1VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:15:15.35Cr80KzW40 (1/69)

――7月23日・午前11時25分・第二図書室――


赤沢「恒一くん、そっちはどう?」

恒一「うーん、十五年前以外の<ある年>には、ヒントになりそうな情報はないかな」

赤沢「そう。……やっぱり、無駄なことに付き合わせてしまったかしら」

恒一「そんなことないよ。合宿までまだ時間があるんだから、できることはしておかないと」

恒一「見崎や勅使河原だって、今の内になるべく手伝っておきたいって言ってるんだし」

赤沢「……ありがとう。じゃあ、他の資料を持ってくるわ」


恒一(…………)

恒一(本当は、十五年前の卒業生から情報を得られれば一番なんだろうけど)

恒一(怜子さんは、<災厄>の影響で当時をよく覚えていない)

恒一(千曳さんが調べた結果、他の卒業生も同じような状態ということだった)

恒一(それでも杉浦さんたち他の対策係は、実際に当時の卒業生を訪ねて回ってくれているけれど……)

恒一(その結果も、はかばかしいものじゃない)

恒一(結局は、合宿で事態が好転することを祈るしかないのが現状か……)

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2VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:16:06.89Cr80KzW40 (2/69)

赤沢「んーっ……! くっ……!」

恒一「?」


恒一「赤沢さん、イスの上に乗って何してるの?」

赤沢「あそこの資料を取りたいんだけど、届かなくて……んっ!」

恒一「だったら僕がやるよ。ほら、危ないから降りて」

赤沢「ううん、もうちょっとで届くから大丈夫――」


ガタッ


赤沢「!!」

恒一「赤沢さん!」


ガシッ


赤沢「……!」

恒一「……大丈夫? ケガしてない?」

赤沢「……あ……ありがとう、大丈夫」カアッ

恒一「良かった。じゃあ降ろ――」


ガラッ


望月「見崎さん、三神先生が呼んで……る……」

赤沢「」

恒一「あ、望月……」


3VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:17:04.85Cr80KzW40 (3/69)

望月「……」

望月「……」カアッ


望月「その、ぼぼ僕はっ! 何もっ! 何も見てないからっ!」


タッタッタッ…


恒一「……」

赤沢「……」

恒一「えっと……降ろすよ?」

赤沢「……」コクリ


恒一(望月のやつ、とんでもなく誤解していった気がする……)


鳴「……こっちも、特に目新しい収穫は無しだったわ、榊原くん」

勅使河原「うー、ずっと文字ばっか見てたから目が痛え……」

恒一「……見崎に、勅使河原」

鳴「今、望月くんは何て?」

恒一「三神先生が呼んでる、って言ってたよ」

鳴「……ふうん」

恒一「ふうん……って、行かなくていいの?」

鳴「多分コンクールに出す絵のことだと思うけど、それはもう出来上がってるから、平気」



4VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:17:58.72Cr80KzW40 (4/69)

鳴「それよりも、二人は何してるの? 床にずいぶんと資料が散らばってるみたいだけど」

恒一「ああ、ちょっとね。今片付けるよ」

赤沢「ごめんなさい、私のせいで……」

恒一「気にしなくていいよ……ん?」

恒一(これ、一昨年の名簿だ)

恒一(怜子さんが担任で、確か<災厄>が途中から始まった年の……)

恒一(千曳さんに前見せてもらった時は、あまりよく調べてなかったんだけど――)


    『赤沢和馬 10月1日 他殺』


恒一「!?」


5VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:18:51.26Cr80KzW40 (5/69)

赤沢「恒一くん?」

恒一「……赤沢さん、この人って」スッ

赤沢「……!」

勅使河原「おいサカキ、それは……!」

恒一「やっぱり、知ってる人? それとも、ただ苗字が同じだけ? それに『他殺』って……」

赤沢「……」

鳴(相変わらずの質問攻めね、榊原くん)

赤沢「……分かったわ、説明する。別に、今まで隠していたわけでもないから」

赤沢「でも、その前に場所を変えましょう? ついてきて」


6VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:19:46.80Cr80KzW40 (6/69)

――三年三組・教室――


赤沢「赤沢和馬は、私の従兄弟よ。私にとっては実の兄のような存在だったわ」

恒一(……あれ? 前にもこんな話を聞いた気が……)

恒一(見崎の従姉妹の話と、混同しちゃってるのかな)

恒一「……和馬さんは、その年の<災厄>で?」

赤沢「ええ、佐久間という生徒が"いないもの"を放棄して、9月に<災厄>が始まって……」

赤沢「おに……いえ、兄さんはここで……ナイフで刺されて、亡くなった」

赤沢「順番としては、二人目だったわ」

赤沢「……そして、犯人は未だに不明のまま」

恒一「……」

鳴「久保寺先生と、同じなのね」

赤沢「場所や死因は、確かにそう。でも、決定的に違うところがあった」

恒一「他殺だということ?」

赤沢「いいえ、もっと明確な違い」

赤沢「兄さんが死んでいたのは……完全に鍵が閉めきられた、密室状態の教室だったの」



7VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:21:08.23Cr80KzW40 (7/69)

鳴「……密室……」

勅使河原「だいたいのことは聞いてたけど、そこまでは知らなかったな……」

恒一「でも、それなら自分で鍵を閉めて自殺、という可能性もあるんじゃ?」

赤沢「自殺の可能性は、もちろん疑われたわ。けれど……遺書はどこにも見当たらなかった」

赤沢「加えて刺し傷は一撃で心臓に達していて、自分でつけるにはよほどの覚悟が必要……」

赤沢「そして、凶器のナイフには誰の指紋もついていなかったわ」

赤沢「もちろん学生服の袖で持てば指紋はつかないけど、自殺する人間がわざわざそれをする理由は無いでしょう?」

恒一「……そうだね」

赤沢「結局は警察も、他殺と断定したから……自殺は、あくまで密室に説明をつける一つの解釈でしかなかったということよ」

赤沢「だから、私だってそうだと思っていたけれど……先週のことで、自信が無くなった」

恒一(……久保寺先生のことか)

赤沢「兄さんは、自殺をするような人じゃない。それでも――」

―――――――――

――――――

―――

――お兄っ!!



8VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:21:55.36Cr80KzW40 (8/69)

和馬「どうしたんだい、泉美? そんなに慌てて……」

赤沢「だって……だって私、聞いたの!」

赤沢「<災厄>が、始まったって……!」

和馬「!」

和馬「……それは、どこで聞いたの?」

赤沢「えっと……詳しい話は、千曳先生から」

和馬「……はぁ。千曳さんの口が、そんなに軽いとは思わなかったな」

和馬「それとも、よっぽど泉美がしつこかったのか……どっちだろうね?」

赤沢「う……ごめんなさい。でも私、心配で……」

和馬「分かってる。千曳さんだって、泉美は大丈夫って判断したんだろう」

和馬「僕らが従兄妹どうしなのを、今は幸運に思わないといけないかな」

赤沢「お兄……」

和馬「そんな顔しないで。それに、まだ始まったと決まったわけじゃない。上手くいけば……」

和馬「……千曳さんは、僕のことを何か言ってたかい?」

赤沢「? ううん、何も」

和馬「そうか……いや、それならいいんだ」

和馬「とにかく、心配はいらないよ」

和馬「何があっても、泉美を一人になんて絶対にしないから……ね?」

赤沢「……うん!」

―――

――――――

―――――――――

赤沢「――それでも<災厄>に呑まれれば、そんな死に方をするのかもしれないって……」

鳴「……」

恒一「……」



9VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:22:46.11Cr80KzW40 (9/69)

赤沢「……ごめんなさい。少し、喋りすぎたみたい」

勅使河原「赤沢……」

恒一「良かったら、もう少し詳しい話を聞かせてくれないかな?」

恒一「何か、力になれることがあるかもしれない。もちろん、赤沢さんが良ければの話だけど」

赤沢「……私は構わない。けど、長くなるわよ?」

恒一「あ、そっか。……見崎はどうする?」

鳴「聞かせてもらうわ。……わたしも、ここにいていいのなら」

勅使河原「えーっと、オレはいていいのか?」

赤沢「任せるわ、好きにして」

勅使河原「んじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうとするか」


赤沢「いいわね? それじゃあ、初めから……」



10VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:23:51.45Cr80KzW40 (10/69)

赤沢「第一発見者は、同じ三年三組の江南という男子生徒だったわ」

赤沢「10月1日の放課後、彼は一度教室を後にした」

赤沢「その時は、教室の中には誰もいなかったと証言しているわね」

赤沢「外は雨が降っていて、傘の無かった彼はそのまま帰宅していたんだけど……」

赤沢「教室を出てから大体5分を過ぎた後、ポケベルにメッセージが入った」

赤沢「送信元は兄さんの携帯で、内容は『わすれもの』」

赤沢「そこでようやく、彼は自分が傘を教室の傘立てに忘れていたことを思い出して、学校に戻ったの」

赤沢「その時学校に戻っていく彼の姿は、多くの人に目撃されているわ」

赤沢「傘をさしていなかったから、かなり目立っていたみたい」

鳴「随分とうっかりしてるのね、その人」

勅使河原「……」

恒一「確かに、雨が降ってても傘を忘れるなんてそうそう……いや」

鳴「?」

恒一「……そういえば、勅使河原が前に全く同じように傘を忘れてた」



11VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:24:48.49Cr80KzW40 (11/69)

勅使河原「サカキ! お前、この状況でそれを言うのかよ!」

鳴「……ふうん、そうなんだ」

勅使河原「うう……あの時は、朝は晴れてたからつい持ってきてたの忘れちまったんだよ」

赤沢「別に、いいんじゃないの? ……らしいと言えば、らしいわけだし」

恒一「まあ、僕もそう思うよ」

勅使河原「全然嬉しくねえ……」

恒一「それよりも和馬さんは、そのタイミングで教室に来たということだよね?」

赤沢「そうなるわ。そしてそれから5分後に、江南さんが再び教室に戻ってきた時にはもう……」

恒一「亡くなっていた?」

赤沢「ええ。そして、教室には鍵がかかっていた」

恒一「……」

赤沢「どうかしたの?」

恒一「いや、何でも。……それから、江南さんは?」

赤沢「教室の中に入ろうとしたんだけど、鍵がかかっていたから、鍵を取りに職員室へ向かって……」

赤沢「そして、そこにいた担任の先生に事情を説明して……鍵を持って、二人で教室へと戻った」

恒一「そのときの担任って……三神先生だよね?」

赤沢「ええ。その日は部活動が休みだったみたい」

恒一(怜子さん……一昨年も、そんな場面に出くわしてたのか)



12VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:25:34.28Cr80KzW40 (12/69)

恒一「それで、教室に戻ったあとは?」

赤沢「三神先生は、中で倒れている兄さんの姿を認めると、すぐ職員室へ戻ったの」

赤沢「警察と、救急に通報するためにね」

赤沢「江南さんの方は、鍵を開けて……それから警察が到着するまで、ずっとその場にいた」

赤沢「その時に、他の人物――つまり犯人ね――は教室にいなかったという話だったわ」

赤沢「……事件の流れは、これでおしまい。次に、現場の状況を説明するわね」

恒一「……」

鳴「……」

赤沢「兄さんは、教室のちょうど真ん中辺りに倒れていたわ。そばにはナイフと……携帯電話が落ちていた」

恒一(助けを呼ぼうとしたのかな? だとしたら、やっぱり他殺ということになるけど)

赤沢「血痕の位置から、刺されてそのままその場に倒れ込んだ、という判断がなされたようね」

赤沢「教室の中は、かなり酷い状態だったみたい……先週のことを思えば、分かるでしょう?」

恒一「……うん」

勅使河原(ああ、また思い出しちまった……)

赤沢「それから、江南さんが開けたドア以外、全てのドアや窓には鍵がかかっていたわ」

赤沢「もちろん鍵を開ける前は、そのドアにも鍵がかかっていたということ」



13VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:26:49.71Cr80KzW40 (13/69)

赤沢「……それから、完全なアリバイがあったモノがあるわ」

鳴「何?」

赤沢「教室の鍵。その日の職員室は、朝からずっと誰かしら先生がいて、鍵が持ち出された形跡は無かったの」

赤沢「唯一、職員室から人がいなくなったのは……江南さんが、三神先生を職員室から連れ出した時だけ」

赤沢「その時にしたって、一緒に鍵を持ち出している。だから、教室の鍵をかけようと思うなら……」

恒一「内側からかけるしかない……」

赤沢「そういうことよ」

赤沢「それから……教室の血痕には、一部踏まれた跡があった」

恒一「江南さんか、もしくは犯人のものじゃ?」

赤沢「江南さんは教室の中に、一歩も入ってないと言っていたわ」

赤沢「……もちろん、ショックで無意識に中に入ったということは、あり得るかもしれないけど」

赤沢「ただ、犯人のものというのはどうかしらね?」

赤沢「それなら、どうやって密室状態の教室から抜け出したかが問題になるわ」

恒一「……なるほどね」

赤沢「以上が、私の知っている全部。どうかしら?」



14VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:27:37.65Cr80KzW40 (14/69)

勅使河原「どうって言われてもなあ……特に何も思いつかねえけど」

赤沢「あんたには最初から期待してないわ。他の二人に聞いてるの」

勅使河原「……へーい」

恒一「そうだね……」

恒一(ドアもそうだけど、窓に至ってはもともと内側からしか鍵はかけられない)

恒一(自殺ではないという前提に立つとすれば、まず考えられるのは……)

恒一(和馬さん自身が鍵をかけ、密室を完成させたという可能性)

恒一(つまり、犯人に刺された後で身を守るために鍵をかけたということだけど……)

恒一(だとすれば、和馬さんの倒れた位置や血痕は、ドア付近になるはず)

恒一(それに、窓はともかくドアは普通、両方とも鍵は開いてるわけだから……)

恒一(この場合だと、どちらか片方の鍵は開いたままになってしまうのか)

恒一(じゃあ、刺された後で両方の鍵を閉めた? 血痕を残さずに? そんなことできるわけが――)

恒一(待てよ、現場にナイフが残されていたということは……犯人は、和馬さんを刺してすぐに逃走したんじゃないだろうか?)

恒一(そう……ナイフを抜かずに)



15VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:28:21.42Cr80KzW40 (15/69)

恒一(それなら、出血はかなり少なくなる)

恒一(和馬さんは両方のドアに鍵をかけてから、自分で刺さったナイフを抜いたところで力尽きた)

恒一(それなら、血痕を残さずドアに鍵を――)

恒一(――ダメか。それだとナイフに指紋が残っていなきゃおかしい)

恒一(そもそも、和馬さんの傷は致命傷だったんだから)

恒一(鍵をかけたり、指紋をつけずにナイフを抜いたり……そんな余裕も理由もなかったはず)

恒一(……やっぱり、鍵をかけたのは和馬さんではあり得ないかな)

恒一(内側から、鍵をかけた人物が他にいる)

恒一(問題はどうやって、そこから抜け出したのか……)

恒一「……ごめん、まだ考えがまとまらないや」

鳴「赤沢さんの話を聞いて思ったけど、真っ先に疑うべきことがあるんじゃないかしら」

赤沢「それは?」

鳴「教室は、本当に密室だったのか」

赤沢「……」

鳴「だって、三神先生はすぐ職員室に戻ってしまったんでしょ?」

鳴「じゃあ、それを確認している人は結局、江南さんだけということになる」



16VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:29:31.58Cr80KzW40 (16/69)

勅使河原「言われてみれば、そうだな」

鳴「でしょ? 彼が嘘をついていたのなら、密室なんてものに悩む必要はなくなると思うけど」

恒一「見崎は、彼が犯人だと?」

鳴「ええ。他殺を自殺に見せかけるため……くらいしか、わざわざそんな嘘をつく理由は思い浮かばないから」

鳴「……どう? 赤沢さん」

赤沢「……残念だけど、彼に犯行は無理よ」

赤沢「江南さんがメッセージを受け取ってから、三神先生に異変を知らせるまでは、おおよそ10分」

赤沢「そのうち5分は、学校に戻る時に消費されるから……」

赤沢「彼が兄さんを殺すのに使えた時間は、たったの5分しかないわ」

鳴「それでも、不可能とは言えない」

赤沢「言ったでしょう? 『教室の中はかなり酷い状態だった』って」

赤沢「彼が刺したのなら、無事で済んだはずがない」

鳴「……!」

勅使河原「……??? サカキ、どういうことだ?」

恒一「返り血を浴びているはず……ということだね」



17VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:30:29.36Cr80KzW40 (17/69)

赤沢「服を着替えた? レインコートを着ていた? ……そんなもの、どこにも無かった」

赤沢「警察が来てから、江南さんはその場で話を聞かれたの」

赤沢「見崎さんの言う通り、状況からみれば彼が疑わしいのは事実だったから」

赤沢「……怪しいものや不審なところがあったら、その時に見つかっているわ」

鳴「……」

恒一「もし、だけど……」

恒一「ナイフを抜いたのが江南さんじゃなく和馬さんだったら、返り血を浴びなかったのかもしれないよ」

赤沢「それなら、ナイフに兄さんの指紋が残ることになるわ」

恒一(……そうだった)

赤沢「それに彼が犯人なら、事件をすぐ知らせるというのは自殺行為なのよ」

赤沢「事件当時、他の三年のクラスはみんな受験勉強で、全く人がいなかったの」

赤沢「だから、殺したのならそのまま立ち去って、発覚してから『傘を取りに来た時は誰も居なかった』と言えばいい……」

赤沢「わざわざ自殺の偽装のために密室を騙るより、その方がよっぽど疑われずに済むわ」



18VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:31:22.76Cr80KzW40 (18/69)

赤沢「事実、あなたたちがこうして疑っているのも……」

赤沢「事件の発生から発見が短くて、他に怪しい人間がいないからでしょう?」

恒一「……否定はしないよ」

恒一「なら赤沢さんは、密室は本当にあったことだと?」

赤沢「そう思う。あの人がそんな嘘をつくはずがないもの」

恒一「……赤沢さんは、江南さんをとても信頼しているんだね」

赤沢「……」

恒一「江南さんをよく知っていて、そんなこと絶対にしないって信じてるみたいだよ」

恒一「ひょっとして、知り合いだったりする?」

赤沢「……私と言うよりは、兄さんの方ね。昔からの友人だったわ」

赤沢「三年三組では、二人とも対策係で……兄さんと江南さんが当日残っていたのも、その関係だったみたい」

鳴「それなら……どうしてその日、二人は一緒にいなかったの?」

赤沢「!」

赤沢「……それは……その……」



19VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:32:15.39Cr80KzW40 (19/69)

恒一「何か、知ってるの?」

赤沢「……はっきりした理由を知ってるわけじゃないけど」

赤沢「……たぶん、喧嘩してたから……だと思う」

恒一「喧嘩?」

赤沢「実際に、そういう場面を見たわけじゃないの」

赤沢「でも、ずっと二人とも一緒に帰ってきてたのに、事件の少し前から急に別々に帰って来るようになって……」

赤沢「兄さんに聞いても、適当にはぐらかすだけだったから」

赤沢「喧嘩でも、してるのかなって……」

恒一「……ふうん」

勅使河原「ああ、そりゃ間違いなく喧嘩だ」

勅使河原「オレと風見も、たまに何かあるといっつもそんな感じになるからな」

恒一(それにしては、忘れ物はちゃんと教えてあげてるみたいだけど)

赤沢「仮にそうだとしても、そんなことは動機にならない。そうでしょう?」



20VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:32:57.22Cr80KzW40 (20/69)

恒一「……」

恒一(彼が犯人かはともかくとして、一番事件に近い人であることは間違いない)

恒一「江南さんは、今どうしてるの? できれば、詳しい話を聞いてみたいけど……」

赤沢「それは無理ね。だって……」

赤沢「事件の二日後に、亡くなってしまったから」

恒一「亡くなった?」

赤沢「そう。夜見山市街で、交通事故に遭って……」

赤沢「……きっと、<災厄>から逃げようとしたのね」

鳴「どうして、そう思うの?」

赤沢「だって、彼の家は中心からかなり外れたところにあるのよ?」

赤沢「兄さんの事件の影響で三組は学級閉鎖、学校に行こうとしたわけでもなく」

赤沢「外出の理由は家族にも告げていなかった……」

赤沢「脱出しようとしたとしか、思えないわ」

鳴「……」

赤沢「別に、そのことを責めるつもりはないけれど……」

赤沢「一番の関係者が亡くなったことで、事件は暗礁に乗り上げてしまった」

赤沢「学校としても、10月に入って二人も犠牲者が出たことで、<災厄>の発生を認めなくてはならなくなったみたいね」

恒一(そのきっかけを作った佐久間さん自身も、1月に自殺したと千曳さんが言っていた)



21VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:34:05.73Cr80KzW40 (21/69)

恒一(責任を感じてなのか、<災厄>によるものなのか……)

恒一(見方によっては、和馬さんの死は彼のせいだとも言える)

恒一(赤沢さんは、どう感じているんだろう……)

恒一「……最初に犯人は不明って言ってたけど、警察もそういう見解?」

赤沢「あくまで疑惑止まりだけど、あなたたちと同じ。江南さんを疑っていたみたい」

恒一「理由は?」

赤沢「足跡よ。あれをどう解釈しても、彼が嘘をついていることになってしまうから……」

恒一(犯人のものなら、江南さんがドアを開けた時、中には犯人がいないとおかしい)

恒一(じゃあ彼のものということになるけど、それなら教室に入っていないという発言は嘘になる……)

恒一(嘘をついたとすれば……理由は見崎の言う通り、彼が犯人だからだろう)

恒一(こうして考えれば、やっぱり彼は怪しい。けれど……)

恒一「それなら、返り血の問題はどうしたの?」

赤沢「兄さんが殺されたのは、もっと前だったと考えられたの」

恒一「えっ?」



22VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:35:12.56Cr80KzW40 (22/69)

赤沢「まず、江南さんが最初に帰った時には、兄さんはもう彼に殺されていた」

赤沢「返り血は、レインコートを着るなりして汚れないようにしておく」

赤沢「そして下校中に、自分で兄さんの携帯を使ってポケベルにメッセージを送る」

赤沢「あとは学校に戻るまでに血で汚れたコートを処分して、兄さんの携帯を元に戻せばおしまい」

赤沢「私がさっき言ったような、偽のアリバイが成立するというわけ」

赤沢「密室については彼の狂言で、実際は存在していなかったという結論よ」

恒一「確かに、筋は通るね」

赤沢「……話の上ではね。実際は、下校中に彼が不審な行動をしてる様子なんか、誰も見てない」

赤沢「それに、戻るまでに誰かが兄さんを発見して、人を呼ばれたら……」

赤沢「兄さんの携帯を持っているのだから、間違いなく言い逃れはできなくなる」

赤沢「そんな危険を冒すくらいなら、何もしない方がよっぽどマシでしょう?」

赤沢「だから、あくまで疑惑止まりだったのよ。決定的な証拠はないの」

赤沢「本当だとしても、肝心の江南さんはもういないわけだし……」

恒一「それで、不明のままなんだ?」

赤沢「……そうね」



23VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:36:22.27Cr80KzW40 (23/69)

――午後0時5分・三年三組教室――


恒一「……うーん……」

恒一「それらしい仮説はいくつか出たけど、どこかしら納得のいかないところもある……」

恒一「……そもそも、この事件そのものがそんな印象を受けるけど」

恒一(まだ、本当の"形"が浮き彫りにはなっていないような気がする)

赤沢「恒一くん、真剣に考えてくれてるのはありがたいけど……もう、十分よ」

赤沢「例え本当のことが分かったとしても、何かが変わってくれるわけではないわ」

赤沢「……全部、終わってしまったこと」

赤沢「だから、私たちは今の問題に専念しなきゃダメよ」

赤沢「これからのために……ね?」

恒一「……赤沢さん」

赤沢「見崎さんも、ありがとう。ずいぶん長い時間私の話に付き合わせてしまったわね」

勅使河原「おーい赤沢ー、オレはー?」

赤沢「はいはい、勅使河原もね」



24VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:37:17.69Cr80KzW40 (24/69)

鳴「……まだ……」

赤沢「?」

鳴「まだ、考えられていない可能性が、一つあるわ」

赤沢「見崎さん、あなた……」

恒一「納得のいく説明を、思いついたの?」

鳴「納得というよりは……諦観、かな」

恒一「……?」

勅使河原「???」

赤沢「何を諦めるのかしら? 事実にそぐわないところ?」

赤沢「だったら、悪いけどその可能性も間違いということよ」

鳴「その事実こそが、間違っているとしたら?」

赤沢「……甘く見られたものね。私だって、本気で真実を知ろうとしたの」

赤沢「警察の人に何度もお願いして、ようやく教えてもらえた情報だってある」

赤沢「間違いなんて、あるはずがないわ」

鳴「それは、"今"の事実でしょ?」

赤沢「まるで、昔は違っていたとでも言いたそうね」

鳴「ええ、だって――」


鳴「<ある年>には、事実なんていつも変えられてしまうから」



25VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:38:15.43Cr80KzW40 (25/69)

赤沢「……!?」

鳴「事件の話に不可解なところが生まれているのは、それが<災厄>による改竄を受けたせいとは考えられないかしら?」

鳴「これは、完全に私の想像になるけど……」

鳴「例えば犯人は、普通に教室の鍵を持ち出し、それで鍵をかけていて……」

鳴「先生たちを含めてみんな……その時は、そのことを確かに理解していたの」

鳴「ひょっとしたら、それを決め手に犯人は捕まってさえいたのかもしれない」

鳴「でも3月に<災厄>が終わって、事実が元通りになってしまうと」

鳴「鍵を持ち出した人物の存在が消えて……後には、密室だけが残った」

赤沢「それが、この現状だって言うの?」

鳴「……」コクン

恒一「じゃあ、犯人は……」

鳴「その行動を含めた、存在そのものが<災厄>の終結とともに修正されてしまう人物」


鳴「――つまり、"死者"よ」



26VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:39:15.05Cr80KzW40 (26/69)

勅使河原「マジかよ……!?」

鳴「一昨年の"死者"は、千曳さんによれば浅倉麻美という人だったみたいね」

鳴「彼女が、犯人だったんだと思う」

赤沢「……"死者"が……」

恒一「……でもさ、見崎」

恒一「<災厄>による事実の改竄というのは、完全に辻褄が合うように行われるんだよね?」

恒一「だとすれば、そういう不自然なところまで修正されてしまうものなんじゃないかな?」

恒一「もちろん、今のままでもちゃんと理屈をつけられるのかもしれないけどさ」

鳴「……そうかもね」

鳴「でも、"今"が修正の結果だとすれば、わたしたちにそれを確かめる術はない」

鳴「できることは、そう考えるかどうかの判断だけ……」

恒一「……」

鳴「そして、そう考えるのならば、もうこのことはいくら考えても無駄になってしまうわ」

鳴「そういう<現象>だから仕方ないって……そう思うしかない」



27VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:40:17.66Cr80KzW40 (27/69)

赤沢「……なるほどね。だから、"諦観"って言ったんだ?」

鳴「……ええ」

勅使河原「さっきから気になってるんだけどよ……ていかんって、なんなんだ?」

赤沢「あんたに対する、私の気持ちみたいなものよ」

勅使河原「赤沢の? ……それって、良い意味なのか!?」ウキウキ

赤沢「……はぁ。もういいんじゃない、それで」

恒一(まさしく、今の赤沢さんの心境だろうな)

赤沢「それはいいとして……私には、見崎さんの言うことが真実に思えるわ」

赤沢「確かめることはできなくても……納得できるのは、確かだから」

恒一「……」



28VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:41:04.95Cr80KzW40 (28/69)


ピリリリリリリ…! ピリリリリリリ…!


赤沢「……誰?」

勅使河原「っと、悪い。オレの携帯だ」

勅使河原「おっ! 中尾からだな。外に出てた連中、どうやら終わったらしい」

勅使河原「ちょっと抜けるぜ? 先に話は進めてていいからよ」


ガララッ、ピシャン


恒一「進めてていいと、言われてもね……」

恒一(……見崎のこの意見、完全に否定することは不可能だ)

恒一(何せ、相手は<現象>。全て『そういうものだから』の一言で済んでしまう」

恒一(だから、後は僕たちがそれを信じるかどうかなんだけど……)

恒一(……どうなんだ、僕は? 信じるのか、それとも――)


ガラッ


恒一・赤沢「「!!」」

鳴「……」


望月「……あ……ごめん。ひょっとして、入っちゃまずかった?」



29VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:42:30.25Cr80KzW40 (29/69)

赤沢「別に、そんなことはないわ。どうしたの?」

望月「えっと、これを……」

恒一「……携帯?」

望月「見崎さん、第二図書室に置きっぱなしにしてたでしょ?」

望月「鞄も一緒にあったから、まだ学校にいるんだとは思ったけど……盗まれたりしたら、大変だから」

鳴「……ありがとう」

恒一「あっちに置いたままだったの?」

鳴「持っていても邪魔になるし、かけてくるのはお母さんだけだから」

恒一(『いやな機械』ってことか)

恒一(――そうだ、望月にさっきのことをちゃんと説明しないと)

恒一「あのさ望月、さっきのことは――」

望月「大丈夫だよ、二人とも」

恒一「?」

望月「僕は、何も見てないからね!」グッ

恒一「」

望月「それじゃ、僕はこれで!」


タッタッタッ…


赤沢「……」カアッ

鳴「? 赤沢さん、顔が赤くなってるけど」

赤沢「……なんでもないわ」

恒一(いやいやいや、全く大丈夫じゃないし、思いっきり誤解したままじゃないか!)



30VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:43:10.48Cr80KzW40 (30/69)

恒一(大体、どう考えても見てたくせに、『何も見てない』なんて――)


恒一「――え?」

赤沢「恒一くん?」


恒一(――見てたのに、見てない?)



31VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:44:11.56Cr80KzW40 (31/69)

恒一(じゃあ、それはつまり……)

恒一(いや、それだけじゃない。そもそもあの時……)

恒一「…………」

赤沢「ねえ、どうしたの?」

恒一「……ごめん、少しここで待っててもらえないかな?」

恒一「確認しなきゃいけないことができたんだ……!」


タッタッタッ…


赤沢「ちょっと、恒一くん!?」

鳴「……」


――第二図書室――


恒一「――じゃあ、やっぱり和馬さんは?」

千曳「ああ、君の言うとおりだよ」

千曳「……しかし、どうして分かったんだい?」

恒一「事件の話を聞いて、そうじゃないかと思ったんです」

千曳「……」



32VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:45:13.31Cr80KzW40 (32/69)

恒一「赤沢さんには、教えてなかったんですか?」

千曳「……『余計な心配をかけさせたくない』と、和馬くんに止められていてね」

千曳「それに、君は当時のことを知らないだろうが……」

千曳「彼が亡くなったことで、赤沢くんは心に大きな傷を負ったんだ」

千曳「しばらくは、あまりにも不憫で見ていられないほどだったんだよ」

千曳「今でこそ、ああして気丈に振る舞ってはいるがね」

恒一(……何故だろう。どんな様子だったのか、分かる気がする)

千曳「そんな彼女の心の傷に触れてまで言う必要があるのか、そう思い続けて……言わないままにしてしまった」

恒一「……赤沢さんは、本当のことを知りたがっていますよ」

千曳「彼女に教えるつもりかい?」

恒一「そうなります」

千曳「……そうか」

恒一「一つ、いいですか?」

千曳「なんだい?」

恒一「このことを知っていたということは……千曳さんにも、犯人の目星はついていたはずです」

千曳「……」

恒一「それさえも、知らせないままにするつもりだったんですか?」



33VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:45:55.71Cr80KzW40 (33/69)

千曳「……恥ずかしい話だがね、私がそっちの方に気付いたのはつい最近のことなんだ」

千曳「それに今の赤沢くんは、対策係としての仕事に追われている」

千曳「いずれ、話すつもりではあったが……今年の<災厄>が終わってからにしようと思っていたよ」

千曳「……もう、全ては終わってしまったことだからね」

恒一「……」

千曳「けれど、榊原くんがそのつもりなら止めたりはしない」

千曳「……私の代わりに、どうかよろしく頼む」

恒一「……はい」


――その頃・三年三組教室――


赤沢「……」

鳴「……」

赤沢「……遅いわね、恒一くん。勅使河原も帰ってこないし」

鳴「……そうね」

赤沢「……」

鳴「……」

赤沢「……見崎さん、ごめんなさい」



34VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:47:03.42Cr80KzW40 (34/69)

鳴「?」

赤沢「今までのあなたの努力を、私たちが無駄にしてしまった」

赤沢「先週はつい、あなたにも責任があるって言ってしまったけれど……」

赤沢「冷静になって考えれば、そもそも私が恒一くんに初めからちゃんと説明しなかったのが原因よね」

赤沢「多少の危険は伴ったにしても、あのどっちつかずの状態よりは、その方が良かったはずだから……」

赤沢「そうすれば今、こういった状況にはなっていなかったかもしれないわ」

鳴「……」

赤沢「いきなり何を、って思ってるかもしれないけど……」

赤沢「考えてみれば私たち、こうして二人きりになることが今まで無かったでしょう?」

赤沢「だから、どうしても今のうちに伝えておきたくて」

赤沢「……迷惑だったかしら?」

鳴「……う」

赤沢「えっ?」

鳴「違うの、赤沢さん。本当は、あの時もう……」

赤沢「……?」

鳴「……ごめんなさい。もう少しだけ、待って」

赤沢「まだ、言う気になれない?」

鳴「……」コクン

赤沢「そっか。じゃあ、無理しなくてもいいわ」



35VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:47:53.86Cr80KzW40 (35/69)

赤沢「……私だって、事件のことを調べようという気になるまで、一年かかったもの」

赤沢「それまでは、考えたくもなかった」

赤沢「まあ……そのせいで、当時三組だった人には事情を聞けなかったんだけどね」

赤沢「さっき話したことは、ほとんどが千曳先生と警察の人から聞いた話なのよ」

鳴「三神先生には、聞かなかったの?」

赤沢「えっ?」

鳴「三神先生だって、事件を目撃してるから……何か、知ってるのかも」

赤沢「……確かに。どうして私、話を聞かなかったのかしら」

赤沢「……」

赤沢「……ああ、そういえば……見崎さん、あなただって分かっているんじゃないの?」

鳴「え……?」

赤沢「三神先生は、一昨年の<災厄>のあと担任を外れて、仕事の量を減らしてるじゃない」

赤沢「それで、一度美術部が無くなってしまったんでしょう?」

鳴「……」

赤沢「傍目から見ても、一昨年のことを気に病んでるって分かったから」

赤沢「私、結局そのことを聞かないままでいたのね、きっと」

鳴「……」

赤沢「今年は副担任とはいえ、美術部にも復帰してるし……」

赤沢「少しは元気になったということかしらね?」

鳴「……そうかもね」

赤沢「まあ、とにかく……」



36VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:49:03.69Cr80KzW40 (36/69)

赤沢「あなたが何を思い詰めているのかは分からないけど……いつか、言えるようになる時が来るはずよ」

鳴「……」

鳴「……千曳さんが言ってたわ。赤沢さんは、強い人だって」

赤沢「千曳先生、そんなこと言ってたの?」

赤沢「……それじゃあ、イメージを損ねちゃったかしら?」

鳴「そんなことない、わたしも今……その通りだって思ったから」

鳴「……ありがとう、赤沢さん」

赤沢「……ふふっ、どういたしまして」


ガラッ


勅使河原「……」

赤沢「どうだった?」

勅使河原「ダメだな。合宿で何があったか、まともに覚えてる卒業生は一人もいなかったってよ」



37VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:49:53.83Cr80KzW40 (37/69)

赤沢「……分かったわ、ありがとう」

勅使河原「一体なんなんだ? いくら十五年前ったって、もう少し覚えてるもんだろ?」

鳴「<災厄>の影響、かもね」

勅使河原「……くそっ」


ガラッ


勅使河原「サカキ? どこ行ってたんだ?」

赤沢「お帰りなさい、恒一くん。用事は終わったの?」

恒一「うん、待たせてごめんね」


恒一「――犯人が、分かったよ」



38VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:50:46.31Cr80KzW40 (38/69)


赤沢「……犯人が? "死者"じゃなかったの?」

鳴「……」

恒一「その可能性は否定できないけど、辻褄が合うのは、こっちの方だと思うよ」

赤沢「それじゃあ、今まではそれを確かめに行ってた?」

恒一「そうなるかな。いきなり説明してもいいんだけど、まずはそう思った理由から話すね」


恒一「赤沢さんは、和馬さんが江南さんに忘れ物を教えたって言ってたけど、おかしいとは思わなかった?」

赤沢「喧嘩していたはずの二人に、そういうやりとりがあったこと?」

赤沢「それとも、雨が降っていたのに江南さんが傘を忘れていったことかしら? こいつみたいに」

勅使河原「だから、あれはついうっかりしててよ……」

恒一「いいや、もっと別のことだよ」

恒一「……どうして、江南さんが出て行った後で教室に来たはずの和馬さんが忘れ物に気付いたのか、疑問に思わなかった?」

赤沢「どういうこと? だって教室の傘立てに彼の傘があるのを見れば、忘れ物をしてるって……」


恒一「僕は思わないよ。だって……外は雨が降っていたじゃないか」

赤沢「あ……!」



39VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:51:37.96Cr80KzW40 (39/69)

恒一「雨が降っているのに傘を忘れて帰る人なんて、そうそういないよね」

勅使河原「……もうワザと言ってるだろ、それ」

恒一「僕なら、『まだ学校に残っているのかな』って考えるよ」

赤沢「……」

鳴「わたしの携帯と、同じね」

恒一「そうかもね。そっちは鞄も一緒に置いてたから、望月は僕らがもう帰ったとは絶対に考えなかっただろうし」

赤沢「でも、それなら兄さんはどうして彼が傘を忘れていったと思ったわけ?」

恒一「簡単な話。和馬さんは見ていたんだよ」

恒一「江南さんが、傘を忘れてそのまま帰っていくところをね」



40VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:52:36.59Cr80KzW40 (40/69)

赤沢「……それなら、5分後なんかじゃなく、その場で教えてあげているはずじゃない」

赤沢「それに忘れたの? 江南さんが出て行く時、教室には誰もいなかったって言ったでしょう?」

恒一「仕方がないよ、教えてあげたくても、それをしてはいけなかったんだから」

恒一「それに正しくは、『誰もいなかったと証言している』だよ」

恒一「実際がそうだったなんて、誰も確かめてない」

赤沢「???」

赤沢「それをしてはいけない? 実際は? 何を言って……」

赤沢「……ん……?」

赤沢「………………」

赤沢「~~~っ!!!」

恒一「……分かった?」



41VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:53:20.81Cr80KzW40 (41/69)

鳴(……そっか、そういうこと……)

勅使河原(……全然分かんねえ……)

赤沢「そんな……でも、今まで一度も……」

恒一「うん、千曳さんは……赤沢さんには黙ってたって言ってたよ」


恒一「事件当時、和馬さんが"いないもの"だったことはね」



42VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:54:22.07Cr80KzW40 (42/69)

勅使河原「どういうことだ? "対策"は、佐久間って人が放棄して終わってたんじゃ……」

赤沢「……あんた、本当に人の話を聞いてないのね」

赤沢「一昨年の<災厄>が始まったとみなされたのは、兄さんと江南さんが続けざまに亡くなったからよ」

赤沢「それまでは当然、"対策"は続いていたの」

赤沢「だったらあんたは、"いないもの"が『やめたい』って言ったら、ハイそうですかと終わりにするわけ?」

勅使河原「……いや、それは無理だ」

赤沢「でしょう? 佐久間さんは9月の時から"いないもの"を放棄してはいたけど、だれも彼を相手になんかしていなかったのよ」

恒一「自分の命がかかっているわけだから……みんな、必死だったんだろうね」

恒一「だけど、それでも9月の下旬には最初の犠牲者が出てしまった」

恒一「もちろん、偶然ということもあるから"対策"はやめないけれど、このままでは来月も被害が出る可能性は高い」

鳴「だから、『おまじない』を強化した?」

恒一「そう。僕たちのように、"いないもの"を二人に増やしてね」



43VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:55:28.88Cr80KzW40 (43/69)

赤沢「……そうだったのね。じゃあ、あれは喧嘩なんかじゃなくて」

恒一「和馬さんが"いないもの"になっていたから、一緒にはいられなかったんだよ」

恒一「事件当日にしても、"いないもの"の和馬さんは教室にいたからこそ、江南さんの忘れ物に気付いて……」

恒一「彼が学校の外に出てから、ポケベルにそれを教えてあげたということだったんだ」

勅使河原「徹底してんなぁ。けどよ、確か学校の外と放課後は大丈夫だったはずだろ」

勅使河原「そのときは放課後だったんだし、その場で教えても良かったんじゃないか?」

恒一「……放課後や学校の外にいるときでも、曖昧にしか僕に"対策"のことを教えてくれなかったのは、どこの誰だったかな?」

勅使河原「うぐっ……」

赤沢「……反省してるわ。ごめんなさい」

恒一「でも、それも確固たる根拠があるものじゃないからね」

恒一「極力"いないもの"への接触を避けるという方針になることは、仕方がないと思うよ」


赤沢「恒一くんが兄さんのことを千曳先生に確認してきたというのは分かったけど、それで犯人が分かるの?」



44VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:56:34.35Cr80KzW40 (44/69)

恒一「事件当日、和馬さんは"いないもの"で初めから教室にいた。これはいいよね?」

恒一「すると、もう一つ分かることがある。それで犯人が誰かも分かるんだ」

勅使河原「一体なんだよ? もったいぶらずに教えてくれよな」

恒一「ごめんごめん、つまり江南さんは警察の人に対しても、"対策"を徹底したということなんだ」

恒一「ポケベルのメッセージや、倒れている和馬さん自身といった誤魔化しようのないことを除いてね」

恒一「理由はもちろん、話を聞かれたのが学校の中だったから」

赤沢「……そういうことになってしまうわね」

恒一「江南さんは犯人じゃない。その可能性は散々検討したけど否定されてる」

恒一「じゃあ、彼は他にいる真犯人と共犯だったんじゃないかとも思ったんだけど……」

恒一「そうすると、彼が『教室は密室だった』と言っている以上、犯人たちは自殺に見せかけるつもりだったことになる」

恒一「それにしては、あまりにもその痕跡がない。少なくとも、偽物の遺書くらいは置いたはずなんだ」

恒一「つまり……江南さんは、完全に潔白だった。結果として共犯のように見えてしまう部分はあるけどね」

赤沢「……」



45VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:57:41.76Cr80KzW40 (45/69)

恒一「それなら彼が嘘をつくのは、"いないもの"に関わることだけになるはず」

恒一「……そして、彼の話には明らかに嘘としか思えない部分があった」

鳴「教室は密室で、中に犯人はいなかった……」

赤沢「……!」

恒一「あの教室を密室にするためには内側から鍵をかけるしかない。犯人は中にいたんだよ」

恒一「江南さんはそれを言えなかったんだ。……なぜならその人物は、"いないもの"だったから」

赤沢「……ああ……」



恒一「――そう、犯人はもう一人の"いないもの"……佐久間さんだよ」




46VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 03:59:11.75Cr80KzW40 (46/69)

恒一「佐久間さんは……和馬さんを殺した後、江南さんが鍵を開けたドアから出ていった」

恒一「余計な説明を省けば、これが事件の真相なんだ」

勅使河原「……なあサカキ、俺でも疑問に思うことがあるぞ」

勅使河原「それなら、三神先生だってそいつを見てるはずだろ? まさか今までずっとそれを黙ってるなんて言わないよな?」

鳴「それに、密室を作った理由も分からないままね」

鳴「江南さんがそこまで"対策"を徹底しなかったら、どうするつもりだったのかしら?」

恒一「……やっぱり、これだけじゃ納得してくれないよね」

恒一「赤沢さん」

赤沢「……」

恒一「僕はこれから詳しく説明しようかと思うんだけど……いいかな?」

赤沢「……私のことは、大丈夫。教えて、恒一くん」



47VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:01:02.76Cr80KzW40 (47/69)

恒一「佐久間さんが教室に入ってきたのは、おそらく江南さんが教室を出て行ったあと」

恒一「彼のその後の行動を考えれば、それが一番自然なんだ」

恒一「彼は和馬さんに襲いかかる機会を窺っていたけど……やがて、絶好の機会が訪れた」

赤沢「兄さんが、携帯で江南さんにメッセージを送ろうとしたのね」

恒一「うん。江南さんにはちゃんとメッセージが届いていたから……送り終わってからかな」

恒一「佐久間さんは、和馬さんを刺した。ナイフに指紋がついてないから、手袋をしていたんだろうね」

赤沢「……」

恒一「そして彼を殺して初めて、佐久間さんはメッセージや江南さんの忘れ物に気づいたんだ」

恒一「本当なら、彼はそのまますぐに教室を出て行く予定だったはず。それが一番安全だからね」

恒一「けれど、もうすぐここには江南さんが戻ってくる。今から出ても鉢合わせになるかもしれない」

恒一「だから、佐久間さんはやむを得ず教室に鍵をかけて、時間を稼ぐことにしたんだ」

鳴「じゃあ、もともと密室を作るつもりなんか無かった?」

恒一「見崎の言うように、自分が"いないもの"であることに頼るなんて危険が大きすぎるよ」

恒一「それに初めからそのつもりなら……稼いだ時間で、やっぱり自殺らしく見せかけようとしたんじゃないかな」

恒一「咄嗟の機転でナイフだけは、近くに残したみたいだけど」



48VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:02:29.22Cr80KzW40 (48/69)

鳴「……あれ、そういうことだったのね」

恒一「でも結局、できたことはその程度だったんだよ」

恒一「最終的には鍵が開いて、入ってきた人が和馬さんに気を取られている隙に逃げ出す、という方法を佐久間さんは選んでいるし」

恒一「鍵が開くまでは、教卓の下とか掃除ロッカーの中とか外からは見えないところに隠れていただろうから……」

恒一「鍵が開く前に戻ってしまった三神先生は、彼に気付けなかったんだろうね」

勅使河原「……なるほどな」

恒一「そして、教室の鍵が開く。佐久間さんとしては、鍵を開けた江南さんがそのまま和馬さんに駆け寄っていくと思ったんだけど……」

恒一「ここで彼の目論見は大きく外れる。江南さんは教室に入ろうとしなかったんだ」

勅使河原「ま、そうそう上手くはいかねえよな」



49VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:03:30.63Cr80KzW40 (49/69)

恒一「これ以上時間をかければ、それこそ取り返しがつかなくなる。おまけにナイフはたった今手放してしまった」

恒一「……それで、佐久間さんは開いたドアから立ち去るしかなかったんだ。江南さんの目の前を通ってでもね」

恒一「その後の事件の経過に一番驚いたのは、彼かもしれない。自分が、それこそ"いないもの"にされていたんだから」

赤沢「……」

恒一「……だけど、それは江南さんが彼を見逃したからじゃない」

恒一「江南さんは、学校の外で真実を話すつもりだったんだ。あの日、警察署に行ってね」

恒一「事故にさえ巻き込まれていなかったら、とっくに真実は明らかになっていたんだろうけど……」

恒一「……不運だったとしか、言いようがないかな」

恒一「僕の推理は、これで終わりだよ」



50VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:04:36.65Cr80KzW40 (50/69)

鳴「……」

勅使河原「……」

赤沢「……見事なものね」

赤沢「でも、一つ言い忘れていることがあるんじゃない?」

恒一「…………」

赤沢「動機は何? どうして? なんで兄さんは殺されなきゃいけなかったの?」

赤沢「"いないもの"にされて、対策係を恨んでいたから? じゃあ、なんで兄さんだけが……!」

恒一「……ごめん。そこまでは分からないよ」

恒一「佐久間さんが何を考えていたのかなんて、想像することしかできないし……」

赤沢「それでもいい。……恒一くん、あなたはどう思うの?」

恒一「……」

恒一「……佐久間さんが考えていたのは、たぶん……早く"いないもの"から解放されたい」



51VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:05:38.59Cr80KzW40 (51/69)

恒一「ただ、それだけだったはず。対策係の人への恨みとか、そういうことじゃなくてね」

恒一「もし恨んでいたのなら、もっと早く……"いないもの"の放棄が受け入れられなかった時に、行動を起こしていただろうし」

赤沢「……」

恒一「だから、9月に最初の犠牲者が出た時に、彼は内心喜んだんじゃないかな」

恒一「これでようやく"いないもの"から解放される……ってね」

赤沢「……かもしれないわね」

恒一「だけど、"対策"は終わらなかった。和馬さんを新たな"いないもの"にして続いてしまった」

恒一「"いないもの"を二人にしたのは、"対策"をより強固なものにするのはもちろんだけど……」

恒一「一番の目的は、"いないもの"である佐久間さんの孤独を、和らげることにあったんじゃないかな」

恒一「僕も、見崎と二人でいるときはそんなに辛いわけじゃなかったから」

鳴「……」

恒一「ただ……それでも、佐久間さんは納得がいかなかった」

恒一「もしこのまま"対策"が成功すれば、自分は3月まで"いないもの"のまま」

恒一「それだけは、どうしても耐えられない。なら、どうすれば解放されるか?」



52VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:06:35.17Cr80KzW40 (52/69)


恒一「……クラス全員に、<災厄>が起きたと認めさせればいい」

赤沢「!」

恒一「……そのために、和馬さんは殺された」

赤沢「……そんな……」

恒一「佐久間さんにとっては、誰でもよかったんだと思う」

恒一「ただ狙いやすかった……それだけの理由くらいしか、なかったはず」



53VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:08:13.95Cr80KzW40 (53/69)


恒一「大事なのは、おそらく日付の方」

勅使河原「……どういうことだよ?」

恒一「<災厄>というのは、毎月、一人以上の死亡者が出るものだよね?」

恒一「すでに犠牲者が出ている9月に行動を起こしても、それで"対策"は終わらない」

恒一「『もし、10月に何も起こらなければ……』って考えられてしまうからね」

恒一「だから、佐久間さんは10月1日に人を殺す必要があったんだよ」

恒一「……それが、一番早く解放される方法だった」

恒一「そこに、和馬さんである必要は無かったはずなんだ」

赤沢「……っ」

恒一「そう考えると……江南さんは、佐久間さんの目的に気付いていたのかもしれない」

恒一「気付いていたからこそ……あそこまで、"対策"を守り抜いたんじゃないかな」

恒一「だって和馬さんの死は、彼による意図的なもので……」

恒一「その時実際に<災厄>が起きていたのかは、まだ決まっていなかったとも考えられるからね」


恒一「……何の証拠もないけど……僕は、そう考えたよ」




54VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:09:06.14Cr80KzW40 (54/69)

――午後1時18分・三年三組教室――


赤沢「………………」

勅使河原「……えっと……あ、赤沢?」

赤沢「……何よ」

勅使河原「いや、その……大丈夫か?」

赤沢「……ふうん、心配してるってわけ? バカみたい」

勅使河原「うっ……」

赤沢「本当のことを知って落ち込むくらいなら、最初から事件の話なんかしないわ」

赤沢「それに、佐久間はもういない。……今更、どうしようもないじゃない」

勅使河原「赤沢……」

赤沢「でも……これでもう、私は事件のことを悩まずに済む」

赤沢「ありがとう、恒一くん」

恒一「……うん」

赤沢「さ、そうと決まれば……あなたたちはもう帰っていいわよ」

赤沢「もともと午前中だけって約束だったのに、今まで付き合わせて、ごめんなさい」

勅使河原「それはいいけどよ、お前はどうするんだ?」



55VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:10:01.57Cr80KzW40 (55/69)

赤沢「ここで多佳子たちが戻ってくるのを待つわ。もうじき帰ってくるでしょ」

勅使河原「……おいおい、あいつら隣町まで行ったんだぞ?」

勅使河原「どう考えてもあと一時間は――」

鳴「またね、赤沢さん」グイッ

赤沢「ええ、さようなら」

勅使河原「ちょっ……おいこら見崎、引っ張るなって! 分かったから! 帰るから!」

鳴「……榊原くんも、早く」

恒一「あ、うん……じゃあね、赤沢さん」


ガララッ、ピシャン




赤沢「…………」



56VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:10:57.25Cr80KzW40 (56/69)


赤沢「………………」

赤沢「……お兄の、ばか」

赤沢「そうやって子供扱いして、何も教えてくれないから……」

赤沢「私……っ……今までずっと、何も分からなかったじゃない……!」

赤沢「……うう……っ……ああああああああっ……!」




57VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:12:03.57Cr80KzW40 (57/69)

――帰り道――


勅使河原「……しっかし、見たのが一人だけだったから、こんなことになっちまったんだよな」

恒一「三神先生が、犯人を見ていれば……って?」

勅使河原「ああいや、別に責めてるわけじゃねえけどよ」

恒一「確かに、佐久間さんが隠れていたから気付かなかったんだろうけど……」

恒一「だからこそ、三神先生も彼に見つからないで済んだとも言えるかもね」

勅使河原「?」

恒一「もし、三神先生が佐久間さんを見ていなくても、彼の方は先生に気付いていて……見られてしまったと感じていたら」

恒一「……たぶん、彼は黙っていなかったと思うよ。先生は、危険な目に遭っていたかもしれない」

鳴「…………」

恒一「まあ、今こうして無事ってことは、そんなことなかったってことだけどね」



58VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:13:13.22Cr80KzW40 (58/69)

勅使河原「……そうだな」

鳴「……赤沢さん、大丈夫かな」

勅使河原「心配ねーって。見たろ? ちゃんと割り切ってたじゃねえか」

勅使河原「今それどころじゃないことくらいは、よく分かってるだろうし……」

勅使河原「明日も普通に、対策係の仕事をやるだろうさ。……オレたちも、また手伝わないとな」

恒一「そうだね。一日でも早く、<災厄>を終わらせないと」

鳴「……」



59VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:14:12.36Cr80KzW40 (59/69)

――7月25日・午前8時・恒一の家――


ピリリリリリリ…! ピリリリリリリ…!

恒一「……ん……」

ピッ

恒一「……もしもし?」

勅使河原「よう、サカキ!」

恒一「……勅使河原? どうしたの?」

勅使河原「イノヤ、知ってるだろ? 9時になったら来てくれよ」

勅使河原「望月の姉さんから、とびっきりの情報が入ったんだ」

恒一「……望月の?」

勅使河原「何だよ、反応鈍くねえか?」

恒一「……しょうがないだろ。今起きたとこなんだから」

勅使河原「そりゃ羨ましいこったな。あれから赤沢のやつ、予想通り張り切りだして……」

勅使河原「今じゃ、オレまで卒業生に話を聞きに行かされてるんだぜ?」

恒一「頭がダメなら、足を動かせってことじゃない?」

勅使河原「おーおー、サカキも言うようになったな」

勅使河原「だったら一つ、面白い話をしてやるよ」

恒一「?」



60VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:15:34.86Cr80KzW40 (60/69)

勅使河原「昨日のことだ。旧校舎の女子トイレで、鍵のかかった個室が見つかった」

恒一「別に普通じゃないの、それ」

勅使河原「まあ聞けって。見つけたのは美術部の女子部員だったらしいが……中に誰も入ってなかったんだとさ」

恒一「……え?」

勅使河原「最終的にはドアに穴を開けて、ようやく鍵を開けたんだが……間違いなく、鍵はかかっていたって話だ」


勅使河原「……さて、名探偵・榊原恒一くんはどうお考えかな?」


恒一「あのさ……僕はそういうのじゃないんだけど」

勅使河原「いいからいいから。で、なんかないのか、考えは?」

恒一「鍵をかけたあと、ドアの上を通り抜けたとか?」

勅使河原「あー、それは無理。あそこ天井低いから、そんな隙間ないだろ」

恒一「……じゃあ、外から何か道具でも使って鍵を閉めたんじゃない」

勅使河原「確かに、ドアには傷がついてたみたいだけどな」

勅使河原「……でも、それって答えとしてはつまらないと思わないか?」



61VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:16:38.22Cr80KzW40 (61/69)

恒一「勅使河原の言う、面白い答えってなに?」

勅使河原「そりゃあお前、例えば……」

勅使河原「中に入っていたのは幽霊で、それを無理矢理開けたから消えちまった、とかだろ」

恒一「……」

恒一「……『とびっきりの情報』って、まさかそういうレベルの話じゃないよね?」

勅使河原「心配すんなって! だいたい幽霊なんて、本気で言うわけないだろ?」

恒一(……"死者"は、実際にいるみたいだけどね)

勅使河原「とにかく、ちゃんと来いよ? 待ってるからさ」


ツー ツー ツー…


恒一「……やれやれ」



62VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:18:12.82Cr80KzW40 (62/69)

――7月29日・午前8時12分・恒一の家――


ピリリリリリリ…! ピリリリリリリ…!

恒一「あれ……?」

ピッ

恒一「もしもし」

鳴「……榊原くん?」

恒一「……驚いたよ。まさか、見崎から電話してくるなんて」

鳴「……」

恒一「それで、どうしたの? 向こうから帰ってくるまで、あと三日くらいかかるんだよね?」

鳴「確か、今日だったよね?」

恒一「松永さんに会う日のこと? だったら、そうだけど……どうかした?」

鳴「……特に、何かあるわけじゃないんだけど……」



63VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:18:54.35Cr80KzW40 (63/69)

恒一「……?」

鳴「……ねえ」

恒一「なに?」

鳴「旧校舎の話、聞いた?」

恒一「トイレの鍵が、どうこうって話? それなら聞いたけど……」

鳴「……」

鳴「……やっぱり……もう、聞いてたのね……」

恒一「見崎?」

鳴「そのことで、大事な話があるの」

恒一「大事な話? まさか、見崎が犯人だとか?」



鳴「……そう言っても、いいかもね」



64VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:20:48.07Cr80KzW40 (64/69)

恒一「!?」

恒一「本当に? どうしてあんなことを?」

鳴「理由があって、あの個室の鍵を閉めたわけじゃないの」

鳴「ただ、そうなってしまったというか……それに、わたしが閉めたわけでもないわ」

恒一「どういうこと? 道具でも使わない限り、鍵は閉められなかったはずだけど……」

鳴「……そんなこと、してない」

恒一「でも、見崎が犯人なんだよね?」

鳴「……うん」

恒一(どういうことだ……?)

鳴「……榊原くんは、『触媒』って知ってる?」



65VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:21:25.32Cr80KzW40 (65/69)

恒一「えっと……理科に出てくる?」

鳴「そう」

鳴「わたしは……<災厄>が、それに似てるって思ったの」

鳴「"死者"という触媒が、死を加速させているって……」

鳴「だから、それを止めるには……触媒を取り除けばいい、そう思って――」


プップー!


赤沢「恒一くーん!」

恒一「……!」



66VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:22:32.99Cr80KzW40 (66/69)

赤沢「どうしたの? もう準備はできてると思ったのに」

恒一「ごめん! 今行くよ!」


恒一「……見崎、話は後でもいいかな?」

鳴「……」

恒一「なんにせよ、鍵をかけたのは見崎なんだよね? それなら、ネタばらしはもう少し待ってほしいんだ」

恒一「……どうせなら、とことん考えてみないとね」

鳴「……分かったわ。いつでも、ちゃんと説明するから……そのときは電話して」

恒一「うん、それじゃあまたね」

ツー ツー ツー…

恒一(……とは、言ったものの……見崎がどうやって密室を作ったのか、全く見当もつかないな)

恒一「…………」


中尾「榊原ぁーっ! お前、赤沢さんが呼んでるのに来ないとは、どういう了見だぁーっ!」

杉浦「……中尾、はしゃぎ過ぎ。なんでそんなに元気なの?」

恒一「本当にごめん! もう少し待って!」



67VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:23:17.37Cr80KzW40 (67/69)

恒一「……ってあれ? 勅使河原と望月は?」

赤沢「千曳先生の車で、先に行くって言ってたわ」

恒一「ああ、なるほど……じゃあ、僕も準備してくるから!」


恒一「……これでよし、早く車に――」

恒一「――そうだ。危ない危ない、忘れるところだった」



68VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:24:03.50Cr80KzW40 (68/69)



チーン…


恒一「…………」






恒一「……それじゃあ、行ってきます。お母さん……怜子さん」



おわり


69VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 04:26:24.74Cr80KzW40 (69/69)

以上で終了です。
読んで下さった方には感謝の一言です。
実際の和馬の死因は事故死だったり、他にもあることないこと書いてますがそこはご了承下さい。


70VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 05:45:48.24L4ZHRMgDO (1/1)


怜子さんは死に還ったのか、見崎の手で


71VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 09:37:55.90n12wMJ9do (1/1)


怜子さん死者じゃないってこと?
理解できてない


72VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 15:16:34.84+VWp8kZJo (1/2)


読み応えあるいい話だった
AnotherSSまだ色々書かれてうれしい

>>71
作中でも言ってたよね
3月になるか、死者が死ぬと記録と記憶の改ざんが行われるって


73VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 18:49:19.05auq7JHKT0 (1/1)


勅使河原が全然話についていけてないのに、最後の話じゃ一番核心に近いってのがなんとも…www


74VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 18:55:24.99+1keXMgto (1/1)

見崎が怜子さんを刺して、怜子さんは女子トイレに逃げ込んで、女子トイレで怜子さんは絶命したから鍵がかかりっぱだった

でFA?


75VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/20(水) 20:17:16.22+VWp8kZJo (2/2)

鳴ちゃんが殺人…よりも怜子さんが真実を知ってトイレで…だと思いたい……