たことがあるけど……全く)

 
 視線の先には、相変わらず金髪少女と一緒に引っ付いているクラスメイトの姿。
 それを見て、嘆息してしまうのだった。


 (――大宮さんに、敵うわけがない!)


269 ◆jOsNS7W.Ovhu2013/12/31(火) 02:28:48.030p57gJ060 (8/8)

ここまでです。

年内に一本だけ書いておきたかったので、書いた次第です。
……しかし、陽子との関係の話に一応の決着がついたためか、今後どう進めればいいのか思案中です。
かなりグダグダとしたお話になってしまいそうですが、それでも読んで下さる方がいればいいのですが……。

とはいえ、書いていて楽しいのは事実なので、今後も書いていきたいですね。
それでは。また来年。


270VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/31(火) 11:02:25.45aXA7PJ1AO (1/1)

おっつん


271VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/31(火) 15:19:22.42wfYERLCVo (1/1)

おつ


272 ◆jOsNS7W.Ovhu2014/01/08(水) 22:27:53.54Q4baw+Pe0 (1/1)

今更ですが、あけましておめでとうございます。
今は下書き中ですが、次はカレンの家にみんなでお邪魔する話になります。
もうしばらく、お待ちください。


273以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/09(木) 00:01:49.22u4m5fh7h0 (1/1)

私待つわ


274 ◆jOsNS7W.Ovhu2014/01/09(木) 00:41:26.905OGn1x0I0 (1/11)

 ――どうして、こうなった。


 私の中に渦巻く思いを言い表すなら、こんなものだと思う。
 いや、そもそも何となく、こういった予感はしていたんだけど。


「えへへ、アリス~!」
「シ、シノ!? そ、そういうことは……でも、いいよ、私も」


 目の前では、普段より更に深い笑顔のまま、アリスを抱きしめようとしているシノ。
 対するアリスも、何かあまり似つかわしくない(すまんアリス……)
 色っぽい表情を浮かべている。


 ……うん、決して普段なら見られない光景だ。


「シノー! アリスー! 仲間に入れるデース!」


 そして、そんな輪に加わろうとするカレンも、顔を赤く染めている。
 そんなカレンは、いつもの明るさはそのままに、「甘え」の色も濃くなっているような……。


 ――さて。


 そんな3人の「姦しい」(以前、綾に教えてもらった表現)光景を見ていると、


「……陽子ぉ」


 考えている間に、何故か私の首筋に手をかける友人の姿がそこにある。


「私、だってぇ……」


 私は、普段と今との綾のギャップに、正直ビクッとした。
 涙目のまま私を見つめる綾の表情。
 恐らく、男子が見たら卒倒するだろう――いや、そもそも綾が男子と話してる所なんて見たことないけどさ。


「――ホントに」


 私は、そんな綾の視線に出来る限り応えながら、再び思う。



 ……どうして、こうなった。


275 ◆jOsNS7W.Ovhu2014/01/09(木) 00:42:33.115OGn1x0I0 (2/11)







――数時間前




陽子「うわあ……」

綾「大きいわねぇ……」

カレン「そうデスカ?」

アリス「カレン、お嬢様だもんね」

忍「お嬢様な金髪少女――」


陽子「いやまぁ、この前のカレンのお父さんの車に乗せてもらった時から思ってたけどさ」

綾「いざ見せられると……本当に」

忍「お嬢様というのも……いいですねぇ」

アリス「シ、シノ!?」

カレン「――」


陽子(もうすぐ、文化祭)

陽子(学生の文化祭というのは、そりゃ多くの生徒にとっては嬉しい)

陽子(というわけで、テンションを高くして、文化祭のあれこれについて話し合っていたら――)


カレン「私の家で、パーティーしマショウ!」


陽子(と、カレンが言うので)

陽子(『前日祭』ということで、カレンの家にお邪魔させてもらうことになった)

陽子(厳密には、すぐ翌日というわけではないけど……まぁ、その辺りは置いといて)

陽子(私たち全員が同意して、今こうして、カレンの家の前にいるというわけ)



カレン「それでは、どうぞ入ってくだサイ」

カレン「明日まで、私以外には家にいまセン」

陽子「――お父さんもお母さんも?」

カレン「ハイ!」

綾「高校生だけで泊まり込み、なんて大丈夫かしら?」

カレン「もう、アヤヤはおカタイデスネ……」

綾「わ、私は、別に!」

陽子「ははっ、綾はマジメだからなぁ」

綾「よ、陽子までっ!?」


276 ◆jOsNS7W.Ovhu2014/01/09(木) 00:43:32.665OGn1x0I0 (3/11)

忍「もう、アリス? そんな顔しないでください」

アリス「だって……シノが、シノが」

アリス(カレンが「お嬢様」だって、そんな目をするからぁ――!)

忍「もう……」ダキッ

アリス「ひゃっ!?」

アリス「も、もう! シノ!」カァァ

忍「ふふっ……」ナデナデ


陽子「おーい、そこの二人組ー? 話、聞いてたかー?」

忍「明日までは、皆さんと一緒ですね」

アリス「カレンのお家にお泊りなんて、久しぶりだなぁ……」

綾(あ、そういえばシノ、こういう所はちゃっかりしてたわ……)

陽子(たまーに、シノの底が見えなくなるんだよなぁ……)




――カレンの部屋


カレン「さぁさぁ、入ってくだサイ!」

陽子「……なぁ、カレン?」

カレン「?」

綾「これ――カレンの部屋なの?」

カレン「ハイ! 全て私の部屋デス……」

二人「……」


忍「私とお姉ちゃんの部屋を合わせたくらい、でしょうか……?」

アリス「いや、多分シノのお家の2階部分全てくらいじゃないかな?」

陽子「いや、ひょっとしたらそれ以上……」

綾「――みんな、言っていてもしょうがないわ。正直、よく分からないもの」

綾「本当に、お嬢様なのね……」

カレン「私、『miss』だったデスカ!」

忍「??」

アリス「『お嬢様』って意味だよ、シノ」


277 ◆jOsNS7W.Ovhu2014/01/09(木) 00:44:10.855OGn1x0I0 (4/11)

 ……まぁ、こういった流れがあって。


 私たちは、カレンの部屋(うん、「部屋」だ)で、ゆっくりと過ごしていた。
 巨大なベッドのふかふか具合にビックリしたり、備え付けられたテレビの画質に度肝を抜かれたり……まぁ、色々とあって。


「さて、それじゃあ――」


 そう、ここから全てが始まった……。



「『Ceers!』と、いきマショウ!」


「……『ちあーず』?」
「シノ、『カンパイ』って意味だよ」


 カレンの言葉にシノがキョトンとし、アリスが説明する。
 シノの通訳への道は、長く険しいものとなりそうだ。
 いやまぁ、私も知らなかったけどさ。


「……『チアーズ』って言うのね」


 ほら、綾が知らないことを私が知ってるわけないし。




「それじゃ、『カンパイ』!」


 カレンがそう号令をかけ(うん、間違いなくその日本語、最初から知ってたな……)、私たちのグラスがカチンと音を立てる。
 部屋のテーブル(これもまた大きいんだ……)に並べられた飲み物は、どれもフルーツ系のものかな?
 

「わぁ、美味しいです……」
「カレン、これ好きだったもんね」


 上機嫌なシノとアリスに、カレンが微笑みかける。


「Yes! パパもこれ、好きなんデス!」
「へぇ、お父さんも……」


 綾も気に入ったらしい。
 うん、私もこの味は好きだ。


「本当に美味しいですねぇ……」
「ふふ、シノもイギリスのジュース気に入ってくれたんだね」


 ああ、こんなところにも見られる日英交流よ……。
 そんな二人の笑顔に綾もクスっと笑い、カレンは次々に飲んでいき、私もそれを見て微笑ましく思う。


278 ◆jOsNS7W.Ovhu2014/01/09(木) 00:45:37.735OGn1x0I0 (5/11)

 ……そして。


「――ほら、アリス」
「ああ、そ、そんなことっ……シノォ」


 今、目の前で展開される光景。
 その二人の友人は、お互い色っぽい表情を浮かべながら、抱きついたまま離れない。


「陽子の、バカァ……」


 で、さっきからグスッとしながら、私のすぐ近くに顔を寄せる綾。


「――なぁ、カレン?」


 綾には悪いけど、一回確認しておきたかった。


「? どうしたデスカ、ヨウコ?」


 シノたちの方へ向かったカレンが、私の方を見てキョトンとしている。
 私は、ジュースの入った缶を掲げてみせて、


「下の方に小さく、『Alcohol 3%』とか書いてあるように見えるんだけど……」


 底の部分を指し示しながら、聞いてみた。


「……アァ」


 カレンは得心がいったという表情で、ポンっと手を打った。


「Sorry……それ、パパも好きなものだったんデス」
「……つまり?」
「私が間違えて、『含まれている方』を持って来ちゃったんデス……」


 ――ああ、なるほど。

 要するに、お父さんの飲む方と間違えてしまった、と。
 まぁ、パッケージが似ていることは珍しくないのかもなー……。


「もう、陽子! 私を無視してぇ……」


 カレンと話していると、更に綾が顔を寄せてきた。
 っていうか、近い近い!


「あ、綾……一旦、引いてくれ」


 荒っぽくならないように綾の手をどかして、彼女の肩を掴み、元の場所へゆっくりと戻した。
 そんな私を綾は「うー……」と、恨めしそうに見ていた。


「ほら、アリス……顔、真っ赤ですよ?」
「あぁ、シノ! な、舐めちゃダメぇ……!」



279 ◆jOsNS7W.Ovhu2014/01/09(木) 00:46:19.985OGn1x0I0 (6/11)

ふと目の前を見てみると、シノがアリスの首筋を舐めていた。
 シノが舌を動かす度に、アリスの身体が艶めかしく跳ねる。
 ――本当に、男子が見たら、倒れこんでしまう勢いだ(二回目)。
 というよりこれって、冷静に考えたら――


「酒に酔った男女が、互いの身体をつつき合う、過剰なスキンシップ」


 とかいうやつじゃないか?
 表向き、女子同士のじゃれ合いだけれど、そういった意味でも問題になりそうだな……。
 ほら、「酔った勢いで――」とかいう話も聞くし。



「……はぁ」


 そんな二人にカレンが混ざり、「シノ! 私も舐いいデスカ?」「カ、カレン! ダ、ダメェ……!」
とか話している光景を見て、「陽子ぉ……」と再び近づいてこようとする綾を見ながら、嘆息してしまった。
 なんで、こんなよくわからない分析をしているんだ、私は……。



 実のところ、私はアルコールを以前にちょこっと飲んだことがある。
 あれは、そう……高校に入学が決まった頃のことだったっけ。
「記念だ」といって、父さんが注いでくれたビールを飲んで、「おおイケるじゃん」とか思っちゃったんだ。


 グビグビ飲んだわけじゃないけれど、その時にわかったことは、私は酒が強いということ。
 うんまぁ、父さんと母さんを見てたら、何となくわかるけどさ……遺伝したんだな、きっと。


 そして、わかったことがもう一つ。
 それは私が「傍観者タイプ」だということ。
 こうして、顔を真っ赤に染めて、それぞれの反応を示す友人たちを見て思った。
 私だけが妙に冷静に、いわば「観察」している。


 もしかしたら、試験前に飲んだら問題もスラスラと……いや、それは絶対にやめておこう。


 だから――


「……もう、陽子ったら、またボーッとしちゃって」


 いや、色んな意味でボーッとしてるのはそっちだよ、というツッコミは抑えて、私は再び綾と向き合う。
 なるほど、綾は泣き上戸タイプらしい。目に浮かんだ涙を見て、そう感じた。
 シノは典型的なテンションが上がるタイプで、アリスは普段と違う態度を見せるタイプ。で、カレンは甘えに転じるタイプか。
 色んな反応があるんだなぁ……。


「――ねぇったら!」


 ヤバい、つい綾への警戒を怠った!
 綾は首筋に手を回す動作を途中で止め、私にぶつかってきた。
 その細い身体のどこにそんな力があったのか。
 気づいたら、私は綾に押し倒される格好になってしまった。


「……なぁ、綾?」
「――」
「なんかさ、泣きそうな顔、してるよ?」


 そりゃ、泣き上戸タイプなら、そうだろう。
 けれど、なんだか……綾の涙目は、それだけじゃないような気がした。


280 ◆jOsNS7W.Ovhu2014/01/09(木) 00:46:53.855OGn1x0I0 (7/11)

「――だって」


 綾は少し首を振ってみせると、再び私に顔を寄せる。
 近くにやって来た友人の顔に、私は出来る限り真摯に応じようと思った
(さっきから綾をどこか蔑ろにしていた罪悪感かもしれない)。


「陽子が……陽子が!」


 悪いのよ、と綾は絞りだすように言う。
「?」としてしまったのは言うまでもないだろう。
 私が、悪いことを?


「――ごめん、綾。何か悪いことしたんなら謝るよ。ほら、私ってバカなトコあるからさ」


 普段なら冗談めかして言うところをスラスラ言ってしまえたのは、綾の表情が真剣だったこともあるだろうけど
 恐らく私にもアルコールの効力が出てきていたんだろう。
 ほら、何かお酒を飲むと、饒舌になったりする人はいるみたいだし。


「だから……泣かないで?」


 泣き上戸なことを分かりながら、こんなことを言うのは酷だろうか。
 とはいえ、綾のことを放っておけなくなっちゃったみたいだ。


「――そういう、所が」


 少しの間の後に、綾は再びグスッと洟をすすりながら言う。


「そういう所が、ズルいのよ、陽子は……!」


 そういう妙な所で気が利いて、変な所で優しくて、それでそれで――
 堰を切ったようにまくし立てる綾は、本当に別人のようだった。
 なるほど、酒は麻薬なわけだ。


「あ、あはは……そ、それはともかく、その――」


 そろそろ重いんだけど、なんて台詞が過ぎってしまったことに罪悪感を覚えた。
 とことん、今の私は甘くなっているらしい。


「……話、聴くよ。だからさ、その……この体勢じゃ、色々と」


 恥ずかしいよ、と言ったら、綾はキョトンとした、ように見えた。
 そして、


「――!」


 ほんの一瞬我に返ったのか、バッと私の上から向こうに跳ねた。
 そして、数秒間、顔を伏せたままだったものの……


「――聴いて、くれるの?」


 その上目遣いの表情を見るに、うん、やっぱりまだ酔っ払ってるんだな……。


281 ◆jOsNS7W.Ovhu2014/01/09(木) 00:47:21.315OGn1x0I0 (8/11)

向こうで、姦しくスキンシップをとっている友人たちの声が聞こえてくる。
 ……うん、正直、向こうが気になってしょうがないところもあった。
「だ、ダメッ!」「OH……シノ、大胆デス」「アリス……ここは小さい、けれど」なんて、気にならないわけがないだろう。
 というか、ホントにシャレにならないだろ!
 まずいな、そろそろ――


「綾、ごめん! ちょっとまって、て……」


 私が3人組に割って入ろうと立ち上がると、綾は私の服の裾をキュッとつまんだ。
 その力は弱かったけれど、なぜだか振りきれなかった。


「……いつも、そう」


 私が綾を向いたままでいると、綾は俯きながら訥々と話し始めた。


「いつも――シノ『ばっかり』」


 ……シノ?


 そりゃそうだろう、綾。
 私たちは、シノを友人としてサポートするということを誓い合った仲じゃないか。
 シノのことが心配なのは当たり前――
 ……『ばっかり』?


「陽子は、私を見てくれないの……?」


 綾は、顔を上げ、涙目のまま心細そうに私を見つめる。

 服をつままれた時に思い出した。
 それは、中学生の時に綾が転校して、クラスに馴染めずにいた頃のこと。
 「一緒に帰ろう」と呼びかけた下校の際に、後ろから私の制服の裾を摘んできた思い出が蘇ったから……
 私は、それを振りきれなかったんだ――。


「――シノは、私より、大事?」


 綾の目に、私は射止められてしまったような気がした。
 その透明な涙が、私の心にそのまま落ちてくるみたいな、そんな感覚。
 ……うーん、これは、なぁ。


「……いいか、綾?」


 私は、綾の肩を優しく掴んだ。
 ビクッとする綾に顔を寄せ、はっきりと言う。


「私は、シノのことは――」


282 ◆jOsNS7W.Ovhu2014/01/09(木) 00:47:52.685OGn1x0I0 (9/11)







 ――あれ?


「……?」


 目を開けてみると、辺りはシーンとしていました。
 近くには、少しだけ服装が乱れた、愛する二人の金髪少女。
 二人は仲良く手を繋いで、スースーと寝息を立てています。
 

「――可愛いですねぇ」


 そんな二人の頭を撫でると、「うぅん」と声を上げて、寝返りを打ってしまいます。
 本当に、愛しくてたまりません。
 正直、「その服装をもう少し……」と邪な気持ちが働いてしまいましたが、さすがにマズいという気持ちは私にもありました。
 だから、優しく見つめるにとどめておくことにしましょう。


 さて、視線を変えてみると、そこには――


「……あ」


 二人の、友人の姿がありました。
 陽子ちゃんは壁に頭を寄せながら、静かに眠っています。
 そして、そんな陽子ちゃんの膝に――


「――よう、こ」


 ちょうど膝枕になる格好で、綾ちゃんも眠っていました。
 そんな二人の姿は、こちらの金髪少女二人組とはまた違った意味で、絵になりそうな光景です。


「……」


 ゆっくりと、私は立ち上がりました。
 その際、少し頭がズキンとしたことで、「もしかしたらさっきの飲み物は……」とようやく得心がいきました。
 道理で、理性が言うことを聞きにくくなっていたわけです。


 そして、二人の元へと歩いていきました。
 足取りは確実に、誰も起こさないように静かに、静かに――


283 ◆jOsNS7W.Ovhu2014/01/09(木) 00:48:31.015OGn1x0I0 (10/11)

「――陽子ちゃん、綾ちゃん」


 ――私は、シノのことは――


 なぜだか、この言葉は脳裏に残っているようです。
 アリスやカレンとじゃれ合っている中、どうしてかこの陽子ちゃんの声だけが――


「……もう」


 スッと、陽子ちゃんの髪の毛に手を伸ばします。
 「んん」とほんのちょっと声を上げますが、起こさない程度の加減のまま、ちょっぴり撫でました。
 続いて、綾ちゃんの綺麗に揃えられた髪にも――


「……」


 どうしてでしょうか。
 どこか複雑な気分がしてしまうのは。


 その答えは、また後で考えましょう。
 とにかく今は、ゆっくりと寝ることが大切なような気がしました。


 金髪少女の元に戻り、私は静かに二人の間に横たわります。
 二つのいい匂いをすぐ近くで感じられる喜び。
 それを噛み締めながら、私は再び目を閉じて――










 ――シノの、ことは……――



 



 ――大事な、『友達』だって、そう思ってるよ――


284 ◆jOsNS7W.Ovhu2014/01/09(木) 00:52:49.755OGn1x0I0 (11/11)

ここまでです。
酒に酔った勢いで書いたら、長くなってしまいました。


今回の構想は、ネタが浮かばないので本棚を見てみたら『ひだまりスケッチ』の1巻が見えたことに起因します。
「そういえばチューハイ飲んでたっけ……」という漠然とした思いつきで、書いてみたらかなり筆が乗ってくれました。
あくまで自分の中でのキャラが酔ったイメージで、皆さんのイメージとは異なるかもしれません。


それでは。
次回はおそらく文化祭かもしれません。


285以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/10(金) 21:34:46.10bWR2u9SM0 (1/1)


シノ達は何処までやったんですかね


286以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/11(土) 00:20:57.87fcW/ODXGo (1/1)




287以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/12(日) 01:27:20.88LRXi86cuo (1/1)

乙!


288以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/12(日) 23:25:51.35jBUzXUV7o (1/1)


このシノは自分を女だと思ってるレズなの?


289 ◆jOsNS7W.Ovhu2014/01/14(火) 01:44:29.799SihSa360 (1/1)

感想ありがとうございます。

>>288
その解釈で、大体当たりかと。
自分が男ということは自覚しながらも、女でありたいと振舞っている大宮忍さんが、このSSの主人公です。
そして、そんな彼(女)に翻弄されながらも、親しく付き合っている少女たちのお話という感じです。


今回は投下はありませんが、次回はもしかしたら文化祭の準備編になるかもしれません。
もうしばらくお待ちください。
……何か良い案がありましたら、採用したいとも考えています。


290以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/14(火) 14:17:10.71t+wUFjKQ0 (1/1)

オカマだったか


291以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/30(木) 14:57:27.67f/jmyaPJ0 (1/1)

提案
ラッキースケベ的な展開を見たい


292 ◆jOsNS7W.Ovhu2014/02/04(火) 00:54:58.519OpMIHC20 (1/1)

>>291
提案、ありがとうございます。
今、文化祭の話を執筆しています。役立てられるよう、頑張ります。

恐らくですが、このSSは1年次で一旦区切りということになるかもしれません。
というのも、リアルが忙しかったり、久世橋先生を上手く書けるか分からないためです。
予めご了承下さい。

いつもレスして頂き、本当に感謝です。


293以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/04(火) 10:20:15.63RVNvywgmO (1/1)

俺は待つぜ


294 ◆jOsNS7W.Ovhu2014/03/03(月) 08:27:54.3523WYE10o0 (1/1)

申し訳ありません。
ようやく復活しましたが、もうしばらくお待ちを……。


295以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/03(月) 19:51:57.58jy1HndATo (1/1)

まってるよー


296以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/05(水) 12:27:36.81ia6NLGdlo (1/1)

いつまでもまーつーわー


297以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/22(土) 10:22:10.88/h+SNKFuo (1/1)

待ってる


298 ◆jOsNS7W.Ovhu2014/04/04(金) 12:08:10.50lsIURwo30 (1/1)

二期、やるみたいですね。
嬉しいものです。

しかし、未だに復調ならず……せっかくの朗報なのに。
今しばらくお待ちください。


299VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/07(月) 21:29:20.397wHCs5Kt0 (1/1)

おk


300VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/13(日) 01:41:08.61YIK/hs4f0 (1/1)

待つよ


301VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/16(水) 20:11:49.16URJSDT9F0 (1/1)

まだですか?


302VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/19(土) 01:17:23.49c4bTDPmr0 (1/1)

2期おめ


303VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/19(土) 06:00:01.84lomnAXNRo (1/1)

続編・・・

二期なのかなぁ・・・


304VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/19(土) 10:44:48.53mmJI8PsAO (1/1)

正式に二期と決まったらしい
ソースはアニメ公式のTwitter


305 ◆jOsNS7W.Ovhu2014/04/29(火) 00:01:28.59iwt86xj20 (1/4)

文化祭。
 私たちのような高校生にとって、何とも胸が躍るイベントではないでしょうか。
 中学の頃は綾ちゃんと陽子ちゃんと、楽しんだ記憶があります。
 そして、高校では――

「……? シノ、どうかしたの?」
「いえいえ」


 いけません、ついつい凝視してしまっていました。
 朝の光を浴びて、視界の中で映える金色の髪。
 それはまるで、奇跡のようなバランスで――


「こらこら、シノ」
「わっ」


 ポンッと肩を叩いたのは、大切な私の友達でした。
 陽子ちゃんは溜息をつきながら、


「公道で、あんまりジーッと見ちゃダメだろ?」
「うう……すみません、陽子ちゃん」
「――ま、聞き分けのいいのは、シノの良い所だけどな」


 そう冗談っぽく言って、ヘヘッと笑う陽子ちゃん。
 そんな彼女に、私は何度助けられてきたでしょうか……。






 ――少し離れた所から、私は先を行く三人を見つめていた。
 シノの冗談にアリスが顔を赤らめ、それを陽子が優しくたしなめる。
 そんな、どこまでも仲睦まじい三人組を。


「――うーん」
「どうかしマシタ、アヤ?」
「ひゃっ!? カレン?」


 ビックリした。
 その特徴的なカタコト口調に反応してそちらを見れば、予想通りそこにいたのはカレンだった。
 カレンは、相変わらず可愛らしいキョトンとした表情を浮かべながら、私を見つめている。


「うーんと、ね……その」
「シノとヨウコ、デスカ?」
「……わかっちゃうの?」
「バレバレデス」


 そう言って、クスクスと笑ってみせる。
 相変わらず、憎めない英国少女だ。


「But……アヤは心配しスギデス」
「そう、思う?」
「ハイ」


 そう言って、腕を広げてターンし、笑顔を浮かべてみせる英国少女。
 そんな彼女は本当に自由で、その奔放さが私はちょっと羨ましい。


「私とアリスは、シノが好きデス」


 ほんの少しボリュームを落として、カレンは私に言った。
 さっきまで浮かべた満面の笑みを浮かべながら、はっきりと。


306 ◆jOsNS7W.Ovhu2014/04/29(火) 00:02:02.26iwt86xj20 (2/4)

「うん、知ってるわ」
「アヤは、どうなのデスカ?」
「――そう、来るのね」


 そっか、私の気持ちか。
 前方を見れば、彼女は二人の友人と喋りながら、屈託のない笑顔を見せている。


 ――どうして、陽子は……私の、こと――


 ふと思い出した記憶は、私の体温を上げるのには十分すぎた。
 いけない、まだあの時のことを忘れられていない……。
 

 でも、あの時の問いかけを、本当に忘れていいのか。
 そのことを、帰った後で考えた。
 その結果……私は、「ちょっとした」答えを出したのだった。


「……ありがと、カレン」
「What?」
「思い出させて、くれて」


 そう言って、私は空を見上げる。
 本日は晴天なり――
 文化祭初日に、おあつらえ向きの天気だ。



「わぁ……」
「ついに、って感じだな」
「すごーい……」


 校門には、色とりどりのデコレーションが施されており、観る人の気分を上げていた。
 一方から一方へかけられたアーチが掲げるは、「ようこそ! 〇〇高校文化祭へ!」というアート。
 後からやって来た綾とカレンも、それを見てウットリとしている様子だった。


「――綾は、こういうロマンチックなの好きだもんな」
「……陽子」
「? どした?」


307 ◆jOsNS7W.Ovhu2014/04/29(火) 00:03:06.72iwt86xj20 (3/4)

おや、おかしい。
 いつもならこんな風にからかったら、「そ、そんなこと!」とか言って顔を赤らめるようなものだけど……。


「――そ、その」
「……」


 モジモジとする友人は、何を思っているんだろう。
 付き合いの長い方の私も、時々分からなくなってしまう。


「……や、やっぱり、なんでもない!」


 逡巡した末に、綾はピューッと昇降口へ走って行ってしまった。
 しかしまぁ、後ろから見ても耳が真っ赤だ。
 まるで、カレンの家での「前日祭」の時みたいに――



 ――私だって、陽子が……!――


(……な、何を思い出してるんだ、私は!)


 いかんいかん、これはマズい。
 どうして、あの光景がフラッシュバックするんだ!


「……陽子ちゃん」
「シノ?」
「あ、大丈夫ですよ、アリス。今日も可愛いですね」
「……それ、寝起きから10回くらい聞いたよ」