1VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/17(土) 11:54:54.86Iqor3ISG0 (1/3)

 それは、なんでもないようなとある日のこと。


 その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
 時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

 それと同じ日に、宇宙から地球を侵略すべく異星人がやってきました。
 地球を守るべくやってきた宇宙の平和を守る異星人もやってきました。

 異世界から選ばれし戦士を求める使者がやってきました。
 悪のカリスマが世界征服をたくらみました。
 突然超能力に目覚めた人々が現れました。
 未来から過去を変えるためにやってきた戦士がいました。
 他にも隕石が降ってきたり、先祖から伝えられてきた業を目覚めさせた人がいたり。

 それから、それから――
 たくさんのヒーローと侵略者と、それに巻き込まれる人が現れました。

 その日から、ヒーローと侵略者と、正義の味方と悪者と。
 戦ったり、戦わなかったり、協力したり、足を引っ張ったり。

 ヒーローと侵略者がたくさんいる世界が普通になりました。

part1
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371380011/

part2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371988572/

part3
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1372607434/

part4
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373517140/

part5
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1374845516/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1376708094



2VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/17(土) 11:55:39.76Iqor3ISG0 (2/3)

・「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドスレです。

  ・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。
  ・一発ネタからシリアス長編までご自由にどうぞ。


・アイドルが宇宙人や人外の設定の場合もありますが、それは作者次第。


・投下したい人は捨てトリップでも構わないのでトリップ推奨。

  ・投下したいアイドルがいる場合、トリップ付きで誰を書くか宣言をしてください。
  ・予約時に @予約 トリップ にすると検索時に分かりやすい。
  ・宣言後、1週間以内に投下推奨。失踪した場合はまたそのアイドルがフリーになります。
  ・投下終了宣言もお忘れなく。途中で切れる時も言ってくれる嬉しいかなーって!
  ・既に書かれているアイドルを書く場合は予約不要。

・他の作者が書いた設定を引き継いで書くことを推奨。

・アイドルの重複はなし、既に書かれた設定で動かす事自体は可。

・次スレは>>950
    
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」まとめ@wiki
http://www57.atwiki.jp/mobamasshare/pages/1.html?pc_mode=1


3VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/17(土) 11:57:19.68Iqor3ISG0 (3/3)

☆このスレでよく出る共通ワード

『カース』
このスレの共通の雑魚敵。7つの大罪に対応した核を持った不定形の怪物。
自然発生したり、悪魔が使役したりする。

『カースドヒューマン』
カースの核に呪われた人間。対応した大罪によって性格が歪んでいるものもいる。

『七つの大罪』
魔界から脱走してきた悪魔たち。
それぞれ対応する罪と固有能力を持つ。『傲慢』と『怠惰』は退場済み

――――

☆現在進行中のイベント

『憤怒の街』
岡崎泰葉(憤怒のカースドヒューマン)が自身に取りついていた邪龍ティアマットにそそのかされ、とある街をカースによって完全に陸の孤島と化させた!
街の中は恐怖と理不尽な怒りに襲われ、多大な犠牲がでてしまっている。ヒーローたちは乗り込み、泰葉を撃破することができるのだろうか!?
はたして、邪龍ティアマットの真の目的とは!


『真夏の肝試し大作戦!』
妖力と厄の祟り場となった街で妖怪達がお祭り騒ぎ。
悪霊を狩る為死神達が徘徊したり、魔族・精霊系がハイになったり、機械系はダウンしたりともうてんやわんや。
猫も杓子もヒーローも、騒ぐ阿呆に見る阿呆、同じアホなら騒がにゃ損損!


4VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/17(土) 13:50:19.76kMOqIFjlo (1/1)

スレ立て乙


5VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/18(日) 00:38:17.62bwEbOErgO (1/1)

立て乙


6VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/18(日) 11:19:45.52TjdOq22+0 (1/1)

スレ立て乙ー


7 ◆tsGpSwX8mo2013/08/18(日) 13:23:51.62oG11PcrCo (1/1)

本当にG が降臨するんですか……?(震え声)


8@予約 ◆tsGpSwX8mo2013/08/18(日) 15:23:45.34VCZEKVSKo (1/1)

桐野アヤで予約します。


9 ◆hCBYv06tno2013/08/18(日) 15:56:25.70b0tAlfJrO (1/2)

音葉さんで予約します


10 ◆tsGpSwX8mo2013/08/18(日) 16:20:41.08NbD7QJk2o (1/8)

書き上がったので、投下します。ディストピアの設定をお借りします。


11 ◆tsGpSwX8mo2013/08/18(日) 16:21:24.82NbD7QJk2o (2/8)

腹立たしい。

桐野アヤは巨大タイムマシン『バックアップ』のコックピットの中に座りながらそう思った。

何でアタイが部下のロボットたちの尻拭いなんかやらなきゃならないんだ。

ここは遠い未来の国。

といっても、支配しているのは人間ではない。機械だ。

今の時代は人間が機械を管理するのではなく、機械が人間を管理しているのだ。

だが、つい最近、ロボットたちの警備を掻い潜り、過去の世界に逃げた脱走者が現れたのだ。

その名は大石泉。

そして、戦闘用アンドロイドである桐野アヤはその大石泉を連れ戻すため、タイムマシンのコックピットに座っている。


12 ◆tsGpSwX8mo2013/08/18(日) 16:21:58.94NbD7QJk2o (3/8)

馬鹿馬鹿しい。

お前ら人間が自分達で自分達の管理が出来ていないからアタイ達機械がお前らを管理してやっているというのに、それが不満だから逃げるだなんて、なんて身勝手でわがまなのだろう。

アヤはそんな人間を心底見下していた。


13 ◆tsGpSwX8mo2013/08/18(日) 16:22:57.67NbD7QJk2o (4/8)

「準備ガ完了イタシマシタ。コレヨリ時空転送ヲ開始シマス」

時空転送機の外にたつロボットが片言で告げる。

それをみて、アヤは鼻で笑った。

アヤは内心、自分より性能の悪いロボットも見下していた。

性能の悪いロボットには、頭の悪いコンピューターでただ、命令されたことを実行するしか能がない。

その点、最近バージョンアップしたアヤには高性能なコンピューターが備わっている。だから、アヤは人間のように、物事を考えたりできるのだ。

自分は他のやつとは違う。

アヤがそう考えるのは、ロボット達の母、『A.I』を誰よりも愛しているからだ。

自分は他のロボットより愛されている。

自分は他のやつらよりも有能だ。

だから、『A.I』はアタイに知能を、感情をくれた。

今回の指令について、アヤは腹立たしいと思う反面、嬉しいとも思った。

『A.I 』は、アタイを信頼しているからこそ、アタイに大石泉を連れ戻せと命令したのだ。



14 ◆tsGpSwX8mo2013/08/18(日) 16:23:32.64NbD7QJk2o (5/8)

母の期待には応えるのだ。そう、アヤは思った。

外のロボットが声を出す。

『時空転送5秒前。4、3、2、1』

キイイイイイイィィィン!!

と、凄まじい音が鳴り響くと、タイムマシンとアヤはは過去の世界に旅立っていった。


15 ◆tsGpSwX8mo2013/08/18(日) 16:24:34.81NbD7QJk2o (6/8)

21世紀。

過去の世界に降り立ったアヤは目の前の光景に目を剥いた。

「ギャハハハハ!」

「飲めや、歌えや、踊れや! 」

今、アヤの目の前では化け物たちがばか騒ぎをしている。

大石泉がたどり着いた世界。

どうも、大石泉は時空移動の際、不慮の事故で別の次元に吹っ飛んでいったらしい。

どんな世界なのか実際に来てみれば、魑魅魍魎が闊歩する奇妙な世界だった。

もしかして、来るとこ間違えた?とも考えたが、センサーには確かに、大石泉の生体反応があった。

間違いなく、この世界に大石泉はいる。

少しして、立ち直ったアヤは『バックアップ』を別次元に仕舞うと、センサーを頼りに、大石泉の元へ歩き出した。


16 ◆tsGpSwX8mo2013/08/18(日) 16:25:26.79NbD7QJk2o (7/8)

桐野アヤ

職業
戦闘用アンドロイド

能力
戦闘

詳細設定
桐野アヤを連れ戻すため、未来の世界から送り込まれた刺客。最新鋭のコンピューターを持ち、人間のような感情を持っている。性格は非常に短気で怒りやすい。だが、頭が悪いわけではなく、戦闘においてはなかなか頭がキレる。
ロボット以下の人間や、自分より性能の低いものを見下している。だが、自分と対等だと認めたものには、敬意を払う。そして、マザコン。戦闘では、格闘術を用いて戦う。アヤは早さを重点においた戦闘アンドロイドなので、余計な装備はついていない。

関連設定
桐野アヤ専用タイムマシン「バックアップ」

巨大な人型のタイムマシン。いざというときには戦闘にも使える。元は量産型のタイムマシンだが、これは桐野アヤ用に改造されている。普段は別空間に収納されている。


関連アイドル
大石泉


17 ◆tsGpSwX8mo2013/08/18(日) 16:26:35.00NbD7QJk2o (8/8)

短いですが、これで終了です。

なにか矛盾点や不満があったら言ってください。

お目汚し失礼しました。


18 ◆tsGpSwX8mo2013/08/18(日) 16:42:40.56+XEJMe+oo (1/1)

書き忘れた。

イベント追加情報
未来から追っ手がやって来ました。大石泉を探しています。


19VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/18(日) 16:45:03.59vYhhBQRwo (1/2)

乙ー

バックアップ……巨大ロボ枠が増えたか
機械に異常が出る地形でなくてよかったね、本当


20VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/18(日) 16:47:27.535PH2ZP9x0 (1/2)

乙です
ついに追っ手が来たか…!しかもアンドロイド!
取りあえずまたロボット大戦に一歩近づいたな…


21 ◆tsGpSwX8mo2013/08/18(日) 17:09:38.00cLVCJofqo (1/1)

あ、そうか、肝試しのイベントでは機械系がダウンするのか。すいません、
>>15の「ギャハハハハ」「飲めや、歌えや、踊れや」の所は肝試しイベントの1シーンのつもりだったんですが、なかったことにしてください。



22 ◆zvY2y1UzWw2013/08/18(日) 17:11:20.765PH2ZP9x0 (2/2)

いや、憤怒の街程ではないので…なつきちとかだりーなも動けるレベルの瘴気なのでロボもOKですよー


23VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/18(日) 17:13:32.09vYhhBQRwo (2/2)

紛らわしいツッコミ方してごめん!
時間と場所次第では機械が盛大にバグったりもするから妖怪がハイテンションなだけで普通(?)のタイミングでよかったなーってだけなんだ

いきなり海底でサビ祭りとかね!……いや、タイムマシンにコレはないだろうけど


24 ◆tsGpSwX8mo2013/08/18(日) 17:14:53.63fhwSoszAo (1/1)

そう言えばそうでしたね………。よく読んでなかった、すいません。
>>21のレスはスルーしてください。



25 ◆hCBYv06tno2013/08/18(日) 18:02:58.19b0tAlfJrO (2/2)

乙ー

ついにターミネーター的ポジションが来たか

ロボやマシンやみやびぃの機械勢とどう絡むのか楽しみ


26 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 00:17:23.42EdJMQ7dQ0 (1/28)

肝試しイベントで投下


27 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 00:18:07.91EdJMQ7dQ0 (2/28)

霧の中、夏樹と元気のないきらりとおかしな奈緒が歩いていた。

目玉型ユニットは広範囲に飛ばしている。霧の中をよく見れば雪景色やら祭りやらなんやら…取りあえず混沌としている。

「李衣菜ちゃん見つかんないのー?」

「霧がな…一応ギター持って出ていったみたいだからところどころにある祭り騒ぎのどこかにいると思うんだが…」

「広いとこ全部祭り騒ぎだもんねー僕が見れる範囲でも結構あるよねー屋台とかもー」

奈緒の妙な口調にもやっと慣れてきた…多分。

「屋台の近くにはいないと思うけどな…」

「…ねぇ夏樹ちゃん、ギターの音しなーい?」

「マジか!?」

「あっちの方からビリビリーって…」

きらりがギターの音をキャッチしたようだ。

指で示した方向にユニットを飛ばし、捜索する。

確かに他の騒ぎよりもひときわ大きい。たしか公園がある場所だ。

そこの…小山の上で楽器を持った妖怪と一緒にギターを弾いている少女がいた。

「…いた。アレはだりーだ…!」

一斉にユニットを回収し、一部を腕に収納すると、二人に言う。

「あの公園にいた!ギター弾いてる!」

「じゃあ早く迎えに行きましょうか!」

…奈緒の口調も早く治したい。


28 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 00:19:04.29EdJMQ7dQ0 (3/28)

公園は今まで見た中で最も大きな妖怪たちの宴の会場になっている。

「なんかぁ…きらりふりゃふりゃすりゅー…」

幸福でもあるが負でもあるエネルギーの中できらりは少し酔ったような感覚に陥っていた。

毒でもある負のエネルギーが幸福に混ざり、なんやかんやでアルコールのようになっているのだろう。

詳しい原理は知らない。

「きらり、大丈夫?」

「公園の外で休んでるか?」

「う~んそうすりゅ~ふらふらにょわにょわ…」

「じゃあ、あたしが連れてくから、夏樹は李衣菜の事頼んだからな!」

「了解、気をつけろよー?」

「大丈夫だって!」

奈緒に支えられながらふらふらするきらりが外に向かっていくのを確認して、夏樹は奥へ向かった。


29 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 00:20:09.81EdJMQ7dQ0 (4/28)

小山での演奏はもうすでに終わっていたらしく、他の妖怪による別の演目が行われていた。

軽く見渡せばすぐに小山の裏の方で楽器を持つ妖怪と楽しそうにしている李衣菜を見つけることができた。

「…だりー!」

「え、嘘!?なつきち!?」

「お、リーナの知り合いかい?」

「その子も楽器できる系女子なんか?」

「うん、なつきちもギターできるよー」

後ろの楽器持ち妖怪たちが反応する。

「あ、だりーがどうもお世話に…」

「…なんで保護者的挨拶?」

「いえいえ、リーナはいい子で…」

「ノリよすぎー…」


30 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 00:21:16.21EdJMQ7dQ0 (5/28)

「…それで、テンションが上がって家から飛び出してきたと。」

「反省してまーす…」

「まぁ、今日は『そういう日』みたいだし…連れて帰ったりはしないからさ。」

「ホント!?ありがとー!」

てっきり連れて帰られるかと思っていた李衣菜は安心した。

「…あのさ、なつきちも一緒にやってかない?ギター持って来れるでしょ?」

「アタシが?」

「…一緒にやりたいの!ねぇ一生のお願い!」

あまりにも必死なお願い。…いつもと違う、そう感じるほどに。

「…仕方ねぇな、ちょっと待ってろよ?」

真横に穴を開けてギターを取って戻ってくる。

「穴開けられたんだ…」

「そういう系の異界化では無いみたいだからな。…それで、何演奏するんだ?」

「うーんそれはみんなで決めないとねー」

「基本的に俺らは何でもできるぜ!」

「まあ譜面ありゃ知らない曲も演奏してやらぁ!楽器付喪神の意地って奴よ!」

どうやら妖怪たちもやる気のようだ。

「…だそうだけど、なつきちなんか希望曲ある?」

「いや、やりたいって言ったのはだりーなんだし、好きな曲選びなよ。」

「…そう言われると悩むなー…何でもいいから一緒に演奏したかったから…」

「じゃあコレなんてどうよ!」

妖怪の一人が譜面を取り出す。

「それさっきも提案してボーカルがいないから却下されたじゃねーかドアホ!」

「二人も女がいるんだからよーいいじゃねーかよー!歌えねーのか?」

「私…喉が悪くって…音程不安だから…」

「…かと言って、アタシもその歌のボーカルは無理だな…上手く歌える気がしない。」

「あの…」

振り向いてみれば黒い翼の赤い瞳の女性。

「私、セイレーンなんです。歌が好きで…ボーカルがいないのでしたら私が…」

「おお、なんという幸運!」

「ぜひやってくれぇ!」

元々全員即興メンバーなので、急に着た彼女もすぐに受け入れられた。

「…」

「なつきちーどうしたのー?一回練習しよう?」

「いや、どこかで見た気がしてさ…まあ気のせいだろうし、ちゃっちゃとやるか!」

ギターを構えると小山から離れて、練習が始まった。


31 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 00:23:07.97EdJMQ7dQ0 (6/28)

十数分後、小山の上…つまりステージに立っていた。

練習に多くの時間はかけられなかった。まあそういう場なのだから仕方ない。

ちゃんと演奏できていたし、歌も心配なさそうだ。

機材なんてどこから持ってきたのか…まあ妖怪の事はよく分からないから気にしない。

夏樹が一部のユニットから視界をキャンセルし、スポットライトのように光を放たせる。

ステージが始まり、前奏が旋律を奏で、セイレーンが歌い出した。

「I know you're the wild and violent flame♪」

歌声に続く様に二人のギターが音を放つ。

左利きと右利きのギターが左右対称のようでステージ映えしている。

「I still, smell your smoke and I can't play straight with your game♪」

観客が歌声に聞き惚れる。確かに彼女の歌は本物の歌手のように滑らかなものだ。

「That doesn't mean, that I am yours, I'm not alone I'm not a fool, I have a lot to give♪」

不自然ではないように、だけど歌声に負けないように…ギターを弾く。

「In any case, it's up to you, if you can show that you can give more than I got to give♪」

夏樹は李衣菜の上達っぷりを改めて感じている。

「It might be you, or maybe you, my mind is jumping back and forth and up and down♪」

「Somebody come and rescue me before an angel comes to take me round and round♪」

一瞬だけ見た李衣菜はいつものようなぎこちない笑顔ではない、心の底からの笑顔だった。

「I only wanted you to, come over here, cuz I can think of something for me and you to do♪」

「If I can have another, another dream, the devil would come back to pick me up with you♪」

それを見て…夏樹は何かを感じた。

しかし、演奏も激しくなり、終盤まで演奏に集中せざるを得ない。

ただロックに、ひたすらロックに…それだけを考えてギターを奏でる。

曲も終わりが近づいてきた。

「Oh I do hope that the, that the time comes♪  Time has come for me to, me to have fun♪」

「I'm talking bout a lot of fire ♪ I'm talking bout no getting tired♪」

そして曲の最後の最後で

「Forever and ever♪  Together forever♪」

李衣菜は夏樹に泣き笑いのような笑顔を見せた。


32 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 00:24:14.62EdJMQ7dQ0 (7/28)

演奏は大成功に終わり、一旦解散。それぞれが屋台に行ったり帰ったり…セイレーンもいつの間にか消えてしまっていた。

…そして李衣菜と夏樹は公園の中央から少し離れた位置のベンチに座っていた。

「あー、だりー…あのさ…」

口を開いたところで、李衣菜に制止される。

「…こっちから言いたい事言わせて。」

俯いたまま、夏樹の手包むようにを握ってくる。冷たいであろう体温は、義手には伝わってこない。

「私、多田李衣菜は、皆…LPさん以外に隠し事をしていました。…そしてそれが今だけ無くなっています。」

まるで懺悔のように…俯きながら言う。

「…でも告白することはできません。」

「どうしようもない事だから。それを告白したら…自分でそれを再確認して壊れそうだから。」

「ワガママだと思うよ。…でも、でも!知られたくない!言いたくない!」

顔を上げた表情は、今にも泣きそうで、でも戦闘用として改造された彼女は涙を流すことすら許されない。

「だりー…」

夏樹はもうある程度悟っていた。いつものぎこちない笑顔と、さっきの笑顔。見ればおかしい事は分かる。

親友がこんなに苦しんでいたのに、どうして気付かなかった?

「…ゴメンな」

言う言葉が浮かばない。かけたい言葉はこんなありふれた言葉ではないのに。

「…」

李衣菜は返事はせずにギュッと、無意識に壊れない程度に手を握る力を強くしていた。

「戻ろう?演奏、今のうちに一杯やりたいから…!」

「…そっか、じゃあ全力でやってやるさ!」

かける言葉が見つからないなら、音に思いを乗せよう。

そうすればきっとわかるはずだから。


33 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 00:25:40.00EdJMQ7dQ0 (8/28)

「むにゃにょわ…むにゃにょわ…」

「すぅ…すぅ…」

奈緒ときらりは公園を出てすぐの人目が少ない休憩スペースで眠りについていた。

そこにセイレーンが近寄ってくる。

「…ただいま戻りました。」

セイレーンが奈緒に手を伸ばすと、形が崩れ泥となって吸収されていった。


34 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 00:26:35.12EdJMQ7dQ0 (9/28)

…奈緒の内部世界

『お帰りー歌えて幸せ者めーこのこのー』

『…まぁ確かに「私」、とても幸せでした…でも、これは私達のご主人様への裏切りになりませんかね?』

『しらねー。いいんじゃないのー?今日の僕らの意識ちょっとご主人様に近づいちゃってるしー今更って感じー』

『貴方たちの誰かは行かないのですか?』

『「行く?」「めんどくさい」「ケーキ食べたい」「おうどんたべたい」「眠い」「あばくぞー」』

『…』

『…行かなーい。それにーご主人様と光の巨人がセイレーンちゃんの歌で眠ってるのもあとどのくらいかわからないしー…それにさー』

『…「何か」が、足りない気がするんだよねー』


35 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 00:27:36.23EdJMQ7dQ0 (10/28)

霧の中、影も見えず、姿も見えず…けど確かにそこにナニカはいた。

負のエネルギーの影響で、実際は普通に姿を見る事が出来るが。

「ダメ元でやってみたけど上手くいった~キシシ♪」

奈緒の中の精神体がいろいろカオスなごちゃごちゃした感じになっていた為、真夜中にしか分離できないはずのナニカさえ飛び出してきたのだった。

見つからないように家の中に隠れていたが、3人が家を出たのでナニカも家を出たところだ。

鍵を持っていないので鍵の確認を怠りやすい二階廊下の窓から脱出。

ちなみに…あくまで無理矢理やった分離の為、力は少し弱まっている。

「…でもなぁ…今日やっても妖怪とかに邪魔されそうなんだよねー」

一応計画実行も視野に入れたが、今日は普通の日ではないようだし、力も弱まっている。上手く行く気がしないので保留にした。

百鬼夜行に紛れるように、頭には羊の角を生やしている。気分は仮装パーティだ。


36 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 00:28:19.07EdJMQ7dQ0 (11/28)

とある妖怪グループに混ざって祭りを楽しんでいたが、グループの行進がとある場所に近づいていた。

「…!」

例の加蓮がいる女子寮だ。

「…来るつもりはなかったけど…お祭りだからいいよねー?」

ちょっと顔を見れたらいいなと考えて、ナニカは動き出した。

そっとグループから外れて、ある程度女子寮に近づいて…おかしなことに気付いた。

「窓が…」

確かに加蓮の部屋なのだが、外から見てもわかる。窓が割れていた。

窓の下にはガラスの破片。内側から砕かれた証拠。

「…?」

取りあえず体を泥に変えて窓から侵入した。不法侵入だがナニカには常識がない。


37 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 00:28:57.22EdJMQ7dQ0 (12/28)

裸足で部屋の中に立ち、見渡す。

「おねーちゃーん?」

声を出しても返事はない。

「…」

布団を調べる。まだ温かい。あとパジャマもある。

「あったかい…♪…じゃなくって…!」

人肌のぬくもりに感動している場合ではない。

部屋に布団から起きてからの行動の形跡もない。

シンクに水を流した跡すらない。

それなのに部屋に鍵はかけっぱなしでバッグも部屋の中。

…ナニカは加蓮の記憶を読み取ることはできないから推理する。

常識の無い頭で必死に考える。

「ここから推理できることは…!」


38 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 00:29:38.39EdJMQ7dQ0 (13/28)

「加蓮お姉ちゃんは、パジャマ脱がされて変態に誘拐された!!」

全く見当外れだった。

しかし、誘拐はナニカの記憶から『誘拐=実験道具にされる』という図式が成り立っている。

…人ごみの中のあの無理やりつかんできた『手』を思い出して吐き気がする。

薄れた数少ない改造前の記憶。欲しい記憶は思い出せないのにあの『手』だけは焼き付いたように覚えている。

あんな事、もう二度と起こさせはしない。

「許さない…!」

肌が真っ黒な泥の色に染まり、瞳が妖しく真っ赤に光る。

勘違いではあるが、誘拐犯に対する怒りが爆発した。

…どうやらテンションが妙な事になっているのはナニカも同じようだ。

『加蓮には現実世界で会わない』と決めたはずの自分ルールをすっかり忘れてしまった。

「許さない…!加蓮お姉ちゃんは…私のお姉ちゃんだ!」

壊れた窓を開けて、肌の色を戻すと街を駆ける。

方向も何もかも、全部勘だ。


39 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 00:30:28.23EdJMQ7dQ0 (14/28)

イベント情報
・ネバーディスペアは宴会中の公園付近にいます。合流しているかもしれないししてないかもしれません
・妖怪たちの演奏会は、BGM係も受け付けております。メンバーとして参加もダットゥインもご自由にどうぞー【歌手募集中】
・ナニカが加蓮を誘拐した(誤解だけど)犯人を捜しています。でもある程度弱体化してます


40VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 00:31:36.001H67EsRlo (1/2)

照り焼き美味しい(ウンジャマ・ラミー感)


41 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 00:31:47.66EdJMQ7dQ0 (15/28)

以上です
なつきち誕生日おめでとー!…誕生日SS書けなかったよ…orz


42 ◆yIMyWm13ls2013/08/19(月) 00:43:49.31M3bHp+4+o (1/4)

乙乙!

肇「おうどんたべたい」

誕生日SSまだ間に合うってぇ!


43 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 01:14:38.99EdJMQ7dQ0 (16/28)

おっと誤字
>>38
私→あたし
でお願いします


44 ◆hCBYv06tno2013/08/19(月) 01:15:23.10xn2Icz9oO (1/1)

乙ー

誘拐ではないけど、誘拐されそうになってるから間違ってはないな

ナニカは影から加蓮を守る事ができるのか?


45@予約  ◆llXLnL0MGk2013/08/19(月) 02:29:21.40NzEYy+v60 (1/1)

乙乙
だりなつのセッションだぜふぅー!
アヤさんは感情持ちなら「ディストピアから脱却したい」って感情を持たせる事が出来ればあるいは味方に……?

古賀小春ちゃん予約します


46VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 03:04:46.703Np29xX2o (1/1)

乙ー
だりーな、せめて感情だけでも戻らないかなぁ……悲しすぎるぜ


47VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 06:55:37.85sG30hxRQ0 (1/1)

乙です
だりーなはベルちゃんに感情制御する装置とってもらおう…ちょうど近くにいるし


48 ◆lhyaSqoHV62013/08/19(月) 07:12:32.09VHs+KO40o (1/14)

憤怒の街で各勢力が色々と動いているその頃~的なものを投下


49 ◆lhyaSqoHV62013/08/19(月) 07:13:06.59VHs+KO40o (2/14)


大量に発生したカースが街一つを占拠し世間を騒がせ始めて数日後。
丹羽仁美は学校帰りに街を歩いていた。
小娘だてらに長物を振り回し退魔士を名乗ってはいるが、彼女の本業はあくまで学生だった。

仁美「(ん……あれは、カースに占拠された街……か)」

ふと、ビルの壁面に据えられた巨大なモニターが目に入る。
それは丁度、午後のニュース番組を流しているところだった。

『多くの組織が事態の収束に向けて活動を続けているものの、未だに街の解放の目途は立っておらず──』

現地から『憤怒の街』の様子を伝えるリポーターの背後では、GDFの戦闘車両が集まってバリケードを築いていた。
その周辺を武装した隊員が忙しなく動き回っており、物々しい雰囲気が伝わってくる。

それらのさらに向こう側には、『憤怒の街』の中心部のビル群が見える。
空を覆う雨雲は、直下で炎が上がっているかのように赤く染まり、
昼なお暗い様は街に蔓延る異形が放つ、その瘴気の濃さを表しているかのようだ。

仁美「(うーん……今日も進展は無いみたいね)」

報道を聞きながら仁美は内心歯噛みする。
助けを求める人が居て、それを救い得る力を持っているのに、
何もせずに見ているだけなどという事は彼女の正義に反することだった。

仁美「(けど、あやめっちにあんなこと言っちゃったしね……)」

しかし、いつぞやから共に行動するようになった少女……あやめを諌めた手前、自分が軽率な行動を取る事は出来ない。
彼女も今の仁美のように『憤怒の街』へと赴き彼女なりの義を為したいと、そう訴えていたのだが、仁美はそれを不要だと諭したのだった。


50 ◆lhyaSqoHV62013/08/19(月) 07:13:49.44VHs+KO40o (3/14)


あやめに対しては『憤怒の街』の惨状に際し、「自分達が出来る事は何も無い」などと突き放すような言葉を投げつけてしまったが、
仁美自身は、実際にはそのような事はないだろうと考えていた。

仁美は幼い時分より異形と戦うための厳しい修行を積んできていた。
あやめも同様に忍びとしての修行を積み、幼くして免許皆伝を受けるにまで至った実力を持っている。
二人共、心身共に一般人とは比べ物にならない程……ある意味では、『あの日』に突然能力に目覚めた者達以上に鍛え上げられているのだ。

その自負もあって、あるいは、自分達も攻略に加わる事で街の解放が更に早まるのではないかと……
そんな風に考えたことは一度や二度では無かった。
それでも、依然として普段通りの生活を送っているのには、彼女なりの考えがあっての事だった。

現状、『憤怒の街』奪還のためにアイドルヒーロー同盟の所属ヒーローは勿論の事、在野ヒーローもその多くが出払っている。
GDFも同様に、奪還目的や、逆に街からカースを出さないための防衛線を張るなどの目的で人員を割かれ、
周辺地域には少数の兵力しか残っていない。

名のあるヒーローは、本人が望むと望まざるとに関わらず、少なからず周囲から期待の目が向けられるものだ。
必然、今回の様な大規模な厄災が発生した時には──勿論人助けという目的はあるだろうが、体面を保つために出動することになる。

その点、仁美はヒーローを気取ってはいるもののあまり有名ではないため、
組織の束縛や周囲の目などを気にする必要も無く、自由に動けるという事になる。
仁美と共に行動することが多いあやめも『アヤカゲ』の名が示す通り、影に忍んでの活動を主としていたため、仁美と同じような状況にある。

普段街を守っている者が居ないのであれば誰かがそれを埋める必要があり、その役は自分達が適任であると、仁美はそう考えるに至る。
事実、多くのヒーローが出払っていることを好機と見たのか、人間の悪人やら怪人やらの活動も活発になっている。

つまるところ「出来る者が出来る事をする」というのが最良なのだ。
だとすれば、自分が為すべきは『憤怒の街』の状況に気を揉む事ではなく、
出払ったヒーローやGDFの留守を守ることだというのが仁美の考えだった。


51 ◆lhyaSqoHV62013/08/19(月) 07:14:55.68VHs+KO40o (4/14)


仁美「(一意専心! ……は、ちょっと違うかな……初志貫徹? これも違うか……)」

仁美「(まあとにかく、アタシはこの街を守るって決めたんだから、それを通すまでよ!)」

仁美「(あやめっちにアタシの考えを押し付けちゃった形になったのは申し訳ないけどね……)」

決意を新たにしたところでモニターに目を戻すと『憤怒の街』からの中継は終わり、
スタジオにて口だけは達者なコメンテーターと司会進行が、出鱈目な憶測をしたり顔で並べ立てているのが目に入った。

もうこれ以上見ていても時間の無駄だろう。
そう判断した仁美は、その足を帰路に向ける。


──その時、何処からか悲鳴が聞こえてきた。


仁美「松風!」

『でけぇ声出すな! 聞こえてるよ!』

すわ問題事かと、慌てて相棒の黒馬を呼び出し飛び乗る。

仁美「声のした方へ向かって!」

『おうよ!』


52 ◆lhyaSqoHV62013/08/19(月) 07:16:34.41VHs+KO40o (5/14)


悲鳴の聞こえた現場にたどり着くと、辺りは騒然となっていた。
なにやら見たことの無い黒い物体が、人を襲っているのが見える。
その物体は、どうやらカースであるらしいが、その形は獣──狼の様な姿を取っていた。
総数は八体ほどだ……数も多い。

仁美「な……何? こいつら……見たことない」

『纏っている"気"は、カースとかいう化け物と同一のものだが……濃さが段違いだな』

退魔士の本能が告げる。
こいつらは強い……と。
もしかすると、自分の手には負えないかもしれない。

仁美「一応、あやめっちにも連絡しておこうか……」

仁美は懐から携帯電話を取り出し、あやめにカース発生時の定型文メールを送信する。
彼女と共同で対応すれば、何とかなるかも知れない。
……それまで自分が持ちこたえていられればの話だが。

仁美「小さいのは何とかなるかもしれないけど、あの一体だけ大きい奴はヤバいね……」

よく見ると狼型カースの群れの中に一際大きい個体がいる。
見るからに強靭そうな体躯は黒い瘴気を纏っており、その眼は憤怒の赤色に染まっている。

松風『念の為教えておいてやるが、お前一人じゃあアレはどうにも出来んと思うぞ』

松風『我が身が可愛ければ、素直に逃げるこったな』

仁美「……そんなわけにいかないでしょ」

松風の言葉に、一瞬心が揺らぎそうになる。
もし、あの狼型の群れとやりあう事になれば、無事に済む保障は無い。
恐怖を感じないかと言われれば、そのようなことは無かった。

しかしその時、仁美の視界に狼型カースの一匹に襲われている人が映った。

仁美「っ! やるしかないか!!」

言うと同時に駆け出す。

松風『甲冑には着替えないのか?』

仁美「残念だけど! そんな暇無いよ!」

松風の冗談?に気を取られながらも、逃げ遅れたと思しき人に飛びかかろうとする一匹を、不意を衝いて串刺しにする。


53 ◆lhyaSqoHV62013/08/19(月) 07:19:36.25VHs+KO40o (6/14)


仁美「遠からん者は音に聞け!」

狼型を串刺しにした槍を地に突き立て、自らを奮い立たせるように叫ぶ。

仁美「我が名は丹羽仁美! 異形を狩る者なり!!」

松風『(名乗りがいつもの雰囲気と違うな……本気モードってヤツか?)』

その槍を思い切り──侍が刀に付いた血糊を払うかのように振るうと、狼は地面に叩きつけられ、飛沫を上げて飛び散った。

泥を払った槍を残った群れに向け言葉を続ける。

仁美「闇より出でし禍つ者共よ! 数多の魔を屠りし我が斧槍を以って、昏き淵へと送還してくれよう!!」

口上を終えると、仁美は松風に飛び乗り狼型の群れと反対方向へ駆け出す。


松風『格好つけておいて結局逃げるんだな』

仁美「逃げるんじゃないよ! 時間稼ぎだから!」

仁美が向かったのは、有事の際に使用されるシェルターの反対方向だった。
少しでも民間人の避難を助けられればと考えての行動だ。

仁美「よし、かかった!」

すぐさま狼型の追手がかかる。
見ると、八匹全部が追いかけてきたようだ。

仁美の名乗りは一見目立ちたいがための無意味な行為に見えるが、その実、相対した相手の気を引くという効果もあった。
それは、相方であるあやめの戦い方──陰ながら敵に忍び寄り、隙を衝いて致命傷を見舞うような戦法と、図らずも合致するものだった。

仁美「(まあ、今はあやめっちも居ないし……あんまり意味は無いんだけどね)」

それでも、狼型を全て引き連れて、人の少ない方へとおびき寄せる事には成功している。
一般人の避難を助け、仁美にとって戦いやすい環境を作るくらいの効果はあったのだ。


54 ◆lhyaSqoHV62013/08/19(月) 07:21:05.86VHs+KO40o (7/14)


カースの群れとの遭遇場所からかなり離れたところまで来たところで、仁美は殺気を感じた。
周囲を見渡すと、数匹の狼型が追いついてきているのが見える。

仁美「松風、頭下げて!」

松風が仁美の言葉で頭を下げると、真正面から、噛み付こうと飛び込んできている個体が見えた。
その大きく開いた口目掛け、槍を突き出す。
胴体の中にあった核ごと全身を貫かれた狼型は、さながら串に刺されたししゃものような姿を晒す。

仁美「これで二匹目!」

槍を振るい刺さったカースを落とすと、側面から別の個体が接近してきていた。

仁美「っ! そこだっ!!」

斧槍のリーチと形状を存分に生かし、攻撃されるほどに近寄られる前に薙ぎ払う。
この個体も頭から胴体まで真っ二つになり、泥と消えた。

仁美「三匹目!」

三体目が消滅するのを見届けた仁美は、真後ろから接近している個体に気が付いた。

仁美「松風!!」

松風『分かってる!』

松風は前足でブレーキを掛けると、両の後ろ足で接近してきた個体を思い切り蹴り上げる。
蹴られた個体は核ごと砕かれ、泥の飛沫を上げて飛び散った。

仁美「っ!? 危ないっ!」

ふと、仁美は異常な殺気を感じ、戦慄する。
足を止めたのが悪かったのだろう、群れの中に一匹だけいた大型の個体がこちらに飛び込んできていたのだ。
仁美は既のところで松風から飛び降り難を逃れたが、その松風は大型の個体に噛みつかれ、引き倒されてしまっていた。

仁美「この……っ! 離せ!!」

仁美は体勢を整えるとすかさず突きを繰り出すが、大型の個体はすぐに飛び退いて躱す。
取り敢えずは松風から引き離すことには成功したが、残りの個体も集まって来て、取り囲まれてしまった。

松風『こんな犬っころに手傷を負わされるとはな……俺も焼きが回ったか』

松風はよろめきながらも立ち上がる。

仁美「大丈夫なの!?」

松風『傷は浅い、走るのに影響は無い……』

周囲の狼型は、距離を縮めるよう円を描きながら少しずつ包囲を狭めてくる。
その様子を見た松風が、珍しく神妙な様子で口を開く。


55 ◆lhyaSqoHV62013/08/19(月) 07:22:45.57VHs+KO40o (8/14)


松風『仁美よ、俺の全速力なら、今ならまだ包囲を突破して逃げる事も出来るぞ……敵の数も減ったしな』

松風『だが、これ以上戦うつもりでいるなら、そのチャンスもすぐに無くなるだろう』

仁美「……」

松風『時間が無い、どうするかすぐに決めろ』

仁美「確かに逃げるってのも手かもね、『三十六計逃げるに如かず』って故事もあるしね」

松風『だったら──』

仁美「でも、アタシは逃げない……逃げたくない……」

仁美がここにいるのは、戦う術を持たない民間人を助けるためという理由からだ。
だが、それ以上に、自分の存在意義を掛けて戦っているという側面が強かった。

仁美「ここで……逃げるわけにはいかない……っ!」

松風『……』

他のヒーロー達の留守を……この街を守ると決めたのだ。
立てた誓いを簡単に破るわけにはいかない。

仁美「もののふにはね、命を賭してまで戦うべき時があるの……アタシにとっては今がその時なのよ」

仁美「生くべき時に生き、死すべき時にのみ死するってね!」

松風『……そうかよ、なら俺はもう何も言わん』

仁美とは短くない付き合いの松風は、言っても無駄だと察したのだろう、口を噤む。

仁美「(ただ、松風は最初から逃げろって言ってたんだよね……)」

仁美「(ここに残って戦おうっていうアタシのワガママに、付き合わせるわけにはいかない)」

仁美「松風、あなたは戻って」

仁美は槍を掲げ、松風をその中へと封印する。

松風『なっ!? お前、何を!?』

仁美「こんな奴ら、アタシ一人でも何てことないってこと!」


56 ◆lhyaSqoHV62013/08/19(月) 07:25:25.42VHs+KO40o (9/14)


仁美「こんな奴ら、アタシ一人でも何てことないってこと!」

痺れを切らし、正面から飛びかかってきた二匹の狼型を横薙ぎに払い核ごと真っ二つに、
返す石突で別方向から飛び込んできていた一匹を強打する。

不安定な馬上にのそれに比べ、二本の足で大地を掴み、しっかりと支えられた身体から繰り出される攻撃は、威力も、速度も、正確さも数段上回る。
仁美が松風を降りたのは、松風をやられて自棄になったのではなく、勝算があっての事だった。

仁美「足を奪ったくらいで、勝った気にならないでよね!」

松風『足って俺の事か!?』

仁美は大きく飛び上がると、空中で槍を逆手に持ち替え、突き飛ばされのたうつ狼型に思い切り突き立てる。
衝撃で核が粉々に砕かれた狼型は即座に泥と化し消えていった。

仁美「七匹目……!」

槍を地面から引き抜き、顔を上げると、狼型の群れの最後の一匹が目に入った。


仁美「これで真打登場ってわけね」

取り巻きを始末し終えた仁美は、ついに一際大きい狼型のカースと対峙する。
纏う雰囲気や、発する瘴気の濃さから、今まで相手をしていたものとは比較にならない強さを持っている事が分かる。

仁美「(これは……覚悟を決めないとかな)」

巨大な狼型は、猛スピードで飛びかかってくると、鋭い爪の生えたその前足を思い切り振るう。
仁美は最小限の動きでそれを躱すと、すぐさま反撃に転じる。
しかし、突きだした槍はわずかに敵の身体を掠めるくらいで、大きなダメージを与えることは出来なかった。

仁美「身体は大きいし力は強い、その上素早いとか……っ!」

身を翻し、再び突進してくる狼型を、今度こそ捉えられるようにと身構える。
しかし、反撃を意識し過ぎたのだろう、回避に意識がまわらず、仁美の身体を引き裂かんと振るわれた爪に、僅かに腕が掠ってしまう。

仁美「くっ!」

予想外の痛みと衝撃に思わず腕を見ると、制服のブレザーとワイシャツは紙の様に切り裂かれ、血が滲んでいるのが見えた。

仁美「(少しかすっただけでこれ? ……まともにもらったら、ただじゃ済まないな)」

仁美は気を取り直し、狼型へ向き直る。
狼型の方も、真っ赤に燃え上がる双眸で仁美を見据えていた。

仁美「さあ、来なよ! まだまだこれからだよ!!」

三度、仁美と狼型が交錯する。


57 ◆lhyaSqoHV62013/08/19(月) 07:26:44.01VHs+KO40o (10/14)


それからも数度、狼型の突進と仁美の迎撃の応酬が続いた。

狼型の攻撃により、仁美の身体には致命傷とまではいかないものの無数の切り傷が出来上がっていた。
対して狼型の方は大した損傷も無く──そもそも、カースの特性として、核を攻撃できなければ体表の損傷などはすぐに回復してしまうのだ。

仁美「(まだ充分に動ける……けど、このままじゃジリ貧だ……なんとかしないと)」

仁美「(敵は、毎回真正面から飛び込んできているんだよね)」

毎回狼型の方から攻撃を仕掛けてくるという事実を受けて、仁美は思案する。

仁美「(はっきりいって単調だけど……)」

攻撃一辺倒になるという事は、その分防御が疎かになるという事でもある。
そこを上手く衝ければ、勝機はあるかも知れない。

仁美「(何度かの打ち合いで、核の大体の位置は掴めてる……あとはそこに一撃を加えられれば!)」

再び飛び掛かってくる狼型の動きを読んだ仁美は、反撃ではなく回避することを選んだ。
大きく振るわれた前足を、槍で受けると同時に自分の後方へと回転させ衝撃を受け流す。
攻撃をいなされた狼型は、無防備なまま仁美の後ろへと着地した。

仁美「(これは……もらったッ!)」


しかし、その攻撃が届くことは無かった。


狼型は着地した直後、前足を軸に半身を素早く横にずらし、仁美の突きを躱したのだ。
その動作は非常に素早く、狙いすました大振りの一撃を躱された仁美は、敵の反撃に対する反応が遅れてしまう。
狼型が振るった前足を咄嗟に槍で受けたものの、その手には強い衝撃と同時にぐにゃりと、何かが折れ曲がったかのような嫌な感触が伝わってきた。

慌てて飛び退き、狼型から距離を取り視線を手元に落としてみると、
無理な受け太刀が祟ったのか、槍の柄が真ん中が拉げ折れ曲がってしまっていた。

仁美「抜かった……!」

仁美は苦々しげに吐き捨てる。

仁美「(もしかすると、単調な攻撃もアタシの大振りを狙って……?)」

仁美も、決して侮っていたわけではないが、想定より遥かに手強い相手だったらしい。
ここまで一方的にやられることになるなどと、戦う前は想像もつかないことだった。

狼型は敵から牙を奪ったことを理解したのだろうか、悠然と仁美の方を向き直る。

仁美「くっ……」

折れ曲がった状態では、自慢の斧槍ももはや武器としての役目を成さないだろう。


58 ◆lhyaSqoHV62013/08/19(月) 07:29:52.78VHs+KO40o (11/14)


仁美「どうしようもない、か……」

仁美は片膝をつくと、言い聞かせるように呟く。

仁美「ご先祖様……ごめんなさい!」

そう言うと仁美は、ついた片膝に槍の折れ曲がった部分を宛てがい、両の手で力を込めてへし折った。
穂先だけでも、武器として利用しようというのだろう。

松風『おい! 仁美! 何があった!?』

槍の中に封印されている松風が、今までに感じたことの無い衝撃に思わず声を上げる。
それに答えるように、仁美がおもむろに口を開く。

仁美「……松風」

仁美「もし"自由"になれても、もう人間界で暴れるのは止してね」

松風『ハァ!? お前、何を言って──!』

仁美は、松風の言葉を意に介さず立ち上がる。
そして、覚悟を決めるかのように、大きく深呼吸を一つ。

仁美「矢尽き刀折れ……最後に残ったのはこの身一つ……か」

仁美「だけど、アタシは負けない!!」

戦う術を失いながらも、猛然と向かってくる狼型に臆する素振りを見せず、叫ぶ。
狼型は、相手が動かないのを戦意を喪失したと見たのか、大口を開けて突進してくる。


──そしてついに、その凶悪な顎が、仁美の身体を捕らえた。


刃物の様に鋭い牙が身を裂き、強靭な顎が骨を軋ませる。
仁美は顔を苦痛に歪めるが、しかしその口元は──口角が微かに吊り上がっていた。

そして一言

仁美「勝った……!」

そう呟くと、手にした穂先を狼型の首へと突き立てた。


59 ◆lhyaSqoHV62013/08/19(月) 07:33:40.74VHs+KO40o (12/14)


仁美の決死の攻撃は、果たして狼型の核を捕らえることに成功した。
手に何か硬い物を穿ち砕く感触が伝わり、身体に食らいつく顎の力が急速に弱まるのを感じる。

仁美「ふっ……肉を斬らせて……骨を断つ……ってね」


満身創痍の状態で、核から穂先を引き抜く。
すると、巨大な狼型の体躯はすぐさま不定形の泥と化し、そのまま地面へと消えた。

仁美「やったよ……アタシが、勝ったんだ……」

仁美は、カースの消滅を以って自らが勝利したことを実感する。
しかし、緊張状態が途切れたことにより脳内物質の分泌が止まったのか、焼け付くような痛みが全身に襲い掛かる。
視線を落とすと、狼型に噛みつかれていた部分から鮮血が溢れているのが見えた。

仁美「こんなに……血を流しちゃうなんてね……」

仁美「……ふふ……真っ赤で……時代劇で見る通りだなあ……」

深手を負い混乱しているのか、わけのわからない思考ばかりが浮かぶ。


仁美「あっ……」

ふっ、と身体から急に力が抜け、思わず倒れそうになるのを、折れた穂先を杖代わりにして膝をつき耐える。
流れ出る血と共に生気も抜けていっているのだろう、視界の端から黒く濁ってゆき、一瞬前まであった痛みももはや感じなくなっていた。

仁美「(これはもう、ダメかな……)」

仁美「(あやめっち……ゴメン……あとは任せた)」

心の中で、今まで共に戦ってきた、そして、一人残してしまう事になる友人に、己の不甲斐なさを詫びる。

仁美はついに崩れ落ちると、そのまま起き上がる事は無かった。


60@設定? ◆lhyaSqoHV62013/08/19(月) 07:37:52.58VHs+KO40o (13/14)


※丹羽ちゃん本気モード

時代劇口調と中二病が合わさり最強に見える。
普通の人間がやろうとすると逆に頭がおかしくなって死ぬ。


※狼型カース

『憤怒の街』に現れるものと同じ。
ただ、癒しの雨の効果が無いため、かなり強化(元の強さに戻っただけ)されている。
いつまでも進展しない『憤怒の街』の状況に、人々の恐れや不安などの負の感情が高まり、それが原因で発生したらしい。


※デカい狼型

名前の接頭語に"ドス"とでも付きそうな印象の、狼型カースの強化版。
通常の狼型カースが一際強い負の感情を得て変異した物。
どうでもいい話だが、今回戦った個体は、後に松風によって『ホイレンヴォルフ』と名付けられる。

仁美「なんでドイツ語なの?」

松風『カッコいいだろ!?』


61 ◆lhyaSqoHV62013/08/19(月) 07:42:45.32VHs+KO40o (14/14)

丹羽ちゃん強化イベント前篇、投下終了
強化イベントと言いつつ死にかけてるのはキニシナイ!!

◆EBFgUqOyPQ氏の前後編システムが引きの演出として素晴らしいと思ったのでリスペクトさせてもらいました!
構想が長過ぎて書き切れていないなんて理由では無いです、ハイ


投下して気付いたけど、ところどころセリフ頭の松風の名前が抜けてた


62VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 08:12:26.42nsax2UQSo (1/1)

乙乙
丹羽ちゃんかっけえと思ってたら死にかけてるー!?


63VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 08:24:23.59LAw9JwPn0 (1/1)

乙です
死んだー!?と思ったら死にかけなのか安心(
?)したぞ…
後編全力待機


64 ◆hCBYv06tno2013/08/19(月) 09:12:05.48JSL5komx0 (1/2)

乙ー

死んだ!?っと一瞬焦った

後半楽しみ


65 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:12:02.52FcVl7zNgo (1/22)

吸血鬼とかの設定お借りして投下します


66 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:12:28.28FcVl7zNgo (2/22)


真夜中

都会の中でありながら、薄暗く寝静まった通りに、

”そいつら”は居た。


『ハナセッ!!キサラマラッ!!』

「うるさいな。どうにかならんものか。」


傍から見たらそれは実に奇妙な光景に見えただろう。

武器を持たない、生身の人間2人に、一体の爬虫類型のカースが捕まっていた。

カースは激しく抵抗しているが、人間達はまるで意に介していない。

カースは人を襲うもの。

これでは関係がまるで逆だ。


67 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:12:56.85FcVl7zNgo (3/22)


いや、例外はある。

人の中でも”ヒーロー”と呼ばれる者達は”カース”達よりも強い力を持つ。

ならば、カースを捕まえている彼らはヒーローなのだろうか?

いや、違う。


『オレヲッ!!ドウスルツモリダッ!!』

「カースとは人間どもの感情の塊のようなものらしい。煩いのは仕方ないだろう。」

「だが、耳障りだ。聞くに堪えん。早く黙らせよう。」


まるで自分達とは別の存在を指すように、”人間ども”と言った通り、

人の様に見えていた、”彼ら”は人間ではない。


彼らの一人がカースの体に口を近づけ、

『ナニヲッ!アッ?アァァァ・・・・・・・???』

牙を突き立てると、その存在を啜っていく。

瞬く間にカースの泥は飲み込まれ、核だけが残った。


「不味い、それに極めて薄い。」

「それも仕方のないことだ。この方法で無ければ核を回収し、カースを我々の眷属として利用できない。」

「本当にこんな物を、我々”家畜派”の眷属として利用する価値があるのかな。」

「自己増殖力など、これを使う利点は多い。いずれ来る”吸血鬼”の頂点争いの雑兵として使う分には問題ないだろう。」


”彼ら”は”吸血鬼”

中でも”家畜派”とも呼ばれる一派の実行部隊であった。


68 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:13:53.00FcVl7zNgo (4/22)


「味の薄さに関しては・・・・・・この辺りに出現しているカースが弱いだけなのかもしれん。」

「では、やはり例の街に向かったと言う同胞達に期待するしかないか。」

「そうだな、あちらにはより強力なカースが居ると聞く。」

「より強い兵を集めることができるだろう。」


彼らは吸血鬼の能力を使い、カースの肉体となる負の力を吸い上げて、

カースの核だけを収集することができていた。

そうして集めた核は、吸血鬼達の魔力を通して、

再度肉体を与えてやることで、自分達の眷属として利用できるのだ。

さらに眷属化したカースは、吸血鬼の持つ”吸血鬼の仲間を増やす”と言う属性も備えるため、

周囲に新しくカースが発生した際に、それらの属性もまた吸血鬼の眷属に書き換えることができた。

”家畜派”はこの特性に目を付け、カースを吸血鬼の兵として使うことを考えたのだ。


「うぷっ、後味が来るな・・・・・・糞不味い魔界の蜥蜴のスープを飲まされた時のような気分だ。」

「愚痴が多いな。仕方ない。今宵はそろそろ切り上げるか。」

「早く血を飲みたい。口直しがしたいんだ。」

「通りに出れば幾らでも居るだろう、しかし真夜中でも人間がうろついているのは好都合な事だな。」

「だが大概のそれは下品なクズ肉だ。俺の喉を潤すのは処女の血で無ければ。」


「贅沢な奴め、口直しくらいクズ肉で我慢しっ―かぁっ―――?!」

「なっ?!」


突如、吸血鬼の一体の頭が撃ちぬかれる。

頭部を破壊されたそれは、そのまま崩れるように倒れた。


69 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:15:07.00FcVl7zNgo (5/22)


「おい!・・・・・・馬鹿なっ!即死だとっ?!」

頭を撃ちぬかれた相方が、倒れたまま起き上がらない。

何よりもその事に彼は驚いた。

吸血鬼とは不死身の怪物。

”頭を撃ちぬかれた程度で”死ぬ訳が無いのだ。

「まさか銀の弾が―――?」

そうして、もう一体も倒れた。




「殲滅完了しました、如何致しましょう。クイーン。」

銃を構えた男が問う。

「呆気なかったわ、つまらないわね。まあいいわ、回収はじめるわよ。」

クイーンと呼ばれた、女性がそれに答えた。


70 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:15:39.48FcVl7zNgo (6/22)


クイーンは、カツカツと音を立てながら、

吸血鬼の死体に近づくと、その懐を漁る。

そして目的のものを見つけたようだ。

ジャラジャラと音のする袋を取り上げ、中身を改める。

「結構集めてたみたいね。カースの核。」

「全部で8つも。こんなに簡単に手に入ったわ。使えるわね、この方法。」


彼女の目的は吸血鬼達の集めていたカースの核であったようだ。

最初から横取りするつもりであったらしい。


「利用できるものは利用しなきゃね。あ、死体は適当に細切れにして燃やしておいて。」

「はっ。」

クイーンの命令に従い、数人の男達がテキパキと死体を片付け始める。

彼らは女王に忠実な家来と言ったところであろう。


彼らが死体の片付けをしている間、

クイーンは袋に入れられていた核のうち一つを取り出し、眺めてみる。

取り出した核は『憤怒』の核で、

それは邪悪でドス黒い赤色を湛え、輝いていた。


71 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:16:25.41FcVl7zNgo (7/22)


吸血鬼に負のエネルギーを吸われ、枯渇した状態のカースの核。

それは、浄化されたわけでもなければ、死んでいるわけでもなく、

放って置けば大して時を待たずとも、周囲のエネルギーを吸収し、すぐに活動を再開するだろう。


先ほどまでの所持者達は、魔の存在である吸血鬼であるから、

カースの核のエネルギー吸収を抑えて所持する事が出来ていただけのこと。

一般人が素手で触れれば、カースに取り込まれたり、精神を汚染されても、おかしくはない。


では何故、

クイーンと呼ばれた、彼女も、

先ほどまでの所持者達と同じく、カースの核に触れても平気で居られるのか。


答えは単純。

彼女も同じく、魔の存在であり、

彼女も同じく、吸血鬼だからだ。


彼女の名前はチナミ。

吸血鬼の三派閥でいえば、”利用派”に属する名家の出身の女吸血鬼。

そして、彼女はまた、別の”ある組織”の一員でもある。


カースの核をじっくりと眺めていたチナミは呟く。

チナミ「不気味な色。血の色みたいで嫌いじゃないけど。」

チナミ「でも、これにそこまで求める価値があるのかしら。」


実のところ、彼女自身はカースの核に価値を見出しては居ない。


吸血鬼のエネルギー源として利用できなくはないが、

やはり人間から直接血を吸った方が効率が良いし、何より味が良い。

”家畜派”は兵として利用するつもりであるようだが、チナミにとってはそれも脅威には思えない。


そんな彼女がカースの核を集めているのは、それが”ある組織”の一員としての活動であるからだ。

時は少し前に遡る。


72 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:17:36.47FcVl7zNgo (8/22)


――

――


ネオトーキョーに本社を構える大企業ルナール・エンタープライズ。

そこで働く従業員の一人「小室千奈美」として、チナミは活動していた。


ネオトーキョーは吸血鬼にとって昼間でも活動がしやすい。

漂う瘴気のせいか、天敵である太陽光が弱まっているからであろう。

流石に真昼間の屋外での活動は、少々コンディションに影響するが、それだけだ。

そのため、ネオトーキョーには、派閥に関わらず人間に扮して生活している吸血鬼は多かった。


チナミもそんな吸血鬼の一人であるが、彼女には使命があった。

”利用派”吸血鬼の一員としてルナール社の裏側に存在すると言われる櫻井財閥に関する、情報を集めること。


櫻井財閥は、かつては人間界の支配者に最も近いと謡われたと言う大財閥。

人間界支配を目論む彼女達にとって、その先駆けとして利用するには打ってつけの組織だ。

故に、”利用派”吸血鬼達は、ルナール社に少なくない数の間者を放っている。

チナミもその一人として、ルナールに潜入し、財閥について調べていた。


73 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:18:48.94FcVl7zNgo (9/22)


しかし、実際ルナールに入社してみれば、世間のブラックの噂に反して、

その見た目の内装も、やらされる仕事の内容も、妙に綺麗な事ばかりであった。

ネオトーキョー全体を覆うような暗さも、まるで嘘かの様にそこにはない。


白い。ネオトーキョーにあってあり得ないほどに白い企業。

白すぎて、逆にその分厚いメッキの裏にはやはり何かあるとしか思えない、白さ。


白さの裏を暴くために、彼女達、”利用派”吸血鬼達は、

ルナールの隅から隅まで嗅ぎまわっているが、これまでに成果は出ていない。


黒い裏側などはそう易々とは見れる物ではないだろう。と、覚悟はしていた。

だけど毎日、人間の仕事を繰り返す単純な生活は正直堪える。

彼女は、この生活にもとっくに飽き飽きしていた。


チナミ「退屈だわ・・・・・・。」


彼女は吸血鬼の名家の出身だ。”利用派”吸血鬼達の中でも上位に位置する者であり、

現場で活動するよりも、上から指示を出している方が得意だし、立場的にもそうするべきなのだろう。

それでも、そんな彼女が人間界に出てきて、現地での諜報活動を自ら進んでやっているのは、

新しい刺激が欲しかったからだ。


だから、こんな調子ではつまらない。


何も無さそうなら、魔界に帰ってしまおうかしら。

なんて思っていた、そんな頃だ。

彼女の元に一人の女性が尋ねてきたのは。


74 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:20:05.46FcVl7zNgo (10/22)


その日の仕事と、調査を終えて、

人としての仮の住まいに、帰ろうとした彼女の元に、

知らない番号から電話が掛かってきた。


「会社のロビーで待ってます。」とただ一言だけ残して、

ブチ切って来た勝手な電話の内容に、イラつきはしたが、

パターン化していた日常に訪れた些細な変化に、

退屈を吹き飛ばせる何かを期待しながら、電話の指示に付き合うことにした。



指定の場所には一人の女性が居た。

もう遅い時間であり、社内に残っている人間が少なかったためか、

その時ロビーには、彼女達の他に誰も居なかった。


女性「こんばんは、はじめましてー」

女性「あ、これ美味しいから是非食べてみてっ!」

チナミ「なにこれ。」

チナミの質問に、よくぞ聞いてくれましたとばかりの顔をして、彼女は答えた。

女性「和歌山の梅干だよっ!特産物!味に文句なし!私的にっ!」

出会ってすぐに梅干を押し付けられた。

チナミ「いらないわ。」

梅干を返して、そそくさと帰ろうとする。


女性「あっ!ストップ!ストップ!待って!」

女性「”利用派”のチナミさんに御用があるんですよっ!」


その言葉が無ければ本当に帰ってしまうところだった。

振り返って、問いかける。


チナミ「あなた・・・・・・何者?」

女性「私は櫻井財閥の『エージェント』です!」


75 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:21:05.43FcVl7zNgo (11/22)


――


そこからは驚きの連続であった。

財閥の『エージェント』を名乗る女性が向こうから接触してきたこと。

瞬間移動能力によって、一瞬で何処かの高いビルの上階にある一室に連れてこられたこと。


そして

サクライP「やあ、待っていたよ。」

サクライP「よく来てくれたね、小室千奈美くん。」

チナミ「・・・・・・。」


チナミの座ったテーブルの、向かい側に座っている男の存在にだ。

どうやら状況から見て、財閥の党首直々に、彼女を呼び出したようであった。


チナミ「驚きね。そっちから接触してくるなんて思って無かったわ。」

想定外の事態に陥っても、彼女は決して余裕ある態度を崩さない。

サクライP「そうかい?サプライズを演出できたようでよかったよ。」

そう言って彼はにっこりと笑った。


76 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:21:40.49FcVl7zNgo (12/22)


テーブルに置かれたグラスに赤い液体を注ぎながら、彼は言う。

サクライP「主はワインの事を自分の血だと言って、使徒達に振舞ったそうだね。」

サクライP「だから僕もそれに習って、君のためにワインを用意したのだが」

注がれた2杯のグラスの片方がチナミに目の前に置かれた。

サクライP「”小室千奈美”は19歳だったね。お酒は飲める年だったかな?」

サクライP「それとも本物の血の方が良かっただろうか?」

チナミ「結構よ。お酒も血も、そのつまらない冗談も要らないわ。」

チナミ「私が欲しいのは、あなた達に関する情報よ。」

彼女は吸血鬼の持つ能力”魔眼”を使用して、彼を睨んだ。

だが、睨まれたサクライPはまったく意に介していないようであった。

サクライP「吸血鬼の魔眼。なるほど、僕を傀儡にできたら君達の目的は達成できるのだろうね。」

サクライP「けれどそれは不可能だ。僕は既に”所有物”だからね。」

チナミ「・・・・・・。」

サクライPに催眠を掛けるのは不可能であるらしい。

それを知ると、チナミは”魔眼”を解いた。


77 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:22:28.29FcVl7zNgo (13/22)


これまでのやり取りで十分にわかったが、

この男は、チナミたち吸血鬼に関して多くの事を知っていたらしい。

三派閥の存在、”利用派”から間者が放たれていたこと、”利用派”の目的、吸血鬼の能力。


チナミ「随分と、私達について詳しいのね。」

サクライP「魔界や悪魔の事に関しては、僕は知る機会が多かった。と言うだけのことだよ。」

サクライP「吸血鬼の存在や能力、派閥については悪魔達からの話で聞いていたんだ。」

財閥は悪魔と繋がりがあると言う噂。どうやら本当であったらしい。

チナミ「私が吸血鬼だと気づいたのはいつかしら?」

サクライP「さあ、いつ頃だったかな。」

サクライP「ルナールには、他組織からの間諜と言うのは多くてね。」

サクライP「妙な者達が出入りしているのは、いつもの事なのだが」

サクライP「その中に吸血鬼の一派が混じっていると知ったのはごく最近のことだったと思うよ。」


サクライP「質問はそのくらいかな?」

チナミ「もう1つあるわ、あなたの目的は何?どうして私を呼んだのかしら。」

サクライP「そうだね、そろそろ本題に入ろう。」


78 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:23:28.83FcVl7zNgo (14/22)


サクライP「単刀直入に言えばね、君の力が借りたいんだ。」

サクライP「僕の目的を達成するために、協力して欲しい。」

チナミ「あなたの目的?」

サクライP「世界の全てを手にすることさ。」

チナミ「呆れたわ。人間界の支配のために、私達を逆に利用しようだなんて。」

サクライP「利用ではなく、協力だよ。取引と言い換えてもいいかな。」

チナミ「取引と言うからには、あなたに協力して、私達は何か得られるのかしら。」

サクライP「立場だ。君には『エージェント』と言う立場を用意している。」

チナミ「エージェント?」

サクライP「僕個人が所有する特殊部隊だよ。ここに来るまでに一人会っただろう?」

サクライP「彼女達には、少なくない額の資金や情報を報酬に各地で動いてもらっている。」

サクライP「資金や情報は、君達が人間界で活動するならば、多くて困るものではないはずだ。」

サクライP「そして『エージェント』は僕に最も近づける立場だ。」

サクライP「財閥や僕の事を調べるなら、『エージェント』に勝る者はいない、と言っていいね。」

サクライP「君にとっても、悪い話ではないと思うがどうだろう?」


79 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:24:22.63FcVl7zNgo (15/22)


なるほど、確かに悪い話ではないのだろう。

少なくともルナールでの仕事を繰り返すつまらない毎日よりは少しはマシではないか。

しかし、この時点ではチナミはこの話を、どう断ろうか思案していた。


チナミ「残念だけど、私には一派全体の方針を決める権限なんてないわ。」

サクライP「僕はね。君達ではなくて、君の力を借りたいんだ。」

サクライP「だから取引をしたいのは彼らとではない。君と取引をしたいんだよ。」

彼は組織ではなく、彼女個人と協力したいのだと言う。

チナミ「だったらお断りよ。私は指図は受けたくないの。」

チナミ「とくに誰かの下について、つまらない仕事をするなんてもうまっぴら。」

そんな彼の誘いを、チナミは力強く拒否した。

チナミ「それで、断ったら私はどうなるのかしら?」

サクライP「このままお帰りいただくだけだよ。」

サクライP「ここで得た情報はお呼びした手間賃だと思ってもらえばいい。」

チナミ「あ、そう。じゃあさようなら。」

チナミは席を立つ。

部屋から出て行こうと歩き出した彼女を、サクライPは怪しい笑顔で見送った。


80 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:25:17.91FcVl7zNgo (16/22)




チナミ「出口何処よっ!!!」



チナミは急いでテーブルに戻ってきて怒鳴った。

サクライP「ここには外に出る扉は無いよ。」

チナミ「なっ!だったら席を立った時点で止めなさいよっ!!」

サクライP「芽衣子くんがこの場に居ないのにどうやって帰るつもりなのか少し見ていたくてね。」

チナミ「悪趣味すぎるわ。空間移動能力者が居ないとここから出られないなら、」

チナミ「最初から逃がす気なんてなかったんじゃない。」

部屋の中には、出口と呼べそうなものは窓しかなく、

その窓にしても、先ほど気づいたが、外の景色ではなく機械で映像を写しているらしい。

窓に映る景色からここがビルの上階だと判断していたが、どうやらそれすら怪しいかもしれないのだ。

サクライP「悪いね。だけど、僕はどうしても君に協力して欲しいんだ。」

サクライP「もう一度言おう、君の力を借りたい。君が必要だ。」

チナミ「ふん、それが殺し文句だとしたら三流もいい所ね。」


81 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:26:12.57FcVl7zNgo (17/22)


チナミ「一つだけ聞かせてよ。どうして私なの?」

潜入していた”利用派”吸血鬼はチナミ以外にも居たはずだ。

その中でどうしてチナミを選んだのか。

サクライP「ルナールに潜入している吸血鬼の中で、おそらく君が一番力を持っているだろう。」

サクライP「と考えたのが、理由の一つだね。」

チナミ「それはどうも。高く買ってもらってるのね。」

サクライP「そしてもう一つ。こちらの方が重要な理由だが、」

サクライP「協力者にするなら、君が一番気が合うと思ったからだよ。」

チナミ「ふーん。気が合う、ね。私は全然そんな風に思えなかったけど。」

サクライP「君は欲が深い。今持ってる物では満足できず、常に今以上のものを求めているのだろう?」

サクライP「世界に新しい刺激を求め続ける。そのスタンスに僕は共感したのさ。」

チナミ「あなたなんかと、一緒にしないで欲しかったわ。」


チナミ「けれど、まあ。確かに、そうかもね。」

チナミ「このまま元の生活に戻るのもつまらないことだわ。」

チナミ「だから、”条件”付で、あなたに協力してあげてもいいわよ。」

サクライP「そうか。その好意に痛み入るよ。ありがとう。」

チナミ「まだ協力するとは言ってないのだけど。」

サクライP「そうだったね。では、”条件”を聞こうか。」


82 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:27:23.86FcVl7zNgo (18/22)


――

――


眷族「クイーン、死体の処理が完了しました。」

物思いに耽っていたチナミだが、その声に呼び戻された。

チナミ「あら、ご苦労様。」

命令を成し遂げた彼らに労いの言葉をかける。

彼らはチナミが人間界で作った眷族。

チナミ自ら血を吸って、作り上げた、彼女の命令に忠実な動く死体達だ。

そんな手下達はクイーンの次の命令を今か今かと待っている。


チナミ「カースの核を集めて欲しいだなんて、」

チナミ「どう言うつもりなのか知らないけれど。」

チナミ「私を簡単には利用できるとは思わないことね、サクライ。」

手元のカースの核を眺めながら、彼女は独り言を呟く。

チナミ「いつか今みたいに、あなたが手にしたものも私が横取りしてあげる。」

チナミ「それまでは退屈しのぎに付き合っ『イッシャー!』

『シャーシャッシャッ』『シャワッシャ』『シャッワー』

チナミ「・・・・・・・。」

チナミ「こほん、それまでは退屈しのぎに付きあって『ワッシャイ!!』

『シャワシャー!』『シャワ!シャワ!』『シャワワワ!』


チナミ「もうっ!!何なのっ、あいつらっ!!台詞くらい最後まで言わせなさいよっ!!」

チナミ「あなた達!アレを潰しに行くわよっ!!」

眷族「はっ!」

こうして、『エージェント』であり『利用派』の吸血鬼は、

通りすがりの魚型ロボット達を始末しに向かうのであった。


83 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:28:24.85FcVl7zNgo (19/22)


――


「簡単な条件よ。私を退屈させないで。」


サクライP「退屈させないで、か。」

空になったグラスを眺めながら、

先ほどまで目の前の席に座っていた女性の事を思う。

サクライP「やはり、彼女は僕と気が合いそうだ。」

サクライP「保障しよう。きっと退屈させることはないだろう。」

一人きりになった部屋で、彼は不敵に笑った。


サクライP「さて、これから忙しくなるな。」


おしまい


84 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:28:59.75FcVl7zNgo (20/22)


チナミ(小室千奈美)

職業:『利用派』に所属する吸血鬼、櫻井財閥『エージェント』
属性:女王様気質の高飛車吸血鬼
能力:吸血鬼関連の能力全般

魔界出身の吸血鬼の女性。吸血鬼の三派閥では『利用派』に属する名家の出身。
故あってサクライPの『エージェント』としても活動する事となる。
退屈でつまらないことが嫌い。彼女が配下や眷族を使わず、自ら動くことが多いのは、
日々の退屈を吹き飛ばす、新しい刺激を求めての事。
女王然とした、余裕のある態度を常に崩さないが、時々感情的に怒る。
彼女がカッコつけようとすると、何故か邪魔が入ることが多い。


『チナミの眷族』

吸血鬼に血を吸われ、眷族と化した元・人間達。
女王の命令に忠実な死体。チナミの事を”クイーン”と呼び付き従う。
現在は5名ほど。元は何処かの軍隊員だったようで、全員が武器の扱いに長けている。
生前に比べ意思や感情が弱く、機械のようにチナミの命令を遂行する。
そのため、彼らの気配を察知するのは極めて難しい。
吸血鬼と同じく、太陽光や銀の弾丸、聖水などに弱い。チナミの気分次第で増えたり減ったりする。


85 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:30:28.68FcVl7zNgo (21/22)

『銀の弾丸』

吸血鬼討伐用に作られたマジックアイテム。
これを頭にぶち込まれた吸血鬼は仮死状態となり行動不能になる。
だが摘出してしまえば、しばらくすると死体は起き上がり、再行動可能。
不死の怪物、吸血鬼を殺しきる事こそできないが、非常に有効な武装。


『どこかにある部屋』

出入り口が無いため、移動能力者が居なければ出入りできない部屋。
今回使われた部屋は、ルナール社の地下1階に用意した一室。
部屋に取り付けられた窓はモニターになっており、高層ビルの上階から見た外の景色を写しているため、
連れてこられたものは、なかなか地下にある部屋だとは気づけない。

並木芽衣子の能力『瞬間旅行』は、ネオトーキョー内には短距離しか移動できないために、
この部屋はルナール社の1階ロビーとの行き来がメインとなるが、当然地下2階とも行き来が可能である。


86 ◆6osdZ663So2013/08/19(月) 10:31:38.70FcVl7zNgo (22/22)

◆方針

小室千奈美 … カースの核の収集。方法は主に横取り。いずれサクライを出し抜くつもり。
並木芽衣子 … 和歌山の特産品を広めたい。
サクライP … チナミにカースの核を集めてもらっている。

財閥が吸血鬼を協力者に迎えるお話。
時系列的には憤怒の街初期~中期くらいじゃないの(適当)
千奈美さんが真面目な事しようとする度にその空気を茶化して怒られたい(真剣)


87 ◆hCBYv06tno2013/08/19(月) 11:24:25.62JSL5komx0 (2/2)

乙ー

利用派が利用されるとはこれいかに?
にしてもイワッシャーww


88VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 12:44:54.77PNaJ3wV70 (1/1)

乙です
櫻井は暗躍するなぁ…
そしてイワッシャーGJ


89VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 12:49:41.882Dr3uYTYo (1/1)

乙乙

丹羽ちゃんかっこいいけど死んだー!? と思ったらパワーアップか!
続きを期待して待つ

かっこつきそうでかっこつかないあたりがかわいいな、チナミさんww
サクライは大人相手だと見事な交渉を見せるのね、ただのロリコンではないんだ


90 ◆hCBYv06tno2013/08/19(月) 17:45:17.78TduCYbQsO (1/13)

音葉投下します


91 ◆hCBYv06tno2013/08/19(月) 17:45:44.19TduCYbQsO (2/13)

ほたる「どうしよう……」

ナチュルスカイこと白菊ほたるは困っていた。

妖怪達が周りにイタズラばかりをする為に、それをなんとかする為に来ているのだが、珍しく彼女一人だ。

同じナチュルスターのメンバーである森久保乃々と村上巴は今日はいない。

それには理由がある。片方は、この前無茶した罰として、お世話になってるイヴ非日常相談事務所の関裕美のお手伝い。もう片方は事務所で待機している。

だから、今日はほたる一人なのだ。


92 ◆hCBYv06tno2013/08/19(月) 17:46:37.01TduCYbQsO (3/13)

さて、話を戻そう。

何故、彼女が困っているかというと…

ほたる「力が制御できない…」

今、ほたるの周囲はまるで嵐のように風が吹き回っていた。

地面には草木が芽生え、花が咲き乱れている。

攻撃するときに威力が強すぎてしまい、周りに被害が出てしまう事はあった。だが、今回のように勝手に力が溢れるような事態はない。

それに、イヴと裕美のおかけで力の制御は最近できている。

なのに、何故?

答えは簡単だ。今、ほたるがいる場所は祟り場になっていて、精霊の力が活発化しているのだ。


93 ◆hCBYv06tno2013/08/19(月) 17:48:13.55TduCYbQsO (4/13)

一方、その頃別の場所にて

???「風の歌が聞こえる。楽しそうに歌ってる」

一人の女性が、妖怪達が蔓延る街を歩いていた。

頭には猫を乗っけていて、両肩に小鳥達が止まっていて、なんか大変な事になっているが。

女性の後ろには、犬や猫にネズミなどの動物たちが、まるでハーメルンの笛吹のようについて来ている。


94 ◆hCBYv06tno2013/08/19(月) 17:50:13.43TduCYbQsO (5/13)

訂正

>>92と>>93の間にこちらの文がはいります


ほたる「どうしよう……また私のせいで……みんなに迷惑かけちゃう」

涙目になりながら、必死に力を制御しようとするが……

ほたる「あう!?み、見えない!?」

飛んで来た新聞紙がほたるの顔に当たり、視界をふさがされ、ジタバタしている。

なんか見ててカワイイ。

『あの人間面白いな』

『ヒヒヒッ!』

近くにいる妖怪達は、暴風と一緒にフワフワと自由に飛び回りながらほたるの様子を楽しそうに見ていた。


95 ◆hCBYv06tno2013/08/19(月) 17:51:54.54TduCYbQsO (6/13)


???「けど…、ナチュルスカイは振り回されちゃってるのね」

彼女こそナチュルスターに精霊の力を与えた存在。

自然の大精霊・オトハだ。

オトハ「だけど、貴女なら…空の声に耳を傾けられるでしょう。そうすれば、風の歌と共に貴女の心の歌が奏でられ、美しい旋律が奏でられるはず…」

若干、意味不明な事を言ってるように聞こえるのは決して祟り場の影響ではなく、彼女の素である。

オトハ「貴女なら…一歩前へ進められるわ…。だから、この祟り場は良い刺激になるでしょう」

良い事を言っているはずなのだが、どんどん動物たちが集まってきて、動物まみれになっている。

そこがまたカオスだ。


96 ◆hCBYv06tno2013/08/19(月) 17:52:35.37TduCYbQsO (7/13)

オトハ「ナチュルスター。貴女達なら人と自然の架け橋になるはず…。そして、破滅の未来を防いでくれるはず……。人も自然もどちらも欠けてはいけない…。共存する事でより美しい旋律を生み出せるでしょう」

彼女は一体どんな未来が見えていたのか?それはわからない。

ただ、彼女は願う。人類と自然が共存する平和な未来を。

動物まみれだが……

オトハ「……あちらから楽しそうな音が聞こえる。いってみましょう」

動物達を引き連れ、彼女は街を歩くのだった。

いつか、彼女がナチュルスターの前に現れるのもそう遠くではないだろう。


終わり


97@設定 ◆hCBYv06tno2013/08/19(月) 17:53:36.43TduCYbQsO (8/13)

オトハ(人間名・梅木音葉)

職業・不思議な女性
属性・自然の大精霊
能力・自然の力 姿の変化 歌により自然に語りかける力


ナチュルスターに力を与えた大精霊。

環境汚染の影響で力が弱まっているが、それでも強い力を持つ。

破滅の未来を防ぐ為に、人と自然が共存する平和な未来を作ろとしている。

バランスを保つ為に、人も自然もどちらも欠けてはいけないと思っている。

心優しい性格だが、そのせいか動物達が沢山よってきて、しまいには動物まみれになってしまう時がある。

今は人間の姿になっているが、小動物みたいな精霊の姿にも変化できる。


98@設定 ◆hCBYv06tno2013/08/19(月) 17:57:56.40TduCYbQsO (9/13)

イベント情報追加

・不幸にも、祟り場の影響で、ほたるの精霊の力が活発化してその一体が嵐のように風が吹き回っています。
・ほたるが制御しようと頑張っています。オトハをコレを制御できればほたるは成長するそうです。
・動物たちを引き連れて、動物まみれのオトハが楽しそうな音がする方へ向かっています。もしかしたら宴のところへ行くかも


99 ◆hCBYv06tno2013/08/19(月) 17:59:46.30TduCYbQsO (10/13)

以上です

途中、文を飛ばした場所ができてすいません…

動物まみれの音葉ちゃんを書きたかった。後悔はしてない……と思う…

音葉エルフカワイイよ


100VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 18:14:03.67ZGULqUhn0 (1/1)

乙です
花まみれに動物まみれ…大精霊…
ほたるちゃんマジがんばれ


101VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 18:23:29.94jxr60KD7o (1/1)

自然ってすばらしいなぁ(棒読み)


102VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 20:49:16.35v88YS+SWo (1/30)

頑張れほたる、負けるなほたる!
そして動物に好かれる音葉さんマジエルフ



しばらくしたら投下しますー


103@kanayama2013/08/19(月) 20:49:58.76v88YS+SWo (2/30)

トリが付いてなかった……

気を取り直して、今から投下します


104VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 20:50:24.46v88YS+SWo (3/30)

寝ぼけてるのかな……俺


105VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 20:51:05.2596RNEdtho (1/2)

これも憤怒Pってやつのしわざなんだ


106 ◆TAACIbOrYU2013/08/19(月) 20:52:31.85v88YS+SWo (4/30)

えー、トリを変更します

◆TAACIbOrYU→◆BOz7n64cFM


107 ◆sQTUkxsW.v7q2013/08/19(月) 20:53:04.06v88YS+SWo (5/30)

gdったけど、投下を始めるよ……


108VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 20:53:49.4596RNEdtho (2/2)

節子、酉違う


109 ◆sQTUkxsW.v7q2013/08/19(月) 20:54:01.15v88YS+SWo (6/30)

┌┴┐┌┴┐┌┴┐ -┼-  ̄Tフ ̄Tフ __ / /
  _ノ   _ノ   _ノ ヽ/|    ノ    ノ       。。
       /\___/ヽ
    /ノヽ       ヽ、
    / ⌒”ヽ,,,)ii(,,,r””” :::ヘ
    | ン(○),ン <、(○)<::|  |`ヽ、
    |  `⌒,,ノ(、_, )ヽ⌒´ ::l  |::::ヽl
.   ヽ ヽ il´トェェェイ`li r ;/  .|:::::i |
   /ヽ  !l |,r-r-| l!   /ヽ  |:::::l |
  /  |^|ヽ、 `ニニ´一/|^|`,r-|:


110VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 20:56:07.95TduCYbQsO (11/13)

落ち着くんだ!深呼吸して素数を数えるんだ!


111VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 20:57:10.59EdJMQ7dQ0 (17/28)

おちつくでごぜーますよ!?


112 ◆yIMyWm13ls2013/08/19(月) 20:57:30.70M3bHp+4+o (2/4)

笑っちゃったじゃないかwwwwww


113 ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 20:57:51.39v88YS+SWo (7/30)

現在のトリで行きます
本当すいません……


114肝試しの穴場スポット ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 20:59:08.79v88YS+SWo (8/30)

――辺りに厄が立ち込め、霧となり、

――暗雲の如く一帯を覆っている。

――もう日も昇ってしばらく経つが、

――光は遮られ、僅かばかりしか届かず、

――何とも言えぬ、うす暗く気味の悪い雰囲気に包まれた場所。

――――祟り場。


――偶発的に発生したこの異界は、

――悪霊が跳梁跋扈し、

――妖怪が百鬼夜行を繰り広げ、

――死神が右往左往する、

――混沌とした空間。

――人間にはすこぶる居心地の悪い、

――異形蔓延る彼岸の世界。

――そこに、

紗枝「これは、また随分と濃い瘴気どすなぁ……」


――妖怪退治屋、小早川紗枝が居た。


115肝試しの穴場スポット ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 20:59:35.65v88YS+SWo (9/30)

――今朝。

――小早川邸に、一つの依頼が届いた。


――『そちら、京都から離れた場所ではあるが、

――今日の未明から大規模な祟り場が発生している。

――ついては、専門家である妖怪退治屋の面々に、

――この異変の解決をお願いしたい。』

――というものだ。


――妖怪退治屋というのは、

――なにも京都にしか存在しない訳では無い。

――各地に、それぞれの退治屋、

――……もしくはそれに類する業種などが、

――いくらでもいる。

――わざわざ京都くんだりまで依頼の要請をせずとも、

――地元の専門家に頼めばいいだけの話だ。


――しかし、実際京都の退治屋は、

――他の地域の者より強い力を持ち、かつ、数も多い。

――結果、こういう事案が発生した場合、

――距離の近い遠いに関わらず、

――京都の退治屋が頼りにされる事が多いのだ。


116 ◆hCBYv06tno2013/08/19(月) 20:59:44.39TduCYbQsO (12/13)

気にしない気にしない


117肝試しの穴場スポット ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 21:00:02.76v88YS+SWo (10/30)

――だが、京都側にも京都側の都合というものがある。

――最近、妙に妖怪の現れる頻度が高いため、

――慢性的な人手不足に悩まされているのだ。

――当然、他に手を回す余裕など無く、

――今回の依頼も、小早川家以外は皆断っていた。

――そんな中……。

紗枝「まあ、うちが行って、ちゃっちゃと片付ければええかな」

珠美「ええっ!?」

西蓮『本気かよお嬢ッ!?』

――紗枝はこの話を受けるつもりでいるらしかった。


紗枝「そない驚くことやありまへんやろ」

珠美「いえ、今ただでさえ人が少ないのに……」

西蓮『頼みの綱のお嬢がここを離れるっつゥと、なァ……?』

紗枝「そやから、手早く終わらせてすぐに帰ってくるつもりどす」

珠美「そうは言っても……」

紗枝「あっ、そや、うちが居ない間のことは珠美はんにお任せします」

珠美「えっ」

西蓮『えっ』


118肝試しの穴場スポット ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 21:00:29.40v88YS+SWo (11/30)

――紗枝は、自分の補佐である珠美を高く評価していた。

――コツコツと実戦を積み、京での生活にも慣れ、

――更には最近、彼女の武器兼相棒である『西蓮』が、

――鬼神の七振り『餓王丸』と融合したことによる戦力の底上げがされた事もあり、

――戦闘に赴く際の紗枝の負担は

――ここの所、かなり減っていた。


――今の珠美になら、

――しばらくの間は、一人で任せても大丈夫だろう。

――そう判断した紗枝は、

――となると、依頼を断る理由も無いので、

――京都を留守にして、自身赴き、

――なるべく手早く片付け、さっさと戻ってくれば問題ない。

――と結論付けた。


119肝試しの穴場スポット ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 21:00:55.71v88YS+SWo (12/30)

珠美「たま……っ、自分には無理です!」

西蓮『そうだぜお嬢! 不安しかねェよ!』

紗枝「大丈夫、大丈夫」

――抗議の声を上げる二人に対して、

――特に根拠もなく大丈夫と答える。

紗枝「『縮地の法』を使うさかい、行き帰りはあっという間どす」

珠美「そういう問題ではなく……」

紗枝「それじゃあ、あんじょう頼みましたえ」

珠美「さ、紗枝殿っ……!」

――言うが早いか、

――紗枝は、何やら短く呪文を唱えると、

――一歩足を踏み出し、

――フッ……、と、その場から姿を消した。

――『縮地の法』を発動し、

――遠距離の移動を一瞬で行ったのだ。

――こうなったらもう何をしても無駄だ。

――既に紗枝は京都にはおらず、

――おそらく件の現場か、

――その周辺に到着しているのだろう。


珠美「……」

西蓮『……』

珠美「と、とりあえず任された以上は……」

西蓮『もう、やるっきゃねェな……』


120肝試しの穴場スポット ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 21:01:22.90v88YS+SWo (13/30)

紗枝「これは、また随分と濃い瘴気どすなぁ……」

――そして、今に至るのだが……。


紗枝(そない難しい問題や無いやろと高をくくっとったけど)

紗枝(ちょっと厄介かもしれへんな……)

――想像していた以上の状況に、

――紗枝は少々辟易する。


――『すぐに終わらせて帰る』。

――なにも見栄を張った訳でも何でも無く、

――自身の実力を他と比べて、

――……やや高めにではあるが、

――しかし、傲慢によるものではなく、

――歴とした自信を込めて、見積もり、

――しかし、それをも超える事態であると判断すると、

――少し、本腰を入れねば、と、

――気持ちを新たにする。

――……本来ならば、

――そのはずであった。


――……そんな紗枝の前に、

周子「ん? ……紗枝ちゃん?」

紗枝「え……、周子はん!?」

――最も集中を乱す存在が現れた事により、

――事態は……、

――主に、紗枝の心境に依るものが、

――大きく変貌する。


121肝試しの穴場スポット ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 21:01:49.67v88YS+SWo (14/30)

紗枝「あ……、あぅ……!」

――唐突に、

――何にも勝る意中の相手が現れた事によって、

――紗枝は完全なパニックに陥り、

――自身の成すべき事など瞬時に忘れ、

――とにかく、

――一人の女子として、

――髪が乱れていないか確認し、

――襟元を整え、

――袖口を確認し、

――裾を丁寧に正すと、

――改めて周子の方に向き直り、

――満面の笑みを浮かべ、

紗枝「偶然どすなぁ」

――と、社交辞令のような挨拶を交わす。


122肝試しの穴場スポット ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 21:02:17.14v88YS+SWo (15/30)

――一部始終を黙って見ていた周子はというと、

周子「そうだねー」

――と、下らない世間話のように、

――何気も無しに応えるが、

――内心、

周子(なに今の可愛い……)

――と、

――露骨に慌てふためく紗枝の姿に、

――微笑ましいものを感じていた。


周子「紗枝ちゃんはどうしてここに?」

――必死に身だしなみを取り繕う女の子に対して、

――それをわざわざ指摘するほど、

――周子は無粋ではない。

――咄嗟に話題を切り替える所などは、

――流石大人の女、といった貫禄だ。

――……公称は18歳ではあるが。


123肝試しの穴場スポット ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 21:02:43.59v88YS+SWo (16/30)

紗枝「うちは……、仕事の関係で」

周子「あー……」

――若干、紗枝は落ち着きを取り戻した様子で、

――周子の質問に応える。

紗枝「そういう周子はんは?」

周子「あたしはほら、お祭りを楽しみにね?」

紗枝「お祭り……、なぁ」

――周子の答えを聞くと、

――紗枝は改めて辺りを見回した。


――妖力に満ち、

――厄が溢れ、

――瘴気の飽和するこの祟り場。

――人ならざる者にとって、

――これほど心地良く、気分の昂揚する場はない。

――しかも、めったに起こる現象では無いし、

――中でも今回の規模はかなり大きい。

――となれば、

――イベント好きの人外達が、

――お祭り騒ぎに興じることも、

――また、仕方のないことであった。


124肝試しの穴場スポット ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 21:03:10.73v88YS+SWo (17/30)

紗枝「はぁ、骨が折れるなぁ」

周子「そういえば紗枝ちゃん、京都の方は?」

紗枝「珠美はんに任せとります」

周子「あー、珠ちゃんか」

――周子の脳裏にちびっ子アホ毛少女剣士の姿がよぎる。


周子「それよりさ」

紗枝「はい?」

周子「仕事って言ってたけど」

紗枝「そうどす」

周子「やっぱここ浄化しちゃう?」

紗枝「まぁ……、それはもちろん」

周子「ちょっと困っちゃうかなー、って」

紗枝「そうは言うても……」

――紗枝は依頼を請けて、

――この祟り場を浄化するため、

――仕事としてここまでやってきたのだ。

――しかし周子は、

――この祟り場でのお祭り騒ぎに乗じるため、

――志乃の誘いもあって、ここに遊びに来ていた。

――二人の目的は、

――見事に相容れないものであった。


125肝試しの穴場スポット ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 21:03:37.21v88YS+SWo (18/30)

周子「紗枝ちゃんはここまでどうやって来たの?」

紗枝「『縮地の法』を使って……」

周子「京都は珠ちゃんに任せてるんだよね?」

紗枝「はい」

周子「……式神も一緒、に?」

紗枝「……何かあってもわかるように」

周子「”何かあった”ら『縮地の法』ですぐに戻ればいい訳だ」

紗枝「……」

――紗枝にも、

――だんだん周子の言いたい事がわかってきた。


周子「ねぇ、紗枝ちゃん」


周子「――――サボっちゃわない?」


――それは、

――悪魔の囁きだった。


126肝試しの穴場スポット ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 21:04:04.14v88YS+SWo (19/30)

紗枝「そないな事……」

周子「許されない?」

周子「誰が許さないのかな?」

周子「今あそこに、紗枝ちゃんに逆らえる人っている?」

周子「ご当主様?」

周子「まぁ、あの人ならお小言くらいは言いそうだけど」

周子「『あたしが誑かしましたー』って言えば問題ないでしょ」

周子「ま、他の家から何か文句があったとして」

周子「紗枝ちゃん程の使い手の代わりなんていないし」

周子「結局は黙認されるだけ」

周子「京都ってそういう場所だしね」

周子「っていうかここ、京都からだいぶ離れてるし」

周子「紗枝ちゃんがサボってたとして」

周子「確認できる方法なんて無いでしょ?」

周子「京都は珠ちゃんに任せてある」

周子「いよいよ珠ちゃんが対処しきれなくなっても」

周子「式神が知らせてくれる」

周子「そしたら『縮地の法』ですぐさま戻ればいい」

周子「何も問題は無いよね」

紗枝「……」


127肝試しの穴場スポット ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 21:04:30.80v88YS+SWo (20/30)

――紗枝は厳しく育てられた。

――そんな紗枝に、周子は様々な悪事を教えた。

――――『サボり』。

――あえて適度に手を抜くことで、

――逆に、重要な場面でのパフォーマンスを保つ事。

――ほぼ詭弁だが、そういうガス抜きの方法もあるのだ、と。


周子「ねっ? ええやんええやん~、息抜きだと思ってさ」

紗枝「うぅ……」

――紗枝の心は揺れていた。

――いや、既に殆どは決まっている。

――正直に言えば、家の体裁などはどうでも良い。

――彼女にとって一番重要なことは、

――周子と一緒に居られる、ということ。

――ただ、あと少しの所で、

――踏ん切りが付かない……。

――何だかんだと言って、

――やはり、根は真面目な少女なのだ。


128肝試しの穴場スポット ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 21:04:58.07v88YS+SWo (21/30)

周子(うーん、しょうがないな~)

――紗枝が、すんでのところで思いとどまっている、

――と、見抜くと、

――少し背中を押してやろうと、思案する。


――周子は1000年以上生きた大妖怪だ。

――それも、謀略に長けた九尾の狐だけあって、

――よく舌が回る。

――よく頭が回る。

――よく手が回る。

――そして何より……。

紗枝「でも……」

周子「あたしは紗枝ちゃんとデートがしたいんだけどなー」

紗枝「……っ」


――人の心の弱点を突くのが上手い。


129肝試しの穴場スポット ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 21:05:24.83v88YS+SWo (22/30)

紗枝「ちょっと……」

周子「……ん?」

紗枝「ちょっと、だけやで……?」

周子「そうこなくっちゃ!」


――小早川紗枝。

――堕つ。


――周子は心の中で、

――グッ、とガッツポーズをとった。

                                 ,.へ
  ___                             ム  i
 「 ヒ_i〉                            ゝ 〈
 ト ノ                           iニ(()
 i  {              ____           |  ヽ
 i  i           /__,  , ‐-\           i   }
 |   i         /(●)   ( ● )\       {、  λ
 ト-┤.      /    (__人__)    \    ,ノ  ̄ ,!
 i   ゝ、_     |     ´ ̄`       | ,. '´ハ   ,!
. ヽ、    `` 、,__\              /" \  ヽ/
   \ノ ノ   ハ ̄r/:::r―--―/::7   ノ    /
       ヽ.      ヽ::〈; . '::. :' |::/   /   ,. "
        `ー 、    \ヽ::. ;:::|/     r'"
     / ̄二二二二二二二二二二二二二二二二ヽ
     | 答 |     コ ロ ン ビ ア       │|
     \_二二二二二二二二二二二二二二二二ノ


130肝試しの穴場スポット ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 21:05:53.34v88YS+SWo (23/30)

紗枝「そやけど、仕事せえへん訳にはいかんから」

紗枝「ちょっと付き合うたら、周子はんにも手伝ってもらいますえ」

周子「わかったわかった」

――結局、周子の説得に折れ、

――彼女に付いて歩く紗枝は、

――それでも、ある程度したら仕事に戻る。

――その時には、周子にも手伝いをしてもらう。

――という条件を取り付けて、

――祭りを楽しむことにした。


紗枝「……で、どこに向かってはるんどすか?」

周子「んー、とりあえずあたしの友達の所」

紗枝「ふーん……」

紗枝(なんや、二人っきりと違うんや……)

周子「そんなに残念そうな顔しないの」

周子「あたしにも付き合いってものがあるからさ」

周子「とりあえず紗枝ちゃんを紹介して」

周子「ちょっとお話するだけだから、ね?」

紗枝「そやったらええけど……」


131肝試しの穴場スポット ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 21:06:25.77v88YS+SWo (24/30)

――二人は、祟り場のとある一角にある、

――喧騒にまみれた公園に辿り着いた。

――そこで周子の友人、柊志乃が、

――見慣れぬ数人の少女と、小さな宴会を開いていた。


志乃「来たわね周子さん」

周子「おいっす~」

紗枝「どうも、初めまして」

志乃「あら、その子が周子さんの例の……」

――志乃は、周子の連れた紗枝を一目見ると、

――スッ……、と優雅に小指を立てて、

志乃「いい人、なのね? ふふっ……」

――小さく笑った。


132肝試しの穴場スポット ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 21:06:55.07v88YS+SWo (25/30)

紗枝「な……、なな……っ」

周子「あはは、まーね」

――ひどく動揺する紗枝とは裏腹に、

――事も無げに笑い返す周子。


周子「それよりもそっちの……」

周子「――”4人”、かな?」

周子「初めまして、だよね」

周子「志乃さんのお友達?」

――志乃と一緒に居る、

――菜帆と日菜子、

――……と、

――『ベルゼブブ』と『ニャルラトホテプ』。

――”4人”に対して、周子が挨拶をすると、

菜帆「初めまして~、海老原菜帆です~」

ベル『あらあら~、これはまた……』

日菜子「カップル登場ですかぁ……、しかも禁断の香りが、むふふ♪」

――それぞれが思い思いの挨拶? を返した。


133肝試しの穴場スポット ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 21:07:25.17v88YS+SWo (26/30)

志乃「一期一会の出会いも、お祭りの華じゃない?」

周子「あぁ、なるほどね……」

――何やらかなり強い力を感じる面子が、

――志乃と一緒にいるものだから、

――またぞろ、彼女の新しい友人かと思っていた周子だったが、

――どうやら、ただ偶然集まっただけらしい、とわかると、

――得心のいったように、ため息をついた。


周子「それじゃ、あたしたちも混ぜてもらおっかな」

菜帆「どうぞ~、開いてる場所に座ってください~」

周子「ほい、紗枝ちゃんはあたしの隣ねー」

紗枝「えと、はい……」

ベル『もうちょっと食べ物が必要かしら~?』

志乃「それよりお酒、呑むでしょう?」

周子「あー、そだね」

日菜子「あれ、周子さん、いくつなんですか?」

周子「えーっと、……いくつだっけ?」

志乃「私に聞かれても困るわ」


134肝試しの穴場スポット ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 21:07:52.28v88YS+SWo (27/30)

――旧支配者を内に秘める者。

――七罪悪魔の一角。

――大妖怪九尾の狐。

――若き最強の妖怪退治屋。

――未だ謎多き女性。


――祟り場にある小さな公園。

――その更に一角、

――強烈な面子が揃い、

――宴会に興じる。

――この場に居る全ての者が皆、

――同じ想いを抱いた。

――『恐ろしい集団だ』と。

――しかし、

――それはそれでいいスパイスだ。

――祟り場はこうでなければ。


――魑魅魍魎と、

――それに、しれっと紛れ込む人。

――彼らの織りなす混沌の狂宴は、

――今しばらく続く。


135 ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 21:08:22.53v88YS+SWo (28/30)

イベント情報

・祟り場に、京都から紗枝が来ました。

・周子も現れました。

・二人は合流しました。

・志乃さん、日菜子、菜帆(withベル)に
 紗枝、周子が加わりました。

・この二人はしばらくしたら別の場所に移動するかもしれません。

・多分、基本的には一緒に行動すると思います。


136 ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 21:09:59.56v88YS+SWo (29/30)

えー、大変お騒がせしました……
以上です

紗枝はん、京都より緊急参戦! しかし、しおみーに唆される、の巻!
あと、タイトルを付けてみるという試み

とりあえず、紗枝はんを今回のイベントに絡ませようと思ったら
志乃さんがしおみーを誘おうとしてたっぽいので
じゃあ、紗枝はんをしおみーと合流させて
既に志乃さんの所に日菜子と菜帆がいたので、もう全部合流させちゃえ! と

結果、かなり強力な面子が揃いました
というお話


137 ◆hCBYv06tno2013/08/19(月) 21:11:58.70TduCYbQsO (13/13)

乙ー

投稿中に投下してしまいすいません……


すごいメンバーそろったなwwww
そして、コロンビアに吹いたじゃないかwwwwww


138 ◆yIMyWm13ls2013/08/19(月) 21:15:45.38M3bHp+4+o (3/4)

乙乙!

コロンビアは反則。

祟り場の戦力で国がひとつ落とせるな。


139 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 21:19:41.76EdJMQ7dQ0 (18/28)

乙です!
コロンビアは卑怯

ネバーディスペアもいるし公園の戦力でどこかの軍数個分ぐらいになりそう…


140VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 21:26:51.951H67EsRlo (2/2)

日菜子(?)仮面取っちゃったんだっけ?


141 ◆cKpnvJgP322013/08/19(月) 21:31:35.44v88YS+SWo (30/30)

ああ、うん……
神の視点ということで一つ

気をつけてたつもりだったんだが……


142 ◆mtvycQN0i62013/08/19(月) 21:50:51.89Jv+tU3huO (1/1)



>>110
素数ときいて


143 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 23:13:29.14EdJMQ7dQ0 (19/28)

なつきち誕生日祝い投下するヨー


144 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 23:14:15.75EdJMQ7dQ0 (20/28)

「…朝からユニット取り出し口塞ぐってひどくないか…?…まさかアタシなんか不味い事したか?」

「だめー!きらり、夏樹ちゃんの質問に答えられませーん!」

「…マジか」

「マジだにぃ☆」

朝起きたらユニットの穴を全部塞がれ、取られないようにきらりに羽交い絞めにされていた。

何か不味い事をしたかと考えても記憶の限りでは全くない。

連絡アイコン以外何も見えない視界の中、取りあえず髪形とか服装をどうしようかと思案した。


145 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 23:14:56.39EdJMQ7dQ0 (21/28)

「だりーと奈緒は?」

「おむ…お出かけだってー!」

「…おむ…?」

「にょ、にょわー!とにかく!お着替えするにぃ!」

誤魔化された。

そのまま着替えさせられる。もう無駄な抵抗はやめた。

「せめて髪整えさせてくれ…」

「えー今の夏樹ちゃんの方がかわいーのにぃ…それにーきらりにはそれを決められないのー☆」

「そうかー決められないのかー…裏に誰かいるんだな?」

「…にょにょわにょわにょわー☆」

「誤魔化すなって…」

まあ十中八九李衣菜と奈緒だろうと心の中で結論を出す。理由は知らない。


146 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 23:17:02.72EdJMQ7dQ0 (22/28)

「むぇー…じゃあ、髪だけいいよーでも!ここから出ちゃ駄目だにぃー!」

「…」

穴を使えば出られるのだが…きらりも必死だし、まあ何かあるのだろうと思って止めた。

ユニットが一つ解放されて、視界が戻る。自分の髪形を確認して、取りあえずいつものように整えた。

「きらり、ちょっと離れるけど、絶対出ちゃだめだからねー!出たらきらり、メッ!ってしちゃう!」

「はいはい…」

滅っ!か…それは怖いなと脳内で適当なボケをしておきながら、一つだけのユニットを退屈しない程度に動かす。

ふと、昔は一つ動かすので精一杯だった事を思い出す。時間が経つのは早いのか遅いのか、よく分からない物だ。


147 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 23:18:12.24EdJMQ7dQ0 (23/28)

暫くして、きらりがやっと扉を開けた。

「さあ行きましょー☆」

きらりが夏樹を抱えて、リビングに出る。

「来た!」

ギュィィィィィィン!

パン!パン!パン!

「…なつきち!誕生日おめでとう!」

李衣菜がギターをかき鳴らし、クラッカーがはじけた。


148 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 23:19:10.16EdJMQ7dQ0 (24/28)

そこには意外な人物もいた。

「拓海!?美世!?何で…」

「誕生日ぐらい祝ってもいいだろ?丁度仕事も休みの日だったしよ。」

「李衣菜ちゃんにお誘い受けたの!」

「隠れ家だから言っていいか迷ったけど…この二人ならいいかなって…」

李衣菜が少し俯きながら言う。

「まぁとにかく!今日は名義上のリーダー以上にリーダーしてる夏樹に、感謝の気持ちを込めて、祝いたかったからさ!」

奈緒が箱を取り出し、李衣菜に手渡す。

「…なつきちに皆でプレゼント。ギターも考えたけど、相棒がいるもんね。」

そして李衣菜から、夏樹に手渡された。

「開けちゃう?開けちゃうー!?」

「落ち着けって…!開けるから!」

後ろからきらりが囃し立ててくる。

「…夏樹、随分…なんというか…姉っぽくなったな。」

「拓海も?あたしもそう思った…3人も妹がいる感じ?」

招待された二人は、変わっていないがどこか変わった夏樹をしみじみと見ていた。

「そっちはそっちで何言ってるんだよ!?」


149 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 23:20:24.92EdJMQ7dQ0 (25/28)

「まぁまぁ…取りあえず開けてみなよ!」

美世に促されて袋を開ける。

「!」

入っていたのはCD。昔…事故の前に持っていたCDを、何とか全部集めようとしていて…なかなか集められなかったCD。

その探していたCDが数枚入っていた。

「夏樹が探しても見つからないヤツだったから、さすがに全部は無理だったけどさ…」

「なつきちの教えてくれたCDもあるから…頑張って探したんだ。」

「ちょっとこっちのコネも使ってね♪」

「まさか、あの中で一番古いのを知り合いが持っていて、しかも譲ってもらえたのには驚いた…。」

「とにかくみーんな頑張ったのー☆」

きらりがそう言って、全員が照れくさそうに笑う。

「みんな…ホントにありがとな!」

それは夏樹も同じだった。


150 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 23:21:22.81EdJMQ7dQ0 (26/28)

「よーしじゃあみんな、きらりん☆お手製ケーキ食べてー!」

「…デカいな」

「食べきれなかったら奈緒ちゃんが食べると思ってー☆」

「なんでだよ!」

「ケーキ食べたいって前言ってなかったー?あとおうどん。」

「…言ってないと思うぞ?」

きらりと奈緒が妙な会話を繰り広げ、取りあえず夏樹が切り分ける。

「ほら、拓海も食えって!」

「言われなくても食うにきまってるだろ!」

「食べ過ぎたらトレーナーさんに叱られそうだけどね…」

「…そうだな」

取りあえずパーティは始まったばかりだ。


151 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 23:23:09.92EdJMQ7dQ0 (27/28)

オマケ
『あべななさんじゅうななさいとCD』

「CDを探しているの?」

「ああ、ダチが探してるんだ。」

夕美と菜々に、一覧を見せる。

夕美はさっぱりわからない様だが、菜々が反応した。

「…このアーティストのCD…ナナ、持ってますよ」

菜々が恐る恐ると言った感じで挙手する。

「ナナちゃん知ってるの?結構古いけど…」

「あ!え、えっと…ちょっと古いアーティストのCD集めていた時期がありまして!ナナはJKですからね!」

「まさか…譲ってくれるのか?」

「はい!もう結構聞きましたし、部屋の整理しようとしていましたから。あ、でも!ナナがこのCD持っていたことはあまり言わないでくださいね!」

「それは構わねぇけどよ…いいのか?」

「良いんですよ、CDもよく聞いてくれる人の所にあった方が幸せでしょうし!」

菜々がサムズアップをしながらウィンクする。

こうして、あのCDの一つが手に入ったのだった。


152 ◆zvY2y1UzWw2013/08/19(月) 23:24:22.40EdJMQ7dQ0 (28/28)

以上です
なつきち、誕生日おめでとー!(二度目)
急いで書き上げたから短くてゴメンな!


153 ◆tsGpSwX8mo2013/08/19(月) 23:28:44.39LvhURYJ5o (1/1)

乙です。

なつきち誕生日おめでとう!そしてウサミンェ……。


154 ◆yIMyWm13ls2013/08/19(月) 23:35:44.51M3bHp+4+o (4/4)

乙乙!

ちょっと古いアーティストのレコードを集めていた時期がありまして!
なんて言われたらどうしようかと……

なつきちおめでとう!


155 ◆tsGpSwX8mo2013/08/20(火) 00:08:24.253Ge6kGHko (1/11)

海底都市の話を投下します。


156 ◆tsGpSwX8mo2013/08/20(火) 00:09:01.173Ge6kGHko (2/11)

海底都市の外れにある戦闘外殻研究所。

そこに、二人の女性が向かっていた。

一人は、海皇ヨリコ。そしてもう一人はその護衛、サヤ。

サヤは不満そうに口を尖らせ言った。

「ヨリコさまぁ、何であんな奴にアビスエンペラーの調整を頼んだですかぁ」

「どうして、とは?」

ヨリコが聞き返す。

今彼女たちが向かっている戦闘外殻製作所とは、海皇ヨリコの命で戦闘外殻やイワッシャーなどのロボットの研究や作成を行う場所だ。

そして、ヨリコがこの研究所に一人ですんでいる科学者に自らの戦闘外殻であるアビスエンペラーの調整を依頼しに行くのだが、サヤは内心穏やかではなかった。

「彼は私が信頼している科学者です。なにも心配は入りませんよ」

「でもぉ…」

サヤはヨリコがそういっても、やはり不満そうだ。

あいつはなんだか気にくわない。

サヤは一度しかその科学者と会っていないが、その科学者を毛嫌いしていた。

ヨリコはサヤがグズるのを見て、呆れたように言った。

「そこまで嫌なら、別に来なくてもよかったのに」

サヤは慌てて、

「い、嫌な訳じゃありませんよぉ。ヨリコ様の護衛もありますしぃ」

それに、あんな気味の悪いやつのもとに一人で行かせられるもんですか。

サヤは心中でそう思った。



157 ◆tsGpSwX8mo2013/08/20(火) 00:09:41.793Ge6kGHko (3/11)

そうしてしばらく歩いていると、研究所にたどり着いた。

ヨリコが研究所のドアの前にたつと、待ち構えてたかのように、中から人が出てきた。

それは、白衣を纏った猫背の男性だった。手には白い手袋をはめ、顔には何故か白いホッケーマスクを被っている。後ろで束ねた長い黒髪には白いものが混ざっていた。

「こんにちは、ドクターP。お出迎えご苦労様です」

ヨリコが恭しく頭を下げると、ドクターPと呼ばれる男が声を出す。くぐもって聞き取りにくい声だ。

「あぁ、これはこれはヨリコ様。どうぞ、中にお入りください」

ドクターPが中にはいるように促すと、ヨリコとサヤは中に入り、サヤが後ろ手にドアを閉めた。



158 ◆tsGpSwX8mo2013/08/20(火) 00:10:50.723Ge6kGHko (4/11)

「では、よろしくお願いしますね。アビスエンペラーの方はおってそちらに届けますので」

そういうと、ヨリコはもうひとつ付け加えた。

「そういえば、この前依頼した、イワッシャーの強化と新型の戦闘外殻の方はどうなっていますか?」

「戦闘外殻の作成は終わったのですが、イワッシャーの方がまだでして……」

「いえ、いいんですよ、こちらも無理をいってしまって、申し訳ありません」

「いえいえ、私も好きでこの仕事をやっているわけですから」

二人が、笑いながら談笑するのを横目に、サヤは思った。

アビスエンペラーの調整を依頼するといっていたが、アビスエンペラーはまだ調整なんて必要ないはず。そもそもあれは、古の龍の力がなければ動くことさえできないはず……。

それに、

『地上侵略だなんて……本当はしたくない……!』

あのときヨリコが言
ったあの言葉がやはり気にかかった。

隣に座るヨリコをみて思う。

ヨリコ様。もしなにか隠し事をしているのなら、何でいってくれないんですかぁ?


159 ◆tsGpSwX8mo2013/08/20(火) 00:11:29.773Ge6kGHko (5/11)

ミスった。上のレス前にこれを


160 ◆tsGpSwX8mo2013/08/20(火) 00:12:19.653Ge6kGHko (6/11)

ドクターPが研究所の応接間のソファーに二人を座らせると、その向かいにドクターPも座った。

「なにか飲み物は?」

「結構です」

「どうぞ、お構い無く」

二人とも要らないと分かると、早速ドクターPは本題に入った。

「それで?今回はどのようなご用件で?」

「戦闘外殻アビスエンペラーの調整をお願いしたいのです」

そういうと、ドクターPは意外そうに声をあげた。

「あれの調整を私に、ですか?」

「はい」

「無理ならいいんですよぉ」

ドクターPにサヤが挑発するように言った。サヤこの白い科学者に対して、妙に喧嘩腰だ。

「サヤ」

ヨリコが戒めるように言った。

再び、ドクターPに顔を向けると、

「引き受けてもらえますか?」

ドクターPはそれに答えた。

「えぇ、喜んで。偉大なる海皇ヨリコ様のご命令となれば私、喜んでお引き受けしましょう」

ドクターPの頼もしい台詞に、ヨリコは微笑んだ。



161 ◆tsGpSwX8mo2013/08/20(火) 00:13:26.323Ge6kGHko (7/11)

その後、ヨリコとサヤが研究所から出ていくのを見届けると、ドクターPの後ろから声が聞こえた。

「ヨリコ様からアビスエンペラーの調整を依頼されたのね?わかるわ」

それを聞いて、思わずドクターPは吹き出した。

「くくくくくく。『依頼された』?『依頼させた』の間違いじゃねえのかぁ?海竜の巫女さんよぉ」

ドクターPは先程とはうってかわって、乱暴なしゃべり方で後ろにいる海竜の巫女に話しかける。

「さぁ、なんのことかしら」

「はっ!惚けるつもりかよ。どうせ、またお得意の催眠とやらでヨリコにここまで来るように仕向けたんだろぉ?」

「さぁ、どうかしらね」

海竜の巫女に向き直るドクターP。

「まぁいい。俺は自分の研究ができればそれでいい。で?俺は今回何をすればいい?」



162 ◆tsGpSwX8mo2013/08/20(火) 00:14:58.933Ge6kGHko (8/11)

そう訪ねるドクターPに海竜の巫女はあるものを手渡した。

「また、カースの核か」

それは、禍々しい色の球体、カースの核だった。

「この前スパイクPの戦闘外殻にも仕込んだが……。同じ奴か?」

「ええ。でもそれはただの核じゃない。今回の計画の核でもあるのよ」

そこで区切ると、続けていった。

「それをアビスエンペラーに埋め込んでちょうだい」

「了解した」

ドクターPはそれをあっさり引き受けると核を受け取った。

ドクターPは海竜の巫女に向き直る。

「そうそう、この前言ったあれだが、どうだ?手に入ったか?」

「えぇ、ここに」

いつの間にか、海竜の巫女の横には一人の人間の男が横たわっていた。気絶しているのか、動く気配はない。


163 ◆tsGpSwX8mo2013/08/20(火) 00:16:02.533Ge6kGHko (9/11)

「なんだ、一人だけか」

「何人もいっぺんに連れてくるの、大変なのよ」

この男は実は色欲のカースドヒューマンで、彼女の本体の職場で働いている教師なのだが、それをドクターPは知らない。

「まぁいい。ご苦労」

そういって、彼は自らの戦闘外殻を呼び寄せた。

「ヒュドラ」

するとどこからともなく長い海蛇のような戦闘外殻が現れ、男を飲み込むと、研究所の奥に引っ込んでいった。

それをみて海竜の巫女は言った。

「カースドヒューマンと戦闘外殻の融合実験、だったかしら?」

「あぁ、そうだ」

「カースドヒューマンと戦闘外殻を融合させることで、イワッシャーにかわる兵士にする実験……そううまくいくのかしらね」

それを聞くと、ドクターPは可笑しそうに笑った。

「うまくいくに決まっている!何せ俺が作るんだからなぁ!ヒャァハハハハハ!」

ドクターPは不気味に笑いながら、研究所の奥に引っ込んでいった。



164 ◆tsGpSwX8mo2013/08/20(火) 00:16:33.293Ge6kGHko (10/11)

一人残された海竜の巫女は呟いた。

「わからないわ、君の悪い男……」

まぁ、アビスエンペラーに核を仕込めば、計画の完了までもうすぐだ。それまで、存分に利用させてもらうとしよう。

海竜の巫女は研究所の扉を開き、出ていった。



165 ◆tsGpSwX8mo2013/08/20(火) 00:17:29.543Ge6kGHko (11/11)

アビスエンペラー
海皇ヨリコが自分専用に産み出した戦闘外殻。
その姿は、ウェンディ族の守護神であるプレシオアドミラルを模している。
プレシオアドミラルの魂が憑依して動き出す為他の戦闘外殻と違い、プレシオアドミラルの声と口調で話す。
戦闘時には大剣・長槍・鈍器・重砲と姿を変える万能兵装を右腕と一体化させ戦う。

デメリット 古の竜族が出ないと出せない


ドクターP

職業
科学者

能力
イワッシャーや戦闘外殻の作成、強化

詳細設定
海皇ヨリコの命で戦闘外殻やイワッシャーの強化と作成を行う研究者。常に白いホッケーマスクを被り、胡散臭さ全開だが、ヨリコからは信頼されている。普段は理性的な性格を装っているが、本性は冷酷かつ残忍で、戦闘外殻の強化と作成のことしか考えていないマッドサイエンティスト。海竜の巫女と裏で手を組んで良からぬことをたくらんでいる。ドクターPのPはperfidy(裏切り)のP

ヒュドラ

ドクターPが自分用に作った戦闘外殻。ドクターP曰く、『取って置き』
海蛇をモチーフにしている。ドクターPの手によって魔改造されており、粉々に砕けても、欠片が少しでも残っていれば再生できる。

アビスキラー

ドクターPがヒュドラをウェイクアップした姿。
装備者の身体能力を大幅にあげる。蛇の胴体から頭までを模した両腕は伸縮自在で、牙には強力な毒が塗ってある。また、対象物を丸のみにして捕獲する事もできる。

カースドアビス計画

ドクターPがヨリコに隠れて行っている実験。カースドヒューマンと戦闘外殻を融合し、イワッシャーに変わる新たな兵器にする実験。


166 ◆tsGpSwX8mo2013/08/20(火) 00:21:50.05ptIxaWKno (1/1)

これにて投下終了です。途中ミスをしてしまい、申し訳ありません。

イベント追加情報
・ドクターPと海竜の巫女が良からぬことをたくらんでいます。
・ドクターPがカースドヒューマンを使って良からぬことをたくらんでいます。
・スパイクPの戦闘外殻にはカースの核が埋め込んであります。
・サヤがヨリコを変だと感じ始めているようです。


以上です。お目汚し失礼しました。


167 ◆hCBYv06tno2013/08/20(火) 00:34:40.49zSyn+HTJO (1/19)

お二方乙です!

なつきち誕生日おめでとー!
そして、あべななさん必死すぎwwww

ドクターP良いキャラしてるなー。嫌いじゃないわ
カースドアビス計画……なんかカッコイイ


168 ◆zvY2y1UzWw2013/08/20(火) 00:37:51.80sVPqGs6o0 (1/3)

乙です
どんどん洪水イベントが恐ろしい事になりそうでオラビクビクしてきたぞ!
教師誘拐されてるぅ…色欲になったクズ教師っぽいけど


169 ◆6I9SwHc8xc2013/08/20(火) 00:57:25.14b0CoAhBt0 (1/3)

アビスエンペラー絡みは恐竜王女小春ちゃんと愉快な仲間達(仮)が登場してからが本番かな?
期待せざるを得ない……


170 ◆rXUHEibmO22013/08/20(火) 01:45:55.23lJCIOuUQO (1/1)

ドクターPのこと憤怒Pの分身かなんかかと思っちまった


171 ◆llXLnL0MGk2013/08/20(火) 11:31:31.59uZzA9il80 (1/12)

おっつし☆
濃厚なさえしゅー!さえしゅー!
遅くなったけどなつきちおめでとう!
今の所海底都市内ではサヤが頼みの綱……頑張れ、マジで

アビスエンペラーのデメリットを打ち消す投下始めるよー


172 ◆llXLnL0MGk2013/08/20(火) 11:33:23.64uZzA9il80 (2/12)


――街で狼型カースがある少女に討伐されたのとほぼ同時刻。

アパートのとある一室に一人の青年が入っていった。

??「おーう、ブラキオ、プテラ。帰ったぞ」

ブラキオ「遅かったなティラノ」

ブラキオと呼ばれた初老の男は新聞から目を離し、ティラノに目を向ける。

ティラノ「ああ、カースが出て避難誘導がな。なんか女の子が倒したらしいが……」

プテラ「ねえねえティラノ、その子可愛かった?」

ティラノ「俺は見てねーよ……ホント性欲魔人だなお前は」

読んでいた雑誌をベッドに放って話しかけてくる少年に、ティラノは呆れ顔で答えた。

??「あ~、ティラノおにいちゃんお帰りなさいです~」

部屋の奥から、大きなトカゲを抱きかかえた少女がトテトテと寄ってきた。

ティラノ「ああ、ただいま帰りましたプリンセス。いい子にしてましたか?」

??「ヒョウくんといい子にしてました~」

少女はそう言って抱いているトカゲの頭を撫でる。



173 ◆llXLnL0MGk2013/08/20(火) 11:34:13.14uZzA9il80 (3/12)

ティラノ「偉いですね、プリンセス。そんなプリンセスにお土産がありますよ」

ティラノはそう言って手に提げていたビニール袋からプリンを一つ取り出した。

??「わぁ~、プリンです~! ティラノおにいちゃんありがとうです~」

ティラノ「夕飯の後ですよ? これは冷蔵庫に入れておきます」

彼女の名はコハル。彼らの主だ。そして、抱きかかえているトカゲがヒョウくん。

ティラノ「それよりブラキオ、プレシオの奴はまだ見つかんねえのか?」

買ってきた物を冷蔵庫にしまいながら、ティラノはブラキオに問いかける。

ブラキオ「うむ。先ほどから近辺をトカゲ達に捜索させているが……どうやら付近にはいないようだ」

プテラ「ボクも一回空から探してまわったけどね。やっぱり近くにはいないよ」

ティラノ「ああもうあのアホ! 一体どこ行きやがったんだ……」

ティラノがイライラして頭をかきむしる。

コハル「プレシオおにいちゃん、魔界の海で遊んでてずっと行方不明です~」

ブラキオ「うむ。その時生じた魔力の乱れから、この人間界に転移した事は辛うじて分かったのですが……」

ブラキオは言葉を切り、ため息を吐く。と、

「わー!」「きゃー!」「ひー!」

プテラ「ん。なんか外が騒がしいね」

ティラノ「行ってみるか」

――――――――――――
――――――――
――――


174 ◆llXLnL0MGk2013/08/20(火) 11:35:14.94uZzA9il80 (4/12)

――――
――――――――
――――――――――――

人々が慌てふためき、我先にと逃げ惑う。

彼らの視線の先には、一頭の大きなゴリラがいた。

しかし、ただのゴリラではない。体表は泥の様に流れ続け、瞳は深紅に染まっている。

ゴリラの姿をした、獣型カースだった。

ティラノ「カース……なのか?」

『グルルルルルルルルル……グオオオオオオオオオオオ!!』

ゴリラのカースが激しくドラミングを始める。

周囲に大きな衝撃が走り、アスファルトにはヒビが入っていく。

プテラ「うわわっ! あーもう、ムカつくなーアイツ!」

ティラノ「同感だな……ブラキオ! プリンセス連れて下がってろ!」

ブラキオ「うむ! さ、プリンセス、こちらへ……」

コハル「は、はい~」

言われた通りにブラキオはコハルを連れ後ろに下がる。

『グルルロロ……』

ゴリラのカースはティラノ達の方をじっと見ながら唸っている。

ティラノ「何見てンだよエテ公……喰うぞ!」

プテラ「久しぶりに……暴れるぞぉ!」

二人の頬に鱗のような物が浮き上がってきた。

同時にティラノの手には鋭い鉤爪が、プテラの腕には大きな翼が生えてきた。

更に二人の瞳が、爬虫類を思わせるような縦に細長いものに変化した。

ティラノ「ウゥゥガァァァァァァァァァアアアア!!」

プテラ「ギャオオォオオォォォォォォォォォォ!!」

ティラノが大地を蹴り、プテラが風を切り、カースへ向かっていく。

その姿はさながら、古代の地球を支配した種族、「恐竜」。


175 ◆llXLnL0MGk2013/08/20(火) 11:36:27.03uZzA9il80 (5/12)

ティラノ「どぅおりゃあ!!」

ティラノの鋭い鉤爪がカースの腕に食い込む。

『グロロロロロロロァァァァァァァァ!!』

カースの振り回した腕がティラノに直撃する。

ティラノ「ぐぁっ……テメェ!」

プテラ「ティラノどいて! ボクがやっつける! かぁっ!」

プテラが上空から踵落としを仕掛けるも、それもまた腕に阻まれた。

プテラ「嘘っ!? うぎゃっ!」

足を掴まれたプテラは、そのまま地面へ叩きつけられた。

『ゴォォォォォォォォォォォォォォッ!!』

ブラキオ「……くっ! プリンセス、お下がりください。ここは私が……」

ブラキオの頬にも鱗の様な物が浮かび、瞳も縦長に変化する。

そしてブラキオの額の一部がコブのようにせり出してきた。

ブラキオ「むむむむ…………」

ブラキオはその場を動く事無く、カースと戦う二人を見つめ続けている。

ティラノ「くっそ、おらぁ!」

ティラノは懲りずに鉤爪を振るうが、悉く頑丈な腕に阻まれる。

『グロロロロロ!!』

カースが口から泥をマシンガンのように吐き出し、プテラを地面に叩き落した。

プテラ「うわっ、もう!」

ブラキオ「…………よし、視えた! ヒョウ坊、一時プリンセスを任せる!」

ブラキオは叫ぶと二人の元へ駆け出した。

ティラノ「ブラキオ! 見えたのか!?」

ブラキオ「うむ、奴は知能自体は低い。弱点である核を本能だけで護りに行っている」

プテラ「で、その核は!?」

ブラキオ「奴の動きから見て、左肩に相違あるまい」

ティラノ「左肩か! しかしあの腕をどうにかしねえと……」

ブラキオ「腕は私が押さえる! プテラは泥の弾を引き付けよ! その間にティラノが核を討て!」

プテラ「オッケイ!」

ティラノ「頼むぜ、二人とも!」


176 ◆llXLnL0MGk2013/08/20(火) 11:37:33.79uZzA9il80 (6/12)

ブラキオの指示で二人は配置についた。

『グロロロロロォォォォォォォ!!』

カースの正面に立つブラキオに向けて、二つの拳が振り下ろされる。

ブラキオ「……ふぅんぬ!!」

ブラキオは少しも臆さず、それをガッと掴み押さえた。

『グロ!?』

驚くカースの目の前をプテラが飛び去っていく。

プテラ「へっへーん、こっちだよー!」

『グルルルルルルルルル!!』

挑発に怒ったカースはプテラへ向けて泥の弾を連射した。

プテラ「あははははっ、さっきみたいに不意突かれなきゃ当たりっこないよ!」

プテラは空中を踊るように泥の弾をかわしていく。

最早、カースの視界にはプテラしか映っていない。

ブラキオ「今だティラノ! やれ!!」

ティラノ「言われなくても!!」

ティラノが左側からカースに向けて突進していく。

途中でカースもティラノの存在に気付き振り向くが、時既に遅し。

ティラノ「ガオォォォォォォォォォォォォッッッ!!」

ティラノはカースの左肩に喰らいつき、勢いに任せて核を噛み砕いた。

『グ、オォォォ……』

カースの体がシュウシュウと煙を上げて消えていく。

ブラキオ「……うむ、作戦成功だ」

ティラノ「ぺっぺっぺ。……まっじい」

プテラ「うわっ、ばっちい。こっちに吐かないでよ」

ティラノが吐き出した核の破片もまた、煙と共に消えていった。


177 ◆llXLnL0MGk2013/08/20(火) 11:38:27.24uZzA9il80 (7/12)

コハル「みんなお疲れ様です~」

安全を確認してか、コハルが三人のもとにトテトテと駆け寄ってくる。

プテラ「あ、プリンセスちゃん怪我無かった?」

コハル「大丈夫ですよ~。ねえヒョウくん」

ヒョウくん「…………」

コハルの問いかけに、ヒョウくんが黙ってうなずく。

ティラノ「相変わらずヒョウの奴は何考えてるか分からん……」

コハル「あ、そうです~」

何かを思い出したようにコハルが口を開く。

コハル「みんなすごく頑張ったから、ご褒美にコハルがぺろぺろしてあげます~」

ティラノブラキオプテラ「「「!?!?!?」」」

コハルの発言で三人が凍りつく。

コハル「どうかしましたか~?」

ブラキオ「こほん。えー、プリンセス。お気持ちは大変嬉しいのですが、こんな屋外でそれをされては、
    我々はまたしてもこの世界の国家権力のご厄介になってしまいます。どうか部屋の中で……」

ティラノ「あれは……嫌な事件だった……」

プテラ「通報した人もやってきた青い服の人も、すごい侮蔑の目で見てたね……」

三人の顔がみるみる青ざめる。

コハル「分かりました~。じゃあおうちでぺろぺろです~」

ティラノブラキオプテラ「「「ほっ……」」」

三人は安堵の息をもらすと、コハルに続いて部屋に帰っていった。

――――――――――――
――――――――
――――


178 ◆llXLnL0MGk2013/08/20(火) 11:39:28.89uZzA9il80 (8/12)

――――
――――――――
――――――――――――

――海底都市のほぼ中央部に存在する、海神の神殿。

現在ヨリコは一人でその奥へと進んでいた。

手には作物を満載した豪華な皿を持って。

やがて長い廊下を抜け、ヨリコは開けた場所に辿り着く。

そこには、大仰な台座の上に巨大な竜の亡骸が安置されていた。

ヨリコ「海神、プレシオアドミラル様。今月の捧げ物を持って参りました」

ヨリコは皿を台座の前に置くと、そのまま片膝をついて歌を歌い始めた。

ヨリコ「……♪ …………♪ ……♪」

静かで、厳かで、柔らかな歌声。

ヨリコの口から、海神プレシオアドミラルへ捧げる祈り歌が紡がれる。

ヨリコ「…………♪ ……では、海神様。本日はこれにて失礼いたします」

うやうやしく頭を下げて、ヨリコは部屋を後にした。

……

??『……はぁーあ、相変わらず健気な美少女だこと』

誰もいないはずの部屋に、声が響く。

??『ったく、健気で真面目で一途で……指導者の鑑っつーか何つーか』

??『だからこそ……かね。あんな怪しい女にコロっと騙されちまうのは』

??『俺様が自由に動けりゃあ、忠告の一つでもしてやれるんだが……無駄かね、アイツ頑固だし』

??『くそっ、この妙な呪詛さえ破れればよう……』

声の主――プレシオアドミラルはそれきり黙りこくり、部屋には再び静寂が訪れた。

続く


179 ◆llXLnL0MGk2013/08/20(火) 11:40:21.64uZzA9il80 (9/12)

・コハル(古賀小春)

職業
魔界人

属性
古の竜のプリンセス

能力
古の竜の使役

詳細説明
太古の魔界を支配した古の竜のプリンセス。
ある日突然いなくなったプレシオを探すために人間界へと来訪した。
本人に戦闘力は無いが、古の竜の戦士団が彼女を手厚く護っている。
配下へのご褒美はぺろぺろ。

関連アイドル(?)
ティラノ(配下)
ブラキオ(配下)
プテラ(配下)
プレシオ(配下)
ヒョウくん(配下)

関連設定
古の竜

・ヒョウくん
形式上はコハルの配下。
しかし何を考えているか分からない、古の竜のどの種族かもはっきりしないなど、謎の多い存在。

・ティラノシーザー

職業
魔界人

属性
古の竜の戦士団

能力
半竜、超竜への変化

詳細説明
「牙の一族」を代表する戦士団の一員。【古竜大帝】。
自他共に認める特攻隊長で、戦士団の中でも彼の戦績は著しい。
半竜状態だと鉤爪や顎の力が強化され、超竜状態は巨大なティラノサウルスの姿になる。
人間態の外見は某天ヶ瀬さんに似ている。

関連アイドル
コハル(従事)
ブラキオ(仲間)
プテラ(仲間)
プレシオ(仲間)



180 ◆llXLnL0MGk2013/08/20(火) 11:41:21.70uZzA9il80 (10/12)

・ブラキオジェネラル

職業
魔界人

属性
古の竜の戦士団

能力
半竜、超竜への変化

詳細説明
「鎧の一族」を代表する戦士団の一員。【竜脚将軍】。
直接前線に立つよりも後方での指揮を得意とし、彼が指揮を取る戦は負け無しとまで謳われた。
半竜状態で洞察眼と怪力が発揮され、超竜状態で巨大なブラキオサウルスになる。
人間態の外見は某伊集院さんの十数年後、といった感じ。

関連アイドル
コハル(従事)
ティラノ(仲間)
プテラ(仲間)
プレシオ(仲間)

・プテラマーシャル

職業
魔界人

属性
古の竜の戦士団

能力
半竜、超竜への変化

詳細説明
「翼の一族」を代表する戦士団の一員。【翼竜元帥】。
才能に溢れた若き戦士だが妙に性欲が強く、「お姉さん、ボクのタマゴ産まない?」は彼のキメ台詞。
半竜状態で腕が翼になり、超竜状態で巨大なプテラノドンになる。
人間態の外見は某御手洗さんに似ている。

関連アイドル
コハル(従事)
ティラノ(仲間)
ブラキオ(仲間)
プレシオ(仲間)


181 ◆llXLnL0MGk2013/08/20(火) 11:42:26.76uZzA9il80 (11/12)

・プレシオアドミラル

職業
魔界人

属性
古の竜の戦士団

能力
半竜、超竜への変化

詳細説明
「海の一族」を代表する戦士団の一員。【首長提督】。
かつて魔界の海を一人で制覇した勇者だが、性格は意外と俗っぽい。
事故で人間界の海へ転移し、そのまま流れでウェンディ族の守護神として崇め奉られる。
超竜状態は巨大なプレシオサウルスの姿だが、人間態になった事がない為半竜状態も不明。

関連アイドル
コハル(従事)
ティラノ(仲間)
ブラキオ(仲間)
プテラ(仲間)
ヨリコ(気にかける)

・古の竜
太古の魔界を支配していた、恐竜に似た姿を持つ竜の一族。
「牙の一族」「鎧の一族」「角の一族」「翼の一族」「海の一族」に別れており、
それぞれの中で特に優れた力を持つ者達が「戦士団」への入団を許可される。

・ゴリラ型カース
狼型と同じ経緯で産まれた獣型カースの一体。
知能は極めて低いが力は非常に高い。

・イベント追加情報
海底都市の神殿でプレシオアドミラルが呪詛により封じられています。


182 ◆llXLnL0MGk2013/08/20(火) 11:45:19.16uZzA9il80 (12/12)

以上です
言い忘れましたが、小春ちゃん及び古の竜達の設定は
まとめwiki内掲示板の没ネタスレより拝借しました


183VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/20(火) 11:48:06.22/Y7kQV9BO (1/1)

おつ

俺も配下になればぺろぺろしていただけるんですか


184 ◆hCBYv06tno2013/08/20(火) 11:54:40.24nr4dthhK0 (1/1)

乙ー

ちょっと小春ちゃんの部下になってくる


185 ◆tsGpSwX8mo2013/08/20(火) 11:59:00.15snINJgWWo (1/2)

乙です。

海底都市が色々ヤバイ。

あと、今更ですが、私が上で書かせていただいたアビスエンペラーはwikiの掲示板の没ネタスレで◆llXLnL0MGkの考えたものをお借りしました。説明が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。


186 ◆tsGpSwX8mo2013/08/20(火) 12:01:57.39snINJgWWo (2/2)

あっ、氏が抜けてた…。かさねがさねすいません。


187VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/20(火) 12:04:53.58f80wmpMu0 (1/1)

乙です
まさかのジュピター風w
国家権力のお世話になったのか…w


188 ◆6I9SwHc8xc2013/08/20(火) 12:10:43.71b0CoAhBt0 (2/3)

おっつおっつ☆

半竜……半分だけ竜……つまりこういうことか!
半竜形態:ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org4422975.jpg
超竜形態:ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org4422976.jpg


189 ◆kaGYBvZifE2013/08/20(火) 12:11:18.73b0CoAhBt0 (3/3)

酉ミスは実際ケジメ案件である


190VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/20(火) 12:14:13.64f79Wmad7o (1/39)

乙乙

小春ちゃんにペロペロされるっていうならこの身が竜になるのも……!

ところで今日鯖落ちする日じゃなかったっけ?


191VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/20(火) 14:12:15.64L7/D3onh0 (1/1)

古の竜たちは魔界の情勢にどれくらい関わっていたのかな?
現在の龍族とは違うとはいえ、魔族から見ても油断ならぬ連中だと思うが


192VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/20(火) 14:23:24.898pAq0ODq0 (1/1)

キバさんや薫ちゃんとかとの仲か…
薫ちゃんと小春ちゃんは仲良しだといいなぁ


193 ◆llXLnL0MGk2013/08/20(火) 14:25:46.23o1YedBRAO (1/2)

>>191
魔界における氷河期的なものを嫌って地下に潜って暮らしていたイメージで書いてます
氷河期的なものが終わってから魔族や竜族が繁栄した感じで


194 ◆hCBYv06tno2013/08/20(火) 15:42:30.65zSyn+HTJO (2/19)

憤怒の街投下します!


195 ◆hCBYv06tno2013/08/20(火) 15:43:01.23zSyn+HTJO (3/19)

憤怒の街

数時間前まで裕美と憤怒の翼竜が激闘を繰り広げていた場所。

半壊したビルを中心に、沢山の瓦礫が散らばっていて、戦闘の傷痕が見てとれる。

そして、その結果。憤怒の翼竜は一人の少女と魔力管理人から授かった使い魔の前に敗れた。

ガタッ……


196 ◆hCBYv06tno2013/08/20(火) 15:44:41.76zSyn+HTJO (4/19)









ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ











197 ◆hCBYv06tno2013/08/20(火) 15:45:35.96zSyn+HTJO (5/19)

……筈だった。

半壊したビルは大きく揺れだしたのだ。

『グオォォォォォォォォォォオォオ!!!!!!!』

その半壊したビルの下から雄叫びを這い上がる一匹の大型カース。

……そう。憤怒の翼竜だ。

だが、その姿はズタボロで、顔はもはやグチャグチャのゾンビのようになっていて、その両翼はもはや飛ぶ事はおろかその面影さえもなく、自慢の硬い鱗は剥がれ、ヒビ割れて今にも砕けそうな核がむき出しになり、泥で構成された身体からピチャピチャも黒い液体が零れていた。

何故こんな状態でも生きていられるのは、憤怒の街の影響か?はたまた自分をこんな目に合わせた少女への怒りからなのか?

それはわからない。


198 ◆hCBYv06tno2013/08/20(火) 15:47:02.27zSyn+HTJO (6/19)

『グオォォォォォォォォォォオォオ!!!!!!!』

翼竜は、怒りの思うままに、火山が噴火し、天を貫くような雄叫びをあげた。

---俺はまだ生きている!よくも俺をこんな目に合わせたな!!

---覚悟しろ!!テメーらも同じ目にあわせてやる!!!

まるで、そう言っているかのようだった。

再び憤怒の街に翼竜の驚異が襲いかかる。

                        ズルッ

………はずだった。


199 ◆hCBYv06tno2013/08/20(火) 15:47:56.11zSyn+HTJO (7/19)

『!?』

突然、地面から這い出して来る巨大な黒い影。

それは地下に待機している筈の≪嫉妬の蛇龍≫の本体だ。

更に蛇龍を中心に何体もの≪分身体≫が湧き上がってくる。

蛇龍は弱っている翼竜を見ると、裂けている口を、ニヤッと歪ませた。

次の瞬間、分身体が一斉に翼竜に襲いかかった。


200 ◆hCBYv06tno2013/08/20(火) 15:49:00.60zSyn+HTJO (8/19)

『!?………グォッ!?……』

突然の襲撃に、憤怒の翼竜は虚をつかれた。

ただでさえ、ボロボロの身体を分身体達によって、更に破壊されて行く。

だが、ただでやられる翼竜ではない。満身創痍とはいえ、その力は健在だ。

身体を回転させ、自分に、襲いかかった蛇龍達を吹き飛ばし、口からカース弾を発射し迎撃していく。


201 ◆hCBYv06tno2013/08/20(火) 15:49:43.82zSyn+HTJO (9/19)

数分後

そこには、襲いかかってきた分身体を全滅させ、勝利の雄叫びをあげる蛇龍の姿があった。

---見たか!?俺はそんなんじゃやられないんだよ!

---何をしようと企んでいるか知らないが、俺を殺せると思ったのか!?甘いんだよ!?

圧倒的に不利な場面から、見事に勝ち残り、勝利の余韻に浸っている翼竜。

だからこそ………蛇龍の本体がその場から消えている事に気づかなかった。

油断していた翼竜を地面から現れた影が、剥き出しになっている核を呑み込んだ。


202 ◆hCBYv06tno2013/08/20(火) 15:50:45.77zSyn+HTJO (10/19)


「なかなか良い実験結果ね。わかるわ」

その光景を廃ビルの屋上から覗き見ている一人の女性がいた。

川島瑞樹---レヴィアタンだ。

その口元は、まるで蛇のように、不気味に歪んでいる。

「カースが何処まで進化するか、その実験の為に無理矢理解放してあげたけど」

その視線の先には、核を奪われ身体が完全に崩壊する憤怒の翼竜。

そして、核を体内に取り込み震え出す嫉妬の蛇龍の姿があった。


203 ◆hCBYv06tno2013/08/20(火) 15:51:31.16zSyn+HTJO (11/19)

「まさか、ここまでの成果をあげてくれるなんて」

蛇龍の身体に変化が起こった。

身体を構成していた小型の蛇がまるで鱗のような形になり、それが蛇龍の身体を構成していく。

更に背中からは憤怒の翼竜についていた両翼が生えてくる。

更に顔も龍に近いような形になっていき、八つの目には紫色に加え、憤怒の核と同じ赤色も加わる。

『キシャァァァァァァァァァアア!!!!!!!』

「ハッピーバースデー。嫉妬の蛇龍……いえ」


204 ◆hCBYv06tno2013/08/20(火) 15:52:49.20zSyn+HTJO (12/19)








         ≪絶望の翼蛇龍≫         









205 ◆hCBYv06tno2013/08/20(火) 15:53:31.16zSyn+HTJO (13/19)

「それに≪3つ目の核≫ができて、ついてるわ」

そう言う瑞樹の手には≪2つ≫のカースの核がある。

血のように真っ赤で、普通の核よりも禍々しく、今にも人々の怒りの声が聞こえてきそうな、不気味に輝く≪憤怒の核≫

不気味で、気味が悪いような毒々しい紫色で、普通の核よりも禍々しく、今にもまとわりついてそうな瘴気を放っている、不気味に輝く≪嫉妬の核≫

どれも地下の呪いの溜まり場の影響でこうも通常の核に比べて強力なモノになった。

さて……3つ目はどこにる?

それは絶望の蛇翼竜のすぐ下に落ちていた。

7つの核に属さない色で、禍々しく不気味で狂気にかられそうな気配を放つ核だ。


206 ◆hCBYv06tno2013/08/20(火) 15:54:39.60zSyn+HTJO (14/19)

「昔々、ある仲が良い兄弟がいました」

レヴィアタンは嗤う。

「その兄弟はある日、神様にお供え物をしました」

それはキリスト教で語られてるある物語。

「兄は農耕して作った収穫物を、弟は放牧して育てた肥えた羊の仔を捧げました」

人類が起こした、最初のとある罪。

「だけど、神様は兄の供物に目もくれず弟の供物を選びました」

その物語の名は≪アベルとカイン≫

「自分が育てたモノを選ばず弟のモノを選んだ事により≪嫉妬≫にかられた兄は弟を野原に呼び出し≪憤怒≫に身を任せ」

そして、その罪の名は……

「殺してしまいました」

≪殺人≫


207 ◆hCBYv06tno2013/08/20(火) 15:57:15.81zSyn+HTJO (15/19)

「ふふふ、中々良いできね。嫉妬と憤怒が混ざり合ったことにより産まれた≪原初の罪≫の≪殺人≫。完全な≪お話の再現≫はできなかったけど、それなりのモノはできたわ」

その核を遠くから見ながら嗤う。嗤う

「回収しとかないといけないわね。私の計画の為に…」

レヴィアタンの計画はまた一つ……這いよるように近づいてきた。


終わり


208 ◆hCBYv06tno2013/08/20(火) 16:01:11.02zSyn+HTJO (16/19)

・絶望の翼蛇龍

嫉妬の蛇龍(本体)が、死にかけていた憤怒の翼竜の核を飲み込んだ事で生まれ変わったカース。
顔は八つの目を持つ龍に近い姿に変化し
その背に大きな翼を持つと共に、憤怒の翼竜が備えていたカース弾を吐き出す攻撃や固く強固な鱗を持つに至った。
更にはその鱗一枚一枚が小型のカースであり、全体的に著しくパワーアップしている。


・≪殺人≫の核

新たな核の一つで、原初の罪の殺人。

レヴィアタンが人が沢山死んだこの憤怒の街を利用し、嫉妬の蛇龍が憤怒の翼竜を食べて殺した事で、カインとアベルの物語を擬似的に再現させ、産まれた≪核≫

つまり、先に産まれた知恵のあるカースが嫉妬にかられ後から産まれた自分より優れた知恵のあるカースを殺して取り込んだのが、カインがアベルを殺した時の再現になってしまったのだ。

果たしてどんな事が起こるのか未だ謎に包まれてる。


209@設定 ◆hCBYv06tno2013/08/20(火) 16:04:27.00zSyn+HTJO (17/19)

イベント情報追加

・絶望の蛇龍が地上に現れました

・川島さんが≪地下の呪いの影響で強化された2つの核≫と≪殺人の核≫を手にいれました

なお、殺人の核は憤怒と嫉妬が混ざり合ったものです


210 ◆hCBYv06tno2013/08/20(火) 16:07:31.02zSyn+HTJO (18/19)

以上です。

なんか無理矢理感があるかもしれませんが……どうしてこうなった!?

原初の罪の一つ殺人。原罪の核が無理ならコレを出そうと思いついて、つい書いてしまいした。

川島さんがどんどん恐ろしいことに((((;゚Д゚)))))))


211VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/20(火) 16:25:51.87bPe/+jsi0 (1/1)

乙です
川島さん安定して怖いでござる
殺人の核か…やっぱり恐ろしいことになりそう


212VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/20(火) 16:27:53.13f79Wmad7o (2/39)

乙乙

川島さんこえぇ……殺人の核ってことは人間相手には特攻つきそうだ
核の組み合わせで罪の核が生まれるってなんだかちょっとゲームっぽくてワクワクするのは秘密


213 ◆yIMyWm13ls2013/08/20(火) 19:16:10.87VhaiNqaSo (1/13)

ティアマット暗躍はっじまっるよー!


214 ◆yIMyWm13ls2013/08/20(火) 19:16:50.10VhaiNqaSo (2/13)

暗い、暗い、真っ暗闇。

何かが、誰かが杏を揺さぶる。

―――さん―――杏――ん――!


――『杏さん!』

あぁ……聞こえるよ。


杏「泰葉、うっさぃ……」

起き上がろうとすると、杏の背中に鋭い痛みが走る。

杏「はぁ……結構寝たと思ったんだけどなぁ…」

完全には傷が癒えていないみたいだ。

泰葉「……杏さん…」

杏「泰葉……うん…おはよう」


215 ◆yIMyWm13ls2013/08/20(火) 19:17:57.35VhaiNqaSo (3/13)

杏が目覚めたのは真っ白のベッドの上。

見渡せば隣に同じようにひとつベットがある。

杏「……保健室…?」

ベッドに横になったまま、開いたままの部屋の入り口をふと眺ると
プレートが掛かっており、寝ぼけ眼の目でも辛うじて『保健室』と読めた。

泰葉「…ここは私の拠点の中学校です」

杏「泰葉、聞きたいことは沢山あるよ」

なぜ、この街でこんな真似を。
ここで何をやっていたのか。
沢山死んだ、泰葉はこんなことがやりたかったのか。
   そして……
杏たちのこと。


216 ◆yIMyWm13ls2013/08/20(火) 19:18:38.86VhaiNqaSo (4/13)

泰葉「…杏さん、あなたには関係の無いことです」

泰葉「今なら避難する住民に紛れれば出ること自体は容易でしょう」

杏「杏が聞きたいのはそんなことじゃない!」

泰葉「…分かっています」

杏「…だったら!」


泰葉「……うるさい…」

泰葉「うるさい、うるさい、うるさい!」

泰葉「分かってる、これ以上私を乱すなぁぁぁぁ!」

杏「……泰葉…?」

おかしい、私たちと一緒に居た時とは違ってイライラしてるんじゃなくて、なにかを怖がってるみたい。


217 ◆yIMyWm13ls2013/08/20(火) 19:19:07.75VhaiNqaSo (5/13)




 『おやおやぁ、泰葉ちゃん、どうしたんです?』

 『ご機嫌が宜しくないようで?』

杏の目の前にスーツを着た男が幽鬼のようにゆらりと表れる。

泰葉「……っ!」

泰葉「あなたを呼んだ覚えはない!」

 『およよ、そんなに嫌わないでくださいよ?ックク…!』
 
杏「…あんた誰?」

なんなのだこの男は、貼り付けたような笑みを浮かべて、気持ち悪い…。

 『ふぅ、そうカッカしないでください、ね?』
 
なにが、ね?だ……。

    『怠惰さん?』


218 ◆yIMyWm13ls2013/08/20(火) 19:19:46.82VhaiNqaSo (6/13)

杏「……へぇ、杏のこと分かるんだ?」

どうやらただの気持ち悪いヤツじゃないようだ。

 『泰葉ちゃんの『お友達』ですからねぇ』
 
杏「『お友達』ねぇ……本当は厄介者とか思ってるんじゃない?」

 『おやおや、手厳しい』
 
杏「…否定しないんだね?」

 『……』
 
杏「……」

あくまでも表情を変えずにスーツの男は返してくる。


219 ◆yIMyWm13ls2013/08/20(火) 19:20:30.19VhaiNqaSo (7/13)

 『率直に言わせて貰いますと…あなたは邪魔です』
 
杏「…ふぅん、黒幕っぽいこと言うんだね?」

 『クク……カハハ…黒幕ぅ…そうですねぇ……間違っちゃねぇなァ…』

杏がそう言った瞬間、男は突然狂ったように笑う。

 『泰葉ちゃんの意思は乱すし、ロクなことねぇしよォ……?』
 
杏「…泰葉の意思が乱れると駄目なんだ?」
 
 『…クヒ、私から誘導で引き出せる情報なんてないですよ?』
 
杏をからかう口調で男は突き放す。
まだだ、まだ情報が足りない。


220 ◆yIMyWm13ls2013/08/20(火) 19:21:09.11VhaiNqaSo (8/13)

 『まぁいいです、泰葉ちゃんの『お友達』ですもんねぇ……』
 
 『泰葉ちゃんはねぇ、唯一無二、絶大な力を持つ王様になってくれるんですよぉ!』
 
杏「…泰葉はそんなのにならないよ」

むざむざと持ってかれてなるもんか。

 『この街に溢れる憤怒の気!大量の憤怒のカース!』
 
 『馬鹿正直にヒーロー共がカースを狩ってくれてるお陰で時間稼ぎは出来たしなぁ』
 
 『まぁ、この忌々しい雨が少し邪魔ですが、より強い憤怒の厳選に使えたと思えばいいですしね』
 
杏「ふぅん…ご機嫌だね」

 『いえ、丁度今面白いのが生まれましてね?』

杏「面白いの?」

男は窓際まで歩いて行き、閉めていたカーテンを開く。

 『ほぅら?』


221 ◆yIMyWm13ls2013/08/20(火) 19:22:04.90VhaiNqaSo (9/13)

杏「なっ!?」

窓の外を見ると遠くの建物の一角から瓦礫が噴き上がる。
瓦礫の中からここからでも明確に見えるほど巨大な蛇が首を出す。
地上に見える部分だけであれなのだ。
地中も含めたらどのくらいの大きさになるのか……。

 『まだです、まだ『化けます』よ、あれは……』
 
男の言うとおり、蛇の進化は止まらなかった。
まるで二枚の大きな革を剥ぐように、両翼が表れる。

 『嫉妬だけじゃない…強力な憤怒も感じます、あぁ、この街を生み出して良かったですねぇ…』

 『今回もバカ正直にヒーロー共があのデカブツを狩ってくれる……』
 
杏「…狩られていいの、あれ?」

 『この街の主は図体だけのデカブツじゃないです、泰葉ちゃんですもんねぇ?』
 
泰葉「……」

泰葉は俯いたまま何も言わない。



222 ◆yIMyWm13ls2013/08/20(火) 19:22:52.59VhaiNqaSo (10/13)

杏「泰葉っ!」

 『あァ……それとやっぱあなた、邪魔です』
 
男が指を鳴らすと杏を中心に紫の霧が広がる。
 
 『精々あがいて、苦しんで死んでくださいねぇ?』
 
その言葉を聞いて杏は呼吸を止める。
逃げ出すなら今しかない。
今こいつは苦しんでと言った。そしてこの紫の霧……。

杏『あ、ぐ……あぁ……』

吸わないようにベッドから跳ね起き、カーテンの開いた窓ガラスを破って窓の外に飛び出す。

…クソ、少し吸った、頭がクラクラする……。

杏「頼むよ、皆!」

怠惰のカースを生み出し、杏を運ばせる。

杏「ぐぅっ!」

毒が弱まるまで新陳代謝を遅くする。
脂汗が止まらない。
 
ヒーローで構わない。早く誰かに……!
ただあれを倒すだけじゃ駄目だ。
この街の憤怒が強まってしまう…。
そうしたら泰葉が……!


223 ◆yIMyWm13ls2013/08/20(火) 19:24:19.63VhaiNqaSo (11/13)


泰葉「……あの娘を殺す気?」

 『クク、刹那で忘れちまったよ、まぁいいかこんなカースドヒューマン』
 
泰葉『…ふざけたこといってんじゃ…』

 『冗談です、流石泰葉ちゃんの『お友達』…聡いですねぇ…』
 
 『私、邪龍ティアマットの毒から逃げられるなんてそうないですよ?』
 
 『お陰でサタンの魔力を少し使ってしまいました』
 
 『それにどちらにせよ止まれませんし止まりません』
 
 『泰葉ちゃんが『憤怒の王』になるまで後少し……』
 
 『この街の憤怒、そしてこの私が持つ『サタンの魔力』…』
 
 『あぁ、それにあのデカブツの蛇がおっ死んで憤怒をまき散らしてくれると尚良いですね』


 『この街の憤怒を全部集めて魔王を凌ぐ最高の『お人形』を作りましょう』
 
 『そのために魔族の魔術にも手を出したのですから…』
 
 『この街の憤怒を集める所から『サタンの魔力』まで…』
 


 『私が最高の『プロデュース』を致しましょう』


224 ◆yIMyWm13ls2013/08/20(火) 19:25:11.52VhaiNqaSo (12/13)

終わりです。


イベント情報

・杏が誰でも良いので『絶望の翼蛇龍』を無闇に倒してはいけないことを伝えたいようです。

・邪龍ティアマットは憤怒の街に溢れる憤怒と『サタンの魔力』でなにかを企んでいるようです。


こんな感じでどうでしょう。
変な所あったら指摘お願いします!


225 ◆llXLnL0MGk2013/08/20(火) 19:29:18.03o1YedBRAO (2/2)

乙ー

>泰葉『…ふざけたこといってんじゃ…』 やめろ泰葉っちゃん!


226VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/20(火) 19:29:21.48f79Wmad7o (3/39)

乙乙

恐ろしい……おのれティアマット!

しかし簡単に無力化させられるような相手でもないし、まずいんじゃないかこの状況
杏ちゃん瀕死状態になりすぎワロエナイ


227 ◆cKpnvJgP322013/08/20(火) 19:29:35.17j6CGZ4Nxo (1/1)

おつー
やめろ泰葉っちゃん!

それはともかく
なかなか面白い展開になって参りましたな


228VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/20(火) 19:39:10.62sVPqGs6o0 (2/3)

乙です
状況やばすぎて胃が痛い
杏頑張れ…

阻止したい、ティアマットの野望…
こういう人が計画に失敗するのを見たいけど状況が厳しい…せめて殴りたい


229 ◆hCBYv06tno2013/08/20(火) 19:46:01.33zSyn+HTJO (19/19)

乙ー

コレはまた大変な事になったぞ

サタンの魔 力……果たしてどう使われる?


230 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:22:43.74f79Wmad7o (4/39)

『憤怒の街』でも『肝試し』でもない時間軸の魔法少女のお話を投下
結構スレごとに時系列が前後するのでちょっと整理を


美優・店長登場(1スレ目570-583)
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1371/13713/1371380011.html

レナ登場(2スレ目358-362)
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1371/13719/1371988572.html

『魔法少女』組、憤怒の街へ助っ人参戦(5スレ目166-172)
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1374/13748/1374845516.html

瞳子登場(5スレ目575-579)
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1374/13748/1374845516.html

(瞳子合流・憤怒の街解決)※未投下

アスモデウスに目を付けられる(4スレ目194-215)
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1373/13735/1373517140.html

夏美登場(4スレ目920-933)
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1373/13735/1373517140.html

(このSS)

肝試し時系列


細かい齟齬は気にしない


231 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:23:39.92f79Wmad7o (5/39)

夏美「はい、どうぞ♪」


 カチャン、と音を立てて紅茶の入ったカップが置かれた。
 その数は4つ。鮮やかな紅はミルクの白で中和されて穏やかな店内に合った色合いになっている。


美優「夏美ちゃん……あの」

夏美「あぁ、お仕事なら休暇中だからご心配なく。ねっ?」

レナ「そういうこと。たまにはいいじゃない? ……あ、美味しい」


 咎めようと美優が口を開くが、夏美があっけらかんと問題ないと返す。
 レナは夏美の入れた紅茶を飲んで舌鼓を打ち、くすくすと笑った。

 そんな2人の様子を見て美優は店長のほうをすがるように見て口を開く。


美優「レナも……店長、何か言ってあげてください」

店長「……なんというか、賑やかだなぁ。まるで人気店だ」

美優「店長っ!」


 けらけら笑う店長に、美優が軽く怒る。
 他の2人はにやにやと笑いながらそのやりとりを見ていた。


232 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:24:07.51f79Wmad7o (6/39)

 しばらくそんなやり取りが続いていたが、店長がカップを置いて軽く咳払いをすると2人へと向き合う。


店長「あぁ、うん。夏美もレナも子供じゃないんだからあまりいりびたるなよ?」

レナ「私、どうせ昼は暇だし。たまにはいいじゃない」

夏美「私も雇ってって言ってるのになー」

店長「そんなにお客さんも来ないしな。俺と美優で十分だよ」

夏美「んもー、これだから……」


 夏美がぶつぶつと文句を言う。

 店長の、何気なく発した「2人で十分」という言葉に2人の関係がどうしようもなく固いものだと伝わってしまった不満。
 まるで昔の、子供のころに戻ったような気持ちを遠慮なく口に出していた。


レナ「はいはい、可哀想ねー」

夏美「レナ姉ぇ、捨てられたよー。くすん」

店長「いい年して何をやってるんだ、まったく……」


233 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:25:11.87f79Wmad7o (7/39)

店長「節度は大切だぞ? ……来るなとは言わないが」

夏美「はーい……ところで、瞳子ちゃんは?」

美優「え? ……えっと、どういう意味?」


 夏美の疑問に、美優が意味を尋ねる。

 いきなりレナと夏美が店に来て、そのままゆっくりティータイムが始まってしまったのだ。
 瞳子のことを聞かれても、知らないとしか答えられない。先日の『憤怒の街』での再会は記憶に新しいのだが……


レナ「知らなかった? 今日、改めていろいろ話したいからって私を誘ったのは瞳子よ?」

夏美「そうそう、だから会えると思って楽しみだったんだけどなー」

店長「……なるほどな」


 店長が頭をぽりぽりとかいてため息を吐く。
 あの時点では夏美とは再開できていなかったし、瞳子と夏美は同級生だ。話したいこともあっただろう。


234 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:25:44.37f79Wmad7o (8/39)

 誘った本人がまだ来ていない理由はいくつか考えられる。

 ひとつ、急用でこちらへ来れなくなっている。

 ふたつ、何らかのトラブルが起きた。


 急用ということはないだろうと店長は思う。
 仕事の都合がつかなくなってしまったのならばキチンと連絡をしてくるはずだ。彼女は几帳面だから。

 そして、トラブルに巻き込まれたというのも考えづらい。
 ブランクがあろうが、彼女は強い。なんらかの怪人に襲われたとしてその連絡は来るはずだし、今更遠慮をする間柄でもないはずだ。
 少なくとも彼はそう思っている。――彼女たちの絆を信じている。

 ――ならば、考えられるのは。


 みっつ。14年たった今でも方向音痴が直っていない。


店長「……はは、変わってないなぁ」


 思わず店長は苦笑してしまう。
 変わっていないのは絆だけではなさそうだ。


235 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:26:18.11f79Wmad7o (9/39)

 その苦笑を受けて夏美が察したように呟く。


夏美「……瞳子ちゃん、やっぱり迷ってるのかなぁ?」

レナ「やけに自信満々だったから大丈夫だと思って油断したわ……迎えにいくべきだったかしら」

美優「……きっと、楽しみだったんでしょうね。気持ちはわかるけど……」


 仕方ない、とレナは額をおさえてやれやれとかぶりを振った。
 だいたいの事情を把握した美優も思わず笑ってしまう。

 和やかな空気が流れひとしきり笑った後、瞳子へ連絡しようとレナが携帯を取り出した。
 さて、とダイヤルする前に店の前に人影がひとつ現れる。

 お客にしろ、瞳子にしろ。対応できるよう店長と美優はレジのほうへと向かい、夏美とレナは奥のほうへとひっこむ。
 邪魔をするために来たわけではないのだし、もし瞳子ならば一番乗りかとぬか喜びしているのをからかうのも楽しそうだと思ったからだ。

 しばらく店先で止まっていた人影が、カランとドアを開いて入ってくる。

 どうやら瞳子ではなく、普通の客のようだ。
 どこか冷たい雰囲気をまとった、美人。美女というほど熟れた雰囲気ではなく、女子高生ほどの見た目。
 見つめられただけで凍りつきそうな黄金色の瞳が、一瞬光ったようにレナは感じた。


236 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:26:59.43f79Wmad7o (10/39)

 棚を一瞥することもなく、一直線に店長のほうへ少女が向かう。
 看板はアロマショップではあるが、女性らしい小物も置いてあるため意外と雑貨を求める子も多い。

 香りはいくつも嗅いでいると鼻も麻痺してくるし、オススメや目的に合わせたものを見つくろうのも店長の仕事のうちに入る。


店長「いらっしゃいませ……なにか、お探しかな?」


 だから、特に普段と変わらないトーンで店長は聞いた。
 決して魔法のような効果はないが、心を癒すお香か、それとも綺麗なイヤリングか。

 少女は目の前で止まると、唇へと手をあててわざとらしく考え事をするふりをしてから答えた。


?「そうねぇ……欲しいものがあるんだけど」

店長「うん、何かな?」

?「――恋心、なんて愉快じゃない?」


 トン、と少女が店長の胸へ寄りかかる。
 柔らかな感触と、甘い香りに一瞬身を任せかけて――彼は思わず飛びのいた。


237 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:27:36.57f79Wmad7o (11/39)

店長「ッ……!?」

?「あら、残念……ひょっとして不能なの?」


 彼が後ろの棚にぶつかった姿を見て、少女はクスクスと笑う。
 その光景になぜか恐ろしさを感じて、美優は思わず間に入った。


美優「あの……お客様? からかうようなことをしちゃダメ……ですよ?」

?「……からかう?」

美優「はい……ほら、美人さんなんだから……勘違いされたら危ないですし、そういうのは好きな人に……」

?「クッ……フフ、あははっ! 本気で心配してるの?」

美優「あっ……」


 思わず、美優も後ずさりしてしまう。
 何か本能的なところに訴えてくるような、人の身では抗えないものを感じて。


238 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:28:04.36f79Wmad7o (12/39)


?「やっぱりアナタ……面白いわ」


 少女の瞳が妖しく輝いて、空気が震える。
 瘴気が舞い、制服に包まれていた体は漆黒に包まれた。

 次の瞬間には、彼女の纏う雰囲気が――彼女の姿が変化する。

 ――いや、本来のものへと解放される。


 ――女の人間界での名は速水奏。

 そして、真の名は――大罪の悪魔。『色欲』のアスモデウス。


奏「フフフ……ねぇ、魔法少女さん?」

美優「――!」


 ぞわりと鳥肌が立つほど甘いトーンの囁きに、美優も飛びのき戦闘態勢をとる。
 腕を掲げ、唱えた。


美優「ハートアップ! リライザブル!」


239 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:29:01.98f79Wmad7o (13/39)

 光が舞い、少女の清らかさを表す美しい服が身を包む。
 胸に輝くのは希望の印。その手に掴むのは幸せの光。


美優「魔法少女……エンジェリックカインド! きゃはっ☆」


 最後にかわいらしいキメポーズをとり、相手を睨む。
 その姿を見て女――アスモデウス――奏は、また妖しく笑った。


奏「ふふっ、いいわね……可愛らしくて素敵よ?」

美優「お買い物……ってわけじゃないですよね。何のためにここへ?」

奏「あら、買い物客だったら歓迎してくれたの?」

美優「……はい。どんな人が相手でも……少しだけでも、癒しになれたら。そう思ってますから」

奏「そう。いい子なのね……ステキな理想論。嫌いじゃないわ、甘ったるいのも――」


 そう言って奏が手をかざす。
 幽かに光が集まり、ゆらりとゆらめくとその手には赤黒い手甲が現れた。


奏「――それを壊すのも……ねっ!」


240 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:29:35.47f79Wmad7o (14/39)

 トン、と音だけを残して奏と美優の距離がゼロになる。
 あまりの速度に回避が間に合わず、防御姿勢も取り切れていない美優へとその腕を振りかぶり――


レナ「グレイスフルソードッ!」


 ――横から飛び込んだレナがその手を弾いた。


奏「あら……いたの?」

レナ「えぇ、最初から。ごめんなさいね? アバンチュールを邪魔しちゃって」

夏美「カインド、大丈夫!?」

美優「えぇ……ありがとう、オネスト」


 変身を済ませた2人が割り込み、奏を睨む。
 しかし彼女は決して慌てる様子もなく、楽しげにクスクスと笑って見せた。


奏「フフフ……あまり暴れると、お店に迷惑じゃない?」

レナ「そう思うなら、早めにご退席願えるかし……らッ!」


 レナが一足飛びに懐へともぐりこみ、逆袈裟へと切りかかる。
 奏はそれをギリギリで避け、外へと飛び出した。


241 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:31:56.89f79Wmad7o (15/39)

奏「きゃー、あぶなーい……ふふ、外でシたいの?」

レナ「……いちいちひっかかる言い方ね」

奏「アナタが誘ったんでしょう? ほら、邪魔をしたんだから……もっと楽しませて?」


 追いかけてレナが外へ出れば、ふよふよと浮いた奏が手を叩いてからかう。
 やれやれとため息をひとつつき、レナが冷めた目で睨み付けた。

 奏はそれをみて舌なめずりをひとつし、先ほどの返しのようにレナの懐へと飛び込む。
 胸を狙っての突きは剣によって阻まれるが、かまうことなくふたつみっつと拳の雨を打ち込んでいく。

 レナも応じるように剣でもって攻撃を弾き、隙を狙っての攻撃を試みるもまるで意に介さない。
 異様な雰囲気を纏う手甲の攻撃をなんとか剣で弾き続けるも、ジリジリと押され追い込まれていった。


奏「ほらほら……大丈夫よ? もっとハデにシてくれても――」

レナ「くっ……!?」


 とうとう奏の拳の速度に、レナの剣が追い付かなくなりしりもちをついてしまう。
 胸の中心へと迫る手甲は、今度は光の矢によって阻まれた。


奏「あら……いいわね、友情って。今のはおしかったのに」

レナ「助かったわ、カインド……生憎ね。1人じゃかないそうにない相手でも……『私たち』なら、負けないわ」

美優「えぇ……何が目的かわからないですけど、穏やかではなさそうですし……全力でいきます」


242 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:32:23.49f79Wmad7o (16/39)

 この短時間の撃ちあいで、レナと美優はおおよその実力を把握する。
 一対一ではまずかなわないだろう。ソードとの剣戟に打ち勝ち、アローの速度を躱して見せた。

 ならばどうするか。強力な必殺技でなら仕留められるかもしれない。

 エンジェルハウリングは心を鎮め、同調させ、増幅して放つ技だ。
 しかし、強力な分隙も大きくただ撃ってもまず当たらない。なによりも、その時間をくれるほど甘い相手ではない。


 ――だが。1人ではかなわない相手であろうと2人ならば止められると確信を持った。
 そして、足を止めさえすれば――


夏美「2人ともがんばって! ほんの少しでいいから止めてくれれば……いける!」


 最大級の威力を持つ槍が、撃ちぬくことも可能なはずだ。


美優「グレイス……いきます!」

レナ「えぇ……さぁ、付き合ってもらうわ!」

奏「あら……3人がかり?」

店長「いいや、4人だ。今なら反省文で許そうか?」

奏「ふふ、結構よ。私は後悔も反省もしない生き方をモットーにしてるから」


 いつの間にやらマスクをつけた店長が2人に並び、後ろの夏美を守る形で立っている。

 それでも奏――アスモデウスは、余裕を持った笑顔のまま佇んでいた。


243 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:33:06.50f79Wmad7o (17/39)

 3人がアスモデウスの攻撃をしのぎお互いの隙をフォローしあう姿を見ながら、夏美は集中力を切らさぬように心を鎮める。
 手を掲げ、光を凝縮させていく。形は槍。全てを貫き、打ち崩すエネルギー。


夏美「……オネストリィ、ジャベリン……!」


 エネルギーの凝縮、固定。
 夏美のそれは大ざっぱで、しかしだからこそ何よりも強く相手を撃つことのできる技だ。

 美優のアローに比べて、ただ維持するだけでも負担がかかるこの技を。
 彼女たちが作るはずの隙を逃さぬよう夏美は構え続ける。


夏美「お願い、美優姉ぇ、レナ姉ぇ……頑張って……!」



 レナの剣を躱した奏の腹へと店長の拳が迫るも、身をよじるようにして外される。
 反撃のためにと振りかざした奏の右拳には美優の放った光の矢がぶつかり弾いていく。

 大罪の悪魔アスモデウスを相手にして、まったく撃ち負けることなく3人は戦っている。
 お互いのフォローも完璧で、相手の攻撃をさせないように美優が的確に矢を放つ。

 一見、この戦いは圧倒的に魔法少女たちが有利だった。


 ――だが。


店長(……なんだ、この違和感は?)


244 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:33:34.14f79Wmad7o (18/39)

 最初に違和感に気付いたのは店長だった。
 アスモデウスの攻撃は事前に防ぎ、放たせすらしていない。

 なのに、余裕の態度は崩れない。


店長(それに……街が……『静かすぎる』……!)


 彼の店を訪れた時、アスモデウスは一見してただの女子高生にしか見えなかった。
 外で騒ぎがあったのならば気づくはずで、避難勧告も出されていないのに――

 この昼の街に、人の気配が一切ないのはどういうわけか。


レナ「もらったぁぁぁっ!」


 しかし、考えがまとまるよりも早く。
 3人はアスモデウスを追い詰めることに成功した。

 レナが上段から大きく切りかかり、それを手甲で受け止めさせると同時に美優が矢を放って弾幕を張る。
 ひるんだところへ、最大級の破壊力を持つ槍が迫っていく。

 寸前でレナは身を躱し、アスモデウスは光に飲み込まれた。


夏美「――やった!」


245 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:34:04.99f79Wmad7o (19/39)

 しかし、彼女たちが次に見たのは――


奏「いやーん、いたーい……」


 ――少しの傷もなくその場に立つアスモデウスの姿だった。


レナ「う、そ……!?」

夏美「ちょ、直撃したはずなのに……どうして……」

美優「こうなったらエンジェルハウリングを……!」


 レナの手を取ろうとした美優の腕を、どろりとした泥がからめとる。
 そちらへ目をやれば、いつの間にかアスモデウスが佇んでいた。


美優「え……」

奏「捕まえちゃった♪ ……フフ、どうかしら?」

レナ「なっ……カインド!」


 剣を構えようとしたレナの腕も、どろりと泥に捕まってしまう。
 離れた位置にいる夏美も、同じく店長も。全員が一瞬にして拘束されてしまっていた。


246 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:35:05.84f79Wmad7o (20/39)

奏「残念、チェックメイトね?」

夏美「そんなこと――っ……!?」


 嗤うアスモデウスを否定しようと口を開き、夏美は体に違和感を覚える。


 ――熱い。

 身体の芯から燃えてしまうほど、熱い。

 のどがカラカラに渇き、吐息は切なく漏れるばかり。

 瞳は涙で潤んで前がよく見えないし、泥に拘束されている身体が擦れるだけで声がでそうになる。


夏美「な……に、これっ……」

奏「何って……ナニかしら。切なくなっちゃった?」

美優「ふざけ、ないで……こん、なの……」


 見れば、美優もレナも同じように体を捩ってどうにか湧き上がる衝動を抑えようとしているらしい。
 その姿を見て、また楽しそうにアスモデウスは笑った。


247 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:36:05.46f79Wmad7o (21/39)



店長「……」

奏「あら? ……オジさん、私に欲情しちゃったかしら」


 勝ち誇る奏を、店長が見つめる。
 クスクスと笑いながら頬を撫でると、からかうような言葉を投げかけた。


店長「……」

奏「もう、だんまり? ……そうよねぇ、自分を慕う相手に10年以上も手を付けないなんてパートナーに不満があるとしか思えないし……」

美優「……! あ、あなたは……んぅっ!?」

奏「ひょっとして、興味ないんじゃない? 子供のころは好きだったとか、ロリコンとか! あはは、可哀想!」

レナ「ちょっと……何の話よ……ひゃっ!?」

奏「解説ならしてあげるから、おとなしく聞いて欲しいわね……ねぇ、いい年した男と女がすることもしないで傍にいるのはどうして?」


 厭らしく、煽るような笑みを浮かべながら奏が店長へ質問を投げかける。
 どうにか拘束から逃れようとしていたレナを押さえつける泥の量は増え、身動きさえ取れなくなった。


248 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:36:54.64f79Wmad7o (22/39)

奏「ジュンアイってヤツ? それにしたってもう少しやりようがあるし……ヤり捨ててハーレムなんてしてみたくなかったの?」

店長「……」

奏「そんなことできないって? ウソね。だってあなたは男だもの……ねぇ、なんなら私がシてあげましょうか?」


 奏の瞳が金に輝く。わざとらしくゆっくりと、一歩一歩近づいていく。


奏「それで、この場の全員を好きにすればいい。


 美優達のほうをちらりと見る。全員、身体を動かすこともできない状態になっている。


奏「さぁ、私にその欲望を見せて――」


 パチン、と指を鳴らすと店長の拘束だけが解かれる。
 彼の息も荒くなっていて、興奮状態になっているのは誰が見ても明らかだ。


奏「楽しませて頂戴、オジさん?」



  ――だから。



奏「――え?」

店長「……」


 アスモデウスは、自分の腹に突き刺さったモノがなんなのか理解できなかった。


249 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:37:21.81f79Wmad7o (23/39)

奏「なに、これ……っぐ、ああぁぁぁっ!?」

店長「ぅおおおおおおおおおお!!」


 気合いの雄たけびと共に、奏の腹に突き刺さったものへと力を込める。

 ――それは彼の友の力。


奏「せい、じゅ……うの……つのっ……!?」


 ――雷を纏い、邪を切り裂く聖なる角。


 その力が解放され、火花を散らしてアスモデウスの身体と精神までも焼き尽くすほどの雷撃を生んでいる。
 バチバチとスパークするエネルギーはアスモデウスだけではなく彼自身をも傷つけていた。

 それでも彼は放さない。アスモデウスから離れようとしない。


奏「っ……あぁぁあああっ!」

店長「っが……は……っ……」


 雷に痺れる体を無理に動かし、アスモデウスは店長を蹴り飛ばす。
 しかしそれと同時にあたりの風景が歪み、ひび割れ――


奏「くっ……」


 ――崩れた。


250 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:37:53.46f79Wmad7o (24/39)

夏美「なに……これ……? どういうこと……?」

店長「っ……おそらく、幻だったんだ……レナが、飛び出したあたりから……ずっと……!」

美優「て、店長……ひどい傷……」


 息も絶え絶えといった様子で店長が答えた。
 掌は焼け焦げ、脚には鈍い刺し傷が痛々しく血を流している。


奏「……自分を、聖獣の角で刺して雷まで流して……狂ってるんじゃないの……?」

店長「ははは……男はいくつになってもかっこつけたいんだよ……」


 アスモデウスが憎々しげにつぶやき、立ち上がる。
 その体には雷によって傷は生まれたが決して致命傷ではない。

 心の奥底まで蕩けるような幻惑に対抗するためとはいえ、自らを聖獣の角で傷つけた彼をアスモデウスは理解できない。
 悦楽に身を任せ、自分を抱いてしまったほうが楽だったはずだ。彼自身は、最高の時間を過ごせるはずなのだから。

 なのに。彼は自らを傷つけ、快楽を否定し、あまつさえ相打ちにしようと襲い掛かった。


 ――理解できない。そんなに気持ち良くない生き方はごめんだ。
 彼女には理解できない。色欲の悪魔には、理解できなかった。


251 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:39:02.91f79Wmad7o (25/39)

 理解できないから、全てを壊すことを彼女は決意する。


奏「もっと雄らしく生きてくれれば、楽に逝けたのにね」


 その瞳がまた妖しく輝くと、今度は宙にいくつものカースの核が生まれていく。
 対抗しようと立ち上がろうとしたレナは、そのまま腰砕けに座り込んでしまった。


レナ「このっ……え、ぁっ……」

夏美「レナ姉ぇ……っ、まずい、かも……」


 拘束されていたのは幻の中とはいえ、そこで生まれた快感はまぎれもなく本物だ。
 幻惑が破られたとしても、身体の熱は冷めていなかった。

 集中することすら困難で、額に浮かぶ汗は焦りからくるものなのか熱を冷まそうとするものなのかすら判断できなくなっている。
 店長はケガのせいで意識も朦朧としているのか目の焦点もあっていない。

 彼女たちの変身を維持する力すら失われつつある中、それをしり目に次々とカースが生まれて美優たちへと迫っていく。


奏「ふふっ……好きな人との初体験になるだけマシだったろうに、無理したせいよ?」

美優「……い、ゃ……――さん……!」


 迫るカースに矢を撃ちこむことすらできず、震える身体を両手で抱いて美優は目を瞑った。


252 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:39:32.11f79Wmad7o (26/39)







 ―――パチン、と。




 スイッチが切り替わったような、乾いた音がひとつ響いた。









253 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:40:21.71f79Wmad7o (27/39)

 襲い掛かってくるはずの衝撃がないことに疑問を覚えた美優が、薄く目を開けていく。

 レナも、夏美も。寸前まで迫っていた呪いの泥が、香りすら残さず消えたことに気が付き戸惑っている。


 そして、誰よりも困惑しているのはアスモデウス――速水奏だ。



奏「アナタ……『何』……?」


??「何、だなんて冷たいじゃない? 私は私――」



 まるで気配も、風のひとつすらも舞わせず。当たり前のように魔法少女たちとの間に女が1人立っている。


志乃「柊志乃、よ。今はね」


 片手にワイングラスを傾けながら。


254 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:41:26.21f79Wmad7o (28/39)

レナ「……し、の? まさか……本人……?」

志乃「ふふ、久しぶり。大きくなって……いいわね、変わらない友情って……」


 戸惑いを隠せないレナの顔を見て志乃は笑う。
 アスモデウスに背を向けて、楽しげにワインを飲みながら。


奏「ふざけないで……空間転移かしら? その程度で――」

志乃「――今日は」


 激昂した奏を冷たい瞳で志乃が見つめる。
 和やかに笑い、ふざけていた女とは思えないほどのプレッシャーに奏も思わず言葉を止めてしまう。


志乃「お礼と、お誘いに来たの。邪魔はされたくないわ」

奏「……そう。また改めてとはいかないの?」

志乃「えぇ。お引き取り願えるかしら?」

奏「――そうね、その方がよさそう。本当………面白いわ」


 幻惑と発情の力を込めて確かに見つめ合ったにもかかわらず、志乃には何の変化も起きない。
 状況を分析した奏は、今回は引くことにした。

 まるで霧に溶けるようにその体が消えていき、気配すらもなくなってから志乃はまた魔法少女の方へと向き直る。


255 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:42:02.43f79Wmad7o (29/39)

志乃「大丈夫?」

レナ「……どうして?」


 手を伸ばした志乃に、レナは疑問を投げかける。
 ここにいる意味。やはり憤怒の街でのアレは――


志乃「どうしてって……そうねぇ、娘を持つっていいなぁって思ったからかしら?」

レナ「はい?」


 しかし、返って来たのは素っ頓狂な答え。
 思っていた言葉とはまったく噛みあわないセリフ。


志乃「だから、頼っちゃった。ふふ、この前はありがとう」

レナ「は、はは……あぁ、なんだかもういいわ」

夏美「レナ姉ぇ!? ちょ、ちょっとー!?」


 変身も解け、レナが倒れこむ。状況が理解できていない夏美が声をあげる。


256 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:43:21.01f79Wmad7o (30/39)

志乃「美優ちゃんも……ふふ、無理しすぎよ」


 くるり、と指を回すと暖かな光が降りそそぐ。

 身体の異常がおさまり、昂りが穏やかになっていくのを3人は感じた。


美優「あ……あのっ! ――さんが!」

志乃「あら……本当、無理しちゃって……男の子ね」


 何よりも早く、美優が志乃にすがったのは愛しい人の無事。
 それを見て志乃は頭を撫でてやると、グラスにひとつ口づけを注いだ。


志乃「こういうのはあまり得意じゃないから、応急処置だけど――」


 そして、中身のワインを垂らす。先ほどよりも強い光に包まれ、店長は目を覚ました。


店長「っ……ん……?」

美優「ぁ……よかった………よか、った………!!」

店長「み、美優? あいつは……っ、なんであんたが!」

志乃「そんなに慌てないで? 傷はふさがってるかもしれないけど、痛むでしょう」


257 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:44:22.55f79Wmad7o (31/39)

店長「ふざけるな、14年前にあれだけ暴れて……!」

志乃「えぇ。あなたたちに出会った」

店長「……なんで、他人を助けようとしたんだ? 諦めて帰ったんじゃ、なかったのか?」

志乃「他人を……その感覚は、どうなのかしら……」

店長「『エンプレス』……アンホーリィが……!」

志乃「……懐かしい呼び方ね」


 店長が憎々しげに志乃を睨む。


 彼女は。


 柊志乃は。



 14年前、魔法少女たちを苦しめた張本人だったから。


258 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:44:53.70f79Wmad7o (32/39)

志乃「その名前は捨てたの。管理よりももっと楽しいことがしたくなって」

店長「そんな話が……っぐ、ぅ……」

志乃「ほら、無理をしないで? ……この前、助けてくれたことのお礼を言いに来たの」

店長「お礼……?」


 ――しばらく前のこと。彼らは憤怒の街の近くへと『助っ人』に現れたことがある。

 知らない連絡先からの手紙だった。イタズラである可能性も確かにあった。

 しかし、見覚えのあるマークと。切に無事を願う気持ちが感じられたから向かったのだ。


店長「……じゃあ、やっぱり」

志乃「えぇ。あの子は私の娘……大切な子よ? 血の繋がりなんてなくてもね」


 くすりと、和やかに志乃が笑う。
 それを見て、彼は合点がいってしまった。


店長「……そう、か。なら……いい」

志乃「ふふ……ありがとう。意地悪してたから許してくれないかと思っちゃった」


259 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:45:30.68f79Wmad7o (33/39)

美優「……ありがとうございます」

志乃「いいの。それで、話なんだけれど……」

美優「……あの、この手は……」

志乃「ちょっとした確認……美優ちゃん、結婚してなかったの? 娘自慢をしたかったのに……」

美優「え、えぇっ……!?」

志乃「やっぱり自分のところの子が一番可愛いもの。2人の子ならきっと賢くて可愛い子が産まれるのに……」

美優「そ、そんな話をするために来たんですか……!?」

志乃「えぇ、そしてそんな可愛い娘に力の使い方を教えてあげてほしいっていうお願いをね?」

美優「力の使い方……?」

志乃「そう。今度ゆっくり……家に来てくれればいいわ。住所は教えておくから」


 美優の手の中にはいつの間にやら紙が握りこまれている。
 そっと開くと中には住所と、いつかのマークがひとつ書きこまれていた。


美優「………わかりました。あの子たち……だいぶ無茶をしてたみたいですし、ね」

志乃「ふふっ、ありがとう」


260 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:46:01.85f79Wmad7o (34/39)

夏美「……なんだか複雑な気分。うーん」

志乃「あら、どうして?」

夏美「ひゃわぁっ!? ちょ、ちょっと……いや、だって敵で、でもいいお姉さんだったわけで……」

志乃「ふふ……今はお母さんなんだけどね? やっぱりほたるちゃんは無理をしちゃうから、昔のあなたたちよりもひょっとしたら――」

夏美(あ、この人めんどくさくなってる)




店長「……美優?」

美優「は、はい?」

店長「今更かもしれなが、俺もだな……」

志乃「ふふ、男の子が生まれてもいいわね? きっとかっこよく……あら、危ない」

店長「あんたって人は……!」

志乃「余計なお世話だったかしら……ふふ、娘のこと。考えておいてね?」

美優「は、はい……」


 ――結局、柊志乃は。
 散々娘の自慢をして、家に帰ったらしい。


261 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:46:28.86f79Wmad7o (35/39)

――

店長「はぁ、疲れたよ……参った」

レナ「……2人は両想いなのよね?」

美優「え、あ……はい。そう、です……?」

店長「……そうだな。俺は美優が好きだ」

レナ「あら。ならいいじゃない」

夏美「むぇー……言葉にされると、なかなか……」

店長「でも、それで負担にはなりたくない。だから結婚は……と思っていたが……」

レナ「それこそ我がままじゃない? 全部まとめて守ってやる! ぐらい言わなきゃ」

店長「ははは……無能力で、体力だって昔より落ちてるのにか?」

美優「……それでもっ!」

店長「み、美優?」

美優「かっこよかったです。今日……あんなに、無茶して……とても、心配で。でも……とっても……」

店長「………美優。俺は」

美優「いつも、支えてくれて……感謝してます。私が戦えるのは昔も、今も……」


レナ(二人だけの空間になりつつあるわね)

夏美(もういっそ帰ろうかー。疲れちゃった……)

レナ(そうね……まったくもう……)


262 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:47:12.05f79Wmad7o (36/39)

 こっそりと2人が抜け出そうとドアへ向かっていく。

 ついにたどり着いて開こうと手をかけたその時、ドアが勢いよく逆に開いた。


瞳子「ふふ、危うく迷うところだったわね!」


店長「……!?」

美優「っ!」


 奥にいた2人はそそくさと距離をとり、瞳子はドアのすぐそばにいる2人に気づくと声をかけた。


瞳子「あら、お久しぶり。懐かしいわね」

夏美「……瞳子ちゃん」

レナ「えぇ、変わってないみたいで……私もとっても懐かしいわ」

美優「こ、紅茶でもいれましょうか!」

店長「あ、あー。今日の売り上げは……」


 ――どうやら、まだ同窓会は終わらないようだ。


263 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:48:10.41f79Wmad7o (37/39)

情報更新


柊志乃
職業:元・魔法少女の敵
属性:元・安寧たる世界の守人
能力:制限付きでの平定者の力の行使

14年前、『魔法少女』たちと戦った侵略者。
地獄(魔界)や天国(天界)などいくつもの多元世界が重なった不安定な星である地球を消滅させ、異世界からの侵略などを防ぐために地球を襲った。
強制的な消滅ではなく、滅びの時を速めての抹消を試みるも魔法少女たちによって阻まれる。
その後、何度も作戦を阻止されて地球へと滞在するうちに酒と文化へと興味を持つ。

最終的には愛と祈りの奇跡によって覚醒した『魔法少女』たちと決戦をするも引き分け。
星どころか銀河ごと消滅させるほどの力を受け止める人々の心に強く感銘を受けて地球侵略を諦め宇宙へと戻る――

――と、思わせてそのまま地球に住んで気に入ったお酒を楽しむ道楽っぷり。
現在は『安寧たる世界のため』というよりも個人的な享楽が滞在している主な理由。
合理主義の思考は愛とアルコールに溶けて消えた。


264 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:50:22.23f79Wmad7o (38/39)

!ナチュルスターたちに『魔法少女』たちが力の使い方を教えるフラグが立ちました

!瞳子さんの方向音痴が設定に組み込まれました。

!美優と店長が両想いなことを再確認しました。

!志乃さんが親バカです。


265 ◆IRWVB8Juyg2013/08/20(火) 22:51:41.84f79Wmad7o (39/39)

以上、投下終了
ごめんね服部さん……同時に動かせるギリギリだったんや……


266 ◆tsGpSwX8mo2013/08/20(火) 22:55:09.695ITEPLgRo (1/1)

乙です。

店長かっけえええぇ!美優さんと二人でお幸せに!そして瞳子さんちょうど終わるところで来たてワロタwww


267 ◆hCBYv06tno2013/08/20(火) 22:59:35.94mhh/WLNPO (1/1)

乙ー

美優さんと店長末長く幸せになれ!
志乃さんww親バカすぎww

そして瞳子さんwwww方向音痴キャラが定着してるwwww


268 ◆zvY2y1UzWw2013/08/20(火) 23:02:15.89sVPqGs6o0 (3/3)

乙です
店長カッコいい!!これは惚れるしかないわ!
アスモデウスの能力がエロすぎてやばいぃ…

そして方向音痴設定完全に組み込まれた瞳子さんwww


269 ◆yIMyWm13ls2013/08/20(火) 23:02:29.36VhaiNqaSo (13/13)

乙乙!

いい店長回だった…!
ブリッツェンの角ちょいちょい活躍してて嬉しい。

志乃さんブレないな。
というかプロフィール出ても底知れない感が凄い


270 ◆3Y/5nAqmZM2013/08/20(火) 23:21:58.90EEOvZYEZo (1/1)

乙乙です
店長漢前ですなぁ

自分でキャラ付けしといて何だけど、ここまで奏さんをえろっちく書ける気がしない


271 ◆cKpnvJgP322013/08/21(水) 00:52:03.39sYaWOjxzo (1/2)

おつー

志乃さんは相変わらず底の知れないお人だ
そしてはやみー、意外とアグレッシブね


272 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 15:52:45.16aDcVGnzi0 (1/24)

ササッと書いてみたものを投下

時系列的には「憤怒の街」および「嘘つきと本音」後なのは決断的に明らかである


273 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 15:53:57.78aDcVGnzi0 (2/24)

――――――――――

ティラノ「プリンセスはお休みになられたぜ」

プテラ「お疲れ。……そういえばさ、他の奴らはどうしたのかな?」

ティラノ「あん?」

プテラ「プリンセスと護衛の僕らでプレシオを探しにきたけど、戦士団の他の奴らはどうしてるのかなって」

ブラキオ「そのことか……案ずるな。我々だけでなく、他の者達もプレシオ捜索に動いている」

プテラ「そうなの?」

ティラノ「マジか、初めて聞いたぞ」

ブラキオ「プレシオは海の一族の竜だ。豊富な水のある場所でしか生きられん」

ブラキオ「であるならば、彼の捜索に最も適しているのもまた海の一族だろう」

ブラキオ「現在、フタバイキングとアーケローグがそのプレシオの足取りを追って人間界の海を探している」

ブラキオ「加えてアンモナイツも総動員しているから、何かしらの手掛かりは掴めるだろう」

プテラ「とんでもないなぁ……まあプレシオは海の一族のボスだし、当然か」


274 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 15:54:26.73aDcVGnzi0 (3/24)

ティラノ「じゃあなんでプリンセス自ら人間界に来る必要があったんだよ」

ブラキオ「第一に、プリンセスの意向だ。あの方はご自分の手でプレシオを見つけたいのだろう」

プテラ「でも、一億数千年も前にいなくなったんだし、プレシオだってもう死んじゃってるんじゃ……」

ブラキオ「だとしても、功臣の弔いを他人任せにしてはおけんということだ」

ブラキオ「プリンセスは同胞と引き離されて、遠い異世界で死んだ臣下を放ってはおけん。そういうお方だ」

ブラキオ「第二に、人間に変身できる我らが人間社会に溶け込み、情報を得るためだ」

ブラキオ「戦士団所属の精鋭とはいえ、変身できない者も多いからな……」

プテラ「そういえば、プレシオも人間に変身できるんだったよね」

ティラノ「……プレシオの奴の性格上、人間界を楽しんでそうだけどな」

プテラ「ホントホント。それにしても、どこに行っちゃったんだろうね……」


275 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 15:55:01.02aDcVGnzi0 (4/24)

――――――――――
とある海岸



バシャーン

カイ「うーん、やっぱり海はいいなぁっ!」

ホージロー『キンキン!』

亜季「あまり遠くへ行かないで欲しいであります。はぐれたら危険ですから」

カイ「大丈夫大丈夫! じゃあホージローと一緒に泳いでくるから」

バシャバシャ

星花「……亜季さんは泳がないのですか?」

亜季「……恥ずかしながら、泳げないというか、浮かべないのであります」

星花「浮かべない?」

亜季「私は戦闘用サイボーグですから、当然身体の何割かはメカに置き換わっています」

星花「ふむふむ」

亜季「その大部分が水よりも比重が重いので、水に入ると沈むばかりで浮かべないのであります」

亜季「人工心肺のおかげで溺れる心配はないのでありますが、泳ぎはちょっと……」


276 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 15:55:39.98aDcVGnzi0 (5/24)

星花「まあ……ごめんなさい、無神経な質問をしてしまって」

亜季「構いません。人には、どうしても得手不得手、向き不向きがあるものであります」

星花「向き不向き……ですか」

亜季「人は完璧に近づくことはできても、完璧にはなりきれない生き物ですから」

亜季「だから、どんな人にだって、誰かの支えや助けがいるのです」

星花「そうですね……わたくしも、ストラディバリやお二方に助けて頂いてばかりですもの」

亜季「でも、我々もいつも星花に助けられております」

星花「困った時はお互い様……ですね」

亜季「ええ、その通りであります」

星花「……ふふっ」


277 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 15:56:20.11aDcVGnzi0 (6/24)

バチャバチャ

亜季「おや、カイが戻ってきましたぞ」

星花「意外と早かったで……?」

バッシャーン!

亜季「なっ……!?」

星花「きゃあっ!」



その時、巨大な影が水飛沫を上げながら海面から姿を現した。
巨体が視界を埋め尽くし、長い首がちらちらと陽光を遮って砂浜に細い影を落とす。

亜季と星花の前に現れたのは、一体の首長竜だった。



亜季「っ……! マイシスター!」

星花「ストラディバリ!」

ストラディバリ『レディ』


278 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 15:56:50.08aDcVGnzi0 (7/24)

???「おおっと、ちょっと待った!」



亜季「新手……? 何者でありますか!」

???「そう警戒しなさんな! 別にお前達を取って喰ったりしねぇよ」

亜季「どこにいる! 姿を見せるであります!」

???「何言ってんだお前。こっちだよこっち! 目の前だよ!」

星花「えっと……ひょっとして、貴方が?」

ストラディバリ『レディ』

ザバァッ

ペタペタ

亜季「むっ。何でありますか、このデカい亀は」

???「何ぃ? そりゃあ俺は亀に違いねぇけどな、ただの亀じゃねぇぞ。間違えるなよ」

星花「亀さんが喋ってらっしゃいますわ……きっと、とても珍しい亀さんですのね」

ストラディバリ『レディ』

???「おう! そっちの人間はわかってるな。フタバ! お前もこっちに来い!」


279 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 15:57:27.52aDcVGnzi0 (8/24)

――――――
――――
――



亜季「それで、結局お前は何者なのでありますか」

アーケロ「俺はアーケローグ! アーケロン一族の戦士だ」

星花「アーケロン……というと、白亜紀に生息していた大きな海亀さんですわね」

ストラディバリ『レディ』

アーケロ「それからこいつはフタバイキング。俺のダチで、フタバスズキリュウ一族のもんだ」

フタバ「よろぴく」

亜季「よ、よろぴくって……」

アーケロ「俺達は人探し、いや竜探しをしてるんだけどよ。人間はフタバを見ると逃げちまって話になんねぇ」

亜季「そりゃあ、喋る海亀と恐竜が現れたら、普通の人間は尻尾を巻いて逃げ出すでしょうな」

アーケロ「だがお前達は逃げなかった! それどころかフタバと戦おうとした。なかなか見所があるぜ」


280 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 15:57:59.47aDcVGnzi0 (9/24)

星花「それで、亀さん。人探しをされているということですが……」

ストラディバリ『レディ』

アーケロ「おう、そうだ。お前達、こいつに似た感じの竜を見かけなかったか?」

フタバ「わたしです」

アーケロ「探してるのはこいつの同族みたいな奴なんだ。フタバみたいに首が長くて身体がでかいんだよ」

フタバ「しかもつよい」

星花「うーん……似た感じと言われましても」

亜季「様々な並行世界に行ったことがありますが、恐竜に遭遇したのは初めてですし」

星花「残念ですが、お力にはなれそうもありませんわ」

アーケロ「そうか……仕方ねぇ。人間界には俺達の同族はほとんどいねぇみたいだしな」

亜季「人間界……? ちょっと待つであります。ひょっとしてお前達は異世界から……」


281 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 15:58:35.51aDcVGnzi0 (10/24)

「し、守護神様っ!?」
 
 
 
アーケロ「ん?」

亜季「カイ! 戻ってきたでありますか!」

星花「ずいぶん遠くまで泳いでいってたんですね」

カイ「そ、そんなことより! なんでこんなところに守護神様がいるの!?」

フタバ「ぼくはしんせかいのかみになる」

亜季「守護神とは……ウェンディ族の?」

カイ「うん。神話や伝承で伝えられてる偉大な海の神で、神殿に住んでたって……」

カイ「姿も言い伝えとまるっきり同じだよ! 本当に首が長くて、手足がヒレみたいだったんだ!」

カイ「守護神プレシオアドミラル! 実際に会えるなんて思ってもみなかった!」

アーケロ「!? お、おい! 今何て言った!?」


282 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 15:59:28.03aDcVGnzi0 (11/24)

カイ「え? こ、この亀は?」

アーケロ「俺のことはどうでもいい! 今、プレシオアドミラルと言ったか!?」

カイ「う、うん。ウェンディ族なら誰でも知ってる名前だよ。ねぇ守護神様」

フタバ「ちがいます」

カイ「えっ」

アーケロ「やっぱりボスは人間界にいたのか……それで、神殿とやらはどこにある。そこに住んでるんだろ?」

カイ「海神神殿は海底都市にあるけど……」

アーケロ「本当か! じゃあその都市とやらに案内してくれ」

カイ「……それは」

亜季「やめるであります! カイが困っているでしょうが」


283 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 16:00:11.83aDcVGnzi0 (12/24)

星花「……カイさんは海底都市のご出身なのですが、訳あって帰れない状況でして」

アーケロ「なんだ、そうだったのか……まあいい。その都市はどの辺にあるんだ?」

カイ「東の海の底にあるよ。結構遠くだけど」

アーケロ「東か。まあ、アンモナイツに探させればすぐ見つかるな」

フタバ「たたかいはかずだよあにき」

カイ「……でも、どうして守護神様を探してるの?」

アーケロ「なんでって……プレシオアドミラルが俺達のボスだからさ」

亜季「首長竜が海亀のボスなのでありますか?」

アーケロ「種族がどうあれ、強い奴がボスになるんだよ」

フタバ「それがおれたちのルール」

アーケロ「そういうわけだ! それじゃあ俺達はもう行くぜ。あばよ!」


284 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 16:01:26.29aDcVGnzi0 (13/24)

ザッパァァァン

バシャバシャ

亜季「……行ってしまいましたな」

星花「恐竜時代の亀さんは言葉も話せるんですのね。知りませんでしたわ」

亜季「いや、いつの時代も亀は喋らないと思うでありますが……カイ?」

星花「カイさん、どうかしましたか?」

ストラディバリ『レディ』

カイ「……」

亜季「あの変な亀の言うことなど気にするまでも……」

カイ「……う~ん。守護神様の手下ってことは、神の遣い? 天使って奴なのかなぁ」

カイ「海の天使ってクリオネじゃなくて亀だったんだ……ちょっとショックかも」

ホージロー『キンキンキン!』

カイ「え? 鮫の天使もいるかもしれない……ホージローもそう思う?」

ホージロー『キン!』

亜季「……」

星花「まあまあ」

ストラディバリ『レディ』


285 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 16:05:29.95aDcVGnzi0 (14/24)

[海亀盗賊]アーケローグ
古代カメ・アーケロン一族の戦士。古の竜の戦士団に所属する。
竜じゃないとか細かいことは気にしてはいけない。全長約4メートルなので実際デカイ。

[首長海賊]フタバイキング
フタバスズキリュウ一族の戦士。古の竜の戦士団に所属する。
とてものんびりした性格。人間界ではよくネッシーとかそういうのに間違われる。

[巻貝騎士団]アンモナイツ
アンモナイト一族の騎士団。数百体のアンモナイト達で構成されている。


286 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 16:05:57.98aDcVGnzi0 (15/24)

――――――――――

フルメタル・トレイラーズが人語を解する海亀と首長竜に出会った日の夜、
街外れの廃墟に一人の少女が隠れていた。

彼女の名は横山千佳。またの名を、魔法少女ラブリーチカである。

捨てられたフィギュアが憤怒の街に蔓延する呪いのエネルギーで生命を得たことで
生まれた千佳には、アニメのキャラクターとしての記憶とフィギュアとしての記憶、
そしてふたつの人格が混在している。

ラブリーチカとしての記憶を持つ千佳は、怪物を退治しつつ関東一円を走り回っていた。
しかし、この世界のどこにも、彼女の記憶の中にある街も、両親も、帰るべき家もなかった。

彼女の存在がフィクションの産物である以上それは当然のことだが、帰るべき場所がないと知った
少女が味わった悲しみと絶望は察するにあまりあるものである。

千佳は街外れの廃墟に身を置き、夜が明けるのをひたすら待っていた。
千佳の心が怒りと絶望に満たされれば、千佳は意識を失い『悪い子』の人格が表出する。
そうならないために、必死に心の奥から這い上がってくる憤怒を抑え込んでいるのだ。


287 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 16:07:08.72aDcVGnzi0 (16/24)

千佳「う……うぅっ」グスッ


千佳が孤独に耐えかねて涙を流すたび、もう一人の千佳が心の奥から囁いてくる。



チカ『現実を直視しなさいよ。あたし達の居場所はどこにもなかったじゃない』

千佳「そんなことないっ……あたしは魔法少女ラブリーチカだもん。みんなあたしのこと知ってたもん」

チカ『それは魔法少女としての千佳を知ってただけ。『横山千佳』を知ってる人間なんていないの』

チカ『パパもママも、おじいちゃんもおばあちゃんも……どれだけ探しても見つからない』

チカ『そんなの当然よ。元々、そんな人達はいなかったんだから』

千佳「やめてっ!」

チカ『つまらない意地を張るのはやめたら? 居場所がなければ作ればいいじゃない』

チカ『あたしに任せれば、気に入らない人は全員やっつけて、千佳はこの世界の女王様になっちゃうんだから』

千佳「あたし、そんなの望んでない! 千佳は正義の魔法少女だもん!」

千佳「……みんなを悪い人から守るのが、魔法少女だもん……」


288 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 16:08:04.17aDcVGnzi0 (17/24)

ポロロン……♪

千佳「……?」

ポロロン……
ポロン……

千佳「楽器の音……? 窓の外から聞こえてくる……」

ジャーン……♪

千佳「誰か、いるの……?」



???「どうかいたしましたか、美しいフロイライン」ヌゥッ



千佳「きゃあっ!」

???「ハハハ、驚かせてしまいましたか。これは失礼」

???「なにぶん、我々は人間よりも身体が大きいのでね。威圧的になってしまうのは申し訳ない」

千佳「え……き、恐竜……!?」

???「キョウリュウ? いいえ、私は古の竜の一族の者です、お嬢さん」



パラサ「私の名前はパラサバード。パラサウロロフス一族の吟遊詩人です」


289 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 16:08:42.84aDcVGnzi0 (18/24)

千佳「パラサ……バード?」

パラサ「こんな夜更けに貴女のようなお嬢さんが涙を流していらっしゃるとは……何か悲しいことがおありで?」

千佳「……それは……」

パラサ「ああ、おっしゃらないで。人にはそれぞれ事情というものがあります。無闇に語るべきではない」

パラサ「その代わりと言ってはなんですが、お嬢さん。我々の出会いを祝して、一曲いかがでしょう」

千佳「歌……恐竜さん、歌えるの?」

パラサ「はい。普段は我らが王女を讃える歌を吟じるのですが、今宵は我々の出会いの夜」

パラサ「心に巣食う悲しみを吹き払うのは希望の歌です。さあ、歌いましょう」



ポロロン……♪


290 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 16:09:10.18aDcVGnzi0 (19/24)

「おお、悲しみに暮れる人よ。涙を拭い、夜空を見上げよう。

 おお、苦しみに耐える人よ。今は立ち止まり、思いを馳せよう。

 見よ、空と星と月が見守っている。

 彼らは数億年の昔から我らと共にある。

 友よ、希望に満ちた明日を謳おう。

 力の限り生き抜く者に、限りない栄光を!」



ギターに似た弦楽器を短い前足で器用に奏で、パラサバードの伸びやかな歌声が夜空に染み渡るように響く。
少女の絶望を慰めるための密やかなコンサートは、こうして始まった。


291 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 16:09:37.91aDcVGnzi0 (20/24)

「友よいずこへ、君は遠き彼方へ旅立ちぬ。
 
 幾千の昼と夜が我らを隔てても、猛き心は共にあり。

 再会を誓い、夢見た日々よ。忍従の時は終わりを告げる。

 信じよ、やがて来たるその日を。
 
 空と海の向こうでまた会う日を」



様々な唄を披露しているうち、千佳に笑顔が戻りつつあった。

それを横目で見たパラサバードは、気を良くしてさらに別の唄を歌う。


292 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 16:10:03.73aDcVGnzi0 (21/24)

「プリンセス万歳! 我らが主よ!
 
 愚かなる者は震え上がり、猛き勇者の血筋に恐れをなすだろう。

 闇は去り、新たな秩序が生まれる。

 絶望は去り、栄光の光が世界を満たすだろう……」



その夜、街外れの廃墟には力強いテノールの歌声が一晩中響いていた。

そして、何曲か経てから、少女のソプラノが吟遊詩人の歌声に寄り添い始め、
月明かりの下のコンサートに華を添えた。

付近の住人は、廃墟に人ならざる者の巨大な影を見たというが、その正体が何なのかはまだ判明していない。


293 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 16:12:50.86aDcVGnzi0 (22/24)

[獣脚詩人]パラサバード
パラサウロロフス一族の吟遊詩人。戦士団所属ではないが、プリンセス・コハルを讃える詩を歌っていた。
プレシオアドミラル捜索とは無関係に、勝手に人間界をさまよっているようだ。


《イベント状況》
・人間界の海に、古の竜の海の一族の者達が出没するようになりました。
・コハルやティラノ達以外にも人間界に訪れている古の竜がいるようです。
・千佳ちゃんに友達ができました。


294 ◆hCBYv06tno2013/08/21(水) 16:30:10.91zObidfv1O (1/1)

乙かな?

恐竜達がいっぱいきたよ!千佳ちゃん友達できてよかったね!

にしても海竜の集団が海底都市に来るのか……下手したらイベント始まる前に海底都市が攻略される?
別のルートも考えておくべきか…


295 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 16:30:35.25aDcVGnzi0 (23/24)

× フルメタル・トレイラーズ
○ フルメタル・トレイターズ

これはケジメ案件ですね……たまげたなぁ……


296VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/21(水) 16:43:28.16k9oLfR75o (1/1)

乙ー

千佳ちゃんも結構絶望する状況よね、心は9歳でこれは……
友達がいっぱい増えたらいいなぁ


海竜たちが来ても見つからない謎バリアがある可能性……ってイシュトレーとかいうやられ役たちが見つけてたからそれはないか?
それともパフォーマンスのために姿を現してただけで実は地底を移動とかもできる特殊都市の可能性も……

あと、フルメタルトレイターズは名前間違えられる確率がやたら高い気がする
このままじゃインなんとかさんとかそういう扱いになっちゃうぜ

……このスレ自体の自爆・誤字・誤酉率がやたら高まってる?気のせい気のせい


297VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/21(水) 17:15:35.79b4nm3xLa0 (1/1)

某恐竜戦隊は2/3くらい恐竜じゃなかったしへーきへーき(適当)



298名無しNIPPER2013/08/21(水) 17:53:22.15YLVSCW/AO (1/1)

乙だけど
他人様のキャラ使う時には「お借りします」の一言はマナーでないの?


299 ◆kaGYBvZifE2013/08/21(水) 17:56:34.98aDcVGnzi0 (24/24)

>>298
うっかり失念していました。失礼しました……
次回から気をつけたいと思います


300VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/21(水) 18:18:52.78sYaWOjxzo (2/2)

乙乙
新規勢力の設定がどんどん掘り下げられていくな

>>298
確かに一言あったほうがスマートかもしれないけど
ルールで決まっているというわけでもないので
ま、多少はね?


301@予約 ◆zvY2y1UzWw2013/08/21(水) 19:13:04.35fFLfqiHW0 (1/2)

乙です
人間界の海が恐ろしい事になっとる
ラブリーチカに友達できてよかった…

松本紗理奈で予約します


302@予約 ◆zvY2y1UzWw2013/08/21(水) 22:14:44.99fFLfqiHW0 (2/2)

メアリー・コクラン追加予約します


303@予約 ◆llXLnL0MGk2013/08/22(木) 01:45:08.720TgLHhEE0 (1/1)

乙乙

古の竜大量参入ヤッター!
>>299
あまり気にせんとよかですよー
ヒトに使ってもらえるのは何だか嬉しいし

フルメタルトレイターズの名前は……うん、どうにかします

赤城みりあで予約します


304 ◆UCaKi7reYU2013/08/22(木) 14:53:58.903dwYvBFX0 (1/19)

なんとかかんとか書き上げた憤怒の街関連を投下します。

例によって、今回もgdgd注意です…

今回はナチュルスター、ネバーディスペア、魔法少女組、琴歌をお借りします。


305 ◆UCaKi7reYU2013/08/22(木) 14:53:59.053dwYvBFX0 (2/19)

なんとかかんとか書き上げた憤怒の街関連を投下します。

例によって、今回もgdgd注意です…

今回はナチュルスター、ネバーディスペア、魔法少女組、琴歌をお借りします。


306連投失礼しました;  ◆UCaKi7reYU2013/08/22(木) 14:55:16.453dwYvBFX0 (3/19)


「くっ!このタイミングでくるか!」

憤怒の街を一望できる、小高い丘。

そこには、癒しの雨を降り注がせている三人の少女たちの姿があった。

憤怒の街の濃密な瘴気を薄め、解決への大きな一手となる雨。

そして、そのすぐ目の前には未だ戦い続ける者達の姿があった。

―――最初の一人は、『OZ』適合者である西園寺琴歌。

―――次いで現れたのは、熟練した実力者たる『魔法少女』の一行。

―――そして、更にそこに駆けつけたのは負を断ち切る『ネバーディスペア』。

押し寄せるカースの群れを跳ね返し、精霊の加護を受けた少女たちを守る面々は疲弊しながらも戦い続けていた。

既にカースが出現する根源は絶たれ、終わりが見えたことにより各々が一気呵成に畳み掛けようとしていた。


307連投失礼しました;  ◆UCaKi7reYU2013/08/22(木) 14:55:47.053dwYvBFX0 (4/19)












―――――――――――しかし、それをあざ笑うかのように『ソレ』は唐突に現れた。











308 ◆UCaKi7reYU2013/08/22(木) 14:56:18.133dwYvBFX0 (5/19)


「琴歌ちゃん!!」

「ッ!?」

最前線で戦っていた琴歌を、突然きらりが呼ぶ。

そして、それと同時に地面からズルリと『黒い何か』が飛び出す。

琴歌はそれを間一髪、『ドロシー』の瞬発力で避けることに成功した。

「大丈夫か!?」

「大丈夫です!きらりさんのおかげです!」

「あと少しだというのに……簡単には終わらせてくれないようだな」

夏樹の呼びかけにしっかりと答える琴歌。

その琴歌を襲った存在を見た店長は、苦々しい表情になる。

「むえぇー……なんか嫌な感じがぷんぷんするー…」

「………コイツ…まさか…」

「奈緒、何か知ってるの?」

きらりの一言は、その場にいた全員が感じたことでもあった。



309 ◆UCaKi7reYU2013/08/22(木) 14:56:45.083dwYvBFX0 (6/19)






―――それは、一体の大きな黒蛇であった。




―――それは、とある嫉妬に駆られた少女が作り上げた存在と酷似していた。




―――それは、よじる様に身を震わせるとその場にいた全員を見渡し………あざ笑うかのように口を開いた。






310 ◆UCaKi7reYU2013/08/22(木) 14:57:25.623dwYvBFX0 (7/19)


「『嫉妬の蛇龍』…こいつがそうなのか…?」

李衣菜に問いかけられた虎に変身している奈緒が、半信半疑のようにその名を口にした。

「……ッ!!おい、冗談だろ!?」

「なっ!?」

「グレイス!!」

その瞬間、まるでその声に答えたかのように幾つかの影が地面から這い出る。

その内の一体がレナことエンジェリック・グレイスに這い出ると同時に噛み付こうとするが、間一髪で反応し距離を取る。

その他にも、ぐるりと四方を囲むよう蛇龍が姿を現す。

―――合計、五体の蛇龍がその姿を現した。

「嫉妬の蛇龍って……確かたく…カミカゼが倒したんじゃなかったのかよ!?」

夏樹の友人でもあり、アイドルヒーロー・カミカゼでもある向井拓海、その本人からふとしたことで嫉妬の邪龍の結末を聞かされていた夏樹達にとって、その名は正しく寝耳に水であった。

「なら、エンジェリックハウリングで……!!いけない!?」

「ッ!邪魔よ!!」


311 ◆UCaKi7reYU2013/08/22(木) 14:58:36.523dwYvBFX0 (8/19)


カインドこと美優が、状況を打開するためにグレイスと合体攻撃を提案しようとしたその時、蛇龍達が動き出す。

―――一体が護衛部隊から反転し、ナチュルスター達に向かっていったのだ。

真っ先にグレイスが反応して止めようとするが、それよりも先に別の蛇龍が行く手を阻む。

「うきゃああ!?」

「きらりさん!!」

「コイツ、どきやがれ!」

「く、ここまできて!!」

次に反応したきらりと琴歌だったが、更に別の蛇龍が小さな蛇を忍ばせてきらりを転ばせその隙を埋めるために琴歌はその場に足止めされる。

奈緒と店長もまた、邪魔をする蛇龍に阻まれてしまう。

「夏樹ちゃん!」

「く、なら……うわ!?」

カインドが邪魔をする邪龍を引きつけ、夏樹が穴によるテレポートで移動しようとするもきらりを転ばせた蛇龍が反転して突進してきた事により気を取られてしまう。



312 ◆UCaKi7reYU2013/08/22(木) 15:00:23.303dwYvBFX0 (9/19)


「こいつら、連携して動いてるのか!?」

「私が行きます!!」

店長が顔に焦りを浮かべた直後、蛇龍が離れた事により難を逃れたきらりから離れた琴歌が凄まじいスピードで蛇龍を追いかける。

「夏樹ちゃん、あなたも!」

「そうは言うけど一人じゃ厳しいだろ!」

「きゃ!?」

「危ない!!」

テレポートを使えば簡単にいけるが、それをするとカインドが一人で二体の蛇龍を相手にすることになるため動けない夏樹。

展開しているユニットで周りを見れば、奈緒と店長はきらりと合流しているが蛇龍の他にも雑魚カースまで混ざり始めて手一杯、グレイスと李衣菜は相手にしている蛇龍が明らかに時間を稼ぐように足元を狙い続けているため釘付けにされている。

「これ以上は進ませはしません!」

そんな中、一人抜けた琴歌は最期の蛇龍を阻止するために高速移動、その勢いのまま鋭く蹴り飛ばそうとするが、


―――ズルリ



313 ◆UCaKi7reYU2013/08/22(木) 15:01:12.283dwYvBFX0 (10/19)

「え!?」

蛇龍の体を凹ませることはできたが、琴歌の足はそのまま蛇龍の体に埋まってしまう。

「このままでは…きゃああ!!?」

なんとか足を抜こうともがくが、蛇龍を構成する小さな蛇が埋め尽くし逃がそうとしない。

さらに蛇龍はぐるりと体を回転させ、琴歌は地に押し倒されてしまう。

「琴歌ちゃん!」

「く、間に合え!!」

「李衣菜ちゃん!」

「私はいいから早く!!」

その様子をみた面々が急いで助けようとするが、他の蛇龍がまたもや邪魔をする。

そして、琴歌を捕らえた蛇龍はその口を大きく開く。

「―――!」

その姿に、思わず目をつぶってしまう。








―――誰もが、その後を想像して、絶望が差し込む。


314 ◆UCaKi7reYU2013/08/22(木) 15:01:52.873dwYvBFX0 (11/19)












『―――我が声に応え、仇なす者を水流をもって討ち貫け!《槍海のパニッシュメント》』










315 ◆UCaKi7reYU2013/08/22(木) 15:02:22.783dwYvBFX0 (12/19)

「!?」

「なッ!?」

「……え?」

その瞬間、いつの間にか足元に広がっていた巨大な水溜りから幾本もの水の槍が突き出され、蛇龍を貫く。

更に蛇龍の真上で一つになったかと思えば、一本の大きな杭となって蛇龍をくし刺しにした。

その様子を見た面々が、突然のことに目を見張り、琴歌も再び目を開く。


『荒れ狂う大海の奔流よ、今こそ全てを押し流せ!《弩轟のスプラッシャー》』


さらにもう一度、どこからか謎の声が聞こえたかと思うと蛇龍の真横から極太の水のレーザーとも言うべき物が放たれる。

完全に不意を打たれた蛇龍はそれに直撃し、琴歌を離してしまうと共に大きく吹き飛ばされた。

「いったい何が…?」

「………今の…声…」


316 ◆UCaKi7reYU2013/08/22(木) 15:05:29.933dwYvBFX0 (13/19)










「―――はわぁ…なんだか大変な所にきちゃいましたね~、くとさん~」

『!』








317 ◆UCaKi7reYU2013/08/22(木) 15:07:18.433dwYvBFX0 (14/19)

「それに『秘術』…まだちょっと慣れません~…」

『×』

「え……?」

「!?どこからでてきたんだ…?」

琴歌が無事だった安堵と、突然起こった事態、そしてふらりといつの間にか琴歌の側にいた一人の少女を見つけた全員が疑問を持つ。

「………え…嘘……」

「本当は、あんまり目立っちゃダメなんですけど~……でも、仕方ないですよね~?」

『○』

白いワンピースを着て左手にはどこか禍々しさを放つ一冊の本、右肩にはなにやら忙しなく動いているタコっぽいナマモノを乗せて、綺麗な銀髪はくるくると二つに束ねている。

容姿はさすがに大人びているが、どこか間延びしたような口調やのんびりそうな雰囲気は昔と変わらず。

だからこそ、琴歌はすぐに気づくことができた。

その人物が、自らが攫われる前に仲良くしていた「友達」であることに。

「……里美、ちゃん…なんですか?」

「―――お久しぶりです~、琴歌ちゃん♪」




―――旧支配者の加護を受けた少女、榊原里美が、いつもと変わらないゆったりとした雰囲気を放ちながらそこに居た。




318 ◆UCaKi7reYU2013/08/22(木) 15:08:42.583dwYvBFX0 (15/19)

「本当に、本当に里美ちゃんなんですね!?」

「もちろんです~……琴歌ちゃんは変わらないですね~」

「だって…だって……!」

「!あぶな――」

――パリン…

琴歌が、嬉しさと驚きとその他色々がないまぜになったような顔をしながら立ち上がる。

それを笑顔で答えると、里美はすっと立ち位置を変える。

それとほぼ同時に、吹き飛ばされた蛇龍が起き上がり突進していくのに気づいたグレイスが声をあげた瞬間。

何かが割れるような音と共に蛇龍の真下から水柱が立ち上り蛇龍を飲み込んでいた。

「―――ダゴンさん、お手!」

さらに里美が声をあげた直後、今度は今もなお広がっている水溜りから大きな水かきがついた手のような物が飛び出すと怯んでいた蛇龍を叩き潰し、そのまま水たまりの中に引き釣りこんでしまった。

「…里美ちゃん?」

「ほえ…いっぱい話したいこともありますけど~……それは後回しですよ~」

『○』


319 ◆UCaKi7reYU2013/08/22(木) 15:11:11.433dwYvBFX0 (16/19)


(……この、タコみたいな生き物はなんなのでしょう?)

「琴歌ちゃん大丈夫ー!!?」

「あまり無理はしないでくださいね?」

琴歌がふとした疑問を浮かべるが、そこに他のメンバーも蛇龍やカースを相手にしながらも集まってくる。

「琴歌ちゃん、この子は?」

「……ふふ、私の最高の友達です!」

店長が琴歌に里美の事を聞くと、琴歌は本当に嬉しそうにそう答えるのだった。

「はわ~…榊原里美といいます~、あとこっちはくとさんです~」

「……え、何このタコ」

『!』

「ちょっと!なんか和んでないで手伝ってよ!」

「!!すまなかった!」

里美とくとさんの雰囲気に飲まれかけていた奈緒と店長が李衣菜の声に我に返る。



320 ◆UCaKi7reYU2013/08/22(木) 15:11:39.743dwYvBFX0 (17/19)

「守りはまかせてください~、くとさんがしっかり固めますから~」

『!』

パラりと、手にもつ本を開きながら里美は全員に伝える。

その肩に乗るくとさんもミニサイズながらふんぞり返って肯定の意をしめしていた。

「里美ちゃん!私のダンスを見せてあげますね!」

「私たちだってすごいところ見せちゃいますもんねー♪」

『○』

「やれやれ…あまり無理はするなよ!」

「ここが正念場って奴だ、気を引き締めていこう!」

「うきゃああ!きらりも頑張るにぃ!」

新たな味方を加えた一同は、再び這い出る蛇と向かい合うのだった。


続く?


321設定 ◆UCaKi7reYU2013/08/22(木) 15:17:03.793dwYvBFX0 (18/19)

「秘術」
旧き魔道書に記された、魔術や魔法の原型となった術。
主に幾つかの系統に分かれており、それぞれで発揮する事象が異なる
時空:主に時と空間を歪める系統。世の理を捻じ曲げる、禁断の所業。
生命:主に生と死を操る系統。秘術の中でも最上位に位置する、真理を犯す禁忌。
光輝:主に光を呼び出す系統。闇を払い、貫く神の光条。
深淵:主に闇を生み出す系統。生ける者を蝕み、食らい尽くす邪神の一端。
旋風:主に風を操作する系統。時に静かに、時に激しく舞い移ろう神秘。
業火:主に火を指し示す系統。人が魔に打ち勝つ為の、諸刃の術。
瀑布:主に水を引き出す系統。癒しも苦しみも併せ持つ、起源の力。
地殻:主に土を現し出す系統。星を固め、果てなく続く大地の鼓動。

ちなみにこれら以外にも系統は存在する。

「里美の能力補足・1」
里美の能力は水の操作だが、主に水たまりや水球、極細の水柱などを発生させてそれに触れたりすると水柱やウォーターカッターなどが飛んでくるという、トラップのように使用できる。
里美がほかのことをしていても、くとさんも操作できるためなかなか厄介。




322 ◆UCaKi7reYU2013/08/22(木) 15:20:57.683dwYvBFX0 (19/19)

イベント情報
1.ナチュルスター護衛部隊に嫉妬の蛇龍(量産型)が複数出現しました。
2.里美&くとさんが偶然、琴歌達護衛舞台に遭遇しました、このまま手伝うようです!



投下終了、なんだこのぐだぐだ感は(白目)
時間軸的には翼蛇龍出現前ですね
それではおめ汚し失礼しました…もっと精進しないとな…



323VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/22(木) 15:24:29.61c8TNWVqpO (1/3)

乙ー

コレで翼蛇龍になったら分身体も羽がはえるん?


324VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/22(木) 16:16:02.76AbX7FyA/0 (1/1)

乙です
蛇竜は厄介すぎるね
そしてくとさん見て何名のSAN値が減ったのだろう

>>323
むしろ全部あっちに集合しそうでもある


325@予約 ◆llXLnL0MGk2013/08/22(木) 16:41:16.18lHn4a9uAO (1/1)

乙ー
四大名家の二人が揃った!
後は相原と涼宮だ!

沢田麻理菜を追加予約します。
あと自分のアイドル予約は麻理菜さんで打ち止めにします。


326VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/22(木) 16:44:48.49+ojAVOE9o (1/3)

乙にゃん

嫉妬の蛇龍、やっぱり厄介だなぁ……翼蛇龍になったところで助っ人がまた来るんだろうか
それとも、一旦どうにか全滅なりひかせるなりできる?

本体が撃破しちゃうと先輩鬱モードだしかなり詰んでる


327 ◆yIMyWm13ls2013/08/22(木) 21:46:33.47NYpt1yZZo (1/11)

憤怒の街投下。
Anzuchangお借りします。


328 ◆yIMyWm13ls2013/08/22(木) 21:47:02.91NYpt1yZZo (2/11)

――

…時々感じる揺れが杏の意識を確かなものにする。

杏「っぐぅ……」

逃げ出した当初より心なしか毒による痛みは減った気がする。

杏「はー、杏、怠惰で良かった…」

毒の回りを故意に遅くした甲斐はあったようだ。

杏「もう大丈夫、歩けるよ」

杏の一言で杏を載せて運んでいた怠惰のカースが溶けて消える。


329 ◆yIMyWm13ls2013/08/22(木) 21:48:19.81NYpt1yZZo (3/11)

杏「さぁて、ヒーロー探さなくちゃ…」

ヒーローを探すのにカースに運ばれてる状態じゃ一緒に襲われかねないしね。

杏「しっかしあれ、どうしようかな…」

ズゥン…と衝撃。
ここからでも見えるほど巨大化な翼の生えた蛇。
その巨大な蛇が地面から這い出てくる。

杏「じょ、冗談でしょ……?」

阿呆みたいに大きな巨体が全身を顕す。
口をパカァと開いたかと思えば巨大なカース弾を吐き出し、周囲を破壊する。

そして、それを見ている一人の少女。

杏「…あれ、あの娘……」


330 ◆yIMyWm13ls2013/08/22(木) 21:49:09.06NYpt1yZZo (4/11)

――

裕美「嘘……?」

翼の生えた大蛇が地面から這い出てくる。
でも大事なのはそこじゃない、翼だ。

あの翼と同じものを私は見た。
ううん、確かに倒したハズ。
巨大なビルで叩き潰した。


……違う、私は核の破壊を見届けてない。

私が見たのは瓦礫に埋もれていく翼竜を見ただけ。

でも確かにその時見た翼を持つ蛇が目の前に居る。

歯を食いしばる。

裕美「倒さなくちゃ…」


『どうやって倒すの?』

私は背後からの声に振り返る。


331 ◆yIMyWm13ls2013/08/22(木) 21:49:38.30NYpt1yZZo (5/11)

『あの蛇でっかいよ?』

『人間一人なんて一呑みでぺろんなんじゃない?』

私の目の前には小柄な女の子。
女の子はどこからか飴玉を取り出して口に放り込む。

裕美「私が倒し損ねたから……」


杏「杏には何言ってるんだかさっぱりだけど」

裕美「あはは、そうだよね…あなたもこんなところに居たら危ないよ?」

裕美「やっぱり師匠に手伝って貰って……」

あの巨大な口から吐き出されるカース弾の矛先が病院に向いてもおかしくないし……。


332 ◆yIMyWm13ls2013/08/22(木) 21:50:13.61NYpt1yZZo (6/11)

杏「ねぇ、ちょっと待ってよ」

女の子はニヤリと笑う。

杏「あなたは大量の水とか冷気って起こせるヒーローかな?」

杏「それも結構強いの、あの蛇覆えるくらい」

裕美「ヒ、ヒーロー?そういうのじゃないけど…」

裕美「…水と冷気……」

水と冷気、両方共強力じゃないと駄目じゃ私じゃ……。

……いや、違う…水ならあった……。
最後の一つ。とっておきが…。

杏「心当たりがあるみたいだね?」



杏「ねぇ、杏と一緒に蛇退治してみる気はない?」


333 ◆yIMyWm13ls2013/08/22(木) 21:51:22.56NYpt1yZZo (7/11)

――


目の前まで近づくと恐ろしい威圧感を感じる。
翼竜の時とは桁違いの大きさだ。

阿呆みたいに大きな尻尾が私に向かって振り下ろされる。

裕美「行くよっ!」

杏「…久々に杏、真面目だよ」

いつもは不真面目なのだろうか。

『風よ!』

彼女を抱えて横っ飛びに飛んで尻尾を避ける。

杏「いい?」

杏「このでっかい蛇をヒーローの密集してる街の外縁まで追い立てるよ!」

彼女が言うにはこの街でこの巨大な蛇を倒すより、ヒーローの密集している外縁で倒したほうが良いそうだ。
それに、なにより外縁に行けばGDFの兵器も憤怒の街の影響を気にせず放つことも出来る。


334 ◆yIMyWm13ls2013/08/22(木) 21:52:09.36NYpt1yZZo (8/11)

ガパァ、と蛇の巨大な砲身のような口がこちらを向く、それと同時にカース弾が放たれる。

裕美「緑のぷちちゃんが風、赤のぷちちゃんが炎なら…」

裕美「文字が青の契約書はきっとっ!」

――魔術管理人ユズは契約を行い、使い魔を託す。確実な信頼者 関裕美へ


 『みーっ!』

裕美「水だよねっ!」

カース弾がぷちちゃんが現れると同時に水流で押し流されて逸れる。



335 ◆yIMyWm13ls2013/08/22(木) 21:52:52.19NYpt1yZZo (9/11)

裕美「ぷちちゃんゴー!」

 『みみー!』

複雑な魔法陣が巨大な蛇の前に現れたかと思えばそこからダムの放水のように蛇に向かって水が放たれる。

杏「次、冷気を頼むよっ!」

裕美「そういえば、他のカースが全然襲ってこないのはなんで?」

杏「怠惰のカー……杏の部下が頑張ってくれてるからじゃない?」

裕美「そんな人居たの?」

杏「い、今はいいじゃん!冷気!冷気!」

杏「なにがなんでもこの街からあの蛇を離すよ!」

裕美「う、うん…?」

なんだか釈然としないけど……。



336 ◆yIMyWm13ls2013/08/22(木) 21:56:04.97NYpt1yZZo (10/11)

『冷気よ、大いなる我が力に従い、慈悲なきその力を宿せ!』

突き出したボールペンにありったけの魔力を全て込める。

確かイヴさんはこうやって付与して…。

『冷気よ、大いなる我が力に従い、慈悲なきその力を開放せよ!』

込められた魔力が開放され、冷気となって蛇を襲う。
全身、ぷちちゃんの放水で押し出されていく蛇に駄目押しに全力の冷気を浴びせる。


杏「よし、いい感じ、予想通り動きも鈍くなってるし、そのまま押し出していって!」

蛇はこちらに背を向け、ヒーローの集まっている外縁へ向かって這っていく。

裕美「でも何でこの蛇、逃げてるのかな?」

裕美「特にダメージになるようなことしてないよね?」

杏「まぁ、モチーフが変温動物の蛇だしね、そりゃ水浴びせて冷気浴びせれば寒くて逃げるよ」

杏「ふふふ、杏を敵に回したことを後悔しろ、スーツ男…」

裕美「スーツ男?」

杏「…ほら、そのまま冷気出し続けて!」

裕美「え…と…もう少しで魔力切れちゃう…」

杏「本当に追いたてただけじゃん!?」

 『みーっ♪』

裕美「あはは……」


337 ◆yIMyWm13ls2013/08/22(木) 21:57:41.86NYpt1yZZo (11/11)

終わりです。


イベント情報

・絶望の翼蛇龍をヒーローの集まる外縁部へと逃げました


Anzuchangはティアマットに挑んでいく所存らしい。


338VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/22(木) 22:04:43.42+ojAVOE9o (2/3)

乙乙
がんばれ裕美ちゃん、地味に活躍数も多いぞ裕美ちゃん

外縁部……どうなってるかなぁ、服部さん、無事合流できてるかどうか心配

防衛戦開始→魔法少女合流→ネバーディスペア合流→カース根源爆砕
→蛇龍襲撃、里美合流→(ここから先は不明)

翼蛇龍襲撃、弱ってるなら全力攻撃で案外あっさりいけそうだけれど


339 ◆zvY2y1UzWw2013/08/22(木) 22:06:46.21AM5BYkqZ0 (1/1)

乙です
杏が働くと頭いいからか恐ろしいことがよく分かるな…参謀ポジがよく似合う
裕美ちゃんはガチで頑張ってるのがいい。応援したい

そしてぷちユズ全員それぞれの属性を生かして役に立ってるのに地味に感動している…


340 ◆hCBYv06tno2013/08/22(木) 22:14:02.28c8TNWVqpO (2/3)

乙ー

杏が働いてる!?(ガビーン!

翼蛇龍がこっちに来るか
コレは琴歌はドロシーの第二段階を解放するしかないかな?


341VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/22(木) 23:12:05.96BBH38ZOeO (1/1)

黒川さん「私の出番がないなんて妬ましいわ」




342VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/22(木) 23:19:37.35+ojAVOE9o (3/3)

そういえば黒川さんがいくえ不明
最初期は憤怒の街内にいたっけ……リサイタルして獣型生み出したのは街の中?
それとも外で「生み出せること」を確認して憤怒Pと川島さんがニヤニヤしてただけで、獣型自体は……

まで書いて思い出した。獣型は瘴気のせいで濃くなって自然発生だったね
つまり黒川さんが出番ないのも仕方ないよ! よ!


343VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/22(木) 23:30:57.65c8TNWVqpO (3/3)

そんな黒川さんには洪水イベントの時に役に立ってもらおう(提案


344 ◆kaGYBvZifE2013/08/22(木) 23:40:26.54Fd1DGkkc0 (1/2)

1.憤怒の街のどこかで一人リサイタルを延々やってて、蛇龍のような大型カースを育てている

2.画面に出てきてないだけで特に何をするでもなくkwsmsnに随行している

3.とりあえず歌姫の足取りを追うために独自に動いている


345 ◆kaGYBvZifE2013/08/22(木) 23:41:25.46Fd1DGkkc0 (2/2)

サッと考えるとこのどれかかなぁと思うけど、黒川さんはマジでどこで何をしているのか……


346 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 00:59:30.70K8/Wrjxao (1/48)

アナスタシア投下します

なんだか長くなってしまいました
みく、のあ、日菜子、それとピィをお借りします


347 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:00:51.17K8/Wrjxao (2/48)

「やめ、やめるにゃあ!それを近づけるにゃあ!」

「大丈夫、あなたの大好きなハンバーグよ。たーんとお食べなさい」

「……私がリーダーを抑えている間に、早く」

「ええ、さぁ口を大きく開けて。決して熱くないから」

「嘘にゃ!そんなに湯気の出ているハンバーグが熱くないわけなんてにゃいむぐ!」

「これもあなたのためよ」

「むぐぐ、うぐぐ……うまい!程よい熱に噛みしめるたびに出てくる肉汁、最高にゃ!」

「……テッテレー、ドッキリ、大成功です」



348 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:01:47.19K8/Wrjxao (3/48)









アーニャ「はっ!」

アーニャは眼を覚ました。
目に映るのは知らない天井。
知らない布団でアーニャは眠っていたようだ。

アーニャ「ミェツィター?……夢……ですか?」

辺りを見渡すとカーテンの間から幽かな光がさす。
アーニャは布団から這い出て、カーテンを少しめくって間を覗いた。
空は暗く、満月に近いような月が光を放っている。
すでに夜であり、アーニャは部屋の中へ視線を戻して、壁に掛けてあった時計を見た。
その針は時刻は夜中の11時を過ぎている。

「……あら、起きたのね」

急に扉が開いて外からの光が入ってくる。
この部屋に続く廊下は電気がつけられていて部屋の中とは対照的に明るかった。
そこに立っているのは長身で、表情に動きのない機械のような女性だった。



349 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:02:34.48K8/Wrjxao (4/48)

「あら、どうしたの?……まるでオチのない夢を見たような顔をしてるわね」

アーニャ「アー……えーと……」

「……よく覚えていないようね。来なさい。……お腹も減ってるでしょうし、何か出すわ」

アーニャ「……」

アーニャは沈黙したままだったが、そのお腹が小さく声を上げた。

「……私、正直者は好きよ」

そう言って女性は機械のようであった顔を崩して微笑みを見せる。
そしてそのまま来た廊下を戻っていく。

アーニャは少し悩むがその後を着いていくことにした。

ついていくとリビングに着いた。
女性はそのままキッチンへと向かい、冷蔵庫を開ける。

「……あいにくプリンしかないわ。これでも食べて」



350 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:04:11.70K8/Wrjxao (5/48)


そう言って女性はアーニャにプリンとスプーンを差し出してきた。
その蓋には少々雑な文字で『みくの』と書いてある。

「……気にしないで食べていいわ」

リビングにあった食卓に女性は座る。
アーニャもその女性の向かい側に座った。
アーニャはプリンの蓋をペリペリと開けて、スプーンをプリンに差し込む。
そのまますくい上げて口の中へと入れると甘みが広がりのどに流し込むと空腹の体に浸みわたっていくようだった。

「……そういえば、自己紹介がまだだったわね。高峯のあよ」

アーニャ「……アナスタシア……です」

アーニャは控えめに自己紹介をする。

のあ「……アナスタシア……ヨーロッパの女性名ね。出身は?」

アーニャ「……多分、ロシア、ですね」

のあ「多分……ね。えーと、アナスタシア……少し長いわ。何か愛称とかないのかしら?」

アーニャ「アーニャ……と呼ばれていたりしますが」

のあ「……わかったわ、アーニャ。ところであなたは、どれぐらい覚えているの?」

のあはまだあまりに接点のないアーニャを普通に愛称で呼ぶ。


351 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:05:07.76K8/Wrjxao (6/48)

アーニャはここで自分がカースに取りこまれかけていたことを思い出した。

アーニャ「……そうです。私は、カースに飲み込まれて……」

のあ「……それを私たちが助けたのよ。感謝してくれていいわ」

のあは真顔で言うが、その中には冗談的なニュアンスも少し含まれている。
そして立ち上がりキッチンの方へと向かい、マグカップを二つ取り出した。

のあ「……コーヒー飲むけど、アーニャはいる?」

アーニャ「……おねがいします」

のあ「……砂糖か何かは入れる?」

アーニャ「……いえ、ブラックで……」

のあはマグカップにインスタントのコーヒーを淹れて、片方に角砂糖を二つ、さらにクリームを入れる。
そして何も入れなかった方をアーニャの前に置いた。
アーニャは空になったプリンを机に置いて、コーヒーを手に取って啜る。
そしてその苦味に少し顔をゆがめた。


352 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:06:24.27K8/Wrjxao (7/48)


のあ「……やっぱり、砂糖を入れた方がよかったんじゃない?」

アーニャ「ニェート……今は苦い方がいいです」

アーニャはそのままコーヒーを啜る。
のあも少し啜ると、少し首をかしげて予備に持ってきていた角砂糖をさらにもう一つ投入した。

のあ「……どうしてあんな状況になっていたのかしら?他の人はすでに避難済みだったようだけれども」

アーニャ「……ニェート……」

のあ「……囮になって逃げ遅れた?まさか……カースを倒そうとしていたのかしら?」

それに対してアーニャは黙る。
その沈黙が肯定だと判断したのあは表情を変えずに言う。

のあ「……貴女のような少女がカースに立ち向かって、それで返り討ちにあって、私たちに助けられる。……笑い話ね。少し腕に自信があるようだけれど、人を助けようとして助けられているようでは……意味がまるでないわ」

アーニャ「……!」

その言葉に憤りを覚え立ち上がろうとするアーニャ。
しかしその前にのあは立ち上がって、アーニャの眼前にいつの間にか出現したブレードが突きつけられていた。

のあ「……アーニャ。中途半端に実力があるようだけど……あれで負けるようならヒーロごっこはやめるべきね」

のあはブレードを消して椅子に座りなおす。
そして机の上に置いてあった甘いコーヒーを飲みほした。



353 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:08:02.83K8/Wrjxao (8/48)

アーニャ「……なによりもまず……助けなければならないと、あの場へ、何かに駆られるように」

アーニャは言い訳をするかのように、ぽつりとつぶやく。
そんなつぶやきに対して、のあは少し怪訝な顔をする

のあ「……アーニャは『助けるために』あの場所へと向かったの?」

そんな質問を投げかけられて、アーニャは少し不思議な表情をしながらも頷く。

のあ「……貴女は、助けるべき人がいるかどうかもわからないのに、あの場所へ助けに向かったとでもいうの?」

のあは立ち上がって空になったマグカップをキッチンの流しへと持っていく。

のあ「それは……異常なことよ。本来ならば、何か異変が起きた場所に向かって、そこで助けを求めるような人がいて、そこで助けに入るの」

そう言ってのあはキッチンからリビングの月明かりの差し込む窓へと歩いていく。

のあ「……助けを求める人がいるから、助けようとするの。……助けるために、助けるのは……目的と手段が逆転しているわ」

月明かりに照らされるのあはまるで無機物のような輝きを放つ。
そんな静かな表情はアーニャを見つめる。

のあ「……あなたは、ヒーローどころか、人としてずれているわ。私自身人かどうかわからない私が言うのもなんだけど。助ける相手を見ていないのに、助ける行為なんて……狂人か、ただ助けるという行動をする機械、救世主のようなものよ」

アーニャ「……ヤー……私は……私には」

アーニャはその視線に耐えきれず俯く。

のあ「……言ってしまえば、貴女には目的がない。あなたのとった行動は、人から外れた何かの本能であって……貴女の意思ではないのよ」



354 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:09:40.72K8/Wrjxao (9/48)


その言葉を最後に沈黙が続く。
リビングにつながっている廊下の電気と月明かりのみが明りになっていて、俯くアーニャの表情は読めない。
それとは対照的に、のあの表情は無表情ながらもアーニャの意志を問い詰める意思が宿っている。

「むふふ♪……こんばんは」

そんな沈黙を別の声が破る。
廊下から別の少女が歩いてきていた。

「あなたが……今日みくさんとのあさんに保護されたって子ですねぇ。むふふ……喜多、日菜子と言いますぅ。むふふ♪」

アーニャの様子などまるで気にかけないかのように少女、喜多日菜子は自己紹介をする。
アーニャは俯いていた顔を上げて自己紹介をする。

アーニャ「……ミーニャ ザヴート アナスタシア。私の……名前は、アナスタシアです」

日菜子「むふふ……よろしくお願いしますぅ。アナスタシアさん。眠っていたとしても、カースに襲われていたと聞いたので……お疲れみたいですねぇ。むふ♪シャワーでも浴びてきてください」

アーニャ「……え?……ああっ」

日菜子は椅子に座っているアーニャを強引に立ち上がらせてそのまま背中を押し、廊下のすぐ近くにある脱衣所に押し込んでしまった。
その後日菜子はリビングに戻ってくる。

日菜子「……少し、厳しすぎじゃありませんかぁ?のあさん」

のあ「……確かに、そうだったかもしれないわね」





355 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:11:06.63K8/Wrjxao (10/48)




脱衣所に押し込まれたアーニャは、仕方なく服を脱いでバスルームへと入る。
蛇口をひねるとシャワーから温水が出てきて、それは浴槽にたまることなく排水溝へと流れていく。
アーニャはそのシャワーに頭から当たるように入る。

アーニャ「ヤー……マィヤー ヴォーリェ……私の……意思」

先ほど言われたことを脳内で反芻する。
これまでの人生、言われたこと、命令されたことをただこなすだけの人生。
それから解放されたはずだというのに。

アーニャ「……私は……いまだに、指図を受けている?」

異常な本能は、何者かの意図を感じさせる。
シャワーは体を洗い流していくが、心の不安までも洗い流すことはできなかった。

その後シャワーを浴びたのち、用意されていたのはかわいらしい猫柄の寝間着であった。
そこには書置きも残されており、先に寝るのでこれを着て先ほどまでの布団で寝てくれとの旨が書かれていた。

すでに時計の針は頂点を超えて、新しい日付を刻み始めている。
この時間に勝手に帰るのは彼女たちに心配させるだけであろうし、何より、肉体的にも精神的にも疲労が残っている。
アーニャはおとなしく従って、寝間着に着替えて布団に入って眠ることにした。

その頃、ロフトで横になる日菜子は近くの窓から月を眺めていた。

日菜子「ねぇ、王子様。日菜子は王子様と出会えた運命はとてもうれしく思います。……だけど、当人が望まぬ運命は呪いでしかないのですよねぇ……」

日菜子は寝返りを打ち、月に背を向けた。

日菜子「……あの子の運命は、はたしてあの子を幸せにするのでしょうかぁ?」

そう言って目をつむった。





356 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:12:11.09K8/Wrjxao (11/48)





アナスタシアは夢を見る。
周囲の情景は針葉樹の森の中、それに囲まれた小さな教会。
その扉が開かれると祝福する人々にそれに囲まれた一組の男女が出てきた。

その男女は幸せそうな表情を浮かべる。
しかしアーニャにはその人々の人相を認識できずにいた。
どんな表情はわかっても、まるでのっぺらぼうのように見えた。

アナスタシアの脚は自然に動いて、その人々をすり抜けて教会の中へと入っていった。
振り返れば教会の外にいるはずの群集はいなくなっていた。
そのかわりに教会の長椅子の中列あたりに男女がいた。
その女性の腕の中には小さな子供。
その子供だけはのっぺらぼうではなく、あどけない顔立ちで眠っていることがわかる。
その周囲には幸せが満ちており、アーニャもその様子をしばらく見つめていた。

はたしてどれくらいたっただろう。
長い時がたったようにも、ほんの一瞬にもアーニャには感じられた。
しかしその時間の経過を認識したためか、風景が歪み始める。



357 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:13:07.24K8/Wrjxao (12/48)


場面が変わり、周囲には炎が上がっている。
しかしかろうじて残っていた十字架によって場所は変わらず教会の中だということがわかった。
その十字架の下には赤子を抱えた女性が一人。

『惜しいな。大したべっぴんさんだが、人妻とは……』

そんな男の声がアーニャの背後、教会の入り口の方から聞こえる。
しかしアーニャはその方向を振り向けない。

『あなたの、目的はこの子でしょう。ならば頼みがあります』

女性はアーニャの後ろの人に言う。

『俺にそれを頼んで聞くと思っているのか。お前の夫を殺し、この村さえも滅ぼした俺たちが最後の情けにお前の言うことを聞くとでも?』

女性は抱いている赤子をぎゅっっと抱きしめる。

『確かに、他の人たちには機械のように、冷徹な人ばかり。でもあなたは、きっと本当は優しい人だと思います』

『目の前で、お前の夫をミンチにした男にそれを言うか?あんたまるで聖女だよ。ほんとに聖女みたいだ。いらいらする』

そんな男の言葉に対して、女性は微笑む。

『だって、あなたにしか頼めないでしょう?わたしが望むのはこの子の幸せ。だからこの子を幸せに導いてあげて』

男は女性のその言葉にいらいらした口調で返す。

『ふん、まぁ考えておいてやる』

その言葉に満足したのか自らの子を抱く腕を緩める。

『頼みますね。この子の名は―――』

その時周囲の炎が燃え上がる。
その炎は周囲の情景を焼き尽くし、後には真っ黒い空間が広がるだけであった。
アーニャはその真っ黒い空間の中を歩き出す。

少し歩くと、赤子の泣き声が聞こえてきた。
真っ黒い空間の中にぽつりと赤子が泣いていた。
アーニャはそれに近づいていき、その子に手を伸ばした。





358 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:14:07.19K8/Wrjxao (13/48)





窓にかかったカーテンの隙間から光が差し込む。
その光はアーニャの目に差し掛かり、まぶしく感じさせる。
アーニャは起き上がり、周囲を見渡した。

アーニャ「……ミェツィター……何の夢でしたっけ?」

そんな時、窓とは反対側にある扉が開いた。

「おはようにゃ!よく眠れたかにゃ?」

そこには猫耳少女がいた。

アーニャ「……アー……えと……」

そんなアーニャの困惑する様子に気づいたのか猫耳少女は部屋の中に入ってきてアーニャの近くへ座った。

「そういえば、自己紹介がまだだったにゃあ。前川みくというにゃ。よろしくにゃん♪」

アーニャ「……ヤー……私は、アナスタシア、です。……前……前田みく、さん?」

みく「前川にゃあ!」



359 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:15:48.10K8/Wrjxao (14/48)

そんな感じで自己紹介を済まして、アーニャは寝間着を着替えて、みくから借りた服を着る。

アーニャ「……泊めてもらったのに、服まで借りて……いいのですか?」

みく「気にしなくていいにゃ!第一、昨日カースのせいでアーニャンの服は汚れちゃったから、洗濯してまだ乾いてないからにゃ」

アーニャ「アーニャン……というのは?」

みく「だって『アーニャ』だからアーニャンだにゃ。わかったかにゃ?」

アーニャ「ダ、ダー……わかりました。みくさん」

みく「みく、でいいにゃ。同い年みたいだし、何も気にすることないにゃ。みくにゃんって呼んでくれても構わないにゃん」

アーニャ「ダー……。わかりました。みく」

みくとアーニャはリビングへと入る。
机には、ご飯と、コーンスープ、目玉焼きの乗っている皿がそれぞれ人数分置かれており、中央には大きめのボウルにサラダが盛り付けられている。

日菜子「むふふ……おはようございます」

のあ「……おはよう。アーニャ」

キッチンからエプロンをつけたのあと、ロフトからこちらを見下げて日菜子が挨拶をしてくる。

アーニャ「ドーブラエ ウートラ……おはようございます」

アーニャは頭を下げて挨拶をする。



360 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:16:52.31K8/Wrjxao (15/48)

のあ「昨日は少し、言い過ぎたわ。ごめんなさい」

のあはそう言ってアーニャに頭を下げる。
すこし気まずかったアーニャはのあのそんな姿勢に少し驚く。

アーニャ「ニ、ニェート……いえ、気にしてないです」

のあ「そう……それならよかった」

のあは頭を上げて、椅子に座る。
何の事だかわからないみくは一人首をかしげていた。

日菜子もロフトから降りてきて、椅子に座る。
みくも席について、アーニャの方を見る。

のあ「アーニャ、遠慮せずに食べなさい。……朝食はみんな同じ時間と決まっているの」

アーニャ「ダー……じゃあお言葉に甘えます」

アーニャも残った席に座る。
それを確認した3人は手を合わせて

「「「いただきます」」にゃ」

と言う。少し遅れて

アーニャ「……いただきます」

アーニャも手を合わせて言う。



361 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:17:47.11K8/Wrjxao (16/48)


しばらくした後には食卓の上の皿はほとんどが空になっていた。
皆が食後の一息を着く中、みくは立ち上がって冷蔵庫の前に向かう。

みく「デザートデザート♪みくのデザート♪」

そんな風に歌いながら冷蔵庫の扉を開ける。
しかしみくの笑顔も一瞬で消える。
しばらく呆然とした表情で冷蔵庫内を見分するが目的のものがないと完全に分かったがいなや、その表情は絶望的なものへと変化していった。

みく「みくの……プリンが……ない!」

みくは冷蔵庫から視線を外して食卓の方へと向く。
その視線はのあの方へと向いた。

みく「のあチャン……よくもみくのプリンを……」

みくの恨み節に対してのあはあまり気にした様子を見せない。

のあ「……どうして私なのかしら?真っ先に私を疑うなんて心外だわ」

みく「こういうのはのあチャンのせいだって相場が決まっているにゃ!白状するにゃ!」

のあ「……私は食べていないわ。食べたのはアーニャよ」



362 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:18:39.84K8/Wrjxao (17/48)

のあはあっさりとアーニャを売り渡した。
みくの視線はアーニャの方に向く。
その視線にアーニャは少したじろいだ。

みく「アーニャン……よくも……名前だって書いてあったはずにゃあ!」

アーニャ「アー……あれは名前だったのですか」

みく「少し前に築かれたアーニャンとの友情はもうクライシス寸前にゃ!」

アーニャ「……のあさんが、気にせず食べなさいって……」

みく「やっぱり原因はのあチャンじゃないかにゃ!」

のあ「…………にゃん」

みく「ごまかすにゃあ!」

日菜子「まぁまぁみくさん……落ち着いてくださいよぉ」

収集つかなくなりそうなのところを日菜子がみくをなだめた。

日菜子「みくさん、そろそろバイトの時間じゃありませんかぁ?」



363 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:19:32.47K8/Wrjxao (18/48)


その言葉を聞いてみくは壁にかかった時計を見る。

みく「そうだったにゃあ……今日は朝からだったにゃあ……あ」

みくはまずそうな表情から今度は何か思いついたのか何か企んでいる表情に変わる。
ころころと表情を変えて忙しそうである。

みく「ちょっとアーニャン借りていくにゃ。みくのプリンを食べたアーニャンには拒否権はないにゃ」

そう言ってみくは強引にアーニャの手を引きながら玄関の方へと向かっていく。

みく「いってきますにゃあ!」

アーニャ「ヤ、ヤー サビェラーユシ……いってきます」

日菜子「はぁい♪いってらっしゃい」

のあ「……いってらっしゃい」

二人は慌ただしく玄関の戸を開けて出ていった。



364 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:20:23.30K8/Wrjxao (19/48)


アパートから出てからしばらくした後、みくはアーニャの手を放す。

みく「アーニャンにはしばらくそのままついてきてもらうにゃ」

そのままみくはアーニャの前を歩き出す。
半ば強引に連れてこられたアーニャだったが勘弁したのかそのままついていくことにした。

アーニャ「……みく」

みく「ん?どうしたのかにゃ?」

意気揚々に歩いているみくだったがアーニャの呼びかけにみくは足を止めた。

アーニャ「みくは……なぜ戦っているのですか?」

アナスタシアには目的がない。そう言われた。
手段であるはずの『助ける』ことが目的になっていると。
だからこそ、みくの目的が知りたくなったのだ。

そんな突拍子もない質問にみくは怪訝な顔をする。

みく「はにゃ?何言ってるんだにゃ?」



365 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:21:35.91K8/Wrjxao (20/48)

アーニャ「トー イエーシチ……つまり……その……なぜ私を助けるために戦ったのかと……聞きたいんです」

みく「あのさ……アーニャンを助けるためにカースと戦ったに決まってるじゃないかにゃ。アーニャン自身が言ってるじゃないかにゃ」

みくはあきれた表情をして、そのまま歩行を再開する。
それをアーニャは小走りで追いかけて追いつく。

アーニャ「たしかに……でも、いつも、そんな感じで?そのように、人を助けるのですか?」

みく「うーんと、ただみくは人が死ぬのがイヤなのにゃ。実際は戦いだって好きじゃにゃい。痛いのはイヤだし、死ぬのだってごめんだにゃ」

みく「だけどみくなら助けられる命を見殺しにするのはもっとごめんだにゃ」

みくは振り向いて、そのままアーニャの方を向いたまま後ろ向きで進む。

みく「それに、のあチャンや日菜子チャンはすぐ悪党と戦いに向かっていっちゃうから、みくが手を貸してあげないといけないからにゃん。全く世話が焼けるにゃ」

やれやれと言うようにみくはわざとらしく両手を上げ、外国人のようなジェスチャーをした。

みく「まぁとにかくみくがそうしたいと思うから正義の味方のみくにゃんは活動を続けるのにゃ。みくの特別講義は貴重だからおぼえておくとっ」

鈍い音が響く。
バックで歩いていたみくは後ろに電柱があるのに気付かずに衝突してしまったのだ。
みくはその場で後頭部を抑えながらしゃがみこんで小刻みに震えている。

アーニャ「み、みく?……大丈夫、ですか?」

みく「うう……痛いにゃあ。こんなんじゃ締まらないにゃあ」

みくは立ち上がって後頭部をさすりながらも歩いていく。





366 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:22:38.19K8/Wrjxao (21/48)




みく「まぁ、いろいろあったけど着いたにゃ」

アーニャ「……エト、ランゼ?」

みくとアーニャは『エトランゼ』と看板の掲げられた喫茶店の前にいた。
みくはまだ開店していない店の扉を開けて店内へと入っていく。

みく「アーニャンも早く来るにゃ」

みくは扉の間からアーニャに向かって手招きをする。
アーニャは少し迷いつつも扉をそっと開けて中へと入った。

店内は落ち着いた雰囲気で座席はそれなりの数設けられている。
また人が動きやすいように広くゆとりを持った店内となっていた。

みくたちが入ってきたのに気付いたのか店の奥から一人の女性が出てきた。

みく「チーフ、おはようございますにゃ♪」

みくは出てきた女性にあいさつした。

「ああ、みくか。おはよう」



367 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:23:34.48K8/Wrjxao (22/48)


そのチーフと呼ばれた女性はみくにあいさつを返す。
チーフはその隣にいた店内をきょろきょろと見渡していたアーニャを見る。

チーフ「でみく。その子はいったいどこで拾ってきたの?」

みく「ふっふっふ。今日はみくには助っ人がいるのにゃ。紹介するにゃ!アーニャンにゃ」

アーニャ「アー……ヤー……アナスタシア、です?」

急に紹介されて状況がよく飲み込めていないアーニャだが、とりあえず自己紹介をした。

チーフ「ふむふむ……ふぅん」

アーニャを品定めするように見回した後、チーフはパチリと指を鳴らす。
その瞬間どこから現れたのか、二人の女性がアーニャを羽交い絞めにする。

チーフ「ようし、そのまま連れてって着替えさしちゃえ」

それを合図にアーニャは二人にそのまま店の奥に引き摺られていく。
状況を理解できないアーニャはされるがまま連れていかれてしまった。

チーフ「ちなみに助っ人を連れてきてくれたのはありがたいけど、みくの仕事は減らないぞ」

みく「え……そんにゃあ……」



368 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:25:13.61K8/Wrjxao (23/48)


連れていかれたアーニャは二人組に身ぐるみはがされ、その後あっという間に着替えさせられる。
そのまま背中を押されてフロアに戻ってくる。

チーフ「おお、これは……」

アーニャ「アー……あの、みく。ど、どうでしょうか?」

そこにはメイド服に身を包んだアナスタシアがいた。
その銀髪と相まってまさにシベリアに孤高に咲く一輪の花のように上品で、孤高に、それでいてかわいらしい少女の姿だった。
実際それなりの姿になると思っていたみくだが予想を大きく超えており、開いた口が塞がらないようになっていた。
そのアーニャの恥ずかしさで少し赤くなっている顔で見つめられたらどんな者でも一撃で落ちるだろう。

チーフ「いや、まだ足りない」

そう言ってチーフは懐から何かを取り出す。

みく「そ、それは!」

みくが驚きの声を上げる中チーフはその取り出したものをそっとアーニャの頭に乗せた。

チーフ「みくの言った『アーニャン』が鍵だったんだよ。これで、完成だ」

愕然とした表情を浮かべるみくに対して、チーフは高揚した表情を見せる。
そして高らかにアーニャに指示を出した。

チーフ「さぁアーニャン!鳴くんだ。振付有でみくに見せつけてやりなさい!そして奴のアイデンティティを完全に打ち砕くのよ」



369 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:26:03.38K8/Wrjxao (24/48)

アーニャはよくわかっていなかったが、なぜかそうしなければならないという魔力にとりつかれたように自然に体は動いた。
両手を丸めて、顔の横に持ってくる。そして顔を少し傾ける。




アーニャ「…………にゃあ?」





みく「うにゃあああーーー!!!」
チーフ「うぉおおおーーー!!!」

開店前の店内は異様な熱気に包まれる。
いつまにか集まっていた他の従業員らしき人が歓声を上げる。ちなみに全員女性である。
しかしひとり、みくだけは慟哭ののちに苦い表情をしている。

みく「助っ人に連れてきただけなのに……このままだとみくのポジションさえ危うくなるにゃあ?とんだ伏兵だにゃあ……」

そんな表情をしているみくにアーニャは近づいていく。

アーニャ「……どうしたのですか、みく?みくは十分かわいいですよ、にゃ」

みく「慰めは、やめるにゃあ!」



370 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:28:07.99K8/Wrjxao (25/48)

そんなネコミミ騒動がありつつも、メイド喫茶『エトランゼ』は今日も開店する。
最初は不慣れな接客であったアーニャだが、事前の指導と脅威の学習能力でしばらくした後には慣れ始めていた。
それにまだ午前中であったので、そこまで混雑することもなく、昼前になった。

アーニャ「ニェムノーガ……すこし、疲れました」

チーフ「まぁ慣れないことをしたからだろうね」

アーニャが店の奥で休憩をしているとき、エトランゼから少し離れた場所をのあはエコバックをもって歩いていた。
のあは買い物に出かけていたのだ。

するとのあはとある路地裏の前で足を止めた。
そこには小さな子猫がのあの方を見つめて座っている。

のあはしゃがみこんで、その猫を撫でようと手を伸ばす。
しかしその瞬間その子猫の瞳が赤く光った。

そしてその周囲に爆発のような衝撃が走る。のあはその爆風の中に消えた。



371 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:28:47.07K8/Wrjxao (26/48)


その轟音はエトランゼまで届いていた。
アーニャとチーフは店の奥から急いで表へ出ると、一足早くフロアにいたみくが店の前で音の方角を見ていた。
その方向では土煙がところどころ上がり、様子がよくわからない。

みく「あれは……のあチャンにゃ!」

土煙の上がる方角から防戦しながらこちらの方へと近づいてきたのはのあであった。
しかし動きにはいつものような余裕が見られない。

走ってこちらの方へと向かっているが、途中で足を止めてブレードで防御するように構える。
すると少し先の土煙の中から黒い影が飛び出してきた。



372 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:29:41.13K8/Wrjxao (27/48)


その影は一直線でのあの構えるブレードに直撃する。
その黒い爪とのあのブレードは衝突の際に火花を上げて、のあは後ろに少し押し下げられた。
のあはブレードを渾身の力で振りぬき、その影を弾き返す。
そして間髪入れずに、片手にマグナムを出現させてその影を撃ち抜こうとするがすでにその影は地面に着地した後に横へと跳びのき、銃弾を回避していた。
さらにその影は跳んだ方向にあった建物を蹴って再びのあの方へと加速をつけて跳び込んでくる。
のあは片手に持ったブレードで防ごうとしたが、片手では勢いを殺すことができずに後方に吹き飛ばされた。
そして近くのビルに衝突して土煙の中にのあは消える。


その影は先ほどまでのあがいた道路の真ん中に着地する。
それによって先ほどまで目まぐるしく動き回っていた影の全容が確認できた。
その姿はまさに黒豹と見間違うかのようだった。
しかしよく見ればそれは黒猫をそのまま大きくしたかのようなものである。
そのしなやかな体躯を包む毛並みはまるで生きているかのように波打っている。
いや、実際に波打っていた。
毛皮かと思われたのは真っ黒な泥でありそれが流動しているのだ。

その黒猫はゆっくりとのあのいる土煙へと近づいていく。



373 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:31:16.64K8/Wrjxao (28/48)


みく「のあチャン!」

みくはのあの名を叫んでそちらへと向かっていく。
しかしどこから現れたのか、下水や、路地裏からカースが寄ってきて立ちふさがる。

みく「ジャマ、にゃあ!」

みくは装備した手甲の鉤爪で出てきたカースを切り裂く。
そのカースは核ごと真っ二つになって蒸発する。
今度は左右からもカースが1体ずつ接近し、さらに1体跳躍して上からみくに攻撃を仕掛ける。
みくはそれを背後に跳んで回避した。

みく「これじゃ、近づけないにゃ」

みくが足止めされた空きに黒猫はのあのいる方へと跳びかかる。
そして高い金属音が響いた後に物体同士の衝突による衝撃で周囲の土煙が晴れる。
のあはパイルバンカーで黒猫の爪を防いでいた。
黒猫は突破するのを断念して背後に跳躍する。
その隙に、のあは脚部にローラーの付いた装甲を出現させて背後にビル壁という袋小路である状況から抜け出そうと道路側に移動しようとする。
しかしその方向からはカースが接近しており、のあはその方向に腕を構えてぶつかりそうになったところでパイルバンカーを射出する。
その剛杭はカースに着弾するとその衝撃で泥を爆散させ、核はその衝撃に耐えきれず砕け散った。
しかしその隙を見逃すわけがなく黒猫はのあに跳びかかった。

のあ「くっ……!」

その攻撃によってのあは吹き飛ばされて道路の真ん中へ吹き飛ばされたのちに横たわる。
その際にパイルバンカーはもとの場所に戻るように消失した。



374 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:32:04.95K8/Wrjxao (29/48)


みく「のあチャン!この、ホントに、ジャマだにゃあ!」

湧いて出てきたカースはまるでみくの行く手を阻むかのように攻撃してくる。
のあに気を取られていることもあり、みくも思うようには動けていなかった。

その頃、アーニャは店の前で立ち止まっていた。

チーフ「アーニャ!裏口から逃げるよ!」

チーフはそう言ってアーニャの手を強引に店内へと引っ張っていく。

チーフ「みんな!ご主人様たち連れて裏口から避難して!」

そう言って指示を出された他のメイドたちは店内にいた客とともに裏口の方へと向かっていく。

チーフ「ほら、アーニャも早く!ってどうしたの!?」

アーニャはまるで心ここにあらずというような表情で立っていた。



375 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:32:52.45K8/Wrjxao (30/48)


その脳内では、助けに行かなければという衝動と、のあに言われた言葉が巡っていた。

『……言ってしまえば、貴女には目的がない。あなたのとった行動は、人から外れた何かの本能であって……貴女の意思ではないのよ』

アーニャ(私の、この行かねばという衝動は、自分の意思なのだろうか?)

自身の闘争理由が見つからない。
目的もなく戦うことは狂戦士だ。それは死を早めるだけである。
さらにアーニャ自身の実力不足というのもある。
いま助太刀に入ったところで、逆に足手まといになるかもしれないのだ。
それも動くことのできない要因でもあった。

『……私には、柄じゃないかもしれません。でも、私でも箱の中の猫を救うことはできるかもしれません』

アーニャ「……箱の中の猫どころか、目に見えている猫を助けに行くことさえできないなんて、滑稽ですね」

そんな風に自嘲気味につぶやく。
チーフが何か言っているようだがアーニャにはそれが聞こえない。

アーニャ(私は、どうすればいいのだろう?)



376 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:33:57.44K8/Wrjxao (31/48)


また、頭の中の冷静な部分は、避難するべきだと告げる。
実際後方支援寄りな能力であるため、その方がきっと役立つだろう。

『お前は、俺や上の言うことだけを聞いていればいいんだ』

いつか、誰かに言われた言葉が頭によぎる。

『冷静な判断をしろ。確実に、任務を全うするための手段を模索するんだ』

そんなことを言われた。かつては従っていた言葉。
名前を知ってからはすっかり忘れていた。

冷めた、冷徹な部分は撤退を、本能、衝動の部分は助けに入りカースと戦うこと。
それが相対してアーニャの脳内は埋め尽くされていく。

背後にある店の入り口からは近くで二人が戦っているための騒音が聞こえてくる。
その中に混じって声が聞こえた。

みく「ジャマだって言ってるにゃああーー!」

『とにかくみくがそうしたいと思うから正義の味方のみくにゃんは活動を続けるのにゃ』

みくの言った何気ない言葉が頭によぎる。

アーニャ(自分の……したいこと)



377 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:34:51.26K8/Wrjxao (32/48)


部隊にいたころは自由な意思などなかった。
ほんの少し前にアーニャには意思が生まれたといっても過言ではないのである。
アーニャには自分の意思が、自分のしたいと思うこと、意志が見えていなかった。
自分が、人が見えていなかった。
本能と、命令に埋め尽くされて自身を見失っていたからだ。

アーニャ(なら……簡単な話です)

この時、湧き上がる本能と、縛られていた命令は意志によって引っ込んでいった。

アーニャ「私は……みくと、のあさんを、助けたい。あの二人を……助けたい。それが……私の、意志」

チーフ「アーニャ?いったい何を言ってるの?」

アーニャはそのまま厨房へと入っていく。
そして1本包丁を手に取った。

アーニャ「チーフ……これ、借りていきます」

チーフ「ちょっと、アーニャ!?」

アーニャはチーフの制止の声を聞かずに店の入り口から飛び出した。



378 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:35:26.80K8/Wrjxao (33/48)


するとまるで待ち伏せしていたかのようにカースが上から降ってくる。
しかしそれに慌てずに包丁を上に掲げる。
そしてそのまま飲み込まれるが、間を置かずにカースは四散し、塵へと還って行った。

アーニャ「シェツィヤース……今の、私は……負けません」

力が湧いてくるような感覚。
いや、アーニャにとってまるで力の使い方がわかったかのような、力が自分の言うことを聞くような感覚だった。
先ほどまでの衝動の奔流が、今度は自身の力になったように。

包丁を見れば淡く、光に包まれていることがわかる。
見渡せば全身が幽かに光っており、その光が自分の力だということがなんとなくアーニャにはわかった。



379 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:36:25.72K8/Wrjxao (34/48)


そのまま、みくの方へと向かっていく。
そこに立ちふさがるカースを包丁で縦に裂く。
横からカースが近づいてくるが回し蹴りをして、横にカースをえぐる。
さらに跳んできたカースにはその着地点に包丁を置いて串刺しにして、それらが塵になったら垂直に2メートルほど跳びあがると先ほどまでいた場所に2体の突進してきていたカースが衝突しあった。
アーニャは空中で振りかぶるように構えて、縦に一回転をしてその2体のカースの核を確実に切り裂き、その塵の上に着地した。

しかしその着地点を狙ってか弾丸のように触手が放たれた。
それをアーニャは回避しようとするが肩をかすめて、肉をえぐった。
その傷は瞬時に癒えて、包丁で触手を切断する。

そしてそのカースの場所を確認するとみくにそれなりに近い場所にいることがわかった。
カースは切られた断面から触手が生えてこないに対して危機感を覚えたのか触手を急いで引き戻すがそれをアーニャは掴む。
放たれた時と同様に速く引き戻したせいか、カースが気づいた時にはもう遅かった。
触手に引っ張られるようにアーニャは接近してその反動で包丁をカースに突き刺さす。
そして突き刺さった包丁を持つ腕を振るってカースは消滅した。



380 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:37:03.07K8/Wrjxao (35/48)


みく「うんにゃーー!」

みくはそれなりの数のカースを倒していたが、なぜかまだまだカースは残っていた。
体を動かし、腕を振るい、カースを倒していくが、ところどころに傷が目立ち、その場から動けずにカースに包囲されていた。
そんなみくが目の前にいたカースを切り裂いて倒したが、後ろからの気配に振り向く。
そこにはカースがみくに覆いかぶさろうと跳んできていた。
疲労によって油断していたみくはそれを認識しても体が追い付かない。
もはや絶体絶命かと思われたが、そのカースはみくの手前で墜落して消滅した。

アーニャ「……なんとか……間に合いましたね」

そのカースが消滅するときにその上からアーニャの声が聞こえる。

みく「あ、アーニャン!?どうしてここに?」

アーニャ「……カースを、踏み越えてきました」

みく「いや……そうじゃなくてにゃ……」

アーニャ「みくと……のあさんを……助けに来ました」



381 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:37:55.45K8/Wrjxao (36/48)


そう言ってみくの肩に手を置くとみくの傷が塞がっていく。
その自分の傷が塞がっていく様子にみくは目を剥く。

みく「ああもう、アーニャンがこんな能力持って、こんなに強いなんて知らなかったにゃ!」

そうしてみくとアーニャを囲むように向かってくるカースに対してみくは鉤爪を振るい、アーニャは蹴りを入れた後に包丁で切り裂く。

アーニャ「一人では……この数は厳しいでしょうが、二人なら、どうでしょう?」

みく「たしかにそうだにゃ。のあチャンも待ってるだろうしさっさと片付けるにゃ」

アーニャ「ナザート……背中は」

みく「預けるにゃ!」



382 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:38:35.89K8/Wrjxao (37/48)


そして二人とも腕を振るう。
それによって核ごと切り裂かれたカースは消滅する。
二人のいた場所に触手が飛んでくるが、アーニャは避け、切る。
みくはその場に跳びあがって回避する。
アーニャは片手を跳びあがったみくの足の少し下に置く。
みくはそれに乗り、アーニャはその手を押し上げ、みくはそれを蹴ってさらに上へと跳ぶ。
アーニャは周囲によってきたカースを包丁を横にふるって2体倒す。
みくは三方向から跳んできていたカースを回転するように爪を振るって消滅させた。
そのままアーニャの背後に近づいていたカースを踏み潰して、核を潰しながら着地。
さらに互いに背を向けながら視界の前にいたカースを切り裂いた。
そして残るは離れて離れた場所から触手を飛ばしてきた2体とみくに向かって突進していく1体。
アーニャはみくに突進していくカースに包丁を投げ、核を貫く。
みくはその突き刺さった包丁を抜いてアーニャの方に投げる。
対になるように離れているカースはそれぞれに向かって触手を飛ばしてくるがみくはそれを切り裂いて、アーニャはそれを回避する。
アーニャは投げられた包丁を掴んで触手を切り裂いてそのままカースの方に跳躍する。
みくはそのまま触手の間を縫うようにカースに接近していく。
そして同タイミングでみくはカースを鉤爪で切り裂き、アーニャは包丁を突き刺した。



383 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:39:22.92K8/Wrjxao (38/48)


これによってみくを囲んでいたカースは全て消滅した。
しかしまだカースがちらほらと残っており、新たに来るカースもいた。
それでもこれでのあの下へと向かう道が開けた。

その頃、のあはパイルバンカーを再び出現させてそれで黒猫の攻撃を防いでいた。

のあ「不意打ちされてなければ、こうはならなかったのだけれど……」

はじめに子猫に擬態していた黒猫によってのあは不意打ちをくらって、片足に損傷を負っていた。
歩けないことはないが、全力では動くことができずあの高速で動く猫を捉えることが難しいのだ。

なので防戦一方になるしかなく、今も様々な方向から攻撃してくる黒猫に反応するのが精いっぱいであった。
しかしそれにも限界が来る。
のあの完全に真後ろから黒猫が建物の壁を蹴って向かってくる。
パイルバンカーは重くそこまで腕を動かすには遅すぎた。

のあ「!……しまっ」



384 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:40:37.94K8/Wrjxao (39/48)


しかし黒猫は突如横からの衝撃に吹き飛ばされて地面へと叩き付けられる。

みく「お前にできることならみくにだってできるにゃん」

そう言って黒猫から少し離れた場所、黒猫への突進の着地点にみくは四つん這いになって着地していた。
黒猫はそれによって標的を変えたのか道路を蹴ってみくへと向かう。
それに対してみくは正面から向かっていくが、逆に押し負けて吹き飛ばされた。

みく「うにゃあ!痛いにゃあ!」

みくは頭を押さえながら立ち上がるが、黒猫は追撃をかけようと再び向かってくる。

みく「や、やばいにゃ!」

そしてみくも道路を蹴って逃げ出す。
みくは先ほどまでの黒猫のように壁を蹴り、道路を駆けて黒猫から逃げる。
それと同様に黒猫もみくを追いかけ始めた。



385 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:41:24.90K8/Wrjxao (40/48)


アーニャ「フシエー フ パリヤートキエ……大丈夫、ですか?」

アーニャはその隙にのあへと近づき治療を行う。

のあ「……アーニャ、どうしてここに?」

アーニャ「……のあさんと、みくを助けに来ました」

のあ「それは……あなたの意思で?」

アーニャ「ダー……わたしはもう、見えています」

のあ「人を……自分を?」

アーニャ「ダー」

のあ「そう……ならあとは、あの黒いのを倒さなくちゃいけないわね」

アーニャ「……止めは、のあさんに任せます。……私は、動きを止める」



386 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:42:41.80K8/Wrjxao (41/48)


みくは必死になって走っていた。
壁を蹴り、手を動かし脚を動かし、その様相は猫同士の追っかけっこだがそんな平凡なものでは全くない。
黒猫のスピードは徐々に増しており、それに対してみくは連戦によって体力がなくなってきている。

みく「うにゃあ……もう……ダメにゃ……」

体中が悲鳴を上げ始め、もはや限界寸前。
しかし体力を温存するために、みくが通ってきたルートは自然と一定のものになっており、黒猫もそれに付いてきていたのだ。

アーニャ「……この瞬間に、ここに通る」

アーニャは足に力を込めてばねのように地面を蹴る。
その瞬間速度はみくたちの速度に匹敵するものでもあり、アーニャ自身がまさに一本の矢のようになっていた。

アーニャ「……みく、おつかれさまです」

そしてアーニャの構えた包丁はみくに後続していた黒猫に深々と突き刺さり、そのまま建物の壁に衝突する。
そして包丁は黒猫をビルへと磔にした。



387 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:43:19.02K8/Wrjxao (42/48)


『グォオオオオ……グガァアアアーーー!!』

黒猫は動こうとするが深く突き刺さった包丁は抜けない。

アーニャ「……ドー スヴィダーニェ(さようなら)」

アーニャはその場から離れていく。
そしてそのかわりにのあがパイルバンカーを携えて近づいてきた。

のあ「袋の鼠ならぬ、袋の猫ね。箱の中の猫という方が合っているかも」

そしてパイルバンカーを構えて、黒猫に向かって射出した。
その杭は黒猫に直撃し、核を砕かれて消滅した。

のあ「あら?これは?」

パイルバンカーの衝撃によって建物の壁は粉々になった。
その土煙の中、先ほど前の黒猫のカースのいた場所に、少し腐敗の進んだ小さな猫の死骸が横たわっていた。




388 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:44:04.07K8/Wrjxao (43/48)


カースのボスであったのかはわからないが黒猫が倒された途端に残ったカースは一目散に逃げていく。
しかしその逃げるカースに立ちふさがる者がいた。

「のあさんの帰りが遅いようなので見に来てみましたがぁ……むふふ♪どこへ行くというんですかぁ?」

その少女の周囲に舞う様々な色の剣によって、カースの残党はあっという間に全滅していった。




のあ「……じゃあ私は、買い物へ行くわ。エコバックは無くしてしまったけど……」

そういってのあは買い物へと向かっていった。

アーニャ「……エトランゼに……戻りましょうか」

みくはそのまま力尽きたのか眠ってしまったので、アーニャの背中で寝息を立てている。
アーニャはそのままエトランゼに戻ると、店の前にチーフが待っていた。


389 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:44:33.02K8/Wrjxao (44/48)


チーフ「終わったの?」

アーニャ「ダー……はい、終わりました」

チーフ「そう、ケガは?」

アーニャ「……大丈夫です。みくも」

チーフは安堵の表情を見せた。

チーフ「それはよかった。それはそうと……」

しかしチーフの顔つきが変わる。

チーフ「その、破れたり、汚れたりしているメイド服とアーニャについては包丁1本、弁償してくれるのかな?」

アーニャ「……アー……」

その後、メイド服代を給料から天引きされ、さらにアーニャはたまにヘルプで手伝わさせられることを約束させられてしまった。






390 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:45:19.26K8/Wrjxao (45/48)






翌日、アーニャはプロダクションを訪れていた。

ピィ「いったいなんだ?話って?」

アーニャ「ヤー……私は、ヒーローをやりたいのです」

ピィ「……なぁアーニャ。その意味わかって言ってるのか?」

アーニャ「ダー……わかっています。私は……みんなを守るために、戦いたいのです」

その言葉にピィはため息をついた。

ピィ「せっかく戦いから解放されて、血なまぐさい日常を過ごさなくてよくなったのにどうしてまた戦うなんて言い出すんだ。アーニャの力なら別に戦わなくても役に立てるだろう」

アーニャ「ダー……確かにそうです。でも、望んでいないにしても私には、戦う力を習得しました。そして、この街には、守りたい人がたくさんいます。……だからこそ、私はこの場所も、この街も、守るために戦いたいのです」

ピィ「しかし……」



391 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:46:08.62K8/Wrjxao (46/48)


アーニャ「……私が部隊にいたころ、一瞬で隣にいた人間が死ぬことなど普通にあります。……部隊にいた時には何も感じませんでしたが、それがピィさんだったり、他の大切な人だと思うと……とても、恐ろしいです」

ピィ「別に……だからって、わざわざアーニャが戦う必要はないだろう。他にもヒーローは、いっぱいいるんだから」

アーニャ「……でも、それでも犠牲者は出ます。私は、私が守れる人を守りたいんです。他の誰かがやってくれるという問題ではなく……私の意志で、やりたいのです」

ピィ「……はぁ」

ため息をついてピィは諦めた表情をする。

ピィ「……わかったよ。社長に掛けあってみる。ただしバックアップはプロダクション全員でするし、仕事だってこっちで選ばせてもらう。そしてくれぐれも無理はするなよ」

アーニャ「……ス」

ピィ「す?」

アーニャ「スパシーバ!」

そう言ってアーニャはピィに抱き着く。

ピィ「うおおお、やめろ!椅子が倒れるぅ!」

そしてピィとアーニャは音を立てて椅子をひっくり返しながら床に倒れた。

ピィは少しだけ不安に思いつつも、ブレーキは皆でかければいいと、そんな風に考え、アーニャの意志を承諾した。


392@設定 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:47:40.69K8/Wrjxao (47/48)

アナスタシア(15)

かつて特殊能力部隊にいたころ、命令だけを聞くように教育されてきた。
それによってその呪縛から表面上解放された後のアナスタシアの意思は未発達であり、力の本質から出てくる本能に逆に支配されるようになっていた。
しかし自らの意思を自覚して、自分のしたいこと、意志を持つことによって過去の命令と力による本能を押さえつけ新たな力を行使できるようになった。

そして自分のしたいこととして、ヒーローとして皆を守ろうと考える。
その意志にピィは少し不安を覚えるが承諾した。

またメイド喫茶『エトランゼ』に臨時アルバイト、ヘルプとして働くことを約束させられている。

聖なる力(正式名称未定)
『助ける』という衝動はアナスタシアの力から発生し、未発達である意思を押しのけて表面に出てきた。
しかし、アナスタシア自身の意志によってその衝動は抑え込まれ、逆にその衝動を支配できるようになる。
それによって力の『本質』の一部であるこの力を使えるようになった。
魔力に近いものではあるが、それ自体が意味を持った力になっている。
身に纏うことで、身体能力をある程度向上させることができる。
また浄化の力でもあり、カースなどにとってはかなり有効な力である。
低級のカースならば核の位置を特定もできるようになる。
ただしアナスタシアは放出することはできず、身に纏うか、手持ちの武器に付加するくらいしかできない。

黒猫のカース
弱っていたカースが、子猫の死骸をとり込んだ際に突然変異したカース。
その後、憤怒の街では生物型のカースが多く確認され、瘴気や極限状態下でのカースの生存本能など原因ではないかと考えられている。
本来不定形であることはある意味では強みであったカースが、なぜ、生物の形をとるのか?
なぜ、生物の形をとることによってなぜ強力な個体になるのか?
それについてはわかっていない。





393 ◆EBFgUqOyPQ2013/08/23(金) 01:50:03.16K8/Wrjxao (48/48)

以上です

聖なる力(仮)については他の能力者にも影響してくると思うので、とりあえず名称が思い浮かばないので仮ということにしておきます。
これについては雑談スレの方で皆で考えましょう。


394 ◆hCBYv06tno2013/08/23(金) 01:52:25.14vjZgP++P0 (1/14)

乙ー

いい成長回だ!そして、猫の死骸を取り込んだカース……カースドキャット?もしくはカースドアンデット?


395 ◆zvY2y1UzWw2013/08/23(金) 01:52:49.58Xr8MKYWY0 (1/21)

乙です
箱の中の猫の話からこうなって…なんか言葉にできない上手さを感じる
アーニャがヒーローになってプロダクションも活動的になるのかな?


396 ◆zvY2y1UzWw2013/08/23(金) 01:56:48.60Xr8MKYWY0 (2/21)

肝試しイベントで投下
日菜子等をお借りしてます


397 ◆zvY2y1UzWw2013/08/23(金) 01:57:29.89Xr8MKYWY0 (3/21)

月が輝く夜の魔界の魔王サタンの城、サタンは寝室で眠りについていた。

何十もの結界を張り、いざという時は起床できるようになっているのは王である彼の仕掛けた仕掛けだ。

そして…その結界に合言葉を入れ、寝室に入ってきた者がいた。

「ウフフ、サタンってばもう寝てるの?」

魔界遊技場の青いベルベットの制服に身を包み、妖艶な微笑を浮かべた女性。

帽子を外すとソファに座る。サタンもやれやれと起き上った。

「…貴様かサリナ。こんな時間に何の用だ…?我は共存派吸血鬼との同盟を組むために…」

サタンがグチグチ言い出したら、その小言を遮って喋るに限る。

「つれない人♪アタシが寝室に来て…ヤる事なんて誰でも分かるでしょ?」

「…殺人か。」

「あ、その話は持ってこないでほしいんだけど…」


398 ◆zvY2y1UzWw2013/08/23(金) 01:58:07.24Xr8MKYWY0 (4/21)

彼女はサタンの所持する魔界遊技場の総監兼パフォーマーをしている悪魔。

そして…かつてサラと言う女性の夫となった男たちを7人も殺し、ラファエルに退治され、魔界では死んだ事となっていた初代色欲の悪魔・アスモダイ。

この時…『サラ事件』の事を彼女はあまり話したがらず、当時の噂ではサラと契約して殺していたのではないかとさえ言われていた。

当時の彼女は性別が分からない程醜い怪物の姿だったのもあり、恋をしていたとか純情だとか小心者とかいろいろ言われているが、大体否定している。

この『サラ事件』の事でラファエルとは因縁がなくもないが、「昔は昔、今は今」のスタイルの為、特に気にしてはいない。

…でも魚の内臓を燻した匂いは今でも涙目になるレベルで苦手である。

まぁ、今では彼女がいつの間にか復活し、意外な事に表舞台で生きている事を知っている者は少ないのだが。


399 ◆zvY2y1UzWw2013/08/23(金) 01:59:12.06Xr8MKYWY0 (5/21)

「何の用だ。」

「まぁ、用事って言えば用事かな?人間界に行きたいから許可貰いに来ただけ☆」

「理由を述べよ。貴様には仕事があるではないか…働け。」

彼女の仕事は魔界遊技場の様々な管理と不正の防止だ。

…ちなみに見かけによらずかなりの知識人ではあるものの、つまらない会計等の仕事は大体部下に任せている。

そして彼女は男共の色欲をパフォーマンスで『魅せる』事で発散させ、自身の中の色欲もそれで満たしている。

…簡単に言えば自身の欲も満たしつつ性犯罪低下に貢献しているのだ。

それを放棄してまで行きたい理由があるのだろうか?

「仕事はサキュバスちゃん達に任せていいでしょ?ちょっと調べたい噂を聞いちゃったのよねっ♪」

「…噂だと?…前のようにラスベガス云々ではないのは感心するが…」

噂と聞いてサタンの声のトーンが落ちる。

「それが普通の噂じゃないのよねぇ…なんでも、やけにゴツイ見たことの無い竜族が現れ始めたとか…人間界でも見たって情報もあるの。」

「なんだと!?」

窓の外の一月に一度の赤い月を見ていたサタンがサリナに向き直る。


400 ◆zvY2y1UzWw2013/08/23(金) 02:00:27.24Xr8MKYWY0 (6/21)

「そうそう、そうリアクションが来ると思った…それで、どう思う?」

「新種の竜族…または別世界の…とりあえず此方は魔界で騒ぎにならないように努めよう。」

ベッドから立ち上がり、魔術で服装を変えつつ、様々な施設・機関への連絡用の道具を取り出す。

「ウフフ、つまり…行っていいって事ねっ?」

「…本当にお前に任せていいか迷っているが…竜族の事ならお前に任せた方が賢明だろう。」

「ちゃんと『二人分』よろしくね?」

「わかっておる。しっかり許可届は出しておこう。」

二枚の羊皮紙に素早く必要事項を記入し、緑色の炎の燭台へ投げ入れた。

羊皮紙はその炎に焼かれ魔法の塵となり、風に流される事さえなくもう一つの地点へと運ばれ再生する仕組みだ。

すぐに燭台から別の塵が飛び出し、二枚のパスポートの形になる。

「じゃあ、外で待たせちゃってるし、もうアタシ行くけど…寂しくなーい?」

「我は既婚者であるぞ…それに子持ちだ。」

魔法で生み出した紅茶を手に取ってサタンがまるで興味ないのを示すように再び窓に向き直った。

「本当につまんない人…まあ、そこが面白いんだけどねっ♪」

口に手を当てて笑いながら帽子を被り直して部屋を出ようとして…余計な一言を放った。

「あ、じゃあ…マナミさんとはどういう関係?結構仲いいみたいだけど?」

「ブフォ!?」

予想外のマナミの話題に飲んでいた紅茶を噴き出した。

マナミが元竜帝キバで、男だった事を知っているのはこの城ではサタンのみである。

それでも普段はあまり気にせず接しているのがサリナの目に着いたようだ。

「出ていけ」

「え?」

「出て行ってくれ…」

「あ、はーい…」

暫くサタンが悩んだのはまた別の話である。


401 ◆zvY2y1UzWw2013/08/23(金) 02:01:34.93Xr8MKYWY0 (7/21)

「サリナ!待たせすぎヨ!」

「ゴメンねメアリー。話がちょっと長くなって☆」

城の外、サングラスをかけた金髪の幼い少女がサリナに駆け寄る。

「でもちゃんと許可は取れたのよネ?」

「もちろん♪竜族の事調べるんだからアタシ達が適任でしょ?」

サングラスを外すと緑色の瞳が心配そうにサリナを見つめる。

「…ねぇサリナ、大丈夫よネ?初めて魔界じゃない所に行くの…上手く飛べるかしら?」

「人間界の空も魔界の空も、違うのは明るさだけ。メアリーなら飛べるって!」

「ホント?最近は魔界の空も碌に飛んでないから不安になっちゃたのヨ…」

「不安になることないって!メアリーは飛ぶの上手いじゃない!」

「…そうよね、不安になるのは飛べなかったときにするワ。」

「…ちなみに海とか川に落ちそうになったらどうするの?メアリー泳げないでしょ?」

「その時は…死ぬ気で飛ぶわ…」

「できれば地面に落ちそうになった時も死ぬ気で飛んでほしいなぁ…」


402 ◆zvY2y1UzWw2013/08/23(金) 02:02:26.21Xr8MKYWY0 (8/21)

そんな話をしながら歩いたところで人間界へのゲートにたどり着く。召喚以外の方法で人間界に行く正式な手段だ。

受付の悪魔が深々と頭を下げる。

「パスポートを拝見します。お帰りのゲート開放時間は言わなくても大丈夫ですね?」

魔界の法で厳しいのは行きのみ。つまり…帰りはゲートを使わなくても別にいいのだ。受付もそれを分かっている。

帰り方は簡単。ゲートが開いている時間にパスポートを宙にかざせばいい。

…しかし、空いている時間が短いので、使わない者が多いのだ。

「うん、大丈夫。…はいパスポート。メアリーも見せて。」

「ハーイ。」

「…サリナ様、メアリー様、以上二名がお通りになりまーす!ゲートオープン!」

「「「アラホラサッサー!」」」

巨大な浮かぶ扉が数名の悪魔によって何重もの仕掛けを正しい順番で動かすことで開いてゆく。

歪んだ空間がその扉の奥で渦巻いている。…これからここに飛び込むのだ。

「初使用となるメアリー様に一応説明をしますが…ある程度は目標地点に近い場所に出ますが、空中に出る可能性が高いのでお気を付けくださいませ。」

「だ、大丈夫ヨ!飛べるもん!」

「よく言ったね!じゃあ行くよっ!」

「えっ、あ、キャアアアアア!?」

「行ってらっしゃいませー」

メアリーが空間に飛び込むのを躊躇しだす前に、サリナはメアリーと共に空間の中に落ちていった。


403 ◆zvY2y1UzWw2013/08/23(金) 02:03:50.50Xr8MKYWY0 (9/21)

ゲート特有の重力を感じ、それから解放され目を開けると予想通りかなりの高度の空中。

「ほらメアリー、空だよっ!飛べるでしょ!」

「…い、いくわよぉ!」

カッと光を放ち、そこにいたのは立派な日本の角を持つ黄金の鱗の竜だった。

サリナがその背に乗る。念の為出しておいた4つの黒い翼も必要なかったようだ。

「ここが人間界なのネ!なかなか魔界っぽいじゃない!」

「…え?」

サリナが下に目をやれば、霧に覆われた街に妖怪やそれに近い者達が大騒ぎをしていた。

「…メアリー、人間界で今いろいろ起きているだけみたい。もっと地上に近づける?」

「OK、下に行くわ!」

地上に近づけばもっとよく分かる。どうやら妖怪たちにとって良い環境になる現象が起きているようだ。

「ウフフ、こんなに騒がしい人間界なんて久々…体が熱くなっちゃう♪」

「…サリナ、あっちが一番騒がしいわ、行ってみる?」

「そうねぇ…まあ噂の竜族もいるかもだし…行って損はないかもね!」

何かを期待した表情でサリナが答えるが、メアリーには見えていなかった。


404 ◆zvY2y1UzWw2013/08/23(金) 02:05:05.00Xr8MKYWY0 (10/21)

たどり着いたのは最も大きな宴の場。妙な機械がスポットライト照らしている小山を見ると、一人で剣舞をする仮面の少女がいた。

「ヒュー!素敵な舞台じゃない!ちょっと行きましょう!」

「え、乱入しちゃうの!?邪魔にならない?」

「あれは相当な実力者よ。『剣の王』が言うんだから間違いないでしょっ!」

「でもサリナが使う武器、槍ばっかりじゃない!」

「…どっちも使えるからいいの!行くよっ!」

そう言うと、サリナはメアリーの背から飛び降り、指輪から魔界軍の真っ赤な軍旗を出現させる。

それに包まると青い服から黒い魔女のような露出の少ない服へ変化した。

旗は人間体に戻ったメアリーが回収し、指輪をかざすとその姿は見えなくなった。


405 ◆zvY2y1UzWw2013/08/23(金) 02:06:19.74Xr8MKYWY0 (11/21)

少女が一人で流れるような剣舞を披露し…黒い剣が現れ『演舞』パートへ移行しようとしたその時、急に空中から魔女のような女性が降りてきた。

『魔女』は槍をどこからか取り出し、『姫』に向け笑った。

…まるで今にも殺そうとしているように。

「ウフフ…♪」

「むふふ…♪」

その意図を姫はすぐさま理解したようで、にやけたような笑みで返した。


406 ◆zvY2y1UzWw2013/08/23(金) 02:07:43.61Xr8MKYWY0 (12/21)

先程の演舞とは違い、黒い剣が姫を守る兵士のように動き出す。

しかし、槍を操る魔女はそれをいとも簡単に弾き…時折観客に槍を胸で挟むなどして『魅せつけ』ながらも姫に近づいてゆく。

しかし、次々と黒い剣は姫を守る為に次々と襲い掛かり…少しずつ魔女が押され始める。

黒い剣の群れに押し流されるように、魔女が倒れこむ。

しかし、持ち手が見えない真っ赤な旗が姫と魔女の所を通り過ぎると、魔女は別の…紫色のドレスを身に纏い、姫の真横に青白い剣を持って立っていた。

それはまるで姫が魔女の術中にはまり、攫われてしまったように見えた。

追いかけるように接近した黒い剣は一振りで薙ぎ払われ、地面に落ちる。姫に接近すると今度は姫と魔女が剣と剣の切り合いだ。

白い剣と青白い剣がぶつかり合い、観客も息をのむ。

激しい剣裁きがぶつかり合い…魔女の剣に姫の剣が弾き飛ばされる。

勝利を確信したように魔女が高らかに笑い、ゆっくりと姫に近づき、首を切り落とそうと剣を振り下ろす。

―ガキィン!

しかし、それは白銀の剣によって防がれてしまった。