411 ◆owZqfINQN1ia2014/02/02(日) 12:46:30.60rMwp2u+So (18/25)






「でも、」

「俺はもう、間違えたくはない。」

「嬉しいって思ったことも、辛いって思ったことも、それは俺のものだから、」

「もう、俺は手放さない。」







412 ◆owZqfINQN1ia2014/02/02(日) 12:50:41.73rMwp2u+So (19/25)


安っぽい飴のようにぎらぎらと光を湛えているだけのように思っていた女の目が、確かに違った色を見せた。宝石のようだ、という表現も当たらない。そんな無機質な光ではない。それは意思を持って生きているものにしか宿らない色だった。

「お前は、」

「俺を全否定したいのかよ。」

喜怒哀楽も、何もかもごまかして、まるで自分には縁のないもののように振る舞うことで自分が自分で在れる男は、ひとりごとのように呟いた。女にそのつもりはなくっても、間違いなくその決意は男にとっての暴力であった。
しかし彼女は何も言わなかった。そんなつもりはないと否定するつもりだったのか、それとも追い打ちを掛けるように皮肉を言うつもりだったのかは分からないが、かは、と声にならない声を出して、そこから先は続けることができなかったらしい。はあ、と酷く苦しげな息を吐いた。

「少しは寝ろ。まだやることは残ってるんだろうが、そんな状態じゃどうにもならないだろ。」

こんな状態で問答を続けたって何の意味もない、と判断した男は、ギブアップを告げた。説得は諦めたから好きにしろ、というほどの意味である。
男は抱きかかえたままにしていた彼女を床に寝かせた。本当であったら柔らかいベッドに寝かせてやりたいところだが、彼女は滝壺理后の能力からも逃げられるように作ったこの空間から出たくはないのだろう。この部屋は本棚があるだけであるから、寝るのに適しているとはお世辞にも言えない。



413 ◆owZqfINQN1ia2014/02/02(日) 12:59:51.03rMwp2u+So (20/25)


男は立ち上がって部屋を出たかと思うと、コンビニのビニール袋と厚手の毛布を持って戻ってきた。コンビニ袋からミネラルウォーターのボトルだけを取り出して横になったままの彼女の頭の脇に置いたところを見ると、飯食うのはしんどいかもしれないが、水分くらい取れ、と言いたいのだろう。厚手の毛布もそれはもう丁寧に彼女の体に被せてやったのだが、らしくないことをしている自覚はあったらしく、難しい表情をしたまま口を開こうともしなかった。

「ありがと、」

気まずい空間から逃げ出すようにさっさと部屋を出ていこうとした男の背に、彼女がぽつりと声を掛けた。ごく一般的な謝意を示す単語であるが、彼女がそんな言葉を口にするのを初めて聞いた男は、嬉しくなったというよりもまず驚いた。
体調の悪化に伴って気が弱くなっているというわけでもないだろう。それならそもそも誰か呼ぶか、という彼の提案を断るほどの気概はなかった筈だ。体調などにはかかわりなく、素直に礼を言えるような人間になった、ということなのだろう。
ベクトル変換という万能の力を「反射」という何もかもを拒絶するだけの形に集約させたということからも伺える、酷く頑なな性格である彼女に、こんなにも簡単に大きな影響を与えることができる人物に嫉妬する気持ちは少なからずあった。だけれども天変地異かと思うほどに珍しく素直な彼女相手にその嫉妬心をぶつける気分にもなれなくって、男は全く冗談ではないことを、なるべく冗談に聞こえるように言って部屋を出て行った。

「そんな可愛いこと言われちゃったら、お前のこと諦めらんなくなっちゃうかもにゃー。」



414 ◆owZqfINQN1ia2014/02/02(日) 13:12:17.99rMwp2u+So (21/25)


部屋を出て直ぐに家に帰る気にもなれなかった男は、冷たい風に晒されるのも厭わずたまたま通りがかりに見つけたベンチに座り込んだ。振られる以前に最初っから負けていた試合ではあるが、こんな臍曲がりの男であっても失恋というのは堪えるものなんだなぁ、と他人ごとのように思う。
最初っから成就なんてすることはないと分かっていた。ショックなのは振られたことではなく、置いて行かれたことだ。異性として求められることはなくとも、同じ穴の狢として慰めあうことぐらいはできると思っていた。彼女はいつの間にやら、そんなものも必要としないほどずっと向こうを歩いていた。

(たまには感傷に浸るのも悪くないけど、)

(やることはやんないと、)

そもそも今の目的は恋愛の成就ではなく、能力使用もままならず得体の知れぬ不調に悩まされて死の淵に近づいている彼女を無事に本来の環境に戻すことである。
しかし彼女は彼の助けを必要としないらしい。恐らく既に、彼女は解決のための道筋を見付けているのだろう。だけれど道を知っていたとしても、あの状態ではその道を辿ることすら容易でない筈だ。



415 ◆owZqfINQN1ia2014/02/02(日) 13:12:44.54rMwp2u+So (22/25)




「さあて、」

「振られた腹いせに、あいつの大っ嫌いなお節介でもしてやろうかねえ。」





416 ◆owZqfINQN1ia2014/02/02(日) 13:13:13.30rMwp2u+So (23/25)






「お姫様は素直に王子様に助けられるもんだぜい?」







417 ◆owZqfINQN1ia2014/02/02(日) 13:16:48.36rMwp2u+So (24/25)


―自分の手助けは要らないらしいが、第七位が手を差し伸べてくれば、無下にもできないだろう

彼を魔術だとか暗部だとかそういったものに関わらせたくないらしい第一位に対する最高の嫌がらせを、彼は思いついたようだった。



418 ◆owZqfINQN1ia2014/02/02(日) 13:26:55.84rMwp2u+So (25/25)


はぁ、やってしまった…
これ色々と大丈夫だろか…

>>155あたりで話題にした「つっちー振られるか振られないか」問題の>>1なりの答えがこれです。>>155訊いたときには既にこの流れは考えておりました。
つっちーが素直に「好きです付き合ってください」なんぞ言うわけはないんだけど、明らかな告白ではないにしろ、どう考えてもそうとしか聞こえないことを思わず言っちゃうような、そういう演技しきれない部分があってほしいなあ、とは常々思っていて。
もうここのパート語りだすと長くなるのでこれ以上は何も言いませんが。

次からはちゃんと削百合するよ!


419以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/02(日) 16:42:01.16ClJGYEbHo (1/1)

乙です


420以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/02(日) 19:18:37.46tUmThyih0 (1/1)

乙乙
次も待ってる


421以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/02(日) 19:55:22.19GUMSkwZV0 (1/1)



つっちーはソギーにも
嫌がらせすんだろ
間違いなく


422以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/02(日) 22:49:58.220eawqQzDO (1/1)

ほんと乙です
ただでは転ばない辺りさすがつっちー
土→百合にゃんパート激しく萌えた



423以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/03(月) 16:20:13.4573lCKQl00 (1/1)

乙です



424以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/04(火) 23:08:09.11SPGpIRjh0 (1/1)

思いの外つっちーが純情というか、ウソツキの垣間見える本音に萌える。
つっちーかっこいい
乙ですです


425 ◆owZqfINQN1ia2014/02/05(水) 21:52:15.004mJ4YP3Ao (1/1)

どうも>>1です、こんばんわ。
つっちーのキャラ捏造しすぎたか、と内心gkbrでしたが概ね好評みたいでほっと安心しております。

純情というか熱血というか、そういう部分を装いつつ、ギリギリでつっちーのズルさは演出しているつもりです。「お前が好き」という自発的なことは言わずに、「俺を選べ」って言い方をして、百合にゃんの行動を要求しているんですよ。その後のセリフも含めて、自分は何もせずに百合にゃんに選ばせて行動させようとするという、しっかり自分の逃げ道は作ってるダメ男です。
その一方で、つっちーのキャラ作りには新約7巻をかなり反映させました。あれを読むまでは舞夏に何かあっても平静を装おうとするタイプだと思っていたのですが、新約7巻以降、一回スイッチ入ると感情のままに行動することに抵抗ない人物だと思うようになりました。感情に流されるというのではなく、確信を持って感情に従うことができるというイメージですね。ある意味ではソギーと似た性格にも集約できるなぁ、と書きながら思っていました。

さて、次回からは漸くソギーの出番です。
土百合に関しては本編で描くことはもうない筈です。小ネタではちょくちょく扱うと思いますが。

ではでは、次の投下までノシ


426以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/07(金) 20:21:14.06s+cAaDtg0 (1/1)




427以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/07(金) 20:35:11.27OEj1mcUko (1/1)

把握


428以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/08(土) 08:33:52.95AHLAPzJ20 (1/1)



ひさびさにソギーの出番か


429 ◆owZqfINQN1ia2014/02/08(土) 17:42:32.63Y0Pycakzo (1/17)

凄い雪ですなぁ。北国出身の都心住まいなので出歩けないということはないのですが、引き篭もっています。

某地獄アニメでつっちーの中の人が稲●淳二風に怪談していたのが妙にツボに嵌まってしまい、「つっちーが淳二風に怪談話する夢とか見そう…」とか思っていたのですが、毎晩夢も見ぬほどに爆睡です。因みに一方さんの中の人につられてアニメを見ると、大概予想していたのと違う感じの演技で勝手に裏切られたような気分になりますが、自分だけではないと思いたい>>1です。


430 ◆owZqfINQN1ia2014/02/08(土) 17:44:19.30Y0Pycakzo (2/17)


「インデックスちゃーん。」

翌日のことである。
昼近くなった頃、昨日と同じように仮病で学校を休んだらしい隣人が上条のいない部屋に訪ねてきて、聞きようによっては愛嬌があるのかもしれない猫撫で声を上げた。



431 ◆owZqfINQN1ia2014/02/08(土) 17:44:50.72Y0Pycakzo (3/17)




まずは昨日からの彼の行動について、インデックスが知る限りを思い返してみよう。

義妹が訪ねてきたときには彼が部屋を留守にしていたのは御存知の通りで、夕方頃心配した上条がメールをすると「病院行ったらそのまま一晩入院しろって言われたんだぜい」などという気軽なメールが返って来た。因みに学園都市内の医療機器は外のそれより優秀であり、携帯の電波なぞものともしないので、彼が本当に入院していたとしても携帯が使えていることに不思議はない。そもそもインデックスは入院している人間が携帯を使用していることに違和感を感じるほど電子機器に馴染んでいないけれども。
そして今朝、上条が学校に行った後にどこからか帰って来たらしく―少なくともインデックスは病院からではないと思っている―隣の部屋の玄関ががちゃがちゃと鳴る音がした。

以上がインデックスが把握している土御門元春の昨日から今日にかけての行動である。





432 ◆owZqfINQN1ia2014/02/08(土) 17:45:51.57Y0Pycakzo (4/17)


「どうしたの?まいかから差し入れ受け取ってるけど。」

なるべく平静を装うつもりだったけれど、幾らか刺のある声色になってしまった、とインデックス自身は思った。彼が自分に隠れてこそこそと何かやっているのはいつものことであり、普段ならなるべく気にせず過ごそうと努めているのだが、大切な友人である一方通行が関わっているらしいとなれば別である―因みに彼がこそこそと何かをやっているときは上条を巻き込むことが多いのだが、上条に関しては土御門が画策するまでもなくトラブルに巻き込まれるので、上条に振りかかるトラブルについて土御門に対して怒りを覚えるようなことはないらしい。

「食べないでくれてありがとにゃー。」

「私ととうまの分は、別にあったからね。」

実際には病人でない彼に病人食を渡したところで物足りなく感じるのではないかと思ったが、彼はタッパーの中身を確認するとふっと穏やかな笑顔を浮かべた。本当の兄のような表情ができるのに、何で―インデックスはそう思っても、訊ねられなかった。
自分だって、似たようなものなのだ。思うままには生きられなくて、今現在はたまさか恵まれているために望むように上条当麻と暮らしていられるだけなのだ。思うままに生きることを選べない彼を否定することは、或いは1年前や、そのまた1年前の自分を否定することでもあったから、彼女は疑問をそのまま言葉にすることを躊躇った。



433 ◆owZqfINQN1ia2014/02/08(土) 17:46:22.83Y0Pycakzo (5/17)


「食べないで取っておいてくれたお礼に、これ。」

彼が差し出してきたのは、彼女の小さな掌に収まるほどの手書きのメモだった。どこかの建物の住所と、部屋番号が書かれている。

「これは、」

問い正すまでもなく分かっている。「彼女」の居場所を記した宝の地図だ。

「昨日言ったろ?慌てるな、って。」

「今直ぐ、行っても大丈夫なの?」

「むしろ今直ぐ行ってやらないと大変なことになるかもにゃー。」

彼がそう答えるが早いか、彼女は家の鍵も閉めずに飛び出して行ってしまった。その小さな背中に、彼は一応忠告しておいた。

「そこに行く手前に不良だらけの地域があるから気をつけるんだぜい、」



434 ◆owZqfINQN1ia2014/02/08(土) 17:46:48.58Y0Pycakzo (6/17)




「って、聞こえてるわけ、ないんだけどにゃー。」

聞こえていない方がありがたい、と言わんばかりに彼は大層意地の悪い笑みを浮かべた。
何せこれで、彼の嫌がらせは十中八九達成したと言えるのだから。





435 ◆owZqfINQN1ia2014/02/08(土) 17:48:09.88Y0Pycakzo (7/17)




その十数分後、土御門元春の予想通りというか、別に彼が何か画策したわけではないのだが、インデックスは不良の多く屯する裏道で迷っていた。
完全記憶能力を有する彼女が道に迷うことなど、そもそも行き先が不明瞭でもない限りはありえないことなのであるが、何故かこの街に来てからは珍しくない。この街には奇妙な力が蔓延していて―それこそAIM拡散力場であるとか―彼女の鋭敏な感覚はそういったものに惑わされているのかもしれないのだけれど、今はその原因を突き止めることよりも優先すべきことがあった。
因みに上条の学生寮からメモの場所に行く場合、余程迂回しなければ不良の多い地域を避けることができない、ということは土御門元春だけが知っている事実であった。

細い路地の入り組む地域で本格的に彼女が途方に暮れ始めた頃、遠くで複数の男性が怒鳴り合うような声が聞こえた。どこか、そう遠くない何処かで誰か喧嘩でもしているらしい。魔術師同士の争いであるとか、荒事には案外慣れている筈の彼女も、ただ一人きりの状況に肩をびくりと揺らした。
どちらに進もう、いっそ今来た道を戻ろうか―入り組んだ廃ビルの壁に人の声が谺して、喧嘩しているらしい人物たちがどちらの方向にいるかもよく分からず、あたふたとしているうちに声が近付いてきた。その途中で声が途切れ、足音が1人分だけ近付いてくるのが分かったが、近付いてくるその方向が特定できたときにはもうすぐ後ろにその足音が迫っていた。
は、とインデックスが息を呑む。



436 ◆owZqfINQN1ia2014/02/08(土) 17:49:35.80Y0Pycakzo (8/17)


「―インデックス?」

背中の方から聞こえたのは、知っている声だった。

「お前こんなところで何やってるんだ。」

咄嗟に背中の方を振り返ると、タンクトップに白い学ランを羽織っただけの軽装の少年が立っていた。迫ってくる足音の間隔は明らかに全速力で走っているものだったけれど、彼の息は全く乱れておらず、頬にも上気したようなところはない。いつか一方通行に訊ねたとき、彼の能力は身体能力強化に近い―それ以外にも色々できるらしいが―と言っていたのを思い出した。

(そうだ、あくせられーた、)

混乱していた彼女は、自分が今一方通行を探していること、そして彼が一方通行と非常に親しい関係であることを思い出した。

「本当にどうしたんだ、」

答えもできずに狼狽えるこちらを心配しているのだろう。ここで何をしているんだという簡単な問いに即座に答えられなかったインデックスを、少年は困ったような表情で覗き込んだ。

「それは、その、」

果たして彼にこんな場所を彷徨っていた理由を告げていいものか、彼女は躊躇った。一方通行が行方を眩ませた理由に、彼も含まれていると思ったからである。これから自分が行こうとしている場所を彼に知られてもいいのだろうか、彼女は咄嗟にそれを判断することができなかった。



437 ◆owZqfINQN1ia2014/02/08(土) 17:50:38.02Y0Pycakzo (9/17)


「どうした?何か人に言いづらいことでもあるのか。」

普段だったなら彼はそれ以上問い詰めず、それでもインデックスを安全な場所まで送り届けてくれただろう。けれども幸か不幸かその瞬間、頑なに握られていた彼女の右手から、小さな紙切れのようなものが零れ落ちた。

「何だ、これ。」

「あ、」

インデックスが止めるまでもなく、彼はそのぐしゃぐしゃになった紙切れを開いた。

「それ、」

見ちゃダメ、とインデックスが言うよりも先に彼はその内容をはっきりと理解したようだった。

「これ、大事なものだよな。」

「そこ、俺も一緒に行っていいか?」

彼の表情が今まで見たこともないものに変わるのを、インデックスははっきりと目撃した。



438 ◆owZqfINQN1ia2014/02/08(土) 17:53:05.71Y0Pycakzo (10/17)




「ぐんはは、最初から気付いていたの?あくせられーたが、そこにいること。」

「そういうわけじゃないけど、あいつが学園都市から出てるとは思えなかったから、ずっと探してた。」

一方通行の性格ならば例え自身にどんな危機が迫ろうとも、容易に打ち止めたちを置き去りにするようなことはないだろう。入念に準備をした末ならともかく、こんなに慌ただしく行方を眩ませたなら、まだ打ち止めたちの状況を把握できるこの街の中にいる筈だ―彼はそう考えていた。
学園都市内で、かつ捜索の目を掻い潜れる場所に彼女は身を隠している。そんな場所を新しく用意するような余裕もなかっただろうし、そうなると疑わしいのは嘗て使っていた暗部時代の隠れ家であった。
いつか自分を突き放そうとして洗い浚い当時のことをぶち撒けた彼女の言葉から、そういう場所が幾つかあるのは予想できていた。暗部時代の同僚である結標や海原との面識もあったけれど、彼らに直接彼女の行方を確認することはなかった。彼らは必要とあらば自分を相手取っても一方通行の居場所を隠し通すだけの胆力と理由があると思ったからだった。
だから彼が先ず手を付けたのは、運転だとか後始末だとかをしていただろう下っ端共だ。彼らに隠れ家の場所を聞いては忍びこむを繰り返していて、つい先程入手した情報の中に、インデックスが握っていたメモの住所も含まれていたのだ。

その場所がなかなか特定できなかったのは、学園都市から提供されたわけではなく、土御門が個人的に用意した部屋だからであった。つまり学園都市から用意された運転手などがそこに彼らを送り届けることは殆どなかったのだ。偶然に、たった一度だけ誰かに頼まれた道具を送り届けたことのある人物が見付かって、彼はその場所を知った。それがついさきほどのことである。



439 ◆owZqfINQN1ia2014/02/08(土) 17:53:51.72Y0Pycakzo (11/17)


「私が、このメモを誰から貰ったのか、訊かないんだね。」

インデックスを背に負って走る少年の背中に、ぽつりと呟く。

「訊かれたら困るんだろ?あのメモ、そもそも俺に見せたくなかったみたいだし。」

「俺は勝手にそこに行くだけだから、インデックスと会ったことも、たまたま見ちゃったメモも関係ない。そうだろ?」

彼はインデックスがそれ以上を問われても答えられないことを予め知っているかのように、酷く優しい嘘を吐いた。

「ぐんは、」

「何だ?」

「多分、あなたはこれから行く場所で見慣れぬものを見ることになると思う。」

「だけれど、私にもあくせられーたにも、それについて何も訊かないでほしいの。」

「それがあくせられーたにとっても、あなたにとっても、必要なことだから。」

インデックスが予想する通りの状況なら、その場所はこの街の常識というよりも、別の世界の常識に染まった場所の筈である。それは彼には見慣れぬもので、当然疑問に思うことがたくさんあるだろうけれど、それを深く知ることは彼にとって危険なことでもある。
その危険を避けんがために単独行動に出たのだろう一方通行の気持ちを尊重するために、これは必要な約束だった。

「そっか、」

「分かった。」

ごく当たり前のことのように、それを受け入れた彼が、酷く眩しかった。



440 ◆owZqfINQN1ia2014/02/08(土) 17:55:12.22Y0Pycakzo (12/17)




メモに書かれていた場所は、セキュリティのしっかりしたマンションであった。
鍵を持っている人間か、インターホンを使って招き入れられた人間にしか立ち入ることはできない。非常階段は外側から忍び込むことができるような場所にはなく、外廊下など、とにかく他にも外から入り込めるような構造物はない。打ち止めか、誰かしら妹達がいれば大分状況は違うのだが、色々と便利に使える能力を有するとはいえさすがに発電能力は持たない彼には侵入の難しい状況であった。

「インデックス。部屋、何階だっけ。」

「え、3階だけど?301号室。」

「分かった、」

「舌噛まないように気をつけてな。」

そう言うが早いか、彼はインデックスを小脇に抱えて3階のベランダに飛び移った。

「ひゃ、」

そこそこ荒っぽい扱いに慣れている彼女の反応は、可愛らしい声を一つ上げただけであった。



441 ◆owZqfINQN1ia2014/02/08(土) 17:56:56.16Y0Pycakzo (13/17)


咄嗟に閉じた瞼を恐る恐る開けたインデックスは、ベランダと目的の部屋を隔てるガラス戸に、奇妙な気配を感じた。

「ぐんは、ここ、」

「この部屋、何でもいいから、入り込んで!」

インデックスは元から大きな目を溢れんばかりに見開いて、強い口調で訴えた。少年は、急に様子の変わったインデックスに戸惑っている様子だった。

「何でもいいって、」

「本当に、何でもいいの!!」

幸いにも、その部屋に施されていた人払いは物理的な破壊には弱い性質のものだった。
魔術が働いている今の状況では、インデックスと削板に見えているガラス越しの部屋の中の様子は、実際の部屋の中の状況と異なるに違いない。実際にこの部屋の中にどんな光景が広がっているのか、想像を巡らしたインデックスは怖気すら感じた。

「何でもって言うなら、ガラス割っても大丈夫か?」

「うん、速く!急いで!!」



442 ◆owZqfINQN1ia2014/02/08(土) 17:58:38.23Y0Pycakzo (14/17)


かしゃん、

硝子が澄んだ音を響かせて崩れた後に見えたものは、窓の外から見えていたものとまるで違っていた。

「何だこれ、」

窓の外から見えていたのは、何もない空き部屋であった筈なのに、実際部屋に入り込んでみると、狭い部屋は本棚で埋め尽くされていた。光学系の偽装を可能とする能力者の仕業だろうか、だけれども彼にとってそんなことはどうでもいいことで、一番肝心なのはその部屋の隅っこにこんもりと作られていた毛布の山である。

「百合子、」

その中身を確かめるよりも先に、彼は慌てた様子で名を呼びかけた。中身を確かめるまでもなく、彼にはその正体が自身の宝物であることが分かったのだろう。

「大丈夫か。」

咄嗟にめくり上げた毛布の端から、酷く青白い顔が覗いた。寝ているというよりも気を失っているといった方が当たっているような状態で、息はしているが酷くか細い。元から低い体温は、人形か何かかと思うほどに冷え切っていた。



443 ◆owZqfINQN1ia2014/02/08(土) 18:00:21.74Y0Pycakzo (15/17)


「インデックス、この部屋、」

何なんだ、と訊ねようとした少年の声はそれ以上続くことがなかった。彼女とこの部屋に来る前の約束を思い出したのであろう。

「ごめんなさい、私には答えることができない。」

本棚に収められている本は、どんな知識でも収集している筈の学園都市ですら見掛けないような本ばかりである。それ以外にもそもそも現代では見掛けないような巻物やら妙な調度品ばかりが並ぶ部屋は、科学の申し子である一方通行が身を隠していた場所としてはあまりにも奇妙である。
滝壺理后が話していた「学園都市にはない技術」がここには蓄えられているのだろうか、という考えも当然彼の頭に過った。それどころか、インデックスがその技術に詳しい可能性すらも考えた。だけれど彼は約束に従って、それを訊ねることをしなかった。

「ちょっと待って、人を呼んでくる。」

「ぐんはは、ついていてあげて。」

インデックスがそう言って部屋を飛び出た後、こんな部屋の隅っこではなく、楽に寝かせてやろうと思い、邪魔な毛布を一旦どかそうとしたところ、床に奇妙な模様が描かれているのに気付いた。



444 ◆owZqfINQN1ia2014/02/08(土) 18:01:45.50Y0Pycakzo (16/17)


「何だ、これ。」

直径は1メートルほどだろうか、大小2つの同心円の内側にそれぞれ奇妙な文字や記号が描かれている。文字は歴史の教科書で見るような、ピラミッドだとかの古代遺跡の壁に刻み込まれている記号的なそれに似ている。もちろん考古学だってこの街の研究対象の範疇ではあるが、それを模倣したような図形が現代的なマンションの床に描かれる必要性はないだろう。しかも何とも大雑把なことに、それは油性ペンで描かれているようだった。

もしかしたら外の世界ではこういった奇妙な模様を忌避するのかも知れなかったが、狭い部屋の中で背の高い彼女をゆったり寝かせようとするとその模様を避けることは難しく、奇しくも彼女は同心円のほぼ中央に横たわる形となった。
彼女を寝かせて再び毛布をかけてやり、彼女の直ぐ傍の床に両手をついた。
途端に高圧電流だとか、或いはそれよりももっと暴力的な力が全身に流れ込むような気配があって、少年は意識を失った。



445 ◆owZqfINQN1ia2014/02/08(土) 18:10:21.91Y0Pycakzo (17/17)


今日はここまで。

こんなシリアス展開の最中にアレなんだけどさ、最近「おっぱいは寂しいけど結構下半身はエロい」り●ちよ様体型の百合にゃんをずっと妄想している。パロするんなら蜻さまは垣根がドンピシャだと正直思っているんだが、双熾はソギーとかぶる要素がなさすぎてそれ以上の妄想が進まない。
何のパロだか全くわからない人には本当に申し訳ない。


446以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/08(土) 20:22:41.07DLZ0gqRJo (1/1)

乙です


447以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/09(日) 11:20:03.83d0HerEVQ0 (1/1)

乙です



448以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/10(月) 09:09:15.6151NMOj2h0 (1/1)


あれのパロだと削百合じゃなくて他のCPでやった方が違和感少ないからなぁ


449以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/11(火) 01:28:14.60FWUaBzdDO (1/1)

双熾は清々しいヤン忠過ぎてなかなか他キャラを当てにくいというか
しかし>>1がパロるなら是非原作版でやってほしいです(ゲス顔)

とまれ乙


450以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/12(水) 08:00:41.79oj7b3dM80 (1/1)




451以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/13(木) 21:35:21.05AGYqhtWW0 (1/1)

乙ー
一方さんっぽい岡本ボイス聞きたいなら、ゲームだけどセブンスドラゴンとかどう?


452 ◆owZqfINQN1ia2014/02/15(土) 13:13:14.04j0OVYBbqo (1/19)


>>448
うちのソギーはヤンデレではないけど、百合にゃん以外はカボチャかキュウリかってくらいに百合にゃん以外に興味ない人間なので、被せようと思えば被せられるんですけどね…こう…百合にゃんの写真で壁が埋め尽くされた部屋で飯も食べずに3日ぐらいは行ける気が…

>>449
そもそも>>1が妄想しているいぬぼくパロが、学園都市で悲劇的な最期を迎えた超能力者とその身近な人間たちが転生し、今度こそ仕合わせを追求する物語なので、スタート時点で第2章です(ゲス顔)だがそんな日々すらもアレイスターの思惑によって生み出されたものだった…!!みたいな。
百合にゃんが「違う、軍覇じゃない」とか言っちゃったり、垣根が「第七位を悼んでやらないのか」とか言っちゃったりするところからスタートする物語です。

>>451
セブンスドラゴンは一方さんボイスで有名ですよね。岡本のゲームでの仕事だとロリポップチェーンソーも割と好きです。


さて、今日も投下しますよー


453 ◆owZqfINQN1ia2014/02/15(土) 13:14:48.73j0OVYBbqo (2/19)


インデックスが慌てて部屋を飛び出してマンションのエントランスを抜けたところで、近くで魔術が使われる気配がした。彼女は立ち止まって振り返った。

(まさか、)

そんなことある筈がない―そう願いたいところではあるが、それは確かに彼女が先ほどまでいた部屋の方から感じられた。慌てて部屋に取って返そうとしたが、既にマンションのエントランスを抜けてしまっていた彼女は、オートロックの自動ドアに阻まれた。

(あくせられーた、)

(ううん、もしかしてぐんは…?)

世の中には触れただけでその人物に魔術を使わせるような機能を持つ霊装などもある。少年に魔術の知識がないからといって彼が魔術を使用したわけではない、と判断することはできなかった。むしろ、酷く弱って十分な生命力を供給できない状況にあるだろう一方通行よりも、彼の方がよほど術者としての資格はある。

(どうしたら、中に、)

このマンションは空き部屋が多い。その上、今は平日の昼間である。学園都市の人間は大概が学校の授業に出ている時間だから、当然人の出入りは更に少ない。それでもインデックスがインターホンの使い方を知っていれば状況は違っただろうが、現実にはこの自動ドアの仕組みを知る人間が通りかからない限りは彼女が部屋に戻ることは難しかった。
慌てて上条の部屋から飛び出してきたものだから携帯も持っていない。事情を知っている土御門や、事情を知らなくても力になってくれるだろう上条に助けを求めることもできず、インデックスは途方に暮れた。



454 ◆owZqfINQN1ia2014/02/15(土) 13:15:15.73j0OVYBbqo (3/19)




嫌な夢を見た。





455 ◆owZqfINQN1ia2014/02/15(土) 13:16:10.10j0OVYBbqo (4/19)


昨夜遅く、土御門がこの部屋を訪ねてきた。
実はそのとき既に、彼女が求めていた魔法陣は完成していた。では何故それを発動させることなく部屋で気を失っていたかというと、彼女にそれを行うだけの生命力が残されていなかったからである。土御門は魔法陣が完成したところで誰に発動してもらうつもりだ、などと訊ねてきたが、そもそも彼女には誰かに頼るつもりなどなかった。
もちろんインデックスには重々言い含められていたから、能力者が魔術を行使する危険性については理解していた。その上で、彼女なりにリスク回避もしたつもりである。
生命力を増幅させる段階か、その生命力を魔力に精製する段階か、或いはもっと先の精製した魔力を霊装や魔法陣に流しこむ段階か―そのいずれで能力者の身体に負担がかかるのか判然としないが、とにかくこういった疑わしい段階を可能な限り省けるように工夫した。



456 ◆owZqfINQN1ia2014/02/15(土) 13:17:04.82j0OVYBbqo (5/19)


インデックスが推理したのと同じように、一方通行もAIM拡散力場と魔力の類似に気付いていた。自身の体が滝壺の干渉を受けたAIM拡散力場に蝕まれていることに気付いた彼女は、外部から魔力に干渉するような魔術を加工すれば、AIM拡散力場に干渉することもできるのではないかと考えたのだった。

彼女が描いた魔法陣には、大きく二つの機能が備わっていた。

一つは力の向きを変える機能。これは中心を同じくする二つの円の内側に描かれている。元々は外部の力に干渉するような別の使い方もされていたようだったが、今では主に人体の中の力の流れを変える機能が発達しており、その結果インデックスが滝壺と打ち止めに語ったような「魔力の精製に失敗した人の身体を元に戻す機能」を得ていた。一方通行はこれで滝壺の干渉を受けた自身のAIM拡散力場を元の通りに復帰させようと考えていた。
自身の能力も力の向きを変えることであるからか、この機能の部分を自分に適したように書き換えるのに然程苦労はしなかった。対象となる力の特定と、どの方向に向きを変えるのかの指定―どの記号にどういった意味が付随しているのかを理解してみればいつもやっていることと変わらない、というのが彼女の感想であった。



457 ◆owZqfINQN1ia2014/02/15(土) 13:17:49.28j0OVYBbqo (6/19)


もう一つの機能は、術者が両手で触れただけで魔法陣がその生命力から魔力を自動で精製する機能であった。これは外側の円に付随していて、元の魔術から一切加工しなかった。
元々が魔力を精製するのも儘ならない状態に陥った魔術師が使用する魔術であるから、この機能は必要に迫られて備わったものなのだろう。能力者でありながら魔術を使わなければならなかった一方通行には好都合だった―魔力の精製過程を魔法陣が担うことで能力者への負担が軽減されるのではないかと予想したのだ。もちろん、生命力を自身が供給すること自体には変わりがなく、一切のダメージを回避できるとは思っていなかったけれど。

しかし一見大きな問題もなく完成されたように見えた魔法陣も、酷く衰弱して十分な生命力を備えていなかった彼女には発動させることができなかった。
滝壺の能力の干渉による体調不良に加え、数日に亘って昼夜を分かたず資料を読み耽っていたことによる純粋な疲労、魔術的な毒の蓄積―原因は様々考えられたが、解決方法については皆目見当がつかなかった。少なくとも睡眠だとか、食事だとか、一般的な手法で回復できるラインはとうに超えているだろうと思った。



458 ◆owZqfINQN1ia2014/02/15(土) 13:18:47.11j0OVYBbqo (7/19)


土御門が部屋を訪ねてきたのはその頃だった。
彼はこんなにリスクの高いことを単独で成し遂げようとした彼女の心理について何だかんだと勝手に推理していたようだった。彼の推理も当たらずとも遠からずであったけれど、最大の理由は他にあった。
ずっと、妙な感覚に苛まれていた。そしてそれは、幼い日に能力を暴走させてたくさんのものを傷つけたときと酷く似ていた。何だかふわふわして、でも妙に重くって自由にならない体。揺れる水面でも介して見ているのかと思うような、ぐわんぐわんと歪む視界。何もかもが、誰もいない街を独りで彷徨った、あの日に似ていた。
あの頃よりかは余程能力の制御には自信があるし、そもそもこの体は演算能力を失っていて首元の電極のスイッチを切り替えない限りは能力が使えない。それでもMNWと切断された状態で暴走に似た能力の発現を経験したことがある彼女は、あの日のように自分の能力が暴走することはないと自信を持って言い切ることができなかった。

だから身を隠した。
いつどんな切っ掛けで暴発するとも知れぬから、貴重な友人であるインデックスや上条を頼るわけにもいかないし、自分と似たり寄ったりのクソッタレである土御門や海原を巻き込むことにも気が引けた―何せあまりにもリスクが大きすぎて、どんな条件を提示したところで取引として成立しないだろう。
況してや少年を頼ることなど、できる筈もなかった。先日特力研であの映像を見てしまった日から彼を傷つけてしまったときの感覚が繰り返し鮮明に蘇ってきて、近くで息をすることすら困難に感じらていた彼女の中で、彼に頼りたいという気持ちよりも、再び同じようなことを引き起こしてしまうことに対する恐怖心が勝った。



459 ◆owZqfINQN1ia2014/02/15(土) 13:19:15.54j0OVYBbqo (8/19)




そうだ、
そんなことばかり考えているから、
アイツをまた壊してしまうことばかり怖がっているから
だから、嫌な夢を見た。





460 ◆owZqfINQN1ia2014/02/15(土) 13:19:42.69j0OVYBbqo (9/19)


突然ベランダに続くガラス戸が割れて、その向こうから少年が飛び込んでくる夢。後ろの方ではインデックスの慌てたような声がして、少年の大きな手が自分の体を確かめるように撫ぜた。



461 ◆owZqfINQN1ia2014/02/15(土) 13:20:12.95j0OVYBbqo (10/19)




『酷い、
これ以上ないほどに、嫌な夢だ。』





462 ◆owZqfINQN1ia2014/02/15(土) 13:20:39.06j0OVYBbqo (11/19)


窮屈な部屋の隅っこで更に窮屈そうに寝ていた自分を、彼が部屋の真ん中に横たえてくれる。単に広い場所の方が描きやすいかと思って自分が描いた魔法陣の中心だ。少年が自分から手を離したあとも、体の距離までは離してくれそうになかった。



463 ◆owZqfINQN1ia2014/02/15(土) 13:21:10.65j0OVYBbqo (12/19)


いやだ、
触らないで、
それに触ったらオマエは、



464 ◆owZqfINQN1ia2014/02/15(土) 13:21:59.99j0OVYBbqo (13/19)


そうだ、
夢じゃない。



465 ◆owZqfINQN1ia2014/02/15(土) 13:23:12.11j0OVYBbqo (14/19)


そうだ、
夢じゃない。



466 ◆owZqfINQN1ia2014/02/15(土) 13:23:38.81j0OVYBbqo (15/19)






これは、夢じゃない。







467 ◆owZqfINQN1ia2014/02/15(土) 13:24:39.60j0OVYBbqo (16/19)


夢うつつの境目をふらふらと彷徨っていた彼女は、はっと起き上がった。彼女自身が驚くほど体は軽くって、先程まで息をするのにも胸が痛むほどであったのが逆に夢だったのだろうかと訝しむほどだった。
曇っていた視界も俄に開けていった。視界に入ったのは、ぐったりと床に倒れこむ少年の姿だった。

「ぐんは、」

見た目には然程外傷はなかった。しかし魔術を使用したことがある彼女は、外見的なダメージとは全く別に、内臓や全身の血管に夥しい損傷が加わっているだろうことを知っていた。事実、出血など殆どしていない筈の少年は、彼らしくない酷く青褪めた顔色に変わっていた。
うつ伏せに倒れこんでいた彼ににじり寄り、バイタルサインを確かめる。息もあるし、脈もある。しかし、彼女の脈拍が動揺により普段の倍ほどになっていることを加味しても、彼の心拍は酷く遅かった。何も手を打たなければ、10分も持たないだろうと思った。

(冥土返し、は、もう、間に合わない)

病院に運ぶ時間すら惜しい。結標のような人間の協力を取り付けたところで然程状況は好転しないだろう―彼女の優秀すぎる頭脳は、いっそ非情にも思える判断を下した。



468 ◆owZqfINQN1ia2014/02/15(土) 13:25:17.09j0OVYBbqo (17/19)


彼女は生死の境を彷徨う人間をその能力を以って救ったこともある。天井亜雄に撃たれた芳川桔梗然り、埋め込まれたセレクターを使って自殺にも似た行為をとった番外個体然り。
今現在の少年の容態を見ても、自分は彼を救える筈だと思う。魔術で身体にどんな作用が起きるかは身を以て体験しているし、普通の人間とは少し異なった作りをしている彼の身体的特徴についても把握している。
でもそんな積み上げてきた事実より、ただ一度少年を傷つけてしまった過去が彼女の精神を苛んだ。そうでなくても、また自身のトラブルに巻き込んでこんな酷い目に遭わせてしまったというのに、その上救おうとして失敗してしまったときにはどうすればいいのだろう、そんな考えばかりが頭を埋め尽くす。
もし上手くできなかったなら―そう考えただけで途端に息が苦しくなる。胸が痛む。心臓をぐいと掴まれたような心地になって、体が芯から冷える。でもそれ以上に、彼が苦しんでいることが分かって、頭の中が真っ白になる。



ロシアンルーレットの引き金でも引くような気持ちで、彼女は自身の首元に纏わり付く機材に手を掛けた。



469 ◆owZqfINQN1ia2014/02/15(土) 13:26:12.71j0OVYBbqo (18/19)




「ゆりこ、」

その声が聞こえてくるまで、5分とかからなかったと思う。
元から回復力に長けた彼の体は、彼女の能力でほんの少し修復機能を活性化させただけで見違えるような回復を見せた。文章にしてみれば酷く簡単に見えるが、それは当然容易なことではない。例えば誤って妙な細胞の増殖を促してしまったなら、癌などの病気にも繋がりかねないし、活発な生命活動は大概が行き過ぎると病気を齎す。人体に60兆個あると言われる細胞の状態はそれぞれまるで異なるし、ましてやそれぞれの理想的な状態に回復する手段も違っている。大切な存在を一度ならず二度までも命の危機に晒したショックにより混乱状態にあった彼女が、寸分の狂いもなくそれを成し遂げたのは奇跡にも近かった。

「ゆりこ、」

少年は彼女の名前をもう一度繰り返した。その声は掠れていて、いつもの少年のそれと比べれば酷く弱々しかった。

「もう、体は大丈夫なのか、」

まだ幾らか顔色の悪い少年に、心配そうに訊ねられて、彼女は思わず笑ってしまった。

「ンなこと、俺が訊きてェっつーの。」

こんなになってまで自分の心配をするなんて、どんな神経をしているというのだろう。でも、そんないつも通りの少年が戻ってきてくれたことが酷く嬉しくて、彼女は仰向けに倒れたままの少年の胸に顔を伏せて嗚咽した。

「そっか、」

「ごめんな、泣かせちゃって。」

「嬉し泣きくらい、させろっての、馬ァ鹿。」

彼女は少年を救うだけでなく、過去に少年を傷つけた記憶に苛まれる自身をも救うことに成功した。



470 ◆owZqfINQN1ia2014/02/15(土) 13:30:33.29j0OVYBbqo (19/19)

ごめんなさい、>>465二重投稿しちゃった。

よかった、半年どころではなく妄想していた箇所をようやく書き終えた。もう>>1の生涯に一片くらいしか悔いはない…


471以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/15(土) 14:36:42.527Z1JvHX+o (1/1)

乙です


472以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/15(土) 16:05:34.23VnXbe8q20 (1/1)

乙です



473以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/16(日) 10:30:04.43AtYojYR80 (1/1)



一片の悔いとは…

 


474以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/16(日) 23:46:10.61hR7sqgi+o (1/1)


百合にゃんよかったなソギーが来てくれて


475以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/18(火) 00:35:54.59tzWGJ2vt0 (1/1)

乙 ソギーが百合子だけのヒーローすぎて生きるの辛い

>452の設定見て第2章から始まるパロも違和感無いんじゃねって思い始めてる


476以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/02(日) 16:19:09.76KreQq5Joo (1/2)

ほしゅ


477 ◆owZqfINQN1ia2014/03/02(日) 17:39:43.45cAJhMMu1o (1/14)

どもです。PCの調子が悪くアクセスできませんでした。

>>473
いや、本音はソギーを救う過程で白翼を出させたかったのです。でも非戦闘シーンでそれは明らかにやり過ぎだよなぁ、と思って断念しました。

今日の分含めて2回投下したら、ずっと保留してたドM春厨変態xロリ百合子の小ネタ投下しますね。そのあとに新章というか、本題に戻る予定です。


478 ◆owZqfINQN1ia2014/03/02(日) 17:41:58.59cAJhMMu1o (2/14)


「オマエ、あれは何だったのか、とか訊かねェの。」

既に役目を果たした魔法陣は、まるで何年も放置されているかのように所々が掠れていた。この模様に手を触れた瞬間彼の体に不調が起き、逆に酷い苦痛に苛まれていた一方通行は何事もなかったように回復した。単に考えるより行動する方が得意なだけで決して愚かではない少年は、あの不思議な模様にそういう機能が付いていたのだろうことを理解していた。

「ここに来る前にそういうことしないって、インデックスと約束したから。」

「そォか。」

少年は自分の好奇心を優先させて約束を違えるような人物ではない。一方通行やインデックスに直接訊ねることができないのなら自分で調べるという行動に出そうな極端なところはあるが、そのすっきりした表情を見る限りそういったことにすら興味がなさそうである。

「起き上がれそうにないんだけど、俺、未だどっかおかしいのか?お前が能力で怪我治してくれたんじゃないのか。」

不自由そうに床の上で藻掻く少年。腕を突いて起き上がろうとしているらしいが、上半身が床から離れることすらなかった。

「致命的な損傷は修復したけど、それ以上のことはやってない。俺の能力が介入すればするほどミスの発生確率も上がるからな。」

元から回復力に長けた体だから、無茶しなければ1ヶ月もすれば完全回復する筈だ、と彼女は付け足した。さすがの彼女でも瀕死の人間をノーミスで何の問題もない状態にまで復帰させることは難しいのだろう。

「つっても本当に今の状態で問題ねェのか自信はねェ。今から冥土返しンとこ行く。」

「未だしンどいンだろ?その間、寝てろ。」

彼女の能力によって回復機能を活性化させられた体は、その分疲労も溜まっている筈である。疲労回復には様々な手法があるが、一番手っ取り早いのは食事睡眠だ。生物的なごく当たり前の反応として、彼も喋りながらだんだんと眠気を覚えたようだった。

「…うん、そうする。」

彼がすう、と穏やかな寝息を立て始めたのを確認してから、彼女は電極のスイッチを入れ直し、彼の体を背負った。



479 ◆owZqfINQN1ia2014/03/02(日) 17:44:14.01cAJhMMu1o (3/14)




「あ、」

インデックスは思わず声を上げた。

少年の背に背負われて前もよく見えぬままここに来たので、完全記憶能力を持つとはいえ正確な現在地が分からず、誰かに助けを求めに行っても迷ってしまう可能性があった。だからといって部屋に戻ることもできなかった彼女は、途方に暮れたようにオートロックの直ぐ外側に座り込んでいた。
そんな彼女が誰かが近付いてくる気配に顔を上げると、オートロックの自動ドアから出てきたのは意外な人物だった―くうくうと気持ちよさそうに寝ている少年を、当たり前の顔をして背負った一方通行である。

「ぐんはは、どうしたの?」

ついさっきは死人かと思うほどに酷い顔色をしていた筈の一方通行は飄々とした様子で、逆に少年は赤子のように寝入っている。彼の体に大きな怪我はないが、それでも全身に細々とした掠り傷のようなものが見えた。

「無茶しやがったから、念の為病院に連れてく。」

一方通行の一言で、聡い彼女は自分があの部屋を飛び出してから起きたことを大まかに察したらしい。少年がそうと知らずに魔術を使用してしまったのだろうこと、それによって一方通行は回復したのだろうこと。

「インデックス。途中まで送ってってやるから、これ、返しといてくれ。」

一方通行はインデックスに妙に可愛らしいチャームの付いた鍵をぽいと投げて寄越した。「誰に」返しといてくれ、とは明言しなかったが、何となく予想はつく。
そもそも鍵なんぞなくてもセキュリティを突破して部屋に入ることなぞ造作でもない彼女は、この部屋に来たときも当然不法な侵入方法を取ったのであるが、何故かリビングのテーブルにはこの鍵が置かれていた。土御門のものだとは思うが、暫くはここには来ないとでもいう意味だったのだろうか。しかしその態とらしさが彼女には妙に厭味ったらしく感じられたので、インデックスを介して返却することにした。



480 ◆owZqfINQN1ia2014/03/02(日) 17:47:32.56cAJhMMu1o (4/14)




それから十数分後のことである。とある病院の診察室で、優秀な医師が何とも渋い顔をしていた。

「色々突っ込みたいところはあるんだけど、」

「先ず最初に、君の退院手続き完全には終わってないんだけどね。」

気持ちよさそうにくうくうと寝息を立てている第七位を背負って来た第一位に対して、冥土返しはなるべく分かりやすく嫌味を吐いた。

「俺はいいからこの馬鹿見てくれ。」

そんなもの意にも介さないというふうに彼女は診察台に転がした―本当に転がしたとしか言いようがなく、とても重病人に対する扱いには見えなかった、というのが冥土返しの証言である―少年を睥睨した。彼女なりに心配しているからこそ、この不機嫌な態度であるのだということが、この医師のような彼女と親しい人間には辛うじて分かるというレベルである。

「何があったのかは訊かないけれど、」

そう前置いてから、医師は彼なりの診断を述べた。

「君の応急処置は適切だったのだと思うよ。これ以上のことは僕にもできなかっただろう。更に言えば、今から僕に預けて貰えたところで大した治療はできないと思う。」

「生活に不便を感じる箇所に対するサポートはできるけど、完治を早めることはできないだろうね。極論を言えば介護はできるが、治療はできないといったところかな。」

医師の提案は非常にシンプルだった。彼に対する治療は難しい、自然に治癒するだろう。しかし暫く生活には不便があるだろうから、そちらのサポートはさせてもらうよ、というほどの意味である。

「まあ、彼は病院があまり好きでないみたいだから、起きたら家に帰るとか言い出すかもしれないね。」



481 ◆owZqfINQN1ia2014/03/02(日) 17:48:41.21cAJhMMu1o (5/14)


以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka19090

おい
セロリって今失踪中の筈だよな



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10039

何当たり前のこと言ってんだ
お前ダイエットのし過ぎで頭まで馬鹿になったのか



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka19090

いや
でも確かに廊下でセロリとしか思えない白髪をちらと見かけたんだが

つうか馬鹿って言うな馬鹿って
何かこのやりとり前にもやった気がすんぞ



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka14889

天然の白髪は珍しいけど脱色してる奴はいるだろ
人違いじゃね?

それともあの特徴的な服とか着てたのか



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka19090

いや
何人か人がいてその向こうに後ろ頭だけ見えたから
そこんとこよく分かんなかったんだよ

そんときの視覚情報共有するから誰か解析してくれね?

http::///misaka.uploda.190901234567890.jpg





482 ◆owZqfINQN1ia2014/03/02(日) 17:49:46.20cAJhMMu1o (6/14)


以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka20000

セロリたんだな



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka14510

俺のセロリたんです



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka18264

うむ
間違いない



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka17600

何で俺より解析早いんだよおまいら…



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka13577

セロリへの歪んだ愛情の成果だろうな…



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka19090

でもセロリ何で病院にいるんだ?
もしかして失踪してたのが家帰って来たとか?



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10032

いやそんな情報誰も受け取ってないけど
家帰って来てたら上位個体か末っ子から報告あるだろ?



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka19090

あるぇー?
じゃあ俺が見たのは見間違いか



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10039

いや
一方派個体がセロリだって断定したんだから見間違いはねえだろ
お前アホか
ダイエットのし過ぎで(ry





483 ◆owZqfINQN1ia2014/03/02(日) 17:52:08.14cAJhMMu1o (7/14)


以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka20001

あの人が病院にいたってどういうこと?



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10039

あっ



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka14889

運営様ちーっす



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka17600

運営様お疲れさんっす



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka19090

やっぱり運営様も知らないの?
じゃあ人違いだったのかな



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka17600

だから一方派個体が挙って人違いじゃないって断定してただろうが
何でそこループするんだよ



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka20001

ちょっと誰か早く調べてきて
病院にいたってことはまた何かあったのかもしれないし



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10032

そりゃそのつもりだけどさ
19090号がちらっと見たってだけじゃ
今病院内にいるかどうかも怪しいんだが



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka14889

病院にいたってんならカエル医者が何か知ってんじゃねえの?
誰か探ってこいよ





484 ◆owZqfINQN1ia2014/03/02(日) 17:54:14.79cAJhMMu1o (8/14)




冥土返しが少年のために部屋を用意してくれるというので案内の看護師について行ったところ、つい数日前まで自分が使っていた部屋に通された。自分の治療から逃げ出した患者に対する冥土返しなりの嫌味かとも思ったが、この部屋のある5階は特殊な病室が多くてあまり人通りがなく、この病院の中でも特別静かなフロアであるから、同時に少年に対する気遣いのようなものも感じられた。
ベッドに寝かされた少年の様子を見てほっと一息を吐き、付き添い用の椅子に座ろうとしたところ、案内の看護師が備え付けの丸椅子ではなく、背凭れのあるパイプ椅子を持ってきた。よく見かける顔であるから、彼女が背凭れなしに長時間座っていることが難しいのを知っていたのであろう。彼女は物言わぬ黒子のようにベッド脇にパイプ椅子を据え付けると、にっこりと笑って部屋を出て行った。
安っぽいパイプ椅子ではあるが、疲れていたのだろう。深く腰を掛け背中を預けると、俄に眠気に襲われた。

しかし、彼女が寝入るよりも先に扉越しに廊下側から妙な気配を感じたため、彼女は眠気をおしてその気配の主に声を掛けた。

「こそこそしてねェで入って来い、」

「10032号だろ。」

彼女が声を掛けると、する、とごく静かにスライド式のドアが開いた。



485 ◆owZqfINQN1ia2014/03/02(日) 17:56:09.55cAJhMMu1o (9/14)


「気配に気付かれるのはまだいいとして、何故気配だけでこのミサカだと分かるのか腑に落ちません、とミサカは不満を露わにします。」

「お前のは分かりやすいンだよ。」

椅子に座ったまま、彼女は薄い唇の端を片方だけ持ち上げて笑った。嘗ては威圧的で攻撃的に感じたその表情は驚くほど柔らかくなっており、悪戯っぽい子供のように愛らしくすら見えた。
ほんの数ヶ月でこんなにも表情が変わるというのだから、やはり彼女は人形でも科学の結晶でもなくて、元より人間であったのだろう。自分たちは未だ自然に笑うことができないから、それを酷く羨ましく思った。「それを羨ましく思えるのなら、ミサカたちはやっぱり人間なんだよ、ってミサカはミサカは言い張ってみる」―いつか幼い上位個体が願うように祈るように言った言葉を、10032号も心の中で繰り返した。

「分かりやすいとは具体的にどういうことでしょう。後々のために参考にします、とミサカはアドバイスを求めます。」

「そンなン後にしろ。別の用事があったンじゃねェのか。」

10032号は不本意ながら彼女の言葉に従った。本題が別にあったのは事実だし、後にしろ、というからには本題を済ませた後なら答えてくれるのだろうと思ったからだ。彼女は妹達に対してそういった言葉だけの逃げを使わない。

「では先ず、上位個体に頼まれたお使いから済ませましょう。」



486 ◆owZqfINQN1ia2014/03/02(日) 17:57:46.38cAJhMMu1o (10/14)


「どこに行ってたのかとか、何をしていたのだとか、そういった細かいことは訊きません。もう体は何ともないのですか、家には帰って来てくれるのですか、とミサカは矢継ぎ早に訊ねます。」

「もう何ともねェよ、体の方は。滝壺から聞いたのか。」

「…家には、帰りてェところだが、この馬鹿がなァ、」

彼女はベッドで寝息を立てている少年の方をちらりと見た。10032号はその能力で、彼の心拍も呼吸も、その他様々な生命反応がいつもより酷く弱いことを認識していた。寝顔は穏やかそのものに見えるが、バイタルサインだけで判断するのであれば少年のそれは不治の病に冒されて長いこと入院している子供のようである。

「第七位はどうしたのですか、とミサカはさして興味がないながらも話の流れに沿って訊ねます。」

彼女はあまりにも正直な10032号の物言いに対して、ほンとその口調不便だなァ、と呟いてから質問に答えた。

「俺を助けてくれたンだ。こいつがいなけりゃ、俺は今頃ここにいられなかった。」

10032号も打ち止めと記憶を共有しているから一方通行の身にどんな危険が迫り、どのような助けを求めていたのかは大まかに理解している―一方通行が恐らく魔術の助けを必要としていたこと、魔術とは能力者が使えるものではないということ、今第七位の少年が病弱な子供のように弱り果てていること―そこから導き出せる可能性というのは然程多くない。

「ついていてあげたいのでしょう?とミサカは一方通行に確認します。」

「そりゃあ俺のせいだし…、でも、ガキどもや黄泉川にいつまでも心配かけてもいらンねェだろ。」

彼女は、自身が少年を心配するのと同様、今も自分を心配している人間がいることを理解していた。打ち止めは今10032号と感覚を共有しているから一方通行の様子が伝わっているが、それでも肉眼で確認することによる安心感に勝るものはない。一方通行もそれを理解しているのだろう、少年に付き添っていたいという一方で、家族に無事な姿を見せる必要があるとも考えているようだった。

「第七位についていてあげて下さい。上位個体もそう言っています、とミサカは上位個体の言葉を代弁します。」

「…明日にゃ、家に顔見せに帰るって、伝えてくれ。」

彼女はほっと息をついて、パイプ椅子の背凭れにぐったりと寄りかかった。体が不自由であるとは言え、ソファーならともかく、椅子に埋もれそうになるほど体を預けることは珍しい。



487 ◆owZqfINQN1ia2014/03/02(日) 17:58:40.74cAJhMMu1o (11/14)


「そう言えば本題はこれで終わりですが、」

10032号は思い出したように言った。

「このミサカの気配が分かりやすいというその理由を教えてくれませんか。普段から気配を消すことには慣れているつもりなのに、あんなにあっさりと気付かれたのは癪です、とミサカは話題をスタート地点に戻します。」

はァ、とうんざりしたように溜息を吐いてから一方通行は質問に答える。

「生きてる人間なんだから、気配がなくなるわけねェだろ。オマエがここにいるってことを、オマエ自身が隠そうとして何になるンだ。」

「そういう、ものでしょうか、とミサカは一方通行の言葉を肯定しかねます…」

「そォいうもンだ。別にこれ以上学園都市第一位と殺し合いをしなきゃなンねェンでもねェ、学園都市の言いなりに後ろ暗いことやらされるわけでもねェ。気配を殺すなンて芸当、オマエたちにはもう要らねェだろ。」

「そう、でしょうか、とミサカは、」

きっと欲しかった言葉なのだと思う。自分たちは、自分は、この言葉を待っていたのだと思う。でもそれを素直に受け止めることは難しい。
自分たちが、自らをクローンとか学園都市の創造物であるとか以前に、生きている一人の人間なんだと主張したところで、それを受け入れてくれる人間は極僅かしかいないだろう。目の前の学園都市第一位だとか、自分たちの遺伝子提供者、いつか自分を救ってくれた無能力者、自分たちを容易に見分けてくれる記憶力に優れたシスター、この病院の優秀な医師、上位個体が世話になっている女教師―こういった人間を除いた世間一般には、結局自分たちは学園都市第三位を模した人工物にしか思われないのだろうということも、10032号は理解していた。



488 ◆owZqfINQN1ia2014/03/02(日) 17:59:29.87cAJhMMu1o (12/14)


「そうだ、」

それでも彼女は落ち着いた口調ではっきりと肯定する。10032号の迷いを拭い去ろうとしてくれているのだろう。

「未だオマエたちは堂々と街中を歩くことは難しいかもしれねェ。それがいつかできるようになるとも、そうさせてやるとも俺は言い切れない。だけどせめて、俺の前ではフツーの人間でいろよ。」

その言葉の後ろに、お願いだから、と続いたような気がしたのは、10032号だけが感じたものだったのだろうか。少なくとも10032号には、一方通行は殺し合いなんてしていた頃の実験動物に戻らないでほしいと、懇願しているのだと感じられた。

「17600号は今だって気配を消して人をストーキングすることに精を出していますが、とミサカは反論を試みます。」

「あいつの場合はそれが個性だろ。オマエそれを売りにしたいわけ?」

一方通行が言う通り、10032号にとって気配を消して誰かに近付くというのはあくまで科学者たちにインプットされた「道具」であって、17600号の場合のような自身を表す記号ではない。そもそも17600号の気配を殺す技術は科学者たちに植え付けられたプリインストールではなく、後天的に身につけた紛れもない彼女自身の特技であって、10032号が持つ「道具」とは異なるものである。それこそが17600号を形作る個性だという一方通行の言葉に誤りはなかった。

「とにかく、俺の前でこそこそすんな。却って気が散るっつーの。」

裏を返せば、自分の前では堂々としていろ、という意味なのだろう。壮大な愛の告白のようにも聞こえたのは、10032号の思い違いだったのだろうか。しかしその言葉を吐いた本人が纏う雰囲気は決して気負ったものではなく、親しい友人に極々有り触れた頼みごとをするように自然であった。



489 ◆owZqfINQN1ia2014/03/02(日) 18:00:01.00cAJhMMu1o (13/14)


10032号が言葉を失っていたのはほんの数秒のことだったろうか。沈黙は一方通行の、くァ、という猫のような欠伸で途切れた。打ち止めや番外個体との感覚共有で彼女もそういった仕草をすることを知っていたが、10032号が一方通行の欠伸を目にするのは初めてだった。

「疲れているのですか?付き添いたい気持ちも分かりますがせめて一眠りしてみては、とミサカは一方通行に睡眠を勧めます。第七位に何かあっても同じ部屋にいれば寝ていても分かるでしょう。」

「…そうする。」

どこかぼんやりとした様子で彼女は頷いた。徐ろに立ち上がり、少年が寝ているベッドの掛け布団を持ち上げる。10032号は咄嗟に彼女が何をしようとしているのか理解できずにぼんやりとその様子を見ていたが、一方通行の足がベッドの端に乗り上げたところで慌てて声を上げた。

「ちょ、ちょっと、待って下さい。あなたは何をしようとしているんですか、とミサカは慌てて問い質します。」

「何って、寝ろって言ったのはオマエだろォが。椅子で寝ても大して疲れ取れねェし。」

「付添人用の簡易ベッド借りてきますから!子供じゃないんだから第七位だって添い寝されても困るでしょう!とミサカは第一位を何とか押し留めようとします!」

そうは言いつつも、10032号には一方通行を止められるとは思えなかった。付添人用のベッドを借りれるのはこの病室から随分離れた場所で、当然彼女はそこまで行くのを面倒臭がるだろうし、自分が借りに行ったところで戻ってくるまでに彼女は第七位のベッドに潜り込んでいるだろう。

「知らン、とにかく俺は寝る。」

結局眠気によって機嫌が急降下した彼女に押し切られる形になって、10032号は何も見なかったことにして病室を去った。



490 ◆owZqfINQN1ia2014/03/02(日) 18:06:48.18cAJhMMu1o (14/14)

本日の投下はここまでです。

勝手に妄想膨らんでいく土百合とか、このスレの最初に投下したソギーVSオッレルス再戦ルートの続きとか、長さ的に最早このスレに投下すべきではない(しかし別スレ立てるほどでもない)小ネタが溜まっているんですが、そういうのってどうやって消化するのがいいんでしょうか。ロム専でアカウント取得したきり何もいじってない支部とか使えばいいんだろうか。


491以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/02(日) 18:21:18.73KreQq5Joo (2/2)

おつ
>>477
PCのせいじゃなくてSS速報自体が死んでた


492以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/02(日) 19:49:33.00aIMba3mfo (1/1)

乙です


493以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/02(日) 21:45:26.42RumyHvKQ0 (1/1)

乙です。
支部で書くなら読みにいくよ!


494以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/02(日) 22:58:41.12kM7ZZcts0 (1/1)

乙です
支部がちょうどいいんじゃないかな


495以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/04(火) 01:36:36.92HWNpGOCS0 (1/1)




496以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/04(火) 15:24:12.84ks+W36UK0 (1/1)

乙! 支部も本編続きも期待して待ってる


497 ◆owZqfINQN1ia2014/03/04(火) 20:12:54.24s9DT6Z74o (1/1)

いつもどもです。

>>491
そうなんですか?自分のPCが不調だったのもマジな話で、修理に出してたんです。一部の設定がぶっ飛んだままで、未だに若干苦労しております。

>>493, 494, 496
どもです。支部は一度も投稿したことがないので、先ず使い方を学習するところから始まる予定です。なんで今直ぐどうこうって話ではないのですが、このスレ読んでないと意味が通じないネタを当たり前のように投稿していいものかどうか…支部からリンク貼ったり、逆にこのスレからリンク貼ったりしていいものなんか?誰か偉い人教えて下さい。


498以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/04(火) 23:35:53.22WDciDMkjo (1/1)

乙ー


499以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/04(火) 23:43:09.32O18t9Yk/o (1/1)

乙です


500以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/05(水) 19:49:57.13TbRodEQd0 (1/1)

乙です
両方ともリンク貼ればいいんじゃないかなと思う


501以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/05(水) 21:51:38.34oYBzfEnK0 (1/1)



慌てる御坂妹だと…
ありだ


502以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/05(水) 22:43:06.53SZQ3cPLG0 (1/1)




503以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/06(木) 02:25:22.69R1LQ3J3So (1/1)

乙、下がりすぎててやばいのでage


504以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/08(土) 15:18:14.94qQfa+v+K0 (1/1)

やっと追いついた

続きまってます!


505以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/08(土) 16:05:18.18QJ9yBZb90 (1/1)

>497
支部はログ保管庫みたいな使い方してる人も多いけど、速報でやってた○○の続編ですって人もいたし
キャプション(作品の説明書きみたいなやつ)に一言書いておけば何でもありだと思う。
自分は普段は支部にいるから>1が来たらフォローしに行く。


506 ◆owZqfINQN1ia2014/03/08(土) 17:02:23.86ZxRmH7joo (1/11)

こんにちはー、>>1ですよー。垣根がちょっかいかけてきた辺りから長らく続いてた、イチャラブに乏しいシリアス展開も今日で一段落ですよー。
今日投下して、幾つか小ネタ挟んで、それから新章?的なものを開始する予定です。

では今日の分どうぞ つ旦


507 ◆owZqfINQN1ia2014/03/08(土) 17:02:53.79ZxRmH7joo (2/11)


「一方通行には会えたかい?」

冥土返しは廊下で偶然行き会った10032号に訊ねた。19090号が一方通行らしき人物を病院内で見掛けたらしいが何か心当たりはないか、と10032号が彼の居室を突然訪ねてきたのはほんの30分ほど前のことである。

「ええ、ありがとうございます、とミサカはぺこりと頭を下げます。」

「しかしまさか打ち止めにも報告せずに先ずこの病院に来るとはね。」

彼女が第七位を背負って彼の診察室に現れたとき、少なくとも打ち止めか黄泉川愛穂のどちらかには状況の報告を済ませていると医師は思ったのだ。まさかその十数分後に彼の診察室を訪ねてきた10032号が何の情報も持っていないとは予想もしていなかったわけである。

「それだけ、第七位が大切だということでしょう、とミサカは推測します。」

「君たちはそれに対して、悲しいだとか、悔しいだとか、考えないのかい?」

淡々と答える少女に、医師はいっそ嫌味にも聞こえる質問をする―悪い言い方をすれば、その分君たちは軽んじられているとも言えなくはないのだと。辛い感情であるかもしれないが、感情に乏しい彼女らに自覚を促すことは子供の成長の過程に必要なことであると信じるが故の発言だった。

「分かりません、もしかしたらミサカたち自身が自覚しないところでそういった感情もあるのかもしれません。」



508 ◆owZqfINQN1ia2014/03/08(土) 17:04:12.58ZxRmH7joo (3/11)


「あの日だってそうでした。ミサカたちは、ミサカたちが生きたいと願っていることにすら気付いていなかった。」

「そういった無自覚が、末っ子を苦しませているのも分かっています。あの子はミサカたちが気付かない、ミサカたちの感情そのものです。あんな極端な行動を取るのも、第一位に気付いてほしいという以上に、ミサカたちに気付いてほしいと願っているが故でしょう。」

そこまで自分たちのことが分かっているのというなら、もっと自身の感情を的確に表現する方法だってあるのではないか―そう思っても、医師はそれを言葉にできなかった。それを彼女たちに問うのはあまりにも酷すぎる。
泣くだとか、四肢を力一杯振り回すだとか、赤児にすらできる感情表現すら許されずに生まれた彼女たちには、それは酷く難しい。それと同時に、彼女たちにそれを教えるのは少なくとも自分の仕事ではないのだろう、とも思う。

「そもそも悲しいとか、悔しいとか、ミサカたちにはよく分からないのです。最初、壊されて奪われるために作られたミサカたちには、不要な感情だったのでしょう。」

「でも、きっと寂しいのだと思います。9971人もいるのに。ミサカたちは寂しい。」

「誰かに必要とされたかった。ミサカたち以外の、誰かに。」

「じゃあ、今は寂しい?」

「ほんの少しだけ、とミサカは心境を吐露します。」

10032号は医者が何も言えないでいる間に、薄暗い廊下の向こうに消えていった。



509 ◆owZqfINQN1ia2014/03/08(土) 17:06:01.63ZxRmH7joo (4/11)




「え、一方通行は見付かったじゃん?」

今日も今日とて高校教師と警備員の二束の草鞋に忙しい黄泉川愛穂が帰宅したのは、お世辞にも早いとは言えない時間だった。

「そうみたい、それで今病院にいるって、ってミサカはミサカは報告してみる。」

「病院?また怪我でもしてたじゃん?」

彼女はさして驚いた様子もなく軽い口調で訊ねた。打ち止めの口振りからして、怪我などを負っていたにしても大したことはないのだと判断したのだろう。
一方通行が突然家を開けることは珍しくなく、止めろと言っても聞くわけがないので黄泉川にはある程度諦めがついていた。心配してもキリがないから信じて待つことにした、というのは第3次世界大戦中の彼女の言である。それでも今回は原因不明の症状に苛まれる中の病室からの脱走という少しばかり深刻な状況だったために、いつもより不安は大きかったのだけれど。

「第一位が怪我したんじゃなくって、第七位だってさ。」

「それでずっとこの子拗ねてるのよ。」

ソファーで俯せになって不貞腐れている番外個体がそう言うと、芳川が茶々を入れるように続けた。彼女が拗ねているのは、自分が怪我をしたわけでもないのに少年のために彼女が病院に泊まりこんでいることが気に食わないからなのだろう。



510 ◆owZqfINQN1ia2014/03/08(土) 17:07:22.86ZxRmH7joo (5/11)


「どうせミサカは子供ですよー。でもさ、ミサカたちだってヨシカワだってヨミカワだって、第一位のこと心配してたんだよ。そりゃ第七位が気になるのも分かるけどさ、放ったらかしは気に喰わないよ。」

確かに無事に帰って来たのであれば、病院で少年に付き添っていたい気持ちがあっても家族の誰かしらに連絡を入れるべきであろう。聞くところによると、無事の報せは彼女らの姉である10032号と呼ばれる少女から齎されたものであるらしく、打ち止めですら直接彼女と言葉を交わしたわけではないらしい。
「ミサカ」が心配していたのではなく、「ミサカたちもヨシカワもヨミカワも」心配していたと言った番外個体は、一方通行の無事の報せを受け取りながら何となくすっきりしない面持ちの彼女ら全員の感情を代弁していた。

「でも、明日には顔見せるって言っていたんでしょう?」

「顔見せるって何さ、帰ってくるわけじゃないの?ちらっと顔見せてまた第七位の付き添いに戻るつもりでしょ、第一位。」

黄泉川は同居人たちの会話を聞きながら、炊飯器の中に一人分だけ残っていた夕飯を食器に手際よく盛り、そんなことよりこっちが大事と言わんばかりに缶ビールをぷしゅ、と小気味良く開けた。

「何か、あの子は良い意味で家に居付かなくなったじゃんね。」

くい、と軽くビールを口に含んでから彼女は呟いた。

「良い意味って?」

「元は不良娘だったけど、良い友人を見付けて活発になったって感じじゃん。結果的に家にあんまりいないのは同じだけど。」

「まあ、不良の家出とは違うわね、最近のは。」



511 ◆owZqfINQN1ia2014/03/08(土) 17:08:33.93ZxRmH7joo (6/11)


以前は1人で何やら危なっかしいことに首を突っ込むことが多かったが、最近では同じように危険なことに関わっていても信頼できる友人たちと助け合っているのだろうと想像できる。
大人に愛され守られるという経験を経た彼女が次に必要としたことは、同年代の子供達に認められることだったろうから、考えようによっては最近の家に居付かない様子は極々当たり前の更生段階を経ているとも言える。様々な子供の成長過程を見てきた女教師にしてみれば、大騒ぎするようなことではないのかもしれない。

「大人たちは何か納得してるけど、ミサカは全然すっきりしない。」

「逆にあんたたちの成長のためには、あの子がいない生活が必要だと思うじゃんよ。いつまでもべったりではいられないじゃん。」

不貞腐れたままの番外個体に対して、彼女は諭すように言う。一方通行を殺すか、もしくは彼女に殺されるか、そのどちらかしか想定されずに生まれた彼女は妹達の中でも断トツに彼女への依存度が高い。
妹達は失敗こそしたものの量産型能力者計画という一方通行とは無縁の存在意義を持って生まれたし、打ち止めに至っては絶対能力進化実験にすらそもそも関わりがない。彼女が一方通行を愛するのは生まれた理由によるものではなく、死にかけたところを救われたという後天的な経験によるものだ。
殺すか殺されるか、というかなり暴力的な切っ掛けではあるが、結果的にどの妹達よりも番外個体は酷く一方通行に依存している。

「ミサカは、べったりでいたい。」

「赤ん坊みたいね。」

「赤ん坊だもの、ミサカ。」

「あの子の独り立ちと違って、あなたのは大変そうね。」



512 ◆owZqfINQN1ia2014/03/08(土) 17:09:38.74ZxRmH7joo (7/11)




少年は夢を見た。
その夢の中では自分は幼い子供の頃に戻っていて、何故か殺風景な病室で包帯やらギブスやらを巻かれていた。

ああ、あの日の夢だ。

きっとこれから自分と同じくらいに幼い彼女が現れ、見舞いに来たというのに酷く沈鬱な面持ちで何も話さずに30分以上も過ごすことになる。退院した後も似たような日々が続いて、ある日突然に彼女に会えなくなる―彼は自身の経験として知っていた。
いやだなあ、夢の中でだってそんな思い、もう二度としたくないのに。



513 ◆owZqfINQN1ia2014/03/08(土) 17:10:08.55ZxRmH7joo (8/11)




おねがい、いかないで。
おれ、
はしりまわるのもとびまわるのもとくいだし、
けがしたっていいし、
だけどそのかわり、
おれにはおまえしかいないから、

どこにもいかないで。





514 ◆owZqfINQN1ia2014/03/08(土) 17:11:32.25ZxRmH7joo (9/11)


は、

と酷く浅い息をして少年は目を覚ました。目を開けたところで視界は暗く―とは言っても彼の視力は優れていて、一般的な人間には真っ暗闇に見えるような状況でもかなり見通しがいいのだが―夢の中とよく似た病室にいることだけが分かった。
夢の中の風景は曇りの日の昼間だったような気がするが、目覚めてみるとすっかり日も昏れた夜であった。建物の外からの物音も殆ど聞こえないのだから、そうとう遅い時間に違いない。
先程まで見ていた夢と今この瞬間には何も関わりがないのだ、と自分に何度か言い聞かせ深呼吸をしてから、ふと、何故自分は病室にいるのだろうかと疑問に思った。ベッドから起き上がろうにもどうしようもなく体が重く、それ以前に四肢の感覚が酷く鈍い。体の上に覆いかぶさっている布団の感触すら覚束なくて、何かが触れていても余程強い圧力がかかっていなければ気付かないのではないか、と思うほどだった。
だから少年がその存在に気付かなかったのも仕方がなかったのかもしれない。或いは、よく知った体温とその匂いを、最早自分の体の一部のように感じ始めていたのだ、というのは些かロマンチックにすぎる言い訳だろうか。

とにかくどんな詭弁を弄するともその状況に変わりはないのだが、病院のとても余裕があるとは言えないベッドの中で、少年は愛しい少女に添い寝されていた。



515 ◆owZqfINQN1ia2014/03/08(土) 17:12:49.33ZxRmH7joo (10/11)


「、!」

自分の隣でくうくうと穏やかな寝息を立てている少女に気付いた少年は、驚きのあまり大声を出しそうになったが、それ以上に自分の驚きがまるで声にならなかったことに驚いた。
咄嗟に、あ、あー、と風邪で喉を傷めた人間のように発声練習を試みるが、まるで音らしいものは出てこない。体が動かないことよりも、声すら出せないほどに弱り切っている自分にいっそ新鮮にすら思える衝撃を受けた。
彼女はいつからこうして自分の隣で寝ていたのだろうか。ふと不自由な体をどうにか動かして窓の方を見やると、カーテンが開けっ放しになっていた。カーテンを閉めることにすら思い至らぬ程の明るいうちに、こうして寝入ってしまったのだろうか。彼女らしくない、と思うと同時に、それだけ心を許されているのだろうかと嬉しくも思う。例えば、こんなに体が不自由な状態でなければ、思わず抱き締めてしまうだろうと思うほどに。
そうこうしているうちに、自分がなぜこんな不自由な体になってしまったのか、何となく思い出してきた。彼女を救うためであったのだから、少年はこの状態に不満はないし、後悔もしていない。でも彼女はそうでないのかもしれない―少なくとも幼かったあの日、彼女は勝手に首を突っ込んで大怪我をした自分に負い目を感じて、姿を消してしまったのたのだから。

―でも、今度は違うんだ

あのときの少女は、怪我をした自分に対してこんな穏やかな表情を見せてくれることはなかった。また壊してしまうのではないかと恐れているように、指先一本触れることすら躊躇っていた。だけれど今回、彼女は指先どころか全身をこうして寄り添わせてくれているのだから、あの日とは違うのだ、と少年が期待を抱くのも無理はない。残念ながら、そうと知らずに魔術に冒された体にはその感触を詳細に知覚することができなかったのだけれど。

ずっと、まってた。

彼女の耳元に口を寄せることすら難しい上に、声にならない声で、囁きかけた。



516 ◆owZqfINQN1ia2014/03/08(土) 17:28:13.97ZxRmH7joo (11/11)

百合にゃんがソギーを傷つけてしまったことをトラウマに思っているように、ソギーにとっても自分の怪我が切っ掛けで百合にゃんがどこかに行ってしまったことがトラウマで。その2つのトラウマを垣根で一回抉って、百合にゃんの行方不明で再現して、最終的に払拭して、という流れが書きたかった。

あと、気が付くと妹達絡めてシリアス展開混ぜ込みたくなる病気がイマイチ治らない。>>508辺りが顕著ですが、時折妹達の「~とミサカは云々」口調を意識して取っ払っています。単に書くのがしんどいというのもあるのですがw普通の人間らしい感情に目覚めつつある感じを表現したい。あと19090号たんぺろぺろしたい。


ところで…
実はこの後の展開あんまり考えてないんだ、とぶっちゃけてみる。
いや、書きたい単発エピソードは山ほどあるんだけれど、最終的な着地点が決まっていない。もともと>>10~>>43のようなバッドエンドありきで書き始めた話だったので、それ以外のルートを正直想定していなかったんですよね。エンディング決まってないからいつまでもgdgd続けようと思えば続けられるし、あと少し書いてすぱっとエンディングを設定することも可能なんだけど………。
せめてこのスレは埋めようと思っているんですが、そういう事情だから今後更新頻度がばらつくかもしれない。


517以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/08(土) 20:08:32.10o4JDYq3Ro (1/1)

乙です


518以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/09(日) 09:00:19.585Pr2/uug0 (1/1)

乙です
とりあえずイチャイチャさせてから考えよう
まずはイチャイチャだ


519以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/09(日) 19:42:12.19u8UwfIZa0 (1/1)

乙。書きたい単発エピソードを全部出してから考えようぜ
書いてるうちに着地点が決まるかもしれんし削百合もっと読みたいし


520以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/11(火) 00:48:03.32lkK07wDu0 (1/1)


好きなようにやるたまえ

俺はソギーとフィアンマの
対決をあきらめてないで


521 ◆owZqfINQN1ia2014/03/16(日) 16:07:59.597SwgI+zoo (1/15)

にいはお。最近はツンデレ虎ちゃんとコワモテ竜くんのアニメの無料配信見て(;゚∀゚)=3ハァハァしてた。ハァハァしたら次は削百合パロを妄想する辺り、どこまでも節操がない。

>>518
イチャイチャはさせる。メープルシロップに砂糖溶かした液体を吐き出したくなるくらいイチャイチャさせる。だけどエロエロはさせない!

>>520
アキラメロン…戦闘シーン書くの苦手なんだよ俺…



522 ◆owZqfINQN1ia2014/03/16(日) 16:09:03.797SwgI+zoo (2/15)


「あんたが勝手にいなくなるのなんて慣れっこだけど、せめてもう少しマメに連絡入れるもんじゃんよ。」

翌日の日が暮れた頃、女教師はふらりと帰って来た少女を受け入れた。
打ち止めは突然行方を眩ませた彼女に対する文句を言うほどの余裕もなかったらしく、安心のためか喜びのためか、こちらにがっしりと抱き付いたきり離れないので、腰の辺りにしがみつかれたまま家主と居候は向かい合っている。

「今回は説教しねェのか。」

「説教されたいんじゃん?物好きじゃんねぇ。」

「違うっつゥの。」

子供のような仕草でそっぽを向いた一方通行に対し、黄泉川は宥めるように言った。

「前の家出は戦争と時期が被ってたじゃん。血文字まで残して。それでもオマエは帰って来たから、今度からは何があったってオマエは帰ってくるって信じることにしたじゃんよ。」

家主に怒られることを想定した上で顔を見せた彼女は、それがないと知って安心したというよりも、少し不満に思っていることを伺わせる表情を見せた。怒られ、心配されていたんだということを表現されることで家族の愛情を確かめるような行為も、子供の情緒発達の上では然程珍しいことではない。これまで比較的黄泉川に口煩くされていた一方通行にしてみれば、叱られもしないことを彼女に関心を持たれなくなったことの現れのように感じるのも至極当然の反応であろう。



523 ◆owZqfINQN1ia2014/03/16(日) 16:09:45.037SwgI+zoo (3/15)


暫く沈黙があって、それから気不味さに追い立てられたように一方通行の方が話題を変えた。

「そォいや、番外個体はどうした。またほっつき歩いてンのか。」

「いや、あの子は、」

黄泉川愛穂が言い淀んだ。何でもきっぱりはっきりものを言う彼女にしては珍しいな、と一方通行は思った。

「あの子はあなたのやることなすこと気に食わないって言って家出中、ってミサカはミサカは妹の恥ずかしい行為をバラしてみたり。」

今まで一方通行が帰って来たことを全身で確かめるように胸元に顔を埋めて顔を上げることすらしなかった打ち止めが、それまでの行動とは打って変わったあっけらかんとした調子で言った。



524 ◆owZqfINQN1ia2014/03/16(日) 16:10:30.327SwgI+zoo (4/15)


「何じゃそりゃ。」

「あなたがいなくなったあと妹達に不安な気持ちが伝染して、それが全部番外個体に流れ込んできたみたいなんだよね。で、無事と分かったのに今度は面と向かって報告されないことに不満を感じてみたり、ってミサカはミサカは親切に解説。」

「そりゃ、直ぐ帰ってこれなかったのは悪かったと思うが。」

一方通行は自分に対する妹達の様々な感情が、番外個体に集積しているらしいことは朧気ながら理解していた。何で態々同胞の敵に執心しているのか未だよく理解できないが、助け合って生きていれば特別な感情が生まれてくるという理屈は分からなくもない。だから、番外個体が自身の行動に大げさなほど一喜一憂することも、なるべく受け入れようと努めていた。

「ソギイタも心配だったんでしょ?ソギイタがいなければあなたがこうして家に帰ってくることもなかったかもしれないから、ってミサカはミサカは物分りの良い子供を演じてみる。」

「演じてみるって、口にしたらオシマイだろ。」

彼女が直ぐに答えることができなかった、「家に真っ直ぐ帰らなかった理由」を打ち止めは淡々と語る。家族や妹達よりも少年を優先したことは事実であったし、彼女には打ち止めの口調を茶化す以上のことはできなかった。



525 ◆owZqfINQN1ia2014/03/16(日) 16:11:07.687SwgI+zoo (5/15)


「でも、こうとしか、表現ができないんだよ。ミサカたちはあなたがソギイタを優先することに心から納得できているのか、表面上そういう風に装っているのか、分からない。分かるのは、番外個体だけ、ってミサカはミサカは断じてみる。」

「なら、アイツに直接訊けばいいってか。俺が探しに行くのは構わねェけど、行き先に当てはあるのか。」

「今回は放っておいてやって欲しいじゃん。」

打ち止めと一方通行の会話に、黄泉川愛穂が口を挟んだ。口調は軽いが、懇願するような表情であった。

「はァ?ガキがこンなこと言ってンのにか。」

「だからこそ、じゃんよ。お前があの子の極端な感情表現を許すから、打ち止めや他の子達はあの子を介して感情表現することを止められないんじゃないかって、桔梗は考えてる。」

「番外個体もそれでいいって思ってる。他の子達の勘定の捌け口にされたって、アンタに可愛がられるって役得があるんなら、それでいいって思ってる。だから、アンタは番外個体を甘やかしちゃいけないじゃんよ。」

例えば解離性同一性障害などが似たようなものだろうか。不満や恐怖や怒りを発散するための別人格があれば、主人格はそういった感情から解放されて生活することができる。それどころか自身の中にそういった感情があることにすら気付きはしない。確かに妹達全体を大きな一つの人格と仮定すれば、番外個体はそういった感情の「捌け口」に相当する一人格なのだろう。



526 ◆owZqfINQN1ia2014/03/16(日) 16:11:45.627SwgI+zoo (6/15)


「そンなこと言ったって、一緒に暮らしてンのに冷たく当たれってンのか。」

一緒に暮らしている以上、彼女の感情表現を一切合切無視するのは難しい。甘やかすという以前に、自分の生活に支障を来す可能性もある。そういった不安も込みで訊ねた彼女に対して、黄泉川は意を決するように、強い口調で言った。

「違うよ。だからね、」



527 ◆owZqfINQN1ia2014/03/16(日) 16:14:18.977SwgI+zoo (7/15)






「お前、この家を出る気はないじゃんか?」







528 ◆owZqfINQN1ia2014/03/16(日) 16:17:09.567SwgI+zoo (8/15)


「、は?」

彼女は形の良い細い眉をぎゅうと寄せて、怒っているのか、不満に思っているのか、とにかくいい感情は持っていないとはっきり分かる表情を見せた。

「オ、マエ、俺を追い出したいってか、」

明確な表現ではないものの、母親のように慕う女教師の口から出た拒絶にも似た言葉に、息を詰まらせながら彼女は答える。親に捨てられる瞬間の子どもとは、こんなものなのだろうか、とどこか冷静に彼女の様子を伺っていた女教師は、そんなことはないんだと抱き締めてやりたい衝動にかられていた。
彼女は以前から一方通行に対して母親のように振る舞っていながら、時折突き放すような瞬間もあった―本当に、「時折」であったけれど。本当の血縁でもない、長い付き合いがあるわけでもない自分にできることの範囲をはっきりと線引していた。優しい彼女は目一杯甘やかしてやりたい一方で、それが彼女のためになるとも限らないことを理解していた。
もはや理解してくれる友人を複数得られた今、賢い彼女には自分のような「保護者」が必ず必要ではないことも弁えていた。この愛らしい娘から、自分から離れていく覚悟を既に決めていた。

「勿論、違うじゃんよ。」

「もともとこの街の子供は学生寮で一人暮らしか、精々同年代の子供と同室の寮生活が基本だ。こんな風に年代の違う人間が寄り集まって暮らすことの方がよっぽど珍しい。」

「この家にあんたを住まわせてたのは、トラブルに巻き込まれがちなあんたを守るのと同時に、人と助け合うことを覚えて欲しかったからじゃんよ。」

能力が万全であった頃にすら、スキルアウトたちの小競り合いに巻き込まれたり、腕試しのつもりの不良に絡まれたりすることは珍しくなかった。彼女が体を壊した前後は特に酷く、幾ら妹達の支えがあったとしても嘗ての住まいではまともに生活することはできなかっただろう。
だから不本意ながらも彼女は黄泉川との同居を受け入れたし、家主がそれ以上のことを考えて自分を家に招き入れたなどという可能性には考えが及ぶことはなかった。



529 ◆owZqfINQN1ia2014/03/16(日) 16:17:43.807SwgI+zoo (9/15)


「あんたの体はもう、誰かの助けなしには生きていけない。でも、そうなったばかりのあんたには、それを受け入れることが難しかっただろうから。」

「あんたはほんの半年程度でその体を受け入れられるようになっていた。助けてくれる友人も得た。だから、この家はもう必要ないじゃんよ。」

それは酷く無責任にも聞こえただろう。受け入れて、大切にして、甘やかして、それで今こうして捨てようとするのだ。或いは気難しい彼女なら、一生口も聞いて貰えぬほどに嫌われるかも分からないと、黄泉川は覚悟していた。事実、彼女は言葉にもできぬというほどに目を見開いて、何かをこらえるように薄い唇を噛んでいた。

「もちろん、直ぐに出てけってんじゃない。未だお前は、一人で暮らすことに不安があるだろうし。実際、リスクもあると思う。」

「でも賢いお前なら、いつまでもここで暮らしていられるだなんて、思ってなかっただろ。そのタイミングを、お前にちゃんと見極めて欲しいじゃんよ。」

結局その日、一方通行はそれ以上何も言わずに、少年に付き添うためなのだろう、病院に戻っていった。



530 ◆owZqfINQN1ia2014/03/16(日) 16:19:38.107SwgI+zoo (10/15)




「オマエ何やってンの?」

「天井のタイル数えてる。体動かないから、やることなくって。」

家主に告げられた言葉と自分の気持ちに折り合いをつけることができなくて、ぼんやりと、それこそ今だったならスキルアウトに隙を見せたかもしれないと思うほどに呆然としながら、病院に戻ってきた。
「戻ってきた」―奇妙な言葉だ。結局自分は、どこが戻るべき先なのか、未だによく分かっていない。結局、あの女教師が言うように、いつかあの部屋を立ち去るべきなのだろうと、初めから心のどこかで折り合いをつけていた自分自身に気が付く。戻るべき場所はあのマンションではないし、この病室でもないし、況してや障害を負って以来必要最低限の荷物を取りに行くことしかしていない嘗て住んでいた学生寮でもない。
そんなもやもやした感情は、指先を動かすことすら難しい少年が天井を親の敵でも睨みつけるように険しい顔で見詰めていたことで、どこかに吹っ飛んでいってしまった。自分も大概無愛想だと言われるが、何かに熱中しているときの彼も普段の人当たりの良さなどどこかに行ってしまったように気難しい表情を見せる。

「具合はどォだ。」

「自分では体が全然動かないから治ってる気はしないんだけど、冥土返しはまるで逆のこと言ってた。体が治す方に集中しているから、動かす方にエネルギーを回してないらしい。」

「直ぐに、家の中歩くくらいなら難しくなくなるって言ってたから、そうしたら退院させてもらおうと思う。」

そうしたら、と言うよりかは、今直ぐにでもそうしたいのだと誰の目にも分かる表情で少年は言った。少年のそういった子供っぽさ、あどけなさを笑うように、彼女はベッド脇、もはや定位置となってしまったパイプ椅子に座ってはァ、と溜息を吐く。



531 ◆owZqfINQN1ia2014/03/16(日) 16:22:41.307SwgI+zoo (11/15)


「そォは言ったって、不便さは暫く残るだろ。一人暮らしじゃあ休まりゃしねェ。」

「それ、お前が言うのか。ちょっとは世話焼いてくれるかなぁ、って期待してたんだけど。」

「ここにいたってオマエの家に行ったって俺のすることは同じだから、構わねェけどよ。オマエはこっちのが楽だろォが。」

そうかも知れない。彼女だって病院にいた方が他の人の手を借りられるし、立ち上がるのを補助するにしてもその後歩くのに肩を貸すのにも、狭い学生寮より広い病棟の方が楽に決まっている。家の中を歩けるようになるということと、それに助けが要らなくなるということはイコールではなくて、そういう状態まで回復しても誰の手も煩わせずに生活ができるわけではないと少年も理解していた。

「だけど、病院は苦手だから。」

「オマエ注射とか薬とか嫌いだっけ?昔っから研究者が差し出すそォいうの嫌っちゃいたけど、アレはどっちかっつゥと大人への反抗心だと思ってたンだが。」

「別に注射も薬も平気だけど、っていうか注射の針って俺の肌通るの?って感じだし。でも病室は嫌い。お前がどっか行っちゃう気がするから。」

今日みたいな薄曇りの日だったかもしれない、季節は違ったと思うけれど、屋内に入ればそんなことは実感として残らない、そもそも彼らは季節の変化に疎い体をしていたし、この病室から見える景色だけでは季節を特定することは難しい。とにかく今日みたいなある日、彼女は、少年の元を去ることを決心した。
最早その時自分がどんなことを考えていたのか、少年にも少女にも分かりはしない。何度もその場面を夢に見て、その度に少しずつ違う感情を抱くから、そのどれがそのとき本当に感じたものだったのか分からなくなっているのだ。ただ、あのときの選択肢をもう一度選び直せたなら、と何度も思ったことだけは変わりがなかったけれど。



532 ◆owZqfINQN1ia2014/03/16(日) 16:23:25.217SwgI+zoo (12/15)


「別に、今直ぐに家に帰れなくたっていいんだ。お前の言う通り、未だ一人で暮らすには無理があるだろうし。いつか、いつかそうなったらいい、っていう夢物語のようなものでいい。」

「もしかしたら叶わない約束になるかもしれない、でも俺はきっとそれを支えにずっと生きていくことができるから。」

「何言ってンだ、オマエ。冥土返しもオマエは治るって太鼓判押してるンだろォが。」

「そういうことじゃないんだ。俺が欲しい確信は、そんなんじゃない。」

「?」

少年の中で、単に病院から家に帰るという話がどんな飛躍を見せているのか、彼女には分からなかった。首を傾げる彼女に対して、不自由な体をどうにか動かして、仰向けになったまま少年は目を合わせようとする。東洋人でも虹彩は多少茶色みを帯びていることが多く、真っ黒ということは滅多にないのだけれど、彼の目は不思議なほど黒く、それでいて澄んでいた。



533 ◆owZqfINQN1ia2014/03/16(日) 16:25:52.327SwgI+zoo (13/15)






「一緒に暮らさないか、百合子。」







534 ◆owZqfINQN1ia2014/03/16(日) 16:27:04.937SwgI+zoo (14/15)


「今直ぐでなくたっていいんだ、1年後でも2年後でも、いっそ10年後でもいい。いつか、なんていう口約束だって構わない。」

「一緒に暮らそう、何も言わずに、ただ頷いてくれるだけでいいから。」

真剣な少年の面持ちを見て、彼女はいっそ恐ろしさすら感じた。彼は自分が嘘でも頷いたなら、それで報われるだとか、そう思っているのだろうか。それは酷く寂しい。彼だけではない、報いてくれると期待されるわけでない自分もどうしようもなく悲しい。

「いつか、とか、オマエ、そンな控えめなやつだったっけ。」

声が震える。声だけで済めばいいが、ほんの少し気を緩めれば体ごとその震えを表現してしまいそうだった。

「欲張っていいんなら、そうするけど。」

「好きなようにしろよ。つゥかオマエ、タイミング悪すぎ。」

黄泉川愛穂に家を出て自立することを勧められたその日に、彼に一緒に暮らそうと誘われるだなんて、お伽話にしたって都合がよすぎる。少年と助け合って生活することは、大人に保護されるのではない暮らしをして欲しいと言っていた彼女の希望にも外れていないのだろう。どちらにしろ、この体では誰かの助けなしに暮らせないだろうと、彼女自身も言っていたし。それにしたって、自分から頼る先を探すより前に声が掛かるとは何とも傑作だ―けらけらと腹を抱えて笑う少女の様子を少年が不思議そうに見ていた。

「?とにかく、よく分かんないけど。」

「欲張れって言うんなら、俺が退院したら、一緒に暮らすか。」



535 ◆owZqfINQN1ia2014/03/16(日) 16:30:47.337SwgI+zoo (15/15)


スレタイ回収に半分以上スレ消費するとは思ってもいなかった。自分にお疲れ様を言いたい。最早読者の皆様方もスレタイ忘れてるんじゃないかって思う。この機会に思い出していただけると嬉しい。

次はいきなり同棲生活とか、そんな都合のいい話はない。小ネタ挟むから。焦らすから。


536以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/16(日) 19:41:40.22rbZ0hKGCo (1/1)

乙です


537以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/17(月) 23:43:24.14vhc/Pgww0 (1/1)

乙です。

黄泉川先生、かっこいいな。


538以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/20(木) 01:47:43.75ll7L8SI80 (1/1)

超乙。スレタイいつ来るかと思ってた。
あと黄泉川先生マジ先生。


539以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/21(金) 22:32:02.30L6tpWbep0 (1/1)


変態ネタに焦らされてますが
どうしたらよいでしょうか


540以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/22(土) 01:22:36.33LFKh/LFi0 (1/1)

ここに来てスレタイ回収とか胸熱きゅんきゅん
乙です


541 ◆owZqfINQN1ia2014/03/22(土) 23:58:53.52nVUHiA4ho (1/2)

こんばんは、週末の海外サッカーを観戦しつつの小ネタ投下です。大分以前にリクいただいた、ドM春厨変態×ロリ百合子。というわけで>>539は今夜救われます。


542 ◆owZqfINQN1ia2014/03/22(土) 23:59:50.61nVUHiA4ho (2/2)

こんばんは、週末の海外サッカーを観戦しつつの小ネタ投下です。大分以前にリクいただいた、ドM春厨変態×ロリ百合子。というわけで>>539は今夜救われます。


543 ◆owZqfINQN1ia2014/03/23(日) 00:01:15.418KHEcv5no (1/4)

あ、サーバーのレスポンス遅くって2回投稿してしまった…



【10033号の場合】

ろり:あれ、オマエれーるがン、だっけ?あいつとそっくり。

えむ:そうですよー、ミサカはその人と姉妹なのです、とミサカはにじりにじり幼女に歩み寄ってみます。

ろり:ふゥン、ずいぶンそっくりなしまいだなァ。

えむ:そんなことは置いておいて、あのですね、一方通行にお願いがあるのですが、とミサカは徐ろに土下座してみます。

ろり:どげざだ、どけざだ。おれ、はじめてみた!

えむ:初めてついでにですね、こう、土下座しているミサカを踏んでみたりはしませんか、とミサカは願望を口にします。

ろり:ふむ?なンで??

えむ:ご褒美だからです、とミサカはきっぱり言い切ります。

ろり:へンなごほォび。ふむってどこを?

えむ:頭、ですかね。じゃなかったらこう横っ面を、ぱーんってはっ倒してくれるのもありです、とミサカは多様なバリエーションを示します。その場合には某兵長ばりのインサイドキックでオナシャス。

ろり:それもごほォびなのか?

えむ:いえす。マゾヒストの世界は複雑なのです、とミサカは大雑把なコメントで説明を放棄します。

ろり:まぞひすと?ひぎゃくしこうもってンの、オマエ。

えむ:幼女の口から被虐嗜好なんて出てくるとは…そのギャップがまた堪らんですはい、とミサカは全く答えになっていない言葉を口走ります。

ろり:よくわかンないけど、こォいうやつとかかわりあいになっちゃいけないってぐんはがいってたきがする。

えむ:第七位の言うことを聞く素直ないい子だと…!?とミサカは新たな一方通行の側面を発見して身悶えます。

ろり:なンかめンどくさいからほっておこ。

えむ:放置プレイもまた乙です、とミサカは懲りずに興奮を覚えます…!



544 ◆owZqfINQN1ia2014/03/23(日) 00:03:39.118KHEcv5no (2/4)


【14510号の場合】

ろり:あ、またおンなじかお。

はる:同じ顔だと思うのに、別の人だと認識しているわけですか?とミサカは幼女に確認をとります。

ろり:でも、さっきのとちがうやつだろ?なンかいろいろちがうぞ、うまくいえねェけど。

はる:はあ、こんなちっさい頃から一方通行は一方通行だったのですね、とミサカは感心します。

ろり:オマエはわりとふつう?

はる:何が普通かはよく分かりませんが、一方通行への愛は普通ではありませんよ、無差別級でベルト保持できると自負しております、とミサカは胸を張ります。

ろり:あ、ふつうじゃなかった。じゃあオマエもさっきのやつみたいにおれにふンでほしいとか、そォいうのあンの?

はる:あ、あのですね、ほっぺちゅーしてもいいですか、されるのでも構わないんですが、とミサカはMNW内の野次を無視しながら正直な気持ちを伝えます。おい10032号「ガチ百合www」とか笑ってんじゃねぇよ。

ろり:そォいうのはけっこンするまでダメだってきはらくンいってた。

はる:第七位の次は木原数多かよ!?幼女素直だな、とミサカはミサカも何か教えこんだりできるのかね、と思案してみます。

ろり:おれにぶンなげられてもへェきなやつのいうことなら、たまにきく。

はる:ぅゎょぅι゛ょっょぃ。ってえか判断基準そこなの?耐久性なの?とミサカはぶん投げられたくないのでそーっとこの場を立ち去ります…。10033号と違ってマゾヒストではないですし…。



545 ◆owZqfINQN1ia2014/03/23(日) 00:05:21.288KHEcv5no (3/4)


【20000号の場合】

ピーー:というわけで満を持しての登場、変態こと20000号ですよグヘグヘ、とミサカは息を乱しながら幼女に対して声かけ事件。

ろり:なまえらン、きせいかかってンぞオマエ。

ピーー:何ならセリフも規制かかるようなこと言っちゃうぅ?ピーーーとか、ピーピーピーとか、ピーーーーーーーーーーーとかって、とミサカはハイテンションを隠さず隠語を連発します。

ろり:だめだこいつ。

ピーー:そんなダメなミサカにセロリたんは日々演算をサポートされているわけですよ、とミサカは悲しい事実を告げます。ミサカの脳内で日々どんな風に犯されているかも知らずに…グヘグヘ

ろり:ビクッ ←怯えている

ピーー:ってか幼女に優しいからセロリたんって呼んでたけど、今はセロリたん自身が幼女ですねハァハァ、とミサカは興奮を隠さず怯えているセロリたんににじり寄ります。

ろり: ←首にかけてた犬笛を思いっきり吹いてる

ピーー:犬笛?セロリたん犬飼ってたっけ、とミサカは首をひねります。っていうかセロリたんの手ちっこい笛咥えてるの可愛いミサカにも犬笛の口のところぺろぺろさせてハァハァ。

いぬ:どうした、百合子!!

ピーー:うわあ第七位という名の忠犬来ちゃったよこれ、っていうかお前犬笛の音聞こえんの?とミサカは第七位の下僕っぷりに感嘆と悲哀を感じます。

いぬ:何だ、妹達じゃないか。お前の友達だぞ?

ろり:フルフル ←無言で首を振っている

いぬ:え、こいつだけは無理って?何だよそれ?

ピーー:第七位と幼女、これはこれで萌えますねジュルリ、とミサカは舌舐りをしますハァハァ。

いぬ:何となく分かった…。つっても妹達相手に手荒なことできないし…。

ろり:? ←ソギーの脇に抱えられる

いぬ:逃げるが勝ち!! ←猛ダッシュ

ピーー:あっアイツ逃げやがった!とミサカの足ではとても追いつけないことを自白します!



546 ◆owZqfINQN1ia2014/03/23(日) 00:07:02.028KHEcv5no (4/4)


以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka20000

ってな感じで幼女セロリたんの動画いっぱい撮ったけど
これで満足かおまいら



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10801

おうよ
これで夏コミ女装ショタ本作れるぜ



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka20000

俺が言うのも何だけど
おまいら性別:♂から離れられねぇの?



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka11801

いや幼女でも美味しくいただけますが



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka12801

でもやっぱ女装したショタって超倒錯的じゃん



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka13801

ショタだと攻めに着せられてる感が出てとてもいいと思います



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka14801

何か要するにギャップがあればいいんじゃね、とも思います
主に第一位に



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka15801

俺ら801スレとか言って
第一位妄想しかしてないからな…



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka20000

まあ俺もセロリたんならショタだろうがロリだろうが全身prprしちゃいたいから
分からなくもないけど



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10801

いや多分それ俺らと違うから




以上、MNW×ロリ百合子でした。


547以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/23(日) 00:39:16.72CT0UUP/L0 (1/1)

乙乙です



548以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/23(日) 01:02:55.67wYJ5bljCo (1/1)

乙です


549以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/23(日) 07:05:18.68od5a3/vh0 (1/1)

乙です。ょぅι゛ょっょぃ。


550以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/24(月) 01:42:40.11fsiQZj6n0 (1/1)



10033号とりあえずそこ代われ

 


551 ◆owZqfINQN1ia2014/03/29(土) 19:05:57.71f+/8zzmLo (1/8)

こんばんは。最近かなりラッキーな目に遭ってハイテンションな>>1です。
今日は小ネタ2つ投下しますね。んでもって次回投下からは新章という名のイチャラブ同棲生活に入ります。


552 ◆owZqfINQN1ia2014/03/29(土) 19:08:53.20f+/8zzmLo (2/8)


【彼女の名】



とある古本屋に白い修道服姿の少女が猫を抱えたままやってきた。扱っているものが古本だから動物連れでも頓着しないのか、はたまたその猫が案外大人しいことを既に知っているのか、年老いた店主は猫の鳴き声に気付きながらも咎めたりはしなかった。
小柄な体と、見慣れぬ西洋人の外見のせいで年齢は判然としない。鼻歌を歌いながら歩く様子も彼女を幼く見せているが、難解な本が所狭しと並ぶこの店内で目当ての本を容易に見付ける様子からすると、見た目のままの年齢ではないだろう。

「あった、あった。」

彼女が手に取った本は、極ありきたりな命名辞典だった。学生ばかりのこの街で命名辞典にどれほどの需要があるのかは分からないし、事実この本がこの古本屋に持ち込まれてからある程度の年月が過ぎているのにもかかわらず買い手はついていない。少女も購入を考えているというよりは、少し調べごとをしたいといった様子である。立ち読みだけして帰る客など珍しくないし、平日の昼間で他の客も疎らであるから邪魔にもならない。店主は先日仕入れたばかりの本に値札を付ける作業に戻ることにした。

「ゆりこ、ゆりこ、―」

日本語の辞書の掲載順には未だ不慣れであったが、いくらか四苦八苦しているうちにその名前を見付けた。数百ページもある分厚い辞書のかなり後ろの方である。

「漢字のバリエーションがいっぱいあるけど、「こ」は多分「子」だよね。」

小さく独り言を呟きながら同じ読みを持つ幾つもの漢字の並びを眺める。「友理子」「悠里子」「由梨子」―漢字の読みも意味もある程度は理解しているが、20個以上もあるだろうかというバリエーションのそれぞれに込められている少しずつ違った意味を読み取るのは、ネイティブではない彼女には容易でなかった。

「ん?」



553 ◆owZqfINQN1ia2014/03/29(土) 19:10:33.34f+/8zzmLo (3/8)


「『百合子』…これもゆりこ、って読むのかな。」

彼女の知る限り百という字に「ゆ」という読みはないし、合という字にも「り」という読みがあったようには思わない。日本語の漢字は中国語におけるそれとはまた違った特徴があって、意味に合わせて本来全く持ち得ないような読みが発生することがあった。それらはほとんど頓智やなぞなぞと変わらないような由来を持っており、彼女のような記憶力を持っていても容易に理解することはできないようなものだった。彼女は命名辞典を元の通りの場所に戻すと、近くにあった漢和辞典を手に取ってめくり始めた。

「百合…ユリ科ユリ属の多年草の総称。ああ、lilyのことだね。」

花の名前などは日本国内でも英名で十分通じることが多く、桜のように日本固有のイメージが強いものは別として、あまり日本での呼び方を意識していなかった。しかし宗教的にも様々な意味を持つ―とくに白いものは十字教において非常に重要な花だ―その花のことはよく知っていた。
果たして彼女の本名と思しき「ゆりこ」が「百合子」と書くものなのか実際には分からないが、華美ではないが凛として美しい花やすっと伸びる葉、冷淡に見えてどこか優しげな印象もある姿は彼女自身の印象と相通じるものがあった。

「ああ、でもだからかなあ、」

日本におけるユリの意味合いはよく知らないが、西洋、特に十字教の世界では女性的な美徳を象徴する存在として知られている。科学の申し子であると同時に知識の宝庫である彼女は、学問としての宗教にも通じているようだったから、その花の持つ宗教的な意味もきっと理解しているだろう。

―だから、名前を捨てたんだね。

修道女の予想が合っているのかどうか、それは最早当の本人にも分からないかも知れなかった。



554 ◆owZqfINQN1ia2014/03/29(土) 19:17:04.64f+/8zzmLo (4/8)


ソギーが最近人前でもフツーに「百合子」って呼ぶので、周囲の人は大体分かってる。けど百合にゃんがそう呼ばれたくないのを何となく察して周囲はノータッチ。
最初はソギーにもなるべく「百合子」って呼ばせないようにしてたのですが、少しずーつ地が出てくるという。割と長編になってきたからこそ生かせる設定を盛り込めるようになってきたので、最近楽しいです。

次はちょっとホラー?な小ネタ。


555 ◆owZqfINQN1ia2014/03/29(土) 19:18:38.36f+/8zzmLo (5/8)


【向こう岸の花】



「オマエ、何拾ってきてンだ。」

それが少し困惑したような物言いだったので、幼い少女は自分は何かいけないものでも持って帰って来てしまったのだろうか、と少し不安に思った。

「お花、摘んできたけどダメだった?川原に咲いてたやつで、人のお庭とかから取ってきたわけじゃないのよ、ってミサカはミサカは弁明してみたり。」

「別に花摘むのは勝手だが、花の種類がなァ、」

「この花?葉っぱがなくって、真っ直ぐひょろーって伸びてて、花びらの形も何だか不思議で、とっても気になったんだけど。毒があるとかなのかな、ってミサカはミサカは首を傾げてみる。」

彼女が持って帰って来た花はその通り、葉がついておらず、茎も一本まっすぐに伸びているだけの、赤い不思議な花弁がついた花であった。可愛らしい外見とは言い難いが、目に付くといえば確かにそうかも知れない。

「…毒もあるっちゃァるが、それ以上に縁起が悪ィ。」

「縁起?アナタそういうこと気にする人だっけ?ってミサカはミサカは一方通行の意外な一面を発見してみたり。」



556 ◆owZqfINQN1ia2014/03/29(土) 19:22:04.52f+/8zzmLo (6/8)


「俺は気にしねェが、大人どもは嫌がるだろ―「彼岸花」なんて。」

暗に元にあった場所に戻してこようと提案しているのだろう、帰って来たばかりの少女の手をとって彼女は家の外に連れ出した。その足取りは戸惑いがちで、彼女自身もどう説明したらいいか迷っているのだろうということが知れた。

「ヒガンバナ?それがこのお花の名前なのね?ってミサカはミサカは確認してみる。」

「彼岸の頃に咲くからとか食べたら毒で彼岸に行ってしまうから、とか名前の由来は色々あるらしいがな。死人花とか地獄花とか異名も多いし、家に持ち帰ると火事になるっつゥ迷信もある。」

「何だかとにかくおどろおどろしいのね。でも確かにヨミカワは嫌がりそうかも、ってミサカはミサカはしょんぼり顔。」

迷信や何かを馬鹿正直に信じるというわけではないが、家主である女教師は案外としきたりだとか古い習慣だとかを大事にする質である。今でも残っているそういったものには何かしら意味があるのだろう、と考えているようなところがあって、この街では珍しいその性質はそういうものに疎いクローンの少女にとっては却って好ましくも思えた。

「川原っていつもの散歩コースのか。ったく、普段そこらの花なンて持って帰ってこねェのに、何だってンなもン選ンだンだ。」

彼女の言う通り、打ち止めは普段そこらに咲いている花に興味を示すことはあっても、摘んで持って帰ってくるようなことはなかった。この街で咲いている花が自然なものとは限らない―何か妙な実験の結果生み出された植物かもしれないし、未だ一般に流布してない栄養剤とかを投与されているかもしれないし―他の街でこんなことを言ったら心配症だと揶揄されるだろうが、この街では極普通の発想である。打ち止めも幼いながらそういった危険性は理解していて、無闇矢鱈と野外にある見慣れぬものに触れ回るようなことはない筈だったのだが。

「確かに、何でだろう。でもね、不思議なんだけど、何となく身近に感じたの。このお花が一杯集まって咲いているのを見て、ミサカたちみたいだな、って。」



557 ◆owZqfINQN1ia2014/03/29(土) 19:26:27.95f+/8zzmLo (7/8)


はァ、と彼女は困ったように溜息を吐いた。呆れだとかもっと他の感情から溜息を吐くことは多いが、何と言ったらいいか分からない、と言わんばかりの彼女のそういった様子は珍しかった。

「まァ、確かにオマエらには似てるかもな。」

「どういうこと?ってミサカはミサカは疑問形。」

「こいつら、三倍体だからな。種子で増えることが無ェ。」

遺伝子工学の第一人者と同居している打ち止めは、「三倍体」という聞き慣れぬ言葉の意味を頭の中でほんの数秒検索した。三倍体―昨年の夏に種なしスイカを食べたときに聞いた覚えがあるから、なるほどこの花もあれと同じように種ができないのか、と細かい理論は分からないながら納得することができた。

「種で増えないなら、どうやって増えるの?」

「植物だと珍しくないンだがな、球根だとか枝だとか植物体の一部を切り取ったら、その一部分が新しい植物体になるっての。栄養生殖ってやつだが。」

「人だと腕とか足とかを切り取ったら、そこからもう一人の人ができる感じ?何だか気持ち悪いけど、それがどうミサカたちと似ているの?ってミサカはミサカは不思議に思ってみたり。」

打ち止めの手を引く人は、一度立ち止まった。3月も終わりに差し掛かって昼間は暖かいが、日の傾きかけたこの時間帯になると風が冷たい。沈みかけた日を背に立った背の高い少女は、打ち止めの方に暗い影を落としていて、ただ双眸だけが彼岸花みたいに静かに燃えていた。

「全部クローンだからだよ―同じ川原に咲いてたやつだけじゃねェ、理論的には日本中にあるこの花は全く一緒の遺伝子を持ってる。」

「っつってもソメイヨシノも三倍体じゃねェが栄養生殖だし、植物にクローンなんて珍しくねェのにオマエなンで態々彼岸花なンてもンにシンパシー感じてンのか。」

彼女は途端にその静かな雰囲気を脱ぎ去って、口早に捲し立てた。打ち止めはその雰囲気の変わり様に些か戸惑った。
でも、自分たちがこの花に似ているというのなら、彼女だってそうだと思った。



558 ◆owZqfINQN1ia2014/03/29(土) 19:28:35.84f+/8zzmLo (8/8)


本日はここまで。
2つ目の小ネタはこのスレ自体とはあまり関わりないので総合スレにでも投下しようかとも考えたのですが、たまにはこういう話も。


559以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/29(土) 20:07:38.92aN9Z7NZO0 (1/1)

乙です



560以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/29(土) 21:19:13.273oRDtSR1o (1/1)

乙です


561以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/04/01(火) 13:38:10.55hxuJkrZi0 (1/1)

切ったら増殖していくミサカ達…


562 ◆owZqfINQN1ia2014/04/05(土) 19:11:02.92u2y932Ijo (1/11)

自分でこんな小ネタ書いといて>>561読んでぞっとしたわ。百合子ちゃんの夢に出そう、と思った自分は薄情だ。

今回から新章というか、新生活というか。わくわくドキドキ同居生活だぜ。と言っても今日投下分にはソギー殆ど出ないけど。


563 ◆owZqfINQN1ia2014/04/05(土) 19:13:15.55u2y932Ijo (2/11)




『削板との同棲生活はどうじゃん?』

電話口からからかっているのか真面目なのか分からない、酔っ払っているには違いない声が聞こえて、彼女ははあ、と溜息を吐いた。少年が退院すると同時、約束通りに少年とのルームシェアを開始したのだが、それを聞いた元同居人たちは「それってルームシェアってか同棲じゃん?」と曰わったのだ。どうもそれをネタに彼女をからかう欲求は未だに維持されているらしい。

「まさかそンな下らねェこと訊きに電話かけてきたわけでもねェだろ。用件は何だ。」

『詰まらないじゃんねー、確かに本題は別にあるけど。』

それから彼女は陽気な声を真面目なものに改めて、周囲に憚っているようにも聞こえる低い声で本題を切り出した。

『例のもの、見付かったらしいじゃんよ。どうする?』

「…親船も忙しいだろ、向こうの都合訊いて俺の方から会いに行ってやらァ。」

『分かった。じゃあ、削板が全快したなら、二人で顔見せに来るじゃんよ。』

こちらの返答も待たずに、ぷつりと電話を切る音がした。

携帯をソファーに放り投げてから視線を上げると、少年が不思議そうな顔をして廊下の方からこちらを覗き込んでいるのに気が付いた。退院後も1週間は外出禁止を言い渡された少年は帰宅してからというもの、使わなくなった私物などを詰め込んでいた物置代わりの部屋を整理するのをリハビリ代わりにしている。無論、その部屋を彼女の私室とするためだった。

「黄泉川先生から電話か?」



564 ◆owZqfINQN1ia2014/04/05(土) 19:15:01.63u2y932Ijo (3/11)


件の女教師は本来男女の学生、しかも高校生が一つ屋根の下で暮らすということに対して反対すべき立場なのだろうが、アンタたちが自分で決めたことなら構わないじゃんよ、とだけ言ってあっさりと了承した。まあそンなもンだろォなと思っていた少女はともかく、鉄拳制裁の一発くらいは覚悟してた少年は却って拍子抜けしたほどである。
その彼女の保護者から電話が掛かってきたと知って、やっぱりいざとなると心配だったのだろうか、と少年は不安になったのだが、電話の用件はまるで違うことだったらしい。

「俺のID、見付かったんだと。」

「?」

「『鈴科百合子』のIDが。」

それは随分前に彼女が捨てた、人間であった頃の証だった。



565 ◆owZqfINQN1ia2014/04/05(土) 19:21:32.84u2y932Ijo (4/11)




それは数日前のことであった。
彼女が「元」同居人たちに対して家を出て少年と暮らすつもりだということを告げた日、彼女はもう一つ、保護者たちに対して自身のある考えを伝えていた。

「芳川、オマエは俺のもォ一個のIDが今どォなってるかなンて知らねェよな。」

「もう一つのID?そんなものがあるの?」

主に妹達の調整・管理を担当していた芳川は、一方通行の生活周辺のことにはあまり関わりがなかったのだ、彼女のIDになど詳しいわけがない。しかし彼女は度々学校を変えたり住居を変えたりしていて、その手続を彼女自身がやっていた様子はないから、IDだとかそういった公的なサポートをしていた人間がいただろうとは思う。彼女のIDについて詳しい人間がいるとすればそちらの担当の方だろう。

「もう一つのIDってどういう意味じゃん?」

「俺のID、『一方通行』だろ。あの実験に参加するタイミングで新規発行したんだよ、これ。」

「新規発行って、名前の変更ではなくて?それなら…、」

「元々持っていた最初のIDは別に残ってる筈なンだが。」



566 ◆owZqfINQN1ia2014/04/05(土) 19:25:34.96u2y932Ijo (5/11)


『一方通行』のIDは彼女が『鈴科百合子』という個人であることを忌避して単なる実験動物であろうとしたことが切っ掛けで作られたものであるが、これは学園都市上層部にとっても非常に都合のいいものであった。IDはこの街における様々な手続きに利用され、これによって公的機関の入退場すら詳細に記録されている。それ故、『鈴科百合子』のIDを『一方通行』に書き換えるよりかは、全くの別人として扱われる新規のIDを用意した方が何かと後ろ暗いことには向いていたのだ。当時の彼女は、これまでの生活の軌跡を全て抹消できるそれを歓迎すらしていた。
IDはあくまで学園都市内でだけ使用するものであるから、戸籍や住民票の偽造などとは違い、学園都市の上層部が関わればダミーを用意することも然程難しいことでもないのかもしれない。だがそういった偽造が当たり前に行われていたという事実は、目の前の少女がどこまでも『一人の人間』ではなく『道具』として扱われていた過去を想像させて余りある。
そういった大人の都合に振り回される子供を減らすために日夜身を粉にしている女教師は怒りを堪えて―彼女自身に対して怒っても意味がない、罰されるべきはそんな状況を看過した大人たちだろう、芳川桔梗はその状況を知らなかったのだから彼女もその怒りの対象ではない―彼女が『一人の人間』としてのIDを探している理由を想像した。

「…削板と一緒に暮らすなら、『一方通行』ではないそっちのIDを使用した方が安全じゃないか、ってことじゃんね。」

「まァ俺はこの通りの見た目だから、IDが『一方通行』でなくなったところでどこまで意味があるかは分からねェが。そもそも頭を怪我した時点でそれを考えるべきだったンだろォしな。」

彼女は暗に能力を自由に使えない自身の体を嘲るような口振りで言った。だが実際のところ、彼女にとって怪我をした時点で『一方通行』を捨てることが非常に難しかったことは誰もが理解していた。それまで能力に固執していた彼女にとって、最早普通の人間であるということを受け入れることは難しいという以上に、恐怖すら感じられることであった筈だからだ。だから、寧ろそれが半年ほどで可能になったことを喜ぶべきなのだろう。



567 ◆owZqfINQN1ia2014/04/05(土) 19:26:11.26u2y932Ijo (6/11)


「そういう込み入った事情なら公的機関を頼るのは正解じゃないじゃんよ。そうだな、ちょっと裏技になっちゃうけど、親船さんにでも相談してみるじゃん。」

彼女が言う通り、数年にわたってダミーのIDを使用していたが本来のIDの利用を再開したい、なんて間違っても公的機関に相談できる内容ではなかった。学園都市上層部が関わったのは間違いのない事実であるから、ルール違反ではあるかもしれないが、そういった情報にアクセスすることのできる人物を頼るのが手っ取り早いだろう。
そうして黄泉川は同僚の母親であり、警備員として面識もある学園都市統括理事の一人、親船最中のことを思い出した。彼女の性格ならばこういった事態には熱心に対応してくれるだろうし、何より一方通行とも見知った仲であると聞いているから、彼女の複雑な事情も知らぬではないだろう。
早速彼女にメールでも送ろうかと思って立ち上がった矢先、この件の提案者である筈の一方通行が寧ろ不安げな表情をしているのが目に入った。早々に行動に移そうとしている大人たちの視線から隠れるように、そっと傍らに座ってこれまで一切発言をしていなかった少女の頭を撫でる。

「ごめンな、」

「いいの、ってミサカはミサカは首を振ってみる。」

IDも本名も持たぬ子供は、健気にも笑ってみせた。単に彼女らと違って自分がそれを持つことを謝っただけではないのかもしれない。彼女らには同居している大人たちには分かり得ぬ妙な繋がりがあって、それに踏み込むことは躊躇われた。大人たちは二人の会話にも触れ合いにも気付かなかった風を装って、リビングから出て行った。



568 ◆owZqfINQN1ia2014/04/05(土) 19:28:32.27u2y932Ijo (7/11)




「つゥか、オマエ何でこの部屋にいンの。」

最近はまともに帰っていなかった自室に入ってみると、不貞腐れた様子の番外個体がベッドに突っ伏していた。

「アナタもうこの部屋使わないんでしょ、何だっていいじゃん。ミサカだって自分の部屋欲しいし。」

元から自分がこの部屋を出て行ったなら番外個体が使うことになるだろうと思っていたので、彼女はその発言に対してそれ以上反論しようとも思わなかった。それどころか机だの本棚だのベッドだのは運ぶのが面倒くさいから、そのまま置いて行って彼女の好きにさせようかと思っていたほどだ。

「男と暮らすなンてキモいだとか言われるかと思ってたが。」

「言ってやってもいいけど、そんなんじゃ心変わりしないじゃん、第一位。」

先ほどまでの会話の内容は、打ち止めを通じて既に把握しているのだろう。彼女はいきなり持ち出された新しい話題にも当たり前のように対応した。

「そりゃ最初は第一位のこと殴ってやろうかと思ったよ。ミサカたちを放ったらかすのか、捨てるのか、邪魔になったのか、色々頭の中ぐるぐるした。」

一方通行は手早く数日分の着替えを纏めて手頃な旅行鞄に詰め込むと、それから手を止めて番外個体の小さな声に耳を傾けた。



569 ◆owZqfINQN1ia2014/04/05(土) 19:32:28.07u2y932Ijo (8/11)


「でもそういう勢いのまま怒鳴り散らすのが第一位は嫌になったのかもなって思ったら、もうぷしゅーってその場で力抜けちゃった。」

番外個体は以前から怒りのまま暴れだしたかと思ったら、突然空気が抜けてしぼんだ風船のようにその場に座り込んで暫く動かなくなるようなことがあった。今もそのような状態なのだろうか。それにしては口振りも表情もしっかりしている、と一方通行は思った。

「別にオマエのこと嫌になってなンかねェけど、」

そう前置いてから一方通行もぽつりぽつりと語った。

「俺だって色々考えた。ここを出ることだってIDのことだって、オマエらから、『一方通行』のしたことから、逃げることになるンじゃねェかって。」

「でも、そンなンじゃ逃げられねェだろ。どうやったって。」

物理的な距離を置いたぐらいでは、名前を変えたぐらいでは、何も変わらない。死んだ10031人。生きていく9971人。彼女たちは未だ訳の分からぬ因果に縛られていて、それはきっとどうしようもなく続いていく。彼女たちはいっそそれに救われてもいた。
『一方通行』ではなく、『鈴科百合子』として生きていくことは、その現実から目を逸らすことには繋がらないだろう。実験動物である『一方通行』が誰かの定めたプロトコル通りに同じ実験動物を殺したのではない、『鈴科百合子』という一人の少女が同じ年頃の少女たちを殺したということが明らかになるだけだ。彼女は学園都市第一位でも何でもなく、ただの子供でありながら10031人を背負っていく覚悟を決めたというべきなのだろう。その重みは、自分自身の重みすら見定められていない番外個体には分からない。



570 ◆owZqfINQN1ia2014/04/05(土) 19:35:32.17u2y932Ijo (9/11)


「そうだね、ミサカたちと第一位は、そんなんでは離れられないね。」

番外個体は俯せになった状態のままベッドから少しだけ状態を起こし、一方通行の耳の横で揺れる黒いコードに指を引っ掛けた。一方通行はそれを嫌がる様子はない。

「ミサカたちにとって、あなたにとって、これは良かったのかなぁ。」

一方通行はきゅっと眉を寄せて、怒っているとも悲しんでいるともつかぬ表情を見せた。

「そんな顔しないでよ、ミサカまで悲しくなっちゃう。あなたの考えるような意味ではないんだから。」

彼女が、一方通行の補助演算などしなければよかったなどと考えているわけではないことは知っていた。だけれど、一方通行自身もこの電極が在ってよかったのだと肯定することはできていないから、その言葉に色々なことを考えさせられてしまう。
これがなければ、ただ自分は報いを受けて廃人となるだけだ。或いは自分を利用せんとする輩が現れて妹達を介さない似たようなシステムを構築しようとするかもしれないが、自分はそれを拒むだろう。良くも悪くも自身を支えているのが妹達だと思えばこそ、一方通行は自罰的にこの宙ぶらりんな体を受け入れてきた。
逆に妹達にとってもいい面と、悪い面があったのだろうか。一方通行はそれを知らない。彼女らの助けになれている自分を知って、満足してしまえるようなことがあってはならないと思っていたから、敢えて確認することはしないでいた。今だって、それはしたくない―その答えを知ってしまったなら、これまで半年以上の間自身を突き動かしてきた感情が消え去ってしまいそうに思えたからだった。

「…週に一度くらいは顔見せるから、お前も定期的に帰ってこいよ。」

「そんなの約束できないや。」

番外個体は毛布に顔の半分以上を埋めて、それから何も言わなくなった。



571 ◆owZqfINQN1ia2014/04/05(土) 19:38:17.73u2y932Ijo (10/11)




「この家を出て行かないかって言ったのは私だけど、こんなにあっさりコトが進むと寂しいもんじゃんね。」

玄関に腰掛けてブーツのファスナーを閉めていると、後ろから家主に声を掛けられた。手には何かの詰まったタッパーが透けて見えるコンビニ袋を持っていて、自分と少年の夕食に、とでも言って持たせてくれるつもりだったのだろう。

「未だ娘二人残ってンぞ、寂しがってる場合じゃねェンじゃねェの。」

「あの二人の独り立ちはまだまだ先そうじゃん。」

彼女がこの広い家に一人で暮らしていた頃のことを想像する。今とはいい意味でも悪い意味でもまるで違った生活だったろう。こんなトラブルメーカーを何人も引き入れて、血の繋がりもないのに家族だ何だと嘯く彼女を当初こそ鬱陶しく思ったが、確かに一方通行は家族というものを初めて知った。

「いつでも帰って来ていいから、って言うと逆にお前の独り立ちが上手くいかないって予想してるみたいに聞こえるか。でも本当に、いつでも帰って来ていいじゃんよ。」

彼女はそれから一方通行が着替えを詰め込んだ旅行鞄の隙間に、タッパー入りのビニール袋を押し込んだ。

「いつか―直ぐにって話じゃないけど、いつか、お前の本当の名前、お前の口から教えて欲しいじゃんよ。」

「一応、考えとく。」

その日一方通行は、初めてこの家を出るときに「行ってきます」という当たり前の挨拶を告げた。



572 ◆owZqfINQN1ia2014/04/05(土) 19:43:30.81u2y932Ijo (11/11)


自分番外個体好きなんだなーと思いながら投下してました。一方さん♂よりかは百合子ちゃんを扱ったCPの方が好きなんですが、一方さん♂なら番外通行が一番好きかもしれん。土一も捨てがたいが。


573VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/05(土) 19:45:40.27FCz9dt8y0 (1/1)

乙。番外通行も土一も好きだ。


574VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/05(土) 19:56:18.99nBSDCefBo (1/1)

乙です


575VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/06(日) 00:36:25.59nkWjMQ6d0 (1/1)

乙です



576VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/06(日) 02:37:53.47tcwMAYlDO (1/1)

>>1とはうまい酒が飲めそうだ
土一も土百合も番外通行も大好きだよ


577VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/14(月) 00:28:42.95W6XLm+bT0 (1/1)

今週は来れないのかな


578 ◆owZqfINQN1ia2014/04/18(金) 21:51:21.12f2uSNx2Wo (1/12)

先週は更新できずスミマセン。エタるほど切羽詰まってはおりませんが、実は複数作品並行させようと準備中です。発表できるのは直ぐというわけではないと思うんですが。
来週もまた投下できない予定なのですが、ご了承下さいな。


579 ◆owZqfINQN1ia2014/04/18(金) 21:55:57.55f2uSNx2Wo (2/12)


「あなたから訪ねてきてくれるだなんて嬉しいですね。最近は酷く忙しいようでしたし。」

久々に会った彼女に先ずこんな挨拶をされたのだが、当の一方通行は忙しかったのか、と問われればさして考える間もなく首を振っただろう。彼女と知り合った当初の方が余程面倒なことには巻き込まれていたと思うからだ。
或いは家族や友人に振り回される方がそんなことよりも余程面倒で忙しいことなのだと年長者に諭されてしまえば、否む材料は特に持たないのだが。

「痩せたンじゃねェの。たまにゃあ休めよな。」

「そんなことを言って、休んだら休んだで嫌味を言われてしまいそうですね。」

「俺はどンだけ性悪に思われてンだかねェ。」

この街の子供を守るため、黄泉川愛穂や月詠小萌とはまた違った方法で戦う女性―親船最中は、不躾にも思える学園都市第一位の口振りをくすりと笑って受け流した。
黄泉川愛穂から連絡を受けた後、彼女へのアポイントを取るのは思ったよりも容易かった。彼女相手に秘書だの何だの訳の分からぬ人間たちを介してそういった約束事を取り付けるのは非常に時間も手間もかかるし、正直面倒くさがりな一方通行の領分ではない。ひょんなことから―と言ってしまうには中々大げさな出来事だったが―彼女と縁を持ち、個人的に連絡を取り合えなくもない関係になっていたのは幸運と呼ばれることなのだろうな、と思う。人と人の縁だとか、そういうものを殆ど気にも留めず過ごしてきた一方通行にとって、こういった感覚は新鮮であった。



580VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/18(金) 21:56:44.45NYmf9zSpo (1/1)

把握


581 ◆owZqfINQN1ia2014/04/18(金) 22:02:09.20f2uSNx2Wo (3/12)


「貰い物なんですが、食べますか。甘いものは苦手だと聞いていましたが、こういうのは平気でしょう?」

いつか必死の形相で一方通行を門前払いにしようとしていた秘書らしい小男が、幾らか訝しげな顔をしながらも茶と米菓の盛られた器を持ってきた。嘗て対峙したときには小物にしか見えなかったが、こうして半年後にも同じポジションにいるところを見ると骨のある男なのだろう。彼女のような人間に付き従うには、単純な能力だけではなく運のようなものを身に付ける必要がある。
例えば上条当麻に同じことをさせたら、あっという間に彼女のトラブルに巻き込まれて、それどころかいつの間にやら事態をより大きいものにして、さっさと命に関わる怪我でもするのだろう。優秀な人間だったとしても、命の関わる場面ではその能力を発揮できない場合もある。
いっそこういった仕事は誰の目にも付かないような地味なつまらない、それでいて根性だけはある男の方が余程嵌まりがいいのだ。今も彼がうだつの上がらない小男そのままにこの仕事をこなしているというのなら、これは彼には向いた仕事だということだろう。



582 ◆owZqfINQN1ia2014/04/18(金) 22:03:38.45f2uSNx2Wo (4/12)


「俺も手土産の一つでも持って来るべきだったンかねェ。」

一方通行は淹れたての煎茶で手を温めながら呟いた。2月も近付いて、日本では古くから一年で一番寒い季節だとされている頃合いである。手袋もせずに歩いてきた手は悴んでいて、茶碗の熱が少し刺すようにすら感じられた。
こういった様子を見かねた黄泉川に手袋を与えられたこともあるのだが、どうにも思うように手指を動かせない窮屈さが苦手である。繊細な能力を持つが故だろうか、以前調べたところ感覚も人より過敏らしいのだが、手指は特にその傾向が強かった。その手指を覆われると、まるで視界すら奪われたように感じる。

「そんな気遣いは要りませんよ。これも仕事の付き合いで頂いたものですし、そういう貰い物がたくさんあって無駄にしないのにも苦労しているくらいですから。」

「ふゥン。」

彼女は、そォいうの羨ましがりそうな奴知ってるなァ、などと思いながらどこぞの暴食シスターを思い浮かべて気のない返事をした。
親船はそれから最近風邪をひいて仕事を空けてしまっただの何だの当り障りのない世間話を持ちかけて、それに面白くも可笑しくもない相槌を打つ一方通行を嬉しげに眺めていたが、それも然程長くは続かなかった。短気な一方通行が、早々に痺れを切らしたからである。



583 ◆owZqfINQN1ia2014/04/18(金) 22:04:51.71f2uSNx2Wo (5/12)


「世間話も悪かねェけどよ、さっさと本題済ませねェか?オマエ、暇ってわけでもねェだろォが。」

「まあ。偶には息抜きしたいという私の気持ちを尊重してくれてもいいと思うのですが。」

「俺との会話が息抜きになるって思ってンなら、おめでてェ頭だ。」

「私にとって利害関係のない相手というのは貴重ですから。協力関係であると言っても、信用していいかどうかは別の問題ですしね。」

「利害関係がねェのは確かだが、人殺しを信用するのもどうかと思うがねェ。」

「それは私にも責任のあることですから。あなたを、大人たちの都合に巻き込んだことは。それであなたが私に危害を加えるというのであれば、それは仕方のないことだとも思います。」

「…俺はそォいうことを言いたいンじゃねェ。」

いつもの軽い皮肉が、妙に神妙に受け取られて一方通行は気まずい気分になった。この街の子供を救うため、黄泉川愛穂や月詠小萌とはまた違った方法で日夜奮闘している彼女には耳の痛い話だったのかもしれない。
一方通行はその責任が彼女に一部でもあるとはまるで思えなかったが、そう言っても納得する人物ではないのでそれ以上のことは言わなかった。



584 ◆owZqfINQN1ia2014/04/18(金) 22:06:22.80f2uSNx2Wo (6/12)


「あなたの探しもの、見付けられたんですよ。」

「…黄泉川から聞いた。」

「鈴科百合子」としてのID―本人は捨てたつもりで、今になって突然必要になったのだから「探しもの」という妙に美しい表現はそぐわない気もした。

「もう何年も前に、協力機関への交換留学の為この街を出たっきり、ということにされて放棄されていたようです。あなたが望むのであれば、留学先から戻ってきたということにして、再発行できますが。」

「少し、考えさせて欲しい。」

「構いませんよ。そう簡単に決められるものでもないでしょう。」

「これは、私からの提案なのですが、」

親船は口調を少し緊張したものに変えた。「交渉」を生業とする彼女にしては、珍しいものだった。

「期間限定で2つのIDを並行して使ってみる気はありませんか。」

『一方通行』と『鈴科百合子』の二つのIDを同時に持ち続ける、その都合のいい提案に彼女は眉を顰めた。確かにそのどちらも現在の彼女には必要なものだろう、『一方通行』を捨てて『鈴科百合子』になりきれるほど彼女は人間性を取り戻すことはできていないし、だからと言って『鈴科百合子』を捨て置けるほど非情になりきれもしない。だけれどこの街の誰もが一つしか持たない筈のものを、自分だけが特別に二つだけ持つことの後ろめたさのようなものを感じていた。



585 ◆owZqfINQN1ia2014/04/18(金) 22:08:26.23f2uSNx2Wo (7/12)


いや、後ろめたいのはそんなことではない。
周囲が持たないものを持つことなんてこれまで当たり前であった彼女にとって、それは背徳感を生む原因になどなりはしない。胸が痛むのは、都合よくその二つを使い分けることを勧められているような気がしたからだ。
無論、親船最中がそんなことを考えているわけではないことは分かる。それでも、漸くこれまで自分の為してきたことは自分自身に責任がある、と受け止める決意を固めた彼女にとって、その『自分自身』が曖昧になるようなその特例は、自分の責から目を逸らすことのように感じられた。

「…違法行為なンじゃねェのか?」

「IDはこの街の中でだけ通用するものですから、それを制限する「国の法」はありませんよ。言葉の綾と言われてしまえばそれまでですが、少なくとも違法行為ではありません。」

「この街のルールとしてのそれはありますが、それを破ってあなたにもう一つのIDを与えたのはこの街ですしね。」

快くその提案を受け入れる様子のない一方通行に、困り果てたように親船は溜息を吐いた。

「最初に言ったように、あくまで期間限定でその状況を認める、というだけの話です。その間に、「どちら」として生きるか決めて欲しいのですが。」

「ゆっくり考えて下さい。簡単に決められることではないでしょうから。」

彼女は温くなってしまった煎茶に口をつけると、打って変わって久しぶりに会った孫に近況を訊ねる祖母のような調子に戻った―一方通行の祖母としては、些か若いが―恐らく、今日明日に結論の出ることではないだろうと見て、今日はこれ以上この話をするつもりはないと暗に伝えようとしたのだろう。



586 ◆owZqfINQN1ia2014/04/18(金) 22:09:04.70f2uSNx2Wo (8/12)


「そう言えば黄泉川先生の家を出たと聞きましたが、一人暮らしに不便にありませんか。」

「一人暮らしじゃねェンだがな。」

「誰かと一緒に暮らしているんですか?ご友人と一緒なのであれば心配はありませんが。」

「ああ、オマエも知ってるかも知れねェけど。第七位。」

一方通行がさらりと告げた同居人の名前に、彼女は目をぱちくりとさせた。

「ええっと、一点だけ確認しても宜しいですか?」

「私が知っている第七位は、男性だったと思うのですが。念の為に確認しますが、あなたは女性ですよね?」

「それがどォした?」

些か狼狽する親船最中は何の含みもなく首を傾げた一方通行を見て、それ以上の追及を諦めた。



587 ◆owZqfINQN1ia2014/04/18(金) 22:10:25.94f2uSNx2Wo (9/12)




「親船に第七位と一緒に暮らしてるって言ったら、とンでもなく驚かれたンだが。」

彼女と上条当麻、浜面仕上は全員が第3次世界大戦中のロシアでそれぞれの目的を果たすために奔走していたという縁があって、今でも同居人やら彼女やらを放ったらかしにして三人だけで集まることがある。
今日もその延長線上で、第七学区のファミレスに来ていた。
その席で思い出したように紅一点の―上条も浜面も、彼女がそうであることをあまり気にしていないのだが―一方通行が口にした新事実に、男二人は暫く言葉を忘れた。

「あのさぁ、第一位。俺が何言っても怒らないでくれよ?」

「あァ?」

普段理不尽な怒りを向けられている冴えない不良は、「第七位」に関する話題がどんな風に彼女の逆鱗に触れるか分からないので、恐る恐るといった具合に口を開いた。彼女はその言葉に眉間に皺を寄せたが、これは怒っているのではなく単に彼の発言の意図が分からないというだけだ―怒っているときはもっと刺がある表情をする―それくらいは浜面も理解している。

「俺と上条も腰が抜けそうなくらいびっくりしてる。」



588 ◆owZqfINQN1ia2014/04/18(金) 22:14:45.49f2uSNx2Wo (10/12)


「何だそりゃァ?」

「あー先ず、上条さんは最初に大事なこと確認したいんですが。削板さんは男性で、一方通行は女性ですよね。」

「あァ?そォだが。」

「そういうの、世間では恋人同士が同棲しているように見えるかと思いますが。」

オマエたちもそんなことを言うのか、と一方通行は内心思ったが、懸命にも口には出さなかった。妙に否定しようとすると余計に騒がれるものらしい、というのは黄泉川家の面々の反応で理解している。
彼らの場合、噂好きの女性たちとはまた違った反応が帰ってくる可能性には気付いていなかったが。

「オマエたちだって女と同居してるじゃねェか。」

「俺は複数人だしなぁ。恋人と同棲ってか、仲間とルームシェアって感じだろ。」

「それって寧ろハーレムってやつなんじゃないのか?」

茶化したのは上条である。そんな面白おかしい状況でないことは、彼もよく知っている筈なのだが。

「俺に麦野や絹旗をどうこうする勇気があると思うか。」

二人は考える間もなく、はあ、と溜息を吐いた。

「無いわなァ。」

「灰も残らないだろうなぁ。」

「お前ら二人揃って酷い!俺もそう思うけど!!」

上条に至っては手を合わせる仕草すらしている。未だ頼んだ料理来てないからな、と皮肉る気もしない。

「そういう上条の方がよっぽどヤバイだろ。聖職者と同居だぜ。」

「だから上条さんはお風呂場で寝てるんですよ。」

つまりは彼らはどちらもそんな色っぽい関係ではないと言いたいらしい。それならば自分と第七位の同居だって許容されそうなものであるが、と一方通行は思った。



589 ◆owZqfINQN1ia2014/04/18(金) 22:36:00.86f2uSNx2Wo (11/12)


「まあでも、安心したかも。」

ファミレスで会計を済ませた帰り際―浜面とは別方向だったので、店の前で別れた―上条にまるで年上の身内のように言われたから、彼女は首を傾げた。

「安心って、何が。」

「一方通行も、ちゃんと仕合わせになろうとしてるってことだろ。」

「少し前のお前は、自分が仕合わせになることなんて、全然興味がなさそうだったから。」

上条に酷く優しげにそう言われて、彼女は堪らず形の良い細い眉をきゅうっと寄せた。泣かせてしまった、或いは怒らせてしまったと勘違いしたのだろうか、上条は途端に慌てた。

「あ、一方通行、?」

「俺何かマズイこと言ったよな、そうなんだよな!?」

「……違う、」

背丈は然程変わらないが、肩を震わせて俯く彼女は酷く小さく見える。怒ったときの彼女は寧ろその体を何倍も大きく見せることを知っているから、上条はその様子に違和感を覚えた。

「…オマエは、俺が仕合わせになった方が嬉しいか?」

「当たり前だろ?何言ってんだ、お前。」

上条は何て当たり前のことを訊ねるんだ、と言わんばかりの確信を持った口調で答えた。それが彼女には酷く眩しい。
自身の感覚も、それどころか妙に自分に甘い妹達の言葉もどこか信用しきれていない彼女は、自身が仕合わせになりたいと思っても、妹達に仕合わせになって欲しいと言われてもそれを肯定することができない。身も世もなく彼女を肯定する同居人たちや第七位とは別に、一方通行を罰することのできる―本人にその意識はなくとも―上条は、彼女にとって必要な存在であった。
彼にそう言って貰えて初めて、彼女は普通の人間の仕合わせを知ることができるのかも分からなかった。



590 ◆owZqfINQN1ia2014/04/18(金) 22:44:41.35f2uSNx2Wo (12/12)


支離滅裂になってきましたなあ…すごく断片的に書きたいことが散在しているので、話が落ち着かないわ。

妹達、打ち止め、番外個体が全員口をそろえて「許す」って言っても、上条さんが「許さない」って言ったらそれだけで百合子ちゃんどん底に落ちる子だと思うんですよ。百合子ちゃんを振り回せるのはソギーだけど、一方通行を振り回せるのは上条さんかなと思うんですよね。つっちーはそのどちらも第三者として楽しむ。

ところで自分は物書きしている最中BGMが必須な生き物なのですが、皆さん削百合に合うような音楽何か知らないですか。自分のライブラリでは如何せんマンネリになってきた今日このごろです。


591VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/18(金) 22:54:44.266Y6dzp8Qo (1/1)

乙です


592VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/18(金) 23:10:47.61opyUEXH70 (1/2)

乙です
応援してます
「仕合わせ」は「幸せ」ですか?



593VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/18(金) 23:12:26.31opyUEXH70 (2/2)

ごめんなさい知識不足でした
上の書き込みは気にしないでください


594VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/19(土) 00:35:18.04RzrGYsjYo (1/1)

乙です
自分はイヴの断片きくと、ここの削百合思い出す


595VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/19(土) 03:11:02.75f9rh9Y+vo (1/1)

乙です

削百合に合う音楽って難しいな
削板目線か百合子目線かで曲調が真逆になるw
ソギー目線だと筋肉少女帯の「君よ!俺で変われ!」とか


596VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/19(土) 12:11:56.70NOH6j2qh0 (1/1)

乙。親船も3Hも>>1の書く人間性?みたいのが優しくて好きだ
他の並行のも楽しみにしてる


597VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/30(水) 01:52:40.7955VPenHP0 (1/1)

そろそろ来るかな?
平行楽しみだ


598 ◆owZqfINQN1ia2014/05/04(日) 20:39:11.006jhe/6kKo (1/17)

どうも今晩は。GWは前半かなりアクティブに活動したので後半引きこもり生活な>>1です。ご無沙汰しております。

>>593
某少女漫画の影響で「しあわせ」を「仕合わせ」と書く癖がございます。ややこしくて済みません。

>>596
親船は原作での登場シーンが凄く少ないので(親船に化けた海原とかいうパターンもあるし)口調に大分苦労しました。正直、これで合ってるのか分かりません…

さて、今日の分投下しますよー


599 ◆owZqfINQN1ia2014/05/04(日) 20:40:55.156jhe/6kKo (2/17)




少年は、学園都市に来る前のことは酷くぼんやりとしか覚えていない。

だけどこの街に預けられることが決まって、どこか元いた場所からこの街へ連れて来られるその車中のことから先は、不思議なことに酷く鮮明に覚えている。それまで車に乗ったことがなかったわけでもなかろうに、確かにその道中、新しい生活が始まる予感を小さい体全身で受け止めていた自分を、覚えている。



600 ◆owZqfINQN1ia2014/05/04(日) 20:42:50.776jhe/6kKo (3/17)


5歳のとき―それすら周囲にそう言われているからそういうことにしているだけの年齢で、書類に書いてある誕生日もイマイチ自分自身のものだとは思えていない―どこかから不思議な力を持った子供の噂を聞きつけた大人たちに連れられてこの街に来た。子供を安心させるためか、迎えに来たスーツ姿の男たちの中に一人だけ、恐らく自分の母親に近い年齢を意識したのだろう女性がいた。彼女が研究者であったことに気付いたのは、学園都市に着いた後、私がきみの研究を担当するわ、告げられたときのことだった。

それ以前から、子供心に自分が周囲と違っていることは理解していた。
この街に来る前は、自分は「自分とは違う生き物たち」と暮らしているんだと思っていたような、酷くぼんやりとした記憶がある。きっと一緒に暮らしていた人たちは両親だとか家族だとか呼ばれる人たちだったのだろうけれど、自分はそのものたちが自分と同じ存在だとは思っていなかった。
子供らしい思い出を持っていないのは偏にこれが理由だと思う。自分は自分と違う「得体の知れないものたち」が与えてくれるものを、「愛情」だと理解できていなかったのだ。そこに篭もる感情に気付くことがなければ、思い出などできよう筈もない。だから自分はこの街に来る前のことを何も覚えていない。

そういうことであるから、学園都市が気を遣ったのか何なのか分からないが、母親に近い年齢の女性を自分の担当研究者にしたことも結果的には余り意味がなかった。彼女も自分にとっては「得体の知れない自分とは違うもの」でしかなかったからだ。反抗するようなことはなかったが、特別懐くこともなかったと思う。
結局、自分に普通の子供らしい感覚を与えたのは、自分と同じように普通ではない子供たちだった。自分と似たような存在がいると気付いてから、自分も、彼らも、これまで得体が知れないと思ってきた大人たちも、同じ人間なのだと漸く理解することができた。

その一方で、彼らが自分と同じ生き物であることは理解できたが、全く同じではないことも理解し始めていた。大人たちは勿論、似たような境遇であると思っていた同年代の子供達ですら、少年とは違っていた。その後学園都市が10年以上かけても詳細については理解できず、暫定的に超能力者とされた彼の能力は、幼いその頃から他の子供たちのそれとはあまりにも違っていた。



601 ◆owZqfINQN1ia2014/05/04(日) 20:46:03.446jhe/6kKo (4/17)




「難しい顔してどォした?らしくねェな。」

彼女の声に気が付いて、視線を上げた。同じ年頃の少女に比べたら少し低い声が―男の振りをして態と声を低く繕って喋っているうちに、そちらが普通になってしまったらしい―不思議と耳に心地いい。自分の感情に波を立てるのは望むと望まないとにかかわらず、何もかも彼女に関わることだけだ。もう何年も前からそうだった。

「…昔のこと、考えてた。」

少年は思わず「お前のこと」と言いかけたが、取り繕った言葉に不自然さはなかったと思う。彼女もこの生活になってから昔を思い出すことが増えたようだったから、こちらが同じようなことをしていたとしても不思議ではないのだろう。
自分の言う「昔のこと」は彼女のことで埋め尽くされているけれど、彼女のそれも同じであればいいのに―だけれどそれを確かめる勇気を少年は持っていなかった。

「似合わねェことしてンじゃねェよ、オマエ。」

彼女が唇の端を吊り上げる独特の笑い方をする。昔は笑うにしても表情は酷く控えめで、彼女のことをよく知らない人物から見たら全く表情が変わっていないようにも見えただろうと思うのだが、今となっては数日一緒に暮らしているだけでも表情がころころ変わる様子が見れた。癖のある表情ではあるが、気まぐれな彼女の性格を表しているようなそれが少年は好きだった。

「そんなことより、俺に何か用事があったんじゃないか。」

「あァ、ちょっと出掛けてくるから一声掛けてからにしようと思って。」

「?買い物だったら俺一緒に行くけど。」

「いや、違う。充電してくるわ。」

彼女は首もとの機械をとんとんと人差し指で叩いた。

「…ああ、そっか。気を付けてな。」

彼女はこの部屋での生活が始まってからも、その機材の扱いに関しては少年を頼ることがなかった。



602 ◆owZqfINQN1ia2014/05/04(日) 20:48:02.696jhe/6kKo (5/17)




「やはり腑に落ちないんですが、とミサカはこの状況に文句を言います。」

「周りくどい表現してンじゃねェ、何が言いたい?」

ベッドから起き上がり、乱れた髪を乱雑に手櫛で撫で付けながら彼女は舌を打つ。元々寝起きは悪い質であるが、充電後のそれは一段と酷い。

「上位個体も番外個体も最早あなたの同居人ではありません。この充電作業を未だにミサカたちが担っているのは不自然だと思います、とミサカは正直に思うところを述べます。」

彼女の言う通りだとは思う。二日に一度必ず発生し数時間を要するこの作業を、同居しているわけでもない彼女たちに頼り切りというのは不自然極まりない。より身近な存在である同居人にこの役目を任せるべきだろうという彼女の訴えは当たり前のものだ。
電源を切らずに装着したまま充電することもできなくはない。その状況であれば誰かの助けを必要とすることもないのだが、時折エラーが発生するので―精々が言語機能障害といったレベルで、能力の暴発だとかいう大袈裟な問題ではないのだが―彼女はあまりそれを好まなかった。装着したまま充電をしたくないというのであれば誰かに頼る他はないのだが、問題はその「頼る相手」である。

「オマエたちにゃ、負担か。」

「そういうわけではありません。気軽に外出できるわけでもないミサカたちにしてみれば、病院に来るたび何かを差し入れてくれるあなたの存在はありがたいです、とミサカは一方通行のマイナス思考を否定します。」



603 ◆owZqfINQN1ia2014/05/04(日) 20:49:30.266jhe/6kKo (6/17)


電極を外した状態では普段のタイトな服装が気に入らないらしく、やたらと引っ張ったり脱ごうともがいたりするため、病院で充電作業をする際には入院しているわけでもないのに病衣を借りるのが習慣になっている。
幾つかの結び目を解けば簡単に脱ぐことができる服は、さすが病人用というだけあって体の不自由な彼女にとっても扱いが容易だ。2人だけがいる病室で人目を気にすることもなく下着一枚になった彼女を咎めるように、10032号がカーテンを閉めた。

「第七位に電極を外した状態を見られたくないとか、そういうことでしょうか?とミサカは勝手に一方通行の心情を推測します。」

「見られたくないってわけじゃあねェけど、」

「アイツは嫌なンじゃねェのか、それ。」

「第七位がですか?彼が一方通行に関することで嫌がるところなんて想像ができませんが、とミサカは素直に思ったところを述べます。」

「…オマエたちにはそう見えてンのかもしれねェが、アイツは「一方通行」には興味がねェよ。」

幼かった頃にはそれが喜ばしかったが、今では少し心苦しくも感じる。彼女自身それを疎ましく感じていても、最早「一方通行」を捨てることはできないからだ。恐らく、彼もそのことについては理解しているのだろう、だから自分以外の人間に「一方通行」として扱われている彼女を否定しない。
そう思えば、これまで彼が「一方通行」を受け入れてきたのは他者もいる状況に限ってのことだったようにも思う。一対一の状況で、彼と自分のふたりきりの生活で、彼が「一方通行」を受け入れてくれるかどうかは未だに分からないままだった。

「どういう意味でしょうか?とミサカは首を傾げます。」

「分かンねェままでいいよ、オマエたちは。」

彼女は身支度を終えるとかしゃりと音を立てる不思議な形の杖を使って立ち上がった。

「助かった。次からは、お前たちの世話にならねェように考えとくわ。」

そう言うが早いか、彼女は扉の向こうに早足で消えてしまった。



604 ◆owZqfINQN1ia2014/05/04(日) 20:53:29.776jhe/6kKo (7/17)




当初は少年の看病をするという明確な目的があったから然程気にならなかったが、彼が回復して数日経った頃からこの生活に違和感を覚えるようになった。彼との関係に「一方通行」を持ち込むことに対する抵抗感、というのが一番正確な表現だろうか。
一緒に暮す以上、電極のこと、妹達のこと―そういった「一方通行」の問題から彼を切り離して考えることは酷く難しい。これまでもそういった問題と彼が全く無関係だったわけではないが、それでも一定の線引はできていたと思うし、少年の方も一歩引いて関わってくれていたように感じる。

今朝、彼は「昔のことを思い出していた」と言っていた。それが昔に戻りたいという意味だったらどうしたらいいのだろうか。自分もそう考えることがあるけれど、それは土台無理な話だ。あの実験に関わる前の自分にはどうやったって戻れない。全てを巻き戻して何も間違いを犯していなかった頃から2人でやり直せたならどれほどいいかとは思うけれど。



605 ◆owZqfINQN1ia2014/05/04(日) 20:55:20.676jhe/6kKo (8/17)




充電を終えて自室に戻ったのは、昼過ぎのことだった。
少年は思うところがあるらしく、怪我が治ってからは学校に通っていた。サボって別のことをしている日もあるし、遅刻や早退をせずにきっちり授業を受けているというわけでもない。今朝だって、彼女が家を出た後に学校へ行ったのだろうからどう考えても2つは授業をサボっている。それでも月に何回か顔を出す程度だった頃に比べれば大変な変化と言えるだろう。
クラスメイトや担任に突然の変わり振りを訝しまれたりしないのかと訊ねたが、「俺、昔っから突然学校に来るようになったり、元に戻ったりしてたからなー」とのことで、結局のところ相変わらず変なやつだということで誰にも気にされていないらしい。

自分も将来のことを考えると復学なり転校なりをすべきだろうが、妙なトラブルが起きる可能性が高いので今直ぐに、とは思っていない。幸い、曲がりなりにも「学園都市」と名乗るだけあって、この街には学位を取得するにしても資格を得るにしても様々な方法が用意されている。一般的な学校生活を送るには身体的にも立場的にも問題がある彼女にも適しているだろう、と思われる選択肢は既に幾つか見つかっていた。機会を見て黄泉川や冥土返しに相談して準備を進めようと思っていたが、ここで生活しているからには最初に相談すべき相手は彼なのだろうか。

(何か、あっちもこっちも考えなくちゃなンねェことだらけだ)

これらは今になって急に降って湧いた問題ではない。彼との付き合い方にしろ、この街の学生としての身の置き方にしろ、問題としては以前から存在していた。もっと大きな問題や急いで解決しなければならないトラブルがあって、それらを優先してこれらを後回しにしてきたツケが回ってきたという方が正確な表現だろう。
後回しにしたところで、何も変わらずにはいられないのだろう。妹達との関係にしろ、少年との関係にしろ。それなら、自分でよりよい方向に進むよう行動するしかないのだ。少年にも「一方通行」を受け入れてほしいと思うのなら、自分がそのための努力をするべきなのだろう。



606 ◆owZqfINQN1ia2014/05/04(日) 20:57:38.806jhe/6kKo (9/17)




その翌々日、土曜日のことであった。毎朝の日課であるトレーニングを終えた少年は、帰って来てから先ずシャワーを浴びる。そのついでに洗濯機を回すのが彼の習慣だ。

「オマエ、今日暇か?」

「?別に用事はないけど、どうかしたか。」

シャワーを終えた少年は、短く、彼女のそれと比べたら随分硬い手触りの髪をがしがしとタオルで拭いていた。大雑把な動作に見えるが、彼女と違って床に水滴を零したりしないところは几帳面な彼らしい。

「だったら俺に付き合え。」

「どこか出掛けるのか?」

「そォじゃねェよ。」

彼女はそう言うと、ポケットに入れていたらしい何かをぽいと少年の方に投げて寄越した。コンセント部分と長いコードが付いただけの酷く単純な機材だ。これは何だ、と少年が問うよりも先に少女はソファーに少年を押し付けた。それから彼女もソファーに乗り上げる。

「困ったら10032号に電話しろ。」

「―これからオマエに、俺を預ける。」

そう言って彼女は自身の首元を戒める機材を放り投げた。



607 ◆owZqfINQN1ia2014/05/04(日) 21:01:16.976jhe/6kKo (10/17)




「10032号か?俺だ、削板だ。」

『第七位ですか?ミサカに電話なんて珍しいですね、というか一方通行の携帯からですよねコレ、とミサカは番号を確認します。』

幸い彼女が直ぐ傍のテーブルに自身の携帯を置いていたので、10032号との連絡は容易にとれた。電話帳で予め彼女の番号を表示した状態のまま携帯が放置されていたことを考えると、何がしたかったのかは分からないが計画的な行動には違いないのだろう。

「困ったら10032号に電話しろって言って、いきなり電極外して。困るも何も、何も説明されてないんだが。」

『一方通行の様子は今どんな感じですか?とミサカは状況を確認します。』

前回の充電から約2日経っている。その間能力を使用することはなかったから、丁度充電が切れる頃合いだ。少年の言葉を聞いて、10032号は一方通行が何をしようとしていたのかを瞬時に理解した。

「しがみついたまま寝ちまった。俺が風呂あがりで温かいから気持ちいいらしい。」

少年はソファーで仰向けになったまま、少女に腰の少し上の辺りをしっかりとホールドされていた。華奢で軽いとはいえ、手脚の長い彼女にしがみつかれたまま身動きするのは容易ではない。



608 ◆owZqfINQN1ia2014/05/04(日) 21:02:48.866jhe/6kKo (11/17)


『恐らく昨日は殆ど寝なかったのでしょう、充電が必要になる前日に態と睡眠時間を減らすことも多いので、とミサカは一方通行の習慣を解説します。』

「何でそんなことを?」

『電極を外した状態で起きていると周囲に迷惑をかけると思っているんでしょうね。充電の間寝ていれば付き添う人間にも然程手間は掛けませんから、とミサカは一方通行の考えを推察します。』

「態々そんなことしなくても、」

『そう思ったなら、本人に言ってやって下さい。ミサカたちが言っても聞きませんが、或いはあなたなら、とミサカは他人に丸投げします。』

彼女は妹達を信頼して充電という命を預けているのにも近い作業を任せているのかとも思っていたが、10032号の口振りから察するに完全には彼女たちを頼りきっていなかったようだった。それが自分相手なら違うのだろうか、想像してはみるものの全くイメージはできない。

「で、結局オレはどうしたらいいんだ?」

『電極を充電するしかありませんね。一方通行があなたに何か渡しませんでしたか?とミサカは充電器の有無を確認します。』

「あー、これがそうなのか。初めて見た。普通にコンセントに刺して電極繋げばいいのか?」

『ええ、極普通の電化製品と同じで、特に扱いに気をつけるべきところはありませんよ。一、二時間で済む筈です、とミサカはアドバイスします。』

充電器らしい機材を繋げると、いつも緑色に―時折赤く変わるが―光っているLEDがオレンジ色に光った。これがいつもの緑色に戻ったら充電完了ということらしい。

「しかし一時間以上このままか、なかなか辛いな。」

『寝ているのなら引き剥がしてみては?あなたの力なら然程難しくはないでしょう。では、問題はないようなのでミサカはこれで、とミサカは電話を切ります。』

その少し後、彼女の携帯には「念のため何か様子が変わったなら連絡を下さい」というメールが届いた。



609 ◆owZqfINQN1ia2014/05/04(日) 21:03:14.746jhe/6kKo (12/17)




「俺の力ならそんなに難しくないって、」

「そりゃあ、いつも通りに能力使えたらそうなんだろうけれど。」





610 ◆owZqfINQN1ia2014/05/04(日) 21:07:55.706jhe/6kKo (13/17)


この街の上層部が超能力者同士が親しくなるのを看過するわけがない。

そういった考えを少年が持つようになったのは、彼女が行方を眩ませて少しした頃であった。
高位の能力者の殆どはこの街での生活に満足しているだろうが、一方で無能力者などとは比べものにならない鬱憤を抱えている者もある。この街の大人たちは強い能力を持ち、且つ現状に不満を抱えている子供たちが接触するのを忌避しているようだった。そういった子供たちが共謀して何事かを引き起こすことを恐れていたのであろう。
それなら長いこと幼馴染同然に育った自分たちは何だったんだろうか、と少年は考えたことがあった。その答えはあるとき自分の担当研究者から齎された。



611 ◆owZqfINQN1ia2014/05/04(日) 21:08:58.426jhe/6kKo (14/17)


「あなたの能力の研究、中々進まないのよね。第一位と共同研究できてた頃はよかったんだけど。」

「?どういう意味だ?」

「あら、やっぱり無意識だったのね。あなたの能力、彼女相手だと全く出力が変わっていたのよ?」

「そりゃあ、親しい人間相手に全力出すわけがないだろ。」

そもそも人相手に能力を振るうのと、機械を相手に能力を振るうのでは精神状態が全く異なっている。彼女の場合は自分が何をしたって傷つくことはないと知っていたから然程手加減をしていたつもりはないが、それでも実験の為に発揮した能力とまるで違う出力だったとしても不思議はないだろう。

「そういうことじゃないのよ。あなたの脳波もその他のパラメータにも、彼女を相手にしたときとそうでないときに出力に影響するような有意な差は見られなかった。それでも、結果として現れる出力はまるで違っていた。」

「精神的な状態とか、そういう以前の問題としてあなたの能力は彼女に干渉されているのよ。」

その女性―彼を担当していた研究者だった―は随分前からそのことに気付いていたらしいが、それを彼に告げたらまた精神的な働きが発生して数値が変わるかもしれないと危惧し、彼に告げることは避けていたらしい。



612 ◆owZqfINQN1ia2014/05/04(日) 21:09:26.576jhe/6kKo (15/17)


それから知ったことなのだが、この街が研究している能力の中には、特定の相手にだけ出力や性質が変わるものが極稀に存在するらしい。これまで見付かったそういった能力はいずれもさしたる出力を持たなかったため、研究の対象としての注目を集めることは殆どなかったが、彼の存在はその前提をひっくり返したのだと研究者は言った。

「でも、第一位の協力が得られないならこの研究は進まないわね。」

少年とは全く違う理由で、彼女は心底残念そうに第一位と会えないことを嘆いた。



613 ◆owZqfINQN1ia2014/05/04(日) 21:11:04.086jhe/6kKo (16/17)




言われてみれば、少年にもそのような現象の心当たりがないでもなかった。
今でも制御の難しい能力であるが、幼い頃はそれこそ「うっかり」能力を発揮してしまうことが多かった。感情の起伏に左右されやすいのは超能力の常で、自分のような原石においてもそれは例外でない。特に幼い頃は、好きなものやお気に入りのものほど壊してしまうことが多かった。それらに触れているときに感情が大きく揺れて、それが能力として現れたということなのだろうと思う。
だけれど不思議と、「大好きなもの」であった筈の彼女に対してはそういった能力の暴発が起きることは一切なかったし、一方で能力が思ってもみない現象を起こすことも多かった。それに何より、自分は幼心に自身の能力が彼女を傷つけるように働くことはないと確信を持っていた。
自分は彼女の能力がそれを防いでくれるからだと思っていたが、もしかしたらそれは自身の能力が持った元々の性質だったのだろうか。離れ離れになってしまった今となっては確かめようもない―だけれど彼は、それを確かめなければならないと思った。

その後の過程は彼女も知っての通りだ。絶対能力進化実験のことを知って、驚かなかったわけじゃない。だけれど彼女の前では化け物だとか実験動物だとか、そんな風に呼ばれるような自分が、何も傷つけない普通の人間で在れたことが忘れられなかった。彼女相手にただの普通の人間の、男でしかあれない自分が、嬉しかった。
彼女を思う理由なんて、それだけだった。



614 ◆owZqfINQN1ia2014/05/04(日) 21:21:22.206jhe/6kKo (17/17)

もう色々と捏造しまくった今、ソギーの過去を捏造することなんて全く怖くない。あんな松●修造みたいな熱い男が、実は子供の頃無味乾燥な生活してたら萌える、なんていう>>1の屈折した欲望がありありと見て取れる過去捏造っぷりです。
このスレ長いこと書いてきたけれど、ソギーが百合にゃんを好きな理由って書いてこなかったと思っていて。あと以前に土百合ネタを書いたときにコメントしたんですが、つっちーは「一方通行」も(大分屈折してるが)好きだけど、ソギーは「一方通行」をイマイチ受け止めきれていない、というのが前提にあって。ソギーがそれを乗り越えていく過程が書きたいというか。

しかし読者の方が考えている削百合ソングが自分のそれと全く違って新鮮です。というか多分、自分が創作中に使ってる曲は読者の皆様が聞いたらびっくりするんだろうなぁ、と思う。しかし引き続き僕・私の考える最強削百合ソングはコメントして欲しいです。


615VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/05/04(日) 22:25:00.36K9kl2zxMo (1/1)

乙です


616VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/05/04(日) 23:00:30.78/GovMQ3u0 (1/1)

乙です!


617 ◆owZqfINQN1ia2014/05/17(土) 22:31:05.27/zUy/61do (1/12)

こんばんわ、新約10巻読んだら頭の中が上百合一色になって中々削百合に戻ってこれませんでした。本編投下した後荒ぶった上百合感想書き込んでも生暖かい目でスルーして下しあ…




618 ◆owZqfINQN1ia2014/05/17(土) 22:33:07.00/zUy/61do (2/12)


偶々手近にあった延長コードに充電機を繋ぐことができた為、充電作業自体はできた。ただ、10032号の言葉通りであればこの状態があと1時間以上は続くということが―つまりは、すっかり寝入った少女にしがみつかれたままソファーに押し付けられている状況が問題であった。

「「俺を預ける」―っちゃあ、言い得て妙だな。」

信頼によるものではなく、寝入っているという生理的な理由ではあるが、彼女は言葉通り彼に全身を預けている。細く華奢な体は伸し掛かられたところで然程重いものではないが、長い手脚は彼の身動きを制限するには十分だ。押し退けることもできなくはないだろうが、眠りの浅い質の彼女を起こしてしまったときにどんな反応が返ってくるのか分からない。



619 ◆owZqfINQN1ia2014/05/17(土) 22:33:32.63/zUy/61do (3/12)




この状態の彼女のことを、自分は何も知らない。





620 ◆owZqfINQN1ia2014/05/17(土) 22:36:06.26/zUy/61do (4/12)


彼女自身も妹達も電極を外した状態について語ることはあまりなかったし、少年も人の隠しごとを暴く趣味はないから、積極的に訊ねることはなかった。このように生活を共にするようになる前に、自分から積極的に関わっていくべきだったのかもしれないと、この上京を鑑みれば思わないでもない。

「彼女」について彼が知っているのは極僅かなことだ。

この状態でも意識がないわけじゃない。
物事を記憶できないわけではないから後からこの間に起きていることを思い返すこともできるらしい。ただ意思を持って物事を見つめているわけではないから、覚えていることは支離滅裂だったりするようだが。
電極を付け直した後に思い返すという形でなくても、今この瞬間でも好き嫌いといった単純な判断はできるという話も聞いた気がする。

「そりゃあ、能力使えば難なく引き剥がせるんだろうけど。」

更に言えば普通に椅子に座っているだとか、立った状態であるだとか、そういう状況ならば能力を使わずともそれは可能だったろう。しかし、関節が妙な具合に曲がったままソファーに押し付けられているこの状況では、能力を使う使わないは別にしておいて多少乱暴な方法でなければこの拘束を解くことはできないと思う。

「どけていいのか、これ。」

怖がらせたりしないだろうか。能力を使わないにしても、力づくで引き剥がしていいのだろうか。起こしたり、怖がらせたり、悲しませたりしないだろうか。そもそも意識ある状態では滅多にこんなことしてくれないくせしてこういう対処の難しいときに限って何でこんなこと、と恨み言が漏れそうになったとしても、彼に然程非はあるまい。
この状態を黄泉川愛穂や打ち止めに目撃されたなら、どんな反応をされるか分かったものではない。幾ら超能力者第七位とは言えど、強能力者相手に武器を使わず拘束できるような歴戦の警備員の怒りを買いたくはないのだが。



621 ◆owZqfINQN1ia2014/05/17(土) 22:40:01.09/zUy/61do (5/12)


「ァ…?」

そのとき彼の胸の少し下辺りで、か細い寝息とは違う、しっかりとした息遣いが感じられた。それから、もぞり、とか細い腕が藻掻く気配がある。

「…起きたのか、百合子。」

「?」

声を掛けられて、彼女は少年と目を合わせた。自分の名を呼ばれたという自覚はないのだろう。ぱっちりと見開かれた赤い目がしっかりと少年を見据えていることから察するに、怖がられてはいないらしいが奇妙には思われているらしい。赤ん坊などは、起きた瞬間泣き喚くようなイメージがあるのだけれど、彼女の反応はそれと違った。
例えば未だ人見知りを知らない赤児が知らない人間と会ったときのような、或いは初めて犬猫に接したときのような、いいも悪いもない単なる「好奇心」「興味」だけの篭った表情だ。

「あ、ン」

彼女はぺたぺたと少年の胸や、髪や、頬に触れる。妹達以外にこの状態の一方通行に接触したことのある人間はあまりいないようだったから、妹達ではない人間、或いは男性が珍しいのかもしれない。その念入りな確認作業は、子供の気紛れというよりも彼女の几帳面さを彷彿とさせる。
改めて考えてみれば、別に精神が退行しているわけではない。彼女の歳相応以上に賢い(とかいうレベルでは収まりきらない)頭脳はそのままで、その一部分が機能しなくなっているというだけだ。残りの部分は相変わらずあの「学園都市第一位」のものなのだから、彼女の性質が見た目そのままのものだと思う方が余程失礼だろう。



622 ◆owZqfINQN1ia2014/05/17(土) 22:41:47.10/zUy/61do (6/12)


さて、彼女が動くことで拘束は緩んだが、こうもきっかりと見詰められて跨がられたままでは身動きが容易でないことに変わりはない。彼女がぱっちりと目を覚ましてしまった今となっては起こすのを危惧する必要性もないし、多少の状況の改善を試みてもいいだろう。

「百合子、とりあえずソファーから降りないか?」

彼女はぱちり、と大きく瞬きをした。普段は眉間に皺を寄せてばかりいるから分かりづらいが、その赤い目は何かの拍子に零れてしまいそうなほどに大きい。
こちらが何を言っているかは分かるまい。だがこの様子を見る限り、自分が他の誰でもない彼女に何かを伝えようとしていることは認識しているようだった。仰向けにソファーに押し付けられたまま、空いた手で床をぽんぽんと叩く。彼女の視線が床に移動し、それに伴って体も少し傾いだタイミングで彼女の体を持ち上げ―実際にはほんの少し体を浮かせて軽く滑らせたような感じだが―ソファーに凭れるように床に座らせ、自分もその隣に座り込んだ。
ほっと息を吐く。ソファーに押し付けられ、普段使わない筋肉に力が入っていたり、関節が妙な方向で固定されていた状態から開放された体に、途端にしっかりと血が巡るような感覚があった。



623 ◆owZqfINQN1ia2014/05/17(土) 22:45:37.64/zUy/61do (7/12)


「酷い目に遭った…後でマッサージ要求するぞコラ。」

とんとん、と彼は自身で肩の後ろ辺りを叩いた。無茶苦茶な身体能力を持ってはいるが、あくまで能力を使ってこそのものであり、身体的な疲労を全く感じないわけではない。例えば四六時中上条の右手に触れられていたら、少しスポーツの得意な当たり前の高校生くらいのことしかできない筈だ。本人もほとんど無意識に発動させている能力だから、そうは見えづらいだけのことである。

「ゥ、あ?」

どうやら少年が自身の肩を叩く動作を見て不思議に思ったらしい。彼女の方に背中を向けると真似をするように握った左手でぽんぽんと叩かれた。叩く場所はまるで見当違いだったのでマッサージとしては全く意味がないが、その一方で全く力が入っていないので痛みもない。

(やっぱり)

(あいつは赤ん坊みたいなもんだって言ってたけど、それにしちゃ賢い)

赤ん坊なんて映像の中だとか教科書の文章だとかを通じてしか知らないから、酷く曖昧な感覚ではあるけれど。それでも全く知識を持たない赤児と、知識を持っているがそれを引き出す方法のない彼女とでは状況が違うのだと思う。
脳の損傷が回復するメカニズムについては不明なことも多い。成長期の子供であれば彼女のように重症な例でも日常生活に支障がないレベルまで回復し、他人には障害の有無など分からなくなったという例も稀に存在する。彼女の複雑に発達した脳が受けたダメージは常人のそれと比べることはできないだろうが、その分受けた障害を補う能力が高い可能性もある。



624 ◆owZqfINQN1ia2014/05/17(土) 22:46:23.42/zUy/61do (8/12)


「今のお前に言って分かって貰えるのか、分からないけど。」

あちらこちらに視線の移ろう彼女の頬にそっと触れて、こちらを向かせる。突然の少年の行動に驚いたようだったが、嫌がったり怖がったりしている様子はなかった。

「俺な、スポーツ科学系がある大学行って、リハビリの研究しようと思ってるんだ。」

「お前は自分の為にそこまでしなくたっていいって言うのかもしれないけど、元々スポーツ科学には興味があったし。」

今の彼女には理解できないだろうし、後々意識が回復した際にもどこまで思い出せるものかは分からない。だからこれは少年の独り語りのようなものだ―いや、予行練習と言ってもいい。いつかは、ちゃんと理解できる状態の彼女にも伝えなくちゃならないのだから。

多分、自分は「一方通行」である彼女を遠ざけていたと思う。それは意識的なことではなかったが。



625 ◆owZqfINQN1ia2014/05/17(土) 22:47:49.83/zUy/61do (9/12)


嘗ては、実験動物として扱われる彼女を一人の人間として扱うことこそが自身の使命であるように思っていた。そしてそれは、何年か前の二人にとっては紛れもない事実だったと思う。
だけど彼女は、今となっては「一方通行」と分かちがたくなってしまった。彼女が「一方通行」として振る舞ったこと、為したこと、それはなかったことにはならない。これまでは彼女が触れてほしくないのであれば、と積極的に関わってこなかったけれど、生活を共にする以上見て見ぬ振りもできないのだろう。そして彼女もそれを理解していて、こんな突飛な行動に出たに違いない。

「綺麗ごとだけじゃなくて、欲だとか、嫉妬とかも多分に入り混じった感情だとは思うんだけど。」

進むことも戻ることもできずにただ同じことを繰り返すことしかできなかった彼女を、多少乱暴な手法ではあるが救い出した上条当麻。沢山のものを持っていたけれど、そのどれにも愛着を持てずにいた彼女に守るものを与えた打ち止め。日々言葉を話すにも手を動かすにも、四六時中彼女を支えているに違いない妹達。大人から与えられる愛情を知らなかった彼女に、殆ど無縁の関係でありながらそれを惜しみなく与えた黄泉川愛穂。許されることをどこかで恐れている彼女を、償いだと称しては気侭に振り回す番外個体。
そのどれかを、自分が成り代わることはできない。でも、それらと並びたいと思うのなら、自分は「一方通行」と関わることを恐れてはいけない筈だ。



626 ◆owZqfINQN1ia2014/05/17(土) 22:51:27.09/zUy/61do (10/12)


「ずっと、元の通りになりたいと思ってた。」

「でも、元通りなんてどこにもない。例えあの実験がなかったとしても、過ぎた時間はなかったことにはならない。」

「俺はこの通り、大きくなった。大きくなってしまった。」

「お前は多分、俺の気持ちに気付いていたんだろう?」

一方通行として振る舞うときと、彼のよく知った嘗ての彼女を彷彿とさせる表情を見せるときと、これまでそれらは比較的はっきりと区別されていたように思う。
よくよく考えれば、二面性のある人間というのは珍しくないが、それでもその二つの面がきっちりと分かれているなんてそんなことはない筈だ。解離性同一性障害の人間だってそれぞれの人格は別物であるように見えて、その実互いのストレスであったり欲望であったりを互いに分散しているものだ。況してやそんなものを抱えている筈もない彼女の中で「鈴科百合子」と「一方通行」が厳然としてベツモノとして存在するわけはない。

多分、彼女は意識してそれらを使い分けていた―彼の為に。
いや、もしかしたら彼にそれを知られることを忌避していた彼女自身の為にかも知れないけれど。だけれどそれは少年には知る由もない。
どちらにしろ、彼女はそれを長く続けることは難しいと判断したのだ。だからこうやって極端にも見える方法で彼に問うている―オマエは俺を受け入れるつもりがあるのかと。

「俺だって大分様変わりしてるのに、お前にだけ変わっていてほしくないだなんて、虫が良い話だ。」

「変わってたって、お前はお前だって分かったから。」



627 ◆owZqfINQN1ia2014/05/17(土) 23:00:01.89/zUy/61do (11/12)


「俺は何度だって、お前を好きになるよ。」

きっと必死に理解しようとしてくれているのだろう。本来であったらあちらこちらに興味の移り変わる筈の彼女は、彼が独り言にも近い告白をしている間、ソファーの座面にことりと頭を預けたままその様子を見守っていた。

「ごめんな、」

「「お前」にもっと、ずっと前に会っていなくちゃいけなかった。」

白い、絹糸のような前髪を払って彼女の額を露わにして―嘗てここに銃弾を受けたらしいが、酷く滑らかでそんな気配は微塵も残っていない―唇を寄せる。くすぐったかったのだろうか、くふ、と彼女の喉が鳴る。その動作は、赤児というよりかは気侭に振る舞う猫のような印象だ―人間のさがも欲も知っていて、それでいて全て知らぬ振りで過ごすような。

「ン」

彼女もきっと「お返し」をしようとしてくれたのだろう。こちらの額に触れて、それから少年のそれが自分のそれとは違っていることに気付いたらしい。

「これが邪魔か?」

少年はいつも、室内であっても巻いていた鉢巻を解いた。

「お前が付けた傷、ここのだけわざと残してたんだけど…覚えてるか?」

返事は返ってこなかったが、酷く柔らかいものが触れる感触があって、それは十分に返事の代わりという役目を果たしていた。



628 ◆owZqfINQN1ia2014/05/17(土) 23:10:35.93/zUy/61do (12/12)


今日はここまでです。

ソギーの性癖はドストレートなので(別に性的欲求がないわけじゃないけど)電極オフ中にイタズラしようとか全く考えない。>>1やつっちーと違って白痴萌えとか全くない。百合子ちゃんは電極戻ってから「思った以上に反応つまンねェ」って思ったとか思わないとか。

さて、ここから新約10巻の感想?です。まだ読んでなくてネタバレ嫌な方、上百合苦手な方、変態でない方はスルーして下さい。





挿絵のご機嫌斜めな一方さんマジ天使。第一声「つーかよォ」の一方さんマジ天使。一面のガラスと雪の中に立つ一方さんマジ天使。ましてやその中心で気を失うだなんて天使以外の何物でもない。白いとか細いとか、女子みたいな形容詞つく一方さんマジ天使。え、っていうか女子だよね?うん知ってる。1億年と2千年前から知ってる。
別スレ立てて上百合投下しようと思って書き始めてたところにこれだもんね。最初のメール開いた時点で上条さんの事情を察して、その上で呆れてる一方さんマジ上条さんの嫁…うんそうだよねあんな旦那持つと苦労するよね、でも好きなんだよね知ってる(迫真)
きっと一方さん、上条さんが石を手にした時点でどうやって自分を倒すつもりか分かってたと思う。それなのに胸を強打された瞬間(あ)ってなったってことは、ぱいたっちされたんだよね、知ってる。え、ぱいたっちだけじゃない?ちゅーされたし押し倒されたし犯された?うんうん知ってる。
いや、冷静に考えても下半身的に考えても(あ)って可愛すぎじゃないですか。犯されても文句言えない。(あ)ですよ、(あ)。今までこんなにも可愛い一方さんがあっただろうか。ローマ字に直しても「a」の一文字ですよ、これ。一文字の破壊力ヤバイ。あらゆる萌コンテンツ制作者がこれまで萌える嫁の台詞を日夜捻り出してきたと思うんですけどね、この一文字に敵うものなんてありましたか?いいえありません。
だから>>1が上百合に萌えすぎて中々削百合書き進まなかったことも自然の道理であって、寧ろ神の意志?みたいな。とにかく百合にゃんぺろむしゃあ。


629VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/05/17(土) 23:17:56.34Gi+Aunepo (1/1)

乙です


630VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/05/18(日) 00:56:03.12C7ce5YjD0 (1/1)

更新キター
ソギーマジ紳士

そして10巻の感想に全面同意です
視界一面が顔で埋め尽くされるほどの距離とは何センチだったのか、気になって仕方ありません


631VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/05/18(日) 01:12:26.83cdTuGifL0 (1/1)

乙!
電極オフの百合にゃんprpr

新訳10巻の一方さんくそかわいいよね!『あ』で萌え禿げた!

>>630上条さんにキスしようとしたんだろうよ!


632VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/05/18(日) 11:21:27.543ReXWmk0o (1/1)

乙!
ソギーは紳士だけど上条さんは野獣だもんな。
10巻の一方さんはマジで「親方! 空から超能力者が!」だったなー。


633VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/01(日) 23:12:59.66W+b3x8P80 (1/1)

相変わらずのソギーのかっこよさだわな




634VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/02(月) 16:14:47.24KEk6pTZu0 (1/1)

蠢吶@縺??縺九↑


635VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/02(月) 23:04:02.86xJmVq51Ao (1/1)

下がりすぎててやばいのでage


636VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/09(月) 00:06:49.62mH+VqNmk0 (1/1)

今週も更新なしか……寂しいな



637 ◆owZqfINQN1ia2014/06/09(月) 21:07:45.551Eo2iYMVo (1/1)

ご無沙汰しております。旧に引っ越しをすることになってドタバタしており、ちょっと投稿開いてしまいました。
今週末引っ越しなので、来週末にはなんとか投稿したいと思っております…
でもなんかPCの調子が悪くって怖い…

生存報告のみで済みません!次の投下は常盤台組ですぜ!


638VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/09(月) 23:08:39.20hl2u3Iueo (1/1)

待ってる…


639VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/11(水) 13:25:36.77Y9KBHOV20 (1/1)

気長に待つさね


640VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/01(火) 00:15:22.6962rE77PH0 (1/1)

削百合の日


641 ◆owZqfINQN1ia2014/07/06(日) 15:59:49.96MEiByfpHo (1/16)

てすてす


642 ◆owZqfINQN1ia2014/07/06(日) 16:05:15.11MEiByfpHo (2/16)

良かったトリ合ってた。

>>637でコメントしたとおり、引越しを終えたあと案の定パソコンが瀕死の重体に陥り、新しいの買って必死でデータ移したり色々してました。Windows8使い方よく分かってない…
>>640さんが素敵なコメントくれたので、削百合小ネタ投下したあと本編投下します。本編がしばらく回想続きになる予定なので、削百合シーン暫く出て来ないんよ…


643 ◆owZqfINQN1ia2014/07/06(日) 16:27:20.79MEiByfpHo (3/16)




「ということなので、いちゃいちゃしようと思います。」

「どォいう経緯なのか分かンねェし興味もねェけど、いちゃいちゃって具体的に何すンの?」

「一緒に買物行ったりとか?」

「むしろ別々に買い物行くことの方が珍しいじゃねェか。」

「夕飯の買い物っていちゃいちゃ感足りなくないか?服選びっことかしたい。」

「そォいうもンか?結標は生活共にしてるって雰囲気がいいわー、って言ってたけど。」

「ああ、そういう考え方もあるのか。」

「で、他に具体的ないちゃいちゃ例ねェの?」

「一緒にご飯作ったり?」

「夕飯は大概一緒に作ってンな。」

「百合子がめっちゃてきぱき指示出しするから何かの訓練してるみたいな感じだけどな。」

「料理しながら余計な会話してる暇ねェだろ。炒め物とか揚げ物とかスピード命じゃねェ?」

「普段ファーストフードでも平気な癖して、自分で作るのは凝り性だよな。」

「自分が旨いと思うもン食べたいなら自分で作るのが一番だろ。人が作るもンには腹満たす以上のこと期待しねェ。」

「じゃあいちゃいちゃって何があるかなー。映画のDVD見るのも昨日やったよな。」

「お前のいちゃいちゃの引き出し少ねェなあ。」



以上、ソギーの自室ベッドの上より膝抱っこ状態にてお送りいたしました。


644 ◆owZqfINQN1ia2014/07/06(日) 16:44:13.55MEiByfpHo (4/16)


無自覚にいちゃいちゃする二人。番外個体なんかがこの光景を見たら「これ以上いちゃいちゃするって、ミサカは18禁的なものしか思い浮かばない」ってなります。

次から本編投下しますー。


645 ◆owZqfINQN1ia2014/07/06(日) 16:49:47.93MEiByfpHo (5/16)




「先日もお話いたしましたけれども、お姉様、毎回付き添っていただかなくとも構いませんのよ?」

白井黒子は自身の少し先を歩く御坂美琴の背中に向かって躊躇いがちに言った。そう言われた方の御坂は全く意に介さないという様子で、そもそも歩みを止めることすらない。

「アンタのためだけじゃないって言ったでしょ。いいから付き添わせなさい。私一人でしょっちゅう病院に通っていると怪しまれるんだから。」

白井はある事件がきっかけで、週2回冥土返しのもとに通院している。そして御坂はそれに付き添い、待ち時間の間に妹達との面会を重ねていた。

「そりゃあお姉様は健康優良児ですもの、病院に通い詰めていたら何事かと思うのが道理ですの。」

「それだとなかなかあの子達に会えないじゃない。まさか人目のあるところで会うわけに行かないし。知り合いが入院しているだとか、こんなときでもないと。」

白井が勝手な行動を取って妹達の存在を突き止めたことについて、御坂は怒ったり戸惑ったりはしなかった。少なくとも白井の目にはそう見えた。「いつかはアンタにも話さなくちゃいけないと思ってたし」と、彼女は少しだけ年に似合わぬ落ち着いた表情で言った。



646 ◆owZqfINQN1ia2014/07/06(日) 16:59:07.70MEiByfpHo (6/16)


「どうかしたの、黒子?」

「いいえ、何でもないですの。」

回想に耽って何も答えなかった白井の様子を訝しんだらしい、彼女は初めてそこで後ろを振り返った。

以前から妙に知り合いの見舞いだの何だのに熱心に通っていることには気付いていた。大抵その相手は白井が「類人猿」と呼ぶ少年で、御坂はその少年のことを好いているとはいえ、単なる友人関係に過ぎない相手の見舞いに通うにしては頻度も多く、面会時間も長いように感じていた。
或いはその少年の見舞いを口実に、今日のように妹達たちに会いに行っていたのかもしれない。少年は彼女のクローンたちの存在を知っているようだったから、口裏を合わせるにも都合がよかっただろう。照れ屋の彼女のことだから、少年に対して「妹達に会いに来たついでよ」などと可愛げのないことを言っていたかもしれない、それこそ今、白井に対してそういう態度を装っているように。

「では、私先生とお話して参りますので、また後ほど。」



647 ◆owZqfINQN1ia2014/07/06(日) 17:01:33.34MEiByfpHo (7/16)




「やあ、白井くん。調子はどうかな?」

いつでも忙しそうにしている医師は和やかに言った。大量の患者を抱えている筈なのに、彼からその疲れやストレスといったものを感じ取ったことはなかった。医師としての腕や知識量がどうこうというより、彼のそういった部分こそが名医と謳われる理由なのだろう。

「体調という意味なら、相変わらず健康そのものですの。」

「能力仕様には未だ、不安がある?」

「不安というほどはっきりしたものではありませんが、少し、違和感がありますの。」

特力研の跡地で、特殊すぎる能力が引き起こす負の側面というものを嫌になるほど目にした。この街で50人ほどしかいない空間移動能力を有する自分ともまるで関係のない世界ではないと気付いた瞬間に、恐怖というほど明確なものではなかったが、漠然とした心許なさを覚えた。
それ以来、能力を使用する際に少し演算の乱れのようなものを感じることが増えた。自分の能力は「自分に触れたものを、自分の触れない場所に動かす」ものであるから、自身の転移でもしない限りは演算をミスしたところで自分に被害はないが、周囲のことを考えると気が引けた。
何かをきっかけに能力が突然全く使えなくなったり、或いは正反対に強度が上がったり、などということは決して珍しいことではない。身体的にも精神的にも大きな成長をする思春期には猶のことで、例え名門常盤台の生徒であろうとそういった現象とは無関係でなかった。
しかしそういった「有り触れた現象」も、希少な空間移動系能力者である彼女の場合は慎重な対処が求められると見えて、彼女の主治医は当面の間週2回の通院を指示していた。



648 ◆owZqfINQN1ia2014/07/06(日) 17:07:10.08MEiByfpHo (8/16)


「あれから自分の転移はしたかい?」

「いいえ、風紀委員も今は後方支援に回して頂いておりますし。」

「その方がいい、もしものことがあったら大変だからね。結標くんは何年も自分の転移ができなかったようだし。」

「あ、…」

「ああ、済まないね。君にとってはあまり聞きたくない名前だったかもしれないけど、僕にとっては彼女も患者には違いないからね。」

少し表情を翳らせた白井に、彼は苦笑いしながら言った。

「いえ、構いませんわ。」

あの件があって、結標淡希があんな行動に走った背景をほんの一部には過ぎないだろうが想像することができた。
以前は、一度自身の転移に失敗したくらいで大袈裟な、と思っていた。全て能力のせいにして、自分自身の問題を省みることのできない弱い人間なのだと断じた。その考えは今でも然程変わっていないが、それでもそれが相手にとっては酷く暴力的な、正論に過ぎる論理だっただろうことは想像ができる。
事の真偽は知らないが「案内人」だという噂が立つような、しかも「残骸」の存在を知り得たような人物なのだから、この街の薄暗い陰謀と無関係ではないのだろう。つまり自分の知らない、例えばあの特力研で見た映像を幾らかソフトにしたような出来事を、彼女が経験していた可能性もある。



649 ◆owZqfINQN1ia2014/07/06(日) 17:13:02.27MEiByfpHo (9/16)


彼女は今現在自身の転移も問題なくこなせるまで回復したと聞く。それもこういったカウンセリングなどを使わず、自分自身で立ち直ったらしい。加えて絶対能力進化計画を再開させようなどと考えていた筈の彼女が、特力研の一件では妹達を助ける立場であったという話も聞いた。白井はそれを喜びたいのか、或いは腹を立てたいのかも分からなかった。
自分で自分の気持ちが分からないというのは聡明で迷いのない白井には殆ど経験したことのないことで、そのはっきりしない感覚がそのまま能力に影響を及ぼしているように感じていた。
結標淡希が自分の転移にトラウマを覚えたというのが今なら理解できるように思う。超能力は結局「意識」の具現化だ。もしかしたら失敗してしまうかも、そんな思いが簡単に反映される。失敗を知らなかった頃はそんな恐怖を持ち得なかった筈なのに。

診察が終わる頃、医師が思い出したように言った。

「話は変わるけれど、白井くん、僕以外の医師のカウンセリングを受けるつもりはあるかい?」

「他の先生、ですの?」

「能力の不調も心理的なことも、厳密には僕の専門ではないからね。こういう状態になってしまった原因があまり人に話せることではないから、僕が担当しているけれど。」

「もし君が望むなら、そういった部分も含めて信頼できる先生を紹介するよ。次の診察までに考えておいてくれないかな。」

「分かりましたわ。」

「そういえば今日、御坂くんは来ているかい?彼女とも話したいことがあるのだけれど。」

妹達のことだろうか、或いは自分のことだろうか。御坂は白井の付き添いは次いでで、本命は妹達と会うことだと言い張っているが、自分の知らないところで自分の状態についても熱心に聞いているらしいということを知っている。

「多分、妹さんたちとお会いしている筈ですの。私、呼んで参りますわ。」

「ありがとう、助かるよ。」



650 ◆owZqfINQN1ia2014/07/06(日) 17:18:12.37MEiByfpHo (10/16)




「失礼致しますの。」

妹達の部屋は使われなくなったスタッフの居室を改装したものらしい。病院の奥まったところにあるので同じ顔をした人間が何人も頻繁に出入りしても人目に付かないのだろう。そこに行く手前にはナースステーションがあるので、事情を知っているスタッフたちは部外者がそちらへ向かおうとするとやんわりと制止するという話だった。しかし自分を呼び止める声はなく、そこを通り過ぎようとする自分ににこやかに会釈をする看護師がいただけだった。

「お姉様、先生が呼んでらっしゃいますの。診察室まで来ていただけますか?」

扉を開けると、同じ顔をした少女が5人ほど一斉にこちらを向いた。扉を開ける前から分かっていたことではあるが、何度か経験した今でも少しぎょっとしてしまう風景だ。御坂も最初は慣れなかったと聞くし、彼女たちはそういった反応に慣れているので気にもならないらしいが。

「そう?じゃあすぐ行くわ、アンタはどうする?」

その内の1人、最も容易に見分けの付く少女がすくりと立ち上がって言った。確かに顔はそっくりだというのにこんなにも印象が違って見えるのはなぜだろう。表情で印象が変わるというのはよく言われていることであるし、自分でもそういうものだと思っていたが、実際に目の当たりにしてみると自分が考えていた以上にその効果は絶大だった。

「私、こちらで妹さんたちとお話していてもよろしいでしょうか。」

「私は別にいいけど。アンタたちも大丈夫よね。」

「ええ。ミサカたちも色んな方とお話してみたいですし、とミサカ10032号は回答します。」

答えたのは次に区別の付きやすい少女である。彼女だけは上条当麻に貰ったらしいペンダントをいつも大事そうに着けているからそれで見分けられる。彼女たちに対しての御坂や冥土返しの問いかけに代表して返答するのも、彼女であることが多い。

「じゃあ、ちょっと待っててね。」

「ええ。」



651 ◆owZqfINQN1ia2014/07/06(日) 17:26:05.65MEiByfpHo (11/16)




ぱたり、と静かに扉が閉まるのを待ってから、妹達の一人がおずおずと白井の様子をうかがいながら10032号に話し掛けた。

「10032号、先ほどお姉様と話していた件について訊いてみなければならないのでは?とミサカ19090号は促します。」

「何でこのミサカに押し付けるのですか、10039号とかでもいいでしょう、とミサカ10032号は反論を試みます。」

「いつもこういうことは10032号の仕事ですし、とミサカ10039号は暗に拒否します。」

何かを押し付けあっているらしいが、当の白井には彼女から少し離れたところで円陣を組むように相談しあっている妹達らの様子を窺い知ることはできない。

「何か私に訊きたいことがございますの?」

少し焦れったくなってその円陣に外側から声を掛けると、少しの間口を噤んで、それから観念したように10032号が口を開いた。

「お姉様が、人のことをフルネームで呼ぶのを止めた方がいいと…、嫌がる人が多いだろうから、と。」

「しかし黄泉川愛穂や芳川桔梗は気にしている様子はありませんが、とミサカ100039号は反論を試みます。」

「あの二人は一方通行にも呼び捨てにされて気にしていないようですし、元からそういう質なのでは?とミサカ13577号は相手の気質も影響するのではないかと推測します。」

「あァ?俺がどォした。」



652 ◆owZqfINQN1ia2014/07/06(日) 17:27:31.64MEiByfpHo (12/16)


白井の返答も待たずにああでもないこうでもないと議論を始めた彼女らの耳に、掠れて年頃の少女としては低すぎるくらいの声が届いた。特別声を張り上げているわけではないのに、不思議と他のどんな音より耳に届く。

「こんにちは、一方通行。とミサカ10032号は挨拶をします。」

礼儀正しくお辞儀をした彼女らに、一方通行と呼ばれた人物はああ、とか何とかはっきりしない気のない返事をした。

「お邪魔してますの。」

白井も挨拶をすると、彼女はそこで初めて白井の存在に気が付いたような反応を見せた。実際にはそんなことはなく、あまり接触のない人物に対してどういう対応をしたらいいか分からないだけなのだろう。

「…別に俺は家主じゃねェンだから、挨拶とか要らねェよ。」

彼女は白井に目線も合わせずに言った。

「一方通行、今日は何の用ですか?番外個体も上位個体も調整の日ではなかったかと思いますが。とミサカ13577号は質問します。」

「『俺』の調整だよ。2ヶ月に一度は検査しろとさ。」

彼女はとんとん、と指で自身の頭を軽く叩いた。その白い髪よりも、光の加減の問題だろうか、更に白く透けて見えるような細い指が白井の目に焼き付くようだった。



653 ◆owZqfINQN1ia2014/07/06(日) 17:28:49.01MEiByfpHo (13/16)


「ついでにこの間食べたいって言ってたやつ持ってきたからオマエたちで食え。黄泉川ンとこには別に置いてきたから、クソガキや番外個体にゃ遠慮しなくていい。」

「あ、ありがとうございます。貰ったばかりで何なのですが、今度は有名なお菓子屋さんのバレンタイン限定チョコが欲しいです、とミサカ19090号は厚かましくおねだりします。」

「オマエたちがチョコ貰ってどォすんだ。やる側だろ。」

「どうせ第七位にはあげるんでしょう?そのついでで構いませんから、とミサカ10039号も食い下がります。」

「あのバカがチョコレート食うと思うか?もう検査の時間だし、俺は行くわ。」

彼女が扉を閉めて、かしゃかしゃという独特な杖の音が遠ざかるのを待ってから妹達は口を開いた。

「あんなこと言って絶対買ってきてくれますよ、とミサカは一方通行のツンデレっぷりに苦笑します。」

傍から見ていた白井には酷く無愛想でぶっきらぼうな態度に思えたが、彼女たちにはそこに隠された感情が分かるのだろうか。御坂と話していたときとも違う、不思議な高揚感のものが彼女たちの中に存在するのが分かった。

「愛想は悪いし、口も汚いですが、こちらに害意がなければ至極安全な人間ですよ。」

「え?」

「一方通行のことです。白井黒子が、一方通行を怖がっているように見えたのですが、トミサカ10032号は余計なお世話を焼いてみます。」

自分は彼女が怖いのだろうか。
確かに恐ろしい能力の持ち主だとは思う。恐らく自分では彼女に傷ひとつつけることはできまい。御坂に聞いたり、或いは自分で調べたりした彼女の過去のことを考えても、恐怖を覚えるのが当然のように思う。
だけれど彼女に対しても、例えば結標淡希がトラウマを克服したと聞いたときと同じように、いい感情とも悪い感情ともつかないもやもやしたものが腹の底の方に溜まるだけで、明確な恐怖や憎悪を覚えているわけではなかった。
ただ、自分が知らないことがたくさんあって、それを知らないことには彼女を嫌うことも憎むこともできないのではないかと思う。きっとたくさんの人に敵意を向けられて、敵意を返すことしかしてこなかっただろう彼女の人生を想像することは、白井にはあまりにも難しかった。



654 ◆owZqfINQN1ia2014/07/06(日) 17:32:23.10MEiByfpHo (14/16)




「一方通行に会った?」

病院からの帰り道、妹達と過ごしていた間のことを話すと御坂は驚いたようだった。

「アイツ、私にも声掛けてくれたっていいのに。」

「お姉様が先生とお話していたときのことですし、ご自身の検査の時間が近いって仰っていましたから、それは難しかったのではないかと思いますの。」

「自分の検査?」

「頭を指さしていらっしゃいましたが、何か?」

「ああ、そういうこと…。」

御坂は苦虫でも噛み潰したかのような表情を見せた。彼女が受ける「検査」とやらにどんな意味があるのか白井には分からないが、御坂は知っているのだろう。そしてそれは御坂にも無関係なことではないのかもしれない。



655 ◆owZqfINQN1ia2014/07/06(日) 17:36:38.83MEiByfpHo (15/16)


「お姉様は、以前あの方と余り親しくなかったとお聞きしておりますが…。」

「そりゃあ親しいわけないでしょ、自分のクローンを殺しまくってた人間と。今だって友人とは呼べないんじゃないかしら、知人ではあるけれど。」

既に絶対能力進化実験の経緯を聞かされた白井相手だから言えたことであろうが、御坂はそれでも「自身のクローンが殺された」という事実を口にするのを幾らか躊躇っているように感じた。

「だけれどお姉様は、あの方と親しくなろうとしているように見えますわ。」

「そりゃあ、今となっては妹達が生きていくために一番必要なのはアイツだもの。悔しいけど、私の知らないところでたくさんあの子たちを助けてた。きっと私では力になれなかっただろうって思う話もあの子達からたくさん聞いた。」

「だから私はアイツを許さないけれど、認めてる。」

「何かきっかけはございましたか?そんなふうにお考えが変わったことに。」

白井に訊ねられて、御坂はそんなこと考えたこともなかった、というような表情を見せた。そういえばどうしてだっけ、と呟いた表情は妙にあどけない。

「ロシア、行ったときかな…。きっかけっていうのか分からないけれど、そこでアイツと会って…。」

「そう言えば、あのときお姉様がロシアで何をしてらっしゃったのか、私お聞きしておりませんの。」

第3次世界大戦中、行方の知れなかった御坂は帰ってきたかと思えばロシアにいたと言った。しかしそこでどんなことをしていたのか、どんな出来事を体験したのか、そのときは白井が何を聞こうと答えてくれなかった。今考えれば、妹達に関わることもあったのだろう。

「話してもいいけど、面白い話じゃないわよ?」

「構いませんわ、お姉様の体験したこと、お考えになったことを知りたいだけですの。」

御坂はそれから暫く難しい顔をしていて、寮の部屋に戻った頃ぽつぽつと語り始めた。



656 ◆owZqfINQN1ia2014/07/06(日) 17:39:07.63MEiByfpHo (16/16)


今日はここまでです。ここから暫く捏造ロシア編が続くので、ソギーは全然出て来ないよ!御坂と百合にゃんが殺伐してる頃なので明るい話でもないよ!


657VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/06(日) 17:58:53.206FTdu+BJo (1/1)

乙です


658VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/06(日) 19:26:33.393sBXeWpeo (1/1)

乙です!
捏造ロシア編超楽しみです!


659VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/06(日) 20:48:01.65XkeRl8x/0 (1/1)

乙です亜



660 ◆owZqfINQN1ia2014/07/20(日) 21:01:50.10DlgqU564o (1/15)

こんばんはー、大分暑くなってきましたねぇ。
ワールドカップがあったのでアニヲタ活動そっちのけでサッカーヲタクやっておりました。この三連休でじんわりとアニヲタに戻ってきております。

さて、次レスから回想ロシア編です。


661 ◆owZqfINQN1ia2014/07/20(日) 21:03:36.07DlgqU564o (2/15)




「さて、アシは確保したけど…さすがに真っ直ぐ学園都市に戻るのは辛いわね。」

麦野沈利は振り返り、一組の男女に視線を向けた。
どういった方法をとったのか分からないが、長年体晶に蝕まれ続けていた滝壺理后はそのくびきを脱したらしい。それでもこのロシアで度々命の危険に晒されたのだろう、その顔に浮かぶ疲労の色は濃かった。
無能力者であり、ロシアに逃亡する以前から滝壺を庇い続けていた浜面仕上の状態も良くない。『交渉材料』になりそうなものを見付けたときはどこにそんな元気が残っていたのかと思うほどにてきぱきと行動していたが、それも精神力のなせる業だったのだろう、今では体を支える両の足にさえまともに力が入っていない様子だった。
自分だって酷い有様である。適性のない体晶を使い、第二位本人でこそないものの彼の能力で作り上げられた武器を手にした部隊を相手に戦った。こちとら第四位で、更に言えば万全の状態とは言い難い。ロシアに来る以前から片腕と片目を失っていたのである、外見的に一番ぼろぼろなのは間違いなく自分だろう。

「治療をしてくれそうな場所に心当たりがある。借りばっかり作るのは心苦しいが、拒否されることはないと思う。」

浜面はエリザリーナを思い返しながら言った。
ディグルヴの集落の世話になることも一瞬考えたが、治療の設備はあまり整っていないだろう。エリザリーナは戦力として頼りになる一方通行はおろか、見返りを期待できないだろう浜面と滝壺にも手を貸してくれた女性である。一方的に頼りにしてばかりなのは申し訳ないが簡単な治療と少しの休憩場所くらいは提供してくれるだろう。

「むぎの、はまづら。多分これ運転できるよ。」

滝壺が学園都市の輸送機の中から顔を出した。あの後追撃に来た部隊を迎え撃ち、強奪したものである。スーツ女から『交渉材料』を得た後、更に追撃部隊の情報も訊き出した上で待ち伏せたのだ。襲撃してくる場所も方法も持っている武器も知っていたのである、これまでの戦闘に比べれば格段に容易だった。



662 ◆owZqfINQN1ia2014/07/20(日) 21:05:49.55DlgqU564o (3/15)


「―はまづら、あくせられーたはどうやって帰るのかな。」

「第一位?あいつもロシアに来てるの?」

滝壺の言葉に麦野は少し驚いた顔をしただけであったが、浜面は苦虫を噛み潰したような表情を見せた。

浜面仕上は、一方通行に対してあまりいい感情を持っていない。
それも仕方のないことである。無能力者であることに絶望し、世を拗ねていた自分に生き方を教えてくれ、生きる場所も提供してくれた人物、駒場利徳を彼女は殺したのだ。スキルアウトという間違っても褒められた存在ではなかったけれど、確かに浜面はそこに居場所を見出していた。
彼女にも事情があったことは理解している。あの後アイテムの下っ端として走り回る生活に身を落とした浜面は、一方通行も同様に『学園都市の駒』でしかなかったことを知った。ただ、そういった理解と感情は別物であった。
一方で、エリザリーナ独立国同盟に入国する際、彼女が自分と滝壺を助けてくれたのも事実である。エリザリーナにだって、彼女の介入がなければ会えていなかったかもしれないのだ。その後もどんな方法を取ったのかエリザリーナやその側近たちの信頼を得たらしい彼女のお陰で、浜面と滝壺はあの場所でかなり快適に過ごすことができたのだ。



663 ◆owZqfINQN1ia2014/07/20(日) 21:08:00.90DlgqU564o (4/15)


「さっきの空の変なのと戦ってたのも、あくせられーただったよ。」

「アンタ体晶使わなくても分かるの?私は遠くて何も見えなかったわよ。」

「あくせられーたのAIMは強くって、不思議な雰囲気だから何となく。」

滝壺の言う「空の変なの」とは「神の力」あるいは「ベツレヘムの星」のことであるが、魔術的な知識を持たない彼らは知る由もなかった。ただ、あれが危険な存在であり、自分たちでは何ら対処ができなかったであろうことは理解していた。
つまり、もし滝壺の言う通り「空の変なの」と戦っていたのが一方通行であるならば、彼らは再び彼女に助けられたことになる。事と次第によってはロシアの国土とともに彼らは吹き飛んでいたかもしれないのだ。
つまり浜面仕上はエリザリーナ独立国同盟への入国の経緯も含めて、一方通行に借りを作ってばかりであるということらしい。理屈では彼女に学園都市に帰るための方法を提供するくらいは当然のことなのだろうと思うのだが、浜面の感情はそれを否定する。

「滝壺、ひとつ確認していいか?」

滝壺は無言で浜面を見詰め返した。浜面はそれを肯定だと受け取った。

「個室サロンで、一方通行はお前に何か危害を加えようとしたか?」

滝壺は無言で首を振った。いっそ悲しげにすら見える表情だった。

「あくせられーたはテロリストを制圧しただけだよ。私に近付いてきてたのは、具合が悪くて倒れていた私を怪我した人質か何かだと思ったんだと思う。」

浜面はあのとき一方通行が滝壺に危害を加えようとしていると勘違いし、一方的に攻撃をした。その結果、一方的に嬲られることとなったのだが。
恐らくあの場に一方通行が登場するよりも早く浜面が辿り着いたところで、彼はテロリストを無力化することはできなかっただろう。むしろ浜面が死んでいた可能性の方が高い。
確かに滝壺理后そして浜面仕上は、幾度となく一方通行に救われていた。



664 ◆owZqfINQN1ia2014/07/20(日) 21:08:32.50DlgqU564o (5/15)


「ああ!!分かったよ、もう!!!」

「あんなクソッタレに借りを作ったまんまってのも気に食わねぇしな!借りを返してから恨みでも何でも晴らしてやるよ!!」

滝壺はふふ、と愛らしく笑みを零した。そんなはまづらを応援してる、彼女がそう言うのであれば浜面は何だってできそうだった。

「とは言っても、第一位だよ?案外アシぐらい確保してるんじゃない?」

麦野はこの会話にほとんど参加できなかった。何せ個室サロンでの浜面と一方通行との戦闘も、ロシアに来てからの彼らの関わりも何も知らない。麦野沈利の中に存在する『一方通行』とは、はっきりした輪郭を持たない想像上の生き物でしかなかった。

「ううん、それはないと思う。さっきから一方通行のAIM、あんまり動いてないみたい。」



665 ◆owZqfINQN1ia2014/07/20(日) 21:12:26.55DlgqU564o (6/15)




「アイツ、海に落ちたの…?」

学園都市第三位、超電磁砲こと御坂美琴は途方に暮れていた。上条当麻はあの訳の分からない浮遊要塞とともに北極海に沈んだらしい。
妹達とともに乗り込んでいたVTOL機では彼を見つけ出すことができなかった。そもそもこういった機体に搭載されているレーダーは人を見付けることを想定して設計されていないだろう、彼を発見できない理由がレーダーの性能の問題なのか、海に落ちてしまった故なのかも判別ができない。しかし、超能力を無効化する右手を持つ少年相手では彼女の能力を応用したレーダーも使えない。
自分一人では対処しきれないと判断し、御坂は協力者を探すことにした。とは言っても、ここは敵地ロシア。闇雲に探したところで学園都市の人間に協力してくれる人間はそうそう見つからないだろうと考え、彼女は10777号に話を振った。

「アンタの仲間、この近辺にいない?アイツをどうにかして見付けなきゃ。」

「いることにはいますが…。」

10777号は彼女たちにしては珍しいことに、言葉を躊躇うような仕草を見せた。御坂がその様子に首を傾げると、おずおずと言い難いであろうことを口にする。

「この近くに妹達が二人います。但し、お姉様が嫌っているであろう人物も一緒です、とミサカは注意事項を告げます。」

「?私が嫌ってる人間?つまりソイツは私とアンタたち共通の知人ってこと?」

御坂には10777号の言う『お姉様が嫌っているであろう人物』が誰なのか瞬時には分からなかった。「妹達と行動を共にし、かつ自分も知っている人物」が思い当たらなかったのだ。そもそも学園都市の最高機密である彼女たちは、世界中の研究所に預けられることになった今でも存在を知る者が酷く少ない。
況してや世界各地に散らばっている妹達の交友関係など、御坂には知る由もない。しかしながら自分も知っている人物となると、学園都市内の人間だろう。それこそ今行方知れずとなっている上条当麻か―
そこまで考えて、彼女はもう一人、確かに妹達と自分の両方が見知っており、かつ自分が嫌っている人物に思い当たった。



666 ◆owZqfINQN1ia2014/07/20(日) 21:13:58.91DlgqU564o (7/15)


「恐らくその人物の能力を以ってすれば上条当麻を探すこともできるかと思いますが、とミサカは付け加えます。」

確かに御坂の思い浮かべた人物であれば、それは可能かもしれない。様々な応用力を有する第三位超電磁砲の遥か上を行く第一位であれば。あの憎たらしい右手を回避する術を持ている可能性がある。
しかし確かめなければならないことがある。あの女は確かに数ヶ月前、妹達を殺そうとしていなかっただろうか。

「何でそいつが、妹達と一緒にいるのよ?」

「お姉様にも色々思うところはあると思いますが、現在彼女は妹達を庇護する立場にあります。既に何度か命がけでミサカ達を守ってくれていますし、とミサカは複雑な現状を掻い摘んで説明します。」

「詳細を話すと長くなるので割愛しますが、彼女が上条当麻に対して危害を加える可能性もないと思います。恐らく彼の捜索にも協力してくれることでしょう、とミサカは早急な決断を促します。」

時間がない。
本当に彼が北極海に落ちたというのであれば、直ぐにでも引き摺り上げないと低体温症で命が危うくなる。今この瞬間にも波に流されどこへ行ってしまうか分からない。今は藁に縋ってでも彼を助けなければならないのだ。
しかし提示された手段は藁どころか、得体の知れぬパンドラであった。

「…分かったわよ!いいからその妹達とムカつく第一位のところに案内しなさい!!」

彼女は腹を括った。
もしアイツが上条当麻に対して危害を加えたり、あるいは妹達に攻撃するようなことがあれば今度こそ刺し違えてでも殺してやる、と思いながら。



667 ◆owZqfINQN1ia2014/07/20(日) 21:19:16.93DlgqU564o (8/15)




「クソガキ、ウイルスとか射ち込まれてねェだろうな。」

一方通行は学園都市側の工作部隊から奪い返した打ち止めの額に手を載せて訊ねた。

「大丈夫だと思うけど、ってミサカはミサカは心配性のあなたを安心させてみたり。」

「最終信号、この手合いは自分で確認しないと安心しないよ。今だって能力使って確かめてるじゃん。」

番外個体の言う通り、一方通行は自身の能力を使って打ち止めの脳内の電気信号を解析していた。嘗て芳川に提供してもらった彼女の人格データを思い出す。
現在の打ち止めの脳内は、あの頃と同一ではない。人工的に作られ人格すら植え付けられたクローンと言えど生きている人間である、数ヶ月も生きていればその脳内の有様はまるで様変わりしていた。当然、一方通行はそれぐらいのことは想定していた。しかし彼女はその状態でも、打ち止めが正常なのか異常なのか程度は判断できる自信があった。
今こうして打ち止めの脳内信号を解析していても分かる、自身の能力が以前より格段に進化していることが。8月31日に同じようなことを試みたときよりも、自身の演算パターンが格段に洗練されている。これならば照らし合わせるべき元データがなかろうが、彼女の脳内の妙な挙動を感知することができる、と一方通行は感じた。



668 ◆owZqfINQN1ia2014/07/20(日) 21:19:55.16DlgqU564o (9/15)


「さて、どォやって学園都市に帰るか。」

ロシア国内の輸送機関がまともに運行しているのか甚だ怪しいし、学園都市側の手が迫ってくる可能性もある。軍用機を強奪して番外個体に操縦させるのが手っ取り早いが、さすがにロシア軍のものを奪ったところで日本国内に着陸できるとも思えない。だからと言って既に撤退を始めているであろう学園都市の機体を探すのは骨が折れる。
一方通行が派手に壊さなければ、彼女や打ち止め達を回収した機体を使うという手もあったのだが―彼女はちょっとばかり調子に乗ってエンジン系統まで丹念に破壊したことを悔やんだ。

「また学園都市の機体がやってきたよ。第一位に殺されるってぇのに健気だね。」

番外個体が遠くの空を見遣る。確かにロシア軍のものではない、異様な形状をしたものがこちらに近づいてくる。あの機体の中に詰まっているクソッタレ共を排除して、機体を無傷のまま奪えばいいか、と一方通行はまるで近所のコンビニに行くときのような気軽さでもって大層酷いことを考えた。
となれば空を飛んでいる今、攻撃するのは得策ではない。機体にダメージが加わらないとも限らない。着陸し中身のクソッタレを吐き出してからが勝負だ。



669 ◆owZqfINQN1ia2014/07/20(日) 21:23:25.12DlgqU564o (10/15)




果たして機体から吐き出されたクソッタレは、ピンクのジャージの上にもこもことセーターを着込んだ少女であった。

「あくせられーた、一緒に帰ろ?」

「はァ?」

突拍子もなく間抜けなことを口にする少女を前に、一方通行は呆気にとられた。彼女にしては珍しいことに全く状況を理解できないでいると、機体の中から冴えない顔をした男も顔を出した。

「エリザリーナ独立国同盟での借りを返すって言ってんだよ、さっさと乗れ!」

確かに一方通行はエリザリーナ独立国同盟国境付近で学園都市の連中に追われていた彼らを助けたが、ほとんどは自分の為であった。何せ打ち止めの周囲にあんなクズ共を近付けさせるわけには行かなかった。彼女にしてみれば、その結果として彼らが助かったのは単なるオマケだった。

「俺はオマエらを助けたわけじゃねェンだが。」

「知るか!こっちはそれじゃ納得できねえんだよ。黙って乗ればいいだけだ!」

「まぁ、タダで帰れるっていうんだから甘えてみてもいいんじゃない?見たところ直ぐに帰れる手段を持っているようにも見えないし?」

続いて姿を見せたのは知らない顔だった。片腕と片目を失った奇妙な姿だったが、学園都市の人間ならこんなこともあるだろう。一方通行は然程気にしなかった。
一方通行は行動を共にする少女二人の方を見遣る。

「いいんじゃない?ミサカ達は後部座席でふんぞり返っていていいんでしょ?」

「ミサカも賛成!この人達悪い人に見えないし!ってミサカはミサカは早速中に乗り込んでみたり!」

先ほどエイワス顕現の負荷から漸く脱したばかりだというのに元気な打ち止めは搭乗口に足をかけ、そして一瞬停止した。

「突然立ち止まってどうしたの?」

滝壺は何か考え事でもしているような雰囲気の打ち止めの表情を覗きこんだ。

「ちょっと出発を待ってもらっていい?この近くにミサカ達の知り合いがいるみたいなの。ってミサカはミサカはお願いをしてみる。」



670 ◆owZqfINQN1ia2014/07/20(日) 21:24:26.64DlgqU564o (11/15)




「アレが落ちた位置は分かってンのか。」

「舐めないでよ、バッチリ記憶してるわ。」

浜面仕上は酷い冷や汗を流していた。
学園都市の追手から強奪した輸送機には今、超能力者の第一位、第三位、第四位が揃って搭乗している。一人一人を相手にするのであればまだマシなのかもしれないが、七人しかいない超能力者の約半数がこの狭い鉄の塊の中に密集しているのである。
実際にはこの機体は十数人を載せても比較的余裕のある作りをしているのだが、それでもこの空気のぎすぎす感は錯覚ではない。彼らが能力を行使したらこの機体など一瞬で吹き飛ぶだろうが、さまでせずともぎすぎす感だけで何か爆発しそうである。
そんな浜面の不安に対して、滝壺は何故か超電磁砲の妹のように見える少女とじゃれあっていた。因みにもう一人、超電磁砲の姉に見える少女はこの状況で呑気に寝ていた。

彼らが揃って乗り込んだ機体は現在北極海上を移動していた。
御坂曰く、ロシア上空に現れていた謎の飛行要塞ともどもある少年が海に落ちてしまったらしい。彼を探すのを手伝って欲しいとのことであるが、さほど時間は経ってないとはいえ荒れ狂う北極海、引き上げるどころか所在を探すのも一苦労に思えた。
見付けたところで命が無事か―凍傷や低体温症の類は時間との勝負だ。発症から一定の時間が経過すると恐ろしいほど急激に生存率が低下する。命が無事でも障害が残る場合が多い。信頼できる機関に相談し、捜索部隊を組んで、という段階を踏んでいる余裕がないのは確かだが、浜面には第一位だからってこの状況をどうにかできるとも思えなかった。



671 ◆owZqfINQN1ia2014/07/20(日) 21:28:07.34DlgqU564o (12/15)


「……この辺りよ、アイツが落ちた座標。」

その場所は岸からは1キロ以上離れていた。こうなるとどこに流されているか、沈んでいるか、検討もつかない。北極海は巨大な要塞が沈んだこともあってか酷く荒れていた。
そんな海の様子には興味もないといった感じで一方通行は大儀そうに立ち上がると、「しっかり捕まってろ」と言って首元のスイッチを入れ替えた。機内の全員が彼女の意図を理解するかしないかの内に乗り込み口を開け放ち、上空数百メートルに浮いた機体から飛び降りた。
そうして吹き込んだ強い風に他の者たちが瞬きしている間に、彼女は海水面ギリギリのところ、背中にいくつもの竜巻を背負うようにして浮いていた。

「アイツ、何やってんの?」

御坂は冷たい風の吹きこむ搭乗口を漸く閉めると、訝しげに海水上に浮く白い少女の様子を見つめた。如何せん窓が小さく距離もあるためによく見えない。
ただ、次の瞬間には彼女の疑問は払拭された。

「!!」

海が大きくうねりだした。
まるで海底から湧き上がったかのような大きな流れは何もかも攫うようにして、あ、と思う間もなく津波かと見紛うばかりの大きな波が岸に押し寄せていた。見る見るうちに海を漂っていただろう人工物やら何やらが岸に打ち上げられて、ちょっとした山を築き始めている。
確かにこれならば上条の位置が分からずとも、岸に打ち上げられた彼を探すだけで事足りる。海の中を探すよりは余程簡単だし、探してから引き上げるより、引き上がった状態のものを探す方が低体温症などのリスクも幾らか下がるだろう。
比較的常識人寄りの御坂としては、上条どころかその他魚やら海に流された廃棄物やらも共々岸に打ち上げられているこの状況はマズイんじゃなかろうか、とも不安になるのだが、よくよく考えるとここは第三次世界大戦終戦後のロシア。あの訳の分からない要塞や化け物どものせいだということで片付けられるのだろう、と高を括ることにした。



672 ◆owZqfINQN1ia2014/07/20(日) 21:29:09.36DlgqU564o (13/15)


いつの間にやら一方通行は何もない顔をして機体の側まで戻って来ていた。滝壺理后が搭乗口を開けると猫のようにするりと滑りこむ。

「アイツが超電磁砲の言う通り超能力をキャンセルするっつったって、波に流されないってことはねェだろォよ。」

彼女の言う通り、上条当麻の右手は超能力そのものを消し去るが、超能力で引き起こされた現象までもをなかったことにはできない。彼女の考えは酷く大雑把にも思えるが、御坂から人伝に彼の能力を聞いただけにしては的確すぎるとも言える。彼女自身、彼と対峙した経験から何かしら学んでいたということなのだろう。

機体のぶ厚い壁すら震わせる音がどこまでも響いている。海のうねりはずっと向こうまで続いていて、範囲は数キロ四方に及ぶだろう。

「落ちた座標と周囲の海流から、流されていそうな範囲を試算した。念のためプラス20%の範囲の海流を操作したからまず間違いなく見付かるだろ。これで見付からなかったら個人でどォこォできるレベルを超えてる。諦めろ。」

一方通行はあっさりと言い切り、能力に疎い浜面は「スゲー」などと安易に驚いていたが、同じ超能力者の御坂と麦野は彼女が息をするように当たり前に行った行為の凄さを正確に理解していた。
これだけ広範囲の波の流れを演算に組み込み、操作するというのは並大抵のことではない。結果として引き起こす現象は「海中に漂っている物質を岸に打ち上げる」という大雑把なものであるからさほど細かい作業は要求されないが、それにしたって範囲が広い。

「後はオマエたちでどうにかしろ。俺は寝る。」

何者にも興味がないというふうに彼女は目を閉じ、実際にあっという間に眠りに就いてしまったようだった。その両隣には、打ち止めといつの間にか目が覚めたらしい番外個体がまるで体を張って生まれたばかりの子犬を守る母犬のようにきっちりと寄り添っていた。



673 ◆owZqfINQN1ia2014/07/20(日) 21:31:48.88DlgqU564o (14/15)




そうして海岸を上空から探していると、海藻が絡みついた流木の上に学ランの少年が気を失って倒れていたのであった。



674 ◆owZqfINQN1ia2014/07/20(日) 21:32:52.14DlgqU564o (15/15)

今日はここまで。

最近土百合封印してたんだけど、ふと思い浮かんだネタ書き込んでいいかなぁ…ダメって言われても書き込むけどさぁ…


675VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/20(日) 22:01:13.23nK9hB6ZXo (1/1)

乙です


676VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/20(日) 23:06:00.42YunzVHaDO (1/1)

乙です!
久々に読めて嬉しい
土百合も読みたいお願い


677sage2014/07/22(火) 00:10:21.781BfEk3UbO (1/1)

滝壺すげぇ。


678VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/22(火) 21:18:49.05GeV6hUwro (1/1)

乙ー
さらりとすごいことやってのける百合にゃんかっこいい


679 ◆owZqfINQN1ia2014/07/27(日) 18:20:48.493KH+gxBCo (1/3)

梅雨が明けましたが、ゲリラ豪雨とか皆さん大丈夫ですかー?自分は出張の多い仕事なので、飛行機乗ってる最中豪雨で引き返します、みたいな事態にならないかハラハラする毎日です。

今日は土百合で思いついたの2つ投下しますねー。1つ目はあらすじだけなんですけど、好き嫌いが分かれるというか恐らく苦手な人の方が多いだろうっていうストーリーなんで態と目が滑るような改行なしで書きます。無理だと思ったら次レスから別の土百合なので、そこから読んで下さいね。




暗部時代に肉体関係(しかも複数回)持っちゃった土百合で、つっちーはこいつどうせ女性機能欠落してるしって思ってて、百合にゃんも自分の生殖機能が8月31日以来働き始めつつあることなんて気付いてない頃だから避妊とかしてなくて、そのまま第三次世界大戦も終わって二人の接点がなくなった頃に芳川が「そう言えばあなた、生理は来てないの?」って訊くんだ。それに百合にゃんは「元々俺半年に一回来ればいい方だけど。オマエだって知ってるだろ?」って答えるんだけど、芳川は「あら、能力を失ってからホルモンバランスが戻って、胸だって膨らんできているじゃない。生理だって一般的な周期になっていいと思うけれど。」って言うんだ。でも百合にゃんは(まさかな…)って思ってて、それ以上考えないようにする。
でもやっぱりそのまさかで、百合にゃんはバレないように何だかんだ言い訳して黄泉川の家から出て一人暮らしを始めて、別につっちーの子供が大切だとかいうわけじゃないけど、絶対能力進化実験の過去もあって何の罪もない腹の子を下ろす覚悟も決められなくて、ぐだぐだしているうちに下ろせる時期を過ぎてしまって、このまま黄泉川とか妹達とかに隠れて出産してしまおうと漸く決心した頃に番外個体に妊娠を気付かれちゃって、番外ちゃんに「人殺しが妊娠とかウケる」「第一位に子育てとか絶対無理だし」とか色々嫌味言われて、番外ちゃん的には百合にゃんに妹達より大切になるかもしれないものができるのが怖くって牽制のつもりだったんだけど、元からあまり状態の良くなかった百合にゃんはストレスも相まって流産してしまう。
流産したあとも栄養状態とか精神状態とか悪くって、百合にゃんは冥土返しのところに暫く入院することになるんだけど、流産したことがバレたあとも黄泉川にも打ち止めにも相手の男の話とかしようとしないし、それどころか二人は百合にゃんに避けられてるし、いっつも威勢のいい番外ちゃんは自分のせいで大変なことになったらしいと分かってあわあわしてて「ミサカそんなつもりじゃなかったし!」って言い訳するばっかりで、芳川さんはそういうの苦手な人だし、百合にゃんを世話できる人がいなくって百合にゃんの精神状態は一向に改善しなくって、そんな頃に何かの事件に巻き込まれた上条さんが同じく入院してきて百合にゃんと再会するの。
上条さんは百合にゃんが入院してる理由知らないし、百合にゃんも態々上条さんを遠ざける理由がなくって入院中度々会って話したりするようになって、そしたら上条さんのお見舞いに来てたインデックスとも交流するようになって、少しずつ回復してきた頃に、上条さんのお見舞いという名目で厄介事を持ち込もうとしていたつっちーが偶然入院中の百合にゃんを見かけて、百合にゃんはつっちーに目撃されたことに気付いてないんだけど、つっちーは(アイツ何で入院なんかしてるんだ?)ってなって調べてみたら…



ってその後は考えてない。


680 ◆owZqfINQN1ia2014/07/27(日) 18:38:35.633KH+gxBCo (2/3)

次は土百合というか、グループ。しょーもない話。



【プライバシー保護のため、匿名でお送りいたします】

ショタコン:「そう言えば一方通行にホクロってあるのかしら。白色人種でも全くないわけじゃないわよね。」

ストーカー:「白色人種でもメラニン色素がないわけじゃないですからね。でも一方通行さんの場合はそもそもその色素がないのでは?」

ショタコン:「でもあの子後天的な色素異常でしょう?生まれつきじゃないなら、一つくらいあってもよさそうなものだけど。」

ストーカー:「どうですかねぇ。あ、土御門さんはどう思います?」

シスコン:「何がだにゃー?」←たまたま通りがかった

ストーカー:「一方通行さんにホクロがあるかどうか。議論するより本人に訊く方が早い気もしますが。」

シスコン:「あー、確かなかったような…」

ショタコン:「目につく部分だけじゃなくって、服に隠れる部分もよ?」

シスコン:「いや、それも含めて。」

ショタコン:「………」

ストーカー:「………」

ストーカー:「まさか、確かめたことがあるんですか?全身?」

ショタコン:「嫌だわ不潔…義妹一筋じゃなかったのね、がっかりだわ。義妹一筋でもがっかりだけど。」

シスコン:「いや、隠れ家で偶々風呂上がり全裸の一方通行に出くわしただけだからな?俺に罪はない。」

ストーカー:「それにしたって全身ホクロがあるかどうか確認できるくらいには見たってことでしょう?不潔です犯罪です。」

シスコン:「だって服全部洗濯中だとか言ってそのまんま歩き回るし。」

ショタコン:「隠れ家ってどこの?」

シスコン:「確かセカンドだった気がする。」

ストーカー:「セカンドなら部屋複数あるじゃないですか。別の部屋に移動するとか気を遣うべきだったのでは?」

シスコン:「これって俺が悪いのかにゃー?全裸で堂々と風呂あがりのコーヒー飲んでるあいつにだって問題あると思うぜい?つるぺただし。」

ショタコン:「あんたつるぺた好きでしょーが、シスコン。」

シスコン:「ひんにゅーだから義妹を愛しているんじゃない、義妹ならきょぬーだって愛せる。」


681 ◆owZqfINQN1ia2014/07/27(日) 18:39:36.123KH+gxBCo (3/3)


ストーカー:「ここにとある会話の録音があるんですが…」


『にゃー。ひんにゅー白ウサギばんざーい。』


ショタコン:「ダウトを通り越して完全にアウトね…。」

ストーカー:「証拠は完璧ですね。愛想はだいぶ足りないですが、白い肌に髪に、赤い目―まあ白ウサギを連想させる容姿と言えるでしょう。」

シスコン:「…寧ろその音声データどこで入手したんだにゃー?」

シロウサギ:「オマエら寄って集ってアホ面並べて何やってンの?」

ショタコン:「噂をすれば。それにしても随分口の悪い白ウサギね。」

ストーカー:「そういうのがお好きな方もいますし…。」

シロウサギ:「なァに、俺の噂でもしてたわけ?」

ストーカー:「あ、気になります?」

シロウサギ:「いや、全く。」

シスコン:「こういうやつだよ、分かってただろ。俺に非はない。」

ショタコン:「あなた今発言権ないから。」

ストーカー:「率直にお訊ねしますが、一方通行さん、あなたお風呂上がりに全裸で土御門さんと出くわしたことありますか?」

シロウサギ:「3回位なら。」

ストーカー:「1回じゃない…だと…?」

ショタコン:「複数回に渡って平気で見られている一方通行にも確かに問題があるわね…。」

ストーカー:「そこら辺の教育は結標さんにお任せします。それよりも先ず、そのときの土御門さんに妙なところはありませんでした?前屈みとか前屈みとか。」

ショタコン:「すんごい舐めるようにあなたの体を見るとか。」

シロウサギ:「こいつの観察とかしてるわけねェじゃン。何ソレ面白いの?」

ストーカー:「むしろあなたが観察されていたわけですがね…。」

ショタコン:「この子に何言っても無駄な気がするわ…。」

シスコン:(あ、俺の糾弾忘れ去られたっぽい…?)

シロウサギ:(結局なンだったンだ…?)



以上です。お目汚し失礼いたしましたー。


682VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/27(日) 21:57:14.0150uew5Odo (1/1)

乙です


683VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/27(日) 22:42:48.86LUi78RfDO (1/1)

どっちもすごい好きだわ
土百合の距離感ほんとたまらん
前者の方の突っ込んだ話>>1としてみたい


684VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/29(火) 19:13:01.01yMbnOsXgO (1/1)

一つ目の話気になる……
そんな事言わずにそのシロウサギさん教育しませんかショコタンさん



685VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/30(水) 12:12:55.44iBPwrQFDO (1/1)

百合にゃんに中出ししたってことか……死刑だな


686VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/31(木) 01:46:37.62KzOsBA93o (1/1)

どっちも好きです!
まじでどっちのノリも大好きだよ!!


687 ◆owZqfINQN1ia2014/08/27(水) 19:37:10.710NtvYvkCo (1/1)

すみません、ご無沙汰をしております。とりあえず生存報告をば。

ちょうど前回の投下をした後に大きな仕事が降って湧いてきて、暫く透過しに来られなさそうです。多分、来月末には肩がついていると思うのですが。
待っていて下さる方には申し訳ないのですが、しばしご辛抱いただけますと幸いです。


688VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/27(水) 22:34:59.06vEYfrVMv0 (1/1)

報告乙
そろそろ保守入れようと思ってたとこだった

丁寧な描写が大好きです
スローペースでも待つよ、楽しみにしています


689VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/28(木) 01:54:40.91EY7spp/1o (1/1)

報告乙です


690 ◆owZqfINQN1ia2014/09/26(金) 11:27:05.81NdjHKpwYo (1/1)

ご無沙汰しております。>>687で言っていた仕事の修羅場が一応一段落しました。
プライベートの諸々を暫くほったらかしてたので直ぐ再開とは行かなそうですが、来月中頃には本編投下したいと考えております。

しかしこの2スレ目が立ってからもう1年以上経ってたんですね…そんなに長く続けてんのかと自分でびっくりしました。


691VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/09/26(金) 11:56:04.530pmn8HVPo (1/1)

了解


692VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/09/27(土) 01:14:40.02vFudvL8C0 (1/1)

お仕事お疲れ様!
1スレ目から読み返しつつ待機


693VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/10/19(日) 23:59:34.92NcCJnUgYO (1/1)

待ってる


694 ◆owZqfINQN1ia2014/10/26(日) 18:59:05.61KlvuiVI+o (1/1)


こんばんわー、長いこと待って頂いてありがとうございます。ちょっと久々に書いているので文体が安定せず、難儀しております。書く内容自体はほぼ固まっているのでそのうち投下できると思うのですが、あまりお待たせするのも申し訳ないのでお茶請け程度に小ネタ落としておきます。台本形式SSは書き慣れないので苦手なのですが、地の文の文体気にしなくって書けるのでこういう時は助かりますね…。

とりあえずハロウィンでいちゃつく削百合どぞ つ旦



削:トリック・オア・トリート。

一:………ポカーン

削:あれ百合子、もしかしてハロウィン知らないか?

一:いや知ってンけど…そこまで世間に疎くねェよ。

一:ただ、仮装もせずにハロウィンだと言い張るお前の図太い神経に感動すら覚えてただけだ。

削:褒めても何も出ないぞ!

一:褒めちゃいねェ。

削:んで?

一:ンで?って何が。

削:だから、トリック・オア・トリート。

一:はい。

削:コロッケ?こういうのって飴とかチョコとかじゃないのか。

一:食えば分かる。つゥかお前、飴とか食べないだろォが。

削:まあな。あ、中身かぼちゃだ。ムグムグ

一:そゆことォ。ガキどもが中身繰り抜いた残り食いきれねェっつうから貰ってきた。

削:っていうかこの何て言うの、コロッケとかメンチカツとか手で食べるときの紙の袋、これいいよな。

一:買食いしてるような背徳感が堪ンねェ。

削:大層なことやらかしてる割に百合子の背徳感はちっさいなあ。

一:嫌味かお前。

一:まァイイ、ンで?

削:んで?って何が。

一:今度は俺の番だろォ?トリック・オア・トリート。

削:俺何も持ってないけど。

一:知ってる。

削:甘んじてトリックの方を受け入れよう!

一:へェ…イイ度胸じゃねェか…




「ねえ黄泉川。」

『どうしたじゃん、番外個体。』

家主に一方通行の揚げたかぼちゃコロッケを分けてもらってこいと仰せつかった番外個体は、眼前に広がる光景に溜息を吐いた。携帯を耳に当てながらどうしたもんかと首を傾げる。

散々かぼちゃ料理を食べさせられて飽きていたが、一方通行の作る揚げ物となれば話は別だ。何故かあのいけ好かない第一位様は、揚げ物料理に天才的な才能を持っていた。

しかし目の前の光景は、せっかくかぼちゃコロッケのために空かせたお腹も甘ったるい砂糖で瞬時にいっぱいになりそうな代物であった。

「言われた通りオツカイに来たんだけど、現場じゃ盛りのついた思春期の雄と雌が互いの体くすぐり合って息も絶え絶えだぜ。ミサカどうすればいい?」

『死ぬまでやってろ、って言っておけばいいじゃん。但しコロッケの回収は絶対じゃん。』

電話の向こうの家主はまるで警備員の部下に指示でもするような強い口調で言って電話を切った。ミサカはこんなほのぼの第一位見たくなかったよ、と番外個体は思いながら、黄泉川家用に別に取っておいたらしいコロッケを勝手に拝借して2人の住まいを去ることにした。





695VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/10/26(日) 20:31:10.99TmeXE2qqo (1/1)

乙ー


696VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/10/26(日) 21:03:36.97czWom86Eo (1/1)

乙!
かわいいな2人共


697VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/11/14(金) 00:15:44.01CDInXtepO (1/1)

待機


698VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/11/23(日) 06:36:00.67p7nGsUsl0 (1/1)

そろそろ鳥さんとかの新約キャラ出ないかな
百合にゃんの妹的立ち位置な鳥さんなんかが見てみたい…


699以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2014/12/21(日) 15:05:58.306HJWd7WBO (1/1)

待機


700 ◆owZqfINQN1ia2014/12/23(火) 15:54:29.84DKmpxMOBo (1/11)

ご無沙汰しております&長らくお待たせしました…orz
回想シーンで百合にゃん全然出てこないところですがお納め下さいませ。


701 ◆owZqfINQN1ia2014/12/23(火) 15:55:35.96DKmpxMOBo (2/11)




「ここでできる限りの治療はしたけれど、完治には程遠いものよ。ある程度2人の体力が回復したらお家に帰ることをお勧めするわ。」

何だか顔色の悪い痩せぎすの女が―衛兵らしい男がエリザリーナと呼んでいたから、御坂の聞き間違いでなければこの国のトップだろう―顔見知りらしい浜面という男に伝えるのを聞いて、御坂はほっと息を吐いた。

「色々と世話になりっぱなしで済まねーな。」

「そんなことはないわ、彼らがいなければこの辺り一帯は消し飛んでいただろうし。」

彼女の言う言葉が「彼がいなければ」というものであればすんなり聞き流すことができたのだろうが、「彼らがいなければ」というのは御坂にとって俄には理解し難いものであった。信じる信じないという以前に、その「彼ら」という言葉に一方通行も含まれるのかと純粋に疑問に思う。

「今は状況が状況だからこの部屋から出歩くことは許可できないんだけれど、何かあったら外の見張りに声を掛けて頂戴。彼は日本語が分かるから。」

先ほど戦争が集結したばかりで何かと慌ただしいのだろう、部屋の外には沢山の人の忙しない足音や興奮気味のロシア語が響いている。戦争に敗北したロシアと対立していたとはいえ小さな独立国の集合体だ、今この瞬間の身の処し方を誤れば戦争に負けたのよりも酷い結末を迎える可能性もある。突然彼らを頼りにしてやってきた戦争の勝者側の人間を好き勝手に行動させるほどの余裕がないのは当然のことと思えた。むしろ、2人の治療をしてもらえただけでも万々歳というところだろう。2人ほどではないが外傷や疲労が見られた他の人物たちも応急処置的ではあるが十分に誠意の感じられる待遇を受けた。



702 ◆owZqfINQN1ia2014/12/23(火) 15:56:28.30DKmpxMOBo (3/11)


「けれど、彼女は何をどうしたらあんな状態になったの?外傷こそ男の子よりも目立たなかったものの、内傷はとんでもない状態だったわよ。」

「俺達は別行動だったから何も分からない。そっちの子たちの方が何か知ってるんじゃないか。」

浜面がくい、と妹達2人の方に視線を向けた。指名された2人は予想に反して困惑顔である。

「ミサカはずっと意識がなかったから分からない、ってミサカはミサカは正直に打ち明けてみる。」

「ミサカだってよく分かんないよ。あの人が何か変な歌を歌ったらずっとぐったりしてたこのおチビが復活して、逆にあの人がぶっ倒れたんだ。それだけ。」

「歌?」

「歌って言っても、歌詞とか音程とか滅茶苦茶だよ。フツーの音楽って感じじゃなかった。多分幻想御手みたいな人体に干渉する特殊な波長なんだと思うけど。」

番外個体は科学で説明できない現象について自分なりに仮説を立てていた。幻想御手事件は学園都市中を巻き込んだ事件だったので、その解決に奔走した御坂だけでなく暗部として街の後ろ暗い部分に生活していた麦野や滝壺、スキルアウトをやっていた浜面にも理解がしやすい。

一方、エリザリーナは打ち止めが数時間前までどのような状態であったか知っているため、それが科学的な技術ではなく、魔術的な力であっただろうことを即座に理解した。しかし彼らに説明しても理解を得にくいだろうと思ったのか、その不可思議な現象を説明することはなかった。

「彼らの状態がもう少し安定したら、あなたたちに声を掛けるように部下に伝えておくわ。そうしたらなるべく早く学園都市に戻るようにしなさい。この状況ではさすがに帰り道までの世話をすることはできないわ。」

そもそも学園都市の子供たちがここにいること自体がおかしいのだ、彼らに安全な帰り道を提供できなかったとしても彼女の責任ではないだろう。御坂を始めとしたその場の面々は特に不満があるということもなくその言葉に頷いた。



703 ◆owZqfINQN1ia2014/12/23(火) 15:57:42.41DKmpxMOBo (4/11)


「そもそも疑問だったのだけれど、」

エリザリーナが立ち去って再び沈黙が訪れた室内に、意を決したような御坂の声が響いた。

「何で一方通行と妹達が一緒に行動してるのよ?さっきの10777号も何か事情を知っている風だったし。」

先ほどまで行動を共にしていた10777号は、エリザリーナ独立国同盟に入国する手前で分かれた。学園都市生まれの彼女が敗戦国となったロシア内でこれからも生き続けていくことを考えると、あまり長時間学園都市の人間と接触を持つことは好ましくない。戦闘が継続している間は彼女の所属先も彼女の行動を気にする余裕がなかっただろうが、そのうち指示に従わずに勝手な行動をしていたことも知られるだろう。

「ミサカたちはあの10777号とはそもそも作られた目的が違うもの。」

「どういう意味よ?」

「このちっこいミサカは第一位に殺されることも、第一位を殺すことも想定せずに作られたミサカ。そしてこのミサカは、第一位を殺すために作られたミサカ。」

「…一方通行を殺すって、そんなこと妹達にできるわけないじゃない。」

「正攻法ではね。ミサカは特殊な成長剤を使って大能力者にまで引き上げられているけれど、それでもお姉様には勿論劣る。お姉様ができなかったことをミサカができる筈がないと思うのは当然だ。」

10032号や10777号のいかにもプログラミングされたと言わんばかりの語り口調も苦手だが、この番外個体と名乗る妹達の口調は態と人の機嫌を逆立てるようなそれだ。御坂は自分よりも寧ろ母親の若い頃を連想させるその容姿と、それに合わぬちぐはぐな口調にストレスにも似た違和感を蓄積させていた。



704 ◆owZqfINQN1ia2014/12/23(火) 15:59:24.58DKmpxMOBo (5/11)


「でもミサカはそういうレベルの話をしているんじゃないんだよ。例えるならゲームだ。」

「ミサカと一方通行が同じゲーム内のキャラになって戦闘するのであればそれはどうやったって敵わない。だけどミサカがやることは、そのゲームの電源を落とすことだ。」

「ゲーム内のキャラクターである一方通行を完全に一方的にシャットアウトできる、そんな裏技をミサカは持ってるってわけ。」

「そんなことができるとして、じゃあ何故実際にやらないの?」

御坂は一方通行が死んでしまえばいいと思っているわけではない。だが、先程までのやりとりを聞いている限り必ずしも一方通行と信頼関係を結んでいるわけではないらしいこの妹達が、それでも一方通行と行動を共にすることを選んだ理由が分からなかった。

「簡単に言えば、殺すメリットがなくなった。」

「あの人を殺すのに成功したところで馬鹿な研究者共に処分されることになっただろうから、元々殺すメリットがあったかと言われると微妙だけど。だけど殺意は持っていたからね。」

「その殺意がなくなったってわけ?」

「いんや、未だ残ってるよ。だけど殺さない場合に得られるメリットを提示されて、ギブアンドテイクが成立したからね。馬鹿研究者共に使い捨てにされない可能性を明示されて、それに乗っただけだ。ミサカと第一位が持つものは極々打算的な関係だよ。」

「じゃあ、その相手が私ではいけないわけ?」

「お姉様といるメリットはないよ。ミサカは今のところ単なる超電磁砲の劣化コピーでしかない。お姉様と一緒に過ごしたところでオリジナルの超電磁砲に近付く可能性はあるけれど、超電磁砲を超えることはないだろうね。」

「一方通行から技術を盗もうってこと?」

「実際できるかどーかは分からないけどね。ミサカがミサカしかない独自のものを、しかも科学者に使い捨てにされないだけの魅力的なものを持つとしたら、そこに一番可能性がある。」

彼女が淡々と語る言葉を素直に解釈すれば、一方通行と彼女の間に信頼関係や友情関係、その他の人の体温が通う温かな関係は一切ないということのように思える。そういった打算的な関係に馴染みのない御坂は、やはり未だ不満顔で立っていた。



705 ◆owZqfINQN1ia2014/12/23(火) 16:00:15.61DKmpxMOBo (6/11)


「じゃあ逆に聞くけど、お姉様はミサカたちと一方通行がどういう関係であれば満足?」

「ミサカたちは一方通行を憎んで、嫌って、殺してしまいたいって思い続けていればいーのかな?」

「そういうことじゃ!」

「そうだよね、キレイゴト好きのお姉様ならそう言うと思ったよ。」

「ただ私は、一方通行に自分のしでかしたことを正確に理解して欲しいだけよ。」

「そういうことなら、第一位はまさにその最中だと思うけどね。このミサカや、ちっこいのと向き合いながら。ま、このミサカとしては勝手にすれば、って感じだけど。」

呆れたように言い放った番外個体に対し、ずっと黙っていた打ち止めという名の妹達がすくりと立ち上がって御坂に向けて頭を下げた。

「お姉様、今のところはミサカたちと一方通行のこと、見逃して欲しいなってミサカはミサカは懇願してみる。」

「10031人のミサカは、確かにあの人に殺されてしまった。だけど、ここの2人と他の9969人のミサカはあの人に助けられた部分もあるんだ。ミサカたちにはこの関係がどうしても必要なんだ、ってミサカはミサカは断じてみる。」

「…分かったわ。事情は何にも分かんないけど、アンタたちがどうしたいのだけは分かった。」

そうして御坂はその日、それ以上妹達と一方通行の関係について詰問することはなかった。



706 ◆owZqfINQN1ia2014/12/23(火) 16:01:07.98DKmpxMOBo (7/11)




「これが、ロシアで一方通行と私が再会したときの話。」

御坂の話を黙って聞いていた白井はいつの間にか冷め切っていた紅茶を口に運んだ。どんな理由があって一方通行と御坂が友人とは言わないまでも知人と呼べるだけの間柄になったのか興味があったのだが、ロシアで起きたことを聞いただけではその経緯を知ることはできなかった。

「そのときは違和感がある、ってだけだった。一方通行に懐いてるちっさい妹達のことも何も知らなかったし。でも多分、絶対能力進化計画が終わったあとも私が知らないところであの子たちに色々あって、それに一方通行が関わったんだろう、ってことくらいは分かったのよ。」

先日の垣根との一件の前に白井が妹達について調べ上げた情報の中に、御坂の言うところの「色々」もあったのだろう。よくもまあ学園都市第一位とはいえ一人でこれだけのことをやったものだ、と思える事件もあった。彼女が能力を発揮する様子を記録した映像を見た白井は、第三位ですら子供扱いするという第一位の力の片鱗を知っている。あれだけの能力を持った人間が、それでも体をぼろぼろにしながら殺しそびれた9971人を守ってきたのだと、10032号は言っていた。

「帰国したらいつの間にかアイツと一方通行が仲良くなってたりして、それから漸く少しずつ、って感じよ。」

アイツ、というのは御坂がいつも追い掛けている無能力者の高校生のことだろう。絶対能力進化実験を止めるために大きな働きをした彼は、それなのに一方通行と親しいらしい。時折妹達の会話にも彼が登場していて、彼らが強い信頼関係を結んでいるらしいことは何となく知っていた。

一見すると善性の塊のような男であるが、どちらかと言うと清濁併せ呑む、というのが彼の本質なのだろう。未だに過去の一方通行の行いを頭の端で意識してしまっている御坂に対し、彼が一方通行に対して過去の所業を責めるような様子を見たことがない。御坂の反応の方が普通だと思うのだが、彼の場合は現在の彼女の行いにしか彼は関心がないのだろう。



707 ◆owZqfINQN1ia2014/12/23(火) 16:02:11.29DKmpxMOBo (8/11)


「最初はアイツを許したいとか、認めたいとかそんなこと考えてなかった。私は、私の知らないとこで何か起きてたってことだけが嫌だった。」

「だから、あの子たちや打ち止めに実験が終わった後のこと、全部聞いたわ。一方通行自身は私には関係のないことだって言って絶対に教えてくれなかったし。」

関係ないはずはないと御坂は言い張ったが、一方通行がそれを聞き入れることはなかった。一方通行は自分の行いについて御坂に理解されたいとは思っていなかったし、自分と関わることで妙なトラブルに巻き込む可能性もあると考えていたのだろう。

「今だって10031人を殺したこと、許しちゃいない。だけど、あの子たちに一方通行が必要だってことも、否定はしない。」

「私はただ見極めたいだけなのよ。一方通行が、妹達を任せるに足る人物なのか。」

「それにしては親しげというか、もうある程度の信頼関係があるように見受けましたの。」

「信頼関係っていうか、放っとけないだけよ。」

「放っとけない?」

「…アイツ案外危なっかしいっていうか、自分のことは二の次っていうか、そーいうとこあのバカそっくり。妹達が心配してるのを見たら手を出さずにいられないじゃない。」

こういうところが彼女の芯の強さ、そして能力の強大さにも繋がっているのだろう。迷うことや間違うこともあるが、それでも行動することを止められない。それが白井の敬愛する御坂美琴である。

そして多分今の自分は、そういうものを失ってしまっているのだろうと白井は思った。自分がこれまでしてきたこと、これからするであろうこと、出会うもの、人、こと、そういうものにまるで自身を持てなくなっている。それがそのまま能力の不調に繋がっている。

御坂だってそれらの何もかもを自身を持って日々を生きているわけではあるまい。ただ、今この瞬間を後悔したくない、という強い意志だけは一貫している。今この瞬間の自分の行動が何を起こそうとも責任を取ろうとする気概がある。嘗ては自分も持っていた筈のものを取り返したいと、白井は改めて彼女の光を目の当たりにして思う。

「何か言った?」

「いいえ、何でもございませんの。ただ、お姉様は素晴らしいと改めて思ったまでですわ。」

白井は久々に心からの笑顔を浮かべながら、御坂の質問に首を振った。



708 ◆owZqfINQN1ia2014/12/23(火) 16:02:42.75DKmpxMOBo (9/11)




初春飾利は風紀委員の第一七七支部に所属する中学1年生である。能力は低能力者だが、ある分野においてはそれこそ超能力者に引けをとらないほどの価値を有する技術を持つと言える人物だ。彼女はその特殊性とは裏腹に驚くほど穏やかで当たり前の少女であったけれど、そのときある特殊な存在に再び相見えようとしていた。






709 ◆owZqfINQN1ia2014/12/23(火) 16:03:14.90DKmpxMOBo (10/11)




「アホ毛ちゃん?お久し振りですね。」

「あれ、お花のお姉ちゃん、ってミサカはミサカは返事をしてみる。」

初春飾利は「打ち止め」と呼ばれるクローンの少女と再会した。






710 ◆owZqfINQN1ia2014/12/23(火) 16:05:25.46DKmpxMOBo (11/11)

今日はこれまで。次回で黒子の自分探し編は終わるはず。

>>698
この話は新約入る前に別ルート入っている設定なので、新約キャラの登場させ方が難しいんですよね…。番外編というか、小ネタというかで、土御門と黒夜ちゃんが絡むネタを妄想していたりはするのですが。


711以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2014/12/23(火) 18:08:29.021g5Qc6jho (1/1)

乙です


712以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2014/12/25(木) 19:50:53.56KYZ7gtjzo (1/1)

クリスマスプレゼントきてたー
乙です!


713以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/01/17(土) 23:26:59.01m6M8BNnSo (1/1)

白い翼上条止めれたっけ?覚えてない


714以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/01/25(日) 00:02:31.90tkUtnBqoo (1/1)

白翼と上条が戦ったのって
デンマーク?での一方さんが微妙に手抜きしてたやつだけだし
攻略法も白翼自体はスルーして一方通行本体を狙うって方法だった
右手で殴ることはできるけど消せないって感じの描写


715以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/02/12(木) 19:07:09.7121zphi9ZO (1/1)




716以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/02/25(水) 07:30:10.44cPHPAwcTO (1/1)

日付がやばい
落ちたら立て直してね!
探し出して追いかけるよ!


717 ◆owZqfINQN1ia2015/02/25(水) 20:34:42.32thix5Vaoo (1/1)

皆さんスレ保守ありがとうございます…不甲斐ない自分が申し訳ないばかりです。
書こうと思えばいくらでも書ける設定ではあるのですが、仕事の都合上定期的な更新が難しくなっているので、このスレでの完結を目指しています。度々おまたせしていますが、他スレのお茶請け程度にお待ち下さい。


718以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/02/25(水) 22:01:05.03cOn8omyeo (1/1)

待ってる…


719以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/03/27(金) 01:08:30.16J/v8mZCMo (1/1)

落ちてない? 大丈夫?


720以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/04/11(土) 10:37:11.32ClnQKea70 (1/1)

まだかにゃー


721以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/04/26(日) 14:07:48.05WzpYBesM0 (1/1)




722 ◆owZqfINQN1ia2015/04/27(月) 00:13:01.94cPjXCoFQo (1/1)

トリ合ってますかね?
ご無沙汰してすみません、>>1です。多分ゴールデンウィーク終わり頃に続き投下できると思うので、保守がてらご報告まで。長々お待たせしてしまって済みません。


723以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/04/27(月) 00:31:04.555fsLxwPCO (1/1)

待ってる


724以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/04/27(月) 07:23:31.05+XoTDZIiO (1/1)

よかったー
待ってるよ


725以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/05/26(火) 01:09:47.89kFxrLD5f0 (1/1)

そわそわ


726VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2015/06/01(月) 20:34:55.28oyirldBt0 (1/1)

まだかなーお待ち申し上げておりまする


727 ◆owZqfINQN1ia2015/06/15(月) 21:27:54.14g5enToSmo (1/6)

こんばんは、>>1です。済みません、投稿が遅くなってしまいました。てっきりGW中に投下したつもりでいたのですが、手元のメモ帳に全部データ残ってたよというお恥ずかしい話です…orz
今回の投下分は黒子のトラウマ克服完結編です。非常に観念的で曖昧なお話で申し訳ないのですが、よろしくお願いします。


728 ◆owZqfINQN1ia2015/06/15(月) 21:30:12.47g5enToSmo (2/6)


「こんなところに一人では危ないですよ?この公園はそうでもないですが、少し行くと治安が悪い地域が広がっていますし。」

「うん、知ってるの。だからミサカはお迎えを待ってる、ってミサカはミサカは現状を把握していることを告げてみる。」

以前会ったときも思ったが、少し癖のある話し方をする子供だな、と初春は思った。この街では珍しい例ではないかもしれないが、極当たり前の子供らしい振る舞いとその口調は何となくちぐはぐにも感じられる。この街では外見の年齢と実際の年齢が一致しないことも考えられるし、風紀委員として様々な能力者と接している初春が彼女に対して少し穿った見方をしてしまうのも無理のないことであった。

しかし、少なくとも彼女が悪人であるとか自分に危害を加えるだとか、そういう可能性は考えられない。それならば外見と中身が一致しなかろうと、もしかしたら自分より強い能力者だったとしても、風紀委員として彼女を保護するのが自分のすべきことだと初春飾利は判断した。

「ここは安全地帯というわけではないんですよ。風紀委員としてはアホ毛ちゃんが1人でお迎えを待っていることを見過ごすわけには行きません。」

スキルアウトのたむろする危険な地域と、そうでない安全地域を綺麗に区切ることができるわけではない。ここはまさにそんな場所で、直ぐそこの路地に入れば一気に治安が悪くなるようなポイントである。例えば小学校低学年や未就学児であったとしたら保護者抜きでは近付かぬように指導されるような場所だ。風紀委員の初春にはそんな場所で子供が危険な目に遭う可能性を知りながら見て見ぬ振りをすることができないし、保護者が迎えに来るといってももっと安全な場所で待つべきだろうと思う。

「ミサカを心配してくれてるの?ってミサカはミサカは首を傾げてみる。でもミサカ、一応強能力者なんだけどな、ってミサカはミサカは自分の以外な逞しさを主張してみたり。」

「強能力者とは言っても、能力を封じるための道具もいっぱいありますからね。能力を過信しすぎるのはよくないですよ!」

「そんなに言うなら、お花のお姉ちゃんがミサカのボディーガードになってくれるの?ってミサカはミサカは疑問に思ってみたり。」

「そうできたらよかったんですけど、私はこれから用事があってアホ毛ちゃんの保護者さんが迎えに来るまで一緒にいることは難しそうです…。」

初春は本日非番でこれからプライベートな用事を控えており、風紀委員として彼女につきっきりでいられるわけではなかった。うーん、と彼女が首を傾げながら悩む様子を打ち止めが他人ごとのように見ていた。

「この近くに風紀委員の支部がありますから、そこまで保護者さんに迎えに来てもらいましょう。保護者さんと待ち合わせの場所、変更になるって連絡できますか?」

「うん、大丈夫だよってミサカはミサカは頷いてみる。風紀委員の支部ってミサカ入ったことないから興味津々!」

打ち止めの所有する携帯電話には、保護者たる黄泉川愛穂から「トラブルに巻き込まれたから迎えに行くのが少し遅くなる」というメールが入ったばかりだった ― 今日は警備員の当番ではないと聞いていたけれど、彼女の性格から判断するにきっと自分から何事かに首を突っ込んだのだろう。もちろん彼女の言うトラブルが警備員の業務とは全く関係のないものである可能性も考えられるが、黄泉川は上条とはまた違った妙な引きを持った人間で、何かとこの街の根幹を揺るがすような事件に立ち会うことが多いのだ。今日この街で起きた何事かがミサカたちの大切な人を苦しめることがないように ― 打ち止めはそう祈り、この街に散らばっている何人かの姉妹たちに情報収集を依頼しながら初春のあとを着いて行った。



729 ◆owZqfINQN1ia2015/06/15(月) 21:31:49.07g5enToSmo (3/6)


風紀委員第一七七支部の扉を開くと、中では白井黒子が液晶の画面と向き合っていた。その液晶画面にはつい先程起きたスキルアウト同士の小競り合いが無事解決したことを示すウィンドウが表示されているが、入口の辺りに立っている初春と打ち止めには肉眼で確認できるほどのものではなかった。黄泉川が巻き込まれたのはそのトラブルだろうか ― 打ち止めは彼女らに怪しまれないように極々さり気なく能力を使用してその端末に示された情報を読み込んだが、彼女が危惧するような事態は何も起きていないようだ。読み込んだデータは学園都市在住の妹達から届く情報とも矛盾しないし、今日この学園都市を騒がせた事件は超電磁砲のクローンたちや彼女らと縁ある超能力者、不思議な無能力者、海外からの尊いお客人、いずれにも影響しないようなよくある些細なものだったのだろう ― そう結論づけて打ち止めは一旦姉妹たちとの通信を中断した。黄泉川が首を突っ込んだのもその事件なのであれば、多少の後始末は残っているかもしれないが、直に打ち止めを迎えに来てくれるだろう。

「初春?今日は非番じゃありませんの?」

「そうだったんですけど、この子を保護者の方が来るまで預かって貰おうと思って。」

「お邪魔しまーす、ってミサカはミサカはご挨拶!」

振り返った白井が目にしたのは、初春の後ろからぴょこんと飛び出してきた10歳ほどの少女であった。茶色のもこもことした防寒着に包まれた、一種のマスコットのような立ち姿は彼女の小柄さを際立たせている。明るい茶色の髪と大きくくりくりとして好奇心に溢れた瞳、愛らしい小振りな唇は彼女の敬愛してやまない1つだけ年上の少女を彷彿とさせた。



730 ◆owZqfINQN1ia2015/06/15(月) 21:33:53.08g5enToSmo (4/6)


御坂美琴のクローンと思われる少女と自分の友人が連れ立っている様子を見て白井は一瞬ぎょっとしたが、初春は特段大きな問題事に巻き込まれている様子ではない。それどころか打ち止めと名乗る少女が何者なのか気付いていない様子で、もちろん風紀委員に属するとはいえ一介の中学生が学園都市の重要機密に属する彼女の存在を知っているはずがないのだが、それでも知人とよく似た少女を見ても何の疑問も抱いていない様子だった。純粋に一人でふらふら歩いている子供を見かけて不安に思って保護しただけなのだろう、と白井は判断して、一度こほん、と咳払いをしてから口を開いた。

「そういうことなら構いませんけれど、もう保護者の方には連絡ついてますの?」

「それは平気、ってミサカはミサカは返事してみる!」

「そういうわけなので白井さん、お願いできますか?私これから用事があって。」

「ええ、分かりましたの。初春もお気を付けて。」

「お花のお姉ちゃん、またね、ってミサカはミサカは手を振ってみたり。」

2人で初春が出て行くのを見送ったあと、白井は近くのデスクから用紙を取り出した。ある事件がきっかけで他の妹達には何度か会う機会を得られる間柄になっていたが、彼女らに上位個体と呼ばれるこの幼い少女と面と向かって話すのは初めてのことだった。

「えっと、打ち止めさんですわよね。初めまして、白井黒子と申します。」

「ミサカ知ってるよ、お姉様のルームメイトさんで空間移動系能力者さんだよね、ってミサカはミサカは確認してみる。10032号や番外個体には会ったことがあるよね、ってミサカはミサカは姉妹たちのことを思い出してみたり。」

妹達同士は電気的な方法でお互いの記憶や感覚を共有できるらしい、ということは当然白井も知っている。この幼く見える少女も例外ではなく、しっかりと発電系能力者としての実力を有しているようで、既に白井に関する情報を持っている様子だった。

「迷子を保護した場合には記載して頂く書類があるんですけれど、書けますか?」

「ミサカ、学校通ってないからどうすればいい?ってミサカはミサカは首を傾げてみる。」

打ち止めは先ほど白井が引き出しから取り出した用紙を見つめて困惑した。その用紙には氏名や住所、学園都市のID番号、通っている学校名などを記載する欄がある。些か非合法な存在である彼女の場合、そもそも書くべき情報が存在しないものもあるし、正直に書くわけにはいかない情報もある。見た目よりも賢しい子供なのだろう、この用紙に自分の情報を記載することで何か困った事態が起こりやしないかと悩む姿は外見の年齢よりも更に2~3歳上の、むしろ自分たちと然程変わらない年齢の少女を連想させた。



731 ◆owZqfINQN1ia2015/06/15(月) 21:35:03.18g5enToSmo (5/6)


「あくまでご本人が書ける範囲のことを書いていただければ構いませんから、書きたくないことは書かなくても問題ありませんの。それに保護者の方がお迎えにいらっしゃったらその時点でシュレッダーにかけますわ。」

白井が用意したのは風紀委員で保護している間に怪我などのトラブルがあった場合に使うだけの書類である。個人情報保護の問題もあり、単なる学生組織である風紀委員がこの情報を長期保管するようなことはない。打ち止めが危惧するような問題はないだろうと説明すると、安心したかのように彼女は「ラストオーダー」という呼称を一番左上の氏名欄に記載した。少女はその用紙を両手で名刺を渡すかのように持って白井に差し出した。

「改めまして、初めまして。ミサカは御坂美琴お姉様のクローン、シリアルナンバー20001号、打ち止めっていうの、ってミサカはミサカは自己紹介をしてみる。何度かミサカたちのために戦ってくれたのよね?ありがとう、ってミサカはミサカはミサカたちを代表して感謝の意を述べてみる。」

白井は思いがけぬ丁寧な挨拶に、暫し目を瞬かせた。まるで命の恩人に礼を述べるような態度は自分自身が彼女らに対して為したことを思い返してみても些か大袈裟に感じる。

「いえ、風紀委員として、美琴お姉様を慕う者として、当然のことをしたまでですの。」

何度か彼女らを助けたというのは、結標淡希が残骸を利用して絶対能力進化実験を再開させようと暗躍したときや、つい先日科学結社の残党が再び学園都市に対して何事かを企てていたのを阻止したことだろうか。いずれにおいても白井の行動は彼女ら妹達に利するものとなったが、そもそも前者の場合、彼女らの存在など知らず単に御坂に関係のある何かよからぬ計画を阻止しただけのつもりであったし、後者も科学結社から妹達の存在を知らされたときには御坂に害をなす存在ではないかと疑ったほどだったのだ。結果として彼女らを助けるものとなった行動ではあったけれど、彼女から礼を受け取るのは筋違いだ、という気がした。

「でも、ミサカたちが助けられたのは事実だから。」



732 ◆owZqfINQN1ia2015/06/15(月) 21:37:27.01g5enToSmo (6/6)


「ミサカたちはそういう、全くミサカたちのことを知りもしない人が結果的にミサカたちの生活に影響を及ぼす、そういう事象を徹底的に排除されてきたから、あなたは特別な人なの、ってミサカはミサカは説明してみる。」

「情けは人の為ならず?って言うのかな。あの人に教えてもらったの、誰かにした親切は廻り回って自分の元に返ってくる、って。」

「シライにはそんなつもりなかったかもしれないけれど、それでもシライのしたことが間接的にミサカたちのためになったことを嬉しく思っているから、ミサカたちも誰かにそれを受け渡すことができて、そしていつかシライに返る日があればいいな、ってミサカはミサカは思っている。」

「それはとても途方のない話かもしれない、いつになるかも分からないし、そうなったとしてミサカやシライが気付かないものかもしれない。だけれどミサカたちをそういう人間らしいサイクルに組み入れてくれたこと、感謝してます、ってミサカはミサカは謝意を伝えてみる。」

果たして打ち止めの意図したことは、正確に白井に伝わっただろうか。打ち止めの特徴的な口調も相まって、非常に観念的なその言葉は些か伝わりづらいものだったろう。中学1年生ながら大能力者たる白井なら表面的な意味は捉えられたかもしれないが、本当のところ、その奥の奥までは伝わらなかったのではないかと思う。打ち止めはそれでも構わないとも思う。

妹達の世界は非常に閉じられた世界であった。学園都市の上層部、研究者たち、出資者たち、一方通行、芳川桔梗、天井亜雄、布束砥信、そういった限られた人物としか接することがなく、また、彼らの囲った枠線から外に逸脱するということがなかった。普通の人間の場合、ある一人の人間と関わり合いになればその関わった相手の交友関係からまた新しい人間関係を築くことも珍しくない。上条当麻などがそのいい例で、彼はたった一人のインデックスという少女を救ったことがきっかけで世界中にたくさんの知人を持つことになった。しかし、妹達が嘗て持っていた人間関係にはそういう広がりがなかった。

絶対能力進化実験の中断に至っても、それは変わりがなかった。天井亜雄の企てに際して打ち止めが助けを求めたのは嘗て自身の同胞を害した一方通行であった。打ち止めが頼る先に彼女を選んだのは本当は彼女に妹達を傷つける意図などなかったのだろうという持論を持っていたからだったが、それだけでなく単に他に頼るべき相手を持っていなかったというのも理由の一つであった。

閉鎖的な妹達の世界に介入した最初の部外者が上条当麻で、2人目の部外者が白井黒子だったのだろう、と打ち止めは思う。そして、白井自身は全く別のことを意図して行動していたのにもかかわらず、結果として妹達に利するものを残したというのが上条との差異であった。上条のように妹達を救おうという明確な意図があったわけではない、ただ御坂がよからぬことに利用されようとしているらしいのを阻止したい、という非常に不明瞭で全く妹達の存在を意図していなかった行動が結果妹達の生活に影響を及ぼした。それは妹達にとって全く未体験のことであったのだ。



733 ◆owZqfINQN1ia2015/06/15(月) 21:46:45.162Cc/Ortxo (1/6)




「人間なンてそンなもンだ」

打ち止めは彼女が吐き捨てるように言ったのを思い出す。

「日本人的な表現で言やァ縁、っつーのかね。」

「えにし?ってミサカはミサカは首を傾げてみたり。」

打ち止めが首を傾げると、彼女は手元にあった紙に几帳面で神経質そうな右肩上がりの字で「縁」という字を書いてみせた。学習装置で様々な知識を授けられている妹達だが、一方でたかだか実験動物である彼女らには必要ないと判断されたのか、案外一般常識に分類されるようなことでも彼女らの知識には組み込まれていないことがある。だからこの見覚えのない漢字一文字が意味することは、ただのクローンには必要のない酷く人間臭い知識なのだろうと打ち止めは判断した。そして打ち止めはそういう「実験動物には必要のない」知識を授けようとしてくれる一方通行の意図を理解しており、それを受け止めたいと思っていた。

「お前に分かりやすく説明すンにはどうすりゃいいかねェ。」

ぐしゃ、と特徴的な白髪を乱雑に乱すのは彼女の癖だ。怒っているときにも恥ずかしがっているときにも面倒くさいと思っているときにもこの癖を披露するので、その時々でこの仕草の意味を探るのはなかなか骨が折れるのだが、今回の場合、彼女自身も得意ではない分野の話だから何と言っていいか分からず悩んでいるのだろう。やや間があって、それから彼女が口にしたのは、一見すると全く関係がないようにも思える喩え話だった。

「例えばお前の電撃にしたって結果として齎す現象は色々あンだろ。発光、発熱、磁気やら何やら。お前は単に電撃を放ったつもりでも、結果として生じるベクトルは種類も向きも大きさも様々だ。ここまでは分かるか?」

打ち止めが頷く。ベクトルは専門外だが、長いこと彼女の演算を補助している関係から全く知らぬ世界でもない。エネルギー保存の法則、この街では下手をすれば小学生どころか幼稚園児ですら理解している場合もあるような基礎的な物理の概念である。打ち止めが放った電撃というエネルギーは一瞬にして消えてしまうように見えるが、何かしら他の形で維持され、また何か別のものを生み出すのだ。



734 ◆owZqfINQN1ia2015/06/15(月) 21:49:27.142Cc/Ortxo (2/6)


「面倒くせェから発熱一本に絞って考えてみるか。お前が電撃を放って、熱が発生したとして、その熱はどこへ行く?」

「お前が軽く、触れても火傷しない程度の電撃を放ったとする。それを9971人のお前ら全員がやったとする。一個一個は大したこたァねェが、10000万人近いとなりゃ結構な発熱だな。」

「お前、熱エネルギーが起こす現象の中で、どデカいもンって何が思い浮かぶ?」

「お湯沸かすとか?」

「むしろそれはすげェミニマムでローカルだな。」

「じゃあなぁに、ってミサカはミサカは素直に訊いてみる。」

打ち止めは口を尖らせながら彼女に訊いた。学園都市第一位は時々大人ぶりたい自分をこうやって子供扱いしたがるところがある。いくら学園都市第三位のクローンとはいえ、経験値は全く劣る生まれたての子供がそんな難易度の高いクイズに容易に正答できるはずもないことを知っていて、態とそれを再確認させるような意地の悪い仕打ちをする。まるで「やっぱりお前たちは未だガキだから大人しく俺に守られとけ」とでも言われているようで、嬉しくもあり、悲しくもある。

一方通行は打ち止めのそんな感情に気が付いているのだろうか、彼女特有の、薄い唇を釣り上げるいっそ酷薄にも見える笑顔を浮かべてから、ぽんと一つ打ち止めの頭を雑に撫でてから、クイズの応えを授けてくれた。

「気象現象だよ。暖かい空気と冷たい空気の密度の差が、気圧の差を生み、風を生み、雲を生む。夏場のアジアだったら最終形態は台風やらモンスーンやらだろうな。大雨と、強風。もしかしたら超電磁砲だって一苦労するような大量の雷も落ちるかもしンねェ。」

「バタフライ・エフェクトって言ってな、詳しく説明しだすとカオス理論イチから説明しなきゃなンねェから省略すっけど。」

「それと、最初の「えにし」っていうのはどんな関係があるの、ってミサカはミサカはちんぷんかんぷん。」

「ヒトも同じっつー話だ。誰かの行動が分散して、細切れになって、他の誰かの行動と寄り集まったり離れたりを繰り返して、最後また途轍もない大きな流れになったりする。俺やお前が認識してんのは本当に極一部のことだけだ。」

「それが、「えにし」なの?何だかすっごい大げさな喩え話だったけど、最初からそう言ってくれればよかったのに、ってミサカはミサカは遠回しなあなたの表現に文句をつけてみたり。」

打ち止めは文句をつけたが、最初からそう言われたとして表面的な意味は理解できたとしても、恐らく彼女が伝えようとした内容の本質的なことは分からなかっただろうとも思う。一人一人の些細な行動が自然災害のような大きな出来事を巻き起こす場合がある、という例えは人の何気ない行動の齎す予想外の一面を至極端的に表していた。



735 ◆owZqfINQN1ia2015/06/15(月) 21:50:58.242Cc/Ortxo (3/6)


「お前が誰かの為を思ってしたことが、実は全然関係のない誰かも纏めて助けるかもしれない。逆に嫌がらせのつもりでしたことだって、結果はどうなるか分かんねェンだ。」

「嫌がらせでも?」

「別に誰かに嫌がらせしろっつー意味じゃねェからな。」

「それは分かってるけど、あなたがそんな話をするなんて意外かも、ってミサカはミサカは新鮮に感じてみたり。」

打ち止めの言葉は嫌味などではない。妹達同様、一方通行もそういう有機的な繋がりを極力避けて生活しているように思っていたという理由で出た言葉だ ― 妹達の場合は避けているというよりもそもそもそういう繋がりを持つことが難しかったというのが正確な表現だが。相変わらずどこか臍曲がりで厭世的な彼女が、今更自分の無愛想な態度を改めて人と人との繋がりを大切にして生きていく決意をしたということではないだろう。ただ、苦手でも厭わしくても様々な人と関わりあう覚悟を固めつつある、或いはそうしなければならないと考えているのではないだろうかと思った。

最近では臍曲がりの彼女も、妹達が成長していくのを喜ばしく思っているのと同時に少し寂しく感じているようなところを見せてくれるようになっていたが、それで言えば妹達も彼女に対して同じ感情を抱いている。

少し前までは妹達に対して献身的に振る舞う一方である意味妹達を守ることに固執し妄執し依存すらしていたような彼女は、今では守るべきものをたくさん持っている。黄泉川や芳川のような嘗ての同居人たちはもちろん、インデックスや上条、御坂だって最早一方通行にとって十分に庇護対象となっているだろう ― 上条や御坂については守るのと同時に守られている部分もあるのだろうが。極めつけは第七位の存在だ。今となっては妹達と同じくらい彼女の心を占めているだろう少年の存在に対して、打ち止めを始めとした妹達が嫉妬心を抱かなかったわけではない。その結果が番外個体の奇妙な行動であったりもする。

妹達から心が離れているというわけではないだろうが、心の裡に妹達以外のものを抱えるようになった一方通行に対して寂しく思う気持ちはある。だけれど、変わっていくのが人間で、自分たちも「人間」と同じように変わっていけるのだと信じているから、9971人の妹達は今日も自身の脚でしっかりと立っている ― 彼女や同居人たちや上条が繋いでくれた、「縁」というものに報いるために。



736 ◆owZqfINQN1ia2015/06/15(月) 21:55:20.242Cc/Ortxo (4/6)




「ミサカたちは、ミサカたちの信じるものを信じ続ける。それは未だお姉様やあの人やカミジョウ、ヨミカワなんかの受け売りでしかないかもしれないけれど、でもいつかそれらが本当に一人一人のミサカたちを作るんだ、ってミサカはミサカは信じてる。」

「ミサカたちの行いが、誰かにとってのプラスになるように、そう願ってる。」

保護者が迎えに来たと言って出て行く直前、年端もいかぬ少女はまるで一世一代の告白をするみたいに白井に告げた。話の前後を全く理解できなかった白井は思わずぽかんと呆けてしまったが、ずっと黙り込んで何か考え込んでいた様子だったから、彼女には彼女なりに思うところがあったのだろう。

幼い少女と入れ違いに入ってきたのは、風紀委員の先輩だ。いつになく困惑した様子の白井を見て違和感を覚えたらしい、訝しげな瞳が眼鏡の向こうから白井の様子を見詰めていた。

「白井さん、何かあったの?」

「いえ、何でも、」

「そう、なら構わないけど。」

何でもない、そういう答えが返ってくるのだと判断した彼女は、それ以上の追及をしなかった。白井は何事も自分一人で解決しようとしがちな傾向があるが、それを指摘しても反発することが多いので本人がキャパシティオーバーを自覚するまではある程度好きに行動させている。もちろん何かあったときに直ぐサポートできるような体制を築くことに手は抜いていないが ― しかし、白井から返ってきた言葉は固法にとって全く以て意外なものだった。

「何でも、ありますわ。」

「へ?」

「固法先輩、私、近々前線に復帰できるやも知れませんの。」

がたん、と椅子から立ち上がった白井はいつになく自信に満ちた表情をしている。いや、本来の彼女は常日頃こういった自信に満ちた表情をしていた気もする。むしろここ最近の方がおかしかったのだ。

風紀委員の活動とは全く別のところで何事かに首を突っ込み、能力の暴走で入院するほどまでのことになったという話は固法も聞いている。そのときの精神的な後遺症からか今でも能力が安定しないため、最近では後方支援任務が主だ。固法自身は経験したことがないが、能力が全てと言っても過言ではないこの街において「能力の暴走」という経験はその後の人生を大きく変えてしまうものだという認識をされている。エリートに属される大能力者レベルでも一度の暴走がきっかけでのちに犯罪に手を染めたり、トラウマを解消できないまま無理に能力を行使しようとして廃人のようになってしまったりすることもあるのだ。一歩間違えればそちら側に踏み込んでいたかもしれない彼女が自分から復帰できるかもしれないと力強く言うのだから、それは様々な能力者を見てきた固法にとって風紀委員の戦力云々関係なく喜ばしいことだった。

「私、明日病院行ってきますわ。先生にご相談してきます。」

「思いついたら行動が早いのは白井さんのいいところね。」



737 ◆owZqfINQN1ia2015/06/15(月) 21:58:41.232Cc/Ortxo (5/6)




「随分な心境の変化だね。」

翌日病院を訪れた白井に対し、カエル顔の名医は目を瞠った。問診すらしないうちに彼女の心持ちが昨日までと全く変わっていることに気付くことができるほどに、それは大きな変化であった。元から中学生らしからぬ堂々とした振る舞いを見せる彼女は、更に洗練されてそこにいた。

「結局人間、自分の信じたいものを信じるしかないのだと思いましたの。」

「それはそうかもしれないけれど、白井くんはそれだけじゃ割り切れないことも経験したんじゃないのかい?」

白井自身、特力研の跡地である映像を目撃するまで挫折などは自身の哲学を貫くだけのことができない弱い人間のすることだと思っていた。彼女はそれまで負けたことはあっても、それで挫けたことはなかった。次は、次が駄目でもそのまた次は、そうやってそう信じて必ず成長してハードルを超えてきたのだ。だから彼女は特力研で幼い学園都市第一位に振りかかる不幸を目撃し、この世にはいくら力ある人間でも致し方ならない天災が在ることを初めて知ったのだ。

「結果がどうあろうと、信じるのは自由ですの。」

この広い世界で、自身の行いの結果がどこに行き着くかなどと分からない。何年も、或いは何十年も先になって自分の全く知らないところで全く知らない何かを齎していることもあるだろう。だけれど、だからこそ、白井は自身の行動が善い結果を齎すことを祈って、信じるしかない。どうせ過程も結果も見えないのだから、信じてさえいれば実際の結果がどうなろうと白井の知ったことではない。

「それだけ言えるのなら、もう能力の使用にも問題ないだろうね。念のため連続での使用は、そうだな、3回くらいまでに収めておいてくれると嬉しいんだけど。」

「それは難しい注文ですの。」

「そう言えるなら、もう本当に大丈夫だよ。」

それはつまり、セーブするとかいう選択肢をそもそも持ち得ないくらいに自身の行動の結果に確信を持っているということだ。能力というのは才能よりも知識よりも自身の心の持ち様がものを言うものである。ここまで自身の行いに対する矜持を回復した彼女を脅かすものなど、もう何もないはずだった。




738 ◆owZqfINQN1ia2015/06/15(月) 22:03:36.842Cc/Ortxo (6/6)




今日はここまで。努力や苦労をしてこなかったわけではないけれど、どこかで幸運に守られてきた黒子が努力では如何ともし難い苦難とどう向き合っていくのか、という一幕。元の黒子と新しい黒子に大きな違いはなくって、変わらずいっそ尊大なほどに自分に自信を持っているのだけど、その過程には大きな違いがある、という。

次からは最終章なのですが、その前に別分岐エンディングの土百合小ネタを投下するかもしれません。


739以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/06/15(月) 22:05:51.325AD9usAkO (1/1)

乙です


740以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/06/16(火) 04:05:22.27HWzIdxzRO (1/1)

おっつー


741以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/06/19(金) 21:01:07.76r2mVyDOqO (1/1)

このスレに注目
P『アイドルと入れ替わる人生』part11【安価】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1434553574/



742以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/07/13(月) 23:58:53.17o2rgbahDO (1/1)

最近読み始めて、ようやくここまできました

続き待ってます